バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ (バナナ )
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【一期】第1章「椎名と仲間達編」
第1話「勇気を継いだ少女!」


新作も更新しました!!
ソウルコアが使えない少年の躍進の物語をお楽しみください!!
https://syosetu.org/novel/209368/
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ーバトルスピリッツ!

 

世界各国で人気を集めるこのカードゲームは今や娯楽の領域を遥かに超えていた。

 

その中でも特に希少だったスピリットカード、【デジタルスピリット】はこの10年で大きく発展した科学技術により、大量に生産されていた。

 

そして、世界各国では新たにプロのバトラーを育成する教育機関、【バトスピ学園】を9年前に高等学校に建設、今ではプロへの道の登竜門的存在となってる。

 

ーこれは1人の少女がその学園生活の中で仲間や好敵手と共に切磋琢磨しながら成長していき、ある英雄を越えるまでの物語。

 

 

 

******

 

 

 

「む、う〜〜ん…………ぐげっ!」

 

 

ある朝、1人の少女が寝ていたベッドから寝ぼけてその身に毛布を巻きながら床に落っこちる。そのアパートの一室からは目覚まし時計の無機質な音が部屋の空間の隙間を埋めるように鳴り響いていた。少女は起き上がると直ぐにその目覚まし時計を眠そうな目を手で擦りながら叩くように止める。

 

 

「……よし!学校だ!」

 

 

少女は気持ちを切り替え、一瞬のうちにぼさついた寝癖を直し、寝間着から学校の制服に着替えた。そして小さめのレザー製の手提げ鞄を持ち、年季の入ったゴーグルを首からさげ、アパートの一室を飛び出していった。

 

彼女の名は【芽座椎名(めざしいな)】現在15歳、今年で16、この春に【バトスピ学園ジークフリード校】に入学したばかりだ。とある遠い島出身の彼女は古ぼけた小さなアパートを借りて1人で暮らしていた。

 

パッチリとした二重に加えて白い肌、髪の色はオレンジに近い茶髪、腰までしなやかに伸びており、やや癖毛気味、特徴的に飛び跳ねた音符のような毛がある。そしていつも年季の入った砂塵ゴーグルを首から下げていた。

 

【バトスピ学園】とは、その名の通りバトスピについて専門的に学ぶ学園のことである。今から9年前に世界各国で建設された。この日本の都市においてはその学校は6つに区分され、それぞれバトスピの代表的なスピリットの名前を刻まれている。椎名が通う学園は赤属性の初代エックスレアカード、龍皇ジークフリードだ。各々の学園が呼称される場合はその名前で呼ばれる場合が多い。

 

 

「おはよう!真夏!」

「おお!おはようさん、今日も朝っから元気やね〜」

 

 

学校のクラスルームに入った椎名が友達らしき関西弁の訛りが強い女の子と会話する。彼女の名は【緑坂真夏(みどりざかまな)】関西出身のバトラーで黒髪の背中まで伸びたポニーテールがよく似合う女の子だ。椎名とは入学試験からの中で、何かと縁があり、今こうして友としての間柄となっている。

 

 

「あっ!そや!椎名!ちょっと頼みごとあんねんけど、」

「ん?なに?」

「今日、近くのショップよらへん?あのカードもう学校の購買には売ってないんよ〜〜買えたらデッキの組み方見てくれへんかな?」

 

 

合掌して頼みごとをする真夏、この学校でできた初めての友達の頼みを、椎名は断るわけもなく承諾した。

 

 

「いいよ!ショップは通り道だしね〜」

「……さぁ、席につけー!朝のホームルームだ!」

 

 

意気揚々と教室へ入ってきたのは学級担任の先生。入学してから1週間は経つが、こんな感じの普通の学生のような生活がすっかり椎名の日常となっていた。

 

そしてその日の放課後、椎名と真夏はチャイムの鳴り響く学園を後にし、街のショップへと向かう。

 

この街、『界放市』はいたって平凡な街だが、街の人々の人口の約9割がカードバトラー、及び、それに関係した職を持つ人たちである。日本にあるバトスピ学園の中でも特に優れた6つの学園を街中に有している。

 

 

「どう?真夏、あった?」

「……おっ!あったあった!これが欲しかったんや〜〜よし!私はこれ持ってレジに行っとくわ、椎名はベンチで待っときやー」

「オッケー!」

 

 

店に物販として置かれているカードの中から目的のカードを見つけだした真夏はそのままレジへ、椎名は店内のベンチで真夏が戻るまで一息つく。するとすぐ横のバトル場で混み合った声が聞こえてきた。椎名は少しきになり、すぐさま立ち上がると、その混み合った方へと赴く。

 

バトル場とは簡単に言ってしまえばバトルスピリッツを行う広場のことだ。昔はそんなものは不必要なものだったが、今の時代の関係上、どうしてもそのスペースが必要不可欠だった。その理由はこの後すぐに明かすとしよう。

 

椎名が向かったそこには柄の悪い男と、気弱そうな幼い少年がバトルしていた。その盤面は圧倒的に柄の悪い男が優勢であり、

 

 

「……おらぁ!いけ!ドクグモンでアタック!」

 

 

11年前は画面での映像化が精一杯であったが、今のバトルは科学技術の発展によって、スピリットをより立体的に見ることができるようになっていた。タブレット状の携帯機、バトルパッド、通称【Bパッド】を展開させ、どこでもそのバトルを味わうことができる。よりリアルで臨場感たっぷりのバトルを楽しむことができるため、バトルスピリッツをここまで押し上げた要因の1つとなっていた。

 

 

「ラ、ライフで受ける、……う、うわぁ!」

ライフ1⇨0

 

 

椎名と同じ学園の制服を着ているため、おそらく椎名と同じ学園の生徒であろう、柄の悪い男の操る、背中にドクロマークが描かれている蜘蛛のようなスピリット、ドクグモンが中学生にも満たないくらいの少年の最後のライフを無慈悲に噛み砕いた。このアタックでライフが尽きた少年の負けとなる。

 

バトルスピリッツをここまで押し上げたもう1つの要因は、【デジタルスピリットの多様化】だ。【デジタルスピリット】とはこの世界とは違う異空間に存在する特別なスピリットカードのこと。11年前までは滅多にお目にかかれない超レアカードだったが、科学技術の発展により、これらのカードが大量生産され、今では様々なバトラーが愛用する人気デッキのテーマの1つと化していた。

 

この柄の悪い男が操っていたドクグモンもデジタルスピリットの1種だ。

 

 

「ガハハハ!俺様の勝ちだな!大人しくデッキを渡しな!」

「………ッ」

「……よこせっつてんだろぉぉぉおが!」

「わっ!」

 

 

デッキを丸ごと賭けていたのだろうか、柄の悪い男は小さな少年が大事そうに両手で握っていたデッキを強引に取り上げた。

 

 

「僕のデッキ……」

「僕のデッキ!?……違うな、俺様のデッキだよ!!ガハハハ!」

 

 

勝ち誇ったようにその少年のデッキを天に掲げ、その図太い声で笑い飛ばす柄の悪い男。モラルが欠落した行いだが、それを誰も止めるものはいなかった。バトルを挑んでも勝てる保証がなかったからだ。悔しいが、彼は強い。

 

ーだが、

 

 

「……よっと!」

「……へっ!?」

 

 

一瞬だった。一瞬で椎名はその掲げられたデッキをその男から通り過ぎるついでのように取り上げた。柄の悪い男は急に手持ち無沙汰になった自分の手を見て驚く。

 

 

「はい!君のでしょ!」

「え!?……あっ、はい、ありがとう、ございます…」

 

 

嘸かし当たり前のように、椎名はその少年にデッキを返してあげた。いや、元々はその少年のものであるため、返すのは当然のことなのだが、少年はその椎名の奇行に戸惑いながらも自分のデッキを受け取った。

 

これに対して柄の悪い男は椎名に対して怒りを露わにした。

 

 

「なんだ!!てめぇ!なにしやがる!」

「なにって、それはこっちの台詞だよ、人の作ったデッキを勝手に取るって犯罪じゃん」

「俺らは正式にちゃんと賭けてバトルしたんだよ、それのなにが悪い」

「………いやいや、そもそもアンティルールも禁止だし」

 

 

互いになかなか引き下がろうとしない。男は椎名の制服や胸元にあるバッジを見て、自分と同じ学校の生徒だと気付き、ある提案を差し出す。

 

 

「お前、ジークフリード校の生徒だな、しかも1年」

「それがどうした」

「よし、だったら俺に従え、先輩命令だ、今から俺とバトルしろ、アンティルールでな、賭けるのはお互いのデッキ、どうだ」

「…………んー、別の条件付きならいいよ、私が負けたらデッキはあげてもいいけど、逆に私が勝ったらあなたはもう金輪際アンティルールはせずに、この子にちょっかいを出さない……それならね」

「あぁ!?色々とやけに多くないか!?……まぁ、いいか」

 

 

持ちかけられたアンティルールにサクッと乗っかる椎名。椎名に助けられた少年は椎名の方へ行き、謝罪の言葉を並べる。

 

 

「あ、あのう、本当にすみません!僕なんかのために、こんな」

「ん?、あぁ、いいのいいの、…………好きなカードって取られると嫌だよね」

「………え!?」

 

 

椎名は少年の目線に立ち、その丸っこい頭を優しく撫でながら言った。彼女のその目は何かを思い出すかのような遠い目、ほんの数秒くらいそのことを考えた椎名は直ぐに柄の悪い男とそのバトル場で肩を並べる。バトル場の大きさやスペースは大体バスケットコートの半分くらいと言えばわかりやすいだろうか。そこでスピリットやネクサスが並べられ、より間近で、臨場感溢れるバトルが楽しめるのだ。

 

それぞれの立ち位置に着いた時くらいに店のレジから真夏が帰って来た。帰って来たと言うよりかは椎名を探してここまで来たになるのか、そしてこの状況を見た真夏はとても驚いた。

 

 

「ちょ!椎名!あんたなにやってんの!?」

「おっ!真夏!おかえり〜〜」

「おかえり〜〜ちゃうわ!………あんた、今から戦おうとしている相手わからんか?」

 

 

どこまでも能天気な椎名に呆れる真夏、椎名がバトルしようとしている相手は意外にも有名人なようである。

 

 

「知らない、教えてー」

「はぁー、……あいつは3年の【毒島富雄(ぶすじまとみお)】この学園の札付きの悪で、自分より弱い奴にアンティ仕掛けてくるクズや」

「へぇー」

「誰がクズだ!この関西女!このアホ毛女倒したら次はお前だからな!覚えてろよ!」

「いや、そこまでそれっぽいこと言うんやったらもう悪でええやん、」

 

 

毒島は見た目からもまさしく一昔前の不良といった感じだった。紫のドクロTシャツに着こなされた短い学ラン。少し太めの体型。どれをとっても悪だ。3年生用の胸元のバッジが妙に浮いて見える。

 

真夏を椎名の友達と思った少年は真夏に震える声で話しかけに行った。一応申し訳ないと思っているのだろう。

 

 

「あのう、あのお姉さん、僕を庇って、………大丈夫なんでしょうか」

「ははっ!なるほどな!そう言う事やったんやな!………まぁ、任せとったらええよお!あいつは負けへんでぇ!」

 

 

全ての状況を理解した真夏は腕を組み、ガッツポーズを少年に見せ、元気づけようとする。余程椎名のことを信頼しているのが伺える。そして、そのすぐ横では椎名と毒島のバトルが始まろうとしていた。

 

椎名は鞄の中に入っているBパッドを取り出し、展開させる。Bパッドは折りたたみ式に開き、脚立が飛び出し、自立する。椎名はその上に自身のデッキを置いた。毒島も同様にそれを行う。互いにデッキを置いた瞬間、デジタルコアと呼ばれる物体がBパッドから浮き出て来る。それがこのバトルで使用するコアだ。自動で出て来るため非常に便利な代物だ。運用の仕方は普通のコアとなんら変わりはない。

 

準備は万端、バトスピ特有の掛け声で開始が宣言される。

 

 

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

椎名と毒島は2人同時に叫ぶ。これこそ、バトルスピリッツの最初の掛け声、サッカーで言うところのキックオフ、野球で言うところのプレイボールとほぼ同じような意味で捉えられても問題ない。

 

ーバトルが始まる。先行は椎名だ。

 

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!ブイモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名の足元から彼女の腰ぐらいまでしかいかない程の小さな青い小竜型のスピリット、額には金色のブイの字が刻まれている、ブイモンが姿を見せる。このスピリットもデジタルスピリットの一種だ。

 

 

「ほぉ、青のデジタルスピリットじゃねぇか、いいねぇ」

 

 

毒島はブイモンを物欲しそうに狙う目で見ている。デジタルスピリットはある程度は手に入るようになったものの、その希少性が完全に消滅したわけではない。珍しいものは珍しいのだ。昔からこっちの世界に流れ着いていたカードをバトスピの一族が継承していくケースも存在する。ブイモンもその中でもなかなかのレアカードに数えられていた。

 

 

「ターンエンド、どうぞー」

ブイモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

先行の最初のターンなどやれることは限られている。椎名はブイモンを召喚しただけでターンを終えた。次は後攻の毒島のターン。

 

 

[ターン02]毒島

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!俺はクリスタニードルを2体!LV2ずつで召喚!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨1

 

 

毒島のフィールドには蛇のような龍のような小さい紫のスピリットが現れる。そのスピリット達は今にも猛毒を吐きつけそうな奇声をあげていた。

 

 

「アタックステップ!2体のクリスタニードルでアタックだ!」

 

 

クリスタニードル達はフィールドを泳ぐように体をくねらせながら進む。彼らのBPはいずれも2000、椎名のブイモンも2000、椎名が選んだ選択は、

 

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨3

 

 

ライフの破壊を選択。椎名の目の前にバリアが展開され、クリスタニードル達はそれらを1つずつ体当たりで破壊した。椎名はライフのコアを2つリザーブに置く。

 

 

「ガハハハ!だろうな、そいつが破壊されちゃあ、【進化】できないもんな!」

 

 

【進化】とは、デジタルスピリットが行う独特の召喚方法。アタックステップの開始時、またはアタック時等に発揮し、デジタルスピリットを1つ上のランクへと成長させることができる。デジタルスピリットを代表するキーワード能力だ。毒島はこの効果を知った上で、椎名がバトルで破壊されるブイモンをブロッカーに使うわけがないと考え、2体でフルアタックを決めたのだ。

 

 

「ターンエンドだ!」

クリスタニードルLV2(2)BP2000(疲労)

クリスタニードルLV2(2)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

 

毒島はターンを終える。椎名のライフを2つ削っただけでもう既に勝ちを誇ったような表情をしている。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「よし、メインステップ、ガンナー・ハスキーを2体召喚!」

手札5⇨3

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨1

 

 

現れたのは犬のような姿に加えて拳銃を持つための青い筋肉質な腕が生えている緑のスピリット、ガンナー・ハスキー、それが2体、ブイモンの両隣に居座る。

 

 

「緑のスピリット!?お前は青と緑の使い手なのか?」

「うーん……だいたいはそんな感じかな?」

 

 

毒島の言っていることは半分正解、椎名は青に加えて緑も扱えるデッキを組んでいる。

 

ーそして、半分は不正解。

 

 

 

「ブイモンをLV2へ!」

リザーブ3⇨1

ブイモン(1⇨3)LV1⇨2

 

 

ブイモンはレベルアップに伴い、力を増幅させた。普通のデジタルスピリットならここでアタックステップの開始時のタイミングで【進化】を発揮させるが、

 

 

「ブイモンの効果は使わない!そのまま、アタックステップ!ブイモンとガンナー・ハスキー1体でアタック!」

「はあ!?LVまで上げといて【進化】させないだと!?」

 

 

ブイモンとガンナー・ハスキー1体がフィールドを走り出す。狙うのは2体とも毒島のライフ。前のターン、フルアタックを仕掛けた毒島はこのアタックを無条件で受けなければならなかった。

 

ブイモンは成長期のデジタルスピリット、成長期は他の形態と比べても比較的進化しやすい部類なのだが、椎名はそのブイモンの進化の効果を発揮させずにアタックステップを行なった。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨3

 

 

ブイモンは頭突きで、ガンナー・ハスキーは青い腕に所持している拳銃の乱射で、それぞれ1つずつ毒島のライフを破壊した。

 

 

「よし!ターンエンド!」

ブイモンLV2(3)BP4000(疲労)

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(疲労)

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

椎名は自陣に帰ってくるブイモンとガンナー・ハスキーを見届けながらターンエンドの宣言をした。

 

 

「とんでもねぇハズレくじ引いたもんだぜ、俺は、……まさかお前、成長期しか持ってねぇんじゃないだろうな?」

「へへ、それはどうだろうね!」

 

 

本当にハズレくじを引いたかはいささか早とちりな気もするが、少なくとも毒島は今、心の中で椎名がレアカードをあまり持ってないことを察してがっかりしている。

 

デジタルスピリットは主に成長期から順番よく成熟期、完全体、と言うふうに進化していく。完全体クラスにまでなるとデッキのエースを任される事が多いが、中間の成熟期がいなければ基本的には完全体など入れる必要がない。つまり椎名がここで成熟期に進化させなかったと言うことは、椎名のデッキに完全体がいない事を同時に表していた。

 

あくまで可能性の話ではあるが、

 

 

[ターン04]毒島

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

クリスタニードル(疲労⇨回復)

クリスタニードル(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!このターンで終わりだ!!来い!ドクグモン!こいつを2体召喚!LVはいずれも1!」

手札4⇨2

リザーブ4⇨0

クリスタニードル(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

さっきの少年とのバトルでも召喚されていたスピリット、成熟期のドクグモンが同時に2体召喚される。ドクグモンは緑のスピリットだが、その軽減シンボルの内2つは紫、紫のスピリットのクリスタニードルでも十分に軽減ができるのだ。

 

毒島は緑と紫の混色デッキの使い手だった。

 

 

「おぉ!さっきのデジタルスピリットかぁ!燃えてきたぁ!!」

「なに喜んでんねん!しっかりせんかい!!」

 

 

強そうなドクグモンの登場に歓喜する椎名。だがこれは、アンティルールでも心の底からバトルスピリッツを楽しんでいる証拠でもある。

 

 

「アタックステップ!ドクグモンでアタック!アタック時効果!相手のスピリット1体を強制的に疲労させる!!巻かれな!ガンナー・ハスキー!!」

 

「………ッ!…ガンナー・ハスキー!」

ガンナー・ハスキー(回復⇨疲労)

 

 

ドクグモンのアタック時効果は相手のスピリット1体を強制的に疲労させるという、如何にも緑のスピリットらしい効果だ。

 

ドクグモンの口内から吐き出された糸が絡まり、ガンナー・ハスキーの1体は身動きが取れなくなる。これで椎名のブロッカーはゼロ。

 

 

「おら!アタック中だ!」

 

「よし、それはライフだ!」

ライフ3⇨2

 

 

ドクグモンは椎名のライフを噛みちぎるように破壊した。これで残りライフは2、いよいよ危ない状況になってきた。

 

 

「あぁ、お姉さんのスピリットが全て疲労、僕の時と同じだ。……どうしよう」

 

 

自分のせいでバトルさせてしまった少年は椎名に対して罪悪感を覚えていた。そして今のこの状況は自分のバトル展開とほぼ同様。完全に椎名が負けると悟っていたのだ。

 

ーだが、

 

 

「あんた、本当に椎名が負ける思とるんか?」

「……え!?でも……」

 

 

ブロッカーのいないフィールド、ライフは2、迫り来るスピリットの対数は4体、周りからして見れば間違いなく積みに近いこの状況だが、椎名は諦めたりはしない。寧ろ彼女はワクワクしている。この状況を、バトルを楽しんでいる。

 

 

「……よっしゃああ!これで終わりだ!2体のクリスタニードルでアタック!」

 

 

毒島はクリスタニードル達でアタックする。再びフィールドを泳ぐように飛翔するクリスタニードルが目指すのは、もちろん椎名の残った2つのライフだ。

 

 

「……へへ、」

「なにがおかしい!やられすぎて頭がいかれたか!」

「……いや〜楽しいなと思ってさ、ワクワクしてきたよ!バトルスピリッツはそうでなくちゃ!」

「はぁ!?勝ちが全てのバトルの世界で楽しいだと!?笑わせるな!」

「人間皆んな楽しんだもん勝ちだよ!………さっき、あなたは進化がどうととか言ってたね、だったら見せてやるよ、ブイモンの進化の可能性、…その1つを!」

「なに!?」

 

 

椎名が毒島に見せたカードは進化の効果を持っている。だがそれは通常の進化ではない。特別な進化方法を持つカード。

 

 

「フラッシュタイミング!手札のフレイドラモンの【アーマー進化】の効果発揮!成長期のスピリット1体を手札に戻して、1コスト支払うことで召喚できる!…………効果対象はブイモン!!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ1⇨2

 

「なに!?【アーマー進化】だと!?」

 

 

【アーマー進化】、それは通常の進化とは異なる進化方法、通常の進化とは異なる最大の特徴はフラッシュタイミングならいつでも進化できること。

 

ブイモンは頭上から落下してくる謎の形をした赤い卵のような物と衝突し、混ざり合い、その姿を変えていく。

 

 

「……フレイドラモンを召喚!」

フレイドラモンLV2(3)BP9000

 

「な!?今度は赤のスピリットだと!?」

 

 

ブイモンは燃えたぎる炎の武装を纏い、進化する。赤属性のアーマー体スピリット、燃え滾る炎を連想させるような

スマートな竜人型のフレイドラモンが召喚された。

 

 

「か、かっこいい!」

「せやろ!……あいつのエースや!」

 

 

フレイドラモンの勇猛たる姿に見惚れる少年や、周りの人たち、フレイドラモンこそ、椎名のエーススピリットだ。進化元のブイモンが疲労状態であったが、進化の効果は新たなる召喚扱い、故に今のフレイドラモンは回復状態であり、すぐさまブロックができる。

 

 

「だ、だが!1体増えたところで戦況は変わらねぇ!このターンのフルアタックでお前はおしまいだ!」

 

 

確かに今からブロッカーが1体増えたところで椎名のライフはまだ差し引いても丁度ゼロにされる。だが、召喚されたのがフレイドラモンなら別だ。

 

 

「フレイドラモンの召喚時効果、相手のBP7000以下のスピリット1体を破壊!」

「なにぃぃい!!!?!」

「いけ!フレイドラモン!クリスタニードルを1体破壊!!……爆炎の拳!ナックルファイア!!」

 

 

フレイドラモンはその拳に炎を灯し、殴りつけるように投げ飛ばす。その炎は一直線にクリスタニードルを捕らえ、命中する。クリスタニードルはその炎に焼き尽くされて破裂するように爆発した。

 

 

「へへ!破壊に成功したらカードを1枚ドローする。……さらに、残ったクリスタニードルのアタックはフレイドラモンでブロックだ!!」

手札3⇨4

 

「……ぐっ!」

 

 

フレイドラモンは向かって来るクリスタニードルを炎の回し蹴りで迎撃、クリスタニードルを撃ち落とし、破壊した。

 

 

「す、すごい……!」

 

 

椎名とフレイドラモンのコンビネーションに只々ひたすらに感嘆の声を漏らす少年。これで椎名の残りライフは2、対して、毒島の回復状態のスピリット対数は1、どう足掻いても椎名のライフをゼロにすることはできなくなった。

 

 

「た、ターン、エンド」

ドクグモンLV1(1)BP3000(疲労)

ドクグモンLV1(1)BP3000(回復)

 

バースト無

 

 

毒島はターンエンドせざるを得なかった。自分の残りライフは3、対して椎名の総スピリット対数は3、無理にドクグモンでアタックするよりはブロッカーに回したほうが良いと判断したのだ。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

フレイドラモン(疲労⇨回復)

ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)

ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

 

 

ガンナー・ハスキー1体に取り巻かれていたドクグモンの糸がようやく解ける。

 

 

「メインステップ、ブイモンを再び召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨1

 

 

椎名はアーマー進化の効果で手札に戻っていたブイモンのカードを再び召喚した。ブイモンは青と緑の軽減シンボルを1つずつを持っているスピリットだが、ガンナー・ハスキーの効果で青のシンボルがメインステップ中のみ追加されるため、フル軽減での召喚が可能になっていたのだ。

 

またブイモンが元気にフィールドに飛び出して来る。

 

 

「アタックステップ!いけ!フレイドラモン!アタック時効果でドクグモンを1体破壊!」

「なにぃぃい!?!またか!」

「あ、言い忘れてたね、フレイドラモンのこの効果は召喚時とアタック時にそれぞれ発揮できるんだ」

 

 

再びフレイドラモンの熱き炎の鉄拳が、今度はドクグモンを襲う。ドクグモンは散り散りになり、破裂するように大爆発を起こした。

 

 

「そしてカードをドロー……!」

手札4⇨5

 

 

召喚時同様の効果であるのでおまけのようなドロー効果も発揮する椎名、この効果は彼女にとってとてつもないアドバンテージを与えていた。さらにフレイドラモンの効果はまだ残っている。このタイミングで第2の効果が発揮される。

 

 

「さらにフレイドラモンはLV2の時、相手のスピリットを指定してアタックができる……!」

「な!?!どんだけ効果もってんだよぉぉぉお!」

「残ったドクグモンに指定アタック!いけ!フレイドラモン!……渾身の爆炎!ファイアロケット!!!」

 

 

フレイドラモンはその脚力を活かし、天高く飛び上がる。そのまま炎を纏い、残った最後のドクグモンに向けて落下するように飛び立つ。そしてドクグモンと衝突。ドクグモンだけが破壊されて大爆発を起こした。

 

 

「う、嘘だ……!…この俺様のスピリットがたった1体のスピリットで全滅するなんて……!」

 

 

よく考えてみれば圧倒的だった。椎名はフレイドラモンを召喚しただけで、防御、妨害、ドロー、などバトスピにおいて必要なことのほとんどをやってのけたのだ。この速攻に対する強さこそがフレイドラモンの最大の強味。

 

片や毒島のフィールドはなにも無し、手札もたったの2、椎名のフィールドと手札と比べたらその差は圧倒的に開いていると言える。

 

 

「さぁ〜て、いきますか!」

「ヒィぃぃい!」

「ガンナー・ハスキー2体でアタック!」

 

「ら、ライフだ、……うわぁぁぁぁあ!!」

ライフ3⇨1

 

 

椎名の命令でガンナー・ハスキーはそれぞれの拳銃の乱射で毒島のライフを破壊した。残りは僅か1つ。決め手になるのはもちろん、

 

 

「ブイモンでアタック!」

 

 

ブイモンは待ってましたと言っているかのように走り出す。ブイモンの推進をもう止める術を毒島は保有していない。

 

 

「ら、ライフだぁぁぁぁあ!!」

ライフ1⇨0

 

 

ブイモンの渾身の頭突きが毒島の最後のライフを砕いた。毒島のライフがゼロになった事でこのバトルの勝者は椎名となる。

 

 

「よっしゃああ!!私の勝ち!!」

 

 

椎名は勝利のVサインを掲げると、ブイモン、フレイドラモン、2体のガンナー・ハスキーもそれに応えるかの如く一斉にガッツポーズをとった。

 

バトル終了に伴い、それらのスピリット達はゆっくりと消滅していった。

 

 

「へへ!どうだ毒島先輩!約束は守ってもらうよ!今度はデッキなんか賭けないで楽しくバトルしようね!」

「ぐっ!………覚えてやがれぇぇえ!!」

 

 

それだけ吐き捨ててその店を逃げるように後にした毒島。真夏は「捨て言葉が古い」とツッコミを入れるように一言入れた。

 

毒島が消えた途端に店内で椎名を讃える拍手が送られる。乱暴していた悪者を追っ払ったのだ。それは誰だって賞賛したくなるのだろう。椎名は少々照れ気味に頭をかいていた。

 

 

「いやぁ、それほどでもぉ」

 

 

そしてその光景を大勢の人混みの中で見届けていた2つの影がいた。1人はギザギザの白髪が特徴的な少年。もう1人は栗色の短髪の少年。椎名達と同じ学生服を着用している。バッジの色からして椎名とは同級生であることが示唆される。

 

 

「あれが例の赤のアーマー体を持ってる子だよ、どう?」

 

 

短髪の少年が言う。すると白髪の少年はその仏頂面を少し歪ませて硬い口を開いた。

 

 

「どうって、まぁ、欲しいに決まってんだろ」

 

 

白髪の少年がそう言うと、2人はその店内を後にした。

 

ー椎名の波乱万丈なバトスピ生活が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【フレイドラモン】!」

「フレイドラモンはデジタルスピリットの新たなる効果、【アーマー進化】を持ってる赤のスピリット、召喚時とアタック時で破壊効果を発揮して一気に勝負を決めよう!」





最後までお読みいただきありがとうございます!
週一と言うなんとも言えないスローペースですが、これからも応援よろしくお願いします!



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第2話「激突!赤きアーマー体!」

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁあ!!!やばい!やばいよぉ〜!……遅刻だぁぁぁぁあ!!」

 

 

椎名は朝っぱらから全力で叫びながら学校までの通り道を走っていた。学生なら誰もが恐れる遅刻と言うものと戦っているのだ。足がはち切れそうになるくらいの速度でアスファルトの上を走る椎名。学校からは徒歩約20分だったが、椎名の俊足をもってすれば5分程で到着できる。

 

 

「よし!校内についた!後は………」

 

 

校内まではついても今度はその校舎に入り、中を走らないといけない。階段が靴箱と遠いせいで遅刻するのは必至の状況だった。おまけに1年生の教室は4階にあるため、尚のこと辛いものがある。だがここで、椎名はある方法を思いつく。それは彼女にとっては本当にグッドアイデアと言える作戦。

 

 

「あっ!そうだ!」

 

 

椎名は校庭で何故かその場で手元にあった上履きに履き替えた。

 

 

******

 

 

そしてここは4階の椎名のクラス教室、担任の教師が番号順で出席を取っていた。

 

 

「真夏、」

「はーい」

「椎名………椎名?」

 

 

真夏の次の椎名の名前を呼ぶ男性教師、だが、椎名の返事はない。そして男性教師が名簿から目を背き、椎名の机に振り向こうとした次の瞬間、

 

 

「はいはーい!!」

 

 

椎名はなんと教室の窓をガラリと開けて入ってきた。この教室は4階だと言うのに、そして、ベランダもない。下はもう校庭だけの造りなのだ。椎名は壁からよじ登ってエスカレートした方が早いと考えて校庭からよじ登ってみせたのだ。クラスの者たちは真夏を含めて全員が唖然。担任の教師も口を大きく開けて呆気にとらわれていた。椎名はそんなことは一切気にせずに取り敢えず一安心したような顔つきで何事もなかったかのように自分の席に座る。窓側の一番後ろだ。その横には真夏がいる。

 

 

「いやぁ、危なかった、危うく遅刻するとこだったよ〜あ!真夏、おはよう!」

「おはよう……って……あんたどうやってここまで来たん?!」

「え!?…いや、普通によじ登って………」

 

 

そう言いかけた途端、椎名の目の前には担任の教師がいた。その顔はまさしく金剛力士像にも匹敵するほどの強面だった。それを見た椎名は蛇に睨まれたカエルのように思わず背筋が凍りついた、そして恐怖を表しているかのように自身のアホ毛がアンテナのように真っ直ぐ硬直する。

 

 

「………し〜い〜〜なぁ〜〜!!!お前はまた何やってんだぁぁぁぁあ!!」

「いや、でもほら、ちゃんと授業には間に合いましたよ、………だから晴太先生……今日は穏便に………」

「ばっかもぉぉぉおんん!!間に合い方ってもんがあるだろうがぁぁぁぁあ!!…今日一日中廊下に立ってなさぁぁぁぁあい!!」

「ええぇぇえ!!?」

 

 

 

【空野晴太(そらのはれた】、今年で23歳。椎名と真夏のクラス担任。プロに行ける実力がありながらも教師になった、若き天才。教師としては新任なので、今は問題児の塊の椎名に苦労させられている毎日。生徒達のことを下の名前で呼んだりと、なかなか面倒見のいい性格だ。ただし、怒るとこの通り、とてつもなく怖い顔になって叱ってくる。椎名は入学してからもう3回もこの顔を見ていた。と言うか、させていた。

 

 

「……ちぇ、間に合ったのになぁ、」

 

 

そう呟き、軽く文句を言いながら、教室の前で突っ立っている椎名。この学園の校舎はコンクリートでできている。当然上履きだけでは足が痛くなってくる。しかもこれを今日1日とはなかなかハードな所業だ。

 

教室の中では既に授業が始まり、晴太の声がする。今日の1時間目は確か、【赤属性の歴史】だったか、

 

椎名は勉強が苦手だった。かったるいし、今までほとんどしたことがない。バトルも頭脳派ではなく直感派だ。勉強と言う行い自体が自分と噛み合っていない。そう考えていた。

 

 

「うぅ、バトルしたい……」

 

 

せっかく遥々遠い島から引っ越してまでこの学園に通ったのだ。椎名としては毎日のように楽しいバトルがしたかった。と言うか、すると思っていた。だが、その実態のほとんどはバトスピの歴史や戦略の考え方、対策などの授業。おまけに国語や数学、英語など、普通の教科もあるときた。実技という形でバトルすることはあるものの、ほとんどがそちらに授業枠を割かれていた。

 

 

「おいおい、笑わせるぜ、…この学園にいながらバトルがしたいだって?」

「…!?、あなたは誰?」

 

 

授業中であるにも関わらず、1人の男子生徒が廊下で項垂れている椎名に話しかけてきた。白髪のと言うか、どちらかといえば銀に近い髪色にギザギザの形が特徴的だ。

 

 

「そんなにバトルしたいのなら、どうだ、この俺とバトルしないか?……お互いのエースカードを賭けたアンティルールでな」

「おっ!いい度胸してるじゃん!私は売られたバトルは買うよ、」

「……よし、じゃあ第3スタジアムに来い、そこでバトルだ」

 

 

この生徒はこの前の毒島と同じようなタイプの人間なのだろうか、授業もサボっているようだし、……でも今の椎名はアンティルールでもなんでも、バトルできればそれでよかった。椎名はそう思いながらもその男子生徒とその場を後にし、学校の第3スタジアムに赴いた。スタジアムとは、学校にいくつも設置されており、授業中以外ならフリーで対戦しても構わない場所だ。ただし忘れてはいけない。今は授業中だ。

 

椎名とその男子生徒はBパッドをセットし、バトルの準備を行なった。

 

 

「そう言えばあなたの名前は?私は椎名、芽座椎名。やるからには楽しいバトルにしよう!」

「俺は、お前と仲良くなるためにバトルしに来たわけじゃねぇ、格の違いを見せてやりたいだけだ。早く始めるぞ、【めざし】」

「め、ざし?」

「めざしいな、なんだろ?だったらめざしじゃねぇか」

「いやいや!!分ける場所おかしい!!めざ、しいなだから!」

 

 

名前からもじられて【めざし】と言う妙な渾名を付けられる椎名。まさか出会って間もない男子生徒にこんな恥ずかしい渾名をつけられるとは思ってもいなかった。

 

因みにめざしとは【目刺】のことであり、干物の一種だ。小魚の目から顎を竹串などでとうしてそれを数匹束ねたもののこと。春の季語の1つでもあり、栄養も豊富。

 

 

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

ーそんなこんなでも、2人のバトルが始まる。先行は椎名。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!ガンナー・ハスキーを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名の場に拳銃を持つために背中から青い腕が生えている犬型のスピリット、ガンナー・ハスキーが現れた。

 

 

「ターンエンド」

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目を終え、次は謎の白髪の男子生徒のターンだ。

 

 

[ターン02]男子生徒

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はネクサスカード、朱に染まる薔薇園をLV1で配置!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

男子生徒の背後にとても綺麗な赤薔薇園が配置される。朱に染まる薔薇園は赤と黄色のネクサスカード、シンボルもその2色が入っているため、男子生徒は赤と黄色の使い手だと言うことが示唆される。

 

 

「おお!綺麗!」

 

「…ターンエンドだ」

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

 

やはり女の子か、薔薇の花畑の美しさに心踊らされる椎名。それを他所に男子生徒はネクサスの配置にコアを全て使い果たしたので、このターンをエンドとする。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

 

 

「いっくよぉぉぉお!…メインステップ!猪人ボアボアを2体立て続けに召喚!」

手札5⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名が勢いよく手札の2枚をBパッドに叩きつけると、場には鎧を着用した猪頭のスピリットが現れる。手には鎖付き鉄球を所持している。それが一気に2体も呼び出された。

 

猪人ボアボアは青と緑の1つずつの軽減シンボルだが、ガンナー・ハスキーのメインステップ時の効果で青のシンボルが追加されていたため、どちらもフル軽減で召喚されたのだ。

 

 

「アタックステップ!猪人ボアボア2体でアタック!その【連鎖(ラッシュ)】の効果でボイドからコアを1つずつ猪人ボアボアに置き、LVを1つずつ上昇!」

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

 

 

2体のボアボアは男子生徒を威嚇するように、鎖付き鉄球を振り回す。

 

猪人ボアボアはアタック時にLVを1つあげる効果と、それに付随する【連鎖:緑】の効果でボイドからコアを置くことができる。その【連鎖】の条件はガンナー・ハスキーが満たしている。

 

 

 

「……どっちもライフで受けとくか、」

ライフ5⇨3

 

 

そのまま放り込まれた2つの鉄球が男子生徒のライフを砕く。

 

 

「続け!ガンナー・ハスキー!」

 

「それもライフだ」

ライフ3⇨2

 

 

続けてガンナー・ハスキーにアタックさせる椎名、ガンナー・ハスキーは背に生えた腕に持つ拳銃で男子生徒のライフを撃ち抜いた。

 

まさしく電光石火のような速攻。瞬く間に男子生徒のライフは半分を切ってしまった。

 

 

「よし!ターンエンド!」

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(疲労)

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

なかなか調子の良い速攻だったが、次の男子生徒のターンで、彼の逆襲が始まる。

 

 

 

[ターン04]男子生徒

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ、イーズナを召喚」

手札5⇨4

リザーブ9⇨8

 

 

男子生徒の場に現れた最初のスピリットはまるでイタチのような赤と黄色のハイブリットスピリット、イーズナ。イーズナは可愛らしく小さい鳴き声をあげる。

 

 

「続けて、ハーピーガールを2体、いずれもLV3で召喚!」

手札4⇨2

リザーブ8⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

美しい容姿の少女だが、腕と足が強靭な鳥のような姿になっているスピリット、ハーピーガールが一気に2体召喚された。

 

 

「おぉ、…なんか華やかだね」

 

 

椎名は赤き薔薇園に舞い降りる3体のスピリットに見惚れる。だが、美しいものには棘がある。椎名はこのターンでそれを思い知ることになる。

 

 

「ふっ!行くぞ、アタックステップ、やれ!ハーピーガールでアタック!その効果でLV2・3の相手のスピリットにはブロックされない」

 

 

ハーピーガールLV2・3の効果、それは相手のLV2・3以下の相手のスピリットからはブロックされないと言うもの。終盤になればかなり活きて行く効果となりうるが、現在は、

 

 

「残念だったね!今の私のフィールドのスピリット全ては疲労状態、あんまり関係ないよ!」

 

 

そうだ、その通り、元々がブロックできない状況ならばアンブロッカブル効果など意味がない。だが、ハーピーガールはある条件さえ満たせば序盤からでも十二分に発揮できる効果があった。

 

 

「この俺がそんな意味のないことするかよ、……ハーピーガールの効果はまだ続く、【連鎖:赤】の効果でBP3000以下の相手のスピリット1体を破壊する、くたばれ!猪人ボアボア!」

「なにぃ!?」

 

 

飛び立ったハーピーガールの強烈な翼撃がボアボアを襲う。ボアボアは鉄球ごとぶっ飛ばされて爆発を起こす。

 

ハーピーガールも猪人ボアボアと同様に【連鎖】の効果を所持していた。ハーピーガールは【連鎖:赤】で相手のBP3000以下の相手のスピリット1体を破壊する効果がある。ボアボアが破壊されたのはこの効果だ。【連鎖】条件はネクサスの朱に染まる薔薇園や、ハイブリットスピリットのイーズナで満たされていた。

 

 

「さぁ、継続だ、このアタックはどうする?」

 

「……ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ハーピーガールは今度は椎名のライフを翼で破壊した。そしてこの瞬間にもハーピーガールのもう1つの効果が発揮される。

 

 

「ハーピーガールの効果、【聖命】!ライフを1つ回復する」

ライフ2⇨3

 

 

ハーピーガールが椎名のライフを砕いた瞬間、男子生徒のライフが1つ復活する。

 

これぞ黄色の代表的な効果の1つ、【聖命】、相手のライフを破壊すれば自分のライフを1つ回復できる強力な効果だ。

 

さらに、男子生徒のコンボは続く、今度は朱に染まる薔薇園の効果が起動。

 

 

「さらに朱に染まる薔薇園のLV1・2の効果、俺のアタックステップ中に、俺のライフが回復した時、カードを1枚ドローする」

手札2⇨3

 

 

朱に染まる薔薇園LV1・2の効果、自身のアタックステップ中に、ライフが回復したならカードを1枚ドローする効果、この効果と、ハーピーガールの相性は最高中の最高だった。相手のライフを減らし、スピリットを破壊した挙句、ドローまで行う。これは男子生徒にとって相当なアドバンテージをもたらしていた。

 

そしてこれの恐ろしいところは、まだ待機中のもう1体のハーピーガールが残っていると言うこと。

 

 

「もう1体のハーピーガールでアタック!アタック時効果【連鎖:赤】!!……今度はガンナー・ハスキーを破壊だ!」

「くっ!」

 

 

男子生徒の命令で、2体目のハーピーガールが飛び上がる。滑空するように翼撃を放ち、ガンナー・ハスキーを切り裂いた。

 

 

「さぁ!継続中だ!」

 

「……ライフだ……ぐぅっ!」

ライフ4⇨3

 

 

ハーピーガールは翼で椎名のライフを破壊、そしてまたあのコンボが繰り出される。

 

 

「ハーピーガールの効果でライフを1つ回復、さらに朱に染まる薔薇園の効果で1枚ドロー」

ライフ3⇨4

手札3⇨4

 

 

あっという間だった。あっという間に男子生徒は椎名のフィールドをほぼ壊滅させただけではなく、ライフ差も手札差をも覆してみせた。

 

 

「……すごい……!、こんな奴がいるのか、すごいや」

 

 

椎名は只々感心の声が漏れる。とても楽しいのだ。さっきはこの学園に来て少し後悔すらしていたが、今のでまた気が変わった。やはり、ここは、バトスピ学園は楽しい、すごい場所だと認識していく。

 

 

「おいおい、感心してる場合かよ、ターンエンドだ」

イーズナLV1(1)BP1000(回復)

ハーピーガールLV3(3)BP5000(疲労)

ハーピーガールLV3(3)BP5000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

男子生徒は余裕の表情でターンを終える。ライフと手札を増やしてほぼ完璧なプレイングだった。それは誰もが観ても、美しいと感じさせるターンであっただろう。

 

 

「よし!私のターンだ!」

 

 

椎名は期待に胸を膨らませ、意気揚々とターンシークエンスを進めた。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

一方その頃、椎名の教室では、1時間目が終わる。休み時間中、晴太は流石に1日中廊下に立たせておくのはやり過ぎたと自己反省して、椎名を中に入れるつもりでいた。そして教材をまとめて手に持ち、廊下を出ると、

 

 

「おい、椎名、もういいから中に入ってなさい、………椎名?…………」

 

 

返事がしない。さっきまで廊下に立たせたはずなのに。そう思って晴太は廊下全体を見渡す。

 

第3スタジアムまでバトルをしに向かった椎名はそこには当然存在しない。晴太は手持ちの教材や周りの空気を震撼させるほどの大きな息を吸い上げる。

 

ーそして、

 

 

「し〜〜〜〜なぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

授業中にばっくれた椎名に対してまた顔の血管が浮き出てくるほど本気で怒る晴太、その雄叫びが学園のその校舎に響き渡った。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

晴太がお怒りになっているとはつゆ知らず、椎名は目の前の強敵とのバトルに全力を尽くしていた。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨8

トラッシュ2⇨0

猪人ボアボア(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、ブイモンを召喚!LV2!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨3

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名のフィールドにブイモンが姿を見せる。ブイモンはやる気を見せるように拳を強く握る。

 

 

「猪人ボアボアもLV2へ!」

リザーブ3⇨2

猪人ボアボアLV1⇨2(2⇨3)BP4000

 

 

ボアボアはLVが上がり、それをアピールするかのように雄叫びを上げる。

 

 

「アタックステップ!ブイモン!いけぇ!」

 

 

アタックステップを開始し、ブイモンに特攻させる椎名、ブイモンがその2本足で走り出す。

 

 

「……ライフで受ける……ぐっ!」

ライフ4⇨3

 

 

ブイモンの勢いをつけた強烈な頭突きが男子生徒を襲う。男子生徒は少しよろめくも、すぐに態勢を立て直す。

 

男子生徒の残ったブロッカーはLV1でBP1000のイーズナのみ、ブロックは極力避けたかったのだろう。

 

 

「続け!ボアボア!効果でLV3にアップ!」

猪人ボアボアLV2⇨3

 

 

椎名の命令で再び鎖付き鉄球を振り回すボアボアだが、その側であるスピリットが進化をしようとしていた。

 

 

「いくよ!【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!ブイモンを手札に戻して、アーマー体、フレイドラモンにアーマー進化!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ2⇨3

 

「……来るか、赤のアーマー体」

 

 

ブイモンの頭上から炎を模した卵が降ってくる。ブイモンと衝突し、混ざり合う。そして、竜人型のアーマー体、フレイドラモンが召喚された。

 

 

「今日も頼むよ!フレイドラモン!」

フレイドラモンLV2(3)BP9000

 

 

フレイドラモンは椎名の言葉に対して、まるで任せろと言っているかのように吠える。その咆哮はスタジアムを震撼させるほどに響き渡った。

 

 

「フレイドラモンの召喚時効果!相手のBP7000以下のスピリットを破壊!……イーズナを焼き尽くせ!爆炎の拳!ナックルファイア!」

 

 

放たれるフレイドラモンの炎の鉄拳がイーズナを包み込む、イーズナは耐えきれずに小さく爆発を起こした。

 

 

「そしてカードを1枚ドロー」

手札3⇨4

 

 

フレイドラモンは召喚時とアタック時にBP7000以下の相手のスピリット1体を破壊し、成功すればドローすることができる。

 

【アーマー進化】は他の【進化】とは違い、タイミングはフラッシュのみと、かなり幅広く対応できる。

 

例えば進化元をアタックさせた後のタイミングで使えば、攻撃回数が単純に1回増えることになる。今がまさにその状態、疲労状態のブイモンを戻したからといって、進化先のフレイドラモンまで疲労はしない、フレイドラモンで追撃が可能なのだ。

 

 

「さぁ!ボアボアのアタックは継続中!」

 

「……ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

ボアボアのハンマー投げのような攻撃で、再びライフを減らされる男子生徒。これでハーピーガールの【聖命】の力で押し戻されたライフはプラマイとなる。

 

ーだが、椎名の場にはまだ、フレイドラモンが残っている。

 

 

「いけぇ!フレイドラモン!アタック時効果!今度はハーピーガールを破壊!………ナックルファイア!」

「……またか」

 

 

フレイドラモンは再び炎の鉄拳を使う。狙った的はハーピーガール2体の内の1体、放たれた炎に避けることはできずに、ハーピーガールは燃え尽きてしまう。

 

 

「そして1枚ドロー!」

手札4⇨5

 

 

アタック時にもドロー効果は存在する。椎名はカードを1枚ドロー、そしてここからがフレイドラモンの本領発揮だ。

 

 

「フレイドラモンのLV2効果!相手のスピリット1体を指定アタックできる!」

「……!!」

「残ったハーピーガールに指定アタック!………砕け散れ!渾身のファイアァ!ロケットォォ!」

 

 

フレイドラモンは宙に舞うと、そのまま炎を自身の体全体に纏い、残ったハーピーガールに向けて落下、それと衝突したハーピーガールはその凄まじい攻撃には耐えられず、1体目同様、燃え尽きてしまう。これで男子生徒のフィールドのスピリット全ては除去された。

 

フレイドラモンはLV2になると【進化】と名の付く効果を持つスピリットに指定アタックの効果を付与できる。椎名はこの効果で疲労しているハーピーガールを狙い撃ちにしたのだ。

 

このターンで椎名は手札差、ライフ差、スピリット差など、大きくアドバンテージを取り返してみせた。この調子でいけば間違いなく勝利できることだろう。

 

だが、それだけでは勝てないのが、バトルスピリッツの面白いところである。

 

 

「ターンエンド」

猪人ボアボアLV2(3)BP4000(疲労)

フレイドラモンLV2(3)BP9000(疲労)

 

バースト無

 

 

[ターン06]男子生徒

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ9⇨10

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ10⇨12

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ、朱に染まる薔薇園をLV2へ」

リザーブ12⇨11

朱に染まる薔薇園(1⇨2)LV1⇨2

 

 

男子生徒はメインステップの初めに朱に染まる薔薇園のLVを上げる。効果が1つ追加された。

 

 

「朱に染まる薔薇園のLV2効果で俺の赤のスピリットカードの軽減シンボルは黄色としても扱う」

「……!!」

 

 

朱に染まる薔薇園、LV2の効果はメインステップ時に赤のスピリット及びブレイブのカードの軽減シンボルを黄色としても扱う効果、平たく言ってしまえば赤は黄色と同じ色としても扱うと言っても過言ではない。

 

男子生徒はこの効果をフルに活かし、新たなるスピリットを召喚する。

 

 

「……赤きデジタルスピリット、ホークモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ11⇨9

トラッシュ0⇨1

 

「……赤のデジタルスピリット……!」

 

 

赤い鳥型の成長期スピリット、ホークモンが男子生徒の元へと駆けつける。

 

 

「ホークモンの召喚時効果、デッキから3枚オープンし、その中の成熟期か、アーマー体を1枚、手札に加える」

オープンカード

【朱に染まる薔薇園】×

【イーズナ】×

【ホルスモン】○

 

 

ホークモンの召喚時効果でオープンされるカード達、男子生徒はその中の対象内のスピリットカード、ホルスモンを手札に加えた。

 

 

「【めざし】、お前はさっき、【アーマー進化】の効果を連続アタックの駒に使ったな」

「【めざし】じゃなくて【しいな】!」

「………アーマー体の正しい使い方を教えてやるよ」

 

 

名前の間違いに一々突っかかる椎名。男子生徒もアーマー進化を行うのか、そう言いながらリザーブのコアを1つ支払った。

 

 

「【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!こいつを手札に戻して、羽ばたく愛情!ホルスモンをLV2で召喚!」

リザーブ9⇨6

トラッシュ1⇨2

ホルスモンLV2(3)BP6000

 

 

ホークモンの頭上に翼のようなものが生えた卵が落下してくるそれはホークモンと衝突し、混ざり合うことで、それを進化させる。獣型の赤きスピリット、ホルスモンが愛情の風を育みながら誕生した。

 

 

「おぉ!フレイドラモンと同じ赤のアーマー体かぁ!!カッコいい!!」

 

 

フレイドラモンと同様の赤のアーマー体の登場により、興奮を抑えきれない椎名、それを他所に男子生徒はターンを進める。

 

 

「俺は、もう一度ホークモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨4

トラッシュ2⇨3

 

「……!……またホークモンが」

 

 

アーマー進化の効果で一時手札に戻ったホークモンが再び男子生徒の元に駆けつけた。ホークモンはその体を赤く発光させて召喚時効果を発揮させる。

 

 

「再び召喚時だ!」

オープンカード

【ハーピーガール】×

【ライフレボリューション】×

【ホルスモン】○

 

 

捲られたカードの中には再びホルスモンのカードが発見される。男子生徒は再びそれを手札に加える。

 

そして椎名は気づく、男子生徒が行おうとしていたことに、

 

 

「……まっ、まさか……!」

 

「そのまさかだ、再び【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!ホークモンを手札に戻し、2体目のホルスモンを召喚!こいつもLV2だ!」

リザーブ3⇨1

トラッシュ3⇨4

ホルスモンLV2(3)BP6000

 

 

再びホークモンに翼の生えた卵が落下して衝突、男子生徒のフィールドに2体目のホルスモンが現れる。その登場と共に流れる強かな風が椎名の制服を、飛び跳ねた毛を靡かせる。

 

アーマー体の使い方はタイミングによって様々である。相手のアタックステップ中ならば、相手への妨害となり、自分のアタックステップ中ならば、追撃の要に、そして、メインステップ中には連続で召喚することが可能となる。

 

 

「……なるほどね、メインステップ中だったら連続召喚は可能だよね」

 

 

椎名とて、決して知らなかったわけではないが、自分のデッキの相性の都合上、どうしてもアタックステップ中に召喚することが多かった。故にメインステップでの連続召喚はあまり行わなかったのだ。

 

 

「最後に再びホークモンを召喚」

手札5⇨4

リザーブ1⇨0

朱に染まる薔薇園(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ4⇨5

 

 

朱に染まる薔薇園がLVダウンしてしまうものの、ホークモンが三度男子生徒の元に現れた。

 

 

「そしてバーストを伏せる」

手札4⇨3

 

「……おっ、バーストか」

 

 

最後に男子生徒はバーストカードを伏せた。バーストカードは言うなれば【罠】、条件さえ満たせば即発動でき、使用したバトラーに莫大な恩恵を与えることができるカードだ。フィールドにもその影響が出る、男子生徒のフィールドから見て左上側に裏向きでカードが伏せられた。

 

これで準備は万端、いよいよ3体の赤き鳥獣達が侵攻を始める。

 

 

「アタックステップ!この瞬間にホルスモンの効果を発揮!ホルスモンは自分のアタックステップ中にアーマー体のBPを3000上げる、それが2体分」

「……てことは、合計12000までアップ……!」

 

「御名答、」

ホルスモンBP6000⇨9000⇨12000

ホルスモンBP6000⇨9000⇨12000

 

 

2体のホルスモンはそれぞれ赤く発光しだす、互いの相乗効果でBPが10000を超える。椎名のフィールドで一番高いフレイドラモンさえも易々と超えてみせた。

 

 

「まぁでもこの際BPは関係ねぇ、このまま決めるぞ」

 

 

確かに今はBPの増加などあまり関係なかった。この3体のスピリットのフルアタックで椎名の残りのライフは尽きるからだ。

 

 

「いけ!ホークモン!」

 

「ライフだ!」

ライフ3⇨2

 

 

ホークモンは自身の翼から赤い羽根をいくつも飛ばし、椎名のライフを串刺しにして、1つ破壊した。

 

椎名の場には疲労状態のスピリットしかいない、何か抵抗するすべがない限りはほぼ強制的にライフの減少を許容されていた。

 

 

「次だ!いけ!ホルスモン!………テンペストウィング!」

 

 

ホルスモンが羽ばたく、身体を竜巻のように高速で回転させて椎名のライフへと突っ込んでくる。だが、このタイミングで椎名の手札の1枚が光りを放つ。

 

 

「まだだ!まだ終わらない!!フラッシュタイミング!マジック!チェイスライド!」

リザーブ2⇨0

猪人ボアボア(3⇨2)LV2⇨1

トラッシュ3⇨6

 

「なに!?」

「この効果でアタックしてない方のホルスモンを疲労させる!」

 

 

椎名のマジックカード、チェイスライドが発揮される。その効果はシンプル、相手のスピリット1体を疲労させるというもの。

 

緑の突風がアタックしていないホルスモンを疲れさせる。

 

 

「アタック中のホルスモンはライフで受ける!………ぐぅ!」

ライフ2⇨1

 

 

ホルスモンの竜巻のような攻撃が椎名のライフを1つ貫いた。これでいよいよ椎名の残りライフは1、本格的に追い詰められた。

 

だが、それは男子生徒も同じことである。なんせこのターンで勝負を決められなかったのだ。残りライフ2の状態で次の椎名の攻撃を防がなければならないのだ。しかもブロッカーゼロで。

 

 

「くっ!ターンエンドだ」

ホルスモンLV2(3)BP6000(疲労)

ホルスモンLV2(3)BP6000(疲労)

ホークモンLV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト有

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨8

トラッシュ6⇨0

猪人ボアボア(疲労⇨回復)

フレイドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、ボアボアのLVを元に戻し、再びブイモンを召喚!LVは2!」

猪人ボアボア(2⇨3)LV1⇨2

手札5⇨4

リザーブ8⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

猪人ボアボアのLVが元に戻るのと同時に椎名のフィールドに今一度ブイモンが現れた。

 

 

「さらに私もバーストをセット!」

手札4⇨3

 

 

椎名も負けじとバーストを伏せる。男子生徒は当然それを警戒する。

 

 

「アタックステップ!いけぇ!フレイドラモン!アタック!」

 

 

フレイドラモンがその身に炎を灯しながら再び男子生徒のフィールドへと飛び出していく。

 

 

「アタック時効果でホルスモンを破壊!……ナックルファイア!」

 

 

フレイドラモンの炎の鉄拳が2体のホルスモンの内1体を襲う。爆炎に包まれてホルスモン1体は大爆発した。

 

 

「そしてカードを1枚ドロー」

手札3⇨4

 

 

ホルスモンのBPアップは自分のアタックステップ中のみ、相手のアタックステップ中はBP6000のままなのだ。

 

だが、それは男子生徒のバーストの発動条件でもあって、

 

 

「相手による自分のスピリットの破壊でバースト発動!シャイニングバースト!」

「なに!?」

「この効果でBP10000以下の相手のスピリット1体を破壊、俺が選ぶのはもちろんフレイドラモン!」

 

 

光り輝く炎に包まれてフレイドラモンが大爆発を起こした。シャイニングバーストは自分のスピリットの破壊に反応するバーストマジック、破壊に特化した効果しか持たないフレイドラモンとの相性は最悪だろう。

 

 

「くっ!フレイドラモン……!」

 

 

爆発からなる爆風を感じながらフレイドラモンの破壊を噛みしめる椎名。男子生徒は見越していた。仕留められなかった次のターンでも、椎名がフレイドラモンから必ずアタックを仕掛けると言うことに。だから破壊後のバーストを伏せたのだ。

 

 

「そしてその後、コストを払い、デッキから1枚ドロー、バーストでの発動だった場合、さらに1枚ドローする」

手札3⇨4⇨5

トラッシュ3⇨2

トラッシュ5⇨6

 

 

シャイニングバーストの効果で追加のドローを行うの男子生徒、だが、このタイミングで椎名がとどめを刺すべく動き出す。

 

 

「………今だ!!相手の効果によって手札が増えた時、バースト発動!グリードサンダー!この時点で相手の手札が5枚以上の時、相手はその手札を全て捨て、デッキから新たに2枚ドローする」

 

「なに!?……ぐっ!」

手札5⇨0⇨2

破棄カード

【光翼之太刀】

【朱に染まる薔薇園】

【テイルモン】

【ネフェルティモン】

【アクィラモン】

 

 

椎名のバーストから放たれる強烈な電撃、それは男子生徒の手札を捉え、捨てさせ、そこから新たに2枚ドローさせたのだが、手札の合計枚数は目で見るより明らかに少なくなっていた。

 

 

「そして、コストを払って、相手のスピリットをコスト合計5以下になるように好きなだけ破壊!……残ったホルスモンを破壊だ!」

リザーブ6⇨2

トラッシュ2⇨6

 

「………ぐっ!」

 

 

フィールドに迸る青い電撃がホルスモンを襲う。ホルスモンはそれに耐えられなくなり、大爆発を起こした。

 

これで男子生徒のフィールドに残ったのはホークモンだけとなる。

 

 

「猪人ボアボアででアタック!その効果でLVアップ!」

猪人ボアボアLV1⇨2

 

「ライフで受ける」

ライフ2⇨1

 

 

猪人ボアボアの鉄球が三度男子生徒のライフを破壊した。これで彼も残りライフ1、追い詰められた。

 

 

「よし!いけぇ!ブイモン!」

 

 

椎名のブイモンが待ってましたと言わんばかりに走り出す。目指すは男子生徒のライフ。これで椎名の勝利だと思われていたのだが…

 

 

「……調子にのるなよ、俺はフラッ……あぁ?」

 

 

その光景に思わず気を抜いた男子生徒、その理由は目の前にいた今にも自分を殴ろうとしていたはずのブイモンの姿が消えたのだ。ブイモンだけではない、猪人ボアボアもその姿を消した。椎名もその光景に当然驚く。

 

 

「え!?……あれ、ブイモン!…ボアボア!?……どこいったぁぁぁぁあ!!?」

 

 

何が何だかわからない椎名、さっきまでBパッドの上に置かれていたデジタルコアも消滅していた。いくらカードを取り上げて再びBパッドに叩きつけても一切の反応がなかった。そんな中、男子生徒はブイモン達が姿を消した理由を理解した。

 

 

「お前のBパッド……」

「充電切れしたんだよ!!椎名ぁぁぁぁあ!!」

「げっ!?、晴太先生!」

 

 

男子生徒がその理由を説明しようとした途端、スタジアムの扉を力強く開けながら晴太が現れる。その怒りに満ちた顔は椎名達に近づいて来るたびにより濃くなっていく。

 

 

「充電切れ!?」

「お前知らなかったのか、Bパッドもらった時に充電機も貰っただろう?」

「あ、あれか……」

 

 

Bパッドはスマホやタブレットと同じ充電式の機械だ。田舎育ちの椎名はこのBパッドの仕組みについては全く知らなかった。入学試験の時にBパッドをもっていないと言うことで貰ったBパッドだが、その時から使用して以降の約1ヶ月間、充電などしたことがなかった。

 

 

「あっ!!じゃあさっきの勝負は?」

「当然引き分けだ」

「えぇ!?狡い!!もう少しで私の勝ちだったのに!」

「勝ちだったのにじゃなぁぁぁぁあい!!し〜〜〜なぁ〜〜お前は今日1日ずっと反省文を書いてもらうからなぁ、覚悟しておけよ」」

「いやだよ!なんで!?」

「問答無用じゃあぁぁぁぁあ!!」

「いやぁぁぁぁあ!!」

 

 

そう言いながら晴太は動けないように椎名の首根っこを鷲掴みにして連行する。そして何かを思い出したかのように後ろを振り返り、男子生徒に注意事項と連絡をする。

 

 

「あ、そうそう、君も担任の先生が探していたよ、授業はサボらないようにね、【赤羽司(あかばねつかさ)】君」

「……はい、気をつけます」

「赤羽、司、それが名前か……じゃあね!司!またバトルしよう!次こそは決着だ!」

「お前は黙ってろ!」

「痛!!」

 

 

軽く頭を下げる男子生徒。あまり反省しているようには見えない。なかなか口数が減らない椎名をチョップで静止させる晴太。椎名と共にその場を後にした。

 

【赤羽司】、赤羽一族の末裔、赤羽一族とは昔から数あるバトルの名門一族の1つ、司はその赤羽一族の中でも30年に1人の天才と謳われており、その華麗且つ美しいバトルから世間は彼のことを【朱雀】と言う異名を名付けた。

 

 

「どうだった?……芽座椎名は」

「ん?いや、まぁ今一歩ってとこかな」

 

 

椎名達が去った後、スタジアムの影からひょっこりと現れる司の友人らしき栗色の髪で短髪の男子生徒。司は手札に残った赤のマジックカード【フレイムブロウ】を見せつけながらそう答えた。

 

ー【フレイムブロウ】はBP10000以下の相手のスピリット全てを破壊する効果がある。もし、バトルを続けていたら椎名のスピリットはこの効果で全滅していたので、本当に勝っていたのはどっちかまだわからなかったのだ。

 

 

「へぇ、今一歩か、司がそう言うなんて珍しいね……それにしても久しぶりじゃない?君のことを名前で呼ぶ奴なんて」

「どうでもいい………呼び方なんて人それぞれだろ」

 

 

そしてその後すぐに2人もその第3スタジアムを後にした。これが芽座椎名の生涯の好敵手、赤羽司との最初のバトルだった。

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【ホルスモン】!」

「ホルスモンはフレイドラモンと同じ赤のアーマー体!自分のアタックステップ時には特定のデジタルスピリットのBPが3000上がるよ!」






最後までお読みいただきありがとうございました!


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第3話「渾身の一手!ライドラモン轟く!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、そんなことあったんや」

「へぇーじゃないよ本当に、その後は一日中ずぅっと感想文書かされたんだから」

「いやぁ、1日はまだマシやと思うねんけど」

 

 

椎名が司とバトルした翌日の昼休み、丁度弁当を食べ終わってから、晴太にこっ酷く叱られ、挙げ句の果てには一日中感想文を書かされた椎名は、その事を真夏に愚痴るように話していたのだ。

 

椎名もあれだけのことをしたのだ、真夏の言う通り、確かに1日中感想文を書かせるのはまだ甘いほうだと思われる。

 

 

「でもやっぱすごいでぇ、椎名は」

「ん?何が?」

「だってあの【朱雀】に臆さずバトルしたんやろ!?すごいでぇ、ほんま大もんやわ〜〜」

「いやいや、ただバトルしただけでそんなに言われてもなぁ、」

 

 

それと同時に、椎名が【朱雀】こと赤羽司とバトルしたことは、知らずのうちに学校中で噂になっていた。強敵に挑んでいく椎名をべた褒めする真夏。バトル自体の結果は晴太が横入れしたため消化試合となってしまったが、

 

椎名としてはただバトルに夢中になっていただけだ。そんなことで褒められてもあまりピンとは来ないだろう。それは椎名が【朱雀】と言う男を詳しく知らないのも理由の1つであろう。

 

 

「そう言えば司ってなんで【朱雀】って呼ばれてるの?」

 

 

椎名はそもそも司が【朱雀】という異名を持っていたことを知らなかった。真夏はあまり世間を知らない椎名にこれを説明していく。

 

 

「はぁ!?あんたそんな事も知らんかったんかいな、【朱雀】って言ったら赤バトラーの名家、【赤羽一族】の30年に一度の天才って言われてる奴やないか、あいつの軸となっているスピリットとその華麗なプレイングから【朱雀】って言われるようになったんよ、私らと同期の中でもトップクラスの有名人やで!?」

「はは、いや私あんまり世間とか世論とか知らなくってさ〜」

 

 

同期の中でも逸脱した才能の持ち主である【朱雀】を知らなかった椎名に対して真夏は少なからず驚いている。いくら椎名が遠い島出身とは言え、【朱雀】を知らないのはあまりにも変だと、それほどまでに【朱雀】は有名人なのだ。

 

【朱雀】こと、司はジュニア時代では数々のバトスピ大会で賞を勝ち取っている。他を寄せ付けないその強さは当時から多くのメディアにも注目されていた。ただそれ故に椎名が【朱雀】を知らないのは本当におかしい以外何者でもなかったのだ。

 

 

「でも、もうちょっとで勝てるとこだったんだよなぁ」

「それほんまに言っとんの!?」

 

 

椎名は知らないが、あのバトルは本当ならまだあのバトルの決着はついていなかった。もう少しで椎名が勝てるとこではあったが、司はまだ凌げる防御札を手札に持っていた。

 

それでも【朱雀】と呼ばれる司をあそこまで追い詰めれるのはこの同期とそれ以下の世帯の中ではほとんどいないだろう。

 

2人が机を囲んでそんな談笑をしている時だった。誰かが閉まっている教室のドアを開ける。そこに現れたのはクラスメイトでも先生でもない。別のクラスの男子生徒だ。160cmもいかない位の椎名とほぼ同じくらいの小柄な体格に加え、栗色の短めの髪、成長期が来るのを予想してるのか、少し大きめの制服を着ていた。新品の制服やバッジの色から椎名達と同じ1年生であることが示唆される。

 

その男子生徒はなんの躊躇もなく真っ直ぐに椎名と真夏がいる机に寄って着た。いや正確には椎名だけを見ていた。そして椎名に親しげな顔つきを見せながら口を開いた。

 

 

「やぁ、君が芽座椎名さん?……かな?」

「ん?そうだけどあなた誰?」

 

 

知らない生徒に声をかけられて首をかしげる椎名、するとここで真夏が思い出したように口を開く。

 

 

「あっ!思い出したで、あんたは確か【朱雀】の唯一の親友、【長峰雅治(ながみねまさはる)】!」

「司の親友?」

「はは、……そう、僕は【長峰雅治】。……司の親友ねぇ、まぁ、そんな感じかな、僕は兎も角、あいつがそう思っているかは謎だけどね」

 

 

彼の名は長峰雅治、椎名達の同期で、司の幼なじみ、バトルの腕前も相当なもので、椎名達の同期中では【朱雀】と並んでトップクラスに立っている。

 

そんな彼がなぜ今椎名達の前にいるのかというと、

 

 

「でも、司の親友がどうして私のとこに?」

「いや、昨日、司が君にアンティなんか仕掛けたらしいから迷惑かけたなぁと思ってねぇ、あいつ素直じゃないから言えなかったんだろうけど、ただ取り敢えず君とバトルがしたかっただけだったんだ。それだけはわかって欲しいと考えてね」

「なんか、おかん見たいなやっちゃな」

「あ〜〜いいのいいの全然!気にしてないし、寧ろ楽しかったよ!」

 

 

雅治は椎名に謝罪目的で来ていた。少しだけ頭を下げる雅治だが、当の椎名は特に何も気にしてはいない。寧ろ友の誤解を解くためにわざわざ自分のとこまで来たのだ。逆に感心してしまう。

 

椎名の返事を聞いて、雅治は手を口にあて、微笑ましく顔を歪ませる。

 

 

「楽しかった、か。ふふ、君とはいいバトルになりそうだ」

「………!?」

「いやなんでもない、こっちの独り言だよ………じゃあね」

 

 

雅治はそれだけ言い残して椎名達の教室を後にした。

 

 

「結局それだけかいな」

「…他に何か言いたげだったような」

 

 

そうしているうちに学校の予鈴チャイムが鳴り響き、次の授業が始まろうとしていた。

 

次の授業は【合同実技】だ。椎名達はさっきの雅治の発言が引っかかりつつも授業がある第3スタジアムへと赴いた。

 

【合同実技】とは、簡単に言ってしまえば、他のクラスと合同でバトルの練習を行う。それぞれ違うクラスの生徒とバトルを行う。

 

 

「よし!全員配られた番号の元に行きなさい!目の前にいる生徒が今日の対戦相手だ!」

 

 

担任の先生の晴太の指示でクラスメイトの各々が散っていく。椎名は自分に割り当てられた番号のバトル場に向かう。同じ番号のものが今回の椎名の対戦相手だ。

 

 

「えー、っと、17、17、………ここか」

「………やぁ!待ってたよ!」

「ん?あっ!さっきの!」

 

 

その17番のバトル場で既にBパッドを展開させて待ち構えていたのは雅治だった。椎名は気づく。さっきの雅治の発言はこれから自分とバトルするのがわかっていたからなのだと、

 

 

「なるほど!今回の合同実技はあなたが相手だったんだね!よろしく!」

「こちらこそ」

 

 

雅治はまるで丁寧な執事のように挨拶をする。椎名も直ぐにBパッドを展開させてバトルのスタンバイに入った。

 

 

「見せてもらうよ、入学試験で空野先生に勝った実力を」

「へへ、望むところだよ!」

 

 

椎名は少なからず入学試験時点で何かと注目されている人物の1人だった。

 

入学試験では、職員の教師、誰か1人とバトルすることになるのだが、今年に限っては、新人教師且つ天才的なバトラーの空野晴太が1部担当しているところがあり、学生間の間では空野晴太はハズレ枠認定だった。

 

そしていざ始まってみると案の定、晴太の前に積み上げられたのは自分に敗北した生徒達の山だった。

 

そんな中、晴太にただ1つの勝ち星を挙げたのが【芽座椎名】、その時の晴太は本気のデッキではなかったとは言え、彼にバトルで黒星をつけたことは他の学生や教師陣からも話題のまとだった。

 

雅治はこの椎名のバトルを見ていた。だからこそ一度戦って見たかった。自分のような頭脳派とは違う、体で何かを覚える感覚派のバトラーである椎名とバトルすることで何か自分を高められるのではないか。そう考えていたのだ。

 

椎名も、今回の相手はあの【朱雀】と呼ばれている赤羽司の親友、彼も当然それ相応の実力者であるはず、そう考えるだけで椎名は胸を踊らせずにはいられなかった。

 

ーそしていつもの掛け声でバトルが始まる。

 

 

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

芽座椎名と、長峰雅治のバトルが始まる。

 

ー先行は雅治。

 

 

[ターン01]雅治

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、じゃあ僕は先ず、アルマジモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4s⇨0

トラッシュ0⇨3s

 

 

アルマジロのような外見の黄色の成長期スピリット、アルマジモンが雅治の足元から出現した。その顔の表情はとても愛らしい。

 

 

「黄色か!!」

 

「そう、これが僕の色だよ、アルマジモンの召喚時効果発揮!デッキの上から3枚をオープンし、その中の「成熟期」か、「アーマー体」のスピリットを1枚手札に加えて、残りを破棄!」

オープンカード

【イエローリカバー】×

【イエローリカバー】×

【舞華ドロー】×

 

 

アルマジモンの召喚時効果でデッキのカードがめくれていくが、その3枚のカードの中にはどれも該当するものはなく、そのまま破棄されてしまった。

 

だが、これも彼の計算のうちだ。

 

 

「エンドステップ、トラッシュにある舞華ドローの効果」

「!?」

 

「自分のトラッシュにソウルコアがある時、自分のエンドステップ時に手札に戻ってくる」

手札4⇨5

 

 

舞華ドローの効果はトラッシュにある時にソウルコアがあるならエンドステップ時に手札に戻ってくる効果がある。ソウルコアとはどのプレイヤーも必ず持っている他のコアとは違う唯一無二の特別なコアのこと。そのソウルコアを活用した効果を持つカードは多々存在している。

 

 

「自分のデッキに舞華ドローがあるのを知っていたからアルマジモンの召喚コストにソウルコアを支払ったのか」

 

「ふふ、まあね、これで僕はターンエンドだ」

アルマジモンLV1(1)BP2000

 

バースト無

 

 

普通は有象無象にソウルコアをトラッシュには置かない。ソウルコアが次のターンまで使えなくなるからだ。それは前述したとおり、ソウルコアを活用する効果を持つカードがあるからである。ソウルコアがトラッシュにあれば少なくとも相手の手札にはソウルコアを活用するカードは存在しない、またはそれが使えなくなると言った情報が相手側に流れるからだ。雅治はそれを承知の上でアルマジモンの召喚コストにソウルコアを払っていた。

 

 

(確か、舞華ドローは相手のスピリット1体をBPー3000して、0になったそのスピリットを破壊だったよね)

 

 

椎名は雅治の手札に加えられた舞華ドローの効果を思い出しながら自身のターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「よし!メインステップ!風盾の守護者トビマルをLV1で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名の場に大きな盾を持った鳥型のスピリットが召喚される。

 

 

「なるほど、守護者スピリットか、確かにそれならコスト3以下のスピリット限定で舞華ドローから身を守ることができるね」

 

「へへ、このターンはエンドだよ!」

風盾の守護者トビマルLV1(1)BP2000

 

バースト無

 

 

トビマルのような守護者と名のついたスピリットは弱き者達を守る勇敢な戦士、自身を含めたコスト3以下のスピリットが効果で破壊される時に、それらを疲労状態で残すことができる。

 

これで椎名は舞華ドローの破壊効果をある程度は軽減できる。

 

 

[ターン03]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、そうだなぁ、ここは……2体目のアルマジモンを召喚しようかな」

手札6⇨5

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

雅治の場にもう1体のアルマジモンが姿を見せる。

 

 

「2体目の成長期!?」

 

「そう、……そしてもう一度、召喚時効果!」

オープンカード

【アルマジモン】×

【パタモン】×

【パタモン】×

 

 

再びアルマジモンよ召喚時効果が発揮されるがまたその中には該当するカードがないため、トラッシュにそのまま送られた。

 

 

「そして手札からマジック!舞華ドロー!コストにはソウルコアを支払うよ」

手札6⇨5

リザーブ1s⇨0

トラッシュ2⇨3s

 

「やっぱ撃ってくるよね〜」

 

「この効果でBPー3000するのはもちろん君の風盾の守護者トビマル、そして0になったらそれを破壊して僕はデッキから1枚ドローする」

「トビマルのBPは2000、0にはなるけど自身の効果で疲労状態で生き残る」

 

 

黄色い波動がトビマルを襲う。それに力を奪われた瞬間、爆発してしまうが、トビマルは自分の効果で疲労状態となり椎名の場に居座っていた。

 

 

「だけど破壊はされているからカードはドローするよ」

手札5⇨6

 

 

守護者スピリットの効果はあくまで疲労状態で残る効果、つまり一度破壊はされているのだ。よって、雅治は舞華ドローの効果でデッキから1枚ドローした。

 

 

「アタックステップ!アルマジモン2体でアタック!!」

 

「トビマルは疲労状態、なら、どっちもライフだ!」

ライフ5⇨3

 

 

トビマルが疲労した途端アルマジモンでアタックを仕掛けてくる雅治。おそらくはこれも計算のうち、

 

アルマジモンはボールのように体を丸めて弾丸のように飛んでいき、椎名のライフを破壊した。

 

 

「エンドステップ、舞華ドローの効果でトラッシュから手札に………そしてターンエンド」

手札6⇨7

 

アルマジモンLV1(1)BP2000(疲労)

アルマジモンLV1(1)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

できることは全て終えた雅治はこのターンを終える。次は椎名の反撃だ。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!先ずは猪人ボアボアを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨4

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名の場に猪の顔をした獣戦士ボアボアが召喚される。ボアボアは鎖付きの鉄球をぐるぐると振り回し、やる気を見せる。

 

 

「そして、次はブイモンを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨2

トラッシュ2⇨3

 

「……来たね、軸となる成長期スピリット」

 

 

椎名の足元から出現したのは青い体の小竜型の成長期デジタルスピリット、ブイモン。

 

 

「召喚時効果!デッキから2枚オープンして対象のカードを手札に加える!」

オープンカード

【ワームモン】×

【グリードサンダー】×

 

 

ブイモンの召喚時効果を使う椎名だったが、雅治同様これは外れ、そのままトラッシュに送られた。

 

 

「ちぇ、ハズレか〜」

(その言い方じゃあ、進化形態がいないのがバレバレだね、……可愛いけど)

 

 

結果に口を尖らせる椎名。雅治はその椎名の表裏のない性格から分析してブイモンの進化形態はいないと判断する。

 

その予想は完璧に的中している。確かに今の椎名の手札にはフレイドラモンは存在しない。

 

 

「バーストをセット!風盾の守護者トビマルをLV2へアップ!!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

風盾の守護者トビマル(1⇨3)LV1⇨2

 

 

椎名の場に伏せられたのは1枚のバーストカード、このカードで試合を動かすことはできるのか期待がかかる。トビマルもLVが上がり、新たな効果が追加された。

 

進化できないのは少々残念だが、致し方ない。椎名は今いるスピリットでアタックを仕掛ける。

 

 

「アタックステップ!いけ!ボアボア!!アタック時で強制的にレベルアップ!さらに【連鎖:緑】でボイドからコアを1つボアボアに追加!」

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

 

 

ボアボアでアタックを仕掛ける椎名、ボアボアは自身の効果でコアを増やしつつ鎖付きの鉄球を雅治に向かって投げ飛ばした。

 

 

「ライフで受けるよ」

ライフ5⇨4

 

 

前のターンにフルアタックをした雅治は当然ブロックできるスピリットがいない。このアタックは無条件で受けることになった。

 

ーだが、問題はこの後であって、

 

 

(ブイモン達でアタックをしてもいいけど………)

 

 

珍しくターン中に手を止める椎名。それもそのはず、雅治の手札には舞華ドローが存在する。椎名の場のスピリットはいずれも舞華ドロー1発で射程圏内に収まる小型ばかり、トビマルの効果で破壊は免れるとは言え、残る時は疲労状態、おまけに今は雅治のスピリットを除去するカードもない。

 

つまり、ここで1回でもアタックしてしまえば舞華ドローの効果を使われて、ブロッカーは0、次のターン、雅治がスピリットを1体でも召喚して、またフルアタックをしかけられたらその時点で椎名はほぼ終わりなのである。

 

 

「………ターンエンド」

ブイモンLV1(1)BP2000(回復)

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

風盾の守護者トビマルLV2(3)BP3000(回復)

 

バースト有

 

 

結局アタックはできず、ブロッカー2体を残すプレイングをとった椎名。攻めたいところだが、攻められない。彼女はもどかしい気持ちに襲われるが、負けるよりかは遥かにマシであって、

 

 

[ターン05]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札7⇨8

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、それじゃあ、そろそろ決めにかかろうかな」

「!?!」

 

 

「行くよ、椎名、これが僕のアーマー体!………僕はアルマジモンを対象に【アーマー進化】を発揮!1コスト支払い、アルマジモンをアーマー体、ディグモンにアーマー進化!!」

リザーブ5⇨4

トラッシュ0⇨1

 

「おぉ!!雅治もアーマー進化を使うんだ!!」

 

「ディグモンをLV2で召喚!!」

リザーブ4⇨3

ディグモンLV2(2)BP6000

 

 

アルマジモンの頭上にこれまた独特な形をした黄色い卵が落下してくる。アルマジモンはそれを受け入れるように衝突していき、混ざり合い、その力の恩恵を受けて、進化する。

 

そして現れたのは鼻先と両腕にドリルの武器を携えた昆虫型のデジタルスピリット、ディグモン。

 

ディグモンはその黄色い体を輝かせながら自慢の3つのドリルを回転させている。

 

 

「すごい!ドリル!!」

「ふふ、すごいのはこれからだよ!!ディグモンの召喚時効果!相手のスピリット1体を指定して、このターン中、そのスピリットはブロックできなくなる」

「!?!」

「僕が指定するのは厄介なアタック時とブロック時を待つ、風盾の守護者トビマル!!」

 

 

ディグモンは両腕のドリルを地面に突き刺し、地割れを起こす。トビマルはそれに足を挟まれて身動きが取れなくなる。

 

トビマルはアタック時とブロック時に相手のスピリット1体を疲労させる効果がある。雅治はそれを見越してトビマルを選んだのだ。

 

 

「くそぉ、ブロックできないのか……でも召喚時のバーストはもらうよ!」

「……!!」

 

 

椎名のバーストが勢いよく開く。

 

 

「バースト発動!双翼乱舞!カードを2枚ドロー」

 

 

効果でデッキのカードを勢いよく引く椎名、狙うはもちろんフレイドラモンのカード。果たしてその結果は……

 

 

「…………よし!来た来たぁぁぁぁあ!!」

手札2⇨4

 

(わかりやすい………可愛いけど)

 

 

2枚のカードを見て大いに盛り上がる椎名、雅治から見たらそれは本当にわかりやすかった。明らかにキーカードを引けた顔だ。

 

雅治はポーカーフェイスを一切保とうとしない椎名に少々呆れながらも、思わずその可愛らしい笑顔をまじまじと見つめてしまう。

 

双翼乱舞は赤のバーストマジック、相手のスピリット及びブレイブの召喚時に発動することができる。その効果は至ってシンプルで赤らしいドロー効果、

 

椎名はその後のメイン効果をコストを支払って使用できたが、キーカードを引けたからか、支払いはせず、双翼乱舞の効果は2ドローで終わった。

 

 

「どうやらキーカードをうまく引けたみたいだけど……………このターンの僕の進化はまだ終わらないよ」

「え!?」

 

「残ったアルマジモンをLV3に!」

リザーブ3⇨0

アルマジモン(1⇨4)LV1⇨3

 

 

場に残ったアルマジモンのレベルが上がる。アルマジモンはそれをアピールするかのように宙返りしてみせる。雅治はこの後すぐにアタックステップへと移行した。

 

 

「さぁ、アタックステップ!!アルマジモンの【進化:黄】発揮!!成熟期のアンキロモンに進化召喚!」

アンキロモンLV3(4)BP6000

 

 

アルマジモンはデータの渦に包まれていき、そのデータコードを返還させて行く。新たに現れたのは硬質化した表皮に全身を覆われた鎧竜型スピリット、成熟期のアンキロモン。

 

 

「……!!…普通に進化した……!!」

「進化はアーマー進化だけじゃないよ!」

 

 

気づけば雅治のフィールドにはアーマー体と成熟期のスピリットが並び立っている。

 

咆哮をあげるアンキロモン、ドリルを回転させながらやる気をみせるディグモン。椎名の小さいスピリット達だけでは勝つことは難しいだろう。

 

 

「アタックステップは継続!ディグモンでアタック!」

 

 

雅治の指示で動き出すディグモン。ディグモンは事前に回転させていたドリルを地面に突き刺して、再び地割れを起こす。それは瞬く間に椎名のブイモンの足場を崩し、身動きを封じた。

 

 

「……!!…これってさっきと同じ、」

「そう、ディグモンは召喚時とアタック時に同じ効果を発揮するスピリット、……2体目はブイモンを選ばせてもらったよ」

 

 

ディグモンは召喚時とアタック時でブロック不可効果を発揮できる。

 

これで椎名の場には実質ブロックできるスピリットは消えてしまったが、ブイモンが生き残っているならそれは関係ないことであって、

 

 

「だけどこのフラッシュタイミングを待ってた!!【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!!……ブイモンを手札に戻して炎燃ゆるスピリット!!フレイドラモンを召喚!!」

トラッシュ3⇨4

猪人ボアボア(2⇨1)

風盾の守護者トビマル(3⇨1)LV2⇨1

フレイドラモンLV2(3)BP9000

 

 

足を挟まれたブイモンの頭上に赤い卵が投下される。ブイモンはそれと衝突して進化、フレイドラモンが地割れに挟まれた足を引き抜きながら参上した。

 

 

「……来たね、赤のアーマー体」

「アーマー進化は新たなる召喚扱い。フレイドラモンにはディグモンの効果は及んでいない」

 

 

椎名の言う通り、フレイドラモンのようなアーマー進化を持つスピリットの召喚は新たなる召喚扱い。つまりブイモンとは別のスピリットとして扱われている。

 

一見してみるとBPの高いフレイドラモンを召喚した椎名が有利に見えるが、実は本当に優位に立っているのは雅治の方であった。それはフレイドラモンの召喚時効果を発揮すれば直ぐに分かることである。

 

 

「フレイドラモンの召喚時効果!BP7000以下の相手スピリット1体を破壊!……対象はBP6000のアンキロモン!……いけ!フレイドラモン!爆炎の拳!ナックルファイア!!」

 

 

フレイドラモンがその拳に炎を纏わせて殴りつけるように射出、アンキロモンに命中し、焼き尽くすと思われたが、

 

 

「残念だったね、アンキロモンは相手の効果では破壊されない」

「……え!?」

 

 

その爆煙が晴れてみると、そこには擦り傷1つついていない元気なアンキロモンの姿がいる。フレイドラモンの効果を全く受け付けなかったのだ。

 

 

「くそ!……じゃあディグモンを」

「無駄だよ!ディグモンも自分のアタックステップ中のみ、相手の効果では破壊されない」

「………!!」

 

 

そう、ディグモンも効果では破壊されない。雅治は椎名のバトルをこれまで色々と見ていた。見ていたからこそ、ここまで対策を練り、完封する作戦を考えて来たのだ。

 

椎名のデッキはフレイドラモンを使用した圧倒的速攻。それは良くも悪くも、アドバンテージ差をつけるためにはフレイドラモンにやや頼り気味であって、そのフレイドラモンを対策されると窮地に陥りやすい弱点を抱えている。

 

スピリットを破壊できなければフレイドラモンに付随するドロー効果も使用できない。椎名はこれだけで一気に辛くなる。自分が優位に立つ残された手段は、

 

 

「だったら、フレイドラモンでディグモンをブロック!!」

 

 

ディグモンをこのまま迎撃して破壊することで不利な状況を一転させよう試みるしかない。

 

フレイドラモンより若干上背のディグモンは両腕のドリルでフレイドラモンを貫こうと上からそれを振り下ろす。フレイドラモンも負けじと両腕に炎を纏わせたダブルパンチで迎撃する。

 

BPはフレイドラモンが9000、ディグモンは6000、フレイドラモンの方が3000高いが、雅治の手札にある舞華ドローを使用すれば同値まで持っていかれてしまう。

 

ー椎名はそれを避けるために勝負に出る。

 

 

「フラッシュマジック!ワイルドライド!!不足コストはボアボアとトビマルから確保!!フレイドラモンのBPを+3000!!」

手札4⇨3

猪人ボアボア(1⇨0)消滅

風盾の守護者トビマル(1⇨0)消滅

トラッシュ4⇨6

フレイドラモンBP9000⇨12000

 

 

ボアボアとトビマルが消滅してしまうが、ワイルドライドの効果でフレイドラモンのBPがディグモンのBPを大きく上回る。これでBP差は詰められることはなかったが、雅治は黄色らしい、思わぬトリッキーな一手でやり返して来た。

 

 

「そうくるのも計算のうちさ………フラッシュマジック!フルーツチェンジを使用する!不足コストはアンキロモンから使うよ!」

手札8⇨7

アンキロモン(4⇨3)LV3⇨2

トラッシュ1⇨2

 

「フルーツチェンジ!?」

「……このカードはこのバトル中、BPを比べるスピリットのBPを入れ替える不思議な効果を発揮する」

「……あっ!!…BPを入れ替えるってことは!?」

「そう、ディグモンのBPはフレイドラモンのBP12000となり、逆にフレイドラモンのBPはディグモンのBP6000となる」

 

 

ディグモンとフレイドラモンが取っ組み合っている空間にのみ、黄色の波動が纏わりつく、それは瞬く間に2体の力関係を入れ替えてしまった。フレイドラモンの力となったディグモンはそのままドリルの回転速度を上げてフレイドラモンを一気に叩き潰した。

 

フレイドラモンは力及ばず爆発してしまう。

 

 

「…ぐぅ!!…フレイドラモン!!」

 

「僕はこれでターンエンド………」

ディグモンLV2(2)BP6000(疲労)

アンキロモンLV2(3)BP5000(回復)

 

バースト無

 

 

状況を一転させるつもりがより不利な状況を作ってしまった椎名。だが、エースを破壊されても自身のライフとデッキが尽きない限りは絶対に諦めない。それこそが芽座椎名だ。まだまだ全力でバトルに臨む。

 

たが、いくら強がっても不利な状況は変わらない。このままではじわじわと嬲り殺されるだけだ。次のターンのドローステップが勝負の分かれ目である。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

 

 

「頼むよ!私のデッキ!!……ドローステップ!!………」

手札3⇨4

 

 

椎名はドローカードを確認する。そのカードはまさしく今自分が欲しかったカード。それを見事引き当ててみせた。

 

 

「よし!!」

(……!?……何を引いた!?)

 

 

エースがやられた次のターンの局面でできる顔ではないと判断した雅治。そのカードがなんなのか推測するが、今までの椎名のバトルではフレイドラモンだけが活躍していたためか、予想するのは難しかった。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨10

トラッシュ6⇨0

 

 

「へへ、行くよ!雅治!………メインステップ!!ブイモンを再び召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨6

トラッシュ0⇨3

 

 

【アーマー進化】の効果で手札に戻ったブイモンが再び椎名の元に現れる。ブイモンは両拳を強く握り締めてやる気をみせている。

 

ーそして椎名は魅せる。自分が持つ第2のアーマー体を、フレイドラモンと双璧を成すブイモンの進化形態を。

 

 

「アーマー進化発揮!対象はブイモン!!」

リザーブ6⇨5

トラッシュ3⇨4

 

「……またアーマー進化!?」

 

 

ブイモンの頭上に独特な形をした黒い卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、新たなる姿へと進化を果たす。

 

それは黒き獣のようなアーマー体、青き雷をまといて、椎名の場に参上する。

 

 

「ライドラモンを召喚!!」

リザーブ5⇨2

ライドラモンLV3(4)BP10000

 

「新しいアーマー体!?緑のスピリット……!!」

 

「そう、これがフレイドラモンと双璧を成す私のアーマー体スピリット、ライドラモン!!…………召喚時効果発揮!!ボイドからコアを2つトラッシュに追加する!!」

トラッシュ4⇨6

 

 

ライドラモンが召喚されるなり雄叫びをあげる。すると椎名のBパッドに雷が落雷する。その煙が晴れると、椎名のトラッシュにコアが2つ新たに追加されていた。

 

だが、

 

 

「今更コアブースト!?しかもトラッシュに………それじゃあ結局何も変わらないよ」

 

 

そうだ、ライドラモンの効果は強力ではあるものの、結局はタイムラグ付きのコアブースト、使用できるのは次のターンからとなる。いくらコアが増えても巻き返す方法がなければ意味はない。

 

しかし、椎名が使いたいのはコアブースト効果ではなかった。

 

 

「まぁ、そう慌てないでよ、ライドラモンの強みはこれからわかる」

「!?!」

 

 

椎名はライドラモンだけがいる盤面でアタックステップに移行する。それは一見無謀とも取れるが、

 

 

「アタックステップ!!ライドラモンでアタック!!」

「BP10000のただ1回のアタックでは僕の4つのライフは減らされないよ!」

 

 

地を駆けるライドラモン。確かにライドラモンだけではこのターンで雅治のライフを全て消すことは難しいだろう。だが、バトルスピリッツの醍醐味はどんなに追い詰められても複数のカードを活かすことでそれらを難なく突破することが可能になることである。

 

椎名は初手からためていたあるカードを引き抜く。

 

 

「ここでこのマジックが光輝く!……フラッシュマジック!ストームアタックを使用!!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

ライドラモン(4⇨3)LV3⇨2

トラッシュ6⇨9

 

「なに!?このタイミングでストームアタック!?」

「この効果で回復状態のアンキロモンを疲労させ、逆に疲労状態のライドラモンを回復させる!!」

 

 

椎名が使用したカードは《究極カード》と呼ばれるデッキには1枚しか入れられないと言う強力なカードの1枚、緑のマジック、【ストームアタック】、その効果でアンキロモンが風に包まれて疲労し、逆にライドラモンが追い風を受けて回復状態になる。

 

 

「くっ!!」

アンキロモン(回復⇨疲労)

 

「これであなたのブロッカーは0!!ライフで受けるしかなくなった!!いけ!ライドラモン!!」

ライドラモン(疲労⇨回復)

 

「う、ぐぅ!」

ライフ4⇨3

 

 

ライドラモンの全力疾走からの体当たり、最早かわすすべがない雅治はその攻撃を諸に受けてしまう。だが、そのライフ数はまだセーフティラインであって、

 

 

「残念だね、その程度の攻撃じゃあ、君がいくら頑張ってもこのターンで削ることができる最高値は2。僕はまだ負けない」

 

 

安心したように笑みを浮かべる雅治だが、この状況で笑っていたのは椎名も同じだった。雅治はそれを見て不思議に思う、何故笑っているのだろう。と、使用したコアはもうギリギリ、ライドラモンをLV2で維持するのに手がいっぱいのレベルだ。

 

雅治は気づく。この状況で椎名が笑っていられるのはライドラモンにはもう1つ何か効果があるから。ということに。

 

そして椎名はライドラモンの第2の効果を説明する。

 

 

「ライドラモンはライフを減らす時、さらにもう1つライフを減らす!!」

「………な、なんだって!?」

「いけ!ライドラモン!!轟の雷!!!ブルーサンダー!!!!!」

 

「うわっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

ライドラモンのツノが避雷針となり、落雷する雷が雅治のライフをさらにライフを破壊する。この効果により雅治の計算が崩される。

 

ライドラモンはこの効果のおかげで実質ほぼダブルシンボルだ。1足す1が2足す2になればそれは相手にとって大きく計算を狂わせることができる。

 

 

「よし!これで決まり!!ライドラモン!!トドメのブルーサンダァァァァァア!!!!!!」

 

「ま、まさか、こんな面白いバトルをする子がいるなんて、………やっぱり君は素敵だよ、椎名」

ライフ2⇨0

 

 

ストームアタックの効果で回復状態となっているライドラモンはその場で再び巨大な雷を打ち出して雅治のライフに叩きつける。雅治は椎名の凄さに感心しながらその眩い雷の光にのまれていった。

 

ーこれで雅治のライフを全て破壊。勝者は椎名となる。

 

 

「よっし!私の勝ち!!」

 

 

ガッツポーズをあげる椎名。ライドラモンも消える瞬間まで吠え続けた。逆に盤面に残った雅治のディグモンとアンキロモンは悔しそうな形相をしながら消滅していった。

 

 

「ふふ、やっぱり凄いや君は、」

「いやいや!雅治も凄かったよ!またバトルしようね!!」

「はは!そうかなぁ、ありがとう!」

 

 

2人はその場で握手を交わした。その後は互いのクラスのところへと一時戻る。

 

雅治と椎名は違うクラスなのでそれぞれ違う場所に戻るが、

 

 

「どうだったよ、愛しのあの子とのバトルは」

「あれ、司、見てたの?……授業またサボったなぁ?」

「低レベルな連中とバトルしても仕方ねぇ」

 

 

スタジアムの裏側で雅治に声をかけたのは雅治の親友の司。司と玄は同じクラスであるため、司も同じように別のクラスの者と対戦しているはずだったが、司はこの2人のバトルを観戦した方がまだ自分にとっては得になると考え、また授業をサボって、そのままこっそりと2人のバトルを観戦していたのだ。

 

 

「ちなみに、今日めざしが使った【ライドラモン】、あれ入試試験の時も使ってたぞ」

「あれ!?そうだったけ!?」

 

 

そう、椎名が今回フィニッシャーにしたライドラモン、あのスピリットは入試試験での晴太とのバトルでも使用されていた。

 

 

「まぁ、お前はその時どっかの誰かに目を奪われてて覚えてなかったのかもなぁ」

「そう、やっぱり椎名は素敵だ。直感的に感じ取る力とあの引きの強さは本物だよ」

 

 

からかうような言い草の司に対し、それに全く気づく素振りすら見せずに椎名のことを考える雅治。

 

雅治が椎名に惹かれたのは実技の入試試験の頃、晴太とのバトルに果敢に挑戦していく姿に思わず見惚れてしまった。なんで惹かれてしまったのかは当初はわからないままだったが、今回のバトルを機に、ようやく理解した。理由は2つ。

 

それは椎名と言う女生徒は兎に角ユーモラスに特化しているからだ。ユーモラスなどありふれたごく普通の人間である雅治にとっては最もかけ離れた存在。雅治はきっと自分にないものを欲していたのだろう。

 

ーそして、もう1つは自分の初恋だった相手にそっくりだった。と言うことだ。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【ディグモン】!!」

「ディグモンは黄色のアーマー体スピリット!!召喚時とアタック時に相手のスピリットのブロックを封じる上に、自分のアタックステップ中には特定のデジタルスピリットを効果破壊から守る効果も兼ね備えているよ!!」





最後までお読みいただきありがとうございました!
今回は別にいいかと思ってしまい、投稿してしまいましたが、基本は週替わりに投稿します。

※タイトルが12話とちょっと被ってたのに気づいて少し変更しました。


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第4話「燃え上がれ!蒼炎のフレイドラモン!」

 

 

 

ここは椎名達が通うジークフリード校の1年生担当の先生達が集まる職員室、現在ここでは今の1年生についての大事な会議をしていた。その中には当然晴太の姿も確認できる。

 

 

「さぁ、先生諸君、今日はいよいよ1年生の子達にとって初めて、それぞれの強さの優劣がハッキリと分かる日と言っても過言ではありませんが、今まで話していた通り、【今月の代表バトル】は【芽座椎名】と【赤羽司】で問題ありませんね?」

 

 

学年主任の先生が他の1年生担当の先生に大きな声で聞こえるように、そう言う。【代表バトル】とは、学年毎に月1回、その1ヶ月の間での実技授業のバトルにおいての成績上位者2名をバトルさせること、

 

当然強いものだけが選ばれることになるので、学年主任の言っている『優劣がハッキリと分かる日』と言うのはそう言うことだ。生徒達は日々この場に立つために精一杯バトルに明け暮れている。

 

この学校行事は元々、選ばれなかった悔しさを糧に、他の生徒達全員の士気や向上心を上げるためにある。こういった学校行事が日本の名門バトスピ学園の1つ、ジークフリード校が毎年プロバトラーを輩出できる秘訣の1つである。

 

 

「ちょっと待ってください、【芽座椎名】と【赤羽司】はいずれも実技での成績は認めますが、【芽座椎名】は以前、校舎をよじ登る等の問題を多々起こしてますし、【赤羽司】はよく授業をサボります。……【代表バトル】はまだ1回目ですし、今回は生徒達の見本となるような優等生を推すべきでは?」

 

 

今回の選出生徒に対し、異論を唱えるのは司と雅治のクラス担任の女教師、名前は【鳥山兎姫(とりやまとき)】、彼女も晴太同様の今年からの新人教師だ。腕も晴太に負けず劣らずで、昔馴染みでもある。この異論に対して、学年主任が逆に問う。

 

 

「じゃあ、鳥山先生、あなたは誰を推薦しますか?」

「私は【長峰雅治】と【緑坂真夏】を推薦します、彼らは共に文武両道です。きっと生徒達の士気を上げてくれることでしょう」

 

 

兎姫の口から出たのは雅治と真夏の名前。この2人は確かに椎名と司にも負けず劣らずの成績だった。代わりとしては無難なところであろう。

 

ーだが、これにも異論を唱える者がいた。

 

 

「いや、鳥山先生、最初だからこそ、問題児を上げるのも一つの手じゃないか?」

 

 

また手が上がり、発言する者が現れる。その真っ直ぐ伸びた手の人物は椎名と真夏の担任、空野晴太。

 

 

「あら、空野先生、それはどう言うことかしら?」

「……つまりは、問題を起こしてばかりの彼らに、【代表バトル】と言う栄誉あるバトルをさせることで、生徒達はあんな奴らでも出れるなら俺らでもいける。そう思うんじゃないかな?ってこと」

「「「「「………!!!」」」」」

「寧ろそれがこの行事の本来の本質でしょ」

 

 

晴太の謎の説得力で納得してしまう教師陣達、確かに下手な優等生を出させるよりも先ずは問題児を立たせる方が生徒達は躍起になってくれるのではないかと思えてしまう。

 

これには同期の兎姫も納得せざるを得なかった。そしてこれは決まったと思ったのか、学年主任が最後を締める。

 

 

「よし!それじゃあ、今月の【代表バトル】は【芽座椎名】と【赤羽司】の2名で行います!」

 

 

 

******

 

 

 

そして場所は変わり、椎名と真夏がいつものように教室までの渡り廊下を歩いていると、何やらざわついている場所が目立っていた。そこは学園の情報が提示される掲示板があるところである。

 

いつも以上に釘付けになる生徒達、椎名と真夏は何だろうと思い、自分達もそこへと向かう。

 

 

「ん?なに?」

 

 

椎名がその掲示板の目の前に来ると、何故か他の生徒達の目線が一斉に椎名に集まった。さっきまでは掲示板に釘付けになっていたにも関わらず。その目は尊敬を抱くような目を向ける者もいれば、悔しそうな目を向ける者など、様々だった。

 

不信に思った真夏は掲示板を見て理解した。

 

 

「……!!……なるほどなぁ、そう言うこっちゃ」

「え!?何がそう言うこと!?」

「掲示板見てみ?」

「……えーっと、第9期生、第1回代表バトル【芽座椎名】VS【赤羽司】!?……どう言うこと!?」

「あんたなぁ、この学園に来たならそんくらい理解しとかんかい!!【代表バトル】っちゅうのはなぁ、月1回に実技の授業トップだった生徒2名をバトルさせる行事のことや!」

 

 

理解できなかった椎名に真夏が理解させるような説明を入れる。わかりやすい解説に椎名も納得。

 

 

「……!!じゃあ!私は今日、司と再戦できるってことか!!」

「………ふふ、これは面白いことになりそうだね〜」

「わっ!!雅治!!びっくりした〜〜!」

 

 

喜ぶ椎名の横に突如現れたのは雅治。あのバトル以降、すっかり椎名と気が合い、直ぐに仲良くなっていた。

 

 

「僕は2人のバトルを楽しみにしてるよ」

「うん!ありがと!」

「ふっ!やっと決着だな、【めざし】」

「……司!!」

 

 

雅治の次には司が割って入って来た。この2人が揃った瞬間、その場の空気は鋭く張り詰め、周りの他の生徒達はお通夜にでもなったかのように急に黙り込んだ。

 

 

「へへ、やるからには楽しいバトルにしよう」

「前も言ったが、俺とお前との格の違いってやつを見せつけてやる」

 

 

まさに一触即発、司はそれだけ言い残すと通りすぎるようにその場を離れていった。

 

 

「燃えて来た!!絶対勝ってやる!」

 

 

椎名の燃えたぎる熱いバトスピ魂に火がつく。【代表バトル】は昼過ぎの授業からだ。

 

 

 

******

 

 

 

そして時間となり、多くの生徒達がこの第5スタジアムの観客席に集まった。普通なら眠たくなるこの時間だが、生徒達は眠ったりはしない。このバトルは現在のジークフリード校の1年生の頂点を決めるバトルと言っても過言ではないからだ。眠気など来るわけもない。

 

行われるのは第5スタジアム、第3スタジアムより大きなドーム型が特徴だ。椎名と司は今ここで向かい合っている。既にBパッドは展開完了。いつでもバトルが始められる。

 

 

「横いい?、空野先生、」

「おぉ、兎姫ちゃんか」

「……!名前で呼ぶのはやめろって言ったでしょう!!……//」

「いや、今2人だし、別にいいだろ。苗字呼びは正直かたっ苦しい、お前も2人の時くらいは名前でいいんだぞ?」

 

 

生徒達とは離れたところで観戦しようとしていた晴太の横に兎姫が現れる。不意に名前を呼ばれた兎姫は顔を桜色に染めながらもその横に座った。

 

 

「て言うか、甘いってなんだよ、俺はちゃんと生徒には平等だぞ」

「いや、芽座さんって、私達がよく知っているあの2人にそっくりじゃない」

「あぁ、…まぁね、……どっちかって言うと足して2で割った感じかな」

「2人の間から産まれた子どもって言われても信じれるわよ、私は」

 

 

兎姫の言うあの2人とは誰かは定かではないが、その2人とは兎姫と晴太にとってはとても大事な存在であるようだ。

 

 

「確かに似てるとは思ってるけど、その程度で俺は贔屓なんてしないよ、……俺はこの間、あの2人の真剣勝負に水を差してしまったからな、今度は誰にも邪魔されずに決着をつけて欲しいのさ」

「『今度は』って、この学園にいればそんな決着なんていつでもできるでしょうに」

 

 

晴太はこの間の椎名と司のバトルに職の関係上、仕方ないとは言え、2人の真剣勝負に横入れしてしまった。そのことに対して、少なからず罪悪感を覚えていたからこそ、無理にでも2人にバトルして欲しかったのだ。

 

 

「ねぇ、緑坂さん、どっちが勝つと思う?」

「う〜ん、椎名を応援したいけど、あの【朱雀】が負けるなんて想像つかへんもんな〜〜」

「はは、確かにね、でも、僕は椎名に1票を入れるかな」

「え!?」

 

 

雅治と真夏も他の生徒達に紛れて2人のバトルを観戦しようとしていた。雅治は意外にも【朱雀】である司ではなく、椎名が勝つと予想を立てる。いや、正確には勝って欲しいと願っているのか、

 

真夏は少しその言葉を不審に思う。確かに椎名の対戦相手はあの【朱雀】なのだ。大多数の人が予想を立てるとするならば、必ず司に1票を投じることであろう。

 

ーそしていよいよ1年生代表の【芽座椎名】と【朱雀】こと、【赤羽司】の再戦が始まる。

 

 

「いくよ!」

「おう、」

「「ゲートオープン!界放!!」」

 

 

多くの生徒や、教師に見守られながら椎名と司のバトルが幕を開ける。

 

ー先行は司。

 

 

[ターン01]司

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、先ずはホークモンを召喚」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

今回司が初めて召喚したのは、デッキの中軸とも言える赤き羽を持つ鳥型の成長期デジタルスピリット、ホークモン。

 

 

「おっ!ホークモン!…今日は最初っから召喚か!」

 

「まぁな、…召喚時効果」

オープンカード

【ハーピーガール】×

【ライフドリーム】×

【ホルスモン】○

 

 

成長期スピリットではお馴染みの進化系をデッキの上から回収する効果、司はこの効果で巻かれたホルスモンのカードを手札に加えて、残りを破棄した。

 

コア不足のため、進化することはできないが、アーマー体のホルスモンが加えられたことで椎名に若干のプレッシャーがのしかかっていた。

 

 

「ターンエンドだ」

手札4⇨5

 

ホークモンLV1(1)BP3000

 

バースト無

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!私も最初っから飛ばしていくよ!…ブイモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名も自分のデッキの中軸となる成長期デジタルスピリット青き小竜型のスピリット、ブイモンを召喚する。

 

 

「召喚時効果!」

オープンカード

【ライドラモン】○

【猪人ボアボア】×

 

 

効果は成功、アーマー体のスピリットカード、ライドラモンが椎名の手札に加わった。そして椎名は何も考えずにそのカードを引き抜く。

 

 

「ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コスト支払って、青き稲妻、ライドラモンを召喚!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

ライドラモンLV1(1)BP5000

 

 

ブイモンの頭上に独特な形をした黒い卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化。黒き体に青き稲妻を纏い、ライドラモンへと進化を果たした。

 

 

「早速来たか、」

 

「召喚時効果!トラッシュに2コアを追加!!」

トラッシュ4⇨6

 

 

ライドラモンは登場するなり大きな雄叫びをあげると、椎名のBパッドに雷が落雷して、トラッシュに2コアを追加した。

 

 

「なるほどね、なるべく序盤でライドラモンを出すことによって、コアブースト効果のタイムラグのデメリットをある程度軽減したんだね」

「一気にコアの総数に差が開きよったな」

 

 

バトルの考察をする雅治と真夏。2人だけではない。多くの生徒がまた違った形で2人のバトルを研究していることだろう。

 

 

「アタックステップ!いけ!ライドラモン!」

 

「そいつはライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

ライドラモンの瞬発的な体当たりが直撃、司のライフを1つ破壊した。この前の雅治とのバトルの時とは違い、ライドラモンはまだLV1、追加でライフを破壊する効果はまだ持っていなかった。

 

 

「ターンエンド」

ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

やることを全て終えた椎名がターンを終える。まだ序盤の中の序盤だが、ライドラモンの登場で既にバトルは熱い展開となっていた。

 

 

[ターン03]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、イーズナを2体召喚」

手札6⇨4

リザーブ5⇨3

 

 

コスト1で、赤のスピリット且つ黄のスピリットでもあるハイブリットスピリットのイーズナが2体、司のフィールドに召喚される。その2体は囀るように小さく鳴く。

 

 

「さらに、ネクサスカード!朱に染まる薔薇園を配置!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨1

トラッシュ0⇨2

 

「……!!またあのネクサスか!」

 

 

さらに司が配置したネクサスはこの間も使用した朱に染まる薔薇園。

 

フィールド全体が美しき赤き薔薇に囲まれた。だが椎名は知っている。それらにはどれも鋭利な棘があることを。

 

 

「さらに、イーズナ1体から不足コストを確保してハーピーガールを召喚!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

イーズナ(1⇨0)消滅

トラッシュ2⇨3

 

 

イーズナ1体はコアの損失により消滅してしまうが、新たに現れたのは可愛らしい少女の顔に加えて、強靭な鳥のような翼と足を持つスピリット、ハーピーガール。その効果の凶悪さは既に椎名の頭にもインプットされている。

 

 

「やっぱり来るか〜〜」

「アタックステップ!やれ!ハーピーガール!」

 

 

ハーピーガールがその腕の代わりに生えている翼で飛翔する。ブロッカーが0で、コアも十分には使えない椎名は、このアタックは、ほぼ無条件でライフの減少を選ばなければならなかった。

 

 

「ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

強烈な翼撃が椎名のライフを1つ破壊した。たが、ハーピーガールの恐ろしいことはこれからであって、

 

 

「アタックが通ったことにより、ハーピーガールの【聖命】でライフを1つ回復する。さらに、俺のアタックステップ中にライフが回復したことにより、朱に染まる薔薇園、LV1、2の効果でデッキから1枚ドローする」

ライフ4⇨5

手札2⇨3

 

 

司はライフを回復しつつ、カードをドローした。

 

 

「相変わらずえぐいなぁ」

 

「お前のフレイドラモン程じゃねぇよ、俺はこれでターンエンドだ」

ホークモンLV1(1)BP3000(回復)

イーズナLV1(1)BP1000(回復)

ハーピーガールLV1(1)BP3000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

意外にもこれ以上のアタックは仕掛けず、2体のブロッカーを残し、このままターンを終える司。次は椎名の反撃だ。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨8

トラッシュ6⇨0

ライドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ガンナー・ハスキーをLV1で、風盾の守護者トビマルをLV2で召喚!」

手札6⇨4

リザーブ8⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名のフィールドに現れたのは、犬型だが、拳銃を所持するために背中に腕を生やしたスピリット、ガンナー・ハスキーと、大きな盾を持つ鳥型のスピリット、トビマルが現れた。

 

 

「ライドラモンをLV2にアップ、さらにバーストを伏せて、アタックステップだ!」

手札4⇨3

 

 

椎名の場にバーストが伏せられると同時にライドラモンのLVが上昇した。これでLV2・3のライフを追撃する効果が新たに加えられた。

 

 

「……あれ?ブイモンは出さないんやな」

「下手に出して破壊されたら巻き返しがしづらくなるからね」

 

 

司は破壊効果を多く有する赤属性のカードを得意としている。中軸となるブイモンを下手に展開して、破壊されたら、逆に不利となってしまう。

 

どちらにしてもいつもの椎名と比べたらやや大人しいプレイングと言える。

 

 

「いけ!ライドラモン!!」

 

 

椎名の命令で駆け出すライドラモン。目指すは司のライフ。ブロッカーが2体いる司の選択は、

 

 

「それもライフで受けてやろう」

ライフ5⇨4

 

 

ライフの減少を選択。ライドラモンの勢い余る体当たりが司のライフを破壊した。そしてライドラモンにはこの瞬間にも発揮できる効果がある。

 

 

「ライドラモンが相手のライフを減らした時!もう1つ相手のライフを破壊する!」

「……!!」

「轟の雷!ブルーサンダー!!!」

 

「ぐっ!!!」

ライフ4⇨3

 

 

立ち止まったライドラモンがそのツノを避雷針とし、雷を溜め込む。そしてそのまま司のライフにそれを叩きつけた。司はまたライフをひとつ失った。

 

 

「ターンエンド!」

ライドラモンLV2(3)BP7000(疲労)

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(回復)

風盾の守護者トビマルLV2(3)BP3000(回復)

 

バースト有

 

 

椎名はブロッカーを2体残して、そのターンを終える。

 

 

[ターン05]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

ハーピーガール(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺はホルスモンの【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!」

リザーブ6⇨5

トラッシュ0⇨1

 

「……!!来るか!」

 

「羽ばたく愛情!ホルスモンを召喚!!」

リザーブ5⇨3

ホルスモンLV2(3)BP6000

 

 

ホークモンに白銀の色をした謎の卵が投下される。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして、風を育む赤き獣のアーマー体、ホルスモンへと進化を果たす。

 

 

「もう一度ホークモンを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨1

トラッシュ1⇨2

 

 

司は瞬時に【アーマー進化】の効果で手札に戻ってきたホークモンを再び召喚した。ホークモンは今一度その召喚時効果を使用する。

 

 

「ホークモンの召喚時効果!」

オープンカード

【イーズナ】×

【シャイニングバースト】×

【シュリモン】◯

 

 

召喚時は成功、アーマー体のスピリット、シュリモンが手札に加わった。残ったカードは先と同様トラッシュへと破棄された。

 

 

「俺はアーマー体のシュリモンを手札に加える」

手札3⇨4

 

「………!?…またアーマー体?でもバーストはもらった!召喚時発揮後のバースト!」

 

 

ホークモンの召喚時の効果に反応して、椎名の伏せられたバーストカードが勢いよくオープンされる。

 

 

「双翼乱舞!カードを2枚ドロー!」

手札3⇨5

 

「ほぉ、……双翼乱舞か、」

 

 

シュリモンのカードのことを椎名は知らなかったが、アーマー体だと分かればある程度は対処できる。アーマー体という情報だけで【アーマー進化】の効果を持っていることがわかるからだ。椎名はバーストの双翼乱舞でカードを増やし、態勢を立て直す。

 

だが、司はその加えたアーマー体を直ぐに召喚はせず、そのままアタックステップに入る。

 

 

「ハーピーガールのLVを2に上げ、アタックステップ!」

ハーピーガール(1⇨2)LV1⇨2

 

 

知らないうちに司のフィールドのスピリット総数は4、椎名より1枚上手だった。

 

 

「ハーピーガールでアタック!アタック時効果!LV2・3のスピリットにブロックされない!……さらに【連鎖:赤】の効果でお前のBP3000以下のスピリットを破壊!消えろ!ガンナー・ハスキー!!」

 

 

ハーピーガールの強力な翼撃がガンナー・ハスキーに命中。破壊されるかと思いきや、

 

 

「……風盾の守護者がいる限り、ガンナー・ハスキーは消えない!」

 

 

その命中した翼撃は間一髪でトビマルの大きな盾が守っていた。ハーピーガールは破壊に失敗し、一旦空中に離脱し、距離を取る。

 

風盾の守護者トビマルはコスト3以下のスピリットが破壊される時、それらを疲労状態で残す効果がある。

 

 

「ふん、そんなのお見通しだ、これでお前をブロックできるスピリットは消えた……今度こそやれ!ハーピーガール!」

 

 

今度は椎名のライフをめがけて、ハーピーガールは急降下して、椎名のライフを狙いに行く。椎名のフィールドはハーピーガールの効果でブロック不可状態のトビマルのみ、

 

 

「ライフで受ける!」

ライフ4⇨3

 

 

そのままその翼撃が炸裂。また椎名のライフをひとつ破壊した。そしてあのコンボも再び発動する。

 

 

「ハーピーガールの【聖命】で俺のライフを1つ回復して、朱に染まる薔薇園のLV1・2の効果でデッキからカードを1枚ドローする」

ライフ3⇨4

手札4⇨5

 

 

再び司のライフが回復し、カードも増える。椎名とのアドバンテージ差をどんどん広げて行く。

 

 

「次だ!ホルスモン!!……アタック!ホルスモンは自身の効果でBPが3000上がっているぞ!」

ホルスモンBP6000⇨9000

 

 

ホルスモンは身体を竜巻のように回転させて突っ込んでくる。椎名のライフを破壊するためだ。

 

 

「それもライフだ!……ぐう!!」

ライフ3⇨2

 

 

そのままホルスモンは通過するように椎名のライフを破壊した。

 

 

「ターンエンド」

ホルスモンLV2(3)BP6000(疲労)

ホークモンLV1(1)BP3000(回復)

イーズナLV1(1)BP1000(回復)

ハーピーガールLV2(2)BP4000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

またブロッカーを2体残し、そのターンを終える司、毎ターンずつではあるが、少しずつ椎名と差をつけてきている。逆に椎名はこのターンで挽回しなければ勝機を見出すのは厳しくなることだろう。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

ライドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、ガンナー・ハスキーをLV2に、ライドラモンをLV3にアップ!」

リザーブ5⇨2

ガンナー・ハスキー(1⇨3)LV1⇨2

ライドラモン(3⇨4)LV2⇨3

 

 

2体のLVが上がる。ライドラモン達は力が上がったことをアピールするかのように雄叫びを上げた。

 

 

「さらに、バーストをセット!」

手札5⇨4

 

 

椎名のフィールドに裏向きで再びバーストが伏せられた。司は全力で警戒する。だが、さっきホークモンの効果によって手札に加えたスピリットを出すことができればそのバーストへの警戒心を半減にできる。

 

司がそんなことを考えていることはつゆ知らず、椎名はアタックステップへと移行しようとしていた。

 

 

「アタックステップ!トビマルでアタック!その効果で相手は相手のスピリット1体を疲労!」

 

「ホークモンを疲労させる」

ホークモン(回復⇨疲労)

 

 

風盾の守護者トビマルが飛び立つ。トビマルはアタック時かブロック時に相手自身が1対選び、疲労させる効果がある。

 

巻き起こる向かい風がホークモンを疲労させる。だが、ホークモンはまたアーマー体に進化すればこの効果を無効にできると言っても過言ではないのだが、司はまだ少し様子を見る。

 

 

「イーズナでブロック!」

 

 

指示に従い、イーズナが果敢にトビマルに挑むが、トビマルの大きな盾で簡単に薙ぎ倒されてしまった。イーズナは転げ落ち、破裂するように爆発した。

 

 

「よし!次!ライドラモンでアタック!」

 

 

三たびライドラモンが駆け出す。だが、あの【朱雀】と呼ばれている男にこんな単調な同じ攻撃がそう何度も通用するわけはなくて、

 

ー司はこの時を待ち望んでいたかのように手札のカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュ!シュリモンの【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!1コスト支払い、シュリモンを召喚!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ2⇨3

 

 

ホークモンの頭上から、これまた独特な卵が落下し、衝突、混ざり合って、ホークモンは緑のアーマー体、鳥の姿とは打って変わって忍者のような姿をしたスピリット、シュリモンが召喚された。

 

椎名はまさか赤と黄色のデッキを使っている司が緑のアーマー体を使ってくるなんて思ってもいなかった。自分も青と緑に赤のフレイドラモンを入れているのであまり驚くようなことではないが、

 

 

「すごい!今度はライドラモンと同じ緑のスピリットかぁ!」

 

「あぁ、お前への対策だ……召喚時効果!疲労状態のスピリット1体を手札に戻す!消えろ!ライドラモン!」

シュリモンLV1(1)BP4000

 

「………!!」

手札4⇨5

 

 

シュリモンは登場するなり、その手足の蔓を伸ばし、それに付随している巨大手裏剣を走ってくるライドラモンにぶち当てる。ライドラモンはそれには敵わずに吹き飛ばされ、デジタルの粒子となり、椎名の手札に戻った。

 

 

「……まじか、ライドラモンが……ターンエンド」

ガンナー・ハスキーLV2(3)BP4000(回復)

風盾の守護者トビマルLV2(3)BP3000(疲労)

 

バースト有

 

 

ライドラモンの損失で攻め手を完全に失った椎名はターンを終了せざるを得なくなり、そのままターンを司に渡す。

 

 

[ターン07]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

ホルスモン(疲労⇨回復)

ハーピーガール(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ここで!ブレイブカード!砲竜バルガンナー〈R〉を召喚!」

手札6⇨5

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

「……!!……ブレイブカード!」

 

 

この局面で司が呼び出したのは赤のブレイブカード、砲竜バルガンナー〈R〉、2丁の砲撃を携えた赤いドラゴンだ。ブレイブとは、スピリットと合体することで真の力を発揮できるカード達のことだ。

 

 

「行くぞ、めざし!俺はホルスモンに砲竜バルガンナー〈R〉を合体!」

ホルスモン+砲竜バルガンナー〈R〉BP6000⇨10000

 

 

ホルスモンの背中に砲台のみと化したバルガンナーが装着される。ホルスモンは合体スピリットとなり、パワーアップした。

 

 

「シュリモンをLV2へ!」

リザーブ2⇨0

シュリモン(1⇨3)LV1⇨2

 

 

さらに司は残ったコアを使い、シュリモンをパワーアップさせた。

 

 

「アタックステップ!ホルスモンの効果!「アーマー体」のスピリット全てにBP+3000!」

ホルスモン+砲竜バルガンナー〈R〉BP10000⇨13000

シュリモンBP9000⇨12000

 

 

ホルスモンの効果は自分のアーマー体のスピリット全域に対応する。当然、同じアーマー体のシュリモンもこの効果の影響を受けて、パワーアップした。

 

 

「ホルスモンで合体アタック!」

 

 

砲台を背中に乗せたホルスモンが飛び立つ。そしてその上に乗せた砲台の効果が同時に起動する。

 

 

「砲竜バルガンナー〈R〉の合体アタック時効果、カードを1枚ドローし、BP6000以下の相手のスピリットを破壊、……くたばれ!風盾の守護者トビマル!」

手札5⇨6

 

 

ホルスモンの砲台がトビマルに向けられ射出、咄嗟にトビマルは盾を前に出すが、その弾丸は瞬く間にトビマルの盾ごと貫き、粉々に玉砕した。この時、トビマルは自身の効果で場に残ることが可能であったのだが、何故かトビマルはその場から姿を消していた。椎名はそれを見て驚く。

 

 

「……破壊された!?なんで」

「砲竜バルガンナー〈R〉の効果で破壊されたスピリットの効果は発揮されない。こいつの前では守護者特有の効果は通用しねぇぞ」

 

 

砲竜バルガンナー〈R〉の合体アタック時効果は1枚ドローし、BP6000以下の相手のスピリット1体を破壊する効果。この時、その破壊したスピリットの効果は適応されない。つまりトビマルの効果は無効となり、フィールドに残ることはできなかったのだ。

 

ーだが、手札が効果によって増えた。椎名にとって今はそこが最重要であって、

 

 

「……だったらこれならどうだ!!!……相手の効果によって手札が増えたことにより、バースト発動!グリードサンダー!!………あれ!?」

 

 

この前も司のデッキに刺さった青のバーストマジック、グリードサンダーの効果を発揮させようとした椎名だったが、なぜかバーストが開かない。その答えはシュリモンにあった。

 

 

「シュリモンが俺のフィールドにいる時、お前は俺の「アーマー体」を持つスピリットのアタック中はバーストを発動できない」

「……なにぃ!?」

「お前がこの場面でグリードサンダーをセットするなんてお見通しなんだよ……さぉ!このアタックはどうする?」

 

 

これはシュリモンの影響で発揮を封じられていたのだ。シュリモンは「アーマー体」のスピリットがアタックしている時に相手のバーストを封じ込めることができる。

 

合体により、ダブルシンボルと化しているホルスモンのアタックがまだ終わっていない。残り2つしかない椎名のライフ、この攻撃は意地になっても守るしかない。

 

椎名は使いたくなかった必殺のカードを引き抜くことになる。

 

 

「……ガンナー・ハスキーでブロック!!……そしてフラッシュタイミング!マジック、ストームアタックを使用!ハーピーガールを疲労させて、ガンナー・ハスキーを回復!」

手札5⇨4

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨3

ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)

 

 

ハーピーガールが向かい風に押されて疲労状態となり、逆に追い風のガンナー・ハスキーは回復状態となった。

 

 

「……!!…究極カードでしのぎに来るか、だが、そいつが回復しても意味はねぇ!いけ!ホルスモン!……砲撃の嵐!!ランパードストーム!!」

ハーピーガール(回復⇨疲労)

 

 

まるで嵐のような砲撃にガンナー・ハスキーが太刀打ちできるわけなく、あっさり吹き飛ばされて破壊されてしまった。

 

 

「くっ!……だけどガンナー・ハスキーのLV2の破壊時効果でボイドからコアを2つリザーブに!」

リザーブ9⇨11

 

 

砲竜バル・ガンナー〈R〉による破壊時無効効果はあくまで自身の効果のみ、その他のタイミングでは発揮が可能。椎名はガンナー・ハスキーの最後の恩恵で、おこぼれのようにコアを2つリザーブに送る。

 

ストームアタックの効果で、疲労させられたことにより、司の残ったスピリット対数では椎名のライフをギリギリ0にすることはできない。司はターンを終了することになる。

 

 

「……ターンエンド」

シュリモンLV2(3)9000(回復)

ハーピーガールLV2(2)BP4000(疲労)

ホルスモン+砲竜バルガンナー〈R〉LV2(3)10000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

ギリギリで踏み止められてしまった司だったが、その顔にはいつもの余裕そうな表情が伺える。確かに彼はライフ差、手札差、そして盤面差、明らかに優位に立っている。椎名が巻き返すには少々厳しい状況に仕上がっていると言えるだろう。

 

 

「ふっ!どうやら勝負あったようだな」

「へへっ!……なに言ってるの、私のライフはまだ尽きていないよ!」

「………強がりを」

「私は自分のデッキを最後まで信じ抜くだけだ!」

 

 

司はこの時点で自分の勝利を確信していた。司だけではない。他のほとんどの生徒達や、教師陣までもが、椎名の勝利などすでに確率の蚊帳から捨ててしまっていた。

 

 

「流石【朱雀】と呼ばれるだけはあるわね、赤羽君。……これはもう完全に終わったかしら、」

「あぁ、確かに【あいつの弟】なだけはある。……だけど兎姫ちゃん、俺ら教師が生徒の可能性を捨てるのはダメだろう。………見せてみろ椎名、お前のバトラーとしてのセンスを……!」

 

 

兎姫と晴太がそう言う。確かに兎姫の言う通り、はなから見ればこの状況は完全に積みに見える。だが、この程度で諦めるバトラーなどこの学園で育成するに値しない。そして晴太は入学試験の時から知っている。椎名には他の誰もが欲するであろう、バトラーとしての天賦の才能を持っているということを。

 

椎名も当然諦めていない。寧ろここからが本当のバトルだと思わせるような表情だ。

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ11⇨12

 

 

「ドローステップ、……ドロー!!………!!よし!」

手札4⇨5

 

 

ドローしたカードに思わず口角を上げる椎名。引いたカードを見て、一気に作戦を思いつく。それはこの状況を一変させるどころか、このバトルに決着をもたらす程の爆発力を秘めた作戦。だが、この作戦において必要な駒があと1つ足りない。ここで椎名は取っておいたブイモンを活用する。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ12⇨15

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!!ブイモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ15⇨11

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名のフィールドにここまで抱え込んできたブイモンが再び召喚される。椎名はブイモンの召喚時を使用し、逆転のキーカードを狙う。

 

 

「召喚時効果発揮!デッキから2枚オープンして、対象のスピリットカードを手札に加える!」

オープンカード

【風盾の守護者トビマル】×

【フレイドラモン】○

 

 

効果は成功、アーマー体スピリットのフレイドラモンが椎名の手札に加わった。これこそが椎名が待ち望んだ逆転への最後の素材。

 

 

「よし!フレイドラモンを手札に加える!」

手札4⇨5

 

「フレイドラモンか、…今更そいつを出したところで戦況は変わりはせん」

 

 

司の言う通り、フレイドラモンの効果でで対処できる今の司の場のスピリットはハーピーガール程度。他のホルスモンもシュリモンもBP7000を上回っている。それでも椎名はこのフレイドラモンに賭けている。

 

 

「フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払って、アーマー進化!」

リザーブ11⇨8

トラッシュ3⇨4

 

 

ブイモンに赤き卵が落下していき、衝突、そして混ざり合う。燃え上がる竜人型のアーマー体、フレイドラモンが召喚された。

 

 

「燃え上がれ!!フレイドラモン!!」

フレイドラモンLV2(3)BP9000

 

「だからそれがどうした、たかがBP9000……」

 

「先ずは召喚時効果及びアタック時効果!ハーピーガールを破壊!……ナックルファイア!!」

手札5⇨6

 

「ぐっ!!」

 

 

フレイドラモンの燃え盛る炎の拳がハーピーガールを貫く。ハーピーガールは翼ごと燃え上がり、爆発した。椎名は破壊に成功したため、デッキからカードを1枚ドローした。

 

だが、この召喚時とアタック時効果が通用するのはここまで、単体ではシュリモンと互角、合体スピリットと化したホルスモンはフレイドラモンを僅かながら超えている。

 

飽くまで単体ではの話だが、

 

 

「いくよ!私がドローした奇跡の一枚!!青のブレイブ、潮より来たれ!双牙皇オルト・ロードを召喚!」

手札6⇨5

リザーブ8⇨4

トラッシュ4⇨8

 

 

椎名の背後に波が打ち寄せる。その中から飛び立ち、椎名の目の前に現れたのは、鎧を身に着け、2つの顔を持つ犬のような姿をした青のブレイブ、双牙皇オルト・ロード。

 

 

「なに!?お前もブレイブを!?」

 

「へへ、…いくよ、フレイドラモンに双牙皇オルト・ロードを合体!!」

フレイドラモン+双牙皇オルト・ロードLV2(3)BP9000⇨14000

 

 

フレイドラモンとオルト・ロードは互いに空中でぶつかり合い、混ざり合っていく。そして新たに現れたのは言わば青いフレイドラモン。オルト・ロードの装備が身体中に施されており、新たに生えた黒き巨翼を広げている。そして光り輝く眼光を放ちながら椎名の場に降り立った。

 

 

「す、すご!こんな大技を残しとったんかい、椎名は」

「ふふ、やっぱり面白いね、椎名は」

 

 

椎名の進化した新たなフレイドラモンに会場が大いに盛り上がる。

 

 

「だが、こんなのただのこけ脅しだ!!……このターンを凌げば問題ない」

「じゃあ、凌いでみなよ、アタックステップ!!フレイドラモンはLV2の時、相手のスピリットに指定してアタックができる!!……ホルスモンに指定アタック!!」

 

 

椎名の指示で飛び出す合体スピリットと化したフレイドラモン。その黒き翼を翻し、宙に舞う。さらに椎名は畳み掛けるようにフラッシュタイミングでマジックカードを使用する。

 

 

「フラッシュタイミング!!!マジック、ワイルドライドを使用する!!フレイドラモンのBPをさらに3000上げて、このターンの間、BPを比べて相手のスピリットを破壊したらフレイドラモンは回復する!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ8⇨11

フレイドラモン+双牙皇オルト・ロードBP14000⇨17000

 

「なに!?」

「いけ!フレイドラモン!蒼炎の拳!!ブレイズナックル!!」

 

 

空中から放たれる蒼き炎の鉄拳がホルスモンを襲う。その炎には耐えることができず、ホルスモンは破壊されてしまった。

 

 

「くっ!砲竜バルガンナー〈R〉は残さねぇ」

 

 

バルガンナーはホルスモン共に消滅。ブレイブのルール効果により、残すこともできたが、回復するフレイドラモンのアタック時効果でどちらにせよ破壊され、挙げ句の果てにはドローまでされるのを防ぐためだろう。

 

 

「ワイルドライドの効果でフレイドラモンは回復!」

フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード(疲労⇨回復)

 

 

緑の光を浴びて、フレイドラモンは回復状態になる。上空に舞うフレイドラモンが次に狙いを定めるのは忍者のような姿をしたシュリモン。

 

 

「次はシュリモンに指定アタック!!…………いけ!フレイドラモン!!……渾身の蒼炎!!バーニングインフォース!!!!」

「ぐぅ!!」

 

 

フレイドラモンは燃え滾る蒼き炎をその身に纏いシュリモンのいる地上まで急降下。シュリモン共々大爆発を起こす。だが、フレイドラモンは爆煙が晴れると司の目の前で眼光を放ちながら再び姿を見せる。破壊されたのはシュリモンだけだった。

 

 

「ワイルドライドの効果で回復」

フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード(疲労⇨回復)

 

 

ワイルドライドの影響で再び回復状態になるフレイドラモン。目の前のスピリットがいなくなったら、次は司のライフを根こそぎ奪うのみ。

 

 

「だが!いくら合体しているとはいえ、そいつは所詮ダブルシンボル!残り4つの俺のライフを減らすことは………」

「できるんだなぁ、これが……!」

「なに!?」

「フレイドラモンでアタック!!」

 

 

司の目の前にいるフレイドラモンがその拳に蒼き炎を纏わせてライフに叩きつける。そしてここでフレイドラモンと合体してきるブレイブ、双牙皇オルト・ロードの合体時効果が発動する。

 

 

「双牙皇オルト・ロードの合体アタック時効果、私の手札を3枚破棄することで、このスピリットを回復させる!」

「……な、なんだと!?」

 

「カードを3枚破棄!再び起き上がれ!!フレイドラモン!!!」

手札4⇨1

破棄カード

【ブイモン】

【ライドラモン】

【スティングモン】

 

 

椎名は手札のある適当なカードを3枚捨てる。フレイドラモンは蒼き光を浴びて三たび回復した。ダブルシンボルの2回のアタックで減らせる最大数は4だ。

 

 

「フレイドラモンで2回攻撃!!これで終わりだぁぁぁぁあ!!」

 

「こ、この俺が……負けるだと!?…………う、うぉぉぉお!!」

ライフ4⇨2⇨0

 

 

フレイドラモンの蒼き炎を纏う両拳が司の残りの4つのライフを一気に全て粉々に粉砕した。

 

これにより司のライフはゼロ、勝者は椎名だ。椎名はガッツポーズを掲げる。フレイドラモンがゆっくりと消えていく。会場は椎名を讃え、大いに盛り上がった。

 

まさかの大金星だ。あの【朱雀】が、同期の女の子に負けるなど一体誰が予想できただろうか。

 

 

「すごい……!…椎名の奴ほんまに勝ちよった!」

 

 

予想の斜め上をいく結果に、真夏も含めた会場の誰もが驚く。だが、その盛り上がる中で、雅治だけはどこかへ消えていた。

 

 

「よっしゃ!!………いいバトルだったよ!司!またやろう!!………て、あれ!?」

 

 

椎名がそう言って司の方を見ても、もう既にそこには誰もいなかった。

******

 

そしてここはスタジアム裏。そこは暗くて表からは到底見えることはない場所。壁を拳で叩きつけて負けた悔しさを前面に露わにする司の姿がそこにあった。

 

 

「くそっ!!くそっ!!……負けた、二度と負けないと誓ったのに、ちくしょうっ!!」

 

 

一度、たった一度負けただけでそこまで悔しいのか、司はいつもの余裕を完全に失い、手の痛みなども忘れて何度も何回も拳を壁に向かって叩きつける。その手には、ほのかに血が滲んでいた。

 

 

「悔しいのかい?司」

「……!!…雅治、なにしに来やがった」

 

 

その向こう側には負けてしまった司の様子を見に来た雅治の姿があった。

 

 

「いい加減に思い出そうよ、いくらあんなことがあったからと言って、1回も負けてはならないなんて、どうかしてる。椎名を見たかい?あの子は君とのバトルをずっと楽しそうにしていた。………でも司、君は……」

「黙れよ、雅治。一々それを言うな」

「茜さんが言いたかったことは絶対にそう言うことじゃないはずだよ」

「………!!」

 

 

なかなかつかみ所のない会話。この2人の間に何かあったことはまだここでは語ることはできない。

 

司は雅治の言葉に思わず黙り込んでしまう。

 

 

「……少し、考えさせてくれ」

 

 

それだけ言い残して司は雅治の後ろを通り過ぎて行った。司と雅治の過去に何があったかはわからないが、それはきっと2人にとって重要なことなのであろう。

 

雅治が椎名の勝利に1票を入れたのは、司に昔のような楽しいバトルを思い出して欲しかったから。司が椎名と関われば必ず椎名が司の心にある何かを変えてくれる。そう信じたのだ。

 

結果、司はその椎名の影響力で何かしらの心が揺さぶられ、崩壊した。この心が完全に回復するには、また少し時間がかかることだろう。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【シュリモン】!」

「シュリモンは緑のアーマー体!召喚時に相手の疲労状態になっているスピリットを手札に戻したり、アーマー体のアタック時には相手のバーストを使えなくしたりできるよ!」





最後までお読みいただきありがとうございました!


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第5話「絶対零度に抗え!ラストワンに賭けろ!」

 

 

 

 

 

椎名は今、自身が住まう住宅の屋上で昼寝している。日当たりの良いこの場所は、椎名にとって心安らぐ場所。この寒くも暑くもない気候の時期にはもってこいの場所だ。

 

椎名は暇な休日は、いつも日が暮れるまでそこで寝ていた。

 

 

「……司の奴、最近見かけないなぁ」

 

 

司は代表バトルで椎名に負けた日以来、一向に学校に姿を見せなくなっていた。椎名は何が問題で司が不登校気味になったのかを考えてみる。だが、椎名の頭ではそんなものいくら考えても出てくるわけがなかった。

 

雅治は何かを知っているようだったが、全然教えてくれなかった。

 

司の不登校のことなど考えても仕方ない。少し心配ではあるが、あの軽い性格なのだ。いずれひょっこりとまた現れることだろう。今椎名はそう考えてゆっくりと瞼を閉じ、夢の世界へと誘われていった。

 

 

******

 

 

「ん?……わぁああっ」

 

 

椎名はようやく夢の世界から解放される。仰向けになった姿勢を起こし、寝ぼけながら大きな欠伸をする。空には綺麗な星空が出ていることから既に日は沈んでいるようだ。昼過ぎから寝ていたことを考えると、かなりの時間熟睡していたことがわかる。

 

 

「お!ようやくお目覚めだね!」

「ん?……うわっ!あなた誰!?」

 

 

眠っていた椎名の側で座っていたのは、長い青髪を携えた、容姿端麗な女性。その見た目と声色から椎名より年上の大人であることが示唆される。

 

椎名は眠気を一瞬で覚醒させ、反射的に飛び上がる。

 

 

「ははっ!いい反応するねぇ!……私の事は、……そうだなぁ、王女さんとでも呼んでくれよ」

「王女さん?」

 

 

王女。女の子なら誰もが一回は憧れそうなネーミングではあるが、その女性の格好を見ると本当にどこかの王女様のような服装であるため、案外しっくりくる渾名でもあって、

 

本名を教えてはくれなさそうなので、椎名はこの名前で呼ぶことにする。

 

 

「あっ!私は芽座椎名って言います!よろしく!王女さん!」

「椎名だね…よろしく!」

「ねぇ、王女さん、王女さんはどこの人?この辺の人じゃないよね?」

 

 

呼び方が決まったとこで、早速椎名は王女さんが何しに来たのかを質問する。海のように綺麗な青い髪色で、目立つ格好をして、おまけに顔も美人なのだ。仮にこのマンションの住人だったら、椎名が見覚えがないわけがない。

 

 

「んーー、それもちょっと言えないかな、どこかの国の王女さんってだけ覚えておいて」

「ひ、秘密が多い……でもどこかの国の王女って、…そんなすごい人がここにいていいの?……なんかこう、屈強な執事的な人が追いかけて来るんじゃ……」

「ははっ!私のお目つきにはそんな物騒な連中はいないよ!……それに今はちょっとした息抜きの時間だからね〜大丈夫さ!」

 

 

なかなか自分のことを話そうとしない王女さん。このままの情報だと本当にただの痛い人だ。だが、椎名は島育ち故なのか、とても純粋。王女さんの普通では信じ難く、身もふたもない嘘のような話を全て彼女は真に受けていた。普通は王女さんがこんなところには来ない。

 

 

「な〜んだ息抜きかぁ、王女さんも大変だねぇ」

「それでさ、息抜きって言ったら何かわかるよね?」

 

 

住んでいる環境が違いそうな2人であったが、息抜きと言えばこれしかない、と満場一致で2人はあのカードゲームの名を阿吽の呼吸で声を重ね合わさる。

 

 

「「バトルスピリッツ!!」」

「そう!私、遥々遠くからあんたとバトルしに来たんだよ……!」

「……そ、そうだったのか、一国の王女さんがわざわざ遠くから私なんかとバトルしに………くぅ〜〜っ光栄だよ!」

 

 

そんなわけないだろう。普通はいろんな意味でおかしいと気づくはずだが、なにぶん椎名の頭の中は、良くも悪くもバトルスピリッツでいっぱいいっぱい。どこの誰かもわからないとは言え、バトルすると言われれば即OKしてしまう。しかもそれが一国の王女だと言うのだから、より感銘を受けたことだろう。

 

ー如何にも椎名らしいと言えば、らしいか。

 

マンションの屋上はある程度の幅がある。1つのバトルスペースは余裕で確保できる。

 

2人はそこでBパッドを展開してバトルの準備を行った。

 

 

「……なんか、懐かしいな」

「ん?なにが?」

「……いや、何も、……ただ、椎名は私の古い友達によく似てるって思ってね」

「王女さんの古い友達?」

「そう、正確にはあいつとあいつを足して2で割った感じかな?……まさかあいつらの子供?……いや、年齢的にも合わないか……名字も違うし」

 

 

王女さんは椎名が手札を持つ姿を見て、自分の古い友と重ねていた。

 

腰まで伸びた長い髪、首に下げたゴーグル。どれも椎名に当てはまる2つのキーワードが、王女さんの頭から離れなかった。

 

 

「ごめん、ちょっとばかりそれてしまったね、……じゃあ始めようか」

「うん!」

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

満天の星空の下、星々の光と街中のライトの明かりを頼りに、2人のバトルが幕を開ける。今回の先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!ブイモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名の足元からブイモンが飛び出して来た。

 

 

「へぇ〜〜青を使うんだ」

 

「へへっ、まぁね。召喚時効果!」

オープンカード

【猪人ボアボア】×

【ライドラモン】○

 

 

ブイモンの召喚時効果は成功、椎名は緑のアーマー体、ライドラモンのカードを手札に加えた。

 

 

「よし!当たりだ!……緑のデジタルスピリット、ライドラモンを手札に加える!」

手札4⇨5

 

「青に加えて緑も、……ふーん、これは面白くなりそうだね」

 

「ターンエンド!……さぁ!次は王女さんの番だよ!」

ブイモンLV1(1)BP2000

 

バースト無

 

 

アタックができない先行1ターン目として、この椎名の動きはかなりいいと言える。

 

椎名は次の王女さんのターンに期待の眼差しを向けていた。一国の国の王女様は一体どんなカードを使うのか、と。そう考えるだけでワクワクしてしまう。

 

 

[ターン02]王女さん

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「よし、メインステップ!私は2枚のネクサスカード!…No.2 ブルーフォレストを配置!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨3

 

 

王女さんが初めて呼び出したのはネクサスカード。それは、とてもとても青く澄んだ深い森。ずっと直視していたらどこか違う世界へ誘われそうだ。

 

 

「王女さんも……青…!」

 

「ふふ、あんたのとはちょっとばかしベクトルが違うけどね……さらに、バーストをセットしてターンエンドだ」

手札4⇨3

 

No.2ブルーフォレストLV1

 

バースト有

 

 

王女さんはさらに1枚のバーストカードを伏せてターンを終了した。それがどこで発揮されるか見ものである。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!緑のスピリット!ガンナー・ハスキーをLV2で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨1

 

 

椎名の場に現れたのは犬型だが、2丁の拳銃を手に持つために青い筋肉質な腕を背に生やしたスピリット、ガンナー・ハスキー。

 

特にやることのない椎名はこのままアタックステップを仕掛ける。

 

 

「よし!アタックステップ!やっちゃえ!ブイモン!!」

 

「……そいつはライフかな」

ライフ5⇨4

 

 

ブイモンの強力な頭突きが王女さんのライフを1つ破壊した。だが、これは王女さんのバーストの条件でもあった。

 

 

「…ライフの減少により、バースト発動!No.26キャピタルキャピタル!効果によりこれを配置する!」

「……!…バースト持ちのネクサスカード!?」

 

 

王女さんのバーストが勢いよくひっくり返る。すると、背後から空中都市が出現。それがキャピタルキャピタルだ。

 

 

「キャピタルキャピタルは相手のソウルコアが置かれていないスピリットがアタックするなら、リザーブから1コストを支払わないとアタックができなくなる効果がある」

「……ソウルコアが……あ」

 

 

椎名は気づいた。今自分のソウルコアはブイモンのカードに乗せていることに。リザーブはゼロ。これでは残ったガンナー・ハスキーはアタックができない。

 

 

「……ターンエンド」

ブイモンLV1(1s)BP2000(疲労)

ガンナー・ハスキーLV1(3)BP4000(回復)

 

バースト無

 

 

ここはしょうがない。椎名はそのターンを終了した。

 

 

[ターン04]王女さん

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、……ん〜〜そうだなぁ、バーストをセットして……海傭師団スナ・メリーをLV1で召喚!」

手札4⇨2

リザーブ7⇨6

 

 

王女さんは再びバーストを伏せる。そしてその後に呼び出したのは甲冑を着ている太ったイルカのようなスピリット、スナ・メリー。

 

 

「スナ・メリーは破壊時に相手のコスト3以下のスピリット1体を破壊するから気をつけなぁ」

「……コスト3以下か」

 

 

コスト3以下と言えば椎名のデッキでは大抵のスピリットが該当してしまう。そもそも椎名のデッキにはコストが6より上のスピリットが入っていない。意外にも地味な効果で攻撃を牽制されることとなった。

 

 

「さらにリザーブのソウルコアをキャピタルキャピタルに追加する。キャピタルキャピタルはソウルコアが置かれていたらその効力を倍増させる」

リザーブ6s⇨5

No.26キャピタルキャピタル(0⇨1s)

 

 

つまりは2つだ。椎名はソウルコアが置かれていないスピリットでアタックするなら、リザーブのコアを2つ払わなければアタックができなくなった。

 

 

「最後にブルーフォレストのLVも上げとこうかな」

リザーブ5⇨2

No.2ブルーフォレスト(0⇨3)LV1⇨2

 

 

LVの上昇に伴い、ブルーフォレストはより怪しげに光りだす。まるで椎名をどこかえと誘おうとしているようだ。

 

 

「ターンエンドだ」

海傭師団スナ・メリーLV1(1)BP1000(回復)

 

No.2ブルーフォレストLV2(3)

No.26キャピタルキャピタルLV1(1s)

 

バースト有

 

 

王女さんはこのターンも特に攻めることなくターンを終了した。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨2

トラッシュ1⇨0

ブイモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップは何もしない!そのままアタックステップだ!」

「……!!…何もしないか」

「ブイモンでアタック!」

 

 

ブイモンが元気よく走りだす。ブイモンにはソウルコアが置かれているため、キャピタルキャピタルの効果は受け付けない。だからと言ってもこのアタックは一見無謀にも見える。王女さんの場にスナ・メリーがいるからだ。

 

 

(スナ・メリーがいるのにも関わらずコスト3以下のスピリットでアタックして来たか、何かあるんだろうけど……まぁ、真っ向から受けてやるか)

 

 

王女さんは椎名のアタックの意図を考えた。だが、その答えは一向に見えない。それだったら真っ向から受けてやる。という考えに至った。

 

 

「スナ・メリーでブロック!!」

 

 

スナ・メリーがブイモンの目の前に立ちはだかる。BP差はブイモンの方が若干上。このままではスナ・メリーが破壊され、その効果を十二分に発揮することだろう。だが、椎名はここで1枚のカードを引き抜く。それはブイモンの効果で事前に加えていたあのカード。

 

 

「よし!ここだ!!…フラッシュタイミング!ライドラモンの【アーマー進化】を発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、雷轟かすライドラモンをLV3で召喚!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ0⇨1

 

「……!?…【アーマー進化】!?」

 

 

王女さんが驚く目の前でブイモンはスナ・メリーを踏み台にして飛び上がると、上空に用意されていた黒い独特な形をした卵と衝突し、混ざり合い、進化を遂げる。青い電気を走らせる黒き獣、ライドラモンが召喚された。

 

 

「これが私の【アーマー進化】だ!……召喚時効果でボイドからコア2つをトラッシュに追加!!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ1⇨3

ガンナー・ハスキー(3⇨1)LV2⇨1

ライドラモンLV3(4s)BP10000

 

 

ライドラモンが上空から雷を椎名のBパッドに落とし、コアの恵みを与えた。

 

 

「……なるほど、1コスト支払うことでフラッシュなら、どのタイミングでも召喚ができる【進化】か、これは上手くやられたなぁ」

「そのままいけぇ!ライドラモン!」

 

「仕方ない、そこはライフで受けようか」

ライフ4⇨3

 

 

天高く飛び上がっていたライドラモンがそのまま落下するように王女さんのライフを1つ減らした。

 

そしてこの瞬間にライドラモンのLV2、3の効果も起動する。

 

 

「さらに!ライドラモンのLV2、3の効果!相手のライフを減らした時、追加でもう1つ破壊する!!」

「……!!…」

「轟の雷!ブルーサンダー!!」

 

「ぐぅ!」

ライフ3⇨2

 

 

地に足をつけたライドラモンが避雷針となり瞬時に落雷を引き起こす。それは瞬く間に王女さんのライフを砕いた。だが、ここで再び王女さんの伏せられたバーストがオープンする。

 

 

「バースト!2枚目のキャピタルキャピタル!!……これを効果でまたノーコストで配置!」

「……また!?」

 

 

王女さんの背後に2つ目のキャピタルキャピタルが姿を見せる。これで椎名はさらにアタックがし辛くなった。

 

 

「……仕方ない、私はこれでターンエン………」

「エンドの前に私のネクサスカード、ブルーフォレストのLV2の効果を発揮させてもらうよ!」

「……!?」

 

 

王女さんがそう宣言すると、椎名の6枚の手札が森に誘われるように宙を舞っていく。椎名はこの光景に目を見開き、驚く。

 

 

「……!?…なに?」

「ブルーフォレストはLVが2の時、相手のエンドステップ時に自分のフィールドにソウルコアがあるなら相手は手札を3枚以下になるように破棄しなければならない」

「……!!…手札破棄効果」

 

 

こうなっては仕方がない。椎名はブルーフォレストの効果に従い、自分の手札の6枚の内、3枚を破棄する。ゆっくりとこのバトルでは使わなさそうなカードを選別していく。

 

 

「これと、これと、……これだ」

破棄カード

【ワームモン】

【スティングモン】

【エクスブイモン】

 

 

椎名のトラッシュに3枚のがが送られた。椎名はようやくこのターンを終える。

 

一見して盤面を見てみると、椎名がずっと攻めて、王女さんを防戦一方にしているように見えなくもないが、王女さんが本当に狙っているのは椎名のライフではなくて……

 

 

[ターン06]王女さん

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

海傭師団スナ・メリー(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、……さて、そろそろ頃合いかな?」

「……!?」

 

 

今までとはまた違う、独特で異彩なオーラを放ち出す王女さんに、椎名はこれまで以上に警戒し出す。こんなに長い間、何もせずに引っ張ってきたのだ、ここで動かないわけがない。

 

 

「いくよ!青のデジタルスピリット!ゴマモンをLV3で召喚!」

手札3⇨2

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨1

 

 

王女さんの場に飛び出してきたのは、白い毛皮に覆われた怪獣型の可愛らしい成長期のスピリット、ゴマモン。どうやらあのスピリットが、王女さんの軸となるスピリットのようだ。

 

 

「青のデジタルスピリット……!!」

 

「そう、そしてこの子の召喚時効果で2枚のカードをオープンするよ」

オープンカード

【五行寺院】×

【イッカクモン】○

 

 

ゴマモンの召喚効果は、2枚オープンし、その中の成熟期か、完全体を加える効果。この中では成熟期スピリットのイッカクモンが該当する。王女さんはそれを手札に加えた。

 

 

「よしよし、いい子だ!!」

手札2⇨3

 

 

ゴマモンは成長期のスピリット、当然【進化】の効果を持っている。

 

 

「さぁ!アタックステップだ!ゴマモンの【進化:青】を発揮!ゴマモンを同じ色のイッカクモンへと進化!!」

 

 

ゴマモンが0と1のデータが返還される。そしてより巨大な怪獣型の成熟期デジタルスピリット、イッカクモンへと進化を遂げた。その大きさは椎名のライドラモンをはるかに凌ぐ。

 

 

「……すご」

「驚くのはまだ早いよ!…アタックステップを継続させて、イッカクモンでアタック!」

 

 

王女さんの指示でゆっくりと前に出るイッカクモン。そして青く体を発光させると、椎名のデッキの上から3枚のカードが明るみになる。

 

 

「……!?…なんだ?」

「イッカクモンはアタック時に相手のデッキを上から3枚破棄する………そしてその中にマジックカードか、アクセルの効果を持つスピリットカードがあるなら、相手のコスト5以下のスピリット1体を破壊できる……けど」

 

 

椎名のデッキの上から3枚のカードが破棄される。これはイッカクモンの効果だが、その中にはマジックカードは愚か、アクセルの効果を持つスピリットカードすらない。追加効果は使用されずに終わってしまった。

 

この動きで、椎名は王女さんの本当の狙いに気づいた。

 

 

「……王女さんの本当の狙いって、」

「ふふ、ようやく気づいたね、……そう、私のデッキコンセプトは、…【デッキアウト】」

 

 

デッキアウト、それは相手のデッキが先にゼロになったら勝利すると言う、バトルスピリッツにおいてはライフをゼロにする以外での唯一の勝利方法だが、普通は意図的に狙って行うものではない。それに特化させたデッキが好ましい。王女さんは本格的にそれに特化させたデッキだったのだ。

 

 

「でも、3枚じゃあ、まだまだ遠いよ!私のデッキはまだまだ残ってるよ!!!なくなる前に決着をつけてやる!」

 

 

現時点で、椎名のデッキはあと28枚、デッキアウトのデッキにとってはまだまだ遠い枚数に入るが、王女さんのデッキであればこの程度の枚数では安心できない。

 

王女さんはイッカクモンのもう1つの効果を発揮させる。それは成熟期スピリットなら誰もが所持している有名な効果だ。

 

 

「りょーかい!できるもんならやって見な!……イッカクモンのもう1つのアタック時効果!【超進化:青】!!イッカクモンを同じ色のデジタルスピリットへと進化させる!」

「……!!……また進化を!」

 

 

イッカクモンが再び0と1のデータに返還されていく。瞬く間に姿形を変え、硬い甲羅とハンマーを所持した青の完全体スピリット、ズドモンが現れた。

 

 

「……完全体……!!」

 

 

椎名は驚いた。それもそのはず、完全体スピリットはデジタルスピリットの中でもかなりのレアもの、椎名も未だに所持できていないし、見たこともあまりない。おまけにこのズドモンはXレアカード。まさしくレア中のレアなのだ。

 

 

「さぁ、こいつの威力を味わってもらおうかな?…………いけ!ズドモン!アタック!」

ブルーフォレスト(3⇨1)LV2⇨1

ズドモンLV3(6)BP14000

 

 

王女さんの指示とともにズドモンがハンマーを振り回し、上から地面へと叩きつける。その衝撃は電流となり、椎名のデッキへと迸っていく。

 

 

「ぐっ!!……」

デッキ28⇨13

 

 

椎名のデッキがその電流に当てられて15枚バッサリとトラッシュに送られた。そしてその中にはバースト効果を持つカード、【グリードサンダー】が確認できる。

 

 

「……?…なんだこの効果」

「これは【大粉砕】、ズドモンのLVの数値×5の数だけ、相手のデッキを破棄できる。今のズドモンのLVは3だから3×5で合計15枚破棄したのさ」

 

 

ズドモンの持つキーワード効果、【大粉砕】。はまってしまえばたった一度のアタックで15枚ものカードを破棄できる強力な効果だ。そしてこの効果はこれだけでは終わらないのが、厄介であって、

 

 

「そして、その中にバースト効果を持つカードがあれば、相手のスピリット1体を破壊できる。……さっきバースト効果を待つグリードサンダーが破棄されたよね?………じゃああんたのスピリット、ライドラモンを破壊だ!」

「……なに!?……ライドラモン!!」

 

 

ズドモンは再びハンマーを振り回し、叩きつけ、その衝撃の電流は今度はライドラモンを捉える。自身より強い電流だったのか、ライドラモンはその電流をまともに受けて大爆発を起こした。

 

 

「ブルーフォレストのLV1からの効果でブルーフォレスト自身にコアを2つ追加し、LVを2に戻すよ」

No.2ブルーフォレスト(1⇨3)LV1⇨2

 

 

ブルーフォレストは系統に獣頭を持つスピリットの効果で相手のスピリットを破壊した時、ボイドからコアを2つ自身のフィールドに追加させる効果がある。王女さんは無理矢理その効果でブルーフォレストを再びLVを2に戻した。

 

 

「ぐぅ!……でもまだデッキは残る」

「それはどうかな?」

「……!?」

 

 

王女さんはまだ何か隠し持っているのか、さらに1枚のカードを引き抜く。それは椎名をさらに驚かせるものであり、

 

 

「煌臨発揮!対象はズドモン!」

No.26キャピタルキャピタル(1s⇨0)

トラッシュ1⇨2s

 

「……!!…煌臨だって!?」

 

 

煌臨とは、指定されたタイミングでソウルコアをトラッシュに置くことで、対象になるスピリットを煌臨元として重ね、新たなるスピリットへと変化させる効果のこと。デジタルスピリットにもこの効果を有しているカードも存在する。それは完全体を超えた究極の者達。

 

王女さんが今から煌臨させるのはその中の1種。

 

 

「凍てつく極寒の地の王者よ!今こそこの場に顕現せよ!……究極進化!!ヴァイクモン!!」

手札3⇨2

ヴァイクモンLV3(6)BP15000

 

 

ズドモンが青き光に包まれていく。そして現れたのは白き勇猛な姿をした獣人型、完全体を超えた究極体のデジタルスピリット。ヴァイクモンが煌臨した。

 

 

「す、凄い!!!究極体だぁ!!!」

 

 

椎名が驚くのも無理はない。さっきの完全体はただの高価なだけのレアカードのレベルだが、この完全体を超えた究極体は最早伝説。この地球の市場に何枚出回っているかもわからない。その効果はどれもバトル状況を一気に傾かせる者ばかりだ。

 

そして、王女さんのヴァイクモンが効果を発揮させる。

 

 

「ヴァイクモンの煌臨時効果!!煌臨元の青の完全体を手札に戻すことで、相手のデッキを上から5枚破棄!」

手札2⇨3

 

「……またデッキを……!」

デッキ13⇨8

 

 

ヴァイクモンが吠える。その爆発的な音は椎名のデッキを吹き飛ばす。そして、その中にはマジックカードの【ワイルドライド】が確認される。

 

 

「マジックカードがあるね、……ならヴァイクモンの追加効果でこいつ自身を回復させる!」

ヴァイクモン(疲労⇨回復)

 

「……回復!?」

 

 

破棄されたワイルドライドのカードが光りだすと、それに共鳴するようにヴァイクモンが青く光りだす。

 

 

「煌臨スピリットは煌臨元としたスピリット全ての情報を引き継ぐ。よって、今のヴァイクモンはアタック状態だ!……言ってみたかったんだよね〜〜この台詞!」

 

 

ヴァイクモンはズドモンのアタック時に煌臨したので、ヴァイクモンは現在進行形でアタックしていることになる。

 

 

「ちなみに、こいつはアタックしたバトルの終了時にデッキをさらに7枚破棄する」

「……!!」

 

 

ヴァイクモンは現在回復状態であり、2回攻撃が可能。つまりこの後、王女さんは椎名のデッキを最大14枚破棄できることになる。

 

椎名のデッキは残り8枚。これがフルで通ってしまえばジ・エンドだ。

 

 

「くそ!それは止めなきゃ!……フラッシュタイミング!マジック!チェイスライド!効果でヴァイクモンを疲労させる!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨2

トラッシュ3⇨5

 

「……!!…緑の疲労マジック……!」

ヴァイクモン(回復⇨疲労)

 

 

ヴァイクモンは緑の風で疲労状態となり、進んでいた足が止まる。

 

 

「だけどその程度じゃあ、最初のアタックは止まらないよ!」

 

「……そこはライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ヴァイクモンは両手に持つ鎖付きの巨大鉄球を振り回して椎名に投げつける。それは瞬時に椎名のライフを1つ砕いてみせた。

 

ようやく1つ減る椎名のライフ。だが、もうこのバトルにおいては自分のライフなどほとんど関係なかった。なにせ、いくらライフが残ろうともデッキがなくなってしまえば終わりなのだから。

 

 

「ヴァイクモンのアタック時効果!バトルの終了時に相手のデッキを7枚破棄する!」

 

「ぐっう!」

デッキ8⇨1

 

 

ヴァイクモンの鎖付きの巨大鉄球が再び椎名に投げられる。今度は椎名のデッキを襲い、その風圧だけで計7枚ものカードが破棄された。椎名のデッキはいよいよ後1枚。

 

 

「あぁ、1枚残ったか、……まぁ、いいや、次で終わりだね……ターンエンド」

ヴァイクモンLV3(6)BP15000

海傭師団スナ・メリーLV1(1)BP1000

 

No.2ブルーフォレストLV2(3)

No.26キャピタルキャピタルLV1

No.26キャピタルキャピタルLV1

 

バースト無

 

 

「へへっ!」

「……!?…どうしたの?急に笑って」

「いや何、凄い楽しいと思ってね、私の残りデッキは1枚、次のターンで決められなかったら終わる。そう考えただけでメッチャワクワクする!!……これを乗り越えたいって思うとドキドキする!」

 

 

何故だろうか、王女さんはこの時の椎名をまた誰かに重ねてしまう。やはり、椎名は自分の知っているあいつにそっくりだ。外見と中身はどちらかといえば別のあいつに近いが、バトルの腕や考え方はあいつそのものとも思えるほど同じものであった。そう思うと、王女さんはついつい頬の力を緩めてしまう。

 

 

「ふふ、そう。楽しい…ドキドキする……か、だけど、この盤面は流石に私の勝ちじゃない?……」

 

 

確かに椎名が逆転するには掻い潜らなければならないものが多すぎる。先ずは2枚のキャピタルキャピタル。破壊時にコスト3以下のスピリットを1体破壊するスナ・メリー。王女さんのライフは2。椎名の手札は次のドローを合わせても3枚。スピリットはガンナー・ハスキーのみ。ライフがほとんど減っていないため、コアも少ない。確かに1ターンで克服するにはいささか厳しいものがある。

 

 

「いや、最後に残ったのが本当にあのカードだったら私の勝ちだ!!」

「なに?」

 

 

椎名は自分の作ったデッキを当然把握している。残った1枚はあのカードだと、密かに自信を持っていた。

 

そして椎名のターン。デッキがゼロになってもその時点でスタートステップでなければ、そのターンは行動できる。だが、次はない。正真正銘のラストターンだ。

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

 

 

「ドローステップ!!……よし!やっぱりこいつだった!」

手札2⇨3

デッキ1⇨0

 

(なんだ、何を引いた?)

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!!この瞬間、ガンナー・ハスキーの効果発揮!青のシンボルを1つ追加!」

 

 

ガンナー・ハスキーの頭上に青のシンボルが1つ出現する。これで椎名はある程度の軽減を確保できるようになる。

 

 

「いくよ!王女さん!先ずはブイモンと、風盾の守護者トビマルを召喚!」

手札3⇨1

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名の場に呼び出されたのは【アーマー進化】の効果で手札に戻っていたブイモンと、巨大な盾を所持した緑の鳥型のスピリット、トビマル。

 

そして椎名が予測していたカードが召喚される。

 

 

「そして!最後のラスト1枚で引き当てた、奇跡のブレイブカード!鎧殻竜グラウン・ギラスを召喚!」

手札1⇨0

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨5

 

 

地中より、赤属性のブレイブ、鎧殻竜グラウン・ギラスが飛び出してきた。それは逞しい4足歩行で、表皮には岩のようにゴツゴツとした外骨格を持っている。

 

 

「ここに来て赤のブレイブ!?」

「そう、……そしてこいつの召喚時効果で相手のネクサス1つを破壊する」

「……!?」

「いけぇ!グラウン・ギラス!キャピタルキャピタルを1つ破壊だ!」

 

 

グラウン・ギラスが地面を踏みしめて、盤面全体に振動を起こすと、宙に浮いているキャピタルキャピタルは何故か地に沈められていった。

 

 

「へぇ、やるじゃない、でもその程度じゃあ、」

 

「いや行ける!グラウン・ギラスをトビマルに合体!そしてトビマルを2に上げる!」

リザーブ1⇨0

風盾の守護者トビマル+鎧殻竜グラウン・ギラスLV1⇨2(1⇨3s)BP3000⇨6000

 

 

トビマルとグラウン・ギラスが合体……と言うよりかは、トビマルがグラウン・ギラスの背中に止まり木のように止まっただけである。椎名はトビマルがキャピタルキャピタルの効果に引っかからないようにソウルコアを置いた。

 

これで椎名の逆転への布石が全て整った。

 

 

「アタックステップ!トビマルでアタック!この瞬間!グラウン・ギラスの合体アタック時効果でネクサスをさらに破壊!2枚目のキャピタルキャピタルを撃ち落とせ!」

「またネクサスを!?」

 

 

グラウン・ギラスは同じ要領で再びキャピタルキャピタルを地に沈めた。これで椎名のスピリット達にアタックの制限が課されることはない。

 

 

「だけどスナ・メリーを破壊させてしまえば、頭数は足りなくなる!」

 

 

そうだ。まだ王女さんの場にはスナ・メリーが存在する。このアタックに対してスナ・メリーを差し出されて破壊時を発揮させてしまえば、ブイモンか、ガンナー・ハスキーが破壊されて、椎名の負け。だが、そんなこと椎名もお見通しであって、

 

 

「トビマルのアタックか、ブロック時の効果。相手は相手のスピリット1体を疲労させる!」

「なに!?…今の私のスピリットは、スナ・メリー1体……」

「そうだ!スナ・メリーには疲労しててもらう!」

 

 

グラウン・ギラスの背中に止まっているトビマルが起こす風に、スナ・メリーは耐えられず、その場で腹を空に向け、横たわってしまう。

 

これで王女さんのブロッカーはゼロだ。

 

 

「さぁ!アタックは継続中!」

 

「くっ!仕方ない!ライフで受ける!」

ライフ2⇨1

 

 

猛ダッシュするグラウン・ギラスの体当たりが、王女さんのライフにクリーンヒットして、それを1つ破壊した。

 

 

「これで最後だ!いけぇ!ブイモン!」

 

 

ブイモンは待ってましたと言わんばかりに走り出す。もうすでにキャピタルキャピタルの効力が失われているため、リザーブからコアを払う必要もない。

 

 

「……ふふ、参ったねぇ、本気で勝つ気でいたんだけどなぁ」

ライフ1⇨0

 

 

王女さんは受け入れるように笑ってみせる。ブイモンの強烈な頭突きがその最後のライフを破壊した。王女さんのライフがゼロになったことでこのバトルの勝者は椎名に終わる。

 

王女さんの場に残ったヴァイクモンやブルーフォレストは役目を終えたかのように、ゆっくりと消滅していく。椎名のスピリット達も勝利したことを喜びながらも消滅していった。

 

 

「王女さん!私すっごい楽しかった!またバトルしよう!」

「あぁ、私もだよ、久しぶりにドキドキしたよ、またやろうな!」

 

 

互いに死力を尽くしたバトルが楽しくないはずがなく、どちらもその健闘を称え合う。

 

 

「て言うか、私、そろそろ元の場所に帰らないと……」

「えぇ!もっとバトルしたかったのに〜」

 

 

やはりもっと王女さんとバトルがしたかったのか、その言葉に対し、椎名は若干のショックを受けた。だが、直ぐに王女さんは忙しいから、と言う理由で納得してしまう。

 

 

「そうそう、最後にこれを渡しとくね!」

「ん?………え!?もらっていいの!?」

 

 

王女さんから渡されたカード。国の王女からもらったなど。椎名にとってはこれ以上にない自慢になることだろう。自慢話しを信じてもらえるかは怪しいところだが、

 

 

「じゃあ、今日はありがとう……これからも頑張ってね」

「うん!……頑……張る、………よ?」

 

 

何故か急に椎名の目の前がぐねりとひん曲がり、その後、真っ暗になる。そんなことに気付く前に椎名は倒れてしまった。

 

 

 

******

 

 

 

「う、……うーーんっ!………ん、あれ!?王女さんは!?」

 

 

椎名は目を覚ました。仰向けになった体を半分起こしながら考えた。あれはなんだったのだと。時は今、鮮やかな橙色の夕焼けが差し込んでいる夕方だ。王女さんと対談したのは星空輝く夜の出来事。こう言った矛盾から、きっとあれは夢だったのだと、椎名がそう思った次の瞬間だった。

 

 

「……夢…か、…あれ?これって、」

 

 

椎名は右手に違和感を感じた。まるで何かを握っていたような。そしてふとその手を見てみると、そこには【No.26キャピタルキャピタル】のカードがあった。これは確かに王女さんから貰ったものだ。

 

椎名は一瞬驚くと、頬の力を緩めてにこりと笑う。そして勢いよく立ち上がり、橙色から墨色に変わろうとしている街並みに向かって叫んだ。

 

 

「王女さぁぁん!!またバトルしようねぇぇえ!!」

 

 

一期一会。椎名は1つの出会いに感謝しながら自分の部屋へと戻っていくのだった。




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【ヴァイクモン】!!」

「ヴァイクモンはデッキ破壊に特化した青の究極体!煌臨元になった完全体を手札に戻すことで、相手のデッキを破棄させつつ、回復することができるよ!私も完全体とか、究極体、欲しいなぁ!!」





最後までお読みいただきありがとうございました!
*タイトルは最初『歯向かえ』にしてましたが、日本語的にどうかと思い、『抗え』に変更しました。


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第6話「悪霊退散!? 照らし出せネフェルティモン!」

 

 

 

 

 

 

ここはとあるお墓。まだ日が差し込んでくる昼間の時間だというのに、学校の制服を着用して、数多の種類が確認できる花束を手に持ち、ある墓石の前に立つ1人の少年がいた。それは赤羽司だ。墓石に刻まれている名前は【赤羽茜(あかばねあかね)】。

 

ー彼の7つ年上の姉だ。

 

司はその花束を墓石の前にゆっくりと供えた。

 

 

「久しぶりだな、姉さん」

 

 

墓石の前でそう呟く司。いくら話しても返事が返ってくるわけがないと理解していても、その墓石を前にすると口を開かずにはいられなかった。

 

だが、開くと言っても、出てくる言葉は『久しぶり』のみ。それ以外のことなど、話す気にもなれなかった。

 

司がこの墓石に来たのは2回目。最初の葬式の時以外、ここに立ち寄ったことがなかった。あの時はただ、姉が死んだことを認めたくなかった。

 

茜が亡くなったのは5年前の出来事。元々病弱だった彼女は重たい病気でその命を落としてしまった。

 

その才能は司以上だと言われてきた。その病弱な面がなければ今頃はプロのバトラーとなり、世界を股にかける凄腕として注目を浴びていたことだろう。

 

そんな姉が病室で死ぬ間際に自分に残してくれた最後の言葉がずっと頭に引っかかっていた。それは、

 

 

 

ー『強くなれ!天国で待ってる!……誰にも負けないくらい強くなれ!……そしたらいつか、司も登ってきたら、……またバトルしよう!』

 

 

 

この言葉の意味を、司はとても深く捉えていた。考えれば考えるほどわかりづらくなってくる。

 

単に病弱だった姉が自分と最後にバトルをできなかったことを惜しんだ言葉だったのか。はたまた本当に2度と負けるなと言う意味だったのかは、彼女が死んだ今、最早わからぬことであって、

 

司はこの言葉をこう捉えていた。自分はもう2度姉以外のバトラーには負けない。いつか天国で姉と再戦するまでは、絶対に負けることが許されない。それが彼女に対する一番の供養になる。そう考えていた。

 

だが、負けてしまった。【芽座椎名】に。5年前から負け知らずで、ジュニア大会にも積極的に参加し、それら全てを勝ち取り、【朱雀】と言う異名の名の下に優勝したにもかかわらず。どこぞの馬の骨かもわからない相手に大逆転を喫して敗北してしまった。

 

負けた瞬間はあまりの悔しさに敗北を認めたくなかった。だけれども、同時に感じ取ってしまった。芽座椎名のバトルスピリッツに対する思いを。それがまた自分自信をおかしくしていた。

 

それはとてもおおらかだった自分の姉にそっくりであって、雅治が椎名に惹かれているはなんとなくわかる気がしていた。雅治は自分の姉が、茜が心の底から好きだった。5年前の葬式では自分以上に涙を流し、悲しんでいた。姉もまた、雅治を可愛がっていた。

 

椎名は姉によく似ている。声のトーンだったり、髪の長さだったり、その色だったり、妹だと言われてもあながち一瞬は騙されるかもしれない。だが、血筋の違う別の人間なのは確かなこと。飽くまで重なる部分が多いだけだ。

 

その後、司は夜を迎えるまで茜の墓石の前で黄昏ていた。茜の言葉の意味を考えながら。そして空はすっかり墨色に染まる頃。

 

 

「馬鹿だな、俺は、こんなとこでいくら頭捻っても答えなんて出やしねぇのに」

 

 

空はもう真っ暗、墓の外れの道のライトだけが、唯一の明かりだ。そんな中で、司に声をかける人物が1人。

 

 

「……お主、もしや、その墓石の者の、肉親か何かかの?」

「あぁ?」

 

 

現れたのは隻眼の初老の男性、髭を生やしていて、背筋が真っ直ぐなのが印象的、いや、それ以上に目立つのが、白い装束か、この時間帯にこんな服を着ていると、これくらいの歳の男性は幽霊にも見えてしまう。

 

司は生憎、幽霊などと言う非科学的な物は一切信じていない。

 

 

「肉親だけど、なんか文句あんのか?」

「ほっほ!最近の若者は威勢がいいのぉ!」

 

 

自分の事を聞かれるのが嫌なのか、やや突き放した態度をとる司に対し、幽霊のような男性は懐が広いのか、それを見て大きな声で笑い飛ばしていた。

 

 

「ほっほ!いや何、その墓石、あんまり人が来ないから……ちょっと気になってたんじゃよ」

「あぁそ、悪いが俺はもう帰る」

 

 

聞く耳をほとんど持たず、司はその場を離れようとする。が、次の瞬間に男性が放った一言が司の足を止める。

 

 

「……お主、悩んでおるな、バトルに勝てなくて」

「……!?!…」

 

 

男性は司が悩んでいた事の核心を突いてきた。司はほとんどそんな言葉を発していなかったはずなのにだ。司は血相を変えてその男性を問い正そうとする。

 

 

「なんでそんな事わかるんだよ、ジジイ」

「おっ!ようやく儂と話す気になったか…………いや何、儂は生前からバトルを教える側の人間での?…伸び悩む者の気持ちがわかるんじゃ」

「はぁ?生前?何言ってんだお前」

 

 

普通は生きている人間から自分の生前のことなど語られるわけがない。司が不思議そうに返事を返すと、男性は全面のドヤ顔でこう言った。

 

 

「いや〜儂、幽霊なんじゃよね〜」

「……はぁ?」

 

 

男性は自分のことを幽霊だと言った。そんな身もふたもない嘘を信じられるわけがないだろう。と言わんばかりに司は首を傾ける。男性は証拠を見せつけるように赤羽家の墓石に近づき、それを手で触ろうとした。本当に幽霊だったのか、その手はするりとすり抜けてしまった。

 

 

「な!?」

「じゃろ?凄いじゃろ?もうかれこれ10年以上もこんな感じなんじゃよ」

 

 

司は珍しく驚きの声を上げる。普通の人なら恐怖にまみれてその場をトンズラしてしまうだろうが、この男性は幽霊的に驚かせようとはしていなかった点を見ると、悪い幽霊ではないことが示唆される。呪われるなんて物騒なことはされないだろう。司はそう考えて、この場に一応止まることにした。

 

 

「いやぁ、申し遅れたな、儂は【武魂影技(ぶこんかげわざ)】。武魂家の将軍だった男じゃ」

「武魂家?聞いたことねぇ一族だな」

「むぅ、やはり知らぬか、まぁ良い、それよりお主、儂とバトルをしないか?…お主を強くするため、みっちりしごいてやるぞい!」

「はぁ?なんで、俺は暇じゃねぇんだよ。何が好きで幽霊なんかとバトルしなくちゃいけねぇんだ」

 

 

武魂影技と名乗る男性。バトスピ一族は多数いるが、武魂などと言う一族は司の頭の中にはインプットされていなかった。影技は怪訝そうな顔をする。

 

そんな幽霊が司にバトスピを挑んできた。幽霊とバトルするなど気味が悪いだろうと思い、司は断りの言葉を並べるが、

 

 

「負けるのがそんなに怖いか、少年」

「あぁ?」

「そんなにこの老いぼれに負けるのが怖いのかと言っているんじゃ」

 

 

安い挑発だ。だが、プライドが高い司はこんな挑発でも、易々と乗ってしまう。

 

それは少々子供っぽく見えるが、それだけ自分に自信がある証拠でもあって、

 

 

「んだとてめぇ!上等だ!ぶこんだか、うこんだが知らねぇが、格の違いを見せてやる!」

「はっは!やはり威勢がいいのぉ!」

 

 

2人のバトルが結託される。2人はお墓の空き地の広いスペースまで赴いた。司は懐からBパッド取り出し、直ぐにセッティングするが、1つだけ、幽霊の影技に対して疑問が浮かんできた。

 

 

「そういや、ジジイ、お前物に触れられないのにどうやってバトルするんだ?」

「ん?あ〜〜心配ご無用じゃ、………おぉ〜〜い、ミッケやぁ〜〜〜!!」

 

 

率直な疑問だった。何も触れることができないから、カードは愚か、Bパッドすらセットできないのではないかと、そうなればバトルをするなんて不可能ではないのか、と。

 

影技が「ミッケ」、と呼ぶと。そこに現れたのはただの三毛猫。だが、その口にはBパッドが加えられていて、

 

 

「よぉし、偉いぞ!組み立ててくれ!」

 

 

すると、ミッケは手慣れた手つきでBパッドを変形させた。まぁ、ボタン1つで変形するから猫でもできないことはないか。

 

 

「なんだ、この猫」

「儂と仲良くなった『ミッケ』じゃ、可愛いじゃろ?…………それでデッキは儂の懐にある物を使えばと……よし!」

 

 

影技の火葬の時に一緒に燃やされた魂のデッキがある。それなら幽霊でも触れるのか、影技はBパッドにそれをセッティングした。幽霊の私物にもかかわらず何故反応するのかと、司は聞きたかったが、直ぐにそんなことはどうでもよくなり、聞くのをやめた。彼には色々な常識が通用しない。

 

ーそしていよいよ2人のバトルが幕を開ける。

 

 

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

今回の先行は影技だ。ターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン01]影技

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

「よし、メインステップじゃ、先ずはネクサスカード、故郷の山に似た山を配置じゃ」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「……赤のネクサスか」

 

 

影技が配置したネクサスは赤のカード。これで彼は赤属性の使い手であることが判明する。同じ赤として、司はより負けられないバトルとなった。

 

影技の配置した赤のネクサスは、まるで富士の山を連想させるような山岳だ。

 

 

「ターンエンドじゃ」

故郷の山に似た山LV1

 

バースト無

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺もネクサスカード、朱に染まる薔薇園を配置」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

墓場を彩るのはとても鮮やかな赤い薔薇園。だが、その薔薇園の薔薇には一本一本鋭い棘が存在する。

 

朱に染まる薔薇園の配置で、司の盤面には赤と黄色のシンボルが1つずつ並んだことになる。

 

 

「ほほぉ、これはなんとも見事な」

 

「何感心してんだ、俺はこれでターンを終了する」

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

司もネクサスカードを配置しただけでそのターンを終えてしまう。

 

お互い静かな滑り出しとなった。が、仮にも赤属性同士のバトル。この後の展開が凄まじくなるは目に見えている。

 

 

[ターン03]影技

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップじゃ、ドラマルを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨4

 

 

影技が最初に呼び出したのは甲冑を着た小さなドラゴン。身の丈と同じくらいの声を張り上げながら場に現れた。

 

 

「武竜デッキか」

「ほっほ、儂らの一族の習わしでな、昔から武竜一筋じゃよ」

 

 

『武竜スピリット』、主に赤属性が持つ系統で、バトルによる破壊を得意としている。ソウルコアの扱いにも長けており、他の系統を見てもそれは随一であると言える。影技の生まれ育った武魂家では、何故かこの武竜を使わなければいけなかったらしい。

 

 

「さらに、もう1枚、ネクサス、故郷の山に似た山を配置しようかの」

手札4⇨3

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

影技の背後にもう1つ大きな富士の山が聳え立つ。

 

 

「そして、こいつを、サムライ・ドラゴンを召喚じゃ!そのコストは2枚の故郷の山に似た山の効果により、マイナス2となり、3、3つの軽減と合わせて、ノーコスト召喚じゃ!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨1

 

「なに!?」

 

 

故郷の山に似た山の効果は武竜スピリットのコストを1つ下げるというもの。それが2枚あることにより、本来コスト5のスピリットであるサムライ・ドラゴンが、コスト3として召喚されたのだ。

 

舞い上がる桜吹雪の中で、青く勇ましい侍の竜、サムライ・ドラゴンが召喚された。

 

 

「ドラマルに残ったソウルコアを追加じゃ……そしてアタックステップに入るかの」

リザーブ1s⇨0

ドラマル(1⇨2s)

 

 

ドラマルにソウルコアが追加されるが、特に変化はない。だが、意味がないと言うわけでもない。

 

それはこのアタックステップで直ぐに分かることであって、

 

 

「さぁ、先ずはドラマルじゃ、」

 

 

ドラマルが小さなおかっぺきを掲げながら走り出す。前のターンでコアを全て使い果たした司はこの攻撃を防ぐ術はなかった。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ドラマルの身の丈ほどの小さなおかっぺきの一撃が、司のライフを1つ破壊した。

 

 

「次じゃの、行け!サムライ・ドラゴン!」

「そいつもライフで受け……」

「おお、おお、ちょっと待つんじゃ、フラッシュタイミングで、サムライ・ドラゴンの【覚醒】を発揮じゃ」

「!?」

 

 

【覚醒】とは、赤属性特有のキーワード効果であり、フラッシュタイミングで他のスピリットのコアを取り除き、自身に置くことができる。バトル時のBP上げにはもってこいの効果だ。だが、このサムライ・ドラゴンは他の【覚醒】スピリットとは少々使い方が変わっていて、

 

 

「ドラマルのソウルコアをサムライ・ドラゴンに………そして、サムライ・ドラゴンの効果発揮じゃ、【覚醒】により、ソウルコアがサムライ・ドラゴンに置かれた場合、サムライ・ドラゴンは回復し、そのBPを5000上昇させる」

ドラマル(2s⇨1)

サムライ・ドラゴンLV1⇨2(1⇨2s)BP3000⇨6000⇨11000(疲労⇨回復)

 

 

「なんだと!?」

 

 

効果により回復したサムライ・ドラゴン。これで2回攻撃が可能となった。使えるコアが少ない司はこの攻撃をライフで受けるしかなくて、

 

 

「サムライ・ドラゴンの2連撃、受けてみよ!」

 

「くっ!ライフで受ける」

ライフ4⇨3⇨2

 

 

サムライ・ドラゴンが刀を抜刀すると、見事な剣術で、司のライフを一瞬のうちに2つも削り取ってしまう。

 

 

「ほっほ、なんか若い頃を思い出すのぉ、……あの頃はまだ娘も小さくって」

「御託はいいから、早くエンドしろよ」

 

「むぅ、せっかちな男よ………まぁいい、ターンエンドじゃ」

ドラマルLV1(1)BP1000(疲労)

サムライ・ドラゴンLV2(2s)BP6000(疲労)

 

故郷の山に似た山LV1

故郷の山に似た山LV1

 

バースト無

 

 

おそらくは椎名以上の速攻であっただろうこのターン。影技が自分の予想していた以上に強敵だと思い知る司。だが、椎名にも負けて、こんな得体の知れない幽霊に負けられない。負けたらおそらく自分の一生の恥だとも考えていた。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!朱に染まる薔薇園をLV2へ上げる!……これで俺の赤のスピリットとブレイブの赤軽減シンボルは黄色としても扱えるようになる」

リザーブ9⇨8

朱に染まる薔薇園(0⇨1)LV1⇨2

 

 

「ほほぉ、赤が黄色にのぉ」

 

 

朱に染まる薔薇園のLV2効果は赤のスピリットとブレイブのカードを黄色にすると言っても過言ではない効果である。これを活用し、司はスピリット達を展開して行く。

 

 

「いくぜ、ホークモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨6

トラッシュ0⇨1

 

 

司が呼び出したのは赤き羽を羽ばたかせる鳥型の成長期スピリット、ホークモン。

 

 

「デジタルスピリットか、奴らも安くなったもんじゃのぉ」

 

「一々うるせぇ、ホークモンの召喚時効果!」

オープンカード

【イーズナ】×

【イーズナ】×

【シュリモン】○

 

 

ホークモンの召喚時効果が起動され、その中の対象内のスピリットカードであるシュリモンが、司の手札へと加わった。

 

 

「さらに、俺はハーピーガールをLV3で召喚する!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ6⇨1

トラッシュ1⇨3

 

「ぉぉぉお!ええのぉ!可愛いぞ!ありじゃよ!」

「うるせぇっつってんだろ!ジジイ!」

 

 

司が呼び出したもう一体のスピリットは、美しい少女の顔をしたスピリットだが、その手足は強靭な巨鳥のような黄色のスピリット、ハーピーガール。

 

大の女好きである影技は、目をハートにしてハーピーガールを見つめる。ハーピーガールはそんな影技に対して、少し引き気味。

 

 

「アタックステップ、……ハーピーガールでアタック!アタック時の【連鎖:赤】!BP3000以下のスピリットを1体破壊!ドラマルだ!」

「ぐっ!ドラマル……寂しいのぉ」

 

 

ハーピーガールの翼の攻撃により、ドラマルが呆気なく敗れ去ってしまう。ハーピーガールの効果はライフを奪ってからが本領発揮なのだが、司はその前にここで別の一手を繰り出す。

 

 

「フラッシュタイミング!マジック!レッドライトニング!……この効果でBP6000以下のスピリット1体を破壊!…くたばれ!サムライ・ドラゴン!」

手札4⇨3

リザーブ1⇨0

朱に染まる薔薇園(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ3⇨5

 

「むっ!」

 

 

赤き稲妻が迸る。それは瞬く間にサムライ・ドラゴンを貫く。サムライ・ドラゴンは耐えることができずに、その場で大爆発を起こした。

 

 

「さぁ!ハーピーガールのアタックが継続中だぜ!」

 

「……これは仕方ないな、ライフで受けるかの」

ライフ5⇨4

 

 

ハーピーガールの強烈な足技が影技のライフを粉砕した。ハーピーガールの効果がこの瞬間に発揮される。

 

 

「ハーピーガールの効果!【聖命】!ライフを1つ回復する!………さらに、朱に染まる薔薇園の効果で自分のアタックステップ時に自分のライフが回復した時、デッキからカードを1枚ドローする」

ライフ2⇨3

手札3⇨4

 

 

黄色と赤が織りなすコンボにより、司はライフと手札を潤していく。

 

 

「ほっほ、今時の若い者は贅沢好きじゃのぉ」

「続け!ホークモン!」

 

 

影技の言っていることを全て無視して、司はホークモンにアタックの指示を送った。

 

 

「それもライフじゃ」

ライフ4⇨3

 

 

ホークモンの赤い翼の一撃でついにライフ差が同じとなった。手札の差も考えると、現在は司が若干巻き返したと言えるだろう。

 

 

「ターンエンド」

ホークモンLV1(1)BP3000(疲労)

ハーピーガールLV3(3)BP5000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

[ターン05]影技

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨8

トラッシュ2⇨0

 

 

「なかなかやる見たいじゃの〜、じゃが、お主はまだまだ爪が甘い」

「なんだと!!」

 

 

なかなかやる。爪が甘い。それらの自分を軽く見ている言葉だけで、【朱雀】と呼ばれている司にとっては侮辱の極みのような言葉であって、

 

だが、本当に影技からしてみれば爪が甘かったのだ。それは彼のこのターンですぐにわかることだ。

 

 

「まぁ、まだ若いしのぉ、これからじゃよ………メインステップ!ヒエンドラゴンをLV2で召喚じゃ!……2枚ぶんの故郷の山に似た山の効果でコストを2下げ、ノーコスト!」

手札3⇨2

リザーブ8⇨6

 

 

影技の場に現れたのは、燕のような翼を翻している。武竜のスピリット、ヒエンドラゴン。元々のコストが3であるため、2枚の故郷の山に似た山の効果と軽減により、ノーコストで召喚された。

 

 

「さらに、剣豪龍サムライ・ドラゴン・天をLV2で召喚じゃ!……故郷の山に似た山の効果でコストは4じゃ」

手札2⇨1

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

暗がりの街を明るく照らし出すほどの火柱の中で、眼光を放ちながら待機する武竜のスピリット。それはすぐさま自身の両手に持つ2本の刀で火柱を断ち切り、その姿を見せる。

 

その正体はサムライ・ドラゴンの息子。サムライ・ドラゴン・天。その派手な登場の仕方に思わず司もたじろいだ。

 

 

「な、に?サムライ・ドラゴン………天!?」

「ほっほ、ではいくかのぉ、アタックステップじゃ」

 

 

この瞬間、天の背中に『天』の字の炎が浮かび上がる。これは天のド派手な効果の始まりのサインでもあって、

 

 

「天の効果、【無限刃】、ソウルコアの置かれている天は指定アタックが可能となるんじゃ」

(……!?……それだけか?)

「ほれ、まぁ、手始めにハーピーガールから叩くかの?可愛い子じゃったが、バトルならば仕方あるまい」

 

 

天が走り出す。その2本の刀でハーピーガールをあっという間に引き裂いてみせた。天の猛攻に耐えられるわけなく、ハーピーガールはその場で大爆発してしまう。

 

ーそして天の【無限刃】のおそるべき能力が語られる。

 

 

「そして、天はこの時、疲労はせん」

「なに!?」

 

 

そう、天は【無限刃】の状態でいるならば、疲労せずに、指定アタックができる。アタックするスピリットは基本的に回復状態のスピリットのみが宣言できる。つまり今の天は相手のスピリットがいる限りは文字どうり無限にアタックを繰り返すことができるのだ。

 

 

「さぁ、次はホークモンじゃ!」

(くそ!疲労しないんじゃあ、シュリモンの召喚字効果は使えない………でもBPは勝てるか)

 

 

天がホークモンを襲う直後に、司の手札のカードが光を放つ。それはさっき手札に加えていたスピリットカード。シュリモンのカードだ。

 

 

「フラッシュタイミング!【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!……緑のアーマー体、シュリモンをLV2で召喚!」

リザーブ3⇨0

トラッシュ5⇨6

 

 

ホークモンの頭上に独特な形をした卵が投下され、衝突し、混ざり合う。新たに現れたのは緑の忍者のような外見をしたスピリット、シュリモン。

 

シュリモンは召喚時に疲労状態の相手のスピリット1体を手札に戻す効果があるのだが、そもそも疲労しない天にはほとんど無効。それでも司が召喚した理由はただ1つ。

 

 

「シュリモンのLV2BPは9000、それに対し、天のBPは7000!これで【無限刃】はできねぇ」

 

 

そう、天の弱点の1つとして、LV2までのBPがそのコスト帯としてはかなり低めであるということ。BPで勝てなければ、当然影技はアタックはできなくなる。だが、彼はそのくらいで止まるような男ではなかった。

 

 

「なるほど、まぁ、構わんよ、いけ!天!【無限刃】じゃ!」

「なに!?!」

 

 

BPが低いにもかかわらず、止まることなくシュリモンに勝負を挑む天。だが、それには当然訳があるわけで、

 

天の2本の刀とシュリモンの巨大な手裏剣がぶつかり合う。その光景はまるで時代劇さながら、力差はほぼ拮抗していたが、若干、シュリモンが押しているように見える。

 

 

「フラッシュタイミング!ヒエンドラゴンの【覚醒】を発揮!天のソウルコアをヒエンドラゴンに追加する!」

剣豪龍サムライ・ドラゴン・天(4s⇨3)

ヒエンドラゴン(2⇨3s)

 

 

天のソウルコアがヒエンドラゴンに移される。だが、司には疑問が残った。

 

 

「おい!待て!ヒエンドラゴンには【覚醒】の効果はないはずだ!」

「ほっほ、学業を疎かにしておるな、剣豪龍サムライ・ドラゴン・天は系統「家臣」「主君」を持つスピリットに【覚醒】を与えるんじゃよ」

「な!?」

 

 

【無限刃】に隠れがちだが、剣豪龍サムライ・ドラゴン・天のもう1つの効果は、前述された系統に【覚醒】を追加する効果。これにより、LVは特に変化はないが、ヒエンドラゴンにソウルコアが置かれた。だが、そこが重要である。

 

 

「さらにヒエンドラゴンはソウルコアが置かれている時、武竜スピリット全てをBP+4000するんじゃ」

「!!!!」

 

 

ヒエンドラゴンがソウルコアの力を受けて、赤く光り出す。この影響力は強く、天のBPは7000から11000に膨れ上がった。

 

拮抗していた勝負は一転して、天の独壇場となり、シュリモンの巨大な手裏剣を砕き、そのまま彼の身体をも貫き、爆発させた。

 

 

「くっ!……」

 

 

司はシュリモンの爆発による爆風を肌で感じると同時に、影技の実力も感じていた。基本はおちゃらけているように見えるが、彼の実力は本物だ。

 

 

「………むぅ、ここはブロッカーを残した方が得策か、………ならターンエンドとしようかのぉ……ほっほ」

ヒエンドラゴンLV2(3s)BP8000(回復)

剣豪龍サムライ・ドラゴン・天LV2(3)BP11000(回復)

 

故郷の山に似た山LV1

故郷の山に似た山LV1

 

バースト無

 

 

スピリットを全て破壊できても、残った2体では司の残り3つのライフを破壊することはできないからか、影技はここでターンを終える。

 

天がいる限り、並みのスピリットでは、その場にとどまることは難しいだろう。

 

 

(………俺はまた負けるのか?)

 

 

司は自身のBパッドを見つめながら、盤面を見ながら、負けを悟っていた。スピリットを維持し辛い状況なのだ。無理もない。それでも勝つ方法がないわけではないのだが、それにはまだパーツが足りていない。

 

だが、その負の気持ちと同時に溢れかえってくるのは雅治の言葉。その意味を今になって理解してしまう。しかもそれだけではない、5年前の茜の言葉さえをも同時に飲み込んだ。

 

いや、本当は、椎名に負けた時から理解していたのだ。ただあの時は心の整理がつかなかっただけ、影技とのバトルで今一度ピンチになることで、ようやく司は整理することができたのだ。

 

 

ー『茜さんが言いたかったことは絶対にそういうことじゃないはずだよ』

 

 

「………そうか、1回、1回負ければ本当はすぐにわかることだったんだな、なのに俺は昔の事ばかり引きずっちまって、………悪いな雅治……なんかやっと戻ってこれた気がするぜ」

 

 

司は思い悩んでいた心の鎖を断ち切る。姉が亡くなったあの日から、自分は止まっていたのだ。それを雅治はずっと気づかせるために行動していた。そしてようやく思い出せた。姉との色んな思い出。そこには毎日のように楽しいバトルが繰り広げられていた。そうだ。自分が楽しまなくては、天国に行った姉が報われないだろう。死ぬまでには強くなれば良いのだ、誰にも負けないくらい。それが真に姉の供養となる行いだ。

 

ようやくデコボコの幼馴染2人の意見が合致した。

 

 

(目つきが変わりおった……ようやく何かに気づいたようじゃな、………いや、あの目は気づいたと言うよりかは、思い出したって感じじゃな)

 

 

影技は心の中でそう考える。司の目は確かにさっきまでと全く違う。まるで全ての重荷を外した後のような感じだ。

 

 

「そうだよ、そうだよなぁ、俺がバトルを楽しめなくなってちゃ、姉さんも喜ばねぇ…………死ぬまでに強なりゃいいじゃねえか!…ありがとよ、ジジイ!おかげで吹っ切れたぜ!」

「ほっほ、わしは何もしとらんよ……お主が勝手に1人でテンション上がっとるだけじゃ………それはさておき、この状況からの逆転は厳しそうじゃな」

「いや、できる。勝利への道筋はすでに見えている」

「……!?!」

 

 

そう言いながら司は自分のターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨10

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ、朱に染まる薔薇園を再びLV2に上げて、もう一度ホークモンをフル軽減で召喚!」

朱に染まる薔薇園(0⇨1)LV1⇨2

手札4⇨3

リザーブ10⇨7

トラッシュ0⇨1

 

 

司の場に再びホークモンが姿を見せる。その召喚時効果も今一度発揮される。勝てるかはこの効果にかかっている。

 

 

「召喚時効果!」

オープンカード

【フレイムブロウ】×

【一角魔神】×

【テイルモン】○

 

 

効果は成功。成熟期のスピリット、テイルモンが司の手札に新たに加わった。このテイルモンこそが、逆転へのキーパーソンだ。

 

 

「……ふっ!……よし」

手札3⇨4

 

「ほっほ、成熟期など加えても無駄じゃよ、天の【無限刃】の前では塵にも等しい」

「まぁ、落ち着けよ、腰が曲がるぜ……ホークモンのさらなる効果!2コストを支払うことで黄色の成熟期スピリットを召喚!……来い!テイルモン!LV1だ!」

リザーブ7⇨4

手札4⇨3

 

 

ホークモンの召喚時の追加効果。2コストを支払えば成熟期の黄色のスピリットを召喚できるというもの。この効果で司はさっき手札に加えたばかりのテイルモンを即召喚した。

 

彼の場に、猫のような姿をしている鼠型で、黄色の成熟期スピリット、テイルモンが召喚された。このスピリットは時代や住む世界が違ければ、他のデジタルスピリットとは別格の存在となっていたことだろう。普通に買って手に入れた司にはわからないことではあるが。

 

 

「まだだ!手札のホルスモンの【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!……1コストを支払い、羽ばたく愛情、ホルスモンを召喚!LV1!」

リザーブ4⇨3

トラッシュ3⇨4

 

 

ホークモンの頭上に銀色で翼のようなものがある卵が落下してくる。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たに進化を遂げる。現れたのは強かに風を運ぶアーマー体スピリットのホルスモンだ。

 

 

「ホルスモンの召喚時効果!相手のネクサスを1つ破壊!……故郷の山に似た山を1つ破壊だ!」

「ほほぉ、」

 

「そしてその後、デッキからカードを1枚ドローする」

手札3⇨4

 

 

ホルスモンは召喚されるなり、鋭い眼光で、故郷の山に似た山を睨み付けると、そのうちの1つが、地面へと沈んでいった。

 

 

「そして、赤のブレイブ、砲竜バル・ガンナー〈R〉を召喚し、ホルスモンと直接合体!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨1

トラッシュ4⇨6

 

 

「椎名とのバトルの時にも使用した赤のブレイブカード。バル・ガンナーが司の場に現れ、一瞬のうちに合体形態となり、ホルスモンの背中にドッキングした。

 

ここで司はようやくアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!ホルスモンでアタック!砲竜バル・ガンナーの効果でデッキから1枚ドローし、BP6000以下の相手のスピリット1体を破壊!」

手札3⇨4

 

「ほっほ、BP6000なんて言う貧弱なスピリットは今の儂の場にはおらんぞい」

 

 

ヒエンドラゴンの効果でBPが増強されているのだ、BP破壊効果そのものが効きづらくなっている。だが、別に破壊はしなくても良い。司が欲しいのはフラッシュタイミングだ。

 

 

「お前のフラッシュがなさそうだから俺が使うぜ、……フラッシュタイミング!【アーマー進化】!対象はテイルモン!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ6⇨7

 

「……!!……ここでまたその進化か!」

 

「あぁ、その通りだ!来い!光育む神の使い!ネフェルティモン!LV2だ!」

朱に染まる薔薇園(1⇨0)LV2⇨1

 

 

テイルモンに不思議な形をした卵が投下され、衝突。混ざり合うと、新たに姿を見せたのは、まるでスフィンクスに近い外見のアーマー体スピリット。ネフェルティモンだ。

 

 

「ネフェルティモンの召喚時効果!トラッシュのコアを1つ俺のライフに!」

トラッシュ7⇨6

ライフ3⇨4

 

 

ネフェルティモンの放つ聖なる光が、司のライフに再び光を灯した。さらに灯されるのはその光だけではなくて、

 

 

「俺のライフが増えたことにより、朱に染まる薔薇園の効果でカードを1枚ドローする」

手札4⇨5

 

 

今度は朱に染まる薔薇園が光輝き、司の手札を潤していく。本当はもう手札もライフも増やす必要もないのだが、

 

 

「だが、たった1体進化態が出たところで、天とヒエンドラゴンの敵ではない」

 

 

そうだ、いずれもBPはどれも下回っている。だが、忘れてはいけないのがネフェルティモン。このスピリットの色は黄色。その効果も黄色らしい効果だった。

 

 

「ネフェルティモンは「アーマー体」のスピリット全てにLV1と2のスピリットにブロックされない効果を与える」

「なんじゃと!?」

「やっと驚きやがったな……ホルスモンはバル・ガンナーとの合体でダブルシンボルになっている」

「ぐつ!」

 

 

天とヒエンドラゴンがネフェルティモンの放つ異彩なオーラにより、身動きを封じられる。まるで金縛りにでもあっているかのようだった。

 

これで影技はブロックが不可。ホルスモンは体を竜巻のように回転させ、バル・ガンナーの砲撃と共に、影技のライフへと向かう。

 

 

「くらえ!……砲撃の嵐!ランパードストーム!」

 

「くっ!ライフじゃ」

ライフ3⇨1

 

 

ホルスモンは、そのまま重たくて鈍い音を立てながら、影技のライフを同時に2つ破壊して見せた。

 

そして最後を締めるのは、同じくアーマー体で自身の効果も対象圏内となるネフェルティモンだ。

 

 

「終わりだ!………いけ!ネフェルティモン!」

 

 

ネフェルティモンが空を飛ぶ。光の波動を頭部に集中させて、一気に放つつもりだ。影技はもう反撃のすべはなかった。

 

 

「………見事じゃ……ライフで受ける」

ライフ1⇨0

 

 

ネフェルティモンは光の波動を放ち、負けを認めた影技の最後のライフを破壊した。影技のライフがゼロになったので、勝者は司となる。圧倒的に不利な状況から大逆転して見せた。

 

周りのスピリット達も同時に消滅していくが、天とヒエンドラゴンはまるで年寄りの自分たちの主人を心配して気づかっているようにも見える顔で消えていった。

 

そして影技自体にも変化が訪れる。

 

 

「どうだ!ジジイ!俺の勝ちだ!………!!!?」

「ほっほ!やはりお主は強いのぉ、儂の娘にも引きを取らぬ天才じゃ」

「いや、おい!ジジイ!身体が!」

 

 

司は驚いた。それもそのはず、影技の身体がどんどん光の粒子となって、足元から天へと消え去ろうとしているのだから、

 

 

「ほっほ、最後にようやく納得のいく楽しいバトルができたからかの、未練もなくなり、こうやって成仏できるようじゃ」

 

 

そう、これは成仏。この世に未練をなくした影技は10年以上の時を経て、ようやくあの世へと行こうとしていた。猫のミッケもそれを察したのか、悲しそうな顔で影技を見つめていた。そう、影技は最初から成仏がしたかったから、司に近づいた。司に霊感があることを知っていたから。

 

司はこれが最後だと理解し、意外な気遣いを見せる。

 

 

「あんたは強かったよ……この俺が認めてやる」

「ほっほ!そりゃどうも!」

「最後にあんたの言葉を1つ聞いてやらぁ、歴史の偉人としてなんかいい言葉を残せよ」

 

 

上から目線には変わらないが、これは司が珍しく見せた他人への気遣い。影技は少し考えるとその口を開いた。

 

 

「そうじゃのぉ…………強いて言うなら、…まだ女子風呂を覗きたかったのぉ〜〜〜」

「……………はぁ!?」

「最近のお気に入りは、あのオレンジの頭の子じゃったな、顔も可愛い系じゃし、足は細くて、強かで綺麗じゃったし、最高じゃった。もう儂の好みドンピシャ」

 

 

影技が最後にとんでもないことを暴露した。霊感がない者には見えないのをいいことに、覗き行為を繰り返していたのだ。司も呆気に囚われて、開けた口がなかなか閉じない。最後に遺言をと思って気遣ったのに、まさかこんな返信が返って来ようとは、今までの影技のイメージがすごい下がっていく。

 

いや元々結構低かったから、あまり関係なかった気もするが、最後の最後までおちゃらけるとは思っていなかった。

 

 

「そうそう、スタイルも抜群でのぉ!着痩せするタイプじゃったのかのぉ、ほっほ…………じゃあの、ミッケ!少年!お前さんもあの世に来ることがあったらまた今日のような楽しいバトルでもしようじゃないか!…………」

 

 

それだけを言い残し、影技は天へと姿を消した。司の隣にいた猫のミッケが毛を逆立てて、悲しそうに鳴き声をあげる。

 

 

「悪いなぁ、ジジイ。あの世には先約がいるんだ」

 

 

司は影技の最後を見届けると軽く口角を上げて、そう呟いた。おそらくこの出会いがなければ自分は一生、雅治と茜の言葉の意味には気づかなかっただろう。少なからず感謝していた。

 

それと同時にあることに気づく。

 

 

「ん?まてよ、『オレンジの頭の子』?………」

 

 

オレンジの頭。いや、髪はあんまりいない部類の人間だろう。だが、司は1人知っていた。その不思議な髪色と形をした女子を。

 

 

******

 

 

その翌日の学園での出来事である。椎名は休み時間中に、いつものように、真夏とおしゃべりをしていた。

 

 

「最近身体が、だる〜いんだよねぇ」

「バトルしすぎちゃう?」

「いや、なんだろう。なんか、お風呂入ってる時とか、すごい視線を感じるんだよね」

「………いやいや、それ絶対あかん奴やん!ストーカーにでもひっつかれたんとちゃうんか!?」

「………むーーー別に人の気配は感じないんだけどなぁ、」

 

 

その直後、司が椎名達の教室へと入ってきた。大体1週間ぶりくらいだったろうか。椎名も司に気づく。

 

 

「あっ!司!久しぶり〜〜!この間急にいなくなったから心配したんだよ!?」

 

 

司は黙って椎名の前に立つと影技の言葉を思い出しながら彼女の着ている制服を、いや、彼女の全身をジロジロと見渡す。

 

 

(…着痩せするタイプ。ねぇ………)

「?」

 

 

不思議そうな顔をされながら観察される椎名は頭にはてなの字を浮かべる。そして司はようやく口を開く。たが、それは椎名や真夏にとっては全く通じない言葉であって、

 

 

「……めざし、お前、俺に感謝しろよ」

「はぁ!?」

「じゃあな」

「おいおいおい!どう言うこと!?」

「………あいつも結構謎い奴やな」

 

 

司はそれだけ言い残して、その場を離れて言った。椎名は何が何だかわからなかった。一体何を感謝すればいいのだと。

 

 

「やぁ、司、どう?頭は冷えたかい?」

 

 

渡り廊下でばったり会うのは幼馴染の雅治。司がここに再び帰ってきたということは、5年ぶりに悩みが消えたということだ。雅治は当然それを理解していた。幼馴染だから。

 

 

「……まぁな」

 

 

自分に足りなかったのは、いや、忘れていたものは、バトルを楽しむ心意気。姉がいなくなった事により損失していたこの感情は、今回の件を機に、その本心を5年ぶりに取り戻したのだった。

 

それと同時に椎名のことも認めた。あいつは強い。と。だが、次に戦う時は必ず負けない。【朱雀】と【赤羽】の名にかけて次は必ず倒すと心に決めた。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【ネフェルティモン】!!」


「ネフェルティモンはアーマー体にしては珍しく、成熟期から進化できるよ!ライフを回復したり、相手のブロックを通り抜ける効果を持ってる強力なアーマー体!!……そう言えば。司のやつ、一体何が言いたかったんだろう?」




最後までお読みくださり、ありがとうございます!
今日出てきた影技が誰かわかった人はすごいです!


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第7話「VSアイドルバトラー!流星を止めろ!」







 

 

 

 

 

 

 

 

とある日の平日。椎名はいつものように真夏とおしゃべりをして楽しんでいた。だが、今日の真夏は少し様子がおかしくて、

 

 

「なぁ!椎名!今度の休日、暇やったら輝夫様のライブ観に行かへん?」

「てる、らい、………なに?」

 

 

訳のわからないワードに頭を抱える椎名。それを見越したように真夏が説明を入れていく。

 

 

「輝夫様って言ったら【模手最 輝夫(もても てるお)】様に決まってるやないかぁ!………あのミカファール校卒のアイドルバトラー、歌って踊れて、バトルも超一流の最近話題の時の人や!」

「へ、へー、アイドルバトラー………ね」

「チケット買ったから一緒に行こうや!」

 

 

アイドルバトラーとは、真夏の言う通り、歌って踊れて、バトルも超一流のカードバトラーのこと。模手最輝夫はついこの間ブレイクしたてだが、その中でもトップに君臨する存在だった。

 

ちなみに、彼の母校であるミカファール校とは、界放市にある6つのバトスピ学園の1つで、プロのバトラーは当然のこと、アイドルバトラーまで目指せる珍しい学園だった。

 

椎名は田舎出身ということもあって、なかなか異性に対する考え方が歳相応にできていない。そもそもライブがなにをするのかもわからないのだ。

 

だが、親友が折角自分のためにチケットと言うものを買って着てくれたのだ。椎名としてもいかないという手はなかった。

 

 

 

******

 

 

 

そして時は経ち、一番近い休日。椎名と真夏は界放市にある大きなスタジアムの観客席に腰掛け、その模手最輝夫の登場を待っていた。余程人気があるのか、観客席はほぼ満員だった。

 

 

「お、おお、……広い…!」

「せやろせやろ!ここで輝夫様が歌うんよ〜!」

 

 

ここまで広い建物に入ったのは初めてだった椎名は妙に興奮が収まらなかった。こんな広い場所でたった一人で歌うのも結構きついだろうとも考えていたが、

 

 

(………なんだろうこの臭い、ちょっと嫌かも)

 

 

椎名はこの広いスタジアムに入ってから妙な臭いを嗅ぎ付けていた。それは少し鼻を刺すような嫌な臭いだった。真夏はこの臭いを嗅いでも平気なのだろうか。いつもなら「なんなん?この臭い!?臭いわぁ!」とか言いそうなのに。

 

 

「てか、なんや、あれ!?」

「ん?……わ!すごい!……悪の組織?」

「な訳あるか!」

 

 

2人が見つけたのは、会場中に充満している臭いを嗅ぎたくないからか、ガスマスクを着用している女性。地味な茶色いコートも着ている。雰囲気や佇まいで椎名や真夏よりかはずっと歳上の女性である事が示唆される。椎名が悪の組織と例えるのも無理ないだろう。

 

ただ、やはりそのガスマスクのせいで悪目立ちしているのは確かな事であって、

 

 

「世の中いろんな人がいるんやな」

「不思議だね」

 

 

少々気になるが、あまり話しかけれるような雰囲気をなるわけもなく、2人はその怪しげな女性を見なかった事にするように目を背けた。

 

ーそんな時、嵐が巻き起こる。それはこのスタジアムを訪れたほとんどの観客たちが待ち望んでいる事であって、

 

 

「え!?なに?……真っ暗!」

「……くるでぇ!」

 

 

突如ほとんどの照明が消え、ステージの一点だけとなる。そして、そこに照らし出されていたのは、絶世の美男子、模手最輝夫だった。

 

 

「はーーあぁい!レディ達!待っててくれてセンキュー!」

 

 

ただその一言だけで騒音に近い黄色い声がスタジアムを駆け巡る。真夏も同様にその声を送るが、椎名だけはうるさ過ぎて思わず耳を手で覆いかぶせていた。

 

模手最輝夫は確かに誰が見ても美男子と言える容姿だった。ファンが多い訳だろう。

 

 

「あれが、アイドルバトラー?」

「せやせや!かっこええやろ?」

「ははっ、そだね」

 

 

苦笑いする椎名。何故だか、今日は、いや、この間から真夏の様子がおかしい気もしていた。この模手最輝夫と言う男にハマってからか、このスタジアムの異臭からかは定かではないが、いつもの真夏ではない。椎名はそんな気がしていたのだ。

 

模手最輝夫はその後も、アイドルらしくファンサービスを続け、歌って踊った。正直歌はあんまりうまいとは言えないが。アイドルバトラーで、イケメンだったらなんでもセーフなのだろう。

 

 

(ん?あの娘、……あれが効いていないのか?)

 

 

模手最輝夫は歌って踊りながら、スタジアムの観客席で自分に興味なさそうな目をしている椎名を目撃してしまう。他の女性はほとんど目をハートのようにしてこちらを見ていると言うのに。

 

椎名自身も最初こそ広いスタジアムで、妙に興奮していたものの、正直そこまでアイドルというものに興味がなかったため、内心早く帰りたかった。

 

そして、歌や、ダンスを全部やりきった模手最は、マイクを手に持ち、本日のスペシャルなイベントのことを語らい出す。本当はそんなものはないのだが、

 

 

「よし!レディ達!今日のメインイベントだ!…………今からこのスタジアムで選ばれたレディが、この俺とバトルすることができるぜぇ!!」

 

 

模手最がマイクを使って、テンションを上げらがらそう言うと、観客席の方達も、また熱が入ったように盛り上がりを見せる。あのアイドルバトラーの模手最輝夫とバトルスピリッツができるのだ。ファンは涎ものだろう。

 

椎名もバトルができると聞いて少し反応するが、この人数だ。まさか選ばれるとは思えなかった。だが、奇跡は起こる。

 

 

「俺とバトルするのは…………君だ!」

 

 

模手最が何処かへ指を刺すと同時に、天空から差し込んでくる一筋の光は瞬く間に椎名を照らし出した。椎名は最初何が起こったのか全くわからなかった。ただ、急に眩しくなって、周りの視線が一気に集まったのを感じた。

 

 

「ん?なにこれ」

「あんた選ばれたんよ!凄いやん!羨ましいわ〜!」

「ええ!?なに、バトルできるの?」

 

 

そう言うと椎名は広いスタジアムを素早く降りて、模手最と同じステージに立った。まさかこの人数で選ばれるとは思ってもいなかったが、実はこれはランダムではなく、模手最が選んだことであり、

 

 

「さぁ!レディ!いや、キュートガール!俺とバトルだ!」

「きゅっ?…なに?………まぁいいや、芽座椎名って言います!歌と踊りは苦手だけど、バトルは得意だよ!」

(ふふ、これで君も僕の虜になるのさ)

 

 

周りには爽やかな笑顔を見せつつ、心の中で本性を現す模手最。

 

模手最は学生の頃から、地球上の全ての女性をものにすると言う目標があった。椎名が観客席で全く興味がなさそうな顔をしていたため、無理にでも自分に目を向けさせたかったのだ。つまりは自分のバトルの腕を見せつけ椎名を惚れさせようと言う魂胆だ。

 

椎名はそんなことはつゆ知らず、Bパッドを展開し、バトルの準備を進めていた。椎名にとってはつまらないイベントから急に楽しいイベントに早変わりしたのだ。しかも相手はバトスピ学園の卒業者。真夏も超一流と言っていたし、強者だろうと容易に推測ができた。より楽しみになる。「キュートガール」とまた妙な渾名を付けられたのは少々気になったが、

 

 

「よし!行くぜ!キュートガール!」

「はい!よろしくお願いします!」

「「ゲートオープン界放!!」」

 

 

ステージでのバトルは華やかだ。界放の宣言をすると、まるで花火がその場で散るようにフィールドを形成していく。流石はアイドルバトラーと言ったところか、何をやらせるにしても派手だ。

 

ーバトルの先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!ブイモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名の第一手、彼女の足元から額にブイの字が刻まれている青き竜、ブイモンが元気に盤面へと飛び出してくる。

 

 

「召喚時効果発揮!……カードをオープン!」

オープンカード

【ライドラモン】○

【風盾の守護者トビマル】×

 

 

効果は成功。アーマー体のライドラモンのカードが椎名の手札に加わった。

 

 

「よし!ライドラモンを手札に加えて、ターンエンド!」

手札4⇨5

 

ブイモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

先行の第1ターンなどやれる事は限られる。椎名はターンを終えた。

 

 

[ターン02]模手最

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!俺はミノタコルスをLV1で召喚するよ!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

模手最が初めて場に呼び出したのは、牛頭で槍を携えた青のスピリット、ミノタコルス。低コストのスピリットだが、たったこれだけの行いで、黄色い声援が送られる。これもトップアイドルバトラー故か。

 

 

「アタックステップ、ミノタコルスでアタック!」

 

「ライフで受ける!…………痛っ!!」

ライフ5⇨4

 

 

早速ミノタコルスに指示を送り、アタックさせる模手最。BPが低いブイモンをブロックさせるわけもなく、椎名は自分のライフを差し出す。ミノタコルスはその槍で椎名のライフを一突きで1つ貫いてみせた。

 

椎名はいつもよりバトルでの痛みを強く感じる。

 

 

「いった〜〜〜、なんだ!?」

「それは愛の痛み!……君が俺に心を奪われている証拠さ!」

「愛?」

 

 

手持ち無沙汰な右手をスナップさせながら、キザな言い回しをする模手最。椎名にはまるで意味が伝わらずその顔をキョトンとさせていた。

 

 

「ターンエンド……さぁ!キュートガールのターンだ!」

ミノタコルスLV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト無

 

 

別に気にするほどの痛みでもないため、椎名はそのままバトルを続行する。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「よし!メインステップ!ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払って、青き稲妻!ライドラモンを召喚!」

リザーブ5⇨4

トラッシュ0⇨1

 

 

ブイモンの頭上に投下されるのは、黒くて独特な形をした卵。それはブイモンと衝突し、混ざり合い、進化する。青き稲妻を迸らせるアーマー体スピリット、ライドラモンが召喚された。

 

 

「召喚時にコアを2つトラッシュへ!」

トラッシュ1⇨3

 

 

ライドラモンが放つ雷が、椎名のトラッシュへと落ち、ボイドからの恵みを与えた。

 

 

「そして、ブイモンを再び召喚!」

手札6⇨5

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨5

 

 

椎名の場に、【アーマー進化】の効果で手札に戻っていったブイモンが再び姿を見せた。

 

 

「ブイモンの召喚時!…カードオープン!」

オープンカード

【風盾の守護者トビマル】×

【フレイドラモン】○

 

 

効果の発揮は成功。椎名はフレイドラモンのカードを手札に加える。

 

 

「よし!アタックステップだ!ブイモンと、ライドラモンでアタック!」

手札5⇨6

 

「どっちもライフで受けるよ!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

ブイモンと、ライドラモンによる高速の体当たりが、模手最のライフを1つずつ破壊した。ライフを割った瞬間にとても濃度の高い黄色い声援が、椎名に対するブーイングへと様変わりする。完全に椎名はアウェイだった。

 

 

「ターンエンド!」

ブイモンLV1(1)BP2000(疲労)

ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

だが、椎名は特にアウェイになっているのを気にしたりはしない。いや、目の前のバトルに夢中になりすぎて、それを感じていないだけか、

 

 

[ターン04]模手最

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

ミノタコルス(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!……バーストを伏せて、ミノタコルスをLV2へアップ!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨5

ミノタコルスLV1⇨2

 

 

模手最の場にバーストが伏せられると同時に、ミノタコルスの力が上昇する。

 

 

「アタックステップ!いけ!ミノタコルス!」

 

 

再びミノタコルスでアタックさせる模手最。この行為は一見無駄に見える。何故なら椎名の手札には今、フレイドラモンのカードがあるからだ。

 

 

「フラッシュタイミング!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払って、炎燃ゆるスピリット、フレイドラモンを召喚!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ5⇨6

 

 

ブイモンに炎の文様が刻まれた卵が頭上に投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化する。熱き炎の竜人スピリット、フレイドラモンが召喚された。これで椎名のデッキの2大エースが揃う。

 

 

「フレイドラモンの召喚時!相手のBP7000以下の相手のスピリット1体を破壊!ミノタコルスだ!……爆炎の拳!ナックルファイア!」

「……!!……ミノタコルス!」

 

 

フレイドラモンの炎の鉄拳が、BP5000のミノタコルスを襲う。ミノタコルスはなすすべなくそのまま破壊されてしまう。

 

 

「そして、カードを1枚ドロー!」

手札6⇨7

 

「………なかなかやるね、キュートガール、俺はこれでターンエンドさ!」

 

バースト有

 

 

 

盤面のカードをバースト以外空にされてしまう模手最。だが、これは作戦のうち、フレイドラモンが見えた時点でそうする予定だった。他のスピリットをまともに召喚してしまえば、間違いなくフレイドラモンの餌食になるため、あえて召喚はせずに、ミノタコルスを犠牲にしたのだ。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札7⇨8

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨7

トラッシュ6⇨0

ライドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ガンナー・ハスキーを3体と、猪人ボアボア!ブイモンを召喚!」

手札8⇨3

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名はトドメを刺すべく、手札に溜めていたスピリット達を一気に展開。見た目は犬だが、拳銃を持つために青い腕を背中に生やしたスピリット、ガンナー・ハスキーが3体と、鎖付き鉄球を振り回す猪頭のスピリット、ボアボア。そして、ブイモンが召喚された。

 

 

「さらに、バーストをセット!」

手札3⇨2

 

 

最後に椎名はバーストを念入りに伏せて、アタックステップへと移行していく。

 

 

「アタックステップ!……これで決まりだ!ボアボアでアタック!効果でLVを上げつつ、コアブースト!」

猪人ボアボアLV1⇨2(1⇨2)

 

 

猪人ボアボアが手持ちの鎖付き鉄球を振り回す。ボアボアだけでない、他の7体のスピリット達も今にも模手最を攻撃しようと戦闘態勢に入っていた。

 

だが、やはり学園の卒業生か、一筋縄ではいかない。模手最はこのタイミングであるカードを手札から引き抜く。

 

 

「フラッシュタイミング!マジック!スプラッシュザッパーを使用!この効果でコスト7以下のスピリット3体を破壊!……俺が選ぶのはブイモン、ライドラモン、フレイドラモンの3体だ!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨2

トラッシュ0⇨6

 

「なにぃ!?」

 

 

鋭い水の斬撃が指定された3体を襲う。ブイモン、ライドラモン、フレイドラモンは耐えきれずに爆発してしまう。

 

スプラッシュザッパーは、大きなコストのマジックだが、決まれば最大で3体のスピリットを破壊できる強力なマジックだ。椎名のデッキはコスト7以上のスピリットが存在しないため、このカードの影響はどうしてももろに受けてしまう。

 

 

「くっ!…だけど、ボアボアのアタックは継続だよ!いけ!ボアボア!」

 

「ライフで受けよう!」

ライフ3⇨2

 

 

ボアボアの鉄球が模手最のライフを砕く。だが、これも模手最の計算通り、伏せられているバーストが勢いよく開かれていく。

 

 

「ライフの減少でバースト発動!雷神轟招来!4以下の数字を指定し、指定された相手のコストのスピリットを全て破壊する!……俺は2を指定!」

「2!?てことは……ガンナー・ハスキー達か!?」

 

 

ガンナー・ハスキー達に、落雷が落とされる。指定されたコストの対象内の彼らは当然耐えられずに破壊されてしまった。

 

この2大マジックで、椎名の場に残ったのは猪人ボアボアだけとなってしまう。椎名は攻め手どころか守り手すら失ってしまった。

 

 

「くっそ〜、このターンで決めれると思ったのに、…ターンエンド」

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

 

バースト有

 

 

[ターン06]模手最

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨10

トラッシュ6⇨0

 

 

「さぁ!このターンがショウタイムだ!」

「……!!」

 

 

さっきまでとは何か違う雰囲気を漂わせる模手最。椎名はより一層警戒心を強くする。ファンの人達はまるでこの時を待っていたかのように拍手や、光る棒みたいな物や、団扇を振っていた。

 

 

「先ずは下準備!チャコペッカと獣士オセロットを召喚!」

手札4⇨2

リザーブ10⇨8

 

 

先ず模手最が召喚したのは猪のようなスピリット、チャコペッカと、巨大な斧を振りかざす虎のようなスピリット、獣士オセロット。

 

 

「さらに、マジック!湧力招海をソウルコアを使って使用する!手札を2枚ドローし、1枚捨て、【連鎖】の効果を持つスピリット、猪人ボアボアを破壊する!」

手札2⇨1⇨3⇨2

リザーブ8s⇨7

トラッシュ0⇨1s

 

「…!!……ボアボアまで、」

 

 

模手最は手札を入れ替えると同時に、ボアボアまで破壊してくる。ボアボアは地面から現れる謎の青き力によって沈められてしまう。これで椎名の場にはバーストのみとなった。

 

しかも、ここで模手最に狙い通りのカードを引かれた。

 

 

「ハッハッハ!やはり来てくれたね!……次に俺はアルティメットカード、アルティメット・エルギニアスをLV3召喚!」

手札2⇨1

リザーブ7⇨5

トラッシュ1s⇨2s

 

 

模手最は勢いよくBパッドにカードを叩きつける。そして金色の鱗粉を振り払い、青の牛型のアルティメット。アルティメット・エルギニアスが召喚される。

 

 

「……!!…アルティメット!……すごい!」

 

 

アルティメットとは、スピリットとはまた違う別次元の存在。それらは完全にスピリットを超越しており、LVも3からスタートし、スピリットのみを対象とした効果は一切受け付けない。ただし、召喚条件などのデメリットも多数存在する。

 

 

「そう、アルティメットだ。だけど、これだけじゃない!エルギニアスなど、ただのバックダンサーさ!……さらに召喚する!来い!流星の如く!アルティメット・ドライアンをLV4で召喚!獣士オセロットの【スピリットソウル:青】により、最大軽減して、支払うコストは3!」

手札1⇨0

リザーブ5⇨0

トラッシュ2s⇨4s

 

 

【スピリットソウル】はアルティメットの召喚を手助けするスピリットの効果。アルティメットを召喚する際に指定された色のシンボルを1つ増やす効果を持っている。

 

流星の如く降り注いでくるのは金色の鱗粉を纏った青き竜。その勇ましい4本足で着地し、その鱗粉を咆哮と共に弾け飛ばす。

 

アルティメット・ドライアンはアルティメットの中でもかなり強力な部類のカードだ。このアルティメットの登場で、観客のファン達はより一層盛り上がる。そして、椎名もまた、

 

 

「すごい!かっこいい!!」

「だろ?俺の美貌……は」

「アルティメット・ドライアン!」

(そっちか………何故だ、何故、この娘は俺の美貌の虜にならない!?…薬は効いてないのか!?)

 

 

模手最は悔しさを表すかのように歯をを噛み締めながらアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップだ!いけ!アルティメット・ドライアン!アタック時の【WU(ダブルアルティメット)トリガー】ロックオン!」

 

 

アルティメット・ドライアンが走り出すと同時に、模手最は、自分の手を指鉄砲のように曲げ、それを椎名のデッキに向ける。すると、椎名のデッキから2枚のカードが弾け飛んだ。

 

 

「……アルティメットトリガーの効果か!」

 

 

アルティメットトリガーとは、アルティメットだけが持つ特有の効果。相手のデッキをトラッシュに送り、そのコストが発揮したアルティメットより下の場合はヒットし、その強力な効果を使用できるのだ。アルティメット・ドライアンはその中でも特に特別なダブルアルティメットトリガー。つまり2枚のカードをめくれる効果を持っていた。

 

 

「さぁ!コストはなんだい?」

「コスト4の鎧殼竜グラウン・ギラスと、コスト3の風盾の守護者トビマル」

 

「ダブルヒット!……効果により、アルティメット・ドライアンはLVが2つ上がり、6になる。さらに、ダブルヒットならば、アルティメット・ドライアンは回復する!」

アルティメット・ドライアンLV4⇨6(疲労⇨回復)

 

「え!?…回復!?」

 

 

アルティメット・ドライアンは最大LVの6になると同時に、疲労状態から回復状態となる。アルティメット・ドライアンのBPはこれで28000。椎名のデッキのスピリット達では到底追いつけないものとなってしまう。

 

 

(あれ、あいつのコスト7だよね?……これってやばいかも)

 

 

椎名は気づいてしまう。アルティメット・ドライアンと、自分のデッキの相性の悪さを。それは言ってしまあば、アルティメット・ドライアンは椎名が相手だと、ずっとアタックができてしまうのだ。

 

何故なら椎名のデッキにはコストが7以上のカードはないからだ。アルティメットトリガーはガードするためにはコストがそれより同じ以上でなければならない。

 

だけれども、まだ椎名にも対策はある。

 

 

「アタックはライフで受ける!……うわぁ!」

ライフ4⇨3

 

 

アルティメット・ドライアンの高速の爪撃が、椎名のライフを砕いた。椎名はまたいつも以上の痛みを感じる。そもそもこれは立体映像だ。普通は痛みなどはない。あまりのリアルさに、脳が錯覚して思わず叫びたくなる時はあるが、普通の痛みなどは来ないはずだ。

 

だが、椎名は全くそんなことは気にしていない。それは彼女が無頼のバトスピ馬鹿であるからと言う以外の理由はありえない。椎名はそれすらも錯覚だと認識していた。

 

ー条件が整ったバーストが勢いよく開かれる。

 

 

「ライフの減少により、バースト発動!No.26キャピタルキャピタル!効果によりこれを配置!」

「………!!」

 

 

椎名の場に、空中に浮かぶ都市が出現する。それは模手最のフィールド全体に影響を及ぼすものであって、

 

 

「キャピタルキャピタルがあるとき、相手はソウルコアが置かれていないスピリット、又はアルティメットでアタックする時は、リザーブのコアを1つ支払わないといけない!」

「ぐっ!………今の俺のリザーブはゼロ。ソウルコアはトラッシュにある」

 

 

模手最のソウルコアはさっきのメインステップ時に使用した青のマジック、湧力招海のコストに使われたため、このターンは使えない。

 

つまり、模手最はこのターン、これ以上のアタックはできなくなってしまった。決めるターンに決めることができなかった悔しさを感じながら彼はそのターンを終了させた。

 

 

「……ターンエンド」

チャコペッカLV1(1)BP1000(回復)

獣士オセロットLV1(1)BP1000(回復)

アルティメット・エルギニアスLV3(1)BP5000(回復)

アルティメット・ドライアンLV4(2)BP17000(回復)

 

バースト無

 

 

奇跡的に凌ぐ椎名。だが、次でなんとかしなければ、負けるのは必至だ。たった1枚のキャピタルキャピタルなど、一回きりの噛ませに過ぎない。

 

 

「ふぅっーー!!……助かったよ!王女さん!」

 

 

椎名はキャピタルキャピタルの元々の主に感謝する。割とノーガードになりがちな自分のデッキとは意外と相性が良かった。

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ10⇨11

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ11⇨14

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!いいの引いたよ!先ずは、キャピタルキャピタルにソウルコアを置いて、よし!……頼むよ!ワームモンをLV3で召喚!」

手札3⇨2

リザーブ14s⇨6

No.キャピタルキャピタル(0⇨1s)

トラッシュ0⇨2

 

 

キャピタルキャピタルにソウルコアが置かれる。これで効果が倍増するようになる。そして、椎名が呼び出したのは新たなるスピリット、芋虫のような外見だが、とても可愛らしい、緑の成長期スピリット、ワームモン。

 

だが、その姿を目にした途端、模手最は背筋が凍りつくように震え上がる。とても体が痒くなってくる。彼は虫が大の苦手なのだ。

 

 

「な!?……虫!?……キモっ!!」

「キモいとか言うな!ワームモンをなめたら痛い目にあうよ!」

「そんなのにこの俺様がやられるわけないだろ!!」

 

 

模手最は椎名が思ったよりも強かった事や、苦手な虫の登場により、いつものペースを崩されつつあった。口調も心の中に潜むものへと変わってきている。

 

椎名はここで、ワームモンの召喚時の効果を使用する。これは運命の分かれ道。これでいいものが引けるかに全てが決まる。

 

 

「ワームモンの召喚時効果!デッキから2枚のカードをオープンし、その中の「完全体」、「究極体」を手札に加える!……お願い私のデッキ!!」

オープンカード

【ニードルライド】×

【チェイスライド】×

 

 

勢いよく捲るが、これらはスピリットですらない。当然トラッシュへと破棄される。だが、この2枚はこの状況では最強にして最高のカード達であって、

 

 

「ハッハッハ!残念だったな!次で俺の勝ちだ!」

「いや、これでいい。そもそも私のデッキに完全体も究極体も入ってはいない」

「なに!?」

 

 

それならば単純にデッキを削っただけだ。もっと言えば、ワームモンなんていうカード自体、入れる価値がないようにも思える。だが、それはこのターンのエンドステップにわかることであって、

 

椎名はさらにターンシークエンスを進めてアタックステップへと移行する。この時にワームモンの第2の効果が発揮される。

 

 

「アタックステップ!その開始時にワームモンの【進化:緑】を発揮!ワームモンは幼虫から蛹となり、成虫へと進化を果たす!成熟期のスピリット、スティングモンを召喚!LVは3だ!」

 

 

ワームモンにデジタルのベルトが巻かれていき、姿形を変えていく。そして、新たに現れたのは、スマートな人のような姿をした昆虫型スピリット、成熟期のスティングモンが召喚された。

 

 

「い、芋虫が、成虫に!?」

 

「スティングモンの召喚時、及びアタック時の効果で、ボイドからコアを1つスティングモンの上に置く!」

スティングモン(5⇨6)

 

 

スティングモンにコアの恵みが送られる。だが、いくら頑張ったところで、スティングモンのBPは10000。模手最のアルティメット・ドライアンには勝てない。椎名はアタックステップをそのまま終了させてエンドステップへと移行する。

 

 

「エンドステップ!トラッシュに送られた、ニードルライドと、チェイスライドの効果を発揮!この2枚はエンドステップ時にトラッシュから私の手札へと舞い戻ってくる!」

手札2⇨4

 

「なに!?……そういうことだったのかっ!」

 

 

椎名の手札にトラッシュから新たに2枚のカードが追加される。椎名の狙いはこの効果を使うことであった。それでも2枚中2枚を当てるのは流石と言ったとこか。

 

 

「これで正真正銘!ターンエンドだよ!」

スティングモンLV3(6)BP10000(回復)

 

No.26キャピタルキャピタルLV1(1s)

 

バースト無

 

 

「くっ!だが、所詮はBP10000の雑魚だ!アルティメット・ドライアンで討ち取ってやる!」

 

 

[ターン08]模手最

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札0⇨1

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!アルティメット・ドライアンにソウルコアを追加し、アルティメット・エルギニアスをLV4にアップさせる!」

リザーブ6s⇨3

アルティメット・ドライアン(2⇨3s)

アルティメット・エルギニアス(1⇨3)LV3⇨4

 

 

アルティメット・ドライアンにソウルコアが置かれる。これでこのアルティメットだけは椎名のキャピタルキャピタルの効果を受け付けなくなる。

 

 

「アタックステップ!アルティメット・ドライアンでアタック!【WUトリガー】ロックオン!」

「………コストは3と、4……ブイモンと、エクスブイモンのカードだ」

 

「なら、ダブルヒット!ドライアンは回復しつつ、LVを6、BP28000へとアップさせる!」

アルティメット・ドライアンLV4⇨6(疲労⇨回復)

 

 

どうやってもヒットは防げない。椎名のデッキではアルティメット・ドライアンは必ず回復してしまう。だが、ここで椎名が呼び起こした奇跡のカードが光輝く。

 

 

「フラッシュタイミング!マジック!ニードルライド!系統に殼人を持つスピリット1体をBP+3000、それをスティングモンに与える!さらに、アルティメットとバトルするならBP+7000を追加で加える!…………そして、スティングモンでブロック!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨4

トラッシュ2⇨4

スティングモンBP10000⇨13000⇨20000

 

 

緑のマジック、ニードルライドは、椎名のデッキにとっては殼人を持つスティングモン専用のマジック。アルティメットとバトルするならBPを合計10000上昇させる効果を発揮する。だが、

 

 

「足りないな!BP28000だと聞こえなかったのか!!!やれ!ドライアン!」

 

 

流星の如くの高速移動で、スティングモンを捉え、一気に爪や牙の一撃でそれを破壊しようとするアルティメット・ドライアン。そして、それは一瞬のうちに通り過ぎるかのようにスティングモンを砕き、破壊。…………したかに思われた。

 

 

「な、なに!?」

 

 

なんと、砕けていたのはスティングモンではなく、ドライアンの爪や牙。スティングモンはかすり傷1つとしてついてはいなかった。アルティメット・ドライアンは地面へと落ちていく自分の牙を目で追いつつ、とても驚いていた。

 

 

「なぜだ!BPはこっちの方が8000も上なんだぞ!」

 

 

訴えるように怒鳴る模手最。だが、スティングモンはちゃんと正当な理由でアルティメット・ドライアンを超えていた。

 

 

「私はもう一枚のニードルライドを発揮してたんだ、これで、スティングモンのBPはさらに10000上昇して、」

手札3⇨2

リザーブ4⇨2

トラッシュ4⇨6

スティングモンBP20000⇨23000⇨30000

 

「び、BP、……30000だとぉ!?」

 

 

椎名は咄嗟に、元々持っていたもう一枚のニードルライドを使ったのだ。これでスティングモンはBP30000となり、逆にアルティメット・ドライアンを砕いてみせたのだ。

 

 

「そこだ!スティングモン!………スパァァイキィィング、フィニィッシュ!!」

 

 

スティングモンは自分の背後に回ってきたアルティメット・ドライアンを捉えて、自身の拳を叩き込む。するとそれには猛毒が仕込まれていたのか、アルティメット・ドライアンは破裂するように爆発した。

 

 

「う、嘘だ、この俺のアルティメットが、………いや、まだだ。破壊された時に置かれるコアを使えば……よぉし、」

 

 

アルティメット・ドライアンの破壊によって増えたリザーブのコア。模手最はこれを使って、椎名のキャピタルキャピタルをすり抜ける作戦へと切り替えてきた。

 

 

「アルティメット・エルギニアスでアタック!【Uトリガー】ロックオン!」

リザーブ6⇨4

トラッシュ0⇨2

 

「…………私にも運のツキが回ってきたね!コストは3。ワームモンだ!!」

 

 

エルギニアスのコストは僅か3。あまり当たるようなコストではない。だが、既に頭数は十分椎名の残りのライフを破壊するには十分であって、

 

 

「これで終わりだぁぁぁあ!!!美しい俺に見惚れろぉぉぉお!!」

 

 

なかなか自分に見惚れない椎名に、徐々に自分のペースを崩されてきた模手最はとうとう心の奥底から自分の欲を出していく。その顔はアイドルとは思えないほど狂気に満ちている。だが、椎名はその言葉をスルーするように、手札のカードを引き抜いていく。

 

 

「フラッシュタイミング!マジック!チェイスライド!この効果で相手のスピリット1体を疲労させる!獣士オセロットを疲労!」

手札2⇨1

リザーブ2⇨1

トラッシュ6⇨7

 

 

「なっ!?」

獣士オセロット(回復⇨疲労)

 

 

また回収されたカード。今度はチェイスライドが発揮される。この効果によって、オセロットが疲労。これで、頭数が足りなくなる。

 

 

「アタックはライフで受ける!………ぐぅ!……やっぱり痛い」

ライフ3⇨2

 

 

アルティメット・エルギニアスの猪突猛進なアタックが椎名のライフを1つ砕いた。

 

 

「た、ターンエンド……だ」

チャコペッカLV1(1)BP1000(回復)

獣士オセロットLV1(1)BP1000(疲労)

アルティメット・エルギニアスLV4(3)BP7000(疲労)

 

バースト無

 

 

現在。模手最の残った手札1枚は防御札ではない。ライフは残り2つ。椎名の残った手札にはワームモンが必ずあるため、次のターンで椎名がドローステップでスピリットを引けば、このバトルの勝者は椎名となるのだ。

 

 

[ターン09]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨10

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!ワームモンをLV3で召喚して、アタックステップだ!」

手札2⇨1

リザーブ10⇨4

トラッシュ0⇨1

 

 

椎名のフィールドに、ワームモンが再び現れるが、それ以上のスピリットは出ることはなかった。

 

 

(……!!……スピリットを引けなかったか!)

 

 

模手最は内心で大喜びする。椎名はここで決められなかったら、流石に負けるだろう。

 

 

「スティングモンでアタック!」

スティングモン(6⇨7)

 

「ライフで受ける!」

ライフ2⇨1

 

 

スティングモンの拳が、模手最のライフを1つ砕いた。後1つだが、模手最の場にはまだ回復状態のチャコペッカが残っており、

 

 

「ワームモン!アタックだ!」

「無駄だ!チャコペッカでブロック!」

 

 

BPではワームモンが上。だが、ブロックされてはライフを減らすことはできない。模手最が勝利を確信したその時だった。

 

 

「フラッシュタイミング!マジック!ワイルドライド!効果の対象はワームモンだ!」

手札1⇨0

リザーブ4⇨3

トラッシュ1⇨2

ワームモンBP6000⇨9000

 

「!?!!」

「ワイルドライドは、このターンの間、指定したスピリットがBPを比べて相手のスピリットだけを破壊した時、そのスピリットを回復させる効果も与える!!」

「な!?!!」

 

 

ワームモンの体当たりがチャコペッカを吹き飛ばす。チャコペッカはあえなく破壊されてしまった。そして、ワイルドライドに与えられた効果が発揮される。

 

 

「バトルに勝利したワームモンを回復!」

ワームモン(疲労⇨回復)

 

 

ワームモンが緑の風を受け、疲労から起き上がる。そして、

 

 

「最後のアタックだ!いけ!ワームモン!!……その名を指し示せ!!!」

 

 

ワームモンが体当たりするように飛び込んでいく。模手最は苦手な虫が飛び込んでくることに恐怖を覚える。人型に近いスティングモンはまだしも、ほぼ芋虫に近いワームモンは嫌だったのだろう。

 

 

「う、うわぁぁぁあ!!虫は無理なんだってばぁぁぁあ!!」

ライフ1⇨0

 

 

そのまま直撃し、最後のライフを砕いてみせた。これでこのバトルの勝者は椎名。見事バトスピ学園の卒業生を討ち取ってみせた。

 

 

「よし!私の勝ち!!」

 

 

ガッツポーズで勝利を噛みしめる椎名。スティングモンとワームモンも勝鬨をあげる。模手最はまさかの敗北にショックを受け、肩から崩れ落ちていく。

 

 

「くそっ!なぜだ!なぜあのキュートガールはこの俺に惚れないんだ!…………なぜ、薬が効かない!?!」

「さっきからその惚れるとか惚れないとか、なに?」

「………そこまでよ!模手最輝夫!!」

「「!!」」

 

 

椎名と模手最は声のする方へと目を向ける。声の主は、ガスマスクを着用していたあの謎の女性だ。

 

 

「あ、さっきの」

「なんだあんたは!」

「あら、『そこまでよ』と言ったはずよ」

 

 

女性がそう言い終わると、スタジアムの端から端までの隅々から厳つい警官達がわらわらと何人も飛び出してくる。それは瞬く間に模手最を持ち上げ、連れ去ろうとする。ファンのブーイングなど、誰もまるで気にするそぶりすら見せずに。

 

 

「おい!なにすんだ!むさ苦しいオス共め!この俺を誰だと思っている!!世界の美男子、模手最輝夫様だぞ!!」

 

 

そう言いながらも、模手最は大勢の警官達に上に持ち上げられながら、このスタジアムを去っていった。椎名は顔をキョトンとさせていた。一瞬すぎて一体何が起こったのかさっぱりわからなかったのだ。

 

 

「ありがとう!お嬢さん、お陰さまで、模手最を逮捕できたわ!」

 

 

舞台に立っている椎名のところまで赴き、ガスマスクを外しながらそう言う女性。声から予測できた通り、見た目はだいぶ若く見えるものの、アラフォーと言った感じの女性だ。

 

 

「はぁ、……模手最って人、何か悪いことでもやったんですか?」

「奴は、女性の人気を確保したいがために、薬に手を出したのよ、貴女は効いてなかったみたいだからわかるでしょう?あの変な臭い」

「あぁ、あれ、薬だったんだ」

「あれは模手最に釘付けにされてしまう不思議な薬だったのよ」

 

 

模手最は落ちこぼれだった。バトルの腕前は卒業生の中でもそこそこはあったものの、アイドルバトラーとしては顔が整っているだけの半人前だった。

 

そこでその女性が言っていた薬に手を出した。それは自分に少しでもかっこいいと感じれば即ファンとなってしまう。変だが、危ない薬。顔は整っている模手最にとっては相性が抜群であると言えた。

 

ただ、椎名には一切効き目がなかった。それは彼女が全く彼のことをかっこいいと思わなかったから、椎名は遠い島出身であることや、天真爛漫な性格ゆえに、そう言った感情はあまり、と言うか、全く持ち合わせてはいなかったのだ。

 

そして、それのおかげで、模手最はボロをだし、自分で薬を使っていることを示唆するような台詞を言ってしまっていたのだ。それが証拠となり、結果的に彼の逮捕に繋がった。マスクの女性、いや女警察官や他の警察官はこのように彼がボロを出すのをずっと首を長くして待っていたのだ。

 

 

「申し遅れたわね、私は警視よ!【一木聖子(いちきせいこ)】。よろしくね!ピュアホワイトちゃん」

 

 

聖子は手帳を見せながら、右目だけウィンクし、椎名に名前を名乗った。それとまた妙な渾名もつける。おそらく椎名が純粋な子だと思ってのネーミングだろう。

 

 

「……か、カッコいい!!………私!芽座椎名って言います!よろしく!聖子さん!」

「えぇ、また何かあったらお願いねぇ」

 

 

そう柔らかい声で言い。かっこよく、逞しい背を向けて、無敵の女警察官はこの場を後にした。椎名はまだ知らない。これからもこの女性と関わりを持つことに。正確にはこの女性が追いかけているある事件に関わることになるか、

 

一方で、真夏は薬の効果が切れるのに一週間かかった。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【スティングモン】!!」

「スティングモンは、緑の成熟期スピリット。召喚時とアタック時にコアを1つ置くことができるよ!」






最後までお読みくださりありがとうございます!
後、一応、Twitter初めました。ネットでの会話が苦手な私ですが、フォローしてくださるととても嬉しいです。ネームはいつも通り、バナナの木です。


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第8話「英雄を継ぐ者VS英雄の弟子!炎と炎!」

 

 

 

 

 

「いけぇ!フレイドラモン!……渾身の爆炎!ファイアァァ!ロケット!!」

 

 

第3スタジアムのバトル場で椎名のフレイドラモンが炎を纏い、赤き駿馬、【エグゼシード・ビレフト】に飛び向かっていく。そのエグゼシード・ビレフトを扱っているのは、晴太だ。つまり今は椎名と晴太がバトルしている。

 

この2人がなぜバトルをしているのか、それはほんの30分前に遡る。

 

 

******

 

 

ここは椎名達の教室。授業は終わり、今は放課後。ここからは学生達の自由時間だ。勉強するのも、普通に帰宅するのもあり、スタジアムに向かってバトルをするのも学生の自由だ。

 

そんななか、椎名と真夏はいつものように残ってお喋り。まぁ、普通の女子高生らしいと言えば、らしいが。

 

その内容はこの間の、模手最輝夫の違法薬使用の事件。

 

 

「あぁ!もう!思い出しただけでも腹立つわぁ!ほんまに!!……なんで、あんなのに惚れとったん!?私は!」

「まぁまぁ、薬も抜けたんだし、逮捕されたんだし、もういいじゃん!」

 

 

あのちょっとした事件以後、真夏は模手最に対して怒り狂っていた。薬のせいとは言え、まさかあんなのに惚れていたのは彼女にとって一生の恥だったのだろう。

 

それでも一木聖子のお陰で、ようやく不正がバレ、模手最を現行犯として逮捕できたのだ。椎名の言う通り、水に流しても大丈夫だろう。

 

 

「いやぁ、でも、卒業生ってあんなに強いんだね〜今回は流石に負けたかと思ったよ!」

「あんたはどこまでもどこまでもそれなんやね……………………そう言えば、椎名。あんた、好きな男の子とかおらへんの?」

 

 

真夏が咄嗟に思いついた質問。普通の女子高生なら当たり前にする恋バナだが、椎名がなにぶん普通ではなかったので、そんな話に発展する機会など全くなかった。今回の件でようやくそれっぽい言葉が言えた。

 

 

「ん?好きな男の子?」

「せやせや!なんかこう、メッチャ好き!って感じの奴おらんか?」

「んーーーー、えーーーっと。雅治」

「……………な、なんやとぉぉぉお!?」

 

 

椎名は思い出すように深く考えて答える。意外だった。まさかこの話の内容で雅治が出てくるとは、真夏は思ってもいなかった。雅治の椎名に対する気持ちはとてもわかりやすいため、当然真夏も理解していた。当の本人は全く気づいていないが、……これは雅治にとっても朗報。

 

ーのはずだったが、やはり、椎名は椎名であって、

 

 

「あと、は〜、司、…………くらい?後は兄弟とかか、……意外と少ないなぁ男の子って」

「ん?司?【朱雀】も好きなん?」

「うん!友達だし!」

 

 

真夏は驚いた。椎名は好きの意味を全く理解していなかった。簡単に説明するならば、ライクとラブの違いがわからないと言うことだ。まぁ、椎名自身、本気で恋なんてしたことないのだが。

 

 

「いや、ちゃうちゃう!ちゃうよ!そう言う意味じゃなくてな!……なんか、こう、憧れって言うか、尊敬?みたいな?、…むずいわぁ」

「…憧れ、尊敬、…………あっ!だったら1人いるかも!」

「おっ!誰や!言うて………み?」

 

 

真夏は椎名の幼さからして、本気で恋なんてしたことないと確信していた。そんな椎名が、憧れと、尊敬というワードで導き出した答えは本当に憧れていて、尚且つ尊敬している人物に違いない。そう、真夏は考えた。それならもしかしたらあの人ではないかと、真夏は椎名より先に口を開いてその人物の名を口にする。

 

 

「それって、ひょっとして【一木花火(いちきはなび)】プロのこと?」

 

 

一木花火。現役のプロバトラー。赤属性の使い手で、そのセンスの良さと、実力から、バトルの申し子と呼ばれることもある。もう彼は30近いから、子ではない気もするが。……だが、その若さで【伝説バトラー】に近づきつつあるのは確かなことであった。

 

真夏がそう推理した理由は、椎名がいつもゴーグルを首から提げているから。一木花火のファンは皆、彼の応援をする際は、彼と同じようなゴーグルを首から提げるのだ。

 

ーだが、椎名は、

 

 

「………誰?」

「えぇ!!じゃあ誰やねん!!?」

 

 

思わずずっこける真夏。だけれども、その推理は本当は的中していて、

 

 

「名前は知らないって言うか忘れたんだけど、昔さ、私に生きる力と勇気を与えてくれた人がいてねぇ、その人のかっこいいバトルに憧れて、私は今ここにいるんだ」

 

 

椎名は胸側にあるゴーグルに思いを募らせるようにギュッと握りしめてそう答えた。

 

 

「ふーーーん、てっきり一木プロかと思うたんやけどなぁ……………ちなみにこの人が一木プロやで、ファンの子はみんなあんたみたいにゴーグルつけとる」

「ヘェ〜〜〜これが………………ん?」

 

 

真夏がカバンから取り出したのはバトスピニュースがまとめてある週間冊子。そこには一木花火の活躍している瞬間の写真が一面に大きく載っていた。すぐ横には、彼の長年のエース、かつ、マイフェイバリットのウォーグレイモンも確認できる。

 

椎名はその写真を見て、思わず目を丸くした。そして、思い出した。この顔、ゴーグル、スピリット、…………そしてあの時のうろ覚えになっていた出来事も全て。そうか、この人が一木花火だったのか、と。

 

 

「結構、かっこええやろ!………あっ!そうそう!聞いて驚くなよぉ!なんとな!この人、晴太先生のお義兄さんなんやで!」

 

 

自分の推理が当たっていたことを知らずに椎名にその事実を言ってしまう真夏。それがしばらく続く椎名の暴走の事の発端となることは想像してすらいなかっただろう。

 

 

「………えぇ!!?…………てことは、晴太先生に言えば、この人に会えるの!?!」

「お、おお、どないしたん、急に興奮して………て、おぉぉぉおい!」

 

 

椎名は聞く耳を持たずにすぐさま走り出した。目指すは晴太がいるであろう。職員室だ。

 

 

******

 

 

「晴太先生!!!!」

「うおっ!」

 

 

椎名は勢いよく職員室の扉を開けた。思わず晴太や、作業中の他の先生達は背筋を動かしてしまう。

 

 

「おい、椎名ぁ、職員室はゆっくり開けろよなぁ」

「先生!私、一木花火さんって人に会いたいんです!」

 

 

落ち着きがない椎名は晴太に詰め寄り、目を輝かせながらそう言った。

 

 

「あぁ?花に、…いや、一木プロに会いたい?またなんで急に、……………(そういや、こいつのゴーグル、)」

 

 

思わずハッとなって言葉を詰まらせてしまう晴太。理由は椎名のかけているゴーグルにあった。そのゴーグルは椎名を最初見た時から見覚えがあった。あれは間違いなく一木花火の物だ。幼い頃から彼を見ていた晴太にはわかる。あれは彼の両親が誕生日プレゼントとして渡した一点もののゴーグルだ。今までは単なる偶然だと思っていたが、晴太はこれで確信した。間違いなく花火と椎名には関係性があると。

 

だが、一木プロは今、【イタリアリーグ】に挑戦しているため、呼ぶことは不可能だ。

 

 

「先生、その人の弟なんでしょ!!合わせてよ!」

「ん?弟?………あぁ、義理のな」

「………義理?」

 

 

椎名は義理と聞いて思わずキョトンとしてしまう。そこに真夏が息を切らしながら現れる。ようやく猛ダッシュでかけて行った椎名に追いついた。

 

 

「はぁ、はぁ…………せやで、絶対勘違いしたやろ椎名、晴太先生のお姉さんが、一木プロと結婚したから、先生と一木プロは義理の兄弟なんや、本当の兄弟やないでぇ、て言うか、苗字で別れや」

「あぁ、なるほど、そうだったの、…………いやでも仲良いんでしょ!?合わせてよ!!」

「ちょっ、ちょっ!!止めろ椎名!脳味噌が揺れるぅ!」

 

 

血が繋がってないと理解しても気持ちが収まらない椎名。椅子に腰掛けている晴太の肩を両手で掴み、全力で揺らし、駄々をこねる。晴太はこの暴走列車を止めるために最後の手段に出る。それはいかにもバトスピ学園らしいといった方法であって、

 

 

「わかった、わかったよ!……合わせてやる!」

「本当に!やったぁ!」

「えっ!?先生、今、一木プロって、イタリアリーグに挑戦中なんじゃないんか?」

「その点は俺に任せろ……………ただし、俺にバトルで勝ったらだ!それでいいだろ?」

 

 

そう、それはバトルスピリッツによる勝負だ。『その点は俺に任せろ』と言っているが、無理だ。呼ぶことはできない。つまり、晴太は絶対に負けられない賭けを椎名に持ちかけたのだ。

 

 

「おっ!ちょろいちょろい!望むところだよ!」

 

 

椎名は一度晴太に勝っているためか、自信満々で応答する。そして3人はフリーで対戦できる第3スタジアムへと足を運んだ。

 

 

 

******

 

 

 

早速、椎名と晴太はBパッドを展開させて、バトルの準備を始める。真夏は上の観客席でその光景を眺めていた。

 

 

「……はぁ…なんで、こうなったんやろ」

「…………やぁ、緑坂さん」

「ん?……長峰と、【朱雀】やないか」

 

 

ため息をつく真夏の横に現れたのは雅治と【朱雀】こと、赤羽司。真夏は2人にこの状況をざっくりと説明した。

 

 

「………なるほど、でも、これはなかなか面白いカードだね、入試以来じゃないかな?」

「まぁ、どちらにせよめざしに感謝だな、あの【一木花火の唯一の弟子】と名高い空野晴太の本気をこの目で拝めるんだからな」

 

 

一木花火は教え子などつくらない性分なのだが、晴太だけは彼の弟子だったと言う。その実態は昔から遊んでもらっていただけなのだが、

 

そんなこんなで、全ての準備を完了した2人のバトルが幕を開けようとしていた。

 

 

「いくよ!先生!」

「あぁ、どっからでもかかってこい!」

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

ーバトル場が光の筋で満たされて、バトルが始まる。先行は晴太だ。

 

 

[ターン01]晴太

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、……来い!コレオン!ハクビシンドローン!」

手札5⇨3

リザーブ4⇨2

 

 

晴太が颯爽と召喚させたのはライオンをこれでもかとデフォルメした可愛らしいスピリット、コレオンと、ドローンに乗り、飛行する白鼻芯のスピリット、ハクビシンドローン。

 

この2体のスピリットは椎名には見覚えがなくて、

 

 

「あ、あれ!?先生のスピリットにそんなのいたっけ?」

「ん?……あぁ、あれは入試用のデッキだったからな、今回は本気のデッキだ」

 

 

入試試験の時に行った椎名とのバトルで、晴太は学園側から支給されたカードのみでバトルしていた。だが、今回はフリー、自分の本当のデッキでバトルしている。

 

 

「おぉ!!本気のデッキ!楽しみ!!」

 

 

椎名は【本気のデッキ】と言う言葉に格好良さを覚え、目を光らせる。だが、それと同時にこのバトルが賭けごとのバトルであったことを忘れていた。

 

 

「あれは、もう、約束を忘れた顔やな」

「椎名らしいね〜(かわいい)」

 

 

そう思う真夏に納得する雅治。その顔はこの約2ヶ月間彼女を見てきた真夏からしてみればあっさりとわかることであった。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ」

コレオンLV1(1)BP1000(回復)

ハクビシンドローンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

晴太はこれ以上何もせずにそのターンを終える。

 

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!風盾の守護者トビマルをLV1で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が最初に呼び出したのは強力な耐性効果がある守護者のスピリット、風盾の守護者トビマル。大きな翼に盾を構えて椎名の場に舞い降りた。

 

 

「アタックステップ!いけぇ!トビマル!」

 

「ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

早速トビマルでアタックを仕掛ける椎名。晴太のライフが1つ、大きな盾の一撃に潰されて破壊された。

 

ー先制点は椎名がもぎ取った。

 

 

「ターンエンド!」

風盾の守護者トビマルLV1(1)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

やることを全て失い、椎名はそのターンを終えた。

 

 

 

[ターン03]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

 

 

「メインステップ!いくぞ椎名!俺はエグゼシード・ビレフトをLV2で召喚!不足コストはコレオンから確保!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨0

コレオン(1⇨0)消滅

トラッシュ0⇨2

 

 

晴太の背後より炎を灯しながら駆け巡る一頭の駿馬。高く飛び上がり、晴太の頭上を高く飛び越えて場に現れた。それは伝説のスピリットが大昔に力を奪われた姿。だが、その身体には無限の可能性を秘めている。

 

そのエグゼシード・ビレフトと入れ替わるように、コレオンはコアの損失により、消滅する。

 

 

「エグゼシード・ビレフト!?…………カッコイイ!」

 

 

馬と言うよりかは、ユニコーンに近いエグゼシード・ビレフトの姿を見て、興奮する椎名。このスピリットは言わば、晴太を代表とするスピリットの1体。特にエグゼシード・ビレフトはコストの軽さと扱いやすさから、彼のバトルではほとんど召喚されている。

 

椎名は当然そのことを知らないのだが、他の人達はその効果を知り尽くしている。それは彼がひと昔前に世間から注目を浴びていたことが理由である。

 

 

「さぁ、アタックステップだ!いけぇ!ビレフト!アタック!……その効果でデッキから1枚ドローし、トビマルに指定アタックだ!」

手札3⇨4

 

「……!?」

 

 

炎のロードに逃げ道を阻まれ、そのまま物凄い勢いで突進してきたエグゼシード・ビレフトの一本の頭角に串刺しにされる。トビマルは当然耐えられるわけもなく、爆発してしまった。

 

トビマルは効果破壊には耐性があるが、バトルによる破壊には対応しきれないのだ。指定アタックは効果破壊でなく、バトル破壊。間違えやすいルールだ。

 

そして、ビレフトの効果はまだ終わってはいない。

 

 

「さらに、このバトル終了時、お前のライフを1つ破壊する」

 

「な!?」

ライフ5⇨4

 

 

炎のロードから飛び出してきたエグゼシード・ビレフトがそのまま椎名のライフを体当たりで1つ破壊した。

 

エグゼシード・ビレフトはコスト4のスピリットにして、ドロー、指定アタック、ライフ貫通、と、一体でかなりの役を熟せるハイスペックなスピリットだ。

 

 

「ぐっ!……すごい!」

 

 

椎名は今、晴太の本当の実力とデッキに感動している。入試試験の時と比べたら大違いだ。椎名は今まで、そこらへんの教師などよりかは強いと思っていた。実際そうなのだが、

 

だが、晴太の実力がここまでとは、椎名自身も思ってもいなかったことだろう。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ」

ハクビシンドローンLV1(1)BP2000(回復)

エグゼシード・ビレフトLV2(3)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!ガンナー・ハスキー1体と、猪人ボアボア2体を連続召喚!」

手札5⇨2

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

椎名が更地になってしまった場に新たに呼び出したのは、犬型だが、拳銃を所持するために、背中に青い腕を生やしたスピリット、ガンナー・ハスキーと、顔が猪で、鎖付きの鉄球を振り回すボアボア、それが2体、計3体が召喚された。

 

そして、仕返しと言わんばかりにアタックステップに入る。

 

 

「反撃だ!アタックステップ!ボアボア2体でアタック!【連鎖:緑】でコアブースト!」

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

 

「……反撃と言っても苦し紛れって感じだな、ライフで受ける」

ライフ4⇨2

 

 

2体のボアボアが放り込む鉄球が、晴太のライフを粉々に粉砕する。

 

 

「……ターンエンド」

ガンナー・ハスキー(1)BP2000(回復)

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

深追いは禁物か、椎名はこれ以上のアタックは仕掛けずにそのターンを終える。

 

やはりエグゼシード・ビレフトの存在が大き過ぎるか、現在、椎名の場をあのスピリット1体でほとんどコントロールされてると言っても過言ではない状況だった。椎名もいつものように果敢に攻めることがし辛くなってきている。晴太が言っていた、『苦し紛れ』とはそういう事だ。

 

ーフレイドラモンが来てくれていたら話は変わっていただろうが、

 

 

[ターン05]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

エグゼシード・ビレフト(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!俺はさらに2体のビレフトを召喚だ!……今度はハクビシンドローンより不足コストを確保!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

ハクビシンドローン(1⇨0)消滅

トラッシュ0⇨4

 

「なにぃ!?」

 

 

ハクビシンドローンは先のコレオン同様消滅してしまうが、新たに2体のエグゼシード・ビレフトが彼の場に姿を現した。これで一気に3体のエグゼシード・ビレフトが揃った。その姿は椎名の視線から見ると、圧巻の一言である。

 

 

「すごいわぁ、先生、同じスピリットを一度のバトルに3体も、……なかなかみれへんでぇ」

「ちっ!……所詮はビレフト止まりかよ」

「空野先生はまだまだ奥の手がいっぱいあるだろうね」

 

 

そう、観客側にいる3人の会話の通り、晴太のデッキはエグゼシード・ビレフトで始まるが、飽くまでそれはテンポを、試合の流れを掴むためのカードであって、エーススピリットではないのだ。

 

椎名はただそれだけのスピリットに圧倒されていた。おそらくデッキの相性も関係しているだろうが、

 

 

「アタックステップ!先ずは最初に召喚したLV2のビレフトでアタック!ボアボア1体に指定アタック!」

手札3⇨4

 

「くそっ!ボアボアでブロック」

 

 

ボアボアもトビマル同様、炎のロードに逃げ道を阻まれてしまい、あえなくエグゼシード・ビレフトの強烈な頭角の一撃で貫かれて、大爆発を起こした。

 

 

「さらに、ライフを破壊」

 

「ぐっ!」

ライフ4⇨3

 

 

ボアボアも貫いてもまだ気持ちが収まらないエグゼシード・ビレフトはその勢いを殺さずに椎名のライフをも貫いてみせた。

 

晴太の攻撃はまだ終わらない。次はLV1のエグゼシード・ビレフト達のアタックだ。

 

 

「LV1のビレフト2体でアタックだ!」

手札4⇨6

 

 

アタックするたびに手札が増えているためか、椎名よりも圧倒的に手札が多い晴太。これは赤属性の得意の戦法である。

 

さらに2体のエグゼシード・ビレフトが椎名に圧力をかけて来る。

 

 

「……1体はガンナー・ハスキーで、もう1体はライフだ」

ライフ3⇨2

 

 

2体のエグゼシード・ビレフトはそれぞれ、椎名とガンナー・ハスキーに狙いを定め、それぞれの方向へと走り行く。瞬く間にガンナー・ハスキーを吹き飛ばし、爆発させ、瞬く間に椎名のライフを1つ破壊した。

 

 

「ターンエンドだ………どうした?そんな調子じゃあ、一木プロには会えないぞ」

エグゼシード・ビレフトLV2(3)BP5000(疲労)

エグゼシード・ビレフトLV1(1)BP3000(疲労)

エグゼシード・ビレフトLV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト無

 

 

「……!!…忘れてた……」

「おい!!」

「やっぱり」

 

 

椎名はすっかり約束を忘れていた。それほどまでにこのバトルが楽しかったからだ。予想できていた真夏は呆れた口調で思わず『やっぱり』と一言言葉をもらした。

 

だが、ここで思い出せたことが幸いしたのか、椎名にようやくスイッチが入ってきた。

 

 

(そうだ、会って、バトルしないと、強くなった私を見てもらいたいんだ。あの時のお礼も言いたい…………よぉ〜し!はりきっていくぞ!!)

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

 

 

「ドローステップ!!……………よし!」

手札2⇨3

 

 

勢いよくドローしたカードを見て、椎名の目と顔つきが変わる。それを察知した晴太はより一層警戒心を強くする。油断など絶対にしない。それが一流のバトラーというものだ。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨10

トラッシュ4⇨0

猪人ボアボア(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ブイモンを召喚!」

手札3⇨2

リザーブ10⇨7

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名はドローしたブイモンを即座に召喚させる。額に金色のブイの字が刻まれた小さな青き竜のスピリット、ブイモンが椎名の場に現れた。

 

 

「召喚時効果で2枚オープン!」

オープンカード

【フレイドラモン】○

【No.26キャピタルキャピタル】×

 

 

効果は成功、アーマー体スピリットのフレイドラモンが椎名の手札に加えられた。このフレイドラモンが椎名に反撃の狼煙を上げさせる。

 

 

「よし!フレイドラモンを手札に加える!」

手札2⇨3

 

「……ようやくご登場か」

 

「さらに!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!リザーブから1コストを支払い、ブイモンを手札に戻して、フレイドラモンを召喚!」

リザーブ7⇨4

トラッシュ2⇨3

 

 

ブイモンの頭上に独特な形をした赤い卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化を果たす。現れたのは、燃え盛る赤き竜人のアーマー体スピリット、フレイドラモン。

 

 

「フレイドラモンの召喚時か、アタック時の効果で、LV1のビレフトを1体破壊!……爆炎の拳!ナックルファイア!」

 

 

フレイドラモンが自身の拳を炎の塊として、殴りつけるように発射させる。それに当たった3体のうちの1体のビレフトは瞬く間に燃え上がり、灰になった。

 

 

「そして、カードをドロー」

手札3⇨4

 

 

追加効果により、椎名はカードを1枚ドローした。

 

 

「……バーストを伏せて、もう一度ブイモンを召喚!」

手札4⇨2

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨5

 

 

バーストが伏せられると同時に、ブイモンが今一度椎名の元へと駆けつける。

 

 

「アタックステップ!………フレイドラモンでアタック!アタック時効果で、2体目のビレフトを破壊!……ナックルファイア!」

「ぐっ!」

 

「……カードをドロー」

手札2⇨3

 

 

フレイドラモンはもう一度同じ要領で、エグゼシード・ビレフトを破壊する。ドロー効果を相まって、椎名が逆転してきているのがはっきりとわかる。

 

そして、椎名は3体目のエグゼシード・ビレフトの破壊も狙う。

 

 

「フレイドラモンのLV2の効果で、残ったLV2のビレフトに指定アタック!………いけぇ!フレイドラモン!……渾身の爆炎!ファイアァァ!ロケット!」

 

 

フレイドラモン自身が炎の弾丸となり、エグゼシード・ビレフトへと飛び向かって行く。そして、そのまま2体は衝突し、大爆発。

 

 

「……すご、椎名のやつ、晴太先生のビレフト軍団を物ともせずに、打ち破りよった……!」

「……………いや、まだだ」

 

 

『まだだ』と言ったのは、司だった。それは爆発の爆煙が晴れると直ぐにわかることであって、

 

通り抜けるように破壊したはずのエグゼシード・ビレフトが、フレイドラモンの背後で前脚をあげ、高鳴るように鳴いていた。

 

 

「な!?」

 

「残念だったな、椎名。俺はフラッシュでマジックカード、鉄壁ウォールを使ってたんだよ」

手札6⇨5

リザーブ2s⇨0

エグゼシード・ビレフト(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ4⇨8s

 

 

エグゼシード・ビレフトを守っていたのは、純白な壁、それが爆発の衝撃からエグゼシード・ビレフトを守ったのだ。

 

鉄壁ウォールは使用コアをソウルコアと一緒に払うことによって、アタックステップ終了の効果と、このバトル中は、自分のスピリットは一切破壊されない効果を発揮できる。

 

 

「鉄壁ウォールの効果で、このターンのお前のアタックステップは終わりだ」

 

「ぐっ!………ターンエンドだ」

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(回復)

フレイドラモンLV2(3)BP9000(疲労)

ブイモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト有

 

 

椎名は強制的にターンを終了させられた。危機的な状況だが、次のターンを凌げればまだチャンスはある。

 

 

(私が伏せたバーストは、【風刃結界】、これで先生のビレフトを返り討ちにできれば、まだチャンスはある)

 

 

【風刃結界】。緑のバーストマジック、相手のアタックに反応し、自分のスピリット1体のBP10000上げ、回復させる効果を持つ、強力なカウンターバーストだ。

 

晴太とて、椎名がこのまま引き下がるとは思えないと予想しているため、当然あのバーストには目を光らせていた。

 

 

[ターン07]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨9

トラッシュ8⇨0

 

 

「メインステップ!………よくここまで頑張ったな、椎名………だけど、ここまでだ」

「………!!」

 

 

遠回しに勝利宣言をする晴太。観客席の真夏達も晴太に注目して行く。晴太は確実にこのターンで勝利できるカードをドローしたのだ。それは自分の尊敬する人の大事なカードであって、

 

 

「行くぞ!……先ずは、庚獣竜ドラリオンをLV3で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ9⇨1

トラッシュ0⇨4

 

 

顔がドラゴン、体が猛獣のようなスピリット、庚獣竜ドラリオンが召喚された。これは晴太が受け継いだカードを召喚するためのカードだ。相性も抜群であって、

 

 

「ドラリオンの召喚時効果!……BP5000以下の相手のスピリット2体を破壊!ブイモンと、ボアボアだ!焼き払え!」

「ぐっ!」

 

 

ドラリオンの口内から放たれる渦を巻く炎に、ブイモンと、ボアボアは焼き尽くされた。さらに、ドラリオンの召喚時効果は、これだけではなくて、

 

 

「この効果で、破壊に成功した時、手札にあるブレイブカードをコストを支払わずに召喚する!」

「……ブレイブを……!!」

 

「行くぜ!……燃え盛る異魔神ブレイブ!…炎魔神を召喚!」

手札5⇨4

 

 

回りながら燃え盛る歯車の中から鈍い機械音を鳴らし、巨大なロボットのような異魔神ブレイブ、炎魔神が晴太のフィールドへと降り立った。

 

 

「い、異魔神ブレイブ、炎魔神!……かっこいい!」

 

 

異魔神ブレイブ、通常のブレイブとは違い、2体のスピリットと合体できる異質なブレイブ。炎魔神は特にその中でもレア中のレアカードとして数えられてきた。

 

これは一木プロが、妻に譲渡し、その妻が自分の弟の晴太に託したカードだ。今では晴太の一部、大事なキーカードの1つだ。

 

 

「そんなこと言ってる場合じゃいぞ!椎名!……俺はビレフトのLVを3に上げ、炎魔神の左にビレフトを右にドラリオンを合体だ!」

リザーブ1⇨0

エグゼシード・ビレフト(3⇨4)LV2⇨3

 

 

炎魔神の両手から光線が放たれる。それが、ビレフトとドラリオンにそれぞれ繋がり、合体した。より一層力が増した2体は気合を入れているかのように雄叫びをあげる。

 

 

「アタックステップ!……ドラリオンのLV2、3の効果で、合体スピリット全てにBP+5000!」

ドラリオン+炎魔神BP15000⇨20000

エグゼシード・ビレフト+炎魔神BP11000⇨16000

 

 

ドラリオンの咆哮が、エグゼシード・ビレフトと自身の士気を高めて行く。

 

 

「いけ!エグゼシード・ビレフトでアタック!…この瞬間!炎魔神の左合体時効果で、お前のバーストを破棄して、このターンの間、スピリット全てをBP+5000する!」

 

「なにぃ!?………うわぁ!」

破棄バーストカード【風刃結界】

 

 

エグゼシード・ビレフトが走り出すと同時に、炎魔神がロケットパンチの要領で左手を飛ばす。火花を散らしながらも回転し、飛んで行く先は、椎名の伏せられているバースト。瞬く間にそのカードは吹き飛ばされた。左手は場をそのまま一周して、再び炎魔神に装着される。

 

 

「くっそぉぉ!せっかくのバーストが!」

(風刃結界なんて伏せてやがったのか、………しかもおそらくタイミングはフレイドラモンの効果で最初にドローした時。……)

 

 

風刃結界を最初から手札に持っていたら、前々のターンから伏せられていたことだろう。つまり椎名がこのカードをドローしたタイミングはフレイドラモンの召喚時効果を発揮した時しかないのだ。

 

晴太は椎名のここぞという時のドロー運はまだまだ伸びる。と感心していた。教師としてここまで才能あるバトラーを育てることができるということはどれほど嬉しいことかは計り知れない。

 

 

「さらにビレフトの効果で1枚ドローし、フレイドラモンに指定アタックだ!」

手札4⇨5

 

 

エグゼシード・ビレフトのBPは炎魔神との合体、その効果、ドラリオンの効果により、合計21000。もはやフレイドラモンなどでは太刀打ちできないほどに強化されていた。

 

フレイドラモンはエグゼシード・ビレフトの炎のロードに囚われ、逃げ場を失う。そのまま凄まじい勢いで突進してくるエグゼシード・ビレフトの頭角に胸部を貫かれ、爆発してしまう。

 

 

「ぐっぅ!フレイドラモン……ッ!」

 

 

フレイドラモンの破壊による爆風を肌で感じる椎名。制服と長い髪が靡く。

 

そして、エグゼシード・ビレフトの最後の効果が発揮される。

 

 

「バトル終了時、ライフを1つ破壊する」

 

「くっ!」

ライフ2⇨1

 

 

エグゼシード・ビレフトは、フレイドラモンを突き抜けた勢いで、そのまま椎名のライフをも破壊して行く。

 

 

「椎名ぁぁぁぁあ!!踏ん張らんかい!!このバトルに勝ったら一木プロに会えるんやでぇぇえ!!」

 

 

真夏が力いっぱい椎名に声援を送る。だが、その心意気はありがたいが、もう椎名は何も抵抗することができない。

 

 

「……………」

「終わりだ、ドラリオン!」

 

 

BP25000のフルパワーで、ドラリオンが口を開き、炎の渦の発射をスタンバイする。椎名はゆっくりとラストコールを宣言する。

 

 

「………ライフで、受ける」

ライフ1⇨0

 

 

ドラリオンの巨大な炎の渦が、椎名を包み込む。そして、最後のライフを焼き切った。

 

この物語において、椎名は初めて敗北した。だが、その顔は決して悔しさに紛れた顔ではなく、とても潔い表情をしていた。もちろん悔しさはある。ただ、椎名は今日、自分の弱さを知ったのだ。

 

 

「椎名が、………負けた」

「相手が相手だ、当然だろ」

 

 

椎名が負けたことに一番驚いたのは雅治だった。これは椎名のことを好いているが故の感情だと思われる。一方で司は、驚きはしなかった。確かに今回の椎名の相手は仮にも天才と謳われた存在、学生の身分では、普通は勝てない。

 

 

「ちぇ!負けたか……………でも、楽しかったよ!晴太先生!!」

「あぁ、俺もだ………お前が一木プロに会いたい理由はわからんが、まぁ、お前が卒業するまでに俺に勝てたら、合わせてやるよ」

「……!!……本当!!?……やったぁぁぁぁあ!!」

 

 

朗報に諸手を上げて喜ぶ椎名。だが、この晴太に勝つと言うのは簡単なことではない。それでも何もない根拠でただただ諸手をあげることができる椎名はある意味で、人間として大物と言える。

 

 

 

******

 

 

 

その日の翌日の出来事だ。昨日のちょっとしたハプニングから、晴太はことなきをえ、職員室の自分の机でゆっくりとコーヒーを啜ろうとしていた。それは心安らぐひと時の時間。だが、

 

 

「晴太先生!バトルだぁぁぁぁあ!!」

「ぶっーーーーー!!!!」

 

 

思わずコーヒーを霧状にして吹き出す晴太。椎名がまた職員室のドアを勢いよく開けて入ってきたのだ。まさか昨日の今日でこんなことになるとは思えなかった。

 

 

「椎名、お前何しに来たの」

「何って、勝ったら花火さんに合わせてくれるって言うから……あれから結構デッキいじってみたよ!」

「いやいや、昨日の今日で俺に勝てるわけないだろ!?」

「やってみなきゃわかんないじゃん!!……さぁ!いざ勝負ぅ!!!」

「勘弁してくれぇぇえ!!!」

 

 

なかなか引き下がらない椎名。よほど花火に会いたかったことがわかる。晴太とて、本当は合わせてやりたいが、合わせられないのが現実。それで昨日、あんな約束をしたのだ。少なくとも、椎名が自分よりかは強くなる頃にはイタリアのリーグは終わっているだろうと思い。だが、昨日の今日ではあまりにもペースが早すぎる。この学園にいれば、いろんなところでバトルする機会があるに違いないのにだ。

 

逃げ出す晴太を追いかける椎名。当然、職員室は走ってはいけないところだ。

 

 

「はぁ、全く、女に難儀な男ね〜〜昔も今も」

 

 

そんな晴太と椎名を眺めながら言うのは鳥山兎姫、椎名が彼の姉と似ていることから、この発言に繋がったのだろう。少し懐かしい気分になりながら、兎姫は自分のぶんのコーヒーをゆっくりと啜った。

 

このようなやり取りが一週間続いた。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【炎魔神】!!」

「炎魔神は、左右にそれぞれ合体できる特別なブレイブ、異魔神ブレイブの一種!炎魔神は左で相手のバーストを破棄、右では相手のスピリットを破壊できるよ!」





最後までお読みくださり、ありがとうございました!


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第9話「大樹に咲き誇る一輪の花」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………緑坂真夏、……あいつが、なぜ……!!」

 

 

ジークフリード校の校門の前で、そう呟く男子生徒。全体的に緑の髪色に、ところどころ赤色が混じっているのが特徴的。その服装は学園の制服ではあるものの、バッジの色が違う。これは彼がジークフリード校以外の生徒であることを表している。

 

その男子生徒は、真夏を知っているかのような口調だ。だが、決していい印象を与える意味には聞こえない。怒りの感情を含んでいるからだ。彼はゆっくりと赤き学び舎へと足を踏み入れた。

 

 

******

 

 

「ちぇ、……晴太先生、結局今日も相手してくれなかったなぁ」

「まぁ、仕方ないでえ、先生も忙しいんや、………別に卒業まででええんやろ?じゃあ鍛え直してからでも遅くはないやないか、今のままでまた挑んでもボロ雑巾になって帰ってくるのが落ちやで」

 

 

どうしても一木プロに会いたい椎名。ようやく念願の尊敬する人物に会える方法が発覚したのだ。真夏としても椎名が焦ってしまうのは理解できるが、晴太と椎名の差は歴然。今の彼女では絶対に勝てない。

 

別にこの学園にいたら教師とバトルするチャンスなどいくらでもあるのだ。何度も果敢にチャレンジすることもない。

 

真夏の言葉の真意を理解したのか、椎名は焦っていた心を落ち着かせつつあった。この現状を加味すると、確かに果敢にチャレンジするよりかは卒業までに強くなった方が早い気がする。椎名はそう思いながら考えを改めた。

 

 

「………やぁ!椎名!」

「おっ!雅治!」

 

 

2人がそう話している時に現れたのは、司の親友の雅治。今では椎名とも大の仲良しになりつつあった。

 

だが、今日の雅治は少し様子がおかしくて、

 

 

「あの、椎名、………その………」

「?……なに?」

 

 

頰を赤らめ、もじもじしながらも、雅治は精一杯言葉を発しようとするが、なかなかでない。それもそうだろう。何せ雅治はこれから好きな女の子をデートに誘おうとしているのだから。

 

デートと言っても、「一緒にショッピングしない?」と言うだけだった。それでもやはり、それを言う相手が、椎名となるとどうも言い出しづらかった。

 

まぁ、仮にそれを言えたとして、椎名はそれをデートと認識することはないだろうが。

 

真夏も心の中で「頑張りやぁ〜〜」と声を上げて応援する。雅治にそうアドバイスしたのは彼女だからだ。

 

ーだが、しかし、これも運命か、それを邪魔するものが現れる。それはあまりにも突然であり、真夏と雅治にしては本当に空気が読めないと思われることであって、

 

 

「………やっと見つけた、やっと見つけたぞ!緑坂真夏!」

「………あぁ?」

 

 

怒りの感情を含んでいて、鈍く太い声が真夏を呼ぶ。3人はその声のする方を振り向くと、そこには妙な男子生徒がいた。

 

その男子生徒は真夏だけを凝視した目をギラつかせており、とてもじゃないが、好意的な印象はなかった。

 

 

「誰?」

「この制服は…………キングタウロス校の人だね」

「………あぁ、そうだ、俺はキングタウロス校1年の【炎林 頂(えんばやし いただき)】!【緑坂 冬真(みどりざか とうま)】先輩、【ヘラクレス】の一番弟子だ!」

 

 

【キングタウロス校】。それはこの界放市にあるバトスピ学園の6つのうちの1つである。学園によって、様々な教育方針が存在するが、ジークフリード校と、キングタウロス校はそれらが、若干被るものがあるからか、他の近所の学園よりかはやや親しい関係にある。

 

それよりも気になるキーワードは、【緑坂冬真】と【ヘラクレス】だ。

 

 

「ヘラ、なに?………緑坂冬真?………ん?緑坂?」

「そうや、緑坂冬真は私の兄や」

「……!!……真夏のお兄ちゃん!?」

 

 

【緑坂冬真】。真夏の実の兄であり、現在はキングタウロス校3年生だ。その実力は歴代最強と言われ、どの学園の卒業生と比べても、現役時代ではそのレベルには達していないと言う。毎年行われる6つの学園が競い合う祭り事、【界放リーグ】では、当時は1年生であるにもかかわらず、出場し、優勝。その次の2年次も優勝と、その実力は底が知れない。【ヘラクレス】とは、彼のエーススピリットからもじられた異名だ。1年次で活躍した時に名付けられ、それ以降は本名よりもこちらの方で呼ばれる事の方が多い。この傾向は司の【朱雀】に似ていると言える。

 

この男子生徒、炎林 頂は、その彼の弟子と言う。真夏は彼にめんどくさそうな態度で受け答えする。

 

 

「はぁ、それで、兄さんの弟子が、あたしに何の用や?」

「用もクソもない!お前!何であの方の実の妹だと言うのにジークフリード校などにいるんだ!今日はお前をキングタウロス校に引き摺り込みに来たのだ!」

「はぁ!?」

「お、おぉ、スカウトってやつ!?」

「うーん、ちょっと違うかも知れないね」

 

 

炎林はそこまで緑坂冬真を尊敬しているのか、横暴な意見を言ってくる頂。真夏は呆れると同時に腹が立った。

 

 

「あたしがどこに行こうが、あたしの勝手や、行く気はないでぇ………あと、一々兄さんのこと言うのやめてくれへんかなぁ?」

「……真夏?」

 

 

真夏は鋭い目つきになり、炎林を睨みつける。まるで突き放すかのように、椎名は普段おおらかで、誰とでも仲良く接する真夏がこんな感じになるのを見たことがなかった。

 

真夏は昔から兄と比べられるのが気に入らなかった。兄が有名になりすぎているため、仕方のないことではあるが、どうやっても、どんなに強くなっても、いつも目の前には兄の背中。周りからの評判もほとんど必ず兄を入れてくる。真夏が弱いわけではない。寧ろとても才能がある。ただ、それは【緑坂真夏】としてではなく、【ヘラクレスの妹】としてだった。それが彼女としては気に食わなかった。だから、兄のいるキングタウロス校ではなく、ジークフリード校へと入学したのだ。

 

 

「………嫌なら無理矢理にでも連れて行くぞ」

「えぇで、望むところや」

 

 

炎林も簡単には引き下がらない。今度は界放市の人間らしく、バトルスピリッツで有無を決める。真夏もそれに賛同し、ジークフリード校 第3スタジアムへと移動した。

 

 

******

 

 

「負けたら、お前はジークフリード校との縁を切り、キングタウロス校に行く。それでいいな」

「あぁ、構わへんでぇ」

 

 

まさに一触即発。今にも火花が飛び散りそうな空気の中。2人はBパッドを展開させて、バトルの準備をしていた。椎名と雅治も観客席でそれを見ていた。

 

 

「なんか大変なことになったね」

「そうだね」

「………意外と落ち着いてるね、負けたら緑坂さんは、ここをやめちゃうんだよ?」

「いや、流石に負けないでしょ、なんとなくだけど、」

 

 

椎名はさっきの真夏の鋭い目を見て、不思議なものを感じとっていた。それは真夏が負けないという。根拠のない自信だ。

 

真夏とは結構バトルしたことがあるからというのもあるだろう。

 

ーそして、2人の準備が終わり、バトルに入る。

 

 

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

ーバトルが開始される。先行は真夏だ。

 

 

[ターン01]真夏

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!……先ずはパルモンを召喚や!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

真夏が呼び出したのは頭にトロピカルな花を咲かせた緑のスピリット、パルモン。これが真夏のデッキの軸となる成長期スピリットだ。

 

 

「召喚時効果で、2枚オープン」

オープンカード

【トゲモン】○

【トゲモン】○

 

 

パルモンの効果は成功。ただし、成熟期か、完全体をどちらか1枚であるため、トゲモンのカードは2枚とも手札に加えられず、1枚は破棄された。

 

 

「ターンエンドや、………」

手札4⇨5

 

パルモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

先行の第1ターンなど、やることが限られている。真夏はそのままターンを終えた。初手にしてはなかなか上々な動きだろう。

 

 

[ターン02]炎林

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「いくぜ!俺のメインステップだ!俺はホムライタチを召喚!さらに、ホムライタチのメインステップ時の緑シンボルの追加効果と合わせて、もう1体のホムライタチをフル軽減で召喚!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

炎林の場に燃えるような体毛を纏う鼬型のスピリット、ホムライタチが2体連続召喚された。

 

彼が使うデッキは赤と緑。いろんなタイプがあるが、彼のデッキは特に安定性が高いものだ。

 

 

「ターンエンドだ」

ホムライタチLV1(1)BP1000(回復)

ホムライタチLV1(1)BP1000(回復)

 

バースト無

 

 

このターンは様子を見るのか、特にアタックは行わず、そのままターンを終えた炎林。次は真夏の番だ。

 

 

[ターン03]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!バーストを伏せて、パルモンのLVを上げる!」

手札6⇨5

リザーブ4⇨2

パルモン(1⇨3)LV1⇨2

 

 

バーストが伏せられると同時に、パルモンは真夏からコアを与えられて、喜ぶようにレベルを上げる。これで【進化】の条件は整った。

 

 

「アタックステップ!その開始時にパルモンの【進化:緑】を発揮や!パルモンを手札に戻し、成熟期のトゲモンをLV2で召喚!」

 

 

パルモンにデジタルのベルトが巻かれて、その姿形を変えていく。そして、新たに現れたのはまるでサボテンのような外見のスピリット、トゲモンだった。トゲモンはボクサーのようなグローブを叩きつけながらやる気を見せている。

 

 

「アタックステップは継続やでぇ!いけ!トゲモン!アタック!」

 

 

トゲモンにアタックの命令が下された瞬間、トゲモンは空中へとジャンプし、その場で高速回転する。その時に飛び散っていく針のような鋭い棘が、炎林のホムライタチ1体に命中し、それをダウンさせる。

 

 

「!?……なんだ?」

ホムライタチ(回復⇨疲労)

 

「アタック時効果や、トゲモンはアタック時にコアを増やしつつ、相手のスピリット1体を疲労させるんやで」

トゲモン(3⇨4)

 

「くっ!だが、どちらにせよそのアタックはライフで受けるつもりだった!……ライフでもらうぞ!」

ライフ5⇨4

 

 

空中から降りてきたトゲモンのプロボクサー並みのパンチが炎林を襲う。炎林のライフは1つ砕かれた。

 

 

「ターンエンドや」

トゲモンLV2(4)BP6000(疲労)

 

バースト有

 

 

やることを全て失った真夏はそのターンを終える。次は炎林の反撃だ。

 

 

[ターン04]炎林

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

ホムライタチ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!六分儀剣のルリ・オーサを召喚!ホムライタチのシンボル追加により、フル軽減で支払うコストは1だ!」

手札4⇨3

リザーブ5⇨3

トラッシュ0⇨1

 

 

炎林の場に剣を携えたスマートな緑の殻人スピリット、ルリ・オーサが召喚される。このデッキにおいては、アドバンテージの塊とも言える効果を持っており、

 

 

「ルリ・オーサの召喚時!ボイドから赤のスピリット2体にコアを1つず追加!俺は赤のホムライタチ2体に1つずつコアを追加させる!」

ホムライタチ(1⇨2)

ホムライタチ(1⇨2)

 

 

ルリ・オーサが自身の剣を天に掲げると、天からホムライタチ2体にコアの恵みが与えられた。

 

ーだが、彼のデッキにとって、こんなの始まりに過ぎないことであって、

 

 

「さらに!もう1体のルリ・オーサを召喚!召喚時でまたまたホムライタチ2体にコアを追加だ!」

手札3⇨2

リザーブ3⇨1

トラッシュ1⇨2

ホムライタチ(2⇨3)LV1⇨2

ホムライタチ(2⇨3)LV1⇨2

 

 

もう1体のルリ・オーサが召喚される。その効果で、再び天よりの恵みがホムライタチに与えられた。

 

目まぐるしい程にスピリットを展開し、コアを増やしていく炎林。だが、まだそれは終わることはなかった。

 

 

「さらにさらにさらに!おれは増えたコアを使い、こいつを、師匠から譲り受けたエースを召喚する!野望を抱き、顕れよ!金殻皇ローゼンベルグ!LV1!」

リザーブ1⇨0

ホムライタチ(3⇨1)LV2⇨1

ホムライタチ(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ2⇨3

 

 

金色の甲殻を輝かせながら現れるのは炎林のエーススピリット、金殻皇ローゼンベルグ。左手の人差し指を真夏に向け、打倒を目指す。全長4メートルくらいはありそうだ。

 

 

「でか!!!!」

「まさかここまで一気に展開してくるなんて、流石は【ヘラクレス】の弟子を名乗るだけはあるね」

 

 

観客席の2人もその巨躯の身体に驚愕する。ローゼンベルグは強力な効果をいくつも内蔵しているスピリットだ。先ずは召喚時から解決させていく。

 

 

「ローゼンベルグの召喚時!ボイドからコアを3つローゼンベルグに追加する!」

金殻皇ローゼンベルグ(2⇨5)LV1⇨3

 

 

ローゼンベルグにコアの恵みが与えられた。一気にそのLVをマックスにさせる。既に炎林はこのターンだけでコアを7つブーストしており、莫大なアドバンテージを有していた。その分手札が少なくなってしまったが、それもローゼンベルグがいれば問題ないことであって、

 

 

「アタックステップ!いけ!ローゼンベルグ!アタック時効果でBPを10000上昇させる!さらに、【連鎖:赤赤】を達成してる時、デッキからカードを2枚ドローする!」

ローゼンベルグBP11000⇨21000

手札1⇨3

 

「………!!」

「これだけ展開しつつ、ドローまで……」

 

 

そう言ったのは椎名だった。ローゼンベルグはコストが重いものの、決まってしまえば、バトスピにおいて必要な手札とコアを1体で補強してしまう恐ろしいスピリットだ。おまけにダブルシンボルと、隙がない。

 

両手で勢いよく自身の剣を地面に突き刺し、その衝撃波を真夏の方へと飛ばしていく。

 

 

「やばい!緑坂さんの場にはブロックできるスピリットがいない!……もし、全部のアタックが通って仕舞えば」

 

 

現在、炎林のスピリットのシンボル数の合計は6。このターンだけで真夏のライフを破壊できてしまう。

 

だが、真夏は当然ここで終わらない。1枚のカードを引き抜く。

 

 

「手札からアクセル発揮!ロードバシリー!効果により、あんたのルリ・オーサを1体疲労や!」

手札5⇨4

トゲモン(4⇨2)LV2⇨1

トラッシュ0⇨2

 

「なに!?アクセルっ!!」

六分儀剣のルリ・オーサ(回復⇨疲労)

 

 

アクセルとは、スピリットやブレイブが持つ効果。手札からアクセルとして使用することで、その後自分の場に手元のカードとして置くことができる。もちろん手元に置けば、自分のターンでは普通に召喚できる。使い方次第ではマジックをも超える恩恵をプレイヤーに与えることができる便利な効果だ。

 

緑色の小さな小鳥が、ルリ・オーサを貫く。それに力を奪われてしまったのか、ルリ・オーサは膝をつき、疲労状態となってしまった。その後、緑色の小鳥は、真夏の足元へと落ちるように飛んでいき、ロードバシリーのカードとしてそこに居座った。

 

だが、ローゼンベルグのアタックが無効になった訳ではない。炎林は追い討ちをかけるように自分のフラッシュを使う。

 

 

「それがどうした!!……俺はフラッシュマジック!バードウィンド!不足コストはローゼンベルグのLVを3から2に落として確保する!この効果で緑のスピリット、ローゼンベルグを回復させ、【連鎖:赤】で、お前のトゲモンを破壊だ!」

手札3⇨2

金殻皇ローゼンベルグ(5⇨3)LV3⇨2

トラッシュ5⇨7

 

「……!!」

 

 

炎林は見逃してはいなかった。真夏がロードバシリーのアクセル効果を発揮する時に必要とするコアをトゲモンから使っていたことを。バードウィンドは、緑のスピリット1体を回復させると同時に、【連鎖:赤】でBP4000以下の相手のスピリット1体を破壊できる効果がある。

 

ローゼンベルグが緑の風を纏い、回復状態になると同時に、真夏のトゲモンが下から湧き出てくる炎に飲まれ、爆発した。

 

 

「いけぇ!ローゼンベルグ!」

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨3

 

 

ローゼンベルグが放っていた衝撃波が、ようやく真夏のライフを砕いた。だが、それは真夏のバーストカードの条件でもあって、

 

 

「バーストくらい警戒せぇや、発動!ジャンピングバインド!」

「……!?」

 

 

真夏のバーストが勢いよくひっくり返る。すると、真夏のリザーブにコアが1つ追加された。

 

 

「ジャンピングバインドはライフ減少時のバーストで、ボイドからコアを1つあたしのリザーブに置くことができる。さらに、コストを支払うことで、フラッシュ効果、相手のスピリット1体を疲労や!寝ときぃ!ローゼンベルグ!」

リザーブ6⇨7⇨4

トラッシュ2⇨5

 

「なんだとぉ!?」

金殻皇ローゼンベルグ(回復⇨疲労)

 

 

真上から降り注いでくる強風が、ローゼンベルグを叩きつけるように膝をつかせる。これでローゼンベルグが再アタックすることはなくなった。だが、

 

 

「くっ!だが、俺のアタック可能なスピリットは合計3体!お前のライフを全て砕くには十分な数だ!やれぇ!ルリ・オーサ!」

 

「ライフで受けるで」

ライフ3⇨2

 

 

そう、まだ、危機が完全に去った訳ではない。ルリ・オーサが飛翔していき、その手に持つ剣で、真夏のライフを1つを一刀両断した。

 

 

「ハッハッハ!打つ手なしか!次だいけぇ!ホムライタチ!」

 

 

走っていくホムライタチ。この瞬間、真夏は悟った。デッキはおそらく兄が作ったもの。又はあげたもの。彼はそれを使って強くなった気でいる半人前だと言うことに。そんなただの雑魚相手に真夏が負けるわけがなかった。

 

なんとなく気付き始めたのは、彼がローゼンベルグを召喚する時、彼は『師匠から譲り受けたエーススピリット』と言っていた。【ヘラクレス】はそんなカードは使ったことはないが、真夏は彼が炎林にあげるために適当に作ったデッキだと理解した。

 

ーそして、リザーブからコアを移動させ、手元に置いたカードを場に移動させる。

 

 

「手元からロードバシリーの効果発揮!ロードバシリーはコストをリザーブから全て支払うことで、手元からフラッシュタイミングで召喚できる!出て来いや!ロードバシリー!」

リザーブ5⇨2

トラッシュ5⇨7

 

「はぁ!?」

 

 

真夏の足元にあったロードバシリーのカードが本物のスピリットとなって場に召喚された。小さな小鳥のスピリット、ロードバシリーは向かってくるホムライタチを迎撃すべく飛翔し、そのままの勢いで、ホムライタチと衝突し、競り勝ち、吹き飛ばした。ホムライタチは呆気なく爆発してしまった。

 

これで炎林のスピリットの総数では真夏の残ったライフは破壊できなくなってしまった。炎林はターンを終了することになった。

 

 

「ぐっ、……ターンエンドだ」

ホムライタチLV1(1)BP1000(回復)

六分儀剣のルリ・オーサLV1(1)BP3000(疲労)

六分儀剣のルリ・オーサLV1(1)BP3000(疲労)

金殻皇ローゼンベルグLV2(3)BP9000(疲労)

 

バースト無

 

 

「す、すごい、あの猛攻を凌いだ………っ!!」

「流石だよ真夏………っ!!」

 

 

[ターン05]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨10

トラッシュ7⇨0

ロードバシリー(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ………の前に、あんた、それ、兄さんに作ってもろたデッキやろ?」

「な!?……なんでそれを!?」

「はぁ、やっぱりな、人に作ってもろただけのデッキであたしに勝てる訳ないやろ?」

「な、なんだと!?……じゃあ勝ってみろよ!お前にこの俺の、【ヘラクレス】から授かったデッキが倒せる訳ねぇだろ!!」

 

 

バトスピを築き上げて来た偉人がこういう言葉を残している。【自分で作ったデッキには魂が宿る】と。魂が入っていないデッキなど、ただの紙束にも等しい。いくら強い人が作り上げたデッキでも、やはりそれを使いこなせるのはその本人だけだ。

 

緑坂冬真は、炎林を気に入っていた。だから、彼に自分が構築したそこそこの完成度のデッキを彼にあげたのだ。【これで強くなれ!】とそういう願いを込めて、だが、炎林はその言葉の意図をこの時は完全には理解していなかった。

 

やはり、自分のデッキは自分なりにカスタマイズしていかなければ、強くはなれない。何度も使用し、自分の魂をゆっくりと注いでいったデッキに、真の魂と強さが宿る。それが時折、極限の場面でデッキがバトラーに応えてくれる時もある。炎林はそういったことが疎かになっていたのだ。それほど緑坂冬真のデッキの完成度が高かったとも言えるが、

 

 

「じゃあ、やってみよか……メインステップ!フローラモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ10⇨7

トラッシュ0⇨2

 

 

パルモンとはまた違った方向性でトロピカルな花を咲かせる成長期スピリット、フローラモンが真夏の場に現れる。

 

 

「召喚時効果!デッキから3枚オープンして、その中の系統「樹魔」を持つスピリット1枚を手札に加える!」

オープンカード

【ロードバシリー】×

【ロードバシリー】×

【リリモン】○

 

 

効果は成功、樹魔を持つスピリットカードのリリモンが手札に加えられた。これで準備は万端。真夏はこのバトルを決めにかかる。

 

 

「よし!リリモンを手札に加えるでぇ!……そして、老賢樹トレントンをLV1で召喚や!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ7⇨2

トラッシュ2⇨6

 

 

緑の神々しい光が真夏の場に集まっていく、それはどんどん増えていき、やがて大きな樹木へと変化していく、そして、樹木を人型のようにした緑のスピリット。老賢樹トレントンが召喚された。そのサイズは炎林のローゼンベルグさえをも凌いでいる。

 

 

「な!?トレントン!?そいつは確か………」

 

 

トレントンはとてもとても昔からあるカード。大昔に人類がバトスピをやり始めた時から存在する化石のようなスピリットなのだ。炎林は戸惑う。その効果をゆっくりと思い出していく、だが、その頭から捻り出される前に、真夏がその効果を宣言する。

 

 

「トレントンの召喚時効果!手札にある緑のスピリットカード1枚をコストを支払わずに召喚する!あたしが呼ぶのはこいつや!リリモン!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨1

 

 

トレントンの森のように茂っている背後から、まるで妖精のようなスピリットが顔を出す。それは意外にも完全体の緑のスピリット。真夏のエーススピリットでもある。超レアカード、リリモン。

 

 

「来た!真夏のエース!」

「緑の完全体!……しかもあれは緑坂さんの叔父にあたる【緑坂小次郎】さんが使うものと全く同じだ」

 

 

【緑坂小次郎】。真夏達の叔父にあたる人物。日本でも有名なプロバトラーであり、椎名の尊敬する一木花火をライバル視していることで有名。公式戦ではまだ一度も彼に勝ったことはないが、

 

そして知らない間に真夏は前のターンの炎林と全く変わらないくらいの展開を見せつけていた。

 

 

「さぁ!アタックステップや、」

「ぐっ!だが、お前の4体のスピリットで総攻撃しても俺のライフはゼロにはならない!」

「……はぁ!?あんた何言うとんのや!緑坂冬真の弟子のくせに、その叔父の緑坂小次郎の使うリリモンのことを知らんのかい!!!」

「………!!!!」

 

 

リリモンは非常に可愛らしい外見をしているが、やはりその強さは完全体であり、強力な効果をいくつも内蔵していた。炎林はその強さを思い知ることとなる。

 

 

「やったりやぁ!リリモン!アタック時効果の【旋風:1】で相手のスピリット1体を重疲労!対象は回復してるホムライタチ!あんたや!」

 

「なに!?【旋風】だと!?」

ホムライタチ(回復⇨重疲労)

 

 

リリモンが飛翔する。そして、その両手に花のような砲手を備え、そこから緑のエネルギー弾を放つ。それに直撃した唯一の回復状態だったホムライタチは他のスピリットよりも酷く疲れてしまう。まるでやる気を感じないほどに。

 

重疲労とは、一言で言えば疲労の第2段階。カードの向きは逆さまとなり、一度の回復で普通の疲労状態となる厄介なもの。リリモンの【旋風】の効果はそれをなんのデメリットもなく使える数少ない効果だ。

 

そして、リリモンにはまだ恐ろしい効果がある。

 

 

「さらにリリモンはアタック時に、ボイドからコア2つをリリモン自身に置くことで、ターンに一度回復する」

リリモン(1⇨3)LV1⇨2(疲労⇨回復)

 

「はぁ!?まだそんな効果が……っ!!?」

 

 

リリモンは緑の光を纏い、回復する。リリモンの恐ろしいところは、相手のスピリットを重疲労させつつ、コアを増やしながら回復し、連続でアタックできるとこだ。単純にこれだけでも十分なパワーカードであると言えるだろう。

 

 

「最初のアタックは継続中やで!!どう受ける?」

 

「くそ!ライフしかねぇ!」

ライフ4⇨3

 

 

リリモンの片手から放たれる緑のエネルギー弾が、炎林のライフを1つ破壊した。もう炎林になすすべはなかった。後は好きに殴られるだけ、

 

 

「もう一度!リリモン!」

リリモン(3⇨5)LV2⇨3

 

「そ、それもだ!」

ライフ3⇨2

 

 

リリモンは、次は違う手からの攻撃で、炎林のライフを破壊した。

 

 

「次はロードバシリーや!」

 

「ら、ライフで、……うお!?」

ライフ2⇨1

 

 

ロードバシリーは目にも留まらぬ速さで通り過ぎるように炎林のライフを破壊した。そして、ラストは、

 

 

「締めはあんたや!いけぇ!老賢樹トレントン!」

 

 

大きな木がゆっくりと動き出す。その振りかざされた右手はまるで神の天罰のように見える。炎林の手札には普通のスピリットカードしかなかった。これが【ヘラクレス】のではなく、【自分自信のデッキ】という認識があれば、このバトルの結果は違っていたかもしれない。

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁあ!!!!」

ライフ1⇨0

 

 

金殻皇ローゼンベルグ、六分儀剣のルリ・オーサ、ホムライタチは彼の方など、見向きもしない。ただ炎林の目の前に巨大な右腕が、彼の最後のライフを押し潰したのだ。

 

これでこのバトルの勝者は真夏。見事キングタウロス校の生徒を討ち取って見せた。真夏は消えゆくスピリット達の間を通りながら、落ち込む炎林のところまで行く、

 

 

「兄さんがあんたのどういうとこが気に入ったのか知らへんけど、そのデッキ使いたいならもっと鍛錬せんかい!」

「ぐっ!………っ!」

 

 

言い返す言葉がない。自分がこのデッキに頼りきりになり、鍛錬を疎かにしていたのは事実なのだから、精錬されていないデッキを扱うバトラーほど弱いものはない。

 

 

「よかった、緑坂さんジークフリード校に残れるね」

「でしょ!?言った通り!真夏は強いもん!」

「せやろせやろ!何せ俺の妹なんやからな!」

「「!!」」

 

 

真夏の勝利を喜ぶ椎名と雅治の前に割って現れたのは謎の関西弁で話す褐色の肌色の男子生徒。その制服は炎林と同じキングタウロス校のものだ。

 

 

「誰?」

「あ、あなたは……っ!!」

 

 

流石にあまりニュース等を見ない椎名にはわからなかったが、それ以外の人間にはかなりの知名度の男であるようで、その顔を一目見た雅治は大きく口を開けて驚いた。

 

ーそして、その褐色の男子生徒は手摺に手をかけ、満面の笑みで、手を振り、

 

 

「おお〜〜〜〜〜い!!!真夏ちゅわぁぁん!!」

 

 

大きな声で真夏を呼ぶ。そう彼こそが、

 

 

 

「げっ!!?……兄さん!!」

「し、師匠!?」

「え!?この人が!?」

 

 

彼が真夏の実の兄、【ヘラクレス】こと、【緑坂冬真】だ。初めて知った椎名も声を荒げながらも驚いてみせる。まだまだジークフリード校とキングタウロス校の交流は続きそうだ。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【リリモン】!!」

「リリモンは緑の完全体!アタック時に相手を重疲労させたり、コアを増やしたり、回復したり、もうやりたい放題!」







最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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第10話「キングスロード……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回、キングタウロス校の生徒で、真夏の兄、【ヘラクレス】の異名を持つ【緑坂冬真】の弟子と名乗る炎林頂が、真夏をキングタウロス校に入れるべく椎名達の前に現れた。バトスピで決着をつけることになるが、結果はリリモンの効果をフルに発揮させた真夏の勝利に終わる。だが、そのバトルを裏から【ヘラクレス】が覗いていて………

 

 

「し、師匠!!!」

「はっは、どうやった炎林、俺の妹は強かったやろう?」

「す、すみません!妹さんをキングタウロス校に引き込めなくて……!」

「ん?あぁ、ええのええの、そんなこと無理やし」

「え、えぇ!?」

 

 

そう、真夏がジークフリード校を辞めることは不可能なのだ。いや、正確には不可能ではないのだが、単純に引越しの手続きなどがこの街ではかなり複雑且つ面倒で、いろんなところで経費もかかる。真夏は1人暮らし。【ヘラクレス】は兄としても別にこのままでもいいと思っていた。

 

 

「で、でも、師匠、『妹がここに居てくれたらなぁ』っていつも言ってたじゃないですか!?」

「あぁ、あれはお前がそのうちそれを理由にジークフリード校に向こうて来れる思てずっと口ずさんどっただけや」

「……いやいや!どういう意図!?」

 

 

全く【ヘラクレス】の考えてることがわからない炎林。【ヘラクレス】の目の前にいる椎名も同様だ。だが、流石兄妹と言ったところか、真夏は理解していた。頭の良い雅治も同様にそれを理解する。

 

 

「はぁ、つまりはここに来るための口実が欲しかったんやろ?【ヘラクレス】さん?」

「あら、バレちゃった?」

「いや、さっき全部自分でトリックバラしてもうとるやないかい!!!なんでこんなまどろっこしいことすんねん!」

「いや、ほら、あれやで、真夏ちゃん口実なかったら怒るおもてな、………でも心配しとったんやでぇ!連絡もくれんと、……………おっ!」

「………?」

 

 

【ヘラクレス】は久し振りに自分の妹に会いたかっただけのようだ。中学を卒業してから真夏は一回も兄と連絡を取っていなかったのだ。それは流石に兄としては心配になるだろう。それで彼は頑張って弟子である炎林で口実を作ろうとしたのだ。その結果が今日という日だ。真夏を引き抜くために炎林はジークフリード校に訪れ、それを迎えに来るかのような形で如何にも偶然であるかのように真夏を見に来たのだ。一瞬でバレたが、

 

話の腰を折るかのように、【ヘラクレス】は自分の横にいた椎名に顔を向ける。椎名も何事かと思い、アホ毛がピクッと動く。真夏はなにかを察したように「やばい」と口ずさむ。

 

 

「君、1年生か?」

「え!?……あ、はい、芽座椎名って言います……けど」

「めざしいな………いいやないかぁ!!可愛い名前しとるよ!どうや?こんど一緒にデートでも、」

「こーーーらぁ〜〜〜兄さん!!!」

 

 

【ヘラクレス】は椎名をナンパする。彼は大の女好きだった。そもそも彼はすごくルックスが良い。彼のためのファンクラブさえできているほどだ。椎名は苦笑いで済ますが、真夏はもどかしかった。思いっきりツッコミたかったろうが、バトル場からじゃ観客席には声しか届かない。不完全燃焼だ。雅治は「この人をなんとか椎名から遠ざけねば」と心の中で模索しだす。椎名を取られたくない嫉妬心からだ。

 

 

「いやぁ、真夏ちゃんの友達にこんな可愛ええ子がいるなんてなぁ、」

「は、はは、い、一応ありがとうございます?………デートはちょっと嫌だけど、バトルはしたいな!真夏のお兄ちゃんは【ヘラクレス】って呼ばれるほど強いんでしょ?」

「ガーーン!……なんか遠回しにふられとるやん!

 

 

胸を釘で打ち付けたようなショックを受ける【ヘラクレス】。椎名の無神経で発した言葉が、彼の心をおもいっきり傷つけてしまった。

 

ーだが、

 

 

「………………でもええんか?俺はバトルでは女の子でも容赦はできへんで?」

「「………!!」」

 

 

さっきまでおちゃらけていた【ヘラクレス】だったが、バトルのこととなると急に態度が豹変した。その場にいた椎名と雅治は背筋が凍りつくようなプレッシャーを感じる。ただこれだけで彼が強者であると認識してしまう。

 

椎名はそれでも、「いいよ!」と了承するように答えようとしたが、その前に言い出したのは雅治だった。前に出てくる雅治を見て、【ヘラクレス】は、その顔をゆっくりと思い出していく。

 

 

「じゃあ、そのバトル、僕がやってもいいかな?」

「………お前さんは確か【朱雀】の親友の、」

「長峰雅治です、よろしくお願いします!」

「ちょ、ちょっと待って!バトルするのは私じゃ!?」

「ごめんね、椎名、今日は僕にやらせて欲しい」

「……んーーーー、まぁいっか!頑張ってね!」

「うん!」

「はぁ、なんかもうバトルすることになっとるし、………まぁええか、バトル場に行くでぇ長峰」

 

 

正直、椎名は自分が【ヘラクレス】とバトルしてみたかったが、その相手が雅治ならば、バトルは必ず面白くなると思い、今日は一歩後ろに下がり、彼に枠を譲った。因みに【ヘラクレス】も本当は女の子の椎名とバトルしたかった。まぁここでカリカリ文句垂れるのもどうか思い、なにも言わなかったのだが、

 

一方で雅治は、椎名が自分にかけてくれた『頑張ってね!』の一言が嬉しすぎてモチベーションが急上昇する。絶対に勝とうと心に誓った。まぁ、いいところを見せたいのだろう。【ヘラクレス】と、雅治はバトル場に降り、逆に真夏と炎林は椎名のいる観客席まで上がってきた。

 

 

「ごめんなぁ、椎名、…兄さんが」

「いやいいよ!面白いお兄ちゃんじゃん!」

「頑張ってください!!師匠!!」

 

 

申し訳なく思ったのか、真夏は椎名に頭を深々と下げて謝った。当の本人は全く気にしていなかったが、

 

炎林は全力で【ヘラクレス】を応援する。

 

【ヘラクレス】と雅治はBパッドを展開させ、バトルの準備をする。

 

 

「一度でも【ヘラクレス】と呼ばれるあなたとバトルがしたかったです」

「本当かいな?めざっちにいいところを見せたいだけとちゃうか?」

「な!?違いますよ!……ていうか【めざっち】って、」

 

 

確信を突かれて頬を赤らめる雅治。否定しているが、本心だ。だが、【ヘラクレス】とバトルがしたいという思いも、また本心であるには違いないことであって、

 

【ヘラクレス】は完全に椎名をマークしてしまう。椎名のアダ名がまた一つ増える。

 

 

「ほな、いくで!」

「はい!」

「「ゲートオープン!界放!!」」

 

 

2人のバトルが始まる。先行は雅治だ。

 

 

[ターン01]雅治

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!僕はアルマジモンを召喚だ!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

雅治が最初に召喚したのはアルマジロ型の黄色の成長期スピリット、アルマジモン。その召喚時も使用する。

 

 

「召喚時効果!3枚オープン……!」

オープンカード

【イエローリカバー】×

【パタモン】×

【フルーツチェンジ】×

 

 

勢いよくめくられるが、それは全て外れ、手札が増えることはなかった。寧ろ相手にデッキの中の情報アドバンテージを提示してしまうことになる、

 

雅治には椎名や司のような引きの強さは備わっていない。自分のセンスの無さを、彼は明晰な頭脳と推理力で補っているのだ。

 

 

「仕方ないね、ターンエンド」

アルマジモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

やることを全て終えた雅治はそのターンを終えた。次は期待がかかる【ヘラクレス】のターンだ。

 

 

[ターン02]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「ふ〜む、黄色か、……じゃあ後手に回るのは無しやな!」

 

 

そう言って、【ヘラクレス】はメインステップへと移行し、手札のカード達を抜いていく。

 

 

「メインステップや!召喚!カッチュウムシ!……そして緑の成長期スピリット!テントモン!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

ヘラクレスが召喚したのは甲冑を着た小型のカブトムシと、緑の成長期スピリット、てんとう虫型のテントモンが現れた。このテントモンこそが、彼のデッキの軸となる重要なカードだ。その効果は他の成長期スピリット達とは一風変わった効果であり、

 

 

「テントモンの召喚時!ボイドからコア1つをテントモンの上に置く!……それによりLVも2に上昇や!」

テントモン(2⇨3)LV1⇨2

 

 

テントモンは他の成長期スピリットとは違った召喚時を持っている。それは緑属性なら当たり前のコアブースト効果。テントモンにコアが1つ追加で送り込まれた。それは同時に新たな力を与えられたのに等しいのであって、

 

ー黄色のデッキとの長期戦は不利になる。そう考えた【ヘラクレス】は速攻で決着をつけようと自分のデッキを高速回転させる。可能な限りだが、

 

 

「アタックステップ!テントモンのLV2効果、【進化:緑】発揮や!こいつを手札に戻し、成熟期のカブテリモンに進化させるで!」

「な!?……も、もう進化を!?」

 

 

テントモンはその変わったコアブースト効果により、後攻の第1ターン目から【進化】を行える異例なカードだ。

 

データのベルトに巻かれて、テントモンが進化する。新たに現れたのは立派な一本の頭角を持つ成熟期スピリット、カブテリモン。4本の手、4本の羽を広げて、主人である【ヘラクレス】の前に現れた。

 

 

「す、すごい!もう進化した!」

「せやな、兄さんのデッキにとってこのくらいは朝飯前や」

 

 

素直に驚く椎名。この動きを何度も目の当たりにしているからか、真夏は特に驚くことはなく、冷静な口調で喋る。そうでなくとも、有名になりすぎた【ヘラクレス】のこの動きは、ほとんどの人々に知られてしまっている。雅治も同様。驚くのは成長期と成熟期の2枚を初手に握っているその引きの強さだ。

 

 

「カブテリモンの召喚時かアタック時、相手のスピリット1体を疲労……対象は当然、アルマジモンやな!」

 

「くっ!」

アルマジモン(回復⇨疲労)

 

 

カブテリモンの巻き起こす緑の風が、アルマジモンを疲れさせる。カブテリモンの効果の真骨頂はこれからだ。

 

 

「アタックステップは継続や!いけ!カブテリモン!LV2のアタック時効果で、疲労状態の相手スピリットをデッキのいっちゃん上に戻すで!今度は消えな!アルマジモン!」

「……ぐっ!まさかこんなに早くこの2枚を揃えてたなんて……っ!!」

 

 

カブテリモンは4本の腕を胸部に集めてエネルギーを溜めて、それを一気に射出。避けきれないアルマジモンはこれに命中。すると、アルマジモンはデジタルの粒子となって雅治のデッキの一番上に置かれてしまった。

 

デッキトップバウンス効果。カブテリモンの最も厄介な効果だ。何か事前に対策カードをデッキに入れない限り、あまり防ぎ辛い効果だ。

 

 

「流石だぜ!師匠!第2ターンからあの【進化】を繋げるなんて!」

 

 

強すぎる自分の師匠の引きの強さに思わず声を荒らげる炎林。だが、この引きの強さは必然のもの。彼ほどの実力の持ち主は、それを当たり前のように実行してしまう。

 

 

「さぁ、アタック継続中やで!」

 

「……ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

カブテリモンの4つの拳が、雅治のライフを1つ砕き切った。

 

 

「次やな、カッチュウムシ!」

 

「それもだ!」

ライフ4⇨3

 

 

カッチュウムシの高速体当たりが炸裂。また雅治のライフが砕けた。雅治はこのターンで、スピリットと、ライフを2つを同時に失ってしまった。たった2ターン、たったの2ターンで、その実力の差がはっきりとわかってしまう。

 

 

「まぁ、こんなもんやろ、ターンエンドや」

カブテリモンLV2(3)BP8000(疲労)

カッチュウムシLV1(1)BP1000(疲労)

 

バースト無

 

 

(くっ……!……強い、…椎名の前でこれ以上無様な姿は見せられない。次のターンで一気に挽回するんだっ!)

 

 

余裕の顔でターンを終える【ヘラクレス】。散々鳴り響いていた虫達の羽音がようやく静かになった。

 

雅治は次のターンで挽回の機会を狙う。

 

 

[ターン03]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「いくよ!メインステップ!天使キューリンと、戻ってきたアルマジモンをLV1ずつで召喚!」

手札5⇨3

リザーブ7s⇨2

トラッシュ0⇨3s

 

 

かの有名なスピリット、クーリンをモチーフに作られた黄色のスピリット、キューリンと、カブテリモンによりデッキの上へと戻ってしまったアルマジモンが召喚される。

 

雅治はアルマジモンの効果を再び発揮する。

 

 

「アルマジモンの召喚時効果!カードをオープンっ!!」

オープンカード

【天使キューリン】×

【パタモン】×

【舞華ドロー】×

 

 

またもやはずれ、3枚のカードは無残にトラッシュへと送られてしまう。だが、雅治は涼しい顔のままアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!いけ!アルマジモン!」

 

 

アルマジモンが体をボールのように丸めて転がっていく。【ヘラクレス】は自分の手札をじっくりと眺め、考える。その結果は、

 

 

「………ライフで受けるで」

ライフ5⇨4

 

 

ライフの減少を選択。弾丸のように加速したアルマジモンが【ヘラクレス】のライフを1つ砕いた。

 

雅治は本当ならもっとライフを減らしておきたかったところだったが、場にいる天使キューリンは自身の効果によりアタックを行うことができない。仕方なくここはターンを終えることになる。

 

 

「エンドステップ……トラッシュにある舞華ドローの効果を発揮、僕のトラッシュにソウルコアがあるため、これを回収する………ターンエンド」

手札3⇨4

 

天使キューリンLV1(1)BP1000(回復)

アルマジモンLV1(1)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

トラッシュから舞い上がるように、舞華ドローのカードが雅治の手札へと回収された。雅治はアルマジモンの召喚の際に、コストの支払いをソウルコアで払っていたのだ。

 

 

「ふ〜〜ん、舞華ドロー……ね」

 

 

[ターン04]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

カッチュウムシ(疲労⇨回復)

カブテリモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ…………(さぁ〜〜て、どないするかな、アルマジモンのサーチ効果を使うたっちゃうことは今あいつの手札には【進化】も【アーマー進化】もないか、………はたまた引き運の悪さを利用して誘ってるのか……まぁええ、罠だったらだったで、一回乗っかってみよおっと)」

 

 

思考を張り巡らせる【ヘラクレス】。その結果、このターンで一気にライフを減らしにかかる判断を下した。

 

 

「テントモンと山賊親分ヒゲコガを召喚や!……不足コストはカブテリモンからな」

手札4⇨2

リザーブ4⇨0

カブテリモン(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ0⇨4

 

 

【ヘラクレス】は【進化】の効果で手札に戻ってきたテントモンを再召喚すると同時に、髭を長く生やした山賊のようなスピリット、山賊親分ヒゲコガが召喚される。

 

さらに、【ヘラクレス】はテントモンの召喚時効果でコアを1つブーストすると、すぐさまアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!ヒゲコガでアタックや、その効果でボイドからコア1つヒゲコガに置き、相手のスピリット1体を疲労、対象はもちろんキューリンや」

山賊親分ヒゲコガ(1⇨2)

 

「ぐっ!……」

天使キューリン(回復⇨疲労)

 

 

ヒゲコガは自分の持つ古びた剣を振り回す。それで起きた大きな風がキューリンを襲う。キューリンは思わず横になってしまった。戦っているとは思えない程にとても緩い顔つきで、

 

天使キューリンには、破壊時に自分のライフを1つ回復する効果がある。だが、疲労を得意としている【ヘラクレス】相手では、その効果を存分には使えない。おまけにそれがアタックできないときたものだから、まさにやられるがままだった。

 

 

「アタックは継続中やで、」

 

 

【ヘラクレス】がそう言いつつもヒゲコガがそのでかい腹を揺らしながら走って来る。目指すは雅治のライフだ。このターン、【ヘラクレス】のフルアタックが通れば、彼の勝利に終わる。

 

だが、雅治は待っていた、このタイミングを、【ヘラクレス】が勝ちに来るためにカブテリモンのLVを下げてまでスピリットを展開して来ることを、そして手札のカード1枚を抜き取る。【ヘラクレス】はその動作を見て、「後者やったか」と、察したように呟く。

 

 

「それを待ってた!フラッシュマジック!舞華ドロー!相手のスピリット1体のBPをマイナス3000し、0になったらそれを破壊、デッキから1枚ドローできる………僕はこの効果でテントモンを対象にする!…テントモンのBPは2000、よってそれを破壊し、僕はカードを1枚ドローする」

手札4⇨3⇨4

リザーブ2⇨1

トラッシュ3s⇨4s

 

 

テントモンは眩い黄色の光に包まれて、そのまま爆発してしまう。それでもまだフルアタックされれば雅治のライフは尽きてしまうのだが、

 

 

「わかっとるよ、舞華ドローの効果はな、それだけじゃあまだ足りんでぇ、(まぁ、ここで意気揚々と使うたんやからまだ何かあるんやろうなぁ)」

テントモンBP2000⇨0(破壊)

 

 

【ヘラクレス】のこの予想は完璧に的中している。雅治はさらにもう1枚のカードを抜き取る。それはこの状況を一変させるカードだった。

 

 

「フラッシュタイミングで、手札にあるサブマリモンの【アーマー進化】発揮!アルマジモンを手札に戻し、1コスト支払うことでこれを召喚する!……サブマリモンを召喚!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ4s⇨5s

サブマリモンLV1(1)BP4000

 

 

「……!!…ほぉ、珍しい、…アーマー進化かいなっ!」

 

 

アルマジモンに独特な形をした卵が頭上に投下される。アルマジモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは、まるで小型の潜水艦のようなスピリット。鼻先のドリルを回転させながら、青のアーマー体、サブマリモンが浮上した。

 

 

「おぉ!アーマー体!しかも青!」

 

 

これに反応したのは椎名だった。同じ青を使うからか共感したのだろう。そして、雅治はその召喚時の効果を使用する。

 

 

「サブマリモンの召喚時効果!相手のコスト4以下のスピリット1体を破壊!僕はヒゲコガを破壊する!」

「……!!……コスト破壊っ!」

 

 

地中を泳ぐように移動するサブマリモンは、その下部に取り付けられたミサイルを発射する。行く先は走って向かって来るヒゲコガだ。ミサイルはヒゲコガの足元までくると上へと飛び上がり、ヒゲコガの腹の側で爆発する。ヒゲコガは耐えられず、ミサイルと共に爆発した。

 

【ヘラクレス】は少し驚いていた。何かしらの反撃が予想されたこのターンだったが、まさか黄色のデッキから青属性の特徴であるコスト破壊が飛んでくるとは思ってもいなかったのだ。

 

 

「これはちょいとしてやられてしもたなぁ、……でもアタックステップはまだ終わらへんでぇ!カブテリモン!」

 

「……!!…ライフで受ける!」

ライフ3⇨2

 

 

4枚の羽を羽ばたかせ、飛翔するカブテリモン。上空から雅治のライフを叩きつけるように破壊した。

 

 

「…ターンエンドや……」

カッチュウムシLV1(1)BP1000(回復)

カブテリモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

[ターン05]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨7

トラッシュ5⇨0

天使キューリン(疲労⇨回復)

サブマリモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!パタモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨4

トラッシュ0⇨2

 

 

雅治の場に、新たなる成長期スピリットが現れる。それは小さな哺乳類型で耳が羽のように発達したスピリット、パタモン。雅治はその召喚時効果を使用する。

 

 

「パタモンの召喚時!カードをオープンする!」

オープンカード

【イエローリカバー】×

【アルマジモン】×

 

 

パタモンはデッキから2枚オープンし、その中の「成熟期」「完全体」を加える効果があるが、今回も失敗に終わる。カードはトラッシュ送りとなった。だが、

 

 

「まだだ!僕はアルマジモンを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨2

トラッシュ2⇨3

 

 

三たび現れるアルマジモン。雅治はデッキへと手を伸ばし、その召喚時を発揮させる。

 

 

「召喚時効果!」

【エンジェモン】○

【アンキロモン】○

【ペガスモン】○

 

 

「よし!僕はこの効果で「アーマー体」の【ペガスモン】を手札に加える!」

手札3⇨4

 

 

ようやくゲットに成功する。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるとはまさにこのことだ。雅治は手札にあるペガスモンのアーマー進化の効果をメインステップで発揮させる。

 

 

「ペガスモンの【アーマー進化】発揮!対象はパタモン!対象のスピリットを手札に戻し、1コスト支払うことで召喚できる!……希望の光差す天馬!ペガスモンを召喚!」

リザーブ2s⇨1

トラッシュ3⇨4s

ペガスモンLV1(1)BP5000

 

 

パタモンに羽のついた卵が頭上に投下される。パタモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは、まるでペガサスのような姿をした聖獣型の黄色のアーマー体、ペガスモン。その優雅な姿に、【ヘラクレス】は目を見開く。

 

 

「ほぉ、立派なもんやな〜〜」

「ペガサスだぁ!カッコイイ!!」

 

 

椎名は初めて目の当たりにするペガサスに興奮する。この間ユニコーンのような姿をした晴太のエグゼシード・ビレフトを目の当たりにしたからだろう。

 

ー雅治はそのペガスモンの力を存分に発揮させる。

 

 

「ペガスモンの召喚及びアタック時効果!相手のスピリット1体をBPマイナス3000!対象はカブテリモンだ!」

 

「………!!」

カブテリモンBP5000⇨2000

 

 

飛翔するペガスモンの額から放たれる聖なる光線がカブテリモンを貫く。カブテリモンは力をそれに奪われてしまう。そしてこの効果はアタック時にも発揮できるのであって、

 

 

「アタックステップ!ペガスモンでアタック!再び効果を発揮!カブテリモンのBPをマイナス3000!0になったカブテリモンを破壊する!」

 

「ぐっ!!」

カブテリモンBP2000⇨0(破壊)

 

 

再び放たれる聖なる光線。カブテリモンは遂に全ての力を奪われる。そして力尽き、倒れ、大爆発した。

 

 

「すごい!雅治!あのカブテリモンを破壊した!」

「ふん!師匠のカブテリモンを破壊したくらいで何をそんなに喜ぶことがある」

「?……エースじゃないの?」

「違ぇよ!カブテリモンなんて序の口!本当はまだまだ強いのがいるんだぞ!」

「……せやで椎名、兄さんはこんなもんやあらへんよ……ちょっと腹立つけど」

 

 

3人の会話からまだ【ヘラクレス】が本気ではないことが示唆される。これでほぼ互角だと言うのに一体どれほどの力を身につけているのだろうか。底が知れない。

 

 

「ペガスモンのアタックは継続!」

 

「ライフで受けるでぇ」

ライフ4⇨3

 

 

ペガスモンは両脇から宇宙空間を広げると、そこから流星群のようなものを発射させる。【ヘラクレス】のライフはそれに砕かれて1つ破壊されてしまった。

 

 

「続け!サブマリモン!」

 

「それもライフやで」

ライフ3⇨2

 

 

今度はサブマリモン、地中を泳ぐように推進し、ドリルのような鼻先を回転させながら、バリアに衝突し、【ヘラクレス】のライフを1つ破壊した。

 

 

「よし!エンドステップ!トラッシュの舞華ドローを回収して、ターンエンド!」

手札4⇨5

 

天使キューリンLV1(1)BP1000(回復)

アルマジモンLV1(1)BP2000(回復)

サブマリモンLV1(1)BP4000(疲労)

ペガスモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

雅治はブロッカーを2体残し、そのターンを終える。

 

 

[ターン06]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ7⇨8

 

 

「ドローステップ………!!…なんや、もう終わりなんか」

手札2⇨3

 

「なに!?」

 

 

今、確かに彼はそう言った「終わり」だと、【ヘラクレス】はドローしたカードを見て、察したのだ。このターンでバトルが終わることに。だが、現在、【ヘラクレス】の場には低コストスピリットのカッチュウムシ1体しかいない。こんな状況から少ない手札で一体なにをしようというのか、

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ8⇨12

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、………そうそう、長峰、さっき俺は『バトルに関しては女の子にも容赦せん』って言うたけどなぁ、……………俺は男にはもっと容赦しないねん。念頭においとくんやなぁ」

「………!!」

 

 

さっき会った時と同じような感覚を雅治は味わっていた。とてつもないプレッシャーだ。それと同時に、雅治はドローステップでの言葉が嘘ではないことを見抜いてしまう。彼は本気だ。本気で終わらせるつもりだ。ブロッカー2体をどけ、さらに残った自分の2つのライフを減らすつもりだ。

 

ーそして【ヘラクレス】はドローステップで得た1枚のカードをゆっくりとBパッドに置いていく。

 

 

「ちょっとだけ力を見せてやるでぇ、………アトラーカブテリモンをLV2で召喚や!!!」

リザーブ12⇨3

トラッシュ0⇨6

 

「……!!」

 

 

地中から勢いよくスピリットが飛び出してくる。それは先のカブテリモンが進化し、完全体となった姿。体は赤みを帯び、羽がなくなるが、そのかわり頭角が日本の国産カブトのような逞しいものに変わる。

 

赤き稲妻をその頭角に纏う緑の完全体スピリット。アトラーカブテリモンが【ヘラクレス】の場に誕生した。雅治も当然このスピリットのことは知っている。【ヘラクレス】でのバトルでは必ずと言っていいほど召喚され、フィニッシャーになっているのだから。

 

 

「す、すごい、」

 

 

椎名もそのアトラーカブテリモンのとてつもない威圧感に飲まれそうになる。炎林はその右横で「やっちまってください!師匠!」と大きな声で叫ぶ。左横では真夏がそれを「うるさい」と一蹴する。

 

 

「アトラーの召喚時発揮!相手のスピリット2体を疲労させるか、疲労状態のスピリット2体を手札に戻す!俺はアルマジモンと天使キューリンを疲労させるで!」

 

「くっ!」

アルマジモン(回復⇨疲労)

天使キューリン(回復⇨疲労)

 

 

アトラーカブテリモンの4本の腕から放たれる赤き稲妻が、アルマジモンとキューリンを襲う。2体を吹き飛ばし、疲労を負わせる。そして【ヘラクレス】はアタックステップに入る。

 

 

「アタックステップ!アトラーでアタックや!効果でアルマジモンとキューリンを手札に!」

 

「…………」

手札5⇨7

 

 

アトラーが再び4本の腕から赤き稲妻を放つ。アルマジモンとキューリンは今度は耐えきれずに、デジタルの粒子となってしまって、雅治の手札へと戻ってしまう。

 

 

「そ、そうか……思い出した。こ、これが噂の【キングスロード】、王者の道、……か……っ!」

 

 

【キングスロード】。【ヘラクレス】がバトルを決めにかかる時、必ずと言っていいほど、相手のスピリットが全て疲労しているか、手札に戻っているかのどちらかであり、その様がまるでスピリット達が彼に道を譲っているように見えることから、このようなターンを王者の道、【キングスロード】と呼称されるようになった。

 

ー今がまさにその状況だ。だが、雅治もただでは転ばない。手札のカードを1枚引き抜く。

 

 

「でもまだ負けない!フラッシュマジック!回収していた舞華ドローを使用する!対象はカッチュウムシ!BPは0になる!…よって破壊し、カードをドローする!……よし!これで………」

手札7⇨6⇨7

リザーブ3⇨1

トラッシュ4s⇨5s

 

 

舞華ドローがここに来て再び炸裂。カッチュウムシが光に包まれて、爆発してしまう。これで【ヘラクレス】のスピリットは1体。雅治の残った2つのライフを破壊できずに終わる。……………かと思われた。

 

 

「………なんや、もう抵抗は終わりか?」

カッチュウムシBP1000⇨0(破壊)

 

「!?!…………な、なにを、………!!?…そうかっ!……アトラーは!!」

「え!?なに?防げないの?」

「周りを駆除したくらいじゃ、アトラーは止まらないっちゅうこっちゃ」

 

 

雅治はアトラーカブテリモンのもう1つの効果を思い出した。それはフィニッシャーとなる決定力をあげるカブテリモン系特有の効果であって、

 

観客席の椎名もその効果を知らない。今回、それを目の当たりにできたのは幸運中の幸運と言っても過言ではないだろう。

 

 

「さぁ、どう受ける気や?」

 

「…………ライフだ」

ライフ2⇨1

 

 

負けを悟ったように迫り来る赤き甲虫の4本の拳をライフで受け止める雅治。それは砕かれ、いよいよ残り1つ。そしてここからが赤き甲虫の真骨頂だ。

 

 

「アトラーが相手のライフを減らした時、相手のライフを「完全体」の数1体につき、さらに減らす。今回はアトラーが1体、よって追加でもう1つもらうでぇ!……レッドホーンフィニッシュ!!!」

 

 

その赤き一本の頭角に同じく赤き稲妻を纏い、雅治のライフに突進するアトラーカブテリモン。その勢いで雅治の最後のライフを串刺しにし、破壊。【ヘラクレス】が圧倒的な力の差を見せつけて雅治に勝利した。それに伴い、残ったスピリット達がゆっくりと消滅していく。アトラーカブテリモンはその中で勝利を祝うように奇声を上げ続けた。その姿はまさに王者の咆哮。

 

 

(ま、負けた、なんて人だ、まさかここまでだなんて、……この僕がずっと掌で転がされていた………っ!)

 

 

このバトル、一貫して見ると、ずっと互角のバトルに見えなくもないが、そうではなかった。【ヘラクレス】は常に雅治のほとんどの行動を読み取り、動いていた。互角になっているように見えたのは、【ヘラクレス】自身が敢えて雅治の罠に乗っかったから、雅治がどんなバトラーなのか見たかっただけだ。そうでなければ、第4ターンでスピリットなど展開せず、素直にカブテリモンの効果で再びアルマジモンをデッキトップに戻していたことだろう。雅治もバトルを続けていくうちに、薄々それを感じとっていた。

 

雅治は膝をつく。悔しさや、脱力感に襲われたからだ。雅治は今日、改めて自分の弱さを痛感した。【ヘラクレス】はそんな彼の目の前までいく。

 

 

「ふぅ〜〜なかなかスリリングやったでぇ、またやろうや、」

「……はい、お見事でした……っ!」

 

 

そう言って手を差し伸べる【ヘラクレス】。雅治もその手に合う手で掴み、立ち上がる。2人が互いの実力を認め合った証拠だ。

 

その握っている手を離すと、【ヘラクレス】は疲れを癒そうとしているかのように、ゆっくりと腰を伸ばす。

 

ーそして、ここに来た時同様の大きな声で、

 

 

「はぁ、疲れたなぁ…………よし!炎林!今日のとこは帰るでぇ!」

「えぇ!?もう帰るんですか!師匠!?」

「おう!久しぶりに妹の顔も見れたし、可愛い子もおるし、もう満足や!」

 

 

急に帰ると言い出す【ヘラクレス】。炎林は少しだけ驚くが、自分の師がそう言うのだ。帰るしかあるまい。炎林は観客席を降りる。

 

 

「じゃあなぁ!真夏ちゃーーん!!めざっち〜〜〜〜!!!また会おうね〜!!!」

「二度と来んなやぁ!!この変態!!!」

「ははっ、………じゃあねぇ!!!真夏のお兄ちゃん!!!」

「いや、椎名、受け答えせんくてええねん!!!!!」

 

 

そう言って大きな声で高笑いしながら、【ヘラクレス】は満足げな顔で第3スタジアムを炎林と共に出て行く。ジークフリード校とキングタウロス校の急な交流はこれにて幕を閉じた。

 

 

 

******

 

 

 

「つ、疲れた……」

 

 

その後の下校時のことだ。真夏は疲れ切った顔をしながら椎名と雅治の横を歩く。ツッコミ疲れたのだ。自分の兄が突然自分の学校に訪問して来たのだ。当然といえば当然だが、

 

いろんな意味で兄を遠ざけるためにジークフリード校にきたが、それが仇となった。久しぶりに兄のオーラを浴び過ぎて余計に疲れてしまった。

 

椎名は真夏がよく人に対してツッコミに回るのがよくわかった。あんなに変わった兄がいればどうしてもそうなってしまうのだろう。真夏が今まで苦労してたのがわかる1日だった。

 

ーそして椎名は何かを思い出したように掌を合わせるようにを叩く。

 

 

「……あっ!そういえば、雅治、今日私に何か言おうとしてなかった?」

「あっ!」

 

 

すっかり忘れていた。雅治は椎名に今度の休みにショッピングならぬデートに誘おうとしていたことに。

 

 

「あっ、えぇっと、そうだね、」

「?」

(頑張りやぁ)

 

 

雅治は困惑していた。急にふってきたものだから言葉がパッと浮かばない。いや、「一緒にショッピングしない?」と言うだけなのだが、真夏も再び心の中で応援する。雅治にアドバイスしたのは彼女だ。真夏自身も恋愛経験はないのだが、

 

やはり相手が好きな女の子だと言いだし辛いものがある。胸の心音が頭に響いてうるさい。

 

ーそれでも意を決して告げる。

 

 

「その、………僕と今度の日曜!!!ショッピングしてくれませんか!!!!!!?」

 

 

言った。大きい声で不自然だが、言えた。なんとか言えたが、対する椎名の反応は。

 

 

「え!?そんなデカイ声で言うこと?……まぁいいけどさ!」

 

 

深い意味を全く理解していないが、一応元気な声で了承する椎名。雅治は心の中で飛び上がった。とても嬉しかった。真夏も心の中が晴れやかになる。今まで溜まったストレスが浄化されたかのように。

 

椎名はそんな2人の顔を見て不思議に思う。

 

 

「?……真夏も行く?」

「い、いやいや、行かれへんよ〜……あたしその日用事あんねん!!」

「そ、そうなの?」

(服……何着て行こうかな?)

 

 

嘘だ。真夏は絶対尾行する気だ。椎名は真夏の異様なテンションの高さに少し驚いた。理由は一生かけてもわからないだろうが、

 

緑坂真夏。関西出身の女子高生。基本はツッコミ役だが、この手の話だとボケに回ることが多い。周りがおかしな連中ばかりで気づいていないだけで、本当は彼女自身も十分変わり者だ。

 

 

 

******

 

 

 

場所は変わり、ここは電車の中。炎林と【ヘラクレス】は帰宅中。腰掛けに座っている。炎林は疲れ切ったのか、周りの人達など気にせず鼾をかいて寝ていた。【ヘラクレス】はなんとかそれを起こそうと試みるも、これがなかなか起きなかった。彼はもうどうでもよくなり、一旦炎林のそばを離れ、違うところに座り、1人落ち着く。

 

 

(今日はなかなかええもん見れたな、【朱雀】の親友の長峰に、【めざっち】。……今年の【界放リーグ】では、【朱雀】とあの2人のどっちかが上がって来るやろなぁ……………いや、長峰は参加せんやろ……じゃあ、ジークフリードからは【朱雀】と【めざっち】の2人か………ふふ、おもろなって来たでぇ!!)

 

 

今日のことを振り返りながらそう考える【ヘラクレス】。毎年行われる界放市の6つの学園によるバトスピ祭り【界放リーグ】。その学校の代表者は学園毎に2名だ。その選出方法は学園内での選抜予選大会で決めるのだが、【ヘラクレス】は椎名と司の2名が勝ち上がって来ると予想。彼は最初に椎名を見た時から見抜いていた。椎名がかなりのバトスピセンスの持ち主であると、雅治が参加しないと思った理由はわからない。妹の真夏は絶対に参加しないだろうと思ったのか、名前すら考えなかった。それは真夏が自分と比べられるのが嫌なのを知っているからである。大会など特に滑降な比較場所だろう。

 

【ヘラクレス】は胸の高鳴りを感じていた。【朱雀】の司とはジュニア時代ではバトルは一切していなかった。ジュニアクラス、又は中学生の大会では、3年生は受験で忙しくなるため、大会に参加できないのだ。そのため、必然的に1、2年生で争われることになる。それ故に年が2つ離れていた【朱雀】と【ヘラクレス】は対戦できなかった。今年ようやく念願の対戦ができることは、彼としては楽しみの極みのようなものであって、

 

ー【ヘラクレス】は大の女好きだが、それ以上に熱いバトルがなによりも好物だった。

 

今回、彼がジークフリード校に来たのは、真夏のことももちろんあるが、それ以上に【朱雀】のバトルを一目見たかっただけだった。結果としては会えなかったものの、ひょっとしたら【朱雀】以上かもしれない人物である椎名に出くわした。【ヘラクレス】は確信していた。彼女なら絶対に選抜予選を勝ち抜き、【界放リーグ】本戦に出場して来ると、

 

ーだが、椎名はまだその【界放リーグ】の存在すら知らない。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【アトラーカブテリモン】!!」

「アトラーカブテリモンは、リリモンと同じく緑の完全体!召喚時とアタック時に相手のスピリット2体を疲労させたり、手札に戻したりできるよ!私も【ヘラクレス】とバトルしてみたかったなぁ!」






最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今回登場した【キングスロード】王者の道。
ですが、正確な英訳は全く違う単語です。この物語の中では英訳ではなく、ただ単にそう呼ばれるようになった。と言う解釈でお願い致します。

ヘラクレスと炎林も後で設定に書き足しておきます。時間があればどうぞご覧になってください!

いよいよ貯めていたストックを全部投稿し終えました。次回は10日後くらいになる可能性もあります。ご了承ください。タグの通り、この作品はだいたい1週間で投稿します。短くて2日、長くて10日くらいの間隔でやってみせます。

オバエヴォの第1章の物語も、次回からゆっくりと傾いていきます。


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第11話「椎名の最高の1日」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《皆さん!おはようございます!【紫治 夜宵(しち やよい)】です!今日も元気にパープル・ヒーリングを始めちゃいましょう!》

 

 

これはあるラジオの人気番組。紫治夜宵の【パープル・ヒーリング】だ。パーソナリティを務める紫治夜宵は16歳にして、この界放市では絶大な人気と知名度を誇る有名な芸能人。この街においては彼女の名前と顔を知らない者はいない。このラジオ番組だけでなく、界放市のグルメリポートや、歌手など、その幅はかなり広く、基本的に職を選ばない。

 

ーそしてこの番組で一番人気のコーナーが、

 

 

《ハイ!それでは次のコーナーです!………【導け!バトスピ占い!】………このコーナーは、今から私がドローするカードで今日1日のみんなの運勢を占っちゃおう!…と言うコーナーです!……では早速今日のカードをドローしていきましょう!》

 

 

ちなみに、普通は星座や、干支などで占うのが一般的だが、この街ではそれぞれの人達が持っている、又は使っているデッキの色だ。何故ならこの街の9割以上がカードバトラーなのだから。デッキが混色の場合はそのベース色が対象になる。例えば司だったら赤だ。

 

夜宵は用意されたカードの束の中から1枚引き抜く。引いたカードは、

 

 

《ハイ!今日のカードは【ネコジャラン】です!》

 

 

【ネコジャラン】猫のような外見に、尻尾がネコジャラシになっているのが特徴的。緑のスピリットであるが、赤、青のスピリットとしても扱う効果を持っている。夜宵はそのカードから見える今日の運勢を伝える。

 

 

《今日の1番は緑のあなた!楽しみにしていることがやっとやってくるかも!でも友達を見失うことには気をつけて!ラッキーアイテムは輪ゴム!》

《2番目は青のあなた!今日はいいことがあるかも?でも物は壊さないようにね!ラッキーアイテムは懐中電灯!》

《3番目は赤のあなた!デッキを調整してたら思わぬ発見があるかも!?でも油断してるといきたくないところに連れて行かれちゃいそう!ラッキーアイテムはケチャップ!》

《4番目は白のあなた!あまり外に出ない方が悪いことは起こらないかも?ラッキーアイテムは白い短パン!》

《5番目は黄色のあなた!ゆっくり注意してたら好きな子と距離を縮めるチャンス!?でも一瞬でも気をぬくととてもつまらない1日に!ラッキーアイテムはバスケットシューズ!》

《そして、ごめんなさい!6番目は紫のあなた、今日は色々面倒なことが起こりそう、ラッキーアイテムは黒いニット帽!》

 

 

淡々と明るく可愛らしい声色で、そう伝える夜宵。飽くまでも占いなので真に受ける必要性もないが、これがまたよく当たると最近専らの評判なのである。そして最後に行うのが、

 

 

《そして最後に今日ドンピシャで運がいい人!それはデッキが緑と青の混色で、尚且つ赤属性が少し混じってるデッキを使ってるそこのあなた!今日はとても素晴らしいことが起きます!楽しみにしててくださいね!》

 

 

このドンピシャコーナーだ。さっきまでと違い、絶対にその幸福が来ると断定して話している。あまりにも条件が細かすぎるゆえに当たる人間はほとんどいないのだが、今回は違った。

 

ラジオ放送が終わり、そのラジオのスイッチをリビングで切る少女が1人。椎名だ。

 

 

「……………それ私じゃん!!!!!」

 

 

椎名は驚いた。確かに椎名はさっきのドンピシャのコーナーの条件に合っていた。1ミリのズレもなく。

 

ちょうど2週間前だろうか、テレビのドラマやバラエティで登場する紫治夜宵を見たのは、彼女の話が面白かった。そこから椎名は彼女のファンになった。男性だけでなく、女性ファンも多いのも、紫治夜宵の特徴であった。ちなみにファンの人達からの彼女の呼ばれ方は【夜宵ちゃん】だ。

 

椎名は幸せな気持ちになる。何という幸福感だったろうか、それは本人にしかわからないものだが、自分の好きな芸能人に名前を呼ばれたことに等しい筈だ。椎名は悟る。今日は必ず素晴らしいことが起こると。

 

 

「あっ!もうこんな時間だ、早く行かないと、」

 

 

今日は日曜日。学校は休みだ。だが椎名には行かなければならない場所があった。それはショッピングモール。この間、雅治と約束したのだ。一緒に買い物でも行かないか?と。

 

椎名は私服に着替えて出かける準備をした。黒いパーカーに大きめのブーツが印象に根強く残る。

 

 

「あぁ、と、懐中電灯持ってこ〜〜〜っと」

 

 

紫治夜宵の占いで言われたラッキーアイテムの懐中電灯も忘れなかった。椎名はそれを手に持ち、懐に入れると、住宅街を飛び出した。

 

 

 

******

 

 

 

そしてここは界放市一のショッピングモール。果てしなく大きくて、広い。とにかく広い。日曜日ということもあって大勢の人達で賑わっていた。そんななか、ショッピングモール前のベンチで座っている男子が1人。雅治だ。

 

彼は今日という日を待ちわびていた。まさか椎名とショッピングできるなどとは夢にも思わなかっただろう。雅治は待ち合わせの時間から2時間前からここに座っていた。それほど緊張しているのだろうか、椎名とは学校などで普通に話す分には特に問題はないのだが、こういうことになるとどうも思い上がってしまう。

 

そしてそこから少し離れたところからその様子を眺める人影が2つ。真夏と司だ。彼らは変装のつもりなのか、サングラスとアフロのカツラで他人になりすましていた。だが、司は何やらご機嫌斜めで、

 

 

「おい、関西女」

「ん?なんや?」

「なんやじゃない、……なんだこの格好は、何故俺がこんな恥ずかしい格好で人気の多いショッピングモールにいねぇといけねえんだ」

「何言うとんの?…せっかくの椎名と長峰のデートなんよ?!……こんなおもろっそうなイベントそうそう起こらへんって!……見たいやろ?」

「見たくない。俺は【界放リーグ】に向けてデッキの調整に忙しいんだ」

「【界放リーグ】の予選なんてまだ後2ヶ月近くあるやないか、………あっ、椎名や椎名や!」

「おい!服を引っ張るな!……くっ!てめぇ、とことん逃がさねぇつもりだな」

 

 

司とて、雅治が今日椎名とショッピングモールに行くことくらいは知っていた。雅治と司は今同じ家で2人で暮らしているため、いやでもそのことは雅治から聞かされるのだ。

 

だからといって雅治の恋愛に興味がないわけではない。極力応援したい気持ちも少なからず司にはある。だが、それは他人が介入していいものではないと司は考えているからこそ、今日は彼を遠ざけようとしたのだ。それでも真夏に無理矢理連れて行かれてしまったのだが、あまりの彼女の強引さに、結局尾行することになってしまった。

 

司は女子のそういうところが嫌いだ。

 

そんな中でようやく椎名が到着する。元気よく手を振りながら近づいて来る。この時間は約束の時間より5分ほど早かった。

 

 

「おお〜い!雅治!おまたせ〜〜!!」

「し、椎名!……お、おはよう!」

「?」

 

 

ベンチから勢いよく立ち上がってしまう雅治。椎名もいつもと違う雅治に見えるのか、やや怪しげな目で見つめる。

 

 

「どうかしたの?」

「い、いや〜〜なんでもないよ、じゃあ行こうか……!」

 

 

そう言って話を切るかのように歩き出す雅治。椎名もそれについて行く。目の前のショッピングモールへと足を運んだ。外から見るより内側は遥かに膨大だった。色々な品物を揃えた店が所狭しと並べられている。

 

 

「おぉ!ここが界放市一のショッピングモール!広ぉぉい!」

 

 

椎名は目を輝かせながら感動の声を上げる。彼女の故郷である離島にはこんな大きな店などないからだろう。

 

雅治は私服の椎名と会うのは初めてだった。そのこともあってか彼は新鮮な気持ちになっていた。だが、ここで浮かれすぎて入念に計画していなかった分のツケが回ってくることになる。

 

 

「そういえばさ、何買うの?」

「ん!?」

「いや、なにか買いたいから誘ったんじゃないの?」

 

 

そういえばなにも考えていなかった。そうだ、なにも買わずにショッピングなどおかしい。本当の理由は【椎名と一緒にいたかった】だが、そんなの告白同然だ。雅治に言えるわけがない。しかし、彼のI.Qは高い。咄嗟の言い回しで回避する。

 

 

「いやぁ、ほら、あれだよ、夕飯のメニューを増やそうと思ってね!椎名は一人暮らしで料理は得意だって聞いたから!」

「あぁ!そういえば司と2人で暮らしてるんだったね!今度遊びに行っていい?」

「う、うん!いいとも!」

 

 

なんとか切り抜ける。だが、この言葉が司と真夏の耳にも入っていて、

 

 

「あの野郎!めざしなんて誘うんじゃねぇよ!うるさくて敵わねぇぞ!」

「まぁまぁ、長峰の調子も戻ってきたみたいやし、よしとしようやないのぉ」

 

 

そう言ってからの肩にポンと手を置く真夏。2人は物陰に隠れながら2人を尾行しているが、そのサングラスとアフロの格好のせいでかえって悪目立ちしていることには気づけていない。

 

咄嗟に切り抜けたことで、雅治の調子を取り戻したのか、いつものように普通に喋れるようになっていた。咄嗟に考えた嘘から考え出した歩く道のりを椎名に伝えようとする…………が、ここで事件が起きた。

 

 

「よし!椎名!先ずは野菜のコーナー……を?」

 

 

振り返って椎名の方を振り向いて見るとそこに椎名は見当たらなかった。まるで瞬間移動でもしたかのような速さでどこかへと姿を消したみたいだった。

 

 

「あ、あれ!?椎名?」

 

 

雅治は直ぐに周りを見渡した。が、やはりどこにもいない。真夏と司も椎名を見失っており、

 

真夏が思い出したかのように手をポンっと合わせる。この大きなショッピングモールに行くならば、そこそこ重要なことであった。

 

 

「あっ!そういえば、椎名の奴、方向音痴やった……」

「いやいや!もはや音痴のレベルじゃねぇぞ!?」

 

 

3人の椎名捜索の長い旅路の始まりであった。一方の椎名はというと。

 

 

******

 

 

「あれ?どこだろ?ここ……さっきから雅治もいないし、うーむ……雅治、道に迷ったのかな?」

 

 

気づいた時には全く違う通りへと足を運んでしまっていた椎名。自分が迷子だという自覚は毛頭ない。取り敢えずその場をもう一度歩いて見る。

 

 

「ちょっと!?……離しなさい!」

「いいじゃねぇか!少し俺らと遊ぼうってだけだって!」

「ん?」

 

 

すると椎名の目に留まったのは、ゲームコーナーでショートカットでサングラスと黒いニット帽を被っている女の人が、なんか毒島っぽい感じのキャラ3人組に絡まれている様子だった。椎名は女の敵は許せない。考える間もなく、そこまで早歩きで一直線に歩み寄って行く。

 

 

「ふんっ!」

「あぁ!?」

 

 

椎名は近づくなり、直ぐにその手を退かした。その勢いで女性のサングラスが外れる。毒島っぽい3人組は椎名を睨みつける。なんとも言えない濁った目だった。椎名もまた、彼らを睨みつけた。

 

 

「おいおい!なんだ、ネェちゃん!邪魔しないでくれるぅ?」

「今いいとこだったのに!」

「つか!あんたも結構いいなぁ!どうだ、2人まとめて…………」

 

 

昔、椎名は育ての親から色々と鍛えさせられていた。肉体的に、バトスピのためと銘打って。だが、椎名は5年くらい前に気づいた。バトスピに肉体的な強さはいらない。ということに。

 

椎名は今一度気づく。この鍛えた拳は、肉体はこいつらを倒すためにあるのだと、だけどもこれはバトルスピリッツ。カードゲームの物語だ。そんなことをしてしまえば作品が崩壊しかねない。

 

と、考え、椎名は懐から懐中電灯を取り出した。

 

 

「あぁ!?懐中電灯?」

「ハッハッハ!なに!?それで俺らとやろうっていうの?」

(あっ!あれは………!)

 

 

大声で叫んで嘲笑う3人組だが、ニット帽の女の人だけは違った。まるで何かに気づいたかのような顔つきになる。椎名はそれを両手に持ち。

 

 

「ふんっ!」

「「「「へ!?」」」」

 

 

〈バキッ!〉……そんな割れた音が鳴り響く。椎名はまるでアイスの棒を分けるかのように懐中電灯をその手だけで真っ二つにしてしまった。壊れた後からネジやら破片やらのパーツがぼたぼたと零れ落ちていく。

 

 

「……こ、こいつ、や、やべえぞ」

「あ、あぁ」

「か、帰ろうぜ」

 

 

危険と悟ったのと、引いたのと、いかれてると思ったのとで、さまざまな気持ちが混ざってしまった3人組は呆れてその場を逃走していった。

 

 

「……やっちゃった……どうしよう、ラッキーアイテム」

 

 

事なきを得たものの、椎名は今日の自分のラッキーアイテムの無残な姿を見てもどかしい気持ちになる。そんな時、そのニット帽の女性が椎名に話しかけてくる。この後椎名に人生で一番の衝撃が訪れる。

 

 

「あ、あの……助けてくれてありがとう!……ところでその懐中電灯…………」

「ん?……あぁ、いいのいいの、これ安もんです…………し…………へ!?」

 

 

サングラスが外れて、見れるようになった素顔はまさしく翼のない天使と言ったところ。椎名は何度もこの顔をテレビで見た。その正体は【紫治 夜宵】だった。

 

 

「や、夜宵ちゃぁぁぁん!?」

「!?!」

 

 

思わず声を上げてしまう椎名。まさか見ず知らずの人を助けたつもりが、見て知ってる人を助けていたのだ。しかもその相手があの人気芸能人、夜宵ちゃんだっだ。これ以上の衝撃はない。

 

椎名の叫びに周りの人達もそこに目を向けてしまう。あの夜宵ちゃんがここにいるとなると大騒ぎは間違いないだろうと考えた夜宵は、椎名の口を無理矢理手で抑えてもう片方の手で椎名の右手を掴み、椎名と共に一目散に走り出した。

 

 

 

******

 

 

「ふぅ!ここなら人目は少ないわねぇ」

 

 

夜宵が椎名を連れて来た場所は、このショッピングモール外にある別館のバトル場。ピラミッド型なのが特徴で、ここは一番上。基本的に通り道になるのは1回と2回くらいなので、一番上はバトル場が1つしかないことも相まって、なかなか人が来ない場所なのだ。

 

 

「ほ、本当に夜宵ちゃんなの?いや!何ですか?」

「ふふ、同い年でしょ!タメ口でいいわよ!………【芽座 椎名】ちゃん」

「……えぇ!?なんで私の名前を!?」

「だってぇ、さっきの懐中電灯にそう書いてあったんだもの!それに!芽座椎名と言ったら、あの司ちゃ、……じゃないじゃない、【朱雀】に勝ったバトラーじゃない!」

「……!!」

 

 

椎名はまた驚いた。まさか司に勝利しただけで自分の名前がこんな有名人まで届いていたと言うことに。とても嬉しかった。ほっこりして、体から温かみを感じる。

 

 

「私!あなた達の通うジークフリード校から一番距離が近いデスペラード校の生徒なの!!そのくらいの噂は飛んでくるのよ!会えて光栄!」

「い、いやぁ!私こそ会えて光栄だよ!まさか夜宵ちゃんとバッタリ会っちゃうなんて!夢のよう!」

「それでね!ずっと椎名ちゃんとバトルして見たかったの!どう?ここで一戦!」

「うん!いいよいいよ!望むところだ!」

 

 

夜宵がデスペラード校に通っているというのは意外にもあまり知られていない。椎名もそのことを初めて知った。それは彼女がラジオ等でも口にしないからというのもあるが、それ以上に、ある異常な人物の権力の力の影響でもあった。

 

一市民である椎名には決してわからないことであった。2人はBパッドを展開してバトルの準備をした。そして始まりのコールが両側から鳴り響く。

 

 

「「ゲートオープン!界放!!」」

 

 

バトルが始まる。先行は夜宵だ。

 

 

[ターン01]夜宵

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!先ずはネクサス!No.3ロックハンドをLV1で配置!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

早速夜宵が呼び出したのはネクサスのカード。それも紫属性だ。まるで生きているような感じで、両手のような大岩が彼女の背後から出現した。

 

 

「ターンエンド!……楽しませてね!」

No.3ロックハンドLV1

 

バースト無

 

 

先行1ターン目などやることが限られている。夜宵はこのターンを終える。次は椎名だ。『楽しませてね!』とあの夜宵ちゃんから言われたのだ。俄然やる気を出していく。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!先ずはガンナー・ハスキーを召喚!さらにその効果で青シンボルを1つ追加し、フル軽減で猪人ボアボアを召喚!LV1!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が召喚したのは、拳銃を持つために青い腕を生やした緑の犬型スピリット、ガンナー・ハスキーと。猪頭で、鎖付きハンマーを振り回す猪人ボアボア。椎名はこれだけ並べるとアタックステップに入る。

 

 

「アタックステップ!いくよ!夜宵ちゃん!ガンナー・ハスキーと、ボアボアでアタック!ボアボアのアタック時の【緑:連鎖】でボイドからコアを1つボアボアの上に置く!」

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

 

 

一挙に走り出す2体。相手が紫と分かれば早めにコアを貯めてコア除去をし辛くするのが常套手段だ。

 

 

「これが、噂の青緑速攻か……ライフで受けます!」

ライフ5⇨3

 

 

2体はそれぞれ立ち止まり、銃の連射と、ハンマー投げで、それぞれ夜宵のライフを1つずつ粉々に粉砕した。

 

 

「よし!ターンエンド!」

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(疲労)

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

椎名はこの時、夜宵を舐めていたのかもしれない。彼女のバトルの実力を知る者は、デスペラード校の生徒や、教師、又は彼女の肉親とあと数人程度しか知らないので、無理はないが、

 

椎名は初めて感じる事になる。紫治夜宵の。いや、【紫治一族】の末裔の強さを。

 

 

[ターン03]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

 

 

「ドローステップ時!No.3ロックハンドの効果発揮!手札にある系統「呪鬼」のスピリットカードを1枚破棄する事によって、そのドロー枚数をプラス2にする!私はオーガモンを破棄!」

手札4⇨3⇨6

破棄カード

【オーガモン】

 

「!!……ドローステップで3枚も……!!」

 

 

これがロックハンドの恐ろしい効果の1つだ。通常、この手のカードは結局はプラマイになることが多いのだが、ロックハンドは手札に「呪鬼」スピリットがいれば、一気にドローステップでアドバンテージの差を広げることが可能なのだ。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!先ずはバーストを伏せて……紫のデジタルスピリット!ピコデビモンをLV2で召喚!」

手札6⇨4

リザーブ7⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

バーストが伏せられると同時に、丸型の体で、コウモリのような羽を持つ使い魔のような紫のデジタルスピリット、ピコデビモンが現れた。そのピコデビモンが持つ能力は、普通の成長期とは少し変わっていて、

 

 

「召喚時効果でカードを1枚ドロー!」

手札4⇨5

 

 

ピコデビモンの効果でカードを1枚デッキから引き抜く夜宵。紫のコスト3と言えばこの効果だ。ピコデビモンにはその効果が内蔵されている。確実にカードが増えるため、紫デッキではこのような効果はほとんどと言っていいほど入る。そしてピコデビモンはデジタルスピリット。当然進化もできるのであって、

 

 

「そしてアタックステップ!ピコデビモンの【進化:紫】を発揮!これを手札に戻して、成熟期のスピリット、デビモンをLV2で召喚!」

リザーブ2⇨3

デビモンLV2(2)BP7000

 

 

ピコデビモンにデータのベルトが巻きつけられる。そしてそれらが離れると、新たな姿に進化していた。それはさっきの丸型とは打って変わって細身の堕天使型。如何にも悪と言った感じのデビモンが召喚された。

 

 

「おぉ!紫のレアカード!」

「ふふ!デビモンの真価はアタック時よ!アタックステップを継続!そのままデビモンでアタック!……アタック時効果発揮!」

「………!?」

 

 

デビモンは自身の手を下に向ける。するとそこから闇の瘴気のようなものがどんどん溢れ出てくる。地面まで到達すると、それは横に広がり、ゆっくりと消えていく。だが、完全に晴れる頃に、椎名は気づいた。そこには屈強な鬼が目の前にいると。

 

 

「な、なんだ、こいつ!?」

 

「これはオーガモン、成熟期のデジタルスピリットよ………デビモンはアタック時にトラッシュにいる系統「成長期」「成熟期」をノーコスト召喚できるの。このオーガモンはさっきロックハンドの効果で破棄したやつ」

リザーブ3⇨0

オーガモンLV2(3)BP12000

 

「び、BP12000、……ッ!!」

 

 

紫の特徴はコア除去だけではない。トラッシュのスピリットを蘇らせる効果にも長けている。デビモンが持つ能力は特に強力なものだ。何せアタックするだけでその効果を発揮できるのだから。

 

 

「さぁ!アタック中!」

 

「ぐっ!……ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

デビモンの強力な右手が椎名のライフを1つ切り裂いた。

 

 

「次よ!オーガモン!」

 

「これもだ!」

ライフ4⇨3

 

 

オーガモンは巨大な棍棒を振り回し、椎名のライフを1つ叩き割る。これでライフだけなら同値に持っていかれた。

 

 

「ターンエンド!」

デビモンLV2(2)BP7000(疲労)

オーガモンLV(3)BP12000(疲労)

 

No.3ロックハンドLV1

 

バースト有

 

 

 

「つ、強い……夜宵ちゃんってこんなにバトル強かったんだ……っ!」

「そりゃあまぁ、だって私は【紫治一族】ですから♪」

「し、しち、一族?」

 

 

【紫治一族】紫のカードを使いこなす一族であり、故人の供養したりする僧侶のような役目もある。その長、夜宵の父である。【紫治 城門(しち じょうもん)】は故人の供養の他にも、デスペラード校の理事長までもを務めている。超人且つ【伝説バトラー】の1人。大きな権力とは彼のことだ。

 

約9年前、デジタルスピリットが多様化してから、この一族のしきたりは少し変わっていった。それはカードの制限だ。

 

 

「私の一族にはランクがあるの、成長期しか使ってはいけないのがランク1、その次が2、3って言う風にね、私はランク2。だからこの成熟期の進化が限界なの………そしてランクを上げるためにはお父様に認められなくてはいけない」

「へ〜〜〜そんな事するとこもあるんだ」

「だから私は早く一人前になって、完全体まで手に入れたい!だからバトスピ学園に入学したの!」

「………なれるよ!夜宵ちゃんなら!私は全力で応援する!」

「うん!ありがとう!……じゃあ次は椎名ちゃんのターンだね!」

「よぉ〜し!!」

 

 

椎名は夜宵の強さを理解した気がした。誰よりも努力したのだろう。きっと、それでも認めてはくれない父を認めさせるためにデスペラード校に入ったのだと。

 

彼女がこんなアイドルじみた活動をしているのはそれが原因の1つであった。父親の気を引かせたい。その一心で2年前からデビューしたのだ。それがかえって父親を困らせるばかりか、もう後戻りできなくなっているのだが、本人自体はこの活動を楽しんでいる。

 

 

******

 

 

一方その頃、椎名を探している他の3人はと言うと、

 

 

「おぉ〜い!長峰ぇ!」

「ん?あれ、緑坂さん?用事あるんじゃなかったの?」

「そんなのホンマにあるわけないやろ?………それでな!【朱雀】が椎名の居場所がわかる言いよるねん!」

 

 

真夏と司は流石にやばいと気づいたのか、アフロもサングラスも外していた。雅治だけでは拉致があかないと考えた司は、ある作戦に出たのだ。それは普通ではありえない、オカルトチックな作戦。幽霊の存在を全く信じていなかった司からは想像もつかない作戦であって、

 

 

「!?……司もいるのかい?」

「もうすぐ来るで」

 

 

真夏がそう言ったのもつかの間、司がゆっくりと2人のとこまで歩み寄った。だが、その手には奇妙なものを持っていた。それは全国のご家庭では必須な存在。誰もが知っている赤い物体だ。

 

 

「……司」

「なんだ」

「その手に持ってるのはなに?」

「…………さっき買ってきたケチャップだ」

「いや!見ればわかるよ!?……ふざけてるのかい!?」

「なんか、これ買うたらすぐ見つかるんやて」

 

 

そう言いながら3人は司を先頭にして、適当に歩き出す。果たしてこんなんで別館にいる椎名を見つけることができるのか。

 

 

******

 

 

そして、ここは再び別館のバトル場、そのてっぺん。椎名の第4ターンがスタートする。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)

猪人ボアボア(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ブイモンを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨4

トラッシュ0⇨1

 

 

椎名は瞬時にドローステップでドローしたブイモンのカードをBパッドに叩きつけて、召喚する。ブイモンが彼女の足元から飛び出してきた。

 

 

「……これが軸になる成長期スピリットッ!」

 

「そうだよ!召喚時効果!」

オープンカード

【フレイドラモン】○

【風盾の守護者トビマル】×

 

 

ブイモンの召喚時効果は成功。椎名の手札にアーマー体スピリット。フレイドラモンのカードが新たに加えられた。そして、

 

 

「フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払って、炎燃え滾るアーマー体!フレイドラモンをLV2で召喚!」

手札3⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ1⇨2

フレイドラモンLV2(3)BP9000

 

 

ブイモンの頭上に赤くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのはスマートな赤の竜人スピリット、フレイドラモン。

 

 

(ふ〜〜ん。これが司ちゃんを破ったアーマー体スピリット、フレイドラモン……でもそう好き勝手には動かせないわよ!)

 

 

椎名が司に代表バトルで勝利して以降、ジークフリード校だけでなく、それと最も距離の近いデスペラード校と、タイタス校でも、椎名の噂が広まっていた。夜宵も当然それを知っている。

 

そしてそうなると必然的に最後に逆転を飾ったというフレイドラモンもまた、有名になっていた。同学年か、それ以下の学年では全く敵わないと言う【朱雀】に勝ったのだ。本当はもっと広まっていてもおかしくはないのだが、

 

 

「フレイドラモンの召喚時かアタック時の効果!BP7000以下の相手のスピリット1体を破壊して、カードを1枚ドローする!……破壊対象は、ピッタリ7000のデビモン!……爆炎の拳!ナックルファイア!!」

手札4⇨5

 

「……くっ!」

 

 

フレイドラモンの拳の炎が飛ばされる。それは真っ直ぐデビモンの方へ行き、衝突。凄まじい勢いでデビモンを焼却させた。

 

 

「よし!デビモンを倒した!……ガンナー・ハスキーのLVも2に上げ、バーストをセットし、アタックステップだ!………いけぇ!フレイドラモン!オーガモンは無視してそのままライフにアタックだ!」

手札5⇨4

リザーブ1⇨0

猪人ボアボア(2⇨1)

ガンナー・ハスキー(1⇨3)LV1⇨2

 

 

椎名の場にバーストが伏せられると同時に走り出すフレイドラモン。もう1つの指定アタック効果を使用したいところだが、現在夜宵の場にはBPがフレイドラモンより上回っているオーガモンが存在。これでは指定はできないため、疲労していることをいいことに、そのままライフを削りに行った。

 

このままでは、椎名のフルアタックで、夜宵のライフは尽きてしまうが、何故か彼女は笑っていた。まるでフレイドラモンを嘲笑うかのように。

 

 

「ライフで受けます!」

ライフ3⇨2

 

 

フレイドラモンの渾身の炎の拳が、夜宵のライフを破壊する。だが、それは彼女のバーストの条件でもあって、勢いよくそれが開く。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!妖華吸血爪!デッキからカードを2枚ドローする!」

手札5⇨7

 

「……!!」

 

 

紫のバーストカード、妖華吸血爪。それはライフ減少に反応し、カードをドローさせるという紫らしい効果だが、その恐ろしさはフラッシュにある。

 

 

「さらに、コストを支払ってフラッシュの効果を発揮!私は手札を好きなだけ捨てて、その枚数分だけ相手スピリットのコアをトラッシュに置く!」

リザーブ3⇨0

トラッシュ2⇨5

 

「なにい!?」

 

「私は手札を7枚のうち3枚を破棄!椎名ちゃんのフレイドラモン以外のスピリットのコアを全てトラッシュに置くわ!」

手札7⇨4

破棄カード

【ピコデビモン】

【ピコデビモン】

【妖華吸血爪】

 

 

「くっ!!」

ガンナー・ハスキー(3⇨0)消滅

トラッシュ2⇨5

 

 

夜宵の破棄したカード達が紫の棘となり、ガンナー・ハスキーの背に突き刺さる。そしてそれに干からびるまでエネルギーを吸われてしまい、そのまま力尽き、消滅した。

 

しかも送られたコアはトラッシュ。次のターンでは防御に回すことはできなくなった。

 

 

「……くっそぉ、仕方ない、このターンはエンドだよ!」

フレイドラモンLV2(3)BP9000(疲労)

猪人ボアボアLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト有

 

 

一気に片付けるつもりが逆に追い込められてしまった椎名。仕方なくそのターンを終えるが、限られたコア数で次のターンを生きなければならない。

 

 

[ターン05]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

 

 

「ドローステップ時!再びロックハンドの効果で、今度はピコデビモンを破棄して、枚数を2増やす!」

手札4⇨3⇨6

破棄カード

【ピコデビモン】

 

 

さっき3枚もカードを破棄したにもかかわらず、もやは既に6枚まで戻す夜宵。それも紫属性の特徴だ。そのドロー能力は赤属性をも凌ぎナンバーワンなのだ。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

オーガモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!魂鬼を2体!LV1で召喚!」

手札6⇨4

リザーブ6s⇨4

 

 

先ずは軽減確保か、夜宵はコストが0で、尚且つ呪鬼スピリットである魂鬼を2体召喚する。鬼の頭だけが霊魂になっていて、少々気味が悪い。そのうちの1体にはソウルコアが置かれており、

 

 

「マジック!デッドリィバランス!私はソウルコアが置かれている魂鬼を選択!……さぁ椎名ちゃん!あなたも自分の場から1体スピリットを選びなさい!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨3

トラッシュ0⇨1

 

「くっ!………仕方ない。ごめんね!ボアボア!」

 

 

紫のマジック、デッドリィバランス。お互いのスピリットを1体選択して破壊させる効果がある。椎名は疲労状態と言えども流石にフレイドラモンは生贄にはできなかった。

 

両者から選ばれた魂鬼とボアボアは突如現れた巨大な天秤に吸い込まれるようにそれぞれ左右に置かれる。置かれたと思えばそれは動く前に豪快に爆発した。

 

 

「そしてソウルコアの置かれた魂鬼の効果!破壊時にカードを1枚ドローする!」

手札3⇨4

 

 

魂鬼はコスト0ながら効果がある。それはソウルコアが乗っていないといけないと言う、デッキによっては響いてきそうな条件ではあるものの、追加効果は破壊されるだけでドローすると言う便利なもの。

 

デッドリィバランスで使えれば尚無駄がないと言える戦法であった。

 

フレイドラモンの破壊の危機は去ったかに思われたが、夜宵は自慢気に手札のカードを見せつける。

 

 

「再び魂鬼にソウルコアを置き、2枚目のデッドリィバランスを使用する!……私は当然、魂鬼を選択!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨2

トラッシュ1⇨2

 

「………!?!」

 

 

発揮される2枚目のデッドリィバランス。椎名の場にはもはやフレイドラモンしか存在しない。魂鬼とフレイドラモンが吸い込まれるように巨大な天秤にかけられ、そして、かけられた瞬間爆発した。

 

 

「くっそぉ、フレイドラモン……!!」

 

「魂鬼の効果で1枚ドロー」

手札3⇨4

 

 

全く無駄がない。完璧な戦法で、夜宵は椎名の場を壊滅させた。さらにまだ終わらない。ここから怒涛の展開が待っていた。

 

 

 

「さらに、3枚目の魂鬼を召喚し、No.3ロックハンドをLV2にアップして、その効果を使用!トラッシュにある呪鬼スピリットはコストの支払いにソウルコアを使うことで、トラッシュから蘇生できる!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨3

No.3ロックハンド(0⇨1)LV1⇨2

 

 

「え!?トラッシュから蘇生?………召喚するってこと!?」

 

「その通り!私はソウルコアを使用して、トラッシュの呪鬼スピリット、デビモンをLV1で再召喚!」

リザーブ3s⇨0

トラッシュ2⇨4s

デビモンLV1(1)BP5000

 

 

3体目の魂鬼が出現すると同時に、ロックハンドの両掌から悍しいほどの闇が蓄積される。そしてそれらが地面に投下されると、フレイドラモンが倒したはずのデビモンが浮上してきた。彼は焼却されたにもかかわらず、元気ピンピンだ。

 

 

「アタックステップ!オーガモンでアタック!」

 

「くっそ!ライフだ!」

ライフ3⇨2

 

 

オーガモンが飛び出して来る。そのまま勢いよく自慢の棍棒を振り回し、椎名のライフを粉々に砕いた。

 

そして次は蘇生されたデビモンの番だ。

 

 

「さぁ!次よ!デビモンでアタック!!その効果でトラッシュよりピコデビモンを再召喚!」

オーガモン(3⇨2)LV2⇨1

ピコデビモンLV1(1)BP1000

 

 

デビモンはオーガモンを呼び出した時と同様の方法で地の底に眠るピコデビモンを呼び覚ました。ピコデビモンもその召喚時効果を発揮させる。

 

 

「ピコデビモンの召喚時でデッキから1枚ドロー………そしてデビモンのアタックは継続中よ!」

手札3⇨4

 

「それはライフで受ける!」

ライフ2⇨1

 

(………!?!……またライフで!?)

 

 

ボロボロの黒い翼で飛翔し、迫り来るデビモン。そのままその強靭な鉤爪で椎名のライフを1つ八つ裂きにした。このままでは後一度のアタックでも通して仕舞えば椎名の負けだ。

 

 

(……?……なんで?なんでバーストを発動させないの!?……この流れの中で条件は全て満たしたはずなのに……っ!)

 

 

夜宵が気になっていたのは椎名のバーストだった。バーストは大きく分けて5つの条件がある。【自分のスピリットの破壊後】【相手のスピリットのアタック後】【効果によって相手の手札が増える】【相手の召喚時効果発揮後】【自分のライフ減少時】だ。

 

夜宵はいずれもこのターンのうちにそれらを全てやってしまっている。つまりいつ椎名のバーストが発動してもおかしくはない状況であったということだ。だが、椎名はそのバーストを発動させなかった。何か狙いがあるのか、それともブラフか、どちらにせよ、あのバーストは油断ならない存在だ。

 

この場合はバトラーの判断に委ねられるが……………夜宵はそれでもアタックする覚悟を決めたようだ。やはりここで行くのが真のカードバトラーと言えるであろう。

 

 

「結構楽しかったわ!ピコデビモンでラストアタック!!!」

 

 

夜宵のピコデビモンによる渾身のアタック。だが、ここに来て、椎名のバーストが勢いよくオープンする。椎名はこの時を待っていた。リザーブにコアが貯まるその瞬間を、

 

 

「相手のアタックにより私のバーストを発動!」

「え!?このタイミングで!?」

 

 

そのカードとは、

 

 

「緑のバーストマジック!トライアングルバースト!」

「!?!」

 

「その効果により、コスト4以下のスピリット1枚をノーコスト召喚する!来て!ブイモン!…………さらにコストを払い、フラッシュ効果で、魂鬼を疲労!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨0

ブイモンLV2(3)BP4000

トラッシュ5⇨8

 

 

トライアングルの緑の光の中から、【アーマー進化】によって手札に戻ってきたブイモンが現れた。その額に金色のV字を輝かせている。

 

残ったトライアングルはそのまま魂鬼を捕らえる。魂鬼は身動きが取れなくなってしまった。

 

 

「ピコデビモンのアタックはブイモンでブロックだ!」

 

 

ピコデビモンの注射器のような物を飛ばす攻撃はブイモンには全く通じない。全て腕で払いのける。そしてブイモンは空中へと飛び上がり、得意の頭突きをピコデビモンにおみまいして、地面に叩き落とし、爆発したかに見えたが、

 

夜宵にも渾身の一手はあった。いざという時の保険が、その手札には握られていたのだ。夜宵は勢いよくBパッドにそれを叩きつけて発揮を宣言する。

 

 

「フラッシュマジック!式鬼神オブザデッド!」

「!?!」

 

「この効果で、コストを支払い、トラッシュにいるもう1体のピコデビモンを召喚!不足コストはデビモン以外の全てのスピリットから確保する!………………さらにその召喚時の効果でカードを1枚ドロー!」

手札4⇨3⇨4

魂鬼(1⇨0)消滅

オーガモン(2⇨0)消滅

ピコデビモン(1⇨0)消滅

トラッシュ4s⇨7s

ピコデビモンLV1(1)BP1000

 

 

ブイモンと戦っていたピコデビモンを含めて、デビモン以外のスピリットが一気に消滅してしまうが、夜宵の場に闇の瘴気が立ち込める。そしてそこから新たに飛び出してきたのは新たなるピコデビモンだった。

 

式鬼神オブザデッドは、トラッシュにある「呪鬼」「霊獣」スピリット1体をコストを支払って召喚する効果のあるマジックカードだ。

 

 

「……これで終わりよ!アタック!」

 

 

ブイモンはバトルしてしまったせいで現在は疲労状態。もう椎名を守るスピリットは存在しなかった。ピコデビモンが椎名の最後のライフをめがけて飛翔する。

 

ーだが、最後まで何があるかはわからないのが勝負の理論である。椎名はさらに1枚のカードを引き抜く。それはまさしく奇跡の一枚。

 

 

「フラッシュタイミング!ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、青き稲妻、ライドラモンをLV3で召喚!」

ブイモン(3⇨2)LV2⇨1

トラッシュ8⇨9

ライドラモンLV1(2)BP5000

 

「……何ですって!?」

 

 

独特な形をした黒い卵が、ピコデビモンの飛翔を邪魔するように浮遊する。ある程度そうすると、それはブイモンに吸い込まれるように飛んでいき、衝突、混ざり合い、黒いアーマーに青の雷を落とす緑のアーマー体、ライドラモンが召喚された。

 

 

「ライドラモンの召喚時でボイドからコア2つをトラッシュに追加!…………そしてライドラモンでピコデビモンをブロック!」

トラッシュ9⇨11

 

 

【アーマー進化】で召喚されたスピリットは当然新たな召喚扱いなので、回復状態。ブロックが可能だ。空中に浮かぶピコデビモンめがけて飛び立つライドラモン。青き稲妻を纏った一撃でそれを瞬時に引き裂いてみせた。

 

 

「…………ターンエンド」

デビモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

No.3ロックハンドLV1

 

バースト無

 

 

椎名は夜宵の猛攻を何とか凌ぐことに成功。それと同時にこのバトルの勝利がほぼ確定する。当然だ。何せ夜宵の場には疲労しているデビモンと、ネクサスのみ。使用できるコアもたった2つ。ライフも後2つ。これはライドラモンの効果の射程範囲内だ。勝負は最後まで何があるかわからないとは言え、流石にこのコア数では次の椎名の攻撃を耐えるのは難しい。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨12

トラッシュ11⇨0

ライドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップでライドラモンのLVを3に上げ、アタックステップ!…………いけぇ!ライドラモン!」

 

 

ライドラモンは凄まじい速度で地を蹴り、走り出す。

 

 

「……ライフで受ける」

ライフ2⇨1

 

 

ライドラモンはそのまま勢いを殺さず、夜宵のライフを体当たりで破壊する。そしてそのまま椎名はライドラモンの第2の効果を発揮させる。

 

 

「ライドラモンは相手のライフを破壊した時!さらにもう1つのライフを破壊する!………轟の雷!ブルーサンダー!!!」

 

「………!!……やっぱりよく当たるなぁ、私の占い………ッ!!」

ライフ1⇨0

 

 

最後にそう呟く夜宵。自分の色は紫。今日の紫の運勢は最悪だった。

 

ライドラモンのトドメの落雷が、夜宵の最後のライフを砕き、椎名に勝利を収めさせた。バトルの終わりに伴い、スピリット達がゆっくりと消滅していく、残っていたのはデビモンとライドラモンだけだった。

 

 

「はぁ、負けちゃったぁ、流石は【朱雀】を倒す程のバトラーねぇ」

「へへ!……楽しいバトルだったよ!夜宵ちゃん!!」

 

 

お互いに満足げな表情で話す夜宵と椎名。それほどまでにこのバトルが楽しかったと言えよう。だが、ここで来客が訪れる。真夏、司、雅治の3人だ。彼らは階段を走りながらこのバトル場のてっぺんまで上ってきたのだ。

 

 

「おぉ!いたいた!探したでぇ、椎名!」

「真夏!司!雅治!……あれ!?真夏用事あるんじゃなかったっけ?」

「いや、あれやで、これは…………早く終わったから様子を見に行こかなぁーおもてな」

「まぁ、見つかってよかったよ」

「全くだ」

「てか、なんで司まで…………」

「………うるせぇ」

 

 

普通に語らい出す4人だったが、

 

 

「そう言えば、そこの人は誰や?」

「あっ!そうそう!聞いて驚かないでねぇ!この人は!…………」

 

 

真夏が聞く。椎名が夜宵を紹介しようとし、他の皆を驚かせようとしたその時だった。夜宵は黒いニット帽を取り、勢いよく抱きついた。その相手は【朱雀】こと、赤羽司だった。

 

 

「司ちゃぁぁぁぁあん!!!!会いたかったぁ!」

「「え、えぇぇぇ!?」」

 

 

それを見て驚く、椎名と真夏。真夏に至っては夜宵ちゃんがここにいることに関しても驚いていた。真夏は彼女のファンと言うほどでもないが、当然知名度の高い人物であるため、知ってはいた。

 

側にいた雅治はその顔を見て思い出す。この人は自分達が昔から知っている人物であると、司はイラついたような表情で彼女の名を叫んだ。

 

 

「なんでてめぇがここにいるんだぁぁぁぁあ!!夜宵ぃ!!!!」

 

 

椎名と真夏が落ち着くのに3分ほどの時間を有した。それから改めて雅治からの説明が入る。彼女達はその話をよぉく耳を傾けて聞いた。

 

 

「えぇっと、……2人とも知ってると思うけど、この夜宵ちゃんこと、【紫治 夜宵】ちゃんは、僕と司とは昔馴染みなんだ」

「ほ、ホンマかいな」

「いいなぁ」

 

 

そう、彼らは昔からの友人だった。出会ったのは10年くらい前。赤羽家の歴代当主達の供養のために彼女の父が出向いたのがきっかけだった。夜宵が司に好意を寄せるようになったのはここからだった。同じく司が女子が苦手になるのはこれが始まりだった。

 

 

「昔馴染みって言うよりかは、司ちゃんと私は婚約者って言った方がいいかな?」

「誰がてめぇみてぇな尻軽女と俺が婚約したよ」

「尻軽じゃないですぅ!昔から司ちゃん一筋ですぅ!片手にケチャップ持ってる人が何言ってるの!?私のラジオ聴いてる証拠じゃない!!」

「あぁ、そうか、今日の赤属性のラッキーアイテムだったから」

「…………偶々だ」

「あぁ!ちょっとどこ行くの!?司ちゃぁぁぁぁあん!」

 

 

司はそれだけ言い残すと、買ったばかりのケチャップを投げ捨ててそのまま去っていく。人とはどこで繋がっているのかわからないものだと思った椎名であった。

 

 

 

******

 

 

 

これはその日の夜。夜宵は自宅に帰宅した。彼女の家はそれはそれは豪華な屋敷であった。扉に入るなり大勢の召使いが彼女をお出迎えする。そして夜宵はサングラスとニット帽を外し彼らに渡した。

 

疲れたような顔をしながらも、夜宵は自分の部屋に戻ろうとするが、その道中、ある人物とすれ違う。彼女の姉だ。夜宵と同じく美人だが、見た目だけでも妙に刺々しい印象を受ける。

 

 

「どうだった?夜宵、芽座椎名は当たり?それともハズレ?」

「……ごめんなさいお姉様。芽座椎名は実力は伴っていますが、現段階では判断できませんでした…………でも、赤羽司は間違いなく【アレ】に目覚めつつあります」

「あら、赤羽家の長男にもあったの?」

 

 

夜宵な雰囲気は椎名達と話していた時とは明らかに別人だった。それが彼女の本性なのか、はたまた相手が自分の姉だからかは定かでない。

 

 

「まぁ、いいわ、あんたはさっさとあんなアイドルじみた活動なんか辞めて、今日みたいに【計画】の手伝いをしなさい!…お父様もそれを望んでいるわ」

「お姉様、あれはもう私の趣味なのよ、辞めちゃったら周りの人にも迷惑がかかっちゃう、今更辞められないわ」

「あぁ、…………そっ」

 

 

そう言って彼女は夜宵の横を通り過ぎて行った。あまり機嫌が良さそうな顔ではなかった。

 

つかみどころの無い会話だったが、この界放市で何かが起ころうとしているのは確かなことであった。

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名でーす!今回はこいつ!【ライドラモン】!!」

「ライドラモンは私が使う緑のアーマー体スピリット!相手のライフを破壊すると、さらに相手のライフをもう1つ砕くことができるよ!……夜宵ちゃん可愛かったなぁ!またいつか、会えるよね!」





最後までお読みいただき、ありがとうございました!
なんだかんだ投稿できました。

このお話。実は最初に夜宵が言った占いが全部当たってます笑。


《※お詫びと謝罪》
この度は【妖華吸血爪】のフラッシュ効果を、誤って1体ではなく全体に対して使用していたことを大変深くお詫び申し上げます。バトル内容は少々返させていたきました。
次回からはこのようなことが起こらぬよう。気を引き締めて書き留めていきます。本当に申し訳ありませんでした。


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第12話「熱き仮面戦士!クウガ見参!!」

 

 

 

 

 

椎名は今、界放市にある、とあるドーナツ屋に向かっている。普段は節約のためにあまり外食などはしないのだが、今日は違った。

 

なにせ紫治夜宵がMCを務める人気ラジオ番組、【パープル・ヒーリング】でのお便りコーナーで、《オススメのお店はありますか?》という質問を受けたところ、夜宵は今椎名が向かっているドーナツ屋。【ドーナツの穴場】がとにかくオススメだと答えた。

 

夜宵のファンの1人である椎名はこれを聞いていてもたってもいられなくなり、なんとかその場所を調べ、1人で行くことを決意したのだ。

 

それほど楽しみなのか、鼻歌混じりにスキップをしながら上機嫌な様子を伺わせていた。だが、待ち受けていたのはとんでもない待ち地獄だった。

 

 

「す、すごい………!?」

 

 

ようやくその場所に到着したかと思えば、その店には何人もの人々が連なる長い長い行列ができていた。おそらくは紫治夜宵の宣伝能力だろう。彼女の人気が、今日の行列を作り上げたのだ。椎名は少し疲れた顔をするが、ここは致し方ない。せっかくここまで来たのだ。何か1つでも食べて帰りたい。そう思い、行列の最後尾に並んだ。

 

ーすると椎名の目の前にはある人物が並んでおり、

 

 

「ん?……あれぇ?……司じゃん」

「……よう、めざし」

 

 

そこにいたのは赤羽司。彼は椎名と目を合わすなり、いつものように軽く上から目線で物を言う。いや、正確には司自身自覚がないのだが、彼の性格や声の出し方から、どうしてもそのように聞こえてしまうのだ。

 

椎名は意外に思った。あのキザな司がこんなドーナツ屋なんぞに足を運んでいることに。椎名は悟る。間違いなく夜宵ちゃんの【パープル・ヒーリング】を聴いてたな、と。

 

 

「絶対夜宵ちゃんのラジオ聴いてたでしょ」

「なんで俺が夜宵のラジオなんぞ聴かねぇといけねぇんだ」

 

 

口ではそう言っているが、この間もバトスピ占いでのラッキーアイテムであったケチャップを手に持っていたこともあり、その言い分は信頼性に欠ける。

 

それ以外は特に会話することはなかった。……いや、椎名はずっと、「しりとりをしよう」「ジャンケンしよう」などと、色々と暇を潰そうとしていたが、司がそれを無視し続けた。

 

長い列に並び始めて1時間くらい経つだろうか、まもなく椎名達の順番が回ってくる頃だった。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉお!!!しまったぁぁぁぁあ!!財布を忘れたぁぁぁぁあ!!」

 

 

すぐそばで今ドーナツを買おうとしていた1人の男性が大声でそう叫んだ。その声はとても太く、たくましく、男性の性格が暑苦しいのがよくわかる。

 

司はこの男性のことを知っているようで、

 

 

「?………お前は……【岸田 空牙(きしだ くうが)】」

 

 

男も司の声に気づいたのかこっち側を振り向いた。するとすぐさま喜びの表情へと切り替わった。

 

 

「おぉ!司ではないか!!」

 

 

******

 

 

そして、10分後、3人は近くの公園で購入したドーナツを食べていた。男性は何やら、司と椎名の2人に向かって土下座をしていた。それはそれはとても綺麗な土下座であった。

 

 

「ほんっとうっに!!申し訳ない!!この借りはいずれ返す!」

「200円払ってやったんだ、倍の400円で返せよ」

「はっはっは!まぁいいって!困った時はお互い様ってね!」

 

 

2人はドーナツを買えなかった空牙を哀れんで、割り勘で彼にドーナツを1つ買ってあげたのだ。

 

 

「ていうか、空牙って司の知り合いなの?」

 

 

椎名の質問に応えるために勢いよく空牙は土下座の姿勢を崩し、起き上がる。

 

 

「知り合いも何も!俺と司は永遠のライバルだ!」

「………誰もそんなノリに付き合ってやってる覚えはねぇぞ」

「またまたぁ、ジュニア時代、何度も何度も決勝の舞台で俺と因縁の対決をしたじゃないか!」

「全部俺の勝ちだったけどな」

「ぐっ!」

 

 

司の言葉に胸が突き刺さる思いをする空牙。

 

【岸田 空牙】。先の会話の通り、自称【朱雀の永遠のライバル】を名乗る男だ。椎名達と同年代であり、界放市のバトスピ学園の1つ、タイタス校に通っている。

 

実力は相当なものであり、赤属性のマッシブで直球な戦い方を得意としている。だが、ジュニア時代はずっと司に負け続け、ずっと準優勝止まりであった。

 

椎名はこの話を聞いて彼がそれなりの強者だと理解する。そうなればやることは1つだ。

 

 

「あっ!じゃあさ空牙!さっきの借りってやつ!私とバトルするじゃあダメかな?」

「……おっ!椎名もバトスピ強いのか?…………ん?待てよ、椎名?……芽座椎名ぁ!?!……まさか司に勝ったというあの!?」

「ふっふ〜ん!……その通り…さ!」

 

 

【椎名】という名前でそのことを思い出す空牙。タイタス校はデスペラード校と同じくジークフリード校ととても近い地域にあるため、噂でそのような情報が流れ出てくることが非常に多いのだ。

 

そのことを言われて、椎名は誇らしげな表情になるが、嫌なことを思い出したからか、司は少々不機嫌な顔になる。

 

バトルの要望は当然オーケー。椎名と空牙は、公園の広場でBパッドを展開し、バトルの準備を行う。なんとも緑の綺麗な公園だった。短い草はらが弱い風に靡かされ、より決闘の予感を感じさせる。

 

ーそしていつものコールでバトルの開始が宣言される。

 

 

「「ゲートオープン!界放!」」

 

 

ーバトルが始まる。先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!先ずは様子見だ!召喚!風盾の守護者トビマル!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が様子見と銘打って早速呼び出したのは、大きな盾を有する鳥型のスピリット、トビマル。

 

 

「ターンエンド!」

風盾の守護者トビマルLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

そのままターンを終える椎名。次は彼女にとっては未知数の空牙のターン。彼は一体どんなスピリットを召喚するのだろうか。

 

 

「……おぉ!…噂通り緑と青の使い手のようだな!」

 

 

[ターン02]空牙

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「……メインステップ……!……行くぞ相棒!召喚!仮面ライダークウガ マイティフォーム…!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

「……仮面……スピリット…?!!」

 

 

突如として起きる謎の火柱。そしてその中で聞こえてくる謎の機械音。そしてそれらが一気に晴れると、赤き鎧をその身に纏う1人の戦士が現れていた。

 

ーその名もー………クウガ、【仮面スピリット】の一種だ。

 

【仮面スピリット】とは、デジタルスピリットのようなカードカテゴリであり、同等且つ対極な存在。デジタルスピリットとは似てはいるが、その使い手は意外にも少ない。ある意味でデジタルスピリットより希少なカード達であると言える。

 

 

「これが俺の原点にして相棒!俺と同じ名を持つ戦士!クウガだ!」

「…………!!!!!」

 

 

椎名は思わず鳥肌がたった。空牙の想いがひしひしと伝わったからだろうか、……たったこれだけの召喚でわかってしまった。このスピリットがどれだけ彼にとって誇らしい存在なのかが、今まで彼がこのスピリットと共にどんなバトルをして来たのか。そう考えるだけで椎名は心が震え上がったのだ。

 

 

「まぁ、先ずは俺も様子見だ!…これでターンエンド!」

仮面ライダークウガ マイティフォームLV1(1)BP3000(回復)

 

バースト無

 

 

このターンを終える空牙。彼が操る仮面スピリットの一種、クウガの力は未知数だ。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「まさか仮面スピリットとやれるなんて……最高だよ…!!……このバトル、とことん楽しませてもらうよ!」

「あぁ!存分にかかってくるといい!」

 

 

椎名は仮面スピリットと戦うのは初めてだった。仮面スピリットの特徴として、低コストの小型スピリットでもスマートなスピリットが多い。

 

それに対し、デジタルスピリットの低コストたちは、どれもコミカルで独創的なスタイルを持つものが多い。それはこの2種のカード達の全く異なる基準がもたらしているものだ。カードが進化を繰り返して行くことで強くなって行くのがデジタルスピリット。だが、仮面スピリットは…………

 

 

「よし!メインステップ!ガンナー・ハスキーと猪人ボアボアを召喚!」

手札5⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名が召喚したのは拳銃を持つために背に青い手を生やした犬型のスピリット、ガンナー・ハスキーと、鎖付き鉄球を振り回す、猪の頭に人の体系の獣人型のスピリット、ボアボア。

 

椎名の最序盤を支えるスピリット達が揃い踏みとなる。

 

 

「アタックステップ!猪人ボアボアでアタック!その効果でコアとLVを1つあげる!」

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

 

 

ボアボアはアタック時にコアを増やしつつ高BPでアタックできる優秀なスピリットだ。

 

 

「そいつはライフだ!」

ライフ5⇨4

 

 

鉄球を振り回して投げ飛ばすボアボア。空牙のライフはそれに木っ端微塵に破壊された。

 

 

「まだまだ!ガンナー・ハスキー!」

 

「それもライフだ!」

ライフ4⇨3

 

 

ガンナー・ハスキーが放つ弾丸が畳み掛けるように空牙のライフを貫いた。これで椎名は若干優勢にたったと言える。

 

 

「……このターンはエンド…!」

風盾の守護者トビマルLV1(1)BP2000(回復)

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(疲労)

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

[ターン04]空牙

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ……バーストをセットし、仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000をLV2で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

空牙がバーストをセットすると同時に召喚したのはバイクに乗る仮面ライダークウガ マイティフォーム。バイク独特の機械音が場に木霊する。

 

 

「アタックステップ!……トライチェイサーでアタック!その効果でデッキからカードを1枚ドローし、BPプラス3000、そして、【真・激突】!可能ならブロックしてもらうぞ!」

手札4⇨5

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000 BP6000⇨9000

 

「……!!……今の私のブロッカーは一体だけ、……くっ、トビマルでブロックだ、」

 

 

バイクに乗り、走りだすクウガ。トビマルは大きな盾を構えて戦闘態勢に入るが、そのバイクの勢いが強すぎて、ぶつかった瞬間に盾ごと吹き飛ばされてしまった。トビマルはそのまま爆発してしまう。

 

 

「さらにマイティ!」

 

「……それはライフだ!」

ライフ5⇨4

 

 

マイティの強烈な炎のパンチが椎名のライフを1つ粉砕した。

 

 

「これでターンエンドだ!」

仮面ライダークウガ マイティフォームLV1(1)BP3000(疲労)

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000LV2(3)BP6000(疲労)

 

バースト有

 

 

やる事を全て出し切った空牙はこのターンを終える。次は椎名の反撃だ。丸腰になった彼のライフを狙いに行く。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

猪人ボアボア(疲労⇨回復)

ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!……よし!スティングモンをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ5⇨0

猪人ボアボア(2⇨1)

トラッシュ0⇨3

 

「おお!やっとデジタルスピリットのお出ましか!」

 

 

椎名が召喚したのは、昆虫型だが、限りなく人型に近い緑の成熟期スピリット、スティングモン。スティングモンは腕を組み、その存在を強く認知させる。

 

 

「スティングモンの召喚時でボイドからコアを1つスティングモンに置く!さらにアタックステップ!スティングモンでアタック!アタック時にもコアブースト効果があるからさらにスティングモンにコアを置き、LV3にアップ!」

スティングモン(3⇨4⇨5)LV2⇨3

 

 

流れるようにコアを増やし、自身のLVを上げるスティングモン。羽で飛翔し、その鋭い針のようなものを仕込んでいる腕で、空牙のライフを破壊しに行く。

 

 

「そこはライフだ!受け取れぇ!」

ライフ3⇨2

 

 

スティングモンはそのまま右拳の一撃で空牙のライフを破壊した。だが、それは同時に彼のバーストを目覚めさせる要因であって、

 

 

「この瞬間!バースト発動!アルティメットウォール!効果でこのターンのアタックステップを終了させる!」

「……!!」

 

 

突如立ち込める吹雪に、椎名のスピリット達はなすすべがない。アタックができなくなった椎名はそのターンを終わらなければならなくなった。

 

 

「……ターンエンド」

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(回復)

猪人ボアボアLV1(1)BP2000(回復)

スティングモンLV3(5)BP10000(疲労)

 

バースト無

 

 

[ターン06]空牙

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

仮面ライダークウガ マイティフォーム(疲労⇨回復)

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ネクサス、燃えさかる戦場〈R〉を2枚配置し、2体目のクウガ&トライチェイサーを召喚!」

手札6⇨3

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

空牙の背後が燃え上がる。まるで山火事でも起こったかのように。これはネクサスの燃えさかる戦場による演出だ。

 

そしてバイクに乗ったクウガがもう1人。

 

 

「アタックステップ!クウガ&トライチェイサー2体でアタック!燃えさかる戦場〈R〉はアタックしているスピリットにBPプラス3000を与える!それが2枚分で…………」

手札3⇨5

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000 BP6000⇨9000⇨12000⇨15000

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000 BP6000⇨9000⇨12000⇨15000

 

「び、BP15000……!?」

 

 

コスト4のそれを遥かに超えたBPを有したクウガ&トライチェイサー。【真・激突】の力でボアボアとガンナー・ハスキーに襲いかかる。

 

2体ともトビマル同様吹き飛ばされ、爆発してしまった。

 

 

「次だ!マイティ!………フラッシュタイミング!マジック!ライジングマイティキック!」

手札5⇨4

 

「………!!」

「このマジックはカード名に「クウガ」を持つスピリットがアタックしている間はコスト3として扱う!よって軽減と合わせてノーコスト使用!……BP10000までの相手のスピリットを好きな破壊し、その数分ドローする!…………いけ!マイティ!スティングモンを狙え!」

 

 

その右足に炎を纏わせて飛び上がるクウガマイティフォーム。滑空するようにスティングモンに向かっていき、その炎を纏わせた右足で蹴りつける。

 

通り過ぎるように着地するマイティフォーム。その瞬間力尽きたのか、スティングモンは大爆発を起こした。

 

 

「……スティングモンっっ!!!」

 

「1体破壊したことでカードを1枚ドローし、……マイティの本命のアタックだ!受けてみろぉ!椎名!」

手札4⇨5

 

「……ライフで受ける……っっ!」

ライフ4⇨3

 

 

再びマイティの強烈なパンチが椎名のライフを襲う。それはまた1つ破壊されてしまった。

 

 

「よし!ターンエンドだ!」

仮面ライダークウガ マイティフォームLV1(1)BP3000(疲労)

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000LV2(3)BP6000(疲労)

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000LV2(3)BP6000(疲労)

 

燃えさかる戦場〈R〉LV1

燃えさかる戦場〈R〉LV1

 

バースト無

 

 

ターンを終える空牙。椎名の場にはスピリットはこのターンだけで全滅。巻き返しなるか、

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ8⇨9

 

 

「ドローステップ!……よし!」

手札3⇨4

 

 

引いたカードを見て、思わず口角が上がる椎名。そのドローカードは本当に頼もしいものであって、

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ9⇨12

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!来い!ブイモン!」

手札4⇨3

リザーブ12⇨8

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名の足元から勢いよく現れたのはこのターンのドローカードでもあったブイモン。青い体色に、額の金色のブイの字を輝かせている。

 

 

「召喚時!カードを2枚オープン!」

オープンカード

【フレイドラモン】○

【ガンナー・ハスキー】×

 

 

効果は成功する。アーマー体のスピリット、フレイドラモンが手札に加えられた。そして椎名は即座にそれを召喚させる。

 

 

「フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コスト支払い、召喚!燃え上がれ!フレイドラモン!!」

手札3⇨4

リザーブ8⇨7

トラッシュ3⇨4

フレイドラモンLV1(1)6000

 

 

ブイモンの頭上から投下される赤い独特な形をした卵。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして燃え盛る炎の中から現れたのはスマートな竜人型のスピリット、フレイドラモン。空牙はその存在感に震え上がる。「これが噂のフレイドラモンか!」と、やはりあの日、椎名が司に勝利してから、その近辺で噂が広まっていたのが伺える。

 

 

「召喚時及びアタック時効果!BP7000以下の相手のスピリット1体を破壊してカードを1枚ドローする!……最初に出てきたクウガ&トライチェイサーだ!…爆炎の拳!ナックルファイアァァ!!!」

手札4⇨5

 

「ぐぅ!!」

 

 

フレイドラモンの拳から放たれる炎の弾丸は、瞬く間にクウガ&トライチェイサーを捉える。耐えきれなくなり、バイクごと爆発した。

 

そしてまだ椎名のメインステップは終わらない。トドメを刺すべく動き出す。

 

 

「さらに!青のブレイブ!双牙皇オルト・ロードを召喚し、フレイドラモンと合体させる!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨3

トラッシュ4⇨8

 

 

突如現れる2つの顔を持つ青のブレイブ、オルト・ロード。そしてそれはフレイドラモンの最強の装備となる。

 

フレイドラモンとオルト・ロードは飛び上がり、空中で混ざり合う。そして新たに現れたのは、青き炎を纏うフレイドラモン。漆黒の翼を広げ、今、この場に還元する。

 

司はこれを見た瞬間。前のことを思い出したのか、イラだったように舌打ちをした。

 

 

「おぉ!青いフレイドラモン!」

 

「さらに!バーストをセットし、ブイモンを召喚する!」

手札4⇨2

リザーブ3⇨0

トラッシュ8⇨10

 

 

このバトルでは初のバーストを伏せる椎名。そして、【アーマー進化】の効果で手札に戻っていたブイモンが再び彼女の目の前に現れた。

 

これで準備は万端。椎名はアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!いけぇ!フレイドラモン!アタック時効果で7000以下のスピリット、クウガ&トライチェイサーを破壊!……蒼炎の拳!ブレイズナックル!」

手札2⇨3

 

 

空中へと飛び上がるフレイドラモン。そしてその右腕から放たれる蒼炎の炎はクウガ&トライチェイサーに命中。バイク共々大爆発した。

 

 

「さらに!オルト・ロードの合体時効果で手札を3枚破棄して、自身を回復させる!」

手札3⇨0

破棄カード

【ワームモン】

【風盾の守護者トビマル】

【ワームモン】

フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード(疲労⇨回復)

 

 

青き光を纏い、回復するフレイドラモン。これで何が起こっても勝負を決めることができる。椎名はそう思っていた。だが、ここからが正念場を迎えることとなる。

 

空牙は手札のカードを1枚引き抜き、それの使用を宣言する。

 

 

「フラッシュタイミング!仮面ライダークウガ ドラゴンフォームの【チェンジ】発揮!」

リザーブ6⇨4

トラッシュ3⇨5

 

「……!!」

 

 

マイティフォームを中心に水の柱が立ち上る。そして、マイティフォームは姿を、その色を変える。新たに現れたのは、棍棒を振りかざす青の戦士、ドラゴンフォームだ。

 

 

「【チェンジ】の効果で、シンボル2つ以上のスピリット1体を破壊し、マイティフォームとこれを回復状態で入れ替える!」

仮面ライダークウガ ドラゴンフォームLV1(1)BP4000

 

「……シンボル2つ以上……!?!……まずい、フレイドラモン!」

 

 

フレイドラモンを撃ち落とすべく、飛び上がるドラゴンフォーム。フレイドラモンより上に行くと、そこからその棍棒をフレイドラモンに叩きつける。フレイドラモンは撃墜され、大爆発を起こす。その爆発の中を分離されたオルト・ロードが脱出した。

 

ー【チェンジ】、仮面スピリットが持つ独自の効果。アクセルのようにフラッシュで発揮できるが、その後場にいる他の仮面スピリットと自身を回復状態で入れ替えさせる効果を持つ。

 

デジタルスピリットが【進化】ならば、仮面スピリットは【変身】。それがこの2種のスピリット達が対極関係にある理由だった。

 

 

「そしてそのアタックはドラゴンフォームがブロックする!………フラッシュタイミング!ソウルドロー!ドラゴンフォームのBPをプラス4000!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨2

トラッシュ5⇨7

仮面ライダークウガ ドラゴンフォームBP4000⇨8000

 

「……!!」

 

 

【チェンジ】で出されるスピリットは召喚ではなく、飽くまで入れ替えるだけ、よって、ドラゴンフォームはマイティフォームに乗せていたコア1個しかなかった。つまりLVは1。BP4000、BP5000の双牙皇オルト・ロードの相手にならなかった。だが、それを補うようにフラッシュでの底上げ。ドラゴンフォームはオルト・ロードを超えた。

 

合体元のフレイドラモンがアタック中にいなくなったことにより、アタック中になったオルト・ロード。だが、その命も儚く、ドラゴンフォームの棍棒に薙ぎ払われて、散らしてしまう。

 

 

「くっ!……ターンエンド」

ブイモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト有

 

 

仕方なくそのターンを終える椎名。トドメを刺すつもりが、逆に追い込まれてしまった。安易にオルト・ロードの効果を使用してしまったことも相まって、現在の手札は0枚。かなり厳しい状況だ。

 

 

[ターン08]空牙

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨10

トラッシュ7⇨0

仮面ライダークウガ ドラゴンフォーム(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ゴウラムを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ10⇨8

トラッシュ0⇨1

 

 

まるでクワガタのようなメカが飛翔してくる。仮面スピリットではないものの、それらを十二分にサポートする力を持ったカードだ。

 

 

「召喚時効果!トラッシュにある仮面スピリット1枚を回収する!俺はこの効果で仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000を回収し、そのままLV2で召喚!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ8⇨4

トラッシュ1⇨2

 

 

トラッシュから空牙の元へと舞い戻ってくる仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000。そのまま再び場へと帰還した。

 

 

「さらに、マイティフォームを再び召喚する!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨1

トラッシュ2⇨4

 

 

【チェンジ】の効果で手札に戻っていたマイティフォームが再び場へと姿を現した。この時点で空牙の場にいるスピリットの総数は4、椎名のブイモンを通り越して残ったライフを破壊できる数になった。

 

 

「ここで決めるぞ!ドラゴンフォームのLVを2に上げ、アタックステップ!クウガ&トライチェイサー!【真・激突】でブイモンを蹴散らせ!」

リザーブ1⇨0

仮面ライダークウガ ドラゴンフォーム(1⇨2)LV1⇨2

手札3⇨4

 

「くっ!……ブイモンでブロックだ」

 

 

強制的にブロックを強いられる椎名。当然残ったブイモンしか選択肢はない。

 

ブイモンは果敢にバイクを止めようとするが、あっさり吹っ飛ばされて破壊されてしまった。

 

 

「次はゴウラム!マイティ!」

 

「どっちもライフだ!」

ライフ3⇨1

 

 

ゴウラムの突進。マイティの強烈なパンチが椎名のライフを一気に2つ破壊した。いよいよ椎名の残りライフは1。だが、ここで椎名の伏せていたバーストが発動される。

 

 

「ライフの減少でバースト発動!No.26キャピタルキャピタル!効果によりこれを配置!」

「……!!」

 

 

椎名の背後から現れたのは空中都市。それは空牙の場、全体に影響を及ぼす。

 

 

「キャピタルキャピタルの効果で相手はソウルコアが置かれていない相手のスピリットはリザーブのコアを1つトラッシュに置かないといけなくなる」

「……!!…今の俺のソウルコアは……くっ!マイティに置いているっっ!…これじゃあこのターンはアタックができない」

 

 

空牙の場にあるコアをよく見てみる。ソウルコアは既にアタックを終えたマイティに置かれていた。リザーブのコアもないため、空牙はこのターンはアタックを封じられてしまった。

 

 

「ぐっ、仕方ないこのターンはエンドだ……だが次で必ず仕留めてみせる」

仮面ライダークウガ マイティフォームLV1(1s)BP3000(疲労)

仮面ライダークウガ ドラゴンフォームLV2(2)BP6000(回復)

ゴウラムLV1(1)BP2000(疲労)

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000LV2(3)BP6000(疲労)

 

燃えさかる戦場〈R〉LV1

燃えさかる戦場〈R〉LV1

 

バースト無

 

 

「……凌いだか、だが手札は0枚、場にはその場しのぎのネクサスのみ、………この程度でくたばるなよ、めざし、…お前を倒すのは俺だけだ」

 

 

そう呟く司。代表バトルの一件以後、この2人のライバル意識は異常なほどに上がったと言える。

 

空牙も何故か油断できなかった。椎名の手札は0枚で、次のドローステップでも1枚にしかならないというのに。それほどまでに芽座椎名が凄かった。湧き出てくるオーラが自分が今まで感じてきたものと全く違ったからだ。それが彼をより気を引き締めさせていた。

 

 

(だが、手札には2枚目のマイティフォームがある、これで一度はブロックできる……)

 

 

空牙の手札には2枚目のマイティフォームが確認できる。マイティフォームも仮面スピリットの1体、当然【チェンジ】の効果を持っている。回復状態で現れるため、次のターンのブロッカーに回すことができる。

 

 

「楽しいよ、空牙!……このターンのドローで全てが決まると思うとワクワクしてくる!」

「あぁ!俺もだ椎名!さぁ!ドローしろ!」

 

 

ー椎名のラストターンが始まる。

 

 

[ターン09]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

 

 

「……ドローステップ……ドロー!!!………!!よっし!」

手札0⇨1

 

(なんだ、一体何を引いた?……なんで笑ってる?)

 

 

そのドローに思わず口角を上げてしまう椎名。このターンのドローステップでドローしたカードはまさしく奇跡の一枚と言えるだろう。だが、それは椎名のこれからの運も試されるものであって、

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨15

トラッシュ10⇨0

 

 

「メインステップ!ブイモンをLV2で召喚!」

手札1⇨0

リザーブ15⇨10

トラッシュ0⇨2

 

「……!?!…このタイミングで成長期スピリットだとぉ!?」

 

 

椎名が召喚したのは2枚目のブイモン。それが場に飛び出してくる。さらに椎名はその召喚時の効果を使用し、逆転を狙う。

 

 

「召喚時効果!デッキから2枚オープンし、アーマー体か成熟期を手札に加える!………カードをオープン!」

 

 

カードがゆっくりとオープンしていく。1枚目は、

 

 

【猪人ボアボア】×

 

 

1枚目は外れ、ボアボアはデジタルスピリットでもないカードだ。次の2枚まで勝負が決するといっても過言ではないだろう。

 

空牙はこの空気の重さに、思わず固唾を呑む。普段は堂々としている自分がここまで緊張するのは初めてだった。

 

 

「……2枚目ぇ!!オープンっっ!!」

 

 

2枚目がオープンされる。そのカードは、

 

 

 

 

【エクスブイモン】○

 

 

 

エクスブイモンのカードだ。このスピリットカードは成熟期、よって椎名の手札に加えられた。

 

 

「よっし!!成熟期のエクスブイモンを手札に加えるよ!!………さらにアタックステップ!その開始時にブイモンの【進化:青】を発揮!ブイモンを手札に戻し、成熟期のエクスブイモンへと進化させる!!」

リザーブ10⇨9

エクスブイモンLV3(4)BP7000

 

 

ブイモンが0と1のコードに巻かれていく、それは次第に膨れ上がっていき、破裂。新たに現れたのはブイモンが1段階正統に進化した姿。エクスブイモン。青い体にマッシブなボディ、ドラゴンらしい翼。なにより腹部にブイの字から線が2本足されてエックスの字になっているのが印象的だ。

 

 

「おぉ!進化したか!!……だがこれだけでは足りんぞ!」

 

 

そうだ。いくら進化したとはいえ、エクスブイモン1体ではどうしようもできないだろう。飽くまで1体だけではの話ではあるが、

 

椎名はさらにエクスブイモンの召喚時効果を発揮させる。

 

 

「エクスブイモンの召喚時効果!デッキから2枚ドローし、その後2枚破棄する、だけど、【進化】で召喚されていたら破棄するカードを1枚にする…………よし、ブイモンを破棄!」

手札1⇨3⇨2

破棄カード

【ブイモン】

 

 

エクスブイモンの召喚時効果は青属性らしい手札交換効果。これにより椎名はブイモンを破棄した。普通はデジタルスピリットのデッキで大切な成長期スピリットを破棄したりなどしない。

 

つまり椎名が引いたのはそれよりこの場で重要なカードだということ。空牙もそれを悟り、より一層気を引き締める。

 

 

「アタックステップは継続だ!いけぇ!エクスブイモン!」

 

 

駆け上がるエクスブイモン。BPは7000。空牙の場に残ったブロッカーのドラゴンフォームは6000。だが、この攻撃だけでは空牙の残った2つのライフはゼロにはできない。彼は一度フラッシュの権利を放棄して様子を見ることにした。

 

 

「そっちがないなら私のフラッシュ!……マジック!ストームアタック!…………この効果で空牙のドラゴンフォームを疲労させ、私のエクスブイモンを回復させる!」

手札2⇨1

リザーブ9⇨5

トラッシュ2⇨6

エクスブイモン(疲労⇨回復)

 

「……!!…ここで究極カードを引き当てたぁ!?」

仮面ライダークウガ ドラゴンフォーム(回復⇨疲労)

 

 

椎名が引き当ててたカードはその強力さ故にデッキに僅か1枚しか入ることができない究極カードのストームアタック。緑の風が吹き上げて、ドラゴンフォームを疲労させると同時に逆方向にいたエクスブイモンを追い風により回復させる。

 

これでブロッカーを消すと同時にエクスブイモンによる連続アタックで椎名の勝利……………かと思われたが、

 

 

「このままでは終わらん!俺はドラゴンフォームを対象に2枚目のマイティフォームの【チェンジ】を発揮!回復状態で入れ替える!」

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000(3⇨1)

トラッシュ4⇨6

仮面ライダークウガ マイティフォーム(2)LV1

 

「………!!?!」

 

 

思わず目を見開く椎名。ドラゴンフォームを中心に火柱が立ち上り、その姿を変えていく。そして2体目のマイティフォームが現れる。これで空牙の場にブロッカーが1体復活した。エクスブイモンでは彼のライフを全て削りきれない。

 

 

「……どうだ!椎名ぁ!俺の勝ちだ!!!」

 

 

流石にこれは勝ったと思い。勝利宣言する空牙。だが、そう思うのはいささか早かったと言える。

 

椎名は残った1枚の手札を引き抜き、それを発揮させる。

 

 

「……運も実力のうちってね!……フラッシュマジック!スプラッシュザッパー!」

手札1⇨0

リザーブ5⇨1

トラッシュ6⇨10

 

「……!?!!」

「この効果で2体のマイティフォームとクウガ&トライチェイサーを破壊!……いっけぇ!!!」

 

 

鋭い水の斬撃が仮面スピリットたちを襲う。3体ともいとも容易く切り裂かれ、爆発してしまう。

 

スプラッシュザッパー。青の大型マジック。コスト7以下を3体も一掃できる強力なカードだ。これで空牙の場にはゴウラム1体のみ。

 

 

「くっ!……ゴウラムは仮面スピリットじゃないっっ!!」

 

 

【チェンジ】をしようとしてももはや意味はない。入れ替えるスピリットがいないからだ。無駄に意味のない効果を使用して破棄するだけになってしまう。

 

ー勝負は決した。椎名は畳み掛ける。

 

 

「これで決まりだ!エクスブイモン!……闘魂の……エクスレイザーっっ!!」

 

 

エクスブイモンは腹部のエックスの字から光を放ち、それを全力で放出する。それはまさに光のごとく速さ。空牙はもうなすすべはなかった。

 

 

「……っっ!!……これが【朱雀】を倒す程の実力者……か……!」

ライフ2⇨1⇨0

 

 

光に包まれながらもそう感じる空牙。油断はできなかったとはいえ、確実に勝ったとも思っていた。まさか本当にあの場から大逆転してくるなど誰が想像できようか、

 

これにより勝利したのは椎名。椎名はガッツポーズを掲げて喜ぶ。エクスブイモンもまたそれに呼応するように咆哮を上げていた。

 

 

 

******

 

 

 

「いやぁ、まさかあの場から本当に逆転するなんて……こんな凄い奴がこの近辺にいるなんてびっくりだぜ!」

「私も初めて仮面スピリットとバトルしたよ!……楽しかった!!」

 

 

バトルも終わり、すっかり意気投合した椎名と空牙。それを他所に相変わらずの澄ました顔で横にいる司。

 

 

「椎名は【界放リーグ】には出るのか?」

「【界放リーグ】?なにそれ?」

「っておい!知らないのか!!」

「こいつは底なしに頭悪いぞ、」

「なんだと!司!」

 

 

椎名は知らなかった。界放市にいるバトラーなら誰もが憧れる【界放リーグ】を、

 

空牙は椎名にゆっくりと説明した。【界放リーグ】がどのようなものなのかを、

 

年に一度界放市にある6つの学園。ジークフリード校、デスペラード校、キングタウロス校、オーディン校、ミカファール校、タイタス校の選ばれた生徒達が、界放市の学生No.1を決めるバトルの祭典。噂ではそれぞれの学園の理事長達がそれによる賭け事をしたいだけと言う話もあるが、

 

それでもこの界放市に住む生徒達にとっては青春を謳歌するにはもってこいのイベントであって、

 

 

「そ、そんな楽しいイベントがあったのかぁ!……くぅ!これだからバトスピ はやめられないよ!……よし!絶対に予選で勝ち残って代表に選ばれるぞ!!」

「おぉ!やる気になったか!俺も必ず本戦に残るから、その時はまたいい勝負をしよう!椎名!……司も!!………では俺はこれで失礼する!今日俺はバトルで負けてしまったから、逆立ちをしながら帰宅するぞぉぉぉぉぉお!!自分へのペナルティだ!……………うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

そう言って、誓いを立てながら、自分へのペナルティと称して空牙は逆立ちをしつつ、猛烈に叫びながら歩き出す。というか、走り出す。司はそれを見て「相変わらずの馬鹿だな」と一蹴する。椎名はなにも気にせず彼に手を振った。

 

岸田 空牙。最初から最後まで熱い男。いや、暑苦し過ぎる男だ。彼もまたタイタス校の代表として本戦に勝ち残ってくることだろう。

 

 

「ところでさ、司は出るの?……代表予選」

「……愚問だな、めざし、出るに決まってるだろう…………そして、お前を倒すのは……………俺だ」

 

 

椎名の質問に対し、司はキザなセリフだけを残し、1人帰路に着く。椎名はそれに対しても元気よく手を振った。今からでもワクワクとドキドキが止まらない。椎名は他の学園の生徒とバトルできるのが楽しみすぎて仕方がなかった。そして心に誓う、必ず優勝すると、

 

予選が始まるのは後1ヶ月程。期末試験が終わった後に行われる。

 

 

******

 

 

 

ここは界放市のとある空港。かの有名な成田空港や、羽田空港と同等の大きさを誇っている。そんななかで、一機の航空機から降りてくる初老の男性がいた。

 

 

「いやぁ、楽しみじゃなぁ、待ってろよぉ〜…………………………椎名!」

 

 

【界放リーグ】。その学園別代表予選が始まる前に、また一波乱ありそうな感じを予感させる。

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【エクスブイモン】!!」

「エクスブイモンは青の成熟期スピリット!…召喚時にデッキからカードを2枚ドローして2枚捨てる効果があるよ!……さらに、【進化】で召喚されてたら捨てる枚数を1枚に減らしちゃうよ!」






最後までお読みくださり、ありがとうございました!

今回初めて仮面ライダーを登場させてみましたが、私自身、仮面ライダーはWくらいしか見たことないので、正直クウガがどんな感じで変身するかわからなかったです。なので少し派手な演出で描写させていただきました。

ライダーファンの皆様。私の勝手な想像でクウガを描写して申し訳ございません。クウガはバトスピコラボのライダーの中では最も一般的なライダーだと思ったので出させてもらいました。

仮面ライダーは後から色々登場させる予定ですが、なるべくかっこよく、それでいてカッコいい感じでどれも登場させたらと思っております。


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第13話「予選へのカウントダウン、ホークモンの進化」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椎名は下校中だった。学園一の、いや、界放市一の祭り事、【界放リーグ】。その学園別代表選抜予選まで、残すところ後1週間。猛暑が続くこの夏に、それに参加するバトラーは皆、切磋琢磨しながら自身のデッキを磨いていた。

 

それに伴い、椎名も自分のデッキを調整しようと考えていた。だが、なかなかそれは上手くいっているとは言えなかった。

 

自分のマンションに帰る椎名。だが、自分の部屋のドアの前であることに気づく。

 

 

「?………鍵が開いてる……!?」

 

 

今朝閉めたはずの自分の部屋のドアの鍵が開いていたのだ。椎名は何事かと思い、恐る恐るそのドアをゆっくりと開ける。部屋はそこそこ広い。ドアの方向からリビングまで一直線に見える。そのリビングには椎名の顔見知りの人物がいた。白くて長い髭を生やした初老の男性だ。その男の姿を見て、椎名は思わず呆気にとらわれた。彼は椎名にとって最も大事な恩人であって、

 

 

「じ、じっちゃぁぁぁん!!」

「おぉ!しぃ!帰ったか!……待っとったぞぉぉー!」

 

 

靴をその場に脱ぎ捨ててそこまで一直線に走り行く椎名。椎名がじっちゃんと呼ぶこの老人こそが、親のいない椎名を育てて来た人物。名を【芽座 六月(めざ ろくがつ)】。椎名だけではない。今もなお、数多くの身寄りのない子供達を育てている人物だ。

 

六月は椎名の部屋の合鍵を所持していた。だからこそ部屋に上がることができたのだ。だからとて、普通は年頃の女の子の部屋に勝手に入るのはいささか問題になりそうだが、……その相手が椎名ならばそれも気にされない。

 

 

「じっちゃん!なんで、言ってくれないの!びっくりしたよ!………他の子の面倒は誰が見てるの?」

「ほっほ、シスターしかおらんじゃろ、なぁに、すぐ帰るよ」

 

 

他の子、と言うのは椎名と共に育った孤児の子供達のこと。椎名は今まで、その子達と家族や兄弟となんら変わらない関係を築いてきた。

 

 

「ええ!?すぐ帰るの?一緒にご飯でも食べようよ!」

「おぉ!椎名の手料理かぁ、久し振りに食べたいが、今回はちょっと野暮用でここまで来とるからのぉ、」

 

 

椎名が六月に会うのは約4ヶ月ぶり。年頃の女の子が育ての親に久しぶりに会えたのだ。少しでも長く一緒にいたいのだろう。

 

だが、六月は椎名にあるカードだけを渡してこの場を去ってしまう。

 

 

「椎名、もうすぐ【界放リーグ】の予選が始まるんじゃろう?……鍛えなくて良いのか?」

「あぁ、なんか調子が悪くてさ、なかなかいいデッキ作れないんだよね」

 

 

椎名は若干のスランプに陥っていた。いつもはバトルになれば本能のままにバトルをし、勝って来たが、それはただ自分のドローセンスが高かっただけ、一歩ズレたら即敗北していたバトルなど、いくつもあった。だからこそデッキ自体を強化しなくてはならないのだが、

 

色々と抜かしたくないカードや、枚数調整が難しくてとても苦労していた。それにこのジークフリード校での予選だったら、【朱雀】の司を視野に入れなければならない。他のライバルである雅治と真夏はなぜか【参加はしない。】と言ってたので、彼らの対策までしなくていいのが不幸中の幸いだった。もちろん椎名としても彼らには参加して欲しかったのだが、

 

 

「………それはお前がいろんなバトラーやデッキとバトルしてきたからじゃ」

「………え…!?」

「お前はきっとこれまでのバトルで数々のバトラーに触れ、それらが持っているであろうバトラーとデッキの絆を見てきた。自分のももちろんのぉ、だからこそカードがデッキから抜き辛くなっとるんじゃ」

「んーーー……………………………どう言うこと?」

「ほっほ、まだわからんくてええよ」

 

 

六月の言うことに頭を抱える椎名。確かにいささか難しいかもしれない。つまりはここまでのバトルで自分のデッキはこれ以上の強化ができないと、無意識のうちに考えてしまっているのだ。今の自分のデッキのカード達に恩情を感じているが故に。その心をより強くしてしまったのが、他のバトラーとそのデッキ達だ。

 

 

「そんな時は新たな力を得ればいいんじゃよ!……………気持ちをリセットせい!…ほい!」

 

 

そう言って六月は椎名にバトルスピリッツのカードを手渡した。それは光輝いていて、何が何だかわからない。だが、椎名はこれを見たとき、一瞬で気づいた。これは自分が欲していたもの。自分のデッキコンセプトを潰さずに、尚且つ強化できるカード。だと言うことに。

 

 

「こ、こんな凄いのど、どこで……!?」

「まぁ、もらっとけ、お前にぴったりなカードじゃ」

 

 

椎名は新たな力をもらい受け、新たにデッキ構築を始める。必ず良いデッキが作れることであろう。

 

 

******

 

 

時同じくして、ここはジークフリード校の体育館裏。普段はほとんど誰も通らないこの場所には、白銀のギサギサ頭が特徴的で、見た目から性格までキザな少年。赤羽司がいた。何やら細身で柄の悪そうな男と、それの取り巻き3人組と揉めているようだ。

 

 

「……こんなところに呼びつけてなんのようだ……俺は今デッキの調整で忙しいんだ」

 

 

司は柄の悪い男のパシリであろう、取り巻き3人組に呼び出されてここに来た。偉そうにしている柄の悪そうな男が、コンクリートでできた地面から立ち上がる。そして司を嘲笑うようにこう言った。

 

 

「お前が【朱雀】か、あの同年代の女に負けたって言うのは」

「………あれに言い訳などしない。馬鹿にしたいならなんとでも言え」

 

 

司はしょっちゅうこんな感じで不良に絡まれることがあった。それは自分の粗相な態度が、相手の癇に障ってしまうのがほとんどの原因だ。

 

 

「それでなぁ、【朱雀】……!……俺は今度の予選のために強いカードが欲しいのよ……」

「だからなんだ……俺のカードでも欲しいとか言うのか?」

「ビーーーーンゴー!!正解!女に負けた雑魚でもあの【赤羽一族】だ!強いカードの1枚や2枚持ってんだろぉ!?」

 

 

椎名が【朱雀】に勝ったという噂はあまり良き意味で広がらないこともあった。このようにして、【朱雀が女に負けた】という事実だけが伝わり、朱雀が本当は弱くてただの鴨。という身もふたもない嘘になってしまうことがある。

 

それは椎名がまだ無名のバトラーであることも理由に挙げられる。椎名の実力がわからない者は【朱雀】が女に負けた。という認識にしかならないのだろう。

 

司の前ではあれ以来このようなことが今回を含め、三度起こっている。もちろんそのような輩は全部返り討ちにしたのだが、

 

彼は有無を言わず、いつものように自分のBパッドを手提げカバンから取り出した。今回も返り討ちにする気満々だ。

 

 

「御託はいい、俺に勝ったらカードなんぞくれてやる、先ずは俺よりお前が強いと言うことを証明しろ」

「ふっふっ!そうこなくちゃなぁ!!」

 

 

柄の悪そうな男の裏でニタニタと笑う取り巻き達。彼らは4人とも、あの【朱雀】か本当に弱くなったと勘違いをしている。腕の立つバトラーなら普通は司が弱くなっていない。寧ろ強くなっていることに気づくはずだ。だが、彼らにはそれが分かっていない。つまり彼らは司にとっては本当に【雑魚】のような存在であった。

 

柄の悪い男もBパッドを取り出し、展開。そして始まる。おそらくこの物語において1番情けないバトルが、

 

 

「「ゲートオープン!界放!!」」

 

 

ーバトルが始まる。先行は柄の悪い男だ。

 

 

[ターン01]柄の悪い男

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「はっはぁ!!メインステップだ!俺はゴツモンをLV1で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

男がテンションを上げながら召喚したのは白のスピリット。岩を擬人化したかのような成長期スピリット、ゴツモンが召喚された。

 

男はなぜかこのゴツモンを召喚しただけでなぜか勝ち誇ったかのような顔になり、こう言った。

 

「どうだ!俺はこう見えても【九白(くしろ)一族】の人間なんだよ!」

 

 

男がそういうと、他の取り巻き達も粋がっているように騒ぎ出す。

 

【九白一族】。元々存在する古来の一族だが、10年前から【デジタルスピリットの多様化】により、白のデジタルスピリット達を操るようになる。強者が特に多いが、それは最早宗教じみており、現在の総数は約300人はいると言われている。それはどの一族よりも子孫繁栄の意識が強いからだろう。この一族も【紫治一族】同様、カードは【制限式】である。この男は、

 

 

「お前、ランク1の落ちこぼれだな?」

「………!!んだとぉ!」

「図星かよ………まぁ、【九白】のほとんどはオーディーン校だもんな、…聞いたことあるぜ、ランクが1以下の奴はオーディーン校には行けず、他の学園に行かないと行けないってな」

「ぐっ!!!!てんめぇ!!」

 

 

オーディーン校の理事長は【九白一族】の現在の頭領でもある。9年前から学園が立ち上げられた頃、この一族はこのオーディーン校に通わなくてはならなくなった。だが、それはランク2以上のものだけ、ランク1以下の者はオーディーン校に通う資格がなくなるのだ。

 

それ故にオーディーン校の生徒の大多数が【九白一族】の者を占めるため、別名【九白学園】とも呼ばれるほどだ。

 

この柄の悪い男がこんなジークフリード校にいると言うことはランク1以下で確定だったのだ。男はそのことを気にしているのか、司にそれを言われた途端に怒りの感情を露わにする。

 

 

「ターンエンドだ、ほら!かかってこいよ!」

ゴツモンLV1(1)BP2000

 

バースト無

 

 

先行の第1ターンではやることは限られる。男はそのターンを終えた。だが、この後、圧倒的な実力差を知ることになる。司を、【朱雀】を、【赤羽一族】を甘く見た報いを受けることになる。

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はイーズナを2体連続召喚する」

手札5⇨3

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

司が早速召喚したのは赤と黄色、2色の色を持つハイブリットスピリット、イタチのような姿のイーズナが2体現れた。

 

 

「さらに、俺はホークモンをLV1で召喚!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

トラッシュ1⇨2

 

 

司がさらに召喚したのは、このデッキの顔、ホークモン。器用に赤い翼を広げて場に降り立つ。

 

 

「召喚時効果!カードをオープン!」

オープンカード

【ハーピーガール】×

【ハーピーガール】×

【アクィラモン】○

 

 

効果は成功。ホークモンは「成熟期」「アーマー体」を1枚回収できる。これにより、司は「成熟期」のアクィラモンを手札に加えた。

 

 

「そして、イーズナ2体を消滅させて、ホークモンをLV2にアップさせる」

手札2⇨3

イーズナ(1⇨0)消滅

イーズナ(1⇨0)消滅

ホークモン(1⇨3)LV1⇨2

 

「な!?こいつ自分のスピリットを2体も………!!」

 

 

イーズナ達のコアが取り除かれたため、無惨だが、2体とも場から消滅した。カードアドバンテージ的にはだいぶ痛いが、ホークモンがこの早い段階でLVアップしたのはかなり大きいと言えた。

 

 

「アタックステップ、その開始時にホークモンの【進化:赤】を発揮、ホークモンを手札に戻し、「成熟期」のアクィラモンを召喚する!」

 

 

ホークモンに0と1のデジタルコードが巻きつけられていく、それは膨らんでいき、破裂。すると、新たに現れたのは頭部に2つ大きなツノを携える巨鳥型の成熟期スピリット、アクィラモンだ。

 

 

「ぐっ!!成熟期……!!」

 

 

男は司を妬むように成熟期スピリットのアクィラモンを睨みつける。

 

今までこういうことがしたかった。進化というものを。他の兄弟や親戚が羨ましかった。みんな息を吸うように進化してくるから、どうしても自分も一度やってみたかった。だが、自分には一切使うことが許されなかった。

 

もちろん。【九白一族】の大体はランク2。つまり、ほとんどの者は成熟期までの使用が許されていた。この男は単純に実力が備わっていないだけだ。

 

だが、この男は誰よりも成熟期のカードを、進化系のスピリットを、欲していた。実力が備わってないなど理由にしたくなかった。

 

 

「アクィラモンの召喚時効果、BP4000以下の相手スピリット1体を破壊する………くたばれ、ゴツモン」

 

 

アクィラモンの口内から放たれる業火が、男のゴツモンを焼き払った。アクィラモンはこの効果を召喚時とアタック時に発揮できる。

 

その後、司は呆れたような顔つきでアタックステップを継続させる。

 

 

「……アタックステップは継続だ、やれ、アクィラモン」

 

「ら、ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

アクィラモンの強烈な翼撃が、男のライフを1つ粉々にした。ガラス細工が割れたような音が場にこだまする。

 

 

「……ターンエンド」

アクィラモンLV2(3)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

できることを全て終え、このターンを終える司。たったこのターンだけで実力の違いが身に染みたのか、あんなにはしゃいでいた取り巻き達は既に沈黙し、怯えるような顔つきになっている。

 

 

[ターン03]柄の悪い男

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「……ぐっ!メインステップだ、2体目のゴツモンとアイスメイデン〈R〉を召喚する」

手札5⇨3

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

男は2体目のゴツモンと、小型のロボットを召喚する。このアイスメイデンのLV2のBPは5000。アクィラモンの破壊効果ではギリギリ破壊できないラインであった。

 

 

「アタックステップだ!いきやがれ!ゴツモン!」

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ゴツモンの硬い岩皮膚を活かした体当たりが炸裂する。ライフが1つ砕けるも、司の余裕そうな表情までを砕くことはできなかった。それがまた男の気に触る。

 

 

「ぐっ!……ターンエンド」

ゴツモンLV1(1)BP2000(疲労)

アイスメイデン〈R〉LV2(2)BP5000(回復)

 

バースト無

 

 

アクィラモンでは破壊されないアイスメイデンを残し、男はそのターンを終える。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

アクィラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、…………このターンで終わりだ」

「………はぁ!?……笑わせるぜ!アクィラモンの効果じゃアイスメイデンは破壊されないし、第1、俺のライフはまだ4だぞ!!ライフの計算もできねぇのかよ!【赤羽一族】は!!!」

 

 

突然の司の勝利宣言に腹を抱えて笑う男達。いくらなんでもそんなことはできないと、やはり【朱雀】はこけおどしのただの雑魚だと思い直しかける。だが、もちろんこれは本気だ。本気でこのターンで終わらせようとしていた。

 

 

「……俺は、異魔神ブレイブ、天魔神を召喚する」

手札4⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「!?!……異魔神ブレイブだとぉ!?」

 

 

アクィラモンの背後からゆっくりと天より舞い降りてくる天使のような異魔神ブレイブ。天魔神。左右に合体できる異魔神達の中でも扱いやすい効果を内蔵している部類だ。

 

 

「天魔神の右にアクィラモンを合体」

アクィラモン+天魔神LV2(3)BP9000

 

 

天魔神の右手から放たれる光線がアクィラモンと繋がる。異魔神ブレイブ独特の合体方法だ。

 

 

「アタックステップ………やれ!アクィラモン!効果でゴツモンを破壊……!」

 

 

アクィラモンの口内から放たれる業火が、ゴツモンを再び焼き払う。これだけでは彼のブロッカーを排除できないが、

 

 

「それがなんだってんだ!……俺のブロッカーのアイスメイデンは破壊できねぇぞ!」

「……天魔神の右合体時効果でBP6000以下のスピリットを破壊する………!!」

「な!?」

 

 

天魔神の右手に矢が待たれる。天魔神はそれを全力で小さな機械に槍投げの要領で投げつける。アイスメイデンはそれで串刺しにされ、爆発してしまった。

 

 

「だ、だが、たった1回のアタックでは俺のライフを0にはできねぇ!」

 

 

ブロッカーを排除してもアクィラモン自身は天魔神との合体でダブルシンボル。残り4つの男のライフを破壊できない。

 

だが、アクィラモンを操っているのは司。【朱雀】と呼ばれている彼が決めると言って決められないはずがない。

 

ーさらに手札の1枚を引き抜く。

 

 

「フラッシュマジック!…イエローリカバー……アクィラモンを回復する」

手札3⇨2

アクィラモン+天魔神(3⇨1)LV2⇨1(疲労⇨回復)

トラッシュ4⇨6

 

「……は、はぁ!?」

 

 

黄色のマジック。イエローリカバー。ターンに1回だけ使用でき、黄色のスピリットを1体回復させる効果を持つ。アクィラモンは今、天魔神との合体で、黄色のスピリットとしても扱っている。この効果を受けることができたのだ。

 

黄色い光を浴び、アクィラモンは回復する。これでダブルシンボルの2回アタック。合計4つのライフを減らせる算段が整った。

 

 

「さぁ、どう受ける?」

 

「ら、ライフだ………!!」

ライフ4⇨2

 

 

アクィラモンの強烈な脚の一撃が男のライフに刻まれる。それはいとも容易く2つ破壊された。

 

ーそして、

 

 

「トドメだ!………雑魚野郎!」

 

「………う、うそだぁぁぁぁあ!!」

ライフ2⇨0

 

 

男の悲痛の叫びも虚しく。アクィラモンは非情にその残りのライフを跡形もなく蹴散らした。

 

ー4ターン、僅か4ターンの出来事だった。

 

衝撃に吹き飛ばされる男。取り巻き達はその光景を目の当たりにし、恐れ慄き、腰が引けつつも、情けない背を司に見せながら、その男を置いてその場から逃亡した。

 

男も倒れてから腰が抜けて、立ち上がることができなかった。まさか実力の差がここまであるとは思っていなかった。ここまで完膚なきまでに叩き潰されるなど想像もしてなかった。全く弱くなってなどないじゃないかと何度も何度も心の中で叫ぶ。

 

司は少しだけ疲れた表情をしながらもその場を去って行く。ただ強いバトラーとバトルをするよりも、口先だけの弱者との方が疲れる。司はそう考えていた。

 

 

「やぁ、司、……僅か4ターンで決めるなんて、流石だね、」

「なんだ雅治、覗いてやがったのか、」

 

 

少し離れたところでひょっこりと現れたのは、彼の親友雅治。

 

司はずっと疑問に残っていたことを雅治に問うことにした。

 

 

「………お前、本当に【界放リーグ】に出ないのか?」

「……あぁ、今年はやめとくよ」

 

 

雅治はなぜか【界放リーグ】に出ないと言っていた。その理由は誰にも教えてはいなかった。親友の司でさえもその理由は知らない。

 

雅治本人にもその理由は分からなかった。体のどこからか、羞恥心や、劣等感が湧き出て来て、自分の本能が、大会に出るなと言っているような感覚だった。本当は出たいはずなのに。

 

 

「そんなにチンタラしてると、俺はもっとお前を追い越していくぞ」

「………………」

 

 

司の言葉に言い返せない雅治。2人は昔から競い合っていた。司は嫌だったのだ、張り合う相手が少なくなるのが、【界放リーグ】であれば、その張り合える相手はいくらでもいるからか、それ以上に雅治を問い詰めることはなかった。だが、司はこれだけは理解している。自分がこの世で一番張り合いがある相手は雅治だと言うことを。

 

雅治とて、参加したくないわけではなかった。本当の理由は司ではなく、椎名にあると言うことは、雅治自身も未だに気づかないことであって、

 

 

******

 

 

場所は変わり、ここは【紫治一族】の巨大な屋敷。夜宵と、その姉、【紫治 明日香(しち あすか)】と会話をしていた。その内容は明日の【界放リーグ】の予選についてだ。

 

 

「本当に出場しないつもりなんですか?お姉様」

「今までそんなのに興味なかったから1回も出たことなかったのよ、今さら出場なんて柄じゃないわ、あんただけ出場しなさい」

「で、でも、2人の方が進出できる確率が………」

「バカねぇ夜宵、毎年デスペラード校には強すぎて必ず出場できる奴がいる。そいつのせいで2つある枠が1つになるのよ」

 

 

突き刺すような刺々しい言葉で夜宵にそう発言する明日香。【界放リーグ】で、本戦に勝ち残れるのは、各学園から2名ずつ、だが、デスペラード校には1年の時に入学してからと言うもの、キングタウロス校の【ヘラクレス】同様、毎年必ず本戦に勝ち残る者がいた。その者は今年で3年、つまり枠は1つしかないのも同然だった。

 

 

「必ず勝ち残りなさい、夜宵。なんとしても【アレ】に目覚める者を見定めるのよ」

「………はい、わかってます、お姉様」

 

 

彼女達の言う、【アレ】が何かは定かではない。だが、【界放リーグ】の裏側で何かとてつもないことが起ころうとしているのは確かなことであった。

 

 

******

 

 

その日の夜。ここは界放市の空港。用事が済んだ六月は、再び離島に飛び立とうとしていた。早めにチェックインを済まし、待合所のベンチで腰を下ろしながら、椎名のことを考えていた。

 

 

(椎名、……大きくなったのぉ、……中身は相変わらず子供のままじゃったが………だが、それで良い、お前はそれで…………)

 

 

椎名は捨て子、当然自分の本当の親の顔を知らない。知りたいと思ったことはない。自分には既に血は繋がってなくとも、大事な家族や兄弟がたくさんいるからだ。

 

それで十分だった。いもしない本当の親など考えたくもなかった。ただ、自分のことが大好きで、自分も好きな家族がそこにいてくれたら、…それで。

 

六月はそんな椎名をずっと可愛がって来た、とてつもないくらい溺愛していた。他の身寄りのない子供達も同様にそうして来たが、椎名は特別だった。いろんな意味で。それはこの物語が進むにつれ、明らかになっていくことだろう。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【アクィラモン】!!」

「アクィラモンはホークモンが進化した赤の成熟期スピリット、召喚時とアタック時で相手のBP4000以下のスピリットを1体ずつ破壊できるよ!」





最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!


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第14話「黄金の守護竜……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ始まる【界放リーグ】の予選代表選抜戦。夏休み真っ只中だと言うにもかかわらず、校舎はジークフリード校の生徒達で賑わっていた。

 

 

「………さぁ、とうとうやって来たが、どうしたもんか」

 

 

そう言ったのはジークフリード校の理事長【龍皇 竜ノ字(りゅうおう たつのじ)】。今年で60歳の男性で、ライオンのような鬣が特徴的だが、10年前までは現役の凄腕のプロバトラーで、引退後も【伝説バトラー】として崇められた。

 

そもそもこの界放市にある6つの学園の理事長は皆、この龍皇と同じ代で、尚且つ【伝説バトラー】なのである。

 

そして龍皇は困っていた。それは今年の界放リーグでは必ずヘラクレスに勝てるほどのバトラーを選出しなければならないからである。

 

理由としては、仲の良いキングタウロス校の理事長との賭け事で、どちらかが3年連続で優勝できたら、負けた方が勝った方にハワイ旅行させるというもの。

 

その程度の金は現役時代に稼いだ金でいくらでも出せるのだが、負けるのは血の気が多かった彼としては癪であって、

 

1人目は既に目をつけている。【朱雀】こと赤羽司だ。彼ならヘラクレスに打倒できる可能性がある。彼ほどの実力ならこの学校の3年生をものともせずに勝ち上がって来るだろう。問題は2人目だ。去年、一昨年の結果から、めぼしい上級生はいない。となると1年生しかいないが……

 

 

「……………おぉ、この芽座椎名と言う生徒は4月の代表バトルで赤羽司に勝利している………そしてエントリーもしている……」

 

 

彼は1学期のバトル成績表を見て、椎名の項目を覗いた。椎名はこの学期を通して、唯一司に黒星を与えていた。だが、司とバトルしたのも勝ったのもこれ1回のみ、本当は偶然だったかもしれないという考えが龍皇の頭をよぎる。

 

 

「…………よし!ちょっくら試してみっか」

 

 

そう言って彼は理事長室から出た。

 

 

******

 

 

ここはジークフリード校エントランス。広々としたこの空間は生徒達の休憩所であり、癒しの場だ。だが、それはこの男の存在のせいでいずらいものとなっていた。それは以前椎名に敗北した【毒島富雄】だ。カツアゲなどの乱暴な行為が噂される彼のせいで、エントランスはほとんどの人はやってこなかった。

 

毒島は3年生。実力もまぁまぁあることながら、予選代表選抜に出場する予定であった。だが、彼の目的は予選で勝ち残るのが出場する理由ではなく、椎名に復讐するが本当の目的なのだが、

 

自分の手持ちのカードにはあのフレイドラモンを超えるようなカードはなかった。あのフレイドラモンにさえ勝つことができれば必ず椎名を倒せる。そう思っていた。

 

 

「おい、毒島富雄だな?…ちょっといいか?」

「………!!……あんたは、龍皇理事長…!?」

 

 

唐突に現れたのはなんとこの学校の理事長である龍皇竜ノ字。まさか自分のような者に話しかけてくるとは思ってもいなかったのか、思わず座っていたベンチから立ち上がる。その異常な存在感に腰が引けた。

 

 

「あ、あんたみたいな人が、お、俺に何の用だ?」

「いやいや、お前を応援しようと思ってな、……予選に出るんだろ?……これをやるよ」

 

 

そう言って彼は毒島の手にカードを数枚握らせた。その後、通り過ぎるように通過し、「期待してるぜ」と呟いてその場を去っていった。とてつもないくらいのオーラだった。近づいてきた瞬間は息が詰まりそうなくらいだ。毒島は息を荒げながらもそのカードを見た。そのカード達は皆驚くほどのレアカード。しかも自分のデッキと相性がいいときた。これほどの補強パーツは他にない。

 

あの龍皇理事長が、本気で自分なんぞを応援しているとは思えなかったが、そんなことはどうでもいい。結果論が全てだ。今自分の手にはあの芽座椎名を倒せるカード達があると言う。

 

 

「こ、これがあれば、奴に、奴に勝てる!!!ガハハハハ!!!!とうとう俺の時代だ!待ってやがれ!」

 

 

毒島は代表選抜予選に臨む。芽座椎名を打倒するために。

 

 

******

 

 

そしてジークフリード校の中では最も広い、この第10バトル場でついに代表選抜予選が幕を開ける。ざっと見て200人は参加している。勝ち星が多い上位2名が出てくるまで何度もバトルすることになる。

 

真夏と雅治が共に2階の観客席で見守る中、椎名と司は予選に挑んでいた。バトル内容はどれも快勝だった。2人とも流石と言える。

 

 

「いっけぇ!!フレイドラモン!……渾身の爆炎!ファイアァァア!!ロケット!!!」

 

 

相手のライフに向かって、炎を纏い、全力で落下するフレイドラモン。その相手のライフを無慈悲に破壊した。最後のライフが消し飛ばされた相手は軽く吹き飛ばされる。

 

 

「へっへ!楽しかったよ!」

 

 

椎名はこれで10戦中10勝。人数的にも後1回。後1回勝てば確定で代表入りを果たせる。

 

 

「やれ!ホルスモン!!!………テンペストウィング!」

 

 

司の指示に従い、ホルスモンは身体を回転させ、まるで竜巻のように飛翔する。そしてそのまま瞬く間に最後のライフを貫いた。司も椎名と同じ勝ち星をあげていた。つまり後1回で代表入り確定だ。

 

 

「2人とも流石だね」

「………せやな」

「緑坂さんはなんで界放リーグに参加しないんだい?」

「あんたくらい頭が良ければ考えずともわかるやろ?……私からしてみればあんたが出ん方がよっぽど謎やで」

「……………」

 

 

黙り込む雅治。あれから何度も出場はしたいのにしたくない、そんな矛盾する気持ちを考えて見たが、なかなかその理由がわからない。そして本番を迎え、結局何が何だか分からず出場しなかった。

 

真夏が出場しないのは当然の如く、兄、ヘラクレスと周りから比較されるが嫌だからだ。彼女にとってそれは自分の身体が引き裂かれるような痛みなのである。

 

 

「よぉぉし!代表選抜予選もいよいよ最後のバトルだ!この4人のうち2人が代表だぞ!」

 

 

バトル場のど真ん中にいる晴太がそう言うと4人の人物がバトル場に歩み寄る。その中には司と椎名も確認できる。

 

椎名は目の前にいる自分の対戦相手を確認する。司ではなかった。彼はその隣で、また別の人物とバトルすることになっていた。椎名としては好都合。彼とは一緒に代表になって本戦でバトルしたいからだ。

 

 

「よっし!頑張るぞぉ〜〜!」

「………よぉ、久しぶりだな、芽座椎名」

 

 

椎名の目の前にいた対戦相手が椎名に話しかける。どうやら椎名の知人のようだが、

 

 

「?……どっかであった?」

「忘れたのかよっ!?俺様だ!毒島富雄様だ!!カードショップでバトルしてやっただろうが!!」

 

 

対戦相手はあの毒島だった。椎名もそれを聞いてようやく思い出す。

 

 

「あぁ、あの毒島先輩かぁ、」

「今回俺はお前に復讐するために来た、……覚悟しやがれよ、アホ毛女」

「へへ!……せっかくだから楽しいバトルにしよう!」

 

 

このバトルは生徒達からは離れたところで龍皇理事長も観戦している。芽座椎名を見極めるためだ。

 

 

「よっし、お手並み拝見だな、芽座椎名」

 

 

多くの生徒や先生が見守る中、この4人のバトルが、代表選抜予選の最後の試合が今、切って落とされる。

 

 

「バトル、始めぇ!」

「「「「ゲートオープン!!界放!!」」」」

 

 

晴太の始めの合図に合わせて、4人共一斉にバトルを始める。

 

椎名と毒島のバトルが始まる。

 

ー先行は毒島だ。

 

 

[ターン01]毒島

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「ガハハハ!メインステップ!……俺はネクサス、旅団の摩天楼を配置!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

毒島が早速背後に配置したのは細長い摩天楼。これはその効果の汎用性の高さから、紫のデッキならば、どんなデッキでも採用圏内に入る強カード。

 

 

「配置時効果で1枚ドローだ!………さらにバーストを伏せる。俺はこれでターンを終了だ!」

手札4⇨5⇨4

 

旅団の摩天楼LV1

 

バースト有

 

 

さらに1枚のバーストカードを伏せ、先行の第1ターンを終える毒島。次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!ブイモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が早速呼び出したのはこのデッキの潤滑油的存在、青き体に加え、額に金色のブイの字が刻まれた小さな竜、ブイモンが召喚された。

 

 

「召喚時効果発揮!カードをオープン!」

オープンカード

【グリードサンダー】×

【フレイドラモン】○

 

 

召喚時効果は成功。アーマー体のフレイドラモンのカードが手札に加えられた。

 

そして椎名は早速召喚する。この最高のマイフェイバリットスピリットを。

 

 

「さらにフレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!…1コストを支払い、燃え上がる炎、フレイドラモンをLV1で召喚!」

 

 

ブイモンの頭上に赤く、独特な形をした卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは炎を彷彿とさせるスマートな竜人型アーマー体スピリット、フレイドラモン。

 

雅治も「早速来たね」と、声を上げる。毒島は激しい怨念の炎をその心に燃やしていた。痛い目にあわされたあいつが目の前にいると思うと俄然倒したくなる。

 

 

「アタックステップ!……フレイドラモン!」

 

「ライフだ、くれてやる!」

ライフ5⇨4

 

 

フレイドラモンは炎を纏わせた拳で、毒島のライフを1つ叩き割った。椎名にとっては幸先の良いスタートと言える。

 

だが、ここで毒島のバーストがオープンされる。

 

 

「ライフの減りでバーストを発動だ!ジャンピングバインド!……効果によりコアブーストだ!!」

リザーブ2⇨3

 

 

真夏も使ったマジックカード。毒島にコアの恵みが送られる。

 

 

「よっし!ターンエンド!」

フレイドラモンLV1(1)BP6000(疲労)

 

バースト無

 

 

ターンを終える椎名。次は毒島のターンだ。前のターンから一転して、リベンジを果たすべく大きく動き出す。

 

 

[ターン03]毒島

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「……メインステップ……ガハハハ!!!この力を使う時が来たぜぇ!!」

「………!?!」

 

 

忽然と笑い出す毒島。思わず椎名は身構える。毒島が今から呼び出すのは、龍皇から譲り受けたレアカード。デジタルスピリットでも貴重な完全体のカードだ。

 

 

「召喚!……アルケニモン!!!LV2だ!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「……!?」

 

 

突如現れる巨大な繭。その中で蠢く何か、それはゆっくりとその繭を引き裂き、現れる。

 

下半身は蜘蛛。上半身は不気味な女性の姿をした魔獣型スピリット、アルケニモンが召喚された。

 

 

「おぉ!すごい!!」

「毒島ってあんなカード隠し持っとったんかいな……!?」

 

 

あいも変わらず強敵そうなスピリットの登場ではしゃぎ出す椎名。その上で、少々驚く真夏。毒島は基本的にドクグモンを軸に戦うデッキだった。なので今回のこの完全体のレアカード、アルケニモンを見て、驚くものはたくさんいた。

 

 

「これが俺の新たなエースカードだ!!!覚悟しやがれぇ!!アタックステップ!!………アルケニモン!!」

 

 

蜘蛛の下半身を巧みに活かして走り出すアルケニモン。その凶悪なアタック時効果が椎名とフレイドラモンを待ち構える。

 

 

「アタック時効果だ!くたばれぇ!フレイドラモン!!」

「なにぃ!?」

 

 

アルケニモンは右腕から暗黒の粒子の球を形成し、それをフレイドラモンに投げ飛ばす。フレイドラモンはそれに直撃し、塵となり消滅した。

 

 

「アルケニモンのアタック時だ!疲労状態の相手スピリット1体を破壊し、ボイドからコア1つをアルケニモンに置く………ガハハハ!!!どうだ!」

アルケニモン(3⇨4)

 

 

早々にフレイドラモンを失い、痛手となる。が、まだ挽回のチャンスはある。椎名はこのアタックをライフで受けようとするが、

 

 

「くっ!!……ライフで受け…………」

「ちょぉっと待ちやがれ!まだあるぜ!アルケニモンのアタック時効果がなぁ!!!」

「………!!」

 

「アルケニモンの第2のアタック時効果!カードをオープン!」

オープンカード

【ドクグモン】×

【マミーモン】○

 

 

アルケニモンの2つ目のアタック時効果、それは緑、または紫1色のネクサスがある時、デッキからカードを2枚オープンし、その中の完全体スピリットをノーコスト召喚できるというもの。

 

今回は同じく完全体のマミーモンが該当するため、毒島はこれを召喚する。ちなみに、このマミーモンも龍皇から貰ったものだ。

 

 

「いよっしゃぁあ!!俺はこのマミーモンを召喚するぜ!LV2だ!」

アルケニモン(4⇨1)LV2⇨1

マミーモン(3)LV2

 

 

アルケニモンが作り出す暗黒の瘴気、その中から、ミイラのように、全身が包帯で巻かれたアンデッド型スピリット、完全体のマミーモンが召喚された。その手には長い銃が握られている。

 

 

「……!!……一気に完全体が2体!?」

「アルケニモンのアタックは継続だ!!」

 

「ぐっ!……ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

アルケニモンの引き裂くような攻撃が、椎名のライフを1つ破壊した。このターンはこれだけでは済まされない。次はマミーモンの攻撃だ。

 

 

「続きやがれ!マミーモン!……こいつはLV2の時!アルケニモンがいるだけでBPプラス5000、紫のシンボルを1つ追加される!」

マミーモンLV2(3)BP12000

 

 

つまりはダブルシンボルのアタックだ。少ないコア数、場のカード、椎名にはライフで受ける以外の選択肢はない。

 

 

「それもライフで受ける!」

ライフ4⇨2

 

 

マミーモンの銃撃が椎名のライフを一気に2つ破壊する。

 

 

「ガハハハ!!これが俺様の真の実力よ!!ターンエンドだ!」

アルケニモンLV1(1)BP5000(疲労)

マミーモンLV2(3)BP12000(疲労)

 

旅団の摩天楼LV1

 

バースト無

 

 

そのターンを終える毒島。アルケニモンとマミーモン。この最悪のコンビを打ち破る術を椎名は持ち合わせているのだろうか、いや、持ち合わせなくてはならない。本戦に出場し、勝ち残るまで負けてはいられない。椎名がそう思った直後だった。

 

 

《勝者!赤羽司!代表決定!!!》

 

 

そんなアナウンスが流れてくる。椎名はすぐ横を見渡すと、司が対戦相手を完膚なきまでに叩き落としていた。盤面にいるホルスモンが宙を舞う。

 

司は椎名を見る。まるで勝ち誇ったかのような顔だ。まだ椎名と勝負もしていないのに、椎名は不思議とやる気が込み上げてくる。「司には負けられない」と自分を鼓舞していく。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

 

 

「ドローステップ!!……ドロー!!………!!……じっちゃん!」

 

 

椎名がドローしたカードは六月に渡されたカード。それはまさしくこの状況にはうってつけのカードであって、

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨9

トラッシュ4⇨0

 

 

「いくよ!メインステップ!バーストをセットして、ガンナー・ハスキーと猪人ボアボアをLV2で召喚!」

手札6⇨4

リザーブ9⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名がバーストを伏せると同時に場に呼び出したのは犬型だが、拳銃を所持するために、青い腕を生やしたスピリット、ガンナー・ハスキーと、猪の頭をした獣人型スピリット、ボアボア。

 

いずれも椎名の速攻部隊となるスピリットたちだ。

 

 

「アタックステップ!ボアボアとガンナー・ハスキーでアタック!」

猪人ボアボア(3⇨4)LV2⇨3

 

「2つともライフだ!!」

ライフ4⇨2

 

 

そのままアタックステップに入る椎名。ボアボアの鎖付き鉄球が、ガンナー・ハスキーの乱射が、それぞれ1つずつ毒島のライフを破壊した。

 

これでライフだけなら同値となるが、

 

 

「ガハハハ!!!バカが!勝負を捨てたか!……これでもうお前を守るスピリットはいない!俺の勝ちだ!!」

 

 

椎名はこのターン、フルアタックをしたせいでブロッカーは無し、確かに大雑把に見れば勝負を捨てたように見えるが、

 

毒島は勘違いをしていた。何故なら、勝負を捨てたプレイヤーがバーストなど伏せるわけがないからだ。

 

既に観戦に回っていた司は思った。「これはめざしの勝ちだ」と。こんな相手に奴が負けるわけがないと、

 

 

「ターンエンド!!……さぁ!どっからでもこい!!」

ガンナー・ハスキーLV2(3)BP4000(疲労)

猪人ボアボアLV2(4)BP4000(疲労)

 

バースト有

 

 

「あぁ!どっからでもきてやるぜ!この俺のターンで終わりだぁ!!」

 

 

[ターン05]毒島

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

アルケニモン(疲労⇨回復)

マミーモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!アルケニモンをLV3に上げ、……決めてやるぜ!異魔神ブレイブ!龍魔神!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨0

アルケニモン(1⇨5)LV1⇨3

トラッシュ0⇨3

 

「……異魔神ブレイブ!!」

 

 

悪運立ち込める空間に、雷雲と共に現れる黒き龍。左右に合体できる特異なブレイブ。異魔神ブレイブの1種、龍魔神が召喚された。

 

ーそして

 

 

「龍魔神の右にアルケニモンを、左にマミーモンを合体させる!」

 

 

龍魔神の左右の手から光線が伸びる。それはアルケニモンとマミーモンに繋がり、合体状態となる。

 

そして脅威のアタックステップが始まる。

 

 

「終わりだぁ!!アタックステップ!アルケニモン!!……龍魔神の右側の力はアルケニモンとほぼ同等!ガンナー・ハスキーとボアボアの2体を破壊し、コアを2つ追加だ!」

アルケニモン+龍魔神(5⇨7)

 

「……くっっ!!!……でもガンナー・ハスキーのLV2の破壊時効果でコアを2つ増やす!!」

リザーブ7⇨9

 

 

アルケニモンと龍魔神の黒き波動により、ガンナー・ハスキーとボアボアの息の根は止まる。2体とも爆発し、破壊されてしまった。

 

ガンナー・ハスキーのLV2の破壊時でリザーブにコアが追加されるものの、乗せるスピリットがいなければ意味がない。

 

 

「それがどうしたぁあ!!お前の盤面にはもはやスピリットはいない!トドメだ!!」

 

 

走り出すアルケニモン。龍魔神との合体でシンボルは2つ。椎名の残りのライフをいとも容易く消し飛ばすことが可能。誰が見てもこの状況は変わらない。そう思われた直後だった。椎名のバーストカードが光り出し、一気に反転する。

 

 

「相手のアタック後でバースト発動!トライアングルバースト!!」

「なに!!?」

 

「トライアングルバーストは、バースト効果で手札にあるコスト4以下のスピリットをノーコストで召喚できる、……ブイモンを召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ9⇨5

ブイモンLV2(4)BP4000

 

 

突如現れるトライアングルの光り。その間から【アーマー進化】の効果により手札に戻っていたブイモンが再び登場する。

 

 

「なるほど……相手のアタック時効果を掻い潜り、成長期を召喚、さらに【アーマー進化】を決める算段か、」

 

 

そう呟いたのはすぐ横のバトル場にいる司。彼の予想通り、椎名は呼び出しても直ぐにアタック時効果で破壊されかねないブイモンを維持するために、それよりタイミングが後のアタック後のバースト、トライアングルバーストを仕込むことで、相手ターンでの【アーマー進化】を可能にした。

 

ーだが、

 

 

「仮にフレイドラモン、ライドラモンを出せたとして、この状況を変えることはできない…………」

 

 

そう呟いたのは雅治。確かにフレイドラモンでもライドラモンでも、毒島のアルケニモン、マミーモンに勝つことはできない。だが、椎名が召喚するスピリットはフレイドラモンでもライドラモンでもない、誰もが予想だにしない新たなるスピリットを召喚する。

 

 

「フラッシュ!【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!」

「ガハハハ!!今さらフレイドラモンか?そんなものを出しても無駄だ!俺様のアルケニモンとマミーモンの敵ではない!」

 

「……誰がフレイドラモンを召喚するって?……私が召喚するのはこいつだ!!……1コストを支払い、黄金の守護竜………マグナモンを召喚!!!」

リザーブ5⇨4

トラッシュ3⇨4

マグナモンLV3(4)BP10000

 

「な、なにぃ!?マグナモン!?!……」

 

 

金色の輝きを放つ黄金の鎧を纏う卵のようなものがゆっくりとブイモンの頭上に投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れるのは、鉄壁の防御能力を持つ、最強のアーマー体。それは黄金の鎧をその身に纏い、椎名の場に現れる。

 

それを見るなり、椎名以外の者は驚愕していた。それもそのはず、このマグナモンは他のデジタルスピリットとは訳が違う。

 

 

「あ、あれは………マグナモン………!?」

「【ロイヤルナイツ】の1体………!!なぜめざしが、……」

「世界にただ1枚しかないカードのはずやで!?……そんなもん持っとったんかいな!?」

 

 

マグナモン。伝説のデジタルスピリット。【ロイヤルナイツ】の1体。【ロイヤルナイツ】とは、世界にただ1枚しか存在しないと言われる無敵のデジタルスピリット集団。それらは全てで13種、そのうちの1体であるマグナモンを椎名が召喚した事により、周りは騒然とする。それはあの龍皇理事長も同様である。

 

ちなみに椎名は【ロイヤルナイツ】の存在を、マグナモンの価値を全く知らない。マグナモンの煌めく後ろ姿にただ見惚れていた。

 

 

「おぉ!!これがマグナモン!!カッコいい!!………よろしくね!!マグナモン!!」

 

 

椎名の言葉に少しだけ振り返り、小さく頷くマグナモン。対戦相手の毒島はただそのマグナモンの存在に驚き、恐怖していた。

 

 

「ぐっ!!………だが!!!所詮はBP10000!!アルケニモンの敵じゃあない!!」

 

 

確かにBPだけならマグナモンは他のアーマー体となんら変わりはない。だが、マグナモンは仮にもアーマー体最強のスピリット。それにはそれ相応の強力な効果がいくつも備わっていた。

 

 

「マグナモンの召喚時効果発揮!!……マグナモンは召喚した時、相手の場にいる最もコストの低いスピリット1体を破壊する!」

「……な、なぁ???!?」

「毒島先輩の場にいる最もコストの低いスピリットは10のアルケニモン!これを破壊する!…………黄金の波動!!!エクストリーム・ジハード!!!!」

 

 

マグナモンはその身に黄金の光を集中させ、それを一気に解き放つ。その膨大なエネルギーは瞬く間にアルケニモンを捉えて、それを消滅させた。

 

 

「へっへー!!アルケニモンが破壊された事で、マミーモンに与えられたBPとシンボルが低減するっ!」

 

「ぐっっ!!!」

マミーモン+龍魔神BP16000⇨11000

 

 

アルケニモンがいなくなった事により、寂しさを感じたのか、涙を流すマミーモン。彼は仇を取るべくアタックしに行く。

 

 

「だが!!!まだ俺様の場にはまだマミーモンがいる!!アタックだ!!!……マミーモンのアタック時効果でマグナモンのコアを2つリザーブに置き、龍魔神の効果で疲労させる!!!………喰らえ!マグナモン!!」

 

 

マミーモンの渾身の銃撃と、龍魔神の闇の瘴気が同時にマグナモンを襲う。このままではマグナモンはLVが下がるだけでなく、疲労状態になってしまう。

 

ーだが、

 

 

 

マグナモンはその黄金の鎧の力を示すように輝かせると、その2つの攻撃を同時に跳ね返してしまう。

 

 

「な、なにぃ!?!……なぜ効かない!!?!」

「マグナモンは相手のスピリット、ブレイブの効果を受け付けない………!!…よってその効果は効かないよ!」

 

 

マグナモンの強力な効果の1つ。それは耐性効果。マグナモンに対するスピリットとブレイブのこれ一切の効果を遮断してしまう。

 

最強のアーマー体と言われる由縁の1つだ。そして、マミーモンはアタック状態。椎名はこれをマグナモンで迎え撃つ。

 

 

「アタックはマグナモンでブロックするっ……!!」

 

 

マミーモンの気持ちはまだおさまらず、包帯を飛ばし、マグナモンを縛り付けにしようとする。マグナモンはその攻撃を上空に飛ぶ事で回避する。

 

 

「ガハハハ!!!いくら【ロイヤルナイツ】と言えどバトルスピリッツのルールには逆らえまい!!BPはマミーモンが上!!くたばりやがれぇ!!」

 

 

だが、椎名も何も考え無しにブロックしたりなどしない。さらなる逆転の1枚を引き抜く。

 

 

「へっ!……フラッシュマジック!アビサルカウンター!!……アビサルカウンターは相手の合体スピリットのブレイブを1体破壊する!私が破壊するのは龍魔神!!」

手札2⇨1

リザーブ4⇨2

トラッシュ4⇨6

 

「……は、はぁ!?!!……あ、あぁ!?!……俺様の龍魔神!!?!」

 

 

龍魔神を襲う特大の竜巻。龍魔神はそれに取り込まれ、宙に飛ばされて、そのまま爆発してしまう。

 

これにより龍魔神の合体時+は無くなり、マミーモンのBPは椎名のマグナモンより劣ってしまう。

 

 

「今だぁ!!いっけぇ!!マグナモン!!………黄金の一撃!!ゴォォルデン!!ドラァァイブ!!!」

 

 

マグナモンは再び黄金の輝きをその身に纏い、上空からマミーモンに向けて落下して行く。マミーモンは焦り、銃を乱射するが、通用せず、全て弾き返される。そしてそのままその攻撃が直撃、爆発する。

 

爆発の煙の中、マグナモンだけが生存していた。その黄金の鎧が、より輝いて見える。

 

 

「……た、ターン、エンド……っ!!」

旅団の摩天楼LV1

 

バースト無

 

 

なすすべがない。何もできない毒島は仕方なくそのターンを終えてしまう。

 

次はラストになるであろう、椎名のターンだ。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨9

トラッシュ6⇨0

マグナモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップで……ブイモンを召喚し、アタックステップ!………ブイモンとマグナモンでアタックだぁ!!」

手札2⇨1

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨2

 

 

動き出す2体のスピリット。目指すは残った毒島の2つのライフ。毒島の手札にはもはやカウンターカードはない。

 

ー決着だ。

 

 

「ぐっっ!!………ら、ライフだぁあ!!」

ライフ2⇨1⇨0

 

 

マグナモンの肩部から放たれるミサイルが、ブイモンの頭突きが、毒島の残ったライフを完全に叩き壊す。

 

これにより勝者は椎名。見事大逆転を飾ってみせる。ブイサインを掲げる彼女の前にいるマグナモンとブイモンはゆっくりとその姿を消滅させて行く。

 

 

《勝者!芽座椎名!代表決定!!!》

 

 

勝利を告げるアナウンスが流れる。湧き上がる歓声。

 

これでバトスピ学園、ジークフリード校の代表2人は芽座椎名と赤羽司に決定した。

 

 

「ぐっ!!ま、負けた…………」

「毒島先輩!!いいバトルだったよ!!またやろうね!!」

「…………うるせぇ!……覚えてやがれぇ!」

「あ、あれ!?」

 

 

そう言ってまた古い捨てゼリフだけを残して、毒島はその場を去って行く。

 

 

******

 

 

代表が決まり、今は表彰式だ。椎名と司は真ん中の表彰台の前に立たされ、祝福されていた。目の前にいるのは龍皇理事長だ。

 

 

「あっほん!……改めて代表入りおめでとう、芽座椎名、赤羽司!……特に芽座椎名、お前のあのマグナモンには驚かされたよ、これからも頑張れよな!」

「あっはは!!ありがとうございます!」

(よぉ〜し、狙い通りだ、やっぱ凄い才能だったぞこいつ、この2人でなんとか【ヘラクレス】を倒してくれよ………頼むからマジで)

 

 

龍皇はキングタウロス校の理事長との賭け事に勝つことしか頭にない。こんな歳になって何を考えているんだと思うかもしれないが、彼とて年長者。余生を楽しみたいのだろう。

 

 

「ところで理事長。【界放リーグ】本戦はいつですか?」

「!?!」

 

 

思わず呆気にとられる龍皇。まさかここまで勝ち上がってきてそんなことも知らないとは思ってなかった。

 

横にいる司がそれを説明し、伝える。

 

 

「何今更言ってんだめざし、【界放リーグ】の本戦は夏休み明けて、10月だろうが」

「………えぇ!?そんなに長く待つの!?」

「はっは!……まぁ、他校も強敵を送ってくるんだし、それまでに腕を磨くのもいいかもな!」

「はぁ、馬鹿馬鹿しい、俺はこれで失礼するぜ」

「えぇ?まだ終わってないよ!?」

「俺がそんなこと知るか……」

 

 

司はそれだけ伝えるとまだ表彰式は終わっていないというのに、表彰台から降り、その場を去って行く。

 

 

(めざしはあんな力を………ならば俺も新たに身につけねばならん、癪だが、あそこに帰ってみるか)

 

 

司は心の中でそう考える。椎名の持つ【ロイヤルナイツ】、マグナモンを見て、追い越されている気がした。司はあのカードを必ず得ると誓った。【赤羽一族に伝わる伝説のスピリット】を。

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【アルケニモン】!」

「アルケニモンは緑と紫の強力な完全体スピリット!……アタック時に疲労状態のスピリットを破壊したり、マミーモンを連れてきたりできるよ!」








最後までお読みいただきありがとうございました!


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第15話「赤羽一族訪問!伝説を獲得せよ!」

 

 

 

 

 

 

 

赤羽司と長峰雅治は今、電車に乗っている。目的地は赤羽司の実家だ。2人は同じ町で育った。雅治は彼の家族とも仲が良く、ほぼ家族と言われるほどだ。

 

だが、そんななか、司は違和感と不安感を感じていた。何せ、今、自分が座っている座席の横には雅治がいるのだが、さらにその隣には、

 

 

「おい、めざし、なんでお前がいる」

「やっと気づいたなぁ、いや、どうしても赤羽家の伝説のスピリットをみたくってさぁ!」

 

 

そこに居たのは芽座椎名。椎名はいつものように笑顔を振舞いながら話す。直射日光を避けるための大きめの麦わら帽子が妙に馴染んでいて、似合っている。彼女に好意を抱く雅治はその姿を見て、またひとつ心を奪われている。

 

椎名がなぜここにいるのかは大体の見当がついた。おそらく雅治が呼んだのだろう。というか、帰省することは雅治にしか告げていない。うっかり口を滑らせて、それに椎名が便乗した。司はそう推理した。それは100%的中していた。

 

司は面倒臭いと思いつつも、ここまで来てはもうしょうがないか、どうでも良くなり、電車に乗っている間は、その口をずっと閉じていた。

 

ーそして電車は目的地に到着し、3人は赤羽家の家まで歩き出す。古びた家が多く。良く言えばのんびりとした趣のある場所、悪く言えば活気のない寂れた場所だった。

 

良く知っている司と雅治は早足で向かう。椎名はその後ろを歩き、周りをキョロキョロ見回しながらついて行く。

 

徒歩20分くらいで、そこに到着する。赤羽家の家は大きな神社と言ったところか、だいぶ年季が入っており、鳳凰のような石像が玄関前に飾られていた。

 

 

「おぉ、これが司ん家か」

「………鍵が閉まってやがる、…たくっ、開けとけって言っただろうが………」

 

 

ーすると、"カシャン"と鍵が開く音と、"ガラララ"と扉が開くと音がする。椎名は前を見るがそこには誰もいない。と思ったらいた。下に。それはとても小さくて可愛らしいお人形さんのような女の子だった。その子は司の妹だった。その子は真ん前にいた司と椎名を見つめ…………

 

 

「おとさーーん!!おかさーーーん!!!にぃがおよめさんつれてきたぁぁぁぁあ!!!」

「「なにぃぃぃぃぃい!!!!!」」

 

 

と叫ぶと、後ろから司の父親と母親が颯爽と走りこんでくる。年齢は2人とも40代前半と言ったところ。

 

 

「あの司が女の子を家に連れてくるなんて!!」

「おぉ!なかなかのべっぴんさんじゃねぇか!!!ところでお嬢さん、スリーサイズは?」

「うるせぇぇぇ!!!それが半年ぶりに実家に戻ってきた息子にとる態度か!?」

「なんか面白い家族だね!」

「まぁこうなることは予想してたけどね」

 

 

盛り上がる赤羽家の面々。一応帰る連絡は入ってはいたが、まさかこんな可愛らしい女の子を連れてくるのは彼らとして予想外だった。

 

 

「ハッハッハ!!申し遅れたな、俺は司の親父、赤羽一族の現頭領、【赤羽 紅蓮(あかばね ぐれん)】と、嫁の【緋色(ひいろ)】、司の妹の【可憐(かれん)】だ」

「こんにちは!!同級生の芽座椎名です!」

 

 

軽く挨拶を交わすと、紅蓮は、司に目を向ける。それはさっきまでとは違い、真剣な表情だった。

 

 

「……司、お前ここに帰ってきたってことは、……あれを引き継ぎに来たのか?」

「あぁ、あのカードをもらいに来た」

 

 

紅蓮は少し黙り込むと、また口を開く。

 

 

「だったら、明日だ、……お前とて、今日がなんの日かわかるだろ?」

「あぁ、わかってて今日帰ってきた」

「?今日何かあるの?」

「うん、今日は司のお姉さんの命日なんだ」

 

 

今日という夏の日、それは赤羽家にとっては忘れられない日にち。それもそのはず、今日は、司の7つ上の姉、赤羽茜の命日なのだから、

 

この日は毎年、とある人物に彼女の仏壇の前で、天国で何事も起きぬよう、供養をしてもらう日なのだ。

 

椎名達は家に上がり、その時を待つ。

 

 

「しーないいにおいするーー!」

「うっそー嬉しいなぁ!次はなにしよっか?」

「もう打ち解けてやがる」

 

 

椎名は司より10歳年下の妹、可憐と知らないうちに仲よしになり、一緒に遊んでいた。

 

 

「おい、司、お前あんな可愛い子どこで見つけたんだよ!羨ましすぎるぞ!」

「うるせぇぞ、クソ親父」

「あの子、雅治と司、どっちが好きなのかしら?」

「いや、おばさん、そういう話は………」

 

 

椎名と可憐が遊んでいる側で色々話す赤羽家と雅治。これだけ見ると、彼らは至って普通の家族だ。

 

そしてそんな時は終わり、仏壇の前に、お祓いや、供養をするためにある人物が現れた。それは【紫治 城門(しち じょうもん)】。

 

 

「おっ!来たな!城門の旦那!今年も頼むぜ」

「あぁ、任せてくれ…………おや?紅蓮、今日は見たことないお客を連れて来ているようだね?…」

「ん?あぁ、椎名ちゃんって言うんだ、可愛いだろ?あんたのとこの夜宵ちゃんといいとこいくんじゃねぇか?」

「人の子を自分の娘のように言うでない……………そうか、あの子が芽座椎名か……」

 

 

そう言って彼は装飾服を行きずりながら椎名の方へ向かった。

 

 

「君が芽座椎名ちゃんだね?」

「ん?そうですけどーーー、何か?」

「君のことは夜宵から聞いているよ、とてもセンスの良いバトラーだとね」

「?夜宵ちゃん?」

 

 

訳がわからない椎名のために、雅治は「あの人は夜宵ちゃんのお父さんなんだよ」と相づちを挟んだ。それを聞いた椎名は思わず飛び上がった。

 

 

「や、夜宵ちゃんのお父さん!?」

「はっは、驚いたかね、いやはや、あいつも有名になってしまったものだ………君は【界放リーグ】の本戦にも出場するそうだね、私もデスペラード校の理事長として見物させてもらうよ、君のバトル、楽しみにしている」

「へ、へぇ、夜宵ちゃんのお父さんが理事長なんだ…………ありがとうございます!精一杯頑張りますよ!」

 

 

その後、すぐに供養が始まった。お経を唱えたり、踊ったりと、様々な方法でそれを行った。1時間以上、そんなことをしていたものだから、椎名は眠気が差して来たが、なんとか一睡もせずにそれを乗り切ってみせた。

 

そしてこれは供養が終わり、城門も帰って墨色の夜を迎えた頃。椎名は赤羽家と雅治と共に鍋を食べていた。その鍋はとても絶品の一言だった。椎名もその味に震え上がった。

 

 

「ところで椎名ちゃんのご両親は何をなさってるの?」

 

 

司の母、緋色の質問だ。

 

 

「ん?私ですか?んーーー、私捨て子だから親はいないんですけど、じっちゃんが、育ての親はなんか神父的なことをしてますよ」

 

 

椎名がそのことを話した途端。赤羽家はおろか、雅治、司までもが目を見開いた。椎名は自分の出生が謎なことを真夏以外に話したことがなかった。あと知っているのは担任の晴太くらいか、

 

 

「うっ!!そうか!!良い人だな!じっちゃん!よしよし!俺が君を幸せにしてやろう!!」

「しーなをくどくなーー!!」

「もっといっぱい食べなさい!スイカいる?」

「ん?あっはい、ありがとうございます………」

 

 

司の両親は涙目になりながらそう面白げに喋った。椎名は不思議に思った。何せ、そんなことを話した自覚がないからだ。ただひとつ感じたことは、本当の家族という暖かさ。自分が今まで一緒に過ごして来た血の繋がってない兄弟達や、六月が、家族と思っていないわけではない。だが、両親がいるとこんな感じなのだと、肌で感じていたのだ。

 

そして鍋を食べ終わった頃、また砕けたような表情を戻し、真剣な顔で、紅蓮は司に告げた。

 

 

「司、明日の朝7時、表に出ろ、そこでお前が相応しいか試す、かつての茜のように」

「…………あぁ、わかった」

 

 

承諾する司。相応しいか試す。その試す方法はあれしかない。バトルスピリッツだ。そのカードは今までバトルスピリッツで示すことで受け継がれて来た。だが、それが使われ始めたのはたった10年前、理由としては、それがデジタルスピリットを使わないと全く使えないことにあった。

 

そして翌朝、司と紅蓮は家の前の広場でBパッドを展開してスタンバイしていた。椎名も雅治も緋色もその様子を見守っている。

 

 

「司、受け取れ」

 

 

そう言って紅蓮は1枚のカードを司に投げ渡す。司はそれを受け取り、見ると、それは自分が欲していた赤羽家に伝わる伝説のスピリットだった。かつては姉、茜に渡されたが、彼女が亡くなったことでまた持ち主をなくしたカードだ。

 

 

「なんの真似だ親父」

「それを入れて戦え、かつての茜も、いや、先祖代々そうして来た」

 

 

納得はできないものの、これを得るためには仕方ない。司はそれをデッキに差し込んだ。そしてそれを得るためのバトルが始まる。バトルスピリッツの始まりが宣言される。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まる。先行は司だ。

 

 

[ターン01]司

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、ホークモンを召喚」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

司が最初に召喚したのはこのデッキの潤滑油。赤き羽を持つ成長期スピリット、ホークモン。その召喚時を発揮させる。

 

 

「召喚時効果!」

オープンカード

【ハーピーガール】×

【ハーピーガール】×

【ホルスモン】○

 

 

召喚時効果は成功。アーマー体のホルスモンのカードが加えられた。

 

 

「これでターンエンドだ」

手札4⇨5

 

ホークモンLV1(1)BP3000

 

バースト無

 

 

司はそのターンを終える。先行の1ターン目としては上出来な動きと言えよう。

 

 

[ターン02]紅蓮

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

順調にターンシークエンスを行なっていく紅蓮。そしていよいよメインステップだが、ここでこの場にいる誰もが驚くスピリットを召喚する。

 

 

「メインステップ、俺は……いや、俺も!ホークモンを召喚する!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

「なに!?ホークモンだと!?」

 

 

紅蓮は司と全く同じスピリットを召喚した。司は驚いた。何せ、紅蓮はホークモンなどは使わないからだ。

 

 

「こ、これは、……ミラーマッチだ……!!」

「おぉ、あんまり見ないよね」

 

 

ミラーマッチ。その名の通り全く同じデッキ同士がバトルする時の総称だ。このデッキタイプが別れやすいご時世にはかなり珍しい現象だった。

 

ーだがこれは当然意図的なものであって、

 

 

「なんの真似だ親父……!!」

「なんだよ、俺がこれを使ったら悪いのかぁ?……ちなみにこのデッキはお前のデッキと全く同じだ」

「だったらなんで俺にあのカードを渡した!?…それだと俺が確実に勝てるじゃねぇか!」

 

 

今回の紅蓮のデッキは本当に司のデッキとほとんど同じだ。だが、唯一用意できないのが、赤羽家の伝説のスピリットカードだ。それ以外がほとんど同じカードだと、間違いなく司の方がカードパワーが上がる。

 

 

「よく考えろ司、仮にお前がそれで負けてみろ、それはお前があのカードに相応しくないという証明になる」

「!」

 

 

紅蓮にも考えがあった。確かにこの状況で司が負けることがあれば伝説のスピリットカードに相応しくないと言えるだろう。司も不機嫌な顔は崩さないものの、その意見には内心納得していた。

 

 

「さぁ、続きだ、ホークモンの召喚時で3枚オープン」

オープンカード

【イーズナ】×

【朱に染まる薔薇園】×

【ホルスモン】○

 

 

効果は成功、紅蓮は司同様、ホルスモンのカードを手札に加えた。

 

 

「よぉし、手札は整った、いくぞ司!俺はイーズナを召喚し、バーストをセット!そしてアタックステップ!ホークモンでアタック!」

手札4⇨5⇨4⇨3

リザーブ1⇨0

 

 

紅蓮は司も多用する低コストスピリット、イーズナを召喚し、一気にアタックステップまで移行する。ホークモンでのアタックは一見無謀にも見れるが、司とて、自分のホークモンを失うわけにはいかない。当然ここは、

 

 

「ライフで受けるっ!」

ライフ5⇨4

 

 

紅蓮のホークモンが司のライフを小さな羽を投げつけて破壊した。

 

 

「まだだ!イーズナ!!」

「はぁ!?BPの劣るイーズナでアタックだと!?………くっ!ホークモンでブロックだ!」

 

 

一見してみると、ただの紅蓮のプレイミスにしか見えない。だが、これは大いに意味があることであって、司だったら絶対にしないであろう戦法だ。

 

 

「この瞬間!ホルスモンの【アーマー進化】を発揮だ!ホークモンを対象に1コストを支払い、これを召喚する!そのコストはイーズナより確保!よって消滅!」

イーズナ(1⇨0)消滅

トラッシュ3⇨4

ホルスモンLV1(1)BP4000

 

 

イーズナは司のホークモンとバトルする瞬間に消滅してしまうが、紅蓮のホークモンの頭上に独特な形をした卵が投下される。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして赤き空飛ぶ獣のスピリット、ホルスモンが召喚された。

 

 

「司の反対側にホルスモンがいるなんて、なんか新鮮だね」

「うん。それにこの戦法は司が絶対にやらないタイプだ」

 

 

アーマー体の特有効果、【アーマー進化】は、普通の進化とは違い、フラッシュタイミングでも行えるため、様々な場面で使え、幅が広い、

 

自分のアタックステップで使えば連続アタック、また逆も然り、だが、司はそんな戦法はとったことがなかった。圧倒的に危険だからだ。自分のアタックでは、フラッシュタイミングの権利は基本的に相手がなきとなるため、その最初のコンタクトで元となる成長期スピリットが破壊される恐れがあるからだ。

 

今回、紅蓮は司と同様のデッキでそれを行なった。司が驚いたのは、自分のデッキでそんなことをするはずがないという固定概念が頭から離れなかったからだろう。

 

 

「司ぁ、お前はいつも自分の考え方に頭を縛られている、いつも言ってただろうが、【あるもの全ての可能性を考え、それをフルで活かせ】と」

 

「そんなものもうとっくに理解しているっ…!!……俺のフラッシュ!ホルスモンの【アーマー進化】!ホークモンを対象に、1コストを支払い、これを召喚する!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

ホルスモンLV1(1)BP4000

 

 

司のホークモンもまた、紅蓮と同じようにホルスモンへとアーマー進化を果たす。これで司の場には再びブロッカーが復活したことになる。

 

2体のホルスモンのLVは1。当然同じBPを持つ。仮にこのターンで2体がバトルを行えば相打ちになる。そうなれば、紅蓮側の場の方が圧倒的に不利になる。次は司のターンだからだ。そのため、司はアタックは仕掛けてこない。そう思ったが、

 

 

「やれ!ホルスモン!」

「なんだと!?」

 

 

風を巧みに操り、羽ばたくホルスモン。目指すは司のライフだ。

 

 

「アタックは……くっ、ライフだっ!」

ライフ4⇨3

 

 

ホルスモンの竜巻のような攻撃が、司のライフをまた1つ破壊した。司とて、ホルスモンの破壊は痛いと考えたからなのか、

 

 

「おいおい司ぁ、何驚いてんだぁ?全ての可能性を考えろって言ったよなぁ?ここでお前が驚いたってことは、今の可能性を考慮してなかったってことじゃねぇか、お前、さっき言ったよなぁ、理解しているって、」

「う、うるさい!ターンを続けやがれ!」

 

「はぁ、反抗期の子持ちの親父は大変だな、…………ターンエンドだ」

ホルスモンLV1(1)BP4000(疲労)

 

バースト有

 

 

少々呆れながらも、そのターンを終える紅蓮。ちなみに紅蓮は仮にも赤羽家の現頭領。本来の自分のデッキを使えば、司はおそらくもっとこっぴどくやられていたことだろう。

 

 

[ターン03]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、……………」

 

 

司は思考を張り巡らせていた。先ず警戒すべきは相手のバーストだ。自分と同じデッキならば考えられるのは破壊後か、ライフ減少。

 

相打ちを恐れずにアタックしたと言うことは、

 

 

(あのバーストは破壊後だ)

 

 

そう考える司。そしてあのバーストが確実にそれだと認識しながらバトルを続ける。

 

 

「いくぞ!クソ親父!俺はイーズナ2体、ハーピーガール1体を召喚!」

手札6⇨3

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

イタチのような姿のイーズナと、腕と足が鳥のような姿になっている女性のスピリット、ハーピーガールが召喚された。

 

 

「さらにホルスモンのLVを2に上げ、アタックステップ!やれ!ハーピーガール!」

リザーブ2⇨0

ホルスモン(1⇨3)LV1⇨2

 

(?…ホークモンを召喚しない?)

 

 

飛び立つハーピーガール。目指す先は紅蓮のライフただ一つ。ブロッカーのいない紅蓮は当然このアタックをライフで受けることになる。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ハーピーガールの強烈な翼撃が、紅蓮のライフを1つ破壊した。

 

 

「ハーピーガールの【聖命】により、俺のライフを1つ回復!」

ライフ3⇨4

 

 

ハーピーガールの【聖命】の力で、司のライフに活力が戻る。

 

ーだが、

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!」

「!」

「救世神撃破!BP6000まで好きなだけお前のスピリットを破壊する!くたばれ雑魚ども!」

 

 

渦を巻く業火が、2体のイーズナと、ハーピーガールを襲う。3体はたちまち破壊されてしまった。

 

迂闊だった。司は今一度考え直してみる。あのホルスモンのアタックはライフを減らしやすいようにしむかれていただけだった。その結果、簡単に罠にはまり、一気に3体のスピリットを破壊されてしまった。司にしては意外な判断ミスであると言える。

 

 

「さぁ、この後どうする?」

「………ホルスモンでアタックだ」

 

「だったらそいつもライフだ」

ライフ4⇨3

 

 

司のホルスモンの竜巻のような攻撃が、今度は紅蓮のライフを破壊した。

 

 

「………ターンエンドだ」

ホルスモンLV2(3)BP6000(疲労)

 

バースト無

 

 

 

やることを失った司は、そのターンを終える。次は紅蓮のターンだ。

 

 

[ターン04]紅蓮

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

ホルスモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺は2体目のイーズナを召喚し、さらにホークモンを召喚だ」

手札4⇨2

リザーブ7⇨4

トラッシュ0⇨1

 

 

紅蓮の場に2体目のイーズナと、【アーマー進化】により手札に戻っていたホークモンが再び場に現れた。その召喚時の効果も当然発揮させる。

 

 

「召喚時効果!」

【アクィラモン】○

【テイルモン】○

【シュリモン】○

 

 

召喚時効果は全て当たり、その場合は好きなものを1枚名札に加えられるが、

 

 

「俺はシュリモンを手札に加える………さらにリザーブの残りコアを使ってレベル調整」

手札2⇨3

リザーブ4⇨0

ホルスモン(1⇨3)LV1⇨2

ホークモン(1⇨3)LV1⇨2

 

 

ホルスモンとホークモンのLVがアップする。

 

 

「アタックステップ!ホークモン!ホルスモン!」

 

「……2体ともライフだ!」

ライフ4⇨2

 

 

2体の赤きスピリットが、司のライフを2つ叩き割る。

 

 

「さぁ!いけ!イーズナ!」

 

 

走り行くイーズナ。紅蓮はまたここでもフラッシュであの効果を使用する。

 

 

「フラッシュ!シュリモンの【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!1コスト支払い、これを召喚!」

ホルスモン(3⇨2)LV2⇨1

トラッシュ1⇨2

シュリモンLV2(3)BP9000

 

 

ホークモンにこれまた独特な形をした卵が投下される。そしてまたそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは緑のアーマー体、忍者のような姿のシュリモン。

 

 

「シュリモンの召喚時効果!疲労状態の相手スピリットを1体手札に戻す!ホルスモンを戻す!」

 

「くっ!」

手札3⇨4

 

 

シュリモンは勢いよく背中に装備された巨大な手裏剣を司のホルスモンに向かって投げつける。それに直撃した司のホルスモンはたちまち司の手札へと強制送還されてしまった。

 

それだけではない。このイーズナのアタックと、シュリモンのアタックで司のライフがゼロになってしまう。

 

まさかほとんど同じデッキでここまで差があるとは思ってもいなかっただろう。いくら相手が歴史に名を残せるほどの実力を持つバトラーと言えど、いつも自分が扱っているデッキの力を自分以上にここまで理解してゲームメイクができるなど想像もしてなかった。

 

だが、【界放リーグ】で勝つためには、芽座椎名に勝つためには、あの力がどうしても必要なのだ。こんなところでつまずくわけにはいかない。

 

ー司は手札のカードを1枚引き抜く。

 

 

「フラッシュ!シンフォニックバースト!……このバトルで俺のライフが2以下ならば、お前のアタックステップを終了させる!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨5

トラッシュ1⇨4

 

 

司の場に黄色いバリアが展開される。

 

 

「そのアタックはライフだ!」

ライフ2⇨1

 

 

イーズナが司のライフを勢いよく破壊するも、残りライフは1。2以下だ。黄色いバリアが弾け飛び、紅蓮のスピリット達の動きを封じ込める。

 

 

「……ほぉ、まぁいいか、このターンはエンドだ」

ホルスモンLV1(2)BP4000(疲労)

シュリモンLV2(3)BP9000(回復)

イーズナLV1(1)BP1000(疲労)

 

バースト無

 

 

やれることを全て終え、そのターンを終える紅蓮。次は司のターンだが、既にあからさまに戦力差が開いてきている。巻き返すのは難しいだろう。

 

 

[ターン05]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ6⇨7

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ7⇨11

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、俺も2体目のイーズナと、【アーマー進化】により手札に戻っていたホークモンを召喚」

手札4⇨2

リザーブ11⇨6

トラッシュ0⇨3

 

 

司の場にも同じスピリットが展開されるが、運命を分けるのはこの先であって、

 

 

「ホークモンの召喚時効果、…………カードをオープン!」

オープンカード

【朱に染まる薔薇園】×

【シャイニングバースト】×

【ホウオウモン】×

 

 

残念ながら全て外れだった。それらは全てトラッシュに送られた。だが司はまだ諦めない。まだスピリットを展開する。

 

 

「再びホルスモンの【アーマー進化】発揮!ホークモンを対象に1コスト支払い、LV2で召喚!」

リザーブ6⇨3

トラッシュ3⇨4

 

 

再びホークモンはホルスモンへとアーマー進化を果たすが、もはやこれだけではどうにもできない。

 

 

「さらにもう一度ホークモンを召喚する」

手札2⇨1

リザーブ3⇨1

トラッシュ4⇨5

 

 

再び召喚されるホークモン。そしてその召喚時を使用する。

 

 

「効果発揮!」

オープンカード

【ホークモン】×

【イエローリカバー】×

【ホークモン】×

 

 

効果はまた不発だ。だが、司はそれでも表情を崩さずにアタックステップへと移行する。

 

 

「いくぞ!アタックステップ!……ホークモンでアタック!」

 

 

果敢にアタックしに行くホークモン。紅蓮の場にはシュリモンが存在するが、

 

 

「ふっ、ブロックだ、シュリモン、相手してやれ、」

 

 

なんのためらいもなくシュリモンにブロックさせる紅蓮。司は手札にある自分の【アーマー進化】発揮させる。

 

 

「フラッシュ!シュリモンの【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!1コストを支払い、これを召喚する!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ5⇨6

 

「ほぉ、もともと持ってやがったなぁ」

「あの司が自分のアタックステップで【アーマー進化】を………!!?」

 

 

司のホークモンも、紅蓮のホークモン同様、シュリモンへとアーマー進化を遂げる。そしてまた召喚時の効果だ。

 

 

「召喚時効果!俺が対象に選ぶのは…………イーズナ!貴様だ!」

 

「!」

手札3⇨4

 

 

シュリモンの巨大な手裏剣が、今度は紅蓮のイーズナを吹き飛ばす。イーズナは紅蓮の元へと強制送還された。

 

司が何故強力なアーマー体ではなく、弱小で再召喚を狙いやすいイーズナを手札に戻したのかは理由があった。

 

 

(やるじゃねぇか、これで俺のイエローリカバーは使い物にならない)

 

 

紅蓮のデッキには黄色のスピリットを回復させるイエローリカバーがあった。そのままアタックさせていれば間違いなくどこかでかイーズナを回復されていたことだろう。

 

これでスピリットのフルアタックで、紅蓮のライフをぴったりゼロにできる。

 

 

「よし!俺はこの3体でアタックを仕掛ける!いけぇ!」

 

 

司のスピリット、イーズナ、ホルスモン、シュリモンの3体がアタックして行く。

 

 

(ほぉ、見せ場があるのにもかかわらずそれを使わない……か、ほんっとにプライドが高い奴だなお前は、……まぁいい、どうやら俺の気持ちは伝わってるみたいだしな)

 

 

迫り来るスピリット達を前に余裕そうな顔で考え事をする紅蓮。

 

紅蓮は知っていた。司は既に赤羽家の伝説のスピリットを引いていたことを。だが、司はそれを使おうとはしなかった。使えばもっと楽に勝てていたはずなのに、彼なりのプライドだろう。紅蓮は自分の役目はここまでと考えて、ゆっくりとその瞳を閉じて行く。

 

 

「ライフで受けてやるよ」

ライフ3⇨2⇨1⇨0

 

 

3体のスピリットによる連続攻撃が紅蓮のライフを一気に0にした。これで司の勝利となる。最後は意外と呆気ない幕引きだった。

 

 

「はぁっ、はぁっ、……どうだクソ親父!俺の勝ちだ!こいつはもらってくぜ、」

「あぁ、好きにしろ、」

 

 

息を切らしながら、そう言ったかと思えば、なぜか司は駅の方面まで歩いて行く。

 

 

「ちょっちょっと!司!?どこ行くの?」

「あぁ?目的は果たした。俺は帰る」

「えぇ!?」

「まぁそんなことだと思ってたけどね、……僕達も準備しようか」

 

 

そう言って、素早く支度した椎名達は赤羽家の者達に別れを言って駅まで歩いて行った。

 

 

「あなた、良かったの?アレを渡して、」

「ん?いや、いいだろ、別に一族が云々とか、まだ早いとか、どうでもいいのよ、俺は、」

 

 

そう言って家に帰る紅蓮。緋色は「本当に親バカね」と呟いて、後を追うように家に帰った。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【ホークモン】!」

「ホークモンは赤の成長期スピリット、召喚時の効果で成熟期スピリットか、アーマー体スピリットを手札に加えられる効果があるよ!……そう言えば結局伝説のスピリットってなんだったんだろう?気になるなぁ」







最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今回のバトル。よく読んでみると、途中から司が相手の裏をかく力が上がっているのがわかるはずです。
次回もお楽しみに!


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第16話「Sからの依頼/俺達は2人で1人の探偵でカードバトラー!」

※ほとんど特別回みたいなものです。本編では椎名が主役として活躍します。

 

 

 

 

 

 

 

「……と、言うわけで、私の夏休みの宿題を手伝ってください」

「はぁ?」

 

 

蒸し暑い夏の終盤に、椎名はとある私立探偵事務所を訪れていた。その名も【天楼探偵事務所(てんろうたんていじむしょ)】。界放市で根をはるこの探偵事務所は、そこそこ有名な場所であった。この探偵事務所には2人の探偵がいる。その1人が今、椎名と話している青年【左近時 切札(さこんじ きりふだ)】。

 

切札は困っていた。なぜならこの少女、芽座椎名の依頼がなんとも意味不明な内容だからだ。

 

 

「だから言ったじゃないですか!……私この宿題終わらないと【界放リーグ】に出られないんですよ!お願いします!」

 

 

椎名は学園に来るまでは宿題などやったことがなかった。じっちゃんこと芽座六月の管理する児童施設にいたからだ。

 

【界放リーグ】が楽しみすぎてそのことをすっかり忘れていた。成績に難がある生徒は出場できないと言う情報を聞いて、これはヤバイと考えた椎名は、なんとかするためにこの探偵事務所に訪れたのだ。

 

 

「いやいや、お嬢さん、宿題ってぇのは自分でやるもんだぜ?……そしてこの探偵事務所は極めてハードボイルドな……」

「興味深い!……あの界放市一のイベント、【界放リーグ】に出場するほどのバトラーのデッキを見ることができる良いチャンスだよ!切札!これは引き受けるべきだ!」

 

 

その横で切札の言葉を遮るように、興奮しながら喋る少年は、この探偵事務所のもう1人の探偵【シモン】。端正な顔立ちに、緑色の髪色が特徴的だ。性格としては、とにかく知識欲が旺盛。

 

 

「あぁ?おいおいシモン!なんでそんな理由で妙ちくりんな依頼受けないといけねぇんだよ!今日はあいつも出かけていないのに、なんでこの事務所はうるさい女がしょっちゅうまとわりつくんだ!?」

「今言っただろう?あのTV中継もされる【界放リーグ】に出るかもしれないスピリットカードをこの目で見れるチャンスなんだ!」

「俺とお前も学生じゃねぇだろうが!!そんなの見てどうなるんだよ!」

「引き受けてくれるんですか!!」

「引き受けねぇよ!」

 

 

なかなか引き受けてくれない切札に、椎名は差し入れを差し出す。それは有名なドーナツ屋のチェーン店。ドーナツの穴場の美味しいドーナツだ。

 

 

「あっ!これ!先入れです!どうぞ!」

「そんなもんくれたって、依頼なんか受けねぇぞ」

「………いや、待てよ、これは…………そうか!そう言うことだったのか!検索を再開しよう!」

「?」

 

 

ドーナツを見て、何かひらめいたのか、そう言うと、シモンは事務所の別部屋に向かい、引きこもる。約10分後くらいに1冊の本を手に持ち、出て来る。不思議そうな顔を見せる椎名。だが、切札は少しだけ笑いながら「何かわかったのか?」と呟く。

 

 

「あぁ!あの事件の犯人がようやくわかった!場所を伝える、そこへ行きたまえよ切札」

 

 

その後はその場所だけを伝えられて、切札はお気に入りのソフト帽を被り、外へ飛び出した。シモンは椎名の宿題を手伝う。手伝ったらデッキを見せてくれるのを条件に。

 

 

「おぉ!これが宿題!簡単な問題ばかりだねぇ」

「うっそ!?そんな簡単なの?私は全然わからないや……」

 

 

******

 

 

切札は界放市の街を走っていた。切札達は椎名が来る前からある依頼を受けていた。街の宝石を盗む泥棒を捕まえて欲しいと言う依頼だったが、その犯人がようやく判明したのだ。

 

切札は走りに走って、広めの路地裏へと到着した。そしてそこには別の男が1人いた。その男が犯人だ。その男は驚愕していた。ここなら誰も来ないと確信していたからだ。そもそも自分が犯人だといつバレたのかもわからなかった。だが、もう言い逃れはできない。手に持っている宝石の山が動かぬ証拠だ。

 

 

「よぉ、宝石泥棒さん?」

「な、何故俺が隠れている場所がわかった!?」

「こっちには優秀な相棒が付いているんでね………さぁ、ここなら逃げ場はない。バトルと行こうぜ」

 

 

苦い顔をする男。だが、その顔は直ぐに笑みへと変わる。そして1つのデッキケースを徐に切札に見せつけてきた。そのケースはDの文字の頭文字が入っており、凄まじいほどの闇の瘴気が漂っている。

 

 

「はっはっはぁ!!!この俺のデッキに勝とうってのか?笑わせるぜ!」

「はっ!笑わせるのはそっちの方だぜ、俺に、いや、俺たちに勝てると思ってんのか?………出番だぜ、シモン」

 

 

そう言って切札は不思議な形をしたベルトを腰に取り付ける。すると、事務所に残っているはずのシモンにも同じベルトが突如出現する。

 

 

******

 

 

「おや?出番のようだ………すまない椎名ちゃん、僕は少し疲れた、回復のためにしばらく睡眠をとるよ」

「え!?なんで今?」

 

 

そう言ってシモンは腰に巻きつけられたベルトにデッキケースを転送させる。その瞬間、急に意識が途絶えたかのようにバタンとソファに倒れてしまう。

 

 

「えぇ!?寝るの早!」

 

 

宿題に集中していた椎名は全くその不思議な現象には気づいていなかった。

 

 

******

 

 

(やぁ、切札、やはり僕の推理は正しかったようだね、)

「あぁ、流石だぜ相棒」

 

 

切札の右目が緑色に変わる。そして何故かシモンの声が薄っすらと聞こえるようになっている。切札は転送されたデッキケースを手に取り、Bパッドを展開した。

 

 

「返り討ちにしてやるぜ!」

 

 

男もBパッドを展開させると同時に、デッキケースのボタンを押す。

 

 

〈ダダ!〉

 

 

そんな音がデッキから発せられる。さらにデッキケースからデッキが飛び出し、男はそれをBパッドにセットした。

 

 

〈ダブル!〉

 

 

今度は切札が持っているデッキケースから音が発せられた。男同様、そこからデッキが飛び出し、Bパッドにセットした。これで互いに準備は万端だ。

 

 

「「(ゲートオープン、界放!)」」

 

 

ーバトルが始まる先行は宝石泥棒の男だ。

 

 

[ターン01]宝石泥棒

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!俺はこのカード!三面怪人ダダを召喚する!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

男が召喚したのは白と黒の体を持つ宇宙人のようなスピリット、ダダ。

 

 

「うぉ!?気持ち悪!」

 

「はっはっは!俺はこのデッキを、カードを手にした時から絶好調なんだよ!もう誰も俺を止めることはできねぇ!!ターンエンドだ!」

三面怪人ダダLV1(1)BP3000

 

バースト無

 

 

彼が手にしていたデッキは【デッキメモリ】と呼ばれていた。それは人間に狂気な力を与える不思議な小箱だ。それは使いすぎるとその者の精神を崩壊させてしまうという。今の界放市はそれが大量に出回っており、奇々怪界な事件が多発していた。

 

ーそしてそれらに立ち向かうのが、切札とシモンのタッグだ。

 

 

(安心したまえよ、切札、あれは効果も何もないただのスピリットだ、僕たちの敵じゃあない)

「よし!行くぜ相棒!」

 

 

[ターン01]切札&シモン

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、早速出番だな」

(あぁ、召喚しよう)

 

「おう!俺はこいつを……仮面ライダーWサイクロンジョーカーを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

〈サイクロン、ジョーカー!!〉

 

 

そんな無機質な機械混じりの声が聞こえてきたかと思えば、強い風が吹き上げ、竜巻を発生させる。そしてその中心には紫の電気が迸っている。そして風が止むと同時に現れたのは右側が緑、左側が黒色の姿をした仮面スピリット、その名もW、この形態はサイクロンジョーカー。彼らのデッキの基盤となるスピリットだ。

 

 

「お、お前、お前がWだったのかぁ!?」

 

 

男は驚いた。このWはメモリ犯罪者と呼ばれる者たちの中ではわりかし有名だった。だが、切札はその言葉に訂正を入れる。

 

 

「あぁん?……そこはお前じゃなくて、お前達、だろ?………」

(行くよ切札、決め台詞は忘れてないだろうね?)

「わかってるぜ」

 

 

「(さぁ、お前の罪を数えろ!)」

 

 

切札は左手をスナップさせながら犯人にそう告げた。

 

 

「誰が数えるか!」

 

「行くぜ!サイクロンジョーカーの召喚時、ボイドからコアを1つリザーブへ!……さらにそのコアを使い、サイクロンジョーカーのLVを2へアップだ!」

リザーブ1⇨2⇨0

仮面ライダーWサイクロンジョーカー(1⇨3)LV1⇨2

 

 

効果をさらに使い、一気にレベルが上がるサイクロンジョーカー。そしてアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!いけ!サイクロンジョーカー!」

 

「そいつはライフで受ける!………ぐぉ!」

ライフ5⇨4

 

 

一瞬のうちに男との距離を縮めるサイクロンジョーカー。そしてそのライフを殴りつけて破壊した。

 

 

(なかなか良い先制点だ、)

「だろ?俺達はこれでターンエンドだ」

仮面ライダーWサイクロンジョーカーLV2(3)BP4000(疲労)

 

バースト無

 

 

やれることを全て失い、そのターンを終える切札達、次は宝石泥棒の反撃が待っていた。

 

 

「ぐっ!……舐めやがって、今に見てやがれぇ!!」

 

 

[ターン03]宝石泥棒

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ!俺はさらに2体のダダを召喚!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

男はさらに2体のダダを召喚した。名前の通り、三面怪人らしくなったと言える。

 

 

「おいおい、これちょっとやばいんじゃねぇか?」

(いや、問題ない)

 

 

とは言っているが、場のスピリット数は圧倒的に不利。切札が少し不安になるのは当たり前だ。なんせ、彼はバトルスピリッツのルールというものを、このシモンと出会うまでは全く知らなかったのだから。

 

 

「最初に出たダダのレベルを2に上げ、アタックステップ!レベル1のダダ2体でアタック!」

 

 

2体のダダが切札に向かって走り出す。目指すは彼のライフを破壊することだ。

 

 

「きたぞ!シモン!どうすればいい?」

(ライフで受けろ!)

 

「よしきた!ライフで受けてやるぜ!……!」

ライフ5⇨3

 

 

ダダ2体の右拳のパンチが切札のライフを一気に2つ破壊した。

 

 

「くっ、結構効くじゃねぇか」

 

「どうだ!これでターンエンドだ!」

三面怪人ダダLV2(3)BP6000(回復)

三面怪人ダダLV1(1)BP3000(疲労)

三面怪人ダダLV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト無

 

 

男はレベル2のダダだけをブロッカーとして残し、そのターンを終える。次は切札達のターンだ。

 

 

[ターン04]切札&シモン

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

仮面ライダーWサイクロンジョーカー(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、」

(メインは何もしなくていい、全力で攻勢に回れ!)

「オッケー、アタックステップだ!サイクロンジョーカーでアタック!」

 

 

走り出すサイクロンジョーカー。だが、今の男の場には回復状態で待機しているレベル2の三面怪人ダダがいる。このままでは返り討ちにあうだけだが、

 

 

「はっはっは!馬鹿め!自爆とは!」

 

「誰が自爆だ!お熱いの!喰らわせてやる!……フラッシュ!【チェンジ】発揮!サイクロンジョーカーを対象にヒートメタルの効果を発揮する!お前のスピリットを疲労させ、サイクロンジョーカーとこいつを回復状態で入れ替える!」

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨3

 

 

サイクロンジョーカーが自身の腰に巻きつけられたベルトにある小さな小箱を2つ入れ替える。すると、

 

 

〈ヒート、メタル!〉

 

 

サイクロンジョーカーの色が変わっていく、次は右側が赤、左側が銀色に変わった。これが仮面ライダーWの別形態、ヒートメタルだ。

 

 

「ちぇ、チェンジだとぉ!?」

(何を驚いている?【チェンジ】の効果はどの仮面スピリットのデッキにもあるだろう?)

「俺達が対象に選ぶのはもちろん!レベル2のダダだ!くらえ!」

 

 

ヒートメタルは自身の武器である棍棒を振り回すと、炎が巻き上がり、レベル2のダダを吹き飛ばした。これで男のスピリットは全て疲労状態となる。

 

 

(アタックは継続中だ!)

 

「ら、ライフで受ける……ぐぉ!」

ライフ4⇨3

 

 

ヒートメタルの炎を纏わせた棍棒の一撃が、男のライフを1つ破壊した。さらにそれだけでは済まされない。【チェンジ】の効果は回復状態で入れ替え、そのままバトルを続行させるというもの、つまり、今、ヒートメタルは回復状態、追撃が可能だ。

 

 

(切札、追撃だ!)

「あぁ、……ヒートメタル!………ヒートメタルはアタック時にコアを1つこいつに置く!」

仮面ライダーWヒートメタル(3⇨4)

 

「く、くそ!ライフだ!………ぬぅ!」

ライフ3⇨2

 

 

再びヒートメタルが男のライフを破壊した。これで一気にライフ差を逆転させた。

 

 

「よっし!ターンエンドだ!」

仮面ライダーWヒートメタルLV2(4)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

そのターンを終える切札達、次は男のターン。ガラ空きの場に、今まで以上に攻め立てようとしていた。

 

 

[ターン05]宝石泥棒

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨4

トラッシュ1⇨0

三面怪人ダダ(疲労⇨回復)

三面怪人ダダ(疲労⇨回復)

三面怪人ダダ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!俺はソウルホースを召喚し、ダダ2体をレベル2と3にアップ!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨0

三面怪人ダダ(1⇨3)LV1⇨2

三面怪人ダダ(3⇨4)LV2⇨3

 

 

男は脚に炎を纏わせた紫の馬、ソウルホースを召喚し、さらにダダ2体のレベルを上昇させる。

 

 

「アタックステップ!攻勢に回りすぎたなぁ!お前を守るスピリットはもうどこにもいないぜぇ!……ソウルホース!」

 

 

走り出すソウルホース。このターン。男のこの4体のスピリットのアタックのうち、3つがヒットすれば、切札達の負けとなる。

 

 

「うっ!そうだった!やばいじゃねぇか!」

(何を言っている切札、【チェンジ】の効果は相手のターンにも使用できる)

「……!!…そうだった!」

 

 

【チェンジ】の効果がフラッシュタイミング全域で発揮できることを思い出し、切札は手札1枚を引き抜く。

 

 

「いくぜ!フラッシュタイミング!【チェンジ】発揮!対象はヒートメタル!今度はルナトリガーだ!お前のスピリット1体を疲労させ、ボイドからコア1つをトラッシュに置き、ヒートメタルとこいつを回復状態で入れ替える!」

リザーブ3⇨0

トラッシュ3⇨6⇨7

 

「なにぃ!?」

 

 

〈ルナ、トリガー!〉

 

 

Wは再び自身のメモリをチェンジする。次は右側が黄色で左側が青色だ。今度は手に銃を所持した、ルナトリガーが現れた。

 

ルナトリガーは現れるなり、その銃でレベル3のダダを狙い撃ちにする。その弾は曲がりながらもダダを撃ち抜いた。ダダは吹き飛ばされ、疲労した。

 

 

「ぐっ!」

三面怪人ダダ(回復⇨疲労)

 

(そのソウルホースのアタックはルナトリガーがブロックする!)

「いけぇ!」

 

 

迫り来るソウルホースに銃の連射をおみまいするルナトリガー。ソウルホースは耐えられなくなり、走りながらもその場で爆発を起こした。これで男のスピリット達のフルアタックでは彼らのライフをゼロにはできなくなった。

 

 

「な、なぁ!?……ぐ、ターンエンドっ!」

三面怪人ダダLV3(4)BP8000(疲労)

三面怪人ダダLV2(3)BP6000(回復)

三面怪人ダダLV1(1)BP3000(回復)

 

バースト無

 

 

無理にライフを破壊するよりかはブロッカーに回りした方がいいと考えた男は、そのままそのターンを終えた。これがラストターンだったということも知らずに。

 

 

[ターン06]切札&シモン

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

仮面ライダーWルナトリガー(疲労⇨回復)

 

 

(さぁ、フィニッシュだ、切札)

「あぁ、これで決めるぜ!」

 

 

単純に戦力差では勝てない。だが、それ以上にこのWは強い。切札はスピリットの数を増やすことなく、このターンのアタックステップに入る。

 

 

「アタックステップ!ルナトリガーでアタック!その効果でレベル2のダダを疲労させる!」

 

「ぐぅ!」

三面怪人ダダ(回復⇨疲労)

 

 

ルナトリガーの連射を受けて、もう1体のダダが疲労状態になる。これだけでは差は全く縮まってはいないが、

 

 

「行くぜ!【チェンジ】!今度はサイクロンジョーカー!ルナトリガーと入れ替えるぜ!」

リザーブ8⇨6

トラッシュ0⇨2

 

 

〈サイクロン、ジョーカー!〉

 

 

再びWは基本形態のサイクロンジョーカーに姿を変える。

 

 

(サイクロンジョーカーの【チェンジ】の効果は、このバトル中のアタックしている自分のスピリットをBPプラス2000にする、よって今のサイクロンジョーカーのBPは………)

「6000だ!」

仮面ライダーWサイクロンジョーカーBP4000⇨6000

 

 

「BPが上がっても無駄だぁ!スピリット数に変わりはなぁい!!」

(それはどうかな?)

 

「俺は、俺達はさらにフラッシュタイミングでこのマジックを使用する、……ジョーカーエクストリーム!…このマジックはWがアタックしていたらコスト3のカードとして使用できる!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨4

トラッシュ2⇨4

 

「!!」

三面怪人ダダ(回復⇨疲労)

 

 

サイクロンジョーカーが風の力で宙を舞う。そしてその風の力により、回復状態の最後のダダが疲労した。

 

 

(ジョーカーエクストリームは相手のスピリット2体を疲労させ、さらにWがいれば……)

「疲労しているスピリット2体を手札に戻す!………いけぇ!」

 

 

〈ジョーカー!マキシマムドライブ!〉

 

 

Wの半身が分かれる。先ずは左側のキックでダダ1体を蹴り上げ、すかさず右の方も左と合わさるように、もう1体のダダを蹴り抜いた。

 

通り過ぎるように着地するW。ダダ2体は耐えられなくなり、爆発し、男の手札に戻っていった。

 

 

「くっ!」

手札3⇨5

 

 

そして今のサイクロンジョーカーは【チェンジ】の効果により回復状態になってアタックしている。つまりは2度アタックができる。

 

 

(これで決まりだ!)

「トドメだ!」

 

 

切札とシモンは息を合わせる。そして仮面ライダーWサイクロンジョーカーは、黒いメモリを腰にあるスペースに移動させる。すると再び風の力で飛び上がり、2度目のマキシマムドライブが発動される。

 

 

〈ジョーカー!マキシマムドライブ!〉

 

 

「(ジョーカーエクストリーム!!)」

 

「うっ!ぐおぉ!!……………そんな馬鹿なぁ!!!!」

ライフ2⇨1⇨0

 

 

再び体が分かれるW。先ずは黒い左側が男のライフを1つ破壊すると、それと合わせるように立て続けに右側の体が蹴り抜いた。一気に2つのライフを破壊した。

 

これで男のライフはゼロ。探偵コンビの勝利となった。男の持っていたデッキケースが割れ、三面怪人ダダのカードからあふれ出ていた闇の瘴気も消え去った。男が盗んだという宝石も衝撃でいくつも飛び出してきた。これを売ったらいったいいくつの値段で売れるかわからない。おそらく一生遊べるくらいだろう。

 

切札もベルトを外し、シモンとの合体を解いた。気絶して倒れる男を見て、「後は警察の仕事だ、聖子さんに任せるか」とだけ言い残し、その路地裏を去っていった。その数分後に甲高いパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 

これが人知れず続いていた。界放市の裏の事件だ。そういった事件を、彼らは解決していたのだ。これはまた椎名達の物語とは違う物語。

 

 

******

 

 

切札は事務所に帰っていた。そしたらそこには高速で椎名の宿題を終わらせたシモンと椎名がいた。2人は何故かすっかり仲よくなっていた。

 

 

「いやぁ!シモン君のおかげで間に合ったよ!ありがとう!」

「いえいえ、こちらこそ、伝説の【ロイヤルナイツ】の人柱が見れて大変喜ばしいさ」

「何やってんの、お前ら」

「おぉ、帰ったか切札、見たまえよ、これが世界にただ1枚しかないと言う13体のスピリットのカテゴリ、【ロイヤルナイツ】の1枚、マグナモンだ、君は知らないだろう?」

「あぁ、知らねぇよ、興味ねぇし」

 

 

そう言って切札は自分専用の机に腰かけた。事件解決後はいつもそこに座り、記事を打ち込んで残しておくのが、彼の趣味だ。

 

今回は椎名から視点をずらして、また別の人物の物語を少し語った。これが、この2人が、今人知れずに【デッキメモリ】と言うものから、この街、界放市を守るために戦う探偵だった。

 

ー彼らは2人で1人の探偵で、カードバトラーだ。彼らは今日もこの街を泣かせる小箱を退治していく。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【仮面ライダーWサイクロンジョーカー】!」

「【チェンジ】を駆使して戦うWデッキの基盤となるスピリット、緑と黒の配色がかっこいいね!来週からはいよいよ【界放リーグ編】がスタートするよ!お楽しみに!」








こんばんは!先ずは最後までお読みいただき、ありがとうございました!
今回はWを登場させましたが、Wを使わせるなら絶対に翔太郎とフィリップのキャラ以外にはありえないと考え、ほとんど同じキャラを勝手に作ってしまいました。そう言うのが苦手な方には大変なご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。私はWが一番好きなライダーなのでこれ以外は考えつきませんでした。
今回は1話限りの特別出演でしたが、ウケが良かったら合間合間で本当にこの2人を主役にした話を書くのもありかなと思っております。
上の椎名も言ってましたが、来週からは話を戻して、いよいよ【界放リーグ編】が幕を開けます。お楽しみに!


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【一期】第2章「界放リーグ編」
第17話「界放リーグ開幕!ブイモン軍団出撃!」


 

 

 

 

 

 

 

「おい!獅子!約束は覚えているだろうな?」

「あぁ、勿論だ竜ノ字、お前こそ覚えているだろうな!もう王手はかかったんだからな!今年でヘラクレスを倒せなかったらちゃんと旅行させろよ?」

 

 

今日は【界放リーグ】本戦の当日。この日はこの街一番の大きなスタジアム、界放市中央スタジアムにて、開催される。大きなスタジアムで、午前中だと言うのに、そこは大勢の人々で賑わっていた。

 

学生の大会と言って侮ってはいけない。その中ではトップクラスの強者揃い。ほぼプロ入りが確定しているもの達ばかりだ。

 

各学園の理事長らは、特別なVIPルームでそれを観戦できるようになっている。今、ジークフリード校理事長の龍皇竜ノ字と話しているのはキングタウロス校理事長の【大公 獅子(たいこう しし)】。彼らはどちらの務める学園の生徒が、先に3年連続で優勝できるかを競い合っていた。

 

そして今年こそがその王手、今のところ二連覇しているヘラクレスが今年優勝して仕舞えば、龍皇は大公にハワイにある有名なとある場所に旅行させねばならなかった。

 

 

「まったく、お前たちはまだそんな子供じみたことをしているのか」

「同感だ」

「いやいや、ただ眺めるだけじゃ暇なんだよ、……そういえばお前らのとこのガキも出るそうじゃないか、城門、漣」

 

 

呆れたような口を聞いたのは紫治一族の現頭領、紫治城門。夜宵の父でもある。

 

そしてもう一方は現在の九白一族の頭領、【九白 漣(くしろ さざなみ)】。理事長達はみんながみんな同い年だ。若き時はプロリーグで対戦するのは日常茶飯事、こうやって歳になっても争いたくなるほどだ。城門も漣も少なくとも彼らと同じく競い合いたい気持ちは存在している。

 

彼らは他の学園の理事長達と共にこの祭りを高い場所で見守っていた。

 

 

******

 

 

場所は変わり、グラウンドでは入場式が行われていた。轟音のような歓声の中から1人ずつグラウンドに入場して行く。

 

ー先ずはタイタス校からだ。女性のアナウンスで1人ずつ紹介されて行く。その様子はまるで甲子園さながら、

 

 

《タイタス校3年、【光乃 国貞(ひかりの くにさだ)】君》

 

 

なんともマッシブで筋肉質な男子生徒が姿を見せる。この男は3年になり、今年やっと出場することができた努力家なバトラーだ。

 

 

《同じくタイタス校1年、岸田 空牙君》

 

 

こちらもマッシブで長身な男子生徒、空牙。彼は一度椎名ともバトルしている。今回はそのリベンジも含め、出場を選んで、見事予選を勝ち残った。彼もかなりの努力家だ。

 

この2名がタイタス校代表、次はミカファール校の代表達だ。

 

 

《ミカファール校3年、【蝶花 菊乃(ちょうか きくの)】さん》

 

 

歩いてくるのはまさしく八方美人の女性。スタジアムから大勢のファンの声が聞こえてくる。彼女も今年初めて【界放リーグ】に出場した。実力の問題で、基本的には3年生が出ることになることが多い。

 

 

《同じく、ミカファール校3年、【獣道 岳(けものみち がく)】君》

 

 

それが現れた途端に会場の声が不協和音に変わる。彼の獣道岳の大きな図体、大きな手足に、彼が蝶花菊乃と並ぶとまさしく美女と野獣だった。彼も今年が初、

 

この2名がミカファール校の代表達だ。次はオーディーン校の代表達。

 

 

《オーディーン校3年、【五護 鉄火(ごご てっか)】君》

 

 

いよいよきたとばかりに騒ぐ会場のもの達、彼はオーディーン校の中でも1年の頃からこの祭典に参加できるほどの強者。ここ2年間は毎年のようにヘラクレスと1位争いをしていた。その鉄壁すぎるプレイスタイルからついた呼び名は【五の守護神】。

 

 

《同じくオーディーン校3年、【九白 岩壁(くしろ いわかべ)】君》

 

 

上がってきたのは九白一族の末裔にしてエリートの1人、九白岩壁、彼も今年が初出場だ。使うカードは当然白のデジタルスピリット。一族の名を知らしめるため、彼は戦う。それがオーディーン校へ導かれた九白一族の宿命だった。隣にいる五護 鉄火を到着するなり睨みつける。

 

彼が五護鉄火があまり好ましくないのは、九白の者でもないものが毎年この場にくるのが気に食わないからだろう。

 

これがオーディーン校の代表達だ。次はキングタウロス校の入場。

 

 

《キングタウロス校3年、緑坂冬真君》

 

 

湧き上がる歓声、怒涛の声援。圧倒的な人気だった。もはや説明するまでもない優勝候補、緑坂冬真、またの名をヘラクレスが入場した。そして彼の一番弟子もまた、

 

 

《同じくキングタウロス校1年、炎林頂君》

 

 

ガッチガッチに固まりながらヘラクレスの後を追うのは、彼の一番弟子、炎林、師匠の妹である真夏の一件からどれほどの実力をあげたのか期待がかかる選手だ。

 

この2名がキングタウロス校の代表、次はデスペラード校の生徒達だ。

 

 

《デスペラード校3年、【吸血 堕天(きゅうけつ だてん)】君》

 

 

なんとも暗そうな人物が現れる。その雰囲気はまるでドラキュラさながら。彼もヘラクレス、五の守護神同様、毎年出場してくるもの、彼に至ってはある一族の名も背負っていた。その一族はある仮面スピリットを継承しており、そのスピリットにちなんで、【エンペラー】とも呼ばれている。

 

 

「今年こそは僕が優勝するっ!……見てろ!ヘラクレス、五の守護神!」

 

 

その太い声色で、やる気が相当高いのが伝わってくる。そしてもう1人は、

 

 

《同じくデスペラード校、1年、紫治夜宵さん》

 

 

もはやその人気と知名度は軽いアイドルを超えていると噂される超人気な人物、紫治夜宵が入場する。これにはヘラクレスと同等、いや、もしかしたらそれ以上の声援が送られてたかもしれない。

 

これがデスペラード校の代表達だ。そして次はラスト、ジークフリード校。

 

 

《ジークフリード校1年、赤羽司君》

 

 

ポケットに手を突っ込みながら、なんとも他の者を上から見下すような目つきのまま、朱雀こと、赤羽司が堂々と入場してくる。

 

 

「わぁ!司ちゃん!やっぱり来てくれたんだぁ!嬉しい!」

「誰もお前なんぞのために来てねぇ」

 

 

横で元気よく手を振る夜宵に対して冷たい態度で突き放す司。これが2人のいつものやりとりだからか、夜宵も怪訝な顔ははしなかった。

 

ーそしていよいよ最後、我らが主人公のお出ましだ。

 

 

《同じくジークフリード校1年、芽座椎名さん》

 

 

「は、ひ、ひゃあ、い!」

 

 

炎林よりもはるかにガチガチのまま、妙にぎこちなく歩き出す椎名。それを見て笑う観客達。上にいる真夏と雅治も半笑いだ。

 

椎名はここまで大きな舞台だとは思ってもいなかった。そしてそれに追い打ちをかけるかのようにテレビ中継。緊張の理由はそこだ。椎名はなんとか覚束ない足取りで到着した。

 

 

「だ、大丈夫?椎名ちゃん」

「お、おぉ、や、夜宵、ち、ちゃん………ひ、久しぶりやなぁ」

「テンパりすぎて緑坂の関西弁がうつってるぞ」

 

 

以上が今年の【界放リーグ】の出場者。今年は特に1年生が多い。それほど今年の1年はレベルが高いと言える。

 

全員が集まったことで開会式が始まった。それはヘラクレスによるやる気のない選手宣誓だったり、各理事長の挨拶、界放市の市長の挨拶。その挨拶は大変長かった。椎名が緊張を通り越して立ちながら寝入ってしまうほどに。お陰で緊張がほぐれたとも言えるが、

 

そしてその後に行われたのが、選手達が待ちに待ったであろう、対戦表の発表だ。対戦はトーナメント方式、対戦カードは毎回ランダムで選ばれるが、12人のため、徐々に12⇨6⇨3という風に減っていくことになる。3人の時は誰か1人がランダムシードとなり、決勝に無条件で進出できる。

 

気になる1回戦第一試合は、

 

ー芽座椎名と九白岩壁だ。

 

 

「おっ!私1回戦じゃん!」

 

 

気合いの入る椎名。相手はあの九白一族の末裔、今年の九白の3年の中では最高の出来と謳われている。

 

他の選手は皆、自分の用意された特等の控え室のモニターで試合を観戦する。

 

 

******

 

 

轟音のような歓声の中、椎名と岩壁は見合っていた。今にも目線の間から火花が飛び散りそうだ。

 

 

「ふっふ!これはラッキーだぜ!まさか最初の相手がまぐれで上がってきたかわい子ちゃんとはなぁ!」

「私もラッキーだよ!まさか相手があの九白一族?って奴で!絶対強いじゃん!しかもこんな広いとこでバトルできるなんて最高だよ!」

 

 

嫌味を言ったつもりがなかなか椎名には通用しない。九白岩壁は九白一族のエリート故に、自分よりも弱い人間を見下す傾向が多い。

 

2人はこの広いスタジアムで贅沢にBパッドを展開させる。そして期待の初戦が始まる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

ーバトルが始まる先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、風盾の守護者トビマルを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が早速召喚したのは大きな盾を構える鳥型のスピリット、トビマル。その盾は小さき者を守り抜く。

 

 

「ターンエンド」

風盾の守護者トビマルLV1(1)BP2000

 

バースト無

 

 

やれることを全て終え、そのターンを終える椎名。次は岩壁だ。

 

 

[ターン02]岩壁

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はゴツモンを召喚する!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

岩壁が最初に召喚したのは九白一族のお家芸の白のデジタルスピリット、ゴツモン、岩を擬人化したようなその姿は、なんとも言えないが、優秀な召喚時効果を有している。

 

 

「召喚時効果!カードをオープン!」

オープンカード

【リアクティブバリア】×

【メノカリモン】○

 

 

召喚時効果は成功した。成熟期スピリットのメノカリモンが彼の手札へと加わる。

 

 

「アタックステップ!やって来いや!ゴツモン!」

手札4⇨5

 

「ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

全力でゴツモンの体当たりを受ける椎名。ライフが1つ砕かれた。場が整っていないこの状況で成長期スピリットでアタックするのは愚の骨頂と言えるが、椎名とて、バトルでは破壊されるトビマルを犠牲にはしたくないと踏んでのことだろう。

 

 

「ターンエンドだ……さぁ、かかってきな!かわい子ちゃん!」

ゴツモンLV1(1)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

やれることを全て終え、そのターンを終える岩壁、次は椎名の反撃だ。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、ブイモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名の場に現れるのはいつもの小さき青き竜。その額には金色のブイの字が刻まれている。

 

 

「召喚時効果!カードを2枚オープン!」

オープンカード

【ワームモン】×

【ライドラモン】○

 

 

効果は成功、緑のアーマー体スピリット、ライドラモンが椎名の手札へと加えられた。

 

そして加えたかと思いきや、すぐさまアタックステップへと移行する。

 

 

「よし!アタックステップだ!ブイモン!」

手札4⇨5

 

「ライフで受けてやるよ」

ライフ5⇨4

 

 

ブイモンの渾身の頭突きが岩壁のライフを1つ粉砕する。

 

 

「次!トビマルでアタック!」

 

 

羽ばたくトビマルをよそに、椎名は手札のカードを1枚引き抜く。【アーマー進化】だ。

 

 

「フラッシュ!ライドラモンの【アーマー進化】!対象はブイモン!1コストを支払い、轟く稲妻、ライドラモンを召喚!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ2⇨3

ライドラモンLV1(1)BP5000

 

 

ブイモンの頭上に黒い独特な形をした卵が投下される。それはブイモンと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは黒い鎧を持つ獣型のアーマー体、ライドラモン。

 

 

「ほぉ、アーマー進化」

 

「ライドラモンの召喚時効果!ボイドからコア2つを私のトラッシュへ!」

トラッシュ3⇨5

 

 

雄叫びをあげるライドラモン。すると椎名のトラッシュにコアの恵みが送られた。一気に岩壁との総コア数を突き放した。

 

 

「そしてトビマルのアタック!」

 

「ライフだ」

ライフ4⇨3

 

 

トビマルは、大きな盾を上から叩きつけるかたちで、岩壁のライフを砕いた。

 

 

「ライドラモン!」

 

「ライフだっ!」

ライフ3⇨2

 

 

ライドラモンの瞬発の体当たりが炸裂、さらにライフを砕いた。椎名の速攻は決まったと言える。ただ惜しいところといえば、ライドラモンの追加効果を発揮できなかったことか、

 

 

「ターンエンド!」

風盾の守護者トビマルLV1(1)BP2000(疲労)

ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

やれることを全て終え、そのターンを終える椎名。速攻は決まったものの、返しのターンは誰もブロッカーがいない。いつものことだからか、そのことは椎名とて割り切っている。

 

 

[ターン04]岩壁

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨8

トラッシュ3⇨0

ゴツモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺はハグルモンをLV2で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨2

 

 

岩壁が新たに現れたのは歯車のような姿をした成長期スピリット、ハグルモン。その召喚時効果は、他に成長期を持っていれば活かせる効果であって、

 

 

「ハグルモンの召喚時効果でボイドからコア1つを他の成長期スピリットに置く、ゴツモンに置いとくぜ、さらにその勢いでレベルアップだ!」

ゴツモン(1⇨2⇨3)LV1⇨2

リザーブ4⇨3

 

 

ゴツモンのレベルが上がる。これにより、ゴツモンは進化の力を獲得した。

 

 

「アタックステップ!俺はゴツモンとハグルモンの【進化:白】を発揮!2体同時にメノカリモンに進化だ!」

メノカリモンLV2(2)BP6000

メノカリモンLV2(2)BP6000

 

 

2体同時に行われる進化、ゴツモンとハグルモンはデジタルのベルトに巻かれて、その姿形をかえていく、新たに現れたのは重装備が施された白の成熟期スピリット、メノカリモン、それが2体だ。

 

 

「す、すごい!2体同時進化!」

「笑ってる場合かよ!俺の進化コンボはまだまだ続くぜぇ!ランク3の俺の実力を見せてやる!」

 

 

九白岩壁、彼は九白一族のデジタルスピリット制限の環境の中では上位のものしか許されないと言われている完全体までの使用が許されている。

 

成熟期のメノカリモンなどただの発展途上、岩壁は完全体の中でも特に強力なスピリットの使用を許されていた。その強さを椎名も思い知ることになる。

 

 

「アタックステップは継続!やれぇ!メノカリモン!アタック時の【超進化:白】発揮!メノカリモンを完全体のナノモンにLV3で進化だぁ!」

リザーブ3⇨2

 

「!!」

 

 

メノカリモンがさらなる進化を遂げる。体格が大きく下がったものの、その力は未知数、まるで豆電球のような完全体スピリット、ナノモンが現れた。

 

 

「おぉ!完全体!」

 

 

感心する椎名。だが、そんな悠長なことを言っている場合じゃない。岩壁はナノモンの召喚時効果を発揮させる。

 

 

「ナノモンの召喚時!相手のスピリット1体を手札に戻す!対象は風盾の守護者トビマル!消えサレェイ!」

 

 

ナノモンの体から放出される小型爆弾。その威力は凄まじく、一発もらってしまったトビマルが椎名の手札へと帰還してしまった。

 

 

「!!」

手札5⇨6

 

「次だぁ!もう1体のメノカリモンもアタックさせ、その効果で2体目のナノモンをLV3で召喚する!」

リザーブ2⇨0

 

「!!2体目!?」

 

 

残ったメノカリモンも新たなる進化を遂げる。そして2体目となるナノモンが召喚された。当然その召喚時の効果を使えるのであって、

 

 

「召喚時で今度はライドラモンを消しとばす!喰らえやぁ!!」

 

「ぐっ!」

手札6⇨7

 

 

ナノモンの小型爆弾の威力には、ライドラモンさえも手も足も出せない。ライドラモンも吹き飛ばされて、トビマル同様、椎名の手札へと戻ってしまった。

 

 

「ハッハッハ!これでかわい子ちゃんの場はすっからかんだなぁ!…………行け!ナノモン達よ!上の世界を知らない1年に、力の差を思い知らしらせろぉ!!」

 

 

小さな足を駆使して走り出すナノモン達。

 

 

「ライフだ!!」

ライフ4⇨2

 

 

ナノモンの爆弾が、今度は椎名のライフにめがけて飛んでくる。なすすべはなく、そのまま2つのライフを同時に破壊されてしまった。

 

だが、岩壁も岩壁でこのターン、フルアタックしてしまったため、ブロックできるスピリットがいない。そう考え出した観客達の思考を遮るように、岩壁はナノモンの第2の効果を使用する。それはいかにも白属性らしい効果と言えて、

 

 

「エンドステップ!ナノモン2体の効果発揮!ナノモンはエンドステップに自分のスピリット1体を回復させる!それが2体!よって2体とも回復状態となる!」

ナノモン(疲労⇨回復)

ナノモン(疲労⇨回復)

 

「なにぃ!?」

 

 

お互いにプラグとコンセントをつなぎ合わせるナノモン達。再起動し、再びバトルに参加できるようになった。攻撃だけでなく、守りも完璧、それが九白一族のバトルの仕方だった。

 

実際にはすごいプレッシャーであるだろう。何せ、アタックステップ中にスピリットを手札に戻された挙句、防御にも立ち回ってくるのだから。だが、椎名とて、ここでは負けられない。司やヘラクレスとバトルするまでは絶対に負けないと誓ったのだ。

 

次のターンから、椎名の怒涛の反撃が始まる。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札7⇨8

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨11

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!もう一度ブイモンを召喚!」

手札8⇨7

リザーブ11⇨7

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名は今一度ブイモンを召喚する。反撃するならやはりここからしか始められない。椎名はその召喚時も使用する。

 

 

「召喚時効果!カードをオープン!」

オープンカード

【スティングモン】○

【マグナモン】○

 

 

効果は2枚ともあたり。この場合はどちらか1枚が手札に加えられる。椎名がここで選択するのは、

 

 

「よし!マグナモンを手札に!」

手札7⇨8

 

「マグナモン?」

 

 

当然このデッキの最強スピリットのマグナモンだ。岩壁は首を傾ける。まさかあのマグナモンなのか、と。いや、そんなはずはないとすぐに考え直す。

 

だが、本当に世界でただ1枚ずつしかないと言われているロイヤルナイツの1枚、マグナモンなのだ。椎名はすぐさまそれを召喚する。

 

 

「マグナモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、黄金の守護竜、マグナモンをLV3で召喚!!」

リザーブ7⇨3

トラッシュ3⇨4

マグナモンLV3(4)BP10000

 

 

今までのアーマー進化の際に現れる卵とはわけが違う。黄金に光輝くそれは、ゆっくりとブイモンの頭上にとうかされる。そして衝突し、混ざり合う。新たに現れたのは黄金の鎧を輝かせる守護竜、マグナモン。

 

その迫力に、神々しさに、会場中の誰もが、いや、この中継を見ている界放市の全員が驚愕した。なんせあの名前だけしか知られていないほどの超レアカード、ロイヤルナイツの1枚、マグナモンがそこにいるのだから。なによりも驚いたのは対戦している岩壁だった。

 

 

「な、なぁ!?本当にマグナモンだったのかぁ!?」

「だからそう言ったじゃん………いくよ!マグナモンの召喚時効果を発揮!相手の場にいる最もコストの低いスピリット1体を破壊する!今のあなたの場はナノモンが2体、そのうちの1体を破壊だぁ!黄金の波動!エクストリーム・ジハード!!」

 

 

マグナモンの強力な必殺技、体内のエネルギーを自身の中心に集中させ、一気に解き放つこの技は、必ずと言ってもいいほど相手のスピリットを破壊できる。

 

ナノモンの2体のうちの1体はそれに巻き込まれて、大爆発、撃破したかに思われたが、

 

 

「あ、あれ?…………減ってなくない?」

 

 

晴れる爆煙のなか、椎名は何度も何度も目をこすり、確認する。だが、いくら見てもナノモンが2体いるのだ。確かにエクストリーム・ジハードは決まったはずなのに。

 

この状況を見て、椎名とマグナモンをあざ笑うかのように、岩壁は高笑いをしていた。

 

 

「はぁっはっ!!残念だったな!伝説のロイヤルナイツでもこのナノモンは倒せない!ナノモンは相手による破壊時、ボイドからコアを1つこいつに置くことで、疲労状態で残ることができるんだよぉ!!!」

ナノモン(4⇨5)

 

 

ナノモンの第3の効果、それは自分のいかなる破壊を無効にしてしまう強力な効果。正確には一度は壊れていた。だが、ナノモンは自分の効果で復活していたのだ。これがナノモンの不死身の効果だ。

 

 

「破壊されないスピリット………すごい!」

「あぁ?生意気な女だな、この状況でまだ笑うってのか?わかってねぇって言うなら教えてやるよ!お前じゃ俺には勝てない!このナノモンを倒せない限りはな!!」

 

 

決して破壊されないスピリット、そしてそのスピリットが内蔵している手札バウンス効果と、エンド時の疲労回復。さながら圧倒的にも見える。だが、あの椎名が、たかがこんな状況であきらめるわけがない。それは当の本人だけでなく、椎名と関わってきた者全員が心に思っていることであって、

 

椎名は手札の端にあるカードを見て思いついた。【ナノモンは倒せなくても、プレイヤーは倒せるという点に】。

 

 

「アタックステップ!いけぇ!マグナモン!」

 

 

肩部に装着されているブースターを器用に使い、低空飛行で翔けるマグナモン。だが、岩壁の場にはBPが同じナノモンがまだ回復状態で残っている。

 

ナノモンは死なない。当然彼はそのスピリットでブロックする。ナノモンなら効果により、マグナモンを一方的に倒せるからだ。

 

 

「ハッハッハ!バカだなぁ!1年生のかわい子ちゃん!ナノモンはいかなる破壊も無効なんだよ!もちろんバトルによる破壊もなぁ!!迎え撃て!ナノモン!」

 

 

マグナモンの道を遮るナノモン。2体が激突する直後だった。椎名が手札から1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!ワイルドライド!マグナモンを選ぶ!選ばれたスピリットは、このターン、BPが3000上がり、バトルに勝利したら回復する!」

手札8⇨7

リザーブ3⇨0

トラッシュ4⇨7

マグナモンBP10000⇨13000

 

「な、なにぃ!??」

 

 

緑のオーラを纏い、その力を増幅させるマグナモン。ナノモンを片手で捕まえて地面に叩きつける。ナノモンは力尽き大爆発した。だが、自身の効果によりバラバラだったパーツを引っ付かせ、復活した。

 

 

「ぐっ!ナノモンは場に残る!」

ナノモン(4⇨5)

 

「そして、マグナモンの勝利により、これを回復させる!」

マグナモン(疲労⇨回復)

 

 

マグナモンは起き上がる。まさに不屈の闘志、そしてそれは岩壁のライフを破壊すべく、再び飛び上がる。

 

 

「もう一度だ!いけぇ!マグナモン!」

 

「ぐっ!ライフだ!…………ぬぉ!!」

ライフ2⇨1

 

 

マグナモンの金色の力を纏わせた右拳が、岩壁のライフをいよいよあと1つまで追い込む。椎名の勝利は目前に迫っていた。

 

ナノモンの欠点、それは残っても疲労状態になること、この類の効果は、一度破壊されたことになっているため、ワイルドライドの追加効果が発揮されるのだ。つまり、この状況では、次のターンで岩壁が椎名のライフを全て砕く、またはマグナモンを倒すかをしなければ、次のターンで再びワイルドライドの効果を使われて彼は敗北する。

 

 

「エンドステップ、ワイルドライドの効果で私の手札に戻る」

手札7⇨8

 

 

ワイルドライドのカードがひらひらと舞い上がり、椎名の手札へと帰還する。

 

 

「ターンエンド!」

マグナモンLV3(4)BP10000(疲労)

 

バースト無

 

 

椎名のターンが終わる。次は岩壁のターン。

 

 

[ターン06]岩壁

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

ナノモン(疲労⇨回復)

ナノモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ワイルドライドには少しびびったが、その残りのコア数じゃあ、このターンの俺の猛攻を防げまい!こい!俺のスピリット達よ!……ゴツモン!ハグルモン!メノカリモン2体!さらにハグルモンの効果でゴツモンにコアを1つ増やす!」

手札6⇨2

リザーブ4⇨0

ナノモン(5⇨2)LV3⇨2

ナノモン(5⇨2)LV3⇨2

トラッシュ0⇨6

ゴツモン(1⇨2)

 

 

これまでの岩壁とのバトルで現れたスピリットが集結した。岩壁とて、ある程度の計算をしていた。椎名のライフは残り2。青のコスト破壊はコストがかかるせいでこのターンは使えない。使えるなら緑の疲労効果。

 

緑には3コスト程度でも複数体のスピリットを疲労させる効果を持つ。このことから、彼は大量のスピリットをこのターン、できる限り召喚したのだ。

 

 

「アタァァックステェェップ!!!終わりだぜぇ!かわい子ちゃんんん!!!先ずはナノモンからだ!」

 

 

アタックステップが始まり、ナノモンは小型爆弾を投げ飛ばす。その狙いはマグナモンだ。

 

 

「!?……あれって召喚時の効果じゃぁ?」

「残念!言い忘れたが、ナノモンはアタック時にも同じバウンス効果が使えるんだぁ!ロイヤルナイツの首はもらったぁぁ!!」

 

 

ナノモンが作り出した大量の小型爆弾はマグナモンを捉えて大爆発を起こした。爆煙で周りが見えぬほどに。

 

 

「ハッハッハぁ!!!ロイヤルナイツの首をもらったぞぉぉ!!後は連続アタックで終いだぁ!!!!!!」

 

 

走り出すナノモン。これは完全に椎名の負け、観客達がそう思っていたその時だった。

 

爆煙の横を通り過ぎようとしたナノモンがそこから現れた謎の手に鷲掴みにされた。身動きが取れなくなったナノモンは足をバタバタと動かすが、一向に出られる気配がない。

 

その手の正体はマグナモンだ。そしてマグナモンはそれを全力で空中に投げ飛ばした。岩壁は驚いた。先ずはマグナモンが場に残っていること、そして疲労状態でも動いていることだ。

 

 

「は、はぁ!?なんでマグナモンが生きてるんだぁ!?そもそも疲労状態のはずなのになぜブロックできる!?」

「……………ふっふっふ!マグナモンは相手のスピリットとブレイブの効果を受けず、疲労状態でもブロックできる!」

「な、なぁ!?、」

「いっけぇ!!マグナモン!!黄金の強弾!!プラズマシュゥゥゥト!!!」

 

 

空中で身動きが取れないナノモンをマグナモンは肩部にあるミサイルをいくつも発射させる。ナノモンはそれに被弾し、大爆発を起こした。だが、不死身ゆえ、疲労状態で場には残る。

 

 

「ぐっ」

ナノモン(2⇨3)

 

 

岩壁は察した。いくら挑んでもマグナモンには勝てない。アタックしても無意味だと。当然だ。疲労状態でもブロックできるということは、バトルで勝てる限り何度でもブロックができるということなのだから。

 

そして、次のターンでワイルドライドを使われて、他のブロッカーに残したもの達も無意味に破壊され、自分は敗北すると。

 

 

「た、ターン、え、エンド」

ゴツモンLV1(2)BP2000(回復)

ハグルモンLV1(1)BP2000(回復)

メノカリモンLV1(1)BP4000(回復)

メノカリモンLV1(1)BP4000(回復)

ナノモンLV2(2)BP7000(回復)

ナノモンLV2(3)BP7000(疲労⇨回復)

 

バースト無

 

 

もはや何もできない岩壁は大量のブロッカーを残してそのターンを終えた。次は椎名のターンだ。もはや何もすることはないだろう。

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札8⇨9

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

マグナモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップは何もしない!そのままアタックステップ!いけぇ!マグナモン!さらにフラッシュマジック!ワイルドライドでパワーアップアンド効果付与!」

手札9⇨8

リザーブ8⇨5

トラッシュ0⇨3

マグナモンBP10000⇨13000

 

 

再びワイルドライドの力を授かるマグナモン。これでもう怖いもの無し。後は残った岩壁の1つのライフを破壊するだけだ。

 

 

「くぅ、くっそぉぉぉぉぉ!!!!ブロックだぁ!!!ブロックだお前達!!」

 

 

必死にしがみつこうとする岩壁。もはやブロックする意味はないというのにマグナモンを倒すための指令を下す。マグナモンはそれらを一瞬で蹴散らし、岩壁のライフごと砕こうとする。

 

 

「マグナモン!纏めてぶっ飛ばせぇ!!黄金の波動!エクストリーム・ジハード!!」

 

 

再び全エネルギーを放出させるマグナモン。それは岩壁のスピリットとライフをまるごと破壊するほどに巨大だった。飲み込まれたスピリット達は一瞬のうちに消滅していく。そして彼のライフも、

 

 

「お、俺は九白のエリートだぞぉぉぉぉぉ!?!何故なんだぁ!?!!……………う、うおぉぉおお!!」

ライフ1⇨0

 

 

九白岩壁のライフがゼロになったことで、このバトル、1回戦第一試合は芽座椎名の勝利となる。下級生が勝ったことにより、より多くの歓声が飛び交った。

 

 

「よっし!」

 

 

ガッツポーズを見せる椎名。岩壁は半分放心状態になっていた。九白の一族ともあろう者が、こんな弱そうな下級生に敗北したのだ。彼よりも偉い、上の上層部、彼らの兄姉や、親などからきつく叱られることは間違いない。

 

九白とはそれほどまでに勝利に貪欲で、優劣に厳しいのだ。

 

このようにプロさながらにレベルが高いバトルが多いことから、この【界放リーグ】では世界中で注目されていた。

 

ーそして次の対戦カードは…………

 

 

《1回戦第二試合、赤羽司VS炎林頂》

 

 

先のバトルの熱が冷めぬまま、2人の戦士がスタンバイしていた。

 

ー【界放リーグ】はまだ始まったばかり、

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【マグナモン】!」

「マグナモンは私が使う新たなるアーマー体、その力はアーマー体の中でも随一!鉄壁の防御能力が最大の魅力だよ!」





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第18話「オーバーエヴォリューション」

 

 

 

 

 

ヘラクレスの弟子、炎林頂は、界放リーグ開催前、師であるヘラクレスとある約束を交わしていた。

 

 

『師匠!俺はこのリーグで必ず勝ち残る!そしてあなたを超える!』

 

 

意気込みからか、大声で叫ぶ炎林。あまりの声の大きさにヘラクレスはついつい耳を手で覆いかぶせる。内心うるさいと思うものの、その想いはしっかりと彼の胸に伝わっていた。

 

 

『……あぁ、ほな、必ず勝ち上がって来いや!』

『はい!どんなに汚くて、かっこ悪くても必ず勝ち残ってやる!』

 

 

そんな男と男の熱い物語が始まっていた。

 

第一試合の白熱した試合からか、鳴り止まぬ歓声の中、2人の戦士はスタジアムの中央で睨み合っていた。その2人の戦士とは、【朱雀】こと、赤羽司と、ヘラクレスの弟子、炎林頂だ。

 

司は雅治の話から炎林のことは大体知っていた。ろくにデッキの構築もできないものという認識が強く頭から離れなかった。雅治がそう言ったのではない。彼が勝手に強く思い込んでいるのだ。実際はその通りだった。ほんの何ヶ月か前は、

 

一方で炎林の方も緊張していた。それもそのはずだろう。何せあのヘラクレスと共にまさかこのような場に立てるとは思ってもいなかったはずなのだから、彼も彼なりに努力はしていた。その努力が報われたと言えるだろう。

 

そして2人は互いを睨みつけるまま自身のBパッドを展開する。1回戦第二試合の始まりだ。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

歓喜が熱狂しているスタジアムの中、2人のバトルが始まる。先行は炎林だ。

 

 

[ターン01]

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「見ててくださいよぉ!師匠!……メインステップ、いくぜ朱雀!俺はネクサスカード、天空を貫くバリスタを配置!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

炎林が背後に呼び出したのは、巨大なバリスタ。文字通り天空さえも貫けそうだ。

 

このネクサスはコスト4ながら、赤と緑のシンボルを持つ優秀なネクサス。効果は自分のアタックステップ中のみのBP増加といささか地味だが、使い減りしないいい効果だ。

 

 

「ターンエンド」

天空を貫くバリスタLV1

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目など、できることは限られてくる。炎林はこのままターンエンドし、司にターンを渡す。

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺もネクサスカード、朱に染まる薔薇園を配置し、バーストをセット」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

司の背後に現れたのは赤い色に染まっている薔薇が咲き誇る庭園。それは見たものを魅了させる美しさがある。

 

そして伏せられるバーストカード。状況にどう対処してくるのか期待が高まる。

 

 

「ターンエンド」

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト有

 

 

司もそれ以外は特に動くことなく、そのターンを終えた。最初のターンにネクサスを配置するというのは実はかなり強い動きであって、

 

この後のターンでお互いに凄まじい攻防を繰り返すのが目に見えている。

 

 

[ターン03]炎林

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!俺はホムライタチを召喚!」

リザーブ5⇨4

 

 

炎林がこのバトル最初に召喚したスピリットはこのデッキの潤滑油的存在、尻尾が炎のように揺れている鼬のようなスピリット、ホムライタチ。

 

ホムライタチは赤のスピリットだが、メインステップ中は緑のシンボルを追加できるので、彼のデッキのスピリットの展開には大いに役立つ。

 

司とてそれを当然理解している。炎林のことは雅治から聞いていた。ヘラクレスの弟子だが、彼から貰い受けたデッキが強く、調子に乗っていた。と彼のことを解釈している。だが、仮にも1年ながら他の3年生を蹴散らし、ここに来ている。油断は禁物だった。

 

 

「さらに!俺は六分儀剣のルリ・オーサをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

細長い剣を携え、緑のスマートな昆虫型のスピリット、ルリ・オーサが召喚された。その効果はとても有名だ。

 

 

「ルリ・オーサの召喚時効果で、赤のスピリット2体にコアを1つずつボイドから追加!ルリ・オーサはLV2の時は赤のスピリットとしても扱うため、ルリ・オーサとホムライタチに1つずつコアを追加する!」

ホムライタチ(1⇨2)

六分儀剣のルリ・オーサ(2⇨3)

 

 

天に自身の剣を掲げるルリ・オーサ。その願いは通じたのか、天より2つのコアの恵みが、彼自身とホムライタチに追加された。

 

 

「まだだ!俺はもう1体のルリ・オーサをLV1で召喚!……さらにその効果でホムライタチとLV2のルリ・オーサにコアブースト!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

トラッシュ1⇨2

ホムライタチ(2⇨1⇨2)

六分儀剣のルリ・オーサ(3⇨4)

 

 

2体目のルリ・オーサが現れる。すると、再びコアの恵みが彼らに与えられ、司との総コア数を一気に突き放した。単純にこのターンだけで4つのコアを増やしている。いくら朱雀と雖も、これはかなり難しい状況であると言える。

 

そしてここからが、彼が変わったところだ。炎林は手札のカードをさらに引き抜く。

 

 

「そして、俺はソウルコアを支払い、マジックカード、ソウルドローを使用!……効果によりソウルコアを支払ったため、デッキから3枚のカードをドローする」

手札2⇨1⇨4

ホムライタチ(2⇨1)

六分儀剣のルリ・オーサ(4s⇨3)

トラッシュ2⇨4s

 

 

ソウルコアの置かれていたルリ・オーサからそれを取り払い、一気に手札を潤す炎林。彼はこの前、こんなカードは入れていなかった。理由としては結局エースである金殻皇ローゼンベルグの効果で手札などいくらでも稼げるからだ。だが、それだけでは足りないと思い知り、ドローカードを10枚近くデッキに詰めたのだ。

 

その結果、今まで以上にデッキの回転率が上がり、有り余るコアに無駄がなくなった。

 

彼は自分のこのヘラクレスから譲って貰ったデッキの無限の可能性を知ることになった。デッキを研究して組み上げるのがとても楽しかった。これもジークフリード校に行ったお陰かと思えば少々気まずいが、

 

だが、お陰で自分は今よりもっと強くなれる。このデッキの無限の可能性を見ることができる。やはり彼も彼なりにかなり成長していた。それは観客席にいる真夏や、雅治も感じている。

 

 

「もう1枚、ルリ・オーサからコアを使い、今度はフェイタルドローを使用し、カードを2枚ドロー!」

手札4⇨3⇨5

六分儀剣のルリ・オーサ(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ4s⇨6

 

 

ルリ・オーサがレベルダウンするも、コアだけでなく、手札の差も司より上回る炎林。そして次は並べられたスピリットでアタックを仕掛ける。

 

 

「アタックステップ!天空を貫くバリスタの効果でBPプラス2000!!やれ!ホムライタチ!」

ホムライタチBP1000⇨3000

六分儀剣のルリ・オーサBP3000⇨5000

六分儀剣のルリ・オーサBP3000⇨5000

 

 

「……ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ホムライタチの小さい口から放たれる火炎放射が司のライフを破壊した。これでルリ・オーサ2体のアタックが通ればまた一気に有利になれる。彼がそう思った矢先だった。司のバーストがオープンされる。

 

 

「バースト発動!秘剣二天一龍!」

「なに!?」

「この効果でBP5000以下の相手のスピリットを2体破壊する!くたばれぇ!ルリ・オーサ2体を破壊!」

 

 

巻き起こる炎の斬撃がルリ・オーサ2体を切り刻む。耐えられなくなった2体はあえなく破壊されてしまった。

 

 

「2体破壊に成功したことにより、カードをドロー」

手札3⇨4

 

 

迂闊だった。炎林は再確認する、今回の相手は緑ではない、赤だ。あの【朱雀】が相手なのだ。ヘラクレスに挑む前には丁度良い相手じゃないか。と。

 

どちらにせよこのターンはやることがなくなった。彼はこのターンを終える。

 

 

「……ターンエンド」

ホムライタチLV1(1)BP1000(疲労)

 

天空を貫くバリスタLV1

 

バースト無

 

 

次は司のターンだ。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨7

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ、再びバーストを伏せ、イーズナとホークモン、ハーピーガールを召喚!ハーピーガールはLV2!」

手札5⇨1

リザーブ7⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

司は今一度バーストを伏せると、一気に自分のよく使うスピリットたち、赤と黄色のスピリット、イーズナ。赤の鳥型成長期スピリット、ホークモン。手足が鳥のような女性、ハーピーガールを召喚した。

 

さらにホークモンの召喚時効果を使用する。

 

 

「召喚時効果!カードを3枚オープンする」

オープンカード

【ホルスモン】○

【朱に染まる薔薇園】×

【ホウオウモン】×

 

 

効果は成功、アーマー体であるホルスモンが彼の手札に加えられた。そして始まる。恐ろしいアタック連打が、

 

 

「アタックステップ!ハーピーガールでアタック!アタック時の【連鎖:赤】でBP3000以下のスピリット、ホムライタチを破壊!」

手札1⇨2

 

「……くっ!」

 

 

ハーピーガールの翼に炎を纏われた翼撃が、ホムライタチを切り裂いた。ホムライタチがそれに耐えられるわけもなく、爆発してしまった。この場面でのハーピーガールはとても恐ろしい。

 

 

「アタックは継続だ!」

 

「ぐっ、ら、ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

ハーピーガールの翼が、今度は炎林のライフに直撃し、ガラス細工が砕けるように粉々になる。

 

そしてハーピーガールの追加効果がここで起動。

 

 

「ハーピーガールの効果!【聖命】!俺のライフを1つ回復!さらに、朱に染まる薔薇園LV1の効果で、俺のライフがアタックステップ中に増加したため、デッキから1枚ドローする」

ライフ4⇨5

手札2⇨3

 

 

司のライフが初期状態に戻るとともに、カードがドローされる。ライフの差と手札の差を詰める良い一手だ。

 

 

「まだだ!続け!ホークモン!」

 

「くそ!それもライフだ!」

ライフ4⇨3

 

 

ホークモンは自身の羽を炎林のライフに向かって投げつける。それは凄い勢いで突き刺さり、彼のライフを貫いた。

 

 

「イーズナ!………」

 

 

炎林のライフをさらに削るために走り出すイーズナ。ここで司は手札のカードを1枚引き抜く。【アーマー進化】だ。

 

 

「フラッシュ!【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!1コストを支払い、これを召喚!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ2⇨3

ホルスモンLV1(1)BP4000

 

 

ホークモンの頭上に独特な形をした卵が投下される。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは赤き空飛ぶ獣型のアーマー体、ホルスモン。

 

 

「ホルスモンの召喚時効果!お前のネクサス、天空を貫くバリスタを破壊し、カードを1枚ドローする!」

手札3⇨4

 

「なに!?」

 

 

ホルスモンがネクサスの天空を貫くバリスタに鋭い眼光を放つと、たちまちそれは地面へと沈んでいく。

 

そして、これはまだイーズナのアタック状態。ホルスモンも【アーマー進化】で召喚されたため、まだアタックできる。

 

 

「ら、ライフだ」

ライフ3⇨2

 

 

イーズナは小さい体ながらも渾身の体当たりでぶつかっていき、炎林のライフを1つ破壊した。

 

 

「やれぇ!ホルスモン!」

 

 

攻撃の手を一切緩めない司。ホルスモンが羽ばたく。何もできない炎林はそのままライフで受けるほかなかった。

 

 

「く、ら、ライフで、……うわぁあ!」

ライフ2⇨1

 

 

ホルスモンの自身の身体を回転させた竜巻のような攻撃が、炎林のライフを通り過ぎるように貫き、破壊した。これで炎林のライフは1。風前のともし火だ。

 

炎林は、僅か4ターンでここまで実力に差が出てくるとは思ってもいなかった。だが、彼はまだ諦めてはいない。何度も何度でも起き上がると決めたのだから、どんなに汚くなっても、かっこ悪くてもヘラクレスに、師匠に挑戦したいのだ。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ」

ホルスモンLV1(1)BP4000(疲労)

イーズナLV1(1)BP1000(疲労)

ハーピーガールLV2(2)BP4000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト有

 

 

できることを全て終え、そのターンを終える司。このターンの猛アタックが、ヘラクレスの弟子である彼にさらなる火を灯したことは知らなかった。

 

 

[ターン05]炎林

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ7⇨8

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ8⇨14

トラッシュ6⇨0

 

 

メインステップになるも、現状炎林の盤面は秘剣二天一龍、ハーピーガール、ホルスモンの効果により、空。何もない。ライフの差も1と5。普通なら誰もが無理だと思ってしまう。

 

ーだが、彼はそれを覆す。

 

 

「メインステップ!俺は2体のホムライタチを召喚!」

手札6⇨4

リザーブ14⇨10

トラッシュ0⇨2

 

 

炎林は前のターンでの大量ドローで引き抜いていた2、3枚目のホムライタチをここで連続召喚する。これにより今後のスピリット展開が楽になる。さらにそこから逆転へと大きく動き出す。

 

 

「次はこいつだ!賢竜ケイローン!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨7

トラッシュ2⇨4

 

 

2体のホムライタチの次に召喚されたのはケンタウロスのような見た目だが、上半身は竜人の姿をした赤のスピリット、賢竜ケイローン。それはこの場では最も活かされるスピリットであって、

 

 

「ケイローンの召喚時効果!BP5000以下のスピリットを1体破壊して、1枚ドロー!……俺が破壊するのはお前だぁ!ホルスモン!」

手札3⇨4

 

「なに!?」

 

 

ケイローンは弓矢を手に持ち、ホルスモンに向かって放つ。それは見事にホルスモンを射抜いてみせた。耐えられなくなったホルスモンは爆発してしまう。

 

賢竜ケイローン。それだけでも優秀な効果だが、緑との混色デッキならばこれだけでは終わらない。

 

 

「まだ終わらない!!【連鎖:緑】でコアを1つこいつに置き、【連鎖:緑緑】でさらにもう1つ追加!」

賢竜ケイローン(1⇨2⇨3)LV1⇨2

 

「ちぃ!またコアブーストか!」

 

 

賢竜ケイローンは緑のシンボルが2つあるだけでルリ・オーサと同じく一気にコアを2つ稼げるスピリット。また司とのアドバンテージ差を突き放す。

 

だが司もただでは転ばない。ここでセットされていたバーストを発動させ、少しでも取り戻そうとする。

 

 

「俺のスピリット破壊後により、バースト発動!……シャイニングバースト!……この効果でBP10000以下のお前のスピリットを1体破壊だ!消えろ!ケイローン!」

「ぐっ!」

 

 

ケイローンの体が光輝いたかと思えば、その光は突如爆発する。ケイローンは当然耐えられず、自身も直ぐに大爆発した。

 

 

「さらにコストを払い、メイン効果だ、デッキから1枚ドロー、さらにバーストにより発動されていたので、もう1枚ドローだ」

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

手札4⇨5⇨6

 

 

やはり仕掛けていた破壊バースト。だが、それは一時しのぎにしかならない。炎林は展開する。どんなに邪魔をされようとも、デッキとの絆を信じて突き進む。

 

 

「まだだ!俺は2体目の賢竜ケイローンを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨7

トラッシュ4⇨6

 

「なに?!…2体目だと?」

 

 

すかさず召喚された2体目のケイローン。それは先とほとんど変わらぬモーションで弓を準備する。筋肉質で力強いこの腕から放たれる矢が次に狙うのは……

 

 

「ハーピーガールを破壊!そしてカードをドローし、コアを2つ追加ぁ!!」

手札3⇨4

賢竜ケイローン(1⇨2⇨3)

 

「ぐっ!……くそっ!」

 

 

ケイローンが狙ったのはハーピーガール。ハーピーガールはその矢で射抜かれ、そこを中心に燃える尽きるように消滅していった。

 

実を言うと、炎林は全くアドバンテージを失わずにこれを行なっていた。賢竜ケイローンの召喚コストで2。そのコアブースト効果でプラマイ。そして召喚してマイナス1だが、それを召喚時の1枚ドローする効果で補っている。逆に司の盤面はシャイニングバーストである程度持ち直しているものの、主力を失いズタボロ、そう考えると差は圧倒的だった。

 

司は、正直信じられなかっただろう。まさかあの噂聞く分では、全く自分の敵にはならないだろうと踏んでいた相手がここまでやるとは、今なら彼がヘラクレスの弟子だと納得できる。

 

だが、まだだ、彼は炎林のメインステップはまだまだ続く。大量に有り余ったコアを使い、今度は自分が認める最強スピリットを召喚する。

 

 

「俺はさらに!エーススピリット!金殻皇ローゼンベルグをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨0

トラッシュ6⇨10

 

「……っ!!」

 

 

椎名の持つロイヤルナイツ、マグナモンにも勝にも劣らないほどの黄金の輝きを放つ人型の昆虫スピリット、そのツノは凶暴な猛牛のように曲がっている。

 

その存在だけで会場を震え上がらせる。彼のエーススピリット、金殻皇ローゼンベルグが召喚された。ローゼンベルグは人差し指を静かに司に向ける。まるで彼を打倒しようとするかのように。

 

 

「ローゼンベルグの召喚時効果!ボイドからコアを3つ追加!その勢いでLV3にアップ!」

金殻皇ローゼンベルグ(3⇨6)LV2⇨3

 

 

もうこのバトルの間だけでいったいいくつのコアを増やしただろうか、あれだけ展開して、邪魔もされたと言うのに、場には4体のスピリットが並んでいる。しかも手札は未だに3枚。それもこのローゼンベルグの効果で増える。

 

準備は整った。炎林は長いメインステップを終了させて、ようやくアタックステップに入る。

 

 

「アタックステップ!いけぇ!ローゼンベルグ!その効果でBPをプラス10000し、【連鎖:赤】でデッキから2枚ドローする!」

金殻皇ローゼンベルグBP11000⇨21000

手札3⇨5

 

 

このローゼンベルグはもともと2つのシンボルを持つスピリット。減らせるライフは2つだ。

 

さらに炎林は司に追い打ちをかける。残ったイーズナを破壊しつつ、一気にかたをつけるカードを引き抜く。

 

 

「フラッシュマジック!バードウィンド!不足コストはケイローンのLVを下げて確保!この効果でローゼンベルグを回復させ、【連鎖:赤】でBP4000以下のスピリット、イーズナを破壊!」

手札5⇨4

賢竜ケイローン(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ10⇨12

金殻皇ローゼンベルグ(疲労⇨回復)

 

「……っ!!」

 

 

イーズナが竜巻に巻き込まれて破壊されると同時にローゼンベルグが再び起き上がる。アタックするだけで凶器と言えるローゼンベルグが2度もアタックすれば、それは誰が見ても大変だと言うことに気がつくだろう。

 

 

「さぁ!いけぇ!ローゼンベルグ!」

 

「くそっ!仕方ねぇ!ライフで受ける!……ぐう!」

ライフ5⇨3

 

 

ローゼンベルグはその手に持つ巨大な大剣で、司のライフを2つも一刀両断する。おまけに今は回復状態。これがもう一度飛んでくる。

 

 

「もう一度だぁ!やれぇ!」

手札4⇨6

 

 

もはや当たり前のようにデッキから2枚ドローする炎林。このバトルは勝った。……彼がそう思った瞬間。司は手札のカード1枚を引き抜く。それはなんとかこの場を凌ぐカードであって。

 

 

「……俺は手札からマジック!シンフォニックバーストを使用!」

手札6⇨5

リザーブ5⇨3

トラッシュ4⇨6

 

「!!」

 

「……こいつの効果でこのバトル中に俺のライフが2以下ならてめぇのアタックステップは終わる!………ローゼンベルグのアタックはライフで受けてやるよぉ!…………ぬぉぉ!!」

ライフ3⇨1

 

 

「……くっ!そんなカードまで………」

「俺のライフは1!条件達成だぁ!」

 

 

シンフォニックバーストの条件達成に伴い。聖なる光が炎林の場のスピリット達の邪魔をする。これで炎林はどう転がってもこのターンは終了せざるを得なくなった。

 

 

「………ターンエンドだ」

ホムライタチLV1(1)BP1000(回復)

ホムライタチLV1(1)BP1000(回復)

賢竜ケイローンLV1(1)BP5000(回復)

金殻皇ローゼンベルグLV3(6)BP11000(疲労)

 

バースト無

 

 

惜しくも司を仕留められないまま、そのターンを終える炎林。だが、十分すぎる反撃だったと言える。何せ、司のスピリットを全滅させただけじゃなく、ライフを1にまで追い込んだのだから。そして今回は真夏の時とは違う。引いていた。カウンター系のカードを。

 

ー司はここからやり返すことができるのか。

 

 

(なるほど、ヘラクレスの弟子、……ねぇ、……なんか負けられない想いでもあるってか?…………それだったら俺にだってある!………俺はもう誰にも負けないくらい強くなる!だから応えろ!俺のデッキ!俺を勝利へと導け!!)

 

 

司がそう心に思った瞬間。一瞬だが、彼のデッキが赤く光輝いた。それが目に見えたのか、特別VIPルームの紫治城門は思わず立ち上がった。

 

 

「ん!!?」

「おいおい、どうした?ぎっくり腰の前兆?」

「む?………いや、なんでもない」

 

 

何事もなかったかのように再び腰を下ろす紫治一族の頭領、紫治城門。

 

彼は確信した。赤羽司は【アレ】に目覚めようとしていたのだ。それは彼のドローステップが来ればわかることだ。

 

司は息を呑み込み、このヘラクレスの弟子と言う強敵に挑む。自分の全てを、全身全霊をかけて、今まさにラストターンが始まろうとしていた。

 

 

「俺のタァァァァァァンン!!!」

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

 

 

「ドローステ、…………?」

 

 

このドローステップの時だった。司のデッキが突如、燃えるように光輝いた。炎林を含め、当然のように騒然とする観客や選手たち、だが、内心一番驚いていたのは他でもない、司だった。思わずその凄まじい光量にたじろいだ。

 

 

「な、なんだこれ、……」

 

 

そんな中、紫治一族の頭領、紫治城門だけが、この状況を目の当たりにして、興奮が抑えきれなかった。

 

 

(おぉ!やはり!やはり彼が【アレ】に目覚めるであろう3人うちの1人だったか!……さぁ!この私にその力を示すのだ!)

 

 

そう考える紫治城門。必死に声が漏れぬよう、堪えている。彼にとってこの現象は喉から手が出るほど見たかった。いや、欲しかったのだ。

 

この場にいるもう1人の紫治一族、夜宵もまた1人、選手の控え室で、

 

 

「…………や、やっぱり、司ちゃんが【アレ】に目覚めるんだ…………」

 

 

予想はしていたからか、他と違い、あまり驚く様子はなかった。が、その表情からはどこか寂しそうなものを感じさせる。

 

一方、司はその不思議な現象を目の当たりにしつつも、いつもの冷静さを取り戻していた。そしてその現象の正体に気づく。それはなかなかお目にかかれるものではなかった。

 

 

「こ、これはまさか……………【オーバーエヴォリューション】……!!?」

 

 

【オーバーエヴォリューション】。それはバトル中に起こる奇跡の現象。それが訪れたバトラーのデッキは光輝き、そこには新たなるカードが、命が宿ると言う。言うなれば、バトラーとデッキの進化。

 

非科学的だが、現在判明していることは3つ、1つは、それが正式なデッキのカードであること。普通はイカサマ等で新たに加えられたカードはいくらBパッドにそれを叩きつけても反応しない。だが、その【オーバーエヴォリューション】で得たカードは使用が可能なのだ。なんとも摩訶不思議なことだが、公式にこれが起きた時はそれを使用して良いと言うことが承認されている。過去にもそのカードで、ある無名のチャレンジャーがチャンピオンを破るというケースも存在する。

 

2つ目は、一説によれば、それが起こっている理由は、バトラーとデッキの絆が頂点に達した時のみ起こると言われている。

 

そして最後、3つ目は、それが起こるのは人1人につき、一度だと言うことのみ。他の細かいところはまだ何も解明されていない。

 

司は恐る恐るそのカードをドローした。ドローしたらそのデッキの赤い光は消えた。そしてドローしたのは赤と黄色のデジタルスピリット。やはり見たことのないカードだ。だが、不思議と司はもう驚くことはなかった。むしろ一瞬でその摩訶不思議な登場の仕方をした怪しいカードを仲間だと認め、理解する。

 

そしてなにより、この状況ではうってつけだ。

 

 

「いくぜ、ヘラクレスの弟子、炎林頂。俺はお前を認め、このカードでお前を討つ!」

手札5⇨6

 

「や、やれるもんならやって見やがれぇ!」

 

 

流石にこれはやばいと考えてしまったのか、炎林はやや腰が引ける。だが、それは直ぐに安心に変わる。

 

自分の残りライフはわずか1だが、ブロッカーは3体。そして手札には散々ドローしたおかげで、緑の強力なマジックカード、ストームアタックがある。いざとなればこれで妨害すれば完璧のはず、そう考え直したのだ。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨12

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ、先ずは下準備だ……朱に染まる薔薇園のLVを2に上げ、効果により、ホークモンをフル軽減でLV2で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ12⇨11⇨7

朱に染まる薔薇園(0⇨1)LV1⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

赤と黄色のネクサス、朱に染まる薔薇園。LV2の時には赤のスピリットをほとんど黄色のスピリットのようにも扱える効果を持つ。そのカラクリは、赤のスピリット全ての軽減シンボルを黄色としても扱えるようにするからだ。その結果、ホークモンがフル軽減で召喚された。司はその召喚時の効果も使用する。

 

 

「召喚時効果、カードを3枚オープン!」

オープンカード

【シュリモン】○

【イエローリカバー】×

【アクィラモン】○

 

 

効果は成功。この場合は、該当する2枚のうち、どちらか1枚を手札に加えることになる。司が選択するのは、

 

 

「俺はアクィラモンを手札に加える」

手札5⇨6

 

 

司は成熟期のスピリット、アクィラモンを手札に加えて、残ったカードを破棄した。そして、まだホークモンの効果は終了しない。滅多に使わないが、その追加効果も起動させた。

 

 

「ホークモンの追加効果で、2コストを支払うことで、手札にある黄色の成熟期スピリットを召喚する!…俺は手札のテイルモンをLV3で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ7⇨2

トラッシュ1⇨3

 

 

司が召喚したのは黄色の成熟期スピリット、猫のように愛らしく、小さい体躯だが、本当はネズミ型のスピリット、テイルモンが召喚された。

 

そして司はついでのように手札のマジックを使用する。

 

 

「さらに俺は、赤のマジック、レッドライトニングを使用する、この効果で、BP6000以下のスピリット、賢竜ケイローンを破壊する!」

手札5⇨4

リザーブ2⇨0

トラッシュ3⇨5

 

「!!……ケイローン!」

 

 

赤く迸る雷がケイローンを襲う。当然耐えられなくなり、ケイローンは大爆発を起こした。だが、ケイローンの破壊程度では彼の盤面に致命傷を与えることはできない。

 

司はメインステップでやることを全て終えたからか、そのままアタックステップへと移行する。その際にホークモンの【進化:赤】が発揮された。

 

 

「アタックステップ!その開始時に、ホークモンの【進化:赤】を発揮!こいつを成熟期のスピリット、アクィラモンに進化させる!」

朱に染まる薔薇園(1⇨0)LV2⇨1

アクィラモンLV3(4)BP6000

 

 

ホークモンにデジタルのベルトが巻かれて、その姿形を変えさせていく。そして新たに現れたのは、頭部から巨大な2本の角を生やした赤の巨鳥型、成熟期スピリット、アクィラモンだ。

 

 

「アクィラモンの召喚時及びアタック時効果!BP4000以下のスピリット1体を破壊する!ホムライタチを1体焼き払え!」

 

 

アクィラモンの炎を纏わせた翼撃が、2体いるホムライタチの1体を蹴散らしてしまう。ホムライタチは呆気なく破壊されてしまった。

 

 

「くっ!だが、この程度!」

「耐えられるものなら耐えてみろ!アタックステップは継続だ!やれ!アクィラモン!アタック時効果で残ったホムライタチを破壊!」

 

 

飛び立つアクィラモン。そして同じような容量で炎林の場に残ったホムライタチを破壊した。これで彼の場にいるのは疲労しているローゼンベルグ。そして残りライフは1。司の場にはアタック中のアクィラモンも含め、テイルモンの2体。これで決まったかに思われたが、ここで炎林が温存していたカードが目を光らせる。

 

 

「ここだ!……フラッシュマジック!ストームアタック!この効果で、お前のテイルモンを疲労させ、俺のローゼンベルグを回復させる!」

手札6⇨5

リザーブ3⇨1

トラッシュ12⇨14

 

「!!」

 

 

発揮される緑の究極マジック、風の方向は、ローゼンベルグには追い風だが、テイルモンには向かい風、これによって、2体の状態は逆転し、ローゼンベルグが戦闘態勢に入る。炎林は勝ちを確信する。これでアタック中のアクィラモンをブロックすれば自分の勝利だと、

 

 

「よっし!俺の勝ちだぁ!!」

 

 

ーだが、

 

 

「それはどうかな?」

「なに!?」

 

 

その発言に対し、そう言い返す司。司はこの時を待っていた。あんなに手札を抱え込んだのだ。きっとさっきのように攻防に使えるマジックが残っているはず、司はそう思ったからこそ、先ずは周りの破壊できるスピリットを破壊したのだ。さっきの【オーバーエヴォリューション】で創生されたあのカードを使用するために。

 

司はその新たなるカードを引き抜く。それはこれからの彼のバトルでも、きっとエースとして活躍してくれるであろう。

 

 

「フラッシュ、俺は手札のこのカードの効果、【ジョグレス進化】を発揮!対象はアクィラモンとテイルモン!」

「なにぃ!?【ジョグレス進化】!?なんだそれは!!」

 

 

【ジョグレス進化】その聞き覚えのない進化に戸惑う炎林と他の人達。これは彼が得た新たなる力。

 

 

「【ジョグレス進化】は自分のターンのフラッシュのみ使える進化、その対象に選ばれるのは成熟期のスピリット2体だ」

「!!」

 

 

【ジョグレス進化】は比較的【アーマー進化】に近い効果と言える。だが、その対象条件が成熟期2体のみと重たい分、それらよりも遥かに強力なデジタルスピリットが呼び出されるのは目に見えている。

 

 

「赤き巨鳥と神聖なる白き獣が混じり合う時、気高き白き獣人が姿を現わす!………ジョグレス進化ぁぁぁ!!……シルフィーモン!!」

手札4⇨5

シルフィーモンLV3(7)BP12000

 

 

アクィラモンとテイルモンは互いに上空に飛び立ち、自身のデジタルコードを分解させ、衝突し、混ざり合う。新たに現れるのは司の言う通り、バイザーを装着した白き獣人。小柄だが、そのオーラでその強さが理解できる。

 

 

「し、シルフィーモンっ!?なんだそりゃ!?」

 

 

炎林はあんなスピリットなど見たこともなかった。そもそもジョグレス進化などと言う聞いたこともない進化方法で召喚されたのだから、知らなくてもしょうがないが、

 

 

「あ、あれが、【赤羽一族の伝説のスピリット】って奴かいな?」

「い、いや、違う、あれとは別だ!……僕も知らない、あんなスピリットっ!」

 

 

真夏は直感的にあれが伝説のスピリットだと予想を立てるが、違う。あれは今さっき、司の【オーバーエヴォリューション】によって創生された新たなるカード。雅治もそれを理解していた。まさか自分の親友がこんな不思議な現象に立ち会うなど、考えてもいなかっただろう。

 

 

「す、すごい!すごいよ!司!あんな進化もあるんだぁ!」

 

 

控え室で飛び上がる椎名。ワクワクしてきたのだ。さっきバトルしたと言うのに今すぐにでも誰かを捕まえてバトルしたい気分だった。

 

 

「これが俺の新たなる力、シルフィーモンだ!」

「だ、だが、たかが1体増やしたくらいで、この差は埋まらない!お前の負けだ!」

「俺がそんな無意味なことをするように見えるか?」

「………え?」

 

 

ローゼンベルグは回復状態。いくらシルフィーモンがBPで上回っているとはいえ、残り1つのライフを減らせるような状況には見えないのも事実。

 

だが、司の言う通り、もちろんこの召喚には意味があるのであって、

 

 

「シルフィーモンの召喚時…………相手のBP12000以下のスピリット1体を破壊する」

「は、はぁ!?」

「喰らえぇ!!!聖域の凶弾!!!トップガン!!!」

 

 

シルフィーモンは両手を前に突き出しながら小さめでとてつもないエネルギーを凝縮させたエネルギー弾を放つ。それは一瞬でローゼンベルグのとこまで行ったかと思えば、その腹部を貫いてみせた。ローゼンベルグはこれに耐えられず、倒れるように力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「…………そして、【ジョグレス進化】での召喚であれば、その破壊されたスピリットのコアはリザーブではなく、トラッシュに送られる」

 

「な!?!?」

トラッシュ14⇨20

 

 

ローゼンベルグに置かれていた6つのコアが、炎林のトラッシュへと送られた。これでもはや彼に対抗する手段はない。後はシルフィーモンのアタックを待つだけ、

 

 

「これで、………終わりだ!シルフィーモン!」

 

 

高い脚力を活かし、上空に飛び上がるシルフィーモン。そしてそのまま腕のわずかに生えた羽を活かし、滑空、炎林の元へと急降下していく。

 

ヘラクレスの弟子、炎林頂は、試合前に師であるヘラクレスと交わした約束を思い出していた。その目にはほのかに涙を浮かべている。

 

 

ー『師匠!このリーグで俺は必ず勝ち残る!そしてあなたを超える!』

 

 

勝ちたかった、ただその一心で突き進んだ。その結果、同じ世帯では勝つのが困難を極める【朱雀】相手にここまでやった。それは見事と言える。だが、彼としてはやはり、この【界放リーグ】で師であるヘラクレスとバトルしたかった。恩返しも兼ねて、

 

敗北は決した。炎林はこのバトルのラストコールを宣言する。

 

 

「……………ライフで受けるっっ!」

ライフ1⇨0

 

 

急降下してきたシルフィーモンが、そのまま炎林のライフに直撃、彼の最後のライフを破壊した。これにより司の勝利となる。見事2回戦に駒を進めてみせた。

 

炎林は負けたショックからか膝から崩れ落ちる。

 

場に残ったネクサス、朱に染まる薔薇園と、ジョグレス体スピリット、シルフィーモンが役目を終えたため、ゆっくりと消滅していく。そして司はBパッドを閉じ、炎林に最後にこれだけを言い残して、控え室に戻る。

 

 

「お前は…………強かった」

 

 

炎林にはその司の背中はとても大きく見えた。互いに全力でバトルして得た、何かしらの共感なのかもしれない。それだけ張り詰めた緊張感の中でのバトルだった。

 

炎林はなんとかその場から立ち上がり、湧き上がる歓声の中、なんとか控え室への帰路につく。バトルに負けたため、荷物だけ取ったら後は観客席で観戦するだけだが、

 

 

「…………よっ!」

「!………し、師匠っ!」

 

 

スタジアムまでの通路には師であるヘラクレスがいた。彼の試合は次だからだ。

 

炎林は何故か涙が止まらなかった。悔しかったから、約束を果たせなかったから、色々とあるが、とにかく溢れんばかりの溜め込んでいた涙が、彼の瞳から溢れてきた。彼はまた膝から崩れ落ちた。

 

ヘラクレスは泣き崩れる炎林のとこまでいくと、少しだけ腰を下ろし、その下を向いた頭をポンっと叩いてこう言うだけだった。

 

 

「お前かっこええやん!」

 

 

炎林は自分が試合前に言った言葉を思い出した。

 

 

ー『はい!どんなに汚くて、かっこ悪くても必ず勝ち残ってやる!』

 

 

ヘラクレスはその後、直ぐにバトルを行うため、その場を後にした。炎林は余計に涙が止まらなくなった。コンクリートに溜まる涙が水溜りのように円を書いていた。

 

 

(さぁ、弟子がここまでやりよったんや、………次は俺の番やな)

 

 

******

 

 

司は自分の控え室で一息ついていた。なんとか勝てた試合だった。正直、途中でシルフィーモンが来なければかなり大変だった。偶然の中に必然があるというが、まさかこの場で起きるとはと考えながらも、司は次の試合を観るためにモニターのスイッチを入れた。すると、

 

 

《1回戦第三試合、勝者!緑坂冬真!!》

 

 

「…………は?」

 

 

司はその瞬間背筋が凍りつき、鳥肌が立ったのが伝わってきた。信じられなかった。もう終わっていたのだ。第三試合が、自分がここまできて、モニターをつけるのに5分とかかっていなかったといのに、ヘラクレスこと緑坂冬真は既に勝利を収めていた。負けた相手はミカファール校の獣道岳。

 

やはりこのリーグで一番の障害となるのはヘラクレス。そう考えを改める司だった。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【シルフィーモン】!!」

「シルフィーモンは新たなる進化方法、【ジョグレス進化】で召喚できる完全体のデジタルスピリット。召喚時に相手のBP12000までのスピリットを破壊したり、ライフを回復させたりできるよ!」







最後までお読みくださり、ありがとうございました!
ようやくタイトルの伏線回収できて心より満足しております。これからも慢心なく、頑張っていく所存です!


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第19話「ウルトラマンVS五の守護神!」

 

 

 

 

【界放リーグ】の1回戦も半分を終え、今は第四試合。デスペラード校、紫治夜宵と、ミカファール校の蝶花菊乃のバトルだ。そのバトルはある意味で熾烈を極めていた。

 

 

「やっとだわ、やっとあんたをトップアイドルから引きずり落とせる!」

「はは、」

 

 

アイドルバトラーの世界には、いくつかの階級というものが存在する。その1つに【20歳以下の学生】という項目が存在するのだが、紫治夜宵はアイドルっぽい活動をしているつもりはないはずなのに、なぜかこのランキングのトップだった。リポーターだったり、ラジオ番組のパーソナリティだったりと、その仕事ぶりはどちらかといえばアナウンサーに近いのに、まぁその反面、歌を歌ったりする分にはアイドルであるが、

 

本気でアイドルバトラーを目指していた蝶花菊乃は夜宵がどうしても目の上のたんこぶだった。今年からランキングに入ってきた夜宵のせいで1位だった座が、2位に引き落とされたのだ。これは彼女にとって屈辱のほかならなかった。かといっても、バトルの強さを競うこの大会で勝てたとしても、夜宵をトップから引き摺り下ろすなんてことは、また別の話になるので、不可能なのだが、

 

そんな妬ましい存在の夜宵をもうすぐ倒すことができた。それは今現在の2人の盤面を見ていればわかることであって、

 

 

【蝶花菊乃】ライフ3

剣聖姫ツル+《姫鶴一文字×3》LV3(3)BP17000(回復)

 

バースト無

 

 

【紫治夜宵】ライフ4

デビモンLV2(2)BP7000(疲労)

ピコデビモンLV1(1)BP1000(回復)

オーガモンLV1(1)BP8000(回復)

 

バースト無

 

 

そして今現在は、蝶花菊乃のターン。アタックステップに差し掛かるころだ。可愛らしい外見の少女のスピリット、剣聖姫ツルと、その周りに浮遊する3本の姫鶴一文字と呼ばれる刀。これが彼女の必勝パターンだ。

 

ツルが今、美しい翼を広げ、夜宵のライフを打つがために飛び出していく。

 

 

「終わりよ!…ツルは自分のコスト以下のスピリットからはブロックされない!!そして今のコストは3枚分の姫鶴一文字と合わせて17!……シンボルは4!」

 

 

ツルはそのコスト以下のスピリットからはブロックされない効果を持つ。そして本来1体しかできない合体を、ツル限定で何枚でも合体できる姫鶴一文字のコンボは有名だ。

 

トリプル合体のクワドラプルシンボルの攻撃が夜宵を襲う。だが、夜宵は待っていた。攻撃が集中してくるのを、

 

夜宵は手札から1枚のカードを引き抜いた。それはアンブロッカブル効果など意味のなくなるような効果を持つ、紫の強力なカード。

 

 

「フラッシュマジック!デスマサカー!」

「………え!?」

「この効果で疲労しているスピリット1体を破壊!………もちろん対象は、……剣聖姫ツル!」

「え、え、えーーーー!?」

 

 

紫の靄がツルをその美しい翼ごと包み込む。それは徐々にツルを蝕んでいく。ツルはその力に及ばず、あえなく爆発してしまった。

 

アタックしているということは、大抵のスピリットは疲労しているということになる。今回はその虚を突かれた。

 

合体状態のスピリットがアタック中に破壊された場合は、残ったブレイブがアタック状態となるが、複数のブレイブと合体している場合、そのうちのどちらか1体がアタックすることになる。今回はどれも同じなので特に関係はないが、

 

 

「ふふ、……姫鶴一文字はオーガモンで迎え撃ちましょうか」

 

 

落下してきた姫鶴一文字を鬼のような姿をした紫のデジタルスピリット、オーガモンが踏み潰し、破壊した。

 

 

「う、嘘…………」

 

 

蝶花菊乃は、まさかこんなに強烈なカウンターをくらうとは思ってもなかっただろう。これまでのバトルも全てこの一撃でどんな相手も華麗に倒してきた。だから相当な自信が彼女の心の中にはあった。

 

だが、上には上がいるというものだ。彼女は今から、自分の目の上のたんこぶに押しつぶされようとしていた。

 

 

「私のターン……………」

 

 

夜宵は着々とターンシークエンスを進め、アタックステップに入る。

 

ーそして

 

 

「ピコデビモン、オーガモン、デビモンでアタック!」

 

 

走り出す計3体の鬼や、悪魔のスピリット達、蝶花菊乃はもはやなすすべがなかった。3体のフルアタックをただ、受け入れるのみ、

 

 

「き、きゃぁぁぁぁぉあ!!!!!」

ライフ3⇨0

 

 

ピコデビモンの注射器のダーツ、オーガモンの棍棒の一撃、デビモンの鋭い鉤爪の攻撃が彼女の3つのライフを1つ残らず消しとばした。

 

これにより1回戦第四試合は紫治一族の次女、紫治夜宵が勝利する。彼女のファンを含めた大勢の観客が轟音のような歓声を上げる。

 

蝶花菊乃の敗北により、ミカファール校の代表は全滅したことになる。

 

 

「おいおい、お前さんのとこ全滅だってよ、舞空さんよ〜〜!!」

「別にいいわよ、私はこんな余興、楽しむ必要ないし」

 

 

ジークフリード校の理事長、龍皇竜ノ字がからかうようのは、ミカファール校の理事長、【大天使 舞空(だいてんし まいから)】。本歳60になる女性だ。龍皇の冷やかしにも微動だにせず茶を沸かし、飲んでいた。

 

ミカファール校はアイドルバトラーも育てることが多い学園だ。そのようなこともあって、本当にどうでもよかったのだろう。

 

そして鳴り止まぬ轟音のような歓声の中、次なる第五試合が行われようとしていた。その争う2人は、タイタス校の【光乃 国貞】と、去年、一昨年とヘラクレスにつぎ2位を独占しているオーディーン校の強者、五の守護神こと、【五護 鉄火】。

 

両雄、巨大なスタジアムの真ん中で睨み合う。

 

 

「わっはっはっは!君があの有名な五の守護神か!私はタイタス校の3年!光乃 国貞だ!よろしくぅ!」

「…………五護鉄火だ」

 

 

テンション高めの口調で語りかけてくる光乃に対し、全くと言っていいほどに顔の表情を変えない五護。その冷徹な目つきは、まるで光乃を全く眼中に入れていないようにも感じさせる。

 

温度差に雲泥の差がある2人。そんな2人がいよいよ自身のBパッドを展開して、1回戦第五試合に挑む。

 

 

「「ゲートオープン、界放!、」」

 

 

ーバトルが始まる。先行は光乃だ。

 

 

[ターン01]光乃

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!……私は!先ず!ネクサスカード!光の国を配置!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

高校生とは思えないほどにマッシブな男、光乃が先ず呼び出したのは、ネクサスカード、光の国、彼の背後に美しいエメラルドグリーンの色をした王国が誕生した。

 

 

「よし!ターンエンドだ!……さぁ!君の番だぞ!」

光の国LV1

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目など、やれることは限られてくる。光乃はそのネクサスを配置しただけでターンを終える。初手でこれを配置することが、彼のデッキにとって、とても強い動きになるということは、五護もまだ理解しきってはいなかった。

 

 

[ターン02]五護

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺もネクサスカード、機巧城をLV2で配置」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

五護の背後にもまた、ネクサスカード、白銀の城が築き上げられた。

 

 

「………バーストをセットして、ターンを終幕する」

手札4⇨3

 

機巧城LV2(1)

 

バースト有

 

 

それ以外はバーストをセットするだけで、特に何もしないでそのターンを終える五護。次は光乃のターンだ。

 

 

[ターン03]光乃

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!」

 

 

光乃とて、五護が配置したあのネクサスの効果は知り尽くしている。五護は何度も界放リーグに出場しているため、デッキの主力はある程度知られやすくなる。

 

機巧城、その効果は相手のエンドステップ時に、自分のライフが減っていなければ、ドロー。そして、スピリット展開の補助も狙える強力な効果、だったら光乃がやることは1つ。

 

 

「ライフ削るだけだ!私はネクサス!光の国の効果!名前に「ウルトラマン」と入っているスピリットを召喚する際!これを疲労させることで!軽減を全て満たしたものとして扱う!」

 

 

光の国の力が、光乃の手札へと注がれる。

 

 

「………私は相棒であるこいつ!初代ウルトラマンをLV2で召喚!」

手札5⇨4

光の国(回復⇨疲労)

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

突如、眩い閃光が一瞬の間、会場の人々を怯ませる。反射的に目を瞑る人々、そして、そこにいたのは赤と銀色のシンプルなボディが特徴的な戦士、初代ウルトラマンが現れていた。

 

 

「これがぁ!私のウルトラマンだ!その召喚時効果で!私はデッキの横にコアを3つ置く!」

カラータイマー〈3〉

 

「?」

 

 

光乃の謎の行いに、少しだけ首を傾ける五護。初代ウルトラマン。彼はコスト4ながらにしては強力なスピリットではあるものの、場にいる時間はわずか3ターン。光乃のデッキ横のコアはそのカウンターを示していた。

 

 

「行くぞ!アタックステップ!ウルトラマン!」

 

 

走り出す初代ウルトラマン。目指す先は五護のライフ。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

「八つ裂き光輪!」

 

 

初代ウルトラマンは手に光の輪っかのようなものを作成し、それを投げ飛ばす。五護のライフ1つを、文字どうり一瞬にして八つ裂きにしてみせた。

 

だが、これは五護のバーストの発動条件でもあって、

 

 

「ライフの減少によりバースト発動………絶甲氷盾、ライフを5に戻す」

ライフ4⇨5

 

 

捲き上るバースト。五護の減少したライフが瞬時に元の形を取り戻した。

 

 

「わっはっはっは!ライフを5に戻しても減ったことにはなるぞ!」

 

 

そう、結果的にはライフが減っていなくとも、一度は減らされているため、五護のネクサスカード、機巧城の効果は発揮されないのだ。五護とて、自分のカードだ。それくらいは理解しているが、

 

 

「エンドステップ!この時!初代ウルトラマンの効果によって置かれたコアを1つ自身に置く!これが0になった時!初代は私の手札に戻る!」

カラータイマー〈3⇨2〉

初代ウルトラマン(3⇨4)

 

 

初代ウルトラマンのカラータイマーが時を進める。その命は後2ターンだ。

 

そして、五護のネクサス、機巧城の効果もここで発揮される。ライフが減っていない時に発揮されるのは、飽くまでLV1のドロー効果のみ、LV2から発揮されるスピリット展開の補助効果はエンドステップに何の問題もなく使用できる。

 

 

「俺もエンドステップ、機巧城の効果で1枚オープン、それが機巧スピリットならノーコスト召喚する」

オープンカード

【リアクティブバリア】×

 

 

残念ながらハズレを引いたため、そのカードは破棄された。

 

 

「ターンエンド!」

初代ウルトラマンLV2(4)BP9000(疲労)

 

光の国LV1(疲労)

 

バースト無

 

 

そしてそのターンを終える光乃。一見、地味に見えるが、この初代ウルトラマンが帰る頃には3つのコアが増えていることになる。名称「ウルトラマン」を含むスピリットは大型が多いので、この効果は実は相当強力なものである。

 

 

[ターン04]五護

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、俺は機巧武者シラヌイをLV2で召喚」

手札4⇨3

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

地響きと共に現れたのは、まるで城のような巨躯に、青いボディを持つロボット、機巧武者シラヌイ。その存在感は光乃の初代ウルトラマンにも勝にも劣らない。

 

 

「本気を出してきたな!」

「あぁ、いけ、シラヌイ」

 

「ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

シラヌイがゆっくりと歩みを進める。光乃の目前まで近づくと、右手に持った刀を振り下ろし、そのライフを1つ切り刻んだ。

 

この後はもう彼には何もすることはない。だが、光乃の初代ウルトラマンの効果は発揮される。

 

 

「エンドステップだな!初代ウルトラマンの効果で、デッキ横のコアを光の国へ!」

カラータイマー〈2⇨1〉

光の国(0⇨1)LV1⇨2

 

 

初代ウルトラマンの光の力の一部が、故郷、光の国へ届き、そのレベルを増加させる。

 

タイマーが残り1になったこの瞬間。初代ウルトラマンの胸のカラータイマーが赤く点滅する。

 

 

「……ターンを終幕する……………わかってると思うが、シラヌイはソウルコアが置かれている間は疲労状態でもブロックができ、ブロック時にそのBPを上げる」

機巧武者シラヌイLV2(2s)BP8000(疲労)

 

機巧城LV2(1)

 

バースト無

 

 

彼のデッキでは中核をなすシラヌイだが、その効果は攻めつつ、守りに徹することができる効果。その防御能力は椎名の持つロイヤルナイツ、マグナモンといい勝負だ。

 

だが、そんはシラヌイを突破できる方法でもあるのか、光乃は未だに自身に満ちた顔をしており、

 

 

[ターン05]光乃

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

初代ウルトラマン(疲労⇨回復)

光の国(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!光の国を疲労!このウルトラマンの軽減を全て満たす!」

光の国(回復⇨疲労)

 

 

再び光の国の力が光乃の手札へと注がれる。今から召喚するのは彼のデッキの中では最強のウルトラマン。その大きすぎるコストを光の国の力でサポートした。

 

 

「LV1で召喚!ウルトラマンティガァァ!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

初代ウルトラマン(4⇨3)

トラッシュ0⇨4

 

 

またまた眩い閃光が照らし出す。新たに現れたウルトラマンは青を基準とし、紫や赤も含めたカラーリング。光の戦士、ティガが現れた。初代と並ぶその姿は圧巻の一言だった。

 

五護も少しだけ驚く表情を見せた。そもそもウルトラマンデッキとはかなりのレアカードの集まりであり、そのカードの種類は仮面スピリットやデジタルスピリットにも劣らないと言われている。

 

初代もティガもかなりのレアカードとして数えられていた。

 

 

「うぉぉお!!アタックステップゥ!ティガァ!」

 

 

走り出すティガ。ティガはアタック時にそのレベルによって効果を変える珍しい効果を持つ。レベル1は………

 

 

「相手の最もコストの高いスピリットを破壊!この場だとシラヌイだ!……いけぇ!ティガァ!ゼペリオン光線!」

 

 

腕を十字に交差し、そこから莫大なエネルギー量の光線を放つティガ。それは瞬く間にシラヌイを貫き、破壊した。シラヌイは3色の【超装甲】を持つが、その中に青はない。

 

これで五護のブロッカーは排除された、だが、光乃の怒涛の効果はまだ続く。光の国第二の効果が発揮される。

 

 

「さらに光の国LV2の効果でティガにコアを追加ぁ!その勢いでティガのLVは2に上昇!そしてそのLV2のアタック時効果を発揮!」

ウルトラマンティガ(1⇨2)LV1⇨2

 

「!!」

 

 

思わずその薄い目を見開いた五護。まさかあのティガをここまで使いこなすとは思ってもいなかった。

 

普通、ティガの効果はそのタイミング故に、どれか1つしか使用できない。だが、光乃はネクサスカード、光の国の効果により、そのティガの力の同時発揮を実現させていた。

 

光の国のLV2効果は自分の効果で相手スピリットを破壊した時、自分のスピリットにコアを追加できる。この効果がここで活かされたのだ。

 

ティガのLV2効果は……

 

 

「青のシンボルを1つ追加!さらに!LVマックスじゃないスピリットにブロックされない!」

 

 

ブロックされない効果はこの状況では意味をなさないが、シンボルの増加は大きい、ここで初代ウルトラマンとの連続攻撃で五護のライフを大きく減らすことができれば一気に優位に立つことだろう。

 

だが、五の守護神の名は伊達じゃない。彼は1枚の手札でこの攻撃を封殺する。

 

 

「少しはやるようだな…………だが詰めが甘い、フラッシュマジック、リミッテッドバリア」

手札3⇨2

リザーブ2s⇨0

機巧城(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ4⇨7s

 

「!!」

 

「この効果で、このターン、俺のライフはコスト4以上のスピリットのアタックじゃ減らない。さらにコストの支払いにソウルコア使用した時相手のネクサス1つを手札に戻す、俺は光の国を手札へと返す」

 

「おぉっと」

手札4⇨5

 

 

エメラルドグリーンの色の国が、また別の輝きを放つ光によって包まれて消滅していく。

 

リミッテッドバリア。このターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックの多くの意味をなくしてしまう程の強力な白マジック。

 

 

「ティガのアタックは当然ライフだ」

ライフ5⇨5

 

 

ティガがいくら殴ったり蹴ったりしてもライフは破壊されることはない。そして初代もまた、コスト4のスピリット、ライフを減らすことはできなかった。

 

仕方なくそのターンを終えるしかなくなった光乃。ここで初代ウルトラマンの制限時間が来る。

 

 

「エンドステップ!初代ウルトラマンの効果!コアを追加!そしてここで一旦お別れだぁ!」

カラータイマー〈1⇨0〉

手札5⇨6

 

 

初代ウルトラマンは遥か上空の宇宙へと飛び出した。この置かれたコアがなくなった時、彼は光乃の手札へと一旦帰ってしまうのだ。

 

そしてこのタイミングで行われるのは初代ウルトラマンの効果だけではない。五護のネクサス、機巧城の効果も発揮される。

 

 

「機巧城のLV1の効果、このターン、俺のライフの減少がなかったため、デッキから2枚ドロー」

手札2⇨4

 

「……ターンエンドだ!」

ウルトラマンティガLV2(2)BP12000(疲労)

 

バースト無

 

 

そのターンを終える光乃。この瞬間、いや、本当はリミッテッドバリアでティガの攻撃を防がれた時だったか、

 

なぜかこの男のライフは減らさないと錯覚している自分がいた。たったこれだけのことなのに、なぜだろうか、あの凍てつくような冷たい視線によるプレッシャーなのか、

 

彼がそんなことを考えている間にも五護はターンシークエンスを進める。その理由はそのターンでわかることだった。

 

 

[ターン06]五護

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ、俺はネクサスカード、要塞都市ナウマンシティーをLV1で配置」

手札5⇨4

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨4

 

「なっ!?それは!……白の強力ネクサスカード!」

 

 

要塞都市ナウマンシティー。光乃の言う通り、白属性の強力なネクサスカードだ。最も恐ろしいのはその配置時効果。

 

 

「この配置時効果を使い、俺のデッキのエースを召喚する!………来い!我が牙城を完璧なものにせよ!大機巧武者コンゴウ!!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨1

 

 

ナウマンシティーから発車してきたのは、シラヌイよりもかなりサイズが向上した機巧武者。その名はコンゴウ。その白銀のボディで五護の城を守り抜く。

 

コンゴウは五護のエーススピリットだった。だが、その重たいコスト故に召喚するのが遅くなりがちだった。彼はそれをネクサスカード、ナウマンシティーを使うことによって補った。これは去年一昨年は使用していない戦法であり、

 

 

「機巧城のLVを2に上げ、アタックステップ、やれぇ!コンゴウ!その効果でソウルコアが置かれていない相手スピリット、貴様のティガを手札に戻す!」

リザーブ1⇨0

機巧城(0⇨1)LV1⇨2

 

「ぬっ!しまった!!」

 

 

コンゴウがその手の持つ、巨大な棍棒を振り回す。それによって発生した竜巻によって、ティガは巻き込まれて消滅した。迂闊だったか、光乃のソウルコアは初代ウルトラマンに置かれていて、現在はリザーブに存在していた。

 

そして、コンゴウの恐ろしいところはそれだけではない。コンゴウはソウルコアが置かれていたらさらに厄介な効果を有する。

 

 

「さらに、コンゴウにソウルコアが置かれているため、ティガをそのまま手札ではなく、貴様のデッキの下へと落とす」

「な!?」

 

 

これぞコンゴウの自己完結した恐ろしいコンボだ。バトルするだけでソウルコアが置かれていないスピリットはデッキの底へと送られてしまう。

 

ティガのカードが光乃のデッキの下に送られていく。

 

 

「さぁ、アタックはどう受ける」

 

「むっ!ライフしかあるまい!」

ライフ4⇨3

 

 

コンゴウの振り回す棍棒の一撃が、光乃のライフを直撃する。ゆっくりだが、確実に彼のライフは減ってきている。

 

 

「……ターンを終幕する」

大機巧武者コンゴウLV2(3s)BP14000(疲労)

 

機巧城LV2(1)

要塞都市ナウマンシティーLV1

 

バースト無

 

 

そのターンを終える五護。次は光乃のターン。

 

 

[ターン07]光乃

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ8⇨9

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ9⇨13

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!私は再び光の国を配置!」

手札7⇨6

リザーブ13⇨9

トラッシュ0⇨4

 

 

光乃は再び背後に光の国を配置する。そして反撃するべく、さらなるウルトラマンを展開する。

 

 

「光の国の効果!ウルトラマンを召喚する際!疲労させ!軽減を満たす!」

光の国(回復⇨疲労)

 

 

三度その光の国の力が光乃の手札に流れ込む。そして次に召喚されるウルトラマンは………

 

 

「召喚!ウルトラセブン!LV2!」

手札6⇨5

リザーブ9⇨4

トラッシュ4⇨7

 

 

現れたのは初代や、ティガとは全く容姿が異なるウルトラマン。多彩な技を持つ栄誉あるウルトラマン。ウルトラセブンが登場した。セブンには召喚時効果があり、

 

 

「セブンの召喚時効果!最もコストの低いスピリットを破壊!狙うはコンゴウだ!………アイスラッガー!!」

 

 

セブンは頭部にあるアイスラッガーと呼ばれる武器をコンゴウに向かって投げる。だが、

 

 

「コンゴウは貴様のターン時に、機巧スピリットに相手のスピリットとアルティメットの効果を受けなくする効果がある。その効果は受けない」

 

 

真っ向から堂々とそれを受けるコンゴウ。あんな鋭利な物、普通なら直ぐに切り刻まれるだろう。だがコンゴウはそれを受けてもその装甲にはかすり傷1つつかなかった。

 

光乃とてその効果は理解している。コンゴウは、五護のコンゴウはとても有名なスピリットになっているのだから。

 

だが、コンゴウはシラヌイとは違い、疲労ブロッカーになる効果を持っていない。光乃の狙いはそこだ。今度は手札に戻ったあの英雄を召喚する。

 

 

「さらに!私は初代ウルトラマンを再召喚!LVは1だ!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ7⇨9

初代ウルトラマン(1s)LV1

 

 

再び現れる初代ウルトラマン。光乃のデッキ横にもまたコアが置かれる。これでウルトラ兄弟の次男と三男が並んだ。光乃はこの2体で畳み掛ける。ライフ5をキープしようとする五護のライフを1つでも削るために。

 

 

「アタックステップ!初代でアタックだ!」

 

 

走り行く初代。目指すは五護のライフ。

 

五護が自由に使えるコアは4つ。軽減があるにしても、使えるマジックやカウンターはある程度限られてくる。だが、五護はこのタイミングでも手札の1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「がっかりだ、もうその程度の攻撃しかできないとは…………………フラッシュマジック!光翼之太刀!不足コストは機巧城のLVを落として確保!対象はコンゴウ!」

手札3⇨2

機巧城(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ4⇨5

 

「ぬっ!まだそんなのを!?」

 

「これにより、このターン、コンゴウのBPを3000上げ、疲労ブロッカーとする…………………………初代のアタックはもちろんこのコンゴウがブロックしよう!」

大機巧武者コンゴウBP14000⇨17000

 

 

眼光を輝かせるコンゴウ。再起動したその鋼の装甲で、初代を迎え撃つ。そして自身のアタック/ブロック時効果で、対象に選ぶのは当然……

 

 

「コンゴウの効果でソウルコアが置かれていない、セブンをデッキの下に戻す!」

「ぐっ!」

 

 

再び自身の棍棒を振り回し、その風圧で強力な竜巻を発生させるコンゴウ。セブンはそれに巻き込まれて消滅してしまった。

 

そしてこれは初代とコンゴウのバトル中であって、……そのBP差は天と地ほどの差がある。

 

初代ウルトラマンは腕を十字に交差し、右手部からスペシウム光線も呼ばれるエネルギーを放つ。だが、コンゴウにはかすり傷1つつかず、そのままコンゴウの棍棒の一撃をもろに受け、吹き飛ばされてしまった。

 

力尽きたウルトラマンは、点滅していく胸のカラータイマーの光が消え、ゆっくりとその姿を消滅していった。

 

ー光乃の光は消えた。

 

 

「はっは!…ごっちーの奴!また硬くなりやがったなぁ!」

 

 

そんな一言を呟くのは、自分の控え室のモニターでそれを観戦しているヘラクレスこと、緑坂冬真。

 

毎年必ず彼と決勝の舞台に立つので、彼のデッキのことをある程度理解しきっているのだろう。年が増すほどにあのデッキはより硬く、強固になっている気がしていたのだ。

 

 

「もう貴様にやれることはない。俺はネクサス、機巧城の効果、カードを2枚ドローする」

手札2⇨4

 

 

機巧城が追い打ちをかけるように五護にさらなるドローの恵みを与えた。

 

 

「た、ターンエンドっ」

光の国LV1(疲労)

 

バースト無

 

 

ターンを終了せざるを得ないだろう。幾ら何でも圧倒的すぎる。相手は同じ3年生だと言うのに。今まで影でずっと努力していた自分とここまで差があるとは、光乃も思っていなかった。

 

次は五護のターン。これがラストターンとなるだろう。

 

 

[ターン08]五護

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

大機巧武者コンゴウ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、巨腕の機巧武者ラカンをLV1で召喚する」

手札5⇨4

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

地響きとともに現れるのはコンゴウよりも巨躯の体格に加えて、巨大な手を持つ機巧武者、ラカン。ラカンは一度のアタックで相手のライフを2つ破壊できるダブルシンボルのスピリットだ。

 

五護はこれだけ召喚すると、直ぐにアタックステップに入った。

 

 

「アタックステップ、やれ、ラカン」

 

「ら、ライフで受け…………むぉぉお!」

ライフ3⇨1

 

 

ラカンの巨大な両手が光乃のライフを一気に2つ握り潰した。そしてこれがラスト。コンゴウが背のブースターを器用に使い、走り行く。

 

 

「終わりだ、コンゴウ」

 

「……いいバトルだったぞぉお!五の守護神んん!……ライフで受けるぅ!!」

ライフ1⇨0

 

 

最後まで礼儀正しい自分を貫く光乃国貞。コンゴウの最後の一振りが、そんな彼の最後のライフを無慈悲に破壊していった。これで勝者は五護鉄火。見事に2回戦へと進出していった。

 

彼が勝つバトルでは、あるジンクスがあった。それは、【五護のライフが5のままである】ということ。

 

通常、バトルスピリッツというゲームは、試合が進むにつれ、自ずと互いにライフが減っていくもの、だが、彼のバトルはなぜかずっと5がキープされたまま勝ってしまうのだ。そんなバトルを続けていたからか、いつしか彼は【五の守護神】と呼ばれるようになった。

 

 

「ウルトラマンデッキ、なかなかパワフルだったが、今ひとつたらなんだ……………やはりお前だけだ冬真。俺にいい攻撃を浴びせてくれるのは」

 

 

【界放の三英雄】。そう呼ばれるものたちがいた。それは【ヘラクレス】こと、緑坂冬真と、【五の守護神】こと、五護鉄火と、【エンペラー】こと、吸血堕天だ。

 

彼らはもはや学生が到達できるそれをはるかに超えていた。2年前からずっとこの3人が1位から3位までを独占し、争っていた。

 

そして今年はそんな彼らが3年に上がり、当たり前のように他校の代表になった3年生達を倒していっている。普通ではそんなに実力の差が開くことはない。本当に圧倒的だったのだ。彼らは。

 

ーそんな彼ら3人を倒せるほどの人物が、ダークホースが今大会で現れるのだろうか。

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【初代ウルトラマン】!!」

「初代ウルトラマンは青のコスト4のスピリット!強力なスピリットだけど3ターンで、一度エネルギー補給のために手札に戻っちゃうよ!」







最後までお読みくださり、ありがとうございました!
ウルトラマンに関してはまたどこかでちょくちょく出そうと思っています。
今まで、デジタルスピリット、仮面スピリットとコラボカード達は皆、そう呼んできましたが、系統に成長期や、仮面などの特別な系統を持たないウルトラマンや、ゴジラ達は飽くまで普通のスピリットとして登場させますので、ご了承ください。


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第20話「エンペラーの脅威!仮面ライダーキバ!」

 

 

 

 

大いに盛り上がった界放リーグの1回戦も残すところ後一試合。残った2人がこの巨大な中央スタジアムに上がってくる。タイタス校1年の岸田空牙と、【エンペラー】とも呼ばれているデスペラード校3年の吸血堕天だ。

 

 

「いやぁ!やっと出番だ!よろしくお願いします!吸血先輩!」

「うるさいぞ、愚民……さっさと始めるぞ」

「えぇっ、辛辣っすねー」

 

 

ー吸血堕天。バトスピ一族の1つ、【吸血一族】の末裔でそのエリート。彼は昔からバトスピの英才教育を受け、貴族さながらの家庭で育った。それ故に一族ではない普通のカードバトラーを「愚民」、または「下民」というふうに見下していた。

 

そして彼は【吸血一族】に伝わる最強のデッキを授かっている。ただ、それを使用しても、去年、一昨年とヘラクレスや、五の守護神に敗れている。彼らはなんの一族にも属さないので、彼からしたらそのことは屈辱的なことであって、

 

ーそして1回戦最後の試合、第六試合が幕を開ける。2人はBパッドを展開し、バトルの開始を宣言した。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

ーバトルが始まる。先行は吸血。

 

 

[ターン01]吸血

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、バーストを伏せ、ターンを終了する」

手札5⇨4

 

バースト有

 

 

吸血の場に早速バーストが伏せられた。だが、彼が行ったのはそれだけで、スピリットやネクサスを呼び出すことなくそのターンを終えた。

 

次は空牙のターン。彼はその胸を高鳴らしていた。この界放市のバトラーにとって、界放リーグに出場することはとても栄誉のあること。空牙はそれに憧れがあった。しかもその初戦の相手が去年、一昨年で3位入賞の吸血。俄然燃えてくる。

 

ーしかも吸血は空牙と同じ仮面スピリットの使い手だ。当然空牙もこのことを知っている。そのことも相まって、彼のテンションはマックスに上り詰めていた。

 

 

[ターン02]空牙

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「うぉぉお!!メインステップゥ!仮面ライダークウガ!マイティフォームをLV1で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

「!…仮面スピリットだと!?」

 

 

空牙が早速呼び出したのは炎のように赤く燃え滾る色をしている仮面スピリット、クウガのベースフォーム、マイティフォーム。

 

咄嗟に仮面スピリット使い同士のバトルと知った途端、吸血は不快な顔をする。

 

 

「貴様っ!……下民如きが何故仮面スピリットを使う!」

「ん?いやなぜって、カッコいいからに決まってるでしょ!見てくださいよ〜!この赤いフォーム!」

「……下民には仮面スピリットやデジタルスピリットは似合わん!昔で言う貴族、今で言う一族にこそそれは相応しい!」

「む!別にいいじゃねぇっすか!使うくらい!」

 

 

ドスの効いた口調で空牙を威圧するかのようにそう言い放つ吸血。

 

吸血は本気だ。本気で仮面スピリット、クウガを使う空牙を否定している。今の時代は様々なデッキが飛び交うバトスピの時代。その過程でデジタルスピリットや仮面スピリットの使い手が増えるのは必然であると言うのに。それは彼に教育を施した父の影響でもあって、

 

空牙も空牙で本気でその言葉を受け取ってはいない。軽く受け流している。彼は兎に角器がでかい。その程度の文句など意に介することは絶対にありえない。

 

 

「よっし!気を取り直してぇ!バーストをセットォ!アタックステップゥ!いけぇ!マイティフォーム!」

手札4⇨3

 

 

空牙の場にバーストが伏せられる。

 

そして空牙の支持を聞き、全速力で走り出すクウガ マイティフォーム。吸血の場は何もなく、バーストのみ。この攻撃は当然。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

マイティフォームの炎を纏わせた強烈なパンチが、吸血のライフを1つ豪快に破壊した。

 

だが、これは吸血のバーストの発動条件でもあって、それは彼のデッキの中核を担うスピリットカードだ。

 

 

「ライフの減少によりバースト発動!仮面ライダーキバ キバフォーム!」

「!??!」

「キバフォームはバースト効果で相手のスピリットのコアを2つリザーブに送った後に、召喚される……僕が対象に選ぶのは当然マイティフォームだ!消え失せろ!下民の仮面スピリットよ!」

 

「ぐっ!」

仮面ライダークウガ マイティフォーム(1⇨0)消滅

 

 

マイティフォームの頭上に現れるのは謎の黒い人影。それは上空からマイティフォームに強烈なかかと落としを浴びせた。

 

コアの損失により、マイティフォームは消滅した。そして飛び跳ねるように吸血の場に姿を現した。それは【吸血一族】に伝わる最強のデッキのカード、【キバ】だ。そしてこれはそのフォームの1つ、最も基本的で中核を担うキバフォームだ。

 

 

「おぉ!これが吸血先輩のキバか!」

 

「ふん!……キバフォームの召喚時により、デッキからカードを1枚ドローする」

手札4⇨5

 

 

キバフォームの持っている効果は紫属性のデッキでは最も重要な効果。吸血は手札を少しだけ潤わせる。

 

 

「このターンはエンド!」

 

バースト有

 

 

アタックするスピリットを失ってはしょうがない。空牙はこのターンを終えた。

 

 

[ターン03]吸血

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

 

 

「メインステップは特に何もせずにアタックステップ、やれ、キバフォーム」

 

 

キバフォームが走り行く。目指すは空牙のライフ。空牙も場にバーストのみ、アタックは当然ライフで受けるしかなかった。

 

 

「ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

キバフォームの強烈なパンチが空牙のライフを1つ破壊した。

 

だが、吸血同様、ライフの減少がバースト発動の条件だ。それが勢いよくひっくり返る。

 

 

「ライフの減少でバースト発動!ダイナバースト!……この効果でBP10000以下のスピリット1体を破壊!キバフォームを破壊!」

 

 

キバフォームの足元から突如として火柱が立ち上る。キバフォームはそれに焼かれ、瞬く間に焼失した。

 

ーだが、

 

 

「キバフォームはLV2の時、手札のカードを1枚破棄することによって、手札に戻る………僕はこのカードを破棄する」

手札6⇨5⇨6

破棄カード

【キャッスルドラン】

 

「!!」

 

 

焼失したキバフォームだったが、その魂であるカードだけは吸血の元に戻っていった。

 

 

「キバフォームは死なん…………これでターンを終了する」

 

バースト無

 

 

キバフォームは帰還したものの、今度はバーストもスピリットもなくそのターンを終了してしまった吸血。だが、その顔には余裕の表情を浮かべており、

 

 

[ターン04]空牙

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!(……とは言ったものの、この手札じゃ攻められない…………ここは待つか)」

 

 

意気込んでターンシークエンスを進める空牙だったが、その手札にはこのターン攻めることができるスピリットはいない。吸血の場にスピリットもバーストもいない絶好のタイミングだと言うのに。

 

だが、やれることがないわけじゃない。空牙はなんとか手札と場のシンボルを整える作戦に切り替える。

 

 

「俺はネクサスカード、燃えさかる戦場〈R〉を配置!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨4

トラッシュ0⇨3

 

 

空牙の背後に山火事のように燃え滾る戦場が出現した。これはBPが低めになりがちなクウガには相性バッチリのカードであって、

 

そして空牙はさらに手札を使う。

 

 

「さらに、マジック、ソウルドローを使用する!ソウルコアも支払って、デッキから3枚のカードをドローする!」

手札3⇨2⇨5

リザーブ4s⇨0

トラッシュ3⇨7s

 

 

一気に手札の枚数を稼いだ空牙。だが、攻勢に回ることはできない。このターンは盤面に使えないネクサスだけを残して終了する。

 

 

「ターンエンド」

燃えさかる戦場〈R〉LV1

 

バースト無

 

 

次は吸血のターンだ。

 

 

[ターン05]吸血

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ6⇨7

《ドローステップ》手札6⇨7

 

 

「メインステップ、再びバーストを伏せ、仮面ライダーキバ ガルルフォームをLV2で召喚」

手札7⇨6⇨5

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

「おぉ!別フォームのキバ!」

 

 

再びバーストが伏せられると同時に現れたのは仮面ライダーキバ ガルルフォーム。

 

さっきのキバフォームは赤色が基準だったが、今度のフォームは青色が基準。そのフォルムはとても野性的だ。口には刀の様なものが咥えられている。

 

 

「アタックステップ、ガルルフォームでアタック」

 

 

野性的で低い姿勢のまま走り出すガルルフォーム。その動きはとても早く、目で追うのが精一杯だ。

 

空牙はこのターン、反撃のすべがない。

 

 

「このターンは仕方ない!ライフだ!」

ライフ4⇨3

 

 

ガルルフォームの素早い一撃が空牙のライフを貫いた。

 

だが、ガルルフォームの攻撃はこれだけでは終わらなかった。その効果が使用される。

 

 

「ガルルフォームの効果!ガルルフォームはライフを減らした時、ターンに一度だけ回復する!」

仮面ライダーキバ ガルルフォーム(疲労⇨回復)

 

「なにぃ!?」

「今一度引き裂け!ガルルフォーム!」

 

 

ガルルフォームの効果だ。単純に攻撃回数が増えるだけでなく、ブロッカーにも使える利便性の高い効果だ。ただ、今回は攻勢に回されたが、

 

 

「ライフで受ける!…………ぐぅっ!」

ライフ3⇨2

 

 

ガルルフォームの咥えられた刀の一撃が、空牙のライフをさらに1つ破壊する。

 

 

「ターンを終了する………他愛もないな、下民。……口ほどにもないじゃないか」

仮面ライダーキバ ガルルフォームLV2(3)BP4000(疲労)

 

バースト有

 

 

「まだまだ、これからっすよ!先輩!」

 

 

鼻で小馬鹿にする様に空牙とそのデッキを侮辱する吸血。だが、空牙とて、このまま引き下がることはない。なんとかこの盤面をひっくり返す策を考える。

 

 

[ターン06]空牙

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨10

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!一気に行くぜ!ゴウラムを召喚!」

手札6⇨5

リザーブ10⇨8

トラッシュ0⇨1

 

 

クワガタの様なスピリット、ゴウラムが飛翔した。ゴウラムは仮面スピリットではないものの、それをサポートできる優秀なスピリットだ。

 

 

「その召喚時の効果で、トラッシュに落ちたマイティフォームを手札に加える!」

手札5⇨6

 

 

トラッシュのマイティフォームのカードが、空牙の元にひらひらと舞い戻る。

 

 

「さらに、今戻ったマイティフォームと、クウガ&トライチェイサー2000をLV2ずつで連続召喚だ!」

手札6⇨4

リザーブ8⇨0

トラッシュ1⇨3

 

 

空牙の場に再び姿を見せるマイティフォーム。そしてもう1体はバイクに乗ったマイティフォーム。その攻撃力は計り知れない。

 

並べられたこの3体のスピリットでアタック、……………かと思われたが、空牙がとった選択はとても意外なもので、

 

 

「アタックはしない!ターンエンドだ!」

ゴウラムLV1(1)BP2000(回復)

仮面ライダークウガ マイティフォームLV2(3)BP4000(3)BP4000(回復)

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000LV2(3)BP6000(回復)

 

燃えさかる戦場〈R〉LV1

 

バースト無

 

 

「アタックしないだと?……僕のバーストに恐れをなしたか下民よ」

「ハッハッハ!それはどうかな?さぁ!次は先輩のターンっすよ!」

 

 

空牙には当然考えがあった。今現在、吸血が伏せているバーストはさっき効果により戻った仮面ライダーキバ キバフォームと見てまず間違いない。

 

だったら1つだけあるのだ。あのバーストを使わせた挙句、彼のライフを全て破壊する方法が。

 

 

[ターン07]吸血

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

仮面ライダーキバ ガルルフォーム(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、ガルルフォームのLVを3に上げ、アタックステップ、再びガルルフォームでアタックしよう」

リザーブ5⇨3

仮面ライダーキバ ガルルフォーム(3⇨5)LV2⇨3

 

 

ガルルフォームのLVが上がり、BPが7000となる。

 

そしてガルルフォームは狼の様に地を駆ける。空牙の場にはガルルフォームにBPで勝るスピリットはいない。

 

が、対抗するすべがないわけではない。空牙は手札のカードを1枚引き抜いた。

 

 

「フラッシュ!クウガ ペガサスフォームの【チェンジ】発揮!対象はマイティフォーム!………回復状態でこれを入れ替える!」

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ3⇨5

仮面ライダークウガ ペガサスフォームLV2(3)BP4000

 

「!!」

 

 

マイティフォームの中心にに竜巻が発生する。マイティフォームはその中で体の色を変えて行く、そして新たに現れたのは緑のクウガ、ボウガンの様な武器を所持したペガサスフォーム。

 

 

「ペガサスフォームの【チェンジ】の効果!BP7000まで相手のスピリットを好きなだけ破壊!…………ガルルフォームはもらったぁ!」

 

 

ペガサスフォームはそのボウガンに風の力を集中させ、一気に放つ。それは瞬く間にガルルフォームの胸部を撃ち抜いた。ガルルフォームは勢い余って転げ落ちながら力尽き、爆発した。

 

 

「下民如きが………【チェンジ】を使うだと!?」

「仮面スピリットも今や多様化の時代っすよ!先輩!」

 

 

彼にとって仮面スピリットを一族でもない者が使用するのはとても腹ただしいことであって、

 

特に単なる憧れだけで仮面スピリットを使用する空牙など彼にとっては一番気に入らないタイプであった。

 

だが、このターンではその怒りは自分の中に閉じ込めておくしかない。吸血は仕方なくそのターンを終えることになった。

 

 

「…………ターンを終了する」

バースト有

 

 

吸血の場には何もない。空牙は今が攻め時だと見て次のターン。自分のデッキのエースをチェンジさせる。

 

 

[ターン08]空牙

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップゥ!再びマイティフォームを召喚!LV3!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

三たび仮面ライダークウガ マイティフォームは姿を現した。

 

そして空牙はアタックステップに移行する。このバトルの決着をつけるために。

 

 

「アタックステップゥ!マイティフォームでアタック!………マイティフォームのLV3のアタック時の効果でカードを2枚ドローする!」

手札4⇨6

 

 

走り出すマイティフォーム。狙うは吸血のライフだが、ここで空牙はマイティフォームを対象に【チェンジ】させる。いや、もはやそれを【チェンジ】と言っていいのかは定かではない。何せ、それはクウガの進化系なのだから。

 

 

「そして!フラッシュ【チェンジ】!発揮!対象はマイティフォーム!」

リザーブ1⇨0

仮面ライダークウガ マイティフォーム(4⇨3)LV3⇨2

仮面ライダークウガ ペガサスフォーム(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ1⇨5

 

「!!」

 

 

マイティフォームの頭上に莫大な雷エネルギーが投下される。マイティフォームはそれを吸収し、強化される。

 

 

「雷を纏え!マイティ!……………俺のエース!ライジングマイティにチェンジ!…………ライジングマイティの【チェンジ】の効果発揮!このターン、俺のすべてのスピリットをダブルシンボルにする!」

 

 

強化されたマイティフォームの名は、仮面ライダークウガ ライジングマイティ。その雷のエネルギーは他のスピリット達にも伝染する。

 

ダブルシンボルということは、一度のアタックで2つのライフを破壊できるということだ。吸血のライフは4。つまり2回。2回のアタックを倒せば彼のライフを0にできる。

 

 

「【チェンジ】で入れ替わったスピリットは、元となったスピリットがバトル中であればそのままバトル続行!………いけぇ!ライジングマイティ!」

 

 

空牙の場のスピリットは合計で4体。回復状態のライジングマイティの追撃の事も考えると合計でダブルシンボルのアタックを5回行うことができる。

 

あのバーストは仮面ライダーキバ キバフォームであってもそれを通り越して吸血のライフを0にすることが可能だった。

 

ーが、このバトル中、誰もあの吸血のバーストがキバフォームであると言及してはいない。

 

 

「やはり愚かな下民だな、お前は……………………ライフで受ける」

ライフ4⇨2

 

 

ライジングマイティの炎と雷を纏わせた強烈なドロップキックが、吸血のライフを一気に2つ破壊した。

 

そしてここでライフ減少後のバーストを発動させる。それはこの場ではとても想像できなかったものであって、

 

 

「ライフ減少後のバーストを発動、………………絶甲氷盾!」

「………なに!?…き、キバフォームじゃない!?」

 

 

予想されたバーストとは全く別のバーストを伏せていた吸血。そう錯覚させられていたのだ。一度そのバーストを見せ、手札に戻し、もう一度バーストを伏せる事で、そのバーストが同じバーストであると印象付けられていた。

 

そして実際に伏せられていたのはどの色でも気軽にデッキに入れることのできる防御マジック。

 

 

「この効果でライフを1つ回復し、コストを払い、このターンのアタックステップを終了させる………誰がこのバーストがキバフォームだと言った?」

ライフ2⇨3

リザーブ10⇨6

トラッシュ0⇨4

 

「ぐっ!」

 

 

仮面スピリット達でも身動きができなくなるほどの猛吹雪が空牙の場を襲う。これではもはやアタックなど行えない。

 

はめられた。完全に。吸血がそういうことをした理由はただ1つ。この次のターンで決めれるようにするためだ。

 

 

「…………ターンエンド」

仮面ライダークウガ ライジングマイティLV2(3)BP10000(回復)

仮面ライダークウガ ペガサスフォームLV1(1)BP3000(回復)

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000LV1(1)BP4000(回復)

ゴウラムLV1(1)BP2000(回復)

 

燃えさかる戦場〈R〉LV1

 

バースト無

 

 

仕方なく空牙はそのターンを終了させ、吸血にそれを渡した。

 

 

[ターン09]吸血

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ6⇨7

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ7⇨11

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、再び仮面ライダーキバ キバフォームを召喚、LV2」

手札7⇨6

リザーブ11⇨5

トラッシュ0⇨3

 

「!!」

 

 

吸血は回収していたキバフォームをようやくここで呼び出した。このスピリットを軸に、今度は吸血のエーススピリットが呼び出される。それはとても強力極まりないものであって、

 

 

「さらに俺は【チェンジ】を発揮させる………対象はキバフォームっ!……【チェンジ】の効果で、お前のスピリットすべてのコアを2つずつリザーブへ送る!」

リザーブ5⇨0

 

「なに!?……………うぉっ!」

ゴウラム(1⇨0)消滅

仮面ライダークウガ ペガサスフォーム(1⇨0)消滅

仮面ライダークウガ&トライチェイサー2000(1⇨0)消滅

仮面ライダークウガ ライジングマイティ(3⇨1)LV2⇨1

 

 

突如発生した紫の斬撃を飛ばすかのような衝撃波。それは空牙の場のスピリット達を一切に切り刻んで行った。辛うじてライジングマイティだけがLV1として生き残るも、他のスピリットはその姿を消滅させてしまった。

 

そしてこの効果の後は【チェンジ】による入れ替えだ。キバフォームが姿を変える。それはキバのデッキで最強のスピリットであって、

 

 

「今こそ真の姿を現せぇ!黄金のキバ!エンペラーフォーム!」

仮面ライダーキバ エンペラーフォームLV2(3)BP9000

 

 

キバフォームの鎧が弾け飛ぶように砕け散る。そして文字通り真の姿が解放される。その真なる鎧は黄金に輝いてるおり、手には鋭利な剣も確認できる。

 

これが仮面ライダーキバの最強フォーム。仮面ライダーキバ エンペラーフォームだ。

 

 

「す、すげぇ!これがキバの最強フォームっ!こんな間近で見せてくれるなんて、………先輩、最高すぎるぜぇ、」

「まだそんなことをほざくかぁ!……この下民がぁ!今に終わらせてやる!」

 

 

勢い余るように、吸血はアタックステップに入る。

 

 

「いけぇ!エンペラーフォーム!………アタック時効果で、お前の残ったクウガ ライジングマイティを破壊し、ライフを1つトラッシュに送る!…………ザンバットソード!!」

 

「ら、ライジングマイティ!!!……………うぉぉお!!」

ライフ2⇨1

 

 

エンペラーフォームの素早い剣撃により、ライジングマイティは一瞬にしてその体を切り刻まれ、力尽き、爆発してしまう。そしてエンペラーフォームはそのライジングマイティの魂を自身の剣に吸収させ、それを斬撃として飛ばし、空牙のライフを1つ破壊した。

 

ーそしてこれがエンペラーの本命のアタック。空牙にもはやそれに対抗する術はない。ラストコールが宣言される。

 

 

「くたばれぇ!この下民がぁ!」

「へっ!ありがとうございます!次に会う時はもっと強くなるので!………………ライフで受ける!」

ライフ1⇨0

 

 

なぜこの空牙はここまで毛嫌いする吸血に対し、ここまで広い心を持てるのか…………

 

エンペラーフォームのザンバットソードが、彼の最期のライフを無慈悲に引き裂いた。

 

これで第1回戦、第六試合の勝者は、デスペラード校3年。【エンペラー】こと、吸血堕天だ。1年生の空牙にその圧倒的な力の差を見せつけた。

 

 

「…………ちっ!薄汚い下民がっ!………思い知ったか、吸血一族のキバこそが至高にして頂点なのだ」

 

 

吸血はその言葉だけを空牙に言い残して、控え室へと戻る。

 

空牙は終始笑顔を振舞っていたが、最期の最後で悔しがるように歯を噛み締め、拳を強握っていた。やはり悔しかったのだろう。同じ仮面スピリットのバトルで敗北を喫したのだから。

 

だが、同時にもっと強くなろうとも考えた。同じ仮面スピリット使いがあんなに強いのだ。自分ももっと強くられる。そう思っていた。

 

強いて言うならば、司と椎名にリベンジできる機会を失ったのが、心残しか……

 

この空牙の敗北により、今年のタイタス校の代表生は全滅した。VIPルームで観戦していたタイタス校の理事長、【英雄 拳(えいゆう こぶし)】はこの結果にため息をついていた。

 

 

******

 

 

「………あいつ以来だ……あんなにバトルを楽しくなさそうにする人………」

 

 

自分の控え室でそう呟いたのは、芽座椎名だ。その言葉の対象の人物は先のバトルの吸血堕天のことだ。彼はバトルスピリッツと言うゲームを全く楽しんでいないように椎名は見えた。

 

椎名がこの界放市に来て、半年は経ったが、そこでは今までどんなに変わり者でも、捻くれていても、バトルスピリッツを楽しんでいるものばかりだった。だが、彼は、吸血堕天は違う。何かとても重たいものを背負っているかのような、そんな重々しい感じでバトルしているのが椎名にはわかった。

 

そんな人物を椎名は1人知っている。年上で…………その彼の話はいつかきっとすることであろう。

 

 

《これで1回戦、すべての行事が終了致しました。翌日からは2回戦です。》

 

 

そんな無機質なアナウンサーの声が聞こえてくる。そしてその放送は、明日の対戦発表も発表した。

 

椎名はそのアナウンスを聞き逃さなかった。明日、自分と2回戦で対戦するのは【エンペラー】、吸血堕天だ。

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム】!!」

「吸血一族に伝わるキバデッキの最強スピリット!【チェンジ】の効果で全ての相手のスピリットのコアを2つずつリザーブに置く効果と、アタック時に相手のコア3個以下のスピリットを破壊してライフを破壊できる効果を持ってるよ!」







最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!


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第21話「2回戦開始、ブイモンVSキバ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

季節は秋、肌寒い夜の中、椎名は1人、自分の住まうマンションの一室で、パジャマに着替えてベッドに転がっていた。頭の中で明日の2回戦の相手である吸血のことを頭に浮かべる。イメージトレーニングだ。

 

彼は、吸血はどこか、椎名のよく知る人物である【芽座 葉月(めざ はずき)】に似ているところがあった。

 

芽座葉月とは、椎名がじっちゃんと慕う、芽座六月の実の孫である。椎名の5つ上であり、兄妹さながらに育てられた。

 

だが、そんなある日、彼が16になる頃、六月と大喧嘩をしてしまい、それが原因となり、彼は家出をして、それっきり帰ってこなくなった。椎名は未だその喧嘩の発端を知らない。

 

葉月は昔からバトルスピリッツと言うゲームを楽しんでいるようには見えなかった。腕は確かだが、それ故にか、さらに力だけをつけようという上昇志向の持ち主だった。

 

 

「……………今頃どうしてるのかなぁ〜……葉月の奴………」

 

 

椎名は知らないうちに考えていることが吸血から葉月に変わってしまっていた。

 

葉月が居なくなってもう5年の歳月が経つか、あの日以来、六月はたまに葉月を探すために旅に出るようになった。心配だったからだ。祖父として、

 

椎名も当然心配だった。彼は意地悪で、冷たくて、椎名をよく虐めていたが、それでも椎名は彼のことを実の兄のように思って生きてきた。

 

 

「………こんなこと考えるなんて、らしくないや、…………とにかく明日頑張ろう!」

 

 

いつになく暗いことを考えてしまっていた椎名は、途中で考え方を180度回転させ、明日の2回戦のことだけを思い浮かべる。

 

ーそしてそのまま部屋の明かりを消して、1人寂しく就寝した。

 

 

******

 

 

ー翌朝、観客の歓声が少しだけ響いてくる界放リーグのスタジアムの裏で、エンペラーこと吸血堕天は2年前の界放リーグ後のことを思い出していた。それは彼にとってとても嫌な記憶。

 

 

ー『キバを使って優勝できなかっただと!?』

ー『えぇ、父様、ですが3位に入賞しました』

ー『そんなものに価値はない!!あの下民まみれの大会でよくもそんな順位が取れたものだな!!お前は一族の恥だ!!』

 

 

「…………そうだ、3位など意味はない。僕は吸血一族のエリートなんだ、今年こそは下民共に実力の差を思い知らせてやるっ!」

 

 

吸血一族の兄弟の中から唯一キバのデッキを授かることを許されたエリートである吸血堕天はどうしても許すことができなかった。この名誉ある大会で下民が、ヘラクレスが優勝することが、もっと言えば大会に出場することさえも間違っていると考えている。

 

そんな憎しみと焦燥の感情を抱えながら、彼はスタジアムに行き、そこで待ちぼうけていた椎名と顔を合わせる。

 

 

「あっ!吸血先輩!今日はよろしくお願いします!やるからには良いバトルにしましょう!」

「芽座椎名……世界にただ1枚しかないロイヤルナイツ、マグナモンを使う、……下民のバトラー」

 

 

元気よく深々と頭を下げてお辞儀をする椎名に対し、エンペラーこと、吸血は相変わらず「下民」の単語を使ってくる。

 

椎名はお辞儀した頭を元に戻すと、吸血に対して質問をする。それはずっと彼女が彼に対して思っていた疑問。

 

 

「ねぇ、吸血先輩、………あなたはバトスピを楽しんでますか?」

「?」

「いや、なんだろう、昨日の先輩と空牙のバトルを見てたら、こう、何か変なプレッシャーを感じたって言うか、楽しむ余裕がなかった感じだったって言うか、」

 

 

昨日、思ったことを素直に言葉にして見た椎名。吸血はその冷たい目線を椎名に向けたまま、それに回答する。

 

 

「…………お前はバトルが楽しむものだとでも思っているのか?」

「!?!」

「……下民はそうかもしれないな、だが、一族は違う、それぞれ家の名誉をかけて戦うのだ!楽しいなど思うはずもない!」

 

 

思わずその威圧感のある言葉に背筋が凍りつく椎名。だが、同時に違うとも思った。

 

確かに今まで椎名が戦ってきた一族のバトラーは少なからずそう言うものを賭けてきたのかもしれない。それは九白一族の岩壁とのバトルがはっきりと教えてくれた。

 

だが、司や夜宵は違った。夜宵はただただバトルを楽しんでいたし、司だって最初出会った時から心の底ではバトルを楽しんでいるように感じた。

 

ーバトルを、バトルスピリッツを楽しもうとしていない人の方が少ない。

 

 

「いや、やっぱりバトルは楽しむものだ!一族とか、下民とか関係ないよ、私がこのバトルで証明してみせる!」

「バトルは勝ちと負け、それ以外には何もない!」

 

 

2人はそれぞれの想いを募らせながらも、Bパッドを展開して、バトルを始める。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

芽座椎名と、吸血堕天による、2回戦、第一試合が幕を開ける。先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、……よし、先ずはガンナー・ハスキーを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名がこのバトルで初めて召喚したのは緑の犬型スピリット、拳銃を所持するために青い筋肉質な腕を背に生やしたスピリット、ガンナー・ハスキーだ。

 

紫のコアシュート効果の対策もあって、できるだけ多くのコアが乗せられている。

 

 

「……ターンエンド」

ガンナー・ハスキーLV1(2)BP2000

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目など、やることが限られている。椎名はそれだけでこのターンを終えた。次は吸血のターンだ。

 

 

[ターン02]

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、僕はネクサス、旅団の摩天楼をLV1で配置………その配置時効果でデッキからカードを1枚ドローする」

手札5⇨4⇨5

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨3

 

 

今回、吸血が最初に呼び出したのはキバはなく、細長い摩天楼。それは紫のデッキならなんでも採用圏内に入る強カードだ。

 

ドローと軽減コストのシンボル確保を同時に行った。

 

 

「さらに、バーストを伏せてターンエンド」

手札5⇨4

 

旅団の摩天楼LV1

 

バースト有

 

 

そしてまた何かわからないバーストを伏せる。基本的に彼のデッキのバーストはライフ減少後か、破壊後に限られるが、最初に伏せるのは大抵、公式のバトルではキバフォームだ。

 

とにかく、吸血はそれだけでそのターンを終えた。互いに静かな滑り出しだったと言える。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨3

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ!………ワームモンをLV2で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ3⇨0

ガンナー・ハスキー(2⇨1)

トラッシュ0⇨1

 

 

椎名が呼び出したのは緑の成長期スピリット、芋虫のような外見のワームモンだ。

 

このワームモンは勇猛なる昆虫戦士へと進化できる可能性を秘めたスピリットであって、

 

椎名はアタックステップに移行する。

 

 

「アタックステップ!その開始時にワームモンの【進化:緑】の効果発揮!手札に戻して、緑の成熟期、スティングモンに進化!」

スティングモンLV2(3)BP8000

 

 

ワームモンの身体中にデジタルのベルトが巻かれて、彼のコードを変えていく、そして新たに現れたのは勇敢なる昆虫戦士、成熟期のスティングモンだ。

 

 

「………進化か、」

 

「スティングモンの召喚時かアタック時!ボイドからコア1つをこのスピリットに置く!」

スティングモン(3⇨4)

 

 

スティングモンには優秀なコアブースト効果がある。椎名はその効果で一気にコアの差を開かせる作戦だった。

 

単純にコアが増え辛い紫との対戦ではこの一手は大きく響いてくることだろう。

 

 

「さらにアタックステップは継続!いけぇ!ガンナー・ハスキー!」

 

 

さらにアタックを開始する椎名。普通はコアが増えるスティングモンからのアタックとなるが、今回はあえてガンナー・ハスキーからアタックした。

 

それは椎名があのバーストを警戒しているからこそであって、

 

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

当然だが、身を守ってくれるスピリットがいないため、吸血はガンナー・ハスキーのアタックをライフで受けることになる。

 

ガンナー・ハスキーの乱射が、吸血のライフを1つ砕いた。だが、これは彼のバースト発動の条件でもあって、

 

ー勢いよくそれがひっくり返る。

 

 

「……ライフ減少後により、バースト発動!……仮面ライダーキバ キバフォーム!この効果で貴様のガンナー・ハスキーのコアをリザーブに置き、消滅させる!」

 

「!!」

ガンナー・ハスキー(1⇨0)消滅

 

 

突如現れる謎の人影、それは天空に飛び立ち、滑空するようにガンナー・ハスキーに強烈なキックを浴びせる。ガンナー・ハスキーはそれに耐えることができず、その体を消滅させた。

 

 

「さらにこれをLV2で召喚!」

リザーブ3⇨0

仮面ライダーキバ キバフォームLV1(3)BP4000

 

 

その人影の正体は仮面ライダーキバ キバフォーム。吸血一族に伝わるキバデッキの最も基礎となるカードだ。吸血は早速これを召喚した。

 

 

「よし!やっぱりキバフォームだった!」

 

 

椎名はバーストがそれだとよんでいた。だからその効果で消滅してしまうであろうガンナー・ハスキーからアタックをしてその無駄を省いたのだ。

 

 

「ふんっ………キバフォームの召喚時効果でデッキからカードを1枚ドローする」

手札4⇨5

 

 

キバフォームの召喚時はかの有名なシキツルさんと同じ効果だ。吸血はその手札を少しだけ潤す。

 

 

「さらにスティングモンでアタック!」

スティングモン(4⇨5)LV2⇨3

 

 

すかさずスティングモンでアタックする椎名。スティングモンはその効果で自身のLVを上げる。

 

 

「それはキバフォームでブロックする!」

「!!……BPはこっちの方が高いのに……!!」

 

 

スティングモンの高速の突きをキバフォームは軽く避けるものの、素早さでは圧倒的にスティングモンが上、避けた先に再び突きを入れられ、キバフォームは吹き飛ばされてしまう。

 

ーだが、LV2のキバフォームには不老不死とも取れる効果が存在していて、

 

 

「LV2のキバフォームは破壊時、手札1枚を破棄することで手札に戻る」

手札5⇨4⇨5

破壊カード

【キャッスルドラン】

 

 

LV2のキバフォームは手札を犠牲にする事で破壊を免れる。

 

キバフォームはカードに姿を変え、吸血の手札へと帰還した。

 

 

「………またバーストを撹乱させる気か………」

 

 

わざとバーストカードを手札に戻すことによって、次にセットされるバーストを撹乱させるという吸血独自の作戦。小汚いようにも見えるが、これも立派なバトルスピリッツの戦術の1つだ。

 

 

「……ターンエンド」

スティングモンLV3(5)BP10000(疲労)

 

バースト無

 

 

動けるスピリットがいないため、椎名はそのままターンを終えた。スティングモンの召喚により、コアのアドバンテージ差は存分に開いたと言える。

 

 

[ターン04]吸血

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、…………………バーストを伏せ、ターンを終える」

手札6⇨5

 

旅団の摩天楼LV1

 

バースト有

 

 

「…………え!?それだけ!?」

 

 

思わず目を見開いた椎名。それもそのはず、バーストは伏せるとは思ってはいたものの、それだけでターンを終えるとは考えてはいなかったからだ。

 

当然これは彼なりに考えがあってのことであって、

 

 

(ふふ、さぁ、スピリットを大量に展開し、アタックしてこい、下民よ、…………その次のターンが貴様の敗北を決定付ける瞬間だ……!!)

 

 

彼が伏せたバーストはキバフォームではない。空牙のバトルの時同様、これは白の汎用防御マジック、【絶甲氷盾】だ。

 

今、この段階で彼の手札には強力なキバの最強フォーム、エンペラーフォームが存在していた。

 

吸血は事前に芽座椎名という人間のバトルを研究し、熟知していた。彼女のデッキは速攻が前提。コアが増えた今、椎名は間違いなく速攻部隊を展開してくることだろう。そのスピリットのアタックを絶甲氷盾でしのぎ、返しのターンでキバフォームを召喚、そしてエンペラーへの【チェンジ】でそれらを一掃する予定だった。

 

ーその作戦は完璧。……………完璧なはずだった。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

 

 

「ドローステップ………(あのバーストなんだろう……………ん?あれ?…………これは……)」

手札4⇨5

 

 

バーストのあれやこれを考える椎名。だが、このドローステップで引いたカードを見て考えるのをやめてしまった。それは、そのカードは間違いなくこの場で最強のカードだと直感的に認識したからだ。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨3

トラッシュ1⇨0

スティングモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!……よし!ここはいつも通り!猪人ボアボア、ワームモンをLV1ずつで召喚!」

手札5⇨3

リザーブ3⇨0

スティングモン(5⇨3)

トラッシュ0⇨3

 

(………勝ちだっ…………!!)

 

 

あいも変わらず、椎名は速攻部隊のスピリットたちを手札の負担も全く気にせずに展開する。その思い切りの良さが椎名のいいところではあるが、このままでは吸血の思う壺だ。次のターンでエンペラーフォームの餌食とされかねない。

 

吸血も内心勝ちを確信した。「下民とはなんと愚かなのだろう」とも考えていた。決まった動きしかしない。考える頭がない。と。

 

 

「さらに、バーストをセットして……………アタックステップだ!」

手札3⇨2

 

 

バーストを伏せて、勢いよくアタックステップに入る椎名。場にいる3体のスピリットたちも戦闘態勢に入る。

 

 

「いけぇ!ボアボア!アタック時効果でコアを増やしつつ、LVアップ!」

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

 

 

手に持っている鎖付き鉄球を振り回す猪人ボアボア。その効果は【連鎖:緑】でコアを増やしつつLVを上げる効果。また椎名と吸血とのコア差が開く。

 

吸血はもうライフで受ける気満々だ。もはや宣言する必要もないくらいだ。

 

 

「ライフで受けよう」

ライフ4⇨3

 

 

そのままボアボアの鉄球の攻撃を受け入れる吸血。ライフが1つ砕かれた。そして計画通りのバーストを発動させる。

 

 

「ライフの減少によりバースト発動!絶甲氷盾!………ライフを1つ回復し、さらにコストを払うことでこのターンの貴様のアタックステップを強制終了だ!」

ライフ3⇨4

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨4

 

 

「あっちゃぁあ、絶甲氷盾だったかぁ」

 

 

失敗したかのように頭を掻く椎名。立ち込める猛吹雪が、彼女のスピリットの身動きを封じ込める。これではこのターンのアタックは無理だ。

 

 

「ターンエンド!」

スティングモンLV2(3)BP8000(回復)

猪人ボアボアLV1(2)BP2000(疲労)

ワームモンLV1(1)BP3000(回復)

 

バースト有

 

 

仕方なくそのターンを終える椎名。次は吸血のターン。エンペラーフォームを召喚する気だ。

 

 

[ターン06]吸血

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨9

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!……僕はキバフォームをLV2で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨2

 

 

予定していた通り、ここでエンペラーフォームの敷地となるキバのベースフォーム、キバフォームを召喚した。その効果はかの有名なシキツル互換。カードがドローされる。

 

 

「召喚時効果!カードをドローする……!!」

手札5⇨6

 

 

デッキから1枚のカードを引き抜いた吸血。本当にこの時点で勝ちを確信していた。やはり一族の人間がそこら辺にいる下民などに負けるわけがない。

 

ーそう思った束の間だった。椎名のバーストが勢いよくひっくり返ったのは。

 

 

「相手の手札が効果により増えた時!バースト発動!………………グリードサンダー!!!」

「……………はぁ?」

「この効果で、相手は全ての手札を破棄し、新たに2枚のカードをドローするっ!」

 

「な!?……ぐ、ぐおおぉぉお!!!!」

手札6⇨0⇨2

破棄カード

【キャッスルドラン】

【仮面ライダーキバ キバフォーム】

【絶甲氷盾】

【絶甲氷盾】

【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム】

【仮面ライダーキバ ドガバキフォーム】

 

 

場に迸る青い稲妻。それは瞬く間に吸血の手札を襲い、破棄させる。せっかくのエンペラーフォームがトラッシュへと送られてしまった。そして新たに引かれた2枚のカードの中にも2、3枚目のエンペラーフォームの姿はない。

 

 

「へへ!せっかくいい手札だったのに残念だったねぇ!…………さらにコストを支払って、キバフォームを破壊!……不足コストはワームモンから確保!」

スティングモン(3⇨1)LV2⇨1

猪人ボアボア(2⇨1)

ワームモン(1⇨0)消滅

 

「………手札を破棄して、キバフォームを回収………っ!」

手札2⇨1⇨2

破棄カード

【キャッスルドラン】

 

 

ワームモンが消滅し、迸る青い稲妻は今度はキバフォームを破壊しようとするが、それに直撃する前に、キバフォームは自身の効果により、吸血の手札へと帰還してしまった。

 

あまりに唐突な出来事で一瞬なにがなんだのかわからなくなって混乱した吸血。そしてふと理解した。下民に完全にしてやられた。と。

 

椎名はグリードサンダーのカードをドローした瞬間にこれはいけると考えた。少なくとも吸血の場か、手札には効果により手札を増やすキバフォームがいるのを知っていたからだ。裏を掻く必要性もバーストのカードを考える必要もなくなった。

 

結果は予想以上のプラスとして帰ってきた。吸血のデッキの特徴でもあった、なくなり辛い手札は、今やカスカスになり、場のスピリットは再び消えた。

 

 

「ぐっ!……き、き、貴様ぁぁぁぁあ!!下民のくせに!下民のくせにぃぃい!!」

 

 

頭の中がそのことでいっぱいになり、大いに取り乱すエンペラーこと、吸血堕天。完全に下だと見下し、否定していた芽座椎名という女子に思わぬ反撃を受けたのだ、無理もない。

 

ーいや、無理はあった。明らかに椎名のバーストは警戒すべき存在であったはずだ。だが、彼はそれを無視して普通に予定した通りの動きをした。

 

調子に乗りすぎだ。この程度の反撃など当たり前だろう。去年、一昨年も同じように取り乱してヘラクレス、五の守護神に敗北を喫した。

 

ー愚かなのは自分だ。そう認めたくないからこそ、彼は心の底から激怒していたのだった。

 

 

「へっへ!吸血先輩!バトルはなにが起こるかわからないから楽しいんだよ!」

 

 

椎名としては本当の意味でバトルの楽しさを伝えたいがために発した言葉出会ったが、吸血にはもはやその椎名の言葉は自分に対する煽りにしか聞こえない。

 

 

「下民めっ!それでいて尚一族を愚弄するかっ!」

「え!?いやいや、違うって!」

 

 

全力で椎名も否定するが、今まで以上に聞く耳を持たない吸血。完全に頭に血がのぼっている。

 

ーそして残った2枚の手札で展開する。僅か2枚のドローでもさすがはエンペラーか、引きの良さを見せつける。

 

 

「僕はブレイブカード!キバットバットⅢ世を召喚!」

手札2⇨1

リザーブ7⇨4

トラッシュ2⇨4

 

「!!……コウモリ!?………ちっさ!」

 

 

現れたのは小さなコウモリのような機械。それはまるで意思があるように見える。

 

このカードを小さいからと言って侮ってはいけない。その効果はキバのサポートに完全に徹底した効果であり、

 

 

「召喚時効果!カードを3枚オープン!その中のキバのカードを手札に加える!」

オープンカード

【仮面ライダーキバ バッシャーフォーム】○

【デスマサカー】×

【旅団の摩天楼】×

 

 

効果は成功、キバの名前を含む、仮面ライダーキバ バッシャーフォームが彼の手札へと加えられた。

 

そして、キバットバッドの効果はこれだけでは終わらない。吸血はバッシャーフォームの【チェンジ】の効果を使用する。

 

 

「さらに!今手札に加えたバッシャーフォームの【チェンジ】の効果発揮!この効果で相手スピリット1体のコアを2つリザーブへ送る!対象はスティングモンだ!くらえぇ!」

リザーブ4⇨1

トラッシュ4⇨7

 

「……っ!……スティングモンっ!」

スティングモン(1⇨0)消滅

 

 

突如現れたのは仮面ライダーキバのフォームの1つ、バッシャーフォーム。その色は綺麗なエメラルドグリーンで、手には独特な形をした拳銃が握られている。

 

バッシャーフォームはその銃を両手に持ち、水の力を圧縮してスティングモンに向けて発射する。スティングモンはそれに貫かれ、消滅してしまった。

 

そして【チェンジ】の効果と言えばその後、場にいる仮面スピリットとのバトンタッチする効果だが、

 

 

「……でも、仮面スピリットはいないから入れ替えはできない」

「バカだな、下民め、…………キバットバッドⅢ世はキバの【チェンジ】の入れ替えの対象にできる……!!」

「!?!」

 

「僕はこのキバットバッドⅢ世を対象に、バッシャーフォームと入れ替える!」

仮面ライダーキバ バッシャーフォームLV1(1)BP3000

 

 

キバットバッドⅢ世が、バッシャーフォームの腰にあるベルトに装着するようにひっつく。バッシャーフォームはその場で存在を維持した。

 

この時、吸血はキバットバッドⅢ世をそのままバッシャーフォームに合体させることもできたが、それをせずに手札に加えた。枯渇した手札を再び召喚時の効果で増やすためだが、頭に血がのぼっているわりにはなかなかいい判断である。

 

椎名は驚いていた。まさかあんな少なくなった手札で反撃してくるなんて、と。それが彼女のやる気をさらに引き上げさせる。

 

 

「バーストを伏せて、ターンを終える!」

手札2⇨1

 

仮面ライダーキバ バッシャーフォームLV1(1)BP3000(回復)

 

旅団の摩天楼LV1

 

バースト有

 

 

もはやそのバーストは隠すまでもない、キバフォームだ。このままでは防御をすることができないので、それを伏せるのは致し方ない。

 

次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

猪人ボアボア(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!……よっし!ブイモンを召喚!」

手札3⇨2

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名の場に小さき青き竜、ブイモンが現れた。ようやくのご登場だが、今からでも遅くはない。その召喚時の効果を発揮させる。

 

 

「召喚時効果!!カードを2枚オープンして、進化系を手札に加える!」

オープンカード

【風盾の守護者トビマル】×

【マグナモン】○

 

「!!……ロイヤルナイツッ!!」

 

 

効果は成功。椎名はアーマー体であるマグナモンを手札へと加えた。

 

ーそして椎名はすぐさまそれをブイモンを対象として召喚する。

 

 

「マグナモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コスト支払って、黄金の守護竜、マグナモンをLV3で召喚!!」

リザーブ6⇨2

トラッシュ2⇨3

マグナモンLV3(4)BP10000

 

 

ブイモンの頭上にゆっくりと黄金に輝く鎧を纏った卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは、ロイヤルナイツが1体、黄金の鎧をその身に纏う蒼き竜。マグナモンだ。

 

 

「……ちぃ!下民如きがっ!」

「マグナモンの召喚時効果!相手の場にいる最もコストの低いスピリット1体を破壊!……今の先輩の場にはバッシャーフォームが1体だけ!それを破壊するっ!……黄金の波動!!エクストリーム・ジハード!!」

 

 

マグナモンはその黄金の力を集中させ、一気に解き放つ。その波動の障壁のようなものは、瞬く間にバッシャーフォームを中に取り込み、消滅させた。

 

 

「へっへ!どんなもんだ!バトルはこっからだよ!先輩!」

「………策がはまったくらいで………調子にのるなよ……この下民がっ!」

 

 

マグナモンとボアボアが雄叫びをあげる。ドローもプレイングも絶好調な椎名。ここまでのバトルでライフは椎名が5。吸血が4。今が椎名のターンであることを考えると、椎名が吸血を相当追い詰めていることがわかる。ロイヤルナイツのマグナモンの存在がよりそれを明確にしていた。

 

だが、相手はあの【エンペラー】吸血堕天。当然この程度の策にはめられた程度では終わらないのであって、

 

デジタルスピリットと仮面スピリット、【アーマー進化】と【チェンジ】。相反する2つのデッキの決着は……………次回だ。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【キバットバッドⅢ世】!!」

「キバットバッドⅢ世は紫のブレイブ!召喚時にキバを持ってきたり、キバの【チェンジ】の対象になったりもできるよ!……………ていうか次回に持ち越しかーーーーい!」





決着は次回です!最後までお読みくださり、ありがとうございました!


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第22話「キバを砕け、爆裂の拳!ロックガントレット!」

ー『また3位だと!?……いい加減にしろ!お前は他の兄弟たちとは違うんだぞっっ!』

ー『……ですが父様、相手はあのヘラクレス…………』

ー『お前と同年代の下民じゃないか………口答えするな、これ以上私をがっかりさせないでくれ』

ー『…………はい、父様』

 

 

これは去年の界放リーグ後の吸血一族の話。吸血は2年前は五護鉄火に、1年前は緑坂冬真に敗北を喫していた。

 

吸血とて、昔はバトルを楽しみたくないわけではなかったのだ。バトスピ一族としてのプライドが、名誉が、父の教えが、彼のその心を縛り付けて、いつのまにかその気持ちを忘れさせていったのだ。

 

そして、界放リーグ2回戦、第一試合の芽座椎名対吸血堕天のバトルは。現在のフィールド状況は以下の通り。

 

 

《椎名》ライフ5

猪人ボアボアLV1(1)BP2000(回復)

マグナモンLV3(4)BP10000(回復)

 

バースト無

 

 

《吸血》ライフ4

 

旅団の摩天楼LV1

 

バースト有

 

 

そして現在は椎名のメインステップ、吸血は椎名のグリードサンダーにはめられてしまい、手札の枯渇や、盤面のスピリット維持に苦戦していた。

 

 

「猪人ボアボアのLVを2に上げて、アタックステップ!………ボアボアでアタックだ!」

リザーブ2⇨0

猪人ボアボア(1⇨3)LV1⇨2⇨3

 

 

鎖付き鉄球を手に持ち、走り出すボアボア。

 

吸血の場にスピリットがいないのなら、警戒すべきはあの伏せられたバーストカードだ。だが、あのバーストはもう何かわかっている。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ4⇨3

 

 

勢いよく投げつけられた鎖付きの鉄球が、吸血のライフを1つ粉々にする。そしてこれが吸血のバーストの発動条件だ。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動!仮面ライダーキバ キバフォーム!効果により貴様のボアボアからコアを2個取り除き、これをLV2で召喚!」

リザーブ3⇨0

仮面ライダーキバ キバフォームLV2(3)BP4000

 

「………」

猪人ボアボア(3⇨1)LV2⇨1

 

 

勢いよくひっくり返るバーストカード。そしてキバフォームが再び現れ、ボアボアを滑空するように蹴りつける。ボアボアは力が抜き取られるも、なんとかこの場に留まった。

 

 

「召喚時効果で1枚ドロー」

手札1⇨2

 

 

吸血はキバフォームのシキツル互換の効果でデッキからカードを1枚引き抜いた。

 

だが、気は抜けないだろう。次はロイヤルナイツ、マグナモンの攻撃なのだから。

 

 

「いけぇ!マグナモンでアタック!」

 

「………ちぃっ、ライフだ」

ライフ3⇨2

 

 

マグナモンの渾身のパンチが吸血のライフを粉々に粉砕した。キバフォームでブロックしてライフを守りつつキバフォームを手札に戻すことができたが、残り少ない手札を破棄しなくてはならないためか、それはしなかった。

 

 

「よっし!後2つぅ!ターンエンドだよ!」

猪人ボアボアLV1(1)BP2000(疲労)

マグナモンLV3(4)BP10000(疲労)

 

バースト無

 

 

ターンを終える椎名。ここまではほとんど椎名のペースでバトルが進んでいる。マグナモンが防御能力に特化したスピリットであるということもあり、ここから吸血が逆転するのはさながら不可能に見える。

 

だが、ここから彼も意地を見せる。持ち前の引きの良さを見せつけ、一気に形成を傾かせる。

 

 

[ターン08]吸血

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

 

 

メインステップに入る前、吸血は椎名のロイヤルナイツ、マグナモンを分析していた。やはりあれをどうにかしないと勝ち筋は見つからないだろう。

 

 

(ロイヤルナイツ、その一柱、マグナモン。召喚時にほぼ確実に相手のスピリットを1体葬る効果に加え、疲労ブロッカー能力、どれも強力だが、最も厄介なのはスピリットとブレイブの効果を受け付けない耐性効果、キバフォームはおろかエンペラーフォームでさえも奴の装甲を砕くことはできない……………だが、倒す方法がないわけではない)

 

 

マグナモンの効果で最も重要なのはスピリットとブレイブの効果を受けない効果だ。仮面スピリットの【チェンジ】の効果も飽くまでスピリットの効果、マグナモンを倒すことはできない。だが、それ以外なら、

 

 

「……メインステップ、再びブレイブカード、キバットバッドⅢ世を召喚っ!」

手札3⇨2

リザーブ9⇨2

トラッシュ0⇨2

 

「!!……またあのコウモリっ!」

 

 

吸血の場にあの仮面ライダーキバをサポートする不思議な効果を発揮するコウモリが現れる。その召喚時効果はキバを手札に加える効果を持つ。

 

 

「召喚時効果でデッキからカードを3枚オープンっ!」

オープンカード

【マーク・オブ・ゾロ】×

【マーク・オブ・ゾロ】×

【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム】○

 

「!!……エンペラーフォームっ!」

 

「ふっ!……俺はこれを手札に加える」

手札2⇨3

 

 

キバデッキの最強スピリット、エンペラーフォームが彼の手札へと加える。その存在感はかなり大きい。

 

 

「アタックステップ……」

 

 

さらに彼はこの場でアタックステップに入る。マグナモンをどかす作戦でもあるのか、

 

 

「キバフォームでアタック!」

「マグナモンは疲労状態でブロックできる………返り討ちだ!」

 

 

疲労から立ち上がるマグナモン。走ってくるキバフォームを返り討ちにする気だ。

 

だが、それは敵わない。吸血は手札のカードを1枚引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!ダークネスムーンブレイク!………このカードはキバのアタック中にはコストが3のマジックとして扱う!」

手札2⇨1

 

「…!!…マジックか!」

 

 

仮面スピリットのデッキはそれぞれのカテゴリごとに必殺のマジックが存在する。キバの必殺カードはダークネスムーンブレイク。当然マジックだ。マグナモンの装甲を貫くことができる。

 

 

「この効果で相手のスピリットのコア2つをリザーブに置く!対象は当然マグナモンだ!……ダークネスムーンブレイク!」

 

 

上空に飛び立つキバフォーム。そのままマグナモンに向かってかかと落としのようなキックを浴びせる。マグナモンは耐えたものの、若干弱ってしまう。地面にはキバのコウモリの紋章のような跡が残る。

 

 

「ぐっ!……でもまだマグナモンは倒れないっ!」

マグナモンは(4⇨2)LV3⇨2

 

 

LV2になってもマグナモンは疲労状態でブロックできる。そのBP8000。キバフォームを倒すには十分すぎるパワーだ。

 

しかし、今の吸血に抜かりはない。さらに手札のカードを1枚引き抜く。

 

 

「さらに俺は2枚目のダークネスムーンブレイクを使用する!対象はもちろんマグナモンだ!さらに2つのコアを抜き取る!」

 

「なにぃ!?」

マグナモン(2⇨0)消滅

 

 

最初に飛び込んだ勢いを使い、まるで踏み台を使ったかのように再び飛び上がるキバフォーム。そしてマグナモンをその右足で貫いた。

 

流石に2撃目は耐えられなかったか、マグナモンは力尽き、その場で倒れ、その肉体を静かに消滅させた。

 

 

「ま、マグナモンが……っ!」

「耐性効果におごりすぎたなぁ!下民がぁ!このターンで終わりだぁ!……ダークネスムーンブレイクの追加効果!この効果でスピリットが消滅した時、トラッシュにあるネクサスカード、キャッスルドランをコストを支払わずに配置する!」

「……トラッシュから!?」

 

 

ダークネスムーンブレイク。その効果は相手のスピリットを消滅させるだけにあらず、追加効果でトラッシュあるネクサスカードを配置できる。

 

 

「来いっ!キャッスルドラン!」

「!?」

 

 

地震、地中が揺れる。そしてそこから飛び出してくる巨大なドラゴン。その体は文字通り城。いや、城から亀のように首や手足を伸ばしていた。

 

 

「で、でっかぁ!?」

 

 

思わずその大きさにたじろぐ椎名。大きな翼の羽ばたきが、強風を巻きおこし、彼女の服や髪を靡かせる。

 

そしてまだこのタイミングはキバフォームのアタック中であって、

 

 

「キバフォームのアタックはどう受ける下民?」

 

「こっちはライフが腐るほど残ってるんだ!……当然ライフで受けてやるっ!」

ライフ5⇨4

 

 

キバフォームの高速のパンチが椎名のライフを1つ砕いた。これで吸血はようやく椎名のライフを破壊したことになる。

 

だが、それだけでは終わらない。吸血はあわよくばこのターンで椎名のライフを全て破壊するつもりでいた。

 

 

「ハッハッハァぁ!!キバットバッドでアタック!」

「!!」

 

 

その小さな翼で飛び立つキバットバッド。そして吸血はチェンジさせる。最強のキバを。

 

 

「僕はこのエンペラーフォームの【チェンジ】を発揮させる!対象はキバットバッド!そしてこの時、ネクサス、キャッスルドランの効果で自身を疲労させることでそのコストをゼロにするっ!」

キャッスルドラン(回復⇨疲労)

 

「!!」

 

 

キャッスルドランは自身の力を使うことでキバのチェンジのコストをゼロにできる。

 

そして椎名もそれを察した。ここまで召喚をなんとか妨害してきたがダメだった。ここまでダメージを背負ってもそれを出してくる吸血に執念や執着心さえ感じる。

 

そして先ずはそれが現れる前の減少が始まる。

 

 

 

「…………その効果で貴様のボアボアのコアを除去する!」

 

「ぐっ!ボアボアっ!」

猪人ボアボア(1⇨0)消滅

 

 

黒い霧の中から突如現れた紫の飛ぶ斬撃。それは瞬く間にボアボアを引き裂いた。

 

 

「そしてその後キバットバッドと入れ替える!その時、キバットバッドはそのスピリットと合体できる!」

仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバッドⅢ世LV3(5)17000

 

 

そしてその黒い霧の中から現れたのは最強のキバ、エンペラーフォーム。黄金の鎧、マント、剣を携えて椎名の目の前に現れた。

 

キバの【チェンジ】の対象となったキバットバッドⅢ世はその仮面スピリットに自身を合体させる効果がある。エンペラーフォームの腰にそれが小さく収まる。これによりエンペラーフォームのパワーが数段増した。

 

あの追い詰められた状態からよくもここまで返したものだ。さすがは【エンペラー】と呼ばれるだけのことはある。

 

 

「ライフで受ける……ぐっ」

ライフ4⇨2

 

 

エンペラーフォームのザンバットソードと呼ばれる剣が一瞬のうちに華麗なる剣術で椎名のライフを2つ破壊した。

 

 

「ターンエンド!!」

仮面ライダーキバ キバフォームLV2(3)BP4000(疲労)

仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバッドⅢ世LV3(5)BP17000(回復)

 

旅団の摩天楼LV1

キャッスルドランLV1(疲労)

 

バースト無

 

 

吸血はこのターンを終了させる。ただ、優勢であるとは言え、彼の手札はゼロ。ライフは2。厳しい状況だった。

 

ー次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン09]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ10⇨11

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ11⇨14

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ…ブイモンをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ14⇨8

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名は再びブイモンを召喚する。そして逆転の糸口を見つけるべく、その召喚時の効果を使用させる。

 

 

「召喚時効果発揮!カードを2枚オープンし、その中の「アーマー体」「成熟期」を手札に加えるっ!」

オープンカード

【No.26キャピタルキャピタル】×

【ワームモン】×

 

 

残念ながら効果は失敗、2枚ともトラッシュへと破棄されてしまった。

 

 

「ふんっ!運も尽きてきたようだなっ!」

「いや、まだだ、……運は使うものじゃない、自分の手で引き寄せていくものだ……………」

 

 

そうだ、椎名の手札にはまだ可能性が大いにあった。椎名はあるものを全てフル使い、吸血に挑む。

 

 

「バーストをセットして、アタックステップっ!その開始時にブイモンの【進化:青】を発揮!ブイモンを手札に戻して、エクスブイモンに進化させるっ!」

エクスブイモンLV3(11)BP7000

リザーブ8⇨0

 

 

椎名の場にバーストが伏せられると同時に、ブイモンが0と1のデジタルコードに身体を巻かれて、成長していく、そして新たに現れたのは青き闘竜。エクスブイモン。その腹部には自身の名を関してエックスの文字が刻まれている。

 

その効果は青属性ではお馴染みの手札交換効果だ。

 

 

「エクスブイモンの召喚時効果で、デッキからカードを2枚ドローして、その後1枚破棄する」

手札2⇨4⇨3

破棄カード

【トライアングルバースト】

 

 

手札の質を向上させることに努めた椎名。そのターンを終了させる。

 

 

「………ターンエンド」

エクスブイモンLV3(11)BP7000(回復)

 

バースト有

 

 

コア除去の対策でありったけのコアが乗せられたエクスブイモンがブロッカーとして椎名の陣営を固める。

 

ー次は吸血のターンだ。

 

 

[ターン10]吸血

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札0⇨1

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

仮面ライダーキバ キバフォーム(疲労⇨回復)

仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバット三世(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、キャッスルドランのLVを2にあげる」

リザーブ5⇨3

キャッスルドラン(0⇨2)LV1⇨2

 

 

LVが上がる今にも動き出しそうなネクサス、キャッスルドラン。そして吸血はここからアタックステップへと移行する。椎名を追い詰めるために。

 

 

「アタックステップ!その開始時にキャッスルドランの効果!LV2の時、こいつをコスト6のBP10000のスピリットとして扱うことができる!」

キャッスルドランLV1(2)BP10000

 

「!!?ネクサスがスピリットに!?……いや、まぁ、スピリットっぽかったしなぁ」

 

 

キバが住んでいると言われているネクサス、キャッスルドラン。それはLVを上げることで、ネクサスとしての機能を停止させる代わりに、キャッスルドラン自身をスピリットとして場に呼ぶことができる。

 

吸血の背後から前線に向かってきたキャッスルドラン。そのドラゴンとしてのサイズの大きさは椎名のエクスブイモンとは比べ物にならない。

 

そして吸血のアタックステップが本格的に始まる。椎名の残り2つのライフを奪いにいく。

 

 

「アタックステップは継続!いけぇ!エンペラーフォーム!」

 

 

走り出すエンペラーフォーム。現在のエンペラーフォームはキバットバッドⅢ世と合体しているため、ダブルシンボル。椎名のライフも2つ。椎名は意地でもこのアタックを防がなければならなかった。

 

 

「………お願い、エクスブイモン………っ!」

 

 

唯一の場にいるエクスブイモンにブロックの支持を頼む。だが、BPの差は圧倒的にエンペラーフォームが上。覆ることはない。

 

 

「無駄だ!失せろ雑魚!」

 

 

エンペラーフォームのザンバットソードの一閃が、エクスブイモンを通り過ぎるように切り裂く。エクスブイモンはその場で大きく爆発した。

 

これで椎名の場は再び全滅。そこにつけ込むように今度はキャッスルドランがゆっくりと動き出す。

 

 

「キャッスルドランでアタック!」

 

 

このターンでフルアタックを決められて仕舞えば、椎名のライフはゼロ。だが、椎名の手札にはスピリットを疲労させるチェイスライドのカードがある。これがあれば防ぐことができるが、椎名はこれを使わずに別の方法でこの攻撃を凌ぐつもりでいた。

 

 

「相手のアタックによりバースト発動!トライアングルバースト!」

「なに!?」

 

「この効果で手札にあるコスト4以下のスピリット、………ブイモンを召喚する!」

手札3⇨2

リザーブ11⇨8

ブイモンLV2(3)BP4000

 

 

トライアングルの光りが地面に浮かび上がる。その間から椎名のブイモンが再び姿を見せる。

 

 

「くっ!……だが、所詮はBP4000、キャッスルドランの相手ではない!」

「へっへー!……それはどうかな?……ブイモンでブロック!」

 

 

BPでは圧倒的に劣るものの、椎名はブイモンで巨大なキャッスルドランに立ち向かう。

 

だが、大事なのはこのBP勝負で勝つことではない。ブロックすることにあった。椎名は1枚の手札を引き抜いた。

 

 

「フラッシュ!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、燃え上がる炎の竜人!フレイドラモンを召喚!」

リザーブ8⇨7

トラッシュ3⇨4

フレイドラモンLV3(3)BP9000

 

「……!!…またアーマー進化か」

 

 

ブイモンの頭上に赤くて独特な形をした卵が投下される。ここまではいつも通りだったが、ブイモンとそれの間を挟むようにキャッスルドランが現れる。

 

ブイモンはこのままではアーマー進化できないと思い、高くジャンプしてキャッスルドランを足場にする。そしてそのまま赤の卵に衝突し、混ざり合う。キャッスルドランの頭上で椎名のエースカード、フレイドラモンが召喚された。

 

 

「フレイドラモンの召喚時効果!BP7000以下のスピリット1体を破壊!破壊対象はキバフォームだっ!……爆炎の拳!ナックルファイアァァ!!」

 

 

そのまま天高い位置からアクロバティックな姿勢のまま炎の鉄拳を放つフレイドラモン。それは瞬く間に地上に存在するキバフォームに命中し、焼失させた。

 

フレイドラモンは椎名の場に華麗に着地してみせた。

 

 

「くっ、キバフォームの効果は発揮させないっ」

 

「じゃあ私はフレイドラモンの効果でデッキから1枚ドローする」

手札2⇨3

 

 

さっきまではブイモンとキャッスルドランの勝負であったが、【アーマー進化】によりブイモンが消えたことにより、バトル自体が無効となり、結果的にキャッスルドランが疲労しただけとなった。

 

これにより吸血の場のスピリットは全て疲労したことになる。

 

 

「…………ターンを終了する」

仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバッドⅢ世LV3(5)BP17000(疲労)

 

キャッスルドランLV2(2)

旅団の摩天楼LV1

 

バースト無

 

 

仕方なくそのターンを終える吸血。この場はかなり厳しいように感じるが、残った1枚の手札には強力なカードが仕込まれており、

 

ー次は椎名のターンだ。ここが正念場となるだろう。

 

 

「へへっ!……」

「なにが可笑しい」

 

 

椎名はなぜかこんな場面でも笑っていた。吸血は自分が負けそうな感じだからと勘違いしてやや怪訝そうな顔をする。

 

椎名が笑ったのは当然別の理由だ。というか、これはもはやいつものことであって、

 

 

「いやぁ、バトルは楽しいなぁ、って思ってさ」

「この状況でまだそんなことをほざくか、バトルは勝ちと負けしかない、勝敗以外の価値などないのだ」

「そうかなぁ?……今の先輩は私から見ればバトルを楽しんでいるようにしか見えないな」

「!?」

 

 

唐突に放たれた椎名の言葉に思わず目を見開いた吸血。だが、直ぐにそんなことはないと考え直す。当然だ。今まで楽しさよりも勝ち負けが大事だと教わってきたのだ。たった1人の下民の言葉に惑わされる自分ではない。

 

だが、たしかに椎名とのバトルでその心は傾きつつあったのは確かなことであった。

 

その証明が次のターンに行われる。

 

 

[ターン11]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ7⇨8

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ8⇨12

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、私はブイモンを召喚して、さらに、ブレイブカード、鎧殻竜グラウン・ギラスを召喚!」

手札4⇨2

リザーブ12⇨7⇨4

トラッシュ0⇨4

 

 

椎名が呼び出したのはブイモンと、赤属性のブレイブ。岩のような外骨格を持つ竜、グラウン・ギラスが場に現れる。その効果はまさしくネクサスキラーとも呼ばれている効果であって、

 

 

「召喚時効果!相手のネクサス1つを破壊する!キャッスルドランだ!」

「!?」

 

 

グラウン・ギラスが足踏みするように地ならしを引き起こす。すると、キャッスルドランは悲鳴のような咆哮を上げながら地面に沈んでいった。

 

 

「そしてフレイドラモンと合体!」

リザーブ4⇨0

フレイドラモン+鎧殻竜グラウン・ギラスLV2(8)BP12000

 

 

グラウン・ギラスが生物としての機能を停止させ、フレイドラモンに自身の身体を装備させていく。フレイドラモンの腕や肩はグラウン・ギラスの岩で覆われ、固められた。

 

そして椎名はアタックステップに移行する。おそらくこれが最後となるだろう。

 

 

「アタックステップ!ブイモンでアタック!」

 

 

先ず椎名がアタックさせたのはブイモン。元気よく走り出していく。

 

 

「……それはライフで受けよう」

ライフ2⇨1

 

 

ブイモンの強烈な頭突きが吸血のライフを1つ破壊した。これでいよいよ後1つ。椎名のフレイドラモンのアタックが決まれば椎名の勝ちだった。

 

 

「いけぇ!フレイドラモンっ!……グラウン・ギラスの合体アタック時効果で旅団の摩天楼を破壊!」

 

 

フレイドラモンは鉄拳を放つ。いつもはその手から出てくるのは炎だが、今回は無数の岩が連なるように伸びていった。それは瞬く間に旅団の摩天楼へと突き刺さり、それを消滅させた。

 

そして走り出したフレイドラモン。だが、これだけでは決められるはずがなかった。吸血は自身の手札の最後の1枚を引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!……ネクロブライトを使用するっ!」

リザーブ8⇨6

トラッシュ0⇨2

 

「!!……紫の究極カード!?」

 

 

吸血が使ったのはその強力さ故にデッキに1枚しか入れられないカード。ネクロブライトはトラッシュあるコスト3以下の紫のスピリットを復活させる効果を持っていた。

 

ー吸血が召喚するのはもちろん。

 

 

「僕はこの効果で仮面ライダーキバ キバフォームを召喚!」

リザーブ6⇨1

仮面ライダーキバ キバフォームLV2(5)BP4000

 

 

紫の靄の中から現れたのは今回何度も召喚されたキバフォームが現れた。吸血はその召喚時のドロー効果を発揮させ、逆転を狙う。

 

 

「その召喚時の効果でデッキから1枚ドロー!」

手札0⇨1

 

 

ドローしたカードを恐る恐る見つめる吸血。そしてその口角は上がった。最高のドローをしたのだ。椎名のフレイドラモンを破壊し、自分に最高の勝利をもたらしてくれるカードが来たのだ。

 

そして次は椎名のフラッシュタイミングとなる。椎名は事前に加えていた1枚のマジックカードを引き抜く。

 

 

「フラッシュマジック!チェイスライド!この効果で今出てきたキバフォームを疲労させる!」

手札2⇨1

フレイドラモン+鎧殻竜グラウン・ギラス(8⇨5)

トラッシュ4⇨7

 

「…………」

仮面ライダーキバ キバフォーム(回復⇨疲労)

 

 

緑の突風がキバフォームを怯ませる。だが、この程度のマジックで怯む【エンペラー】ではない。ドローした1枚のカードを引き抜く。それは正しく最強のカードだった。

 

 

「フラッシュ!エンペラーフォームの【チェンジ】を発揮!その効果で貴様のスピリット全てのコアを2つずつリザーブに送る!」

リザーブ1⇨0

仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバッドⅢ世(5⇨3)LV3⇨2

トラッシュ2⇨5

 

「なぁ!?3枚目のエンペラーフォーム!?……ぐっぅ!」

フレイドラモン+鎧殻竜グラウン・ギラス(5⇨3)

ブイモン(3⇨1)LV2⇨1

 

 

再び飛んでくる紫の斬撃、それは瞬く間にフレイドラモンとブイモンを切り刻んでいく。

 

事前にコアを乗せていて正解だった。まさかたった1枚のドローでエンペラーフォームをドローするとは思ってはいなかったものの、消滅という最悪の危機からは逃れた。

 

だが、【チェンジ】で最も恐ろしい効果は他の仮面スピリットと回復状態で入れ替えるということ。

 

 

「場のキバフォームを手札に戻し、発揮させたエンペラーフォームを代わりに入れ替える!」

仮面ライダーキバ エンペラーフォームLV3(5)BP14000

 

 

キバフォームの鎧が弾け飛ぶ。そしてそこには新たなる黄金の鎧。2体目のエンペラーフォームが場に現れた。2体並ぶ様は圧巻だった。

 

そして吸血は椎名のフレイドラモンに勝負を挑む。この2体目のエンペラーフォームで。

 

 

「ブロックだぁ!エンペラーフォーム!下民のエーススピリットごとき、蹴散らしてしまえぇ!」

 

 

フレイドラモンは旅団の摩天楼を破壊した時と同じように、連なる岩を発射させ、エンペラーフォームに攻撃するが、エンペラーフォームは手持ちのザンバットソードでいとも容易くそれを切り刻んでいく。

 

 

「ハッハッハ!残念だったなぁ!BP14000のエンペラーフォームには遠く及ばん!」

「へへっ!やっぱ先輩楽しそうですよ!」

「!?!…………誰が楽しんでいるだと!?この下民がぁ!一族を小馬鹿にするのもいい加減に…………」

「だって、私のフレイドラモンをこんなに必死に倒そうとしてるじゃないですか」

「!!?」

 

 

椎名はバトルの途中から気づき始めていた。吸血が本当は心の奥底ではバトルスピリッツを楽しんでいるということに。

 

 

「私に勝ちたいんだったらネクロブライトのカードはフレイドラモンの時じゃなくて、BPの弱いブイモンの時に使うべきだ、…………でもあなたはそれをしなかった……………ってことは私のフレイドラモンを倒したかったってことですよね?やっぱり楽しんでるじゃないですか」

 

 

ニッコリと微笑ましく笑う椎名。だが、吸血はその言葉に心が大きく揺れたのか、動揺を隠せなかった。

 

 

「う、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいぃぃぃい!!!僕はこれっぽっちも楽しんではいない!」

 

 

動揺しつつも全力で否定する吸血。だが、もう椎名には誤魔化せない。

 

ーそしてラストだ。椎名はラスト1枚のカードを引き抜く。

 

 

「フラッシュマジック!ワイルドライド!!……この効果でこのターン、フレイドラモンのBPを3000上げ、BP勝負に勝った時回復する!」

手札1⇨0

リザーブ4⇨1

トラッシュ7⇨10

フレイドラモン+鎧殻竜グラウン・ギラスBP12000⇨15000

 

 

「な、………なん、だと!?……ラスト1枚がそのカード………」

 

 

これでエンペラーフォームのBPは14000だ。椎名のフレイドラモンよりも劣ってしまう。

 

 

「いっけぇ!!フレイドラモンっ!」

「ば、バカな!?」

 

 

BPが跳ね上がり、パワーアップしたフレイドラモンはエンペラーフォームとの距離を詰め、懐に入る。

 

剣の間合いの内側に来られたエンペラーフォームはその剣を振るうことができない。フレイドラモンはそのグラウン・ギラスとの合体で得た岩の拳で何度も何度もエンペラーフォームの鎧を殴りつけていく。

 

 

「その名を指し示せぇ!フレイドラモン!……………爆裂のぉぉぉお!!!!……ロックガントレットぉおお!!!」

 

 

フレイドラモンの決めのダブルパンチ。その時に装備された岩が衝撃で砕け散り、もともとのフレイドラモンの炎と合わさり、それはまるで爆弾さながら。エンペラーフォームも流石にそれには耐えることは出来ず、無惨にもその黄金の鎧は砕け散り、自身も力尽きて、爆発していった。

 

 

「え、エンペラー、フォーム」

 

 

絶対的な自信を持っていたエーススピリット、エンペラーフォームの破壊は流石にショックだったか、落ち込むような声を漏らす吸血。彼はもはや椎名に「下民」と言う気力さえ残されてはいなかった。

 

 

「ワイルドライドの効果でフレイドラモンは回復」

フレイドラモン+鎧殻竜グラウン・ギラス(疲労⇨回復)

 

 

フレイドラモンはワイルドライドの力により再び活力を取り戻す。吸血の場に唯一残ったエンペラーフォームは疲労状態。もはや邪魔するものはいない。

 

彼の手札に残った1枚のカードはキバフォーム。それも役には立つことはない。残ったコア数のことも考えればフラッシュの順番によっては彼は椎名に勝てたかもしれない。

 

 

「フレイドラモンでラストアタック!!」

 

 

だが、同時に吸血はなにかに気づいた。もうすぐ敗北して、バトルが終わるというのに。なぜだろうか、心の奥底が晴れやかになるような、靄が吹き飛ばされたような、清々しい、そんな気持ちだった。

 

ーそして最後のコールを宣言する。

 

 

「……………ライフで………受ける」

ライフ1⇨0

 

 

フレイドラモンの手から放たれる渦を巻く炎が、吸血の最後のライフを破壊していった。

 

吸血のライフゼロに伴い、界放リーグ、第2回戦、第一試合の勝者は芽座椎名だ。見事この壮絶なバトルに決着をつけてみせた。

 

あの【エンペラー】を倒したのだ。実況者や、観客席から轟音のような音が鳴り響いてくる。フレイドラモンも気高く咆哮しながらもゆっくりとその姿を消滅させていった。

 

椎名はBパッドをしまい、ゆっくりと吸血のところに歩み寄っていく。吸血はもう疲れきった、力が抜けた、そんな感じの表情をしていた。

 

 

「吸血先輩、………良いバトルでしたよ!またやりましょう!」

 

 

そう言って笑いながらサムズアップする椎名。だが、吸血はもう何も口にすることはなく、無言のままその場から直ぐに退散してしまう。

 

椎名はその寂しそうな背中をただ眺めることしかできなかった。

 

 

「バトルの楽しさ…………伝わってたら良いんだけどなぁ」

 

 

椎名は最後にそう呟いた。自分がやったことは吸血にとってはただのお節介だったのかもしれない。が、やはりバトルの、バトルスピリッツの楽しさを知らないのは人として辛すぎる。

 

でも、吸血は終盤、明らかにバトルを楽しんでいた。椎名は絶対にそうであったと信じて、自分も控え室に戻っていった。

 

 

******

 

 

【エンペラー】こと吸血堕天は自分の控え室で荷物を片付けていた。さっきのバトルのことを考えながら。

 

 

「なんなんだ、なんなんだ、この気持ちは、溢れ出る感情は!?…………負けたというのに、負けたというのに、……なぜ心が晴れやかなのだ……………っ!?!」

 

 

さっきのバトル。明らかにいつもの自分とは違う感情が流れてきていた。不思議な感じだった。あの憎たらしい下民に負けたというのに、去年、一昨年よりも結果が悪かったというのに、何故か心踊っていた自分がいた。

 

ーそれは本当は少しだけ考えたらわかることだった。ほんの少しだけ視点をずらすだけで、

 

吸血は何故だか、今度は急に涙が止まらなくなった。さっきのバトルのことを考えると、その時の思いを考えると、………それはどんどん大きな粒になっていく。

 

 

「何故なんだぁぁぁぁあ!!誰か説明してくれぇぇえ!!!あのバトルはなんだったんだぁぁぁぁあ!!!!!」

 

 

自分の鞄を地面に投げつけ、項垂れる吸血。本当は気づいている。素直な気持ちになれていないだけだ。

 

今日の2回戦は、界放リーグは、芽座椎名とのバトルは、吸血にとって最高に楽しかったのだ。吸血がその気持ちを理解し、新たな一歩を踏み出すのはもう少し先だった。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【エクスブイモン】!」

「エクスブイモンはブイモンが進化したスピリット、手札入れ替えの効果で手札を整えさせてくれるよ!次回もお楽しみに!」






最後までお読みくださり、ありがとうございました!


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第23話「赤き甲虫と鬼の軍勢、幸運を引き寄せろ!」

 

 

 

 

 

界放リーグ、その2回戦第二試合、激突する生徒はキングタウロス校3年。現在2連覇中の緑坂冬真、又の名を【ヘラクレス】。対するはデスペラード校1年、その人気はアイドル超え、超絶人気の女の子、紫治一族の末裔、紫治夜宵だ。

 

2人は中央スタジアムで顔を合わせる。

 

 

「おぉぉぉぉぉ!!!まさかあの夜宵ちゃんとバトルできるなんて〜〜〜光栄や〜〜!!……………………あっ、サインちょうだい」

「ははっ、…………い、いえ、こちらこそ光栄です」

 

 

世界中が注目する界放リーグだというのにヘラクレスは一切の緊張感を見せない。夜宵はやけに距離感が近いヘラクレスに少し引きつつも、ヘラクレスの持ってきた色紙にサインした。

 

ヘラクレスがあらかじめそれを持ってきていたと考えると、彼は本当に夜宵とバトルできるのを嬉しく思っていたのだろう。紫治夜宵のファン層はなかなか広い。

 

 

「…………はい、どうぞ」

「おぉぉぉぉぉっほっほ!ありがとや〜〜!」

 

 

サイン色紙をヘラクレスに渡す夜宵。ヘラクレスはそれを見て、まるで子供のように大はしゃぎする。

 

 

「でも気をつけてくださいね?」

「?」

「今日の運勢は緑が最下位で、紫が1位です……………そしてあなたは緑デッキ、私は紫デッキ…………どういう意味かわかりますね?」

 

 

つまり今日はヘラクレスの運が悪くなり、夜宵の運が最も強い日とでも言いたいのだろうか。

 

ヘラクレスは一瞬頭を抱えた。確かに自分は緑を使うが、最下位だからとて、バトルには全く関係がないだろう。と、

 

ヘラクレスはその運勢自体は、今日の夜宵がメインパーソナリティーを務めるラジオ番組、パープルヒーリングにて、知ってはいたが、

 

まぁ、どうせなにかのハッタリだと考えて、ヘラクレスはBパッドを展開した。夜宵も同様に、…………この後ヘラクレスは思い知ることになる。夜宵の占う運勢の力というものを。

 

 

「まぁ、気ぃつけときますわ……さっ、やろか?」

「ええ、」

「「ゲートオープン!界放!!」」

 

 

界放リーグ、第2回戦第二試合、ヘラクレスこと、緑坂冬真と、紫治一族の次女、紫治夜宵のバトルが始まった。

 

ー先行は夜宵だ。

 

 

[ターン01]夜宵

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、魂鬼と、ピコデビモンをLV1ずつで召喚!」

手札5⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

夜宵が早速召喚したのは火の玉幽霊のような姿になった鬼と、コウモリのような小さいデジタルスピリット、ピコデビモンだ。

 

ピコデビモンはシキツル互換の効果を所有しており、

 

 

「ピコデビモンの召喚時効果でデッキから1枚ドロー」

手札3⇨4

 

 

紫のデッキは手札が枯渇しにくい、ヘラクレスは手札が増え辛い緑のデッキ、運がどうとかよりも先ず、デッキ相性的に彼は若干不利であった。

 

 

「さぁ、これでターンエンドです」

魂鬼LV1(1s)BP1000(回復)

ピコデビモンLV1(1)BP1000(回復)

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目など、やれることは限られてくる。次はヘラクレスのターンだ。

 

 

[ターン02]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップやな、……………別に手札事故はしてへんしなぁ〜〜……………じゃあ、ネクサスカード、大樹茂る天守閣をLV2で配置や」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

ヘラクレスが早速呼び出したのは、天守閣を貫く大樹。これが背後に聳え立った。このカードはヘラクレスのデッキとは相性が良く、逆に夜宵にとってはきついカードだ。

 

 

「大樹茂る天守閣は、相手のターンで、緑のスピリットはコア数がLV1コストより少なくならないでぇ………………ターンエンドや」

大樹茂る天守閣LV2(2)

 

バースト無

 

 

これ以上は何もせずにそのターンを終えるヘラクレス。次は夜宵のターンだ。

 

 

[ターン03]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨3

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ、………私もネクサスカード、No.3ロックハンドを配置しようかしら」

手札5⇨4

リザーブ3⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

夜宵も背後にネクサスカードを配置する。それは今にも動き出しそうな岩でできた手。系統「呪鬼」を主軸に使うデッキならばその強力な効果を存分に活かせる。ヘラクレスとてそれを理解している。

 

 

「アタックステップ!行きなさい!ピコデビモンっ!」

 

 

小さな羽を広げて、ヘラクレスのライフめがけ飛び立つピコデビモン。だが、ここでヘラクレスの配置したネクサスカード、大樹茂る天守閣のLV2の効果が発揮される。

 

 

「大樹茂る天守閣のLV2の効果!相手のスピリットがアタックしてきた時、自分のデッキからカードを1枚オープンし、それが系統「怪虫」「殻虫」「殻人」を持つスピリットカードならノーコスト召喚する!」

「…………無駄よ、そんな効果使っても、…………今日のあなたの運勢は最悪なのだから」

 

「俺のデッキのカードのうち、30枚はスピリットやで?つまり確率は約4分の3で成功する……………カードオープンっ!」

オープンカード

【大樹茂る天守閣】×

 

 

外れた。あのヘラクレスが、運に見放された。それはバトル中では絶対にありえないことである。観客達はどよめいた。観客席にいる彼の妹の真夏も同様に。

 

 

「あれ?外したんかいな?………まぁ、そんな時もあるやろ………外したカードは破棄されるで……………そしてピコデビモンのアタックはライフや」

ライフ5⇨4

 

 

ヘラクレスは2枚目の大樹茂る天守閣のカードをトラッシュへと送った。

 

そして、送った瞬間にピコデビモンが彼のライフへと体当たりしてきた。そのまま彼のライフを1つ破壊した。

 

 

「さて、本当にそうでしょうか?…………次は魂鬼でアタック!」

 

 

夜宵はいつになく得意げな表情を見せている。

 

次は魂鬼がヘラクレスのライフを狙う。そしてまたヘラクレスの場にあるネクサスカード、大樹茂る天守閣の効果が発揮される。が、

 

 

「カードオープンっ!…………-あれ?」

【大樹茂る天守閣】×

 

 

また外れた。3枚目の大樹茂る天守閣のカードがトラッシュへと破棄された。一体ヘラクレスに何があったと言うのだろうか。確率的にも2回連続でこの効果を外すのはおかしい。ヘラクレスのデッキのスピリットは全てこの効果に該当する系統。そしてそれらは30枚ある。外す確率の方が圧倒的に低いのだ。

 

 

「うーーーーむ、しゃーない、ライフで受けたるか」

ライフ4⇨3

 

 

今度は魂鬼のアタックが彼のライフを1つ破壊した。

 

 

「………ターンエンドです」

ピコデビモンLV1(1)BP1000(疲労)

魂鬼LV1(1s)BP1000(疲労)

 

No.3ロックハンドLV1

 

バースト無

 

 

夜宵のターンが終わる。次は不調のヘラクレスのターンだ。

 

 

[ターン04]

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、………………どないしたもんやろなぁ?」

 

 

ヘラクレスはこの状況にも取り乱すことなく冷静さを保っていた。とにかく今は守りを固めるしかないだろう。手札のカードを1枚引き抜いた。

 

 

「じゃあ俺はテントモンでも召喚したろかな?LV2やで」

手札5⇨4

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

ヘラクレスがこのバトルで初めて召喚したのは、彼のデッキの軸となる緑のデジタルスピリット、てんとう虫型のテントモンが場に現れた。その召喚時はとても使いやすい効果であり、

 

 

「召喚時の効果でボイドからコア1つをテントモンに置くでぇ」

テントモン(3⇨4)

 

 

テントモンはコアの恵みを受ける。だが、夜宵はそこを見逃さなかった。自分の手札から1枚のカードを引き抜く。その効果はまさしく緑キラーとも言うべきカードであって、

 

 

「この瞬間!私は手札から龍面鬼ビランバの効果発揮!」

「おおっと!ビランバかいな!!」

 

 

龍面鬼ビランバ。紫のスピリットだが、その効果は、相手がコアステップ以外でコアをボイドから増やした時、ノーコスト召喚する効果に加え、その増えたコア1つにつき、相手のスピリットのコアを2つボイド送りにする強力な効果を持っているスピリットだ。

 

 

「相手がコアステップ以外でコアをボイドから増やしたので、これを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ1⇨0

龍面鬼ビランバLV1(1)BP8000(回復)

 

 

地中に蠢く闇の中から、龍の面を被った鬼のスピリット、ビランバが召喚された。さらに、

 

 

「ビランバの効果でテントモンのコア2つをボイドに送ります!」

 

「おおっとっとっ!……コアが逆に減っちまったよ」

テントモン(4⇨2)LV2⇨1

 

 

ビランバがテントモンに右手をかざすと、テントモンのコアは抜き取られてしまう。幸い消滅は免れたものの、ヘラクレスの総コア数は1つ減ってしまった。

 

 

「はっは、外れる天守閣に、ビランバ……………確かに最悪かもしれへんなぁ〜〜〜」

「ふふっ、呑気ですね?ヘラクレスさん、」

 

 

ヘラクレスもようやく夜宵の占いの凄さに気づく。いや、凄さには気づいてはいた。ヘラクレスとて、彼女のファンだからだ。ただ、バトルにここまで影響をきたすとは思ってはいなかった。

 

 

「まぁ、このターンは仕方あらへんなぁ〜…………バーストを伏せ、テントモンのLVを2に戻して、ターンエンドやで」

手札4⇨3

リザーブ1⇨0

テントモン(2⇨3)LV1⇨2

 

 

テントモンLV2(3)BP3000(回復)

 

大樹茂る天守閣LV2(2)

 

バースト有

 

 

機能しないネクサスと、テントモンだけじゃ、心もとない、ヘラクレスはバーストをセットし、守りを固め、そのターンを終えた。

 

いつものようにカブテリモンも手札には来ていなかった。これでは攻勢にも回りづらいものがある。

 

次は夜宵のターンだ。

 

 

[ターン05]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

 

 

「ドローステップ時、No.3ロックハンドの効果、手札にある系統「呪鬼」のスピリットカードを破棄することで、そのドロー枚数を2枚増やす!……………私はオーガモンのカードを破棄します!」

手札3⇨2⇨5

破棄カード

【オーガモン】

 

 

この効果は夜宵の得意とする戦法、トラッシュからの召喚の下準備も兼ねている。そしてそれは時を待つことなく始まろうとしていた。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨3

トラッシュ2⇨0

ピコデビモン(疲労⇨回復)

魂鬼(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、ピコデビモンのLVを2に上げます!」

リザーブ3⇨1

ピコデビモン(1⇨3)LV1⇨2

 

 

ピコデビモンのレベルアップ。これにより、ピコデビモンは進化の力を得た。そして夜宵はアタックステップに入る。自分のデッキの軸となるスピリットを召喚するためだ。

 

 

「アタックステップ!その開始時にピコデビモンの【進化:紫】を発揮!成熟期のデビモンに進化!LV2!」

デビモンLV2(2)BP7000

 

 

ピコデビモンに0と1のデジタルコードが身体中に巻かれて、それを成長させる。そして新たに現れたのは悪魔のような形相の成熟期デジタルスピリット、デビモンだ。

 

 

「ほぉ〜〜可愛い顔しとる割にはスピリットの顔はおっかないんやな〜〜」

「ふふ、使うスピリットは見た目では選ばないので……………アタックステップは継続!デビモンでアタック!」

 

 

穴の空いていてボロボロの翼で飛翔するデビモン。デビモンには強力なアタック時効果が備わっており、

 

 

「デビモンのアタック時効果!トラッシュから系統「成長期」「成熟期」のスピリットをノーコスト召喚できます!………………この効果でトラッシュにいるオーガモンを召喚!LVは1!」

リザーブ2⇨1

オーガモンLV1(1)BP8000

 

 

デビモンは空から闇のオーラを地面に向け、発射する。すると、触れた地面の中から飛び上がってくるスピリットの姿が、それはオーガモン。鬼型のデジタルスピリットだ。

 

夜宵は事前にロックハンドの効果でこのカードをトラッシュへと送っていたのだ。

 

 

「これで私の場にいるスピリットの総数は4。ちょうどあなたのライフをゼロにできます!」

 

「ちょい待ち!大樹茂る天守閣のLV2効果で1枚オープン!」

オープンカード

【千枚手裏剣】×

 

 

効果はまた外れ、そのカードはトラッシュへと破棄された。

 

今現在。夜宵の場のスピリットは魂鬼、ビランバ、デビモン、そしてオーガモン。と、計4体となっていた。これでヘラクレスのテントモンを飛び越えて、残り4つの彼のライフを破壊する算段だった。

 

だが、相手はあのヘラクレス。学園に入学してからその圧倒的な実力で幾度もの大会を総なめにしてきた彼の実力は計り知れない。当然まだ、この程度なら耐える。

 

 

「なるほど、……すごい展開力やな〜〜…………デビモンのアタックはライフで受けるでぇ」

ライフ3⇨2

 

 

デビモンの鋭い爪の攻撃が、ヘラクレスのライフを1つ八つ裂きにする。だが、それは同時に彼のバーストの発動条件であって、

 

 

「ライフの減少により、バースト発動!手裏剣大地!!効果でコアを1つ増やすでぇ」

リザーブ1⇨2

 

「!!……ネクサスのバースト!?」

 

 

勢いよくひっくり返るヘラクレスのバーストカード。それはあまり見ないネクサスカードのバーストだ。特にこのカードは強力。何せ、ダブルシンボルでコアブースト効果など、優秀な効果が詰まっているのだから。

 

 

「この効果発揮後、ノーコスト配置する!……………配置時効果で相手のスピリットを2体疲労!選ぶのはビランバと、オーガモンや!」

 

「!!」

オーガモン(回復⇨疲労)

龍面鬼ビランバ(回復⇨疲労)

 

 

ヘラクレスの背後に天守閣と並ぶもう1つのネクサス、手裏剣大地が現れた。その巨大な手裏剣は勢いよく回転、風を起こし、夜宵のオーガモンと、ビランバ、2体のスピリットを疲労させた。

 

 

「うっ、……………仕方ないですね、このターンはエンドです」

デビモンLV2(2)BP7000(疲労)

オーガモンLV1(1)BP8000(疲労)

龍面鬼ビランバLV1(1)BP8000(疲労)

魂鬼LV1(1s)BP1000(回復)

 

No.3ロックハンドLV1

 

バースト無

 

 

ここは致し方ないと言うべきか、夜宵は魂鬼だけをブロッカーに残し、そのターンを終える。次はヘラクレスのターンだ。

 

 

[ターン06]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ、……………よし、一発かましたろか…………」

「!?」

 

 

ヘラクレスはドローしていた。自分のデッキのメインアタッカーの1体を。それは彼の叔父譲りの強力なカードであって、

 

 

「アトラーカブテリモンをLV2で召喚や!」

手札4⇨3

リザーブ5⇨0

テントモン(3⇨2)LV2⇨1

 

 

地中から勢いよく飛び出してくるのは、茶色っぽい赤色の甲殻を携えた甲虫の完全体デジタルスピリット、アトラーカブテリモンだ。

 

 

「アトラーの召喚時効果で、相手のスピリット2体を疲労…………ゆうても回復しとるのは魂鬼だけやがな」

 

「……………」

魂鬼(回復⇨疲労)

 

 

巨大な甲虫、アトラーカブテリモンが巻き起こす旋風に、魂鬼は疲労状態となってしまった。

 

 

「…………テントモン…………消しとくか…………テントモンを消滅させ、そのコアで手裏剣大地のLVを2にアップさせるでぇ…………さらにバーストも伏せる」

テントモン(2⇨0)消滅

手裏剣大地(0⇨2)LV1⇨2

手札3⇨2

 

 

テントモンは寂しそうな顔で消滅してしまうものの、ヘラクレスの配置したネクサスカード、手裏剣大地のLVがアップする。

 

手裏剣大地、LV2の効果はエンドステップ時に、自分のスピリット2体を回復させるというもの、ヘラクレスはLV2のアトラーカブテリモンをアタッカーにしつつ、ブロッカーとしても立てておきたかったのだろう。

 

 

「アタックステップ!………ほないってき!アトラー!」

 

 

走り出すアトラーカブテリモン。目指すは夜宵のライフだ。だが、その前にアタック時効果の処理があり、

 

 

「アトラーのアタック時効果で、今度はデビモンとオーガモンを手札に戻すで!」

 

「!!」

手札5⇨7

 

 

アトラーカブテリモンの一本ツノから放たれる赤い稲妻がデビモンとオーガモンを襲う。彼らは力尽き、夜宵の手札へと戻ってしまった。

 

アトラーカブテリモンは召喚時かアタック時に、2体疲労か、疲労状態のスピリット2体を手札に戻すかのどれか1つの効果を発揮させることができる。

 

そしてこれが本命のアタックだ。

 

 

「………そのアタックはライフで受けます!」

ライフ5⇨4

 

 

アトラーカブテリモンの一本ツノの攻撃で夜宵のライフがようやく1つ破壊された。だが、これだけでは終わらない。アトラーカブテリモンのもう1つの効果がここで発揮される。

 

 

「アトラーカブテリモンのもう1つの効果……完全体のスピリット1体につき、さらに1つのライフを破壊する!……今はアトラーが1体!よってさらに1つのライフを破壊するでぇ!…………レッドホーンブレイク!」

 

「…………くぅ!」

ライフ4⇨3

 

 

アトラーカブテリモンの一本ツノから放たれる赤い稲妻が、夜宵のライフへと落雷する。夜宵のライフがさらに1つ破壊された。

 

 

「エンドステップ………手裏剣大地の効果でアトラーを回復…………ターンエンドや」

アトラーカブテリモンLV2(3)BP13000(疲労⇨回復)

 

大樹茂る天守閣LV2(2)

手裏剣大地LV2(2)

 

バースト有

 

 

やることを全て失い、仕方なくそのターンを終えるヘラクレス。次は夜宵のターンだ。

 

 

[ターン07]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

 

 

「ドローステップ時にロックハンドの効果で再びオーガモンを破棄してドロー枚数を増やします!」

手札7⇨6⇨9

破棄カード

【オーガモン】

 

 

夜宵は再びロックハンドの効果を使い、その手札を一気に潤した。

 

 

《リフレッシュステップ》

魂鬼(疲労⇨回復)

龍面鬼ビランバ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、先ずはピコデビモンをLV2で召喚!」

手札9⇨8

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

再び小さな羽を翻し、飛び立つのはピコデビモン。夜宵はその召喚時の効果を発揮させる。

 

 

「ピコデビモンの召喚時効果でカードを1枚ドロー!」

手札8⇨9

 

 

ピコデビモンの効果でカードを増やす夜宵。だが、それこそがヘラクレスのバースト発動の条件でもあって、

 

 

「相手の手札が効果で増えた時、バースト発動!千枚手裏剣!」

 

「!!」

龍面鬼ビランバ(回復⇨疲労)

魂鬼(回復⇨疲労)

 

 

ヘラクレスのバーストが勢いよくひっくり返る。そのまま強い突風が吹いてきて、夜宵の場にいるビランバと魂鬼を疲労状態にしてしまった。

 

 

「千枚手裏剣は相手のスピリット2体を疲労させ、2つコアを増やすバーストやで」

リザーブ0⇨2

 

 

夜宵も迂闊だったと言える。何せあの千枚手裏剣のカードは一度、大樹茂る天守閣の効果でオープンされていたのだから、注意していたらあのバーストは踏んではいなかったことだろう。

 

 

「くっ!……でもメインステップならやり直しは効きます!……ビランバと魂鬼を消滅させて、新たに魂鬼を2体召喚!」

手札9⇨7

龍面鬼ビランバ(1⇨0)消滅

魂鬼(1⇨0)消滅

 

 

夜宵はメインステップで疲労してしまった2体を自ら消滅させて、新たに魂鬼を2体召喚した。

 

 

「さらにオーガモンをLV1で召喚!」

手札7⇨6

リザーブ1⇨0

 

 

夜宵はさらにロックハンドの効果で破棄したオーガモンとは別の2枚目のオーガモンを召喚した。

 

これで準備は整った。夜宵はアタックステップへと移行する。

 

 

「そしてアタックステップ!その開始時にピコデビモンの【進化:紫】を発揮!成熟期のデビモンに再び進化!」

デビモンLV2(2)BP7000

 

 

再びピコデビモンはデジタルコードに巻かれて、成熟期のデビモンに進化を遂げた。

 

 

「アタックステップは継続!……デビモンでアタック!そのアタック時効果でトラッシュにあるオーガモンを再召喚!」

リザーブ1⇨0

オーガモンLV1(1)BP8000

 

 

デビモンは今一度闇の力を使い、トラッシュからオーガモンを復活させた。

 

これで夜宵の場にいるスピリットの総数はデビモンに加え、2体のオーガモン、魂鬼、と、計5体。ヘラクレスのブロッカーの数を通り越して余裕で彼のライフを破壊することができる。

 

 

「大樹茂る天守閣のLV2の効果でカードをオープンや」

オープンカード

【手裏剣大地】×

 

 

そして当たり前のように外れる大樹茂る天守閣。今日のヘラクレスは一体どうしたと言うのか。

 

そして夜宵のデビモンが彼のライフへと迫り来る。

 

 

「デビモンの本命のアタックはどうします?」

「…………アトラーでブロックや………」

 

 

BPは圧倒的にアトラーカブテリモンが上、上空にいるデビモンを巨大な腕で鷲掴みにして地面に思いっきり叩きつけた。デビモンは当然耐えることはできずにその場で爆発してしまった。

 

だが、夜宵の場にはまだ4体のアタックできるスピリットが生存しており、

 

 

「魂鬼でアタック!」

 

「大樹茂る天守閣!」

オープンカード

【手裏剣大地】×

 

 

また外れる。ヘラクレスのデッキにあるスピリットではないカードは後2枚だ。

 

魂鬼が彼のライフへと向かう。

 

 

「仕方ない、そのアタックはライフで受けよか〜〜」

ライフ2⇨1

 

 

絶対絶命のピンチだと言うのにもかかわらず、ヘラクレスは余裕だった。魂鬼にライフを減らされて、残りのライフはわずかに1だと言うのに。

 

夜宵は最後のアタックを少しだけ戸惑った。ヘラクレスの放つあの異様な強者のオーラに思わずたじろいだからだ。だが、それでもアタックをした。今日の自分の運勢は最高であると信じて、

 

 

「オーガモンでアタック!これで終わりです!」

 

 

走り行くオーガモン。目指すはヘラクレスのライフだが、忘れてはならない。ここでヘラクレスの配置したネクサスカード、大樹茂る天守閣のLV2の効果が再び発揮されることを。

 

ヘラクレスのデッキに眠るスピリットは全てこの効果に該当する。そしてスピリット以外のカードは後2枚。普通なら当たるはずだが、今回はもうすでに何度もこの効果を外してきていた。

 

だが、ヘラクレスは何のためらいもなくデッキから1枚のカードをオープンした。まるで勝ちを確信しているような。そんな手際だった。

 

 

「大樹茂る天守閣の効果!」

オープンカード

【アトラーカブテリモン】○

 

「!!……そんな!?ここでアトラーを!?」

 

 

ヘラクレスがめくったのは2枚目のアトラーカブテリモンのカードだった。それはまさしくこの状況では最高のカードであって、

 

ヘラクレスは大樹茂る天守閣の効果でこのカードをノーコスト召喚する。

 

 

「効果は成功や!2枚目のアトラーカブテリモンをLV2でノーコスト召喚!」

リザーブ3⇨0

アトラーカブテリモンLV2(3)BP13000

 

 

再び蠢きだす地中。そしてその中から2体目のアトラーカブテリモンが召喚された。アトラーカブテリモンはこの時でもその召喚時効果を発揮できる。

 

 

「アトラーの召喚時効果!魂鬼とオーガモンを1体ずつ疲労や!」

 

「くっ!」

魂鬼(回復⇨疲労)

オーガモン(回復⇨疲労)

 

 

再び巻き起こる旋風。その風は瞬く間に夜宵の2体のスピリットを疲労状態にしてしまう。

 

そしてこのタイミングは、オーガモンのアタック中であって、

 

 

「オーガモンのアタックは2体目のアトラーでブロックやで」

 

 

体格差は圧倒的、オーガモンの棍棒を振り回す攻撃はアトラーには全く通用しない。そのまま軽く手で吹き飛ばされて、オーガモンは爆発してしまう。

 

 

「う、うそ、ここまで追い詰めて…………」

「夜宵ちゃぁん、バトスピは占いなんかに収まるようなゲームじゃないでぇ」

 

 

いったいなぜヘラクレスはこの土壇場で運気が戻ったのだろうか、そう考えていた夜宵。このタイミングでアトラーカブテリモンはいくらなんでも強すぎる。運勢が最悪ならば、スピリットは引いても弱いスピリットであるはずだと考えたからだ。

 

だが、もうどちらにせよこのターンは終了せざるを得ない。夜宵はターンをヘラクレスに渡した。

 

 

「……………ターン、エンドです」

魂鬼LV1(1s)BP1000(疲労)

魂鬼LV1(1)BP1000(疲労)

オーガモンLV1(1)BP8000(疲労)

 

N o.3ロックハンドLV1

 

バースト無

 

 

次はヘラクレスのターン。2体のアトラーカブテリモンが猛攻をかけるべく起き上がる。

 

 

[ターン08]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

アトラーカブテリモン(疲労⇨回復)

アトラーカブテリモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ…………ゆうてももういらんやろ、アタックステップやで!アトラーカブテリモンでアタック!」

 

 

ラストアタックにすべく、2体のうちの1体のアトラーカブテリモンが走りだす。

 

 

「アタック時効果で魂鬼と、オーガモンを1体ずつ手札に戻すでぇ!」

 

「…………!!」

手札6⇨8

 

 

アトラーカブテリモンから放たれる赤い稲妻が魂鬼とオーガモンを狙い撃った。2体は耐えられなくなり、夜宵の手札へと帰還してしまう。

 

夜宵はたった今気づいた。自分の運気の方が無くなっていることに。自分の手札はあんなにドローしたのにもかかわらず、防御札と呼ばれるカードが1枚もなかった。そして拍車をかけるようにあのタイミングで効果で出てきたアトラーカブテリモン。まるで全ての行いがヘラクレスの勝利を導いているようだった。

 

 

(なんて人………!……こんな人を味方につけれたら…………)

 

 

心強い。夜宵は思わずそう心の中で考えてしまった。

 

 

「……ライフで受けます……………っ!」

ライフ3⇨2

 

 

アトラーカブテリモンの一本ツノの一撃が夜宵のライフを1つ破壊した。そしてまだ終わらない。アトラーカブテリモンの最後の効果が発揮される。

 

 

「アトラーの効果!………今回はアトラーが2体分で2点のライフを破壊するでぇ!…………レッドホーンフィニッシュ!!」

 

「き、きゃぁぁあ!!」

ライフ2⇨0

 

 

共鳴する2体のアトラーカブテリモン。アタックした方が、そのツノに赤き稲妻2体分を集中させて、夜宵のライフめがけて突進する。それを纏った一撃が、夜宵のライフを一気にゼロにした。

 

これにより勝者はヘラクレス。夜宵の予言を見事に乗り越えてみせた。これで今年のベストスリーが確定する。バトル終了に伴い、2体のアトラーカブテリモンが奇声を上げながらゆっくりとその姿を消滅させていった。

 

 

「いやぁ、楽しかったでぇ!夜宵ちゃん!ほなまたなぁ〜〜〜」

 

 

そう言って掌を挙げて去っていくヘラクレス。夜宵はその強者の背中を見届けながら考えていた。【あの人材はこの後必ず必要になると】。

 

その試合をテレビで観ていた夜宵の姉、明日香も同じことを考えていた。この界放市に間違いなく何かが起ころうとしている。

 

そして次の対戦者、2回戦のラスト、第三試合は、【朱雀】こと、赤羽司と、【五の守護神】こと五護鉄火のバトルだ。司はあの鉄壁の守りを崩すことができるのか。

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【デビモン】!」

「デビモンは紫の成熟期スピリット!アタック時に成長期か成熟期をなんとトラッシュから復活させるよ!」








最後までお読みくださり、ありがとうございました!


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第24話「朱雀よ、難攻不落の牙城を攻略せよ!」

 

 

 

界放リーグの2回戦もいよいよ大詰め。最後の第三試合が始まろうとしていた。その対戦者とは、ジークフリード校の1年、【朱雀】こと、赤羽司。オーディーン校の3年、【五の守護神】こと、五護鉄火だ。2人はスタジアムで顔を合わせていた。

 

 

「朱雀………赤羽司、か」

「お初にお目にかかるなぁ、五の守護神」

 

 

この2人は初対面だった。だが、互いの名前くらいは当然知っている。年齢差の関係でジュニアクラスの大会では巡り会うことがなかったが、こうして今、各学園の代表同士として向かい合っている。

 

 

「難攻不落の鉄壁のライフ、瓦解させてやるぜ」

「ほぉ、貴様の攻撃が俺を楽しませると言うのか?…………いいだろう」

 

 

2人はBパッドを展開した。

 

ーそして

 

 

「「ゲートオープン!界放!!」」

 

 

界放リーグ、その2回戦最後の第三試合が始まる。先行は司だ。

 

 

[ターン01]司

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、イーズナを召喚」

手札5⇨4

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

司が最初に呼び出したのは、イタチのようなスピリット、イーズナ。赤と黄色として扱う便利なハイブリットスピリットだ。

 

 

「ターンエンド」

イーズナLV1(1)BP1000(回復)

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目などやることが限られている。司はイーズナを呼び出しただけでそのターンを終えた。次は五護のターンだ。

 

 

[ターン02]五護

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、機巧武者サイウンをLV2で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

五護が呼び出したのは青き鎧を携え、2本の刀を持つ系統「機巧」のスピリット、サイウンだ。このスピリットは機巧のデッキにおいては必須といっても過言ではない効果を持っており、

 

 

「知ってるとは思うが、サイウンは全ての機巧スピリットのBPを3000上げる」

機巧武者サイウンLV2(2s)BP4000⇨7000

 

「………知ってるさ……エンドステップ時にお前のライフが減っていなければコアを大量に増やす」

 

「その通りだ………ターンを終幕する」

機巧武者サイウンLV2(2s)BP7000(回復)

 

 

サイウンを維持しつつライフを守ることが、そのままコアブーストのメリットに繋がる。五護は当然ここでアタックは仕掛けずにそのターンを終えた。

 

次は司のターンだ。

 

 

[ターン03]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨4

 

 

「メインステップ、2体目のイーズナとハーピーガールをLV1で召喚!」

手札5⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

司が呼び出したのは2体目のイーズナと、腕や足のみが鳥型となっている女性型のスピリット、ハーピーガール。司のいつものスピリットたちだ。

 

 

「無理矢理にでも減らしに行くぞ…………アタックステップだ…………イーズナでアタック!」

 

 

サイウンの効果は極めて厄介だ。司の言う通り、無理矢理にでもライフを減らしに行かなければアドバンテージの差は開く一方だろう。

 

走り出す1体のイーズナ。そして対する五護の選択は、

 

 

「サイウンでブロック」

 

 

ブロックした。理由はただ1つ、仮にこのアタックをライフで受ければ司はこのターン絶対にもうアタックはしないだろう。その時点で五護のライフを破壊することに成功しているからだ。

 

つまりアタックする必要がなくなる。だからせめてブロックして司のスピリットを破壊しようという魂胆だ。

 

BP差は圧倒的、イーズナは果敢に飛び込むも、サイウンの刀にいとも容易く切り裂かれた。

 

だが、これで五護を守るスピリットは誰一人としていない。司の猛攻が始まる。

 

 

「2体目のイーズナとハーピーガールでアタック!」

 

「……………ライフで受けよう」

ライフ5⇨3

 

 

司のイーズナとハーピーガールがそれぞれ体当たりと翼の一撃で五護のライフを1つずつ破壊した。はやくも五護の牙城を崩してみせた。

 

 

「ハーピーガールの【聖命】の効果でライフを1つ回復する……………はやくも自慢の牙城が崩れたな」

ライフ5⇨6

 

 

ハーピーガールの効果で司のライフが5から6になる。

 

 

「ふん、この程度で崩れたとでも思うか?」

 

 

ライフ5から3にまで減らされたと言うのに五護は全くその冷徹な表情を崩さない。バトルスピリッツは試合が進めば次第にライフが減っていくゲーム。序盤で速攻を受けて仕舞えば誰だってライフが減らされてしまう。

 

だが、五護のバトルは白の効果を活かし、その失われたライフをバトル中に取り戻していく。この程度のライフの減少は彼にとって必要経費と言ったところなのだろう。

 

 

「…………ターンエンドだ」

イーズナLV1(1)BP1000(疲労)

ハーピーガールLV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト無

 

 

司はターンを終える。このターンで五護のサイウンの効果を発揮させなかっただけでも御の字だ。

 

司とて彼の、五護のバトルを知っている。この程度で有利になるとは到底思えてはいなかった。

 

 

[ターン04]五護

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、俺は鉄砲機兵タネガシマと機巧将シグレをLV1ずつで召喚」

手札5⇨3

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

五護が召喚したのは火縄銃のようなものを持った機械兵、タネガシマと、大きめの刀を携えた白い機巧武者、シグレだ。

 

この2体も当然系統「機巧」を持つスピリット。サイウンのBPアップ効果を受けることができる。

 

 

「さらに俺はネクサスカード機巧城をLV1で配置」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

トラッシュ2⇨4

 

 

五護の背後に白くて巨大なお城が聳え立つ。その存在感は抜群である。

 

そして五護は仕返しと言わんばかりにアタックステップに移行する。シグレが疲労状態でもブロックできる効果を持つので、思い切ってアタックできたことだろう。

 

 

「アタックステップ、3体のスピリットで一斉アタック」

 

「………ちぃ、……3体ともライフだ」

ライフ6⇨3

 

 

走り出すサイウンとシグレ、銃を構えるタネガシマ。2体の持つ刀の一閃とタネガシマの銃撃が、司のライフを3つも奪っていった。これで2人のライフの数は同値となる。

 

 

「…………流石に一筋縄ではいかない、か」

 

 

そう思わず呟いてしまう司。五護はあの実力が底を知らないヘラクレスと肩を並べると言われるほどのバトラーだ。初めからそうは思ってはいたが、いざ対面してみると初めてわかった。彼は強い。

 

おそらく今までの自分だったら、あの勝ちに固執し、固定概念に囚われるだけの自分だったら間違いなく負けていたことを悟る。だが、今の自分は違う。このバトルでその証明をすると今、心に誓った。

 

 

「ターンを終幕する………さぁ、どこからでも俺のライフを減らしに来い」

機巧武者サイウンLV2(2s)BP7000(疲労)

鉄砲機兵タネガシマLV1(1)BP6000(疲労)

機巧将シグレLV1(1)BP7000(疲労)

 

機巧城LV1

 

バースト無

 

 

やることを全て終え、そのターンを終える五護。次は司の番だ。反撃なるか、

 

 

[ターン05]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨7

トラッシュ2⇨0

ハーピーガール(疲労⇨回復)

イーズナ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ………………」

 

 

司は考える。さっきのターンは攻めたが、間違いなく五の守護神の牙城は完成しつつある。このターンも攻めたいところだが、全くつけいる隙がないのだ。

 

あの五護の場にいるスピリット、機巧将シグレは、疲労状態でもブロックでき、相手のターン中ではそのBPを4000も上げる。サイウンの効果とも相まって厄介だ。LVが1なのもそれに拍車をかける。LVか2、3ならば、ハーピーガールの効果ですり抜けられるのだ。五護はおそらくその効果を知っていたからこそ、敢えてLV1で召喚したのだろう。

 

このターンは致しかたない、司はこのターン、場の維持に全力を尽くす。

 

 

「俺はネクサスカード、朱に染まる薔薇園を2枚、LV1で配置」

手札4⇨2

リザーブ7⇨4⇨2

トラッシュ0⇨3⇨5

 

 

司の背後に現れるのは真っ赤の薔薇に染まる園庭。2枚分により、それはより一層凄みを増していた。

 

スピリットのBPでは司が圧倒的に不利になる。こうなれば司は高レベルのスピリットに頼る他ないだろう。そう思って、赤と黄色、2つのシンボルを持つこのネクサスでシンボルの確保を行ったのだ。

 

ーしかし、結局できることはこれだけである。

 

 

「………ハーピーガールのLVを3に上げ、俺はこのターンエンドだ」

リザーブ2⇨0

ハーピーガール(1⇨3)LV1⇨3

 

 

ハーピーガールLV3(3)BP5000(回復)

イーズナLV1(1)BP1000(回復)

 

朱に染まる薔薇園LV1

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

司は結局それ以外は何もすることはなく、そのターンを終えてしまった。そして、五護のスピリット、サイウンと、ネクサス、機巧城の効果が発揮される。ライフを守りきった褒美として、五護にコアとドローの恵みが与えられる。

 

 

「このターン、俺のライフが減っていないことにより、機巧城の効果で2枚ドローし、サイウンの効果でコアを3つ増やす」

手札2⇨4

機巧武者サイウン(2s⇨5s)LV2⇨3

 

「…………ちぃ」

 

 

一瞬だ。ほんの一瞬相手が彼の守りに屈しただけで一気にアドバンテージの差が開いていく。これが彼のデッキの恐ろしいところだ。

 

次はそんな五護のターンだ。増えたコアと手札でいったい何をするのか、

 

 

[ターン06]五護

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

鉄砲機兵タネガシマ(疲労⇨回復)

機巧武者サイウン(疲労⇨回復)

機巧将シグレ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺はマジックカード、リカバードコアを2枚使用する」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

機巧武者サイウン(5s⇨4s)

トラッシュ0⇨3⇨6

 

 

五護が使ったのは白のライフ回復マジックだ、これで彼のライフが元に戻る。つまりは牙城の修復だ。

 

 

「………これでまた振り出しだな」

ライフ3⇨4⇨5

鉄砲機兵タネガシマ(1⇨2⇨3)LV1⇨2

 

「くっ……………」

 

 

絶対にライフ5を貫き通す彼の、五護のバトルスタイル。彼は勝つつもりだ。このまま、……………もう1つのライフも削られることもなく。

 

 

「アタックステップ…………やれ、機巧武者達よ」

 

 

走り出す3体の機巧スピリット達、司はすべてのアタックをライフで受けるわけにはいかない。極力今回はブロックする作戦に出る。

 

 

「…………イーズナとハーピーガールでブロックだ」

 

 

イーズナがサイウンに、ハーピーガールがシグレに挑むも、2体ともあっさりと刀に切り裂かれてしまう。

 

そしてタネガシマのアタックが残っている。

 

 

「タネガシマはどうする?」

 

「ちぃ、………ライフだ」

ライフ2⇨3

 

 

タネガシマの銃撃が、司のライフを貫いた。

 

 

「………ターンを終幕する」

鉄砲機兵タネガシマLV2(3)BP8000

機巧武者サイウンLV2(2s)BP7000

機巧将シグレLV1(1)BP7000

 

機巧城LV1

 

バースト無

 

 

ほんの前の、ほんの前のターンでは司が圧倒的に有利だった。ライフは6、五護は3。圧倒的であったはずなのに、わずかこれだけで司はなぜかライフを逆転され、場のスピリットは消え去っていた。

 

そもそもデッキの相性が悪い。司のデッキのスピリット達は全体的にBPが低い、それに対して五護の操る機巧スピリット達は軒並みにBPが高いスピリットが多い。肉弾戦になると、どうしても司には部が悪かった。

 

だが、司とて諦めているわけじゃない。なんとかこの場を突破出来ないか模索する。彼の父、紅蓮の教え、【あるもの全ての可能性を考え、それをフルで活かせ】これを使って勝つことを胸に。

 

 

[ターン07]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨7

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ7⇨12

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ……………俺はホークモンを召喚!」

手札3⇨2

リザーブ12⇨10

トラッシュ0⇨1

 

 

司は自分のデッキの中核となるスピリット、ホークモンを召喚した。その効果でいつものあいつを呼び込む。

 

 

「ようやく出てきたか、貴様のデジタルスピリット」

 

「………あぁ、まぁな………ホークモンの召喚時効果、カードを3枚オープンし、対象のカードを手札に加える!」

オープンカード

【イーズナ】×

【イエローリカバー】×

【ホルスモン】○

 

 

効果は成功、司はホークモンの効果でホルスモンを手札に加えた。そして召喚する。自分が最も頼りにしているアーマー体を。

 

 

「【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!1コストを支払い、羽ばたく愛情!ホルスモンを召喚!」

リザーブ10⇨9

トラッシュ1⇨2

ホルスモンLV1(1)BP4000

 

 

ホークモンの頭上に、独特な形をした卵が落下してくる。ホークモンは自らそれに飛び込み、衝突、そして混ざり合う。そして新たに現れたのは赤き空飛ぶ獣型のアーマー体スピリット、ホルスモンだ。

 

ホルスモンには赤属性らしい便利な効果が内蔵されている。

 

 

「ホルスモンの召喚時効果!お前のネクサスを破壊し、カードをドローする!…………俺が選ぶのは当然機巧城だっ!」

手札3⇨4

 

「!!」

 

 

機巧城を謎の力を使いながら睨みつけるホルスモン。すると、機巧城はまるで埋まっていくように地面へと姿を消していく。

 

ネクサスの破壊とドロー。まさしく赤属性らしい効果だ。そしてここで司は最高のドローをした。そのカードとは、1回戦での炎林とのバトル、その時に覚醒したオーバーエヴォリューションにより得た、彼の新たなる力だ。

 

 

「行くぞ!俺はこのカード、シルフィーモンをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ9⇨2

トラッシュ2⇨6

 

「………あの時のスピリットか」

 

 

聖なる光と風、それが一点に集中する時、白い獣戦士型のスピリット、完全体のシルフィーモンが場に現れた。

 

シルフィーモンには強力な召喚時効果がある。それはなかなかに利便性の高い、広範囲の除去効果であって、

 

 

「召喚時効果!BP12000以下の相手スピリット1体を破壊する!…………消えろっ!サイウンっ!…………トップガン!!」

 

「……………くっ!」

 

 

シルフィーモンの両手から放たれる螺旋状のエネルギー凝縮弾は、疲労しているサイウンに直撃する。サイウン程度のスピリットが、その強力な攻撃を受けられるわけもなく、無惨にもその鎧が砕け散り、大爆発してしまった。

 

サイウンの損失により、五護のスピリットのBPが大幅に減少した。

 

さらに司はここぞとばかりに一気に攻め込む。その手札から1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「さらにマジック!レッドライトニング!…………この効果でお前のタネガシマを破壊する!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

トラッシュ5⇨7

 

「……………」

 

 

迸る赤い稲妻が、タネガシマに直撃する。タネガシマはそれに耐えることはできず、呆気なく破壊されてしまった。これで五護の場に残ったのはシグレだけとなってしまう。

 

そして司は一気に攻め込むべく、アタックステップに入る。

 

 

「アタックステップ!シルフィーモンでアタックだ!」

 

 

宙に飛び上がるシルフィーモン。そのまま滑空するように進んで行く。

 

そのBPは9000。五護のシグレよりも1000高い。

 

 

「…………この程度の攻撃で崩れる俺ではないっ…………シグレでブロック……」

 

 

滑走路を邪魔するように現れるシグレ。そして五護は手札から1枚のカードを引き抜く。彼が多量に入れている防御マジックだ。

 

 

「フラッシュマジック!鉄壁ウォール!……このバトルで貴様のアタックステップは終幕するっ!……さらにコストにソウルコアを支払った場合、自分のスピリットはあらゆる破壊から身を守られる」

手札3⇨2

リザーブ7s⇨4

トラッシュ6⇨9s

 

「!!」

 

 

BPはシルフィーモンが上、シグレをそのまま地面へとたたきふせるが、シグレは五護の使った鉄壁ウォールの効果で場に残る。

 

だが、シルフィーモンにはバトルの終了時にも効果を発揮できるスピリットであって、

 

 

「シルフィーモンの効果!バトル終了時、俺のライフを1つ回復する!」

ライフ2⇨3

 

 

シルフィーモンの聖なる力が、司のライフに流れ込み、それを1つ回復させた。そしてこの時にも効果を発揮できるカードが、

 

 

「さらに朱に染まる薔薇園のLV1効果、俺のライフが増えた時、デッキから1枚ドロー…………それが2枚あることにより、2枚ドローする!」

手札2⇨4

 

 

司はさらに朱に染まる薔薇園の効果で一気に手札を増やした。さっきまで圧倒的だった差を一気に縮めるどころか引き離してしまった。

 

だが、五護は全くその冷徹な表情を崩してはいなかった。まるで全てが自分の計算通りで必然であったかのような顔つきだ。

 

 

「………俺はこれでターンエンドだ」

ホルスモンLV1(1)BP4000(回復)

シルフィーモンLV2(3s)BP9000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

鉄壁ウォールにより、やれることを失った司はそのターンを終えた。そして次は五護のターンだ。

 

 

[ターン08]五護

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨14

トラッシュ9⇨0

機巧将シグレ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、………………時は満ちた」

「あぁ?」

 

 

五護はこのタイミングであのスピリットを召喚するつもりだ。自分の最も信頼するエーススピリットを。

 

ー手札を1枚引き抜く。

 

 

「我が牙城を完璧なものとせよ!召喚!大機巧武者コンゴウ!!!!」

手札3⇨2

リザーブ14⇨4

トラッシュ0⇨7

 

「……………きやがったな」

 

 

大きな体躯に、白い武装、棍棒の武器を携えて今発進した。その名はコンゴウ。彼のエーススピリット、司とてそれを知っている。その効果も、

 

 

「アタックステップ!やれぇ!コンゴウ!」

 

 

背中のジェットを巧みに使い、対空移動で移動するコンゴウ。そのアタック時、ブロック時の効果は非常に厄介、そして今、コンゴウのカードにはソウルコアが置かれており、

 

 

「コンゴウの効果!お前のソウルコアが置かれていないスピリット、ホルスモンを手札に戻し、さらにコンゴウ自身の効果でそれをデッキボトムに!」

 

「……………」

 

 

コンゴウの棍棒の一振り、それは竜巻を発生させ、ホルスモンを一瞬のうちに巻き込み、それごと消滅した。コンゴウはソウルコアが置かれている時、アタックステップ中、相手のスピリットが手札に戻る場合、そのスピリットを手札ではなくデッキに戻す効果がある。

 

 

「ふんっ、だがシルフィーモンは戻されはしない」

 

 

司はこの危機を察知し、事前にシルフィーモンの上にソウルコアを置いていた。五護が相手なら妥当な判断だが、彼のバトルに隙はない。それを司は思い知る。

 

 

「関係ない、フラッシュマジック!ドリームバブル!効果でスピリット1体を手札に、…………突然シルフィーモンだ」

手札2⇨1

リザーブ4⇨2

トラッシュ7⇨9

 

「なに!?」

 

 

コンゴウの効果は決して自分の効果のみに反応する効果ではない。手札にも出されるならどんなカードでもデッキ下のバウンス効果になるようなものだ。

 

シャボン玉のようなものに閉じ込められるシルフィーモン。それは浮力のまま空中へと足を運び、やがて破裂、シルフィーモンもその中で姿を消した。

 

 

「これで頼みの綱が消えたな……………これが本命のアタックだどう受ける?」

 

「ちぃ、仕方ねぇフラッシュマジック!シンフォニックバースト!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨3

トラッシュ8⇨9

 

「!?」

 

「この効果により、このバトルの終わりに俺のライフが2以下ならそれでお前のアタックステップは終わりだ!…………そのデカブツのアタックは当然ライフで受けてやるぜ」

ライフ3⇨2

 

 

発揮される司のシンフォニックバースト。そしてコンゴウの棍棒の一撃が、彼のライフを1つ粉々に粉砕する。

 

司のライフは2。シンフォニックバーストの条件は成立した。

 

 

「シンフォニックバーストの効果でお前のアタックステップは終了だ!」

 

 

弾け飛ぶ黄色い閃光。それは五護のスピリット達の身動きを封じる。これで少なくとも五護はこのターンを終わらざるを得なくなってしまった。

 

 

「……………まぁいいだろう、そうしているのも時間の問題だ……………ターンを終幕する」

大機巧武者コンゴウLV2(3s)BP14000(疲労)

機巧将シグレLV1(1)BP4000(回復)

 

バースト無

 

 

五護の言う通り、このままでは司はゆっくりと侵略されていくことだろう。彼のスピリットを破壊する方法が限られているからだ。BP差もあることながら、これを突破するのはなかなか難しいところがある。

 

 

[ターン09]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨14

トラッシュ9⇨0

 

 

「メインステップ………………」

 

 

司は考えていた。どうやったらあの難攻不落の牙城を崩すことができるのかを、どうやったらあのライフを減らせるのかを、必死に、手にあるカードを見ながら試行錯誤していた。

 

 

(………奴のシグレはLV1、……おそらくは俺のハーピーガールを警戒してのことだろう、だったらそれを逆手に取らせてもらおう)

 

 

五護の場にいるシグレは現在、LVは1。理由はただ一つ、司のハーピーガールの効果でもブロックができるようにするためだ。だったら司はそれを逆手に取り、ライフを破壊する作戦に移行する。

 

司は手札に戻ったあのカードを再び召喚する。

 

 

「俺は手札に戻ったホークモンを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ14⇨12

トラッシュ0⇨1

 

 

司は再びホークモンを召喚した。そしてその召喚時の効果も使用した。司はその効果にかけている。

 

 

「ホークモンの召喚時効果!カードをオープン!」

オープンカード

【レッドライトニング】×

【ホウオウモン】×

【ネフェルティモン】○

 

 

効果は成功した。司はアーマー体のスピリット、ネフェルティモンを手札に加えた。

 

 

「まだまだ行くぞ!俺はマジックカード、リボルドローを使用する!………………その効果でデッキの下から2枚ドローする!」

手札3⇨4⇨3⇨5

リザーブ12⇨10

トラッシュ1⇨3

 

「なに!?下からだと!?」

 

 

司が咄嗟に使ったマジック、リボルドローはデッキの下から2枚ドローできる少し変わったマジック。司のデッキの下にいたのはホルスモンとシルフィーモン。その2枚が手札へと加えられた。

 

 

「バーストを伏せ、さらに俺はテイルモンを召喚!」

手札5⇨4⇨3

リザーブ10⇨7

トラッシュ3⇨5

 

 

バーストを伏せると同時に司が呼び出したのは猫のように見えるが、実はネズミ型の黄の成熟期スピリット、テイルモン。このスピリットはネフェルティモンの【アーマー進化】には欠かせない存在だ。

 

そしてここで司はアタックステップに入る。

 

 

「アタックステップ!テイルモンでアタック!その効果でデッキから1枚オープン!」

オープンカード

【ソウルオーラ】×

 

 

テイルモンはアタック時に、カードオープンし、それが完全体のスピリットならばライフを1つ回復させる効果を持つ。ただしそれが別のカードであっても行先はトラッシュではなく、

 

 

「ハズレでも手札に加える」

手札3⇨4

 

 

司はオープンカードを手札に加えた。だが、テイルモンのBPでは五護のスピリットには敵わない。司はさらにホークモンで加えたアレを召喚する。

 

 

「フラッシュ!【アーマー進化】発揮!対象はテイルモン!1コストを支払い、ネフェルティモンをLV2で召喚!」

リザーブ7⇨6⇨5

トラッシュ5⇨6

 

 

テイルモンの頭上にこれまた独特な形をした卵が投下される。テイルモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化する。新たに現れたのはメスのスフィンクスとでも言うべきだろうか、黄色のアーマー体、ネフェルティモンだ。

 

 

「ネフェルティモンの召喚時効果!トラッシュのコアを俺のライフに置く!………………さらに俺のライフが回復したことにより、朱に染まる薔薇園、2枚分の効果でカードを2枚ドローする!」

トラッシュ6⇨5

ライフ2⇨3

手札4⇨6

 

 

司のライフが1つ回復する。それに伴い反応する朱に染まる薔薇園。ライフを整えつつ手札を増やす、いいコンボだ。そしてそれだけでは終わらない。

 

 

「ネフェルティモンでアタック!その効果でお前はLV1、2のスピリットでブロックできない!」

「…………!!」

 

 

ネフェルティモンの効果だ。アーマー体スピリットは全てネフェルティモンがいる限り、指定されたLVのスピリットからブロックされないのだ。それはもちろんアーマー体である自身にも与えられる効果であって、

 

シグレのLVを下げていたままだったのが仇になった。謎の浮力で飛び立つネフェルティモン。目指すは2体のスピリットを通り越して五護のライフを破壊することだ。

 

だが、ここまでしてもその牙城は瓦解することはない。少しの損傷も許すことはない彼は手札から1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「貴様の緩い攻撃は通じん!フラッシュマジック!リミッテッドバリア!………不足コストは俺のコンゴウのソウルコアから確保する!」

手札1⇨0

リザーブ2⇨0

大機巧武者コンゴウ(3s⇨2)LV2⇨1

トラッシュ9⇨12s

 

「…………!?」

手札6⇨7

 

 

司のネクサス、朱に染まる薔薇園が1枚だけ、デジタルの粒子となり、彼の手札に戻ってしまう。リミッテッドバリアの追加効果だ。ソウルコアさえ払えば、相手のネクサス1つを手札に戻すことが可能なのだ。

 

そして本命の効果は、

 

 

「このターン、俺のライフはコスト4以上のスピリットのアタックからでは減らん……………無論そのアタックはライフで受けよう」

ライフ5⇨5

 

 

五護のライフが、謎の白いバリアに固められる。ネフェルティモンはいくらそこに体当たりしていってもそれには傷1つつかない。ネフェルティモンのコストが5だからだ。

 

かと言ってコスト3のホークモンはBPが低すぎてアタックできない。司は仕方なくそのターンを終えた。

 

 

「(ここまでしても奴のライフを減らせないのか………………)ターンエンドだ」

ネフェルティモンLV2(2)BP6000(疲労)

ホークモンLV1(1)BP3000(回復)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト有

 

 

そのターンを終える司。やはり無理なのか、あの五の守護神と呼ばれている五護からライフをこれ以上もぎ取るのは不可能なのではないのか、観客中にいるほとんどがそんなことを考えてしまう。

 

ーだが、司は確信した。牙城は崩れる、難攻不落なバトスピ など存在しない………………と。

 

 

[ターン10]五護

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札0⇨1

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨13

トラッシュ12⇨0

大機巧武者コンゴウ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……………以外と長かったが、これで終幕だ」

「!!」

 

「さぁ、その幕を下ろせ!巨腕の機巧武者ラカンをLV3で召喚!!」

手札1⇨0

リザーブ13⇨3

トラッシュ0⇨6

 

 

地中から顕現するのは巨大な2つの手を持つ機巧武者、ラカンだ。その疲労ブロック効果と召喚時効果は強力かつ厄介だ。

 

 

「召喚時効果!機巧スピリットの数まで貴様のスピリットを手札に戻す!消え去れぇ!」

 

「!!!!」

手札7⇨9

 

 

ラカンがその手を地面に勢いよく叩きつけると、地面が唸るように暴れ出し、その波に巻き込まれる形でホークモンとネフェルティモンを吹き飛ばし、彼の手札へと戻らせた。

 

 

「……………終わりだ、朱雀……………本当にがっかりだ、口先だけの人間とはな」

「…………」

 

 

まさしく絶対絶命だ。司は逆転する方法があるのか。

 

今にも3体の機巧武者達が司のライフを討つために動き出そうとしていた。その決着は次回だ。




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【機巧武者サイウン】!!」

「サイウンは白の機巧スピリット!機巧スピリット限定のパワーアップ効果と、ライフが減らされていないことを条件にコアブーストする効果を持ってるよ!」








最後までお読みくださり、ありがとうございました!


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第25話「鳳凰舞う……!!」

 

 

 

 

界放リーグ、その2回戦最後の第三試合、赤羽司と五護鉄火のバトルは続く。フィールドは以下の通り。

 

 

《司》ライフ3

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト有

 

 

《五護》ライフ5

大機巧武者コンゴウLV2(3s)BP14000(回復)

機巧将シグレLV1(1)BP4000(回復)

巨腕の機巧武者ラカンLV3(4)BP16000(回復)

 

バースト無

 

 

そして今は五護のターン。メインステップが終わり、アタックステップに入る頃だ。

 

司はこれまで何度も五護のライフを5から減らそうと試みたが、序盤は減らしても直ぐに元に戻り、一定のターン数になってくると1つも減らすことができなくなっていた。

 

また、また彼が、五護鉄火が、五の守護神がライフ5のまま完全勝利を収めようとしていた。

 

 

(あぁ、………やっぱりだ、やはりあいつでなければ、冬真でなければ、俺の心は満たされない)

 

 

五護はそんなことを考えていた。彼はここ2年間、ずっとヘラクレス、緑坂冬真と優勝争いをしていたが、ずっと負けていた。ライフをゼロにされて、毎回だ。毎回のように彼とのバトルでは最後のターンで全てのライフを消し飛ばされてしまう。

 

だが、五護はそんなバトラーとの出会いを待っていた。自分のライフを吹き飛ばしてくれるような、強いバトラーが、より相手の攻撃が強ければ強いほど、燃えてくるのだ。

 

五護は日々自分を磨く鍛錬を重ねていた。ヘラクレスの有名な【キングスロード】を防ぐために。

 

今年こそがラストチャンス。彼は打倒ヘラクレスを胸に、今ここで立っている。そんな自分がただの才能だけで目の前にいる朱雀こと、赤羽司に負けるわけがないとも考えていた。

 

 

「終わりだ朱雀、やはりお前ではダメだ、俺の心が満たされることはない」

「あぁ?…………終わり?そりゃこっちのセリフだ、宣言してやろうか?お前は次の俺のターンで……………負ける」

「!!!!」

 

 

司の思わぬ発言に、その目を思わず見開いた五護。当然だ。この3体のスピリットをどかさなければ彼には勝機がないというのに。まさかこの強力なスピリットたちを全てどかすとでも言ってるのだろうか。そもそも5つあるライフを次で全て破壊などできるのか。

 

たしかにそれはにわかに信じがたいことだろう。

 

 

「そしてな、ヘラクレスを倒すのはお前じゃない、………………めざしでもない、…………この俺、赤羽司だ」

「諦めの悪い奴だ!今に息の根を止めてやるっ!………アタックステップ!シグレでアタック!」

 

 

もう何も聞くことはない、そう言うかのように五護はシグレにアタックの命令を下す。司の場にスピリットは存在しない。このターンで巨腕の機巧武者ラカンの効果で手札へと返されてしまったからだ。

 

司は当然このアタックを、

 

 

「ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

シグレの刀の一閃が、司の残り3つのライフのうち1つを破壊した。

 

だが、司はこれを待っていた。勝利への道筋が揃う、この瞬間を、………彼のバーストが勢いよく音を立てながら反転する。

 

ーそしてここから始まる。司の大逆転劇が、

 

 

「…………ライフ減少により、バースト発動!イマジナリーゲート!!」

「!?」

 

「この効果で手札にある黄色のスピリットカード、…………シルフィーモンを召喚する!LV3だ!」

リザーブ9⇨5

シルフィーモンLV3(4s)BP12000

 

 

黄色のバーストマジック、イマジナリーゲート、それは黄色のスピリットをノーコスト召喚できるカードだ。司はこの効果で赤と黄色のスピリットであるシルフィーモンを召喚したのだ。ただしその効果により、召喚時の効果は発揮されないが、

 

眩い光を放つゲートを飛び出してくるのは聖なる獣人型スピリット、シルフィーモン。もうすっかり彼のエースとして活躍している。

 

ーだが、

 

 

「今更完全体だと!?笑わせるなぁ!どう足掻いても貴様の負けなんだよ!……………次はラカンでアタックだ!」

 

 

走り出すラカン。狙うは当然司の残り2つのライフ。ラカンはダブルシンボルなので、一度のアタックで同時に2つのライフを減らすことができる。

 

つまり、このアタックをライフで受けて仕舞えば、敗北してしまうため、司は是が非でもこのアタックはブロックしなくてはならなくて、

 

 

「シルフィーモンでブロックするっ!」

 

 

両手を突き出すようにエネルギー弾を放つシルフィーモン。だが、それはラカンの武装には全く通用しない。何度もそれを放ってもその強靭な鋼の前には消滅してしまう。そしてその巨体をゆっくりと動かし、ラカンはシルフィーモンを握りつぶそうと近づいてくる。

 

五護は勝ちを確信していた。なぜなら、司のデッキにはBP13000以上のスピリットを破壊する手段がほとんどないからだ。

 

司のデッキのスピリットたちは、そのサイズが大きくても、シルフィーモンのBP12000が最大だ。赤の効果破壊の多くが10000以下までしか破壊できないのを五護自身が知っていると言うのもある。

 

ーが、司にはまだ切札があった。それは自分の実家で苦労して得た、赤羽一族に伝わる伝説のカード。彼の姉、赤羽茜が亡くなってからは誰にも使用されなくなったあのスピリットカードが、今、それを司が再び目覚めさせる。

 

 

「俺はトラッシュからこいつの煌臨を発揮!対象はシルフィーモン!」

シルフィーモン(4s)LV3⇨2

トラッシュ5⇨6s

 

「!!……トラッシュから煌臨だと!?」

 

 

五護は司の発言に驚いた。それもそうだろう。なにせ、通常、煌臨とは、手札からのみ行える効果なのだ。それを普通は使い終わった場所であるトラッシュから発揮させるのだ。無理はない。司はこのカードをホークモンの召喚時の効果で事前にトラッシュへと送っていたのだ。

 

煌臨のエフェクトか、シルフィーモンの周りに巨大な火柱が形成される。シルフィーモンはその中で姿形を大きく変えていく。

 

ーそして司がその名を宣言する。

 

 

「天空の王よ!その輝ける翼を持って地上の全てを薙ぎ払え!究極進化ぁぁ!!ホウオウモンっ!!」

ホウオウモンLV2(3)BP12000

 

 

灼熱の火柱の中で大きな翼を広げる一体の巨鳥、それが咆哮をあげると、その炎は大きく弾け飛ぶ。そして新たに現れたのは赤羽一族に伝わる最強の赤のデジタルスピリット、ホウオウモンだ。黄金の翼を翻すその姿はまさしく伝説だ。

 

 

「ほ、ホウオウモン…………!?」

 

 

いつも冷徹な表情しか見せない五護が今回ばかりは口を大きく開けて驚いて見せた。その機巧スピリットたちよりも幾分かでかいホウオウモンを見てたじろいだのか、その神秘なる姿に感動したのかは定かではないが、どちらにせよホウオウモンの存在は凄まじかった。

 

 

「す、すっごぉぉいい!!あれが赤羽一族の……………伝説のスピリット!!ホウオウモン!!」

 

 

自分の控え室でそう叫ぶ椎名。興奮が収まらなかった。早く司とバトルがしたい。その気持ちでいっぱいだった。

 

ーそしてこのホウオウモンが、五護の作り上げてきた鉄壁の牙城を崩壊させていく。

 

 

「ホウオウモンの煌臨時効果!煌臨元になった赤の完全体スピリットを手札に戻すことによって、相手のBP10000以上のスピリット1体を破壊するっ!」

手札8⇨9

 

「なに!?10000以上だと!?」

 

 

ホウオウモンの効果は限界など知らない。その神秘なる光は強者のみを破壊する。それがたとえどんなに強くてもだ。

 

BP12000までしか対処できないと考えていた五護の考えは甘かったと言えるだろう。だが、もう遅い。

 

 

「シルフィーモンを手札に戻し、BP10000以上のスピリット、……………てめぇのターンだったら効果受けるんだよなぁ!コンゴウを破壊だ!」

「……ぬぅっ!!」

「……煌翼の!スターライトエクスプロージョン!!!」

 

 

ホウオウモンはその黄金に光輝く4枚の翼から黄金色の炎を降り注がせる。対象になったコンゴウはそれに触れた瞬間に一瞬にしてその自慢のボディを全て灰にされてしまった。まるで今までの強固さが嘘のように。

 

司のターンでは鉄壁の防御を発揮できるコンゴウだが、逆に五護のターンではその強力な耐性効果は失われてしまうのだ。司はそれを知っていて、このタイミングでこれを使ったのだ。

 

 

「煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ……………ホウオウモンはラカンとバトルする!」

「だが!ホウオウモンのBPはシルフィーモンと変わらず12000!16000のラカンには遠く及ばん!」

 

 

赤属性の究極体スピリット、ホウオウモンはたしかに強力な効果を持っているが、そのBPはやや控えめ、完全体であるシルフィーモンと全く変わらないマックスBPしか持たない。

 

だが、司に抜かりはない。鼻で笑いながらこのタイミングでさらにカードを引き抜いた。それも2枚だ。

 

 

「ふっ!……フラッシュマジック!ソウルオーラ!……2枚だ!………」

手札9⇨8⇨7

リザーブリザーブ5⇨4⇨3

トラッシュトラッシュ6s⇨7s⇨8s

 

「な!?」

 

「この効果でホウオウモンのBPを6000アップさせるっ!」

ホウオウモンBP12000⇨15000⇨18000

 

 

ソウルオーラ。BPを上げるだけのマジックカードだが、今回はその地味な効果が活躍した。ホウオウモンのBPが大幅に上昇する。一気にラカンのBPを超える。

 

ラカンの肩を強靭な脚で鷲掴みにし、天空へとラカンを連れて飛び回るホウオウモン。そのまま音速を超えるスピードで地上にラカンを叩きつけた。ラカンは流石に耐えることはできず、爆発してしまった。

 

 

「……………なん、だと!?」

 

 

五護は驚きを隠せなかった。あの自分のスピリットたちが、強靭なる機巧スピリットたちがこうも容易く破壊されてしまったのだから。

 

司は初めからこれを狙っていたのか。または偶然そうなってしまったのかはわからない。だが、目の前で自分の牙城の門が豪快に開けられたのはたしかなことであって、

 

 

「…………ターンを…終幕する」

機巧将シグレLV1(1)BP4000(疲労)

 

バースト無

 

 

やれることを全て失い、そのターンを終える。手札はゼロ枚。もはや反撃もなにもできないだろう。やはりあの機巧武者2体が破壊されたのが大きい。

 

次は司のターンだ。おそらくこれがラストとなるだろう。

 

 

[ターン11]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札7⇨8

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨12

トラッシュ8⇨0

ホウオウモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!……ホークモン、テイルモンを召喚!」

手札8⇨6

リザーブ12⇨6

トラッシュ0⇨4

 

 

司は手札に戻っていた2体のスピリットを召喚した。鳥型の成長期スピリット、ホークモンと、ネズミ型の成熟期スピリット、テイルモンだ。

 

司はここからアタックステップに入る。

 

 

「アタックステップ!ホウオウモンでアタック!そのアタック時効果でBP10000以下のスピリット、シグレを破壊するっ!」

「……………ぐぅ!」

 

 

ホウオウモンの黄金の4枚の翼から放たれる聖なる炎は、瞬く間に五護の場に残ったシグレを焼き尽くした。

 

これで五護の場のスピリットもゼロとなる。

 

 

「さぁ!このアタックはどうする?」

 

 

そしてようやくだ、ようやく崩壊する。今まで幾度となく数々の学生が彼のライフを5から減らそうとした。だが、いくらやろうと直ぐに元に戻ったり、維持されたりしてしまった。ただ1人、ヘラクレスを除いてそれを成し遂げたものはいない。

 

そんな中、1人の一年生が、その鉄壁の牙城を真正面からぶち抜いた。

 

 

「……………ライフで受ける…………」

ライフ5⇨4

 

 

ホウオウモンの黄金の翼による翼撃が、五護のライフを1つ破壊した。今まで学生ではヘラクレス以外の者には破られることのなかった五護の鉄壁の守りが、1人の一年生により、瓦解させられた。

 

湧き上がる歓声、拍手を送る者もいる。誰もその瞬間は興奮が収まらなかったことだろう。

 

そしてまだだ。まだ司は攻める。このターンで決めるのだ。

 

 

「テイルモンでアタック!」

オープンカード

【シュリモン】×

 

 

走り出すテイルモン。効果により、そのオープンカードを司は手札に加える。

 

五護はもうなにもできない。場がゼロ、手札もゼロだからだ。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ4⇨3

 

 

テイルモンのネコパンチが、五護のライフを1つ粉々に破壊した。

 

 

「ホークモン!」

 

 

司は今度はホークモンにアタックを命ずる。その小さき赤の翼を広げ、飛び立つホークモン。そして、このタイミングで司は進化させる。それは同じく手札に戻っていた、あのスピリットだ。

 

 

「フラッシュ!ネフェルティモンの【アーマー進化】発揮!対象はテイルモン!1コストを支払い、これを召喚!」

リザーブ6⇨4

トラッシュ4⇨5

ネフェルティモンLV2(2)BP6000

 

 

テイルモンの頭上に独特な形をした卵が投下される。テイルモンは飛び立ち、それと衝突、混ざり合い、新たな姿へと進化する。現れたのはメスのスフィンクスとでも言うべきか、黄色のアーマー体スピリット、ネフェルティモンだ。

 

 

「アーマー進化はあなたなる召喚扱い、………アタックが可能だ………さらにネフェルティモンの召喚時効果でトラッシュのコアから1つをライフへと置く、そして朱に染まる薔薇園の効果で1枚ドロー」

トラッシュ5⇨4

ライフ2⇨3

手札6⇨7

 

「……………」

 

 

【アーマー進化】の効果により召喚されるスピリットは当然回復状態だ。煌臨と違い、進化前の状態など気にしない。追撃が可能だ。

 

そしてこれは現在ホークモンのアタック中であって、

 

 

「………ライフで受ける……」

ライフ3⇨2

 

 

ホークモンのつつく攻撃が、五護のライフをまた1つ減らしていく。

 

 

「次だ!!ネフェルティモン!さらに!フラッシュ!今度はホルスモンの【アーマー進化】!!対象はホークモン!!1コストを支払い、これを召喚!」

リザーブ4⇨3

トラッシュ4⇨5

ホルスモンLV2(3)BP9000

 

 

謎の浮力で飛び立つネフェルティモンをよそに、ホークモンの頭上に独特な形をした卵が投下される。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは赤き空飛ぶ獣型のアーマー体、ホルスモンだ。

 

当然ホルスモンもアタックが可能なのであって、

 

 

「………ネフェルティモンのアタックはライフだ」

ライフ2⇨1

 

 

ネフェルティモンは自分が作り出した光の空間から、碑石のようなものをいくつも発射させる。その無数にある碑石は五護のライフへと突き刺さり、それを1つ破壊した。

 

そしてこれで終わりだ、司がラストアタックの宣言をする。

 

 

「ホルスモンでアタック!」

 

 

飛び立つホルスモン。五護は何かおかしいのか、その表情は冷徹な顔から一転、暖かい笑顔に変わっていた。

 

 

「うぉぉお!!…………ぶちかませぇぇえ!!ホルスモン!……旋風のぉぉテンペストウィング!!!」

 

 

ホルスモンは自身の体を竜巻のように回転させて、一本の槍のように飛んでいく。目指すは五護のライフだ。

 

そしてこの瞬間、あの五護が、ここで初めての笑顔を見せた。それはあまり見慣れないと言うこともあってか、司から見るとややぎこちなかった。

 

 

「………前言撤回だぁ、朱雀………いや、赤羽司ぁぁぁぁ!!」

「!!」

 

「お前は最高だぁぁ!!………」

ライフ1⇨0

 

 

五護はそれだけを言い残し、ホルスモンの竜巻のような攻撃を受けた。これで五護のライフはゼロ。司の大逆転で幕を下ろした。

 

湧き上がる歓声と拍手、盛り上がる実況者。それほどまでにこの勝利は凄かった。もはやこの時点で栄誉あると言っても過言ではないだろう。

 

司はBパッドを閉じ、五護の元へと歩み寄っていく。場にいたスピリット達も役目を終えたかのように、その姿をゆっくりと消滅させていく。

 

 

「司ぁ、いい攻撃だったっ!………お前だったら間違いなくプロに行ける、先に待ってるぞ、…………また俺にいい攻撃を浴びせてくれ」

「気持ち悪いっての……マゾかよ」

「はっはっは!……違いない」

 

 

バトルが終わった後の五護は見間違えるほどに明るかった。久しぶりに興奮したのだろう。何せあのヘラクレス以外に自分を楽しませてくれる相手に巡り合ったのだから。高揚感が収まらないのだ。

 

五護は司にそれだけ行って、控え室に向かって歩き出した。

 

これでベ今年のストスリーが揃った。奇数になるので、毎年ランダムで1人がシードとなる。その発表とバトル開始が、この2回戦第三試合が終わった直後なので、椎名とヘラクレスはその場に向かっていた。

 

 

******

 

 

「……む?」

「おぉ!ごっちーやん!お疲れ〜〜〜」

 

 

ヘラクレスは会場に向かう途中で五護にバッタリ出くわした。相変わらずの能天気だ。一方で五護はさっきの興奮が収まり、いつも通りの冷めた感じに戻っていた。

 

 

「………ふふ、……冬真よ、あいつはいずれお前を超えるかもな」

 

 

愛想笑いするかのように笑いながらそう言い残し、ヘラクレスを通り過ぎていく五護。ヘラクレスも一瞬その足を止め、一言小さく呟いた。

 

 

「………そうかもしれへんなぁ、でも、まだ超えさせへんでぇ」

 

 

******

 

 

「つ〜〜〜〜か〜〜〜〜さ〜〜〜〜!!!ホウオウモン見して!!」

「嫌だ」

「えぇ!?もういいでしょ?見せてくれたってさぁ!」

 

 

一足先についてた椎名はその場にいた司と会話していた。椎名にカードを見せるのは嫌なのか、司は頑なにカードを見せようとはしなかった。椎名はホウオウモンのカードが見たいだけだ。

 

 

「これから戦うかもしれない奴になんで見せねぇといけないんだよ」

「まぁまぁ、ええやないかぁ、レディの頼みを聞くのが、紳士ってもんやでぇ」

「「!!」」

 

 

その間に入ってきたのはヘラクレスこと、緑坂冬真。これで今年のベストスリーが揃った。そして抽選が発表される。会場のアナウンスが観客の轟音を搔き消すような大音量でそれを流す。

 

 

《抽選の結果、準決勝は………………芽座椎名さんと赤羽司君で行います。緑坂冬真君はシードです………繰り返します…………》

 

 

結果をリピートするアナウンス。だが、もういい、次の準決勝、バトルするのは椎名と司だ。近くにいた2人は睨み合う。と同時に燃えていた。やっと戦えると。

 

 

「はっは、またシードかいな、………まぁ、高みの見物といきましょか〜〜ほなお二人さん頑張りや〜〜あっ!でもめざっちに勝って欲しいわ〜〜〜」

「はは、」

 

 

ヘラクレスはそれだけ言って、スタジアムの端に移動した。今は昼過ぎだ。残りの時間でこの準決勝と、それに続く決勝を終わらせるのだ。

 

椎名と司はある程度の距離を取り、Bパッドを展開させていた。

 

 

「………やっとだね、司」

「……あぁ、………もう御託はそんなにいらないだろ…………これだけは言ってやる、……この準決勝を勝ち上がり、決勝でヘラクレスに勝利するのは……俺、赤羽司だ!」

「残念だけどそれだけは譲れないよ!勝つのは………私だからっ!!」

 

 

ここまで2人はお互いにそれぞれの激戦をくぐり抜けて来た。椎名は予選前にロイヤルナイツの一角、マグナモンを得て、毒島や九白一族のエリートである岩壁、さらには前回、前々回の界放リーグ3位の吸血堕天までもを下し、ここまで登って来た。

 

かたや司は本戦前に赤羽一族に伝わる伝説のスピリット、ホウオウモンを得て、さらに1回戦ではヘラクレスの弟子、炎林頂とのバトルで奇跡の現象であるオーバーエヴォリューションが発現。新たにジョグレス体かつ完全体であるシルフィーモンのカードを獲得した。そしてさっきの2回戦第三試合。今まで得て来たカード達をフルで使いこなし、前回、前々回と準優勝して来た五護鉄火を破り、見事この準決勝のステージへと立ってみせた。

 

正直、あのヘラクレスの緑坂冬真のバトルが観られなくて残念という観客もいるかもしれない。だが、確かに言えることは、目の前にいる2人が、これまでまぐれで上がって来たわけではないということだ。そんな2人のバトルも、もちろんこの界放市中の全員が期待していることであって、

 

 

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

ヘラクレスが付近で見守る中、芽座椎名と赤羽司の準決勝が始まった。

 

 

******

 

 

そんな時、会場に応援に来ていた司の親友、雅治は、トイレで用を足していた。そして終わり、手を洗っていた頃だった。

 

 

「………やぁ、雅治君」

「………!!……紫治……城門さんっ、」

 

 

急に横から聞き慣れた柔らかい声が聞こえた。

 

そこにいたのは紫治一族の頭領でなおかつデスペラード校の理事長である紫治城門だ。雅治に用事でもあるのか、トイレには行かず洗面所で立ち止まっていた。

 

 

「次の試合、芽座椎名と司君の対決だよ、急がなくていいのかい?」

「えぇ!?そうなんですか?」

「あぁ、毎年ランダムなのに、竜ノ字が今年に限っては怒り狂っていたよ、」

 

 

ジークフリード校の理事長、龍皇竜ノ字と、キングタウロス校の理事長、大公獅子は、生徒たちを使って賭け事をしている。ヘラクレスがシードになれば彼の優勝する確率が上がるため、この結果に満足できなかったのだ。

 

 

「はは、兎に角僕急ぎますね、ありがとうございます」

 

 

そう言って城門から逃げるようにトイレを後にする雅治。昔から若干城門が苦手だった。なんか話しづらいというか、仲良くなれなさそうというか、そんな感じだったのだ。

 

そんなことを思い出しつつ、雅治は自分の親友と想い人のバトルを観戦するために、観客席へと戻った。

 

城門はその雅治の背中を見ながら少しだけ口角を上げていた。まるで何かに気づいたような、そんな顔だった。

 

 

******

 

 

一方でスタジアムではバトルが、準決勝が始まった。

 

ー先行は司だ。

 

 

[ターン01]司

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、イーズナを1体、LV3で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨1

 

 

司が早々に召喚したのは赤と黄色のハイブリッドスピリットであるイタチのような姿をしたイーズナだ。

 

 

「………ターンエンド」

イーズナLV3(3)BP3000(回復)

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目など、やれることは限られてくる。司はそれだけでこのターンを終えた。次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、ワームモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が今回初めて召喚したスピリットは、芋虫のような外見の可愛らしいスピリット、ワームモンだ。

 

 

「ターンエンド」

ワームモンLV1(1)BP3000(回復)

 

バースト無

 

 

それ以外は特に何もすることはなく、そのターンを終えた椎名。準決勝ということでか、緊張しているのか、

 

だが、それは違う。単純にイーズナとBPが同じだったからアタックしなかっただけだ。仮にブロックされたとして、成長期スピリットを失うのと普通の弱小スピリットを失うのだと、どっちがディスアドバンテージを負っているのかは目に見えている。

 

 

[ターン03]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨2

トラッシュ1⇨0

 

 

「メインステップ、俺はネクサスカード、朱に染まる薔薇園を配置!」

手札5⇨4

リザーブ2⇨0

イーズナ(3⇨1)LV3⇨1

トラッシュ0⇨4

 

 

司の背後に赤き薔薇園が広がる。もう見慣れたものだろう。司のデッキのカードを最大限にサポートできる優秀なネクサスカードだ。

 

 

「………ターンエンド」

イーズナLV1(1)BP1000(回復)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

朱に染まる薔薇園のコストで、イーズナのLVが低くなったということもあり、司はこれだけでそのターンを終えた。速攻が得意な2人のデッキだが、今回は意外にもおとなしい序盤だ。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、…………よし!ブイモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

ここで椎名が動き出す。小さくて青い体に、額にブイの字が刻まれているドラゴンのスピリット、ブイモンが召喚された。

 

 

「召喚時効果!カードをオープン!」

オープンカード

【No.26キャピタルキャピタル】×

【グリードサンダー】×

 

 

今回は残念ながらハズレ、だが、すでに椎名は持っている。お得意の【アーマー進化】の効果を持つスピリットを。

 

 

「アタックステップ!ブイモンっ!」

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

走り出すブイモン。BPの低いイーズナでブロックする必要もない、司はこれをライフで受ける。

 

ブイモンの渾身の頭突きが、司のライフを1つ破壊した。先制点は椎名が取った。

 

 

「まだまだぁ!ワームモンでアタックっ!」

 

 

自身の体をボールのように丸めて転がり出すワームモン。そしてこの瞬間。このフラッシュタイミングで、椎名は1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュ!ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!」

「…………来るか」

 

「1コストを支払い、青き稲妻、ライドラモンを召喚っ!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ2⇨3

ライドラモンLV1(1)BP5000

 

 

ブイモンの頭上に、黒くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンは飛び立ち、それと衝突、混ざり合い、新たな姿へと進化する。現れたのは黒いボディに青き稲妻を轟かす獣型のアーマー体スピリット、ライドラモンだ。

 

 

「ライドラモンの召喚時効果で、トラッシュにコアを2つ追加!」

トラッシュ3⇨5

 

 

登場するなり吠えるライドラモン。それは椎名のトラッシュへとコアの恵みを与えた。椎名と司の総コア数に一気に差がついた。

 

そしてこのタイミングはワームモンのアタック中に起こった出来事であって、

 

 

「ワームモンのアタックはライフだ」

ライフ4⇨3

 

 

ボールのように弾むワームモンの攻撃が、司のライフを1つ破壊した。

 

 

「いけぇ!ライドラモン!」

 

 

まだ終わらない。猛スピードで地を駆けるライドラモン。目指すは司のライフだ。

 

 

「そこはイーズナが相手する」

 

 

司はイーズナでブロック。だが、BP差は圧倒的、ライドラモンは道を阻んで来たイーズナを口で咥えてそのまま勢いよく地面に叩き落とした。イーズナは耐えられるわけがなく、そのまま小さく爆発してしまった。

 

 

「よっし!ターンエンド!」

ワームモンLV1(1)BP3000(疲労)

ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

十分な攻撃であったと言える。何せ、司のスピリット1体と、ライフを2つ破壊したのだから。

 

だが、その分司のコアも増えた。次は間違いなく司の反撃が来ることだろう。

 

 

[ターン05]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、朱に染まる薔薇園のLVを2に上げ、その効果を使用、ホークモンをフル軽減で召喚!」

リザーブ8⇨3

朱に染まる薔薇園(0⇨1)LV1⇨2

トラッシュ0⇨1

 

「…………!!」

 

 

朱に染まる薔薇園は赤のスピリットを召喚する際、黄色のスピリットとしても扱うと考えても良い効果がある。

 

それを活用し、司もここで自分のデッキの潤滑油となるスピリット、ホークモンを召喚した。そしてその召喚時の効果を使用する。

 

 

「召喚時効果、3枚オープン」

オープンカード

【朱に染まる薔薇園】×

【リボルドロー】×

【リボルドロー】×

 

 

残念ながら効果は全てハズレ、トラッシュへと送られた。だが、今はどうでもいいと言わんばかりに司は新たなるカードを引き抜いた。

 

 

「さらに俺はハーピーガールをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨0

朱に染まる薔薇園(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ1⇨3

 

 

司が呼び出したのは、鳥人類とでも言うべきか、そんな女性型のスピリットが召喚された。

 

そして司はこのメンバーでアタックを仕掛ける。

 

 

「アタックステップ!………やれぇ!ハーピーガール!アタック時の【連鎖:赤】の効果でBP3000以下のスピリット、お前のワームモンを破壊!」

「!!」

 

 

ハーピーガールの強烈な翼撃が、ワームモンを襲う。ワームモンはそれに吹き飛ばされて、破壊されてしまった。

 

 

「くっ!………ライフで受けるっ!」

ライフ5⇨4

 

 

その翼が今度は椎名に狙いを定める。そして勢いよく、飛び込み、椎名のライフを1つ破壊した。

 

そしてこの瞬間。ハーピーガールのもう1つの効果が発揮される。

 

 

「ハーピーガールの【聖命】の効果でライフを1つ回復、さらに朱に染まる薔薇園の効果により、ライフが回復したため、デッキから1枚ドローする」

ライフ3⇨4

手札3⇨4

 

 

ハーピーガールの黄色専用キーワード効果【聖命】に反応するように朱に染まる薔薇園も赤く発光しだす。司はその手札とライフを同時に潤した。

 

 

「まだ行くぞ!ホークモンでアタック!」

 

「…………ライフで受ける」

ライフ4⇨3

 

 

ハーピーガールに続くホークモンは、その赤い羽根を器用に飛ばし、椎名のライフに突き刺す。そのまま彼女のライフを1つ砕いた。

 

このターン1回で逆転されてしまった。ライフの差も、手札の差も、盤面のスピリット数も、やはり司とのバトルは面白い。椎名は改めてそれを感じ、次のターンに臨む。

 

 

「………ターンエンドだ………どうした?もうおしまいか?」

ハーピーガールLV2(2)BP4000(疲労)

ホークモンLV2(3)BP5000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

「なんのなんの!これからだよ!」

 

 

やれることを全て失い、そのターンを終える司。次は椎名のターンだ。反撃なるか、

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨10

トラッシュ5⇨0

ライドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「………メインステップ!一気に畳み掛ける!ガンナー・ハスキーと猪人ボアボアをLV2と1で召喚!」

手札5⇨3

リザーブ10⇨3

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名の場に現れたのは、犬型だが、拳銃を所持するために背中に青い筋肉質な腕を生やしたスピリット、ガンナー・ハスキーと、鎖付き鉄球を振り回す獣人、ボアボアだ。

 

それぞれガンナー・ハスキーがLV2。ボアボアはLV1だ。ただし、ボアボアはコアが2つ置かれており、自身の効果により、アタックするだけでLV3まで一気に伸びる。

 

 

「さらにライドラモンのLVを3にアップ!」

リザーブ3⇨0

ライドラモン(1⇨4)LV1⇨3

 

 

ライドラモンが力が上がったことを証明するかのように強く吠える。これで擬似ダブルシンボルの効果が付与された。

 

そして椎名はアタックステップに入る。あわよくばこのターンで勝負を決める気でもいる。

 

 

「アタックステップ!ボアボアでアタックっ!アタック時の【連鎖:緑】でコアを増やし、自身の効果でLV3まで上昇!」

猪人ボアボア(2⇨3)LV1⇨2⇨3

 

 

鉄球を強く振り回すボアボア。そのBPは8000と、コスト帯にしてはかなりのサイズだ。

 

 

「………そいつはライフで受ける」

ライフ4⇨3

 

 

投げ込まれた鉄球が、司のライフを1つ粉々に砕いた。残りは3つ。ライドラモンとガンナー・ハスキーのアタックが通れば椎名の勝ちだ。

 

 

「よし!次だ!ライドラモンっ!」

 

 

再び地を駆けるライドラモン。だが、そう上手くはいかない。司は手札にある1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュ!シュリモンの【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!」

「!!」

 

「1コストを支払い、これを召喚!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

シュリモンLV2(3)BP9000

 

 

ホークモンの頭上にこれまた独特な形をした卵が投下される。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは忍者のような見た目のスピリット、シュリモンだ。その手足はインゲンの蔓のようなもので構成されている。

 

 

「シュリモンの召喚時効果!相手の疲労状態のスピリット1体を手札に戻す!もちろんここではライドラモンだっ!帰ろっ!」

 

「……………ぐっ!!」

手札3⇨4

 

 

シュリモンは背に常備してある巨大な手裏剣をライドラモンに向けて投げ飛ばす。ライドラモンはそれにクリーンヒットし、吹き飛ばされ粒子となり、椎名の手札へと戻ってしまう。

 

 

「いいかめざし!今一度言う!この準決勝を勝ち上がり、決勝でヘラクレスに勝利するのはお前じゃない、……………この俺!赤羽司だっ!」

 

 

司は親指で自分を指し、それを強く主張する。

 

轟音のような歓声の中で行われているこの準決勝。現在は司が圧倒的に有利だが、椎名もまだまだ余力はあるはずだ。どちらが勝つかはこの場にいる誰もが予想できないことであった。このバトルは次回に続く。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【ホウオウモン】!!」

「ホウオウモンは赤羽一族に伝わる伝説の赤属性、究極体スピリット!煌臨元が赤属性の完全体だったらそれを手札に戻しつつ、相手の強力なスピリットを破壊できるよ!」






最後までお読みくださり、ありがとうございました!
今回初登場だったホウオウモンの煌臨口上を考えてくださったのは【バトルスピリッツ欠落】の作者様、【蛇マグナ卿】さんです!誠にありがとうございました!
※都合により、口上は若干の変更を加えました。


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第26話「準決勝決着!マグナモンVSホウオウモン!」

 

 

 

 

 

 

「緑坂さん、このバトルどっちが勝つと思う?」

「え?」

 

 

スタジアムの観客席で椎名と司のバトルを大勢の観客達と共に観戦していた雅治と真夏。そんな中、雅治は真夏に質問した。それは半年前のデジャヴであり、

 

 

「前もそんなこと聞きよったなぁ〜、…………せやなぁ、じゃあ今回は椎名に賭けるわ〜〜」

「…………そう、…………じゃあ僕は司に賭けるよ」

 

 

前とはほぼ逆の選択をするそれぞれの親友達、果たしてどちらの予想が当たるのか………

 

界放リーグ、その準決勝。芽座椎名と赤羽司のバトルは続く。現在のフィールドは以下の通り、

 

 

《椎名》ライフ3

ガンナー・ハスキーLV2(3)BP4000(回復)

猪人ボアボアLV2(3)BP4000(疲労)

 

バースト無

 

 

《司》ライフ3

ハーピーガールLV2(2)BP4000(疲労)

シュリモンLV2(3)BP9000(回復)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

現在は椎名のアタックステップ中であったが、攻め手のライドラモンをシュリモンの【アーマー進化】により返り討ちにされ、ターンを終了せざるを得ない状況に追い込まれていた。

 

 

「司、何度も言わせないでよ、真夏の兄ちゃんに、ヘラクレスに勝つのは私、芽座椎名だっ!」

 

 

追い込まれてもなお、強気に司の宣言を言い返す椎名。そうだ、このどちらかが、真夏の兄、ヘラクレスこと、緑坂冬真と今年の界放リーグの優勝を争うことになる。

 

それがどれだけ、1年生にとって、いや、学園の生徒全員にとって栄誉あることかは計り知れない。

 

だが、今バトルしている2人は規模が違う。2人はこれにも勝ち、決勝でヘラクレスにも勝つと宣言している。相手が仮にも有名な上級生なので、普通なら胸を借りるや、挑む。などの言葉を使うはずだ。

 

彼らはその先をイメージしていたのだ。決勝に上がったその先を、他の学生を押しのけてきたのが理解できる。その目標が、果てしない向上心が彼らをこの舞台まで導いてきたのだろう。

 

 

「………ターンエンドだっ!」

ガンナー・ハスキーLV2(3)BP4000(回復)

猪人ボアボアLV2(3)BP4000(疲労)

 

バースト無

 

 

強気に宣言したと言っても、このターンは何もできない。椎名はそのターンを終了させる。

 

次は場にシュリモンを召喚した司のターンだ。

 

 

[ターン07]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

ハーピーガール(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、再びホークモンを召喚する」

手札5⇨4

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

司はシュリモンの【アーマー進化】の効果で手札に戻ったホークモンをもう一度召喚した。そしてその召喚時の効果も当然利用できる。

 

 

「召喚時効果、3枚オープンっ!」

オープンカード

【イエローリカバー】×

【レッドライトニング】×

【シャイニングバースト】×

 

 

残念ながら今回も外れ、司はそれらを全てトラッシュへと送った。

 

 

「ちぃ、またハズレか、まぁいい、」

 

 

司の手札には既にホークモンの進化系を所持していたのだ。それは椎名の残ったスピリット達を一掃する強力なスピリットだ。

 

 

「アタックステップ!その開始時にホークモンの【進化:赤】を発揮!手札に戻し、成熟期のアクィラモンをLV3で召喚!!」

リザーブ2⇨1

アクィラモンLV3(4)BP6000

 

 

ホークモンに0と1のデジタルコードが巻きつけられる。それは次第に膨らんでいき、ホークモンを進化させる。そして新たに現れたのは2本の大きなツノを持つ巨鳥型の成熟期スピリット、アクィラモンだ。

 

 

「!!……普通の進化!」

「アクィラモンには召喚時とアタック時で同じ効果を発揮する、猪人ボアボアを破壊!」

「!!」

 

 

アクィラモンは召喚時とアタック時でBP4000以下の相手のスピリット1体を破壊できる。

 

アクィラモンの2本の大きなツノから放たれる電撃が、椎名のボアボアを襲う。ボアボアは耐えられずに爆発してしまった。

 

 

「さらにアタックステップは継続!やれぇ!アクィラモン!今度はガンナー・ハスキーを破壊っ!」

「っ!!」

 

 

次に狙われたのはガンナー・ハスキー。ボアボアと同じく電撃をくらい、爆発してしまった。だが、ボアボアと違い、ガンナー・ハスキーには破壊時の効果が備わっており、

 

 

「ガンナー・ハスキーのLV2の破壊時効果!ボイドからコアを2つリザーブへ!」

リザーブ10⇨12

 

 

ガンナー・ハスキーの力が椎名のBパッドに流れ込む。彼女に新たなコアの恵みが与えられた。

 

 

「ふんっ、コアが増えたところで意味はないっ!この3体のアタックで終わりだ!」

 

 

椎名の残りライフは3。司の場のスピリットの総数はアタック中のアクィラモンを合わせて3体。椎名のライフを全て破壊できた。

 

だが、司も本当は分かっている。椎名がこの程度でくたばるわけがない、と。

 

椎名は当然のように手札のカードを1枚引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!リアクティブバリア!」

手札4⇨3

リザーブ12⇨8

トラッシュ2⇨6

 

「!!」

 

 

椎名が使ったのは吸血戦でも使用した白マジック、リアクティブバリア。その効果は白のマジックでは一般的な効果であって、

 

 

「アクィラモンのアタックはライフで受けるっ!」

ライフ3⇨2

 

 

アクィラモンの強烈な翼撃が椎名のライフを1つ破壊する。だが、ここで椎名の使用したリアクティブバリアの効果が発揮され、

 

 

「リアクティブバリアの効果でこのターンのアタックステップは終わりだぁ!」

「…………」

 

 

立ち込める猛吹雪、その中では司のスピリット達は一切の行動ができない。司はこのターンを終了せざるを得ない状況になってしまった。

 

 

「…………ターンエンド」

アクィラモンLV3(4)BP6000(疲労)

ハーピーガールLV2(2)BP4000(回復)

シュリモンLV2(3)BP9000(回復)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

司はターンを終了させる。次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ9⇨10

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ10⇨16

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ、………」

 

 

場のスピリットはゼロ。椎名は先ず、戦力の補強から行う。

 

 

「やっぱこっからじゃないとね!……私はブイモンを召喚するっ!」

手札4⇨3

リザーブ16⇨12

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名は先ずブイモンを召喚した。そしてその召喚時の効果で手札を整える。

 

 

「召喚時の効果!カードをオープンっ!」

オープンカード

【フレイドラモン】○

【ガンナー・ハスキー】×

 

「!!……フレイドラモンっ!」

 

「よっし!これを手札に加えるよ!」

手札3⇨4

 

 

効果は成功。椎名は自身のエーススピリットであるフレイドラモンのカードを手札に加えた。だがまだ召喚はしない。ひとまずはあのスピリットを、さっき司のシュリモンの効果により手札に帰ってしまったあのスピリットを召喚する。

 

 

「ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!!1コストを支払い、青き稲妻、ライドラモンをLV3で召喚!!!」

リザーブ12⇨11⇨7

トラッシュ3⇨4

ライドラモンLV3(4)BP10000

 

 

ブイモンの頭上に黒くて独特な形をした卵が投下してくる。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは黒いボディを輝かせる獣型のアーマー体スピリット、ライドラモンだ。

 

 

「召喚時効果でトラッシュにコアを追加ぁ!」

トラッシュ4⇨6

 

 

本日2度目、ライドラモンの雄叫びが椎名のBパッドにコアの恵みを与えた。

 

そしてまだ続く椎名のスピリット展開。今一度椎名は小さき青い竜を召喚する。

 

 

「もういっちょ!ブイモンを召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨4

トラッシュ6⇨8

 

 

額にブイの字を輝かせる青き竜。ブイモンが、三たび椎名の足元から飛び出してくる。

 

そして次は椎名のエーススピリットのご登場だ。椎名は1枚の手札を引き抜く。

 

 

「フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、炎燃ゆるスピリット、フレイドラモンをLV2で召喚!!」

リザーブ4⇨1

トラッシュ8⇨9

フレイドラモンLV2(3)BP9000

 

(………フレイドラモン……!!)

 

 

ブイモンの頭上に今度は赤い卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化する。そして新たに現れたのは、炎操る竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモンだ。

 

これで椎名の主力となる2体が揃った。

 

 

「フレイドラモンの召喚時及びアタック時効果で、BP7000以下のスピリットを1体破壊!今回はハーピーガールだ!………爆炎の拳!!ナックルファイアぁぁ!!」

手札3⇨4

 

「………ぐっぅ!!」

 

 

フレイドラモンの放つ炎の鉄拳。それは瞬く間にハーピーガールを焼き尽くした。そして椎名はおまけのようにデッキからカードをドローした。

 

椎名はいつだって、どんな時だって、この一番好きなスピリット、フレイドラモンで境地を乗り越えてきた。

 

ーそして今回も、

 

 

「アタックステップ!」

「だが!フレイドラモンのBPは9000!!シュリモンと同値だ!指定アタックしたところで相討ちになるだけ…………」

「誰がフレイドラモンからアタックするって?」

「……なに?」

 

 

司は僅かながらに曲解していたのかもしれない。いつもの椎名はここでフレイドラモンの独壇場とする戦法を取っていた。その方がアドバンテージを取れるからだ。だが、今回は違う。

 

その理由はライドラモンにある。

 

今回のフレイドラモンはライドラモンと共に敵を討つ。

 

 

「最初にアタックするのはライドラモン!」

「!?!」

 

 

勢いよく地を駆けるライドラモン。目指すは司の3つのライフ。……かと思えば、

 

 

「さらにこの時、フレイドラモンのLV2の効果で効果名に【進化】を含むスピリットは指定アタックができる!…………ライドラモンでシュリモンを指定アタックっ!」

「……!?!……そういうことかっ!」

 

 

走るライドラモンにフレイドラモンの炎の加勢が入る。ライドラモンはその炎を纏い、シュリモンめがけて突進していく。

 

そう、フレイドラモンだけが指定アタックできるのではないのだ。今までは場面場面でしょうがなくフレイドラモンが指定アタックしたきたが、本来はこのような使い方が理想なのである。

 

 

「ライドラモンのBPは10000!…………シュリモンより強いっ!…………いっけぇ!!!爆炎と稲妻の、ディザスターダッシュ!!!」

 

 

ライドラモンはそのまま自身の青い稲妻とフレイドラモンの炎を纏いながらシュリモンへと激突した。シュリモンはそれを止めようとするも、勢いを殺しきれず、逆にそれをまともに受けてしまった。

 

炎と稲妻に貫かれたシュリモンは力尽き、そのまま爆発してしまった。

 

 

「ほぉ、なるほどなぁ〜、アーマー体のほとんどは他のデジタルスピリットを補強していく効果が多い、つまり複数揃うた方が圧倒的にバトルを有利に進められるってこっちゃ」

 

 

スタジアムの隅で淡々と試合を考察していたヘラクレス。椎名のプレイングを感心するように頷く。

 

彼の言う通り、アーマー体は並べれば並べるほど強い。これで形成が逆転した。司は椎名の反撃を受けることになる。

 

 

「次だ!フレイドラモンでアタックっ!アタック時効果でBP7000以下のアクィラモンを破壊してドローだ!………ナックルファイアぁぁ!!」

手札4⇨5

 

「…………ぬっ!」

 

 

再び放たれるフレイドラモンの炎の鉄拳。それは瞬く間に空中にいるアクィラモンを直撃し、墜落させた。これで司の場にいたスピリットは全て消え、更地となった。

 

そしてアタック中。さっきはライドラモンにフレイドラモンの効果が乗せられたが、次はフレイドラモンにライドラモンの効果が乗る番だ。

 

 

「アタックは継続中!」

 

「くっ!……ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

フレイドラモンの炎のパンチが、司のライフを1つ破壊した。

 

そして、

 

 

「この瞬間!ライドラモンの効果!アーマー体スピリットがライフを減らしたことで、さらに1つのライフを破壊するっ!」

「!!?!」

 

 

ライドラモンの青い稲妻が、フレイドラモンの右拳に集中していく。フレイドラモンは自身の炎とライドラモンの青い稲妻の力を使い、再び司のライフを殴りつける。

 

 

「爆炎と稲妻のぉぉ!!ディザスターナックルぅぅぅう!!!!」

 

「ぐっ、………ぐぉぉっ!!」

ライフ2⇨1

 

 

炎と稲妻が融合したパワーは底が知れない。その爆発は一瞬にして司のライフを破壊した。

 

 

「どうだ司ぁ!これでターンエンドだよ!」

フレイドラモンLV2(3)BP9000(疲労)

ライドラモンLV3(4)BP10000(疲労)

 

バースト無

 

 

フレイドラモンとライドラモンのコンビネーションが炸裂した良いターンであったと言える。椎名は自慢気な表情を見せながらターンを終えた。

 

 

「……ッ!……調子にのるなよめざし、」

 

 

当然司もこのままで終わるはずがない。椎名のライフはたった2つしかないことから、場が有利になったとはいえ、油断は禁物だった。

 

 

[ターン09]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ12⇨13

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ13⇨14

トラッシュ1⇨0

 

 

「メインステップ…………」

 

 

司もたった1ターンで場のスピリットを全て破壊された。だが、既にこの場を整える方法が手札には存在しており、

 

 

「俺は、朱に染まる薔薇園のLVを上げ、手札にいるホークモンをフル軽減で召喚」

手札5⇨4

リザーブ14⇨11

朱に染まる薔薇園(0⇨1)LV1⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

司のネクサスカード、朱に染まる薔薇園は、LV2の時、赤のスピリットを召喚する際に、黄色としても扱うような効果を備えている。これにより、ホークモンが全ての軽減を満たされて召喚される。

 

 

「召喚時効果!3枚オープンっ!」

オープンカード

【テイルモン】○

【ハーピーガール】×

【ネフェルティモン】○

 

 

効果は成功した。司はこの場合、どちらか1枚を手札に加えることができるのだが、

 

 

「テイルモンを加える」

手札4⇨5

 

 

何のためらいもなく、司はテイルモンのカードを加えた。そしてこの瞬間、ホークモンの召喚時の効果の追加効果も発揮される。

 

 

「さらにホークモンの召喚時の追加効果で、2コストを支払い、今手札に加えたテイルモンを召喚する!」

手札5⇨4

リザーブ11⇨6

トラッシュ1⇨3

テイルモンLV3(3)BP5000

 

 

猫のように見えるが、本当はネズミ型の成熟期スピリット、テイルモンが司の場にいるホークモンの横に現れた。そして司はアタックステップへと移行する。椎名の残り2つのライフを討つためだ。

 

 

「アタックステップ!テイルモンでアタック!…そのアタック時効果でカードを1枚オープンっ!」

オープンカード

【シルフィーモン】○

 

 

テイルモンはアタック時にカードをオープンして、それが完全体スピリットならばライフを1つ回復できる。今回は成功、完全体のシルフィーモンのカードが手札に加わりつつ、司のライフが1つ回復することになる。

 

 

「テイルモンの効果でライフを1つ回復、さらにアタックステップ中にライフが増えたことにより、朱に染まる薔薇園の効果でデッキから1枚ドロー!」

ライフ1⇨2

手札4⇨5⇨6

 

 

ライフ回復に伴い、司のネクサスカード、朱に染まる薔薇園の赤薔薇も赤く発光する。その手札をより潤していく、

 

そしてまだだ、まだアタック時効果は終わってはいない、テイルモンは成熟期のスピリットだ、当然他と同じように、完全体に進化できる【超進化】の効果を持っており、

 

 

「テイルモンのもう1つのアタック時効果!【超進化:黄】発揮!テイルモンを手札に戻し、聖なる獣人、シルフィーモンを召喚するっ!」

リザーブ6⇨5

シルフィーモンLV3(4)BP12000

 

「!!」

 

 

テイルモンに0と1のデジタルコードが巻きつけられる。それ次第に膨らんでいき、テイルモンの姿形を変えさせていく。そしてそれが破裂すると同時に現れたのは、完全体のスピリット、白い体が特徴的な獣人型のスピリット、シルフィーモンだ。

 

 

「……ッ!……待ってたよっ!シルフィーモン!!」

 

 

椎名は思わず笑みがこぼれた。シルフィーモンという強敵が目の前に現れたからだ。ずっと戦いたかった。司のオーバーエヴォリューションで生まれた時から、

 

 

「ほんと、イかれてんな、てめぇ、」

「へへ、……だってさぁ、こんなに楽しいことはないよっ!」

 

 

椎名にとって、バトルスピリッツを楽しむことは生きがいなのだ。昔から六月に言われてきた。【バトルスピリッツは楽しむもの】だと。

 

この世界中が注目する界放リーグの準決勝で、これだけ純粋にバトルを楽しめる人物は他にはいないだろう。司の言うイかれてる。は、言葉を変えれば、【大物】。

 

この緊迫する場面でここまでバトルを楽しめる椎名はもはや他のプロにも勝も劣らないかもしれないほどの大物であると言えるかもしれない。

 

そんな中、司はバトルを再開し、シルフィーモンの召喚時効果を発揮させる。

 

 

「召喚時効果っ!BP12000以下のスピリット1体を破壊するっ!くたばれぇ!ライドラモン!」

「!!」

 

 

両手を合わせて突き出すようにエネルギー弾を放つシルフィーモン。それは瞬く間に椎名のライドラモンを捉えて命中させる。ライドラモンは耐えられなくなり、その場で力尽き、爆発してしまった。

 

 

「くそっ!ライドラモンっ!」

「アタックステップは継続だ!やれぇ!シルフィーモン!」

 

 

高い脚力を活かして、天高く飛び上がるシルフィーモン。そのまま滑空し、椎名のライフへと向かう。

 

現在、司の場のスピリットはシルフィーモンとホークモンの計2体。対する椎名のライフは残り2。椎名が抵抗しなければバトルはこのターンで終わってしまう。

 

 

「……まだだっ!フラッシュマジック!アビサルカウンター!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ9⇨12

 

「!!?!」

「アビサルカウンターはコスト3以下のスピリット1体を破壊するっ!ホークモンを破壊だ!」

 

 

青のマジック、アビサルカウンターは、コスト3以下のスピリットか、合体スピリットのブレイブを1つ破壊できるマジックだ。今回その対象に選択されたのはコスト3のホークモン。

 

大きな竜巻が突然発生し、ホークモンを巻き込んでいく。ホークモンがそれに耐えられるわけもなく、力尽き爆発してしまった。

 

 

「……だが、シルフィーモンのアタックは有効のままだ」

 

「………ライフで受けるっ!………くっぅ!」

ライフ2⇨1

 

 

滑空してくるシルフィーモンの強烈なダブルパンチが椎名のライフを1つ破壊する。これで椎名のライフは残りたったの1つ。

 

 

「さらにシルフィーモンのバトル終了時効果により、ライフを1つ回復し、ネクサスカード、朱に染まる薔薇園の効果でカードを1枚ドロー…………」

ライフ2⇨3

手札6⇨7

 

 

ー再び司が逆転した。

 

司のたった1つだったライフが3まで戻る。おまけに朱に染まる薔薇園の効果で手札も増やし、無駄がない。

 

 

「………ターンエンド」

シルフィーモンLV3(4)BP12000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV2(1)

 

バースト無

 

 

次は椎名のターンだ。ここでまたやり返さねば後はないだろう。

 

 

[ターン10]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨16

トラッシュ12⇨0

フレイドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、……………よし!これだっ!……青のブレイブよ!潮より来たれ!双牙皇オルト・ロードを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ16⇨11

トラッシュ0⇨4

 

 

椎名の背後から打ち寄せてくる大波。その中から飛び出してくるのは2つの顔を持つ獣のような青のブレイブ、双牙皇オルト・ロード。連続アタックを可能にできる強力な1枚だ。

 

 

「さらにブイモンを召喚っ!」

手札4⇨3

リザーブ11⇨8

トラッシュ4⇨6

 

 

椎名は立て続けに手札に戻っていたブイモンを召喚した。そしてその召喚時を使用する。

 

 

「ブイモンの召喚時効果っ!カードをオープンっ!」

オープンカード

【風盾の守護者トビマル】×

【マグナモン】○

 

 

効果は成功、アーマー体であるマグナモンのカードが椎名の手札へと加えられた。

 

 

「よっし!マグナモンを手札に加えるよ!」

手札3⇨4

 

「……………」

 

 

【ロイヤルナイツ】の一角、黄金の守護竜マグナモン。司はそれをなぜ椎名が持っているのか疑問を抱いていた。だが、いくら聞いても椎名は「じっちゃんからもらった」としか言わなかった。事実といえば事実なのだが、

 

司がそんなことを思い出している間に、椎名はそれを、黄金の守護竜を召喚する。いつものようにその大きなコストを補える【アーマー進化】の効果を使って、

 

 

「マグナモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、黄金の守護竜、マグナモンをLV3で召喚っ!」

リザーブ8⇨7⇨4

トラッシュ6⇨7

マグナモンLV3(4)BP10000

 

 

ブイモンの頭上にゆっくりと金色に光り輝く黄金の卵が投下される。ブイモンは受け入れるようにそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化する。そして眩い光と共に現れたのは黄金の鎧を身に纏う【ロイヤルナイツ】の一体、マグナモンだ。

 

 

「…………ふんっ、ようやくご登場か」

「へっへぇ!………勝負はこれからだよ!マグナモンの召喚時効果!最もコストの低い相手のスピリット1体を破壊するっ!」

「…………俺のスピリットはシルフィーモンだけ………」

「そう、つまりそれが破壊されるっ!…いっけぇ!!マグナモンっ!黄金の波動!!エクストリーム・ジハード!!」

 

 

マグナモンはその奇跡の力を体内に結集させ、それを一気に球状に放出させる。シルフィーモンは瞬く間にそれに取り込まれ、肉体ごと消滅させられてしまった。

 

マグナモンのこの効果は相手の場に効果を受けないタイプのスピリットさえいなければほぼ確実にスピリットを破壊できる強力な効果だ。

 

そして椎名はまだこのメインステップで動く。今度はフレイドラモンとオルト・ロードの合体だ。

 

 

「フレイドラモンと双牙皇オルト・ロードを合体!合体スピリットとなるっ!」

フレイドラモン+双牙皇オルト・ロードLV2(4)BP14000

 

 

呼吸を合わせるように空中へと飛び上がるフレイドラモンとオルト・ロード。そして2体は衝突し、混ざり合い、新たな姿となる。現れたのは言わば蒼いフレイドラモン。オルト・ロードの装甲が装備され、その炎はより高温となり、青に変わる。さらには背中から漆黒の巨翼が新たに生えている。

 

それが今、ゆっくりと椎名の場に降り立った。

 

司は思い出していた。あの時、芽座椎名に負けたあの4月の代表バトルを、あの時勝負をつけられたスピリットが目の前にいると思うとその心には俄然やる気が灯されていた。

 

そして椎名はようやくアタックステップへと移行する。司との準決勝バトルに決着をつけるために。

 

 

「アタックステップ!フレイドラモンでアタックっ!」

 

 

その黒くて大きな翼を広げ、蒼い炎を灯しながら飛び立つフレイドラモン。目指すは残り3つの司のライフだ。

 

現在のフレイドラモンはオルト・ロードとの合体でダブルシンボル。つまり一度のアタックで2つのライフを減らすことができる。このアタックとマグナモンのアタックで終わらせる。椎名はそう考えていた。

 

ーだが、そう上手くはいかない。司はここで引き込んでいた1枚を引き抜いた。それは自分の窮地を何度も救ったカードであって、

 

 

「フラッシュマジック!シンフォニックバースト!」

手札7⇨6

リザーブ9⇨7

トラッシュ3⇨5

 

「なに!?」

 

 

シンフォニックバースト。黄色のマジックで、効果はバトルの終了時に自分のライフが2以下ならばそのアタックステップを強制的に終わらせるというもの。司はこの界放リーグ中は何度もこのカード1枚で相手のスピリットのアタックを食い止めていた。

 

 

「フレイドラモンのアタックはライフで受けるっ!……………ぐっぅ!」

ライフ3⇨1

 

 

フレイドラモンは蒼い炎をその身に纏い、司のライフへと激突してくる。そのライフを3からたった1まで減らしたが、

 

 

「ふっ!……シンフォニックバーストの効果でアタックステップは終わりだっ!」

「くっ!………」

 

 

黄色い衝撃波が広がっていく。それは椎名の場にいたフレイドラモンとマグナモンの動きを一時的に停止させていた。

 

これにより、椎名はターンを終了せざるを得ない状況となってしまった。

 

 

「……………ターンエンド」

フレイドラモン+双牙皇オルト・ロードLV2(3)BP14000(疲労)

マグナモンLV3(4)BP10000(回復)

 

バースト無

 

 

アタックステップを終わらされてはしょうがない。椎名は悔しみながらもそのターンを終える。が、また形成が椎名に傾いているのは明らかであった。司がここから逆転するのは至難の技を言えるだろう。

 

 

[ターン11]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ9⇨10

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ10⇨15

トラッシュ5⇨0

 

 

司はこのドローステップで最高のドローをしていた。それはこのゲームを終わらせらことのできる強力な1枚であって、

 

 

「メインステップ、イーズナを召喚し、マジック、コールオブロストを使用、……トラッシュにいるシルフィーモンを手札に加える」

手札7⇨6⇨5⇨6

リザーブ15⇨14⇨12

トラッシュ0⇨2

 

「!!………シルフィーモンが戻った……!?」

 

 

司はイーズナを召喚すると同時にトラッシュへと落ちたシルフィーモンのカードを手札に戻した。戻した理由はただ一つ、もう一度召喚するためだ。

 

 

「さらにテイルモンを召喚し、アタックステップだ」

手札6⇨5

リザーブ12⇨6

トラッシュ2⇨4

 

 

司は前のターンで【超進化】の効果により、手札に戻っていたテイルモンを再び召喚すると、そのままアタックステップに移行した。このターンで決める気だ。

 

 

「テイルモンでアタック!効果で1枚オープンし、そのまま手札に加え、【超進化:黄】!手札に戻し、シルフィーモンに進化っ!」

オープンカード

【ソウルオーラ】×

手札5⇨6

シルフィーモンLV3(4s)BP12000

 

 

司はテイルモンの効果で手札を増やしつつ、それを進化させる。シルフィーモンを再び場へと呼び出した。

 

だが、シルフィーモンの召喚時効果ではもはや椎名のスピリットを破壊はできない。

 

 

(………せっかく倒したのに…………でもこの手札なら…………いけるっ!)

(………終わりだめざし……このターンで最後にしてやる)

 

 

お互いに、手札の状態は良いようであり、どちらかの手札が強いかが、この勝負を分けると言っても過言ではない。

 

ー椎名が守るか、方や司が押し切るか、互いの手札に望みを託し、今、ラストバトルが切って落とされる。

 

 

「【超進化】は効果を発揮したスピリットのフラッシュタイミングだけが残る。つまり、俺はここでフラッシュが使えるっ!」

「……!?」

 

 

成熟期スピリットの持つ【超進化】の効果は主にアタック時に発揮されるものだが、進化した後は、そのアタックしたことにより発生するフラッシュタイミングが残るのだ。

 

これはデジタルスピリット特有のものだが、これを隙と捉えるか得と捉えるかはバトラーしだい。少なくとも司は得だと捉えている。何せ、このタイミングで自分の最強のスピリットを呼び出すことができるのだから。

 

 

「煌臨発揮!対象はシルフィーモンっ!」

シルフィーモン(4s⇨3)LV3⇨2

トラッシュ4⇨5s

 

「!!」

 

 

シルフィーモンの周囲に巨大な火柱が立ち上る。シルフィーモンはその炎の中で姿形を大きく変えていく。

 

椎名は悟った。絶対にあいつだ。と、当然その読みは正しい、赤羽一族に伝承されていた最強の赤スピリットが今、この準決勝でも大きく羽ばたいてみせる。

 

 

「天空の王よ!その輝ける翼を持って地上の全てを薙ぎ払えぇ!究極進化ぁぁ!!!」

手札6⇨5

 

 

ー黄金の炎の力を持つ究極の赤スピリットが黄金に煌めく翼を広げ、華麗に舞い上がる。

 

 

「…………ホウオウモンっ!」

ホウオウモンLV2(3)BP12000

 

 

火柱の中で形成された巨鳥が咆哮すると、その炎は全て弾け飛ぶ。そしてその中から現れたのは赤羽一族に伝承されてきた黄金の巨鳥。ホウオウモンだ。

 

自身の効果により、トラッシュからも煌臨できたが、今回は手札からの煌臨となった。

 

 

「…………おぉっ!これがホウオウモンっ!!」

 

 

椎名の顔は喜びに満ちていた。それもそのはずだろう。何せ、一番対面したかったスピリットなのだから。

 

いざその雅な羽ばたきを目の前にしてみるととてつもないプレッシャーを感じる。こんな相手とバトルしたのは初めてだった。

 

 

「見惚れるなよ、…………煌臨時効果!煌臨元になった赤の完全体、シルフィーモンを手札に戻すことにより、お前のBP10000以上のスピリット1体を破壊するっ!………フレイドラモンっ!お前だっ!!!!」

手札5⇨6

 

「………!?!!」

「煌翼の!スターライトエクスプロージョンッ!!!」

 

 

ホウオウモンの翼から放たれる金色の炎、それは瞬く間に地上にいるフレイドラモンまで届き、それを溶解させてしまった。合体していた双牙皇オルト・ロードは分離する形でなんとかことなきを得た。

 

 

「くっ!…………フレイドラモンっ!」

「これでお前のエースは消えたっ!これで終わりだ!ホウオウモンでアタックッ!!……そのアタック時効果により、BP10000以下の双牙皇オルト・ロードを破壊っ!」

 

 

椎名の残り1つのライフをめがけて飛び立つホウオウモン。その瞬間に分離してスピリット状態となっていたオルト・ロードを翼の炎で通り過ぎるように焼き払っていった。

 

司の場にはホウオウモンとイーズナがいる。だが、椎名の場にもまだ、【ロイヤルナイツ】のマグナモンという頼もしい仲間が場にいるのであって、

 

 

「フレイドラモンはいなくなっても私にはまだマグナモンがいるっ!マグナモンでブロックだ!」

 

 

マグナモンは疲労状態でブロックができる。つまりこのホウオウモンとのBP勝負に勝つことができれば、椎名はこのターンをしのぐことができる。

 

ーまた逆も然り、

 

どちらにせよ、このBP勝負に勝った方が準決勝の勝者であると考えてもいいだろう。

 

椎名は遅かれ早かれこのターンでこうなることは予想がついていた。だからこそこのタイミングで思う存分フラッシュをねじ込んでいく。

 

 

「フラッシュマジック!ワイルドライド!マグナモンを対象に発揮させる!……」

手札4⇨3

リザーブ8⇨5

トラッシュ7⇨10

 

「!!」

 

「この効果によりマグナモンはBPプラス3000!!………ホウオウモンを超えたぁ!」

マグナモンBP10000⇨13000

 

 

この大会だけでもう何度も椎名の窮地を救ってきたマジックカード、ワイルドライドが使用される。マグナモンは緑のオーラを纏い、そのパワーを上昇させる。

 

ホウオウモンのBPを僅かながらに超えた。マグナモンは再びエクストリーム・ジハードを放つ。ホウオウモンを破壊するためだ。ホウオウモンも負けじとスターライトエクスプロージョンを放つ。

 

2つの黄金のエネルギーが衝突した。現在はマグナモンの方が押している。このままいけば確実にホウオウモンを破壊できるだろう。

 

だが、司にフラッシュがないわけがない。テイルモンのアタック時効果でさりげなく加えていたマジックカードを手札から抜き取った。

 

 

「あまいっ!効果で加えたこいつを忘れていたか!フラッシュマジック!ソウルオーラッ!俺のアタックしているスピリット全てをBPプラス3000!!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨5

トラッシュ5s⇨6s

ホウオウモンBP12000⇨15000

 

「!!」

 

 

ソウルオーラの力により、ホウオウモンは赤いオーラを纏い、そのパワーを上昇させる。マグナモンを再び超えた。

ここでBPアップ系のカードを手札に持っていたのは流石と言える。

 

マグナモンの放ったエクストリーム・ジハードをホウオウモンの黄金の炎、スターライトエクスプロージョンがゆっくりと押し返していく。

 

ーだが、椎名がその公開情報を知らなかったわけがない。さらに椎名は手札のカードを引き抜いた。それは彼女を界放リーグの決勝へと導かせる切札だ。

 

 

「まだまだぁぁぁあ!!フラッシュマジック!グロウウィングソード!!」

手札3⇨2

リザーブ5⇨2

トラッシュ10⇨13

 

「……なに………っ!?」

 

「グロウウィングソードは自分のスピリット1体をBPプラス3000し、その後1コスト以上のコアを支払ことで、払ったコア1つにつき、追加で1000ずつアップさせるっ!対象は当然マグナモン!そして2コア払ってさらに2000アップ!」

マグナモンBP13000⇨16000⇨18000

 

 

マグナモンはさらにそのパワーを上昇させる。再びエクストリーム・ジハードはスターライトエクスプロージョンの炎を押し返していく。

 

 

「いっけぇ!!黄金の超波動っ!!!エクストリーム・ジハードォォォォオ!!」

 

 

どんどん黄金の炎を押しのけて突き進んでいく黄金の波動。そしてついに、ついにホウオウモンまで近づいていく。そして衝突し、

 

ー破壊、されるはずだったー

 

 

「……え?……………」

マグナモンBP18000⇨15000

 

 

突然、それは突然だった。マグナモンとホウオウモンが奇妙な光に包まれるていく、その中でマグナモンはパワーが下がるが、なぜかホウオウモンはさらにパワーアップしていた。

 

その光景を見て、思わず口が開く椎名。

 

このカラクリは、司が引き起こしたものであって、

 

 

「………………フラッシュマジック…………フルーツチェンジ」

手札5⇨4

リザーブ5⇨4

トラッシュ6s⇨7s

 

「…………!!?!」

 

「フルーツチェンジ………このバトル中にBPを比べる時、互いのスピリットのBPを入れ替える…………お前のマグナモンはBPが15000まで下がり、逆に俺のホウオウモンは18000となる」

ホウオウモンBP15000⇨18000

 

「な!?……………ッ!!」

 

 

以前、雅治とのバトルでもくらっていたマジックカード。だが、同じ黄色を使うからと言ってもBPを上げやすい赤が主軸の司のデッキには使われないだろうと思っていた。そのためか、使われるなど、椎名には予想できなかった。

 

 

「金色の超炎!スターライトエクスプロージョンッ!!」

 

 

最後の最後でホウオウモンのスターライトエクスプロージョンが巻き返していく。そのパワーは先ほどの比にならない。どんどんマグナモンのエクストリームジハードを押し返していく。

 

そして、その金色の炎はとうとうその波動を打ち破り、マグナモンまで届く。最高の硬度を誇るマグナモンの鎧に一瞬でヒビを入れた。

 

流石に耐えられなかったか、その金色の炎の中で、マグナモンは力尽き、消滅していった。

 

 

「(これから先、俺は常にお前の先へ行く)イーズナでアタックッ!」

 

 

そう心で思いながら、司は残ったイーズナでアタックを宣言した。イーズナが椎名のライフをめがけて懸命に走り出した。

 

ーそして、

 

 

「…ッ!……………」

ライフ1⇨0

 

 

イーズナの爪のひっかく攻撃が、椎名の最後のライフを破壊した。椎名はショックからか、言葉がなにも出てこなかった。ただその攻撃を受け入れただけ、

 

そのガラス細工が割れるような音が発せられた瞬間は、不思議と轟音のような歓声がピタリと止んだ。

 

ー赤羽司、赤属性を多用する一族、赤羽一族の末裔で、【朱雀】と言う2つ名で呼ばれることが多い、芽座椎名の生涯のライバルとなる男だ。

 

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「椎名です!今回はこいつ!【テイルモン】!!」

「テイルモンは司が使う黄色の成熟期スピリット!アタック時にカードを1枚オープンして、それが完全体スピリットだったらライフを回復するよ!」










最後までお読みいただき、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!


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第27話「甲虫の究極王者!ヘラクルカブテリモン!」

 

 

 

 

 

 

 

椎名のライフが減らされる音が会場中に響き渡る。その瞬間は観客も何が起こったのか理解できなかったのか、その間はとても静寂な空間が保たれていた。

 

だが、それはそう長くは保たない、すぐさま轟音へと様変わりする。

 

鳴り止まぬ歓声という名の轟音。その全てが勝者である司を讃えている。

 

 

「………………………」

 

 

黙り込み、少しだけ頭を下げる椎名。この大舞台で惜敗して流石に悔しいのだ。だが、それもほんの一瞬だけ、直ぐにいつもの笑顔に変わる。

 

 

「……………たは〜〜〜〜〜負けた〜〜」

 

 

そう言って疲れ切ったのか、その場で仰向けに倒れこむ椎名。このバトルに持ちうるすべての気力を振り絞っていたのが伺える。

 

司もBパッドを閉じる。場に残っていたホウオウモンとイーズナ、朱に染まる薔薇園がゆっくりとその姿を消滅させていく。

 

 

「何やってんだ…………ここからパンツ丸見えだぞ」

「なぁ!?!」

 

 

表情一つ変えない司にそう言われて椎名は思わず顔を赤らめながらもすぐさま制服のスカートを手で押さえながら起き上がった。

 

ーそして改めて、

 

 

「司、いいバトルだったよ!またやろう!」

「………最後までそれか、ほんとイかれてるな、お前は」

「いいじゃない!イかれてるくらいがちょうど良いんだよ!私は!………そんなイかれてる私に勝ったんだから、絶対に優勝してよね!」

「お前に言われるまでもない、ヘラクレスの三連覇を阻止し、俺が優勝する…………そして俺が三連覇を成し遂げる」

「……………へへっ」

 

 

椎名は司にそれだけ話すとそのステージを降りた。この後は直ぐに決勝、【朱雀】こと、赤羽司と、【ヘラクレス】こと、緑坂冬真のバトルになるのだから。

 

 

「めっさ惜しかったな〜〜めざっち!、もうちょっとやったやん!」

「!!……真夏の兄ちゃんっ!」

 

 

椎名が降りた直ぐそこには今にもステージへと上がろうとしていたヘラクレスの姿があった。決勝前だと言うのに随分と軽いノリだった。これも慣れなのか、はたまた大物なのか、

 

 

「へへ、勝ちたかったけどね〜〜まぁ良いよ私は直ぐそこで楽しんで2人のバトルを観とくから」

「ハッハッハ!ほな、目ん玉かっぽじってしっかり見ときぃ!このヘラクレスの界放リーグ、最後のバトルをなぁ!」

 

 

椎名にそう強く言い残し、ヘラクレスは上へと上がっていった。彼にとっては学生として最後の公式バトルなのだ。俄然燃えているのだろう。

 

そして上がった先には【朱雀】こと赤羽司が待ち受けていた。

 

 

「よぉ、朱雀…………いや、赤羽司、お互い顔しか知らんかったが、やっとこれでやれるなぁ」

「……そんなに喋る事もないだろう、早く始めようぜ、ヘラクレス」

「むっ!談笑ができひんとこはなんかごっちーにそっくりやなぁ……………まぁええけど」

 

 

司は再びBパッドを展開して、バトルの準備をしていた。一見して見ると、頭が固いようにも見えるが、ヘラクレスにはわかる。あれは自分と早くバトルをしたい気持ちの表れなのだと、それほどまでに楽しみなのがひしひしと伝わってきていたのだ。

 

そんな後輩の気持ちを先輩である自分が応えないわけにはいかない。ヘラクレスはたった今誓った。このバトル、【本気で行くと】。

 

ヘラクレスも直ぐにBパッドを展開した。

 

ーそして、

 

 

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

ー第9回界放リーグの決勝戦が幕を開けた。

 

 

******

 

 

「始まったな」

「あぁ、始まったな」

 

 

ここは各学園の理事長が観戦するVIPルーム。6人の理事長達がその決勝戦を観戦していた。喋っているのはジークフリード校の理事長、龍皇竜ノ字と、キングタウロス校の理事長、大公獅子だ。

 

 

「ハッハッハ!これで終わりだな竜ノ字!あの場所には俺が行くぜぇ!」

「うるさいっ!まだ決まったわけじゃないだろう!勝つのは朱雀だ!そして、奴が三連覇して俺があそこへ行く!」

 

 

2人は10年前から賭け事をしていた。その長き戦いに自分の勝利で決着がつきそうなのだ。大公のテンションが上がるのも納得だ。

 

龍皇も当然諦めてはいない。なんとか朱雀にヘラクレスに勝ってもらいたかった。自分があの場所へ旅行したかったから。

 

 

******

 

 

そして始まる。決勝のバトルが、世界が注目する一戦が、

 

ー先行はヘラクレスだ。

 

 

[ターン01]ヘラクレス

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、テントモンを召喚や」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

ヘラクレスが早速召喚したのはいつものてんとう虫型の成長期スピリット、テントモンだ。

 

 

「召喚時でコア増やすでぇ」

テントモン(1⇨2)

 

 

テントモンの効果は他の成長期スピリットとは一風変わった効果だ。緑ではお馴染みのこの効果でヘラクレスは先行の第1ターンにもかかわらず、コアを増やした。

 

 

「ターンエンドや」

テントモンLV1(2)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

ヘラクレスはそのターンを終える。次は司のターンだ。

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はイーズナを召喚し、さらにネクサスカード、オリン円錐山を配置するっ!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「!!………ほぉ、また厄介なヤツ入れとるなぁ」

 

 

司が呼び出したのはいつものハイブリッドスピリット、イーズナと、ネクサスカード、オリン円錐山。彼の背後に円錐型の山が聳え立つ。

 

このカードは司がヘラクレス対策に入れていたカードだ。

 

 

「ふっ!……この効果で俺の赤のスピリット全ては効果によって手札、デッキに戻らない……ターンエンドだ」

イーズナLV1(1)BP1000(回復)

 

オリン円錐山LV1

 

バースト無

 

 

オリン円錐山の効果は赤属性全てにバウンス効果の耐性を与えるという強力なもの、ヘラクレスの主力にはカブテリモンを始めとしたバウンス効果持ちのスピリットが多い。この手の効果は彼のデッキにとってはかなり辛いことだろう。

 

そして次はそんなヘラクレスのターン。対策はあるのか、

 

 

[ターン03]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ………せやなぁ、こう行くか!ヒゲコガを召喚するでぇ!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

ヘラクレスが呼び出したのは髭を生やした殻人のスピリット、ヒゲコガ。そのアタック時効果はカブテリモンに勝る劣らず優秀である。

 

 

「さらにバーストを伏せる!」

手札4⇨3

 

 

ヘラクレスのバースト。ここでは一体何が伏せられているのか期待が高まる。

 

 

「アタックステップや!ヒゲコガ!アタックやで!!」

 

 

剣を持って走り出すヒゲコガ。そして同時にアタック時の効果も処理される。

 

 

「アタック時の効果でコアを増やすことでイーズナを疲労させる!」

ヒゲコガ(1⇨2)

 

「………!!」

イーズナ(回復⇨疲労)

 

 

ヒゲコガが巻き起こした突風が、司のイーズナを疲労させてしまう。

 

そう、バウンスできないとはいえ、ヘラクレスにはまだこの疲労効果がある。

 

ブロッカーのいなくなった司はこのターン、すべてのアタックをライフで受けなければならなくなった。

 

 

「……ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ヒゲコガの一閃が、司のライフを1つ破壊した。

 

これだけでヘラクレスは終わらない。容赦なく畳み掛ける。

 

 

「次ぃ!テントモン!」

 

「……それもライフだ………ぐっぅ!」

ライフ4⇨3

 

 

テントモンは羽を広げ飛び立つ。そしてそのまま勢いよく司のライフへと激突し、それを1つ破壊した。

 

 

「ターンエンドや……バウンスは通じんくても、疲労は通じるんやでぇ」

テントモンLV1(1)BP2000(疲労)

山賊親分ヒゲコガLV1(1)BP4000(疲労)

 

バースト有

 

 

「……………知っているさ、そのくらい」

 

 

ヘラクレスはそのターンを終える。次は司のターンだ。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

イーズナ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、オリン円錐山のLVを上げ、ホークモンをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨4⇨0

オリン円錐山(0⇨3)LV1⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

司が呼び出したのは自分のデッキの潤滑油となるスピリット、赤の鳥型スピリット、ホークモンだ。

 

 

「召喚時効果っ!カードオープンっ!」

オープンカード

【朱に染まる薔薇園】×

【ハーピーガール】×

【ホウオウモン】×

 

 

残念ながら効果は全てハズレ、1枚も加えられずにトラッシュへと送られるが、

 

トラッシュでも機能するホウオウモンがトラッシュへと送られた。ヘラクレスもそれを見逃さなかった。

 

 

「アタックステップ!ホークモン!」

 

 

仕掛けてくる司。飛び立つホークモン。目指すはヘラクレスのライフ。ヘラクレスは前のターンでフルアタックしたせいでブロックができない。ここは当然、

 

 

「ライフで受けよか〜〜」

ライフ5⇨4

 

 

ホークモンの羽を飛ばす攻撃がヘラクレスのライフを1つ砕いた。

 

ーだが、それは彼のバーストの発動条件でもあって、

 

 

「さぁ!俺のライフ減少でバースト発動や!手裏剣大地!」

「!!?」

 

 

バーストカードが勢いよく反転すると共にヘラクレスの背後に現れたのは、手裏剣の形をしていて、中に浮いている大地。それは緑の強い効果をふんだんに取り込んだネクサスだ。

 

 

「先ず、バースト効果でコアをリザーブに、さらに配置し、配置時効果でイーズナを疲労や」

リザーブ1⇨2

 

「……………」

イーズナ(回復⇨疲労)

 

 

手裏剣大地が回転して巻き起こる風が、またイーズナを疲労させてしまう。

 

司はこれにより、このターンの攻めてを失ってしまった。

 

 

「………ターンエンドだ」

イーズナLV1(1)BP1000(疲労)

ホークモンLV2(3)BP5000(疲労)

 

オリン円錐山LV2(3)

 

バースト無

 

 

仕方なくそのターンを終える司。次はヘラクレスのターンだ。

 

 

[ターン05]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

テントモン(疲労⇨回復)

山賊親分ヒゲコガ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、………………さて、ウォーミングアップはここまでやで」

「!?!」

 

 

口角を上げながらそう言うヘラクレス。

 

コアもシンボルも十分に溜まった。ヘラクレスは手札から自分のデッキのアタッカーであるあのスピリットを召喚する。それは誰もが認めるスピリットであって、

 

 

「アトラーカブテリモンをLV2で召喚や!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3

 

「!!」

 

 

蠢く地面。その中から飛び出してくる赤き甲虫。完全体のアトラーカブテリモンだ。如何なる状況でもヘラクレスのバトルでは中軸を担う強力なスピリットである。

 

だが、今回に限っては遺憾無くその力を発揮できない。司の配置したネクサスカード、オリン円錐山の効果によって、その召喚時及びアタック時に発揮される手札バウンス効果を封じられているからだ。

 

 

「オリン円錐山の効果で、俺の赤のスピリットは手札には戻らない」

「知っとるわ、……まぁでもアトラーのアタックが通れば勝てるんやけどな〜〜」

 

 

そう、バウンスはしないだけで疲労効果は効くのだ。そのこともあって今の司の場のスピリットは全て疲労状態。ヘラクレスのスピリットたちが、司のライフを破壊しに行くことだろう。

 

 

「手裏剣大地のLVを2に上げ、アタックステップや!アトラーでアタック!」

テントモン(2⇨1)

ヒゲコガ(2⇨1)

手裏剣大地(0⇨2)LV1⇨2

 

 

走り出すアトラーカブテリモン。目指すは司の残り3つのライフだ。

 

 

「…………まぁでも耐えるんやろ?」

 

「わかってるじゃねぇか、フラッシュマジック!シンフォニックバースト!」

手札3⇨2

ホークモン(3⇨2)LV2⇨1

トラッシュ1⇨2

 

 

ヘラクレスはわかっていた。司がまだ耐えることを。そうでなければ積極的にアタックはしないだろうと考えていたからだ。

 

 

「アトラーのアタックはライフで受けるっ!」

ライフ3⇨2

 

 

すべてのスピリットが疲労状態ではライフで受けるしかない。アトラーカブテリモンのツノを突き出すような体当たりの攻撃を受けた司。そのライフが1つ飛ばされた。

 

さらにまだアトラーカブテリモンの効果は続く。今までの彼のバトルではほとんどが決定だとなった効果である。

 

 

「アトラーの効果!ライフを減らした時、完全体の数だけさらにライフを破壊!今はアトラーが1体や!よって追加で1点もらうでぇ!」

 

「ぐっ、………ぐっう!!」

ライフ2⇨1

 

 

アトラーカブテリモンの赤い稲妻を纏ったツノの一撃がさらに司のライフを減少させる。

 

だが、司が使っていたマジックカード、シンフォニックバーストの効果がここで発揮される。

 

 

「俺のライフは2以下!よってシンフォニックバーストの効果でお前のアタックステップを終了させるっ!」

 

 

弾け飛ぶ黄色い閃光。それがヘラクレスの3体のスピリットの身動きを封じ込めた。

 

ヘラクレスが如何に強いと言ってもアタックステップを止められてはなすすべがない。仕方なくそのターンを終了させることになる。

 

 

「………やるやないか、ターンエンドやで」

テントモンLV1(1)BP2000(回復)

山賊親分ヒゲコガLV1(1)BP4000(回復)

アトラーカブテリモンLV2(3)13000(疲労⇨回復)

 

手裏剣大地LV2(2)

 

バースト無

 

 

手裏剣大地のLV2効果で疲労していたアトラーカブテリモンを回復させながら、ヘラクレスはそのターンを終えた。次は司のターンだ。ここまで一見すると追い込まれているように見えるが、

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

 

 

「ドローステップ時、オリン円錐山の効果でその枚数を1枚増やす」

手札2⇨4

 

 

オリン円錐山のLV2効果は赤属性のネクサスでもかなりの有名な効果だ。司は僅かながらに手札を増やした。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

イーズナ(疲労⇨回復)

ホークモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、ホークモンのLVを再び2に上げる」

リザーブ5⇨4

ホークモン(2⇨3)LV1⇨2

 

 

ホークモンのLVが上がった。これによりホークモンは進化の効果を発揮できる。

 

 

(ヘラクレス、俺とお前は今まで比べることができなかったな、…………だが、今日それはハッキリするだろう、俺の方が圧倒的であると言う結果でなっ)

 

 

心の中でそう思う司。司とヘラクレスは2年違い、ジュニアリーグでは都合上バトルすることができなかった。つまり司がジュニアリーグで優勝したのはヘラクレスがいなくなった時である。

 

散々ヘラクレスの方が強いだの周りから言われてきた。だが、それも今日で終わる。司は、朱雀は見せつける。自分の実力を、ヘラクレスに。

 

 

「アタックステップ!その開始時にホークモンの【進化:赤】を発揮!手札に戻し、成熟期のアクィラモンに進化させるっ!」

リザーブ4⇨3

アクィラモンLV3(4)BP6000

 

 

ホークモンに0と1のデジタルコードが巻きつけられて行く、それは次第に膨らんでいき、破裂。新たに現れたのは2本の大きなツノを携えた巨鳥型の成熟期スピリット、アクィラモンだ。

 

 

「アクィラモン……ねぇ」

「浮かれてる場合じゃないぞ!アクィラモンの召喚時及びアタック時の効果でBP4000以下のスピリット、ヒゲコガを破壊するっ!」

「!!」

 

 

アクィラモンの2本のツノから放たれる赤い稲妻が、ヒゲコガに命中する。ヒゲコガは堪らず爆発してしまった。

 

 

「さらにアタックステップは継続っ!やれぇ!アクィラモン!今度はテントモンを破壊するっ!」

「……………」

 

 

アクィラモンの今度の狙いはテントモン。見事に稲妻を命中させ、それを破壊してみせた。

 

だが、まだヘラクレスの場には強大なアトラーカブテリモンが残っている。司はそれを見越しているようにアクィラモンのもう1つのアタック時効果を発揮させる。

 

 

「アクィラモンのアタック時効果【超進化:赤】を発揮!手札に戻し、完全体のスピリット、シルフィーモンをLV3で召喚っ!」

シルフィーモンLV3(4)BP12000

 

「きよったなぁ、ジョグレス体」

 

 

アクィラモンも0と1のデジタルコードに巻き付けられて進化する。新たに現れたのはこれまで何度も司のデッキで活躍してきたエーススピリット、白き聖なる獣人、シルフィーモンだ。

 

その召喚時効果でBP12000以下のスピリットを破壊できるのだが、今回はヘラクレスの場に該当するスピリットがいないため、不発の形で終わった。

 

 

「行くぞ!シルフィーモン!アタックッ!」

「?」

 

 

滑空するように飛び立つシルフィーモン。目指すはヘラクレスのライフだ。

 

ヘラクレスは不思議に思った。何故BPがアトラーカブテリモンより低いシルフィーモンでアタックしてきたのか、だが、それは直ぐに理解した。持っているのだ、BP増強系マジックを、またはフルーツチェンジでもいいだろう。

 

その予想は的中している。現在司の手札には椎名との準決勝で勝負を決めたフルーツチェンジが手札にあったのだ。

 

ヘラクレスは何かあると確信し、ここは敢えてバトルしないことを選択した。

 

 

「なるほどなぁ〜ライフで受けるで」

ライフ4⇨3

 

「だろうな」

 

 

司もそのヘラクレスの考えを読んでいたのか、驚くこともなく、納得していた。

 

シルフィーモンの上からの体当たりが、ヘラクレスのライフを減少させる。そしてシルフィーモンにもバトル終了時効果が備わっており、

 

 

「シルフィーモンの効果!バトルの終わりに俺のライフを1つ回復させるっ!」

ライフ1⇨2

 

 

司のライフがシルフィーモンの聖なる力により、1つ増幅した。これでこのターンのアタックは終わりかと思われたが、

 

 

「まだ行くぞ!イーズナ!」

 

「あらあらそれでも行くんかい……………まぁ、ライフで受けたるけど」

ライフ3⇨2

 

 

司の手札に何があるかわからない以上、アトラーカブテリモンでブロックするのは危険だと考えたのか、ヘラクレスはイーズナのアタックもアトラーカブテリモンという強力なスピリットがいるにもかかわらず、ライフで受けた。

 

ーそして同時に理解した、司の作戦が、

 

 

「ターンエンドだ」

イーズナLV1(1)BP1000(疲労)

シルフィーモンLV3(4)BP12000(疲労)

 

オリン円錐山LV2(3)

 

バースト無

 

 

次はヘラクレスのターンだ。

 

 

[ターン07]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨8

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップや、……………にしても分かりやすい奴やわ〜〜〜赤羽司、」

「?」

「お前、トラッシュに落っこったホウオウモンをこのターンの俺のアタックステップで使う気やろ?その効果でアトラーを破壊して、隙だらけになった俺のライフを次のターンで破壊する……………それがお前の作戦や」

「!?!」

 

 

司は思わず黙り込んだ。その予想は十中八九的中しているからだ。

 

その司の様子を見て、ヘラクレスは自分の予想が当たっていると理解したのか、一気に攻め立てる。もちろんホウオウモンの破壊効果を加味しても司のライフを減らせる戦法で、

 

 

「2体目のアトラーカブテリモンを召喚やでぇ!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨1

トラッシュ0⇨4

 

「!?……2体目!?」

 

 

再び蠢く地面から2体目のアトラーカブテリモンが飛び出してくる。2体並ぶその姿は圧巻の一言だ。

 

 

「どうや!これで1体は破壊できても、残った1体が必ずお前の2つのライフを砕くでぇ!」

 

 

司の場は疲労状態。つまりブロックができない。そしてアトラーカブテリモンはライフをより大きく減らす効果を持っている。言葉の通り1体でも生き残れば司の残った2つのライフを破壊することが可能なのだ。

 

そして幕を開ける。驚異のアタックステップが、

 

 

「アトラー1体にコアを適当に1個乗っけて、アタックステップや!4つ目のコアの乗ったアトラーでアタック!」

リザーブ1⇨0

アトラーカブテリモン(3⇨4)

 

 

終わりに向けて走り出すアトラーカブテリモン、そのうちの1体。ホウオウモンの除去能力は強力ではあるものの破壊できる対数は1体のみ。2体を破壊することはできない。だが、それもある方法を使うことで可能にすることができる。

 

司はこの状況を予想していた。そして見事にヘラクレスは乗っかった。そしてここで確信した。自分の勝ちであると。

 

 

「詰めが甘かったなぁ!ヘラクレス!」

「なんやと!?」

 

「俺はここでフラッシュマジック!イエローリカバーを使用!黄色のスピリットであるシルフィーモンを回復させるっ!!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨2

トラッシュ0⇨1

シルフィーモン(疲労⇨回復)

 

 

黄色のマジックカード、イエローリカバー。それは単純明快に黄色のスピリット1体を回復させる効果を持っている。

 

これにより、黄色であるシルフィーモンが黄色の光を纏い、回復状態となった。

 

バトルの腕の立つ者は咄嗟にこれがどういうことなのか理解しただろう。このシルフィーモンが回復状態のままならば、………………ヘラクレスのアトラーカブテリモンを2体とも返り討ちにできるということに。

 

ヘラクレスにフラッシュはないのか、そのままタイミングを逃し、再び司にフラッシュが回ってくる。

 

ーそして、発揮される。

 

 

「フラッシュ!【煌臨】発揮!対象はシルフィーモン!トラッシュからホウオウモンを重ねるっ!」

シルフィーモン(4s)LV3⇨2

トラッシュ1⇨2s

 

「!!…………来るんか」

 

 

シルフィーモンが灼熱の火柱の中に包まれていく。シルフィーモンはその中で姿形を変えていく。それはより大きな翼を広げている。

 

 

「天空の王よ!今こそ飛び立ち、地上の全てを薙ぎ払えぇ!究極進化ぁぁあ!!」

 

 

その巨大な巨鳥型のスピリットは、火柱を一息で吹き飛ばす。

 

 

「………ホウオウモンっ!」

ホウオウモンLV2(3)BP12000

 

 

現れたのはホウオウモン。もうこの界放リーグで何度も司を救ってきた切札だ。その金色の炎はどんな敵をも焼ききることだろう。

 

 

「ほぉ〜〜こうして対面してみると立派なもんやなぁ〜〜」

「見惚れてる場合じゃないぞ!ホウオウモンの煌臨時効果!!」

「!?!」

 

「ホウオウモンは煌臨元となった赤の完全体スピリット1体を手札に戻すことによって、お前のBP10000以上のスピリット1体を破壊するっ!………………シルフィーモンを戻し、BP13000のアタックしていないアトラーカブテリモンを破壊するっ!」

手札3⇨4

 

「!?!」

「金色の超炎!シャイニングエクスプロージョン!!!」

 

 

ホウオウモンの翼から放たれる金色の超炎。それは瞬く間に降り注ぎ、ヘラクレスの場にいるアタックしていない方のアトラーカブテリモンを灰にしてしまった。

 

 

「これで終わりだぁ!」

 

 

司の手札にはバトルでBPを比べる時にそのBPを入れ替えてしまう強力な効果を持つ黄色のマジック、フルーツチェンジがある。

 

ホウオウモンとアトラーカブテリモンではアトラーカブテリモンの方がBPが上だが、このマジックでそれを逆転できるのだ。

 

この現時点で司は凄いと言えるだろう。何せ、学生では誰も防げなかった、ヘラクレスの有名な戦法【キングスロード】の前に、ブロッカーを残したのだから。

 

だが、それは飽くまで現時点ではの話であって、

 

 

「………………ハッハッハ!!!」

「!?!」

 

 

突然腹を抱えて笑いだすヘラクレス。司も何事かと思って目を見開く。

 

 

「ハッハッハ、悪い悪い、なるほどなぁ〜イエローリカバー、そしてオリン円錐山、極め付けはホウオウモン。全てはこの俺の場を一気に破壊する戦法だったわけや、バレてない方の手札にはBP増強か、フルーツチェンジでも仕込んどんのやろ?」

「……………」

 

 

それが司の作戦だったのだ。オリン円錐山でアトラーカブテリモンの厄介なバウンス効果から煌臨元のシルフィーモンを守り、疲労状態から回復状態に戻すためにイエローリカバーを使い、そして負けているBPをフルーツチェンジで逆転させる。

 

それは見事にはまったと言える。完璧な作戦だった。だが、司は少々ヘラクレスという男を侮っていたのかもしれない。

 

 

「司、お前は強い、メチャクチャなぁ、だけど…………………俺はまだ超えられないでぇ」

「なに!?」

 

 

往生際が悪い、思わずそう思ってしまった司。だが、その感情はヘラクレスが手札に手をかけた瞬間に消え去ってしまう。何かが来る。と、直感した。

 

 

「ごっちーと吸血以外には見せたことないんやでぇ!………………いくぞぉ!煌臨発揮!対象はアトラーカブテリモンっ!」

リザーブ3s⇨2

トラッシュ3⇨4s

 

「!?!…………お前も煌臨だと!?」

 

 

ホウオウモンの燃え盛る炎を吹き飛ばしてしまう程の暴風。それはバトル中のアトラーカブテリモンの中心から発生した。

 

アトラーカブテリモンはその中で姿形を変えていく。その姿はより巨大になり、ツノの形状、色までも変わっていく。

 

そしてヘラクレスはその名を口にする。自身が強いと認めた者にしか使わない、最強のエーススピリットの名を。

 

 

「赤き甲虫よ!今こそ黄金の甲虫王者となり、眼前の敵をひねり潰せ!究極進化ぁぁあ!!」

手札3⇨2

 

 

暴風を吹き飛ばすのは新たなるカブテリモン。その姿はホウオウモンと同じく、究極体だ。

 

 

「………ヘラクルカブテリモンっ!!」

ヘラクルカブテリモンLV2(4)BP18000

 

 

その名はヘラクルカブテリモン。黄金の甲殻に、折れることのない4本の立派なツノは正しく甲虫の究極王者。

 

ーヘラクレスの場にこれが出たからには、勝負は一瞬で終わることだろう。何せ、今までヘラクレスは五護と吸血以外でヘラクルカブテリモンを使わなかったが、使った時は、必ずそのターンでバトルを終わらせているからだ。

 

 

「へ、ヘラクルカブテリモンだと!?」

「そうや、これが俺のエーススピリット……………」

 

 

その猛々しい姿は眼前にいた司をだじろかせた。とてつもないプレッシャーを感じたことだろう。

 

 

「おぉ!かっこいい!……やっぱ私が戦いたかったなぁ!」

 

 

そうスタジアムの端っこではしゃぐのは椎名だ。

 

ヘラクルカブテリモン。バトラーとしてここまで闘志を燃やしてくれる相手は他に数少ないだろう。

 

 

 

「ヘラクルカブテリモンの煌臨時効果!煌臨元となった緑のスピリット、アトラーを手札に戻すことで、ボイドからコアを3つヘラクルに追加や!」

手札2⇨3

ヘラクルカブテリモン(4⇨7)

 

 

ヘラクルカブテリモンもホウオウモンやヴァイクモンと同じく煌臨元を手札に戻すことで何かしらの効果を発揮する究極体である。その上に3つのコアの恵みが与えられた。

 

だが、煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ。つまりアタック中のアトラーから煌臨したこのスピリットは今もなおアタック中なのである。このままでは司のホウオウモンにブロックされてフルーツチェンジを使われて無残に散っていくことだろう。

 

 

「だが、煌臨したところで意味はないっ!ホウオウモンでブロッ……………」

「ブロックは待ってもらうでぇ」

「!?!」

 

 

そう、ヘラクルカブテリモンはまだ効果がある。それはコアを支払うことで強力なモノを発揮させる優れものであって、

 

 

「ヘラクルカブテリモンの効果!ヘラクルのコア3つをトラッシュへ置くことで、相手のスピリット1体を疲労させ、ヘラクル自身を回復させるっ!」

ヘラクルカブテリモン(7⇨4)

トラッシュ4s⇨7s

 

「…………な、なんだと……っ!」

ホウオウモン(回復⇨疲労)

 

 

羽を広げるヘラクルカブテリモン。そう思った瞬間に、目にも留まらぬ速さで飛翔し、その強靭なる腕でホウオウモンの首根っこを鷲掴みにし、ホウオウモンを振り回す。そのまま地面に思いっきり叩きつけ、ホウオウモンを行動不能にしてしまった。

 

そしてなりよりこの効果でヘラクルカブテリモン自身が回復したのだ。つまり2回の攻撃ができる。

 

 

「さぁ、アタックは継続中やで」

 

「くっ、………ライフで受ける…………ぐっぅ!」

ライフ2⇨1

 

 

ヘラクルカブテリモンの目にも留まらぬ速さの突進。それが司のライフを一方的に破壊していった。

 

もう司になすすべない。終わったと思った途端に悟った。今まで自分のプレイングやカードに驚いていたのは演技だ。最初の最初、自分がオリン円錐山を配置した時から必ずヘラクレスはこうなることを予想していた。と、

 

そして放たれる今年の界放リーグ最後の攻撃。

 

 

「楽しかったでぇ!司ぁ!……………ギガブラスター!!」

 

 

ヘラクルカブテリモンの4本のツノから放たれる地面をえぐり、空を裂く程の強烈な電撃砲。それは司の残ったライフをいとも容易く消しとばした。

 

 

「……………………俺はいずれあんたを超えるぜ」

ライフ1⇨0

 

 

司は消えゆく自分のライフを目にしながら、最後にそう呟いた。ヘラクレスもそれを聞いて薄っすらと笑みをこぼしていた。確信したのだ。「こいつは俺を超える」と、

 

ー朱雀はその羽をもがれ、敗北した。甲虫の究極王者の前に、全く歯が立たず、無残にも最後のライフを散らした。

 

ヘラクレスの勝利を伝える実況者や、アナウンス、そして観客の歓声。

 

ヘラクレスは見事に史上初となる界放リーグ三連覇を成し遂げてしまった。

 

 

「俺を超えたいならプロに来いや司、楽しみに待っとるやさかい………………じゃあの」

「………………あぁ」

 

 

ヘラクレスはそれだけを言い残してスタジアムを降りる。この後は色々と忙しい、閉会式や表彰式に優勝者として参加しなくてはならないからだ。

 

通用しなかった。自分の全てはあのヘラクレスという強靭なるバトラーに通用しなかった。司はただ1人スタジアムに残ってそのことを痛感していた。悔しい、ただ単に悔しかった。その単純明解な感情が心のどこからか渦巻いていく。

 

だが、同時にいずれ必ず超えると決めた。バトラーなら当然のことだ。一度負けた芽座椎名に勝てたように、次は一度負けたヘラクレスに勝つ、それだけだ。

 

第9回界放リーグはまたもやキングタウロス校の代表、ヘラクレスと言う2つ名を持つ緑坂冬真の優勝でその幕を下ろした。

 

ーこれを機に、司や椎名などの後世達はより大きく成長していくことだろう。

 

そして大会が始まる前に絶対に勝ち上がらないと予想されていた芽座椎名、今回のダークホースとなった彼女には、世間から嬉しい2つ名が送られることになった。その名は【蒼龍の舞姫】。椎名にしては少々大そびれた異名だ。

 

 

******

 

 

「……………おいおい嘘だろぉ!?」

 

 

各学園の理事長がいるVIPルームでは龍皇竜ノ字はその結果に信じられないような目で見ていた。

 

逆に大公獅子は満面な笑みで嬉しそうな表情を浮かべ、勝ち誇ったかのように龍皇の肩にその手を置いた。まるで「わかってるだろうな?」とでも言いたげなように。

 

 

「ハッハッハ!!永きに渡った戦いも終わりを迎えたなぁ!竜ノ字!ちゃぁんと振り込んどけよぉ!俺の口座になぁ!」

「ぐぅ!!……………ち、ちっくしょぉぉ!!!」

 

 

叫び渡る龍皇の嘆き、約10年にも渡った理事長間の賭け事も幕を下ろしたのであった。

 

そのVIPルームではよく見てみると1人だけ少なかった。その正体はデスペラード校の理事長であり、夜宵の父でもある紫治城門だ。

 

彼はこの結果を見るなり、早々に帰宅したのだ。

 

 

******

 

 

ここはスタジアムの外。まだ熱気に包まれたそれを他所に見るのは紫治城門だ。事前に呼び寄せていた車の後ろの席に乗り込み、そして発進させた。

 

 

「………頃合いですかな?」

 

 

運転手が慣れた手つきで運転しながら城門にそう言った。

 

 

「あぁ、まぁね、オーバーエヴォリューションに目覚める者も目星はついたよ、……………それはそうと、アレはもうできてるのか?」

「いえいえ、アレはまだ時間がかかりますよ、ですがご安心を、後2週間程でできます故、」

「ふふふ、そうか、だったら後1ヶ月後くらいにはいよいよ決行されるな、期待しているぞ……………【Dr. A(どくたーえー)】」

 

 

終始全くつかみどころのない話をする、紫治城門と、Dr.Aと言う謎の男。

 

約1ヶ月後、界放市を舞台としたある事件が幕を開ける事はまだ誰も知らないことであった。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「椎名です!今回はこいつ!【ヘラクルカブテリモン】!!」

「ヘラクルカブテリモンはついに現れたヘラクレスのエーススピリット!コアを増やしつつ、疲労から回復し、逆に相手のスピリットを疲労させちゃうよ!何はともあれ、おめでとう!真夏の兄ちゃん!」






最後までお読みくださり、ありがとうございました!
【界放リーグ編】は今回で終了し、次回からは1年生編ラストである【紫治一族の野望編】がスタートします!お楽しみに!

そして昨日公開されたデュークモンとベルゼブモンに関して、

度々質問を受けるのですが、これから出てくるバトスピ コラボデジモンもこの作品にしっかりと出します!寧ろそのための作品なのですから、当然です。
ただ、私の予想してた以上にパックが出るスパンが短いことがあって、今回のテイマーズ組は発売されてから出てくるのがとても遅れる可能性があります。というか、遅れます。おそらくは1年以上、
ですが、これだけは言い切りますよ、全部出します!なので期待してくださっている皆様には多忙なご迷惑をおかけすることでしょうが気長にお待ちいただけると幸いです。私も出来る限り執筆速度を上げて早く出せるよう心がけます。


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【一期】第3章「紫治一族の野望編」
第28話「文化祭と過去の出来事」


 

 

 

 

 

 

界放リーグが終わってから約1ヶ月後のことだ。月日は11月終わり、真っ赤になってた紅葉の葉は冬の始まりを告げるかのように色褪せるてくる頃、

 

界放市の学園はどこに行っても今日は【文化祭】だ。

 

文化祭と言えばバトスピ学園でなくても学生にとっては一大イベントだ。それぞれの学生達はクラスの出し物に全力を注ぐ。

 

ーそしてこのジークフリード校でも、

 

 

「いらっしゃいませ〜〜メイド喫茶にようこそぉ!」

 

 

教室に入ってくる一般の男子生徒3人を元気な声で迎えたのは1人のメイド服を着た少女、長めの赤毛に飛び跳ねたアホ毛と首にかけたゴーグルが印象的。

 

彼女は彼らの席へ案内して注文だけ聞くと、せっせと厨房へと向かった。

 

 

「お、おい、あのメイドの子可愛くねぇか!?」

「あ、あぁ!声かけて見ようかな〜〜〜?」

「あの子って確か…………【蒼龍の舞姫】じゃね?」

「え!?それってあの今年の界放リーグベスト3に入ったあの?」

「あぁ、信じられねぇよなぁ、顔あんなに可愛いのにバトルの実力は【朱雀】とほぼ同じなんだぜ?」

 

 

男子生徒3人はすっかりその話で盛り上がった。

 

そう、話題になっていたのは芽座椎名だ。

 

椎名は今年の界放リーグを機に、すっかり有名人となっていた。今では「【蒼龍の舞姫】とは」と聞けば、界放市にいる誰もが「芽座椎名」と答えることだろう。

 

【蒼龍】とはおそらく椎名が軸にするブイモンとその進化系統を刺したのだろう。【舞姫】は可愛らしいルックスが原因か、今まではあまり女性の強バトラーが有名にならなかったこともあるだろう。色々なことが重なって大そびれた異名となった。椎名自身はその異名を気に入っている。

 

椎名達のクラスの出し物は見ての通りメイド喫茶をやっていた。

 

 

「…………ねぇ、真夏ぁ?」

「ん?」

「やっぱりちょっとこれ恥ずかしいんだけど」

 

 

椎名は裏の厨房でイチゴパフェを作っている真夏に声をかけた。やはり他人にこんなメイド衣装を見せるなど気恥ずかしいのだろう。

 

 

「何言うとんの?あんた自分で「やってもいい」言うたやんけ」

「いつ!?」

「クラスで話し合ってる時に居眠りしながらや」

 

 

椎名は別にメイド喫茶のメイド役は乗り気じゃなかったが、真夏の言う通り、居眠りしていて、寝ぼけながら全て承諾してしまったのだ。椎名の自業自得である。

 

 

「み、身に覚えがない…………」

「ほらほら、お客さん来たでぇ!行って来いや〜〜〜めざしちゃんっ!」

 

 

真夏は椎名の背中を押して仕事をさせようと厨房から追い出そうとする。

 

 

「もう、真夏まで「めざし」って、私は「しいな」っ!もしくは【蒼龍の舞姫】でもいいよっ!」

「えらい気に入っとるなぁ〜〜その二つ名」

「まぁね!かっこいいじゃん!響きが!」

「そんなに本人も気に入っとるなら、これも話題性は抜群やな〜〜」

「ん?これって?」

 

 

椎名がその言葉に疑問符を浮かべると、真夏は懐から1枚のチラシを取り出して、椎名に見せた。

 

 

「今回、椎名にはこれに出てもらうんやでぇ」

「……………えぇ〜〜〜〜っと、………【ミス・ジークフリード コンテスト】?…………何すんのこれ?」

「分からんのかい!!」

 

 

思わずずっこける真夏。今思えば椎名は田舎者、大会名だけが掲載されたチラシだけでは理解できるわけがなかった。

 

真夏はゆっくりとそれを椎名に説明していく。

 

 

「いいかぁ、ミス・ジークフリード コンテストっちゅうのはなぁ、ジークフリード校の選り取り見取りの女生徒が集まって…………」

「わかった!バトルするんだね!」

「違う、一番可愛い子決める大会や」

「バトルしないのぉ!?」

 

 

驚く椎名。まぁ、無理もない、今まではこういった行事ごとは全てバトルが絡んでいたのだから。

 

椎名としてはただただ可愛い子を決めるだけの大会などが出てくるとは思ってもいなかったことだろう。

 

 

「えぇ、めんどくさそ〜〜、バトルしないならいーや参加しな〜〜い、」

「いや、もうあんたはエントリーされとるでぇ」

「えぇ!?なんで!?」

「なんでって、写真投票で決定したことやし、それに断れたけどなぁ、これもクラスで話し合ってて、……………寝ぼけながら…………」

 

 

椎名はこの大会のエントリーまで寝ぼけながら承諾していた。この学園のミスコンは先ずは学園中の女生徒の写真が提示され、その中から選ばれたものだけが本戦に出場できるのだ。

 

もちろん拒否権はある。椎名も断れた。だが、その話し合いをクラスでしている時に、また椎名は寝ながらそれを承諾していたのだ。

 

ちなみに真夏にも声がかかっていたが、真夏自身がその出場を拒否した。

 

 

「私はあんたなら【ミス・ジークフリード】になれる思うとる!」

「嫌だよ!そんな厳つい称号!」

 

 

******

 

 

場所は変わり、ここは職員室。今日のこの場所は一般の人達は立ち入りができない。教師や生徒にとって絶好の休憩ポイントとなっていた。

 

イベントのあれやこれやで走り回っていた椎名と真夏の担任、空野晴太は自分の机椅子で一抹の休憩をしていた。

 

そんな彼に同期の女教師、鳥山兎姫が話しかけて来て、

 

 

「あら、空野先生、おつかれですか?」

「おぉ、兎姫ちゃん、おつかれ〜〜……………いや、ゆっくりもしてられないんだよね〜〜、次はミスコンの写真撮らないといけないし」

 

 

晴太は新任教師ゆえに文化祭の様子を撮影するカメラマンをしなければならなかった。それが今日の忙しさに繋がった。

 

 

「そう言えば、ミスコンは芽座さんが出るんでしたっけ?」

「あぁ、ほんっと、まさかあいつがたった半年で人気者になるなんてなぁ」

「やっぱり界放リーグの効果かしら?」

「だろうね」

 

 

話題が芽座椎名にシフトする。担任としても椎名の飛躍はとても嬉しかった。

 

ただ、信じられなかったのだ。あの時、約9ヶ月前、自分が入試で相手をしたあの少女が今では話題沸騰中の【蒼龍の舞姫】になるのが、

 

 

「本当に凄い奴だよ、最初見た時はただ単に変な奴だとしか思ってなかったのにな」

 

 

晴太は思い出す。あの9ヶ月前の出来事を。

 

ーこれから語られるのは今から約9ヶ月前、椎名達今の1年生の入学試験の物語だ。

 

 

 

******

 

 

 

ここは第1スタジアム。ここではジークフリード校、第9期生の入学試験が行われていた。その試験内容は、バトスピ 学園らしく、バトルスピリッツの勝負だ。

 

数々の教師と受験生のバトルが繰り広げられている。ライフが割れる音や、爆発がその熾烈さをより詳しく伝えてくれる。

 

生徒相手に教師は本気を出さない。デッキは支給されたベーシックなカード達のみを使用して組んでいる。なので、ある程度はデッキに制限がない生徒が勝てる。

 

ーのだが、

 

 

「ダークディノニクソーでアタックッ!!」

 

「ら、ライフで受けるっ!………うわぁ!」

ライフ1⇨0

 

 

その当時の晴太が操っていた黒くて小さい恐竜型のスピリット、ダークディノニクソーが腹部のチェーンソーのようなもので受験生の男子生徒の最後のライフを破壊した。

 

空野晴太。プロ入りはほぼ確定で、天才と言われていた彼がなぜか教師となり、入試試験に赴いていた。もうかれこれ10回はバトルしているが、誰も彼から白星を勝ち取ったものはいない。観客席でそれを見ていた受験生達はただただその強さに痺れていた。

 

だが、当たりたくはなかった。負けるからだ。そして始まる。恐怖の受験番号発表が、晴太が読み上げる受験番号の持ち主が、次の犠牲者となるのだ。

 

 

 

「次、受験番号、0417」

 

 

 

晴太に受験番号を当てられたら死刑判決を下されたのも同じこと。次の犠牲者は0417だ。

 

ただ、今回のその0417という受験番号の生徒は幾分か変わっている生徒であって、…………

 

 

「あっ!私だ!はいはーい!今から降りて来まーす!」

 

 

元気だが、なんとも気が引き締まらない能天気な声色。周りの生徒達は驚いた。まるで今から挑む相手が誰かもわかっていないかのような反応だったからだ。

 

ーその声の正体は当時の【芽座椎名】だ。観客席から降りようとするが、

 

 

「ちょ、ちょっとあんた相手が誰だかわかっとんの?」

「ん?」

 

 

そう椎名に聞いて来たのは当時の真夏。まだ彼女は椎名のことを何も知らない。

 

 

「何って、多分学校の先生でしょ?」

「……………本当にわかっとらんかったんかい……………いいかぁ、あの人はなぁ、天才と言われてるバトラーなんやでぇ、プロ入りもせんと、何故かこんな学園の先生になったんや」

 

 

真夏は椎名に晴太の事を教えた。これで少しは緊張感を持ってくれると真夏は思ったが、

 

 

「天才っ!!?凄い!じゃあ!それに指名される私ってもっと凄いのかな!!」

「え!?……………いや、番号発表はランダムやから関係ない思うけど」

「よっし!俄然やる気でできたぁ!いくぞぉ!」

「あぁ、ちょ、」

 

 

真夏の言葉に聞き耳すら立たず、椎名は観客席を降りていった。そして向かうは晴太のいるステージのバトル台の1つだ。

 

 

「受験番号0417!芽座椎名です!先生めっちゃ強いんですよね!?よろしくお願いします!」

(ゴーグル…………)

 

 

椎名はそう言いながら元気よく深々とお辞儀をした。晴太は手持ちのファイルから椎名の資料を確認しながらも、その椎名が身につけていたゴーグルが気になっていた。後にそのゴーグルが自分の大事な人のものであるということに気づくのだが、

 

 

「はい、芽座椎名ね、じゃあ、この学校を志望した動機から聞こうか」

「?動機?」

「あぁ、これ面接も兼ねてるから」

 

 

バトスピ 学園の入試バトル前は軽い面接、と言っても志望動機を聞くだけだ。

 

 

「動機かぁ、………私はいつか見たあの人みたいにかっこよくなりたくて来ました!」

「…………なんか凄い抽象的だね」

 

 

椎名のちょっとズレた発言に戸惑う晴太。今時なかなかいないだろう。こんな緊張感を全く感じていないような能天気な受験生は、

 

 

「まぁいいや、じゃあ早速バトルしようか」

「おぉ!待ってました!」

 

 

いよいよ始まる入試バトル。晴太は手慣れた手つきで自分のBパッドを展開する。

 

ーが、椎名は、

 

 

「……えーーーっと、……あっ!ここだっ!………………あわわっ!?」

 

 

あまりその扱いに慣れていないのか、ポンっと、開き出すBパッドに驚く椎名。晴太もそれを見て不思議に思う。

 

 

「Bパッド使った事ないの?」

「ん?……あっ!はい!そうなんですよ!私田舎もんなんで!」

「堂々と言うことかな」

 

 

傾いたまま倒れたBパッドを起こしながらそう言う椎名。今のこの世界のバトラーにおいて、この歳になってもBパッドが扱えないと言うのはおかしいことであって、

 

まぁそんな事を気にしても仕方ない。晴太は椎名のマイペースな性格に振り回されながらもなんとかバトルの準備を終えた。

 

そして入試バトルが始まる。椎名にとって大事な一戦が、

 

 

「いくよ、」

「はい!」

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

入試バトルが始まる。先行は晴太だ。

 

 

[ターン01]晴太

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はダークディノニクソーをLV2で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

晴太が早速召喚したのはさっきのバトルも使用していたスピリット、黒いボディの小さい恐竜のスピリットで、腹部にチェーンソーのようなものを仕込んでいるダークディノニクソーだ。

 

 

「おぉ!目の前にスピリットが!さっきは遠目からだったからわかりずらかったけど思ったよりリアルだなぁ!」

 

 

椎名はこの時、初めてBパッドを使ってのバトルだったからか、その鮮明さとリアルさに感動していた。

 

試験中にいちいちうるさい受験生に構ってもいられない。晴太はそのターンを進めた。

 

 

「このターンはエンドだ」

ダークディノニクソーLV2(2)BP4000(回復)

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目などやれることは最低限に限られている。晴太はダークディノニクソーを召喚しただけで様子を見ることにした。

 

次は椎名のターンだ。Bパッドを使っての初めてのターンに、胸が高鳴っていた。

 

 

「よっし!私のターンだっ!」

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

 

 

「ドローステップッ!…………おぉ!ラッキー!!」

手札4⇨5

 

 

ポーカーフェイスと言うものを知らないのか、ドローしたものを見て大いに喜びの表情を見せる椎名。いいものを引いたのが丸わかりだ。

 

 

「メインステップ!…………よし!じゃあ早速行きますか!………やっぱ最初に召喚するならこれでしょ!私はブイモンをLV1で召喚っ!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

「!!?……デジタルスピリット!?」

 

 

椎名の足元から飛び出してきたのは青い体の小さい竜。額のブイの字が特徴的な青の成長期スピリット、ブイモンだ。

 

椎名はそれを召喚するなり、

 

 

「おぉ!ブイモンっ!会いたかったよ!」

「ちょっ、何する気?」

 

 

椎名は手札をBパッドの盤面に置き、バトルそっちのけでブイモンの方へと赴いた。

 

ーそしてブイモンに触れようとしたが、

 

 

「あ、あれ?」

 

 

その撫でようとした右手はブイモンの頭を綺麗にすり抜けてしまった。いくらやってもやはりその手はブイモンをすり抜けてしまう。

 

 

「さ、触れない…………」

「当然だっ!これは飽くまで映像!触れるわけないだろう!?何考えてんだ!」

「そ、そんな〜〜〜」

 

 

Bパッドで映し出されるスピリットは全て立体映像であって実際に存在しているわけじゃない。どんな人間でも知っていることだ。だが、椎名は全く知らなかった。

 

ずっとスピリットに触れて見たいと思っていた彼女にとって、これは本当に残念なことであって、

 

落ち込みながらも元の場所へと戻った。

 

 

「………なんなん?あの子…………アホなん?」

 

 

そう引き気味な感じでそう呟く観客席にいる真夏。椎名の奇行は観客席にいた全受験生の笑いの的だった。

 

 

(…………変な奴)

 

 

そんな事を考えていたのは当時の司だ。自分の試験が終わった後も、こうして実力者である晴太のバトルを見ようと観客席に残っていたのだ。

 

 

「ちぇ、夢が1つ叶うと思ったのになぁ〜〜……………まぁいいや、気を取り直して、……ブイモンの召喚時効果発揮!デッキからカードを2枚オープンして、その中の対象となるデジタルスピリットを手札に加える!」

オープンカード

【ワームモン】×

【ライドラモン】○

 

 

効果は成功、アーマー体であるライドラモンが手札に加えられた。

 

 

「よし!ライドラモンを手札に加えるよ!」

手札4⇨5

 

 

主力である1枚、ライドラモンが加えられた椎名の手札。そして彼女はすぐさまそれを出し惜しみなく召喚するために引き抜いた。

 

 

「ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモンっ!1コストを支払って、轟く稲妻、ライドラモンをLV1で召喚!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

ライドラモンLV1(1)BP5000

 

 

ブイモンの頭上に黒くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化する。そして新たに現れたのは黒い鎧の獣型アーマー体スピリット、ライドラモンだ。

 

 

「あ〜〜ライドラモンっ!カッコいい!………背中に乗って見たかったなぁ〜〜」

 

 

ライドラモンが召喚されるなり、その召喚時の効果よりも先に自分の願望を口にする椎名。一度、たった一度でいいからライドラモンの背中に乗って地を駆けて見たかったのだ。

 

 

「!!……アーマー進化か……!!」

 

「そうです!ライドラモンの召喚時効果!私のトラッシュにコアを2つ追加するっ!」

トラッシュ4⇨6

 

 

ライドラモンが雄叫びを上げると、椎名のトラッシュにすぐさまコアの恵みが2つも与えられた。

 

 

「………あいつも【アーマー進化】を使うのか…………」

 

 

そう呟く司。だが、そのの声色には興味の念は募ってはいない。ただ単に見えたものに対してそう呟いただけ、別に椎名のデッキが気になったわけでは決してない。

 

 

「アタックステップ!ライドラモンっ!」

 

 

後攻1ターン目、先制一発をめがけて走り出すライドラモン。

 

 

「…………ライフで受けようか」

ライフ5⇨4

 

 

最序盤でBPの低いダークディノニクソーでブロックは出来ないか、晴太はライフの減少を選択する。

 

ライドラモンのその高速の体当たりは晴太のライフを1つ粉砕した。

 

 

「よっし!ターンエンドだ!」

ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

やれる事を全て失くしたため、そのターンを終える椎名。ライフを減らした挙句にコアブーストもできたので幸先が良いスタートと言える。

 

 

[ターン03]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ、よし、もう1体ダークディノニクソーをLV2で召喚」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

晴太は場にもう一体のダークディノニクソーを並べた。

 

そしてがら空きとなった椎名の場に攻め入る。

 

 

「アタックステップっ!ダークディノニクソー2体で連続アタックっ!」

 

 

走り出す2体のダークディノニクソー。椎名はコアもない、ブロッカーもいないため、この2体のアタックはどうやってもライフで受けるしかなくて、

 

 

「よし!ライフで受けるっ!……………うわっ!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

ダークディノニクソー2体の腹部のチェーンソーで切り裂く攻撃が、椎名のライフを2つ破壊した。

 

初めての攻撃に椎名はやや驚いた。

 

 

「おぉ、やっぱリアル…………これが映像だなんて……………」

 

 

「俺はターンエンドだ」

ダークディノニクソーLV2(2)BP4000(疲労)

ダークディノニクソーLV2(2)BP4000(疲労)

 

バースト無

 

 

やれる事を全て失い、そのターンを終える晴太。次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

 

 

「ドローステップっ!…………おぉ!やったねぇ!」

手札5⇨6

 

(この子ポーカーフェイスをなんだと思ってるんだ…………)

 

 

またドローカードを見て大喜びする椎名。そんな彼女を見て、晴太も流石に呆れ気味。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨9

トラッシュ6⇨0

 

 

「……よし、だったら直ぐには出さずに……………よし!決めたっ!バーストをセットして、ガンナー・ハスキー2体と、猪人ボアボアを1体、LV2と1ずつで召喚!」

手札6⇨5⇨4⇨3⇨2

リザーブ9⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名はバーストと共に一気に展開する。犬型のスピリット、ガンナー・ハスキー2体と、猪の頭をした獣人、ボアボアが1体だ。ガンナー・ハスキーのLVは1と2で1体ずつだ。

 

 

「…………速攻デッキか、」

 

 

このスピリット達を見て、晴太は椎名のデッキが速攻デッキであると理解した。それもアーマー進化を軸にした厄介なデッキであると、

 

 

「さらにライドラモンのLVを2に上げます!」

ライドラモン(1⇨3)LV1⇨2

 

 

レベルが上がり、証明するかのように雄叫びを上げるライドラモン。

 

そして椎名はアタックステップに入る。晴太のライフをこのターンで全て破壊するために、

 

 

「よしっ!アタックステップだっ!先ずはお願いっ!ライドラモンっ!」

 

 

椎名の指示に頷き、走り出すライドラモン。目指すは晴太の残り4つのライフだ。

 

晴太も前のターンでフルアタックしてしまったせいで、ブロッカーがいない、ここは一先ずライフの減少を選択することになる。

 

 

「………ライフで受ける」

ライフ4⇨3

 

 

再びライドラモンの強烈な体当たりが炸裂する。晴太のライフがまた1つ破壊される。

 

そしてここではさらにライドラモンのLV2、3の効果が発揮される。それはとても強力なものであって、

 

 

「さらに!ライドラモンが相手のアタックによってライフ減らした時、追加でもう一つ、ライフを破壊するっ!」

「!?!」

 

「青き稲妻、ブルーサンダー!!!!」

 

「ぐっ!」

ライフ3⇨2

 

 

ライドラモンのツノから放たれる青い稲妻が、晴太のライフを直撃する。そのライフはまた1つ砕かれた。

 

 

「や、やるやん!あいつっ!いけるんとちゃう!?」

 

 

この怒涛の攻撃に真夏を含めた周りの受験生が沸いた。もしかしたら、もしかする。と考えたのだ。

 

ーだが、

 

 

「よしっ!次!ボアボアでアタックっ!そのアタック時効果の【連鎖:緑】でコアを1つ増やす!このまま一気に決めるよっ!」

猪人ボアボア(1⇨2)LV1⇨2

 

 

後2つのライフめがけ、鉄球を振り回しながら走り出すボアボア。

 

3体のスピリットに対して後2つなのだ。「決まった」と思う者もいただろう。だが、相手はあの【一木花火の唯一弟子】と言われている【空野晴太】なのだ。

 

ーそう上手くはいかない。彼は静かに1枚の手札を引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!フレイムテンペスト〈R〉!ソウルコアを支払って使用するっ!」

手札4⇨3

リザーブ3s⇨0

ダークディノニクソー(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ1⇨5

 

「…………え!?」

 

 

荒れ狂う炎を纏った大きな竜巻。それは次々と椎名の場にいたスピリット達を巻き込んで行き、終いには全てを焼き尽くした。

 

ー椎名の場はたった1枚のマジックによって壊滅した。

 

 

「マジックカード、フレイムテンペスト〈R〉はソウルコアを支払って使用する事で相手の場にいるBP7000以下のスピリットを壊滅させる」

 

「ま、マジですか……ッ!………あっ、でもガンナー・ハスキーのLV2の破壊時の効果でコアが2つ増えます!」

リザーブ9⇨11

 

 

ガンナー・ハスキーの効果により、椎名のリザーブにコアが2つ追加された。

 

ただ、さっきまで調子良かったかのように見えた椎名の場は一瞬で壊滅。周りの受験生達は「あぁ、やっぱりダメだった」などと呟いていた。

 

この次のターンでどうなるか理解していたからだ。

 

 

「ちぇ、仕方ないな、このターンはエンドだよ!」

バースト有

 

 

バーストがまだあるものの、手札はたった2枚。絶体絶命と言っても過言ではないだろう。

 

それなのに椎名は苦い顔を全くせずに、ただバトルを楽しんでいるかのような口調でそのターンのエンド宣言をした。

 

普通の受験生では先ずない傾向だ。「受かりたい」だから勝つ。そのような心情になるのが通常だ。バトルを楽しめ、というのが無理な話である。苦しい状況なら尚のことだ。

 

 

「ふんっ!………興醒めだな」

 

 

そう言って観客席を立ち上がったのは司だ。単純に見飽きてしまったのだ。どの道いくら頑張ってもあの「変な奴」に勝ちはないだろうと確信して、

 

 

「あれ!?司、どこ行くの?」

 

 

司が出口ですれ違ったのはちょうど試験を終えた、当時の雅治だ。今よりも背が低く見える。

 

 

「帰る」

「空野晴太のバトルを見ていかないのかい?」

「奴のデッキは入試用だ、本気じゃない、それにどの道、今やってる変な奴で最後だしな」

「?……変な奴?」

「自分の力量も理解できない、ただの馬鹿だ」

 

 

それだけ言い残して司はスタジアムを出て行った。

 

この時司は、その「変な奴」が自分の生涯のライバルになろうとは、思ってもなかっただろう。

 

 

「全く、自分だって、変な癖に、…………じゃあ僕は見てこようかな?その「変な奴」のバトルを……」

 

 

雅治は空いた司の席に座って、その椎名と晴太のバトルを見物することにした。この後、自分の心の中が桜色に染まるとも知らず。

 

そしてバトルは続く。次は晴太のターンだ。

 

 

[ターン05]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

ダークディノニクソー(疲労⇨回復)

ダークディノニクソー(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺はブレイブカード、竜甲冑ドラグマルを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨2

 

「ッ!!……ブレイブ!」

 

 

地中から飛び出してきたのは甲冑を身に着けている竜。ドラグマル。これはスピリットではなく、ブレイブ。スピリットと合体できるのだ。

 

 

「でも先生、肝心の合体先のスピリットがいないよっ!」

 

 

竜甲冑ドラグマルの合体条件はコスト4以上。現在晴太の場にいるスピリット、ダークディノニクソーはいずれもコスト2のスピリットだ、合体はできない。

 

だが、晴太がそんな凡ミスをするはずがない。さらに1枚の手札を引き抜いてみせた。

 

 

「何言ってんだ、そんなの今から出すに決まってるだろ?…………さらにスレイブ・ガイアスラをLV1で召喚っ!」

手札3⇨2

リザーブ3⇨0

ダークディノニクソー(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ2⇨5

 

 

晴太の場に降り注ぐ巨大な火の玉。地面に落ちたと思えばすぐさまそれは形を形成して行く。現れたのはかの有名なスピリット、ガイアスラの小型版とも言えるスピリット、スレイブ・ガイアスラだ。

 

ガイアスラシリーズではお馴染みの効果を持っていることから、こちらもわりかし有名であって、

 

 

「……す、すごい!」

 

「まだ行くぞ!スレイブ・ガイアスラと竜甲冑ドラグマルを合体!合体スピリットとなるっ!」

スレイブ・ガイアスラ+竜甲冑ドラグマルLV1(2)BP7000

 

 

ドラグマルの甲冑が次々とスレイブ・ガイアスラに装着されていく。

 

スレイブ・ガイアスラは強大な合体スピリットと化した。これを見た観客席の受験生達は完全に椎名の勝利を諦めた。「勝てるわけがない」そう思ったのだ。

 

 

「アタックステップっ!スレイブ・ガイアスラでアタック!竜甲冑ドラグマルの合体時効果でさらにBP4000アップ!」

スレイブ・ガイアスラBP7000⇨11000

 

 

竜の尻尾だけで地面をすいすいと移動するスレイブ・ガイアスラ。目指すは椎名の残り3つのライフだ。

 

スレイブ・ガイアスラ。ガイアスラの名に恥じぬ、【超覚醒】の効果を持っている。

 

【超覚醒】とは、【覚醒】の亜種効果の1つなのだが、【覚醒】のようにコアを自身に移動させるだけでなく、疲労から回復もするという恐ろしい効果。つまり、他のスピリットのコアの数だけアタックできると言っても過言ではない。

 

他の者達が勝てないと思ったのもおそらくはそこからきたことだろう。

 

だが、当の本人は、椎名は全然諦めてはいない。寧ろここからが本番であるかのような顔つきでそのアタックを待ち受けていた。

 

晴太もそんな椎名を見て不思議に思う。この負けそうな場面で悔やみや嘆きと言った感情を一切見せないのはなぜか、と。

 

 

「流石、バトスピ学園、こんな人達がゴロゴロいるところなんだ、………………へへっ、やっぱ来て正解だったよ、じっちゃん………」

 

 

椎名はこの場でもただ単にバトルを楽しんでいた。理由も理屈も何もなく、ただただ楽しかった。

 

ーそして、

 

 

「見せてやるっ!私のエーススピリットを!」

「!?!」

 

 

「エーススピリット」その言葉に思わず反応した晴太。このタイミングで召喚できる者とは一体なんだと考えをよぎらせる。

 

そして椎名の裏向きで伏せられたバーストカードが反転する。自身のエースを召喚するための布石だったものだ。

 

 

「相手のアタックによりバースト発動!トライアングルバーストッ!!」

「!?!」

 

「この効果でコスト3以下のスピリット1体をノーコストで召喚するっ!来いっ!ブイモン!!」

手札2⇨1

リザーブ11⇨8

ブイモンLV2(3)BP4000

 

 

光り輝くトライアングル。その中から飛び出して来たのはライドラモンの【アーマー進化】の効果により手札に戻っていた小さき青竜、ブイモンだ。

 

「まさかあんなのがエースなのか!?」晴太はそう思った。だが、また直ぐに理解した。本番はこれからであるということに。

 

 

「さらにトライアングルバーストのフラッシュ効果を発揮させて、ダークディノニクソー2体を疲労させるっ!」

リザーブ8⇨5

トラッシュ2⇨5

 

「………………」

ダークディノニクソー(回復⇨疲労)

ダークディノニクソー(回復⇨疲労)

 

 

動き出すトライアングル。それはダークディノニクソー2体を縛り付け、動きを封じた。だが、それだけではスレイブ・ガイアスラのアタック回数は対して変わらない。2体の上のコアを外しながら回復すれば問題はないからだ。

 

だが、ここで、ここでようやく現れる。椎名の未来永劫変わることのない。史上最強のエーススピリットが、

 

 

「そしてフラッシュ!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!」

リザーブ5⇨4

トラッシュ5⇨6

 

「また【アーマー進化】!?」

 

「1コスト支払い、炎の燃ゆるスピリット、フレイドラモンをLV2で召喚っ!」

フレイドラモンLV2(3)BP9000

 

 

ブイモンの頭上に、今度は赤い卵が出現する。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化する。そして新たに現れたのは炎を燃え上がらせるスマートな竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモンだ。

 

 

「ここに来て、赤のスピリット…………!?!」

「おぉ、フレイドラモンっ!会いたかったよ〜〜頑張ってね!」

 

 

目の前のフレイドラモンに感動する椎名。今まで夢見た光景が舞い降りてきたのだ。その喜びは計り知れない。そんな椎名を見て、フレイドラモンも「任せてくれ」と言っているかのように頷いてみせた。

 

青と緑を使っていたからか、急に赤のスピリットが出てくるのは新鮮なものだったのだろう。周りは騒然としていた。

 

 

「……………赤のアーマー体…!」

 

 

そう呟いたのは雅治。赤のアーマー体を使うものを他に1人知っているからか、思わずそれを口ずさんでしまった。

 

 

「よっし!フレイドラモンの召喚時効果!BP7000以下のスピリット1体を破壊するっ!」

「!?!」

 

「ダークディノニクソー1体を破壊っ!……爆炎の拳っ!ナックルファイアァァア!!」

 

 

フレイドラモンの燃え上がる炎の鉄拳が、瞬く間にダークディノニクソーを捉え、爆発させる。【超覚醒】の攻撃回数を減らした。

 

 

「だが、このアタックはどう受ける?」

 

 

BPでは圧倒的にスレイブ・ガイアスラには敵わない。このままでは連続攻撃により、フレイドラモンは破壊されてしまうだろう。

 

だが、フレイドラモンにはまだ効果が隠されており、

 

 

「フレイドラモンの効果で相手のスピリットを破壊した時、デッキからカードを1枚ドローするっ!」

「おいおい、まさかそれで逆転する気じゃないだろうな?たった1枚で」

「へへっ、そのまさかですよ先生、このドローは奇跡を起こしますよ!」

 

 

そんなにドローに自信があるのか、全く躊躇もなしにデッキから1枚のカードを引き抜いた椎名。

 

ーそしてそれを確認した途端。口角が上がる。

 

 

「よっしゃぁ!フラッシュマジック!アビサルカウンター!効果により合体スピリットのブレイブ、ドラグマルを破壊するっ!」

手札1⇨2⇨1

リザーブ4⇨1

トラッシュ6⇨9

 

「………なにぃ!?」

 

 

大きな竜巻が突如発生し、スレイブ・ガイアスラを巻き込む。その攻撃は装備されたブレイブ、ドラグマルだけを剥ぎ取り、それを爆発させた。

 

これでスレイブ・ガイアスラはフレイドラモンよりBPが低くなった。

 

 

「…………………」

 

 

晴太は黙り込み、考えた。ここまで両手放しで自分のデッキを信じられるバトラーなどいったい何人いるだろうか、と考えていたのだ。

 

確信した。椎名は天才だ。とんでもない金の卵だ。

 

 

「フレイドラモンでブロック!!」

 

 

ドラグマルがいなくなった瞬間を狙って打ち出されるフレイドラモンの炎の鉄拳と言う名の弾丸。スレイブ・ガイアスラはそれをひらひらと避けていく。

 

遠距離戦は部が悪いと見たフレイドラモンは近接技でケリをつけると決めた。高い脚力を活かし、天高く飛び上がり、その身に炎を纏った。

 

ーそして、

 

 

「いっけぇ!!フレイドラモンっ!渾身の爆炎!ファイアァア!ロケットッ!!」

 

 

そのままスレイブ・ガイアスラに向けて勢いよく急降下していくフレイドラモン。その勢いを全く殺せないまま、衝突し、大爆発。スレイブ・ガイアスラは粉々に砕け散った。

 

 

「よしっ!」

 

 

ガッツポーズを上げる椎名。周りの受験生達は唖然としていた。まさかあの場から切り返してここまで綺麗なカウンターを決めるなどと誰が思っていただろうか、

 

晴太はもはや何もできない。そのターンを半ば強制的に終わることになる。

 

 

「ターンエンドだ」

ダークディノニクソーLV1(1)BP2000(疲労)

 

バースト無

 

 

ー次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨11

トラッシュ9⇨0

フレイドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、ブイモンを召喚!」

手札2⇨1

リザーブ11⇨5

トラッシュ0⇨3

 

 

三たびブイモンが召喚される。それ以上はもう何もする必要はないと見たか、椎名はアタックステップに入った。

 

 

「アタックステップッ!フレイドラモンでアタックッ!アタック時効果でBP7000以下のスピリット1体を破壊するっ!残ったダークディノニクソーを破壊!……ナックルファイアァァア!!」

手札1⇨2

 

 

フレイドラモンの飛び行く炎の鉄拳が晴太の場に残った最後のスピリット、ダークディノニクソーを焼き切った。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ2⇨1

 

 

なすすべがない。晴太はフレイドラモンの炎を纏わせたパンチをライフで受け止めた。

 

 

「ラストだ!ブイモンッ!!」

 

 

待ってましたと言わんばかりに走り出すブイモン。目指すは当然晴太の残ったラスト1のライフ。

 

そして終わりのラストコールが、

 

 

「………こんな奴がいるとはな、…………ライフで受けるよ」

ライフ1⇨0

 

 

ブイモンの頭突きの攻撃が晴太の最後のライフを砕く。ガラス細工が割れたような音がバトルの終了を表すようにこだまする。

 

これに伴い、勝者は、受験生の椎名だ。

 

 

「やったぁぁあ!!!!勝ったよ〜〜〜!!」

 

 

両手を上げ、喜ぶ椎名。その姿を見て、ブイモンとフレイドラモンもそれを祝うかのように咆哮を上げる。

 

周りの受験生達も、他の試験官の先生達もその結果を見て大いに驚いていた。それほどにこの勝利は凄まじい偉業であったと言える。

 

 

「…………まるで花兄と姉さんみたいだ、」

 

 

思わずそう呟いた晴太。どうもあのゴーグル、バトルの仕方が、自分の尊敬する義兄と実姉に重なっていた。まるで足して2で割ったかのようなそんは感じに思えていた。

 

椎名が晴太の教師生活を充実させるキーパーソンになった瞬間であった。

 

 

(…………か、かわいい)

 

 

雅治は遠目で見ていた椎名に思わずそう思ってしまった。一目惚れだった。長い髪、橙色に近い赤毛、バトルしてる時の楽しそうな表情。全てが理屈抜きで好きになった。長きに渡る彼の恋路が始まりの汽笛を鳴らした瞬間だった。

 

 

「あの子、おもろいわ〜〜後でまた声かけたろかな?」

 

 

最後は真夏。この後2人は本当に友人関係を結ぶことになるのであった。

 

これが【第1話】よりも前に起きた椎名達の入試バトルの物語。全ては椎名のこの入試バトルが現在の全ての人間関係を築き上げてきたのだ。

 

 

******

 

 

「今思えば懐かしいよ……………」

 

 

舞台は戻り現在、兎姫と談笑していた晴太は昔話に浸っていた。

 

だが、その時間もつかの間、直ぐに腕時計を見て、慌ただしい様子に変貌する。

 

 

「うわっ!もうこんな時間じゃん!ごめん兎姫ちゃん!俺もういくわ!」

「はいはい、いってらしゃい」

 

 

そう言って、バタバタしながら職員室を出て行く晴太を兎姫は軽く手を振りながら見送った。

 

 

******

 

 

舞台はまた変わり、普通の体育館。ここではこの時間、【ミス・ジークフリードコンテスト】が行われている。今は自己紹介タイムだ。エントリー順でそれぞれ軽く自己紹介していた。

 

それに出場する椎名とそのアシスタント的な立ち位置として一緒にいる真夏は舞台裏で待機している。しかも椎名はメイド衣装のままだ。

 

 

「…………予想以上に人がいる………」

「まぁ、ミスコンやしな……………大丈夫やて、あんたならいつも通りやってれば優勝なんていけるて!」

「いや、別に優勝目指してはないけど」

 

 

ーそんな時、

 

 

《次は今年の大本命!エントリーNo.17!……1年D組、芽座椎名ちゃんだぁ!!》

 

 

そんな司会者の男子生徒のマイク声がしたと思ったらそれに応えるようなとんでもないくらいの声量が聴こえてきた。ほとんど全てが男の人の声だった。もはや界放リーグの時の観客の声といい勝負だ。

 

予想以上の大盛況に椎名は思わずたじろいだ。

 

 

「ほら、行ってきぃ、」

「わっ、」

 

 

真夏がポンっと椎名の背中を押すと、椎名はそれに押し出されて体育館のステージに出てきてしまった。

 

椎名の登場のより、さらに沸き上がるオーディエンス。椎名としては出たくはなかったが、ここまで来たからには致し方ない。自業自得でもあるのでやるしかないだろう。

 

 

「さぁ!椎名ちゃん!先ずは自己紹介を!」

 

 

司会者の男にマイクを渡される椎名。そして愛想笑いで話す感じで、

 

 

「…………そ、そうですね、はは、あんまり自信ないですけど、頑張ります…………?」

 

 

この瞬間にまた歓声という名の轟音が体育館中に響き渡る。

 

メイド衣装ということもあってか、たった一言。たった一言で会場の熱気がピークに達する。今年のミスコンに限っては椎名を見るためにだけにこのジークフリード校の文化祭に来る者もいた。

 

それほどまでに椎名が界放リーグで叩き出した結果というものは凄まじかったと言える。椎名はもはやジークフリード校のカリスマと言っても過言でもないだろう。

 

 

「はい!芽座椎名ちゃんでしたぁ!!」

 

 

司会者のセリフに終わりを感じた椎名はせっせと舞台裏にいる真夏の方へ戻った。

 

 

「やばいやばい、無理無理!!めちゃくちゃ恥ずかしいよ!」

「だから行けとるて!あんた自分の顔のステータス知らんやろ!?」

 

 

まるでこの世の終わりのように真夏に寄りかかる椎名。「せめてバトルが、バトルがしたい。」その気持ちでいっぱいだった。まさかバトスピ学園に来てこんなことをやるなど想像もしてなかっただろう。

 

 

「あ、そう言えばBパッド鳴っとったで」

「えぇ?誰からだろ?」

 

 

Bパッドは携帯のように通信機能も付いている。登録していれば誰でも通話可能だ。

 

椎名は荷物置き場に置いていた自分の鞄の中からBパッドを取り出して、確認する。

 

ーそれは通話ではなく、メールだった。

 

ーただ、その内容は震え上がるほど驚くものであって、

 

ー椎名は頭の血の気が引いていくのが伝わってきた。

 

 

「ごめん真夏!急用思い出した!ミスコンサボるね!?」

「え、えぇ!?なんで!?どこいくん?…………って、もうおらんのかい」

 

 

鬼気迫るような椎名の声。そして風のように通り過ぎ、真夏を置いていった。

 

椎名はメイド衣装のまま学校を飛び出した。そして目的地へ走り出す。

 

そのメールの内容は【紫治夜宵を誘拐した】と言うものだった。犯人が告げたことは、今すぐ1人で指定の場所に来ること、

 

 

「待っててねっ!夜宵ちゃんっ!今行くからっ!」

 

 

兎に角椎名は走った。足の疲れも気にせずに、ただ夜宵の無事だけを祈ってその指定の場所まで走り行く。

 

ーこれが紫治一族の罠とも知らずに、

 

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回は【フレイドラモン】!!」

「言わずと知れた私のエーススピリット!効果破壊と指定アタックを使い分けて敵を討つよ!」







最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!


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第29話「野望の始まり、手負いの王者」

 

 

 

ここは紫治一族が住まう館。その広さはもはや館よりかは豪邸と言った方がいいくらいだ。その中の一室で、ある男は興奮し、高揚していた。まるで遠足やクリスマス前の眠れない子供みたいに、

 

だが、望んでいることはそんなかわいいものじゃない。もっと邪悪で、禍々しい。その先にあるのは確かに人間らしい願いであるといえばそうなのだが、

 

 

 

「あぁ、ようやくだ、ようやく……………お前に会えるよ、【亜槌】………このDr.Aが作り出した水晶…………そして後はオーバーエヴォリューションに覚醒した者達の力があれば……………」

 

 

その男の正体はデスペラード校の理事長かつ紫治一族の現頭領である【紫治城門】だ。

 

彼の願いはただ一つ。それはどんなに人智を超えていても、化け物と忌まわされても一向に構わないほど叶えたい欲望なのだ。

 

それが今日、今日叶う。そう思うと居ても立っても居られない程の気持ちになり、今の感情が露わになったのだろう。

 

ー何年も待ち望んでいた彼の野望が今、始まる。

 

 

******

 

 

椎名は走っていた。誘拐された夜宵のために。犯人と思われる者からメールで指定された場所まで、

 

その指定場所は界放市の離れにある【ジャンクゾーン】と呼ばれる無法地帯だ。その名の通り廃墟や粗大ゴミなど、使えなくなり、役に立たなくなった物が集められた場所であり、通称【灰色の街】とも言われている。

 

完全に国から見放された場所であるためか、そこにはならず者で溢れかえっている。椎名はそこに来ていた。本来は一般人は立ち入りができないはずだが、なぜかその大きな門をくぐることができた。

 

 

「はぁっ、はぁっ、……夜宵ちゃぁぁあん!!」

 

 

そこが危ない場所とも知らずに、息を切らしながらも叫びながら駆け上がる椎名。そう興奮するのも無理はない。このあたりなのだ。犯人からのメールで指定された場所と言うのは。

 

椎名は必死にあたりを捜索する。

 

ーそして、

 

 

「……あっ!……夜宵ちゃん!!」

 

 

椎名は倒れている夜宵を見つけた。

 

すぐさま駆け寄る。椎名はその頭を抱え、何度も呼びかけた。

 

 

「夜宵ちゃん!!……夜宵ちゃん!!」

「………ん、……し、椎名ちゃん…………っ」

「夜宵ちゃん!よかったぁ」

 

 

椎名に抱えられたままその瞳をゆっくりと開眼させる夜宵。どうやら無事のようだ。一安心する椎名。

 

少し落ち着いたところで夜宵に何が起こったか聞くことにした。

 

 

「ねぇ、夜宵ちゃん、いったい何があったの?」

「………それがわからないの、私も知らないうちに連れていかれて…………でも椎名ちゃんが来てくれるって信じてたよ………ありがとう」

「あっはは、いや〜どういたしまして〜〜……」

 

 

身の危険をも惜しまずに自分をこんなところまで助けに来た椎名に感謝する夜宵。これで一件落着、

 

ーだが、その微笑ましいエピソードは終わりを告げることになる。

 

次の瞬間、夜宵から発せられたその思いもよらない言葉は椎名を一瞬で凍りつかせる。

 

 

「これで……………これで、お父様の悲願の願いが叶うっっ!!」

「…………え!?どういうこと!?」

 

 

突然糸が切れたようにそう叫ぶ夜宵。その目の瞳は細かく揺れ動き、狂気に走っている。

 

突然発せられたその言葉の意味を飲み込めない椎名。だが、その言葉の裏に何かとてつもなく冷たいものを感じた。簡単に言えば嫌な予感だ。

 

椎名の手を離れ、立ち上がる夜宵。そしてその不気味な笑みを浮かべながら、不思議そうな目で自分を見つめる椎名に話した。

 

 

「ふふ、言葉の通りよ、椎名ちゃん………………あなたは選ばれたの、【儀式の生贄】にね」

「……………な、何言ってるの?夜宵ちゃん【儀式の生贄】?意味がわからないよ」

 

 

より話がわからなくなり、困惑する椎名。今現状何が起こってるのかも全く理解できなかった。

 

ただ理解できたことは、いや、本当はそれを理解したくないのだが、……………【夜宵が敵】であると言うこと。

 

 

「じゃあ、先ずはその発生間近のオーバーエヴォリューションから覚醒させないとね〜〜」

「?!オーバーエヴォリューション?……………って、司が前にやったやつ?」

「そう、先ずはそれを目醒めさせないといけないの……………………」

 

 

夜宵はここである人物を呼び出した。それは椎名を驚愕させる人物。知っている人だ。

 

いや、この界放市中でその男の存在を認知していないのは生まれたての赤ん坊くらいだろう。それくらい認知性と知名度が高い人物だ。

 

 

「おいで〜〜、……………ヘラクレスさん!」

「……………え?」

 

 

少し離れた廃墟からゆっくりと2人のとこまで歩んで来たのは真夏の実兄であり、初となる界放リーグ三連覇を成し遂げた、もはや生きる伝説と言っても過言ではない男。

 

ーヘラクレスこと、緑坂冬真だ。ただその様子はいつもとは違っていて、

 

 

「!?!……真夏の兄ちゃん!?……なんでこんなとこに!!」

「メ、芽座、椎名、オ、俺ト、バ、バトルシロ…………」

「!?!」

 

 

明らかにおかしかった。片言だし、歩き方も普通じゃない。まるで誰かの操り人形みたいだ。

 

 

「ふふ、ヘラクレスさんは私たち紫治一族の忠実なる奴隷となったの〜〜この人ったら単純で、お姉様が少しだけ誘惑したらまんまと乗っかって簡単に洗脳されるんですもの、おかしいよね〜〜」

「………ま、真夏の兄ちゃん」

 

 

実際にはヘラクレスを操っているのは【Dr.A】と呼ばれる者が作り上げたある装置なのだが、

 

ヘラクレスはその女好きで軽い性格ゆえに夜宵の姉、【紫治明日香】に誘惑され、まんまと乗せられて、捕まり、この通り洗脳されてしまったのだ。

 

 

「真夏の兄ちゃん!落ち着いて!」

「バトルシロォォ、芽座、椎名ァァ!!」

「ふふ、無駄よ、これはバトルで勝たないと解けない」

「なんで!?なんでこんなことするの!?夜宵ちゃんっ!!」

「…………だからお父様のためだって」

「お父様って、……………あの人?」

 

 

全く言葉と態度を変えようとしないヘラクレス。本当に洗脳されてるのだ。椎名はもうなにがなんだかわからなくなった。

 

だが、1つだけわかったことがある。それは今ここで自分がヘラクレスとバトルをしなければならないということ。

 

ー椎名は意を決した。

 

 

「…………わかったよ、真夏の兄ちゃん、いや、ヘラクレスっ!私があなたに勝って目醒めさせるっ!だから少しだけ我慢してよね!」

(ふふ、………それでいいのよ椎名ちゃん)

 

 

椎名はBパッドを展開する。それに合わせて洗脳されて狂ってしまったヘラクレスもBパッドを展開した。

 

ーそして始まる。椎名とヘラクレス。この2人のバトルが、

 

 

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

******

 

 

場所は戻ってジークフリード校、今は文化祭の真っ只中であったが、

 

 

「え!?紫治夜宵が誘拐された!?」

「あぁ」

「まだ信じられないけどね」

 

 

話しているのは真夏、司、雅治の3人。未だにミスコンで騒がしい体育館の外のすぐ裏でその夜宵の誘拐について話していた。

 

何故、司と雅治、2人がこのことを知っているかというと、椎名と同じメールが彼女より少し遅れて届いたからだ。

 

 

「……………多分めざしの奴も同じメールが送られたんだろうな、」

「!?!だから急に走ってどっか行ったんやな!?」

「多分ね」

「厄介なのはその場所だ、めざしは何も知らないだろうが、犯人が送って来た位置情報の場所は【ジャンクゾーン】だ」

「!?!………国が見放した完全な無法地帯やないか!」

「どっちにしろ椎名は放っては置けないよ、夜宵ちゃんも助けないと」

「あぁ、警察なんて呼んだら一般人立ち入り禁止の【ジャンクゾーン】に入れてくれねぇだろうな…………俺らで行くしかないだろ」

「……………せやな」

 

 

3人は決心を固めた。そして3人も椎名と同じく学園をこっそりと抜け出した。目指すは界放市離れの無法地帯、【ジャンクゾーン】だ。

 

 

******

 

 

 

「ヘラクルカブテリモン、デ、アタック!!」

 

「…………ライフで受けるっ!……………う、うわぁっ!」

ライフ2⇨1

 

 

黄金の甲殻を持つ昆虫型の究極体スピリット、ヘラクルカブテリモンがその輝く4本のツノで椎名のライフを1つ破壊した。

 

椎名にまるで力が抜けたような感覚が襲ってくる。このようなバトルはアイドルバトラーの最手模輝夫の時以来か、Bパッドでのバトルでこんなダメージを感じるなどこれまで聞いたこともなかった。

 

そして、これで椎名のライフはたったの1。追い込まれてしまった。流石は界放リーグを三連覇した男と言ったところか、やはりその実力は圧倒的だった。

 

今の椎名で敵うかどうか、いや、敵わなければならない。ここで椎名が負けてしまうのは苦しいのはヘラクレスだけではない。真夏まで苦しむことだろう。

 

その想いが椎名にいくらでも力を与えていた。

 

 

「ターン……エンド」

テントモンLV1(1)BP2000(疲労)

ヘラクルカブテリモンLV1(1)BP12000(疲労)

 

バースト無

 

 

やれることを全て終え、そのターンを終えたヘラクレス。これまでの彼のバトルからは考えられないほどに冷徹だった。まるで強力な機械兵とでもバトルしているかのような気分である。

 

椎名とて、こんな形でヘラクレスとのバトルを望んではいなかっただろう。だが仕方ない。彼の洗脳を解くためにはこのバトルに勝つしかないのだから。

 

 

「わ、私のターンっ!」

「ふふ、頑張るわね、椎名ちゃん」

 

 

その椎名の頑張りを嘲笑うかのように見つめる夜宵。これまでの彼女からは予想できないほどに冷たい目をしていた。椎名はそれが信じられなかった。

 

今までの夜宵が演技なのか、はたまた変わってしまったのかは定かではないが、どちらにせよ椎名は信じたくなかった。元に、元の夜宵に戻って欲しかった。あのにこやかで明るい夜宵に。

 

 

******

 

 

再び視点は変わり、司、雅治、真夏の3人は【ジャンクフィールド】の門前まで既に赴いていた。

 

そこで司と雅治はある違和感に気づく。

 

それは門前の警備の警官が1人もいないことだ。通常では一般市民が入ってはならない領域であるため、この唯一のゲートである門は厳重に見張られているのだ。

 

それが今日はどうしたことか、警官どころか人はいないし、おまけに門も既に開口しているではないか、明らかに何かが変だ。

 

3人はそれでも椎名と夜宵のためにその門をくぐり、【ジャンクゾーン】へと足を踏み入れた。

 

 

「………こ、ここが【ジャンクゾーン】、……噂通りおっかなさそうなとこやな」

「………こっちだ、行くぞ」

 

 

兎に角その足を進めた。椎名と同じ、指定された場所へと行くために。【ジャンクゾーン】は学園からは遠かったので、既に足も限界だったが、それでも助けたいと言う気持ちが彼らを奮い立たせる。

 

ーそして歩いて約20分が経つ頃だ。

 

 

「「……………?」」

「…………誰だ?」

 

 

3人の前に現れたのは黒いフードを被った人物。背は高いが、その細身の体と豊満なバストから女性であることが示唆される。

 

 

「ふふ、ここから先には行かせないわよ」

 

 

その女性はそう笑いながらも懐からBパッドを取り出し、展開した。まるでここを通りたければバトルをしろと言わんばかりに、

 

 

「夜宵を誘拐した奴の仲間か?」

「ふふ、さぁ、どうでしょうね?」

 

 

ただ明らかに怪しい。司たちからすれば、どこからどう見ても彼女は危ない人物にしか見えない。

 

ここまで1人で来たと言うことは、別の場所にまだ誰かいるのだろうか。司たちはそう考えさせられていた。

 

そしてここで問題になるのは、誰がバトルに行くか、だが、

 

 

「………2人ともここは僕に任せて先に行って」

「「!?!」」

 

 

そう言いだしたのは雅治だった。雅治は1人でこのフードの女性に挑もうと言うのだ。

 

 

「この先、何が起こるかわからないし、他にあの人みたいに敵がいるかもしれない、だから2人は先に行って椎名と夜宵ちゃんの安全を早く確認して」

「で、でも長峰…………」

「…………わかった」

「え!?いいんか!?」

 

 

司は雅治の言葉に即答して、その場から彼を置いてさっさと早歩きで先を進んだ。真夏はその司の即答の判断に困惑しながらも司の後をついていく。

 

 

「…………頼んだよ」

「ふふ、私の相手はあなたみたいね、まぁ、最初からそのつもりで来たのだけれど」

「え!?」

 

 

司と真夏が見えなくなる頃、フードの女性はそれを脱が捨てた。その人物の正体は………………夜宵の姉、紫治明日香だ。

 

ー2人のバトルが始まろうとしている。

 

 

******

 

 

「ちょい待ち!」

「あ?なんだよ」

 

 

もう雅治とその相手をしたフードの女性との距離が幾分か離れたところで真夏はようやく司に追いつき、その右手を司の肩に置いてその足を止めた。

 

 

「なんだよ、ちゃうわ!なんで置いていくん?あいつが何者なのかわからないんやで!?」

「バトスピは基本的に1on1だ、複数はいらない」

「でもなぁ、」

「文句言うな、あいつが任せろって言ったんだ、任せておけ」

「!!?!」

 

 

意を放つかのような司のオーラが真夏を黙らせる。真夏は司が心の底から雅治を信頼しているのをその身に感じた。

 

自分としては納得はしたくない、正直置いて行くというのはむしゃくしゃするが、椎名のためだ、自分もその想いを、雅治を信じることにした。

 

そしてそこから10分歩いたところだ。ようやく、ようやく目的地が見えてきた。だが、そこでは意外すぎる出来事が2人を待ち受けており、

 

 

「ブイモンを召喚!」

 

 

椎名はいつものキーカード、青い体の小竜、ブイモンを召喚した。

 

 

「あっ!椎名おったでぇ!」

「………バトルしているのか?」

 

 

椎名がバトルしているのが2人の目に飛び飛んできた。だが、驚いたのはそのバトルをしていた相手だ。

 

 

「に、兄さん…………!?」

「ヘラクレス、何故ここに!?」

 

 

椎名とバトルしているヘラクレスを見て驚く2人。

 

 

「兄さん!!!どないしたん!?」

 

 

真夏は思わず大きな声で叫んでしまった。その声で椎名も夜宵も2人の存在に気づいた。

 

司と真夏も2人に走って近づく。

 

 

「!?……真夏………司?…なんで?」

「それはこっちのセリフだ、なんでヘラクレスとお前がこんなところでバトルなんかしているんだ」

「あら、司ちゃん、私を助けに来てくれたの?嬉しい…………多分雅治君も来てるよね」

「…………夜宵」

 

 

司と真夏はその場に近づくと少しだけ直感で理解した。椎名が今どういう状況に侵されているのか、夜宵がなんなのか、その彼女の雰囲気と態度で少なくとも味方じゃないことは直ぐに理解できてしまった。

 

 

「兄さん!私や!真夏やで!なんでこんなとこにおるん!?」

「マ、真夏?………シ、知ラナイ………ソンナヤツ」

「…………え!?」

 

 

真夏がいくらヘラクレスに語りかけても彼は全く意に介さない。まるで本当に全てを忘れ去ったかのように。信じられなかったことだろう。何せ実の妹のことすら忘れているのだから。それほど強く洗脳されていると言える。

 

 

「真夏、今のヘラクレスは夜宵ちゃんに操られているんだ、元に戻すためにはこのバトルに勝つしかない」

「…………そ、そんな!?」

 

 

椎名を助けに来たつもりがまさか実の兄がこんなことになっているなど真夏としては思ってもいなかったことだろう。

 

 

「夜宵、」

「ん?なぁに?司ちゃん」

「このバトルにはなんの意味がある?なんのためにヘラクレスを洗脳までしてめざしとバトルさせている?」

「あぁ、またそれ、何回も言ったけどね〜〜、……………全てはお父様のためよ」

「!!………紫治城門か…………っ!」

「信じられないよ…………あの人がこんなこと」

 

 

紫治一族がここまで大胆に行動しているのはその現頭領、紫治城門に理由がある。夜宵と明日香、城門の2人の娘たちはどうしても彼の願いを叶えさせたかったのだ。

 

ただそれは自分たちの願いでもあると言うこともあるが、

 

椎名からは信じられなかった。赤羽家に行った時に会った時はあんなに優しそうな顔の人だったのに、本当はこんな酷いことを平気でするような人物だったことがショックであった。

 

 

「まぁでも、司ちゃんはもうオーバーエヴォリューションに目覚めてるんだし、椎名ちゃんとヘラクレスさんのバトルをただ傍観してればいいよ」

「………………(オーバーエヴォリューション?………あれが何か関係しているのか?)」

 

 

夜宵の言葉でオーバーエヴォリューションの事を思い出す司。あの時は偶然起きたが、今回はそれを偶発的に発揮させようとしているのを理解した。

 

残念なことに、今の司ではこの状況はどうしようもできない。今はとにかく椎名にヘラクレスを任せる他ない。

 

 

「…………真夏、待ってて、…………今兄ちゃんを助けるからっ!」

「………し、椎名」

 

 

より強く意気込む椎名。真夏は弱々しく頷く。信頼している。勝ってほしい。だが、相手は仮にもあのヘラクレス。椎名が負けてしまうのではないかと思わず頭の中をよぎってしまうのだ。

 

バトルは続く。椎名のメインステップからだ。そして早々に動き出す。

 

 

「【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、黄金の守護竜、マグナモンを召喚っ!」

マグナモンLV3(4)BP10000

 

 

ブイモンの頭上に黄金の鎧を着た卵のようなものが投下される。ブイモンはそれを受け入れるように衝突し、混ざり合い、進化する。

 

新たに現れたのは黄金のボディを光輝かせる守護竜、ロイヤルナイツの1体、マグナモンだ。

 

 

「マグナモンの召喚時効果!相手の最もコストの低いスピリット1体を破壊するっ!今のあなたの場はヘラクルカブテリモンとテントモン、その中でもコストが低いテントモンを破壊するっ!」

「……………」

「黄金の波動!!エクストリーム・ジハード!!」

 

 

マグナモンは黄金の波動で作り上げられた障壁を解き放つ。ヘラクレスの場にいたテントモンはそれに包まれ、いとも容易く消しとばされてしまった。

 

マグナモンの召喚時をここで使うのはもったいない気もするが、致し方ない。このままヘラクルカブテリモンに対して何か早々に手を打たなければ間違いなく椎名が負けるからだ。

 

 

「さらにバーストを伏せて、………アタックステップ!………マグナモンでアタックだっ!」

 

 

バーストが伏せられると同時にアタックステップへと移行する椎名。そしてその開始と共に肩のブースターを器用に使いこなし、低空飛行で飛び行くマグナモン。

 

ヘラクレスの場は疲労状態のヘラクルカブテリモンのみ。ブロックできない。つまり何もなければライフで受けることになる。

 

 

「…………ライフデ受ケル」

ライフ3⇨2

 

 

マグナモンの強烈な蹴りが、ヘラクレスのライフを破壊した。

 

残りたったの2つだ。後2つ破壊すれば、勝てる、真夏の兄ちゃんを取り戻すことができる。

 

 

「…………ターンエンド」

マグナモンLV3(4)BP10000(疲労)

 

バースト有

 

 

やれることを全て失い、そのターンを終える椎名。

 

やはりBPが高く、連続アタックまでも可能にしてくるヘラクルカブテリモンが厄介極まりないのだが、椎名にはそれさえをも超える作戦があって、

 

 

(………私が伏せたバーストカードは風刃結界…………これで真夏の兄ちゃんがアタックしてきたらマグナモンのBPを上げて返り討ちにできる…………そして手札にはワイルドライドもある……………いける…………勝てるぞ)

 

 

そう思っていた。バーストは風刃結界。このカードはアタック後のバーストで発動でき、自分のスピリット1体を回復し、BPプラス10000する効果を持つ。そして手札にはワイルドライド、これによりマグナモンをBP23000のブロッカーとして立たせることができる。

 

これで次のヘラクレスのターンのヘラクルカブテリモンのアタックを防ぐことができる……………と考えていた。

 

 

「オ、俺ノターン…………スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ」

 

 

ターンシークエンスを物静かに進めていくヘラクレス。

 

ーそして、その椎名を超える一手を引き抜く。

 

 

「ブ、ブレイブカード、黒蟲ノ妖刀ウスバカゲロウヲ召喚!!」

「!!」

 

 

天より舞い降りてきたのは緑の妖刀、ウスバカゲロウだ。それは緑の強力なブレイブのひとつであり、

 

今回はヘラクルカブテリモンと合体する。

 

 

「ヘラクルカブテリモンノLVヲ上ゲ、ウスバカゲロウト合体!!」

ヘラクルカブテリモン+黒蟲の妖刀ウスバカゲロウLV1⇨2(1⇨4)BP18000⇨23000

 

 

その地面に突き刺さった妖刀を引き抜くヘラクルカブテリモン。合体スピリットとなった。このBPプラスにより、このターンのマグナモンの最高BPと並んだ。

 

だが、相打ちだったらまだ椎名の方が部がある。椎名はまだ可能性はある。ただただそれだけを考えていた。

 

 

「アタックステップ…………ヘラクルカブテリモンデ、アタック!!」

 

 

その羽根を広げ、場から飛び立つヘラクルカブテリモン。とてつもないスピードで椎名を襲おうとする。ここで椎名のバーストカード、風刃結界が使えるはずなのだが、

 

 

「アタック後のバースト発動!風刃結界!!………………え!?」

 

 

だが、それは一向に反転する気配を見せない。何故だ、何故だと頭を抱えて考える椎名。

 

それはヘラクルカブテリモンと合体したウスバカゲロウにあった。

 

 

「残念ね、椎名ちゃん、黒蟲の妖刀ウスバカゲロウは合体時、そのスピリットのバトルでは相手はバーストを発動できないの」

「!?!」

 

 

そう呟く夜宵、椎名は再び自分の場に伏せられたバーストカードを確認する。

 

それをよく見てみると謎の念力のようなもので固定されている。それはヘラクルカブテリモンのバトル中は絶対に解けないようになっており、決して開くことはない。

 

 

「く、くそっ!マグナモンでブロックだ!」

 

 

椎名は苦し紛れにマグナモンにアタックを止めさせる。マグナモンはヘラクルカブテリモンに果敢に立ち向かう。が、そのBP差は歴然。

 

ヘラクルカブテリモンのウスバカゲロウでの一太刀を止められず、上空へとかちあげられてしまう。

 

 

(……………だ、だめだ、ワイルドライドだけじゃどうにもできない……………負ける)

 

 

なんとか上空で体勢を立て直すマグナモン。そしてそのまま黄金のエネルギーを溜めて、放出するも、ヘラクルカブテリモンはウスバカゲロウを使い、それをいとも容易く切り刻んでマグナモンのいる上空へと近づいていく。

 

もうだめだ、もうだめだと椎名が思った次の瞬間だった。

 

 

 

「……………止めて、兄さんっっ!!」

「!?!」

「……ま、真夏」

 

 

真夏の悲痛な叫びがこだました。思わず叫んだ、これ以上2人が、兄と親友が傷つくのを見たくなかった。その一心で心から叫んだ。透き通ったその声色は近くにいた椎名を通り越してヘラクレスの元へと届く。

 

ーそして

 

ーそして

 

ーそしてその一言はヘラクレスの意識を少しずつ覚醒させる。

 

 

 

「あ、アあア、オ、お前………………さっきかラ、人の体勝手ニつこうて何してクれとんねんンんんんンっっ!!……………う、うぉぉぉぉお!!」

「……………え!?まさかこの人、自力で洗脳を解こうとしているの!?!」

 

 

洗脳によって閉じ込められていたヘラクレスの自我が真夏の声に反応するかのように目覚めて行く、

 

ヘラクレスの体から目に見えないくらいの闇の瘴気のようなものがどんどん溢れ出して逃げていく。だが、その瘴気も負けじとヘラクレスの体に絡みついていく。

 

目の前にいた椎名はただそれを心の中で応援し、傍観することしかできなかった。

 

ヘラクレスは朦朧とする意識の中で、なんとか手札を1枚引き抜き、闇に抗いながらそれをBパッドへと押し込んでいく。それは椎名を助ける奇跡の一枚。

 

 

「あア、……フ、フラッシュ……マジック………ら、ライフ、チャージ…………ヘラクルカブテリモンを破壊し、コアを3つリザーブにお、送る……………」

「…………え!?」

 

 

距離を完全に詰め、ヘラクルカブテリモンがマグナモンをウスバカゲロウで切り裂こうと振りかぶった直後、突如として緑色の光と共に大爆発するヘラクルカブテリモン。その合体していたウスバカゲロウごと巻き込み、マグナモンだけを残して場から消え去った。

 

ライフチャージ、緑のマジック、自分のコスト3以上のスピリット1体を破壊することで、コアを3つも増やす効果を待っている。ただ普通、この勝てそうなタイミングでは使わない。今回が特別なだけだ。

 

ーヘラクレスは咄嗟に自らの敗北を選択したのだ。

 

 

「に、兄さん、」

「へ、ヘラクレス」

「なんて人なの?………じ、自力でDr.Aの洗脳を解くだなんて…………」

 

 

信じられないような目でそれを見る夜宵。Dr.Aの洗脳は毎度完璧だった。なんの力かは知らないが、その悍ましい力を制御できる人間など存在するとは思っていなかった。

 

ただ、今回はいた、このヘラクレスが、その果てしない精神力で、この闇の瘴気を乗り越えたのだ。

 

 

「た、ターン、エンド…………コ、来いやぁあ!!!………オ、俺ヲ、倒せぇぇえ!!」

「!?!!」

 

 

ヘラクレスに喝を入れられたかのように再び動き出す椎名。全てはヘラクレスを、真夏の兄ちゃんを助けるためだ。

 

 

「う、うぉぉぉぉお!!スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ、ブイモンを召喚して、アタックステップ!!………………………2体でアタックだっ!」

 

 

ブイモンが呼び出された直後に走り出す。そしてマグナモンも、そしてその2体の拳は、ガラ空きのヘラクレスのライフへと……

 

 

「………オ、俺ラの勝ちやぁぁ!!ライフで受けるっ!」

ライフ2⇨1⇨0

 

 

ー届いた。その拳はたしかにヘラクレスのライフを全て破壊すると同時に、彼にまとわりついていた闇を全て取り払って見せた。

 

これにより、勝者は椎名だ。おこぼれで掴んでしまった勝利だが、勝ちは勝ちだ。ヘラクレスの洗脳も戻って結果としては万々歳だろう。

 

ヘラクレスは疲れ切ったのか、その場で仰向けになって倒れる。

 

 

「はぁっ、はぁっ……………」

 

 

流石に息が荒れてきた椎名。本当は負けていた。ヘラクレスがあの瞬間に息を吹き返していなければ間違いなくマグナモンごとライフを八つ裂きにされていたことだろう。

 

 

「兄さんっ!」

 

 

真夏は力尽きてその場で仰向けになって倒れたヘラクレスの側に駆け寄った。

 

 

「ま、真夏ちゃん、…………はは、どう?俺かっこよかった?」

「…………かっこよくないわ………アホ」

 

 

辛辣な言葉をヘラクレスに浴びせる真夏。だが、その表情に怒りはない。喜びと安心感が混ざった表情、その目には仄かに涙を浮かべていた。ヘラクレスもどうやらなんとかふざける余裕があるくらいには無事のようだ。ただもはや立ち上がるほどの力も残ってはなさそうだが、

 

そして、この結果に不甲斐ない顔を見せる人物が1人、夜宵だ。

 

 

「…………これでもあなたのオーバーエヴォリューションは目覚めないのね……………なら今度は私がやってあげる…………賭けになるけどね」

「………………夜宵ちゃん」

 

 

夜宵はデッキとBパッドを取り出した。狙いはもちろん椎名だ。

 

ついに本性を見せ始める紫治一族の者達。椎名達はこれからどうなってしまうのか、

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回はこいつ!【ブイモン】!!」

「ブイモンは言わずと知れた私のキーカード!これからもよろしくね!」







最後までお読みくださり、ありがとうございました!
来週からはまともなバトル回が続きます、お見逃しなく!


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第30話「希望を掴め、鋼の天使シャッコウモン!」

 

 

 

 

 

 

 

ここは【ジャンクゾーン】。界放市の周囲に配置されたこの場所は、言わばゴミ溜め、国からも見放された完全なる無法地帯だ。

 

普段はならず者以外はいないこの場所で、ある一族の長の野望が叶えられようしていることなど、誰も予想はしなかっただろう。

 

 

「…………あ、あなたは……!?」

「あら、話したことなかったかしら?……夜宵の姉、【紫治明日香】よ、…………よろしく」

「!!……あなたが夜宵ちゃんのお姉さん!?」

 

 

【ジャンクゾーン】のとある場所、椎名と夜宵のことを思い、司と真夏を先に行かせた雅治は夜宵の姉、明日香と対面することになった。

 

夜宵とは昔馴染みの関係ではあるが、その姉である明日香と一度も会ったことがなかった。夜宵がこちら側に来る時はあっても、自分達が夜宵側に行くことはなかったからだ。

 

ただ、その存在は知っていた。歳が2つ離れている以外の情報はなかったが、

 

 

「な、なんで夜宵ちゃんのお姉さんが………」

「あら?敵として対面しているのにもかかわらず気づかないなんて、鈍いわねぇ、……………少し考えてみなさい」

「…………………ッ!」

 

 

雅治は少しだけ落ち着いてこれまでの出来事を見つめ直し、ありとあらゆる可能性を考慮し、考察した。

 

何故誘拐されたはずの夜宵の姉がそれをほっぽり出して今自分の目の前にいるのか、その理由はただ一つ。【最初から夜宵は誘拐されてなどいないからだ】。

 

つまり罠、自分達は誘拐などよりもっと何かとてつもなく邪悪なものに巻き込まれている。と。

 

夜宵が敵であることは信じられないことであったが、明日香の放つオーラや話し方、独特な雰囲気もあって、これしか他に思いつかなかった。

 

 

「ふふ、やっと気づいたみたいね」

「……………あなた達の目的はなんなんだ」

「…………そうね〜〜、私に勝ったら教えてあげる」

 

 

流石にそう簡単にその目的は話したりなどしないか、不本意だが、やるしかない、なんとかしてこの明日香に勝利し、いち早く椎名達のところへと駆けつけなければならない。今の雅治はそれを第一に考えた。

 

そして無言でBパッドを展開する雅治。デッキをそこに置き、準備は万端だ。

 

 

「さぁ、行きましょうか」

「……………えぇ、」

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

バトルが始まる。先行は雅治だ。

 

 

[ターン01]雅治

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、僕は天使キューリンを召喚して、さらにネクサスカード、華黄の城門を配置!……ターンエンド」

手札5⇨4⇨3

リザーブ4⇨2⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

天使キューリンLV1(1)BP1000(回復)

 

華黄の城門LV1

 

バースト無

 

 

雅治が早速呼び出したのは、かの有名なスピリット、クーリンをモチーフとしたスピリット、キューリンと、黄色のデッキではかなりの汎用性を誇るネクサスカード、華黄の城門。

 

雅治の背後に巨大な門が現れる。

 

 

[ターン02]明日香

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、…………そうね〜〜、先ずはこれからかしら?ガジモンをLV1で召喚」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

「!!……やっぱり紫か!」

 

 

明日香が初手に呼び出したのは耳の長い紫の成長期スピリット、ガジモンだ。明日香はその召喚時効果で新たなるデジタルスピリットの確保を狙う。

 

 

「召喚時効果で2枚オープン」

オープンカード

【ヴァンデモン】○

【ヴァンデモン】○

 

 

効果は成功、ガジモンは系統「道化」「夜族」のうち、どちらか1枚を手札に加えることができる。ここでは2枚オープンされたヴァンデモンのカードをどちらか1枚を加えることになる

 

 

「ヴァンデモンを加え、残りは破棄……………まぁこんなものね、ターンエンドよ」

ガジモンLV1(1)BP1000(回復)

 

バースト無

 

 

「…………ヴァンデモンは完全体のスピリット、………」

 

 

そのターンを終える明日香。やはり【紫治一族】お得意の紫デジタルスピリットでバトルするようだ。特に明日香は完全体のヴァンデモンのカードを加えたということは、そのランクが3であることが示唆される。雅治もそれを悟った。

 

次はそんな雅治のターン。早くこれに勝ち、椎名を助けなければならないという想いが、このバトルの展開をより早く進めようとしていた。

 

 

[ターン03]雅治

「スタートステップ時、華黄の城門の効果、手札のスピリットかマジックを1枚手元に置き、デッキからカードを1枚ドローするっ!………僕はアルマジモンを置き、カードをドロー!」

【アルマジモン】

手札3⇨2⇨3

 

 

黄色のネクサスカード、華黄の城門、その効果はとても汎用性が高い、手元に置かれるカードは手札にあるものとほぼ同等で使用できる。

 

つまり、相手に見せる以外のデメリットがほとんどと言っていいほどないのだ。それだけでドローを追加できるのはかなりお得であると言っていい。

 

 

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップっ!今手元に置いたアルマジモンを召喚!」

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

華黄の城門の効果で手元に置かれていたアルマジモンのカードをそのまま場へと召喚、アルマジロ型の黄色成長期スピリットのアルマジモンが、雅治の足元から勢いよく飛び出した。

 

そしていつものようにその召喚時の効果で進化系のスピリットの獲得を試みる。

 

 

「召喚時効果、カードをオープンっ!」

オープンカード

【ディグモン】○

【華黄の城門】×

【華黄の城門】×

 

 

効果は成功、雅治はアーマー体スピリットであるディグモンのカードを手札へと加えた。

 

さらにそこからそのディグモンの【アーマー進化】も決める。

 

 

「ディグモンを加え、さらにその【アーマー進化】を発揮!対象はアルマジモン!1コスト支払い、鋼の叡智、ディグモンをLV2で召喚っ!」

手札4⇨5

リザーブ2⇨0

トラッシュ1⇨2

ディグモンLV2(2)BP6000

 

 

アルマジモンの頭上に独特な形をした卵が投下される。アルマジモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化を果たす。現れたのは昆虫型のアーマー体スピリット、鼻先きと両手がドリルになっているディグモンが現れた。

 

 

「へぇ、アーマー進化…………」

「ヘラヘラしていられるのも今のうちですよ!ディグモンの召喚時及びアタック時効果!このターンの間、相手のスピリット1体をブロック不可にするっ!今回はガジモンが対象だ!」

「………!!」

 

 

ディグモンはその3つのドリルを回転させ、それを地面に突き刺し、亀裂を生じさせる。そのまま地割れとなり、ガジモンを襲う。ガジモンはそれに足を挟まれてしまい、身動きが取れなくなった。

 

 

「アタックステップ!ディグモンでアタック!」

 

 

走り出すディグモン。目指すは明日香のライフ。ガジモンがこのような状態のため、明日香はそれをライフで受ける他ないのだが、

 

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ディグモンの3つの回転するドリルがいとも容易く明日香のライフを砕いた。

 

 

「よし!ターンエンドだ」

天使キューリンLV1(1)BP1000(回復)

ディグモンLV2(2)BP6000(疲労)

 

華黄の城門LV1

 

バースト無

 

 

天使キューリンは自身の効果によりアタックができない。雅治はそのターンでやれることを全て失い、それを終える。

 

この最序盤でのディグモンの存在というのはかなり大きいと言える。コアの少ない序盤で強力なスピリットを召喚することで相手に少なからずともプレッシャーがかかるからだ。

 

当の明日香はまるでそれを意に介していないように見えるが、

 

 

[ターン04]明日香

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、……………ネクサスカード、ムゲンマウンテンを2枚配置してターンエンド」

手札6⇨4

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨5

 

 

ガジモンLV1(1)B1000(回復)

 

ムゲンマウンテンLV1

ムゲンマウンテンLV1

 

バースト無

 

 

明日香の背後に聳え立つのは気が遠くなるような高い山々。ムゲンマウンテンは全色のネクサスカードだが、シンボルとその効果は紫寄りである。

 

明日香はそのターンを終えた。BPの低いガジモンでのアタックは控えているのか、それとも何か違う目的か、どちらにせよ、アタックしないというのは雅治の思考を大きく揺らしていた。

 

 

[ターン05]雅治

「スタートステップ時、華黄の城門の効果でアルマジモンを手元に置き、ドロー」

【アルマジモン】

手札5⇨4⇨5

 

 

雅治は【アーマー進化】によって手札に戻っていたアルマジモンを再び華黄の城門の効果のコストにした。

 

単純ながらいいコンボであると言える。何せ効果の都合上、手札に戻りやすい成長期のスピリットカードを使いまわしながらドローを行なっているのだから。

 

あまりゆっくりもしていられないのだ。雅治は明日香のライフを一気に速攻で叩く作戦にいく。

 

 

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨3

トラッシュ2⇨0

ディグモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップっ!手元に置いたアルマジモンを再び召喚!」

リザーブ3⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

アルマジモンが再び召喚される。そしてまた召喚時だ。

 

 

「召喚時効果!カードオープン!」

オープンカード

【アルマジモン】×

【パタモン】×

【パタモン】×

 

 

今回は外れた、オープンカードは全てトラッシュ送りとなる。

 

だが、問題ない。雅治の怒涛の攻めが幕を開ける。

 

 

「アタックステップっ!アルマジモン!」

 

「ライフで受ける」

ライフ4⇨3

 

 

颯爽と飛び出したアルマジモンの体当たりが明日香のライフを1つ破壊する。

 

 

「次だ!ディグモン!」

 

 

ドリルを回転させながら走り出すディグモン。そしてこのタイミングで雅治は今一度【アーマー進化】を行う。

 

 

「フラッシュ!サブマリモンの【アーマー進化】発揮!対象はアルマジモン!1コストを支払い、サブマリモンを召喚!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ1⇨2

サブマリモンLV1(1)BP5000

 

「!!」

 

 

アルマジモンの頭上に再び独特な形をした卵が投下される。アルマジモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化していく。そして現れたのは青属性の潜水艦のようなアーマー体スピリット、サブマリモンだ。

 

 

「サブマリモンの召喚時効果!コスト4以下のスピリットを1体破壊!ガジモンだ!」

「!!」

 

 

サブマリモンの魚雷が発射される。ガジモンはそれを避けられるわけもなく、直撃し、爆発を引き起こした。

 

 

「ディグモンのアタックは継続中!」

 

「……………ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

再びディグモンのドリルアタックが明日香のライフを削り取った。

 

 

「サブマリモン!」

 

 

雅治の命令を聞くや否や発進するサブマリモン。

 

そして、

 

 

「ライフで受ける」

ライフ2⇨1

 

 

サブマリモンの一角のツノが、明日香のライフに突き刺さり、それを1つ破壊した。

 

 

「よし!後1つだ!……ターンエンド!」

ディグモンLV2(2)BP6000(疲労)

サブマリモンLV1(1)BP4000(疲労)

天使キューリンLV1(1)BP1000(回復)

 

華黄の城門LV1

 

バースト無

 

 

アーマー体の【アーマー進化】による怒涛の連続攻撃、それが綺麗に決まり、わずか5ターン目にして明日香のライフを1まで追い込んだ雅治。

 

これは勝った。雅治は思わずそう思ってしまった。バトルにおいて、なによりも慢心はダメだというのに、

 

 

[ターン06]明日香

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨11

トラッシュ5⇨0

 

 

「へぇ、なかなかやるじゃない、……………でも私に勝てない」

「!?!」

 

 

雅治は驚いた。この明日香という女性がこの絶対絶命である状況にもかかわらず冷静でいられることに。寧ろその冷たくて棘のある声色は逆に自分にプレッシャーを与えているように感じる。

 

だが、ライフ差も場の差も圧倒的、ここからの巻き返しなど俄かには信じがたい、

 

 

「メインステップ、クリスタニードルを2体召喚…………」

手札6⇨4

リザーブ11⇨9

 

 

明日香が召喚したのは小さい蛇型のスピリット、クリスタニードルだ。

 

そして明日香はここからさらに展開する。自分が認める最強スピリットを、父である紫治城門から直接譲り受けた紫の完全体を。

 

 

「闇へ誘え…………ヴァンデモンをLV3で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ9⇨1

トラッシュ0⇨3

 

「!!……ヴァンデモン…………」

 

 

羽ばたく黒い蝙蝠達が密集していく。それが混ざり合い、合併して現れたのはまるでヴァンパイア。その名の通り吸血鬼のような完全体スピリット、ヴァンデモンだ。その存在感は雅治の場のスピリット達を恐怖させる。

 

 

「…………そう、これが私のエース、……ヴァンデモンよ」

「………………っ!」

 

 

雅治自身も思わずその場でたじろいだ。何という威圧感だろうか、あんなに表情は飄々としているというのに、それが存在しているだけで息が苦しい。

 

そして明日香はこのヴァンデモンでアタックを仕掛ける。

 

 

「アタックステップ…………いきなさい、ヴァンデモン……………アタック時効果であなたはこのバトルでは自分のスピリットのコアを1つトラッシュに置かないとブロックできない」

「………!!」

 

 

ヴァンデモンの効果だ。完全体のスピリットでのアタックは相手にプレッシャーを与える。

 

だが、そんなの軽いものだ。ヴァンデモンの本領はこれから発揮されるのであって、

 

 

「さらにヴァンデモンのもう1つのアタック時効果、相手の手札を1枚破棄するっ!」

 

「!?!……蝙蝠!?……うわっ!!」

手札6⇨5

破棄カード

【タイムリープ】○

 

 

雅治の手札にまとわりついてきたのは、ヴァンデモンが放った黒ずんだ蝙蝠の群れ。それらは瞬く間に雅治の手札を1枚破棄させた。

 

問題なのはその破棄されたカードであって、

 

 

「この時、破棄されたのがマジックカードであれば、さらに相手のライフをリザーブに送るっ!タイムリープはマジックカード!………喰らいなさい!蝙蝠達の一撃を!」

 

「!?!……ぐっ!」

ライフ5⇨4

 

 

黒ずんだ蝙蝠達は今度は雅治のライフをも狙いに行く。そのままそれを1つ破壊した。

 

そしてそれが過ぎ去った後、雅治の目の前には本命のアタックであるヴァンデモンの姿が現れており、

 

 

「ヴァンデモンのアタックは継続中よ」

 

「………これもライフだ…………ぐっ!」

ライフ4⇨3

 

 

ヴァンデモンの鉤爪による強烈なひっかく攻撃が雅治のライフをまた1つ引き裂いた。

 

 

「ふふ、ターンエンドよ」

ヴァンデモンLV3(5)BP12000(疲労)

クリスタニードルLV1(1)BP1000(回復)

クリスタニードルLV1(1)BP1000(回復)

 

ムゲンマウンテンLV1

ムゲンマウンテンLV1

 

バースト無

 

 

2体のクリスタニードルをブロッカーとして残し、不気味な笑みを浮かべながらそのターンを終えた明日香。まるで余裕であると言わんばかりに。

 

確かにこのターンのアタックはすごいと言わざるを得なかっただろう。だが、結果はたった5つあるライフを2つ減らしただけに過ぎない。

 

ブロックできるスピリットもたった2体しかいないと言うのに、次の雅治のターンをどう凌ぐというのか、

 

あの紫治一族の末裔でおそらく夜宵以上の実力者である彼女がたったこれだけの実力であるとは、雅治には到底思えないことであって、

 

 

[ターン07]雅治

「スタートステップ時、華黄の城門の効果、再びアルマジモンを手元へ、カードをドロー」

手札5⇨4⇨5

【アルマジモン】

 

 

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

ディグモン(疲労⇨回復)

サブマリモン(疲労⇨回復)

 

 

兎に角はやくこのバトルを終わらせて椎名を助けに行かなければ、雅治はそう思って、また攻め急ぐことになる。

 

 

「メインステップ!手元よりアルマジモンを再召喚!さらに手札からはパタモンを召喚するっ!」

手札6⇨5

リザーブ5⇨3⇨1

トラッシュ0⇨1⇨2

 

 

雅治は展開した。手元より、いつものアルマジロ型のスピリット、アルマジモンと、耳で空を飛べる哺乳類型の成長期スピリット、パタモンを、

 

まだ展開は続く、…………それは3度目の【アーマー進化】だ。

 

 

「さらにペガスモンの【アーマー進化】を発揮!対象はパタモン!1コストを支払い、希望の天馬、ペガスモンをLV1で召喚するっ!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ2⇨3

ペガスモンLV1(1)BP5000

 

 

今度はパタモンに独特な形をした卵が投下される。パタモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化を果たす。そして新たに現れたのはペガサスのようなアーマー体スピリット、ペガスモン。

 

 

「ペガスモンの召喚時及びアタック時効果!相手のスピリット1体をBPマイナス3000して、0になったらそれを破壊する!………クリスタニードル1体をマイナスする!」

 

「……………」

クリスタニードルBP1000⇨0(破壊)

 

 

ペガスモンの前脚から放たれる聖なる光線が、明日香の2体のクリスタニードルのうち1体を貫く。クリスタニードルは瞬く間に消滅してしまうが、

 

 

「クリスタニードルの破壊時効果により、華黄の城門を破壊」

「……………」

 

 

クリスタニードルが消滅する直前に放った毒ガスが、雅治の華黄の城門を徐々に浸食していく。

 

そしてそれは消え去っていく。クリスタニードルは破壊時、又は消滅時に紫にしては珍しいネクサス破壊効果を発揮する。

 

だが、雅治とてそれをちゃんと理解していた。もはや華黄の城門など不必要だ。この体数差でゴリ押しできる。

 

 

「アタックステップ!ペガスモンでアタック!再び同じ効果を発揮させ、クリスタニードルを破壊するっ!」

 

「……………」

クリスタニードルBP1000⇨0(破壊)

 

 

再び放たれるペガスモンの聖なる光線。明日香の場にいる残ったクリスタニードルもそれを受け、破壊されてしまった。

 

 

「よし!いけぇ!ペガスモン!」

 

 

当然、ペガスモンのアタックは継続される。その優雅な翼で飛び立つペガスモン。目指すは明日香の最後のライフだ。

 

雅治の場には、アタックできるスピリットが合計4体いる。これは勝った。と、雅治が考えた時だった。明日香が自分の手札から1枚のカードを引き抜いたのは………

 

 

「……………フラッシュマジック、………ナイトレイドを使用」

手札3⇨2

リザーブ3⇨1

トラッシュ3⇨5

 

「!?!」

「ナイトレイドは相手のスピリット3体からコアを1つずつリザーブに送る。この時、ヴァンデモンがいるならさらに置く場所をトラッシュへと変更する…………」

「な、なんだって!?」

「私はアルマジモン、サブマリモン、ペガスモンからそれぞれコアを1つずつトラッシュへ送るっ!」

 

「………………ぐっ!」

アルマジモン(1⇨0)消滅

サブマリモン(1⇨0)消滅

ペガスモン(1⇨0)消滅

トラッシュ3⇨6

 

 

ヴァンデモンの手から放たれる無数の蝙蝠達が、今度は雅治の3体のスピリット、アルマジモン、サブマリモン、ペガスモンを襲う。3体ともコアを全て抜き取られてしまい、その場から消滅してしまった。

 

 

「さらにこの効果で消滅したスピリットの体数分デッキからドローできる…………3体消滅したから3枚ドローね」

手札2⇨5

 

 

場のアドバンテージどころか手札のアドバンテージも一気に逆転する明日香。

 

だが、忘れてはならない。まだ雅治の場にはアタックできるディグモンがいることを。

 

 

「………でもまだ僕の場にはディグモンがいる!いけぇ!」

 

 

三たびドリルを回転させながら走り出すディグモン。目指すは明日香のライフだが、

 

雅治はこの紫治明日香という人物がどれほどの強敵であったかを理解することになる。それは正直言ってバトスピ一族の学生とは思えないほどのものであった。

 

 

「……………残念ね、この程度だなんて、」

「!?!」

 

 

そう言って、呆れた表情のまま、明日香はまた手札のカードを1枚引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック…………反魂呪………トラッシュの夜族スピリットをノーコスト召喚する」

手札5⇨4

ヴァンデモン(5⇨3)LV3⇨2

トラッシュ5⇨7

 

「トラッシュの夜族……………!?!ま、まさか!」

 

「そう、そのまさかよ…………トラッシュより2体目のヴァンデモンを召喚!」

ヴァンデモン(3⇨2)LV2⇨1

ヴァンデモンLV1(1)BP7000

 

 

地面にめいいっぱいドス黒い闇が広がっていく。その中でゆっくりと姿を現したのは明日香の持つ2体目のヴァンデモン。このカードはガジモンの召喚時効果で事前にトラッシュへと落とされていたものだ。

 

この時点で雅治はこのターンでバトルに決着をつけることができなくなった。そして明日香はここからさらに畳み掛ける。信じられないカードをこの場で使用した。

 

 

「……………煌臨発揮…………対象は2体目のヴァンデモン」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ7⇨8s

 

「………!!」

 

 

反魂呪の効果で召喚されたヴァンデモンに悍ましいほどの闇が取り付いていく。それはどんどん肥大、巨大化していき、ヴァンデモンを新たなるデジタルスピリットへと進化させていく。

 

雅治はたった今気づいた。【紫治明日香は完全体まで使用できるランク3ではない】と言うことに。それはこの世界においては本当に信じられないことであって、

 

 

「…………ま、まさかあなたは…………っ!!」

「……………そうよ、私の指定されたランクは……………4」

「!?!」

 

「さぁ!暗黒の裁きを下せ!究極進化!!………………ヴェノムヴァンデモン!!」

手札4⇨3

ヴェノムヴァンデモンLV1(1)BP11000

 

 

その闇が一気に取り払われた。そしてそこにいたのは完全体のヴァンデモンがさらに進化した究極体のデジタルスピリット、ヴェノムヴァンデモンだ。その巨大な体は雅治に確かな恐怖を与えていた。

 

通常、デジタルスピリットを制限しているバトスピ一族と言うものは学生のレベルではどうあがいても完全体までしかその使用を許されることはない。それは強すぎる力を未熟な学生のうちに与えてしまってはならないという考えから来たものだ。

 

だが、この紫治明日香はどう言うことか、それを超えた究極体までの使用が許されているランク4まで到達していた。この世界においては全くもって考え付かないことであった。

 

 

「ら、ランク4だって!?そんな馬鹿な!?」

「私は特別なの………初めからランク3だと思って戦ってたあなたの負けよ、長峰雅治」

 

 

ここで頭が1個も2個分も抜けたヴェノムヴァンデモンの煌臨時効果が発揮される。

 

 

「ヴェノムヴァンデモンの煌臨時効果!相手のスピリットのコア3をトラッシュへ送る!これにより残った2体のスピリットのコアを全てトラッシュへ!」

 

「!?!」

天使キューリン(1⇨0)消滅

ディグモン(2⇨0)消滅

トラッシュ6⇨9

 

 

ヴェノムヴァンデモンから放たれる闇のエネルギー、それが雅治の場のディグモンと天使キューリンに直撃した。2体はコアを抜き取られ、その場から消滅してしまう。

 

たった1ターンだ。僅か1ターンの間で雅治の場を全て消滅どころかコアまでも全てトラッシュ送りにしてしまった。これで次のターン。雅治は反撃のしようがなくなる。

 

あんなに押していたと言うのに、あんなに勝ちが見えていたと言うのに。一瞬にしてそれは遠のき、逆に負けという絶望が見えてしまった。

 

ヴェノムヴァンデモンは雅治からスピリットと同時に戦意までもを奪い取ってしまった。

 

 

「……………た、ターン…………エンド」

バースト無

 

 

何もすることがなく、雅治は絶望を抱えたままそのターンを終えてしまった。次は明日香のターンだ。

 

 

[ターン08]明日香

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

 

 

「ドローステップ…………っ!?!……」

手札3⇨4

 

 

明日香はそのドローカードを見て思わず目を見開き、驚いた。手札にスピリットがいないのだ。このままではこのターンでは決められない。最悪雅治のライフは3。場にいるヴァンデモンの効果でマジックカードが落とせれば決めることができるが、

 

それでも手札にアタックステップを終わらせるタイプのマジック程度しかないのが彼女にとっては腑に落ちないことであって、

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨9

トラッシュ8⇨0

ヴァンデモン(疲労⇨回復)

 

 

「………メインステップ、全てのカードのレベルをマックスに」

リザーブ9⇨0

ムゲンマウンテン(0⇨1)LV1⇨2

ムゲンマウンテン(0⇨1)LV1⇨2

ヴァンデモン(2⇨5)LV1⇨3

ヴェノムヴァンデモン(1⇨5)LV1⇨3

 

 

自身のカードにコアが置かれ、その影響で力が上昇する明日香の2体のスピリット。そして恐怖のアタックステップが幕を開ける。

 

 

「アタックステップ!いきなさい!ヴァンデモン!アタック時効果!相手の手札を1枚破棄!」

 

「………」

手札5⇨4

破棄カード

【パタモン】×

 

 

再びヴァンデモンの効果で蝙蝠の群れが飛び上がる。それは雅治の手札を襲い、それを1枚はたき落とすが、それはマジックカードではない。ライフの破壊までには至らなかった。

 

 

「ちぃっ、マジックじゃないのね」

 

 

その結果に思わず舌打ちをしてしまう明日香。だが、ヴァンデモンのアタックは有効。そのまま翼を広げ、飛翔し、雅治のライフを狙う。

 

 

「……………ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

ヴァンデモンは雅治のライフを殴りつけて破壊した。

 

雅治にもう戦意はなかった。もう負けだ。ただただそれだけを考えていた。自分の力ではどう足掻いてもあの人には勝てない。と。

 

 

「…………ターンエンド」

ヴァンデモンLV3(5)BP13000(疲労)

ヴェノムヴァンデモンLV3(5)BP16000(回復)

 

ムゲンマウンテンLV2(1)

ムゲンマウンテンLV2(1)

 

バースト無

 

 

そのターンを終える明日香。次はもう戦う力など残っていない雅治だ。

 

彼がターンを始める前に、明日香は唐突にこんなことを言ってきた。それはなんの突拍子もなく、自然に、かつ、淡々と、

 

 

「あなた、自分がなんで【界放リーグ】の予選にでなかったか、わかる?」

「………………」

 

 

なぜ夜宵の姉が自分が【界放リーグ】の予選すら参加していないことがわかるのか、雅治は少しだけそう思ったが、もはやそんなことどうでもよかった。

 

どちらにせよ明日香の口は止まらない。その理由を単刀直入に述べていく。

 

 

「…………あなた、あの芽座椎名とか言う娘が好きなんでしょ?」

「…………!!」

 

 

これには少し反応した。そしてさらに明日香は続けて、

 

 

「あなたはあの娘の前でかっこ悪いとこを、負けるとこを見せたくないがために、体が勝手に参加を拒んだのよ」

「…………!!!」

 

 

あぁ、これでようやく謎が解けた。自分が【界放リーグ】に出場しなかった理由が、いや、本当は初めからそんなことわかっていた。ただ、自分の心の中では納得していなかっただけだ。

 

【好きな娘の前で無様に負けたくない。】自分がそんなことを考えるようになってしまったのは、ジークフリード校でヘラクレスとバトルした時か、いくら相手が相手とは言え、辛かった。椎名の前で、好きな娘の前で敗北するのは、

 

今思えばなんと恥ずかしくてだらしない理由だろうか、参加した者達は皆、自分自身のプライドのみを持って戦ったと言うのに。自分はそんな低俗な理由で参加すらしなかったのだ。なんと愚かだろうか。

 

 

「情けないわねぇ、そんな理由で不参加だなんて、…………今頃あなたの愛しの女の子は、間違いなく始末されているわよ」

「!?!」

 

 

雅治は理解した。今、自分が負けてはいけないことを。思い出した。椎名を助けなければならないことを。そんな小さな羞恥心など捨て去って早くこの場を通らなければならないことを。

 

 

「…………そ、そうだ………僕は意地でも椎名を助けないといけないんだ!こんなところで立ち止まってなんかいられない!」

 

 

そう思うだけで、叫ぶだけで、体中の力がみなぎってくる。戦意を増幅させる。不思議と負ける気がしなかった。「勝てる」ただそのことだけを考えられるようになった。

 

ーそんな時だ。彼のデッキが声に応えたのは、

 

 

「…………で、デッキが」

 

 

黄色く光輝いていた。目で直視できないほどの溢れんばかりの光量だ。これはあの【界放リーグ】で、司が引き起こしたあの現象に酷似している。

 

間違いない、これはあの時と同じものだ。

 

 

(………来たわね、オーバーエヴォリューション!やはりこの子が)

 

 

思わず笑みをこぼした明日香。そう、これが見たかったのだ。雅治を煽ってまで引き起こしたかった。我が父の悲願の願いを達成させるためにどうしてもこの力が必要なのだ。

 

この【オーバーエヴォリューション】の力が、

 

 

「こ、これはあの時と全く同じだ…………デッキが僕の声に応えている………!?」

 

 

雅治は思わずそう思ってしまった。そうだ、【オーバーエヴォリューション】とはバトラーとそのデッキの絆が頂点に達した時に行われる現象。雅治の椎名を助けたい想いがデッキに表れたのだ。

 

不思議と雅治はもう負ける気がしなかった。

 

ーこの勝負…………勝てる

 

 

「僕のタァァァアン!」

 

 

雅治は勢いよくターンを始める。

 

 

[ターン09]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

 

 

「ドローステップ!…………!!」

手札4⇨5

 

 

雅治はその【オーバーエヴォリューション】で新たに創生されたカードをドローした。そのカードはやはり見たことも聞いたこともないカードであって、

 

だが不思議とそのカードの絵を見ただけで使い方が頭に流れてくる。初めて見たにもかかわらず。まるで今までもずっと一緒にいたかのように。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨11

トラッシュ9⇨0

 

 

「メインステップ!僕はエンジェモンとアンキロモンを召喚!」

手札5⇨3

リザーブ11⇨0

トラッシュ0⇨8

 

 

雅治が初めに召喚したのは気高き天使型のデジタルスピリット、エンジェモンと、鎧のような硬い皮膚を持つ恐竜のようなデジタルスピリット、アンキロモンだ。

 

この2体はいずれも成熟期のデジタルスピリットである。

 

 

「これで準備は整った」

「!?!」

 

 

これだけ見ると、ただ破壊されるだけの成熟期を召喚しただけだ。だが、明日香は悟った。間違いなくここで新たなるカードが、【オーバーエヴォリューション】によって得た新たな力が召喚されると。

 

 

「僕はこのカードの効果、【ジョグレス進化】を発揮!対象はエンジェモンとアンキロモン!この2体を手札へと戻し、新たな姿へと進化させる!」

手札3⇨4

 

「!!!?!」

「鉄壁の竜と勇敢なる天使が混じり合う時、そこに新たなる希望が宿る!ジョグレス進化ぁぁあ!!」

 

 

飛び立つエンジェモンとアンキロモン。この2体は衝突し、混ざり合い、新たなる姿へと進化していく。デジタルコードが混ざり、新たに誕生したのはまるで土偶のような見た目に天使のような翼が生えた完全体のデジタルスピリット、

 

 

「シャッコウモン!!!!」

シャッコウモンLV2(3)BP10000

 

「……………こ、これが【オーバーエヴォリューション】のカード………っ!」

 

 

雅治の場に新たに降り立ったのは鋼の天使、シャッコウモン。その体格はヴェノムヴァンデモンにも勝にも劣らない。

 

そしてシャッコウモンには召喚時効果がある。雅治はそれを存分に発揮させる。

 

 

「シャッコウモンの召喚時!相手のスピリット全てのBPをマイナス5000!そして0になったらそれらを破壊するっ!」

「ふんっ!たかだか5000!誰も破壊はされないわよ!」

 

 

そう、明日香の2体のスピリットはいずれも10000を超えている。弱体化はしても0になることはない。

 

だが、それは普通の召喚での話であって、雅治はさらに発揮させる。【ジョグレス進化】によって得られるシャッコウモンの本当の力を。

 

 

「この時!シャッコウモンが【ジョグレス進化】で召喚されていたのなら、このマイナス効果にさらにマイナス15000させる!」

「………………な、なんですって!?!」

 

 

つまりはマイナス20000だ。これを受けて、そうそう生き残るスピリットなどいないだろう。

 

シャッコウモンは両目にエネルギーを溜める。

 

ーそして、

 

 

「いけぇ!シャッコウモン!闇を解き放てぇ!アラミタマァァァア!!」

 

「!!!!!」

ヴァンデモンBP13000⇨0(破壊)

ヴェノムヴァンデモンBP16000⇨0(破壊)

 

 

シャッコウモンの両目から照射される赤い光が、明日香の場のスピリット達を包み込んでいく。

 

それらは一瞬のうちにその光で溶解されてしまった。

 

そしてこの勢いのまま雅治はアタックステップへと移行する。明日香の残った1つのライフを破壊するために。

 

 

「トドメだ!アタックステップ!シャッコウモンでアタックだ!」

 

 

今度は明日香のライフにその光が当たる。

 

そしてついにその遠かった残り1つのライフを…………………

 

 

 

「なるほど、…………やるじゃない……ライフで受けるわ」

ライフ1⇨0

 

 

減らした。完全に破壊した。明日香のライフを光で包み込むように押し潰した。

 

 

「…………か、勝った………」

 

 

強敵だった明日香を、雅治は満身創痍になりながらもなんとか新たなるジョグレス体の力で勝利を収めた。が、次の瞬間。

 

 

「おめでとう、長峰雅治。……………私が言えた口じゃないけど最後にこれだけは言い残すわ……………」

「………………え!?」

 

 

明日香が最後に残した言葉はとても意外で、これまでの彼女からは信じられないような言葉であった。

 

ーそして、

 

 

「……………た、頼むわ、よ」

「…………!?!」

 

 

雅治は驚いた。

 

それもそのはず、何せ、たった今バトルで敗北した夜宵の姉、紫治一族の長女、紫治明日香が最後に自分に捨て台詞を吐くなり、自分の目の前で倒れこんだのだから、まるで気を失ったかのように。

 

いや、どちらかといえば、魂だけが抜け取られた。そんな感じだった。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【シャッコウモン】!!」

「シャッコウモンはシルフィーモンと同じ完全体で、ジョグレス進化で召喚できるスピリット!その召喚時に相手のスピリット全てのBPを下げることができるよ!」








最後までお読みくださり、ありがとうございました!
※ガジモンの召喚時効果が少し違ったので少し訂正しました。


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第31話「無敵合体!至高の竜戦士パイルドラモン!」

 

 

 

 

 

 

 

ここはジークフリード校、今日は文化祭真っ只中だと言うのにもかかわらず、椎名と真夏の担任教師、空野晴太は生徒達の写真撮影を放ったらかして、ある人物とBパッドで通話していた。それは彼にとってはとても馴染み深い人物であって、

 

 

「…………え!?【ジャンクゾーン】に学園の生徒達が出入りしている?……………わかりました直ぐに俺も行きます」

 

 

驚きながらも、晴太は最後にそう言って通信を消した。そう言えばミスコンの途中で椎名がいなくなっていたことを同時に思い出す。晴太は何か関係があるのではないかと睨んだ。

 

その予想はほぼ的中している。何がどうあれ、晴太もその知人と共に無法地帯、【ジャンクゾーン】へと早急に赴いたのであった。

 

 

******

 

 

「………真夏、………兄ちゃん連れて早く病院に行って」

「え!?」

 

 

場所は変わり【ジャンクゾーン】。Bパッドを展開し、「バトルしろ」と言わんばかりに突きつけてくる夜宵を見ながら椎名は真夏にそう言った。

 

真夏はその言葉に困惑する。

 

 

「で、でも」

「大丈夫、………夜宵ちゃんは私が止める」

「……………わかった、………必ず無事でおりや」

「………オッケー」

 

 

真夏は正直椎名のことが心配で仕方なかったことだろう。そもそもそれが目的でここまで来たのだから。

 

だが、同時にこんな状態である自分の兄も放っておけるわけがない。最悪ここには司もいる。ここは彼に任せようと思い、真夏は疲れ切ったヘラクレスに肩を貸しながらこの場を離れた。

 

この【ジャンクゾーン】の広場で、椎名、司、夜宵の3人だけとなった。

 

 

「………いいのかめざし」

「?」

「夜宵はどう言うわけか、お前に【オーバーエヴォリューション】を引き起こさせようとしている………バトルすればあいつの思うツボだ」

「……………そうかもね、でも私がここで夜宵ちゃんを止めないと今度はヘラクレス以外の別の誰かがあんな目にあうかもしれない……………だったら私がそれを止めないと」

 

 

 

司が椎名にそう言った。そうだ。【オーバーエヴォリューション】はバトルの最中にしか起きない。司の言う通り、夜宵とバトルしてしまえば彼女の思うツボなのだ。

 

だが、同時に椎名は感じていた、自分の責任を。自分という存在のせいで真夏の兄が、ヘラクレスがあそこまでひどい怪我を負ったことを。

 

そうだったのなら間違っていてもここで夜宵を止めないといけない。

 

司も本当はこれを止めたかったことだろう。だが、仮に自分が夜宵とバトルしようとしても既に覚醒済みの自分では夜宵はバトルしたがらない。どうすることもできなかった。今はただそれを見ることしか、

 

 

「勝負だ夜宵ちゃん!お望みであれば【オーバーエヴォリューション】なんていくらでもやってやる!私が勝ったらもうこんなことは二度としないって約束して!」

「あら、覚醒してくれるの?嬉しい……………じゃあ始めましょうか」

 

 

椎名もBパッドを展開した。デッキを置き、デジタルコアも出現させ、始まる。2人の二度目のバトルが、

 

 

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

始まった。

 

ー先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札に4⇨5

 

 

「メインステップ、ガンナー・ハスキーを2体召喚してターンエンド」

手札5⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(回復)

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

現れたのは2匹の猟犬のようなスピリット、ガンナー・ハスキー。その背には拳銃を所持するために青い筋肉質な腕が生えている。

 

先行の第1ターン目などやれることが限られてくる。椎名はこれだけでターンを終え、夜宵に渡した。

 

 

[ターン02]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、ネクサス、No.3ロックハンドを配置してターンエンド」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

 

No.3ロックハンドLV1

 

バースト無

 

 

夜宵の背後に巨大な手の形をした山々が連なる。これは夜宵のデッキにとってはなくてはならないネクサスカードであって、

 

だが、それを配置することにより、次のターン椎名の速攻を受けることは承知していた。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨3

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ、猪人ボアボアを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨0

トラッシュ0⇨1

 

 

椎名がメインステップに入るなり颯爽と呼び出したのは猪頭の獣人、ボアボア。武器として鎖付きの鉄球を所持している。

 

 

「アタックステップ!」

 

 

椎名はアタックステップに入る。夜宵を元に戻すため、フルで、全力でアタックを仕掛ける。

 

 

「夜宵ちゃんにとって!……そんなにお父さんの願いが大事なのッ!?」

 

 

椎名の言葉と共に2体のガンナー・ハスキーが走り出す。狙うは夜宵のライフ。

 

たしかに馬鹿げている。いくら実の父の願いを叶えるためとはいえ、ここまでのことを仕掛けるのは、椎名達側からしてみればまったくもっておかしなことであって、

 

だが、彼女の父、城門の願いこそ、自分たちの願いでもあるのだ。

 

 

「……………ライフで受ける」

ライフ5⇨3

 

 

ガンナー・ハスキー達の拳銃による乱射で夜宵はそのライフを2つも破壊された。

 

 

「…………ボアボア!」

猪人ボアボア(2⇨3)LV1⇨2⇨3

 

 

鎖付きの鉄球を投げ飛ばすボアボア。その効果でレベルとコアを増やした。

 

そして夜宵はそれをライフで受けると共に語った。父、城門の願いを、それが自分たちにとってどんなに大切かを、

 

 

「………ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

ボアボアの鎖付き鉄球が夜宵のライフを1つ粉々にした。

 

 

「…………簡単なことよ、父である城門の願いこそ、私たち姉妹の願いでもあるのだから」

「……………!?」

 

 

夜宵はその口からその欲望を語った。それは椎名と司を驚愕させるにはあまりにも十分すぎるものであって、

 

いや、それは普通の反応であっただろう。どうしても一般的な考え方とは思えない。

 

ーそれは、その内容とは、

 

 

 

「………………私の母、………【紫治亜槌(しちあずち)】をこの世にもう一度生き返らせること…………」

「……………え」

「…………何言ってんだ夜宵………!?」

 

 

そう、その願いとは紫治城門の妻であり、夜宵、明日香姉妹の実の母である【紫治亜槌】の蘇生。

 

【紫治亜槌】は10年前、交通事故でその命を落としている。

 

人が生き返るなど、正直馬鹿げている。思わず呆気に囚われる椎名達。だが、それを話している夜宵の目は明らかに嘘をついていない。本気である。

 

 

「…………お母様を蘇らせるためにはあなた達オーバーエヴォリューションに目覚める3人の力が必要なの」

「………………3人?」

 

 

司はその夜宵の発言に考えさせられた。【3人】という単語に、今、間違いなく狙いは自分とこの芽座椎名だ。つまり後1人いる。オーバーエヴォリューションに目覚める者が、

 

ヘラクレスか、いや、違う、それなら夜宵が間違いなくあんな簡単に逃がしたりはしなかっただろう。だったら、考えられる人物はただ1人…………

 

 

「…………雅治!」

「そう、流石司ちゃん、後1人は雅治君。姉に任せているわ」

「…………あの時のあいつか」

 

 

最初から狙いは自分と椎名と雅治の3人であることに気づいた2人。

 

 

「夜宵ちゃん!だったらなんで何も言ってくれないの!?事情さえ知ってれば協力だったらいくらだってするのに!!」

 

 

死んだ人は二度と動かないし、蘇らない。それは生き残った家族や友人達にとっては苦痛である。それが実の母であったのならその夜宵の心の傷というのは尚のこと深いことだろう。

 

椎名は母親の顔を知らない。ゆえにこの発言が出せるのだろうか。協力できるなら夜宵の母を生き返らせたい。そう思ったのだ。

 

だが、

 

 

「…………普通の方法じゃないんだろ?」

 

 

司がそう言った。椎名の発見に黙り込んだ夜宵を見て、悟ったのだ。大雑把だが、それがどんな方法か、

 

 

「………!?………どういうこと!?」

「人を生き返らせるほどだ、おそらく俺たちの命を代償にでも使う気だったんじゃないのか?」

「…………っ!?!そんな!?」

 

 

人の、生物の命はなによりも重たいものだ。それを蘇生するとするのならばそれなり代償がいると司は考えていた。

 

椎名も少し思い出した。ここに来た時、夜宵は椎名に【生贄に選ばれた】と言っていた。もしそれがそっくりそのままの本当の意味なら……………

 

 

「えぇ、代償はあなたたち3人の魂」

「………!?」

 

 

ビンゴだ。司の予想はほぼ的中している。代償は自分たち3人の命。それでようやく紫治亜槌が蘇るのだ。

 

椎名は心が苦しかった。どうしても夜宵に同情してしまう。自分だけの命だったらどれだけ良かったことだろうか、椎名は間違いなくこのことに雅治と司が絡んでなかったらそれが間違っているとわかってても自分の命を差し出したことだろう。

 

何せ、自分の命1つで夜宵の大切な人が生き返ってくれるのだから。

 

 

「長くなったわね、じゃあ、椎名ちゃん…………続きを」

 

「……くっ!……ターンエンド」

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(疲労)

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000(疲労)

猪人ボアボアLV2(3)BP4000(疲労)

 

バースト無

 

 

椎名はやれることを全て失い、そのターンを終えた。

 

次は夜宵のターンだ。

 

 

[ターン04]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

 

 

「ドローステップ時、No.3ロックハンドの効果、手札の呪鬼スピリットカード1枚を破棄することでその枚数を2枚増やす………オーガモンを破棄」

手札4⇨3⇨6

破棄カード

【オーガモン】

 

 

No.3ロックハンドの効果は強力なものだ。夜宵のデッキならばトラッシュに落ちたカードも無駄にはならない。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨9

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、ピコデビモンをLV2で召喚………その召喚時効果でカードを1枚ドロー」

手札6⇨5⇨6

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨2

 

 

夜宵がこのバトルで初めて召喚したのは小さなコウモリのような小悪魔、ピコデビモンだ。そのシキツル互換の効果でカードをドローした。

 

さらに夜宵はここからアタックステップへと移行する。いつもの動きだ。だが、これから行われるのはいつも以上に強力なものであって、

 

 

「ピコデビモンの【進化:紫】を発揮!………ピコデビモンを手札に戻し、紫の成熟期スピリット、デビモンを召喚!」

デビモンLV2(2)BP7000

リザーブ4⇨5

 

 

ピコデビモンはその0と1の自身のデジタルコードを変換させ、姿形を変えていく。そして新たに現れたのは悪魔のようなスピリット、デビモンだ。

 

 

「………………!!」

「アタックステップは継続!デビモンでアタック!」

 

 

その古びた黒い翼で飛び立つデビモン。そしてそのアタック時効果を発揮させる。デビモンの手に闇の瘴気が溜められ、それがとは放たれる。

 

 

「デビモンのアタック時効果でトラッシュのオーガモンをLV3で復活!」

オーガモンLV3(5)BP12000

 

 

その中から現れたのは鬼型の成熟期デジタルスピリット、オーガモンだ。その力強い腕で棍棒を構えている。

 

ここまではいつもどおりだ。いつもどおりの夜宵のバトルの仕方だ。だが、彼女も成長している。強くなっている。それはデビモンのもう一つのアタック時効果を発揮させれば直ぐにわかることであって、

 

 

「…………さらに私はデビモンの【超進化:紫】を発揮!」

「…………え!?」

「夜宵はランク2のはず……………」

 

 

そう、夜宵はランク2だった。昨日までは、昨日、ようやく認められたのだ。父である城門に、完全体までの使用が許されるランク3に、

 

城門の野望を果たすため、ということもあるのだろう。どちらにせよ司と椎名にとっては素直に喜べる状況ではない。

 

デビモンに暗黒の瘴気が取り付いていく。それは徐々にデビモンの姿形を変えさせていく。

 

ーそして新たに現れたのは、

 

 

「レディーデビモンを召喚!」

レディーデビモンLV2(2)BP7000

 

 

その姿はまさしく女性型デビモンと言ったところか、紫の完全体スピリット、レディーデビモンがその禍々しいオーラを隠すことなく場に現れた。

 

 

「………夜宵ちゃんが……完全体を…………」

 

 

これがこんな状況ではなかったらどんなに喜べたことだろうか、何せ夜宵はあんなに父に認められようとしていたのだから、椎名はそのレディーデビモンの存在に余計に心苦しくなってしまう。

 

だが、そんな椎名に構うわけもなく、夜宵は無慈悲にレディーデビモンの召喚時効果を発揮させる。

 

 

「レディーデビモンの召喚時効果、疲労状態の相手スピリット1体を破壊してデッキからカードを1枚ドローする……………ボアボアを破壊」

手札6⇨7

 

「…………!!」

 

 

レディーデビモンは登場するなり凝縮した闇のエネルギー弾をボアボアに投げ飛ばした。ボアボアはそれに直撃してしまい、耐えられるわけもなく爆発してしまった。

 

 

「そしてアタックよ!レディーデビモン!」

 

 

今度はレディーデビモンが飛び立つ。

 

椎名のスピリットは全て疲労状態。ブロックはできなかった。

 

 

「……………ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

レディーデビモンの凝縮されたエネルギー弾が、今度は椎名のライフを襲い、それを1つ破壊した。

 

 

「…………ターンエンド」

レディーデビモンLV2(2)BP7000(疲労)

オーガモンLV3(5)BP12000(回復)

 

No.3ロックハンドLV1

 

バースト無

 

 

夜宵はそれでこのターンを終えた。

 

次は椎名のターンだ。

 

 

「………………夜宵ちゃんは本当にそれでいいの?私たち3人を犠牲にしてお母さん蘇らせて…………それで」

「…………!?」

「…………私はお母さんがいないから正直わからないとこもあるよ…………でもやっぱり犠牲の上に立つ命は間違ってる!!」

「…………!!…………あぁ、もう…………うるっさいなぁ!!」

「私はこのバトルに勝って夜宵ちゃんにわからせる!命の重さを!!」

 

 

夜宵は椎名の言葉に苛立ちを覚えるかのように頭を掻く。

 

そして椎名はターンを始める。本気だ。本気で夜宵を倒しにいくと、今、誓った。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨6

トラッシュ1⇨0

ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)

ガンナー・ハスキー(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、バーストをセットして、ブイモンをLV2で召喚!」

手札4⇨3⇨2

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

椎名の場にバーストが伏せられると同時に召喚されたのは小さな青き竜、ブイモン。額のブイの字を輝かせながらその召喚時を発揮させる。

 

 

「召喚時効果発揮!カードオープン!」

オープンカード

【猪人ボアボア】×

【マグナモン】○

 

 

効果は成功、椎名はマグナモンのカードを手札に加えた。だが、加えてすぐに進化はさせずに直ぐにアタックステップへと移行する。

 

 

「よし!マグナモンを手札に加え、アタックステップ!ブイモンでアタックだ!」

手札2⇨3

 

 

走り出すブイモン。だが、今の夜宵の場にはBPの高いオーガモンがブロッカーとして立っており、

 

 

「…………私がそんなこけおどしにかかるわけないでしょ!オーガモンでブロックよ!」

 

 

ここでブイモンのアタックをライフで受けて仕舞えば間違いなく【アーマー進化】による連続アタックをされてしまう。ならばと言わんばかりに夜宵はブイモンの相手にオーガモンを選択させた。

 

椎名は仕方なく手札のマグナモンの【アーマー進化】を使用させる。

 

 

「手札にあるマグナモンの【アーマー進化】を発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、黄金の守護竜!マグナモンをLV3で召喚!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ1⇨2

マグナモンLV3(4)BP10000

 

 

ブイモンの頭上に黄金の鎧を着た卵がゆっくりと投下されていく。ブイモンはそれを受け入れるように衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化していく。そして現れたのはロイヤルナイツが一体、マグナモンだ。

 

 

「……………マグナモン…………ねぇ」

「マグナモンの召喚時効果!相手の場にいる最もコストの低いスピリット1体破壊する!コスト4のオーガモンを破壊!……………黄金の波動!エクストリーム・ジハード!!」

「………………」

 

 

マグナモンの全身から放つ黄金の波動が、瞬く間にオーガモンを包み込んでいく。オーガモンはそれを受けて耐えられるわけもなく、消滅してしまった。

 

これで夜宵の場のブロッカーは全て排除した。

 

だが、いなくなったオーガモンに気づき、レディーデビモンが動く。

 

 

「レディーデビモンの効果!自分のスピリットが効果により場から離れたなら、相手のスピリットのコア1つをトラッシュへ送る!ガンナー・ハスキー1体を消滅させるっ!」

 

「!?」

ガンナー・ハスキー(1⇨0)消滅

トラッシュ2⇨3

 

 

またまたレディーデビモンの凝縮されたエネルギー弾が、今度はガンナー・ハスキーに直撃する。ガンナー・ハスキーが耐えられるわけもなく、あっさりと消滅してしまった。

 

 

「くっ!…………でもまだ数は足りてる!残ったガンナー・ハスキーでアタック!」

 

 

消滅していない方のガンナー・ハスキーでアタックを仕掛ける椎名。だが、夜宵に抜かりはない。手札のカードを引き抜き、反撃に出る。

 

 

「フラッシュマジック!抜魂幻糸!この効果で相手のスピリットのコアを1つリザーブへ!残ったガンナー・ハスキーのコアをリザーブへ置き、消滅っ!」

手札7⇨6

リザーブ5⇨3

トラッシュ2⇨4

 

「!!」

ガンナー・ハスキー(1⇨0)消滅

 

 

天空から光を放つ糸がガンナー・ハスキーの背に突き刺さる。そのままその生命力を奪い取り、それを消滅させた。

 

 

「さらにこの効果でスピリットが消滅したならカードを1枚ドロー!」

手札6⇨7

 

 

次々と椎名のスピリットがやられたいく。少なくともこのターンで勝利は無くなってしまった。だが、諦めない。椎名はマグナモンで果敢にアタックを仕掛ける。

 

 

「まだまだぁ!マグナモン!!」

 

 

肩のブースターで空を飛ぶマグナモン。狙うは当然夜宵のライフだ。その強固な装甲はスピリットとブレイブのこれ一切の効果を通さない。

 

飽くまでもそれだけではの話だが、

 

 

「フラッシュマジック!ソウルコアを使って、封臨禍斬を使用!」

手札7⇨6

リザーブ3s⇨0

トラッシュ4⇨7s

 

「!!」

「この効果で疲労状態になった相手のスピリット、マグナモンを破壊する!」

 

 

地面に広がる闇の瘴気。それは瞬く間にマグナモンを引きずり込み、飲み込んでしまった。

 

マグナモンでさえもこの状況は突破できない。

 

 

「……………ま、マグナモン………」

「ふふ、耐性に過信しすぎじゃない?」

 

 

マグナモンはたしかに強力な耐性効果を所持しているものの、それが完全であるわけではない。マジックなどのカードで簡単に対処される可能性もある。

 

椎名は焦りからか、それが身にしみているのをすっかり忘れ去っていた。

 

 

「……………ターンエンド」

バースト有

 

 

バーストだけを残し、椎名はそのターンを終えた。次は夜宵のターンだ。

 

 

[ターン06]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

 

 

「ドローステップ時、No.3ロックハンドの効果で手札の2枚目のオーガモンを破棄し、ドロー枚数を2枚増やす」

手札6⇨5⇨8

破棄カード

【オーガモン】

 

 

またオーガモンだ。2枚目のそれを破棄して、夜宵は手札を増やした。そしてスピリットを展開する。椎名の丸腰のライフを破壊するためだ。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

レディーデビモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、ピコデビモンを召喚!……さらに召喚時効果でカードをドロー」

手札8⇨7⇨8

リザーブ8⇨5

トラッシュ0⇨2

 

 

【進化】の効果により手札へと戻っていたピコデビモンが再度召喚された。その効果により夜宵は手札枚数を維持するが、それが仇となり、椎名のバーストが炸裂する。

 

 

「ここだ!相手の手札増加でバースト発動!グリードサンダー!!」

「!!」

「この効果で相手は手札を全て捨て、新たに2枚ドローしなければならない」

 

「………………」

手札8⇨0⇨2

 

 

青い稲妻が走る。それは瞬く間に夜宵の手札を捉え、大量のカードをまるごと破棄させた。手札とは可能性。それが少ないのは致命的だが、夜宵はもう手札などいらないと考えていた。それはこのメインステップ中で理由がわかることだろう。

 

 

「…………もう手札などいらないわ…………No.3ロックハンドのLVを2に上げる!」

リザーブ5⇨4

No.3ロックハンド(0⇨1)LV1⇨2

 

 

夜宵のロックハンドのLVが上昇する。そしてその効果も発揮させる。

 

 

「ロックハンドLV2の効果!ソウルコアを使用することでトラッシュから呪鬼スピリットを召喚する!…………この効果でデビモンを再召喚!」

リザーブ4s⇨0

トラッシュ2⇨4s

デビモンLV2(2)BP7000

 

「!!」

 

 

動き出すロックハンドの岩達、手の形をしたそれは地面をすくい上げる。そしてその手のひらにいたのはグリードサンダーによって手札から破棄されたスピリット、デビモンだ。再びそれがこの場に降り立った。

 

そして脅威のアタックステップが幕をあげる。

 

 

「アタックステップ!行きなさい!デビモン!そのアタック時効果でトラッシュのオーガモンを復活!」

No.3ロックハンド(1⇨0)LV2⇨1

オーガモンLV1(1)BP8000

 

 

再びデビモンはその闇の力を使用し、トラッシュからオーガモンを蘇生させた。

 

そしてそのまま椎名のライフを討つべく飛び立った。

 

 

「…………ライフで受ける!……………っ!」

ライフ4⇨3

 

 

デビモンの長い鉤爪の一撃が椎名のライフを1つ引き裂いた。

 

この時点で夜宵の合計スピリット数は4体。フルアタックで椎名のライフを全て破壊することが可能なのだ。

 

そのこともあってか、夜宵は何の躊躇もなく椎名のライフを破壊しに行く。

 

 

「次!オーガモン!!」

 

 

鬼型のオーガモンがその棍棒を振り回しながら椎名に迫ってくる。

 

だが、椎名とてただで負けるわけにはいかない。手札のカードを1枚引き抜きそのアタックを止めるべく使用する。

 

 

「フラッシュマジック!リアクティブバリア!!」

手札3⇨2

リザーブ6⇨2

トラッシュ3⇨7

 

「!!」

 

「この効果でこのアタックでアタックステップを終了させる!………オーガモンのアタックはライフだ!」

ライフ3⇨2

 

 

オーガモンの棍棒の一撃が椎名のライフに直撃し、それを1つ破壊するが、直前に椎名の放ったマジック、リアクティブバリアにより、その終わりに突如猛吹雪が立ち込める。夜宵の場のスピリットはこの吹雪の中ではアタックができない。

 

 

「くっ!しぶとい…………ターンエンド」

レディーデビモンLV2(2)BP7000(回復)

デビモンLV2(2)BP7000(疲労)

ピコデビモンLV1(1)BP1000(回復)

オーガモンLV1(1)BP8000(疲労)

 

No.3ロックハンドLV1

 

バースト無

 

 

夜宵は仕方なくそのターンを終えた。次は椎名のターンだ。

 

だが、椎名はその前に手ではなく口を動かした。

 

 

「……………やっぱ強いよ、夜宵ちゃんは…………スピリットを何度も倒しても直ぐに蘇らせちゃうし……………」

「……?………急に何を…………」

「でも人の命は紫のスピリット達みたいにポンポン蘇らせて良いものじゃないよ………………わかるでしょ?」

「!!」

 

 

椎名が夜宵に向けて話していることは紛れもない正論だ。それが全て正しい。いくら大切な人がいなくなったことが辛いとはいえ、人の蘇生など簡単にやってはならない。椎名の言う通り、紫のスピリットみたいに何度も復活したりはできないのだ。

 

ー受け入れるしかない。そんなことは初めからわかっている。だが、その思いを椎名に告げるのはまだ早い。夜宵はそう思った。

 

 

「私は夜宵ちゃんが好きだよ、…………私だけじゃない、司も雅治も、…………もう夜宵ちゃんには他にも大切にしてくれる人達がこんなにいっぱいいるんだ……………」

「………………」

 

 

もうやめてくれ、頭が痛い、泣きそうになる。夜宵はただただそれだけを考え、堪えた。わかっている。わかっているのだ。自分もこれまでの人生で出会ったみんなが大好きだ。それも紛うことなき本心だ。それがなければあんなアイドルじみた活動など続けたりしない。

 

 

「このバトル、私が勝ったら一緒にお父さんに言いに行こう…………もうこんなことやめようって…………きっと心の底からそれを伝えれば通じるよ」

 

 

椎名と司はもうとっくに気づいている。夜宵が本当はこんなことはしたくないことに。本当の脅威はおそらくその夜宵の心を縛り付けにしているであろう紫治城門だ。

 

だが、それでも必ず通じ合える。わかってくれる。椎名はただただそれだけを考えた。

 

ーそして、

 

 

「……………私のターン」

 

 

椎名が自分のターン宣言をすると同時にそのデッキが蒼い光で灯される。その光は今までのどの光よりも優しく澄んでいて、それでいて暖かい。その光を見て、椎名は驚きもせず、確信した。これは自分の【オーバーエヴォリューション】であると、

 

 

「…………めざしの【オーバーエヴォリューション】」

「…………本当に目覚めたのね」

「……………いくよ」

 

 

ー椎名はターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

 

 

「ドローステップ………………」

手札2⇨3

 

 

椎名はゆっくりとその【オーバーエヴォリューション】で創生されたカードをドローした。

 

それはこれからの芽座椎名の生涯において、欠かせない存在となる新たなエーススピリットであって、

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨11

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ、エクスブイモンを召喚っ!」

手札3⇨2

リザーブ11⇨6

トラッシュ0⇨4

 

 

椎名がこのターン初召喚したのはブイモンの進化した姿である青き竜の成熟期スピリット、エクスブイモン。腹部のエックスの文字が特徴的。

 

さらにそのエクスブイモンが持つ手札の入れ替え効果で手札を整える。

 

 

「召喚時効果………デッキからカードを2枚ドローして、その後2枚捨てる」

手札2⇨4⇨2

破棄カード

【ブイモン】

【ガンナー・ハスキー】

 

 

手札を2枚引き、2枚捨てた。そしてそこには来ていた。この状況を一発逆転できるスピリットを出すためのカードが、

 

 

「さらにスティングモンを召喚っ!………召喚時効果でコアを1つブースト!」

手札2⇨1

リザーブ6⇨1

トラッシュ4⇨8

スティングモン(1⇨2)

 

「…………成熟期が2体……………まさか」

 

 

次に召喚したのは緑の成熟期スピリット、昆虫戦士のスティングモンだ。そのコアブースト効果は幾度となく椎名を手助けして来た。

 

そしてこの瞬間に司は気づく。椎名が何をしようとしているのか、察した。【オーバーエヴォリューション】によって創生されたのは間違いなく自分のシルフィーモンと同じ力を持つものであるということに。

 

椎名の新たなエーススピリットの誕生だ。

 

 

「このカードの【ジョグレス進化】を発揮!対象はエクスブイモンとスティングモン!2体を合体させ、新たなデジタルスピリットへと昇華させる!」

手札1⇨2

 

「……………来た……【オーバーエヴォリューション】のカード」

 

 

エクスブイモンとスティングモンは飛び上がり、衝突、混ざり合う。その互いのデジタルコードを合わせ、新たなるデジタルスピリットへと進化する。

 

 

「蒼き闘竜、勇猛な昆虫戦士が1つになる時、至高の竜戦士が姿を現わす!…………ジョグレス進化ぁぁぁあ!!」

 

 

その竜戦士の全長はエクスブイモンとスティングモンより頭1つ分は大きい。赤い仮面に一本ツノ、青と白の4枚の竜の翼、両腰に備え付けられた細長い2つの機関銃、そしてその身に甲虫の黒い甲殻を纏っている。

 

ーそう、それこそが至高の竜戦士。その名も………

 

 

「……………パイルドラモン!!」

パイルドラモンLV2(3)BP10000

 

 

パイルドラモンが椎名の場に君臨する。その存在感は他のどのデジタルスピリットよりも強い。圧倒的な強者のオーラが流れている。

 

 

「……………パイルドラモン……………これがお前の新しい力なのか…………めざし」

 

 

司は静かにそう呟いた。

 

そしてパイルドラモンの力が今、解き放たれる。

 

 

「パイルドラモンの召喚時効果!……コスト7以下のスピリット1体を破壊する!」

「……それだけ!?……ふふ、たかが1体失ったくらいで……………」

 

 

たしかに夜宵の言う通りこの局面では意味がないのかもしれない。しかもこの蘇生が得意な紫なら、

 

だが、それはパイルドラモンの効果テキストの一端に過ぎない。シルフィーモン同様【ジョグレス進化】時での召喚はまた別の効果だ。

 

 

「…………この時、【ジョグレス進化】によって召喚されていたらこの効果を全域に拡大させるっ!」

「っ!?…な、なんですって!?」

「……いっけぇ!!パイルドラモンッ!」

 

 

つまりは全てだ。コスト7以下のスピリット全てを破壊する。パイルドラモンはその両腰に備え付けられた機関銃を手に持ち…………

 

 

「殲滅の……デスペラードブラスター!!!!」

 

 

撃ちまくった。とにかくぶっ放した。その乱射の威力は凄まじい。レディーデビモン、ピコデビモン、デビモン、オーガモンを目にも止まらぬ速さで蹴散らし、爆発させてしまった。

 

 

「…………なんて破壊力……………」

 

 

そして椎名はアタックステップに移行した。バトルを終わらせるため、夜宵のため、自分のこの想いを全てパイルドラモンに乗せてアタックする。

 

 

「アタックステップ!パイルドラモンでアタックだ!」

 

 

走り出すパイルドラモン。

 

だが、

 

 

「無駄よ!私のライフは残り2つ!シンボルが1つしかないそいつのアタックではライフはゼロにされない!」

 

 

そうだ、この一撃では夜宵のライフを全て破壊することはできない。

 

飽くまで一撃だけではの話だが、

 

椎名はパイルドラモンの第2の効果を発揮させる。

 

 

「………パイルドラモンの効果!コアを2つパイルドラモンに追加し、ターンに1回だけ……………回復する!」

パイルドラモン(3⇨5)LV2⇨3(疲労⇨回復)

 

「………………っ!?」

 

 

パイルドラモンの効果だ。これで2度のアタックを可能にした。そして先ずは一撃目から

 

 

「……………ライフで受ける」

ライフ2⇨1

 

 

パイルドラモンのブラスターが今度は夜宵のライフを1つ粉々に粉砕した。

 

後1つ。これで終わりだ。夜宵ももはや抵抗するすべはない。椎名の勝ちだ。これで全てが終わる。

 

 

「これで最後だ!夜宵ちゃん!パイルドラモンでアタック!」

パイルドラモン(5⇨7)

 

 

パイルドラモンから再び放たれる銃撃。勝った。そう思った矢先だった。椎名の後方から聞き馴染みのある声が聞こえて来たのは……………

 

 

「椎名ぁあ!!やめろぉぉお!!このバトルを終わらせちゃダメだぁあ!!!!」

「………………え!?」

「…………雅治っ!」

 

 

その声の主は雅治。息を切らしながらも汗だくになりながらも、その喉を枯らすほどの声量を放った。

 

その背中におぶられているのは、気絶しているのか、そんな感じの女性がいた。それは夜宵の姉、紫治明日香だ。夜宵はそんな姉の姿を見て、彼女が役目を終えたことを察した。

 

必死にそのバトルを終わらせないようにしろと叫ぶ雅治。だがもう遅い、既にアタック宣言をしてしまったパイルドラモンの銃撃が、夜宵のライフにまっすぐ飛んでいく。

 

ーそして、

 

 

「……………ありがとう、椎名ちゃん………みんな……………ライフで…………受ける」

ライフ1⇨0

 

 

夜宵の最後のライフを撃ち貫いた。

 

ー椎名の勝ちだ。そして椎名達の目の前で信じられないことが突然起きる。

 

夜宵がその場で倒れてしまったのだ。Bパッドでのバトルでダメージなど発生しないのに、

 

椎名と司はそれを見るなり、思わずそこまで駆け寄った。

 

雅治はそれを見て「遅かった」と言って悔しむ顔を見せる。

 

 

 

 

 

 

椎名と司、雅治はこの後直ぐに紫治一族の野望の全貌を知ることになる。

 

3人だけかと思われた生贄。だがそれは少し違う。正確にはオーバーエヴォリューションに目覚めた者3人と蘇らせる人間の肉親が2人、計5人が必要なのだ。

 

紫治姉妹が口にした「全てはお父様のため」という言葉はそういうことだ。自分達を犠牲にしても父を幸せにしたいと言う意味合いが含まれていた。

 

 

 

 

 

 

ーそしてその光景を物陰に隠れ、密かに目を向けているものがいた。その者は不気味な笑みを浮かべている。

 

 

それはこの事件の全ての元凶…………紫治城門だ。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【レディーデビモン】!」

「レディーデビモンは紫の完全体スピリット、召喚時に疲労しているスピリットを問答無用で破壊するよ!」








最後までお読みくださり、ありがとうございました!
パイルドラモンはこれからフレイドラモンと共に椎名のデッキのエースを担うことになるので必然的に登場が増えます。


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第32話「3人で勝て!アーマー体集う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

パイルドラモンの強烈な銃撃が、夜宵の最後のライフを粉々に粉砕した。

 

ー椎名の勝ちだ。そして椎名達の目の前で信じられないことが起きる。夜宵がその場で倒れてしまったのだ。Bパッドでのバトルでダメージなど発生しないのに、

 

雅治はそれを見て「遅かった」と言って悔しむ顔を見せる。

 

 

「夜宵ちゃん!!?」

「夜宵!」

 

 

椎名と司はそれを見るに思わず夜宵の側へと駆け寄った。椎名はその夜宵の頭を抱えながら呼びかける。夜宵はわずかに残された意識の中、最後の力を振り絞って自分自身の本当の願いを椎名と司に伝えた。

 

 

「…………し、椎名………ちゃん…………ごめん………私やっぱりこんなことしたくなかった。司ちゃんも……………ごめん………」

「もういいよそんなこと気にしないでよ!」

「私はもうすぐ………肉体だけになっちゃうから…………最後にこれだけ…………言っとくね」

「…………………え?」

 

 

今なんと言った。夜宵は今なんと言ったのだ。【肉体だけになる?】どういうことだ。バトルで負けただけで、信じられるものか。

 

 

「な、何言って…………」

「最初からそういうものだったの……………生贄になるのはあなた達だけじゃない……………肉親である私とお姉様も含まれている」

「…………そ、そんな…………嘘だ!」

 

 

信じられるものか、紫治姉妹までもが生贄の対象など、しかもバトルで負けることが生贄になるのはにわかには信じがたい。ただ【オーバーエヴォリューション】を発現させた直後のバトルで、

 

だったら司の時はどうなのだ、あの時は炎林にはそんなこと起きなかった。

 

 

「……………はぁ、はぁ、……………最後にこれだけ…………………」

 

 

夜宵は椎名の頭の整理が追いつかないまま最後の言葉を残した。それは紛うことなき心の底から思った本当の願いである。

 

そしてそのまま魂が抜けるかのように意識を失ってしまった。

 

 

「…………や、夜宵……ちゃん?………」

 

 

椎名がいくらその身体をさすっても揺らしても夜宵はうんともすんとも言わない。もはやただの屍だ。

 

 

「あ……あ…あ…ああああああっ!?」

 

 

椎名は頭が壊れそうになる。必死に元に戻ろうとしても、たった今起こった出来事がすぐにそれを記憶の上に重ねて忘れさせようとしてくれない。目から滝のように水が流れて視界が無くなる。

 

いったい何がいけなかった。いったい何がいけなかったと言うのだ。自分は夜宵を止めたかっただけだというのに、ただそのことだけで頭の中がパンクしそうだった。

 

司も黙ってはいるが椎名とほとんど同じ考え方だ。だが、その中にはたしかに悔しさと恨みの気持ちが椎名よりも混じり合っている。

 

ーそんな時だった。彼らの背後からゆっくりと足音と手を叩く音が聞こえて来たのは………

 

 

「はっはっはっは!!……いやはや、見事だったよ、見事なバトルだったよ、芽座椎名!……そして美しい友情の物語………感動ものだね」

「!!」

「………てめぇは…………【紫治城門】っっ!!」

 

 

椎名達3人の前に現れたのはデスペラード校の理事長にして紫治一族の現頭領でもある【紫治城門】。そして彼こそが今回の件の黒幕。10年前に亡くした最愛の妻、【紫治亜槌】を蘇えらせるために、娘達に指示を送り、3人を呼び寄せた。

 

その手にはバレーボールくらいだろうか、それくらいの透明感のある水晶玉を持っていた。

 

 

「てめぇ!どのツラ下げて俺らに会いに来やがったっ!!?」

「夜宵ちゃんもそのお姉さんもあなたのためにこんな状態になったんですよ!?……なんで笑ってるんですか!?」

 

 

城門にそう言ったのは司と雅治だ。司はどれだけ頭に血が上っていたことだろうか、城門に対する怒りの感情は計り知れない。

 

雅治も娘2人を犠牲にしたにもかかわらず何事もなかったかのような笑顔を向けてくる城門に怒りを覚えていた。紫治姉妹は全て父親のためと思い、健気にこんなことまでしたと言うのに。

 

だが、城門はそんな2人の言い分などほとんど意に介さず、

 

 

「そりゃ笑うだろう。何せ我が最愛の妻、亜槌がもうすぐこの世に復活するのだからな!」

「「!!」」

 

 

イかれている、狂っている、頭のネジが飛んでいる。司と雅治は思わずそう思ってしまった。

 

娘2人を失っていると言うのに、なんなのだその言い草は、

 

この状況でさぞかし当たり前かのように、子供のように何かを楽しみにしているその様子はもはや脅威の一言だった。

 

 

「う、嘘だ!漫画やアニメじゃあるまいし、人がこの世に輪廻するわけがない!」

 

 

雅治はこのこと自体は初めて耳にすることであって、思わず城門に反論を言葉で提示した。

 

人の蘇生、おかしな話だ。そんな摩訶不思議な出来事は基本的には彼の言う通り、漫画やアニメでしか起こりえないことだ。

 

 

「………できるのさ雅治君……この【Dr.A(ドクターエー)】が作り上げた水晶玉があればね」

「!!Dr.Aだって!?」

 

 

その名前を聞いて2人は驚いた。それもそのはず、それはあの【Dr.A】なのだから。

 

【Dr.A】とは、世界中に足を運び、研究や実験と称しては、なんらかの犯罪行為を繰り返すs級犯罪者である。今回のような事件がいい例だ。妻を失い、心に穴ができた城門にDr.Aが入り込んだのだろう。それが彼のいつもの槍口である。

 

まぁ、もうこの時点で何処かに姿をくらましているのだろうが、

 

 

「この水晶玉にはバトルで負けたも者の魂を封印することができる………」

「…………っ!?」

「そしてこの中にオーバーエヴォリューションに目覚めた3人と蘇らせる対象の人物の肉親2人が封印されれば我が妻はこの世に再び足を伸ばすことができるのだ!」

 

 

Dr.Aが作ったという水晶玉。それを城門は自慢するかのように見せつけてくる。

 

実際は信じるしかない。これまで意図的か、紫治姉妹はバトルで負けた直後に意識を失っている。信じられないことではあるが、これまでのことを推理すると受け入れざるを得ない状況だ。

 

そしてつまり、言っていることが本当なら、城門がここまで赴いた理由はただ1つ、【椎名、司、雅治】3人の魂をあの水晶玉に封印することだ。もちろんバトルで彼らを倒して…………

 

3人もそれを瞬時に理解した。

 

 

「……さぁ、誰からかかってくる?」

 

 

城門はその場で静かに最初の獲物を待つ。そして飛び向かったのは、

 

 

「…………だったら私が一番だ………ぶっ飛ばしてやる…………」

「……………椎名?」

 

 

涙を流し、項垂れていた椎名がそれを拭い、意識を失った夜宵を置いてその場から立ち上がり、城門との距離を詰める。その目は怒りに満ちている。これまでの椎名からは想像もつかなかった。

 

結果として城門は椎名と雅治に人殺しと同一のことをやらせたのだ。普通は怒り狂ってもおかしいことではない。だが、それは何かそれだけではない感じだ。何か………もっと本能的な何か……

 

そんな時だった、椎名を制止させるかのようにその肩に手を置いたのは、

 

ーそれは司だ。

 

 

「おい……待てめざし………抜け駆けすんな」

 

 

司は静かな口調で椎名にそう告げた。それを椎名は棘のある言葉で突き放す。

 

 

「うるさい……私にやらせろ」

「てめぇだけがムカついてると思うなよ………俺はあいつをぶっ飛ばしてやりてぇ…………」

「………私もだ」

 

 

本当ならばここで逃げるのが最善の一手であったことだろう。だが、それじゃあ彼らの腹の虫が治ることはない。

 

そしてそのまま司は椎名にある1つの提案を申し上げた。それはプライドの高い彼からは予想もできない以外な一言であって、

 

 

「だったら俺と協力しろ………」

「………っ!?」

「あいつは仮にも【伝説バトラー】の1人。正直言って、今回ばかりは勝てる気がしねぇ、当然お前も勝てねぇ………だが、協力すれば万に1%でも可能性が上がるかもしれん…………てめぇに頼みなんかしたくはないが、このままじゃどうしようもねぇ、……………頼む」

「……………司」

 

 

椎名は思わず浮き上がって来ていた怒りの感情を心の奥底にしまってしまった。

 

あの司が、プライドの高い司が、自分に今「協力しろ」と頼んだのだ。それほどまでにあの城門を倒したいという感情が強いと言うのが椎名の頭と身体に流れ込んで来たのだ。

 

ーもう断る理由も何もない。

 

 

「………わかった協力する……」

「…………ちょっと待って」

 

 

椎名が承諾した途端。さらに会話に入って来たのは雅治だ。目の前で無謀なことに挑戦しようとしている2人を止めるかに思えたが、

 

 

「本当ならここは逃げるのが一番なんだろうけど…………止めたって無駄だよね?」

「………わかってるじゃねぇか」

「うん、だから僕も一緒に戦うよ」

「…………雅治……」

 

 

この場で1人だけ逃げるを選ぶのは情けなさ過ぎる。それだったら雅治も覚悟した。2人と一緒に戦って勝つと。

 

たった今この瞬間、3人の気持ちはまとまった。同じことを考えている。【3人で紫治城門を倒す】と。

 

 

「てことだ。お前としても悪い話じゃないだろう?…………何せ俺ら3人を同時に倒せば、手間が省けるからな」

「なるほど…………いいだろう、3人でかかって来なさい」

 

 

案外あっさりと承諾した城門。

 

だがこれで少なくとも1on1ではなくなった。1on3ならば可能性は上がる。いつもとは一風変わった違うバトルをすることになるからだ。

 

椎名、司、雅治の3人はそれぞれBパッドを展開した。向けた先はもちろん紫治城門。城門も彼らをあざ笑うかのように自身のBパッドも展開させた。

 

 

「1on3以上でのルールは心得ているかね?」

「あぁ」

「えぇ」

「知りません」

「…………おい」

 

 

椎名だけ知らなかった。司はこの場で思わず軽くツッコンでしまった。

 

それを見かねた雅治が椎名に説明していく。

 

 

「1on3以上でのルールはいつもとは少し違くて、1人の方は多い方の人数分の手札、リザーブ、ライフを得る…………今回は僕ら3人だから相手の初期状態は手札が12枚、リザーブが12個、ライフが15個ってことになるね、ただしソウルコアはいつも通り1個だけ、逆に僕ら多数組のライフは合わせて5、手札、リザーブはそれぞれ4ずつ、ソウルコアも1個ずつ」

「………なんかそれ1人の方ズルくない!?」

「うん。でもその代わり、僕らは連続してターンを進めることができる。単純にステップ数が今回は3倍違うことになるね、最初のターンは誰もアタックができないけど」

「あぁ、なるほど〜」

 

 

雅治の分かりやすい説明でなんとなくではあるが納得した椎名。そう、このルールがこの世界で実際に行われている1on3以上だ。

 

 

「もういいだろ、行こうぜ」

「…………うん!」

 

 

そして始まる。城門にとっては妻、亜槌を生き返らせるため、椎名達はあの妙な水晶玉に魂を封印された夜宵達のため、この界放市外れにある無法地帯、【ジャンクゾーン】で大きなバトルが始まる。

 

 

「「「「ゲートオープン、界放!!!!」」」」

 

 

4人の声が重なり、バトル開始の宣言が行われた。

 

ちなみにこのバトルでのルールは最初のターンは誰もアタックができない。アタックステップが最初に行われるのは一周回って第5ターン、城門からだ。

 

 

「私のターンからだ!」

 

 

城門は勢いよくターンを始める。もうすぐ妻を、亜槌を取り戻せるからか、そのテンションは最高潮に達しているのだろう。

 

 

[ターン01]城門

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札12⇨13

 

 

「メインステップ、ネクサスカード、浮遊ピラミッド群とムゲンマウンテンを3枚ずつ配置!」

手札13⇨7

リザーブ12⇨0

トラッシュ0⇨12

 

「「「!!」」」

 

「ターンエンド……………」

ムゲンマウンテンLV1

ムゲンマウンテンLV1

ムゲンマウンテンLV1

浮遊ピラミッド群LV1

浮遊ピラミッド群LV1

 

バースト無

 

 

聳え立つのは連なる山々と宙に浮いたピラミッド。3枚ということもあって、それらが放つ異様な存在感と重圧を感じられずにはいられなかった。

 

このルールにおいて、1人の方はその多い手札やリザーブから、基本的に好き勝手に動ける。だが、ネクサスだけを配置していると連続でターンを行えるプレイヤー達が猛攻を仕掛けてくるのが目に見えている。

 

そしてそんな多人数のプレイヤーはそのターンの順番が大事なのだが、

 

 

「どうする?誰から行こうか……」

「…………その前にお前らにも伝えておかないといけないことがある」

「「?」」

 

 

そう言ったのは司だった。雅治と椎名はその言葉に耳を傾けた。

 

 

「あの紫治のジジイの持つ水晶玉、奴はあの中に夜宵とその姉の魂があると言った。…………つまりだ、あれを壊せば…………」

「夜宵ちゃん達の意識が戻るかもしれない!!」

「そういうこと」

 

 

もしかしたら、飽くまでももしかしたらだ。城門の持つ水晶玉を破壊することができたらその中に入った魂はもともとあった器に戻るのではないか。司はそう推理した。

 

魂と肉体の分離、元々司はそんなものは信じたくはなかったが、約半年前に魂だけの本物の幽霊に出会ったことからその存在をすっかり認めるようになっている。

 

 

「よし!だったら私から行かせて!」

「椎名!?」

「大丈夫!行けるよ!そして夜宵ちゃんを必ず取り戻す!」

「…………勝手にしろ……」

 

 

椎名は夜宵が死ぬわけじゃない事を知ってモチベーションがうなぎ登りになる。

 

そして順番が決まった。

 

椎名⇨雅治⇨司の順番になる。

 

 

「よし!私のターン!!!」

 

 

椎名は勢いよくスタートを切った。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、私はブイモンを召喚するっ!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が召喚したのは自分のデッキの軸となるスピリット、青きからだの小さき竜、ブイモン。そしてその召喚時の効果で進化系の確保を試みる。

 

 

「召喚時効果!カードをオープン!」

オープンカード

【ライドラモン】○

【猪人ボアボア】×

 

 

効果は成功、椎名はアーマー体スピリット、ライドラモンのカードを手札へと加えた。

 

そして椎名は召喚する。

 

 

「ライドラモンの【アーマー進化】を発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、轟く青き稲妻、ライドラモンをLV1で召喚!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

ライドラモンLV1(1)BP5000

 

 

ブイモンの頭上に黒くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンは飛び上がり、それと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化する。現れたのは黒き獣型のアーマー体スピリット、ライドラモンだ。

 

 

「ライドラモンの召喚時効果!ボイドからコアを2つ私のトラッシュへと追加する!」

トラッシュ4⇨6

 

 

ライドラモンの雄叫びが椎名のトラッシュにコアの恵みを与えた。

 

 

「ターンエンド!」

ライドラモンLV1(1)BP5000(回復)

 

バースト無

 

 

多対1でのルールでは最初のターンは誰もアタックステップを行えない。椎名はそのターンを終えた。次は雅治の番だ。

 

 

[ターン03]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》

 

 

「メインステップ、僕はアルマジモンを召喚する!」

手札5⇨1

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

雅治が初手で呼び出したのはデッキの軸となるアルマジロのようなスピリット、アルマジモン。その召喚時も使用する。

 

 

「召喚時効果!カードを3枚オープン!」

オープンカード

【アルマジモン】×

【パタモン】×

【ディグモン】○

 

 

効果は成功、雅治はこの効果で該当したディグモンのカードを手札に加えた。そして椎名同様これをすぐさま召喚する。

 

 

「さらにディグモンの【アーマー進化】を発揮!対象はアルマジモン!1コストを支払い、鋼の叡智、ディグモンを召喚する!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

ディグモンLV1(1)BP4000

 

 

アルマジモンの頭上に黄色くて独特な形をした卵が投下される。アルマジモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化を遂げる。そして新たに現れたのは昆虫型のアーマー体スピリット、ディグモン。鼻先と両手に取り付けられたドリルを回転させてやる気を示す。

 

 

「ターンエンド!」

ディグモンLV1(1)BP4000(回復)

 

バースト無

 

 

雅治もターンを終えた。そして次はラストとなる司だ。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はホークモンを召喚する!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

司召喚したのは赤き鳥型のスピリット、ホークモン。その召喚時で手札の確保を狙う。

 

 

「召喚時効果、カードを3枚オープン!」

オープンカード

【ホルスモン】○

【イーズナ】×

【朱に染まる薔薇園】×

 

 

効果は成功、司はこの効果でアーマー体であるホルスモンを手札へと加えた。

 

そして椎名、雅治同様、それを召喚する。

 

 

「さらにホルスモンの【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!1コストを支払い、これを召喚する!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

ホルスモンLV1(1)BP4000

 

 

ホークモンに銀色で独特な形をした卵が投下される。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化する。新たに現れたのは風を育む獣型のアーマー体スピリット、ホルスモン。

 

さらに司はそのホルスモンの召喚時効果を発揮させる。

 

 

「召喚時効果!お前のネクサスカードを1つ破壊してカードを1枚ドローする!………浮遊ピラミッド群を1つ破壊だ!」

手札5⇨6

 

「!!」

 

 

ホルスモンは召喚されるなり、城門の場にあるネクサス達を鋭い目力で睨みつける。するといくつかのピラミッドが地面へとゆっくり沈んで行った。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ」

ホルスモンLV1(1)BP4000(回復)

 

バースト無

 

 

司もターンを終えた。

 

これで全てのプレイヤーが一度ずつターンを行ったことになる。これによりこれ以降のターンからはアタックステップが解禁される。

 

 

「はっはっは、そうかアーマー体か、君らはこれらを軸にするんだったね、……………だが所詮は完全体以下の力」

「アーマー体スピリットどもをなめんなよ、特にこのルールではな」

 

 

アーマー体のデジタルスピリット達は言わば成長期スピリット達のドーピングと言っても過言ではない。それ以降の進化はしないが、成熟期と完全体の間程度の力を幅広いタイミングでなることができる。

 

個々の力は強めではあるが、後半ではやや力不足になりがちだ。だが、司の言う通り、このルールにおいては侮れないものとなる。それはターンが進めばわかることであって、

 

 

[ターン05]城門

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》7⇨8

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨13

トラッシュ12⇨0

 

 

「メインステップ、私はこのスピリット、ヴァンデモンを2体、LV2で連続召喚する!」

手札8⇨6

リザーブ13⇨1

トラッシュ0⇨3⇨6

 

「っ!?……あれは!?」

 

 

そう反応したのは雅治だった。

 

城門が呼び出した最初のスピリットはあの明日香も使用した紫の吸血鬼のような完全体のスピリット、ヴァンデモンだ。それが同時に2体。

 

 

「2人とも気をつけて、あのスピリットは………」

「!?」

 

 

雅治が椎名と司に注意を仰ごうとしたその時だった。その言葉を遮るかのように城門がアタックステップを開始させる。

 

 

「アタックステップっ!行きなさいヴァンデモン!その効果で君らの手札を1枚ずつ破棄させる!」

 

「「!?」」

椎名⇨【ストームアタック】○

手札5⇨4

司⇨【ハーピーガール】×

手札6⇨5

雅治⇨【天使キューリン】×

手札5⇨4

 

 

ヴァンデモン1体が放つ無数の蝙蝠達が椎名達3人の手札にまとわりつく。そしてそれぞれ1枚ずつその手札を破棄させた。

 

 

「ヴァンデモンの効果だ、アタック時、相手の手札1枚を破棄させる」

「え!?じゃあなんで3枚も!?」

「あの手の効果は俺たちの場から1つずつ発揮されたことになる。つまり、俺たちの手札から1枚ずつ破棄されることになんだよ」

 

 

そう、多対1ルールでは1人のプレイヤーが発揮させる「相手の〜1つ(1体)」などと記載された効果等は多人数側はそれぞれ1人ずつ効果を及ぼす。

 

このルールのおかげで城門のヴァンデモンの効果が椎名達3人の手札に影響を与えたのだ。

 

そしてそれだけではない。その破棄したカード達の中にマジックカードがあればヴァンデモンは追加で効果を発揮できる。

 

 

「さらにヴァンデモンの追加効果!破棄した中にマジックカードが1枚でもあれば、君らのライフを1つ破壊する!…………さっき中にマジックカード、ストームアタックがあったね」

 

「「「っ!?」」」

ライフ5⇨4

 

 

その蝙蝠達は3人の手札だけにあらず、ライフまでもを破壊した。

 

そう、この手の追加効果もどれか1つでも該当するものがあれば発揮する。それが1人のプレイヤーの初期状態以外の利点だ。

 

 

「そしてヴァンデモンは完全体スピリットのアタック時、相手はスピリットのコアを1つトラッシュに置かねばブロック宣言できない…………それが2つ分だ」

「…………うそ、そんなのもうブロックできないじゃん」

(不味いな、アタックするだけでライフを破壊するだけじゃなくてブロックも抑制してくる…………これは早々に手をうたねぇと)

 

 

ヴァンデモンのもう1つの効果だ。最初のターンで当然そんなものにコアは残っていない。ゆえに3人はライフで受けるしか手がないのだ。

 

 

「仕方ねぇ!ここはライフで受けるぞ!」

「そうみたいだね………」

「「「ライフで受ける」」」

ライフ4⇨3

 

 

ヴァンデモンの強烈な鉤爪の攻撃が椎名達3人のライフを引き裂いた。

 

ちなみにライフ破壊時のコアは1つ破壊されるごとに多数プレイヤーそれぞれ1人ずつコアがリザーブに送られる。この時点で3人はコアを2つずつ自分のリザーブに確保していることになる。

 

そしてまだだ。まだヴァンデモンは残っている。漆黒の翼を広げ、2体目のアタックが飛んでくる。

 

 

「次だ、2体目のヴァンデモンでアタック!そして効果を発揮!……再び手札を破棄させる!」

 

「!!!」

椎名⇨【ワームモン】×

手札4⇨3

司⇨【朱に染まる薔薇園】×

手札5⇨4

雅治⇨【イエローリカバー】○

手札4⇨3

 

 

再び3人の手札が破棄される。そしてその中には再びマジックカードが確認され、

 

 

「該当するカードを確認、さらにライフを破壊するよ」

 

「「「!!!」」」

ライフ3⇨2

 

 

また流れるように蝙蝠の群れが椎名達のライフを破壊した。

 

そしてまだ本命のアタックが残っており、

 

 

「「「ライフで受ける!!」」」

ライフ2⇨1

 

 

再びヴァンデモンの強烈な鉤爪の攻撃が椎名達のライフを切り裂き1つ破壊した。

 

 

「ふふ、……ターンエンド」

ヴァンデモンLV2(3)BP10000(疲労)

ヴァンデモンLV2(3)BP10000(疲労)

 

ムゲンマウンテンLV1

ムゲンマウンテンLV1

ムゲンマウンテンLV1

浮遊ピラミッド群LV1

浮遊ピラミッド群LV1

 

バースト無

 

 

たった1ターンで椎名達のライフはゼロに限りなく近い数値となる。その分コアが増えたものの、どちらにせよ危ない状況であるのに変わりはない。

 

 

「……どうしよう、もうライフが………」

「気にするな、ライフは俺のターンでどうにかしてやる、お前ら2人は奴のライフを減らすことだけを考えろ」

「なるほどね、よし!椎名、次のターン任せたよ!」

「うん!私のターン!」

 

 

だが、ライフが1でも残っている限り彼らは諦めたりなどしない。切り込み隊長の椎名が先陣を切り、スタートの宣言を行った。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨11

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ、再びブイモンを召喚!そして召喚時効果発揮!」

手札4⇨3

リザーブ11⇨8

トラッシュ0⇨2

オープンカード

【ガンナー・ハスキー】×

【マグナモン】○

 

 

【アーマー進化】により手札に戻っていたブイモンが再び召喚される。そしてその効果も成功、マグナモンが椎名の手札へと加えられた。

 

ーそして召喚する。

 

 

「マグナモンの【アーマー進化】を発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、黄金の守護竜、マグナモンを召喚!」

手札3⇨4

リザーブ8⇨7

トラッシュ2⇨3

マグナモンLV1(1)BP6000

 

 

ブイモンの頭上に黄金の鎧を着た卵のようなものが投下される。ブイモンはそれを受け入れるように衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのはロイヤルナイツが一体、黄金の守護竜、マグナモンだ。

 

 

「ほぉ、マグナモン…………」

「召喚時効果!相手の場にいる最もコストの低いスピリット1体を破壊する!ヴァンデモン1体を破壊!………黄金の波動!エクストリーム・ジハード!!」

「!!」

 

 

マグナモンは登場するなり黄金の力を溜め込み、そして放出させた。そのエネルギーは瞬く間に城門のヴァンデモン1体を捉え、巻き込む。ヴァンデモンはその光の中で塵ひとつ残さずに消滅した。

 

 

「……よし!」

 

 

ガッツポーズを見せる椎名。だが、まだそれはいささか気が早くて、

 

ヴァンデモンが破壊された直後のことだった。椎名の場にいるマグナモンとライドラモンに突如として紫の重力波が上から押し寄せて来た。2体はそれに耐えられずに膝をつき、疲労状態となってしまう。

 

 

「……え!?……なんで!?」

ライドラモン(回復⇨疲労)

マグナモン(回復⇨疲労)

 

 

驚いた椎名に城門がすかさず説明を挟む。

 

 

「浮遊ピラミッド群の効果さ、自分の紫のスピリットが破壊された時、相手のスピリット1体を疲労させる、それが2枚で…………」

「2体疲労ってか、……」

 

 

この疲労効果は城門の配置したネクサスカード、浮遊するピラミッド群によるものだった。これでは椎名達は迂闊に城門のスピリットを破壊できない。

 

だが、それでも椎名は諦めない。持てるカードをフルで使い、少しでも城門のライフを減らそうと試みる。

 

 

「まだまだぁ!!もう一度ブイモンを召喚!そしてその召喚時効果!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨5

トラッシュ3⇨4

オープンカード

【フレイドラモン】○

【グリードサンダー】×

 

 

手札に戻ったブイモンをフル軽減で召喚した椎名。さらにその召喚時効果も成功、フレイドラモンが手札へと加えられた。そしてそれも召喚する。

 

 

「よし!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、炎燃ゆるスピリット、フレイドラモンをLV2で召喚!」

手札3⇨4

リザーブ5⇨4⇨2

トラッシュ4⇨5

フレイドラモンLV2(3)BP9000

 

 

ブイモンの頭上に今度は独特な形をした赤い卵が投下される。ブイモンは飛び上がり、それと衝突、混ざり合う。そして新たに現れたのは炎燃ゆる竜人のアーマー体スピリット、フレイドラモンだ。

 

 

「さらにライドラモンのLVを2に上げてアタックステップ!!……いけぇ!フレイドラモン!」

リザーブ2⇨0

ライドラモン(1⇨3)LV1⇨2

 

 

ライドラモンのLVを上げる椎名。疲労しているため、一見あまり意味のないように思えるが、実はこれは最善の一手であって、

 

そして走り出すフレイドラモン。目指すは大量にある城門のライフ。

 

数はまだまだ余裕。城門はそれに対し、カウンターも何も使うそぶりすら見せずにライフで受ける宣言をした。

 

 

「ライフで受けよう」

ライフ15⇨14

 

 

迫ってきたフレイドラモンの暑き炎の拳が、城門のライフを1つ消しとばした。

 

そして、フレイドラモンとライドラモンの渾身の連携により、まだアタックは続く。

 

 

「ライドラモンのLV2からの効果!「アーマー体」がライフを減らした時、さらに1つのライフを破壊する!!」

「……………!!」

「爆炎と稲妻の…………ディザスターナックル!!!」

 

「……………!!」

ライフ14⇨13

 

 

ライドラモンの稲妻が流れるようにフレイドラモンの拳にまとわりつく。フレイドラモンはその力を使い、もう一度城門のライフを殴り壊した。

 

 

「よし!ターンエンド!!…………次頼むよ!雅治!」

ライドラモンLV2(3)BP7000(疲労)

マグナモンLV1(1)BP6000(疲労)

フレイドラモンLV2(3)BP9000(疲労)

 

バースト無

 

 

椎名はそのターンを終える。浮遊ピラミッド群の効果により、思うようにアタックできなかったものの、このLV2で場に残ったライドラモンの存在がこのバトルを大きく揺らすことになるとは、椎名自身もまだわからないことであった。

 

 

「うん!任せて!……僕のターンだ!」

 

 

雅治は椎名とバトンタッチし、自分のターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン07]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨9

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、パタモンとアルマジモンを召喚!」

手札4⇨2

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨3

 

 

雅治が召喚したのは【アーマー進化】により手札に戻っていたアルマジモンと耳で飛行できる哺乳類型の成長期スピリット、パタモン。

 

雅治はそれぞれ召喚時効果を発揮させる。

 

 

「パタモンとアルマジモンの召喚時効果!カードをオープン!」

パタモン⇨オープンカード

【アルマジモン】×

【エンジェモン】○

アルマジモン⇨オープンカード

【華黄の城門】×

【天使キューリン】×

【ペガスモン】○

 

 

効果はどちらも成功、それぞれエンジェモンとペガスモンのカードを手札へと加えた。

 

そして雅治はこのままアタックステップへと移行した。城門の溢れんばかりのライフを削ぎ落とすために。

 

 

「アタックステップ!いけぇ!パタモン、アルマジモン!!」

 

 

颯爽と飛び出していったのはアルマジモンとパタモン。

 

椎名の時同様、城門はカウンターを使うそぶりすら見せずにそれをそのままライフで貰い受ける。

 

 

「…………ライフで受けようか」

ライフ13⇨11

 

 

パタモンとアルマジモンの勢いのある体当たりが城門のライフを2つ一気に破壊した。

 

 

「次だ!頼むよ!ディグモン!!」

 

 

雅治の命令を聞いて頷き、走り出すディグモン。

 

そしてこの瞬間、雅治は2枚のカードを使用する。2体同時に【アーマー進化】だ。

 

 

「さらにサブマリモンとペガスモンの【アーマー進化】を発揮!対象はアルマジモンとパタモン!1コストずつを支払い、これらを召喚!」

リザーブ4⇨3⇨2⇨0

トラッシュ3⇨5

サブマリモンLV2(3)BP8000

ペガスモンLV1(1)BP5000

 

 

アルマジモンは潜水艦のようなサブマリモンに、パタモンは天馬のようなペガスモンにそれぞれアーマー進化する。

 

この時、ペガスモンは召喚時とアタック時の効果で城門の場にいるヴァンデモンのBPを少し減らしているのだが、ヴァンデモンのBPが高いせいでそれが全く効いていない。

 

だが、ここで肝心な事は、なによりもアタックするスピリットが増えた事だ。

 

 

「そしてディグモンの本命のアタックだ!」

 

 

このフラッシュは雅治のディグモンのアタック中、よって未だにアタックが有効だ。

 

城門も今は防ごうとせずにその攻撃を受け入れる。

 

 

「いいだろう、ライフで受けようか」

ライフ11⇨10

 

 

ディグモンの鼻先と両手と合わせて3つのドリル攻撃が城門のライフを1つ破壊した。

 

ーそして、ここで、このタイミングでさらに効果を発揮できるスピリットがいて、

 

 

「さらに僕は椎名のライドラモンの効果発揮っ!」

「……………………え!?私の!?」

 

 

椎名は驚いた。何せ自分のターンでもないのに突然自分のスピリットの効果を使用するというのだから。

 

 

「相手のライフをさらに破壊!」

 

「!!」

ライフ10⇨9

 

 

ディグモンの攻撃に合わせて、ライドラモンがその頭角の先から青き稲妻を放ち、城門のライフをまた1つ破壊した。

 

 

「…………どうなってんの?私のターンじゃないのにライドラモンが動くなんて…………」

 

 

まるでわけのわからない椎名に対し、雅治はまた説明を入れることにした。

 

 

「このルールにおいて多数組はそれぞれが召喚したスピリットでしかアタック、ブロック宣言ができないけど、その効果は発揮させてもいいんだ…………だから今回はライドラモンが僕に味方してくれたのさ」

「!!!…………なるほど〜〜〜」

 

 

椎名は納得した。それと同時に前に司が言った言葉も理解した。

 

アーマー体スピリットは並べば並ぶほど強い。つまり、この状況なら一気にライフを持っていける。本当に侮れない存在となるのだ。

 

 

「まだ行くよ!ペガスモン!サブマリモン!」

 

 

ペガスモンは空中を、サブマリモンは地面を水中のように泳ぎながら推進して行く。目指すはもちろん城門のライフ。

 

 

「…………なるほど、侮れない…………ねぇ…………ライフで受ける」

ライフ9⇨8⇨7

 

 

ペガスモンの前脚の重たい一撃とサブマリモンの下からの突進で、城門のライフはさらに2つ破壊される。

 

そしてまただ。また椎名のライドラモンがここで反応する。今度は椎名がその発揮を勢いよく宣言した。

 

 

「ライドラモンの効果!いっけぇ!!ダブルブルーサンダー!!!」

 

「!!!」

ライフ7⇨5

 

 

ライドラモンの頭角から放たれる青き稲妻が、再び城門のライフを大きく削ぎ落とした。これにより通常ルールの初期ライフまで落とされた。

 

もうひと頑張りだ。

 

 

「よし!ターンエンド!」

ディグモンLV1(1)BP4000(疲労)

サブマリモンLV2(3)BP8000(疲労)

ペガスモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト無

 

 

やれることを全て終え、そのターンを終えた雅治。椎名のライドラモンとうまく連携した良いターンであったと言える。

 

次は司のターンだ。

 

だが、その表情はあまり良くはない。

 

それもそのはず。何せ、相手はあの6人いる【伝説バトラー】のうちの1人、紫治城門なのだ。こんな単調な攻撃でライフを全て破壊できるはずがない。おそらくコアをより多く溜めたいからだろう。

 

つまり次のターンを、城門のターンを回してはならない。そんなことをすれば間違いなく自分達のライフはなくなるだろう。せめて決められなかったとしても次を耐えられるほどのライフを戻さなくてはならないのだ。

 

だが、司はそんなプレッシャーなど跳ね除け、引き運とプレイングでほぼ完璧にカバーしてくる。

 

 

[ターン08]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨9

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、再びホークモンを召喚!………召喚時効果でカードオープン!

手札5⇨4

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨2

オープンカード

【ハーピーガール】×

【天魔神】×

【ネフェルティモン】○

 

 

司は今一度ホークモンを呼び出す。そしてその召喚時の効果も成功、アーマー体であるネフェルティモンのカードが手札へと加えられる。

 

そしてまだだ、司はまだホークモンの効果を終わらせない。その追加効果でさらにスピリットを展開する。

 

 

「ホークモンの追加効果により、2コストを支払うことで黄色の成熟期スピリット、テイルモンを召喚する!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ6⇨4⇨3

トラッシュ2⇨4

テイルモンLV1(1)BP3000

 

 

司が次に呼び出したのはネズミ型の黄色の成熟期スピリット、テイルモン。その使いやすいアタック時の効果は司のバトルを何度も手助けしてきた。

 

 

(奴のネクサスは破壊に反応してくる……………ならばこいつだ!)

 

 

司はこの場で最高のカードを引き抜いた。それは城門のネクサスの効果をスルーしつつ、ヴァンデモンを除去する効果を持ったカードだ。

 

 

「行くぞ!クソジジイ!俺はシュリモンの【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!1コストを支払い、これを召喚するっ!」

リザーブ3⇨2

トラッシュ4⇨5

シュリモンLV1(1)BP5000

 

 

ホークモンの頭上にこれまた独特な形をした卵が投下され、混ざり合い、進化する。新たに現れたのは忍者のような見た目のスピリット、シュリモンだ。

 

ーそして司はその召喚時の効果を発揮させる。

 

 

「シュリモンの召喚時効果!相手の疲労状態のスピリット1体を手札に戻す!消えろ!ヴァンデモンッ!」

 

「!!」

手札6⇨7

 

 

シュリモンの投げた巨大な手裏剣がヴァンデモンに直撃する。ヴァンデモンは耐えられずに、デジタルの粒子と化し、城門の手札へと戻ってしまった。

 

これは破壊ではなく手札に戻す形での除去、破壊をトリガーとする城門のネクサスカード、浮遊ピラミッド群は反応しないのだ。

 

 

「うまい!これで相手の場のスピリットを全て排除した!」

 

「こんなもんじゃねぇ!行くぞ!アタックステップだ!………テイルモンでアタック!アタック時効果発揮!カードをオープン!!」

オープンカード

【シルフィーモン】○

 

 

テイルモンが走ると同時に司のデッキがオープンされる。この効果でオープンされたカードが完全体スピリットであれば、司達のライフは1つ回復する。

 

今回は成功、完全体のシルフィーモンがめくられた。

 

 

「よし、俺たちのライフを1つ回復し、これを手札に加える」

ライフ1⇨2

手札4⇨5

 

 

テイルモンの周りから解き放たれた光が椎名達3人を包み込み、そのライフを1つ回復させた。

 

 

「おぉ!戻った!」

「まだだ!さらにフラッシュ!ネフェルティモンの【アーマー進化】を発揮!対象はテイルモン!1コストを支払い、光の聖獣、ネフェルティモンをLV2で召喚!」

リザーブ2⇨1⇨0

トラッシュ5⇨6

ネフェルティモンLV2(2)BP6000

 

 

テイルモンの頭上に独特な形をした卵が投下される。テイルモンはそれを受け入れるように衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化を果たす。現れたのはメスのスフィンクスと言ったような外見のアーマー体スピリット、ネフェルティモンだ。

 

 

「ネフェルティモンの召喚時効果、トラッシュのコア1つを俺のライフへと置く」

トラッシュ6⇨5

ライフ2⇨3

 

「そこは「俺たちの」……だろ?」

「…………ふんっ」

「でもすごいよ!!これでアーマー体が9体!!」

 

 

ネフェルティモンの召喚時効果だ。司のトラッシュのコアが椎名達3人のライフとなる。

 

これで全て、3人の持っている全てのアーマー体スピリットが場に現れた。全てのスピリット達が、吠え、鳴き、咆哮を上げた。まるで全員が意気投合しているかのように。

 

 

「これで準備は整った………アタックだ!ネフェルティモン!」

 

「…………ライフで受けようか」

ライフ5⇨4

 

 

空中を飛び交うネフェルティモンの渾身の体当たりが城門のライフを1つ減らした。

 

 

「……ライドラモン!」

 

「!!」

ライフ4⇨3

 

 

椎名の掛け声に合わせてライドラモンが城門に向けて頭角から青い稲妻を放ち、またそのライフを破壊した。

 

 

「次だ!シュリモン!」

 

 

忍者のように手早く無駄なく動き、城門との距離を詰めるシュリモン。そしてその両手に取り付けられた手裏剣で、

 

 

「……………ライフで受けよう」

ライフ3⇨2

 

「……!?」

 

 

ライフを粉々に破壊した。

 

 

「ライドラモンの効果でさらに破壊!」

 

「!!」

ライフ2⇨1

 

 

それに合わせて、またライドラモンが稲妻を放った。それももろに受けてしまい、城門のライフはいよいよ後1つだ。

 

 

「よし!いける!………勝てる!」

(……………なんなんだこいつ………本当に【伝説バトラー】の1人か?………まるで手応えがねぇじゃねぇか)

 

 

後一息、後1つのライフを破壊するだけで自分達の勝利だ。喜ぶ椎名。だが、その裏で司と雅治はある違和感を覚えていた。

 

【まるで手応えがない】と。

 

いくら1on3と言えども仮に界放市が産んだ6人の【伝説バトラー】のうちの1人。こんなにも呆気なくやられるわけがない。そう思っていた。

 

だが、いざ蓋を開けてみるとほぼノーガードで自分達の攻撃を受け続け、カウンターのカードも使わずに呆然一方ではないか、おかしい、明らかにおかしい。元々のコア数が多いのだ。ライフなど7、8くらいはキープして置いてもいいはずだ。

 

手札事故なのか……………いや、それだとあの余裕のある表情などできないのではないか…………

 

どちらにせよ、司はこのアタックステップをまだ終えるわけにはいかない。このアタックで全てを取り戻せるかもしれないのなら、行くしかないだろう。

 

 

「…………これで終わりだっ!!くたばりやがれぇ!!………………ホルスモン!!」

 

 

赤い翼を広げて空中へと飛び立つホルスモン。そして竜巻のように身体を回転させ、城門の最後のライフを破壊すべく突き進む。

 

これがラストアタックとなれば、椎名達3人の勝利………………

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

「はい!椎名です!今回はこいつ!【ライドラモン】!」

「ライドラモンは私が使う緑のアーマー体スピリット、特定のデジタルスピリットがライフを減らすと、追加でさらに減らしてくれる効果を持っているよ!」






※今回、作中で雅治が2体同時に【アーマー進化】をしましたが、実際にはできないので注意しましょう。(フラッシュは相手と交互で1枚ずつ)飽くまで作中での描写の都合です。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!
今回行った新ルールの1on3以上(仮名)は後々【オバエヴォの設定】にてより詳しく載せておきます。
今回が特別なだけで基本はいつものベーシックなバトルをお届け致します。この手のものが苦手な方はご了承ください。
なんかあれです、私も普通にバトルするだけじゃあ飽きるのです。今回以降、度々そういうことをするかもしれませんね。まぁあったとして、全体を通しても3、4回と言ったところでしょうか、


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第33話「偽りの水晶、闇を照らす金色の炎」

 

 

 

 

 

 

 

「…………………テンペストウィング!!」

 

 

司のホルスモンが竜巻のように回転しながら城門の最後のライフへと飛び行く。後1つ、後1つで自分達3人が勝利できる。

 

ーだが、予想していた通り、彼を倒すのはそう甘くはなかった。

 

 

「…………ふふ、ハンデはここまでだ………」

「なに!?」

 

 

城門はそう不敵な笑みを浮かべらがら、手札のカードを1枚抜き取った。

 

彼が今まで椎名達3人のアタックをライフで受けてきたのは単なる作戦ではなく、余裕であった。あの3人を同時に相手しながらも彼は遊んでいたのだ。

 

そしてもうライフは1。手加減をする理由はなくなった。ここからだ。ここから真の恐怖のバトルが幕を開ける。

 

 

「フラッシュマジック!!反魂呪!!」

手札7⇨6

リザーブ21⇨19

トラッシュ6⇨8

 

「「「!?!」」」

「このマジックはトラッシュにある夜族スピリット1体をコストを支払わずに召喚するっ!!………墓場より甦れ!ヴァンデモン!」

リザーブ19⇨14

ヴァンデモンLV3(5)BP13000

 

 

夜宵の姉、明日香も使用したマジックカード、反魂呪。その効果はトラッシュの夜族スピリット1体を復活させる効果を持つ。

 

城門はこの効果でマグナモンによって破壊されたヴァンデモンを召喚した。地面からそれが飛び出してくる。

 

この時点で既に城門はブロッカーを獲得したため、このターンでの敗北は免れているが、当然それだけでは終わらせるきはない。全力で3人を叩き潰しに行く。

 

 

「さらにフラッシュ!ヴェノムヴァンデモンの煌臨を発揮!対象はヴァンデモン!!」

リザーブ14s⇨13

トラッシュ8⇨9s

 

「!?まずい!あれは…………」

 

 

そう反応してみせたのは雅治だった。彼は3人の中で唯一それと同じ物を見ていたからだ。そしてその凶悪性も知っている。

 

ヴァンデモンが漆黒の闇を纏いながらどんどん巨大化して行く。悍ましく禍々しいその姿はもはや貴族でもなにでもない。ただの悪魔だ。

 

 

「究極進化ぁぁぁあ!!ヴェノムヴァンデモン!!」

手札6⇨5

ヴェノムヴァンデモンLV3(5)BP16000(回復)

 

 

新たに現れたのはヴェノムヴァンデモン。その全長は周りに聳える廃墟よりも頭一個分くらいは大きい。

 

 

「くっ!ここで究極体……っ!?」

「で、でっか………」

 

 

司と椎名は思わずそう呟いた。だが、でかいだけではない。その効果も一級品である。

 

 

「煌臨時効果ぁ!相手のスピリットのコアを3つトラッシュへと送る!」

「「「!!!」」」

 

 

この場合は椎名達3人の召喚しているスピリットから取り除く事になる。その外すコアの合計数は9つだ。

 

 

「先ずはシュリモンとネフェルティモン!」

 

「ぐっ!?」

シュリモン(1⇨0)消滅

ネフェルティモン(2⇨0)消滅

トラッシュ5⇨8

 

 

ヴェノムヴァンデモンの腕から放たれた大きくドス黒い闇が、司のシュリモンとネフェルティモンを取り込んで行く。その2体はそのまま姿を消してしまった。

 

 

「次はディグモン、ペガスモン、サブマリモンからコアを1つずつ取り除く!」

 

「っ!?」

ディグモン(1⇨0)消滅

ペガスモン(1⇨0)消滅

サブマリモン(3⇨2)LV2⇨1

トラッシュ5⇨8

 

 

今度は雅治の場にそれが放たれた。ディグモン、ペガスモンはシュリモン達同様姿を消してしまうが、サブマリモンは辛うじてそこから抜け出した。

 

ーそして最後に襲われるのは椎名だ。

 

 

「最後はライドラモンから全て取り除こう」

 

「くっ!?………ライドラモンっ!!」

ライドラモン(3⇨0)消滅

トラッシュ5⇨8

 

 

ライドラモンは先と同じようにそれに取り込まれ、その姿をくらましてしまった。

 

このルールの恐ろしいところだ。たった1つの効果によって全員の場が壊滅しかねないのだ。そしてこのタイミングはまだ司のホルスモンのアタック中であって、

 

 

「ホルスモンはこのヴェノムヴァンデモンがブロックしよう!!」

 

 

ヴェノムヴァンデモンはその長く太い腕で、空中にいるホルスモンを思いっきり地面へと撃ち落とし、叩きつける。ホルスモンはこれに耐えられず破壊されてしまった。

 

 

「ぐっ!ホルスモン………っ!」

 

 

たった一度の煌臨で全てをひっくり返されてしまった。司もこれではアタックができない。

 

3人合わせて9体もいたアーマー体は、雅治のサブマリモンと椎名のフレイドラモン、マグナモンの計3体のみを残し、皆やられてしまった。

 

どちらにせよバトルを進めなければならない。司は致し方なくそのターンを終えた。

 

 

「…………ターンエンド」

バースト無

 

 

次は一周回って城門のターンとなる。

 

 

[ターン09]城門

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ13⇨14

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ14⇨23

トラッシュ9⇨0

ヴェノムヴァンデモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、……バーストを伏せ、私はさらに2体のヴァンデモンを追加で召喚しようっ!」

手札6⇨5⇨3

リザーブ23⇨7

トラッシュ0⇨6

 

「くっ!またそいつかっ!」

 

 

城門は場にバーストを伏せ、さらに追い討ちをかけるかのように2体のヴァンデモンを召喚した。椎名達のライフは残り3つ。ブロッカーはいない。この状況で耐え凌ぐのは困難を極めるだろう。

 

もはや手加減することはない、城門はここからアタックステップに入る。

 

 

「アタックステップ!ヴァンデモンでアタック!!………その効果で君らの手札を1枚ずつ破棄!!」

 

「「「!?!」」」

椎名⇨【アビサルカウンター】○

手札4⇨3

司⇨【テイルモン】×

手札5⇨4

雅治⇨【パタモン】×

手札4⇨3

 

 

ヴァンデモンの解き放った蝙蝠の群れが椎名達の手札を通り過ぎるように削ぎ落としていく。

 

そしてまただ。またマジックカードが落ちてしまった。追加効果を発揮される。

 

 

「さらにライフを破壊!」

 

「「「くっ!!」」」

ライフ3⇨2

 

 

通過していく蝙蝠の群れは手札だけにあらず3人のライフまでもを破壊していった。

 

そしてその束の間、ヴァンデモンの本命のアタックが飛び向かってくる。

 

 

「これでお終いだね!!」

「まだまだぁあ!!そう簡単には終わらせないよ!!」

 

 

城門にそう言い返したのは椎名。椎名は手札のカードを1枚引き抜き、それを使用する。それは城門のアタックステップを無理矢理止めれるカードであって、

 

 

「フラッシュマジック!!リアクティブバリア!!」

「!?!」

 

「効果によりこのバトルでアタックステップを終了させるっ!不足コストはフレイドラモンから確保!………ごめん!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

フレイドラモン(3⇨0)消滅

トラッシュ8⇨12

 

 

フレイドラモンがコアの損失により消滅してしまうものの、椎名の発揮させたリアクティブバリアが有効となる。

 

ーそしてこのアタックは………

 

 

「「「ライフで受ける!」」」

ライフ2⇨1

 

 

ヴァンデモンの鋭い鉤爪による切り裂く攻撃が椎名達3人をのライフをいとも容易く引き裂いた。

 

ーだが、

 

 

「ライフは1だけど、アタックステップは終了するよ!」

 

 

吹き上げる猛吹雪。これでは流石に城門のスピリット達は身動きはできない。仕方なくそのターンを終えることにした。

 

 

「……………ターンエンド」

ヴァンデモンLV3(5)BP13000(疲労)

ヴァンデモンLV3(5)BP13000(回復)

ヴェノムヴァンデモンLV3(5)BP16000(回復)

 

ムゲンマウンテンLV1

ムゲンマウンテンLV1

ムゲンマウンテンLV1

浮遊ピラミッド群LV1

浮遊ピラミッド群LV1

 

バースト有

 

 

なんとかそのターンを凌いだ3人。司の念をいれたライフ回復がここで活きたと言える。

 

だが、ここで決めないと止めた意味がない。3人は意気込んで攻めに集中しようとしたその時だった。

 

 

「………椎名っ!!」

 

 

椎名を呼ぶ声が後ろから聞こえてくる。その声はとても聞き慣れた声色。思わず背筋がピンっと真っ直ぐになってしまう張り詰めた声だ。

 

椎名達は3人はゆっくりと背後に振り返る。するとそこには椎名の担任である空野晴太の姿があった。そしてすぐ横にはどこかで見たような40前後の女性がいる。

 

 

「…………せ、先生……なんで」

「この知り合いの警視から聞いたんだよ………」

「………久しぶりね、ピュアホワイトちゃん」

「っ!?………あなたは確かあの時の………聖子さん?」

 

 

そう、晴太にそのことを伝えたのは横にいる女性警視、【一木聖子】。椎名とは模手最輝夫の起こした事件で知り合いになった。彼女は【ジャンクゾーン】の警備が消えたことを耳に入れると、直ぐにその原因を調べ、それがS級犯罪者である【Dr.A】の仕業であると確信したのだ。

 

そして逮捕すべく晴太の協力を要請し、現在に至る。晴太も晴太で自分の生徒が巻き添えになるのを黙って見ているわけにはいかない。だからこうして付いてきたのだ。

 

 

「椎名、長峰、赤羽、こんなバトルはもうやめろ…………さっきすれ違った真夏もお前達3人を心配していた………」

「……………空野先生………」

 

 

晴太は物静かにそう告げた。わかっているのだ。全ての事情を【Dr.A】専門である聖子から聞いたのだ。彼のいつもの槍口を、

 

最初は半信半疑であった。だが、ヘラクレスに肩を貸し、泣きそうな顔で椎名達を心配していた真夏と、そこに横たわっている紫治姉妹を見て、それが本当であると確信した。このバトルはやばい、一刻も早く中止させるべきだと、

 

雅治はやめるやめないはともかくとして、その晴太の言葉を真摯に受け止めていた。だが、反対にこの少年は、

 

 

「……………何言ってんだこのクソ教師!そこに横たわっている夜宵とその姉が見えねぇのかよ!」

 

 

そう答えたのは司だった。まるで「それでも悔しくないのか」と言わんばかりの言い草だ。

 

司とてわかる。晴太の立場からしてみれば止めるしかないのだと、だが、わかっていてもこのバトルだけはいつかの椎名と自分のバトルの時のようには止められたくはない。譲れない確かな想いがあったのだ。

 

 

「………そうだ、止めてはならん………この者たちは私の妻の贄となるのだからな………」

「………城門さん。まさかあの【伝説バトラー】の1人であるあなたがこんなことをしでかすなんて……もうやめろ、こんなこと…………仮にあなたの奥さんが戻ったとしても、あなたは結局この警視である聖子さんに刑務所に入れられるだけだぞ」

「構わん…………亜槌が生き返るのなら私は死んでも構わない………」

 

 

一歩も譲らない城門。だが、次の瞬間に女性警視である聖子が放った一言が、彼の心を揺さぶり、大きく動揺させた。

 

 

 

「……………本当に生き返ればね」

「………………………なに?」

 

 

聖子は確かにそう言った。この場合はもちろん城門の最愛の妻である紫治亜槌のことを指している。

 

そしてまだまだその語りは続く。それは【Dr.A】をずっと追っていた自分だからこそ言えることだ。正直言いたくはないが、バトルを止めるにはこれしかないと思っていた。

 

ー淡々と物静かにシリアスに、その口を進めた。

 

 

「その水晶にはそんなことはできやしないのよ…………それはただ、付近でのバトルに負けた人の魂を抜き取るだけ………」

「…………………嘘をつくな……」

 

「…………残念な人ね、【伝説バトラー】ともあろうお人が、たった1人の犯罪者の実験台にされちゃって」

「…………………黙れ……」

 

「………あなたは利用されただけなの……そして妻だけでなく2人の娘も失った……」

「っ!?………黙れと言っているのがわからんのかぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」

 

 

ここに来て初めて本当に心の底から怒り狂った城門。

 

疑うものか、ここまで来て、

 

信じられぬものか、たかが1人の警察の言葉など、

 

亜槌が蘇らないはずがない。2人の大事な娘を犠牲にし、そして今目の前にいる未来のある若きバトラー達の魂さえも犠牲にしようとしているのだ。その代償の大きさで蘇らないはずはない。

 

ーそう思っていた。

 

 

「バトルの続きだ!早くターンを進めろ!」

 

 

城門は椎名達に圧力をかけ、ターンの進行を急かした。もはやさっきまでの余裕はほとんどない。目は血走り、眼前の3人しか見てはないない。

 

 

「…………先生」

「……………椎名」

「……………もう後には引けないんです…………大丈夫ですよ、必ず勝ちますから…………」

「………っ!?」

 

 

椎名もそのバトルゾーンだけを視界に入れている。ただ、晴太にわかりやすくサムズアップして、そのバトルに対するやる気を示していた。

 

ー晴太はこれほど自分が情けなく思ったことはなかった。

 

自分の教え子が、こんなにも苦労して目の前の強敵に立ち向かっていると言うのに、自分は何もできないのか、と。

 

ただそれを見守ることしかできないのか、と。

 

だが、それも教師としての役目であるのなら、その勇姿を後押しするしかない。とも考えていた。

 

 

「……………あぁ、……あいつを、【伝説】をぶっ飛ばせ!椎名!」

「…………はい!!」

 

 

晴太の後押しの元、椎名は再びターンシークエンスを進めていく。

 

 

「…………良い教え子を持ったわね、晴ちゃん」

「……………はい、聖子さん」

「……………本当にそっくりだわ、あの娘………………………」

 

 

そう会話した2人。聖子は少しだけ懐かしく感じていた。今、自分の目の前にいる【芽座椎名】という純真な女の子はそっくりだった。

 

ー重なっていた。

 

自分の兄と義姉が残していった忘れ形見に……………

 

結局は止められなかったが、彼女なら、いや、彼女達なら必ず城門を止めてくれる。

 

ーそう信じた。

 

城門とて【Dr.A】の被害者だ。救わなくてはならない。心の病から……………

 

 

 

[ターン10]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨15

トラッシュ12⇨0

マグナモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、……………」

 

 

椎名の手札は正直言って、弱かった。とてもではないが、攻めに行けるものではなく、守りに徹した手札であった。

 

今回は司と雅治の3人で結託してこのバトルに臨んでいる。であればだ、自分にできることはただ1つ………

 

 

「マグナモンにありったけのコアを乗っけて、ターンエンド!!」

リザーブ15⇨0

マグナモン(1⇨16)LV1⇨3

 

バースト無

 

 

そのターンを終えた。自分は守りに徹し、攻めは後の2人に任せたのだ。

 

司と雅治もそれを理解した。だったら行くしかあるまい、全力の攻撃で……

 

 

「僕のターンだ!」

 

 

雅治が勢いよくターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン11]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨10

トラッシュ8⇨0

サブマリモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、僕はアルマジモンをLV2で召喚するっ!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨4

トラッシュ0⇨3

 

 

雅治は【アーマー進化】の効果により手札に戻していたアルマジモンを再度召喚した。

 

そしてその召喚時の効果も使用して、手札の増加を狙う。

 

 

「アルマジモンの召喚時の効果でカードをオープンっ!」

オープンカード

【ディグモン】○

【サブマリモン】○

【アンキロモン】○

 

 

今回も成功、この場合、3枚のうちどちらか1枚が手札へと加えられるが、

 

 

「僕はこの効果でアンキロモンを加えるっ!」

手札3⇨4

 

 

雅治はアンキロモンのカードを加えた。そしてまだだ、まだ続く。アルマジモンの召喚時の追加効果でさらにスピリットを展開する。

 

 

「さらにアルマジモンの追加効果で、2コストを支払うことで手札にあるエンジェモンを召喚っ!」

リザーブ4⇨2⇨0

トラッシュ3⇨5

エンジェモンLV2(2)BP7000

 

 

雅治の場に現れたのは天使型の成熟期スピリット、エンジェモンだ。その潔白なる白き翼を広げ、場に降り立った。

 

ーそして次はアルマジモンの進化だ。

 

 

「アタックステップ!その開始時に、アルマジモンの【進化:黄】発揮!手札に戻して、成熟期のスピリット、アンキロモンに進化させるっ!」

アンキロモンLV2(3)BP5000

 

 

アルマジモンが0と1のデジタルコードに巻かれてその姿形を変化させていく。そして新たに現れたのは黄色の成熟期スピリット、鎧のような皮膚を持つ、4足歩行の恐竜のようなアンキロモンだ。

 

準備は整った。雅治は攻勢えと一転する。

 

 

「アタックステップは継続!アンキロモンでアタックだっ!」

 

 

重たい体を引き摺りながら走り出すアンキロモン。

 

だが、場にはヴァンデモンやヴェノムなど、それよりBPの高いスピリットは多い。

 

しかし、雅治はそんな凡ミスはしない。手札のカードを1枚引き抜き、それを使う。それはこの場を一気にやりかえせる有力なカードだ。そして自分が新たに得たカードでもある。

 

 

「…………行くよ、フラッシュ!シャッコウモンの【ジョグレス進化】を発揮!対象はアンキロモンとエンジェモン!」

「…………っ!?」

 

 

アンキロモンとエンジェモンが飛び立つ。この2体のデジタルスピリットは互いのデジタルコードを混じり合わせ、新たな姿へと昇華させて行く。

 

ーそして、

 

 

「鋼の天使!……シャッコウモンを召喚っ!」

手札4⇨5

シャッコウモンLV3(5)BP13000

 

 

新たに現れたのはまるで翼の生えた土偶。だが、その体躯はヴェノムヴァンデモン並みに巨大な完全体のデジタルスピリット、シャッコウモンだ。

 

 

「おぉっ!でかい!」

「これが雅治のオーバーエヴォリューションで得た力か…………」

 

 

椎名と司がそう言った。そう、これが彼の新たなる力だ。この力で彼を、城門を討つ。

 

 

「シャッコウモンの召喚時効果!【ジョグレス進化】での召喚であれば相手のスピリット全てのBPをマイナス20000!!」

「なんだと!?」

「いっけぇ!!裁きの光!アラミタマっ!」

 

「……………むおっ!?」

ヴァンデモンBP13000⇨0(破壊)

ヴァンデモンBP13000⇨0(破壊)

ヴェノムヴァンデモンBP16000⇨0(破壊)

 

 

シャッコウモンの目から放たれる赤い照射線が、城門の場にいるスピリット達を皆溶解させていく。

 

彼の場は再び更地と化した。

 

だが、彼もただではやられない。

 

 

「私のスピリットが破壊されたことにより、浮遊ピラミッド群の効果発揮!貴様らのスピリットを全て疲労させるっ!」

 

「「!?!」」

椎名⇨マグナモン(回復⇨疲労)

雅治⇨シャッコウモン(回復⇨疲労)

サブマリモン(回復⇨疲労)

 

 

2人の場のスピリット達に紫の衝撃波が上から押し寄せてくる。3体のスピリット達はいずれも動けない状態となってしまった。

 

だが、雅治はまだやる。目は死んでなどいない。何度も何度も諦めずにトライして行く。

 

 

「フラッシュマジック!イエローリカバー!」

手札5⇨4

シャッコウモン(5⇨4)

サブマリモン(2⇨1)

トラッシュ5⇨7

 

「なにっ!?」

 

「この効果で自分の黄色のスピリット1体を回復させるっ!起き上がれっ!シャッコウモン!!」

シャッコウモン(疲労⇨回復)

 

 

アンキロモンのアタック時に残ったフラッシュタイミング。ここで雅治はターンに1回のみ、黄色のスピリット1体を回復させるマジックカード、イエローリカバーを使う。

 

シャッコウモンが紫の衝撃波を断ち切り、再度立ち上がった。

 

ーそして、

 

 

「アタックだっ!シャッコウモン!!」

 

 

シャッコウモンがその翼で飛び行く。行き先はもちろん城門の残り1つのライフだ。

 

 

「よしっ!いけ!雅治!」

「決めちゃえぇ!!」

 

 

司と椎名も声援を送る。

 

だが、仮にも城門は【伝説バトラー】の1人。場を更地にされた程度では到底倒せない存在であって、

 

 

「倒れるものかぁ!!フラッシュマジック!反魂呪!!」

手札3⇨2

リザーブ22⇨20

トラッシュ6⇨8

 

「っ!?!……2枚目っ!?」

 

「この効果でトラッシュよりヴェノムヴァンデモンをLV3で呼び起こすっ!」

リザーブ20⇨15

ヴェノムヴァンデモンLV3(5)BP16000

 

 

再び解き放たれた膨大な闇。そこから飛び出してきたのは、さっき倒したはずのヴェノムヴァンデモン。

 

当然回復状態だ。

 

 

「奴のアタックを阻止せよ!ヴェノムヴァンデモン!!」

 

 

シャッコウモンの方がBPで劣る。ヴェノムヴァンデモンはシャッコウモンを闇の力で動きを止めると、長い腕でそれを全力で殴りつける。シャッコウモンはそれに吹き飛ばされて、力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「くっ!シャッコウモンッ!!」

 

 

流石は【伝説バトラー】と言ったところか、この程度ではビクともしない。雅治の場に唯一残ったサブマリモンも、城門の配置したネクサス、浮遊ピラミッド群の効果で疲労状態。雅治は仕方なくそのターンを終えることになる。

 

 

「……………ターンエンド…………司、任せたからね」

サブマリモンLV1(1)BP4000(疲労)

 

バースト無

 

 

「お前に言われるまでもねぇ、……………既に勝利への道筋は決まっている…………」

「……………ほぉ、……それは本当かね?……………」

 

 

城門はまるで信じ難いと言っているかのような言い草だ。

 

それに対し、司はさらに強く宣言していく。

 

 

「…………だったらしっかりと、その虚ろな目ん玉かっぽじって見ていやがれ……………いくぞぉ!」

 

 

今の城門に、前半ほどの余裕や落ち着きはない。確実に自分たちの攻撃は効いてきている。

 

ーやはりどんなバトラーも無敵ではない。

 

「必ず勝てる」と司は確信しながら、雅治とバトンタッチし、ターンを進めて行く。

 

 

[ターン12]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨12

トラッシュ9⇨0

 

 

「メインステップ、俺はホークモンを再度召喚するっ!」

手札5⇨4

リザーブ12⇨8

トラッシュ0⇨3

 

 

司は【アーマー進化】の効果により手札に戻っていたホークモンを再び召喚した。

 

そしてその召喚時の効果も使用し、手札の増加も狙う。

 

 

「召喚時効果、デッキから3枚オープンし、その中の対象となるデジタルスピリット1体を手札に加えるっ!」

オープンカード

【ホウオウモン】×

【天魔神】×

【アクィラモン】○

 

 

効果は成功、司は赤の成熟期スピリット、アクィラモンのカードを手札へと加えた。

 

司は一気にそれを展開して行く。

 

 

「メインステップを継続して、俺はアクィラモンを召喚するっ!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ8⇨1

トラッシュ3⇨6

 

 

司はたった今手札に加えた成熟期のアクィラモンのカードを、ホークモンの【進化】を使わずに召喚した。

 

単純に手数が欲しかったか、そして手札から1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「さらにマジック!ネクサスコラプスを使用し、てめぇのネクサス2つ、浮遊ピラミッド群2枚を破壊するっ!」

手札4⇨3

リザーブ1⇨0

トラッシュ6⇨7

 

「っ!?!」

 

 

飛び交う炎の弾丸。これは瞬く間に城門の背後に存在するピラミッド達を燃やして行く。それは灰になってしまい、地面に混ざるように消えてしまった。

 

これで紫のスピリットを破壊しても厄介な疲労効果が発揮されることはなくなった。

 

そして司は決めに行く、場にいるこの2体の鳥型デジタルスピリットで、

 

 

「アタックステップッ!!ホークモンッ!!」

 

 

赤い翼を羽ばたかせ、空を飛ぶホークモン。目指すは城門の残り1つのライフ。

 

だが、まだだ、まだまだだ。城門はしぶとい、手札から1枚のカードを引き抜き、それを使いカウンターに出る。

 

 

「甘いっ!………フラッシュマジック!光翼之太刀!!対象はヴェノムヴァンデモンっ!」

手札2⇨1

リザーブ15⇨12

トラッシュ8⇨11

 

「…………っ!?!」

 

「この効果でヴェノムヴァンデモンのBPを3000上げ、このターン、疲労状態でブロックができるっ!」

ヴェノムヴァンデモンBP16000⇨19000

 

 

ヴェノムヴァンデモンに白いオーラがまとわりつく。それはヴェノムヴァンデモンに新たな力を与えている。

 

白のマジック、光翼之太刀はスピリット1体を疲労ブロッカーにする力を持つ。つまり、このターンは除去さえされなければ永遠とブロックを行うことができるのだ。

 

 

「ホークモンを落とせぇぇえ!!」

 

 

ヴェノムヴァンデモンはその長い腕で上空にいるホークモンを叩き落とした。ホークモンはその勢いで地面へと落下し、爆発してしまった。

 

その爆発音はまるで絶望への道を示すかのようであって、

 

 

「…………そんな、ここまで来て、白のマジックだなんて…………」

「……………いや、………これは……いけるっ!いけぇ!司っ!」

 

 

最後の最後で白のマジックを使ってきたことに絶望を感じる雅治。

 

そんな中で、椎名は気づいた。ヴェノムヴァンデモンは城門は…………倒せる。いける。と、確信した。

 

 

「………その通りだめざしっ!!……俺はアクィラモンでアタックするっ!」

 

 

その大きな翼を広げ飛び立つアクィラモン。そしてこの瞬間に発揮できる効果があって、

 

 

「アクィラモンの【超進化:赤】を発揮!これを手札に戻し、完全体のシルフィーモンをLV3で召喚っ!」

 

 

アクィラモンに0と1のデジタルコードが巻きつけられ、進化を果たす。新たに現れたのは聖なる白き獣人型のデジタルスピリット、シルフィーモンだ。

 

だが、シルフィーモンだけでは当然この場は突破できない。

 

 

「はっはっはっは!!!!…………滑稽だなぁ!…そんなスピリットでどうしようと言うのだ、所詮は完全体っ!」

 

 

ジョグレスの完全体は少なからず他の完全体よりも力がある。だが、それは究極体を超えるほどではない。現にBP差も圧倒的。

 

ーしかし、

 

 

「………誰が完全体でいくっつったよ!」

「…………なに?」

 

 

そう、誰もまだこれで終わりなど言っていない。司はここで本命の起死回生の一手を繰り出す。

 

 

「視野が狭すぎるぜ!クソ伝説野郎!!………俺はトラッシュにあるホウオウモンの効果で、場にいるシルフィーモンを対象に煌臨を発揮!!」

シルフィーモン(4s⇨3)LV3⇨2

トラッシュ7⇨8s

 

「なっ!?……それはっ!」

 

 

このホウオウモンのカードはこのターン。司が召喚したホークモンの効果で事前にトラッシュへと送られていたものだ。司の言う「視野が狭い」とはそう言うことである。

 

ーそしてもう気づいても遅い。

 

 

「天空の王者よ!今こそ聖なる炎で地上の全てを焼き尽くせっ!!究極進化ぁぁあ!!」

 

 

シルフィーモンが地面を熱するほどの、赤く、聖なる炎に包まれていき、その中で姿形を大きく変えて行く。

 

その姿は先ほどのとは打って変わって完全なる巨鳥。その大きな翼を翻し、

 

今、飛翔する。

 

 

「………ホウオウモンッ!!」

ホウオウモンLV2(3)BP12000

 

「!!?」

「「よしっ!!」」

 

 

雅治と椎名はガッツポーズを見せる。

 

ーいける。

 

ー勝てる。

 

司はホウオウモンの煌臨時効果を発揮させる。

 

 

「ホウオウモンの煌臨時効果発揮!!……煌臨元になった赤の完全体のスピリット1体を手札に戻すことで……BP10000以上の相手のスピリット1体を破壊するっ!………俺はこの効果でシルフィーモンを手札に戻し、BP19000のヴェノムヴァンデモンを破壊するっ!!」

手札3⇨4

 

「…………ぐぅっ!?!」

「「いっけぇ!!司ぁぁぁぁあ!!」」

 

 

椎名と雅治は声を合わせて司に声援を送る

 

司はその技名を宣言した。

 

 

「…………金色の超炎!!!……シャイニング・エクスプロージョンッ!!」

 

 

ホウオウモンの翼から放たれるその金色に輝く聖なる炎は、瞬く間にヴェノムヴァンデモンを燃やしていく。もがき苦しんでもそれは決して治ることはない。

 

 

「…………くっ!!……ま、まだ抵抗する気か……………この………この生贄どもがぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」

 

 

そして、ヴェノムヴァンデモンを完全なる消し灰にした。

 

【ジャンクゾーン】に吹く空っ風がそれを彼方へと流していく。

 

そんな中、城門の悲痛な叫びだけが、乾いた地面を叩くように響いていた。

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


「はい!椎名です!今回は……………」
「【ホウオウモン】だ、」
「ちょちょちょ!!!司っ!これ私のコーナーだよ!?」
「あぁ?誰がてめぇのコーナーっつてたよ、………ホウオウモンは赤の究極体スピリット……………」
「あーーーあーーーあーーー言うなぁぁぁぁあ!」
「うるせぇ!……煌臨元になった赤の完全体スピリットカードを手札に戻すことで、どんな強力なスピリットでも燃やし尽くす………………以上だ」
「………………全部言っちゃったよ」








最後までお読みくださり、ありがとうございました!
まさかまさかの3話目突入です!次回決着です!
お楽しみに!!


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第34話「渾身の討撃、エスグリーマ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー『私と…………結婚してください!!』

ー『え!?何ですか?急に……………まぁいいですけど!』

ー『必ず………幸せにしますっ!』

 

 

ある40歳程度の男性が、1人の優しい顔をしている歳が30前くらいの女性に対して顔を赤くし、照れながらも告げた。

 

これは今から20年も前の話だ。【紫治城門】と【紫治亜槌】の甘酸っぱい記憶。その時間はとても幸せで、とても幸福であった………

 

亜槌は当時プロとして活躍していた城門のマネージャーとして仕事していた。その彼女の優しさと上品な振る舞いが、城門の心に風穴を開け、恋に落とした。

 

それから2人は結婚し、子宝にも恵まれ、2人の女の子、明日香と夜宵を授かった。

 

それはそれは暖かい家族の話。

 

となるはずだった。

 

そう、はずだったのだ。

 

幸せはそう長くはなかった。

 

亜槌は不幸な交通事故でその命を落とした。

 

そこからだ、家族と城門の中の歯車が狂い始めたのは………

 

 

ー『おかあさまぁぁぁぁあ!!!……う、うわぁぁぁぁあん!!!』

 

 

そう病室で大きな涙を流し、泣いていたのは、当時の夜宵。その側では姉の明日香も仄かに涙を流している。

 

そんな中、城門だけは涙を流さずにただ考えていた。

 

どうしたら亜槌を取り戻せるか、どうしたらまた一緒に居られるかを、

 

それだけを、悲しさよりも、寂しさよりも真っ先にその事だけを直向きに考えていた。

 

そしてそこから約数年後、彼は【Dr.A】たる人物と出会い、城門は彼の研究を手伝う事を条件に、【亜槌】を生き返らせることを約束した。

 

 

 

ーそして、現在に至る。

 

 

ホウオウモンの金色の炎が、城門の操るヴェノムヴァンデモンを一瞬にして灰にした。

 

再び彼の場にスピリットは一体といなくなった。

 

椎名達の勝ちだ。誰がどう見てもそうだと言える状況にまで追い込んだ。

 

 

「……………やった……」

 

 

そう呟いた椎名。それもそのはず、後は唯一アタックできるホウオウモンが動くだけでこの勝負は終わるからだ。

 

城門を倒し、彼の持つ水晶を破壊すれば、夜宵は戻るはず。

 

もう終わるのだ。長かった苦しい戦いが、

 

 

「…………あ、あ、亜槌………わ、私は…………」

 

 

1人項垂れ、それだけを呟く城門。戦意を失っているようにも見て取れる。

 

これを見て、司は勝利を確信した。

 

 

「終わりだな………ホウオウモンで………」

 

 

………「アタック」

 

………そう言おうとした。

 

だが、それよりも先に、

 

 

「………そ、そうだ………私は………負けないっ!!」

「!?……まだやる気なのか!?」

 

 

城門が再び息を吹き返した。その執念と胆力で、

 

そして、ここで、このヴェノムヴァンデモンが破壊されたタイミングで、1枚のカードを発動させる。

 

それは彼にとって、起死回生の、念を押して最後まで取って居た秘策であった。

 

 

「……あ、あぁぁぁぁああ!!!!!………破壊によりバースト発動!天冥銃アーミラリー・スフィア!!」

「なにっ!?それは………」

「銃ブレイブ…………そんなものまで………」

 

 

司と雅治がそう言いながら驚いた。

 

銃ブレイブとはデジタルスピリット同様、珍しいカードであったものだ。近年の発達により、少しは流通数が増えたが、その数は少なく、未だにデジタルスピリットや仮面スピリットよりも希少である。

 

ーそして、そんなレアカードの効果が今、発揮される。

 

 

「この効果で!!貴様らのスピリット1体のコア2つをリザーブに置く!サブマリモンとホウオウモンだ!」

 

「ぐっ!」

ホウオウモン(3⇨1)LV2⇨1

 

「……………サブマリモンっ!」

サブマリモン(1⇨0)消滅

 

 

反転するカードから放たれる紫の衝撃波。それは瞬く間に全体へと広がり、サブマリモンとホウオウモンのコアを抜き取った。

 

ホウオウモンは辛うじて生き残るも、サブマリモンはそれには耐えることができずに、その肉体を消滅させてしまった。

 

 

「この効果で消滅した時、カードをドローし、その後これを召喚する」

手札1⇨2

リザーブ17⇨14

天冥銃アーミラリー・スフィアLV1(3)BP3000

 

 

彼の場に銃が、アーミラリー・スフィアが魔法陣のようなものから飛び出してきた。

 

そして、当然これだけではない。

 

城門はここからさらに展開する。自身の持つ、史上最悪のデジタルスピリットを…………

 

 

「煌臨発揮!対象はアーミラリー・スフィア!!」

リザーブ14s⇨13

トラッシュ11⇨12s

 

「え!?ブレイブを煌臨対象に!?」

「銃ブレイブはスピリット状態であっても煌臨対象にすることができるんだ…………」

 

 

そう疑問を持った椎名にすぐさま回答する雅治。

 

銃ブレイブには皆、煌臨対象になることができる【装鎮】の効果を持っている。これによりスピリット状態であっても煌臨が可能なのだ。

 

そして現れる。

 

紫治城門の操るヴァンデモン。その最高位であるデジタルスピリットが、

 

 

「闇を統べよ!そして我が願いを叶える糧を与えよっ!!煌臨っ!!」

手札2⇨1

 

 

闇のゲートが開かれる。そしてその中から白いアーマーに加えて、仮面を被った新生ヴァンデモンが現れる。その名も……………

 

 

「ベリアルヴァンデモン!!!」

ベリアルヴァンデモンLV2(3)BP12000

 

 

それは紫の羽を広げ、現れた。まるでその存在自体が絶望の塊だ。

 

 

「…………そ、そんな……」

「ここまで来て、また、究極体……だと!?」

 

 

雅治と司はそう言葉にした。このベリアルヴァンデモンに今までにないものを感じた。

 

わかってしまったのだ。体格はヴェノムヴァンデモンに劣るものの、それ以上にこれが強いことが………

 

紛れもなく、それは「恐怖」と言う2文字の言葉であった。

 

 

「銃ブレイブの【装鎮】は成功した後、その煌臨スピリットに合体できるっ!……合体せよ!」

ベリアルヴァンデモン+天冥銃アーミラリー・スフィア

 

 

ベリアルヴァンデモンは地に落ちているアーミラリー・スフィアを拾い上げ、合体する。そのBPとシンボルを増強させた。

 

そしてまだだ。まだこれが全てではない。

 

今度は煌臨時効果だ。

 

 

「煌臨時効果っ!貴様らのスピリット1体のコアを6つをリザーブに送るっ!………消え失せろぉぉお!!ホウオウモンっ!……滅却の………パンデモニウムフレイム!!」

 

「……………ぐっ!?!!……………ホウオウモンっ!」

ホウオウモン(1⇨0)消滅

 

 

ベリアルヴァンデモンの両肩にある寄生虫のような者たちが、口内を開き、そこからホウオウモンに向けて、超高熱線を発射させる。

 

ホウオウモンはそれをまともに浴びてしまい、力尽き、地面へと落下。その衝撃で、この場から消滅してしまった。

 

 

「…………そんな……ホウオウモンが……」

 

 

雅治はそう呟いた。まるでもうこのバトルが自分達の敗北で終わりだと言わんばかりに。

 

司もこれでターンを終わらざるを得なくなってしまった。

 

 

「………………ターンエンドだ」

バースト無

 

 

先ほどの状態から一転。焦土と化す3人の盤面。再び全てを逆転されてしまった。

 

ここからさらに逆転するなど、正直厳しいものがある。

 

3人の場に残ったスピリットは、BPで城門のベリアルヴァンデモンに圧倒的に劣る椎名のマグナモンのみ。

 

そして次のターン。城門は3人をさらなる崖っぷちへと立たせる。

 

 

[ターン13]城門

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ13⇨14

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ14⇨26

トラッシュ12⇨0

 

 

「メインステップ、私はシキツルを2体召喚するっ!その効果でカードを2枚ドローっ!!」

手札2⇨0⇨2

リザーブ26⇨18

トラッシュ0⇨2

 

 

城門が召喚したのは今なおも愛される折り紙の鶴のようなスピリット、シキツル。その効果は至ってシンプル。召喚時にカードを1枚ドローするだけだ。

 

だが、この状況では、それが彼に大きなアドバンテージを与えていた。

 

 

「…………さらに3体目のシキツルを召喚し、カードをドロー!!」

手札2⇨1⇨2

リザーブ18⇨14

トラッシュ2⇨3

 

 

まだ出てくる。3枚目のシキツルの効果で、城門はその手札の枚数を維持する。

 

これで城門の場にはシキツルが3体と、強力極まりない紫の究極体スピリット、ベリアルヴァンデモンが1体。

 

椎名達と比べるとその戦力差は圧倒的。疲労ブロックできるマグナモンを退かし、彼らのライフを破壊するには十分すぎる数だった。

 

 

「はっはっはっはぁぁぁぁあ!!!ようやくだ!ようやく………………亜槌は蘇るぅぅぅう!!!!」

 

 

大きな声で高笑いをする城門。この時点で既にほぼバトルの勝ちを確信したからだ。

 

ーそしてアタックステップ…………に入る直前だった。

 

椎名が口を開いたのは

 

 

「……………なんで」

「………!?」

「なんでそこまで人の命を踏みにいじるの!?…………なんで自分のことしか考えられないの!?」

「っ!?…………なにをっ!?」

 

 

椎名はその口を閉じずにただただ喋った。淡々と……胸を張って……それでいて……大きな声で……

 

 

「夜宵ちゃんは最後の最後まであなたを助けようと思ってたんだよ!自分の命が尽きそうなのに!!【お父様を救ってやって】って私に言ったの!!!」

「………っ!?!!」

「……………そ、そう言えばあの時、明日香さんも……」

 

 

椎名と夜宵がバトルした直後に、夜宵が椎名に遺した言葉がある。それがその言葉であって、

 

夜宵は自分の命がなくなる瞬間まで父のことを…………家族のことを思っていた。またいつか父が優しい父に戻ると信じていたからだ。

 

あの時、その想いを椎名達に託したのだ。

 

それと同時に雅治も思い出した。夜宵の姉、明日香の言葉を…………

 

彼女もほぼ夜宵と同じ事を言い遺していた。

 

2人とも最初からわかっていたのだ。【あの水晶など使っても、自分達の魂を捨てても…………母が蘇らないことを】。

 

止めたかった。どんどん狂っていく父を、

 

救ってやりたかった。たった1人の父親だから……

 

それでもいつかわかってくれると思い、ついていった。そしてわかってくれぬまま、今日という日を迎えたのだ。

 

 

「人1人がいなくなるだけで…………どれだけの人が泣くと思ってるの?どれだけの人が悲しいと思ってるの?夜宵ちゃん達の代わりなんかどこにもいない!!」

「……………っ!?」

「一度それを味わったあなたならわかるはずなのにっ!!どうしてっ!?どうしてだよぉぉお!!!」

 

 

涙を流しながら、その悲痛な想いを口にする椎名。

 

その言葉に、城門以外の誰もが同情していた。

 

城門は苦しかった。実際はこれが正論なのであろう。自分のやろうとしている行いは間違っているのだろう、と。

 

だが、もう後には引けないのだ。あの時、夜宵の悲しむ声を聞きながら、決めたのだ。【必ず亜槌を取り戻す】と。

 

 

「…………黙れ…………黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇえぇぇえ!!!貴様らのような若者に私の気持ちの何がわかる!!?!………………終わりだぁ!!!ベリアルヴァンデモンっっ!!!」

「………長峰、赤羽、……椎名ぁぁぁぁあ!!」

 

 

城門の指示を受け、飛翔するベリアルヴァンデモン。目指すは椎名達3人の1つのライフだ。

 

晴太が彼らを想うような大きな声をあげるが、全く意味がないことであって……

 

今現在、これをブロックできるのは椎名のマグナモンだけ、ブロックはするしかない。

 

ベリアルヴァンデモンのパンデモニウムフレイムが椎名達3人めがけ、一直線に放たれる。

 

椎名はその中で進む口を閉じなかった。

 

 

「……………わからないよ………私は夜宵ちゃんのお母さんを知らないし…………でもこれだけは言える……夜宵ちゃんのお母さんは夜宵ちゃん達を犠牲にしてまで生き返りたくないのは…………痛いほどわかった……………」

「………………っ!?!」

 

 

ここまでの椎名の叫び。

 

ーそれが雅治と司に再び恐怖を振り切る勇気と希望を与えていた。

 

 

「…………うん、そうだよね、椎名………」

「………俺らの強さ、見せつけてやるぞ………」

 

 

2人は静かに椎名の横でそう呟いた。

 

ーそして、

 

 

「うるさいっ!!終わりだと言ってるだろうがぁぁぁぁあ!!」

 

 

ーそれを止める。

 

 

「フラッシュマジック!!2枚目のリアクティブバリアを使用するっ!…………………」

手札4⇨3

マグナモン(16⇨12)

トラッシュ0⇨4

 

「……………っ!?!」

「アタックはマグナモンで受け止めるっ!マグナモンっ!!!!」

 

 

パンデモニウムフレイムが3人に直撃するその瞬間。椎名達の前にマグナモンが飛び向かい、わが身を盾として、彼らを守る。

 

防御に長けたマグナモンと言えども、究極体の放ったその一撃には耐えられない。それが終わるまでは耐えるものの、終わった直後に、力尽き、その場で消滅してしまった。

 

彼は身を呈して、椎名達を守り抜いた。

 

 

「…………ありがとう、マグナモン…………リアクティブバリアの効果でこのターンのアタックステップを終了させるっ!!」

「………ぐっ!!き、貴様らぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

マグナモンが消えた瞬間に立ち込める猛吹雪。それは城門の場にいるシキツル達の動きを完全に封じ込めていた。

 

城門はこのターンのアタックステップを終了せざるを得ない状況に追い込まれた。

 

 

「な、なぜだ…………き、消えない………目の前の魂が、生贄が!!………なぜ消えないっ!?!」

ベリアルヴァンデモン+天冥銃アーミラリー・スフィアLV2(3)BP15000(疲労)

シキツルLV2(3)BP2000(回復)

シキツルLV2(3)BP2000(回復)

シキツルLV2(3)BP2000(回復)

 

ムゲンマウンテンLV1

ムゲンマウンテンLV1

ムゲンマウンテンLV1

 

バースト無

 

 

城門はその消えず、減ることのない3人のライフに怒りを感じながら、そのターンを終えた。

 

 

「当然だ…………今のてめぇに俺たちは一生賭たって倒せやしねぇよ」

 

 

そう呟いたのは司だった。

 

ーそして、

 

 

「めざし…………お前のターンで決めろ……」

「!?!」

「うん。おそらく、僕達のデッキのカードじゃあ、この場を突破できないかもしれない…………」

「…………お前に、お前のその馬鹿みてぇな運に、全て賭けてやる…………だから勝て!」

 

 

司は椎名に強くそう言った。雅治も同じ気持ちだ。

 

これは賭だ。今まで数々の奇跡を引き起こしてきた椎名の右腕に、彼らは全てを賭けたのだ。

 

任された椎名は、ここで断るわけがない。全身全霊で、とにかく真っ直ぐ、一気に、城門の残り1つのライフまで、突き進むだけだ。

 

 

「私のタァァァアン!!!」

 

 

椎名は勢いよくターンシークエンスをスタートさせた。

 

 

[ターン14]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ12⇨13

 

 

「…………ドローステップっ!!!……………よしっ!!」

手札3⇨4

 

 

椎名がこのターンのドローステップで召喚したのはまさしく最強のドロー。このターンにこれ以上に強いドローはないだろう。

 

その後も、椎名はターンを進め、着々とそれを召喚するまでの敷地を作っていく。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ13⇨17

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!………ブイモンを召喚っ!!」

手札4⇨3

リザーブ17⇨11

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が真っ先に呼び出したのはブイモン。このバトルでは何度も訪れた、ヴァンデモンの手札破棄効果を逃れ、椎名の展開をサポートしてきた。

 

その召喚時効果で、椎名は新たな手札確保を試みる。

 

 

「召喚時効果でカードをオープンっ!!」

オープンカード

【No.26キャピタルキャピタル】×

【エクスブイモン】○

 

 

効果は成功。椎名はこの効果で青の成熟期スピリット、エクスブイモンを手札へと加えた。

 

そしてまだだ、まだ展開する。ブイモンの召喚時効果の追加効果で、エクスブイモンの相棒を呼び出す。

 

 

「さらに!ブイモンの追加効果で、2コストを支払い、緑の成熟期スピリット、スティングモンを召喚っ!」

手札3⇨4⇨3

リザーブ11⇨9⇨4

トラッシュ3⇨5

スティングモンLV3(5)BP10000

 

 

椎名の場に飛び出してきたのはスマートな昆虫戦士、スティングモン。その効果は単純で強力なコアブースト効果だ。

 

 

「スティングモンの効果でコアを1つ増やす」

スティングモン(5⇨6)

 

 

ーそして、次はエクスブイモンの番だ。椎名の手札よりそれが呼び出される。

 

 

「そしてエクスブイモンを召喚っ!…………召喚時効果で、2枚引き、2枚捨てる」

手札3⇨2⇨4⇨2

リザーブ4⇨1

トラッシュ5⇨7

 

 

現れたのは蒼き闘竜、エクスブイモン。その腹部のエックスの文字が特徴的だ。

 

これで準備は整った。椎名は呼び出す。この戦いで得た、自分の新たなる力を……

 

 

「パイルドラモンの【ジョグレス進化】を発揮!!対象はエクスブイモンとスティングモン!!2体を融合させて、新たな命が芽吹く!!」

手札2⇨3

 

「……………こ、これはっ!?」

 

 

そして現れる。無敵の竜人が、

 

 

「蒼き闘竜と勇猛な昆虫戦士が混ざり合う時…………至高の竜戦士が姿を現わす……………ジョグレス進化ぁぁぁぁあぁ!!!」

 

 

飛び交うエクスブイモンとスティングモン。この2体は自身のデジタルコードを混じり合わせ、新たな姿へと昇華させていく。

 

そして新たに現れるのは至高の竜戦士。青と白の4枚の翼と、赤い仮面、腰にある2つの機関銃に加え、黒い昆虫の甲殻までもを身につけている。

 

その名も…………

 

 

「パイルドラモンッッ!!!」

パイルドラモンLV3(5)BP13000

 

「…………っ!?」

 

 

椎名の新たなるエーススピリット、パイルドラモンがその姿を現わした。

 

そしてこの時、召喚時の効果も発揮されるのであって、

 

 

「パイルドラモンの召喚時効果っ!!【ジョグレス進化】により召喚されていたのなら、相手のコスト7以下のスピリット全てを破壊するっ!!」

「くっ!?」

「殲滅の………デスペラードブラスター!!!」

 

 

パイルドラモンが腰に付いている機関銃を持ち上げ、そこから城門の場に向けて、何発も何発もぶっ放した。

 

コストが高いベリアルヴァンデモンには直撃しようともびくともしていなかったが、コストの低いシキツル達はそうはいかない。その身体の全てを撃ち抜かれ、次々と爆発していった。

 

 

「よし!」

「これで後はアタックすれば…………」

「私達の勝ちだぁ!!!」

 

 

そう言った3人。そしてアタックステップだ。

 

ここからが勝負である。

 

 

「アタックステップっ!!パイルドラモンでアタックっ!!………その効果でコアを2つパイルドラモンに置くことで、パイルドラモンは回復するっ!」

パイルドラモン(5⇨7)(疲労⇨回復)

 

 

パイルドラモンは走り出した。目の前の城門を倒すために、

 

それと同時に回復状態にもなった。残り1つのライフを破壊するには十分すぎる連撃であった。

 

が、城門はまだ何かあった。それは椎名を絶望させるには十分すぎる代物であって…………

 

 

「………あ、あぁ!!私は、私はぁ!!!亜槌をこの手に取り戻すまでは!!必ず負けはせんっ!!…………フラッシュマジック!!光翼之太刀!!対象はベリアルヴァンデモンっっ!!!」

手札2⇨1

リザーブ23⇨20

トラッシュ3⇨6

ベリアルヴァンデモン+天冥銃アーミラリー・スフィアBP15000⇨18000

 

「……………え?」

「説明は不要だなぁ!! ベリアルヴァンデモンでブロックだぁ!!」

 

 

そのターン中のみ、疲労ブロッカーの効果を与える白マジック、光翼之太刀。2枚目はベリアルヴァンデモンに与えられる。

 

空中に飛び立つベリアルヴァンデモン。その上空から合体させられたアーミラリー・スフィアで、何度も地上のパイルドラモンに撃ち込んだ。

 

パイルドラモンはその場を旋回し、なんとかかわし続けているが、放って置けばいずれ直撃し、敗北するのは目に見えていた。

 

 

「…………そ、そんな……BP18000……パイルドラモンじゃあ……勝てない…………」

 

 

椎名はそう呟いてしまった。呟いてはいけないとわかっていても………その内に秘めた弱音を呟いてしまった。

 

……「勝てない」

 

今の自分では、パイルドラモンでは、どう足掻いても、奴には勝てない。そう思ってしまったのだ。

 

これでは、ここで負けては夜宵は無駄死にだ。勝たねばならないのに…………

 

ーだが、直ぐに気づくことになる。

 

ー自分は1人で戦っているわけではないことに。

 

ー今、ここには2人、いや、本当は何人もの人が自分の味方だと言うことに。

 

 

「おいっ!めざし!!なにへこたれてんだぁ!お前に全部賭けるっつっただろうが!!」

「…………司……!!」

「そうだよ!君は1人じゃない!僕達が付いている!」

「…………雅治……!!」

 

 

そうだ。今はこの2人が椎名のそばにいる。この2人と自分がいれば、他の誰にも負けるわけがない。

 

そんな中、このタイミングで雅治が手札のカード1枚を引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!舞華ドロー!!ベリアルヴァンデモンのBPをマイナス3000!!」

手札4⇨3

リザーブ5⇨2

トラッシュ7⇨10

 

「…………っ!?」

ベリアルヴァンデモン+天冥銃アーミラリー・スフィアBP18000⇨15000

 

 

黄色いオーラを纏ったカードが、上空にいるベリアルヴァンデモンを貫く。その力を幾分か弱めた。

 

ーそして今度は司だ。

 

 

「フラッシュマジック!レッドライトニング!!ベリアルヴァンデモンに合体された天冥銃アーミラリー・スフィアを破壊!」

手札1⇨0

リザーブ4⇨0

トラッシュ8⇨12

 

「……………なっ!?」

ベリアルヴァンデモン+天冥銃アーミラリー・スフィア⇨ベリアルヴァンデモンBP15000⇨12000

 

 

司が放ったマジック。その赤い稲妻が瞬く間にベリアルヴァンデモンの手に持っていたアーミラリー・スフィアを捉え、破壊した。

 

これでベリアルヴァンデモンのBPは大きく削ぎ落とされ、BP13000のパイルドラモンを下回った。

 

 

「今だぁ!!いけぇぇ!!椎名ぁぁぁぁあぁ!!!」

「ぶちかませぇぇえぇ!!」

 

 

2人の心からの叫びは確かに、確かに椎名の心の内側まで響いてきた。

 

だったら応えるしかあるまい。

 

椎名はその2人の想いに涙ぐみながらも、それを拭い、……………勝負を決める。

 

 

「うっ、……うぉぉぉぉぉぉぉお!!!…………渾身のっ!」

 

 

アーミラリー・スフィアをなくしたベリアルヴァンデモン。

 

彼に残された武器である両肩の砲撃。これをパイルドラモンに向けて放とうとした瞬間だった。

 

 

「………討っ!!撃っ!!」

 

 

パイルドラモンが一瞬の隙をついて自身の眼前まで迫っていた。ここは上空であると言うのに…………

 

そして、パイルドラモンはその拳をベリアルヴァンデモンへと向ける。

 

 

「……エスッ!!…グリーマァァァァァァア!!!!!!!!!!!!!」

 

 

何発も何発もそのスティングモンのスパイクが埋め込まれた拳でベリアルヴァンデモンを殴りつける。全ての装甲にひびや亀裂が入るまで、何度も何度も…………

 

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!………っらぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

下へ向けられたトドメの一発が、ベリアルヴァンデモンのこめかみに命中する。ベリアルヴァンデモンは上空から叩き落され、ゆっくりと落下していく。

 

その落下先には、城門がいた。

 

 

「………ま、負ける!?………わ、私が……私が間違っていたと言うのか…………っ!?…………あ、亜槌……」

ライフ1⇨0

 

 

城門は儚くも、その落下してきたベリアルヴァンデモンの重みで、最後のライフを木っ端微塵にされてしまった。

 

そのガラス細工が割れたような音は、ゆっくりと、なによりも切なく、この界放市離れの【ジャンクゾーン】へとこだました。

 

そしてその凄まじい衝撃からか、城門の懐に入っていた【Dr.A】が作り上げた水晶が飛び出し、綺麗に真っ二つに割れた……………

 

 

「…………なんて子達だよ、本当に3人だけで…………」

 

 

なによりも早く呟いたのは晴太だった。

 

そしてバトルしてた3人も……

 

 

「…………か、勝った?」

 

 

椎名はそう呟いた。その一瞬はまるで勝った気がしなかったからだ。疑っていたのだ。

 

 

「そうだよ椎名!僕らで勝ったんだよ!あの【伝説バトラー】の1人に!!!」

「そんなことより、さっきの衝撃で奴の持っていた水晶が割れたぞ」

 

 

3人と晴太、聖子は割れた水晶を確認すると共に、夜宵達の方へと目を向けた。

 

正直なところ、あれを壊しても魂が戻るのは半信半疑であったが、ここでそれが確信に変わった。

 

 

「……………ん?……ここは?」

「…………や、夜宵?あなたなぜ?」

「…………お、お姉様こそ…………」

 

 

2人が起き上がった。記憶が不安定の中、互いの存在を認知し合っている。

 

椎名はこの光景に涙が堪えきれなかった。

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁあ!!!夜宵ちゃん!!!!」

「へ!?し、椎名ちゃん!?」

 

 

椎名は思わずその場を飛び出して、夜宵の側で土下座をするような体制で延々と泣きじゃくった。

 

「あぁ、良かった」「あぁ良かった」と。それだけ思うだけで涙が止まらなかった。

 

夜宵と明日香は周りを見渡してこれがどういう状況なのかを確認した。そして悟。これは自分達が思い描いていた最高の光景であると。

 

 

「…………そ、そっか、椎名ちゃん達が…………ありがとう」

 

 

夜宵も涙を流しながら目の前で大泣きしている椎名の頭を撫でた。

 

司も雅治も晴太も、その光景を微笑ましく思った。

 

ーそして、

 

 

「…………立てる?紫治城門…………あなたを拉致、及び、殺人未遂容疑で逮捕します」

「……………」

 

 

聖子は地面に仰向けに倒れていた城門にそう言った。

 

城門はもう逮捕される覚悟は決まっている。

 

ただ、誰でもいいからこれだけは聞きたかった。

 

 

「…………私のしていたことは……間違っていたのか………?」

 

 

それに対し、聖子はゆっくりと返事をした。

 

 

「……そうね、……人智を超えようとした罰、と言ったところでしょうね、……私も気持ちはわからなくもないわ………後は本部で考えなさい」

 

 

そう言って、聖子は城門の両手に手錠を掛け、立ち上がらせた。

 

そのまま引き連れ、2人でこの場を立ち去ろうとした。

 

それは聖子なりの気遣いのつもりであった。このまま城門を、夜宵と明日香の前から連れ去ろうと思ったのだ。

 

城門の気持ちを考えれば、当然だろう。何せ、そこにあった本当に一番大事なものを犠牲にしようとしたのだから。

 

だが、神はそれを許さなかった。気づいてしまう。夜宵と明日香が、

 

 

「「お父様!!」」

「………………」

 

 

城門は娘達2人に呼び止められ、その足を止めた。

 

あぁ、いったいなんと言うのだろうか、自分の果てしない欲を叶えるためだけに行動していた自分に対して、優しかった娘2人は、

 

やはり誹謗なことだろうか、そう言われても正直仕方ないことはした。

 

だが、そんな城門の予想とは裏腹に、夜宵と明日香が放った言葉は…………

 

 

「またいつか…………」

「戻ってきてください!!」

「!?!」

 

 

城門は驚いた。思わず後ろを振り返って2人の顔を見た。

 

笑っていた。まるで自分にも感謝しているかのように。

 

なぜだ。

 

 

「お母様はいないけど…………それでも私達は幸せでした、お父様がいたから!」

 

 

夜宵が言った。

 

 

「罪を償ったら、また家族で食卓を囲みましょう……………」

 

 

明日香が言った。

 

 

「…………うっ、…………うぅ…………あぁ、わかった」

 

 

城門は涙を流しながら頷いた。あんなに酷いことをしたのに、なぜこんな愛という名の報いがあるのか、

 

そんなこと、理由はただ1つだった。今ならわかる。

 

それが家族だからだ。

 

城門はその後、聖子と共に【ジャンクゾーン】を出て警察本部へと向かった。

 

 

「…………ははっ!」

 

 

椎名は満面の笑みで小さく呟くように笑ってみせた。

 

確信したのだ。たった今、夜宵達は母という大事な存在は取り戻せなかったが、

 

家族というなによりも暖かいものを取り戻したのだと、

 

ー全てがこれで終わった。

 

 

******

 

 

 

これは椎名達が紫治一族の野望に巻き込まれてから2週間が経った時であった。

 

椎名と真夏はいつものようにクラスの教室で雑談していた。

 

真夏の話によれば、幸いにもヘラクレスの怪我は大したことなかったようだ。今は元気ピンピンで、ナンパしてるとかしてないとか、

 

あの場にいた真夏にも詳しく話した。あの時のことを、鮮明に……………

 

ーそして、ホームルームの時間がやってきた。教室だけではなく、学校全体がチャイムの音で響き渡る。

 

そんな椎名達の教室に、いつものように晴太が入ってくる。

 

 

「よし!全員いるなぁ!!早速、ホームルーム…………といきたいとこだが、…………」

 

 

晴太はその言葉をためた、生徒達もそれが気になるようで、前のめりに耳を傾けているものもいた。

 

 

「転校生を紹介するぞ!」

 

 

晴太が笑顔でそう言った。何やら嬉しそうだ。クラスの生徒達もそれには思わず「おお!」と呟いた。

 

 

「よし!入っていいぞ!!」

 

 

そして、晴太は中に、その転校生を入れる。

 

その正体は椎名達にとって、なによりも驚く存在であって、

 

 

「……………え?…………や、夜宵……ちゃん?」

「あっはは、来ちゃった〜」

 

 

入って来たのは夜宵だった。椎名と真夏は思わず目をあんぐりとさせる。その制服はいつものデスペラード校のものではなく、ジークフリード校の制服であるためか、皆違和感を感じていた。

 

他の生徒、特に男子は盛り上がった。それもそのはず。何せ、転校生があの話題沸騰中の紫治夜宵なのだから。

 

椎名は思わずその場から立ち上がった。

 

 

「な、なんでなんで!?」

「ほんまよ、なんでなん?先生!?」

 

 

椎名と真夏の疑問に、晴太が答える。

 

 

「あ〜〜、えっとな、デスペラード校が理事長不在で、潰れちゃったから、他の学校にその生徒達は分散したんだ」

「そういうことだよ!これからよろしくね!」

 

 

夜宵もそう言った。

 

【バトスピ学園】とは脆いもので、政治機関と繋がる役目を担う理事長がいなければ、簡単に崩壊してしまう。

 

そのために、デスペラード校の生徒達は、各学園に散り散りになったのだ。

 

いや、もう椎名はそんなこと正直どうでもよかった。とにかく嬉しかった。友達が学校に来たことに。

 

 

「こっちこそよろしく!!夜宵ちゃん!!」

 

 

ーまだまだ少年少女達の波瀾万丈な学園生活は終わらない。

 

 

 

 




〈次回予告〉

「椎名です!次回は卒業式!ヘラクレスとかぁ、白の…………一族の……私とバトルした………なんだっけ?……後ウルトラマンのごっつい人とか、いろんな人が卒業しちゃうよ!次回、『門出を祝え!さらばヘラクレス!』……今、バトスピが進化を超える!」







最後までお読みくださり、ありがとうございました!
なんとか終えました。ですが、この章も後1話残ってます。だいたい終わったんですけどね、文章量的に1話ほど浮わついちゃいました。
私の苦手なシリアス展開ともしばらくはおさらば!これからは楽しいの書くぞぉ!って思ってます。
毎度思っておりますが、読者様、毎回私などが描く【バトルスピリッツ オーバーエヴォリューション】をお読みくださり、ありがとうございます!これからも誠心誠意頑張ってみせます!


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第35話「門出を祝え!さらばヘラクレス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

季節は2月末。もうすぐ春だと言わんばかりに積もった雪からその顔を覗かせるふきのとうや、今にも輝こうとする桜並木の蕾達。

 

そして今日は全ての学生達にとって特別な日だ。

 

 

【卒業式】

 

それは学生ならば、必ず通らなくてはならないもの。

 

だが、青春を謳歌していたもの達にとっては「通りたいが、通りたくはない」

 

そんな気持ちの矛盾が生じてしまう行事でもある。

 

この界放市にもその季節が訪れた。今日に限ってはどこに行っても卒業式である。

 

そして、このジークフリード校でも………

 

 

「………ふわぁぁあ〜〜……」

 

 

赤毛の少女、芽座椎名は大きな欠伸をかいた。今は全校生徒、いや、学園に携わった者達全員体育館で卒業式を行なっていると言うのに。

 

今は卒業証書が、卒業生一人一人に配布されている。

 

界放市のバトスピ学園の一学年の生徒は平均して約100人程。それに加えて、理事長の不在により崩壊した元デスペラード校の生徒達の数も足し合わせるとそれなりの人数がいることになる。

 

ジークフリード校理事長、龍皇竜ノ字は、卒業生に1人ずつフルネームでその名前を読み上げて、卒業証書を渡していた。流石にきついか、喉はもうカスカスである。偶にでてくる裏声が、生徒達の笑いの的になっていた。

 

そんな中でも椎名は欠伸を何度かかいたと思ったらすっかり夢の世界へと誘われており、

 

 

「…………ほな、椎名、………起きなあかんよ〜〜」

 

 

丁度椎名の横にいた真夏が、ひそひそと小声で呟きながらも肘で椎名を突き出す。

 

それにより、椎名はゆっくりと目を開けた。目覚めが悪かったか、その目は完全には開かず垂れ下がり、何故か彼女の特徴的なアホ毛までもしおれるように垂れ下がっていた。

 

 

「………ねぇ真夏…………卒業式ってバトルしないの?」

「………アホ……するわけないやろ」

 

 

小声で呟きあいながら会話する2人。

 

椎名は暇だった。バトスピ 学園なのだからどうせならバトルを取り入れなければ意味ないだろう。と呆れた考えを持つほどに。

 

いや、本当はこれくらい腑抜けた考えができるくらいが丁度いいのかもしれない。

 

約4ヶ月前までは、本当に大変だった。「文化祭の途中で呼び出され、何事かと思って界放市外れの無法地帯、【ジャンクゾーン】に行って見たが、そこには一族の野望が待ち構えていましたー。」など、普通はあまり起こりえない。

 

結果的にはほとんど丸く収まってくれたが、

 

一方で、あれ以降の紫治一族はと言うと、

 

夜宵は再びラジオやテレビで活躍することになった。これは椎名としても単純に嬉しいが、時折、それのせいで学校に来ない時もある。それは少し残念か、今日もそれがあって、夜宵は学校に来ていない。

 

夜宵の姉、明日香は、あの事件以降、全く姿を見せてはいない。夜宵が言うには、学校には新たに入らず、父が行なっていた故人の供養などをしているようだ。まぁ、稼ぎ手が夜宵以外はほぼない今では仕方のないことだったのだろう。あるいは、父が帰ってきたときのためか………

 

そして、全ての元凶でもあった【Dr.A】と呼ばれる人物だが、事件中も結局椎名達と邂逅する事もなく、ただただひっそりと息を潜めた。

 

警察である一木聖子が、彼の後を捜索するが、結局はなんの音沙汰もなく、現在に至る。本当に最初から最後まで謎に満ちた人物であった。

 

何はともあれ、それは解決したのだ。もう気にする事もない。椎名達はただ残った2年間の学生生活を謳歌するだけである。

 

 

******

 

 

場所は変わり、ここは同じく界放市のキングタウロス校がある区だ。ここもジークフリード校同様に卒業式が行われていた。

 

いや、それ自体はもう、終わったか、校舎の体育館から卒業証書を持った生徒達がぞろぞろと飛び出してくる。その中には、友と語り、笑い合う者。涙を流し、友に慰めを受けている者など、それぞれである。

 

いずれにせよ、彼らには楽しかった学生生活があったことが理解できる。

 

ーそして、キングタウロス校と言えば、この男も卒業だ。

 

 

「キャーーー!!!ヘラクレスさーーーん!!卒業しちゃいや〜!!」

「最後に一度バトルしてくださ〜〜い!!」

「……………はは、参ったなこりゃ」

 

 

そんな感じで多くの黄色い声援が1人の男子生徒に飛び交う。その男子生徒とは、

 

ー緑坂冬真………

 

ーヘラクレス

 

もともと底知れない実力を見せていたが、今年はバトスピ学園設立初となる【界放リーグ三連覇】を成し遂げて見せた。その快挙はなによりも異例で、尚且つ凄まじく、どのプロチームにも事務所にも入団してくれと引っ張り凧だったらしい。

 

 

「俺とバトルしてくれ!」

「いや、僕と!」

 

 

界放市のバトスピ学園では、いや、どこの街の学園でも大抵はやるのだが、卒業式が終わったこの放課後の時間を使って、生徒達は校内中でバトルしまくる。このキングタウロス校も例外ではない。

 

ヘラクレスにこの通り、大半は黄色だが、いろんな声が飛び交った。「自分とバトルしてくれ」「いや私だ」と。当然だ。彼はこの学園では男女問わずに人気が高い。そうであれば誰だって彼とバトルがしたい。

 

だが、ヘラクレスは既に1人先約がいた。

 

ーその者が今、彼の目の前に現れる。

 

 

「……………師匠!!」

「…………おぉ、来たな……弟子」

 

 

ヘラクレスの前に現れたのは彼の一番弟子でもある炎林頂。少し長めの緑の髪に加え、先だけが少し赤なのが特徴的。

 

ヘラクレスは最初はほんの気分だった。女の子と喋る時にネタにできる程度の考えで弟子を取ったが、今となっては割と可愛がっている。

 

そう、最初の相手はやはり、彼では、弟子ではないと始まらない。ヘラクレスは真夏の兄は、そう考えていた。

 

そんな2人を見てか、ヘラクレスの周りに群がっていたキングタウロス校の生徒達はまるで彼らに道を譲るかのようにその場を離れ、バトルができる程度のスペースを確保した。

 

ヘラクレスと炎林は自身のBパッドを展開する。

 

 

「このバトル、俺の全てをあんたに捧げる!」

「…………楽しみにしとるでぇ」

 

 

ーそして、

 

 

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

バトルが始まった。ここだけではない。どこの学園でもあっちこっちで、

 

バトラー一人一人の操るスピリット達の声が、咆哮が、校舎全体に反響している。

 

普段であればこのような状況は近所から注意されることだろう。だが、卒業式のような行事であるのなら話は別である。

 

今日というこの日は、界放市のバトスピ学園の生徒全員が大いに、好き勝手に学園中、いや、街全体を舞台に暴れまわってバトルしても、誰もその青春に対して文句を言うものはいない。

 

それほどまでにこの街のバトスピ学園と言う存在は大きいものであって、

 

 

******

 

 

そしてまた舞台は再びジークフリード校。

 

ここでも卒業式が終わり、キングタウロス校のように在校生と卒業生、又は卒業生同士がバトルを繰り広げていた。

 

 

「ん、……んーーーーー」

 

 

椎名は校舎前の桜並木の道で、両手をながら、ゆっくりと背伸びをした。まるで体中の疲れを上へ上へと押し流しているかのように。

 

 

「よ〜〜し、行くか………」

 

 

椎名は1人、ジークフリード校の門を出ようとする。卒業生でもないのに。いや、それ自体に問題があるわけではないのだが、

 

椎名が向かおうとしていたのはキングタウロス校だ。

 

どうしても一度真夏の兄、ヘラクレスとバトルしてみたかった。一度流れでやったが、あの時はそんな楽しんでいられる状況でもなかったためか、椎名の中ではどこか不完全燃焼であったのだ。

 

ジークフリード校の3年生に何か未練があるわけでもない。実際仲が良い人は誰1人としていなかったのだし、

 

そう思って椎名が門をくぐろうとした直後だった。

 

 

「…………ガハハハハ!!!!……おい、どこいきやがる?芽座椎名!この俺様を置いてお出かけとはいい度胸だなぁ、おい!」

 

 

とても図太い声が椎名を呼び止めた。

 

椎名はその声の方へと振り返る。そこにはもう何ヶ月ぶりとなるか、【毒島富雄】がいた。

 

3年生で、もう卒業したと言うのに、なんとも言えない、いや、我を通していると言ったところか、その制服は相変わらずのヤンキースタイルだ。

 

 

「……………………………………………………………………あっ、毒島先輩……卒業おめでとう!」

「絶対今思い出したよなぁ!!てめぇ!!なんだ今の間は!……間は!!」

 

 

椎名は少しだけ頭をひねってようやく思い出した。

 

そう、彼は今年の頭に椎名にコテンパンにされてからずっと復讐するべく自らを鍛え上げ、その機会をうかがっていたのだ。

 

1度負けた、そして2度目も負けた。3度目はそうは行くかと言う勢いでのご登場であった。

 

 

「…………で、何の用ですか?」

「当然バトルだ!決着つけるぜ!」

「………決着って、もう私2回も勝ったじゃん!!……………まぁ、でもいっか、準備運動しなきゃね!」

「最近【蒼龍の舞姫】だのようわからん異名をもらって調子乗ってるみたいだがよぉ!この卒業生、毒島富雄様には勝てねぇってことをとことん教えてやるよぉ!!」

 

 

2人はBパッドを正門の前でBパッドを開き、

 

ーそして、

 

 

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

バトルを始めた。その開始の宣言が校舎に響いて行く。

 

毒島はまだ気づいていなかっただろう。椎名という存在のおかげで自分が卒業できるほどの実力になっていたことに。

 

 

******

 

 

そして舞台は戻り、キングタウロス校。

 

ヘラクレスと炎林のバトルに決着がつこうとしていた。

 

 

「………へっ!終わりやな!…………ヘラクルカブテリモンでアタックや!」

「くっ!?………ら、ライフで受ける!…………師匠、ありがとうございましたぁ!!!」

 

 

ヘラクレスのエーススピリット、黄金に輝く甲殻を纏った緑の究極体デジタルスピリット、ヘラクルカブテリモンはその4本のツノから雷の砲撃を一直線に放った。

 

それは凄まじい勢いで飛び行き、炎林のライフを撃ち抜いた。

 

これにより、このバトルの勝者はヘラクレスだ。

 

 

「…………ほんと、つよぉ〜なったでぇ!弟子!」

「くっ!!あなたがいてくれたからっすよ!!ありがとうございました!!」

 

 

炎林を褒めるヘラクレス。そしてそれに対して感動して涙を流す炎林。

 

負けはしたが、最後まで悔いの残らない良いバトルだったと炎林は実感した。

 

だが、ここからさらに感動のシーンになるかと思いきやだ。ヘラクレスはぶれなかった。

 

 

「あっ!じゃあ次そこの娘!……君可愛いわ〜〜〜バトルしちゃう?」

 

 

ヘラクレスは目の前にいた弟子、炎林を、バトルが終わるなり早々に視界から外し周りで自分達のバトルを見ていた1人の女生徒に声をかけていた。

 

その生徒ももちろんオッケーだ。憧れのヘラクレスからのご指名なのだ。流石にノーと言う返事はありえない。か、直ぐにバトルが始まる。

 

 

「ちょっと師匠〜〜そりゃねぇっすよーーー!!」

 

 

炎林の渾身の叫びは他のどのスピリット達よりも大きかった。

 

 

******

 

 

 

そして再びジークフリード校。その正門前では、椎名と毒島がバトルを繰り広げていた。

 

今の互いの場は、毒島が蜘蛛の女王のような完全体のデジタルスピリット、アルケニモンと、同じく完全体である包帯を巻いていたミイラのようなデジタルスピリット、マミーモンがいた。

 

対して椎名は昆虫の甲殻を纏う竜、パイルドラモンと、金色のブイの字を輝かせる青くて小さな竜、ブイモン。

 

そしてこのブイモンが今、進化を果たす。

 

 

「へへっ!いくよっ!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!」

「!?!」

 

 

毒島は確信した。「奴」が来ると、

 

ブイモンの頭上に赤くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。

 

 

「燃え上がる勇気!フレイドラモンをLV2で召喚っ!!」

 

 

新たに現れたのは燃え盛る炎を纏うスマートな竜人、フレイドラモン。椎名のエーススピリットだ。その力で幾度となく椎名を救ってきた。

 

フレイドラモンとパイルドラモン。2体は共鳴し合うかのように強く咆哮した。

 

 

「へへっ!行くよっ!毒島先輩!!」

「おうよ!どっからでもかかってこいってんだぁ!」

 

 

界放市のバトスピ学園の生徒達は、それはそれは楽しい時間を過ごした。なによりもかけがえのない大切な時間を、大切な人達と一緒に、一秒一秒刻みながら。

 

「春」とは、出会いと別れの季節。

 

そう、別れがあれば、出会いもまた必然的に訪れるものである。だが、それらはまた次回からのお楽しみ。

 

 

******

 

 

全ての楽しい時間が終わった後の夜。緑坂冬真と緑坂真夏は界放市中心にあるターミナル。駅へと赴いていた。

 

もうすぐ電車が来るのだ。ヘラクレスを界放市と言う名の虫籠から抜け出すための。真夏はそれを一応送迎しにきたのだ。

 

ー電車の走行音が徐々に徐々に2人に近づいてき、その場所で停車した。車体の扉が開かれ、そこから続々と人が出入りする。

 

 

「ほな、もうお別れやな…………」

「元気でな、兄さん…………しっかりしいや」

 

 

別れ際にどこか2人の顔は寂しげな雰囲気を感じさせていた、

 

だが、そのうちの1人がこのムードをぶち壊した。

 

 

「あっら〜〜!!?まっさか真夏ちゃん心配してる?嬉しい!お兄ちゃん嬉しいわ〜〜」

「っ!?……うっさいわぁ!!ボケーー!!」

「ぐほっ!」

 

 

急に、そして無駄にテンションを上げてきたヘラクレスにブチ切れた真夏の強烈な右ストレートがその顔面にめり込んだ。

 

 

「……か、顔はあかんて……」

「あんたなぁ!こないだ女にちょっかいだしてコテンパンになったばっかりやないかぁ!!」

 

 

怒る真夏。ヘラクレスはめり込んだ顔を手探りで元に戻しながらそれに応答した。

 

 

「はは、……まぁだけどこんくらいで、人は変わっちゃいかへんよ………とことん貫かな!」

「?」

 

 

意味深にサムズアップをかましたヘラクレス。その言葉の奥底にある意味を、真夏はまだ理解できてはいなかった。

 

 

「いいかぁ!真夏ちゃんよ!覚えとけぇ、人間、無理に変わろうとする奴より、変わらない奴が一番強いんや!」

「は、はぁ」

 

 

あまりツッコム要素がない言葉のせいで逆に言葉が出づらくなる真夏。その答えを、本当の理由を聞こうとしたその直後だった。2人を引き離すかのように、アナウンスが流れた。

 

 

ー〈まもなく、列車が発車致します…………〉

 

 

チャイムと共に淡々と、それを述べて行く無機質な声。

 

それを聞くなり、ヘラクレスは颯爽と目の前の電車に乗った。

 

 

「ほんじゃあな!真夏ちゃん!…………楽しかったで」

「………………まぁ、私も少しはな…………」

 

 

ニッコリと笑顔を見せるヘラクレスに、真夏は少し照れ臭そうにそう呟いた。

 

そしてその言葉を最後に、電車の扉が閉まる。その機体は音を立てながら、線路上を真っ直ぐに走りだした。

 

真夏はゆっくり兄にその手を振った。彼の背中を押し出すかのように、「行ってきいや」と言わんばかりに。

 

あんなに嫌だった兄だが、なんだかんだで笑って終われた。

 

ヘラクレスはこの先間違いなく有名なカードバトラーとして名乗りをあげる事だろう。

 

 

******

 

 

時刻は同じく夜、界放市にある小さな焼肉屋で、どういうわけか、界放市のバトスピ学園の理事長が勢揃いしていた。ただしもちろん警察の牢屋にいるデスペラード校、紫治城門は抜きだ。今年で全員が61歳を迎えると言うのに、その言動や食べっぷりは信じられないくらい若々しかった。

 

 

「しっかしよ〜〜城門の奴、なにやらかしてんだかなぁーー………………来年の【界放リーグ】どうすんだよ」

 

 

肉を焼きながらそう呟いたのはジークフリード校理事長の龍皇竜ノ字。

 

 

「別に1年くらいやらなくても大丈夫だろ?…………あっ、その肉取ってくれ竜ノ字」

「てめ、……自分で取れよ」

 

 

そんな龍皇に対して応えたのが、キングタウロス校理事長の大公獅子。

 

龍皇はなんだかんだで大公の分の肉をトングで掴んで小皿に置いた。

 

そう、2人の言う通り、来年度の【界放リーグ】開催が危ない……………と言うよりかは、ほぼ来年はできないに等しかった。【界放リーグ】は6つの学園が揃って初めて行なえるからだ。

 

城門の起こした事件は警察側の意図もあって、幸いにも口外はされなかったものの、政府からの界放市への信頼は当然のようにガタ落ち、もはや今年以降の開催さえも危ないと言える。

 

政府から信頼されている新しい者が、新デスペラード校の理事長としてこの界放市に就任するのであれば、話は別だが、それだと他の5人がその存在に納得できるのか、と言う話になって来る。

 

どちらにせよその進行は厳重に厳重を重ねなければならず、少なくとも後1年はかかってしまう。だからその『繋ぎ』として何か別の行事が必要になるのだが、

 

 

「ふんっ、どうでも良い話だ、………竜ノ字、ついでにそこの肉を取れ」

「あぁ?なんだよ漣、お前【界放リーグ】無くなったら暇じゃねぇの?」

 

 

龍皇にまた肉取得を命じたのはオーディーン校理事長の九白漣。九白一族の現頭領でもある。

 

龍皇はめんどくさそうにしながらも、漣の小皿にも肉を置いた。

 

 

「もちろん、暇ではない、最強の一族を目指しているのだからな」

「………学園の話じゃねぇのかよ!!相変わらず頭ガッチガッチだなてめぇはよ!……んなもんどうだっていいだろ?」

「良くないし、ガッチガッチでもない……世界中に我ら九白一族の名を轟かすことこそ、先祖代々からの夢なのだからな」

「だからそういうところがガッチガッチだ!っつってんだ!」

 

 

【九白一族】の数は先祖代々から子孫繁栄を意識されているため、その総人数は学生の年齢のものでも約1000人はいる。その者達が強くなり、無敵の一族の旗を掲げることこそ、彼ら九白一族の大いなる夢なのだ。

 

 

「あいも変わらず馬鹿ばっかだねぇ、問題は【界放リーグ】の有る無しじゃないのよ…………竜ノ字、そこの肉よこしなさい」

「てめぇら俺をなんだと思ってんだ!!自分で食う分くらい自分で取れ!」

 

 

また龍皇に肉を要求する者が、彼女はミカファール校理事長の大天使舞空。龍皇は結局彼女の小皿にも肉を置いた。

 

彼女の言う通り、問題は城門が居なくなって、【界放リーグ】がなくなることではなくて、

 

 

「問題は今年度の【界放リーグ】の空いた穴に何を入れるかでしょ?」どこでもいいからさっさと何か行事入れないと……」

 

 

そうだ。【界放リーグ】が無くなる。と言うことは前に述べた通り、どこかに違う何かの行事を入れなければならないと言うことである。ここに来てようやくその発想が出てきた。

 

 

「まぁ、何か交流会的なのでもやればいいんじゃないですかね?をっほほほ、……あっ竜ノ字さん、私にもお肉とっ……………」

「とらねぇよ」

 

 

最後にそう言ったのはタイタス校理事長の英雄拳。茶髭を生やしたその暖かみのある外見から、他の理事長と比べても比較的温和な印象を受ける。

 

とうとうめんどくさくなった龍皇は肉を取るのをやめた。

 

来年の行事はいったいどうなっていくのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

バトルスピリッツ オーバーエヴォリューション

 

第1章ー『完』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

ここはどこかの場所、どこかの空間。そこには何があるのか、何が置かれているのか、誰が居たかも定かではない。唯一の情報があるとすれば、ここは界放市のどこかであると言うことだけ、

 

そこには確かに1人の男がいた。もう70はいっているだろう。その男の正体は【Dr.A】今回の紫治城門が起こした事件を裏で操っていた主犯格である。

 

 

「…………さてと、城門が終わってから、もうかれこれ4ヶ月、………『変化なし』……………っと…………ヒッヒッヒッ!」

 

 

Dr.Aは下顎に生えた長い長い白髪を回すように弄りながら、自身のノートにそう記載した。

 

それがどう言う意味なのかは、この世界中にほとんど知るものはいないであろう。

 

だが、椎名達はいずれ通らなくてはいけない。

 

この過酷な運命から逃げる事は絶対にできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー椎名達の物語は、

 

 

ーネクステージへ…………

 

 

 

 

 

 




〈次回予告〉

「椎名です!次回からいよいよ第2章突入!!私達も2年生だぁぁぁあ!!頑張るぞぉ!………あれ?…雅治、なんか身長伸びてない?私は?…………次回、『春より来たれ!黄金のパイルドラモン!』……今、バトスピが進化を超える……ッ!」











最後までお読みくださり、ありがとうございました!

なんとか第1章を終えることができました!正直こんな早いペースで終えるとは思ってはおらず、とても驚きです。

読者様の感想等が、私のモチベーションを保つきっかけとなってくれてました!本当にありがとうございました!作者としてこれほど嬉しい事はありません!

椎名と毒島のバトルの結果はご想像にお任せします。
次回からは怒涛のバトル回の予定です!

これからも何卒、私、バナナの木と、その作品をよろしくお願いいたします!


※最新話が何故か全く同じものが投稿されておりました。投稿後すぐに気づいて片方を削除しましたのでご安心ください。申し訳ございませんでした。


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【二期】第1章「椎名と仲間達編PART2」
第36話「春より来たれ!黄金のパイルドラモン!」


 

 

 

 

 

 

 

 

蕾だった花は開花し、バトスピ学園、ジークフリード校の桜並木は美しい花道と化した。

 

この界放市にもやっと本格的な春がやってきたのだ。

 

そんな中、男としてはだいぶ小柄な体格で、新品の制服を着用し、そこに足を踏み入れる者が1人。

 

いや、それは1人ではないか、大勢いた。それは今年の新1年生だ。彼らはこの狭い門をくぐり抜け、とうとうこの学園に入学したのだ。

 

 

「に、入学しちゃった…………会えるかな?……椎名さんに」

 

 

その小柄な新1年生は少し照れながらもそう呟いた。まるで椎名のことを初めから知っていたかのような口ぶりである。数多くいる1年生の中でも、今回はこの少年に焦点が当てられる。

 

 

******

 

 

場所は変わり、ここは新2年生の教室。クラス替えのすぐ後である。

 

そしてこの1つの教室では、椎名、真夏、雅治、司、夜宵の姿が確認できる。彼らは今年全員が同じクラスになったのだ。ちなみに担任の教師は空野晴太だ。現在は暇な休み時間であり、その教室でゆっくりと立ち話をしていた。

 

 

「はっはっは!いや〜〜よかったよみんな同じでさ〜〜!」

「お前と一緒じゃなければ俺はそれでよかった」

「なにを〜!?」

「ふふ、じゃあ私とはよかったの?司ちゃん?」

「……キモいからやめろ」

 

 

5人のうちでそう話したのは椎名、司、夜宵の3人。司は本当に椎名とは同じクラスにはなりたくはなかった。単純に彼女がうるさいからである。とは言ったものの、司は必要はないと思った大抵の授業はサボるのだが、

 

 

「2年生ともなると、勉強もやること増えるよね、修学旅行とかもあるし」

「せやな〜〜こりゃ忙しいで」

 

 

そう言ったのは大人しそうな印象のある雅治と関西出身の女の子、真夏。

 

雅治の言う通り、バトスピ学園は2年生になってからが本当に忙しい。参加しなければならない行事もたくさん増えるし、なにより勉強量が格段に増える。

 

 

「はぁ〜〜めんどくさ…………………ん?」

 

 

勉学が苦手な椎名はそのアホ毛ごとしおれるようにそう呟いた。

 

そしてそれと同時に椎名はあることに気がつく。椎名は雅治に詰め寄り、その目の前でぐるぐると回り、雅治を隅々まで見回った。

 

 

「…………え?」

「むむむむむむむむ…………むー?」

 

 

その距離感の近さに思わず雅治は顔を赤く染めた。いったい何事であるのか、と。言わんばかりに。

 

が、その理由はすぐにわかった。

 

 

「雅治さー………背……伸びてない?」

「………え?」

 

 

咄嗟のことに、期待してしまった自分は馬鹿だと何度も思ってしまった雅治。まぁ、別にやましいことなど何も考えてはいなかったのだが、

 

そう、椎名が気にしていたのは身長。入学当初、椎名と雅治はほぼ同じ身長であった。その分誰よりも気づくのが早かったのかもしれない。椎名の目線はもう雅治の口下あたりにまで下がっている。

 

 

「あ、……あーーまぁ、ちょっと伸びたかも、確か春休み前に測った時は【165】だったかな?」

「全然ちょっとじゃないよ!………いいなぁ!!どうやってそんな伸びたの!?私なんかほとんど伸びなかったんだよ〜〜!?」

「そりゃ、普通男と女じゃ伸び方が違うだろう、女は大抵ここら辺で止まるぞ」

 

 

雅治の身長を羨む椎名に、それに付け加えるように軽く説明した司。

 

椎名は入学した時は【156】。1年後となる現在は【157】。

 

ーその差、わずか1センチである。

 

そしてここで椎名はまたあることに気づいた。それはとても信じ難く、認めたくはない真実であって、

 

 

「っ!?あれ、ちょっと待って、真夏はどんくらい?」

「私は【162】くらいやで」

「夜宵ちゃんは?」

「【169】だけど………」

「つ、司は……?」

「【175】だ」

「………………わ、私が一番ちっちゃい…………」

 

 

椎名はその場で膝と掌をつき、項垂れた。些細な問題ではあるが、なんか嫌だった。この中で一番小さいのが、

 

彼女のいた故郷の孤児施設は自分より年齢が低く、身長も小さい子供達ばかりであったためか、今まではわりかし高い方であったが、同い年ばかりが集まる学園ではそうはいかなかった。

 

実際は背がそこまで低い方というわけではない。ほぼ成人女性の平均くらいである。だが、あまりにも周りの人間が大き過ぎる。

 

 

「ま、まぁ大丈夫よ!椎名ちゃんは…………………………………………ほら!器が大きいじゃない!体が小さいからって気にすることじゃないよ!」

「や、夜宵ちゃ〜〜ん」

「今結構間があったよな」

 

 

夜宵の助け舟に椎名は涙を流しながら振り向く。まるでこの場に女神でも目の前に降り立ったかのように。

 

司は結構考えてから物を言った夜宵に軽くそう呟いた。

 

 

******

 

 

そんな話はさて置きだ、ここは校内の桜並木道。ここでは無数の部活動が、新一年生を入れまいと押し寄せていた。

 

バトスピ学園の部活動というのは、他と比べると異様に数が多い。「野球」や「サッカー」「バスケットボール」など、メジャーなものも多いが、

 

 

「…………そこの少年!!!我らが部活動!【筋肉部】へと来ないかい?」

「……………へ?」

 

 

小柄な新1年生男子の目の前に現れたのはなんとも学生離れした筋肉の持主。

 

そう、彼こそは3年、筋肉部の部長【益 流央(ます るおう)】である。日々鍛え上げた筋骨隆々な肉体で、数々のボディビル大会で優勝している屈指のボディビルダーである。バトスピが全てのバトスピ学園の生徒であるのにもかかわらず、だ。

 

そして【筋肉部】はそんなマッシブな男達の集まりであって、

 

 

「あ、いや、僕あんまり筋肉は………」

「そんなの鍛えなければわからないさ!!頑張れば私みたいになるかもしれないぜ!!never give up!さ、少年!」

「え?え〜〜!?」

 

 

流央は無理矢理その男子生徒の手を掴み、部室へ連れて行こうとする。男子生徒も必死に取り払おうとするが、筋肉量が違いすぎる。その手は一向に離れない。

 

ーはずだった。1人の2年生がその場に現れるまでは……

 

 

「あのー、すみません……手、離してあげましょう」

「「!?」」

 

 

現れたのは椎名だ。椎名は静かにそう言いながらも、その手を軽い力で引き離した。

 

2人は驚いた。それもそのはず、何せ、流央の強靭なる肉体で掴んだものを軽々と、この椎名が引き離したのだから、あんな細腕にどれだけの力が宿ると言うのか。

 

 

「あ、あなたは!!!椎名さん!」

「……ん?どっかであった?」

 

 

小柄の男子生徒は椎名の顔を見るなり、それを喜んだ。椎名を知っているのは今となっては珍しいことではない。何せもう椎名は有名人なのであるから、だが、その男子生徒の言い草は、どこかで一度椎名とあったかのようなものであって、

 

 

「………あっ!君は…………」

「思い出してくれましたか!!」

 

 

と。男子生徒は思ったのだが、やはり椎名は椎名であって、

 

 

「……私より背が低いねぇ!!」

「ズコーーーーー………本当に忘れちゃったんですか!?」

「むむむむ」

 

 

思わずその場で大きくずっこけてしまった。普通今それを気にするかと思われたが、

 

椎名はさっき身長の話で自分が一番小さかったのが未だに頭に残っており、その直後に自分より小さいその生徒を見て、思わずそれが先に口走ったのだ。彼が誰なのかまだ思い出してはいない。

 

 

「なるほど………君があの【蒼龍の舞姫】の…………良い………」

「……え?」

 

 

椎名はやけに悪寒がした。背筋が凍りつくようなそんな感じだ。

 

そして流央は椎名に提案した。

 

 

「よし!こうしよう!椎名さん!君が勝ったらその少年をを諦めよう!だが、私が勝てば……………」

「か、勝てば……!?」

「君を筋肉部のマネージャーにする!」

「えーーー!?やだ〜〜!!」

 

 

すっかり椎名に惚れ込んだ流央は椎名までもを巻き込む。ほぼ無理やりに。だが、椎名もバトルを挑まれて黙っている腹ではない。申し出自体は承諾した。

 

 

「す、すみません、椎名さん、また僕のせいで巻き込んでしまって…………」

「いやいや、いいのいいの………あれ、なんか前もこんなのあったような……………」

 

 

まぁ、今はそんなこと気にしても居られないか、3人は第3スタジアムに移動し、椎名と流央はBパッドを展開した。

 

 

「よし!行こうか!」

「オッケーですよ!」

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

椎名と流央のバトルが始まる。

 

ー先行は流央だ。

 

 

[ターン01]流央

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「さぁ!メインステップ!ネクサス!百識の谷でも配置しましょうかね!」

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

流央が初ターンで配置したのは大きな谷。その中は暗く、光も届きそうにない。

 

赤属性のデッキでは割と定番のネクサスでもある。

 

 

「ターンエンド!」

百識の谷LV1

 

バースト無

 

 

流央はそれだけでこのターンを終えた。次は椎名の番だ。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!先ずはこれだ!ズバモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「ッ!?……」

 

 

椎名が召喚したのは黄金に輝く鎧を着た成長期のスピリット、いや、ブレイブ。ズバモンだ。そのひらひらと靡くマントは他の成長期よりも一風変わった印象を与える。

 

 

「さらにアタックステップ!その開始時にズバモンの【進化:全色】を発揮!これを手札に戻し、緑の成熟期スピリット、スティングモンをLV1で召喚!」

スティングモンLV1(1)BP5000

 

 

ズバモンは登場してから早々にその身体をデジタルの粒子に変換させ、椎名の手札へと戻る。その代わりに椎名の手札から現れたのは緑の成熟期スピリット、スマートな昆虫戦士、スティングモンだ。

 

 

「スティングモンの効果でコアを1つブースト!」

スティングモン(1⇨2)

 

 

スティングモンにコアの恵みが与えられた。

 

 

「…………スティングモン………良い筋肉だが、太さが足りんな……」

 

 

流央はスティングモンが登場するなり、自分の筋肉とそれを比較した。椎名はそんなどうでも良い事は無視して先を行く。

 

 

「さらにアタックステップは継続!スティングモンでアタック!効果でまたコアを増やすよ!」

スティングモン(2⇨3)LV1⇨2

 

 

走り出すスティングモン。その効果でまたコアが増え、スティングモン自身のLVも上昇した。

 

 

「むむっ!そのアタックはライフで受けよう!……………ぐおっ!」

ライフ5⇨4

 

 

スティングモンの俊敏な動きから放たれる拳は、瞬く間に流央のライフを叩き壊した。

 

 

「よっし!ターンエンドッ!」

スティングモンLV2(3)BP8000(疲労)

 

バースト無

 

 

後攻の第1ターン目からスティングモンでコアを増やしつつ殴るのはなかなか良い動きと言える。

 

椎名はやれることを全て失い、そのターンを終えた。次は流央のターンだ。

 

 

[ターン03]流央

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

 

 

「ドローステップ時!…百識の谷の効果でドロー枚数を1枚増やし、1枚捨てる!」

手札4⇨6⇨5

破棄カード

【ソウルオーラ】

 

 

百識の谷の効果だ。この効果でより質の良い手札へと向かうことができる。

 

そして、このターン。流央は序盤では質の高いスピリットを召喚する。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップと行きますかな!……ダークティラノモンをLV2で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3

 

「!!」

 

 

百識の谷から飛び降りてくる謎の黒い恐竜のような影、その正体は黒い赤の成熟期スピリット、ダークティラノモン。それが彼の場に降り立った。その唸るような咆哮はその場を震撼させた。

 

 

「おおっ!黒い恐竜!」

 

「ふふ、マッシブな私らしいスピリットであろう!………アタックステップ!ダークティラノモンでアタック!」

ダークティラノモンBP6000⇨9000

 

 

ダークティラノモンの姿にはしゃぐ椎名。だが、バトルはその時間を長くは与えてはくれない。流央のダークティラノモンが走り出してくる。

 

 

「ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

ダークティラノモンの鉄より硬そうな鉤爪が椎名のライフを1つだけ綺麗に切り裂いた。

 

これでライフの差は互角となる。

 

 

「ターンエンドッ!!まだまだこんなものじゃないぞ〜〜!!次のターンから私の怒涛の攻めが幕を開ける!」

ダークティラノモンLV2(3)BP6000(疲労)

 

百識の谷LV1

 

バースト無

 

 

ダークティラノモンを召喚してからと言うもの、えらく自身を上げてきた流央。だが、思い知ることになる。次の自分のターンが回ってくる前に。

 

自分がどれほどの相手に戦いを挑んだかということが、

 

 

「…………ふふ、次が来ればね〜〜」

「ッ!?」

 

 

流央は椎名のその発言には流石に驚きを隠せなかった。

 

まるで自分に次のターンを回ささせないかのような言い草であったからだ。まだライフ4つも残っている自分のライフを全て破壊しようと言うのか、そんなの信じがたい。今いるスティングモンの他に、次のターンで3体揃えるというのか、

 

だとしたらどちらにせよ自分のライフはゼロにされない。手札にはBP7000以下のスピリットを一層できる赤のマジックカード、【フレイムテンペスト〈R〉】があるからである。

 

しかし、椎名はそんな流央の予想を遥かに上回る。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

 

 

「ドローステップッ!!…………よし!」

手札4⇨5

 

 

椎名はドローした。このタイミングで最高のカードを。このターンで流央のライフを全て破壊するカードを引き当てた。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

スティングモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!……先ずは手札に戻ったズバモンを召喚して、スティングモンと合体だ!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名は前のターンで【進化】の効果により手札に戻っていたズバモンを召喚し、スティングモンと合体。

 

ズバモンが生物としての機能を失い、そのアーマーだけが残る。それがそのままスティングに装着されて行った。スティングモンは黄金の鎧を身に纏う。

 

 

「……アタックステップ!スティングモンでアタック!」

スティングモン+ズバモン(3⇨4)

 

 

椎名はアタックステップに入り、ズバモンと合体したスティングモンでアタックする。そしてこの時、スティングモンのコアブースト以外の効果が発揮される。

 

それが今回の勝利への鍵の1つとなる。

 

 

「そしてこの瞬間!スティングモンの持つ【超進化:緑】を発揮!これを手札に戻し、緑の完全体スピリットを召喚するっ!」

「なぬ!?」

 

 

スティングモンのデジタルコードが変換されていく。その際に合体していたズバモンがそこから抜け出すかのように元に戻る。

 

そしてスティングモンのコードが変換され、新たに現れたのは…………

 

 

「至高の竜戦士、パイルドラモンをLV3で召喚っ!」

リザーブ3⇨2

パイルドラモンLV3(5)BP13000

 

「………す、すごい………」

 

 

椎名の場に登場したのは彼女のエース、パイルドラモン。青と白の羽を広げ、腰の装着された2つの機関銃を構えている。

 

新一年生の少年はただただその姿に感動していた。なんと優雅な姿なのだろうか、と。

 

 

「そして、この時、ズバモンの効果でパイルドラモンと直接合体!」

パイルドラモン+ズバモン

 

「…………!?」

 

 

ズバモンが再びその姿を変形させ、今度はパイルドラモンに装備されていく。パイルドラモンは先のスティングモン同様、黄金の鎧をその身に纏った。

 

そして、椎名は行く、このバトルのトドメをさしに。

 

 

「パイルドラモンの召喚時!……コスト7以下のスピリット1体を破壊する!…………対象は当然ダークティラノモン!……いけぇ!デスペラードブラスター!」

 

「!!ダークティラノモン!!」

 

 

パイルドラモンの腰に装備された機関銃の2つのうちの1つから発射されたビーム光線が、流央のダークティラノモンを貫いた。ダークティラノモンがそれに耐えられるはずもなく、呆気なく破壊されてしまった。

 

 

「次はアタックだ!パイルドラモンッ!!」

 

 

走り出す黄金のパイルドラモン。現在はズバモンとの合体している状態であるので、現在は青と赤のダブルシンボルである。この一撃で2つのライフを破壊することができる。のだが、

 

 

「ハッハッハ!このターンで倒す!?残念でしたなぁ!たかがシンボル2つではこの流央のライフを全て破壊することはできませんぞ!!」

 

 

それを咄嗟に理解した流央はついつい椎名に対してそういう言葉が出てきた。

 

ーだがしかし、椎名に抜かりはなかった。

 

 

「ふふ、……パイルドラモンのアタック時効果!…コアを2つ自身に置くことで、ターンに1回、回復する!……エレメンタルチャージ!!」

パイルドラモン+ズバモン(5⇨7)(疲労⇨回復)

 

「…………………あえ?」

 

 

パイルドラモンに光が集約して行く。やがてそれはパイルドラモンを回復させる力となる。

 

パイルドラモンは回復した。これで2度の攻撃を可能にした。計算は簡単である。2足す2は、4だ。

 

 

「…………う、嘘だ!」

「本当だ!いけぇ!パイルドラモン!!2連撃アタック!!」

 

「…………う、……うぉぉお!!」

ライフ4⇨2⇨0

 

 

一瞬のうちに流央との間合いを詰めたパイルドラモンが通り過ぎるようにライフを一気に4つも引き裂いた。

 

早業、神業とでも言うべきか、椎名はこのバトルを僅か4ターンと言う最速のスピードで、あっという間に終止符を打ってしまった。

 

ー【芽座椎名】

 

一年前、この界放市の街に突如として現れたこの少女は、その実力と才能を徐々に徐々にと伸ばしていっていた。

 

もはやこの界放市の生徒達の中で、彼女に勝てる可能性があるとすれば、赤羽一族の末裔で、10年に1人の天才的な赤バトラー【赤羽司】くらいであると言われていた。

 

そこまで言わしめるほどに、椎名はより強く、逞しく、大きく成長していた。身長以外。

 

 

「…………ば、バカなぁ、たった4ターンで…………ま、マッシブじゃない……」

 

 

流央はひどく落ち込んだ。たしかにいくら実力差があるとは言え、ここまでの格の違いがあるとまでは思わなかったことだろう。

 

 

「あ、あのう………す、すみませんでした!」

 

 

バトルが終わり、その小柄な新一年生は申し訳ないと感じていたのか、Bパッドをしまう椎名に向かってそう言いながらお辞儀をした。それには感謝と感激の念を含まれている。

 

 

「ん?あぁ、いやいやぁ、いいのいいの、この学校、結構変な人多いから気をつけてね〜〜」

 

 

そう言って椎名はスタジアムから去ろうとする。

 

だが、

 

 

「あ、えぇっと、僕のこと覚えてませんか!?」

 

 

少年は切羽詰まったような表情を見せながらそう椎名に言った。

 

椎名はその言葉に反応して、振り返り、その少年をジロジロと見つめた。だが、なかなか少年のことを思い出せない。

 

 

「むむ〜〜??」

 

 

「ぼ、僕のデッキ………悪そうな人から取り戻してくれましたよね?……」

「……デッキ…………悪そうな人?………………んーーーー…………あ」

 

 

「デッキ」「悪そうな人」「取り戻した」その単語が椎名の頭に入り込んだ時、その中で全てが繋がった。

 

そうだ。この少年は……………

 

 

「あ、あ〜〜!!!!君あの時のぉ!!?」

 

 

椎名はその口を大きく開けて驚いてみせた。

 

そう、その正体は【毒島富雄】にデッキを奪われかけて、椎名がそれを取り戻し、助けた人物。あの時の少年であった。先入観とは酷いもので、その時の少年の背の低さから、椎名は1つ違いであるとは思ってもいなかった。そのため、思い出すに至らない1つの要因となっていたかもしれない。

 

 

「や、やっと思い出してくれた!そうです!僕はあの時、あなたに助けてもらった………………名前は【英次(えいじ)】って言います!これからもよろしくお願いします!椎名さん!」

 

 

英次は椎名が自分のことを思い出してくれたのが嬉しかったのか、先ほどの弱気な感じとはうって変わって元気よくそう言った。

 

「春」とは出逢いと別れの季節。別れがあれば必ず新たな出会いがあるものだ。椎名はこの年、この春、この日、この時、大事な後輩となる英次と初めて互いに面識を得たのだった。

 

 

 




〈次回予告!!〉

「椎名です!新学期になって後輩もできて幸せ〜〜!!なんて考えてるのは私だけ?……意外と言うか、やっぱりと言うか、生意気な後輩もいるんだよね〜〜……司!そんな奴コテンパンにしちゃってよ!…次回、「司からの洗礼、唸るトップガン!」……今、バトスピが進化を超える!」











最後までお読みくださり、ありがとうございました!
これから更新していく第2章の物語を存分にお楽しみくださると幸いです!
しばらくはまた平行線で日常回をお送りしていく予定です。


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第37話「司からの洗礼、唸るトップガン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは界放市にあるバトスピ学園ジークフリード校の校舎の屋上。もうすぐ朝のホームルームが始まると言うのにもかかわらず、そこには1人の男子生徒がいた。新鮮で固めの制服を着用していることから、それが入学したての1年生であることが示唆される。

 

その生徒は屋上から、今かまだかと何かを待ち受けていた。それは直ぐに分かることであって、

 

誰かが、学園の校庭を歩いてくる。それを見つけるなり、彼は釘付けになって屋上の柵に乗り出し、それを見下ろした。

 

ーその正体は、

 

 

「おっ!来た来た!夜宵ちゃんだ〜〜本当にこのジークフリード校に通ってたんだな」

 

 

そう言う男子生徒。そうだ、待ち焦がれていたのは、紫治一族の次女、紫治夜宵であった。彼は彼女のファンだ。5つある界放市のバトスピ学園の中からここを選んだのもそこが理由だった。

 

夜宵の人気は凄まじいものがあった。老若男女問わずに、なぜか人気を集めている。それは彼女のふわっとしたキャラもあるのだろう。

 

その男子生徒はただそれを上から見ているだけで幸せであった。

 

ー今日までは、

 

 

「…………あ」

 

 

下にいる夜宵は反応するように声をこぼす。すると、そこにめがけて全力疾走。

 

そして、

 

 

「つっかさちゃ〜〜ん!!!」

「………ぐおっ!」

 

 

目の前にいた登校中の司の背中に飛びついた。その時に彼の首に回って来た夜宵の腕が司の首を締め付けた。司は思わず声を荒げた。

 

 

「…………てめ、……夜宵、なにしがんだ……!?」

「はっはっは!司ちゃんってばツンデレ〜〜」

「デレてねぇ!」

 

 

周りの生徒達の目もはばからず、今日も夜宵の司への愛は止まらない。

 

 

「……………なんだ、あいつ……あんなに夜宵ちゃんとイチャイチャと…………あの髪色、………【朱雀】?……確か学園ナンバーワンの男だったな……」

 

 

その男子生徒は静かに怒りの感情を募らせながら、その人物が誰なのかを特定した。

 

ヘラクレスや彼と同期の生徒達が皆卒業してしまったことと、司が昨年度の【界放リーグ】でヘラクレスに次いで2位になったこともあって、司は自動的ではあるが、現時点で界放市の学生ではナンバーワンであると称されることもあった。

 

 

「……まぁ、なんでもいい、………兎に角クソムカつくし、今日のうちに締め出してやるか……」

 

 

この屋上にいた1年生、【蛾四季 天賦(がしき てんぷ)】彼はバトルの強者であるが、勝つためならなんだってする非常な男だ。

 

 

******

 

 

「紹介するよ!この子が英次!」

「………よ、よろしくお願いします!」

「………へぇ〜〜あの時椎名が助けた子が、まっさかここに来るとはなぁ〜〜、…………って言うか、私らと1つしか違わなかったんやな…………」

「は、はい!よろしくお願いします!真夏さん!」

「はは、そんな固く並んでええよ」

 

 

それから時はたち、今は放課後、ここは第3スタジアム。椎名と真夏、そして英次は、その観客席で雑談していた。

 

真夏も意外だったことだろう。なにせ、あの時の小柄な少年が今こうして自分たちの目の前にいるのだから。

 

英次は椎名に対する憧れから、わざわざ反対側の区域からこのジークフリード校へ通学することを決めたのだ。

 

そんな話をしていた束の間、3人はあるものを視界に入れてしまう。それは司と別の誰かがこの第3スタジアムのバトル場の1つで今にもバトルしそうな雰囲気を醸し出しているところだ。

 

 

「ん?………あれって………」

「朱雀やね、」

「っ!!……知ってます!赤羽司さん!……そうか、あれが噂の……………っ!しかも相手は今年の入試を1位で合格したって言う、【蛾四季 天賦】君ですよ!」

 

 

と、英次が興奮しながらも、説明がてらにそれぞれの名前を言った。

 

 

「ふ〜〜ん、………まぁ、暇だし、バトルするって言うならここから応援でもしようかな?………お〜〜い!司ぁ!頑張れ〜〜!!!」

「アホ!!そないな大きな声出すなや!」

「…………はは」

 

 

観客席から大きな声を上げる椎名に対し、真夏がツッコム。そのやり取りを見て、英次は少々苦笑い。

 

ーその声は司達にも届いており、

 

 

「…………うるせぇのが上にいるな」

「へぇ〜〜先輩ってば、他にも彼女さんいるんすか?しかも結構レベルたけぇ、」

「馬鹿かお前、何度言えやわかんだよ、俺に彼女はいねぇ」

 

 

煽るかのようにそう司に言う蛾四季。司もやや呆れ気味に返す。

 

今からちょうど10分前のことだ。帰宅中の司に蛾四季が声をかけた。というか、ちょっかいをかけたと言うべきか、蛾四季は事前に司の情報を集めていた。その中には彼が腹わたひっくり返る話題が多数出現。

 

普通なら気にしないのがベターだが、司も司で短気なところがあるため、この生意気な後輩に対し、激しい怒りを覚え、自分からバトルをふっかけた。それが蛾四季も狙っていたことだと知らずに。

 

 

「俺が勝ったら二度と俺に近づくなよ」

「じゃあ俺が勝ったら、夜宵ちゃんのことをキッパリと諦めてくださいね!」

「だからキッパリもサッパリも向こうから磁石みたくくっついてくんだよ!」

 

 

司とて、鬱陶しい夜宵を振り払いたいのは山々なのだ。だが、どうしようとも夜宵は司への恋を諦めたりはしない。そんな夜宵の態度に対し、司もどこか諦めているようなところもあった。

 

蛾四季も蛾四季でどうにしかしてあの赤羽司と言うお邪魔虫をコテンパンにしてやりたくてしょうがなかった。

 

そう、自分がどんなに強くても、どんな手を使ってもだ。

 

 

「なんか夜宵ちゃん絡みみたいだね?…………」

「なるほどなぁ、恋敵潰そうって言う腹かいな」

「…………すごい怨念と執念を感じますね」

 

 

そう言った上の3人。椎名はいまいちよくわかってなかったが、他2人はよくわかった。この話の奥深いところまで、あの軽い態度の裏にある邪悪なものを感じたのだ。

 

そんなこんなでも、司と蛾四季はBパッドを展開し、すぐさまバトルを始める……………かと思いきや、

 

 

「よし、ゲートオープン…………か」

「ちょっと待ってください!」

「あぁ!?今度はなんだよ!?」

 

 

バトルを始めようとした司を停止させるように、蛾四季が発言した。何やら提案があるようだ。

 

 

「まさか、先輩ほどのバトラーがこのか弱い後輩を相手に本気で行く気ですか?…………それってちょっと大人気ないなぁ?」

「…………はぁ、……結局何が言いたいんだよ、要点だけ言えや」

「ふふ、あなたの【最初の手札とライフ、それぞれ2つと2枚ずつ少ない状態】で始めてください!それじゃないとバトルは受けませ〜〜ん!」

「…………はぁ?」

 

 

意地汚い顔のままそう言った蛾四季。つまり、司はこのバトルで最初からライフ3、手札2の状態で始めなければならないと言うことだ。

 

 

「………しゃーねぇ……まぁいいか、そんくらい…………………わかったよ………減らせやいいんだろ?減らせば」

(っ?………案外簡単に乗ってくれたな……まぁでもこれで俺の勝ちは確定!!……こいつを倒せばひょっとしたら夜宵ちゃんは俺の方を向いてくるかもしれねぇ、面白くなって来たぜ)

 

 

案外簡単にそれを承諾した司に、少々驚いた蛾四季。だが、どう考えても自分に有利なルールになったのは確かなこと。勝ちを確信した。

 

 

「ほいじゃ、始めますかね?」

「あぁ、………そうそう、一年坊主………」

「はい?何ですか?もうルールは変えませんよ?」

 

 

次の瞬間、司の言葉が、そこから放たれたオーラが、蛾四季の背筋を凍らせた。

 

 

「………この俺に生意気な口聞いたんだ…………それなりの覚悟はあんだろうな……………」

「…………っ!?」

 

 

「なんだこの異彩なオーラは」……………思わず蛾四季はそう思った。だが、いくらあれがどんなに恐ろしい物でも、このルールでは自分は絶対に勝てる。そんな軽い恐怖は直ぐに過ぎ去り、バトルの準備をした。

 

そして始まる。

 

 

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

バトルが始まった。先行は蛾四季だ。

 

 

[ターン01]蛾四季

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はネクサスカード、インファント島を配置!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

蛾四季が背後に配置したのは1枚の巨大な壁画、そこには蛾のような生物が2匹描かれている。

 

さらに、このネクサスには優秀な召喚時効果があり、

 

 

「配置時効果!カードを4枚オープン!その中にある「モスラ」1枚を手札に加える!」

オープンカード

【鎧モスラ】◯

【ストームアタック】×

【妖精モスラ】◯

【守護神獣モスラ】◯

 

 

効果は成功、この場合はどれか1枚を選択して、それが手札へと加わるが、

 

 

「俺はこの効果で守護神獣モスラを手札に加える!そしてターンエンドだ!」

手札4⇨5

 

インファント島LV1

 

バースト無

 

 

先行の第1ターンなどやれることが限られてくる。蛾四季はそれだけすると、このターンを終えた。次は司のターンだ。

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札2⇨3

 

 

「メインステップ、俺もネクサスカード、朱に染まる薔薇園をLV1で配置してターンエンドだ」

手札3⇨2

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

司が初手で配置したのはいつものネクサスカード、背後に真っ赤な薔薇たちが咲き広がった。

 

動きとしてはなかなか強いと言えるが、このバトルのルールにより、司はライフ3から始まっている。果たして丸腰になるまで配置する価値があるかは定かではない。

 

 

「いいんすかぁ!?せんぱぁい!次のターン丸腰ですよ!!」

「うるせぇ、ターン進めろ」

「…………へいへい」

 

 

もはやこれ以上煽っても無駄か、蛾四季はそう思い自分のターンを再び進行していく。

 

 

[ターン03]蛾四季

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!………よし、【モスラ(幼虫)[1992]】をLV1で召喚!」

手札6⇨5

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨2

 

「…………!!」

 

「その召喚時効果で、コアを1つブースト!」

【モスラ(幼虫)[1992]】(1⇨2)

 

 

蛾四季が召喚したのはまるでイモムシよような緑のスピリット、モスラ。これはその幼虫の姿だ。

 

ーモスラデッキ。

 

モスラとは幼虫と成虫の姿を蛾をモチーフとした持つスピリット群。蛾四季のデッキはそれらを中心に作成したデッキである。他の緑デッキと比べ、比較的フラッシュタイミングに強い特性がある。

 

 

「さらに!さっき手札に加えた守護神獣モスラもLV1で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ2⇨0

【モスラ(幼虫)[1992]】(2⇨1)

トラッシュ2⇨4

 

 

蛾四季が召喚したのはモスラの成長した姿。それはまさしく巨大な蛾である。その羽根を広げ、今、この場に舞い降りてきた。

 

そのカードにはソウルコアが置かれている。

 

 

「そしてアタックステップだ!いけ!守護神獣モスラ!アタック!その効果でコアを1つこのスピリットに置き、ソウルコアの力でBPプラス3000!」

守護神獣モスラ(1s⇨2s)BP3000⇨6000

 

 

その羽根を羽ばたかせ、飛翔する守護神獣モスラ。その効果は緑らしくコアブースト。蛾四季は司との総コア数をどんどん引き離していく。

 

 

「…………ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

そのまま突っ込んで来た守護神獣モスラの体当たりを、司は素直にライフで受けた。ライフはたったの3なのだ。もはや2になってしまった。

 

そしてまだ蛾四季の場には幼虫が残っており、

 

 

「終わらねぇよ!いけ!幼虫!」

 

「………そいつももらうか」

ライフ2⇨1

 

 

幼虫がくねくねと司のライフ前まで迫り、そのライフを叩きつけて破壊した。

 

これで司のライフは残り1つとなる。

 

 

「へへ、ターンエンドだ……………もう終わりに近づいたみたいだなぁ?……先輩」

【モスラ(幼虫)[1992]】LV1(1)BP2000(疲労)

守護神獣モスラLV1(2s)BP3000(疲労)

 

インファント島LV1

 

バースト無

 

 

やれることを全て失い、そのターンを終えた蛾四季。いささか調子に乗っているようにも見える。

 

次は司だ。

 

司はなぜか落ち着いていた。ライフが残り1だというのに、まるでそれが当然だと予想していたかの表情でターンを進めた。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨8

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ、2枚目の朱に染まる薔薇園を配置………さらにハーピーガールをLV2でホークモンをLV1で召喚」

手札3⇨2⇨1⇨0

リザーブ8⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

司が反撃と言わんばかりに召喚したのは、このデッキの潤滑油、赤の鳥型スピリットのホークモンと、顔は少女、腕と脚が鳥のような外見のスピリット、ハーピーガール。

 

司にとってのいつもの布陣である。

 

 

「ホークモンの召喚時効果、カードをオープン」

オープンカード

【イエローリカバー】×

【ホルスモン】◯

【天魔神】×

 

 

効果は成功、司はこの効果でホルスモンのカードを手札へと加えた。

 

 

「アタックステップ!……ハーピーガール!」

手札0⇨1

 

 

手始めに司が使わしたのはハーピーガール。その羽を広げて飛び立つ。

 

そしてハーピーガールは赤のシンボルを条件に、この瞬間に発揮できる効果があって、

 

 

「ハーピーガールの【連鎖:赤】の効果!BP3000以下のスピリット1体を破壊!……守護神獣モスラを焼き払え!」

「……!!」

 

 

空中にいるハーピーガールの口から放たれた火炎放射が、地面に停まっていた守護神獣モスラに命中。守護神獣モスラはそのまま焼き尽くされてしまった。

 

そしてまだこのアタックは継続。本命のアタックが蛾四季を襲う。

 

 

「ライフで受ける……………っ!」

ライフ5⇨4

 

 

ハーピーガールが滑空するように急降下し、蛾四季のライフを翼で破壊する。

 

ハーピーガールにはまだ効果があって、

 

 

「この瞬間、ハーピーガールの効果、【聖命】を発揮!ライフを1つ回復する!……………さらに朱に染まる薔薇園2枚分の効果で、デッキから2枚のカードをドローする!」

ライフ1⇨2

手札1⇨3

 

「っ!?………なに!?」

 

 

定期的に行われる司のこのコンボ。単純にライフと手札が同時に増えるのは強いと言える。

 

 

「まだ終わらんぞ!続け!ホークモン!」

 

「ぐっ!?…………ライフだ………」

ライフ4⇨3

 

 

今度はホークモンが飛び立つ。ホークモンは羽を1枚飛ばして、蛾四季のライフにそれを突き刺した。それはそのまま1つだけ綺麗に破壊された。

 

 

「……………ターンエンド」

ホークモンLV1(1)BP2000(疲労)

ハーピーガールLV2(2)BP4000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

司はそのターンを終えた。次は蛾四季のターン。

 

司のこの戦法には少々驚かされたが問題はない。蛾四季はさらに畳み掛ける。

 

 

[ターン05]蛾四季

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨9

トラッシュ4⇨0

【モスラ(幼虫)[1992]】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!……2枚目のインファント島を配置!カードをオープン!」

手札5⇨4

リザーブ9⇨7

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【原始モスラ】◯

【妖精モスラ】◯

【ジャンピングバインド】×

【鎧モスラ】◯

 

 

現れたのは2枚目のインファント島の石碑。そしてその配置時効果も成功した。蛾四季はそのうちのどれか1枚を手札へと加えることになる。

 

 

「俺はこの効果で鎧モスラを手札に加える!…………さらに2体目の守護神獣モスラをLV1で召喚!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ7⇨3

トラッシュ2⇨4

 

 

蛾四季はこれに加えてさらに全く同じ2体目の守護神獣モスラを召喚。それにもソウルコアが置かれている。

 

 

「そしてインファント島2枚のLVを2へ………これにより俺の緑のスピリット全てはBPが4000ずつ上がる!」

リザーブ3⇨2⇨1

インファント島(0⇨1)LV1⇨2

インファント島(0⇨1)LV1⇨2

 

「……………そうか」

 

 

インファント島の第2の効果だ。LV2の時限定で、一見地味ではあるが、使い減りせず、腐らずといい効果であるともとれる。だが司はどうでもいいのか、素っ気なくそれに対して声を漏らした。

 

 

「アタックステップ!再び進行せよ!守護神獣モスラ!効果でコアを増やしLVを、さらにソウルコアの力でBPを上げる!」

守護神獣モスラ(2s⇨3s)BP9000⇨12000

 

 

再びその羽根を羽ばたかせ、空中へと飛び立つ守護神獣モスラ。目指すはもちろん司のライフだ。

 

現時点で司のライフは2。万が一蛾四季の場にいる2体のスピリットによるするフルアタックが通ることがあれば、その時点でバトルは終了する。

 

ー当然司もこの程度の攻撃でくたばることはないのだが、

 

 

「フラッシュ!ホルスモンの【アーマー進化】を発揮!対象はホークモン!」

ハーピーガール(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ5⇨6

 

「………!!」

 

 

そうだ。司にはこれがあった。

 

ホークモンの頭上に、銀色で独特な形をした卵が投下される。ホークモンは飛び上がり、それと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは愛の風を育む赤き獣型のアーマー体スピリット、ホルスモンだ。

 

 

「…………ホルスモンを召喚!」

ホルスモンLV1(1)BP4000

 

「…………ちっ、めんどくせぇ」

 

 

さらにこんなものではない。次はホルスモンの召喚時効果が発揮される。

 

 

「ホルスモンの召喚時効果!相手のネクサスを1つ破壊し、カードをドローする!…………インファント島1枚を破壊!」

手札3⇨4

 

 

ホルスモンがインファント島の石碑を睨みつける。するとそれは自然と地面に沈み込んでいく。

 

これにより、インファント島の効力は半減し、BPアップは2000止まりとなった。

 

【アーマー進化】は新たなる召喚扱い。つまり、司のホルスモンは回復状態。ブロックができる。これでしのいだ。

 

……………と思われたが、流石に公開情報であったホルスモンは考慮したか、蛾四季はさらなる一手で司に追い打ちをかける。

 

 

「……………だけどせんぱぁい!!……俺そんなのお見通しなんすけど!!フラッシュマジック!モスラの歌!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

トラッシュ4⇨6

 

「……………!?」

 

 

蛾四季は笑いながらそのマジックカードを使用した。余裕であると言わんばかりに。

 

すると突如として歌が聞こえてくる。なんとも神秘的かつ幻想的な歌声である。これらの歌は、モスラ達に力を与えると同時に普通のスピリットの力を抜き取ってしまう代物だ。

 

 

「この効果で守護神獣モスラは回復!さらに、回復したのがモスラスピリットであるならば!相手のスピリット1体を疲労させる!もちろん対象はホルスモン!おねんねしな!」

守護神獣モスラ(疲労⇨回復)

 

「…………」

ホルスモン(回復⇨疲労)

 

 

その歌を聴いて、守護神獣モスラは力を増幅させるかのように奇声をあげるが、逆に司のホルスモンは一時的な睡眠に陥ってしまう。その瞳をゆっくりと閉じ、眠ってしまう。

 

 

「これで終わりっすね〜〜〜」

 

 

たしかに差は圧倒的、

 

……………ではあるが、司とて、まだまだ余力があるのであって、再び手札から1枚のカードを抜き取った。

 

 

「甘い!フラッシュマジック!シンフォニックバースト!」

ハーピーガール(1⇨0)消滅

トラッシュ6⇨7

 

「……………っ!?」

 

「アタックはライフで受けてやる………」

ライフ2⇨1

 

 

守護神獣モスラの羽根が、司のライフをまた破壊した。

 

だが、それは同時に司の使用したマジック、シンフォニックバーストの効果の発動条件となる。

 

 

「シンフォニックバーストの効果でお前のアタックステップを終了させる」

「ぐっ……………」

 

 

司の砕けたライフから解き放たれる光が、蛾四季のスピリットの目をくらます。このターンでのアタックは不可となる。

 

 

「…………ターンエンド」

【モスラ(幼虫)[1992]】LV1(1)BP4000(回復)

守護神獣モスラLV2(3s)BP7000(回復)

 

インファント島LV2(1)

 

バースト無

 

 

アタックステップ自体を止められてはターンを終了せざるを得ない。蛾四季はここでターンを終えた。

 

 

「どうした、終わらせるんじゃないのか?」

「う、うるせぇ!早くターンを進めろ!」

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

ホルスモン(疲労⇨回復)

 

 

ここでホルスモンの目が覚め、回復状態となる。

 

 

「メインステップ、2体目のハーピーガールをLV3で、ホークモンをLV1で召喚、ホークモンの召喚時でカードをオープン!」

手札4⇨2

リザーブ9⇨3

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【ホウオウモン】×

【朱に染まる薔薇園】×

【シュリモン】◯

 

 

司が召喚したのは【アーマー進化】の効果により手札へと戻っていたホークモンと、2体目となるハーピーガール。

 

ホークモンの召喚時も成功し、司の手札にシュリモンのカードが手札へと加わった。そしてここから司の反撃だ。

 

 

「アタックステップ、やれ!ハーピーガール!アタック時でお前はLV2、3のスピリットでブロックできない」

手札2⇨3

 

「…………………だったらLV1の幼虫でブロックしてやるよ……」

 

 

幼虫のBPはインファント島を含めても4000。ハーピーガールの敵ではない。その翼の翼撃でそれを一瞬にして引き裂いてみせた。

 

そしてまだ司のアタックは続く。

 

ー次は…………

 

 

「ホークモンでアタック!」

「…………っ!?……なんでそんな雑魚で?……………はっ!?」

 

 

蛾四季は瞬時に理解した。なぜ自分の場に、ブロックできるBPの高い守護神獣モスラがいるというのに、デジタルスピリットの最低位であるホークモンなどで挑んだのか、

 

それはさっき手札へと加えられたシュリモンの存在が関係する。

 

おそらく司は蛾四季がブロックすればシュリモンの【アーマー進化】を使い、バトルエスケープするだけでなく、スピリットの除去までするつもりなのだろう。

 

そう推理した蛾四季の判断は…………

 

 

「…………ライフで受ける……」

ライフ3⇨2

 

 

ライフで受けた。ホークモンの羽根が1枚飛んでいき、そのライフへと突き刺さり、砕いた。

 

 

「…………ターンエンドだ」

ホルスモンLV1(1)BP4000(回復)

ホークモンLV1(1)BP2000(疲労)

ハーピーガールLV3(3)BP5000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト無

 

 

そのターンを終える司。

 

やはり手札とライフが少ないのが少なからず応えているのか、やや決め手に欠ける。次のターン、シュリモンだけで相手の攻撃を防げるのかは疑問が残る。

 

反対に蛾四季はそのやる気を再び上げていた。それもそのはず、なにせ、自分のライフを2にしてくれたからだ。モスラデッキにはライフが2以下の時に発揮できる必殺のカードが存在する。蛾四季はそれの発揮をそのターンで狙っていたのだ。

 

 

[ターン07]蛾四季

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨9

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ!………………さぁ、このターンで締めだぜ」

「………………?」

 

 

まるでこのターンで終わらせると言わんばかりのセリフだ。だが、もちろんこれは嘘やハッタリではない。司の手札にあるであろうシュリモンを考慮しても決められるほどの戦法がたしかに蛾四季の手札にはあって、

 

蛾四季はメインステップを進行した。

 

 

「俺は3体目の守護神獣モスラをLV1で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨2

 

 

蛾四季がまず呼び出したのは3体目となる守護神獣モスラ。そして次だ。蛾四季が次に呼び出すのは自分のエースとなるスピリットである。

 

 

「…………そしてさらに召喚!俺のエース!鎧モスラ!!……LV2!」

手札3⇨2

リザーブ6⇨0

守護神獣モスラ(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ2⇨7

 

「………………!!」

 

 

今までのモスラとはまるでサイズが違う。その羽根の羽ばたきだけで大きな風が吹き荒れる。

 

その名の通り、鎧のような硬い外骨格をその身にまとったモスラスピリット、鎧モスラが蛾四季の場に顕現した。

 

 

「おぉ!でっかぁ!!」

「いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないですよ椎名さん!このままだと司さん負けちゃいますって!流石に手札とライフを最初から減らされてたのはやばかったんじゃ……………」

 

 

観客席で呑気なことを言う椎名にそう言った英次。だが、椎名には分かっている。いや、椎名だけではないか、すぐ横にいる真夏も、今はいないが、雅治も、夜宵も、彼を、【赤羽司】、【朱雀】をよく知る人物達ならわかる。

 

ーこの程度で負けるわけがない、と。

 

 

「アタックステェェップ!!鎧モスラ!」

 

 

鎧モスラを召喚するなり、すぐにアタックステップへと移行した蛾四季。鎧モスラが司のライフへと全速前進で羽ばたいて行く。

 

 

「鎧モスラにはライフ貫通効果がある!……………だからこれで終わりなんだよぉ〜〜!!せんぱぁい!」

 

 

鎧モスラの効果だ。BPとシンボルが、モスラとしては段違いである鎧モスラだが、その効果は地味ながら優秀かつそのポテンシャルを活かしているとも言えるライフ貫通。これにより司は無闇にスピリットでブロックもできない。かと言ってライフでは受けられないと言う状況。

 

ー並大抵のバトラーならこれで終わっているのだが、

 

 

「ふんっ!その程度…………フラッシュ!シュリモンの【アーマー進化】発揮!対象はホークモン!……1コストを支払い、これを召喚!」

ハーピーガール(3⇨2⇨1)LV3⇨2⇨1

トラッシュ2⇨3

シュリモンLV1(1)BP5000

 

「っ!?」

 

 

ホークモンの頭上に、ホルスモンの時とは違う卵が投下された。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは忍者のような姿をしたアーマー体スピリット、シュリモンだ。

 

そのシュリモンには召喚時効果が存在しており、

 

 

「召喚時効果で、疲労状態の相手スピリット1体を手札へと戻す!……くたばれ!!鎧モスラを手札に戻す!」

 

「……………し、しまった!!?」

手札2⇨3

 

 

シュリモンは背中に装着されている大きな手裏剣を飛ばす。それは回転しながら、鎧モスラへ真っ直ぐに飛び向かい、頭部へと突き刺さる。鎧モスラは唸り声を上げながらも、デジタルの粒子となり、消滅。蛾四季の手札へと帰ってしまった。

 

 

「おぉ!すごい!これでアタッカーもブロッカーも共に2対2!このターンは防げますね!」

「んーーーーあの様子だともう一回くらいなんか来るかもね」

「……………え?」

 

 

そう言ったのは英次と椎名。

 

椎名が直感で予想した通り、蛾四季にはまだ奥の手があった。それを使えば、間違いなく司を葬り去ることが可能だと考えると、思わず笑みがこぼれる。

 

 

「ククク、…………あはははは!!!やっぱそう来ますよね〜〜!!!!先輩ってば、ほんと単純だぁ〜〜〜!俺の予想通りにしか動けないんですか!?」

「…………はぁ、いいから、なんかあんだったらさっさとやれ………」

 

 

そう司の呆れたような声を聞いて、蛾四季はさらにやる気を上げるかのように、大声で笑いながらも手札にある1枚のマジックカードを使用した。

 

 

「あはははは!!じゃあ、お言葉に甘えて…………フラッシュマジック!モスラの羽化!!」

手札3⇨2

インファント島(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ7⇨8

 

「……………?」

 

「この効果で、あんたのスピリット1体を疲労させる!シュリモンを疲労!」

 

「………………」

シュリモン(回復⇨疲労)

 

 

大きく強く吹き荒らす風、それは瞬く間にシュリモンを通り過ぎ、シュリモンに膝をつかせる。

 

これだけでは普通のありがちな緑の疲労マジックだ。だが、モスラデッキであれば、ここから先、さらなる効果を発揮できる。

 

 

「さらに!俺のライフが2以下の時!手札にあるモスラスピリットを1体、ノーコスト召喚するっ!」

「……………!!」

 

「手札に戻った鎧モスラをLV2で再召喚!」

リザーブ3⇨0

鎧モスラLV2(3)BP15000

 

 

蛾四季の背後に、突如として巨大な繭が出現する。

 

それは徐々に徐々に紐解かれていくように剥がれていき、中からシュリモンの効果で手札に戻されたはずの巨蛾、鎧モスラが再度出現した。

 

これぞモスラデッキの真骨頂だ。

 

 

「これで終わりだ…………あばよ朱雀、お前を倒したってことは…………俺はこの学園、いや、界放市の学園でもナンバーワンになったってことだ!!」

 

 

蛾四季は鎧モスラにアタックの指示をすぐさま送り、それを司のライフへと飛翔させる。このアタックが通れば蛾四季の勝利となる。

 

蛾四季はもうおかしくってしょうがなかった。

 

あの【界放リーグ】で一年ながらに2位を勝ち取った朱雀に、こうも容易く勝利できるのだから。

 

蛾四季は昔からバトルの腕はピカイチだった。大会こそ出場はしなかったものの、その実力は同年代ではなかなか到達できるものではなかったと言う。

 

蛾四季はその実力に至るまで、特になんの努力も苦労もしなかったそうだ。

 

そんなことから、蛾四季は自分のことを【天才である】と称していた。だからこそ朱雀にも勝てる。

 

汚いルールではあるのだが、

 

………………それでも彼は今日、思い知ることになる。

 

ー上には上がいると言うことを。

 

 

「……………その程度か………」

「……はい?」

 

 

司がそう言った。蛾四季は思わず呆気にとらわれた。バカバカしすぎて、

 

こんなにやられているのにもかかわらず、なぜ未だに上から目線でものを言って来るのか、そう思ったのだ。

 

だが、本当に司にとってその程度であって、

 

 

「さっきの言葉……そっくりそのまま返しやるよ、……………お前、俺の思い描いた通りにしか動けないのか?」

「…………なぁ!?」

 

 

司はそう返した。

 

この程度のことは司にとって全く予想の範囲内を超えない。毎度毎度彼の予想をはるかに飛び越えてくるライバル、【芽座椎名】とは大違いだ。

 

そう思いながら、司は手札のカードを1枚引き抜いた。

 

 

「フラッシュ!【神速】を発揮!リザーブから全てのコアを確保し、このデジタルスピリット、アンティラモンを召喚!」

リザーブ4⇨0

トラッシュ3⇨5

アンティラモン(デーヴァ)LV2(2)BP7000

 

「………は?……黄色のスピリットで【神速】ぅ?」

 

 

司の場に、突如巻き上がる竜巻。そしてそこで眼光を光らせる謎の影、その影は目の前の竜巻を切り裂き、司の場にその姿を現した。

 

それはウサギのように見えるが、とてもそれとは思えないほどに、滑らかなフォルムで、しなやかな身体を持っている。

 

その名はアンティラモン。黄色のスピリットでありながら緑属性特有のキーワード効果【神速】を持っている異端な完全体である。

 

召喚後、司はすぐさまそのアンティラモンでブロック宣言を行う。

 

 

「アンティラモンでブロック!その効果でLV1の守護神獣モスラを手札に戻し……回復する!……………この効果後、俺のライフも1つ回復する」

アンティラモン(デーヴァ)(疲労⇨回復)

ライフ1⇨2

 

「……………!!」

手札1⇨2

 

 

自身の両手を斧のような鋭い刃物に変形させるアンティラモン。それをその場で切り上げるように振り回すと、その斬撃が宙を舞い、蛾四季の守護神獣モスラ2体のうちの1体を切り刻んだ。切り刻まれた1体は瞬時にデジタルの粒子となって蛾四季の手札へと戻った。

 

 

「だ、だが、そいつに鎧モスラは倒せない!」

 

 

そう、アンティラモンがブロックしたのは鎧モスラ。圧倒的に鎧モスラの方がBPが上、アンティラモンなど直ぐに太刀打ちできなくなることだろう。

 

まぁ、司に、【朱雀】に抜かりはないのだが、

 

 

「そこはもう解決してんだよ…………」

「……………へ?」

 

「フラッシュマジック、フルーツチェンジ!このバトルで勝負するスピリットのBPを入れ替える」

手札2⇨1

アンティラモン(デーヴァ)(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ5⇨6

 

「………………は、はぁ!?」

鎧モスラBP17000⇨5000

 

「……………やれ、アンティラモン」

アンティラモン(デーヴァ)BP5000⇨17000

 

 

アンティラモンは自身を軸に竜巻のように回転し、鎧モスラの方へと飛び行く。そのまま鎧モスラの頭部の外骨格へと激突したかと思えば、すぐさまそれは砕け散っていき、鎧モスラはやがてそれに全てを切り刻まれた。

 

流石にこれには耐えられず、鎧モスラはあえなく大爆発を起こしてしまう。

 

 

「…………た、ターンエンド……」

守護神獣モスラLV1(1)BP5000(回復)

 

インファント島LV2(1)

 

バースト無

 

 

「あらあら、朱雀も1年相手に容赦がないなぁ、………」

「す、すごい、本当に止めた…………」

 

 

もはや戦う気力さえもない蛾四季。そんな彼に同情するように真夏も言葉を漏らす。

 

英次はとにかく感激していた。あの【朱雀】、赤羽司のバトルをこの目で間近に見れることが、少なからず、英次は椎名と同じくらい彼のことを尊敬している。その理由はまた別の話でするとしよう………………

 

そんな蛾四季に対し、司は最後まで全力で攻撃する。

 

 

[ターン08]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨7

トラッシュ6⇨0

シュリモン(疲労⇨回復)

ハーピーガール(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、これで終わりだなぁ?……シルフィーモンをLV2で召喚!」

手札2⇨1

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「…………!!」

 

 

司の場に現れたのは白い獣人。小柄ながらに、その雰囲気や佇まいでどれだけの強者かが理解できる。

 

このスピリットこそ、司が自分の一度きりのオーバーエヴォリューションで獲得したスピリット、シルフィーモンである。

 

 

「召喚時!残った蛾を始末しろ!……トップガン!!」

「…………!!」

 

 

両手にエネルギーを溜め、球状にしてそれを放ったシルフィーモン。蛾四季の場に唯一残った守護神獣モスラはそれに身体を貫かれ、爆発した。

 

シルフィーモンは召喚時、BP15000以下のスピリット1体を破壊する効果がある。

 

 

「そして、これで最後だ…………」

「…………ひ……」

「アンティラモン!」

 

「……ら、ライフで受ける…………うわぁ!」

ライフ2⇨1

 

 

アンティラモンが再び両腕を斧のように変形させ、蛾四季のライフを切り刻んで行く。これで残り1つだ。

 

 

「締めはお前で行くぞ!!シルフィーモン!!」

 

 

司の支持を受け、シルフィーモンはその両手に再びエネルギーを溜めて行く。ただしそれはいつも以上の量であって、とても一発分とは思えない。

 

 

「…………トップガン連弾!!」

 

 

そのエネルギーを分解させていき、いくつものトップガンを形成したシルフィーモン。そして次々とそのトップガンを放つ。その数、約数百発はあると見える。

 

それは流星のごとく降り注ぐそれは、瞬く間に蛾四季の残った1つのライフを容赦なく粉々に粉砕して行く。

 

 

「ら、ライフで…………う、うわぁぁぁぁぁあ!!!」

ライフ1⇨0

 

 

それは儚くも呆気なく、無残に………

 

勝ったのは【朱雀】こと、赤羽司だ。見事に生意気な後輩を返り討ちにしてみせた。

 

 

「う、うそだ………この俺がこんな奴に………俺は中学時代負け知らずでナンバーワンだったんだぞぉ!!!」

「………………てめぇの頭ん中だけでバトスピを計ろうとするな………じゃねぇと今日以上に酷い目にあうぜ…………」

「………くっ!」

 

 

司はそれだけ言って蛾四季を残し、そのスタジアムを去った。

 

今のセリフは1年の頃、同じように自分が負けるはずがないと考えていた司だからこそ言えることであって………

 

 

******

 

 

ー翌日の朝のことだ。

 

 

「つっかさちゃぁん!」

「…………ぐへっ!」

 

 

まただ。デジャヴというやつか、夜宵が朝一番で前方の司に抱きついた。司はまた避けられずに首が絞まった。

 

 

「お前なぁ!いい加減に…………」

「そういえば昨日私のためにバトルしてくれたんだってぇ?……椎名ちゃんから聞いたよ!」

「…………あぁ?どんな解釈したんだ、あんなのてめぇのためじゃねえっての……………」

「もう、司ちゃんってば、ツンデレなんだから!」

「だからデレじゃねぇ!…………ああっったく!お前といると俺のキャラがぶれんだよ!」

 

 

そんな感じで、今日も楽しくて愉快な一日が過ぎ去って行く。

 

ーちなみに、司はその後も数多くの別の夜宵ファンから何度も挑戦を申し込まれるのはまた別の話である。

 

 




〈次回予告!!〉


「はい!椎名です!司の奴、また強くなってたな〜〜〜、私ももっと強くならなくちゃね!……てかそんなことより今年の4月の代表バトルで真夏と夜宵ちゃんが激突!?……気まずい?……そんなのバトルして行くうちに慣れてくるって!……次回、「真夏と夜宵!友達の……友達は?」………今、バトスピが進化を超える!」








最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!


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第38話「真夏と夜宵!友達の……友達は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

今は朝のホームルーム前、椎名、真夏、夜宵の女子3人組はいつものように教室までの廊下を歩いていた。

 

丁度学園の予定などを掲載する掲示板を通り過ぎる時だ。そこには大きな人だかりができていた。椎名たちは少し気になり、それをみることにした。

 

椎名が1人でその人だかりを翳り抜けていき、その掲示板に書かれていることをその目で確認して来た。そして真夏と夜宵のいる場所へと戻る。

 

 

「…………今月の代表バトル……真夏と夜宵ちゃんだってさー!」

 

 

椎名が掲示板に書かれていたことを元気な声で読み上げた。

 

【代表バトル】バトスピ学園ジークフリード校では毎月当然のように行われるこの行事。丁度1年前では椎名と司がバトルをした。バトルの成績が良い上位2名が基本選ばれるのだが、そうと言うわけでもない。実際には学園の教師達がそれにふさわしいか否かを決めて判断し、決定されている。そんな中、今回は夜宵と真夏が選ばれた。と言うことだ。

 

ちなみに試合は明日だ。

 

 

「へ、へ〜〜…………そなんや」

「が、頑張るね…………」

「………………?」

 

 

そんな真夏と夜宵の反応は意外にも少々ぎこちなかった。代表バトルに選ばれるのは凄いことで、選ばれて素直に喜ばない人はいないはずなのに。

 

なんというか、椎名から見てみれば、顔の表情が固い、何かあったのだろうかと勘ぐってしまうほどに。

 

だが、別に椎名が気にすることではない。そう思っていた。

 

ーしかし、その理由はどちらにせよ放課後に知ることになる。

 

 

******

 

 

 

「…………で、話ってなに?」

「…………」

 

 

ここは喫茶店。学生が放課後に至福のひとときを過ごす場所といっても過言ではない。

 

放課後、なぜか椎名は真夏に話があると言われ、この喫茶店に足を運んだのだ。

 

あの真夏が場所を変えてまで自分に話したいことがあると言うのは椎名としても少々気になっていた。

 

 

「………え、え〜〜っとな、夜宵のことやねん」

「?……夜宵ちゃん?」

 

 

真夏は夜宵のことを話題にあげた。意味のわからない椎名は首を傾ける。

 

 

「なんていうか………あの娘、ちょっと分からん言うか、気まずい、ちゅうか、どう接していいか分からんねん…………いつもはあんたを経由してどうとでもなっとったけど、バトルとなるとな〜〜、なにを話してええか…………」

「……………?」

 

 

たしかに椎名、司、雅治は以前の出来事などで夜宵とより多く関わって来たが、真夏はあまり夜宵自体と関わってはいなかった。どう話していいかわからないと言う感情はよく考えたら当たり前のことだった。

 

真夏とて夜宵と仲良くしたくないわけではない。半年前の事件の真相もその時の彼女が何を思っていたのかも椎名から聞いて知っているし、同情もしている。寧ろ仲良くなりたいのだ。

 

だが、初対面の相手でもなんの隔たりもなく話してくる椎名にはその真夏の気持ちに一切の理解ができなかった。なにも考えずに生きているがゆえなのか、器が大きすぎるゆえなのかは定かではないが、

 

 

「……え〜〜……そんなのバトルしてればそのうちどうとでもなるんじゃない?」

「適当なこと言うなや!」

「……えぇ!?なんで怒るのぉ!?」

「…………はぁ、バトルしてればて、アホすぎるやろ。あんたに聞いた私が馬鹿やったわ、……もうええ、どうにでもしたるわ」

「え?……あれ?真夏ぁ?」

 

 

そう言って、真夏は適当な椎名に呆れてその店の喫茶店から出ていってしまった。

 

椎名とて適当ではない。数少ない友達がここまで真剣に相談してくれたのだ。自分なりに真摯に受け止め、接したつもりだった。

 

いったい何が気に障ったのか椎名には分からなかった。

 

 

「?……なんか悪いこと言ったかな?………………ん?」

 

 

そんな時だった。真夏が出ていった途端、椎名の鞄から自分のBパッドの着信音が鳴り響いた。

 

ー夜宵からだ。椎名は何事かと思い、それに応じた。

 

 

「夜宵ちゃん?……………はいもしもし?」

〈あ!椎名ちゃん!?今、時間いいかな?話したいことがあるんだけど、……学園近くの喫茶店に来れる?………〉

「ん?…………まぁ、いいけど……………」

 

 

学園近くの喫茶店は2つある。ここに夜宵がいないと言うことは夜宵は残った喫茶店にいると言うことになる。

 

椎名はそこへと足を運んだ。

 

 

******

 

 

「………で、話ってなに?」

「……………」

 

 

デジャヴだ。間違いなく。しかもさっきとほとんど変わらない絵面で、夜宵はその口を開いて椎名に相談した。

 

 

「…………その、真夏ちゃんって、どんな娘かな?って思って………ほら、明日私達で代表バトルするじゃない?でもなんか未だに気まずいと言うか、なんというか、仲良くはなりたいんだけどね、」

(……………ま、またっすか……)

 

 

椎名は思わず心の中でそう考えてしまった。

 

まさか真夏だけにあらず、夜宵までそんなこと気にしていたとは、椎名とて思ってもなかったことだろう。

 

 

「…………いや、そうだね、真夏はなんかこう、………「なんでやねん!」って感じ?かな?」

「…………すごい雑だね………」

 

 

椎名は頭が悪い。がゆえに急に真夏がどんな娘かと聞かれても自分の言葉にすることができないのだ。結果、支離滅裂な発言につながる。

 

それでも椎名はなんとか真夏に言った同じ言葉で励ましていく。

 

 

「……………夜宵ちゃん、そんな気にすることないって!明日バトルするんでしょ?バトルしていくうちにそんなの慣れてくるって!」

「……………はぁ、そうかな?椎名ちゃんはいいよね、…………単純だから」

「………………ぐっ!?」

 

 

個人的に頑張って励ましたつもりだったが、夜宵から帰ってきた言葉は予想以上に棘があるものであった。

 

そしてこの瞬間、椎名は今までのことを振り返った。

 

今まで椎名は、自分と真夏、夜宵のことを仲良し3人組だと思っていた。が、それは飛んだ思い違い、実際のところは全て自分がその間に入って話していただけだ。

 

 

(こ、この2人………そんなに仲良くなかったのか〜〜!?)

 

 

だが、それでもやっぱり、椎名は「バトルすればそのうち仲良くなれる」そう考えていた。

 

ーそして翌日、ジークフリード校で今年は初の代表バトルが始まる。

 

 

******

 

 

「………………」

「……………」

 

 

第3スタジアム。ここのバトル場で今回は行われるのだが、真夏と夜宵はバトル場で向かい合ってもなにも話さない。お互いだんまりとした状態が続いていた。

 

 

「な、なんであの2人なにも喋らないの?」

「……………ま、まぁ色々あってね」

「…………?」

 

 

観客席にいるのは椎名と雅治だ。ちなみに司はサボり。雅治は椎名の言葉とこの今の妙な空気に困惑していた。椎名も額と頬から流れ出てくる冷や汗が止まらない。

 

 

「あ、あの〜〜真夏ちゃん、今日はよろしくね!」

「お、おお、そやね、よろしゅうな」

 

 

夜宵がなんとかその均衡を破るが、その程度のことで仲が親交するわけでもなく、ただBパッドが展開され、バトルの準備が進んだだけだった。

 

夜宵はその頭をフルで回転させ、なんとか話題を考える。こんな状況でバトルするのは流石に嫌なのだろう。

 

ーそして1つあった、話せる話題が、しかもかなり良さげな、

 

ーだが、それは、

 

 

「…………あ、……そう、光栄です!あの【ヘラクレスの妹さん】とバトルできるなんて!」

「………………あぁん?」

「…………あ、あれ?」

 

 

夜宵はしくじった。そう思えるくらいの雷が頭に落ちてきた。さっきまで苦笑いだった真夏の顔が鬼のように急変する。確実に地雷を踏んづけた。夜宵は真夏の怒りを買ってしまった。

 

真夏の前で【ヘラクレスの妹】とは禁忌の言葉である。

 

真夏は実の兄であるヘラクレス、緑坂冬真と比較されるのを毛嫌いしているのだから。あの椎名とて、真夏の前でそれを言ったりはしなかった。

 

しかもよりにもよって夜宵にそんな言葉をかけられたことが彼女の気により触ったのか、その怒りのボルテージは最高潮に達していた。

 

 

「……………上等や………私に喧嘩売ったんや、後悔させてやるで!」

「な、なんで!?」

「ほら、さっさとかまえんかい!!」

「は、はいぃぃい!!!!」

 

 

圧倒的な圧力だ。夜宵は真夏の言う通りにせざるを得ない。いや、どちらにせよバトルはしないといけなかったのだが、

 

そして始まる。この2人のバトルが、

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まる。

 

ー先行は真夏だ。

 

 

[ターン01]真夏

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、パルモンを召喚して、カードをオープン!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【トゲモン】◯

【ロードバシリー】×

 

 

真夏が初手で召喚したのはトロピカルな花を頭の上に咲かせた緑の成長期スピリット、パルモン。

 

そしてその召喚時効果も成功、真夏はこの効果でトゲモンを手札へと加えた。

 

 

「…………ターンエンドや」

手札4⇨5

 

パルモンLV1(1)BP2000

 

バースト無

 

 

先行の第1ターン目など、やれることが限られてくる。

 

真夏はそれだけを終えるとそのターン自体を終わらせた。次は夜宵の番だ。

 

 

(お兄様の話そんなに嫌なのかな?悪いことしちゃったな……………)

 

 

夜宵はそんなことを考えていた。実際はそんなに大袈裟に考えて謝罪する必要もない。

 

真夏も自分の兄に対するコンプレックスというのはしょうがないものだ。だからと言って、それで怒ってしまうのはまた別の話である。どちらかといえば真夏の自己責任としか言えないのだ。

 

 

[ターン02]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、デビドラモンをLV1で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

夜宵が最初に召喚したのは、まるで悪魔の竜と言ったところか、紫の成熟期スピリット、デビドラモン。

 

夜宵が最近デッキに投入した、新たなアタッカーでもある。

 

 

「アタックステップ!デビドラモンでアタック!………そのアタック時効果で、パルモンのコアを1つリザーブへ置き、カードをドロー!」

手札4⇨5

 

「……………!!」

パルモン(1⇨0)消滅

 

 

デビドラモンが口内から吐きつけた黒い煙が、真夏のパルモンを包み込んだ。パルモンはその中で自身のコアを1つ取り除かれ、消滅してしまった。

 

 

「さぁ!アタックはどうします?」

 

「当然!ライフや!」

ライフ5⇨4

 

 

羽を器用に使いこなし、真夏の元へと飛翔するデビドラモン。そしてそのまま真夏のライフ1つを叩きつけて破壊した。

 

 

「なんや、えらいしょっぱい攻撃やなぁ!?」

 

「………はっは……ターンエンド」

デビドラモンLV1(1)BP4000(疲労)

 

バースト無

 

 

腹わたひっくり返っている真夏に対し、椎名と雅治は「チンピラみたいだ」と思わず思った。そこまでヘラクレスと比べられるのが嫌だったのか、

 

やはり、ヘラクレスが去年の【界放リーグ】で三連覇を成してしまったのも理由の1つか、より自分と兄の差を意識してしまっているのだろう。

 

そして次はそんな真夏のターン。先行の第1ターン目は当然あまり動けなかったが、このターンから緑らしく怒涛の展開が幕をあげるのは目に見えていることであって、

 

 

[ターン03]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!……今度はフローラモンをLV2で召喚や!そしてその召喚時でカードをオープン!!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【リリモン】◯

【緑魔神】×

【緑魔神】×

 

 

真夏が次に召喚したのは、パルモンとらまた違った形でトロピカルなスピリット、成長期のフローラモンだ。

 

そしてその召喚時の効果も成功、樹魔スピリットでもある完全体のスピリット、リリモンが真夏の手札へと加えられた。

 

 

「さらにアタックステップ!その開始時!フローラモンの【進化:緑】を発揮!手札に戻し、成熟期のトゲモンに進化や!」

トゲモンLV2(3)BP6000

 

 

フローラモンに0と1のデジタルコードが巻きつけられる。それは卵の形状を帯び、徐々に徐々にと膨らんでいき、やがて破裂。新たに現れたのはまるでサボテン人間とでも言うべきか、成熟期スピリットのトゲモンであった。

 

 

「っ!……成熟期………」

「こんなんまだまだ序の口や!アタックステップを継続させて、トゲモンでアタック!効果でコアを1つトゲモンに!」

トゲモン(3⇨4)

 

 

動き出すトゲモン。

 

そしてこの瞬間にも、効果が発揮される。それはトゲモンを開花させる強力な効果であって、

 

 

「トゲモンの【超進化:緑】を発揮!トゲモンを完全体のリリモンに進化や!!」

リリモンLV1(1)BP7000

 

 

トゲモンがさっきのフローラモンど同様に、0と1のコードに巻き付けられ、姿形を変えていく。

 

やがて膨らんだそれは花びらのように開花し、中から妖精のようなスピリットが飛び出してきた。その見た目に騙されてはいけない。トゲモンを超える緑の完全体のデジタルスピリット、リリモンなのだから。

 

 

「…………リリモン……」

「こいつが私のエースや!」

 

 

そう、この妖精のようなリリモンこそ、真夏のデッキのエーススピリットである。その使いやすいかつ強い効果で、幾度となく真夏のバトルをサポートしてきた。

 

ーそしてこれからも。

 

 

「いけぇ!リリモン!その効果!【旋風:1】!デビドラモンを重疲労!」

 

「……………!!」

デビドラモン(疲労⇨重疲労)

 

 

リリモンの両手に握られたキャノン砲から放たれた緑のエネルギー弾が、夜宵のデビドラモンを撃ち抜いた。デビドラモンは疲労を飛び越えて重疲労状態となり、その場でぐったりと横たわってしまった。

 

リリモンの効果はまだまだこんなものではない。扱いやすい効果をいくつもこのタイミングで発揮できる。

 

 

「そして、コアを2つ置き、ターン1で回復する!」

リリモン(1⇨3)LV1⇨2(疲労⇨回復)

 

 

リリモンにコアが置かれ、疲労状態から行動可能な回復状態となった。

 

 

「相変わらずえっぐいなぁ!あの効果………」

「いやいや、パイルドラモンも似たようなものじゃない?」

 

 

リリモンの効果のすごさに改めて驚く椎名。それに対し雅治は冷静に、かつ的確にツッコミを入れた。たしかにあの2体の性能はある程度被っているところがある。

 

 

「さぁ!このアタックはどうすんのや?」

 

「当然!ライフです!」

ライフ5⇨4

 

 

宙を舞うリリモンの細足から放たれるキックが、夜宵のライフを破壊した。

 

そしてもう一撃、

 

 

「二撃目ぇ!」

リリモン(3⇨5)LV2⇨3

 

「っ!?……それもライフっ!」

ライフ4⇨3

 

 

リリモンがまたコアを増やしながら、夜宵のライフを蹴り上げた。

 

これにより、場は圧倒的に真夏が支配したと言っても過言ではないだろう。

 

 

「よっし!どんなもんや!ターンエンド!」

リリモンLV3(8)BP12000(疲労)

 

バースト無

 

 

勢いづいた真夏はできる限りのことを尽くし、このターンを終えた。

 

夜宵の場にいるデビドラモンは一度の回復でもやっと普通の疲労状態となる重疲労状態。つまり、次のターンは行動できない。

 

だが、次のターン、夜宵は意外な一手でそれを超えてくる。

 

 

[ターン04]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

デビドラモン(重疲労⇨疲労)

 

 

力尽きたように横たわっていたデビドラモンはようやく少しだけ力を取り戻せたか、腕と脚で少し起き上がり、膝をついた。

 

 

「メインステップ!先ずはピコデビモン!召喚時で1枚ドロー!」

手札6⇨5⇨6

リザーブ7⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

夜宵が召喚したのはコウモリのような小さい小悪魔スピリット、ピコデビモン。その召喚時効果で手札の消費を抑えた。

 

 

「さらにゴブリモンをLV1で召喚!」

手札6⇨5.

リザーブ2⇨0

トラッシュ2⇨3

 

 

次に召喚したのはゴブリンのような見た目の成長期スピリット、ゴブリモン。

 

そして夜宵はアタックステップに入る前に………

 

 

「デビドラモンのコアを全て取り除き、消滅!」

デビドラモン(1⇨0)消滅

リザーブ0⇨1

 

「…………っ!?」

 

 

疲労していたからか、いや、そうでなくとも自ら自分のスピリットを消すことができるだろうか。

 

真夏はそう思った。だが、これは夜宵の作戦であって、

 

 

「アタックステップ!そしてその開始時に、ピコデビモンの【進化:紫】を発揮!ピコデビモンを成熟期のデビモンに進化!」

デビモンLV2(3)BP7000

 

 

ピコデビモンに0と1のコードが巻きつけられる。ピコデビモンはその中で姿形を大きく変えていき、新たなデジタルスピリットとなる。

 

現れたのは紫の成熟期スピリット、悪魔のような見た目のデビモン。

 

 

「…………アタックステップは継続!デビモンでアタック!その効果でトラッシュにある成熟期スピリットをノーコスト召喚!デビドラモンを復活!……もちろん、回復状態でね!」

リザーブ1⇨0

デビドラモンLV1(1)BP4000

 

「っ!?……そういうことかいな!」

 

 

デビモンの両手から放たれた闇の瘴気が、地面へと覆い被さり、そこからデビドラモンが羽を器用に使い、地上へと再び姿を現れした。

 

これは新たなる召喚扱い。当然疲労はしていない。夜宵は事前にデビドラモンを消滅させることによって、デビモンの効果で再び回復状態として蘇えらせたのだ。

 

おそらく夜宵のデッキに重疲労という戦法はなかなか通じないだろう。

 

 

「……へへ、まっさかあんな無理やりな方法で重疲労が破れるなんてなぁ〜〜結構やるやんけ!」

「え!?……………いや〜はっは、ありがとう!」

 

 

意外な方法で重疲労を突破してきた夜宵に、真夏は驚きつつも思わず感激してしまった。さっきまで怒っていたにもかかわらず。

 

夜宵も怒っていると思っていた人から唐突にそんなことを言われたことに驚いたが、直ぐに素直な真夏の感情を感じ取ったのか、照れくさそうな仕草を見せた。

 

 

「……………なんかあの2人…………」

「うん!やっぱバトルしていけばどうとでもなるよね!」

 

 

知らぬ間に徐々に徐々にと打ち解けてきている真夏と夜宵。お互いの実力を知っていくうちにバトラーとは仲良くなるものだ。

 

だが、バトルは当然まだ続いている。夜宵は次なる一手でさらに真夏を追い込んでいく。

 

 

「でも驚くのはまだ早いかも!……デビモンの【超進化:紫】を発揮!デビモンを完全体のレディーデビモンへ!」

レディーデビモンLV2(2)BP7000

 

 

デビモンにも0と1のコードが巻き付けられ、その姿形を変えていく。そして新たに現れたのは紫の完全体スピリット、悪魔の女性型、レディーデビモンだ。

 

 

「くっ!?そっちも完全体かいな…………」

 

「ふふ、レディーデビモンの召喚時効果!疲労状態の相手スピリット1体を破壊して、カードをドロー!リリモンを破壊!」

手札5⇨6

 

「…………っ!?」

 

 

レディーデビモンが登場してくるなり、闇のエネルギー弾をリリモンに向けて放つ。リリモンは捕らえられるようにそのエネルギーに取り込まれ、すぐさま消滅してしまった。

 

 

「………そしてレディーデビモンでアタック!さぁ!どう受けます?」

 

 

リリモンの次は真夏のライフだと言わんばかりに飛翔するレディーデビモン。

 

このターンに夜宵の3体のスピリット達によるフルアタックを受けて仕舞えば間違いなく真夏は不利になってくることだろう。

 

だが、真夏とてこの程度ではやられたりはしない。手札から1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュアクセル!ロードバシリーや!」

手札6⇨5

リザーブ8⇨5

トラッシュ3⇨5

 

「っ!?アクセルカード!?」

「この効果でデビドラモンを疲労や!」

 

「……………!?」

デビドラモン(回復⇨疲労)

 

 

真夏の手元に緑のアクセルカード、ロードバシリーのカードが置かれる。それと同時に夜宵のデビドラモンが吹き荒れる風を受け、再び疲労した。

 

これだけではない。真夏はさらにフラッシュで効果を使う。

 

 

「さらに手元に置かれたロードバシリーの効果で自身を召喚!」

リザーブ5⇨0

トラッシュ5⇨7

ロードバシリーLV2(3)BP3000

 

 

これは数あるアクセルカードの中でもロードバシリーの固有効果とも言えるだろう。手元にあれば、【神速】のようにフラッシュタイミングで場に現れることができるのだ。

 

 

「でもアタックはライフで受けたるわ………」

ライフ4⇨3

 

 

ロードバシリーを破壊されたくはなかったか、真夏はそのレディーデビモンのエネルギー弾を放つ攻撃を受け入れ、その身で受けた。

 

 

「…………ターンエンドです」

レディーデビモンLV2(2)BP7000

ゴブリモンLV1(1)BP3000

デビドラモンLV1(1)BP4000

 

バースト無

 

 

「はっはっは!あんたおもろい奴やな!」

「そっちこそ!このターン、ロードバシリーでブロックせずにライフで受けたってことは…………当然、何か狙ってるよね?」

「せや、………いくでぇ!」

 

 

最初にあった気まずさはどこへ行ったのか、2人は全くもってそんな感情を捨て去って、ただただその目の前のバトルを楽しんでいた。

 

現在の場は圧倒的に夜宵が優勢である。だが、真夏とて、前のターンでトゲモンとリリモンにより、コアは大量に増えている。

 

そして意図的に場に残されたロードバシリー。次の真夏のターンでスピリットが多量展開されるのは目に見えていることであって、

 

 

[ターン05]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!フローラモンとトゲモンを連続召喚し、フローラモンの効果でカードをオープン!」

手札6⇨4

リザーブ9⇨3

トラッシュ0⇨4

オープンカード↓

【リリモン】◯

【フローラモン】◯

【パルモン】◯

 

 

【進化】及び【超進化】により真夏の手札に戻っていたフローラモンとトゲモンが再召喚される。

 

そしてフローラモンの召喚時効果も成功、この場合はどちらか1枚が手札へと加わるが、

 

 

「よっし!この効果で2枚目のリリモンを手札に加えるでぇ!」

手札4⇨5

 

 

当然だと言わんばかりに、真夏は2枚目となるリリモンを手札に加えた。

 

そしてまだだ。まだ展開する。次は生い茂るあのスピリットだ。

 

 

「そして次!老賢樹トレントンをLV1で召喚や!」

手札5⇨4

リザーブ3⇨0

ロードバシリー(3⇨2)LV2⇨1

トラッシュ4⇨7

 

 

真夏の背後からゆっくりとその場に現れてきたのは言わゆる人型の太樹と言ったところか、他のスピリットと比べてもそのサイズの大きさは桁違いだ。

 

そしてこのトレントンは真夏のエースを呼び寄せる起因となる。

 

 

「トレントンの召喚時!手札にある緑のスピリットをノーコスト召喚!今一度来いや!リリモン!!」

手札4⇨3

ロードバシリー(2⇨1)

リリモンLV1(1)BP7000

 

 

トレントンの生い茂る頭部から抜け出してくるように飛び出してきたのは真夏が先ほど手札に加えた2枚目のリリモン。

 

これで5体だ。真夏の場には合計で5体のスピリットが並んだ。リリモンの回復効果なども相まって、夜宵の残った3つのライフなど破壊するのは容易なことだろう。

 

 

「す、すごい………1ターンでこれほどのスピリット達を…………」

「ふふせやろせやろ〜〜!………ほな、いくでぇ!アタックステップ!リリモン!」

 

 

開始された真夏のアタックステップ。その先陣を切るのはもちろんリリモンだ。妖精のような羽を広げて飛び立つ。

 

 

「アタック時効果!コアを2つ置き、回復し、ゴブリモンを重疲労!」

リリモン(1⇨3)LV1⇨2(疲労⇨回復)

 

「………っ!?」

ゴブリモン(回復⇨重疲労)

 

 

リリモンの放った砲撃はゴブリモンに一直線に飛んで行った。そしてそのままそれと衝突し、元気だったゴブリモンはぐったりとその場で横たわってしまった。

 

重疲労自体はデビモンなどである程度軽減できるものの、この相手のアタックステップという場においてはなかなかに面倒な効果であるというのに変わりはない。単純にブロッカーが減るだけできついのだから。

 

真夏の重疲労は夜宵には効かないと言ったが、逆に言ってしまえば重疲労したスピリットを削除し、次のスピリットを展開するということは、夜宵に無駄な労力を課しているとも言えるのだ。

 

 

「よし!行けやリリモン!」

 

 

これで終わり。真夏はそう思っただろう。

 

ーだが、夜宵がこの程度でくたばるわけもなく、

 

 

「相手がコアステップ以外でコアを増やした時、手札にある龍面鬼ビランバの効果!……コストを支払わずに召喚!……LVは2、維持コアはレディーデビモンとゴブリモンから使います!」

手札6⇨5

レディーデビモン(2⇨1)LV2⇨1

ゴブリモン(1⇨0)消滅

龍面鬼ビランバLV2(3)BP15000

 

「……………っ!?び、ビランバ!?」

 

 

ゴブリモンとレディーデビモンのコアが抜き取られるものの、深淵の闇より龍の面を被った鬼が夜宵の場へと顕現する。それはコアブーストキラーとも言えるスピリットであって、

 

 

「ビランバの効果!この効果で増えていたコア1つにつき2つ!コアを取り除きます!」

 

 

つまりは4つだ。4つ真夏の場からコアを取り除くことが可能だ。

 

ーただしリリモンがいなければの話だが、

 

 

「リリモンがLV2以上でいる時、緑のスピリットは相手からコアを取り除かれない!」

「…………っ!?」

 

 

ビランバが放った闇のエネルギーをリリモンが両手から展開させたバリアで弾き返す。

 

リリモンがいる時、如何なるコアシュート効果も寄せ付けない。

 

 

「なるほど〜〜、だけどリリモンは破壊させてもらうよ!そのためにLV2で出したんだから!ビランバでブロック!」

 

 

ビランバは空中にいるリリモンに狙いを定め、先ほどより強く、その闇のエネルギー弾を放つ。リリモンはそれを器用に避け続けるが、被弾するのも時間の問題である。

 

 

「ふっ!……やらせへんでぇ!……」

「っ!?今度は何を………」

「これや!煌臨発揮!対象はリリモン!」

リリモンLV2(3s⇨2)LV2⇨1

トラッシュ7⇨8s

 

「っ!?!……煌臨っ!?ってことは…………」

「そうやで、私が今から呼ぶのは…………究極体や!」

 

 

リリモンが浅い緑色の光に包まれていく。ビランバがいくら闇のエネルギー弾を放とうと、それはいくらでも吸収してしまう。

 

そう、真夏が呼び出すのは究極体スピリット、それも緑の。

 

ーリリモンがその光の中で姿形を変えていく。

 

 

「来い!究極進化ぁぁぁあ!!」

手札3⇨2

 

 

その光が解き放たれ、中から現れたのは赤い薔薇のような妖精。リリモンと比べて、やや大人びている。

 

それは手に荊の鞭を持ち、優雅に舞う。

 

 

「……………ロゼモン!!」

ロゼモンLV1(1)BP9000

 

 

その名はロゼモン。リリモンが究極進化した姿だ。

 

 

「…………綺麗……」

 

 

夜宵は真夏のロゼモンのその優雅な姿を見て、思わずそう呟いてしまった。

 

だが、どんなことがあろうと、どんなにそれが綺麗で美しくても、薔薇には棘があると言うことはどこでも共通であって、

 

 

「ロゼモンの煌臨時効果!煌臨元になった緑の完全体スピリットを手札に戻すことで…………………疲労している相手のスピリット2体をデッキの上に戻す!……リリモンを手札へ戻し、レディーデビモンとビランバを戻す!」

手札2⇨3

 

「…………っ!?!」

「…………ゾーンウィップ!!!」

 

 

ロゼモンがその荊の鞭をしなりつけ、レディーデビモンとビランバを叩きつける。

 

傷ついた2体は力尽き、デジタルの粒子となって夜宵のデッキへと戻っていった。上はビランバ。下はレディーデビモンの順だ。

 

ロゼモンよ煌臨元だったリリモンがビランバとバトル状態であったため、ロゼモンのアタックは有効にはならなかったものの、これで夜宵のスピリットはゼロ。

 

真夏はそのがら空きとなった場に、一気に攻め込む。

 

 

「これで終わりやで!ロゼモン!」

 

 

煌臨元のリリモンが回復状態であったため、2度目のアタックが可能だったロゼモン。再び空中を舞い、駆け上がる。

 

 

「…………ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

ロゼモンの荊の鞭が、夜宵のライフを打ち付け、粉々に粉砕した。

 

 

「次や!トゲモン!効果でコアを増やすで!」

トゲモン(1⇨2)

 

 

次に走り行くのはトゲモン。その効果でコアを増やす。

 

だが、それが仇となった。

 

 

「コアが増えたことにより、手札の龍面鬼ビランバ…………2枚分発揮!」

「………………え」

 

 

真夏は1つだけ思い違いをしていた。

 

夜宵がさっき使った龍面鬼ビランバ。あれは同じタイミングで発揮できる。

 

通常、このタイミングで複数枚それを手札に持っていたのなら、連続で召喚するはず。だが、夜宵はそれをしなかった。だから真夏も安心してトゲモンでアタックし、コアを増やしに行った。

 

だが、夜宵が本当にやりたかったことは【先ず邪魔なリリモン】を場から離すことだった。結果、今の真夏の場はリリモンはいなく、代わりにロゼモンがいる。

 

ーつまり、今の真夏のスピリット達はコア除去効果を受けてしまう。

 

再び深淵の闇が現れ、その中から今度は2体のビランバが現れる。

 

 

「ビランバの効果で、1つ増えたから2つ、それが2枚分、よって4つのコアをコアを取り除きます!」

リザーブ4⇨0

龍面鬼ビランバLV2(3)BP13000

龍面鬼ビランバLV1(1)BP8000

 

「っ!?」

ロードバシリー(1⇨0)消滅

フローラモン(1⇨0)消滅

老賢樹トレントン(1⇨0)消滅

トゲモン(2⇨1)

 

 

ビランバの効果によって置かれる場所はボイドだ。ビランバ2体が放つ闇は、多くのスピリット達が次々とその闇に飲まれていき、真夏の場から姿を消していく。

 

そしてコアが置かれる場所がボイドなら総コア数も減る。

 

 

「……………最初からそれが狙いやったんか………私がトゲモンでアタックしてなかったら終わっとったで!?」

 

 

いや、無意識のうちにそう仕向けられていたのだ。

 

1度目のビランバで真夏は知らずのうちに2、3枚目のビランバはないと考えるのが普通なのだから。

 

そうなるとどうしてもアタックするだけでアドバンテージを取れるトゲモンでアタックしてしまうだろう。

 

 

「そしてそのアタックはビランバでブロック!」

 

 

突っ込んでくるトゲモンを片手で受け止める。そのままトゲモンを持ち上げ、振り回し、地面へ叩きつける。

 

トゲモンは力尽き、その場で爆発してしまった。

 

 

「……………ターンエンドや」

ロゼモンLV1(2)BP9000(疲労)

 

バースト無

 

 

流石にロゼモンだけではどうにもできない。

 

真夏はそのままターンを終えた。

 

 

[ターン06]夜宵

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

デビドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……………はいらないかな」

 

 

夜宵はアタックステップに入った。真夏の顔を見て、なんとなく察したのだ。もう彼女に打つ手はないと。

 

 

「アタックステップ……………3体のスピリットでアタック!」

 

 

夜宵のスピリット、2体のビランバとデビドラモンが走り出す。目指すは真夏のライフ。

 

 

「………………ふ、……楽しかったで、…………夜宵」

「私もだよ!」

 

「……………ライフで受ける!」

ライフ3⇨0

 

 

真夏はラストコールと共に、その流れるようなアタックを全て受け入れる。全てのライフは3体のスピリットに粉々に粉砕され、ゼロとなる。

 

ー勝者は夜宵だ。

 

夜宵の勝利を讃えるかのように、周りの生徒たちが歓声を送る。

 

 

「……………あっはっはっは!!」

 

 

真夏は負けたにもかかわらず笑っていた。バトル前はあんなに怒っていたはずなのに。

 

 

「私は考えすぎてたんかもなぁ〜〜……………友達の友達はやっぱ友達やな!………改めてよろしゅうな!夜宵!」

「うん!私こそ!」

 

 

真夏は夜宵のとこまで歩み寄り、握手を求めた。夜宵もそれに応じてすぐさま真夏の手を握った。

 

 

(…………でも結局あいつの言う通りやったのが少々気に触るけどなぁ)

(結局椎名ちゃんの言う通りだったなぁ)

 

 

2人は心の中でそう思った。確かに結果的には椎名が言ってたことが本当になってしまった。バトルしただけで誰とでも仲良くなれてしまうのは、正直椎名だけかと思っていた。だが、自分たちもそれにあてられたか、そう勘ぐった。

 

 

「仲良くなれたみたいで、よかったね、」

「………うん!」

 

 

雅治が椎名にそう言った。椎名もそれに応えるように可愛らしい笑顔を雅治に向けて元気にそう言った。

 

「バトルは楽しむもの」。それは椎名が六月に教わったことであり、どこに行こうが、どんなに人が変わろうが何も変わらずそこにあるもの。それを通じて誰とでも仲良くなれるもの。それだけは決して折れるものではない。

 

ーと、椎名はこの時、思っていた。

 




〈次回予告!!〉

「はい!椎名です!真夏と夜宵ちゃん!仲良くなれてよかったね!私も嬉しいよ!……………えっ!?今度はバイト!?………夜宵ちゃん家のメイドの仕事って………あのでっかい屋敷に行くのぉ!?でも界放市の市長さんの頼みだったら聞くしかないよね!……次回、「妖の誘い、サクヤモン舞い降りる!」………今、バトスピが進化を超える!!………てか、またメイドの服着るのか……」











最後までお読みくださり、ありがとうございました!
最近召喚口上がなかなか思いつかない。今回のロゼモンの口上あたりをまた入れ直すかもしれません。または感想等でなにかいい案があったらお教えいただけると私としてもとてもありがたいです!


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第39話「妖の誘い、サクヤモン舞い降りる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【エニー・アゼム】………?………誰?」

「だから前言ったやんけ!あんたに似とるっちゅう大昔の偉人や!」

 

 

教室でそんな会話が聞こえてきた。

 

ジークフリード校ももうすぐ定期試験。筆記試験が苦手な椎名に真夏が勉学を教えているのだ。

 

だが、椎名は全くやる気がない。

 

 

「………あ、それ知ってる、何千年も前にオーバーエヴォリューションを何度も行ったっていう人だよね!」

 

 

夜宵が2人の会話に割って入ってくるようにそう言った。

 

 

「せやで!絶対テスト出るっちゅうのにこいつはほんま………」

「いやいや、覚えたから………テリー・キセルね、」

「…………間違っとるやないかい!!!エニー・アゼムや…………ほら、この絵の顔の髪型見てみ?………あんたのその妙ちくりんな髪にそっくりやないかい………」

「…………そうかな?」

 

 

【エニー・アゼム】。遥か昔に日本に来た渡来人の女性と言われており、当時の日本人に作物の育て方などを教えたらしい。一応高校の歴史の授業で習うほどには有名な偉人ではある。何せ、飽くまで一説ではあるが、人類で初のオーバーエヴォリューションに目覚め、おまけにそれを何度も繰り返し行ったと言われているのだから。

 

オーバーエヴォリューションとは本来、人1人につきたった一度しか起きないものだ。だが、彼女はそれを何度も行い、新たなるカードを生み出していたという。

 

そしてそれが渡来先の日本で人々に伝承されて行き、今のオーバーエヴォリューションの元になっているのではないかとも言われている。

 

 

「あぁ、やだぁぁぁ!!勉強したくない!!!なんでバトスピ学園にまで来て勉強しないといけないの!?」

「何言うとんねん、バトスピ学園は他のとこと違うてがっつりはせんよ、あんたの頭が悪すぎるんや………」

「はは、………まぁ、あんまり詰めるのも良くないよね……………そんな椎名ちゃんにいいお知らせです!」

「?」

「あ、あと司ちゃんもね!」

 

 

勉強嫌いな椎名にそう言う夜宵。司は興味なさそうな顔でそれを見ていた。

 

何やら2人に何かしら起こるようだ。

 

 

******

 

 

ー今週末

 

 

「………急な申し出でごめんなさいね……市長様がどうしてもと言うものだから………」

「いやいや!良いんですよ!バイト代貰えるし!」

「………現金なやつだな」

 

 

ここは夜宵達紫治一族が住まう豪邸、【紫治屋敷】。そこに椎名と司はそれぞれその屋敷のメイドとウェイターが着用しそうな服を着て、夜宵の姉、紫治明日香と共にいた。

 

今日は明日香が紫治一族の頭領を正式に継ぐ日なのだ。そこに界放市の市長が祝うために、この紫治屋敷を訪れる。

2人は夜宵からその誘いを受けて今週の末にここまで赴いたのだった。ちなみに夜宵は仕事でいない。

 

バイトと言ってもそんなに働くわけではない。明日香の言うように、なぜかこの街を収める界放市の市長が是非ともと【2人を呼んでくれ】と言って、それが夜宵まで繋がり、今がある。

 

 

「……………」

「……………」

「……………」

「…………おい、めざし」

「ん?」

「……夜宵の姉となんか話せよ」

 

 

界放市の市長が来るまで、この頭領室と言う1人でいるにはいささか広すぎる部屋で待つことになっていた。

 

司は耐えられなかったのだろう。この近郊が。誰も喋らない静寂が保たれるのは好きだが、明日香の放つ独特な鋭いオーラもあってか、今日ばかりはうるさい方がいいと思っていた。

 

 

「…………なんかって、そうだなぁ…………ねぇ明日香さん……」

「……何かしら?」

「…………好きな食べ物何ですか?」

 

 

椎名がそう言うと、再びこの場がより一層、サイレントムーブになる。一瞬にして空気がひんやりと冷たくなった。

 

 

「………………………殺すぞてめぇ」

「なんで!?」

 

 

幼稚が過ぎると言わんばかりに物を言う司。たしかに何か話せと言ったのは自分だが、まだ何かそんなことではなくまともな質問があったはずだ。そんな気持ちがだだ漏れである。

 

ーだが、

 

 

「………りんご……かしらね」

「………………言うのかよ………」

 

 

明日香はそんな椎名の質問にもなぜかまともにも静かに、冷静に答えた。司的には偏見ではあるが絶対に怒ると思っていたのに。

 

 

「…………ふふ、ごめんなさいね……気を使わせて、………私はこう見えてあなた達には感謝してるのよ、この一族を救ってくれたことに……」

「あっはは!いや〜なんかそんな言われ方するとちょっと照れくさいなぁ〜〜」

 

 

ー笑うんだ。

 

返事をする椎名を他所に司はそう思った。

 

夜宵との付き合いは長いが、夜宵の姉、明日香とは全く面識がなかった。顔と存在は知っていたが、

 

昔のことだ。夜宵が一度自分に姉のことを教えてくれたことがある。その時夜宵は彼女のことを「暖かく笑わない人」であると言った。

 

今ほぼ初めて対面して、なぜか夜宵の言ってることとは真逆に、その目の前の女性はしっかりと暖かい笑みを浮かべている。

 

ー変わったんだ。変えたんだ。救ったんだ。一族を、家族を、本当の心を、

 

司は初めてそれらを実感し、理解した。

 

ーそんな時だった。ドアからノックの音が聞こえてくる。

 

明日香もそれを聞いて「どうぞ」と声を張り、その来客を頭領室へと招き入れた。

 

 

「………やぁ」

「いらっしゃいませ、市長様、……すみません、本当は私から行くべきでしたのに、………」

「いや、良いんだよ。君も忙しいだろうしね……まぁ、取り敢えずおめでとう、明日香ちゃん!城門があんなことになってしまっけど、それに負けずに誠心誠意努めてくれたまえ………」

「はい!!」

 

 

やって来たのは柔らかい声色と風貌の持ち主の男性。歳は70はありそうだ。SPのような黒服の取り巻きも4人いる。

 

 

(………あれが界放市の市長……いつもは長々とどうでもいいことを話す印象しかないが………)

 

 

司が心の中でそう思った。

 

界放市の市長は仮にもこのバトスピが最も栄えている街の市長。誰もが認知していることだが、この【界放市の中で誰よりもバトルが強いのだ】。あの学園の理事長達も、彼には頭が上がらないのだとか…………

 

 

「………そしてこっちの2人が芽座椎名ちゃんと赤羽司君か、…………」

「うっす」

「こんにちわ!!」

 

 

2人は軽くお辞儀をした。

 

市長が椎名と司に目線を向ける。凄まじいプレッシャーだ。明らかに今までとは、【界放リーグ】の時とは違う。いったいどんな言葉をかけてくるのだろうか?

 

2人はそう考えていた。

 

ーが、

 

 

「おぉ!去年の界放リーグ2、3位の2人!!………君達珍しいスピリットをいっぱい持っているんだよね!!!?是非、是非とも私に見せてはくれないかぁ!?」

「「……………はい?」」

 

 

市長は歳には似合わないくらいに目を輝かせ、子供のような笑顔を2人に見せつけ、近づいてきた。

 

司と椎名は珍しくこの瞬間だけは息があった。

 

 

「………珍しいスピリット?」

「ほら!【界放リーグ】でも使ってたじゃないか!ロイヤルパラディンとか、赤羽一族の伝説のスピリットとかさ!」

「…………あぁ、そう言うことですか、それなら…………」

 

 

******

 

 

 

「お、おおおおぉ!!!!なんと眩いのだぁぁあ!!あの世界に1枚ずつしかないと言う伝説のロイヤルナイツのマグナモンが今、今私の目の前にぃぃい!!ホウオウモンもなんて輝かなんだぁ!!!そして、そしてこれが竜ノ字からの報告書にあったパイルドラモン!!なんてかっこいいんだぁ!!私が今まで見てきたなかではかっこよさランキングの五本の指には入るよ!!」

 

 

界放市の市長こと、【木戸 相落(きど あいらく)】は椎名達に貸してもらったマグナモン達を見て、まるで子供のように、はしゃいでいた。

 

 

「はっ!……いやいや、これは失敬、つい取り乱してしまったよ〜、伝説のスピリットやオーバーエヴォリューションで手に入るカードとかは基本的にこの世にたったの1枚しか存在しないからね〜〜………カードマニアの私にとってこれを間近で見れると言うのはとても嬉しいことなんだよ!!!やはり今日君達も呼んでもらったのは正解だったね〜〜!」

「あっはは………市長さんってこんな感じの人なんだ………なんか拍子ぬけって感じ………」

「どうでも良いが早く返せ……」

「おぉ、これは失礼したね、」

 

 

市長はそれらのカードを椎名と司に返した。

 

木戸相落は、カードマニアであった。そんな彼が興味を注がれるのは、この世に1枚ずつしかないと言われているロイヤルナイツや、オーバーエヴォリューション産のカード達。特にロイヤルナイツなど、椎名がマグナモンを召喚するまでは前例もなく、誰も見たことがなかった。

 

マニアとして、ここまで嬉しいことはなかったことだろう。

 

 

「いやはや、それにしても青と緑のデジタルスピリットに目覚めるとは…………さすがは【六月の孫】だね、椎名ちゃん」

「ん?市長さんはじっちゃんを知ってるんですか?」

 

 

市長は唐突に椎名にそう言った。どうやら椎名の育て親、芽座六月のことを知っているようだ。

 

 

「そうとも!【君の祖父】、芽座六月と私は昔から親友の中の親友さ!」

 

 

市長と六月は昔馴染みの親友であった。若い頃はお互いを高め合い、バトルの腕を磨き、鍛え上げ、共に成長していった。

 

だが、椎名はこの言葉の中にある不信な単語に気づく。

 

 

「ん?祖父?………じっちゃんは私の祖父じゃないですよ??」

「っ!?………そ、そうか………すまなかったね………」

 

 

椎名の思わぬ言葉に市長の顔は一瞬だけ青ざめた。

 

だが、直ぐに振り切り、

 

 

「はは、そうだな、カードを見せてくれたお礼に、君ら2人に私ができる範囲でなんでもしよう」

 

 

市長は話をそらせるかのように違う話題を振った。

 

 

「なんでも…………あっ!じゃあ!私とバトルしてください!市長さんはこの街最強なんですよね!?」

 

 

椎名は当然のごとくバトルをしようと選択する。まぁ、この街の者だったら、椎名でなくとも大抵はこの願いを口にするだろう。あの界放市市長とバトルするなど普通の人なら間違いなく一生の思い出になるレベルで歓喜することだろう。

 

ーだが、

 

 

「おい、めざし、何勝手に決めてんだ………バトルするのは俺だ、どいてろ、」

「っ!?司?……」

「…………困ったねぇ、私は今日、これから【人と会う約束】があるんだ、精々一度しかバトルはできない……」

 

 

司がしゃしゃり出てくる。市長もやはり忙しいか、これから用事が山積みだ。

 

だがそこは流石市長と言ったところか、両手をグーとパーにしてポンっと叩き、閃いたようなそぶりを見せた。

 

 

「じゃあ、こうしよう!2人で私に挑むと言うのは!」

「おぉ!多対1ですね!面白そう!」

 

 

多対1ルール。以前紫治城門とのバトルでもやったものだ。たしかにそのルールなら手っ取り早く2人を相手にできるし、時間も短縮できる。

 

椎名はそれを聞いてやる気になるが、

 

逆に司は、

 

 

「………あぁ?……じゃあいいや、めざしだけにやらせる……」

 

 

やる気が失せた。あんなに高かったモチベーションが一気に地球の底まで沈んで行った。

 

 

「おい司!なんで!?なんかやる空気だったじゃん!!やろうよ〜〜!!」

「お前なんぞと協力すんのはあの時が最初で最後だ………勝手に1人でやってろ……」

 

 

そう言って、司はそのだだっ広い部屋の端によって2人のバトルスペースを確保した。そこには同時に明日香もおり、

 

 

「…………良かったの?バトルしなくて………」

「いいんすよ……」

 

 

いや、本当は良くない。この街で最強と言われているあの【木戸 相落】とバトルすることができるのだ。あの司とて願ってもないチャンスだったことだろう。

 

だが、司はそれ以上に椎名と協力するのが気に障るのだ。と言うか、椎名に限らず誰かと協力すること自体好きではなかった。

 

 

「………変な司……………まぁいいや!!私だけで楽しんじゃうもんね〜〜!!」

「はっは………じゃあバトルするのは椎名ちゃんだけでいいかな?」

「よし!じゃあ!行きましょう市長さん!」

 

 

2人は、椎名と市長は自身のBパッドを展開し、バトルの準備をした。

 

ーそして、

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まった。

 

ー先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!ネクサスカード、D-3を配置して、ターンエンド!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

 

D-3LV1

 

バースト無

 

 

椎名が配置した、と言うよりかは腰に装着したと言うべきか、青い携帯電話くらいのサイズの機械が現れた。

 

このネクサスはデジタルスピリットの進化を万全にサポートできる便利なネクサスだ。

 

先行の第1ターン目など、やれることは限られる。椎名はこれだけでそのターンを終えた。次は市長のターンだ。

 

 

[ターン02]市長

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「……さぁ、メインステップだ……………」

(相手はあの界放市市長!……いったいどんなスピリット出すんだろう??……)

 

 

椎名はこのターン、市長が呼び出すスピリットに期待していた。仮にもあの界放市で一番強いのだ。それはそれは強力なスピリットが召喚される。

 

ーものだと思っていた。

 

 

「………私はこいつを、………フーリンをLV3で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

 

「………………え?」

 

 

市長が召喚したのは黄色のスピリット、それはまるで熊のようなぬいぐるみのような何か、

 

かの有名で人気なスピリット、フーリンである。

 

 

(………………よ、弱そ〜〜!?)

 

 

椎名は予想外なスピリットの登場にある意味で度肝を抜かれた。フーリンのコミカルな動きもあって、より集中力が削がれてしまう。

 

 

「はっはっは!!どうだい!?可愛いだろう?」

「はは、そうですね…………」

 

 

なぜか誇らしげな市長に、椎名は苦笑いで返した。

 

だが、スピリットは見た目だけで判断してはいけない。椎名はさっき以上に気を引き締めて、このバトルに臨んで行く。

 

 

「さらに、バーストをセットし、ターンエンドだよ」

手札4⇨3

 

フーリンLV3(3)BP4000(回復)

 

バースト有

 

 

市長の場の右端に裏側でバーストがセットされた。市長はこれだけでターンを終えるものの、フーリンの弱さも相まり、やはりそのバーストの存在は大きい。

 

次は椎名のターン。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!ブイモンを召喚!……さらに召喚時効果でカードオープン!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【ライドラモン】◯

【ワームモン】×

 

「おぉ、これが君のデッキの軸となるデジタルスピリットか!」

 

 

椎名が召喚したのはいつもの小さき青き竜、ブイモン。その召喚時効果も成功し、アーマー体スピリットであるライドラモンが手札に加えられた。

 

 

「さらに、ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!1コストを支払い、青き稲妻、ライドラモンをLV1で召喚!」

手札4⇨5

リザーブ2⇨1

トラッシュ2⇨3

ライドラモンLV1(1)BP5000

 

 

ブイモンの頭上に黒くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンは飛び上がり、それと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは黒いボディの獣型アーマー体スピリット、ライドラモン。

 

 

「ライドラモンの召喚時!ボイドからコアをトラッシュに2つ追加!」

トラッシュ3⇨5

 

 

登場するなり、ライドラモンは大きく吠える。その雄叫びは天に届いたのか、椎名のトラッシュに新たな恵みが与えられた。

 

 

「アタックステップ!ライドラモンでアタック!」

 

「…………ライフで受けよう」

ライフ5⇨4

 

 

ライドラモンの俊敏で高速な体当たりが、市長のライフを1つ破壊した。これで先制点は椎名が制した。

 

ーかに思われたが、

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!……フランケンマン!効果でライフを1つ回復し、召喚!」

ライフ4⇨5

フランケンマンLV1(1)BP7000

 

「!!」

 

 

市長のライフが黄色に包まれていき、1つ復活する。これでプラマイゼロ。元の状態に戻る。

 

そしてそれと同時に、市長の背後から現れるスピリットがいったい。それはフーリンと比べてかなり巨体である。

 

のっそのっそとゆっくり現れたのはフランケンがモチーフのフランケンマン。単純なバースト効果しか持たないが、その分BP効率などが優れているスピリットだ。

 

 

「………やっぱ一筋縄じゃあ行けないか〜〜〜〜ターンエンド!」

ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

D-3LV1

 

バースト無

 

 

できることを全て終えた椎名はそのターンを終了させ、市長に譲る。

 

 

[ターン04]市長

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨3

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ、…………そうだね〜〜、じゃあ私もネクサスカード、マヨイ家を配置しようかな?」

手札4⇨3

リザーブ3⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

市長もネクサスカードを配置する。それはまるで妖怪でも潜んでいそうな古い家。その不気味な雰囲気が椎名にプレッシャーを与えていく。

 

 

「そして、フランケンマンのLV上昇して、アタックステップ……そんなフランケンマンでアタックしようか!…」

リザーブ2⇨0

フランケンマン(1⇨3)LV1⇨3

 

 

フランケンマンのLVを上げると同時に、命令を下す市長。フランケンマンが大きな身体を揺らしながら椎名の元へと走り行く。

 

 

「ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

フランケンマンの重たく、強烈なパンチが、椎名のライフを1つ破壊する。

 

 

「……………ターンエンドかな……」

フランケンマンLV3(3)BP13000(疲労)

フーリンLV3(3)BP4000(回復)

 

マヨイ家LV1

 

バースト無

 

 

フーリンをブロッカーに残し、そのターンを終える市長。次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨8

トラッシュ5⇨0

ライドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ブイモンを再び召喚!そして召喚時効果でカードをオープン!」

手札6⇨5

リザーブ8⇨6

トラッシュ0⇨1

オープンカード↓

【フレイドラモン】◯

【グリードサンダー】×

 

 

椎名はライドラモンの【アーマー進化】により手札に戻っていたブイモンを再度召喚する。そしてその召喚時効果も成功、椎名はアーマー体スピリットのフレイドラモンのカードを手札に加えた。

 

 

「さらにライドラモンとD-3のLVを2にアップして、アタックステップ!ブイモンでアタックだぁ!」

リザーブ6⇨2

ライドラモン(1⇨3)LV1⇨2

D-3(0⇨2)LV1⇨2

 

 

残ったコアで場を整え、すぐさまアタックステップへと走り出す椎名。ブイモンが意気揚々と飛び出していく。

 

 

(…………フーリンより弱いブイモンでのアタック…………何かあるね……)

 

 

市長はそうよんだ。間違いなく何かある。と、

 

当然その予想は的中し、椎名はさらなる一手をここで仕込んできた。

 

 

「フラッシュ!フレイドラモンの【アーマー進化】を発揮!対象はブイモン!…………って、言いたいところだけど、D-3のLV2効果!このネクサスを疲労させることで、対象のデジタルスピリットを戻したものとして扱う!!……今回はそれを使用!」

D-3(回復⇨疲労)

 

「っ!!………なるほど、そういうことかね〜〜」

 

 

D-3はデジタルスピリットの【進化】全般をサポートする。それは異質な進化である【アーマー進化】とて同じこと、

 

椎名が腰に装着しているD-3をタッチし、光らせる。それに伴い現れるデジタルゲート、その中から現れるのは椎名のエーススピリット。

 

 

「1コストを支払い、炎燃ゆるスピリット、フレイドラモンをLV2で召喚!」

手札6⇨5

D-3(2⇨0)LV2⇨1

リザーブ2⇨0

トラッシュ1⇨2

フレイドラモンLV2(3)BP9000

 

 

現れたのは炎を纏ったスマートな竜人、フレイドラモン。

 

 

「………おぉ!すごい!」

「フレイドラモンの召喚時効果!BP7000以下のスピリット1体を破壊!対象はもちろんフーリン!………爆炎の拳!ナックルファイア!!」

手札5⇨6

 

「………!!」

 

 

フレイドラモンは登場するなり、フーリンに向けて炎の鉄拳を飛ばす。それは瞬く間にフーリンを捉え、焼き尽くした。

 

そして忘れてはならない。これはまだ椎名のブイモンのアタックのタイミングだと言うことに。待ちくたびれていたようなそぶりを見せつつ、ブイモンは再び走り行く。

 

 

「いけぇ!ブイモン!」

 

「…………ライフで受けようか」

ライフ5⇨4

 

 

ブイモンの渾身の頭突きが、市長のライフを1つ粉々に粉砕する。

 

 

(なるほど、この後にライドラモンとフレイドラモンでアタック、ライドラモンの効果で一気に私のライフを破壊しようと…………だけど、甘いね〜〜)

 

 

このターン。そのまま椎名のスピリット達によるフルアタックが通って仕舞えば、ライドラモンのLV2、3の効果で、市長は全てのライフを破壊されてしまう。

 

だが、たったそれだけの戦法で倒れる市長ではない。事前に張り巡らせたネクサスカードの効果を使い、椎名を翻弄する。

 

 

「さらにライドラモンで…………」

「おおっと!!ちょっと待ってね!その前に私のネクサス、マヨイ家の効果が発揮されるよ!」

「………!?」

 

 

ネクサスと言う単語に反応して、椎名は思わずそっちの方へと視線を移した。すると、マヨイ家の襖が開き、中からスピリットが、いや、あれはただのスピリットではない、デジタルスピリットだ。

 

 

「な、なんかいる!?」

 

「ふふ、マヨイ家のLV1からの効果、私のライフが減るたびに、手札から妖戒スピリットをコストを払わずに召喚できるんだ〜〜、私はこの効果で、完全体スピリットのタオモンを召喚するよ!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨1

タオモンLV3(3)BP10000

 

「っ!?……デジタルスピリット!?」

 

 

そこから飛び出してきたのは、まるで狐の陰陽師。その手には巨大な筆が握られている。世にも珍しい、系統、妖戒のデジタルスピリット、タオモンが市長の場に現れた。

 

そしてまだ終わらない。タオモンには強力な召喚時効果がある。

 

 

「タオモンの召喚時効果で相手スピリット全てのBPをマイナス8000!…0になったらデッキの下へと送られるよ」

 

「………なにぃ!?」

ブイモンBP2000⇨0(デッキ下)

ライドラモンBP7000⇨0(デッキ下)

フレイドラモンBP9000⇨1000

 

 

タオモンはその巨大な筆で空中に謎の文字を描いていく。一筆書きでそれを書き終えたかと思いきや、それらは椎名の場のスピリット達へと襲いかかる。直撃した瞬時に爆発するその文字はブイモン、ライドラモンを消滅させるだけにあらず、フレイドラモンも弱体化させた。

 

 

「くっ、……ターンエンド」

フレイドラモンLV2(3)BP1000⇨9000(回復)

 

D-3LV1

 

バースト無

 

 

弱体化してしまったフレイドラモンだけではどうしようもない。椎名は半ば強制的にそのターンを終えることになった。次は見事なカウンターを決めた市長のターンだ。

 

 

[ターン06]市長

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨3

トラッシュ1⇨0

フランケンマン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、2体目のフーリンを召喚!」

手札3⇨2

リザーブ3⇨0

 

 

市長は前のターンでフレイドラモンに破壊されたフーリンと同様のものを召喚する。

 

スピリットがあまり手札にないのか、それ以上の展開はせずに、アタックステップへと移行した。

 

 

「アタックステップ!行きなさい、タオモン!」

 

 

浮遊しながら、椎名の元まで飛び行くタオモン。狙うは彼女のライフだ。

 

 

「………フラッシュマジック!リアクティブバリア!!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨2

トラッシュ2⇨6

 

「…………!?」

 

 

椎名が唐突に発揮させたリアクティブバリア。これにより、市長の場に猛吹雪が襲ってくる。これでは、彼のスピリット達はほとんど身動きができない。

 

 

「タオモンのアタックはライフだ!」

ライフ4⇨3

 

 

だがタオモンのアタックは有効である。タオモンは袖口から大量の札を射出し、椎名のライフに突き刺す。それは瞬時に爆発して、ライフを1つ破壊した。

 

 

「この時、タオモンの【聖命】の効果でライフ1つ回復する」

ライフ4⇨5

 

 

ここでは触れられていないが、タオモンは妖戒スピリット全てにこの黄色特有の効果【聖命】を与える。フレイドラモンを残すことも踏まえて、ここでリアクティブバリアを使ったのはある意味正解であると言える。

 

 

「………………んーー、これではアタックができないね〜〜、………ターンエンドだよ」

タオモンLV3(3)BP10000(疲労)

フランケンマンLV3(3)BP13000(回復)

フーリンLV3(3)BP4000(回復)

 

マヨイ家LV1

 

バースト無

 

 

リアクティブバリアの効果が有効であるのならば、ターンを終了せざるを得ない。市長はこのままそのターンを終え、椎名に渡した。

 

 

(つ、強〜〜〜い!!!!………流石は界放市で一番強い人!こんな二手三手読まれてる感じが続くのは真夏の兄ちゃんとバトルした時以来だ…………でも、負けない!バトルはこれからだ!)

 

 

そう心の中で大きく意気込む椎名。

 

椎名は始まる前より断然燃えていた。相手が強ければ強いほど熱くなり、燃え上がる。バトラーなら当然な現象であるとも言える。

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨10

トラッシュ6⇨0

D-3(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!ワームモンをLV2で召喚!そして効果発揮!」

手札6⇨5

リザーブ10⇨5

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【リアクティブバリア】×

【ブイモン】×

 

 

椎名が召喚したのは緑の成長期スピリット、芋虫をデフォルメしたようなワームモンだ。だが、その召喚時の効果は不発。どちらともトラッシュへと落ちていった。

 

 

「そして、追加効果で、手札にある青の成熟期スピリットを2コスト支払って召喚!…………来い!エクスブイモン!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ2⇨4

 

 

さらに召喚されたのは蒼き闘竜、エクスブイモン。腹部のエックスの文字が印象的である。

 

 

「エクスブイモンの召喚時効果で、2枚引き、2枚捨てる!」

手札4⇨6⇨4

破棄カード↓

【ブイモン】

【ズバモン】

 

 

流れるようにデッキと手札を回転させていく椎名。そしてドローした。自分の第2のエーススピリットが、この状況を一転ゆさせるキーカードが、

 

 

「よっし!!アタックステップ!ワームモンの【進化:緑】を発揮!成熟期のデジタルスピリット、スティングモンに進化!」

スティングモンLV2(3⇨4)BP8000

 

 

アタックステップの開始時と共に、ワームモンに0と1のデジタルコードが巻き付けられる。ワームモンはその中で姿形を変えていき、新たなスピリットとなる。

 

そして現れたのは昆虫型だが、人型に近いスマートな体型の成熟期スピリット、スティングモン。その効果でコアも増えた。

 

 

「一気に行くよ!アタックステップは継続させ、スティングモンでアタック!効果でコアブースト&レベルアップ!」

スティングモン(4⇨5)LV2⇨3

 

 

走り出すスティングモン。そしてここだ。このタイミングで使用する。オーバーエヴォリューションで得た、無敵の力を……

 

 

「ここだぁ!フラッシュ!パイルドラモンの【ジョグレス進化】発揮!対象はエクスブイモンとスティングモン!……この2体を融合させ、新たな力へと導く!」

「………………おぉっ!来るのか、ここで!」

 

 

椎名のエクスブイモンとスティングモンが宙へと飛び立ち、そのデジタルコードを混じらせていく。それは新たな姿を形成していき、最強スピリットを出現させる。

 

その神秘的な光景に、思わず対戦している市長も感激する。

 

 

「……………パイルドラモン!!」

手札3⇨5⇨4

リザーブ8⇨3

パイルドラモンLV3(5)BP13000

 

 

完全に形が形成され、椎名の場に降り立って来たのは、竜のパワーと昆虫の俊敏さを合わせ持つ至高の竜戦士、パイルドラモン。

 

 

「おおぉ、生で見ると、より一層、カッコいいの!」

「でしょでしょ!!?……でも、浮かれてる場合じゃないよ!パイルドラモンのジョグレス進化での召喚時効果!……相手のコスト7以下のスピリット全てを破壊する!」

「……………っ!?」

「…………殲滅の………デスペラードブラスター!!!」

 

 

パイルドラモンは腰に備えたかられている機関銃を両手で持ち上げ、乱射する。それは流れるように、市長の場にいたフーリン、フランケンマン、タオモンをなぎ倒していった。

 

 

「よっし!!まだまだ行くよ!パイルドラモンでアタック!アタック時効果で、ボイドからコアを2つパイルドラモンに置き、ターンに1回だけ、パイルドラモンは回復する!……………エレメンタルチャージ!!!」

パイルドラモン(5⇨7)(疲労⇨回復)

 

 

パイルドラモンは眩しいほどに光輝き、エネルギーを溜めた。

 

これぞパイルドラモンのすごいところだ。相手を殲滅しつつ、コアを増やし、2度目の攻撃を可能にする。デジタルスピリットの中でもかなり纏まっていて、使いやすい効果であると言える。

 

 

「……………ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

飛び出して来たパイルドラモンの拳が、市長のライフを破壊した。行ける。この絶対的エーススピリット、パイルドラモンさえいればあの市長にも勝てる。椎名はそう考えをよぎらせた。

 

だが、忘れてはならない。市長にはライフの減少時に妖戒スピリットを召喚できるマヨイ家があると言うことを、

 

 

「はっはっは!!!流石は六月にバトルを教え込まれていただけのことはあるね!!だけど、僕のライフを大きく減らすにはまだ早いかな?」

「っ!!」

 

「マヨイ家の効果!!手札から2枚目のタオモンを召喚するよ!」

手札2⇨1

リザーブ10⇨7

タオモンLV3(3)BP10000

 

 

まただ。またマヨイ家の中からパイルドラモンが破壊したタオモンと全く同じ2体目のタオモンが飛び出してきた。

 

ーもちろん召喚時の効果が発揮される。

 

 

「タオモンの効果でBPを8000下がるよ〜〜〜」

 

「っ!!」

パイルドラモンBP13000⇨5000

フレイドラモンBP9000⇨1000

 

 

タオモンの一筆書きの文字を飛ばす攻撃が、今度はパイルドラモンとフレイドラモンの2体を襲う。2体とも辛うじて生き残るも、このターンのアタックはかなりキツイ状況にまで追い込まれた。

 

 

「くっそ〜〜流石にガードは固いか〜〜ターンエンド!!」

フレイドラモンLV2(3)BP9000(回復)

パイルドラモンLV3(9)BP13000(回復)

 

D-3LV1

 

バースト無

 

 

やれることを全て終え、椎名はそのターンを終了させた。決めてとはならなかったものの、手応えはあった。確実に効いてきている。このままいけば押し込んでいけるかもしれない。

 

次は再びタオモンとマヨイ家のコンボで椎名の猛攻を凌いだ市長のターン。

 

 

(流石はお前が仕込んだだけのことはあるよ、六月…………この娘は強い………底なしに……だけどまだ私には敵わないかな………)

 

 

ターンが始まる寸前。市長はそんなことを考えていた。友であり、好敵手であった芽座六月。彼と共にいた記憶が、思い出が、椎名とのバトル中に蘇って来たのだ。

 

そんな想いを胸に、市長は自分のターンを始めて行く。

 

 

[ターン08]市長

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ7⇨8

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

 

 

「メインステップ……………よく頑張ったね、椎名ちゃん……………だけど、これで終わりだよ…………!!」

「…………っ!?」

 

 

その市長の言葉に反応した椎名。市長は確かに終わりだと言った。それは紛うことなきこのバトルのことだ。このパイルドラモンとフレイドラモンがブロッカーとして立っていて、尚且つ3つもある自分のライフを減らせるとでも言うのか………

 

だが、本当に可能なのだ。市長が絶対的信頼を寄せる【エーススピリット】が存在すれば………

 

 

「さぁ、アタックステップだ、タオモンでアタックしよう!」

 

 

動揺と驚愕がが治らない椎名を他所に、市長は手を抜くことなくアタックステップへと移行した。タオモンが再び椎名のライフを砕こうと飛び立った。

 

ー椎名はこの瞬間直感で感じてしまった。

 

ーなにかとんでもないものが来る。

 

ーそれはフレイドラモンやパイルドラモンではどうしようもない存在。

 

 

「フラッシュ!煌臨発揮!対象はタオモン!」

フランケンマン(2s⇨1)LV2⇨1

トラッシュ6⇨7s

 

「っ!?………ここに来て煌臨!?」

 

 

パイルドラモンが今にもブロックしようとしていたこのタイミングで、市長は煌臨を、いや、究極進化させて来た。

 

タオモンが黄色の光で眩く輝きながら、その姿形を変えていく。

 

 

「…………来るか………」

「えぇ、そうね、市長様の最強のスピリットが………」

 

 

司と明日香がこの光景を目に入れながらそう呟いた。

 

そして市長は口上を述べ、それを呼び出す。

 

 

「神の代行者の巫女よ、今この戦いに終止符を……究極進化!」

手札2⇨1

 

 

現れるのは神の代行者。黒くてスマートな女性の身体をベースに黄色や紫の装甲がどんどん付け足されていく。

 

 

「……………サクヤモン!!!」

サクヤモンLV3(3)BP14000

 

 

サクヤモン。黄色の究極体のデジタルスピリットだ。その力はもはや椎名の持つカード達では追いつけないことだろう。

 

 

「やぁ、サクヤモン。久しぶり、やっぱり君は美しいね〜」

「……き、究極体…………カッコいいぃ!!!………」

 

 

絶対絶命のピンチだと言うのに、椎名はサクヤモンを視界に入れるなり大きくはしゃぎ出した。

 

市長はそんな椎名を微笑ましく見つめながら、優しい笑顔でサクヤモンの効果を発揮させる。

 

 

「………サクヤモンの煌臨時効果!……相手のスピリット4体を選択し、LV1とする、さらにそのターンの間、LV1のスピリット全てはアタックとブロック、効果の発揮ができなくなる」

「……………っ!?」

「私は君のパイルドラモンとフレイドラモンを選択………飯綱!!」

 

 

サクヤモンの腰に装着されている筒。そこには4匹の管狐が潜んでおり、そのうちの2匹が飛び出していく。それは瞬く間にフレイドラモンとパイルドラモンの2大エースを貫き、その力を奪い取った。

 

 

「フレイドラモンっ!……パイルドラモン!?」

フレイドラモンLV2⇨1

パイルドラモンLV3⇨1

 

 

その場で立てなくなるなるほどに力を奪われたか、膝をついてしまう2体のドラゴン。飯綱と呼ばれているその管狐は再びサクヤモンの腰に装着されている筒の中へと戻っていった。

 

これで2体はサクヤモンの効果の影響をもろに受けて、アタック、ブロック、そして効果の発揮が行えなくなった。

 

ーそしてまだだ。まだ終わらない。サクヤモンの真骨頂はここからである。

 

 

「さらにサクヤモンのLV3煌臨中の効果!手札のカードを破棄し、このバトルのみ、シンボルを1つ追加し、回復する!」

手札1⇨0

破棄カード↓

【雪ガール】

サクヤモン(疲労⇨回復)

 

「……っ!?!」

 

 

サクヤモンは懐から1枚の札を取り出し、呪文を詠唱し、それを溶かしていく。するとその札の効果か、サクヤモン自身に新たな力を与えた。

 

 

「さぁ、パイルドラモンとフレイドラモンでは、ブロックができない、どうする?」

「…………っ!?ライフで受ける!」

 

 

椎名がライフで受ける宣言をした瞬間。一瞬にしてフレイドラモンとパイルドラモンの後ろを通り過ぎるサクヤモン。その速さは目で追うどころの話ではなかった。手っ取り早く言えば瞬間移動のような、そんな感じであった。

 

そして、サクヤモンは地面に自身の持つ金剛錫杖と呼ばれる武器を思いっきり地面に突きつける。

 

 

「…………金剛界曼荼羅!!!」

 

「…………ぐっ!?………」

ライフ3⇨1

 

 

円形に放たれるその眩い光は、椎名のライフを一気に2つを一瞬にして浄化させた。

 

ーそして、残り1つも、

 

 

「…………これで終わりだね………サクヤモン…」

 

 

サクヤモンは金剛錫杖を椎名に突きつける。そして、そのままそれを振り下ろし、

 

 

「す、すごいや……これが界放市一のバトラー……………………」

ライフ1⇨0

 

 

ラストコールを宣言するまでもなく、ただそれに最後のライフを砕かれた。ガラス細工が割れたような音だけがその場で響き渡った。

 

椎名のライフは尽きた。よって勝者は界放市市長、木戸相落。圧倒的な強さと余裕を見せつけての大勝利であると言える。

 

 

******

 

 

「すっっご〜〜〜い楽しかったです!またバトルしてください!!」

「あぁ、いいともいいとも!」

 

 

椎名は目の輝きが落ちないくらい感激していた。楽しかったのだ。そして嬉しかった。界放市最強の男と戦えたのが、胸を借りられたのが、

 

そんな時だった。周りのSPのような屈強な男が市長に耳打ちした。どうやら時間が来たようである。

 

 

「あらあら………じゃあ私はこれでね、………また会おう、椎名ちゃん、司君、そして明日香ちゃん」

「はい、市長様」

「次は俺とバトルしろよ」

「バイバ〜〜イ!!」

 

 

そう言って、市長は紫治一族の館を去っていった。

 

 

「やっぱりあなた、すごいわね〜〜、」

 

 

明日香が椎名にそう言った。いったいなにがすごいのかわからない椎名はキョトンとしながら疑問を投げる。

 

 

「ん?私ですか?………何が?」

「市長様は基本的にあの妖戒のデジタルスピリットのデッキを使うのだけど、究極体のサクヤモンは滅多に使わないのよ……だいたいがタオモンで終わらせちゃうのよ」

 

 

市長がサクヤモンを使う時は勝てなくなると思った時のみ。つまり、椎名はそれを引き出させただけでもすごいということになる。

 

 

「へぇ〜〜!!じゃあ私って結構頑張ったじゃん!ねぇ司!」

「馬鹿野郎、俺がやったら勝ってた………」

「え〜〜!?ひっど〜〜い!!」

 

 

司にとってはやはりどうでもいいのか、相変わらずの澄まし顔で椎名をスルーした。

 

その後2人は普通にバイトして、その1日を終えた。

 

 

 

 

******

 

 

 

ーそしてここは界放市市長の部屋。市長室とでも言うべきか。市長は1人、その部屋で仕事をしていた。それはとても事務的なもの、始末書や、承認書など、様々である。

 

そんな中、その部屋のドアをノックする者が1人。市長はそれを聞くなり、「どうぞ」と、軽く口ずさんで、その者を自分の部屋へと入室させる。

 

ー現れたのは、

 

 

「やぁ、久しぶりだね…………六月」

「…………あぁ、そうじゃの……15年ぶりくらいか」

 

 

そこに来たのは、彼の古い友人であり、好敵手。椎名の育ての親でもある老人。芽座六月。

 

【人と会う約束】とは、彼のことであった。

 

 

「まさかお前がこの街の市長になるとはの、相落、…………で、わしを呼び出した理由はなんじゃ?」

「…………その前に1ついいか?」

「……………」

「今日、椎名ちゃんに会った…………」

 

 

どうやら呼び出したのは市長の方であるようだ。2人の強者のオーラか、それらがその部屋に充満していた。間違いなく普通の人ならば思わず気を失ってしまうほどの張り詰めた緊迫感である。

 

市長は六月に言った。今日、椎名達に会って、思った疑問。感じた怒りを、

 

 

「…………いつバレた?」

「……何が?」

「いつお前が【本当の祖父】でないことがバレたと言っているんだ!!!!」

 

 

市長は今までの彼とは思えないくらいの怒声を放った。あんなにおおらかな人からは到底出るとは思えないほどの声量である。

 

それだけそのことに対する怒りの感情が強いのが伺える。

 

 

「………そのことか、もう随分前の話じゃよ、椎名が6歳の頃、わしが客人の前で口を滑らせたのが原因。まさか裏で聞いてるとは思ってなかったんじゃ……………全てはわしの詰めの甘さが原因」

「なぜもっと早く私にそれを言わなかった!?……今はお前があげたカードでどうにかなっているが……そのうち、もしものことがあったら…………やはりあの娘はバトスピ学園に、この街に来ること自体ダメだったのではないのか!?………ずっとお前の手の中で生きていた方が幸せではなかったのか!?」

 

 

椎名は6歳まで、六月のことを本当の祖父だと思っていた。が、一木花火がそこを訪れた時にそれが嘘であるとバレてしまったのだ。当時は椎名とて、絶望したことだろう。

 

何せ、一瞬にして孤独になったのだから。それが6歳にして、椎名に訪れた最初の悲劇。

 

六月もそのことに責任感と罪悪感を覚え、それ以降は今まで以上に椎名を溺愛していた。可愛かった。本当の孫のように育てた。

 

 

「……………わしの手の中じゃ、ダメなんじゃよ相落。椎名にはもっと大きく、広い世界を見てもらいたい…………バトスピを楽しむだけの人生を歩んで欲しいのじゃよ」

「…………………」

「…………それに、あいつはもう死んだ。………椎名は安心じゃよ…………」

 

 

全くと言っていいほどにこの2人の話の内容が掴めない。椎名には何か隠された秘密でもあると言うのだろうか。

 

 

「用件はそれだけか?………なら帰らせてもらうぞ」

 

 

それだけを言い残し、六月はその部屋を、市長室を後にしようとする。

 

だが、市長はそれを止めるかのように………

 

 

「………話したかったのは今のことと……後、…君の孫についてだ」

「………………葉月のことか!?」

 

 

驚いた六月は戸を開けるのをやめ、再び市長の方へと目を向けた。

 

【葉月】とは、六月の実の孫である。

 

 

「…………………彼の居場所がわかった………」

 

 

相落はゆっくりと、物静かな口調で、六月にそう呟いた。

 

 

 

 




〈次回予告!!〉

「椎名です!市長さんやっぱ強かったなぁ〜〜次はいつ会えるんだろ?………そして次は界放リーグの代わり!!オーディーン校と交流バトルだってさ!!いろんな人とバトルできるね!!……え!?私だけタッグバトル??……組むのは英次?……よし英次!一緒に特訓しよう!……ってぇ、なんで逃げるの〜〜!!?……次回、「英次のサイバードラモン!」………今、バトスピが進化を超える!」



******



最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次回もお楽しみに!
【葉月】については【第21話の冒頭】で少しだけ触れられているので、良ければ参考程度に、

※ご指摘がありましたので、このお話の一部のバトル内容を変更させてもらいました。もちろん勝敗には影響していないのでご安心ください。大変ご迷惑をおかけしました。


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第40話「英次のサイバードラモン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーこれはとある平日の朝のことだった。ここ、界放市のバトスピ学園の1つ、ジークフリード校の一室の教室にて、

 

 

「椎名…………龍皇理事長がお前をお呼びだぞ………」

「…………?理事長ですか?」

 

 

朝、日差しが本格的に入射して来たというのにもかかわらず、未だ鳩が飛び交っている、このホームルーム前の時間帯に、椎名にそう言ったのは、担任の空野晴太。

 

 

「呼び出して、………あんたまたなにやらかしたんやぁ!?」

「いやいや!!なんもしてないよ!バトル以外は!」

 

 

椎名の横にいた真夏がそう言った。まるで椎名が何か悪いことをしたかのような言い草である。椎名はそんなことをした覚えがないのか、わかりやすくそれを全否定した。本当に身に覚えがないのだ。

 

たしかに、一般的な生徒が理事長室まで呼び出されるというのは、いささか不安になるかもしれないし、それだけを聞くと悪いことをしたかのようにしか聞こえない。

 

ーだが、

 

 

「まぁ、行けばわかるから、行って来なさい」

「え〜〜!?」

 

 

椎名はとぼとぼとめんどくさそうに歩きながらその自分達の教室を出た。

 

 

******

 

 

「はぁ〜〜、めんどくさいなぁ〜〜…………ん?」

「………あ、椎名さん!おはようございます!」

「英次ぃ!おはよう!」

 

 

椎名がめんどくさそうに溜め息をする中、理事長室前の廊下ですれ違ったのは、椎名達の1つ下の後輩、英次。男子高校生の割にはかなり小柄な身長がある意味特徴的である。

 

 

「英次も呼ばれたの?」

「はい、そうなんです」

 

 

なにやら英次も龍皇理事長に呼び出されたらしい。

 

理由も定かではないため、2人は取り敢えず理事長室へ入ることにした。

 

ドアをノックして、返事が来てから、2人は理事長へと入室した。

 

 

「失礼しま〜〜す!!」

「……し、失礼します!」

「おぉ、よく来たな」

 

 

椎名は相変わらずうるさいくらいの元気な声で、英次は真面目さゆえか、良くも悪くも硬い声を出しながら入室した。それを嬉しそうに、この学園の理事長、龍皇竜ノ字は迎えた。

 

 

「あの〜〜理事長、私達、なんか悪いことでもしましたかね〜〜〜?」

 

 

椎名は早速、注意深く理事長に尋ねてみた。特になにも悪行などした覚えはないが、一応念のために、

 

 

「いやいや、何言ってんだ、お前ら、明日がなんの日かわかるだろ?」

「…………なんの日?」

 

 

龍皇理事長は違うと言わんばかりに言った。椎名は明日が何の日かわからないのか、首を傾ける。が、すかさず英次がその説明に入った。

 

 

「知ってます!明日は【界放リーグ】の代わり、【界放乱戦】ですよね!!!」

「【界放乱戦】?」

「2つ以上の学園で、1つの学園内で好き放題にバトルしていいんですよ!言わば、学園の交流会です!」

「そう、明日は我が校とオーディーン校が合同だ」

 

 

ー【界放乱戦】

 

理事長達が【界放リーグ】の代わりで決定した、おそらく今年のみの行事である。

 

それは、学園の卒業式の時のように、学園内ならどこでもバトルしても良いと言うシステムで、他校の学園とバトルを行うと言うもの、これを機に他校との親交、親睦を深めようと言う行事である。

 

これなら実際、【界放リーグ】以上に大勢の生徒が参加できるし、学生一人一人のスキルアップも図りやすいだろう。

 

 

「おぉ!そんな面白そうなイベントが!」

「し、知らなかったんですね………………」

 

 

椎名はなぜか知らなかった。この情報は掲示板でも、ホームルームでも話していたはずなのに。より人の話を聞いていないのが手に取るように伝わる。

 

 

「………でも、だからってなんで僕達が呼ばれないと行けないんですか?……乱戦の参加は生徒全員なはずなのに………」

 

 

たしかに、全ての生徒が参加できるこの行事において、誰かを個人個人で呼び出されることはおかしい。

 

龍皇はそれについて、説明していく。

 

 

「うむ、そこなんだが、君らと是非ともバトルをしたいと言う奴がいてな、今年プロに入ったオーディーン校のOBみたいだが………」

「僕達2人と…………ですか?」

「あぁ、タッグバトルでな」

「…………タッグ……っ!」

 

 

その新人プロバトラーが誰かはわからないが、その人物は椎名と英次にタッグを組ませ、バトルさせようとしていた。もちろんタッグと言うのだから、当日はその人物も、オーディーン校から1人抜擢してタッグを組むらしい。

 

 

「…………オーディーン校の……OB」

 

 

英次はそれらの単語を聞いて、顔を暗くしていた。何か理由や心当たりでもあるのだろうか。

 

 

「………タッグ!!初めてだ!……よし!燃えて来たぞぉ〜〜!」

 

 

そんな英次とは正反対に、椎名は燃えていた。果てしなく、どこまでも真っ直ぐに。「バトスピバカ」と言われたら間違いなく当てはまることだろう。

 

 

「よっし!!英次!今日の放課後にでも2人で練習しようか!!」

「え!?……僕とですか?」

「あったりまえじゃん!!」

「はっは!……まぁ、頑張れよ〜〜」

 

 

こうして、椎名と英次の2人は明日までタッグバトルのタッグを組むことになった。

 

 

******

 

 

そして、時間は少しだけ飛び上がり、放課後。スタジアムがどこもいっぱいだったため、椎名と英次は学園を飛び出し、街のカードショップのバトル場で練習しようとしていた。

 

ちなみにここは椎名と英次が初めて出会った場所でもある。

 

 

「よっし!やるぞぉ〜〜!」

「………はぁ、どうしてそんなにやる気何ですか?椎名さん」

「何でって言われてもなぁ〜〜なんかこう、燃えて来ない?………楽しみ〜〜って言うかさぁ!」

 

 

語彙力は皆無だが、椎名はその1つのバトル場で大きくやる気を見せていた。一方で、英次は未だやる気を出さないでいる。いや、出せない、と言った方が正しいか、

 

【オーディーン校のOB】、この単語がどうも自分の頭を過っていたのだ。

 

 

「まぁとにかくさ!はやくBパッド展開しなよ!」

「…………わかりましたよ…………」

 

 

英次は椎名に言われるがままに自身のBパッドを展開した。本当は憧れの椎名とバトルできて嬉しいはずなのに、どうしてもその顔は浮かばれなかった。

 

気になるのだ。オーディーン校のOBと言うのが誰なのか。

 

そんなこんなでも、2人はバトルを始めることにした。やはり、やる前からお互いの力量をしっておかねばならないからだ。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まった。

 

ー先行は英次だ。

 

 

[ターン01]英次

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「……メインステップ………じゃあ行きますよ……モノドラモンをLV1で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

「おっ!成長期スピリットか!!」

 

 

英次が召喚したのは薄い紫色をした小竜型のスピリット、白属性と青属性のモノドラモンだ。

 

 

「…………このターンはエンドにします」

モノドラモンLV1(1)BP3000(回復)

 

バースト無

 

 

英次はそれだけを終え、そのターンを終了させた。次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっっ!!……ワームモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が早速召喚したのは芋虫型の成長期スピリット、ワームモン。

 

 

「よし!アタックステップだぁ!ワームモン!」

 

 

ワームモンを急かすようにアタックステップへと移行した椎名。ワームモンが。身体を丸めてゴムボールのように地を跳ねる。

 

 

「来た…………っ!!…………BPが同じモノドラモンじゃブロックはできない…………なら、ライフで……受けますっ!」

ライフ5⇨4

 

 

ゴムボールのように跳ねてくるワームモンの攻撃を、英次はライフで受ける。そのライフは1つだけ消し飛んだ。

 

 

「ターンエンドっ!!」

ワームモンLV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト無

 

 

やれることを全て終えた椎名は、そのターンを英次に渡す。

 

 

「………ぼ、僕のターンだ……」

 

 

[ターン03]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップっ!……モノドラモンのLVを2に!」

リザーブ5⇨2

モノドラモン(1⇨4)LV1⇨2

 

 

コアが増え、力が増大したモノドラモンは一層わかりやすく咆哮した。これにより、モノドラモンはさらなる能力を得た。

 

それは、成長期スピリットにはそぐわないものであって、

 

英次はそれを使用するべくアタックステップに入る。

 

 

「アタックステップ!モノドラモンでアタック!………………さらにそのアタック時効果…………【超進化:白/青】!!………発揮っ!」

「っ!?【超進化】!?……成長期なのに!?」

 

 

椎名はその言葉に耳を疑った。だが、英次はたしかに【超進化】と発言した。本来なら、成長期スピリットではなく、成熟期スピリットが持っているそれを、あのモノドラモンは発揮できるのだ。

 

モノドラモンに0と1のデジタルコードが巻き付けられていく。それは卵状となり、膨らんで行き、やがて破裂。中からは新たなるデジタルスピリットが現れる。

 

 

「…………こ、これが………僕のエース……サイバードラモンを召喚!」

サイバードラモンLV2(3)BP12000

 

「………おぉっ!!…………かぁっこ良い!!」

 

 

現れたのは白と青属性のサイボーグのようなドラゴン。全体的に鋭利で、スマートだ。椎名のパイルドラモンと体格は近いかもしれない。

 

一目見ればわかる。あのスピリットは間違いなく【強い】。底が知れないくらいに。だが、あのスピリットはとんでもない暴れ馬、よろし、暴れ竜であった。

 

 

「………サイバードラモンはアタックステップ中………必ず可能な限りアタック、ブロックしなければならない………」

「……え!?必ず!?…………わわっ?……アタック宣言もしてないのに、こっちに向かってくるぅ!?!」

 

 

英次にそれを止める選択肢はない。サイバードラモンは怒かれ狂うように地を走る。目指すは椎名のライフだ。

 

 

「まぁ、どっちでもいいや!くるなら来い!ライフだ!」

ライフ5⇨4

 

 

サイバードラモンの強烈な鉤爪の一撃が、椎名のライフを1つ引き裂いた。

 

 

「よ、よし!椎名さんのライフ破壊した!」

 

 

調子づいて来たか、喜び、歓喜する英次。だが、

 

 

「………いいねいいねぇ!!?………もっと楽しもうよ!」

「……あ、あれ?……本気になってる?」

 

 

寧ろそのサイバードラモンの強烈なアタックは、元々あった椎名のやる気をさらに強く着火させてしまった。

 

椎名は目の前の強敵に対し、いつも以上に熱くその魂を燃えたぎらせていた。

 

 

「と、とにかく………アタックステップは終わりです………そしてこの時、サイバードラモンの効果で自身を回復させ、ターンエンドです」

サイバードラモンLV2(3)BP12000(疲労⇨回復)

 

バースト無

 

 

「………回復した………っ!!」

 

 

膝をつき、落ち着いたかと思われたサイバードラモン。だが、それも束の間。すぐさまそこから立ち上がって見せた。そして、まだ暴れ足りないとでも言ってるかのように大きく、それでいて気高く咆哮を上げた。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

ワームモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!……ブイモンを召喚!そして召喚時!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【ライドラモン】◯

【グリードサンダー】×

 

 

「っ!?……出た!ブイモン!」

 

 

椎名が新たに召喚したのはブイモン。いつものように召喚時効果を使用し、成功、椎名はこの効果でライドラモンを手札へと加えた。

 

英次はそのブイモンを見た瞬間に1年前の記憶がフラッシュバックして蘇った。あの日、椎名が自分をかっこよく助けてくれたことを………

 

 

「さらにワームモンのLVを2に上げ、アタックステップ!ワームモンの【進化:緑】を発揮!スティングモンに進化!」

手札4⇨5

リザーブ3⇨1

ワームモン(1⇨3)LV1⇨2

スティングモンLV2(3)BP8000

 

 

ワームモンは0と1のデジタルコードを巻かれ、進化する。新たに現れたのはスマートで勇猛なる昆虫戦士、スティングモンだ。

 

 

「スティングモンの召喚時効果でコアを1つ増やす!」

スティングモン(3⇨4)

 

 

スティングモンは登場するなり、コアを増やした。そしてもちろんそれだけでは終わらない。次はアタックだ。

 

 

「アタックステップはもちろん継続!……スティングモンでアタック!!………さらに、その効果……【超進化:緑】を発揮!!」

スティングモン(4⇨5)LV2⇨3

 

「っ!!?………【超進化】!!………ってことは!?」

 

「そう、私はこの効果でパイルドラモンを召喚するっっ!!!!」

パイルドラモンLV3(5)BP13000

 

 

スティングモンにも0と1のデジタルコードが巻き付けられる。そしてそこから新たに現れるのは、椎名のエース。もはや絶対的に信頼する無敵のスピリット、パイルドラモンだ。

 

 

「パイルドラモンの召喚時効果!!………コスト7以下のスピリット1体を破壊する!!………対象はもちろんサイバードラモン!!」

「…………っ!?」

「………デスペラードプラスター!!!!!」

 

 

パイルドラモンは登場するなり、その腰に備え付けられた2つの機関銃を持ち上げ、サイバードラモンに向けてそれを連射。

 

爆煙の狼煙が上がる中、サイバードラモンは砕け散った。

 

ーかに思えたが、

 

 

「……………ん?……あれ?」

「…………すみません、椎名さん…………サイバードラモンは【重装甲:紫/緑/黄】を持っているので、その効果は受けません…………っ!!!」

 

 

パイルドラモンのデスペラードプラスターを食らっても尚、サイバードラモンは立ち上がっていた。というか、本当に全弾を受けていたのかと疑う程ダメージがなかった。

 

パイルドラモンは青と緑のスピリット。【装甲】系の効果は対象の色がどれか1つでも含まれていればその効果をシャットアウトできる。そのため、緑の装甲を持つサイバードラモンはパイルドラモンのデスペラードプラスターを受けても平気だったのだ。

 

 

「なるほどね〜〜今のは流石に面を食らったよ………………」

(…………よし、椎名さんは次、必ずパイルドラモンでアタックしてくるに違いない…………その時は手札のマジックでサイバードラモンのBPを上げれば…………)

 

 

ー返り討ちにできる。英次はそう考えていた。サイバードラモンとパイルドラモンのBP差は僅か1000、パイルドラモンが上回っている。たしかに軽いBPアップ系マジックでも超えることができるかもしれない。

 

だが、【芽座椎名】という、彼の前に立ちはだかる大きな大きな壁は、思っていた以上にそう易々と突破できるものではなくて、

 

 

「……………ブイモンでアタック!!」

「…………………………え?」

 

 

椎名はなぜか、ブイモンからアタックをした。目の前にはパイルドラモンしか敵わないであろう、完全体のデジタルスピリット、サイバードラモンがいるのにもかかわらず、だ。

 

だが、それは椎名の手札を理解していれば、当然わかる理由であって、

 

 

「………さぁ、サイバードラモンにはブロックしてもらうよ!………」

「っ!?………そ、そうだった………」

 

 

サイバードラモンは再び暴走する。走り行くブイモンをその鉤爪で引き裂こうと大きくその腕を振りかぶる。

 

ーが、ここで、このタイミングで、椎名は手札のカード1枚を引き抜いた。

 

 

「フラッシュ!ライドラモンの【アーマー進化】発揮!対象はブイモン!………」

リザーブ1⇨0

トラッシュ2⇨3

 

「え?………えぇ!?!…ここで【アーマー進化】ですかぁ!?」

 

 

ブイモンの頭上に黒くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンはサイバードラモンの上から振り下ろされる鉤爪の攻撃を間一髪で避けながらも空中へ飛び上がり、それと衝突し、混ざり合う。

 

そして新たに現れるのは黒き獣型のアーマー体スピリット、ライドラモンだ。

 

 

「青き稲妻、ライドラモンを召喚!さらに召喚時効果でコアを増やす!」

パイルドラモン(5⇨3)LV3⇨2

ライドラモンLV2(3)BP7000

トラッシュ3⇨5

 

 

ライドラモンは登場するなり、気高く吠え上げると、椎名のトラッシュへと新たにコアを増やした。

 

 

「……………そ、そんな……………これじゃ、サイバードラモンはただ単に疲労しただけ…………!?」

 

 

その通り、ブロックのタイミングを選べないのが仇となった。BPアップ系マジックも、疲労していては元も子もない。

 

ー終わりだ。後はパイルドラモンとライドラモンの連携でそのライフを擦り下ろされるだけ、

 

 

「パイルドラモンでアタック!さらに効果で回復!……エレメンタルチャージ!!!」

パイルドラモン(3⇨5)LV2⇨3

 

 

走り出すパイルドラモン。さらにその身体にエネルギーを蓄え、それを一瞬だけ発光させた。

 

それはコアブースト&回復した証。パイルドラモンはこれにより2度目の攻撃の権限を得た。

 

 

「…………な、何もできない…………ら、ライフで………」

「この時!ライドラモンの効果で破壊するライフを1つ上げる!」

「…………っ!?」

 

 

つまりは2つだ。今のパイルドラモンは一度のアタックで2つのライフを破壊できる。

 

ライドラモンが咆哮すると、青い稲妻が落雷し、それがパイルドラモンに落ちる。パイルドラモンはダメージを受けるどころか、それを吸収し、より一層パワーアップした。

 

 

「いけぇ!ライトニング・エスグリーマ!!!」

 

「ぐっ!!?…………うわぁぁ!!」

ライフ4⇨2

 

 

パイルドラモンの雷を纏わせた拳が、英次のライフを一気に2つ破壊した。

 

ーそしてこれが、

 

 

「ラストアタックだぁ!パイルドラモン!!もう1回!!!」

 

「…………そ、そんな、たったの4ターンで……………う、うわぁぁ!!」

ライフ2⇨0

 

 

パイルドラモンの拳が、再び英次のライフを2つ同時に消しとばした。

 

結果はまるで容赦なく、大人気なく、力を緩ませずにいつも通りの速攻で挑んだ椎名の勝利となる。

 

 

「よっし!!私の勝ちぃ!!」

 

 

すっかりこれが特訓だと言うことを忘れたのか、椎名はその場でピースサインを挙げて、ただただ勝利を噛み締め、喜んでいた。その姿に、パイルドラモンもライドラモンも呆れながらデジタル粒子と化し、ゆっくりと消滅していった。

 

 

「いやぁ楽しかった〜〜!!またやろうね!!」

「はぁ………疲れましたよ…………強すぎです椎名さん……」

「特訓なんだしぃ!もう1回やっとく?」

「えぇ!?……いや、そうですね…………」

 

 

あんまり乗り気じゃない英次。タッグバトルのための特訓だと言うことを椎名はちゃっかり忘れてはいなかったか、そのやる気とモチベーションが英次とは逆にうなぎ登りであった。

 

ーそんな時だった。誰かが椎名達のいる店内のバトル場広場に入ってくる。

 

 

「………相変わらずだなぁ?…………【不純物】………!!」

「…………え?」

 

 

その人物から突然放たれた第一声。その声はどこまでも人を貶すような、馬鹿にしているような、そんな声色。

 

英次は思わずその声のする方を振り向いた。そこには彼がよく知る人物が、いや、英次だけでない。椎名も会ったことがある人物であって、

 

 

「…………そして久しぶりだなぁ?…………かわい子ちゃん!!」

「…………………………………………………………………………………………………誰?」

「おぉい!!!?……なんだと!?なんで忘れてやがる??」

 

 

椎名はその人物を見るなり、少し考え、首を傾けた。

 

椎名は人の顔や名前を覚えるのが苦手だ。自分にとって強く、太く印象に残らないとなかなかそれを覚えようとしない。だから今回のこの人物を忘れた。【一度バトル】をしたことがあるのに。

 

英次は震える唇で、その人物の名を上げた。

 

 

「い、岩壁……義兄さん…………!?」

「ふっ!!流石にお前は覚えてたか!…………そりゃそうだよなぁ!?あんなにたっぷりと痛みつけられればなぁ!?」

 

 

【岩壁】。その名前を覚えている者はいったい何人いることだろうか。

 

 

「いわかべ?…………イワカベ?………………岩壁!!!!!!!あなたはあの時の!!」

「ふっふっふ…………そうさ、やっと思い出してくれたなぁ?かわい子ちゃん!」

「【界放リーグ】で私に負けた人だね!」

「…………ぐっ!?痛いところを……」

 

 

そう、椎名達が初めて参戦した年の【界放リーグ】で、椎名が初戦で対戦した相手。その名も【九白岩壁】

 

白の名門一族、九白一族の末裔で、去年卒業し、今はプロのバトラーとなっている。

 

 

「それにしても久しぶりだなぁ!?英次!………3ヶ月ぶりくらいかぁ?」

「そ、そうですね…………」

「相変わらずまだその青の入ったゴミ使ってんのかよぉ!!!笑えるぜぇ!!【九白一族】が聞いて呆れるよなぁ!?」

「え?…………【九白】?……誰が?………」

「なんだ、知らなかったのかよ、かわい子ちゃん!!!………今お前の目の前にいるそいつは【九白】の出来損ないい!!オーディーン校にも入れず、ジークフリード校と言う名のゴミ捨て場に捨て去られた哀れな【不純物】よぉ!!!」

 

 

椎名はようやく少しだけ話の内容が理解できた気がした。英次は【九白一族】の末裔で、落ちこぼれだった。それでオーディーン校には入れず、このジークフリード校へと来たのだと言うことに。

 

実際、オーディーン校の落ちこぼれがジークフリード校に行くのはよく聞く話だ。なにせ、ジークフリード校のある区域は、オーディーン校側と全くの正反対で、かつ、一番距離が遠い。落ちこぼれ達は極力一族の者達と顔を合わせたくないがために、一番離れたジークフリード校へと赴くのだ。

 

そんなこともあってか、ジークフリード校は別名、【九白の墓場】とも呼ばれていた。

 

そこまでは理解できた。だが、まだ何か引っかかるものがある。椎名は素直にその疑問を岩壁にぶつけた。

 

 

「てか………さっきから英次に言ってる【不純物】って何さ…………!!」

「はぁん?……そんなの当たり前だろ?お前もさっきバトルしてわかっただろう?…………そいつが渡されたデジタルスピリットは【青が混じっている】からだよ!!!」

「…………?」

「いいかぁ!?!ピュアなかわい子ちゃんに教えてやるよぉ!!【九白一族】において、白属性がなによりも最高で、最強なんだよぉ!!他の色を入れるなんてデッキの枠がもったいねぇ!!!」

「…………………」

「そいつのスピリット見ただろう!?汚ったねぇ!!青なんか混じってんだぜぇ!!!」

 

 

【九白一族】の者達はそれぞれがあった成長期スピリットを先ず現頭領から託される。そしてそれらを使い、強くなっていき、力が認められればランクを上げてもらい、さらなる進化形態を獲得できるようになっているシステムだ。

 

ただし、その色は全て白。数ある白の成長期スピリットと、子供達の中、英次だけはなぜかモノドラモンという青属性の混じったものを与えられていた。

 

英次の気弱さや内向的な面。バトルの腕の未熟さ、弱さから、他の九白一族の面々から、英次のことを【不純物】と扱うものは多くいた。

 

そしてなぜだろうか、今の頭領、【九白漣】には好かれていたのか、英次は最近になって、その実力がないにもかかわらず、ランク3へと昇進し、サイバードラモンという新たなカードを得た。

 

それが気に障ったのか、他の同じ一族の者達は英次のことを余計に蔑み、馬鹿にするようになっていった。英次がジークフリード校に来た本当の理由もそこにある。

 

 

「明日の【界放乱戦】での【タッグバトル】……………楽しみにしてるぜぇ!!」

「………や、やっぱり、…………岩壁義兄さんが…………!?!」

 

 

龍皇理事長が言っていた【オーディーン校のOB】とは岩壁のことであった。それは彼が入念に仕込んだ計画であった。

 

岩壁の目的は【椎名への復讐】だった。

 

【界放リーグ】の1回戦で敗北してしまったことから、彼は中の下あたりの事務所しか入ることができなかった。岩壁はそんな椎名を逆恨みし、この計画を練った。それが一番手っ取り早かったのが、【タッグバトル】。

 

英次に椎名の足を引っ張らせ、意地汚く、椎名を大勢の人達の前で無様に敗北させる気でいた。

 

 

「じゃあな…………精々上手く足を引っ張れよ………【不純物】」

「……………」

 

 

英次は岩壁に怯えてしまって言葉も出ない。

 

ー怖い、

 

ー恐い、

 

そんな感情だけが彼の頭をよぎっていく。昔から散々彼にはいじめられていたからか、そんな記憶が蘇ってくるのだ。

 

ーだが、密かに怒りを募らせていた1人の少女が、その帰る足を止めさせた。たった一言ですごんでしまうような鋭い声で………

 

 

「………………おい………待てよ…」

「っっっっっ!?!」

「好き勝手言うなよ………………2人とバトルした私にはわかるよ………英次はあなたより強い…………っ!!」

「…っ!?……ぶわっはっはっは!?!!」

 

 

椎名の言葉を聞いて、岩壁は思わず大きな声で笑い上げた。

 

 

「何言ってんだ!?お前!?………そんな【不純物】が俺より強いわけないだろぉ!?!そいつは落ちこぼれ、俺は九白のエリートだぞぉ!!!」

「見てろよっ!……明日のバトルで必ずあなたを黙らせてやるっ!!」

 

 

本気になった椎名は止まらない。大胆にも岩壁の目の前で堂々と勝利宣言をする。

 

 

「おーおー、そうかよ、楽しみにしてるぜぇ、…………それじゃあ俺はこの辺で」

 

 

そう言いつつ、大きな声で高笑いしながら、岩壁はそのカードショップを後にした。

 

 

「ふぅーーープロって言うからどんな人かと思えば、あんな人か、…………………よぉし!!英次!明日は何が何でも絶対勝つぞぉお!!特訓再開だぁぁぁあ!!!!!!………………………………って、あれ?」

 

 

椎名は英次のいる方へ振り向くが、その英次の姿はどこにもない。

 

 

「…………え?………英次?…………いや、まさかとは思うけど…………」

 

 

ー逃げた。

 

逃げ出していた。裏口の方から、勝手に、何処へと。

 

 

******

 

 

一方で、その英次はと言うと、1人河川敷で黄昏ていた。河川敷は広く。川のすぐ横でサッカーか、野球でも出来そうなスペースもある。英次はそのベンチに腰を下ろしていた。

 

 

「ど、どうしよう………本当に岩壁義兄さんだった……明日バトルしても椎名さんに恥をかかせてしまうだけだ…………」

 

 

英次はそう考えていた。椎名が大勢の人達の前で無様に敗北したくらいでは先ず恥はかかないだろうが、それでも岩壁の思惑を阻止するためには自分はバトルせずに逃げるのが最善であると判断したのだ。

 

ーそんな時だった。英次の後ろから声をかけて来た人物がいた。

 

 

「…………よぉ」

「…………え?……あなたは………司さん!?」

 

 

話しかけて来たのは赤羽司だ。椎名のお陰で、この時点で2人は割と知り合いではあった。

 

が、まさかあの仏頂面な司が英次に声をかけてくれるなど、予想もできなかった。

 

司も英次の横にあるベンチで腰を下ろした。

 

 

「……なんか浮かばない顔だな………」

「…………はい、ちょっと…………」

「ふんっ……どうせ、一族絡みだろ?」

「………えぇ!?どうしてそれを………」

「やっぱな………」

 

 

今日の椎名の話を聞いていた司は、なんとなく今回の件の真相が既に浮かんでいた。

 

先ず、オーディーン校の卒業生でそんなことできるのは九白一族の者以外にはあまり考えられない。去年のトップは【五の守護神】であるが、あまり有名すぎると忙しくて、学園のこんなイベントに足を運ばないだろう。

 

つまり、やって来るプロバトラーは大した実力もないボンクラ。

 

そしてなぜタッグで椎名と英次を指名して来たか、それも単純。椎名に何かしら恨みを持つ人。【界放リーグ】で椎名に負けたオーディーン校の生徒、【九白岩壁】という人物像が、司の頭に浮かんだのだ。

 

 

******

 

 

「なるほど、【不純物】ねーーー………【九白】にそんな奴がいるのは聞いたたが、まさかお前とはな」

「………そうなんです」

 

 

英次はこの司に全てを話た。何もかも、今日のさっきまで、何があったのかを………

 

 

「司さんは……」

「あぁん?」

「司さんはなんで赤の一族なのに、黄色を混ぜてるんですか?」

 

 

何気に今までずっと思っていた疑問であった。

 

英次はずっと司のことを尊敬していた。自分と同じ一族なのに、色が2つあるから、それでいて尚強いことに、

 

 

「あぁ?………別に俺らは最初に教え込まれるのが赤ってだけで、バトルのルールさえ理解できたら、後は何色でも使っていいからなぁ、赤抜いてもいいし、」

 

 

縛りが強い九白一族と違って、赤羽一族は何もかもが自由奔放。その者がその気ならば、別に赤属性など捨てても良かった。そのため、司もすんなりと黄色を混ぜられたのだ。

 

 

「まぁ、俺が黄色を混ぜたのは雅治の野郎の影響だな………」

「雅治さんですか…………」

「あぁ、話せば長くなるし、めんどくさいから言わないけど…………」

 

 

司がデッキに黄色を混ぜたのは雅治の影響もあった。司は話せば長くなる。と言ったが、実際はそんなに長くはない。

 

が、その話はまた別の機会に…………

 

 

「…………で、お前は明日めざしの足を引っ張んのが怖いと…………」

「…………はい」

「馬鹿野郎……めざしがんなこと気にするかよ……そもそもあいつはお前1人なんかで引っ張れる相手じゃねぇ………」

「…………っ!!」

 

 

たしかにそれもそうだ。椎名だったら強く逞しく、英次を逆に違う意味で引っ張るだろう。

 

 

「後………不純物ってやつ?………別に弱いって意味じゃないだろ?………他の同じ一族の奴らにはねぇ、お前の戦い方ってもんができんじゃねぇの?」

「……………っっ!?」

「まぁ、俺から言えることなんざ………そんなもんだ、じゃあな」

 

 

司はそれだけ言うと、ベンチから起き上がり、その河川敷を去っていく。英次はただただその逞しい背中を眺めることしかできなかった。が、同時に何かに気づいた気がした。何か、いいものをもらえたのではないかと思ってきた。

 

 

******

 

 

そして少し時は経ち、翌日となる。今日は【界放乱戦】

 

ジークフリード校の校舎内で、オーディーン校とジークフリード校の生徒があっちこっちで激しいバトルを繰り広げている。その様子は卒業式の日に近いだろう。

 

そんな中、この第5スタジアムでは、タッグバトルをしまいと、既に3人のバトラーが集まっていた。芽座椎名と、九白岩壁と、後もう1人は、

 

 

「ねぇ、岩壁……こんな面倒なことに付き合ってあげてるんだから、後で必ず何か奢ってよねーーー」

「うっせぇ!勝ったらやるっつてんだろ?」

 

 

岩壁の横にいたのは九白一族の少女、2年の【九白 小波(くしろ こなみ)】今年の九白一族では間違いなく最高傑作であると言われている人物だ。既に岩壁よりも強いと言う噂もある。去年の【界放リーグ】にも興味がなく、不参加だったため、周りからは密かに影の実力者と評されていた。

 

 

「………英次来ないな…………」

「はっは!!あの不純物、逃げ出しやがったなぁ!?」

「いや!絶対来る!英次がこんなとこで逃げるもんか!」

 

 

なぜ英次が逃げてないなど、何も保証はないのに椎名はそこまで強く言い切ることができるのか、

 

だが、今回ばかりは的中した。ここまで勢いよく走って来る音が聞こえてくる。それはどんどんどんどん近づいて来ていて、

 

 

「っっ!!!…………おまたせしましたぁぁ!!!」

 

 

英次が勢いよくスタジアムのバトル場まで走りこんで来た。

 

 

「よっし!」

「ふっふ、そのまま逃げてれば良かったのにな………わざわざ恥かきに来やがって………っ!!」

 

 

ガッツポーズを上げる椎名。逆に岩壁は不敵な笑みを浮かべ始める。そんな4人のバトルは次回だ。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

司「今回のカードは【サイバードラモン】」

司「サイバードラモンは白と青の完全体、効果は強力だが、その分のデメリットも大きい、バトラーの腕が試される1枚だ」

******

〈次回予告!!〉

椎名「よし来た来た!!………英次!一緒にあんな奴ぶっ飛ばしちゃおう!……なぁに!!少しくらい足引っ張っても問題ないって!私がなんとかするからさ!!……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「正義の名の下に……!!」……今、バトスピが進化を超える!!」


******


九白岩壁は【第17話】で登場してます!よければ参考程度に、
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
今年の投稿は今回で以上とします!
また来年度からもよろしくお願い致します!
それでは皆様、良いお年を!!


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第41話「正義の名の下に……!!」

※タッグルールのルールは比較的簡単なもので、小説内の説明でもわかりやすいと思いますが、一応詳しいルール説明は【オバエヴォ設定】にて、今日中に更新します。





 

 

 

 

 

 

タッグルール。この世界に存在するバトスピのルールの1つ。タッグを組んだ2人同士でのバトルであり、多対1とは違い、交互にターンを進めていくのが特徴的。

 

ライフはタッグ共通で5。初期リザーブは4人それぞれが4つずつ。5つのライフが失われれば、当然そのチームの負けとなる。

 

バーストのセットはタッグで1つまで、

 

アタック、ブロックの宣言は、それを召喚したプレイヤーしか行えない。

 

また、多対1と違い、効果が2つ分拡大することはなく、2人のうち、どちらかを1人選択して効果を発揮させることになる。(全てなどの記述がある場合は、全ての相手プレイヤーに影響を及ぼす。)

 

 

 

******

 

 

 

「よぉ、漣…………」

「……竜ノ字か……!」

「なぁにが竜ノ字か、だ。勝手に人の学園に上がり込みやがって」

「別に構わんことだろう、今日は俺とお前の学園の乱戦なのだから……!」

 

 

ここ、ジークフリード校の第3スタジアムの観客席の奥で、4人のタッグを見届けようと足を運んで居たのは、オーディーン校の理事長にして、九白一族の現頭領、九白漣。

 

 

「にしてもよーーー、お前のとこの出来損ないをうちに送りつけるのいいかげんやめてくんない?……」

「別に誰もお前のとこに行けとは言ってはいない。本人達が勝手にお前のところに行ってるだけだ」

 

 

九白一族は基本的にオーディーン校に入学することになるのだが、それはランク2以上のものだけ、それより下のものは違う学園に入学するしかない。

 

ジークフリード校に九白の落ちこぼれが集まる理由としては、オーディーン校から1番遠い場所に位置するからである。単純に見たくないのだ。思い出してしまうから、落ちこぼれだった日のことが、だから1番遠い場所で暮らし、一番遠い場所に通うのだ。

 

 

 

「英次!よかったぁ!………来てくれたんだね!」

「はい!椎名さんの足を引っ張らないよう、精一杯頑張ります!」

「あ〜〜!!来た来た、英次ぃぃいい!!久しぶり〜〜!」

「っ!?……小波義姉さん………!?」

 

 

遅れて登場して来た英次を見るなり、【九白一族】の天才、九白小波は元気よく彼に手を振った。

 

彼女は取り立て、英次を虐めたりはしていない。単純に【小さいもの】が好きなだけ、ただしその執着心は異常。ミステリアスな雰囲気もあってか、英次もそんな彼女のことは嫌いではないが少なからず苦手意識があった。

 

 

「ふふ、よぉっ!【不純物】!……わざわざ恥をかきに来たか!」

「岩壁義兄さん………僕は、いや、僕達は負けません!……」

「あぁ!?誰にもの言ってやがる……【不純物】ごときが………」

 

 

いつもより強気な英次に言われ、若干腹を立たせる岩壁。屈辱なのだろう。そのことを言われる時点で、何せ彼にとって英次はただのゴミとしか思われていないのだから。

 

今の英次は少なからず勢いがついている。昨日、司に背中を押されたのが理由。司本人はそんな気は全くないが、

 

そんな中でも、4人はBパッドを同時に展開、バトルの準備をする。

 

そしてタッグバトルが始まる。

 

 

「「「「ゲートオープン、界放!!!!」」」」

 

ー先行は岩壁。

 

 

[ターン01]岩壁

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!……俺はネクサスカード、No.18グッドラックウェルを配置し、ターンエンドだ!」

手札5⇨2

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

 

No.18グッドラックウェルLV1

 

バースト無

 

 

岩壁が早速背後に配置したのは、まるで水汲みするための井戸。謎の機械がそれを行なっている。

 

タッグバトルのルールは、多対1と違って互いに交互にターンを進行して行く。次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!……ブイモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

「……あら、小ちゃくて可愛いじゃない!!」

 

「でしょでしょ!!……そして召喚時効果!」

オープンカード↓

【ズバモン】×

【グリードサンダー】×

 

 

とにかく小さくて可愛いものが大好きな小波が椎名のブイモンに反応する。

 

椎名は召喚時効果も使用するが、今回は失敗。2枚ともトラッシュへと破棄された。

 

 

「……ターンエンド!」

ブイモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト無

 

 

椎名はそのターンを終える。次は、相手側、九白小波の番だ。

 

 

[ターン03]小波

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ………………じゃあ、私はいつも通りこの子を……………テリアモンをLV2で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

小波が召喚したのは小さくて、耳の長い白のデジタルスピリット、テリアモン。そのぬいぐるみのような愛くるしさは九白でなくともそこそこ名が知れている。

 

 

「おぉ!テリアモン!そっちも可愛いねぇ!」

「あら!?わかる?……特にこの瞳が良いよね〜〜!」

「わかる〜〜!!」

 

 

テリアモンが召喚されるなり、急に何故か意気投合して喋り出す椎名と小波。常人離れしたバトルセンスを持つ2人だが、ここらへんは流石に女子と言ったところか、

 

 

「………じゃ、ターンエンドで」

テリアモンLV2(2)BP5000(回復)

 

バースト無

 

 

小波はそのまま何もせずにターンを終えた。

 

ーが、

 

 

「おいいいいい!!!待て待て待て!!」

「何?……うっさいな」

「何じゃねぇよ!てめ、テリアモンの召喚時使えよ!」

「めんどくさい」

「めんどくさい!?……そんな理由!?…というか理由になってねぇよ、馬鹿かテメェ」

 

 

口論し出す九白タッグ。テリアモンには他の成長期スピリット同様、召喚時効果で同系統のデジタルスピリットのサーチが行えるのだが、小波は気まぐれな性格ゆえか、めんどくさいと言う普通なら訳わからない理由で、それを拒んだ。

 

 

「おぉ、……なんか天然だね、あの娘」

「…………椎名さんが言います??」

 

 

そんなこんなで、次は英次のターンだ。

 

 

[ターン04]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、ネクサスカード、甲竜の狩り場を配置して………ターンエンドです」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

 

甲竜の狩り場LV1

 

バースト無

 

 

英次が背後に配置したのは様々な建物が崩れ去った跡地。紛争でもあったのかと勘ぐってしまうほどにそれらは破壊されていた。

 

 

「………ふん、【不純物】にはお似合いなネクサスだなぁ!」

 

 

皮肉を込めたセリフを放つ岩壁。次は一周回って彼のターンだ。ここでようやくアタックステップも解禁される。

 

 

[ターン05]岩壁

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップっ!……俺はグッドラックウェルをLV2に上げる」

リザーブ5s⇨4

No.18グッドラックウェル(0⇨1s)LV1⇨2

 

 

グッドラックウェルはそのLVを上げる。その上に置かれたコアはソウルコアである。これは後、直ぐに使用するグッドラックウェルの効果のためであって、

 

 

「さらにバーストをセット!……この瞬間、グッドラックウェルの効果で、コアを増やす!」

手札5⇨4

No.18グッドラックウェル(1s⇨2s)

 

 

岩壁の場にバーストが伏せられると同時に、動き出すグッドラックウェルの機械。水を汲むかと思いきや、掬ってきたのは水などではなく、鉱石。それは光り出すとともに岩壁の新たなコアとなった。

 

 

「さらにそのコアを使い、白の成熟期スピリット、リボルモンをLV2で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨0

No.18グッドラックウェル(2⇨1)

 

 

さらに岩壁はスピリットを呼び出す。現れたのはまるで西部劇に出てくるような風貌で、全てが銃のようなスピリット、リボルモン。

 

 

「さらにアタックステップだぁ!おらぁ!言ってこい、リボルモン!」

 

「よし、ここはライフだ!」

ライフ5⇨4

 

 

リボルモンの両手から放たれた発砲が、椎名と英次、2人のライフを破壊する。このバトルにおいて、2人のライフは共通。当たり前だが、このライフがゼロになれば、2人とも敗北する。

 

 

「はっはっは!他愛もねぇな、ターンエンドだ!」

リボルモンLV2(2)BP6000(疲労)

 

No.18グッドラックウェルLV2(1s)

 

バースト有

 

 

なぜかもう既に勝ったかのような雰囲気を醸し出している岩壁。当然バトルはまだまだこれからだ。次は椎名のターン。全力で相手の盤面をズタズタにして行く。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、ブイモンのLVを2にアップして、アタックステップだ!ブイモンの【進化:青】を発揮して、成熟期スピリット、エクスブイモンに進化!」

リザーブ6⇨3

ブイモンLV1⇨2(1⇨4)

エクスブイモンLV3(4)BP7000

 

 

ブイモンは0と1のデジタルコードに巻かれ、大きくて立派なドラゴンへと進化を果たす。だが、この瞬間だけに発揮できるカードが、岩壁の場には存在しており、

 

 

「甘いぜぇ!かわい子ちゃん!俺はこの瞬間、リボルモンの効果を発揮!相手がノーコスト召喚した時、このリボルモンにコアを2つ追加する!」

リボルモン(2⇨4)

 

「……っ!?……」

 

 

エクスブイモンの登場に反応するかのように白いオーラを纏ったリボルモン。そしてそのカードの上にはコアが2つ新たに追加された。

 

厄介なスピリットだ。このままではろくに進化もできない。そう考えた椎名は早めにあのスピリットを倒す戦法へと移し替える。

 

 

「エクスブイモンの召喚時!カードを2枚ドローして、1枚捨てる」

手札5⇨7⇨6

破棄カード↓

【ワームモン】

 

 

椎名はエクスブイモンの効果で、手札の質を上げる。そしてすぐさまアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップっっ!!エクスブイモンでアタック!さらにその効果、【超進化:青】を発揮!」

「…………っ!?かわい子ちゃんも完全体だとぉ!?」

 

 

エクスブイモンはさらに進化する。デジタルコードに巻き付けられ、その姿形を変換して行く。新たに現れるのは至高の竜戦士。

 

 

「………パイルドラモンをLV3で召喚!!」

リザーブ3⇨2

パイルドラモンLV3(5)BP13000

 

 

赤い仮面。青と白の4枚の羽。腰に備え付けられた2丁の機関銃。そして甲虫のような強度を誇るボディ。まさに至高の竜戦士、パイルドラモンが椎名の場に現れた。

 

 

「へぇ〜〜あれが噂に聞く芽座椎名のパイルドラモン……………可愛くはないな」

 

 

可愛かったブイモンから一転して厳つい竜戦士になっからか、小波は椎名のスピリットに対して興味を失った。

 

だが、そんな小波のそんな事情は知らない。椎名はパイルドラモンで容赦なく攻め立てる。

 

 

「くっっ………リボルモンの効果でさらにコアが増える」

リボルモン(4⇨6)

 

「パイルドラモンの召喚時効果!コスト7以下の相手スピリット1体を破壊する!対象は岩壁先輩のリボルモン!!……」

「っ!?」

「撃ち抜け……デスペラードブラスター!!!」

 

 

パイルドラモンは登場するなり腰に備え付けられた2丁の機関銃を岩壁のリボルモンに向け、連射する。リボルモンはそれに手も足も銃も出せず、無残にも砕け散った。

 

そして次はアタックだ。

 

 

「いけぇ!パイルドラモン!アタック!そして効果発揮!エレメンタルチャージ!!!……パイルドラモンにコアが2つ置かれ、ターンに一度のみ、回復する!」

パイルドラモン(5⇨7)(疲労⇨回復)

 

「なにぃ!?」

 

 

パイルドラモンは自身の力でエネルギーを溜めると同時に、2度の攻撃の権利を得た。

 

 

「おい!小波、テリアモンでブロックしろ!」

 

「えぇ〜〜やだよ、テリアモンが破壊されるじゃないか………ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

パイルドラモンの拳が、2人のライフを無慈悲に1つ砕いた。

 

 

「おいいいい!!!……馬鹿かオメェ!何勝手にライフ減らしてんだぁあ!!」

 

「もう一発、頼むパイルドラモン!!」

パイルドラモン(7⇨9)

 

「……よし、ここもライフだ」

「は、はぁぁあ!?」

ライフ4⇨3

 

 

パイルドラモンの拳が、また2人のライフを消しとばした。小波はテリアモンでブロックすることもできたが、戦略のうちか、いや、様子からしてこれは明らかにテリアモンの保護に回った。

 

 

「ふざけるんじゃねぇよ!小波!そこは凌いどけよ馬鹿が!!」

「うっさいなーーーそっちこそ、【二撃目は防げた】んじゃないの?」

 

 

言い争いが絶えない九白ペア。岩壁は今を持って小波などとペアを組んだことに後悔している。本当にこれで現在の九白の学生トップなのかと耳を疑ってしまうレベルだ。

 

いや、実際小波はその気になれば岩壁などよりも遥かに強いのだ。しかし、彼女はただ可愛いものを拝むためだけにバトルしている。それ故にか、本気をほとんど出さない。

 

 

「…………よし!やったぞ!逆転成功だっ!!………ターンエンド!!」

パイルドラモンLV3(9)BP13000(疲労)

 

バースト無

 

 

「椎名さん、流石です!!」

 

 

逆転には十分成功したと言えるこの椎名のターン。それも終わりを告げ、次は相手サイドの九白小波のターンだ。

 

 

[ターン07]小波

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ…………テリアモンをもう1体召喚」

手札5⇨4

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

小波はもう1体新たにテリアモンを召喚する。数も増え、その可愛さもより一層パワーアップ。

 

 

「…………エンドかなーーー」

テリアモンLV2(2)BP5000(回復)

テリアモンLV2(2)BP5000(回復)

 

バースト無

 

 

小波はそのままそのターンを終える。

 

ーが、

 

 

「おいいいい!!!待て待て待て待て!さっきからやる気あんのかオメェはよ!!?」

「ん?あるよーーーでもめんどくさいだけ」

「それをやる気がねぇっつんだよ!!」

 

 

あまりの小波のやる気のなさに激怒する岩壁。

 

たしかに、攻め込むには今が絶好のチャンスであっただろう。なにせ、椎名と英次の場にいるスピリットは椎名のパイルドラモンだけで、しかも疲労状態であったのだから、

 

【九白小波】は強い。が、その分気まぐれである。戦略等を考えなければならないこのゲームにおいて、それを全く考えず、ただただ自分の貰えたカード、テリアモンの可愛さに浸っている。その気になれば【九白一族】随一の天才と呼ばれるくらいにはなれるはずなのに。

 

 

「まぁ、取り敢えず宣言したものはしょうがないっしょ………次は英次のターンだね!頑張ってね!」

「そこは敵じゃボケ!」

 

 

[ターン08]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

 

 

「………メインステップ……モノドラモンをLV2で召喚しますっ!!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

英次は召喚した。薄い紫色の小竜、モノドラモンを。どんなに一緒に【不純物】呼ばわりされても自分が頭領から貰い、大事に使ってきたカードだ。

 

 

「ふっ、出たな、【不純物】の象徴」

 

 

嘲笑うかのような目で英次のモノドラモンに目を向ける岩壁。【九白一族】においては、白が全て、青の混じっているその竜は彼等にとっめ蔑みの対象でしかない。

 

 

「ふ、【不純物】だって、混ざっているのが弱いものであるとは限りません!!それをこのバトルで岩壁義兄さんに証明してみせます!………………アタックステップ!モノドラモンでアタック!さらにそのアタック時効果、【超進化:白/青】を発揮!完全体のサイバードラモンに進化させます!!!」

サイバードラモンLV2(3)BP14000

 

 

モノドラモンにデジタルコードが巻き付けられる。それは次第に膨らんでいき、破裂。新たに現れたのは黒いボディのスマートなドラゴン。サイバードラモンだ。

 

 

「………はんっ!……生意気言うなよ英次、どうせ扱えないんだろ?」

 

 

サイバードラモンは基本的に英次の言うことは聞かない。効果により強制的にアタック又はブロックをしなければならない。

 

ーそして今回も、英次の命令を待たずして怒り狂うようにサイバードラモンは相手側のライフへと直行。

 

 

「……相変わらず頭の悪そうな竜だなぁ!!お望み通りライフをくれてやるよぉ!」

ライフ3⇨2

 

 

サイバードラモンはそのまま岩壁と小波のライフを鋭い鉤爪でいとも容易く切り裂いた。

 

ーだが、岩壁は待っていた。このサイバードラモンの強制アタックを、椎名のターンでは発動されなかったバーストカードが今動き出す。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!………白の完全体スピリット、ヴァジラモン!!」

「「…………っ!?」」

 

「………このバースト効果により、これをノーコスト召喚する!」

リザーブ9⇨6

ヴァジラモンLV2(3)BP10000

 

 

岩壁の場に現れたのは、ケンタウロスのようなミノタウロスのような、はたまたそれらを足して2で割ったかのようなスピリット、ヴァジラモンだ。その両手には剣が1本ずつ握られている。

 

 

「さらにヴァジラモンの効果!相手スピリット1体をデッキの底に沈めるっっ!!………対象はパイルドラモンっ!!お前だっ!」

「………なにぃ!?……パイルドラモンっ!!?」

 

 

ヴァジラモンは両手にある剣を重ね合わせ、そこからビーム光線を放つ。それは一直線にパイルドラモンの方へと向かい、命中。それに貫かれたパイルドラモンはデジタルの粒子となって消滅。椎名のデッキの一番下へと流れ込んだ。

 

 

「そ、そんな、椎名さんのパイルドラモンが…………」

「はっはっはっ!!どうだ!英次!!てめぇは所詮足枷でしかないんだよぉ!!今日この場に立ったことを後悔するんだなぁ!!」

 

 

調子に乗ったように悪態つく岩壁。実際は前のターンでも発揮はできたが、ヴァジラモンを確実に場に残したかったこと、サイバードラモンの強制アタックを踏まえてのこと、そして何より、【英次は足枷であると】馬鹿にしたいがためだ。なんと惨めで意地汚いか、

 

 

「す、すみません、椎名さん………僕のせいでパイルドラモンが…………」

「へへっ!いいっていいって!!それより面白くなって来たよね!!」

「………………え?なんでそんなにポジティブなんですかぁ!?」

「だってこっちの主力が消えて、逆に相手の主力が出て来たんだよ!これ以上の逆境なんてないよっ!!く〜〜〜っやっぱバトスピは面白いよね〜〜!!」

 

 

自分のせいでパイルドラモンが消えてしまったことを悔やみ、椎名に謝罪する英次。だが、椎名は全くそんなことを気にしてはおらず、むしろこの状況を面白がっていた。

 

 

「……と、とりあえず……エンドステップ、サイバードラモンは自身の効果で回復します…………た、ターンエンドです」

サイバードラモンLV2(3)BP12000(疲労⇨回復)

 

甲竜の狩り場LV1

 

バースト無

 

 

何もすることができなくなった英次はそのままそのターンを終えた。次はヴァジラモンを場に残すことに成功した岩壁だ。

 

 

「ふっ!……ここで一気に差をつけてやるよ!!」

 

 

[ターン09]岩壁

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ6⇨7

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ7⇨10

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップっ!……さぁこい!パジラモン、ナノモン!……LV2ずつで召喚してやるっ!」

手札4⇨2

リザーブ10⇨0

No.18グッドラックウェル(1⇨0)LV2⇨1

 

 

岩壁はさらに2体の白の完全体スピリットを呼び出す。

 

羊のような外見のパジラモンと、椎名戦でも使用した自身のエース、豆電球のような形をした小さな完全体スピリット、ナノモンだ。

 

 

「そ、そんな、さらに2体の完全体が…………」

「ナノモンの召喚時!!サイバードラモンを手札に戻すっ!……喰らいやがれぇ!!」

 

「…………っ!?」

手札5⇨6

 

 

勝ち筋を失いかけた英次に、追い討ちをかけるように、岩壁のナノモンは小型爆弾をサイバードラモンに放り込んでいく。小型といえど、やはり威力は強烈か、サイバードラモンはそれを喰らい、デジタルの粒子と化して、英次の手札へと帰還して行った。

 

これで椎名と英次の場にはスピリットが消え、丸裸となる。

 

 

「………さぁ、たっぷりと痛みつけてやるぜぇ!!覚悟しなぁ!!アタックステエェェップッ!!パジラモンでアタック!!」

 

 

4本の足で地をかけるパジラモン。目指すは椎名と英次のライフ。

 

だが、ここで椎名が手札の1枚のカードを引き抜く。

 

 

「なんのぉ!!フラッシュマジック!!リアクティブバリア!!このバトルでアタックステップを終わらせる!……………このアタックはライフで受けるよ!」

手札6⇨5

リザーブ11⇨7

トラッシュ0⇨4

ライフ4⇨3

 

「………っ!?白のマジックっ!?」

 

 

パジラモンがその手に握られたボウガンを、椎名と英次のライフに向け射出。放たれた矢は一直線に椎名と英次のライフを貫いた。

 

ーが、直前に発揮させていた、椎名のリアクティブバリアの効果で、猛吹雪が発生。岩壁の場のスピリットたちはこのターン、身動きが取れなくなった。

 

 

「ちぃっ!次に持ち越しか………エンドステップ!No.18グッドラックウェルの効果で疲労したスピリット全てを回復させ、ターンエンドだ」

ナノモンLV2(2)BP7000(回復)

パジラモンLV2(3)BP7000(疲労⇨回復)

ヴァジラモンLV2(3)BP10000(回復)

 

No.18グッドラックウェルLV1

 

バースト無

 

 

出来ることを全て終え、そのターンを終えた岩壁。次は見事に岩壁のアタックステップを停止させた椎名のターンだ。

 

 

[ターン10]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ8⇨9

 

 

「……ドローステップっ!!…………へへっ!よぉぉぉぉし!」

手札5⇨6

 

 

椎名はそのドローしたカードを見て、思わず口角が上がり、ニヤついてしまった。どうしても取れない椎名のわかりやすい癖であるが、同時にそれはデッキから引き抜かれた希望でもある。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ9⇨13

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップっ!!ブイモンを召喚っ!……………さらにそのブイモンを対象に、マグナモンの【アーマー進化】を発揮!!1コストを支払い、黄金の守護竜、マグナモンをLV3で召喚するっ!」

手札6⇨5

リザーブ13⇨5

トラッシュ0⇨3⇨4

マグナモンLV3(4)BP10000

 

 

椎名は颯爽と【進化】の効果により手札に戻っていたブイモンを召喚。そして直ぐに【アーマー進化】させる。

 

ゆっくりと降ってくる黄金の鎧を着ているような卵。ブイモンは受け入れるようにそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れるのは伝説のレアカード、ロイヤルナイツの1体。

 

 

「…………出たな、マグナモン………」

 

 

岩壁は思い出していた。あの時の、【界放リーグ】の時の記憶を、その時もこいつにやられた。あの忌々しい黄金の守護竜に………

 

 

「へぇ〜〜あれがロイヤルナイツね〜〜ほんとにあるんだ……別に可愛くないから興味はないけど」

 

 

小波も流石にそれに目を向けるが、可愛くないと言う理由だけですぐさま目を背けてしまった。

 

 

「マグナモンの召喚時っ!!………相手の場にいる最もコストの低いスピリット1体を破壊する!」

 

 

マグナモンの強力な召喚時効果。今回は岩壁と小波。どちらかの場を選択して発揮させることになる。

 

椎名が選ぶのは………

 

 

「もちろん、岩壁先輩の場にいる最もコストの低いスピリット、パジラモンを破壊っ!!………黄金の波動!……エクストリーム・ジハード!!!」

「…………っ!?」

 

 

マグナモンの放つ黄金の波動。それはこの場全体を包み込んで行く勢いで膨らんでいき、その中にいた岩壁のパジラモンだけを散り散り吹き飛ばした。

 

 

「よしっ!さらにバーストをセットして………………ターンエンドかな?」

手札5⇨4

 

マグナモンLV3(4)BP10000(回復)

 

バースト有

 

 

椎名と英次の場にバーストが1枚伏せられた。

 

それと同時にターンも終了。芽座椎名ともあろう者がどう言うことか、アタックもせずにターンを終えた。

 

 

「はっはっはっ!!どうした!?かわい子ちゃん!!!怖気付いたか!?」

「……………いや、なんかさ、今思ったんだけど、今回ばかりは私がとどめを刺したらダメな気がするんだよね〜〜………英次!任せたよ!!このバトル、もう私はアタックしないから!!」

「…………………………え?……えぇぇぇえ!?!…………どういうことですかぁ!?」

 

 

椎名の突然の宣言に驚愕する英次。それもそのはずだ、椎名がアタックしなければ、勝つためには必然的に英次が攻めないといけない。それも岩壁の強力な完全体スピリット達を退かしつつだ。

 

 

「防御は私がなんとかするからさぁ〜〜だから次のターンあたりでサクッと倒しちゃったよ!」

「そ、そんなことできませんよ〜〜」

「ぶわっはっはっはっ!?!こりゃ傑作だなぁ!?勝負を諦めたか!?」

 

 

いや、椎名は勝負を捨ててはいない。本気だ。本気で防御だけに専念するつもりだ。そして最終的には英次のスピリットで勝つ気でいる。

 

椎名の直感か、感じていたのだ。このバトルを終わらせるのは紛うことなき、九白英次であると………

 

だが、その英次のターンはまだだ。その前に同じく九白である小波のターンだ。

 

 

「おい小波ぃ!!お前いい加減攻めろよぉ!!?」

「えぇ、めんどくさいなぁーーー」

「そんなの理由になるわけねぇだろ!!!さっさとしやがれぇ!!」

「……ちぇ、……わかったよ、ちょっとだけだよ」

 

 

[ターン11]小波

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨6

トラッシュ2⇨0

 

 

「もうメインはいいや、そのまアタックステップ……テリアモン2体の【進化:白】を発揮させ、白の成熟期スピリット、ガルゴモンを召喚するよーーー」

ガルゴモンLV2(2)BP6000

ガルゴモンLV2(2)BP6000

 

「「!?!」」

 

 

テリアモン2体はデジタルコードをその身に巻き付け、進化していく。新たに現れるのはテリアモンがサイズアップし、両手にガトリングを装着したような姿。白の成熟期スピリット、ガルゴモン。

 

 

「おおっ!進化したぁ!かぁっこいい!!」

「言ってる場合ですか!?!」

 

 

あいも変わらずバトルを楽しむというスタンスを変えない椎名に、英次はひとツッコミ。だが、本当に笑っていられるような状況じゃないのも確かなことであって、

 

 

「んーーー面倒だけど攻めようかな、岩壁もうるさいし、……………アタックステップを継続させ、テリアモン…………じゃなかったガルゴモンでアタック!」

 

 

その手の銃口を向けるガルゴモン。だが、その先は椎名と英次のライフではなく、

 

 

「…………ガルゴモンのアタック時効果、相手のバーストを1枚破棄する、…………って事で、怪しいからそのバーストを先ず剥がすよーーー」

「……………っ!?」

 

 

ガルゴモンは椎名がセットしたバーストに向けて、銃を乱射した。

 

ガルゴモンの効果だ。アタック時の効果だけでバーストを破棄できる。なかなか汎用性の高い効果である。

 

ーが、今回はただ一味違くて、

 

 

「………………あっれ〜〜〜??」

「ば、バーストが破棄されない??……なんで?」

 

 

ガルゴモンの放った弾はバーストカードに命中したものの、なぜかまるで通用せず、全て弾き出していた。まるで寄せ付けなかったかのように。

 

 

「へへっ!残念だったね!このバーストは私のトラッシュに成長期カードがあれば、相手の効果を受けない!!……今の私のトラッシュには成長期の【ズバモン】があったから、そのガルゴモンの効果を受けなかったんだ」

「(………効果を受けないバースト?………まぁいいや)………………ガルゴモンの効果でコアを増やすよーーー」

ガルゴモン(2⇨3)

 

 

バーストがどんなものか気になるが、小波はガルゴモンの次なるアタック時効果を発揮させ、攻め手を増やす。

 

 

「ガルゴモンの効果【超進化:白】、これにより、完全体スピリット、ラピッドモンに進化!」

ラピッドモンLV3(4)BP11000

 

「っ!?………完全体か!」

 

 

ガルゴモン1体はさらなる進化を遂げる。さらに大きなデジタルコードに身を委ね、その身体を大きく変えていく。新たに現れたのは緑の機械兵とでもいうべきか、白属性の完全体スピリット、ラピッドモンだ。さっきまでのテリアモンやガルゴモンとはまるで姿が違う。

 

 

「おっしゃぁ!!小波ぃぃ!!お前の力見せつけてやれぇ!!」

「岩壁うるさい」

 

 

だが、椎名の場にはマグナモンがいる。BPこそラピッドモンに劣れど、その差僅かに1000。ほんの少しでもマグナモンのBPがなんらかのカードで上昇することがあるのなら返り討ちにできる。

 

しかし、ようやく本気を出してきた小波は流石と言うべきか、ラピッドモンはマグナモンでも防げない効果を所持しており、

 

 

「ラピッドモンでアタック………この時、ラピッドモンは相手の【紫と黄、青】のスピリットからブロックされない」

「…………えぇ!?アンブロッカブル効果??」

 

 

基本的に相手のスピリットの効果は一切受け付けないマグナモンだが、この手の効果はマグナモンではなくプレイヤー自身に課せられる効果。

 

故にマグナモンでもブロック自体が不可能なのだ。

 

マグナモンの頭上を飛び越えるように飛行するラピッドモン。その高さではマグナモンも追いつくことができない。

 

 

「………ちぇ、仕方ないなーーー、ここはライフで受けるよ、いいよね!英次!!」

「………あ、はい!!わかりました!!」

 

「…………ライフで受ける!!」

ライフ3⇨2

 

 

ラピッドモンは三角形の形を形成し、そこからとてつもないこう威力のビームを放つ。そのビームに、椎名と英次のライフはまた1つ、木っ端微塵にされた。

 

ーだが、ここで椎名のバーストに動きが出る。

 

 

「へへ、……………ついに発動する時がきたね〜〜この日のために用意した、私の【秘密兵器】をっ!!…」

「「!?!」」

 

 

【秘密兵器】そんな椎名の言葉に思わず相手側の岩壁と小波は手が止まった。

 

そしていよいよ発動される椎名の秘密兵器が。

 

 

「ライフの減少により、バースト発動!!……これは【究極体】のデジタルスピリット!!……」

「な、なに!?き、究極体だとぉ!?」

 

 

椎名のバーストカードが勢いよく反転する。

 

そう、それは紛う事なき究極体のデジタルスピリット、この日のために椎名が用意したとんでもない強カードだ。

 

ーその名も…………

 

 

「この効果により、………マリンエンジェモンを召喚!!」

マリンエンジェモンLV3(3)BP9000

 

「っ!?!…………は、はぁ?」

「か……………可愛い〜〜〜〜!!!!」

 

 

バースト効果により現れたスピリットは、本当に究極体なのかと耳を疑うほどに小柄で、なによりもキュートである。

 

ピンク色の小さい身体、翼を持つ一応究極体のデジタルスピリット、マリンエンジェモンが椎名の場に現れた。

 

 

「ぶ、ぶわっはっはっはっ!!!なんだそのちっこいのは!?!!ほんとに究極体かよ!!!」

「いいなぁーーー私も欲しいなぁーーー」

 

 

そこまで大袈裟に言ってなにを出すかと思えばそんなチンケなスピリットかと言わんばかりに高笑いする岩壁。

 

小波はそのマリンエンジェモンの可愛いさに惚れ込む。

 

ーだが、すぐにわかる。マリンエンジェモンも立派な究極体であり、それ相応に強力な効果を持っているということを、

 

 

「マリンエンジェモンのバースト効果はまだ終わらない!!!このターンの間、相手のコスト9以下のスピリット全て、アタックによって私達のライフを減らせなくなる!!!」

「は、はぁ!?なんだその効果!!?」

「いっけぇ!!マリンエンジェモン!!……オーシャンラブ!!!」

 

 

登場するなり多数に分身するマリンエンジェモン。それらは相手側の場に飛び交い、そのキュートなルックスでスピリット達を次々と魅了していく。

 

ラピッドモン、ガルゴモンだけでなく、される必要もないヴァジラモン、ナノモンまでそれに虜にされてしまう。

 

 

「あ〜〜可愛いいいいいい!!!!」

 

 

まだいた。この小波もまたそのキュートさに落ちた。目をハートにしてしまった彼らはもはやアタックしたところで狙いが定まらず、椎名達のライフに攻撃を当てることはできないだろう。

 

 

「す、すごい…………」

 

 

英次は椎名を見てただただそう思った。あんなに苦しい状況であったはずなのに、

 

本当に凄い。たった1人で2人分のアタックを抑え込み、ライフを守っている。

 

 

「(…………もう1体のガルゴモンを2枚目のラピッドモンに進化してアタックしたところで、攻撃は当たらない。…………なら終わっとこうか、めんどくさいし、これならしょうがないってことで岩壁もうるさくは言わないでしょ)……………………ターンエンド」

ラピッドモンLV3(4)BP11000(疲労)

ガルゴモンLV2(2)BP6000(回復)

 

バースト無

 

 

小波はさらに椎名達のライフを破壊するためにもう1体のラピッドモンを用意できた。が、マリンエンジェモンの影響でそれも一転。無闇に召喚するよりも進化ルートを一通り揃えることを優先し、それを出さずしてそのターンを終えた。

 

次は椎名がなによりも期待している英次のターンだ。

 

 

「よっし!!凌いだぁ!!…………さっ!英次!ここでサクッと決めちゃってよ!!」

「……い、いやだから無理ですってば!!」

 

 

あいも変わらず椎名はなぜか英次にフィニッシュを任せようとする。

 

が、英次の方もあいも変わらず自信を持てないでいる。

 

 

「い、いい加減にしてくださいよ椎名さん!!…………僕みたいな弱い奴が、あの2人の場を突破してライフまで破壊できるわけないじゃないですか!!」

 

 

そんなやや強引な椎名に反論する英次。

 

ーだが、椎名は

 

 

「……………なに言ってんの??………英次は強いよ……ただ少し遠慮してるだけ………」

「え、遠慮??」

「おいおいかわい子ちゃん!!何度も笑わせんなよ!?!そんな【不純物】になにができるって言うんだよ!!!」

 

 

その椎名の言い草はまるで英次が岩壁などよりもずっと強いかのようなものであった。

 

それに反発するように罵声を浴びせに行く岩壁。

 

 

「【不純物】ってそんなに悪いこと?不純なものが混じってるならそれごと強くなろうとするのがカードバトラーでしょ?…………一度英次とバトルした私にはわかったよ、英次がどれだけ虐められても、馬鹿にされても、頑張ってサイバードラモン達で強くなろうとしていたってことがね」

「……………し、椎名さん」

 

 

そう、どれだけ馬鹿にされようが、どんなに虐められようが、与えられたモノドラモンとサイバードラモンで強くなろうと、英次は必死に努力した。

 

英次は縮こまっているだけ、その気になれば本当は岩壁などよりもはるかに上回る潜在能力を持っている。

 

椎名のその言葉で、英次は昨日司に言われた言葉を思い出した。司は言った。【他の一族の者にはないお前だけの戦い方があるのではないか】と、

 

そうだ。英次は気づいた、いや、思い出した。憧れの2人に言われて、勇気付けられてここまで来たことに、

 

ーここで自分が変わらなければ意味がない。

 

ー【自分は変わるためにジークフリード校まで来たのだ】

 

 

「そうだ、変わるんだ…………僕は…………【不純物】でも強くなれるって証明するためにここに、椎名さんと司さんのいるこのジークフリード校に……来たんだぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」

 

 

高揚からか、この場で、誰よりも大きく声を放った英次。

 

人生で初めて自分の本当の心の声を叫んだ。

 

その魂の叫びは、彼の最も信頼するデッキに大きく影響を及ぼした。

 

ー今、覚醒する。

 

 

「……………え?」

「な、なにぃ!?」

 

 

英次のデッキから溢れんばかりの光量が発せられる。

 

ーそれは誰もが知っている人智を超えた奇跡の現象であり、かつ、誰もが夢見る瞬間でもある。

 

椎名達も一度起こしたその奇跡の名は…………

 

 

「…………オーバーエヴォリューション…………」

 

 

英次は驚くように、だが、それでいて静かに呟いた。

 

そう、これは紛うことなき【オーバーエヴォリューション】。あったとしても人生で一度しか起きない奇跡の現象である。

 

英次のデッキに新たな命が芽吹いたのだ。

 

 

「…………ば、馬鹿なぁ!!!!お前が、【不純物】ごときが、【オーバーエヴォリューション】など………認めないぞぉお!!」

「……おぉ、これがオーバーエヴォリューション。生で見るの初めてだわーーー」

 

 

まるで信じられないような顔をする岩壁。小波は初めて見るそれにただただ新鮮な表情で見つめていた。

 

 

「…………へへっ!………ここまでとはね〜〜………やっちゃえ、英次!!」

「はいっ!!僕のタァァァアン!!」

 

 

椎名に大きな後押しを受け、英次は意気込み、自分のそのターンを進行する。

 

 

[ターン12]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ8⇨9

 

 

「………ドローステップっ!!!…………………こ、これが僕のオーバーエヴォリューションで得た……新たな力!!」

手札5⇨6

 

 

英次はドローした。奇跡のカードを。それはまさしくそのデッキと合致した性能の持ち主であって、

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ9⇨10

トラッシュ1⇨0

 

 

「メインステップっ!!!モノドラモンを再度LV2で召喚して、アタックステップっ!!!モノドラモンでアタックし、効果によりサイバードラモンに【超進化】!!」

手札6⇨5

リザーブ10⇨6

トラッシュ0⇨1

サイバードラモンLV2(3)BP14000

 

 

英次は手始めと言わんばかりにどんどん進めていく。モノドラモンは今一度サイバードラモンとなり英次の場へと赴く。が、その効果による暴走が抑えられるわけではなく、

 

 

「はっはっはっ!!!!馬鹿めぇ!!今更そんな奴なんか出してどうする気だぁ!?………暴走は止められないんだろぉ!?」

「…………そうです………サイバードラモンの暴走は止められない………ですが、【一緒に暴れる】ことはできます!!」

「…………なに!?」

「サイバードラモンでアタック!!!」

 

 

英次が言うまでもなく暴走し、走り行くサイバードラモン。そうだ。無駄にこんなもの制御する必要はない。しなくていいのだ。一緒に暴れられる正義の味方が今、英次にはいるのだから…………

 

 

「ほんとに頭悪いなぁ〜〜さすが【不純物】………この無敵のナノモンが目に入らねぇか?」

 

 

椎名戦でも活躍した岩壁のナノモン。あれは無敵だ。破壊されない。が、今の英次には関係ないことであって、

 

その手札から1枚のカードが引き抜かれた。

 

 

「…………フラッシュアクセル!!【ジャスティモン】の効果発揮!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨3

トラッシュ1⇨4

 

「……………は?」

 

 

英次の新たなカード、ジャスティモンが今、解き放たれる。

 

 

「その効果で先ずは岩壁義兄さんのナノモンをデッキの下へ!!!」

「………………は、はぁ!?」

「…………トリニティアーム!!!」

 

 

誰か、誰か人影がこの場に飛び交ってくる。それは瞬く間に強靭な右腕のアーマーを使用した一撃でナノモンを殴りつけた。それをもろに受けたナノモンはあっさりと、呆気なくデジタルの粒子となって岩壁のデッキの下へと送り込まれた。

 

 

「そしてこの時、自分のアタックステップ中ならその戻したスピリットのコスト分まで相手のデッキを1枚破棄する!!ナノモンのコストは6!!よって岩壁義兄さんのデッキを6枚破棄!!」

 

「…………ぐぅっ!!」

破棄カード↓

【ナノモン】

【リボルモン】

【パジラモン】

【ゴツモン】

【ハグルモン】

【ゴツモン】

 

 

放たれる青い衝撃波。それは岩壁のデッキのカードを数枚吹き飛ばした。

 

だが、そんなものは些細なこと、デッキアウトの問題はない。これから。これからだ。本当の大事な効果は………

 

 

「………その後、完全体が自分の場にいる時、このスピリットは手元には置かず、1コスト支払って召喚できるっ!!」

「……………っ!?!!」

 

 

条件はサイバードラモンで満たされている。ついにそれが召喚される。

 

 

「正義の名の下に…………僕は君を呼ぶ!!究極体……ジャスティモン!!LV2で召喚!!」

リザーブ3⇨0

トラッシュ1⇨2

ジャスティモンLV2(2)BP10000

 

 

ついにその人影がはっきりと姿を見せる。

 

ー赤いマフラーを靡かせる無敵で正義のヒーロー。

 

彼の名はジャスティモン。サイバードラモンと共に戦場を駆け上がる者の名だ。

 

 

「じゃ、ジャスティモン…………究極体で、アクセル持ちのデジタルスピリットだと!?」

 

 

驚く岩壁。まぁ、それもそうだろう。何せ、アクセル持ちのデジタルスピリットなど全く前例がないのだから。しかも条件付きで勝手に現れるときたらたまったもんじゃない。

 

そしてなにより、ジャスティモンは究極体のデジタルスピリットである。

 

 

「カッコいい!!これが英次の新たなエース!!!」

「可愛くないけど…………まぁ英次が可愛いから良しとするか………」

 

 

そう呟く女子2人。小波に至っては今、自分達がかなり危ない状況に陥っていることを理解していないようにも見える顔つきだ。彼女はいったいどれだけ気まぐれで、鈍感なのだろうか、

 

ーそしてこのタイミングはサイバードラモンのアタック中、ネクサスカード、甲竜の狩り場の効果でそのBPも2000上がっている。

 

 

「サイバードラモンのアタックは継続です!!」

 

「くっ!!……ライフだ!!持って来やがれクソ野郎!!」

ライフ2⇨1

 

 

サイバードラモンの強烈な鉤爪の一撃が、岩壁と小波のライフを紙切れのように引き裂いた。いよいよ後1つだ。後1つのライフの破壊で椎名と英次の勝利である。

 

 

「次です!お願いします!!ジャスティモン!」

「オーバーエヴォリューションのカードと言えど、BP10000!!たかが知れてる!!」

 

 

未だに英次のカードだからと岩壁はジャスティモンを強いと思っていない。が、ジャスティモンには先のアクセル以外にも有用な効果を所持しており、

 

 

「ジャスティモンはアタックする時、ターンに1回だけ……………回復する!!」

ジャスティモン(疲労⇨回復)

 

「…………っ!?」

 

 

これぞまさに正義のオーラと言ったところか、ジャスティモンは白のオーラを纏い、回復状態へとなる。これで2度目の攻撃の権利を得た。

 

ーだが、

 

 

「馬鹿め!!何度言えばわかるっ!!!所詮はBP10000!!ヴァジラモンと互角!このバトルでブロックし、それを破壊すれば問題ない!!……………迎え撃ちやがれ!!ヴァジラモンッ!!」

 

 

そうだ。いくら2度めの攻撃の権利を得たと言っても、飽くまで得ただけ、1度めの攻撃で破壊されてしまっては元も子もない。

 

岩壁のヴァジラモンはジャスティモンを迎え撃つ。しかし、その程度では英次のジャスティモンの進行は止められない。

 

 

「ジャスティモンは止まりません!!フラッシュマジック!!オーバードライブ!!」

手札4⇨3

サイバードラモン(3⇨1)LV2⇨1

 

「っ!?」

 

 

英次の使用したマジック。オーバードライブは青のマジック。だが、その効果は白青デッキである英次だからこそフルで使える代物であって、

 

 

「この効果で、このターン、ジャスティモンのBPを5000上げ、【連鎖:白】の効果により、サイバードラモンを回復させます!!」

ジャスティモンBP10000⇨15000

サイバードラモン(疲労⇨回復)

 

「…………は、はぁ!?」

 

 

ジャスティモンがオーバードライブの効果によりそのBPを上げると同時に、膝をついていたサイバードラモンが再び起き上がる。

 

岩壁はまるで夢でも見ているかのように目を見開いた。信じられないのだ。認められないのだ。

 

 

「いけぇ!ジャスティモン!!……………ジャスティキック!!!」

 

 

ジャスティモンは天高く飛び上がり、急降下するようにヴァジラモンに強烈なキックをお見舞いした。ヴァジラモンは両手の剣を盾代わりに構えたが、それごと粉々に粉砕され、力尽き、爆発した。

 

これで岩壁の場のスピリットはゼロ。残った回復状態のブロッカーと言えば、小波のガルゴモンくらいか………

 

そしてライフも1。英次はサイバードラモンとジャスティモンでアタックできる。

 

ー終わりだ。

 

 

「もう一度お願いします!!ジャスティモン!!」

「お、おいぃぃ!!ブロックしろ!!小波ぃぃ!!なんのためにお前を呼んだと思ってんだぁぁ!!」

「もう、うっさいなーーー私もカウンターカード無いし、どっちにしろ負けだよーーー…………ガルゴモン、よろしくーーー」

 

 

本当にこのバトルの結果に興味がないのか、小波は全く戦意の感じられない気だるけな声で、ガルゴモンをブロックに寄越す。

 

だが、BPでは圧倒的にジャスティモンが上である。ガルゴモンのガトリングガンの連射を右手の強靭なアーマー1つで防ぐジャスティモン。そのままゆっくりとガルゴモンに近づいていき、1発それをぶん殴る。ガルゴモンはふきとばされながらも、力尽き、爆発した。

 

後は……………サイバードラモンのアタックだ。

 

 

「…………ば、馬鹿な…………あの英次が、【不純物】が……………お前は足を引っ張らせるために俺が呼んだんだぞぉ!?!ふざけるな、ふざけるなぁ!!!!」

「サイバードラモンは可能な限りアタックしなければならない………………終わりです岩壁義兄さん」

 

 

その凶悪性を剥き出しにし、地を駆けるサイバードラモン。目指すはもちろん岩壁と小波のライフ。

 

 

「……………英次ぃぃ………かっこよくなっちゃってーーーーお姉ちゃんは嬉しいよ〜〜〜〜!!」

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

ライフ1⇨0

 

 

小波は見違える程にかっこよく見えた英次に見ほれながら、岩壁は自身の負の感情を殺しきれないまま、最後のライフをサイバードラモンに引き裂かれた。

 

ーこれでこのバトルの勝者は椎名と英次ペアだ。見事に柵を越え、自分を信じ、勝利を収めてみせた。

 

 

「よっしゃ!!!!!」

 

 

サムズアップする椎名。英次を信じたかいがあった。

 

結果的に椎名のお陰みたいになってしまうが、英次はバトラーとして必ず大きな一歩を踏み出せたバトルであったことだろう。

 

 

「………し、椎名さん!!僕やりましたぁ!!!!」

 

 

英次も喜びのあまり大声で叫ぶ。未だに実感ができない。あの落ちこぼれだった自分が、あの九白一族のエリート相手に勝ってしまったのだから。

 

 

「そうだよ!!英次がやったんだよぉ!!おめでとう!!」

「え?………わわ!?!」

 

 

椎名は感激もあまり、英次を抱きしめた。身長差もあって、椎名の胸が英次の顔に当たる。それは妙に柔らかくていい匂いがした。英次は喜びの表情から一転。羞恥心で心が満たされ、顔を真っ赤にする。とうの椎名は全くそれを気にしていない。

 

 

「ちょ、ちょちょ!?!離れてください!!椎名さん!!!!」

「えーーーいいじゃんいいじゃん!!英次は頑張ったな〜〜〜!!!」

「…………いいなーー私も英次を抱きしめたいなーーー熱く、ぎゅーーーっと」

 

 

そんな幸せそうな2人を見ながら、バトルに敗北した小波はそう呟いた。

 

 

「………嘘だ、俺はあいつを、不純物をあの女の足を引っ張らせるためだけに呼んだんだぞ、…………あの女はほとんど守ってただけ、不純物に決められた不純物に不純物に不純物に不純物に不純物に…………」

 

 

岩壁は負けたショックからか、そんなことを小声でボソボソと呟いていた。完全にプライドもなにもかも破壊された。

 

ー生まれつきのエリートは一度転ぶと脆い。もう彼が下から這い上がることなど不可能だろう。

 

 

******

 

 

「…………岩壁はもう無理だな…………まぁ良い、面白いものも見れたし、私はこれで帰るとしよう………邪魔したな、竜ノ字よ」

 

 

バトル場の上の観客席でそう言ったのは4人のバトルを観ていたオーディーン校理事長、九白一族の頭領、九白漣。もう岩壁には見切りをつけたようだ。たしかにもう彼は使えない。

 

 

「あぁ、…………なぁ、漣、お前もしかして知っててあの落ちこぼれ君に青の混じった奴あげたのか?」

 

 

別れ際に龍皇理事長が漣に問いた。すると、漣は少しだけ鼻で笑って……

 

 

「ふっ、………どうだろうな」

「…………60のおじさんがカッコつけんなよ」

 

 

そう言って、理事長達もこの場を後にした。

 

漣は探っていた。どうしたら九白一族を一族の中で最強にできるか、そのために英次にわざと試しとして青の混じったスピリットを手渡した。

 

結果はとても大きく帰ってきたと言える。英次こそ、この一族を大きく変えることができる期待の星だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………はぁ」

 

 

ジークフリード校とオーディーン校の【界放乱戦】が終わり、放課後。橙色の夕焼けの中、椎名は1人、帰路につき、住まいのマンションへと帰宅していた。

 

流石に疲れたのか、部屋に入るなりカバンを放り投げ、制服も着替えずにベッドに転がる椎名。

 

いや、あのバトルになれば無尽蔵な体力を発揮する椎名に疲れたという言葉が似合うはずもない。だが、また少し思い出してしまったのだ。今日の【九白一族】を見て、自分の【義兄】の存在を…………

 

 

ーこれより、物語は約6年前、椎名がまだ11歳の話まで遡る…………………

 

 

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「今回のカードは【ジャスティモン】!!」

椎名「ジャスティモンは白と青の究極体スピリット!!世にも珍しいアクセル持ちのデジタルスピリットだよ!効果もサイバードラモンと相性抜群!!」


******


〈次回予告!!〉


雅治「これから語られる物語は、椎名が11歳の頃、まだ育った島にいる時のお話。椎名とその育ての親のお爺さんや、そのお孫さんとのエピソード。…………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ……「芽座葉月……!!」……今、バトスピが進化を超える!……………」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!
そして、明けましておめでとうございます!
今年も宜しくお願います!

さて、今日行ったタッグルール。どうでしたでしょうか。一応詳しいルールも載せますが、あまり難しく考えないで、そういうものだと読んでいただければ幸いです。

物語は次回からどんどん進展していきます!期待してお待ちください!


※色々あって最後辺りを修正しました。



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第42話「芽座葉月……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

これはこの物語が始まる約5年前、芽座椎名がまだ界放市に現れていない頃、故郷であるとある離島にいる時のお話。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「…………じっちゃぁん!」

 

 

1人の少女が大きくも元気な声で誰かを呼んだ。すると、大きな木の家から1人の初老の男性が勢いよく飛び出して来る。

 

 

「おおっ!!【しぃ】!!帰ったか!!!偉いぞぉ!!」

「魚釣ってきたよ〜〜!!」

 

 

【しぃ】こと、当時11歳の芽座椎名が、【じっちゃん】こと、芽座六月に大量の魚が注ぎ込まれたバケツを元気よく笑いながら見せた。

 

 

「おおっ!!偉いぞぉ!!しぃ!!」

 

 

魚を釣って帰って来ただけで偉いとは何事か、だが、このやり取りはこの2人の間ではごくごく普通のことである。六月はとにかく椎名にはデレデレである。そんな椎名もじっちゃんこと、この芽座六月が大好きだ。

 

ここ、この自然豊かな離島、そこにある大きな山、さらにそこに聳え立つ大きな木の家。「ハウス」と呼ばれるそこには大勢の身寄りのない子供達がいた。

 

その子達のほとんどは【芽座六月】が旅の途中で見つけ、哀れんで拾ってきた子達ばかりだ。【芽座椎名】もその1人。

 

 

「…………あ」

 

 

椎名は何かを思い出したかのように声を発する。

 

 

「む?どうした、しぃよ」

「みんな広場でバトルしてるから私もそっちに行くね〜…………じっちゃん!魚適当に捌いてて!後で私がご飯作るから〜〜」

 

 

そう言って椎名は釣竿とバケツを六月に押し付け、1人、家の前の大きな草原こと、広場に急行した。六月もそれに対し文句を言うこともなく、「いってらっしゃい」と、言葉だけで、その小さくも細い背中を優しく押した。

 

 

「お〜〜い!!みんなぁ!!!」

「あ!しぃ来た!」

「遅いぞぉ!」

「ごめんごめん!魚釣ってててさ〜〜」

 

 

ざっと見て20人くらいはいるか。椎名より歳上はいない。それ以下の年齢か、同じ年齢の者が全体を占める。

 

ー共通しているのは皆、身寄りのいない子供達であると言うことだ。

 

 

「早速誰か私とやろうよ!」

「よし!じゃあ私とやろうか!!」

 

 

椎名とのバトルに名乗りを上げたのは同年代の女の子。2人はバトル台でデッキを並べてバトルする。

 

ここの子供達は【Bパッド】をあまり知らない。田舎すぎるからだ。なので、バトルするならスピリットも現れることもないこの普通のテーブルでのバトルとなる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

これが当時の椎名の暮らしだった。自然豊かなところでよく動き、よく学び、そしてバトルの腕を磨いていった。

 

 

 

******

 

 

 

「フレイドラモンでアタックッ!!……渾身の爆炎!!ファイアァァアロケットッ!!」

「…………あ〜〜だめだ!ライフで受ける!」

 

 

椎名がラストアタックを決め、相手側の最後のライフを減らした。相手側も指でなでおろすようにそのコアをリザーブに置く。

 

 

「やっぱしぃは強いなぁ〜〜」

「えっへん!!こう見えてもバトラー最強を目指してますから!!」

 

 

椎名はかっこよくガッツポーズを構えた。

 

この当時から椎名のバトスピセンスは冴え渡っていた。その引きの強さと勘の良さは、5年後から始まる界放市でのバトルでも余すとこなく活かされている。

 

 

「それはそうと、なんでフレイドラモンとかライドラモンのアタック時とかに、なんか必殺技みたいなセリフ言うんだ?」

「そっちの方がかっこいいじゃん!!なんかそんなのが出てきそうな気がするんだよね!!」

 

 

同年代の男の子がそう椎名に言った。

 

当時、椎名は既に一般化していたBパッドにまだ触れたこともなかった。故にフレイドラモン、ライドラモンと言った自身のエース達を実際に見たことがなかったが、自分の勝手な想像で、この当時から椎名はスピリット達の技名を叫んでいた。

 

ーそんな時だった、

 

 

「…………あ、葉月……」

 

 

さっき椎名とバトルした同年代の女の子がそう呟いた。

 

そこにいたのは芽座六月の実の孫、【芽座葉月】当時は15歳だ。そのまま広場の子供達のバトル場を通り過ぎようとする。

 

 

「むっ!!帰って来たなぁ!!葉月!!…………よぉし!!……」

 

 

が、椎名はそれを良しとはせず、秋に唐突に吹き荒れる竜巻のような俊敏さで、颯爽と葉月に話しかけに行く。

 

 

「おい!!葉月!!今日こそはどっちが強いか決着をつけるよ!!」

 

 

椎名がそう言うと、葉月は椎名の方に顔を向ける。だが、それは家族を見るような目ではなく、まるで汚物でも見ているかのようである。

 

 

「…………お前じゃ何度俺に挑もうと勝てん……去れ、雑魚」

 

 

葉月は鋭くも冷たい言葉で椎名を突き放そうとする。が、椎名もなかなか下がろうとせず、

 

 

「何を〜〜!!こちとらどんどん強くなってんだぞ〜〜!!!!」

「うるさい角虫」

「誰が角虫だ!!」

「…………うるさいって言ったんだ。俺はお前と違って忙しいんだよ」

「………………」

 

 

そう言って葉月は椎名をまた冷たく引き離し、椎名達が住むハウスの横に有る大きな洞穴の中へと入り、その姿をくらました。この洞穴にはちょっとした秘密があって、

 

 

「あんにゃろ〜〜!!次こそは絶対バトルさせてやる〜〜!!そして勝つ!!」

「しぃ、もう葉月に絡みに行くのはやめとけよ………」

「なんで?」

「なんか最近………っていうかずっと前からなんかおかしいよあいつ。近寄りづらいって言うかさ、」

「ほとんど洞穴の先にしか行かないしね」

 

 

【芽座葉月】はここの子供達の中では1番歳上である。が、5年くらい前からか、その時から他の子供達と遊ぶようなことはほとんどしなくなり、あぁやって直ぐに洞穴の先に赴くようになっていた。

 

【謎の洞穴】これは六月曰く、昔からあるようなのだが、危ないと言う理由でか、【六月は子供達にその中へは立ち入り禁止】としている。そんな中、何故か葉月だけが赴くことが許可されている。

 

葉月にはそこに「入る権利がある」それだけが子供達の頭に刷り込まれていた。

 

故にあの洞穴の中は葉月以外の他の子供達では入ることはできない。それがこのハウスの絶対的ルールであった。

 

 

「あの洞穴、なんなんだろうね」

「んんんーーーーー」

 

 

1人の子供が呟くと、椎名が頭をフル回転させて考えた。

 

そうすると、その中である1つの仮説が浮かんできた。

 

 

「………あっ!わかった!!動物園があるんだよ!!!葉月はそこで飼育さんをしてるんだ!!」

「……………うわ〜〜頭悪いのが丸わかり………」

 

 

椎名の頭の悪い発言に若干ひく子供達。

 

 

「……って言うか葉月めぇ!!強くなった私ととことんバトルしないつもりだなぁ?…………ふふ、ならこっちにも奥の手があるぞ〜〜!」

「何かやるの?椎名?」

 

 

どうしても葉月を振り向かせたい椎名。そんな椎名にはある作戦が1つあった。これならば絶対葉月が自分とバトルしてくれるだろうと思える完璧な作戦が、

 

 

「それってどんな手?」

 

 

他の子供達も少しだけそれが気になっている様子。

 

 

「ふっふっふ!!その名も、【葉月の誕生日にプレゼントを渡してバトルしてもらおう作戦!!】だぁ!!」

「……………は?」

 

 

1人だけでない。他のどの子供達も椎名の発言にそう思った。「何を言ってるんだ?」と。

 

 

「………もしかして、それって明日葉月の誕生日だからプレゼント渡して、喜んだ葉月が椎名に同情してバトルしてくれる。……………って寸法じゃないよね?」

「その通り!!」

「馬鹿!!そんなのであの葉月がバトルに応じるわけないでしょ!?」

「大丈夫大丈夫!!私の気持ちは絶対届く!!!なんてったって、血は繋がってないけど、家族だからね!!日付が変わった瞬間に叩き起こしにいくぞぉ!!!」

 

 

椎名はなぜか自信に満ち溢れていた。たしかに同年代の女の子が言うように、あの仏頂面で、冷たくて、本当に自分達のことを家族だとも考えていなさそうな葉月が、その程度で喜ぶとは思えないだろう。

 

 

「よし!!今日は早めに寝なきゃ!!」

 

 

が、この本気でやる気になっている椎名を止められる者はいない。

 

 

 

******

 

 

ーそしてその日の真夜中の時間帯の出来事、

 

 

「…………俺は強くならねばならん………あのカードに認められるために…………」

 

 

ここは洞穴の中。ひんやりとしていて、なかなかに広い空間が広がっている、そんな中、葉月はたった1人、バトルの修行を積んでいた。ある【スピリット】に選ばれるために。

 

バトルの台でデッキを並べ、戦略を考え、ドローの鍛錬をし、己を鍛え上げていた。その横にある大きめの石板に、【あるスピリット】が見えるように埋め込まれていた。

 

その【スピリット】はとても強力な力を持っていた。が、それ故か、ある特徴があった。

 

ーそれは時代によって人を選ぶこと、【そのカードと同じ類の力を持つのは全部で13枚】存在しているのだが、

 

ーそのカード達には意思があり、自分で主人と認めた者しか使われようとしない。

 

ー葉月はそんなカード達に魅了され、日々の鍛錬を重ねているであった。

 

ーだが、ほとんどここに入り浸るようになってから5年。それほどの歳月が流れても、一向に彼はそれに選ばれたりはしなかった。

 

そんな彼を見かねてか、ある人物が、その修行を制止させるかのように声をかける。それは葉月にとっては嫌という程に聞き慣れた声であって、

 

 

「…………もうやめとけ、葉月。お前みたいな奴じゃあ、【マグナモン】には………いや、崇高なる【ロイヤルナイツ】には選ばれんよ」

「………っ!?!」

 

 

葉月は声のする方へと振り向いた。そこにいたのは彼の実の祖父。【芽座六月】

 

 

「…………どういうことだ、ジジイ!!………こいつは俺達【芽座一族】のカードのはずだろ!!」

 

 

そう、【13枚のスピリット】とは、【ロイヤルナイツ】。そしてその所有する【バトスピ一族】こそ、椎名の名字であり、葉月、六月が血縁的にそれに属する【芽座一族】であった。

 

 

「………そんな一族の誰が目覚めさせたかもしれないカードだ。無理に使う必要もない」

「何言ってやがる!!これがあれば俺は最強のバトラーになれる!!これがあれば俺の実力を示すことができる!!」

 

 

【ロイヤルナイツ】の正体。それは【芽座一族のオーバーエヴォリューションによって生まれたカード】である。

 

一族の誰かが、創世したかは知られてはいないが。大昔にそれらは創られ、今の【芽座一族】へと引き継がれたのだ。つまりは六月や葉月の祖先が、【ロイヤルナイツ】を生んだとも言えるか。

 

ーだが、今は色々な場所に飛び散ってしまい、この祠に眠っているのは【マグナモン】だけとなった。

 

 

「…………そんな気持ちのありようで、お前が崇高なる【ロイヤルナイツ】に選ばれるものか………」

「………な、なんだと…………俺は今!お前より遥かに強い!!【ロイヤルナイツ】などなくてもなぁ!!」

 

 

葉月はとにかく強さを求める者であった。何を切り捨ててもいい。何をなくしてもいい。どうでも良いからただがむしゃらに力を欲していた。それが自分にとって、何よりも生きていると実感させてくれると思っているから。

 

ただ、それは六月の志向とはほぼ真逆の方向性であって、

 

そしてそんな六月はここで葉月にある提案を寄越した。それは【バトスピ一族】であるならば、誰もが納得する理由であって、

 

 

「………なら示せ、バトルでな……」

「…………」

 

 

そう、この世界においては何よりもバトルの結果が優先される。自分の意見を通したいのならば、自分のバトルの腕で示すしか他はない。

 

 

「…………いいだろう……俺の強さを証明してやる」

 

 

当然、引くわけもなく、葉月はこのバトルに乗っかった。

 

 

******

 

 

ージリリリリリリリリ!!!!!

 

 

そんな目覚まし時計の音が1つの部屋を音で埋め尽くすように鳴り響く。今の時間は真夜中だと言うのに。窓から覗ける暗がりの夜空がなんともミスマッチだ。

 

そしてそれをベッドで寝ていた1人の少女が手で叩き止め、毛布を吹き飛ばす勢いで体を起こす。

 

ー芽座椎名だ。

 

 

「ふっふっふ!!作戦決行!!」

 

 

時刻は午後23時50分。赤毛の少女、椎名は葉月への誕生日プレゼントが入った紙袋を手に持ち、いざ、彼の部屋へと向かった。

 

 

******

 

 

「…………ほれ」

「…………??」

 

 

一方、洞穴の中では、六月が葉月にある物を投げつけた。【Bパッド】だ。物語が始まる5年前だが、当時から既にこの科学の結晶とも言える機械は世に出回っていた。

 

が、田舎者である葉月は当然それの形を知るわけもなく、

 

 

「………なんだこれは」

「これは【Bパッド】………名前くらいは知っとるじゃろ、都会にあるバトルするための道具じゃよ」

 

 

そう言いながら、六月は葉月に見本を見せるかのように自分の分のBパッドを展開し、デッキをセットした。

 

が、葉月は六月がもうひとつのBパッドを持って来ていた事に反応を見せ、

 

 

「…………ふんっ!2つ持ってきたってことは最初っからバトルする気だったってか………なめたクソジジイだぜ」

「念のためじゃよ………強さを証明するんじゃろ?じゃあかかってこんかい」

「……………上等………っ!!」

 

 

葉月も六月の見様見真似でBパッドを展開し、デッキをセット。

 

ーそして孫と祖父。それぞれの想いが募る中、そんな2人のバトルが始まる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

******

 

 

ーそして、時刻は深夜0時。ハウスでは椎名がいもしない葉月の部屋へと侵入しようとしていて、

 

 

「…………そーーーーーーっと、………………そーーーーーーーーっとだよ………………よし!着いた……」

 

 

気分はまるで忍者。椎名は片手にあるカンテラの灯りを頼りに暗がりの廊下を抜き足、差し足、忍び足で進んでいく。

 

ーそしてようやく到着。椎名は勢いよくドアの取っ手を掴み、………

 

 

「はぁぁづきぃぃい!!!誕生日おめでとう!!」

 

 

葉月の部屋のドアを開けた。そして陽気な声を飛ばしながら中に飛び込む。

 

ーが、

 

 

「…………あ、あれーーーい、いない?」

 

 

当然、洞穴の中にいる葉月にそこで会えるはずもない。既にもぬけの殻だったことを、椎名は悟る。そして推理していく。今、葉月がどこにいるのかを……………

 

そうしたら椎名の頭の中で1つの仮説が浮かんできた。

 

 

「…………あ!!もしかしてまだ洞穴にいるんじゃ…………」

 

 

間違いない。その推理は正しい。だが、それとは別に新たな問題が生じてくる。

 

 

「んーーー…………でも洞穴入ったらじっちゃんに叱られるんだよなーーーーーー」

 

 

そう、普段は入ることを禁じられている洞穴の中に行くのは至難である。大好きな六月に叱られるのも何か嫌なものがある。

 

が、思い切りの良いのが椎名のいいところであり、

 

 

「ま、いっか!!叱られたらそれはそれで良いや!!」

 

 

叱られないことよりも、葉月にプレゼントを渡すことと、バトルをすることを何よりも優先した椎名。

 

結局洞穴の中へと向かうことにした。

 

 

******

 

 

舞台は戻り、洞穴の中。六月と葉月はバトルをしていた。状況は圧倒的に祖父である六月が優勢であって、

 

そんな彼の場には洞穴の大きな空間を埋め尽くすほどに巨大なアルティメットの龍が存在しており、

 

 

「…………ぐっ!」

「…………行け………アルティメット・リーフ・シードラ」

 

 

六月の物静かな言い方に対し、そこにいた巨大なアルティメットの龍は特大級の咆哮を上げる。そして体中にある珊瑚や海藻の様なところからどんどん内側へとエネルギーを溜めていき、破壊光線として胸部から放射した。

 

 

「…………ぐ、ぐおぉっ!!」

 

 

それは瞬く間に葉月のライフをいとも容易く破壊した。

 

葉月のライフは残り1で、場のカードはゼロ。誰がどう見ても絶体絶命の状況であるのは確かなことであって、

 

 

「…………どうした?実力を見せるんじゃないのか?葉月よ」

「……………この……ジジイ……っ!!」

 

 

芽座六月と言う男のあまりの圧倒的な強さに手も足も出ない葉月。

 

そんな葉月を哀れんでか、六月は彼に助言とも取れる口出しをして行く。

 

 

「お前に足りないものはただひとつだ。葉月。………それは【バトルを楽しむ心】お前からはその感情が微塵も感じられない」

 

 

六月は葉月にそう言った。【バトルを楽しむ】それこそが彼の、六月の心情であり、志しである。楽しむことが何よりもバトルにおいては重要であり、勝ち負けの喜びや悔やみなどの感情はその後についてくるもの。彼はそう考えており、また、それを信じている。

 

葉月のバトルからはその感情が全くと言っていいほどなかった。とにかく勝つことだけを考え、常に行動していた。

 

正反対だ。反対すぎる。2人の趣向は全く別の方向にあった。実の家族であると言うのに。

 

 

「…………何言ってやがる………バトルはそもそも楽しむためのものじゃねぇだろ…………」

「……………?」

「バトルは、カードは己の力を示す道具!!!それ以外は何でもない!!俺は必ずそれを証明し、いつか必ずお前のその皺の寄った口を黙らせてやるっ!!……………必ずだ!!!……………必ずだぁぁぁぁ!!!!!」

「……………葉月………」

 

 

葉月の心からの全力の言葉。又はその想い。

 

ーそしてその想いは、世界のどこかに散っていたある1枚のカードを震撼させ、顕現させる。それは強大で、凶悪で、尚且つ、何よりも神聖なものであって、

 

 

「………………う、うおぉぉぉぉぉおお!!!!!」

 

 

何を感じたのか、大きな声で叫けぶ葉月。すると、それに呼応し、共鳴するかのように、何かが世界の果てより、この洞穴に引き込まれる様に飛び向かう。

 

 

******

 

 

「…………ん?…………なんだろ?さっきの?」

 

 

ここは洞穴の外だ。お気に入りのブーツに履き替え、ハウスの外に出た椎名は、洞穴の中に入ろうとした直後にその飛び行くカードを見た。暗くてそれがカードであるのかも定かではなかったが、たしかに何か飛んでいるのが見えた。

 

ーそれは何よりも悍ましく、禍々しいものであり、

 

 

 

******

 

 

 

「…………うおぉぉぉぉぉおお!!!!!」

「……………な、なんだ!?何が起ころうとしている??」

 

 

洞穴の中だ。

 

六月も流石にその異変を感じていた。何かが近づいてくる。何かとてつもない何かが、凄まじい何かが、悍ましく禍々しい何かが……………

 

確かにこの洞穴に迫ってきていた。

 

ーそして、

 

 

「………………」

 

 

1枚のバトスピカードが、葉月の手に吸い込まれる様に飛び向かってきた。

 

 

「…………??な、なんだ、そのカードは…………」

「………俺が求めていた力と言う名のカードだ!!!」

 

 

葉月はなんの躊躇もなく、そのカードをかざした。大きく。はっきりと、祖父である六月に見せる様に、

 

そしてそのカードを見た六月は気づいた。そのカードの正体に…………

 

 

「…………ま、まさか!?!……そのカードは…………【ロイヤルナイツ】の………」

 

 

【ロイヤルナイツ】だ。この場にあったマグナモンの他に2枚目の【ロイヤルナイツ】が世界のどこかから葉月を守るかの様に姿を現したのだ。

 

ーそしてそれが呼び出される。

 

 

「……………………召喚っ!!!」

 

 

葉月がそう呟いただけだ。それだけで、

 

 

「……………っ!?!アルティメット・リーフ・シードラ!?!」

 

 

アルティメット・リーフ・シードラの背後に突如、ワームホールが出現、そしてそこから黒い手だけが姿を見せる。それはアルティメット・リーフ・シードラを鷲掴みにし、そのままそのワームホールへとそれを無理矢理引きずり込んだ。

 

 

「…………そして現れる………」

「……………っ!?!」

 

 

葉月の目の前に、既に何か巨大なスピリットが聳え立っていた。その姿はシルエットのように影が薄っすらとかかっていて見えずらいが、その佇まいと体格、風貌から、【ロイヤルナイツ】だと思われる。

 

 

「……………な、なぜ葉月が選ばれた?!……いや、なぜこの時代に葉月を選んだ、黒鎧のロイヤルナイツよ!!」

 

 

葉月側になぜついたのか、理由がさっぱりわからない六月。

 

それもそのはずだろう。なにせ、【ロイヤルナイツ】は人を選ぶが、あのような不届き者が選ばれるなど前例がない。

 

 

「……………これが、俺の…………力だぁぁぁぁ!!!!!………くたばれぇぇ!!!」

「…………っ!?!」

 

 

その【ロイヤルナイツ】は手に持っている身の丈ほどの巨大な大剣を、六月のライフに向けて勢いよく振り下ろす。

 

ーそして、

 

 

「……………ぐっ!!!ぐおぉぉぉぉぉお!?!」

 

 

六月のライフを全て砕いた。一欠片さえも残さず、一瞬にしてまとめて葬り去った…………

 

これにより、このバトルの勝者は、実の祖父、六月を降した芽座葉月だ。

 

 

「……………ふ、……………はっはっはっは!!!!どうだ!!俺の力だぁ!俺が選ばれ、得た力なんだぁ!!!………………決めた、決めたぞぉ!!俺は世界中に散らばった全ての【ロイヤルナイツ】を手に入れ、最高の強さを手に入れる!!!…………誰も到達し得ない、高見へと、俺は行く!!!」

 

 

葉月はこの目の前の【黒鎧のロイヤルナイツ】を見て、使って、それらの強さを再認識する。やはり強力すぎる。自分のために存在するものだと認知してしまったのだ。

 

 

「…………あばよジジイ!!どうやら俺の考えの方が正しかったみたいだな………っ!!」

「……………………勝手にしろ…………お前のような屑は孫でもなんでもない……………」

 

 

六月は疲れ切ったような震える声で、葉月を突き放す。

 

 

「…………はん!……そうかよ」

 

 

そう言って葉月はこのハウスを、島を出て行くことにした。1枚1枚が奇跡の塊で、強烈なパワーを持つ【ロイヤルナイツ】のカードを探しに。

 

六月はそれを止めようとはしなかった。負けた自分がとやかく言うことはできないだろうと思ったからだ。

 

葉月は最後にその言葉だけを言い残し、洞穴の出口へと向かった。

 

 

******

 

 

 

「………さっきのなんだったんだろ?……………ん?」

 

 

洞穴の最奥部への道中、椎名はさっきの妙なカードのことが気になっていた。そんな時だ。彼女の目の前に六月を降してきた葉月が現れたのは、

 

椎名はそれが見えた途端、テンションが上がり、

 

 

「おぉ!!葉月ぃ!なんだやっぱりこんなところに来いたんだ!!…………実は渡した………」

「俺は今日、ここを出て行く…………」

「……………え?」

 

 

渡したい物がある。そう椎名が歓喜しながら言う前に、葉月から放たれた言葉が椎名の身体を硬直させた。

 

 

「で、出て行くってなんで急に………」

「俺の勝手だろ………」

「勝手じゃない!何時に出て行くの?」

「今すぐだ」

「早っ!!」

 

 

別に出て行くのはかまいやしない。彼も今年で16だ。むしろそういうものなのだろう。だが、椎名はせめて朝まで待って、他の子供達にお別れを言って欲しかった。

 

 

「…………まぁ、いいか………じゃあ私のプレゼント受け取ってよ………誕生日でしょ?」

 

 

心の広すぎる椎名は、それでもまぁ良いかと思い、葉月にプレゼントとして買った、ある物が入っている紙袋を手渡した。

 

ーが、葉月はそれを受け取るなり、地面に叩きつけるように捨て、足で踏みつけにした。せっかくの上等な紙袋に泥がつき、破けた。

 

 

「………え?」

「……………お前は勘違いしてるぞ…………俺はお前の家族じゃない…………ましてや兄でもない…………真なる家族は血で結ばれているもんだ……………つまり、お前の本当の家族など、ここには【いない】」

 

 

葉月はそれだけを、椎名に冷たい言葉だけを言い残して、その場を去って行く。ハウスにも戻らず、そのまま山を降りていった。

 

椎名はこの瞬間。何もかもを悟った。葉月は最初から自分を、自分達の事を家族とは思っていなかったことに。

 

 

「…………本気なのかよ…………今までずっとそんなこと思ってたのかよ………私はずっとあなたのことを家族だと思ってたのに…………………葉月ぃぃぃいいい!!!!」

 

 

椎名のどうしようもない感情から流れ出た全力の叫びが、ハウスや洞窟だけでない、この付近の山々全体にこだました。

 

これが椎名に起きた過去。そして芽座葉月が家を出た理由であった。当然、洞穴に入っていなかった椎名にはその理由など知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

「………………………ぐへっ!」

 

 

時は戻り、【現在】。真夜中に、17歳の椎名は寝相の悪さにより、ベッドから寝ぼけて落っこちてしまった。その衝撃で目がバッチリ覚める。

 

 

「………………葉月の奴………今頃何してんだろ?」

 

 

椎名は起き上がることはせず、床でゴロゴロと転がりながら、葉月のことを頭に思い描いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、早朝、バトスピ学園ジークフリード校にての出来事であった。

 

いつも通りの朝。ホームルーム。いつも通りの席に座り、いつも通りの席に友達が座っている。この時間帯にそれは起こった。

 

 

「えーーー皆に紹介したい人がいます!」

 

 

ホームルーム中、担任の【空野晴太】が力強い声でそう言った。紹介したい人。そうなると、転校生と言う考え方が妥当だ。誰だろう、いったい誰だろう、と、クラスの皆は盛り上がる。

 

ーが、晴太が呼び出したのは、皆の予想とは裏腹に、全く別の人物であって、

 

 

「…………入ってきていいぞー」

「…………………はい」

 

 

ーその人物が教室のドアを開け、入室してくる。その人物はまさしく大人だ。案外高校生であると言われてもおかしくないくらいには若いが、どこかやはり大人びている部分を感じる。

 

そのモデルのような体型や、端正な顔立ちに皆、ほとんどが、「おおっ」と眉間にしわを寄せる。

 

全然、全く知らない人であるのは間違いないことであって、

 

ーだが、このクラスの中にたった1人だけ、その人物を昔から知る者がいた。

 

 

「………………え?」

 

 

椎名は驚いた。それもそのはず、なにせ、その人物は…………………

 

その顔を忘れる訳がない。忘れられる訳がない。子供の頃の楽しい記憶、思い出。

 

そんな記憶の中を共に過ごして来た兄弟のことを、

 

 

「今日から少しだけ、このクラスで【教育実習生】として勤めることになった……………………」

「【芽座葉月】だ。…………よろしく」

 

 

葉月は自分の名を黒板にチョークで綺麗に書き留めた。

 

そう、間違いない。あれは本当に、本当にあの時、自分に理由を話さないまま島を飛び出していった、義理の兄。

 

ー芽座葉月だ。

 

この再開が、椎名にどう影響を与えて行くのだろうか……………………

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

雅治「今日のカードは【フレイドラモン】」

雅治「フレイドラモンと言えば、もう椎名のお馴染みのエーススピリット、技名である「ファイアロケット」はこの6年前の当時から考えられていたんだね」



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〈次回予告!!〉

真夏「まっさか、ここに来て、椎名の義理の兄登場!?そして狙いはロイヤルナイツのマグナモン!?面ろくなって来たでぇ!……っと言いたいとこやけど、正直私は椎名が心配やわ………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「ロイヤルナイツ激突!!」……今、バトスピが進化を超えるでぇ!!」


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最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次あたりから有名なデジモンラッシュ、及びそれらが使用されるバトルが続くと思いますので、何卒応援の方をよろしくお願いします!


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第43話「ロイヤルナイツ激突!!」

 

 

 

 

 

あの芽座葉月がジークフリード校の教育実習生として椎名の目の前に現れた。いったい何の意図があってのことかはわからないが、椎名の目の前にはたしかにその義理の兄、葉月がいた。約6年ぶりの再会だ。

 

 

「…………え?……芽座って、椎名ちゃんと同じ」

「どうなってんのや?」

 

 

夜宵と真夏が、黒板に書かれた葉月の名前を見て反応を見せる。

 

2人だけではない。教室全体がその名前にざわつき始める。そんな生徒達を見かねてか、担任の教師である空野晴太がそれに対しての説明を入れてくる。

 

 

「こらこら、落ち着けよーー、この人は椎名の義理のお兄さんなんだ……」

「椎名の義理のお兄さん…………」

 

 

雅治が思わず声を漏らした。

 

そう言われて、納得したか、生徒達は静まるが、ただ1人、未だにざわつく者がいて、

 

 

「おいぃ!!葉月ぃ!!!!今までどこ行ってたんだぁ!!」

 

 

椎名がしゃしゃり出てくる。よく言えば元気よく。悪く言うならば口うるさく。興奮するのも仕方ないか、何せあんな別れ方をして、約6年の歳月が流れたのだから、

 

椎名は席を立ち、葉月の方へ近づく。

 

 

「黙れ角虫」

「誰が角虫だぁ!!」

 

 

葉月が椎名に悪態をついてくる。が、椎名も負けず劣らず反抗。

 

が、言い合いは一旦これで終わり。ある人物が椎名を抑え込む。

 

 

「…………おい、椎名………」

「……………!?!」

 

 

 

椎名はその声を聞いた途端。背筋が凍りつくのを感じた。

 

担任の晴太の声だ。それはまったくもって物静かであるが、実際は今にも大噴火しそうな予感を感じさせられるものであって、

 

 

「…………気持ちはわかるが…………静かにする……よな?」

「……………は、はいぃぃいーー!!!!?!!」

 

 

椎名は危機を回避すべく大急ぎで着席し、黙り込んだ。

 

そんな椎名を見て、晴太は安堵したかのように機嫌を取り戻し、

 

 

「まっ!そう言うことだ、みんな仲良くしてくれ!」

 

 

ー朝のホームルームを締めた。

 

 

******

 

 

少しだけ時は流れて放課後。椎名は校舎の屋上と言う場で、改めて葉月と対峙していた。

 

やはりどこからどう見てもあの芽座葉月そのものだ。少しだけ大人びた顔立ちの印象になった以外はあまり昔と変わりはなかった。

 

 

「…………葉月、なんでこんなとこにいるの??私はもう訳がわからないよ………」

 

 

6年前に家を出た義理の兄。彼は自分達のことを家族とさえ思ってなかった。そんな彼がまさか自分の学校の自分のクラスで、教育実習生の生徒として目の前にいることなど、考えがつくはずもない。椎名は頭の処理が追いつかなかった。

 

だが、そんな椎名の気持ちなど露知らず、葉月は単刀直入に自分の欲求だけを話した。それはとても教師を目指す教育実習生とは思えないセリフであり、

 

 

「簡潔に述べよう、…………俺はお前の持つロイヤルナイツ、【マグナモン】を回収しにきた………」

「っ!?!マグナモンを!?」

 

 

椎名が六月から譲り受けたロイヤルナイツのカード、マグナモン。それを葉月は回収しにきたと言う。

 

 

「な、なんでマグナモンを………」

「それはお前のカードじゃなくて、俺のカードだからだ…………それ以外の理由などない」

「………え?私これじっちゃんから貰ったんだけど」

 

 

6年前、葉月はロイヤルナイツであるマグナモンに選ばれるため、故郷の島にある洞穴で激しい特訓や修行を積んでいた。

 

が、結局は選ばれることはなく、彼はそのまま島を出た。そこからさらに6年の修行を経て、今度こそはと今、椎名の目の前にいるのだ。

 

椎名がマグナモンを所有していることは【界放リーグ】の生中継で知っていた。あの時はただただ目を疑ったが、自分の方が選ばれるべきであるとマグナモンに証明すれば問題はない。

 

 

「…………と、とにかく嫌だよ!!マグナモンはもう私の大事なカードなんだ!!」

 

 

椎名はそれを拒否した。当然だ。マグナモンはじっちゃんこと、六月が自分にくれた大事なカード。これまで数々の死線をくぐり抜けてきた大事な仲間だ。そんな仲間を手放しにできるわけがない。

 

 

「…………ふんっ……まぁいい、どちらにせよ明日、お前にはマグナモンを賭けてバトルしてもらう」

「…………え?どゆこと?」

「明日、この学園はどうやら俺を歓迎してるようでな、生徒と俺を1人、歓迎バトルをしてくれるようだ。それでお前を選ばせてもらった……」

「そんな勝手な…………」

 

 

【教育実習生】バトスピ学園も飽くまでも高等学校の1つであるため、物珍しくもないが、バトスピ学園では歓迎の儀と言わんばかりに全校生徒の前でバトルさせる。

 

実際、生徒達も実習生がどんなデッキを組んでいるのか気になることだろう。

 

葉月はそんな行事に、椎名を指名してきた。マグナモンを奪うため、又はマグナモンに自分の強さを改めて証明させるためとも取れるか、

 

 

「…………なぜお前なんだ……」

「!?!」

「なんでお前がマグナモンに選ばれる…………椎名………」

「…………選ばれる?」

 

 

椎名は【ロイヤルナイツ】達の隠された秘密を未だに知らない。それ故に、本当は自分がその一柱であるマグナモンに選ばれていたことなど全く気づいていない。

 

当然、葉月の言葉の意味さえも全く理解ができない。

 

葉月は椎名を許せなかった。気が遠くなるほどに、血反吐が出るほどに、血が滲むほどの努力を重ねたはずなのに、選ばれるのはなぜこの自分の力量さえ理解できてない阿呆なのだ。葉月はそう思っていた。

 

 

「…………明日、俺はお前に力の差を改めて見せつけてやる…………覚悟しておけ…………」

 

 

そう言って、葉月は屋上を降りようとする。

 

椎名はそんな彼の背中を見て、何を思ったか、つい思い詰めていた言葉が前のめりに出てしまう。

 

 

「……っ!!……じ、じっちゃんはぁ!!あれからずっと葉月を心配してたんだぞ!!何回も旅をしたんだぞ!!葉月を捜すために!!」

「……………」

 

 

わかって欲しかった。ただただ六月の、じっちゃんの気持ちがわかって欲しかった。

 

あの日、いったい何を理由で六月と喧嘩したのかはわからない。が、やはりこんなのあんまりだ。

 

 

「わかった!明日、私がバトルで勝ったら…………葉月、貴方はじっちゃんと仲直りしよう!!それが条件だ………」

「……………」

 

 

葉月と六月。彼ら2人を仲を取り持つ為、椎名はこのバトルを引き受けた。

 

葉月も承諾したのか、その椎名の発言に対して何を反抗することなく、無言で屋上を降りて行く。

 

 

******

 

 

そして翌日。椎名と葉月がバトルする時が来た。

 

舞台は第3スタジアム。観客席には大勢の生徒や教師が一目観戦しようとそこに赴いていた。

 

 

「マグナモンを賭けてバトル?めざしとあのすかした野郎がか?」

「せや、どうしたもんかなぁ、本当」

「アンティルールは法律で禁止されているのに………」

 

 

司、真夏、雅治、夜宵、英次もその観客席にいた。

 

真夏はただ1人、このバトルの本当の意味を椎名本人から聞いていた。それが他の4人にも伝わり、今の会話が成り立っている。

 

だからとて、どうにかなる問題でもないが、

 

 

「…………でも私達は椎名ちゃんを見守ることしかできないね」

 

 

夜宵が言った。そうだ。何があろうと承諾されたバトルに対して口出しはできない。椎名の実力を信じてただ見届けるしかないのだ。

 

 

「…………さぁ、始めるか……」

「…………今までの私の集大成を葉月に全力でぶつける………っ!!」

 

 

2人がBパッドを展開する。そして始まる。違反であるアンティルールのバトルが、因縁のある義理の兄妹のバトルが、

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まった。

 

ー先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、ガンナー・ハスキーを召喚して、ターンエンド!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨2

 

ガンナー・ハスキーLV1(1)BP2000

 

バースト【無】

 

 

 

椎名が初手で呼び出したのは犬型だが、背に拳銃を持つために腕を生やしたスピリット、ガンナー・ハスキー。

 

先行の第1ターン目など、やれることが限られてくる。椎名はそれだけでそのターンを終えた。

 

次は全生徒が注目する芽座葉月のターンだ。

 

 

[ターン02]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はネクサス、水銀海に浮かぶ工場島をLV1で配置し、ターンエンドだ」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

水銀海に浮かぶ工場島LV1

 

バースト【無】

 

 

葉月の背後に、その名の通り水銀のような鼠色の海に浮かぶ島が出現した。このネクサスは彼のデッキにとって潤滑油になり得る1枚であって、その効果も色もシンボルもかなり強力である。

 

 

「…………厄介なのを配置したな……」

「デッキは白と紫の混色みたいだね……」

 

 

司と雅治がそう呟いた。

 

あのネクサスは白と紫。そのため、それを配置するだけで葉月のデッキが白と紫の混色デッキであることが示唆されるのだ。

 

何はともあれ、次は椎名のターン。あの厄介なネクサスをどうするかがバトルに勝利する鍵となり得るだろう。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

 

 

「…………メインステップ、バーストをセットし、ブイモンをLV1で召喚!さらにその召喚時でカードをオープン!!」

手札5⇨4⇨3

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨1

オープンカード↓

【スティングモン】◯

【ワームモン】×

 

 

椎名がバーストを伏せると同時に召喚したのはいつも通りの小さくて青い竜、ブイモン。それが元気よく飛び出してきた。そしてその召喚時も成功し、対象内のスピリットカード、スティングモンが椎名の手札へ新たに加えられた。

 

ーが、ここで葉月のネクサス、水銀海に浮かぶ工場島が反応するように光り出し、

 

 

「お前、俺のネクサスの効果を忘れたか?……相手ターン中、相手が効果によって手札を増やした時、相手はその枚数分だけ手札を捨てなければならない」

 

「………っ!!!……わかってるよ、何度もくらってたもんね」

手札3⇨4⇨3

破棄カード↓

【エクスブイモン】

 

 

水銀海に浮かぶ工場島。このネクサスは相手のターン中ならば決して効果による手札増加を許さない。

 

椎名は手札から選んだエクスブイモンのカードを渋々トラッシュへと送った。昔から一緒にバトルしていた葉月がよく配置していたこのネクサスの効果を別に忘れていたわけではないが、やはりかなり強い効果だ。これだけで成長期スピリットのサーチ効果も活かし辛くなる。

 

 

「だけどまだ動ける!………私はさらにブイモンの追加効果でスティングモンを2コスト支払って召喚!不足コストはガンナー・ハスキーから確保!!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

ガンナー・ハスキー(1⇨0)消滅

トラッシュ1⇨3

スティングモンLV1(1⇨2)BP5000

 

 

ガンナー・ハスキーが消滅してしまうものの、その上からまた新たなスピリット、スマートな昆虫戦士、スティングモンが現れた。その効果でまたコアが増える。

 

そして椎名はさらにこのままガラ空きの葉月の場を攻め立てる。

 

 

「アタックステップ!!ブイモン、スティングモン!!」

スティングモン(2⇨3)LV1⇨2

 

 

走り出す2体のスピリット。目指すは当然葉月のライフ。

 

葉月はこのアタックに対し、

 

 

「………ライフで受けよう」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

ライフで受けた。

 

ブイモンの渾身の頭突きとスティングモンの拳がそれを1つずつ玉砕して行った。

 

 

「よし!ターンエンド!!」

ブイモンLV1(1)BP2000(疲労)

スティングモンLV2(3)BP8000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

椎名はターンを終えた。最序盤としてはなかなかに良い動きだったと言える。

 

が、当然、葉月もこのまま黙っているはずもなく、

 

ー彼は次のターン。おそらく誰もが衝撃を受けるであろうスピリットを召喚する。

 

 

[ターン04]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨8

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ…………俺はネクサスのLVを上げ、さらにソードールをLV1、そして、ハックモンをLV2で召喚!!」

手札5⇨4⇨3

リザーブ8⇨2

水銀海に浮かぶ工場島(0⇨2)LV1⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

「……………ハックモン?……葉月そんなスピリット持ってたっけ?」

 

 

葉月はネクサスのLVを上げるとともに2体のスピリットを召喚した。一方は白と紫のデッキならばよく見るハイブリッドスピリット、コストも軽く使いやすいソードール。

 

ーが、もう一方は誰も見たことがないカードであって、椎名もその姿を見て首を傾ける。

 

その姿は白の成長期スピリットで、竜型。その身につけているマントやゴーグルが他のデジタルスピリットとはやや違う印象を与えていた。

 

 

「これは俺が新たに得た力の一部だ…………召喚時効果!!5枚オープン!!その中の対象のデジタルスピリットを手札に加える」

オープンカード↓

【水銀海に浮かぶ工場島】×

【ソードール】×

【ポーン・ダイル】×

【ジャコウ・キャット】×

【ジエスモン】◯

 

「っ!?!一度に5枚も!?」

 

 

その枚数の多さは強烈かつ脅威。当然だが、オープンカードの枚数が多ければ多いほど、それはヒットしやすいものだ。

 

ーそしてそれは来た。

 

ーそれは誰もが驚愕するカードだ。

 

 

「…………俺はこの効果で、【ロイヤルナイツ】ジエスモンを手札に加える!」

手札3⇨4

 

「!?!」

 

 

その言葉に誰もが驚きを隠せなかった。

 

葉月が今、世界にただ1枚しか存在しない幻のレアカード、ロイヤルナイツ。その1枚の名を口にしたのだ。そしてそれはまさしく本物。

 

今すぐそれは地上へと舞い降りる。

 

 

「さらにこのジエスモンの煌臨を発揮!対象はハックモン!!」

リザーブ2s⇨1

トラッシュ1⇨2s

 

 

ハックモンが白き聖なる光を纏う。

 

それは彼に進化の力を与えると同時にある物も与えていた。

 

 

「この時、ハックモンの効果でコアを3つハックモンに追加する!!」

ハックモン(2⇨5)LV2⇨3

 

「……っ!!3つも追加!?」

 

 

与えられていたのはコア。それがたった一度煌臨するだけで3つも与えられた。

 

そしてさらに驚くのはこれからだ。ハックモンがその聖なる光の影響で姿形を大きく変えていく。それは竜の姿から一変。逞しい聖騎士へと進化を遂げる。

 

 

「究極進化ぁぁあ!!……ジエスモン!!」

ジエスモンLV3(5)BP14000

 

「っ!?!」

 

 

現れたのは白き聖騎士型スピリット、伝説のロイヤルナイツの1体、ジエスモンだ。腕や足が劔になっていて、周りには3つ、何かオーラ的なものが浮遊している。

 

 

「ロイヤルナイツ!?!」

「椎名さんのお義兄さんが所持していたのか……」

 

 

雅治と英次がそう言いながらそれを見て驚いた。いや、驚いていたのは彼らだけではない。他の生徒はもちろん、教師までもがざわつく程に驚愕していた。

 

 

「…………あいつの……めざしの周りの人間はいったいどうなってやがんだっっ!?」

 

 

司が言った。たしかに疑問に思っても仕方ない。何せ、椎名のマグナモンはその育ての親、六月から、そして次はその孫にあたる彼が同じくロイヤルナイツに属するジエスモンを呼び出したのだから。

 

 

「………は、葉月、………そ、それは」

「俺の…………力だ!!煌臨時効果!!相手のスピリットを3体手札に戻す!!俺の眼前から消えろ!ブイモン、スティングモン!!…………」

 

「っ!?!」

手札2⇨4

 

 

ジエスモンの周りで浮遊している3つのうち2つのオーラがジエスモンの支持を受け、動き出す。それは瞬く間にブイモンとスティングモンを通り過ぎるようにすり抜け、2体の魂を吹き飛ばした。

 

その後は肉体もデジタルの粒子となって椎名の手札へと戻っていった。

 

そしてまだだ、まだ葉月のメインステップは終わりらない。さらなる展開で椎名をとことん追い詰めていく。

 

 

「さらに俺は異魔神ブレイブ、竜機魔神を召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

トラッシュ2s⇨3s

 

 

葉月が呼び出したのは紫の異魔神ブレイブ。漆黒の暗闇の靄の中からゆっくりと竜の形をした機械が出現した。

 

 

「異魔神ブレイブ…………」

「俺はジエスモンに竜機魔神を右合体!!」

 

 

竜機魔神の右手から放たれた一筋の光線。それはジエスモンの身体と繋がれ、それをより一層パワーアップさせる。

 

 

「…………バーストを伏せ………アタックステップ………」

手札2⇨1

 

 

葉月はメインステップの最後にバーストをセットし、次なるアタックステップへと移行した。ジエスモンが椎名を倒さんとばかりにその眼光を放つ。

 

 

「ジエスモン………やれ」

 

 

常に宙を舞っているジエスモンが椎名のライフを撃たんとばかりに飛び立つ。

 

そしてこの時、竜機魔神とジエスモン自身のアタック時が発揮され、

 

 

「竜機魔神の右合体時効果、お前は手札を1枚選んで破棄する」

「…………っ!?!…」

 

 

竜機魔神が口内から放つ紫の波動。それは椎名の手札を襲い、それらを宙に明かす。それは椎名がどれか1枚をトラッシュに置くまでは戻ることはない。

 

 

「…………猪人ボアボアを破棄………」

手札4⇨3

 

 

椎名は手札にある猪頭ボアボアを選択。そのカードはそのままトラッシュに置かれ、手札は竜機魔神の力から解かれ、椎名の元へと帰ってきた。

 

そして次はジエスモンのアタック時効果だ。それはまさしく【ロイヤルナイツ】に相応しい強力な効果であって、

 

 

「さらにジエスモンのアタック時、お前のバーストを破棄し、ジエスモンはブロックされない………」

「…………っ!?」

 

 

ジエスモンの右手の劔から放たれた一筋の光線。その高威力なエネルギーは一直線に椎名のバーストを貫いた………………

 

ーかに思われたが、

 

椎名のバーストはジエスモンのその攻撃を弾いていた。まるで水を弾く油のように。

 

 

「………っ?」

「…………残念だったね葉月、私のバーストは…………【マリンエンジェモン】………このカードはバーストセットされている時、私のトラッシュに成長期カードがあるなら、相手の効果を受けない…………私のトラッシュにはワームモンがいるから、その効果を受けないよ」

 

 

葉月は眉を少しだけ寄せ、若干驚いたかのような表情をするが、一瞬にして問題ないと判断したのか、すぐさま元の冷静な表情に戻る。

 

 

「だがアタックは止められない…………」

 

 

そう、マリンエンジェモンはライフ減少を条件とするバーストスピリット、つまりこのジエスモンのアタックはそれに止められることはない。どうしてもライフを減らされるとこまで行くのだ。

 

 

「でもまだライフは5!!ライフで受ける!!」

ライフ5⇨3

 

 

ジエスモンの高速の剣技。その一瞬の早業が椎名のライフを一気に2つ、紙切れのように引き裂いた。

 

だが、ライフは失われたが、ここで露わになっていた椎名のバーストが発動される。

 

 

「私のライフの減少により、バースト発動!!マリンエンジェモン!………効果によりこれを召喚!!」

リザーブ6⇨5

マリンエンジェモンLV1(1)BP3000

 

 

その場で反転する椎名のバーストカード。そこから現れるのは桃色の体を持つ小さい天使、マリンエンジェモン。

 

この見た目でも究極体。それ相応の力がマリンエンジェモンには備わっている。

 

 

「マリンエンジェモンの効果!……このターン、相手の合体のコストを無視したコスト9以下のスピリットじゃ、私のライフは減らない………」

 

 

マリンエンジェモンが小さく鳴き声を上げる。すると、椎名の周りに水のバリアが現れる。それはこのターン、葉月のターンが終わるまで残り続け、元のコストが9より上のスピリットしかそれを突破することができない。

 

 

「……………ターンエンドだ」

ジエスモン+竜機魔神LV3(5)BP18000(疲労)

ソードールLV1(1)BP1000(回復)

 

水銀海に浮かぶ工場島LV2(2)

 

バースト【有】

 

 

葉月はこのターン。どちらにせよ攻め手は無くなったと見たか、そのターンを終えた。

 

次は椎名のターンだ。持ち前の速攻で一気に片をつける気満々である。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨9

トラッシュ3⇨0

 

 

「このターンで一気に決める!!行くよ葉月!!………メインステップっっ!!……私はマジック、バスタースピア〈R〉を使用!!効果により、水銀海に浮かぶ工場島を破壊し、カードを2枚ドローするっ!!」

手札4⇨3⇨5

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨3

 

「……………っ!?!」

 

 

椎名の場から放たれる一本の槍。それは炎を纏といて一直線に葉月のネクサス、水銀海に浮かぶ工場島へ飛び行く。そしてそれに突き刺さり、貫いてみせた。ネクサスは貫かれたところからどんどん消えていき、やがて消滅した。

 

厄介なネクサスは消えた。ここからが本腰を入れるところだ。椎名の大展開が幕を開ける。

 

ー反撃開始だ………

 

 

「ブイモンを召喚!!さらに召喚時効果!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨3

トラッシュ3⇨5

オープンカード↓

【ストームアタック】×

【マリンエンジェモン】×

 

 

葉月のジエスモンにより手札へと戻されていたブイモンが今一度椎名のために場へと現れる。

 

だが、その召喚時効果は失敗。どれも手札に加えることはできない。

 

が、椎名がこの効果を使ったのは手札に加えたいためじゃない。この後の追加効果を使うためだ。

 

 

「ブイモンの追加効果で再び緑の成熟期スピリット、スティングモンを召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨0

トラッシュ5⇨7

スティングモンLV1(1⇨2)BP5000

 

 

椎名の場に再び緑の昆虫戦士、スティングモンが現れる。その効果によりさりげなくコアが増える。

 

ーこれで勝利への敷地は揃った。椎名は葉月のライフを打たんとばかりにアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップっっ!!…スティングでアタック!!効果でコアが増え、LV2にアップ!!」

スティングモン(2⇨3)LV1⇨2

 

 

コアが更に増え、LVを上げるスティングモン。そしてこの時、スティングモンは更なる飛躍を遂げる神秘の能力が使えるようになる。

 

 

「さらにスティングモンのアタック時、【超進化:緑】を発揮!!」

「…………!!」

 

 

椎名のスティングモンの効果の発揮宣言に、葉月は少しばかり反応してみせた。ものの雰囲気で察したのだ。間違いなく今から何か強力なものを呼び出そうとしていることを。

 

ーその予想は当然的中しており、

 

 

「この効果で緑の完全体スピリットを召喚!!…………私はこいつを……至高の竜戦士、パイルドラモンをLV2で召喚!!」

パイルドラモンLV2(3)BP10000

 

 

スティングモンが全身をデジタルコードに巻かれ、新たな姿へと進化する。そのコードを解き放ち、現れたのは竜のパワーと昆虫の固さと素早さを持つ至高の竜戦士、パイルドラモンだ。

 

 

「…………それがお前の今のエースか………」

「その通りだ!!召喚時効果!!コスト7以下のスピリット1体を破壊するっ!!対象はソードールだ!!………デスペラードブラスター!!!」

 

 

召喚されるなり、パイルドラモンは両手にある機関銃を乱射…………するまでもなく、たったの4、5発程度でその小さいソードールを撃ち抜き、爆発させ、仕留めた。

 

 

「アタックステップは継続!!そして、この乱撃で終わりだぁ!!パイルドラモンでアタック!!その効果、コアを2つパイルドラモンに置き、ターンに1回だけ回復する!!……エレメンタルチャージ!!!」

パイルドラモン(3⇨5)LV2⇨3

 

 

パイルドラモンは単体でも1ターンに2度攻撃できる。そのことを踏まえなくても、葉月のライフは残り3つ、椎名の場にいるブイモン、マリンエンジェモンと合わせて4回の攻撃で十分すぎるものがある。

 

ーこれで決まりか…………

 

ーいや、決まらない。その程度ではまだ終わるはずもなく、葉月は手札から更なる一手を繰り出す。

 

 

「甘い!!お前の手など俺にとっては手に取るようにわかる!!フラッシュマジック!!ドリームリベンジを使用するっ!!」

手札1⇨0

リリザーブ3⇨0

トラッシュ3⇨6

 

「…………っ!?」

 

「この効果で自分のスピリット1体を回復……俺はジエスモンを回復!さらにこのターン、この効果で回復したスピリットがBPバトルで勝利した時、相手スピリット2体を手札に戻す!!」

ジエスモン+竜機魔神(疲労⇨回復)

 

 

常に宙を舞うジエスモンが疲労より目覚め、再び活動可能になる。

 

パイルドラモンとジエスモン。この2体のBP差は歴然。圧倒的にジエスモンが上である。このままパイルドラモンのアタックをブロックさせられては椎名の場はひとたまりもなくなることだろう。

 

ーが、椎名は待っていた、カウンターを、葉月なら確実にここで返してくると思った。手によるようにわかるのは葉月だけではない。共に多くの時間を共有してきたこの椎名も同じなのだ。

 

 

「そう来ると思ったよ!!」

「っ!!?」

 

 

椎名はその手札のカードを引き抜いた。それは決め手となるであろう大きな大きな一手であって、

 

 

「フラッシュ!!マグナモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!1コスト支払う!」

パイルドラモン(5⇨3)LV3⇨2

トラッシュ7⇨8

 

「…………っ!?!」

 

 

ブイモンの頭上に黄金に光輝く鎧を着た卵のようなものが投下される。ブイモンはゆっくりと降ってくるそれを受け入れるように衝突、そして混ざり合う。

 

新たに現れるのは葉月のジエスモンと同じく【ロイヤルナイツ】に属するうちの1体。黄金の鎧を輝かせ、今、マグナモンが椎名の場へと降り立つ。

 

 

「黄金の守護竜!!マグナモンをLV1で召喚!!」

マグナモンLV1(1)BP6000

 

「…………マグナモンっ!!!」

 

 

葉月はマグナモンを見た途端に嫌悪感を剥き出しにする。それと同時にそれを欲しいとも思った。心が踊った。

 

昔から待ち望んだ自分の力が目の前にあるのだ。兎に角強さを求めていた彼にとって、これほどまでに心踊ることはない。

 

だが、そんな彼の感情を悟る事もなく、椎名はその効果を発揮させる。それはジエスモンを討つための必勝技だ。

 

 

「目には目を、ロイヤルナイツにはロイヤルナイツだぁぁあ!!マグナモンの召喚時効果、相手の場にいる最もコストの低いスピリット1体を破壊するっっ!!」

「………っ!!」

「破壊対象は………もう1体しかいないよね?……ジエスモンを破壊!!黄金の波動、エクストリーム・ジハード!!!」

 

 

マグナモンは登場するなりその黄金の力を前回まで使い、黄金の障壁を形成。それは球体であり、どんどん膨らんでいく。

 

やがてそれは宙に浮いてるジエスモン。そしてその周りにある3つのオーラ諸共包み込み、それらを全て一瞬にして消滅させた。

 

場には異魔神ブレイブである竜機魔神だけが虚しく残った。

 

 

「………す、凄いで!!椎名!ロイヤルナイツを倒しよった!!」

「流石だ……椎名さんっ!!」

「…………俺も倒したことあるがな、【ロイヤルナイツ】」

 

 

観客席にいる真夏と英次が椎名の見事な誘い込み技に感銘を受ける。

 

司は何故かそれに対抗しているのか、自分もロイヤルナイツを倒したと、ここにはいない椎名を煽るように口ずさんだ。

 

 

「ジエスモンはブロックする前に破壊した!!パイルドラモンのアタックはそのまま有効になる!!」

「……………」

 

 

異魔神ブレイブはアタックとブロックが出来ず、基本的に合体元がいないとバトルに参加できない。そのため、このパイルドラモンをブロックできるスピリットは今、葉月の場には存在しない。

 

 

「よし!勝てる、いけるでぇ!」

「だよね!頑張れぇ〜椎名ちゃん!!」

 

 

そう言って、観客席で喜ぶ真夏と夜宵。

 

 

「……………おい、雅治」

「うん、なんか変な感じだ……あの人まだ何かあるんじゃ」

 

 

女子2人とは裏腹に、司と雅治はこのバトル中に葉月から何かを感じていた。それは2人の直感でしかないのだが、とてつもなく悍ましく、禍々しい何かが蠢いているのではないかと感じさせるものであって、

 

 

「………パイルドラモン!!!」

 

 

椎名の指示で葉月のライフを破壊すべく再び前進するパイルドラモン。もうそれを妨げるものはない。

 

ジエスモンも破壊されたし、葉月の手札もゼロだ。

 

 

「…………ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

パイルドラモンの強靭な拳の一撃が、葉月のライフを1つ玉砕した。

 

 

「どうだ葉月!!これが私がこの1年とちょっとで築き上げてきた力だ!!」

 

 

椎名が拳を固め、唸るように葉月に言った。

 

これが自分の力だ。もう私は葉月よりも強いと言わんばかりに、

 

ー行ける。

 

ー勝てる。

 

この回復したパイルドラモンを含めた、3体のいずれかでアタックすれば、間違いなく、

 

ー椎名がそう慢心した直後だった。

 

 

「…………結局この程度か…………高々1年程度でのぼせ上がるな…………俺は何年、その力とやらを築き上げてきたと思ってるんだ………」

「………っ!?!」

 

 

葉月が口を開いた。まるで追い詰められていないかのような冷静で冷酷な表情である。実際は絶壁に立たされた大ピンチであるはずなのに。

 

 

「…………1つ教えてやろう椎名…………この世界にお前程度の実力の学生など………死ぬほどいる……」

「…………っ!?!」

 

 

ーそして葉月はここから逆襲に赴く。

 

 

「………ライフ減少により……バースト発動!!!」

「………!?!」

 

 

葉月のバーストが勢いよく反転した。

 

そのカードも誰もが見て驚くものであって、

 

ーそしてバーストカードであるそれは、当然このタイミングで何かしらの影響を及ぼすものである。

 

 

「………パイルドラモンっ!?!」

 

 

椎名のパイルドラモンの背後に突如としてデジタルゲートが開かれる。そしてそこから、謎の黒い拳が出現。それはパイルドラモンを鷲掴みにし、一瞬にしてそのデジタルゲートへと引きずり込んで行った。

 

 

「…………このバーストカードの効果は……相手のスピリット、又はアルティメット1体をデッキの下へと送る………さらに俺はデッキから4枚になるようドロー」

手札0⇨4

 

 

葉月は手札を増やした。元々0枚だった手札は、初期の4枚へと戻る。

 

 

「………な、なんだ、あのバースト効果……」

「デッキの下に送る効果に加え、ドローまで……」

 

 

司と雅治がそう言った。

 

ーそう、この効果は誰も知らない。

 

ーだが、そのカードは誰もが知っている伝説のスピリット…………

 

 

「………その後、こいつを召喚する………召喚!!」

「………っ!?!」

 

 

空気が震え、震撼する。

 

再び現れたのはパイルドラモンが引き込まれていったデジタルゲート。そこからゆっくりと降りて来る者がいた。もちろん、パイルドラモンではない。

 

ーそれこそ、黒い拳の正体……

 

ー黒いのは拳だけではなく、全身黒い黒鎧を纏う聖騎士型の究極体スピリットだ。

 

 

「………【ロイヤルナイツ】アルファモンを召喚!!」

リザーブ6⇨0

アルファモンLV3(6)BP20000

 

 

背の青いマントを靡かせ、黒鎧のロイヤルナイツ、アルファモンが現れた。それはそこにいるだけで目の前のバトラーに多大なプレッシャーを与える程の威圧感があった。

 

 

「に、2枚目だと!?」

「2体目のロイヤルナイツ………」

 

 

司と英次がそう言い、驚いた。

 

もちろん驚いたのは2人だけではない。周りの他の生徒や教師もその葉月の持つカードに驚きを隠せないでいた。

 

ーいったい彼はいくつ【ロイヤルナイツ】を所持しているのか………

 

 

「………な、なんだ、このスピリット………なんか嫌な感じだ……」

 

 

椎名はそんなアルファモンを見て、妙な悪寒を感じずにはいられなかった。

 

だが、ライフも対して破壊できないのに、BPの低い残った2体でバトルするわけにもいかず、ここはターンを切ることになるが、

 

 

「…………ターンエンド」

マリンエンジェモンLV1(1)BP3000(回復)

マグナモンLV1(1)BP6000(回復)

 

バースト【無】

 

 

そのターンを終えた椎名。

 

次は【ロイヤルナイツ】アルファモンを召喚し、ここにいる全ての生徒と教師を驚かせた葉月のターンだ。

 

 

[ターン06]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨7

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ、アルファモンに竜機魔神を右合体……」

 

 

前のターンのジエスモン同じく、右手から放たれた光線を受け、アルファモンはさらにその力を増大させる。

 

葉月はありふれた手札を使うことなく、アタックステップへと移行した。

 

ーもう必要はないと判断したからだ。

 

 

「アタックステップ……やれ、アルファモン……竜機魔神の効果でお前の手札を1枚破棄する」

 

「…………これだ」

手札3⇨2

破棄カード↓

【ガンナー・ハスキー】

 

 

再び竜機魔神が椎名に手札の破棄を要求。椎名は手札1枚を破棄した。

 

そして、次はアルファモンの効果であり、

 

 

「さらにアルファモンの効果……コアを2つ支払うことで……このスピリットは回復する………っ!!」

リザーブ7⇨5

アルファモン+竜機魔神(疲労⇨回復)

 

「……なっ!?!」

「まだだ!!もう1つの効果でお前のマリンエンジェモンからコアを2つリザーブに送る!!」

 

「…………っ!?!」

マリンエンジェモン(1⇨0)消滅

 

 

アルファモンはコアの力により、再び攻撃できる権利を得た。

 

そしてそれと同時に拳から波動弾のようなものを放ち、椎名の場にいるマリンエンジェモンを撃ちとった。

 

 

「………あ、あいついくつ効果持ってんねん………」

「デッキ下のバウンス、ドロー、コア除去、極め付けは回復………なんでもありかよ……」

 

 

真夏と司が言った。

 

そう、それこそアルファモンの効果。その1つ1つが卓越された効果を駆使し、敵を追い詰めていく。

 

 

「さぁ!このアタックはどう受ける!!?」

 

「……っ!!……ライフだ!!」

ライフ3⇨1

 

 

アルファモンはデジタル空間からいくつものエネルギー弾を射出。それで椎名のライフを一気に2つ粉々に粉砕した。

 

椎名のライフもいよいよ後1つ。追い詰められてきた。

 

 

「……アルファモンで再度アタック…………竜機魔神の効果で手札を破棄!」

 

「………………」

手札2⇨1

破棄カード↓

【スティングモン】

 

 

スティングモンのカードを破棄する椎名。

 

ーそしてこの効果も再び、

 

 

「アルファモンの効果で2コア支払い、回復!!」

リザーブ5⇨3

アルファモン+竜機魔神(疲労⇨回復)

 

「……………え?」

「ターンに1回じゃないのか!?」

 

 

椎名が小さく声をこぼし、雅治がそう驚き、言った。

 

アルファモンはコアさえあれば何度でもアタックできるスピリット、もう椎名にそれを止めることはできない。

 

 

「今さら気づいたか…………やれぇ!!アルファモン!!」

「くっ!?!……マグナモン!!」

 

 

これを受けたら敗北だ。椎名は咄嗟にマグナモンにブロックの支持を送る。

 

が、同じ【ロイヤルナイツ】と言えどもその力の差は歴然であって、

 

力を極限まで溜め、黄金の波動を放つマグナモン。だが、アルファモンはデジタルゲートから自身の武器を呼び寄せ、それを振るった一振りで、その波動を粉々に玉砕した。

 

その武器とは剣。とても太く、重く、形も独特であり、普通のスピリットでは扱えないものであるのは確かだ。

 

 

「…………究極戦刄王竜剣………っ!!!」

 

 

その一瞬。マグナモンと距離を詰めたアルファモン。そして王竜剣と呼ばれるその剣を振り下ろす。マグナモンを押しつぶすように叩きつけた。

 

マグナモンは堪らず耐えられなくなり、大爆発を引き起こした。

 

 

「………ま、マグナモンっっ!?!」

 

 

ー終わりだ。勝負は決した。

 

 

「アルファモンでアタック……竜機魔神の効果で……残ったのは【ブイモン】か、それを破棄する!!」

 

「……………」

手札1⇨0

破棄カード↓

【ブイモン】

 

 

もはや椎名が選ぶまでもない。葉月が残った1枚を言い当て、それを破棄させた。

 

今の椎名の手札はゼロ。そして盤面もゼロだ。

 

ー抵抗する術は完全に絶たれた。

 

 

「…………ま、負けんなやぁ!!椎名ぁ!!」

 

 

真夏が椎名に言った。

 

 

「…………そうだ………お前に勝てんのは俺だけだ!!このめざし野郎!!……どうにかして見せろ!!」

 

 

司が椎名に言った。

 

 

そう思ったのは2人だけではない。雅治も、英次も、夜宵もほとんど同じことを考えていたし、願っていた。

 

ー椎名なら必ずここからどうにかして見せると………

 

だが、当然それは届かないものであって……

 

 

「………終わりだ………失せろ、弱者………お前は島に帰って子守でもやってろ…………っ!!」

「…………っ!!?」

 

 

 

 

 

アルファモンが椎名の目の前で王竜剣を掲げ上げる。

 

ーそして、

 

 

 

 

 

「……………っ!!!………」

ライフ1⇨0

 

 

ー振り下ろす。

 

振り下ろされた王竜剣が椎名のライフに突き刺さり、最後のライフまでもを粉砕した。それは儚くも、一瞬にして、

 

これにより、椎名の負け………葉月の勝利となる。

 

 

「…………………」

 

 

椎名は疲れやショックからか、膝をつき、眠りにつくように、又は気絶するかのようにゆっくりと横たわり、倒れた。

 

 

「し、椎名ぁぁぁあ!!!」

 

 

周りの生徒はざわつき始め、よりバトル場の近くで観戦していた晴太は慌ててそこまで行く。Bパッドで担架を持ってくるように指示したり、倒れた椎名の受け答えを確認したりしている。

 

椎名の仲間達もその光景を見て、とても驚いていたし、心配していた。

 

ーそしてその直後、まだ驚くべきことは続く。

 

 

「…………来い……マグナモン」

 

 

葉月がそう言った途端だった。突如、椎名のマグナモンが椎名のBパッド、デッキから離れ、謎の浮力で飛び行く。目指す場所は、葉月だ。

 

葉月は飛び向かうそれを手に取った。

 

周りの者達も皆驚いていた。浮くカードなど聞いたことがないからだ。そんな摩訶不思議な現象に、今、ジークフリード校の全ての人達が直面している。

 

 

「…………これでようやく【3枚目】だ………」

 

 

葉月はその言葉だけを最後に残し、倒れた椎名のことなど見向きもせずに、その場から立ち去った。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

真夏「今回はこいつや!【アルファモン】!!」

真夏「アルファモンは究極体のデジタルスピリット、そして【ロイヤルナイツ】の1体や!効果はデッキ下バウンス、ドロー、コア除去、終いには回復………おっかない奴や」


******


〈次回予告!!〉

夜宵「あの椎名ちゃんが負けるなんて信じられないな、…………でも椎名ちゃんなら必ずまた立ち上がって来るはず!!……え?もう島に帰る??……やめてよ椎名ちゃん、行かないで〜〜〜!!……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「椎名帰郷、真紅の魔竜との出会い!」……今、バトスピが進化を超えますっ!!」



******



最後までお読みくださり、ありがとうございました!


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第44話「椎名帰郷、真紅の魔竜との出会い!」

 

 

 

 

 

 

「やぁ!僕の声は聞こえる?」

「…………っ??」

 

 

ガラガラだが、まるで無邪気な子供のような声が聞こえてくる。

 

目を閉じていた椎名はようやくその声に気づき、意識を取り戻した。

 

椎名が目を開けると、そこには無限の闇が果てしなく広がっていた。大地もなく、空もなく、もちろん建造物だってどこにもありはしないそんな塵ひとつない真っ暗な世界に椎名はいた。

 

ただ、目の前だけには眩しくないくらいの紅くて淡い光が浮いていた。まるで真夜中の蛍のように………自分を起こしてくれた声もそこから聞こえてくる。

 

 

「もうすぐ会えるね!!」

「…………誰?」

 

 

椎名は紅い光に聞いた。

 

 

「僕の正体は後でわかるよ!また君に会えるのを楽しみにしてるよ!!」

「【また】?」

 

 

紅い光はまるで椎名を知っているかのような言い草で話してくる。

 

椎名はもちろんそんな摩訶不思議な光のことなど知らない。

 

が、どうでも良かった。

 

負けたのだ。

 

葉月に、芽座葉月に、

 

自分の全身全霊をかけ、挑み、無様に散っていった。

 

もうどうでも良い。

 

早く島に帰りたい。

 

それだけで頭がいっぱいになっていた。

 

ーどうしても心と体が無気力になっていた。

 

 

「じゃあ!今度ねーー!!」

 

 

そんな椎名とは裏腹に、紅い光はそう明るく振舞いながらもゆっくりと点滅し、やがて消えていった。

 

 

******

 

 

 

「ん?………ん、んん??!」

 

 

椎名は気づくと何処かのベッドで寝ていた。思わずバっと上半身を上げた。周りの壁が全体的に白い、椎名はここが学校の保健室であることを理解した。

 

そうだ。自分は葉月とのバトルに負け、ストレスや疲れで倒れたんだと、思い出した。その結果が今自分がここにいる事である。

 

 

「椎名ぁ!!!!」

「椎名ちゃん!!」

「ぐへっ!!」

 

 

起きた途端。喜びからか、椎名は真夏と夜宵に叫ばれながら抱きしめられた。と言うかそれぞれ右と左の腕で首を絞められた。息ができない。

 

 

「ぐっ、くるしぃぃい!!!」

「あ、すまんすまん」

「ついつい………だって椎名ちゃん倒れてから4時間以上寝てるものですからーーー…………」

 

 

椎名の苦しさに気づいた2人は椎名を解放した。

 

その2人の後ろには雅治と英次もいる。4人とも椎名が心配で観に来たのだ。ただ、そこには司だけがいなかった。

 

 

「ほい、あんたのデッキ………せやけど……」

「分かってる、マグナモンだけなくなったんでしょ………良いよ別に」

 

 

真夏が椎名に置き去りになっていたデッキとBパッドを手渡した。が、椎名も察している通り、その中には【ロイヤルナイツ】のマグナモンだけが欠けていた。

 

バトルに負けた直後、葉月に奪われた。いや、マグナモンが葉月に選ばれ直されたと言うべきか。そのため、今椎名のデッキにはマグナモンがいない。

 

 

「芽座先生がジークフリードを離れるまで後1週間ある。それまでになんとかしないとね……」

「そうだね!先ずは他の先生に相談とかしないと………」

「人のカードを奪うなんて許せません!!」

 

 

雅治がそう葉月に対抗策を練ろうと考えると、夜宵と英次もそれに賛同するように声を上げる。

 

葉月の研修期間は後1週間。マグナモンを取り返すのなら、それまでになんとかして手を打たないといけない。

 

だが、一番肝心な人物は…………

 

 

「………いい……もういいよ皆、葉月とマグナモンの事は忘れよう………」

「…………え?」

 

 

その場にいる誰もが驚いた。何せあの椎名が、暗がりな声で諦めたような言葉を使ったからだ。

 

俄かには信じられないだろう。あの芽座椎名が弱音を吐いたのだ。

 

 

「な、何言っとんのや!いつものあんたなら「次こそはぁ!!」言うて、また挑みに行くとこやろがい!」

「そうだよ!椎名らしくもない!みんなであのロイヤルナイツのデッキをどうにか対策できるよう頑張れば…………」

 

 

真夏がそう言った。立て続けに雅治も口を出してきた。だが、今の椎名には何を言われようが響いてこない。本当にどうでもよくなったのだ。バトルの事が、バトルスピリッツの事が、

 

 

「………ごめん……しばらくほっといててよ………」

 

 

そして椎名はその寂しげな言葉だけをみんなに残し、保健室を出た。仲間達はただただその無気力な細い背中を見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

職員室で晴太に無事だった事の報告を終えると、椎名はただ1人、学園の校舎の屋上にいた。時刻は夕方になる前と言ったところだ。

 

ーそして黄昏ながらも、思い出したくはなかったが、フラッシュバックであのバトルの最後が頭をよぎった。あの【ロイヤルナイツ】アルファモンにトドメを刺される瞬間が。そしてその時に葉月が放った言葉が。

 

 

ー『失せろ、弱者……お前は島に帰って子守でもやってろ……っ!!』

 

 

この言葉だけが椎名の頭を何度もよぎる。いくら忘れようとしてもどうやっても繰り返し頭の中で連呼される。

 

ーそんな時、誰かが屋上に来た。

 

ー赤羽司だ。

 

司は何も言わず、椎名の横に来た。

 

 

「おい………雅治の野郎から聞いたぞ……お前、本当にもう何もしないのか?」

 

 

司が椎名に聞いた。思っていた事を単刀直入に、

 

 

「……うん。もう疲れた……」

 

 

椎名がボソッと無気力な声でそう言い返した。

 

 

「……っざっけんな!!ふざけんなよ!!てめぇに勝てんのは俺だけだ!!あんな奴に負けたままでいるんじゃねぇ!!」

 

 

司が珍しく、いや久しぶりと言うべきか、本気で誰かに怒りをぶつけた。椎名の胸元を首に下がっているゴーグルごと掴み上げる。

 

 

「たった1回負けただけでそれかぁ!?お前はそんな玉じゃないだろ!?…………俺は一度お前に負け、そこから這い上がり、強くなった!!」

「だから何?………疲れたんだ……もう休ませてよ」

 

 

そう言って椎名は司の手を体ごと無理矢理引き離し、屋上を降りて行く。

 

 

「………ちぃ!!」

 

 

司はその屋上を去りゆく椎名の弱々しい背中を見ながら、舌打ちをし、苛立ちを見せた。

 

この問題は大変複雑である。バトルの勝敗の結果以上に、家族のこと、伝説のカードのこと、それの強奪等が絡みに絡みまくっている。

 

少なくとも今の椎名に必要な治療は時間を費やすことであった。

 

 

******

 

 

後日、椎名は自分の故郷である離島に来ていた。今日が学校のある平日であるにもかかわらず、

 

1人でなんとか飛行機のチケットを購入し、荷物をまとめ、無事、帰郷して来れた。

 

懐かしい風、匂い、風景。それらが全て、椎名の感覚を刺してくる。

 

次はバスに乗って、自分達の住んでいた山の麓に向かった。バスの窓から覗かせる殆ど緑しかない街並みもまた懐かしかった。

 

そして10分もしないうちに到着した。ここが自分達の住んでいた山。この上にハウスが建っている。

 

ただ、そこには登らなければならない階段がある。その段数はまるでカンフー映画さながらに多く、そして長い。殆ど登山となんら変わりはない。椎名は慣れていたからか、楽々と足を上げ、だんだん上へと登っていく。

 

ーそして、

 

 

「…………着いた………戻って来たんだ……ハウスに……」

 

 

やっと到着した。椎名が約15年間大勢の家族と共に時間を共有してきた場所に、ここを出てから1年とちょっと経ったが、全く変わらず、そこには広い遊び場と大きな木の家が建っていた。

 

 

「…………し、椎名??……椎名なの?」

「…………シスター……」

 

 

広場で小さい子供達と遊んでいたのは【シスターマリア】10年前に六月が雇った若いシスターである。その服装はシスターらしく黒い服だ。

 

シスターとその小さい子供達は椎名の姿を懐かしんで近寄ってくる。1年間程度しか離れてなかったが、それでも話したい事は山程あるのだ。

 

 

「見たわよ椎名!!【界放リーグ】!!頑張ったのね!!」

「………うん、ちょっとね」

 

 

椎名は少し照れくさそうに答えた。他の小さい子供達も椎名に色々と質問したり、「遊んで欲しい」と甘えて、手や服を引っ張ったりしていた。

 

ーそしてここにはあの人物もいる。椎名が赤ん坊の頃から知っているあの老人が、

 

 

「しぃぃなぁぁ!!」

 

 

少し間の抜けた顔や声、だが、誰よりも椎名に再会できて嬉しい人物。芽座六月がハウスから飛び出して、椎名の目の前に現れた。

 

 

「あら、おじ様……やけに気づくのが早いですね?」

 

シスターが六月に言った。

 

 

「ほっほ!わしは椎名の匂いなら半径1キロ以内ならわかるからのぉ!」

「ふふ、気持ち悪いですわ、おじ様」

「ぬぉ!?マリアちゃん!そりゃないわい!?!」

 

 

シスターは少し毒舌。いや、本人自体は分かってはいないか、知らないうちに失礼な事を言うのが彼女の癖だ。

 

 

「はは、相変わらずだね、シスターもじっちゃんも、………みんなも……」

 

 

椎名がそう苦笑いしながら言った。

 

そしたら六月が椎名のことをわかっているような感じで、

 

 

「…………葉月に会ったんじゃろ?」

「え?知ってたの?」

 

 

六月は何故か椎名が葉月と密かに再会していたことを知っていた。そしてそれだけではなかった。

 

 

「そしてあいつにわしと仲直りさせようと思い、マグナモンを賭け、バトルに臨み、逆に返り討ちにあって、それを取られ、何が何だか分からなくなって帰って来た。というところじゃろ……」

「……なんでそんなに詳しく……」

「ほおっほ!わしに知らん事はない〜〜〜!」

 

 

実際は界放市の市長、【木戸相落】から聞いていたのだ。葉月が教育実習生としてこの街に、界放市に来るということが、

 

六月には葉月の狙いがわかっていた。椎名からロイヤルナイツを、マグナモンを奪いに来るということが、

 

ーそして六月は珍しく椎名に真面目で真剣な顔をして、

 

 

「…………お前にも話す時が来たようじゃの………着いて来なさい……」

「………!?!」

 

 

そう言いながら六月は椎名に背中を向け、ハウスの横の洞穴へと足を進める。不思議に思ったものの、椎名はその後を追った。シスターマリアはそれを見て「いってらっしゃい」とでも言っているかのように手を振った。

 

 

******

 

 

椎名は六月の後ろについて行く。あまり入ったことのない洞穴を歩くことは、それはそれは新鮮なものであった。

 

 

「…………着いた……」

「っ!?………ひ、広い……っ!?」

 

 

六月が椎名に案内した場所は洞穴の最奥部。だだっ広い空間だ。そこにはいくつもの石碑が置かれている。

 

 

「……椎名はわしらが【バトスピ一族】の者であるのは知っておるな?」

「………ん?まぁね」

 

 

そう、あまり世間では知られてはいないが、【芽座一族】という一族は存在する。それが六月であり、その孫である葉月なのだ。ちなみに椎名は拾い子なのでそれには該当しない。

 

 

「………そして【ロイヤルナイツ】………知っておるな?」

「うん、知ってるよ、世界でただ1枚ずつしかない伝説の13枚のデジタルスピリット………だよね……」

 

 

椎名は少なからずこの時、葉月に奪われたマグナモンの事を思い出していた。実際はどれだけあれが奪われるのが嫌だった事だろうか。

 

そして、六月は衝撃の告白をする。

 

 

「………そのロイヤルナイツは……実は我ら一族の先祖で、ある人物がそれを創生したのだ………オーバーエヴォリューションでの」

「……………っ!?!」

 

 

椎名は驚愕した。アホ毛が飛び出る程に。

 

 

「そ、それってつまり、ロイヤルナイツは元々芽座一族のカードだったって言うこと??」

「うむ、随分前に世界中にバラバラに散らばったがの………1枚1枚が強力な故に、力のみを欲する葉月はそれを全て集めようとしてるのじゃよ」

 

 

葉月がロイヤルナイツを集める理由は当然力を得、頂点に立つことかと思っていた椎名だったが、それだけではなかった。一族のカードを集める為なのだと悟った。まぁ、後者など二の次なのだろうが、

 

 

「………そして、ロイヤルナイツにはそれぞれ意思がある……」

「………?」

「つまり、持ち主をロイヤルナイツのカード自身が決めるのじゃよ」

「っ!!!……じゃあ、私はマグナモンに選ばれてたってこと??」

「まぁ、そうなるの……」

 

 

ロイヤルナイツは主人を選ぶ。葉月のアルファモンもジエスモンも葉月を主人だと認めたからこそ、今、彼の元にいる。

 

椎名のマグナモンとて同じ。六月が椎名が選ばれていることに気づいて、それを椎名に託したのだ。ただ、今は葉月がその主人となってしまったのだが、

 

 

「………かつて、ここにはロイヤルナイツのマグナモンが収められて来た。そして葉月はそれに選ばれる為に努力した……………血反吐が出るような、血が滲むような修行をの…………」

「……………葉月が………」

 

 

葉月は6年前まではここで修行していた。マグナモンに選ばれ為に。その事を聞いて、椎名は少なからず同情してしまった。一瞬だが、マグナモンは葉月の元に行って良かったのではないかとも思ってしまった。

 

 

「………だが、いくらやっても選ばれなかった………それを見かねたわしは、6年前、葉月に無茶な修行をやめさせようとした。強引にな…………だが、あいつはあの時、黒いロイヤルナイツ、アルファモンに選ばれ、そして呼び寄せ、マグナモンだけではなく、他の世界中にあるロイヤルナイツをも集めると心を固めてしまった。………そして、今がある」

「……っ!!そんな事が…………そうか、それが6年前、葉月が家を出た理由………」

 

 

椎名は6年前の出来事を知った。話を聞く限り、ジエスモンはその旅の途中でゲットした物なのだろう。

 

 

「…………あの馬鹿者……どんどんエスカレートしておるな………………」

 

 

六月はどこか思い詰めたような表情をした。

 

そして、意を決したように、

 

 

「椎名、お前に頼みがある………」

「?」

「葉月を止めてくれ………わしはおそらく奴を元に戻せるのはもう椎名しかいないと思っている……っ!!」

「…………わ、私!?」

 

 

突然の六月の提案。六月は椎名なら葉月に喝をいれれるのではないかと睨んでいた。

 

 

「………で、でも私じゃ………」

 

 

椎名はただ、バトルに対する自信を、あの葉月とのバトルで失っていた。自分ではどうにもならない。椎名はただただそれを思っていた。

 

そこで、さらに六月から提案があり、

 

 

「…………ふっふっふ……なら、ここ一番の秘密兵器を椎名に託そうではないかぁ!!」

「………秘密兵器?」

 

 

六月がそう陽気に言うと、祠の壁を押す。すると、その一部だけが移動し、謎の入れ物がその壁から出てくる。

 

ーその中にはあるカード達が入っており、

 

 

「……か、カッコいい!!」

「じゃろじゃろ!?!もっと褒めてくれ椎名!!!をっほっほ!!」

 

 

椎名はそのカラクリに興奮し、目を輝かせ感動した。六月はそんな表情の椎名を可愛く思い、大きく笑って見せた。

 

だが、そんな表情も直ぐに息を潜め、六月はすぐさま中のカードを椎名に託そうとする。

 

ー葉月すら知らない秘密もついでに添えて、

 

 

「………葉月も知らぬことじゃが、ここにあるロイヤルナイツは、本当はマグナモンだけじゃない………本当は2枚あるのじゃよ………それがこれじゃ………」

 

 

六月は椎名にその入れ物の中のカードを1枚見せる。それはまさしくロイヤルナイツ。椎名も授業で散々習った。そのカードの名前は当然知っていた。

 

ーそのロイヤルナイツの名は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………【デュークモン】……っ!!」

 

 

デュークモン。赤属性のロイヤルナイツだ。

 

椎名はそれに釘付けになる。不思議だ。名前しか知られていないカードで、初めてそれを見たはずなのに。何故か初めてではない、何処かであったような感覚が椎名を襲った。

 

六月からそのデュークモンを扱うためのカードであろうか。無我夢中になって、それごと手に取り、受け取る。

 

ーそんな時だった。椎名の手がカード達に触れたその瞬間だ。

 

 

「…………え?…………っ!?!」

 

 

空間が紅く光った。そんな気がした。

 

椎名は意識が不思議なところへと飛ばされたような感覚がした。まるで急に異世界なでも引き摺り込まれたような、そんな感覚だった。

 

 

******

 

 

「…………っ!?………ここは………」

 

 

気づくと椎名は、何故か謎の花畑に来ていた。ピンク色のコスモスの花がこれでもかと咲き誇っている。さっきまで花1つありもしない薄暗い洞穴の中にいたはずなのに。

 

いったい何故だろうか。と、椎名が考えている時だった。そんなものの答えなど出る間も無く、何者かが椎名の名を呼んだ。

 

 

「し〜〜〜な〜〜〜〜!!」

「……………え?この声………」

 

 

ガラガラだが、無邪気な子供のような明るい声。そんな声が椎名の背後から聞こえてきた。椎名はその声を知っている。

 

これはあの時、葉月に負け、保健室で眠っている時に見た夢の声と同じ。あの紅い光の声主だ。

 

そう、間違いない。こんな偶然などあるだろうか。椎名は声のする後ろを振り向いた。

 

ーが、それは想定外の人物であって、

 

 

「…………やぁ!!でしょ!また会えた会えた〜〜!!」

「……………っ!?!……な!?」

 

 

その姿に、椎名は驚きを隠せなかった。

 

それもそのはず、その声主の正体は単なる紅い光でも無く、言うなれば、【紅くて小さめの恐竜】そんな謎の生命体が椎名の目の前にいたのだ。

 

その恐竜は椎名と逢えた事を喜んでいるのか、両手を上げ、踊るように喜んでいた。

 

 

「………きよ、恐竜っ!?!………ちょっと可愛いかも……っ!!」

 

 

椎名はどんな時でもマイペースで、能天気だ。こんな状態ならパニックになるのが普通だが、驚いたのは一瞬だけで、直ぐにこの不思議な出来事に順応してしまった。

 

 

「……………僕は【ギルモン】!!………改めてよろしく〜〜!!」

 

 

紅い恐竜、いや、ギルモンは元気よくそう自分の名前を椎名に教えた。

 

 

「…………ギルモンっ!!………もしかしてギルモンはあの声の、紅い光の正体?」

「そうだよ〜〜!!ずっと椎名を待ってたんだーーー!!」

 

 

やはりそうだった。あの妙に頭に印象強く残った夢は、ギルモンの影響。不思議過ぎて椎名はもうそういうことであると勝手に自分の中で斜線を入れた。

 

ーそんなことよりも椎名はギルモンに聞きたいことがあり、

 

 

「ギルモンはスピリットなの?」

「そうだよ!!僕以外にもほら!!………」

「…………っ!?!」

 

 

ギルモンが長い鉤爪を別の方向に向ける。椎名は何かと思い、そこへと振り向くと、

 

そこには、ギルモンと同じような紅いスピリットが結構いた。

 

ー先ずはギルモンをサイズアップさせたかのようなスピリット、

 

ー次はそれより大きな体格に加え、武装を施したスピリット。

 

ー紅いマントを靡かせる白い鎧の騎士…………

 

ー極め付けは紅い飛行物体。小型ジェット機のような見た目のものが宙を自由に飛翔している。

 

 

「おおっ!!みんなカッコいい!!」

 

 

椎名はこれらのことを見ているうちに、ここが怪しいところだと疑う気持ちを完全に無くしていた。

 

ただただその目の前にいるカッコいいスピリット達の勇姿に見惚れ、感動し、高鳴るように興奮していた。

 

 

「………僕らはみんな君の力、そして友達だよ………これでやっと君といられるね〜〜!!」

「………そうか、みんな友達…………っ!!」

 

 

かつて、ここまで素晴らしい楽園があっただろうか。椎名は今、夢の世界にでもいるような気分であった。

 

ーそして、

 

 

「僕らは君を、椎名を絶対に守る!!………今日から、そしてこれからずっと………」

 

 

ギルモンが他のスピリット達の前に行き、吠えるようにそう言った。他のスピリット達も同意なのか、同じように、又はギルモンと共鳴するかのように吠え、咆哮を上げ、頷いた。椎名もそんな姿を優しい笑顔で微笑ましく見守っていた。

 

ーそして、椎名の視野が狭くなって、やがて真っ暗になった。元の場所に戻ろうとしてるのだ。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「……………っ!?!」

 

 

椎名は気づくと、元の洞穴に戻っていた。周りにはじっちゃんこと、六月がおり、その手には手渡されたカード入れを手に持っている。

 

 

「どうじゃ………」

 

 

六月が椎名に聞いた。椎名の経験した謎の世界のことではない。手に持ったカード達のことを聞いたのだ。

 

 

「ど、どうじゃじゃないよぉ!!じっちゃんんん!!すごい!!私スピリットに会っちゃった!!やっぱスピリットは本当にいるんだよ!!」

 

 

さっきまでの興奮が冷めないのか、椎名は胸が高鳴り、さっきまでのことを六月に話そうと詰め寄る。

 

六月は何のことかはさっぱりであっが、兎に角、そのカード達を気に入ってくれたことだけは完全に理解した。

 

 

「ほっほ、気に入ってくれたかな?…………やっぱり、わしは笑ってる椎名が好きじゃわい………どうじゃ?そのカード達を使って、わしとバトルしてみるかの?」

 

 

六月がまた、椎名に提案した。

 

椎名は一番大事なことを、このカード達、ギルモン達のお陰で、思い出した。

 

そうだ。バトルは楽しむものだ。ドキドキとワクワクが止まらないものだ。勝ち負けなどよりも先ず先には楽しむことが大前提であるとあるということを、

 

ーそれを葉月にも教えなければならないということも理解した。

 

 

「やるやる!!もうワクワクしかしない!!早くこのカード達でバトルしてみたいよ!!」

 

 

当然椎名の応えはイエス。バトルを承諾した。ギルモン達と出会ったことで、椎名は無気力な状態から脱していた。

 

芽座椎名はもはや完全に復活した。

 

椎名は20枚程度ある新たなカード達を、マグナモンのいない39枚のデッキにそのまま重ね、投入した。物は試しだ。先ずはどんなカードか見てみたいのだろう。

 

 

「………よし、行くかの」

 

 

六月は椎名と距離を取り、Bパッドを展開した。

 

そして椎名もそれを、Bパッドを展開した。

 

互いにデッキをセットし、始まる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが洞穴の中で始まった。

 

ー先行は、六月だ。

 

 

[ターン01]六月

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「ほっほ、メインステップじゃの…バーストを伏せ、シキツルを召喚、効果でカードをドロー……エンドじゃ」

手札5⇨4⇨5

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

シキツルLV1(1)BP1000(回復)

 

バースト【有】

 

 

「………っ!?!」

 

 

六月は流れるようにターンを進め、そして終えた。

 

場には折紙鶴のようなスピリットが召喚される。その効果は単純ながらとても有用である。

 

が、椎名は六月がその紫のスピリットを召喚したことに対して違和感しか感じられなくて、

 

 

「じっちゃん、紫のスピリットなんて入れてたっけ?」

 

 

椎名が六月に言った。

 

芽座六月と言えば、青と緑である。昔、椎名もそれを真似て今の色になっている。

 

だが、今六月が呼び出したスピリットは紫。たしかに椎名としては何事かと言わんばかりの出来事であって、

 

 

「ほっほ、椎名も試すなら、わしも新しいデッキを試したくなってのぉ、」

 

 

六月が用意したのは暇を持て余した時に構築したデッキであった。もはや何が入っているかは六月本人でさえも覚えてはいない。

 

椎名もデッキを、新たなカードを試すためのバトルであるため、六月はこのデッキがうってつけであると判断し、使用したのだ。

 

そして次は椎名の初ターン。いったいどんなバトル展開となるのだろうか。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!!」

 

 

椎名は勢いよくメインステップへと移行する。

 

そして、早速呼び出される。新たなる力が。

 

 

「……真紅の魔竜は今こそ永き眠りから覚める!!………赤き成長期スピリット、ギルモンをLV2で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

 

「…………!!」

 

 

椎名の目の前に現れたのは紅き魔竜。まだ成長期ではあるが、成長すれば強力なスピリットになると悟れる程の可能性を感じさせられるものがある。

 

 

「一緒に頑張ろうね!!ギルモン!!」

 

 

椎名の言葉に反応するかのように吠えるギルモン。夢の世界では人語を話していたが、ここでは話すことができないのか、

 

 

「……召喚時効果!カードを5枚オープン!!」

オープンカード↓

【ブイモン】×

【ワームモン】×

【エクスブイモン】×

【ライドラモン】×

【グラウモン】◯

 

 

葉月のハックモンと同等の枚数をオープンできるギルモンの効果。この中の対象のデジタルスピリットが手札に加えられる。

 

ーそしてそれがあった。

 

 

「私はグラウモンを手札に加える!!」

手札4⇨5

 

 

椎名はその中のグラウモンというカードを加えた。

 

それはギルモンの順当な進化形態であり、

 

椎名はそれを呼び出すべく、メインステップを終え、アタックステップへと入る。

 

 

「アタックステップっ!!その開始時!!ギルモンの【進化:赤】を発揮!!赤の成熟期スピリット、グラウモンを召喚!!」

グラウモンLV2(2)BP6000

 

 

ギルモンにデジタルコードが巻き付けられる。ギルモンはその中でより巨大に進化を遂げる。

 

新たに現れたのはグラウモン。ギルモンが………真紅の魔竜が一段階進化した姿である。

 

 

「ほぉー!!立派な竜じゃのぉ〜〜」

 

 

六月がそんな気楽な声をそれに向けて放つ。

 

 

「アタックステップは継続っ!!グラウモンでアタック!!そのアタック時効果でBP7000以下のスピリット1体を破壊!!」

「………っ!?」

 

 

グラウモンのアタック時効果だ。それは赤属性らしくBP以下の破壊だ。

 

六月の場には該当するシキツルが存在する。今回はそれが破壊されることになる。

 

 

「いけぇ!!グラウモンっ!!……魔炎の………エキゾーストフレイム!!!」

「………っ!!」

 

 

グラウモンの口内より放たれた熱く煮えたぎる豪炎。それが六月のシキツルをあっという間に燃えかすにした。

 

これはアタック時の効果。当然本命のアタックが残っており、

 

 

「グラウモンの本命アタック!!」

 

「………ライフで受けようかの」

ライフ5⇨4

 

 

グラウモンの両肘に備え付けられた刃が、六月のライフを1つだけ引き裂いた。

 

ーだが、それは六月のバースト発動条件であって、

 

 

「ライフの減少でバーストじゃ!!緑のネクサス、手裏剣大地!効果でコアを追加し、ノーコスト配置じゃ!!」

リザーブ2⇨3

手裏剣大地LV1

 

「………っ!!……緑のカード……」

 

 

かつて、真夏の実兄、緑坂冬真も使ったこのネクサス。手裏剣の形をした大地が六月の背後で宙を舞い、現れた。

 

 

「………ターンエンド」

グラウモンLV2(2)BP6000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、椎名はそのターンをエンドした。

 

次は六月のターンだ。

 

 

[ターン03]六月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、バーストを再び伏せ、タマムッシュをLV2で召喚じゃ……っ!!」

手札5⇨4⇨3

リザーブ7⇨1

トラッシュ0⇨2

 

「………緑のスピリットか〜〜」

 

 

前のターン、紫のスピリットを召喚した六月は、このターン打って変わって緑の玉虫のようなスピリットを召喚する。それは大変優秀なスピリットであって、

 

 

「タマムッシュの召喚時効果!このスピリットのLV分、コアを追加じゃ!」

タマムッシュ(4⇨6)

 

 

つまりは2つだ。2つのコアがタマムッシュに与えられた。そして次だ。六月はさらなる展開でバトルをメイクしていく。

 

 

「そして次はブレイブ、テッポウナナフシを召喚じゃ!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

タマムッシュ(6⇨4)

トラッシュ2⇨4

 

 

六月が召喚したのはナナフシの姿をしたブレイブで、お尻の方が鉄砲になっている。

 

これも緑では大変優秀な効果を備えており、

 

 

「このブレイブの召喚時、わしは手札を全て破棄し、椎名の手札の枚数分だけ、カードをドローする!」

「………私の手札は……5枚!?」

 

「…………よって5枚ドローじゃ!」

手札2⇨0⇨5

破棄カード↓

【フーリン】

【シキツル】

 

 

六月は少なかった手札を一気に潤していく。

 

 

「さらにネクサスのLVを上げ、アタックステップじゃ」

タマムッシュ(4⇨2)LV2⇨1

手裏剣大地(0⇨2)LV1⇨2

 

 

手裏剣大地のLVが上がる。そして六月はアタックステップへと移行し、

 

 

「タマムッシュとテッポウナナフシでアタックじゃ!」

 

 

2匹の虫が地をかける。目指すは椎名のライフ。

 

 

「2つともライフで受ける!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

2匹の体当たりが椎名のライフを1つずつ、一気に2つを破壊した。

 

 

「エンドステップ……手裏剣大地の効果で2体を回復させて、ターンエンドじゃよ」

タマムッシュLV1(2)BP2000(疲労⇨回復)

テッポウナナフシLV1(1)BP2000(疲労⇨回復)

 

手裏剣大地LV2(2)

 

バースト【有】

 

 

六月はできることを全て終え、そのターンをエンドとする。そしてそのタイミングで、手裏剣大地の手裏剣が高速で回転する。そこから巻き起こる風が、六月の2匹のスピリット達に力を与えた。

 

 

「やっぱじっちゃん強い!!燃えてきたぁ!!」

 

 

椎名はより強くその闘志を燃やしていく。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

グラウモン(疲労⇨回復)

 

 

「よし!!メインステップだ!ギルモンを再度LV2で召喚!!……そしてその召喚時!!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【ライドラモン】×

【マリンエンジェモン】×

【ディーアーク】×

【グラウモン】◯

【ブイモン】×

 

 

【進化】の効果で手札に戻っていたギルモンが再度呼び出される。そしてその効果も成功。椎名の手札に2枚目のグラウモンが手札へと加えられた。

 

ーだが、

 

 

「よし、2枚目のグラウモンを手札に………!」

手札5⇨6

 

「相手の効果によって手札が増えた時………バースト発動!!……グリードサンダーじゃ!!」

 

 

六月のバーストが待ってたと言わんばかりに勢いよく反転する。それは青のバースト。椎名もよく使っている1枚だ。それを見た椎名は思わず「げっ!?」と言葉を詰まらせる。

 

 

「この効果で相手の手札が5枚以上なら相手はそれを全て捨て、新たに2枚のカードをドローする」

 

「………くぅっ!!」

手札6⇨0⇨2

破棄カード↓

【グラウモン】

【リアクティブバリア】

【ブイモン】

【ライドラモン】

【ストームアタック】

【ファイナル・エリシオン】

 

 

六月の場から椎名の手札まで迸る青い稲妻。それは椎名の手札にまとわりつき、トラッシュへと強制的に叩き落とす。椎名はその代わりにカードを新たに2枚引いた。が、結果的に手札が多く減ってしまったのは言うまでもない。

 

 

「ちぇ……まぁいいや!グラウモンをLV3に上げて、アタックステップだ!」

リザーブ2⇨0

グラウモン(2⇨4)LV2⇨3

 

 

椎名は気持ちを切り替え、メインステップを続けた。

 

LVが上がり、大きく吠えるグラウモン。このアタックステップでも大きくやる気を見せる。

 

 

「アタックだグラウモン!!エキゾーストフレイムで今度はテッポウナナフシを破壊だ!!」

 

 

グラウモンの放つ熱線が、今度はテッポウナナフシを焼き尽くした。テッポウナナフシは灰となって姿を消した。

 

 

「ライフで受けるかの」

ライフ4⇨3

 

 

グラウモンの肘にある刃がまた六月のライフを切り裂いた。

 

 

「続け!!ギルモン!!」

 

「それもライフじゃ」

ライフ3⇨2

 

 

六月のライフまで走り行くギルモン。鋭い鉤爪の一撃でまた六月のライフを切り裂いた。

 

 

「………ターンエンド」

グラウモンLV3(4)BP7000(疲労)

ギルモンLV2(2)BP4000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

攻めには転じたものの、やはりグリードサンダーで手札を大きく削られたのが痛かったか、その後はあまり展開も出来ず、アタックだけで椎名はそのターンを終えた。

 

次は六月のターンだ。

 

このターンで彼は本腰を入れてくる。

 

 

[ターン05]六月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ……さぁ、このデッキのエースでも召喚するとするかのぉ……ネクサス、要塞都市ナウマンシティを配置、そしてその配置時効果!!これにより、召喚、月光龍ストライク・ジークヴルム!」

手札6⇨5⇨4

リザーブ8⇨1

手裏剣大地(2⇨0)LV2⇨1

トラッシュ0⇨5

 

「っ!?!今度は白ぉ!?」

 

 

六月の背後にまた1つネクサスが配置される。それは殺風景な要塞都市。そしてその中から現れるのは月の龍。月光の兆しと共にストライク・ジークヴルムが優雅な姿を見せた。

 

 

「ほっほ、そしてまだまだ終わらんぞ!ブレイブ、コテツ・ティーガーを召喚し、ストライクと合体じゃ!」

手札4⇨3

リザーブ1⇨0

トラッシュ5⇨6

 

「………っ!?」

 

 

また緑のブレイブだ。虎のようなブレイブ、コテツ・ティーガーが刀に変形し、ストライク・ジークヴルムの口に装備される。

 

そして六月はこのままアタックステップへと移行し、

 

 

「アタックステップじゃ!行け!合体スピリット!……さらにフラッシュ!タフネスリカバリーを合体スピリットに対して使用し、BPを2000アップ、BPが10000以上なら回復じゃ!」

手札3⇨2

タマムッシュ(2⇨1)

月光龍ストライク・ジークヴルム+コテツ・ティーガーBP15000⇨17000(疲労⇨回復)

 

「…………っ!?」

 

 

ジェット噴射で飛行するストライク・ジークヴルム。タフネスリカバリーの力により、さらに2度目のアタックチャンスをも得た。

 

 

「さぁ、椎名よ、どう受ける?」

 

「っ!!……ライフで受ける!」

ライフ3⇨2

 

 

ストライク・ジークヴルムの口に咥えられたコテツ・ティーガーの刀が、椎名のライフを一刀両断した。

 

 

「ほれ、もう一撃じゃ」

 

「っ!?……」

ライフ2⇨1

 

 

六月はもう一度ストライク・ジークヴルムに指示を送り、また椎名のライフを1つ一刀両断させた。

 

いよいよ椎名のライフも残り1つ。あとがなくなった。

 

そして、六月の場には未だ回復状態で居座っているタマムッシュが存在しており、

 

 

「ほっほ、これで終いかの?タマムッシュでアタックじゃ…………」

 

 

ラストアタックであると言わんばかりにタマムッシュに攻撃の指示を送る六月。

 

これで終わる。

 

ーかと思われたが、椎名にはまだ秘策をその手に握っており、

 

 

「………使うなら………ここだぁ!!フラッシュマジック!!【ブルーカード】!!」

手札2⇨1

リザーブ2⇨0

トラッシュ2⇨4

 

「………っ!!そのカードは、フラッシュでデジタルスピリットを進化させるカード……っ!!」

 

 

そう。これはデジタルスピリットをフラッシュで、好きなタイミングで進化させる可能性があるマジック。

 

だが、飽くまでも可能性があるだけ、確定ではない。デッキから4枚オープンし、その中にある進化形カードと同じ色のスピリットが場に存在すれば成立するピーキーなカード。この場合だと赤一色のスピリットが対象内だ。

 

ーつまり、今の椎名のデッキ上の4枚次第で勝負が決まると言っても過言ではない。

 

 

「…………効果で……カードをオープン!!」

 

 

椎名がためにためてデッキの上をオープンする。

 

ー結果は………

 

 

オープンカード↓

【マリンエンジェモン】×

【パイルドラモン】×

【ディーアーク】×

【メガログラウモン】◯

 

 

「…………っ!?!!」

 

「…………よし!!赤の完全体!メガログラウモン!!1コスト支払い、グラウモンから進化だ!!」

グラウモン(4⇨3)

トラッシュ4⇨5

メガログラウモンLV2(3)BP9000

 

 

青いカードがグラウモンのサイズまで拡張され、グラウモンの頭上から足元まで降りていく。グラウモンはそのカードの中で進化していた。また1つ大きくなった赤の完全体スピリット、主に上半身が武装されたメガログラウモンがそこにはいた。

 

 

「か、かっこいい!!!これがメガログラウモン!!」

「ほぉー!!これは見事な!!」

 

 

メガログラウモンの雄姿に思わず声を上げるバトル中の2人。メガログラウモンはグラウモンとは比べ物にならない程の咆哮をこの洞穴の中で上げた。

 

ーそして、

 

 

「ブルーカードの効果は召喚!!よってメガログラウモンは回復状態!!迎え撃て!!」

 

 

椎名のライフを奪おうと飛び上がるタマムッシュ。だが、その軌道上にメガログラウモンが飛び出し、それをいとも容易く手の武装で引き裂いた。

 

 

「…………ほっほ、ターンエンドじゃよ」

月光龍ストライク・ジークヴルム+コテツティーガーLV3(4)BP15000(疲労)

 

手裏剣大地LV1

 

バースト【無】

 

 

六月はできることを全て終え、そのターンをエンドとした。その表情はどこか誇らしい。

 

場のスピリットは残り1体。防御能力の高いストライク・ジークヴルムを残してのエンドだ。

 

次はメガログラウモンを呼び出した椎名のターンだ。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

ギルモン(疲労⇨回復)

メガログラウモン(疲労⇨回復)

 

 

リフレッシュステップにより、2体の真紅の竜が、咆哮を上げながら疲労より起き上がった。

 

 

「メインステップ!!ギルモンとメガログラウモンのLVをマックスに!!」

リザーブ6⇨2

ギルモン(2⇨4)LV2⇨3

メガログラウモン(3⇨5)LV2⇨3

 

 

より強くなり、一層強く咆哮を上げる2体の真紅の竜。

 

椎名は確信していた。

 

ーこのターンでバトルの決着が着くことを。

 

ーこのメガログラウモンなら決めることができることを。

 

 

「アタックステップ!!!」

「おっと、椎名!その前に、【合体中】のストライクの効果が発揮じゃ、相手のアタックステップの開始時に相手スピリット1体を選んで、このターン、其奴はアタックせねばならん………わしはこの効果でメガログラウモンを対象に取る」

 

 

ストライク・ジークヴルムが気高く咆哮を上げる。その咆哮を聞き取ったメガログラウモンはそれに共鳴するかのように同じく咆哮を上げた。

 

これでメガログラウモンは是が非でもこのターン中にアタックせねばならなくなった。

 

ーが、問題はない。

 

理由は……

 

 

「最初からアタックするつもりだよ!!いけぇ!メガログラウモン!!」

 

 

戦闘態勢に入るメガログラウモン。そしてここから怒涛のアタック時効果の始まりだ。

 

 

「メガログラウモンの効果!!相手のブレイブを1つ破壊し、カードを2枚ドロー!!ここではコテツ・ティーガーを破壊!!」

手札2⇨4

 

「…………ぬっ!?!」

「防人の刃、ペンデュラムブレイド!!」

 

 

メガログラウモンはその体躯からは想像もつかない速さでストライクへと接近。そして両腕に備え付けられた刃で、見事に合体した状態であった刀、コテツ・ティーガーだけを砕いた。

 

それだけではない。2枚ドローの効果で、グリードサンダーにやられた椎名の手札までも回復させて見せた。

 

ただ、まだこれで終わりではなくて、

 

 

「さらに!!もう1つのアタック時効果で、相手のシンボル1つのスピリット1体を破壊!!……破壊対象はもちろんストライクだよ!!」

 

 

メガログラウモンはストライクから距離を取り、エネルギーを上部の武装に溜め込む。そのパワーは究極体に勝にも劣らない程だ。

 

 

「原子の咆哮、アトミックブラスター!!!」

 

 

メガログラウモンの武装された胸部から一気に解き放たれた。

 

それは一直線に飛び行き、ストライクの腹部に命中。そしてそれをそのまま貫いてみせた。流石に堪えたか、ストライクは力尽き、倒れ、大爆発を起こした。

 

ーこれで勝負は決した。後はアタックするだけ。

 

 

「そして本命のアタックだ!!メガログラウモン!!」

 

「っ!!!…ライフで受けるっ!」

ライフ2⇨1

 

 

メガログラウモンの両腕に装備されている「ペンデュラムブレイド」と呼ばれる装備が六月のライフを一瞬にして切り裂いた。

 

ーそして、

 

 

「これで終わりだ!!ギルモン!!」

 

 

椎名の指示に、ギルモンは口内で炎を溜め込む。そしてそれを勢いよく六月のライフに向けて放った。

 

 

「…………ふふ、流石は椎名じゃ………ライフで受ける………」

ライフ1⇨0

 

 

六月はその攻撃を受け入れるように受け、最後のライフを破壊された。これにより、ライフはゼロ。勝者は芽座椎名だ。

 

 

「…………いよっしゃぁ!!!じっちゃんに勝ったよ〜〜!!」

 

 

喜びのあまりその場で飛び上がる椎名。それに呼応するようにギルモンとメガログラウモンがまた咆哮を上げた。

 

 

******

 

 

バトルも終わり、椎名と六月はその場で一息ついていた。

 

 

「どうじゃった?椎名よ……」

「どうじゃった?じゃないよ!!じっちゃん!!このスピリット達すごいよ!!凄い楽しいバトルだった!!」

 

 

椎名はさっきのバトルの興奮が収まらなかった。

 

もっと新しいスピリット達を、ギルモン達を使ってバトルがしたい。その気持ちで心が満たされていた。

 

 

「ほっほ、そうかそうか、気に入ってくれたようで良かったわい!」

「よっしゃぁ!!!こうしちゃいられない!!この調子で学園に戻って葉月に勝って来るぞぉ!!」

「ぬっ!?ちょっと待つんじゃ椎名!!今は………」

 

 

六月も椎名がギルモン達を気に入ってくれた事に満足していた。

 

モチベーションがうなぎ登りになった椎名はそんな六月など放ったらかして、洞穴の中から外へと出ようとする。今すぐに戻らないといけないからだ。何せ、葉月がジークフリード校にいるのは1週間だけ、これまでの日数を考えると、後4日くらいしか彼はいないのだ。

 

ーだが、

 

椎名が外に出ようとすると、息も尽くせない程の強風が吹き荒れていた。周りの木々がしなりにしなっており、中にはもうぽっきり折れているものもある。

 

これはいったい何事か。と椎名が思ったその時に、彼女の横に六月が来て、のほほんと説明し出す。

 

 

「おい、椎名よ、しばらくは帰れんぞ……ほれ、この辺りこの時期台風ばっかじゃからのぉ………ほっほ、」

「え、………えぇ!?!!」

 

 

今、この島全体を襲っていたものは、台風。吹き荒れる強風はそれが影響だ。風が強ければ船も出ないし、ましてや飛行機など出るわけもない。椎名はこの島のこの時期の気候をすっかり忘れていた。

 

ー果たして椎名は後4日以内に界放市に帰ることができるのだろうか。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

夜宵「本日のカードはこれです!【ギルモン】!!」

夜宵「ギルモンは椎名ちゃんが新たに得たキーカード!赤属性の中でも特に珍しい系統の滅竜スピリットです!」


******


〈次回予告!!〉

英次「椎名さん、あれから全然学園に来てないみたいなんです。やっぱりショックですよね、………ですが、安心してください!!僕がなんとかしてマグナモンを取り返してみせます!!次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「舞姫のいないジークフリード」……今、バトスピが進化を超えてみせます!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!
じっちゃんの言っていることは【第42話 芽座葉月……!!】や、【第43話 ロイヤルナイツ激突!】に通じるものがあるので是非そちらの回も参考程度に、


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第45話「舞姫のいないジークフリード」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椎名がいなくなってから3日の時が経った。椎名が学園側に何も連絡を寄こさずに故郷へと帰郷してしまったため、他の生徒達はおろか、教師陣も椎名の行方を知らない。不登校という扱いで処理されている。

 

 

「先生!!なんであの実習生に目を瞑ってはるんですか??」

 

 

ここは職員室。関西弁訛りの女の子、真夏は担任の晴太に問いただしていた。椎名のマグナモンを奪った葉月についてだ。

 

 

「……おいおい真夏、この間話しただろ?普通に奪ったならまだしも、マグナモンのカードから勝手に彼の元に行ったんだ。政府に訴えてもいい返事は返って来なかったって………証拠がないしね」

「せやけど!!」

 

 

通常。アンティルールは法律で固く禁じられている。が、今回の件については、マグナモンのカードから勝手に葉月の手元に行くという摩訶不思議な異例な事件であるため、政府に訴えても対していい返事はもらえず、この件自体が保留となっていた。

 

 

「まぁ、いざとなったら俺がなんとかしてやるから」

「じゃあ今すぐせんかい!!」

 

 

担任である晴太はこの件を対して重く見てないかのような表情、及び口ぶりであった。椎名の友人である真夏がここまで真剣に相談に来ているというのに。

 

本当は晴太だって何度も政府にこの事を告訴したのだ。だが、政府から返ってきた返答はマグナモン、ロイヤルナイツのあの謎めいた現象の証明をしてくれの一言のみ。理事長と市長もその威光には抗えないため、ここまできてしまった。

 

晴太も椎名のマグナモンを取り戻したくて精一杯なのだ。

 

 

「………はぁ、もうええわ、あたしらだけで何とかしてみせます、失礼しました………」

 

 

真夏はそう呆れながら言って職員室を出た。

 

その職員室の扉の前には雅治がいた。

 

 

「どうだった?」

「もう先生とかもお手上げみたいや、あてにならん」

「じゃあ、やっぱり僕らがどうにかするしかないね……」

 

 

とは言ったものの、実際、どうにもならなかった。彼ら、今の2年生は彼とバトルできる授業がないからだ。

 

もちろん普通に話せばバトルはしてくれるはずなのだが、葉月に限ってはそれを良しとはしなかった。椎名のようにロイヤルナイツを所持していないからだ。

 

夜宵は仕事が忙しいし、司は完全に椎名のことを見限ったため、助けようともしない。

 

唯一頼りになったのは…………

 

 

******

 

 

「芽座先生………僕とバトルしたください……っ!!」

「………」

 

 

椎名の1つ下の後輩、九白英次が、芽座葉月にバトルを申し出た。

 

ここは学園の第2スタジアム。今は1年生が実技の授業を受けていた。そして偶然にもそれは英次のクラスで、そして教える側の教師も芽座葉月だった。

 

葉月は知っている。英次が椎名側の人間であることを、

 

 

「他の生徒とバトルしなくていいのか?」

 

 

葉月が英次に聞いた。

 

基本的にこの授業はクラスの生徒とバトルするのが普通だ。だが、そんな中、英次は葉月にバトルを申し出た。要件はもちろん………

 

 

「いいんです!僕が勝ったらマグナモンを返してください!あれは椎名さんのカードです!」

 

 

……ロイヤルナイツのマグナモンだ。

 

 

「………はぁ……お前で何人目だ?」

 

 

葉月は呆れたように溜息をついた。

 

散々だった。椎名からマグナモンを奪ってからというもの、今回の英次のような生徒と何人もあってきた。

 

その時は授業中でもなかったため、断ることができたが、今回は違う。教育実習ということもあって、他の教師も葉月に点をつけるべく授業を見ている。

 

別に葉月は教師にもなりたくはないが、ここでもし何かあったらおしまいだ。このバトルは引き受けなければならなかった。

 

ちなみに、バトルを挑んできたのは真夏、雅治、夜宵の3人だ。

 

 

「…………良いだろう、相手になってやる」

「よし!」

 

 

スタジアムの中にいる2人は目の前のバトル場へと足を運び、Bパッドを展開した。そして、

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

ーバトルが始まった。

 

ー先行は、葉月だ。

 

 

[ターン01]葉月

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、ネクサスカード、No.1ノースシーロードを配置し、さらにソードールを召喚。ノースシーロードの効果でコアを追加……」

手札5⇨4⇨3

リザーブ4⇨0

ソードール(1⇨2)

 

 

流れるような葉月の展開。背後に白い街が出現したかと思えば、その直後に白と紫としても扱う小型で、腕が剣のようなスピリット、ソードールが召喚される。

 

葉月の配置したネクサス、No.1ノースシーロードはターンに1度、自分の白のスピリットが召喚されたら、そのスピリットにボイドからコアを1つ追加することができる。ソードールは紫だが、白でもあるため、この効果の恩恵を受けることができたのだ。

 

 

「……ターンエンド」

ソードールLV1(2)BP1000(回復)

 

No.1ノースシーロードLV1

 

バースト【無】

 

 

先行の第1ターン目などやれることが最低限に限られてくる。葉月はそれだけでこのターンを終えた。

 

次は果敢に葉月に挑んだ英次の番だ。

 

 

[ターン02]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、僕はゲッコ・ゴレムを召喚します!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

英次が呼び出したのは水晶が所々に付いているトカゲのようなスピリット、ゲッコ・ゴレム。このスピリットは白と青のカードで構成されている英次のデッキを万全にサポートする効果の持ち主であって、

 

 

「ゲッコ・ゴレムはメインステップ時のみ、白のシンボルを2つ追加します!そのシンボルを使って、ネクサスカード、甲竜の狩り場を配置します!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨1

トラッシュ1⇨2

 

 

ゲッコ・ゴレムの頭上に白のシンボルが2つ浮き出てくる。これはそれで軽減できる何よりの証拠だ。英次はさらに白と青のネクサスカードである甲竜の狩り場を配置した。背後に倒壊した街並みが現れる。

 

 

「さらにストロングドロー!!手札を入れ替えます!!」

手札3⇨2⇨5⇨3

破棄カード↓

【甲竜の狩り場】

【甲竜の狩り場】

 

 

青属性のデッキでは鉄板と言える手札入れ替えカード、その中でも特に扱いやすいストロングドロー。合計の手札の枚数は変わらないが、英次は手札の質を高めた。

 

 

「………アタックステップ!!お願いします!ゲッコ・ゴレム!!」

 

 

勢いよくアタックステップに入る英次。ゲッコ・ゴレムがサササッと地を這って進んでいく。

 

 

「……ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

ゲッコ・ゴレムはそのまま葉月のライフに体当たり。そのライフを1つ砕いた。

 

 

「よし!先制点は頂きました!!ターンエンドです!」

ゲッコ・ゴレムLV2(2)BP2000(疲労)

 

甲竜の狩り場LV1

 

バースト【無】

 

 

英次はそのターンを終えた。次は葉月のターンだ。

 

 

[ターン03]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ……俺は白の成長期、ハックモンを召喚!」

手札4⇨3

リザーブ5⇨3

トラッシュ0⇨1

 

「っ!!……出た、ハックモンっっ!!」

 

 

葉月は召喚した。ロイヤルナイツに成る可能性を秘めた白き竜を。その背には赤いマント、額にはゴーグルがあり、他の成長期スピリットとは一風変わった印象を与える。

 

 

「……ノースシーロードの効果でハックモンにコアを1つ置き、召喚時効果でカードをオープン!」

ハックモン(1⇨2)LV1⇨2

オープンカード↓

【リカバードコア】×

【ポーン・ダイル】×

【アルファモン】◯

【水銀海に浮かぶ工場島】×

【ハックモン】×

 

 

ハックモンの召喚時、通常の成長期より遥かに枚数が多い。今回も成功、究極体であるアルファモンが葉月の手札に加えられた。

 

 

「………俺はアルファモンを手札に加え、残りをデッキの下に戻す」

手札3⇨4

 

「…………アルファモン………」

 

 

椎名と葉月のバトルは全校生徒が観ていた。当然英次もロイヤルナイツの一柱であるアルファモンの実力は理解している。

 

このアルファモンをどうにかするかが、勝利への鍵となるだろう。

 

 

「………さらに俺はバーストを伏せる」

手札4⇨3

 

 

葉月が場にバーストを伏せる。

 

そして次だ。この次に葉月が呼び出すデジタルスピリットは、英次が何よりも驚くものであって、

 

 

「………俺はさらにマグナモンの【アーマー進化】を発揮、対象はハックモン…………っ!!」

リザーブ3⇨2

トラッシュ1⇨2

 

「……………ま、まさか…っ!!」

 

 

そのまさかだ。葉月はデッキに加わった新たなデジタルスピリットを召喚する。椎名から強奪に近い形で奪い取ったロイヤルナイツの一柱を、

 

葉月の場にいるハックモンがデジタルの粒子となって彼の手札へと帰っていく。そして代わりに現れるのはまさしく黄金の守護竜。

 

 

「…………マグナモンを召喚!!」

リザーブ2⇨0

マグナモンLV3(4)BP10000

 

「……………っ!!」

 

 

マグナモンが英次の目の前に現れた。

 

英次はこれがどれだけ嫌だっただろうか、憧れの椎名が使っていた大事なカードの1枚があんな者の手で召喚されたことが、どれだけ苦しかっただろうか。

 

 

「そ、それは椎名さんのカードです!!返してあげてください!!」

 

 

英次の必死の叫び。喉が小さいためか、あまり張っても大きな声は出ない。しかし、その必死さは嫌という程伝わったくる。

 

だが、葉月がこの程度の事に了承するわけもなく。

 

 

「何を言ってる?これは俺の力だ……取り返したくば己の力を証明して見せるんだな……」

「………っ!!」

 

 

そう冷たく、それでいて冷酷に英次を突き放す葉月。

 

そして、このタイミングでマグナモンの召喚時効果を発揮させる。

 

 

「マグナモンの召喚時効果!!相手の最もコストの低いスピリット1体を破壊するっ!!……ゲッコ・ゴレム、お前だ!!」

「……………くっ!!」

 

 

黄金のエネルギーを全域に拡大させるマグナモンの必殺技。エクストリームジハードが英次のゲッコ・ゴレムを包み込んでいく。ゲッコ・ゴレムがそれに耐えられるはずもなく、無残にもあっさり消滅してしまった。

 

 

「……そしてアタックステップ……マグナモン!!ソードール!!」

 

 

流れるようにターンシークエンスを進める葉月。次はアタックステップ。場にいる2体のスピリットが英次のライフめがけて走り出す。

 

 

「…………ライフで受けます!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

マグナモンの拳が、そしてソードールの鋭く鋭利な腕の一撃が、英次のライフを一気に合計2つも破壊した。

 

 

「…………ターンエンド」

マグナモンLV3(4)BP10000(疲労)

ソードールLV1(2)BP1000(疲労)

 

No.1ノースシーロードLV1

 

バースト【有】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとした葉月。次は英次のターンだ。葉月のバーストに気をつけながらのターンとなるだろう。

 

 

[ターン04]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨8

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップっ!!………」

 

 

英次は考えた。今のこの現状、状況を、勝つためにはどうしたらいいかを、

 

葉月の場にはマグナモンがいる。マグナモンは疲労状態でもブロックができるため、生半可なアタックは通らない。仮にアタックが通せたとしても、今度はバーストがある。おそらくはアルファモン。下手にアタックすれば間違いなく発動され、一気に不利になる。

 

つまり、英次は先ずアタックする前に、バーストをどうにかしないといけないのだ。

 

 

「………モノドラモンをLV2で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨3

トラッシュ0⇨1

 

 

英次が召喚したのは、自分のデッキの軸となる成長期スピリット、モノドラモン。その青紫の体色が特徴的な竜型だ。

 

そしてその召喚時効果も一風変わった効果だ。

 

 

「モノドラモンの召喚時!!トラッシュにあるネクサスカードを1枚手札に戻します!甲竜の狩り場を手札に戻して、そのまま配置!」

手札3⇨4⇨3

リザーブ3⇨2

トラッシュ1⇨2

 

 

ヒラヒラとトラッシュから英次の手札へと舞い戻ってくる2枚目の甲竜の狩り場。英次はすぐさまそれをも配置した。

 

 

「…………ターンエンドです」

モノドラモンLV2(4)BP6000(回復)

 

甲竜の狩り場LV1

甲竜の狩り場LV1

 

バースト【無】

 

 

英次はそれだけでそのターンを終えた。甲竜の狩り場2枚分の力により、アタックステップ中なら、モノドラモンのBPを4000上げ、マグナモンに並ぶ10000になれたと言うのに。

 

やはり、あのバーストを警戒しているがゆえか、

 

次は葉月のターンだ。

 

 

[ターン05]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨3

トラッシュ2⇨0

マグナモン(疲労⇨回復)

ソードール(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、2体目のソードールを召喚し、ノースシーロードの効果でコアを増やす」

手札4⇨3

リザーブ3⇨1

ソードール(2⇨3)LV2⇨3

 

 

葉月は2体目のソードールを召喚。再びノースシーロードの効果でコアを増やし、英次とその差を広げていく。

 

 

「アタックステップ………やれ、マグナモン」

 

 

マグナモンが肩のブースターを巧みに使い、飛翔する。目指すは英次のライフだ。

 

甲竜の狩り場の効果でマグナモンと同等のBPを得ているモノドラモンだが、英次とて、攻めてとなるデジタルスピリットに進化できるモノドラモンをこの大事な場面で失うわけにもいかない。

 

ーよって、

 

 

「………ライフで受けます!!」

ライフ3⇨2

 

 

マグナモンがその拳で勢いよく英次のライフを殴りつける。英次のライフはまた1つ砕かれ、残り2つとなった。

 

 

「……………エンドだ」

マグナモンLV3(4)BP10000(疲労)

ソードールLV2(3)BP3000(回復)

ソードールLV2(3)BP3000(回復)

 

No.1ノースシーロードLV1

 

バースト【有】

 

 

葉月はこのターン。様子見だけか、特に大きく動き出すことなく、ただ1度のアタックだけでターンを終了させた。

 

次は英次のターンだ。ここあたりでどうにかしないとジリ貧になりかねないが………

 

 

[ターン06]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨6

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップは行わず、そのままアタックステップに移行します!!」

「………………そうか」

 

 

英次の意気込みが伝わって来たか、葉月はこのターンで彼が何かしらを仕掛けることを見抜く。

 

それは的中している。英次はこのターンで一気に勝負を決める気でいた。

 

 

「モノドラモンでアタック!!そしてアタック時効果の【超進化:白/青】を発揮!!完全体のデジタルスピリット、サイバードラモンに進化!!」

サイバードラモンLV2(4)BP16000

 

 

モノドラモンにデジタルコードが巻き付けられ、その中で進化を果たしていく。新たに現れたのは黒いボディの竜型スピリット、サイバードラモンだ。

 

このスピリットは完全体。是が非でもアタックせねばならなくなる。

 

 

「アタックステップは継続!!サイバードラモンでアタックです!!」

 

 

走り出すサイバードラモン。そしてこのタイミングで、英次はあるカードを手札から引き抜く。

 

ーそれは自分のオーバーエヴォリューションによって手に入れた奇跡の1枚であって、

 

 

「さらにフラッシュアクセル!!ジャスティモン!!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨4

トラッシュ0⇨2

 

「……………っ!!」

 

 

流石の葉月も少々驚きを見せる。それもそのはず、そんな名前のスピリットなど聞いたことがないからだ。

 

場に現れる謎の人影。それは葉月のソードールの前に立ち、その強靭な装備が施された腕で、それを叩き潰した。

 

 

「ジャスティモンの効果で相手のスピリット1体をデッキの下に送ります!さらにこの効果で送った相手のスピリットのコスト分だけデッキを破棄!!」

 

「……………」

破棄カード↓

【ジャコウ・キャット】

 

 

葉月に向けて放たれる青い衝撃波。それはソードールのコスト分。すなわちデッキから1枚のカードを破棄させた。

 

実際はそんなものなんの痛手にもなりはしない。

 

この後だ。この後がジャスティモンの真骨頂であると言える効果だ。

 

 

「さらにこの効果発揮後、1コストを支払って召喚できる……………正義の名の下に僕は君を呼ぶ!!究極体、ジャスティモンをLV3で召喚!!」

リザーブ4⇨0

サイバードラモン(4⇨3)

トラッシュ2⇨3

ジャスティモンLV3(4)BP16000

 

 

英次の場に現れるのはまさしく正義のヒーロー。赤いマフラーを靡かせ、今地上に降り立った。

 

 

「…………俺も知らないカード………お前もオーバーエヴォリューションを行えた者だったか………」

「そうです!!そしてこのターンで一気に決めます!!」

 

 

そう強く宣言しながら、英次はまた手札のカードを1枚引き抜いた。それは【アルファモン】を抹消するためのカードだ。

 

 

「フラッシュマジック!!アビスブレイク!!」

手札3⇨2

サイバードラモン(3⇨2)LV2⇨1

トラッシュ3⇨4

 

「……………っ!?!」

 

 

英次の放ったそのマジック。それは白と青のデッキなら強力な効果を2つ発揮できる強カードだ。

 

 

「この効果で、先ずはコスト4以下のスピリット、ソードールを破壊!!」

「……………ぐっ!」

 

 

鋭い水の斬撃が葉月の2体目のソードールを襲う。逃げる間も無く切り裂かれてしまい、1体目同様、なす術なく消えてしまった。

 

ーそして当然これだけでなく、

 

 

「さらにアビスブレイクの追加効果!【連鎖:白】!!この効果で、相手のバーストを1枚破棄します!!」

「……………っ!?!」

 

 

2度目の水の斬撃が狙うのはスピリットではなく、裏側のバーストカード。無敵のアルファモンと言えど、この状態では流石に効果を受けてしまう。

 

そしてそれは綺麗に葉月の場にあるそれに突き刺さり、消滅していく。

 

ーだが、葉月のそれを破棄するには、まだまだ詰めが甘かった。

 

 

「………………え?」

 

「……………俺のアルファモンを狙ったつもりだったのか?……」

バースト破棄カード↓

【絶甲氷盾】

 

 

英次は破棄されたカードを見て焦りを覚えた。

 

ーそれは【アルファモン】ではなく、白のマジックカード、【絶甲氷盾】全く別のカードであった。

 

 

「………な、なんで……っ!?」

「お前のデッキは白と青。それは最初のゲッコ・ゴレムを召喚した時点で理解していた、つまり、アビスブレイクが入ってる事も分かっていた。お前が勝負を決めるターンで使ってくる事もな!!」

「……………っ!!?!」

 

 

葉月は最初からこうなる事を予測していた。だから無闇にハックモンの効果で公開情報となったアルファモンを伏せる事をせずに、敢えてフェイクとして別のバーストをセットしたのだ。

 

ーだが、

 

 

「で、ですがどちらにせよこのターン中にバーストを伏せる事は不可能です!!その前にこのサイバードラモンとジャスティモンの連続アタックで一気に決めます!!」

 

 

そうだ。バーストは基本、メインステップ中しか伏せることができない。そのため、このアタックステップではどうしてもアルファモンをバースト召喚する事はできないのだ。

 

英次の手札にはさらに回復系のマジックがあるため、マグナモンよりBPの上な2体を使い、それを無理矢理突破する気でいる。

 

が、あの芽座葉月には一切の隙がなく。

 

 

「………バーストカードをエースとする俺が、バースト破棄対策のカードを入れていないとでも思ったか?」

「………え?」

 

 

そう言って葉月は手札からまた1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!!救世神撃破!!」

手札3⇨2

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨4

 

「っ!?!……赤のカード!?」

 

 

葉月が発揮させたのは赤のマジック。それはバーストを多く扱うデッキならば、とても使い勝手の良い効果であって、

 

 

「その効果で俺はカードを1枚ドローし、その後俺は新たなるバーストカードをセットする!!………よってこのカードを伏せる!!」

手札2⇨3⇨2

 

 

葉月の場に再びバーストが裏向きでセットされる。

 

ーそれはもう紛うことなき、あの伝説のデジタルスピリットであって、

 

 

「………そ、そんな………」

 

「お前のサイバードラモンのアタック中だったな!!…………ならライフで受けてやろう!!」

ライフ4⇨3

 

 

もはや英次にそれを止める選択肢はない。サイバードラモンの鋭く鋭利な鉤爪が、勢いよく葉月のライフを引き裂いた。

 

ーそしてようやくここで発動される。

 

 

「…………俺のライフの減少により、バースト発動!!【アルファモン】!!」

「……………ぐっ!!」

 

 

阻止できなかった。その黒いロイヤルナイツの発動を…………

 

その1つ1つが洗礼された効果が、英次の場を襲う。

 

 

「先ずはこの効果で相手のスピリット1体をデッキの下に送る!!ジャスティモン!!俺の眼前から失せろ!!」

「っ!??!ジャスティモン!?!」

 

 

ジャスティモンの背後に突如として現れるデジタルゲート、そこから現れる黒い拳。それは瞬く間にジャスティモンを鷲掴みにし、それをデジタルゲートへと引きずり込んで行った。

 

 

「さらに俺は手札4枚になるまでドロー!!」

手札2⇨4

 

 

葉月はさらにその効果で手札を初期の枚数へと戻す。

 

ーそして次はようやくそれの召喚だ………

 

 

「この効果発揮後、これを召喚するっ!!…………来い!漆黒のロイヤルナイツっ!!アルファモン!!」

リザーブ3⇨0

アルファモンLV2(3)BP14000

 

 

葉月の場に現れるデジタルゲート。そこからその黒い拳の正体が現れる。召喚されたのは漆黒のロイヤルナイツ、アルファモンだ。椎名のエーススピリット達を次々と倒していったその強さは英次の記憶にも新しい。

 

 

「………そ、そんな………ここまでやってアルファモンの召喚を許すなんて…………」

 

 

完璧な戦法のはずだった。アルファモンを破棄しつつ、マグナモンを破壊した挙句、ライフを残り1まで追い込めたはずだった。

 

だが、結果は見ての通り、もはやフラッシュを打つ間も無く、アルファモンの召喚を許してしまった。

 

ー最悪の結果だ。

 

 

「……エンドステップにサイバードラモンは自身の効果で回復…………た、ターンエンド………」

サイバードラモンLV1(2)BP7000(疲労⇨回復)

 

甲竜の狩り場LV1

甲竜の狩り場LV1

 

バースト【無】

 

 

自身の効果により再び起き上がるサイバードラモン。だが、タイミングが遅い。

 

英次は結局サイバードラモンでアタックしただけでこのターンを終える運びとなった。

 

 

[ターン07]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

マグナモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ………俺は再びハックモンを召喚!!ノースシーロードの効果でコアを置き、そしてその召喚時効果でカードをオープンするっ!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨2

ハックモン(1⇨2)LV1⇨2

オープンカード↓

【ポーン・ダイル】×

【ドリームリベンジ】×

【ジャコウ・キャット】×

【水銀海に浮かぶ工場島】×

【ジエスモン】◯

 

 

葉月はここでまた残していたハックモンを展開する。

 

そしてその召喚時効果も成功。3枚目のロイヤルナイツ、ジエスモンが彼の手札に加えられる。

 

 

「俺はこのカード、ジエスモンを手札に加え、残りをデッキの下に送る………そしてこいつの煌臨を発揮!!対象はハックモン!!その効果でコアを3つ追加!!」

手札4⇨5

リザーブ2s⇨1

トラッシュ2⇨3s

ハックモン(2⇨5)LV2⇨3

 

「……………っ!?!」

 

 

ハックモンが聖なる光を纏う。それはまさしく究極進化の光。そして進化する先はこれまた伝説のデジタルスピリット…………

 

 

「究極進化ぁぁあ!!………ジエスモンッ!!」

ジエスモンLV3(5)BP14000

 

 

聖なる光が晴れるとそこには全てが劔になったかのような聖騎士型のデジタルスピリット、ロイヤルナイツのジエスモンがいた。

 

これで葉月の持つ3体のロイヤルナイツが場に出揃った。

 

 

「………ろ、ロイヤルナイツが3体………っ!?!」

「あぁ、そしてこれで終わりだ……」

 

 

容赦がない。葉月はジエスモンの煌臨時効果をも使用し、英次をさらに絶望の淵まで追い込む。

 

 

「ジエスモンの煌臨時効果!!お前のスピリット、ネクサスを合計3つまで手札に戻す!!……サイバードラモンと甲竜の狩り場2枚を手札に戻す!!」

「えっ!?!ネクサスも!?」

 

 

ジエスモンの周りを自由に浮遊する3つのオーラ。それらが英次の場に飛び交っていく。それに貫かれたサイバードラモンと2枚のネクサスはデジタルの粒子となって英次の手札へと帰っていった。

 

 

「…………っ!?!」

手札2⇨5

 

「アタックステップ…………やれ、アルファモン」

 

 

そしてすぐさまアタックステップへと移行する葉月。アルファモンが再びデジタルゲートを使い、その場で姿を消し、そして英次の目の前に現れる。

 

 

「………ら、ライフで受けるっ!!」

ライフ2⇨1

 

 

アルファモンはその漆黒の拳で英次のライフを殴りつけた。英次のライフは1つを残し、粉々に砕けた。

 

ーそして次のアタックで終わりだ。

 

英次は直前に椎名と葉月を比べていた。

 

同じ時間を過ごした義理の兄妹であるはずなのに、なぜこうも違うのかと。椎名を明るい太陽とするならば、彼はまるで暗がりの月。凍てつくような夜にしか現れない、冷酷で残酷な月だ。

 

 

「終わりだ………やれ、ジエスモン……」

 

 

最後のアタックはジエスモンに決めた葉月。そのジエスモンが3つのオーラと共に宙を舞う。目指すはもちろん英次のライフだ。

 

ーもはや英次にそれを止める術はなかった。

 

 

「…………くっ!!ごめんなさい………椎名さん………っ!!!…」

ライフ1⇨0

 

 

1回だけでない。英次は心の中で何度も椎名に謝った。不甲斐ない自分が情けなく思えて仕方なかった。

 

ジエスモンの高速の剣技が英次の残った1つのライフを切り刻んだ。

 

これにより、英次のライフはゼロ。よって勝者は芽座葉月だ。

 

3体のロイヤルナイツがバトルの終わりに伴い消滅していく。まるでそれを知らせるためかのように、

 

英次は力が抜け、腰が抜けたように膝をついた。そしてその授業の終わりを告げる優雅な音色のチャイムが鳴り響く。葉月は資料をまとめ、颯爽とスタジアムを出ようとする。

 

 

「…………あんな奴に憧れたお前が、俺に勝てるわけがないだろう………」

「…………っ!!」

 

 

英次にはこの別れ際に放った葉月のセリフが理解できた。【あんな奴】とはおそらく椎名のこと。その冷たく、冷酷な言葉は、英次を怒りの感情へと沈めていく。

 

 

「ふ、ふざけるなぁ!!!椎名さんはあなたよりずっと強い!!強いんだぁ!!」

 

 

思わず心から溢れ出てしまった言葉。その場にいた同じクラスの者達や他の教師も何事かと思い、そちらに目を向けていく。

 

その言葉を聞いて、葉月は一瞬だけ立ち止まるが、すぐさままた歩みを進め、この第2スタジアムを出て行った。

 

心の中で英次の言葉を何よりも否定しながら…………

 

ーそんなことあるものか、一度も自分に勝てたこともないあの泣き虫が自分よりも強いなど、おかしな話だ。と思いながら…………

 

 

 

ーそしてその後は誰も葉月とはバトルも出来ず、マグナモンも彼の手にあるまま、とうとう彼の研修期間が終わりを告げてしまった。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

今日は土曜日。その昼過ぎのことであった。葉月は空港にいた。また別の場所でロイヤルナイツを探そうと、旅を続けるつもりだ。

 

この界放市での成果は得られた。そしてもう用済みだ。

 

ーだが、終わってなかった。まだまだ彼に挑むものがいる。

 

 

「……………おい、あんたちょっとええか?」

「話があります………」

「…………?」

 

 

そう言いながら葉月の後ろから声をかけたのは、

 

真夏と雅治。

 

 

「…………なぜお前ら俺がここを出て行く時間帯と場所がわかった………?」

 

 

葉月は不思議に思った。

 

真夏と雅治は夜宵の得意な占いの力に賭けた。そして夜宵は見事に葉月の場所を特定し、現在に至る。ちなみに夜宵も付いて行きたかったが、仕事のため来ることは叶わなかった。

 

 

「もう研修生じゃないやろ?そして時間もある」

「さぁ、椎名のマグナモンを賭けて僕たちとバトルしてください……っ!!」

 

 

2人は葉月にそう強く宣言した。

 

ーだが葉月は……

 

 

「お前らとバトルする理由などない……去れ」

 

 

冷たく引き離そうとする。今の葉月にとって、ロイヤルナイツを持たない人間。又は弱い人間とのバトルはほとんど価値がない。この間の英次とのバトルも時間の無駄だと思っていたほどだ。

 

 

「またそうやって私らから逃げるんか?そんなにロイヤルナイツが奪われんのが辛いか?」

 

 

真夏も雅治も引き下がろうとはしない。葉月を煽り出す。

 

が、葉月はそんな安い挑発に乗るタイプではない。そのまま彼らを通り過ぎようとした。

 

ーその時だった。

 

 

 

 

 

「おいおい…………ここにいたのかよ……芽座先生……」

「………?」

「え?」

「空野先生………」

 

 

そこにいたのは椎名達のクラス担任、空野晴太。

 

彼はこっそりと真夏と雅治の後をついてきていたのだ。

 

ー葉月に会うために。そして、椎名のマグナモンを取り返すために………

 

 

「空野晴太……なぜあんたまでここにいる?」

「ダメか?君の担当は俺だぜ?…………どうだ、そのバトル、俺だったら受けてもいいんじゃないか?」

「「………っ!?」」

 

 

晴太は葉月に唐突に宣言してきた。ここでの意味合いは、真夏と雅治に変わって、晴太がアンティルールでバトルしようということになる。

 

晴太は仮にも教師だ。法で禁止されているアンティルールをやるなど、普通ならその口から出るわけがない。

 

 

「……せ、先生……」

「………あんた程の教師がアンティルールをやってもいいのか?下手すれば退職させられるぞ?」

「君も教師志望だろ?じゃあやったら不味かったんじゃないか?」

「ふん……既に分かっているだろう?俺はもともと教師など目指してはいない……」

 

 

そうだ。晴太とて当然理解している。これがどんなに危ないことか、だが、それでもやらねばならかった。理不尽にカードを奪われた椎名のためにも………

 

ひとりの教師として、それを最後まで見過ごすことができなかったのだ。

 

 

「ふっ!……まぁ、いいだろう、その伝説バトラーに勝も劣らない力、俺に見せてみろ!」

「よし、じゃあ場所は屋上でな、人少ないし……」

 

 

葉月は強い者とのバトルを求めていた。今の自分の限界を知りたいのだ。つまりこのバトルは引き受ける。空野晴太という強靭なバトラーが相手であるからだ。

 

 

「は、晴太先生………なんで?」

 

 

屋上に向かう途中、真夏が晴太に聞いてきた。

 

 

「はは、悪かったなぁ真夏、でも安心しろ、ここからは大人の仕事だ………」

「空野先生も芽座先生の研修期間が終わるのを狙ってたんですね?」

「あぁ、そういう事、研修中は俺も芽座葉月も忙しいから、やるならこのタイミングしかなかったんだ………」

 

 

今度は雅治が聞いた。真夏と雅治はその晴太の溜まっていた苦しい想いがようやく理解できた。

 

晴太の教師人生のかかった一戦が幕を開けようとしていた。

 

ーそして4人とも屋上に到着。6月という微妙な季節のこの頃は、屋上に人は滅多に集まらない。広い空間もあって、バトルするには打って付けの場所であった。ただ少しばかり気になるのは航空機の影響で他より風が強く吹いている事くらいか。

 

 

「さぁ、始めようか………」

「いいだろう……俺の力をとくと味わうがいいっ!!」

 

 

真夏と雅治が見守る中、空野晴太と芽座葉月が自分のBパッドを展開し、バトルを始めようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーその時だった。屋上の扉の方から声が聞こえてきた。

 

ーそれはそれはとても大きい声。うるさいが、元気で、明るくて、優しい。そんな透き通るような甲高い声。

 

 

 

 

 

 

 

「そのバトル、ちょぉぉぉぉぉぉっと、待ったぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「!?!」」」」

 

 

 

その場にいた一同は全員が驚愕した。

 

 

 

 

ー何せ、その声主は、

 

他でもない、行方知らずの【芽座椎名】であったからだ。

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

英次「今日のカードは【ジエスモン】です!!」

英次「ジエスモンは白属性のロイヤルナイツ!手札に戻す効果に加えて、バースト破棄や、アンブロッカブル効果など、有用なものをいっぱい持ってます!流石は伝説のロイヤルナイツの一柱ですね!」


******


〈次回予告!!〉


椎名「みんなお待たせ!!やっと帰って来れたよ〜〜……さぁ、葉月!リベンジマッチだ!!私の新しいデッキの強さ、思い知らせてやるっ!!次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ…「新エース! デュークモン!!」……今、私が進化を超えるっ!!」



******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!

さて、次回はタイトル通り、いよいよデュークモンの登場となります!お楽しみに!!


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第46話「新エース! デュークモン!!」

 

 

 

 

 

 

 

空港の屋上で、真夏と雅治が見守る中、空野晴太と芽座葉月がバトルしようとしていた直後、唐突に行方知らずだった芽座椎名が現れた。

 

 

「さぁ!葉月!リベンジマッチだ!!どっからでも相手になってやるっ!!」

「………椎名っ!!」

 

 

葉月に人差し指を刺し、宣戦布告をする椎名。その顔の表情は果てしない自信に満ち溢れている。葉月はそれを見て腹立たしい気分に侵されていく。

 

ーだが、その前に、

 

 

「………し、椎名ぁぁぁぁぁあ!?!!」

 

 

真夏が大きな声で彼女に近づく。これでも約一週間ぶりの再会なのだ。驚くのも無理はない。

 

 

「あ、真夏っ!久しぶり〜〜〜」

「軽っ!!軽いわぁ!!ボケェ!!どんだけ心配した思っとんのやぁぁぁぁぁ!!」

「えぇ!?ごめんごめん!?!」

「取り敢えず無事でよかったよ!」

 

 

久しぶりということもあって盛り上がる椎名、真夏、雅治の3人。

 

そんな中、椎名は話を元に戻して、

 

 

「まぁ、何はともあれ…………先生!そこ代わってよ!!」

 

 

椎名は晴太に向かって言った。自分が代わってバトルすると言わんばかりに、

 

 

「椎名、お前学園側に何も連絡しないで、いったいどこに行ってたんだ?」

「ちょっと故郷までね〜〜」

 

 

晴太は単純に椎名がどこに行ってたのか気になっていた。本当は叱るべきなのだろうが、ここまで長期に渡って不登校になってたこともあって、とてもそんな気分になれないでいた。

 

 

「椎名、ここからは大人の仕事だ……マグナモンは俺が取り返す……お前はそこで真夏達と観戦してろよ」

 

 

晴太は敢えて椎名をバトルさせない選択肢を取ろうとした。別に教師として良いところを見せようとしているわけではない。椎名にまた苦しい想いをさせるのが嫌なのだ。

 

必ず勝てるのならわかる。

 

しかし、相手は【芽座葉月】。少なくとも今の椎名では勝てないのは明白。ロイヤルナイツのマグナモンがいないのなら尚のこと…………

 

ーだが、

 

 

「嫌だっ!!決着は私がつける!!奪われたものは自分で取り返すっ!!」

「…………っ!!?!」

 

 

あぁ、またこれだ。晴太はそう思った。これだけ覚悟を決めた眼を向けられて、自分がバトルをしたら、逆に教師として恥をかいてしまう。

 

あまり語られてはいないが、椎名の言動と行動力には人を動かしてしまう不思議な力がある。一種のカリスマ性と言えるものであった。

 

心苦しいが、晴太は結局その席を退くことにした。

 

 

「…………わかった……無茶はするなよ……」

「へへっ!!サンキュー先生!!」

 

 

椎名は嬉しそうにそこへと立った。自分のBパッドを展開し、バトルの準備をするが、

 

 

「………おい……誰がお前とバトルすると言った?」

 

 

葉月が椎名にそう言った。

 

そうだ。葉月にとって、ロイヤルナイツを持たない椎名とは、バトルする価値が全くない。

 

しかし、椎名があるカードを見せることによって、その考え方は変わってしまう。

 

 

「ふっふっふ!!これを見てもそう言えるかなぁ?」

「?」

 

 

椎名はドヤ顔で目をキラキラと輝かせながら、自分のデッキケースのデッキからあるカードを1枚引き抜いた。

 

それは葉月どころか真夏や雅治、晴太までもを驚愕させるものであって、

 

 

「…………っ!?!なっ!?それは………ロイヤルナイツっ!!」

「そう、赤属性のロイヤルナイツ、デュークモンだよ!」

「4枚目のロイヤルナイツ…………っ!!」

「…………し、椎名の奴、いつのまにまたあんなカードを………」

 

 

 

椎名が見せたカードは故郷である島で六月から託されたロイヤルナイツの一枚であるデュークモン。

 

 

「な、何故お前がそれを……っ!?」

「へへっ!!ちょっと色々あってね!!」

 

 

葉月は頂点に立つための力を得るため、そして一族のカードであるロイヤルナイツを欲している。つまり、今椎名が手に持っているロイヤルナイツ、デュークモンも対象内であるのだ。

 

当然、この椎名のバトルは断れなくなる。

 

 

「ちっ!良いだろう……癪だが相手になってやる……俺が勝てばそのデュークモンは頂いていくぞ……」

「よっし!そうこなくっちゃ!!」

 

 

既に2人のBパッドは展開済みである。後はデッキをセットし、始まりの宣言をするだけ。

 

ーそしてこの界放市にある空港の屋上で、それが始まる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

ーバトルが開始された。先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「行くよっ!!メインステップ!ブイモンを召喚っ!!……そして召喚時効果っ!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【ライドラモン】◯

【ギルモン】×

 

 

椎名がこのバトル、初の召喚となるスピリットは青い小型の竜。額のブイの字が特徴的なブイモンだ。

 

そしてその召喚時も成功。椎名はそこからアーマー体スピリットであるライドラモンを手札に加えた。

 

 

「よし!ライドラモンをくわえて、ターンエンドだ!!」

手札4⇨5

ブイモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

先行の第1ターン目などできることは最低限度に限られてくる。椎名はそれだけでそのターンをエンドとした。

 

次は椎名の新たなるロイヤルナイツ、デュークモンまでもを奪おうとする葉月の番だ。

 

 

[ターン02]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はネクサスカード、水銀海に浮かぶ工場島を配置し、ターンエンド!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

水銀海に浮かぶ工場島LV1

 

バースト【無】

 

 

葉月は早速いつものネクサスカードを配置した。水銀のような銀色の海に浮かぶ工場島が、葉月の背後に配置された。

 

そしてそのターンをエンド。あっという間に椎名のターンとなった。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップっ!!ネクサスカード、ディーアークを配置!」

手札6⇨5

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が配置したネクサスはデジタルスピリットを扱うならもってこいのカード。椎名の腰にその掌サイズの機械は取り付けられた。

 

さらに椎名は動く。さっき手札に加えたアレを召喚する。

 

 

「さらにライドラモンの【アーマー進化】を発揮!対象はブイモン!1コストを支払って召喚!!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

ライドラモンLV1(1)BP5000

 

 

ブイモンの頭上に黒くて独特な形をした何かが投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。そして新たに現れたのは青い稲妻を纏う獣、ライドラモンだ。

 

 

「召喚時効果!トラッシュにコアを2つ追加するっ!」

手札5⇨4

破棄カード↓

【ブイモン】

トラッシュ4⇨6

 

 

ライドラモンは登場するなり大きく、それでいて気高く吠える。すると、椎名のトラッシュにコアの恵みが2つ与えられた。しかし、【進化】や【アーマー進化】は一度進化元となるデジタルスピリットを手札に戻す効果であるため、葉月の配置したネクサス、水銀海に浮かぶ工場島の効果で椎名は手札にあるカードを1枚破棄した。

 

 

「そしてアタックステップだ!!ライドラモンッ!!」

 

 

ライドラモンが迅雷の如く場を駆ける。目指すは葉月のライフ。

 

 

「ライフだ………」

ライフ5⇨4

 

 

ライドラモンはそのまま体当たりで葉月のライフを粉々に粉砕した。

 

 

「ターンエンド!」

ライドラモンLV1(1)BP5000(疲労)

 

ディーアークLV1

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終えた椎名はこのターンをエンドとする。次は葉月のターンだ。

 

 

[ターン04]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨7

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ………俺はネクサスカード、No.1ノースシーロードを配置し、さらにソードールを召喚……ノースシーロードの効果でコアを増やす、水銀海に浮かぶ工場島もLVを上げる」

手札5⇨4⇨3

リザーブ7⇨1

トラッシュ0⇨2

ソードール(2⇨3)LV1⇨2

水銀海に浮かぶ工場島(0⇨2)LV1⇨2

 

 

葉月が場を展開していく。この流れは英次戦と殆ど同じだ。これで葉月は毎ターン1回ずつ、白のスピリットを召喚するたびにコアを増やすことができる。

 

 

「………ターンエンドだ」

ソードールLV2(3)BP3000(回復)

 

水銀海に浮かぶ工場島LV2(2)

No.1ノースシーロードLV1

 

バースト【無】

 

 

葉月が行ったのは特にそれだけであり、このターンもあっさりと終了してしまった。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨7

トラッシュ6⇨0

ライドラモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップッ!!バーストをセットし、ライドラモンとディーアークのLVをアップ!!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨2

ライドラモン(1⇨4)LV1⇨3

ディーアーク(0⇨2)LV1⇨2

 

 

椎名の場にバーストが伏せられると同時に、ライドラモンとディーアークのLVが上がった。

 

そして椎名はこのままアタックステップへと移行し、

 

 

「アタックステップだ!いけぇ!ライドラモン!!」

 

 

再び迅雷の如く場を駆けるライドラモン。

 

だが今回はそうはいかず……

 

 

「ソードールでブロックだ」

 

 

ソードールにその道を阻まれる。が、BP差は圧倒的にライドラモンが上。ライドラモンはその疾風迅雷の速度で、いとも容易く葉月のソードールを引き裂いてみせた。

 

 

「…………ターンエンド」

ライドラモンLV3(4)BP10000(疲労)

 

ディーアークLV2(2)

 

バースト【無】

 

 

互いに静かな滑り出しとなったこの序盤。

 

だが、次の葉月のターンから大きく動きを見せることになる。

 

 

[ターン06]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨7

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ………俺はハックモンを召喚するっ!ノースシーロードの効果でコアを増やし、カードを5枚オープンするっ!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨5

トラッシュ0⇨1

ハックモン(1⇨2)LV1⇨2

オープンカード↓

【ジャコウ・キャット】×

【水銀海に浮かぶ工場島】×

【絶甲氷盾】×

【救世神撃破】×

【ポーン・ダイル】×

 

 

葉月は自身の持つ成長期スピリット、ハックモンを召喚する。その効果は当然他のデジタルスピリットを探す効果だが、それは究極体に限られている。今回は失敗し、巻かれたカードはデッキの下へと送られた。

 

だが、今は問題ない。場に成長期スピリットがいればそれで良いのだ。

 

 

「…………お前に面白いものを見せてやる……っ!!」

「!?!」

 

 

そう言って葉月は手札から1枚のカードを抜き取った。それは椎名がよく知っているカード。伝説のカードと呼ばれているそれは、今は葉月のカードになってしまった。

 

 

「【アーマー進化】発揮!対象はハックモン!!1コスト支払う!!」

リザーブ5⇨4

トラッシュ1⇨2

 

「っ!?!」

 

 

その台詞だけで葉月のすること全てを理解してしまった椎名。

 

葉月のハックモンがデジタルの粒子に変化され、彼の手札に戻る。そして代わりに現れるのはまさしく黄金の守護竜。

 

 

「…………マグナモンを召喚っ!!」

リザーブ4⇨2

マグナモンLV3(4)BP10000

 

 

現れたのはロイヤルナイツの一柱、マグナモン。

 

 

「…………ま、マグナモン……っ!!」

 

 

約1年くらいだろうか。これまで幾度となく椎名を助けてきたマグナモンが、今、葉月の隣に立ち、椎名と対面していた。なんとも心苦しい光景である。

 

椎名は以前、深く付けられた心の傷が痛む。

 

…………かと思われたが、

 

 

「………や、やっぱ正面でもカッコいい!!!」

 

 

全然そんなことはなく、寧ろマグナモンの姿をいつもとは違うアングルで視認できることをに目を輝かせていた。

 

 

「おいぃ!!しゃんとせんかい!!」

 

 

真夏がツッコミに回る。

 

どうやら椎名の心の傷はほぼ完全に塞がっているようだ。雅治も晴太もそれを理解したのか、この光景を見て表情が緩やかになっていた。

 

そうだ。これが、今のこれが、この状態こそ、いつもの芽座椎名だ。

 

 

「………間抜けな奴め……マグナモンの召喚時!!最もコストの低い相手のスピリット1体を破壊するっ!!ライドラモン!貴様だ!!」

「っ!?!」

 

 

葉月の指示に従い、マグナモンは黄金の波動を放つ。それはこの場全体に広がっていく。ライドラモンはそれに包みこまれてしまい、消滅してしまった。

 

そしてこれだけではない。葉月のメインステップはまだまだ続く。次は【アーマー進化】の効果で手札に戻っていたハックモンの再召喚だ。

 

 

「ハックモンを再び召喚し、カードを5枚オープンする」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

水銀海に浮かぶ工場島(2⇨0)LV2⇨1

トラッシュ2⇨3

オープンカード↓

【ソードール】×

【ポーン・ダイル】×

【ポーン・ダイル】×

【水銀海に浮かぶ工場島】×

【ジエスモン】◯

 

 

今度は成功。葉月はジエスモンのカードを手札へと加える。

 

ーそして今度はそれの煌臨だ。

 

 

「ジエスモンの煌臨を発揮!!対象はハックモン!!効果によりコアを3つ増やす!」

ハックモン(3s⇨2⇨5)

トラッシュ3⇨4s

 

 

ハックモンが聖なる光を纏うと共に、3つのコアが創成される。進化の準備だ。

 

そしてその中でそれは大きく、気高く姿を変えていく。

 

 

「究極進化ぁぁあ!!……ジエスモンッ!!」

手札3⇨2

ジエスモンLV3(5)BP14000

 

 

現れたのはこれまたロイヤルナイツの一柱、全身が劔のようなスピリット、ジエスモンだ。その周りにはいつものように3つの橙色のオーラが漂っている。

 

 

「ジエスモンの煌臨時効果でディーアークを手札に戻すっ!!」

 

「っ!?!」

手札5⇨6

 

 

ジエスモンのオーラのうちの1つが椎名を襲う。それは腰につけられていたディーアークをデジタルの粒子に変え、手札に戻してしまった。

 

 

「さらに俺はブレイブカード、スカル・ガルダを召喚!効果でカードをドローし、ジエスモンと合体!!」

手札2⇨1⇨2

ジエスモン(5⇨3)LV3⇨2

トラッシュ4s⇨6s

 

 

さらに葉月が展開したのは骨の姿になっても尚羽ばたきをやめない巨鳥。それは場へと出てくるなり瞬時に分離し、ジエスモンの装甲の上からまとわりついていく。ジエスモンは合体スピリットとなった。

 

そして長いメインステップも終わりを告げ、いよいよ本格的にアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップッ!!やれ、ジエスモンッ!!」

 

 

手始めと言わんばかりにジエスモンにアタックの指示を送る葉月。ジエスモンの効果は手札に戻すだけに非ず、今度はバーストの破棄だ。

 

 

「ジエスモンの効果!!相手のバーストを1枚破棄!!」

 

 

ジエスモンがその手の劔からレーザーを照射させる。狙うは椎名の場にある裏側のバーストカード。

 

ーだが、椎名のバーストはそれをいとも容易く弾いていく。これには当然理由があって、

 

 

「私のバーストはマリンエンジェモン!!その効果は受けないよ!!」

「……ちぃっ!!またそれか!!」

 

 

椎名の伏せたバーストはマリンエンジェモン。これはセット状態の時、トラッシュに成長期カードがあれば相手の効果を受けない効果がある。

 

それにより、ジエスモンの攻撃を弾いているのだ。

 

 

「………だが、ジエスモンのアタック自体は有効だ!」

 

 

そう。だからとてジエスモンのアタックが完全に止まるわけではない。ジエスモンは周りにいる3つのオーラと共に宙を舞う。

 

 

「………ライフだっ!!」

ライフ5⇨3

 

 

場のスピリットが全滅した今、椎名はそれをライフで受ける他ない。

 

ジエスモンの高速の剣技が、椎名のライフを一気に2つも切り裂いた。

 

だがこれが椎名の伏せたバースト、マリンエンジェモンのバースト発動条件であって、

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!マリンエンジェモンッ!……バースト効果により召喚し、このターン、相手のコスト9以下のスピリット全ては私のライフを減らさないっ!!」

リザーブ10⇨7

マリンエンジェモンLV3(3)BP9000

 

 

椎名のバーストカードが勢いよく反転すると共に現れたのは、桃色のクリオネのようなスピリット、マリンエンジェモン。一応究極体であるそれは強力な効果をいくつか備えている。

 

マリンエンジェモンはさえずるように小さく鳴くと、椎名の周りに水のバリアが形成される。それはこの葉月のターンが終わるまで解かれることはない。

 

このターンの葉月のアタックステップは間違いなく防ぎきった。

 

 

「…………ターンエンドだ」

マグナモンLV3(4)BP10000(回復)

ジエスモン+スカル・ガルダLV2(3)BP16000(疲労)

 

水銀海に浮かぶ工場島LV1

No.1ノースシーロードLV1

 

バースト【無】

 

 

こうなっては流石に仕方がないか、葉月はそのターンをエンドとした。次はどうにかマリンエンジェモンでしのぎ切った椎名のターンだ。

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ7⇨8

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

 

 

「メインステップ、手札に戻ったディーアークを再びLV2で配置して、マジック、双翼乱舞を使用!!カードを2枚ドロー!!」

手札6⇨5⇨7

リザーブ8⇨0

トラッシュ0⇨6

 

 

椎名は今一度ディーアークを繰り出した。だが、その後に使用した双翼乱舞に、葉月のネクサスが反応する。

 

 

「馬鹿め、水銀海に浮かぶ工場島の効果で、引いた枚数分カードを捨ててもらう……」

 

 

そう。これがある。これだと椎名は手札を2枚捨てなければならない。

 

ーが、これが狙いでもあって、

 

 

「ふふっ!……私はこの2枚をトラッシュへ……っ!!」

手札7⇨5

破棄カード↓

【ブイモン】

【デジヴァイス】

 

 

椎名は特に何の変哲も無いカードをトラッシュへと破棄した。だが、これは直ぐに重要な役割を果たすことになる。

 

 

「アタックステップッ!!……マリンエンジェモンでアタックッ!!……そのアタック時効果で、トラッシュにあるネクサスカード、デジヴァイスをノーコストで配置するっ!!」

デジヴァイスLV1

 

「……………っ!!」

 

 

マリンエンジェモンが歌うように鳴くと、トラッシュからカードが場に配置される。それはディーアーク同様、デジタルスピリットをサポートする効果に長けたネクサス、デジヴァイスだ。

 

椎名の腰に、また1つ機械が装着される。

 

 

「うまいでぇ!椎名!!あれを配置するために双翼乱舞を使うたんやな!!」

「だが、そんなものに意味はないっ!!マグナモンでブロックだ!!」

 

 

確かに、これだけでは直ぐに意味のあることかは実感ができないかもしれない。マリンエンジェモンはブロッカーとしてはあまり役には立てない。椎名はマリンエンジェモンをブロッカーに立てるよりかは手札の枚数を維持することを考え、エコ的にネクサスを配置したのだ。

 

空中を飛び行くマリンエンジェモンをマグナモンが鷲掴みにする。そしてそれを地面に叩きつけ落として、無残にも爆発させた。

 

 

「…………ごめん、マリンエンジェモン。…でもこれでなんとかなりそうだよ…………ターンエンドだ」

ディーアークLV2(2)

デジヴァイスLV1

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終えた椎名は、マリンエンジェモンを犠牲にしたことを謝りながら、このターンをエンドとした。だが、ペースを握っているのは依然として葉月のまま。彼はここから一気に畳み掛ける。

 

 

[ターン08]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨7

トラッシュ6⇨0

マグナモン(疲労⇨回復)

ジエスモン+スカル・ガルダ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ………ジエスモンをLV3に、水銀海に浮かぶ工場島のLVを再び2に上げ、さらにバーストを伏せる……」

手札3⇨2

リザーブ7⇨4

ジエスモン+スカル・ガルダ(3⇨4)LV2⇨3

水銀海に浮かぶ工場島(0⇨2)LV1⇨2

 

「っ!!……バースト……」

 

 

葉月の場に伏せられたバースト見て、椎名は思わずそう反応した。あれが強力なロイヤルナイツの1枚、アルファモンである確率が極めて高いからだ。ここから先は注意してバトルを進めなくてはならない。

 

だが、それが発動する前に葉月は極力、このターンでバトルを終わらせるつもりだ。ロイヤルナイツの2体が椎名に今にも襲いかかろうとしていた。

 

 

「アタックステップッ!!ジエスモンでアタック!!」

 

 

再び合体したジエスモンが3つのオーラと共に宙を舞う。目指すはもちろん椎名のライフだ。

 

 

「っ!!……ライフで受けるっ!」

ライフ3⇨1

 

 

ジエスモンはスカル・ガルダとの合体で合計シンボルは2。その剣技によるライフダメージも2となる。

 

椎名のライフはまた2つ同時に切り裂かれた。いよいよ残り1つなった。まさしく絶対絶命の崖っぷちであると言える。

 

 

「…………ロイヤルナイツを新たに得ても持ち主がこれでは宝の持ち腐れだったな……………これで終わりだ……マグナモンッ!!」

 

 

マグナモンが椎名の最後のライフを破壊すべく走り出した。

 

 

「ま、不味いで!これくろうたら椎名の負けやん!!」

「落ち着いて緑坂さん。こういう時の椎名は……」

「あぁ………まだ負けんよな……」

 

 

椎名の敗北が決定しかけて慌てる真夏。だが、それとは別に何かを察するような表情になる雅治と担任の晴太。

 

そうだ。椎名はこの程度では終わらない。終わるわけがない。手札のカードを1枚引き抜き、前方より接近してくるマグナモンを迎撃する。

 

 

「フラッシュマジック!!……ファイナル・エリシオン!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ6⇨10

 

「……っ!?!」

「このマジックはシンボル1つの相手スピリット1体を破壊するっ!……対象はもちろんマグナモンッ!!スピリットとブレイブの効果は防げてもマジックの効果は防げない!!……………マグナモンには悪いけどここで破壊させてもらうよ!」

 

 

椎名の場に現れる謎の大きな盾。そこから紅いレーザービームが照射される。それはマグナモンに向かって一直線に飛び行き、それを貫く。流石のマグナモンも堪らず転倒し、大爆発を起こした。

 

 

「………なんだ?…………今の…………マジックは……っ!?!」

 

 

葉月がそう思わず言葉を漏らした。椎名のマジック、【ファイナル・エリシオン】のことを不思議に思ったのは彼だけではない。直ぐそばにいた真夏、雅治、晴太も全くそんなカードは知らなかった。

 

 

「シンボル1つのスピリット限定の除去…………あまり聞かない効果だね………」

 

 

雅治が言った。

 

 

「椎名の奴、ひょっとしたら4枚目の【ロイヤルナイツ】以外にも他に新たなカードがあるのか??」

 

 

晴太が言った。そう考えざるを得ない状況だった。

 

何はともあれ、椎名がそれで葉月の攻撃を凌ぎ切ったのは事実中の事実。葉月はこれでまたターンの終了を告げなければならなかった。

 

 

「くっ……っ!!………ターンエンドだ」

ジエスモン+スカル・ガルダLV3(4)BP18000(疲労)

 

水銀海に浮かぶ工場島LV2(2)

No.1ノースシーロードLV1

 

バースト【有】

 

 

葉月はこのターンで終わらせれなかったことを悔しみながら、それをエンドとした。

 

次はなんとか耐え切った椎名のターンだ。ここあたりでどうにかしなければ間違いなく敗北を喫してしまうが、

 

 

[ターン09]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

 

 

「ドローステップッ!!……………よしっ!!」

手札4⇨5

 

 

椎名のこのターンのドロー。それはまさしく奇跡とでもいうべきものであった。そしてこのターン、それは真っ先に召喚され、この後も数々の奇跡を起こしていくことだろう。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨12

トラッシュ10⇨0

 

 

「メインステップっ!!……始まりの真紅の魔竜……ギルモンをLV3で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ12⇨6

トラッシュ0⇨2

 

「っ!?!………真紅の……魔竜…だと!?……なんだそれはっ!?」

 

 

葉月はそう驚くように言葉をこぼした。まるでそれを知らないかのように。本当に知らないのだ。何せ、古の伝承より伝わっていたのはロイヤルナイツだけ、その前の進化段階など知る由もなかったのだから。

 

椎名はここで、このタイミングで、新たに得たキーカード、赤属性の成長期スピリット、ギルモンを召喚した。それはさきの【ファイナル・エリシオン】同様、椎名以外は誰も知らないカードであって、

 

 

「椎名……またわけわからんカード使いよってん……どうなってんのや?」

 

「召喚時効果っ!!カードを5枚オープン!!」

オープンカード↓

【フレイドラモン】×

【エクスブイモン】×

【ブルーカード】×

【メガログラウモン】◯

【スティングモン】×

 

 

ギルモンの召喚時のサーチ効果。それはデジタルスピリットが対象ではない。これに関しては、対象は系統滅竜を持つスピリットだ。ギルモン系のスピリットは皆この系統を所持しており、基本的にそれらを加えることになる。

 

ーそして今回はその中でも完全体であるメガログラウモンがヒットした。

 

 

「よし!メガログラウモンを手札に加えて、残りはデッキの下へ……」

手札4⇨5⇨4

破棄カード↓

【ワームモン】

 

 

椎名がさりげなくカードを破棄したが、これは葉月のネクサス、水銀海に浮かぶ工場島の効果だ。手札の枚数を増やしにくい状況が続いている。

 

が、それもこれまで、椎名は一気に畳み掛ける。

 

 

「アタックステップッ!!その開始時、ギルモンの【進化:赤】を発揮!!赤の成熟期スピリット、グラウモンに進化させるよっ!!」

グラウモンLV3(4)BP7000

手札4⇨3

破棄カード↓

【フレイドラモン】

 

 

ギルモンがデジタルコードに巻かれて進化する。ギルモンはどんどんその中で姿形を変えていく。新たに現れるたのは、サイズアップしたギルモン。角や、白い髪が生えた成熟期スピリット、グラウモンだ。

 

 

「そしてアタックステップは継続!!グラウモンでアタック!!そしてその効果で相手のネクサス1つを破壊するっ!!」

「っ!?!」

「これで厄介な工場島ともおさらばだ!!……魔炎の……エキゾーストフレイム!!!!」

 

 

グラウモンの口内から放たれる高温の熱線。それは真っ直ぐに葉月のネクサス、水銀海に浮かぶ工場島に命中。そしてそれは貫かれ、消滅していった。

 

ーそしてまだだ。まだ続く。今度は完全体の出番だ。

 

 

「さらに!!グラウモンの【超進化:赤】を発揮!!グラウモンを赤の完全体スピリット……メガログラウモンに進化させるっ!!」

リザーブ6⇨0

メガログラウモンLV3(10)BP12000

 

 

グラウモンはさらなる進化を遂げる。デジタルコードに巻かれ、その体躯はもっと大きく、広くなっていき、さらには上半身に強靭な武装も施されていく。新たに現れたのはメガログラウモン。数ある完全体スピリットの中でもトップクラスの実力を持つスピリットだ。

 

メガログラウモンは登場するなり果てしなく強い咆哮を上げた。

 

 

「…………また進化した……だとっ!?」

 

「へっへ〜ん!!…ディーアークの効果で1枚ドロー」

手札3⇨4

 

 

自分が知らないカード達の進化ラッシュに驚きを隠すことができない葉月。

 

だが、椎名がそんなことに付き合うはずもなく、アタックステップを継続させ、無慈悲にも強力なメガログラウモンでアタックしていく。

 

 

「いけぇ!メガログラウモンっ!!アタック時効果でカードを2枚ドロー!!そしてブレイブカードを1枚破壊するっ!!対象はスカル・ガルダ!!」

手札4⇨6

 

「………っ!?!」

「防人の刃…ペンデュラムブレイド!!!」

 

 

メガログラウモンは腕に装備された強靭な刃で斬撃を飛ばす。それはジエスモンと合体しているスカル・ガルダだけを正確に引き裂いた。スカル・ガルダは堪らずジエスモンとの合体を解き、そして離れ、爆発した。

 

そしてメガログラウモンのアタック時効果はここからが真骨頂であって、

 

 

「さらにメガログラウモンのもう1つのアタック時効果!!相手のシンボル1つのスピリット1体を破壊するっ!!」

「…………な、なんだと……っ!?」

 

 

この状況の場合、葉月の場にいるスピリットは1体、そしてそのシンボルも1つだ。

 

 

「破壊対象は当然!!…ジエスモン!!」

「………っ!?!」

「………くらえぇっっ!!原子の咆哮……アトミックブラスター!!!」

 

 

 

メガログラウモンは上部の武装の砲手にエネルギーと溜め、それをジエスモンに向けて一気に解き放った。それは一直線にジエスモンに飛び行き、腹部に命中、そしてそれを貫いた。

 

流石のロイヤルナイツといえど、これをまともにくらってはダメか、力尽き、倒れ、大爆発を起こした。

 

 

「……………完全体如きが、ロイヤルナイツを倒すだとっ!?………なんなんだ、お前の持つ…………その赤いカードは………っ!?!…」

 

 

葉月がそう言葉をこぼした。さっきからというもの、自分のロイヤルナイツは見たこともないカード達に負けている。顔や表情には殆ど出ていないが、いったいあれはなんなのだ。と、困惑しているのだ。

 

そんな葉月の気も知らない椎名は最後の仕上げに入る。それは、それだけは皆が知っているカード。だが、それでも名前だけだ。効果までは知らない。何せ名前だけが知られている伝説のスピリットの一柱なのだから………

 

椎名はそれを【煌臨】させる。

 

 

「フラッシュ!!煌臨発揮!!対象はメガログラウモンっ!!」

メガログラウモン(10s⇨9)

トラッシュ2⇨3s

 

「っ!!!?」

「椎名が煌臨をっ!?」

 

 

雅治がその椎名の発言に対して、そう言葉をこぼした。驚いたのは雅治だけでない、真夏や晴太、そして葉月も同じだ。

 

そもそも椎名がソウルコアで何かしらのことを行うこと自体珍しいことであった。

 

メガログラウモンはさらに強い咆哮を上げる。まるでそれは進化の兆しを感じているかのよう。

 

そしてその後、それは真紅の光に包まれていく。メガログラウモンはその中で姿を大きく変えていく。変化していく。それはもはや竜ではなく………騎士。

 

 

「真紅の魔竜よ!!今こそ真なる聖騎士となりて敵を貫け!!究極進化ぁぁあ!!」

手札6⇨5

 

 

現れるは紅いマントを靡かせる白い鎧の【ロイヤルナイツ】

 

………その名も………

 

 

「……デュークモンッッ!!!」

デュークモンLV3(9)BP18000

 

 

デュークモン。伝説のデジタルスピリット、【ロイヤルナイツ】の1体で、赤属性のスピリットだ。その鎧は白く、手は右に槍、左は巨大な盾となっている。

 

それが今、椎名の場へと降り立った。

 

 

「…………あれが赤のロイヤルナイツ………」

「………椎名の新たなエース………」

 

 

雅治が最初にそう呟くと、真夏が立て続けにまた呟いた。

 

そう。これが、これこそが、椎名の新たなエース。フレイドラモン、パイルドラモンと続く3番目のエース、【ロイヤルナイツ】のデュークモンだ。

 

ーそれが今、動き出す。

 

 

「…………来たな……デュークモン……っ!!」

 

 

葉月がそう言った。

 

 

「煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!……デュークモンはメガログラウモンのアタック中に煌臨した!!よって、今のデュークモンはアタック中っ!!」

 

 

デュークモンがその紅いマントを広げ、地を駆ける。目指すは葉月のライフ。

 

そしてこの瞬間にも使える強力な効果がデュークモンにはあり、

 

 

「デュークモンのアタック時効果!!ターンに1回、トラッシュにある滅竜スピリットを回収することで、デュークモンは回復する!!………私はトラッシュにある2枚目のギルモンを手札に戻し、このデュークモンを回復させるっ!!…………ネクスト・イストリア!!!」

手札5⇨6

デュークモン(疲労⇨回復)

 

 

椎名のトラッシュからブイモンの召喚時効果でトラッシュへと破棄されていた、2枚目のギルモンが手札に戻ってくるとともに、デュークモンの身体に紅い光が一瞬だけ灯される。これはデュークモンが回復している証。これにより、デュークモンは2度目のアタックの権利を得た。

 

 

「いっけぇ!!!!デュークモンッッ!!!」

 

 

デュークモンがその槍を葉月へと差し向ける。まるで彼に宣戦布告でもしているかのように。そしてその槍は今にも彼のライフに届きそうであり…………

 

 

「…………調子に乗るなよ……椎名っ!!……お前の一人芸もここで終わりだ…………っ!!!」

 

 

葉月が椎名に対して苛立っているかのようにそう呟いた。確かに彼は今、椎名に追い詰められているが、本当はそう見えるだけ、

 

彼にはまだ、バーストが、いや、アルファモンがある。

 

 

 

 

ー決着は次回ー




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「今回はこいつ!!【メガログラウモン】!!」

椎名「メガログラウモンはギルモンが完全体に進化した滅竜のデジタルスピリット!アタック時にドローとブレイブ破壊、そしてシンボル1つの相手スピリットの破壊と、器用で強力なものが多いよ!」


******


〈次回予告!!〉

椎名「よっし!!いよいよ葉月を追い詰めたよ!このまま一気にこのデュークモンと駆け上がるっ!!…次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「真紅と漆黒、デュークモンVSアルファモン!」……今、バトスピが進化を超えるっ!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!
本当はこのバトルは1話で収めたかったんですが、予想以上に多かったので、2話完結とさせていただきました。誠に申し訳ございません。

その代わりに、次回の投稿は【翌日、01/19の午前10時】とします。

デュークモンの回復する効果の技名【ネクスト・イストリア】に関してですが、ネクストは英語で次、次の、などですが、イストリアはギリシャ語で物語という意味があります。繋げたら【次の物語】です。個人的な自己満ですが、デュークモンらしい技名に仕上がったかと思ってます。


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第47話「真紅と漆黒、デュークモンVSアルファモン!」

前回、新しいデッキを組んだ椎名は、晴太に代わって葉月にバトルを挑むが、2体のロイヤルナイツの圧倒的戦力差により、直ぐに劣勢となってしまう。が、新たに得たギルモン系のカードを巧みに使いこなし、ついには新たなエース、デュークモンをも煌臨させてみせた。

 

 

 

******

 

 

 

「…………ネクスト・イストリア!!!」

手札5⇨6

デュークモン(疲労⇨回復)

 

 

唯一椎名の場にいるスピリット、紅いマントを靡かせる白い騎士、【デュークモン】は一瞬だけ、赤く発光し、回復状態となった。2度目のアタックの権利を得たのだ。

 

それに対し、葉月の場にあるのはネクサスである【No.1ノースシーロード】と、【バースト】のみ。

 

だが、そのバーストがこの圧倒的に椎名が有利な戦況を一変させるものであって、

 

 

「………お前の一人芸もここで終わりだっ!!」

「っ!?!」

 

 

葉月がそう叫んだ。その強気な発言で、椎名は理解した。今葉月が伏せているあのバーストが何か、

 

ーそれは直ぐに分かることであって、

 

 

「デュークモンのアタックはライフで受けるっ!!」

ライフ4⇨3

 

 

デュークモンの1度目の攻撃が炸裂。聖なる槍の一撃が、葉月のライフを1つ貫いた。

 

この一撃はとても大きいものである。椎名にとっても、そして、葉月にとっても、

 

ー葉月は待ち侘びたかのようにその裏向きのバーストを勢いよく反転させる。

 

 

「俺のライフの減少により、バースト発動!!………アルファモン!!」

「……っ!!」

 

 

その発動させられたバーストとは、椎名も予想してた通り、【ロイヤルナイツ】のアルファモン。

 

その1つ1つが洗練された強力な効果が発揮されて行く。

 

 

「この効果で、相手のスピリット1体をデッキの下へと沈める!!」

「っ!!」

「お前の場のスピリットは1体………俺の眼前から消え失せろぉお!!デュークモンッッ!!」

 

 

デュークモンの背後にデジタルゲートが開かれる。それは何者かが潜む場所。そこから黒い拳が現れ、デュークモンを掴もうとする。

 

まただ。パイルドラモンやジャスティモンと言った者達がそれに引きずり込まれてきた。そして今度はデュークモンが…………

 

しかし、今回はそう簡単には行かなくて………

 

刹那、デュークモンを掴もうとした拳を、何者かが高速で通り過ぎるように弾いた。黒い拳の持ち主は思わずそれをデジタルゲートに引っ込める。

 

 

「………なっ!?……どういうことだ!?なぜデッキに戻らない!!?」

 

 

葉月は驚いた。それは周りにいる真夏、雅治、晴太も同じ。まるで誰かがデュークモンを守ったかのように見えたが…………

 

 

「私はこれを使ったんだよ………赤のブレイブ!!【グラニ】!!」

「っ!?!」

 

 

椎名がそう言うと、その赤のブレイブ、謎の真紅の飛行物体、グラニが空中でホバーリングするかのように場へと素顔を見せた。

 

 

「グラニは手札にいる時、自分の滅竜スピリットが相手の効果の対象になったら、1コストを支払って召喚………さらにこのターン、その対象となったスピリット1体は、効果で破壊されず、手札、デッキに戻らない!!………私はこれをデュークモンに直接合体するように召喚!!」

手札6⇨5

デュークモン(9⇨8)

トラッシュ3s⇨4s

デュークモン+グラニLV3(8)BP24000

 

「っ!!?!小癪な………っ!!」

 

 

グラニは滅竜スピリットを守る力がある。デュークモンも滅竜スピリットの1種であることから、アルファモンの効果から身を守ってくれたのだ。

 

 

「………だが、効果自体を止めるわけではないっ!俺は手札を4枚になるまでドローし、この漆黒のロイヤルナイツ………アルファモンを召喚するっ!!」

手札2⇨4

リザーブ15⇨9

アルファモンLV3(6s)BP20000

 

 

葉月の場に現れるのは巨大なデジタルゲート。そこから降りてくるのは漆黒の鎧を身に纏うロイヤルナイツ。

 

ロイヤルナイツ屈指の実力者でもあるアルファモンが、彼の場へと顕現した。その重圧感と存在感は只者ではない。

 

これで椎名、葉月、両者のエースとなるロイヤルナイツが場に揃ったことになる。デュークモンとアルファモンは互いを睨み合う。まるで決戦前の侍かのごとく………

 

だが、椎名のデュークモンはまだもう一回だけアタックができる。そしてその効果はアルファモン程の大物を破壊できる強力なものであり、

 

 

「私のデュークモンは効果で回復してるからもう一度アタックできるっ!!……いけぇ!デュークモン!!さらにアタック時効果だ!!」

 

 

デュークモンがその槍になった右手を構える。それはアタック時効果を使用する構えだ。

 

 

「デュークモンのアタック時効果っ!!……シンボル2つ以下の相手スピリット1体を破壊するっ!」

「……なに……っ!?!」

「……凄いでぇ!!こんなん殆どなんでも倒せるやん!!」

 

 

椎名の効果説明に、葉月達は驚いた。確かにシンボル2つ以下が対象だと、真夏の言う通り殆どのスピリットは破壊できる。

 

 

「私が選ぶのは当然………アルファモンッ!!………くらえぇえ!!聖槍の一撃!!ロイヤルセーバー!!!」

 

 

デュークモンはそのアルファモンに向けた槍の先から、高密度、高威力のエネルギーをビームとして射出する。それは一直線に伸び、アルファモンへと向かう。

 

そして命中し、その黒い鎧を貫き、破壊……

 

………かと思えたが、

 

 

「……………え?」

 

 

椎名は思わず声をこぼした。それもそうだろう。デュークモンのロイヤルセーバーが決まった直後、荒れ狂う砂埃と爆煙が晴れていく中で、なぜかそれをくらったはずのアルファモンが生存していたのだから。

 

ーその漆黒の鎧には傷1つついてはいない。

 

 

「な、なんで………っ!?」

「残念だったな……俺は手札からこのスピリット………機巧獣ショウエンの効果、【影武者】を発揮していた………」

手札4⇨3

リザーブ9⇨7

トラッシュ0⇨2

 

「…………っ!?!」

 

 

 

【影武者】白属性の一部のスピリットが持つ専用効果だ。さっきのグラニ同様、手札から発揮でき、スピリットを効果から守る力がある。いや、どちらかといえば身代わりと言うべきか……

 

アルファモンにデュークモンのロイヤルセーバーが直撃する寸前、葉月はこの機械の猿のようなスピリット、機巧獣ショウエンの効果を発揮させ、アルファモンの盾としたのだ。

 

 

「…………なるほどね〜〜〜………でもデュークモンのアタック自体が止まっているわけじゃない!!アタック続行だ!!デュークモン!!そして今度はグラニの効果!!相手のデッキを1枚破棄!!」

 

「…………っ!!?!」

破棄カード↓

【絶甲氷盾】×

 

 

グラニが空中から葉月のデッキに向けてビームを放つ。葉月のデッキはそこから1枚だけ破棄された。

 

この効果で、葉月の場にいるスピリットと同じ系統を持つスピリットであれば、また効果でスピリットを破壊できるのだが、葉月の場にいるスピリットはアルファモンのみ、アルファモンの系統は戦機と究極体、そうそういない系統である。

 

このアタック時は無残にも空振りに終わった。

 

ーだが、椎名の言う通り、デュークモンのアタック自体は残っている。デュークモンが地を駆け、葉月のライフを狙う。

 

 

「…………っ!…ライフだっ!!」

ライフ3⇨1

 

 

デュークモンの聖なる槍の一撃が、また葉月のライフを1つ砕いた。そしてもう1つは、空中にいるグラニが突撃していき、破壊した。計2つのライフを砕いたことになる。

 

これで葉月も椎名同様、ライフ1。ギリギリの状態となった。

 

 

「…………ターンエンド!!」

デュークモン+グラニLV3(8)BP24000(疲労)

 

ディーアークLV2(2)

 

バースト【無】

 

 

椎名は出来ること、やれることを全て終えて、そのターンをエンドとした。次は見事場にアルファモンを留めた葉月のターンだ。

 

 

[ターン10]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ9⇨10

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ10⇨12

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ…………ロイヤルナイツを、デュークモンを使っても所詮はこの程度………椎名、これがお前の限界、そしてこのターンで終わりだ……っ!!」

「っ!?!」

 

 

葉月はさらにもう1体なにかを展開する。それは最初に学園で椎名とバトルした時も召喚したあれだ。

 

 

「召喚!異魔神ブレイブッ!竜機魔神を召喚し、アルファモンと右合体!!!」

手札4⇨3

リザーブ12⇨9

トラッシュ0⇨3

アルファモン+竜機魔神LV3(6)BP25000

 

 

突如現れる紫の靄。その中より姿を見せるのは機械の竜。それは特別なブレイブ。異魔神ブレイブだ。

 

竜機魔神の右の力がアルファモンに与えられる。アルファモンはより一層、その力を高めた。

 

そして葉月はアタックステップへと移行する。終わらせるためだ。このバトルを、そして椎名の持つデュークモンを得るためでもある。

 

 

「アタックステップッ!!やれぇ!!アルファモン!!竜機魔神の右効果で、お前の手札を1枚破棄!!」

 

「んーーーーこれにしよう……」

手札5⇨4

破棄カード↓

【ギルモン】

 

 

竜機魔神の吐き出す紫の靄。それが椎名の手札を攫う。これはどれか1枚を選択しない限りは離れることはない。椎名は仕方なくその中のダブついているギルモンのカードを破棄し、解放させた。

 

ーそして次はアルファモンの効果だ。

 

 

「アルファモンの効果っ!!デュークモンのコアを2つリザーブに置き、さらに2コア支払うことで、アルファモンは回復するっ!!」

リザーブ9⇨7

トラッシュ3⇨5

アルファモン+竜機魔神(疲労⇨回復)

 

「………っ!?」

デュークモン+グラニ(8⇨6)

 

 

アルファモンが無数のデジタルゲートを展開し、そこから波動弾を連射。いくつかデュークモンに被弾するが、置かれているコアが多かったか、デュークモンはそれを受けてもなお、LV3のまま、生き延びていた。

 

その後、アルファモンはデジタルゲートから自身の武器である王竜剣を手繰り寄せる。

 

実際は回復する意味など殆どない。椎名のライフは1。唯一のスピリットであるデュークモンは疲労状態であるからだ。

 

 

「ま、まずい、これをそのまま受けたら椎名の負けだ………」

 

 

雅治がそう呟いた。

 

だが、まだ椎名は負けない。その手札から1枚引き抜き、アルファモンを倒しに行く。

 

 

「まだだぁぁあ!!フラッシュマジック!!スクランブルブースター!!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨1

トラッシュ4s⇨5s

 

「…………っ!!」

「この効果で、このバトルのみ、デュークモンを疲労ブロッカーとする!!………迎え撃て!!デュークモン!!!」

 

 

白のマジック、スクランブルブースター。これで椎名はデュークモンを選択し、アルファモンへとそれをぶつける。

 

だが、BPは僅かながらにデュークモンが下回っており………

 

 

「馬鹿めぇ!!一度防いだところで結果は変わらん!!……アルファモンッッ!!!」

 

 

椎名のデュークモンの聖なる槍。そして葉月のアルファモンの王竜剣が火花を散らしながら激突する。そのパワーは若干ながらアルファモンが上だったか、徐々に徐々にとデュークモンを押していく。

 

デュークモンは不利と見たか、一旦アルファモンとの距離を取り、そこから再び槍からのビームであるロイヤルセーバーを連射する。

 

が、アルファモンには全く通じず、それらはデジタルゲートに吸い込まされたり、王竜剣で断ち切られる等で凌がれる。

 

ーそして………

 

 

「終わりだ………俺の眼前から消え失せろ…………」

 

 

葉月がそう呟いた瞬間。アルファモンは王竜剣を掲げ上げながら大きく飛び上がり………

 

 

「………究極戦刄王竜剣………っ!!!」

 

 

その剣、王竜剣をデュークモンの頭部に向けて振り下ろした。そして衝突。この場に鈍い音が鳴り響いた。

 

デュークモンの頭はいとも容易くそれに砕かれ…………破壊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーされるはずだった…………

 

 

「…………っ!?!……なっ!?」

 

 

その光景を見て、葉月は驚かずにはいられなかった。

 

何せ、砕かれていたのはデュークモンの頭ではなく、アルファモンの王竜剣の方だったのだから………

 

それは刃先からひび割れていき、やがて地面へと完全にバラバラと落ち、アルファモンの手に残るのは柄だけとなった。

 

いったい何が起きたのか………それは、その答えはなんともシンプルなものだった。

 

 

「………フラッシュマジック!!………レッドカード!!フラッシュ効果により、デュークモンのBPを3000上げるっ!!………よってそのBPは27000!!!」

手札3⇨2

ディーアーク(2⇨0)LV2⇨1

トラッシュ5s⇨7s

 

「…………っ!?!」

 

 

椎名の使ったマジック、レッドカード。これによりデュークモンのBPが瞬間的に3000も上昇したのだ。これでBP25000のアルファモンを超えた。

 

ーそして

 

 

「……この一撃で決めるっ!!………いっけぇ!!デュークモン!!!」

 

 

結果的に、不用意に近づいてきたアルファモン、デュークモンはその機を逃さず、その巨大な盾となっている左手をそれに向ける。

 

そしてそこにロイヤルセーバーとは比にならないほどのエネルギーを瞬時に蓄積し…………

 

 

「………聖盾の一撃!!!ファイナル・エリシオンッッ!!!」

 

 

椎名がその技名を叫ぶと共に蓄積されたエネルギーが盾から一直線に真っ直ぐに飛び行く。アルファモンは流石に近すぎたか、避けることは叶わず、それをもろに受けてしまう。

 

土手っ腹とマントに風穴を開けられたアルファモンは流石に力尽きたか、ゆっくりと倒れ、その場で大爆発を起こした。

 

ー椎名はようやく、ようやく強敵、アルファモンを撃破した。

 

 

「…………な、なん、だとっっ!?!」

「や、やったで!!椎名がアルファモンを倒しよった!!」

 

 

そのアルファモンが敗北する瞬間を見て、驚愕する葉月。真夏や雅治は逆にその光景を見てガッツポーズし、喜んでいた。

 

 

「スクランブルブースターの効果でカードをドロー!」

手札2⇨4

 

「…………た、ターン……エンド………っ!!」

竜機魔神LV1

 

No.1ノースシーロードLV1

 

バースト【無】

 

 

屈辱だ。こんなものは何かの間違いだ。そう信じたかった葉月だが、いくら願おうが結果は変わらない。

 

屈辱にまみれたその表情を崩さないまま、そのターンを終えた。

 

次は椎名のターン。おそらく、これが最後となるだろう。

 

 

[ターン11]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

デュークモン+グラニ(疲労⇨回復)

 

 

椎名はゆっくりとターンシークエンスを進めた。

 

ーそしてメインステップを行うことなくアタックステップへと移行し………

 

 

「デュークモンッ!!……アタックだ!効果で竜機魔神を破壊!!」

 

 

デュークモンにアタックの指示を送った。デュークモンは手始めと言わんばかりに再び槍からのビーム、ロイヤルセーバーを葉月の竜機魔神へと放つ。

 

竜機魔神はこれを回避する術はない。直撃し、ゆっくりと消滅していった。

 

そして、葉月の手札にはもはやこのデュークモンのアタックを返せるものはない。

 

ー終わりだ。長きに渡って戦慄させ続けてきた修羅も、ここで一旦落ちることになる。

 

 

「…………ば、馬鹿な!?………全てのバトラーの頂点を取るこの俺が………」

 

 

「負けるだと?」葉月がそう信じられないような想いを言いかけた時だった。

 

 

「……葉月ぃぃい!!!」

「……っ!?!」

 

 

椎名が葉月に大きな声で叫んだ。

 

 

「……前に葉月はさ!…真なる家族は血で結ばれるものだって言ってたけど………私は違うと思う!!」

「………何を唐突に……っ!!」

「きっと家族は思い出や、記憶で繋がるものなんだ!!」

 

 

椎名は咄嗟に昔、6年前に葉月に言われたことを思い出していた。これはその時からずっと6年間言い返したかった言葉だ。

 

 

「………っ!!…だからなんだと言うんだ!!何が言いたいっ!?!」

「だから私達は家族だって言ってるんだよっ!!」

「…………っ!!」

 

 

次の瞬間、デュークモンがグラニの背に飛び乗り、搭乗する。そしてそのまま凄まじいスピードで、2体は葉月のライフへと突撃していく。

 

そして椎名はその右拳を突き出しながらその技名を叫ぶ。

 

 

「……竜騎絶撃!!!ドラゴンドライバアァァァァア!!!!!」

 

「………くっ!!……ふ、ふざけるなぁぁぁあ!!!」

ライフ1⇨0

 

 

それは一瞬のうちに葉月を通り過ぎるかのように、電光石火の如く、そのライフを葉月の悲痛な叫びと共に打ち砕いた。

 

これにより、葉月のライフはゼロ。

 

ー勝者は芽座椎名だ。見事、葉月に初勝利を収めてみせた。

 

 

「…………よっしゃあ!!葉月に初勝利だぁ!!!」

 

 

椎名はこの時、芽座葉月に人生で初めて勝ち星を挙げた。

 

喜びのあまりその場で飛び上がる椎名。バトルの終了に伴い、最後まで場に残ったデュークモンとグラニはゆっくりとその場から消滅していく。

 

ーそして、あのカードもようやく椎名の元に帰ってくることになる。

 

 

「………っ!?!」

 

 

葉月のデッキから1枚のカードが浮遊する。それは椎名の強奪された【ロイヤルナイツ】の一柱、マグナモン。

 

それは謎の浮遊を続けたまま、椎名の元へと飛び立った。

 

椎名はそれをパシッと手に取った。そしてそれをゆっくりと確認する。間違いない。本物のマグナモンだ。

 

 

「………お帰り、マグナモン」

 

 

椎名はそれに対し、そう優しく告げた。

 

そして椎名はBパッドに顔を向けたまま現実逃避をし続ける葉月の前まで赴き、

 

 

「………葉月……楽しいバトルだったよ!!またやろうね!!」

 

 

椎名はあいも変わらず優しげで明るい笑顔を葉月に振る舞った。

 

 

「…………ふざけるな………っ!!」

「………っ!?!」

 

 

葉月は顔を上げて椎名にきつい第一声を放った。その顔の表情は怒りに満ちている。

 

 

「………バトルは楽しむものではない!!己が力を証明するための道具だ!!」

 

 

そう。それが葉月のバトルに対する考え方。6年前、そのこともあって、六月とも違った。

 

そんな椎名の返答は……

 

 

「………いや、違うよ……別に葉月が強さを求めるのは勝手だけどさ………やっぱりバトルはどこまでいっても楽しむものだよ……私はそう思うし、信じている…………」

 

 

ーそう言った。

 

それは界放市に来て、今まで数々の試練や苦悩を体験してきた椎名だからこそ言える言葉であった。

 

椎名とて、葉月の言う通り、力を証明するためにバトルをしたことはある。だが、その前に先ず、又はその先には、バトルを楽しむと言う気持ちが必ずあった。

 

 

「………何より私達家族だからさ!!絶対同じ気持ちになれるって!!!」

「…………」

 

 

椎名は葉月にブイの字サインを見せながらそう言った。椎名は未だに、変わってしまった葉月のことも家族だと思っている。

 

そんな椎名の言葉を聞くなり、葉月はもう疲れたのか、何も言い返しはせず、後ろを振り向き、一言二言だけを残す。

 

 

「………俺はいずれ、全てのロイヤルナイツを手にする………だが、今はお前にその2枚を預けておく………」

 

 

椎名の言っていることが何もわかっていないのか、そう言って、この空港の屋上を降りていった。椎名にはその背中がやけに寂しく見えて仕方なかった。

 

 

「…………少しでもわかってくれればいいんだけどなぁ〜〜」

 

 

椎名がそんな言葉をこぼした時だった。それを見ていた仲間達がわっと椎名に声をかけてくる。

 

 

 

「勝利おめでとう椎名!これで一件落着だね!」

 

 

先ず雅治が椎名にそう言った。椎名もそれに対して喜んで頷いた。

 

 

「椎名ぁ!!凄かったやん!!なんや他にもカードもろうたんかぁ?」

「……真夏ぁ!そうそう!オマケみたいな感じでさ〜〜〜」

 

 

次は真夏だった。椎名もそれに対し明るく受け答えをした。

 

 

「………椎名………」

 

 

最後は担任の晴太だった。名前を彼に呼ばれて、椎名もそっちの方を振り向く。

 

ーが………

 

 

「晴太先生!!勝ちましたよぉ!!マグナモンもこのとおぉぉぉり!!」

 

 

椎名が晴太に勢いよく、そして何より自慢気にその取り返したマグナモンのカードを見せる。

 

ーしかし、

 

 

「…………まぁ、それはいいんだけど……お前、何日学校無断で休んだ??」

「…………はい?」

 

 

椎名はなんか唐突に晴太がお怒りモードに入った気がした。いや、入っている。普段通り物静かであるが、確実に。

 

 

「…………え、え〜〜っと………1週間くらい?………かな〜〜」

「…………じゃあお前はこれから1週間補講だな」

 

 

晴太がそう椎名にゆっくりと静かに告げた。

 

椎名が「えぇ!?!」っとめんどくさそうな声を上げると、仲間達はまたそこが笑いのツボに入った。

 

ようやくだ。ようやくいつも通りの日常が帰ってくる。

 

 

 

******

 

 

ここは空港の中、チェックインを済ませた葉月は、その自分が乗る飛行機が来るのをただひたすらベンチに座って待っていた。

 

ーそんな時だ。メガネをかけた細身の若い男が彼に近づいていき、

 

 

「………結果はプラマイゼロか……意外と大したことないんだな……芽座葉月……」

 

 

そんな悪態をつくような言葉を彼にぶつけた。この男は先の椎名の事や葉月の事、そしてそれらが絡んだロイヤルナイツの件を全て知っているのだろうか。

 

 

「…………黙ってろ【銃魔(じゅうま)】……」

 

 

葉月がそれに対して低い声で脅すように重圧をかける。

 

だが、男は物ともせず、

 

 

「その程度で【Dr.A】の力になろうと言うのだから、本当に笑わせる……」

「お前ら小物と一緒にするな……俺が【Dr.A】に協力しているのも、奴が【ロイヤルナイツ】の情報をくれるからだ」

「…………ほぉ、小物か………」

 

 

メガネの男、銃魔は、少しだけ苛立ったか、メガネを指先で触る仕草に、彼が怒りの感情を募らせていることが感じ取れる。

 

この会話の流れでさりげなく出てきた【Dr.A】。彼は数々の事件を引き起こしてきた犯罪者だ。未だ椎名達とは直接絡んだことはないが、紫治一族と戦った時には間接的に絡んでいる。

 

また、その謎も多い。今のところは科学者であると言うことと、年長の男性であることだけが知られている。

 

このメガネの男、銃魔はその【Dr.A】となにやら密接な関係にあるらしい。

 

それだけではない。葉月もまた【Dr.A】と絡んでいるような口ぶりであった。

 

 

「………まぁ良い、貴様が提供した情報は確かだった……それだけで十分だ……まさか本当に義妹だったとはな……」

「…………俺は芽座六月の孫だ。当然知っている………そして、あいつは俺の義妹じゃない………」

 

 

葉月の言葉に対して、銃魔は軽く「そうか……」とだけ呟いた。

 

これは【芽座椎名】のことだろうか。

 

椎名も何かこれらの謎に関連してくるのか………

 

ーそして銃魔は話題を変える。それは葉月が驚くものであり、

 

 

「………にしても貴様、知らなかったんだな……【真紅の魔竜】のこと……」

「…………っ!?!お前はあれがなんなのか知っているのかっ!?」

 

 

葉月が驚くようにベンチから立ち上がった。それもそのはず、自分でも知らなかったあの椎名が使ってた謎の紅いカード達のことを、この銃魔は知っているかのような口ぶりで話してくるのだから……

 

 

「……あぁ、だが、これを話すと、【17年前の真実】に直結するが………それでも構わないか?」

「………………あぁ、構わん…話せ」

 

 

 

葉月は少しだけ悩むが、それを、真紅の魔竜達について詳しく聞くことにした。

 

銃魔が口にした【17年前の真実】

 

ー真紅の魔竜の、ギルモン系統のカード達が何故存在するのか、その過去を話すだけで、

 

ーこの物語の全貌が明らかになる。

 

ーそれを葉月は耳にすることになった。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「今回のカードは【デュークモン】!!」

椎名「私の新しいエース!!デュークモンは、赤のロイヤルナイツ!!アタック時のロイヤルセーバーはシンボル2つ以下の相手ならなんだって破壊できちゃうよ!!」


******


〈次回予告!!〉

椎名「よっしゃぁぁぁあ!!葉月に初勝利!!結局葉月を心から救えたかはわからないけど、なんか少しは進歩できた気がするよ!!……このままどんどん強くなるぞ〜〜……って、みんななんか強くなってない?…私じゃ勝てないんだけど………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ…「椎名のスランプ!? ブイorギル!」……今、バトスピが進化を超える!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!
もうしばらくこの章は続きます。


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第48話「椎名のスランプ!? ブイorギル!」

 

 

 

 

 

 

 

 

この物語が始まってからと言うもの、芽座椎名は実に多くのカードを得てきた。

 

最初から所持していたアーマー体、【フレイドラモン】と【ライドラモン】成熟期の【エクスブイモン】と【スティングモン】

 

界放リーグの予選前で手に入れたアーマー体、伝説のロイヤルナイツの一柱【マグナモン】

 

紫治一族との戦いの最中、オーバーエヴォリューションで新たに獲得したジョグレス体、【パイルドラモン】

 

そして、赤のロイヤルナイツ、【デュークモン】と【ギルモンを含む真紅の魔竜達】

 

これらのカードは椎名のデッキに強く、そして大きく影響を与えた。

 

ーだが、強すぎる力同士は時に反発し、噛み合わないこともあって………

 

 

******

 

 

 

今の時期は7月、界放リーグの学生らは1学期の期末試験中であった。

 

期末試験の内容は主に2つ。普通の科目を含めた筆記試験。

そして、バトルの実力を測る実技試験だ。

 

ー今はその実技試験の最中。生徒らがそれぞれ自由に3回までバトルをする。基本的に友達同士でやるのが生徒内の暗黙の了解なのだが、八百長や不正等を行わぬよう、教師らがそれぞれのバトル場を監視している。

 

椎名はそんな中、1戦目で真夏とバトルしており………

 

 

「これで終わりやな……いけぇ!リリモンッ!!」

「…………っぅ!ライフで……受ける」

 

 

真夏の操る緑のスピリット、ピンクの妖精リリモンが、掌から緑の波動を放つ。椎名はもはや打つ手がなかったか、手札をじっくり見てもやり返すことはできず、そのままそれを受け、最後のライフを散らした。

 

よってこの椎名と真夏のバトルは真夏の勝利となる。

 

 

******

 

 

2回目、椎名は今度は夜宵とバトルしていた。そして絶賛大ピンチ。今にも夜宵の紫のスピリット、レディーデビモンが襲いかかろうとしている。

 

 

「これで終わりだね!椎名ちゃん!レディーデビモンでアタックッ!!」

 

 

夜宵が勢いよく悪魔型の女性であるレディーデビモンに指示を送る。レディーデビモンが椎名のライフを奪おうと飛び立つ。椎名の場には赤の魔竜、グラウモンが疲労状態で1体のみ、

 

だが、ここから椎名の反撃が………

 

 

「甘いよ、夜宵ちゃん!!フラッシュマジック!!ブルーカード!!」

「っ!?!」

「このカードはデッキから4枚のカードをオープンして、その中にある進化系スピリットを、自分の場のスピリットと色が一致するように進化召喚できるっ!」

 

 

一発逆転が可能な必殺マジック、ブルーカード。この場合だと椎名の場にグラウモンがいるため、赤一色のスピリットが対象だ。椎名が4枚のカードをオープンする。

 

ーが、

 

 

「………カード、オープンッ!!」

オープンカード↓

【ブイモン】×

【パイルドラモン】×

【ディーアーク】×

【グラニ】×

 

 

ーはずれた。全部。何もかもが圧倒的にはずれた。

 

 

「…………あ、あれぇ!?!」

 

 

驚く椎名の目の前には既に夜宵のレディーデビモンが存在していた。椎名の驚いた顔に呆れながらも、そのライフを蹴り飛ばし、夜宵を勝利に導いた。

 

 

******

 

 

ラストとなる3回目、椎名は雅治とバトルしていた。

 

現在、雅治の場には、彼のエース、ハニワのような見た目に、天使のような翼をもつ黄色のスピリット、シャッコウモンがいる。

 

対し、椎名の場には何もなく、このターンであのシャッコウモンをどうにかしなければ敗北は必至であると言う状況に追い込まれていた。

 

椎名は結構ある手札と睨めっこしながら、これからの作戦を模索していた。

 

 

(ふっふっふ!!どうしようか……やっぱ先ずはこれを召喚してシャッコウモンを倒そう……………いや待てよ、そうなったら次のターンの守りがなくなるぞ…………じゃあこっちを召喚??………いや、そうなるとシャッコウモンが残るからどっちにしろ負ける…………じゃあこれから??……でもそれだとこっちの方が良くない?じゃあこれ?一回効果でカード引いてみる?でもシャッコウモンに勝てんじゃん、そしてコアなくなるじゃん……ネクサスは?…いやだからコアなくなるし、シャッコウモンに勝てないじゃん………ん?そもそも私何すればいいんだっけ?今何してるんだ?……………?!?☆)

 

 

"ボカーーーン"

 

 

そんな爆発音が椎名の頭から鳴り響いた。

 

 

「し、椎名ぁぁぁあ!?!」

 

 

ーと椎名が考えすぎた結果、その頭がショートし、爆発した。これには対戦相手の雅治もびっくり。結局試合は続行不可となり、それまで優勢だった雅治の勝ちとなった。

 

 

ー芽座椎名…………2年次1学期末試験……三連敗!!!

 

 

 

******

 

 

椎名は教室の自分の席で呆けていた。力が抜けたように、そして燃え尽きたように身体が真っ白になっていた。

 

それもそうだろう。新たなカード、ギルモンを含む真紅の魔竜や、デュークモンといった面々を取り入れ、ようやく葉月に勝つことができたのはいいものの、それから1ヶ月以上経っても椎名はあれ以降の勝利を収めれていないのだ。

 

 

「し、椎名ちゃん……大丈夫かな?」

「あかんな、あれは完全に落ち込んどるよ」

 

 

少し離れたところで夜宵と真夏が言った。その場には雅治と司もおり、

 

 

「無理もないよね、あれ以降全然バトルに勝ってないみたいだし…………」

「まぁ、当然の結果だな………」

 

 

雅治が言ったことに重なるように司が言った。

 

司はその後、そのことについて具体的に説明する。

 

 

「当然って……なんでや?」

「デッキだよデッキ………あいつのデッキに、あの赤のカード、ギルモン系とか言ったか?…あれは元々あったあいつのデッキとは性質そのものが噛み合っていない……逆に弱くなって当然だ」

 

 

通常、バトルスピリッツはデッキを組む際、基本的に色の数は絞らなければならない。色が増えれば増えるほどに扱いにくくなるからだ。

 

色はあって2色。3色以上のデッキなど稀に見るケースと言える。

 

エースのフレイドラモンは無視して考えると、椎名は今まで基本的に青と緑のカードを駆使してバトルしてきた。

 

そこにさらに複数枚の赤のカードを加えるとなるとかなり重たくなるのは必至である。当然だ、軽減がしづらくなるのだから……

 

司はそれが理由で椎名がスランプなのではないかと睨んでいた。そしてその推理は的中している。椎名は今までのデッキに無理にギルモン系のカードを投入したために、デッキが回らなくなり、勝てなくなっていたのだ。

 

 

「……………椎名………」

 

 

そんな呆けている椎名に近づいてきたのは担任の教師、空野晴太。

 

今から彼が椎名に言うことはかなり重要なこと……ひょっとしたらこれから椎名の人生に関わってくることであって………

 

 

「………何ですか?私今それどころじゃないんですけど………」

 

 

椎名がシュンとした声でそう晴太に呟くが………

 

 

「ばっかやろぉ!!!それどころもこれどころもあるかぁぁあ!!!」

「え、えぇええ!?!」

 

 

突然怒り出す晴太に、椎名は思わず背中を真っ直ぐにし、姿勢正しく椅子に座った。

 

 

「………お前、今回の期末の筆記試験……どうだった?」

 

 

晴太が椎名の筆記試験について聞いてきた。

 

 

「え?……あっはは!!そんなのいつも通りダメダメに決まってるじゃないですか〜〜〜!!」

 

 

椎名はそんな感じで明るく、まるで自信がないとも取れる発言をした。椎名は筆記試験が苦手であった。勉強しないから……

 

 

「………そ、そうか………じゃあお前…………」

「?」

 

 

これから晴太が言う一言は椎名が何よりも恐怖する言葉。いや、学生だったら椎名でなくとも誰もが怯えるような言葉だ。

 

それを聞くだけで頭の血の気が下がる程に………

 

 

 

「退学だぞ…………」

「え?」

 

 

教室中の生徒達が晴太のその言葉を聞いて、シーンとする。誰も彼もが黙った。

 

 

「才覚?」

「違う……退学だ」

「開学?」

「違う……退学だ」

「奏楽?」

「違う……退学だ」

「………ふーーーーん………たいがく……タイガク………退がく?………退学っ!?」

 

 

椎名と晴太の果てしない言い回しの中で、ようやく気づいた。そうだ、退学だ。学園を去る意味のある言葉だ。

 

それを理解した椎名は頭の血がなくなっていくのを感じていく。もう夏だと言うのに身体中から悪寒を感じる。

 

 

「ヤバイじゃん!!私!!」

「だからヤバイんだよ!!」

「てかなんで退学!?」

「お前が筆記頑張らないからだよ!後、実技負けるから!!」

 

 

今まで椎名は筆記試験が全くできない代わりに、それを実技試験で補ってきた。

 

だが、今回は違う、思いっきり三連敗してしまった。勝ち星はゼロだ。実技の試合内容もほぼ一方的に殴られるケースが多かったため、点数はゼロに近い。

 

もちろん筆記試験もいつも通りダメダメ。

 

つまり筆記と実技、2つを合わせても凄まじいほどに低い点数なのだ。

 

ーその結果……この1学期中に退学となる……

 

 

「い、嫌だよ退学なんてぇ!!せ、先生!!どうにかならないんですかぁ!?!」

 

 

椎名が晴太に泣きつくように、救いの手を差し伸べて欲しいかのようにそう言った。

 

普通の学校ならばそんな処置はされない。

 

ーが、ここはバトスピ学園。なんでもバトルスピリッツで解決できる夢の学園であって………

 

 

「1つだけある………」

「本当っ!?!」

 

 

その一瞬、椎名の顔に明るさが灯される。

 

だが、それはかなり難しい難易度のものであって……

 

 

「学園に残るには……俺とバトルして自分の実力を証明するしかない…………」

「?」

 

 

このバトスピ学園にはルールがある。

 

それは、点数的に、又は成績的に退学にしなければならない生徒がいた場合、そのクラス担任とバトルさせ、実力が認められれば退学を免れると言うものだ。

 

ー「実力を証明する」つまり、晴太に勝てば問題はない。

 

 

「おっ!!マジっすか!!先生とバトルできるのぉ!?」

 

 

急にわっとなって盛り上がる椎名。

 

もはやこの一瞬で自分の退学が肩にかかっていることを忘れている様子。

 

 

「………椎名、俺も仕事だ。このバトルは手が抜けん……だが、アドバイスはできる……」

「?アドバイス?」

「そうだ………お前今、ブイモン系とギルモン系、2つの全く異なるデッキタイプを1つのデッキに同時投入してるよな?」

 

 

晴太もこれは教師としての仕事の一環、当然椎名の退学がかかったバトルでも手が抜けない。

 

そのため、晴太は椎名に助言することにした。より良いデッキが作れるように、そして回るように……

 

 

「………言いづらいんだが……どっちかに絞った方が良いぞ」

「っ!?!」

 

 

当たり前のことだが、このままでは絶対に勝てない。ベストコンディションにするためには、ブイモン系とギルモン系、どちらか一方のデッキにする他ないだろう。

 

 

「………ブイモンか……ギルモンか………」

「バトルは明日の放課後だ……それまでにどっちかのカード達で最高のデッキを組んでこい……別に終わったらまた2種混合のデッキに戻して研究すれば良い……」

 

 

たしかに晴太の言う通りだ。この退学がかかったバトルだけどちらかに絞ってバトルすれば、その後にまた2種混合のデッキの可能性を探れば良い。

 

だが、カードとの絆や思い出を何よりも大事にする椎名にとって、それはかなり難しい問題であった。

 

 

******

 

 

「………ブイモンか……ギルモンっっかぁ!!!」

 

 

その日の夜。椎名は1人部屋にこもり、自分が今まで使ってきたカード達を並べていた。明日のデッキのことについて考えているのだ。

 

 

「…………くっそぉ!!どっちかなんて選べないよぉ!!!」

 

 

椎名は困惑していた。ブイモンとギルモンの狭間に揺れていた。

 

椎名とてわかる。どっちも入れるより、どっちかに絞った方が速いし、回ることを。

 

ーだが、本当はどっちも入れてバトルしたい。

 

 

「…………でも変だよな〜〜あの時はなんで回ったんだろ?」

 

 

椎名は思い返してみた。空港の屋上で葉月とバトルしたあの時を………

 

あの時はたしかにこのデッキは回っていた。しかもブイモン系だけのデッキよりか幾分増したパワーになって、

 

つまりデッキ構成自体に問題はないはずだ。

 

自分の扱い方が未だに未熟であるのが原因だ。

 

椎名は思い返してみた。あの時のバトル、自分はどのように考えて回してみたか………

 

ーだが、ここで1つの結論に至る。

 

 

「……………あれ?私こんなこと考えた時あったっけ?」

 

 

そんな事を考えていた時、ふと思った。バトルの時、自分は作戦などを立てたことがあっただろうかと言うことに。

 

それは殆どと言って良いほどにない。限りなく指で数えられる程度だ。しかも即席かつ直感めいたものが多い。

 

この時、椎名はもしや、と考えた。

 

ーこの1ヶ月間、自分はデッキのあれやこれ、プレイングのあれやこれを考えすぎていたのではないかと言うことに。

 

 

******

 

 

そして翌日。その放課後。この第4スタジアムにて、椎名と晴太による椎名の退学をかけたバトルが始まる。その観客席には真夏、夜宵、雅治、司と、同級生の仲間達が見守っていた。

 

 

「………どうだった?椎名……デッキは?」

「えっへへ、結局混ぜちゃいました………」

「おいっ!?あれほど言っただろう?」

 

 

椎名は結局どちらかではなく、どちらともデッキに入れて来た。それが良いのだ。何よりも椎名らしい選択であるといえば聞こえは良いが。

 

 

「自信はあるのか?」

「はいっ!!行けます!!」

 

 

椎名は自信あるような返事をした。その目を見て、晴太は何を思ったか、確信した。必ず魅せてくれると。

 

椎名があの真剣な目になった時は必ず有言実行をする時であると、経験上理解していたからだ。

 

晴太はその後、「まぁいっか」と軽く流しながらもBパッドを展開、バトルの準備をした。椎名も同様だ。

 

ーそして始まる、椎名の退学がかかったバトルが……

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まった。

 

ー先行は晴太だ。

 

 

[ターン01]晴太

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ……俺は手札からアクセル!甲寅獣リボル・コレオンを使用!その効果!デッキから3枚オープンし、その中の神皇スピリット、又は十冠スピリットを1枚、異魔神ブレイブ1枚を手札に加える!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

オープンカード↓

【ヒノシシ】×

【救世神撃破】×

【エグゼシード・ビレフト】◯

 

 

晴太の使ったアクセルスピリット、リボル・コレオンは晴太の主なスピリットとなるスピリットやブレイブを手札に加えるだけでなく、そのサポートまでできる優秀なスピリットである。

 

そして効果も成功。晴太は手札に強力な十冠を持つスピリット、エグゼシード・ビレフトを手札に加え、そのターンを終えることになった。

 

 

「ターンエンドだ」

《手元》

甲寅獣リボル・コレオン

 

バースト【無】

 

 

「…………先生ガチやんけ……勝てるんか?」

「兎に角椎名を見守るしかないね………」

 

 

真夏が晴太の使ったカードを見て、本気のデッキであると悟ったか、不安になるが、雅治がすかさず冷静に言葉を入れた。

 

そう。見守ることしかできない。何せ、他の者のバトルに首を突っ込むなど言語両断なのだから………

 

次は結局ブイモンとギルモン。それぞれ全く違う特性を持つカード達でデッキを組んだ椎名のターンだ。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!!先ずはこれだ!!ネクサス、ディーアークを配置!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が配置したのは手のひらサイズの謎の機械。それが椎名の腰に装着された。それは赤のシンボルを持ち、今後の試合展開に大いに貢献できる存在であって………

 

 

「ターンエンドだ!!」

ディーアークLV1

 

バースト【無】

 

 

椎名はたったそれだけでそのターンを終えた。椎名としては少々大人しめなターンとなった。

 

次は晴太のターンだ。

 

 

[ターン03]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップっ!!俺はコレオンとエグゼシード・ビレフトを召喚!!」

手札6⇨5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

このターン、晴太が颯爽と呼び出したのは、獅子をこれまでもかとデフォルメしたスピリット、コレオンと、武装が施されている駿馬のスピリット、エグゼシード・ビレフトだ。

 

このエグゼシード・ビレフトは、以前、椎名が晴太に挑んだ際も使用され、椎名を苦しめてきた1体だ。

 

 

「アタックステップっ!!……コレオン!ビレフト!」

手札4⇨5

 

 

走り出す晴太の2体のスピリット、エグゼシード・ビレフトにはアタック時に1枚ドローする効果があるため、晴太はおまけのようにカードを引いていた。

 

 

「…………ッ…ライフで受ける!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

そんな2体の突撃を、椎名は何のためらいもなくライフで受けた。そのライフは一気に2つも破壊され、早速アドバンテージに大きく差をつけられてしまう。

 

 

「…………ターンエンドだ」

コレオンLV1(1)BP1000(疲労)

エグゼシード・ビレフトLV1(1)BP3000(疲労)

 

《手元》

甲寅獣リボル・コレオン

 

バースト【無】

 

 

晴太はできることを全て終え、このターンのエンドとした。

 

次は椎名のターンだ。減ったライフのコアで反撃に回る。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨8

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップっ!!反撃開始だぁ!!ブイモンを召喚!そして効果発揮!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【ギルモン】×

【スティングモン】◯

 

 

椎名がこのバトルで始めて呼び出したスピリットは、青くて小さい竜、ブイモン。そしてその召喚時も成功。椎名は緑の成熟期スピリット、スティングモンを手札に加えた。

 

しかもその存在はブイモンの追加効果の影響を受けれるものであって、

 

 

「よしっ!スティングモンを手札に加えて、さらにブイモンの追加効果っ!!これを2コスト支払って召喚する!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨5

スティングモンLV1(1⇨2)BP5000

 

 

椎名が新たに呼び出したのはブイモンの効果で加えた緑の成熟期スピリット、勇敢なる昆虫戦士、スティングモンだ。その効果でさりげなくコアが増えていく。

 

 

「ディーアークの効果!場にアーマー体を除くデジタルスピリットが召喚された時、ターンに一度だけドローができるっ!」

手札4⇨5

 

 

椎名はディーアークの効果でカードをドローする。ディーアークは赤のシンボルを持つネクサスだが、その効果はデジタルスピリットであるならば色は問わない。故にブイモン系のスピリット達でも有効なのだ。

 

 

「リザーブとスティングモンのコアを使ってディーアークのLVを2にアップ!!」

リザーブ1⇨0

スティングモン(2⇨1)

ディーアーク(0⇨2)LV1⇨2

 

 

椎名はさらに増えていくコアを使い、そのディーアークのLVを上昇させる。

 

これで準備は整った。椎名はアタックステップに入り、一気に攻める。

 

 

「アタックステップっ!!ブイモンでアタックだぁ!!」

 

 

勢いよく走り出すブイモン。目指すはもちろん晴太のライフだ。前のターン、彼は全てのスピリットでアタックしたため、このターンのブロッカーはいない。

 

コアも少ないことから、このアタックはほぼ無条件で受けることになる。

 

 

「……ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

ブイモンの渾身の頭突きが、晴太のライフを粉々に砕いた。そして次はスマートな昆虫戦士、スティングモンの攻撃だ。

 

 

「次ぃ!スティングモンッ!!……効果でコアを増やすよ!!」

スティングモン(1⇨2)

 

 

走り出すスティングモン。その効果で、コアが増える。そのコアがこのターン、大きく影響を与える。

 

椎名はこのタイミングで、さらに1枚のカードを手札から引き抜く。それは昔からの自分のエーススピリット、どんなにデッキが変わろうとも外すことは絶対に許されないフェイバリットスピリットだ。

 

 

「フラッシュ!!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!」

スティングモン(2⇨1)

トラッシュ5⇨6

 

「……っ!!!」

 

 

ブイモンに赤くて独特な形をした卵が投下される。それは言わば進化の塊。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化を果たす。

 

ー現れるのは炎の竜人。

 

 

「燃え上がる勇気っ!!フレイドラモンを召喚!!」

フレイドラモンLV1(1)BP6000

 

 

椎名のエース、フレイドラモンが召喚された。

 

効果的にもこの場では抜群のポテンシャルを発揮できる。

 

 

「………あいつ……」

「…………うん……そうだね」

 

 

司が観客席で何かに気づいたようにそう呟くと、雅治がすかさず同意するようにそう返した。

 

そうだ。気づいたのだ。椎名は昨晩のうちになぜかスランプを脱していることに。あの歪かつ複雑だったデッキが綺麗に回っているのだ。

 

 

「…………いったい何をしたんだろう?椎名は……」

 

 

雅治が言った。

 

 

「……いや、むしろ何もしてないな、あれは………」

「「「??!?」」」

 

 

司がそう言うと、周りにいた雅治、真夏、夜宵は少しだけ驚いた。

 

司はすかさず説明を、自分の推理を話す。

 

 

「……多分あいつは今、何も考えていない……何の作戦もないだろう……あいつは今まで、その野生的な直感だけでバトルに勝ってきた。おそらく新しいカードがたくさんデッキに入ってしまい、それが失いつつあったんだろう……」

「…………そんなまっさか!!動物みたいなことあるわけ……………いや、椎名ならあるかもな……」

「…………ありえるね」

 

 

椎名はこの物語の中、司が言うようにずっとその野生的な直感でバトルしてきた。だが、ギルモン系のカード達が大量に入ってきたことにより、頭を使うようになった。

 

それが逆に仇となり、スランプに陥っていた。と言うのが司の推理だ。

 

つまり、【椎名は頭を使わない方が強い】と言うのが結論だ。

 

そしてスポットは戻り、バトル。椎名のフレイドラモンの強力な召喚時効果が火を噴く。

 

 

「フレイドラモンの召喚時及びアタック時の効果!!BP7000以下の相手スピリット1体を破壊して、カードをドローするっ!……先ずはビレフトだっ!!…爆炎の拳っ!!ナックルファイアァァア!!」

手札5⇨6

 

「っ!!!?!」

 

 

フレイドラモンの拳から放たれる炎の弾丸。これは瞬く間にエグゼシード・ビレフトまで届き、それを焼き尽くした。

 

そして、このタイミングはスティングモンのアタック中であって、

 

 

「スティングモンッ!!」

 

「ライフだっ!!」

ライフ4⇨3

 

 

スティングモンの鋭い針が内蔵された拳が、晴太のライフをまた1つ破壊した。

 

そしてまだ残っている。【アーマー進化】によって召喚されたフレイドラモンのアタックが……

 

 

「いけぇ!フレイドラモンッ!!ナックルファイアで今度はコレオンを破壊だぁ!!」

手札6⇨7

 

「………っ!!」

 

 

再び放たれるフレイドラモンの炎の拳。それは今度はコレオンに命中。エグゼシード・ビレフトでと耐えられなかったものに、この小さなコレオンが耐えられるわけもなく、あっさりと消し灰になってしまった。

 

 

「フレイドラモンのアタックもライフで受けようか」

ライフ3⇨2

 

 

フレイドラモンの飛び蹴りが、晴太のライフをさらに1つ砕いた。このターンだけでもう3つのライフを削った。

 

速攻向きな動きが可能なブイモン系の特徴が生えたアタックステップであった。

 

 

「よっしゃぁ!!ターンエンドっ!!」

スティングモンLV1(1)BP5000(疲労)

フレイドラモンLV1(1)BP6000(疲労)

 

ディーアークLV2(2)

 

バースト【無】

 

 

椎名はできることを全て終えてそのターンをエンドとした。次は晴太のターン。

 

 

[ターン05]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨9

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ………なるほど、デッキは回せるようになったみたいだな………」

「へへっ!!」

 

 

晴太も当然椎名のデッキが回り始めていることに気づいている。

 

ーしかし、決してそれを褒めることはせず……

 

 

「…………だが、それは大前提って話だっ!」

「っ!?」

 

「俺は2体目のコレオンをLV3、そしてハクビシンドローンをLV1で召喚するっ!」

手札6⇨4

リザーブ9⇨3

 

 

晴太がそう言って呼び出したのは、2体目のコレオンと、ドローンに跨った白鼻心、ハクビシンドローン。

 

そして晴太はここからもう1体呼び出す。

 

 

「さらに俺は手元からリボル・コレオンをLV1で召喚っ!」

リザーブ3⇨0

トラッシュ0⇨2

 

「…………っ!?」

 

 

晴太は第1ターン目でアクセルとして使用し、手元に置いていたカード、甲寅獣リボル・コレオンを召喚した。その姿はまるで武装を施したコレオンとでも言うべきか、赤い機関銃をその身に装備していた。

 

その効果はアクセルだけでも便利だが、そのスピリット効果もまた強力。晴太はその効果で、さらに手札から自分のデッキの中核を担う存在を呼び出す。

 

 

「リボル・コレオンの効果っ!手札から異魔神ブレイブをノーコスト召喚するっ!」

手札4⇨3

 

「っ!!!?」

「燃え上がる異魔神ブレイブっ!!炎魔神を召喚するっ!」

 

 

逆巻く炎を纏う歯車。鈍い機械音を鳴らしながらその中から降り立つのは異魔神ブレイブ炎魔神。元は椎名が憧れる人物が所有していたカードである。

 

左右どちらにでも合体ができる異魔神の中でも特に強力なものがある1枚であって、椎名が1年の時、晴太にバトルを挑んだ際にも使用され、決め手となったこともある。

 

そんな炎魔神が、また椎名に牙を剥く。

 

 

「リボル・コレオンに右合体!!」

 

 

炎魔神の右手から放たれる光線。それは晴太の場にいるリボル・コレオンとリンクする。リボル・コレオンは、炎魔神の右の力を授かった。

 

 

「…………バーストを伏せ、アタックステップだ」

手札3⇨2

 

 

さらに晴太はバーストカードを場に伏せ、このターンのアタックステップへと移行する。

 

 

「リボル・コレオンでアタックっ!!炎魔神の右合体時効果っ!リボル・コレオンのBP以下のスピリット1体を破壊する!………」

「………っ!!」

 

 

つまりはBP8000以下だ。今の段階ではBP8000以下が椎名の場から1体消えてしまう。フレイドラモンもスティングモンもその数値を下回っており、

 

 

「俺はフレイドラモンを破壊するっ!」

 

 

炎魔神の右の拳が回転しながらも射出される。それは真っ直ぐに椎名の場にいるフレイドラモンのところまで向かっていき、撃ち抜く。フレイドラモンも流石に堪えたか、吹き飛ばされ、大爆発を起こした。

 

そして射出された拳は炎魔神の元へと戻る。

 

 

「くっ!フレイドラモンッ!!」

「そしてこれが本命のアタックっ!!」

 

 

リボル・コレオンがその身の丈に見合わない機関銃を連射する。その弾丸の1発1発は、全て椎名のライフへと向かっている。

 

 

「ライフだっ!!」

ライフ3⇨1

 

 

椎名はそれを全て受け、ライフを2つも破壊させてしまった。いよいよ後1つだ。絶体絶命の崖っぷちまで追い詰められてしまった。

 

 

「…………これ椎名やばいんとちゃう??」

「………どうだろうな?」

 

 

真夏がこの様子にそう心配そうに呟くと、それに対し、反抗するかのように司が言った。まるで椎名がまだ耐えるかのような口ぶりだった。

 

 

「ハクビシンドローンでアタックっ!!」

 

 

晴太のハクビシンドローンが飛び立つ。目指すは椎名のライフ。これが決まれば椎名の負けだ。

 

ーだが、司の言う通り、まだ手があった。

 

 

「フラッシュ!!ネクサス、ディーアークのLV2効果っ!!【カードスラッシュ】発揮!!」

「っ!?!」

 

「【カードスラッシュ】は、手札にあるアーマー体以外のデジタルスピリットを破棄することで、そのスピリットのLV1BP以下の相手スピリット1体を破壊するっ!!……………私はブイモンをカードスラッシュするっ!」

手札7⇨6

破棄カード↓

【ブイモン】BP2000

 

 

椎名は腰につけられたディーアークを手に持ち、手札にあるブイモンのカードをスラッシュする。

 

ーそうすると、ブイモンが突如として場に出現し……

 

 

「……ブイモンヘッド!!」

 

 

椎名がその技名を叫ぶと、ブイモンはハクビシンドローンのところまでジャンプし、高く飛び上がる。そしてそのまま自慢の頑丈な頭蓋骨で、ハクビシンドローンを打ち落とした。ハクビシンドローンは撃墜され、堪らず爆発を起こした。

 

これがディーアークの第2の効果、【カードスラッシュ】手札にあるデジタルスピリットの力を借りて敵のスピリットを破壊できる力を持っている。

 

 

「………だが、まだ俺の場にはコレオンがいるぞ!いけぇ!」

 

 

今度はLV3、BP6000のコレオンが晴太の指示を受け、椎名のライフをめがけて走り出した。

 

だが、それでも椎名にはまだこれを止める手段があり、

 

 

「もう一度【カードスラッシュ】!!今度はパイルドラモンを破棄するっ!」

手札6⇨5

破棄カード↓

【パイルドラモン】BP6000

 

「………っ!?!ここでパイルドラモンッ!?」

 

 

椎名は今度はパイルドラモンのカードをスラッシュする。すると、ブイモン同様、椎名の場にパイルドラモンが出現し、

 

 

「………デスペラードブラスター!!!」

 

 

その腰につけられた機関銃の銃撃を、これでもかと言わんばかりにぶっ放した。そんなものにコレオンが耐えられるわけもなく、全弾命中し、破壊された。

 

これで晴太のこのターンの攻め手は無くなったと言える。ターンエンドせざるを得ない状況に追い込まれた。

 

 

「…………ターンエンドだ」

甲寅獣リボル・コレオン+炎魔神LV1(1)BP8000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

晴太は静かにそのターンを終えた。

 

ー次は椎名のターン。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨10

トラッシュ6⇨0

スティングモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……スティングモンをLV2に上げ………グラウモンを召喚!……さらにディーアークの効果でドロー!!」

手札6⇨5⇨6

リザーブ10⇨0

スティングモン(1⇨3)LV1⇨2

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名の場の地中が蠢く。その中から勢いよく現れたのは真紅の魔竜が成熟期になった姿、グラウモンだ。

 

準備は整った。これより椎名は勝負を決めるべくアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!!グラウモンでアタック!そして【超進化:赤】を発揮!!グラウモンを赤の完全体、メガログラウモンに進化させる!!」

メガログラウモンLV3(5)BP12000

 

 

グラウモンにデジタルコードが巻き付けられる。グラウモンはその中で姿形を変えていく。その身体はどんどん大きくなり、上半身には強力な武装が施されていく。そしてその中から新たに現れたのはメガログラウモン。真紅の魔竜が完全体になった姿だ。

 

 

「アタックステップ続行!!メガログラウモンでアタックっ!!効果で2枚ドローし、炎魔神を破壊するっ!」

手札6⇨8

 

「っ!!?」

「防人の刃、ペンデュラムブレイド!!」

 

 

メガログラウモンが両腕から飛ばす斬撃。それは炎魔神だけを綺麗に引き裂いた。炎魔神は流石に力尽き、倒れ、晴太の目の前で大爆発を起こした。

 

そして当然これだけでは終わらない。メガログラウモンはまだまだ暴れる。今度はリボル・コレオンが破壊される番だ。

 

 

「メガログラウモンのもう1つのアタック時効果!!シンボル1つの相手スピリット1体を破壊する!!………対象はもちろん唯一残ったリボル・コレオン!!」

「…………くっ!!」

「原子の咆哮……アトミックブラスター!!!」

 

 

メガログラウモンの上半部の武装に膨大なエネルギーが蓄積される。限界まで溜め込むと、メガログラウモンはそれを一直線に射出。晴太のリボル・コレオンをあっさりと消し炭にした。

 

 

「そして本命のアタックっ!!メガログラウモンッ!!」

 

 

走り出すメガログラウモン。もちろん目指すのは晴太のライフ。後2つ。後2つ破壊するだけで勝てる。

 

ーこのメガログラウモンのアタックと、場に残ったスティングモンのアタックだけで………

 

ーだが、メガログラウモンのアタックで、いや、成長した椎名のアタックと言ったところか…………晴太はそれで本気になっており…………

 

ー1年前は見せていない、自分の力の一端を披露することになる。

 

 

「……………ライフで受ける」

ライフ2⇨1

 

 

メガログラウモンの腕につけられた強靭な刃が、晴太のライフをいとも容易く1つ切り裂いた。

 

ーだが、これがトリガーだ。この瞬間、裏側だった晴太のバーストが勢いよく反転する。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!」

「………っ!!!?!」

 

 

反転するそのバーストはスピリットカード。晴太が愛用するエグゼシードシリーズの1枚だ。

 

 

「爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル!!!!効果でこれを召喚するっ!!」

リザーブ8⇨4

爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼルLV3(4)BP20000

 

 

晴太の背後より燃え盛る何かがこっちに向かって走ってくる。そして晴太の頭上を飛び越え、周りの炎を振り払いながら姿を見せる。それはエグゼシードシリーズの1体、基本の馬の姿に侍のような装備が施されたスピリット、エグゼシード・バゼルだ。

 

 

「………え、エグゼシード……………バゼル……っ!?!」

 

 

驚愕していたのは椎名だけではない。観客席にいた司達も同じ。バゼルは晴太が使用するスピリットの中でもトップレベルで強力なものだ。それを生で観るのはこの中では誰もが初めてである。

 

 

「…………さぁ、どうする?」

 

 

晴太が椎名に問うた。椎名の唯一アタックできたスピリット、スティングモンでは到底あのエグゼシード・バゼルには敵わない。

 

悔しいが、エンドせざるを得ない。

 

 

「……………ッ…ターンエンド……」

スティングモンLV2(3)BP8000(回復)

メガログラウモンLV3(5)BP12000(疲労)

 

ディーアークLV2(2)

 

バースト【無】

 

 

椎名はそのターンをエンドとした。次は晴太のターン。バースト召喚されたエグゼシード・バゼルが動き出す。

 

 

[ターン07]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨7

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインは無し、アタックステップに入るっ!!いけぇ!バゼル!!効果でスティングモンに指定アタック!!」

「………っ!?」

 

 

走り出すエグゼシード・バゼル。目指すは椎名のスティングモン。そしてそのライフだ。

 

腹部に備え付けられている2本の刀が、バゼルの口の両サイドに咥えられる。そしてその刀身には爆炎の炎が灯され………

 

 

 

「……爆炎十文字斬りぃぃい!!!」

 

 

通り過ぎるようにスティングモンを一瞬にして十の字に斬りつける。その刻まれた場所からも炎が次々と溢れ出てくる。スティングモンは力尽き、倒れ、大爆発を起こした。

 

そして、バゼルはスティングモンだけには収まらず、そのまま再び走り出した。

 

ー次は椎名のライフだ。

 

 

「………そしてこのバトルの終了時!!相手のライフ2つを破壊するっ!!」

 

「………っ!?!」

ライフ1⇨0

 

 

止まることのないエグゼシード・バゼルの勢い。スティングモンを斬りつけたその2本の刀で、椎名の最後のライフをいとも簡単に引き裂いて見せた。

 

ーこれにより、勝者は空野晴太。切り札の1枚であるエグゼシード・バゼルを使っての勝利となった。

 

途中まで接戦ではあったが、最後は意外にも呆気なく終わってしまった。これは晴太と椎名の実力の差だと言える。

 

バトルの終わりに伴い、場に残ったスピリットたちが消滅して行く。椎名の場で唯一残ったメガログラウモンは悔しそうな表情を浮かべながら消えて行く。

 

 

「…………ま、負けた…………」

 

 

椎名は敗北を感じた時、顔を少し暗くした。

 

椎名が顔を暗くしたのはこの一瞬だけ、すぐさまその顔の表情は明るい笑顔に変わり………

 

 

「先生!!楽しいバトルだったよ!!またやろう!!」

 

 

晴太に向かってそう言った。

 

ーだが、それでも納得がいかない者達がいて……

 

 

「何言っとんねんバカァァァア!!!」

「っ!?!真夏ぁ!?」

 

 

観客席から真夏が大きく声を上げた。

 

 

「あんたこのバトルに負けたら退学ちゃうんか??」

「………たいがく?タイガク??…………退がく…………あっ!!退学!?」

 

 

思い出した。そうだった。そう言えばそうだった。このバトルには自分の退学が肩にかかっていたことに。バトルを楽しむことを優先しすぎていてすっかり忘れていた。普通に楽しんでいた。

 

椎名の顔から血の気がなくなって行く。「あぁ、やってしまった。退学だ」とばかり考えていた。

 

ーが、

 

 

「おいおい、椎名も真夏も何を勘違いしてんだぁ?」

「え?」

 

 

晴太が言った。

 

 

「何をって、負けたら退学じゃあ………」

「誰が負けたら退学って言ったよ?…………俺言ったよな?実力を証明しなければならないって……」

「…………え?……っ!!」

 

 

椎名は1日前のことを思い返してみた。晴太はあの時、たしかに負けたら退学など一言も言ってはいない。「実力を証明しなければならない」としか言ってなかった。勝手に勘違いしてたのは自分達だ。

 

 

「じゃ、じゃあ待って先生!!………私は!?」

「………まぁ、そうだな。俺にバゼルまで切らせたんだ…………合格でいいだろ」

 

 

1年時、椎名が晴太にバトルを挑んだ際は、ビレフトと炎魔神止まりで、次なるバゼルは出す由もなかった。だが、今回、椎名は晴太にバゼルを切らせるに至った。それはつまり、椎名が前よりも確実に成長しているという証でもあった。合格にするには申し分ないと言える。

 

 

「ま、マジっすかぁ!?!………っいやったぁ!!!」

 

 

喜びから大きく身体を広げて高く飛び上がる椎名。その高さは常人では到底到達し得ないものだ。

 

椎名は果てしない幸福感と共に感じていた。自分のデッキ、カード達の事を。

 

このデッキには無限の可能性があると、これでいつか一番強くてかっこいいバトラーになれるのではないかと思えるほどに。

 

ーいや、確信できるほどに。

 

 




《本日のハイライトカード!!》

椎名「今回のカードは【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】!!」

椎名「エグゼシード・バゼルは晴太先生の愛用するエーススピリット、バースト召喚された直後に指定アタックされるのはめっちゃ脅威!!おまけにライフまで奪われるんならかなったもんじゃないよ〜〜〜……でも、次やる時は絶対に倒す!!」


******


〈次回予告!!〉


真夏「椎名の奴、ほんま野生的っちゅうかなんっちゅうか、あんなデッキを感覚的に使いこなすなんて普通はできへんで、あんな奴を天才言うんやろな、そんなこんなで、次はそんな感じの天才同士がぶつかり合うでぇ……1人は私の兄、ヘラクレス、もう1人は……………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「一木花火のウォーグレイモン!」……今、バトスピが進化を超えよるよ!!……」


******


〈芽座椎名デッキレシピ〉

《スピリット》×23
ブイモン×3
ワームモン×2
ギルモン×3
エクスブイモン×2
スティングモン×2
グラウモン×2
フレイドラモン×1
ライドラモン×1
マグナモン×1
パイルドラモン×1
メガログラウモン×2
マリンエンジェモン×2
デュークモン×1

《ブレイブ》×5
ズバモン×2
グラニ×2
双牙皇オルト・ロード×1

《ネクサス》×5
デジヴァイス×2
D-3×1
ディーアーク×2

《マジック》×7
ファイナル・エリシオン×2
ブルーカード×2
レッドカード×2
スクランブルブースター×1


手札、盤面、トラッシュを満遍なく見ていくことがすごい大事。もちろんガチデッキではないが、エーススピリット達の元々のパワーが高い分、ある程度環境でもいける(作者は行けた)序盤は状況にもよりますが、できるだけギルモンよりもブイモンを優先して召喚しましょう。

双牙皇オルト・ロードはフレイドラモンやメガログラウモン用。作中ではフレイドラモンばっかり合体してるが、メガログラウモンと相性はめっちゃ良い。

椎名のような運命力があれば兎に角強いデッキだと思ってます。


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!

晴太先生の本気デッキのバトルは【第8話 英雄を継ぐ者VS英雄の弟子!炎と炎!】でやってます!ちなみに、本気じゃない方は【第28話 文化祭と過去の出来事】でやってます!

次回はなんと、私の作品の前作主人公が久し振りに登場します!お見逃しなく!詳しくは【バトルスピリッツ オメガワールド】を参考に。


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第49話「一木花火のウォーグレイモン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真夏ぁ!早く見ようよ!始まっちゃうよ〜〜〜!!」

「待ちぃや!そんな慌てんくても試合は逃げんよ」

 

 

教室で椎名と真夏がそんな感じで楽しげな会話をしていた。2人が見ようと言っている「試合」と言うのはバトルのことだ。それも普通の人達のバトルではない。プロのバトラーのものだ。そのライブ中継が本日行われるのだ。

 

ー今日、バトルするのは特に2人にゆかりのある人物であって、

 

 

「ほな、つけるでぇ!」

 

 

そう言って真夏がBパッドのチャンネルをテレビ中継に繋げた。

 

真夏のBパッドにテレビと全く同じ画面が映し出される。

 

 

******

 

 

ここは日本のどこかの大きなスタジアム。多くの席があるが、大勢の人達により、それは埋め尽くされている。今か今かと楽しみに待っている彼らにより、会場は冷房が効かない程の熱気に包まれている。

 

 

《これより、緑坂冬真と一木花火のバトルを始めます》

 

 

そんな機械音の混じったアナウンス音が聞こえて来る。

 

そうだ。今日、この日は昨年、界放市のバトスピ学園、キングタウロス校を卒業した真夏の実兄、【緑坂冬真】ことヘラクレスのバトルだったのだ。彼は卒業後、プロとなり、その実力と堂々とした態度で人気を集めていた。

 

そして、そんな彼の相手が…………

 

 

《緑坂冬真………入場》

 

 

そのアナウンスが流れると、スタジアムの右側のゲートが開き、白い煙がプシューっと飛び出してくる。そしてそれを物ともせずに姿を見せるのは、背の高い褐色の男性。ヘラクレスだ。

 

 

「ヘラクレスッ!」

「ヘラクレスッ!」

「ヘラクレスッ!」

 

 

彼が登場するなり、鳴り止まなくなるヘラクレスコール。彼がプロになってからまだ半年もたたないと言うのに、彼には多くのファンがいた。ある意味流石と言える。

 

ーそして次に現れるのは…………

 

 

《一木花火………入場》

 

 

今度は左側のゲートが開き、ヘラクレスと同様の登場をする人物が1人。

 

その人物は椎名と同じように首から大きめなゴーグルをかけている。髪は茶髪。背丈は司くらいだろうか。

 

彼の名は【一木花火(いちきはなび)】椎名が最も憧れるカードバトラーだ。

 

椎名達の担任である空野晴太とは義兄弟の関係である。というのも、晴太の姉が彼と結婚したため、結果的にそうなっただけであるのだが、

 

 

「は・な・び!」

「は・な・び!」

「は・な・び!」

 

 

左側から鳴り止まないはなびコール。彼のファンは皆彼と同じようにゴーグルをかける。そのため、彼の応援サイドとなる左側はほぼ9割の人々がゴーグルをかけていた。

 

 

「…………あっはは、いや〜〜〜こんな大勢に応援されるの久しぶりだわ〜〜」

 

 

右手で頭の後ろをかきながら、そんな能天気な声を上げたのは、一木花火だ。彼はここ最近までは数々の外国のプロリーグに挑戦していた。結果、どうしても日本人ということがあって、ややアウェイの試合を多くしていた。

 

そのため、日本での大勢の応援に若干の気恥ずかしさを感じたのだろう。

 

 

「…………はじめまして!一木花火プロ!……私は緑坂冬真というものです!今日は私めの挑戦をお受けしていただき、誠にありがとうございます!」

 

 

いつもの関西弁はどこに行ったか、ヘラクレスは何故か標準語で、そして尊敬語で話していた。いや、たしかに花火の方が年齢がかなり上であるため、当たり前なのかもしれないが………

 

 

「おいおい、お前小次郎の甥っ子だろ?いいのいいの、俺には別にタメ口でいいぞ」

「む?……はっは!そうかい!わあったで!」

 

 

緑坂冬真と緑坂真夏の叔父は、一木花火の友にしてライバルの1人、【緑坂小次郎】なのだ。そんな奴の甥ならば、別に堅っ苦しいことはしなくて良いだろうと花火は考えたのだ。

 

 

「花火さん!俺はあんたとやれるんを心から楽しみにしとった!……この勝負、受けるよな!」

 

 

花火がそう言うならばと言わんばかりに、ヘラクレスは元の口調に戻し、そう、宣言した。花火の答えはもちろん………

 

 

「あぁ、じゃなかったらここにはいないぜ!!」

 

 

当然オーケーだ。

 

2人は自分のBパッドを展開し、バトルの準備を完了させる。

 

そして幕を開ける。日本中、いや、世界中が注目するこの試合が、

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まった。

 

ー先行はヘラクレスだ。

 

 

[ターン01]ヘラクレス

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!……先ずは小手調べと行こかぁ!テントモンを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

ヘラクレスがそう言いながら呼び出したのは緑の成長期スピリット、てんとう虫型のテントモンだ。

 

 

「召喚時効果でコア増やすで!」

テントモン(1⇨2)

 

「はは、テントモンねぇ、結構懐かしいな」

 

 

彼らの叔父である小次郎も使っていたテントモン。それを見て思わず花火は嬉しそうに薄ら笑いを浮かべた。

 

 

「ターンエンドや!あんたの番やでぇ!」

テントモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

先行の第1ターン目などやらることが最低限度に限られてくる。ヘラクレスはそれだけを終えて、ターンをエンドとした。

 

ーそして次は一木花火のターンだ。

 

 

[ターン02]花火

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「………メインステップ………小手調べと言われたらこれだろう!!俺はネクサス、勇気の紋章をLV2で配置するっ!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「………っ!!」

 

 

花火が初手で配置したのはネクサス。彼の背後に太陽を模したかのような紋章が浮き出てくる。

 

このネクサスは彼のデッキにとって成長期スピリットと同じくらい重要な役割を担っており………

 

 

「俺もこれでエンドだ!……さぁ、どっからでもかかってきな!!」

勇気の紋章LV2(1)

 

バースト【無】

 

 

花火もここでターンをエンドとした。

 

次はヘラクレスのターン。

 

デジタルスピリットデッキ同士のバトルスピードは比較的速い。この第3ターン目から大きくバトルはいろんな方向へと転がっていく。

 

 

[ターン03]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ…………知っとるでぇ、勇気の紋章!…自分のライフが減ったらBP5000以下のスピリットを破壊する効果と、ドローステップ時の枚数を増やすんやったなぁ!」

「おっ!詳しいな〜〜」

 

 

勇気の紋章の効果は、ヘラクレスの言った通り。序盤を凌ぎやすくする迎撃効果と、ドロー枚数を増やす効果だ。

 

ヘラクレスとして一番厄介なのがやはり迎撃効果。BP6000以上と言うのは意外にもこの序盤で並べるのは難しい。

 

ーだが、それを逆手に取ることはできる。

 

 

「俺はテントモンのLVを2に上げ、さらにトゲアントを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

ヘラクレスが召喚したのは、まるで緑色の蟻のようなスピリット、トゲアントだ。その上にはソウルコアが乗せられており………

 

 

「さらにバーストをセットし、アタックステップっ!!テントモンの【進化:緑】を発揮!!成熟期のカブテリモンに進化や!!」

手札4⇨3

カブテリモンLV2(3)BP8000

 

 

ヘラクレスの場にバーストが伏せられると共に、テントモンはデジタルコードに巻かれて進化する。その姿を大きく変えていき、現れたのは硬い甲殻と角をもつスピリット、カブテリモンだ。

 

 

「へへっ!早速お出ましだな!」

 

 

その顔に薄ら笑いを浮かべる花火。嬉しいのだ。強敵が目の前にいることに。そしてそれと対面できていることに。

 

 

「アタックステップは継続しまっせ!トゲアント!」

 

 

カサカサっと走り出すトゲアント。目指すはもちろん花火のライフ。前のターンで殆どのコアを使ったがために、今はライフで受ける他なく、

 

 

「オッケー、来いよライフだ!」

ライフ5⇨4

 

 

トゲアントの体当たりが、花火のライフを1つ砕いた。

 

ーが、ここで花火の配置したネクサス、勇気の紋章が光を放ち………

 

 

「勇気の紋章の効果!!トゲアントを破壊するっ!」

 

 

勇気の紋章の中心から放たれる豪炎の球。それは瞬く間にトゲアントに命中し、それを燃やし尽くした。

 

しかし、トゲアントもただでは破壊されず……

 

 

「トゲアントの破壊時効果発揮や!ソウルコアが置かれとったら、コアを2つ追加するっ!」

リザーブ2⇨4

 

「…………っ!!」

 

 

ヘラクレスのリザーブにコアが溜められた。逆手に取られたか、勇気の紋章は強制効果。ライフが減ったら強制的に発揮され、その対象となるスピリットがいたら、それを無理矢理破壊してしまう。

 

ヘラクレスは破壊できる対象がトゲアントだけの状況を敢えて作り出し、自爆させ、自分のコアを増やしたのだ。

 

 

「なるほど、やるなっ!」

「せやろ?……そしてまだ続くでぇ!カブテリモン!!」

 

 

羽根を広げ、飛翔し、飛び立つカブテリモン。BPは8000。勇気の紋章での迎撃は不可能だ。

 

 

「そいつもライフだ!」

ライフ4⇨3

 

 

カブテリモンが4本の腕で花火のライフを勢いよく砕いた。これで花火は1ターンで2つのライフを失ったことになる。

 

 

「………ターンエンドやで」

カブテリモンLV2(3)BP8000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

できることを全て終え、ヘラクレスはそのターンをエンドとした。次は花火のターンだ。反撃なるか………

 

 

[ターン04]花火

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

 

 

「ドローステップ時!!勇気の紋章LV2効果で、ドロー枚数を1枚増やし、その後1枚破棄する!」

手札4⇨6⇨5

破棄カード↓

【グレイモン[2]】

 

 

花火はこのドローステップで、デッキから2枚引き、2枚捨てた。結果的に手札の枚数は変わらないものの、デッキの回転率は大きく上がったと言える。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!先ずはロクケラトプス〈R〉をLV2で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨5

 

 

このバトル、花火が初めて呼び出したスピリットは三本角で四足歩行の恐竜、ロクケラトプス。

 

ーそして、

 

 

「…………さぁ……行くか……」

 

 

花火は改めて意気込み、手札から1枚のスピリットカードを引き抜いた。それは彼のデッキのエンジン的な役割を担う成長期スピリットだ。

 

 

「……アグモンをLV3で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨1

 

「……っ!!」

 

 

花火が召喚したのは黄色い身体のデジタルスピリット。肉食恐竜をこれでもかとデフォルメしたような赤の成長期、アグモンだ。

 

たったこれだけで観客が沸き、各放送局の実況にも熱が篭る。この花火の使うアグモンというデジタルスピリットの高い人気が伺える。

 

ーそしてもちろん成長期スピリットらしく、召喚時効果があり、

 

 

「召喚時でカードをオープンっ!!」

オープンカード↓

【グレイモン】◯

【ダイナパワー】×

 

 

その効果は成功。花火はこの効果でグレイモンを手札に加えた。そして残ったダイナパワーは破棄。

 

 

「俺もバーストを伏せ、アタックステップっ!!その開始時にアグモンの【進化:赤】発揮!!グレイモンに進化っ!!」

手札3⇨4⇨3

グレイモンLV3(4)BP7000

 

 

花火もバーストを伏せる。そして進化だ。アグモンはテントモンと同様のデジタルコードに巻き付けられ、その肉体を変化させていく。新たに現れるのは立派な頭角を持つ巨大な肉食恐竜のような赤の成熟期スピリット、グレイモンだ。

 

その咆哮と共に観客、そして彼のファンがまた大きな歓声を上げる。

 

だがこんなものまだまだ序の口だ。花火のグレイモンデッキの力はこんなものでは済まされない。

 

 

「アタックステップは当然継続だぜ!!グレイモンでアタック!さらに効果!!【超進化:赤】発揮!!」

「っ!!……この段階で完全体まで行く気か!?」

 

 

花火はここでグレイモンに更なる進化を求める。

 

グレイモンが再びデジタルコードに巻き付けられ、そしてその中で姿を変える。紫のボロボロの羽が生え、その左半身がサイボーグのような機械となっていく。

 

 

「メタルグレイモンを召喚!!」

メタルグレイモンLV3(4)BP11000

 

 

現れたのは完全体になったグレイモン。メタルグレイモンだ。このメタルグレイモンの時点で既に強力な効果を備えており……

 

 

「メタルグレイモンの召喚時!!BP12000以下のスピリット1体を破壊するっ!!」

「……っ!?!」

「破壊するのはカブテリモン!!……くらえっ!ギガデストロイヤー!!!」

 

 

メタルグレイモンは胸部のハッチを開き、そこから咆哮と共にミサイルを発射する。それはカブテリモンに命中し、それを粉々に粉砕した。

 

 

「………カブテリモンがこうもあっさりと………やっぱ凄いで、あんたは………」

「おいおい、この程度で凄いとか言うなって!!面白いのはここからなんだからよ〜〜…………メタルグレイモンっ!!」

 

 

左手のアームを伸ばすメタルグレイモン。それでヘラクレスのライフを破壊する気だ。ヘラクレスはさっきのメタルグレイモンの攻撃で場のスピリットが壊滅していた。

 

そのため、このアタックはライフで受ける他なく……

 

 

「ライフや!!持ってきな!!」

ライフ5⇨4

 

 

メタルグレイモンがアームにしなりをつけ、ヘラクレスのライフを叩きつける。それを1つ破壊した。

 

まだ続く。今度はロクケラトプスの突進が待っている。

 

 

「ロクケラトプスっ!!」

 

「それもやで!」

ライフ4⇨3

 

 

ロクケラトプスの強烈な頭角による激突が、ヘラクレスのライフをさらに奪っていく。

 

ーだが、これがヘラクレスのバースト発動条件であって、

 

ーそれが勢いよく反転する。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!…………【始甲帝】!!」

「…………っ!!」

 

「ライフ3以下の時、これを召喚するっ!」

リザーブ9⇨5

始甲帝LV2(4)BP15000

 

 

地中が割れていく。その狭間から現れる人型の巨大な虫は、まさしく甲虫の皇と言ったところか、悍ましくも禍々しいそれが、花火の優位性を断ち切るかのように場へと姿を現した。

 

 

「……へ〜〜始甲帝か、小次郎と違ってがっつり殼人に寄せてんだな」

 

 

花火はその姿を見て感心するように頷いた。実際は感心してる場合ではないのだが、

 

どちらにせよこのターンは何もできない。一旦終わらざるを得ないだろう。

 

 

「………エンドステップ……トラッシュのダイナパワーの効果、トラッシュにある時、俺の場に地竜スピリットがいれば手札に帰ってくる………ターンエンドだ」

手札4⇨5

 

ロクケラトプス〈R〉LV2(2)BP5000(疲労)

メタルグレイモンLV3(4)BP11000(疲労)

 

勇気の紋章LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

花火はトラッシュに落ちたダイナパワーを手札に回収しつつ、そのターンをエンドとした。次は見事に始甲帝の召喚に成功したヘラクレスだ。

 

 

[ターン05]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨7

トラッシュ1⇨0

 

 

「メインステップっ!!…………は、要らんやろそんままアタックステップや!」

 

 

ヘラクレスはメインを飛ばしそのままアタックステップへと移行する。十分なのだ。このターンで花火を倒すには、この始甲帝だけで、

 

 

「始甲帝でアタック!!そしてその効果!!手札にある殼人スピリットをノーコスト召喚する事で、始甲帝は回復するっ!!」

「……っ!!」

 

「俺は手札から殼人スピリット……アトラーカブテリモンをLV2で召喚する事で、始甲帝を回復させるでぇ!!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨0

アトラーカブテリモンLV2(7)BP13000

始甲帝(疲労⇨回復)

 

 

羽根を細かく揺らし、甲高い音を立てる始甲帝。そしてその音に共鳴し、空から現れるの虫が一体。赤き甲虫、アトラーカブテリモンだ。

 

 

「………アトラー………」

 

 

花火はそのアトラーカブテリモンを見て何を思ったか、少しだけ微笑んだ。その赤い甲虫にどこか懐かしみを感じていた。

 

それはもちろん、ヘラクレスの叔父、小次郎がそれを使っていたからと言うのが理由であって、

 

 

「アトラーの召喚時及びアタック時効果!!分かりよるよな?……」

「あぁ、疲労状態のスピリットのバウンス……だろ?」

 

 

アトラーカブテリモンの四本の手から、赤い雷が放たれる。それは場に迸り、花火の疲労しているロクケラトプスとメタルグレイモンを狙う。

 

ロクケラトプスはそのまま打ちのめされて力尽き、デジタルの粒子となって花火の手札に帰っていった。

 

ーが、メタルグレイモンはそれを物ともせずに気合だけで弾き飛ばしてしまう。

 

 

「残念だけど、メタルグレイモンにその効果は効かないぜ!!こいつは疲労してたらスピリットとブレイブの効果を受けない!」

 

 

メタルグレイモンにはタイミングが限定的ではあるものの、赤属性にはらしからぬ強力な耐性効果を所有している。

 

だがヘラクレスはそんなことはお見通しだと言わんばかりに更なる一手を繰り出していく。

 

 

「煌臨!!発揮!!対象はアトラーカブテリモン!!」

アトラーカブテリモン(7s⇨6)

トラッシュ0⇨1s

 

「っ!!」

 

 

アトラーカブテリモンが金色の光に包まれていく。それはまさしく進化の兆し。アトラーカブテリモンはその光の中、どんどんその姿を変えていく。

 

 

「…………来るか……」

 

 

花火もそれが何か理解したか、笑みを浮かべ、それが来るのを楽しみに待った。

 

そう。これはヘラクレスのエーススピリット。去年の界放リーグでは決勝戦まで使うことはなく、赤羽司や芽座椎名をも全く寄せ付けない強さを見せつけた究極体のスピリットだ。

 

 

「赤き甲虫よ!!今こそ甲虫王者となりて敵を捻り潰せ!!究極進化ぁぁあ!!!」

手札3⇨2

 

 

アトラーカブテリモンのツノの形が変わっていく。それだけではない、甲殻の色合いまでも変化していく。

 

その姿はまさしく究極の甲虫王者。

 

ー名は………

 

 

「ヘラクルカブテリモン!!!」

ヘラクルカブテリモンLV2(6)BP18000

 

 

現れたのは黄金の甲殻と三本の立派な頭角を持つ究極体のデジタルスピリット、ヘラクルカブテリモン。その威圧感は始甲帝以上にこの場を支配していく。

 

 

「おおっ!カッコいいじゃねぇか!!」

 

 

花火は何故かその姿を見て感動を覚えていた。今まで他のプロ達はヘラクレスのこのヘラクルカブテリモンが出された瞬間に絶望していたと言うのに。彼がプロとしての仕事としてバトルしているのではなく、心の底からこのバトルを楽しんでいるのが見て取れる。

 

 

「煌臨時効果!!煌臨元となったスピリット1枚を手札に戻し、コアを3つ増やすでぇ!!」

手札2⇨3

ヘラクルカブテリモン(6⇨9)

 

 

ヘラクルカブテリモンの煌臨時効果だ。カードの上に3つ新たにコアが追加される。

 

そしてヘラクルカブテリモンには自分の上に乗っているコアを3つ払うことで回復する効果がある。現在は9つ乗っているため、2回までの回復が行える。

 

そして、回復状態でアタックしている始甲帝はダブルシンボルのスピリット。

 

よって、このターン、ヘラクレスがフルアタックで減らせる花火のライフの最大数は7。とてもではないがオーバーキルと言わざるを得ない。

 

この圧倒的な攻撃力が今のヘラクレスの戦法だ。あの学生の時以上に彼自身が進化しているのが伺える。

 

 

「まだダブルシンボルの始甲帝のアタックや!!受けてみ!!」

 

 

ゆっくりと歩みを進める始甲帝。目指しているのは花火のライフ。

 

メタルグレイモンが疲労状態の今、花火にはそれを防ぐ手立てがない。

 

 

「…………ライフだ!」

ライフ3⇨1

 

 

始甲帝の鋭く鋭利な鉤爪が花火のライフをこれでもかと言わんばかりに切り裂いた。減った数は2つ。そして残りは1。追い詰められた。

 

ーだが、流石にこの程度では終わらないか、伏せていたバーストが反転し、ヘラクレスの攻撃を止めに行く。

 

 

「…………ライフの減少でバースト発動!!絶甲氷盾!!効果でライフを1つ回復!さらにコストを払い、このターンのアタックステップを終わらせるぜ!!」

ライフ1⇨2

リザーブ4⇨0

トラッシュ1⇨5

 

「っ!!!」

 

 

花火のライフが1つ復活するとともに吹き荒れる猛吹雪。この中では流石の始甲帝やヘラクルカブテリモンも身動きが取れない。

 

ヘラクレスはこのターンのエンドを迫られた。

 

 

「…………仕方あらへんなぁ、ターンエンドや」

始甲帝LV2(4)BP15000(回復)

ヘラクルカブテリモンLV2(9)BP18000(回復)

 

バースト【無】

 

 

これには流石に掌を上げるか、ヘラクレスは仕方なくそのターンをエンドとした。2体の強力なブロッカーを残して、

 

 

[ターン06]花火

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

 

 

「ドローステップ時、勇気の紋章の効果でドロー数を1枚増やす、この時、場にグレイモンスピリットがいるなら、カードを捨てなくて良い」

手札5⇨7

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨8

トラッシュ5⇨0

メタルグレイモン(疲労⇨回復)

 

 

「……メインステップ………ロクケラトプスとアグモンを再召喚」

手札7⇨6⇨5

リザーブ8⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

花火は進化の効果によって手札に戻っていたアグモンと、アトラーカブテリモンの効果で手札に戻っていたロクケラトプスを再び場へと召喚する。

 

 

「さらにメインマジック、ダイナパワー!!このターンの間、全ての地竜スピリットのBPを3000上げ、指定アタックの効果を与える!」

手札5⇨4

リザーブ2⇨1

トラッシュ1⇨2

 

 

地竜スピリット専用のマジック、ダイナパワー。その効果はとても赤らしく便利なもの。メタルグレイモンとロクケラトプス、アグモンが一瞬赤く発光し、パワーアップしたことを示した。

 

ーそしてこのターン。あれがようやく登場する。

 

 

「アタックステップ……行くぜメタルグレイモン!!ヘラクルカブテリモンに指定アタックっ!!」

「っ!?……BPの劣るメタルグレイモンでヘラクルに指定アタックやと!?」

 

 

走り出すメタルグレイモン。与えられた指定アタックで指定したのはヘラクルカブテリモン。メタルグレイモンはダイナパワー込みでもBP14000。対するヘラクルカブテリモンはBP18000。まるで相手にはなれない。

 

左手のアームで畳み掛けるメタルグレイモン。だが、ヘラクルカブテリモンはそれを物ともせず、アームを掴み、メタルグレイモンの身体ごと振り回し、それを地面に叩きつける。

 

このBP差なら当然だ。万事休すか…………………………………と思いきや……

 

 

「フラッシュ!!煌臨発揮!!対象はメタルグレイモン!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ2⇨3s

 

「…………っ!!」

 

 

メタルグレイモンが強い咆哮を上げる。それはまさしく進化の兆し。みるみるうちにオレンジの炎に包まれていく。

 

ヘラクレスはこの瞬間に理解した。何が来るのか、いや、ヘラクレスだけではないか、周りの観客、ファン、実況者、そして中継を見ている誰もが何が来るか理解している。そしてそれが出るのを何よりも楽しみにしていた。

 

 

「鋼鉄の竜よ!!今こそ最強の竜戦士となりて敵を討て!!……………究極進化ぁぁあ!!!」

手札4⇨3

 

 

メタルグレイモンはそのオレンジの炎の中でみるみるうちに姿形を変化させていく。それはもはや恐竜ではなく、竜人。無敵の武装と共に敵を穿つ最強の竜戦士だ。

 

 

「……………ウォーッ!!グレイモンッ!!!」

ウォーグレイモンLV3(4)BP19000

 

 

その炎を腕の鉤爪の武器で切り裂きながら姿を見せたのは、一木花火の長年のエーススピリットにしてフェイバリットカード、【ウォーグレイモン】これまで数々のドラマと奇跡を生んできた、まさにヒーローオブヒーローとでも言うべきスピリットである。

 

 

「………こ、これが花火さんのウォーグレイモン……っ!!!」

「おう!!かっこいいだろ?」

 

 

ヘラクレスは目の前の竜戦士に心を躍らせていた。胸が高鳴っていた。自分はこんなにすごい相手と戦っているんだと今更ながらに理解した。

 

ーそして自分がこのターンで負けると言うことも……

 

 

「ウォーグレイモンの煌臨時効果!!BP15000までスピリットを好きなだけ破壊するっ!!」

「……っ!!」

「……ちょうど15000の始甲帝を破壊させてもらうぜ!!!……超大玉!!!ガイアフォース!!!」

 

 

 

ウォーグレイモンは掌を合わせ、徐々にその間隔を広げると共に巨大な火の玉を形成していく。それは大気の空気を凝縮して作り出したものだ。そしてそれを始甲帝に向けて全力で投げつける。

 

巨大な始甲帝とほぼ同じ大きさの火の玉は、始甲帝をまるごと包みあげ、一瞬にしてそれを燃やし尽くしてしまった。

 

ーそして次はヘラクルカブテリモンだ。

 

 

「煌臨スピリットは煌臨元となったスピリット全ての情報を引き継ぐ!!よってヘラクルカブテリモンとのバトルも続く!!いけぇ!ウォーグレイモンッ!!」

 

 

背にあるブースターで低空飛行し、ヘラクルカブテリモンに急接近するウォーグレイモン。そして目にも留まらぬ格闘術の連撃でヘラクルカブテリモンを吹き飛ばす。

 

ーそして、

 

 

「打ち上げろぉぉお!!!!螺旋槍!!!ブレイブトルネードォォオ!!!!」

 

 

一木花火の決め台詞【打ち上げろ】自身の名前とかけられたこの言葉はこの世界においてはかなり有名である。

 

ウォーグレイモンはそのセリフを聞くと、腕に装着されたドラモンキラーと呼ばれる武器を天に掲げ、そのまま自身の身体をドリルのように高速回転させながらヘラクルカブテリモンへと突っ込んでいく。

 

ヘラクルカブテリモンは四本の強靭な腕でそれを抑えるが、長くは持たず、そのまま土手っ腹に風穴を開けられた。

 

それを貫いたウォーグレイモンはドラモンキラーから摩擦で出た火花を散らしながら、見事にヘラクルカブテリモンの背後で着地する。

 

流石に耐えられなかったか、ヘラクルカブテリモンは力尽き、倒れ、大爆発を起こした。

 

 

「ぐっ!!……ヘラクルっ!!」

 

 

ヘラクレスはヘラクルが巻き起こした爆風を肌で感じながらそう言った。

 

あの赤羽司、芽座椎名さえも倒すことができなかったヘラクルカブテリモンが破壊された。それほどまでにこの一木花火が強いのかが伺える。

 

ーそしてまだウォーグレイモンには効果が残っており、

 

 

「ウォーグレイモンのアタック時効果!!アタックの終わりにトラッシュのソウルコアをウォーグレイモンに置き、相手のライフ1つをボイドに置く!!」

トラッシュ3s⇨2

ウォーグレイモン(4⇨5s)

 

「………っ!!」

「豪火球!!ガイアフォース!!!」

 

 

始甲帝を倒した時以上の巨大なガイアフォースを形成するウォーグレイモン。そしてそれを今度はヘラクレスのライフへと全力で投げつける。

 

 

「……ぐっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

命中したそれでヘラクレスのライフは溶けるように1つ消滅した。

 

 

「これで終わりだな、アグモン、ロクケラトプス!!」

 

 

花火のトドメと言わんばかりのセリフと共に走り出す2体の恐竜たち。目指すはもちろんヘラクレスのライフ。

 

 

「………はっは、あんなに場を固めても1ターンで突破してくるんかい………こりゃ参ったで、…………ライフで受けたる」

ライフ2⇨1⇨0

 

 

ロクケラトプスの頭角を活かした体当たり。そして、アグモンの鋭い鉤爪が、ヘラクレスの残った2つのライフを一気に葬り去った。

 

ーこれにより、勝者は一木花火。チャレンジャー相手に見事に勝利を収めてみせた。

 

沸き上がる観戦と共に3体のスピリットが咆哮を上げ、ゆっくりとその姿を消滅させていく。

 

 

「へへっ!いいバトルだったぜ!!またやろうな!」

「あぁ、胸を借りれて光栄やったで!!次こそは勝ったるからなぁ!!」

 

 

ヘラクレスは地味ながら今回の敗北がプロ入り後の初めての敗北であった。が、彼はそれに対し悔しそうな顔は一切見せず、笑ってみせた。

 

ー次こそは勝つ。と心に誓って……

 

そして、2人は握手を交わし、この中継は終わった。

 

 

******

 

 

バトルが終わり、一木花火は会場にある自分の控え室まで歩いていた。

 

ーそんな中で懐かしい人物と遭遇し………

 

 

「よぉ!!一木花火ぃぃい!!」

 

 

オールバックの青年が元気よく花火に声をかけてきた。花火もそれが誰だかわかったみたいで………

 

 

「あっ!!お前小次郎か!!」

「小次郎か!!じゃねぇよ、全くお前って奴はよぉ、日本に帰ってきたら連絡くらいしろっての!!」

 

 

その人物とは【緑坂小次郎】。何度も言うが、緑坂冬真と緑坂真夏の叔父だ。彼は花火と中学からの昔馴染みでもあって、

 

 

「いや〜〜この後直ぐに出るし、別にいいかな〜〜って!」

「また!?今度はどこの国だよ!!」

「オーストラリア」

「オーストラリア!?」

 

 

一木花火は各国のプロリーグに参加し、尚且つ総ナメにしていた。これまで行った国は中国、イタリア、ブラジル……そして次に選んだのがオーストラリアだ。

 

 

「すっごいぜ!!世界はよ!見たこともないスピリットがわんさか出てきやがる!!……お前も来いよ!!」

「俺はお前と同じ道は通らん!!俺は俺で強くなっていつかお前を抜く!!」

 

 

小次郎はほぼ一方的に花火をライバルだと言っていた。昔から、とは言っても一度も彼に勝てたことはないのだが、

 

 

「にしてもよ〜〜お前の甥、結構強えじゃねぇか!」

「ん?あぁ、冬真ね、昔から確かにセンスはズバ抜けてたよなぁ、まさかあんなに強くなるなんて………」

 

 

話がヘラクレスの方へと傾く。ヘラクレスの話を聞いて、小次郎は何かを思い出したか、自分のBパッドを開いて写真のアルバムのアプリを開く。花火に何か見せたいものでもあるのか、

 

 

「そういえばよ、真夏が………あぁ、真夏って言うのは姪ね、冬真の妹、そいつからこんなメールと写真が送られてきたんだよ」

「写真?」

 

 

真夏から小次郎へのメール。その内容は「一木プロにあったらこの写真の娘を見せたげて」と言う内容だ。

 

ーそして一緒に送られてきたその写真に写っているのは……【芽座椎名】だ。カメラ目線ではないことから、真夏がこっそりと撮ったことがわかる。

 

花火は写真越しで、今の椎名の顔を視認した。

 

 

「………すごい奇抜な髪型だな………」

「いいよなぁ!!モテる男はよぉ!【椎名ちゃん】って言うんだと!!こんな可愛い娘がファンって羨ましすぎるだろぉ!!」

 

 

小次郎は椎名の写真を見たとき、真夏の友達で、絶対に花火のことが好きなファンだと思っていた。それもそのはず、何せ、一木花火のファンは皆、彼と同じようにゴーグルをかけるのだから、当然椎名も例外ではないだろう。と思われるのが一般的だ。

 

 

「…………ん?…このゴーグル………どっかで………………っ!!」

 

 

ーだが、花火は見抜いた。椎名の正体を、いったい彼女が誰なのかを、

 

ーそうだ。だいぶ昔の話だが、知っている。この娘は確実にあの時の女の子だ……と。

 

 

「違うぜ、小次郎……この娘はただのファンじゃねぇ」

「?」

 

 

決め手となったのは椎名の首にかけたゴーグル。これは間違いなく自分の特注品のゴーグルだ。普通のファンが持っているわけがない。

 

ー昔、11年前になるだろうか、自分のそれをあげた小さな女の子がいた。間違いない。この娘はあの時の子だと確信した。

 

 

「【椎名ちゃん】………ねぇ……覚えとこう……っ!」

 

 

花火は嬉しそうに小さく微笑んだ。

 

一木花火が芽座椎名を認識した一日となった。

 

この2人が巡り会う時は果たしてやってくるのだろうか。




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「今回はこいつ!!【ウォーグレイモン】!!」

椎名「ウォーグレイモンはあの花火さんのエーススピリット!!攻防一体の効果はまさしく最強のグレイモン!!」


******


〈次回予告!!〉

雅治「夏休み、僕は椎名と2人っきりで旅行することになった。旅行と言っても椎名の帰省に付き合うだけなんだけど、でも正直言って、凄い嬉しい、僕のキャラが壊れるほどに……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「じっちゃん暴走?鎮めよシャッコウモン!」……今、バトスピが進化を……超える?」


******


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

やっと出せましたよ〜〜前作主人公、一木花火!そしてそのエース、ウォーグレイモン!!

椎名がなんで花火に憧れているのかは【バトルスピリッツ オメガワールド】の【特別編】を参考に……
そして、【オーバーエヴォリューションズ】の【第8話】である程度の説明があります。

いつか椎名と花火がバトルできればいいなと思ってこの小説を書いております!

ちなみに今回でアニメが終わるくらいの話数まで来ましたが、現予定ではこの作品は平気な顔で100は超えます笑。

いつか名称【グレイモン】で新規が来たら、また花火が主役の【オメガワールド】を更新したいなと思う今日この頃です。


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第50話「じっちゃん暴走?鎮めよシャッコウモン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏、それは緑の木々が生い茂る季節。

夏、それは旅行の季節。

夏、それは好きな女の子と急接近できるかもしれない、そんな季節。

 

 

「ふぃーーやっと着いた!」

「へぇ〜〜結構大きいんだねぇ!!」

 

 

ここはとある島の空港。その入り口で大きな荷物を手に持ち、溢れる自然の山々を見ながら1人の少年がそう言った。それは雅治だ。その横には椎名もいる。

 

夏休み。学生なら誰もが楽しみにするであろうこの時期、芽座椎名と長峰雅治はこの期間中を利用してある島に旅行しに来ていた。

 

旅行と言ってもここは椎名の生まれ故郷の島。雅治はともかく、椎名にとってはただの帰省である。

 

その後、2人はバスに乗って椎名の住んでいたハウスと呼ばれる場所の近くまで向かう。

 

今は雅治と椎名は2人っきりだ。雅治にとってこんなに嬉しいことはない。まさか好きな女の子と一緒に旅行できるなど考えもしなかったことだろう。

 

椎名はいつものメンバー全員に一緒に島に行こうと声をかけていた。夜宵は仕事で来れず、英次も来れず、真夏は行けたが、雅治の背中を押すために行かず、そして司は反吐がでると言ってそっぽを向いて話を聞かず…………結果雅治だけが行くことになったのだ。

 

 

******

 

 

「こ、これを登るの?」

「ん?そうだよーー」

 

 

バスを降り、ハウスのある山の麓まで来た2人。だが、目の前に聳え立つのはその山に対し縦一直線に伸びている長い長い石の階段。ハウスに行くためにはこれを登って頂上に行くしかない。椎名は圧倒的な体力があるため軽く涼しい顔で楽々と登れるが、体力のない雅治はそうはいかない…………

 

登る前から生き地獄の予感しかしなかった。

 

 

******

 

 

「…………はぁ、はぁっ!…………だ、だめだ、ちょっと休もう」

「えぇ!?まだ半分もないよ!?」

 

 

雅治は案の定バテていた。思わず階段の途中で足を止め、手を膝の上に置いた。椎名曰く、まだ半分も行ってないようだ。

 

この山は約2000メートル。確かにそれくらいではある。

 

この程度の距離で休んでいるようではいつまで経ってもたどり着けない。そう考えた椎名はある行動に出る。

 

 

「よしっ!じゃあこうしよう!!」

「っ!!?」

 

 

そう言って椎名は何故か雅治の手をギュッと握った。

 

椎名の意外な行動に、思わず雅治は顔を赤くした。当然だ。好きな女の子から自分の手を握ってきたのだ。そんな嬉しいシチュエーションはない。この光景だけでも側から見たら誰がどう見てもカップル同然だ。

 

ーが、椎名にそんな恋愛的な要素を求めること自体間違っている。

 

手を繋いだ理由と言うのも………

 

 

「私が雅治を引っ張って行った方が速いや!」

「…………え?」

 

 

ーと言うものだ。

 

すると、椎名はそのまま凄まじい勢いで走り出した。あまりの速さに雅治の身体や荷物までもが宙に浮く。

 

雅治はまるでジェットコースターにでも搭乗しているかのような感覚に見舞われた。身体が浮く恐怖で声が出てこない。

 

結果として椎名と手を繋げたのは良い。本当に素晴らしいと思った。

 

だが、それとは別に真っ先に思ったことがある。

 

 

(……こ、これ、普通……逆じゃないっ!?!)

 

 

雅治はそう思った。普通なら確かに男性側が女性をエスコートしていくものだ。だが、これはどう言うことだろうか。圧倒的に、そして物理的に椎名にエスコートされている。雅治は身体が浮く恐怖よりも先ずそれが心に引っかかっていた。

 

 

******

 

 

「………しぃ……遅いのぉ」

 

 

ハウスのある山の頂上。その階段の頂点で、じっちゃんこと、芽座六月は椎名の帰りを今か今かと足踏みをしながら楽しみに待っていた。その様子はここにいる大勢の子供達以上に子供である。

 

椎名と最後に会ったのは2ヶ月ほど前か………ギルモン系のカードとデュークモンを渡した時以来だ。

 

あの可愛い椎名に会えるだけで寿命が延びそうだ。若返りそうだ。………六月はそんな楽しげなことを考えていた。

 

ーだが、その楽しみはある人物によってぶち壊される。

 

 

「………おっ!!来た来たぁ!!椎名ぁ!!」

 

 

椎名が凄い勢いで走ってくるのが見える。六月はそれを視界に入れるなりすぐさま大声を出して椎名の名を呼んだ。

 

ーが、その背後には雅治がいて、………いてと言うよりかは手を繋いで引っ張られている。

 

 

「よっしゃぁ!!とうちゃあく!!」

 

 

 

椎名がゴールテープを切るかの如く山の頂上まで到着した。その横で雅治は息が荒れて軽く呼吸困難に陥っていた。

 

 

「おおっ!!しぃ!!帰ったか!!」

「じっちゃん!!久しぶり!!」

 

 

椎名の帰りを喜ぶ六月。だが、その背後にいた雅治に気づいた。未だに椎名と手を繋いでいたその茶髪の少年に…………

 

 

「し、椎名……そろそろ手を離しても良いんじゃ………」

「あっ!!そだねーーごめんごめん〜〜〜!」

 

 

やっと息を整えるが、この状況を知り、頰を赤らめる雅治。椎名は全く彼の好意に気付いていないのか、能天気な声を上げながら手を離してあげた。

 

 

「……………」

 

 

その光景を見て、六月は焦りと怒りを覚えた。

 

誰だ?いったいこの椎名と仲良く話しているこの男は誰なのだと思考が交差していく。

 

 

「………と、ところで椎名よ………横の少年は誰じゃ?」

 

 

六月が聞いた。

 

 

「……あっ!こんにちは!お爺さん!!僕は長峰雅治というものです!椎名さんとは同級生なんです!いつもお世話になっています!

 

 

ーと、すかさず雅治が丁寧に挨拶をした。

 

 

「なんだよじっちゃん!!友達も誘うって言ったじゃん!」

「おっ!?……ほほ、そうじゃったかの………」

 

 

確かに椎名は友達も誘うと言った。だが、六月は女の子が友達を誘うのならば、普通は同じ女の子が来るものだと勝手に勘違いしていた。

 

どうしても六月は雅治に良い印象がなかった。この男が仮に椎名に気があるのなら…………止めなくてはならない。

 

 

******

 

 

「おかえり、椎名!!……あら〜〜いらっしゃい!!お友達?」

「はい!長峰雅治と言います!!椎名さんにはいつもお世話になっています!!」

 

 

ここはハウスの中、2人はその中にいた大勢の子供達とシスターマリアに会っていた。雅治は六月同様、また丁寧な口調で挨拶を交わした。

 

だが、その横で六月は不機嫌そうな顔をしている。明らかに雅治を疑っているかのような目だ。

 

その後、雅治と椎名は大勢の子供達と遊んだ。果てしなく広い広場で、それはバトルしたり、遊具で遊んだりと、楽しい時間を過ごしていった。子供達と言っても年齢はバラバラ。5歳から14歳までの総勢20名の子供達がこの場所にはいた。

 

 

「おじさま?安心して良いと思いますわよ〜〜」

「………何がじゃ?」

 

 

そんな様子を影からこっそりと見ていた六月に、シスターマリアが話してきた。シスターマリアにはお見通しだ。六月が何を考えているのか、そしてそれがおおよそ見当違いであるということも…………

 

 

「あの椎名が恋愛なんてすると思います?」

「…………椎名になくともあの小僧にあるかもしれんじゃろ?」

 

 

シスターマリアだけではない。六月とて知っている。椎名には恋愛のれの字も入っていないことが………

 

だが、椎名にはなくとも雅治側にそれがあるのなら、その不安分子を取り除いておきたい。というのが六月の望みであって………

 

 

「んーー……確かにあの子椎名に気があるみたいだけど…………」

「むぅっ!?やっぱりあるのか!?そうなのかぁ!?おのれぇ!あの小僧、許さん!!」

 

 

シスターマリアには何もかもがお見通しだった。雅治の椎名に対する気持ちなど。六月はシスターマリアからそれを聞いた途端に更なる怒りを燃え上がらせる。

 

 

「でもまぁ、紳士的な子だし、心配することないんじゃないですか?」

「紳士的とかそんな問題じゃないんじゃああ!!ワシは椎名が誰かのものになるのが嫌なだけじゃぁ!!」

 

 

六月は椎名と付き合う相手がどうとかじゃない。椎名が嫁入りすること自体イメージしたくないのだ。

 

 

「…………それは重症ですね、おじさま……………はぁ、お願いですからヤケになるのはやめてくださいね、もう70回ってるんですから……」

 

 

シスターマリアは最後に六月に辛辣な言葉を浴びせて、この話は一旦終わった。

 

 

 

******

 

 

そして時刻は経ち、今は夜。椎名と雅治はシスターマリアの作る晩御飯が出来上がるのを待ちながら、木製の机の上で夏休みの宿題をしていた。六月はその向かい側に座っており、その直ぐ横では子供達がテレビを見ている。

 

 

「むむっ!!………どうするんだろう?これ………」

 

 

椎名がわからない問題に手が止まってしまう。

 

 

「………ねぇ、雅治〜〜これどうやって解くの?」

 

 

すぐ横にいた雅治に聞いた。宿題ごと寄せて詰め寄る。雅治はやけに距離が近いと感じつつも、その問題に対して冷静に答えた。

 

 

「あぁ、ここは先ずね…………」

 

 

問題の解き方を教えていく。ちなみに雅治は椎名達のメンバーの中でも、少なくとも筆記の成績が一番高い。

 

彼は椎名や司のように生まれ持ったバトラーセンスがないため、それに追いつくために幼い時からずっと戦略や構築術などを学んでいるほどの努力家なのだ。そのため、カードの知識も人一倍多い。

 

 

「…………おぉっ!!解けたぁ!ありがとうっ!!」

「いえいえ、どういたしまして!」

 

 

問題が解け、椎名が喜ぶ。雅治もまたそれを見て笑う。彼はなによりも椎名が笑う姿が好きであった。

 

 

「…………」

 

 

六月はそれを見てなんとも言えない顔をした。その光景を目の当たりにすると、本当に心苦しいものがある。

 

ーもう我慢の限界だ。

 

六月は机椅子から立ち上がって雅治と椎名のところまで赴く。

 

ーそして、

 

 

「…………おい小僧………」

「?小僧!?……僕ですか!?」

 

 

六月が突然放った「小僧」という単語に戸惑いつつも、雅治は直ぐにそれが自分であることを認識し、六月の方に顔を向けた。

 

 

「………ちょっと顔を貸しなさい……っ!!」

「えっ!?………あ、はい……」

 

 

六月の怒りのボルテージはこの時点で既に最高点に達していた。それも雅治は感じたか、応じざるを得ないと思い、六月に顔を貸すことになった。

 

 

「えっ!?なに?どっか行くの??なら私もいく!!」

 

 

全くなにも察していない椎名が元気よくそう言うが、

 

 

「……しぃはここで待ってなさい、すぐ終わるからのぉ………ほっほ」

 

 

六月は椎名に対しては優しく接した。というか優しく突き放したというのが適当か……

 

 

「ちぇ、早く帰ってきてよねーー」

 

 

椎名は頬を膨らませながら残念そうな顔をした。六月はそれに対して若干の罪悪感を感じながらも雅治を連れていった。

 

ーあの洞穴へ……………

 

 

******

 

 

「……ここってあれですよね、椎名から聞いたロイヤルナイツのあった洞穴………僕なんかが入っても良いんですか?」

「……いや、今から行くのは椎名にも見せとらん場所じゃ………」

 

 

かつてギルモン系や、マグナモン、デュークモンなどのカードがあったこの洞穴。だが、それはここの半分に過ぎない。

 

もう一つ、別のスペースがあるのだ。そこにあるカード達は…………

 

 

「…………着いたぞ」

「おぉ、結構広いんですね………」

 

 

別のスペースの広い空間に出た。そこには大きな大きな壁画が描かれており、複数の鬼のようなものが人々を襲っている様子が描かれていた。

 

ーそしてそれを守ろうと鬼と戦っている人達も………

 

 

「この壁画は何ですか?」

「…………」

 

 

六月は雅治の言葉を無視して壁の一部に埋め込まれていたあるカード達を手に取った。雅治は薄暗くて、そのカード達をあまり視認できなかったが、少なくとも1枚は青と緑の半分半分のスピリットでであることだけ読み取った。

 

 

「………ところで小僧」

「はい」

「椎名とはどういう関係じゃ?」

 

 

六月は単刀直入に聞いてきた。一番大事なことを………

 

 

「え?いや、どうって、だから同級せ………」

「本当にそれだけかぁ!?」

「っ!!」

 

 

怒り狂ったように叫び出す六月。その重たいプレッシャーに、雅治は一瞬腰が引けた。

 

 

「お前……本当にわしの椎名にっ!!……なにもしとらんのかぁ!!?!」

「なにもしてないですよ!?ていうか何ですかさっきからぁ!?」

 

 

どんどん頭のネジが飛んでいく六月。雅治は意味がわからないと言わんばかりに返答するが、六月の気は全く治らない。

 

 

「……もういい……お前をここで倒すことで未然に阻止してくれるっ!!」

「な、なにをっ!?」

 

 

もはや会話ができない。六月は自分のBパッドを展開し、セットした。そしてその青と緑のカードを入れたデッキも、そこに置いた。バトルの準備は万端だ。雅治にとってはバトルする意味が全くわからないのだが、

 

 

(こ、これはバトルしないといけないのか!?……でもここでバトルしとかないと…………)

「おいこるぁぁあ!!!さっさと準備せぇ!!」

 

 

「殺されそう」雅治はそう思い、命の危機を取り敢えず脱出するために、Bパッドを展開してバトルの準備を進めた。

 

そして始まる。六月の怒りのままのバトルが、そして雅治の孤独な戦いが…………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

ーバトルが始まった先行は……

 

 

「先行はわしじゃぁ!!」

 

 

ー六月だ。ターンシークエンスを速攻で進めていく。

 

 

[ターン01]六月

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、力集める翼風車を配置してエンドじゃ!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

力集める翼風車LV1

 

バースト【無】

 

 

六月が颯爽と配置したのは綺麗な野原の上に立つ風車達。風の力でゆっくりとそれが回転している。

 

先行の第1ターンのどできることが限られている。六月はこれだけでそのターンを終えた。

 

 

[ターン02]

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

(相手はあの椎名にバトルを教えた人だ………油断せずに展開していこう……)

 

 

そう、今回雅治が相手しているのは芽座六月。椎名だけではない、芽座葉月にもバトルを教えた程の人物であることから、かなりの達人であることが伺える。

 

一切の油断が許されない。雅治はそう思いながらバトルを進行していく。

 

 

「メインステップっ!!……僕はアルマジモンを召喚します!……そして召喚時効果!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【イエローリカバー】×

【パタモン】×

【パタモン】×

 

 

雅治が初手で召喚したスピリットは黄色の成長期スピリット、アルマジロのような姿をしたアルマジモンが現れた。

 

だが、その召喚時効果は失敗。誰も手札に加えられることはなく、そのまま破棄されてしまった。

 

 

「アタックステップ!!アルマジモンでアタックします!!」

 

 

仕方のない失敗などいちいち悔やんではいられないか、雅治は召喚したてのアルマジモンでアタックする。

 

 

「ネクサス、力集める翼風車の効果でこのネクサスにコアを1つ追加するぞ」

力集める翼風車(0⇨1)LV1⇨2

 

 

六月の背後にある風車が今まで以上に勢いよく回転する。自身の効果によってコアが追加され、レベルが上がったのだ。

 

力集める翼風車には相手の合体していないスピリットかアルティメットがアタックした時にコアを追加する効果がある。

 

 

「……アタックはライフで受けるかの」

ライフ5⇨4

 

 

アルマジモンの渾身の体当たりが六月のライフを1つ砕いた。

 

 

「………ターンエンドです」

アルマジモンLV1(1)BP2000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

 

雅治はできることを全て終え、そのターンのエンドとした。次は力集める翼風車のお陰でコアが増えた六月のターンだ。

 

 

[ターン03]六月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ…………異海獣アビスシャークを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨3

 

「…………っ!!」

 

 

六月の場にスピリットが現れる。それは海の海獣、アビスシャーク。その名の通り鮫型のスピリットだ。

 

このスピリットの色は青。六月は青と緑の使い手である。そしてこのアビスシャークは彼の本気のデッキにとって一番大事なキーパーソン的な役割を担っており……

 

 

「アビスシャークの効果!!自身を疲労させることで、相手のコスト4以下のスピリット1体を破壊!!」

異海獣アビスシャーク(回復⇨疲労)

 

「……っ!!」

「アルマジモンを食らうのじゃ!!」

 

 

場を泳ぐように駆け巡るアビスシャーク。そのまま雅治の場にいるアルマジモンを捕食した。

 

アビスシャークの最も厄介な効果だ。【アーマー進化】同様のタイミングで低コストスピリットを破壊してくるのだから、

 

そして今回はそれだけに収まらず………

 

 

「さらに【連鎖:緑】の効果でコアを1つリザーブに置くぞい」

リザーブ1⇨2

 

 

この効果後に、緑のシンボルさえあればコアも増えるおまけ付きである。

 

 

「さらにバーストを伏せ、このターンはエンドじゃ」

手札4⇨3

 

異海獣アビスシャークLV2(2)BP5000(疲労)

 

力集める翼風車LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

六月はさらにバーストカードをセットし、そのターンのエンドとした。あれだけ怒りを見せていたというのに、そのプレイングは思ってた以上に繊細で堅実なものであった。

 

雅治はそんな六月はやはり侮れないと感じつつも、次の自分のターンを進めていく。

 

 

[ターン04]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップっ!!サブマリモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

雅治が次に召喚したのは青属性のスピリット、潜水艦のようなサブマリモンだ。

 

 

「………青か」

「そうです!!召喚時効果!!コスト4以下のスピリットを1体破壊!!これにより僕はアビスシャークを破壊するっ!」

 

 

サブマリモンに取り付けられていた魚雷が発射する。それは一直線に六月のアビスシャークに飛び向かい、そしめ命中。それを木っ端微塵に粉砕した。

 

 

「よしっ!厄介なアビスシャークは破壊しましたよっ!!」

 

 

かなり厄介なアビスシャークの破壊に成功し、軽くガッツポーズを掲げて喜ぶ雅治。

 

だが、その程度では本気の六月の壁は超えられない。

 

前のターンに伏せられたバーストが勢いよく反転する。

 

 

「………はっはっは!!その程度、痛くも痒くもないわぁ!!……バースト発動!!」

「…………っ!!」

 

 

六月がこれから召喚するスピリット、それはバーストの効果を持ち、条件は【相手スピリットの召喚時】サブマリモンの効果がトリガーとなったのだ。

 

六月はそれを召喚する。

 

 

「効果により、このカード、ダゴモンを召喚じゃぁ!!」

リザーブ4⇨1

ダゴモンLV2(3)BP10000

 

「…………っ!!」

 

 

地面が突如水浸しになり、沼となる。そこからどんどん浮き出てくるのは青い体を持つたこのようなスピリット。

 

それは完全体のデジタルスピリット、ダゴモンだ。

 

 

「………ダゴモン……」

 

 

雅治はその異端な存在を目の前にして、思わずそう呟いた。

 

六月はそんな言葉など聞く耳にも入れず、このダゴモンの召喚時を発揮させる。

 

 

「ダゴモンの召喚時効果!!召喚時効果を持つ相手のスピリット1体を破壊じゃ!!」

「………っ!?」

「サブマリモンを沈めよ!!」

 

 

ダゴモンがその長い吸盤付きの触手を伸ばす。サブマリモンはその触手に囚われてしまい、ダゴモンの足元にあるドス黒い沼に引きずり込まれてしまった。

 

このデジタルスピリットが大半を占める環境の関係上、この手の効果はかなりの確率で刺さってしまう。

 

雅治はまた場を空にされてしまった。おまけにコアもほとんどないため、次のターンはほぼノーガードなる可能性が高い。

 

 

「ぐっ!………ターンエンド……」

 

バースト【無】

 

 

結局ダゴモンのせいでアビスシャークの破壊程度しかできなかった雅治。

 

次はそんな雅治をここまでほぼ完封している六月のターンだ。

 

 

[ターン05]六月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ……再びバーストを伏せ、2体目のアビスシャークをLV2で召喚じゃ!」

手札4⇨3⇨2

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨2

 

「………っ!!」

 

 

次なるバーストが伏せられると共に、サブマリモンが破壊したアビスシャークが今一度六月の場へと姿を現した。

 

並び立つ鮫とタコ。六月はこの2体で雅治のライフを減らしていく。

 

 

「アタックステップ、やれ、アビスシャーク、ダゴモン!!」

 

 

場を駆けるスピリット達。雅治の場にはスピリットはおろか、バーストさえ無い。そしてコアもほぼ空であるため、このアタックは無条件で受けなければならなくて……

 

 

「ライフで受けるっ!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

アビスシャークの鋭い牙での噛みつき、そして、ダゴモンのしなって叩きつけてくる触手が雅治のライフを一気に2つ破壊した。

 

 

「………ほっほ、なんじゃその程度か小僧……そのくらいじゃ、椎名はやれんの」

ダゴモンLV2(3)BP10000(疲労)

異海獣アビスシャークLV2(2)BP5000(疲労)

 

力集める翼風車LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

「………つ、強い……」

 

 

雅治はこの時点で圧倒的な実力差を感じていた。彼から与えられるプレッシャーもそうだが、なによりも潜った修羅場の数の違いが鮮明にわかる。

 

芽座六月とは、椎名にバトルを教えていた人物と言うのは、もはや【伝説バトラー】にも勝も劣らない達人であると言うのだろうか。

 

ー雅治はそう思考をよぎらせていた。

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「ふっふっふ………来るなって言われたら付いて行きたくなるよね〜〜〜」

 

 

ここは洞穴の中。その最奥部までの道中には芽座椎名がいた。

 

理由は単純。雅治と六月が何を話しているのか気になるのだ。そして来るなと言われたらちょっと付いて行きたくなる人間心理の好奇心からでもある。

 

そして椎名は歩みを進めていると、洞穴の中の枝別れした道に遭遇した。右片方はマグナモンやデュークモンが収められていた祠がある空間。もう一方の左側は現在進行形で雅治と六月がバトルしている壁画がある空間だ。

 

 

「………んーー……どっちに行ったんだろう?」

 

 

椎名は行く先に迷った。2人がこの洞窟に入ったところまでは見たものの、この2つの道どっちかに行ったかは定かではないのだ。

 

答えは2つに1つ。その答えは左なのだが、

 

 

「……よしっ!!行ったことないし、左に行ってみよう!!」

 

 

正解だ。椎名は鬼のような壁画がある空間の道を見事に選んだ。物語中度々あることではあるが、椎名の直感はよく当たる。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「……僕のターンだ!」

 

 

そんなことなどつゆ知らず、六月と雅治のバトルは続いている。現在は雅治の第6ターンだ。この圧倒的劣勢の状況から逆転なるか……

 

 

[ターン06]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ………」

 

 

雅治は考えた。この現状、自分が侵された状況を。

 

今、手札には2枚目のアルマジモンがある。これを召喚しても良いが、次のターンで確実にアビスシャークの効果で破壊されてしまう。

 

なによりもあのバーストだ。召喚時には特に注意してターンを進めなければならない。

 

ーならばやることは1つ。

 

 

「僕は華王の城門をLV2で配置し、ターンエンドです!」

手札5⇨4

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨3

 

華王の城門LV2(2)

 

バースト【無】

 

 

雅治の背後に巨大な黄色の華やかな城門が現れる。それは黄色のデッキならばどんな構築でも活躍できる汎用性の高いネクサスカードだ。

 

だが、雅治はこれ以上何も動くとはなく、そのままターンを終えた。やはり下手には動かないのだろう。

 

 

「………ふんっ、わしのターンじゃ」

 

 

六月はそんな手詰まりなようすの雅治を見て、鼻で笑った。今日の六月は明らかにキャラがおかしい。やはり椎名が絡んでいるからか、

 

だが、六月は意外と余裕ではなかったことに後から気づくことになる。

 

 

[ターン07]六月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

ダゴモン(疲労⇨回復)

異海獣アビスシャーク(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……さらに3体目のアビスシャークを召喚じゃ!!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

六月はさらに雅治に追い討ちをかけるように3枚目となるアビスシャークを呼び出した。このダゴモンを含めた3体のアタックが全て通れば六月の勝ちとして決着となる。

 

 

「アタックステップ!!ダゴモンよ!!」

 

 

ゆっくりと沼の侵食地を広げて雅治へと近づいていくダゴモン。雅治のライフは残り3。この辺りで何か手を打たなくては一気にやられてしまうだろう。

 

ーだが、雅治はまだまだ粘りを見せる。

 

 

「フラッシュマジック!!サンクチュアリバインド!!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨6

 

「ぬっ!?」

 

「この効果で、このターン、相手のスピリットはアタックができなくなります!!……そして有効となるダゴモンのアタックはライフで受ける!」

ライフ3⇨2

 

 

六月の場が突如黄色いベールに包まれていく。それは彼のスピリット達の行く手を遮る壁。アビスシャーク達はそれらを飛び越えることができない。

 

だが、ダゴモンだけがそれから逃れ、雅治のライフをそのまま触手で叩きつけて1つ破壊した。

 

 

「…………しぶといの………ターンエンドじゃ」

ダゴモンLV2(3)BP10000(疲労)

異海獣アビスシャークLV2(2)BP5000(回復)

異海獣アビスシャークLV2(2)BP5000(回復)

 

力集める翼風車LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

そうなっては流石にターンを終えざるを得ないか、六月は少々苦い顔をしながらもそのターンをエンドとした。

 

次は何とか耐えた雅治。ここあたりでどうにかしてこの盤面を覆さない限り、敗北は必至だが、

 

 

[ターン08]雅治

 

 

「スタートステップ時、華王の城門の効果で、手札のアルマジモンを手元に置き、ドロー!」

手札3⇨2⇨3

オープンカード↓

【アルマジモン】

 

 

雅治の手札に元々あったアルマジモンのカードが彼の手元に置かれると共に、ドローステップ前のドローを可能とした。

 

 

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨9

トラッシュ6⇨0

 

 

華王の城門のおかげもあって、雅治はなんとかこのバトルの鍵を握るであろうカードをドローできた。

 

少なくともこの場は切り抜けられる。雅治はそう思い、このターンを進めていく。

 

 

「メインステップ!!僕は手元に置いたアルマジモンを召喚する!」

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨2

 

 

華王の城門。その効果で雅治の手元にオープンカードとして置かれていたアルマジモンが場に召喚された。そしてその召喚時効果も今一度発揮される。

 

 

「召喚時効果!!カードをオープンするっ!!」

オープンカード↓

【パタモン】×

【アンキロモン】◯

【イエローリカバー】×

 

 

効果は成功。成熟期スピリットであるアンキロモンのカードが雅治の手札へと加えられることとなる。

 

だが、まだアルマジモンの効果は終わらず、

 

 

「アルマジモンの追加効果!!さらに2コストを支払うことで黄色の成熟期スピリットを召喚できる!!僕はコストを払い、手札からエンジェモンを召喚します!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ6⇨3

トラッシュ2⇨4

 

 

アルマジモンが呼び寄せたのは文字通り天使型のスピリット。6枚の白い羽を有した男性のスピリット、エンジェモンだ。

 

ここまでがアルマジモンの召喚時。

 

しかし、この後直ぐにあの恐怖が蘇る。

 

 

「バースト発動!!2枚目のダゴモンじゃ!!効果によりこれを召喚する!!」

リザーブ1⇨0

ダゴモンLV1(1)BP7000

 

「………っ!!」

 

 

2枚目のバースト、2枚目のダゴモンの効果が発揮される。六月の裏向きのバーストカードが勢いよく反転したかと思えば、すぐさま2体目となるダゴモンが場へと召喚された。

 

これで六月の場はタコ、鮫が2体ずつ。その姿の異形さもあって、雅治に与えられるプレッシャーは半端なものではなかった。

 

ーそして、今度はダゴモンの召喚時効果だ。

 

 

「召喚時効果!!同じ召喚時効果を持つ相手スピリット1体を破壊じゃ!!わしは小僧のアルマジモンを破壊する!!」

「………くっ!!」

 

 

サブマリモン同様。アルマジモンは2体目のダゴモンの触手に絡み取られ、そのまま足元まで引きずりこまれ、地の底まで沈んでいった。

 

 

「わっはっは!!!どうじゃ!!お前に椎名は絶対にやらんぞ!!!」

「……………」

 

 

雅治のこの絶体絶命の状況を見て高笑いする六月。その様子だけを見ると、あんなに【バトルは楽しむもの】であると言っていた人物とは到底思えない。

 

ーだが、

 

 

「いや、これでいいんです。」

「………ぬっ!?」

 

 

雅治の放った言葉に、六月は少々驚かされた。

 

そう、これはフェイク。囮だ。あのバーストカードが2枚目のダゴモンだった時のケアだ。だから前のターンでアルマジモンは召喚しなかった。

 

ーこのターンで一気に形成を傾かせるために。

 

 

「僕はさらにアンキロモンを召喚する!!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨1

トラッシュ4⇨6

 

 

雅治はアルマジモンの効果で手札に加えた背中が鎧のような外骨格で覆われた恐竜のような黄色の成熟期スピリット、アンキロモンを召喚した。

 

これで条件は満たした。雅治は六月に勝てるならこれしかないと思っていた。自分のオーバーエヴォリューションで手に入れたあのカード…………それは六月も知らないカードであるからだ。

 

 

「僕は手札にあるシャッコウモンの【ジョグレス進化】の効果を発揮!!対象はエンジェモンとアンキロモン!!」

「………っ!?【ジョグレス進化】じゃと!?」

 

 

六月は驚いた。【ジョグレス進化】という特別な召喚方法は椎名のパイルドラモンから知ってはいたが、まさかこの少年までもが使ってくるなどとは思ってもいないことであっただろう。

 

雅治の場のエンジェモンとアンキロモンが宙へと飛び立つ。2体はその中でデジタル粒子となり、分解され、そして交わって新たなスピリットの形を形成していく。

 

 

「…………ジョグレス進化ぁぁあ!!……………シャッコウモン!!」

シャッコウモンLV2(2)BP10000

 

 

新たに現れたのは土偶のような見た目に天使のような白い羽を携えた黄色の完全体、かつジョグレス体のスピリット、シャッコウモンだ。

 

その存在感と異形さは六月の場のスピリット達さえをも凌駕する。

 

 

「………こ、これは………」

「シャッコウモン……僕のエースです、お祖父さん…」

 

 

そう言って雅治はこのシャッコウモンの効果を発揮させていく。それはこの状況を一転させる強力なものであって、

 

 

「シャッコウモンの召喚時効果!!【ジョグレス進化】で召喚されていたのなら、相手のスピリット全てのBPをマイナス20000するっ!!」

「………っ!?」

「裁きの天光!!アラミタマ!!!」

 

 

シャッコウモンの目の部分から照射される赤いレーザービーム。それは瞬く間に六月の場にいるスピリット達を焼き尽くしていく。マイナス20000ともなれば流石に殆どのスピリットは耐えられない。

 

六月の場のスピリットは全滅してしまった。

 

 

「………くっ!!」

 

「よし!!ターンエンドです!!」

シャッコウモンLV2(2)BP10000(回復)

 

華王の城門LV2(2)

 

バースト【無】

 

 

雅治はシャッコウモンをブロッカーに残してそのターンを終えた。それもそのはず、何せ雅治のライフは残り2。少しでも守りに徹しなければならない状況だからだ。

 

それに対し六月のライフは4。どちらにせよ攻めるなら次しかない。

 

そして、今の雅治の手札には前のターンにも使ったサンクチュアリバインドがある。次のターンまでは耐えられる。

 

ー雅治はそう考えていた。

 

 

「…………小僧………!!」

「っ!?」

 

 

追い詰められた六月が口を開いた。その声の低さは果てしない闇を感じさせる。実際はただ椎名を男に渡したくないのが原因なのだが……

 

 

「よくもやってくれたな………じゃが、次で終わりじゃ、覚悟しておれ………」

「っ!?」

 

 

ー次で終わり………たしかに六月はそう口にした。まさか確実にこのバトルを自分の勝ちで終わらせる一手が手札にあるとでも言うのか………

 

ーそれはすぐにわかることであって………

 

 

[ターン09]六月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ8⇨9

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ9⇨11

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ…………こいつを召喚するのは17年ぶりじゃわい……なんせずっとこの洞穴に置いていたからのぉ!!…」

「…………っ!!」

 

 

そう言いながら手札の1枚に手をかける六月。それを見て雅治は思わず身構えた。

 

ー「いったい何が呼び出される」

 

ただただその考え方だけが頭をよぎらせていた。

 

ーそして…………

 

 

「召喚!!わしの最強のスピリット!!!世界を統べる皇帝竜!!!!…………その名は…………」

 

 

そのスピリットの召喚口上を述べていく六月。それは今にも召喚されようとしていた………

 

ーだが、それはある人物のある一言で止められることとなる。

 

ーそれは……

 

 

「………イン……」

「あっ!!!いたいた!!……お〜〜〜い!!雅治ぅ!!じっちゃぁぁあん!!」

 

 

ー芽座椎名だ。到着するなり眼前に入れた2人に元気よく手を振った。

 

 

「……えぇ!?椎名ぁ!?」

 

 

それを見て雅治は驚いた。

 

しかし、もっと驚いた人物が………

 

ーそれは芽座六月だ。

 

 

(ぬぉっ!?椎名ぁ!?……なぜここにぃ!?…………そして何よりもなぜ………なぜぇ!?)

 

 

六月は思ったことがある。椎名が来たことよりも驚く事実が………

 

 

(なぜ、わしよりあの小僧の名が呼ばれるの先なのじゃぁ!!!?!?!)

 

 

六月は何よりもそこにショックを受けていた。自分よりも先に雅治の名が椎名の口から出たことに………

 

ーそしてまだまだ六月の悲劇は続く。今度は肉体的に………

 

 

 

 

ーグキ!!!!

 

 

 

そんな鈍い音が六月の背中、又は腰の方から聞こえてきた。

 

 

 

「ぬ、ぬぉぉおお!!!!」

 

 

六月はあまりの激痛に耐えられずにその場で倒れ、もがき出した。

 

ー【ギックリ腰】

 

人間、歳をとったら誰もが訪れる現象だ。六月は本年71歳。それが来る頻度はなかなかに多いことだろう。椎名の一言が与えた精神的なダメージの影響も大きいと言える。

 

ーもちろん椎名に悪気があったわけではないが………

 

 

「じ、じっちゃぁぁあん!!?」

 

 

椎名は思わずその場で倒れた六月に駆け寄った。

 

 

「し、椎名………なぜ、なぜなんじゃ…………」

 

 

六月はそれになってから小声でずっとそんなことを口にしていた。

 

六月がこんな状態ではバトルの続行は不可。

 

よって、このバトルの勝者は雅治となる。それを告げるかのように雅治の場にいたシャッコウモンがゆっくりと消滅していく。

 

 

「し、椎名、お爺さんは大丈夫!?」

 

 

もう椎名がなんでついてきたかどころではない。雅治は慌てて椎名に六月の状態を聞いた。

 

 

「あっはは……じっちゃん、ギックリ腰になったみたい……私がハウスまで連れて行っとくよ……」

 

 

六月に駆け寄って直ぐに何が起こったのかわかった椎名はそれを雅治に告げると、六月を背に乗せ、洞穴の出口まで歩いて行った。

 

雅治もその様子を見て、落ち着いたように肩をなでおろした。

 

 

******

 

 

「ね〜〜さ、じっちゃん……」

「………なんじゃ?」

 

 

椎名は六月を背に乗せ、歩きながら口を開いた。

 

言いたいことがあったからだ。

 

六月も痛みに耐えながら辛うじてそこに耳を傾けた。

 

 

「………やっぱ私じゃ葉月は元に戻らなかったよ……」

 

 

そう。そのことだ。六月は椎名に葉月を元に戻せるのはお前だけだと言及した。

 

だが、結果的に勝ちはしたものの、やはり葉月は帰ってくることはなかった。

 

ー椎名が今回また帰省したのはそれを言いたかったからである。

 

 

「………なんじゃそんなことかの…………気にするでない………いつか必ずあいつは心から救われる……別に1回だけで戻るとは言ってはおらんかったじゃろう?」

「え〜〜そうかなぁ?」

 

 

六月はそう言った。たしかに前も1回で戻るとは言ってはいなかったが、

 

ーというか、今の六月にはそんなことどうでもよかった……

 

 

「………というより椎名っ!!あの雅治とか言う小僧とどういう関係なのじゃ!?」

 

 

そう。今はそんなことよりそこが気になってしょうがなかった。

 

 

「え?だから友達だって…………」

「本当か!?」

「本当か!?って……いったい何を疑ってるの!?」

「それはあれじゃよ………ほら、なんというかの………ほっほ…………」

 

 

ーこんなやりとりがハウスにたどり着くまで続いた。

 

いや、それまでではないか、椎名達が翌日ここを出るまで、ずっと、永遠と無限に、この質問を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「今回はこれ!!【ダゴモン】!!」

椎名「ダゴモンは青のスピリット!!バーストを持っていて、召喚時に相手の召喚時効果を持つスピリットを破壊できるよ!!」


******


〈次回予告!!〉


椎名「結局、雅治とじっちゃんは何を話してたんだろう?……バトルするんだったら私も混ぜてくれればよかったのになぁ〜……まぁいっか!!残った夏休みを楽しもうっと!!……え!?私だけ補習ぅ!?……勘弁してよ〜〜!!!……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「ベストマッチ!! 確率のビルド!」……今、バトスピが進化を超える!!」


******



最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
椎名の住んでいたところを「ハウス」と言うのは、大勢の子供達が住んでいて、とても大きいからです。「大きい家」というより「ハウス」と言ったほうがそれっぽく聞こえますからね、

そして次回は超絶久しぶりの仮面ライダー回!!お楽しみに!!


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第51話「ベストマッチ!! 確率のビルド!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日中蝉の鳴き声が木霊する夏休み真っ盛りのこの時期。学生であるなら、普通は遊び、遊び、また、遊びまくる筈だ。海に行ったり、お祭りに行ったりと、

 

ーだが、この少女だけはこの日、夏休みとはベストマッチしない学園の校舎の中にいて…………

 

 

「…………せんせ〜〜い!!!なんで私だけ今日学校行かなきゃならないんですかぁ!?」

 

 

校舎内を歩きながら、赤毛の少女芽座椎名は、担任の空野晴太にそう声を伸ばしながら言った。

 

そうだ。なぜか今日。椎名は晴太に学園に来るように呼び出された。晴太は歩きながらそれを説明していく。

 

 

「いや、お前あれだよ、「数学」と「物理」の教科、赤点だったろ」

「…………でしたっけ?」

「惚けるなぁ!!その補講なんだよ!!」

「えーー!?なんでそうなるんすかぁ!?」

 

 

椎名は1学期末の筆記テストにおいて、「数学」「物理」のテストが赤点であった。実際はテスト内容は簡単だったのだ。教科書を読んでおけば、少なくとも赤点くらいは免れたことだろう。

 

だがそれを一切せずに赤点を取ったのがこの椎名なのだ。彼女が学園にたった1人で呼び出されたのはそういうことだ。

 

 

「それで今回はお前に特別な講師を紹介することになった………」

「……子牛?」

「講師な……先生みたいな意味だ……………着いたぞ」

 

 

晴太が椎名の間違いを訂正しながらも、目的地となる所に到着したことを告げた。

 

ーここは理科の実験室。人体模型はもちろんのこと、アルコールランプや、顕微鏡なども置いてある普通の学校となんら変わりない理科室だ。

 

ーその扉の前に、今2人は立っている。

 

 

「ここに特別な子牛がいるんですか?」

「そうだ……みっちり教えてもらえよ!!また後で様子見にくっからな!!」

 

 

そう晴太は念を押すように言葉を残し、実験室を離れていった。椎名はただ1人となり、不安になりつつもその実験室の扉をゆっくりと開ける。

 

ーすると、そこにいたのは…………

 

 

「………し、失礼しま〜〜す………」

「よしっ!!いいぞいいぞ!!その調子だっ!!」

「……………牛じゃないんだ……」

 

 

そこにいたのは30は超えてそうな細身の男性。黒々とした髪と、物理の講師らしく白衣の衣装をその身に纏っている。

 

彼は教卓の上で実験を行なっていた。なにやらシリンダーを使って液体を混ぜているように見える。

 

だが、問題なのはそれに集中しすぎて、この実験室に入室してきた椎名の存在に全く気づいていないと言うことだ。椎名は自分の存在を知らせるために彼に近寄る………

 

 

「あの〜〜!!すみません!!芽座椎名って言います!!貴方が特別な子牛ですか!?」

「よしっ!!最高じゃないか!!仕上げはこれを入れてみよう!!」

「おーーーーい!!!」

 

 

だめだ。いくら耳元で叫んでも全く聞く耳を持ってくれないし、振り向いてもくれない。

 

そんな中、彼が仕上げと言いながらまた別の液体をシリンダーの中へと一滴分投入する。

 

ーすると、そのシリンダーはみるみるうちに変色し、ぶくぶくと沸騰していく……………

 

ーそして………

 

 

 

 

 

ーボカーーーーーーン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜〜悪いことしたなぁ!!俺は【兎戦 確率(とせん かくりつ)】。今回、君の特別講師を担当することになった天才物理学者だ!!よろしく!!」

「はぁ、芽座椎名です………」

 

 

2人はさっきの爆発で顔が真っ黒である。

 

普通自分で天才なんて言うか?……そう思いながら椎名は白いタオルで汚れた顔を拭きつつも軽く挨拶をした。

 

だが、この男、兎戦確率は、実際、本物の天才なのだ。いくつかの賞も受賞しているほどに。自分から天才と名乗ってもなんの偽りでもない。Bパッドの開発も彼が携わったくらいだ。

 

まぁ、そんなこと椎名が知る由はないのだが、

 

 

「ところで……1学期末の「物理」と「数学」のテスト……君の答案を見たけど……ありゃ酷いな、簡単な問題ばっかりだったのに……特に計算問題が酷かった」

「あっはは!!いや〜〜私計算とかそういうのは全然ダメでしてーー」

 

 

まるでなんで赤点を取れるんだと言わんばかりの言いようである。実際はそうなのだが、

 

 

「やっぱ、俺が一から教え込む必要があるよな………」

 

 

そう言って、確率ななぜか懐からBパッドを取り出し、それを展開した。

 

 

「Bパッド?」

「物理や数学の基礎はバトルスピリッツに通用するものがある。だからバトルをしながら君に身をもって教えてあげよう」

「マジっすか!!!やったあ!!物理の補講とか言うからどんなものかと思えば………バトルなら大歓迎だよ!!」

 

 

なぜか妙な理由でバトルすることになった。どんなに理由でも構わないのか、バトルすると言う単語だけで諸手を上げ、喜ぶように飛び跳ねる椎名。教卓からある程度の距離を取り、自分もBパッドを展開した。

 

ーそして始まる。補講でのバトルスピリッツが、天才物理学者と椎名のバトルが…………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

ーバトルが始まった。先行は確率だ。彼はいったいどんなデッキを使用するのだろうか。

 

 

[ターン01]確率

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ………先ずはこれだな、ネクサスカード、パンドラボックスをLV2で配置」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

「…………?」

 

 

確率が配置したのは黒くて四角い箱。だが、それは開けてはならない禁忌の箱でもある。

 

 

「このカードはLV2の時、破壊されたら相手のターンを強制的に終了させるから気をつけてねーーターンエンド」

パンドラボックスLV2(1)

 

バースト【無】

 

 

なんかやばいことをさらっと言った気がする。

 

そう。このパンドラボックスは破壊して(開けて)仕舞えば相手のターン(世界)を終了(崩壊)させてしまう。そんな危険なネクサスを残しつつ、確率はそのターンを終えた。次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!!ブイモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が颯爽と召喚したのはデッキのエンジン的存在であるブイモン。青い体の小さい竜だ。額のブイの字が特徴的。今回は教室でのバトルということもあって机の上に立っている。そのこともあって珍しく椎名と目線が同じだ。

 

椎名は早速その召喚時効果を使用する。

 

 

「召喚時効果!!カードを2枚オープンし、その中の対象となるデジタルスピリットを手札に加える!!」

オープンカード↓

【ワームモン】×

【デジヴァイス】×

 

 

だが、今回は失敗。めくられた2枚のカードはそのままトラッシュへと破棄された。

 

 

「…………45.7%………」

「ん?」

 

 

確率は突然謎めいた数字を言い出した。いったい何を意味しているのか椎名にはちんぷんかんぷんである。

 

 

「この状況でブイモンの効果で手札に加えられる確率だ…………ほぼほぼハーフハーフだったらまぁ、落ちるよね」

 

 

確率は椎名のブイモンの効果により手札に加えられる確率を瞬時に計算していたのだ。

 

 

「へ〜〜〜〜………え?ちょっとまって!!なんでそんなことわかるんですか!?」

 

 

椎名がそう声を荒げる。単純に浮かんだ疑問だった。そんな確率は椎名のデッキに何が入っているか知っていないとできないものである。

 

だが、答えは簡単で、

 

 

「あぁ、俺は晴太先生から事前に君のデッキの内容を見てもらっていたからね、多少はわかるよ」

「え〜〜!?ずるい!!私確率先生のデッキこれっぽっちも知らないよ!?」

 

 

椎名が頬を膨らませて確率に文句垂れる。

 

 

「まぁ、そういう授業だとでも思って受けてくれ………計算力は常日頃から考えることによって培われていく。バトル中に計算するのは最も良いトレーニングになるぞ!!」

「言ってる事全然分かんないな……………まあいいや私はフレイドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!」

 

 

椎名はそんな確率の言葉など全く気にせずに自分のターンを進める。

 

ブイモンの頭上に赤くて独特な形をした卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。

 

 

「1コスト支支払い、燃え上がる勇気、フレイドラモンをLV1で召喚!!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

フレイドラモンLV1(1)BP6000

 

 

新たに現れたのは赤き炎の竜人。フレイドラモン。椎名のエースの1体が早速場に現れた。

 

 

「なるほど〜〜既に進化系を手札に持っていたか…………それならさっきのブイモンの効果は確率が下がって43.3%だったな」

「もう!!そんなの別にいいでしょ!?………フレイドラモンでアタック!!」

 

 

先のブイモンの効果はもっと確率は低かったと言う天才物理学者、確率。だが、椎名にとってそんなこと知ったことではない。フレイドラモンが確率のライフを減らすべく机の上からそこへ向け、飛び上がる。

 

 

「これも講義の一貫なんだがなぁ………ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

場にはネクサスしかない確率はフレイドラモンの燃え盛る炎のパンチをライフで受けた。そのライフは1つ砕かれる。

 

 

「よっし!!ターンエンドっ!!」

フレイドラモンLV1(1)BP6000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

椎名はできることを全て終え、そのターンのエンドとした。次は確率のターン。そろそろ本腰を入れてくる頃だが………

 

 

[ターン03]確率

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ………2枚目のパンドラボックスを配置………さぁ、実験を始めようか……」

手札5⇨4

リザーブ5⇨3

トラッシュ0⇨2

 

「っ!!」

 

 

2枚目となるパンドラボックスを配置した確率。そして立て続けに放った言葉が、さっきまでふわふわしていた空気を妙にピリつかせた。椎名はこのターンに何かが起きることを悟る。

 

その直感は的中している。今から確率が呼び出そうとしているのは自身のデッキの軸となるスピリットだ。

 

 

「俺は仮面ライダービルド ラビットタンクフォーム[3]をLV1で召喚するっ!!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨1

トラッシュ2⇨3

 

「っ!!?」

 

 

"ラビット!!タンク!!……ベストマッチ!!”

 

 

そんな陽気な機械音が流れてくる。そして次の瞬間、確率の場から多量の水蒸気が発生し、一瞬にして理科室の実験室を覆い尽くした。

 

 

「あわわわわ〜〜前が見えない!!換気換気ぃい!!」

 

 

椎名は慌てて閉じられていた理科室の窓を開けに行った。多量にあった水蒸気は開けられた窓から外の方へとどんどん逃げていく。

 

ーそして、それによって遮られていた視界が全開となり、確率の場に出てきていたスピリットを視認でにるようになる。

 

ーその名も………

 

 

“Are you ready?”

“鋼のムーンサルト!!……ラビットタンク!!”

“イエーイ!!”

 

 

「………仮面スピリット……」

 

 

現れていたのは仮面スピリットが1体。ビルド。その中でも最も基本的なフォーム、ラビットタンクフォーム。赤と青のカラーリングが縦に捩れるように構成されている。

 

 

「そうこれがこの天才の使う仮面スピリット………名をビルド!!召喚時効果!!カードを2枚オープンし、その中の対象となる仮面スピリットを手札に加える!!……そしてその確率は98.6%!!」

オープンカード↓

【仮面ライダービルド ファイヤーヘッジホッグフォーム】◯

【仮面ライダークローズ】◯

 

 

効果は成功。確率はその中から【仮面ライダービルド ファイヤーヘッジホッグフォーム】を手札に加えた。

 

 

「当然!!加えられる!!………そしてアタックステップ!!ラビットタンク!!」

手札4⇨5

 

 

ラビットタンクでアタックを仕掛ける確率。そしてこのフラッシュこそ仮面スピリット達が最も強い瞬間でもある。確率は手札を1枚引き抜き、それを使用する。

 

 

「フラッシュ!!【チェンジ】を発揮!!対象はラビットタンク!!」

パンドラボックス(1⇨0)LV2⇨1

パンドラボックス(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ3⇨5

 

「…………っ!!」

 

 

ラピッドタンクは小さなボトルを1つずつ両手に持つ。そしてそれを縦にシェイクし、腰にあるベルトに差し込む。そしてそのベルトの横にある取っ手をくるくると回して、その成分を混ぜていく。

 

 

“ハリネズミ!!消防車!!……ベストマッチ!!”

“Are you ready?”

 

 

また妙な音声が聞こえてくる。ラピットタンクに前方と背後に何かが迫る。それはほぼ同時にラビットタンクを圧縮するかのように衝突し、新たなるビルドを形成する。

 

 

“レスキュー剣山!!ファイヤーヘッジホッグ!!”

“イエーイ!!”

 

 

新たなビルドは濃ゆい赤と白い体を持つ者。右手にはトゲトゲのボール。左手には何かが飛び出してきそうな武器が備えられている。

 

そしてここで【チェンジ】の効果が本格的に発揮されていく。

 

 

「ファイヤーヘッジホッグの【チェンジ】効果でBP7000以下のスピリット1体を破壊する!!」

「っ!!」

「俺はこの効果でフレイドラモンを破壊する!!」

 

 

ファイヤーヘッジホッグの左手の武器から多量の水が射出される。それは水の苦手なフレイドラモンにとっては大ダメージ。それは受けたフレイドラモンは力尽き、爆発を起こした。

 

 

「くっ!!フレイドラモンっ!!」

 

 

フレイドラモンの爆風を肌で感じながらそれを嘆く椎名。だが、実際はそんなことをしている場合ではない。

 

 

「そして【チェンジ】で入れ替わったスピリットは回復状態。バトルならそのまま続行させる!!」

 

 

そう。確率はラビットタンクのアタック時のフラッシュタイミングでファイヤーヘッジホッグの【チェンジ】を使った。つまり、この場でファイヤーヘッジホッグによる2回連続攻撃が決まるのだ。

 

 

「ライフで受けるっ!!」

ライフ5⇨4

 

 

今の椎名にこれを防ぐ手立ては無い。ファイヤーヘッジホッグはジャンプし、右手のトゲトゲを振り下ろし、椎名のライフを砕いた。

 

 

「そしてもう一撃!!」

 

「それもライフだっ!!……ぐっ!!」

ライフ4⇨3

 

 

着地した瞬間ももう一撃そのトゲトゲの武器で椎名のライフをまた1つ破壊した。

 

 

「ふっふっふ………ターンエンドだ」

仮面ライダービルド ファイヤーヘッジホッグフォームLV1(1)BP4000(疲労)

 

パンドラボックスLV1

パンドラボックスLV1

 

バースト【無】

 

 

確率はできることを全て終えてそのターンを終えた。この序盤で椎名のフレイドラモンを破壊しつつ、ライフを2つも削ったのだ。流石に見事と言わざるを得ないだろう。

 

次は椎名のターンだ。ここから挽回となるか、

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップっ!!……面白くなってきたぁ!!ここから大逆転だ!!ブイモンを召喚!!そしてその召喚時効果も使用!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【ギルモン】×

【パイルドラモン】◯

 

 

椎名は反撃開始と言わんばかりに【アーマー進化】の効果で手札に戻ってきていたブイモンを再召喚する。

 

そしてその召喚時効果も成功。完全体であるパイルドラモンを手札に加えた。

 

 

「よし!パイルドラモンを手札に加えるっ!!」

手札4⇨5

 

「あの中からたった1枚のカードを引く確率は……………11.9%か」

「もう!!いちいち口挟まないでくださいよぉ!!」

「君のための講義だ!!君も計算しなさい!!」

 

 

そうは言われても計算の仕方もわからない椎名には解けるわけがない。やはり本来は教師ではないからか、確率は物事を教えるのが少々下手であるようだ。

 

椎名はそんなことは気にせずに、次の一手を繰り出す。

 

 

「ブイモンの追加効果!!2コスト支払い、スティングモンを召喚するっ!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨5

スティングモン(1⇨2)

 

 

ブイモンが呼び寄せたのはスマートな緑の昆虫戦士、スティングモン。その効果でコアが1つ追加された。

 

そしてそれは進化の布石でもあって……

 

 

「さらにバーストをセットして、アタックステップっ!!スティングモンでアタック!!その効果でコアを増やし、LV2に!!」

手札4⇨3

スティングモン(2⇨3)LV1⇨2

 

 

椎名のバーストが伏せられると同時に、メインステップからアタックステップへと移行され、スティングモンのLVが上がる。それはBPアップだけでなく、新たな力を与えている。

 

 

「そのままスティングモンのLV2、3のアタック時効果!!【超進化:緑】を発揮!!」

「………っ!!」

 

「パイルドラモンをLV2で召喚っ!!」

パイルドラモンLV2(3)BP10000

 

 

スティングモンにデジタルコードが巻き付けられる。そしてその中で姿形を変え、それを突き抜けて現れたのは腰に2丁の機関銃を携えた至高の竜戦士パイルドラモン。椎名の第2のエースだ。

 

 

「パイルドラモンの召喚時効果!!コスト7以下のスピリット1体を破壊するっ!!」

「っ!!」

「私はこの効果でコスト4のファイヤーヘッジホッグフォームを破壊!!……デスペラードブラスター!!!」

 

 

パイルドラモンは腰の機関銃を持ち上げ、ファイヤーヘッジホッグへ向け連射する。ファイヤーヘッジホッグは流石に全ては避けられず、命中し、破壊された。

 

 

「さらにアタックステップは継続!!パイルドラモンでアタックっ!!そしてその効果、エレメンタルチャージ!!!ボイドからコアを2つパイルドラモンに置き、回復させる!!」

パイルドラモン(3⇨5)LV2⇨3(疲労⇨回復)

 

 

パイルドラモンの肉体に一瞬、様々な色をした光が灯される。それはパイルドラモンにコアが置かれた証であり、疲労状態から回復状態となった証でもある。これでこのターンの2度連続攻撃を可能にした。

 

 

「いけぇ!!パイルドラモンっ!!」

 

「……くっ!!ライフで受けよう……っ!!」

ライフ4⇨3

 

 

パイルドラモンの機関銃が、今度は確率のライフを狙い撃った。そのライフは忽ち1つ砕かれた。

 

 

「さらにもう一発!!」

パイルドラモン(5⇨7)

 

「……ライフで受けよう………っ!!」

ライフ3⇨2

 

 

再び放たれたパイルドラモンの銃撃の嵐が確率を襲った。そのライフをまた1つ散らす。

 

いよいよ残り後2つ。追い込まれた。そして今度はブイモンのアタックだ。椎名は一気に畳み掛ける。

 

 

「ブイモンっ!!」

 

 

 

意気揚々と走り出すブイブイモン。

 

ーだが、ここでライフを1にされるのは痛いとみたか……確率は手札のカードを1枚引き抜き、それを止めに行く。

 

 

「フラッシュ!!【チェンジ】!!仮面ライダービルド ファイヤーヘッジホッグフォーム!!この効果でBP7000以下のスピリット、ブイモンを破壊する!!」

手札5⇨4

リザーブ3⇨1

トラッシュ5⇨7

 

「なぁ!?2枚目ぇ!?」

 

 

仮面スピリットの【チェンジ】の効果は、デジタルスピリットの【進化】とは違って対象となるスピリットが場に存在しなくても発揮が可能。その場合は通常のマジックのように効果の使用後にトラッシュへ破棄されてしまうが、

 

パイルドラモンが倒したはずの仮面ライダービルド ファイヤーヘッジホッグフォームが確率の場へと出現する。そのまま走ってくるブイモンに向けて左手の武器から火炎放射を放つ。ブイモンはそれに耐えきれずに爆発してしまった。

 

その後、ファイヤーヘッジホッグフォームはその場からゆっくりと消滅していった。

 

 

「くっそ〜〜〜仕方ないかーー……ターンエンド!!」

パイルドラモンLV3(7)BP13000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

ブイモンが破壊されたものの、確率のライフと盤面を大きく削いだこのターン。椎名はできる限りのことをしてそのターンをエンドとした。

 

次は確率のターン。椎名のパイルドラモンをどう対処していくのか、見ものである。

 

 

[ターン05]確率

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!!仮面ライダービルド ラビットタンクフォーム[3]を召喚!!そして召喚時効果!!その確率は97.4%!!」

手札5⇨4

リザーブ9⇨5

トラッシュ0⇨1

オープンカード↓

【仮面ライダービルド キードラゴンフォーム】◯

【パンドラボックス】×

 

 

【チェンジ】の効果で手札に戻っていたラビットタンクフォームがまた妙な音声と共に場に現れた。そしてその召喚時効果も成功。確率はキードラゴンフォームのカードを手札に加えた。

 

 

「さらに仮面ライダービルド ゴリラモンドフォームを召喚!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ1⇨3

 

 

“ゴリラ!!ダイヤモンド!!……ベストマッチ!!”

“Are you ready?”

“輝きのデストロイヤー!!ゴリラモンドフォーム!!”

“イエーイ!!!”

 

 

また妙な音声と共に新たなビルドが現れた。今度は水色とオレンジ色。ゴリラのワイルドなパワーとダイヤモンドの圧倒的な硬度が合わさったベストマッチフォームだ。

 

これで下準備は整った。確率はここからアタックステップへと移行し、勝負を決めるべく畳み掛ける。

 

 

「勝利の法則は………決まった!!」

「……っ!!」

 

 

これは彼のいつもの決め台詞。右手をスナップさせながら言った。これを聞いて生き延びれた者は数少ない。

 

 

「アタックステップ!!ラビットタンクでアタック!!」

 

 

走り出すラビットタンクフォーム。

 

ーそしてまたこのタイミングでビルドの強力な【チェンジ】が発揮される。その【チェンジ】はその名の通り危険なビルド。

 

 

「フラッシュ!!仮面ライダービルド ラビットタンクハザードフォーム!!対象はアタック中のラビットタンク!!」

リザーブ2⇨0

仮面ライダービルド ラビットタンクフォーム(3⇨2)LV2⇨1

トラッシュ3⇨6

 

「っ!!」

 

 

“ハザードオン!!!”

 

 

ラビットタンクフォームが自身のベルトに謎の機械を取り付ける。そして横にある取っ手を回し、新たな姿へと変身する。黒い靄がかかってその姿が見えなくなる。

 

 

“ラビット!!タンク!!……スーパーベストマッチ!!!”

“Are you ready?”

“アンコントロールスイッチ!!”

“ブラックトリガー!!”

“ヤベーーーイ!!!”

 

 

黒い靄から現れたのは黒いビルド。目の部分のみが赤と青であるため、辛うじてラビットタンクフォームであることがわかる。だが、その状態はどこをどう見ても正気ではない。

 

 

「ハザード…………危険?」

「そう!!やばい奴さ!!ハザードの【チェンジ】効果!!BP14000以下の相手スピリットを全て破壊するっ!!」

「っ!?!」

 

 

一瞬。それは一瞬だった。ハザードフォームは目にも止まらぬ速さで椎名の場にいるパイルドラモンに急接近。そして体格差を物ともせず、殴りつけた。パイルドラモンはそれに腹部を貫かれ、力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「くっ!!パイルドラモンっ!!」

「そして【チェンジ】で入れ替わったハザードはアタック中!!!」

 

 

ハザードフォームはその目に映る物を全て壊す。次は椎名のライフだ。拳にエネルギーを溜める。

 

 

「……ライフだ……っ!!」

ライフ3⇨2

 

 

ハザードフォームはその拳を椎名に殴りつけた。椎名のライフはまた1つ砕け散った。

 

これで椎名のライフは後2つ。いよいよ追い詰められた。フルアタックで決められてしまう。

 

ーが、それを抑え込むべくバーストが椎名の場には伏せられており………

 

ー椎名はそれを勢いよく反転させ、発動させる。

 

 

「ここだぁ!!ライフ減少によりバースト発動!!マリンエンジェモン!!」

「…………っ!!」

 

「効果によりこれを召喚!!さらにこのターン、私のライフはコスト9以下のスピリットのアタックでは減らない!!」

リザーブ10⇨7

マリンエンジェモンLV3(3)BP9000

 

 

椎名のバーストカードから現れたのはまるでクリオネのように宙を舞う超小型の究極体スピリット、マリンエンジェモン。その効果で椎名の周りに水のバリアが展開され、コスト9以下のスピリットのアタックから身を守ることがこのターン可能となった。

 

ーしかし、椎名のカードをある程度知識として覚えていた確率はその程度で止まることはせず…………

 

 

「………はっはっは!!それでこのターンを防いだつもりか?」

「ん?」

 

 

ハザードフォームは止まらない。そのパイルドラモンを破壊した【チェンジ】の効果以外の効果がこのタイミングで発揮される。

 

 

「ハザードフォームのもう1つの効果!!このスピリットがアタックしたバトルの終了時、相手のライフ1つをボイドに置く!!」

「なぁ!?」

「この天才に抜かりはない!!君がここでマリンエンジェモンを使って来ることはわかってた、マリンエンジェモンは【アタック】によるライフの減少を防く!!……だが、この効果は【効果】によるライフ減少!!マリンエンジェモンの効果では防げない!!!」

 

 

そう。マリンエンジェモンは飽くまでもスピリットのアタックという行為自体のライフ減少を防ぐ。だが、ハザードフォームのようなスピリットが持つ効果によるダメージは通ってしまう。

 

 

「ぐぅっ!!」

手札3⇨2

ライフ2⇨1

 

 

ハザードフォームは再びその拳にエネルギーを纏い、マリンエンジェモンの補正がかかったライフを殴りつける。その拳はそれをも打ち砕き、椎名のライフを1つ葬り去った。

 

 

「はっはっは!!!この回復状態のハザードフォームのアタックで終わりだ!!」

 

 

そうだ。ハザードフォームはこのターン自身の【チェンジ】の効果により呼び出された。つまり、後1回の攻撃が可能。椎名のライフを全て砕こうとした、その瞬間だった。

 

 

「リアクティブバリア!!!」

「っ!!」

 

 

椎名がそういった次の瞬間、場に猛吹雪が吹き荒れる。それはハザードフォームまでもを吹き飛ばし、確率のこのターンでのアタックステップを終了させるまでに追い込む。

 

 

「っ!?」

 

「リアクティブバリアは効果でライフダメージが入る時、手札から捨てることでそのダメージ数を1にし、さらにコストを払い、そのアタックステップを終わらせる………私はこのカードを使ってたんだ……」

リザーブ7⇨3

 

 

椎名はハザードフォームの効果ダメージが入る寸前、咄嗟にこのリアクティブバリアを使用していた。これでこのターンの確率はアタックが不可。そのターンをエンドとしなければならない。

 

 

「…………なに?…………………仕方ない、ターンエンドだ」

仮面ライダービルド ゴリラモンドフォームLV1(1)BP3000(回復)

仮面ライダービルド ラビットタンクハザードフォームLV2(2)BP9000(回復)

 

バースト【無】

 

 

流石に仕方ないか、確率はそのターンのエンドとした。

 

 

「へへっ!!なんとかしのいで見せたよ!!」

(まさかあんなカードを入れてるなんて…………だが、俺の勝利の法則は揺るがない。彼女の手札の枚数は2枚。このターンでドローしたとしても3枚。そのうちの1枚はスティングモンだ。場のスピリットもマリンエンジェモンのみ、………………ここから彼女が勝てる可能性は1%にも満たない)

 

 

確率は勝利を確信していた。そう、椎名の手札の枚数的にも、ここから逆転するにはかなりの運が必要であった。

 

ーが、その計算は失敗だった。確率は相手をしているバトラーが芽座椎名であるということを考えていなかった。

 

ー椎名のことを知る他の人物ならわかる。椎名は例え勝つ確率が1%だろうとそれ以下だろうと何だろうと、必ずそれを実現させてくる。それだけのセンスが彼女にはあるのだ。

 

ー今、それが天才物理学者の前で立証されることになる。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

 

 

「ドローステップっ!!……っ!!……よっしゃあ!!!」

手札2⇨3

 

 

椎名はドローしたカードを見て大いに喜んだ。まさしくそれは最高のドロー。奇跡の一枚とも言えるカードである。

 

その様子を見て、確率は思わず身を構えた。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨13

トラッシュ9⇨0

 

 

「メインステップっ!!……ギルモンを召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ13⇨9

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名はたった今ドローしたギルモンを召喚した。ギルモンは赤の成長期スピリット、真紅の魔竜の最初の形態だ。

 

 

「召喚時効果!!カードを5枚オープンし、その中の対象となるカードを手札に加える!!」

オープンカード↓

【ブルーカード】×

【ディーアーク】×

【ファイナル・エリシオン】×

【ライドラモン】×

【デュークモン 】◯

 

 

めくられていく椎名のカード。その中には伝説のロイヤルナイツの1体、デュークモン。そして自身の効果で対象内となるファイナル・エリシオンのカードもある。

 

椎名はその2枚を同時に加えた。

 

 

「デュークモンか………だが、煌臨元となるスピリットはいない!!」

 

 

デュークモンは確かに強力なスピリットだ。だが、それを呼び出すには煌臨が必要。普通に召喚で呼び出すにも大量のコアが必要になる。

 

現在の椎名の場にいるギルモンとマリンエンジェモンでは煌臨元になることはできない。

 

ーだが、椎名は確率の思いもよらない方法でそれを煌臨で呼び出してしまう。

 

 

「ふっふっふ…………煌臨元がいないなら作れば良いんだよ!!」

「………作る?」

 

「私は続けてブレイブカード、ズバモンを召喚!!」

リザーブ9⇨7

トラッシュ3⇨5

 

「っ!?ブレイブ!?」

 

 

椎名がギルモンに続けて召喚したのは成長期のデジタルスピリット。いや、デジタルブレイブと言うべきカード。ズバモン。

 

その靡く赤いマントや黄金の鎧から、他の成長期とはやはり違う存在であることが理解できる。

 

 

「そのままマリンエンジェモンと合体だ!!」

 

 

マリンエンジェモンがズバモンと合体。……と言ってもサイズが合わないか、ズバモンの上にマリンエンジェモンがひょっこりと乗っかっただけである。

 

ーこれで条件は整った。椎名は呼び出す。自身の持つ史上最強のエーススピリットを………

 

 

「デュークモンの煌臨発揮!!対象はマリンエンジェモン!!」

リザーブ7s⇨6

トラッシュ5⇨6s

 

「…………なっ!?!……バカな!?マリンエンジェモンに煌臨だと!?」

 

 

確率は椎名の煌臨宣言に思わず驚いた。それもそのはず、何せ、デュークモンの煌臨条件は赤のコスト5以上。マリンエンジェモンは青1色であるため、それを満たしてはいない。

 

確率はこれをただの椎名のプレイングミスかと思った。

 

ーしかし、確率の思惑とは裏腹に、マリンエンジェモンはデジタルの粒子となって、その姿を返還させていく。それは巨大な聖騎士となり椎名の場に顕現する。

 

 

「赤のロイヤルナイツ!!デュークモンを煌臨!!」

手札4⇨3

デュークモンLV2(3)BP14000

 

 

芽座葉月のロイヤルナイツ、アルファモンさえをも打ち破った赤属性のロイヤルナイツ、デュークモンが椎名の場に現れた。

 

 

「………な、なぜ、煌臨に成功した?」

「へっへーー!!マリンエンジェモンにズバモンを合体されてたでしょ?………ズバモンは全ての色属性を持つブレイブ……つまり、さっきまでのマリンエンジェモンは6つの色属性を全部持っていたんだ!!」

「っ!!……なるろど、それで煌臨に成功したのか………………」

 

 

そう。デュークモンの煌臨条件は赤のコスト5以上だが、他の色が混ざっていても赤さえあれば煌臨できる。ズバモンは全ての色のブレイブであるため、合体さえできればこのデュークモンの煌臨が可能となるのだ。

 

 

「そして、デュークモンにズバモンを合体!!」

デュークモン+ズバモンLV2(3)BP17000

 

 

ズバモンがデュークモンと混ざり合う。デュークモンの鎧が少しだけ鋭い形に変化していき、右手の聖槍がビーム状に形作られる。

 

 

「………そして、これが仕上げだ!!マジック!!ファイナル・エリシオン!!」

手札2⇨1

リザーブ6⇨4

トラッシュ6s⇨8s

 

「………っ!!」

「この効果で、シンボル1つの相手スピリット1体を破壊する!!私はこの効果でゴリラモンドフォームを破壊!!」

 

 

デュークモンの聖なる盾がもう1つ宙に浮きながら椎名の場に現れた。そしてその中心から放たれる聖なるエネルギーの一撃。それは確率の場にいたゴリラモンドフォームをいとも容易く貫き、破壊した。

 

ーこれで確率の場に残ったのはハザードフォーム1体のみ。それもデュークモンの無双の槍で破壊されることとなる。

 

 

「………アタックステップっ!!いけぇ!!デュークモン!!アタックだ!!効果発揮!!シンボル2つ以下の相手スピリット1体を破壊するっ!!」

「ぐっ!!……………ラストターンでギルモンを引きつつ、ここまでの展開をするのはいったい何%の確率なんだぁ!?」

「知らないよ!!でもデッキが、スピリットが私に応えてくれた………それだけだぁ!!!」

「っ!?」

「無双の一振り!!……ジークセイバー!!!………ライフごと貫けぇぇぇ!!!!」

 

 

デュークモンは椎名の声に応えるかのように槍を確率に向け、疾風迅雷の如く駆ける。ハザードフォームはそれを防ごうとするが、その無敵の槍は文字通り無敵。デュークモンの槍はハザードフォームを貫き、そのまま勢いを止めることなく確率のライフまで突き進む。

 

 

「………な、なんだ?この現象は?……偶然なのか!?……いや、信じられない!!………芽座椎名には通常の確率は………計算は通用しないとでも言うのか?…………面白い………最高だっ!!」

ライフ2⇨0

 

 

確率は目の前にいる計算では求めることが不可能な椎名を認めるかのようにその攻撃を受け入れた。デュークモンがハザードフォームごとその最後の2つのライフを貫いた。

 

ーこれにより勝利は芽座椎名だ。見事に1%以下の確率の壁を超え、無敵のドローを天才物理学者に見せつけた。

 

 

「いよっしゃぁ!!!私の勝ちだね!!!」

 

 

ガッツポーズを掲げながら喜ぶ椎名。それを見て喜ぶようにデュークモンとギルモンはゆっくりとその場で消滅していった。

 

 

「どうっすか!!確率先生!!バトルに確率は関係ないでしょ!!………あっ!!確率っていうのは計算の方の確率ね!!」

 

 

椎名が確率にそう言った。

 

ーだが、確率は既に椎名のことを補講の対象生徒とは見ていなかった。

 

 

「…………す、素晴らしい………っ!!」

「…………へ?」

「なんて逸材だ!!こんなに探究心に燃えるのは何年振りだろうか!?」

 

 

なんだろう。椎名は嫌な予感がしていた。その異様な空気に思わずアホ毛が萎れ、背筋が凍りついた。

 

 

 

******

 

 

 

「椎名の奴、ちゃんと勉強しているだろうか?」

 

 

椎名の担任。空野晴太は椎名があれ以降しっかりと数学や物理の勉強をして、しっかりと単位を取れているか気になっていた。

 

理科室の前に着くと、颯爽とその扉をゆっくりと開ける。しかし、その光景は…………

 

 

「待ってくれぇ!!もっと君を研究させてくれぇ!!きっと君を調べ終えた時、俺の新たな天才的な理論が立証される!!」

「嫌だよぉ!!もう終わったんだし、早く返してよーーー!!!!」

 

 

そこには椎名を追いかける天才物理学者、確率が椎名を追いかけているというなんともカオスな光景だった。

 

 

「う〜〜晴太先生!!助けてぇ!!!」

「…………うーーーーん………バカと天才は紙一重………………ってか?」

 

 

涙ながらに晴太に助けを求める椎名。晴太はそれを見て、手でゆっくりと顎を触りながら自分の考えをさらっと述べる。

 

 

「くっそぉ!!私の夏の一日を返してよーーー!!!!」

 

 

椎名の途方も無い叫びは、この夕暮れの光に照らされるジークフリードの校舎中に木霊するのであった。

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「今回はこれ!!【仮面ライダービルド ラビットタンクハザードフォーム】!!」

椎名「ハザードフォームはビルドデッキのエース的存在!!チェンジ効果のスピリット一掃効果と、アタックしたバトルの終了時に発揮するライフダメージ効果はまさしくヤベーーーイ奴!!」


******


〈次回予告!!〉

椎名「それはある夏休みのとある祭りの日………真夏と共に奇跡のたこ焼きを求めていた私は……ある意外な人物とバトルすることになった…………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「奇跡のたこ焼きを求めて、VSゲイル・フェニックス!」……今、バトスピが進化を超えるっ!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!
次回もお楽しみにしていただければ幸いです!

と言っても、次回はお休みにしようかなと思っております。その代わり、来週木曜に訪れるバレンタインの日に番外編を投稿しようかなと思っております。番外編と言っても、一期の間で起こった出来事を短編集で纏めただけですが、

これから先、二期、三期ではかなり日常話が減ってくる予定ですので、度々こういうのは入れていかないとなぁと思ったのです。楽しんでいただければ幸いです。

一応、気になったところを見たい、又はこの時期、この章で、このキャラは何をしてた?などと思われた方は感想にて受け付けますので、そちらで、(できる限り番外編、短編集にて掲載いたします)

※少しだけデュークモンの描写を変えました。


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番外編「それぞれのバレンタイン」(第34.5話)

※バトル描写無し。今回ばかりは本当に作者のお遊びです。それでも楽しんでいただけたら幸いでございます。
※タイトル通り、最後に第53話から始まる二期第2章の予告をしております。




 

 

〜〜椎名と雅治〜〜

 

 

「お〜〜い!!雅治ぅ!!」

 

 

ジークフリード校の校舎の中で茶髪の短身の少年、長峰雅治のことを呼ぶのは赤毛に近い髪色と長い髪に前髪が虫の触覚のように跳ねている少女、芽座椎名だ。何やら手に何かを持っているようだが、

 

 

「はい!!バレンタインのチョコだよ!」

「!?!」

 

 

椎名が雅治に何の前振りもなく唐突に渡してきたのはバレンタイン用のチョコだった。赤い正四角形の箱にそれは入っている。

 

雅治は驚いたし、何よりも喜んだ。まさか椎名から、好きな女の子からバレンタインのチョコを貰えるなど、夢のようだ。椎名のことだから、これは決して好意あってのものではないのだろうが、

 

 

「う、嬉しいよ!!ありがとう!!」

「えっへへ!!どう致しまして!!」

 

 

何より突然のことであったため、単純な感謝の言葉しか並べられない雅治。別に椎名はそれでも良いのか、照れ臭そうに喜んだ。

 

 

「………と、ところでさ、椎名………」

「ん?」

 

 

このチョコレートを貰って、雅治は少し聞きたいことがあった。それは若干の期待である。「このチョコレートは本命ですか?」ただそれだけ聞きたかった。

 

ーだが、

 

 

「そのチョコは…………他にも渡す子はいるの?」

 

 

逸れた。少しだけ逸れた。少しだけ遠回りに聞いてしまった。ただでさえ椎名はこう言うことに関してはボンクラの極みだと言うのに………

 

ーしかし、椎名から帰ってきた言葉は雅治にとって嬉しいものであって………

 

 

「え?いないよーー」

「!?!」

 

 

ー驚いた。何よりも驚いた。椎名がまだ渡すとしたら「司」がいる。これが本当なら彼にもあげないと言うことになる。つまり、「本命」である確率が高い。

 

ーだが、やはり椎名は椎名であって、

 

 

「そうなんだよねーーー司はなんか夜宵ちゃんが気合入ってるから邪魔しちゃ悪いかなぁって思ってさーーー」

 

 

「あぁ、なんだ、そう言うことか…………」と、雅治は少しだけ残念そうに肩を竦めながらそう思った。そりゃそうだ。あの赤羽司にはこの界放市全ての男から人気がある紫治夜宵がいるのだ。その間に入ることはあの椎名とてできなことであろう。

 

 

「はっはは、そうだよねーーー…………この箱開けて良いかな?」

「うん!!良いよ!!」

 

 

気を取り直して、雅治は椎名がくれたチョコが入っている箱を指差して言った。椎名の答えはもちろんYES。自信があるのだ。

 

雅治はそれを聞くなり、ゆっくりとリボンを外し、そのふたを開ける。すると中にはアルマジモンを模したチョコレートが入っていた。

 

 

「今回は雅治に合わせてアルマジモンを模したチョコを作ってみました!!」

 

 

椎名がそう、元気よく言ったが、そのアルマジモンを模したチョコレートは…………

 

 

「う、うん…………な、なんか、思ってたより精巧だね…………」

 

 

通常、何かを模したチョコやクッキーと言ったら、顔だけとか、形だけとか二次元的なものであるはずだ。

 

ーだが、椎名の作り上げたアルマジモン型のチョコレートは三次元的に作られていた。しかもとんでもないくらいに精巧で正確に………

 

ー椎名が見た目以上に器用であることに今初めて気づいた雅治であった。

 

椎名は一人暮らし故に意外と家庭的な面があった…………

 

 

 

******

 

 

〜〜司と夜宵〜〜

 

 

銀髪でトゲトゲの髪型をした少年、赤羽司はジークフリードの校舎を平然とした顔で歩いていた。他の男子共は期待や不安で胸がいっぱいでそわそわしていると言うのに…………

 

今日はバレンタイン。そりゃそうだ。普通の男子ならそわそわもしたくなる。だが、この赤羽司にとってはどうでも良いこと、彼にとっては自分がバトルで強くなることだけを考えていれば良いからだ。

 

ーしかし、そんな基本的に一匹オオカミな司にも好意がある女子が1人いる。

 

ー紫治夜宵だ。

 

 

「やっほ〜〜!!つっかさちゃぁん!!!」

 

 

司の前を颯爽と現れた夜宵。その手にはなかなか大きめな箱があった。間違いなくバレンタインチョコだ。司はそれを見て何か嫌な予感を察したか、無愛想な顔を少しだけ歪ませると、すぐさま目の前に現れた夜宵をシカトして、それをスルーするように避けて歩き続けた。

 

 

「あっ!!出たなぁ〜〜シカトマン!!今日は逃がさないぞ〜!!」

 

 

だが、夜宵も諦めない。何度も司の前に立ち、回り込んだ。その度に司もそれを避けるように横切った。その繰り返しである。何度も何度も、何回でも、夜宵はただひたすらに回り込んだ。司もひたすらに避けていた。

 

ーそしてついに……

 

 

「やっほ〜〜!!つっかさちゃぁん!!!」

「もう良い!!!何度目だてめぇ!!!ふざけんなよ!!」

 

 

かれこれもう10回目だ。流石に疲れた司は根負けして口を開いた。その様子を見た夜宵は喜んで………

 

 

「はい!!バレンタインのチョコでーーす!!」

 

 

直径50センチはあるチョコレートの入った箱をプレゼントされた。その中全てがチョコであるのならば確実に1人でたいらげる量ではない。

 

ー毎年だ。毎年夜宵はとんでもないくらいに大きな愛の形として司に大きなチョコをあげる。司は貰いたくなかった。こんな大きいものを学園で貰ったら確実に悪目立ちするからだ。

 

それでも仮にあの界放市の超人気美女、紫治夜宵からのチョコなのだ。普通の男ならば大喜び。しかし、そんなもの司にとっては関係がない。夜宵などただ自分の周りをついてくる変な奴としか見ていないからだ。

 

ーそんな司の答えは一択………

 

 

「いらん」

 

 

ただそれだけ、

 

この2月14日において、チョコをあげにきた女の子に対し、そんな一言を放てるのはおそらくこの赤羽司くらいであろう。

 

 

「え〜〜!!貰ってよ〜〜毎年貰ってたじゃん!!」

「こんなとこで貰えるかそんなもん!!目立ってしょうがねぇんだよ!!」

 

 

夜宵もそれに対し一歩も引かない。どれだけその大きなチョコを司にあげたいのか、その執念深さが伺える。

 

 

「貰って!」

「いらん」

「貰って!」

「いらん」

「貰って!」

「いらん」

「貰って!」

「いらん」

「貰って!」

「いらん」

「貰って!」

「いらん」

「貰って!」

「いらねぇっつてんだろうがぁ!!!!」

 

 

余りにもしつこい夜宵に本当に怒った司は思わず掌で夜宵の手に持っていた。と言うよりかは押し付けてきていたチョコレートの入った箱を思いっきり叩きつけてしまった。

 

箱が廊下に勢いよく落ちる。「バキッ!!」と割れた音がその場で木霊した。

 

 

「………あ………」

 

 

司は思わず声をこぼした。まるで「しまった」と言わんばかりに。流石にこればかりは罪悪感を覚えたか………

 

司はその落ちて「グシャッ」と潰れた箱を見ると、今度は夜宵の顔の方を伺う。

 

 

「………うっ!………うぅ!!」

 

 

夜宵は今にもその瞳に涙を溜めて泣きそうな表情であった。そりゃそうだ。このチョコは今日という日のために一生懸命に作ったのだから………

 

夜宵はその潰れた箱を抱き上げ、司に背中を向ける。流石に司に怒りを見せたのか…………

 

そんな夜宵の弱々しい姿を見て、司は………

 

 

「いや、その………悪かったよ………」

 

 

そう司が言うが、夜宵はなかなか振り向かない。そっぽを向いたままだ。あの司を謝罪の言葉を使わせることができるのはおそらく現在の全人類においてこの紫治夜宵くらいであろう。

 

 

「…………食ってやるからさ………だから悪かった」

 

 

司は照れ臭そうに頬を人差し指で掻きながらそう言った。

 

こうなっては最後の手段だ。散々あんなに酷いことを言っておいて何事かと思うかもしれないが、彼なりのお詫びのようなものであった。

 

そんな司に対して、夜宵はまだそっぽを向いたまま…………………

 

ーかと、思われたが…………

 

 

「やったぁ!!今食べるって言ったね!!!?!」

「……………は?」

「やっぱり司ちゃんってば、やっさしい〜〜!!」

 

 

元気よく司の方を振り向いた。今までの涙や、表情や仕草などが全て演技だったのかと勘ぐってしまうほどに。

 

それを見た司は思わず呆気に囚われた。

 

「しまった」「嘘泣きだ」「嵌められた」「やはりこの女はとんでもない策士だ」「やばい女だ」「こんな奴と一緒にいたら自分のキャラがぶれる」そんなことだけを考えていた。

 

ー因みにそのチョコのお味は大層不味かったそうだ。司が夜宵のチョコを貰いたくなかった理由の1つはそれである。

 

夜宵は椎名とは違い、とんでもなく不器用であった。

 

 

 

******

 

 

〜〜晴太と兎姫〜〜

 

 

「…………今日はやけに遅いわね、晴君………」

 

 

早朝のジークフリードの職員室。今は司と雅治の担任であり、後に椎名達の副担任となる女教師、鳥山兎姫は今か今かと空野晴太が来るのを楽しみに待っていた。理由はただ1つ。バレンタインチョコがあるからだ。

 

 

(………今年は我ながらに最高の出来よ!!……今年こそは絶対に渡してやるんだからっ!!見てなさいよ〜〜!!)

 

 

ー鳥山兎姫。空野晴太とは幼馴染である。そんな彼女は不器用すぎる性格故に、ずっと、毎年、バレンタインチョコを彼に、晴太に渡しそびれている。

 

ーだからこそ、「今年こそは、今年こそは」と意気込んでいた。

 

ーそんな時だった。

 

 

「おっは〜〜兎姫ちゃん!」

 

 

後に二年連続椎名達の担任となる教師、空野晴太が兎姫のいる机の前に気が抜けたようなのほほんとした雰囲気のまま現れた。

 

ー今がチャンス!!兎姫はそう思って手に持っていたチョコを渡そうとするのだが…………

 

 

「おはようございます空野先生………いい加減学園では私のことは「鳥山先生」とよんでくださいと言ってるでしょう?」

「おいおい、もういいだろ?その話はよ〜〜どんだけ固いんだよ〜〜」

 

 

ー思わず「キリッと」した顔で別の話をしてしまった。そんな引き締まった表情とは裏腹に……

 

 

(………くっ!!なんで私はこんなことしか喋れない〜〜〜〜〜〜)

 

 

心の中ではそんなことを考えている。毎年のようにこのような状況が続くものだから20を超えても未だに告白はおろかチョコ1つまともに渡せないでいた。

 

ーしかし、今回に限っては奇跡が起きた。

 

 

「っ!!おい兎姫ちゃん!その手に持ってるのってもしかしてバレンタインチョコか!?」

「っ!?!」

 

 

晴太が兎姫の持っているチョコに気づいた。不覚だった。毎年晴太は全然気づかなかったからこういう対策を今回に限っては怠ってしまった。

 

兎姫は思わず頭がショートした。真っ白になった。思考がフリーズして何をしていいかわからない。それとは裏腹に顔の方は真っ赤になってしまい、もう何が何だかわからない状態に陥ってしまった。

 

ーだが、本当は兎姫が期待していたようなものではなく……………

 

 

「ダメだぞ兎姫ちゃん!!生徒のチョコ没収したら!!」

「……………はぁ?」

 

 

その一言だけで、兎姫の状態は一気に回復し、正常に戻った。そしてさっきとは別の力に熱が籠っていく。そんな兎姫の様子にも気付かず、晴太はまだまだその口を動かしていく。

 

 

「今時チョコを没収だなんて考え方は古いぞ〜〜頭ガッチガチの兎姫ちゃんらしいけどね〜〜やっぱ生徒の気持ちが詰まったチョコだからさーーー返さないと……あっ、気まずいなら俺が返してこようか?」

 

 

ーもう返す必要ない。兎姫はそう思って椅子から立ち上がり………

 

 

「誰が頭ガッチガチだぁ!!?……このボンクラ野郎!!!!」

「ぐふぉっっ!!」

 

 

そう叫びながら兎姫は手に持っていたバレンタインチョコを思いっきり全力で振りかぶって晴太の顔に叩きつけた。チョコの固い部分が鼻に当たってすごく痛そうだ。

 

晴太はそれを受けて一撃でKO……床の上でのびてしまう。

 

 

「……ふんっ!」

 

 

兎姫は怒った表情を歪めずに、そのまま教材を持って職員室を出て、授業がある教室へと歩んで行った。

 

 

「…………俺……なんか悪いことしたかな?………てか、このチョコ結局誰のだよ……」

 

 

晴太は力尽きたような弱々しい声でそう呟いた。その目線は投げつけられた兎姫のバレンタインチョコの小箱に向いている。

 

ー結果的に兎姫はチョコを渡すことには成功した。

 

 

 




《次章予告》


ー椎名達は学園行事の修学旅行で伝説の仮面スピリットがあると言われている【倶利土王国(ぐりどおうこく)】に赴くことになった。

ーしかし、そこで待ち受けていたのは数々の難解な試練であった。


………二期第2章…………「修学旅行とオーズと鬼化片鱗(おにかへんりん)編」…………第53話からスタート!!


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!

今日はハッピーバレンタインと言うことで、番外編として今回のお話を書かせてもらいました。

タイトルのかっこの中にある通り、この話は第34話と第35話の間に起こった出来事です。

今回、次章の予告をしましたが、書いてある通り、始まるのは第53話から、つまり第52話までは二期1章は続きますのでご了承ください。


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第52話「奇跡のたこ焼きを求めて、VSゲイル・フェニックス!」

 

 

 

 

夏のある夜。霞んだ明かりの暖簾を中心に、あっちこっちから人の混み合った声が聞こえてくる。

しかし、その混み合った声は誰も彼もが楽しげな印象を与えるものであって………

 

ーそう。今日は夏祭り。界放市は今日、どこの区域に行ってもお祭り騒ぎである。

 

ーそして、椎名と真夏もまた、そのお祭りに参加しており…………

 

 

 

 

「………いや〜〜!!流石に界放市中から集まるお祭りは凄いなぁ!!私が住んでた島の祭りとは格が違うよ!!」

 

 

そう言ったのは浴衣姿の芽座椎名。その浴衣は担任の教師である晴太の姉から借りたお下がりのものである。もっとも、持ってきたのは晴太で、椎名は彼の姉とは会っていないが、

 

 

「あったりまえやないか!!界放市は人何人いる思うとるんや!そんじょそこらの祭りとはやっぱスケールが違うわ!!」

 

 

真夏が椎名に言い返した。真夏も椎名同様浴衣姿だが、それは自分のものである。2人とも、周りの音が大きすぎて、いつもより大きく声を張っている。

 

そうだ。真夏の言う通り、界放市のお祭りは規模が全く違う。全長3キロにも及ぶ広さで祭りを行なっているのだ。故にその中で様々なイベントや屋台がある。

 

 

「ねぇ!次どこ行く?」

 

 

椎名が片手で焼き鳥を頬張りながら軽い気持ちでそう言った。

 

 

「ふっふっふ!!次はいよいよあそこやで!!」

「っ!?もう始まるの!?真夏!?」

 

 

真夏がその表情に睨みを効かせる。椎名もその表情を見て衝撃が走り、察してしまった。

 

ーついにあそこに行くのかと………

 

ー2人が楽しみでしかなかったアレに挑むのかと………

 

 

******

 

 

「さぁさぁ!!集まって集まってぇ!!今年も年に一度のジャンケン大会の始まりだぁぁ!!」

 

 

腹巻きに、黒くて丸い髭を生やした中年男性が、大きめの移動式木製ステージでそう叫んだ。すると、そこの周りにいた200人近いくらいの大勢の人達が応えるかのように大きな声を上げる。

 

ーその中には椎名と真夏もいた。

 

このジャンケン大会。毎年この時期に行われるが、その勝った時の商品は毎年豪華なものばかりなのである。

 

ーそして、今年は…………

 

 

「そしてぇ!!栄えある優勝者にはぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

中年の進行者は大きくためてためてその優勝商品の発表を勿体ぶる。周りの人達はそれが何なのかはチラシ等で知ってはいたが、ノリが良い人が多かったか、それに合わせて「おおっ!」っと、何度も声を合わせた。

 

ーそして発表される。今年の優勝商品は…………

 

 

「奇跡のたこ焼き屋台で味わえると言われている奇跡のたこ焼きだぁ!!!」

 

 

中年の進行者がそう言うと、他の人達も大きく声をあげた。もちろん椎名と真夏も。その溢れんばかりのテンションを心から叫んだ。

 

ー奇跡のたこ焼き。世界中を歩き回る屋台でしか味わえないと言う究極にして奇跡の一品なのだ。その進行者の手にはその奇跡のたこ焼きが入った箱があった。

 

椎名と真夏はこれを狙っていた。

 

そして毎年あるようだが、進行者からルールの説明が入る。

 

 

「ルールは簡単だぁ!!最後の1人になるまで俺にジャンケンで勝て!!!以上!!」

 

 

なんとシンプルなルールだろうか。つまり、椎名と真夏はこの進行者とのジャンケンに勝ち続ければ奇跡のたこ焼きにありつけることになる。

 

 

「よっしゃぁ!!いくでぇ!!椎名ぁ!!」

「うん!!行くよぉ!!」

 

 

気合いは十分。

 

ーそして始まる。究極のジャンケン大会が………

 

 

「それではいくぞぉ!!!一回目ぇ!!………」

 

 

進行者が手を後ろに向かわせ、ジャンケンの構えをする。他の者達も皆同じように構える。真剣だ。大人も子供も、老若男女問わず、真剣にあの奇跡のたこ焼きを狙っているのが伺える。

 

 

「最初はグーーー!!!!」

 

 

進行者が手を固めて前に出すと、皆、また同じように手を固めて前に突き出した。これはこの世で最も有名なジャンケンの始まりのコールだ。

 

ー今、ゴングが鳴り響いた。

 

ー始まる。運命の瞬間が………!!

 

 

「ジャァンケェェン……………ポンッ!!」

 

 

進行者が再び手を前に出した。

 

その手の形は………………

 

 

「私は【チョキ】でした!!……あいこもダメだから【パー】だけじゃなく、同じ【チョキ】も手を下ろしてねぇーー」

 

 

確かにその手は人差し指と中指だけが突き出たまま残っている。紛うことなき【チョキ】だ。

 

つまり、【グー】が勝利となる。

 

ー負けた、又は引き分けた人達は分かりやすく手を下げていく。

 

 

「くっそぉ!!!負けたわぁ!!あのおっさんごっつジャンケン強いやんけ!!」

 

 

そんな中、真夏も負けていた。掌を大きく広げて【パー】を出していた。

 

そんな様々な人達が手を下ろしていく中で、進行者はあることに気づいた。それはこのイベントがひょっとしたらおじゃんになってしまうかもしれないものであって………

 

 

「んんん??あれ?【グー】の人いますかぁ!?」

 

 

マイクを右手に、左手に【グー】を掲げながらそうアピールするように言った進行者。

 

そう。殆どの人達が手を下ろしていて、【グー】を出した人物がパッと見て見当たらなかったのだ。この200人程度ある中でこんな早く終わってしまっては他の祭りのイベントのスケジュールが合わなくなるため、進行者としてはそれだけはなんとか避けたかったが…………

 

そんな時、1人の少女の声が聞こえてきた。

 

 

「ここに【グー】はおるでぇ!」

 

 

ー関西弁、真夏の声だ。

 

進行者を含めて他の人達は一目散に目線をその方向へ移動させた。

 

ーするとそこには天に【グー】を掲げた1人の少女がいた。

 

ーその名も【芽座椎名】その手は確かに【グー】だ。圧倒的に【グー】だ。サムズアップするかのような立ち振舞い、そしてドヤ顔のまま勝ち誇ったかのような表情をしていた。

 

1人の可憐な少女の一人勝ちに、他の参加者達が大きくそれを祝うように歓声を上げる。

 

 

「やったでぇ!!椎名!!あんたやっぱ強いわ!!どんだけ運強いねん!!一人勝ちやぞ!!」

「ふっふっふ!!私、ジャンケンは昔からめっっっちゃ自信あんだよねぇ!」

 

 

椎名の圧倒的な強運。それが今回の一人勝ちに繋がった。真夏も大きく喜んだ。椎名はすぐさま進行者のいるステージへと、その喉から手が出るほどに食べたかった奇跡のたこ焼きを貰いに行こうとした。

 

ーその直後だった。2人にとって思いもよらない声が聞こえて来る。

 

 

「………こっちにも【グー】がいたぞぉ!!!」

「「え?」」

 

 

2人は声を揃えて声のする方へと首を傾けた。

 

ーするとそこには椎名同様、天に【グー】を掲げる1人の浴衣姿の女性がいた。

 

ーその正体は椎名達も知っている人物であって………

 

 

「やったわ〜〜!!一人勝ちよぉ!!」

 

 

その彼女は未だにさっきまでの椎名と真夏みたいに自分が一人勝ちしたものだと思い込んでいた。本当は二人勝ちであるというのに。

 

 

「………あ………あれって………」

「兎姫先生やん………」

 

 

そう。椎名と同様ジャンケンで勝っていたのは椎名達の副担任を務める女教師。その名も鳥山兎姫。この物語中では何度かその顔を見せている。

 

2人はあそこまではしゃいでいる兎姫を初めて見た。

 

 

「2人だね!!じゃあ!!おふたりさん!!このステージに上がって決着つけてちょうだい!!」

 

 

進行者が2人にそう大きく声を張って言った。

 

 

******

 

 

「……………」

「……………」

 

 

椎名と兎姫、2人はジャンケン大会の勝者としてステージの前で向かい合っていた。正直言って椎名にとって少し気まずい。別に兎姫と話せないわけじゃないが、まさかこんな場所でこんな状況で鉢合わせるとは思ってもなかったからだ。

 

これから始まるのは2人でジャンケン。毎年だ。毎年このイベントは勝者の数が少なくなってくると、ステージに呼び出され、その人物達だけでジャンケンをし、優勝者を決めている。

 

ー今がその状況。

 

 

「さぁ!勝ち残ったのは浴衣の似合うキュート美人とビューティ美人!!果たして勝って奇跡のたこ焼きを手に入れるのは誰なのかぁ!?」

 

 

進行者がそう声を荒げる。実況するように声に熱がこもっていく。

 

 

「…………兎姫先生………」

「芽座さん………本気で行くわよ………!」

 

 

いつにもなく、そして柄にもなく燃え上がる鳥山兎姫。

 

椎名から見た鳥山兎姫のイメージは、なんでもできるスーパーエリート教師。完全無欠で弱点がなくて、かつ、高貴な存在だった。

 

ーしかし、このB級グルメであるたこ焼きのためにジャンケンで自分の生徒に勝とうとする鳥山を見て、そのイメージは少し崩れた。

 

それでも椎名は手を出して、ジャンケンをしようとするが………

 

ーその前に鳥山兎姫はあることに気づいた。

 

 

(………ちょっと待って……本当にこれで良いの!?…………相手はあの芽座さんよ!?………芽座さんと言ったら………)

 

 

兎姫は思い出していた。芽座椎名の圧倒的な運の良さを………

 

教師である立場から椎名の活躍はよく見ていたが、その強運の持ち主だったら間違いなく自分はジャンケンで負けるのではないかと思ってしまった。

 

ーこのままでは負けは濃厚。

 

しかし、どうしても奇跡のたこ焼きを食べたい兎姫は機転をきかせ、新たな作戦へと移行する。

 

 

「ちょっと待って!!」

「?」

「芽座さん。やっぱりジャンケンはやめてバトルで決着をつけましょう」

 

 

掌を椎名に見せるように制止させる兎姫。そしてそこからの突然のバトスピ宣言。ジャンケンする気満々だった椎名は思わずその目を見開いた。

 

しかし、バトルすることには目がない椎名は………

 

 

「マジっすか!?兎姫先生とバトルできるのぉ!?」

 

 

目を輝かせながら大いに喜んでいた。なんとちょろいのだろうか。そのままジャンケンをしていればその運の良さでほぼ間違いなく奇跡のたこ焼きを獲得できただろうに。

 

まんまと兎姫の口車に乗せられ、椎名はバトルをすることになった。ちなみに兎姫はあの空野晴太と肩を並べる程のバトラーである。圧倒的にこっちの方が椎名の勝率は低いと言える。

 

 

「なななななんとぉ!?ここでまさかの展開ぃ!!でも時間はあるからやっても良いですよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

進行者も夜間の妙なテンションになっていて止める気配が全くない。ジャンケンが余りにも速攻で終わってしまったため、1回バトルするくらいがちょうどいいと思っているのだ。

 

それを聞いた2人は颯爽とBパッドを展開した。大勢の人達がそれだけで歓声を大きくあげる。

 

 

「あのアホぉ!!バトルした方が勝つ確率は低いやろがい!!」

 

 

真夏がその歓声の中、椎名に向けて叫んだ。しかし、距離があるのと歓声で掻き消されるのでその声は椎名には届かない。

 

椎名はそんな真夏の気持ちなど知らず、今から始まるバトルに胸躍らせていた。

 

奇跡のたこ焼きの事をすっかり忘れてしまった椎名とその副担任の女教師、鳥山兎姫のバトルが始まろうとしていた。

 

 

「へへっ!行きますよ!!先生!!」

「……かかってらっしゃい……!」

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共に2人のバトルが幕を開けた。

 

ー先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!!ネクサスカード!!ディーアークを配置してターンエンド!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

 

ディーアークLV1

 

バースト【無】

 

 

椎名はデジタルスピリットをサポートするタイプのネクサス、ディーアークを腰に装着させ、そのターンを終えた。

 

次は兎姫のターンだ。彼女はいったいどんなデッキを使用するのだろうか。

 

 

[ターン02]兎姫

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!私はチキンナイトを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨4

 

 

兎姫が手始めに呼び出したのはデフォルメしたニワトリに騎士のような鎧を着た緑のスピリット、チキンナイトだ。

 

さらにこれだけでない、兎姫はまだまだ大きく動く。

 

 

「さらにネクサスカード!!白雲に茂る天翼樹を配置!!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

続けて兎姫が配置したのは巨大な入道雲とその周り雲を突き抜ける数々の天翼樹。その効果は系統「爪鳥」のスピリット達を扱う兎姫にとって有用な効果である。

 

 

「配置時効果でボイドからコアを1つリザーブへ!!さらに系統「爪鳥」のスピリット、チキンナイトが存在するため、さらにもう1つのコアをリザーブへ!」

リザーブ1⇨2⇨3

 

 

兎姫のリザーブに次々と追加されていくコア。ネクサスの軽減も相まって、椎名とかなりアドバンテージに差をつけたと言える。

 

そして兎姫が次に召喚するスピリットは誰もが目を引く珍しいものであって……

 

 

「そのコアでさらに緑のスピリット!!ゲイル・フェニックス・ビレフトを召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ3⇨0

トラッシュ2⇨4

 

「………っ!!」

 

 

兎姫が召喚したのは優雅な尾を引く美しい不死鳥。ゲイル・フェニックス・ビレフト。晴太のエグゼシード・ビレフトと同列のスピリットである。

 

 

「その召喚時効果でコアを1つ追加!!」

ゲイル・フェニックス・ビレフト(1⇨2)

 

 

LVは上がらないものの、その効果でまたコアを増やす兎姫。まだ2ターン目だが、椎名とのコアの総数は圧倒的に開いたと言える。

 

 

「ターンエンドよ!」

ゲイル・フェニックス・ビレフトLV1(2)BP3000(回復)

チキンナイトLV1(1)BP1000(回復)

 

白雲に茂る天翼樹LV1

 

バースト【無】

 

 

兎姫はそれでこのターンを終えた。後攻の第1ターン目にしてはなかなかに展開したと言える。

 

次は椎名のターン、ビレフトを前に、気合いは十分。いったいどんなバトルが展開していくのか見ものである。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップっ!!ズバモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

このバトル、椎名が初めて召喚したのは黄金の鎧を持つ成長期のデジタルブレイブ、ズバモン。その靡くマントは他の成長期スピリットとはやや異なった印象を与える。

 

このズバモンは椎名のデッキにとっては有力な【進化:全色】という異端な効果を持っており…………

 

ー椎名はそれを余すことなく運用していく。

 

 

「さらにバーストを伏せ、アタックステップ!!その開始時にズバモンの【進化:全色】発揮!!ズバモンを青の成熟期スピリット、エクスブイモンに進化!!」

手札4⇨3

エクスブイモンLV1(1)BP3000

 

 

バーストカードが椎名の場にセットされると共に、ズバモンがデジタルの粒子となり、椎名の手札へと帰還する。そして代わりに現れるのはブイモンが一段階進化した姿、腹部のエックスの文字が特徴的な竜、エクスブイモン。

 

 

「場にデジタルスピリットが召喚されたことにより、ディーアークの効果でカードを1枚ドロー!!さらにエクスブイモンの効果で2枚ドローし、1枚破棄する!!」

手札3⇨4⇨6⇨5

破棄カード↓

【ブルーカード】

 

 

目まぐるしい程に回っていく椎名のデッキ。手札の質がどんどん良好していく。

 

 

「そしてアタックステップは続行!!エクスブイモンっ!!」

 

 

その逞しい身体で走り出すエクスブイモン。目指すはもちろん兎姫のライフ。

 

 

「ライフで受けるわ」

ライフ5⇨4

 

 

序盤なら当然か、兎姫はこのアタックをライフで受けた。エクスブイモンがそれを思いっきり硬い拳で殴りつけ、粉砕した。

 

 

「よし!!ターンエンドっ!」

エクスブイモンLV1(1)BP3000(疲労)

 

ディーアークLV1

 

バースト【有】

 

 

できることを全て終え、椎名はそのターンをエンドとした。次は兎姫のターンだ。

 

 

[ターン04]兎姫

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨7

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ…………スピリットのLVを上げ、バーストをセット!!」

手札3⇨2

リザーブ7⇨5⇨3

ゲイル・フェニックス・ビレフト(2⇨4)LV1⇨3

チキンナイト(1⇨3)LV1⇨2

 

 

兎姫の2体のスピリットのLVが調整されると共にバーストがセットされる。前のターンとは打って変わって静かなメインステップである。

 

 

「そしてアタックステップ!!ビレフトでアタックよ!!」

 

 

誰もが目を引くような美しい姿で飛翔するゲイル・フェニックス・ビレフト。目指すはもちろん椎名のライフだが、この時、ゲイル・フェニックス・ビレフトには効果があり……………

 

 

「ビレフトの効果!!2コア支払い、ターンに1回回復するっ!」

リザーブ3⇨1

トラッシュ0⇨2

ゲイル・フェニックス・ビレフト(疲労⇨回復)

 

 

その瞬間、緑の光を一瞬輝かせ、疲労状態から回復状態となるゲイル・フェニックス・ビレフト。これでこのターンこのスピリットは2度のアタックの権限を得た。

 

 

「…………回復!!これはゲイル・フェニックス系のお家芸よ!」

 

「…………ライフで受けるっ!!」

ライフ5⇨4

 

 

ゲイル・フェニックス・ビレフトの先端の嘴が椎名のライフを1つかち割った。これで椎名と兎姫のライフ差は同じ。

 

ーだが、忘れてはならない。今の椎名の場にはバーストカードが伏せられているということを、椎名はそれを勢いよく反転させる。

 

 

「なんのこれしきぃ!!バースト発動!!マリンエンジェモン!!」

「………!!」

 

「効果によりこれを召喚!!」

リザーブ2⇨0

マリンエンジェモンLV2(2)BP6000

 

 

突如として椎名の場に現れたのは桃色の小さな天使、マリンエンジェモン。クリオネのような小さな見た目とは裏腹に、究極体である。

 

 

「ディーアークの効果でドロー!!………さらにマリンエンジェモンの効果!!このターン、私のライフはコスト9以下のスピリットのアタックでは減らない!!」

手札5⇨6

 

 

椎名のライフに水のバリアが張られていく。マリンエンジェモンの力だ。これはこのターンが終わるまでは消えることはない。

 

兎姫のスピリットではあのバリアを突破できないため、彼女はこのターンのターンエンドの宣言を迫られたことになる。

 

 

「…………仕方ないわね、ターンエンドよ」

ゲイル・フェニックス・ビレフトLV3(4)BP6000(回復)

チキンナイトLV2(3)BP4000(回復)

 

白雲に茂る天翼樹LV1

 

バースト【有】

 

 

結果として、兎姫はビレフトとチキンナイト、2体のスピリット達をブロッカーとして場に残す形でエンドとなった。次は見事にマリンエンジェモンの召喚に成功した椎名のターンだ。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

エクスブイモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップっ!!双牙皇オルト・ロードを召喚!!」

手札7⇨6

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名が召喚したのは2つの顔を持つ武装した獣のようなスピリット、オルト・ロード。作中では何度もフレイドラモンと合体して椎名の窮地を救ってきた1枚である。

 

ーそれがこのバトルでも救うことはできるのか………

 

 

「マリンエンジェモンにオルト・ロードを合体だ!!」

マリンエンジェモン+双牙皇オルト・ロードLV2(2)BP11000

 

 

マリンエンジェモンとオルト・ロードが合体。

 

と言っても、マリンエンジェモンがオルト・ロードの背中にちんまりと居座っただけである。椎名はこの状態で、さらにアタックを仕掛けていく。

 

 

「アタックステップっ!!マリンエンジェモンでアタック!!」

 

 

マリンエンジェモンを乗せたオルト・ロードが地を駆けて行く。目指すは兎姫のライフ。

 

さらにこの時、さらにオルト・ロードの効果が起動し、

 

 

「オルト・ロードの効果で手札3枚を破棄し、回復させる!!」

手札6⇨3

破棄カード↓

【D-3】

【ワームモン】

【グラニ】

マリンエンジェモン+双牙皇オルト・ロード(疲労⇨回復)

 

 

青の光を一瞬輝かせ、マリンエンジェモンならぬ、オルト・ロードは回復状態となる。先のゲイル・フェニックス・ビレフトと同様、2回目の攻撃の権限を得た。

 

ーそしてそれだけではない。今度はマリンエンジェモンの効果が発揮される。

 

 

「今度はマリンエンジェモンの効果!!トラッシュからネクサスカード、D-3をLV2で配置する!!」

リザーブ2⇨0

D-3LV2(2)

 

 

オルト・ロードの背に乗っているマリンエンジェモンが歌を詠唱すると、トラッシュにあったD-3が引っ張られ、ディーアーク同様、椎名の腰に装着される。

 

オルト・ロードで捨てたカードをマリンエンジェモンで配置。実に無駄の無い動きであると言える。それで回復もしているのだからこのコンボの威力は言わずもがな………

 

だが、椎名はまだ終わらなかった。ここからさらに大きく動き出すと言わんばかりに手札のカードを切っていく。

 

 

「フラッシュ!!マグナモンの【アーマー進化】発揮!!対象になれるスピリットはいないけど、ネクサスカード、D-3の効果で疲労させることでその代わりにさせる!!」

D-3(回復⇨疲労)

 

「…………!!」

 

 

D-3の効果はアーマー体による【アーマー進化】の補助だ。タイミングが限定されるものの、これにより椎名は成長期のスピリット無しで【アーマー進化】が行える。

 

 

「1コストを支払い、黄金の守護竜、マグナモンをLV2で召喚!!」

手札3⇨2

D-3(2⇨1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ2⇨3

マリンエンジェモン+双牙皇オルト・ロード(2⇨1)LV2⇨1

マグナモンLV2(2)BP8000

 

 

椎名が腰にあるD-3をタッチ。それに反応したD-3の力で光が立ち昇る。そこからゆっくりと降りてくるのは黄金の守護竜、ロイヤルナイツの1体にして、最強のアーマー体スピリット、マグナモンだ。

 

 

「マグナモンの召喚時効果!!相手の場の最もコストの低いスピリット1体を破壊!!………今先生の場で一番コストが低いのは0のチキンナイト!!よってそれを破壊!!黄金の強弾!!プラズマシュート!!」

「…………っ!!」

 

 

マグナモンはその両手からエネルギー弾を連続で投げ飛ばす。それはチキンナイトの方へと向かっていき、そして命中。チキンナイトは黒焦げになり、小さく破裂した。

 

ー一見、圧倒的に見える。圧倒的に椎名が優位な盤面に見える。しかし、実際追い詰められていたのは椎名であった。

 

ーその理由は今から直ぐに分かることであって………

 

 

「どうだ兎姫先生!!このまま一気にライフゼロだ!!」

「ふふ、呑気ね〜〜」

「!?」

 

 

サムズアップし、このまま一気に勝利すると言わんばかりの勢いになる椎名。

 

ーだが、兎姫はそれを遇らうかのように伏せていたバーストをゆっくりと反転させる。

 

 

「スピリットの破壊により、バースト発動!!……………天空戦艦ピラミッドウィング!!」

「………っ!?!」

 

「この効果で先ずはデッキの上からカードを2枚オープン、その中の爪鳥スピリットを好きなだけノーコスト召喚する!!…………さぁ、来なさい!!カード、オープン!!」

オープンカード↓

【戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックス】◯

【戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックス】◯

 

 

効果は2枚とも成功。それも大当たり中の大当たりだ。それらはこのピラミットウィングの効果で同時にノーコストで好きなだけ召喚することが可能だ。

 

 

「効果は成功!!!このカード、戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックス2体をノーコストで同時召喚!!」

リザーブ4⇨2

戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックスLV1(1)BP10000

戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックスLV1(1)BP10000

 

「…………っ!!」

 

 

地平線の遥か彼方より飛翔してきたのは燃え上がる戦国の力を得たゲイル・フェニックスとでも言うべきか、赤き鎧をその身に纏い、今、椎名の目の前に強敵として立ち塞がった。

 

ーそれも2体だ。

 

 

「そしてピラミットウィングはこの効果発揮後ノーコスト召喚できる」

リザーブ2⇨1

天空戦艦ピラミッドウィングLV1(1)BP6000

 

 

バーニング・ゲイル・フェニックスの背後からゆっくりと軍艦音を鳴らして現れたのは、それらよりもずっと巨大な爪鳥スピリット、天空戦艦ピラミッドウィング。その名の通り、ピラミッドのような物がその首下にぶら下がっている。

 

 

「どう芽座さん?……私の爪鳥デッキの真髄は………っ!!」

「おおっ!!!かっこいい!!………流石です!!先生!!」

「アホォ!!!喜んどる場合か〜〜!!!このバトルで負けたらあんたたこ焼き食えんねんぞ〜〜〜!!!」

 

 

一瞬にして並び立つ強力な爪鳥達を前に、椎名はいつものように歓喜の声を上げていた。その目をギラギラと輝かせていた。真夏のツッコミは周りの人達の声で全く届かない。椎名はたこ焼きのことなどもはや頭にこれっぽっちも残ってはいなかった。

 

ーただ目の前のバトルを楽しんでいるだけ、

 

だが喜んでばかりもいられない。椎名のターン中ではあるが、早速召喚された爪鳥スピリット達が椎名の場を襲って行く。

 

 

「バーニング・ゲイル・フェニックスの召喚時効果!!相手のスピリット2体を重疲労させる!!エクスブイモンとマリンエンジェモンよ!!」

 

「…………っ!!」

エクスブイモン(回復⇨重疲労)

マリンエンジェモン+双牙皇オルト・ロード(回復⇨重疲労)

 

 

召喚された1体のバーニング・ゲイル・フェニックスが動き出す。その翼で熱風を生み出し、椎名の場を襲う。エクスブイモンとマリンエンジェモン、オルト・ロードが疲れ果て、ただの疲労状態でない重疲労状態となった。

 

ーそしてこれは未だにマリンエンジェモンのアタック中であって………

 

 

「そのアタックはバーニングがブロック!!」

「っ!!」

 

 

BPはバーニング・ゲイル・フェニックスの方が上である。バーニング・ゲイル・フェニックスは走り行くオルト・ロードの背にあるマリンエンジェモンを翼で正確に撃ち抜いて破壊した。

 

 

「くっ!!オルト・ロードは場に残す………」

 

 

自身の命も危うしと見たオルト・ロードはそのままUターンして椎名の場へと帰っていった。

 

この場で唯一椎名の場で残ったのはロイヤルナイツのマグナモンだが、マグナモンのBPでは兎姫のスピリットには勝てない。必然的に椎名にターンの終了が迫られていた。

 

 

「…………くっそぉ〜〜無理か〜〜ターンエンド!!」

エクスブイモンLV1(1)BP3000(重疲労)

マグナモンLV2(2)BP8000(回復)

双牙皇オルト・ロードLV1(1)BP5000(重疲労)

 

ディーアークLV1

D-3LV1

 

バースト【無】

 

 

こうなっては仕方がないか、一旦椎名はここでターンを終了させた。次は見事にバーストカード1枚で戦況をひっくり返して見せた鳥山兎姫のターンだ。

 

 

[ターン06]兎姫

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックス(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!バーニング2体のLVを2にアップ!!」

リザーブ4⇨2⇨0

戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックス(1⇨3)LV1⇨2

戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックス(1⇨3)LV1⇨2

 

 

2体のバーニング・ゲイル・フェニックスのLVが上がる。これによりこの2体は新たに強力な効果を得た。それはアタックステップ中に存分に発揮されることだろう。

 

 

「アタックステップ!!行きなさい!!バーニング!!」

 

 

バーニング・ゲイル・フェニックスの1体が地を滑空するように椎名のライフへと飛び行く。今の椎名はコアが少ない。よって、このアタックはライフで受ける他ない。

 

 

「ライフで受ける!!」

ライフ4⇨3

 

 

バーニング・ゲイル・フェニックスの嘴の先端が勢いよく椎名のライフを貫き、破壊した。

 

ーそしてこれだけでは終わらない。バーニング・ゲイル・フェニックスの効果の真骨頂はバトル終了時である。

 

 

「バーニング・ゲイル・フェニックスの効果!!バトルの終わりに2コア支払い、回復する!!この時、ターンに1回、さらに相手のライフを1つ破壊する!!」

ゲイル・フェニックス・ビレフト(4⇨2)

戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックス(疲労⇨回復)

 

「なにぃ!?………うわっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

バーニング・ゲイル・フェニックスがその嘴から火炎を解き放ち、椎名のライフをさらに減少させると共に、再び行動が可能な回復状態となる。

 

そう、これがバーニング・ゲイル・フェニックスの効果だ。ゲイル・フェニックス系の持つ回復する効果に加え、効果によりさらにライフを破壊することができる優れものだ。

 

ーしかもこのターンに1回というのは効果によるライフの破壊であり、回復はコアさえあれば何度でもできる。そして別のバーニング・ゲイル・フェニックスがいれば、その効果ダメージも2度発揮可能だ。

 

 

「2体目のバーニングでアタックよ!!」

 

 

別のバーニング・ゲイル・フェニックスが飛翔する。狙いはもちろん椎名のライフ。椎名はこれを受けたら効果ダメージと共にライフをゼロにされてしまうため………

 

 

「マグナモンでブロックだ!!」

 

 

ーブロックする他なかった。

 

マグナモンが椎名の目の前に立ち、バーニング・ゲイル・フェニックスを受け止めようと構える。

 

ーだが、

 

 

「BPは…………圧倒的にバーニングが上よ!!燃え滓となりなさい!!」

 

 

その身に炎を纏わせるバーニング・ゲイル・フェニックス。マグナモンは受け止めるものの、その熱量と圧倒的なパワーによって突破され、貫かれてしまう。

 

椎名もただでは転ばない。白マジックで応戦する。

 

 

「フラッシュマジック!!リアクティブバリア!!効果でこのバトルの終わりがアタックステップの終わりとなる!!」

手札2⇨1

リザーブ3⇨0

マグナモン(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ3⇨7

 

 

マグナモンは力尽き、大爆発を起こすものの、すぐさま兎姫のばに猛吹雪が発生。そのスピリット達の動きを封じ込めた。

 

 

「…………ターンエンドよ」

ゲイル・フェニックス・ビレフトLV1(1)BP3000(回復)

天空戦艦ピラミッドウィングLV1(1)BP6000(回復)

戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックスLV2(3)BP13000(回復)

戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックスLV2(3)BP13000(疲労)

 

 

流石に仕方ないか、圧倒的な力を見せつけるものの、兎姫はこのターンをエンドとした。2体目のバーニング・ゲイル・フェニックスの効果は敢えて発揮させなかった。椎名のライフ2など、ここまでくると1と大差ないと感じたからだろう。

 

たしかにそれなら残りのコアを防御に回した方が得策である。

 

ー次は椎名のターン。だが、残った手札の1枚は…………

 

 

(芽座さんの手札にある残ったカードは【ズバモン】…………場に残ったスピリット、ブレイブ、ネクサスだけではどうしようもない…………このバトルは私の勝ちね!たこ焼きはいただきよ!)

 

 

心の中でそう考えた兎姫。

 

そうだ。椎名の手札は残り1枚。それもそれだけでは機能しないズバモン。場に残った2体も重疲労状態。次のターンが来てもようやく普通の疲労状態となり、アタックすらできない。

 

兎姫は自分の勝利を確信した。

 

ーが、バトルの途中ですっかりと忘れたのか………

 

ー相手がこれまでに幾度となく信じられないほどの奇跡を起こしてきたあの芽座椎名であると言うことに…………

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

 

 

「ドローステップ!!……ドロー!!……へへっ!」

手札1⇨2

 

「…………っ!?!」

 

 

椎名はその勢い良くデッキから引いたカードを見て、思わず笑みがこぼれた。その様子を見て、兎姫は何故だか妙な予感を感じた。それはまだまだこのバトルが終わらないのではないかと言う、そんな嫌な予感だ。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

エクスブイモン(重疲労⇨疲労)

双牙皇オルト・ロード(重疲労⇨疲労)

 

 

エクスブイモンとオルト・ロードはバーニング・ゲイル・フェニックスの効果により、重疲労状態。このターンで回復しても未だに動けない状況が続いていた。

 

ーが、それも関係ない。椎名はそう言わんばかりにメインステップへと移行する。

 

 

「メインステップ!!……ブイモンを召喚!!」

手札2⇨1

リザーブ8⇨3

トラッシュ0⇨2

 

「…………っ!?このタイミングで成長期スピリットを!?」

 

 

椎名がドローしていたのは青の成長期スピリット、小さな竜、ブイモン。

 

ーそしてこれから始まる椎名の大大逆転劇に兎姫は驚愕して行くこととなる。

 

 

「ディーアークの効果でカードをドローし、ブイモンの効果でカードを2枚オープンする!」

手札1⇨2

オープンカード↓

【ギルモン】×

【フレイドラモン】◯

 

 

効果は成功。椎名はこの効果により、赤属性のアーマー体スピリット、フレイドラモンのカードを手札へと加えた。

 

ー残ったギルモンのカードはトラッシュへと破棄されて行った。

 

 

「さらにフレイドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!1コストを支払い、燃え上がる勇気、フレイドラモンをLV2で召喚!!」

手札2⇨3

リザーブ3⇨2

トラッシュ2⇨3

フレイドラモンLV2(3)BP9000

 

 

ブイモンの頭上に赤くて独特な形をした卵が投下される。それはデジメンタルと言うアーマー進化を行うための進化アイテムのような物。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化する。新たに現れたのは炎を纏う竜戦士、フレイドラモンだ。

 

 

「フレイドラモンの召喚時効果で、相手のBP7000以下のスピリット1体を破壊!!ビレフトを狙えっ!!……爆炎の拳、ナックルファイアァァ!!」

手札3⇨4

 

「…………っ!!」

 

 

フレイドラモンの飛ぶ炎の鉄拳が、兎姫の場のゲイル・フェニックス・ビレフトを襲う。ゲイル・フェニックス・ビレフトは燃え上がり、爆発した。

 

この時点で既に兎姫は驚愕していた。たった1枚だった手札があれだけの展開をしているのにもかかわらず4枚まで膨れ上がったのだから無理もない。

 

ーしかし、驚くのはまだ早かった。

 

 

「さらにフレイドラモンとオルト・ロードを合体!!フレイドラモンの赤き炎は今こそ蒼炎となる!!」

フレイドラモン+双牙皇オルト・ロードLV2(4)BP14000(疲労)

 

 

呼吸を合わせ、フレイドラモンとオルト・ロードは宙へ飛び上がり、混ざり合う。そして新たに現れるのは言わば蒼い炎のフレイドラモン。背中には新たに漆黒の翼が生えており、あまりにも多すぎる炎の量に、常時体からその蒼炎が漏れ出ている。

 

ーが、ブレイブのオルト・ロードが疲労状態であったため、それに合わせてこの合体したフレイドラモンも今現在は疲労状態となっている。

 

ー飽くまでも今現在は………

 

 

「さらにマジック!!パワーブースト!!フレイドラモンのBPを3000上げ、【連鎖:青】で私のネクサスカード、D-3を破棄して回復させる!!」

手札4⇨3

フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード(4⇨3)BP14000⇨17000(疲労⇨回復)

トラッシュ3⇨4

 

 

椎名の使った赤マジック、パワーブースト。その効果によりネクサスであるD-3が破裂するように散っていく。が、その代償として、蒼炎のフレイドラモンが立ち上がる。

 

 

「これで準備は万端!!アタックステップ!!フレイドラモンでアタック!!」

 

 

漆黒の翼を翻し、宙を舞う蒼炎のフレイドラモン。そしてそのアタック時効果は健在。椎名は忘れずにそれを使用していく。

 

 

「アタック時効果で今度はピラミッドウィングを破壊!!……!!」

「……!!」

「蒼炎の拳!!ブレイズナックル!!!」

 

 

蒼炎のフレイドラモンの拳から放たれる蒼き炎の一挺打線。それは巨大なピラミッドウィングをも意図も容易く撃ち抜き、ピラミッドウィングは空中で大きな爆発を起こす。

 

 

「さらにオルト・ロードの効果により、手札のカードを3枚破棄して回復!!…………!!」

手札3⇨4⇨1

破棄カード↓

【ズバモン】

【ブイモン】

【ワームモン】

フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード(疲労⇨回復)

 

 

フレイドラモンの炎の量がさらに多くなっていく。まるでその肉体を覆い尽くすかのように。これでフレイドラモンは回復状態となり、2度目のアタック権利を得た。

 

 

「そしてバーニングに指定アタック!!!………渾身の蒼炎!!!バーニングインフォース!!!」

 

 

両拳に蒼炎の炎を纏わせ、空中から急降下するようにバーニング・ゲイル・フェニックスを狙い撃ちにしようとするフレイドラモン。

 

BPも僅かながらにフレイドラモンが勝っている。これでいける。兎姫の場を全滅できる。

 

ー椎名はそう思っていた。

 

ーが、兎姫は甘くはなくて…………

 

 

「フラッシュマジック………ワイルドライドを2枚使用!!対象は指定アタックを受けたバーニング!!」

手札3⇨2⇨1

リザーブ3⇨2⇨1

トラッシュ2⇨3⇨4

 

「………なぁ!?」

 

「この効果でこのターン、対象となったバーニングのBPを合計6000上げる!!」

戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックスBP13000⇨16000⇨19000

 

 

兎姫が使用したマジック、ワイルドライド。椎名も度々使用しているカードだ。これにより、バーニング・ゲイル・フェニックスのBPが上がり、飛び向かってくるフレイドラモンを迎撃する態勢に入る。

 

ーこれでは間違いなくフレイドラモンは破壊される。

 

 

 

 

ーかと思えたが…………

 

ーここから椎名はさらに兎姫の上を行く戦法でこの状況を大きくひっくり返して見せる。

 

 

「へへっ!フラッシュ!!デュークモンの煌臨発揮!!対象はフレイドラモン!!」

リザーブ2s⇨1

トラッシュ4⇨5s

 

「っ!?……な、何ですって!?フレイドラモンから煌臨!?」

 

 

聞き間違いではない。椎名は確かに煌臨と叫んだ。デュークモンの煌臨条件は赤のコスト5以上。フレイドラモンはそれを満たしている。

 

漆黒の翼を羽ばたかせ、その急降下の勢いを止めたフレイドラモン。そしてその瞬間、デジタルの粒子に包まれ、その姿を大きく変化させて行く。

 

 

「来い!!真紅の聖騎士!!デュークモン !!………今回はその身にオルト・ロードを纏って現れよ!!」

手札1⇨0

デュークモン+双牙皇オルト・ロードLV2(3)BP22000

 

 

新たに現れたのはロイヤルナイツの1体。そして椎名の最強エース、デュークモン。今回はオルト・ロードの鎧を自身の鎧に溶け馴染ませての登場だ。その鎧は黒くて、所々蒼い。

 

 

「………く、黒くて……蒼いデュークモン………っ!?」

「これでBP22000!!!バーニングを超えたぁ!!煌臨スピリットはその煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!!!いっけぇ!!デュークモン!!」

 

 

デュークモンは宙を駆け、バーニングに向けてその黒く変色した槍を差し向け、それに蒼い炎を纏わせる

 

そして椎名はその技名と共にバーニング・ゲイル・フェニックスを撃つ。

 

 

「蒼炎激槍!!!バーニングインスピアァァア!!!」

「っ!?」

 

 

刹那、一瞬でバーニング・ゲイル・フェニックスに何百発と炎を纏わせた槍の一撃をぶち込んだデュークモン。バーニング・ゲイル・フェニックスは流石にそれには耐えることができなかったか、墜落し、大爆発を起こした。

 

 

「オルト・ロードの効果で回復してるデュークモンで再度アタック!!効果により残った2体目のバーニング・ゲイル・フェニックスを破壊!!聖槍の一撃!!ロイヤルセーバー!!!」

「くっ!?」

 

 

追撃と言わんばかりに槍先から聖なるビームを放つデュークモン。それはいとも容易く兎姫の場に残った2体目のバーニング・ゲイル・フェニックスを貫き、爆発させた。

 

ーそしてまだだ。まだまだデュークモンの効果は終わらない。

 

 

「さらにデュークモンの効果!!!トラッシュにある滅竜スピリットを回収することでターンに1回、回復する!!」

「………!!」

 

「私はトラッシュにあるギルモンのカードを手札に戻し、デュークモンを回復させるっ!!ネクスト・イストリア!!!」

手札0⇨1

デュークモン+双牙皇オルト・ロード(疲労⇨回復)

 

 

蒼き力を巧みに扱い、デュークモンは回復する。これでこのターン、3度目のアタック権利を得た。

 

兎姫の場にはスピリットはいない。もはや守るものなどなにもないのだ。後はこの合体によりダブルシンボルになった聖騎士が貫くだけ。

 

 

「これで終わりだぁ!!………デュークモンっ!!」

 

 

マントを靡かせながら、兎姫の目の前に降り立ったデュークモン。そしてそのライフにも槍を構え……

 

 

「…………そ、そんな………この私が………」

ライフ4⇨2⇨0

 

 

デュークモンの回復からの強烈な二連撃。その強力な聖槍が、兎姫の残ってた4つのライフを一気に貫き消しとばした。

 

これにより勝者は芽座椎名。見事に大大逆転劇をしてみせた。手札のカードが1枚でもズレていたら訪れてはいない勝利であったことだろう。だが、それさえも必然に変えてしまうのがこの芽座椎名の圧倒的なセンスであるとも言える。

 

 

「よっしゃぁ!!!大大勝利だよ!!」

 

 

場に残ったデュークモンとエクスブイモンが椎名の勝利を祝うように、高らかにポーズを取って、その場でゆっくりと消滅していった。

 

この会場にいた全ての人達が椎名の勝利を拍手で迎えた。真夏も大いに喜んでいた。椎名が奇跡のたこ焼きをゲットしたからだ。

 

 

******

 

 

 

「はぁ………」

 

 

ここは祭りの範囲内にある公園のベンチ。そこで腰を掛けながら、溜息をこぼしたのは鳥山兎姫だ。流石にあそこまで来て敗北したのはショックだったか、

 

だが、教師とて、1人のカードバトラー。これを糧に精進するしかない。

 

そんな時だった。前方から自分を呼ぶ声が聞こえた来る。

 

 

「お〜〜い!!兎姫先生!!!」

「っ!?芽座さん!?それに緑坂さんも………」

 

 

商品の奇跡のたこ焼きの箱を手に持ち、椎名と真夏が兎姫の前に現れた。

 

次に椎名が放った一言はなんとも人間として感心する一言であって………

 

 

「折角だし一緒にたこ焼き食べませんか?箱6つ入ってるし、3人で2個ずつ!!」

「こいつがこんなこと急に言い出すんで、ずっと兎姫先生のこと探し回っとったんですよ〜〜」

「みんなで一緒に食べた方が美味しいですしね!!」

「………芽座さん」

 

 

そう言って、椎名はブイの字サインを可愛くして見せると、兎姫に奇跡のたこ焼きの箱を手渡した。まだ若干の温みを感じる。

 

兎姫は少し感動していた。今思えば自分はあんなに大人気ない事をしていたというのに、この少女はそれを全く気にせずに一緒に食べようと言ってくれるとは…………なんと器が大きいのだろう。

 

どちらにせよ折角の生徒からの好意だ。教師側としても個人的にもこれを食すことになる。

 

 

「………ふふ、ありがとう……私も一緒に美味しくいただくわ!」

「よっし!!じゃあ、折角なんでこれから打ち上がる花火が見やすいとこ行きましょうよ〜〜!!」

「おっ!!それええな!」

 

 

そんな話が淡々と進む中、兎姫は1つ2人に忠告する事にした。それは彼との関わりが特に深い2人には絶対に行っておかねばならない事であって………

 

 

「と、ところで芽座さん、緑坂さん………」

「「?」」

「今日、ここで私に会ったことは晴く………空野先生には内緒よ…………」

「ん?晴太先生??なんで?」

 

 

兎姫は恥ずかしがりながらも左の人差し指で口を押さえながら言った。真夏はなんとなくそれを察したが、椎名には全く理由が検討もつかなかった。

 

だがしかし、そんな兎姫の想いとは裏腹にまたまたとんでもない偶然と奇跡が起こってしまった。

 

 

「おぉ〜〜い!!椎名ぁ、真夏ぁ!!」

「ん?晴太先生だ」

「んなぁ!?」

 

 

それは偶然か必然か、椎名達の担任教師、空野晴太が袴姿で歩いて来た。下駄の甲高い音が妙に耳につく。驚いた兎姫は思わず反対側を向いて晴太から隠れようとする。

 

 

「どうだ、祭りは楽しんでるかぁ!!!」

「はい!!楽しんでまーーす!!お姉さんの浴衣、サイズぴったりでした!!」

「おお、それは良かった!!」

 

 

椎名と晴太がそんな話をする。兎姫はどうにかこのまま時が経ってくれとずっと願っていたが、

 

 

「ん?………これ兎姫ちゃん?」

 

 

ー気づかれた。あっという間に………

 

仕方がないか、兎姫はゆっくりと晴太達の方を振り向いた。

 

 

「やっぱ兎姫ちゃんじゃん!!なんだよ、祭り行かないって言ってたじゃねーか!!」

「え?そうなんですか!?」

 

 

そう、兎姫は今年の祭りは晴太と行かないつもりだった。何せ、たこ焼き好きなところがバレるわけには行かなかったから…………何故か彼にバレるのだけは嫌で嫌で仕方がなかったのだ。だから今回、こうやって密かに1人で祭りに来たのだ。

 

ーしかし、それも不覚か、晴太は兎姫の手に持っているものに気づいてしまう。

 

 

「おっ!!それって奇跡のたこ焼き!?!凄いなぁ!!…………」

「!?!!!い、いや、こ、これはそ、その………」

「え?てゆうか兎姫ちゃんたこ焼き好きだったっけ?」

「あ、あぁ、先生、これはな…………」

 

 

不思議そうに兎姫に詰め寄って行く晴太。そしてテンパって行く兎姫を見兼ねて、真夏がどうにか誤魔化すために説明しようとしたその時だった。兎姫は思わず…………

 

 

「うるさいわぁ!!!!!このボンクラァァア!!!」

「ぐおぉぉおっっ!!?!!!」

 

 

そのたこ焼きが入っていた箱を思いっきり晴太の顔面にぶつけた。たこ焼きが飛び出てくるほどに。箱が晴太の顔から落ちると、そのたこ焼き6個は晴太の顔に付着していた。もう晴太以外は食べられたものではない。

 

虚しくも奇跡のたこ焼きが地面に落ちて行く。

 

 

「………ふんっ!!悪かったわね!!たこ焼きなんかが好きで!!」

 

 

そう言って機嫌を損ねた兎姫は椎名達3人の前から去っていった。

 

晴太は未だにこの状況でなんで兎姫にたこ焼きを投げつけられたかよくわかっていない。

 

 

「…………椎名………俺なんか兎姫ちゃんに悪いこと言った?」

 

 

口に垂れてきたたこ焼きのたれをそのまま舌で味わいながら、晴太は椎名に問うた。

 

 

「…………さぁ?」

 

 

だが椎名も何が何だかわからない表情を浮かべていた。

 

 

「椎名も大概やけど先生も大っっ概やな!!」

 

 

唯一意味のわかっていた真夏だけはここの最後で渾身のツッコミをかました。そしてまたまた偶然か、綺麗にこのタイミングで打ち上げ花火が綺麗に打ち上がった。

 

******

 

ー後日、椎名と真夏の家に匿名の誰かから奇跡のたこ焼きが送られて来たのはまた別のお話。




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【戦国の神皇バーニング・ゲイル・フェニックス】!!」

椎名「バーニング・ゲイル・フェニックスは数多く存在するゲイル・フェニックス系の1体!!その暴れっぷりはまさしく戦国の武人ならぬ武鳥!!」


******


〈次回予告!!〉

次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「オーズ一族」…今、バトスピが進化を超える!!


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!

次回から予告通り二期第2章となります。お楽しみにしていただけたら幸いです!


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【二期】第2章「修学旅行とオーズと鬼化片鱗編」
第53話「オーズ一族……!!」


 

 

 

 

 

【具利度王国(ぐりど王国)】

 

単に王国と言っても、実際はただの市のようなものであり、日本内に存在する。王族はいるが、政権はなく、飽くまで形だけの王国であり、観光名所としての名が高い。

 

ーただ、国を治めているのは、とあるバトスピ一族。遥か昔から存在する仮面スピリットを扱う、王を含めた6人の神官バトラーが存在していた。

 

 

******

 

 

「…………はぁ」

 

 

芽座椎名は非常に困っていた。大きなため息をつくほどに。それもそのはず、何せ、この修学旅行でいつもの5人(椎名、真夏、雅治、司、夜宵)で有名な観光地、具利度王国に来たのは良いものの、観光途中で他の4人とはぐれてしまったのだ。

 

忘れてはならない。椎名は極度の方向音痴。全員が目を離した隙に、まるで椎名は子犬のようにふらっと何処かへ消えてしまったのだ。決して他の4人が悪いというわけじゃない。

 

 

「くっそ〜〜!!道がわかんないよーー!!!折角【オーズ神官】とバトルできるのに!!」

 

 

もはや何が何だかわからなくなり、頭の中が困惑する椎名。両手で頭をわしゃわしゃと掻いてもその小さい脳みそでは何も出てこない。

 

ー【オーズ神官】この国を治める王を含めた6人のカードバトラー達のことである。実際はバトスピ一族の1つであり、【オーズ一族】と呼ばれることもある。

 

修学旅行。もちろん学修のための旅行だ。だが、このバトスピ学園において、バトルをすることこそが勉強の一環。椎名たち5人はそのオーズ神官達とバトルをするためにここまで来たのだ。

 

ー椎名は何よりもそれを楽しみにしていたが、現在はこの通り、絶賛迷子中である。何度も周りの人に聞いてみるが、それでもなかなかたどり着けないでいた。

 

ーそんな時………

 

 

「………おい」

 

 

そもそも、なんで自分だけ全く違う道を歩いていたのか。そこから椎名は考え始める。なぜ、4人とも自分を置いて勝手に迷子になっているのか………

 

まぁ、全てはこの無自覚な方向音痴のせいなのだが……

 

 

「おい!!無視すんじゃねぇ!!俺を間に入れろ!!」

 

 

後ろからやけに図太くて聞き覚えのある声がした。椎名はようやくそれに気づき、後ろを振り返った。

 

ーそこには………

 

 

「あ………屑島先輩!!」

「人をゴミみたいに言うんじゃねぇ!!」

「鍋島先輩?」

「お肉も焼かん!!」

 

 

椎名も本当はその人物の名を知っている。ちょっとからかっているだけだ。それはほんの半年くらい前はよく起こっていたことであって…………

 

 

「いい加減名前くらいしっかり覚えやがれぇ!!この毒島富雄様をお!!」

「あっはは!!お久しぶりです〜」

 

 

怒り狂う毒島に、椎名は笑いながらも挨拶を交わした。

 

毒島富雄。一期においては何度か椎名にリベンジしようとバトルを挑んでいた。今年で19の元ジークフリード校の学生。いわゆるOBだ。

 

ーだが、疑問に思うとこもある。いったいなぜ毒島がこんな日本内の観光地、具利度王国にいるのかと言う点だ。

 

まぁ、それは簡単な話。バトスピ学園卒業後、彼はこの場所、具利度王国で働いているのだ。そしてその勤務中、椎名を見つけ、声をかけた。と言う流れであった。

 

 

「まっさかあの毒島先輩がこんな凄いとこで働いてるなんて〜〜〜私はびっくりですよ!」

「ガハハハハ!!!!そうだろうそうだろう!!!……………ん?あのってなんだ!!?!」

 

 

止まらない椎名の毒島いじり。

 

そして次に椎名は迷子を脱すべく、毒島に道案内を頼もうと言う発想が頭の中に浮かんだ。

 

ーまたまたそんな時だった。毒島に道案内を頼もうとした直前、2人の前に見知らぬ人影が現れて…………

 

 

「………おい」

 

 

今度は椎名も直ぐにその声のする方へと振り返る。毒島のようなものではない。どこか軽い。というかチャラい。そんな感じの声色であった。

 

ーそこにいたのは………

 

 

「そこのブ男……可愛い子が嫌がってるだろ?離れてやれ………!!」

 

 

そこにいたのはツンツンした赤髪の少年と言ったらわかりやすいか、やや細身で、椎名達と同じ歳くらいに見える。

 

そんな少年が、毒島のことをブ男と称しながら、指を彼に向けて指し、椎名から距離を離そうとする。

 

ー赤髪の少年は完全に勘違いをしていた。確かに鼻からみたら毒島と言う厳つい男が、いたいけな少女をいじめているかのように見えるかもしれない。

 

ーもちろん実際は大きく異なっている。寧ろ毒島が椎名にいじめられていたと言った方がまだ的確である。

 

ーそんな少年の粗相な態度に、毒島は椎名の時以上に怒りを大きく表し………

 

 

「んだとぉ!?……誰がブ男だコラァ!!!」

 

 

目くじらを大きく立て、鋭い眼光のまま、脅すように少年を睨みつける。だが、少年はそんな毒島には興味がなく。

 

 

「おお!!!愛しのマイ姫!!……ご無事でしたでしょうか?」

「は、はぁ………」

 

 

毒島そっちのけで膝を地面につきつつ、椎名の手を取り、そんなチャラついた言葉を並べた。いわゆるナンパだ。椎名も言ってる意味がわからないと言わんばかりの反応をする。

 

ーそんな少年の様子に、毒島はまた大きく怒りを示し、

 

 

「俺を無視すんじゃねぇ!!!!!」

「もうーーーうっさいなーーーー俺はお前みたいなキモ男に興味はないっての」

「誰がキモ男だぁ!!」

 

 

少年は毒島をこれでもかと言わんばかりに毛嫌いする。

 

 

「取り敢えずこの子を連れて行きたいし、お前にはどっか言ってもらおう」

 

 

そう言って少年は徐に懐から自身のBパッドを取り出し、展開させた。バトルだ。バトルで毒島をこの場で追い出す気だ。それはこの世界ではごく当たり前のことであって…………

 

そんな様子を見た毒島は………

 

 

「上等だこのガキ!!!!!相手してやんよぉ!!」

 

 

短気な彼は当然これを自分に対する煽りだと認識し、その勝負に乗っかる。自身のBパッドも展開させた。

 

 

「おっ!!バトル?私もしたーーーい!!」

 

 

兎に角バトル好きな椎名はその様子を見て自分も混ざりたそうな顔をする。そんな椎名にチャラ男の少年は「後でね!」と優しく囁いた。

 

ーそして始まる。何が何だかよくわからないまま。この短気な不良毒島と謎の赤髪の少年のバトルが。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まった。先行は毒島だ。

 

 

[ターン01]毒島

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!!この俺様を怒らせたことを後悔させてやるっ!!ネクサスカード、旅団の摩天楼を配置!!効果でカードを1枚ドロー!!さらにバーストを伏せ、ターンエンドだ!!」

手札5⇨4⇨5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

 

旅団の摩天楼LV1

 

バースト【有】

 

 

毒島は早速紫の汎用ネクサスカード、旅団の摩天楼を背後に配置。細長い摩天楼が形成される。そして最後にはバーストカードをセット。万全なる先行の第1ターン目であると言える。

 

ー次は赤髪の少年のターンだ。彼はいったいどんなバトルを見せるのだろうか。

 

 

「さて、さっさとぶっ飛ばしてこの子とデートに行くか……………」

 

 

そう言って赤髪の少年は毒島の方ではなく、椎名の方へ目線を向け、徐にウィンクをしてみせる。

 

が、意味の分からない椎名はその首を斜めに傾けた。

 

 

[ターン02]赤髪の少年

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!俺はチョーター2体とサケビバードを召喚!!」

手札5⇨2

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

赤髪の少年が呼び出したスピリットはダチョウのような見た目に柄がチーターのような斑点のあるチョーター。それが2体と、丸っこい見た目の鳥、だが、その鳴き声はとてもうるさい、サケビバード。

 

この2体はいずれも青のスピリットで、低コストのスピリットだ。毒島と椎名はそれを見て、彼が青属性の速攻デッキであることを理解した。

 

 

「さらに俺はメインアクセル!!巨人王子ラクシュマナを発揮!!デッキから2枚ドローし、2枚破棄!!」

手札2⇨1⇨3⇨1

破棄カード↓

【チョーター】

【アンク】

 

 

赤髪の少年の手元に青属性のカードが置かれる。その効果で手札を入れ替え、その質を向上させた。

 

そしてこのカードは自身の効果により、手元にある場合でも青のシンボルをある状態にしてくれるため、全く無駄にならない。

 

 

「俺もバーストセット!!」

手札1⇨0

 

 

少年もバーストを伏せ、その手札を空にする。

 

だが、少年はそんなことなど気にするそぶりなど見せずに、そのままアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!!やれ!チョーター!!サケビバード!!」

 

 

飛び立つサケビバードと走り出す2体のチョーター。もちろん目指すは毒島のライフ。前のターンでネクサスの配置でコアを大きく使用した毒島にはこのアタックを防ぐことなどは出来ず…………

 

 

「はんっ!!全部ライフだ!!持ってきやがれ!!!」

ライフ5⇨4⇨3⇨2

 

 

合計3体のスピリットの体当たりが毒島のライフを大きく削った。1年次の椎名よりも明らかに速い速攻だが………

 

 

「…………ガハハハ!!!馬鹿め!!俺のバーストを食らうがいい!!」

「………!!」

 

 

毒島のその言葉に反応する少年。

 

その宣言通り、彼の伏せられたバーストカードが光り、勢い良く反転する。

 

 

「俺のライフの減りでバースト発動!!大甲帝デスタウロス〈R〉!!」

「………!!」

「この効果で1体疲労!!……と言っても意味ないがな、その後、相手の疲労状態のスピリット全てを破壊し、その数だけコアを増やす!!」

リザーブ4⇨7

 

「………へぇ」

 

 

そのバーストから放たれる紫の衝撃波。横一線に並んだ少年の3体のスピリット達を蹴散らしていく。さらにそのエネルギーはコアとなって毒島の元へとたどり着く。

 

この時、毒島は2回目のアタックの時点でこれを使えばライフの消費を抑えられたが、より早く少年を倒すために、そしてより多くのコアを増やしたいがために、3度目のアタックまで受けたのだ。

 

ーそして、これはバーストを持つスピリットカード。彼はこれを召喚していく。

 

 

「そしてこの効果発揮後、ノーコスト召喚するっ!!深淵の樹海より現れよ!!大甲帝デスタウロス!!」

リザーブ7⇨4

大甲帝デスタウロス〈R〉LV2(3)BP12000

 

 

毒島の背後が濃ゆくて深い闇に覆われる。そしてその狭間から現れる1体のスピリット。鬼と甲虫。2つの力を併せ持った強力なエックスレア、大甲帝デスタウロスがこの場に顕現した。

 

 

「おおっ!!かっっこいい!!」

 

 

巨大なスピリットの登場に興奮する椎名。自分も今すぐバトルがしたい気分になる。

 

毒島はまた腕を上げたと言える。あのカツアゲばかりして、まともに授業を受けていなかった頃とは大違いだ。

 

 

「…………気持ち悪いな…………まぁ良い、破壊後のバースト、双光気弾………カードを2枚ドロー」

手札0⇨2

 

 

そんな椎名とは正反対に、毒島のデスタウロスを気持ち悪いと辛辣な言葉を浴びせる少年。そしてそれと同時に伏せていたバースト。汎用性の高いドロー効果を持つ双光気弾を使用し、その何もなかった手札を若干潤した。

 

 

「………ターンエンドだ」

《手元》

巨人王子ラクシュマナ

 

バースト【無】

 

 

「ガハハハ!!!打つ手無しって感じだな!!」

 

 

少年は出来る限りの事をして、このターンをエンドとした。

 

次は見事に大甲帝デスタウロス〈R〉の召喚を成功させた毒島のターン。その一気に増加させたコアでいったい何をしようと言うのか。

 

 

[ターン03]毒島

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨8

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!!!俺様はドクグモンを3体召喚してやるゼェ!!!」

手札5⇨2

リザーブ8⇨2

トラッシュ0⇨3

 

 

毒島の召喚ラッシュ。ネクサスとダブルシンボルであるデスタウロスで多く軽減し、一気に3体の毒グモ型の成熟期デジタルスピリット、ドクグモンを召喚した。

 

ーそしてまだ終わらない。毒島はこれを機にまだ展開をしていく。

 

 

「さらにぃ!!アルケニモンを召喚だぁ!!」

手札2⇨1

リザーブ2⇨0

トラッシュ3⇨4

 

 

今度は宛ら女王蜘蛛と言ったところか、上半身が不気味な女性。そして下半身が強靭な蜘蛛の肉体で構成されている完全体のデジタルスピリット、アルケニモンが召喚される。

 

これで毒島の場のスピリットは合計5体。少年のライフを全て破壊するには十分過ぎる数である。

 

毒島はアタックステップへと移行し、一気にアタックを仕掛ける。

 

 

「アタックステップ!!やれぇ!!3体のドクグモン!!」

 

 

3体のドクグモンがカサカサっと動き出す。その姿に少年は背中が痒くなる。

 

 

「気持ち悪っ!!……ライフだ!!」

ライフ5⇨4⇨3⇨2

 

 

3体のアタックが一気に通る。ドクグモン達は体当たりでその少年のライフを大きく削り取った。

 

ーそして残りは2つ。このダブルシンボルのアタックで終わる。

 

 

「ガハハハ!!!これで終わりだぁ!!大甲帝デスタウロス!!」

 

 

大甲帝デスタウロスはダブルシンボルのスピリット。つまり一度のアタックでライフを2つ破壊できる。

 

勢い良く地を駆けるデスタウロス。目指すはもちろん少年のライフ。

 

だが、少年もこんな簡単には終わらず…………

 

 

「ふっ……甘いな、フラッシュマジック!!リミテッドバリア!!」

手札2⇨1

リザーブ6⇨2

トラッシュ2⇨6

 

「……っ!?」

「アタックはライフで受ける!!…………と言っても、このターンはリミテッドバリアの効果で減らないけどねーーー」

ライフ2⇨2

 

 

少年のライフの周りに白い障壁が形成される。それは体の大きな者は通ることができない代物である。デスタウロスはそれを槍のような鋭い腕で懸命に破壊を試みるも、それは傷1つつかない。

 

リミテッドバリア。白の防御マジックの1つで、このターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックでは自分のライフは減らないという効果を持つ。

 

毒島のスピリットはいずれもコスト4以上。つまり、このターンはどう足掻こうが少年のライフをゼロにすることはできないのだ。

 

 

「ちぃっ!!命拾いしたな………ターンエンドだ」

大甲帝デスタウロス〈R〉LV2(3)BP12000(疲労)

アルケニモンLV1(1)BP5000(回復)

ドクグモンLV1(1)BP3000(疲労)

ドクグモンLV1(1)BP3000(疲労)

ドクグモンLV1(1)BP3000(疲労)

 

旅団の摩天楼LV1

 

バースト【無】

 

 

仕方なくそのターンを終えた毒島。次は見事にリミテッドバリアで毒島の猛攻を凌いだ少年のターン。現在、毒島とは圧倒的な戦力差があるが、彼の表情はとても落ち着いていた。涼しい顔を全く崩していなかった。

 

ー余裕だからだ。この程度の差は直ぐに逆転できるからだ。少年はこのターンのシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン04]赤髪の少年

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨9

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ………ほんじゃ、早くデートしたいし、終わらせるか…………」

「………!?」

 

 

終わらせるか。そんな少年の言葉に反応する毒島。だが、そんなものは不可能に近い。何せ、今、毒島の手札には全てのスピリットを回復させるマジック。リブートコードがある。

 

これを使えば忽ちブロッカーは大量に復活。いくら残りライフ2とは言え、流石にこの第4ターン目で終わるなど俄かには信じられない。

 

ーだが、少年はある伝説の仮面スピリットを使い、それを可能にする。

 

 

「………俺はこいつを………仮面ライダーオーズ タトバコンボ[2]を召喚!!」

手札2⇨1

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨2

 

「………な!?オーズ!?………お、お前は………」

 

 

“タカ・トラ・バッタ!!!”

“タ・ト・バ!!タトバタ・ト・バ!!”

 

 

そんな陽気な音楽が流れてくる。すると、少年の場に縦三色。上から赤、黄色、緑で構築されたその光はつなぎ合わされ、人型のスピリットを形成した。

 

ーそれは仮面ライダーオーズ タトバコンボ。この具利度王国を治めるオーズ一族だけが持つとされる伝説の仮面スピリットである。このタトバコンボはその基本形態。

 

 

「おおっ!!仮面スピリット!!」

 

 

あいも変わらずはしゃぎ出す椎名。だが、逆に毒島は………

 

 

「………ま、まさか、まさかだよな?……お前……ひょっとして………」

 

 

毒島はこの赤髪の少年の正体に気づきつつあった。いや、というかほぼこの時点で気づいていた。彼は間違いなくあの人物。自分が王に命令され、連れ帰るよう言われたあの人物だった。

 

ーそしてさらにその少年は次の一手を見せる。それは彼が王族であるという何よりの照明であって………

 

 

「ふっふ………俺はさらに手札のこのカードの【チェンジ】の効果を発揮!!対象はタトバコンボ!!」

リザーブ4⇨2

トラッシュ2⇨4

 

「………っ!?」

 

 

毒島は確信した。間違いない。王族の中でもより優れたエリートだけが授かることのできる【チェンジ】効果持ちのオーズを使ったからだ。それは代々受け継がれ、この国を代表する6人の神官の証でもある。

 

 

「この【チェンジ】効果でトラッシュにあるアンクを召喚!!オーズと直接合体するように召喚する」

リザーブ2⇨1

 

 

トラッシュから復帰してくるのは………とある怪物の腕。それは妙な動きで浮遊しながら少年の場のオーズの横に現れた。

 

ーそしてこれは【チェンジ】の効果。つまり、この後、スピリットとの入れ替えが発揮される。

 

 

「そして………このカード……仮面ライダーオーズ タジャドルコンボをタトバと入れ替える!!来い!!雄々しく、そして美しい翼を持つ伝説の仮面よ!!」

仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ+アンクLV2(3)BP13000

 

 

“タカ!!クジャク!!コンドル!!"

“タ〜〜〜ジャ〜〜〜〜ドルゥ〜〜!!”

 

 

タトバコンボがベルトにあるメダルを差し替え、新たにスキャン。今度はそのメダルは赤に統一されている。

 

そしてそれに伴ってか、赤い光に包まれ、妙な音楽と共にその姿を変える。

 

ー現れたのは全身が赤い、仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ。この具利度王国が誇る6人の神官バトラーが持つ特別なオーズだ。その美しい赤き翼を広げ、今、この場に降り立った。

 

 

「や、やっぱりそうなのか!?……や、やっぱお前は……」

 

 

動揺が隠せない毒島。だが、そんな彼の事など、少年にとって知ったことではない。このままアタックステップへと移行し、一気に畳み掛ける。

 

 

「アタックステップ!!タジャドル!!」

 

 

翼を広げ、空を駆けるタジャドルコンボ。ほとんどが空の飛べない毒島のスピリット達はただそれを傍観することしかできない。

 

 

「アンクの効果!!アタック時、LVを最大にする!!よってタジャドルはLV3に!!」

仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ+アンクLV2⇨3

 

 

アンクの効果でそのLVが上昇するタジャドルコンボ。これでBP合計15000。毒島の全てのスピリットを超えた。

 

そしてさらにタジャドルにはまだ効果があり………

 

 

「タジャドルの効果でドクグモンを指定アタック……!!」

「………!!」

 

 

空から滑空するように急降下してくるタジャドルコンボ。狙うは3体いるドクグモンのうちの1体だ。

 

 

「そしてこの時、タジャドルは回復するっ!!」

仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ+アンク(疲労⇨回復)

 

「な、なぁ!?」

 

 

咄嗟に赤い光を体中から解き放ち、回復するタジャドルコンボ。

 

それがタジャドルのもう1つの効果だ。最もコストの低いスピリットに指定アタックすることで、回復する。この効果の恐ろしいところはターンに一度ではないと言うこと。

 

ーつまり、BPで負けることがなければ何度でもアタック可能なのだ。

 

 

「タジャドル!!」

「ぐっ!!」

 

 

タジャドルは空から勢い良くドクグモンを翼で切り裂いた。それだけでない。すぐ横にいた他の2体のドクグモンを拳に纏わせた炎で一気に焼き払ってみせる。

 

 

「次だっ!!狙い撃て!!」

 

 

3体のドクグモンは破壊された。次はアルケニモンだ。

 

向かって来るタジャドルに負けまいと、アルケニモンはその手から闇のエネルギー弾を何発と投げつける。が、タジャドルはそれをいとも容易く回避。アルケニモンをそのままドクグモン同様翼で切り裂いた。アルケニモンは堪らず爆発四散した。

 

ーそして次が最後。

 

ー大甲帝デスタウロスだ。

 

 

「いけぇ!!タジャドル!!」

 

 

“タカクジャクコンドル!!……ギガスキャン!!”

 

 

タジャドルコンボがその腕にある円形の武器にメダルを投入、スキャンし、その力を込めたエネルギー弾を毒島の場にいる大甲帝デスタウロスに向けて発射する。

 

その勢いは凄まじく、それを受け止めようとしたデスタウロスを丸ごと貫き、あっさりと燃やし尽くしてしまった。

 

ーそして当然ブロックされているので、タジャドルは今なおも回復状態であり………

 

 

「じゃあなブ男………」

 

 

タジャドルは毒島の目の前で着地し、今一度その拳を炎で纏わせ、

 

 

「……ぐ、ぐおぉぉぉぉぉぉお!!」

ライフ2⇨0

 

 

毒島をライフをその拳で粉々に殴りつけ、粉砕した。

 

これにより毒島のライフはゼロ。赤髪の少年の勝利に終わる。見事な速攻勝利であった。

 

 

「ふふ、じゃあなブ男……俺はこの可愛い子とデートに行くことにするよ〜〜」

 

 

そう言って椎名の方を向き、そこに向かおうとする赤髪の少年。だが、毒島はまだ何か言いたいようであり………

 

 

「お、おい待ちやがれ!!俺はテメェの親父にお前を探せって言われて来たんだよ!!」

「ああん?親父?」

「ああ、あんたの親父【プルート】に頼まれてなぁ!!赤の神官【マーズ】!!」

「……え?」

「あんたこれから【大事な仕事】ほったらかして遊びに行くんじゃねぇよ!」

 

 

その毒島の言葉を聞いて椎名は驚いた。

 

そう。この赤髪の少年は具利度王国の王族にして【オーズ神官】の1人、名をマーズ。しかもこのマーズは今の王の息子ときた。

 

まさかこの目の前の自分達と同じくらいの少年がまさかまさかのこの国の王子さまである事など誰が予想しただろうか。

 

基本的に【オーズ神官】はそれぞれの扱うオーズを模した面を被っている。故に毒島でも一目見ただけではその素顔は分からなかったのだが、さっきのタジャドルが何よりも王族であるとということの証拠である。言い逃れはできない。

 

 

「あ?お前ウチの家来だったの?……全く、親父の奴、こんなブ男雇うなよな〜〜」

「んだと!!このガキ!!まだ言うか!!………ていうか顔くらい覚えとけぇ!!」

 

 

未だに悪態を吐く【赤の神官】マーズに、毒島も未だに怒りを見せる。

 

 

「………ていうか知ってたし、今から戻るつもりだったんだよ、城でデートする気だったしな〜〜」

「?」

 

 

そう言ってマーズは椎名の方に顔を向けると………

 

 

「これから始まるジークフリード校の生徒達との【サバイバルバトル】に可愛い女の子の観客を置いときたくてね〜〜」

「あぁ?」

 

 

ーそう言った。なんとも言えない阿呆な理由に毒島は呆れたような声を上げる。

 

 

「いや、私もジークフリード校の生徒なんだけど…………」

「…………え?」

 

 

椎名のその言葉に、今度はマーズが驚いた。そして今更ながらに自分が色々と勘違いをしていたということに気づいた。

 

毎年。毎年必ず界放市のバトスピ学園の生徒はこの【具利度王国】を訪れる。そして毎年のように、【神官バトラー】達はおもてなしと言わんばかりにあるイベントを開催していた。

 

ーそれが【サバイバルバトル】

 

ーいったいこれから椎名達はどうなっていくのか………

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ】!!」

椎名「タジャドルコンボはオーズの赤いコンボ!!チェンジ効果でアンクと名を持つカードを召喚して、指定アタックで相手のスピリットを全部蹴散らせるよ!!」


******


〈次回予告!!〉

椎名「まっさかあの子がオーズ神官の1人だったなんてね〜〜!!……よっし!!サバイバルバトルで絶対にバトルしてやるっ!!次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「サバイバルバトル開始!!椎名VS俊足コンボ!!」今、バトスピが進化を超えるっ!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!

具利度王国の見た目はドラクエでありそうな王国みたいな感じです。

ーオーズ神官に関して
オーズ神官は6人。それぞれタトバ+いずれかの統一コンボ1つを使用してきます。


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第54話「サバイバルバトル開始!!椎名VS俊足コンボ!!」

 

 

 

 

 

 

「おおっ!!ここが城の中!!広ぉっ!!」

 

 

椎名は毒島とオーズ神官の1人、マーズによって、王国の中心部にある王宮へと招かれていた。椎名はその広さに驚愕の声を漏らす。その声が王宮の煉瓦に響いて木霊した。

 

 

「おいうるせぇぞ芽座椎名」

「可愛いなぁ!!見てるだけで癒されるわ〜〜!」

 

 

一応職場だからか、注意の形でツッコミをいれる毒島。そしてその横でさらにボケるオーズ神官の1人、赤髪の少年マーズ。とても女好きな彼は椎名の天然を見て、ただ1人和んでいた。

 

毒島だけではとてもではないがツッコミが追いつけない。

 

 

「あっっ!!!しぃいなぁ!!」

 

 

そんな時だ。誰かが椎名以上のうるさい声でこちら側に向かって急接近してくる。

 

ー真夏だ。その表情は怒りに満ち溢れている。

 

 

「あっ!真夏!久しぶり〜〜」

「久しぶり〜〜ちゃうわっ!!ボケェ!!あんたまたさらっと迷子なりおって!!」

 

 

迷子になっていた椎名に怒りを見せる真夏だが、椎名はまるで反省していないのか、それを軽く受け流す。これも自分の方向音痴に自覚がない故だ。

 

真夏達他の4人は椎名が行方知らずになった時、王宮が既に目の前にあったので、一先ずそこに入った。

 

そして王宮の人達に捜索を依頼するが、その前に先ず神官の1人、マーズが行方不明になっており、王宮はそれどころではなかった。

 

ーしかし、毒島のマーズ発見。そしてついでに椎名も居合わせた事によって、意外にも手早く、このややこしくなっていた緊急事態が収まったのだった。

 

 

「そう言えば………なんで毒島がおんねん」

「あぁ?文句あんのか?関西女」

 

 

真夏が毒島の存在に気づく。捻くれてる毒島は粗相な態度でそれに接する。そんな毒島を見かねて、椎名が真夏に説明した。「毒島先輩はこの王宮で働いている」と。

 

理解した真夏だが、大して興味もなかったためか、「あっそ」と軽く流した。これは毒島があまり好感度が高くないのが原因である。

 

 

「わぁっ!!またなんと眩しいお嬢さん!!今日は観客に可愛い女の子は要らないなぁ!!」

 

 

マーズが真夏を見てそう言った。目がハートだ。これが王子で神官の1人でなければ誰が見てもただの変態である。真夏がマーズに指を指して、椎名に「これ誰や?」と聞く。椎名はそれに対し、「王子様」とだけ答えた。

 

ーその後、真夏は椎名を自分達が集められた部屋へと連れて行き………

 

 

******

 

 

「もうっ!椎名ちゃん!みんな心配してたんだよ!?」

「まぁ、無事で良かったよ」

「いや〜〜ごめんね〜〜!!」

 

 

ここはまた王宮の別の場所。ここに修学旅行メンバー5人と、何故か毒島が集められていた。夜宵と雅治がそんなことを椎名に言うと、椎名は片手を頭の後ろに回して能天気に答えた。

 

はたして本当に反省しているのか。

 

 

「そんなことより、俺はなんで毒島がここにいるのかが気になるんだが」

 

 

そんな中、司が口を開け、言った。そこだ。そこはみんな気にしていた。これから始まるのはこの修学旅行メンバーと神官達によるサバイバルバトルというもの。毒島は必要ない。

 

毒島も本当に何も聞かされていないため、司の質問に対しては「俺も知らん」とだけ強く言った。

 

ーそんな時だ。6人のBパッドから同時に着信が鳴り響く。6人は不思議に思ったが、それをほぼ同時に出る。

 

ーその着信の相手とは………

 

 

〈やぁ、諸君!!すまないね、随分待たせてしまった………では、始めよう!!今年の【サバイバルバトル】!!〉

 

 

Bパッド前面に映し出されたのは紫の髪、そしてなんか嘴の長い生き物が描かれた面を被った人物。毒島はもう嫌という程その人物を知っている。修学旅行メンバーも椎名以外はさっき会った。

 

 

「あなた誰?」

「バカ!!この国の国王!!【プルート】様だよ!!」

「えぇ!?国王!?王様ってことぉ!?」

 

 

失礼な椎名に毒島が注意するように言葉を入れ、説明した。

 

そう、この人物は具利度王国現国王【プルート】6人いるオーズ神官の1人でもある。

 

ーそしてその実力も神官達の中でもトップなんだとか…………

 

 

〈ハッハッハ!!まぁ、こんなおじさんなんか王には見えないよな!!〉

 

 

そんな大きな声で椎名の失礼な態度を水に流す器の大きな王。その声色から40くらいの男性なのが理解できる。

 

ーそして王は………

 

 

〈まぁ、と、言うわけだから早速始めようか…………3………2…………〉

 

 

と、切り替えるように何かのカウントダウンを徐に始める国王、プルート。意味深な行動に、修学旅行メンバーはおろか、毒島も頭にハテナの文字を浮かべる。

 

そもそも6人はまだプルートとマーズ以外の神官と顔を合わせていない。いったいこのカウントダウンが終わると何が起こるのだろうか。

 

 

〈…………1………0!!〉

 

 

カウントダウンが終わった…………

 

そして次の瞬間!!

 

 

「え?」

 

 

椎名は驚いた。いや、椎名だけではない。この場にいた6人全員が驚きを隠せなかった。

 

ーそれもそのはず、カウントダウンが終わった途端、煉瓦で組み立てられていたはずの部屋が一変、0と1のコードが組み替えられていくように部屋が変換され、生い茂るジャングルのような場所に変わったのだ。

 

その場所はとても広い。見渡す限りでも約10㎢はありそうだ。

 

 

「こ、これは………!?」

〈ハッハッハ!!驚いてくれたかな?学生諸君!!………ここがサバイバルバトルを行う場所だよ!!〉

 

 

全員のBパッドからまたプルートの声がした。やはりこの奇々怪界な現象は、状況的に彼がしたとしか言えない。プルートは順を追って説明していく。

 

 

〈君らがさっきまで入っていたのはデジタル分子の部屋だったんだよ、いや、正確には今も入ってることになるね!それを組み替えて、こんな広い部屋にしたんだ〉

 

 

ーここは地下だ。元々相当広い敷地を有する部屋である。それをデジタルの力により、煉瓦の小さい部屋に見せかけていた。と言うのがこのカラクリの正体である。

 

 

〈………ここで軽くルールを説明をしよう!!君達は今からここで我ら神官達とどちらかが全滅するまでバトルをしてもらう!負けたらそこの電子檻に強制的に送還されてしまうから、気をつけてね〜〜〉

 

 

6人はすぐ後ろを見る。するとそこには明らかな檻があった。なんかゴリラでも入ってそうなごく普通の形をした檻である。

 

 

「てか、【プルート】様!!なんで俺まで!?」

 

 

間ができたとこで毒島がプルートに問うた。何故自分もこの場に召集されたのかと………

 

が、それはなんとも単純な理由。

 

 

〈え?そりゃだって、富雄、数合わせだよ、こっちは6人だからねぇ〉

「はぁ!?」

 

 

そうだ。毒島は単なる頭数を合わせるためだけに呼ばれたのだ。

 

しかし、毒島を除く5人は思った。

 

ー「毒島で戦力になるのか?」とー

 

 

〈さぁ、君達は我ら神官達の前に何人生き残れるかな?…………ハッハッハ!!〉

 

 

ーとだけ言い残すと、プルートからの通信はプツっと切れた。6人はなんとなく理解した。ここでサバイバルバトルが始まると言うことに。そして始まったと言うことに。

 

 

「なんかパッとしねぇ始まり方だな………本当に始まったのか?」

 

 

司がそう言った。確かにあまり締まりのない始まり方である。

 

ーだが、この時点でも、既に1人はすっかり気持ちを切り替えてサバイバルに臨もうとしており………

 

 

「よっし!!始まったぁ!!早速バトルしてくるぞぉ!!」

「あっおい!!椎名っ!!」

 

 

真夏が止める間も無く、椎名はすぐさまそこから飛び出し、1人、ジャングルの中へと入っていった。夏休み前の計画からずっとこの瞬間を待ち望んでいたのだ。ある意味仕方ないか、

 

落ち着きがないといえばそれまでだが、

 

 

「椎名の奴、もう見えんくなりよった………」

「作戦どうしよっか?」

 

 

真夏と夜宵が言った。確かに、このサバイバルバトルにおいて、作戦決めはかなり重要なものである。

 

 

「まぁ、でも椎名に合わせればいいんじゃない?」

 

 

雅治が言った。椎名に合わせる。それはつまり何も考えないでバトルすると言うことだ。

 

 

「おいおい!!そんなんで良いのかよ!?」

「ま、良いんじゃね?俺らなら作戦なんぞ決めなくても勝てるだろ」

 

 

毒島が言うが、司がそれを一蹴した。この場で自分はオーズ神官よりも強いとはっきりと断言した。

 

作戦がないことには不安が隠せない毒島だが、これは椎名達の行事、口を出し辛いこともあっただろう。それ以上は何も口を挟むことはなかった。

 

 

「…………そんじゃ、各々好きな方向に………」

 

 

ーと、司もジャングルの中へと歩んでいった。それからゆっくりと他のメンバーも自分の対戦相手を求めて歩みを進めた……………

 

ー具利度王国名物、【サバイバルバトル】が始まった。

 

 

******

 

 

一方、先駆けてジャングルへと進んで行った椎名は、

 

 

「うーーん…………勢い良く入ったのは良いけど……………私ってどっから来たっけ?」

 

 

ー道に迷っていた。最早この広いジャングルを抜け出せないでいた。

 

ーそんな時だ。

 

 

「………ここは所詮1つのただっ広い部屋だから、どっちかの方向を真っ直ぐ歩くだけで戻れるよ」

 

 

彼女の後方から誰かが籠もったような声で話しかけてくる。

 

声色からして男。それも自分たちよりも年下の印象を受ける声だ。椎名は後ろを向き、その声の主を視認する。

 

 

「やぁ、お姉さん……僕は【ヴィーナス】……オーズ一族で、神官の1人だよ!」

 

 

そこにいたのは金髪の少年、名をヴィーナス。オーズ一族で神官の1人。神官の証であるその顔のお面にはライオンのような絵が載っている。椎名はマーズ以外の神官に思わず「おおっ!」と感激の声を漏らす。

 

 

「私は………」

「芽座椎名?……でしょ?」

「っ!?私の名前知ってるの?」

 

 

自己紹介を返す形で返事をしようとした椎名。だが、ヴィーナスはその名前が椎名の口から言われる前に言い切った。

 

 

「そりゃだって、芽座椎名と言ったら超有名人じゃん!……こんな辺境に住んでてもわかるよ!」

「えっ!?私ってそんなに有名だったの!?……いや〜〜ちょっと照れるなぁ〜〜」

 

 

辺境とて、【界放リーグ】はテレビで流れる。故に、椎名の名前は割と有名なのだ。それは【朱雀】の赤羽司も同様のことであって………

 

 

「………じゃ、お互いやることは1つだね!!」

「………くっく、そうだね〜〜」

 

 

軽く挨拶だけ交わした2人は、ほぼ同時に以心伝心したかのように懐からBパッドを取り出し、それを展開させた。始まるのだ。具利度王国の今年のサバイバルバトル、第1戦が………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

生い生いと茂るジャングルの中、椎名とヴィーナスのバトルが幕を開ける。

 

ー先行はヴィーナスだ。

 

 

[ターン01]ヴィーナス

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!……早速行くよ!!僕はネクサスカード、ライドベンダーを配置!!………」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「…………なんだあれ?自販機?」

 

 

ヴィーナスが横に配置したのは、自販機のような何か、中には何か入っており、コインが入りそうな箇所もある。

 

 

「………ターンエンドっ………さぁ!僕に見せてよ!界放市のバトラーの実力を!!」

ライドベンダーLV1

 

バースト【無】

 

 

年下だが、えらく好戦的で態度が大きいヴィーナス。彼の先行第1ターン目はこのネクサス、ライドベンダーを配置して終わりとなった。

 

ー次は椎名のターン。ワクワクと胸躍らせる彼女のターンに、ヴィーナスも期待していた。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!私はこのブイモンを召喚して、その召喚時効果を使うよ!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【ディーアーク】×

【グラウモン】◯

 

 

椎名が手始めと言わんばかりに召喚したのは青くて小さい竜、ブイモン。その額のブイの字が特徴的。

 

そしてその召喚時も成功。椎名はグラウモンのカードを手札へと加えた。

 

 

「へぇ、可愛いね」

 

「でしょでしょ!!アタックステップ!!ブイモンっ!!」

手札4⇨5

 

 

会話をしながらもターンシークエンスを進め、攻める椎名。そしてその指示を聞いて走り出すブイモン。

 

初手でネクサスを配置したヴィーナスはこのアタックを止める手段がない。よって、

 

 

「ライフで受けるよ!」

ライフ5⇨4

 

 

ライフで受けることになる。

 

ブイモンの渾身の頭突きが、それを1つかち割った。

 

 

「よしっ!!ターンエンドっ!!」

ブイモンLV1(1)BP2000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

できる限りの事を終え、椎名はそのターンをエンドとした。次はヴィーナスのターン。ここいらで何か動きがあってもおかしくはないが…………

 

 

[ターン03]ヴィーナス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップっ!!じゃあ、僕も下敷きを呼ぼうかな?………召喚!!タトバコンボ!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

“タカ!!トラ!!バッタ!!”

“タ・ト・バ!!タトバタ・ト・バ!!”

 

 

マーズが召喚した時と同様だ。上三色、上から赤、黄色、緑の光が繋ぎ合わさり、人型の何かを形成した。

 

その名は仮面ライダーオーズタトバコンボ。オーズ神官の誰もが所持するオーズデッキの中核を担うスピリットだ。

 

 

「おおっ!!出た出たぁ!!オーズ!!タトバタットバ!!」

 

 

あいも変わらず、強敵の登場ではしゃぎ出す椎名。

 

そしてヴィーナスはその召喚時を使用する。

 

 

「タトバコンボの効果!!カード2枚オープンし、オーズを加える!!」

オープンカード↓

【仮面ライダーオーズ ラトラーターコンボ】◯

【セルメダル】×

 

「…………!!」

 

 

ヴィーナスのデッキがオープンされる。そして当たり。ヴィーナスはそのうちの1枚がヴィーナスの手札に加わっていくのを見た。

 

そしてそのイラストにあるスピリットの色が黄色で統一されているのも…………

 

ー間違いない。あれはオーズ神官が持つ統一コンボと呼ばれるものだ。

 

だが、ヴィーナスはそれを手に取ってもまだ動かず………

 

 

「さらに僕はメインマジック!!セルメダルを発揮!!」

手札4⇨5⇨4

 

「…………?」

 

「このカードは発揮後、場に置き、カードを1枚ドロー!!………そして、オーズからコアを1つトラッシュへと取り除く!!」

手札4⇨5

仮面ライダーオーズタトバコンボ[2](3⇨2)

トラッシュ2⇨3

 

 

ヴィーナスのBパッドの上に、銀色のメダルが1つ置かれた。それと同時に、オーズからコアが飛び出していく。

 

単純な手札の入れ替えか…………

 

この時椎名はそう思っていた。

 

が、このセルメダルこそ、オーズデッキの真の武器である。それはこのバトルが進むに連れ、理解して行くことになる………

 

 

「アタックステップ!!タトバコンボでアタック!!」

 

 

足がバッタのように変化し、その脚力だけで宙を飛ぶタトバコンボ。椎名の場にいるブイモンは疲労状態でブロックできない。

 

よってこれは、

 

 

「ライフだっ!!」

ライフ5⇨4

 

 

降りてくるタイミングを合わせ、虎のような鋭い鉤爪で椎名のライフを1つ引き裂くタトバコンボ。これで椎名とヴィーナスのライフは互角となった。

 

 

「ターンエンドだよ!!」

仮面ライダーオーズタトバコンボ[2]LV2(2)BP5000(疲労)

セルメダル1枚

 

ライドベンダーLV1

 

バースト【無】

 

 

できる事を全て終え、ヴィーナスはそのターンをエンドとする。次は椎名のターン。もうお互いにジャブの打ち合いは終わりか、ここからバトルはより本格的になって行く。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

ブイモン(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップっ!!バーストをセットして、グラウモンを召喚!!」

手札6⇨5⇨4

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

椎名は場にバーストを伏せると共に、赤属性の成熟期スピリット、グラウモンを召喚した。その汽笛のような鼻息から、やる気があるのが伺える。

 

そして椎名はここからすぐさまアタックステップへと移行し………

 

 

「アタックステップ!!グラウモンでアタック!!」

 

 

グラウモンでアタックを仕掛ける椎名。だが、その前に強力なアタック時効果がこのグラウモンにはあり………

 

 

「私はグラウモンのアタック時効果!!BP7000以下のスピリット1体を破壊するよ!!」

「………!!」

「この効果でタトバコンボを破壊!!………魔炎のエキゾーストフレイム!!!」

 

 

空気を吸い込みながら炎を口内に溜め、ヴィーナスの場にいるタトバコンボめがけてそれを一気に放出させるグラウモン。

 

タトバコンボはそれに貫かれ、爆発。爆煙と砂埃が舞い上がる中、タトバコンボは破壊された。

 

ーかのように思えたが………

 

 

「ん?……あれ?」

 

 

椎名は驚いた。無理もない。破壊したはずのタトバコンボがこの場にまだ止まっていたのだから。

 

その理由は、当然タトバコンボ自身の効果であり………

 

 

「タトバコンボは、破壊時、手札を1枚破棄する事で、場に残る………残念だったねぇ」

手札5⇨4

破棄カード↓

【ライドベンダー】

 

「………!!」

 

 

仮面ライダーオーズタトバコンボ[2]にはLV2の時、手札1枚を破棄することで場に残る効果がある。ヴィーナスはそれを使用し、椎名のグラウモンのエキゾーストフレイムから身を守ったのだ。

 

 

「………そして、僕のフラッシュだね………」

「………!!」

 

 

しまった。と椎名は思ったが、遅い。ヴィーナスはタトバコンボの召喚時効果で手札に加えた自分の持つ統一コンボを呼び出すつもりだ。

 

迂闊だったか、椎名はグラウモンの効果でタトバコンボを破壊する予定だったため、ここで大きく作戦を狂わせられたと言えるだろう。

 

ーそして、

 

 

「フラッシュ【チェンジ】!!対象はタトバコンボ!!」

リザーブ1⇨0

仮面ライダーオーズタトバコンボ[2](2⇨1)

トラッシュ3⇨5

 

「…………っ!?」

 

「先行の如く駆け上がれ!!ラトラーターコンボ!!」

仮面ライダーオーズラトラーターコンボLV1(1)BP5000

 

 

“ライオン!!トラ!!チーター!!”

“ラタ・ラタ・ラトラァータァー!!”

 

 

タトバコンボがメダルを入れ替え、スキャン。コンボを変え、その姿形を変えて行く。

 

新たに現れたのは黄色のコンボ、ラトラーターコンボ。その俊足と閃光の力で、椎名を徐々に徐々にと追い詰めて行く事だろう。

 

 

「おおっ!カッコイイ!!」

「喜んでる場合じゃないと思うけどね!!ラトラーターコンボの【チェンジ】効果!!………コスト4以下のスピリット2体を破壊するっ!!」

「………っ!?」

「ちょうど2体いるね!それを破壊するっ!!」

 

 

ラトラーターコンボは登場するなり、頭部のを中心に、光熱を放つ。その様子は宛らマグナモンのエクストリームジハードに近い。

 

アタック中のグラウモンだけでなく、待機していたブイモンまでもがその光に呑まれ、爆発し、そのまま亡骸ごと消え失せた。

 

 

「く、すごっ!!」

 

 

椎名は思わずそんな声を上げた。オーズの圧倒的な力を感じていたのだ。

 

と、同時に、やはりここに、この具利度王国を修学旅行の場所に決めて正解だったとも思った。

 

ー何せこんなに面白いバトルができるのだ。来て駄目だったと言えるわけがない。椎名はとにかくこのピンチな状況にワクワクしていた。

 

 

「………ターンエンドっ!!」

バースト【有】

 

 

バーストはあるが、場のスピリットを一気に壊滅させられた椎名。気合いはあるが、ここから逆転はできるのか。

 

そして次はヴィーナスのターン。がら空きとなった椎名の場に大きく攻め立てる。

 

 

[ターン05]ヴィーナス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!!ラトラーターのLVを2に上げ、再びタトバコンボを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨2

仮面ライダーオーズ ラトラーターコンボ(1⇨2)LV1⇨2

 

 

ラトラーターコンボのLVが上がると同時に、また妙な音楽と共にタトバコンボがヴィーナスの場に現れた。

 

ーそしてまたその召喚時効果も発揮され………

 

 

「召喚時効果!!カードをオープン!!」

オープンカード↓

【ストロングドロー】×

【仮面ライダーオーズ ラトラーターコンボ】◯

 

「………っ!!…またコンボが……」

 

 

再び発揮されたタトバコンボの効果でヴィーナスは2枚目のラトラーターコンボを手札へと加えた。これでまたいつ発揮してくるかわからない【チェンジ】がヴィーナスの手に握られることとなる。

 

さらにヴィーナスは一気に椎名のライフをもぎ取るべく、最初に配置していたライドベンダーの効果を発揮させる。

 

 

「ネクサス、ライドベンダーの効果!!場にあるセルメダルを1枚破棄することで、相手の場のバースト1枚を見ることができる!!」

セルメダル1⇨0枚

 

「え?バーストを!?」

 

 

ヴィーナスはBパッドの上にあるセルメダルというメダルを手に取り、配置していたライドベンダーの中に自販機で飲み物を買うような手順で中に入れた。

 

すると、ライドベンダーから飲み物ではないが、何か変な小さいロボットが飛び出してくる。まるでクラゲのような見た目の。

 

 

「おぉ、……ちょっと可愛いかも………」

 

 

そんな呑気な事言ってる場合ではない。上から椎名のバーストに照射線を当てるクラゲの小型ロボット。それは椎名の裏側でセットされたバーストを見事に透かして見せた。

 

 

「へぇ、マリンエンジェモンか…………コストは8……」

「あっちゃぁぁ、やっぱバレるよね〜〜」

 

 

椎名がセットしていたバーストカードはマリンエンジェモン。ライフの減少で発動できる。

 

裏側でセットされていたら相手の効果を受けない効果を備えているが、「見る」効果に限っては、互いに確認しなければならないルールもあって、意味がない。

 

ー一見、椎名のバーストを見るだけでは何の意味もないかもしれない。

 

ーが、これこそがヴィーナスの狙い。

 

ーヴィーナスが知りたかったのは椎名のバーストが何かではない。椎名のバーストの【コスト】がいくつかであるという事だ。その理由は直ぐに分かる事であって………

 

 

「アタックステップ!!ラトラーターでアタック!!そのアタック時効果発揮!!」

「………!!」

「コストを1つ指定………僕は8を指定する……そしてこのターン、相手は指定されたコストのバースト効果を発揮できない!!」

「っ!?効果を!?」

 

 

ラトラーターの効果だ。このターン、指定されたコストのバースト効果が発揮されない。

 

椎名のマリンエンジェモンはバーストとしてセットされてる時、相手の効果を受けない。が、ラトラーターの効果はそのバーストの効果自体を発揮させない。

 

ーつまり、裏側では無敵のマリンエンジェモンだが、効果を発揮する時は表になるため、ラトラーターの効果で、そこを無効にされてしまうのだ。

 

ライドベンダーの効果はこのためだった。椎名の防御札はこのコンボでほぼ完璧に押さえ込まれてしまった。

 

 

「さぁっ!ラトラーターのアタックは続行!!」

 

「ぐっ!……ライフだ!」

ライフ4⇨3

 

 

目にも留まらぬ速さで場を駆け巡るラトラーター。そのまま椎名のライフをその虎の鉤爪で1つ引き裂いた。

 

ーそして、まだヴィーナスの場にはタトバも存在しており………

 

 

「続け!タトバコンボ!!」

 

「………それもライフだ………うわっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

タトバコンボの虎の鉤爪でも椎名のライフはまた1つ引き裂かれた。

 

 

「ふっふ!!ターンエンドだよ!さぁ次はお姉さんの番だ!!」

仮面ライダーオーズ タトバコンボ[2]LV2(2)BP5000(疲労)

仮面ライダーオーズ ラトラーターコンボLV2(2)BP7000(疲労)

 

ライドベンダーLV1

 

バースト【無】

 

 

だんだん調子付いて来たか、ヴィーナスはお面越しでもわかるくらい得意げな表情のまま、そのターンのエンドとした。勝ちが後一歩のところまで近づいて来たのだ。無理もない。

 

ーだが、相手はあの芽座椎名。そう易々と勝ちを狙える相手ではないという事を、まだヴィーナスは知らない。

 

 

「面白くなって来たっ!!私のターンだ!!」

 

 

とんでもないコンボで追い込まれた椎名は、より一層このバトルでのモチベーションを向上させる。

 

ーそしてこのターンより、逆襲が始まる。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨10

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップっ!!ギルモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ10⇨3

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が呼び出したのは真紅の魔竜の最初の形態、ギルモン。その小さな体にはとてつもないエネルギーを宿している。

 

 

「そして召喚時効果!!カードを5枚オープン!!」

オープンカード↓

【ディーアーク】×

【フレイドラモン】×

【レッドカード】×

【ライドラモン】×

【グラニ】◯

 

 

ギルモンの召喚時効果は成功。その中にある赤のブレイブカード、グラニが手札に加えられた。

 

椎名はそれを見ると、小さく笑みを浮かべ、そのまま何もすることはなく、アタックステップへと移行した。

 

 

「いけっ!!ギルモンっ!!アタックだっ!!」

手札4⇨5

 

 

椎名の指示を聞き、低姿勢で走り出すギルモン。目指すはもちろんヴィーナスのライフ。

 

 

「ん?それだけ?……もしかして、これの存在忘れちゃった?フラッシュ!!2枚目のラトラーターの【チェンジ】発揮!!対象はタトバコンボ!!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ2⇨3

 

「………!!」

 

 

そうだ。最早ギルモン程度のスピリットのアタックは通らない。何せ今のヴィーナスの手札にはあのラトラーターコンボがあるのだから………

 

また妙な音楽と共に、タトバコンボがメダルチェンジを行い、2体目のラトラーターコンボとなって場に現れた。

 

ーそしてその【チェンジ】の効果も当然使える……

 

 

「ラトラーターの効果でコスト4以下のスピリット2体を破壊!!……ここでは当然ギルモンだよね〜〜!!」

「…………!!」

 

 

2体目のラトラーターの頭部からまた光熱が照射される。ブイモンやグラウモン同様、ギルモンもこれをまともにくらって破壊…………

 

ーされるかに思えたが………

 

 

「………手札にあるグラニの効果!!」

「…………え?」

 

「滅竜スピリットが効果の対象となる時、その効果の発揮前にこのブレイブを1コスト払って召喚!!……そしてこのターン、その対象となったスピリット1体は効果破壊とバウンスから守られる!!私はグラニをギルモンに直接合体させるっ!!」

手札5⇨4

リザーブ3⇨2

トラッシュ3⇨4

 

 

ギルモンに直撃するかと思われたその光熱は、突如現れた謎の紅い飛行物体に遮られたことにより失敗に終わる。

 

その飛行物体の名はグラニ。真紅の魔竜達を守る盾だ。その後グラニはギルモンを背に乗せ、再び宙へとフライングする。

 

 

「合体しつつ、スピリットを守った!?」

「へへっ!!これがグラニの効果だよ!!ギルモンのアタックは続行!!」

 

 

ギルモンを乗せ、上空を舞うグラニは、そこから勢い良く急降下し、再びヴィーナスのライフを狙う。

 

 

「ダブルシンボルのアタックか…………でも、それだけじゃ足りない!!次のターン、その手薄になったところを2体のラトラーターが切り裂くよ!!」

 

 

そうだ。結局ギルモンを守ったところで意味はない。ヴィーナスのライフ数は4。この一撃では終わらない。

 

ーだが、椎名のフラッシュも終わらない………

 

 

「フラッシュマジック!!ストームアタック!!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

ギルモン+グラニ(4⇨2)LV3⇨2

 

「…………は?」

 

 

ヴィーナスは驚愕のあまり思わずそんな呆気にとられたような声を漏らした。

 

ーなんだ、この出来すぎた展開は。あまりにも出来すぎている。そんなことがあるのか、まるで最初から最後まであのお姉さんが勝つと決まっていたかのような綺麗な流れ………

 

 

「この効果でギルモンを回復させ、ラトラーターを疲労させるっ!!」

ギルモン+グラニ(疲労⇨回復)

 

「………くっ!?」

仮面ライダーオーズ ラトラーターコンボ(回復⇨疲労)

 

 

場全体に突如として吹き上がる突風。それはギルモン、及びグラニ側には追い風、回復状態となる。そして逆にラトラーター側は向かい風、膝を付き、疲労してしまう。

 

これによりダブルシンボルの2回分のアタックが可能となった。これがどういうことを意味を表しているかは、言わずとも理解できるだろう。

 

 

「ギルモンとグラニでダブル攻撃!!………これで終わりだぁ!!」

 

 

ー最早この紅い流星を止めることはできない。全てのスピリットが疲労してしまったヴィーナスはこれをライフで受ける他ない…………

 

ーそして、

 

 

「……ぐ、ぐわぁっぁぁ!!!」

ライフ4⇨2⇨0

 

 

グラニはマッハの如くのスピードでヴィーナスのライフを貫いた。そしてそれに乗じて着地したギルモンの鋭い鋭利な鉤爪の一閃で、残ったライフを根こそぎ引き裂いた。

 

ーこれにより勝者は芽座椎名。追い詰められながらも、持ち前の勝負強さを見せつけ、見事にこのサバイバルバトルの初戦を勝ってみせた。

 

 

「いよっしゃぁ!!!私の勝ちぃ!」

 

 

ガッツポーズを掲げて喜ぶ椎名。それを見てギルモンとグラニもゆっくりと消滅しながらも激しく咆哮をあげる。

 

 

「……あっはは、負けちゃったかーー、まさかこの僕が初戦で負けるなんてねー………ま、いっか、楽しかったしね〜〜」

「うん!またやろうね!!」

 

 

椎名がそう言った時だった。

 

 

「それじゃ、僕はこれでドロンするね〜〜」

「っ!?」

 

 

ヴィーナスがそう言うと、ヴィーナスの体がデジタルの粒子に変換され、その姿を消してしまった。

 

目の前の不思議な現象に驚きを隠せない椎名だったが、そう言えば、国王プルートはこんなことを言っていたことを思い出す。

 

 

ー《負けたら強制的にそこの電子檻に送還されてしまうからね〜〜》

 

 

つまり、ヴィーナスは神官側の檻に入れられてしまったと考えるのが妥当だ。

 

にしてもあんな感じで急に来ると考えると、少しだけ恐怖を感じる。

 

そんなことを考えながらも、椎名は再び別の神官とのバトルを求めて歩みを進めた。

 

オーズ神官達とのサバイバルバトルは、まだ始まったばかり………

 

 

******

 

 

ー時は少しばかり遡って、サバイバルバトルが始まる少しだけ前………

 

具利度王国の片隅で、ある男2人が何やら怪しげな雰囲気の中、会話しており………

 

 

「ほう、このミカンみたいな頭の女の子を連れて来るだけでそんなに報酬をくれるのかよ………」

「あぁ、手段は問わん………」

 

 

そこにいたのは厳つい体格の男、

 

そしてもう1人は以前、【芽座葉月】と空港にて会話していた、眼鏡をかけた男性、銃魔。彼が何やらその厳つい体格の男にある提案を持ちかけているようだが…………

 

 

「あ、そうそう………」

「あ?別の制約をつけるならごめんだぜ……」

 

 

銃魔が眼鏡を元の位置に戻しながら、何かを思い出したように告げ口しようとする。

 

ーだが、それは制約を付け足すなどと言うことではない。ただの注意のようなもの。

 

 

「………【鬼】には気をつけろよ……」

「あぁ!?【鬼】?………ぶわっはっは!!いるかよ!!そんなもん!!」

 

 

厳つい体格の男は銃魔の真面目な顔から出てきた真面目な話の内容が、まさかそんな話だとは思ってもいなかっただろう。

 

ー今時【鬼】が出るなどと、子持ちの親じゃあるまいし………

 

 

「まぁ良いぜ!!仮にそんなもんが出たとしても、今の俺は無敵!!!!誰にも負けねぇ!」

「それはDr.Aに与えられた力だろう?………まぁ良い、今回、上手くいったらその力の譲渡も考えてやる…………」

 

 

まただ。また銃魔の口から、s級犯罪者、Dr.Aの名が出てくる。しかも彼から力を与えられたとは、いったいどういうことなのだろうか。

 

ーいずれにせよ、今年のサバイバルバトルはどうやら何か一波乱ありそうだ。

 

ー椎名達の運命やいかに………

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【仮面ライダーオーズ ラトラーターコンボ】!!」

椎名「ラトラーターはオーズの黄色いコンボ!!チェンジ効果で低コストスピリットを破壊しつつ、アタック時で、相手のバースト効果の発揮を妨げるよ!」


******

〈次回予告!!〉

椎名「これがオーズ神官のバトル……っ!!……カッコいい!!早く次の神官ともバトルしたいなぁ!!えっ!?今度は2対1!?ま、良いや!!どんと来なさいってんだ!!次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「コンボ×2!?重量と水中!!」今、バトスピ が進化を超えるっ!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!

お話の展開の都合上、今後は椎名のバトルが異様に増えて行くと思いますが、何卒ご了承ください。

グラニの合体時効果は強制なので、最後のターンは本来ならデッキを破棄してます。(実際破棄されてる)描写の都合上、必要ない場合は極力省かせてもらいます。

【銃魔】に関しましては、第47話 「真紅と漆黒、デュークモンVSアルファモン」の最後らへんを参考に。



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第55話「コンボ×2!?重量と水中!!」

 

 

 

 

 

 

 

“プテラ!!トリケラ!!ティラノ!!”

“プ・ト・ティラーーノザウルーース!!”

 

 

王宮地下、デジタルの粒子で作り上げられたこの広大なジャングルのステージで、今もなお、椎名達学園生達とオーズ神官達によるサバイバルバトルが行われている。

 

そんな中、陽気な音楽がここの何処かから木霊した。それは現代オーズ最強と言われる仮面スピリット、オーズ一族の長、つまり具利度王国の王の証でもあって………

 

そしてそれが木霊して遠くない時間に、膝をつく人物が2人。真夏と夜宵だ。

 

エースである桃色の妖精型のリリモンと、女悪魔のスピリット、レディーデビモンが場から消滅して行く。誰かにバトルで負けたのだ。2人で挑んだと言うのにあっさり負けてしまった。その相手はとても実力がある者であることが伺える。

 

ーその相手とは………

 

 

「ハッハッハ!!一丁上がり!!……いや、2丁上がり!!と、言うべきかな?」

「くっ!!………ごっつ強いやんけ……っ!!」

「流石………オーズ一族の長………っ!!」

 

 

勝ち誇ったかのように高笑いしているのはオーズ一族の長にして具利度王国の王、【プルート】真夏と夜宵は間もなく体をデジタル粒子に変換され、この場から消え去った。これは敗者の証として、電子檻に送還されたのだ。

 

 

「にしても……女の子2人を倒したら、マーズにこっ酷く怒られそうだな………」

 

 

プルートはめんどくさそうな声を上げながら頭を掻いた。

 

椎名がこの王国に来て、最初に出会った赤髪の少年マーズ。彼の父親が、このプルートなのだ。というか、彼はオーズ一族全員の父である。

 

大の女好きであるマーズの事を気にしながらも、プルートはまだ見ぬ挑戦者を求めてこの場を離れていった。

 

 

ー学園残り4人(椎名、司、雅治、毒島)

ー神官残り5人(プルート、マーズ、マーキュリー、ウラヌス、ジュピター)

 

 

******

 

 

ここもまたジャングルの中、と言っても連なる大木が綺麗に避け、綺麗な形の広場を形成している。

 

ーそこで対峙している人物が2人、

 

ー赤羽司と、緑の髪とクワガタのような絵が描かれているお面を被った青年。どうやらオーズ神官の1人のようだが………

 

 

「ケッケッケッ!!お前………【朱雀】の赤羽司だな?」

「………あぁ」

 

 

緑の神官が司の名を言い当ててみせた。やはり辺境であっても、【朱雀】の知名度は絶対か………

 

司も隠す気はさらさらなく、直ぐに自分の存在を肯定した。

 

 

「探したぜ〜〜〜……今回、お前が一番裂きがいがありそうだったからな〜〜優先して探させてもらったぜ〜〜!!」

「少々鼻に付く喋り方だが、見る目はあるようだな…………なら、裂いてみるか?……………裂けるもんならな!!」

 

 

そう言って司と緑のオーズ神官はBパッドをほぼ同時に懐から取り出し、展開。一瞬にしてバトルの準備をし、そして一触即発。

 

ーバトルが始まる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

ちなみに、緑の神官の名は【ジュピター】

 

彼と司のバトル。いったい結果はどうなっていくのか……………

 

 

******

 

 

ーそしてここはまた別のゾーン、川を挟んで睨み合うバトラーが3人。芽座椎名と、白と青のオーズ神官だ。

 

 

「私の名は【マーキュリー】………オーズ神官の1人よ」

「おでの名はウダヌス。おでも神官」

「違うでしょ、あなたの名前は【ウラヌス】よ」

 

 

椎名と川越で睨み合っていたのはシャチの絵が載っている仮面のオーズ神官、マーキュリー。声色からして椎名達よりも年上の女性だ。

 

もう1人は動物のサイの絵が載ったお面を被っている体格の良い男、ウラヌス。ウラヌスは滑舌が悪く、ら行が言えない。故に、自分の名前を正確に発音できないのだ。

 

 

「オーズ神官が2人………」

「ふふ、あなたには私達2人を同時に相手してもらうわよ、芽座椎名ちゃん………っ!!」

 

 

黄色のコンボ、ラトラーターを使うオーズ神官、ヴィーナスが椎名に敗北したことは、Bパッドの通知で直ぐに確認できる。そして、それを誰が倒したのかも、

 

この2人はより確実に椎名を倒すために、作戦を立て、2人がかりで椎名に挑もうとしているのだ。普通は逃げたいところだが、椎名は………

 

 

「いよっし!!そのバトル乗った!!纏めてかかってこぉい!!!」

 

 

威勢良くそのバトルを買ってしまった。

 

 

「ふふ、単純なお嬢さんだこと…………行くわよ、ウラヌス!!」

「わかった……姉さん!!」

 

 

3人は同時にBパッドを展開する。

 

ーそして始まる。多対1方式のバトルが………

 

 

「「「ゲートオープン、界放!!」」」

 

 

ーバトルが始まる。先行は椎名。次いでマーキュリー、ウラヌスの順だ。2人を相手にしているため、椎名の初期手札は10枚、リザーブは8。ライフは10からのスタートだ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札8⇨9

 

 

「メインステップっ!!……スティングモンを召喚っ!!」

手札9⇨8

リザーブ8⇨2

トラッシュ0⇨5

スティングモン(1⇨2)

 

 

椎名が早速召喚したのは、緑の成熟期スピリット、スマートな昆虫戦士、スティングモン。その召喚時効果でコアが1つ増える。

 

 

「さらにネクサスカード、D-3を配置して、ターンエンドっ!!」

手札8⇨7

リザーブ2⇨0

トラッシュ5⇨7

 

スティングモンLV1(2)

 

D-3LV1

 

バースト【無】

 

 

さらに椎名はデジタルスピリット専用のネクサスカード、D-3を配置。その小さな機械を腰に装着させ、そのターンをエンドとした。

 

次は青のオーズ神官、マーキュリーのターン。彼女はいったいどんな戦法を繰り出してくるのだろうか。

 

 

[ターン02]マーキュリー

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!私はバーストを伏せ、ネクサスカード、海底に眠りし古代都市を配置し、ターンエンド」

手札5⇨4⇨3

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

 

海底に眠りし古代都市LV1

 

バースト【有】

 

 

マーキュリーが場にバーストを伏せると共に背後に配置したのは深海にあるかのような青光した都市。これは青のネクサスカード、海底に眠りし古代都市。その強力さ故に、デッキに1枚しか入れることができない究極カードの1枚だ。

 

第1ターン目では流石にこれだけか、マーキュリーはそのターンを終え、相方のウラヌスにターンを回した。

 

 

[ターン03]ウラヌス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!!おでも海底に眠じし古代都市を配置!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

 

「っ!?……2枚目ぇ!?」

 

 

通常では先ず有り得ない光景を椎名は目にしていた。相手側の場に海底に眠りし古代都市が2枚配置されているのだ。この現象も、多対1方式でのバトルの魅力の1つとも言える。

 

無論、椎名としてはかなり危険な状態になってしまったのだが…………

 

 

「おではこででターン終わず」

海底に眠りし古代都市LV1

 

バースト【無】

 

 

ウラヌスもそれだけでターンを終えた。次は1周回って椎名のターン。このターンからアタックステップが解禁される。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札7⇨8

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

 

 

「よっしっ!!行くぞっ!!メインステップ!!ギルモンをLV3で召喚!!」

手札8⇨7

リザーブ8⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名は真紅の魔竜の最初の形態、成長期スピリットのギルモンを召喚した。そしてその召喚時効果をフルに発揮させ、手札をより多く潤していく。

 

 

「召喚時効果!!カードを5枚オープンっ!!」

オープンカード↓

【グラウモン】◯

【パイルドラモン】×

【ズバモン】×

【ブイモン】×

【ディーアーク】×

 

 

効果は成功。椎名はこのギルモンの効果で滅竜スピリットのグラウモンが新たに手札へと加えられる…………

 

ーはずだった。

 

 

「よし!この効果でグラウモンを手札にっ!!!

手札7⇨8

 

 

椎名は迂闊だった。多対1なら最も警戒すべきカードを予想していなかった。そのカードとはバーストカード。必然的に手札が多くなる1人側のプレイヤーにはかなり厄介なカードであって…………

 

それはバーストカード。伏せていたマーキュリーが椎名のその様子を見て、それを反転させる。

 

 

「相手の効果によって手札が増えた時、バースト発動!!」

「……っ!?」

「グリードサンダー!!」

 

「な!?なにぃ!?…………う、うわっ!?」

手札8⇨0⇨2

 

 

マーキュリーのバーストが反転されると共に飛び出してくる青い稲妻。それは瞬く間に椎名へと迸り、その手札を落としていった。

 

その代わり、椎名は新たに2枚のカードをドローする権利を得た。しかし、手札8枚から2枚では言わずもがな、話が変わってくる。

 

 

「く、くっそ〜〜!!」

「ふふ、手札2枚じゃ、どうしようもないんじゃない?」

「姉さん流石だ!!」

 

 

マーキュリーとウラヌスは確実に勝ちを確信したかのような表情になる。それもそのはずだ。椎名の手札は2。自分達は合計して7もあるのだ。椎名が有利なのは盤面とライフ数だけ…………

 

ーしかし、それに関してもマーキュリーには作戦があり…………

 

 

「ムーーー………ま、仕方ないか!!アタックステップっ!!スティングモンとギルモンでアタック!!」

スティングモン(2⇨3)LV1⇨2

 

 

椎名は少し考えたが、特に何も作戦など浮かばず、今、取り敢えずこの今できることを実行する。

 

走り出したギルモンとスティングモン。目指すはウラヌスとマーキュリーのライフ。前のターンでネクサスを配置してコアが少ない彼らにはそれを止める手段が何1つとして存在しない。

 

ーよって…………

 

 

「「ラ(ざ)イフで受ける!!」」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

声を合わせ、ライフで受ける。ギルモンの鉤爪の攻撃と、スティングモンの毒針のついた拳による一発がそれらを一気に2つ破壊した。

 

 

「ターンエンドっ!!」

ギルモンLV3(4)BP6000(疲労)

スティングモンLV2(3)BP8000(疲労)

 

D-3LV1

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、椎名はそのターンをエンドとした。次は見事にグリードサンダーを椎名に嵌めたマーキュリーのターン。

 

 

[ターン05]マーキュリー

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

マーキュリーはこのターン。本気で動き出す。

 

ー手始めはベースとなる最初の形態だ。

 

 

「メインステップっ!!仮面ライダーオーズ タトバコンボを召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨3

トラッシュ0⇨2

 

 

“タカ!!トラ!!バッタ!!”

“タ・ト・バ!!タトバタ・ト・バ!!”

 

 

上から赤、黄色、緑の順の光と共に現れたのは伝説の戦士、仮面ライダーオーズ タトバコンボ。オーズ神官の切り札を呼ぶためのベーススピリットである。

 

 

「海底に眠りし古代都市の効果でコアを増やし、召喚時効果でカードをオープン!!」

リザーブ3⇨4

オープンカード

【仮面ライダーオーズ シャウタコンボ】◯

【ストロングドロー】×

 

 

効果は成功。マーキュリーは自身の持つ統一コンボ、青のシャウタコンボのカードを手札へと加えた。

 

 

「アタックステップ!!行きなさい!タトバコンボ!!」

手札3⇨4

 

 

タトバコンボにアタックの指示を送るマーキュリー。

 

ーそして彼女はここで、このフラッシュタイミングで呼び出す。

 

ー自分のオーズを…………

 

 

「フラッシュ!!【チェンジ】発揮!!対象はタトバコンボ!!」

リザーブ4⇨2

トラッシュ2⇨4

 

「………!!」

 

 

タトバコンボがベルトの3つのメダルを入れ替える。その色は青だ。そして腰にあるスキャナーを手に取り、勢い良くスキャン…………

 

 

“シャチ!!ウナギ!!タコ!!”

“シャ・シャ・シャウタッ!!シャ・シャ・シャウタッ!!”

 

 

青い光と共にオーズの姿形が変わる。そしてオーズ タトバコンボは全身青の姿へと文字通りチェンジしていた。

 

ーその名は………

 

 

「仮面ライダーオーズ シャウタコンボに入れ替えるわっ!!」

仮面ライダーオーズ シャウタコンボLV2(3)BP8000

 

 

シャウタコンボ。海の生物の力を借りて変身したオーズの姿だ。頭部がシャチの形をしており、その手にはウナギのような鞭が1本ずつ、足はタコのような吸盤があるのがうかがえる。

 

 

「チェンジ効果!!デッキから2枚ドローし、1枚捨てるわよ」

手札4⇨6⇨5

破棄カード↓

【ライドベンダー】

 

 

シャウタの効果だ。この効果でマーキュリーの手札の質が向上する。

 

そして忘れてはならない。これはチェンジの効果で回復状態で切り替わったシャウタのアタックだと言うことを…………

 

 

「さぁ!!【チェンジ】の効果でバトル続行!!シャウタ!!行きなさい!!」

 

 

足をタコのような8本足に変形させ、宙を泳ぐように飛び上がるシャウタコンボ。そのままタコの足をドリルのような形にまとめながら椎名のライフへと急降下してくる。

 

椎名のスピリット、ギルモンとスティングモンはアタックしたことによって疲労状態。よって…………

 

 

「ライフで受ける!!」

ライフ10⇨9

 

 

ライフで受けることになる。シャウタがそのままタコのような足で椎名のライフ1つを貫いてみせた。

 

 

「ターンエンドよ…………さぁ、ウラヌス、やってしまいなさいっ!!」

仮面ライダーオーズ シャウタコンボLV2(3)BP8000(回復)

 

海底に眠りし古代都市LV1

 

バースト【無】

 

 

「わかった!!姉さんっ!!」

 

 

それ以上のアタックを行うこともなく、シャウタコンボをブロッカーに残してそのターンを終えたマーキュリー。その次のターンプレイヤー、ウラヌスにそれを託す。姉に命令され、やる気が向上し、ウラヌスは本気を出していく。

 

 

[ターン06]ウラヌス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップっ!!………おではやずぞぉお!!おでもタトバコンボを出す!!……ネクサスでコアも増やす!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨3⇨4

トラッシュ0⇨2

 

 

ウラヌスも前のターンのマーキュリーと同じく、オーズ タトバコンボを場に呼び出した。そして、彼に限ってはこれだけでは終わらず…………

 

 

「さざに……アンク出す、タトバと合体」

手札4⇨3

リザーブ4⇨3

トラッシュ2⇨3

 

「…………!!」

 

 

さらにウラヌスはマーズも使用した赤い腕だけの怪人、アンクを呼び出すと、オーズ タトバコンボと合体させた。アンクがタトバの周りに浮遊する。

 

これで準備は万端か、ウラヌスは目を光らせ、アタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップっ!!やぜ!!タトバ!!」

 

 

マーキュリーと同じくタトバコンボにアタックの指示を送るウラヌス。

 

だが、タトバコンボは実際にはアタックはしない。何故なら…………

 

 

「手札かざ、仮面ざイダーオーズ サゴーゾコンボの【チェンジ】効果発揮!!」

リザーブ3⇨0

トラッシュ3⇨6

仮面ライダーオーズ サゴーゾコンボ+アンクLV1(3)BP10000

 

「…………!!」

 

 

自分の所持する統一コンボオーズが手札にあるからだ。特にウラヌスが持つものは他のコンボと比べても圧倒的な破壊力があり………

 

ウラヌスの呼び出したタトバコンボが今度は白メダルに入れ替え、スキャン。

 

ーそして………

 

 

“サイ!!ゴリラ!!ゾウ!!”

“サ・ゴーゾ………サ・ゴーゾッ!!!”

 

 

新たに現れたオーズの名は、仮面ライダーオーズ サゴーゾコンボ。白い体に包まれており、サイのような頭角がある頭部。ゴリラのような逞しい腕とボディ、ゾウの下半身のような太い脚部が特徴的だ。

 

 

「…………っ!!」

 

 

登場するなり、腕で胸部を叩き上げ、ドラミングの音を立てるサゴーゾコンボ。その奇怪な鈍い音に、思わず椎名は耳を手で覆ってしまう。

 

だが、サゴーゾコンボが凄いのは、もちろんこんなドラミングなどではない。その効果が発揮される。

 

 

「サゴーゾコンボの効果!!お前のスティングモン壊す!!」

「なぁ!?……スティングモンっ!!」

 

 

サゴーゾコンボはその太い腕部で、思いっきり地を殴りつける。すると、連鎖していくようにスティングモンの足場まで地が割れていき、そこへ落下してしまった。

 

サゴーゾコンボの【チェンジ】の効果だ。その効果でコスト7以下の相手スピリット1体を破壊できるのだ。

 

ーそして今度は【チェンジ】特有の連続アタックだ。

 

ーライフが多い椎名は油断していた。サゴーゾの強みをここで思い知らされる。

 

 

「【チェンジ】の効果でアタック続ける!!サゴーゾ……元々シンボル2つ………今、合体で………3つ!!!」

「っ!?」

 

 

そうだ。サゴーゾコンボの一番強いところは破壊効果ではない。青のシンボルが元々2つ存在するということ………

 

そしてブレイブのアンクが付いているということもあり、現在のサゴーゾコンボのシンボル数は3。一度のアタックで相手のライフを3つ破壊することができるのだ。

 

ー手札の少ない椎名はこれを防ぐ手立てがない。

 

 

「くっ!!……ライフだっ!!……っ!!!」

ライフ9⇨6

 

 

ゆっくりと椎名のライフへと歩み寄って来るサゴーゾコンボ。そして目の前まで辿り着くと、その強靭な腕を振りかぶり、それを叩きつけた。

 

椎名のライフは一気に3つ消し飛んだ。

 

ーそしてまだ終わらない。【チェンジ】の効果で呼び出されたスピリットは回復状態だ。

 

 

「もう一回!!!」

 

「……ら、ライフだ!!………うわぁあっ!!」

ライフ6⇨3

 

 

ウラヌスの指示でもう一度椎名のライフを殴りつけたサゴーゾコンボ。また椎名のライフが消し飛んだ。10個もあったライフが僅か2ターンで3つまで減らされてしまった。

 

 

「おではこででターン終わず!!どうだ!!」

仮面ライダーオーズ サゴーゾコンボLV1(3)BP10000(疲労)

 

海底に眠りし古代都市LV1

 

バースト【無】

 

 

「良くやったわ!!ウラヌス!!」

「えっへへ……あじがとう!!」

 

 

出来ることを全て終え、そのターンをエンドとしたウラヌス。その活躍、及び暴れっぷりに、マーキュリーは彼を褒めちぎる。ウラヌスもそれを聞いてたいそう喜んだ。

 

 

「す、凄いや!!10個もあったのに、たった2ターンでっ!!」

 

 

椎名はこの状況でバトルを楽しんでいた。2対1で、しかも絶対絶命であると言うのにもかかわらず………

 

 

「ふんっ、笑ていられるなんて余裕ね?……ちなみに、シャウタには相手のトラッシュを封じる力があるから、気をつけてね〜〜」

 

 

マーキュリーがそう言った。彼女は完全に芽座椎名というバトラーを対策していた。彼女がトラッシュで効果を発揮するカードを複数枚入れていることを、マーキュリーは知っている。そのためのシャウタだ。

 

そして攻撃、防御はウラヌスに任せ、椎名の妨害をマーキュリーが担当しているのだ。

 

ー椎名はこの絶妙なコンビネーションを崩すことができるのか…………

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ10⇨11

 

 

「ドローステップ…………」

 

 

椎名の手札は僅か2枚。ドローしても3枚が限度だ。このドローで決まる。正念場だ。椎名はそう意気込み、デッキの上からカードを気合い良く引き抜いた。

 

 

「……ドロォォォォオ!!!」

手札2⇨3

 

 

椎名は引いたカードを恐る恐る見つめる。

 

そしてそれを目にした途端、口角が上がる。

 

引いたのだ。ここから大逆転出来るカードを………

 

マーキュリーとウラヌスはそれを目の当たりにしても一切気を引き締めたりはしない。最早この時点での勝ちを確信しているからだ。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ11⇨14

トラッシュ3⇨0

ギルモン(疲労⇨回復)

 

 

ー椎名の大逆転劇が、幕を開ける。

 

 

「メインステップっ!!………真紅の聖騎士よ!!今こそ闇諸共敵を貫けっ!!デュークモンをLV2で召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ14⇨3

トラッシュ0⇨8

 

「っ!?……デュークモン!?ロイヤルナイツの!?」

 

 

マーキュリーがその名を聞いて驚愕した。そうだ。椎名が呼び出すのは伝説のスピリット、ロイヤルナイツの一柱、デュークモン。

 

鳴り響く雷鳴と共に、椎名の場へとその赤い聖騎士は顕現した。その存在感はオーズ以上のものがある。

 

マーキュリーは致命的な誤ちをしてしまったと言える。マーキュリーが知っている芽座椎名はテレビ中継された去年の【界放リーグ】まで、彼女のここ約1年程度の成長を計算に入れてはいなかった。

 

 

「そう、これが私のエース………デュークモンだっ!!」

 

 

椎名のエーススピリット、デュークモン。今回もその無敵の力で奇跡を起こすのか………

 

 

「アタックステップ!!デュークモンでアタック!!」

 

 

赤いマントを靡かせ、デュークモンが低空飛行でマーキュリー、ウラヌス、2人のライフを狙う。

 

ーそしてその強力なアタック時効果も発揮される。

 

 

「デュークモンのアタック時効果っ!!シンボル2つ以下の相手スピリット1体を破壊するっ!!」

「っ!?」

「私はこの効果でシャウタコンボを破壊するっ!!………聖槍の一撃………ロイヤルセーバー!!!」

 

 

飛びながらも槍の矛先をシャウタコンボへと向けるデュークモン。その先からビームを一直線に発射させる。シャウタコンボは避けられず、まともに受けてしまい、貫かれ、大爆発を起こした。

 

本来ならば、デュークモンのこの効果は多対1ルールによって、ウラヌスの場にも発揮されている。しかし、ウラヌスの場には、シンボルが3つあるサゴーゾコンボが存在していたため、破壊することはできなかったのだ。

 

だが、椎名にとっては邪魔なシャウタコンボが消えてくれたことの方が重要であって………

 

 

「これで、シャウタコンボによるトラッシュの制限は無くなった…………」

「っ!!」

 

「デュークモンの効果発揮!!トラッシュにある滅竜スピリットカード1枚を手札に戻すことによって、ターンに1回だけ回復するっ!!………私はトラッシュにあるグラウモンを手札に戻し、デュークモンを回復させるっ!!……ネクスト・イストリア!!!」

手札2⇨3

デュークモン(疲労⇨回復)

 

 

デュークモンが赤い光を一瞬だけ身に纏い、疲労状態から回復状態となった。これでこのターン、デュークモンは二度目のアタックが可能となった。

 

 

「ライフで受けるわ!」

ライフ3⇨2

 

 

マーキュリーが一回目のデュークモンのアタックに対する宣言を行った。デュークモンの聖なる槍の一閃が、マーキュリーとウラヌスのライフを1つ貫いた。

 

ー残り2つだ。

 

マーキュリーとウラヌスのライフを守るスピリットはいない。サゴーゾコンボも連続アタックによって疲労状態だ。デュークモンとギルモンの二連続アタックで勝利。

 

ーかと思われたが…………

 

 

「デュークモンで2度目のアタックっ!!」

 

 

彼らの目の前で再び槍を構えるデュークモン。

 

ーしかし、ここでウラヌスが動く。

 

 

「待て!!フザッシュ!!2枚目のサゴーゾコンボ!!」

リザーブ1⇨0

仮面ライダーオーズ サゴーゾコンボ(3⇨1)

トラッシュ5⇨8

 

「…………!!」

「この効果でギズモンを破壊!!」

 

 

唐突に使用された2枚目のサゴーゾコンボの【チェンジ】、姿が同じだからか、入れ替わっても姿が変わることはなく、元々場にいたサゴーゾコンボが疲労状態から回復状態になり、立ち上がった。

 

そしてスティングモンの時同様、その強靭な腕を思いっきり地面に叩きつけ、ギルモンの足場を壊し、沈めた。

 

 

「……っ!!ギルモン!!」

「こででこのターンじゃ決めぜない!!」

「良くやったわ!!ウラヌス!!」

 

 

ウラヌスのこの活躍により、実質ブロッカー1体の復活と、椎名の場のスピリットの総数が減った。

 

ーだが、この2人、ウラヌスとマーキュリーは思い知ることとなる。芽座椎名の圧倒的なバトルセンスの高さ、引きの強さが………

 

 

「フラッシュ!!【神速】鎧鷹スイラン・ホーク!!」

手札3⇨2

 

「「!?!」」

 

 

フラッシュタイミングで召喚可能な神速の効果を持つブレイブカード、鎧鷹スイラン・ホーク。

 

ーこのカードがこのバトルのキーとなる。

 

 

「この効果で、デュークモンと直接合体するように召喚!!………ソウルコアを置く!!」

リザーブ6s⇨4

トラッシュ8⇨6

デュークモン+鎧鷹スイラン・ホーク(3⇨4s)

 

 

ジャングルの奥深くから飛び出して来る鎧を身に纏った鷹のようなブレイブ、スイラン・ホーク。これがデュークモンに向かって来る。

 

デュークモンの赤いマントが消滅し、代わりにスイラン・ホークの鋼の翼が装着される。デュークモンはこのフラッシュタイミングで合体スピリットとなった。

 

 

「スイラン・ホークの合体時効果!!ソウルコアが置かれている時………緑のシンボルを1つ追加するっ!!」

「「!?」」

 

 

このブレイブであるスイラン・ホークの召喚タイミングにより、デュークモンにはソウルコアが置かれていた。これにより、スイラン・ホークの合体時効果が有効となり、デュークモンに緑のシンボルが1つ追加され、ダブルシンボルとなる。

 

マーキュリーとウラヌス、2人のライフは残り2つ。上手くいけばこのアタックが決まれば椎名の勝利で終わる。ウラヌスのサゴーゾコンボを退かす必要があるが………

 

 

「サゴーゾでブロック!!」

 

 

BPは全く敵わないが、ライフで受けるわけにはいかないため、ここはブロックするしかない。ウラヌスはサゴーゾコンボで合体スピリットとなったデュークモンをブロックする。

 

サゴーゾコンボは周辺の重力を操り、デュークモンを自分の方へと引き寄せる。そしてそのままアッパーでデュークモンを上空へとかち上げる。

 

デュークモンに全くダメージはないが、ブロックは成立しているため、このままではライフを減らすことはできない。

 

ーが、椎名に抜かりはない。手札のカードを引き抜き、最後の一手を繰り出す。これは椎名を勝利へと導く奇跡の一手…………

 

 

「これで決まりだ!!フラッシュマジック!!パワーブースト!!」

手札2⇨1

リザーブ4⇨2

トラッシュ9⇨11

 

「「!?!」」

 

「この効果で、このターン、デュークモンのBPを3000アップさせ、さらに【連鎖:青】の効果で、ネクサス、D-3を破壊し、回復っ!!」

デュークモン+鎧鷹スイラン・ホークBP17000⇨20000(疲労⇨回復)

 

 

椎名の腰に装着されていたネクサスカード、D-3が破裂。だが、これはデュークモンに力を与えるためには必要なこと。再び赤い光を一瞬纏い、三度回復した。

 

これによりサゴーゾコンボを貫き、マーキュリーとウラヌスのライフまで砕くことが可能となった。

 

 

「いっけぇ!!デュークモンっ!!!」

 

 

サゴーゾコンボにより上空にかち上げられていたデュークモンはその場で態勢を立て直し、鋼の翼を広げ、サゴーゾに向けて急降下する。

 

サゴーゾはその鋼の翼撃に引き裂かれ、無残にも大爆発してしまった。

 

 

「デュークモンでラストアタックっ!!」

 

 

敵を薙ぎ倒し、再びマーキュリーとウラヌスのライフへとめがけ飛び立つデュークモン。その槍先を差し向ける。

 

 

「ね、姉さん!ど、どうしよう!?」

「ごめんね〜ウラヌス、勝たせてあげられなくて〜〜」

 

 

椎名の圧倒的な強さに腰が引け、姉のマーキュリーに縋り付くウラヌス。だが、マーキュリーもお手上げのようだ。既に敗北を認めている。

 

 

「流石、界放市のトップバトラーね〜〜参ったわ、………ライフで受けてあげる」

ライフ2⇨0

 

「う、うわぁっ!!!!」

ライフ2⇨0

 

 

疾風の如く駆けるデュークモン。そのまま聖なる槍の一撃でマーキュリーとウラヌスの残っていたライフを全て砕いた。

 

彼らのライフゼロに伴い、このバトルは芽座椎名の勝利となる。マーキュリーとウラヌスは敗北によりデジタル化され、強制的に電子檻へと送還された。

 

 

「いよっしゃぁ!!これで後3人!!!頑張るぞぉ!!」

 

 

兎に角猪突猛進。椎名は次のバトルへと向けて再びジャングルの中へと歩みを進めた。

 

 

******

 

 

一方、赤羽司は、緑のオーズ神官、ジュピターとバトルを繰り広げていた。

 

ー戦況は圧倒的に司が有利。司のライフは無傷の5で、ホルスモンが疲労状態で場におり、ジュピター側のスピリットはゼロ、ライフは1。

 

そして今はジュピターのターンだ。

 

 

「ふんっ!!息巻いていた割にはこの程度か……!!」

 

 

司は腕を組み、堂々とした態度でそうジュピターを煽るように言い放った。確かに、これまでは圧倒的な強さでジュピターを押している。司としては手応えがまるでなかったのだろう。

 

しかし、ジュピターの表情には焦りの1つもなく涼しい顔のままであり………

 

 

「ケッケッケ!!これからが本当の勝負だぜぇ!!見せてやるよ!!俺の本気!!」

 

 

ジュピターはようやく本気を出すのか、手札に手をかけ、スピリットを召喚する。

 

 

「タトバコンボを召喚!!」

 

 

“タカ・トラ・バッタ!!”

“タ・ト・バ!!タトバタ・ト・バ!!”

 

 

ジュピターはオーズ神官なら誰もがデッキに入れている仮面スピリット、仮面ライダーオーズ タトバコンボを召喚した。

 

ーそしてその召喚時も発揮され………

 

 

「召喚時効果!!カードを2枚オープン!!」

オープンカード↓

【仮面ライダーオーズ ガタキリバコンボ】◯

【仮面ライダーオーズ ガタキリバコンボ】◯

 

 

効果は成功。ジュピターはこれら2枚のカードを全て手札に加え、その合計枚数を10枚にした。

 

 

「ケッケッケ……!!……終わらせてやるぜぇ!!」

「………!!」

 

 

そのジュピターの言葉に反応し、険しい表情を見せる司。このターン、間違いなく何かが出てくることを察したのだろう。

 

 

「仮面ライダーオーズ ガタキリバコンボの【チェンジ】の効果発揮!!対象はタトバコンボ!!……ケッケッケ、入れ替えてやるぜぇ!!」

 

 

タトバコンボは緑の3色になるようにベルトのメダルを入れ直し、新たにスキャン。

 

ーすると、

 

 

”クワガタ!!カマキリ!!バッタ!!”

“ガ〜〜タガタガタ・キリッバ・ガタキリバッ!!”

 

 

ジュピターのタトバコンボが緑の光とともに変化し、新たに現れたのは全身緑色のスピリット、仮面ライダーオーズ ガタキリバコンボ。そのアタック時はオーズの中でも特に強力な効果の1つである。

 

 

「統一コンボとかいうやつか………」

「あ?勉強済みってか?………なんなら拝ませてやるよ〜〜!!俺のガタキリバの力を!!アタックステップ!!ガタキリバでアタックするぜ!!」

 

 

ジュピターの指示を聞き、綺麗なフォームで走り出すガタキリバ。目指すはもちろん司のライフ。

 

ーそしてこの瞬間に発揮される。ガタキリバの強力な効果が…………

 

 

「ガタキリバのアタック時効果っ!!俺は手札にあるガタキリバを可能な限り召喚できるっ!」

「………っ!!」

「来い10体のガタキリバ!!」

 

 

走りながら、次々と分身するようにその数を増やしていくガタキリバコンボ。結果的にその総数は11体となる。

 

司の場にブロッカーはいない。ライフ5など、あっという間に全て引き裂かれてしまうことだろう。

 

 

「ケッケッケ!!引き裂いてやるぜぇ!!終わりだぁ!!」

 

 

11体のガタキリバが一斉に司のライフを目指す。

 

ーだが、司がこの程度の戦法で負けるわけもなく………

 

ー余裕のある涼しい表情を浮かべながら、司は手札から1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「………サッカーでもしたいのか?……なら、お前らは全員レッドカードだ………フラッシュマジック!!……フレイムブロウ!!」

「…………は?」

「この効果で、BP10000以下の相手スピリットを全て破壊する!!失せろ害虫ども!!!」

 

 

燃え盛る螺旋状の炎。それは横から唐突に11体のガタキリバ達を襲い、次々と焼き払っていった。11体のガタキリバは破壊による退場を受けてしまった。

 

 

「ば、バカな!?……あれだけのガタキリバが一瞬で全滅だとぉ!?」

「もうお前は何もないんだな?じゃあ、終わりにしてもらうぞ!!俺のターン!!」

 

 

ジュピターが、もうこれ以上は動かないことを悟った司は、そのまま自分のターンを進める。

 

ーそして終わりだ。オーズ神官の1人はまたここで倒れることとなる。

 

 

「行けっ!!ホルスモン!!テンペストウィング!!」

 

 

自身の体を軸に、竜巻のように飛び行くホルスモン。目指すはもちろんジュピターの最後のライフ。ジュピターはさっきのガタキリバの効果による大量展開で手札はゼロ。

 

ー終わりだ。

 

 

「ぐ、くわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

 

ホルスモンがジュピターの最後のライフを貫いた。

 

これにより、勝者は赤羽司。敗北したジュピターはそれに伴いデジタル化して電子檻に強制送還された。

 

 

「ふんっ!……お前の刃じゃ、俺の首は切れん……」

 

 

司がもういもしないジュピターに向けてそう勝ち誇ったように言い放った時だ。司の背後から彼の元に誰かが近づいてくる。

 

 

「ほほう、なら私ならどうかな?」

「……っ!?」

 

 

物静かだが、その声色で圧倒的なプレッシャーを司に与える。司は思わずその声のする方を振り向いた。

 

ーそこには………

 

 

「やぁ、赤羽司君……私はプルート。オーズ神官の1人にして、この具利度王国を治める………王だ」

「…………知ってる」

 

 

紫の髪と、太古の生物、プテラノドンの絵が描かれたお面を携えた王国の王にしてオーズ神官最強の男、プルートが司の前に現れた。

 

 

ー学園残り(椎名、司、雅治、毒島)

ー神官残り(マーズ、プルート)

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「今日のハイライトカードは【仮面ライダーオーズ サゴーゾコンボ】!!」

椎名「サゴーゾコンボは白いオーズのコンボ!!強力なコスト破壊と、ダブルシンボルで敵を追い込むよ!!」


******


〈次回予告!!〉

椎名「遂に、オーズ神官最強の男が司と対面するっ!!……頑張れ司!!私もマーズを倒したら、直ぐに駆けつけるからさ!……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「プテラ・トリケラ・ティラノ」今、バトスピが進化を超えるっ!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!
次回も楽しみにしていただけたら幸いです!!



※オーズ神官の家系について

ここでは6人いるオーズ神官達がどういう家系なのか語ります。簡潔に言えばこんな感じです。

プルート(父)プトティラ
ジュピター(長男19歳)ガタキリバ
マーキュリー(長女18歳)シャウタ
マーズ(次男17歳)タジャドル
ウラヌス(三男16歳)サゴーゾ
ヴィーナス(四男15歳)ラトラーター


ーと、なっております。ウラヌスのセリフはキャラの関係上、ら行がざ行、又はダ行になっているので、誠に勝手ながら、注意して読んでいただけましたら幸いです。




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第56話「プテラ・トリケラ・ティラノ」

 

 

 

 

 

 

まだまだ続く具利度王国の王宮地下内のジャングルフィールドで行われている、学園生とオーズ神官達によるサバイバルバトル。

 

対面する司と最強の神官、プルート。火花を散らしながら、今にもバトルが始まりそうだ。

 

 

「こっちはもう私を含めても2人なんでね、全力でいかせてもらうよ!!赤羽司君!!」

「上等、最強の神官がどの程度の実力なのか、この目でしっかりと見させてもらうぜ……」

 

 

挨拶はここまでだ。そう言わんばかりに、2人はBパッドを展開し、すぐさまバトルの準備をした。

 

ーそして、

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

【朱雀】こと、赤羽司と、具利度王国の国王にして最強の神官、プルートのバトルが始まった。

 

ー先行は………

 

ープルートだ。

 

 

[ターン01]プルート

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ………まぁ、手始めに……メインマジック、ストロングドローを使用!!カードを3枚ドローし、2枚破棄……ターンエンド」

手札5⇨4⇨7⇨5

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

破棄カード↓

【最後の優勝旗】

【最後の優勝旗】

 

バースト【無】

 

 

プルートは青の強力な手札交換マジック、ストロングドローを使い、その手札をより効率良く回転させる。しかし、先行の第1ターン目ではこれ以上のことは流石にできなかったか、そのままそのターンのエンドとしてしまう。

 

次は司のターンだ。

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ…………俺はイーズナを2体召喚し、ネクサスカード、朱に染まる薔薇園を配置する!!不足コストはイーズナから1体から確保!!」

手札5⇨2

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨1⇨4

イーズナ(1⇨0)消滅

 

 

司が早速場に呼び出したスピリットはイタチのような見た目の黄色と赤のハイブリッド、イーズナ。それが2体場に出たが、司はすぐさまそれを1体消滅させ、背後に鮮やかな朱色の薔薇が咲く庭園を配置した。

 

このネクサスは説明するまでもなく、司のデッキにとって大きな潤滑油となる貴重な存在………

 

 

「アタックステップ!!軽く遊んでやれ、イーズナ!!」

 

 

イーズナにアタックの指示を送る司。イーズナはそれを聞くなり颯爽と走り出す。目指すはもちろんプルートのライフ。

 

 

「ほう?……じゃライフで受けようか」

ライフ5⇨4

 

 

ストロングドローで大部分のコアを消費していたプルートは当然これを受けることとなる。イーズナのひっかく攻撃が彼のライフ1つを引き裂いた。

 

 

「………ターンエンドだ」

イーズナLV1(1)BP1000(疲労)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、司はそのターンをエンドとした。次はプルート。増えたコアでいったいどう動いてくるのか………

 

 

[ターン03]プルート

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ…………」

「…………」

 

 

緊迫感と緊張感が続く空気の中、プルートがメインステップでしたことは………

 

 

「メインマジック、ストロングドローを使用!」

「………!?…2枚目?」

 

「この効果で3枚引き、2枚捨てる」

手札6⇨5⇨8⇨6

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨3

破棄カード↓

【最後の優勝旗】

【ライドベンダー】

 

 

まさかのスピリットの展開はせずに、またまた手札の交換を行ってきた。手札の質は向上するものの、これでは次のターン、間違いなく司の猛攻により大きくライフを削がれることだろう。

 

 

「さらにバーストを伏せて、このターンの終わりとしよう……!!」

手札6⇨5

 

バースト【有】

 

 

「……………」

 

 

場にスピリットは無し。となるとあのバーストは兎に角怪しい。そう考える司。

 

その予想は大方正しい。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

イーズナ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ…………胡散臭いが………行くか……ハーピーガールをLV2で召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

あのプルートの場にあるバーストの存在がどうしても気になる司だが、こちらから行かねば勝ちはない。そう思いスピリットを展開する。

 

呼び出されたのは女性型の鳥人間と言えるスピリット、ハーピーガール。空中から優雅に舞い、ゆっくりと司の場に現れた。

 

ーそしてまだ司のメインステップは終わらない。次はこのハーピーガールの強化だ。

 

 

「そして、赤のブレイブ、砲竜バル・ガンナー〈R〉を召喚し、ハーピーガールと合体!!」

手札2⇨1

リザーブ2⇨0

トラッシュ1⇨3

ハーピーガール+砲竜バル・ガンナー〈R〉LV2(2)BP8000

 

 

司の場に現れたのは赤のブレイブ、背中に砲手を携えたバル・ガンナーだ。出てくるなり、砲手のみを残し姿を消し、ハーピーガールの背に装着される。

 

ハーピーガールは強力な合体スピリットと成り上がる。

 

これで準備は万端。司は攻めに転ずる。

 

 

「アタックステップ!!やれ!ハーピーガール!!」

手札1⇨2

 

 

重たい砲手を気にしながらも、合体スピリットとなったハーピーガールは低空飛行で駆ける。バル・ガンナーの効果で司はその手札を少しだけ潤す。

 

 

「さぁ、ダブルシンボルによるアタックだ!!どうする?」

 

 

合体により赤と黄のシンボルを1つずつ持つハーピーガール。その一撃はライフを一気に2つ破壊することが可能。ここでそれを受けて仕舞えば、ライフアドバンテージに大きく差が開いてしまうが………

 

 

「ハッハッハ!!構わんよ、ライフで受ける!」

ライフ4⇨2

 

「………!!」

 

 

そんなことなど全く意に返さないプルート。ハーピーガールのダブルシンボルさえも余裕の表情で受ける。ハーピーガールの翼撃の一撃と、背中にある砲手による砲撃が、それぞれ1つずつプルートのライフを破壊した。

 

そしてそれだけではない。ハーピーガールの効果とそれに伴って発揮される朱に染まる薔薇園の効果がある。

 

 

「ハーピーガールの効果、【聖命】で俺のライフを1つ回復し、さらに朱に染まる薔薇園の効果でカードをさらに1枚ドローする」

ライフ5⇨6

手札2⇨3

 

 

司のデッキの基本的な戦法だ。なんとも噛み合ったこのコンボでライフ差と手札差を大きく引き離していく。砲竜バル・ガンナー〈R〉との合体もあって、今回に限ってはいつも以上にその効果は絶大。

 

ーだが、やはり来た。ここでようやくプルートは動く。司の読み通り、あのバーストこそが重要で、彼のデッキの動力源だ。

 

ーそれが勢い良く反転する。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!鉄拳明王!!」

「………っ!?」

「バースト効果により、手札、又はトラッシュにあるネクサスカードを3枚ノーコスト配置!!私はトラッシュにある3枚の最後の優勝旗を配置!!」

 

 

そのバーストカードが反転したかと思えば、プルートの背後に巨大な旗が3本も立ち上がった。これは前々のターンで事前にストロングドローの効果でトラッシュに送っていたネクサスカードだ。

 

 

「そして、このスピリット、鉄拳明王を召喚!!」

リザーブ5⇨2

鉄拳明王LV2(3)BP10000

 

 

打ち上げられた高波と共に飛び出してきたのは青い体の巨人、赤い髪と4本の腕が特徴的。その存在感は現在存在する司のどのスピリットよりも上である。

 

 

「さらにさらに!!最後の優勝旗の配置時効果でコアを自身に置く、これを3度連続発揮!!」

最後の優勝旗(0⇨1)LV1⇨2

最後の優勝旗(0⇨1)LV1⇨2

最後の優勝旗(0⇨1)LV1⇨2

 

「………っ!?なに!?」

 

 

鉄拳明王の登場と共に凄まじい勢いで増えていくプルートのコア。ライフが減っていることもあって、その総数は圧倒的に司を上回っている。

 

 

「…………ちぃっ!……エンドだ」

ハーピーガール+砲竜バル・ガンナー〈R〉LV2(2)BP8000(疲労)

イーズナLV1(1)BP1000(回復)

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト【無】

 

 

流石にBPの弱いイーズナでアタックはできなかったか、司はこの決して良好とは言えない状況の中、舌打ちし、このターンを仕方なくエンドとした。

 

ー次は見事に鉄拳明王と最後の優勝旗3枚のコンボを見せたプルートのターン。ここからだ。ここまではほんのウォーミングアップ。ここからが彼の国王としての本気のターンとなる。

 

 

******

 

 

ここは司とプルートがバトルしているゾーンとはまた別の場所、ここには更なる対戦相手を求めてジャングル内を探索している芽座椎名がいた。

 

 

「真夏と夜宵ちゃんが負けてる!?………あの王様そんなに強いのか………」

 

 

椎名は今更ながらBパッドに届く通知を見ていた。生存者や敗北者のリスト、誰が勝利したなどがきめ細かく記載されている。もちろん司がジュピターに勝利を収めたことも知った。

 

 

「あぁ、うちの親父は強いぞ」

「ふ〜〜〜ん。やっぱそうなんだ……………………………………………ん?…………………うわわぁっ!!」

 

 

唐突だ。唐突に誰かが椎名の横にいて、勝手に独り言に割り込んできた。椎名はびっくりして思わず声が裏返り背筋が仰け反る。その横にいた人物の正体は……………

 

 

「あはははっ!!反応も可愛いなぁ!!」

「マーズ!!」

 

 

赤のオーズ神官、マーズだ。今回はしっかりとオーズ神官らしく、自分の面、赤くて鷹の絵が描かれているものを被っていた。

 

 

「よっ!!椎名ちゃん!!1時間ぶりくらいか?」

「びっくりさせないでよね〜〜」

「………通知見たよ、うちの姉ちゃんや弟がみんな君にやられたみたいだね、」

「えっへへ!!すごいっしょっ!!」

 

 

マーズに褒められた椎名はどこか誇らしげ、ここまでのサバイバルバトル、最も多い人数を倒してきたのはこの芽座椎名だ。あのプルートでさえも未だに真夏と夜宵の2人だけである。

 

 

「さっきのブ男とか、茶髪の男とか、色々見かけたけどね〜〜俺はやるならやっぱ女の子かな〜〜って思ってさ〜〜」

「…………はは」

 

 

マーズらしい理由だ。椎名も流石に苦笑いで話を流す。さっきのブ男というのは毒島のことだ。そして茶髪の男は雅治の事、マーズの性格がこんなんでなければ、もしかするとマーズとバトルしていたのはあの2人のうちのどちらかだったのかもしれない。

 

 

「さっ!!バトルと言う名のデートと行こうじゃないか!!」

「デートはしたくないけど、バトルは大歓迎だ!!行くよっ!!!

 

 

椎名とマーズ、2人はそう言うと、勢い良く懐からBパッドを取り出し、展開。速攻でバトルの準備をし………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

ーバトルが始まった。

 

 

******

 

 

一方、司とプルートのバトル。プルートの第5ターン目からの再スタートだ。

 

 

[ターン05]プルート

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ…………さぁ、ここからが腕の見せ所だな、」

 

 

プルートのそのおおらかな表情は、実力と言う名の自信に満ち溢れていた。司とてわかる。ここからが真なる神官バトルだ。

 

ー先ずは手始めと言わんばかりにあの仮面スピリットを召喚していく。

 

 

「私は、仮面ライダーオーズ タトバコンボを召喚!!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

“タカ!!トラ!!バッタ!!”

“タ・ト・バ!!タトバタ・ト・バ!!”

 

 

この修学旅行編と言う名の章が幕を開けてからと言うもの、いったい何度この陽気な音楽を聴いたことだろうか、いつものように赤、黄、緑の上三色の光と共に仮面ライダーオーズ タトバコンボが場に現れた。

 

司は思わずその身を引き締めた。このタトバコンボはさっきまでバトルしてた緑の神官、ジュピターとはわけが違うことを知っているからだ。

 

 

「召喚時効果でカードをオープンし、対象内となるカードを手札に加えるよ」

オープンカード↓

【仮面ライダーオーズ プトティラコンボ】◯

【ライドベンダー】×

 

 

その効果は成功、プルートはその中の当たったカードを手札へと加えた。

 

ーそれはオーズ神官の頂点に立つ者、つまりこの具利度王国の国王しか使うことを許されない統一コンボの中でも特に特別なオーズ。

 

ーだが、これを手札に加えてもまだ彼はこのメインステップで何かを展開するようで………

 

 

「さらに、アンクを召喚しようかな………召喚時効果でまたカードをオープン」

手札5⇨6⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ2⇨3

オープン↓

【セルメダル】◯

【セルメダル】◯

 

 

これもかなりの頻度で登場しているオーズデッキのキーパーソン、ブレイブのアンク。宙にその右腕だけが浮遊している。

 

そしてその召喚時も成功、セルメダルのカードを一気に手札に加えた。

 

 

「タトバコンボにアンクを合体!!」

手札5⇨7

仮面ライダーオーズ タトバコンボ+アンクLV2(3)BP8000

 

 

アンクがタトバコンボに憑依する。と言っても右腕がアンクになっただけで特にめぼしい変化はないのだが、

 

どちらにせよ合体によって強化されたのは確かなことであって…………

 

ーそして、いよいよ王が動き出す………

 

 

「アタックステップっ!!行きたまえ!!タトバコンボっ!!」

 

 

タトバコンボにアタックの指示を送るプルート。

 

ーだが、それはすぐさまタトバではなくなる。

 

ー変わるのだ。

 

ーチェンジするのだ。

 

ー自分の持つ最強のオーズに…………

 

プルートは手札にあるそのカードに手を当て、引き抜いた。

 

 

「フラッシュ【チェンジ】!!対象はタトバコンボ!!」

最後の優勝旗(1⇨0)LV2⇨1

最後の優勝旗(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ3⇨5

 

「……っ!!……来るかっ!」

 

 

プルートのチェンジの宣言に、司は悟った。間違いなく王のオーズが登場すると………

 

タトバコンボの体内から突然メダルが飛び出してくる。その色は紫。それらはまるで意思でもあるかのようにタトバコンボのベルトに差し込まれていく。

 

ーそしてタトバコンボはスキャナーでそれをスキャン、読み込み…………

 

 

「さぁ、我がオーズ!!プトティラコンボよ!!この地に舞い降りよ!!」

仮面ライダーオーズ プトティラコンボ+アンクLV3(3)BP20000

 

 

“プテラ!!トリケラ!!ティラノ!!”

“プ・ト・ティ・ラ〜〜ノザウッル〜〜ス!!”

 

 

タトバコンボが紫の光を纏って変えた姿はなんとも禍々しい仮面スピリット。基本的にヒーロー扱いされる仮面スピリット達とは一線を画している。

 

紫のオーズ、プトティラコンボが司の前に敵として現れた。

 

 

「これが最強のオーズ…………」

「あぁ、禍々しいだろ?…………【チェンジ】効果!!コスト4以下のスピリット1体を破壊!!」

「っ!?」

「イーズナを破壊しようか!!」

 

 

まるで獣、いや、恐竜のような咆哮をあげるプトティラコンボ。そして地面に手を思いっきり突っ込み、何かを掴み取り、引き抜いた。

 

ーそれはプトティラコンボ特有の武器。斧のような外見をしている。

 

プトティラコンボはそれで飛ぶ斬撃を放ち、司の場にいるイーズナを狙い撃つ。イーズナが当然そんなものを避けられるわけもなく、あっさりとそれに引き裂かれ、爆発してしまう。

 

 

「アタック中だよ、どう受ける?」

 

「………っ!!……ライフだ!!」

ライフ6⇨4

 

 

再び飛ぶ斬撃を放つプトティラコンボ。今度はイーズナではなく、司自身に飛ばしてくる。ハーピーガールはアタックによって疲労しているため、当然司はこれをライフで受けることとなった。

 

だが、プトティラコンボはアンクとの合体によりダブルシンボル、斬撃は司のライフ2つを一気に引き裂いた。

 

ーそして何より忘れてはならない。プトティラコンボはアタック中のタトバコンボと入れ替わった。つまり、【チェンジ】の効果によって、今尚も回復状態。2度目のアタックが可能だ。

 

 

「ほい、二撃目〜〜…………プトティラコンボのアタック時効果!!」

「………!!」

「プトティラコンボを除いて最もコストの高いスピリット1体を破壊するよ〜〜………今この場で最もコストが高いのは…………」

「………俺のハーピーガール………」

 

 

プトティラコンボのアタック時効果だ。プトティラコンボを除いて最もコストの高いスピリットが敵味方を問わず問答無用で破壊される。

 

現在、この場でコストが最も高いのは司の場にいるハーピーガール。そのコストは砲竜バル・ガンナー〈R〉との合体で8。プトティラコンボの効果対象圏内に収まった。

 

プトティラコンボは斧のような武器に収まり切れない程の莫大なエネルギーを溜め、それをハーピーガールに向けて振り下ろす…………

 

 

“プ・ト・ティッラ〜〜ノヒッサ〜〜ツ!!”

 

 

ハーピーガールはなすすべなくそれに引き裂かれ、大爆発を起こした。合体していたバル・ガンナーは身の危険を感じたか、咄嗟に分離してことなきを得た。

 

 

「さらにこの効果で破壊した相手スピリットのコア1つをボイドに送る!!」

「………!?」

 

 

普通、スピリットの破壊などによって帰ってくるコアはリザーブに送られる。だが、プトティラコンボはそれさえをも逃さない。ハーピーガールの破壊によって飛び散ったコアの1つは、プトティラコンボのあまりに強力な攻撃によって砕け散った。

 

 

「さぁ!!このアタックはどう受ける?」

 

 

プルートの場にいるスピリットはプトティラコンボを除けば、後は鉄拳明王。このスピリットは青特有のネクサスを疲労させることで回復し、連続アタックを可能にする【強襲】の効果を持っている。

 

ー極力このプトティラコンボのアタックで終わらせねば、

 

司はそう思い、手札のカードを1枚引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!!シンフォニックバースト!!」

手札3⇨2

リザーブ3⇨1

トラッシュ3⇨5

 

「…………!!」

 

「アタックはライフで受けてやるよ…………っ!!」

ライフ4⇨2

 

 

プトティラコンボの斧の一撃が、司のライフを一撃で一気に2つ破壊した。だが、それがトリガーとなり、司の使用したマジックカード、シンフォニックバーストの効果が発揮される。

 

 

「シンフォニックバーストの効果!!バトルの終わりに俺のライフが2以下だった場合、お前のアタックステップを終了させる!!」

「……おぉ!!」

 

 

プルートは司に感心するが、それどころではない。弾け飛ぶように放たれた閃光が、彼の場にいるプトティラコンボと鉄拳明王の動きを封じ込めた。

 

これではこのターンは一歩も動くことはできない。

 

 

「ハッハッハ!!流石にこの程度ではやられはせんか!!ターンを終えよう!!」

鉄拳明王LV2(3)BP10000(回復)

仮面ライダーオーズ プトティラコンボ+アンクLV2(3)BP13000(疲労)

 

最後の優勝旗LV2(1)

最後の優勝旗LV1

最後の優勝旗LV1

 

バースト【無】

 

 

流石にこれは仕方がないか、プルートはここでターンを終えた。次は見事に彼の猛攻を防ぎ切った司のターン。ここでやり返せなければほぼ敗北が確定するが…………

 

 

「あっ…………司………」

「あぁ?……なんだ雅治か……」

「なんだとは不躾だなぁ………」

 

 

突然彼の背後から現れる人物が1人、長嶺雅治だ。今回、彼は一度もバトルを行なっていない。そうして歩き回った結果、偶然にも司の元に辿り着いた。

 

 

「………てか、お前一回くらい戦えよ」

「それが1人たりとも出会わなくてねーーー…………なんならさっさとこれに負けて僕と代わっても良いんだよ?」

「冗談抜かせ、ここからが怒涛の大反撃なんだよ………」

 

 

雅治との何気ない言い合い。司にとっては毎度毎度のことであるが、その言い合いがまた彼のこのバトルに対するモチベーションを向上させたのは間違いないことであって……………

 

ー司の怒涛の大反撃が幕を開ける………

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

砲竜バル・ガンナー〈R〉(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!……俺は3体目のイーズナを召喚し、………さらにこのスピリット、シルフィーモンをLV3で召喚するっ!!」

手札3⇨1

リザーブ9⇨1

トラッシュ0⇨4

 

「…………!!」

 

 

司は3体目となるイーズナを呼び出すと共に、自身のエーススピリット、オーバーエヴォリューションによって覚醒した完全体、白き獣人、シルフィーモンを召喚した。

 

シルフィーモンは滑空するように上空から司の場へと現れた。

 

 

「ほほぉ、あれが噂に聞くシルフィーモン………!!」

「感心してんじゃねぇぞ!!王のジジイ!!……シルフィーモンの召喚時効果!!!」

「…………!!」

「俺はこの効果でBP10000の鉄拳明王を破壊するっ!!…………トップガン!!!」

 

 

シルフィーモンは登場するなり、掌を合わせ、その間にエネルギーを凝縮し、それをボールのように鉄拳明王に撃ち込む。鉄拳明王はそれに腹部を貫かれ、無惨にも大爆発してしまった。

 

 

「そして、シルフィーモンに砲竜バル・ガンナーを合体!!」

シルフィーモン+砲竜バル・ガンナー〈R〉LV3(4)BP16000

 

 

バル・ガンナーが再び砲手のみを残して消滅する。残った砲手は先のハーピーガール同様、シルフィーモンの背に装着されシルフィーモンを合体スピリットへと昇格させた。

 

司は前のターンでライフ2まで追い込まれたが、それはプルートも同じこと、彼もまた、司と同じライフ2なのだ。

 

ー司はこの一撃で決める覚悟でこのターンのアタックステップへと移行していく。

 

 

「アタックステップ!!翔けろ!!シルフィーモン!!」

手札1⇨2

 

 

上空に飛び立ち滑空飛行でプルートのライフまで目指すシルフィーモン。司は砲竜バル・ガンナー〈R〉の効果でカードをドローする。

 

シルフィーモンは合体によりダブルシンボル。当然ながら一撃で2つのライフを破壊できるのだ。プルートの場に残った唯一のスピリット、プトティラコンボは今や疲労状態。ブロックは不可。

 

ーいける…………

 

司がそう思った直後だった。プルートが自身の手札からカードを1枚抜き取ったのは…………

 

 

「甘い!!フラッシュ【チェンジ】発揮!!2枚目のプトティラコンボ!!」

リザーブ3⇨1

トラッシュ5⇨7

 

「…………!!?」

 

「効果対象は当然場に残ったプトティラコンボ!!これと入れ替える!!」

仮面ライダーオーズ プトティラコンボ+アンクLV2(3)BP13000(回復)

 

 

プルートが使用したのは2枚目となるプトティラコンボのカード。見た目が変わらないためか、特に入れ替わる様子もなく、元々場にいたプトティラコンボが疲労から起き上がった。

 

 

「そして【チェンジ】の効果で、コスト4以下のスピリットを破壊!!再びイーズナを破壊しよう!!」

「………!!」

 

 

プトティラコンボの飛ぶ斬撃が、またもや司のイーズナを襲う。3枚目も2体目同様、避けられるわけもなくあっさりと引き裂かれてしまった。

 

ーそして、次は回復したプトティラコンボで………

 

 

「ブロック!!」

 

 

シルフィーモンのアタックをブロックした。滑空するシルフィーモンに向かって飛び上がるプトティラコンボ。そのままシルフィーモンに斧を振り下ろし、シルフィーモンを撃墜させた。

 

 

「ちぃっ!!だが、俺のシルフィーモンの方がBPは上だ!!………フラッシュマジック!!イエローリカバー!!この効果でシルフィーモンを回復させる!!」

手札2⇨1

リザーブ2⇨0

トラッシュ4⇨6

シルフィーモン+砲竜バル・ガンナー〈R〉(疲労⇨回復)

 

「………む!?」

 

 

撃墜されてもなお、シルフィーモンは立ち上がり、イエローリカバーの効果を受け、シルフィーモンは疲労状態から回復状態まで復活する。これでこのアタックは防がれようとも2度目のアタックで決着をつけることができる。

 

シルフィーモンは反撃開始だと言わんばかりに、プトティラコンボを隙のない格闘術で攻めて行く。プトティラコンボは辛うじて防いでいるが、負けるのは時間の問題と言って良い。

 

ーしかし、仮にも国王がこの程度ではくたばるわけもなく…………

 

 

「面白い!!なら、このバトル、全力で勝つまで!!フラッシュマジック!!セルメダル!!これを2枚分使用し、プトティラコンボのBPを合計4000アップさせる!!」

手札7⇨6⇨5

仮面ライダーオーズ プトティラコンボ+アンクBP13000⇨15000⇨17000

 

「…………っ!?BPを上回った!?」

 

 

銀色のコインがプトティラコンボの体内に侵入してくる。プトティラコンボは眼光を輝かせ、再びシルフィーモンを圧倒し始める。

 

 

「さぁ、次はどうでる?」

 

 

プルートが司に問いかけるように言った。そしてこの瞬間、司は確信した。

 

 

 

ーこのバトルは自分の勝ちであると………

 

 

「終わりだ…………フラッシュ!!煌臨発揮!!対象は……………っ!?」

「………!?」

 

 

ー「対象はシルフィーモン」司はこの時、そう叫ぼうとした。だが、あるものが目に入った途端に言葉が出なくなった。

 

ーそれは、その人物は自分の目の前に、いや、プルートの背後にその人物はいた。雅治も驚愕したような表情でそれを見ていた。

 

ーそれが普通の人間ならまだ驚愕などしなかったことだろう。だが、その人物からはとても人とは思えないほどのオーラが痛いほど伝わって来るのだ。

 

ーそれはとてもではないが、人間とは呼べない………

 

2人の異変に気付いたか、プルートは司と雅治の目線の方へと振り向く。

 

ーそこには自分も知らない、人物が1人。それはサバイバルバトルの参加者でもなければ、ましてやオーズ一族ですらない。プトティラコンボなどとは比にならないほどに禍々しい人物だ。

 

ーそして3人の視線が自分に向けられたこの時、ようやくその人物は口を開く。

 

 

「なんだか楽しそうなことしてんなぁ〜〜………一族様ぁ?」

 

 

その人物の体格は簡単に言えば厳つい。ゴツい、と言えば分かりやすいか、他に特徴的なことを言えば、毛深い。

 

そう、椎名達は知らないが、この人物は、サバイバルバトルが始まる前、【Dr.A】となんらかの関わりがある【銃魔】と会話をしていた人物だ。目的はみかんのような頭の女の子を拉致すること……………

 

ーそして、ようやく明かされる、

 

ーその人物の名は…………

 

 

「俺の名は【剣総(けんそう)】!!!……一族様ぁ!!俺も混ぜてくれよぉ!!」

 

 

この男、剣総は煽るようにそう叫んだ。

 

ーここからだ。ここから今年のサバイバルバトルは大いに乱れて行くこととなる。




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【仮面ライダーオーズ プトティラコンボ】!!」

椎名「プトティラコンボはオーズの紫のコンボで、王にだけ使うことが許される最強のコンボ!!2種類の破壊効果で敵を追い詰めるよ!!」


******


〈次回予告!!〉

司「なんなんだこいつ!?いったいどこから湧いて出やがった!?まぁ、良い、こいつも倒すまでだ……あぁ?王のジジイ、お前が排除するってか?…………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「乱入者、仮面ライダー剣!!」今、バトスピが進化を超えるっ!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

予告の剣のフリガナはもちろんブレイドです。

※新キャラ、剣総は第55話の最後でも少しだけ登場しておりますので、そちらも参考程度に………


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第57話「乱入者、仮面ライダー剣!!」

 

 

 

 

 

 

 

彼は…………

 

本当に人なのだろうか?

 

突如として司、プルート、雅治の前に突然現れたのは、とても人とは思えないような途方も無い負のエネルギーを秘めた男性。見た目の印象は………毛深くて、ゴツい。

 

 

「さぁ!!俺とバトルしてくれよぉ!!1人残らずぶっ殺してやるからよぉ〜!!」

 

 

その剣総という男は挑発行為で3人を煽り出す。

 

そもそもの話だ。彼はいったいどこからやってきたと言うのだ。ここは仮にも城内。それなりの都合がなければ基本的に門前払いされる。

 

ーしかし、その理由は直ぐに明らかとなる。

 

一本の電話が、プルートのBパッドから鳴り響く。彼は目の前にいる剣総を警戒しつつもその電話に応じた。

 

 

「………なんだ?」

〈お、王よ!!た、大変です!!我らの王宮内に不届き者が現れました!!門兵を全て薙ぎ倒しこの中に侵入した模様!!〉

 

 

切羽詰まったような口調でプルートに話しかけてくる王宮の役人。侵入者など滅多にくる者ではないため、焦っているのが伺える。

 

プルートはその電話を切りながら察した。彼が何十人と存在する門兵を全て薙ぎ払ってここまで来たことを………また、それを側から聞いていた司と雅治もその事に気付いた…………

 

 

「お主は何をしにここまで来た?ここは政権も無い形だけの王国だが、不法侵入は犯罪だぞ?」

 

 

プルートが剣総に問うた。

 

確かに、ここは具利度王国。物珍しい観光地だ。地形も、名産品も、カードも………

 

それでも対して値がつく物など存在しない。強いて言えばオーズのカードくらいだが、それだけのためにこんな大胆に不法侵入などあまりにも大袈裟過ぎる。

 

 

「あぁ?そりゃ当然、お前らみたいな成り上がり一族を成敗するために決まってるだろ?」

「「「!?」」」

「俺は嫌いなんだよ………お前らみたいなカードの力だけで上に行くような連中が………」

 

 

果てしない焦燥や嫌悪の感情が3人に伝わってくる。その異様な様子に恐怖すら感じる。ただ、そんなものなどここまでする理由にはならないし、わざわざこんな辺境の地を狙う必要もない。

 

ー司が恐怖の感情を押し退けてそう言おうとした時、また剣総が閉じない口から言葉を吐く。

 

 

「…………と、言うのは建前で〜〜……実は【芽座椎名】って言う女を連れて来いって言う依頼でここまで来たんだよ、お前らなんか知ってる?」

「「「!?」」」

 

 

この言葉には3人も驚いた。

 

確かに剣総は【芽座椎名を連れて行く】と言った。どう言うことだ。理由も何も訳がわからない。こんなテロリストじみた男が何故一般の女子生徒を狙うのか………

 

椎名が界放リーグで一躍有名になったから?

 

ロイヤルナイツのマグナモンを持っているから?

 

仮にそうだとしてもあまりピンとは来ない。

 

だが、どちらにせよ人攫いなど言語両断。彼はここで止めなくてはならない。

 

 

「………知らんな、そんな名前……どちらにせよお主は不法侵入者、このまま野放しにはできん!!少々手荒でも大人しくしてもらうぞ!!」

 

 

プルートがそう言った。そして彼は直後に司とバトル中により繋がっていたBパッドの通信を切り、それを今度は剣総に向ける。

 

彼とバトルする気なのだ。

 

その様子を見て、剣総は不気味な笑みを浮かべる。単純に喜んでいるのだ。成り上がった一族の長がやる気になっているのが。

 

ーそしてそれをこの手で叩き潰せることに喜びを感じているのだ………

 

 

「おい王のジジイ!!」

「済まんな、決着は後でつけよう………」

 

 

王宮がめちゃくちゃにされたのだ。今はサバイバルバトルなどしている場合ではない。プルートは具利度王国の国王として、責任を持って全力で剣総を叩き潰す気だ。

 

その言葉の重さを感じ取ったか、司も雅治もこの後は特に何も言わなかった。今はこの国王を信じる他ない事を悟ったからだろう。

 

 

「ぶわっはっは!!そうだ!!それで良い!!やろうじゃないか!!」

 

 

そう言って剣総もまたプルート側にBパッドを展開する。

 

ーこれで両者のバトルの準備が整った。

 

ー始まる。2人のバトルが…………

 

張り詰めた緊張感の中…………それが幕を開ける。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

司と雅治が見守る中、プルートと剣総のバトルが幕を開ける。

 

ー先行はプルートだ。

 

 

[ターン01]プルート

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!さぁ、先ずはネクサスカード、海底に眠りし古代都市を配置しようかな」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

プルートが早速背後に配置したネクサスカードはまるで壮大な夢物語を語るような海底に沈む古代都市。これはあまりの強力さ故に究極カードに指定された特別なカードの1枚だ。

 

 

「ターン終えよう、さぁ、君のターンだ………行いたまえ」

海底に眠りし古代都市LV1

 

バースト【無】

 

 

司とバトルしていた時とはまるで違う態度を見せるプルート。それもそのはずだ。この剣総は王宮をめちゃくちゃにした挙句、神官達が毎年楽しみにしていたバトスピ学園生とのサバイバルバトルさえも邪魔をしたのだ。

 

当然、捕らえるだけで刑が済む訳がない。

 

そして次はそんな剣総のターン。プルートの煽りに顔色ひとつ変えず、ニタニタと不敵に笑いながらターンを進めていく。

 

 

[ターン02]剣総

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップゥ〜〜………そっちの初手がネクサスならこっちもネクサス置いといてやるか〜〜………ネクサスカード、BOARDを配置ぃ〜〜」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨3

 

「「「…………!?」」」

 

 

剣総が初手に配置したネクサスカードはまるで何かを研究しているかのような施設。その明かりの暗さから、到底まともなものを研究していないことは一目でわかる。

 

 

「なんだ?あのネクサス………」

「さあ?……僕も知らない………」

 

 

司と雅治が言った。そう、誰もあんなネクサスカードなど知らないのだ。それの明かりの暗さもあってか、それが放つ異様な何かは2人を困惑させるには十分すぎた。

 

プルートも当然あんなネクサスなど知らない。だが、それでも彼は未だ平然とした顔を崩さない。

 

 

「ターンエンドだ〜〜さぁ一族様ぁ〜〜ターン進めていいぜぇ〜〜!!」

BOARDLV1

 

バースト【無】

 

 

剣総はこれだけでターンを終えた。次はプルートのターン。

 

 

[ターン03]プルート

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!私はマジック、ストロングドローを2枚使用する!!デッキから3枚引き、その後2枚破棄する……これを2度行う!!」

手札5⇨4⇨7⇨5⇨4⇨7⇨5

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

破棄カード↓

【最後の優勝旗】

【最後の優勝旗】

【最後の優勝旗】

【ライドベンダー】

 

 

青属性を代表する手札入れ替えマジック、ストロングドロー。プルートはこれを一気に2枚使用し、手札の質を高める。

 

ーそしてそれと同時にトラッシュの質も上がる。

 

 

「さらにバーストをセットし、ターンを終えよう!!」

手札5⇨4

 

海底に眠りし古代都市LV1

 

バースト【有】

 

 

ついでと言わんばかりに場にバーストをセットするプルート。だがこれはこのバトルの流れを掴んでいくために大事なカード。彼とバトルをした司にはあのバーストが何かわかる。

 

第3ターン目まで来たが、ここまでお互いスピリットは一切召喚せず、下準備やネクサスの配置のみと、静かな滑り出しだったと言える。

 

次は剣総のターン。

 

ーここからバトルはより大きく動き出す……

 

 

[ターン04]剣総

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ………ほいじゃ、ちょっとだけ本気出しちゃうか〜〜………」

 

 

そう言って剣総は手札にある1枚に手をかける。その様子から呼び出されるのはそのデッキの中核を担う存在。それを察した他3人はより一層気が引き締まる。

 

ーそしてそれが召喚される。

 

ーそのスピリットの名は……

 

 

「俺はぁ!!仮面ライダーブレイドをLV2で召喚っ!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨2

 

「「!?」」

「……仮面スピリットっ!?」

 

 

落下してくる1枚のカード、その柄はバトルスピリッツの物のは異なっている。そしてその中から何者かがこの場へとゆっくり歩みよって来る。

 

その名は仮面ライダーブレイド。数多く存在する仮面スピリットの一種。だが、その存在自体はほとんど知られていない。当然司達もそんなスピリットなど見たことも聞いたこともなかった。

 

 

「き、貴様……本当に何者なのだ!?………なんだその仮面スピリットは………っ!?」

 

 

プルートがその異様な仮面スピリットを前に、剣総にそう問うた。

 

一般的に……

 

仮面スピリットとは市販での販売はあまりされてはいない。故に一般の人で購入が可能な仮面スピリットは非常に少なく、デッキを組む事自体困難を極めるのである。

 

見たこともない仮面スピリット………つまり、この仮面スピリットはオーズと同じ、何かしらの一族が扱っている仮面スピリットではないのか?

 

ーと言うのがプルートの予想及び推理であった。

 

 

「あぁん?貰ったんだよ〜〜〜ある人物になぁ!!」

「それを使ってどうする気だ?」

「さっきも似たようなこと言ったろ?………お前らみたいな成り上がり一族をぶっ殺すためだってなぁ!!」

 

 

痺れるような覇気を飛ばしてくる剣総。その事が本気なのが伺える。そしてさらに剣総は仮面ライダーブレイドが持つ召喚時を使用していく。

 

それは仮面スピリットやデジタルスピリットのデッキにおいては必須レベルの有能な効果である。

 

 

「召喚時ぃ!!カードオープン!!」

オープンカード↓

【仮面ライダーブレイド ジャックフォーム】◯

【仮面ライダーギャレン】◯

【醒剣ブレイラウザー】◯

 

 

効果は成功。仮面ライダーブレイドは系統「四道」を持つカードを1枚手札に加える事ができる。

 

 

「俺はぁ!!この効果でブレイブカード、醒剣ブレイラウザーを手札に加えるっ!!………そしてそのまま召喚し、ブレイドと合体!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ2⇨0

トラッシュ2⇨4

仮面ライダーブレイド+醒剣ブレイラウザーLV2(2)BP8000

 

 

ブレイドが呼び出された時と同様に上空から一本の剣が降ってくる。ブレイドはそれを華麗にキャッチし、構え、合体スピリットとなる。

 

 

「バーストを伏せぇ、お待ちかねのアタックステップ!!力の差を思い知らせてやれブレイドォォ!!」

手札4⇨3

 

 

剣総がバーストをセットすると共に醒剣ブレイラウザーを手に地を駆けるブレイド。目指すはもちろんプルートのライフ。

 

彼の場にはネクサスが1枚のみ、バーストも反応がない。つまりはライフで受けるということになるが…………

 

ープルートは思い知ることとなる。この仮面ライダーブレイドが…………いや、剣総という男がどれだけ危険かと言うことを…………

 

 

「ライフで受けよう!!」

 

 

当然の如くライフで受ける宣言をするプルート。だが、それに対し又もや不敵な笑みを浮かべる剣総。

 

ーこれから何が起こるのかを知っているからだ。それを想像するだけで自然と笑みがこぼれる。

 

ブレイドが醒剣ブレイラウザーを構える。目の前のプルートのライフを切り裂くのだ。このアタックはダブルシンボル。よって2つ破壊する。

 

ーそしてそれを、プルートのライフ2つを一刀両断で切り裂いた。

 

ーそれ自体は全くもって問題なかった。バトルスピリッツと言うゲームにおいて、これはごくごく当たり前のこと…………

 

ーしかし………

 

 

「ぐ、ぐぉぉぉぉぉ!!!!!!」

ライフ5⇨3

 

「「!?」」

 

 

ライフをブレイドに切り裂かれたと思った瞬間。とてつもない痛みがプルートを襲った。ただごとではないと感じ取った司と雅治もそれを見て驚愕した。

 

普通のバトルでは先ず痛みはない。それなのになんなのだこの体が焼けるような激しい痛みは…………

 

プルートはその痛みに耐えながらもそう思考をよぎらせていた。

 

 

「ぶわっはっは!!どうだ?どうだった!?最高だろう??」

「おい!!王のジジイ!!」

 

 

あまりのダメージに膝をつくプルートを馬鹿にするかのように高笑いする剣総。

 

その様子に声を荒げる司。だが、プルートは司の言葉に対して「問題無い」と言わんばかりに立ち上がる。

 

具利度王国の国王、プルートは………

 

ー今、ここではっきりと理解した。

 

ーあの男は本気で殺すつもりでここに来ていたこと、

 

ーこの男をこのまま野放しにしてはならない。

 

ー他の者達に危害が加えられる前に自分が倒さなければいけないと強く自覚した。

 

ー王の名にかけてあの【化け物】を倒す………

 

 

「ライフの減少によりバースト発動!!鉄拳明王!!」

「………!?」

 

「この効果によりトラッシュにあるネクサスカード3枚をノーコスト配置!!私はトラッシュにある最後の優勝旗を3枚配置!!その配置時効果でコアを増やす!!」

最後の優勝旗(0⇨1)LV1⇨2

最後の優勝旗(0⇨1)LV1⇨2

最後の優勝旗(0⇨1)LV1⇨2

 

 

一気に反転し、発動されるプルートのバースト、鉄拳明王。その効果でトラッシュに落としていたネクサスカード、最後の優勝旗が一気に3枚、彼の背後に配置される。

 

そしてその効果でコアブーストされると共に1体のスピリットが飛び出してくる。

 

ー鉄拳明王だ。

 

 

「そしてこの効果発揮後、このスピリット、鉄拳明王を LV2で召喚する!!」

リザーブ4⇨1

鉄拳明王LV2(3)BP10000

 

 

プルートの背後から飛び出してくる1体の人影、それは青い巨人、4本の特徴的なスピリット、鉄拳明王。

 

 

「へぇ〜〜……ターンエンド」

仮面ライダーブレイド+醒剣ブレイラウザーLV2(2)BP8000(疲労)

 

BOARDLV1

 

バースト【有】

 

 

相手ターンにスピリットの展開はおろか、多量のコアブーストまでもをやってのけたプルートのプレイングを見ても、剣総はなんとも思わなかったか、薄く反応しただけでそのままターンを終えた。

 

次はプルートのターン。増えたコア、シンボルを使い、一気に反撃に出る。

 

 

[ターン05]プルート

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ⇨1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップっ!!」

 

 

ー目には目を、仮面スピリットには仮面スピリット………

 

プルートは召喚する。オーズ一族の誰もが持つ仮面スピリットを…………

 

 

「仮面ライダーオーズ タトバコンボ[2]を LV2で召喚っ!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨0

最後の優勝旗(1⇨0) LV2⇨1

最後の優勝旗(1⇨0) LV2⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

“タカ!!トラ!!バッタ!!”

“タ・ト・バ!!タトバタ・ト・バ!!”

 

 

いつもの変身音。いつもの光。上から赤黄色緑の色でまとまったオーズの最も基本的なコンボ、タトバコンボがプルートの場に現れた。

 

 

「海底に眠りし古代都市の効果でコアを増やし、さらに召喚時効果でカードをオープン!!」

リザーブ0⇨1

オープンカード↓

【仮面ライダーオーズ プトティラコンボ】◯

【鉄拳明王】×

 

 

効果は成功。プルートは自身のオーズ最強コンボ、プトティラコンボのカードを手札に加える。

 

これで準備は万端か、プルートはここからアタックステップへと移行し、畳み掛ける。

 

 

「アタックステップっ!!行け!!タトバコンボっ!!………不届き者を叩き伏せるのだ!」

手札4⇨5

 

「…………ぶわっはっは!!その程度!!ライフで受けてやるっ!!」

ライフ5⇨4

 

 

スピリット全てが疲労しているため、ブロックはできない。剣総は余裕の表情を浮かべながら、そのタトバコンボの鉤爪の一撃を受けた。そのライフが1つ切り裂かれる。

 

プルート側からは対してダメージはないか、剣総はプルートの時とは違い平然とした顔で依然構えている。

 

 

「次っ!!鉄拳明王!!アタック時効果【強襲:3】!!ネクサスカード最後の優勝旗を1枚疲労させ、鉄拳明王は回復する!!」

最後の優勝旗(回復⇨疲労)

鉄拳明王(疲労⇨回復)

 

「…………!!」

 

 

潔く走り出した鉄拳明王が自身の効果で疲労状態から回復状態まで起き上がる。

 

これには剣総も目を見開いた。

 

それもそのはず、【強襲:3】とは、即ち、3回回復すると言うこと、通常のアタックと合わせてそのアタック回数は最大4回。

 

つまり、このまま剣総に反撃の余地がなければ、このまま鉄拳明王がバトルを終わらせてしまうこととなる。

 

 

「…………ライフで受ける」

ライフ4⇨3

 

 

鉄拳明王の4つの拳の連打が剣総のライフをさらに破壊した。

 

まだだ。まだここから鉄拳明王のアタックは続いていく。

 

 

「次だ!!畳み掛けろ!!鉄拳明王!!2枚目の最後の優勝旗を疲労させ回復!!」

最後の優勝旗(回復⇨疲労)

鉄拳明王(疲労⇨回復)

 

「ライフだ」

ライフ3⇨2

 

 

その場で再び剣総のライフを叩き壊す鉄拳明王。後2度のアタックで彼のライフを全て破壊できると期待がかかるが……………

 

ーやはりそう簡単にはいかないか………

 

ー剣総の伏せられていたバーストが反転し、発揮される。

 

 

「ライフの減少でバースト発動!!絶甲氷盾!!…………ライフを1つ回復し、アタックステップを終わらせるぅ〜〜!!」

ライフ2⇨3

リザーブ3⇨0

仮面ライダーブレイド+醒剣ブレイラウザー(2⇨1) LV2⇨1

トラッシュ4⇨8

 

「…………!?」

 

 

突如と吹き荒れる猛吹雪が鉄拳明王をプルートの場まで吹き飛ばす。この猛吹雪はプルートのターンが終わるまで止むことはない。

 

ープルートの反撃は完全に阻まれてしまう。

 

 

「………ターンを終えよう」

鉄拳明王 LV2(3)BP10000(回復)

仮面ライダーオーズ タトバコンボ[2] LV2(6)BP5000(疲労)

 

海底に眠りし古代都市 LV1

最後の優勝旗 LV1

最後の優勝旗 LV1(疲労)

最後の優勝旗 LV2(疲労)

 

バースト【無】

 

 

仕方なくそのターンを終えたプルート。

 

ーしかし、

 

 

「………残したね………」

「……あぁ」

 

 

雅治がこの状況を見てそう言い、司がそれに対して頷いた。

 

そう、プルートはこのターン、敢えて【チェンジ】の効果を持つプトティラコンボを手札に温存したのだ。次のターンでカウンターを決め、回ってきた自分のターンで決着をつけるために…………

 

 

[ターン06]剣総

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨9

トラッシュ8⇨0

仮面ライダーブレイド+醒剣ブレイラウザー(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……………ブレイドの LVを上げる……」

リザーブ9⇨6

仮面ライダーブレイド+醒剣ブレイラウザー(1⇨4) LV1⇨3

 

 

ブレイドの LVが上昇する。

 

 

「さぁ…………そろそろ決めておきますか」

「!?」

「アタックステップ!!あのイキリジジイをぶっ殺せぇ!!ブレイドォォ!!」

 

 

剣総の指示に従い、剣を手に持ち走り出すブレイド。

 

 

「ブレイドの効果で相手のスピリット1体をBPマイナス4000!!鉄拳明王をマイナス!!」

 

「………!!」

鉄拳明王BP10000⇨6000

 

 

ブレイドの頭部から神々しく放たれる閃光が、鉄拳明王のBPをダウンさせる。この効果で0にできれば破壊できたのだが、本命はこっちではない。今度は合体中の醒剣ブレイラウザーの効果だ。

 

 

「醒剣ブレイラウザーの効果!!相手スピリットのBPをマイナス5000!!今度はお前だぁ!!タトバコンボ!!」

 

「………!!」

仮面ライダーオーズ タトバコンボ[2]BP5000⇨0

 

 

ブレイドの持つ剣、醒剣ブレイラウザーから放たれる閃光が、今度はタトバコンボに命中する。鉄拳明王程BPは無いタトバコンボのBPは0。爆発し、破壊されるが………

 

 

「この時!!タトバコンボの効果を発揮!!手札を破棄して場に残る!!」

手札5⇨4

破棄カード↓

【セルメダル】

 

 

爆発の爆煙の中、タトバコンボは自身の効果で見事に生還していた。

 

 

「その程度の攻撃など、オーズには効かんぞ!!」

「ほお?まあ、こんくらいはやるよなぁ!!……」

 

 

仮面スピリットと言えば【チェンジ】。剣総がここからさらにそれを決め、一気に勝負を決めに来ているのはそのセリフからよく分かる。

 

つまり、ここでブレイドのアタックを止めなければならない。プルートはここが勝負どころと見て、手札にある1枚のカードを引き抜いた。それは具利度王国の王だけが手にすることができる最強のオーズだ。

 

 

「フラッシュ!!仮面ライダーオーズ プトティラコンボの【チェンジ】発揮!!対象はタトバコンボ!!」

リザーブ1⇨0

最後の優勝旗(1⇨0) LV2⇨1

トラッシュ2⇨4

 

「………………」

 

 

“プテラ!!トリケラ!!ティラノ!!”

“プ・ト・ティッラァ〜〜ノザウッル〜〜ス!!”

 

 

タトバコンボの体内から紫色のメダルが飛び出してくる。それはタトバコンボのベルトに差し込まれ、強制的にスキャンされる。

 

そして陽気な音声と共にタトバコンボは姿を変え、紫色のオーズ、プトティラコンボがプルートの場に姿を現した。

 

 

「ほぉほぉ、あれがオーズの最強コンボねぇ〜〜」

 

 

あまり大変な状況であることを理解しきっていないのか、剣総はそのプトティラコンボを目の前にしても全く動じず、あいも変わらずニタニタと不気味な笑みを浮かべている。

 

プルートはそれに対して、「笑っていられるのも今のうち」だと言わんばかりにプトティラコンボの【チェンジ】効果を発揮させる。

 

 

「プトティラコンボの【チェンジ】効果!!コスト4以下の相手スピリット1体を破壊する!!」

仮面ライダーオーズ プトティラコンボ LV3(6)BP17000(回復)

 

 

司も苦しまされたプトティラコンボの効果だ。低コスト帯のスピリット1体を破壊できる。

 

ーしかし、

 

 

「はぁ?頭の悪い王族だなぁ!!俺のブレイドは醒剣ブレイラウザーとの合体でコストは7!!そんなチンケなコスト破壊で潰れるほどやわじゃねぇんだよ!!」

 

 

そうだ。ブレイドの元々のコストは3。だが、ブレイブカード、醒剣ブレイラウザーとの合体により、その合計コストは7なのだ。プトティラでは破壊できない。

 

ー飽くまでもこの現状での話だが…………

 

 

「この時!!私の場にあるカード1枚につき、その破壊可能コストを1上げる!!」

「………!!!」

「今!!私の場には6枚のカードがある!!……よって6+され、破壊上限コストは………10!!ブレイドを破壊する!!」

 

 

プトティラコンボは地面に手を突っ込み、斧のような武器を生成し、取り出す。そしてその中にメダルを差し込んで行き、力を溜める。

 

そのままそれを接近してくるブレイドに向けて…………

 

 

“プ・ト・ティッラ〜〜ノヒッサ〜〜ツ!!”

 

 

振り下ろした。

 

ブレイドは咄嗟に剣を盾代わりに構えるが、それさえも弾かれてしまい、その一太刀を浴びてしまう。流石に耐えられなかったか、ブレイドはその場で大爆発を起こす。

 

 

「…………どうだ………化け物め……!!」

「そうだなあ…………一言にまとめると…………」

 

 

プルートとて、特に剣総に今現在の感想を求めていたつもりはないが、剣総はそれを間に受けて答える。自分の思ったことを素直に……………

 

 

「クソつまんねえかなあ?」

「……!?」

 

 

ーと、剣総は答えた。これまでこの男、王国の王、プルートとバトルをしていて、純粋に思ったことだ。

 

ーこの男は………

 

ーなんて弱いんだろう

 

ーなんて浅はかなんだろう

 

ーとんだ期待はずれだ。汚い薄汚れた一族を始末できると言う理由でここまで来たと言うのに、あまりにも手応えがなさ過ぎる。

 

本当に彼らは強いカードがあるだけで、全く実力がない………

 

ーただの成り上がり野郎じゃねぇか………

 

ーと、ただただそう考えていた。

 

 

「つまらない………だと!?言ってくれたな!!この状況でどうすると言うのだ!?お主は最早このターンでは【チェンジ】などできんぞっっ!!」

 

 

剣総のその支離滅裂とも取れる発言に対して怒りを露わにするプルート。仮にも最強の王の自分と相手をして、そのような言葉が出てくるとは思ってもいなかったのだろう。

 

ーだが、剣総の感想は決して支離滅裂なものではなくて……………

 

 

「入れ変わんなくていいんだよ、フラッシュ……【チェンジ】発揮!!……仮面ライダーレンゲル[2]!!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨6

トラッシュ0⇨4

 

「…………ぬっ!?」

 

「この効果でトラッシュにある仮面と四道を持つスピリット1体をノーコスト召喚する………俺はこの効果でトラッシュにある仮面ライダーブレイド ジャックフォームを召喚する!!」

リザーブ6⇨3

仮面ライダーブレイド ジャックフォーム LV2(3)BP6000

 

 

剣総の場に突如として現れる黒い靄。その中からゆっくりとこの場に歩み寄ってくる仮面スピリットが1体………

 

ブレイドがバージョンアップした姿、ジャックフォームが羽を広げ、この場に誕生した。

 

 

「今さら1体出たところで………」

 

 

「何ができる?」……プルートはそう言おうとした。1段階上のステージに立った程度では自分のオーズ プトティラコンボには到底敵わない。

 

ーそう思っていたし、そう信じていた。

 

ーが…………剣総が今から行おうとしていたのは1段階どころの話ではなくて………

 

プルートの言葉を遮るように、彼は、剣総は手札にある1枚のカードを引き抜く。

 

 

「フラッシュ!!煌臨発揮!!対象はジャックフォーム!!」

リザーブ3s⇨2

トラッシュ4⇨5s

 

「なに!?煌臨だとぉ!?……」

 

 

【チェンジ】が入り乱れるこのバトルの中、剣総が咄嗟に使用したのは煌臨を持つカード。

 

仮面スピリットにおいて、煌臨はデジタルスピリット同様、最強の力を持つ者が多い。それはこのブレイドも例外ではなくて…………

 

 

ジャックフォームに神々しい光が灯される。彼はその中で姿形を変えていく。

 

ーそして、新たに現れるのは常識を覆す程の力を持った最強のブレイド…………

 

 

「王の力を束ねて現れよ!!仮面ライダーブレイド キングフォーム!!!」

仮面ライダーブレイド キングフォーム LV2(3)BP15000

 

 

その神々しい光を弾き飛ばしながら現れたのはブレイドの言わば最強の姿。13の力を携えた奇跡の姿、キングフォームだ。その存在感はプルートの持つプトティラコンボを圧倒的に上回っている。

 

 

「………な、なんだそいつは……!?」

 

 

プルートはキングフォームのその圧倒的なオーラに呑まれかける。それを感じたのはプルートだけではない。これを見ていた司も、雅治も、逃げてはダメだと思っていても本能的に体が震え、逃げろと訴えて来るのを感じた。

 

 

「………お前らクソ一族様を始末するため、俺に与えられた力だよぉ!!!煌臨時効果!!手札かトラッシュにある四道カードを5枚まで手元に置く!!」

「……!?」

 

「俺はこの効果でトラッシュにあるブレイド、レンゲル[2]、醒剣ブレイラウザー、ギャレンの計4枚を手元に置く!!」

手元↓

【仮面ライダーブレイド】

【仮面ライダーギャレン】

【醒剣ブレイラウザー】

【仮面ライダーレンゲル[2]】

 

 

キングフォームはその手に持つ剣を天に掲げ、4枚のカード達を巻き上げるように取り込んでいく。

 

ーこれはキングフォームの力を最大限に発揮させるための下準備でもあって………

 

 

「アタックステップは継続ぅ!!キングフォームでアタック!!」

 

 

走り出すキングフォーム。目指すはもちろんプルートのライフだが…………

 

 

「馬鹿者め!!BP15000ではプトティラコンボの前には遠く及ばん!!ブロックだ!!」

 

 

そうだ。いくら最強と言えども、バトルのルールは逆らえない。プルートのプトティラコンボのBPは17000。キングフォームを返り討ちにできる。

 

プトティラコンボが斧の一閃でキングフォームを狙い撃つが、キングフォームはそれを剣で押さえ込んだ。もちろん、これは一時的な回避でしかない。このままではキングフォームは破壊される。

 

ーが、剣総はこんな状況でもニタニタ笑っており………

 

 

「何を笑っている!!」

「いや〜〜………本当に馬鹿だなぁって思ってよぉっ!!…………キングフォームの効果発揮!!………手元にあるカードを破棄することで、キングフォームは回復し、相手スピリット1体のBPを13000!!」

「……………は?」

 

 

プルートは思わず呆気に取られてしまった。キングフォームの更なる効果の説明を聞いただけで咄嗟に理解してしまった。

 

ー自分がいくら足掻こうが………この化け物には勝てない。と。

 

 

「俺はこの効果でブレイドのカードを破棄し、プトティラコンボのBPをマイナスする!!」

 

「…………っ!?」

仮面ライダーオーズ プトティラコンボ

BP17000⇨4000

 

 

剣と斧を交えていたキングフォームとプトティラコンボ。だが、カードがキングフォームの剣に力を与える。急激に力が増したキングフォームの剣の一太刀はプトティラコンボの斧を砕くどころか、その肉体まで横一線に浅く切り裂いてしまう。

 

 

「………宝の持ち腐れだよなぁ!!」

「……!?」

 

 

剣総のその力強い言葉に応えるかのようにキングフォームはトドメの剣撃を丸腰同然となったプトティラコンボに浴びせた。

 

これには流石のプトティラコンボも耐えることはできず、敢え無く大爆発を起こしてしまった。

 

 

「…………ば、馬鹿な………この私が……」

「終わりだ、この成り上がり一族!!」

 

 

さらに畳み掛けるようにキングフォームにアタックの指示を送る剣総。キングフォームの効果で今度は手元にある仮面ライダーギャレンのカードを破棄して………

 

 

「キングフォームを回復!!鉄拳明王のBPを下げて破壊ぃ!!」

「……ぬおっ!!」

 

 

キングフォームの飛ぶ斬撃が、鉄拳明王に命中する。鉄拳明王もプトティラコンボ同様、耐えられず大爆発を起こしてしまった。

 

 

「アタック中だぞ!!成り上がりぃ!!」

 

「くっ!!……ら、ライフで受ける…………ぐっぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!」

ライフ3⇨2

 

 

キングフォームの一太刀が、今度はプルートのライフに向けられる。プルートはもはやなすすべなくその攻撃を受け入れる。

 

あまりにも大き過ぎるバトルダメージの痛みに苦しい声を上げる。剣総はその苦しそうな声や表情を見て馬鹿にするように高笑う。

 

後二撃…………これで終わりだ。

 

 

「ぶわっはっは!!やれ、やれぇ!!キングフォーム!!今度は醒剣ブレイラウザーのカードを破棄して回復!!」

仮面ライダーブレイド キングフォーム(疲労⇨回復)

 

「ら、ライフで…………ぐわぁぁぁぁぁぁあ!!」

ライフ2⇨1

 

「王のジジイ!!!」

 

 

キングフォームの一太刀がまた彼のライフを切り裂く。司も声をかけるが、今の自分ではこの状況をどうにもできない。ただ指を咥えて見ることしかできない………

 

 

「さぁ………トドメだ………バトル内容は足らなかったったが、お前みたいなクソ一族を始末できて、俺はなかなか楽しかったぜぇ〜……」

 

 

そう言って剣総が4度目となるキングフォームのアタック宣言を行おうとした直後だった。プルートはBパッドを通話モードにし、ある人物に繋げる。

 

ーそれは具利度王国の王としての最期の抵抗であると言える。

 

ーその通話相手とは………

 

 

******

 

 

一方、また別の場所では椎名とマーズがバトルしており…………

 

バトルはもう終盤。このバトルで勝負が決まると言っても過言ではない。椎名の場にいるのは青と緑のジョグレス体パイルドラモン。そしてマーズの場にいるのは自身の持つ赤いオーズ、タジャドルコンボだ。

 

 

「………なかなかやるね〜〜〜…椎名ちゃんっ!!…」

「へへっ!!そっちこそ!!…………でもこれで決まりだ!!いけぇ!パイルドラモン!!」

「……それはこっちのセリフだ!!タジャドル!!」

 

 

共に主人の指示に従い、宙を飛ぶタジャドルとパイルドラモン。そこで何度も衝突し、拳を合わせていく。互角だ。

 

そこでは確かに手に汗握る熱いバトルが行われていた。

 

ーが、それはここで終い、

 

ーある一本の電話がこのバトルを終幕させる。

 

 

「「………!?」」

 

 

2人は思わず目を見開いた。それもそのはず、バトル中だったパイルドラモンとタジャドルコンボの間に突然それを妨げるかのように1つのビジョンが現れたのだから………

 

それを見て、パイルドラモンもタジャドルコンボも興が醒めたたか、翼を収め、一旦地に降り立つ。

 

そしてそのビジョンに映し出された人物は、マーズにとって良く知っている人物だ。

 

 

「親父!!」

 

 

マーズの父親、具利度王国の現国王、プルートであった。マーズは邪魔するなよと言わんばかりの声を上げるが…………

 

 

〈マーズ………今すぐ、電子檻に投獄された者達を解き放ってここから逃げろっ!!〉

「はぁ!?………どう言う意味だよ?サバイバルバトルはどうすんだ!?」

 

 

マーズにはこの切羽詰まったようなプルートの言ってる意味がわからなかった。バトルに負けた者達を檻から解放するということは、このサバイバルバトルも終わりだと言うこと………

 

まだ決着も付いていないのにそれをするなんてどうかしている。マーズはそう思った。

 

ーしかし、理由は直ぐにわかる………

 

 

〈乱入者が現れた!!こいつは危険だ!!早く逃げろぉっ!!〉

「乱入者?」

〈早く!!君達も早く!!……逃げろぉっ!!……………ぐわぁぁぁぁっ!!!…〉

 

 

ープツン………

 

ー刹那。プルートの悲痛な悲鳴とともに通信は途絶えてしまった。

 

 

「っ!?親父?……親父ぃ!?」

「………い、いったい何が起こったの……っ!?」

 

 

椎名がそう言った。

 

状況はいまいち読み込めなかったが、今、ここで、何かただごとでは無いことが起こっていると言う事はこれだけで十分理解できた。2人がこの地下で巻き起こっている異変に気付いた瞬間であった…………

 

 

******

 

 

場所は元に戻ってプルートと剣総がバトルしていた場所。キングフォームによってライフが完全に砕かれてしまったプルートは、その場で意識が途絶えたかのように倒れてしまった。

 

 

「ジジイ!!」

「プルート王!!!」

 

 

司と雅治が駆けつける。様子を見るが、生きてはいる。

 

が、ダメージがあまりにも大きすぎたか、完全に気を失っている。

 

 

「ぶわっはっは!!無様だなぁ!!呆気なさ過ぎるだろぉ!!これだからカードの力だけの一族はよぉ〜〜!!…………テメェは長以前にバトラー失格だぁ!!」

 

 

剣総はまたそう言ってプルートに向けて親指を下に立てた。

 

 

「あっ!!そうそう、芽座椎名だよ!!そうそう!!………お前ら学生だろ?何か知ってるんじゃないか?」

 

 

剣総は思い出したように司達に依頼の対象である椎名のことを聞いた。

 

 

「………知ってたらどうする?」

 

 

司が逆に剣総に問いかける。そしたらまた剣総はニタニタと笑いながら………

 

 

「………ぶっ殺す……!!」

 

 

とだけ言った。その表情は狂気に満ちている。

 

その様子を見て、司は「そうか」と呟き、何か決心を固めたか、立ち上がり、Bパッドを構える。

 

ーバトルする気なのだ。あのイカれた化け物と戦う気なのだ。

 

 

「おい!司っ!!何する気だ?」

 

 

雅治が司に言った。まるで止めろと言わんばかりに………直ぐにわかったからだ。司がこれから何をするか、それがどんなに愚かなことか知っているから、止めなければならない。

 

 

「お前はそのジジイを連れて早く何処へでも行きやがれ…………」

「何言ってるんだ!!見ただろう?ここは一緒に逃げるべきだ!!」

「そのジジイ連れてか?」

「………っ!?」

 

 

今回ばかりは司の言い分が正しい。剣総は主に一族を狙っているが、間違いなく無差別に人を襲っている。ここで3人で逃げるよりかは誰かが囮になる方が逃げ切れる確率が非常に高い。

 

ーしかし、雅治には司を置いて自分だけ逃げるなどと言う事は決してできない。

 

 

「………囮になる気なのかい?」

「バカ言え、勝つに決まってるだろ?」

 

 

ー嘘だ。確実に勝てるのなら逃げろとは言わない。司は見栄を張っている。あのプルートを赤子の手を捻るかのように倒した相手なのだ。勝てるわけがない。

 

ーそう言う事は司とてわかっている筈だ。

 

 

「わかったらとっととどっか行け、邪魔だ………」

 

 

そう言って、司は雅治に背を向け、Bパッドと剣総と向き合う。その背中が、後ろ姿が早くここから逃げろと物語っている。

 

ーしかし、どんな言い分でもどんなに理屈が通っていても雅治は親友を、司を置いて逃げるなどと言う事は出来なかった…………

 

 

「じゃあ僕もやるよ………」

「………!!」

 

 

雅治は彼の横に飛び出し、Bパッドを構えた。

 

 

「逃げるよりかは2人で戦った方が勝つ確率は上がるし、なにより効率が良いからね…………それに、理由はわからないけど敵は椎名を狙ってるし、僕が情けなく背を向けて逃げる訳にもいかないだろう?」

「………ふっ、勝手にしろ………」

「やっぱり、司……えらい軟化したよね」

 

 

司はその雅治の澄ました表情を見て、鼻で笑い、若干口角を上げる。これは幼馴染の2人にしか出来ない会話だ。お互いを理解しきっているからこその短い会話であった。

 

ー2人の決心は固まった。

 

 

「話は済んだか?ガキども………」

「「あぁ、2人でお前をぶっ飛ばすと決めたっ!!」」

 

 

司と雅治は打倒を狙うかのように剣総に人差し指を向けながら強く宣言した。

 

それを見て、剣総はまたニタニタと不気味に笑い始める。早く壊したいのだ。あの希望に満ちたあの表情を、苦しむ顔が見たいのだ。それが楽しみで仕方なかったのだ。

 

ーそして始まる。1対2のバトルが………

 

 

「「「ゲートオープン、界放!!!」」」

 

 

ーバトルが………また………始まった…………

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【仮面ライダーブレイド】!!」

椎名「系統、仮面と四道を持つ珍しいスピリット!!BPマイナスは恐怖の一言だね!!」


******


〈次回予告!!〉

雅治「あいつの本当の狙いは何だ?ただ人を襲いたいのか?椎名を連れて行きたいのか?どっちも本当っぽくていまいち絞り込めない……でも椎名に何かあるのならばこの僕が絶対に許さない!!行くよ、司っ!!……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「炎と光交わりし時」……今、バトスピが進化を超えるっっ!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


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第58話「炎と光交わりし時」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「ゲートオープン、界放!!」」」

 

王宮地下内に存在するこの広いジャングルゾーンにて、3人の男達がバトルを開始した。

 

何故か芽座椎名を拉致しようとする謎の男、剣総を止めるべく、司と雅治が彼の前に立ちはだかったのだ。

 

2対1………多対1方式でのバトルだ。1人側である剣総は司と雅治の2人分、ライフ10。リザーブ、手札8からのスタートとなる。

 

ーただし、それは普通ならばの話であって………

 

ー剣総がある提案を1つ持ち掛ける。

 

 

「………提案がある……!!」

「「!?」」

「このバトル、俺はリザーブは8、ライフは5、手札は4でスタートしたい。どうだ?ガキを相手にするならちょうど良いハンデだろ?」

「「!?!」」

 

 

その口から出て来た言葉は2人を共感、及び困惑させる。本来、多対1方式の正式なルールとして1人側のプレイヤーは複数人プレイヤーの数に応じて、ライフ、手札、リザーブを増やさなければならない。

 

纏めると、今、剣総は司と雅治にリザーブだけ8にして、他の2つを通常通りからスタートしてやろうという話である。

 

ライフ5と手札4。それだけで2人分の攻撃をしのげるとは到底考えられない。しかも界放市の学生一位との噂も名高い司がいながらだ。

 

その優位性を自ら失おうとするのは正気の沙汰では無い。

 

 

「………舐めやがって………後悔させてやる………!!」

「…………ぶわっはっは!!その返事は心得たということで良いんだよなぁ!!」

 

 

ーこうして、本格的に司と雅治のタッグと剣総のバトルが幕を開ける。

 

 

[ターン01]剣総

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ………仮面ライダーブレイドをLV1で召喚っっ!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨3

 

 

早速お出ましだ。上空から降り注ぐ一枚の巨大なカード。それは地面に突き刺さり、中から1人の仮面スピリットが姿を現わす。その名は仮面ライダーブレイド。剣総が持つ謎に満ちた仮面スピリットだ。

 

 

「召喚時っっ!!」

オープンカード↓

【仮面ライダーレンゲル】◯

【仮面ライダーブレイド[2]】◯

【仮面ライダーギャレン】◯

 

 

そしてその召喚時も成功。剣総はその中にある【仮面ライダーブレイド[2]】と名のついたカードを手札へと新たに加えた。

 

そして残りはトラッシュへ………

 

 

「さらにさらにぃぃっ!!!ネクサスカードォォ!!BOARDを3枚配置して、ターンエンドっ!!」

手札4⇨5⇨4⇨3⇨2

リザーブ4⇨0

トラッシュ3⇨7

 

仮面ライダーブレイドLV1(1)BP3000(回復)

 

BOARD LV1

BOARD LV1

BOARD LV1

 

バースト【無】

 

「………っ!?一気に同じネクサスカードを3枚配置!?」

 

 

剣総は背後に薄暗くて不気味な研究室を3枚も配置する。これはプルート戦でも使用したネクサスカード。特にその効果等は使用されていないため、司達にとっては未だ未知のカードである。

 

そして剣総は有り余るリザーブのコアを全て使い切りながらこのターンをエンドとした。

 

次は司と雅治のターン。先ずは雅治がターンを行なって行く。

 

 

[ターン02]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!!椎名に指一本触れさせてたまるかっ!!僕はパタモンを召喚っ!!召喚時効果でカードをオープンっ!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【アンキロモン】◯

【サブマリモン】×

 

 

雅治が強い意気込みと共に呼び出したのは耳で飛行可能な小さい小動物のような黄色の成長期デジタルスピリット、パタモン。

 

そしてその召喚時も成功。雅治は対象内のカード、アンキロモンのカードを手札へと新たに加えた。

 

 

「ターンエンドっ!!」

手札4⇨5

 

パタモンLV1(1)BP1000(回復)

 

バースト【無】

 

 

コアが5つではできることが限られてくる。雅治はそれだけでこのターンをエンドとした。

 

最後は司のターン。

 

 

[ターン03]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ………俺もネクサス、朱に染まる薔薇園をLV1で配置!!………ターンエンドだ」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト【無】

 

 

司が早速配置したのはいつもの潤滑油となるネクサスカード、朱に染まる薔薇園。彼の背後に瞬く間にして、朱く、それでいて鮮やかな薔薇が咲き誇った。

 

そして、次は一周回って剣総のターン。このターンから【アタックステップが解禁】される。

 

 

[ターン04]剣総

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ………少しだけ力を入れてやろうっ!!仮面ライダーブレイド[2]をLV3で召喚っっ!!」

手札3⇨2

リザーブ8⇨3

トラッシュ0⇨1

 

「「………!?」」

 

 

剣総が召喚したのは最初に召喚したブレイドとはまた違ったブレイド。見た目はそのままだが、その性能は全く異なっている。

 

 

「召喚時ぃっ!!手札にある四道スピリットを手元に置くことでカードを1枚ドローするぅっ!!俺は手札にある仮面ライダーレンゲル[2]のカードを手元に置く!!」

手札2⇨1⇨2

 

 

単純な手札交換に見える。手元のカードは手札にあるものと同様に使用できるとは言え、仮面スピリットの最も得意とする戦法、【チェンジ】は手札からでしか使えない。もっと言えばバトルの流れにおいては重要視されるバーストのセット、煌臨も不可である。

 

だが、剣総の扱うブレイドデッキにとって、この手元に置くという動きは何よりも有力で強力な効果であって………

 

 

「最初のブレイドをLV3に上げ、アタックステップぅっ!!ブレイド達よぉ!!!ガキ共に洗礼を浴びさせてやれぇっ!!」

リザーブ3⇨0

仮面ライダーブレイド(1⇨4)LV1⇨3

 

 

司と雅治のライフをめがけ、走り出す2体のブレイド。

 

 

「さらにブレイドのアタック時ぃ!!相手スピリット1体をBPマイナス4000!!!パタモンをゼロにして破壊!!」

 

「………!!」

パタモンをBP1000⇨0(破壊)

 

 

ブレイドの持つ剣から放たれる一筋の光の矢。それは瞬く間に雅治のパタモンを貫き、爆破させた。

 

この時、多対1のルールによって、司の場にいるスピリットにもマイナス4000が入っていたのだが、いかんせん、司の場にはスピリットが存在しないため、司の場に対しては不発となっていた。

 

しかし、それでも今現在、司と雅治のライフを守ってくれるスピリットは一切存在しない。

 

ーつまり、ライフで受けなければならない。あの具利度国王の国王プルートが踠き苦しみ味わった経験を、彼らも受けることとなる。

 

 

「………行くぞ……」

「………うん」

 

「「ライフで受けるっ!!」」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

2体のブレイドの剣撃が、2人のライフを合計2つ、1つずつ引き裂いた。

 

ーそして………

 

 

「うわぁっっ!!!」

「ぐっっっ!!!」

 

 

そのあまりのダメージ量に膝をつく雅治と司。

 

まるで一撃一撃が脳に刺激を与えるような、

 

まるで目の前のスピリットは本物であったかのような

 

そんな感想だった。

 

どちらにせよ、痛い。こんな痛みにあの国王、プルートは戦っていたのかと思うとゾッとする。

 

 

「おい、雅治、まだいけるだろ?」

「………あぁ、もちろん」

 

 

司が雅治にそう言いながら立ち上がり、雅治もまた、その司の言葉に鼓舞されるかのように足を震わせながらも立ち上がってみせた。

 

その様子を見て、剣総はニヤケが止まらない。

 

ー喜んでいるのだ。また倒し甲斐のあるおもちゃと出会えたことを………

 

 

「お前ら〜〜〜………最っ高じゃねぇかーー!!!俺はこれでターンエンドっっ!!」

仮面ライダーブレイドLV3(4)BP5000(疲労)

仮面ライダーブレイド[2]LV3(4)BP7000(疲労)

 

BOARD LV1

BOARD LV1

BOARD LV1

 

〈手元〉

仮面ライダーレンゲル[2]

 

バースト【無】

 

 

そう言いながらも、剣総はこのターンをエンドとした。

 

次は雅治のターン。ここから反撃となるか………

 

 

[ターン05]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨8

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップっ!!僕はアルマジモンを召喚っ!!」

手札6⇨5

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨2

 

 

雅治の場に飛び出して来たのは、黄色の成長期スピリット、アルマジロのような外見の愛らしいスピリット、アルマジモンだ。

 

そしていつも通りその優秀な効果で雅治を手助けする。

 

 

「召喚時、カードをオープンっ!!」

オープンカード↓

【エンジェモン】◯

【アルマジモン】×

【パタモン】×

 

 

その効果は成功。雅治はその3枚の中からエンジェモンのカードを手札へと加えた。

 

ーそして、それだけでは終わらない。アルマジモンにはブイモン同様、召喚時効果に追加の能力が存在する。それは攻めるにしても守るにしても優秀な力だ。

 

 

「さらにアルマジモンの追加効果で、このエンジェモンを2コスト支払って LV2で召喚するっ!!」

手札5⇨6⇨5

リザーブ4⇨0

トラッシュ2⇨4

エンジェモンLV2(2)BP7000

 

 

上空から2人の場に差し込んでくる一筋の光。その中から純白の翼を広げ、天使型のスピリット、エンジェモンが現れた。

 

これで雅治の場には成長期スピリットのアルマジモンと、強力な効果を持つエンジェモンが場に出揃ったこととなる。

 

ーしかし、まだ展開は終わらない。雅治はさらに手札のカードを1枚引き抜き、それを使用して行く。

 

 

「さらに手札のサブマリモンの【アーマー進化】を発揮!!対象はアルマジモン!!」

アルマジモン(2⇨1)

トラッシュ4⇨5

 

「…………!!」

 

「1コスト支払い、渦巻く誠実、サブマリモンを召喚っ!!」

サブマリモンLV1(1)BP4000

 

 

アルマジモンが上空から投下される卵型の何かと衝突し、混ざり合う。

 

新たに現れたのは潜水艦のような見た目のアーマー体スピリット、サブマリモン。

 

 

「召喚時効果っ!!相手の4コスト以下のスピリット1体を破壊!!僕はこの効果で仮面ライダーブレイド[2]の方を破壊する!!」

 

「………!!……ほぉ」

 

 

サブマリモンは場に現れるなり、鼻先のドリルを回転させ、それにより発生した竜巻で仮面ライダーブレイド[2]を狙う。

 

それに巻き込まれたブレイド[2]はそのまま空中で大爆発を起こした。

 

 

「さらにアタックステップ!!サブマリモンとエンジェモンでアタックっ!!…………エンジェモンのアタック時効果で、相手スピリット1体のBPをマイナス6000して、0になったら破壊!!」

「………!!」

「対象は仮面ライダーブレイドだ!!……行けエンジェモン!!……ヘブンズナックル!!」

 

「…………」

仮面ライダーブレイドBP5000⇨0(破壊)

 

 

エンジェモンはその右拳に光の力を集約させ、それをブレイドに向けて放った。ブレイドはそれに耐えられず、この場から塵となって消滅した。

 

 

「さぁ!!アタックは継続中!!」

 

「仕方ないなぁ〜〜……ライフで受ける……」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

泳ぐように地を駆けるサブマリモンの一角の一撃と、飛翔するエンジェモンの拳の一撃が、剣総のライフを一気に2つ破壊した。

 

剣総はやはり自分には多大なバトルダメージは存在しないのか、プルートや雅治、司の時のように踠き苦しんだりは一切せず、飄々とした余裕のある表情を浮かべていた。

 

 

「………ターンエンド!!……司、任せたよ!!」

エンジェモンLV2(2)BP7000(疲労)

サブマリモンLV1(1)BP4000

 

バースト【無】

 

 

雅治の言葉に、司はゆっくりと頷いた。

 

次は司のターン。このまま優勢を崩さず、一気に決めることができるのか………

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨8

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ………俺はネクサスの LVを上げ、ホークモンを召喚!!召喚時効果でカードをオープンっ!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨7⇨5

トラッシュ0⇨1

朱に染まる薔薇園(0⇨1)LV1⇨2

オープンカード↓

【テイルモン】◯

【フレイムブロウ】×

【ホウオウモン】×

 

 

司が召喚したのは赤き羽を持つ鳥型の成長期スピリット、ホークモン。司のデッキの核となるカードだ。

 

そしてその召喚時効果も成功。司は対象内となるテイルモンのカードを手札へと新たに加えた。

 

これだけでは当然終わらない。次はホークモンの召喚時効果の追加効果だ。それはブイモンやアルマジモンと同等の優秀な効果である。

 

 

「さらに俺は2コスト支払い、このテイルモンをLV2で召喚!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ1⇨3

 

 

司の場に、そしてホークモンの横に飛び出して来たのは猫のような見た目のスピリットだが、実際はネズミ型の成熟期スピリット、テイルモン。

 

そして司はここから雅治がガラ空きにして、攻めやすくなった剣総の場を一気に攻め立てる。

 

 

「アタックステップっ!!やれっ!!テイルモン!!アタック時効果でカードをオープン!!」

オープンカード↓

【朱に染まる薔薇園】×

手札4⇨5

 

 

走り出すテイルモン。その効果で1枚、司のデッキからカードがオープンされるが、対象外のカードであるため、追加のライフ回復は行えなかった。

 

ーしかし、司の狙いはライフ回復などと言う、そんな生優しいものではなく、

 

 

「………そのアタック!!この身で受けてやろうっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

テイルモンのネコパンチが剣総のライフを1つ木っ端微塵に砕いた。

 

これで後2つだ。後2つで司と雅治の勝利となる。

 

その2つまで破壊できる程のスピリットと数は、今現在の司の場には存在しないが、問題無い。増やすのではなく、起こせば何も変わりはしない。

 

 

「続けぇっ!!ホークモンっ!!……」

 

 

赤く、小さい羽を駆使して飛び立つホークモン。

 

そしてこのタイミングで司は使用する。このバトルを決めるカードを………

 

 

「フラッシュ!!ネフェルティモンの【アーマー進化】発揮!!対象はテイルモン!!」

朱に染まる薔薇園(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ3⇨4

 

「……………!!」

 

「微笑みの光、ネフェルティモンをLVで召喚っ!!」

ネフェルティモンLV2(2)BP6000

 

 

上空からテイルモンに向けて、卵型の何かが投下される。テイルモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化する。

 

現れたのはスフィンクスのような見た目の黄色のアーマー体スピリット、ネフェルティモン。

 

【アーマー進化】の効果で呼び出されたので、当然、回復状態である。

 

 

「ネフェルティモンの召喚時効果、トラッシュのコア1つを俺らのライフに置く………さらに朱に染まる薔薇園のLV1効果で俺はカードをドロー………」

トラッシュ4⇨3

ライフ3⇨4

手札5⇨6

 

 

ネフェルティモンは召喚されるなり、その身体を光輝かせ、司達2人のライフを回復させた。そしてそれに伴い、朱に染まる薔薇園の効果が誘発。司は新たなカードをドローした。

 

 

「よしっ!!これでシンボル打点が足りる!!」

「あぁ、終わりだっ!!」

 

 

剣総の残りライフは2。対する司の場にいるアタック可能なスピリットは2体。ホークモンとネフェルティモンのアタックが通れば2人の勝利となる。

 

ーだが、それは通り夢の話。剣総はフラッシュで意外なところからカードを使用して行く。

 

 

「甘いわぁっ!!フラッシュ【チェンジ】!!……俺は手元から仮面ライダーレンゲル[2]の効果を発揮っ!!」

リザーブ11⇨8

トラッシュ1⇨3

 

「……なっ!?」

「………手元から【チェンジ】……だと!?」

 

 

剣総は手札ではなく、手元にあったカードを使用した。これが普通のマジックであるのならば全く問題はなかった。

 

ーしかし、【チェンジ】や【アーマー進化】、煌臨と言った効果達は手札に存在していなければその効果を使用できない。

 

つまり、剣総が手元から【チェンジ】の効果を発揮させるなどルール違反なのだ。

 

ーだが、剣総にそんな生半可なルールなど通用しない。それを塗り替えてしまう効果がこの場には確かに存在していて…………

 

 

「俺のネクサス、BOARDの効果で、俺は手元からでも【チェンジ】と煌臨を使えるぅっ!!」

「「……!?」」

 

 

そう、それを可能にしていたのは剣総の場にある3枚のネクサス、BOARDの効果であった。BOARDは四道スピリットならば、手元でもそれらを使用することが可能となる。

 

これにより、剣総はルールを度外視して、問答無用に仮面ライダーレンゲル[2]の効果を発揮させる。

 

 

「レンゲル[2]の効果ぁっ!!俺はトラッシュにある仮面ライダーブレイドを召喚!!」

リザーブ9⇨6

仮面ライダーブレイドLV3(3)BP5000

 

 

プルートとのバトルの時同様、剣総の場に紫の靄が現れる。それが晴れていくと同時に姿を見せたのは、雅治のエンジェモンが破壊したはずの仮面ライダーブレイド。

 

戒めの禁忌たる力でそれは今一度剣総の場へと輪廻した。

 

ーそして、その召喚時効果もまた、輪廻する。

 

 

「召喚時効果ぁ!!カードをオープンっ!!」

オープンカード↓

【仮面ライダーカリス】◯

【仮面ライダーレンゲル[2]】◯

【仮面ライダーブレイド ジャックフォーム】◯

 

 

その効果で捲られたカードはどれも該当するカード達。剣総はその中にある1枚、【仮面ライダーブレイド ジャックフォーム】のカードを手札へと新たに加えた。

 

そして、司と雅治の2人を嘲笑するかのように、その加えたカードを使用して行く。

 

 

「さらにぃ〜〜!!フラッシュ【チェンジ】!!その効果で相手スピリット1体をマイナス10000!!このルール化により、お前達の場のスピリット1体ずつ、エンジェモンとネフェルティモンを潰すっ!!」

手札2⇨3

リザーブ6⇨4

トラッシュ3⇨5

 

「「………!!」」

ネフェルティモンBP6000⇨0(破壊)

エンジェモンBP7000⇨0(破壊)

 

 

2人の場に突如として放たれる雷。それは瞬く間に天罰の如くネフェルティモンとエンジェモンに落とされた。2体は耐えられなくなり、その場で大爆発を起こした。

 

本来ならば1体しか対象を取ることができないこの効果だが、この多対1ルールにおいては複数人プレイヤーの数の場に一度ずつ発揮できる。

 

ーそして、次なるは【チェンジ】の追加効果。こっちが本命であると言っても過言ではない。

 

 

「場に存在する仮面ライダーブレイドとこのジャックフォームを入れ替えるっ!!来いよ〜〜ジャックフォーム!!」

仮面ライダーブレイド ジャックフォームLV2(3)BP6000

 

 

剣総の場に存在するブレイドが変化する。身体は若干の変化を加え、さらには新たな羽まで生えた。

 

それはブレイドの次なるステージ、ジャックフォーム。コスト5の四道スピリットである。

 

それだけで、

 

それだけで果てしない重圧とプレッシャーだった。

 

はっきり言って、剣総は…………

 

司達よりずっと強い。

 

いったい何が理由でここまで強くなったのかは知れたものではないが、彼は少なくとも伝説バトラーと同じ、又はそれ以上の実力を確かに有していた。

 

それは今、彼とバトルしている司と雅治だからこそ思えること。特に彼らは【紫治城門】という伝説バトラーとバトルした経験があるためか、尚のことそれを確信していた。

 

剣総はそんな彼らの期待を裏切らず、さらにこのブレイドを新たな姿へと昇華させる。

 

ーそれは名実ともに最強の「ブレイド」……

 

 

「煌臨発揮!!対象はジャックフォームゥっ!!」

リザーブ4s⇨3

トラッシュ5⇨6s

 

「………っ!?」

「………来るか……」

 

 

2人は察した。間違いなく奴が来ると、具利度王国の国王にして、オーズ一族最強の男、【プルート】さえも歯が立たなかったスピリットが…………

 

ー自分達の目の前にも現れる。

 

 

「王の力を束ねて現れよぉっ!!!……仮面ライダーブレイド キングフォーム!!!」

手札3⇨2

仮面ライダーブレイド キングフォームLV2(3)BP13000

 

 

ジャックフォームが眩い光に包まれて行く。彼はその中で姿形を変え、新たな姿へと昇華する。

 

そしてそれは巨大な剣を引き抜き、地上へと還元する。その名は仮面ライダーブレイド キングフォーム。黄金で、かつ、最強のブレイドだ。

 

 

「ぶわっはっはぁ!!!……煌臨時効果ぁっ!!トラッシュにある四道カードを5枚、俺の手元へぇ!!!」

手元追加カード↓

【仮面ライダーレンゲル[2]】

【仮面ライダーレンゲル[2]】

【仮面ライダーカリス】

【仮面ライダーギャレン】

【仮面ライダーレンゲル】

 

 

トラッシュにある5枚のカード達が踊るようにキングフォームの剣の中へと吸い込まれて行く。それはキングフォームの効果を使うためのエネルギーとなる。

 

そして、忘れてはならない。これは全て司のターンに起こった出来事。今現在はホークモンのアタック中なのだ。

 

剣総はそのキングフォームでその小さなスピリットのアタックを妨げに行く。

 

 

「そのチンケな鳥野郎のアタックは、このキングフォームがブロックしてやんよ〜〜!!」

 

 

両手に剣を握りしめ、ホークモンに襲いかかってくるキングフォーム。ホークモンは辛うじて避けるが、このままでは破壊されるのも時間の問題だ。

 

だが、司とてこのバトルは負けられない。手札のカード1枚を抜き取って、この場を凌ぐ最善のカードを使用する。

 

 

「フラッシュ!!俺は手札のホルスモンの【アーマー進化】発揮!!対象はホークモン!!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ3⇨4

 

「っ!!………またそれか!!」

 

「またこれだっ!!羽ばたく愛情、ホルスモンを召喚っ!!」

ホルスモンLV1(1)BP4000

 

 

ホークモンの頭上から独特な形をした卵型の何かが投下される。ホークモンはキングフォームの攻撃から逃げながらも、それと衝突し、混ざり合い、進化する。

 

新たに現れたのは赤き獣型のアーマー体スピリット、ホルスモン。飛翔能力の備わっているこのスピリットが、風に運ばれるかのようにゆっくりと司の場に現れた。

 

 

「【アーマー進化】の効果により、バトルは中止だ」

「……ちっ!!往生際の悪い………!!」

 

「さらにホルスモンの召喚時効果で、お前のBOARDを1枚破壊し、ドローするっ!!」

手札6⇨7

 

 

ホルスモンは登場するなり、剣総の背後にあるBOARD1つを鋭い眼光で睨みつける。すると、その1つは地面にゆっくりと沈んでいった。

 

未だに2枚のBOARDは残っているものの、追加のドロー効果もあって、この効果は有意義なものであったことだろう。

 

ここまで来て、ようやく一手、この剣総を若干ながら驚愕させたかもしれない。

 

【チェンジ】の効果と違って、【アーマー進化】はバトルを続行させない。つまり、バトル中のスピリットから【アーマー進化】した場合、バトルは続行されず、破壊もされない。

 

ーそしてなりより、この【アーマー進化】の効果によって召喚されたホルスモンは、新たな召喚扱いであるため、当然回復状態。追撃が可能だ。

 

 

「やれっ!!ホルスモンっ!!」

 

 

ホルスモンが司の指示を聞くなり、上空へと飛翔して行く。そしてそのまま竜巻のように身体を回転させ、一本の槍を彷彿とさせる技で剣総のライフへと飛び行く。

 

 

「旋風の………テンペストウィング!!!」

 

「………ライフで受ける」

ライフ2⇨1

 

 

キングフォームもさっきの無駄足となったバトルのせいで疲労状態。流石に受けるしかなかったか、剣総はそのホルスモンのアタックをライフで受けた。

 

旋風の槍と化したホルスモンは通り過ぎるようにそのライフを1つ貫いてみせた。

 

剣総のライフはいよいよ後1つだ。

 

 

「………ターンエンド……」

ホルスモンLV1(1)BP4000

 

朱に染まる薔薇園LV1

 

バースト【無】

 

 

ー惜しかった。

 

後一歩というところまでライフを削ったものの、全て破壊できなければなんの意味もない。おまけに、次の剣総のターン。強力なアタック時効果を所有するキングフォームで攻めに来るのは言うまでもなく目に見えていることであって…………

 

 

[ターン07]剣総

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨9

トラッシュ4⇨0

仮面ライダーブレイド キングフォーム(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップっ!!もう加減はしねぇぞクソガキ共っ!!俺は手札にあるブレイブカード、醒剣ブレイラウザーを召喚し、キングフォームと合体させるっ!!」

手札3⇨2

リザーブ9⇨7

トラッシュ0⇨2

 

 

仮面ライダーブレイドが所持する剣。醒剣ブレイラウザー。それが上空から降り注がれ、この地に降り立った。そしてそれをキングフォームが手に取り、二刀流となる。

 

そして、キングフォームの強力なアタック時効果からか、これ以上の展開は無意味と考えた剣総はここからアタックステップへと移行する。

 

ー破壊しに行くのは当然4つある司と雅治のライフだ。

 

 

「アタックステップゥっ!!やれぇっ!!キングフォーム!!!」

 

 

二本の剣を握りしめ、地を駆けるキングフォーム。目指すはもちろん司と雅治のライフ。

 

そして、剣総は眼前に存在する司と雅治のスピリット、サブマリモンとホルスモンを邪魔だと言わんばかりにキングフォームのアタック時効果を発揮させて行く。

 

 

「醒剣ブレイラウザーの効果でホルスモンのBPをマイナス5000!!キングフォームのフラッシュ効果発揮!!手元にある四道カード、仮面ライダーレンゲルを破棄し、回復!!」

仮面ライダーブレイド キングフォーム+醒剣ブレイラウザー(疲労⇨回復)

 

 

剣総の手元のカードの5枚のうち、1枚が破棄される。それはキングフォームの剣へと吸い込まれ、彼に力を与える。

 

ーそして回復だけではない。

 

 

「さらにさらにぃ!!お前らのスピリット1体をBPマイナス13000!!くたばれぇ!!サブマリモンっ!!」

 

「「………!!」」

サブマリモンBP4000⇨0(破壊)

ホルスモンBP4000⇨0(破壊)

 

 

キングフォームの2本の剣による眩い光の飛ぶ斬撃が、司と雅治のホルスモンとサブマリモンを襲う。だが、抵抗する間も無く、一瞬にして2体同時に引き裂かれ、爆発した。

 

それだけではない。キングフォームは回復したのだ。このターン、2度目のアタックの権限を得ている。おまけに合体によりダブルシンボルであるため、奪うライフは2つ。

 

 

「まだだっ!!フラッシュマジック!!シンフォニックバースト!!」

手札7⇨6

リザーブ2⇨0

トラッシュ4⇨6

 

「………っ!?」

 

「アタックはライフで受けてやるっ!!」

 

 

雅治の有無も聞かず、咄嗟に動き出した司。だが、これは雅治とて待ち望んでいたこと、これでこのターンを防ぐことができる。

 

ー問題なのはライフダメージの方であるが………

 

 

「………ぐ、ぐわぁっ!!」

「ぐっ!!!」

ライフ4⇨2

 

 

キングフォームの二刀流の剣の一撃が、司と雅治のライフを破壊した。スピリットがスピリットということもあってか、そのダメージ量は最初に受けたダメージとは比にならない。骨が砕けそうだ。

 

しかし、2人はそれでも必死にその痛みに耐え、その先にある勝利を信じて、シンフォニックバーストの効果を発揮させる。

 

 

「シンフォニックバーストの効果っ!!俺達のライフが2以下になったことにより、このターンのアタックステップを終了させるっ!!」

 

「………ちいっ!!しゃらくせぇ!!」

 

 

弾け飛ぶ閃光。それが剣総の場にいるキングフォームの動きをまとわりつくように封じ込めた。

 

これにより、剣総はこのターンのアタックを続行不可にされてしまう。

 

 

「…………ターンエンドだ」

仮面ライダーブレイド キングフォーム+醒剣ブレイラウザーLV2(3)BP19000(回復)

 

BOARD LV1

BOARD LV1

 

〈手元〉

仮面ライダーレンゲル[2]

仮面ライダーレンゲル[2]

仮面ライダーギャレン

仮面ライダーカリス

 

バースト【無】

 

 

決めたかったターンに決められなかったことからか、その表情がやや険悪になる剣総。しかし、流石に仕方なかったか、そのままそのターンをエンドとした。

 

次は雅治のターン。司が繋いでくれたこのチャンスは無駄にはできない。全力であと1つの剣総のライフを奪いに行く。

 

 

[ターン08]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨11

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップっ!!アルマジモンを召喚っ!!効果でカードをオープン!!」

手札6⇨5

リザーブ11⇨8

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【サンクチュアリバインド】×

【サンクチュアリバインド】×

【サンクチュアリバインド】×

 

 

雅治が早速呼び出したのは、サブマリモンの【アーマー進化】の効果によって手札へと帰還していたアルマジモン。

 

だが、その効果は失敗。対象内となるカードはどこにもなく、破棄される。が、その追加効果はそれらが成功の有無を問わず発揮でき………

 

 

「追加効果で2コストを支払い、アンキロモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨2

トラッシュ2⇨4

アンキロモンLV3(4)BP6000

 

 

恐竜のアンキロサウルスのような見た目の黄の成熟期スピリット、アンキロモン。これがアルマジモンの追加効果で新たに召喚された。

 

ー雅治は準備は整ったと言わんばかりにアタックステップへ移行する。

 

 

「アタックステップっ!!アンキロモンでアタック!!……そして、アタック時効果【超進化:黄】で、僕のエースを召喚するっ!!」

 

 

アンキロモンがデジタルのベルトに巻かれ、その中で大きく形を変えて行く。その姿はまさしく、土偶。その異端な姿はとてもではないが強そうには見えない。

 

だが、そんな見た目でも、そのスピリットは雅治のエーススピリット、これまで何度も、幾度となく救ってきてくれた。紛うことなき自分のエースなのだ。

 

ーそしてその名が叫ばれる。

 

 

「シャッコウモンをLV3で召喚っ!!」

シャッコウモンLV3(4)BP13000

 

 

白い翼の生えた土偶、シャッコウモンが雅治の場に現れた。

 

 

「な、なんだ!?この妙なスピリットは……!?」

 

 

剣総はシャッコウモンの見た目に、思わず驚き、口を開いた。確かに異様な姿の多いデジタルスピリットたちの中でもこのシャッコウモンは異端中の異端であると言える。

 

雅治はそんな中、剣総に聞く耳など持たず、シャッコウモンの召喚時効果を発揮させて行く。

 

 

「シャッコウモンの召喚時効果っ!!相手スピリット全てのBPをマイナス5000!!」

 

「………っ!!」

仮面ライダーブレイド キングフォーム+醒剣ブレイラウザーBP19000⇨14000

 

 

シャッコウモンは登場するなり、どこを見ているのか定かではない眼孔から、赤い光を照射する。その光に、キングフォームは吹き飛ばされ、BPを削がれてしまった。

 

ーだが、

 

 

「はん!!全くもって意味がねぇなぁ!!」

 

 

その通りだ。キングフォームのBPはそれでもまだ大きく、シャッコウモンを上回っている。

 

しかし、雅治の狙いはそんなところではなく………

 

 

「アタックステップは続行っ!!シャッコウモンでアタック!!……シャッコウモンのアタック時効果!!LV2、3の相手スピリット1体を手札に戻す!!」

「………っ!?なにっ!?」

「僕が戻すのは当然キングフォームっ!!」

 

「………っ!?」

手札2⇨4

 

 

シャッコウモンの掌から放たれる淡い光を纏った球は、瞬く間にキングフォームへと命中。キングフォームはその謎の力により、この場から消滅し、剣総の手札へと戻されてしまった。

 

ただ、合体中であった醒剣ブレイラウザーは地に突き刺さり、場に居座った。

 

 

「これで終わりだぁ!!」

 

 

今現在、雅治の場にはアタック中のシャッコウモンを含め、アルマジモンと2体。ブレイラウザーでブロックされることを考えても、剣総のたった1つのライフを破壊できる算段だ。

 

ーだが、流石にまだまだ余裕はあるか、剣総は手札にある1枚のカードで雅治の場を薙ぎ払う。

 

 

「馬鹿めっ!!フラッシュ【チェンジ】!!仮面ライダーブレイド ジャックフォームの効果発揮!!アルマジモンのBPをマイナス10000し、破壊するっ!!」

手札4⇨3

リザーブ11⇨9

トラッシュ2⇨4

 

「………っ!!」

アルマジモンBP2000⇨0(破壊)

 

 

煌臨元となっていて、先のシャッコウモンの力により、キングフォームと一緒に手札に戻って来ていたジャックフォームの効果がここで適応される。

 

稲光とともに放たれる落雷が、アルマジモンを襲い、爆発させた。

 

 

「どうだっ!!これでこのターンでは決められまいっ!!」

 

 

誇らしげな表情といやらしい目つきをしながら雅治にそう言う剣総。

 

ーだが、雅治も負けじと睨み返し、手札のカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック!!舞華ドロー2枚!!」

手札4⇨3⇨2

リザーブ2⇨1⇨0

トラッシュ4⇨5⇨6

 

「………!!」

 

「この効果で相手のスピリット1体のBPをマイナス3000!!2枚分でマイナス6000!!僕は醒剣ブレイラウザーのBPをマイナスし、破壊!!」

手札2⇨3

 

「………くぅっ!!」

醒剣ブレイラウザーBP4000⇨1000⇨0(破壊)

 

 

2枚のカードが剣、ブレイラウザーの剣脊に突き刺さる。その中に黄色の力が溢れ出し、ブレイラウザーは破裂するように爆発した。

 

これで再びブロッカーはゼロだが、剣総もまだまだ尽きてはいない。

 

 

「温いわぁっ!!!フラッシュ【チェンジ】!!手元のレンゲル[2]の効果を再び発揮!!トラッシュにある仮面ライダーブレイド[2]を召喚し、その召喚時で手札にあるキングフォームを手元に置き、カードをドロー!!」

リザーブ10⇨3

トラッシュ4⇨6

仮面ライダーブレイド[2]LV3(4)BP7000

手札3⇨2⇨3

手元追加カード↓

【仮面ライダーブレイド キングフォーム】

 

「「………!!」」

 

 

再び黒い靄が現れ、その中から仮面ライダーブレイド[2]が出現した。そして次なるはその【チェンジ】の効果発揮後だ。

 

 

「レンゲル[2]の効果でさらにこのブレイド[2]と入れ替えるっ!!」

手札3⇨4

仮面ライダーレンゲル[2]LV3(4)BP9000

 

 

ブレイド[2]が粒子となり、その姿形を返還させて行く。そして新たに現れるのは仮面ライダーレンゲル[2]。剣総がこれまで幾度となく使用して来た【チェンジ】効果の状態である。

 

二本のツノと紫がかったボディは2人に少なくないプレッシャーを与える。

 

ーが、しかし、その姿を見るのもここまで、剣総はすぐさまこのスピリットのグレードをアップさせる。

 

 

「さらに煌臨っ!!!手元からレンゲル[2]を対象にキングフォームを煌臨させるっ!!」

仮面ライダーレンゲル[2](4s⇨3)

トラッシュ6⇨7s

 

「「………っ!?」」

 

 

ーここまで来て、

 

ーまだそれを呼び出すと言うのか………

 

ー何という執着と執念、

 

ーその拘りにはもはや狂気に近いものまでも感じ取れる。

 

レンゲル[2]が光輝き、その姿形を変換させる。そして、新たに現れるのは、もちろんブレイドの最終進化系体、キングフォーム。

 

再びそれが司達の前に姿を現した。

 

 

「俺のキングフォームは不滅だ、お前らみたいな強いカードだけでブイブイ合わせてる奴らなんかじゃあ…………突破なんてできるものかぁ!!!」

仮面ライダーブレイド キングフォームLV2(3)BP15000

 

 

そして当然、このキングフォームは回復状態。ブロックが可能だ。

 

 

「やれぇっ!!キングフォーム!!そのデカ物を抹殺しろっ!!」

 

 

キングフォームは迫ってくるシャッコウモンを、手に持つ剣で一刀両断。シャッコウモンは流石に耐えられずに大爆発してしまった。

 

 

「シャッコウモンっ!?」

 

 

雅治の声も、その爆風の虚しさに拍車をかけるだけ、

 

ー雅治では勝てない。

 

ーしかし、この男なら………

 

赤羽司なら………この後を継ぎ、必ず奴を倒せる。

 

そう信じて彼は司に望みを託す。

 

 

「………ターンエンド……司っ!!後は任せたよっ!!」

バースト【無】

 

「………言われるまでもねぇっ!!」

 

 

雅治は剣総に多くのカードやコアを消費させたものの、勝つには至らなかった。

 

次は赤羽司のターン。一気に決着をつけるべくターンシークエンスを進めて行く。

 

 

[ターン09]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨10

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ…………朱に染まる薔薇園のLVを2に上げ、ホークモンを召喚っ!!効果でカードをオープン!!」

手札7⇨6

リザーブ10⇨9⇨7

トラッシュ0⇨1

オープンカード↓

【イエローリカバー】×

【天魔神】×

【ホークモン】×

 

 

司も雅治同様、【アーマー進化】によって手札へと帰還していたホークモンを再度召喚する。その召喚時のサーチ効果は失敗に終わるものの、司も大事なのはその後だ。

 

 

「追加効果で2コストを支払い、テイルモンを召喚するっ!!」

手札6⇨5

リザーブ7⇨2

トラッシュ1⇨3

テイルモンLV3(3)BP5000

 

 

今一度ネズミ型の成熟期スピリットであるテイルモンが司の場へと現れた。

 

 

「アタックステップっ!!テイルモンでアタック!!効果でカードをオープン!!」

オープンカード↓

【リボルドロー】×

手札5⇨6

 

 

走り出すテイルモン。その効果でカードが捲られるが、失敗。手札には加わるものの、ライフ回復までには至らなかった。

 

だが、これもホークモンと同様、その後が肝心。

 

 

「もう1つの効果っ!!【超進化:黄】を発揮!!テイルモンをシルフィーモンに進化させるっ!!」

リザーブ2⇨1

シルフィーモンLV3(4)BP12000

 

「………!!」

 

 

テイルモンが光を纏い、姿形を変換させる。新たに現れたのは雄々しく、それでいて猛々しい白き獣人型スピリット、シルフィーモン。

 

赤羽司のエーススピリットだ。

 

 

「………また妙な完全体を………」

 

 

剣総はシャッコウモンとシルフィーモンと言ったカード達の事は知らなかった。【銃魔】に聞いていなかったこともあるが、基本的にそれらはオーバーエヴォリューションによって覚醒したカード達であるため、認知のしようがなく、仕方ないとこも多少ある。

 

それでもシルフィーモンを知らないという事は、少なくとも去年の【界放リーグ】の試合中継を観ていないということでもある。

 

もし、本当にそうなのであれば、【芽座椎名】を狙う理由が見当たらない。

 

ー司はその一瞬でそう解釈するものの、考えても無駄と見たか、このバトルを終わらせて彼本人から聞くことに思考をシフトさせて行く。

 

 

「シルフィーモンの召喚時!!お前のBP15000以下のスピリット1体を破壊するっ!!砕け散れっ!!キングフォームっ!!」

「………っ!?」

「………トップガン!!」

 

 

シルフィーモンの掌から放たれる凝縮されたエネルギー弾が、剣総のキングフォームを一瞬にして消し炭にした。

 

後は簡単な事だ。ガラ空きとなった場にアタックするだけ…………

 

 

「終わりだっ!!シルフィーモンでアタック!!」

 

 

トドメと言わんばかりにシルフィーモンにアタックの指示を送る司。シルフィーモンもそれを聞くなり、上空へと飛び立ち、滑空するように剣総のライフを狙いに行く。

 

ーだが、まだだった。まだ倒れる事はなく………

 

 

「フラッシュ!!2枚目のレンゲル[2]!!」

リザーブ6⇨3

トラッシュ7s⇨10s

 

「………!!」

 

「俺様はこの効果でトラッシュにある仮面ライダーブレイド キングフォームを再び召喚するっ!!!甦れっ!!」

リザーブ3⇨0

仮面ライダーブレイド キングフォームLV2(3)BP15000

 

 

いったい何度甦れば気がすむのか、キングフォームが再び黒い靄の中からゆっくりと姿を現した。

 

これだけならまだ大丈夫ではあった。シルフィーモンのアタックが防がれたとしても、司の場にはまだホークモンがいるからだ。ホークモンで最後のライフを破壊できる。

 

ーしかし、剣総はそれさえも許さない。

 

 

「フラッシュマジック!!ライトニングスマッシュ!!」

手札3⇨2

仮面ライダーブレイド キングフォーム(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ10s⇨12s

 

「………!!」

「この効果でお前達のスピリット全てをBPマイナス6000!!」

 

「………っ!?」

ホークモンBP2000⇨0(破壊)

シルフィーモンBP12000⇨6000

 

 

キングフォームがシルフィーモン同様、滑空するようにキックをお見舞いする。その果てしない雷の力は、シルフィーモンを地に叩きつけ、ホークモンを破壊した。

 

これにより体数押しでの勝利は不可能。場に残ったシルフィーモンでどうにかするしかない。

 

ーと言っても、シルフィーモンのBP6000に対し、キングフォームはLV1でもBP13000。到底勝てるものではない。

 

ーだが、司にはそれさえをも覆す一手があった。

 

ーこのターンが始まる時から見据えていた。手元にあるカードを使われるなど、前のターンで学習済みだ。

 

ー司はその逆転の一手を繰り出す。

 

 

「フラッシュ!!俺はトラッシュからホウオウモンの煌臨を発揮!!対象はシルフィーモン!!」

シルフィーモン(4s⇨3)

トラッシュ3⇨4s

 

「………何いっ!?トラッシュから煌臨だとっ!?」

 

 

手元から【チェンジ】や煌臨を行なっていた剣総でさえもその効果を聞いて驚愕した。トラッシュとは基本的に捨て札。そこからの煌臨など聞いたこともない。

 

ーそして、その唯一の効果であると言えるそのスピリットがシルフィーモンから進化し、現れる。

 

 

「天空の王よ!!今こそその超炎で地上の全てを焼き払えっ!!究極進化ぁぁ!!!」

 

 

司の叫びと共に、シルフィーモンの周りから巨大な火柱が吹き上がる。シルフィーモンはその中に取り込まれ、姿形を大きく変えて行く。その姿はまさしく鳳凰と呼ぶに相応しいと言える。

 

 

「………ホウオウモンっ!!!」

ホウオウモンLV2(3)BP6000

 

 

そしてその火柱を弾け飛ばし、現れたのは金色の身体を持つ巨大で、尚且つ優雅な鳥型の究極体スピリット、ホウオウモンだ。その圧倒的な存在感と威圧感はキングフォームと同格のものを持っている。

 

 

「………ほ、ホウオウモン……!?」

 

 

その雄々しく、美しい姿に加え、それが放つ異彩なプレッシャーに剣総は思わずたじろいだ。

 

ーやばい。こればかりはやばいと本能で感じ取っているのだ。

 

その予想はほぼ的中している。司はホウオウモンの効果を使用し、バトルを終わらせるべく、この展開をさらに大きく揺れ動かす。

 

 

「ホウオウモンの煌臨時効果っ!!煌臨元となったシルフィーモンを手札に戻すことで、BP10000以上のスピリット1体を破壊するっ!!」

手札6⇨7

 

「…………っ!?」

 

 

ホウオウモンの力はいかに強力で凶悪なスピリットであっても、焼き払ってしまう効果。

 

 

「俺はこの効果でキングフォームを焼き払うっ!!…………金色の超炎………シャイニングエクスプロージョン!!!!」

 

 

大いなる4枚の翼から、金色に光輝く炎を溜め、そして一気に放出させるホウオウモン。キングフォームはそれをまともに受け、一瞬にして溶解してしまう。

 

ーこれで再び、いや、ようやくと言ったところか、ようやく剣総のライフを守るスピリットは消えた。

 

ー今度こそ、

 

ー終わる。

 

 

「「いけっ!!ホウオウモンっ!!」」

 

 

司と雅治が声を合わせてホウオウモンに指示を送る。羽ばたくホウオウモン。さらに上空へと飛び立ち、再び金色の超炎を、今度は剣総のライフへと注ぐ。

 

ーそして…………

 

 

「………ぐ、ぐあぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

ホウオウモンの超高温の金色の炎が地面をも焼きつくす勢いで剣総に襲いかかった。

 

そして剣総の叫びとともに、その場は大爆発を起こした。

 

 

「はぁっ、……はぁっ…………どうだ、この……チート野郎!!!」

「使えるコアはたった1つしか残ってなかったんだ………もう終わり…………」

 

 

巻き上がる砂埃や爆煙。2人は息を切らしながらも確かに勝ちを確信していた。剣総の使えるコアはただ1つ。それだけでホウオウモンの強力なアタックを防げるとは思えない。

 

ーしかし、その予想は大きく外れることとなる。

 

爆煙と砂埃が晴れようとする頃、やけに鼻に付くような、そして自分達を嘲笑うかのような嘲笑が聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

「くっくっく……………ぶわっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ー2人は背中が騒ついた。

 

ー信じられるものか、あの状態で防げるはずなどない。しかし、その理由と共に、剣総の生き残った姿が2人に視認される。ライフは確かに1つ残っていた。

 

 

「フラッシュゥゥマジックゥゥ!!!アブソリュートゼロォォォオ!!!!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

 

「「…………!?」」

「この効果でホウオウモンのシンボルを消したんだよぉ〜!!残念でしたぁっ!!!ぶわっはっはっはっは!!!!」

 

 

黄色のマジック、アブソリュートゼロ。剣総はスピリットのシンボルを消し去るこの効果を咄嗟に使っていた。ホウオウモンのシンボルはゼロとなり、ライフを減らすことはできなかったのだ。

 

 

「………そ、そんな………」

 

 

雅治は頭の血の気が下がるのを感じた。

 

あんなに攻めて、攻めて、攻め抜いたにもかかわらず、司の渾身の一手までもを凌いで来るなどと信じられるものか………

 

本当に、彼は何者なのだろうか。ブレイド達仮面スピリットからはとてもではないが人間が持っていい力とは思えない。

 

 

「さぁ、お前らはターンエンド…………俺の至福の時だ………っ!!!」

 

 

タイミングの都合もあって、司はこれ以上の行動はできない。半ば強制的に剣総のターンとなる。

 

彼はゆっくりとターンシークエンスを進めて行き…………

 

 

「メインステップゥゥっ!!俺は手札から2体のブレイドと手元にあるカリス、ギャレンを連続召喚っ!!」

 

 

仕上げだ。剣総はこれでもかと言わんばかりにスピリットを展開する。【チェンジ】の効果によって手札に戻っていた2体のブレイドと、クワガタのような頭部を持つ仮面スピリット、ギャレン、そしてカミキリムシのような頭部のカリスだ。

 

 

「………終わりだぁ!!死に去らせぇ!!!」

 

 

4体の仮面スピリットが一斉に走り出す。2人の残り2つのライフを破壊するためだ。

 

ー最早2人になすすべはない。ただ、その4撃を受けるだけ…………

 

 

「「ぐっ、ぐわぁっっっ!!!!」」

ライフ2⇨0

 

 

4体のスピリットが、その手に持つ剣で司と雅治のライフを引き裂いた。

 

ー果てしない苦痛と衝撃が2人を襲う。

 

 

「………し、椎名は………ぼ、僕が……ま、も………」

 

 

横に倒れながら、必死に起き上がろうとする雅治。だが、言葉の途中で力尽き、とうとう倒れてしまう。本当に死んではいない。プルート同様、気を失っただけ、だが、危ない状態になったのは確かな事であって………

 

 

「………はぁっ、はぁっ………」

 

 

呼吸が乱れる。痛い、しんどい、苦しい。司は辛うじて意識はあるもの、既に満身創痍。再び立ち上がることはほぼ不可能である。

 

 

「ほお?あんだけダメージを負いながらまだ意識があるか………だが、無理だな、右手右足の骨、そして何より背骨近辺の筋が切れてるみたいだ、立ち上がれまい……」

「………はぁっ、はぁっ、……」

 

 

悔しいがその通りだ。司は立ち上がりたくても立ち上がれない。

 

 

「ふっふっふっふ!!!丁度良い!!お前みたいなカードだけのいきり野郎にはまだまだアタックしたりないと思ってたからなぁ!!」

「………!?」

 

 

剣総は司を殺す気だ。完全に。完膚なきまでに………

 

そんな時、司は微かに開いた口から…………

 

 

「はっはっはっ!!カードだけのいきり野郎?………お前が俺に言えたことじゃねぇだろう?」

 

 

息を切らしながらも剣総を小馬鹿にするように煽り、反論した。

 

 

「………あぁん?」

 

 

司のその言葉に腹を立てたか、剣総は初めて何かに苛立ったような表情をする。

 

 

「今なんて言った?………俺がカードだけだとぉぉぉぉぉぉ!!?お前と一緒にするなっ!!!このいきり野郎がぁ!!!」

 

 

剣総が怒りのままに場に残った4体の仮面スピリットにアタックの指示を送ろうとした

 

ーその直後だった。

 

 

「見苦しいなぁ!!このブ男!!」

「………っ!?」

 

 

剣総の動きを制止させるように、誰かの声が聞こえて来た。

 

剣総が声のする背後へと振り返る。

 

ーそこにいたのはオーズ一族の神官の1人、赤髪の少年【マーズ】プルートの逃げろという指示を無視して、彼を助けにここまでやってきたのだ。

 

ーそして、彼が来たということは彼女もここに来たということ………

 

 

「私の友達に…………何してんだぁっっっ!!!!」

 

 

そう、ジャングルが大きな声で震撼するほどまでに叫んだのは芽座椎名。彼女もまた司達を放っておくことができずに、ここに来たのだ。

 

剣総はその椎名の姿を見るなり、さっきまで斜めだった機嫌が急に真っ直ぐになるのを感じた。

 

ー間違いない。【銃魔】が言っていたのはこいつだ。写真に載っていた、ミカンみたいな頭の少女。何が理由かは知らないが、こいつを指し出せれば自分はこの力を、ブレイドの力の保持を確立できる。彼にとってそれ程までに嬉しい事はない。

 

 

「………ミカンみたいな頭の………女ぁ………!!」

 

 

剣総はようやく見つけた本命の獲物に目を輝かせ、喜びの声を上げる。椎名、マーズがこの剣総とバトルするのはそう遠くない未来だ。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【仮面ライダーブレイド キングフォーム】!!」

椎名「ブレイドの王、キングフォーム!!その力は名実共にまさしくキング!!手元にカードがある限りアタックできるよ!!」


******


〈次回予告!!〉


椎名「雅治と司があんなボロボロになるなんて………こんの野郎っ!!行くよマーズ!!私達がぜぇったい!!貴方をぶっ倒す!!次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「敗北のデュークモン」……今、バトスピが進化を超えるっ!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


地味ながら初めて10日以内ギリギリに投稿しました。ブレイドでバトルを考えるの、本当にしんどいです。

多対1ルールに関しては、設定を参照に、



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第59話「敗北のデュークモン」

 

 

 

 

 

 

 

「私の友達に何したんだぁっっっ!!!!」

 

 

椎名が右手の人差し指で剣総を指しながらそう叫んだ。

 

 

「………みかんみたいな頭の女ぁ………!!」

 

 

剣総はその椎名を見て、薄く、それでいて心は深く、何より不気味な笑みを浮かべていた。

 

しかし、そんな彼はいったんほっとき、椎名は司と雅治のもとへ、マーズは父親であるプルートのもとへと足を運んだ。

 

 

「おい!!親父っ!!しっかりしろっ!!」

 

 

マーズが気を失ったプルートに声をかける。が、当然のごとく返事はない。マーズはそれを見て悔しさで歯を噛み締めながらもプルートを広場の端まで運んだ。

 

その様子を見て、剣総は【マーズもここの一族であると認識してしまう】

 

 

「雅治っ!!司っ!!大丈夫っ!?」

「うるせぇ、大丈夫じゃねぇわバカ……」

「誰がバカだ!!」

 

 

あいも変わらず、椎名に悪態を吐く司。だが、それはいつも通りの光景。怪我を除けば司は安心だ。

 

 

「んな事より、雅治の奴を運べ……気を失ってるだけだがな」

「うん!!わかったっ!!」

 

 

椎名は司に言われるがままに雅治の体をプルートと同じ場所まで移動させた。司もなんとか這いつくばりながらもその近辺まで退いた。

 

司は屈辱であっただろう。仮にもあの芽座椎名に仮を作ってしまったことに対してだ。だが、仕方のない事だ。椎名がプルートの一言だけで逃げるような人間でないことは彼とて把握済みだ。右腕と右足の骨が折れ、背骨付近の筋も切れ、立ち上がれない今、椎名のバトルの行く末を見守ることしか出来ない。

 

ーそして椎名とマーズは運び終わると、いったんおいていた剣総と向かい合う。

 

 

「親父達をあんなにしたのはこの毛深ブ男で間違いみたいだな」

「あなた誰?……なんでこんなことするの?」

 

 

マーズがそう呟き、椎名が剣総に問うた。

 

 

「………なんで?……愚問だなぁ、芽座椎名!!………当然っ!!カードだけが強い連中をボコボコにしたかったからに決まってるだろおっ!!!」

 

 

剣総は堪え切れないほどに面白いのか、大声で笑いながらそう叫んだ。

 

そうだ。力を、ブレイドを与えてくれた【Dr.A】。そしてその僕らしき男【銃魔】の依頼でこのオレンジの髪色の少女、【芽座椎名】を捕らえるよう言われたが、

 

そんなものは単なる建前に過ぎないのだ。

 

剣総は学生時代、プレイングや構築の実力は高かったものの、バトスピ一族の持つ、デジタルスピリットや仮面スピリットなどのパワーの高さによりほとんどのバトルに勝利できず、低評価のままそれを卒業している過去を持っている。

 

しかし、結局はどこまでいっても逆恨みであるのは間違いのないことではあるが………

 

 

「ムカつくんだよ………腹立つんだよっ!!対して強くもねぇくせに粋がる野郎がなぁっ!!!」

「だからって他の人を傷つけていい訳ないだろっ!!!………行くよマーズっ!!」

「おう!!椎名ちゃんっ!!」

 

 

椎名は剣総の言い分に対して反論しながらも、自身のBパッドを展開し、瞬間的にバトルの準備をした。マーズも同様だ。

 

ーそして始まる。再び3人でのバトルだ。

 

 

「「「ゲートオープン、界放!!!」」」

 

 

コールにより、バトルの開始が伝えられる。

 

ーが、さっきの司と雅治とのバトルにより、自分が強すぎる事をより理解してしまった剣総は、またここで椎名とマーズに提案を持ちかける。

 

 

「ハンデをやるよ、俺はライフ5!!手札は4!!リザーブだけは本来のルールに則って8とする!!そして効果はお前達の場にそれぞれ影響を及ぼすことはなく、お前達のライフはそれぞれ5だ!!!」

「「っ!?」」

「あいつまたあんな事を………」

 

 

また大きく出た剣総。今度は司と雅治の時より大きいハンデを椎名とマーズに与える。

 

この場合、椎名とマーズのライフが別々になるため、仮に片方がライフ0になった場合、もう片方が残ることになる。

 

実質、複数人側にライフが10あるようなもの、そして剣総の効果が椎名とマーズの場、両方に影響を及ぼすこともなくなる。

 

対して、剣総はリザーブを除けば普通のバトルとほとんど同じルールからのスタートだ。明らかにハンデが大きすぎる。

 

 

「あいつ、俺らを舐めてんのか?」

「まぁ、ルールはなんでも良いよ」

「その返事は了承したと言う事で良いんだなぁ!!」

 

 

2人がそう言うと、剣総はまたニタニタと不気味に笑いだし、自分のターンシークエンスを進行して行く。

 

ーバトルの始まりだ。

 

 

[ターン01]剣総

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップゥ!!俺はこのスピリット、仮面ライダーブレイドを召喚っ!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨3

 

「……っ!?仮面スピリット!?」

 

 

上空から降り注ぐ巨大なカード、その中から現れるのは仮面ライダーブレイド。剣総の持つ謎の多い仮面スピリットだ。

 

 

「ブレイド?………聞いたことないな」

 

 

マーズがそのブレイドの姿を見てそう呟いた。

 

剣総はそれに答えることなくその召喚時効果を発揮させて行く。

 

 

「召喚時ぃっ!!」

オープンカード↓

【仮面ライダーブレイド[2]】◯

【仮面ライダーワイルドカリス】◯

【仮面ライダーレンゲル[2]】◯

 

 

その召喚時効果でオープンされたカードはどれも対象内。剣総はその中の【仮面ライダーブレイド[2]】のカードを手札へと加え、残りをトラッシュへと破棄した。

 

 

「さらにぃっ!!ネクサスカード、BORADを2枚配置!!ターンエンドっ!!」

手札4⇨5⇨3

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨6

 

仮面ライダーブレイドLV1(1)BP2000(回復)

 

BORAD LV1

BORAD LV1

 

バースト【無】

 

 

異様な気を放つネクサスカード、BORAD。そこに描かれている研究室は必ず何か良からぬ事を研究していると勘ぐってしまうほどに不気味だ。

 

1枚1枚のカードが初めて見るものばかり、戸惑いの表情が隠せない椎名とマーズ、

 

だが、それがどんなに強力だろうとやらなければならない。倒されていった仲間達のために、

 

そう思いながらも、彼らはターンを進めていく。

 

次はマーズのターン。

 

 

[ターン02]マーズ

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!!チョーターを2体召喚し、さらにマジックカード、ストロングドロー!!3枚引き、2枚捨てる」

手札5⇨4⇨3⇨2⇨5⇨3

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨2

破棄カード↓

【アンク】

【ライドベンダー】

 

 

マーズが召喚したのはダチョウとチーターを合わせたようなスピリット、チョーターを2体召喚し、青の鉄板マジック、ストロングドローを使用して、手札の入れ替えを行った。

 

 

「ターンエンドっ!!」

チョーターLV1(1)BP1000(回復)

チョーターLV1(1)BP1000(回復)

 

バースト【無】

 

 

マーズはそれでこのターンをエンドとした。次は椎名のターンだ。

 

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップっ!!ブイモンを召喚っ!!……そして召喚時効果っ!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【ライドラモン】◯

【ギルモン】×

 

 

椎名が早速召喚したのは小さな青き竜、ブイモン。そしてその召喚時効果も成功、椎名はその中の【ライドラモン】のカードを加えた。

 

ーそして、それを発揮させる。

 

 

「さらに!!手札にあるライドラモンの【アーマー進化】を発揮!!対象はブイモン!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

 

「………!!」

 

「1コストを支払い、轟く友情、ライドラモンを召喚っ!!」

ライドラモンLV1(1)BP5000

 

 

ブイモンの頭上からひょうたんのような形をした何かが投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化を遂げる。

 

現れたのは黒いボディの獣型のアーマー体スピリット、ライドラモン。これが雷鳴の如く椎名の場に降り立った。

 

 

「召喚時!!私のトラッシュにコアを2つ追加っ!!」

トラッシュ4⇨6

 

 

登場するなり雄叫びを上げるライドラモン。それに共鳴するかのように、椎名のトラッシュにコアが新たに2つ追加された。

 

 

「………ほお、良い効果だな」

「?………ターンエンド」

ライドラモンLV1(1)BP5000(回復)

 

バースト【無】

 

 

ライドラモンの召喚時効果を見た剣総はそう呟いた。椎名はその意味深な発言に若干不思議に思いながらもそのターンをエンドとした。

 

次は一周回って剣総のターン。ここから【アタックステップが解禁される】。

 

 

[ターン04]剣総

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨8

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップっ!!俺は仮面ライダーブレイド[2]をLV3で召喚っ!!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨3

トラッシュ0⇨1

 

 

剣総が召喚したのは2体目のブレイド。しかし、このブレイドは最初のブレイドとは全く異なる効果を持っており………

 

 

「召喚時効果っ!!手札にある四道スピリットを手元に置くことでカードをドローする!!俺は仮面ライダーワイルドカリスのカードを手元に置くことで1枚ドロー!!」

手札3⇨2⇨3

手元追加カード↓

【仮面ライダーワイルドカリス】

 

 

剣総の手元に仮面スピリットのカードが置かれると共に、デッキのカード1枚が手札へと加えられる。この動きが彼のデッキにとってどれ程のアドバンテージをもたらしているかは計り知れない。

 

 

「さらに最初のブレイドのLVを上げ、アタックステップっ!!最初のブレイドでアタックだ!!」

リザーブ3⇨1

仮面ライダーブレイド(1⇨3)LV1⇨3

 

 

剣総の恐怖のアタックステップが幕を開ける。

 

 

「手始めだっ!!ブレイドの効果でチョーター1体をBPマイナス4000し、破壊っ!!」

 

「っ!?」

チョーターBP1000⇨0(破壊)

 

 

ブレイドの剣先から放たれる一筋の閃光が、マーズの場にいるチョーター2体のうち1体が貫かれる。チョーターはそれに耐えることはできずに破裂するように爆発した。

 

そして、剣総の動きはまだ終わらない。そのまま手札にあるカードを1枚引き抜く。

 

 

「フラッシュ【チェンジ】!!仮面ライダーブレイド ジャックフォームの【チェンジ】の効果を発揮!!対象はアタック中のブレイド!!」

リザーブ3⇨1

トラッシュ1⇨3

 

「「……っ!?」

「この効果で相手スピリット1体のBPをマイナス10000!!……俺はライドラモンのBPをマイナスし、破壊するっ!!」

 

「なにいっ!?……くっ!!ライドラモンっ!!」

ライドラモンBP5000⇨0(破壊)

 

 

次々と上空から降り注ぐ光の矢。これは瞬く間に椎名の場にいるライドラモンを貫き、その力を奪い取った。力を奪い取られたライドラモンは白い灰のような姿と化して空っ風と共に場を流れていった。

 

 

「そしてそしてぇっ!!この効果で破壊したスピリットの効果を俺が適用するぅ!!……トラッシュに2コアを追加ぁぁっ!!」

トラッシュ3⇨5

 

「なっ!?ライドラモンの効果を!?」

 

 

ライドラモンの力を奪い取った光の矢は飛び跳ねるように上空へと戻り、役目を終えたかのように弾け飛ぶ。そしてその落ちてくる光は剣総のトラッシュに影響を与えた。

 

ライドラモンの召喚時効果だ。幾度となく椎名をサポートしてきたこの効果が剣総に利用された。

 

 

「さらに【チェンジ】の追加効果で回復状態で対象のスピリットと入れ替えるっ!!来いっ!!ジャクフォーム!!」

仮面ライダーブレイド ジャクフォームLV2(3)BP6000

 

 

剣総の場にいる最初のブレイドが変化する。体の所々変化し、6枚の羽が新たに生える。そのスピリットの名は仮面ライダーブレイド ジャックフォーム、椎名のライドラモンの効果を奪い去った張本人でもある。

 

 

「アタックの対象は芽座椎名っ!!お前だっ!!」

「っ!!ライフで受けるっ!」

 

 

ライフがそれぞれ5つ持っていて別れているため、剣総はいずれかを選んでアタックすることとなる。今回は椎名だ。

 

いつものようにそのアタック宣言を受け入れ、ライフで受けるが…………

 

 

「ぐっ、………ぐぁぁぁっ!!!」

ライフ5⇨4

 

「っ!?椎名ちゃん!?」

「めざしっ!!」

 

 

ジャックフォームの手に持つ剣の一撃が、椎名のライフ1つを切り裂く。そしてそれと同時に発揮される謎めいたバトルダメージ。そのあまりの大きさに、椎名は思わず膝をついた。

 

 

「な、何これ………いった〜〜〜」

「そうか、これで親父達をあんなにしたのか………」

 

 

その様子を見て、マーズは全てを悟った。この多大なバトルダメージこそ、プルートが、父親が自分達に逃げろと言った理由であると、

 

 

「ぶわっはっはっは!!!どうだっ!!そして次はお前だぞっ!!腐れ一族ぅ!!」

「っ!!!」

 

「ジャックフォームとブレイド[2]でアタックっ!!この瞬間!!ブレイド[2]の効果発揮!!手元にある四道スピリットのアタック時効果1つをコピーし、使用するっ!!」

「はぁ!?」

 

 

2番目のブレイドとジャックフォームが地を駆ける。目指すはマーズのライフ。そしてこのタイミングで発揮される2番目のブレイドの効果。

 

ー現在、剣総の手元にある四道スピリットカードは………仮面ライダーワイルドカリスだ。

 

そのカードが発光し、そのエネルギーは2番目のブレイドの剣に集約される。

 

 

「俺はこの効果で手元のワイルドカリスの効果を発揮!!ターンに一度、俺のライフを1つ回復するっ!!」

ライフ5⇨6

 

 

ワイルドカリスの力を得た2番目のブレイドは、剣から聖なる光を解き放ち、剣総のライフを1つ回復させる。

 

 

「なんだその効果は………聞いたことねぇぞ」

「アタックは継続中ぅ!!」

 

「くっ!!ライフだっ!!…………ぐぁぁぁっ!」

ライフ5⇨3

 

 

2番目のブレイドとジャックフォームの剣の一撃が、今度はマーズのライフを一気に2つ引き裂いた。

 

マーズもそのバトルダメージをこの身で味わった。ただ単純に痛い。脳に刺激が走るような痛みを感じ取っていた。

 

 

「はっはっは!!ターンエンドっ!!」

仮面ライダーブレイド[2]LV3(4)BP7000(疲労)

仮面ライダーブレイド ジャックフォームLV2(3)BP6000(疲労)

 

BORAD LV1

BORAD LV1

 

〈手元〉

仮面ライダーワイルドカリス

 

バースト【無】

 

 

剣総は最早勝ちを確信したかのような高笑いをしながらこのターンをエンドとする。

 

次はマーズのターン。反撃なるか。

 

 

[ターン05]マーズ

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨7

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップっ!!俺は仮面ライダーオーズ タトバコンボ[2]を LV2だ召喚っ!!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨3

トラッシュ0⇨2

 

 

“タカ!!トラ!!バッタ!!”

“タ・ト・バ!!タトバタ・ト・バ!!”

 

 

オーズ一族の誰もが所持する仮面ライダーオーズのベースカード、タトバコンボが妙な歌と共にマーズの場へと推参する。

 

 

「召喚時!!カードをオープンっ!!」

オープンカード↓

【ストロングドロー】×

【セルメダル】×

 

 

だが、その召喚時効果は失敗に終わる。彼の手札的にもこのターンにタジャドルへの【チェンジ】も不可。

 

しかし、攻めあぐねても行けない。マーズはここは勇猛果敢に攻めに転ずる。

 

 

「バーストを伏せ、チョーターの LVを3にアップ!!」

手札3⇨2

リザーブ3⇨0

チョーター(1⇨4) LV1⇨3

 

 

マーズの場にバーストが伏せられると同時に、チョーターの LVが上がり、一瞬青く輝いた。

 

 

「アタックステップっ!!行って来いっ!!チョーター!!タトバっ!!」

 

 

走り出すチョーターとタトバコンボ。目指すは剣総のライフ。前のターンでフルアタックを行ってしまった彼の場は、今や全てのスピリットが疲労状態。何もなければライフで受ける他なかて………

 

 

「貰うぜっ!!ライフだ!!」

ライフ6⇨5⇨4

 

 

チョーターの体当たり、オーズの虎のような鉤爪の一撃が剣総のライフを一気に2つ破壊した。

 

だが、バトルダメージを痛がる椎名達とは裏腹に、剣総はライフダメージを受けても尚涼しく余裕のある表情を浮かべている。

 

単純に彼にはバトルダメージが入らないのだ。

 

 

「…………ターンエンドだ……任せたよ椎名ちゃん……後終わったらデートしよう」

仮面ライダーオーズ タトバコンボ LV2(2)BP5000(疲労)

チョーター LV3(4)BP4000(疲労)

 

バースト【有】

 

「任せてっ!!でもデートは嫌かなっ!!」

 

 

こんな状況でもモテ欲を忘れないマーズ。ターン終了の間際に椎名をデートに誘う。

 

椎名はそれを断りながらも真剣に目の前のバトルに集中して行く。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨9

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップっ!!私はブイモンを再召喚っ!!そしてカードをオープンっ!!」

手札6⇨5

リザーブ9⇨5

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【ディーアーク】×

【マリンエンジェモン】×

 

 

椎名は早速前のターンでライドラモンの【アーマー進化】の効果によって手札に戻っていたブイモンを召喚する。

 

だが、その召喚時効果は失敗。どれも該当するカードではないのでトラッシュへと破棄されて行く。

 

しかし、椎名にとって重要なのはこの効果を使用することであって………

 

 

「ブイモンの召喚時の追加効果っ!!2コスト払い、緑の成熟期スピリット、スティングモンを召喚っ!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ3⇨5

スティングモンLV2(3⇨4)

 

 

足音もなくブイモンの横に現れたのは緑のスマートな昆虫戦士、スティングモン。その効果でさりげなく椎名のコアが増えて行く。

 

 

「アタックステップっ!!スティングモンでアタックっ!!コアを増やし、アタック時効果っ!!【超進化:緑】を発揮!!」

スティングモン(4⇨5)LV2⇨3

 

「…………っ!?」

 

 

スティングモンのアタック時効果。それは成熟期のスピリットならば誰もが所有している効果。

 

そしてこのデッキにおいては、椎名のエースを爆誕させる重要な効果である。

 

 

「………スティングモンを進化させ、志向の竜戦士!!パイルドラモンを召喚っ!!」

パイルドラモンLV3(5)BP13000

 

 

スティングモンがデジタルのコードに巻き付けられ、その中で姿形を大きく変えて行く。

 

そしてそれが弾け飛び、中から新たに現れたのは、背中にそれぞれ2枚ずつ生えている青と白の翼に加え、腰に備え付けられた二本の機関銃。赤い兜を被った志向の竜戦士、パイルドラモンだ。

 

 

「ほお、これがパイルドラモン……お前のオーバーエヴォリューションによって現れたカードか……!!」

「そうだっ!!私のエースの1体だっ!!」

「………っ!?」

 

 

剣総はパイルドラモンを見て、また不気味な笑みを浮かべる。その言い草はまるで椎名のパイルドラモンを知っているかのよう………

 

この違和感に気づいたのは司だ。剣総は自分達の持つカードを知らなかった。なのになぜ芽座椎名のカードを詳しく知っているのだ。と、

 

椎名をさらう為に研究して来たと言えばそれまでの話ではあるが、司は何か引っかかるものを感じていた。

 

 

「パイルドラモンの召喚時効果っ!!コスト7以下のスピリット1体を破壊するっ!!」

「………!!」

「私はこの効果でブレイド…………ジャックフォームを破壊するっ!!……デスペラードブラスタァァァァア!!」

 

 

登場するなり、パイルドラモンは腰にある機関銃を持ち上げ、それをジャックフォームに向けて乱射。ジャックフォームの羽と装甲を粉々に粉砕し、爆発させた。

 

 

「アタックステップは継続っ!!行けっ!!パイルドラモンっ!!アタック時効果でボイドからコア2つをパイルドラモンに追加し、ターンに一度だけ回復するっ!!」

「………ほお」

 

「……エレメンタルチャージ!!!」

パイルドラモン(5⇨7)(疲労⇨回復)

 

 

パイルドラモンでアタックを続行する椎名。その効果で鮮やかな色を持つエレメントの力をその身に宿し、パイルドラモンはこのターン、2度目のアタックの権限を得た。

 

 

「そいつはライフで受けるかぁ!!」

ライフ4⇨3

 

 

パイルドラモンの拳は剣総のライフを1つ玉砕した。

 

ーそしてもう一発。

 

 

「二撃目だぁぁ!!パイルドラモンっ!!」

パイルドラモン(7⇨9)

 

「それもライフゥゥ!!」

ライフ3⇨2

 

 

パイルドラモンは今度は反対の拳で剣総のライフを殴り壊した。

 

 

「よしっ!!ターンエンドっ!!」

パイルドラモンLV3(9)BP13000(疲労)

ブイモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

パイルドラモンの勢いを殺さずに、椎名はそのターンをエンドとした。椎名達にとってはいい流れでバトルは進行していると言える。

 

次はまた一周して、剣総のターン。追い込まれている側だと言うのに妙に飄々とターンシークエンスを進行して行く。

 

 

[ターン07]剣総

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ8⇨9

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ9⇨14

トラッシュ5⇨0

仮面ライダーブレイド[2](疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ………俺はブレイブカード、醒剣ブレイラウザーをブレイド[2]に直接合体ぃぃい!!」

手札4⇨3

リザーブ14⇨12

トラッシュ0⇨2

仮面ライダーブレイド[2]+醒剣ブレイラウザーLV2(3)BP10000

 

 

上空から投下される醒剣ブレイラウザー。2番目のブレイドはそれを華麗にキャッチし、二刀流の合体スピリットとなる。

 

 

「さらにマジック!!双翼乱舞!!カードを2枚ドロー!!」

手札3⇨2⇨4

リザーブ12⇨8

トラッシュ2⇨6

 

 

剣総は汎用性の高い赤のドローマジック、双翼乱舞を使用し、その手札を若干ながらに回復してみせる。

 

そして、その引いた2枚を見て、また不気味な笑みを浮かべ……………

 

 

「バーストをセットしてアタックステップっ!!ブレイド[2]で合体アタック!!」

手札4⇨3

 

 

剣総の場にバーストが伏せられると同時に地を駆ける2番目のブレイド、その手には二本の剣が携えられている。

 

 

「ブレイド[2]の効果でワイルドカリスをパクってライフを回復し、ブレイラウザーの効果でチョーターのBPをマイナス5000して破壊っ!!」

ライフ2⇨3

 

「………っ!!」

チョーターBP4000⇨0(破壊)

 

 

2番目のブレイドは再び剣総の手元にあるワイルドカリスの効果を発揮させ、ライフを回復。それと同時に飛ぶ斬撃を放ってマーズの場にいるチョーターを一刀両断した。

 

ーそして、剣総はこのタイミングで呼び出す。プルートや司、雅治に深手を負わした、最強のブレイドを………

 

 

「フラッシュ!!煌臨を発揮!!対象はブレイド[2]!!」

リザーブ8s⇨7

トラッシュ6⇨7s

 

「「………っ!?」」

「………奴だ………」

 

 

この最中、剣総とバトルしていた司だけが理解した。間違いなく剣総はあのスピリットを呼び出すのだろうと………

 

ー2番目のブレイドは立ち止まり、黄金色に輝いて行く。

 

 

「王の力を束ねて現れよぉお!……仮面ライダーブレイド キングフォームゥゥ!!!」

手札3⇨2

仮面ライダーブレイド キングフォーム+醒剣ブレイラウザーLV2(3)BP17000

 

 

そしてその黄金の輝きを弾くように解き放って姿を見せたのは、最強のブレイド、キングフォーム………

 

 

「………な、なんだ、こいつ……今までの奴らと何かが違う…………!!」

 

「煌臨時効果!!手札かトラッシュにある四道カードを5枚まで俺様の手元にぃぃ!!」

手元追加カード↓

【仮面ライダーレンゲル[2]】

【仮面ライダーワイルドカリス】

【仮面ライダーブレイド ジャックフォーム】

 

 

その効果で、剣総はトラッシュにある2枚の四道カードを自身の手元へと置いた。これで、現在、剣総の手元のカードの総数は計4枚。その4枚がキングフォームの力となる。

 

 

「キングフォームのアタック時効果っ!!手元にあるカード1枚を破棄し、回復っ!!………俺様はワイルドカリスを1枚破棄するっ!!」

仮面ライダーブレイド キングフォーム+醒剣ブレイラウザー(疲労⇨回復)

 

 

キングフォームの剣にワイルドカリスのカードが投入される。キングフォームは光を一瞬纏い、疲労状態から回復状態となる。

 

そして、それだけではなく…………

 

 

「さらにさらにぃぃっ!!!相手のスピリット1体をBP13000マイナスし、ゼロになれば破壊するっ!!」

「「………!?」」

「消し飛べぇぇぇっ!!パイルドラモンっっ!!」

 

「……くっ!?パイルドラモンっっ!!?」

パイルドラモンBP13000⇨0(破壊)

 

 

キングフォームの飛ぶ斬撃が椎名の場にいるパイルドラモンを引き裂いた。パイルドラモンはそれに耐えられずに力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「っ!!……パイルドラモンが一撃で………」

「これがキングフォームの力よぉ!!!アタックは継続!!先ずはお前からだ!!雑魚一族の末裔!!」

「………!!」

 

 

アタックが継続中のキングフォームで剣総が狙うのは、彼が忌み嫌うバトスピ一族であるマーズのライフ。

 

キングフォームは狙いをマーズに定め、二本の剣で彼に襲いかかる。マーズの場のスピリットは疲労しているタトバコンボのみ、ブロックは不可だ。このダブルシンボルのアタックを受けなければならない。

 

 

「ライフで受けてやるっ!!…………ぐっ、ぐぁぁぁっ!!!」

ライフ3⇨1

 

「……っ!!……マーズっ!!」

 

 

キングフォームの二刀流の一撃が、マーズのライフを一気に2つ切り裂いた。果てしないほどに大きいバトルダメージが彼を襲う。

 

マーズはその痛みに死に物狂いで耐えながらも、自身の伏せていたバーストを発動させる。

 

 

「はぁ、はぁっ…………大丈夫よ、椎名ちゃん………俺のライフ減少により、バースト発動!!アルティメットウォール!!!」

「……!?」

「この効果で、このターン、お前はこれ以上のアタックができないっ!!」

 

 

マーズのバーストが反転すると同時に発生する猛吹雪。それは無理矢理キングフォームを剣総の場へと押し返し、その動きを封じ込めた。

 

これで、少なくともこのターン、剣総は追撃することは不可となった。

 

 

「ちぃっ!!まぁ、良い、ターンエンドだ」

仮面ライダーブレイド キングフォーム+醒剣ブレイラウザーLV2(3)BP19000(回復)

 

BORAD LV1

BORAD LV1

 

〈手元〉

仮面ライダーワイルドカリス

仮面ライダーブレイド ジャックフォーム

仮面ライダーレンゲル[2]

 

バースト【有】

 

 

不満を抱き、剣総は舌打ちしながらも、このターンをエンドとした。次はもう既に満身創痍のマーズ。ここから魅せることはできるのか…………

 

 

[ターン08]マーズ

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ6⇨7

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ7⇨9

トラッシュ2⇨0

仮面ライダーオーズ タトバコンボ(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ…………俺は仮面ライダーオーズ タジャドルコンボの【チェンジ】の効果を発揮!!対象はタトバ!!」

リザーブ9⇨7

トラッシュ0⇨2

 

「………!?」

「来る……マーズのエース……」

 

 

ようやく本調子になったマーズが発揮させた【チェンジ】の効果。それはオーズ神官だけが所有できるオーズの特別なコンボ。

 

 

「この効果により、トラッシュからアンクをタトバに直接合体するように召喚っ!!」

リザーブ7⇨5

トラッシュ2⇨4

仮面ライダーオーズ タトバコンボ+アンク LV2(2)BP8000

 

 

大量の赤い羽根がひらひらと宙を舞う。その中から現れたのは右手だけの赤い怪物、アンク。オーズのサポートカードの一種だ。

 

それがタトバコンボの右手に憑依して行く。

 

ーそして次は【チェンジ】の入れ替えだ。

 

 

「タトバをタジャドルにチェンジ!!来い!!雄々しく、そして美しい翼を持つ伝説の仮面よ!!」

仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ+アンク LV1(2)BP8000

 

 

“タカ!!クジャク!!コンドル!!”

“タ〜〜〜ジャ〜〜〜ドルゥゥ〜〜!!”

 

 

タトバコンボが自身のベルトのメダルを入れ替え、改めてスキャンする。その瞬間、音楽が聞こえて来ると同時にタトバコンボは炎に包まれ、姿形を変えて行く。

 

そしてその炎を弾き飛ばしながら場に現れたのは赤きオーズ、オーズ神官の中でもマーズのみが使用を許されたオーズの統一コンボ、名をタジャドル。

 

 

「………だからなんだ?……強いカードの自慢か?」

 

「自慢だったらこれからたっぷりしてやるぜ!!アタックステップっ!!行け!!タジャドル!!アンクの効果でそのLVを最大にするっ!!」

仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ+アンク LV1⇨3 BP15000

 

 

赤き翼を広げ、飛び立つタジャドル。アンクの力でその LVとBPが急上昇する。

 

さらに、タジャドルにはもう1つ効果が備わっており…………

 

 

「タジャドルのアタック時効果!!相手スピリット1体を指定アタックし、回復っ!!」

「………!!」

 

「俺はキングフォームを指定!!勝負だっ!!」

仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ+アンク(疲労⇨回復)

 

 

地上に存在するキングフォームに向けて急降下するタジャドルコンボ。そのままキングフォームの二本の剣と自身の炎の拳を衝突させ、取っ組み合いになる。

 

ーだが、

 

 

「馬鹿め!!キングフォームのBPは19000!!!血迷ったか!!!」

 

 

そうだ。キングフォームの方がタジャドルよりも圧倒的にきにBPが高い。このままでは間違いなくタジャドルコンボは競り負け、キングフォームに破壊されることだろう。

 

しかし、当然マーズも無作為に自滅特攻などするわけもなく…………

 

 

「甘いぜブ男!!俺はフラッシュマジック!!秘剣燕返しを使用!!」

手札2⇨1

リザーブ5⇨3

トラッシュ4⇨6

 

「………!?」

「この効果で醒剣ブレイラウザーを破壊っ!!」

 

 

青い斬撃が唐突にキングフォームの横から放たれる。キングフォームと合体している醒剣ブレイラウザーがこれと衝突し、破壊された。

 

これでBPは五分五分。だが、マーズのバトルは甘くはない。特にその相手がブ男なら………

 

 

「さらにフラッシュマジック!!セルメダル!!」

手札1⇨0

 

「………なに!?」

 

「この効果により、タジャドルのBPを2000アップ!!これでキングフォームを超えたっ!!」

仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ+アンクBP15000⇨17000

 

 

キングフォームと競り合っているタジャドルコンボの背後から銀色のメダルが投入される。その力を受け、タジャドルコンボはさらにそのBPを上昇させ、とうとうキングフォームを超える。

 

 

「行けっ!!タジャドルっ!!!」

 

 

 

 

 

 

ーだが、

 

 

 

 

 

 

ーだが、

 

 

 

 

 

 

 

ーだが、当然キングフォームは、剣総がこの程度のコンボで倒されるわけもなくて…………

 

マーズを嘲笑うかのように、彼は手元から1枚のカードの効果を発揮させる。

 

 

「はい、残念でした〜〜〜!!……フラッシュ【チェンジ】、手元から仮面ライダーブレイド ジャックフォームの効果を発揮!!タジャドルのBPをマイナス10000する!!」

リザーブ7⇨5

トラッシュ7s⇨9s

 

「なにっ!?手元から【チェンジ】だとっ!?」

「!?」

 

 

剣総のバトルを見てもいなかった椎名とマーズは知らなかった。剣総の配置しているネクサスカードBORADの効果で、本来なら発揮できない手元からの【チェンジ】と煌臨を可能としているということに。

 

そして、それは理不尽にもこの場で再び発揮される。

 

 

「……タジャドルっ!!!」

仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ+アンクBP17000⇨7000

 

 

上空から降り注ぐ光の矢。これらは瞬く間にタジャドルの背中や翼に突き刺さり、その力を奪い去る。

 

そして、

 

 

「キングフォームの勝ちぃぃ!!」

 

 

一気にパワーダウンしてしまったタジャドルを見逃すことなく、キングフォームはタジャドルを吹き飛ばし、剣の斬撃をこれでもかと言わんばかりに飛ばす。

 

タジャドルコンボはそれに切り刻まれ、大爆発を起こした。その最中で合体していたアンクが爆煙と共に飛び出して行く。

 

 

「ぶわっはっはっはっは!!!残念だったなぁ!!クソ一族野郎!!!」

 

「くっ………ターンエンド……すまない椎名ちゃん、後は任せた………」

アンク LV1(2)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

「…………任せて………」

 

 

手札を完全に無くしてしまったマーズは悔しみながらも次のターンの椎名に望みを託しながら、そのターンをエンドとした。

 

次は椎名のターン。

 

 

[ターン09]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ9⇨10

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ10⇨15

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップっ!!メガログラウモンを召喚っ!!」

手札5⇨4

リザーブ15⇨2

トラッシュ0⇨7

 

「…………出たな……真紅の魔竜………!!」

 

 

地響きと共に椎名の場に現れたのは真紅の魔竜。その完全体の姿、メガログラウモン。巨大な体躯に加え、上部に武装が施されているのが印象的。

 

そして椎名はメガログラウモンを起点に、そのまま呼び出す…………自身が所有する最強のエーススピリットを…………

 

 

「煌臨発揮!!対象はメガログラウモンッ!!」

リザーブ2s⇨1

トラッシュ7⇨8s

 

「…………!!」

「真紅の魔竜よ!!今こそ真紅の聖騎士となりて敵を貫けっ!!………究極進化ぁぁ!!」

 

 

メガログラウモンが赤い光に包まれ、その中で姿形を大きく変えて行く。

 

ーそして現れるわ真紅の聖騎士………

 

 

「真紅のロイヤルナイツッ!!デュークモン!!」

手札4⇨3

デュークモン LV3(6)BP18000

 

「………こいつが………デュークモンか………意外とちんまいのな」

 

 

白い鎧、槍、盾を構えるのは、真紅のマントを靡かせる伝説のロイヤルナイツの1体、デュークモン。

 

これまで幾度となく椎名を救ってきた正に無敵の最強エーススピリットと言うに相応しいだろう。

 

ーそして、今回も救済となるか…………

 

 

「一気に決めるっ!!アタックステップッ!!デュークモンでアタック!!」

 

 

アタックステップに移行し、デュークモンにアタックの指示を送る椎名。そしてこの瞬間、デュークモンのアタック時効果の1つが即座に発揮される。

 

ーそれは並大抵のスピリットならばいとも容易く薙ぎ倒してしまう程の強烈な一撃。

 

 

「デュークモンのアタック時効果っ!!シンボル2つ以下のスピリット1体を破壊っ!!」

「………!!」

「私はこの効果でキングフォームを破壊するっ!!………聖槍の一撃……ロイヤルセェェエバァァァア!!!」

 

 

その右手の槍を構えるデュークモン。その切っ尖から凝縮されたエネルギー弾を発射する。キングフォームはそれに腹部を貫かれ、力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「よしっ!!キングフォームを倒したっ!!」

 

 

ーそして、デュークモンにはもう1つアタック時効果が存在する。それはフラッシュタイミングで行える強効果。

 

 

「デュークモンの効果っ!!トラッシュにある滅竜スピリットを回収することで回復するっ!!」

「………!!」

「私はギルモンを回収し、デュークモンを回復させるっ!!……ネクスト・イストリアッ!!」

 

 

デュークモンの効果。ネクスト・イストリアはトラッシュにあるスピリットを手札に回収しつつ、回復する効果を持つ。

 

ー今回もそれが成立し、2度目の攻撃の権限を得られる……………はずだったのだ………

 

 

「………あれ?……デュークモンが回復しない?…………ネクスト・イストリアッ!!…………ネクスト・イストリアッ!!……………えぇ!?どうなってんの!?」

 

 

いつもなら赤い光を一瞬纏い、回復するはずだ。しかし、何故か手札に戻らないギルモン。そして回復しないデュークモン。いくら椎名が技名を宣言してもそれが発揮される気配は一切感じられない。

 

ーそれは、咄嗟のフラッシュタイミングで使用した、剣総の1枚のカードによる影響であって…………

 

 

「おいおい!!俺の場をよく見てみな〜〜」

「………!!」

 

「俺はお前より早いタイミングで、フラッシュ【チェンジ】、仮面ライダーワイルドカリスの効果を手元から使用していたんだよ〜〜〜〜!!」

リザーブ8⇨5

トラッシュ9s⇨11s

 

 

椎名とマーズは周りをよく見て見た。するとそこには黄色で張り巡らされた不思議な空間。これはワイルドカリスが形成した独自のフィールド、これは1ターンのみ形成されるものだが、その間は強力な効果を発揮できる代物。

 

 

「ワイルドカリスの効果ぁ!!このターン、お前らのスピリット効果は一切の発揮は許されないっ!!」

「「!?」」

 

 

デュークモンのネクスト・イストリアの効果が使用できない理由がこれだ。この黄色いフィールドがデュークモンの効果を打ち消していたのだ。

 

 

「よってぇぇ!!デュークモンは回復しないぃぃい!!!」

「………くっ!!」

 

 

このターン、デュークモンとブイモンで計3回のアタックを決め、剣総の全てのライフを破壊する予定だった椎名にとって、このワイルドカリスの効果は予想外極まりないものであった。

 

しかし、デュークモンのアタック自体が無効になったわけではない。真紅のマントを靡かせ、地を駆けるデュークモン。目指すは当然、剣総のライフ。

 

 

「そのアタックは受けてやんよ〜〜〜っ!!」

ライフ3⇨2

 

 

デュークモンの鋭利な槍の一撃が、剣総のライフを1つ貫いた。だが、剣総はこれを待っていた。何よりも待ち望んでいた。

 

ーこれで、自分の【本当のエーススピリット】が召喚できる条件が満たされた…………

 

ーそのカードが、バーストカードが…………勢いよく反転する…………その気配はその時点で最早普通のバーストカードを逸脱しており…………

 

 

「………おめでとう芽座椎名……!!」

「………っ!?」

「お前は俺を初めて本気にさせたぁぁぁぁぁぁあ!!ライフ減少により、バースト発動!!!!」

 

 

気が狂ったかのようにそれの発動を宣言する剣総。そして先ずは手始めと言わんばかりにそのバースト効果が発揮される。

 

 

「バースト効果ぁぁあ!!!俺の減ったライフの数だけ、相手のスピリットのコア1つをボイドに送るぅぅう!!!…………消え去れぇぇ!!ブイモンっ!!」

 

「………っ!?ブイモンっ!?」

ブイモン(1⇨0)消滅

 

 

紫の靄が椎名の場に存在するブイモンを襲う。ブイモンはそれに飲み込まれたまま、再び姿を見せることはなく、消滅してしまった。

 

ーそして、次はバースト効果を持つカードらしく、召喚だ……………

 

 

「最強の切り札よぉぉお!!全てのバトスピ一族をこの世から消し去ってしまえぇぇ!!……召喚っ!!【ジョーカー】!!!」

リザーブ6⇨4

ジョーカーLV2(2)BP12000

 

 

禍々しいドス黒い球体が、剣総の場に降り立つ。それは地面に触れると共に広がっていき、ゆっくりと消滅して行く、ただ、その中のスピリット1体を除いては………

 

緑色の目を持つ黒いスピリット、最早それは仮面スピリットとは言えない………文字通り切り札となる、剣総の本当のエーススピリット、名をジョーカー………

 

 

「………じょ、ジョーカー………だと!?」

「こ、ここまで来てまだこんな奴を召喚するなんて…………」

「あの野郎………まだあんな化け物を………」

 

 

マーズ、椎名、司の順でそう言葉を漏らした。

 

ジョーカー………今までのスピリット達とはわけが違う。そのオーラが少なくともここにいるデュークモンをも遥かに凌ぐと訴えてきているかのようだ。

 

 

「さぁ!!どうするっ!!!芽座椎名ぁぁぁぁあ!!!」

 

「くっ!!………ターンエンドだ」

デュークモンLV3(6)BP18000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

最早何も出来ず、椎名はそのまま剣総の場にジョーカーという大きな存在を残し、そのターンをエンドとしてしまう。

 

次はジョーカーを召喚した剣総のターン。その力を遺憾なく発揮させる。

 

 

[ターン10]剣総

《スタートステップ》

《コアステップ》4⇨5

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨16

トラッシュ11⇨0

 

 

「メインステップゥゥ!!!ブレイドを再召喚っ!!」

手札3⇨2

リザーブ16⇨11

トラッシュ0⇨2

 

 

剣総は【チェンジ】の効果で手札へと戻ってきていたブレイドを再召喚する。

 

 

「そしてぇぇぇ!!ジョーカーをLV3にアップゥゥウ!!」

リザーブ11⇨0

ジョーカー(2⇨13)LV2⇨3 BP12000⇨26000

 

 

ジョーカーにコアが与えられ、その力をより上昇させる。ジョーカーはそれを証明するかのような奇声をこの場に轟かした。

 

ーそして始まる。恐怖のアタックステップが………

 

 

「アタァックステップゥゥウ!!!ジョーカー!!!!やれぇ!!」

 

 

剣総の指示を受け、アタックの体勢に入るジョーカー。

 

手始めと言わんばかりに、その右手をデュークモンに向け………

 

 

「ジョーカーのアタック時効果ぁぁぁぁぁぁ!!疲労状態のスピリットを破壊して、その効果を得るっ!!!」

「なぁ!?」

「俺様はこの効果でデュークモンを破壊しぃぃい!!ロイヤルセーバーの効果を得るぅぅう!!!!………吸っちまいなぁ!!!ジョーカァァア!!!そいつの全てをぉぉお!!」

 

 

その右手からデュークモンの力をどんどん吸収して行くジョーカー。デュークモンはそれを受け、徐々に徐々にと色が褪せて行く。力を奪われている証拠だ。

 

やがて、デュークモンはジョーカーに全てを吸い取られ、肉体が灰と化し、微弱な風と共にこの場から消え去ってしまった。

 

 

「………でゅ、デュークモン………!!」

 

 

椎名はそんな悲しい声を零してしまう。デュークモンはこれまで椎名の様々なバトルで活躍し彼女を勝利へと導いて来た。

 

その最も頼りになる後ろ姿はもういない………このバトルを諦めたわけではないが、軽く絶望していた。ここからどうやって勝てばいい………どうやってあれを倒せば良い。そう思考を過ぎらせていたのだ。

 

 

「そして!!デュークモンのアタック時効果、ロイヤルセーバーを発揮させるっ!!シンボル2つ以下のスピリット1体を破壊っ!!………今度はお前だぁ!!ゴミ一族!!……アンクを破壊っ!!」

 

「………ぐうっ!!」

 

 

デュークモンの力を奪い取ったジョーカーは右手からロイヤルセーバーを放つ。マーズの場に生き残っていたアンクがそれに貫かれ、破壊されてしまう。

 

 

「そしてこれで終わりだよなぁ!!ゴミ一族の末裔野郎!!!」

「!?」

「ジョーカーで一族の末裔にアタックぅぅう!!!」

 

 

マーズに狙いを定め、走り出すジョーカー………

 

マーズの場にカードはなく、手札もない。極めつけはライフ残り1。打つ手がない。

 

ーこのアタックはどう転がろうと受けるしか他ない。

 

マーズは負けを悟り、椎名の方を振り向くと、

 

 

「椎名ちゃん!!」

「!!」

「君ならできるっ!!きっと勝てるっ!!」

「…………マーズ……」

「死に去らせぇぇ!!」

 

 

ジョーカーが右腕から鎌を発現させる。完全にマーズのライフを切り刻むためだ。

 

ーそして…………それをマーズのライフへと振り下ろした…………

 

 

「だから、だから諦めるなぁぁぁ!!…………う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

ライフ1⇨0

 

「……っ!!……マァァァズゥゥッ!!!!」

 

 

ジョーカーは無慈悲に、それでいてなんの躊躇いも躊躇もなく、マーズの最後のライフを引き裂いた。

 

これでマーズのライフはゼロ。このバトルは強制的にリタイアとなる。

 

 

「マーズ!!……マーズッ!!」

 

 

何度もマーズの名を叫ぶ椎名。

 

あまりのバトルダメージの大きさに、その場でBパッドとデッキごと倒れてしまい、動かないマーズ。もちろん死んでなどいない。プルートと雅治同様、気を失っているのだ。

 

 

「あ〜〜あ、本当にこれで終わっちまったよ〜〜………少しくらいは抵抗したらどうだよ、このカードだけのゴミ一族が………」

 

 

力尽き、倒れたマーズを憐れむような目で見つめる剣総。「ゴミ一族」と銘打って悪態をついてくる。

 

いくら………

 

いくらなんでも許されることではない。

 

いくら自分が昔バトスピ一族に弄ばれ、カードの力の差を思い知らされたとはいえ………他の………関係のない者達をここまで追い込むのは、どう考えても歪んでいるし、許されることではない。

 

ーそして、剣総の悪行はまだ続く………

 

 

「やっぱ………お前らみたいなクズは………この俺に葬られるべきだよなぁぁあ!!!」

「………っ!?」

 

 

剣総の場にはまだ回復状態、つまりまだアタックが可能なブレイドが残っている…………

 

剣総はまだアタックを続けるつもりだ。それも最早ライフが尽きた…………マーズに………

 

椎名も不思議とそれを悟り、感じ取った。

 

 

「………アタックだ………ブレイド………アタック対象は…………あのクズ一族!!!」

「やめろぉぉぉぉお!!!!!」

「あの野郎っ!!」

 

 

剣総の指示を受け、剣を強く握りしめ、地を駆けるブレイド………目指すはマーズ………あの状態であのバトルダメージを受けて仕舞えばひとたまりもないに違いない。

 

 

「さぁ!!死ねぇ!!ゴミ一族!!クズ一族!!!お前らはこの世に存在してはならないんだよぉぉお!!!!!」

 

 

椎名と司の叫びも虚しく、走るのを一切やめないブレイド。そしてその剣の切っ先をマーズへと向け、今にも振り下ろそうとする。

 

 

「なんで…………こんなことするんだよ…………同じ人間なのに………っ!!………なんでっ!!!」

 

 

椎名はその剣総のイカレ、狂った様子に、心から怒りの感情が込み上げてくるのが感じた。それはどうしようもなく、かつ、途方も無い苦しい感情であった…………

 

普通の、ごく普通の人間ならば、この時、その怒りが込み上げてくるだけで終わりだ。この状況はどうしようもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーだが、椎名だけは違った……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!!」

 

 

 

この時、この瞬間、刹那…………椎名の中で何かがはち切れ、理性が吹き飛んだ…………………………

 

何か、身体の中にあるとんでもない何かが解き放たれたような、そんな感覚。

 

やがてそれは彼女の全身の血液を隈なく走り回り……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー今…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー椎名が………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー進化を超える……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゥゥゥ……………………ガァァァァァァァァア!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 

その突如として放たれた獣のような雄叫びはブレイドの攻撃を止めるには十分すぎるものだった。その手はピタリと止まり、目の前の【何かの】恐怖のあまり、剣総の場へと後ろジャンプで後退り、元に戻る。

 

司と剣総はその咆哮の音が聞こえた方へと振り向いた………………

 

 

「………め、めざし?………」

 

 

司が半信半疑のような疑いのある声をかけた。それもそのはず、あまりの変貌ぶりに、そこにいた人物は本当に芽座椎名なのかと疑わずにはいられなかった。目の前のことが受け入れられなかった。

 

しかし、それは確かに椎名本人だ。だが、明らかにいつもの様子とは違う。顎前まで牙が生え、澄んだ青色だった瞳は真紅の色に変わり、赤黒いオーラをその身に纏っている…………………

 

そして何より…………【アホ毛だった部分が硬質化し、外骨格を形成していた】……………

 

ーその外見はまるで【一本の大きな角】

 

 

「………な、なんなんだ!?……なんなんだぁ!?お前のその姿はぁ!!!………はっ!!?!」

 

 

剣総はその変わり果てた椎名の姿を見て……………

 

1つだけ思い出した。それはここに来る少し前、【銃魔】が口にしていた言葉だ……………

 

ーそれは………

 

 

ー『………【鬼】には気をつけろよ……』

 

 

彼は確かにあの時、そう言っていた。

 

 

ー【鬼】

 

それは誰もが知る日本の列記とした空想上の怪物………

 

椎名の今の姿はまさしくそれに該当すると言っても過言ではなかった……………

 

今、剣総は少しだけ、【Dr.A】が何故この少女にここまで拘るのかわかった気がした。

 

 

 

 

「ガァァァァァァァァアァァア!!!!!!!!!!」

 

「ま、まさか、お前が………【鬼】……なのか……!?」

 

 

 

理性が吹き飛んだ椎名が咆哮を上げる。ただそれだけでジャングルの木々がざわめき、地が震撼する。

 

 

ーこれは、

 

ーこの現象は、これからの椎名達のストーリーに大きな影響を及ぼすこととなる。

 

ーまた、それが、このストーリーの鍵を握ることになる………………

 

 

ーその名は…………【鬼化】

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【ジョーカー】!!」

椎名「ジョーカーはバーストを持つスピリット!!コアをボイドに置く効果と、アタック時に、相手のスピリットの効果を奪う効果を発揮するよっ!!」


******


ー次回、バトルスピリッツオーバーエヴォリューションズ、「鬼化、地獄の魔竜メギドラモン!!」……今、椎名が進化を超える………


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

銃魔の【鬼】の台詞については第54話の最後で発言していますので、参考程度に………


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第60話「鬼化、地獄の魔竜メギドラモン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿は………古来日本の伝承より伝わりし、怪物、【鬼】

 

長い一角が生え、牙があり、何より瞳が真紅の色に輝いている。その身に纏う赤黒いオーラはまるでこの世界の理をまるごと憎んでいるかのようにも見える。

 

だが、その正体は芽座椎名。元は人間なのだ。

 

 

「……グルルゥ…………ッガァァァァァァァァア!!!!!!!!」

「なんなんだ………なんなんだお前はぁぁあ!!?!」

「……あ、あれがめざし……なのか…っ!?」

 

 

理性と知性が無くなり、獣のような雄叫びを上げる椎名。剣総はこの場に来て、初めて恐怖というものを覚えていた。

 

ーそんな中、暴走した椎名は徐にターンを進めて行き、

 

 

「………」

 

 

[ターン11]椎名【鬼化】

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ7⇨8

 

 

「ガァァァァァァァァア!!!!」

 

 

ドローステップ時までシークエンスを進めた時だった。また妙な現象が起きる。

 

椎名のデッキが真紅の色に輝き、それが燃え上がるように噴き上がったのだ。

 

ただ、この現象自体なんなのかは、この場にいる司も、剣総も…………おそらくこの世界中の人々は皆、知っている。

 

だが、【それを椎名が行なっている】という点が大きな問題であって…………

 

 

「お、オーバーエヴォリューション………だとぉ!?」

「めざしは既にパイルドラモンのカードを創生しているはずだ…………2度目の……オーバーエヴォリューション!?」

 

 

【オーバーエヴォリューション】

 

地域によっては【超越進化】とも呼ばれている。

 

この世界では決して珍しくはないと言えないが、誰にでも起こり得る摩訶不思議な現象。

 

バトル中にカードを創生するというその摩訶不思議な現象は、これまで幾度となく、椎名や仲間達の窮地を救い出してきた。

 

だが、何度も名言されているが、その現象は、いかに強くて、素晴らしい素質のバトラーであっても、【一度きりしか起きない】

 

既にパイルドラモンというカードを創生している椎名に再びオーバーエヴォリューションなど本来ならできるわけない。不可能なのだ。

 

ーしかし、今のこの状況が物語っている。

 

椎名はこの鬼のような状態で、人生【2度目のオーバーエヴォリューション】を引き起こしたのだ。

 

 

「ガァァァァァァァァア!!!」

手札3⇨4

 

 

椎名は叫びながら、その光輝くデッキからカードを引き抜いた。それは、そのドローカードはやはり、さっきまで椎名のデッキの中には存在していなかったカード。

 

デッキへ新たに差し込まれたオーバーエヴォリューションのカード。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ8⇨16

トラッシュ8⇨0

 

 

「ガァァァァァァァァア!!!!」

手札4⇨3⇨2

リザーブ16⇨8

トラッシュ0⇨4

 

 

メインステップへと移行した椎名は勢いよくバーストカードを伏せると共に、誰もいなかった場へ、真紅の魔竜の1体、成熟期のグラウモンを召喚した。

 

椎名のこの状態に影響してか、グラウモンは瞳孔が開き、理性と知性を失ったかのように強く咆哮を上げた。その様子はまるで、何か別のものと共鳴しているかのよう………

 

 

「ガァァァァァァァァア!!!!」

 

 

椎名はアタックステップに入ったのか、雄叫びと共にグラウモンが走り出す。狙うは………剣総のライフだ。

 

 

「………んだよ、何も創生されてねぇんじゃねぇぇか!!!」

 

 

剣総もそう、叫び返した。事前に、【銃魔】から椎名のデッキのスピリット達はある程度聞かされていたため、このグラウモンの事を当然知っていた。オーバーエヴォリューションのカードなら、知らないカードが来るはず………

 

ーつまりははったり………確かにそう思ってもおかしくはない状況だった。

 

 

「ガァァァァァァァァア!!!」

 

 

椎名の雄叫びと共に、グラウモンが口内から螺旋状に渦巻く炎をブレイドへと放つ。ブレイドはそれに燃やし尽くされ、消え去ってしまう。

 

グラウモンのアタック時効果だ。BP7000以下のスピリット1体が破壊できる。これで剣総の場に残ったのは切り札である【ジョーカー】だけ………

 

 

「………この俺を一瞬でもビビらせた事を後悔させてやるっ!!……フラッシュ!!俺は手元にある仮面ライダーレンゲル[2]の効果を発揮!!トラッシュにある仮面ライダーブレイドを再召喚!!」

リザーブ3⇨0

ジョーカー(13⇨10)LV3⇨2

仮面ライダーブレイドLV3(3)BP5000

 

 

怒りに満ち溢れている剣総は、手元にあったレンゲル[2]の効果を発揮させる。その効果により、黒い靄が現れ、その中から、グラウモンによって破壊されたはずのブレイドが再び姿を見せた。

 

 

「召喚時効果ぁ!!!」

オープンカード↓

【仮面ライダーブレイド キングフォーム】◯

【仮面ライダーブレイド[2】◯

【仮面ライダーレンゲル】◯

 

 

ブレイドの召喚時効果だ。カードが捲られる。その中には最強のブレイドであるキングフォームの姿も確認でき………

 

 

「ぶわっはっはっはっは!!!来たぜ来たぜ〜!!俺はこの効果でキングフォームを手札に加えるっ!!これで次のターン、お前の負けは濃厚だぁ!!この化け物めぇぇえ!!!」

手札2⇨3

 

 

キングフォームとジョーカー………この2体が並び立ったのなら、どんなに強力だった事だろうか、攻略が難しくなっていた事だろう…………

 

ーしかし、この時の剣総は思ってもなかっただろうが、

 

ーこのバトルは間もなく終止符を打たれることとなる。

 

ー椎名の………鬼化した椎名のオーバーエヴォリューションによって現れたカードによって………

 

 

「ガァァァァァァァァア!!!」

「………っ!?」

「ば、バースト………ま、まさか……っ!?!」

 

 

椎名はBパッドを勢いよく叩きつけ、その衝撃で、バーストカードを反転させる。

 

そう、椎名の創生したカードとは、剣総のジョーカーと同じく、バーストの効果を持つカード。剣総もたった今それを悟った。

 

ーそして、

 

ーそれが今、発揮される。

 

ーそれはまさしく禁忌の力…………

 

地が揺れ、震撼する。

 

そして思わず耳を覆いかぶせてしまいたくなるほどの咆哮が突然放たれる。それはグラウモンのものではなく、ましてや椎名のものでもない。また別の何か…………

 

 

「………なぁっ!?ブレイドっ!?」

 

 

その咆哮だけで、ブレイドの装甲がひび割れ、砕け散り、身体が吹き飛ばされ、爆発した。これもあのバーストカードの効果なのか…………

 

そして、その咆哮の主は………

 

今、地獄の底から現れる。

 

 

「ガァァァァァァァァア!!!!」

リザーブ8⇨3

メギドラモンLV3(5)BP15000

 

 

マグマのように噴き上がる地底から飛び出してきた1体の紅い竜は、まるで【地獄そのもの】

 

名を【メギドラモン】。このスピリットもまた、真紅の魔竜と呼ぶに相応しい外見をしている。

 

 

「あ、あれもギルモン系の一種………なのか?」

「………な、なんだ、なんだ、………なんなんだよぉぉぉお!!!お前はぁぁあ!!!」

 

 

腰が抜け、悲鳴のような声を上げる剣総。

 

目の前の地獄の魔竜にただただ恐怖し、絶望していた。

 

ーそして、これは、このタイミングはまだグラウモンのアタック中であって…………

 

成熟期の真紅の魔竜が、腕に刃を生やし、剣総のライフへと斬りかかる。

 

 

「くっ、ライフだぁ!!」

 

 

抵抗するすべがなかった剣総は、そのアタックをいつものようにライフで受ける宣言をする。

 

それはバトルスピリッツと言うゲームにおいては当たり前の、世界中の誰もが知るものだ。

 

だが、剣総が受けるそれは、その代償は今までよりも遥かに大きく…………

 

 

「……がっ!!?!………ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

ライフ2⇨1

 

 

グラウモンがそのライフを切り裂くと同時に、剣総に文字通りライフと言う名の命で受けたかのような多大なバトルダメージが発生する。これまではなんともなかったというのに…………

 

椎名のあの状態が影響しているのは間違いないのだが、今の剣総にそんな余裕は無く………

 

 

「ぐっ!!……あ、あぁ!!!……い、痛いぃぃい!!痛いぃぃい!!!!………このクソ餓鬼ぃぃい!!……何しゃがんだぁあ!!!」

 

 

あまりの痛覚で地面に転がり込み、椎名に悪態を吐く剣総。自分も今まで同じような痛みを他人に与えてきたと言うのに、

 

 

「ッガァァァァァァァァア!!!」

 

 

椎名はそんな事に耳を傾けるまでも無く、間髪入れず、メギドラモンにアタックの指示を送った。メギドラモンはその口内に莫大で濃厚な炎を溜め込む。

 

 

「あぁぁあ!!!よくも俺に痛みを与えやがってぇえ!!殺してやるっ!!お前だけはぁ!!!俺の手でぇぇえ!!」

「ガァァァァァァァァア!!!!」

 

 

 

メギドラモンはその莫大な炎を一気に放出。そのあまりの威力と勢いに、地がめくれ上がり、切り札であるジョーカーが一瞬で灰となって消し飛ぶ。

 

ーそして、剣総も…………

 

 

「ぐ、ぐぁぁぁあぁぁぁぁぁぉあ!!!!!」

ライフ1⇨0

 

 

その地獄の業火で最後のライフを焼き尽くされた。

 

これにより、剣総のライフはゼロ。

 

勝者は芽座椎名だ。

 

 

「か、勝ったのか………!?」

 

 

司が信じ難いような声を上げる。それもそうだ。今まで散々トドメを刺そうとして、何度も失敗した剣総との長い長い戦い、疑うのも無理はない。

 

ーだが、今回ばかりは終わった。本当に終わった。芽座椎名が剣総に勝ったのだ。

 

バトルの終了直後、グラウモンとメギドラモンが咆哮を上げながら、この場から消滅して行くが、

 

 

「っ!?【メギドラモン】のカードが消えて行く!?」

 

 

司がそう言った。普通なら、バトルの終わりには場に現れていたスピリットだけが消滅するはずだが、メギドラモンだけは違った。

 

メギドラモンはそのカードごと消滅。まるで何かの証拠を隠滅するかのように、椎名のBパッド、及びデッキから姿を消した。

 

 

「…………っ!!?」

「めざしっ!!」

 

 

勝利した瞬間、椎名は力尽き、そして鎮静化すると共に気を失い、その場に倒れ込んだ。

 

姿は完全に元に戻っている。赤黒いオーラは無くなり、牙は短くなり、目の色も元の青色になる。

 

なにより、頭部の一角が、元のアホ毛に、サラサラの髪に戻った。

 

剣総もまた、力尽き、倒れ、動けない。…………

 

かと思われたが……………

 

 

「ぐ、………ぐぉぉぉぉぉ!!!!!!」

「なっ!?……あいつまだ……」

 

 

立ち上がれるのか?

 

司はそう思った。あれほどのダメージを受けたのだ。ただで済む訳はない。だが、彼は、剣総は立ち上がった。目の前の奴を殺したいその一心で、その執念だけで起き上がって見せた。

 

 

「この…………クソ餓鬼ぃぃい!!!お前だけは、お前だけはぁぁぁぁあ!!!」

「くっ!!」

 

 

完全に余裕が無くなった剣総はまたBパッドでスピリットを召喚し、もはや何もできない椎名にトドメを刺すつもりだ。

 

司が椎名を避難させようとしても、彼の今の状態じゃ、到底運びきれるわけがない。

 

ー万事休すか…………

 

ーだが、そんな時、剣総を制止させるかのように1つの手が、彼の肩に置かれた。

 

 

 

 

 

 

「言ってなかったな………殺してから持ち帰るのは無しだ」

「………っ!?」

「だ、誰だ………!?」

 

 

そこに足音もなく現れた突然現れた新手は銃魔。剣総に椎名を連れて来るよう申し付けた張本人である。片方の手を眼鏡の向きを調整するかのように軽く当てながら、そしてもう片方は、剣総の肩に置く形で現れた。

 

 

「別に名乗るほどの者じゃない」

「おいぃぃい!!銃魔ぁぁぁぁあ!!どけぇ!!その女は俺が殺すっ!!」

「…………むっ、名乗られたか………」

 

 

極力自身の名前は伏せておきたかった銃魔。だが、それは叶わず、余裕が完全になくなった剣総によって暴露されてしまう。

 

 

「落ち着け、貴様の役目は終わった。初めて【鬼化】させただけで十分だ………とっとと帰れ……」

「あぁ!?んだとぉ!?」

 

 

そう言いながら、銃魔はBパッドを使い、人1人が入れる程度の大きさのワームホールを出現させる。

 

司はその様子に驚愕していた。話の次元が違う。科学的にもワームホールなどありえなさすぎる。

 

 

「いいから殺させろぉ!!」

「………よっと………」

「お、おいぃ!!やめろ、やめろぉぉお!!」

 

 

哀れに叫び続ける剣総を銃魔は無理矢理ワームホールに投げ入れ、強制送還させた。あんな体格の男を腕一本で投げ飛ばすとはいったいどんな鍛え方をしているのだろうか。

 

そして、銃魔はいったんそのワームホールを閉じ、気を失った椎名の方へとゆっくりと歩みを寄せる。

 

彼が剣総と同じ目的で来たのは間違いない。つまり、彼の目的は…………【椎名の拉致】だ。

 

 

「おい………」

「………!!」

「銃魔とか言ったな…………その女に何する気だ?」

 

 

言葉で銃魔の歩みを制止させたのは既に満身創痍の司だった。

 

 

「………剣総が言わなかったか?……我々はこの少女、芽座椎名を連れて行かねばならん」

「俺がそれをさせると思ってるのか?………そいつは俺が倒すべき存在だ。お前らなんぞにゃやらんぞ」

「ふんっ!!なら動けるものなら動いてみるがいい」

 

 

最早立ち上がる事すらできない司。実際は強がりである。どちらにせよ、芽座椎名は、自分にとっての最大の好敵手は連れて行かれる。少しでも時間が稼げればどうにかなるかもしれない。そんな考えが彼の頭の中にはあったのだ。

 

ーそして、今なら分かる。奴らが芽座椎名を連れて行こうとした理由が………

 

それは間違いなくさっきの【鬼化】と呼ばれていたもののせいだ。それがどう関わってくるかは知らないが、奴らは少なくとも芽座椎名のあの力が欲しいのだ。

 

 

「動く必要もねぇ、今ここで………俺とバトルしやがれ…………この堅物眼鏡野郎」

 

 

時間稼ぎが足りない。

 

そう感じた司は、銃魔を言葉で煽りつつ、Bパッドを展開させ、それをつたってよじ登るかのように立ち上がった。右腕右足が骨折しているのにもかかわらず、

 

 

「その状態でバトルすると言うのか?……俺は病人を虐める趣味はないぞ」

「俺の趣味だ……さぁ、やろうぜ………」

 

 

その様子を見た銃魔は呆れた。

 

左腕左足だけでなんとかBパッドに肩を借りるように立ち上がってはいるものの、こんな状態でバトルなどできるわけがない。

 

このまま芽座椎名を連れ帰るか、

 

実際、そうするのは簡単だ。赤羽司のあの状態では自分を追いかけることができない事は一目でわかる。

 

しかし、ここでそうすれば、間違いなく恥をかくのは自分自身だ。理由はどうあれ、プライドを持ったバトラーの挑戦を踏みにいじっているのだ。当たり前ではあるが……………

 

そんな時だった。

 

様々な考えが交差して行くこの場で、1人の男の声が聞こえて来た。その声は単純に太い。

 

 

「おいおいおい!!その女を拉致ようったってそうはいかねぇぜ!!!」

「「っ!?」」

 

 

そこに現れたのは……………

 

この場で最も頼りにならない男…………

 

 

「おいそこのクソ眼鏡!!この俺!!毒島富雄様が相手してやんよ〜〜!!!」

「………毒島……っ!!?」

「なんだ、こいつは?」

 

 

ジャングルの木々を掻き分けながら、勢いよくこの場に現れたのは、なんとなんと、毒島富雄だった。

 

 

「よぉし、【朱雀】!!よく戦った!!後はこの俺様に任せとけ!!」

 

 

と、言いつつも、毒島の膝だけは正直に恐怖で震え上がっている。

 

彼はこの戦いを見ていたのだ。ずっと、怯えながら、

 

椎名が鬼になる直前にはあまりの恐怖に目を閉じていたため、椎名のあの状態の事は全く知らないが…………

 

そして、この状況、とうとう彼は腹を括ってこの場に登場したのだ。

 

 

「バカか!!!なんでよりによってお前なんだ!!!お前で勝てるわけないだろう!!」

「バカってなんだ!!そしてよりによってとはなんだぁ!?俺様歳上よ!?」

 

 

あまり言及されてはいなかったが、

 

司の見立てでは、【少なくともこの銃魔はさっきの剣総よりも強い。】あの毒島富雄で勝てるわけがないと感じるのもおかしくはなかっただろう。

 

毒島とて、わかっている。この連中はやばい。自分ではどうにもできないことも知っている。だが、この国最強のプルートがやられたのだ。他の国のものでは敵うわけがない、ならば自分がやるしかない。

 

それがどんなに怖くても、痛くてもやるしかないのだ。

 

 

「どうでもいいけどよぉ!!怪我人は寝てろっ!!」

「っ!?……うわっ!!」

 

 

毒島は司のとこまで行くと、支えになっていたBパッドを取り上げる。司は当然、その場で転倒してしまう。

 

毒島はそのままその司のBパッドを怯えることなく銃魔に向け………

 

 

「さぁ、来いよ来いよ!!眼鏡野郎っ!!!」

「ちっ、覚えとけよてめぇ」

「…………仕方ないか……いいだろう、相手になってやる」

 

 

あまりにしつこいが、致し方なし。か、銃魔は根負けして、バトルに応じることにした。彼もまたBパッドを展開し、バトルの準備をした。

 

ーそして、始まる。毒島富雄と、銃魔のバトルが………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

開始のコールと共にバトルが始まった。

 

ー先行は………銃魔だ。

 

 

[ターン01]銃魔

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はクリスタニードル…………そして、【インプモン】を召喚!!」

手札5⇨4⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

 

「なんだ?あのスピリットは……!?」

 

 

銃魔が呼び出したのは紫の中では汎用性に富んだ低コストスピリット、蛇のような竜のような見た目のクリスタニードルと、小悪魔のようなスピリット、インプモン。

 

このインプモン。名前からしてデジタルスピリットであることなのは確かではあるものの、司も毒島もそんな名前のスピリットは見たことも聞いたこともなかった。

 

 

「ガハハハハハ!!!!なんだなんだその弱そうなデジタルスピリットは!!!」

 

 

インプモンの見た目はお世辞でも強そうとは言えない。成長期スピリットらしいコミカルな見た目である。

 

だが、銃魔のデッキにとって、このインプモンとは、キーカード。デッキの潤滑油的存在なのだ。

 

 

「強いスピリットと弱いスピリットの区別もつかんか、愚かな男め…………召喚時効果、カードをオープン!!」

オープンカード↓

【旅団の摩天楼】×

【旅団の摩天楼】×

【魔界霧竜ミストヴルム】◯

 

 

召喚時効果は成功。インプモンは呪鬼スピリットを回収できるため、【魔界霧竜ミストヴルム】のカードが銃魔の手札へと新たに加えられた。

 

 

「ターンエンド……」

手札3⇨4

 

クリスタニードルLV1(1)BP1000(回復)

インプモンLV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

先行の第1ターン目ではこの程度の動きが限界だったか、銃魔はそれだけでこのターンをエンドとした。

 

次は毒島のターン。

 

 

[ターン02]毒島

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「ガハハハハ!!メインステップ!!俺様はバーストをセットし、ネクサスカード、旅団の摩天楼を2枚配置し、カードを2枚ドローしてターンエンドだぁ!!」

手札5⇨4⇨3⇨2⇨3⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

旅団の摩天楼LV1

旅団の摩天楼LV1

 

バースト【有】

 

 

毒島がバーストカードをセットすると共に、颯爽と背後に配置したのは紫の強効果ネクサス、旅団の摩天楼背の高い建物が毒島のデッキに力を与え、カードを引かせた。

 

後攻の第1ターン目にしてはなかなかに強い動きであったと言えるこの毒島のターン。

 

次は銃魔のターン。

 

 

[ターン03]銃魔

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨3

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ………俺はミストヴルムを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ1⇨0

 

 

銃魔が召喚したのは前のターン、インプモンの効果でデッキから手札に加えたカード、魔界霧竜ミストヴルム。竜の形をした霧のスピリットが召喚された。

 

そして、彼は、銃魔は、手始めと言わんばかりに毒島のガラ空きの場を攻め立てる。

 

 

「アタックステップ!!身の程を教えてやれ、クリスタニードル、インプモン!!」

 

 

クリスタニードルが泳ぐように地を駆ける。その下でインプモンも毒島のライフを破壊すべく走り出した。

 

前のターン、毒島はネクサスカードの配置に全力を注いだ。そのため、このアタックはライフで受ける他なく………

 

 

「こ、来いやぁ!!ライフで受けてやんよぉぉお!!…………………ぐ、ぐあぁぁぁぁああ!!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

「毒島ぁ!!」

 

 

インプモンとクリスタニードルが体当たりで毒島のライフを一気に2つ破壊した。

 

そして、やはりと言うべきか、このバトルでも、剣総の時同様、多大なバトルダメージが発生した。毒島はそのあまりのダメージ量にその場でうずくまる。

 

 

「ぐ、ぐう……っ!!」

「もうやめとけ、貴様では到底、俺には勝てん…………無駄に身体を傷つけるだけだ………芽座椎名を置いて、さっさとこの場から立ち去れ………っ!!」

「………っ!?」

 

 

苦しむ毒島に銃魔は同情するように、眼鏡の位置を整えながら言った。

 

これは剣総とは違い、銃魔が非情になりきれていない証拠でもある。

 

だが、毒島は…………

 

 

「……………断る………っ!!」

「………!!」

 

 

ー断った。逃げずに真っ向から再び銃魔の前に立ちふさがってみせた。

 

 

「………お前にはわからんだろうがな……………この女はぁあ!!俺を変えてくれた奴なんだよぉぉお!!!心から汚かったこの俺をぉぉお!!俺も知らないうちになぁあ!!!」

 

 

毒島の心からの叫びが響き渡る。

 

毒島は根っからの不良だった。自分より格下のバトラー達からカードを奪うような………【屑】だった。

 

そんなある日、いつものように弱者狩りをしていた自分の目の前に現れ、バトルを挑んで来たのは、当時、まだ名が馳せていない時の、1年の時の【芽座椎名】

 

彼女は………強かった。毒島はあっという間に敗北した。

 

毒島は椎名に復讐を誓って、バトルの訓練をし、何度も何度も芽座椎名にバトルを挑んでは………負け続けた。

 

だが、彼は気づいた。自分が知らないうちに強くなっていた事に………バトスピ学園を卒業できる程にだ。それどころか、こんな自分が真っ当に働いて生きているでは無いか…………

 

芽座椎名には自覚はないだろうが、彼にとって、芽座椎名とは恩人のような存在でもあった……………

 

ーそして、その恩を返す時であると、毒島は考えているのだ。

 

ーこの程度の事で情けない背中を見せることはできない。

 

 

「…………なら、倒れるまで続けるがいい」

 

 

銃魔が呆れたような表情で毒島にそう言った。

 

 

「………あぁ、そうさせてもらうぜっ!!………バースト発動!!」

「………!!」

「大甲帝デスタウロス〈R〉!!バースト効果でミストヴルムを疲労させ、疲労状態のスピリットを全て破壊っ!!」

「…………っ!!」

 

 

一気に反転する毒島のバーストカード。その正体は【大甲帝デスタウロス〈R〉】効果により吹き上がる風が、銃魔の場にいるミストヴルムを疲労させ、

 

その後の効果により、疲労状態のスピリット、つまり、銃魔の今現在存在するスピリット全てが破壊される。3体のスピリットが闇と共に地面に引きずり込まれて行った。

 

 

「この効果で破壊したスピリットの数だけコアを増やし、その後召喚!!………来いっ!!」

リザーブ2⇨5⇨2

大甲帝デスタウロスLV2(3)BP12000

 

 

悍ましい程に大きな闇の中から甲殻を纏う紫と緑の複合スピリット、デスタウロスが姿を現した。

 

 

「………ふんっ!!………クリスタニードルの効果、貴様の旅団の摩天楼を1つ破壊するっ!!」

「………!!」

 

 

クリスタニードルが破壊された跡地から紫の靄が出現し、それは瞬く間に毒島の背後に聳え立つ旅団の摩天楼にかかり、消し去っていった。

 

しかし、スピリットを破壊し、コアブーストしつつ、強力なスピリットを召喚した自分にとってはこの程度の反撃など些細なもの。

 

 

「……………エンドだ」

バースト【無】

 

 

流石に何もできなかったか、銃魔はこのターンをエンドとしてしまう。場にはスピリットはおろか、バーストさえも存在しない。次の毒島のターンで大きくライフを削がれるのは明白である。

 

 

[ターン04]毒島

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨8

トラッシュ5⇨0

 

 

「ガハハハハ!!!俺様の時代到来だぁ!!メインステップゥゥウ!!!アルケニモンをLV2で召喚っ!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨3

トラッシュ0⇨2

 

 

毒島の背後に現れる白くて巨大な繭。それは少しずつ紐解かれて行き、中からある化け物が眼光を輝かせながら突き破り、飛び出して来た。

 

それは、その名はアルケニモン。長らく毒島のエースとして活躍するスピリットだ。

 

 

「アタックステップっ!!やっちまいなぁ!!アルケニモンっ!!」

 

 

戦闘態勢に入るアルケニモン。そしてこのスピリットには、この時、有用なアタック時効果が存在しており…………

 

 

「アタック時効果ぁぁあ!!デッキから2枚オープンし、その中の完全体スピリットを召喚するぅう!!」

オープンカード↓

【ドクグモン】×

【マミーモン】◯

 

 

効果は当たりだ。

 

 

「ガハハハハ!!!!当たりだ当たりだぁ!!俺様はこの中のマミーモンをノーコスト召喚してやるぜぇえ!!」

リザーブ3⇨0

マミーモンLV2(3)BP12000

 

 

アルケニモンが作り出した闇の空間。その中から現れるのは全身が包帯でグルグル巻きになっている完全体スピリット、マミーモンだ。

 

 

「アルケニモンのアタックは継続中だぜぇ!!」

 

「…………ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

継続中のアルケニモンのアタック。銃魔はそのアタックをライフで受ける。そのライフがアルケニモンの鋭い鉤爪により1つ引き裂かれた。

 

 

「次だぁ!!!デスタウロス!!」

 

 

今度はデスタウロスが行く。このスピリットは元々がダブルシンボルのスピリットであるため、一度にライフを削れる数は2つだ。

 

 

「………それもライフだ」

ライフ4⇨2

 

 

デスタウロスは鋭利な鎌のような腕で、何度も銃魔のライフを切り裂き、一気に2つ破壊した。

 

 

「これで終わりだぁ!!マミーモンでアタック!!マミーモンは場にアルケニモンがいる時、紫のシンボルを1つ加え、BPを5000上げる!!」

 

 

トドメと言わんばかりにマミーモンにアタックの指示を送る毒島。マミーモンは自身の効果により、強化され、強力なスピリットと化している。

 

ーこの一撃が通れば毒島の勝ちだ。

 

 

 

 

だが、銃魔も当然、この程度では終わらない。

 

手札のカードを1枚引き抜き、そのアタックを凌ぎに来る。

 

 

「………愚か者め………フラッシュマジックッ!!ネクロブライト!!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨5

トラッシュ0⇨3

 

「…………っ!?」

 

「この効果でトラッシュにあるコスト3以下のスピリットカード、インプモンをノーコスト召喚っっ!!」

リザーブ5⇨4

 

 

光輝く紫の光。そこからデスタウロスに破壊されたはずの小悪魔、インプモンが飛び出して来た。

 

紫の究極カード、【ネクロブライト】。死した弱者を蘇らせるその力はまさしく禁忌の力と言えよう。

 

 

「召喚時っ!!」

オープンカード↓

【紫煙獅子】×

【式鬼神オブザデッド】 ×

【ベルゼブモン】◯

 

 

召喚時効果も当然発揮され、その中の対象となるカードが手札へと加えられる。

 

 

「俺はこの中のこのカードを手札に加える………!!」

手札3⇨4

 

「だがぁ!!そんな雑魚じゃ、壁にしかならんぜぇ!!マミーモン!!ぶっ潰せ!!」

「守れ、インプモン………」

 

 

インプモンとマミーモンのバトル。しかし、そのBP差は圧倒的にマミーモンの方が上、インプモンはマミーモンの手持ちの機関銃により、貫かれ、あっさりと爆発してしまった。

 

 

「ガハハハ!!他愛もない!!苦し紛れの一手だったなぁっ!!」

 

 

ここまでのバトル。内容的には毒島が銃魔を完全に圧倒しているように見える。

 

だが、本当は全て銃魔の掌で転がされているということに…………気づくこととなる。

 

司も………もちろん毒島も………

 

 

「俺のコスト3以下の紫スピリットが破壊された時、手札にある、この【ベルゼブモン】の効果を発揮!!」

「………っ!?手札からスピリット効果だと!?」

 

「効果により、1コスト支払い、召喚」

リザーブ5⇨4

トラッシュ3⇨4

 

 

【ベルゼブモン】。そのカードは、たった今、ネクロブライトにより召喚されたインプモンの召喚時効果で手札へと加えられたものだ。

 

そのカードは銃魔のエース。それを知る者は、彼を含めてもかなり少ない。

 

 

「…………孤高の魔王よ!!今こそその百戦錬磨の力を世に知らしめよっ!!………究極体、ベルゼブモンをLV2でここに呼ぶっ!!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨1

ベルゼブモンLV2(3)BP11000

 

 

インプモンの爆発跡地から、悍ましく、それでいて禍々しい闇が浮き出てくる。そしてそれは新たなるスピリットの形を形成して行く……………

 

そのスピリットの名はベルゼブモン。インプモンの真の姿。その手には2丁のショットガンが握られている。

 

 

「…………っ!!……な、なんだ………こいつっ!?」

 

 

これもインプモン同様、当然知らないスピリットだ。

 

それもそのはず、何せこのインプモンとベルゼブモン。この2枚はこの銃魔の【オーバーエヴォリューション】によって覚醒したカードなのだから…………

 

毒島と司が認知していないのは当たり前なのである。

 

そして、この紫の魔王、ベルゼブモンが場を戦慄させる。

 

 

「ベルゼブモンの召喚、及びアタック時効果っ!!」

「っ!?」

 

「相手のスピリットのコア2つをリザーブに送るっ!!」

「………だ、だが、俺の場のスピリットは全てコア3つ……」

「甘い………この効果はトラッシュにあるデジタルスピリットの数だけ上限を上げる………っ!!」

「………なぁっ!?」

 

 

つまりは3つだ。今現在、銃魔のトラッシュにはデジタルスピリットであるインプモンのカードが1枚トラッシュへと送られているためだ。

 

 

「…デスタウロスを狙え……ダブルインパクト!!」

 

「くっ!?」

大甲帝デスタウロス(3⇨0)消滅

 

 

2丁のショットガンを連射し、デスタウロスを狙い撃つベルゼブモン。その弾丸はデスタウロスの強固な甲殻をいとも容易く貫いて行く。

 

最後には中核までもを貫かれ、弾丸と共にその場で大爆発を巻き起こした。

 

 

「この効果で消滅に成功したら、カードを1枚ドローする」

手札3⇨4

 

「…………た、ターンエンドだ……」

アルケニモンLV2(3)BP6000(疲労)

マミーモンLV2(3)BP12000(疲労)

 

旅団の摩天楼LV1

 

バースト【無】

 

 

もはや何もすることはなく、そのままターンをエンドとした毒島。

 

次は見事に強力な究極体スピリット、ベルゼブモンの召喚に成功した銃魔だ。

 

 

「…………終わりだな」

 

 

[ターン05]銃魔

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ………俺はクリスタニードルを2体召喚……」

手札5⇨4⇨3

リザーブ6⇨2

 

「………っ!?」

 

 

銃魔は追い討ちと言わんばかりに、一気に2体のクリスタニードルをこの場に呼び寄せた。

 

準備は整った。後はその無防備なライフを全て砕くだけ…………

 

 

「アタックステップ………クリスタニードル」

 

 

宙を泳ぐように舞う2体のクリスタニードル。目指すはガラ空きとなった毒島のライフ。

 

このアタック………毒島はもう止めるすべはない。

 

 

「ら、ライフだぁ!!………ぐっ!!………がぁっ!!」

ライフ3⇨2⇨1

 

「………毒島ぁっ!!」

 

 

多大なバトルダメージ、2体のクリスタニードルの勢いで、地面に転がり込んでしまう毒島。

 

もう限界だ。やはり彼ではあの男には勝てなかった。

 

 

「…………もう諦めろ………貴様では俺には勝てん………芽座椎名を置いて、去れ………っ!!」

 

 

最後の慈悲のつもりだった。銃魔はこれを断れば、自身の最強エーススピリットである、このベルゼブモンでトドメを刺すつもりだ。

 

毒島は掠れて行く意識の中、地面に這い蹲りながらも、顔を見上げ、銃魔を睨みつけ…………

 

 

「…………まだだぁ………っ!!」

 

 

そう叫んだ。

 

 

「………愚か者め………やれ、ベルゼブモン」

 

 

完全に毒島を見捨てた銃魔がベルゼブモンに最後のアタックの指示を送る。

 

 

「マミーモンを消せ………ダブルインパクトッ!!」

手札3⇨4

 

 

ベルゼブモンの召喚、アタック時効果だ。マミーモンがそのベルゼブモンのショットガンの連射で眉間を貫かれ、力尽き、儚くもその場で消滅して行く。

 

ーそして、毒島の場で唯一生き残ったアルケニモンも…………

 

 

「フラッシュマジック………デスクロウ……!!」

手札4⇨3

 

「…………っ!?」

「この効果により疲労状態のスピリットを破壊…………アルケニモンを切り裂け………デスクロウッ!!」

 

 

2丁のショットガンを懐にしまい、飛び出すベルゼブモン。そのままその鋭い鉤爪で毒島の場にいるアルケニモンを引き裂いてみせた。アルケニモンは耐えることができず、敢え無く大爆発を起こした。

 

 

「………これで終わりだ………芽座椎名は連れて行く………」

「…………」

 

 

アルケニモンの破壊された爆風の中、痛覚を麻痺させるほどのバトルダメージにより、毒島は既に気を失っていた。

 

気絶しながらも思った事だろう。

 

なぜ、自分はこんなに弱い。

 

なぜ、自分は恩1つ返すことができない。

 

なぜ、自分はここまで情けないのだろう。と、

 

 

そんな彼の前にゆっくりと歩み寄るベルゼブモン。懐からショットガン1つを取り出し、至近距離でその頭部を撃ち抜くつもりだ。

 

 

「………退屈なバトルだった………自分の弱さ、情けなさに後悔して、死に恥を晒すんだな…………やれ、ベルゼブモン……っ!!」

「………毒島ぁぁああ!!」

 

 

司の叫びも虚しく………

 

 

ベルゼブモンがショットガンの引き金に指をかけ、

 

 

 

 

 

 

それを引く、瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

ー渾身の爆炎……………

 

 

 

 

 

 

 

ーファイアァァア!!!!ロケットッ!!!

 

 

 

 

 

そう叫ばれると共に、流星の如く、何かが炎を纏い、ベルゼブモンに向かって降り注ぐ。

 

いちはやく察知したベルゼブモンは引き金から指を離し、間一髪、後ろジャンプでそれを避けて見せた。

 

 

「…………この炎…………」

 

 

銃魔は知っている。

 

いや、司も知っている。その流星の如く降り注いだスピリットがなんなのかを…………

 

着地し、流星の炎を弾け飛ばし、現れたのは、アーマー体スピリット、【フレイドラモン】

 

誰もが知る………芽座椎名の最初のエーススピリットにして、最も愛用しているカード……【フレイドラモン】

 

 

「…………めざし……っ!!」

 

 

操っているのは、当然、【芽座椎名】だ。

 

立ち上がって見せた。一度力尽きたが、毒島と司が時間を稼いでくれたお陰で、万全とは言い難いが、辛うじて、復活した。

 

 

「…………意外と早いご帰還だな……芽座椎名」

「…………………いやっ!!あなた誰だよっ!!」

 

 

ボケたつもりは毛頭ないものの、自分が気絶している間に現れた銃魔に向けて人差し指を刺す椎名。

 

その様子はいつもと全く同じだ。目は赤くないし、視認できる赤黒いオーラもなければ、牙も角も無い。

 

今は鬼では無い。

 

普通の人間だ。どこにでもいる、平凡な…………

 

 

「人を傷つけるバトルなんか、もう終わりにしよう………私達が傷つけ合う理由なんてどこにも無いっ!!」

 

 

そう意気込み、叫ぶ椎名。

 

ー次回、いよいよ、オーズ編、ラストとなるバトルが幕を開ける。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【ベルゼブモン】!!」

椎名「究極体スピリットの1体、ベルゼブモンは、紫のコスト3以下のスピリットが破壊された時に召喚できる強力なスピリット!!相手の意表を突いて、驚かせようっ!!」



******

〈次回予告!!〉

椎名「もう散々だっ!!こんなバトル、終わりにしよう!!私達が傷つけ合う理由なんて、どこにも無いっ!!………っ!?オーズ!?……力を貸してくれるの!?……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「VSベルゼブモン! オーズの力を解き放て!」………今、バトスピが進化を超えるっ!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

久しぶりのタイマン(1対1のバトル)にホッとしております。描写とか、文字数とかがはっきり言ってしんどいので、しばらくはタッグや多対1はやらないかもです。

※次回と、その次くらいで【二期第2章】も終わりになります。次は【二期第3章 裏のジークフリード編】が始まります!!


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第61話「VSベルゼブモン! オーズの力を解き放て!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

王宮の地下、ジャングルの木々が生い茂るこの中で、対峙する椎名と銃魔。この2人のバトルが今、幕を開ける。

 

………だが、その前に……

 

 

「俺の名は銃魔………初めまして………ではないはずだぞ、芽座椎名………」

「?……銃魔?………いやっ!!そんな奴知らん!!」

「………まぁ、覚えてるわけないか………」

 

 

バトル前に軽く言葉を交わす両者。銃魔はまるで椎名と一度出会っていたかのような口ぶりである。

 

だが、当然椎名は知らなかった。単に忘れているだけなのか…………それとも……

 

 

「てかっ!!さっきの奴どこ行ったんだよっ!!バトルの途中だったのにさっ!!決着つけたいんだけど!!……ん?そう言えばなんで私ってば、寝てたんだ?」

 

 

そう叫ぶ椎名。彼女は剣総の事を言っている。この言葉を聞いて、司はある違和感を感じた。

 

 

「…………めざし………」

「ん?」

「お前………覚えてないのか?」

「え?何を?」

 

 

そう、椎名は忘れていた。【自分が鬼になったこと】【2度目のオーバーエヴォリューションをしたこと】【自分が剣総を倒したこと】全てを………

 

あの【鬼化】と呼ばれる副作用なのかは定かではないが、少なくとも、今の椎名はマーズが倒された後の記憶が全て飛んでいた。

 

それは司にとっては【結果的に良かったのかもしれない】椎名が自分があんな化け物だと知ったら間違いなく自己嫌悪になり、心に深い傷を負ってしまうからだ。

 

 

「………戯言はそれまでだ………俺と戦うのだろう?むざむざとそこの恥晒しのようになろうというのか………」

 

 

銃魔が話を切り替えてきた。【恥晒し】と言うのは、地面に這いつくばるように気を失っている【毒島富雄】の事だ。

 

勝手に出てきて勝手にやられて、【犬死】した…………それが銃魔としての毒島の認識。

 

それは残酷も、冷徹に………

 

 

「…………恥晒し?………違うよ……毒島先輩は今日………誰よりかっこよく戦い抜いた!!私はそんな先輩を心から尊敬する!!」

「………お前も愚かだな」

 

 

この言葉と共に、2人は勢いよくBパッドを展開、バトルの準備を進め、

 

始まる。オーズ編最後となる一戦が…………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルが開始される。

 

先行は椎名だ。

 

 

 

 

[ターン01]椎名

 

 

「私のターン、スタートステップ、ドローステップ!!……メインステップッ!!来い!!【ブイモン】を召喚っ!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

ターンが始まって早々に、

 

椎名が呼び出したのは始まりの青き竜。その幼くも勇ましい姿は、強力なスピリットへの進化を既に兆してるかのよう、

 

 

「…………ターンエンドだ」

【ブイモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

先行の第1ターン目はできることが極端に限られる。椎名はそれだけでこのターンをエンドとした。

 

次は銃魔のターン。

 

 

[ターン02]銃魔

 

 

「俺のターン……スタートステップ、コアステップ、ドローステップ………」

手札4⇨5

リザーブ4⇨5

 

 

椎名の場に存在するブイモンを見て何を思うのか、銃魔はブイモンに目を向けながらも、黙々とターンを進めて行く、

 

 

「メインステップ………俺は【インプモン】をLV1で召喚!!……召喚時」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【旅団の摩天楼】×

【式鬼神オブザデッド】×

【式鬼神オブザデッド】×

 

「っ!?なんだあれ!?ばい菌?」

 

 

銃魔が呼び出したのは、椎名がばい菌と連想できなくもない程の小悪魔のようなスピリット、インプモン、銃魔のデッキを支えるキーパーソンだ。

 

しかし、その召喚時効果は失敗に終わる。1枚も加えられずにトラッシュへと破棄された。

 

 

「……ターンエンドだ」

【インプモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

それ以外は特に何もすることはなく、銃魔はそのターンをエンドとした。

 

次は椎名のターン。ここから一気に進展して行く………

 

 

 

[ターン03]椎名

 

 

「私のターンッ!!スタートステップ、コアステップッ!!ドローステップッ!!リフレッシュステップッ!!………」

手札4⇨5

リザーブ0⇨1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

一気にターンシークエンスを進行させて行く椎名。

 

ここからだ。ここからバトルは大きく横転して行くこととなる。

 

 

「メインステップッ!!ネクサスカード、【D-3】を配置して、【フレイドラモン】の【アーマー進化】の効果を発揮!!対象はブイモン!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

 

「っ!!!」

 

 

椎名の腰に手のひらサイズの機械が装着されると共に………

 

ブイモンの頭上から独特な形をした赤い卵が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合う。

 

新たに現れるのは椎名が最も愛用している最強のエーススピリット………

 

 

「1コスト支払い、燃え上がる勇気……フレイドラモンをLV1で召喚っ!!」

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000

 

 

炎燃ゆるアーマー体スピリット、【フレイドラモン】がこの場へと現れた。その効果はいつでも、どんな時でも椎名を救ってきた。

 

 

「【フレイドラモン】の召喚時効果っ!!BP7000以下のスピリット……インプモンを破壊するっ!!」

「………!!」

 

「爆炎の拳っ!!……ナックルファイアァァア!!」

手札4⇨5

 

 

登場と共に放たれるフレイドラモンの火拳。その弾丸のように飛ばされる炎は瞬く間に、銃魔の場に存在しているインプモンを焼き尽くした。

 

 

「よっしゃっ!!どんなもんだいっ!!」

 

 

この初手【フレイドラモン】の戦法は、椎名にとって大きな先制点であったと言える。

 

……だが、

 

 

「いや、ダメだ………」

 

 

司が言った。

 

そう、今のさっきまで気を失っていた椎名にはわからないが………

 

あるのだ。銃魔にはこの場から、椎名が取ったアドバンテージを奪い返すには十分なカードが、状況を一転させるカードが………

 

 

「【インプモン】の破壊をトリガーに、俺は手札にある【ベルゼブモン】の効果を発揮っ!!」

「……っ!?ここでスピリット効果っ!?」

 

「効果により1コスト支払い召喚する」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

トラッシュ3⇨4

 

 

そう、

 

その突如として発揮されるそれは、

 

銃魔のエーススピリット………毒島を完膚なきまでに叩きのめした張本人とも言える凶悪なデジタルスピリット。

 

 

「孤高の魔王よ……今こそ百戦錬磨の力をこの世に知らしめよっ!!究極体、【ベルゼブモン】をLV1でここに呼ぶっ!!」

【ベルゼブモン】LV1(1)BP7000

 

 

【インプモン】が爆発した跡地から怨念のようなものが噴き出てくる。それは塊を形成して行き、徐々に徐々にと悍ましく、禍々しい魔王へと変貌して行く。

 

現れたのは【インプモン】の真の姿。魔王型の究極体デジタルスピリット、【ベルゼブモン】だ。

 

 

「……このスピリットさっきの………っ!?」

 

 

椎名は【ベルゼブモン】のその禍々しい姿に思わずたじろいだ。

 

そして、今回もそれは、この場を戦慄させる。

 

 

「【ベルゼブモン】の召喚時……相手スピリット1体のコア2つを除去する」

「なぁっ!?」

 

「俺は【フレイドラモン】のコアを取り除き、消滅させるっ!!」

「っ!?」

 

「………ダブルインパクトッ!!」

手札3⇨4

 

 

登場するなり、【ベルゼブモン】はショットガンを腰から取り出し、その弾丸を【フレイドラモン】へ連射。【フレイドラモン】はそれに何度も撃ち抜かれ、呆気なく消滅してしまった。

 

 

「くっ!?フレイドラモンっ!!?」

【フレイドラモン】(1⇨0)消滅

 

 

【フレイドラモン】をこの序盤に呼び出し、一気に優位に立ったのは椎名のとんだ勘違い。【ベルゼブモン】の力によりその優位性を剥がされてしまった。

 

 

「さぁ、どうする?まだターンを続けるか?」

 

 

眼鏡を指で軽く撫でるように元の定位置に戻しながら、そう言葉を並べる銃魔。その仕草でさえも圧を感じる。

 

 

「………くっ!!ターンエンド」

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

流石に致し方ないと言うべきか、椎名はこれ以上は何もすることはなく、と言うか何もできず、そのターンをエンドとしてしまった。

 

次は見事椎名の動きに合わせてカウンターを決めた銃魔のターン。

 

 

[ターン04]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ………」

手札4⇨5

リザーブ0⇨1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

ゆっくりとターンシークエンスを進行させて行く銃魔。そしてそのままメインステップへと移行し、

 

 

「メインステップ………俺はブレイブカード、【ベヒーモス】を召喚し、【ベルゼブモン】と合体する!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV1(1)BP13000

 

「っ!?バイクっ!?」

 

 

銃魔はバイクのようなブレイブカード、【ベヒーモス】を召喚し、【ベルゼブモン】と合体。【ベルゼブモン】は合体スピリットとなり、バイクへ、【ベヒーモス】へと搭乗する。

 

 

「さらにネクサスカード、【旅団の摩天楼】!!配置時1枚ドロー!!」

手札4⇨3⇨4

リザーブ1⇨0

トラッシュ4⇨5

 

 

立て続けに巨大な摩天楼を配置する銃魔。その効果で手札の質を高めて行くどころかシンボル数も稼ぎ、椎名とのアドバンテージ差を大きく広げた。

 

 

「アタックステップッ!!やれ、【ベルゼブモン】ッ!!」

 

 

アタックステップへ移行し、【ベルゼブモン】が【ベヒーモス】を駆り、地を走る。目指すは当然椎名のライフ。

 

【フレイドラモン】が倒され、ガラ空きになった椎名の場。このアタックは当然ライフで受ける他ない。

 

 

「ライフだっ!!………ぐぁ!?」

ライフ5⇨3

 

 

ダブルシンボルのアタック。【ベヒーモス】の突撃が椎名のライフを一気に2つ破壊した。だが、それ以上にやはりこのバトルダメージがきつい。椎名は思わず仰け反った。

 

 

「…………ターンエンドだ」

【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV1(1)BP13000(疲労)

 

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

できる事を全て終え………

 

銃魔はそのターンをエンドとした。

 

次は椎名のターン。痛みに耐え、増えたコアを生かし、反撃となるか……

 

 

[ターン05]椎名

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップッ!!…よしっ!!………リフレッシュステップ!!」

手札5⇨6

リザーブ4⇨5⇨8

トラッシュ3⇨0

 

 

ターンシークエンスを進行して行く椎名。その道中、ドローステップで引いたカードを見て、喜びの笑みをこぼす。

 

 

「メインステップッ!!ワームモンとブイモンを連続召喚っ!!」

手札6⇨5

リザーブ8⇨3

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名がこのターン、颯爽と呼び出したのは、【フレイドラモン】の【アーマー進化】の効果によって手札へと戻っていたブイモンと、芋虫のような見た目の成長期スピリット、ワームモン。

 

 

「さらにっ!!【マグナモン】の【アーマー進化】発揮!!対象はブイモンッ!!」

リザーブ3⇨2

トラッシュ3⇨4

 

「………っ!!」

 

 

上空より投下される黄金の卵状の何か、それは真っ直ぐブイモンへと触れ、神々しい光と共に混ざり合って行く。

 

 

「…………黄金の守護竜!!【マグナモン】をLV2で召喚っ!!」

【マグナモン】LV2(2)BP8000

 

 

その神々しい光を解き放ち、新たに現れたのは、ロイヤルナイツの1体、【マグナモン】。その高い防御能力はまさしく椎名のデッキの守護神。

 

 

「召喚時っ!!相手の場にいる最もコストの低いスピリット1体を破壊するっ!!」

「っ!!

「………対象となるのは【ベルゼブモン】!!それを破壊するっ!!………黄金の波動!!エクストリーム………ジハード!!!」

 

 

登場するなり、

 

黄金の守護竜はその身に輝く黄金の輝きを放ち、一瞬にして銃魔の場にいた孤高の魔王を飲み込み、消滅させた。跡地にはベヒーモスだけが唯一取り残されている。

 

 

「よしっ!!厄介な【ベルゼブモン】は破壊したっ!!アタックステップッ!!行けっ!!【ワームモン】!!【マグナモン】!!」

 

「…………いずれもライフで受けよう」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

勢いづいてきた椎名はそのまま【ワームモン】と【マグナモン】にアタックの指示を送る。

 

【ワームモン】の体当たり、【マグナモン】の硬い装甲を活かしたタックルが銃魔のライフを一気に2つ破壊した。

 

 

「……ターンエンドッ!!」

【ワームモン】LV1(1)BP3000(疲労)

【マグナモン】LV2(2)BP8000(疲労)

 

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

凶悪な効果を持つ孤高の魔王、【ベルゼブモン】を倒しただけでなく、このターン、ライフをも破壊して見せた椎名。実に良いターンであったと言える。

 

………が、それはまたまたとんだ勘違い。銃魔は徐にターンを進めて行く。

 

 

[ターン06]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ…………リフレッシュステップ………メインステップ、【クリスタニードル】と【シキツル】を召喚、【シキツル】の効果で1枚ドロー………」

手札4⇨5⇨4⇨3⇨4

リザーブ3⇨4⇨9⇨6

トラッシュ5⇨0⇨1

 

 

このターン、銃魔は颯爽と蛇のような竜のような小さな紫スピリット、【クリスタニードル】と、文字通り折り紙の鶴のようなスピリット、【シキツル】を場に呼び寄せた。

 

銃魔のデッキタイプはいわゆる【紫速攻】。低コストのスピリットが多い。これはエースである【ベルゼブモン】の影響もある。

 

…………だが、

 

 

(私の場には疲労状態でブロックできる【マグナモン】がいる。そんくらい、守れる………)

 

 

そう、椎名の場には黄金の守護竜、【マグナモン】が存在する。【マグナモン】の強味は召喚時効果だけではない。疲労状態でのブロックもあるが、最も重要視すべきは効果を受けないと言う効果だ。

 

これを早々突破できるカードが、果たして【紫速攻】のデッキに入っているのだろうか…………

 

 

「………アタックステップ、やれ、3体のスピリットたち!!」

「えっ!?」

 

 

アタックステップへと移行され、【ベヒーモス】【シキツル】【クリスタニードル】は椎名のライフを破壊すべく走り、飛び立った。

 

そこには強固な守護神がいるとも知らずに………

 

 

「っ!?何考えてるんだよっ!?………纏めて蹴散らせっ!!【マグナモン】ッ!!エクストリームジハード!!!」

 

 

そんな単調な攻撃が通るわけもなく、3体のスピリット、及びブレイブは再び放たれた【マグナモン】のエクストリームジハードによって消し炭となってしまう。

 

 

「【クリスタニードル】の破壊時、貴様のネクサスカード【D-3】を破壊」

「っ!?うわわっ!?」

 

 

【クリスタニードル】が消滅した跡地から紫の靄が現れ、椎名に襲いかかる。それは腰に備え付けられていた【D-3】を溶かすように消滅させる。

 

 

「………っ!?それだけのために!?………」

「な訳ないだろう?……俺はこの破壊をトリガーに、【ベルゼブモン】2体分の効果を発揮!!」

「………なぁっ!?まだ持ってたの!?」

 

「俺は2コスト支払い、【ベルゼブモン】を一気に2体、LV2ずつで召喚っ!!」

手札4⇨3⇨2

リザーブ8⇨0

トラッシュ1⇨2⇨3

【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000

【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000

 

 

蘇るように、分身するように、深淵の闇より出でし2体の孤高の魔王。その時点で最早孤高と言えるのかは定かではないものの、確かにそこには強力なデジタルスピリット、【ベルゼブモン】が並び立っていた。

 

 

「召喚時、【ワームモン】を消して、1枚ドロー………」

手札2⇨3

 

「……っ!?」

【ワームモン】(1⇨0)消滅

 

 

片方の【ベルゼブモン】がショットガンで椎名の場にいた【ワームモン】の眉間を撃ち抜いた。貧弱な【ワームモン】がそれに耐えられるわけもなく、あっさりと消滅してしまった。

 

 

「さらにっ!!トラッシュにある【ベヒーモス】の効果っ!!」

「っ!?」

 

「【ベルゼブモン】の登場により、ノーコスト召喚するっ!!今一度姿を見せよっ!!」

【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV2(3)BP17000

 

「っ!?また召喚された!?」

 

 

【マグナモン】により、破壊されたはずの【ベヒーモス】が何故か銃魔の背後より飛び出してくる。そしてそのまま【ベルゼブモン】の1体をまた乗せた。

 

弱小だった銃魔の場が一転、紫らしいコンボにより強力な盤面へと仕立て上がった。この間、僅か6ターン目である。

 

 

「アタックステップは継続だっ!!やれ、【ベルゼブモン】!!【ベヒーモス】を駆れ!!」

 

 

銃魔は合体スピリットとなっている方の【ベルゼブモン】でアタックを仕掛ける。

 

 

「そしてこの時、【ベヒーモス】の効果で、お前は自分のスピリットを破壊しなければブロックができない………」

「なにっ!?」

 

 

【ベヒーモス】の合体時効果だ。椎名は自分のスピリットを犠牲にしなければその身を守ることすらできないのだ。

 

ちなみに、この手の効果は【マグナモン】では防げない。スピリットではなく、プレイヤー自身に課せられているからだ。

 

そしてなにより、今現在、椎名の場のスピリットは【マグナモン】1体のみ、この状態では破壊してもブロックできるスピリットが残っていないため、実質、ブロックは不可なのだ。

 

 

「さあっ!!ダブルシンボルのアタックを受けて見よっ!!」

 

「………くっ!!……ライフで受けるっ!!…………うわぁぁぁぁあっ!!!」

ライフ3⇨1

 

「………めざしっ!!」

 

 

【ベルゼブモン】の搭乗した【ベヒーモス】の体当たりが、椎名のライフをまた一気に2つ破壊する。頭が割れるような痛みが、バトルダメージが、また椎名を襲う。

 

肉体的にも精神的にも………最早限界。Bパッドに肘をつかなければ立ってもいられない状態だ。

 

だが、このバトルは、このバトルだけは負けられない。負けていったみんなのためにも………

 

椎名はそう言った必死な想いと気力だけで立ち上がっていた。

 

 

「…………しぶといな………【ベルゼブモン】!!」

「っ!?……頼むっ!!【マグナモン】!!!」

 

 

合体していない方の【ベルゼブモン】で椎名のライフを狙う銃魔。だが、こればかりは【マグナモン】によって遮られる。

 

しかし、BPは圧倒的に【ベルゼブモン】の方が上であり…………

 

これでもかと言わんばかりに【ベルゼブモン】は2丁のショットガンから弾丸を連射。【マグナモン】の黄金の鎧を砕き、そのまま破壊した。【マグナモン】は流石に力尽き、その場で倒れ、大爆発を起こした。

 

 

「ロイヤルナイツとはこの程度なのか………他愛もない……」

「くっ!!……ごめん【マグナモン】………」

 

「………ターンエンド………守りの要は消えた……次で最後だ、芽座椎名…………」

【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000(疲労)

【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV2(3)BP17000(疲労)

 

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

椎名の守りなどいとも容易く語らせて見せた銃魔。その圧倒的な強さ………実力の差を椎名に思い知らせる。

 

………勝てない………今の芽座椎名だけでは到底追いつけないレベルに、銃魔は達しているのだ。

 

 

「もう諦めろ………お前の負けだ……」

「っ!?」

 

 

銃魔が椎名に投げかけた言葉は、慈悲とも取れる発言。

 

確かに、椎名は体力的にも精神的にも………終わりだ。ここからの巻き返しなど、逆転できるなどという可能性は微塵も感じられない。

 

………だが椎名は………

 

 

「…………嫌だ………」

 

 

………と呟いた………

 

………それも少し頬を緩め、笑顔を見せながら………

 

 

「………へへ、負けていったみんなにはちょおっと悪いけど…………私、このバトルすっごい楽しいっ!!」

「っ!?」

 

 

椎名の口から放たれた言葉は、銃魔が驚愕するには十分すぎるものだった。

 

【このバトルが楽しい?】

 

この文字通りライフをすり減らすようなバトルが楽しいとこの少女は言うのか…………

 

 

「だってさぁっ!!熱いよねっ!!この状況!!絶体絶命っ!!ここからどう逆転するか考えただけでワクワクして来るよっ!!」

「………めざし、お前………まじもんのバカだな」

 

 

椎名の突飛な発言に、司も思わず苦笑いした。

 

…………椎名にとって………

 

逆境という状況は何よりも好物だ。特にバトルスピリッツというゲームにおいては…………いつだって、どんな時だって………そんな芽座椎名だからこそ、そこから何度も大逆転をしてきた。

 

………椎名は強く思った事だろう。【これが文字通りライフをすり減らすバトル】でなければ…………と、

 

 

「……………芽座六月………奴の影響か………」

 

 

銃魔は椎名と司に聞こえないような小さな声で、そう、ボソッと呟いた。【芽座六月】。椎名の育て親だが、彼もこの銃魔達と何か関連があるというのか…………

 

 

「よっしゃぁぁぁぁあ!!行くぞっ!!私のタァァァアン!!!」

 

 

椎名がそう強く意気込み、ターンを迎えようとした直前だった。

 

剣総に敗れ去り、倒れたマーズのデッキから…………

 

1枚のカードが椎名の元へと飛び出してきた。

 

………それは本来ならば、椎名が扱えないカード、オーズ神官でしか扱えないカード………

 

だが、今回は特別………椎名の呆れる程に強いバトスピ魂に当てられ…………

 

 

「えっ!?………これって?」

「どういうことだ!?」

「…………オーズ………か」

 

 

椎名のデッキの上へと置かれるそのオーズのカード………今まさに、この時だと言わんばかりに…………

 

椎名もそれを悟ったか、一瞬驚きはしたが、それを受け入れ…………

 

 

「よしっ!!一緒に戦おうっ!!オーズっ!!」

 

 

………椎名とオーズの大反撃が始まる………

 

 

[ターン07]椎名

 

 

「スタートステップ、コアステップ…………ドローステップッ!!!!」

手札4⇨5

リザーブ6⇨7

 

 

椎名がドローしたカードは………当然、デッキに入っていったマーズのオーズ、【タジャドルコンボ】

 

そして、その瞬間………

 

そのカードは…………

 

………進化を超える………

 

 

「…………オーズは……タジャドルは………今………進化を超えるっ!!」

「っ!?」

「………………ほお?」

 

 

椎名の言葉と共に、徐々に徐々にとオーズのカードが、タジャドルのカードがみるみるうちに書き換えられて行く、全く違う性質のものに………

 

司は、その様子が、さっきの鬼化と呼ばれる現象に近いのを感じていた。椎名の顔がさっきまでの鬼ような外見になるのがフラッシュバックするようにちらつく…………

 

【カードが書き換わる】………これも立派なオーバーエヴォリューションの1つだ。

 

この時、椎名にとっては【オーズの特別な力が自分に味方した。又はカードが進化した奇跡、という認識】しかなかった事だろう。

 

だが、実際は違う。オーズが味方したという認識自体は正しいのだが……………正確には、進化させたのは【椎名自身だ】……………椎名が自分のこの、【鬼化】や【オーバーエヴォリューション】を繰り返すという不思議な力に気づくのは…………もう少し後だ。

 

 

「リフレッシュステップッ!!メインステップッ!!【グラウモン】【ズバモン】を連続召喚っ!!そしてそのまま直接合体!!」

手札5⇨4⇨3

リザーブ7⇨11⇨0

トラッシュ0⇨4⇨7

【グラウモン+ズバモン】LV3(4)BP10000

 

 

真紅の魔竜。その成熟期の姿、グラウモンが現れ、時同じくして現れた黄金の成長期ブレイブ、ズバモンと合体。

 

グラウモンはその黄金の鎧をその身に纏う。

 

 

「アタックステップッ!!グラウモンッ!!」

 

 

アタックステップへと移行し、合体スピリットとなったグラウモンにアタックの指示を送る椎名。

 

そして、グラウモンにはこの瞬間に発揮できるアタック時効果が存在する。

 

 

「グラウモンのアタック時効果っ!!ネクサスカードの旅団の摩天楼を破壊っ!!」

「っ!!」

「魔炎の…………エキゾーストフレイム!!!」

 

 

グラウモンがその巨大な口内から放つのは渦巻く魔のこもった炎。それは瞬く間に、そして刹那に、銃魔のネクサスカード、旅団の摩天楼を焼き尽くした。

 

………そしてアタック時効果は解決し、次は互いのフラッシュタイミング。

 

…………ここで、

 

…………このタイミングで………

 

 

………発揮させる。

 

 

………進化したオーズ………タジャドルを……

 

 

「フラッシュッ!!【煌臨】発揮!!対象はグラウモン!!」

【グラウモン+ズバモン】(4s⇨3)LV3⇨2

トラッシュ7⇨8

 

「………っ!?」

 

 

この瞬間。グラウモンが赤い炎に包まれて行く。だが、グラウモンはそれを危険なものと認識していないのか、逃亡するようなことはせず、寧ろそれを受け入れる。

 

その炎の中から赤いメダルの力がグラウモンへと注入されて行き、グラウモンは姿形を大きく変えて行く。それは、そのメダルはまさしくオーズの力に違いないが………

 

 

「タカ!!クジャク!!コンドル!!」

 

 

♬タ〜〜〜ジャ〜〜ドルゥ〜〜!!!

 

 

「熱き炎!!情熱の翼翻し現れよっ!!仮面ライダーオーズ!!!タジャドルコンボッ!!」

手札3⇨2

【仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ(最終回ver.)+ズバモン】LV2(3)BP16000

 

 

その炎を振り払い、新たに現れたのは【仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ】………だが、その様子は明らかにマーズが使用していたものとは異なっている。その炎はいつも以上に燃え上がり、翼はより大きく広がっている。これも椎名の力が影響しているのか………

 

 

「………カードのテキストが書き換わり、【チェンジ】のスピリットから【煌臨】を持つスピリットになったか……………だがっ!!それ一体ではどうにもならんっ!!」

 

 

そう、これではただ単に椎名がそれを、書き換えたカードを呼びどしただけ、そのアタックが通ったとしても、銃魔のライフは1残る。

 

…………しかし、

 

 

「ふふっ!!それはどうかなぁ?……」

「っ!?」

 

 

椎名の表情から笑みがこぼれる。

 

進化したタジャドルコンボの奇跡の効果が存分に発揮されて行く。

 

 

「【タジャドル(最終回ver)】の効果っ!!デッキの上から煌臨元のカードを合計7枚になるまで追加っ!!」

「っ!?」

 

「行くぞっ!!タジャドルっ!!超ギガスキャンっ!!」

煌臨元追加カード↓

【ギルモン】

【デュークモン】

【マリンエンジェモン】

【パイルドラモン】

【メガログラウモン】

【ライドラモン】

 

 

タジャドルコンボが天に自身の腕に装着されている武器、タジャスピナーを掲げると、そこに椎名のカードが装填されて行く。

 

力を与えられたタジャスピナーは回転し、極炎の炎を燃え上がて行く。

 

 

♬ギルモン!!デュークモン!!マリンエンジェモン!!パイルドラモン!!メガログラウモン!!ライドラモン!!ギガスキャンッ!!!

 

 

「な、なんだっ!?」

「この効果で煌臨元に追加したカードのコストの合計分、相手のスピリットを破壊するっ!!」

「っ!!?」

 

「今、私が追加したカードコストの合計は40!!………よって、2体の【ベルゼブモン】を破壊するっ!!」

「くっ!?」

 

 

…………進化したタジャドルの炎は眼前の全てを焼き払う……………

 

 

 

「…………失われし極炎!!!ロストブレイズッ!!!!!」

 

 

タジャドルが放つ火拳。それは【フレイドラモン】のナックルファイアとは比にならない程に強大で膨大なもの。その炎はやがて銃魔の場全体を覆い尽くして行き、【ベルゼブモン】2体を一気に焼き尽くしてしまった。

 

 

「アタックは継続中っ!!飛び立てっ!!タジャドル!!」

 

 

椎名の指示を聞き、上空へ飛び立つタジャドルコンボ。目指すは当然、銃魔のライフだ。

 

 

「………くっ、ライフだ…………ぐうっ!!」

ライフ3⇨1

 

 

タジャドルの急降下……からの炎のパンチ。その単純ながらに強力なアタックが銃魔のライフを一気に2つ破壊した。

 

だが、それでも未だにライフは1残っており…………

 

 

「タジャドルの最後の効果っ!!煌臨元のカードを破棄して、回復するっ!!」

「………ぐっ!?」

 

「私は【ギルモン】のカードを破棄して、回復させるっ!!」

【仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ(最終回ver)+ズバモン】(疲労⇨回復)

破棄カード↓

【ギルモン】

 

 

タジャスピナーに装填された【ギルモン】のカードが消滅する。

 

が、それはタジャドル自身の効果。一瞬赤く発光し、回復状態となり、このターン、2度目のアタックの権限を得た。

 

後はガラ空きとなった銃魔の場に今一度アタックするだけ……………

 

 

「これで終わりだぁっ!!!タジャドルッ!!」

 

 

拳を天に上げ、炎を纏わせるタジャドルコンボ。目の前の銃魔の最後のライフを破壊する下準備をしているのだ。

 

しかし、銃魔もこれだけでは終わらないか………

 

…………手札にあるカード1枚に手をかける………

 

 

「…………面白い………いいだろう、ここから本気で相手してやる…………」

 

 

そう、小さく呟いた瞬間だった。

 

刹那、彼の耳にノイズが走る。

 

それはあの方からのの指示などがある時は必ず起こる現象だ。

 

 

〈銃魔……落ち着きなさい……〉

「っ!?Dr.A!!」

 

 

その包み込むような優しい言葉で我に帰ったか、銃魔はタジャドルのその炎の拳が届く前に…………

 

 

「………今日のところは一先ずこれくらいにしてやる……………次に会う時はもっとその力を使いこなせるよう、精進するんだな………」

「っ!?」

 

 

一瞬…………

 

 

それは一瞬だった。

 

 

タジャドルの炎の拳が届く瞬間に、銃魔はBパッドから再びワームホールを形成し、そこから逃亡した。空振りに終わったタジャドルの炎の拳が地面を勢い良く熱し、爆音を唸らせ、爆煙を巻き上げた。

 

 

「…………あれ?消えた?」

 

 

正面から見ていた椎名は爆煙が晴れる共に銃魔を視認しようとするが、その姿は当然見当たらず………ただ銃魔が消えたことだけを認識し、また、理解した。

 

 

「…………」

 

 

そんな中、横で傍観していた司だけは全ての真実を知っていた。銃魔が逃亡を計ったことを………そして、まだ手の内を全て見せていなかったということを…………

 

そう、明らかに銃魔は手を抜いていた。第6ターン目の時も、ひょっとしたらあの時点で椎名を倒せていたのかもしれない。理由があるとすれば、椎名の様子を見たかったからか…………

 

それともう1つ、司は聞き逃さなかった。

 

最後の最後………銃魔の口からs級犯罪者【Dr.A】の名が出てきたということ。

 

【Dr.A】以前も彼が関連して紫治一族と戦ったことがあるが、偶然にしては………出来すぎている。司はそう勘ぐっていた。

 

 

「……お〜〜い!!司ぁっ!!あいつどこいったの?」

 

 

そんな司の気も知らず、何も知らない椎名が大きな声で彼に話しかけてくる。司としては、正直うるさい声はやめて欲しかった。骨折した骨にジンジン響く………

 

 

「多分逃げた………バトルは終わりだ、お前はさっさと怪我人を運べ!」

 

 

司はそう言い返した。まだ王宮の人間がここに駆けつけてくるのも先の話。ならば唯一動くことのできる椎名に少しでも人を運べたらと…………思ったのだが………

 

 

「そっか〜〜!!逃げたのか〜〜………せぇっかく楽しいバトルだったのになぁ〜〜……………あぁ、疲れ……………………た?」

「っ!?おいっ!!」

 

 

次の瞬間。椎名は力尽き、倒れた。剣総、銃魔との戦いで有り余る全ての力を出し切ったのが伺える。

 

椎名は静かに寝息を立てながら眠りについた。まるで電池が切れて充電でもしているかのように………

 

 

「…………おい、どうすんだこれ?」

 

 

唯一意識のある司は困っていた。骨折して動けないのがもどかしい。この後約20分後程で王宮の人間が到着し、収集自体はつくのだが…………

 

 

 

 

こうして、具利度王国、王宮内で起こった事件は幕を下ろした。

 

 

だが、これが、今から起こる大きな事件のスタート地点にすら立っていないことを…………彼らはまだ、知らない。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ(最終回ver)】!!!」

椎名「オーズのコンボの1つ、タジャドルコンボが進化した真の姿!!その炎は敵の全てを焼き払うよっ!!」


******


〈次回予告!!〉

椎名「あ〜〜やっと全部終わったよ〜〜!!でも、どれも楽しいバトルだったね!ねぇ司っ!!……ってあれ?もーーどうしたんだよ〜〜!!………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「終わって、そして始まって」……今、バトスピが進化を超えるっ!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

そして全国のデジモンファンの皆さん、ベルゼブモンとデュークモンの対決を描写できず、誠に申し訳ございませんでした…………

修学旅行とオーズと鬼化片鱗編は次回でラスト、おそらく話のまとめになりますのでバトル無し回です。そしてその次からはガジャルグさんが私にメッセージで送ってきてくれたエピソード、【裏のジークフリード編】を【二期3章】としてお送りしたいと思っております。話数は全部で3、4話程の予定です。(話の展開の都合上、一部設定等を変えております。ガジャルグさん、ご了承ください!!本当にすみません!!)

この章の伏線は【第53話 スーパー脳筋パンチ!!クローズマグマ!!】にありますので、そちらも参照程度に………

最近、匿名希望の方から、【椎名の声は声優さんで例えると誰ですか?】と言う質問をもらいました。私が声優さんをあまり知らないと言うこともありますが、正直、私は小説のキャラの声はあんまりイメージできません。髪型とかは都合よく作りますが、(特に椎名のアホ毛)実際、オバエヴォのキャラはどんなイメージなんですしょうかね?烏滸がましいですが、出来たらでいいのでお声をくださると幸いです。


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第62話「終わって、そして始まって」

 

 

 

 

 

椎名達とオーズ一族を巻き込んだ一連の事件は幕を閉じた。

 

だが、その全てが解決したわけではない。未だに数多くの謎を残したままである。

 

例えば、人という概念を超越した、【椎名の鬼化】

 

例えば、本来ならば不可能である【複数回のオーバーエヴォリューション】

 

例えば、名前だけが知られている超s級犯罪者、【Dr.A】

 

 

………そして、この衝撃の事実を唯一知っている人物はただ1人………【朱雀】こと、【赤羽司】だけなのだ………

 

 

******

 

 

「んん、…………う〜〜む………む?」

「おっ!やっと起きよったな!!椎名っ!」

「ん?真夏?おはよう………ん?おはよう!?」

 

 

シーンとした静かな空気、場所、ベッドの上で、椎名は寝ていた。そして、起きると共に話しかけてきたのは親友。緑坂真夏。

 

 

「あんた、丸一日この王宮内の寝室で寝とったんよ?」

「え?一日!?………あぁ、そうか、あの後ずっと寝てたんだ私……………」

「………ほんま、ご苦労さん、大変やったな」

 

 

【おはよう】という言葉に違和感を感じた椎名。そうだ、あの時、銃魔とのバトルで疲れ果てた椎名は、この王宮内の寝室まで運ばれ、眠りについていた。

 

………そしてそれだけではない。椎名はあることを思い出す。

 

 

「はっ!!……他のみんなは!?………」

 

 

そう、剣総や銃魔と戦い、敗れ去った者達はどうなったのか気になった。一見命に別状はなさそうではあったものの、司などは特に骨折などで危険な状態であった筈だ。

 

だが、そんな心配はする必要もなく……

 

 

「………やぁ、椎名………僕は大丈夫だよ〜〜」

「っ!?……雅治っ!!良かったぁぁあ!!」

 

 

横のベッドから優しい声で話しかけてきたのは雅治。左手に包帯が巻かれているものの、無事のようだ。

 

そして、椎名の安堵に満ちた声が病室に木霊した直後………

 

 

「ガハハハハ!!俺に感謝しておくんだなぁ!!芽座椎名ぁ!!」

「毒島先輩ぃ!!あざぁっしたっ!!」

「やっ!!椎名ちゃん!!事件もひと段落したし、俺とデートでも行かない?」

「マーズッ!!……そんな約束はした覚えはないんだけどな〜〜」

 

 

静かだった病室が一気に賑わう。次から次へと違うベッドから話しかけられる。毒島とマーズも雅治同様、包帯でぐるぐる巻きにされているが、この通り、元気に喋っていることから、心配することは特になさそうだ。

 

 

「あっ!!そうだ、マーズ、借りたカード返しとくよ……」

「ん?借りたカード?」

 

 

そう言って、何かを思い出したかのように、椎名はベットの側に置かれていた自分の荷物の中からデッキとカードを取り出した。それは銃魔とのバトル中で進化した【仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ】のカード。

 

 

「はい」

「っ!?タジャドルっ!!1枚見当たらないとは思ってたけど…………え?てかこれ本当に俺のタジャドル?」

「そうそう、なんかバトル中に私のとこに来て姿が変わってさ〜〜」

「…………はっ!!つまりこれは俺と椎名ちゃんの愛の結晶!?!」

「いや、発想がキモいっちゅうねん」

 

 

真夏のツッコミで話が途切れると共に、笑いの声で包まれた。これでいつもの平和な日常に戻ってこれたと言えるだろう。

 

……しかし、忘れてはならない。今回の事件で、まだ負傷者がいるということを………椎名はそれを順に思い出して行く。

 

 

「……後は………司と王様!!」

「プルート王は以外と軽傷だったらしくてなぁ……もう元気に仕事しとるよ………」

 

 

【司】と【プルート】だ。

 

プルートは、真夏の言う通り、意外にも一番早く回復し、もう既に王としての仕事をしている。今回の件を踏まえて、セキュリティの強化を図っているのだとか………

 

………そして司は………

 

 

「司ちゃぁん!……大丈夫?私が松葉杖にならなくて良い?」

「ならなくて良いに決まってんだろっ!!鬱陶しいからどっか行ってろおっ!!」

 

 

松葉杖をつきながら、付き添う夜宵を怒鳴りつけながら椎名達の病室に足を運んだ。他の3人以上に包帯が分厚い。やはり一番の被害を受けたのだろうと、椎名は勘ぐる。

 

 

「椎名ちゃん!!起きたの?大丈夫?」

「夜宵ちゃん!!なんか久しぶり〜〜大丈夫だよ〜〜この通りっ!!いつも通りの逞しい椎名ですっ!!」

 

 

夜宵にそう言われ、椎名は怪我1つない事を夜宵に証明させるかのように、腕を曲げ、マッシブなポージングを取る。それはボディビルダーさながら、夜宵もその様子を見て、いつもの椎名だと認識する。元気そうで何よりだ。

 

 

「よっ!!司ぁ!!お互い元気で何よりだね!!」

「…………めざし………っ!!」

「…………?」

 

 

今度は司に目を向ける椎名。だが、司は血相を変え、椎名に歩み寄り………

 

…………そして、

 

 

「あいたたたたたた!!!!」

「お前………この髪はなんなんだ!!?!」

 

 

椎名の髪を、骨折してない方の手で、貪りつくように、無我夢中で一本の角のようなアホ毛を引っ張り出した。本人はあることを確かめるつもりで引っ張っていたが………

 

 

「ちょ、ちょちょ、何やっとんの朱雀!!アホちゃう?」

 

 

真夏が司を椎名から引き剥がす。当然だ。

 

 

「さいてーーー司ちゃん!!女の子の髪の毛引っ張るなんて!!」

 

 

立て続けに夜宵がそう言った。もっともな意見である。

 

 

「…………お前らは黙ってろ……答えろめざし、お前のその角みたいな髪はなんだ!!!」

 

 

だが、司も一歩も引かず、堂々と椎名に問うた。その髪の毛の事…………

 

………重力を無視して立ち上がっているその髪型は、今思えば、驚くほどに不思議な髪型だ。

 

…………今までだったら、こんな馬鹿げた質問などしてはいなかった事だろう。この程度、気にも留めなかっただろう。

 

だが、司は知ってしまった。あの日、あの時、芽座椎名が狂ったあの日、地獄の魔竜を呼び出したあの日、1日に2度のオーバーエヴォリューションを繰り返したあの恐々とした一日。

 

確かにあの時の椎名のアホ毛は本物の角になっていた。骨になり、硬質化し、明らかに角が生えていた。あの時は…………絶対、勘違いではない、見間違いでもない。確信している。

 

 

「え?この髪?あ〜〜なんか生まれた時からこうなってるみたいだけど〜〜縁起が良いから切るなって【じっちゃん】が良く言ってたな〜〜〜………で、これがどしたの?」

「…………そうか」

「って!!おいおい!!それだけぇぇ!?」

 

 

それだけを聞くと、司は怪訝そうな表情をしながらも、ようやく落ち着きを取り戻したのか、黙ってこの場から立ち去ってしまった。彼としては奇怪な行動に、雅治を含めた他のメンバーも少しだけ首を傾けた。

 

………特に雅治は………

 

「何かあったのではないか?」そう勘ぐっていた。これは、彼が、赤羽司が冗談半分で意味のない行動をするわけがないという信頼からによるものだった。

 

だが、これは、この行動は、やがて始まる司の孤立の………ある意味の始まりでもあったのかもしれない。

 

それはこの場で、【唯一本当の真実を知ってしまった】からである。椎名でさえも【自分が暴走していたこと】【自分が狙われていたこと】【オーバーエヴォリューションを繰り返したことを】認知していない。

 

椎名が狙われていたことに関しては、司を含めても、【プルート】【雅治】【毒島】は知っているが、そんなことは椎名の前では到底言えず…………結局彼らが何のために椎名を狙っていたのかもわからずじまいだった。【ただの人攫い】【拉致】程度の認識しかないだろう。

 

しかし、司だけはこれらのことを全て見、知り、そして身をもって体験した。剣総と銃魔、いや、今思えば剣総は何も知らずに椎名を狙っていた。銃魔は椎名のオーバーエヴォリューションを繰り返したあの【鬼化】と呼ばれる現象を観察し、またそれを得るためにバトルしているように見えた。

 

そしてなにより【Dr.A】が絡んでいた。司は心の中に何か引っかかるものを感じている。それはもどかしいが、今の段階ではどう足掻こうともはずすことは出来ないもやもやであり…………

 

 

「……………気にするな………奴は友でもなんでもないはずだろう…………昨日の事は忘れろ………」

 

 

廊下を歩く道中、司は誰にも聞こえないほどの声量でそう呟いた。

 

そうだ。いくら【めざし】の過去に何があったとしても、自分には関係のないこと…………次、また同じようなことがあっても関わらない…………司はそう思ってた…………

 

…………芽座椎名はライバル

 

少なくとも1年前まではそういう認識だった。あの【界放リーグの準決勝】の時までは…………

 

………だが、司は認めたくないだけだ。【芽座椎名】という存在が自分の中でより大きな存在になってきているという事に…………

 

自分と【めざし】の間に友情などというものはない。この時はそういう考えが捨てられなかった…………

 

そう、きっとこのざわめくような、苛立ったような、訳の分からない感情もきっと………急速に強くなっていく【めざし】に嫉妬しているから………ライバルとして………

 

 

******

 

 

生涯、決して忘れる事のないであろう修学旅行が幕を下ろしてから2日が過ぎた。椎名達はバトスピが最も盛んな都市、界放市で変わらず平和の日々を過ごしていた。

 

 

「おぉ〜〜い!!司ぁ!!」

「…………」

 

 

靴箱の前、学園を出ようとしていた【朱雀】こと赤羽司の前に現れたのは、そのライバル、【蒼龍の舞姫】こと、芽座椎名。

 

 

「今日さ!!みんなで一緒にたこ焼きでも食いいかない?……奇跡のたこ焼きの屋台が今ここらへんにあるんだってさぁ!!」

 

 

いつどこに出没するかわからない伝説のたこ焼き屋、奇跡のたこ焼き屋台がいるという。以前、副担任の教師、鳥山兎姫と、そのたこ焼きの壮絶な取り合いになったことは、まだ記憶に新しい。

 

 

「………黙れ……」

「えぇ!?……あっ!!おいっ!!」

 

 

司はそんな椎名を辛辣な言葉で一蹴し、彼女の横を通り過ぎ、歩みを進めて行った。

 

司は………

 

あの事件の以降、椎名達との付き合いが悪くなっていた。いや、付き合いが悪いのは前々からではあるが、それでいて、どこか棘が出てきた。昔の司に戻った感じだった。あの夜宵ですら彼に近寄り難い存在となってしまっている。

 

 

「むむむぅ……奇跡のたこ焼き作戦もダメだったかぁ………」

 

 

司のことだ。きっと何かのことで機嫌を損ねたに違いない。だから何かを司に労えば、必ず元の司に戻るはず。椎名はそう考えていた。

 

が、彼女の思っていたよりも、司の考えは1人では抱え込むには余りにも深く、重たいものであった。椎名がそれに気づくのはいったいいつの日になるやら………

 

 

******

 

 

ここは、薄暗い1つの部屋。そこには分厚い資料が束になって散らかっており、足の踏み場も少ない。

 

そんな中、確かに存在していた3人の人間。

 

いや、ひょっとしたら、彼らはもう人とは呼べない領域まで足を踏み込んでいるのかもしれない。

 

その3人とは、【剣総】、【銃魔】

 

そして、覆面を被った老人、【Dr.A】だ。

 

 

「おいぃぃいっ!!Dr.A!!!!」

 

 

何かに怒り心頭し、気が狂ったように発言するのは、今回、黄色の仮面スピリット、ブレイドを駆り、多くの人達を負傷させた荒くれ者、剣総だ。

 

剣総が怒り狂う理由は当然1つしかなく………

 

 

「俺にあの女を殺させろっ!!!今度こそこの俺がぶっ殺してやるっ!!」

「…………ほお?」

 

 

【鬼化】した椎名に敗北したことを根に持っていた。いや、正確には痛みを与えられたことを憎み、腹ただしく思っているのだろう。

 

 

「我儘を言ってはいけませんねーー剣総君。私は君にあの子を連れて欲しかったから頼んだんですよ?当初の目的を忘れてもらっては困りますね〜〜」

 

 

穏やかながらも何かを隠していると勘ぐってしまう。そんな声色で剣総と会話するDr.A。

 

そうだ。【自分のため、世界のため】あの女の子は【芽座椎名】は必要なのだ。

 

 

「知るかっ!!良いからさっさともっと強い力を俺によこしやがれっ!!」

 

 

強さという名の欲望を兎に角欲する剣総。そんな彼を見て、Dr.Aは呆れたように…………

 

 

「はっはは!!全く、君のその捻くれた根性もここまで来ると見上げたものだよ!!………仕方ない……」

 

 

笑ってみせた。覆面越しでも口角が上がっているのがわかってしまうほどに……

 

………「力を与えよう」

 

そういう返事を、彼は剣総は期待していた。なによりも、誰よりも、

 

しかし、そこから発言された言葉は、俄かには信じられないものであって…………

 

 

「……………消しときますか〜〜」

「………へ?」

 

 

と言った瞬間だった。

 

刹那。一瞬のうちに、彼の額に自身の持つBパッドを当てるDr.A。その表情は不気味な笑みに包まれており、それでいて、冷酷で、残酷なものだ。

 

そしてその束の間、剣総の肉体がみるみるうちに0と1のデジタルコードに書き換えられて行く。それは、生物が生物ではなくなる瞬間。

 

 

「ひぃ………か、身体がぁ!!身体がぁ!!」

「残念だよ、君には本当はもっと働いてもらいたかったのにね〜〜【エニーズ】を殺すと言ったのがダメだった…………」

「ぎゃ、ぎゃあぁぁぁぁあ!!!!」

 

 

やがて剣総はその無残な悲鳴が混ざった断末魔と、血肉がなくなっていく恐怖と共に、この地を去った。0と1のデジタルとなり、地上から完全に消え去ってしまった。

 

全ての一族に執念を燃やしていた剣総は…………もういない。この世をどこを探そうと、もう彼は存在しない。

 

この時ばかりは銃魔は眼鏡を定位置に戻しながらも、その目を閉じていた。いくら面識が浅いとは言え、命令に背いたからとは言え、やはり、人の死は辛いものか、彼なりの優しさもあってのことだろう。

 

 

「………ところで銃魔………」

「はい、なんでしょう……」

「【エニーズ】の初めての【鬼化】はめでたいねぇ〜〜!!」

「そうですね、私もそう思います」

 

 

人とは、こんなにも切り替われるものなのか、それも人を殺めた直後に、何かを祝うなど、一見すれば非情である。だが、それはこの男、【Dr.A】にとっては当たり前、使えないものは捨てる。それだけなのだ。

 

銃魔は今まで何人もの人々が彼に、Dr.Aに消される瞬間を目の当たりにしてきた。慣れたとは言えないが、Dr.Aの崇高なる目的のため、仕方のない事………それが彼の認識であった。

 

 

「待ち詫びたよ………17年!!いや、もうすぐ18年かぁ!!………ここまで、【鬼化】までくればもう少しだぁ!!!頑張れ!!【エニーズ】!!!」

 

 

【エニーズ】とは、一緒に出てくるワード、【鬼化】を含めて、状況的に椎名の事だろうか………

 

それだけでは全貌は見えてこない。椎名はいったい何だというのか…………

 

Dr.Aの言葉はどんどんエスカレートするように高ぶっていき、

 

 

「あぁ!!【六月】!!【哀楽】!!やはり私の考えは正しかった!!!あの時ぃ!!あの時ぃ!!貴様らが邪魔さえしなければぁ!!私はぁ!!私はぁ!!今頃この世界をより大きく進化させていたというのにぃ!!」

 

 

その口から強く言い放たれた名前は、捨て子の椎名の育て親【芽座六月】と界放市の現市長【木戸哀楽】彼らも何かこの一連の何かに関わっているというのか…………

 

 

「だがぁ!!もう少しで会えるっ!!【エニーズ】!!君のデータが取れる時!!それは真に世界が進化する時と言えようっ!!!!」

 

 

内容の意味がいまいち掴めないこのDr.Aの言葉。

 

しかし、後にこれはこの長い長い物語の道中で全貌を見せることとなるだろう………そう遠くない未来。間違いなく椎名の目の前に、彼は、【Dr.A】は現れるのだから…………

 

 

「………はぁ、はぁ、………柄にもなく騒いでしまいましたね〜〜………ところで銃魔」

「…………はい」

「これで、またこちら側の戦力が1つ消えたことになりますが、新たな雇いた手はありますか?」

 

 

一瞬のほとぼりも冷め、落ち着いた口調へと元に戻り、息を切らしながらも、Dr.Aは改めて銃魔に問うた。剣総の代わりに、自分の野望のために、力になれそうな人材はいないのか…………と、

 

 

「…………1人います………」

「ほお」

「そいつは、俺から見れば、誰よりも力を欲しているように見えました…………そうですね、言うなれば、【良心を捨てきれていない芽座葉月】と言ったところでしょうか」

 

 

【芽座葉月】

 

椎名の育て親、六月の実の孫。ロイヤルナイツを求めて、この世界を彷徨っている。Dr.Aはどういうわけだか、彼に協力していた。ロイヤルナイツを求める彼に………葉月もまた、ロイヤルナイツの場所を教える彼を利用していた。

 

その性格は冷酷非情であると言ってもいい、血は繋がってなくとも、家族同然で暮らした椎名や、祖父である六月の事など、家族とさえ認識してはいない。

 

兎に角力が欲しい。その欲望を満たすため、世界に散らばった伝説のロイヤルナイツのカード達を探し求めている。

 

銃魔が見つけた人材とは、そんな葉月が優しいままのような人物であると言う。

 

 

…………その名は………

 

 

「あなたも名前くらいは知ってるはずです………赤羽一族の次期頭領、【朱雀】こと…………【赤羽司】です………」

「ほお?………あの銀髪の少年が、私の新たな力になるのだね?……」

「えぇ、俺がなんとかしてみせます………奴は優しい………が故に、徐々に強くなるライバルまでも心配し、救いたいと考えているはずです…………」

 

 

銃魔が口に出したのは、【赤羽司】だった。

 

【良心を捨てきれていない芽座葉月】

 

確かに、今の司は感じていた。ライバル、芽座椎名との実力差を………しかし、それ以上に、あの奇怪な【鬼化】から救いたいとも考えている。無自覚ではあるが、友として、親友として…………

 

 

「………俺がその優しさ……捨てさせます……っ!!」

 

 




《本日のハイライトカード!!》

椎名「本日のハイライトカードは…………特にないだなぁ!!これがっ!!次回はちゃんとしま〜〜す!!」


******


《次回予告!!》

次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「スピリットアイランド」……今、バトスピが進化を超える!!


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

既に前の話を読み返されると伏線がバレそうな勢いですが、それでも楽しんでいただけるのなら幸いです!

※次回のサブタイはひょっとしたら変更するかもしれません。


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【二期】第3章 「スピリットアイランド編」
第63話「スピリットアイランド」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、……ここが、スピリットアイランド!!…………………す、すっごぉぉぉおおいい!!」

「ちょぉ!!恥ずいわ!!静かにせんかい!!」

 

 

【芽座椎名】【赤羽司】【緑坂真夏】【長嶺雅治】【紫治夜宵】の5人は、今、近未来のような背景の街並みにいた。

 

しかし、ただ単に近未来と言っても………

 

多くの龍が猛々しく吠え、多くの悪魔が微笑みながら佇み、多くの獣達が群れを成し、多くの機械兵が配列を組み、多くの天女や天使達が宙を舞い、多くの巨人達が人々と共に歩みを進めている。この、まるでファンタジーのような光景は、椎名が興奮してしまうには十分過ぎる事であると言える。

 

 

【スピリットアイランド】

 

それはハワイ島近辺に設立された人工島のことである。

 

そこには人の科学の全てが積み込まれており、最先端の技術を楽しむことができる。そして何より、それらを活かし、多くのスピリット達の実体を召喚できることから、特にカードバトラー達にとっては楽園とも呼べる存在である。

 

ここに住む人々………そのほとんどがこの島で働いている科学者や整備士達の親族だが、彼らはその実体のあるスピリットと共に平和に暮らしている。

 

 

「まっさかあのスピリットアイランドに来られることがあるなんてなぁ〜〜!!これは椎名達にホンマ感謝やで!!」

「いや〜〜礼なら理事長に言ってよ!!」

 

 

真夏がそう言い、椎名がそう言い返した。

 

通常、スピリットアイランドに招かれる事など殆ど無い。何しろ、最先端の技術を有しているのだ。島に来るだけで相当な費用と実績が必要になるし、セキュリティも厳重である。日本の最高峰のバトスピ学園であるジークフリード校の生徒と言えども、このスピリットアイランドに招かれる事は一部の例外を除いて殆どない。

 

 

 

そんな中何故、椎名達はこのスピリットアイランドにいるのか…………

 

それは約一週間前の話まで遡る……

 

 

******

 

 

「【アイランドリーグ】??」

「そうだ。そこに君達2人が招待されている」

 

 

ここは学園の理事長室。張り詰めたプレッシャーと重たい空気が流れるこの中に、椎名と司の2人はそこに佇むジークフリード校理事長、【龍皇竜ノ字】に呼び出され、ある島に行けとお達しをもらっていた。

 

それが【スピリットアイランド】だ。そしてそこで行われる世界的に有名なバトル大会、【アイランドリーグ】への参加資格の招待状をもらっていた。

 

 

「【スピリットアイランド】……君らも名前くらい聞いたことがあるだろう」

「……ん?………スピリットアイランドって何?」

「……黙れ」

「いや、知らないんかい」

 

 

椎名が横にいる司に聞くが、司は相変わらず無愛想な表情のまま椎名を黙らせる。

 

【スピリットアイランド】別名カードバトラーの楽園とも言われている場所は、とても有名な観光地、及びリゾート地の1つだ。今では誰もが知る有名な土地だが、椎名は知らなかった。田舎者故の事と、勉強不足だ。

 

 

「まぁ、ハワイにあるリゾート地みたいなものだと思っててくれよ………そこで君達【界放リーグ】の成績上位者2人に、【スピリットアイランド】で行われる大きな祭典【アイランドリーグ】への招待状が届いたんだ。毎年世界中から強豪が集まる大会に選手として選ばれる…………これは実に名誉あることだ。私としては鼻が高くなれるし、是非とも君達に参加して欲しい」

「……毎年……世界中から……強豪………楽しそうっ!!やります!!出ます出まぁすっ!!」

 

 

簡易ながら、【アイランドリーグ】の本質を理解した椎名は勢い良く挙手で、と言うか手をブンブン上に振り回しながら参加をアピールする。

 

 

「おぉっ!!それは頼もしいな!!……赤羽君はどうかね?」

 

 

龍皇は司に目を向ける。司はほんのわずかな時間だけ瞳を閉じ……考え……そして……

 

 

「…………わかった……俺も出よう」

「よっし!!そうこなくっちゃ!!」

 

 

司も未だに冷徹で鉄仮面な表情を崩さないものの、一応、それを承諾。彼なりに何かを考えがあっての参加か………

 

どちらにせよ今この場にいる椎名と龍皇にはわからぬこと…………

 

………2人の参加が決定し、歓喜する龍皇。当然だ。学園からあの【アイランドリーグ】に参加するなど前代未聞の事柄。その学園の理事長ならば喜んで当然。他の理事長達にも自慢できるし、鼻が高くなれる。

 

そして、龍皇の口から溢れた言葉と、椎名、司への贈り物は、自分なりのほんの細やかなプレゼントだ。

 

 

「………ところで……君らは友達は多い方かね?」

「ん?……結構いますよ〜〜!」

 

 

突然の理事長からの質問。

 

椎名の言葉を聞いて、龍皇も口角を少しだけあげ………

 

 

「そうか!!それは良かった!!実は今、個人的に【スピリットアイランド】のチケットを3枚分所持してるのだが、君らで他の誰か3人を連れて行ってあげたまえ!」

「……っ!?」

 

 

そう言って、龍皇は懐からスピリットアイランドのチケットを取り出し、椎名に手渡した。スピリットアイランドのチケットなど、普通は買える代物ではない。多くの財が存在する学園の理事長であるからこそ手に入れることができるものだ。

 

 

「おおっ!!真夏達を誘えるじゃん!!……ありがとうございます!!……てか、なんでこんな物持ってたんですか?」

「え?……あ〜〜……まぁ、私からの感謝と激励の気持ちと思って貰ってくれ………」

「おお〜〜マジっすか!!理事長ってば、太っ腹っすね!!」

 

 

そう椎名と言葉のキャッチボールを交わす龍皇だが……

 

実際は感謝の気持ちでも無ければ激励の気持ちとも違う………言えなかった。

 

何故ならそれは、そのチケットはちょうど1年前、【界放リーグ】でキングタウロス校理事長【大公獅子】との賭け事に敗れ、罰ゲームのような感覚で買わされたものだからだ。

 

本来ならば、大公獅子の家族一同が出向く予定であったものの、【デスペラード校理事長】の不在、及びそれによって伴った【デスペラード校の破綻】により、他の5つの理事長達が多忙を極めてしまったため、それは不可となり…………

 

こうして椎名達の手に渡った………という訳だ。

 

かくして、椎名、司、雅治、真夏、夜宵の計5人はカードバトラーの楽園、スピリットアイランドへと赴いたのだった。

 

 

******

 

 

そして、再び時は戻り、現在。

 

 

「はっはっは!驚いたかな?」

「もうやばいですっ!!感激です!!」

 

 

椎名達5人と共にいるのは、この島の総責任者、そして彼らの案内役と説明役を担っている【功 宗二(こう そうじ)】博士…………今年で40となる中年男性だ。その見た目、容姿は研究に没頭している証拠か、目の下にはくまができ、口周りの髭は伸びっぱなしだ。

 

 

「テレビでしか見たことなかったですけど、こうして見るとやはり壮大ですね!」

「はっはっは!そう言ってくれて嬉しいよ」

 

 

雅治がそう言い、宗二はそれを嬉しく思い、また笑った。

 

 

「博士ぇっ!!私達もスピリット召喚できるんですかぁっ!!」

「……おっ!あぁ、できるとも!!」

 

 

椎名が右手を大きく挙手しながら元気な声でそう言った。

 

宗二は意外にもあまり知られていない【スピリットアイランド】でのスピリットの召喚方法を椎名達に説明して行く。

 

 

「………スピリットを実体化させるのは簡単。………このスピリットプロテクターにカードを入れるだけだよ……………見てみてね」

 

 

宗二はそう言いながらも懐から一見なんの変哲も無いカードプロテクターを取り出す。

 

そしてそこに同じく懐から取り出したカードを1枚椎名達5人に見せるように収入……………すると、

 

 

「召喚!!【ベアモン】!!」

 

 

カードプロテクターがその中に収入されたカードごと消滅したかと思うと、宗二の目の前に小型グマのような赤の成長期スピリット、【ベアモン】が召喚された。

 

 

「おおっ!!」

「すごい………本物みたい……」

「はは、ほぼ本物だよ。召喚されたスピリットは当然質量を持ち、このように触れることができる」

 

 

そう言いながら、宗二は目の前のベアモンを両手でしっかりと触れ、持ち上げる。

 

そう、これは本物に限りなく近い。今まで椎名達が行ってきたバトルで召喚されたスピリット達は立体的ではあるものの、飽くまで映像であるため、実体は持たない。しかし、この【スピリットプロテクター】は違う。【バトルでは応用されたことは無い】が、確かに今、椎名達の目の前にスピリットが存在していた。

 

 

「今回、この【アイランドリーグ】が終わるまで君達にこの【スピリットプロテクター】を1枚ずつ渡しておこう………どうぞ」

「おおっ!!ありがとうございます!!」

 

 

椎名達5人は宗二からプロテクターを1枚ずつ手渡された。これでこのスピリットアイランドにいる間はいつでもどこでも自分の持つスピリットカードを実体化で召喚することができる。

 

5人の中でも特にその目を輝かせていたのは椎名だ。

 

 

「い、入れてもいいですか?」

「あぁ、どうぞ」

 

 

真っ先に椎名は宗二にそう聞いた。宗二としても断る理由はない。純粋な椎名に優しい笑顔を向けながらそれを承諾した。

 

椎名はデッキから1枚のカードを引き抜き、そのプロテクターに入れる。それは椎名が先ず1番に触れたいスピリットだ。

 

 

「ブイモンを召喚!!」

 

 

椎名が召喚したのは青く、そして小さな竜、ブイモン。今まで椎名のバトルに数多く登場し、デッキのエンジンのような役割を担ってきた大事な成長期スピリットだ。

 

 

「………ぶ、ブイモン………」

 

 

椎名は恐る恐る目の前に召喚されたブイモンに近づいていき、背丈を合わせるために膝を曲げ、態勢を低くする…………

 

その手をブイモンの頭の上へとそっと置こうとした…………

 

普通ならばすり抜ける。普通のBパッドで召喚したものならば。

 

忘れもしない。何も知らなかったジークフリード校の入試試験の日………召喚されたブイモンに興奮し、触ろうとしたらすり抜けた手を……また、その感覚を………

 

だが、今回は違った………

 

 

「さ、……触れるぅぅう!!!」

 

 

触れた。感触がある。若干毛があり、暖かい。

 

椎名はあまりの喜びに撫でるだけでは終わらず、ブイモンをそのまま抱き寄せた。ブイモンも椎名に触れられてそうされて嬉しかったか、幼い口角を上げ、笑っていた。

 

椎名の夢の1つが叶った瞬間だった。雅治達もその様子を微笑ましく眺めている。

 

 

「はっはっは!喜んでくれて良かったよ!……それじゃ、私はこれで、明日のアイランドリーグの準備があるからね〜〜」

「あっ!!ほんま、ありがとうざいました!!」

「ありがとうございました!!」

 

 

宗二とて多忙である。椎名達に付きっ切りというわけにも行かない。特に明日は島の総責任者として監修に回らなければならない。時間的に椎名達と付き合えるのも限界である。

 

 

「それじゃ、今日1日はゆっくり楽しむといいよ……椎名ちゃん。司君………明日のリーグ予選、頑張ってね」

「はいっ!!精一杯頑張ります!!」

「………ふんっ」

 

 

最後にそう言い残し、宗二はこの場を去っていった。

 

【アイランドリーグ】は明日、詰まる所それまでならば自由にこの楽園を満喫しても良いということになる。

 

 

「ほな、私はリリモンでも召喚しょかな?」

「じゃあ私はレディーデビモンを………」

「僕はアンキロモンかな〜〜」

 

 

真夏、夜宵、雅治がそれぞれ自分の召喚したいスピリットの名を述べる。

 

 

「椎名ちゃんは他に何を召喚したい?………あれ?」

 

 

夜宵がブイモンと戯れている椎名の方へと首を向ける。しかし、彼女の姿はブイモン諸共消え去っており………

 

 

「椎名いないね?………まさかまた迷子?」

 

 

雅治がそう言った。椎名は極度の方向音痴。目を離した隙に忽然と消え去ることも多い。

 

 

「あぁ、どうせ今頃………」

 

 

真夏は今、椎名が何をどうして何をしているのかを理解している。まぁ、迷子になるという点は結局変わり得ないのだが、

 

 

「ま、後で迷子センターに行けば会えるやろ」

「そうだね!!………じゃあ、司ちゃんはぁ!私とデートでもする?…………あれ?司ちゃんもいない……」

 

 

椎名の話は一旦終わり、夜宵はさっきまでいたはずの司の方を向くが、司も椎名同様、姿を忽然と消していた。

 

 

「ほんまや、どこいったんやあいつ………」

「…………最近……っていうか、修学旅行終わってから司ちゃん、変だよね………いつもはなんやかんやで一緒にいてくれるのに……」

 

 

夜宵は感じていた。司との距離感を、そしてそれがまた遠ざかっているのを………彼の態度は明らかに他のメンバーを遠ざけていた。これは、今現在、彼が1人である大きな悩みを抱えていることが理由に挙げられるが、今の夜宵達にそれを知ることは不可能なことで……………

 

 

「………まぁ、あいつ不器用だから、そっとしとけばそのうち機嫌も良くなるよ」

 

 

雅治が夜宵にそう言った。不安な彼女の心を拭うために………

 

雅治とて、感じている。司との距離感………

 

あの時から、雅治はなんとなく司がなんでああなっているのかわかっていた。

 

おそらく【何かを見たのだろう】あの【修学旅行で】【あのバトルの後で】…………司だけが何かを知っているのだろう………と。

 

 

******

 

 

一方その頃、椎名はと言うと………

 

 

「よっしゃぁぁぁあ!!!いっけぇ!!ライドラモン!!!」

 

 

ライドラモンの背にまたがり、凄まじい勢いでテーマパークのような街並みを疾走していた。野生のスピリットが自由に闊歩するこの島に公約違反は存在しない。が、故にほぼ自由である。それはこの島自体の厳重なセキュリティあってのこと………

 

ライドラモンの背に乗って走る。これもまた椎名の夢の1つであった。

 

しかし、ライドラモンも気分が乗ってきたか、気高く吠えたかと思うと…………

 

 

「ん?あれ?ちょっとライドラモン!?……そこは危なぁぁぁあいい!!!」

 

 

ライドラモンは空中を蹴るように大ジャンプ。そして上空を飛翔する赤いドラゴンの背を飛び越えてはまた飛び、飛び越えては飛びを繰り返し、上空高く飛び上がった。

 

しかし、そのまま自由落下し、落ち行く椎名とライドラモン。

 

 

「………っ!?」

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

椎名は落下した。ライドラモンと共に、【ある少年】の目の前で、ライドラモンは無事着地するが、椎名はその勢いでライドラモンの背から放り出されてしまう。

 

 

「………いったたた……頭打った〜〜」

 

 

少々はしゃぎすぎたか、調子に乗りすぎていたことを瞬時に反省する椎名。額にできたこぶがヒリヒリして痛い。

 

………そんな時だ。

 

 

「………お姉さんもしかして………」

「ん?」

「芽座椎名!?……あの第9回界放リーグで1年生だったのに3位になった!!」

「……え?……あぁ、そうだけど……」

「やっぱり!!」

 

 

椎名に声をかけてきたのはまだ10にも満たないであろう少年。情報通なのか、やけに界放リーグや椎名の事に詳しい。

 

 

「凄い!!凄いよ!!僕は【功 流異(こう るい)】って言います!!サインください!!……服にでっかくお願いします!!」

「お、おぉ、まぁお安い御用だよ」

 

 

椎名は流異の勢いに乗せられながらも彼の来ている白パーカーにデカデカとサインを書いた。界放リーグで活躍して以後、この類の依頼は増えていたのでお手の物ではある。

 

 

「よしっ!!と、これでいいかな?」

「わぁっ!!ありがとうございます!!」

 

 

書き終わり、椎名がペンをしまう時だった。流異が椎名の側にいたライドラモンに目がいったのは………

 

 

「こ、これが椎名さんのライドラモン!!かっこいいな〜〜」

 

 

気高く吠えるライドラモン。黒いボディ、稲妻を模した鋭角な角。少年が見惚れるのは十分過ぎるパーツである。そんな流異の様子を見た椎名は…………

 

 

「スピリット好き?」

「うん!!大好きだよ!!僕も大きくなったらかっこいいカードバトラーを目指すんだ!!」

「……ふふ、かっこいいカードバトラー……か」

 

 

流異の示した自分の夢に、椎名は少しだけ笑った。別にバカにしているわけではない。自分と全く同じ夢だったからである。

 

そんな椎名は張り切って…………

 

 

「よしっ!!………だったら………今回は大サービスだ!!」

「?」

 

 

椎名はその場で自身のBパッドを展開する。対戦するバトラーは目の前にはいないが、それで構わない。今回はただ、見せるだけだ。自分のスピリット達を………夢の大きなこの少年に…………

 

 

「召喚!!……ブイモン!!ワームモン!!エクスブイモン!!スティングモン!!フレイドラモン!!マグナモン!!パイルドラモン!!ギルモン!!グラウモン!!メガログラウモン!!デュークモン!!」

 

 

大量にスピリットが展開される。それは今まで椎名のバトルを支えてきた有力なスピリット達。弱い強い関係なしに、椎名が大好きなスピリット達。その様子はまさに圧巻の一言である。

 

 

「………わ、わぁっ!!か、かっこいいっ!!」

 

 

これを見て心踊らない人などいるのだろうか。

 

少なくとも目の前にいたこの流異は軽く感涙するほどに心を惹きつけられていた。今、自分の前にいるスピリット達は幾千もの戦いを経験した魂のデジタルスピリット達…………自分もいずれこんなスピリット達を引き連れ、かっこいいバトラーになりたい……いつかこうなりたい。と、夢見ている。

 

 

「へへっ!!どうよ!!」

「凄い!!界放リーグではいなかったスピリットもいる!!」

 

 

大興奮の流異。

 

しかし、椎名はここで流異に対する1つの疑問を投げかける。それはごく当たり前の事であって………

 

 

「そういえば……流異君……だっけ?こんな広いとこで1人なの?大丈夫?」

 

 

そう、ここまで広い街なのだ。子供1人で出歩くにはいささか厳しいものを感じる。実際、周りには子連れの家族も多く、この流異だけが1人でいるのは不自然に感じていた。

 

 

「あぁ、僕のお父さんは研究で忙しいし……僕、病気持ってるんだけど、この街はこうして外に出ると色んなスピリットと出会えるから、こうして歩いておきたいんだ〜〜」

「……………そっか」

 

 

その流異の声はどこか遠くを見つめているような……一見明るいが……寂しい声……

 

なんか悪い事を聞いてしまった気がする椎名。

 

彼女は名前を忘れてしまって一致していないようだが、流異の父親は【功 宗二】……この島の総責任者だ。彼は何とかして流異の病気を治そうと必死だ。それもこの島の管理やスピリット達の研究もしなければならないのだから尚のこと忙しく、多忙を極めている。

 

母親も同じ病気で他界してしまったため、どうしても今は流異1人なのだ。

 

………捨て子で……1人が辛い事を誰よりも理解している椎名は………

 

 

 

「よしっ!!今日は私と遊ぼう!!めいいっぱい!!」

「え?」

「今日一日、暇だからさ私!!遊ぼう!!ライドラモンの背中に乗る?メガログラウモンの肩でもいいな!!」

 

 

勝手に遊ぶと言い出し、口が止まらない椎名。そんな彼女の凄まじい勢いにたじろぐ流異。

 

 

「いや、悪いですよ………あなたがここに来ているって事は、【アイランドリーグ】に参加されるんでしょう?……その準備とか……」

「いいのいいの!!私直感派だから!!……後、あなた、とか、椎名さん……じゃなくて……お姉ちゃんと呼んでよね〜〜!!」

「えぇ!?」

「さぁ!!一緒にスピリットの背に乗ってこの島を探検しようじゃないか〜〜!!」

 

 

椎名はそう言いながら、スピリットプロテクターからライドラモンのカードを抜き取り、代わりにメガログラウモンのカードを入れる。これにより、ライドラモンに代わってメガログラウモンが質量を持ち、実体化する。

 

椎名は半ば強引に流異の手を引き、一緒にメガログラウモンの肩へ乗る。

 

 

「よっしゃぁ!!行けぇ!!メガログラウモン!!」

「わわっ!!」

 

 

椎名の指示を聞き、大きな咆哮を上げながら、そして重たい体を揺らしながら走り出すメガログラウモン。

 

 

「……す、すごい…………」

 

 

メガログラウモンの肩の上で………

 

流異は感動していた。心が震撼していた。

 

そこから見える光景に………

 

スピリットと一体となって走っているかのようで………

 

 

「へへっ!!楽しいでしょ?……先ずはどこへ行こうか?……まぁ、多分私道に待ってるんだけどね〜〜」

「え?」

 

 

椎名は最初にライドラモンの背に乗って走ってた時点でなんとなく気づいていた。また無自覚に迷子になっているということに…………

 

しかし、それでも2人は日が暮れるまで遊びに遊んだ。それは一生の思い出になるには十分過ぎるものだった。

 

流異は………

 

今日という日を忘れる事はないだろう。

 

憧れの芽座椎名と一緒に遊んだこの日を………

 

幸せな時を刻んだこの日を………

 

そして……

 

 

 

【明日という日】も忘れる事はない………………

 

 

 

******

 

 

 

ここは同じスピリットアイランド…………

 

しかし、明るいテーマパークのような街並みとは違い、ここは薄暗い路地裏。もともと人の人口が少ないことも相まって、なかなか人が寄り付かない………

 

そんな中でただ1人、自分のデッキを手に持つ人物が1人…………朱雀こと、赤羽司だ………彼は何を思うのか、そのデッキをただ強く握りしめていた…………

 

 

「【アイランドリーグ】…………明日………見せてやる………めざし……俺とお前の実力の差を………俺の方が上であると……証明してやる……!!」

 

 

そう言いながら…………感情を滾らせ……

 

またデッキを固く、強く握りしめた。

 

彼は明日……バトラーの楽園、スピリットアイランド……そこで行われる世界規模の大会……アイランドリーグで決着をつけるつもりだ………最大のライバルである芽座椎名と………

 

彼女に勝つことができれば………

 

又は自分の方が上、強い事を認識できたら……

 

……このなんとも言えないむしゃくしゃした気持ちは……

 

……きっと晴れる……

 

この時司はそう考えていた………

 

 

 

 

******

 

 

 

ここは………

 

……また別の場所……

 

……しかし、同じ時が流れ、同じ島に存在している。

 

地下なのだろうか、路地裏以上に暗く……薄気味悪く、それでいて邪悪で禍々しい部屋で……

 

ある2人の男性が対峙していた。1人はこの島の総責任者【功宗二】……そしてもう1人は覆面を被った老人………

 

 

「本当に……息子の病気を治してくれるんですね!?……」

 

 

切羽詰まったように言い草でその覆面で高齢の男性に詰め寄る宗二………

 

……息子とは……流異のことだろうか……

 

そんな様子を見て、覆面の高齢男性は………

 

 

「あぁ、明日、君が協力してくれたらね……」

「しかし、そんなこと上手くいくのか!?……意図的にできることではないはずだ!!」

「………なぁに、心配する事はない………必ず、【彼ら】なら勝ち上がるさ………ギッヒッヒッヒ!!」

 

 

覆面の高齢男性は不気味な笑みを浮かべながら、それでいて君が悪い声を上げ……鼻を高くし、笑った。

 

もはや言うまでもないが……彼は【Dr.A】……今、

この時点での物語においては殆どが謎に包まれている存在………

 

 

翌日…………

 

 

様々な思いが交差する中………カードバトラーの楽園、スピリットアイランド……そこで行われる【アイランドリーグ】が幕を開ける………

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【メガログラウモン】!!」

椎名「真紅の魔竜、その完全体の姿であるメガログラウモン!!肩の上に乗って走ってもらうと意外と楽しいよ!!」



******


〈次回予告!!〉


椎名「いや〜〜なんとか迷子復帰できましたよ〜〜!!」
真夏「ほんとお騒がせやな……あんたは……」
椎名「ごめんごめん!!でも、アイランドリーグは絶対に勝つからさ!!真夏も見ててよね!!」
真夏「ほいほい、その前に地下の予選で勝たんとな!!……ほれ、さっさと行ってきぃや〜〜!」

椎名「次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「地下予選、復活のエンペラー!!」……今、バトスピが進化を超える……!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


新章開幕です!!これからも全力で駆け抜けていきます!!

※毎度ながら、次回のサブタイは変更の可能性もあるのでご了承ください。


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第64話「地下予選、復活のエンペラー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ〜〜……スピリットアイランドは地下もこんなに広いんだなぁ〜〜」

 

 

時刻は早朝4時………

 

椎名は感銘を受けていた。この今いる場所、【アイランドリーグ会場の真下】にあるこの地下予選場に。

 

本戦に出場できるのは8人。A〜Hブロックからそれぞれ1人通過できる。椎名が今いるのはA〜Bブロックで行われるバトル場。学園のよりも遥かに大きい。これが後4つもあると考えるとスピリットアイランドの規模の大きさがどれだけ計り知れないことがわかる。

 

 

「………始まるんだ………よっしゃぁ!!頑張るぞっ!!」

 

 

大勢の人達がいる中で、やる気のある声を叫ぶ椎名。

 

そしていよいよ始まる地下予選。ざっと見て60人弱の参加者が一斉にバトルを始める。誰もかれもが招待状をもらった強者である。この中のたった2名のみが本戦へと勝ち上がれる。それは通常ならば難関を極める所業………

 

だが、椎名を肩書き通りのバトラーと思い込んではならない。【界放リーグ】が終わってからと言うもの、様々なバトルを経験し、新たなカードも得ている椎名がそんじょそこらのバトラーに敗北を喫するわけがなく…………

 

 

………あっという間に予選の決勝へと駒を進めた。

 

 

《これより、A、Bブロックの決勝戦を行います………選手の方は入場したください。》

 

 

無機質な声色のアナウンスが流れる。椎名はAブロック。Aのバトル場へと赴き、予選最後のバトルへと向かう。

 

………そんな椎名の対戦相手は………

 

 

「………よっシャァォァアオラァァ!!決勝だぁ!!」

 

 

やけにテンションがハイな男。上半身は裸でとても筋肉質な体型である。

 

 

「へへっ!!よろしくお願いします!!私芽座椎名って言います!!」

「おぉ!!おお!!礼儀はあるみてぇだな!!俺はキバーラ三世!!……オセアニアリーグ優勝者だ!!」

「おぉ!!オセアニアリーグ優勝者!!………ん?オセアニアってどこだ?」

「知らねぇのかよぉっ!!おもしれえ奴だなぁ!!」

 

 

意外と気の合う2人。ツッコミを入れてくる人物がいないため、好き放題のやりたい放題だ。

 

だが、今この場は仮にも予選の決勝。会話がそう長く続くわけがなく…………

 

 

「んじゃ、いっちょ揉んだやっか!!」

「よっしゃっ!!もんでやんよ〜〜!!」

 

 

ありったけのテンションのまま、2人のバトルが幕を開ける……………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まった。因みに、法律上、スピリットプロテクターを使っての、スピリットを実体化させてのバトルは行えない。そのため、このバトルはいつも通り3D映像のみでのバトルとなる。

 

先行は………キバーラ三世……

 

 

[ターン01]キバーラ三世

 

 

「俺のターン!!スタートステップ、ドローステップ!!メインステップ!!……ネクサスカード、【恐龍同盟本拠地】を配置し、ターンエンド!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

【恐龍同盟本拠地】LV1

 

バースト【無】

 

 

キバーラ三世が手始めと言わんばかりに配置したのは密林が生い茂る中に佇む遺跡のような場所。そこには血の気の盛んな恐竜達が住まうと言う………

 

次は椎名のターン。いつものように口角を上げながら意気揚々とターンシークエンス進めて行く。

 

 

[ターン02]椎名

 

 

「恐龍同盟本拠地……地竜スピリットのデッキか……よっし!!スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!メインステップ!!……【ブイモン】を召喚!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ4⇨5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が初手で召喚したのはいつもの青い小竜、ブイモン。その召喚時も遺憾無く発揮させる。

 

 

「召喚時効果!!カードをオープン!!」

オープンカード↓

【ギルモン】×

【ライドラモン】◯

 

 

効果は成功、椎名はアーマー体スピリットであるライドラモンを手札へと新たに加えた。

 

………そしてそのまま……

 

 

「ライドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

 

 

ブイモンの頭上に黒くてヒョウタンのような形をした何かが投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化する。

 

 

「来い!!轟く友情、【ライドラモン】!!」

【ライドラモン】LV1(1)BP5000

 

 

蒼き稲妻をその身に宿しながら、黒き獣型のアーマー体スピリット、ライドラモンが椎名の場へと姿を現した。

 

 

「召喚時効果でコアを2つトラッシュへ!!」

トラッシュ4⇨6

 

 

登場するなり気高く雄叫びを上げるライドラモン。すると、椎名のBパッドに新たにコアが追加される。トラッシュに置かれるため、タイムラグがあるのが咎めないものの、初手であればそれはあまり気にならない。

 

 

「アタックステップ!!ライドラモンでアタック!!」

 

「ライフだ!!持ってきな!!」

ライフ5⇨4

 

 

ライドラモンの俊足を生かした体当たりが炸裂。キバーラ三世のライフを1つ破壊した。この先制点は後に椎名にとってもキバーラ三世にとっても大きく響いてくる事だろう。

 

 

「ターンエンド!!」

【ライドラモン】LV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとした椎名。次は1周回ってキバーラ三世のターン。椎名のライドラモンに対してどう動きを見せてくるのか………

 

 

[ターン03]キバーラ三世

 

 

「俺のターン!!スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!リフレッシュステップ!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

勢いよくターンシークエンスを進めて行くキバーラ三世。次はメインステップに入る。

 

 

「メインステップ!!本拠地のLVを上げ、バーストをセットし、マジック、ジュライドローを使用!!カードを2枚ドローし、ターンエンド!!」

手札5⇨4⇨3⇨5

リザーブ6⇨5⇨2

トラッシュ0⇨3

【恐龍同盟本拠地】(0⇨1)LV1⇨2

 

バースト【有】

 

 

「………っ!!……」

 

 

その態度とは裏腹に消極的な戦法をとったキバーラ三世。そのターンをドローとバーストのセット、ネクサスのLVアップのみで、重要となるスピリットを1体も召喚せずにエンドとしてしまう。仮にもオセアニアリーグ優勝者なのだ。実力はあるはず…………

 

しかし、そんな彼の今わかっている情報は地竜スピリットを扱うデッキ……という点のみ………そんなこともあってか、バトルの空気にやや緊張感が走り出した。

 

 

「さぁさぁ!!かかって来やがれぇぇ!!」

「望むところだ!!何伏せたかは知らないけど全力で叩き込んでやる!!」

 

 

しかし、そんな緊張感などへでもないか、椎名は今まで以上に張り切ってバトルは臨む。余程場慣れしているのが伺えた瞬間であると言える。

 

そうだ、関係ない。相手がどんなバーストを伏せようと………おくしたら相手の思うがままだ。椎名はまたその口角を上げ、勢い良くターンを進めて行く。

 

 

[ターン04]椎名

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!リフレッシュステップ……」

手札5⇨6

リザーブ0⇨1⇨7

トラッシュ6⇨0

【ライドラモン】(疲労⇨回復)

 

 

リフレッシュステップまで行い、疲労から回復するライドラモン。その証拠と言わんばかりにまた気高く吠える。

 

 

「メインステップ!!もういっちょブイモンを召喚!!効果でカードをオープン!!」

手札6⇨5

リザーブ7⇨4

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【ディーアーク】×

【スティングモン】◯

 

 

再び召喚されるブイモン、そしてその召喚時効果も成功、成熟期スピリットであるスティングモンのカードが椎名の手札へと新たに加えられた。

 

 

「さらにブイモンの追加効果でこの【スティングモン】を2コスト支払い召喚する!!」

手札5⇨6⇨5

リザーブ4⇨1

トラッシュ2⇨4

【スティングモン】LV1(1⇨2)BP5000

 

 

ブイモンに続くように椎名の場に飛び出して来たのは緑のスマートな昆虫戦士、スティングモン。その召喚時効果でコアが増える。

 

しかし、迂闊だったか、このタイミングでキバーラ三世の伏せていたバーストカードが反応を示す。

 

キバーラ三世は口角を上げ、そのバーストカードを勢い良く反転させる。

 

 

「召喚時効果発揮後により、バースト発動!!」

「……っ!!」

「【恐龍同盟 刃雷のエレクトロサウルス】!!」

 

 

バーストが反転したかと思うと、そこから蒼き稲妻が迸り、椎名の場にいるライドラモンを感電させる。ライドラモンの電力をも上回る高圧だったか、ライドラモンは力尽き、その場で爆発してしまった。

 

 

「っ!!……ライドラモン!!」

 

「はっはっは!!エレクトロサウルスの効果だ!!BP10000以下のスピリットを破壊する!!……そしてその後、このスピリットを召喚だっ!!来い!!」

リザーブ2⇨0

【恐龍同盟 刃雷のエレクトロサウルス】LV2(2)BP7000

 

 

ライドラモンを破壊した稲妻がキバーラ三世の場へ集約して行く。やがてそれは1体の肉食恐竜のようなスピリットを形成した。その名はエレクトロサウルス。蒼き稲妻を模した鎧が特徴的である。

 

登場するなり大きな咆哮を上げるエレクトロサウルス。まるで椎名やそのスピリット達に威嚇しているかのよう…………

 

恐龍同盟スピリット………赤属性の地竜スピリット達の中でも特に強力な効果を多く有しているカテゴリである。

 

 

「召喚時効果発揮後のバーストスピリットだったのか………………くぅぅ〜〜〜っ!!!!燃えて来たぞっ!!」

 

 

しかし、そんなエレクトロサウルスの威嚇なぞ全くもって意に介さない椎名。肝が座っているのか、はたまたただのおバカなのか…………その両方か………

 

これもバトルが楽しいという感情から来ているのは間違いないことであって………

 

 

「真っ向勝負だ!!キバーラ三世!!……バーストを伏せ、アタックステップ!!スティングモンでアタック!!効果でコアブースト!!」

手札5⇨4

【スティングモン】(2⇨3)LV1⇨2

 

 

真っ向勝負と称してアタックステップへと移行し、スティングモンにアタックの指示を送る椎名。その効果でコアが増え、副次的にスティングモンのLVが上がった。

 

そして、この時に使えるようになる効果もある。椎名はそれの解禁と共に手札のカードを抜き、使用する。

 

 

「さらに!!スティングモンの【超進化:緑】の効果発揮!!」

「……!!」

「この効果で緑の完全体スピリットを召喚する………」

 

 

スティングモンに0と1の羅列が並んだデジタルコードが巻きつけられる。スティングモンはその中で姿形を大きく変え………

 

やがてそれは破裂し、中から全く別のスピリットが姿を見せる………

 

 

「至高の竜戦士!!……【パイルッドラモンッ】!!」

【パイルドラモン】LV2(4)BP10000

 

 

現れたのは椎名のエースの1体、パイルドラモンだ。青と白の4枚の羽に加え、その腰には2丁の機関銃が備え付けられている。正に至高の竜戦士。

 

 

「ほぉ、……これはたまげた………!!」

 

 

キバーラ三世はパイルドラモンを見て、驚愕ながらも笑っていた。強敵の出現に思わず笑みを浮かべる………カードバトラーの鑑とも取れる行動である。

 

 

「召喚時効果!!コスト7以下のスピリット、エレクトロサウルスを破壊!!」

「……!!」

「……デスペラードブラスタァァァァア!!!」

 

 

パイルドラモンは腰にある2丁の機関銃を両手で1つずつ持ち上げ、連射………有りっ丈を……ぶっ放す。

 

その無数の弾丸はエレクトロサウルスの装甲に次々と穴を開ける。そしてそのうち肉体を貫いていき………

 

最終的にエレクトロサウルスは力尽き、その場で爆発を起こしてしまった。

 

 

「アタックステップは続行!!パイルドラモンでアタックだっ!!……アタック時効果エレメンタルチャージでコア2つをパイルドラモンに置き、ターンに一度回復する!!」

【パイルドラモン】(4⇨6)LV2⇨3(疲労⇨回復)

 

 

パイルドラモンの身体が様々な色で彩られる。それはパイルドラモンが力を使用した何よりの証拠。これによりコアが増え、回復し、このターン、2度目の攻撃の権限を得た。

 

 

「行けっ!!パイルドラモンッ!!渾身の討撃……エスッグリーマ!!!」

 

「……っ!!……ライフだ!!……ぐおっ!!」

ライフ4⇨3

 

 

キバーラ三世に高速で接近するパイルドラモン。そのままガトリングのように拳でキバーラ三世のライフを打ち砕いた。

 

 

「もういっちょ!!パイルドラモン!!」

【パイルドラモン】(6⇨8)

 

「ちぃっ!!そいつもだ!!」

ライフ3⇨2

 

 

ついでと言わんばかりに右拳の一撃でキバーラ三世のライフをさらに追加で1つ砕いたパイルドラモン。アタック時効果もあって、コアの総数も急速に増えていく。

 

 

「よっしゃっ!!ターンエンドッ!!」

【パイルドラモン】LV3(8)BP13000(疲労)

【ブイモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【有】

 

 

大きくコアの総数に差を広げつつ、キバーラ三世のライフを大きく削った椎名。なかなかに良いターンであったと言えるだろう。

 

次は絶賛劣勢を強いられているキバーラ三世。しかし、ライフの減少によりコア自体は増えている。反撃なるか…………

 

 

「はっはっは!!やるじゃないか!!正直お前を俺の妃として連れ帰りたいくらいだっ!!」

「……きさき?」

 

 

笑いながらさらっととんでもないことを言いあげるキバーラ三世。そんなことをすれば国際的な拉致問題になりかねない。椎名も椎名で妃の意味を全く理解していない。

 

 

[ターン05]キバーラ三世

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!……リフレッシュステップ……」

手札5⇨6

リザーブ4⇨5⇨8

トラッシュ3⇨0

 

 

ゆっくりとターンシークエンスを進めて行くキバーラ三世。そんな中、ドローステップで引いたカードを見、また口角を上げた。そのカードは自分のデッキの切り札。そのカードの力を使いこなし、彼はオセアニアリーグの覇者となったのだ…………

 

 

「メインステップ!!俺は【ピストジャサウルス】、【恐龍同盟ステゴラール】をLV2で召喚!!」

手札6⇨5⇨4

リザーブ8⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

キバーラ三世が新たに召喚したのは0コストの地竜スピリット、泳ぐように地を這うピストジャサウルスと、恐龍同盟スピリットの1体、背中にある複数の板が特徴的な四足歩行のステゴラール。

 

力自体は対して強力ではないが、彼のデッキではこれを生かしたコンボが何よりも強力であり………

 

 

「アタックステップッ!!やれ!ステゴラール!!効果でBPプラス3000し、1枚ドロー!!」

手札4⇨5

【恐龍同盟ステゴラール】BP5000⇨8000

 

 

アタックステップに移行し、ステゴラールにアタックの指示を送るキバーラ三世。効果により、その手札を少しだけ潤した。

 

だが、目的はそんな生易しいものではない………もっと雄大で、大胆な戦術である。

 

 

「さらにフラッシュ!!【煌臨】!!対象はステゴラール!!……この時、ステゴラール自身の効果でソウルコアの代わりに手札1枚をコストとする!!」

手札5⇨4

破棄カード↓

【ピストジャサウルス】

 

「………!!」

 

 

キバーラ三世のフラッシュタイミング。ステゴラールのさらなる効果により、本来ならば払わなければならないソウルコアを手札1枚で補った。

 

ステゴラールが赤く光り輝く。

 

赤属性のスピリットに煌臨する証拠だ…ステゴラールはその中で姿形を大きく変えていく……

 

これから呼び出されるのは………まだ彼の切り札ではない。が、彼のデッキにおいては大事な役回りを担うスピリットであって……………

 

 

「煌臨!!【恐龍同盟アクロカントレックス】!!」

手札4⇨3

【恐龍同盟アクロカントレックス】LV2(3)BP10000

 

「…………!!」

 

 

新たにキバーラ三世の場に現れたのは二足歩行の肉食恐竜のような恐龍同盟スピリット、アクロカントレックス。背中に生えた複数の長い棘が特徴的だ。

 

その威圧感はその時点で椎名のスピリットをも圧倒していると言える。

 

 

「煌臨時効果!!BP10000以上のスピリット1体を破壊っ!!」

「なにぃっ!?」

「パイルドラモンを破壊っ!!」

 

 

アクロカントレックスが口内から放つ黒い炎。それは椎名の場に佇むパイルドラモンを襲う。パイルドラモンはそれをまともに受けてしまい、力尽き、倒れ、爆発してしまった。

 

 

「くっ!!パイルドラモンッ!!」

 

 

爆発による爆風を肌で感じながら反射的にパイルドラモンの名を叫ぶ椎名。

 

この手の効果は赤羽司、【朱雀】の持つ赤羽一族に伝わる伝説のデジタルスピリット、【ホウオウモン】と同等の効果だ。相手が強ければ強い程に破壊しやすい強力なものである。

 

しかし、ホウオウモンと比べると、煌臨元カードが手札に戻る点やアタック時効果の存在もあって、やはりホウオウモンの方が煌臨条件が厳しい分強い。

 

が、デッキによってはアクロカントレックスの方が使える場合もある。特にこのキバーラ三世のデッキだと…………

 

 

「さらに!!アクロカントレックスのさらなる効果っ!!手札のカード1枚を煌臨元に追加することで、再び煌臨時効果を発揮するっ!!俺はピストジャサウルスのカードを追加っ!!」

手札3⇨2

 

「っ!?」

 

 

魚のような見た目の地竜スピリット、ピストジャサウルスが追加で場に現れる。

 

しかし、アクロカントレックスはそれを見るなり近づき、捕食し始める。ピストジャサウルスのサイズでは丸呑みであった。

 

 

「た、食べてる………」

 

 

味方のスピリットを捕食するという異様な光景に、流石の椎名も引き気味。

 

しかもだ。煌臨時効果をもう一度発揮させると言っても、パイルドラモンがいなくなった今、椎名の場にはブイモンのみ。BPは僅か2000しかないのだ。アクロカントレックスの効果対象内ではない。

 

つまり、一見すると全く意味をなさない行為なのである…………

 

 

「はっはっは!!それで良い!!」

「………?」

 

 

ただのプレイングミスにしか見えないこの行い。

 

しかし、本当はキバーラ三世のデッキにとっては正しいプレイング。そのような常識を逸したプレイングがあってこそ、彼はオセアニアリーグを勝ち取ったのだ。

 

今こそ、彼の切り札が煌臨する。

 

 

「フラッシュ!!さらに煌臨を発揮!!対象はアクロカントレックス!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ1⇨2s

 

「………っ!!」

 

 

今度はしっかりとソウルコアを支払っての煌臨だ。アクロカントレックスが赤く光り輝き、その中で姿形を大きく変えていく。

 

 

「古代の覇者よ……今こそ再び世界を蹂躙せよ!!……【恐龍覇者ダイノブライザー】!!煌臨!!」

手札2⇨1

【恐龍覇者ダイノブライザー】LV2(3)BP16000

 

 

……赤い光が火花のように弾け飛ぶ。

 

その中から新たに現れたのは恐龍同盟のリーダーにして覇者………ダイノブライザー。赤き装甲を見に纏い、その手には両刃を備えたジャベリンがある。その貫禄は正しく恐龍の覇者に相応しい。

 

 

「………す、すっご〜〜〜!!」

 

 

これを見てテンションが上がらない椎名ではない。早朝の時間帯にもかかわらず、その目はぱっちり冷め、開眼している。

 

 

「ダイノブライザーの煌臨時効果!!BP10000以下のスピリット全てを破壊するっ!!」

「っ!?」

 

 

ダイノブライザーはその手のジャベリンを勢いよく地面に突き刺す。すると火柱が様々な場所で立ち上り、椎名の場にいたブイモンがそれに巻き込まれ、あっさりと焼却されてしまった。

 

この時点で、ダイノブライザーはかなり強力なスピリットであることが伺える。しかし、真骨頂はここから…………キバーラ三世はそれを発揮させていく………

 

 

「そしてぇ!!ダイノブライザーのアタック時効果……【連覇】!!!」

「……れんぱ?」

 

「この効果で、俺は3枚の煌臨元カードを破棄!!」

破棄カード↓

【ピストジャサウルス】

【恐龍同盟ステゴラール】

【恐龍同盟アクロカントレックス】

 

 

ダイノブライザーには繰り返された煌臨等により、計3枚の煌臨元カードが存在していた。キバーラ三世はそのカード達を全て破棄し、トラッシュへと送った。

 

……しかし、

 

 

「………え?あれ?何も起きない………」

 

 

多大なコストを払ったものの、当の本人、ダイノブライザーには全く影響がない。椎名はその事に不自然さを感じる。

 

 

「さぁ!!アタック中だぜぇ!!」

 

「っ!!……ライフで受ける!!」

ライフ5⇨4

 

 

しのごと考えてはいられないか、ライフで受ける宣言をする椎名。ダイノブライザーのジャベリンの一振りが彼女のライフをいとも容易く薙ぎ払った。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!【マリンエンジェモン】!!」

「………!!」

 

「効果により、召喚し、このターン、私のライフは相手のコスト9以下のスピリットから減らされない!!」

リザーブ12⇨9

【マリンエンジェモン】LV3(3)BP9000

 

 

勢い良く反転する椎名のバースト。そこから現れる小さな桃色の小動物は、意外にもデジタルスピリットの最高ランク、究極体の一種………

 

マリンエンジェモンは場に出るなり、歌うように囀り、水の力を呼び寄せる。それで椎名を囲い、このターン、条件を満たさないスピリットでは突破が不可となった………

 

 

「よしっ!!凌いだ!!」

 

 

いかにダイノブライザーの【連覇】が強力であろうと、マリンエンジェモンの力でアタックを通らなくして仕舞えば問題ない………キバーラ三世はターンエンドを迫られる………かと思えたが………

 

ダイノブライザーの持つ【連覇】の効果は椎名が想像していたものよりも遥かに上回る代物であって…………

 

 

「……成る程………なら、ターンエンド……」

【恐龍覇者ダイノブライザー】LV2(3)BP16000(疲労)

【ピストジャサウルス】LV2(3)BP3000(回復)

 

【恐龍同盟本拠地】LV2(1)

 

バースト【無】

 

 

潔くそのターンをエンドとしたキバーラ三世。

 

次は椎名のターンだ。勢い良くターンを始め、残ったライフを根こそぎ奪うつもりだ。

 

しかし………

 

 

「私のターン!!スタートステップッ!!…………あれ?スタートステップッ!!………え?あれれ?……」

 

 

Bパッドに宣言しても何故かそれは全く反応を示さない。椎名は今度は大きな声で問いかけるように………

 

 

「お〜〜い!!スタァァトステップ!!…………はい来たスタートステップ!!………こ、来ない……」

 

 

しかし、それでもやっぱりBパッドは反応を示さない。

 

通常、ターンの開始にスタートステップを宣言すれば、Bパッドは点滅し、ルール通り、その後のコアステップ等を行えるのだ。

 

だが、今回はなぜかそれが行えない。

 

まさかBパッドが壊れた?

 

そんな考えが椎名の頭をよぎる時だった。キバーラ三世が高らかに宣言を行い………

 

 

「ダイノブライザーの【連覇】の効果を適用ぉぉお!!」

「っ!?」

 

 

キバーラ三世の叫びとと共に大きな咆哮を上げるダイノブライザー。その様子はまるで新時代幕開けを伝える火山の噴火。空気が揺れ、地が震撼する。

 

そして語られる。ダイノブライザーの効果………その本筋が………

 

 

「【連覇】の効果はぁ!!煌臨元カードを3枚破棄する事で、このターンの終了時!!もう一度【自分のターン】を行う!!」

「………なにぃっ!?」

 

 

自分のターンをもう一度行う。そんな別次元で常識の外側にあるような効果内容に驚愕する椎名。Bパッドが反応しないわけだ。そもそも自分のターンなど回ってきていなかったのだから。

 

 

「もう一度………俺のターンだあ!!」

「………っ!!」

 

 

キバーラ三世のエクストラターンが幕を開ける。

 

 

[ターン06]キバーラ三世

 

 

「スタートステップ!!コアステップ!!ドローステップ!!リフレッシュステップ!!」

手札1⇨2

リザーブ0⇨1⇨3

トラッシュ2⇨0

【恐龍覇者ダイノブライザー】(疲労⇨回復)

 

 

リフレッシュステップ時、眼光を放ちながら、疲労から起き上がるダイノブライザー。また大きな咆哮を上げる。

 

 

「メインステップッ!!俺はダイノリボーンを使用し、トラッシュに眠るピストジャサウルスと恐龍同盟ステゴラールを手札に戻す!!んでもってそんまま召喚!!」

手札2⇨1⇨3⇨2⇨1

リザーブ3⇨1⇨0

【ピストジャサウルス】(3⇨1)LV2⇨1

【恐龍同盟本拠地】(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ0⇨2⇨3

 

 

キバーラ三世はマジックカードを使用し、トラッシュに眠る2枚の地竜スピリットを回収。そしてそれをそのまま召喚。これで彼の場に計4体のスピリットが揃った。

 

ダイノブライザー以外はLVが1だが、椎名を追い詰めるには十分すぎる数だ。

 

 

「アタックステップッ!!ステゴラールでアタック!!効果でBPを上げ、1枚ドロー!!」

手札1⇨2

【恐龍同盟ステゴラール】BP2000⇨5000

 

 

走り出すステゴラール。キバーラ三世の手札を僅かながらに潤す。だが、これは………

 

 

「マリンエンジェモンでブロック!!」

 

 

椎名の指示で向かってくるステゴラールに飛び立つマリンエンジェモン。小回りの効かない体型であるステゴラールにはできない動きで翻弄し、最後には上空から水の力で押し倒し、爆発させた。

 

 

「まだだぁ!!行きやがれぇ!!」

 

 

キバーラ三世はそう言いながら残ったアタック可能な3体のスピリットでも一斉に攻撃を始める。2体のピストジャサウルスが地を泳ぐように進み、ダイノブライザーがジャベリンを回転させる。

 

マリンエンジェモンでブロックしてしまった椎名はこれを防ぐ手段がなく…………

 

 

「ライフで受けるっ!!……ぐっ!!……ぐわっ!!」

ライフ4⇨3⇨2⇨1

 

 

その攻撃を3回連続で受けてしまった。流石に蹌踉めくが持ちこたえ、なんとか姿勢を戻した。

 

これでライフ差は一気に逆転され、風前の灯火となった。

 

 

「………はっはっは!!持ちこたえたか!!ターンエンドッ!!」

【ピストジャサウルス】LV1(1)BP1000

【ピストジャサウルス】LV1(1)BP1000

【恐龍覇者ダイノブライザー】LV2(3)BP16000

 

【恐龍同盟本拠地】LV1

 

バースト【無】

 

 

「……はは、流石にエクストラターンの攻撃はしんどいなぁ……ライフあんなにあったのに………」

 

 

……ようやく

 

長きに渡る第5、6ターンを終え……椎名のターンが巡ってくる。2ターン分、待ちに待ったことあって、いつも以上にターンを張り切って進めていく。

 

 

[ターン07]椎名

 

 

「私のターン!!スタートステップ!!コアステップ!!ドローステップ!!リフレッシュステップ!!」

手札4⇨5

リザーブ12⇨13⇨17

トラッシュ4⇨0

【マリンエンジェモン】(疲労⇨回復)

 

 

ターンシークエンスを勢い良く進めていく椎名。その過程のリフレッシュステップでマリンエンジェモンが疲労から起き上がる。

 

 

「メインステップッ!!【メガログラウモン】をLV3で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ17⇨4

トラッシュ0⇨7

 

 

地の底から地響きと共に推参するのは、真紅の魔竜、完全体の姿であるメガログラウモン。大きな体格に加え、上半身の武装が特徴的だ。

 

 

「アタックステップッ!!行って来い!!メガログラウモンッ!!」

 

 

勢いのままアタックステップへと移行する椎名。颯爽とメガログラウモンに指示を送る。

 

それを聞き、重たい体を揺らしながら走り出すメガログラウモン。この瞬間にメガログラウモンのアタック時効果も発揮される。

 

 

「メガログラウモンのアタック時効果!!カードを2枚ドローて、相手のシンボル1つのスピリット1体を破壊するっ!!」

手札4⇨6

 

「………!!」

「ダイノブライザーを破壊!!……原子の一撃…アトミックブラスタァァァァア!!!」

 

 

肩部の砲手にエネルギーを溜め、それを一気に一直線に放つメガログラウモン。狙うはダイノブライザー。避けるすべを持たないダイノブライザーはそれに直撃………

 

爆発し、破壊される………

 

かと思いきや……

 

 

「………!?」

「残念だったな!!ネクサスカード、恐龍同盟本拠地の効果で、俺の地竜スピリットは疲労状態の時相手のスピリット、ブレイヴの効果を受けない!!」

 

 

爆煙立ち上る中、その場に佇んでいたのは他でもない、ダイノブライザーだった。恐龍同盟本拠地が与える力は大きい。これにより、ダイノブライザーはおろか、ピストジャサウルスまでもがメガログラウモンの効果をシャットアウトできる。

 

しかし、アタック自体が無効になっているわけではない。そのため、メガログラウモンのアタック。マリンエンジェモンのアタックでキバーラ三世の残り2つのライフを破壊できれば椎名の勝利である。特に、恐龍同盟本拠地の恩恵を受けるために、キバーラ三世はすべてのスピリットでアタックしている、当然ながらブロックできない。

 

勝ちは濃厚か………

 

だが、やはり仮にもオセアニアを制した男か………残った手札でそれを凌ぐ一手を繰り出す………

 

 

「フラッシュマジック!!【光翼之太刀】!!……不足コストはピストジャサウルス2体から確保するぜっ!!」

手札2⇨1

リザーブ1⇨0

【ピストジャサウルス】(1⇨0)消滅

【ピストジャサウルス】(1⇨0)消滅

 

「………っ!!」

「これでダイノブライザーを指定し、このターンBPを3000上げ、疲労ブロックを可能にするっ!!……メガログラウモンをひねり潰せ!!ダイノブライザー!!」

【恐龍覇者ダイノブライザー】BP16000⇨19000

 

 

白いオーラを見にまとうダイノブライザー。このターン、疲労ブロッカーとなった証拠だ。これにより、場を離れない限りは何度でもブロックが可能。椎名のメガログラウモンを迎え撃つ。

 

メガログラウモンが装着された鉤爪の武装で、体型には見合わない程にアクロバティックに攻めるが、ダイノブライザーはこれをジャベリンで容易く防ぐと、一瞬の隙をついて、メガログラウモンを蹴り飛ばした。

 

吹き飛ばされるメガログラウモン。やはりBP差がありすぎるか…………

 

……だが……

 

 

「………そう来ると思ったよ………!!」

「……なにっ!?」

 

 

椎名はそう言い放ち、また、笑ってみせた。

 

当然だ。決められないとわかっていながら前のターンにフルアタックを仕掛けてきたのだ。何もないと思うのも不自然だ。椎名はこのタイミングでさらなる逆転の一手を繰り出す。

 

 

「フラッシュ!!【煌臨】発揮!!対象はメガログラウモン!!」

リザーブ4s⇨3

トラッシュ7⇨8s

 

「………!!」

 

 

椎名の持つ煌臨スピリットは1体のみ………

 

真紅の赤に光輝くメガログラウモン。その中で聖騎士へと大きく姿を変えていく。

 

 

「真紅の魔竜は今こそ聖騎士となりて敵を貫く!!………究極進化ぁぁあ!!」

手札6⇨5

 

 

真紅の赤の光が弾け飛ぶ…………

 

 

「………【デュークモンッ】!!!」

【デュークモン】LV3(6)BP18000

 

 

椎名の場に新たに現れたのは真紅のマントを靡かせる白い鎧の聖騎士。伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツの一柱、デュークモンだ。

 

 

「……おぉっ!!」

 

 

キバーラ三世もそう歓喜の声を上げる。単純に楽しいのだ。強敵に出会えたことに………

 

 

「デュークモンの効果!!トラッシュにある滅竜スピリットを手札に戻すことで、ターンに一度、回復するっ!!……私はギルモンのカードを回収し、回復するっ!!ネクスト・イストリア!!」

手札5⇨6

【デュークモン】(疲労⇨回復)

 

 

真紅の光を一瞬纏い、回復状態となるデュークモン。これにより、このターン、2度目のアタック権利を得た。

 

 

「煌臨スピリットはその煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!……ダイノブライザーとバトルだっ!!デュークモン!!」

 

 

煌臨元であったメガログラウモンがキバーラ三世のダイノブライザーとバトル中であったため、それに煌臨したデュークモンもダイノブライザーとバトルすることとなる。

 

2体の一騎打ちが幕を開ける。互いの武器であるジャベリンと聖槍が火花を散らしながらぶつかり合う。

 

………しかし、

 

僅かながらにダイノブライザーがデュークモンを押し始めた。ゆっくり、ゆっくりとデュークモンをその聖槍ごと押していく。

 

 

「はっはっは!!威勢がいいなぁっ!!だが、BPはこっちの方が上だっ!!」

 

 

白のマジック、光翼之太刀の効果を受け、その合計BPが19000となっているダイノブライザー。対するデュークモンのBPはLV3であるため、18000。僅かながらに劣っている…………

 

だが、キバーラ三世は笑いながらも……

 

本当は負けを悟っていた。意味も無しに煌臨するわけがないからだ。

 

案の定、椎名はさらなるカードを手札から切り……

 

 

「フラッシュマジック!!【レッドカード】!!」

手札6⇨5

リザーブ3⇨0

トラッシュ8s⇨11s

 

「………!!」

 

「これでこのターン、デュークモンもBPプラス3000!!……合計、21000だっ!!」

【デュークモン】BP18000⇨21000

 

 

真っ赤なカードがデュークモンを潜る。デュークモンはその力の恩恵を得、このターン、BPを上昇させた。

 

眼光を放ち、息を吹き返すデュークモン。ダイノブライザーのジャベリンを弾け飛ばし、瞬時にそれに向けて大きな聖盾を構える。

 

 

「いっけぇ!!デュークモン!!………聖盾の一撃……ファイナル・エリシオン!!」

 

 

エネルギーを盾に充填させたデュークモンはダイノブライザーへそれを射出。ダイノブライザーも流石に堪えたか、断末魔を上げながらそのエネルギーの中へと姿を消した。

 

これでもうキバーラ三世を守るスピリットなどいない。後は2体のスピリットでアタックするのみ………椎名は容赦なく畳み掛ける。

 

 

「デュークモンとマリンエンジェモンでアタック!!」

 

 

地を駆けるデュークモンとマリンエンジェモン。目指すは当然キバーラ三世の残り2つのライフ。

 

 

「はっはっは!!最高じゃねぇか!!芽座椎名っ!!その名前っ!!覚えといてやるぜぇ!!」

ライフ2⇨1⇨0

 

 

最後もまた、口角を上げ、大きく笑いながらそう強く言い残し、デュークモンとマリンエンジェモンのアタックを受け入れたキバーラ三世。

 

デュークモンの聖槍の一撃と、マリンエンジェモンのハート型の水の塊が、彼の残りライフを全て破壊した。

 

これにより、勝者は芽座椎名。見事に、地下予選を通過してみせた。

 

 

「よっしゃぁっ!!」

 

 

ガッツポーズを見せ、喜ぶ椎名。周りにいた参加者達もそれを盛大に拍手し、盛り上げた。彼女とのバトルに敗北したキバーラ三世でさえもそれを讃えている。

 

………そんな時、

 

………そんな時だった。

 

椎名の背後から彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。

 

 

「………ふっ!!相変わらず無茶苦茶な強さだな…………芽座椎名……」

「…………ん?」

 

 

椎名はその声のする方へと体ごと振り向く。

 

………するとそこにはとある人物が………

 

いたのだ。

 

そう、忘れるわけがない。あの界放市一を決める大きな祭典、【界放リーグ】で激戦を繰り広げた相手を………真夏の実兄、【ヘラクレス】や、【五の守護神】と並び、【界放三英雄】の1人を………椎名が忘れるわけがなかった…………

 

 

「あ………あぁ!!……あなは…【吸血先輩】!!」

「ふっ、久しいな……!!」

 

 

ゆっくりと口角を上げ、不敵に笑みを浮かべるのは、【エンペラー】の異名を持つ、【吸血堕天】………バトスピ一族である【吸血一族】の1人だ。

 

彼が今、約一年ぶりに椎名の目の前に………

 

立ち塞がった…………

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【恐龍覇者ダイノブライザー】!!」

椎名「ダイノブライザーはその名の通り恐龍同盟の覇者!!煌臨元カードをためて、3枚一気に破棄することで自分のターンをもう一度行えるとんでもない効果を持っているよっ!!」


******


〈次回予告!!〉


椎名「まさか、吸血先輩とまた会えるなんてなぁ〜〜〜……くぅぅ〜〜〜〜っ!!またバトルできるのかっ!!燃えてきたぞっ!!よっし!!アイランドリーグ、私の1回戦の相手は………と、………えぇ!?花火さん!?………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「椎名VS花火!?ブラックウォーグレイモンの脅威!!」………今、バトスピが進化を超える!!」


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

新元号令和になり、初めての投稿でした。読者の皆様、令和でも、私、バナナの木とその作品共々を宜しくお願いします!!私もどんどん精進して行きます!!

次回からはアイランドリーグ本戦ということで、怒涛のバトル連チャンの予定です!!

因みに、今回登場させたキバーラ三世、彼は前作、オメガワールドのあるキャラクターをモチーフにしてみました。

実は最後に久し振りに出てきた吸血堕天。前よりだいぶ性格が丸くなっております。詳しくは【第65話 怒涛闘魂!!破滅のイマーゴ!!】の前半を参照に……


※都合により、次回のサブタイトルを変更致しました。


最近の悩み………

椎名が無敵すぎる………全くピンチにならない。目を離すと手札が増えすぎている。………


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第65話「椎名VS花火!?ブラックウォーグレイモンの脅威!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

【アイランドリーグ】……

 

……その開催地【スピリットアイランド】にある大きなバトルスタジアム。そのサイズは界放リーグが行われた中央スタジアムよりも数段上回る。

 

今日、午前9時の時間帯にもかかわらず、そこには【スピリットアイランド】中に住まうほとんどの人々がそこを埋め尽くすように集まっていた。

 

その中には今日の祭典を見たいがために、来ることさえ困難な【スピリットアイランド】に遥々来日したという人も少なくないだろう。

 

そんな【スピリットアイランド】の熱狂が1つに纏まる日………それが今日、【アイランドリーグ】なのだ。

 

 

「………………」

 

 

そんな中、個人の選手控え室で………

 

デッキを調整しながら芽座椎名は考えていた。と、言うよりかは思い出していたが適切か………

 

それは早朝の予選に起こった出来事の事であり…………

 

 

******

 

 

「ふっ、久しいな!!芽座椎名っ!!」

 

 

キバーラ三世と激しくぶつかり合った予選の決勝、その戦いが椎名の勝利で終了した直後、彼女に話しかけてきたのは、あの【吸血一族】の跡取りで知られている【エンペラー】こと、【吸血堕天】だった。

 

 

「因みにだ、……俺はBブロックの代表になった………お前とのバトル、心待ちにしているぞ……!!」

 

 

そう言いながら拳を強く固めた吸血。そのそぶりや言動はあの【吸血一族】のものとは到底思えない。

 

【吸血一族】と言えば、差別的な教育が行われており、バトスピ一族以外の者を下民や、愚民と称し、侮蔑する。

 

だが、今の吸血堕天はどうだろうか………

 

吸血一族の者がバトルを楽しみにしているなど言うことなど先ず無い。

 

………椎名は噂で吸血堕天は変わった。と、聞かされてはいたものの、まさかここまで変化があるとは思ってもいなかった。まるで人が違う。キャラ崩壊の域に達している。

 

彼もまた、仮面スピリットのようにチェンジした言うべきか…………

 

 

「あぁ!!私も楽しみにしてるよっ!!吸血先輩!!」

 

 

あの時、椎名はそう返しただけだった。

 

しかし、嬉しく思っていた事だろう。最初彼と出会った頃は、【芽座葉月】に似ていて冷たいバトルをする奴だと思っていた者が、今ではバトルを今か今かと楽しみに待ち惚けている。

 

ほんのかすかに頭の中をよぎった事なのだが、椎名は【葉月も絶対に変われる】………そう感じた。あの【吸血一族】の【吸血堕天】がここまで劇的に変われたのなら……………間違いなく…………

 

また葉月た楽しくバトルできる日が来る………そう思った。

 

 

******

 

 

時間は再び巻き戻り、アイランドリーグ会場………

 

 

《レディースアーーンド…ジェントルメン!!………さぁ!!スピリットアイランドに住まう全ての人々よおっ!!熱狂し、発狂しなぁ!!……今日は第6回、アイランドリーグの幕開けだぁ!!》

 

 

とどまることを知らない人々の歓声の中、特別席でマイクを片手に大きな声を上げるのは、アイランドリーグの若き実況者。

 

数千を超える人々がそれに返事をするようにまた轟音のような歓声を上げた。

 

因みに、その会場の観客達の中には真夏、夜宵、雅治の3人の姿も見える。3人は椎名と司の活躍を今か今かと楽しみに待っている。

 

 

《早速行くぜぇ!!今年の参加者はこのメンバーだぁっ!!》

 

 

実況者が頭上にある巨大な電子掲示板を指差す。すると、その電子掲示板に今年のアイランドリーグ参加者の選手名が記載されていく。

 

他の選手達はその電子掲示板を中継のモニター越しで視認する。

 

大会はトーナメント制、電子掲示板に映し出される図形は当然トーナメント表である。AからHブロックより勝ち上がった計8人でしのぎを削る。【芽座椎名】【赤羽司】【吸血堕天】は当然ながら入っている…………しかし、

 

その瞬間。椎名は見逃さなかった。その8人のうち1人にはとんでもない人物の名前が記載されている事を………

 

 

「え…………えぇ!?………一木花火さぁぁぁぁん!?」

 

 

驚きのあまり並べていたカードを吹き飛ばしてしまうほどにその場で飛び跳ねてしまう椎名。

 

そう………そこには椎名の目指す存在であり、彼女の担任、空野晴太の師でもある屈指の人気と実力を持つプロバトラー【一木花火】の名であった。彼の強さなら確かにこの大会に招集されてもおかしくはないが、多忙を極めている事もあって、出場までしたのは意外である。

 

しかも………しかもだ………

 

 

「………1回戦……1戦目で………私とじゃん!!」

 

 

驚く事はまだまだ続く。なんと、椎名の1回戦の相手はその一木花火だったのだ。それも1戦目。すぐさまバトルが始まるため、椎名はデッキとBパッドを手に持ち、スタジアムのバトル場へと赴くのだった。

 

 

******

 

 

《よっしゃぁ!!行くぜぇ!!今年の初戦はなんとも豪華だぁ!!いつも以上になっ!!以上に!!》

 

 

少々独特だが、実況者による開会宣言が始まる。1回戦で戦うバトラーの名前や経歴等を読み上げていく。

 

 

《先ず1人目ぇ!!昨年!!ジャパンのバトスピ激戦区と呼ばれる界放市に新星のごとく現れぇ!!そこで行われる祭典、界放リーグでその圧倒的なドローセンスを活かしぃ!!数々の強敵を薙ぎ払った驚異のスーパー学生!!しかもお顔もキュート!!………ジークフリード校2年!!芽座椎名ぁ!!》

 

 

実況者がそう言うと、スタジアムの壁からやる気十分な椎名が姿を見せる。観客達もそれを見るなりまた轟音のような歓声を上げた。

 

 

「おっ!!来よった!!」

「椎名ちゃあん!!頑張れぇ!!」

「相手が一木プロやからって手ェ抜くなよぉ〜!!」

 

 

観客席にいる真夏と夜宵がそう椎名にエールを送る。これだけ大勢の人達がいるのだ。当然ながらその声は聞こえない。

 

………と、そんな時だった。真夏達3人のすぐ横で………

 

 

「うぉぉお!!しぃぃぃぃいなぁぁぁあ!!!」

「「「っ!?」」」

 

 

他の観客達よりもずっと大きい声で椎名の事を応援する人物がいた。それは3人も知っている人物だ。

 

 

「………ろ、六月のおっちゃん………」

「む?おぉ!!真夏ちゃん!!それに夜宵ちゃん!!…………後小僧!!」

「……なんで僕だけ小僧呼び?」

 

 

真夏と夜宵が六月と知り合いなのは、授業参観等で彼が何度か界放市に来ているためである。雅治は椎名の帰省に付いて行った事があるため、2人よりも早く六月を知っていた。

 

椎名の友人である真夏、夜宵にはて優しい六月であるが、椎名に気があることが理解できる雅治に対してはずぅっとこの態度なのだ。おそらく彼がこの世を去るまで治る事はないだろう。

 

 

「てか、なんでおんねん?」

「そりゃ!!可愛い可愛い椎名の晴れ舞台じゃ!!観に来ない訳には行かんじゃろおて!!」

「はは、相変わらず椎名ちゃん好きですよね〜〜」

 

 

椎名愛を語りながらも、六月は真夏の横へと席を移した。

 

そしてそんな中、実況者が2人目のバトラーの名前や経歴等を読み上げる。

 

 

《そして2人目ぇ!!最近ヨーロッパで行われる大会は全てこの人物が優勝を思いのままに掻っ攫ったぁ!!こちらもジャパンが生んだ驚異のスーパーバトラー!!相棒のウォーグレイモンで今回も打ち上げてくれるのかぁ!?………一木花火ぃ!!》

 

「い、いよいよ来るのか…………一木花火さんが……!!」

 

 

椎名は喜びと嬉しさのあまり、轟音のような歓声にも負けない程に胸を踊らし、高鳴らしていた。

 

ついに………ついにあの一木花火に【また】会える時が来たのだ。最初に会ったのは5歳くらいの時、何があったかはあまり思い出せないままであるが、【あの時】……自分の目の前にいて、首にかけたゴーグルを託したのは一木花火で間違いない。

 

憧れに出会える………

 

………はずだった………

 

 

「ん?……あれ?」

 

 

実況者の声を聞くなり、この広大なバトル場へと歩み寄ってくるのは…………【一木花火】ではなかった。ヒールの音がかつかつ響いてくる………女性だ。

 

………しかも椎名はこの人物を知っている。今まで2度もお世話になった…………あの女性だ。

 

 

「………え?あなたは………」

 

 

 

 

「一木花火の………【叔母】の………【一木聖子】………久しぶりね〜〜ピュアホワイトちゃん……!!」

「………え………えぇ!?………聖子さん!?……てか、花火さんの叔母!?……どっから驚けばいいんだ私はぁ!?」

 

 

椎名の目の前に現れたのは一木花火ではなく、一木聖子。界放市の女性警視であり、今までも模手最輝男のモテ薬の事件だったり、紫治城門が犯した命の危険が伴う事件だったりと、かなり椎名もお世話になった警視である。

 

その肌はシワがなく、張っており、アラフォーの年齢には到底思えないほどに若々しい。

 

椎名の事はその彼女の純粋な性格から唯一、ピュアホワイトと呼称している。

 

聖子は順を追って椎名にゆっくりと説明していき……

 

 

「ふふ、驚いてるわね〜〜……バカンスよ、バカンス!!……甥っ子の花火が「俺の代わりに出てくれ」って言うから勢いで参加しちゃったのよ〜〜!!」

「………ほ、本当に花火さんの叔母さんなんだ………は、初めて知った………」

 

 

一木花火に届いたアイランドリーグの招待状。彼は最初、それに参加する予定だったが、途中で用事が入り断念。花火は叔母である聖子に代役を頼み、こうして聖子は椎名の目の前でアイランドリーグの選手として参加している。

 

選手登録名がそのまま一木花火だったのもそのためである。

 

 

《な、な、なんとぉぉお!!一木花火プロではなく、そのご親戚の方のご登場だぁ!!》

 

 

どんな時でも盛り上がるのを忘れない若い実況者。花火の登場無しでモチベーションが下がりつつあった観客のテンションも徐々に徐々にと回復していった。

 

そして………

 

いよいよ幕が上がる。

 

 

「…………と、言うわけで前置きが長くなったけど………要は私があなたの相手って事………手は抜かないわよ!!ピュアホワイトちゃん!!」

「はい!!望むところです!!相手が花火さんの叔母さんだなんて……考えただけでもワクワクしてきたっ!!」

 

 

2人は勢い良くBパッドを展開し、バトルの準備を行う。

 

………そして………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

開始のコールと共にバトルが………

 

第6回アイランドリーグの1回戦第1試合が始まる…………

 

………先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

 

 

「よっしゃぁっ!!スタートステップ!!ドローステップ!!メインステップ!!………来いっ!!ワームモン!!」

手札4⇨5

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が手始めにと勢いよく召喚したのは緑属性の成長期スピリット、芋虫のような見た目のワームモンだ。

 

そして椎名はそのワームモンの効果を使い、手札確保を狙う。

 

 

「召喚時っ!!カードオープン!!」

オープンカード↓

【パイルドラモン】◯

【D-3】×

 

 

勢い良く捲られる椎名のデッキのカード。そしてそれは成功。椎名は新たにパイルドラモンのカードを手札へと加えた。しかもそれだけではない。オープンされたD-3の効果でそれごと加える事が可能なので、パイルドラモン、D-3のカードが加えられることになる。

 

 

「よっし!!2枚ゲット!!ターンエンドだっ!!」

手札4⇨6

【ワームモン】LV1(1)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

2枚のカードを見て喜びながら、椎名は最初の第1ターンをエンドとした。実際初手で成長期スピリットを召喚しつつ、2枚のカードを加えられたのは大きいと言える。

 

次は一木聖子のターン。甥に一木花火という一流のプロバトラーを持つ彼女の実力は如何程か…………

 

 

「……そう、なら、私のターンね……!!」

 

 

[ターン02]聖子

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ………!!」

リザーブ4⇨5

手札4⇨5

 

 

手慣れた様子でターンシークエンスを進めていく聖子。次のシークエンスはいよいよメインステップ。誰もが注目するであろうこの一瞬…………

 

一木花火の叔母である一木聖子が召喚するスピリットは……………

 

 

「メインステップ………!!………アグモン[2]をLV2で召喚よっ!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

 

「……なにっ!?……アグモンだってぇ!?」

 

 

聖子が召喚したスピリット、デフォルメされた小さな黄色い恐竜のようなスピリットだ……それを見て、沸き上がる歓声。それが広大なバトル場を埋め尽くす。

 

それもそのはず………一木聖子が召喚したのは、他でもない。あの【アグモン】なのだ。一木花火のデッキには欠かせない程に重要なスピリットである、あのアグモンだ。

 

椎名とて、いくら花火の叔母とは言え、まさかアグモンが登場するなどとは思ってもいなかったことだろう。

 

 

「ふふ、ちょっと甥っ子から預かっててね〜〜!!今は私がプロバトラー【一木花火のデッキ】を使ってるのよ〜〜」

「ま、マジっすか……!!」

 

 

歓喜の声を上げる椎名。

 

理由はいうまでもなく、花火のデッキと戦えるから………確かに、プレイヤーは違うとは言え、これは椎名と花火のバトルと言っても過言ではないだろう………

 

………だが、あまり喜んでばかりもいられない。なにせ、一木花火のデッキは攻防にバランス良く優れている。この最序盤から早速手始めのアタッカーがやってくる。

 

 

「アタックステップっ!!アグモン[2]の【進化:赤】発揮!!成長期のアグモンを、成熟期のグレイモンへ……進化召喚!!」

【グレイモン】LV2(3)BP5000

 

 

アグモンがデジタルのコードに巻き付けられ、姿形を大きく変え、進化する………

 

やがてそれは弾け飛び、新たに現れるのは立派な頭角を持つ恐竜のようなスピリット………名をグレイモンだ。一木花火のデッキにおいては序盤の様子見やテンポ取りなので良く多用される。

 

………そして今回も………

 

 

「アタックステップは継続!!行きなさい!!グレイモン!!アタック時効果でBP5000以下のスピリット1体を破壊し、ドロー!!消えなさい、ワームモン!!」

手札4⇨5

 

「…………!!」

 

 

グレイモンが口内から放つ巨大な火の玉が椎名の場にいたワームモンに直撃。ワームモンはあまりの高熱に燃え尽きてしまった。

 

しかし、こんなものはまだまだ序の口……

 

 

「さらにグレイモンの【超進化:赤】を発揮!!これにより、完全体、メタルグレイモンへ進化召喚!!」

【メタルグレイモン】LV2(3)BP9000

 

 

聖子はグレイモンをさらに進化させる。アグモン同様、グレイモンに巻き付けられるデジタルコード。その中でさらに巨躯に、機械化する。

 

やがてそれを弾け飛ばし、新たに現れるのは左半身が機械のグレイモン、メタルグレイモンだ。

 

 

「おおっ!!メタルグレイモン!!生で初めて見た!!」

「余裕ね〜〜!!……やりなさい!!メタルグレイモン!!」

 

「………っ!!……ライフだ!!」

ライフ5⇨4

 

 

メタルグレイモンの左半身のアームが伸び、椎名のライフを1つ砕いた。

 

 

「ターンエンドよ」

【メタルグレイモン】LV3(3)BP9000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

できる事を全て終え、そのターンをエンドとした聖子。次は椎名のターン………強力な効果耐性を持つメタルグレイモンを前にどう立ち回るか………

 

 

[ターン03]椎名

 

 

「よっしゃっ行くぞっ!!スタートステップ!!コアステップ!!ドローステップ!!リフレッシュステップ!!」

手札6⇨7

リザーブ2⇨3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

……次はメインステップ………

 

とは言え、未だ場もコアも整っていない椎名は………

 

 

「メインステップ…………よし、これで行こう!!デジヴァイス、ディーアーク、D-3を連続配置!!」

手札7⇨6⇨5⇨4

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨6

 

 

総コア数6個では流石に無理があるか、椎名は良く使用するネクサスカード3枚を一気に配置する。色が噛み合い辛い椎名のデッキにおいては毎度重要な役割を担っている。

 

 

「さらにバーストを伏せ、ターンエンド!!」

手札4⇨3

 

【デジヴァイス】LV1

【D-3】LV1

【ディーアーク】LV1

 

バースト【有】

 

 

椎名は最後にバーストをセットし、そのターンを早々にエンドとした。次は聖子のターン。メタルグレイモンが起き上がり、攻め立てる………

 

 

[ターン04]聖子

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ………」

手札5⇨6

リザーブ0⇨1⇨3

トラッシュ2⇨0

【メタルグレイモン】(疲労⇨回復)

 

 

メタルグレイモンが眼光を輝かせ、起き上がり、再び活動モードに入った。

 

 

「メインステップ!!アグモン[2]をLV2で再召喚し、アタックステップ!!アグモン[2]の【進化:赤】でグレイモンへ進化!!」

手札6⇨5

リザーブ3⇨0

【メタルグレイモン】(3⇨1)LV2⇨1

【グレイモン】LV3(4)BP7000

 

 

今一度召喚されたアグモン[2]。【進化】を行うためにメタルグレイモンのLVが下がるものの、結果として2種類のグレイモンが聳え立った。

 

 

「アタックステップは継続!!行きなさい!!メタルグレイモン!!」

 

 

聖子の指示を聞き、走り出すメタルグレイモン。この瞬間、当然ながら疲労したため、椎名のスピリット効果は受け付けなくなる。

 

 

「ライフで受けるっ!!」

ライフ4⇨3

 

 

メタルグレイモンがまた強靭なアーマーで椎名のライフを砕く。

 

だが、これは椎名のバースト条件………椎名のバーストカードが勢い良く反転する………

 

 

「ライフ減少によりバースト発動!!【マリンエンジェモン】!!」

「………っ!?」

 

「この効果により、召喚し、このターン、私のライフはコスト9以下のスピリットのアタックでは減らない!!…………さらにディーアークの効果でカードをドロー!!」

【マリンエンジェモン】LV1(1)BP3000

手札3⇨4

 

 

桃色の小さな天使、マリンエンジェモンが椎名の場を浮遊する。その囁くような歌声が水の力を呼び覚まし、椎名のライフを包み込む。並大抵のスピリットのアタックでは破る事は到底不可能だろう。

 

 

「あらあら〜〜ガードは固いわね〜〜………なら、ターンエンドよ」

【グレイモン】LV3(4)BP7000(回復)

【メタルグレイモン】LV1(1)BP6000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

マリンエンジェモンの効果は予想外だったか、グレイモンの効果でマリンエンジェモン自体は破壊可能だったが、このターンは一先ずエンドとした聖子。次は見事アタックを止めてみせた椎名のターンだ。

 

 

[ターン05]椎名

 

 

「スタートステップ!!コアステップ!!ドローステップ!!リフレッシュステップ!!」

手札4⇨5

リザーブ0⇨1⇨7

トラッシュ6⇨0

 

 

ターンシークエンスを意気揚々と進めていく椎名。次はメインステップだ。

 

 

「メインステップ!!……ディーアークのLVを2にアップ!!」

リザーブ7⇨5

【ディーアーク】(0⇨2)LV1⇨2

 

 

椎名はデジタルスピリットの補助タイプであるネクサスの1つ、ディーアークのLVを上昇させた。そして、この時に発揮可能なディーアークの効果が存在する。

 

 

「ディーアークのLV2効果、【カードスラッシュ】!!」

「………っ!?」

 

「私はこの効果で【パイルドラモン】のカードを破棄し、そのLV1BP、7000以下のスピリット1体を破壊!!……メタルグレイモンを破壊だっ!!」

手札5⇨4

破棄カード↓

【パイルドラモン】

 

「………っ!!」

「行けっ!!デスペラードブラスター!!」

 

 

椎名がパイルドラモンのカードをディーアークにスキャンさせる。するとそこから赤い仮面と青と白の4本の羽を持つ竜戦士、パイルドラモンが場に現れ、腰に備え付けられた2本の機関銃をメタルグレイモンに向けて乱射。

 

メタルグレイモンも流石にひとたまりもなかったか、機械化した体ごと撃ち抜かれ、力尽き、爆発四散した。

 

メタルグレイモンは本来、スピリットとブレイヴの効果を受け付けない。だが、今回椎名が行ったのはネクサスカードの効果。パイルドラモンのデスペラードブラスターと言えども通じてしまうのだ。

 

 

「よしっ!!メタルグレイモンを破壊した!!」

「成る程ね〜〜上手く耐性の穴を突いてきたわね〜〜………もちろんそれだけじゃないんでしょ?」

 

 

メタルグレイモンの破壊に成功し、ガッツポーズを掲げる椎名に対し、仰ぐように語りかけてくる聖子。椎名は当然と言わんばかりに攻め立てる………

 

 

「はい!!当然ですっ!!………続けて来いっ!!エクスブイモン!!LV2だ!!」

手札4⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名が次に呼び出したのは蒼き闘竜エクスブイモン。その召喚時効果は青属性らしい優秀なものだ。

 

 

「先ずはディーアークの効果で1枚ドローし、エクスブイモンの効果でさらに2枚ドローし、2枚捨てる!!」

手札3⇨4⇨6⇨4

破棄カード↓

【スティングモン】

【グラウモン】

 

 

その効果により多量に手札の入れ替えを行う椎名。その質がより良い方向へ向上した。

 

 

「さらにディーアークのLVを下げ、デジヴァイスのLVを2にアップ!!」

【ディーアーク】(2⇨0)LV2⇨1

【デジヴァイス】(0⇨2)LV1⇨2

 

 

ネクサス間でコアが移る。ディーアークの代わりにデジヴァイスの効果数が1つ増加した。

 

 

「アタックステップ!!エクスブイモンでアタックっ!!」

 

 

アタックステップへと移行する椎名。

 

そしてこの瞬間、LVの上がったデジヴァイスの効果が活かされる。

 

 

「デジヴァイスの効果!!成熟期スピリットがアタックした時、トラッシュにある完全体か究極体を回収できるっ!!戻って来い!!パイルドラモンっ!!」

手札4⇨5

 

 

腰のデジヴァイスが光、トラッシュにあるパイルドラモンのカードがひらひらと椎名の手札へと舞い戻る。

 

そして、まだ終わらない。今度はそれの召喚だ………

 

 

「エクスブイモンの【超進化:青】を発揮!!完全体スピリットのパイルドラモンに進化!!」

【パイルドラモン】LV2(3)BP10000

 

 

エクスブイモンがデジタルコードに包まれていく、その中で姿形を大きく変え、進化する。やがてそれは弾け飛び、新たに現れるのは機関銃を備えた至高の竜戦士、パイルドラモン。

 

 

「お〜〜流れるようなコンボね〜〜」

 

 

椎名の進化コンボに関心があるのかないのか、言葉の内容は関心があるように思えるが、その聖子の声色からは軽く流しているようにも思えてくる。

 

 

「召喚時効果!!コスト7以下のスピリット1体を破壊!!グレイモンを撃て!!デスペラードブラスター!!」

 

 

パイルドラモンは登場するなり、今一度機関銃の弾を連射する。グレイモンがそれに耐えられるわけがなく、3本の頭角を折られた挙句に力尽き、爆発した。

 

 

「行けっ!!パイルッドラモンッ!!………アタック時効果により、コアを2つ追加し、回復っ!!……エレメンタルチャージ!!」

【パイルドラモン】(3⇨5)LV2⇨3(疲労⇨回復)

 

 

パイルドラモンの体中にエレメントの力が流れ込む。パイルドラモンはその力を得、このターン、2度目のアタックの権限を得た。

 

ここで一気に差をつけることができれば、椎名の勝ちも見えてくる。あの一木花火のデッキに勝利したとあらば、また椎名は一躍有名となるだろう。

 

………だが、まだまだ甘かったか………

 

………聖子は自分の方へと一直線に走ってくるパイルドラモンを見て、薄く笑いながら手札にあるカード1枚を引き抜いた………

 

………そのカードとは………

 

 

……一木花火のデッキにおいて、ウォーグレイモンと双璧を成すエーススピリットの1体…………

 

 

「ふふ、確かに凄いけど、やっぱりまだまだピュアホワイトね〜〜……フラッシュ!!【ブラックウォーグレイモン】の効果っ!!」

「…………!!」

 

「この効果により、1コスト支払い召喚っ!」

手札6⇨5

リザーブ5⇨4⇨0

トラッシュ1⇨2

【ブラックウォーグレイモン】LV3(4)BP15000

 

 

聖子に殴りかかるパイルドラモンの行く手を阻むごとく場に現れたのは黒い靄。その中にいる誰かがパイルドラモンの拳を受け止め、蹴り飛ばした。

 

……それは、その正体は言うなれば黒いウォーグレイモン。黒い靄を弾け飛ばし、この場に顕現した。

 

 

「………おおっ!!こ、これがブラックウォーグレイモン!!」

 

 

花火のエースの1体の登場により、そう喜びの声を漏らす椎名。

 

椎名だけではない、殆どの観客が沸いた。それもそのはず、何せこのブラックウォーグレイモンは世界的な人気を誇る一木花火のエースなのだから………

 

ブラックウォーグレイモンは相手のBP8000以上のスピリットに反応してフラッシュタイミングで召喚できる効果を持つ。一木花火のデッキにおいての守りの要でもある。

 

 

「笑うなんて余裕ね〜〜!!……召喚時効果発揮!!BP12000以下のスピリット1体を破壊する!!」

「………っ!!」

「マリンエンジェモンを破壊よ!!……暗黒の…ガイアフォース!!」

 

 

パイルドラモンを蹴り飛ばした直後、ブラックウォーグレイモンは両手を合わせ、徐々に間隔を開けて行くと共に黒い炎の塊を形成、椎名の場にいるマリンエンジェモンに投げ込む。マリンエンジェモンに耐えられるはずもなく、消し炭にされてしまった。

 

 

「パイルドラモンはブロックよ〜〜………相手してやりなさい!!」

「っ!?……パイルドラモン!!」

 

 

蹴り飛ばされてもなおブラックウォーグレイモンに果敢に突っ込むパイルドラモン。しかし、ブラックウォーグレイモンはそれを軽くかわし、その腕を掴み上げ、体格差を無視してパイルドラモンを振り回し、投げ飛ばした。

 

何とか再び起き上がるパイルドラモン。だが、その隙を逃さなかったブラックウォーグレイモンのドラモンキラーと呼ばれる腕の武装に腹部を貫かれ大爆発を起こしてしまった。

 

 

「くっ!!……ターンエンド」

【デジヴァイス】LV2(2)

【D-3】LV1

【ディーアーク】LV1

 

バースト【無】

 

 

パイルドラモンの爆発による爆風を肌で感じながらも、椎名はそのターンをエンドとした。次は未だにライフ5をキープしている聖子のターン。ブラックウォーグレイモンと共に攻め立てる。

 

 

[ターン06]聖子

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ………」

手札5⇨6

リザーブ0⇨1⇨3

トラッシュ2⇨0

【ブラックウォーグレイモン】(疲労⇨回復)

 

 

パイルドラモンを打ち倒したブラックウォーグレイモンが疲労から起き上がり回復状態となった。次はメインステップ、椎名の残り3つのライフを破壊すべく、聖子は2体のスピリットを召喚する。

 

 

「メインステップ!!……アグモン[2]とロクケラトプス〈R〉をLV1ずつで召喚!!」

手札6⇨4

リザーブ3⇨0

トラッシュ0⇨1

 

 

聖子が召喚したのは本日3度目となるアグモンと、立派な3本の頭角を生やした四足歩行の地竜スピリット、ロクケラトプス。ブラックウォーグレイモンと合わせて3体のスピリットが整った。

 

 

「アタックステップっ!!行きなさい!!アグモン!!ロクケラトプス!!」

 

 

聖子の指示を受け走り出すアグモンとロクケラトプス。目指すは当然椎名のライフ。

 

……だが、椎名がここでくたばる訳が無くて………

 

 

「2度目のアタックの時にフラッシュだ!!……【リアクティブバリア】!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨2

トラッシュ2⇨6

 

「……!!」

 

「この効果により、このアタックでアタックステップは終わるっ!!……てことで2体ともライフに来い!!」

ライフ3⇨2⇨1

 

 

アグモンとロクケラトプスが立て続けに椎名のライフへと体当たりする。そのライフが一気に2つ削り落とされる。そしてこの時、事前に発揮させていたリアクティブバリアの効果が適応される。

 

 

「リアクティブバリアの効果でアタックステップは終了するっ!!」

 

 

聖子の場に立ち込める猛吹雪。それがアグモン達はおろか、ブラックウォーグレイモンでさえも身動きが取れる状況では無くなってしまった。

 

 

「………ターンエンド」

【ブラックウォーグレイモン】LV3(4)BP15000(回復)

【アグモン[2]】LV1(1)BP2000(疲労)

【ロクケラトプス〈R〉】LV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

流石に仕方がないか、聖子は結果としてブラックウォーグレイモンをブロッカーとして場に残し、このターンをエンドとしてしまう。

 

次は何とかライフ1で踏みとどまった椎名のターンだ。未だにライフ5を維持している聖子を倒せるか………

 

 

[ターン07]椎名

 

 

「スタートステップ!!コアステップ!!ドローステップ!!……よしっ!!……リフレッシュステップ!!」

手札4⇨5

リザーブ4⇨5⇨11

トラッシュ6⇨0

 

 

ターンシークエンスを進めていく椎名。その過程で行ったドローステップで思わず口角が上がる。

 

………来たのだ。待ち望んでいた逆転の一手が………

 

 

「メインステップ!!ブイモンを召喚!!ディーアークの効果でカードをドローし、召喚時効果発揮!!」

手札5⇨4⇨5

リザーブ11⇨6

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【フレイドラモン】◯

【デュークモン】×

 

 

椎名がここで召喚したのは青くて小さな竜、ブイモン。成長期スピリット特有の召喚時効果も成功し、アーマー体スピリットであるフレイドラモンのカードが新たに手札へと加えられた。

 

 

「【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!燃え上がる勇気!!フレイドラモンをLV2で召喚!!」

手札5⇨6

リザーブ6⇨5

トラッシュ2⇨3

【フレイドラモン】LV2(3)BP9000

 

 

早速ブイモンの頭上から投下される赤くてツノの生えた卵。それはブイモンと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと昇華させる。

 

燃え上がる炎の中、椎名の場へと降り立ったのはスマートな赤き武装を施したアーマー体、フレイドラモン。

 

 

「フレイドラモンの召喚時効果っ!!BP7000以下のスピリット1体を破壊して1枚ドロー!!ロクケラトプスだっ!!爆炎の拳……ナックルファイアッ!!」

手札6⇨7

 

「………!!…あらあら〜〜」

 

 

フレイドラモンは登場するなり爆炎の炎の弾丸を殴りつけるように射出。それは見事に聖子の場に存在していたロクケラトプスに命中、焼き尽くされ、爆発した。

 

 

「まだだ!!まだ終わらないっ!!青のブレイヴ、潮より来たれ!!【双牙皇オルト・ロード】を召喚し、フレイドラモンと合体!!」

手札7⇨6

リザーブ5⇨3

トラッシュ3⇨5

【フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード】LV2(3)BP14000

 

 

椎名の背後で打ち上がる大波。そこから飛び出してきたのは青いブレイヴ。2つの首が特徴的な獣型のブレイヴ、オルト・ロードだ。

 

フレイドラモンとオルト・ロードは呼吸を合わせ、飛び上がり、混ざり合い、やがて新たな姿へと昇華する。

 

椎名の場に舞い降りたのは蒼いフレイドラモン。漆黒の翼が生え、アーマーだけで無く、炎までもが蒼くなり、あまりの炎の高温により、常時それが漏れ出ている。

 

 

「…………ふふ、やるじゃない……でも、まだ私のブラックウォーグレイモンのBPには及ばないわね〜〜」

「いや!!それでも良い!!……アタックステップッ!!行けっ!!フレイドラモン!!」

 

 

漆黒の翼を広げ、飛び立つフレイドラモン。聖子の場にはまだフレイドラモンより強力なブラックウォーグレイモンが存在するというのに………

 

だが、椎名とて無策なわけではない………

 

 

「フレイドラモンのアタック時効果でBP7000以下のスピリットを破壊!!今度はアグモンだ!!……蒼炎の拳!!ブレイズナックルッ!!」

手札6⇨7

 

「………っ!!」

 

 

強力な合体スピリットとなったフレイドラモンの拳から放たれる蒼い炎の弾丸。それは瞬く間に聖子のアグモンを焼き尽くした。

 

 

「次はオルト・ロードの効果っ!!手札3枚を破棄して回復っ!!」

手札7⇨4

破棄カード↓

【エクスブイモン】

【グラウモン】

【ブルーカード】

【フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード】(疲労⇨回復)

 

 

椎名がトラッシュにカードを破棄する行いに反応するように、青い光を纏い、疲労状態から回復状態となるフレイドラモン。これでこのターン、2度目のアタック権限を得た。

 

……そして次はブラックウォーグレイモンの対策だ………

 

 

「フラッシュマジック!!【チェイスライド】!!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨0

トラッシュ5⇨8

 

「………っ!?」

 

「この効果により、ブラックウォーグレイモンを疲労させるっ!!」

 

「…………」

【ブラックウォーグレイモン】(回復⇨疲労)

 

 

椎名が唐突に放った緑のマジックカード、チェイスライド。それは単純にスピリットを疲労させる有用なもの。

 

突如場に吹き込む突風が、ブラックウォーグレイモンを孕ませる。この隙は逃さない。椎名はフレイドラモンで一気に叩き込む………

 

 

「これで誰もブロックはできないっ!!……フレイドラモンッ!!」

 

「っ!!……ライフよ」

ライフ5⇨3

 

 

フレイドラモンの蒼く、熱い拳の一撃が、とうとう聖子のライフに傷をつけた。一気に2つ破壊する。

 

そして、今現在、フレイドラモンは合体しているオルト・ロードの力で回復状態となっており………

 

 

「もういっちょ行けっ!!フレイドラモン!!…………この瞬間!!またオルト・ロードの効果で手札3枚を破棄し、回復っ!!」

手札3⇨0

破棄カード↓

【ブイモン】

【メガログラウモン】

【ディーアーク】

【フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード】(疲労⇨回復)

 

 

再び回復状態となるフレイドラモン。これで3度目のアタック権限を得た。ダブルシンボルの3度連続のアタック………これにより、聖子のライフを全て破壊できる。

 

 

「………それもライフで受けるわ」

ライフ3⇨1

 

 

フレイドラモンの拳が、また聖子のライフを一気に2つ破壊した。

 

……後1つだ。後1つで聖子を、一木花火のデッキを倒せる。椎名はそう思い、最後のアタック宣言を行う………

 

 

「これで最後だっ!!フレイドラモンッ!!……渾身の蒼炎……バーニングインッフォースッ!!」

 

 

漆黒の翼で再び飛び上がるフレイドラモン。そのまま宙返りし、蒼炎をその身に纏って聖子のライフへと急降下する。

 

そのフレイドラモンを見て、聖子は何を思うのか、また不敵に、それでいて意味深に薄笑いを浮かべる。

 

 

「………へ〜〜……1ターンでここまで…………でも、フラッシュッ!!」

「………っ!!?」

 

 

唐突に力強くフラッシュの宣言を行う聖子。その手札の1枚に手をかける…………

 

そこから使われるカードは、椎名の猛攻を遮るもの………

 

逆転のさらなる逆転を狙える一木花火の持つとんでもないカード………

 

 

…………であると、この会場にいる誰もが思っていた………

 

 

 

「……と、言いたいとこなんだけど、そんなものはないんだよね〜〜!!」

「……………え?」

 

 

次の瞬間、蒼い炎をその身に纏ったフレイドラモンの一撃が場がガラ空きとなっている聖子の最後のライフを打ち砕いた。ライフは爆発し、爆煙が立ち昇る。

 

会場の人々は皆唖然としていた。

 

まさかあれだけ期待させておいて本当は全てフェイクで何もないとは、爆発による爆煙がその虚しさをより強く誇張させる。

 

 

「…………あれ?……私ってば………勝ったの?」

 

 

椎名もイマイチ勝ったことにしっくりきていない。当然だ。

 

 

「はっはっは!!そうだよ〜〜おめでとう!!流石は現役学園バトラー!!強かったわ〜」

「え?あ、はい……ありがとうございます?」

「何よ〜〜勝ったんだから堂々と胸張ってなさいよ!!…………さて、甥っ子との約束も果たしたし、私はスピリットアイランドを見学にでも行こうかな〜〜!!」

「えぇ!?あれ!?……ちょっと聖子さん!?」

 

 

そう椎名に言い残し、聖子は軽快なリズムのステップで会場を去って行く。その様子はまるで敗者の振る前とは思えない。

 

 

「………え〜〜!?訳わかんないよ〜〜!!」

 

 

そう叫ぶ椎名。結局聖子のミステリアスな大人の雰囲気に最後まで飲まれ続けてしまった。

 

何はともあれ、腑に落ちないものの、芽座椎名はアイランドリーグ1回戦を突破した。

 

 

******

 

 

 

会場の裏側………参加者や関係者以外は立ち寄ることのできないこの場所で…………

 

軽快なリズムに乗ってスキップしていた聖子はその足を静かに止め………さっきまでの楽観的な表情を消し、どこか冷たく感じるような目つきを見せる。まるで、何かを深く考えているような…………そんな感じだ。

 

………そして彼女は口ずさむように、小声で………

 

 

「Dr.A………本当にこんなところにいるのかしら?………」

 

 

こう言った。

 

彼女はDr.Aがここにいるという確かな情報を得て、一警視としてこの島にやってきた。アイランドリーグに参加したのもこのため、大会参加者ならある程度ここに来る時のセキュリティは緩くなるためである。

 

本来なら甥っ子が参加するはずだったこの大会………事情を説明し、参加券を譲ってもらったのだ。世界を股にかける犯罪者Dr.Aを捕らえるために…………

 

だが、疑問もある。この島のセキュリティは厳重であるはずなのに、何故、Dr.Aはこの島に来れたのだ………と。

 

何はともあれ、これで自分は負けた。ここからは好きなだけこの島捜索できる…………

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【ブラックウォーグレイモン】!!」

椎名「あの花火さんのエーススピリットの1体!!相手の強力なスピリットのアタックに反応して召喚できるよっ!!高いBPと召喚時の破壊効果で返り討ちにしちゃおう!!」


******


〈次回予告!!〉


椎名「まぁ、何はともあれ、1回戦突破だぁ!!この勢いで決勝まで一気に駆け上がってやるっ!!次の試合は………っ!!……あ、あいつは!?………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「飛翔するキバ!!ベルゼブモン来襲!!」……今、バトスピが進化を超える!!」



******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!



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第66話「飛翔するキバ!!ベルゼブモン来襲!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《アイランドリーグ1回戦第三試合もいよいよ大詰めぇ!!さぁ!!【朱雀】こと赤羽司選手のターンだぁ!!》

 

 

若き実況者が気合いを入れてそう叫ぶ。それに合わせるようにまた、観客達も轟音に近い歓声をあげる。椎名が聖子とバトルした後、第二試合が終わり、今は第三試合である。

 

そのプレイヤーのうち、1人は司だ。

 

ここまでの試合運びは完璧。攻めつつ、ライフを回復、及びドローし、対戦プレイヤーとのアドバンテージ差は目で見るより明らか………

 

別に対戦プレイヤーが弱すぎるわけではない。相手はプロだ。並大抵のカードバトラーでは歯が立たないはずだろう。しかし、司や椎名は学生でありながら、多大なる才能に恵まれ、尚且つ様々な経験、様々な修羅場を乗り越えてきた。

 

もはやそこら辺に転がっているプロバトラー程度では相手にはならないはずだろう。

 

そしてそんな司の圧倒的な実力を知らしめた1回戦第三試合も終わりを迎えることになる。

 

 

「行け………シルフィーモン!!」

 

 

静かに、それでいて熱のこもった熱い声色で聖なる獣人、シルフィーモンにアタックの指示を送る司。シルフィーモンはその手のひらにエネルギーを凝縮させ、弾丸のように投げ飛ばす。狙うは当然対戦プレイヤーのライフだ。

 

 

「ぐっ!!………ら、ライフだぁ!!」

ライフ1⇨0

 

 

シルフィーモンのトップガンと呼ばれるエネルギー弾は対戦プレイヤーが宣言する前にライフを貫き、打ち砕いた。これにより、ライフはゼロ。赤羽司の、いや、【朱雀】の圧勝だ。

 

 

《決まったぁ!!……勝者っ!!赤羽司ぁ!!学生ながらにしてプロバトラーを打ち破ってしまったぁ!!》

 

 

若い実況者を起爆剤にするように盛り上がる観客達。今年の注目は間違いなく【芽座椎名】と【赤羽司】の2人であった。

 

 

「………こんなもんか……」

 

 

司は最後にそう冷たく言い残し、バトル場を離れ、選手控え室へと足を戻していった。

 

この様子を控え室からモニター越しで見ていた椎名は、今一度司の様子がおかしい事を確認した。

 

バトル中も、やはり冷たかった。言葉では言い表しづらいが、まるで目の前の対戦相手を見ていないような、興味がないような、そんな感じだ。

 

椎名は知らない。司がああなったのは自分のせいだという事に、いや、これを椎名のせいと言ってはならない気もするが………

 

だが、あの時、あの瞬間。椎名が鬼になった時…………司は感じていた。【芽座椎名との劣等感を………】それと同時に【助けたい】という気持ちが渦巻いていて、もはや1つの言葉では言い表せないほどに絡まりつつあった…………

 

このまま仮に2人が勝ち進めば、2人は決勝で対戦することになる。

 

その時だ………

 

その時ではっきりする………

 

今、自分とめざし……どっちが強いのか………

 

司は今、有り余る感情の中、この一点のみを考えていた…………

 

 

 

******

 

 

《さぁ!!一回戦も残すところ後一試合となりました!!この四試合で次なる二回戦の対戦カードが決定します!!》

 

 

そう語る若い実況者。

 

トーナメント方式であるため、二回戦は第一試合で勝ったバトラーと第二試合で勝ったバトラーがバトルし、もう一試合は第三試合で勝ったバトラーと第四試合で勝ったバトラーがバトルすることとなるのだ。

 

つまり、次のバトルで勝ったバトラーが、二回戦で司とバトルする相手ということになる………

 

会場の観客達にそう考えさせながらも、若い実況者は1回戦最後のバトラーの名を叫ぶ…………

 

 

《先ずは!!今年期待の新人ルーキー!!予選のほとんどを5ターン内に決着をつけたそうだぁ!!そしてあの吸血一族の末裔!!【エンペラー】こと、【吸血堕天】!!!》

 

 

そう叫ばれ、吸血は威風堂々とした態度でバトル場へと足を踏み入れた。

 

そしてそれと共に観客達の轟音が鳴り響いてくる。それはとてもではないが、一介の新人ルーキーが叫ばれていいものではない。

 

彼がこの一年で何よりも凄まじい人気を集めた証拠であると言える。

 

そして、次に実況者の口から呼ばれる名は一介のプロバトラーの名前。ただ、一介と言っても数多くのタイトルを獲得したベテラン中のベテランである。

 

 

《さて!!次は説明など不要でしょう!!………ヨーロッパのベテランプロバトラー!!!………【ベレンヘーナ】選手!!》

 

 

【ベレンヘーナ】………その名を叫ばれ、バトル場へと足を踏み入れる人物が1人………

 

……だが、その男は【ベレンヘーナ】などではない。長身で四角い眼鏡をかけた青年…………

 

会場一同はまた聖子の時同様、唖然としていた。それもそのはずだろう。何せ、その名前とは全く別の人物がこの場に足を踏み入れたのだから…………

 

 

《………あ、あれ?またまたご親戚でしょうか?また別の人物が来ましたね………》

 

 

そうテンション下げて言葉を並べる若い実況者。

 

………だが、

 

 

………だが、この人物は…………

 

 

「あ、あいつっ!!……何故ここに!!?」

 

 

司が個人の控え室でそう叫んだ。

 

………そしてまた、椎名も自分の控え室で………

 

 

「…………じゅ、【銃魔】………なんで………」

 

 

……と、呟いた………

 

 

そう、この場に【ベレンヘーナ】の代わりに参加していたのは…………あの具利度王国を襲った銃魔であった…………切り札であるベルゼブモンを駆り、椎名をことごとく追い詰めていったのは記憶に新しい………

 

因みに、この時点で銃魔を知っているのは【芽座椎名】【赤羽司】【毒島富雄】のみ。会場内で数えると椎名と司の2人しか銃魔を知らないことになる。

 

………一体何をしに来たと言うのか……ここでも遭遇してしまうとは、偶然にしては出来過ぎている。また何か目論んでいるとしか考えられない。

 

椎名は知らないが、彼が一番危ないのはDr.Aと深く関わりがあるということ。司はそれを聞いてしまったことで、それが悩みの種の1つとなってしまっている。

 

 

******

 

 

「ぬぬぬ………あやつ……どっかで………」

「どしたん?おっちゃん?」

「いや〜〜あの眼鏡の男………前にもどこかで………あったような………」

 

 

熱気困る観客席の中、そう言葉を漏らしたのは椎名の育ての親、芽座六月。彼は何やら、銃魔の顔に見覚えがあるようで…………

 

しかし、どうにも思い出せない。これも歳のせいか………六月はにわかに感じ始めた衰えに若干萎える。

 

 

「……ふっ!!お前が僕の対戦相手か……よろしく……!!」

「………あぁ」

 

 

バトル場の中、銃魔、もといベレンヘーナに話しかけてきたのは対戦相手の吸血。だが彼は軽く冷たい声色で返事はしたものの、その差し出された右手は軽くスルーする。

 

【エンペラー】……【吸血堕天】………銃魔の知っていた彼の情報とは大きく異なっていた。彼は勝つことにのみバトルをこだわる筈だ。しかし、今の彼は………なんというか、礼儀正しくなった芽座椎名。と言ったところか………

 

銃魔にとって、別にどうでもよかったことではあるが、最初のイメージとあまりにもかけ離れすぎている。

 

 

「………では、始めよう!!僕達のバトルを!!」

「………あぁ」

 

 

彼らは一定の距離を取り、懐にしまっていたBパッドを取り出し、展開。バトルの準備を進めた。

 

そして始まる。第6回アイランドリーグ。その1回戦第四試合が…………

 

 

「「ゲートオープン!!界放!!」」

 

 

バトルが始まる。

 

……先行は【エンペラー】こと、吸血堕天だ。

 

 

[ターン01]吸血

 

 

「行くぞっ!!スタートステップ!!ドローステップ!!メインステップ!!僕はネクサスカード、【キャッスルドラン】を配置し、ターンを終えよう」

手札4⇨5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【キャッスルドラン】LV1

 

バースト【無】

 

 

吸血が早速背後に配置したのは巨大な要塞。かと思いきや、そこからまるで亀のように首や手足を伸ばし、羽を羽ばたかせる。その名はキャッスルドラン。キバが住まうとされる城である。その効果も当然キバ寄り、

 

【界放リーグ】にて椎名を苦戦させた1枚である。先行の第1ターン目でこれを配置できたのは相手にとってプレッシャーになることだろう。ただし、それが普通のバトラーならの話ではあるが………

 

 

[ターン02]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ………メインステップ、俺は【魂鬼】と【クリスタニードル】を連続召喚する……!!」

手札4⇨5⇨4⇨3

リザーブ5⇨3

 

 

ターンが周り、銃魔のターン。彼は早速紫の靄から顔のみをのぞかせる鬼、魂鬼と、小型の死竜スピリット、クリスタニードルを召喚。

 

彼のデッキに使われるカードは紫の汎用的なカードが多い。だからと言って強いわけではないが、彼の持つ切り札のためには必須と言っても過言ではないのだ。

 

 

「おおっ!!お前も紫なのか!!」

「………まぁな」

 

 

同じ紫属性の使い手である銃魔を見て、そう力強く言い放った吸血。銃魔は極力関わりたくないのか、彼の暑苦しい物言いを軽くいなし、次の一手を繰り出す。

 

 

「俺はさらに旅団の摩天楼を3枚配置!!……配置時効果で計3枚のカードをドロー!!」

手札3⇨2⇨1⇨0⇨1⇨2⇨3

リザーブ3⇨2⇨1⇨0

トラッシュ0⇨1⇨2⇨3

 

 

銃魔の背後に細長い摩天楼が聳え、連なる。旅団の摩天楼は紫のシンボルを場に残しつつ、カードをドローする、紫にとってはかなり強力な効果である。

 

………そして、銃魔はその引いたカードを見て、確認した………早速引き入れたのだ。具利度王国にて椎名を苦しめた自身のエーススピリット、【ベルゼブモン】のカードを………

 

これで吸血が銃魔の場にいるコスト3以下のスピリットを破壊すれば少ないコストでこれを召喚できる。

 

 

「……アタックステップだ……やれっ!!魂鬼!!クリスタニードル!!」

 

「………ライフで受けようっ!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

銃魔の指示で飛び出して行った魂鬼とクリスタニードル。それぞれが別々の方向から吸血のライフへと激突していき、それを1つずつ破壊した。

 

ただ、何故か具利度王国ではあったはずの多大なバトルダメージは発生していないのか、吸血は全く痛がる素振りすら見せなかった。

 

 

「ふっ!!なるほど、デッキは【紫速攻】と言ったところか……!!」

 

「ターンエンド」

【クリスタニードル】LV1(1)BP1000(疲労)

【魂鬼】LV1(1s)BP1000(疲労)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、銃魔はそのターンをエンドとした。速攻としては十分にライフを削ったと言える。次は吸血のターン………

 

因みに………吸血、彼が初ターンで【キャッスルドラン】を配置すると………次のターンでほぼ確実に勝利を収める………

 

 

[ターン03]吸血

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!………リフレッシュステップ…………さぁ、このターンで終わりだ………!!」

手札4⇨5

リザーブ2⇨3⇨7

トラッシュ4⇨0

 

 

眼前のキャッスルドランの圧が凄まじい。そんな中始まる吸血のターン。

 

彼は去年の【界放リーグ】が終わり、ブロとなり、バトルの楽しさを知った後は………数々の努力と苦労を重ねて行った。

 

今までにあった一族の概念を全て消し去り、新たにスタートさせた人生………その中で自分が確立した戦術………それは誰よりも早い……攻撃……

 

 

「メインステップ!!……僕は【仮面ライダーキバ キバフォーム】と【キバットバット三世】を合体状態で召喚!!効果でカードを1枚ドローし、3枚オープン!!」

手札5⇨3⇨4

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨4

オープンカード↓

【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム】◯

【ダークネスムーンブレイク】×

【ダークネスムーンブレイク】×

 

 

吸血が初めて召喚したのは吸血一族の象徴と呼べるスピリット、キバ。それに加えてブレイヴ、小さなコウモリ型の機械、キバットバット三世。キバットバットはキバフォームの腰にあるベルトに収まった。

 

その召喚時効果も成功、吸血は仮面ライダーキバ エンペラーフォームを新たに手札へと加えた。

 

 

「アタックステップ!!……キバットバット三世でアタックだっ!!」

手札4⇨5

 

 

吸血の名を受け、構えるキバフォーム。それを見るや否や、彼はさらに手札からカードを引き抜いて………

 

 

「フラッシュ!!【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム】の【チェンジ】を発揮!!対象はキバフォーム!!……そして、この瞬間、キャッスルドランのネクサス効果で、自身を疲労させることで、その支払うコストをゼロにするっ!!」

【キャッスルドラン】(回復⇨疲労)

 

「………!!」

 

 

吸血の背後に佇むキャッスルドランが唐突に大きな咆哮を上げた。それはキバを呼ぶための音と言ったところか、キバフォームはその瞬間、紫の靄にその身を包まれた。

 

………そして、

 

 

「エンペラーフォームの【チェンジ】効果っ!!相手の場にいる全てのスピリットのコアを全て2個ずつリザーブへ送るっ!!」

 

「……っ!!」

【クリスタニードル】(1⇨0)消滅

【魂鬼】(1s⇨0)消滅

 

 

その靄から放たれる紫の斬撃のような衝撃波。それは瞬く間に銃魔の場にいるクリスタニードルと魂鬼を引き裂き、消滅させた。

 

 

「………くっ!!」

 

 

それを見て苦い顔を見せる銃魔。

 

当然だ。エーススピリットであるベルゼブモンを召喚するためにはコスト3以下のスピリットの破壊が必要……消滅ではその条件は満たすことはできない。

 

 

「そして、その後回復状態で入れ替わる!!この時!!キバットバット三世の効果でそのままエンペラーフォームに合体!!…………来いっ!!仮面ライダーキバ エンペラーフォーム!!」

【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバット三世】LV2(3)BP12000

 

 

紫の靄が晴れ、そこに新たに現れていたのは、レイピアを武器に、そして黄金の鎧をその身にまとう仮面スピリットの一種、仮面ライダーキバ エンペラーフォーム。

 

キバフォームが自身の枷とも呼べる鎧を解除した真の姿にして吸血のエーススピリットだ。【界放リーグ】でも椎名を限界まで追い詰めた。

 

 

「………これが吸血一族のキバ……エンペラーフォームか………!!」

「あぁ!!そうだっ!!これが僕のデッキの象徴!!エンペラーフォーム!!」

 

 

ただでさえ世にも珍しい仮面スピリット。その中でもキバは吸血一族しか持たない希少種だ。滅多にお目にかかれるものではない。単純なバトラーならばその雅な姿に興奮を覚えることだろう。

 

ただ、この銃魔は例外ではあるが………

 

 

「クリスタニードルの消滅時効果で、貴様のキャッスルドランを破壊する」

 

 

クリスタニードルが消滅した跡地から紫のガスが発生。それは吸血の背後のキャッスルドランを包み込み、それを消滅させた。有名な効果であることもあってか、吸血はただそれを無言のまま見守った。

 

 

「………まだ何かあるんだろう?……俺のフラッシュは無い。思う存分打ちな」

 

 

冷静な口調で銃魔は吸血にそう言い放った。

 

………【まだ何かあるんだろう?】その言葉の意味は単純に推理である。このターンで終わりだと言っておきながら打点の足りないスピリットを用意するのは不自然極まりない。………そうなれば必然的に何かもう一手何か添える必要がある………つまり、吸血にはまだこのフラッシュタイミングで使えるカードを手札に有していることになる。

 

そして吸血は案の定、フラッシュタイミングで手札のカード1枚を引き抜いた。それはエンペラーの上を行く者。バトルを楽しめるようになった吸血が生み出した奇跡のカードであって…………

 

 

「感の良い奴だ!!フラッシュ!!【煌臨】発揮!!対象はエンペラーフォーム!!!」

【仮面ライダーキバ エンペラーフォーム+キバットバット三世】(3s⇨2)

トラッシュ4⇨5s

 

「………!!」

 

 

エンペラーフォームが紫の光に包まれていき、その中で姿形を大きく変化させていく。

 

【煌臨】………仮面スピリットのデッキにおいても、デジタルスピリットのデッキにおいても切り札的存在であるスピリットが持つことが多い効果。

 

今までのキバはエンペラーフォームこそが至高にして、切り札。だが、吸血にとってはそれが渾身の切り札であることは間違いの無い事であって………

 

 

「………キバが進化する……!!」

 

 

控え室に1人、その試合を観ていた椎名はそう呟いた。

 

………そう、今から行われるのは、まさしくキバの最強進化系………

 

 

「真なる姿!!真なる翼を翻し、真なる高みを目指すっ!!【仮面ライダーキバ 飛翔態】!!煌臨!!」

【仮面ライダーキバ 飛翔態+キバットバット三世】LV2(2)BP13000

 

 

エンペラーフォームだった光の靄が晴れ、何かが宙へと飛び出す。新たに現れていたのは仮面ライダーキバ 飛翔態。その姿は仮面スピリットとは思えないほどに異形である。腕の代わりに大きな翼が生え、その他の見た目も完全にモンスターと化している。

 

 

「………」

「これがキバの……いや!!僕が進化した姿だっ!!翔けろ!!飛翔態!!」

 

 

吸血の指示を聞き、銃魔のライフめがけて羽ばたく飛翔態。この飛翔態には吸血がこれまでのバトルのほとんどを速攻で倒してきた理由があって………

 

 

「飛翔態の効果っ!!全てのキバスピリットに紫のシンボルを1つ追加するっ!!よって、飛翔態の合計シンボルは…………3!!」

「………!!」

 

 

飛翔態の効果は単純明快。煌臨時のスピリット破壊とシンボルの増加だ。破壊効果はこの場では意味がなかったものの、シンボル追加効果はこの場では大きな意味を成している。

 

今、飛翔態は【チェンジ】の効果で回復状態で入れ替わったエンペラーフォームから【煌臨】した。つまり、今尚もこのスピリットは回復状態なのである………2度のアタックで銃魔のライフを合計6つ破壊できる。

 

これぞ、彼が、【エンペラー】、【吸血堕天】がプロの世界に入って磨き上げたキバデッキによる無敵の速攻戦術。

 

 

「受けてみるがいい!!仮面スピリットのみが行える【チェンジ】!!さらにそこから繰り出される強烈なコンボ!!そしてアタックを!!」

「…………仮面スピリットのみ………か」

 

 

【チェンジ】を繰り返し、そこから数多くのコンボを決める。仮面スピリットデッキの醍醐味とも言える………

 

………ただ、銃魔は引っかかっていた。吸血の仮面スピリットのみが行える【チェンジ】……という言葉に………

 

 

「………そのアタックはライフで受ける!!」

ライフ5⇨2

 

 

飛翔態の口内から放たれる極太の光線。それが銃魔のライフを一気に3つ貫いた。

 

 

「……これで終わりだっ!!再び翔けろ!!飛翔態!!」

 

 

今一度口内に極太の光線を放つ飛翔態。銃魔の残りライフは2つ。当然このアタックをまともに受ければ敗北となる…………

 

………そして、光線の直撃による爆音と爆煙が唸るように出来上がっていく。周りの観客はほぼ吸血の勝ちだと確信していた。

 

………だが、

 

 

「フラッシュマジック……式鬼神オブザデッド!!この効果により魂鬼を召喚し、ブロック………さらに破壊時ソウルコアを置いていたため、カードを1枚ドロー」

手札3⇨2⇨3

リザーブ5⇨4⇨3

トラッシュ3⇨4

【魂鬼】LV1(1s)破壊

 

「………おぉ!!まだ耐えるか!!」

 

 

咄嗟のことだった。銃魔は式鬼神オブザデッドを使用し、トラッシュから魂鬼を召喚。飛翔態のアタックからそれを盾に守っていた。吸血は飛翔態の強烈なアタックから身を守った事に何故か喜びの声を上げた。それは、彼が心の底からバトルを楽しむようになった証拠であると言える。

 

……そして、

 

 

「………やっと破壊してくれたな」

「……!?」

 

 

そう、やっと破壊された。紫のコスト3以下のスピリットが…………

 

ついにあのスピリットがやって来る………

 

 

「俺はこの瞬間!!手札にある【ベルゼブモン】の効果を発揮!!」

「っ!!……デジタルスピリットか!!?」

 

「この効果により、1コスト支払い、LV2で召喚するっ!!孤高の魔王よ!!今こそ百戦錬磨の力をこの世に知らしめよっ!!……ベルゼブモン!!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨3⇨0

【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000

 

 

銃魔の背後から前線へと降り立つ1体のデジタルスピリット………それはまさしく魔王に相応しい風貌と言える。

 

銃魔のエーススピリット、ベルゼブモンが場へと召喚された。

 

 

「………っ!?……なんだこのデジタルスピリットは…!?見たことがない!!……オーバーエヴォリューションで手に入れたカードか何かか?」

「………そうだな……ベルゼブモンの召喚、及びアタック時、相手スピリットのコア2つをリザーブに送る!!」

 

「………ぐっ!?」

【仮面ライダーキバ 飛翔態+キバットバット三世】(2⇨0)消滅

 

 

登場して早々、ベルゼブモンは2丁のショットガンを飛翔態に向けて連射。飛翔態を撃ち抜く。飛翔態は力尽き、敢え無く消滅してしまう。

 

 

「そして消滅成功時にカードを引く」

手札2⇨3

 

「………ほぉ、面白くなって来たじゃないか!!ターンを終えようっ!!」

【キバットバット三世】LV1(2)BP1000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

惜しくも銃魔のライフを全て破壊することはできなかった吸血。だが、ベルゼブモンの存在が気になるとはいえ、かなり追い詰めたとも取れる状況。

 

次は見事に消滅嵐の中、破壊を誘いベルゼブモンの召喚に成功した銃魔。彼はターンが始まる前から考えていた………

 

………このカードは使うべきなのかと……デジタルスピリットの一線を超えたこのカードをこの相手に使うべきなのかと………

 

 

[ターン04]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ……リフレッシュステップ」

手札3⇨4

リザーブ0⇨1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

ゆっくりとターンシークエンスを進めていく銃魔。そして次はメインステップ………

 

 

「メインステップ……」

 

 

そんな中、銃魔は決心を固めた。本当は今ここで司や椎名に見せたくはなかったものの、この男、吸血堕天にはこれを使わなければ勝てない。

 

……そう判断したのだ………

 

仕方ないのだ。【ここではまだ負けられない】

 

 

「ベルゼブモンのLVを3にアップ!!」

リザーブ6⇨2

【ベルゼブモン】(3⇨7)LV2⇨3

 

 

カードにコアが多量に追加され、その力を増幅させるベルゼブモン。BPが強烈に上昇して行く。

 

 

「アタックステップっ!!ベルゼブモンでアタック!!アタック時効果でキバットバットのコアを2つリザーブへ置き、消滅!!………ダブルインパクト!!」

手札4⇨5

 

「…アタック時でも発揮だと!?……くっ!?」

【キバットバット三世】(2⇨0)消滅

 

 

ベルゼブモンにアタックの指示を送る。2丁のショットガンを連射し、今度はキバットバット単体を撃ち抜く。キバットバットは墜落し、その場で静かに消滅する。

 

………そして、この瞬間のフラッシュタイミング………銃魔が使用するあるカードに、会場がどよめく事となる………

 

 

「………俺は…………俺は手札から【チェンジ】を発揮!!対象はベルゼブモン!!」

「……っ!?なに!?【チェンジ】だと!?」

 

 

【チェンジ】……もはや説明するまでもない仮面スピリットの十八番とも呼べる効果。

 

………他のデッキはおろか、仮面スピリットと並ぶ強さを誇るデジタルスピリット達のカードでさえもそれは存在しない………

 

……はずだった。

 

銃魔の使用するこのカードはその今までの常識や側から外れた、歴史に残る1枚と言える…………

 

 

「この効果で、俺はコストの支払いを貴様のリザーブからも支払う事が可能!!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ0⇨1

 

「……っ!?」

リザーブ2⇨0

トラッシュ5s⇨7s

 

 

吸血のBパッド上にあるリザーブのコアが移動する。これで吸血のこのターンで使用できる合計コア数がゼロに陥った。これでは思うようにカードを使用することはできないだろう。

 

 

「………【チェンジ】の効果っ!!対象となったベルゼブモンと回復状態で入れ替えるっ!!」

「………!!」

 

 

……今ここで、ベルゼブモンが………孤高の魔王が………進化を超える………

 

 

「ベルゼブモン……モードチェンジ!!………ブラストモード!!!」

【ベルゼブモン ブラストモード】LV3(7)BP20000

 

 

ベルゼブモンの背中に漆黒の4枚の翼が新たに生える。そして天よりの贈り物なのか、天空より巨大な機関銃が降り注ぎ、ベルゼブモンは右手を差し上げるかのように上に挙げ、それと合体。その機関銃は差し出されたベルゼブモンの右手と一体化した。

 

………その姿はまさしく究極体を超えた究極体………

 

 

「……なんなん!?あいつ!!デジタルスピリットで【チェンジ】て!!」

「………なんか凄く禍々しいね……」

「…………」

 

 

椎名や司、及び他の大会参加者。観客席にいた観客はもちろんのこと、真夏や雅治、夜宵もその驚異のチェンジに驚かされていた。そんな中、芽座六月はただ1人口元を一切開くことはなく、黙然としていた。

 

知っているからだ………自分も知っている。ベルゼブモンとは違うが【チェンジ】を持つデジタルスピリットを………

 

その【チェンジ】を持つデジタルスピリットはこの物語が進むにつれ、明らかとなっていくことだらう………

 

 

「おおっ!!デジタルスピリットで【チェンジ】!!………これまでの固定概念が覆される………なんて素晴らしいカードだっ!!」

「ふっ!!………使う予定などなかったんだがな……貴様にはこれを使わなければ勝てん……そう俺が判断した……」

「成る程、だから使ったと……はっはっは!!それは光栄だな!!」

 

 

強力なスピリットを目の前にしても全く怯みもしない吸血。彼は椎名同様、この瞬間を……強敵と対面できるこの瞬間を心から楽しんでいる。

 

 

「この俺にこのカードを抜かせたことを後悔するがいい!!ベルゼブモン ブラストモードのアタック時効果!!紫のシンボルを1つ追加!!」

「………!!」

 

 

ベルゼブモン ブラストモードのアタック時効果が起動される。これにより、ブラストモードは一度のアタックで2度のライフを破壊できる。

 

それだけではない。【チェンジ】の効果で場に呼び出されているため、今尚も回復状態であることから、その2度のアタックによって、合計4つのライフを破壊可能だ。

 

この時まで、吸血はずっと勘違いをしていた。銃魔のデッキのことを………彼のデッキは紫速攻などではない。……言うなれば紫カウンターとでも言うべきか。相手が強ければ強い攻撃をする程にさらに強い攻撃を返してくる………そんなデッキだと吸血は改めて考察し、悟った。

 

……そして、予想通り、キバのアタックなどよりもさらに強力な攻撃が一瞬にしてこのバトルの勝負を決める。

 

 

「お前のライフは3つ!!………終わりだっ!!………デススリンガー!!!」

 

「………はっはっは!!やはり世界は広いなっ!!……だからバトルは楽しい!!そうだろう?芽座椎名っ!!……ライフで受けるっ!!」

ライフ3⇨1⇨0

 

 

ブラストモードの右手と一体化した機関銃から放たれる強力な電子砲。バチバチと鈍い音を音を立てながら向かう先は当然吸血のライフ。

 

そして衝突し、一気に3つのライフを砕き、破壊した。

 

これにより、このバトルの勝者は銃魔となる。最初こそベレンヘーナというベテランプロの代役という形で登場していた銃魔だったが、ベルゼブモンとその【チェンジ】の存在が大きかったか、いざバトルが終わった仕舞えば怒号は大きな歓声に様変わりしていた。

 

 

「いいバトルだった!!またやろう!!」

「………」

 

 

銃魔に向けて握手を求めに行く吸血。その足をゆっくりと歩めて行く。

 

 

「芽座椎名とバトルできなかったのは少々心残りだが、致し方ない。僕は次なる高みに臨むとしよう!!………そういえば名前を聞いてなかったな、ベレンヘーナではないのだろう?……なんと言うのだ?」

 

 

そう言い、銃魔の前まで近づき、手を差し伸べる吸血。しかし銃魔は目も合わせずにその手を逆側の手でゆっくりと弾くと、背を向けてバトル場から去ろうとする………

 

だが………

 

 

「………銃魔だ……覚えたければ勝手に覚えているがいい」

 

 

瞳を閉じ、指の先で眼鏡を元の定位置に戻しながら………

 

銃魔は吸血に自分の本当の名を告げた………

 

 

「あぁ!!銃魔!!またどこかでバトルしよう!!」

 

 

吸血はそう、最後まで堂々と銃魔に言い放った。本当に吸血は変わった。彼ならさらなる高みへと上り詰める事だろう。

 

これにて、第6回アイランドリーグ。その1回戦の全ての試合が終了した。銃魔は1回戦第四試合の勝者。つまり、1回戦第三試合の勝者である司とバトルすることとなる。

 

【朱雀】こと、赤羽司は控え室で静かに銃魔に対する敵対心を燃やしていた。

 

 

******

 

 

ここはスピリットアイランド………

 

そこにある1つの家、1つの部屋。1つのテレビを観ている1人の少年がいた。10歳にも満たない程にその身体は小さい。

 

少年は今日行われている【アイランドリーグ】の試合を観ている。

 

その少年の名は【功 流異】………椎名とスピリットアイランドで共に遊んだ、バトスピが大好きな少年だ。ごく普通の………

 

 

「す、すごい!!デジタルスピリットで【チェンジ】の効果を持っているなんて!!僕初めて見た!!」

 

 

銃魔と吸血の対戦を観ていたのか、ブラストモードの存在に興奮が収まりきれない流異。この存在は彼にとってとても良い刺激を与えていた。

 

………不治の病に侵されている少年。他の人の前でも、自分に対しても気丈に振る舞ってはいるが、心のどこかでは寂しさや孤独さを感じている………本当は会場に行って直に観たいが、それのせいで叶わない………

 

………そんな時だ………

 

………足音もなく……

 

………突如として……

 

 

「………やぁ!!」

「っ!?!?!?!……わ、わぁぁ!!?!」

「あっはは!!ごめんごめん!!驚かせてしまったかね?」

「ど、泥棒!?……それとも怪盗!?」

 

 

唐突に現れた覆面の老人に思わず腰を抜かしてしまう流異。気が動転して口が早周りになる。だが、その人物は泥棒、ましてや怪盗でもなく……

 

 

「い〜〜〜や!!違うよ坊や〜〜私は君の病気を治しに来た……科学者………いや、神と言ったところかな?」

 

 

目の前に現れていたのは【Dr.A】………

 

また意味深な発言を残す。言葉の意味のわからなさや、その見た目の異形さに、流異は若干引く。

 

 

「………君のお父さんからの頼みだからね〜〜〜」

 

 

流異の父親はこのスピリットアイランドの最高責任者であり、科学者。【功 宗二】………彼とこのDr.A………

 

………やはり、ここでも何か1つ、大きな事件が幕を開けようとしていた………

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは、【ベルゼブモン ブラストモード】!!」

椎名「ベルゼブモン ブラストモードは、なななんと!!デジタルスピリットでありながら仮面スピリットみたいな【チェンジ】の効果を持っているよっ!!私も欲しいぃ!!」


******


〈次回予告!!〉

第6回アイランドリーグ1回戦が全て終了し、2回戦に突入。1回戦第三試合を勝ち上がった司と1回戦第四試合を勝ち上がった銃魔は2回戦でバトルすることになる。当然銃魔の目的を聞き出そうとする司。だが、その時、銃魔はある提案を司に持ちかけるのだった………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「孤高の魔王と金色の鳳凰」……今、バトスピが進化を超える!!


******


記念すべき第70話でした。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

今回のバトルは4ターンしかやってませんが、かなり濃ゆい内容になれたかな〜〜と個人的に思ってます。



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第67話「孤高の魔王と金色の鳳凰」

 

 

 

 

 

 

 

 

「行けっ!!デュークモン!!………聖盾の一撃!!…ファイナル・エリシオン!!!」

 

 

アイランドリーグもついに2回戦が幕を開けていた。椎名は第一試合をバトルしており、今まさにトドメの瞬間であった。

 

白い鎧に赤いマントを靡かせるロイヤルナイツの1体、デュークモンの左手にある盾にエネルギーが充填、そして射出される

 

それは瞬く間に対戦相手であるバトラーの最後のライフを貫いた。

 

 

《勝者!!芽座椎名っ!!完勝!!完勝ですっ!!見事に今年のアイランドリーグ、決勝への片道切符を手に入れたぁ!!!》

 

「よっしゃっ!!」

 

 

若き実況者の声から連なるように沸き上がる歓声の轟音。椎名は右腕を天に掲げるようにサムズアップした。

 

実況者も言うように、肩書きは二回戦ではあるものの、事実上の準決勝である。椎名はこの第6回アイランドリーグ、決勝へ進む権利を勝ち取ったのだ。

 

 

「うぉぉお!!椎名ぁ!!!」

「ちょっ!!うっさいわおっちゃん!!」

 

 

他の観客よりも声の音量が際立って大きかったのは、他でもない。芽座六月だ。70はゆうに超えている年齢だと言うのに、一体どこからこれほどの声量があるのか………

 

椎名が名誉あるこのアイランドリーグにて、決勝へ進出した。まぁ、六月にとってこれほど嬉しいことはないだろう。

 

 

******

 

 

《さぁ!!続きまして第二試合!!……対戦するのは………赤羽司選手とベレンヘーナ仮選手だぁ!!》

 

 

椎名が勝利して約10分程度は経っただろうか、ついにもう1人の決勝進出者を決めるバトルが幕を開けようとする。

 

バトル場へ現れたのは【朱雀】こと、赤羽司と、何故かここにいる銃魔だ。2人は具利度王国の一件以降、約4ヶ月ぶりに顔を合わせる。当然ながら、そのムードは最悪だ。

 

 

「………お前………何しに来た?……まためざしを攫おうってか?」

 

 

話を切り出したのは司。その目つきや表情、声色から、銃魔に対し、憤怒しているのが伺える。

 

そんな司を前に、銃魔はいつものようにズレた眼鏡を指先で元の定位置に戻しながら…………

 

 

「………いや、今回の目的は芽座椎名ではない。………俺は貴様と話すために来た……【朱雀】……赤羽司……!!」

「………あぁ!?」

 

 

憤怒と理解ができない感情が混ざり合ったように声を漏らす司。当然だ。具利度王国ではあれほどまでに芽座椎名に執着し、欲していたと言うのに、何故今回はそれを差し置いて自分なのだ………と。

 

銃魔はさらに立て続けに………

 

 

「………単刀直入に言おう、赤羽司………貴様では芽座椎名には勝てない………」

「………っ!!………んだとぉ!?俺があいつより下だと言いたいのか!!」

 

 

銃魔の発言に、とうとう痺れを切らした司。

 

【話す】と言って、いきなり何を口にするかと思えば………

 

彼にとって………それは何よりもプライドを傷つけられる言葉である。

 

どんどん強くなる芽座椎名。どんどん実力差が縮まっていくのを感じ、焦る司………その多大なる劣等感を銃魔は知っているからこそ、窯をかけたのだ。

 

結果は案の定………

 

 

「……俺はあんな奴より強いっ!!ずっとなぁ!!……そしてお前よりも!!」

「………じゃあ、俺に見せてみろ……その強さとやらを……」

「上等!!」

 

 

勢いのままBパッドを展開する司。それに合わせ、また銃魔も自身のBパッドを展開。バトルの準備が整った。

 

………そして始まる準決勝……その第二試合。椎名と決勝を争う者を決める戦いが………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

******

 

 

「なんや言い争っとるなぁ、知り合いやったんか?」

「………司ちゃん」

 

 

銃魔と司の言い争いを見て、思わずそう思った観客席にいる椎名の仲間たち。そこからでは何を話しているのかまではわからないものの、喧騒な雰囲気を醸し出しているのは確かなことであって………

 

そんな中、夜宵は一抹の不安を感じていた。

 

………近い未来……司がどこかへ行ってしまうような……

 

……そんな心苦しい不吉な予感……

 

 

******

 

 

バトルが始まる。

 

先行は………銃魔だ。

 

 

[ターン01]銃魔

 

 

「スタートステップ、ドローステップ………メインステップ、俺は【インプモン】を召喚!!効果で3枚オープンし、その中の対象となるスピリットカードを手札に加える……」

手札4⇨5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【ベルゼブモン】◯

【シキツル】×

【シキツル】×

 

 

銃魔が初手で召喚したのは小悪魔のように小さな成長期のデジタルスピリット、インプモン。そしてその召喚時効果も成功、銃魔は早速自身のエーススピリット、ベルゼブモンのカードを手札へと新たに加えた。

 

 

「俺はこのベルゼブモンを加え、ターンを終了する」

手札4⇨5

【インプモン】LV1(1)BP1000(1)

 

バースト【無】

 

 

「………早速加えやがったな……」

 

 

司は知っている。

 

今銃魔の手札に加わったベルゼブモンがどれほど厄介で強力なのかを………

 

頭の中は憤怒でいっぱいいっぱいではあるものの、ここは冷静にあのベルゼブモンをいかにして出させないか、という戦法を取るべきだ。

 

それを理解した上で司は自分のターンを進行させる。

 

 

[ターン02]司

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ………メインステップ………俺はネクサスカード、朱に染まる薔薇園を配置し、ターンエンド……!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ4⇨5⇨0

トラッシュ0⇨5

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

司の背後に鮮やかな朱色の薔薇園が咲き誇る。これは後攻を取った時の司のデッキにおいて最も強いプレイング。これがあるのとないとでは天と地ほどの差がある。最初のターンを空振りにしてでも配置したいネクサスカードなのだ。

 

次は今一度銃魔のターン。

 

 

[ターン03]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ………」

手札5⇨6

リザーブ0⇨1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

ターンシークエンスを進めて行く銃魔。次はメインステップ………呼び出すのは、

 

 

「メインステップ、俺は魂鬼を召喚し、ネクサスカード、旅団の摩天楼を2枚配置し、2枚ドロー」

手札6⇨5⇨4⇨3⇨4⇨5

リザーブ4⇨3⇨2⇨1

トラッシュ0⇨1⇨2

 

 

霊魂のみの姿となった鬼、魂鬼がインプモンの横に現れるのと同時に、銃魔の背後に細長い摩天楼が聳え立つ。【紫速攻】と呼ばれるデッキにおいてはよく見かける光景であろう。

 

もちろん、銃魔のデッキはただの速攻ではないのだが………

 

 

「バーストを伏せ、アタックステップ!!……魂鬼!!インプモン!!」

手札5⇨4

 

「……っ!!ライフで受けるっ!!………?……ダメージがない?」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

今回初めてのアタックステップ。銃魔の場にいるスピリット、インプモンと魂鬼が司のライフを一気に1つずつ破壊。

 

だが、具利度王国で感じた凄まじい程のバトルダメージの発生は起こらなかった。司はそのことに関して違和感を覚える。

 

 

「………お前、なんのつもりだ?」

「事を大きくはできないからな」

 

 

特にそんなダメージを受けたいわけではないが、銃魔にそう問い詰める司。

 

銃魔は………

 

あの力をコントロールできる。好きな時に大きなダメージを与えられるし、もちろん普通に痛みのないバトルもすることができる。司がこんな人目の多いところで痛がってしまうことがあれば、色々と面倒なのだろう。

 

 

「………舐めプ野郎が………!!」

 

「好きに言うが良い………ターンエンドだ」

【インプモン】LV1(1)BP1000(疲労)

【魂鬼】LV1(1s)BP1000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

そうだとわかっていても、自分を舐めてかかってきているとどうしても感じてしまう司。その怒りの感情はもはやとどまる事を知らない。どれだけ自分の事を見下せばいいのだ………

 

そう思いながらも勢いのままターンを進めて行く。

 

 

[ターン04]司

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ………」

手札4⇨5

リザーブ2⇨3⇨8

トラッシュ5⇨0

 

 

2度のアタックをライフで受け、司には今、2度目のターンにしては多めの総コア数を有している。赤と黄色のシンボルを持つネクサスカードもあることながら、やれる事は多い。

 

 

「メインステップ!!俺はイーズナ、ホークモンを召喚!!……ホークモンをの召喚時!!」

手札5⇨4⇨3

リザーブ8⇨7⇨5

トラッシュ0⇨1

オープンカード↓

【朱に染まる薔薇園】×

【テイルモン】◯

【シャイニングバースト】×

 

 

赤と黄色のハイブリッドスピリット、鼬のような姿をしているスピリット、イーズナと、赤き羽を持つ鳥型の成長期スピリット、ホークモン。いずれも司のデッキには欠かせない存在である。

 

そしてそのホークモンの召喚時効果も成功、成熟期スピリットであるテイルモンのカードが新たに加えられた。

 

 

「さらに2コスト払い、テイルモンをLV3で追加召喚!!」

手札3⇨4⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ1⇨3

 

 

ホークモンの効果だ。黄色の成熟期スピリット、猫のような見た目だが、本当はネズミ型のデジタルスピリット、テイルモンが司の場に追加で召喚された。

 

 

「バーストを伏せ、アタックステップ!!……イーズナ!!」

手札3⇨2

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

唐突に入った司のアタックステップ。手始めと言わんばかりにイーズナが突撃し、銃魔のライフを破壊した。

 

今現在、銃魔のスピリットは全て疲労状態。当然ながらブロックは出来ず、能動的に破壊する事は出来ない。

 

それ故に、このターンはベルゼブモンが召喚できないのだ。

 

 

「俺を舐めプしてミスったなぁ!!続けっ!!ホークモンっ!!」

 

 

ホークモンがその赤い羽を羽ばたかせ、銃魔のライフを撃つべく空を翔ける。

 

これは………

 

前のターンでフルアタックを仕掛けてしまうと言う初歩的なミスを犯した銃魔のプレイングミス。これでは早々にベルゼブモンを召喚できない。

 

………かに思えたこのターン。銃魔は眼鏡を指先で元の定位置に戻しながら、手札にあるカード1枚を切り、

 

 

「………プレイングミス……本当にそう思ったのか?」

「……!?」

 

「フラッシュマジック!!デッドリィバランス!!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨1

トラッシュ2⇨3

 

 

銃魔が唐突に放ったマジックカード、デッドリィバランス。その効果は………

 

 

「この効果で、互いのスピリットを1体ずつ選び、破壊する!!俺は魂鬼!!」

「……俺はイーズナだ」

 

 

銃魔の魂鬼と司のイーズナが同時に破裂するように破壊される。

 

 

「魂鬼の破壊時効果で1枚ドロー」

手札3⇨4

 

「………お前!!またわざとミスりやがったなっ!!」

 

 

司はそう銃魔に叫んだ。

 

実際、無理もなかった。デッドリィバランスを使用できるコストは軽減込みでたったの1。その程度のコストならば最初の司のアタック、つまりイーズナのアタックでも使用ができた。よって、そのタイミングではなく、次のアタックで使用するのは明らかなプレイングミスと言えた。

 

当然だ。アタックし終わったスピリットを破壊すればアタックの回数には支障が出ないのだから。

 

………だが、銃魔は手を抜くような男ではない……Dr.Aという犯罪者と行動を共にしているものの、バトラーとしてはバトスピと真摯に向き合っている。

 

 

「………そう思ったのなら、お前は俺より弱い……」

「なにぃ!?」

 

「俺の場のコスト3以下のスピリットが破壊されたことにより、手札にある【ベルゼブモン】の効果を発揮!!」

「……なっ!?」

 

「お前は固定概念に縛られすぎだ。このベルゼブモンは自壊させた場合でも召喚が可能!!」

 

 

通常………

 

この手の効果は相手による破壊を条件にするものが多い。

 

しかし、ベルゼブモンはそれを飛び越え、自分で破壊させた場合でも召喚が可能。

 

デッドリィバランスを2度目のアタックに使用したのは単純にベルゼブモンを召喚するためのコアが欲しかったから。アタックを誘うため、フルアタックをし、待ち構えていたのだ。司はそうとも知らず………

 

………自分から彼の、銃魔の作戦にまんまと乗せられてしまったのだ………

 

 

「1コストを支払い、孤高の魔王!!ベルゼブモンをLV1で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

トラッシュ3⇨4

 

 

銃魔の背後に聳え立つ旅団の摩天楼。その上から飛び降りてくる謎のデジタルスピリット、

 

それは究極体スピリットにして、孤高の魔王………名をベルゼブモン。銃魔のエーススピリットだ。

 

 

 

司は警戒しているつもりだった。

 

だが、それでもこのベルゼブモンの召喚を許してしまった。それも、あっという間に………それは今の自分と銃魔の実力差を感じてしまうには十分過ぎるものがあった。

 

………それもまた、腹立たしかった………

 

 

「召喚時効果!!コア2つをリザーブに置く!!消え失せろ!!ホークモン!!」

手札3⇨4

 

「………ぐっ!?」

【ホークモン】(1⇨0)消滅

 

 

登場するなり、ベルゼブモンは2丁のショットガンを腰から取り出し、こちらへと向かってくるホークモンに向かって連射。ホークモンを見事、撃ち落とした。

 

ホークモンが耐えられるわけもなく、地面に墜落し、爆発してしまった。

 

 

「………どうした?こんなものか?」

 

「ぐっ!!……ふざけんなぁっ!!……テイルモンでアタック!!効果発揮!!」

オープンカード↓

【シルフィーモン】◯

 

 

銃魔の軽い煽りに反発するように、

 

勢いのままテイルモンでアタックを仕掛ける司。そのアタック時効果でオープンされたカードはまさしく最高の一枚であって………

 

 

「この効果により、完全体スピリットが巻くられればライフを1回復!!朱に染まる薔薇園の効果でドロー!!さらに【超進化】の効果でテイルモンをこのスピリット、シルフィーモンに進化っ!!」

ライフ3⇨4

手札2⇨3⇨4

【シルフィーモン】LV3(5)BP12000

 

 

テイルモンにデジタルコードが巻き付けられる。テイルモンはその中で姿形を大きく変えていく。やがてそれは弾け飛び、中から新たに現れたのは、聖なる獣人型の完全体スピリット、シルフィーモン………

 

司のデッキのエーススピリットである。

 

 

「召喚時効果っ!!BP15000以下のスピリットを1体破壊するっ!!」

「………!!」

「ベルゼブモンを破壊っ!!……トップガン!!」

 

 

登場するなり、シルフィーモンは両掌を合わせ、エネルギーを凝縮させ、弾丸のように解き放つ。ベルゼブモンは2丁のショットガンでそれを撃ち返そうとするも、逆に弾丸ごと飲み込まれ失敗。

 

そしてそれはベルゼブモンの腹部を貫く。流石にベルゼブモンも耐えられなかったか、その場で力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「………どうだクソメガネ!!」

「なるほど、悪運は強いらしい……だが、それだけでは俺には勝てん!!」

「………!!」

 

 

偶然決まったコンボではあったものの、見事に銃魔の持つ強力なエーススピリット、ベルゼブモンを倒して見せた司。

 

だが、銃魔はその有様を見ても顔色1つ変えず、落ち着いている。その余裕のある雰囲気がまた司を腹立たしくさせる。

 

 

「スピリットの破壊により、バースト発動!!【妖刀ムラサメ】!!」

「……なにっ!?」

 

「このバースト効果により、シルフィーモンのコア3つをリザーブへ送り、召喚!!」

【妖刀ムラサメ】LV1(1)BP5000

 

「くっ!!……」

【シルフィーモン】(5⇨2)LV3⇨1

 

 

まるで司が反撃してくるとわかっていたかのように発動されたバースト。裏側のカードが反転すると共に解き放たれた闇はシルフィーモンを捕らえてその中にあるコアを弾き出した。

 

シルフィーモンは辛うじて生き残るも、LVを大幅にダウンさせられてしまう。

 

その後地の底から禍々しい闇の正体である妖刀が姿を現した。剣先が地面に刺さっているその様は、まるで自分を扱える主人を心待ちにしているかのよう………

 

 

「ぐっ!!だが、まだシルフィーモンの方がBPは上っ!!アタックステップは継続っ!!ぶっ飛ばせ!!シルフィーモン!!」

 

「………ライフで受ける」

ライフ4⇨3

 

 

司の命令を受け、これでもかと言わんばかりにトップガンを銃魔のライフへと投げつけるシルフィーモン。

 

銃魔の場にはインプモンと合体先のいない妖刀ムラサメのみ。流石に心許ないか、それでブロックはせず、そのアタックはライフで受けた。無数のトップガンが叩きつけるように銃魔のライフ1つを粉々に粉砕した。

 

 

「……ターンエンド」

【シルフィーモン】LV1(2)BP7000(疲労)

 

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【有】

 

 

様々な横転がありながらも、なんとか盤面の優位性を取り戻すことができた司。

 

しかし、精神面で言ってみれば圧倒的に銃魔が押していると言える。彼に心を揺さぶられながら、このままこれを維持する事はできるのか………

 

 

[ターン05]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ…………」

手札4⇨5

リザーブ1⇨2⇨6

トラッシュ4⇨0

【インプモン】(疲労⇨回復)

 

 

リフレッシュステップに伴い、疲労していたインプモンが回復する。その小さき力だけでは明らかにシルフィーモンを場に呼んでいる司に太刀打ちはできないが………

 

 

「メインステップ……俺はメインマジック、式鬼神オブザデッドを使用!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨5

 

「……!!」

 

「この効果により呪鬼スピリット、ベルゼブモンをLV1で再召喚!!不足コストはインプモンから確保!!」

リザーブ5⇨0

【インプモン】(1⇨0)消滅

トラッシュ1⇨5

【ベルゼブモン】LV1(2)BP7000

 

 

コアの損失によりインプモンはその場で消滅してしまうものの、突如として現れた紫の靄の中から再び孤高の魔王、ベルゼブモンがこの地へと降り立った。

 

 

「召喚時、及びアタック時!!スピリットのコアを2つリザーブへ!!消え失せろっ!!シルフィーモン!!」

手札4⇨5

 

「………っ!!」

【シルフィーモン】(2⇨0)消滅

 

 

ベルゼブモンの2丁のショットガンによる乱射が司のシルフィーモンを襲う。その弾丸のほとんどはシルフィーモンの胸部へと命中。残ったコアが全て抜き取られ、シルフィーモンはその場で力尽き、消滅してしまう。

 

 

「さらに!!俺は妖刀ムラサメをベルゼブモンに合体!!LV2へアップ!!」

【ベルゼブモン+妖刀ムラサメ】LV2(3)BP16000

 

 

シルフィーモンを倒した後、ベルゼブモンは剣先から地面に刺さっている妖刀ムラサメを引き抜く。妖刀ムラサメもそれを主人と認めたのか、邪悪な闇の力がベルゼブモンに流れ込んで行った。

 

 

「さぁ、痛感するがいい、赤羽司………アタックステップ!!ヤレェッ!!ベルゼブモン!!」

 

 

アタックステップへと移行する銃魔。ベルゼブモンが戦闘態勢に入る。

 

そして、このタイミングで、銃魔はある1枚のカードを切った。それは自分のデッキの切り札。司を追い詰めるべく、今、再び解き放つ。

 

 

「フラッシュ【チェンジ】!!俺は【ベルゼブモン ブラストモード】を発揮!!対象はベルゼブモン!!」

「………っ!!」

「この効果で貴様のリザーブからコストを支払う!!」

 

「……ちぃ!!」

リザーブ5⇨2

トラッシュ3⇨6

 

 

銃魔がそのカードの使用を宣言した直後、司のリザーブのコア5つのうち3つが勝手に動き出し、使用不可のトラッシュへと送られてしまう。

 

 

「そして、回復状態でベルゼブモンと入れ替えるっ!!来いっ!!ベルゼブモン ブラストモード!!」

【ベルゼブモン ブラストモード+妖刀ムラサメ】LV2(3)BP21000

 

 

ベルゼブモンの背中に漆黒の翼が新たに生えてくる。そして右手には神をも穿つ砲手が取り付けられ………

 

デジタルスピリットで有りながら、仮面スピリットと同様の【チェンジ】の効果を持つベルゼブモン ブラストモードが銃魔の場へと顕現した。

 

 

「もちろんアタックは継続中だっ!!ブラストモードの効果!!紫のシンボルを1つ追加するっ!!」

「……!!」

 

 

今現在、ブラストモードは妖刀ムラサメを左手に持ち、合体している。そのため、アタック中の合計シンボルは3つ。一撃で相手のライフを3つ破壊できる状態なのだ。

 

 

「さぁ!!受けるがいい!!」

 

「ぐっ!!ライフだ………ぐぅっ!!」

ライフ4⇨1

 

 

ブラストモードの右手の砲手から電子砲が一直線に放たれる。それは一瞬にして司のライフを粉々に粉砕し、立て続けに本体が妖刀ムラサメで一閃。今一度司のライフを引き裂いた。

 

これで司のライフは残り1つ。危険なレッドゾーンへと到達してしまう。おまけにブラストモードは【チェンジ】の効果で回復状態。ブロッカーもいないため、これで終わりか……………

 

 

「なわけねぇだろぉぉっ!!バースト発動!!【絶甲氷盾】!!効果でライフを1つ回復し、コストを払い、このターンを終了させるっ!!」

ライフ1⇨2

リザーブ5⇨1

トラッシュ6⇨10

 

「………!!」

 

 

司のバーストカードが反転すると共に、そのライフが1つ増える。さらに銃魔の場に猛吹雪が発生。ブラストモードでさえもその中に立ち入ることは出来ない。銃魔はこのターンのエンドを迫られた。

 

 

「………ターンエンド」

【ベルゼブモン ブラストモード+妖刀ムラサメ】LV2(3)BP21000(回復)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

流石に致し方無しか、銃魔はそのターンをエンドとしてしまう。ブラストモードも羽を休めるかのように地に足を着ける。

 

次はなんとかこのターンをしのいだ司のターン。ここで挽回しなければ間違いなく後はないことだろう。

 

局面的にも、精神的にも追い込まれたこの状況で………どこまでやるのか………

 

 

[ターン06]司

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!………リフレッシュステップ」

手札4⇨5

リザーブ1⇨2⇨12

トラッシュ10⇨0

 

 

司はターンシークエンスを進めた。

 

奴を……銃魔を倒すために………

 

だが、そのメインステップに移行する直前、銃魔が徐に口を開き………

 

 

「………芽座椎名の【あの姿】が気になるのだろう?……あの人という概念を超越した究極の姿を!!」

「………っ!!!」

 

 

突然、そう言い放った。歓声と言う名の轟音が響き渡るこのアイランドリーグ会場で………

 

【あの姿】とは、おそらく椎名が具利度王国で見せたあの【鬼化】と呼ばれるもの………

 

 

「お前は……先を越されていると思っているのだろう?芽座椎名に」

「………」

 

 

そうだ。

 

そう、思っている。めざしが見せたあの力………

 

………オーバーエヴォリューションを繰り返す力を目の当たりにした時、無意識のうちに頭で認識した。

 

……もう奴の方が俺より強いのではないか?

 

………だが、同時に……

 

 

「同時に助けたいとも思っている!!未知の力に侵されている芽座椎名を!!」

「っ!!それは違うっ!!」

 

 

咄嗟に反論する司。

 

しかし、これもまた本当の気持ち。今まで、ただのライバルという認識しかなかった椎名の存在は、彼の中で大きくなりつつあった。

 

あの鬼化から、奴を助けたい。それも無意識のうちに渦巻いていた感情………

 

 

「まぁ、あれは奴にとって特に死に至らせるような代物では無いがな……赤羽司、お前は優しい……が故に非情になりきれていない………」

 

 

………だから、

 

そう、だから………

 

 

「俺たちと共に来いっ!!Dr.Aが創る【進化した世界】へっ!!……そこでお前はその生半可な優しさを捨て去り、さらに強くなれる!!」

「………はぁ!?」

 

 

いつになく、それでいてらしくなく昂ぶったかのような声を震え上げらせる銃魔。

 

いわゆるスカウトなのか、司をDr.Aと自分側に引き入れようとしているのだけは理解できる。

 

 

「……お前、やっぱDr.Aと繋がりがあったのか……!!」

 

 

これで、この言葉で、ようやく銃魔がDr.Aと密接な繋がりがある事を確認した司。銃魔を今一度鋭い目つきで睨みつける。

 

 

「………そんなものは関係ない………来るのか?……そう俺は聞いている………戦争も紛争もない穏やかな世界へ………!!」

「……っ!!…行くわけねぇだろぉぉっ!!………メインステップっ!!」

 

 

銃魔はいったい何が言いたいのか、話の内容がいまいちよく理解できない。

 

……だが、咄嗟に司はこれだけを考えた。

 

……奴の、銃魔やDr.Aの下になるつもりはない……と。

 

どちらにせよ銃魔は野放しにはできない。そう思い、勢いよくターンシークエンスを再開する。

 

 

「イーズナを2体召喚っ!!……さらにテイルモンを再召喚!!」

手札5⇨4⇨3⇨2

リザーブ12⇨11⇨10⇨5

トラッシュ0⇨2

 

 

司の場に追加で2体のイーズナが召喚されると共に、【超進化】の効果で手札に戻っていたテイルモンも姿を見せた。

 

 

「さらに、メインマジック!!【コールオブロスト】!!トラッシュに落ちたシルフィーモンのカードを回収!!」

手札2⇨1⇨2

リザーブ5⇨3

トラッシュ2⇨4

 

「………再び【超進化】の準備を整えたか……」

 

 

司のトラッシュから、ベルゼブモンによって消滅したシルフィーモンのカードがひらひらと手札に舞い戻ってくる。

 

銃魔の言う通り、これで司はテイルモンの効果で2度目の【超進化】を行えるようになった。

 

 

「アタックステップっ!!テイルモンでアタック!!アタック時効果っ!!!

オープンカード↓

【リボルドロー】×

 

 

今一度テイルモンにアタックの指示を送る司。だが、その効果で捲られたのは完全体スピリットカードではないため、手札には加えられるものの、ライフは回復しなかった。

 

しかし、目的はそこではない………

 

 

「テイルモンの【超進化:黄】を発揮!!………再び俺の前に姿を見せろっ!!シルフィーモン!!」

手札2⇨3

【シルフィーモン】LV2(3)BP9000

 

 

テイルモンが再びデジタルコードに巻き付けられ、その中でシルフィーモンへと姿を変え、司の場に降り立った。

 

 

「………だが、所詮は完全体、ベルゼブモンの足元にも及ばん!!」

 

 

確かに、銃魔の言う通り、シルフィーモンではあのベルゼブモン ブラストモードには遠く及ばないかもしれない。

 

シルフィーモンはそこらへんの完全体よりかは高スペックと言えど、さらにその上の究極体でありながらそれを超越したベルゼブモン ブラストモードでは部が悪すぎると言える。

 

しかし、司にはどんなに相手のスピリットが強力だろうと何だろうと、必ず倒せる切り札がある。

 

 

「……いつまでもこの俺を見下してんじゃねぇ!!……フラッシュ!!【煌臨】発揮!!対象はシルフィーモン!!」

リザーブ3s⇨2

トラッシュ4⇨5s

 

「………!!」

 

 

その瞬間、シルフィーモンの足元から火柱が立ち上る。シルフィーモンはその中で姿形を大きく変えていく。

 

………その姿はまさしく古来日本より伝わりし伝説の巨鳥、鳳凰。

 

 

「………天空を統べる者よ!!今こそ地上の全てを薙ぎ払えっ!!……究極進化ぁぁあ!!」

手札3⇨2

 

 

やがて、その火柱は弾け飛び、中から新たなるスピリットが出現する。

 

 

「………ホウオウモンッ!!」

【ホウオウモン】LV2(3)BP12000

 

 

司の場に現れたその金色に輝く4枚の翼を持つスピリットは、ホウオウモン。彼の家、赤羽一族で代々受け継がれているもの。その力を使って、これまでも幾度となく司はピンチから脱してきた。

 

………そして、今回も………

 

 

「ホウオウモンの効果っ!!煌臨時効果っ!!煌臨元となった赤の完全体スピリットを回収する事で、相手のBP10000以上のスピリット1体を破壊する!!」

手札2⇨3

 

「………!!」

「……俺は赤の完全体スピリット、シルフィーモンを手札に戻し、お前のブラストモードを破壊っ!!…………金色の超炎!!!シャイニングエクスプロージョンッ!!!」

 

 

ホウオウモンは煌臨するなり、上空から金色の翼を広げ、そこから翼と同じ色の炎を放出。ベルゼブモン ブラストモードはそれを浴び、一瞬にして溶解してしまう。それと合体状態であった妖刀ムラサメはブラストモードがいた跡地に取り残されていた。

 

 

「………ほお、これが赤羽一族のホウオウモン……美しい………」

 

 

銃魔はエーススピリットであるベルゼブモンを破壊されたにもかかわらず、笑っていた。そんな状況ではないはずなのに………対戦相手である司の場を自由に飛翔するホウオウモンにただただ見惚れていた。

 

そんな余裕のある表情がまた司の気に触る。

 

 

「浸ってんじゃねえっ!!アタックステップは継続だっ!!ホウオウモンっ!!やれっ!!アタック時効果でBP10000以下のスピリット、妖刀ムラサメを破壊っ!!」

「………!!」

 

 

ホウオウモンは上空から急降下し、銃魔のライフを狙う。そしてその口内から金色の炎を弾丸のように射出。地面に突き刺さって身動きの取れない妖刀ムラサメはそのままそれに直撃、爆発した。

 

これで、銃魔の場にいたブロッカーは全て排除された。そして残りライフは3。対して、司の場にはホウオウモンを含めて3体、ライフを破壊できるスピリットが健在している。つまり、このターンでフルアタックを決めれば、司の逆転勝利となるのだ。

 

 

「ぶち破れぇ!!ホウオウモン!!」

 

「………ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

ホウオウモンの右側の2枚の翼からなる翼撃が、銃魔のライフをいとも容易く粉々に粉砕した。

 

 

「このターンで終わりだっ!!イーズナでアタックっ!!」

 

 

司の場に残った2体のイーズナ。その両者のアタックでこのバトルは司の勝利………

 

………かに見えたが、また銃魔は手札にあるカードを切り………

 

 

「………お前では、俺には勝てんっ!!フラッシュマジック!!【リアクティブバリア】!!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ5⇨9

 

「………なにっ!?」

 

「この効果により、このアタックでこのターンを終わらせる………そのアタックはライフだ」

ライフ2⇨1

 

 

イーズナのひっかく攻撃が銃魔のライフをさらに引き裂き、ついに1まで追い込むも、銃魔が咄嗟に使用したマジック、リアクティブバリアの効果により、司の場に猛吹雪が発生、全てのスピリットが行動不能に陥る。

 

 

「………クッソっ!!……エンドだ……っ!!」

【イーズナ】LV1(1)BP1000(回復)

【イーズナ】LV1(1)BP1000(疲労)

【ホウオウモン】LV2(3)BP12000(疲労)

 

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

司はその結果に苛立ちながらもそのターンをエンドとした。あと一歩だった。あと一歩のところで止められてしまったのだ。悔しがるのも無理はない。

 

……が、まだ敗北が決まったわけでもない。司はめげずに次の一手を考えていた……

 

 

[ターン07]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ……………【頃合い】か……」

手札4⇨5

リザーブ1⇨2⇨11

トラッシュ9⇨0

 

 

ゆっくりとそのターンを進めていく銃魔。

 

このバトルはもはやデッドヒート。ターンが切り替わるに連れ、逆転を繰り返し、観客達は大いに、それでいて熱く盛り上がっていた。

 

そんな片方を担う銃魔が次に繰り出す戦略は………

 

 

「メインステップ、俺はベルゼブモンをLV2で再召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ11⇨3

トラッシュ0⇨5

 

 

銃魔は【チェンジ】の効果で手札に戻っていた普通のベルゼブモンを再度召喚する。

 

 

「召喚時効果で貴様の回復状態のイーズナのコアを取り除き、1枚ドロー」

手札4⇨5

 

「………くっ!!」

【イーズナ】(1⇨0)消滅

 

 

今回幾度となく多用されたベルゼブモンの召喚時効果。サイズの小さいイーズナには、もはや2丁もショットガンを使うまでもなかったか、ベルゼブモンは1丁だけで、それも1発の弾丸でイーズナを仕留めた。

 

これで現在、司の場にいるブロッカーはゼロ。そしてライフは2。銃魔があと1体、あと1体だけスピリットを召喚してしまえば………

 

……銃魔の勝ちだ………

 

………そして、

 

 

「……さらに俺は魔界竜鬼ダークヴルムをLV1で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ3⇨0

トラッシュ5⇨7

 

「………!!」

 

 

上空から地上へと、溢れんばかりの闇が降り注ぐ、そしてそれを弾け飛ばし、現れた竜は、ヴルムの名を関する紫のスピリット、魔界竜鬼ダークヴルム………

 

………多量の手札、当然他にスピリットカードが存在しないわけがなかった。

 

 

「……終わりだ……赤羽司……!!」

「………クソっ!!………クッソぉぉぉお!!!」

 

 

ダメだった。

 

………いくら手札を確認しても、もはやこのターンを凌ぐほどのカードはなく………

 

司は圧倒的な敗北感を味わう。

 

ここまで来て、負ける………

 

………しかし、召喚されたばかりの魔界のヴルムは目の前の司ではなく、背後にいる銃魔の方を振り向いて………

 

 

 

「魔界竜鬼ダークヴルムの召喚時効果!!………俺のライフ1つをトラッシュに置くことで、カードを2枚ドローするっ!!」

「!?」

 

「………」

ライフ1⇨0

 

 

次の瞬間、魔界のヴルムは銃魔のライフを喰らい始めた。まるで生贄を欲していたかのように………銃魔の最後のライフはひび割れ、やがて破裂するように散っていった。

 

………これにより、銃魔のライフはゼロ………

 

………勝者は赤羽司だ。

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

会場の誰もがあっけに囚われていた。それだけではない。この中継を見ていた人物全て、意味のわからない表情を浮かべている。しかし、一番その奇行に驚愕したのは他でも無い、司自身である。

 

……いったい何が起きた?

 

今まさに勝てていたところであったと言うのに、それを捨ててカードを引いた………あり得ない彼ほどのバトラーが………これは明らかな自滅……もちろんこうなることを知っていてのだ………

 

 

《え、え〜〜………2回戦、第二試合………しょ、勝者!!赤羽司ぁ!!》

 

 

若き実況者がそう叫んでも、観客達はそれを起爆剤に轟音を上げる事はなく、未だにどよめいていた。

 

 

「じゃあな」

「おいっ!!待てよっ!!じゃあなじゃないだろうがぁ!!」

 

 

銃魔は背を向け、バトル場から出ようとするが、当然、司がそれを許す訳なくて………

 

 

「なんで自爆しやがったぁっ!!……何度言わせやがるっ!!この俺を舐めプしてんじゃねぇぇっ!!」

「………ライフの計算をミスしただけだ……このバトルはお前の勝ちだ、赤羽司……」

 

 

納得がいかない………

 

……司は初めてだった。ここまでの屈辱を受けての敗北は………

 

……ライフの計算ミス?……そんなもの初心者だってしない、熟練者である銃魔がする訳ないだろう。

 

 

「お前は芽座椎名より自分が強いと言ったな…………だったらこの大会でそれを証明しろ………そして気が変わったらまた俺かDr.Aの元へ来い」

「っざっけんなぁ!!!俺ともう一度戦えぇっ!!」

 

 

銃魔は結局司の言葉には足を止めず、バトル場を去ってしまう。

 

 

「逃げんじゃねぇぇぇぇえっ!!!」

 

 

これまでにはない程の司の昂ぶった怒号が観客のどよめきを超えて、会場中に反響し、響き渡っていた。

 

この銃魔の行為にどんな意味があったのかは知れたものではないが、結果として、結果としてだ。

 

今年の第6回アイランドリーグ………

 

……決勝で優勝を争うのは

 

【芽座椎名】

 

【赤羽司】

 

この両名となる。

 

 

******

 

 

2回戦が終わり、司は疲れ切った顔で、控室までの道のりを歩んでいた。あんな勝ち方は初めてだった。しかもこんな大きな大会で………

 

……屈辱にも程がある。こんな勝ちなど司は絶対に認めない。事実上の敗北だ。

 

………そんな時だ。彼の目の前に現れる人物が1人。

 

 

「やっほ〜〜司ちゃぁん!!」

 

 

元気な声を上げ、現れたのは司の昔馴染みの友、夜宵だ。

 

彼女はあんな勝ち方をしてしまった司を見て、居ても立っても居られなくなり、観客席からここまで降りてきたのだ。

 

しかし、そんな夜宵を見ても、司は未だにだんまりとしており………

 

 

「いや〜〜次は椎名ちゃんとの決勝だね!!楽しみだよ〜〜!!」

「………」

 

 

夜宵の言葉など無視して、司はそれを通り過ぎ去ろうとする。だが、夜宵もそれに負けずに司に声をかける。

 

 

「………まぁ、さ!!気にすることないって!!次普通に勝てば良いじゃない!!」

「………!!」

 

 

夜宵のこの言葉で、疲れ切っていた司の表情は今一度銃魔に向けるような憤怒のものへと切り替わり………

 

 

「……お前に……お前に何がわかるっ!!?!……さっさと失せろぉ!!夜宵ぃい!!!」

「っ!?」

 

 

強く、そう言い放った。彼女を、夜宵を突き放すように………その放つプレッシャーは並大抵のバトラーでは放つことできないもの。これまで様々なバトルを経験してきた司だからこそのものだった。

 

………ただ、この司を持ってしてもあの銃魔には敵わなかったのだが………

 

 

「……司ちゃん」

 

 

その後、司は夜宵を通り過ぎ、控え室へと帰っていった。

 

夜宵は司の放ったプレッシャーに震えながらも……この時、再確認した。この赤羽司に起こった変化を………やはり、具利度王国で何かあったのだと………

 

 

******

 

 

この場所は、銃魔の控え室。銃魔は1人腰掛けに腰を下ろし、Bパッドを介してある人物と通話していた。

 

 

「……はい。彼はこちら側につく気は無いと……すみません。………はい。」

 

 

彼とは、司のことだろうか。

 

 

「えぇ、出場者としての役目は果たしました。これで決勝を争うのはあの2人です。…………はい。【地下の方】は俺に任せてください………そちらはお任せします」

 

 

この時点でわかっていることは、銃魔の話し手がs級の犯罪者、Dr.Aであること……

 

……だが、これ一切の話の内容は全くもって伝わらない。………しかし、ニュアンスでわかることは、【彼らは何かを企んでいる】……ということ……

 

そして、少なからず……

 

………椎名がいずれ迎えることとなる大いなる運命の物語は着実に近づいていた。

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【インプモン】!!」

椎名「インプモンは紫の成長期スピリット!!召喚時効果で強力な効果を持つベルゼブモンを手札に引き込めるよっ!!」


******


〈次回予告!!〉

アイランドリーグも大詰め、赤羽司と芽座椎名。両名が名誉ある決勝の舞台で激突する。その最中、司は椎名に本気の力で戦えと強く言い放ち………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「宿命の対決、そして」……今、バトスピが進化を超える!!


******

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


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第68話「宿命の対決、そして」

 

 

 

 

 

 

 

【朱雀】こと、赤羽司はどこか知らない薄暗い場所でバトルを行なっていた。

 

……その対戦相手は宿命のライバル、芽座椎名。

 

椎名の場には赤い仮面に黒と青のボディ、そして腰に機関銃を2つ携えた完全体、至高の竜戦士、パイルドラモンと、ロイヤルナイツの1体、白い鎧と赤いマントに加え、右手に槍、左手に盾を装備している究極体、デュークモン。

 

片や司の場はバイザーを装備した聖なる獣人型完全体スピリット、シルフィーモンと、赤羽一族に伝わる美しき金色の鳳凰、ホウオウモン。

 

 

「やれっ!!シルフィーモンッ!!ホウオウモンッ!!」

 

 

シルフィーモンとホウオウモンに指示を送る司。

 

シルフィーモンがパイルドラモン、ホウオウモンがデュークモンとそれぞれバトルを繰り広げていく………

 

 

 

パイルドラモンは腰に備え付けられた機関銃をシルフィーモンに向け連射。だが、シルフィーモンには通用せず、容易に回避され、みるみる距離を詰められて行き………

 

 

「……トップガンッ!!」

 

 

至近距離で凝縮されたエネルギー弾をパイルドラモンの腹部に叩き込んだ。余りの勢いに、パイルドラモンは吹き飛ばされ、破壊、爆発してしまった。

 

 

上空で激闘を繰り広げるホウオウモンとデュークモン。デュークモンの渾身の刺突。ホウオウモンはそれを悠々と交わしながら、一瞬の隙に脚でデュークモンの肩を鷲掴み、デュークモンを力任せに地面に叩き落とす。

 

 

「……金色の超炎……シャイニングエクスプロージョンッ!!」

 

 

地面に叩きつけられたデュークモンが腰を上げた直後、ホウオウモンは金色の色をした4枚の翼から同じ色の炎を放つ。デュークモンはそれをまともに浴びてしまい、鎧や武器が溶解し、力尽き、倒れ、大爆発を起こした。

 

 

「どうだっ!!めざしっ!!これが俺の強さだっ!!」

「………」

 

 

【朱雀】の異名を持つ赤羽司の強さはそこが知れない。如何なる強敵であっても、その華麗なプレイングで全てを翻弄する。

 

間違いなく同じ学生では歯が立たないレベルまで達している。

 

………はずだった……

 

 

「………!?」

 

 

司は咄嗟に気づく。

 

パイルドラモンとデュークモンの爆発による爆煙の煙………そこから何かが突き抜け、飛び出してくるのが見えた………それは大きな咆哮を上げ、空気を張り積ませながら地上へと降り立つ………

 

 

「……そ、そいつは……っ!?」

「……グルゥルルウ……ッガァァァァァァア!!!」

 

 

そこに現れたのは地獄の魔竜メギドラモン。その二つ名の通り、その風貌や外見は地獄そのもの………

 

椎名の姿もあの時、具利度王国で見せた鬼の姿に変わっている。アホ毛がツノのなり、牙が伸び、目が狂ったように真紅に染まっていた。

 

 

「ガァァァァァァァア!!!」

「っ!?」

 

 

その雄叫びで場のメギドラモンに「行け」と命令を下したのか、メギドラモンがシルフィーモン、ホウオウモンとの戦闘に入る。

 

凄まじい速度でシルフィーモンとの距離を詰めるメギドラモン。シルフィーモンは慌ててトップガンを繰り出す構えをするが、それが整う前にメギドラモンの腕に弾かれる。そして、弾かれた側から獄炎の炎を口内から放たれ、直撃し、呆気なく爆発してしまった。

 

メギドラモンは次のホウオウモンに狙いを定め、それがいる上空へと飛び上がる。一瞬にしてホウオウモンとの距離を詰めたかと思うと、ホウオウモンの首根っこを掴み、そのままそれを下に急降下。司の目の前まで落下し、叩き落とした。ホウオウモンはそれに耐えられず大爆発を起こす……

 

 

「………ぐぅっ!?」

 

 

響き渡るのはメギドラモンと椎名の雄叫び。その様子はまるで互いが共鳴し合っているかのよう………司はそこから生まれる恐怖をスピリットの破壊による爆風と共に肌で感じ取る。

 

……そして、メギドラモンは司に向け、今一度獄炎の炎を口内から放ち………

 

 

「ば、馬鹿なっ!!……俺が、俺がお前なんかに負けるわけが………負けるわけがないんだぁぁぁぁあ!!」

 

 

一瞬にして司を飲み込んだ………

 

 

******

 

 

「うわぁぁぁぁあっ!!」

 

 

刹那、司はベッドから飛び上がるように起きた。身体中から汗が流れるのをまた肌で感じる。

 

ここは控え室、司は決勝戦を前に、軽く仮眠を取っていた。

 

………今までのは全部夢……何もかもが幻想だった。だが、1つ確かな事は、夢の中で芽座椎名に敗北を喫したという事………

 

 

「ふぅっ、ふぅっ、…………クッソガァぁ!!!」

 

 

あの日、修学旅行で訪れた具利度王国での一件以後、その脳裏に焼きつくのはあの椎名の鬼の姿と猛々しい地獄の魔竜、メギドラモン………

 

司は呼吸を乱しながらも苛立ち、ベットの横にある壁を拳で殴りつけた。骨の軋む音など全く意に返さず………ただ心の中にある蟠りをその目の前の壁にぶつけた………

 

 

******

 

 

決勝戦が始まる直前、椎名は歓声が薄く響いてくるバトル場への道のりを1人で歩いていた。

 

対戦相手は、銃魔に妙な勝ち方をしてしまった赤羽司だ。銃魔が自爆した時、何やら司は頭に血が上っていたようだが、

 

………いったい何があったのだろう?

 

そんな事を微かに頭に過ぎらせていたが、実際、勝ちは勝ちだ。素直に喜べばいいのに………

 

そんな時だ。椎名の目の前に、待ち構えていたかのように1人の人物が現れる………

 

 

「………椎名ちゃん」

「おっ!!夜宵ちゃぁん!!」

 

 

その正体は紫治一族の1人、紫治夜宵。しかし、いつも元気な彼女らしくなく、彼女の椎名を呼ぶ声はどこか寂しそうであり、

 

 

「……どしたの?わざわざここまで来て私の応援?………だったら司のとこ行った方がいいんじゃ……」

「椎名ちゃん、お願い」

「ん?」

「………司ちゃんを元に戻して……お願いっ!!」

「………っ!!」

 

 

椎名の両肩に手を置き、涙ながらに強く懇願する夜宵。その気持ちに嘘がない事が伺える。

 

 

「もう嫌だ、あんな司ちゃん見たくない………でも私じゃ無理……椎名ちゃんしか、椎名ちゃんしか頼れないっ!!頼れないのっ!!」

「………夜宵ちゃん」

 

 

椎名とて、知っている。

 

この頃、いや、修学旅行が終わってからだろうか、司の様子は激変した。その理由は椎名達では到底分かり得ないものであり、理解しがたいもの………

 

それでも、それでもだ。夜宵はいつものクールぶってて上から目線だけど、本当は優しい司に戻ってほしかった………

 

自分ではダメだった。どんなに接しても冷たく突き放される。しかし、椎名なら、椎名ならきっと本当の司を取り戻せると信じている。

 

………夜宵の強い思いに対し、椎名は……

 

 

「……へへ!!……仕方ないな〜〜他でもない夜宵ちゃんの頼みだ!!……わかったよ!!司は絶対に私が元に戻す!!」

「………っ!!」

「だから夜宵ちゃんは真夏達と一緒に私達のバトルを見ててよねっ!!……司が戻る一瞬を逃さないためにっ!!」

「………うん……うんっ!!」

 

 

そう言って、椎名は向かった。

 

……名誉あるアイランドリーグ決勝の舞台へ………

 

 

******

 

 

《さぁ!!いよいよ!!いよいよだぁ!!第6回アイランドリーグ決勝戦!!見事勝利して、優秀の美を飾るのはいったい誰だぁぁ!?》

 

 

いよいよ幕を開けようとするアイランドリーグの決勝戦を前に、若き実況者の声を起爆剤にするように轟音のような歓声を上げる観客達。【スピリットアイランド】に住む全ての人々が注目を集める【アイランドリーグ】……その決勝を心待ちにしているかのように……

 

そして、若き実況者は熾烈を極め、争う事だろう両名を呼び寄せる………

 

 

《先ずは1人目ぇ!!このアイランドリーグでも数々の軌跡を起こしてきた期待の学生バトラァァア!!……【芽座椎名】ぁぁあ!!!》

 

 

その声と共に、椎名はアイランドリーグ会場のバトル場へと足を踏み入れる。その途端、また観客達は大きな声を上げる。椎名はそれに対し、笑いながら両手を大きく振る。

 

そして次は2人目………

 

 

《2人目ぇ!!なんと同じく学生バトラァア!!ジュニア時代では負け知らずの逸話を残した逸材!!【朱雀】こと、【赤羽司】だぁ!!!》

 

 

その声と共に、今度は【朱雀】こと【赤羽司】がアイランドリーグ会場のバトル場へと足を踏み入れる。だが、椎名とは違い、司が浴びたものは観客達の酷いバッシング。親指を下に向ける者や、ゴミを投げ込むなど等、とても喜ばしい光景ではなく………

 

 

《ゴミはバトル場には捨てないでくださいいぃ!!》

 

 

若き実況者も唐突に起こったそれを止めようとする。

 

司がこうなってしまったのも、無理はない。何せ、先程行われた、司と銃魔の準決勝。自爆した銃魔を見て、会場の殆どの観客達は【司が八百長をした】というなんの証拠もなく、身もふたもない噂が相次ぎ、彼の評価を大きく下げてしまったのだ。

 

しかし、司はそんな観客のバッシングなど意に介さず、椎名の立つバトル場へと足を進める。そして、2人はついに決勝の舞台で向かい合い………

 

 

「………司」

「………めざし」

 

 

その空気はどこか重たげである。このバトルを心待ちにしていたはずなのに………

 

それもやはり司が変わってしまったのが原因であって………

 

 

「司、夜宵ちゃんが泣いてたよ……司ちゃんを元に戻してくれって私に言ってきたんだ……」

「………そんなことはどうでもいい、俺とバトルしろ、めざし……!!………そのための決勝だ」

「……っ!!…どうしたんだよっ!!最近変だよ!?……いったい何があったの!?」

「………答えてやる義理はない……早くBパッドを展開しろ……!!」

 

 

全く椎名の話に聞く耳を立たない司。軽くあしらい、バトルをする事を要求してくる。

 

司は……このために来た。この大会中で椎名を倒すためだけに本来、このアイランドリーグに、スピリットアイランドに来たのだ。自分の方が強い事を知らしめるため………自分に、椎名に、……そして今は銃魔にも………

 

 

「………っ!!わかったよっ!!……私がバトルに勝ったら洗いざらい話してもらうよっ!!」

「………かかって来いっ!!返り討ちにしてやるっ!!」

 

 

2人は勢いよくBパッドを展開、バトルの準備を瞬時に行う。

 

………そして、宿命の対決が始まる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

大勢の観客が轟音のような歓声を上げる中、芽座椎名と赤羽司の世紀の一戦とも言える戦いが幕を開ける……

 

先行は司………

 

 

[ターン01]司

 

 

「俺のターンッ!!…スタートステップ、ドローステップ……メインステップ、俺はリボルドローを使用、カードを上から2枚引き、ターンエンド」

手札4⇨5⇨4⇨6

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

バースト【無】

 

 

バトルの開始早々、司が使用したのはなんの変哲もない赤属性のドローマジック。単純ながらに優秀なそのドロー効果に従い、彼はデッキからカードを上から2枚引き抜いた。

 

そして次は椎名のターン……

 

 

[ターン02]椎名

 

 

「私のターンッ!!…スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!……メインステップ!!……ディーアークとD-3を配置し、ターンエンドッ!!」

手札4⇨5⇨4⇨3

リザーブ4⇨5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

椎名のターン、彼女が早々に行ったのはネクサスカードの配置、手のひらサイズの機械を2つ腰に装着する。これはデジタルスピリットを全力でサポートする強力なネクサスカード、色がばらけている椎名のデッキにおいては大きな役目を担う。

 

次は一周回って司のターン。

 

 

[ターン03]司

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ……メインステップ、俺はネクサスカード、【朱に染まる薔薇園】を配置し、ターンエンド」

手札6⇨7⇨6

リザーブ0⇨1⇨5⇨0

トラッシュ4⇨0⇨5

 

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

司が背後に配置したのはいつもの赤き薔薇の庭園。綺麗に咲き誇っているが、そこには確かに鋭い棘が存在している。

 

意外にも静かな滑り出しとなったこの決勝戦。次の椎名のターンで動きがあるか………

 

 

[ターン04]椎名

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!……リフレッシュステップ」

手札3⇨4

リザーブ0⇨1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

互いに全くスピリットを召喚しないこの決勝、だが、椎名はこの均衡を破るべく、1枚のスピリットカードに手をかける。

 

 

「メインステップ!!……来いっ!!【スティングモン】!!召喚時でコアを増やし、ディーアークの効果でカードをドロー!!」

手札4⇨3⇨4

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨4

【スティングモン】(2⇨3)LV1⇨2

 

 

椎名が呼び出したのは緑の成熟期スピリット、スマートな昆虫戦士、スティングモン。そのコアブースト効果は幾度となく椎名を手助けしてきた。

 

 

「アタックステップ!!行けっ!!スティングモンッ!!」

【スティングモン】(3⇨4)

 

「………ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

颯爽とスティングモンにアタックの指示を送る椎名。その効果でまたコアが増える。

 

スティングモンはアクロバットな動きで司のライフへと近づき、その拳で司のライフを1つ粉々に玉砕した。

 

 

「よしっ!!ターンエンドッ!!」

【スティングモン】LV2(4)BP8000(疲労)

 

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

椎名はそれだけでこのターンを終えた。しかし、単にそれだけといっても、かなりの総コア数になったのだが、

 

これに対し、司はどう対処してくるか………

 

 

[ターン05]司

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ」

手札6⇨7

リザーブ1⇨2⇨7

トラッシュ5⇨0

 

 

椎名がスピリットを出したからか、反撃に出ると言わんばかりに、彼もまたスピリットを展開する。

 

 

「メインステップ、俺はイーズナ1体、ハーピーガールを2体LV2ずつで召喚!!」

手札7⇨4

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨2

 

「……っ!!」

 

 

司が召喚したのはイタチのような小型スピリット、イーズナと、人間の女性の顔だが、腕や足が鳥のようなものになっているスピリット、ハーピーガール……それが2体だ。

 

どれも司が長年愛用して来たスピリット達であって……その効果は今尚も強力そのもの……

 

 

「アタックステップッ!!やれっ!!」

 

 

司はそう強く言い放ち、合計3体のスピリット達が一斉に椎名のライフをめがけ飛び立った。前のターンでブロッカーを残さなかった椎名は当然防ぐ手段はなく………

 

 

「ライフだっ!!………ぐっ!」

ライフ5⇨4⇨3⇨2

 

 

2体のハーピーガールの翼撃と、イーズナのひっかく攻撃が椎名のライフを一気に半分以上削り取ってしまう。しかもそれだけではなく……

 

 

「ハーピーガールのアタック時効果、【聖命】!!ライフを2つ回復!!さらに朱に染まる薔薇園の効果で2枚ドローー!!」

ライフ4⇨5⇨6

手札4⇨5⇨6

 

 

司のライフに新たな命が吹き込まれると共に、赤き薔薇達はその手札に可能性を恵んだ。

 

司がよく行う強力なコンボ、ライフを増やしつつ、カードをドローするこの動きは今の椎名のデッキだからこそついていけないものがあって………

 

 

「くぅ〜〜っ!!キッツイなぁ!!」

 

「黙れっ!!ターンエンドだ!!」

【イーズナ】LV2(2)BP2000(疲労)

【ハーピーガール】LV2(2)BP4000(疲労)

【ハーピーガール】LV2(2)BP4000(疲労)

 

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

司はそのターンをエンドとした。

 

椎名はこの時点で改めて思った。やはり、司は強い。底が知れないくらいに………そして、このバトルはとても楽しい……と、

 

そんな次は彼女のターン、司の勢いに負けじと反撃に転じる。

 

 

[ターン06]椎名

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!…リフレッシュステップ」

手札4⇨5

リザーブ3⇨4⇨8

トラッシュ4⇨0

【スティングモン】(疲労⇨回復)

 

 

リフレッシュステップに伴い、スティングモンが疲労から回復する。

 

 

「メインステップ!!私は【ギルモン】を召喚っ!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨2

トラッシュ0⇨2

 

 

椎名が呼び出したのは真紅の色に染まる竜型の成長期スピリット、ギルモン。当然ながら、椎名はその召喚時効果で手札を増やしに行く。

 

 

「ディーアークの効果でカードをドローし、ギルモンの召喚時効果!!カードを5枚オープン!!」

手札4⇨5

オープンカード↓

【ブイモン】×

【ワームモン】×

【ライドラモン】×

【メガログラウモン】◯

【デジヴァイス】×

 

 

その効果は成功、椎名は新たに完全体、メガログラウモンのカードを手札に加える。

 

 

「メインマジック、【フェイタルドロー】!!……効果で2枚ドローし、さらに私のライフが2以下なのを条件に、追加で1枚、合計3枚のカードをドロー!!」

手札5⇨6⇨5⇨8

リザーブ2⇨0

トラッシュ2⇨4

 

 

単純でそれでいて明確に強力なドローマジック。それを椎名も使用。その手札量をさらに増強させた。

 

 

「そして、スティングモンのLVを下げ、ディーアークのLVを2にアップ!!でもってその【カードスラッシュ】の効果っ!!メガログラウモン2枚とエクスブイモンを破棄し、そのLV1BP以下のスピリットを破壊っ!!」

【スティングモン】(4⇨2)LV2⇨1

【ディーアーク】(0⇨2)LV1⇨2

 

「っ!?」

 

「私はこの効果でイーズナ1体とハーピーガール2体を破壊!!」

手札8⇨5

破棄カード↓

【メガログラウモン】

【メガログラウモン】

【エクスブイモン】

 

 

椎名のディーアークにカードがスキャされる。そしてその椎名の場に現れるのは真紅の魔竜、その完全体のスピリット、上部の武装が特徴的なメガログラウモンが2体と、蒼き闘竜、エクスブイモン。

 

この3体の一斉射撃でイーズナとハーピーガールが消し飛び、消滅した。その後、計3体のデジタルスピリットは幻だったかのようにゆっくりとその姿を消滅させた。

 

 

「よしっ!!」

「………」

 

 

一気に形成逆転。そう思った椎名はこの場でガッツポーズを見せつける。一方で司はその様子を見ても全く何も反応せず………ただ破壊による爆風を肌で感じながら冷静に現状の状況を分析していた。

 

 

「バーストを伏せて、アタックステップッ!!スティングモンッ!!」

手札5⇨4

【スティングモン】(2⇨3)LV1⇨2

 

 

椎名の場にバーストが伏せられると共に走り出すスティングモン。効果によりコアが乗せられ、またLVが上がる。

 

 

「ライフで受ける」

ライフ6⇨5

 

 

スティングモンの拳がまた司のライフを粉々に玉砕した。だが、ハーピーガールの効果によって回復していた司にとって、この程度のダメージはあまり痛手にはならず………

 

 

「………ターンエンド」

【スティングモン】LV2(3)BP8000(疲労)

【ギルモン】LV3(4)BP6000(回復)

 

【ディーアーク】LV2(2)

【D-3】LV1

 

バースト【有】

 

 

椎名も一旦冷静になり、考え、そのターンをエンドとした。次は司のターン、未だに彼の方がライフは有利とて、ディーアークの【カードスラッシュ】の効果により、盤面はほぼ消え去っているため、一概に完全有利とは言えない。

 

 

[ターン07]司

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!……リフレッシュステップ」

手札6⇨7

リザーブ7⇨8⇨10

トラッシュ2⇨0

 

 

ターンシークエンスをゆっくりと進行していく司。そして次はメインステップ………

 

ここからが司のデッキの本領発揮と言える。彼もそう言わんばかりに手札のカードを抜いていく。

 

 

「メインステップ!!俺はイーズナとホークモンを連続召喚っ!!そして、ホークモンの召喚時効果でカードをオープンッ!!」

手札7⇨6⇨5

リザーブ10⇨7

トラッシュ0⇨1

オープンカード↓

【リボルドロー】×

【テイルモン】◯

【ハーピーガール】×

 

 

司が召喚したのは2体目のイーズナと赤き鳥型の成長期スピリット、ホークモン。そしてその召喚時効果も成功に終わり、黄色の成熟期スピリット、テイルモンを新たに手札へと加えた。

 

 

「さらに!!ホークモンの追加効果で2コスト支払い、テイルモンを召喚っ!!」

手札5⇨6⇨5

リザーブ7⇨2

トラッシュ1⇨3

【テイルモン】LV3(3)BP5000

 

 

ネコ型に見えるが、本当はネズミ型の小さき成熟期スピリット、テイルモンがホークモンの横から姿を見せる。

 

司のいつもの展開パターンだ。成長期スピリットと成熟期スピリットを同時に展開することでデッキにある強力な進化系スピリットへのアクセスがしやすくなる。ここから繰り出されるのは大抵、【超進化】か、【アーマー進化】である。

 

 

「俺は手札のホルスモンの【アーマー進化】を発揮!!対象はホークモン!!」

「………!!」

 

「1コスト支払い、羽ばたく愛情、ホルスモンを召喚っ!!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ3⇨4

【ホルスモン】LV1(1)BP4000

 

 

ホークモンの頭上に翼をモチーフにした銀色のデジメンタルが降下される。ホークモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化する。

 

新たに現れたのは空飛ぶ獣型アーマー体スピリット、ホルスモン。風を育みながら司の場へと降り立った。

 

 

「ホルスモンの召喚時効果っ!!お前のネクサス、ディーアークを破壊っ!!」

手札5⇨6

 

「っ!!……ディーアークが…!?」

 

 

登場するなり、椎名の腰にあるディーアークを鋭い眼光で睨みつけるホルスモン。すると、ディーアークは内部から破裂。場から消え去ってしまう。

 

 

「これで【カードスラッシュ】は使えない………いくぞっ!!アタックステップッ!!テイルモンでアタックし、効果でカードをオープン!!それを手札に加える!!」

オープンカード↓

【イーズナ】×

手札6⇨7

 

 

走り出すテイルモン。オープンカードは完全体スピリットではないため、ライフ回復はできなかったものの、当然、司の狙いはそこではなく………

 

 

「【超進化:黄】発揮!!テイルモンを完全体、シルフィーモンへ超進化っ!!」

リザーブ1⇨0

【シルフィーモン】LV3(4)BP12000

 

 

テイルモンが0と1で構成されているデジタルコードに巻き付けられ、その中で姿形を大きく変える。それは卵状になり、膨らみ、やがて破裂、中から現れたのは聖なる獣人型スピリット、完全体のシルフィーモンだ。

 

 

「へへ!!出たな〜〜シルフィーモン!!」

「何をヘラヘラと………シルフィーモンの召喚時効果っ!!BP15000以下のスピリット1体を破壊するっ!!」

「……っ!!」

「俺はスティングモンを破壊するっ!!……トップガンッ!!」

 

 

シルフィーモンはスティングモンへと凝縮されたエネルギー弾を投げ飛ばす。スティングモンに逃れる術はなく、命中、腹部に風穴を開けられ、力尽き、倒れ、大爆発を起こした。

 

 

「アタックステップは継続!!……シルフィーモンでアタックッ!!」

 

 

司の命令を受け、地を駆けるシルフィーモン。目指すは当然、椎名のライフ。

 

 

「………ライフで受けるっ!!」

ライフ2⇨1

 

 

シルフィーモンよりBPの低いギルモンでブロックするわけにも行かなかったか、椎名はそのアタックをライフで受ける。シルフィーモンが腕にある鋭利な羽でそれを1つ引き裂いた。

 

これにより、椎名のライフは一気にデッドゾーンへと到達する。が、この瞬間、椎名が事前に伏せていたバーストカードが反転する。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!」

「………!!」

 

「【マリンエンジェモン】!!……効果によりこれを召喚し、このターン、私のライフはコスト9以下のスピリットからは減らされないっ!!」

リザーブ6⇨3

【マリンエンジェモン】LV3(3)BP9000

 

 

椎名のバーストが反転すると同時に現れたのは小さい桃色の小動物。水中のクリオネみたいに宙をふよふよ舞うそれは、意外にも究極体スピリットの1体であり………

 

マリンエンジェモンは歌う。すると、優雅なメロディと共に椎名のライフは水のバリアで包まれた。

 

 

「………シルフィーモンの効果でライフを1つ回復し、朱に染まる薔薇園の効果で1枚ドロー………………ふんっ!!防御だけで手がいっぱいのようだな………!!」

ライフ5⇨6

手札6⇨7

 

「なんのなんのっ!!これからだよっ!!」

 

 

司の言葉に反応し、右拳を固め、そう言い放った椎名。そんな楽観的で何も考えていないような態度に司はまた怒りを募らせ………

 

 

「……いい加減にしろ……」

「っ!?」

「………本気で戦えっ!!【あの力】を使えっ!!」

「何をぉ!?私はハナっから本気でバトルしてるよっ!!!………てか、【あの力】ってなんだぁぁ!?」

 

 

椎名の前でとうとう【鬼化】の事を話してしまう司。抽象的であるため、椎名は理解しきっていないが………

 

 

「………あの姿のお前に勝たなければ………なんの意味もないっ!!」

「はぁ!?ホントにどうしたんだよ司!?」

 

 

当然、司の言うことなど分からない椎名。あの時の記憶がないのだ。具利度王国で初めて【鬼化】し、メギドラモンをオーバーエヴォリューションで生み出したことなど………

 

 

「…………ターンエンド」

【シルフィーモン】LV3(4)BP12000(疲労)

【イーズナ】LV1(1)BP1000(回復)

【ホルスモン】LV1(1)BP4000(回復)

 

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

ライフと手札に大きく差をつけ、司はこのターンをエンドとした。次は劣勢を強いられている椎名のターン。司の言った事を若干気にしながらも、ターンを進めていく。

 

 

[ターン08]椎名

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!……リフレッシュステップ」

手札4⇨5

リザーブ3⇨4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

ターンシークエンスを進めていく椎名。次はメインステップ………この状況を打破すべく、椎名は大きな一手を繰り出す。

 

 

「メインステップッ!!……D-3のLVを2に上げ、そして来いっ!!ズバモンッ!!……マリンエンジェモンと合体!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨6⇨4

トラッシュ0⇨2

【D-3】(0⇨2)LV1⇨2

【マリンエンジェモン+ズバモン】LV3(3)BP12000

 

 

椎名が召喚したのは黄金の鎧を携えた成長期スピリットならぬブレイヴ。ズバモン。

 

そしてそれはマリンエンジェモンと合体。……と言っても、サイズの問題で、マリンエンジェモンがズバモンの頭の上に乗っかっただけだが………

 

 

「アタックステップッ!!マリンエンジェモンでアタックッ!!効果でトラッシュからディーアークをLV2でフッカァァツ!!」

リザーブ4⇨2

【ディーアーク】LV2(2)

 

 

マリンエンジェモンの水の力が椎名の腰に再びディーアークを装着させる。そしてこの時、いよいよ椎名も本気か、自身が持つ最強のエーススピリットを呼び出す。

 

 

「フラッシュ!!【煌臨】発揮!!対象はマリンエンジェモン!!」

リザーブ2s⇨1

トラッシュ2⇨3s

 

「…………!!」

 

 

この言葉だけで司は理解した。今から呼び出されるのは間違いなくあのスピリット………それは芽座椎名をあそこまで強くした要因の1つとも言える存在が………

 

マリンエンジェモンがズバモンごと赤い光に包み込まれる。2体はその中で混ざり合い、姿形を大きく変換させる。

 

 

「来いっ!!赤きロイヤルナイツッ!!【デュークモン】っ!!」

手札4⇨3

【デュークモン+ズバモン】LV2(3)BP17000

 

 

赤い光を全て解き放ち、現れたのは伝説のロイヤルナイツの1体にして、椎名の絶対的なエーススピリット、デュークモン。今回は早々にズバモンとの合体状態からでの登場だ。

 

その鎧はいつもより鋭利で鋭く、聖なる槍はレーザー状に変化している。

 

 

「…………デュークモン………!!」

 

「さらにディーアークの効果でドロー」

手札3⇨4

 

 

これだけで圧倒的な存在感があると言える。仮にもロイヤルナイツの1体なのだ。当たり前ではあるが………

 

だが、椎名の展開はまだまだ終わらない。

 

 

「次はD-3のLV2効果を発揮!!……疲労させ、【アーマー進化】を行うっ!!」

【D-3】(回復⇨疲労)

 

「………っ!!」

 

「燃え上がる勇気……【フレイドラモン】を召喚っ!!」

手札4⇨3

【D-3】(2⇨0)LV2⇨1

トラッシュ3s⇨4s

 

 

椎名はD-3を軽くタッチする。D-3はそれに反応し、赤い光を照射する。そこから現れたのは椎名の永遠のエーススピリット、フレイドラモン。スマートな竜人型のアーマー体スピリットだ。

 

 

「フレイドラモンの召喚時効果でBP7000以下のスピリット、ホルスモンを破壊っ!!」

「……っ!!」

 

「爆炎の拳……ナックルファイアァァァア!!!」

手札3⇨4

 

 

フレイドラモンは登場するなり、拳に炎を溜めて、ホルスモンへと射出する。ホルスモンはそれに焼き尽くされ、爆発した。

 

 

「そして!!煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐっ!!アタックは継続っ!!行けっ!!デュークモンッ!!」

 

 

煌臨元であったマリンエンジェモンがアタック中であったため、煌臨したデュークモンもアタック中となる。低空飛行で駆けるデュークモン。さらにこの瞬間にも強力な効果があり…………

 

 

「デュークモンのアタック時効果っ!!トラッシュにある滅竜スピリット1体を手札に戻すことで回復するっ!!トラッシュにあるメガログラウモンのカードを手札に戻し、回復!!……ネクスト・イストリア!!」

手札4⇨5

【デュークモン+ズバモン】(疲労⇨回復)

 

 

眼光を輝かせ、疲労状態から回復状態となるデュークモン。これにより、このターン、2度目のアタック権利を得る。

 

 

「まだだ!!まだまだぁぁあ!!ディーアークの【カードスラッシュ】でもう一度メガログラウモンのカードを破棄!!」

手札5⇨4

破棄カード↓

【メガログラウモン】

 

「………!!」

 

「LV1BP、6000以下のスピリット1体を破壊する!!……私はイーズナを破壊っ!!………アトミックブラスター!!」

 

 

【カードスラッシュ】の効果で今一度場に現れるメガログラウモン。そのまま上部の武装から原始の力が込められたレーザーを照射し、司の場に存在しているイーズナを掻き消してしまう。

 

その後、メガログラウモンは先ほど同様、役目を終えたかのようにゆっくりとその姿を消滅させた。

 

これで、司の場にはアタックしたがために疲労状態となっているシルフィーモンのみ、ブロッカーはゼロ。何もなければ椎名のフルアタックを受けることになる。

 

 

「……ライフで受ける………ぐっ!!」

ライフ6⇨4

 

 

デュークモンの聖なる槍の鋭い刺突が司のライフを一気に2つ貫いた。さらにこの勢いは止まらない。椎名はその場にいるデュークモンにさらなるアタックの指示を送る………

 

 

「もう一度だっ!!デュークモン!!今度はロイヤルセーバーでシルフィーモンを破壊っ!!」

「………ちぃ!!」

 

 

ライフを貫いた後で、司の目の前に聳え立つデュークモン。レーザー状となっている槍を背後にいるシルフィーモンへと軽く向け、聖なる一撃を発射。シルフィーモンを貫き、爆散させた。

 

そしてその目は再び司の方へと振り向き………

 

 

「このターンで終わりだっ!!司っ!!」

 

「詰めが甘いんだよっ!!お前はなぁあっ!!……フラッシュマジック!!シンフォニックバースト!!」

手札7⇨6

リザーブ8⇨6

トラッシュ3⇨5

 

「………っ!!」

 

「そのアタックはライフで受けるっ!!………ぐっ!!………だが、これまでだぁ!!」

ライフ4⇨2

 

 

デュークモンの聖なる槍での刺突が司のライフをさらに大きく貫く。だが、それに反応するかのように司の使用したシンフォニックバーストの効果が発揮され………

 

椎名のスピリット全ては黄色い光に包まれ、このターンのアタックを不可にされてしまう。椎名は必然的にこのターンのエンドを迫られた。

 

 

「………ターンエンドだ」

【ギルモン】LV3(4)BP6000(回復)

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000(回復)

【デュークモン+ズバモン】LV2(3)BP17000(疲労)

 

【ディーアーク】LV2(2)

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

これでは流石に無理と判断したか、椎名はこのターンを終了させる。次は見事にシンフォニックバーストの効果を使い、椎名の猛攻を止めてみせた司のターン。

 

椎名の風前の灯となっているライフを破壊すべく、ターンを進めて行く。

 

 

[ターン09]司

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!……リフレッシュステップ」

手札6⇨7

リザーブ8⇨9⇨14

トラッシュ5⇨0

 

 

朱に染まる薔薇園のみで何も存在しない場。だが、司は結果的に増えたコアを利用し、再びスピリットを多量に展開していく。

 

 

「メインステップ!!俺は3体目のイーズナ、ホークモン、テイルモンを連続召喚!!」

手札7⇨4

リザーブ14⇨6

トラッシュ0⇨3

 

 

司が連続で呼び出したのは本日3体目となるイーズナと、【アーマー進化】の効果によって手札に戻っていたホークモン。そして、【超進化】の効果で手札に戻っていたテイルモンだ。

 

 

「ホークモンの召喚時効果っ!!」

【イエローリカバー】×

【朱に染まる薔薇園】×

【ホウオウモン】×

 

 

展開と同時にホークモンの召喚時効果を使用する司。だが、そこには対象となるデジタルスピリットは存在せず、全てトラッシュへと破棄されてしまった。

 

だが、司はそんなこと全く気にせず、次の一手を飄々と繰り出す。

 

 

「メインマジック!!コールオブロスト!!トラッシュに落ちたシルフィーモンを再び俺の手札に、さらに双光気弾!!お前のディーアークを再び破壊っ!!」

手札4⇨3⇨2⇨3

リザーブ6⇨4⇨2

トラッシュ3⇨5⇨7

 

「っ!!」

 

 

司の使用した2枚マジックカード、1枚はトラッシュに落ちたシルフィーモンのカードを今一度司の手札へと戻し、もう1枚は椎名のディーアークを再び破裂させる。

 

これにより、ディーアークの守りも消え、心置きなく椎名を攻めることができる。

 

 

「アタックステップッ!!テイルモンでアタック!!効果でカードをオープンし、それを手札に加える!!」

オープンカード↓

【フルーツチェンジ】×

手札3⇨4

 

 

司は、テイルモンの効果を使用し、失いかけた手札をもう一度潤していく。もちろんそれだけではない。次はシルフィーモンへの進化だ。

 

 

「【超進化:黄】で再びシルフィーモンを召喚っ!!」

【シルフィーモン】LV3(4s)BP12000

 

 

全くといいほどの同じ手法で、テイルモンは再び司のエーススピリット、シルフィーモンに進化を遂げた。

 

 

「シルフィーモンの召喚時!!フレイドラモンを破壊っ!!」

「……っ!!」

 

 

シルフィーモンの技、トップガン。

 

それは椎名の場にいるフレイドラモンに命中、フレイドラモンは吹き飛ばされ、力尽き、爆発四散した。

 

これで椎名のブロッカーはギルモンのみ、ライフは3。そしてそれに対し、司の場のアタッカーは3体。彼女の残りのライフを破壊するにはあまりにも十分すぎる。

 

だが、椎名はこの状況を打破すべく、ある一手をこの【超進化】発揮後に成熟期のアタックで残るフラッシュタイミングで使用する。

 

 

「フラッシュ!!【アーマー進化】!!対象はギルモン!!」

「………っ!?」

 

 

椎名の場に存在するギルモンが分子レベルまで分解され、椎名の場を退く。そして、それをまるで糧にするかのように、新たなスピリットが椎名の元へと駆けつける………

 

 

「1コスト支払い、黄金の守護竜!!マグナモンを召喚っ!!」

リザーブ4⇨3

トラッシュ4s⇨5s

【マグナモン】LV3(4)BP10000

 

「…………!!」

 

 

現れるは2体目のロイヤルナイツ………

 

最高の硬度の黄金の鎧をその身に宿し、椎名の目の前に現れる。その名はマグナモン。最強のアーマー体にして、伝説のロイヤルナイツの一柱………

 

 

「マグナモンの召喚時効果っ!!相手の最もコストの低いスピリット1体を破壊するっ!!」

「……!!」

「黄金の凶弾!!プラズマシュートッ!!」

 

 

登場するなり、掌から雷を放つマグナモン。それは瞬く間に司の場に存在するイーズナまで伸び、感電させる。小型のイーズナがそれに耐えられるわけもなく、あっさりと爆発してしまった。

 

 

「どうだ司っ!!これでマグナモンがBPで勝てば次のターンで私の勝ちだっ!!」

 

 

マグナモンには疲労状態で何度でも相手のスピリットのアタックをブロックできる強力な効果を備えている。このマグナモンさえいれば椎名のライフは減らない………

 

飽くまでもBPバトルに勝ち続ければの話ではあるが………

 

 

「だったら勝ってみやがれっ!!フラッシュ!!トラッシュから【煌臨】発揮!!対象はシルフィーモン!!」

【シルフィーモン】(4s⇨3)LV3⇨2

トラッシュ7⇨8s

 

「………!!」

 

 

この言葉だけで椎名には司が今から何を呼び出そうとしているのかが容易に想像できた。

 

今から呼び出されるのは【朱雀】、赤羽司の切り札。赤羽一族に伝わる伝説のデジタルスピリット………

 

 

「金色の翼翻す王者よ!!今こそ地上の全てを焼き払えっ!!究極進化ぁぁあ!!」

 

 

司のその口上と共に、合わせるかのごとく、シルフィーモンが聖なる炎へとその身を包み込ませる。シルフィーモンはその中で姿形を大きく変えていく………

 

そしてそこから現れるのは究極の鳥型スピリット………

 

 

「………ホウオウモンッ!!」

【ホウオウモン】LV2(3)BP12000

 

 

聖なる炎を羽ばたきと共に薙ぎ払い、飛翔したのは、赤属性の究極体スピリット………4枚の金色の翼を持つホウオウモン。その優雅な飛び方、鳴声は見るもの誰もを虜にしてしまう。

 

 

「……ホウオウモンッ!!……いつ見てもカッコいいなぁ!!」

 

 

敵側だというのにあいも変わらずはしゃぎ出す芽座椎名。それほどまでにこのバトルを楽しんでいる事が伺えるが、決勝戦で、しかも名誉あるアイランドリーグで出てくる言葉とは到底考えられない。

 

……しかし、そんな椎名だからこそ、今まで数多くのバトルに勝ってきた、又は奇跡を起こして来た。今回もそれが発揮されるか………

 

 

「浮かれてんじゃねぇ!!ホウオウモンの煌臨時効果発揮!!」

「………っ!!」

 

「俺は煌臨元となったシルフィーモンを手札に戻し、BP10000以上のスピリット、デュークモンを破壊するっ!!……金色の超炎!!シャイニングエクスプロージョンッ!!」

手札4⇨5

 

 

ホウオウモンの4枚の翼から解き放たれる同じ金色の色の炎。その熱量は確かに超炎と呼べる代物であって………

 

相手が強ければ強いほどに逃れられないそれは、瞬く間に椎名の場のデュークモンを包み込んで行き、その聖なる鎧ごと焼き尽くしてしまった。

 

デュークモンが消える直前、合体していたブレイヴ、ズバモンが逃げ出すかのように飛び出した。

 

 

「くっ!!デュークモンッ!!」

 

「あの時と全く同じだなっ!!めざしっ!!………お前の負けだっ!!ホウオウモンでアタック!!その効果で残されたズバモンを破壊っ!!」

 

 

さっきまでの攻防は全てテイルモンのアタックによるフラッシュタイミング。ホウオウモンの正式なアタックが始まる。その口内から放たれる金色の炎は椎名の場のブレイヴ、ズバモンをあっさりと消し去った。

 

椎名のライフは1。当然、マグナモンでブロックする他ない。

 

司が明言する通り、この状況はあの時と全く同じである。忘れもしない、もう1年以上前となる【界放リーグ】での準決勝。椎名はこのマグナモンとホウオウモンのBP勝負に敗れ、司に壮絶な敗北を喫した。

 

……忘れるわけがない思い出の1つだ。

 

 

「………今度は負けないっ!!迎え撃てっ!!マグナモンッ!!」

 

 

マグナモンに防御を命ずる椎名。マグナモンはホウオウモンを迎え撃つべく構える。その構えによるものなのか、身体中からマグナモンの持つ黄金の力が広がっていく。

 

それはマグナモンの持つ必殺技。この技で司のホウオウモンを消し去るつもりだ………

 

対するホウオウモンを敵であるマグナモンを視認したか、煌臨した時の態勢になり、翼にそれと同じ色の炎を溜め…………

 

………今一度この両者が激突する………

 

 

「黄金の波動!!エクストリームジハードッ!!」

「金色の超炎!!シャイニングエクスプロージョンッ!!」

 

 

地上からはマグナモンの黄金の波動が、上空からはホウオウモンの金色の超炎が降り注ぎ、【界放リーグ】の時同様、2つの金が激突する。

 

ホウオウモンのBP12000。対するマグナモンはBP10000。やはり不利か、エクストリームジハードが徐々に徐々にと押され始める。

 

……だが、この程度は予想済みか、椎名は手札の1枚でマグナモンをサポートする。

 

 

「フラッシュマジック!!【ワイルドライド】!!このターン、マグナモンのBPを3000アップ!!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨3

トラッシュ5s⇨8s

【マグナモン】BP10000⇨13000

 

 

あの時と同様、椎名は緑マジック、ワイルドライドを使用し、そのBPを3000上昇させ、僅かながらにホウオウモンを超えてみせた。

 

マグナモンはその眼光を輝かせ、黄金の力を上昇させる。それに伴い、エクストリームジハードがまたシャイニングエクスプロージョンを押し始めた………

 

これでこのまま何もなければマグナモンがBP勝負に競り勝ち、椎名の勝利がほぼ確定する。

 

………しかし、こうなる事を司が想定していないわけがなく………

 

 

「お前には学習能力が備わっていないのか!?フラッシュマジック!!【フルーツチェンジ】!!」

手札5⇨4

 

「………!!」

 

「この効果でこのバトル中、BPを比べる際、互いのスピリットのBPを入れ替える。不足コストはホウオウモンから確保っ!!」

【ホウオウモン】(3⇨1)LV2⇨1 BP12000⇨7000

 

 

そう、1年前もこれだった。この手によって、椎名は壮絶な敗北を喫した。ホウオウモンからコアが確保され、ホウオウモンはそのBPをより落とすことになる。

 

が、それで良いのだ。フルーツチェンジの効果でBPが入れ替わって仕舞えば、その低めのBPはマグナモンのものになるのだから………

 

 

「俺の………勝ちだっ!!」

 

 

そう言い放ち、ホウオウモンはさらに力強く金色の超炎を放出させていく。今一度その黄金の波動を押し返してみせる。

 

………万事休すか………

 

……だが、椎名はまた、こんな状況でも笑ってみせた。微かにだが、その口角を上げてみせた。そんな彼女の様子を視界に入れてしまった司は驚異と言う名の悪寒を感じ取った。

 

………知っているからだ。

 

………誰よりも………

 

局面であの表情をした芽座椎名と言う人間は……

 

………負けない事を………

 

 

「この時を待ってたんだっ!!ずっとっ!!1年間っ!!………フラッシュマジック!!【ストロングドロー】!!スピリット1体のBPをプラス3000するっ!!」

手札3⇨2

リザーブ3⇨2

トラッシュ8s⇨9s

 

 

椎名が使用したのはまたBP増強のためのフラッシュマジック。

 

だが………

 

 

「バカめっ!!今更マグナモンのBPを上げても全てホウオウモンのBPになるだけだっ!!」

 

 

そう、このタイミングでマグナモンのBPを上昇させても、BPを比べるタイミングになって仕舞えば、それは全て司のホウオウモンのものになってしまう。

 

………このマジックは何の意味もない。

 

………しかし、椎名は………

 

 

「誰がマグナモンのBPを上げるって言った?…………私がBPをアップさせるのは………ホウオウモンッ!!あなただっ!!」

 

「っ!?…なにっ!?」

【ホウオウモン】BP7000⇨10000

 

 

青い光がホウオウモンを包み込み、それの力を上昇させる。

 

そうなのだ。この手のフラッシュマジックは大抵、相手のスピリットもBPアップ対象に含まれる。椎名が狙っていたのは逆転の発想………

 

BPが入れ替わると言うのなら………ホウオウモンのBPを上げて、最終的にはマグナモンのものにしてしまえば良い………

 

そして立て続けに………

 

 

「さらにフラッシュマジック!!【レッドカード】!!このターン、ホウオウモンのBPをさらに3000アップ!!不足コストはマグナモンをLV2にして確保っ!!」

手札2⇨1

リザーブ2⇨0

トラッシュ9s⇨13s

【マグナモン】(4⇨2)LV3⇨2 BP13000⇨11000

 

「くっ!!!………」

【ホウオウモン】BP10000⇨13000

 

 

赤いカードがホウオウモンを潜り抜ける。ホウオウモンはさらにそのBPを上昇してしまう。

 

 

「そしてっ!!BPを比べる際!!フルーツチェンジの効果でマグナモンとホウオウモンのBPが入れ替わるっ!!」

【マグナモン】BP11000⇨13000

 

「………っ!?」

【ホウオウモン】BP13000⇨11000

 

 

このタイミングで全てのフラッシュタイミングが終了し、司の発揮させた黄色のマジック、フルーツチェンジの効果が適応、黄色の淡い光に両者は包まれ、そのBPを入れ替える。

 

その結果、司のホウオウモンのBPは11000。椎名のマグナモンのBPは13000………マグナモンの方が上となった。

 

 

「………ぶちかませぇっ!!マグナモンッ!!フルパワーだぁっ!!」

 

 

椎名の叫びに呼応するかのように、マグナモンは今一度その眼光を輝かせ………黄金の力を最大値まで高める………そこから放たれる波動は誰にも止められやしない。

 

 

「黄金の波動!!エクストリームジハード・マキシムッッ!!」

「………っ!?……め、めざしぃぃぃぃぃい!!!!」

 

 

解き放たれる真の力は超炎などまるで最初からなかったかのように消し去り、凄まじい勢いで上空に佇むホウオウモンに迫る。ホウオウモンは当然逃れられることはなく、それに命中。

 

包み込まれ、その中で超炎同様、散り散りとなって消滅してしまう………

 

……1年と言う長い時間をかけ、ついにマグナモンがホウオウモンに勝利を収めた瞬間であった…………

 

 

「よっしゃぁぁぁあ!!!」

「………ば、馬鹿な………この俺が……俺のホウオウモンが………」

 

 

敗北したホウオウモンの消滅した姿を目の当たりにして、そう呟く司………完璧だった。これまでは殆どと言っていいほどに優勢だった。

 

しかし、このBPバトルに敗北したことで状況が一変。これまで培ってきた有利性の全てを椎名に持っていかれてしまう。

 

だが、少なくともこのターンは終わらざるを得ない。LVが2までダウンしたとはいえ、マグナモンの疲労ブロッカー効果は健在。それもおまけと言わんばかりにワイルドライドの効果で回復もしている………

 

 

「………ターン……エンド……ッ!!」

【ホークモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

その声を震わせ、どうしても拭えない屈辱の感情と共に混ぜながら……そのターンのエンドを宣言した司。

 

次は見事に競り勝ち、優位性をその手にもぎ取った椎名のターン。勝利への道を歩みだす。

 

 

[ターン10]椎名

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップッ!!……リフレッシュステップッ!!」

手札1⇨2

リザーブ0⇨1⇨14

トラッシュ13⇨0

 

 

勝利が目前のこのターン………

 

当然ながら、椎名は油断せずにターンシークエンスを慎重に進めて行く………

 

そしてメインステップ………

 

 

「よっしゃっ!!メインステップッ!!ここで一気に勝負を決めるっ!!」

 

 

ここからさらにスピリットを展開し、残り2つである司のライフを破壊する予定だった。

 

………だが、ここで椎名にある異変が発生する……

 

 

「……私はギルモンを召喚…………ん?」

 

 

マグナモンの効果、【アーマー進化】により手札に戻っていたギルモンを再度召喚しようとした直後だった。その自分に起こった異変に気付いたのは………

 

 

「え?なになに!?どゆこと!?」

「………っ!?」

 

 

椎名の身体が………

 

突然デジタルの分子レベルに崩れ去ろうとしていく。それはみるみるうちに彼女の有無を聞かず、身体を蝕んでいき………

 

 

「えぇっ!?ちょっと待って!!どう言うことだよ!?今メッッチャいいとこじゃん!!……う、うわぁぁつ!!」

 

 

消滅してしまった。その身にまとう衣服や使用していたカード、Bパッドごと………

 

Bパッドも消えたことで、当然マグナモンもその姿を消滅させる。司のBパッドとの通信が遮断された証拠だ。

 

 

「…………は?」

 

 

司は信じ難いかのような声を上げる。当然だ。さっきまでバトルしていた人物が突然消え去ったのだ。意味がわからない。どうしようもなく拭えない怒りがまた込み上げてくる。

 

 

「ん?椎名のやつ、どこ行ったんや?……アイランドリーグの演出?」

「……いや、そんなものはないと思うけど………」

 

 

観客席にいる真夏達はそんな会話をしている。このデジタルの映像に頼り切った世界において、この程度の演出ならば朝飯前にできる。

 

が、どこの場所、地域、街、国においても、神聖なるバトルスピリッツを邪魔などするわけがなく………

 

その証拠に、他の観客席の人々も意味がわからず、困惑しているかのような声を漏らしているし、若き実況者もさっきまでは熱くバトルについて語っていたのに、今では音沙汰もなく、フリーズして言葉がなかなか出てこない状態だった。

 

 

「………ちょっと心配じゃあの……わしが運営側に問い合わせてこよう………」

「え?おっちゃん多分それ他の人の仕事やで?心配せんとも椎名ならそのうち出てくるて………」

 

 

流石に椎名のことが心配なのか、六月は席から立ち上がり、そう言い告げる。

 

だが、真夏の言う通り、これは素人がどうこうと言う問題ではない。運営側の処理に任せるしかないだろう。

 

………そんな時だ………

 

 

………そんな時………

 

 

……まるで今のこの状況を待ち望んでいたかのように………

 

 

……観客の困惑の声などよりも遥かに大きな高笑いで………

 

………その男はようやく現れる……

 

 

「ヌフフフフ……………ワァッハッハッハッハ!!!!」

「………っ!?」

「……ついにこの時がやって来た……!!」

 

 

その声を聞いて黙り込む観客達。不思議だ。その声は全ての身体の動きと思考を停止させてしまう。

 

……だが、その声を聞いて、何やりも、それでいて誰よりも反応し、驚愕したのは他でもない。芽座六月。

 

その湿った笑い声は……聞き覚えがある。もう17年、いや、もうすぐ18年聞いていないことになるのか………

 

その声主はある人物と共に、唐突に司のみが存在するバトル場に足を運ぶ………

 

 

「………お、お前は………!?」

「お初にお目にかかるね〜〜〜【朱雀】……【赤羽司】…………私の名は………【Dr.A】!!……ヌフフフフ……よろしく……」

 

 

司の目の前に現れたのは……Dr.A……世界話またにかける、その殆どが謎に包まれているマッドサイエンティスト。おそらくだが、椎名をどこかへ消し去ったのは彼だ。しかし、司が気になったのはそれだけではない。

 

その横にいる人物は………

 

 

「……知ってるさ…Dr.A……だが何故お前がそいつと一緒にいやがる?……スピリットアイランド最高責任者………【功 宗二】!?」

「………」

 

 

Dr.Aの隣にいたのは、他でもない。このスピリットアイランドの創設者にして、この島の最高責任者でもある科学者、【功 宗二】………椎名がこの島に来て仲良くなった少年、【功 流異】の父親でもある。

 

そんな時、静まり返ったせいで、観客に司の声が届いたのか、そのバトル場にいるのがDr.Aだと言うことが観客席にいる全ての人々に伝わり………

 

 

「ど、Dr.A?……日本を中心にイカレタ実験をするって言う………あの?」

「じゃ、じゃあ、俺たちはどうなんだ!?」

「こ、これから僕達を使って何かするんじゃ………」

「そ、それってやばいっ!!!」

「……に、逃げろぉっ!!」

 

 

静まり返っていた観客席が一変、悲鳴で会場は埋め尽くされ、他の観客達は早くここから出ようと大急ぎで走り出す。

 

 

《ちょちょちょっ!!皆さまここは落ち着いて!!………て、おわ!!あわわっ!!うわぁっ!!》

 

 

それを止めようと若き実況者も大勢の人ラッシュに巻き込まれ飲まれ、どこかえ消え去ってしまった。1分もしないうちにそれは収まり、会場には椎名と関係のある人物だけが残ってしまった。

 

 

「………あら?私ってそんなに有名だったんだ……まぁ、この島はセキュリティが固いからどこに行ったって逃げられないけどね〜」

「おいっ!!民間人には手を出さない約束だろっ!!」

「はいはい、全く普通の科学者は頭がお固い」

 

 

Dr.Aの言うことに、若干の怒りを覚え、そう発言する宗二。しかし、やはり何かしらの約束は交わしたかのような発言もしている。

 

 

「………あ、あいつがDr.A?………夜宵ほんとかいな?」

「………い、いや、私の時は目の前に姿を見せてないから………」

「でもあの覆面、間違いないよ………」

 

 

観客席で初めてDr.Aの姿を目の当たりにした真夏、夜宵、雅治。夜宵は一度間接的に彼と関わっていたものの、実際にその姿を見せていたのは父、【紫治 城門】のみであったため、今回が初となった。

 

 

「………ど、Dr.A?………あれが?」

 

 

芽座六月はDr.Aという名の人物は聞いたことがあった。だが、それは飽くまでもタチの悪い犯罪者と言ったテイストでの認識。

 

………だが、今回、初めてそれを目の前で目視し、声を聞いて………思い出していた。

 

………奴を……

 

………いや、そんなはずはない。奴はあの時確かに死んだ。【あの子】と共に、あの大きな火事で………

 

しかし、そこにいるのは、どうしても奴にしか見えない……

 

………そんな六月に気付いたのか、Dr.Aは彼の方を振り向き………

 

 

「おやおや〜〜?………こりゃまた随分と懐かしい奴がいるね〜〜………久しいな………【六月】!!」

「……っ!!」

「え?」

「な、なんでDr.Aはおっちゃんの名前を知っとんねん!?」

 

 

Dr.Aは見事に芽座六月の名を的中させた。

 

理由は簡単。初めから知っていたから………そう、昔から知っている。幼い時からずっと………界放市の現市長、【木戸 相落】と六月、そして彼は………友だった。唯一無二の……かけがえのない………

 

六月は背筋をはじめとする身体全体が震え上がった………

 

……間違いない。

 

……間違いなくあいつだ………

 

……そう六月は心に言い聞かせながらも、Dr.Aはその証拠を彼に見せつけるかのように、独特な絵の覆面を脱ぎ始める。

 

そして、完全に外し、その場に覆面を捨て去り、素顔を晒す………その顔を見た六月は確信に変わった。

 

六月と同じ観客席にいる真夏達やDr.Aと面と向かって対峙している司は驚愕した……その顔を………

 

 

「いや〜〜……あの時は熱かったよ………お陰で私の顔はずっとこのまんま………まぁ、別に怒ってないけどね〜〜ヌフフフフ」

 

 

その顔には痛々しい程存在する無数の火傷の跡………歳によるシワのせいもあって、その表情はより歪んで見える。

 

 

「………あ、暗利ぃぃぃぃぃい!!!!」

 

 

六月は叫ばずにはいられなかった………

 

その名を……

 

……【徳川暗利(とくがわ あんり)】の名を………

 

……その正体はDr.A……それは芽座椎名の育て親、【芽座六月】と、界放市の現市長、【木戸 相落】の親友にして………全ての元凶………椎名のバトスピ物語において、必然的に立ちはだかる………闇の主犯………

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【ズバモン】!!」

椎名「ズバモンは6色全てを揃えたデジタルブレイヴ!!【進化:全色】の効果や、合体時の効果はデジタルスピリットのデッキとは相性抜群っ!!」


******


〈次回予告!!〉


ついに姿を見せたDr.A。彼はこの島の最高責任者、功 宗二と手を取り、この島のセキュリティ権限を乗っ取っていた。一方、椎名は地下に強制転移させられてしまう。そしてそこで鉢合わせた人物は………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「動き出した闇、デュークモンVSベルゼブモン!!」……今、バトスピが進化を超える!!



******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


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第69話「動き出した闇、デュークモンVSベルゼブモン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界政府が認めたS級犯罪者、【Dr.A】………世界各地にいる心悩む人々に立ち寄り、実験と称し、力を貸す。

 

彼の持つ科学力は最早人智など軽く超えているという。彼と関わりを持った者は必ずと言っていいほどにただで済む事はない。必ずその者の命よりも大きな代償を払うことになる。

 

******

 

 

突然現れたDr.Aに怯え、観客や実況者が逃げ惑い、このアイランドリーグのスタジアムはすっかり静かになってしまった。それほどまでにDr.Aという名は世界に知れ渡っているのが伺える。

 

今尚もこの会場にいるのは、目の前で彼と対面している司、観客席にいる真夏、雅治、夜宵、六月。そして、何故かDr.Aの横にいる功 宗二。このスピリットアイランドの最高責任者であり、椎名達をこの島に案内、及び招待した張本人。しかも、椎名と仲良くなった功 流異の父親でもある。

 

 

「………あ、暗利?………おじいさん、あなた、Dr.Aの事を知ってるんですか!?」

 

 

覆面を脱ぎ捨てたDr.A。それを見て、六月は叫んでしまった。彼の本当の名前を………

 

……当然、司を始めとした、他の人物は知らない、彼の事を知っているのは、部下である銃魔を除けば、今やこの芽座六月と、現界放市市長、木戸相落のみであろう。

 

雅治がそれに反応し、そう六月に質問するが、六月はそれに対し一切の返事ができなかった。

 

言えないのだ。17年前、いや、もう18年前の真実を語ることになるからだ。これだけは口外できない。絶対に、自分の口からは言えなかった。

 

 

「相変わらず、血の気が多いね〜〜……【エニーズ】はどうだい?お前が育てたのだろう?」

「……っ!?………椎名をどこかへ消したのはお前か暗利っ!!」

「……あぁ、まぁね………あの子にはちょっとした試練を乗り越えてもらうことにしたよ〜〜【最後の覚醒】のために……!!」

「………っ!!」

 

 

真夏や司達では到底分かり得ない会話を交わす六月とDr.A、もとい徳川暗利………

 

 

「ちょっ!!おっちゃん!!さっきからどゆことや!?【エニーズ】て何!?」

「………椎名をどこへやった!?わしをそこに案内しろ!!!」

 

 

真夏の言葉にも全く聞く耳を持たない六月。なかなか冷静になれないのだ。

 

このままではマズイ………椎名が全てを知ってしまう。それだけは避けなければならないからこそ、六月は今焦っている。

 

 

「私がなんで生きているとは聞かないんだね〜〜……ちょっと残念」

「黙れっ!!早く教えろっ!!」

「いいのかな〜〜私を急かしても………」

「っ!?」

 

 

そんな血気盛な六月に対し、まるでDr.Aはこうなる事を読んでいたかのように、六月の行動を制限する。

 

 

「……いいかい?六月……今私はこのスピリットアイランドに存在する全てのスピリットをコントロールできる!!……この島の最高責任者、功 宗二博士のおかげでね!!」

「なにっ!?」

「余計な事をすればどうなるかわからないお前ではないだろう?……なら、そこでその子らとじっと指を咥えて見ているんだね」

「………あ、暗利ぃぃぃぃぃぃい!!」

 

 

今のDr.Aはこの島に存在する全てのスピリットの制御を行える。島にいるスピリットとは、当然ながら、スピリットプロテクターにより、実体化している。

 

実体化しているスピリットと言えば、普通にBパッドを使って召喚しているスピリットとはわけが違う。人に危害を加える可能性があるのだ。それが悪人の意のままに操ることができるなど、考えなくとも最悪な状況。

 

言うなれば、今のこの状況はこのスピリットアイランドに住まう全ての人々を人質に取られているようなものだ。六月はその事を理解しているからこそ、この場から動けなくなる。それは真夏達も同様に………

 

なんとも悪者らしい、卑怯で、卑劣な一手だ。

 

そんなDr.Aは目の前にいる司の方へと体を向け………

 

 

「【エニーズ】の覚醒も大事だけど、銃魔が目をつけた君にも非常に興味深い………【朱雀】、赤羽司……!!」

「………!!」

「どうだい?私がこれから作る進化した世界に来る気はないかい?争いも紛争もない何もかもが平和な世界へ……!!」

 

 

【進化した世界】

 

【争いも紛争もない世界】

 

これらの言葉は銃魔とバトルした時に彼から聞いた。この言葉の一致により、本当に彼らは繋がっていることが明らかとなる。

 

 

「そこには【エニーズ】も連れて行く。君はあの子に勝ちたいのだろう?じゃあ共に………」

「………行くわけないだろ!!」

「………あら」

 

 

そのスカウトをあっさりと断る司。

 

当然だ。誰が好きで犯罪者の元へと行くものか………

 

 

「………そもそも、【エニーズ】ってなんだ!!めざしの事か!?………あいつはなんなんだ!?」

「………ヌフフ、そうか君はあの時【鬼化】まで見たんだよね〜……そりゃ気になるか」

 

 

司は聞いた。

 

おそらく全ての事柄を理解しているであろう主犯に………芽座椎名を何故【エニーズ】と呼称するのか、【鬼化】とはなんなのかを………

 

……その事を聞いて驚く真夏達。自分達のわからないところで話がどんどん進んでいく……正直ついていけない。

 

だが、六月は………

 

 

「………【鬼化】……だと!?」

「そうだよ六月……【エニーズ】は一度【鬼化】を行い、オーバーエヴォリューションを繰り返した………ヌフフフフ、めでたいね〜〜」

「馬鹿な……椎名が……!!」

 

 

何故鬼化した。

 

何故

 

あの優しくて大らかな椎名が………

 

そんなわけがない。そんなわけがないと自分に言い聞かせるが、司の言葉が何よりの証拠だ。普通に暮らしていて、【鬼化】などという言葉が出てくるわけがない。

 

 

「おいっ!!おっちゃんっっ!!………いい加減話しぃ!!【エニーズ】って何や!!【鬼化】てなんやっ!?」

「緑坂さん!!落ち着いて……!!」

「……真夏ちゃん!!」

 

 

とうとう痺れを切らした真夏。六月の両肩に両手を置き、急かすように揺さぶる。余りの勢いに雅治と夜宵が止めに入る。

 

六月はそれに対し、一切口を開けず、寡黙を続ける。

 

………そんな真夏達を見てか、Dr.Aが六月に代わり………

 

 

「それでは私が話そう、お嬢さん!!」

「「「!?」」」

「………やめろ……暗利っ!!」

 

 

止めようとする六月。しかし、その言葉はどこか弱々しくて……

 

Dr.Aはその口を淡々と動かしていく……

 

どうしようもなく、真夏達はその言葉を耳に受け付けてしまう。

 

 

「【エニーズ】とは!!遥か昔、弥生時代においての渡来人!!今の【オーバーエヴォリューション】の発端となった人物!!【エニー・アゼム】からもじった造語であり!!当時生息していた【鬼】のDNAを持つ存在!!…………」

「………やめろ」

 

 

六月の制止を聞かず、Dr.Aはその口を止めない。

 

 

「………そして何より、私が造り上げた!!最高傑作なのだっ!!」

「「「「!?」」」」

 

 

この言葉に………

 

誰もが驚いた。

 

しかし、最早どこから驚けばいいのかわからない。

 

【エニー・アゼム】とは、この世界なら常識のように社会の教科書に出てくる偉人だ。【オーバーエヴォリューション】を繰り返し、今の人類の発展に大きく貢献した女性だ。

 

そんな彼女と同時期に【鬼】という生物が本当に存在していて、椎名はその【鬼】のDNAを持っている?

 

それより、Dr.Aが椎名を造った?

 

………わけがわからない。そんな事信じられるわけがない。

 

しかし、今のDr.Aが嘘をついているとは、彼らは到底思えず………その場で何も反論できず、立ち尽くしている六月が何よりもその言葉の信憑性を高めていた。

 

 

「まぁ、彼女は所謂人造人間………いや、人造鬼と言った方が良いかも知れませんね〜〜ヌフフフフ」

 

 

何故笑っていられるのか、驚愕のあまり逆に黙り込む真夏達を前にその湿った笑い声を響かせるDr.A。

 

 

「ちょっと待ってくださいっ!!椎名が鬼!?先ず鬼なんてただの人の恐怖の感情が生んだただの想像上の生き物だ!!そんなものが世界にいたなんて信じられない!!」

 

 

勢いよく反論して来たのは雅治だ。

 

当たり前……

 

ごくごく当たり前の意見だった。この世界において、【鬼】などいるわけがない。常識から出てくる普通の発想だ。

 

 

「………ヌフフフフ、世界が隠蔽しているだけで、【鬼】はいたのだよ、少年……!!」

「っ?!」

「【鬼】とは、弥生時代に生まれた、我らホモ・サピエンス、いわゆる人間を超越した存在!!【何度も進化を繰り返す力】で人を幾度となく脅威に陥れて来た!!」

 

 

また淡々と説明を始めるDr.A。

 

彼の言う通り、【鬼】とは、確かにこの地上に存在していた。【何度も進化を繰り返し】……自分らの住まう領地を拡大すべく、当時の人々を襲っていた。

 

……だが、その一族は唐突に滅びることになる。

 

 

「そしてそれを滅ぼしたのが【エニー・アゼム】!!鬼達同様進化を繰り返す力を使い、鬼を滅ぼし、この世界を人間の手中に収めさせたっ!!」

 

 

本来、【エニー・アゼム】を習う際には、この事は教授しない。【鬼】という存在が世界に知れ渡ってしまうからだ。もしそうなれば、人々はいもしないその存在に恐怖し、一種の社会科現象を巻き起こしてしまうと思われたからである。

 

 

「………そして、私はその鬼の化石からDNAを採取し、造り上げたのが、今の君たちが【芽座椎名】と呼ぶ………【エニーズ】なのだよ………!!」

「………」

 

 

これは、またいずれどこかで詳しく語ることになるだろうが、

 

約18年前の当時、椎名を造り上げたDr.Aはその鬼化の力を使い、世界を変えることを目的としている事を知ってしまった六月がこれを良しとせず、【エニーズ】を連れ出し、脱走………

 

こうして、【エニーズ】は【芽座椎名】と名付けられ、芽座六月の元で育てられた。

 

 

「【エニーズ】を連れ去った事………未だに腹立たしいが、私はお前に感謝しているよ六月……君は結果的に【エニーズ】を育てた……私が世界を進化させる【キーパーソン】を………」

「………っ!!」

 

 

そして、その時に話しかけてくる人物が1人………それは六月や司、真夏達でさえもなく………

 

 

「Dr.A!!そんな話はどうでも良い!!早く息子を………流異を……あの子の病気を完治してくれっ!!」

「……むぅ?」

 

 

Dr.Aにそう強く言い放ったのは、すぐ横にいる功 宗二。彼にとっては、当然【芽座椎名】と【エニーズ】の因果関係などどうでもいいことだ。

 

彼は息子の病気を完治して欲しいがために、今日という日、Dr.AがS級の犯罪者と知っていながらも、何もかもを協力して来た。

 

大会のトーナメント表を弄り、椎名をここの地下へと消し去り、おまけに実体化するスピリット達の制御装置までもを彼に譲渡したのだ。これで約束を守ってもらわねば割りに合わなさすぎる。

 

 

「まあったく煩い男だね君は………あの子ならとっくに治したよ」

「ほ、本当か!?」

「………あぁ、本当さ………お〜〜い!!流異君!!」

 

 

Dr.Aがそう呼ぶと、会場の入り口からゆっくりと歩いてくる少年の影が1つ。【功 流異】だ。

 

 

「流異!!」

 

 

その様子に、宗二は顔色が良くなり、思わず流異の元へと駆け出した。

 

………しかし、

 

 

「………邪魔だ!!」

「っ!?………何を言っている……!?……父さんがわからないのか!?」

 

 

目の前まで来ると、流異は何故かそう強く宗二に言い放った。10にも満たないその少年はとても優しい子で、今まで父親である彼にそんな事を口走った事は一度たりともないと言うのに………

 

その後流異は何故か司の方へと振り向き………

 

 

「赤羽司……!!……お前がDr.Aの元へ来ないなら、僕がお前を無理やり連れて行く!!」

「っ!?」

 

 

デッキを手に………

 

目の前の司へとそれをかざす。まるで宣戦布告でもしているかのように………

 

 

「……ど、どういう事だ!!Dr.A!!流異に何をした!?」

 

 

流異のこの奇行を見て、宗二は当然Dr.Aに怒りをぶつける。当たり前だ。父親としては………

 

 

「何をしたって………治したよ、病気は…………」

「なら何故!!?」

「私の治療法はちょっと変わっていてね〜〜その人物に【進化の力】を流し込むんだよ………オーバーエヴォリューションの時のみ発せられるエネルギーをね」

「っ!?」

 

 

【オーバーエヴォリューション】………最早説明するまでもない、バトラーとデッキの絆間に起きる奇跡の現象だが、

 

しかし、その実態は絆によるものではない。本来、オーバーエヴォリューションとは、人の進化の力がデッキに作用されて起きる現象。奇跡でもなんでもない。

 

人には誰しも進化の力がある。その事は発掘される化石や遺跡などから証明されている。人間は幾度となく繰り返された進化によって、今の姿を象っている。そういった人間という生物の進化の力がデッキになんらかの因果関係を結び、【オーバーエヴォリューション】は起こるのだ。

 

これもまた、世界が隠蔽されている本当の真実の1つ。

 

 

「………ヌフフフフ、そしたらさ〜〜……この子思った以上に強い進化の力を持っているから……急遽【私の操り人形】として動かす事にしました〜〜!!」

「……な、なぁ!?」

「!?」

 

 

その言葉に、また驚かされる一同。

 

流異の言動がおかしくなってしまった理由はそこにある。手術の際、思ってた以上に進化の力が強かった流異を見て、これは使えると見たDr.Aは………要らないくらい余分に【進化の力】を注ぎ………流異を操り人形とした。

 

今の流異は彼の、Dr.Aの言うことしか聞かない………

 

 

「……わ、私を騙したのか!?」

「私を信じる方が悪い……」

「暗利ぃ!!お前……どこまで腐れば気が済む!?……そんな小さな子まで!!」

「あーあー……煩いな六月……私が手に入れた【おもちゃ】なんだ。私が好きに使わなくてどうする」

 

 

これが……Dr.Aのやり口、人の欲望に入り込み、誘惑し、期待させ………最後は裏切る。夜宵の父、【紫治城門】の時もそうだった。最初から彼の妻である紫治亜槌など蘇らせる気もなかった。

 

 

「さぁ、赤羽司………流異君にバトルを申し込まれているよ………君がバトルに勝てばこの子は助かる」

「っ!?」

 

 

流異は今、Dr.Aのスカウトを断った司にバトルを挑み、無理矢理彼の元へ司を連れ去ろうしている。

 

そして、流異を元に戻すためにはバトルに勝つ意外の方法はないという………ならばやるしかない。そう考え………

 

 

「わかった……そのバトル……」

「ダメだよ司ちゃん!!」

「っ!?」

 

 

……「受けて立つ」……そう言い放とうとした司を制止させたのは夜宵だった。

 

 

「嫌な予感がする………お願い!!やらないでっ!!」

「な、何を言っている!?……頼む赤羽司!!バトルしてくれ!!頼む!!流異を助けてくれ!!たった1人の息子なんだ!!」

「っ!?……テメェ、今更……テメェが誰に協力したかわかってんのか!?」

 

 

夜宵の言葉を聞き、マズイと判断したか、司にバトルするようしがみつき、切羽詰まった口調でバトルする事を強く懇願するスピリットアイランドの最高責任者、功 宗二。

 

とてもではないが、彼が言えた口ではない。どんな理由があれ、彼はDr.Aに協力し、悪事を働いた。立派な共犯者である。

 

だが、それでも司は………

 

 

「………ちぃ!!めんどくせぇ………が、一応引き受けてやる……」

「っ!?司ちゃん!?」

「っ!!ありがとう!!……ありがとう!!」

 

 

正直気が向かなかったが、ここはやるしかない。

 

あの汚いDr.Aの事だ。ここを断れば実体化したスピリット達にこの島の人々を襲わせるに違いない。そう推理して………

 

心苦しくなる夜宵。雅治はその手を彼女の肩に置き、「今は司を信じよう」……と軽く呟いた。

 

そうだ。今はスピリットアイランド中の人々が人質に獲られているも同然。どちらにせよこのバトルは引き受ける他なかった。

 

夜宵もその事を悟ったか、ゆっくりとその身を引いた。司がこのバトルに勝利する事を信じて………

 

六月はどれだけこの事を歯がゆく思った事だろう。ただじっと見守ることしかできないとは………椎名を探しにも行けず、たった1人の少年にこの島の運命を託してしまうなどと………苦しかった。

 

 

******

 

 

「………うーん……ん?…………あれぇ?私何寝てたんだ?…………あっ!!そうじゃん決勝!!バトル!!司っ!!どこ行った!?てか私がどこ行った!?」

 

 

とある場所で目を覚ました椎名。バトルした直後だったということもあって落ち着かず、慌て出す。当然、何も知らない。自分の素性も何もかも………

 

 

「………ここは地下だ……予選でも来たはずだが?」

「っ!?」

 

 

突然、聞き覚えのある声が椎名の耳を通過する。

 

知っている。忘れもしない、この声は………

 

 

「………久し振りだな、芽座椎名………いや、【エニーズ】……」

「っ!!銃魔……!!」

 

 

それは銃魔。何故かこの大会に参加し、何故か司にわざと負けた男。彼は椎名が起きるのを待ち構えていたかのようにその場に立ち尽くしていた。

 

 

「な、なんであなたがここに!?……てか、【エニーズ】って何?」

 

 

椎名は銃魔に質問した。その【エニーズ】が自分の本当の名前だと知らずに………

 

 

「質問が多いな…………ゆっくり話そう、先ず、俺がここにいるのは、Dr.Aの命令を受けたからだ」

「っ!?Dr.A!?」

 

 

椎名はこの時初めて知った。銃魔がDr.Aと繋がりがあること。そしてなんとなくだが、そのことで司と揉めていたこと。

 

僅かながらに驚きを隠せないのか、椎名は銃魔を警戒し、その場で半歩後ずさる。

 

 

「……もう1つ…【エニーズ】とは、お前の本当の名前だ………」

「……本当の名前?……私の?……なんでそんなこと知ってんの?」

 

 

普通なら、普通の過去を知らない人間ならばどれだけ驚くことだろう。どれだけ食いつくことだろう。だが、この椎名はそんな素振りを全く見せず、冷や汗1つかかずに不思議そうな顔で銃魔を見つめる。

 

これは自分の事に関しては無関心な事を表している証拠でもあって………

 

 

「………今……上ではDr.Aが貴様達の仲間を奇襲している事だろう」

「っ!?」

「ほお、そこは食いつくのだな……」

 

 

今現在、Dr.Aが会場で仲間達を襲っていると聞くと、椎名はすぐさま目の色を変える。

 

そして、銃魔は自身のBパッドを取り出し、スイッチを押す。すると、四角い巨大なモニターが現れ、上での映像が流れる。

 

椎名はそれを視認した。そこに映し出されたのは………

 

 

「え?………なんで司と流異君がバトルしてるの!?」

 

 

……そこには既に始まっている司と流異のバトル。互いに手札を切り合い、スピリットを召喚していた。特に流異など見たこともないスピリットを召喚しており………

 

 

「ほお、知り合いとは驚いた……あの子はDr.Aの操り人形と化した。戻すためにはバトルに勝つしかない」

「……っ!?……い、行かなきゃ!!」

 

 

この事態を知って仕舞えば、当然戻らなければならない。Dr.Aがどれだけ危ない人間かはよく知っているからだ。そして、そこへ行くためには地下から表にでるしかないのだが……

 

 

「それを止めるための俺だ……」

 

 

銃魔がそれを阻む。

 

 

「っ!?邪魔するなっ!!」

「なら、先ずは俺を倒してからにするんだな」

「………っ!!」

 

 

椎名に残された選択肢はただ1つ。目の前の銃魔を倒すしかない。ここを突破せねば上には行けないのだ。

 

椎名は仕方なく自身もBパッドを展開し………

 

 

「絶対に退いてもらうっ!!」

「…………行くぞ」

 

 

そして、始まる。

 

椎名は上に行って仲間達を助け出すために………

 

銃魔は目の前の【エニーズ】を【覚醒】させるために………

 

………今まさに熾烈な争いが起ころうとしていた。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まる。

 

先行は銃魔……

 

 

[ターン01]銃魔

 

 

「スタートステップ、ドローステップ……メインステップ、俺は魂鬼をLV1で召喚し、ネクサスカード旅団の摩天楼を2枚連続配置、効果によりカードを2枚ドロー………ターンエンド」

手札4⇨5⇨4⇨3⇨2⇨3⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

【魂鬼】LV1(1s)BP1000(回復)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

バトルスピリッツにおいての殆どの行動が制限されるはずの先行の第1ターン目であるにもかかわらず、銃魔はいきなり大きく展開していく。場には人魂ならぬ鬼魂、魂鬼。背後には摩天楼が2つ聳え立つ。

 

銃魔はターンを終え、次は椎名。早く仲間達のところに行かなければならないという焦りが、このバトルを早急に進展させる。

 

 

[ターン02]椎名

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!………メインステップ!!ブイモンを召喚っ!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ4⇨5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名が颯爽と呼び出したのは青くて小さな竜、成長期スピリットのブイモン。当然のようにその召喚時効果が発揮される。

 

 

「召喚時効果っ!!カードをオープン!!」

オープンカード↓

【ライドラモン】◯

【ギルモン】×

 

 

そしてその召喚時効果は成功、椎名は新たにアーマー体スピリット、ライドラモンのカードを手札へと加えた。そしてその直後に再びそれをかざし………

 

 

「ライドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモンっ!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

 

「………!!」

 

 

ブイモンの頭上に黒いひょうたんの形をした何かが投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな進化を遂げる。

 

 

「……轟く友情!!ライドラモンを召喚!!」

【ライドラモン】LV1(1)BP5000

 

 

現れたのは黒いボディの獣型のアーマー体スピリット、ライドラモン。青い稲妻が今日もこの場に轟いている。

 

 

「ライドラモンの召喚時効果でコアを増やすっ!!」

トラッシュ4⇨6

 

 

登場するなり大きく吠えるライドラモン。その雄叫びは椎名のトラッシュにあるコアを増加させる。

 

 

「アタックステップっ!!ライドラモンでアタックっ!!」

 

 

椎名の命令を受け、瞬時に走り出すライドラモン。

 

銃魔というカードバトラーを知っているのなら、この時、もっとも危険視すべきはもちろん自分のコスト3以下の紫スピリットが破壊された時に召喚できるベルゼブモン。

 

だが、今現在、銃魔が使用できるコア数はたったの1。ベルゼブモン召喚には1コストを払わなければならないため、少なくともこのターンでは召喚できないのは明らかであった。

 

椎名はそれを見越してのアタックである。

 

しかし、銃魔は意外な戦法を取ってきて………

 

 

「魂鬼でブロック!!」

「っ!?」

 

 

ライフで受けないのか?

 

そう直感的に思った椎名。それもそのはず、この序盤。ライフで受けるのがもっとも得策である。しかもブロックするのはBPの弱い魂鬼。もっと言えばベルゼブモンを召喚できないこの状況でのブロックでは、浅はかと言わざるを得ない。

 

ブロックに回る魂鬼。だが、椎名のライドラモンの鋭い突進により、あっさりと引き裂かれてしまった。

 

 

「魂鬼の破壊時効果により、1枚ドロー………さらに!!俺は幽騎士ナイトライダー〈R〉の効果を発揮!!」

手札4⇨5

 

「っ!?……ベルゼブモンでもない!?」

 

「この効果で、俺はこいつをノーコスト召喚するっ!!」

手札5⇨4

【幽騎士ナイトライダー〈R〉】LV1(1)BP4000

 

 

魂鬼の破壊とともに広がる紫の闇。そこから駿馬を駆り、場に現れたのは幽騎士ナイトライダー。その来ている甲冑からは途方も無いほどの闇が漏れている。

 

 

「っ!!ベルゼブモン以外にもこんな奴を………くっ!!ターンエンドっ!!」

【ライドラモン】LV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

これは椎名が迂闊だったか、ベルゼブモンは召喚できないと思っていたところを銃魔につかれた。

 

結局ライフを破壊できなかっただけではなく、弱小スピリットから強力なスピリットへの変換を許してしまった。

 

次は見事にナイトライダーの召喚を成功させた銃魔。

 

 

[ターン03]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!……リフレッシュステップ」

手札4⇨5

リザーブ0⇨1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

次はメインステップ。このターンから彼も動き出すつもりなのか、その気迫でそれがひしひしと伝わってくる。

 

 

「メインステップ!!……俺はナイトライダーのLVを上げ、さらにシキツルを召喚!!召喚時効果で1枚ドロー!!」

手札5⇨4⇨5

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨1

【幽騎士ナイトライダー〈R〉】(1⇨3)LV1⇨2

 

 

銃魔はナイトライダーにコアが置き、その力を上昇させる。そして二の次と呼び出したのは折紙の鶴のような見た目の紫スピリット、シキツル。その汎用性の高い効果でカードをドローした。

 

 

「アタックステップ!!ナイトライダーでアタックっ!!……そのアタック時効果で疲労状態のスピリット1体を破壊っ!!」

「……なにっ!?」

「ライドラモンを破壊するっ!!」

 

 

駆け出すナイトライダー。そのレイピアの先をライドラモンに向け、ライドラモンの生気をを吸い取っていく。ライドラモンはそれに伴い干からび、ゆっくりと消滅してしまった。

 

 

「アタックは継続中っ!!」

 

「……ライフで受けるっ!!………ぐっ!!」

ライフ5⇨4

 

 

ナイトライダーの一閃が椎名のライフを1つ切り裂く。

 

と同時に、また具利度王国の時以来の大きなバトルダメージが発生。身がたじろぐ程のバトルダメージが椎名を今一度襲う。

 

 

「続けシキツルっ!!」

 

「そ、それもだ………うわっっ!!」

ライフ4⇨3

 

 

今度はシキツルの体当たりが炸裂し、椎名のライフを砕く。椎名はまたバトルダメージにより苦痛を味わう。

 

 

「………ターンエンドだ」

【幽騎士ナイトライダー〈R〉】LV2(3)BP6000(疲労)

【シキツル】LV1(1)BP1000(疲労)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

大きく自分の優勢な盤面を作り上げ、銃魔はこのターンをエンドとした。次は椎名のターン。ここでライドラモンの召喚時効果で増えたコアが存分に使えるため、勝負はここからであると言える………

 

 

[ターン04]椎名

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!……リフレッシュステップ!!」

手札5⇨6

リザーブ3⇨4⇨10

トラッシュ6⇨0

 

 

ライドラモンの召喚時のタイムラグも終わり、椎名の総コア数は爆発的に上昇。ここからが反撃と言わんばかりに椎名は逆転へと大きく動き出す。

 

 

「メインステップ!!…もう一度ブイモンを召喚し、召喚時効果発揮!!」

手札6⇨5

リザーブ10⇨6

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【スティングモン】◯

【ワームモン】×

 

 

ライドラモンの【アーマー進化】の効果で手札へと帰還していたブイモンが再度場へと姿を見せる。そしてその召喚時効果も成功、椎名は新たにスティングモンのカードを手札へと加えた。

 

 

「さらに!!追加効果で2コスト払い、このスティングモンをLV2で召喚っ!!」

手札5⇨6⇨5

リザーブ6⇨0

トラッシュ3⇨5

【スティングモン】(4⇨5)LV2⇨3

 

 

ブイモンに続くように椎名の前に現れるのは緑のスマートな昆虫戦士、スティングモン。その召喚時効果でコアを増やし、LVをアップさせる。

 

 

「アタックステップっ!!スティングモンでアタックッ!!」

【スティングモン】(5⇨6)

 

 

スティングモンにアタックの指示を送る椎名。

 

そしてこのタイミングで、スティングモンはある効果を発揮できる。それは椎名のエースを召喚できる優秀なもの…………

 

 

「スティングモンの【超進化:緑】を発揮!!」

「……!!」

 

 

スティングモンに0と1で構成されたデジタルコードが巻きつけられる。スティングモンはその中で姿形を大きく変え、新たな姿へと進化する。

 

 

「……至高の竜戦士、パイルドラモンに進化召喚っ!!」

【パイルドラモン】LV3(5)BP13000

 

 

やがてそれは弾け飛び、中から現れたのは椎名のエーススピリットの1体、至高の竜戦士、パイルドラモン。

 

 

「パイルドラモンの召喚時効果っ!!…コスト7以下のスピリット1体を破壊!!」

「……!!」

「コスト7のナイトライダーを破壊っ!!……デスペラードブラスター!!」

 

 

パイルドラモンは登場するなり、腰に備え付けられた二丁の機関銃を銃魔の場にいるナイトライダーへ向け、連射。ナイトライダーは殆どの弾が被弾し、力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「パイルドラモンでアタック!!アタック時効果でコア2つをこのスピリットに置き、回復するっ!!」

【パイルドラモン】(5⇨7)(疲労⇨回復)

 

 

銃魔のライフを打つべく走り出したパイルドラモン。その道中、肉体にコアを宿しながら回復状態となる。これでこのターン、パイルドラモンは2度目のアタック権利を得た。

 

 

「………ライフで受ける!!」

ライフ5⇨4

 

 

パイルドラモンの渾身の拳が銃魔のライフを1つ玉砕する。しかし、椎名が銃魔に与えるバトルダメージは一切なく

 

 

「………こんなものか……」

「………っ!?」

「覚醒したお前はそんなものじゃないはずだっ!!あの時を思い出せっ!!エニーズッ!!」

「覚醒?……あの時ってどの時だよ!!私は説教が嫌いなの!!」

 

 

椎名には銃魔の言うことなど、全く通じていないことだろう。何せ、あの具利度王国での【鬼化】は記憶がないのだから。

 

だが、それでも銃魔としては覚醒させなければならなかった。Dr.Aのために、また、世界を進化させるために………

 

 

「……まぁいい、赤羽司同様、追い込んで限界を引き摺り出させるまでだっ!!」

 

「私は負けないっ!!早くこのバトルに勝って上に行かないと行けないんだっ!!………もういっちょ行けっ!!パイルドラモンッ!!」

【パイルドラモン】(7⇨9)

 

 

もう一度駆けるパイルドラモン。そしてこの瞬間。椎名は十分に増えたコアを利用し、ある効果を発揮させる。

 

 

「フラッシュ!!【アーマー進化】発揮!!対象はブイモンッ!!」

【パイルドラモン】(9⇨8)

トラッシュ5⇨6

 

「っ!!……また【アーマー進化】!!」

 

 

ブイモンの頭上からゆっくりと黄金の塊が降り注いでくる。ブイモンはそれを受け入れるように衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化を遂げていく。

 

 

「黄金の守護竜!!マグナモンッ!!LV2で召喚っ!!」

【パイルドラモン】(8⇨7)

【マグナモン】LV2(2)BP8000

 

 

椎名の場に新たに現れたのは黄金の守護竜、最強のアーマー体の名を持つロイヤルナイツの一柱、マグナモン。それは薄暗い地下を照らすかのように地上へと降り立った。

 

 

「マグナモンの召喚時!!相手の場のもっともコストの低いスピリット1体を破壊するっ!!」

「………俺の場は……シキツルのみ」

「そう……それを破壊だっ!!黄金の凶弾……プラズマシュートッ!!」

 

 

マグナモンは掌からプラズマを溜め、それをシキツルへ向け放出。銃魔のシキツルを瞬時に捕らえ、爆散させた。

 

 

「……どうだっ!!」

 

 

腕を曲げ、力強くガッツポーズを見せつける椎名。

 

だが、銃魔とて、ただで転ぶわけがない。マグナモンの効果で破壊されたシキツルのコストは3。そして前のターンとも違い、コアが複数存在する。

 

……整った。条件が……

 

 

「コスト3以下の紫のスピリットが破壊されたことで、俺の手札にある【ベルゼブモン】の効果を発揮!!」

「……!!……来た……!!」

 

「俺はこれを1コスト支払い、LV2で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ1⇨2

【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000

 

 

上空から何かが飛来し、地上に降り立つ。その禍々しい気配や存在感は他の多種存在するデジタルスピリット達とは全く異なっている。

 

その名はベルゼブモン。銃魔のもっとも信頼するエーススピリット。

 

 

「っ!!来たなぁ!!ベルゼブモンッ!!」

 

 

ベルゼブモンという名の強敵を目の前にして、強気な発言を発する椎名。銃魔はそんな彼女の言葉を無視するようにベルゼブモンの召喚時効果を使用する。

 

 

「ベルゼブモンの召喚時効果っ!!相手スピリット1体のコアを2つリザーブへ!!………俺はパイルドラモンのコアをリザーブへ送る!!」

 

「………へへ、マグナモンは選べないもんね!!」

【パイルドラモン】(8⇨6)

 

 

ベルゼブモンは場に登場してくるなり、椎名のパイルドラモンへとショットガンの銃口を向け、そこから弾丸を放つ。しかし、パイルドラモンに直撃はするが、あまりにも多すぎるコアから、LVが下がることはなく………

 

これが椎名の考えた作戦だった。コアを増やし、マグナモンを召喚。マグナモンの効果を受けない効果を利用し、余ったコアを他のスピリットに置いて消滅させずらくする。

 

単調ではあるが、立派な紫に対する有効な戦術の1つだ。

 

 

「パイルドラモンのアタックは継続中っ!!」

 

「くっ!!……ライフだ」

ライフ4⇨3

 

 

ベルゼブモンのLV2の状態ではパイルドラモンのLV3の状態に勝てない。もちろんせっかく召喚したベルゼブモンを無駄にできるわけがなく、銃魔はそのアタックをライフで受けた。

 

パイルドラモンの渾身の拳がまた銃魔のライフを玉砕する。

 

 

「よっしゃっ!!ターンエンドッ!!」

【パイルドラモン】LV3(6)BP13000(疲労)

【マグナモン】LV2(2)BP8000(回復)

 

バースト【無】

 

 

椎名はこのターン、パイルドラモンとマグナモンを巧みに使い、銃魔のベルゼブモンによる被害を抑えつつも全力でライフを削り取った。

 

見事と言える。おまけに疲労ブロッカーの効果も所持しているマグナモンが現存しているのだ。基本、ベルゼブモン以外が低BPのスピリットで大半を占めている銃魔にとっては、この存在は大きい。

 

次はそんな彼のターンだが、これを突破することができるのか………

 

 

[ターン05]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ!!………リフレッシュステップ」

手札4⇨5

リザーブ2⇨3⇨5

トラッシュ2⇨0

 

 

ドローステップでカードをドローした銃魔だったが、その顔はあまり浮かばれたものでない。おそらく、この椎名の布陣を突破できないのであろう。

 

 

「メインステップ……俺はクリスタニードルとシキツルを召喚。シキツルの効果でカードをドローし、バーストをセット……ターンエンドだ」

手札5⇨4⇨3⇨4⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨1

 

【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000(回復)

【クリスタニードル】LV1(1)BP1000(回復)

【シキツル】LV2(3)BP2000(回復)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【有】

 

 

2体目のシキツルと小さな蛇のような竜のようなスピリット、クリスタニードルを召喚し、このターンをアタック無しで終えてしまった銃魔。下手にベルゼブモンでアタックして相手側にチャンスを与えるわけにはいかないと判断したためであろう。

 

果たしてこの作戦が吉と出るか凶と出るかは定かではないものの、少なくとも次ターン、椎名の激しい猛攻を食らうのは確かなことであって…………

 

 

[ターン06]椎名

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップッ!!……リフレッシュステップ!!」

手札5⇨6

リザーブ2⇨3⇨9

トラッシュ6⇨0

【パイルドラモン】(疲労⇨回復)

 

 

リフレッシュステップに伴い、パイルドラモンが疲労状態から回復状態まで回復する。

 

そして次はメインステップ。椎名はここからさらにスピリットを展開し、銃魔を追い詰めていく。

 

 

「メインステップッ!!ギルモンを召喚っ!!」

手札6⇨5

リザーブ9⇨0

トラッシュ0⇨3

 

「………真紅の魔竜……」

 

 

椎名が召喚したのは真紅の魔竜。その成長期の姿、ギルモン。ブイモンと同じく成長期特有の召喚時効果を発揮する。

 

 

「召喚時効果っ!!カードをオープンッ!!」

オープンカード↓

【デジヴァイス】×

【マリンエンジェモン】×

【グラウモン】◯

【レッドカード】×

【ブルーカード】×

 

 

その召喚時効果は成功、椎名はその中の対象となったグラウモンのカードを新たに手札へと加える。

 

 

「行くぞっ!!アタックステップッ!!ギルモンの【進化:赤】発揮!!成熟期スピリット、グラウモンに進化っ!!」

手札5⇨6

【グラウモン】LV3(6)BP7000

 

 

ギルモンにデジタルコードが巻き付けられ、その中で姿形を変え、進化する。新たに現れたのは白髪とツノが新たに生えた赤の成熟期スピリット、グラウモン。

 

 

「アタックステップは継続!!グラウモンでアタック!!アタック時効果でシキツルを破壊!!」

「……!!」

「魔炎の……エキゾーストフレイムッ!!」

 

 

グラウモンは空気がと大きく吸い込み、それを炎に変換させ、一気に放出。その螺旋状の炎は一瞬にして銃魔のシキツルを消し去った。

 

 

「まだだ!!【超進化:赤】を発揮!!完全体スピリット、メガログラウモンに進化!!」

【メガログラウモン】LV3(6)BP11000

 

 

今一度デジタルコードが巻き付けられ、その姿形を変えるグラウモン。上部には強靭な武装が取り付けられ、その体格はさらに巨躯なものとなる。

 

新たに現れたのは巨大なグラウモンの名を冠する赤き完全体スピリット、メガログラウモンだ。

 

そしてまだだ。まだまだ椎名の進化コンボは終わらない。彼女は勢いよく手札のカードを抜き取った。

 

 

「そしてぇ!!フラッシュ!!【煌臨】を発揮!!対象はメガログラウモンッ!!」

【パイルドラモン】(6s⇨5)

トラッシュ3⇨4s

 

「………!!」

 

「真紅の魔竜よ!!今こそ真なる騎士となりて敵を貫けっ!!究極進化ぁぁあ!!」

手札6⇨5

 

 

登場したばかりのメガログラウモンが一瞬にして真紅の光に身を包まれていく。メガログラウモンはその中で姿形を大きく変えていく。その姿は最早竜ではなく、騎士。

 

 

「………デュークモンッ!!」

【デュークモン】LV3(6)BP18000

 

 

その光を弾け飛ばし、中から現れたのは白い鎧に赤いマントを靡かせるロイヤルナイツの1体、椎名の最強エーススピリット、デュークモン。銃魔に対して対面させるのは初めてである。

 

 

「………デュークモン……か」

 

 

デュークモンを間近で見つめ、どこか懐かしさに浸る銃魔。彼が何故今この状況で……デュークモンを見て懐かしさを感じているのかは……また別の時間で語られることだろう。

 

 

「アタックステップは継続っ!!デュークモンでアタックッ!!アタック時効果でベルゼブモンを破壊っ!!」

「……っ!!」

「聖槍の一撃ッ!!……ロイヤルセェェバァァァア!!」

 

 

デュークモンでアタックを仕掛ける椎名。

 

デュークモンはその右手に宿した聖なる槍の矛先を銃魔のベルゼブモンへと向ける。そしてそこから充填されたエネルギーを発射。

 

その光の槍とも言えるそれは、一瞬にしてベルゼブモンの腹部を貫通。流石に耐えられなかったか、ベルゼブモンは力尽き、その場で倒れ、爆発四散してしまう。

 

 

「アタックは継続中だっ!!デュークモンッ!!」

 

「っ!!……ライフで受ける!!」

ライフ3⇨2

 

 

低空飛行で駆けるデュークモン。BPの弱いクリスタニードルでは防御には回せないか、銃魔はそのアタックをライフで受けた。

 

デュークモンがまたその槍で今度は銃魔のライフを貫いた。

 

しかし、それは銃魔のバーストの発動条件でもあって………それが勢いよく反転する。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!絶甲氷盾!!」

「っ!!」

 

「この効果で、ライフ1つを回復し、さらにコストを払い、貴様のターンを強制終了させる!!」

ライフ2⇨3

リザーブ7⇨3

トラッシュ1⇨5

 

 

銃魔のライフが1つ回復するとほぼ同時に、椎名の場へと猛吹雪が発生。いくらパイルドラモンと言えども、いくらロイヤルナイツと言えどもこれを突破するのは困難を極めるだろう。

 

 

「……くそっ!!もうちょっとだったのに……ターンエンド」

【デュークモン】LV3(6)BP18000(疲労)

【マグナモン】LV2(2)BP8000(回復)

【パイルドラモン】LV3(5)BP13000(回復)

 

バースト【無】

 

 

これでは致し方ないか、椎名はそのターンをエンドとしてしまう。椎名のデッキ内に存在する、いわばオールスターを揃わせた素晴らしいターンではあったものの、いかんせん相手が悪かったと言える。

 

しかし、追い詰めてあるのも確かな事………このまま行けば確実に勝てるはずだった。

 

………そう、はずだったのだ。

 

 

[ターン07]銃魔

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ……リフレッシュステップ……」

手札3⇨4

リザーブ3⇨4⇨9

トラッシュ5⇨0

 

 

銃魔の場に残ったのはクリスタニードルのみ。その存在感は椎名の場の壮観なスピリット達と比べると、あまりにもちっぽけな存在。

 

だが、それ故に今の銃魔の不気味さを引き立てているとも言えて………

 

 

「メインステップ、俺はマジックカード、デッドリィバランスを使用!!……互いのスピリットは自分のスピリット1体を選択し、破壊する!!」

手札4⇨3

リザーブ9⇨8

トラッシュ0⇨1

 

「なにっ!?」

 

 

紫のマジックカード、デッドリィバランス。その効果は自分と相手、平等にスピリットを1体ずつ破壊させるというもの、しかし、この状況では明らかに平等であるとは言い難い。少なくとも椎名はロイヤルナイツのいずれか1体か、パイルドラモンを失うことになるのだから…………

 

 

「………パイルドラモンを破壊」

「俺はクリスタニードルだ」

 

 

椎名が珍しく険しい顔をしながら選択したのはパイルドラモン。銃魔の場にいるクリスタニードルと共に内側から破裂するように爆発四散した。

 

……そしてこの時、銃魔の手札には使える効果が存在しており………

 

 

「俺は手札のベルゼブモンの効果発揮!!1コスト支払い、召喚するっ!!」

リザーブ9⇨8⇨1

トラッシュ1⇨2

 

「2枚目っ!!……司の時に使った戦略と同じ………」

 

「孤高の魔王よ……今一度我が眼前に現れよっ!!ベルゼブモンをLV3で召喚!!」

手札3⇨2

【ベルゼブモン】LV3(7)BP16000

 

 

最初と全く同じモーションで銃魔の場に顕現するのは2体目の魔王、ベルゼブモン。

 

如何なる状況、立ち位置、優勢時、劣勢時においても、銃魔の場には必ずと言っていいほどに存在する程に重要な役回りを担うこの普通のベルゼブモン。

 

それが今一度椎名と対峙し、襲いかかる。

 

 

「召喚時!!相手スピリットのコア2つをリザーブに!!そしてこの時、トラッシュにあるデジタルスピリットの数だけリザーブに送るコア数を増やすっ!!」

「……!!」

 

「今はトラッシュに最初のベルゼブモンがいる……よって、デュークモンのコアを3つリザーブへっ!!」

 

「くっ!!……」

【デュークモン】(6⇨3)LV3⇨2

 

 

二丁のショットガンを手に持ち、デュークモンへ向けて連射するベルゼブモン。デュークモンの白い鎧に傷をつけ、そのコアを外し、LVをダウンさせる。

 

 

「アタックステップッ!!ベルゼブモンでアタック!!効果で再びデュークモンのコアを外し、消滅っ!!」

 

「………っ!!それはさせないっ!!……手札にあるグラニの効果っ!!」

「……!!」

 

「滅竜スピリットが対象になった時、1コストを支払って召喚できるっ!!……私はこれをデュークモンに直接合体するように召喚し、その召喚タイミングでリザーブにあるありったけのコアをデュークモンに追加っ!!」

リザーブ8⇨7⇨0

【デュークモン+グラニ】(3⇨10⇨7)LV2⇨3

 

 

ベルゼブモンのダブルインパクトの弾丸が直撃する直後、デュークモンの前に真紅の飛行物体、グラニが現れ、彼の盾になるようにそれを全弾自分に被弾させる。

 

 

「なるほど、ブレイヴの召喚タイミングで凌いだか……」

「どうだっ!!次のターンのデュークモンのアタックで終わりだっ!!」

 

 

ベルゼブモンだけではこのバトルに有効な打点を椎名に与えられない。椎名の言う通り、次のターンでのデュークモンのアタックでほぼ決着がつくと言っても過言ではなかった。

 

当の銃魔がそんなことを見越していないわけがない、当然ながら理解しきっている。それでも彼は焦ることなく、指先で眼鏡を定位置に戻しながら………

 

………切り札をを引き抜いた。

 

 

「フラッシュ【チェンジ】!!ベルゼブモン ブラストモードを発揮!!」

「………!!」

 

 

それは【エンペラー】こと吸血堕天を倒し、【朱雀】こと、赤羽司を極限まで追い詰めたカード……

 

その切り札が今度は椎名に襲いかかる。

 

 

「効果により、コストの支払いは貴様のリザーブから確保するっ!!」

 

「………」

リザーブ3⇨0

トラッシュ4s⇨7s

 

「そして、ベルゼブモンと回復状態で入れ替えるっ!!」

【ベルゼブモン ブラストモード】LV3(7)BP20000

 

 

椎名のBパッド上のコアが紫の怪しげな光に包まれ、トラッシュへと移動する。

 

ブラストモードの効果だ。自分のアタックステップ中に使用したら、相手のリザーブからもコストを支払える。6コストで紫の3軽減故に、椎名のリザーブのコアを3つ削除した。

 

孤高の魔王、ベルゼブモンの背に漆黒の翼が飛び出すように生えて来る。さらにその右手には電子砲が新たに取り付けられ、究極体を超えた存在へと昇華した。

 

……そして、今までの2度の登場では状況的に発揮されなかったが、今回はここで真なる効果を発揮させる。

 

 

「そして【チェンジ】時効果っ!!相手スピリット1体のコア全てをリザーブに置くっ!!対象は当然、デュークモンだっ!!」

「なにっ!?」

 

「……混沌炎!!……カオスフレアァァア!!」

 

「くっ!!?……でゅ、デュークモンッ!!」

【デュークモン+グラニ】(7⇨0)消滅

 

 

前方に魔法陣を描き、そこに電子砲による強烈な砲撃を発射。それは魔法陣の力を取り込み、よりその力を増大させ、デュークモンへと飛び向かう。

 

巨大過ぎて避けようがないこの一撃。デュークモンはそれに包み込まれるように浴び、鎧が砕け、大爆発を起こした。

 

 

「……ま、まだそんな効果があったなんて……」

「アタックは継続中っ!!効果によりシンボルが2つになるっ!!」

「っ!!……頼むっ!!マグナモンッ!!」

 

 

間髪入れず椎名のライフへと飛び立つベルゼブモン ブラストモード。そしてそれを遮るように立ち向かう黄金の守護竜マグナモン。

 

ブラストモードに殴りかかるマグナモン。うまく間合いを詰めるものの、ブラストモードはそれをいなし、マグナモンの背後を取り、逆に左手1本で殴りつける。

 

それをもろに受け、怯むマグナモン。ブラストモードはその隙をついたか、マグナモンの頭上に立ち、ゼロ距離で右手から電子砲を放つ。

 

マグナモンは力尽き、落下。地上に叩き落とされ、大爆発を起こした。

 

 

「………っ!!」

「無駄だ。並大抵のロイヤルナイツでは、俺のベルゼブモン ブラストモードには敵わない……!!」

 

 

強力なスピリットをいくら並べようがそれを全て消し去ってしまう……まさしく修羅。

 

パイルドラモン、マグナモン、デュークモンの3体で挑んだこのバトル。勝利は目前にあったにもかかわらず、あっという間に形勢を逆転された。

 

……これが銃魔の本気……

 

 

「………貴様……本当にアレ以降、鬼化していないのか………?」

「……えぇ!?だからどういう意味だよ!?」

 

 

椎名の言葉で、銃魔は彼女があれ以降、一度も鬼化を行なっていなかった事を悟る。

 

本当はやりたくはなかったが………やるしかない。それが命令。銃魔は意を決して………

 

 

「………そうか、なら………Dr.Aの命令通り……貴様は【殺処分】だ」

「っ!?」

 

 

椎名にとって今まで全く意味の分からなかった単語。しかし、唐突に最後の言葉だけは理解できた。【殺処分】……と。

 

しかし、言葉の意味はわかるが……椎名には銃魔がこれからしようとすることを予測できず………

 

そしてそんな銃魔はあるアイテムを懐から取り出した。それは【スピリットプロテクター】……このスピリットアイランドにおける重要なアイテムだ。一見普通のカードプロテクターにしか見えないが、そこにカードを差し込むと、それが実体化する代物だ。

 

銃魔はそれにBパッド上のスピリットカード、【ベルゼブモン ブラストモード】に差し込み………それを実体化させる。

 

………そして………

 

 

「アタックステップは続行!!ブラストモードで再度アタックするっ!!」

「っ!!………来たか!!」

 

 

デュークモンとマグナモンの二大ロイヤルナイツを葬り去ったベルゼブモン ブラストモードが今度は椎名のライフを撃つべく空を翔ける。

 

今現在、椎名の場には疲労状態のブレイヴ、グラニのみ。ダブルシンボルのアタックをライフで受けるしかなく………

 

 

「でも!!私のライフは残り3っ!!……1個だけ残せるっ!!……ライフで受けるっ!!」

 

 

いつも通り………

 

椎名は至っていつも通りライフで受ける宣言を行った。それがこのカードゲーム【バトルスピリッツ】のルールだから………

 

……このバトル。銃魔の持つ不思議な力により、バトルダメージが信じられないくらい高いのは知っていた。そのため、ある程度は覚悟していた。ある程度のダメージは…………

 

………だが……

 

 

「貴様は何故、この【スピリットプロテクター】が【スピリットアイランド】でのみ使用が許されているか知っているか?」

「……?」

「……それはバトル中、あまりにもバトルダメージが大き過ぎるからだ」

 

 

唐突にそれを説明し出した銃魔。

 

その意味が一瞬ではあまり理解できなかった椎名。

 

ベルゼブモン ブラストモードが左手から通常時のベルゼブモンが持つショットガンを取り出し……

 

……椎名のライフを穿つべく、そこから1発の弾丸を放った。

 

いつものように展開されるライフバリア。2つ破壊されるため、それは同時に2枚張り巡らされる。

 

通常……

 

通常の健全なバトルなら………それで防げるはずだ。何せ、通常のバトルはスピリットが実体化していない単なる映像のバトルなのだから…………

 

そのバリアはベルゼブモン ブラストモードから放たれた弾丸に貫かれる。

 

さらに、それだけではない………

 

勢い余ったその弾丸は………

 

 

 

 

「…………え?」

ライフ3⇨1

 

 

 

 

椎名の右肩をも貫いた。そこから真っ赤な血飛沫が飛び散る。

 

一瞬。

 

それは刹那の瞬間に起きた一瞬。椎名はなにがこの場で起こったのか最初は全く理解できず、

 

その鈍い音が鳴った自分の右肩を見つめる。服の肩部が裂け、赤い血がこれでもかと多量に流れ込んでおり、右腕には力が入らない。

 

これを見た椎名は突然この事に初めて恐怖を覚え………

 

 

「………う、うわぁァぁぁァァぁぁァアあ!!!!」

 

 

右肩から走る激痛と恐怖で思わず出さずにはいられなかった椎名の悲鳴が、誰も助けに来るはずもない地下に鳴り響いた。

 

【スピリットプロテクター】……それがスピリットアイランドでのみ使用が許されている理由は……

 

……実体化するが故に、通常のバトルでは先ず使用できないこと。

 

そして、実体化したスピリットを軍事兵器に利用され、軍事力のパワーバランスが崩れる恐れがあるから……そのため、セキュリティの厳しいこの島でのみ、使用許可が降りている。

 

椎名は今、その人間のオーバーテクノロジーに殺されかけている………

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【グラニ】!!」

椎名「デュークモンやギルモン達をサポートする強力なブレイヴ!!効果破壊とバウンス効果から身を守れるだけじゃなくて、使い方によってはある程度のコア除去効果にも耐えられるよっ!!」


******


〈次回予告!!〉


続く椎名と銃魔のバトル。絶命の危機に瀕した椎名はついに本能から2度目の鬼化に目覚めてしまい、あのスピリットを再び召喚する………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「鬼化再び、メギドラモン再び……」……今、バトスピが進化を超える!!


******


※サブタイは都合上変更させていただきました。大変申し訳ありません。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

今凄くやばいですが、多分こんな描写滅多にしないです………まだ残酷には入らないはず………はず。

椎名が何故生まれ、何故こうなったのかは、話しましたが、より印象強くするため、この話が一段落したら丸々1話をこの過去編に使ってもっと明確に明かそうと思います。


因みに、【エニー・アゼム】については第39話の序盤に少々語られておりました。



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第70話「鬼化再び、メギドラモン再び……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うわぁァぁぁァぁぁァアあ!!!」

 

 

吹き上がる真っ赤な血飛沫………

 

実体化したベルゼブモンのショットガンの弾丸によって右肩を射抜かれ、激痛と恐怖心にもがき出す椎名。

 

その様を見ていられないのか、銃魔は冷静沈着な表情をしながらも静かにその瞳を閉じ、出来るだけその椎名を視認しまいとしていた。

 

 

「………鬼化できない貴様など、ただの邪魔者でしかない………なら、俺がここで殺すまでだ」

 

 

言葉は冷酷で残酷な………

 

……しかし、心の底ではそれを望んではおらず……

 

ただ【命の恩人であるDr.A】のためだけに、彼は、銃魔はそれを受け入れ、どんな酷な仕事をも熟す。

 

銃魔とは、そういう人間なのだ。

 

 

「ぐっ!!……ぐうっ!!」

 

 

痛みに僅かながらに慣れ始めてきたのか、椎名は貫通した右肩を左手で抑えながらもBパッドに向かう。呼吸は荒く、満身創痍で今にも倒れそうな状態だ。

 

 

「無駄だ。今の攻撃で貴様の右肩の骨は粉砕。それと同時に右腕が動かなくなったはずだ………もはやドローもできまい」

「…………」

 

 

銃魔の言う通り、椎名の右腕はピクリとも動かず、ドローなどできやしない。このままでは間違いなく椎名は銃魔に殺される。

 

 

「……貴様の負けだ、【エニーズ】……この世界で同じ時間を分かち合った友と共にこの世を去るがいい!!」

「………私が…………負ける………!?」

 

 

椎名は激痛に耐えながらも、咄嗟に考えた。

 

いや、考えた、と言うよりかは勝手に頭に入ってきた。と例えた方が適切であろう。

 

自分がここで負けたら………

 

……みんな消える……

 

真夏も司も雅治も夜宵ちゃんもじっちゃんも………流異君も……みんなみんな…この世から姿を消してしまう。この銃魔とDr.Aによって………

 

………それだけは絶対に許されていいものではない……

 

 

 

「………ッ!?」

 

 

椎名はまた何かを感じ取った。

 

何かが体の中で疼き、張り裂け、また何かが解き放たれ、それが体中に巡る感じ………

 

咄嗟に思い出した。これが前にも一度会ったこと……その事をすっかり忘れてしまっていた事……

 

 

「グッ……ッガァァアァァァァアァァッ!!!!」

「……ッ!!…来たか………!!」

 

 

椎名のツノのようなアホ毛が本物の外骨格、ツノとなり、牙が伸び、目の色が真紅に変わる。その表情はまるで本能剥き出しの野生の獣。

 

それが今にも銃魔に飛びつかんと威嚇するように雄叫びを上げた。そして、それだけではなく、何故か風穴の開けられた右肩もみるみるうちに塞がれていく。その超回復とも呼べる現象も、また鬼の力と言えるか………

 

そのようすを見て、銃魔はまるで心待ちにしていたかのような声を上げる。そうだ。自分の見たかったものはコレ。この姿。この【鬼化の力】を真に扱えるようになったその時……自分たちの計画は最終段階へと移行するからだ。

 

 

「……オ、オ前ガ……ッ!!」

「っ!?」

「………オ前タチガ……ミンナヲコ、殺スナラ…ッ!!……ミ、見過ゴス、訳ニハ……イ、イカナイ……ッ!!」

「……ほお、2度目の鬼化は理性を僅かながらに保つか……やはり貴様は俺よりこれの才能がある……!!………流石はDr.Aが造った人造人間だっ!!」

 

 

具利度王国で初めてこの姿になった時は、あまりの破壊衝動に理性が完全に吹き飛んでいた椎名。

 

しかし、これも慣れ始めているのか、このスピリットアイランドでの2度目の【鬼化】は若干ではあるものの、理性を保ち、ギコチナイが言葉も喋る。

 

具利度王国の時の鬼化が【暴走状態】というのであれば、この状態は言わば【半暴走状態】……これは椎名が鬼化の力を自覚し、使いこなしてきている証拠であって………

 

 

「……ふふ、ふはははっ!!いいだろう!!その力!!存分に俺へとぶつけてみろっ!!ターンエンドッ!!」

【ベルゼブモン ブラストモード】LV3(7)BP20000(疲労)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

出来ることを全て終え、そのターンをエンドとした銃魔。次は鬼化した椎名。

 

 

[ターン08]椎名〈鬼〉

 

 

「スタートステップ……コアステップ……ドローステップッ!!」

リザーブ14⇨15

 

 

椎名がドローステップを宣言した直後、デッキが真紅の色の光に染まり出す。その禍々しいとも取れる輝き方はまるでこの世の恐怖と言う感情を全て注ぎ込んだかのよう……

 

……この光は【オーバーエヴォリューション】……人間という生物の進化にデッキが作用して起こる摩訶不思議な現象。通常の人々ならその生涯でただ一度しか起きないものだが………

 

……鬼である椎名は違う。

 

……その溢れんばかりの進化の力を使い、何度も何度も意のままにそれを繰り返すことができる。

 

 

「………ドローッ!!!」

手札4⇨5

 

 

先ず、椎名は手始めと言わんばかりに………

 

 

「リフレッシュステップ……メインステップッ!!マジック、フェイタルドローッ!!カードヲ3枚ドローッ!!」

手札5⇨4⇨7

リザーブ15⇨19⇨16

トラッシュ4⇨0⇨3

 

 

ライフが1という危険時の時、カードを3枚ドローできる強力なマジック、フェイタルドロー。椎名はその中の3枚を見つめる。その中には椎名さえも見たことのないカードが確認できる。それはオーバーエヴォリューションで獲得したカードであり、

 

彼女はそれを今召喚する。

 

 

「……地獄ノ底ヨリ……今目覚メヨッ!!……メギドラモンヲLV3デ召喚ッ!!」

手札7⇨6

【グラニ】(疲労⇨回復)

リザーブ16⇨4

トラッシュ3⇨10

 

「……っ!!」

 

 

地響きを上げながら蠢く地底、そこからマグマを上げながら飛び出してくる何か………その竜の名は【メギドラモン】……存在そのものが地獄の魔竜だ。

 

椎名が【鬼化】した時、それはいつでもオーバーエヴォリューションによって生成され、ただ一つ、目の前の敵を焼き払うのみ………

 

 

「サ、サラニッ!!……ブレイヴ!!双牙皇オルト・ロードヲ召喚シ、……メ、メギドラモント合体ッ!!」

手札6⇨5

リザーブ4⇨0

トラッシュ10⇨13

【メギドラモン+双牙皇オルト・ロード】LV3(6)BP20000

 

 

意識が朦朧とし始めながらも、椎名は青のブレイヴ、二つの首を持つ獣、オルト・ロードを召喚。メギドラモンと合体させる。

 

しかし、その様は合体と言うよりかは吸収に近い。メギドラモンは目の前のオルト・ロードを鷲掴みにし、そのデータごと自分の体へとロードした。今までフレイドラモンやデュークモンと言った椎名のエース達の姿を変化させてきたオルト・ロード。その力がメギドラモンにも流れ込む。

 

だが、オルト・ロードの蒼の力はメギドラモンの真紅の力に圧倒的に劣るのか、その蒼は黒く塗りつぶされ、

 

身体はよりスマートに、鋭利に尖っていく。目に瞳は無く、もはやただの殺戮兵器………

 

 

「アタックステップッ!!メギドラモンデアタックッ!!」

 

 

椎名の指示を聞いて、メギドラモンがその眼光を強く放つ。そしてこの瞬間、メギドラモンには発揮できる強力な効果があり………

 

 

「アタック時効果ッ!!コノスピリットノBP以下ノスピリット1体を破壊スルッ!!」

「……なにっ!?」

「ブラストモードヲ破壊ッ!!地獄ノ咆哮!!……ヘルハウリングッ!!」

 

 

唐突に放ったメギドラモンの咆哮。地をも震撼させるその技は、ベルゼブモン ブラストモードを捕え、その肉体を音のみでバラバラに引き裂いてしまう。

 

 

「サラニッ!!オルト・ロードノ効果ッ!!手札3枚ヲ捨テ、メギドラモンヲ回復ッ!!」

手札5⇨2

破棄カード↓

【ギルモン】

【グラウモン】

【スティングモン】

【メギドラモン+双牙皇オルト・ロード】(疲労⇨回復)

 

 

椎名の三枚の手札が燃えるように消えていく。だがそれはメギドラモンにさらなる力を与える絶対条件。メギドラモンは今一度回復状態となり、このターン、2度目のアタック権利を得た。

 

 

「アタックハ継続中ッ!!」

 

「……それははライフで受けるっ!!……ぐっ!!ぐおぉっっ!!」

ライフ3⇨1

 

 

そのメギドラモンの咆哮はブラストモードに止まらず、銃魔のライフまでもを消し飛ばした。彼にも椎名と同じように多大なるバトルダメージが発生する。

 

一気に2つのライフが消し飛び、銃魔もいよいよ残り1となった。

 

 

「……ハァッ、ハァッ、……モウ一度ダッ!!メギドラモンッ!!」

 

 

鬼と化した椎名の命令で、邪悪な漆黒の翼を大きく広げ、地を低空飛行で駆けるメギドラモン。目指すは当然銃魔のライフ。

 

彼はこれを受けて仕舞えば敗北。しかし、まだ奥の手があったのか、その1枚に手をかける。

 

……本当に、これが本当の真剣勝負の場であったのなら、銃魔はこのカードを前のターンに使用し、椎名を倒していたのかもしれない。だが、今回は仕事、失敗は許されないが故に、今ここでの使用を宣言する。

 

 

「甘いっ!!フラッシュマジックッ!!【式鬼神オブザデッド】!!」

手札2⇨1

リザーブ9⇨8

トラッシュ2⇨3

 

「……ッ!!」

 

「この効果でトラッシュにあるベルゼブモンを再召喚ッ!!来いッ!!」

リザーブ8⇨0

トラッシュ3⇨8

【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000

 

 

地面に絵が描かれる謎の紫の淡い光を放つ紋章。そこから飛び出し、復活してくるのは孤高の魔王。それは何度倒そうと銃魔の場に何回でも蘇る。

 

 

「ベルゼブモンの召喚時効果ッ!!貴様のグラニのコアを除去し、消滅ッ!!」

手札1⇨2

 

「……ッ!!」

【グラニ】(1⇨0)消滅

 

 

登場するなり、二丁のショットガンでグラニを狙い撃つベルゼブモン。グラニの翼をもぎ取り、撃墜させた。これで椎名のアタック可能なスピリットは現在進行形で2度目のアタックを行なっているメギドラモンのみ。

 

 

「メギドラモンのアタックはベルゼブモンでブロックッ!!迎え撃て我が右腕よぉっ!!」

 

 

低空飛行で駆けるメギドラモンを真正面から迎え撃つベルゼブモン。二丁のショットガンを連射するが、メギドラモンには全く通じず、眼前へと迫ってきたメギドラモンはそれをショットガンごと弾き飛ばしてしまう。

 

BP差は圧倒的、

 

メギドラモンがほぼ確定で勝利を収める。だが、銃魔の狙いはそこではなく……このターンを生きながらえること、次まで来ると椎名のライフは1。ブロッカーもいないとなれば確実に勝てる。

 

それが彼の戦術で、勝利の方程式であった。

 

しかし、鬼と化した椎名には一歩及ばなかったか、椎名は手札へとさらに手をかけ………

 

 

「フラッシュマジックッ!!ワイルドライドッ!!」

手札2⇨1

リザーブ1⇨0

【メギドラモン+双牙皇オルト・ロード】(6⇨4)LV3⇨2

 

「なにっ!?」

 

「コ、コノ効果デ……メギドラモンノBPヲ3000上ゲ、バトル勝利時ニ回復スル効果ヲ与エルッ!!」

【メギドラモン+双牙皇オルト・ロード】BP16000⇨19000

 

 

椎名が反射的に使用したマジック。

 

トータルBPは下降するものの、これでメギドラモンはバトルにさえ勝つことができればさらに3度目のアタックを行うことができる。しかし、BPが下降したとはいえ、ベルゼブモンとのBP差はあまり縮まってはおらず………

 

メギドラモンに吹き飛ばされ、ショットガンを失ったベルゼブモンが反撃に転じる。鋭い鉤爪で接近戦に持ち込もうと活気に突進してくる。

 

しかし、メギドラモンは素早い動きでベルゼブモンの動きをすべて見切るかのように回避し、一瞬の隙を見てベルゼブモンの背後に回り、首根っこを捕え、その身体ごと勢いよく地面に叩きつける。

 

そして、その倒れたベルゼブモンへと下に首を傾け、口内に獄炎の炎を溜め………

 

 

「獄炎の………メギドフレイムッッ!!!」

 

 

ベルゼブモンに向け、一気に放出。ベルゼブモンはそれに耐えられるわけがなく、全てを焼き尽くされ、終いには大爆発を起こした。

 

メギドラモンの爆発による爆煙の中に聳え立つその様は、まるで地獄の化身と言っても過言ではない風貌であって………

 

 

「……ハァッ、ハァッ………ワイルドライドノ効果デ……メ、メギドラモンヲ回復………」

【メギドラモン+双牙皇オルト・ロード】(疲労⇨回復)

 

 

緑の光をその身に纏い、三度回復状態となるメギドラモン。あと一度のアタックで終わる。椎名が勝利する………

 

 

「……メギドラモンデ……ラ、ラストアタックッ!!」

 

 

低空飛行で駆けるメギドラモン。狙うは当然銃魔の最後のライフ。

 

 

「………ふふ、ふはははは!!!!いいぞエニーズッ!!次はその力をさらにマスターすべく、上階に上がるがいい!!」

 

 

敗北を目の前にしているというのに、銃魔はらしくもなくそのテンションを上昇させていた。彼の慕うDr.Aの計画にやはり関係があるのか………

 

そしてメギドラモンは銃魔の元へたどり着き……

 

 

「……ウ、ウオォォォォォォォッ!!!」

 

 

椎名の雄叫びと共にそのメギドラモンの鋭い鉤爪は振り下ろされ……

 

銃魔のライフを紙切れのように引き裂いた………

 

 

「…………」

ライフ1⇨1

 

 

かに見えた。

 

メギドラモンの一撃は僅かながらに銃魔のライフからそれ、振り下ろされた鉤爪は代わりに地面を引き裂いており………

 

 

「………なんの真似だ?………エニーズ」

 

 

その様子に、銃魔は昂ぶっていた感情を咄嗟に抑え、元の冷静で冷徹な表情へと戻っていく。彼にとって、これは理解しがたい事であったがためだ。

 

この結果は銃魔の抵抗ではなく、椎名の意思。

 

彼女の意思がメギドラモンに最後の攻撃を決めさせなかった。

 

そしてその理由はただ1つ。

 

 

「……ハァッ、ハァッ……ダ、ダッテ、サッキライフデ受ケテタ時……イ、痛ソウナ顔シ、シテタカラ………」

「……ッ!?」

「……ワ、私ハ……銃魔ヲ殺シニ来タンジャナイ……モ、モウ決着ハ着イタ………」

 

 

そう、ただ単にそれが理由。

 

1度目のメギドラモンのアタックをライフで受けてた時の銃魔の痛そうな表情が目に映っていた椎名は、咄嗟に最後のアタックを逸らしたのだ。

 

しかし、ただ単にと言っても、一度自分を本気で殺そうとしていた人物をここまであっさりと許せてしまうものなのか………

 

その後、椎名はデッキを回収すると共にBパッドを畳んで、バトルを強制終了させる。

 

 

「……ンジャ、ワ、私ハ……上ニア、上ガルカラ……ツ、次コソハ……タ、楽シイバトルヲ、シ、シヨウヨ………」

 

 

バトルが終わってもその鬼化の状態が解かれる事はなく、椎名はその込み上げてくる謎めいた力に苦しみながらも銃魔に笑顔を向けながらも先を急ごうとする。

 

 

「いいのか?……上に行けばお前の失われた辛い過去が蘇るかもしれないぞ?」

 

 

銃魔は椎名に軽くそう言い放った。別に椎名を止めたくて咎めたわけではない。況してや煽っているわけでもなく………

 

 

「銃魔達ガ私ノ……ナ、何ヲ知ッテルノカハ……ワ、ワカラナイケド………私ニトッテ……過去ナンテド、ドウデモイイ……今ガ楽シケレバ別ニ………友達ガ消エル方ガ……ヨ、ヨッポド辛イ………」

 

 

椎名はそれに対し、そう言い返した。

 

そう教育されたこともあって、椎名は全くと言っていいほどに自分の過去には興味がない。故に、自分がDr.Aに造られた人造人間である事を知っても、おそらくは対して驚くことはない。

 

そんなことより、友達の方がよっぽど心配なのだ。

 

 

「……マ、マァ、司ガバ、バトルシテルナラ、シ、心配ナイト思ウケドネーーーー」

「……そうか、お前は知らないのか」

「?」

 

 

最初に上のバトルを映像で見たとき、洗脳された流異とバトルしていたのは司だった。余程信頼しているのか、椎名は司に任せとけば安全。

 

そう確信していた。

 

しかし、銃魔の言葉で、その考え方が180度回転する。

 

 

「今の功流異は………」

「ッ!?」

 

 

そして銃魔はそれを口にした。その悲しきも驚愕の真実を……今司と流異が行なっているバトルがどれ程危険なものなのかも………

 

椎名は鬼化の状態ながらも血の気が頭からなくなりかけるのを感じる。そして血相を変え、満身創痍の身体を奮い立たせながら銃魔を1人残しながら上階へと上がっていく。

 

知ってしまったからだ。【ある一定の条件を満たして仕舞えば】……【流異は死ぬ】……と。

 

 

 

 

 

 

「【楽しいバトル】………か………」

 

 

誰もいない、自分だけが取り残されたアイランドリーグ会場の地下で……

 

銃魔はただ1人で黄昏るようにそう呟いた。

 

 

******

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

一方ここはアイランドリーグ本戦会場。真夏、雅治、夜宵、六月、功宗二、Dr.Aが見守る中、【朱雀】、赤羽司とDr.Aに洗脳された功流異がバトルを始める。

 

司は洗脳された流異を救出するためにバトルを挑んでいる。いくら今、自分が悩み、もがき、苦しんでいるとはいえ、目の前の子供を放っておくことなどできなかったのだろう。

 

司は一度その感情を心の奥底へとしまい、流異との緊迫する一騎打ちのバトルに集中する。

 

先行は流異だ。

 

 

[ターン01]流異

 

 

「スタートステップ、ドローステップ……メインステップ」

手札4⇨5

 

 

流異はターンシークエンスをメインステップまで移行すると、手札の1枚に手をかける。

 

それは未だかつて誰も見たことがないデジタルスピリット……その世帯も認知されていないほどに稀な存在。それが今、殺風景と化したアイランドリーグ会場に召喚される。

 

 

「………僕は【クラモン】を召喚ッ!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨1

 

 

流異が呼び出したのは小さなクラゲのようなデジタルスピリット、クラモン。その今すぐにでも空気と共に消え去ってしまいそうな弱々しい印象は拭えないが、どこか心にに不安を与える不思議な存在。

 

 

「……っ!?……なんだそいつは?」

「これは【クラモン】……成長期スピリットのさらに下、幼年期スピリット………僕だけのカードだよ………」

「成長期スピリットよりさらに下の存在だと!?」

 

 

通常、デジタルスピリットとは

 

成長期スピリット

成熟期スピリット

完全体スピリット

究極体スピリット

 

 

と、例外はあれど一般的にこの手順を追って進化して行く。

 

が故に、成長期スピリットが一番下の存在であると認知されているのが基本。

 

しかし、このクラモンはそれより下の存在、幼年期スピリット………これはこれまでのデジタルスピリットの固定概念を崩壊してしまうほどの事実でもあった………

 

 

「………ヌフフフフ……始まるよ……ショータイムが……!!」

 

 

クラモンが召喚されるのを視認し、Dr.Aは薄く笑いながら軽くそう呟いた。これから知っているのだ。何が起こるのかを……

 

……これは正に悲しきデスマッチ………

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【メギドラモン】!!」

椎名「メギドラモンはメガログラウモンが進化を遂げた暗黒の姿!!強力なアタック時効果とバースト効果で敵を焼き尽くそうっ!!」


******


〈次回予告!!〉

ついに本格的に幕を開ける流異と司のバトル。司は序盤から有利に立ち回ろうとするが、流異の召喚したクラモンの効果に苦戦し………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「絶望の幕開け、魔王竜アーマゲモン!!」……今、バトスピが進化を超えるっ!!


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

今回は急遽二分割にしてしまい改めて申し訳ありませんでした!!次回以降このようなことがないよう心がけます!!

そういえば、最近ゴジラの新規が出ましたね〜〜知り合いの人に相談して、私も予約することにしました!!いや〜楽しみだ。

※作中でも発言がありますが、椎名は【エニー・アゼム】をモチーフにDr.Aに造られた人造人間で、エニー・アゼムが当時滅ぼした【鬼】のDNAを保有している存在です。エニー・アゼムも鬼も【オーバーエヴォリューションを繰り返す力を持っていました】一般的に人造人間と言うと、ロボットのイメージが強いですが、椎名自体は血と肉で構成された人間です。解釈は飽くまでも【人造人間(人に造られた人)】でお願いします。


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第71話「絶望の幕開け、魔王竜アーマゲモン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかりと熱気が失せてしまったアイランドリーグの会場。その中で静かに行われているバトル。【朱雀】、赤羽司と10にも満たない程度の少年、功流異のバトル。

 

Dr.Aに洗脳とも取れる状況に冒されている流異は、成長期よりもさらに下のデジタルスピリット、幼年期のクラモンを召喚し、その第1ターンを終えた。

 

次は司のターンが始まる。

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップッ!!イーズナとホークモンをLV1ずつで召喚ッ!!」

手札5⇨4⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

いくら相手が未知なるデジタルスピリットを使用しようが関係ない。自分は己が道を行くのみ。そう言わんばかりに、司はいつものスピリットたちを召喚する。

 

 

「ホークモンの召喚時!!」

オープンカード↓

【朱に染まる薔薇園】×

【リボルドロー】×

【ホウオウモン】×

 

 

だが、ホークモンの効果は失敗。司はそのカード達を一斉にトラッシュへと捨て去った。

 

 

「さっさと終わらせるッ!!……アタックステップッ!!行って来いイーズナッ!!」

 

 

司の指示を受け、一直線に走り出すイーズナ。目指すは流異のライフ。

 

 

「………クラモンでブロック」

 

 

流異はそのアタックに対し、クラモンを向かわせる。BPは両者共に最弱の1000。何度か頭部をぶつけ合うと、力尽き、小さく破裂するように爆発した。

 

その時だ。

 

その時、クラモンの爆発に合わせるかのように……

 

 

「………くぅっ!!」

「……っ!?」

 

 

クラモンを操っていた流異が痛がりだした。まるで体中が疼きだしているかのごとく。まだライフも減っていないと言うのに、いったい何事なのか………

 

考える皆を見て、Dr.Aがニタニタと口を開き……

 

 

「ヌフフフフ………クラモンは流異君のオーバーエヴォリューションによって生まれたカード。それも過剰の進化の力を与えてのね〜〜……」

「……何が言いたい?」

「つまり、クラモンを破壊し続ければ、流異君は死ぬ!!」

「………っ!?」

 

 

流異はDr.Aに無理矢理進化の力を流し込まれた。が故に、クラモンなどのデジタルスピリットをオーバーエヴォリューションで得たが、椎名とは違い、【鬼のDNA】を組み込まれたわけではない。普通の人間なのだ。

 

これがどう言うことか………

 

流異の過剰に与えられた力で生まれたオーバーエヴォリューションで生まれたクラモンは、言わば進化の塊。流異の身体の一部と言っても過言ではない。クラモンが破壊されるたびに流異にダメージが行くと言うことはそう言うことなのだ。

 

 

「………暗利……ッ!!」

 

 

六月はこれを聞いて拳を強く固めた。今身動きが取れないのがもどかしい。

 

 

「……赤羽司っ!!頼むっ!!流異!!流異を助けてやってくれぇっ!!」

「るせぇ!!黙ってろっ!!」

 

 

自分の息子の状態を聞いて、顔を青ざめながらそう叫ぶ攻宗二。

 

司とてはなっから助け出すつもりだ。耳障りでしょうがない。

 

そして、一息ついたとこで、流異は破壊されたクラモンの効果を発揮させる。

 

 

「クラモンの破壊時効果ッ!!」

「…ッ!!?」

「クラモンは破壊された時、カードを1枚オープンし、それが同じクラモンなら召喚できる」

 

 

クラモンの破壊時効果だ。上手くいけば盤面のスピリット数を維持できる。

 

しかし……

 

 

「フッ…決まるわけないだろ?」

 

 

鼻で笑いながら、そう言い返した司。

 

司がそう言うのも理解できる。本来、バトルスピリッツというゲームにおいては、同じ名前のカードは3枚までしか入れる事が出来ない。

 

デッキが40枚で、クラモンがデッキ内に3枚あると仮定しても、確率は35分の2。なかなか低い確率である。

 

……だが、

 

 

「カードオープン!!」

オープンカード↓

【クラモン】◯

 

「ッ!?なにっ!?」

 

 

成功した。

 

紛う事なきそれはクラモンのカードであって………流異は35分の2の確率を見事に引き当てた。流異の場に今一度ふよふよと微生物のように浮遊するクラモンがその姿を見せた。

 

 

「……ちっ!!……んなもんただのまぐれだろ?……続け!!ホークモンッ!」

 

 

次にクラモンの効果を使用するとなると、その確率は格段に下がる。現時点では約34分の1。序盤から無駄な賭けなどせず、ここはライフで受けることが得策であろう。

 

……しかし流異は。

 

 

「クラモンでブロック」

「っ!!」

 

 

一切の表情を変えずに、なんの躊躇もなくクラモンでアタックをブロックさせた。

 

ホークモンが自身の羽をクラモンへと飛ばす。クラモンはそれにさえもあっさりと引き裂かれ、空気と共に消えていった。

 

 

「ぐっ!!………クラモンの破壊時………」

「無駄だ、上手くいくわけ……」

 

「カードオープンッ!!」

オープンカード↓

【クラモン】◯

 

「なにっ!?」

 

 

また、成功した。累計3枚目となるクラモンが流異の場に姿を見せる。これでデッキに内包できるクラモンは全て出てきたことになるが………

 

あまりにも運が強すぎる。今までも司は椎名やヘラクレスと言った極端に運の強い人物達と競ったきたが、この小さな身体の少年はそれさえをも凌駕していると言える。

 

 

「………くっ!!ターンエンド」

【ホークモン】LV1(1)BP2000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとした司。しかし、結果的に流異のライフは全く減らさず、こちらのスピリットは減ったどころか、相手のスピリット数は全く変わらない。

 

そして次はそんな司の攻撃を軽くいなした流異のターン。このターンでクラモンの真実が明らかになる。

 

 

[ターン03]流異

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ………」

 

 

このメインステップ、このターンで流異が召喚したスピリットは司が驚くべきものであって………

 

 

「クラモン2体を召喚ッ!!」

手札5⇨4⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

 

「ッ!?」

 

 

流異が召喚したのは4、5体目のクラモン。3体目のクラモンと合わせて3体のクラモンが流異の場に並んだ。

 

実際は有り得ない。こんな光景。同じスピリットが4体以上出てくるなど、

 

しかし、クラモンにはそんなバトルスピリッツの常識など通用しない効果が存在しており………

 

 

「4、5体目のクラモンだと!?」

「クラモンはデッキに何枚でも存在できる」

「ッ!?」

 

 

洗脳された流異のサイボーグのような片言の言葉で、ようやく理解した。あのクラモンは自身の効果によってデッキに何枚でも加えられる。あのデッキはほとんど、又は全てがクラモンなのだ。だから破壊時のラッシュが止まらない。

 

 

「ヌフフフフ……カラクリを知ったとこで無駄ですよ〜〜」

「!!」

「君ではあのデッキには勝てない。………まぁ、エニーズならどうにかできるかもしれませんが……」

 

 

横からバトルに水を差してきたのは、Dr.A。

 

エニーズとは椎名の本名。彼は間接的に司よりも椎名の方が強いと物申しており………

 

 

「……あいつよりも俺が劣ってると言いたいのか!?……」

 

 

司は当然その言葉に反応を示した。

 

そんなわけがない。芽座椎名でもできるなら自分にできないわけなどない。必ず流異を助けられる。椎名よりも早く………

 

司には自信があった。特に理由もない。意味のわからない不思議な自信が………

 

 

「うん。そうだね〜〜君はあの子より弱い……!!」

「ッ!!……んだとぉ!?」

「さっきの決勝戦……私がエニーズを別の場所に転送しなければ、君はあの子に負けていた……確実にねっ!!」

「ッ!?」

 

 

この戦いが始まる前に行っていたアイランドリーグの決勝戦。あのバトル。司は殆どと言っていいほどに椎名に負けていた。実質、椎名の勝ちと言っても過言ではないだろう。司は、それだけは認めたくなかった………

 

認めたくないからこそ、目の前のDr.Aに反発していた。

 

 

「あの子は良いよね〜〜」

「……何がだ?」

「………スペックだよッ!!……あの子のデッキは六月が与えたであろう【アーマー進化】、そして【真紅の魔竜】!!極め付けはロイヤルナイツ2体だッ!!君のデッキとは性能が大幅に違う!!……」

「………」

「よして何よりもあの異端なデッキを操る程に並外れた引きの強さと直感力ッ!!……これを見て、君は正直劣っていると言わざるを得ないッ!!」

「………バトルスピリッツはカードバトラーの技量がモノを言うカードゲームだ……その点、俺が劣ってるなど………」

 

 

知っている。

 

知っているのだ。はなからそんな事など。呆れるほどに知り尽くしている。何せ、芽座椎名は一度自分が認めたのだから……ライバルであると………

 

デッキの性能が違う。

 

それも知っている。こっちはパイルドラモンと同格のジョグレス体と伝説の究極体スピリットのみ……しかし、それでも自分がこれまで培ってきた技量でどうにかなるものだと信じていた。

 

だが、Dr.Aはその口を閉じず………

 

 

「いや、君はその技量さえも私のエニーズに劣り始めてきている……それは一番君が知っているだろう?」

「ッ!?」

「私ならその力を君に貸し与える事ができる………君がもし、エニーズよりも優れたいと思うのなら………いつでも私は歓迎するよ……ヌフフフフ……」

 

 

湿った笑い声で司を包み込むように笑いかけるDr.A。彼は全てを見通している。司が椎名に抱く劣等感。それを絶対に認めたくないという固い意思。

 

だからこそ、揺さぶりをかけ、司をこちら側に引き摺り込もうとしている。

 

司の思考が揺れ動き、停止しているその隙だ。流異はアタックステップを仕掛け………

 

 

「おい、バトル中だぞ……クラモン2体でアタックッ!!」

「ッ!?」

 

 

クラモンの3体のうち2体が宙を舞う。目指すは当然司のライフ。前のターン、コアの総数が少ないにもかかわらず、攻めに出た司にはそれを防ぐ手段がなく………

 

 

「ちぃっ!!ライフだッ!!………ぐおっ!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

2体のクラモンの体当たりが彼のライフを一気に2つ破壊した。流異はDr.Aに洗脳されているからか、そのダメージ量は司が怯むほどに大きかった。

 

 

「………ターンエンド」

【クラモン】LV1(1)BP1000(回復)

【クラモン】LV1(1)BP1000(疲労)

【クラモン】LV1(1)BP1000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

「くっ………いいぜ……なら見せてやるッ!!この俺の実力をッ!!」

「……ほお、それは楽しみだ、ヌフフフフ」

 

 

気を抜いたら一瞬にして敗北してしまうであろうこのバトル。司はこのバトルに勝ち、椎名よりも優れていることをDr.Aに証明しようと躍起になっている。

 

果たしてこれが吉と出るのか、凶と出るのか………

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

【ホークモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップッ!!破壊できないのであればすり抜けるまでだッ!!……アーマー体スピリット、ネフェルティモンをLV2で召喚ッ!!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

司が勢いよくBパッドに叩きつけ、召喚したのは、黄色のアーマー体スピリット。天より、スフィンクスのようなスピリットが飛来してきた。これはネフェルティモン。司の持つアーマー体スピリットの1体。

 

 

「召喚時効果ッ!!トラッシュのコア1つをライフにッ!!」

ライフ3⇨4

トラッシュ5⇨4

 

 

ネフェルティモンの召喚に使われた多量のコア1つが司のライフへと移動した。本来はアタックステップ中に召喚して意表をつく時に使いたいが、しのごと言ってられない。

 

 

「アタックステップッ!!ネフェルティモンでアタックッ!!」

 

 

白い翼を広げ、飛び立つネフェルティモン。目指すは当然流異のライフ。

 

流異の場には1体のみクラモンがブロッカーとして立ち塞がっている。しかし、それでも十分だ。何せ、破壊しても無限に湧いて出でくるのだから。BPの低さも相まって擬似無限ブロッカーと言えよう。

 

……だが、

 

 

「ネフェルティモンの効果ッ!!アーマー体を持つデジタルスピリットは相手のLV1、2のスピリットからはブロックされない!!」

「……ッ!!」

「ヌフフフフ、そう来ましたか……」

 

 

ネフェルティモンは特定の系統を持つデジタルスピリットにこの効果を与える。クラモンはLV1と2しか持たない。が故に、流異はネフェルティモンが存在する限り、ブロックが不可能となってしまっているのだ。

 

 

「……ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

ネフェルティモンは頭部から赤いレーザーを照射。それが流異のライフを1つ貫いてみせた。

 

 

「よしっ!!いいぞ、司、これでネフェルティモンだけで攻め続ける事が出来れば、勝てるッ!!」

 

 

そうほとんど誰もいない会場の観客席で声をあげたのは、彼の親友雅治。確かに、ネフェルティモンはあのデッキにとって有効と言える。しかし、それだけで勝つためには、毎ターン、流異の波状攻撃を防ぎ切らなければならなくて…………

 

 

「………ターンエンド」

【ホークモン】LV1(1)BP2000(回復)

【ネフェルティモン】LV2(2)BP6000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

司はそれ以上は特に何もせず、そのターンを終えた。ホークモンだけで仕掛けてもクラモンの前ではほぼ無意味であるからだ。

 

次は流異のターン。天敵とも呼べるネフェルティモンを前にどう出るか………

 

 

[ターン05]流異

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

【クラモン】(疲労⇨回復)

【クラモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……僕はさらにクラモンを2体召喚ッ!!」

手札4⇨2

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

 

「ッ!!まだいんのかよ」

 

 

流異は追加でさらに2体のクラモンを召喚した。これで場には5体のクラモンが出ていることになる。ホークモンの数を差し引いても、このターンのフルアタックで司のライフを0にする算段なのだろう。

 

 

「アタックステップッ!!先ずは1体目ッ!!」

 

「ッ!!……ライフ……ぐっ!!」

ライフ4⇨3

 

 

1体目のクラモンが飛び行き、司のライフを体当たりで粉々に粉砕した。そしてまたDr.Aの影響なのか、司にはまた多大なバトルダメージが蓄積される。

 

 

「……次ッ!!2体目ッ!!」

 

 

2体目が飛び行く。狙うは1体目同様、当然司のライフ。だが、司がこの程度の王手でやられるわけがなく………

 

 

「フラッシュマジックッ!!シンフォニックバーストッ!!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

【ネフェルティモン】(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ4⇨6

 

「………ッ!?」

 

「この効果で、このバトル後、俺のライフが2以下ならアタックステップを終わらせる………アタックはライフだっ!!………ッ!!」

ライフ3⇨2

 

 

2体目のクラモンの体当たりが司のライフに炸裂。司のライフをさらに窮地に追いやるが………

 

頭の最中、司は口角を上げ………

 

 

「へッ、……シンフォニックバーストの条件は満たした、アタックステップは終わりだ」

 

 

弾け飛ぶ光の輪。それが流異の場全体に太く、高く、広がる。クラモン達がそれを飛び越えてアタックなどできるわけがなく、流異はこのターンのエンドを迫られた。

 

 

「………ターンエンド」

【クラモン】LV1(1)BP1000(回復)

【クラモン】LV1(1)BP1000(回復)

【クラモン】LV1(1)BP1000(回復)

【クラモン】LV1(1)BP1000(疲労)

【クラモン】LV1(1)BP1000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

それでいても流異は機械のように表情1つ変えず、まるでサイボーグのようにそのターンのエンドを宣言した。次は何とかクラモンの波状攻撃をしのぎ切った司だ。ここらで勝負を決めなければ間違いなく次の流異のターンで敗北してしまうが………

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨8

トラッシュ6⇨0

【ネフェルティモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、砲竜バル・ガンナー〈R〉を召喚し、ネフェルティモンと合体ッ!!」

手札3⇨2

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨3

【ネフェルティモン+砲竜バル・ガンナー〈R〉】LV2(2)BP10000

 

 

司が呼び出したのは背中に砲を備えた竜、バル・ガンナー。それは登場するなり、その砲のみを残し、消滅。ネフェルティモンの背と合体し、合体スピリットとなった。

 

 

「……バーストを伏せ、アタックステップッ!!ネフェルティモンでアタック!!」

手札2⇨1

 

 

さらに追加で司はバーストカードを裏側で伏せ、アタックステップへと移行。砲を背に、ネフェルティモンが空を翔ける。当然、LV1のクラモン軍団はこれをブロックはできない。

 

そしてその前に、追加された事により、発揮されるアタック時効果もあり……

 

 

「バル・ガンナーの効果ッ!!カードをドローし、BP6000以下のスピリット1体を破壊する!!」

手札1⇨2

 

「ッ!?」

「クラモンを1体破壊ッ!!」

 

 

ネフェルティモンに装備されたバル・ガンナーの砲撃が流異の場に存在するクラモン1体に直撃し、難なく爆発を起こした。

 

 

「……ぐっ!!………クラモンの効果………」

「………無駄だ」

「……ッ!?」

 

 

クラモンの破壊により、その効果を発揮させようとする流異。しかし、そのデッキはピクリとも反応を示さず………

 

 

「バル・ガンナーのこの効果で破壊したスピリットの効果は発揮されない……それが例え、特別なデジタルスピリットと言えどもな………」

 

 

クラモンの破壊時効果が発揮されない理由の発端はネフェルティモンと合体した砲竜バル・ガンナー〈R〉の合体時効果によるものだった。これでようやく流異のクラモンの数が減少する。

 

 

「さらにフラッシュマジックッ!!イエローリカバーッ!!効果によりネフェルティモンを回復ッ!!」

手札2⇨1

リザーブ4⇨2

トラッシュ3⇨5

【ネフェルティモン+砲竜バル・ガンナー〈R〉】(疲労⇨回復)

 

「……ッ!!」

「よっしゃ!!これでネフェルティモンは2度のアタックが可能やッ!!LV3以上のスピリットもおらへんし、いけるでえっ!!」

 

 

真夏がそう解説するように声を上げる。

 

司が使用したマジックにより回復するネフェルティモン。流異のスピリット、クラモンはネフェルティモン自身の効果でブロックができないため、このアタックはライフで受ける他ない。

 

合体によりダブルシンボルのアタックをライフで受けるとなると、司の勝ちとなるからだ。

 

 

「行けッ!!ネフェルティモン!!」

 

「……ライフで受ける」

ライフ4⇨2

 

 

ネフェルティモンが石碑のようなものを召喚し、流異のライフへと発射。重たい一撃が鈍い音を立て、流異のライフを一気に2つ砕いた。

 

 

「………これで勝ちだ………もう一度……アタックッ!!バル・ガンナーの効果でカードをドローし、クラモンを破壊!!」

手札1⇨2

 

「……ッ!!」

 

 

上空に佇むネフェルティモンが今一度仕掛ける。背に装備された砲手で砲撃を放ち、再びクラモンを完全に破壊した。

 

そして当然それだけでなく、このアタックが通ることがあれば、司の勝利で終わる。

 

ようやくだ。ようやく証明される。自分は芽座椎名よりも優れている………と

 

だが、そんな司の甘い考えを打ち砕くかのように流異は手札から1枚のカードを抜き取った。

 

 

「フラッシュタイミングッ!!僕は手札の【アーマゲモン】の効果を発揮ッ!!」

「ッ!?……ここに来て違うカードだと!?」

 

 

この最後の最後の局面に流異が投げ打ってきたのはクラモンではなく、また別のカード。しかし、それはクラモンのデッキだからこそ使用することができる特別なカード………

 

そのカードによるものなのか、早速この場にも影響を及ぼす。地中からクラモンが次から次へと現れ、分裂、増殖を繰り返していき、その数を増やしていく。

 

 

「………な、なんだ!?」

 

「このカードはフラッシュタイミングにトラッシュにあるクラモンを4枚まで回収することで、召喚できる。コストは戻した枚数1枚につき3下げる………」

手札2⇨6

 

「………4枚戻したって事は………」

「またまたのコストは12………同じく12下がってコストは0!!」

 

 

数百数千と集まったクラモン達は次から次へと密集していき、自分達のデータを何か別のスピリットへと昇華させる。その体色は全てがドス黒い。

 

 

「……魔界の竜神よッ!!今こそ世界の理を覆せッ!!……アーマゲモンッ!!LV2で召喚!!」

手札6⇨5

リザーブ4⇨1

【アーマゲモン】LV2(3)BP16000

 

 

流異の場に現れたのはかつてないほどのスケールを誇るデジタルスピリット。蜘蛛のような脚に加え、竜のような顔を有している。そこから発さられる咆哮はもはや世界の終わりを告げているとでも錯覚してしまうほどだ。

 

世界で1位2位の広大さを保有するこのスピリットアイランドの会場だからこそ収まっているが、並みのバトル場ならば先ず収まることはないだろう。

 

 

「………な、なんだ、この……バケモノは……!?」

 

 

目の前で対峙した司は思わずその規格外の最後にサイズにたじろいだ。確かにアーマゲモンはとてもではないがデジタルスピリットと呼べる代物ではない。

 

 

「………う、嘘だろ?ここに来てまたこんな……」

「デカ過ぎやろ……」

「………司ちゃん」

 

 

会場で司を見守る3人も絶望すら感じていた。また召喚する効果以外、アーマゲモンの効果は公になっていないというのに、

 

このアーマゲモンがかけてくるプレッシャーがいかに計り知れないものだということが理解できる。

 

……そして、アーマゲモンはその狂気に満ちた目をゆっくりと開眼させ、その真価を発揮させていく。

 

 

「アーマゲモンの召喚時効果ッ!!シンボル2つ以上のスピリット1体を破壊ッ!!」

「ッ!?」

「合体したネフェルティモンを破壊するッ!!……漆黒の豪雨……ブラックレインッ!!」

 

 

アーマゲモンの背部からエネルギーが飛び出し、弾け飛び、それは雨のように降り注ぐ。雨など避けられるわけがなく、ネフェルティモンはバル・ガンナーごと貫かれ、大爆発を起こした。

 

 

「………ヌフフフフ、並みのデジタルスピリットではアーマゲモンは倒せんよ……」

「……暗利め、こんなバケモノまで用意していたのか……」

 

 

召喚時の破壊と立て続けのブロックにより、完全に合体スピリットと化していたネフェルティモンを消し去ってしまった。これで司の場に残るのは赤い鳥型の成長期スピリット、ホークモンのみ。流石にこれだけでは心許ないにも程がある。

 

 

「………た、ターンエンド……」

【ホークモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【有】

 

 

これでは何もできない。司はターンをエンドとし、そのターンを流異へと渡した。

 

そして次はそんな流異のターン。クラモンに加えてアーマゲモンが本格的に動き出すであろう。

 

 

[ターン07]流異

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

【クラモン】(疲労⇨回復)

【クラモン】(疲労⇨回復)

【アーマゲモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、アーマゲモンのLVを3に上げる」

リザーブ4⇨2

【アーマゲモン】(3⇨5)LV2⇨3

 

 

アーマゲモンにコアが追加され、そのLVを上昇させる流異。アーマゲモンはまた耳鳴りがする程の莫大な咆哮を上げる。

 

 

「アタックステップッ!!……クラモン1体でアタックッ!!」

 

 

そして早速か、流異はこのターンで勝負を決めるべく3体のうちの1体のクラモンでアタックする。

 

だが、司とて抵抗はするか、手札のカードを1枚使い、このアタックを是が非でも防ぎに行く。

 

 

「ちぃっ!!……もうあぁだこうだと言ってられねぇ!!少しは我慢しろよガキッ!!フラッシュマジックッ!!ドラコフレイムッ!!」

手札2⇨1

リザーブ4⇨2

トラッシュ5⇨7

 

「ッ!?」

「この効果で相手の場のBP3000以下のスピリットを全て破壊ッ!!クラモンを一掃しろぉっ!!」

 

 

飛び交う火の弾丸達。それは次々と流異のクラモンへと命中していき、それらを全て焼き払ってみせた。

 

……しかし、

 

 

「ぐッ!?、うわぁぁっ!!」

「る、流異いっ!!」

 

 

一度に3体破壊された時のダメージは大きかったか、これまでよりもさらに強い痛みが流異を襲う。そして父である宗二もまた、流異を思い、声を上ずらせた。

 

流異が悲痛な声を上げたのは一瞬だけ、その一瞬だけ表情を歪ませただけであり、またクラモンの効果を使うべく、表情を戻し………

 

 

「……クラモンの効果ッ!!カードを3枚オープンッ!!」

オープンカード↓

【クラモン】◯

【アルテミックシールド】×

【アルティメットフレア】×

 

 

3体破壊されたため、3枚オープンするものの、成功したのは僅か1枚のみ。

 

 

「……クラモン1体を再召喚……アルテミックシールドとアルティメットフレアのカードは自身の効果により、破棄されずに手札に加える」

手札5⇨7

【クラモン】LV1(1)BP1000

 

 

流異に身体的なダメージは与えてしまったものの、司としては大成功であると言える。何せ、たった1枚でクラモンが減ったのだ。このターンも守りきれる可能性も出てきた。

 

しかし、この戦況を見ても、流異はアタックステップを降りる事はなく………

 

 

「アタックステップは続行ッ!!再召喚されたクラモンでアタックッ!!」

 

 

攻めてきた。

 

ここは勝負どころだ。ライフで受けるか受けないかで大きく結果が変わる。

 

司の選択は………

 

 

「ライフで受けるッ!!…………ぐっ!!」

ライフ2⇨1

 

 

ライフで受けた。

 

クラモンが勢いよく突進し、司のライフを1つ破壊した。これでいよいよ残り1つ。敗北の窮地に陥った。

 

だが、これも作戦の1つ。

 

司がライフ1つのズレも許されない局面で敢えてライフで受けたのも理由がある。

 

それは伏せられていたバーストカードだ。それが勢いよく反転する。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動!!【イマジナリーゲート】!!」

「……!!」

 

「効果により手札の黄色のスピリットカードをノーコスト召喚する………来い、シルフィーモン!!」

リザーブ3⇨0

【シルフィーモン】LV2(3)BP9000

 

 

バーストカードの反転と共に現れたのは不思議なゲート。その文様や神々しい光はまるで天国にでも繋がっているかのよう、

 

そこから飛び出し、現れたのは司のエーススピリット、聖なる獣人シルフィーモン。

 

 

「………召喚時は使えないがな………」

「………それがどうした………終わりだ……アーマゲモンでアタックッ!!……その効果でお前はスピリット1体を破壊しなければブロックできない」

 

 

流異はそんな司の偉大なるエーススピリットを認知しても止まることを知らず、残ったアタッカーであるアーマゲモンにアタックの指示を送った。

 

アーマゲモンはその蜘蛛のような脚を使い、走り出す。その体格の大きさもあってとてつもない重圧がかかる。

 

しかし、司はそんなアーマゲモンを見ても………

 

 

「フッ……詰んでんだよ、お前は……」

「ッ!?」

 

 

この時を待っていた。そう言わんばかりに、司はあのカードの使用を宣言する。それは赤羽一族に伝わりし赤き伝説のデジタルスピリットだ。

 

 

「……俺はトラッシュから【煌臨】を発揮!!対象はシルフィーモンッ!!不足コストによりホークモンは消滅!!」

【ホークモン】(1s⇨0)消滅

トラッシュ7⇨8s

 

 

ソウルコアをトラッシュへと送り、煌臨の発揮を宣言する司。ソウルコアのみが置かれていたホークモンは消滅してしまうが関係ない。

 

………これで本当に勝ちだ。

 

登場したてのシルフィーモンの周りに火柱が立ち昇る。シルフィーモンはその中で大きく、優雅に姿を変えていく。そのシルエットはまさしく巨大な神鳥。

 

その強すぎる火柱の火力は驚異のアーマゲモンであっても近づくことはできない。

 

 

「天空の王よ!!今こそ地上の全てを焼き払えッ!!……究極進化ぁぁぁぁあ!!!」

 

 

そしてそれは飛び立ち、火柱を巨大な翼で振り払いながら爆誕する。

 

 

「ホウオウモンッ!!」

【ホウオウモン】LV2(3)BP12000

 

 

司の場に新たに現れたのは赤属性の究極体スピリット、4枚の黄金の翼を持つ巨鳥型、ホウオウモンだ。ホウオウモンは上空からアーマゲモンを見下ろし、威嚇するように気高い雄叫びを上げる。

 

 

「よしッ!!ホウオウモンだ!!……これで司の勝ちだね!!」

「よっしゃいったれぇ!!朱雀ッ!!」

 

 

ホウオウモンの登場に雅治と真夏がそう声を上げる。夜宵も司の勝ちを確信したか、その表情に明るさが戻り、六月もまた、見事なプレイングに「おぉ」と感嘆の声を上げた。

 

………しかし、これは、このバトルはそんなに甘いものではなかった。

 

 

「よしッ!!ホウオウモンの煌臨時効果ッ!!煌臨元となった赤のスピリットカードを手札に戻し、BP10000以上のスピリット1体を破壊するッ!!」

 

 

ホウオウモンの効果はどんな強敵をも焼き尽くす究極の炎。たとえそれが規格外のデジタルスピリットであっても、破壊可能。

 

司はそれを使用し、逆転へと足を運ぼうとするが………

 

 

「……いいんですか?司くん?」

「ッ!?」

 

 

司の動かす手を突然口で止めてきたのは、他でもない、Dr.A。

 

 

「さっき、見ませんでした?……あの巨大なアーマゲモンが大量のクラモンが密集し、作り上げられたのを………」

「ッ!!」

「あらあら〜気づいたみたいだね、察しが良い」

 

 

アーマゲモンはクラモンが大量に集められ、作り上げられた姿。それだけを聞いて、司は全てを察してしまった。なんとなくだが、Dr.Aの言いたいことがわかった………

 

……それは……

 

 

「そう!!アーマゲモンを破壊すれば!!間違いなく流異君にクラモンの比ではない程のダメージが入るッ!!……そんなものを一撃受けて仕舞えば、おそらく、こんな小さな少年の命はない!!」

「「「「「「!?!」」」」」」

 

 

そう、いくら違うスピリットとは言っても、アーマゲモンはクラモンから進化して出来上がったもの、アーマゲモンを破壊しても流異にダメージは入る。

 

しかも、召喚に使った4体分などではない。クラモンの数百数千倍と言ったダメージが入るだろう。もしそうなって仕舞えば体の小さい流異は間違いなくは死に至る。

 

幸いにもホウオウモンの効果は使用するか否かを選択できるため、破壊しないということもできる。が、逆にそうなれば司が負ける。

 

ひっくるめて言ってしまえば、司がホウオウモンの効果を使えば、流異に勝てるかもしれないが、間違いなく流異は死ぬ。使わなければ負ける。スピリットアイランドに住まう人々は皆Dr.Aによって殺される。

 

これはまさに究極の選択………

 

 

「る、流異が………死ぬ!?……だ、だめだ!!それだけは!!必ず!!赤羽司!!効果は使わないでくれぇぇっ!!」

 

 

そう声を上げたのは彼の父、この島の最高責任者の科学者、功宗二。息子の安全のために余裕がなく、必死だ。司に縋る。だが、司は………

 

 

「………俺は………煌臨元カードを……」

 

 

取るつもりだ。宗二の有無を聞かず、カードを、ホウオウモンの煌臨元になったシルフィーモンのカードを抜き取るつもりだ。その仕草で仲間たちも効果を発揮させることを悟る。

 

致し方ない。よく考えてしまえば、今、天秤にかけられているのは1人の小さな少年の命と、人口約2万人を超えるスピリットアイランドの人々の命。

 

………比べるまでもない。

 

だが、その司の手は震えていた。当然だ。自分が今からやろうとしていることは人を殺めるのと同じ行為。怖いに決まっている。仲間達をそれを知っているからこそ、止めることはせず、ただ歯を噛み締め、見守っていた。

 

夜宵はどれだけ心苦しかっただろうか。最も愛する人が人を殺す瞬間を目の当たりにしようとして……どれだけ心が窮屈になったことか………それに絞られて涙さえも出てくる………

 

………だが、

 

………それを阻止しようとこの場に現れる人物が1人………

 

 

「ツ、司ァァァァァァァァア!!!!」

「……っ!?」

 

 

1人。

 

たった1人、このスピリットアイランドの会場に足を運ぶ人物が現れる………

 

……それは

 

 

「………め、めざし………その姿………」

「話ハ聞カナカッタノカヨッ!!ホウオウモンノ効果ハ使ウナッ!!流異君ガ死ヌッ!!ヤメロッ!!」

 

 

それは銃魔との激戦を乗り越えた芽座椎名。しかし、その姿は鬼化しており………

 

 

「………え?あれ、椎名なん?」

「………鬼………本当だったんだ……」

 

 

雅治と真夏がそう声を上げた。まるで信じられないかのような。認めたくはなかった。が、これで悲しくもDr.Aの言ってることが嘘ではないことが立証される。

 

椎名は鬼。【エニーズ】………

 

だが、その姿を見て一番心苦しく思ったのは………

 

 

「………し、椎名………う、嘘じゃろ!?!」

 

 

六月だ。元々椎名が鬼化できることを知っていた分、その精神的ダメージは大きく………

 

本当に信じられなかった。あの椎名が………まさかあの優しい椎名が………怒りと恐怖の化身とも取れる鬼となってしまうなど………これを見てもなお、信じ難く………

 

 

「おぉ!!私のエニーズッ!!大きくなって……………銃魔とのバトルで鬼化はできるようになったみたいですね〜〜まだまだですが……!!」

 

 

その様子を見て、逆に喜んだのはDr.A。椎名と対面して若干感涙する程である。しかし、その鬼化した姿を一目見てわかる。あと一息ではあるが、まだ熟してはいない。

 

もう少し、あと本のもう少しで完全に進化を超えられれば、自分の計画は最終段階にフェイズを移すことができる。

 

 

「………クッ!!シャ、喋リ辛イ………ウ、失セロォォッ!!」

 

 

まだ完全に使いこなしていないこともあって、この鬼の姿は喋り辛く、舌も回り辛い。そう判断した椎名は体の中のなにかに力を入れる。

 

すると、鬼の力は引き下がるように後退していく。ツノは髪に戻り、目の色も元に戻り、いつもの芽座椎名になる。鬼化の反動か、若干ふらつくが、それでも椎名は気を強く持ち、司と面と向かって………

 

 

「めざし………んこと知ってるさ……」

「だったらなんで!?死ぬんだぞ!!人が!!あんな小さな子が!!」

「ッ!!知った風に言ってんじゃねぇ!!俺が勝たなければスピリットアイランドに住む奴らはみんなあのイカレタクソジジイに殺されんだぞッ!!」

 

 

そうだ。

 

だめだ。やはり、ここで効果を使わず、負けてしまえば、大勢の人が命を落とすことになる。それだけは避けなくてはならない。

 

しかし、椎名にそんなものは通じず………

 

 

「じゃあ私が代わりに勝つ!!アレを破壊せずに!!」

「ッ!!?!……馬鹿野郎!!いい加減にしやがれッ!!今回ばかりはお前の根性論や勢いで勝てる相手じゃねぇんだぞ!?お前だってわかってるはずだ!!!」

 

 

椎名は流異の場のアーマゲモンに向けて指を指し、そう強く言い放った。

 

椎名の空気の読めない発言に、思わず怒りを露わにする司。

 

自分だって人など殺めたくはない。当然だ。本当はやろうとしただけで気が狂いそうになる。だが、それを、覚悟を決めてやろうとしているのに………それを踏みにいじろうと言うのか………

 

 

「………私は……理論とかじゃない……いつも…自分の心に従ってバトルしてるんだ………それは昔も今も………これからもずっと………私が助けるッ!!スピリットアイランドの人達も!!真夏達も!!流異君も!!……そして司もッ!!……だから効果を使うなぁぁッ!!」

「……ッ!?」

 

 

椎名は左手を握りしめ、胸元に寄せる。その目には涙を溜め………司に思いをぶつける………

 

仲間達が固唾を飲んでそれを見守る中………司は今一度ホウオウモンの煌臨元カードに手をかける。おそらく一般の人間なら間違いなく訪れる事はないだろう究極の選択…………

 

………司が選んだ選択は………

 

 

「俺は煌臨元カードを………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………戻すわけねぇぇだろぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!!」

 

 

「ッ!?……司……!!」

 

 

司は怒りのままにシルフィーモンのカードをBパッドに叩きつけた。手札に戻してはいないので、ホウオウモンの効果は発揮されない。

 

 

「………だったら、ブロックはしない…………で、いいんだね?」

「…………好きにしろ………」

 

 

アーマゲモンのアタックは2体出ないとブロックできない。ブロック前にスピリットを1体破壊しなければならないからだ。

 

アーマゲモンの驚異のアタックが司を襲う………

 

 

「行けッ!!アーマゲモンッ!!」

 

 

再び走り出したアーマゲモン。狙うは当然司のライフだ。ホウオウモンがそれを阻止しまいと目の前に現れるが、アーマゲモンはそれさえをも突き飛ばし、前へと前進する。

 

 

「司ぁぁぁぁあ!!」

「司ちゃんッ!!」

 

 

雅治や夜宵、他の仲間達の声でも当然それは止まることはなく…………

 

司はこのバトルのラストコールをゆっくりと言い放つ………

 

 

「………ライフで受ける…………」

 

 

とうとう司の眼前まで現れたアーマゲモン。その大顎で司の最後のライフへと噛み付く。そしてそれは次第にひび割れ…………

 

 

「…………」

ライフ1⇨0

 

 

………粉々に砕け散った…………

 

 

 

 

その時、司は多大なバトルダメージによる痛覚以上に頭に思うことがあった………

 

………それはバトル中、Dr.Aが自分に放った言葉………

 

 

 

ー『君ではあのデッキに勝てない。まぁ、エニーズならどうにかできるかもしれませんが』

 

 

 

司はこのバトル。勝つつもりだった。勝って芽座椎名よりも自分が強いとDr.Aに認めさせてやろうと思っていた。流異を助けたいという気持ちよりも、その事を優先に考えていた。

 

だからあのバトル。アーマゲモンを倒してまで勝とうとした。スピリットアイランドの人々を盾に………言い訳していた。

 

それに比べ、椎名は流異の命を優先した。何よりも、真っ直ぐに………勝てるわけがない。こんな自分勝手な自分が……

 

 

そんな事を頭に過ぎらせながら、司は多大なバトルダメージを受け………倒れた。

 

赤羽………散る。

 

 

「つ、司ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!」

 

 

 

椎名の悲痛な叫びが何よりもこのアイランドリーグの会場に鳴り響いた。




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【クラモン】!!」

椎名「クラモンは成長期スピリットよりさらに下、幼年期のデジタルスピリット!!デッキに何枚でも入る特別なカードで、破壊時にカードをめくって、それがクラモンなら召喚できる!!しぶといスピリットだ!!」



〈次回予告!!〉


クラモンとアーマゲモンの攻撃の前に敗れた司。その意思を引き継いで流異にバトルを挑む椎名。だが、アーマゲモンには椎名の鬼化さえも全く通じない。徐々に追い込まれていく椎名。だがその時…………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「その名はクリムゾンモード!!真なる深い紅!!」……今、デュークモンが進化を超える!!



******


※サブタイトルは変更する可能性があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

言い忘れていましたが、最近、シークエンス表記を台詞から《》の中に入れるスタイルに戻しました。色々と試す期間にしてるつもりでしたが、なにぶん後者の方が使いやすかったです。

すごくくだらないことではありますが、【エニーズ】を英語表記にして、逆さまから読むと………

【エニーズ】

【ANYS】

【SYNA】

【椎名】

となります。少し無理矢理な気もしますが(笑)

【攻流異(こう るい)】は並べ替えると【いこうる】となります。このネタは前作、オメガワールドを読んでいただければわかります。

因みに、椎名はアーマゲモンと対峙するのは2度目です。


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第72話「その名はクリムゾンモード!!真なる深い紅!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーマゲモンの巨大な大顎によって、司の最後のライフが粉々に噛み砕かれる。司はあまりのダメージの前に力尽き、膝から崩れ落ちるように倒れてしまう。

 

 

「司……司ッ!!!」

 

 

その場にいた椎名は思わず司の方へと走り出した。観客席にいた真夏、雅治、夜宵、六月も高さ5メートル程の壁がある観客席から会場まで飛び降りる。

 

その中でも特に夜宵は心配そうな表情をしており………

 

 

「司ちゃんッ!!司ちゃんッ!!」

 

 

夜宵は司の頭を抱えて声をかける。微かだが意識がある司は、夜宵の方は見向きもせず、何もできず佇んでいた椎名の方へとゆっくり顔を向け………

 

 

「……め、めざし………俺に負けさせたんだ………必ず勝ちやがれ……じゃねぇと俺はお前を絶対許さねぇぇっ!!」

「ッ!!」

 

 

その声色は弱々しくも猛々しく、

 

司はその言葉を最後に気を失った。

 

彼にとって、どれだけ辛かっただろうか。どれだけバトラーとして恥をかいただろうか。ライバルとの劣等感に悩み、悪人に揺さぶりをかけられ、それを耐えたかと思ったら、今度はそのライバルに負けろとでも言われたかのような命令。

 

………辛かった。

 

そんな司の気持ちを僅かながらでも理解したのか、椎名は本当の意味で決心を固め………

 

 

「……じっちゃん……みんな連れて逃げてよ………私は流異君を助ける」

「ッ!?何言っとるんじゃ椎名ッ!!暗利の…Dr.Aの狙いはお前なんじゃよッ!?」

「………知ってる……銃魔から大体聞いたから……」

「ッ!?……銃魔!?あやつか!!」

 

 

六月はその椎名の言葉で、銃魔が暗利、Dr.Aと密接な関わりがあることを悟った。そして同時に、銃魔が【あの時】の少年であったことも理解してしまう。

 

 

「………じっちゃん。私さ、自分が【鬼】だとか、Dr.Aに造られたとか、………どうでもいい」

「ッ!?」

「私は私だ………まぁ、後で昔話はしてほしいかな………」

「し、椎名………」

 

 

銃魔との激しい戦いの中で、全てをしってしまった椎名。

 

普通は、どれだけ苦しいことだろうか。自分が本物の鬼の力があると知り、悪の科学者によって造られたと知り………散々なはずだ。

 

だが、六月の育て方もあったのだろうか、椎名はその点について全く苦にはしていなかった。いや、少なくとも若干はあるかもしれない。が、直感的にわかる。これまでの六月が自分に注いだ愛情は嘘ではない。それは確かだ。

 

椎名はそれを知ってるからこそ、前を向いて戦える。

 

 

「………ヌフフフフ、六月ぅ!!どちらにせよお前が邪魔をするならこのスピリットアイランドの人々は実体化したスピリットに抹殺されることになるッ!!そして逃しもしない!!……バトルはエニーズにやらせろッ!!」

「ッ!!……暗利……!!」

「もちろん君達もだ!!エニーズのバトルの邪魔はさせないッ!!」

 

 

Dr.Aが反対側の場から話しかけてくる。そう、今のこの状況は彼の言う通りにするしかない。彼が固唾を飲んで見守れと言ったらそれしかできないのだ。

 

何せ、2万人を超える人々の命がかかっているのだから………

 

 

「あなたがDr.Aか、顔の火傷が酷いね……」

「ヌフフフフ、エニーズよ、実の父に向かってそのような口を聞くかねぇ……」

「なぁにが実の父だッ!!私にお父さんもお母さんもいないよ!!いるのはじっちゃんやハウスの兄弟、シスター、あと、暖かい仲間達だッ!!」

 

 

初めてDr.Aと交わした言葉。Dr.Aは椎名に火傷の事を罵られるも、彼女と言葉を交えられた事が嬉しかったのか、怒ることはせず、寧ろ笑ってみせた。

 

椎名も椎名で巨悪を前に口角を上げながら強気にそう言い放った。

 

 

「椎名ッ!!」

「あんた、戦えるんか………!?」

「大丈夫だよ、今の私!!結構無敵だから!!」

 

 

心配する仲間たちを前に、椎名は大きく笑ってみせた。いつものように。今まではこの顔だけで安心できた。今までの椎名だったら………

 

しかし、彼女の素性を知った今では、もはやそれは気丈に振る舞っているようにしか見えない。

 

そして椎名は司の代わりにバトル場へと立ち、Dr.Aの言いなりに洗脳されてしまった流異と対峙する。

 

 

「やぁ!!流異君ッ!!よかったね!!私とバトルできるじゃん!!」

「………」

 

 

流異という少年は、椎名と同じカッコいいカードバトラーになるのが夢だった。そんな彼が椎名とバトルできるとなれば、普通は諸手を上げて大いに喜ぶはずだ。

 

しかし、Dr.Aに洗脳され、本当の意識のない今、そんな感情が沸いてで来るわけもなく………

 

 

「あらあら、これは酷い教育を受けたみたいだね………でも大丈夫!!私が必ず元に戻すッ!!」

「……芽座椎名………赤羽司同様、排除する」

 

 

2人は勢いよくBパッドを展開、バトルの準備を行う。

 

……そして、真夏達や六月が固唾を飲んで見届ける中、スピリットアイランド編ラストとなるバトルが今、幕を開ける。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まる。

 

先行は椎名。

 

 

[ターン1]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップッ!!ネクサスカード、ディアークを配置して、ターンエンドッ!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

【ディアーク】LV1

 

バースト【無】

 

 

椎名が初手で行ったことはネクサスの配置。腰に手のひらサイズの機械を装着し、そのターンをエンドとした。次は洗脳されている流異のターン。

 

 

[ターン02]流異

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップッ!!クラモンを2体召喚!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

流異が召喚したのはクラゲのような幼年期スピリット、クラモン。その効果はデジタルスピリットだけでなく、バトルスピリッツというゲームにおいても異端な効果を有しており……

 

 

「椎名気をつけぇ!!そいつはデッキに何枚でも入るやばい奴や!!」

「!!」

 

 

真夏が椎名にアドバイスするようにそう強く言った。椎名が流異の使用するクラモンやアーマゲモンの効果を知らない。銃魔からは彼らが破壊されると流異にダメージが入ることしか知らされていないからだ。

 

椎名は真夏の助言を耳に受け、バトルに改めて臨む。

 

 

「アタックステップッ!!クラモン1体でアタックッ!!」

 

「ライフで受けるッ!!……ぐうっ!!」

ライフ5⇨4

 

 

クラモン1体が宙をふよふよと飛び交い、椎名のライフへと体当たりする。意外にも力はあったのか、椎名のライフはそれだけで1つ破壊されてしまう。

 

 

「……ターンエンド」

【クラモン】LV1(1)BP1000(回復)

【クラモン】LV1(1)BP1000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

クラモンの効果を考慮してか、1体をブロッカーに残し、ターンを終えた流異。

 

次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップッ!!バーストをセット!!さらにネクサスカード、デジヴァイスを配置し、真紅の魔竜、その最初の姿!!ギルモンをLV2で召喚ッ!!召喚時効果発揮!!」

手札5⇨2

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨4

オープンカード↓

【ライドラモン】×

【マグナモン】×

【ストロングドロー】×

【グラウモン】◯

【レッドカード】×

 

 

バーストを伏せると同時に、椎名は新たなサポートアイテム、デジヴァイスを腰に装着し、真紅の魔竜、その成長期の姿、ギルモンを召喚。そしてその召喚時効果も成功、椎名は新たにグラウモンのカードを手札へと加える。

 

 

「さらにディーアークの効果でドローし、アタックステップッ!!その開始時にデジヴァイスの効果で自身を疲労させ、ドロー!!さらにギルモンの【進化:赤】発揮!!来いッ!!グラウモンッ!!」

手札2⇨5

【デジヴァイス】(回復⇨疲労)

【グラウモン】LV2(2)BP6000

 

 

ギルモンが0と1のデジタルコードに巻き付けられる。ギルモンはその中で姿を大きく進化させる。そのコードはギルモンの進化に合わせ、膨らみ、やがて破裂。中から新たに真紅の魔竜、成熟期のスピリット、グラウモンが現れた。

 

 

「アタックステップ続行ッ!!行け!!グラウモンッ!!アタック時効果で回復状態のクラモンを1体破壊!!魔炎のエキゾーストフレイムッ!!」

 

 

グラウモンの口内から放たれる一直線の炎。それは一瞬にして流異のクラモンを1体焼失させた。

 

だが、ここからがクラモンの本領発揮であって………

 

 

「ぐっ!!……クラモンの破壊時、カードを1枚オープンし、それがクラモンなら召喚できる……カード、オープン!」

オープンカード↓

【クラモン】◯

 

「………!!」

 

「効果は成功、クラモンを再召喚する!!」

リザーブ1⇨0

【クラモン】LV1(1)BP1000

 

 

炎の後の爆煙からひょっこりと現れたのは破壊したばかりのクラモン。しかし、それは破壊した方ではなく、そのコピー体。

 

椎名はこの時点でクラモンがどれだけ厄介な存在か理解した。司が苦しむわけだ。デッキの大半がクラモンなら確かに厄介極まりない。

 

 

「アタックはライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

グラウモンの膝にある鋭利な外骨格が流異のライフを1つ引き裂く。クラモンで受けても正解ではあったが、ここはやはりコアの増加を優先したか、

 

 

「………ターンエンド」

【グラウモン】LV2(2)BP6000(疲労)

 

【デジヴァイス】LV1(疲労)

【ディーアーク】LV1

 

バースト【有】

 

 

クラモンのその異端な効果を頭の中で整理しながらもそのターンのエンドを宣言した椎名。次は流異のターン。このターンからが勝負か………

 

 

[ターン04]流異

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

【クラモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、僕は追加でクラモンを2体召喚」

手札4⇨2

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨2

 

 

流異はさらにクラモンを増やす。これで計4体のクラモンがこの場に揃った。

 

 

「アタックステップッ!!クラモン1体目でアタックッ!」

 

「ッ!!……ライフだ!!……ぐわっ!!」

ライフ4⇨3

 

 

クラモンの体当たりがまた椎名のライフを1つ破壊する。このターン、このようなアタックが全て、可能な限り通って仕舞えば、椎名の負けだ。

 

……だが、

 

 

「負けて、負ケテタマルカかぁぁぁぁ!!バースト発動!!マリンエンジェモン!!」

「……!!」

 

 

その純粋な性格を表していた瞳は真紅に染まり、牙が生え、アホ毛が本物のツノと化す。椎名はまた鬼化してしまう。だが、今回は最初から理性を保っている。

 

その証拠なのか、ほとんどしっかりとしたイントネーションで言葉を話すようになっている。

 

 

「効果ニヨり召喚し、このターン、私のライフはコスト9以下のスピリットノアタックでは減らないッ!!……サラにディーアークの効果でドロー!!」

手札5⇨6

リザーブ1⇨0

【マリンエンジェモン】LV1(1)BP3000

 

 

椎名のバーストが勢い良く反転すると共に現れたのは青属性の究極体スピリット、ピンクの体色を持つマリンエンジェモン。

 

マリンエンジェモンは登場するなり、小さな口から美しい歌声を奏で、椎名のライフの周りに水のバリアを展開させる。

 

これで少なくともこのターンは椎名のライフがクラモンによって破壊されることはない。

 

 

「……ターンエンド」

【クラモン】LV1(1)BP1000(回復)

【クラモン】LV1(1)BP1000(回復)

【クラモン】LV1(1)BP1000(回復)

【クラモン】LV1(1)BP1000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

「ま、また鬼に………」

「椎名………」

 

 

仲間達は椎名のこの姿にどれだけ驚き、同情した事だろうか。それを使わざるを得ない相手ではあるが、それでもやはり友が命懸けで何かをしようとしているのを濛々と見ることしかできないのが、嫌で仕方なかった。

 

……特に長嶺雅治は……

 

 

「ほお、さっきより鬼化を使いこなしている………思った以上に早いですね〜〜〜………ヌフフフフ!!」

 

 

椎名の鬼化を見て、その覚醒の時が思った以上に早いことを知り、喜びを隠せないDr.A。

 

そして次はそんな椎名のターン。鬼化の影響なのか、デッキが真紅に光輝き始める。

 

 

[ターン05]椎名〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

【グラウモン】(疲労⇨回復)

【デジヴァイス】(疲労⇨回復)

 

 

椎名がこのターンのドローステップでドローしたカードは他でもない、あの地獄の魔竜だ。

 

しかし、まだ出すべきではないと見たか、椎名は一旦そのカードを手札へとしまい………

 

 

「メインステップ!!ディーアークのLVを2にアップさせ、効果!!【カードスラッシュ】を発揮!!手札のブイモン、ワームモン、エクスブイモン、スティングモンのカードを破棄して、4体のクラモンを破壊ッ!!」

リザーブ5⇨3

手札7⇨3

破棄カード↓

【ブイモン】

【ワームモン】

【エクスブイモン】

【スティングモン】

 

「………!!」

 

 

椎名の背後から青と緑の光弾が放たれる。それは一直線にクラモンの方へと伸びていき、それらに直撃。4体のクラモンは全て爆発し、破壊された。

 

だが、それは同時にその効果を4度使えるということでもあって………

 

 

「ぐっ、ぐぅ!!………クラモンの破壊時効果、カードを4枚オープン」

オープンカード↓

【クラモン】◯

【クラモン】◯

【クラモン】◯

【アーマゲモン】◯

 

 

効果はほとんど成功。アーマゲモンのカードのみ、手札へと新たに加わるが、引き続き3体のクラモンがこの場へと飛び出してきた。

 

 

「無駄だよ、クラモンの前ではね………」

 

「だったらデッキが切れるまで破壊してやるだけだッ!!今度はパイルドラモンのカードを破棄、もう一度クラモンを破壊ッ!!……デスペラードブラスター!!」

手札3⇨2

破棄カード↓

【パイルドラモン】

 

 

椎名はまたディーアークの【カードスラッシュ】の効果で、今度はパイルドラモンのカードを破棄。パイルドラモンが現れ、腰に備え付けられた機関銃を連射。クラモンを1体のみ撃ち抜いてみせた。

 

 

「ッ!!……クラモンの効果」

オープンカード↓

【クラモン】◯

 

 

またもや効果が発揮。流異の場には3体のクラモンが再び並んだ。

 

擬似的に死ぬことがほとんどないクラモン。

 

しかし、それを目の前にしてもまだ椎名挫けず、それでいて全く勢いを殺さず………

 

 

「ギルモンを再召喚!!カードをオープンッ!!」

手札2⇨1

リザーブ3⇨0

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【メガログラウモン】◯

【ディーアーク】×

【デジヴァイス】×

【ディーアーク】×

【マリンエンジェモン】×

 

 

【進化】の効果で手札に戻っていたギルモンが今一度椎名の場へと現れる。そしてその召喚時効果も成功、椎名は新たにメガログラウモンのカードを加えた。

 

 

「さらにディーアークの効果でドロー、ディーアークのLVをダウン、グラウモンのコアを追加し、ブレイヴカード、ズバモンを召喚ッ!!グラウモンと合体!!」

手札1⇨2

【ディーアーク】(2⇨1)LV2⇨1

【グラウモン】(2⇨3)

トラッシュ2⇨3

【グラウモン+ズバモン】LV2(3)BP9000

 

 

椎名は黄金の鎧纏うデジタルブレイヴ、ズバモンを召喚。グラウモンと合体させる。グラウモンはそのズバモンと混ざり合い、その身に黄金の鎧を纏った。

 

 

「バーストをセットして、アタックステップッ!!その開始時にデジヴァイスを疲労させて1枚ドロー!!……グラウモンでアタックッ!!効果でクラモンを1体破壊!!」

手札2⇨1⇨2

【デジヴァイス】(回復⇨疲労)

 

 

アタックを仕掛ける椎名。グラウモンが動き出し、再びエキゾーストフレイムで流異の場のクラモンを1体破壊した。

 

 

「……ッ!!…クラモンの破壊時」

オープンカード↓

【クラモン】◯

 

 

しかし、クラモンの破壊時効果は成功。クラモンの数は3体でキープされる。

 

 

「まだだ!!【超進化:赤】発揮!!真紅の魔竜完全体の姿、メガログラウモンを召喚!!合体されているズバモンの効果で分離せずにそのままメガログラウモンと合体!!」

【メガログラウモン+ズバモン】LV2(3)BP12000

 

 

グラウモンが0と1のデジタルコードに巻き付けられ進化する。新たに現れるのはメガログラウモン。ズバモンとの合体により、その上半身の武装は黄金に光輝いている。

 

 

「アタックステップは継続!!メガログラウモンでアタック!!効果で2枚ドローする、そしてシンボル1つのスピリット1体を破壊!!クラモンを破壊する……原子の咆哮……アトミックブラスター!!」

手札2⇨4

 

 

肩部の武装から凝縮されたエネルギーの一閃を放つメガログラウモン。それは一瞬にして流異のクラモン1体を消し炭にした。

 

 

「………クラモンの効果」

オープンカード↓

【クラモン】◯

 

 

だが、またクラモンは復活する。これだけ破壊しても失敗したのは1回だけ、合計で3体のクラモンが流異の場で浮遊している。

 

 

「アタックは継続中!!メガログラウモンッ!!」

 

 

走り出すメガログラウモン。目指すは流異のライフだが、そこにたどり着く前に、流異は手札から2枚のカードを引き抜く。それはまさしく絶望の象徴とも取れるカードであって………

 

 

「フラッシュ!!【アーマゲモン】の効果を発揮!!……そしてさらにもう1枚!!」

「ッ!?何!?」

 

 

一気に発揮される2枚のアーマゲモン。アーマゲモンの効果自体を知らない椎名にとっては驚きの一言であって、

 

 

「トラッシュにあるクラモンを8枚全て手札に戻し、コストをそれぞれマイナス12!!0コストで召喚する!!……魔界の竜神よ!!今こそ世界の理を覆せ!!アーマゲモンッ!!」

リザーブ2⇨0

【アーマゲモン】LV1(1)BP13000

【アーマゲモン】LV1(1)BP13000

 

 

次から次へと増殖と分裂を繰り返していくクラモン。それらは結集し、巨大な姿へと変貌を遂げる。

 

新たに現れたのは司を倒した黒い竜神、アーマゲモン。蜘蛛のような体格、頭部が竜のような見た目も存在も異端なスピリット。それが2体だ。それらが上がる大きな咆哮はまるでこの世の終わりを告げるかのよう………

 

 

「う、嘘やろ!?」

「……一気に……2体!?……椎名……」

 

 

仲間達は心配そうにそう呟く。

 

 

「……ア、アーマゲモン……こうして間近で見ると……どこかで一度会ったような……」

 

 

椎名はそんなことを思っていた。あのアーマゲモン。昔、一度だけ会ったような、そんな感じ。

 

だが、それは椎名の物語が始まるきっかけになったエピソードであって、椎名の物語ではない。それは椎名ではなく、一木花火のエピソードだ。

 

 

「何をブツブツと……アーマゲモンの効果!!召喚時とアタック時、シンボル2つ以上のスピリット1体を破壊!!」

「ッ!?」

「メガログラウモンを破壊しろ!!……漆黒の豪雨……ブラックレイン!!」

 

 

しのごのと考えている時間はなさそうだ。

 

アーマゲモンの背部から黒い塊が上空へ放たれ、それが破裂しミサイルを次から次へと雨のように降らしていく。メガログラウモンがそれを避けられるわけもなく、ほぼ全弾直撃、爆発してしまった。

 

その爆発に乗じてズバモンがメガログラウモンから抜け出し脱出した。

 

 

「ぐっ!!……でも、召喚時のバーストはもらった!!」

「ッ!?」

「バースト発動!!【メギドラモン】!!効果により…………クラモンを3体破壊!!この時!!相手は破壊時効果を使えない!!……地獄の咆哮……ヘルハウリング!!」

 

 

椎名のバーストカードが勢いよく反転する。そしてそれと同時に地中から大きな咆哮がこだまし、流異の場のクラモン達を振動だけで破裂させた。

 

しかもこの効果により破壊時効果は使用できないため、クラモンが増えることはないのだ。

 

 

「そしてその後召喚するッ!!真紅を超えた地獄の魔竜!!閻魔の叫びと共に今翔け上がれ!!……究極体!!メギドラモンをLV2で召喚!!不足コストはズバモンのコアから全て確保!!」

【ズバモン】(3⇨0)消滅

【メギドラモン】LV2(3)BP11000

 

 

消滅してしまうズバモン。しかし、地中から地響きと共に真紅を超えた地獄の魔竜が姿を見せる。その名はメギドラモン。椎名が2度目のオーバーエヴォリューションで得た新たな切り札。

 

 

「し、椎名の奴、あんなカード持っとったか?」

「………いや、無いと思う……」

「多分デッキを進化させたんじゃ……鬼の力はオーバーエヴォリューションを繰り返せる……」

 

 

椎名が出したスピリットに違和感を感じる真夏達、それを六月が説明する。しかし、その声色に力は入っていない。メギドラモンのカードは椎名の鬼化が繰り返されてきた何よりの証拠であると言えるからだ。

 

 

「………ターンエンド」

【ギルモン】LV1(1)BP3000(回復)

【マリンエンジェモン】LV1(1)BP3000(回復)

【メギドラモン】LV2(3)BP11000(回復)

 

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

結果的にクラモンの一時的な破壊はできたものの、2体の強力なアーマゲモンを残してしまったこのターン、いくらメギドラモンと言えどもこの盤面は突破できない。

 

どちらにせよアーマゲモンを破壊すれば流異は即死しかねないダメージが入るため、破壊はできないのだが………

 

次はそんなアーマゲモンを2体召喚した流異のターン。

 

 

[ターン06]流異

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札9⇨10

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨6

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ、僕はクラモンを3体連続召喚!!」

手札10⇨7

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

流異の場にクラモンが復活する。それも一気に3体。

 

 

「アタックステップ………アーマゲモン1体目でアタック!!」

 

 

蜘蛛のような脚を巧みに生かし、走り出す。目指すは当然椎名のライフ。クラモンのアタックは効果の都合上、ライフで受けるしか無い。逆に言って仕舞えばこのアーマゲモンのアタックはスピリットでブロックするしかない。

 

 

「………頼む、マリンエンジェモン」

 

 

マリンエンジェモンは果敢にアーマゲモンへと立ち向かう。しかし、敵うはずがなく、あっさりと踏み潰され、破壊されてしまう。

 

 

「次、2体目でアタック………」

「ッ!!………メギドラモンッ!!」

 

 

奇声のような轟音のような、はたまたどちらでもないような大きな咆哮を上げながら2体目のアーマゲモンが走り出した。

 

それに立ち向かうメギドラモン。口内から獄炎の炎を放ち、迎撃するが、サイズに差がありすぎるのか、全く通じない。

 

次は接近戦で挑むメギドラモン。鋭い鉤爪を立ててアーマゲモンに飛びかかるが、アーマゲモンは頭部だけでそれを弾き飛ばしてしまう。

 

そして地面に倒れたメギドラモンに向けてアーマゲモンは口内から凝縮されたエネルギー弾を放つ。メギドラモンは直撃し、破壊され、大爆発を起こした。

 

 

「くっ!!メギドラモンッ!!」

「次だ……1体目のクラモンでアタック……」

「くそっ!!次はギルモンでブロックだ!!」

 

 

クラモンのアタックが始まる。椎名はこのアタックを回避すべく成長期スピリットのギルモンでブロックする。その理由は手札にあり………

 

 

「フラッシュ!!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はギルモン!!……1コスト支払い、召喚する!!」

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨4

【フレイドラモン】LV2(3)BP9000

 

 

ギルモンとクラモンが交戦する直後、ギルモンの体がデジタルレベルに分解される。そしてそれは椎名の手札へと帰還し、椎名の手札から新たなスピリット、炎燃ゆるアーマー体スピリット、フレイドラモンが召喚された。

 

ギルモンのフラッシュ中のバトルエスケープにより、アタックしていたクラモンのアタックは強制的に終了した。これで1体分の効果発揮は阻止されたことになる。

 

 

「フレイドラモンの召喚時!!アタックしていないクラモン1体を破壊!!……爆炎の拳……ナックルファイアァァァア!!」

手札4⇨5

 

 

登場するなり、放たれるフレイドラモンの熱き炎の拳。それはアタックしていないクラモン1体を焼き尽くした。

 

 

「……クラモンの効果………」

オープンカード↓

【クラモン】◯

 

 

しかし、また破壊時で復活するクラモン。結果的に総数は変わらない。

 

 

「2体目でアタック」

 

「ぐっ、それはライフだ………うわぁっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

2体目のクラモンの体当たりが炸裂し、また椎名のライフを砕いた。

 

 

「………ターンエンド」

【クラモン】LV1(1)BP1000(疲労)

【クラモン】LV1(1)BP1000(疲労)

【クラモン】LV1(1)BP1000(回復)

【アーマゲモン】LV1(1)BP13000(疲労)

【アーマゲモン】LV1(1)BP13000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

ここではクラモン1体をブロッカーとして残した方が得策とみたか、洗脳されて意識のない流異はそのターンをエンドとした。

 

次は椎名のターン。すでにほぼ満身創痍となった盤面。フレイドラモンだけではどうしようもない状況。しかし、椎名は依然として諦めてはいなくて………

 

 

「ハァッ、ハァッ、……イ、今がチャンスだ、アーマゲモンが疲労した……今が……」

 

 

[ターン07]椎名〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップッ!!バーストをセット!!……そして行くぞッ!!【煌臨】発揮!!対象はフレイドラモンッ!!」

手札6⇨4

リザーブ7s⇨6

トラッシュ0⇨1s

 

 

今こそ真打登場。

 

そう言わんばかりに椎名は煌臨の宣言を行う。

 

フレイドラモンが赤い光に包まれ真なる聖騎士に姿を変え行く………

 

 

「………来いッ!!デュークモンッ!!」

【デュークモン】LV2(3)BP14000

 

 

新たに現れたのは伝説のロイヤルナイツの1体、真紅の聖騎士の名を持つ究極体のデジタルスピリット、デュークモン。

 

 

「ディーアークの効果でドロー!!」

手札4⇨5

 

「……ヌフフフフ……デュークモン……久しいね〜〜〜」

 

 

デュークモンの姿を見て、Dr.Aはまた不気味に、そして不敵に笑う。過去にデュークモンのカードと何かがあったのだろうか。

 

 

「アタックステップだッ!!行くぞデュークモン!!」

 

 

アタックステップへと移行し、デュークモンでアタックを仕掛ける椎名。そしてこの瞬間にデュークモンには発揮できる効果があり………

 

 

「アタック時効果でシンボル2つ以下のスピリット1体を破壊!!回復状態のクラモンを1体破壊する!!聖槍の一撃!!ロイヤルセェェバァァァア!!」

 

 

デュークモンの槍から放たれる聖なる一撃。それは一瞬にして流異の唯一のブロッカーであったクラモン1体を貫いた。

 

そしてこれもまた破壊時の効果を遮断する力がある。そのため、クラモンが復活することはない。

 

 

「さらにもう1つの効果!!トラッシュにある【メギドラモン】を手札に戻し、ターンに1回だけ回復する!!……ネクスト・イストリア!!」

手札5⇨6

【デュークモン】(疲労⇨回復)

 

 

一瞬だけ真紅の光を発し、回復状態となるデュークモン。これでこのターン、2度目のアタック権利を得た。

 

しかし、勢いが良かったのはそこまで………

 

本来の意識がない流異はこれを止めるべく、手札からさらにカードを引き抜いた。それは誰もが驚愕する一手であって………

 

 

「フラッシュ!!3枚目のアーマゲモンの効果を発揮!!」

「何!?3枚目!?」

 

「トラッシュにある4枚のクラモンを回収してコスト0で召喚!!そのLVは2!!」

手札7⇨11

【クラモン】(1⇨0)消滅

【クラモン】(1⇨0)消滅

【アーマゲモン】LV2(3)BP16000

 

 

再び無数のクラモンが密集していく。それは大きな力へと昇華する。

 

新たに現れたのは3体目のアーマゲモン。3体目と呼応するように咆哮を上げる1、2体目のアーマゲモン。その様子はまるで今すぐに世界を滅ぼさんとしているかのよう………

 

 

「くっ!!相手の効果によって手札が増えた時、バースト発動!!グリードサンダー!!手札を全て破棄させ、新たに2枚ドローさせる!!」

 

「………」

手札11⇨0⇨2

破棄カード↓

【クラモン】

【クラモン】

【クラモン】

【クラモン】

【クラモン】

【クラモン】

【クラモン】

【クラモン】

【クラモン】

【クラモン】

【クラモン】

 

 

椎名のバーストが反転する。

 

青い光に包まれ、流異の手札は全て破棄され、その後のドローを含めてもその総数は大幅に減少した。

 

だが、その効果の流れが終わった直後だ。3体目のアーマゲモンが動き出し…………

 

 

「ッ!?」

 

 

3体目のアーマゲモンは身体中から触手を伸ばし、プレイヤーである流異を捕らえる。洗脳されていて意識がない流異は何も言わずに捕まり、3体目のアーマゲモンの中に取り込まれた。

 

 

「ッ!?……流異ッ!!流異ぃぃぃい!!!」

 

 

流異の父親である宗二は流異の名を呼ぶ。アーマゲモンに返せと言わんばかりに。しかし、それだけで当然流異が出てくるわけがなく………

 

これは通常のバトル。アーマゲモンは実体化はしていない。しかし、確かにそれは流異の体を触り、自身の体内へと取り入れた。

 

いったい何が起こっているというのか………

 

 

「ヌフフフフ、進化の力がとうとう暴走し始めたぁ!!これだぁ!!これも楽しみにしてたんですよね〜〜!!」

 

 

これを見たDr.Aは急に無邪気な喜びに満ちた表情を見せる。

 

 

「暗利ぃい!!お前何か知っとるのかぁ!!」

「ヌフフフフ、アーマゲモンは流異君を取り込んで自分から進化を超えようとしている………このまま放っておけば、間違いなくアーマゲモン達は世界を破壊し尽くすでしょう!!」

「ッ!!!」

 

 

アーマゲモンは流異の進化の力を使い、世界を滅ぼそうとしている。言うなれば、【進化し過ぎた】と言えば分かりやすいか……Dr.Aはこうなることを知っていたのだろうか……そのことを説明しても未だに笑みを浮かべている。

 

………止める手段はただ1つ。ここでアーマゲモンを倒すしかない。だが、そうすれば流異の命は………

 

 

「うぉぉお!!流異君を返せぇぇえ!!!」

 

 

椎名の叫びと共に槍を構え、突進するデュークモン。スピードで翻弄しようするも、アーマゲモンの口内から放たれるエネルギー弾で簡単には近づけない。

 

しかし、それでもなんとか一瞬の隙を見て、デュークモンはアーマゲモンの眼前まで接近する。そのまま右手の槍をアーマゲモンの鼻先に突き刺す。だが、それだけでは流石に倒れないか、アーマゲモンはデュークモンごと振り回す。

 

デュークモンはその状態のまま、なんとか姿勢を保ち、盾から光のビームをアーマゲモンの開いた口内へと放つ。

 

これで決まったかと思いきや………

 

……それは暗い腹の中を僅かながらに光らせたのみにとどまり、アーマゲモン本体には全く通じず………

 

……そして仕返しと言わんばかりにアーマゲモンは口内から凝縮されたエネルギー弾を改めてデュークモンに至近距離で直撃させる。

 

デュークモンはあまりの威力に、吹き飛ばされる………

 

 

「デュークモンッ!!……うわぁっ!!!」

 

 

凄まじい爆風に、もっとも近くにいた椎名は巻き込まれる。

 

爆煙と爆風が完全に過ぎ去る時、仲間達の目の前にあったのは顔から倒れる椎名と、片足をつきながら、機能停止してしまったデュークモン。その白い鎧は亀裂が生じ、マントもボロボロである。

 

 

「………椎名ぁぁあ!!」

 

 

そう叫んだのは親友、真夏。

 

 

「椎名………くっ!!暗利!!もうやめろこんなバトル!!即刻中止にしろ!!」

「嫌だよ六月。私は今日この日を楽しみに待ち望んでいたんだ。………エニーズ、立て!!立つんだ!!今こそ覚醒しろぉ!!」

 

 

そう叫ぶDr.A。しかし、椎名はうんともすんとも言わず、立ち上がらない。

 

Dr.Aはその様子を見て、苛立ちを覚え………

 

 

「くっ!!……何故だぁ!!お前も所詮は失敗作だったとでも言うのですか!?」

「死んではならん!!椎名ぁ!!気を強く持てぇ!!」

 

 

倒れる椎名に叫ぶ仲間達。それでも椎名は立ち上がらない。

 

六月は育ての親としてどれだけ心が苦しかっただろうか。仲間達は自分の力不足さにどれだけ嫌気がさしただろうか。

 

その叫びにはその一言では表しきれない内容がふんだんに含まれており…………

 

 

 

******

 

 

「ここは………どこ?」

 

 

 

気を失った椎名は知らずのうちに不思議な空間にいた。そこは肌冷たくて、温かいものが閉ざされた世界だった。

 

ここは椎名の心の中、気を失った事で来てしまったのか………

 

 

「あ、そうか………負けるんだ……私………流異君も救えずに………何もできず、負ける………」

 

 

椎名は静かにそう呟いた。

 

負ける。デュークモンは破壊され、司との約束も守れず、流異を助けることも叶わず………敗北する。

 

もはや決定事項だ。

 

しかし、その時、椎名の目の前に何かが現れる。

 

それはとても紅くて、温かいもの………それは耳覚えのあるガラガラで無邪気な声色で椎名の名を呼ぶ。

 

 

「し〜〜な〜〜!!」

「?」

 

 

現れたのはギルモン。真紅の魔竜、成長期の姿だ。

 

……最初

 

最初に真紅の魔竜達やデュークモンと出会った時も、こうやって椎名の心の中にギルモンは現れた。それがいったいどう関係してくるのかは定かではないが、少なくとも今もこうやってギルモンは確かに椎名の目の前に存在している。

 

 

「ギルモン?」

「そうそう!!ギルモン〜〜!!久しぶり〜〜〜!!」

 

 

言葉に熱が入らない椎名。逆に熱が強く篭るギルモン。温度差が激しい会話である。

 

改めてギルモンが椎名の目の前に現れた理由はただ1つ。

 

 

「椎名!!諦めたらダメだッ!!あの子を助けなきゃ!!」

「無理だよ………鬼の力でもアーマゲモンには勝てない………」

「大丈夫!!前にも言ったでしょ!!僕達が君を守る!!君だけで戦うわけじゃない!!僕達、真紅の魔竜とデュークモンを信じて!!」

「真紅の魔竜とデュークモンを?」

「そう!!今こそ僕達の力をデュークモンに!!」

 

 

ギルモンがそう叫んだ途端。椎名の冷たい精神世界の温度が急上昇、そして空間に亀裂が生じて崩壊していく。それと同時に椎名は心の中の熱を徐々に徐々にと取り戻していき………

 

 

「そうだ!!……私はいつだって、どんな時だって………」

 

 

 

 

 

 

そして新たな姿で目覚める………

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

「最後の最後の最後までッ!!………諦めないのが!!私のバトルスピリッツだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!」

「「「「!!」」」」

「おぉ!!エニーズッ!!」

 

 

息を吹き返し、再び立ち上がる椎名。

 

しかし、その様子は今までとは一風変わっており、鬼の姿ではあるものの、右頬にギルモンやデュークモンに見られる独特のマークが刻まれている。

 

それはまさにDr.Aが言う【覚醒】を意味しており………

 

 

「うぉぉお!!」

 

 

椎名は力を入れる。すると、手札にあった【メギドラモン】のカードの絵柄やテキストに亀裂が生じ、剥がれ落ちていく………

 

……カードが、書き換わっていくのだ。椎名の持つ鬼の力。繰り返す【オーバーエヴォリューション】によって………

 

……それは世界をも変換させるほどの力だ。

 

そして椎名は書き換わったそれを使用する。ギルモンを信じて、デュークモンを信じて………

 

流異を救うために…………

 

 

「フラッシュ!!【チェンジ】発揮!!対象はデュークモンッ!!」

リザーブ6⇨1

トラッシュ1s⇨6s

 

 

「ッ!!椎名が【チェンジ】!?」

 

 

椎名が新たに生んだのは、この世界においては本来、仮面スピリットという特別なスピリットのみが使える【チェンジ】の効果。

 

そしてその【チェンジ】の効果なのか、椎名の背後から真紅のエネルギー体で固められた龍が出現する。それはうねるように上空を舞い、バトル中でない2体のアーマゲモンを貫き、焼き尽くしていく。

 

そしてアーマゲモンが破壊されているにもかかわらず、不思議と流異にはダメージがなく………

 

 

「ッ!!……なるほど〜〜進化の力で進化の力を瞬時に相殺させているのか、流異君にダメージが入らないわけだ」

 

 

Dr.Aは瞬時にその理由を解き明かす。やはり椎名が今使っているカードは特別なのか、進化の力を相殺など普通では考えられない。

 

そしてこの効果発揮後は【チェンジ】の効果の通り、対象スピリットとの入れ替えだ。

 

真紅の龍はアーマゲモンを焼き尽くした直後、瀕死のデュークモンへと飛び立ち、衝突する。しかし、アーマゲモンと違い、破壊されることはなく、

 

……それは機能停止に陥っていたデュークモンに新たに力を与える。デュークモンは今一度眼光を輝かせ立ち上がる。

 

 

「聖なる騎士よ!!今こそ真なる深い紅を纏い、邪悪なる者皆照らし破れッ!!」

 

 

その口上と共に、デュークモンは炎の中で姿を変えていく。槍と盾が消失するが、その身は真紅に染まり、さらにそれ以上に赤い鎧が装着されていく。そして、背には赤いマントの代わりに純白な白い10枚の羽が生えていき………

 

 

「………デュークモンッ!!モードチェンジッ!!……クリムゾンモードッ!!」

【デュークモン クリムゾンモード】LV2(3)BP18000

 

 

その炎を解き放ち、新たに現れたのは、真紅を超えた深紅。進化を超えた聖騎士、デュークモン クリムゾンモード。

 

芽座椎名の最強にして無敵のエーススピリットの爆誕である。

 

 

「……デュークモンが進化した………」

「ヌフフフフ、ギヒヒヒヒヒイッ!!!!エニーズッ!!それだ!!その力が欲しかったのだ!!!」

 

 

デュークモンが進化した。その言葉を口にしたのは真夏だった。

 

そしてDr.Aはその進化したデュークモンの姿を見て、また不敵に笑いだす。

 

そうだ。これが見たかったのだ。このスピリットの戦闘データさえ取ることができれば、世界は進化する。自分の思いのままに………

 

この時点で自分の野望は最終段階へと移行できる。そう思っただけで笑いが止まらないのだ。

 

 

「……神剣 ブルトガングッ!!」

 

 

椎名がそう言うと、クリムゾンモードは左手に聖なる光の力を宿し、剣の形へと具現化させる。それはまさしく神の剣。

 

クリムゾンモードの姿を危険視したのか、3体目の最後のアーマゲモンは口内からエネルギー弾をそれに向けて放つ。

 

が、クリムゾンモードはその左手に持つ神剣を一度払うだけで難なくそれを引き裂いてみせる。この時点でデュークモンはもはや他のデジタルスピリットさえをも超越した存在と言える。

 

 

「………無敵剣!!インビンシブルソードッ!!!」

 

 

光速でアーマゲモンに接近するデュークモン。そして神剣ブルトガングの一閃で巨大なアーマゲモンを一瞬にして一刀両断した。

 

流石にこれには耐えられないか、アーマゲモンは激しい断末魔を上げながらデジタルの粒子となり散らばる。そこに流異も存在している。

 

完全には救われてはいない。未だにライフが残っているからだ。椎名はそれを終わらせるべく、クリムゾンモードのもう一つの効果を発揮させる。

 

それは悪運立ち込める世界を照らし破る程の驚愕の効果。

 

 

「これで終わりだッ!!クリムゾンモードのアタック時効果ッ!!バトル終了時、相手のトラッシュにあるスピリットカード3枚につき1つ、相手のライフを破壊するッ!!……………神槍 グングニルッ!!」

 

 

椎名の叫びと共に、クリムゾンモードは右手に聖なる力を溜め、それを今度は槍の形に具現化する。それはまさしく神槍。

 

 

「………今!!トラッシュには16枚のスピリットカードがあるッ!!よってライフを5つ破壊するッ!!………全てを無に帰す!!悠々と流れる時の中に沈めッ!!………神槍の一撃ッ!!……クォ・ヴァディィィス!!!!!」

 

 

クリムゾンモードはその神槍を上空へと投擲する。その神槍は暗雲をも断ち切り、辺りを照らす。そしてそこから真なる深い赤の光が降り注ぐ。

 

その光はアーマゲモンの散らしたデータを一瞬にして塵一つ残さず消し去っていく。

 

 

「Dr.A……あなたは私の夢には………邪魔だッ!!」

 

「…………………」

ライフ4⇨0

 

 

スピリットはデュークモン クリムゾンモード以外は何も残っていないこの場で、流異はただ1人、取り残され、気を失うように倒れた。

 

これにより、流異のライフはゼロ。勝者は芽座椎名だ。見事に大逆転勝利をしてみせた。場に唯一生き残ったクリムゾンモードは役目を終えた事を悟るようにゆっくりとその姿を消滅させた。

 

 

「流異ぃぃい!!!」

 

 

倒れた流異にすぐさま駆けつけたのは父親の宗二。バトル場に上がり、流異を抱き抱える。

 

あぁ、まだ10歳にも満たない子供に自分は………

 

………なんと情けない父親だろうか。

 

 

「ごめんなぁぁぁぁあ!!ごめんなぁ!!流異ぃい!!」

 

 

ただ今はその情けなさ、不毛さにこの島の最高責任者、功宗二は涙していた。

 

 

「………はは、良かった…流異君、無事みたいだ……本当に、良かった………っ!?」

「椎名!!」

 

 

椎名はバトルの終わりと共に力尽き、倒れた。それと同時に鬼化も解け、元の椎名に戻る。

 

無理もない。今日の椎名は散々バトルした挙句に命がけのバトルも2回も行った。流石に体力が尽きたのだろう。

 

そこに真夏、雅治、六月は駆け寄った。

 

………だが、油断してはならなかった。バトルの終わりと共に本当の巨悪は動き出しており………

 

 

「ヌフフフフ………データを回収っと」

 

 

Dr.Aは流異のBパッドに内蔵されていたチップを取り出した。それは彼があらかじめ仕込んでいた特別なもの。そこには当然椎名の進化したデータ。クリムゾンモードの戦闘データまで含まれている。

 

そして、それだけではなく………

 

 

「その子も連れて行くよぉ!!」

 

 

Dr.Aは自分のBパッドをかざし、誰かをデータに変換させ、連れ去ろうとする。

 

………その人物とは………

 

 

「…………え?」

 

 

………赤羽司だ。抱き抱えていた夜宵は驚いた。司の体が次から次へとデータと化して消えて行くのだ。そしてそれはやがてDr.AのBパッドへと取り込まれ………

 

 

「やだ、待って司ちゃん!!行かないでッ!!」

 

 

夜宵の有無を聞くわけもなく、司を完全に自分のBパッドに取り入れたDr.A。その表情はまた不敵な笑みで満たされている。

 

その様子を視認した六月達はDr.Aを睨みつけ………

 

 

「司っ!!」

「暗利っ!!お前最初からその小僧が狙いだったのか!!!」

「六月、お前は詰めが甘い。昔からね…………そう、昔から…………ヌフフフフ………」

「ッ!?」

 

 

そう言って、Dr.AはBパッドからワームホールを発生させ、ゆっくりとそこを通り抜けようとする。距離が僅かながらにあるため、追いかけることは叶わず…………

 

 

「これで私の計画は最終段階へと進行するッ!!さらばだッ!!」

 

 

そう、また笑いながらその中へと完全に消え去った。椎名の戦闘のデータと。データ化した赤羽司を持ち去って…………

 

 

「嫌だ、嫌だよ………司ちゃぁぁぁぁぁぁぁあん!!!」

 

 

その一瞬すぎる所業に誰も追いつけず、ただ司を失った夜宵の悲痛な叫びだけがこのスピリットアイランドの会場にこだました。

 

やがて、界放市の警視、一木聖子が民衆を落ち着かせ、この場に駆けつけたが………一足遅かった。

 

 

 

 

 

これにて、スピリットアイランド編全てのバトルが終了した。流異を助ける事には成功したものの、司は気を失ったまま攫われ、椎名のデータは取られた点から、

 

結果としては敗北と言える。

 

………そして、次なる物語はついにDr.Aとの最終決戦が幕を開ける。

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【デュークモン クリムゾンモード】!!」

椎名「クリムゾンモードはデュークモンが進化を超えた姿!!その力は神をも超え、悪雲立ち込める世界を照らし破る!!」


******


〈次回予告!!〉


スピリットアイランドでの激しい戦いを終え、椎名は六月に連れられ、実家のある島へと帰郷していた。そして六月は語る。Dr.Aと自分の関係。どうして椎名をDr.Aの元から連れ去ったのか…………18年前の真実が今その口から解き放たれる。……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ、「エニーズの生まれた日、椎名の生まれた日」………今、バトスピが進化を超える!!




******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

ようやく出せましたクリムゾンモード。クリムゾンモードは今作では椎名の最終最強のエーススピリットとした扱わせていただきます。

この作品においてのクリムゾンモードは光の力で様々な武器をいくらでも生成できる設定です。私の頭の中ではウォーグレイモンの腕の武器(ドラモンキラー)のような武器も作れます。後々色んなものを追加する予定です。

そして、【次回は上の予告の話ではなく、外伝をやろうと思っております。】ただの外伝ではなくて、物語上、後々大きく関わってくるものです。

⬇︎以下、【外伝予告】



これは椎名の物語が始まる6年前………

1人の英雄。そんな彼とやがて結婚することになる女性の弟の物語。

その少年の名は………【空野晴太】

椎名達の良き教師として存在する彼が何故今椎名の前にいるのか、何故教師をしているのか、何故エグゼシードデッキを所有しているのか………その全てが明かされる。

バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ外伝【エグゼシード伝説】

今、空野晴太17歳のバトルスピリッツが幕を開ける




※ここと同じページで連載します。


******


外伝の主役は17歳の晴太先生です。

今は例外を除き、基本的に日常編でしかでてこない彼ですが、実は物語に後々大きく関わって来ます。この外伝は後々にやるその物語を色濃く印象に残すために行うものです。(全部で10話もないくらいやります)

と、言うわけでして、次回からは椎名の物語ではなく、しばし、晴太先生の物語を堪能してみてください!!

ちなみに、外伝が終わってから行う二期第5章のサブタイトルは【ANYS編】です!!


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【外伝】エグゼシード伝説
第73話「伝説の始まり、エグゼシード・ノヴァ」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から始まり、少しだけ続くこの物語は芽座椎名のものではない。

 

これから幕を開けるのは椎名の若き担任の教師、空野晴太。彼の学生時代の物語。

 

 

 

******

 

 

 

ここは芽座椎名の物語が始まる約6年前………

 

バトスピ学園 ジークフリード校にて……

 

 

「な、なんなんだ!!なんなんだよお前はぁぁあ!!」

 

 

いくつかあるスタジアム。その中の第3スタジアムのバトル場にて、

 

1人の男子生徒が、自分とバトルしている相手に向かってそう強く言い放った。

 

彼は3年。この界放市で毎年行われる【界放リーグ】にも予選で勝ち残れる程度の実力がある。しかし、そんな彼などよりも遥かに上回るカードバトラーが目の前には存在しており…………

 

それは真っ黒な髪に短ランを着こなしている男子生徒。

 

 

「………なんなんだって……俺はただの【天才】だよ」

 

 

口角を上げ、自分の事を【天才】と自称しているのは、【空野晴太】現在17歳。この学園の2年生だ。

 

そんな晴太はこのバトルに終止符を打つべく、最後のアタック宣言を行う。

 

 

「んじゃ、ささっと終わらせるか〜〜……やれっ!!ドラリオン!!炎魔神とアタックッ!!」

 

 

走り出したのは頭が竜になっている獣型のスピリット、ドラリオン。そしてそれと合体している強力な異魔神ブレイヴ、炎魔神。

 

目指しているのは当然、バトルしている男子生徒のライフであり……

 

 

「ら、ライフで……う、うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

ライフ2⇨0

 

 

ドラリオンの口内から放たれる渦巻く炎と、炎魔神の回転する右拳の重たい一撃が連続でヒットし、男子生徒のライフはその悲鳴と共に全て粉々に砕け散った。

 

これでライフはゼロ。勝利したのは晴太だ。そのバトルは終始いったい彼のペースであって、結果的に彼の圧勝で終わった。

 

 

「んーーーまぁまぁなバトルだったかな」

「くっ!?……お前何もんだ!!」

「だからただの天才だって、同じ事言わせんなよ」

 

 

晴太はBパッドをしまい、バトルの感想を口にしながら敗北した男子生徒に近づく。

 

そして、

 

 

「んじゃ、約束通りこのカードは返してもらうぜ」

「ッ!!……勝手にしろ」

 

 

晴太はその男子生徒の懐から1枚のカードをくすね、取り出した。

 

その後晴太はバトル場の外側にいるまた別の男子生徒の方へと向かい歩き出す。その男子生徒は逆に1年生なのか、いやに後輩感がある。

 

 

「ほれ、お前のだろ?」

「あ、ありがとうございます」

 

 

晴太はそのカードを1年生の男子生徒に渡した。

 

さっきまでのルールはアンティルール。賭けバトルをしていたのだ。3年の男子生徒は1年生の男子生徒からカードを奪い、晴太はそれを良しとせず、割り込み、バトルを挑んだ。

 

そして結果はこの通りだ。

 

 

「おぉ、んじゃ、行きな、もう取られるんじゃねーぞ」

「は、はい」

 

 

晴太の放つ独特なオーラからあまり上手く喋れないのか、1年生の男子生徒はその場を逃げるように立ち去った。

 

3年の男子生徒も「痛い目にあった」といいながらこの場を去っていく。

 

晴太は1人、バトル場に取り残されることになるが………

 

 

「やっぱ俺天才だわ」

 

 

と、自分の魅力に浸っていた。

 

自分はなんと強いのだろう。なんと強いカードを扱えるのだろう。なんと才能に恵まれているのだろうか。と。

 

しかし、そんな時間は長くはなく………

 

 

「調子に乗んなぁぁッ!!」

「いたぁぁい!!!?」

 

 

晴太は急に目の前に現れた女子生徒に頬を叩かれてど突かれた。その少女は晴太もよく知る人物。

 

 

「た、叩くことないだろ!!兎姫ちゃぁぁん!!」

「ふんっ!!バカじゃないの!!」

 

 

茶髪のツインテールを静かに靡かせ、晴太に強く物言う女の子は【鳥山兎姫】……晴太の幼馴染の女の子だ。3歳くらいから知っている。

 

 

「午前中の授業サボって何してるのかと思えば、あんたねぇ!!」

「いいだろ?天才の俺が結果的に下級生を救ったんだからさ〜〜」

「英雄にでもなったつもり?そんなものになっても落第したら意味ないんだからねっ!!」

「この学園はバトルに勝ち続ければ落第なんてしねぇよ」

「今の晴君の成績だったら少し負け続けただけで落第確定なのよ!!」

 

 

当時の空野晴太はバトルの才能こそあれど、なにぶん学業は疎かであり、筆記の授業はサボり続ける一方であった。

 

バトルの実力は高いのだが、競争心がほとんどと言っていいほどになく、去年の【界放リーグ】の予選にすら彼は参加していない。それ故に実力に反して知名度は低い。

 

 

「ん、じゃあ、午後もサボるんでよろしく〜〜」

「あ!!待ちなさいっ!!」

 

 

晴太は兎姫の隙を見て走り出し、逃げるようにバトル場を去る。その様子に、兎姫は大きくため息をついた。

 

 

******

 

 

学園を抜け出し、サボった晴太は颯爽と自分の家への帰路に着いていた。そしてようやくそこに到着し、家のドアをゆっくりと開ける。

 

 

「ただいま姉ちゃん」

「あら、晴君またサボり?」

「まあね」

 

 

家に入ってからすぐ目に映ったのは彼の姉だ。名を【空野菜々子】……晴太とは5つ上だ。今現在、晴太はこの姉と2人で生活している。

 

菜々子は弟のサボりに対して特に怒りを見せることはなく、さぞかし当たり前であるかのように会話した。晴太が学校をサボる事など日常茶飯事であることがこの時点で伺える。

 

 

「ま、晴君は強いもんね〜〜」

「天才だからな」

 

 

菜々子は天然な性格もあってなのか、弟である晴太にはとことん甘かった。バトルで勝てば落第は無いとは言え、兎姫が言うように、負け始めれば即刻落第なのだ。

 

晴太は自分をまた天才といいながら、二階の自分の部屋へと繋がる階段を上った。そして部屋に入ると、速攻で鞄を投げ、ベッドにダイブした。

 

 

「あーーーつまんねぇ、なんか面白い事でも起きねぇかなぁ」

 

 

晴太はこのバトスピ学園 ジークフリード校に入学してからというもの、退屈していた。毎日毎日授業だの勉強だの、面白くない。そして周りも対して強くもない。

 

【界放リーグ】にでも出れば強い相手もいるのだろうが、それに出る事自体がまず面倒だ。

 

そんな事を頭で僅かながらに思考しながら、晴太は眠気に誘われ、軽い眠りについた。

 

 

******

 

 

そして時刻は少しだけ時を刻み、夕刻の時、晴太以外の学生達はぞろぞろと学園から帰宅する時間となった。兎姫も例に溺れず、帰路についていたのだが、その途中でやらねばやらない事があり………

 

 

「はぁ、授業のプリント、晴君にも渡さないとなーーー………って、私はあんな奴の事なんてぇ!!」

 

 

兎姫は筆記の授業のプリントを晴太の分まで貰っていた。単純に渡したかったのと、絡みたかったから。昔から晴太には気があるのだが、素直じゃ無い性格もあってなかなか踏み切れないでいる。それは今も昔も、これから先も………

 

晴太も晴太で全く気づかないのがまたネックだ。

 

そんな時だ。兎姫はショートカットしようと人気の少ない路地裏に足を踏み入れる。夕方の橙色の日光さえをも通さない暗がりのその道には、彼女を狙うかのようにある人物が待ち構えており…………

 

 

「ヌフフフフ、やぁ、お嬢さん」

「っ!?……だ、誰よ!!」

 

 

兎姫の目の前に現れたのは覆面を被った謎の男。声色や腰の曲がり具合から、老人であることはわかるが、それ以外は一切分からず………

 

その異様な見た目やオーラから、兎姫は思わず攻撃的な口調になる。

 

 

「いや、何、ちょっとだけ実験したいから付き合ってくれないかな?」

「ッ!!」

 

 

この界放市で、鳥山兎姫の身に何かが起ころうとしていた。

 

 

 

******

 

 

晴太は寝ていた。昼間学園から帰宅した直後に。短ランを着たまま、枕を抱きしめ、鼾をかき、それはそれはぐっすりと。

 

しかし、その眠気は唐突に消し去ることとなる。

 

晴太のBパッドから着信音が鳴り響く。部屋の隙間を埋めるかのように。あまりの音の大きさに、晴太は寝ぼけながらもBパッドをカバンから取り出し、確認する。

 

その相手は兎姫だ。

 

この時、晴太は「まぁた兎姫ちゃん口うるさく言われる」……と、そんな事を考えていた。これから起こる災難など、全く予想などしていなくて…………

 

 

「ほーい、晴君ですよーー」

〈やぁ、空野晴太君……だね?〉

「っ!?誰だ!?」

 

 

いつものようにだるそうに電話に出る晴太。しかし、そこから発せられた声は聞き慣れた幼馴染の声では無い。湿ったような濁った声。その時点で年老いた男性であることがわかる。

 

晴太はこの一瞬のやりとりで完全に目が覚めてしまった。兎姫は真面目だ。いかに親しい自分であっても、電話を貸す時は先ず自分から電話し、その後その人物に渡すのだ。

 

故に、一言目が兎姫の声じゃ無いのはあからさまにおかしいことなのだ。

 

 

〈………ヌフフフフ、鳥山兎姫は預かった。返して欲しければ指定された場所に来なさい………1人でね〉

「な、なんだって!?」

 

 

兎姫はこの老人に誘拐された。確かにそうであれば辻褄は合うが、

 

晴太は事態が自分が考えてるよりも大きく進展してしまっていることを咄嗟に理解した。

 

 

「目的はなんだ!?俺を呼び出したいなら直接…………」

〈……ピー〉

「っ!!くそっ!!」

 

 

通話が途切れ、晴太のBパッドにはアドレスに送られた指定場所だけが残る。

 

晴太は慌てて部屋から飛び出す。兎姫を助けに行くのだ。

 

そして、勢いよく階段を下りて、靴を履き、ドアを蹴破るように走り去ってしまう。

 

 

「あれ〜〜?晴君今からお出かけ?………もういない、せっかくおつかい頼もうと思ったのにな〜〜」

 

 

台所のある部屋の入り口から顔を出したのは姉の菜々子。だが、一足遅かったか、晴太はとっくに家を嵐のような速さで出て行ってしまった。

 

 

******

 

 

 

「……確か、ここら辺だよな」

 

 

晴太は学園付近の路地裏を歩いていた。そこが男から指定された場所だからである。

 

勢いで来てしまったが、相手はその声色から、おそらく相当の手練れ、とてつもなく黒い人物に違いない。晴太は緊張で胸の心音が聞こえてくるのを感じた。

 

そしてその時は急に訪れる。

 

 

「やぁ、空野晴太君………あれ、これは2回目だね?」

「っ!!な、なんだお前!!もしかしてさっきの野郎か!!」

 

 

今度は直でその声色を耳に入れる晴太。その男の異様な雰囲気と青と紫の奇妙なマスクに驚くが、それでも気を引き締めて前に立つ。

 

 

「兎姫ちゃんはどこだ!!」

「ん?あぁ、そうだったね、ここだよ」

 

 

男はそう言い、手をかざすと、闇の瘴気のようなものがそこから飛び出てくる。それだけでこの男が異端な存在であることが理解できる。

 

晴太が驚いたのはそれだけでは無い。その闇の瘴気がまとわりついたのは、他でも無い、鳥山兎姫だった。まるで逃げられないようにそれは兎姫の周りをぐるぐると回っており、

 

兎姫も気を失っていて、晴太が助けに来たことに気づいていない。

 

 

「兎姫ちゃんっ!!」

「この可愛らしいお嬢さんを返して欲しければ、私とバトルしなさい、空野君」

「っ!?バトルだと!?

「あぁ、無論、この子を賭けてね、君が勝てば返す。けど負ければ………そうだなー……殺そうかな」

「っ!!ざけんなよっ!!」

 

 

男が持ちかけてきたのは命を賭けたバトルスピリッツ。晴太はその男の言葉に寒気を覚える。

 

信じられるものか、そんなもの。ありえない。しかし、今のこの異質な現象を目の当たりにした今ではそれを信じざるをえないのがまた晴太にとって癪であって………

 

 

「それ以外は返さないよ、君に拒否権はない……それとも何か?君はこんな老いぼれが怖いと?」

「っ!!な訳ねぇだろ!!!」

 

 

いや、正直怖い。目の前であんな理解の範疇を超えた物を見せられては当然だ。

 

しかし、晴太も兎姫を守るためにはこれしかないと悟ったのか、決意を固める。

 

 

「上等だ!!女の子を盾にしてからじゃなきゃバトルできないような奴!!天才の俺の敵じゃねぇ!!」

「ヌフフフフ、それは了承する……って事でいいんだよね?」

 

 

晴太と男は勢いよくBパッドを展開する。デッキをセットし、デジタルコアを発現させ、バトルの準備を行った。

 

そして始まる。晴太にとって負けられない戦いが、この平和な界放市の裏側で……静かに行われる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが幕を開ける。先行は晴太だ。

 

……だがその前に、

 

 

「一応、自己紹介がまだだったね、私の名は【Dr.A】……いずれこの世界を進化させるものだ」

「あぁ!?知るかんなもん!!とっとと始めっぞ!」

「あら知らないのか、私の知名度もまだまだだね〜〜」

 

 

この男はいずれこの界放市に災難を呼び寄せる者。ただ、その当初は有名ではなかった。晴太もこの時はまだ気づく余地もなかっただろう。

 

 

[ターン01]晴太

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップッ!!俺はコレオンをLV2で召喚して、ターンエンドッ!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨2

【コレオン】LV2(2)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

晴太が颯爽と呼び出したのは猛々しいライオンをこれでもかとデフォルメした赤の小型スピリット、コレオン。晴太のデッキにおいては欠かせない序盤の様子見用スピリットだ。

 

 

「ヌフフフフ、コレオンか、随分かわいいのを使うじゃないか」

「うっさい!!スピリットは見た目じゃないだろ!!!早くターンを進めやがれ!!」

「ヌフフフフ、はいはい」

 

 

Dr.Aは不気味で湿った笑い声を上げながら、自分の最初のターンを行う。

 

 

[ターン02]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「ヌフフフフ、メインステップ……私はチキンナイトを召喚し、ネクサスカード、白雲に茂る天翼樹を配置!!その効果でコアを2つ増やす!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨3

トラッシュ0⇨3

 

「な!?チキンナイトに白雲に茂る天翼樹!?……お前、そのデッキ………」

 

 

メインステップが始まった直後、Dr.Aが前線に召喚、及び、背後に配置した鶏の騎士と白雲に茂る葉の形をした大樹を見て、晴太は思わず驚きの声を上げた。

 

これは系統爪鳥を持つスピリットで固められたデッキであることがわかるのだが、晴太が驚いているのは断じてそんなところではない。

 

別に爪鳥のデッキを使うのは珍しい事でもない。しかし、晴太の目の前でそれを召喚するということは、どう考えても彼に対する挑発としか思えない。

 

何せ、そのカードは他でもない。兎姫の使用するカードなのだから。

 

 

「………お前、兎姫ちゃんのデッキを………ふざけやがって………」

 

「ヌフフフフ、まぁそう怒るなよ、返すよ………君が勝てばね………私はさらにバーストを伏せて、乙騎士エウロス・ファルコンを召喚」

手札3⇨1

リザーブ3⇨0

トラッシュ3⇨5

 

 

Dr.Aはバーストを場に伏せると共に、鎧を着こなす鳥型スピリット、エウロス・ファルコンを召喚。

 

 

「そしてアタックステップだ………行きなさい、エウロス・ファルコン!!…効果でコアを増やし、コレオンを疲労!!」

【乙騎士エウロス・ファルコン】(1⇨2)LV1⇨2

 

「……ッ!!」

【コレオン】(回復⇨疲労)

 

 

翼を羽ばたかせ、突風を起こすエウロス・ファルコン。コレオンはその風で足を挫き、疲労してしまう。

 

 

「アタックは継続中!!」

「っ!!……ライフで受ける」

 

 

ブロックできるスピリットはいない。当然のことながら、晴太はバトルスピリッツのルールに従い、ライフで受ける宣言をした。

 

……が、これは文字通りライフ…即ち命で受ける事を意味しており………

 

 

「……ぐっ!!……がっ!!……な、なんだ!?」

ライフ5⇨4

 

 

エウロス・ファルコンが翼撃で晴太のライフを1つ砕く。そしてその瞬間、晴太自身に激痛が走る。歯を食いしばった勢いでその口元に血が滲み出す。

 

突然のことに晴太は戸惑う。

 

 

「な、なんだ……この、痛みは!?」

「ヌフフフフ、私とのバトルは痛いですよ〜〜覚悟しておいて下さいね〜〜!!」

 

 

今までの異端な出来事を含めて、まだ驚くことではないものの、このダメージは流石に受け続けたらまずい。

 

 

「続きなさい、チキンナイト」

 

「っ!!……くそ、ライフだ……ぐぅっ!!」

ライフ4⇨3

 

 

チキンナイトが飛びかかり晴太のライフを1つ小さな剣で串刺しにし、破壊した。晴太にはまた多大なバトルダメージが入る。

 

 

「ヌフフフフ、ターンエンド」

【チキンナイト】LV1(1)BP1000(疲労)

【乙騎士エウロス・ファルコン】LV2(2)BP6000(疲労)

 

【白雲に茂る天翼樹】LV1

 

バースト【有】

 

 

Dr.Aはできる事を全て終え、そのターンをエンドとした。次は晴太のターン。こんな危険なバトル早く終わらさなくては……晴太はそう思いながらターンを進めていく。

 

 

[ターン03]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

【コレオン】(疲労⇨疲労)

 

 

リフレッシュステップ時、本来はルールにより、コレオンは疲労から起き上がるはずだった。しかし、Dr.Aが場に出しているエウロス・ファルコンの効果で起き上がれないでいた。

 

エウロス・ファルコンがLV2で場にいる限り、相手のコスト2以下のスピリットは回復できないという効果が永続で発揮されているからだ。

 

 

 

 

晴太は考える。

 

今、相手にとっているのはDr.Aと名乗る謎めいた老人だが、あのデッキ自体は散々見慣れた兎姫のデッキ。晴太が対策を練れないわけがない。

 

あのバーストも自ずと何かが絞れてくる。

 

 

(……なら先ずはあのバーストを剥がしに行くか……)

 

 

そう思い、メインステップを開始する。

 

……晴太の反撃開始だ。

 

 

「メインステップッ!!俺は庚獣竜ドラリオンをLV2で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

【コレオン】(2⇨1)LV2⇨1

 

 

コレオンのLVが低下することも気にせず、晴太は頭部が竜となっている猛獣のスピリット、ドラリオンを召喚した。このドラリオンは晴太のデッキにとってはかなり重要な役回りを担う。

 

 

「ドラリオンの効果!!召喚時、相手のBP5000以下のスピリット2体を破壊する!!……俺はチキンナイトを破壊!!」

「……ッ!!」

 

 

ドラリオンは登場するなり、口内から渦巻く炎を放ち、チキンナイトを一瞬にして焼き尽くした。そして重要視されるのは破壊効果ではなく、それに成功した時に発揮される追加効果だ。

 

 

「この効果で破壊に成功した時、手札からブレイヴカード1枚をノーコスト召喚!!…来いっ!!異魔神ブレイヴ、炎魔神!!」

手札4⇨3

 

 

場に現れる炎を纏った歯車。それが鈍い音を鳴らしながら回転し、中心から姿を見せる者が1人。それは異魔神ブレイヴ、炎魔神。

 

炎魔神はそこから飛び立ち、晴太の場へと足を踏み入れた。

 

異魔神ブレイヴとは、左右にスピリットを合体できる特別なブレイヴの総称。特に晴太の持つ炎魔神は他をも寄せ付けない強力な効果を有している。

 

 

「……ヌフフフフ、なるほど〜〜炎魔神。君の切り札でしたね〜〜……ですが、破壊後のバーストはもらいます……【天空戦艦ピラミッドウィング】!!効果によってデッキから2枚オープンし、その中の爪鳥スピリットを好きなだけノーコスト召喚する!!……」

オープンカード↓

【ミストラルフィニッシュ】×

【コンパス・ミンゴ〈R〉】◯

 

「………っ!!そっちか!!」

 

 

エースである炎魔神を出した束の間、Dr.Aは伏せていたバーストを勢いよく反転させる。それは晴太も見慣れたカードである。

 

効果自体は半分成功。半分失敗と言ったところであり、上振れでもなければ下振れでもない。普通と言えば妥当か………

 

 

「コンパス・ミンゴ〈R〉を召喚!!効果でコアを増やし、バースト効果の終了したピラミッドウィングを召喚しましょう!!LV1!!」

【コンパス・ミンゴ〈R〉】LV1(1)BP2000

【天空戦艦ピラミッドウィング】LV1(1)BP6000

 

 

上空から翼を羽ばたかせ、降りてくるのは、赤き鳥型のスピリット、コンパス・ミンゴ。

 

そしてそれを上から見下ろしに来たかのように、上空に聳え立つピラミッドを象った巨鳥、ピラミッドウィング。この両名が一挙に召喚された。

 

 

「ほほう、これはなかなかに見事!!」

「へっ!!兎姫ちゃんならもっとお強いのを引いただろうよ!!」

 

 

並び立ってきた鳥型のスピリット達。その無意識のうちにやっているであろう優雅な佇まいは誰もを虜にしてしまう。

 

しかし、晴太は思う。このデッキは兎姫ちゃんだからこそ強いのだと、

 

彼女とはよくバトルをするが、いつもなら、もっと早く、もっと強い。やはりデッキはその作成したカードバトラーでしか扱えないと改めて考えた。

 

そして、ここらでいよいよ大きく動き出す。

 

 

「バーストを伏せ、炎魔神をドラリオンに右合体!!」

手札3⇨2

【ドラリオン+炎魔神】LV2(2)BP13000

 

 

晴太の場にバーストが伏せられると共に、炎魔神が右手から光線を放ち、ドラリオンと自身を繋ぐ。それは2体が合体スピリットとなった明らかな証拠。ドラリオンは炎魔神のサポートを受けられるようになったのだ。

 

 

「アタックステップッ!!ドラリオンの効果でBP+5000!!!ぶちかませぇ!!アタックだドラリオンッ!!」

【ドラリオン+炎魔神】BP13000⇨18000

 

 

ドラリオンにアタックの指示を送る晴太。そしてこの瞬間に、効果を発揮できるものがあって………

 

 

「炎魔神の右効果!!このスピリットのBP以下のスピリット1体を破壊っ!!ピラミッドウィングを破壊する!!」

「っ!!」

 

 

炎魔神の追撃。ロケットパンチの容量で右拳を放つ炎魔神。そしてそれを上空に佇んでいるピラミッドウィングへと直撃、ピラミッド部分を貫通させ、爆発四散させた。

 

その後、その手は放物線を描きながらも炎魔神の元へと戻り、再び装着された。

 

 

「アタックは継続中!!!」

 

「………ライフで受けよう」

ライフ5⇨3

 

 

ドラリオンと炎魔神がDr.Aのライフへと突撃していく。ドラリオンはその鋭い鉤爪で、炎魔神は強固にして強靭たる拳で、それぞれ1つずつそのライフを破壊した。

 

 

「っしゃぁっ!!どうだクソ野郎!!ターンエンドだ!!」

【コレオン】LV1(1)BP1000(疲労)

【ドラリオン+炎魔神】LV2(2)BP13000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

緊迫のために一手一手が難しい中、晴太はなんとか最善の手を尽くし、優位性を上げたこのターン。

 

特に存在が大きいのはやはり異魔神ブレイヴの炎魔神であろう。場にキープされれば間違いなくDr.Aの場のスピリットでは太刀打ちできない。

 

 

[ターン04]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

【乙騎士エウロス・ファルコン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、私は………魔界竜鬼ダークヴルムをLV1で召喚!!」

手札2⇨1

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨4

 

「………え?」

 

 

しかし、Dr.Aのターンが始まってすぐに呼び出されたスピリットは、兎姫が入れるわけがない紫のスピリット。

 

ヴルムの名を冠した紫のドラゴンが彼の場へと足を踏み入れた。周りの鳥型のスピリット達とは、見た目が違いすぎて明らかにミスマッチしている。

 

 

「な、なんで兎姫ちゃんのデッキに紫のカードが…………」

「ヌフフフフ、私が入れたんですよ……私はこう見えてカードコレクターの一面もありましてね〜〜」

 

 

そう。これは兎姫のカードではない。Dr.Aが勝手に投入したもの。その理由としては、晴太を極限まで追い詰めるためであって………

 

 

「魔界竜鬼ダークヴルムの効果!!私のライフを1つトラッシュへと送り、カードを2枚ドロー!!」

ライフ3⇨2

手札1⇨3

 

 

ダークヴルムは登場するなり、敵である晴太の方を向かず、何故か主人であるDr.Aの方を振り向く。そして、Dr.Aのライフに齧り付き、襲いかかる。

 

Dr.Aのライフは1つ砕け散るも、その代償として、彼は新たに2枚のカードを引いた。

 

そして、その中に強力なカードがあったのか、思わず口角が緩む。

 

 

「ヌフフフフ、これはこれは、また良きものを引いてしまった………行きますよ!!【滅神星龍ダークヴルム・ノヴァ〈R〉】!!コンパス・ミンゴとエウロス・ファルコンのコアを取り除き、LV2で召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨0

【コンパス・ミンゴ】(1⇨0)消滅

【乙騎士エウロス・ファルコン】(2⇨1)LV2⇨1

 

「っ!!なぁ!?……ダークヴルム・ノヴァだって!?」

 

 

コンパス・ミンゴが消滅してしまうも、Dr.Aの場に、上空から闇の塊が降下してくる。そしてそれは地面へと直撃、泡のように弾け飛ぶと、中から最強のダークヴルム。ダークヴルム・ノヴァが大きく翼を広げ、姿を見せた。

 

驚愕する晴太。

 

当然だ。何せこのスピリットは………

 

 

「ダークヴルム・ノヴァの永続効果!!相手は合体を解き、さらにブレイヴはスピリット状態では存在できない!!………消えなさい炎魔神!!」

「くっ!!」

 

 

ダークヴルム・ノヴァが登場するなり吐きつけた闇のエネルギー。それは瞬く間に晴太の場へと侵食していき、その中のブレイヴ、炎魔神のみを引きずりこむように消し去ってしまった。

 

【滅神星龍ダークヴルム・ノヴァ】………このスピリットはいわゆる【ブレイヴキラー】と呼ばれるスピリットだ。炎魔神という強力なブレイヴをエースとする晴太のデッキとは相性最悪である。

 

しかし、今のこの世界のバトスピ環境は間違いなくデジタルスピリットと呼ばれるスピリット達の一強なのだ。晴太のデッキにここまでメタを入れてくるプレイヤーは初めてのことであっただろう。

 

 

「……さぁ、お待ちかね………アタックステップだ!!翔けろブレイヴキラー!!ダークヴルム・ノヴァ!!……アタック時効果で疲労状態のスピリット…君のドラリオンを破壊するよ!!」

「っ!!」

 

 

飛翔を始めるダークヴルム・ノヴァ。そしてその手のひらから闇のエネルギー弾を放ち、晴太の場で疲労しているドラリオンに直撃。ドラリオンは炎魔神同様、それに吸い込まれるように消し去られた。

 

 

「そしてダークヴルム・ノヴァはダブルシンボル!!ヌフフフフ、どう受ける?」

「っ!!……ライフしかねぇ………」

 

 

晴太の唯一のスピリットであるコレオンもエウロス・ファルコンのせいで疲労状態。ここはライフで受ける他なかった。しかし、シンボル1つのアタックであそこまでダメージがあるのだ。2倍の2などいったいどれほどダメージが入るかは想像もつかない。

 

だが、兎姫を助けるため………晴太には逃げるの選択肢はなく………

 

 

「……ライフで受ける!!…………ぐ、ぐぁぁぁ!!」

ライフ3⇨1

 

 

ダークヴルム・ノヴァが闇の力を纏った拳で、晴太のライフを粉々に粉砕する。さっきのダメージとは比にもならない程のバトルダメージが晴太を襲う。

 

あまりのダメージ量に、頭の中が痛くなり、足がふらつく。しかし、それでもまだなおも真っ直ぐと場を見ており………

 

 

「く、まだだ………ライフ減少により、バースト発動……絶甲氷盾……ライフを1つ回復させ、コストを払い、このターンを終わらせる!!」

ライフ1⇨2

リザーブ4⇨0

トラッシュ4⇨8

 

「………っ!!」

 

 

晴太のライフが1つ回復し、幾分か体も回復する。そしてDr.Aの場に猛吹雪が発生、スピリット達はこのターン、身動きが取れなくなる。

 

 

「ほお、流石……と言っておきましょう………必死にしがみついてるだけにしか、見えませんがね……ヌフフフフ、ターンエンド」

【乙騎士エウロス・ファルコン】LV1(1)BP4000(回復)

【魔界竜鬼ダークヴルム】LV1(1)BP3000(回復)

【滅神星龍ダークヴルム・ノヴァ〈R〉】LV2(3)BP8000(疲労)

 

【白雲に茂る天翼樹】LV1

 

バースト【無】

 

 

これは致し方ないか、Dr.Aはこのターンをエンドとした。それに伴い、猛吹雪は去り、晴太のターンがやって来るが…………

 

 

(ま、まずい……炎魔神を倒された挙句防御札まで切らされた……ライフ的にも盤面的にも次のターンは無理だ……)

 

 

エースである炎魔神を破壊され、合体元のドラリオンも失った。場には小さなライオン、コレオンのみ。

 

さらに相手の場にはアタック時で疲労させて来るエウロス・ファルコンに加え、2体のダークヴルム。しかもいったいはノヴァ、ダブルシンボルだ。

 

次に奴のターンが回ってきたらあのアタックはいなしきれない。決めるならこのターンしかないのだ。

 

 

(考えろ……何を引けばいい?このターン、ダークヴルム・ノヴァを破壊しつつ、2体のブロッカーを排除し、2点分のダメージを与える方法…………)

 

 

晴太は自分のデッキを逆算し、考える。あの手この手を次々と考える。しかし、それはどれも没。どこをどう考えても無理だ。

 

晴太のデッキにとって2点分のダメージを与えるためにはブレイヴが必須。何せ、ブレイヴデッキなのだから………そのためには先ずダークヴルム・ノヴァをどかさなくてはならない。それでいて尚且つ2体のスピリットの排除…………

 

そんな方法…………

 

 

(……ない………嘘だろ!?ここまで来て………兎姫ちゃんの命がかかってるってぇぇのに!!)

 

 

頭の中では絶望的な確率が浮かんできてしまう。そう、ほぼ不可能に等しい。万に1つできたとして、どんな妨害札でも積みかねない。

 

 

「おいおい、長考はやめてくれよ〜〜ヌフフフフ」

 

 

こんな奴に……こんな奴に負けたくない。

 

そんな時だ。

 

 

「うっ……ここは………っ!!て、何これ!?」

「兎姫ちゃん……良かった……」

「晴君!!なんでここに……」

 

 

兎姫が目を覚ました。その途端に自分にまとわりついている闇の瘴気に驚愕した。

 

しかし、肝が座っているのか、兎姫は落ち着いてこの場全体を見渡し、晴太とバトルしているのが、先ほどの老人であることを知る……

 

 

「ちょっとあんたどう言うつもり!?なにしてんのよ!!」

「ヌフフフフ、何って、ただのバトルですよ」

「ただのバトルに見えないから聞いてんのよ!!」

「んーーまぁ、そうですね………今、私たち2人はあなたの命を賭けて戦っております……空野君が勝てば救え、逆に私が勝てばあなたは死にます…」

「っ!!バトルで命を!?」

 

 

一瞬頭の中の血がサァーっと流れるのを感じる兎姫。信じられるものか、確かに、大昔はバトルスピリッツで命を賭けたと言う歴史もあるが、それは昔も昔、【弥生時代】頃の話だ。しかし、今のこの状況がそれを証明するかのように物語っている。自分を取り巻く謎の闇。ボロボロの晴太。

 

この盤面を見渡してみれば、どれだけ今、晴太が自分のために頑張り、奮闘してきたか理解できる。

 

そして、敗北寸前であることも………

 

だったら、自分にできることは1つ。

 

 

「晴君………逃げて!!」

「っ!!」

「こいつやばい奴よ!!負けたらきっと晴君も死ぬ!!だから……」

「何言ってんだ!!兎姫ちゃんを置いていけるか!!」

 

 

兎姫の思いもよらない発言に、晴太は驚く。

 

晴太とて、ここまで来て今更逃げるわけにもいかないだろうに………兎姫を、幼馴染を助けるためにここまで頑張ってきたと言うのに………

 

何故自分の命をこうも簡単に投げ出すことができるのか………

 

だが、その言葉に苛立ちを覚えたDr.Aが……

 

 

「うるさいよ……人のバトル中に口出ししてはいけないと習わなかったかい?」

「……ぐっ、う、うわぁぁっ!!」

 

 

左手を握りしめると、兎姫の周りにいる闇が彼女を締め付ける。

 

 

「やめろぉぉぉぉっ!!」

「じゃあ早くターンシークエンスを進めなさい。このバトルが始まる前、私は言ったよね?君に拒否権はない……と」

「っ!!」

 

 

いったいどうすれば良い?

 

このままバトルを続けても負けるのは明白。

 

かと言って兎姫を見捨てるわけにはいかない。

 

どうしたらいい?

 

頭の中が混乱する晴太。ついさっきまで、ほんの少し前までは何気ない、いつも通りの生活だったと言うのに………

 

晴太は混乱しながらも、何度も自分の事を責めた。何故こうなった、何故助けられない。何故負けるのだ……と。

 

だが、そんな時だ………

 

 

「っ!!」

 

 

晴太のデッキが赤色に強く光出した。突然の事に晴太は驚く。そして、Dr.Aはそれが何なのか気づいたか、それを見、興奮する。

 

 

「おおっ!!これはまさしく【オーバーエヴォリューション】!!!」

「お、オーバーエヴォリューション………って、あの……」

 

 

興奮し、Dr.Aの手が緩くなったか、兎姫の拘束も同様に緩まり、晴太のデッキに起こった現象を凝視する。

 

この現象は………

 

この世界を生きるカードバトラーならば誰しもが知っており、誰もが発揮可能なもの。だが、それが起こるのは大変珍しく、起こっとしても一生涯にたった一度しかない。

 

そんな奇跡に現象が晴太の身にも起こった。

 

 

「こ、これは…………」

 

 

晴太は直感的に理解した。

 

負ける気が全くしない。そんな未来のヴィジョンなど見えやしない。

 

デッキは今、自分を励ましてくれている。そして、新たな力を託してくれた。奴を、Dr.Aを倒すべく………

 

迷いの無くなった晴太は勢いよくターンシークエンスを行う。

 

 

「行くぞ覆面ジジイ!!……俺のタァァァアン!!」

 

 

[ターン05]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨9

トラッシュ8⇨0

【コレオン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップッ!!マジック、ダイナバーストを使用、デッキからカードを2枚ドロー!!……よしっ!!そして俺はこのカード、【エグゼシード・ビレフト】をLV3で召喚!!不足コストはコレオンから確保っ!!」

手札3⇨2⇨4⇨3

リザーブ9⇨0

トラッシュ0⇨6

【コレオン】(1⇨0)消滅

 

 

効果により2枚ドローする晴太。その2枚は自分も知らないカード。不思議だ。そのカード達はテキストを読まなくてもこれからどう使えば良いか理解できる。直接頭の中に使い方が流れ込んでくる。

 

コレオンが不足コストで消滅する。その後直ぐに晴太の背後から何かが走ってくる音が聞こえてくる。そしてそれは晴太の頭上を飛び越え、この場に召喚される。そのスピリットの名はエグゼシード・ビレフト。装甲が施されたその駿馬は、この先、いかなる場合であっても晴太のデッキを支えることとなるスピリットだ。

 

 

「おぉ、それが君の新たな力かね?」

「エグゼシード?………十二神皇スピリットの?……でもちょっと小さい気がする………それに晴君あんなカード持ってた?」

 

 

十二神皇スピリットとは、歴史あるバトスピの中でもそう呼称されるスピリット達の総称。モチーフは干支の十二支の動物達。エグゼシードとは、その午に値する存在。

 

しかし、晴太のデッキにそのエグゼシードはおろか、十二神皇も入ってはいなかった。

 

考えられることはただ1つ、晴太のオーバーエヴォリューションによって新たに創生されたこと。

 

 

「アタックステップッ!!いけぇ!ビレフトッ!!アタック時効果でカードを1枚ドローし、LV3効果、【輝石封印】!!ビレフトのソウルコアを俺のライフにっ!!そして、このターン、ビレフトのコストを6にする!!」

ライフ2⇨3s

手札3⇨4

【エグゼシード・ビレフト】(4s⇨3)LV3⇨2(コスト4⇨6)

 

 

Bパッド上にあるビレフトのソウルコアがライフへと移動する。これにより、このターン、ビレフトのコストは6。

 

通常、コストを6に上げても対して利得はない。しかし、ここでは、この場では大いに意味があることであり………

 

 

「フラッシュ!!【煌臨】発揮!!対象はエグゼシード・ビレフト!!」

ライフ3s⇨2

トラッシュ6⇨7s

 

「っ!?」

 

 

ビレフトが地を駆ける。そしてそのまま空をも翔け上がり、赤き光を纏う。ビレフトはその中で姿形を変える。装甲は変化し、さらに背には大きな翼が2枚、新たに生えてくる。

 

 

「救世の力よ!!今こそ駿馬に宿れ!!煌臨!!【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】!!!」

手札4⇨3

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】LV2(3)BP20000

 

 

赤き光を弾き飛ばし、中からはダークヴルム・ノヴァと同じ、ノヴァの名を冠するスピリットが現れる。その名はエグゼシード・ノヴァ。ビレフトが進化した姿だ。これもまたオーバーエヴォリューションによって創生されたカードの1つのようである。

 

 

「煌臨時!!俺のライフを5に!!」

ライフ2⇨5

 

 

エグゼシード・ノヴァの救済の力が晴太のライフへと宿る。すると、そのライフは神々しい光を放ち、一気に初期の5まで回復する。この効果はまさしくかの有名なスピリット、ジークヴルム・ノヴァそのもの。

 

もう空は真っ黒の墨色だと言うのに、その神々しい光は月食でも起こったかのように辺りを明るく照らしてみせた。

 

 

「………す、凄い………」

「だが、私のブロッカーは2体……どう足掻いても突破はできませんよ〜〜!!」

 

 

抜かりはない。突破する。

 

 

「フラッシュマジック!!【エグゼフレイム】!!ノヴァのLVを下げて確保!!」

手札3⇨2

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ7s⇨9s

 

「っ!?」

「この効果でBP15000までスピリットを好きなだけ破壊できる!!お前のスピリットの合計はきっちり15000!!焼き払えっ!!」

「何!?」

 

 

上空から地上へと駆けるノヴァ。その身に蒼い炎を纏い、Dr.Aのスピリットへと突っ込んで行く。そのあまりの速さに、エウロス・ファルコン、ダークヴルムはおろか、ダークヴルム・ノヴァさえもついてこれず……

 

棒立ちのまま、そのノヴァの蒼い炎に包まれ、焼き尽くされた。

 

 

「これでブロッカーはいない!!ノヴァはダブルシンボル!!ライフを2つ破壊する!!」

 

 

【オーバーエヴォリューション】

 

世界中の人々の誰もが知るカードがバトル中に創生される謎の現象だが、本来、その創生されるカードはたった1枚が基本。

 

だが、稀にいるという。

 

オーバーエヴォリューションで創生されるカードが1枚ではなく、そのデッキまるごと新しく創生するカードバトラーが。

 

 

「………ヌフフフフ、ギ、ギッヒャヒャヒャ!!!……やはりそうか、やはり君は私の計画の最大の障害たりうる存在!!直に来て正解だったよ!!」

 

 

今度は逆に絶体絶命に立たされたと言うのにもかかわらず、Dr.Aはマスク越しからでもわかるように大きく口角を上げ、笑った。不気味に、それでいて不敵に。

 

彼の言っている意味は、後にわかる事。が、今、少なくともこの時は………晴太の勝ちだ。

 

 

「いけぇ!!ノヴァ!!………超新星天撃……ノヴァ・ゲイザァァァァァァア!!!!」

 

「……う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」

ライフ2⇨0

 

 

再び上空に飛び上がったノヴァ、もう一度急降下する。その先は当然Dr.Aのライフ。

 

そして、刹那のうちに、一瞬にして通り過ぎるかのようにDr.Aのライフを破壊、大爆発を起こした。

 

その多すぎる爆煙は晴太に自分の勝ちを確信させるにはあまりにも十分すぎるものであって…………

 

 

「空は……快晴なり!!」

 

 

晴太が口角を上げ、そう言うと、ノヴァも前脚を上げ、翼を広げ、高らかに気高く吠えて見せた。

 

……これが、空野晴太と後に【エグゼシード・フォース】と呼ばれるデッキとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本当のハイライトカードは…………」
晴太「【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】だ!!」
椎名「っ!!先生!?」
晴太「おうよ!!17歳の姿での登場だ!!」
椎名「おぉ、先生が私と同じ歳………じゃなくて!!これ私のコーナー!!」
晴太「まぁ、そうプンスカすんなって、しばらく俺が主役なんだから………んじゃ、でもって……エグゼシード・ノヴァはその名の通り、ジークヴルム・ノヴァの力を受け継いだエグゼシード!!ライフを回復できる効果は健在だ!!」
椎名「……全部言っちゃったよ」


******


〈次回予告!!〉


ひょんな事からエグゼシードのデッキを手に入れた晴太。そのデッキには4種のエグゼシードのカードが新たに加えられていた。デッキを調整し、久しぶりにバトルに対して強くやる気を出す晴太。そんな彼の新しいデッキの餌食になる第1号とは………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ外伝【エグゼシード伝説】……「大海をも焦がす爆炎」……今、伝説が進化する!!


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

今回から外伝に入りました!!今これをやった理由はいろいろありますが、一先ず、公式のコラボ待つためっていうのが大きいですかね、

エグゼシードはコラボのカードを除けば一番好きなバトスピのカードなので、外伝で大いに活躍させる事が出来ることを凄く嬉しく思っています!!

ちなみに、晴太先生の使用するエグゼシードは最強ジャンプにて付録となった4体のエグゼシードです。


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第74話「大海をも焦がす爆炎」

 

 

 

 

 

 

 

エグゼシード・ノヴァの超新星にも勝にも劣らない激突が、爆風と爆煙を生み、それが夜中を迎えた路地裏に散りばめられる。

 

晴太は命を賭けたバトルスピリッツに見事勝利を収めた。自身のオーバーエヴォリューションによって得た新たな力、エグゼシードによって………

 

 

「………どこだ?……どこに行きやがった!?」

 

 

しかし、爆風と爆煙が完全に消え去る時、そこにはもうDr.Aの姿はなく、ただそこには1つのBパッドが置かれていた。その盤面には兎姫のデッキも確認できる。

 

そして、彼が消えたことによる影響なのか、兎姫を縛っていた闇も徐々に徐々にと薄まっていき、

 

 

「晴君!!大丈夫!!?」

「おぉ、兎姫ちゃん!!……よかったよかった!!無事で何より」

「私なんかどうでもいいわよ!!あんたはどうなのよ?」

 

 

自分の命がかかっていたと言うのにもかかわらず、兎姫は晴太の心配をする。晴太はその兎姫の様子に、「肝が座ってるなぁ」と感じつつも、口角を上げ………

 

 

「あぁ!!全然大丈夫よ!!ほらほら、このとお…………り?」

「晴君!?!」

 

 

命を賭けたバトルスピリッツ。それは晴太を極限の緊張状態にしてしまっていたのか、糸が切れたかのように晴太は気を失った。

 

 

******

 

 

「晴太、君は選ばれた……」

「?」

 

 

晴太の前には真っ暗な世界が広がっていた。どこまで続いているのかもわからない。ここが果てしなく広いのか、はたまた狭いのかも知れない。そんな認識もできない空間。

 

そんな中、ただ1つの声が聞こえてきた。

 

その声は晴太に選ばれた………そう告げた。

 

 

「君はやがて訪れるであろう災いを止めるために生まれてきた」

「………何言ってんだ?……お前は誰だ?」

「そうだな、私は君の遺伝子……とでも言っておこうか……」

「遺伝子?」

 

 

話の内容がいやに中途半端というか、抽象的というか、俄かには信じられない言葉を送ってくるその謎の声。

 

 

「とにかく、君は今、強くなれ、もっともっと……強くなることだけを考えるんだ」

「………強く」

 

 

その声はやがて晴太のかすれていく意識の中へと消え去っていった。

 

皆まで言わなくてもいい、わかっている。もっと強くなる。強くならなければならない。

 

強くなくては、この先、大事な人たちや、これから大事な人たちになるであろう人たちを守ることなど、できやしないのだから…………

 

 

******

 

 

「………っ!」

 

 

晴太は目を覚ました。

 

その目線は見慣れた風景。いつも見ている。ここは自分の部屋のベッド、目線は天井だ。そして腰をあげ、横の窓を見てみれば、その色でもう夜の時を迎えているのが十分に理解できる。

 

 

「あぁ、そっか、俺、あの後倒れたんだ…………でも、夢の中、何か誰かに言われたような………」

 

 

何か、何かを忘れてる気がする。夢で見た、聞いたあの言葉。なんだったか………いまいち思い出せない。

 

と、そんな時だ。扉の開く音がする。

 

 

「……晴君?」

「ん?」

 

 

その人物は兎姫。晴太をここまで頑張って運んできたのももちろん彼女だ。兎姫は晴太の様子を見るやいなや、思わず駆け出し、晴太を抱きしめる。

 

 

「兎姫ちゃん………」

「良かった………本当に、良かった……!!」

 

 

今にも泣き崩れそうな声でそう告げる兎姫。

 

そして、今はなんというか、

 

簡単な言葉で表すならば、良いムード。異性に抱きしめられたのなら、そう考える人も多いかも知れない。

 

しかし、晴太はすっごく……すっごく残念な男。そのムードさえをも気づかず………

 

 

「いや〜〜兎姫ちゃんって、いい匂いするよね〜〜制服のままなのにさ!!洗剤何使ってんの?」

「っ!?」

 

 

晴太の空気の読めない発言で我に帰ったか、兎姫は自分のしたことに理解を覚え、急激に顔を赤くする。

 

そして………

 

 

「私に近づくなぁぁぁあ!!このボンクラァァァァア!!!!」

「何故ぇぇ!?ぶぉっ!?」

 

 

思いっきり顔をビンタされた。

 

晴太にとっては本当に理不尽にしか思えないことだろう。何せ、近づいて来たのは兎姫の方なのだから……

 

その頬には赤い手形が刻まれた。ヒリヒリする。さっきまで気絶していたのにこの仕打ちはなんだ………と、晴太は考えた。

 

 

「フンッ!!……目が覚めたなら私は帰るわよ!!じゃあね!!」

「なんで怒ったんだよ………あ、そうだ兎姫ちゃんっ!」

「な、何よ………」

「デッキ無事だった?」

「え?あ、あぁ、デッキならあの場所に残ってたわよ、1枚足りとも抜けてなかったわ」

「ニッヒヒ!!そうか!!良かったな!!」

「な、何よ……晴君のくせに、じゃあ帰るからね……明日はちゃんと授業受けなさいよ!!机にプリントも置いておいたから!!」

「おう!!」

 

 

そう言って、兎姫は晴太の部屋を出て行った。その表情にはどこか嬉しそうにしており………

 

そんな兎姫が出て行った晴太は………

 

 

「さてさて、じゃあ、兎姫ちゃんがいなくなったところで、デッキを確認しますかな〜〜」

 

 

晴太は自分の机の上にあったデッキを確認する。もちろん兎姫の持ってきたプリントなど見向きもせず………

 

 

「へ〜〜結構いろんなの混ざっちゃったな〜〜みんなエグゼシードの名前が刻まれてる。まっさかあのオーバーエヴォリューションの力を俺が発現させちゃうなんてなぁ〜〜やっぱ俺ってば天才だな!!」

 

 

その中には、新たなスピリットカードが3種類投入されていた。しかも、どのカードもかなりのハイスペック。今や殆どの人たちが所持している強カード群、デジタルスピリットにも負けないだろう。

 

寧ろそれ以上にも思えてくる。

 

 

「よぉ〜し!!早速朝までデッキを調整すっぞ!!……うぉぉお!!」

 

 

晴太がここまでバトスピにやる気を示したのは何年振りだろうか。そのデッキも何年も変わっていなかったというのに、

 

余程このエグゼシード達を気に入ったと見れる。そして時刻は進み…………早朝へ………

 

 

******

 

 

「お〜〜い!!晴君!!起きなさ〜〜い!!」

「ん?んん、姉ちゃん………もうちょっと……」

「だーめッ!!今日ばかりは絶対に学校に行ってもらうんだから!!」

「………んーー、なんで姉ちゃんまで怒ってるんだよ」

 

 

晴太は結局夜遅くまでデッキを新たに構築してしまっていた。が故に、眠気がなかなか取れない。

 

姉の菜々子も今日ばかりはどうしても晴太を起こしたいのか、えらくしつこい。いつもならこんなことはしないのに…………

 

 

「今日は学園の購買に【奇跡のたこ焼きパン】が並ぶそうじゃない〜〜!!お願い晴君!!私の分も買って来て!!」

「………き、奇跡のたこ焼きパン…………だと!?」

 

 

【奇跡のたこ焼きパン】………

 

……その言葉を耳に入れた瞬間、晴太は嘘のように眠気が覚めた。

 

奇跡のたこ焼きパンとは……この界放市を転々と回る出店、奇跡のたこ焼き店から作られる最強のたこ焼き。それに遭遇する確率はかなり低い。

 

だが、今日は何故かその奇跡のたこ焼きをパンで挟んだ究極の一品が、このバトスピ学園 ジークフリード校に並ぶのだと言う。

 

こんな奇跡、2度とないだろう………

 

 

「姉ちゃん………俺、行くよ、学園!!」

「おっしゃあ!!頑張ってね!!御武運を!!」

 

 

菜々子は晴太に向かって敬礼する。独特だが、これが晴太の姉、空野菜々子なのだ。その言動や行動は天然度マックスと言える。

 

これが後に、晴太の師とも呼べる存在、一木花火と結婚するのだから、人とはわからないものである。

 

晴太は学園に行くべく、急いで支度する………もちろん、昨日作成したデッキも忘れない。

 

 

「………あ、それはそうと昨日、兎姫ちゃんと何があったの?」

「兎姫ちゃんと………あぁ、まぁ、色々とね」

 

 

唐突に昨日のことを聞いてくる菜々子。

 

晴太は言えなかった。昨日、命を賭けてバトルスピリッツをしたことなど、しかもそれで負けかけたなど言えるわけがない。いくら天然な姉でもそればかりは流石に気にしてしまうだろう………

 

だが、菜々子が聞きたいのはそこではなく…………

 

 

「まぁ、色々って何!?どこまで行ったの!?」

「あぁ?どこまでって…………姉ちゃん……なんか勘違いしてる?」

 

 

空野菜々子………今年で22歳。弟、晴太の恋が気になるお年頃………だが、晴太は兎姫に全く気がないし、気づかない。果てしなく鈍感なのだ。

 

晴太はその後恋愛脳の姉を置いて、学園へと向かった。

 

 

******

 

 

ここはバトスピ 学園 ジークフリード校。創設3年目の新設校でもある。ここでは高校の単位ももらえる上に、プロバトラーの資格まで取ることができる。

 

そんな素晴らしい学園に、晴太達は通っている。

 

 

「おっす!!兎姫ちゃん!!おっはよう!!」

「……むっ、おはよう」

 

 

教室に入った晴太は兎姫に元気よく挨拶するが、兎姫はどこかまだ不機嫌。さっきのことを気にしてるのだろうか。

 

 

「も、もしかしてまだ昨日のこと気にしてらっしゃる?」

「……フンッ、別にーーー」

 

 

晴太は気にかけるようになんとか和ませようとするが、兎姫はやはりどこか素っ気ない。

 

しかし、心の中では…………

 

 

(くっ、なんで普通に話せないのよ!!……別に昨日の事はもう怒ってないし!!……なんでいつもこんなんなの私は!!………え?待ってこれなんか私があいつのこと意識してるみたいじゃない!!!違う違うそんなんじゃないし!!)

 

 

果てしなく、ぐるぐるとその乙女の頭の思考は循環していた。

 

晴太を意識する。次はそれを否定する。落ち着いたところで晴太の事を考え、また意識する。これの繰り返しだ。ずっと。

 

そんな兎姫の様子に晴太は未だに気づかない。

 

 

「……あっはは、まぁ、昨日は俺を家まで送ってくれたしさ、奇跡のたこ焼きパンでも奢ろうか?」

「っ!!」

 

 

晴太の思いがけない言葉に、目の色を変える兎姫。

 

晴太が兎姫に何かを奢るというのは、取り立て珍しいわけではない。問題はその奢る対象物。あの奇跡のたこ焼きだ。

 

 

「晴君、奇跡のたこ焼きパンって………限定20個しか売られないのよ?………昼の授業が終わってから購買に行っても間に合うわけないでしょ?売り切れ確定よ?」

「…………なんかやけに詳しいな?」

「え?……あ、いや!!べ、別に好きで知ってるわけじゃないんだからね!!私たこ焼き嫌いだし!!」

「ん?あ、そう?…確かにたこ焼きは兎姫ちゃんのイメージには合わないかもなーーー」

 

 

兎姫が情報に詳しい事に若干驚く晴太。

 

まぁ、自分と違って優等生だし、当たり前だろうと思っていたが。

 

 

「限定20個………まぁ、そんだけあれば十分だよ!!前半の授業が終わるのは12時30分。でも購買が開くのは12時ジャストなんだ。途中で授業抜けて購買行けたら変えるって!!」

「またあんたそんなくだらない理由で学校サボって!!」

「こちとら姉ちゃんの分まで買わなきゃならないんだよ、兎姫ちゃんがなんと言おうと俺は奇跡のたこ焼きパンを買ってみせるぜ!!」

「………カッコつけて言うことじゃないし………」

 

 

晴太の言う通り、購買が開く時間は12時ジャスト。前半の授業が終わるのはその30分後だ。つまりその30分の間に購買に行けばほぼ安心して買うことができる。

 

晴太は燃えていた。いつになく、男のプライドさえをも賭けて奇跡のたこ焼きパンを欲していた。その様子は昨日命懸けでバトルした人物とは思えない。

 

 

******

 

 

………そして時は経ち、正午。

 

 

「………ふっふっふ、天才の俺にかかれば授業抜けだすなんて朝飯前ならぬ昼飯前だな!!」

 

 

そうあまり上手い事を言ってるわけでもない晴太は廊下を歩いていた。目指すは当然学園の購買。人気が少ないこともあって晴太は購入できるのを確信していた。

 

だが、それ以上に今気になることがあって………

 

 

「………で、なんで兎姫ちゃんまでついてきてんの?」

 

 

兎姫が晴太の横を歩いていたことだ。あの優等生の兎姫が授業中に抜けて来るなど信じがたいことである。

 

 

「べ、別に好きで来てるわけじゃないわよ!!勘違いしないでよね!!」

「………じゃあ来るなよ……」

 

 

と、雑談を交えながらも晴太と兎姫はようやく購買のある場所まで辿り着いた。人も並んでいない。男子生徒が【たったの1人だけだ】

 

1人だけなら売り切れることはない。買って2つか3つだ。晴太は購入できるのを今一度確信し、その男子生徒の後ろに並んだ。

 

しかし…………

 

………その男子生徒が購買のおばちゃんに言い放った言葉は晴太にとって想像を絶するものであって………

 

 

「おばさん、【奇跡のたこ焼きパン20個くれ】……」

「あいよ〜〜」

「??????!?」

 

 

その言葉に晴太は耳を疑った。こんなに早く来たのだ、奇跡のたこ焼きパンが狙い目だったのは理解できるが、まさかのフルスロットル。

 

これに黙ってるわけにはいかない………

 

 

「おいおいおいおい!!!待て待てぇぇっ!!」

「ん?なんだ、お前は……」

「なんだはこっちのセリフじゃぁ!!!お前1人で何個パン食うつもりだ!!」

「………20個だ」

「知ってるわぁ!!」

 

 

軽くあしらわれる晴太。急に始まった喧嘩に、購買のおばちゃんもおろおろする。

 

 

「俺が先に並んでたんだ。いくつ買おうが俺の勝手だろ?」

「1人でそんなに食わなくったっていいだろう!?一個くらい分けやがれ!!」

 

 

その男子生徒は晴太よりも背が高い。上からの物言いは圧力が凄まじい。だが、晴太も負けず劣らず反発する。

 

このまま言い争っていては拉致があかないと見たか、男子生徒の方が提案をする。

 

 

「ならばバトルで決めるぞ………」

「っ!?」

「ここはバトスピ学園、バトルで決めるのが筋ってもんだろう?………お前が勝てばたこ焼きパンはくれてやる。が、俺が勝てば俺がたこ焼きパンを食う………どうだ?」

 

 

突然のバトルの提案。

 

バトスピ学園だけではない。この世界において、バトルスピリッツでこの程度の賭けをするなど珍しいことではない。晴太もそれを知っているからこそ、あまり驚くそぶりは見せず…………

 

 

「へっ!!いいぜ!!受けてやる!!」

「フッ、そうでなくてはな……!!スタジアムに行くぞ!!」

「おう!!」

「ちょっと待って晴君」

 

 

学園内のスタジアムに行こうとする両者2名。だが、その前に晴太を兎姫は少し呼び止める。

 

別に晴太を叱ろうとは考えてはいない。理由はどうあれバトルを止める理由にはならない。自分が教師の立場だったら変わってたのだろうが………

 

理由は、今から晴太がバトルする男子生徒にあった。その男子生徒はこの学園でもかなり有名なバトラーであって………

 

 

「あの人は多分、私達より1個上の先輩、【海皇 静怒(かいおう せいど)】よ………その使うデッキから、だいたい上の名前で呼ばれてる………去年の界放リーグでも2位になった強者よ」

「ふ〜〜ん…………へっ、じゃあ、俺の新しいデッキを試すには十分過ぎる相手だぜ!!おめでとう!!海皇!!お前は俺の新しいデッキの餌食第1号に選ばれた!!」

「フンッ、無名のバトラー如きが、図にのるなよ……!!」

 

 

晴太は海皇の素性を知るや否や、指を彼に刺し向け、強く言い放った。余程自信がある事が伺える。

 

そんな海皇も鋭い目つきで生意気な歳下である晴太を睨みつける。

 

そうだ。自分は去年ジークフリード校の代表に選ばれ、界放リーグで2位の称号を勝ち攫った強者。こんな名も知れない後輩に負けるわけがない。

 

そして2人は改めて向かった。バトルができる第3スタジアムへ…………

 

 

******

 

 

Bパッドを構える両者。準備は万端。いつでも行ける状態だ。

 

 

「よっしゃぁっ!!始めようぜ海皇!!」

「……最初に言っておく、俺はお前より1個上の学年だ……言葉は慎め……」

「あぁ?んな事どうだっていいだろ?かってーこと気にすんなよ」

「馴れ馴れしい奴だ………時間が惜しい、早く始めるぞ」

「………自分から止めたくせに……」

 

 

自分を呼び捨てする晴太の言葉を訂正しようとする海皇。だが、それもすぐに諦める。

 

この時、この時代。晴太はバトスピのモチベーション自体がなかったために、1年次やジュニア時代、界放リーグをはじめとする大きな大会に参加はしてはいない。

 

が故に実力があっても名前が知られていない。例え彼が若きプロバトラー、一木花火の一番弟子であってもだ。

 

………そして始まる。奇跡のたこ焼きにパンを挟んだ究極の一品、奇跡のたこ焼きパンを賭けて………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが幕を開ける。

 

先行は海皇………

 

 

[ターン01]海皇

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺は成長期スピリット、ゴマモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

「っ!!青のデジタルスピリットか!!」

 

 

海皇が初手で召喚したのは、その名前の通りゴマフアザラシのような見た目の青属性の成長期スピリット、ゴマモン。

 

 

「いちいちリアクションのデカイ奴だ……召喚時、カードをオープン!!」

オープンカード↓

【ダゴモン】◯

【ストロングドロー】×

 

 

その召喚時も成功、海皇はその手札に新たなカードを手札に加え、残りをトラッシュへと破棄した。

 

 

「さらにバーストをセットし、ターンエンド」

手札4⇨5⇨4

【ゴマモン】LV1(1)BP3000(回復)

 

バースト【有】

 

 

先行の第1ターン目としては動けていた方か、しかしそれもここまでが限界。海皇はそのターンをエンドとした。

 

次は晴太のターン。ついに新しいデッキを回す時が来た。

 

 

[ターン02]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!っしぁっ!!行くぜ!!先ずはコレオンを召喚!!さらにネクサスカード、情熱サーキットを配置してターンエンド!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

【コレオン】LV2(2)BP3000(回復)

 

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【無】

 

 

ライオンをこれでもかとデフォルメした赤の小型スピリット、コレオン。そしてこのバトル場の外縁部に火の玉をが走るサーキットが出現した。

 

直ぐにエンドとなってしまうが、幸先の良いスタート言える。何せこのサーキットは…………

 

 

「ほらほら、お前のターンだぜ!!海皇!!」

「フンッ、この程度の火に怯む俺じゃないぞ」

 

 

互いの様子見はここまでか、ここからバトルの流れが急速に加速する。

 

 

[ターン03]海皇

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!!俺もネクサスカード、N o.2ブルーフォレストを配置!!さらに2体目のゴマモンを召喚!!効果も発揮させる!!」

手札5⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【マントラドロー】×

【イッカクモン】◯

 

 

海皇は背後に吸い込まれるような深い青色に染まった森を配置すると共に、2体目のゴマモンを召喚。そしてその効果も成功、海皇は新たにカードを加えた。

 

 

「……出し惜しみはしない、アタックステップ!!やれ!ゴマモン!!」

手札3⇨4

 

「っ!!ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

ゴマモンが晴太のライフへと飛び出して行き、そのライフを鋭い鉤爪で1つ引き裂いた。Dr.Aの時と違って当然実際に痛みは感じない。

 

 

「ネクサスカード、情熱サーキットの効果!!相手のアタックステップ中、俺のライフが減った時、カードを1枚オープンし、それが神皇、又は十冠スピリットならノーコスト召喚する!!」

「……っ!!運試しか……」

 

 

情熱サーキットの火の玉が加速し、外縁に広がるサーキットをぐるぐると駆け回る。そして、その火の玉の1つは晴太のデッキへと衝突し、晴太にオープンさせる権利を与えた。

 

 

「さぁ行くぜ!!カード………オープン!!」

オープンカード↓

【廣獣竜ドラリオン】◯

 

「……っ!?」

 

 

効果は成功。十冠スピリット、ドラリオンだ。

 

晴太はこのカードを見るやいなや口角を上げ、召喚する。

 

 

「よっし!!来い!!廣獣竜ドラリオン!!」

リザーブ1⇨0

【廣獣竜ドラリオン】LV1(1)BP5000

 

 

晴太の場へと現れたのは顔が竜、胴体が猛獣のスピリット、ドラリオンだ。このスピリットは晴太の以前のデッキからの重要な役回りを担う存在。その立ち位置はこのデッキでも変わらず…………

 

 

「召喚時効果!!BP5000以下のスピリット2体を破壊する!!対象は2体のゴマモン!!」

「………っ!?」

 

 

ドラリオンの口内から放たれる渦巻く炎。それが2体のゴマモンを巻き込んで行き、終いには焼き尽くしてみせた。

 

これで大きく流れを持っていける。そう思う晴太だが、海皇はなおもその冷静な表情を変えることはなく、静かにその伏せていたバーストを反転させる。

 

 

「バースト発動!!ダゴモン!!効果によりノーコスト召喚する!!」

【ダゴモン】LV1(1)BP7000

 

「……なにっ!?」

 

 

バーストが反転すると共に場へと広がる黒い海。そこから浮かび上がってくるのはタコのような謎の完全体スピリット、ダゴモン。

 

 

「ダゴモンの召喚時効果、召喚時効果を持つスピリット1体を破壊!!」

「っ!?」

「………当然、ドラリオンだ」

 

 

ダゴモンはその触手のような腕を晴太の場にいるドラリオンの方へと伸ばし、それを縛り付け、自分の足元にある黒い海へと引きずり込んだ。

 

そしてドラリオンがそこから這い上がってくることは決してなく………

 

 

「効果によって加えたカードを確認もしないとは、バカな奴め……アタックステップは継続、ダゴモンでアタックする!」

 

「くっ!!ライフで受ける!!」

ライフ4⇨3

 

 

ダゴモンの口内から放たれる黒い塊が晴太のライフをまた1つ粉々に粉砕した。

 

 

「もう一度情熱サーキット!!…………あれ?」

オープンカード↓

【ダイナバースト】×

 

 

ライフの減少により、再び情熱サーキットの効果を発揮させるが、次に捲られたのはスピリットではなくマジックカード、当然何事もなかったかのようにトラッシュへと破棄された。

 

 

「……そんなものに一喜一憂するか……くだらん、ターンエンドだ」

【ダゴモン】LV1(1)BP7000(疲労)

 

【No.2ブルーフォレスト】LV1

 

バースト【無】

 

 

海皇はそのターンをエンドとした。

 

彼はこのターン、晴太の行き当たりばったりなバトルに呆れてた。この程度の実力で自分とのバトルを承諾したかと思うと愚かだとしか思えて来ない。

 

だが、当然、晴太とてこのままで終わるはずがなく………

 

 

「なるほどな〜〜界放リーグ2位ってのは嘘じゃないらしい…………だけど俺の新しいデッキはこんなもんじゃないぜ〜〜!!」

 

 

晴太の反撃が幕を開ける。

 

 

[ターン04]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!!行くぜ海皇!!こっからが勝負だ!!」

(……なんだ?…奴の波が変わった……ここで何か来るのか?……)

 

 

波が変わった。

 

これは海皇の独特な言い回し。彼はその場の雰囲気や空気などを波。と呼ぶ。

 

たった今、晴太にとって良い、高い波が来た。そう感じたのだ。それはつまりここで必ずエースを召喚する事を直観的に理解したという事であって………

 

 

「先ずはバーストを伏せ、召喚!!エグゼシード・ビレフト!!LV3だ!!」

手札4⇨2

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

晴太の背後から何かが走ってくる。それは晴太の頭を飛び越え、場へと着地する。

 

かの有名なスピリット、エグゼシードの名を冠したスピリット、エグゼシード・ビレフトが晴太の場へと姿を見せた。

 

 

「……エグゼシード?……十二神皇スピリットの?………しかしサイズが違う………」

「へっ!!そりゃ知らねぇよなぁ!!これは俺だけのカードなんだからよ!!」

 

 

ビレフトをはじめとするエグゼシード達は晴太のオーバーエヴォリューションによって新たに現れたカード。しかもそれはつい昨日の話。

 

この時点でそれを認知していたのはほんの僅かな者達しかいない。

 

 

「アタックステップッ!!今度はこっちから行くぜ!!ビレフトでアタック!!効果で1枚ドロー!!」

手札2⇨3

 

 

走り出すビレフト。そのアタック時効果は4コストの赤スピリットとしてはありふれている効果。決して弱くはない、便利な効果だ。

 

そして、それだけではなく…………

 

 

「もう1つのアタック時効果!!【輝石封印】!!ビレフトのソウルコアを俺のライフに!!……そしてビレフトはこのターン、そのコストを6にする!!」

ライフ3⇨4s

【エグゼシード・ビレフト】(4s⇨3)LV3⇨2(コスト4⇨6)

 

 

Bパッド上のビレフトのソウルコアが晴太のライフへと移動する。そしてビレフトは赤い光を一瞬纏い、そのコストを上昇させる。

 

基本的にコストを上げる行為は意味がないが、ここでは大いに意味があるものであって………

 

 

「さらに【煌臨】発揮!!対象はビレフト!!」

手札3⇨2

ライフ4s⇨3

 

「………さらに大きな波が……!!」

 

 

晴太のソウルコアは今度はトラッシュへと移動する。

 

そして地を駆けていたビレフトは宙をを駆け上がり、さらには神々しい赤き光をその身に纏い姿形を大きく変えていく。

 

 

「救世の力よ!!今こそ駿馬に宿て全てを照らせ!!煌臨!!超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ!!」

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】LV2(3)BP20000

 

 

その赤き光を解き放ち、新たに現れたのはビレフトが進化した姿。ノヴァだ。その翼を広げ、今もなお、上空を駆ける。

 

 

「……なんだこいつは………お前はいったい?」

 

 

見たこともないスピリット。そのスピリットから放たれる圧力というのは計り知れないものがある。

 

海皇は当然その存在に驚愕したことだろう。

 

 

「へっ!!……俺はただの天才だ!!それ以上でも以下でもねぇ!!……ノヴァの煌臨時!!俺のライフを5にする!!」

ライフ3⇨5

 

「なにっ!?」

 

 

ノヴァから放たれる神秘の光。それが晴太のライフへと直撃し、癒しの力を与える。そのライフは全回となり、初期の状態に戻った。

 

この強力な煌臨時効果に、海皇は驚かないわけがなく……これにより有利なはずだったダメージレースが覆ってしまう。

 

 

「煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!故にアタックは継続!!ノヴァでアタックだ!!」

「くっ……ライフで………」

「超新星天撃……ノヴァ・ゲイザー!!!」

 

「ぐっ、くうっ!!」

ライフ5⇨3

 

 

上空から海皇のライフへと狙いを定め、急降下するノヴァ。そして目にも留まらぬ速さで一瞬のうちにそこを通り過ぎ、海皇のライフ2つを一気に砕いた。

 

 

「お前も行け!!コレオン!!」

 

「っ!!それもだ」

ライフ3⇨2

 

 

コレオンも海皇のライフを破壊すべく走り出す。そして見事に飛び蹴りでそのライフを1つ砕いた。

 

 

「よっしゃ!!これで一気に大逆転だな!!これで奇跡のたこ焼きパンはいただきだぜぇ!!……エンドだ!!」

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】LV2(3)BP20000(疲労)

【コレオン】LV2(2)BP3000(疲労)

 

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【有】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとした晴太。

 

ノヴァの効果も相まって、ダメージレースはひっくり返り、完全に有利な状況を作り出した。しかもその相手は去年の界放リーグ2位の海皇静怒にだ。いくら知らない強力なカードで初見殺ししたと言ってもこれほど彼を追い詰める事ができるバトラーなど、おそらくジークフリード校にはそういないことだろう。

 

次は追い詰められた海皇のターン。さっきまでは見たこともない晴太のスピリットに驚愕していたが、慣れてきたのか、既に冷静さを取り戻しており………

 

 

「この学園にここまでの奴が埋もれていたとはな………だが1つだけ教えてやる………」

「?」

「……火はどう足掻こうとも水には勝てん……!!」

「あぁ?」

「それを今、お前に叩き込んでやる……!!」

 

 

これは海皇の例え。バトルにおいて、火が水に勝てないなどの原理は通用しない。当然である。テキストに書かれていることが全てなのだから………

 

だが、これは彼の必ず勝利するという溢れんばかりの自信を表しているのであって………

 

 

[ターン05]海皇

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨8

トラッシュ3⇨0

【ダゴモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺は3体目のゴマモンを召喚し、効果を発揮!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨1

トラッシュ0⇨1

オープンカード↓

【スプラッシュザッパー】×

【ズドモン】◯

 

 

海皇は3体目となるゴマモンを召喚。そしてこの効果も成功、彼はまた新たなカードを手札へと加えた。

 

そして、時は迎えたか、海皇ははらにアタックステップでゴマモンのもう1つの効果を発揮させる。

 

 

「俺に波が流れてきた、アタックステップ!!ゴマモンの【進化:青】を発揮!!成熟期スピリット、イッカクモンへ進化させる!!」

手札4⇨5

【イッカクモン】LV3(6)BP8000

 

「っ!!…やっと進化しやがったか」

 

 

ゴマモンが0と1のデジタルコードに巻き付けられ、その中で姿形を大きく変えていく。

 

やがてそれは破裂し、中から現れたのは、白き体毛に包まれた大きな体格に加え、長い1本のツノを携えた青の成熟期スピリット、イッカクモンだ。

 

 

「アタックステップは継続!!やれ!!イッカクモン!!」

「はん!!俺のライフはノヴァの効果で5!!そんくらい受けてやるぜ!!」

 

 

晴太はこの時余裕を持っていた。エグゼシード達と出会って間もないからと言っても、その様子は調子に乗っていると言わざるを得ない。

 

ライフは初期と同じ5。しかもセットしてあるバーストカードは相手のアタックステップを止める効果を持つ絶甲氷盾。この時、晴太は完全に自分の勝利を確信していた。

 

確かに全くもって動きに無駄がなくて、それでいて強く、隙がない。

 

だが、海皇が狙っているのは晴太のライフなどではなく………

 

 

「……そいつが出た時からライフのダメージレースで勝とうなんざ思ってはいない!!……イッカクモンの効果!!相手のデッキを3枚破棄する!!」

 

「っ!?なにっ!?」

デッキ31⇨28

 

 

イッカクモンの名前の通り存在する一角から放たれる稲妻に、晴太のデッキが直撃、そのデッキが3枚めくれ、破棄される。

 

そしてその中にはマジックカードの【ダイナバースト】が確認でき………

 

 

「さらにマジックカードの破棄により、コスト5以下のスピリット、コレオンを破壊!!」

「っ!!」

 

 

今度はその一角をミサイルのように射出するイッカクモン。それは晴太の場に存在するコレオンに直撃、小さなコレオンがこれ耐えられるわけがなく、難なく爆発し、破壊されてしまった。

 

 

「お、お前………」

「あぁ、そうだ。このままただ殴り合うだけでは勝てないからな、作戦を切り替えさせてもらった……」

 

 

海皇は晴太とのデッキとの相性が悪いと見るやいなや、戦術をデッキ破壊に颯爽と切り替えてきた。そんな頭の起点の速さが、去年の界放リーグで彼を決勝の舞台へと導いたのだ。

 

晴太は今その強者の洗礼を受けている。

 

そして、海皇はその手を緩めることなく、イッカクモンをさらに進化させるべく、効果を発揮させる。

 

 

「さらにイッカクモンのもう1つのアタック時効果、【超進化】を発揮!!青の完全体スピリット、ズドモンをLV3で召喚!!」

【ズドモン】LV3(6)BP14000

 

「っ!!」

 

 

イッカクモンが先ほどのゴマモン同様、0と1のデジタルコードに包まれ、進化する。

 

新たに現れたのは二足歩行の海洋生物のような見た目に加え、背部を強固な甲羅で包み、その手にはハンマーを携えた青の完全体スピリット、ズドモン。

 

海皇のデッキにおいて、相手をデッキ破壊で倒す時のみ使用するエーススピリットだ。

 

 

「……アタックステップは当然継続!!ズドモンでアタックする!!………そしてその効果、【大粉砕】!!」

「っ!?」

「ズドモンのLV掛ける5の枚数分、お前のデッキを破壊する!!……そして今のズドモンのLVは3だ!!」

「………てことは15枚!?」

「その通り!!これが俺の波だ!!」

 

「くっ!!」

デッキ28⇨13

 

 

ズドモンが晴太を鋭い眼光で睨みつけると、ただそれだけで晴太のデッキの上からカードが次々と破棄されていく。これが大粉砕の効果だ。一度のアタックだけで相手のデッキに大きな影響を及ぼすことができる。

 

しかも、その中にはバーストカードの爆烈十紋刃のカードも確認でき…………

 

 

「破棄した中にバーストのカードがあるため、【大粉砕】の追加効果で、お前のスピリットを1体破壊する!!対象はお前のエグゼシード・ノヴァ!!」

「っ!?」

「……雷神の裁き……ハンマースパークッ!!」

 

 

ズドモンがその手に持つハンマーを地面に力強く打ち付けると、雷がこの場に迸り、晴太のノヴァまで走り出す。その速さはノヴァを上回っているのか、ノヴァは逃げる事も出来ず直撃、その身に電撃が走り、大爆発を起こしてしまった。

 

 

「くっ!!ノヴァッ!!」

 

「さらにネクサスカード、ブルーフォレストの効果でコアを2つズドモンに追加」

【ズドモン】(6⇨8)

 

 

あれだけ有利だった盤面が一変。イッカクモンとズドモンによって殆どひっくり返されてしまった。晴太はノヴァの破壊による爆風を肌で感じながらそう自覚した。

 

そしてまだだ。まだ海皇は止まらない。このターンで決着をつけるべく、さらに1枚のカードを手札から切り………

 

 

「フラッシュマジック!!爆砕轟神掌!!アタック中のズドモンを回復!!」

手札5⇨4

リザーブ1⇨0

【ズドモン】(8⇨6)(疲労⇨回復)

トラッシュ1⇨4

 

「っ!?」

 

 

青き光を一瞬だけその身に纏い、疲労状態から回復状態となったズドモン。これでこのターン、2度目のアタック権利を得た。

 

しかもそれだけではない。【大粉砕】を持つズドモンの2度目のアタック。それはつまり晴太のデッキアウトを意味する。

 

 

(幸い、絶甲氷盾があるからこのターンの負けはない………けど、問題は次のターンだ。なんか良い手は………)

 

 

バーストにより、ズドモンのアタックは止めれるため、少なくともこのターンの負けはないのだが、次に決めなくてはそれも意味がない。

 

晴太は考える。次をどうするか………何を召喚したら海皇に勝つことができるか………

 

 

(俺のデッキでまだ破棄されていないカード……………っ!!そうかあいつだ!!まだあいつがいるぞ!!)

 

 

破棄されたカード達を予め把握していた晴太は、あるスピリットがまだ破棄されていないことに気づく。それは来さえすれば晴太を勝利へと導くであろうエーススピリット。後は残り13枚のデッキの中からそれを引き当てるだけだ………

 

 

(確率は13分の1……いや、普通のドローも合わせると…………だめだ、考えるな……引くことだけを頭に入れろ!!)

 

 

ゆっくりと迫ってくるズドモン。そう時間はない。だが、あれを召喚しなくては、絶対に勝つことはできない。

 

ならば乗っかるしかあるまい、その大きな賭に………

 

 

「ズドモンのアタックはライフで受ける!!……くっ!」

ライフ5⇨4

 

 

晴太の眼前まで迫って来たズドモンが、そのハンマーをライフへと強く打ち付け、1つ砕いた。

 

晴太は先ず、このアタックを止めるべくバーストを発動させる。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!絶甲氷盾!!ライフを1つ回復し、コストを払うことで、アタックステップを終わらせる!!」

ライフ4⇨5

リザーブ6⇨2

トラッシュ3⇨7

 

 

砕かれた晴太のライフが瞬時に回復する。そしてそのすぐ後に、海皇の場に猛吹雪が発生。ズドモン達の視界が阻まれ、身動きできない状態となってしまった。

 

 

「ほお、苦し紛れのバーストだな、その程度で俺の波は緩やかにはならんぞ!!」

 

 

しかし、それでもなお、海皇は落ち着きを見せており………

 

 

「おいおい!!なんか忘れてねぇか?」

「?」

 

 

すると、晴太は情熱サーキットの存在を知らしめるかのように右手を天高く上げてみせる。海皇はその存在を忘れていたわけではないが………

 

 

「この期に及んでさらにデッキを減らす気か?……愚かな、それで外れたらお前の負けだぞ」

「へ!!言ったろ!!俺のデッキにはまだいるんだよ!!ここから逆転できる奴がな!!」

「………引けるわけ……」

「行くぜ!!情熱サーキットの効果!!ライフの減少により、カードをオープンし、神皇、十冠スピリットならノーコスト召喚できる!!」

 

 

ここまで来たらもはや13も12も関係ない。

 

博打だ。晴太は勢いよくその薄くなったデッキの一番上のカードをオープンする。

 

………それは……

 

 

「カード……オープンッ!!!」

オープンカード↓

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】◯

 

「っ!!なに!?」

 

 

……来た……

 

……引いた……本当に引いてみせた。

 

晴太は口角を上げ、そのカードの召喚を猛々しく宣言する。

 

 

「効果は成功!!行くぜ!!爆炎と覇!!2つの力が融合する!!来い!!エグゼシード・バゼル!!」

リザーブ2⇨1

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV1(1)BP10000

 

 

晴太の場に噴き上がる一本の巨大な火柱。それはいとも容易く絶甲氷盾の吹雪を吹き飛ばす。そしてその中で静かに眼光を輝かせるスピリットが1体、それはその火柱を振り払い、姿を見せる。

 

その名は爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル。晴太が自分のオーバーエヴォリューションによって獲得したエグゼシードの1体である。

 

 

「バゼル………やっぱお前かっこいいぜ!!」

「…………波が………変わっただと!?」

 

 

その底が知れない存在に対し、やはり独特なリアクションで答える海皇。

 

だが、強者故にわかってしまうのだ。今、自分の目の前にいるスピリットがどれだけ強力なのかが………直感的に。

 

そしてこれで決着がつくことも………

 

 

「さぁ、アタックステップはとっくに終わったんだ、エンドにしてもらうぜ……!!」

 

「………ターンエンド……っ!!」

【ズドモン】LV3(6)BP14000(回復)

【ダゴモン】LV1(1)BP7000(回復)

 

【No.ブルーフォレスト】LV1

 

バースト【無】

 

 

流石に致し方無しと言ったところか、海皇はそのターンをエンドとしてしまう。

 

次は見事に海皇の攻撃を止めてみせた晴太のターン。召喚されたエグゼシード・バゼルが今こそ動き出す。

 

 

[ターン06]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!!バゼルのLVを上げて、そんままアタックステップッ!!駆けろバゼルッ!!」

リザーブ9⇨6

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】(1⇨4)LV1⇨3

 

 

LVが上昇したバゼルが地を駆ける。目指すは当然………

 

 

「ズドモンだっ!!指定アタックしろ!!」

「なにっ!?」

 

 

火柱が次々と立ち上がり、バゼルとズドモンを繋ぐ炎の道が出来上がる。バゼルはそこを突っ切る。

 

 

「海皇!!お前はさっき火じゃ水には勝てないとか言ってたよな?」

「ッ!!だったらなんだ!!」

「へへ!!知ってるか?強すぎる炎は水を蒸発させるんだぜ!!……バゼルッ!!」

「っ!?」

 

 

晴太がそう言うと、バゼルは腰にある2本の刀を口に咥え、そこに爆炎の炎を灯した。

 

そして、今から放たれる剣撃は、回避不可能な爆炎の一閃………

 

 

「爆炎十文字切りぃぃい!!!」

 

 

バゼルがズドモンを一瞬にして通過したかと思えば、ズドモンの腹部にはすでに十字の後が刻まれており………

 

そこから爆炎の炎が噴き上がり、ズドモンを爆発させた。

 

そして仕上げはバトル終了時の効果………

 

 

「この効果でブロックされたバトルの終わり、相手のライフ2つを破壊するっ!!」

「っ!?」

 

 

ズドモンの破壊による爆煙と爆風の中、海皇がその破壊を肌で感じる前に、バゼルは彼の目の前に佇んでおり………

 

海皇のライフは2つ。終わりだ………

 

 

「………まさかこれほどの奴が…今まで埋もれていたと言うのか!?…お前は本当に何者………」

「ただの天才だ!!」

 

 

次の瞬間、バゼルが口内から力強い爆炎の炎を放ち………

 

 

「くっ!!…うわぁぁぁ!!!」

ライフ2⇨0

 

 

海皇の残りのライフを全て焼き払った。

 

これにより、勝者は晴太。見事、界放リーグの強者を倒して見せた。

 

 

「空は……快晴なり!!」

 

 

晴太がそう言うと、場に残ったバゼルも前脚を上げ、高らかに吠えた。まるで晴太の勝利を祝うかのように。

 

 

 

 

 

「お前、名はなんと言う?………」

「あぁ?」

 

 

Bパッドを折り畳み、晴太に詰め寄る海皇。

 

単純に気になったのだ。この目の前の男が。

 

学年が2年だと言うことは制服を見ればわかる。しかし、そうなればそこまでの実力がありながら去年の界放リーグに参加しなかったことになる。

 

晴太は気に食わなかった海皇にそう言われ、少しだけ怪訝そうな顔をするが、いつまでも小さな事で引きずるのは性に合わないか、口角を上げ……

 

 

「晴太……空野晴太だ!!」

 

 

そう自分の名前を海皇に言い放った。

 

 

「空野か………覚えておこう……」

「ってかさ、海皇……」

「?」

 

 

晴太はそんなことよりかもずっと気になってる事があった。それはこのバトルが始まった理由であり………

 

 

「奇跡のたこ焼きパンは買っても良いよな?」

 

 

海皇は正直、たこ焼きのことなどすっかり頭の中から忘れ去っていた。それほどまでに、晴太とのバトルが衝撃的だったからである。

 

 

「…………好きにしろ、全部くれてやる」

「いや〜〜いいよいいよ!!2つで!!俺と姉ちゃんの分だけで!!残りの18個くらい持ってけよ!!」

 

 

そんな、話がようやく終わりを迎えようとしたその直後だ。

 

 

♪キーン、コーン、カーン、コーン………

 

 

「…………あ」

 

 

午前の授業の終わりを告げる悪夢の鐘が鳴り響いた。それはこの第3スタジアムであっても同様に聞こえる。

 

それが鳴り終わると共に凄まじい足音が轟音のように強く耳に入ってくる。ここは別館だと言うのに………それはたった20個しかない奇跡のたこ焼きパンを得るための戦争。

 

晴太と海皇は完全に出遅れた…………

 

 

「これもまた波か……」

「かっこつけてんじゃねぇ!!」

 

 

晴太はここ1番のツッコミを海皇に放った………

 

 

******

 

 

ここはジークフリード校の校舎屋上………

 

そこに1人の女子生徒がベンチに座って静かに奇跡のたこ焼きパンが入っている袋を開けた。その香ばしい匂いが鼻をかすめる。それだけでこれがどれだけ美味しい一品かが理解できた。

 

 

「まったく……バトルなんかしてたら授業の終わりに間に合うわけないでしょ………あ、やっぱり美味しい……」

 

 

それは鳥山兎姫。

 

彼女が結局一番賢かったか、晴太達がバトルするためにスタジアムに向かった後、こっそり購入していた。

 

晴太が勝つことは確信していたため、晴太と姉の菜々子の分、2個と………後自分の分1個、計3個を買った。

 

言えない。華の女子高生がたこ焼きとか、焼き芋とか、そう言う類のものが好きで好きで堪らないなど……特に好きな男子の前では………

 

兎姫はたこ焼パンの感想を述べながら、静かにその昼休みが終わるのを待った。

 

 

 

******

 

 

 

その日の夜の事だった。そこは1つの一軒家。寺のような見た目、その庭には石垣が積まれており、どこか古参な家の印象を色濃く残している、そんな家の中。

 

ボリュームのある長い赤髪に加え、首に大きめのゴーグルを掛けた少女と、その父らしき厳つい男性が会話していた。

 

 

「明日から学園か………楽しみだ!!」

「茜……大丈夫か?体の弱いお前が一人暮らしとか、パパ心配なんだけど………」

「大丈夫さ親父!!私は【界放市の一番】になって帰ってくる!!」

 

 

茜という少女は父に向かってそう強く宣言した。

 

 

「……そして、花火さまの一番弟子にも会って来るぞぉぉ!!くぅぅ!!楽しみだなぁ!!」

 

 

この赤髪の少女………

 

名は【赤羽 茜(あかばね あかね)】

 

少数派だが、赤属性最強と謳われるバトスピ一族、【赤羽一族】の末裔。その者達は皆独特なバトルセンスを持ち合わせているという。茜はその中でも特に天賦の才能を秘めている。

 

この少女は後に空野晴太の最大のライバルとなる者であって………

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


晴太「本日のハイライトカードは【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】!!」

晴太「エグゼシード・バゼルはバーストの効果を持つスピリット!!指定アタックして、ライフを減らした後に、バーストまで発動できる凄い奴だ!!」


******


〈次回予告!!〉


晴太達のクラスに転校生が現れた。その名は【赤羽茜(あかばねあかね)】……茜はなぜか晴太が花火の弟子である事を知っており、……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ外伝【エグゼシード伝説】…「赤羽茜のウォーグレイモン!!」……今、伝説が進化する!!



******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

赤羽茜につきましては、本編の第6話等に名前だけ登場してますので、そちらも是非ご確認ください!!

海皇のキャラはテレビでサーフィンがやってる時になんか思いつきました笑


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第75話「赤羽茜のウォーグレイモン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

晴太が海皇に勝利したことは瞬く間に学園中の話題となった。その大きなニュースには学園の誰もが驚愕したという。

 

それもそのはず、何せ晴太が勝利した相手はあの界放リーグで2位を勝ち取った海皇静怒なのだから………

 

それに勝てる者など昨年度1位の【九白一族】の者だけだろう。と、周りの者達の考えが固まるのも致し方ない。

 

 

「おい、あれが空野晴太だってよ」

「え!?あの海皇に勝ったって奴!?」

 

 

時刻は早朝。晴太と兎姫は学園へと登校している途中、あらゆる場所から晴太の噂話が聞こえてくる。

 

 

「え!!顔もちょっとカッコいい!!話しかけて来る?」

「やめとけって、横に彼女いるよ?」

 

 

その中には黄色い声も多数。兎姫は耳に入ったこの会話に「彼女じゃないわよ」と、照れながら小声でツッコミをいれる。

 

晴太はそれとは逆に嬉しそうにしていた。このちやほやされる状況を楽しんでいた。

 

とても清々しかった。エグゼシードのカード達を得てから僅か1日2日でここまで人気者になるなど思っても見なかったことだろう。

 

 

「ふふふ、………はっはっは!!!」

 

 

本当にこの時の晴太は完全に調子に乗っていた。

 

 

「………うるさい」

「いや〜〜人気者は辛いな、兎姫ちゃん……めっちゃ慕われるし、女の子も選び放題だぜ!!」

「っ!!……悪かったわね!!」

「何が!?ぶぉ!?」

 

 

晴太の無神経な発言に、また兎姫は腹を立てて、今度はグーで晴太の頬を全力で殴りつけた。

 

兎姫自身、自覚はないが、「自分がいながら」などと思っていた。

 

 

******

 

 

時間は少しだけ経ち、朝のホームルーム前、晴太と兎姫は席についていた。一番後ろの窓側だ。晴太の方が窓側に近い。

 

 

「なぁ、兎姫ちゃん〜〜機嫌直せって……なんか俺悪い事言った?」

「……フンッ、勝手にしなさい!!」

「え、え〜〜?」

 

 

意味がわからない。まるで怒られた意味がわからない。兎姫とは小さい頃からずっと一緒にいるが、昔から怒る理由がわからない。さっぱりだった。いつも理不尽に殴られる。

 

晴太がなんとか兎姫の機嫌を直そうとその脳内をフル回転し始めた時だ。担任の先生が教室に入ってくる。若い男の教師である。

 

そんな彼が言った言葉は、学校に行くなら、不確定ではあるが、あり得る出来事。

 

 

「……おはようみんな!!今日は急だが、転校生を紹介する!!」

「?転校生?」

 

 

担任による唐突の宣言に、戸惑う生徒たち。そしてそれと同時に興奮する者も何名かいる。兎姫は戸惑う側だが、晴太はそれに対し一切興味なさそうに、頭の中は兎姫のご機嫌とりの事でいっぱいだった。

 

 

「ん、じゃあ、呼ぶぞ………」

 

 

そして担任が、その生徒を呼ぶ………

 

 

「おーーい、いいぞ!」

「オーーッス!!」

 

 

その声色から、女子である事が分かる。しかし、その口調は穏やかではない。女子とは思えない程に荒々しい。凄まじく姉御感がある。

 

そして、その人物は教室のドアを堂々と開け、入室してくる。それを見た途端、晴太を除く男子生徒は皆「おお!!」と喜びの声を上げた。

 

その容姿はとても端麗。背も高く、まるでモデルのようだ。だが、それ以上に目を引くのはボリュームのある長くて赤い髪と、首にぶら下げた大きめのゴーグル。

 

しかし、もっとも驚かされたのはその名前………

 

彼女は黒板に自分の名前をでかでかと書いていく。

 

 

「私の名前は【赤羽茜(あかばねあかね)】!!!一応赤羽一族ってのに属してる!!これからよろしくなッ!!」

「赤羽って…あの赤属性最強一族の?」

 

 

【赤羽一族】

 

界放市外れにある街に住んでいる一族であり、日本における一族の中では赤属性最強と謳われている。

 

茜はその末裔………

 

その大胆で元気な自己紹介は、クラスメイトの殆どが拍手を送った。ただ1人、兎姫のご機嫌とりの事を未だに考えていた晴太を除いては………

 

 

「よし、早速授業だな!!……それじゃ赤羽の席は………」

「私の席は…………」

 

 

担任が茜の席を指定する直前、茜は一直線に走り出した。そこは他でもない。晴太の席だ。

 

 

「こいつ!!……こいつの後ろが良いです!」

「なっ!?」

「んーー兎姫ちゃんの機嫌を直す方法………」

 

 

晴太の目の前まで行って指を指した。こいつの、晴太の後ろの席が良いと。この時点でクラス中が茜は晴太に好意的という印象が残る。

 

兎姫はなぜか嫌な予感がした。そう、なぜかだ。理由は自分ではわからない。まぁ、本当はただの嫉妬なのだが…………晴太は未だにブツクサと呟きながら兎姫のご機嫌とりの事を考えていた。

 

結果的に、晴太のさらに後ろの席に茜が来ることになる。

 

 

******

 

 

また少し時が経ち、午前の授業が始まった時だ。担任が喋る。他の生徒は集中する。晴太はやはり兎姫のご機嫌とりの事を考えていた。

 

そんな時だ…………

 

 

(……んーーどうするか……好きな食べ物あげる?…いや、兎姫ちゃんの好物、値段が高そう……てか好きなもの知らないし………なんかそれっぽいの買ってあげる?…いや、それも高そう………んーーーーーーん?肩を叩かれてる?)

 

 

晴太の肩を後ろから叩いてくる人物がいた。それは当然、さっき転校してきた茜だ。晴太はそれに気づき、振り返る。

 

 

「なんだ?」

「悪りぃ、私転校したばっかで教科書なくてさ〜〜お前の教科書ちょっと貸せよ!!ちょろっと書き写して返すからさ!!」

「ん?あぁ、なら別に………ほい」

「サンキュー!!」

 

 

どうせ読みもしない教科書だ。晴太は茜にその教科書を貸した。そしてまた兎姫のご機嫌とりの事を考える。

 

しかし、貸した間、10秒もないくらいで………

 

 

「ほらよ!!返す!!」

「ん?早くない?」

 

 

もう教科書が帰ってきた。全く授業を聞いていない晴太だが、こんな短い時間で書き写すことができないのは分かる。

 

そして、茜は晴太に言葉を付け足すように………

 

 

「……138ページ見ろよ!!」

「ん?」

 

 

言われた通りに晴太はそのページを広げる。そしてそこにはある言葉が書かれていた。

 

それは………

 

 

ー『お前、一木花火の弟子だろ?』

 

 

っと……書かれていた。晴太はこの言葉に驚き………

 

 

「なっ!?お前なんでその事を………」

「フッ、それが知りたければ今日の放課後、屋上に来るんだな………!!」

 

 

一木花火の弟子。

 

晴太はこの事をずっと伏せていた。嫌だったからだ。そんな肩書きの印象を持たれるのが、持たれるならやはり今日の海皇を倒した噂のようなものの方がよっぽど良い。

 

故に、故にだ。晴太は今まで一度たりともこの事を口外してはいない。知っているのはこの学園では兎姫くらいなものだろう。

 

何故この女子はこの事を知っていたのだ?

 

晴太にはどうしても疑問が残る。しかし、それを聞き出すためには屋上に行くしかない。今は言う通りにするしかないだろう。

 

そのやり取りを横で見ていた兎姫は嫉妬の炎が燃え上がっていた。

 

 

******

 

 

また時は経ち、今日の放課後、晴太は屋上に来ていた。待っていた。赤羽茜を………

 

しかし、また晴太は気になることがあり…………

 

 

「……で、なんで兎姫ちゃんがいるの?」

「だめ?」

「いや、別に嫌ってわけじゃないけどさ………はは」

 

 

またまた兎姫が付いてきていた。

 

理由は言わずもがな、しかし晴太はやはりその理由にはたどり着いてはおらず………

 

 

「あんたあの子に何言われたの?」

「え?………あぁ、俺が花兄の弟子って言われた……」

「はぁ!?そんだけ?そんだけで屋上に来たわけ!!?」

「えぇ!?そうだけど……なんで知ってるか知りたいじゃん……なんでまた怒ってんだよ」

 

 

兎姫にとって、晴太が花火との師弟関係を隠していることなど、正直どうでも良い。まぁ、晴太が隠すと言っていたから、自分も当然口外などしていないが……

 

そもそも師弟関係というよりかは彼らの関係は兄弟に近い。晴太は昔から花火と遊んでいただけであり、結果的に花火が晴太にバトルを教える側になっていただけだ。まぁ、それでも彼らが師弟関係というならばそうなのだろうが…………

 

しかし、それにしてもこだわり過ぎな気もする。無名だったあの頃と違い、今や、エグゼシードのカードだけで有名になってしまったのだから………

 

そして、そんな雑談を交わしてる途中、屋上の扉から茜が現れ…………

 

 

「おぉ、悪りぃ悪りぃ!!理事長の話って長いのな!!転校の手続きとかがどうのこうのってうるさくって敵わねぇよ!!」

「赤羽茜、来てやったぞ!!教えろよ、なんで俺と花兄の事知ってるか………」

 

 

晴太は単刀直入に気になっていた疑問を茜に聞いた。

 

しかし、それはなんともまぁ、単純明快な理由であって…………

 

 

「あぁ、私さ〜〜一木花火さまのファンなんだよ!!」

「え?あ、あぁ、そうなの?」

 

 

花火さま……なんか急に乙女みたいな言い方になったな。

 

晴太はそんな感想が頭によぎるが、一旦それは頭の奥底に沈めた。

 

言われてみればそうだ。一木花火のファンは皆、彼と同じようなゴーグルを首から下げる。それは茜も同様。花火のファンだと検討はつく。

 

しかし、それだけでは理由にならない。茜はカバンから1つの冊子を取り出し、パラパラっとページをめくっていく。その冊子はプロバトラーの事や、情報が乗るバトスピ関連本だ。

 

 

「えぇ〜〜と、あったあった!!ほら、ここ!!これってお前の事だろ?」

「んんー??…………」

 

 

晴太と兎姫はそのページを覗き込む。そこには一木花火のプロインタビューが掲載されており………

 

しかもそのタイトルは………【一木花火の愛弟子!!?】………と、でかでかと記載されており、その文面には晴太の名前や、通っている学校。しかも婚約者の弟とまで書かれていた。

 

そりゃバレるわけだ。ここまで晴太の個人情報が筒抜けだったのだから………

 

 

「…………マジっすか………花兄………」

「花火さんらしいわね………」

 

 

花火も特に悪気があったと言うわけではなく…ただ晴太は彼にとってそれほどまでに自慢の弟子であったことが伺えて………

 

だからこそ、茜はその晴太のことが気になり、ここに来たのだ。

 

 

「よしっ!!じゃあ!!早速バトルするよ!!」

「え?」

 

 

茜はまた唐突に晴太にバトルを要求してきた。

 

理由はもちろん。腕を確かめたいのであれば、バトルをするのが一番手っ取り早いからである。それを晴太も知っているからこそ………

 

 

「まぁいっか、わかったよ………」

 

 

面倒くさいとは思っているが、特に断ることもなく、そのバトルを受け持った。

 

2人は一定の距離を置き、自身のBパッドを展開。そしてそこにデッキをセットして、準備万端。

 

 

「よし、行くぜ」

「花火さまの弟子とのバトル!!楽しみだなぁ!!」

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

兎姫が見守る中、晴太と茜のバトルが始まる。

 

先行は茜だ。

 

 

[ターン01]茜

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

メインステップ手前までターンシークエンスを進行させる茜、晴太も兎姫も茜がどんなスピリットを召喚するか気になるところであった、当然だ。彼女は何故ならあの赤羽一族の1人なのだから………

 

しかし、茜が召喚したスピリットは意外な……いや、ある意味では妥当とも言えるスピリット。

 

………それは

 

 

「メインステップ!!早速行くか!!…アグモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

「なにっ!?アグモンだって!?」

「……花火さんと同じ……」

 

 

茜が呼び出した最初のスピリットは、黄色い体に肉食恐竜をこれでもかとデフォルメしたような見た目の成長期、アグモンだ。

 

アグモンは晴太の師である、花火の持つスピリット。今や一般販売もされているデジタルスピリットの一種だが………やはりそれでもレア中のレアであることには変わりがなく………デッキを組むのは困難とされている。

 

 

「いや〜〜このデッキ組むの苦労したんだよな〜〜!!…アグモンの召喚時!!カードをオープン!!」

オープンカード↓

【勇気の紋章】×

【メタルグレイモン】◯

 

 

茜の言葉から、よほど苦労して花火と同等のデッキを構築したことが伺える。

 

そしてアグモンの召喚時効果も成功、手札にメタルグレイモンのカードを新たに加えた。

 

 

「よしっ!!ターンエンドだ!!」

手札4⇨5

 

【アグモン】LV1(1)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

茜は勢いのまま、そのターンをエンドとした。次は花火と同型のデッキに、未だに驚きを隠せない晴太のターン。

 

 

「……まさか、花兄と同じなんてな………っ、俺のターン!!」

 

 

師である花火と同型のデッキならば、晴太に負けは許されない。かたや茜も同じ赤デッキの晴太には負けられないだろう。何せ彼女は赤属性最強の一族、赤羽一族の1人なのだから………

 

 

[ターン02]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!グレイモンデッキなら出し惜しみは無しだ!!行くぜ!!エグゼシード・ビレフトを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

 

 

晴太の背後から何かが走る足音が聞こえて来る。それはどんどん近づいてくると、晴太の頭上を飛び越え、場に現れる。

 

その名はエグゼシード・ビレフト。エグゼシードの本来の力が失われた姿だ。しかし、それでも今尚も強力。

 

 

「おぉ!!そいつは見たことがないなぁ!!」

「当然だ!!こいつは俺だけのスピリットだからな!!」

 

 

十二神皇スピリットのエグゼシード。それはレアカードといえど、誰もが知る一般的なスピリット。だが晴太の持つエグゼシードは特別。4種類のどれもがオリジナルとは異なっている。

 

 

「アタックステップだ!!ビレフトでアタック!!効果でドロー!!」

手札4⇨5

 

 

颯爽とビレフトにアタックの指示を送る晴太。目指すは当然茜のライフ。

 

ビレフトとアグモンのBPは同じだが、茜とて、大事な成長期スピリットを破壊させるわけにはいかない。

 

よって………

 

 

「ライフだ!!持ってきな!!」

ライフ5⇨4

 

 

ビレフトの頭部の角が茜のライフを1つ貫いた。

 

 

「ターンエンド!!」

【エグゼシード・ビレフト】LV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

先制点を与え、幸先良いスタートを切った晴太。

 

次はアグモンを意図的に場に残した茜のターン。

 

 

[ターン03]茜

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、アグモンのLVをアップ!!」

リザーブ5⇨2

【アグモン】(1⇨4)LV1⇨3

 

 

アグモンのLVが上昇する。これにより、アグモンはさらなる効果を発揮できる。

 

晴太達も当然それを熟知している。この状況ならやることはただ1つ、進化だけ………

 

 

「アタックステップ!!アグモンの【進化:赤】を発揮!!成熟期のグレイモンへ進化!!」

【グレイモン】LV3(4)BP7000

 

 

アグモンが0と1のデジタルコードに包み込まれ、その中で姿形を大きく変えていく。やがてそれは弾け飛び、中から新たに現れたのは、3本の立派な頭角を持つ恐竜型の成熟期スピリット、グレイモン。

 

 

「やっぱ持ってるよな………」

「アタックステップは継続!!グレイモンでアタック!!その効果でBP5000以下のスピリット1体を破壊、私はビレフトを破壊する!!」

「っ!!」

「…メガフレイム!!」

 

 

グレイモンは口内に極限まで炎を溜め、それを晴太の場のビレフトに向けて放つ。ビレフトはそれに直撃し、焼き尽くされてしまう。

 

 

「くっ…ビレフト……」

 

「さらにカードをドロー………まだまだいくぞ!!」

手札6⇨7

 

「っ!!今度はあいつか!?」

 

「ご名答!!グレイモンの【超進化:赤】を発揮!!完全体のメタルグレイモンに進化させる!!」

【メタルグレイモン】LV3(4)BP11000

 

 

グレイモンがさらなる進化を遂げる。

 

新たに現れたのは左半身がサイボーグと化したグレイモン。名前はそのまま、メタルグレイモンだ。新たに生えたボロボロの翼が妙に目につく。

 

グレイモンのデッキは基本的にメタルグレイモンまでが着地点であり、メタルグレイモンを疲労状態でいち早く場に出しておくのが常套手段だ。それはエーススピリットであるウォーグレイモンの動きにも直轄するため、非常に大事な動きであって…………

 

ただ、茜がそのウォーグレイモンを持っているかは知れたことではない。

 

 

「メタルグレイモンでアタック!!」

 

「っ!!ライフだ!!」

ライフ5⇨4

 

 

メタルグレイモンの左半身のアームの重たい一撃が、晴太のライフを1つ粉々に粉砕した。ちなみにメタルグレイモンはこれで疲労状態。効果により、晴太のスピリットとブレイヴの効果を受けなくなっている。

 

 

「……順調……と言っておこうかな?………ターンエンドだ」

【メタルグレイモン】LV3(4)BP11000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

自信に満ち溢れている表情を見せながら、茜はそのターンをエンドとした。

 

次は晴太のターン。メタルグレイモンが居座るこの盤面を崩すことはできるのか………

 

 

[ターン04]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ……メタルグレイモンは疲労状態の時、スピリットの効果を受けない………だが、疲労しているから当然、ブロックはできない」

「おぉ、詳しいな、流石は花火さまの弟子だ………確かにそうだが、どうするつもりだ」

 

「……へっ!こうするんだよ!!行くぜ、バーストを伏せて、コレオン3体、ビーバン1体を召喚!!

手札6⇨1

リザーブ7⇨0

 

「………!!」

 

 

晴太がそう言いながら召喚したのはライオンをこれでもかとデフォルメしたスピリット、コレオンと、ビーバーのような見た目のビーバン。

 

 

「……成る程、考えたわね晴君……いや、ある意味考えてないか……メタルグレイモンが疲労状態で効果を受けないなら、場を整わせる前に倒す……少なくともこれで隙は作れる」

 

 

メタルグレイモンはアタック時にBP10000以下のスピリットを破壊して回復する効果がある。晴太のこの作戦は無駄にも思えるが、

 

この4体のスピリットのフルアタックで勝てるなら、それも意味がなく………

 

つまり、メタルグレイモンの穴を利用した奇襲とでも言うべきか………これは花火と長年バトルをしてきた晴太だからこその思いつきであって………

 

 

「アタックステップ!!ビーバンでアタック!!ソウルコアの力で1枚ドロー!!」

手札1⇨2

 

 

走り出すビーバン。

 

メタルグレイモンは効果を受けない代わりに疲労状態。茜は防ぐ手段はないのか、何も抵抗しようとする素振りは見せず………

 

 

「ライフだ、持ってきな!!」

ライフ4⇨3

 

 

それをライフで受けた。ビーバンの体当たりが彼女のライフを1つ砕いた。

 

この一撃で何もしなかった茜の反応を見て、晴太は勝ちを確信したか、奇襲をやめず、ここで落とすべく、さらに攻め立てる。

 

 

「よし!!いける!!コレオン3体でアタック!!」

 

 

走り出す3体のコレオン。このアタックが全て通ることがあれば、晴太の勝ちである。あの赤羽一族と赤属性バトルで勝ったのであれば、間違いなく晴太の鼻はまた一段と高くなる事だろう。

 

ここで最も警戒すべきはやはり強力な煌臨時効果を持つグレイモンデッキのエース、ウォーグレイモン。だが、ウォーグレイモンなどレアの中のレア。そうそう持ってるものではない。

 

しかし、例え持っていなくとも、その程度のアタックで沈むほど、赤羽一族はやわではない。しかもそれが赤デッキ同士のバトルなら尚更………

 

 

「………フラッシュアクセル!!輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉のアクセル効果を発揮!!」

手札7⇨6

リザーブ3⇨0

【メタルグレイモン】(4⇨3)LV3⇨2

トラッシュ0⇨4

 

「っ!!?」

「この効果でBP6000以下の相手スピリットを全て破壊!!」

「なにっ!?」

「焼き払えっ!!」

 

 

地上へと降り注ぐ聖なる炎。それは晴太の盤面のスピリットを、その地面ごと焼き払っていく。コレオンやビーバンがそれに耐えられるわけがない。晴太のスピリット達は全滅した。

 

 

「さらに破壊した分ドロー………」

手札6⇨10

 

「……手札10枚」

 

 

これはまだ晴太のターンだというのに、カードアドバンテージの差を一気に持っていく茜。

 

無理に奇襲しかけた晴太は逆に追い詰められてしまった。

 

 

「くっ!!ターンエンドだ」

バースト【有】

 

 

致し方ない。これで勝てるのであれば茜の赤羽の性はただの飾りであっただろう。

 

次はウォーグレイモンではなく、シャイニング・ソードの効果で晴太のアタックをしのいだ茜のターン。

 

 

[ターン05]茜

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札10⇨11

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

【メタルグレイモン】(疲労⇨回復)

 

 

疲労状態より、メタルグレイモンが起き上がる。

 

 

「メインステップ……輝きの聖剣シャイニング・ソードを手元からメタルグレイモンに直接合体!!」

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

【メタルグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】LV3(4)BP16000

 

 

上空から一筋の光が降り注ぐ。それは剣の形となって茜の場の地面に突き刺さる。

 

それは赤き聖剣、シャイニング・ソード。メタルグレイモンは機械化していない右手でそれを抜き取り、合体する。

 

 

「アタックステップ!!メタルグレイモンでアタック!!シャイニング・ソードの効果であんたはマジック、アクセルを使う時ライフを1つ破壊しないといけない!!」

「っ!!」

 

 

走り出すメタルグレイモン。その手にはシャイニング・ソードが握られており、その効果で晴太にマジックとアクセルの使用時にライフの負荷がかかる。

 

前のターン、シャイニング・ソードのアクセル効果でスピリットが全滅させられた花火はこれをライフで受ける他なく………

 

 

「ライフだ!!」

ライフ4⇨2

 

 

メタルグレイモンはシャイニング・ソードの一閃で晴太のライフを一気に2つ砕く。

 

 

「ライフ減少のバースト、絶甲氷盾!!ライフを回復」

ライフ2⇨3

 

 

晴太のバーストが勢いよく反転し、それと同時にライフが1つ回復する。

 

 

「………ターンエンドだ」

【メタルグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】LV3(4)BP16000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

メタルグレイモンの単調なアタックだけでそのターンを終える茜。しかし、今のこの状況は圧倒的に彼女が有利だ。

 

既に晴太との実力の差が明確になってきている。

 

そんな晴太に茜は疑問を覚え………

 

 

「なぁお前………」

「ん?」

「本当に花火さまの弟子か?」

「………あぁ?」

 

 

質問を投げかけた。

 

正直、

 

正直のところだ。

 

噂では去年の界放リーグの準優勝者にも勝利したと聞いて期待していたのだが………蓋を開けてみればこの程度の実力だ。この日本屈指の界放市のレベルもこの程度なのかと考えるとがっかりの一言であった。

 

晴太は花火のことを何よりも、誰よりも尊敬している。が故に、この茜の言葉には腹立たしく思い………

 

 

「やる事はただただ殴るだけ……防御も手薄、手札は簡単に投げ出す………これがあの完璧なバトルをする花火さまに教わった事?……アホらし」

「っ!!んだとぉ!?」

「ちょ!!晴君なに切れてんの!!」

 

 

茜の挑発的な態度に、怒りのボルテージが上がる晴太。兎姫はそれを抑えようと声をかけるが、晴太は全く聞き耳を持たない。

 

バトルにおいていちばん消してはならないものは、手札でもコアでもなく、冷静さ。晴太は今まさにその冷静を欠いていた。

 

 

「上等だ!!女だからってもう手加減はしねぇ!!俺はあの一木花火からバトスピを教わった天才、空野晴太だ!!今からその天才のバトルを見せてやるっ!!」

「………ふぅ〜ん…天才か……」

 

 

晴太の反撃が幕を開ける。

 

 

[ターン06]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ9⇨10

 

 

「ドローステップ!!………よしっ!!」

手札2⇨3

 

 

このターンのドローステップ。晴太がドローしたのは彼を勝利へと導く最高のカード。

 

次のメインステップで、晴太は一気に勝負を決めるべく、下準備を行なっていく………

 

 

「メインステップっ!!バーストをセットして、2体目のビレフトをLV3で召喚!!」

手札3⇨1

リザーブ10⇨2

トラッシュ0⇨4

 

 

晴太は今一度エグゼシード・ビレフトを場へと呼び出した。晴太のデッキにとって、ビレフトは起点。ここからより大きなスピリットを呼び出すことができるよう、デッキを調整している。

 

 

「アタックステップ!!ビレフトでアタック!!効果でドロー!!」

手札1⇨2

 

 

ビレフトにアタックの指示を送る晴太。その効果で僅かながらに手札を潤す。が、ビレフトの効果はそれだけでは終わらない。

 

 

「さらに【輝石封印】を発揮!!ビレフトのソウルコアを俺のライフに!!そして、ビレフトのコストは6になる!!」

ライフ3⇨4s

【エグゼシード・ビレフト】(4s⇨3)LV3⇨2(4⇨6)

 

 

Bパッド上のビレフトのカードの上のソウルコアがライフへと移動する。

 

これにより、ビレフトはこのターン、より多くのスピリットの煌臨元になることが可能。そして、このタイミングで煌臨できるスピリットは1体………

 

今、超新星が光輝く………

 

 

「フラッシュ!!【煌臨】を発揮!!対象はビレフト!!」

ライフ4s⇨3

トラッシュ4⇨5s

 

「っ!!」

 

 

宙を舞うように走り出すビレフト。その身は赤き光に包まれていき………

 

新たなる星が爆誕する。

 

 

「来いっ!!超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ!!」

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】LV2(3)BP20000

 

 

赤き光を振り払い、現れたのは大きな翼を広げる天馬。超新星の名を持つ神皇スピリット、ノヴァ。

 

その神々しい姿は並みのバトラーでは思わず竦んでしまう事だろう。

 

 

「ふぅ〜ん……これも見た事ないな」

「これで終わりだと思うなよ!!ライフ減少により、バースト発動!!」

「?」

 

 

晴太のバーストが勢いよく反転する。

 

ノヴァの煌臨により、ライフのソウルコアがトラッシュへ行った。これにより、晴太のライフが減少したことにより、発動が可能となったのだ。

 

そのカードは………

 

 

「爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル!!効果でこいつをLV2で召喚!!」

リザーブ2⇨0

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】(3⇨2)LV2⇨1

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV2(3)BP15000

 

 

晴太の場から勢いよく吹き上がる火柱。その中にいるスピリットは、それを切り裂き現れる。

 

それはエグゼシード・バゼル。バーストを持ち、エグゼシード系特有の効果も持つ優秀なスピリットである。

 

晴太の場には強力なエグゼシードが2体並ぶ。ノヴァは上空から、バゼルは地上から、それぞれ前脚を上げ、雄叫びを上げる。その姿はまさしく圧巻の一言であって………

 

 

「どうだ茜!!これが俺のエグゼシードデッキの力だ!!……ノヴァの煌臨時効果で俺のライフを5に戻す!!」

ライフ3⇨5

 

 

ノヴァの身体が神々しく光輝き、それに合わせるように晴太のライフも光、そのライフを一気に復活させた。

 

 

「ふぅ〜ん……ただ躍起になっただけにしか見えないけどなぁ」

 

 

しかし、これを前にしても茜は未だに強気の態度を取っており………

 

晴太にとって、またこの態度が癪である。

 

 

「っ!!んな事言ってられるのも今のうちだけだ!!…煌臨スピリットは煌臨元となったスピリット全ての情報を引き継ぐ!!ノヴァのアタックは続行!!そのシンボルは2つ!!」

 

 

上空から凄まじいスピードで茜のライフへと突っ込んで行くノヴァ。

 

茜の残りライフは3。ノヴァとバゼルの合計シンボルも3。よってこのフルアタックが決まる事があれば晴太の逆転勝利である。

 

 

「………エグゼシード………宝の持ち腐れだな」

「なんだと!?」

「どんなに強いカードでもその使い手によって最強になるし、最弱にもなる。あんたのはその最低値………つまり最弱だ」

「っ!!てめぇ!!…いい加減にしやがれ!!」

 

 

また晴太を煽る茜。自分の負けが刻一刻と迫ってきているというのに………その表情はまるで勝ちを確信しているかのよう。

 

茜の意図的ではないものの、晴太はどんどん冷静さを欠き、余裕がなくなっていく。

 

そして茜は………この重要な局面であるここで………誰もが驚くべきカードを、煌臨させる。

 

 

「………カリカリすんなよ…フラッシュ………【煌臨】発揮!!対象はメタルグレイモン!!」

【メタルグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(4s⇨3)LV3⇨2

トラッシュ4⇨5s

 

「……煌臨!?……ここでやるって事は……ま、まさか!?」

 

 

いや、あり得ない。

 

あのカードは今や超がつくほどの高値のカード。そもそも流通数が少なすぎるのだ。一木花火の人気の高さもそれが値上がっている理由の1つ。

 

しかし、茜が今から呼び出すのは紛う事なきあのスピリット………一木花火のエースと全く同じ、あのスピリットだ。

 

メタルグレイモンは一旦シャイニング・ソードを地面に突き刺すと、その身が炎に包まれていく。メタルグレイモンはその中で姿形を大きく変え、最強の竜戦士へと進化していく。

 

 

「竜殺しの鉤爪、勇気の炎!!今こそバトルに旋風を巻き起こせ!!究極進化ぁぁあ!!!」

手札11⇨10

 

 

やはりそうだ。間違いない。

 

茜が呼び出したのは………

 

 

「ウォォォオ!!グレイモンっ!!」

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】LV2(3)BP19000

 

 

炎を振り払い、現れたのは、竜殺しの爪、そして炎を操る究極の竜戦士、ウォーグレイモン。グレイモン系で最も強力なスピリットであり、かの有名なプロバトラー、一木花火のエーススピリット。

 

そのレア度はデジタルスピリットが一般化した今でもなかなか手に入らない代物。

 

 

「うぉ、ウォーグレイモンまで………」

「ここまで花火さんと同族のカードを持ってるなんて………」

「……だから言ったろ?……作るの苦労したって」

 

 

茜がいったいどうやってウォーグレイモンを入手したかは謎だが、今まさに確かに晴太の前にはウォーグレイモンがいた。師として尊敬している花火以外の初めての使い手だった。

 

 

「煌臨時効果!!BP15000以下まで好きなだけ破壊!!」

「っ!!」

「私はアタック中のノヴァを破壊!!……大玉ガイアフォースッ!!」

 

 

ウォーグレイモンはその両掌に炎を溜め、間隔を広げる事に大きくしていく。最大限まで溜めると、それをノヴァへと投げつける。その広大さはまるで太陽か、あまりに大き過ぎて逃げ場はなく、ノヴァはまともにそれに直撃。堪らず大爆発を起こした。

 

 

「くっ!!ノヴァ!!」

「ふぅ〜〜…ま、こんなもんか、ウォーグレイモンはシャイニング・ソードと合体する」

 

 

ウォーグレイモンは爪のある武器を消滅させ、地面に突き刺さったシャイニング・ソードを握り、抜き取る。

 

すると、鎧の形容が変化し、シャイニング・ソードも持ち手が増える。ウォーグレイモンは新たな姿でシャイニング・ソードを振り回し、構えた。

 

 

「………ターンエンドだ」

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV2(3)BP15000(回復)

 

バースト【無】

 

 

バゼルだけでは茜の残ったライフを全て破壊することはできない。晴太はこのターンをエンドとした。

 

次はウォーグレイモンまでもを召喚してみせた茜のターン。

 

 

[ターン07]茜

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札10⇨11

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……ウォーグレイモンのLVを上げて、そんままアタックステップ……ウォーグレイモンでアタック!!」

リザーブ6⇨5

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(3⇨4)LV2⇨3

 

 

また特にスピリットは召喚せず、グレイモン系を孤軍奮闘させようとする茜。

 

晴太の残りライフはノヴァの煌臨時効果により5。とてもではないが、ウォーグレイモンだけでは無謀にも覚えてくる。

 

 

「……フラッシュマジック!!ガイアフォース!!」

手札11⇨10

リザーブ5s⇨3

トラッシュ0⇨2s

 

「……そ、そいつは………!?」

 

「これくらい流石にわかるだろ?…効果によってグレイモンと名のつくスピリット1体を回復!!ウォーグレイモンを回復!!」

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(疲労⇨回復)

 

 

赤き炎の力を浴び、ウォーグレイモンは疲労状態から回復状態となる。これでこのターンは2度目のアタック権利を得る。

 

グレイモンデッキ専用と言っても過言ではない必殺マジック、ガイアフォース。BP10000以下のスピリットを破壊し、グレイモンスピリット1体を回復させる効果を持つ。

 

 

「さぁ!!最初のアタックは継続中!!」

 

「っ!!ライフで受ける………」

ライフ5⇨3

 

 

ウォーグレイモンはシャイニング・ソードを天高く掲げ、晴太のライフへと振り下ろす。そのうちの2つが一気に衝撃で砕け散る。

 

そしてそれだけではない。ウォーグレイモンは必殺の効果をこのタイミングで発揮できる。

 

 

「さらにウォーグレイモンのアタック時効果!!バトルの終了時、トラッシュにあるソウルコアをウォーグレイモンに置き、相手のライフ1つをボイドに送る!!」

トラッシュ2s⇨1

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(4⇨5s)

 

「っ!!…ガイアフォースのコストにソウルコアを使っていたのか……!!」

「またまたご名答だ……炎剣技……トライデントガイア!!!」

 

「っ!!くっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

ウォーグレイモンはシャイニング・ソードの剣先にガイアフォースの力を集中し、それを晴太のライフへ向け放出。一直線に集約されたガイアフォースは晴太のライフ1つを貫き、また、完全に溶かした。

 

 

「回復したウォーグレイモンはもう一度アタックができる…………再度アタックだ!!」

 

 

再びアタックへと向かうウォーグレイモン。当然目指すは晴太のライフ。

 

ウォーグレイモン自体、今はシャイニング・ソードとの合体でダブルシンボル。晴太の残りライフは2であるため、これを受けることは晴太にはできなくて………

 

 

「……バゼルでブロック……」

 

 

ブロックできるバゼルで守るしかない。

 

ウォーグレイモンに向かって駆け出すバゼル。腰に備え付けられた二本の刀を口に咥え、その刀身に炎を灯す。

 

そしてそのまま、ウォーグレイモンを斬りつけようとするが、ウォーグレイモンはシャイニング・ソード一本で刀を抑え込み、バゼルの動きごと止める。

 

睨み合う両者2体。が、BPは圧倒的にウォーグレイモンの方が上………しかも茜の手札にはまだ………

 

 

「フラッシュマジック!!ガイアフォース!!」

手札10⇨9

リザーブ3⇨2

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(5s⇨4)

トラッシュ1⇨3s

 

「なにっ!?……2枚目だとぉ!?」

 

「こんなに手札があるんだ、そんくらい察しとけよ……効果によりウォーグレイモンは回復!!」

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(疲労⇨回復)

 

 

再び炎を浴び、ウォーグレイモンは回復する。その力もあってか、眼光を輝かせる。

 

拮抗していた勝負。それを崩すべく、ウォーグレイモンはシャイニング・ソードを振るい、バゼルを力任せに弾き飛ばす。バゼルは空中で姿勢を保ち、地上になんとか4本の脚をつけ、着地するが………

 

ウォーグレイモンはその一瞬の隙に…………

 

 

「やりな!!ウォーグレイモンッ!!破砕剣ドラモンブレイカァァァァア!!!」

 

 

目にも留まらぬ速さでバゼルとの距離を詰め、シャイニング・ソードで斬りつける。……というか、叩き込む。と言った方が妥当か、バゼルは地面に叩きつけられ、力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「くっ!!バゼルッ!!」

 

 

晴太はバゼルの破壊による爆風を肌で感じながら、同時に思ったことがある。

 

自分は今まで、何度か自分の事を天才と称していた。それは決して本気ではなく、自分はあの一木花火の弟子であるという自信の表れであった。

 

しかし

 

今、目の前に聳え立つウォーグレイモンを操っている赤羽一族の少女は…………本物……誰がどう見ても本物の天才。

 

晴太は今………生まれて初めて何かに劣等感を感じていた。それと同時に疼いてくる失望感は気持ち悪く、早く取り除きたくてしょうがなかった。

 

 

「ウォーグレイモンの効果!!………炎剣技…トライデントガイア!!」

トラッシュ3s⇨2

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(4⇨5s)

 

「……うっ!!」

ライフ2⇨1

 

 

再び剣先にガイアフォースの力を集中させ、晴太のライフに射出するウォーグレイモン。晴太のライフはまた1つ貫かれ、溶解した。

 

 

「………ウォーグレイモンでラストアタック……」

 

 

3度目のウォーグレイモンのアタック。もはや晴太にそれを止める術はなく………

 

ただ敗北という二文字を噛み締めながら、そのアタックを受け入れるのみ………

 

それが晴太にとってどれだけ苦渋だったことか………

 

 

「…………ライフで……受ける……」

ライフ1⇨0

 

 

ウォーグレイモンは手に持つシャイニング・ソードを振り上げ、降ろし、晴太の最後のライフを粉々に粉砕した。

 

これにより、晴太のライフはゼロ。勝者は赤羽一族の真の天才、赤羽茜。終始いったい何もかもが彼女のペースでバトルは進み、戦略性やプレイング、その全てが晴太より上回っていた。

 

まさしく圧勝とも呼べる勝ち方であろう。

 

 

「………はぁ、つまんねぇ………あんたはただ粋ってるだけだ………界放リーグってのも大したレベルじゃないんだろうな〜〜一応出てやるけど………じゃあな、できの悪い弟子」

 

 

茜はBパッドをしまいながら、晴太に対しそう呟き、屋上から去ってしまう。

 

晴太はショックの大きさからか、もう言い返す言葉はなく、膝から崩れ落ち、茜に言われた言葉がフラッシュバックで蘇ってくる。

 

 

ー『本当に花火さまの弟子か?』

 

ー『エグゼシード………宝の持ち腐れだな』

 

 

思い返すだけで腹が立つ。だが、それは全て認めざるを得ない事実。

 

 

「………しょう……ちくしょうっ!!」

 

 

完敗だった。

 

何もかもが茜に劣っていた。

 

それを認めたくないがために、それがより悔しかった。

 

あの日、あの時、あの場所で……Dr.Aと名乗る人物とバトルした時に生み出されたエグゼシードのカード達。あのカード達を見た時、自分には本当に才能があると思った。

 

思っていた。

 

 

 

晴太の敗北に涙するように……いや、みっともない負け方をして世界が叱るかのように雨がポツポツと降り出す。晴太はその雨に濡れながら、自分の弱さ、才能の無さを改めて自覚していった。

 

兎姫もまた、そんな晴太を雨に濡れる事など気にせずに見つめていた。こんな時に、側にいてやれるのが友達だからと考えたからだ。

 

 

これがライバル関係にあたる、空野晴太と赤羽茜の1回目のバトルだった。

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


晴太「本日のハイライトカードは【メタルグレイモン】!!」

晴太「メタルグレイモンはグレイモン系の完全体スピリット、強力な破壊効果と疲労状態の時にスピリットとブレイヴの効果を受けない効果があるぞ!!」



******


〈次回予告!!〉


茜のバトルに敗北を喫した晴太は、リベンジするべく第3回界放リーグの出場を決意する。が、その予選、茜以外の難関が彼の前に立ちはだかる。次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ外伝【エグゼシード伝説】、「最強のエグゼシード!!」今、伝説が進化する!!


******


※次回のサブタイはより適切な方へと変更致しました。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


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第76話「最強のエグゼシード!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴太が赤羽茜とのバトルに負けた日の夜の事だ。晴太は1人、自宅の部屋で今の自分のデッキを改めて確認していた。

 

オーバーエヴォリューションによって生み出されたエグゼシード達のために作られたデッキ。完成して僅か3日と経っていないというのに、そこには数々のドラマが頭の中に浮かんでくる。

 

しかし、そんなこのデッキでも彼女には勝てなかった。手も足も出ず。

 

悔しいが、茜の言ったことは真実である。自分はまだエグゼシードを使いこなせていない。今のままでは本当に宝の持ち腐れだ。

 

 

「………そういえばあいつ……こんなこと言ってたっけ?」

 

 

晴太はふと茜の言葉を思い出してた。

 

茜が【界放リーグ】に参加するという言葉を。

 

【界放リーグ】とは、界放市にある6つのバトスピ学園から代表を2名ずつ選出し、計12人で優勝を争う、界放市一の催し。茜はそれに参加し、優勝する気満々だった。

 

来週の今頃、ちょうどこの大会の予選がある。つまり、学園の代表選抜だ。晴太はいつになく燃えていた。

 

 

このままで終わるものか、茜に自分が一木花火の弟子であると認めさせるまでは、絶対に諦めない。

 

 

「よっしゃぁ!!出てやるよ界放リーグ!!片っ端から倒して………そして茜に認めさせてやる!!」

 

 

晴太はいつになく、それでいて柄になく、その心は熱く燃え滾っていた。

 

 

******

 

 

そして、少しだけ時は流れ1週間後、晴太は界放リーグの選手選抜の予選へとエントリーし、今尚もこの第3スタジアムにて絶賛バトル中だ。

 

その様子は順調。相手プレイヤーを圧倒している。

 

 

「行け!!エグゼシード・バゼル!!……爆ぜろ!!爆炎十文字斬りぃぃぃい!!」

「う、うわぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

エグゼシード・バゼルの口に咥えられ、炎の灯された2本の刀の一閃は、相手のライフに十字の焼け跡を負わせ、大爆発させる。

 

 

「っしゃぁ!!」

 

 

これにより、晴太の勝利だ。大きく腕を曲げ、ガッツポーズを見せる。これで実に10勝目。それでいて連勝。おそらく次のバトルに勝つことができれば、今年の、第3回 界放リーグの選手として出場を果たす事ができる。

 

そんな晴太を、兎姫は見守るように観客席で眺めていた。

 

 

「晴君、順調じゃない………何よ、先週あんなになよなよしてたくせに………」

 

 

晴太はこの1週間、自分のデッキと自分自身の弱さを見つめ直し、改めてデッキを構築した。

 

兎姫はその事をよく知っている。が故に、自分は大会には参加せず、晴太を見守ることに決めたのだ。

 

 

《予選決勝選手者…バトル場へ》

 

 

そう無機質なアナウンスの呼び声に、残った4人の生徒たちがそれぞれのバトル場へと足を踏み入れる。晴太はふと横のバトル場を見渡すと、そこには赤羽茜の姿が確認できた。茜も晴太に気づき、

 

 

「よお、茜」

「おぉ、落ちこぼれの弟子君じゃないか!!あんたも出たんだな」

「誰が落ちこぼれだ、本戦で見せてやるぜ……俺のデッキの力をな!!」

 

 

悪態をついてくる茜。

 

晴太は正直安堵していた。茜とバトルするならば本戦のバトルの方が良いと考えていたためである。

 

 

「そういう事は先ずはこの予選を勝ち上がってから言いな」

「フンッ!」

 

 

茜との会話を区切り、晴太は自分のバトル場にいる相手に目線を移し替えた直後だ。その目の前の相手は自分の知っている人物であって………

 

 

「……よぉ、」

「っ!!お前は……海皇!」

 

 

晴太の予選最後の相手は海皇静怒。晴太とのバトルに一度敗北した経緯がある青使いのカードバトラー。その実力は高く、去年の界放リーグもその実力で二位まで登りつめた。

 

三年の彼にとってはこれが最後の界放リーグ。晴太へのリベンジもそうだが、より負けられないバトルであるのは確か………

 

晴太もそれを知っている。

 

 

「俺を前に別の奴と余談とはいい度胸だな…あの時のリベンジをさせてもらう、このあいだの俺とは一味違うぞ………」

「へ!!そうかよ!!だけど俺は少しどころじゃないぜ!!」

 

 

第3スタジアムの2つのバトル場で睨み合う計4名。

 

そして始まる、第3回界放リーグ。そのジークフリード校選抜、最後のバトルが………

 

 

「「「「ゲートオープン、界放!!!!」」」」

 

 

4人のコールがスタジアムに大きくこだまし、晴太と海皇のバトルが始まる。

 

先行は晴太

 

 

[ターン01]晴太

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!バーストを伏せ、ターンエンド!!」

手札5⇨4

 

バースト【有】

 

 

先行の第1ターン目というのはできることが最小限に限られてくる。晴太は手札にあるバーストカードのセットのみで先ずは様子を見ることにした。

 

次は海皇のターン。

 

 

[ターン02]海皇

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ……俺はネクサスカード、オリンスピア競技場を2枚配置し、ターンエンド」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

【オリンスピア競技場】LV1

【オリンスピア競技場】LV1

 

バースト【無】

 

 

海皇が初手で行ったのはネクサスカードの配置。彼の背後に一風古い競技場が2つ並んだ。

 

次は一周回り、また晴太のターン。様子見のターンは終わりか、その表情には攻めていくかのような気迫を感じて取れる。

 

 

[ターン03]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!いくぞ海皇!!」

「っ!!」

 

 

晴太の強い気迫に身を構える海皇。

 

気づいたのだ。ここで晴太の波が少しだけ強くなるのを………

 

 

「……駆けろ駿馬!!エグゼシード・ビレフトをLV1召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

 

 

晴太の背後から頭上を飛び越え、現れたのは駿馬、エグゼシード・ビレフト。晴太のデッキにおいては最早鉄板となった序盤のアタッカーだ。

 

 

「アタックステップ!!…ビレフトッ!!」

手札4⇨5

 

 

晴太の指示で地を駆けるビレフト。その効果で晴太はカードを1枚ドローした。

 

前のターンでネクサスカードの配置に全力を注いだ海皇にはそれを防ぐ術はなく…

 

 

「ライフだ……砕くがいい」

ライフ5⇨4

 

 

ビレフトの一角がそのまま海皇のライフを貫き、破壊した。

 

 

「っしぁっ!!エンドだ!!」

【エグゼシード・ビレフト】LV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

 

先制点を与え、ガッツポーズをあげる晴太はそのままそのターンを終えた。

 

 

「この程度でいい気になるなよ……次は俺の高波が貴様を襲うぞ……」

 

 

次は海皇のターン。その凄まじい気迫から晴太に対する反撃に転じていこうとするのが見て取れる。

 

晴太もそれを感じたからこそ、前のターンの海皇同様、気を改めて引き締め、身構えた。

 

 

[ターン04]海皇

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨7

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!!俺はゴマモンを召喚!!そして効果でカードをオープン!!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨1

オープンカード↓

【イッカクモン】◯

【ストロングドロー】×

 

 

海皇が召喚したのは、以前の晴太とのバトルでも見せた青の成長期スピリット、ゴマフアザラシのような見た目のゴマモン。

 

そしてその召喚時効果も成功、海皇は成熟期スピリットのイッカクモンのカードを手札に加え、残ったカードはトラッシュへと破棄した。

 

 

「さらにアタックステップ!!ゴマモンの【進化:青】を発揮!!ゴマモンを青の成熟期スピリット、イッカクモンに進化!!」

手札3⇨4

【イッカクモン】LV3(6)BP8000

 

 

ゴマモンが0と1のデジタルコードにその身を包まれていく。ゴマモンはその中で大きく姿形を変え、進化していく。

 

やがてそれは破裂し、中から新たに白き体毛と頭部の一角が特徴的な青の成熟期スピリット、イッカクモンが召喚された。

 

 

「アタックステップを継続させ、イッカクモンでアタック!!その効果でお前のデッキを上から3枚破棄!!」

 

「っ!!来たか……」

デッキ33⇨30

 

 

青の衝撃波が晴太のデッキを襲う。上から3枚のカードがトラッシュへと落っこちていく。

 

この時、マジックカードか、アクセルカードがあるならば。イッカクモンの追加効果が発揮され、コスト5以下のスピリットを破壊できるのだが、今回はどうやら1枚もないようだ。

 

しかし、当然これだけで終わるわけがない。海皇はそのイッカクモンをさらに上のランクへと昇華させるべくもう1つのアタック時効果を発揮させる。

 

 

「さらにイッカクモンの【超進化:青】を発揮!!…イッカクモンを青の完全体スピリット、ズドモンへ進化!!」

【ズドモン】LV3(6)BP14000

 

 

イッカクモンが今一度デジタルコードに身を包まれ、さらに進化する。

 

新たに現れたのは前のバトルでも晴太をこれでもかと追い詰めた青の完全体スピリット、ズドモン。その身の丈にあった大きな甲羅とハンマーが特徴的。

 

 

「………ズドモン…」

「いくぞ空野!!ズドモンでアタック!!その効果【大粉砕】でお前のデッキを上からズドモンのLV掛ける5の枚数破棄!!ズドモンのLVは3!!…よって15枚破棄!!」

 

「……っ!!」

デッキ30⇨15

 

 

青の衝撃波が再び晴太のデッキ襲う。その上から半数以上のカード達が破棄される。

 

さらにその中にはバーストカードである【ダイナバースト】のカードが確認でき………

 

 

「【大粉砕】の追加効果でお前のビレフトを破壊!!……雷神の鉄槌……ハンマースパークッ!!!」

 

 

ズドモンはその手に持つハンマーを地面に叩きつけると、その強い衝撃で場に雷が迸る。ビレフトはそれに全身を捕らえられ、感電し、爆発を起こした。

 

 

「…くっ!!ビレフト!!」

「先ずは自分の心配をしろ!!アタックは継続中だ!!」

 

 

ビレフトの破壊による爆風と爆煙。それが完全に晴れる時、晴太の目の前には海皇のズドモンが立ち尽くしており…………

 

 

「っ!!……ライフだ」

ライフ5⇨4

 

 

ズドモンはそのハンマーで今度は晴太のライフを打ち付け、1つを木っ端微塵に大粉砕した。

 

ここまではほぼ海皇のペースに持ち込まれたと言うべきか……だが、晴太とて負けてはいない。ライフ減少によりわ伏せられていたバーストが火を噴く。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動!!」

「っ!!」

 

 

海皇はまた晴太の波が大きく上がるのを感じた。この状況でこれほどの大波。おそらくあのスピリットしかいないだろう。

 

晴太の場から大きな火柱が立ち昇る。その中で眼光を強く輝かせるのは爆炎を操る覇王にして、神皇。

 

 

「覇と神皇!!2つの力が今、融合する!!来い!!爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル!!」

リザーブ2⇨1

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV1(1)BP10000

 

 

その火柱を斬り裂き、晴太の場に現れたのは爆炎操るエグゼシード、バゼル。前の海皇とのバトルでも局面で召喚され、バトルに終止符を打ってみせたスピリットだ。

 

今回も流れを掴むことができるか………

 

 

「………現れたかバゼル……お前を心待ちにしていたぞ……ターンエンド」

【ズドモン】LV3(6)BP14000(疲労)

 

【オリンスピア競技場】LV1

【オリンスピア競技場】LV1

 

バースト【無】

 

 

出来ることを全て終え、海皇はそのターンをエンドとした。次は見事にバゼルの召喚を成功させてみせた晴太のターン。

 

一気に勝負を決めるべく攻め立てる。

 

 

[ターン05]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!バーストをセットし、バゼルのLVを最大までアップ!!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨3

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】(1⇨4)LV1⇨3

 

 

バーストがまた新たに伏せられると共に、バゼルのLVが上昇する。これにより指定アタックの力を獲得した。

 

 

「アタックステップ!!バゼルでアタック!!…その効果でズドモンに指定アタック!!」

 

 

バゼルとズドモンを取り囲むように火柱が立ち昇り、炎のロードが形成される。バゼルはそこを凄まじい速度で駆ける。

 

そして、腰にある二本の刀が口に咥えられるように移動し、刀身には炎が灯され………

 

 

「爆ぜろ!!爆炎十文字斬りぃぃい!!!」

 

 

その一閃はズドモンを十字に斬り裂き、大爆発を引き起こさせた…………

 

………かに思えたが……

 

 

「っ!?」

「………技名を言うにはまだ早すぎる………まぁ、言わせないがな………」

 

 

ズドモンはハンマーを身代わりにし、バゼルの攻撃を紙一重で交わしていた。そのハンマーは粉々に砕け散った。

 

………そして、

 

 

「フラッシュ…【煌臨】…発揮!!対象はズドモン!!」

【ズドモン】(6s⇨5)LV3⇨2

トラッシュ1⇨2s

 

「っ!?…ここで煌臨!?」

 

 

バゼルが形成した炎のロードを吹き飛ばす程の青き輝きを放つズドモン。バゼルも当然、強い衝撃波に身動きが取れなくなる。

 

ズドモンはその光の中でさらに大きく姿形を変えていく。

 

海皇が召喚するのは完全体のさらに上のランクのデジタルスピリット。それはこの世に何枚で回っているかもわからない程に流通数の少ないレアカード…………

 

 

「吠えろ海竜!!戦場をお前の波で呑み込め!!究極進化ぁぁぁぁあ!!」

手札4⇨3

 

 

その光の中で眼光を強く輝かせるのは海皇の持つ最強のカード。それを見たものは全てを破壊し尽くされると言うとんでもない噂もある。

 

このカードは海皇がデッキ破壊ではなく、ライフの破壊で勝利を目指す時、そして本気になった時にのみ現れる青と白の究極体スピリット。

 

……その名は…

 

 

「メタルシードラモン!!」

【メタルシードラモン】LV2(5)BP15000

 

 

青き光を弾け飛ばし、新たに現れたのは塒巻く海竜のようなスピリット、メタルシードラモン。鼻先にあるレーザー砲が特に印象に残る。

 

 

「……き、究極体………」

「お前を倒すためのエーススピリットだ……煌臨時効果!!お前のコスト8以下のスピリット1体を破壊!!……バゼルを破壊する!!」

「なにぃっ!?」

「……アルティメットストリームッ!!」

 

 

メタルシードラモンは登場するなり鼻先のレーザー砲から強力なエネルギービームを放出する。それは晴太のバゼルへと一直線に飛び向かい、貫いた。

 

流石に耐えられないか、バゼルはその場で力尽き倒れ、大爆発を起こした。

 

 

「……バゼルッ!!」

「俺のメタルシードラモンの前には誰も敵わん!!」

 

 

余程メタルシードラモンに自信があるのか、握り拳を見せながらそう強く言い放つ海皇。それは晴太へのリベンジの気持ちもあるのだが、3年最期の界放リーグという意気込みもあった。晴太もまたその自信を感じ取る。

 

だがいくら海皇の気持ちを考えたとして、勝ちだけは譲れない。勝たねばならないのだ。ここで予選を抜けて、本戦の舞台で茜に勝たねばならないのだ。

 

晴太は強敵、海皇とメタルシードラモンを前にまた改めて気持ちを引き締めた。

 

 

「…ターンエンド」

バースト【有】

 

 

バゼルを失った今、このターンは動くことはできない。晴太はそのターンをエンドとした。

 

次は見事にメタルシードラモンを召喚してみせた海皇のターン。ここで決めるべく、一気に攻め立てる。

 

 

[ターン06]海皇

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨3

トラッシュ2⇨0

【メタルシードラモン】(疲労⇨回復)

 

 

メタルシードラモンが疲労から回復し、活動状態に入る。その間に映るのは晴太のライフのみ……

 

 

「メインステップ!!俺は異魔神ブレイヴ…幻魔神を召喚し、メタルシードラモンに左合体!!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨0

【メタルシードラモン+幻魔神】LV2(5)BP18000

 

「っ!!異魔神ブレイヴ!?」

 

 

海皇が召喚したのは白き異魔神ブレイヴ、幻魔神。その強力な効果ゆえに究極カードと認定され、デッキに1枚しか入れることができない。

 

青の軽減を持つため、海皇のデッキでは他よりも手軽に採用できる。

 

幻魔神の左手から放たれる光線が、メタルシードラモンとリンクし、合体状態となる。これによりメタルシードラモンは【超装甲:赤・紫・青】を得た。晴太の赤属性の効果は通用しなくなってしまう。

 

 

「さらにバーストを伏せ、オリンスピア競技場1枚をLV2へ!」

手札3⇨2

【メタルシードラモン+幻魔神】(5⇨4)

【オリンスピア競技場】(0⇨1)LV1⇨2

 

 

強固な場にさらにバーストカードが追加され、より強固たるものになる海皇の盤面。だがそれは守りだけにあらず…………今、メタルシードラモンが動き出す。

 

 

「アタックステップ!!高波に呑まれろ!!メタルシードラモンでアタック!!」

 

 

蛇が地を這うように駆けるメタルシードラモン。狙うは当然狙いは晴太のライフ。

 

そしてこの時、メタルシードラモンには発揮できる強力な効果が存在し………

 

 

「メタルシードラモンのフラッシュ効果!!俺のネクサスカードを疲労させ、回復する!!……オリンスピア競技場を疲労させる!!」

【オリンスピア競技場】(回復⇨疲労)

【メタルシードラモン+幻魔神】(疲労⇨回復)

 

「なにっ!?」

 

 

色を失うオリンスピア競技場、その1つ、だがその代わりにメタルシードラモンが疲労状態から回復状態となる。

 

これがメタルシードラモンの強力な効果だ。ネクサスを疲労させることで何度でもアタック及びブロックを繰り返すことができる。幻魔神の装甲の効果とシンボル追加も相まってその破壊力は見た目以上に絶大。

 

単純に一度回復しただけで晴太の残りライフ4を砕ける状態となっている。

 

ブロッカーのいない晴太はこの攻撃を回避する術はなく………

 

 

「……ライフだ!!……くっ!!」

ライフ4⇨2

 

 

メタルシードラモンの巨大な顎が晴太のライフを一気に2つ噛み砕いた。だが晴太とて負けられない。このアタックを一先ず抑えるべく、またバーストカードを勢いよく反転させる。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動!!絶甲氷盾!!ライフを1つ回復し、コストを払いアタックステップを終わらせる!!」

ライフ2⇨3

リザーブ9⇨5

トラッシュ0⇨4

 

 

晴太のライフが1つ元に戻ると同時に海皇の場に猛吹雪が発生、メタルシードラモンは身動きが取れなくなる。

 

 

「………フンッ…ターンエンド」

【メタルシードラモン+幻魔神】LV2(4)BP18000(回復)

 

【オリンスピア競技場】LV1(疲労)

【オリンスピア競技場】LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

これでは動くことができない。そのターンをエンドとした海皇。だがその顔には余裕の表情を浮かべており………

 

 

「またその場しのぎのカードか……その程度では今の俺の波は止まらん!!このバトル、俺の勝ちだ!!」

「勝手に決めんなよ!!ここからが本番だ!!」

 

 

晴太と海皇がそう言い合った直後だ。横のバトル場から歓声が沸き上がる。そこには勝ち誇った顔をしている茜がいて…………

 

 

《勝者…赤羽茜…代表決定》

 

 

そんなアナウンスが耳に入ってくる。晴太は横を見る。すると、茜がドヤ顔でこちらを見ており………

 

それを見た途端。晴太はよりやる気が向上した。

 

そうだ、こんなところで負けられない。自分は勝って本戦に進まなくてはならない。もっと強くならねばならないのだ。

 

そのために、今………目の前の敵に集中する。

 

 

晴太は一度頭を冷静にし、今のこの状況を分析する。

 

 

(俺のデッキもあんまりない、長引かせることはできない。そしてメタルシードラモンのアタックを何度も凌げない。このターンがラストだ…………)

 

 

メタルシードラモンのアタックはとても強力。前のターンは防御札でなんとか守れたが、そう都合よく何度も守ることはできない。

 

が故に、このターンがラスト。

 

……しかし

 

 

(メタルシードラモンは効果でもう一回回復できる。これで2回はブロッカーとして立つ事が可能。そしてオリンスピア競技場の効果で合体していないスピリットがアタックする時、俺はコアを払わねぇといけない………でもってライフは残り4か………)

 

 

あまりにも難易度が高すぎる。

 

ほぼ不可能だ。

 

だが、晴太は一手……一手だけこの状況を突破できる作戦を思いついており…………

 

 

(……4枚目のエグゼシード……あいつをドローする事に全てかかっている)

 

 

唯一それが可能なのは4枚目のエグゼシード。それは他の3枚よりも遥かに上回る効果を持つ。

 

しかし……今まで、晴太はそのカードを一度もドローできていない。当然今の手札にもそれは存在せず……

 

だが、引くしかない。この目の前の強敵、海皇を倒すためには………本戦で茜に勝つためには………4枚目のエグゼシードをドローするしか手はないのだ。晴太は腹をくくり、そのターンを進めていく。

 

 

[ターン07]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨10

トラッシュ4⇨0

 

 

(くっ………ダメか……)

 

 

このターンのドローステップ……晴太は引けなかった。デッキが少なく厚さも薄いにもかかわらず引けなかった。自分のセンスの無さを恨む。

 

だが、恨んでもしょうがない。自分は天才ではないのだ。花火のような………茜みたいな……そして何よりチャンスが完全になくなったわけではない。

 

晴太はさらにターンを進め、動き出す。

 

 

「メインステップ!!コレオンを召喚!!」

手札6⇨5

リザーブ10⇨9

 

 

晴太が召喚したのは0コストのスピリット、コレオン。ライオンを凄まじくデフォルメした見た目が目につく。

 

 

「フッ…諦めたか、この局面でそんな雑魚を呼ぶとは…!!」

「うっせぇ!!0コストは便利だろ!!不足コストとか………」

 

 

コレオンを呼び出した理由は軽減要員。晴太はさらに手札のカードを引き抜き、効果を発揮させる。

 

 

「メインアクセル、甲寅獣リボル・コレオンの効果!!デッキから3枚のカードをオープンし、その中の異魔神ブレイヴ1枚と、十冠、神皇スピリット1枚を手札に加える!!」

手札5⇨4

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨3

 

「……!!」

 

 

発揮させたのは晴太のデッキにおいては必須級の相性を誇るカード。引くべきカードなど等に決まっている。

 

晴太は自分のデッキをゆっくりとオープンしていく。

 

 

「先ずは1枚目!!オープン!!」

オープンカード↓

【炎魔神】◯

 

 

1枚目は成功、異魔神ブレイヴの炎魔神だ。

 

しかし、必要ではあったものの、これだけでは海皇には勝てない。残り2枚で4枚目のエグゼシードを狙う………

 

 

「2枚目!!」

オープンカード↓

【超新星の神皇エグゼシード・ノヴァ】◯

 

 

またまた成功。

 

だが、ノヴァを加えて、ライフを5にしたとして、次のターンでおそらくメタルシードラモンの連続アタックが再び根こそぎ破壊し尽くすだろう。

 

残りは1枚。

 

晴太は荒れた呼吸を整えデッキの上に手を当てる。

 

……そして…

 

 

「3枚目ぇえ!!オープンッ!!」

オープンカード↓

【龍神皇ジーク・エグゼシード】◯

 

「……っ!!何だあのカードは!?」

 

 

引いたカードはまさしく4枚目のエグゼシード。それは最強のエグゼシード。晴太はそれを見ると口角を上げ、炎魔神のカードとそれを手札へと新たに加える。

 

 

「海皇、見せてやるぜ!!俺の最強のエグゼシードを!!」

手札4⇨6

 

「最強のエグゼシードだと!?」

 

 

海皇は直感的に晴太の波が変わった事を悟る。ハッタリを言っているようには到底思えない。

 

しかし、いったいどうすると言うのだ。このライフの数、盤面。オマケにオリンスピア競技場で合体スピリット以外のアタックにコアを要求すると言うのに。

 

 

「いくぜ海皇!!俺は手元からリボル・コレオンを召喚!!」

リザーブ6⇨0

トラッシュ3⇨6

 

 

晴太が召喚したのは武装が施されたコレオン。ただ、その力強さは大して変わらない。

 

しかし、注目すべきはその効果……

 

 

「リボル・コレオンの召喚時効果!!手元からの召喚時、手札にある異魔神ブレイヴをノーコスト召喚する!!」

「っ!!」

 

「来いっ!!異魔神ブレイヴ、炎魔神!!…リボル・コレオンに左側で直接合体!!」

手札6⇨5

【甲寅獣リボル・コレオン+炎魔神】LV2(3)BP8000

 

 

コレオンとリボル・コレオンの背後に現れる炎の歯車。鈍い音を立てて回転するその中から異魔神ブレイヴの1体、炎魔神が姿を見せる。

 

そして炎魔神は左手から光線を放ち、リボル・コレオンと自身をリンク。合体スピリットとなる。

 

 

「っ!!その程度の波で粋がるなよ!!そんな小物では俺のメタルシードラモンには勝てん!!」

「……そう言うなって……今からだ、今から大物にしてやんよ……」

 

 

そう言い、晴太は手札にあるカードをさらに1枚抜き取った。それはついさっき加えた最強の4枚目のエグゼシード。

 

 

「俺は【煌臨】を発揮!!対象は合体により条件をクリアしたリボル・コレオン!!」

【甲寅獣リボル・コレオン+炎魔神】(3s⇨2)LV2⇨1

トラッシュ6⇨7s

 

「っ!?メインステップで煌臨だと!?」

「あぁ!!こいつは俺のメインステップのみ煌臨が可能!!」

 

 

リボル・コレオンが赤い炎に包まれていく。その中で大きく姿形を変える。その姿はまさしく龍王。

 

 

「龍の力宿るその時!!全てを超越せし神と化す!!龍神皇ジーク・エグゼシード!!……LV1で煌臨!!」

【龍神皇ジーク・エグゼシード+炎魔神】LV1(2)BP21000

 

 

炎を振り払い、新たに現れたのはかの有名なスピリット、ジークフリードの力が宿った最強のエグゼシード、ジーク・エグゼシード。その揺れる炎の鬣は赤き装甲と相まって力強い印象を残す。

 

 

「……こ、これが最強のエグゼシード…お前の高波か……!!」

 

 

海皇は敵ながら晴太に賞賛の声を心の中で上げていた。

 

なんたる底力。なんたる活力。

 

少ないコアでここまでのスピリットを呼び出すとは……天晴れだ。

 

そして晴太は初めて呼び出したジーク・エグゼシードを中心にアタックを仕掛けていく。

 

 

「アタックステップ!!駆けろ!!ジーク・エグゼシード!!そのアタック時効果でトラッシュのソウルコアをジーク・エグゼシードに!!LVアップ!!」

トラッシュ7s⇨6

【龍神皇ジーク・エグゼシード+炎魔神】(2⇨3s)LV1⇨2

 

 

Bパッド上にあるトラッシュからソウルコアがジーク・エグゼシードのカードの上に移動する。ジーク・エグゼシードはその影響でLVアップ。と同時に新たな効果を得る。

 

 

「炎魔神の左側の効果!!相手のバーストを破棄し、このターンスピリット全てのBPを5000アップ!!」

 

「っ!?」

バースト破棄カード↓

【絶甲氷盾】

 

「………」

【コレオン】BP1000⇨6000

【龍神皇ジーク・エグゼシード+炎魔神】BP26000⇨31000

 

 

炎魔神の追撃。ロケットパンチの要領で左手を射出させ、海皇のバーストカードを吹き飛ばした。そして役目を終えたそのロケットパンチは再び炎魔神の腕へと帰還。

 

後はジーク・エグゼシードの出番だ。

 

晴太はさらにジーク・エグゼシードの第2の効果を発揮させる。

 

 

「さらに!!ジーク・エグゼシードの効果!!ターンに一度、手札にある神皇スピリットか十冠スピリットのカードを煌臨元に追加する事で相手のライフ2つを破壊する!!」

「なにっ!?」

 

「俺は手札のエグゼシード・ビレフトのカードを追加し、効果を発揮させる!!………龍神炎砲!!」

手札4⇨3

 

 

晴太が手札にあるビレフトのカードをジーク・エグゼシードの煌臨元に追加すると、ジーク・エグゼシードはその眼光を強く放ち、口内から莫大な火炎放射を発射。

 

それはメタルシードラモンをも退かし、一直線に海皇の元へと届き………

 

 

「くっ!!…ぐぅ!!」

ライフ4⇨2

 

 

そのライフを一気に2つ焼き尽くした。

 

そしてこの効果はこれだけではなく………

 

 

「さらにライフ2つの破壊に成功した時、ジーク・エグゼシードは回復する!!」

【龍神皇ジーク・エグゼシード+炎魔神】(疲労⇨回復)

 

「っ!!…回復まで……」

 

 

赤い光を一瞬だけ纏い、回復状態となるジーク・エグゼシード。その猛攻は最早とどまることを知らない。

 

 

「アタックは継続中!!」

 

 

回復状態の今尚もアタック中。

 

ジーク・エグゼシードは炎魔神との合体でダブルシンボルと化している。が故に残りライフ2の海皇はこれを直接受けるわけにはいかず…………

 

 

「迎え撃て我が高波!!メタルシードラモンッ!!」

 

 

メタルシードラモンでブロックさせるしかない。

 

鼻先のレーザー砲からビームを放ち、指示通りジーク・エグゼシードを迎え撃つメタルシードラモン。しかし、それは全くジークには通用せず………

 

ジークはお返しと言わんばかりに再び口内から莫大な火炎放射をメタルシードラモンへと放つ。

 

 

「うぉぉお!!……これが俺のエグゼシードだぁぁ!!」

 

 

今度は避けることは出来ず、メタルシードラモンはそれに命中。その巨大な体躯ごと焼き尽くされてしまう。

 

海皇の最強の高波は、晴太の最強のエグゼシードによって完膚なきまでに叩きのめされた。

 

 

「……ラストアタックだ!!もっかい行け!!ジーク!!」

 

 

ラストアタックと称し、ジークに指示を出す晴太。

 

海皇は最早なす術がなく、ただそれを受け入れるのみ…………

 

 

「………良き波だ……ライフで受ける…」

ライフ2⇨0

 

 

ジーク・エグゼシードの炎を纏った強烈な突進が海皇のラスト2つのライフを木っ端微塵に粉砕した。

 

これにより勝者は空野晴太。見事、強敵海皇とメタルシードラモンを打ち砕き、勝利してみせた。

 

 

「っしゃぁ!!」

 

 

拳を固め、大きくガッツポーズを掲げる晴太。それ程までにこの勝利は晴太にとって大きかった。自分の成長をより一層感じる一戦であったのだ。

 

 

「………空野」

「海皇……」

 

 

そんな晴太の前に、海皇は歩み寄る。

 

 

「……良き波、良きバトルだった!!お前と最後の界放リーグで再び戦えた事、誇りに思う!!」

「っ!!」

 

 

握手を求め、手を差し伸べてきた。実際彼にとってこの予選での敗退はどれほど心苦しかった事だろうか。

 

しかし、それ以上に晴太とのバトルを誇らしく思ったからこそ、こうして目の前にいるのであって……

 

晴太もそれをわかっているからこそ……

 

 

「あぁ!!俺も最高だったぜ!!」

 

 

握手に応じ、同じ手を晴太も出し、その海皇の手を固く握りしめた。海皇もまた握り返す。

 

この2人。バトルを通して知らずのうちに親交が深まったようだ。これもまたバトルスピリッツの力と言えるのかもしれない。

 

 

「……ジーク・エグゼシード……へぇ〜〜あんな隠し球持ってたのかあいつ……まぁちょっとは楽しみにしておこうかな」

 

 

そう言って、そのバトルを観戦していた赤羽茜はバトル場を降り、スタジアムから去って行った。

 

これにて第3回界放リーグのジークフリード校の予選は終了。代表は赤羽茜と空野晴太だ。

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


晴太「本日のハイライトカードは【龍神皇ジーク・エグゼシード】!!」

晴太「ジーク・エグゼシードは龍皇ジーク・フリードの力が宿った最強のエグゼシードだ!!メインステップで煌臨して高打点を叩き込むぞ!!」


******


〈次回予告!!〉


いよいよ始まる第3回界放リーグ。順調に勝利していく晴太。そんな中、赤羽茜は去年1位を獲得した九白一族の九白草壁とあたり……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ外伝【エグゼシード伝説】…「一族の天才」…今、伝説が進化する!!

******


※サブタイは変更する可能性があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

コレオン、不足コストにならなくてよかったね

外伝なのですごくポンポン話が進みます。違和感を覚える方もいるかもしれませんが、界放リーグまでの話に27話かかった本編とは違い、この外伝は早く終わらさないといけないので、どうしてもこうなってしまうのです。その点はご了承の程よろしくお願いします。

先生にこんな過去があったんだーー感覚でお読みになっていただければ幸いです。


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第77話「一族の天才」

 

 

 

 

 

 

 

6つの区域から成り立っている界放市の中央にある大きなスタジアム。普段ならば立ち入りさえも禁じられるこの場所。しかし今日に限って観客席は界放市の人々や中継カメラでいっぱいいっぱいになっており、まるで祭りでもやっているかのように外壁は装束で色とりどりに飾られていた。

 

無理もない。何せ、今日は界放市の一年に一度の祭典、【界放リーグ】なのだから。界放市だけではなく、日本中の誰もが注目する行事なのだ。

 

そこで上位に食い込めばプロ入りもほぼ確実。界放市の各6つの学園から2枚ずつ選出された生徒達は殆どがそのためにこの場で凌ぎを削る。

 

そんな栄誉ある場に、一木花火の一番弟子、空野晴太はジークフリード校の代表としてバトルしており………

 

 

「いけぇ!ビレフト!!」

 

 

地を駆けるエグゼシード・ビレフト。狙うはデスペラード校の生徒のライフ。その数は既に1。もはやなす術なく………

 

 

「……ライフで受ける…………くっ!!」

ライフ1⇨0

 

 

ビレフトの一角がその男子生徒の最後のライフを貫いた。ガラス細工が割れたような音がこだまする時、観客席から観客達が晴太に向かって轟音のような大きな声援を送る。

 

 

「っしゃぁ!!」

 

 

腕をL字に曲げ、ガッツポーズを掲げる晴太。相手は昨年も3位という有終の美を飾った1人だというのにもかかわらず完勝してしまった。新進気鋭の学生バトラーの登場に、観客達やジークフリード校の理事長、龍皇竜ノ字は興奮しないわけがなかった。

 

既に第3回界放リーグも2回戦に突入しており、今のバトルがその最後の試合だったのだ。晴太はこのままシードとして決勝への進出が決定した。

 

次は準決勝。その対戦する両者とは………

 

 

《準決勝……ジークフリード校2年…赤羽茜》

《同じく準決勝……オーディーン校3年…九白草壁》

 

 

この2人だ。茜も当然晴太のようにこの界放リーグを難なく勝ち上がっていた。

 

このアナウンスが聞こえてくるや否や、晴太はバトル場を降り、既にスタンバッていた茜の方へと赴く。

 

 

「へっ!!どうだ茜!!決勝に行ってやったぜ!!」

「あぁそ、運が良かっただけじゃない?」

「うるせぇ!!実力だっての!!」

 

 

啀み合う2人。だが、これがいつもの2人の会話。茜は定かではないが、晴太は少なくとも茜の実力を認めているからこそ、悪態をつくような話し方ができる。

 

その後、晴太は茜の準決勝を見届けるべく、バトル場の端まで離れる。逆に茜はバトルするために栄誉あるその場へと向かい………

 

その相手と対峙する。

 

 

「へぇ〜〜お前があの赤羽一族……少数派だが赤属性最強と謳われる一族」

「………赤羽茜だ!!よろしくな!!」

 

 

既に小物臭漂うこの黒髪の男子生徒。開口一番で話した内容はバトスピ一族に関する事。茜が一族であることは認知しているようだ。

 

彼はオーディーン校3年の九白草壁。大人数存在する九白一族の今年度の最高傑作と呼ばれる存在。去年、一昨年と、ジークフリード校の海皇静怒を破り優勝している。

 

その実力だけは折り紙つきであり、天賦の才能を持っている。ただ、この通り人間性は他の九白一族達に溺れずクズだ。

 

茜はそんな相手だと漂う雰囲気だけで理解しているにもかかわらず、いつものように元気良く笑顔で挨拶をした。

 

 

「んじゃ、早速始めるか!!」

「くっくっく…身の程知らずめ……九白随一の天才であるこの俺とのバトルを望むなんてね…先に行っておこう、赤では白には勝てん!!」

 

 

2人はそう言いながらBパッドを懐から取り出し、展開。

 

そして始まる。第3回界放リーグの栄誉ある準決勝が………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルが始まる。先行は茜だ。

 

 

[ターン01]茜

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!先ずはネクサスカード、勇気の紋章を配置!!ターンエンドだ!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

【勇気の紋章】LV1

 

バースト【無】

 

 

茜が颯爽と呼び出したのは赤のネクサスカード、勇気の紋章。彼女の背後に太陽を模した紋章が太陽に成り代わるように浮かび上がって来た。

 

茜がいかに過激で攻撃的なカードバトラーと言えど、先行の第1ターン目はできることは限られている。茜はそのターンをエンドとし、草壁へと渡した。

 

 

「全く、暑苦しいネクサスだな、低俗な赤属性らしい」

 

 

ターンを始める前、草壁は茜の配置したネクサスに向かってそう差別的なセリフを言い放つ。

 

九白一族にとって、白属性が全て。6つある色属性の中でも白こそが至高にして最高であると幼少期から教授されている。それが故に、ほとんどの者は他の5色を見下す傾向にある。

 

しかも、それが白属性とは特色が相反する存在であるといえる赤属性だったら尚のことであり………

 

 

「アッハハ!!カッコいいだろ?…無駄口叩いてないでさっさとターンを進めなよ!!」

「フンッ、減らず口を…!」

 

 

だが、茜はそんな九白草壁の言葉を前にしても全く意に介さず、己が道を貫き通すかのような発言をしてみせる。

 

草壁はそんな茜の高笑いを黙らせるべく、自分のターンを、バトルを進めていく。

 

 

[ターン02]草壁

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!俺もネクサスカード、ラインの黄金をLV2で配置し、エンドだ!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

 

【ラインの黄金】LV2(2)

 

バースト【無】

 

 

草壁が背後に配置したのは巨大な黄金の塊。このカードの効果によって、お互い、武装スピリット以外の召喚時効果は使用できなくなる。茜の持つアグモンなどの成長期スピリットのサーチ効果が妨げられる事になる。当然それ以外も止められるため、残しておくとかなり厄介な存在であると言える。

 

 

[ターン03]茜

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ……んーーーそうだなぁ、もう1枚、ネクサス、竜の尻尾奇岩を配置!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨3

トラッシュ0⇨2

 

「……!!」

 

 

茜は背後に2枚目のネクサスカードを配置する。うねうねと聳え立つのは竜の尾のように見える奇妙な岩。これは茜のデッキにおいての白対策とも言えるカードであって………

 

 

「竜の尻尾奇岩の効果で私の地竜スピリットは相手の効果で手札、デッキに戻されない」

「……知ってますとも」

 

 

茜の持つアグモンやグレイモン系のスピリットは皆系統に地竜を含んでいる。竜の尻尾奇岩の効果でバウンス効果をシャットダウンできるのだ。

 

お互いにお互いのメタカードを配置していくこの最序盤。様子見としては余りにも長すぎると言えるが、これはお互いに実力やデッキのパワーが高い事を同時に表しており………

 

 

「…さらに、勇気の紋章をLVアップし、マジック、フェイタルドロー!!カードを2枚引いて、エンドだ」

手札4⇨5

リザーブ3⇨0

トラッシュ2⇨4

 

【勇気の紋章】LV1⇨2(0⇨1)

 

バースト【無】

 

 

茜はさらに赤属性らしくドローマジックで手札を軽く潤し、そのターンをエンドとした。

 

次は草壁のターンだが、その前に発揮される効果があって…………

 

 

「ラインの黄金LV2効果、このターン、俺のライフが減っていないため、ドローかコアブーストを選択し、発揮させる…コアブーストを選択!!」

リザーブ0⇨1

 

 

ラインの黄金に若干の亀裂が生じ、その破片がコアとなって草壁のBパッド上に落ちる。茜がバトル中草壁のライフを減らさなければ、どんどんラインの黄金は無くなっていく事だろう。しかし、全てなくなるにはかなりのターンが有されると思われるため、一バトルないで終わるわけがないが………

 

 

「白はドローが苦手だろ?コアなんか増やしていいのか?」

「構わない、既にこの手にお前を倒す手は出揃っているのだからな!!」

「あぁ、そ」

 

 

茜の言う通り、白属性は比較的ドローが苦手。受動的ではあるが、ラインの黄金のドロー効果は貴重であると言える。

 

だが、草壁はあえてドローはせず、コアを増やした。より早く大きなスピリットを召喚したいがためであろう。

 

……これが今後どう響いてくるのか…

 

 

[ターン04]草壁

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!!俺もさらにネクサスカード、No.24トリプルヘビーをLV2で配置して、ターンエンドだ!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨2

 

【ラインの黄金】LV2(2)

【No.24トリプルヘビー】LV2(2s)

 

バースト【無】

 

 

草壁の背後にあるラインの黄金を囲むかのように3つ重なったサーキットが出現。誰もそこを走ってはいないが、その存在はこのバトル中、かなり大きいものであって……

 

次は茜のターン。お互い速度の遅いバトルを送っているが、ここでようやく均衡が破られることとなる。

 

 

[ターン05]茜

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

 

 

「ドローステップ時、勇気の紋章、LV2効果でドロー枚数を1枚増やし、その後1枚捨てる」

手札5⇨7⇨6

破棄カード↓

【ダイナパワー】

 

 

勇気の紋章LV2効果。それは赤属性らしいドローステップ時での枚数を増やす効果。茜の場にグレイモンスピリットがいればカードを破棄する必要はなかったが、今回はそのうちの1枚を破棄した。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!…どうやらそろそろ私のデッキが我慢の限界らしい………いくぞ九白一族」

「……!!」

 

 

茜から殺気が漂う。

 

草壁は唐突にここからが本当のバトルであることを察した。だが、それを目の当たりにしてもなお余裕の表情を浮かべている。余程自分に自信があることが伺える。

 

 

「メインステップ!!グレイモンをLV2で召喚!!」

手札6⇨5

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

 

 

茜の背後からのっそのっそと姿を現わすのは立派な3本の頭角を携えた赤の成熟期スピリット、グレイモン。

 

 

「グレイモン……なんとも品のないスピリットだ」

「スピリットは見た目じゃないさ!!アタックステップ!!グレイモンでアタック!!」

 

 

茜は速攻でグレイモンにアタックの指示を送る。そしてこの時、グレイモンには発揮できる効果があり………

 

 

「グレイモンのアタック時効果、【超進化:赤】を発揮!!赤の完全体スピリット、メタルグレイモンに進化!!」

【メタルグレイモン】LV2(3)BP9000

 

 

グレイモンが0と1のデジタルコードに身を包まれていく。その中で大きく姿形を変え、やがてそれは破裂。中から新たに現れたのはグレイモンの完全体になった姿、メタルグレイモン。その左半身は機械化されており、ボロボロの翼が新たに生えている。

 

 

「アタックステップは継続!!メタルグレイモンでアタック!!」

 

「……ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

進化してもなお、アタックステップを止める事はなく、メタルグレイモンでそのままアタックを継続させる茜。防御手段を持ち合わせてはいないか、草壁をこれをライフでうける。

 

メタルグレイモンの機械化したアームが草壁のライフを1つ切り裂いた。

 

 

「………エンドステップ、トラッシュにあるダイナパワーの効果!!場に地竜スピリットがいる時、トラッシュから手札に戻る!!………これでターンエンドだ」

手札5⇨6

 

【メタルグレイモン】LV2(3)BP9000(疲労)

 

【勇気の紋章】LV2(1)

【竜の尻尾奇岩】LV1

 

バースト【無】

 

 

事前に勇気の紋章の効果で事前にトラッシュへと送っていたダイナパワーのカードを効果によって回収し、そのターンをエンドとした茜。

 

ようやくバトルが本格的に動き出してきた。次は草壁のターン。ここらで動かねば流石に差が大きく着いてしまうところだが………

 

 

[ターン06]草壁

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ………見せてやろう赤羽一族!!これが美しき白のデジタルスピリットだ!!」

「……!!」

 

 

草壁の言葉に身構える茜。何かが来るのを雰囲気で直感的に感じたのだ。しかし、その表情は未だに余裕であり……

 

草壁同様余裕に満ち溢れているのが伺える。

 

 

「……トリプルヘビーの効果!!シンボルを3つにし、召喚の軽減に使う!!……召喚、ラピッドモン(テイマーズ)!!LVは2!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

【No.24トリプルヘビー】(2s⇨0)LV2⇨1

トラッシュ0⇨4

 

 

ジェット音を鳴らしながら草壁の場に降り立つのは緑の装甲を持つスマートな白の完全体スピリット、ラピッドモン。九白一族の中でも特に優秀な者しか持つことができないデジタルスピリットの一種だ。これを持つ者に負けは決して許されない。

 

 

「バーストをセットし、アタックステップ!!アタックしろラピッドモン!!」

手札4⇨3

 

 

飛び立つラピッドモン。狙いは当然茜のライフ。だが、茜はこれを迎え撃つべく、手札のカードを1枚引き抜き………

 

 

「待ってたぞ!!フラッシュ!!【煌臨】を発揮!!対象はメタルグレイモン!!」

【メタルグレイモン】(3s⇨2)LV2⇨1

トラッシュ2⇨3s

 

「……!!」

 

 

メタルグレイモンが赤く発光し、その姿形を大きく変えていく。そのエフェクトは紛うことなき究極進化。デジタルスピリットの中でも最高にして頂点に輝く存在が今、この場に煌臨する。

 

 

「竜殺しの鉤爪!!勇気の炎!!バトルに旋風を巻き起こせ!!…究極進化ッ!!」

手札6⇨5

 

 

赤き光を弾け飛ばし、現れたのは………

 

 

「…ウォーッ!!グレイモンッ!!」

【ウォーグレイモン】LV1(2)BP9000

 

 

グレイモンスピリットの中でも頂点に立つエーススピリット、ウォーグレイモンがこの場へと姿を見せた。因みに、ウォーグレイモンやメタルグレイモンは赤属性ではあるが、カード的には半分白属性でもある。

 

 

「……半分だけ白属性ってのが一番腹立たしんだよな………不純物が、いい気になるなよ」

 

 

九白である草壁はなによりもその点を軽蔑していた。バトルにおいて本当にしっかりと見ないといけないものなどありふれているというのに。

 

九白の長年で凝り固まった思想が当然影響している。

 

 

「さっきから色がどうだとかうるっせぇななんでもいいだろ?……ウォーグレイモンの煌臨時効果!!」

「……!!」

「BP15000まで好きなだけスピリットを破壊する!!今はラピッドモンしかいないな!!…焼き尽くせ!!大玉ガイアフォースッ!!」

 

 

発揮されるウォーグレイモンの煌臨時効果。

 

掌の感覚を広げながら巨大な炎の球を形成していくウォーグレイモン。そしてそのままそれを向かってくるラピッドモンへと投げつける。

 

太陽のようにあまりにも巨大すぎる炎の球。ラピッドモンは逃げ場なくそれと衝突し、焼き尽くされる。

 

………かと思えたが….

 

 

「……あり?」

 

 

爆発による爆煙と爆風。それが晴れる時、茜が目にしたものは、まさかのラピッドモン。ラピッドモンはウォーグレイモンのガイアフォースを直で受けたというにもかかわらず、その装甲には傷1つ付いてなく、ピンピンしていた。

 

これは単純な茜の勉強不足。

 

 

「馬鹿め!!ラピッドモンは【超装甲:赤/緑/白】を持つ!!その程度の炎で破壊できるものか!!」

「あらあら、」

 

 

ラピッドモンには白特有の装甲効果を持っており、赤の効果は受け付けない。

 

だが、茜はそれを知った後でもたいして同様はせず、変わらずのおちゃらけた態度でバトルと向き合っている。それがまた草壁にとっては腹立たしくて………

 

 

「お前本当に一族か?…落ちこぼれじゃないだろうな!!」

「え?…あぁ、まぁ、私よりかどっちかというと弟の方が優秀ではあるかな」

 

 

軽く罵倒しようとしても、茜はそれを全く意に介さず平然といつも通りに返答する。ここまで来ると最早マイペースと言ってもいいかもしれないが、草壁の言うことを気にしていないのも周知の事実。

 

それに本当の事だ。本当に自分なんかより弟の方がよっぽど優秀で、優れている。茜は別に嘘などついていない。

 

 

「ちっ、アタックは継続中だ」

 

「おっ、だったな…ライフで受けるか」

ライフ5⇨4

 

 

ラピッドモンの腕部から放たれるミサイルが茜のライフへと直撃し、それを1つ木っ端微塵に砕く。これでお互いにライフ4となる。

 

 

「……鈍い奴だ……ターンエンド」

【ラピッドモン(テイマーズ)】LV2(3)BP8000

 

【ラインの黄金】LV2(2)

【No.24トリプルヘビー】LV1

 

バースト【有】

 

 

茜の変わらぬ態度に若干の苛立ちを覚え、草壁はそのターンのエンドとした。

 

次はウォーグレイモンが場に残った茜のターン。ここからが本番だ。

 

 

[ターン07]茜

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨7

 

 

ドローステップ時、茜の配置しているネクサス、勇気の紋章の効果が発揮され、ドロー枚数が増える。今回は場にウォーグレイモンが存在していたため、捨てる事なく純粋に2枚のカードを引いた。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ5⇨0

【ウォーグレイモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉を召喚し、ウォーグレイモンと合体!!LVも3にアップ!!だ!!

手札7⇨6

リザーブ5s⇨1

トラッシュ0⇨2s

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】LV3(4)BP21000

 

 

上空から地面に突き刺さるように降り注いでくるのは柄から赤き光を輝かせる聖剣、シャイニング・ソード。ウォーグレイモンはドラモンキラーを消滅させ、地面に刺さったそれを引き抜き、合体状態となる。

 

 

「さらに竜の尻尾奇岩もLVアップさせ、バーストをセット!!…アタックステップ!!この瞬間、竜の尻尾奇岩LV2効果でBPを3000アップさせる!!」

手札6⇨5

リザーブ1⇨0

【竜の尻尾奇岩】(0⇨1)LV1⇨2

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】BP21000⇨24000

 

 

準備は万端だ。極限までBPが強化されたウォーグレイモンが草壁のライフを切り裂くべく剣を構える。

 

 

「ウォーグレイモンでアタックッ!!」

 

 

地を駆け、走り出すウォーグレイモン。目指すは当然草壁のライフ。

 

だが、草壁はまるでこのタイミングを待ち望んでいたかのように、口角を上げ、手札のカード1枚を引き抜いた。

 

………それは九白一族最強のカード。

 

 

「馬鹿め!!単調な攻撃法しか知らんのか!!フラッシュ!!【煌臨】発揮!!対象はラピッドモンッ!!」

【ラピッドモン(テイマーズ)】(3s⇨2)LV2⇨1

トラッシュ4⇨5s

 

「…!!……お前も煌臨か……」

 

 

大気が揺れ動く。その凄みにウォーグレイモンは思わずその足を止めてしまう。

 

すると、ラピッドモンが白き光の中に身を包まれ、新たな姿へと大きく変えていく。本当に大きく、その機械の身体はどんどん巨躯なるものへと変貌していき………

 

 

「その圧倒的たる火力を見せつけろ!!究極進化ぁぁあ!!」

手札4⇨3

 

 

光を解き放ち、新たに現れたのは………

 

 

「セントガルゴモンッ!!」

【セントガルゴモン】LV1(2)BP10000

 

 

巨大なマシーン型の究極体スピリット、セントガルゴモン。その見た目は犬のような顔立ちだが、装備されている武装は見渡す限りどれもが重火器。

 

圧倒的火力と言わしめる分にはそこに理由があるのだろう。

 

 

「へぇ〜〜デッケェなぁ!!」

 

 

普通のカードバトラーであったらその驚異的な存在に震え、また、怯え出す事だろう。しかし、茜にそんな感情は一切なく、ただ単に目の前の強敵とのバトルに心を踊らせていた。

 

 

「笑ってられるのも今のうちだけだ!!煌臨時効果!!相手のスピリット1体、ネクサスかバースト1枚を同時にデッキ下に戻す!!」

「……!!」

 

「俺はお前のネクサス、竜の尻尾奇岩を下へと戻す!!………ジャイアントミサイルッ!!」

 

 

セントガルゴモンは両肩にある砲塔からミサイルを茜の背後にある尻尾奇岩へ向け放つ。その狙いが外れるわけがなく、命中し、岩は跡形もなく消え去っていった。

 

この損失により、茜のスピリットたちは皆バウンス効果を受けるようになってしまった。

 

 

「ふぅ〜〜ん……まぁでもアタックは継続中だ」

 

「……それはライフで受ける」

ライフ4⇨2

 

 

今度は立ち止まる事なく、ウォーグレイモンは草壁のライフまで赴き、草壁のライフをシャイニング・ソードで一刀両断してみせる。草壁のライフは一気に2つ破壊された。

 

…そしてまだウォーグレイモンの攻撃は止まらず………

 

 

「ウォーグレイモンのアタック時効果発揮!!トラッシュにあるソウルコアをウォーグレイモンに置く事で相手のライフ1つをボイドに送る!!」

トラッシュ2s⇨1

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(4⇨5s)

 

「……!!」

「炎剣技…トライデントガイアッ!!」

 

「………ぐうっ!!」

ライフ2⇨1

 

 

ウォーグレイモンはシャイニング・ソードの剣先からガイアフォースの力を一点に集中させ、草壁のライフへと射出。それは彼のライフをいとも容易く貫き、溶解してみせた。

 

だが、その強力な一撃でも、今一歩勝利には届いておらず………

 

 

「フッ…終わりか?……ならばライフ減少によりバースト発動!!絶甲氷盾!!ライフを1つ回復!!」

ライフ1⇨2

 

 

草壁の場に伏せられていたバーストカードが反転し、瞬時にライフが1つ回復する。

 

 

「んーーーまぁいっか…エンドだ」

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】LV3(5s)BP21000(疲労)

 

【勇気の紋章】LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

そのターンをエンドとする茜。

 

だが、セントガルゴモンの煌臨時効果によってバウンス耐性を与える竜の尻尾奇岩を失ったことにより、草壁がウォーグレイモンをそれで除去しようとしているのは目に見えていて………

 

 

[ターン08]草壁

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨8

トラッシュ5⇨0

【セントガルゴモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップッ!!セントガルゴモンのLVを3にアップッ!!」

リザーブ8⇨6

【セントガルゴモン】(2⇨4)LV1⇨3

 

 

LVが上がった事を知らしめるかのように拳を固め、サムズアップするセントガルゴモン。流石は九白一族最強のカードと言ったところか、その圧力はウォーグレイモンにも勝も劣らない。

 

 

「このままアタックステップッ!!セントガルゴモンでアタックッ!!効果によりスピリットとネクサスの効果は受けない!!」

 

 

ロケットでも飛び立ったかのような轟音を鳴らしながら、ジェット噴射で空を飛行するセントガルゴモン。狙うは当然茜のライフ。

 

そして、この瞬間にも、セントガルゴモンには発揮できる効果があって………

 

 

「さらにアタック時効果!!煌臨時と同じ効果を発揮させる!!お前のバーストとウォーグレイモンをデッキ下に戻すッ!!」

「……!!…アタック時でも使えたのか」

 

 

セントガルゴモンの相手のカードをデッキ下に戻す強力な効果は、煌臨時、そしてアタック時に適応できる。草壁はこの効果を最大限に発揮させるためにずっと引きつけていた。効果の効用が最大に得られるこのタイミングを………

 

……そしてそれが今、草壁はこのターンで決着をつけるべく攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

 

「セントガルゴモン……フルバーストッ!!」

「……!!」

 

 

ありったけの兵器を一斉に発射するセントガルゴモン。雨のように降り注ぐその爆発は茜の場にいるウォーグレイモン、そして伏せられているバーストカードをデジタル粒子レベルで分解し、彼女のデッキ下に戻した。

 

目の前にはウォーグレイモンと合体していたシャイニング・ソードだけが取り残される。

 

 

「さらにフラッシュマジック!!ホワイトポーションッ!!……効果によりセントガルゴモンを回復!!」

手札3⇨2

リザーブ6⇨5

トラッシュ0⇨1

【セントガルゴモン】(疲労⇨回復)

 

「……!!」

 

 

白マジック、ホワイトポーション。それは単純ながらに強力な回復効果。白き光を浴び、セントガルゴモンが疲労状態から回復状態となる。これにより、このターン、二度目のアタック権利を得た。

 

普通のスピリットの二回攻撃ならばまだ軽いものだろう。しかし、それがセントガルゴモンならば話は変わってくる。強力なアタック時効果もそうだが、何より………

 

 

「セントガルゴモンはダブルシンボル!!一度のライフで2つのライフを破壊するッ!!」

 

 

……そう。

 

元から2つのシンボルを持つセントガルゴモン。その二回連続アタックで与えられるダメージは4。

 

そして茜の残りライフも4。全て受けて仕舞えば彼女の負けが決まる。

 

去年も一昨年も、彼、九白草壁はそうやって学園での代表選抜戦や界放リーグを勝ち上がってきた。この単純ながらに強力なカウンターコンボで………

 

 

「終わりだッ!!落ちこぼれ一族!!」

「……カウンター……ねぇ、私も引きつけておくのは好きだぞ……!!」

 

 

だが、それが通じるのは去年まで………バトルの時代や流れは急速に変化を続けていくものだ。茜は余裕な表情を浮かべたまま、手札にあるカードを1枚抜き取った。

 

 

「……フラッシュ!!…手札にあるブラックウォーグレイモンの効果を発揮!!」

「なにっ!?」

 

「相手のBP8000以上のスピリットがアタックしている時、フラッシュタイミングで召喚できる!!」

リザーブ5⇨4

トラッシュ1⇨2

 

 

茜の手で輝くのは1枚のデジタルスピリット。それはあの超人気プロバトラー、一木花火も愛用する1枚であって………

 

 

「邪悪なる鉤爪!!漆黒の炎!!戦いに終止符を討てッ!!召喚!!ブラックウォーグレイモンッ!!………LV3!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

【ブラックウォーグレイモン】LV3(4)BP15000

 

 

漆黒の炎が茜の場を埋め尽くす。それは地面を燃やしながら、中から新たなるスピリットを誕生させていた。

 

その中のスピリットはその漆黒の炎を振り払い、姿を見せる。その名はブラックウォーグレイモン。その名の通りウォーグレイモンが黒くなった姿だ。

 

 

「ぶ、ブラック……だと!?」

「お前も勉強が足りねぇんじゃねぇの?…ブラックウォーグレイモンと言ったら一木花火さまのウォーグレイモンと並ぶ双璧だろ?」

 

 

この当時、プロバトラーである一木花火はあまり公式戦でブラックウォーグレイモンを使用していなかった。が故に、未だにその認知度は高いとは言えず、寧ろ知っている方が珍しいと言える。

 

 

「さぁ!!行くかブラックッ!!あのデッケェ人形を叩き壊してこいッ!!」

「に、人形だと!?ふざけるなよ赤の一族!!」

 

 

迫ってくるセントガルゴモンに向かって勢いよく飛び立つブラックウォーグレイモン。その黒いドラモンキラーが太陽の光で輝く。

 

……だが…

 

 

「セントガルゴモンの方がBPは上ぇ!!返り討ちにしろ、セントガルゴモンッ!!」

 

 

BPは僅かながらにセントガルゴモンの方が上であって、ブラックウォーグレイモンの一撃は硬い装甲に阻まれ、弾き飛ばされてしまう。

 

しかし、茜に抜かりはない。手札にあるカードをさらに抜き取る。

 

 

「お前視野ゼロか……フラッシュマジック!!ダイナパワー!!このターン、ブラックのBPを3000上げる!!」

手札4⇨3

【勇気の紋章】(1⇨0)LV2⇨1

【ブラックウォーグレイモン】BP15000⇨18000

 

「……な、な、なんだと!?」

「勇気の紋章の効果で一度捨てて、効果で加えてただろ?忘れたのか?」

 

 

発揮されたのは単純なBPアップマジック。ダイナパワー。茜は事前に効果でこれを加えており、草壁はそれが影響を及ぼすとは思っても見ず、すっかり頭の中から存在が抜け落ちていた。

 

九白一族の殆どの者達は視野が狭い。特に草壁のような上昇志向の強いエリートは。今回はそれが特に反映されたといえよう。

 

 

「バトル続行!!もっかい行け!!ブラックッ!!」

「……!!」

 

 

ブラックウォーグレイモンは負けじと今度は両手を上に上げ、身体をドリルのように高速回転させ、セントガルゴモンへと飛び向かう。

 

まるで黒い旋風。セントガルゴモンはそれを止めようと爆撃の嵐を振らせるが、ブラックウォーグレイモンはその全てを貫きながらどんどん距離を縮めていく。

 

 

「……漆黒槍…ブラックトルネェェェエドッ!!」

 

 

そしてついに、直撃、セントガルゴモンの腹部はブラックウォーグレイモンに貫かれ、貫通する。

 

貫いた直後に、上空で元の状態に戻るブラックウォーグレイモン。背後を振り返ることなく、大爆発を起こしたセントガルゴモンの爆風をただただ背中で感じ取っていた。

 

 

「ば、バカな………俺のセントガルゴモンが………」

【ラインの黄金】LV2(2)

【No.24トリプルヘビー】LV1

 

バースト【無】

 

「よくその程度の戦術で私に喧嘩売ってきたな…こんな奴が九白のエリート?……全く、お腹が痛いや」

 

 

項垂れる草壁。

 

信じられるものか、九白のエリートとして、オーディーン校のトップとして長らく君臨していた自分がこんな赤属性の一族などに負けようとしていたのが……

 

だがこれは夢ではなく現実、茜とのバトルから、今までが単純なカードパワーだけで勝っていたことが目に見えている。

 

これを機に、九白の最強デッキ、セントガルゴモンのデッキは同じく九白の別の誰かに移ることになるだろう。

 

 

[ターン09]茜

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨3

トラッシュ2⇨0

【ブラックウォーグレイモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……シャイニング・ソードをブラックに付け直す!!」

【ブラックウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】LV3(4)BP20000

 

 

合体先がいなくなり、地面に突き刺さっていたシャイニング・ソードを、今度はブラックウォーグレイモンが引っこ抜き、合体する。その様子は全くウォーグレイモンと同じであり、聖剣を握るために、鉤爪の武装は消え、その鎧はより鋭角となっていた。

 

 

「……ほんじゃ、アタックステップ……やれ、ブラック」

 

 

シャイニング・ソードを手に持ち、走り出すブラックウォーグレイモン。目指すは当然草壁の残り2つのライフ。

 

彼には最早打つ手立ては残されてはおらず……

 

ラインの黄金の効果をドローにしていれば勝てる可能性はあったか………いや、ない。最大級の規模を誇る一族である九白であるからと、尊大な態度を取り、自分たちの方が優れていると勝手に思い込んでいるような人物に、最初から本物の天才である茜に勝てるわけがなかった。

 

 

「………自分から天才っていう奴にろくな奴はいないよな………あんたじゃ、私のバトルには着いてこれない………」

 

「嘘だ……俺は…俺は九白の……くのエリートなんだぞぉ!!……うわぁぁぉあ!!」

ライフ2⇨0

 

 

刹那。眼前まで急速に迫って来たブラックウォーグレイモンがシャイニング・ソードの一撃でラスト2つのライフを叩き壊した。

 

これにより勝者は赤羽茜。全くもって余裕そうな表情である。この圧勝に、思わず沸かずにはいられない観客達。今までの界放リーグでの上位者がここまでコテンパンになされたのだから無理はない。

 

そんな中、茜は後ろを振り向き、それをより間近で観戦していた晴太の方を振り向く。

 

 

「お〜〜い!!弟子くん!!…退屈だけはさせんなよ〜〜」

 

 

……と、元気よく手を振りながら言ってきた。その宣戦布告と言わんばかりの様子に、晴太は思わずニヤリと笑っていて………

 

 

「臨むところだ……俺の修行の成果……見せつけてやる……!!」

 

 

第3回、界放リーグの決勝戦が今すぐに始まろうとしていた。




〈本日のハイライトカード!!〉


晴太「本日のハイライトカードは【セントガルゴモン】!!」

晴太「セントガルゴモンは白の究極体スピリット!!効果耐性、バウンス、ダブルシンボルを持っていて、フィジカル面が特に強いデジタルスピリットだ!!」


******


〈次回予告!!〉


ついに始まる界放リーグの決勝戦。晴太は茜に今までの特訓の成果を見せつけることができるのか……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ外伝【エグゼシード伝説】…「認められた存在」…今、伝説が進化する!!


******


※サブタイトルは変更の可能性があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


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第78話「認められた存在」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭から離れない極上のラッパのメロディが流れると同時に、観客の人々の歓声と言う名の轟音が鳴り響く。

 

第3回界放リーグ。

 

今年もいよいよ大詰め。ファイナリストは初参加のジークフリード校の2年生。上級生を下して勝ち上がってきたのは彼らが初である。もっとも、海皇を始めとする今の三年生達は皆学園に最初に通う事になった一期生であるため、必然的に初となるのは仕方のないことではあるが………

 

だが、そんな彼らの実力を疑うものなど誰もこの会場にはいやしない。これはバトルの祭典。観客にとってあり得ないような出来事など大好物である他ないのだから。

 

そんな中、中央スタジアムの大きなバトル場にて、顔を見合わせていたるのは、今年のファイナリスト、空野晴太と赤羽茜。

 

………今まさに、この両名の決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

 

 

「やぁやぁ、お弟子くん。まさかお前が最後に私の前に立ち上がるとは思ってもなかったよ、でも随分とシケタ面構えしてんじゃん!……頭でも痛いのかな?」

「ちげぇよ、今まさに俺の脳細胞がトップギアなのさ………お前を倒そうって必死こいてんだよ」

「……アッハハ!!減らず口だね」

「お互いな」

 

 

この時点、この時、この瞬間。

 

2人はお互いの実力を理解しつつあった。特に茜の方はそうだろう。まさかあの晴太が界放市一位になると言う目標を掲げていた自分の最後の相手になるとは思ってもいなかっただろう。

 

晴太は当然ながら、この戦いを勝ち上がってくれば、絶対に茜と出くわすと思っていた。だから参加したし、今日、この日のために対策も溢れんばかりに考えて来た。

 

 

「……茜、もうそんな会話はしなくいいはずだぜ?…ここは界放市で行われる界放リーグ。もっとも栄誉あるバトラーを決めるバトルだ。転校生のお前とて、知らないわけないよな?」

「……全く、相変わらずだね、君は。……退屈だけはさせないでおくれよ」

 

 

そう。ここは界放市の中央スタジアム。普段は物静かなこの大きなスタジアムは、毎年1回しか行われない界放リーグのためだけに使用される。

 

界放市のバトラーならば誰もが夢見るこの場に、本来、言葉など不要。ただやらねばやらないことは一つ。バトルスピリッツのみ。

 

晴太と茜はそう言い、自分の懐から取り出したBパッドを勢いよく展開。バトルの準備を瞬時に行った。

 

………そしてついに。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

第3回、界放リーグの決勝戦がコールと共に幕を開ける。

 

先行は晴太。

 

 

[ターン01]晴太

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!俺はネクサスカード、情熱サーキットを配置!!…ターンエンド」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【無】

 

 

バトル場を囲うようにサーキットが出現する。このネクサスカードは晴太のデッキにとって大きな役目を担う可能性があるもの。初手でこれを配置できたのは大きいと言える。

 

次は茜のターン。

 

 

[ターン02]茜

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、私もネクサス、勇気の紋章をLV2で配置し、ターンエンド」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

 

【勇気の紋章】LV2(1)

 

バースト【無】

 

 

茜の背後に現れたのは太陽を模した紋章。それは彼女の使用するアグモンやグレイモンを象徴とするマークと言っても過言ではない代物。

 

 

「んだよ、動かねえのか?」

「そっちこそ……花火さまもインタビューで言ってたぞ、コアの増えない赤属性のデッキ、特にビートダウン系はネクサスの配置が大事だってな」

「俺はガキの頃からしょっちゅう聞いてたよ」

 

 

お互いにネクサスカードの配置だけで終了した初手のターン。だが、これは所謂嵐の前の静けさ、ここから急速にバトルが進展するのは目で見るより明らかな事であって………

 

 

[ターン03]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!エグゼシード・ビレフトを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

晴太の背後から何かが走る足音が聞こえてくる。やがてそれは晴太の頭上を飛び越え、場へと現れる。

 

そのスピリットはエグゼシード・ビレフト。晴太のデッキの序盤アタッカーとも呼べる存在である。

 

普通のバトルなら、晴太はここで一気呵成に攻め始めるはずだが………

 

 

「ターンエンド」

【エグゼシード・ビレフト】LV1(1)BP3000(回復)

 

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【無】

 

 

「ま、だろうな」

 

 

晴太はアタックをせず、そのターンをエンドとしてしまう。

 

アタックする事に得があるビレフトを召喚しながらアタックをしない事には理由がある。それは茜の配置したネクサス、勇気の紋章。勇気の紋章にはライフが減った時、BP5000以下のスピリットを破壊する効果がある。ビレフトのBPは3000。アタックしてしまえばみすみすビレフトを破壊してしまう事になる。

 

晴太はこの事態を避けるべく、召喚だけにとどまったのだ。

 

 

[ターン04]茜

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

 

 

「ドローステップ時、勇気の紋章LV2効果でその枚数を1枚増やし、その後1枚手札を破棄する」

手札4⇨6⇨5

破棄カード↓

【ダイナパワー】

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、アグモン[2]をLV2で召喚」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨1

 

 

茜の場にデフォルメされた肉食恐竜のような成長期スピリット、アグモンが召喚される。ただ、それはサーチ効果のあるアグモンではなく、全く別の効果を所有する2番目のアグモン。

 

 

「さぁってと、一発カマかけてみるか!…アタックステップ、アグモンでアタック!!」

「っ!!…進化しないのか!?」

 

 

アタックステップへと移行する茜。だが、アグモンの【進化】の効果は発揮させず、直にアタックの指示を送る。この様子から少なくとも今の茜の手札には成熟期スピリットがいない事が理解できる。

 

先ずは様子見のアタックといったところか……しかしながらビレフトよりかはBPが高い。晴太はこのアタックを…

 

 

「ライフだ!!」

ライフ5⇨4

 

 

アグモンの鋭い爪の攻撃が晴太のライフを引き裂いた。だがこの瞬間、晴太が事前に配置していた情熱サーキットの効果が発揮される。

 

 

「情熱サーキットの効果!!デッキの上からカードを1枚オープンし、十冠、神皇スピリットならノーコスト召喚できる」

 

 

情熱サーキットを火の玉が勢いよく駆ける。それはやがてサーキット内を飛び出し、晴太のデッキへと直撃、オープンする権利を与える。

 

 

「……カード、オープン!!」

オープンカード↓

【庚獣竜ドラリオン】◯

 

「!!」

 

「っしゃぁっ!!当たりだぜ!!…情熱サーキットの効果でドラリオンをLV1で召喚!!」

リザーブ2⇨1

【庚獣竜ドラリオン】LV1(1)BP5000

 

 

晴太の場に颯爽と現れたのは頭部は竜だが、胴体が猛獣のスピリット、ドラリオン。このスピリットもまた、ビレフト同様アタッカーとして効果を発揮できる。

 

 

「召喚時、BP5000以下のスピリット2体を破壊!!…アグモンを破壊する!!」

「!」

 

 

ドラリオンの口内から放たれる渦状の炎がアグモンを包み込んで行く。小さなアグモンがそれに耐えられるわけもなく、あっさりと焼却されてしまった。

 

 

「さらに!!この効果で破壊に成功した時、手札にあるブレイヴを召喚できる!!…異魔神ブレイヴ、炎魔神を召喚!!」

手札4⇨3

 

 

続けて現れるのは激しく轟音鳴らしながら回転する炎の歯車。その中から飛び出してきたのは、異魔神ブレイヴの1体、炎魔神だ。系統は機竜だが、その見た目はまるで巨大ロボットさながらだ。

 

 

「ドラリオンに直接合体!!」

【ドラリオン+炎魔神】LV1(1)BP10000

 

 

異魔神はルール上、合体する際、2体同時に直接合体する事はできない。1体ずつ順序よく合体しなければならない。そのため、晴太は先ず、ドラリオンに合体させる。

 

炎魔神は右手から光線を放ち、自身とドラリオンをリンクする。

 

 

「……あらあら、してやられたな……ターンエンドだ」

【勇気の紋章】LV2(1)

 

バースト【無】

 

 

偶発的ではあるものの、晴太の盤面をより強固たるものにしてしまった茜。だが、その表情にはまだまだ余裕があり、まるでそれを予知でもしていたかのよう。

 

晴太もこの程度で茜が同様しないことなど理解している。ならばここから一気に仕掛けるしかない。そう、思考を過ぎらせていた。

 

 

[ターン05]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!!ドラリオンのLVを2に!!ビレフトをLV3に!!さらに炎魔神の左側にビレフトを合体!!」

リザーブ5⇨0

【庚獣竜ドラリオン+炎魔神】(1⇨2)LV1⇨2

【エグゼシード・ビレフト+炎魔神】(1⇨5)LV1⇨3

 

 

今度はビレフト。炎魔神は左手から光線を放ち、ビレフトと自身をリンクする。

 

 

「さらにバーストをセットして、アタックステップ!!……ドラリオンの効果で合体スピリットのBPを5000アップ!!」

手札4⇨3

【ドラリオン+炎魔神】BP13000⇨18000

【エグゼシード・ビレフト+炎魔神】BP11000⇨16000

 

 

吠えるドラリオン。それは仲間達の指揮を大きく向上させる。元は中コスト帯のスピリット達だと言うのにそのBPはもはやそんじょそこらの上級スピリットを軽く超えている。

 

 

「アタックだドラリオン!!」

 

 

地を駆けるドラリオン。目指すは当然茜のライフ。

 

茜は前のターンでスピリットを全て破壊されているため、この攻撃を防ぐことはできず……

 

 

「こんくらいは必要経費だな……ライフで受ける!持ってきな!!」

ライフ5⇨3

 

 

そのライフを差し出した。ドラリオンの竜の口がライフバリアに噛みつき、それを一気に2つ分破壊した。

 

 

「まだまだ行くぜ!!今度はビレフトでアタックッ!!効果で1枚ドロー」

手札3⇨4

 

 

今度はビレフトが地を駆ける。ビレフトもドラリオン同様、炎魔神と合体しているため、シンボル数は2。またライフ2つを破壊することができる。

 

 

「それ以上は減らさないな!!フラッシュ!!手札のブラックウォーグレイモンの効果を発揮!!」

「っ!!来たか……」

 

 

茜がこのタイミングでちらつかせたのはブラックウォーグレイモンのカード。攻防共に秀でているグレイモンデッキの優秀なスピリットだ。

 

それがここでも召喚される。

 

 

「邪悪なる鉤爪!!漆黒の炎!!戦いに終止符を討て!!ブラックウォーグレイモンをLV3で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨1

トラッシュ1⇨2

【ブラックウォーグレイモン】LV3(4)BP15000

 

 

漆黒の炎が地面を焦がす。その中で立ち尽くしているのは黒いウォーグレイモン、ブラックウォーグレイモン。それが腕を大きく振るいその漆黒の炎を飛ばし、晴太にその姿を見せる。

 

 

「……俺はそいつが出ると予想してBPを上げたんだ!!そのまま押し切ってやるッ!!」

 

 

今現在、晴太の場にいるスピリットはBP16000とBP18000。どれもブラックウォーグレイモンを超えている。これは晴太のブラックウォーグレイモンで酷い返り討ちに合わないための対策である。

 

だが、茜はそれさえをも軽く飛び越えてしまう。

 

 

「フラッシュ!!【煌臨】を発揮!!対象はブラックウォーグレイモン!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ2⇨3s

 

「なにっ!?…ここで煌臨…ってことは!?」

「そう……あいつだ」

 

 

ブラックウォーグレイモンの黒いボディに光の亀裂が生じていき、カラーリングが急速に変化していく。それはまさしく原点回帰とも呼べる現象。

 

 

「竜殺しの鉤爪!!勇気の炎!!戦いに旋風を巻き起こせッ!!ウォォォォォッ!!グレイモンッ!!」

手札3⇨2

【ウォーグレイモン】LV3(4)BP16000

 

 

現れたのはグレイモンデッキのエース、ウォーグレイモン。状況も状況であることもあって、その存在感はブラックよりも遥かに大きく感じる。

 

 

「煌臨時効果!!合体によるBP加算を無視してBP15000まで好きなだけスピリットを破壊するッ!!」

「っ!!」

「BP13000のドラリオンを破壊するッ!!大玉ガイアフォースッ!!」

 

 

登場するなり両掌から太陽のような巨大な火の玉を形成し、それをドラリオンに向かって全力で投げ飛ばす。あまりにも巨大すぎるため、ドラリオンは避けることができず、直撃、焼き尽くされる。

 

 

「ドラリオンの損失により、BP加算効果は消失!!ビレフトのBPも下がる!!」

 

「……くっ!!」

【エグゼシード・ビレフト+炎魔神】BP16000⇨11000

 

「ビレフトのアタックはウォーグレイモンでブロックッ!!」

 

 

ドラリオンの破壊は別の所にも響いてくる。ビレフトのBPが極端に低下してしまった。これにより、BPが互角だった両者は一変してウォーグレイモンが優勢になった。

 

突進してくるビレフトをウォーグレイモンが両手で慣性を殺しながら受け止め、完全に止めると、荒々しくそれを蹴り飛ばした。さらにそこに巨大なガイアフォースを打ち込み、ビレフトにトドメをさした。

 

 

「……くぅ、結局全滅かよ」

「まだまだ甘いな、弟子くん!!」

 

「……ターンエンドだ」

【炎魔神】BP5000

 

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【有】

 

 

圧倒的な実力。圧倒的な直感力。圧倒的な引きの強さ。どれも晴太にはないものを茜は保有している。

 

普通に考えたらここまでの天才にこんな凡人が勝てるわけがない。だが、ずっと特訓してきたのだ。血が滲むような努力をしてきたのだ。

 

絶対に勝つ。その晴太の信念は何よりも揺らぐことはない。

 

 

[ターン06]茜

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

【ウォーグレイモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップッ!!輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉を召喚し、ウォーグレイモンに合体!!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】LV3(4s)BP21000

 

 

天空から勢いよく地面に突き刺さってくるのは、赤き聖剣、シャイニング・ソード。ウォーグレイモンはドラモンキラーを消滅させ、それを握り、引き抜く。

 

すると、その装甲や外装までもが変化し、より刺々しい姿に変わった。

 

 

「アタックステップッ!!ウォーグレイモンでアタックッ!!」

 

 

晴太の残り4つのライフめがけ走り出すウォーグレイモン。さらに茜は手札にあるカードを引き抜き、ウォーグレイモンをサポートする。

 

 

「フラッシュマジック、ガイアフォース!!…不足コストはウォーグレイモンのLVを下げて確保!!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(4s⇨3)LV3⇨2

トラッシュ3⇨5s

 

「……!!」

 

「この効果で炎魔神を破壊し、ウォーグレイモンを回復!!」

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(疲労⇨回復)

 

 

炎魔神に降り注ぐ太陽のような巨大な火の玉。避けられるわけもなく直撃し、力尽き、大爆発を起こしてしまう。

 

さらにウォーグレイモンは一瞬だけ赤い光を纏い回復状態となる。これによりこのターンは二度目のアタック権利を得たが、それ以上に目に付いたのはトラッシュにソウルコアを送った事だろう。

 

茜はウォーグレイモンを回復させつつ、追加ダメージを与える下準備も着々と進めていた。

 

だが、前のターンで痛い返り討ちにあった晴太は、これを防御する手段はなく………

 

 

「ライフで受ける!!」

ライフ4⇨2

 

 

ウォーグレイモンの手に握るシャイニング・ソードの一撃が晴太のライフを一気に2つ木っ端微塵に粉砕する。

 

さらにそれだけでは終わらず……

 

 

「ウォーグレイモンのアタック時効果!!トラッシュにあるソウルコアをウォーグレイモンに置き、1点のダメージ!!………炎剣技…トライデントガイア!!」

トラッシュ5s⇨4

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】(3⇨4s)LV2⇨3

 

「…ぐうっ!!」

ライフ2⇨1

 

 

ウォーグレイモンの追撃。シャイニング・ソードの先からガイアフォースの力を集約させ一直線に放つ。晴太のライフは追加でさらに溶解されてしまう。

 

だがまだ負けてはいられない。条件を満たしたバーストを発動させ、一先ずその嵐のように続く攻撃を消沈させる。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!絶甲氷盾!!…ライフを1つ回復させ、コストを払いアタックステップを終了させる!!」

ライフ1⇨2

リザーブ9⇨5

トラッシュ0⇨4

 

 

晴太のライフが1つ元どおりになると同時に、場に猛吹雪が発生。ウォーグレイモンは吹き飛ばされ、茜の場に強制帰還される。

 

因みに、バーストマジックのその後のメイン、フラッシュ効果等は、バーストの発動に含まれるため、シャイニング・ソードの合体時効果のライフコストは適応されないのだ。

 

 

「さらに!!情熱サーキットの効果!!……カードをオープンッ!!」

オープンカード↓

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】◯

 

 

今度はライフの減少に反応し、情熱サーキットの効果が適応される。火の玉がデッキへ宿り、上から1枚オープンされる。それは爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼルのカード。

 

成功だ。召喚できる。

 

 

「よしっ!!成功だ!!…覇王と爆炎が融合する!!…召喚!!エグゼシード・バゼル!!」

リザーブ5⇨0

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV3(5)BP20000

 

 

晴太の場に吹き上がる一本の極太の火柱。その中からそれを口に咥えた刀で引き裂きながら現れたのは一頭の馬。燃え上がるような羽織を着用し、今こそ姿を現した。

 

 

「……ほお?…まぁ1枚くらいは持ってるよな………エンドステップ、トラッシュにあるダイナパワーを回収し、ターンエンド」

手札2⇨3

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】LV3(4)BP21000(回復)

 

【勇気の紋章】LV2(1)

 

バースト【無】

 

 

トラッシュに落ちていたダイナパワーのカード。茜の場に地竜スピリットであるウォーグレイモンがいるため、このターンは回収する事に成功した。

 

次はバゼルの召喚を成功させつつ、茜の攻撃を凌いだ晴太のターンだ。

 

 

「やっぱお前、すごい奴だぜ……」

「ん?どうしたんだい?急に褒めちぎったって勝ちは譲らないぞ?」

「お前と始めてバトルしたあの日から、なんとなくだけど、俺ってば、変わったんだ……自分を大きく見せようと背伸びしようとしていた自分からな」

 

 

ターンを始める前。晴太は胸の内にあった言葉をさらけ出していく。茜は興味なさそうになんとなく聞いている。

 

 

「エグゼシードを手に入れてから、色んなことがあった。まさかこの俺がこんな大舞台でお前のような天才とバトルしてるなんてよ」

「んーーどっちかっつーと私の弟の方が天才なんだがな?…司って言うんだけど」

 

 

この正念場を迎えた大一番の状況で、2人は改めてこの会場がどれほどのスケールであり、どれほど栄誉ある事なのかを再確認していた。茜にとってはそんな事は対して気にはならなかった事だろう。

 

だが晴太は違った。天才などではなく、凡人であると理解したあの初めての茜とのバトルの日からずうっと努力して、勝ち上がってきたのだ。感慨深いものが胸の奥には確かにあったのだろう。何せ、生まれて初めての努力だったのだから。

 

そんな晴太の事をまたなんとなく察したのか、茜は彼に向かって………

 

 

「弟子くん……」

「?」

「私は今、バトルに飢えている。強い相手を求めている。ここに来た本当の目的はそれなんだよ……男だったら口じゃなくて、自分のバトルで語るんだな」

 

 

茜は口角を上げ、ニヤリと笑いながらそう晴太に告げた。

 

 

「……あぁ!!望むところだ!!」

 

 

[ターン07]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップッ!!行くぞ茜ッ!!」

「!」

 

 

メインステップの開口一番。晴太は手札の1枚に颯爽と手をかける。それは自分の持つ最強のエグゼシード。

 

 

「【煌臨】発揮!!対象はエグゼシード・バゼルッ!!」

リザーブ5s⇨4

トラッシュ0⇨1s

 

 

バゼルを囲むように火柱がさらに立ち昇る。バゼルはその中でさらに大きく姿形を変えていく。その炎の鬣はより大きく燃え上がり、羽織は消滅し、新たな武装が施されていく。

 

 

「龍の力宿るその時、全てを超越する神と化す!!……龍神皇ジーク・エグゼシード!!」

手札5⇨4

【龍神皇ジーク・エグゼシード】LV3(5)BP26000

 

 

さらにその炎を振り払い、現れたのはジーク・エグゼシード。龍と神を何持つそのスピリットはまさしく最強のエグゼシードと呼ぶに相応しい。

 

 

「おぉ、予選の時に使った奴だな」

 

「お前を倒すための切り札だッ!!…バーストをセットし、アタックステップ!!ジーク・エグゼシードでアタック!!効果でトラッシュのソウルコアを回収し、ウォーグレイモンに指定アタック!!」

手札4⇨3

トラッシュ1s⇨0

【龍神皇ジーク・エグゼシード】(5⇨6s)

 

 

晴太は早速バーストをセットしながら、ジーク・エグゼシードをウォーグレイモンの元へと走らせる。ジーク・エグゼシードは高らかに前脚を上げ、地を駆ける。

 

 

「ウォーグレイモンでブロックッ!!」

 

 

シャイニング・ソードにガイアフォースの力を集約させ、一点集中でジーク・エグゼシードへと放つウォーグレイモン。だが、ジーク・エグゼシードは難なくそれを回避する。

 

そしてその間。ジーク・エグゼシードはさらなる効果を発揮させる。

 

 

「フラッシュッ!!ジーク・エグゼシードのもう1つの効果!!手札にある十冠スピリットをジーク・エグゼシードの煌臨元に追加する事で、相手のライフを2つ破壊し、回復する!!」

「っ!!」

 

「俺は手札にある2枚目のビレフトをジーク・エグゼシードの煌臨元に追加する事で、効果を発揮!!……龍神炎砲!!!」

手札3⇨2

【龍神皇ジーク・エグゼシード】(疲労⇨回復)

 

「……ぐ、ぐうっ!!」

ライフ3⇨1

 

 

ジーク・エグゼシードの口内から放たれる業火。それはウォーグレイモンさえをも退き、地面を焼き尽くしながら茜のライフへと直撃、そのライフを一気に2つも破壊した。

 

さらに回復。ジーク・エグゼシードはこのターン、さらなる攻撃が可能となった。ここでウォーグレイモンを倒すことができればトドメの一撃をお見舞いする事ができる。

 

 

「全てをブチ抜けッ!!ジーク・エグゼシードッ!!」

 

 

ジーク・エグゼシードは改めてウォーグレイモンとのバトルにめをむけるや否や、凄まじい速度でウォーグレイモンを何度も何度も襲う。ウォーグレイモンはシャイニング・ソードでなんとか紙一重でいなし続けているが、これだけのBP差だ。破壊されるのは時間の問題であった事だろう。

 

……しかし、茜はまるでこのタイミングを待ち望んでいたかのように手札からカードを抜き取る。

 

……それは彼女を勝利へと導く切り札。

 

 

「……凄い破壊力だ………だけど、この程度じゃ、私には勝てねぇ!!フラッシュマジック、ダイナパワー!!…2枚使用する!!」

手札3⇨1

リザーブ3⇨1

トラッシュ3⇨5

 

「…なにっ!?」

 

「この効果でこのターン、ウォーグレイモンのBPを3000アップ!!それが2回分で、6000アップ!!」

【ウォーグレイモン+輝きの聖剣シャイニング・ソード〈R〉】BP21000⇨24000⇨27000

 

 

単純な赤のBP増強マジック。1枚は手札にある事は確認できていたものの、2枚目があることは晴太も知らぬ事であって………

 

完全に意表を突かれた。

 

 

赤い光を一瞬だけ纏い、ウォーグレイモンのBPが飛躍的に上昇する。そしてその眼光を輝かせると、何度も何度も突進してくるジーク・エグゼシードをシャイニング・ソードの一撃で叩き飛ばす。

 

吹き飛ばされたジーク・エグゼシードはなんとか態勢を立て直そうとするが、その間髪入れずウォーグレイモンはジーク・エグゼシードとの距離を詰め………

 

 

「私の勝ちだっ!!…破砕剣…ドラモンブレイカァァァァァア!!!」

 

 

シャイニング・ソードを上からで思いっきり振り、ジーク・エグゼシードを地面へと叩きつけた。巨体がめり込むほどの一撃に、ジーク・エグゼシードは堪らず大爆発を起こす。

 

飛び散った爆煙と爆風は、観客達に茜の勝利を確信させるにはあまりにも十分すぎた。

 

 

だがしかし………

 

 

この1人の凡人はやってのけた。

 

 

 

「……破壊後のバースト……五輪転生炎〈R〉!!」

「なにっ!?」

 

「トラッシュから破壊された皇獣スピリット1体を召喚する!!この効果により、破壊されたジーク・エグゼシードを復活させる!!……来い!!」

リザーブ10⇨5

【龍神皇ジーク・エグゼシード】LV3(5)BP26000

 

 

ここに来て初めて赤羽茜の余裕のある表情が崩れた。

 

上空に出現する炎の輪。それは黄泉の世界に繋がる輪である。そこをくぐり抜けて現れたのはウォーグレイモンに叩き潰され、破壊されたはずのジーク・エグゼシード。翼羽ばたかせ、宙から地へと降り立った。

 

決して茜はバトルにおいて隙を見せたわけではない。ただ、それ以上に晴太の戦術が上回っていたのだ。茜もそれを知っているからこそ………

 

 

「ふふ……これが一木花火の弟子の力か……」

 

 

静かに笑みを浮かべていた。自分の渇きを潤す相手が目の前にいたことに喜びを覚えていた。

 

……そして、

 

 

「……ジーク・エグゼシードでラストアタックッ!!駆けろ龍神よ!!」

 

 

最後のアタックの指示。

 

茜の残った手札にはそれを凌ぐ手段は残されてはおらず………

 

 

「…来な!!ライフで受けるっ!!!」

ライフ1⇨0

 

 

ジーク・エグゼシードの炎を纏った突進が、赤羽茜の最後のライフを思いっきり砕いた。

 

そのガラス細工が割れたかのような音は会場中に響き渡り、すぐさま轟音のような歓声に変わった。それは空野晴太と言う何にでもない凡人の勝利を湛えていたのだ。

 

場に残ったジーク・エグゼシードとウォーグレイモンは睨み合いながらゆっくりとこの場から消滅した。そして、バトルしあった2人は互いに中央まで歩み寄り……

 

 

「俺の勝ちだぜ……茜!」

「ふふ……あっはは!!!!!」

「っ!?な、なんだよ!?」

 

 

唐突大きく笑い出した茜に、晴太は戸惑いを見せる。だが、茜は決して気が狂ったわけではなく……

 

 

「……認めてやる」

「?」

「認めてやるよ、空野晴太!!お前は私の永遠のライバルだ!!」

 

 

茜はそう言いながら晴太に握手を求めるかのように手を差し出す。

 

そして晴太もまた、口角をゆっくりと上げながら同じ手を差し出し………

 

握手が交わされた。その瞬間にまた大きな歓声がこだまする。この年の界放リーグの決勝は、やがて伝説となり、優勝を収めた晴太の所有するエグゼシードデッキは【エグゼシード・フォース】と改めて呼ばれるようになって一躍有名となった。

 

 

「見てろよ【晴太】!!来年、同じ界放リーグの舞台でお前を叩きのめしてやるぜ!!」

「おうよ茜!!俺とお前は一勝一敗だからな!!来年また決着をつけようぜ!!」

 

 

来年の第4回界放リーグに向けてそう言い放つ茜。と、同時にこの時初めて晴太を下の名前だけで呼んだ。これは彼を認めたと言う証拠でもあり………晴太もそれに対して負けじと言い返す。

 

………だが……

 

 

「……ゲホ、ゲホ」

「?」

 

 

その途端軽く口を手で押さえ、咳き込む茜。

 

晴太はこの時、ただただ単純に決勝でのバトルに疲弊したものだと思っていた。

 

………そう、この時は………

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


晴太「本日のハイライトカードは【龍神皇ジーク・エグゼシード】!!」

晴太「茜を倒すことができる俺の最強切り札!!今後ともよろしくな!!」


******


〈次回予告!!〉


あらから1年、いよいよ第4回界放リーグが幕を開ける。再び代表に選ばれた晴太と茜。やる気を十分に募らせる晴太。だが、茜の様子はどこか辛そうで………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ【外伝】エグゼシード伝説…「着けられない決着」……今、伝説が進化する!!


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

外伝も後1話か2話で終わりを迎えます。こうしてみると意外と早かったですね。


さて、今月、19日はなんと、このバトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズの1周年です!!

ここまで私などの作品をお読みになってくださった方々には、本当に感謝しています。送られてくる感想等にどれだけ執筆のモチベーションを上げてもらったことか!!多分こんなに感想が来なかったら続けてなかったと思います!!

それでは改めて、読んでくださる読者の皆様、これからもバトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズと私、バナナの木を何卒宜しくお願いします!!

そして、せっかくの1周年記念という事で、何か特別な話を作ろうと考えました。

その予告が↓です。





1周年記念特別編予告!!


いつも通り、平和にバトルをしていた芽座椎名。しかし、ふとドローしたカードを見ると、それは「激突王のキセキ」と名が記されたカード。当然、椎名も知らないカードであり………椎名はそのカードの導きによって、ある伝説のカードバトラーと対面する!!

バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 1周年記念特別編!!…「椎名VS弾!!」……バトスピが今、大きく進化を超える!!




※本編とは全く関係のないエピソードです。



******





どうでしたでしょうか。今月の19日を是非ともお楽しみにしていただけましたら幸いです!!




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第79話「着けられない決着」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空野晴太が第3回界放リーグで赤羽茜を下し、優勝を果たしてから約一年の歳月が流れた。街は再び界放リーグのシーズンとなっており、昨年度優勝した晴太と、準優勝者の茜の話題でもちきりだった。

 

今年は彼らも3年。これが最後の界放リーグとなる。そんな彼らの再戦を望まない者などこの街には誰一人としていないのであって………

 

 

「よお茜!!」

「?」

 

 

そんな第4回界放リーグが幕を開ける少し前の日、茜は学園の廊下で晴太と兎姫とバッタリ出会った。

 

 

「今年もお互い代表だな!!これで一年越しの決着を着けられるな!!」

「ほお?なんかいやに自信満々じゃないか、まぁいつものことか……あれから私も散々特訓したからな、負ける気はないよ」

 

 

圧倒的な強者達のオーラが廊下を覆っていく。生半可なカードバトラーでは到底近寄ることなどできやしない。兎姫でも精一杯だ。

 

こんな者達がバトルし合うのだから、界放リーグは嘸かしレベルが違うのだと理解できる。

 

 

「んじゃな…首を洗ってまってな」

「へっ、そっちこそ!!」

 

 

茜はそう言って、2人の元から去って行った。そんな茜の後ろ姿を見て、兎姫は何か思い至ることがあったのか、

 

 

「ねぇ、晴君、なんか茜さんなんか最近変じゃない?」

「変?」

「うん。授業もあまり出なくなったし、体育の授業に至っては参加したところなんて見た事ないの……疲れてるのかしら?」

 

 

ここ最近、兎姫が感じていた明らかにおかしな茜の違和感。去年の界放リーグが終了してからというもの、あまり授業に出席しなくなっていた。

 

 

「あぁ?あの茜だぞ?もともと頭悪いし、何かの見間違いだろ?」

「……だといいんだけど……」

 

 

晴太も兎姫に言われて少しだけ考えてみる。確かにここ最近そんな様子がなくもないが、あの赤羽茜に疲れたという言葉は辞書に存在するわけがない。何かの間違いだろう。

 

………と、この時思っていた。

 

 

******

 

 

そして、第4回界放リーグ前日の夜。赤羽一族の屋敷にて、茜は中庭で密かにバトルの鍛錬をつけてもらっていた。その相手は、彼女の父、【赤羽紅蓮】。

 

 

「ハァッ……ハァッ」

「おいおい、茜ちゃん!もうやめとけっての!…パパも眠たいしさ!」

 

 

バトルのやりすぎか、疲労困憊な状態に陥っていた茜。ノリは信じられないくらい軽いが、紅蓮は茜の身を案じ、休むよう声を送る。

 

 

「…ダメだ、親父……私はアイツに勝たないといけない!!約束したんだ!!界放リーグで決着を……」

 

 

既に満身創痍の状態。到底バトルなどできる状態ではない。紅蓮とて、そんな事はとうに見越している。

 

あの同年代ではついてこれる者がいないとまで言われた天才の茜がここまで本気にバトルの鍛錬を重ねるとは、紅蓮も思ってはいなかったに違いない。

 

 

「……ダメだ。休め…………死ぬぞ」

「!」

 

 

だが、父としてそれをやらせるわけにはいかない。おちゃらけてた態度を一変させ、高圧的な物言いで茜に言葉をぶつけてくる。茜は背筋が凍った。やはり、自分の父親には計り知れない力がある。特訓してもらうならこの人しか自分にはいない。

 

そう思うと恐怖など、死など恐るるにたりない。

 

 

「親父ぃ、私しゃ……もう長くない。自分が一番わかる」

「…………」

「だから最後はせめてラストバトルはあの界放リーグの舞台で……アイツに勝ちたい!!頼む!!」

 

 

本気の目で紅蓮に訴えかける茜。長くはないのは本当の事。茜は不治の病に侵されている。昔から。もうじき寿命が尽きる。

 

父親としては止めなくてはならない。少しでも長く生きてもらわねばならない。だが、そこまで言われては逆に後で後悔することになるのは自分だろう。

 

紅蓮はそう思うと、再びBパッドを展開せざるを得なかった。

 

 

「……仕方ない、後一回だけだ」

「サンキュー親父!!」

 

 

こうして、茜と紅蓮の深夜の特訓は続いたのだった。

 

しかし、紅蓮は茜の身を案じると同時に、別の事も気にしていた。あの茜をここまで変えるほどの人物の事を………

 

 

******

 

 

翌日、迎えた第4回界放リーグ。会場は例年を遥かに上回る盛り上げを見せていた。それもそのはず、今年もあの2人が参加するのだから、

 

空野晴太と赤羽茜………この2人のバトルを一目見ようと足を運んだ人も多くいたのだ。

 

 

「トドメだ!!ノヴァでアタック!!…超新星天撃…ノヴァ・ゲイザー!!」

 

「う、うわぁぁぁぁぁあ!!」

ライフ1⇨0

 

 

現在1回戦、晴太の操るエグゼシード・ノヴァの星をも砕く一撃が相手プレイヤーを襲い、そのライフをゼロにしてみせた。

 

これにより、晴太の勝利。難なく一回戦を突破した。三年生の最後の界放リーグも順調に駒を進めた。

 

 

「っしやぁ!!」

 

 

ガッツポーズを掲げると、周りの観客も大盛り上がり、いつかは自分もこんな街ではなく世界でできたらいいなと、この時の胸の中では思っており………

 

……そして、若干の時が流れ、次は茜の一回戦が始まった。こちらも終始ペースは茜が握ったおり、勝利するのは時間の問題だった。

 

 

「……よし、終わりだっ!!ウォーグレイモン!!」

 

「…くっ!!」

ライフ1⇨0

 

 

究極の龍戦士、ウォーグレイモンの鋭い鉤爪の一閃が相手プレイヤーの最後のライフをいとも簡単に引き裂いてしまった。これにより、勝者は赤羽茜。二回戦へと駒を進めた。

 

 

「……ハァッ、ハァッ、……勝った……」

 

 

しかし、バトル内容は完勝だったと言うのに、茜の表情はどこか疲れきっており、これは昨晩、父親と深夜まで鍛錬していたからではない。

 

アイツと、アイツとバトルするまでは負けられない。その思いだけが今の茜を突き動かしていた。

 

そして、また若干の時が経ち、二回戦の対戦リストが好評される。本来ならば、この二回戦は明日は持ち越しなのだが、今年は最初の試合だけは今日のうちに終わらせてしまうのだと言う。

 

その二回戦の対戦リストは………

 

 

赤羽茜と空野晴太だ。

 

両名は控え室の中でスタンバイした。決勝ではないのが少しばかり嫌ではあるが、願ったり叶ったりである。界放リーグで1勝1敗に決着をつけることができるのだから………

 

第4回界放リーグ、二回戦の場で、昨年のファイナリスト2名が中央のバトル場へと並び立った。2人の一年越しの対決に、観客達もこれでもかと言わんばかりの歓声を送った。

 

 

「よお茜!!やっとこの時が来たな!!」

「……あぁ、そうだな……」

 

 

………しかし、

 

 

「?……おいなんかお前顔色悪くねぇか?」

 

 

茜はとうに限界を迎えていた。晴太の言う通り、顔色は青ざめていて決していいとは言えず、去年と違い、覇気も全く感じられない。

 

流石に少々不安を覚える晴太。だが茜は………

 

 

「おいおいおい、どうした?……さっさと始めるぞ」

「い、いや、だって……」

 

 

茜はBパッドをスタンバイする。既にバトルなどする気力など残っていないと言うのに………晴太と決着をつけたいと言う執念だけがその体を突き動かしていた。

 

だが、その灯火も終わりを迎える。

 

 

「…っ!!……ゲホッ!、ゲホッ!……」

「おい!!本当に大丈夫……か?」

 

 

晴太の言葉が一瞬止まった。対角線上からでも見えてしまった。茜が普通に咳き込んだのではない。その勢いのまま、吐血していた。

 

 

「……え?」

 

 

晴太は頭の血がサァーっと流れ落ちていくのを感じた。流石にこれはやばい。と思い、茜の元へ駆けつける。

 

晴太同様にざわつく会場。大会スタッフの者達が担架や救急車に連絡を取っているのが目に映る。

 

 

「おい茜!!しっかりしろ!!」

「…おぉおぉ、まだ生きてますよ〜〜〜」

「ふざけてる場合か!!お前本当に体弱かったのかよ!!」

 

 

倒れた茜の肩を起こし、呼びかける晴太。茜はそれに対し、何故かおちゃらけた態度をとる。死にそうだと言うのに何をやっていると言うのか………

 

 

「悪りぃ晴太……決着はつけられそうにねぇわ」

「何弱気言ってんだよ!!生きろよ!!んでもってもう一度俺の前に立ち塞がりやがれぇ!!」

「……一年と半年くらい、お前と兎姫と一緒に入られたこと……誇りに思う」

「それが遺言とか言うんじゃねぇぞ!!絶対に生きろ!!」

 

 

どんどん茜の声が弱々しくなっていく。生気が失われていく。一番近くにいる晴太は誰よりもそれを感じ取っており……

 

……死なせない。死なせてなるものか、茜は自分のライバルだ。天才だ。そんな天才を超えることこそ自分は生きがいにしてるのだ。しかし、わかっていたことではあるが、その関係はもはや親友とも呼べる間柄であった。

 

だからこそ生きて欲しい。死なないでくれ……

 

……しかし、それはもはや決して叶わぬ夢。幻想なのだ。

 

 

「晴太ッ!!」

「!?」

 

 

茜は無くなってきた力を振り絞り、両腕を晴太の首元に回し、耳元で最後にこう囁いた。

 

 

「……私の人生…どいつもこいつもみんな弱過ぎてクソみたいな人生だったけど……あんたが私のライバルでいてくれて本当に良かった………ありがとう!!………うぅ、…ありがとう…っ!!」

「っ!?」

 

 

大粒の涙をこれでもかと流し、振り絞った掠れ声は、観客の騒ついた声など全く意に返す事なく晴太の頭の中に直接流れ込んで来た。

 

この時、晴太は気づいてしまった。

 

本当の別れに。もう自分が生きているうちは二度とこの友とは会えない。バトルする事は出来ない。況してや決着など…………つける事は出来ない。

 

 

茜は気を失い、倒れた。晴太の首元に回った両腕は、だらんと彼の肩に垂れ下がる。晴太はこの時、この状況が受け入れられず、何も言い返せないまま、ただただ茜を支えていただけだった。その後、担架が用意され、救急車のサイレンが遠くから聞こえてきたが………

 

………手遅れだった。

 

その後、赤羽茜は病院に搬送されるも、家族に、弟に最後の一言のみを残してこの世を去ってしまったと言う。当然、同じクラスだった晴太や兎姫にもこの事は耳にしていた。

 

 

 

******

 

 

 

それから少しだけ時は流れ、4日後、彼女の盛大なお通夜や葬式が行われた。晴太と兎姫もそこに制服で出席していた。

 

棺桶に入っていた茜の亡骸は今にも動き出しそうで、今すぐにでもウォーグレイモンを召喚しそうで、今すぐにでも晴太と決着をつけそうだった。

 

その後、火葬に埋葬、様々な過程を終え、ようやく葬式は終わりを迎えた。その終点地は埋葬を終えるまで、即ちお墓が出方途端皆解散するのだ。

 

大雨が降ってきた。皆避難するように解散しいく。だが、晴太はその茜の墓の前で立ち尽くしていた。表情を全く変えない、無表情のままで……

 

 

「晴君…帰ろう……」

「……………」

 

 

茜が死んでからずっとこうだ。晴太は兎姫の声すらまともに反応しない。ずっと黙り込み、何を考えているのかもわからない。

 

そんな晴太のどうしょうもない気持ちの行き場の事を何よりも理解している兎姫はこの場からゆっくりと晴太を置いて去っていった。

 

晴太は雨に打たれ続けながらずっと茜の墓の前で立ち尽くしていた。制服が濡れることも気にせず、まるで茜の死を悲しむ世界が流す涙を受け止めてるかのようだった。

 

 

「………おい」

「………」

「……お前が姉さんに勝ったって言う空野晴太か?」

 

 

誰かが横から話しかけてくるのがわかった。子供の声だ。男の子の。

 

その正体は当時11歳の司。姉を亡くしてまだ一週も経っていないというにもかかわらず、その立ち振舞いからは悲しんでいる様子には到底思えない。

 

 

「俺はいずれ、お前を超える!!……首を洗って待ってるんだな!」

「…………」

 

 

やる気を失った晴太にはこの幼き日の司の言葉はほとんど響いてはおらず……ただただ意味もわからず立ち尽くしていた。

 

司はそれだけを言い残すとその後はせっせと歩いて雨の中を去っていった。

 

晴太は相変わらず雨に打たれ続けた。

 

 

「………首を洗って待ってろ………」

 

 

しかし、司の言葉も完全に響いていなかったわけではなく………晴太は以前、茜がこれも同じような言葉を使っていたのを思い出した。そしてそれをはじめに、どんどんどんどん茜の言葉がフラッシュバックして蘇ってくる。

 

それは今思えばもう二度と戻れない青春だった。

 

 

 

 

ー『私の名前は【赤羽茜(あかばねあかね)】!!!一応赤羽一族ってのに属してる!!これからよろしくなッ!!』

 

ー『こいつ!!……こいつの後ろが良いです!』

 

 

 

最初はとんでもねぇ女だと思った。無神経で失礼で、男勝りで、うるさくて……

 

 

 

ー『私さ〜〜一木花火さまのファンなんだよ!!』

 

 

 

でも意外と乙女みたいな事も言ってて………人間味もあって…………

 

 

 

ー『……全く、相変わらずだね、君は。……退屈だけはさせないでおくれよ』

 

ー『認めてやるよ、空野晴太!!お前は私の永遠のライバルだ!!』

 

 

 

永遠のライバルだと思っていた。俺も。お前とだったらどこまでも強くなれると思っていた。本当に花兄みたいな凄いカードバトラーに慣れると思っていた。

 

 

ー『私の人生…どいつもこいつもみんな弱過ぎてクソみたいな人生だったけど……あんたが私のライバルでいてくれて本当に良かった………ありがとう!!………うぅ、…ありがとう…っ!!』

 

 

 

 

……思っていた……

 

……思っていた……のに……

 

 

 

「なんで!?……なんでだよ茜ねぇ!!死ぬなよぉぉぉぉぉ!!」

 

 

晴太の行き場の無い溢れんばかりの気持ちがとうとうその器から零れ落ちた。

 

溜まっていた分その爆発は大きく。雨と混ざりながら大粒の涙も流していた。

 

 

「決着はどうすんだよ!?花兄に合わなくていいのかよ!?……ふざけんなぁ!!……ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

墓をその拳で殴り始めた晴太。殴るだけでなく、蹴ったり、頭突きしたり、微動だにしない墓石をこれでもかと痛みつけた。

 

しかし、いくら暴力を振るっても、どんなに墓石に訴えかけても茜から返事が来るわけがなく……ただただ晴太の体に傷が付くだけだった。

 

………そんな時………

 

 

「おいおい思春期かい?……熱いね〜〜」

「!?」

 

 

声が聞こえる晴太は我に帰り、声の方を振り向く。そこにはある中年男性がいた。それは葬式でも見た。赤羽紅蓮だ。赤羽一族現頭領にして、茜の父親。

 

彼は悲しくないのか、特に涙を流す事なく、傘を差しながら晴太を見て笑っていた。

 

 

「茜も本望だったろうよ……何せ、バトル場で死んだんだからな……ハッハッハ!!」

「……なんで笑うんだよ!?…自分の娘が死んだんだぞ!?」

 

 

実の娘が死んだと言うのになんだと言うのだその態度は、晴太は紅蓮に対し怒りを露わにする。

 

だが、

 

 

「泣けば茜は帰ってくるのか?」

「っ!?」

 

 

紅蓮は途端に凄味のある圧力で晴太を黙らせた。しかし、それは一瞬だけであり、紅蓮は晴太の方が閉じるのを見るなり、元に戻る。

 

 

「………はぁ、成る程、お前が空野晴太か……」

「………」

「お前のお陰で茜はとても楽しそうだった。もともと体が弱くて寿命も迫ってたって言うのによ、あいつは界放市に残ってお前と決着つけたいって聞かなかった………」

「………」

「親父としてはもっと長くいて欲しかったけどな………せっかく赤羽一族の伝説のスピリットも受け継いだってのに……」

「………」

 

 

それなりの想いがあって紅蓮も今を生きていることを悟る晴太。辛いわけがない。娘を失って、苦しくないわけがない。

 

 

「………空野晴太、生きろよ、あいつの分までしっかり生きろ………んでもっでジジイになってから死にな、その時に茜との決着をつけるんだな」

「…………」

「そん時は多分俺もあの世だからよ〜〜酒のツマミでも食いながら見物させてもらうわ〜〜………そんじゃあな」

 

 

そう言って、紅蓮は晴太の元を去っていった。結局、晴太は紅蓮の言葉を黙って聞くことしかできなかった。

 

だけど、その通りだ。生きなければならない。あいつの分まで。しっかりと、逞しく、それでいて勇ましく……生きないといけない。

 

 

「ジジイになってから………か……はは、そん時俺が死んだら、お前は若い姿のままなのかな?」

 

 

そうイメージし、茜のことを思うと、不思議と空が晴れて来た。一筋の光明が差し込み、あっという間に信じられないほどの快晴に生まれ変わった。

 

 

「………長い長い修行期間になりそうだな……………茜!!……首洗って待ってろ!!」

 

 

晴太は笑顔を取り戻し、墓石に拳を突き立てて誓った。死んだ茜にも、自分にも………

 

 

******

 

 

 

あれから約一週間後……

 

晴太の家にて………

 

 

「だから違う!!そこはAじゃなくてB!!何回言えばわかるの!!」

「え〜〜どっちでもいいじゃん!…Aもきっと答えに書いて欲しいと願ってらっしゃる……」

「それじゃ点数貰えないから言ってんのよぉっ!!」

 

 

晴太は兎姫に勉強を教えてもらっていた。理由としては………夢ができたから………

 

 

「はぁ、……晴君さ、なんで急に【教師になる】なんて言い出したの?」

 

 

それは唐突に言った事だった。晴太はいきなり将来の夢を「教師」と改めた。このままいけば間違いなくプロバトラーになれたと言うのに………

 

教師など、実際は勉強嫌いな晴太にとっては一番嫌な仕事なはずだ。

 

 

「え?……んーー……なんて言うかなぁ?……見届けたいんだ」

「……何をよ?」

「青春さ!!……熱いバトル、ライバル関係を持つ奴らに最後の最後まで青春を謳歌してもらいたい!!………もちろん、それ以外の後輩達にもな!!」

「…………」

 

 

なんとなく晴太の言いたい事を理解した兎姫。晴太は自分と茜のような者達を出来るだけこれ以上作らないために自分が教師になってそれを守ろうと言っているのだ。

 

その掲げた夢はやがて身を結び、すぐさま新たなライバル関係を持つ2人の時代となる。自分はその片方を担うことになるのだが…………

 

そこまではもはや言うまでもあるまい…………

 

 

「あ、そうそう、私も教師になる予定よ」

「え?兎姫ちゃんマジ!?…ラッキー!!」

「ラッキー?」

「あぁ!!俺ってば、やっぱ兎姫ちゃんの横の方が落ち着くしな!!」

「……え?…な!?それどう言うことよ!?」

「え?言葉の意味のままだけど?」

 

 

晴太の無神経な言葉で顔を真っ赤にする兎姫。いわゆるフラゲが立つのだが、毎回毎回お約束の展開が再びこの場で起こる。

 

 

「うっさいわぁ!!ボンクラァァア!!」

「なぜぶべら!?」

 

 

兎姫の渾身のビンタが晴太を襲う。晴太は吹き飛ばされ、自室の壁に思いっきり叩きつけられた。

 

 

「あ、あの〜〜……兎姫ちゃん……兎姫姉様?……なんで私めは引っ叩かれるのでしょう?」

「……フンッ!!…知らないわよ!!……次の問題は教科書の138ページだから早く開けなさい」

「……えぇ?……」

 

 

いつもいつも理不尽で引っ叩かれると思っている晴太。彼が兎姫の秘めたる想いに気づく時はやってくるのだろうか…………

 

……晴太は渋々机に戻り、教科書の138ページを開く。………そしてそこにはこんなメッセージが刻まれ、残されていた。

 

それは茜が書いたものだった。晴太もそれを思い出す。

 

 

「………あ」

 

 

ー『お前一木花火の弟子だろ?』

 

 

 

この教科書に刻まれた一文は最初、晴太と茜が出会った時に茜が書いた晴太へのメッセージ。晴太と兎姫はそれを見て、懐かしく思い………

 

 

「っしゃぁ!!…勉強頑張るか!!」

「うん!!その域よ!!」

 

 

こうして、晴太は教師になるため、勉強に明け暮れたのだった。これも誰かの青春を守るため。

 

 

 

これにて、一木花火の弟子であり、芽座椎名の恩師である空野晴太の物語は一旦終わりを迎える。だが、芽座椎名の物語で、また彼は奮起し、活躍を見せる事であろう。

 

 

 

バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ外伝

 

エグゼシード伝説〈終〉

 

 

 

 

 

******

 

 

 

茜が亡くなり、2週間が経ったある日の夜の事だ。誰もいない墓場でその奇怪な出来事は起こった。

 

茜の墓石。その目の前の地面から何かが蠢く。まるで何かが地面の中で土をかき回しているかのよう………

 

……そして……

 

地面を突き破り、一本の腕が突き出てきた。

 

 

 






最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

バトル無し回で申し訳ございません。ですが、今回で外伝は終わりです。色々と伏線があります。一期の話と照らし合わせると色々と面白いと思います!!

色々ありまして、「椎名VS弾」のエピソードも完成したので、予定を変更して、明日にそれを投稿したいと思います!!お見逃しなくご覧になってください!!それでは!!


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その他
1周年記念特別編『椎名VS弾!!』


新作も更新しました!!
ソウルコアが使えない少年の躍進の物語をお楽しみください!!
https://syosetu.org/novel/209368/
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界放市、バトスピ学園 ジークフリード校に通う2年の少女、芽座椎名は今日も元気よくバトルスピリッツに明け暮れていた。

 

いつものように学園の第3スタジアムの広大なバトル場にて、いつものようにBパッドを広げ、いつものようにコアを増やし、いつものようにスピリットを召喚し、いつものようにアタックし、いつものようにカードを力強くドローしていた………

 

………そんな時だ。

 

 

「行くぞ真夏!!私のターンだ!!」

「よっしゃかかって来いや!!」

 

 

対戦相手の関西弁訛りの強い少女、緑坂真夏に向かって勢いよくターン進行を宣言する椎名。

 

バトルは局面。このターンのドローステップで大きく勝敗を左右するであろうこのタイミングで、事件は起こった。

 

 

「……ドローステップッ!!………ん?」

 

 

椎名は右手で勢いよくデッキの上からカードを1枚ドローし、それを確認するが、そのカードは自分のデッキには一切存在しないカードだった。見た事もない不思議なカードで、なんで入っているのかなど知る由もない。

 

……そのカードの名前は……

 

 

「【激突王のキセキ】?……なんだこれ?……激突王ってどこの国の王様だろう?」

 

 

名前と赤いカードである事と意外はほとんどの情報がないカード。効果テキストさえも存在せず、登場の仕方も相まってあまりにも奇妙であった。

 

だが、間髪入れずに、別の問題はすぐさま発生する。

 

 

「えっ!?……うわぁっ!?」

 

 

突然、それはあまりにも自然で、あまりにも急な出来事だった。ドローしたその激突王のキセキが突如として光り輝き始めたのだ。椎名は咄嗟に目を閉じることしかできず…………

 

……光に呑まれて行った。椎名は不思議と何か、何処かへと移動しているような……そしてそれでいて何者かに誘われているような感覚を肌で味わっていた。

 

 

******

 

 

 

「ん、んん……こ、ここは!?」

 

 

椎名が気がつくと、そこは淡い色の光に包まれた不思議な空間だった。

 

息はできるが、匂いも音もなく、また、それがいったいどこまで広がっているのかもわかりはしない。そんな謎めいた場所に、椎名はただ1人佇んでいた。

 

 

「んーーー……これっていわゆる…【貸し隠し】…って奴かな?」

 

 

パニックになってもしょうがない。一旦冷静になって状況を整理する椎名。正確には【神隠し】だが、真夏がいない今は椎名のその天然ボケをツッコム者は誰もいやしない。

 

ただ、その神隠しに関して言えば、的を射た発想だったと言える。

 

 

「……君が芽座椎名か…」

「ん?」

 

 

誰もいなかったはずの空間。

 

椎名の背後から誰かの声が聞こえてくる。まるで全てを包み込んでくれるような、そんな熱のこもっていない、優しい声だ。

 

自分だけの存在がいたのだとわかった椎名はそこを振り向く。……そこには……

 

……赤髪の青年が一人いた。

 

 

「……誰?……ま、まさか神様!?」

「そんな大層なもんじゃないさ。俺は弾…【馬神 弾】だ。…ここに君を連れてきたのは俺だ」

「やってる所業が既に神様レベルなんだよなぁ」

 

 

物静かな雰囲気漂う青年の名は弾。

 

椎名が知らないのも無理はない。何せ、彼は別の世界の英雄。椎名達との世界とはまた別の世界にいるべき人物なのだから。

 

 

「弾?………あ、って事はもしかしてこのカード!!」

 

 

椎名は何かに気づき、慌てて懐からカードを取り出した。それは先ほどのバトルでドローした【激突王のキセキ】のカード。

 

馬神弾という人間が誰なのかは知らないが、椎名は直感的にこの弾という青年こそが激突王という王様なのだと感じたのだ。そして、その直感は的中し……

 

 

「あぁ、それは俺のカード、激突王は俺の事だ」

「マジか!!すっごぉ!!神様じゃなくて王様!!……どこの国の王様なの!?」

「!」

「ん?…どうかした?」

「いや、ちょっと昔の事をね……俺の事は弾でいいよ」

 

 

椎名は激突王という異名をそのままの意味で捉えている。弾を本物の王様だと認知してしまっているのだ。そんな彼女の純粋な様子に、弾は昔の仲間の事を思い出し、小さく笑っていた。

 

異界で出会ったあの小さくて頼もしい仲間を………

 

 

「そういえば弾は私を連れてきたって言ってたけど、なんで?」

 

 

不思議な出来事の連発だと言うのにもかかわらず全くブレない椎名。肝が座っていると言うよりかはもはやおバカと言った方が妥当である。

 

しかし、この様子は彼女もそれなりの修羅場を潜り抜けてきた証でもあって………

 

 

「…君とこれをしたい…って言ったら伝わるはずだ」

「っ!?…バトスピ……なるほど!!」

 

 

そんな弾は懐からカードを取り出し、椎名に見せつけた。

 

それはバトルスピリッツのカード。同じカードバトラーであるが故、椎名も気づく。

 

弾は今、自分とのバトルスピリッツを求めている…と。そしてそのためにこの場に呼び出されたのだと………

 

 

「よし!!じゃあ早速始めよう!!……Bパッドを………」

「そんなものは要らないさ……行くぞ」

「え?」

 

 

Bパッドとは、椎名達の世界では必須となるバトルアイテムだ。それを広げる事でバトル台を設置し、その場ですぐにバトルができる。

 

しかし、弾はそんなものを出すそぶりを全く見せず……

 

 

「ゲートオープン、界放!!」

「えぇ!?なになにぃ!?う、うわぁっ!?」

 

 

弾がそう叫ぶと、椎名と弾はまた同じような光に呑まれてまたどこかへと消え去った。

 

これは椎名達の世界ではなく、弾の世界でのバトル方法。椎名が知らないのも、無理はない。

 

 

******

 

 

「ん?……こ、ここは!?……って、私さっきもこんな事言ったよな?……てか、この鎧は?」

 

 

目を閉じていた椎名がその目を開眼させると、そこには楕円形の地平線が広がっており、その壁の上に自分はいた。それも赤色の鎧を着ながらだ。対角線上には黄色い鎧を着用した弾も見える。

 

 

「ここはバトルフィールド…俺達の世界のバトルだ」

「へぇ〜〜〜!!こんな広いとこでバトルできるなんて最高じゃん!!」

「フッ、先行は俺が行く……スタートステップッ!!」

 

 

目を輝かせる椎名。それに対し弾は小さく笑みを浮かべ、早々に自分のターン開始を宣言する。

 

今まさに、2人の主人公のバトルの火蓋が切って落とされた。

 

 

[ターン01]弾

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップッ!!…創界神ネクサス…光導創神アポローンを配置!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨2

 

「創界神ネクサス!?」

 

 

弾のメインステップ、弾が颯爽と配置したのはただのネクサスカードではない。彼の背後に現れたのは、まるでスピリット。弓を手に持つ人型の神のような人物。

 

このカードは椎名の世界には存在しない特別なネクサスカードだ。

 

 

「神託の効果で自分のデッキの上から3枚をトラッシュへ、対象のカード1枚につき、アポローンにコアを置く」

神託カード↓

【シャーマント・ヒヒ】◯

【モルゲザウルスX】◯

【絶甲氷盾】×

 

 

条件を満たすたびにコアを追加できる創界神ネクサス。その最初の配置時は、こうしてコアを貯める事ができる。今回は2枚が対象内のカードであるため、2つのコアを増やすことが可能。

 

「2つ追加し、ターンエンド………さぁ、今度は君の世界のバトルを見せてもらおうか…」

【光導創神アポローン】(0⇨2)LV1

 

バースト【無】

 

 

弾はそう言いながら、不気味とも取れる角度で口角を上げ、椎名にターンを渡した。その笑い方は一見冷たいとも取れる。だが、彼がバトルを楽しんでいることは明白な事であって……

 

今から椎名がいったいどんなスピリットを展開し、どんなバトルを見せてくれるのか、本当は体中が沸騰する程に楽しみであるのだ。

 

極端に喜び、温かく笑う椎名とは対極とも言える喜び方ではあるが、その心は2人とも同じ。椎名もまた、全く知らないカード繰り出してきた弾とのバトルに楽しみを大きく見出しており………

 

 

「臨むところだよ弾!!今度は私のバトルスピリッツを見せる番だ!!」

 

 

椎名はそう勢い良く宣言をしながらターンを進行していく。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップッ!!…デジタルスピリット…ブイモンをLV1で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名の場に出現した青のシンボルが砕け散る。そこから飛び出してきたのは青い竜、成長期スピリットのブイモン。椎名が長年愛用するスピリットだ。

 

そのスピリットに、弾はまた不適に笑う。

 

 

「…デジタルスピリット……見たことのないスピリットだ……」

 

「?…私のことは知ってたのにブイモンの事は知らないの?……ま、いいや!!召喚時効果!!デッキの上からカードを2枚オープンし、その中の対象となるデジタルスピリット1枚を手札に加える!!」

オープンカード↓

【デジヴァイス】×

【フレイドラモン】◯

 

 

効果は成功。椎名はその中の対象内スピリット、フレイドラモンのカードを加えた。

 

……そして、出し惜しみは無しと考えたのか、そのカードをすぐさま弾に見せつけるかのようにかざし………

 

 

「早速お出ましだ!!フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

 

「!」

 

 

ブイモンの頭上に投下される赤いデジメンタルと呼ばれる卵上の物体。ブイモンはそれた衝突し、混ざり合い、光の中で新たなデジタルスピリットへと進化を遂げる。

 

 

「燃え上がる勇気……フレイドラモンをLV1で召喚!!」

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000

 

 

新たに椎名の場に現れたのは炎を操るスマートな竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモン。物語が始まってからずっと存在し続ける椎名のエーススピリットだ。

 

彼女自身も様々なカードを手にし、デッキが大きく変わったが、それでもこのカードが一番だと思っている。それ程までに大事なエーススピリットなのだ。

 

 

「2ターン目でコスト6のスピリット…これがデジタルスピリットの力か…!」

「まだまだこんなものじゃないよ!!アタックステップ!!フレイドラモン…いけぇ!」

 

 

早速アタックへと乗り出した椎名。フレイドラモンもその指示に従い地を駆ける。

 

弾の場にブロッカーはいない。ならば選択肢はただ1つ。

 

 

「来たな…ライフで受ける!!……っ」

ライフ5⇨4

 

 

衝撃に備え、右手を手摺に添える弾。

 

フレイドラモンの炎を纏った拳の一撃が弾を襲う。すると、彼の前方にバリアが出現し、攻撃の直撃を妨げる。そしてそのバリアが割れると同時に、弾のライフが1つ砕かれた。その鎧に映っていた光が1つ消滅する。

 

 

「……良い攻撃だ…次はどう出る?」

 

 

また不敵に口角を上げる弾。椎名の力の鱗片を見れた事を嬉しく思っているのだ。

 

 

「いや〜〜何もできないんだなこれが……ターンエンドだよ!!」

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

だがしかし、椎名とて後攻の第1ターン目では動ける範囲は限られてくる。流石にここはターンエンドとし、弾にターンを渡した。

 

 

[ターン03]弾

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨6

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップッ!!…ブレイドラX、並びにモルゲザウルスXをLV1と2で召喚!!」

手札5⇨3

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨3

【ブレイドラX】LV1(1)BP1000

【モルゲザウルスX】LV2(3)BP4000

 

 

弾の場で赤いシンボルが砕け、剣で出来た翼を持つ小さなドラゴンと、騎士のような鉄仮面を被り、強靭な尾を持つ恐竜が飛び出して来た。

 

 

「対象となるスピリットの召喚により、アポローンにコアを1つ追加」

【光導創神アポローン】(2⇨3)

 

 

モルゲザウルスXの召喚により、光導創神アポローンにコアが追加される。これで合計3つだ。

 

 

「さらにマジック!…シャーマニックドローを使用!!…デッキから2枚ドローし、その後3枚オープン、その中の系統:界渡、化身を持つスピリット1枚を手札に加える」

手札3⇨2⇨4

リザーブ2⇨0

トラッシュ1⇨3

オープンカード↓

【シャーマント・ヒヒ】◯

【太陽龍ジーク・アポロドラゴンX】◯

【ブレイブドロー〈R〉】×

 

 

赤のドローマジック、シャーマニックドロー。通常の2枚ドローの後にデジタルスピリットの成長期さながらな効果を発揮する。

 

弾はその中の対象スピリット、【太陽龍ジーク・アポロドラゴンX】のカードを新たに加えた。

 

 

「……また知らないカードだ」

 

 

そう言葉を零す椎名。

 

だが、本当はそんな余裕など見せられる状況ではない。弾がアタックステップに入り、果敢に攻め立ててくる。

 

 

「アタックステップッ!…モルゲザウルスX…いけぇ!……アタック時効果、BPプラス5000」

【モルゲザウルスX】BP4000⇨9000

 

 

二本の後脚で走り出すモルゲザウルスX。その効果でBPが大幅にアップする。

 

そしてこれだけではない。弾はさらに効果を発揮させる。

 

 

「フラッシュタイミング!!…光導創神アポローンの【神技:3】の効果!!」

「【神技】?」

 

 

椎名の耳には聞きなれないそのキーワード効果。しかし、それは創神神にとってはごくごく当たり前に存在する効果。

 

 

「BP8000以下のスピリット1体を破壊する!!…BP6000のフレイドラモンを破壊!!」

【光導創神アポローン】(3⇨0)

 

「なにっ!?」

 

 

弾の背後にいるアポローンが力強く弓矢を射る。その先は椎名の場に存在するフレイドラモン。あまりに一瞬の出来事に、フレイドラモンは逃げられず、胸部を射抜かれる。

 

そして力尽きて大爆発を起こした。

 

 

「くっ、フレイドラモン……」

 

「カードを1枚ドロー」

手札5⇨6

 

 

光導創神アポローン。フラッシュタイミングで自身に置かれているコア3つをボイドに送る事で、BP8000以下のスピリット1体を破壊、そしてカードを1枚ドローすることができる。

 

 

「バトルは続いているぞ……」

 

「っ!?……ライフで受ける!!………ぐっ!!」

ライフ5⇨4

 

 

モルゲザウルスXの尻尾に付いている鉄球の一撃が椎名を襲う。同じく赤いバリアが前方に出現し、直撃を妨げるように椎名を守る。

 

そして砕かれ、強い衝撃が椎名を襲う。

 

 

「……く〜〜結構痛いな〜〜」

「続けていくぞ!…ブレイドラX!!」

「!!」

 

 

間髪入れずにブレイドラXで追撃を仕掛ける弾。ブレイドラが小さな二本の後脚で地を駆けていく。

 

 

「ライフで受ける!!……っ!!」

ライフ4⇨3

 

 

ブレイドラの口内から放たれる炎が椎名を襲い、またバリアが砕け散る。先制点を与えたはずが、たったの1ターンで戦況をまるごとひっくり返されてしまった。

 

 

「…ターンエンド」

【ブレイドラX】LV1(1)BP1000(疲労)

【モルゲザウルスX】LV2(2)BP4000(疲労)

 

【光導創神アポローン】LV1

 

バースト【無】

 

 

椎名はこの時点で弾の中にある底知れない強さを身をもって感じていた。バトルする前はあんなに物静かだったのに、

 

とても自分では到達しきれないような洗練された力だ。ただ、そんな相手だからこそバトラー魂がより燃え上がってくるのもまた同時に感じており………

 

 

「へへっ!!そうこなくっちゃ!!面白くないよね!!……私のターン!!」

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップッ!!…ネクサスカードにはネクサスカードだ!!…ディーアークをLV2で配置!!」

手札6⇨5

リザーブ8⇨3

トラッシュ0⇨3

 

 

椎名は腰に手のひらサイズの機械を腰に装着する。これはデジタルスピリットを強力にサポートする1枚だ。

 

 

「自分につけるタイプのネクサスか…変わってるな、デジタルスピリットのデッキは……」

「はは、弾に言われたくはないかな……ディーアークのLV2効果、【カードスラッシュ】を発揮!!」

「!」

 

「手札にあるデジタルスピリットを破棄し、そのLV1BP以下のスピリット1体を破壊する!!……先ずはブイモンを破棄し、BP2000以下のスピリット、ブレイドラXを破壊!!」

手札5⇨4

破棄カード↓

【ブイモン】

 

 

ブイモンのカードをディーアークにスラッシュする椎名。すると、場にブイモンが現れ、弾のブレイドラXに向かって走り出す。

 

そして、ブイモンはブレイドラXに頭突きをかまし、ブレイドラXを地面に叩きつけた。ブレイドラXはそのまま小さく爆発を起こし、破壊された。

 

役目を終えたブイモンは残像だったかのようにゆっくりとその場から消え去って行った。

 

 

「次だ!!もう一度【カードスラッシュ】の効果を使用!!デジタルスピリット、パイルドラモンを破棄し、BP7000以下のスピリット、モルゲザウルスXを破壊!!」

手札4⇨3

破棄カード↓

【パイルドラモン】

 

 

今度は竜と甲虫、2つの力が混ざった完全体のスピリット、パイルドラモンが椎名の場に出現。パイルドラモンはその腰に備え付けられた機関銃をこれでもかと連射し、弾の場のモルゲザウルスXを撃ち抜き、破壊した。

 

役目を終えたパイルドラモンは、先のブイモン同様に姿をゆっくりと消して行った。

 

 

「…やるな」

「まだまだ!!こんなモンじゃないよ!!」

 

 

椎名の反撃に対し、関心するように呟く弾。だが、当然これだけで終わる椎名ではない。一気に逆転すべく、さらにスピリットを展開する。

 

 

「真紅の魔竜、その成長期の姿…ギルモンをLV1で召喚!!」

手札3⇨2.

リザーブ3⇨0

トラッシュ3⇨5

 

 

赤いシンボルが砕け、さらにそこから深い赤色のスピリットが召喚される。それは椎名のデッキにおいてのブイモンと同等の存在、ギルモン。その力は今まで彼女に良い意味でも悪い意味でも様々な影響を及ぼしてきた。

 

 

「ディーアークの効果でカードを1枚ドロー!!…さらにギルモンの召喚時効果!!カードを5枚オープンし、その中の対象となるカードを加える!!」

手札2⇨3

オープンカード↓

【ライドラモン】×

【ワームモン】×

【マグナモン】×

【グラニ】◯

【ブルーカード】×

 

 

召喚時効果もまずまずの成功と言ったところ。椎名は新たに赤のブレイヴカード、【グラニ】のカードを手札に加えた。

 

 

「!…今度は赤のブレイヴか…!」

 

 

ブレイヴカードであるグラニを見た時、弾の表情には僅かながらに笑みが浮かぶ。赤のブレイヴに反応した理由は彼が歩んで来た物語に由来する。

 

 

「バーストをセットして…アタックステップッ!!お返しだ!!…ギルモンでアタックッ!!」

手札3⇨4⇨3

 

 

瞳孔が縮み、戦闘態勢に入るギルモン。そして場にバーストが伏せられると同時に走り出す。狙うは当然弾のライフだ。

 

 

「……ライフで受ける!!……っ」

ライフ4⇨3

 

 

ギルモンの鋭い爪が弾のライフバリアをまた1つ切り裂いた。これでお互いのライフは3同士になり、いい分だ。

 

だが、ギルモンと、【カードスラッシュ】の効果を持つネクサスカード、ディーアーク。終いにはバーストまである椎名の場の方が圧倒的に有利なのは目で見るよりも明らかであって………

 

 

「よっし!!どんなモンだ!!ターンエンドッ!!」

【ギルモン】LV1(1)BP3000(疲労)

 

【ディーアーク】LV2(2)

 

バースト【有】

 

 

椎名が追い風に乗ってきたと言えるこのターン。弾のような強さはなくとも、異様な運の良さと勘の良さを活かして互角に渡り合っている。

 

ただ、盤面だけでの話ではあるが………

 

 

[ターン05]弾

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨8

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ……バーストをセット、さらにブレイドラXを2体召喚!!」

手札7⇨4

リザーブ8⇨6

 

 

弾の場にバーストがセットされると共に、2、3体目のブレイドラXが囀りながら現れる。

 

これはいわゆる嵐の前の静けさと言ったところか、椎名は不思議とこのタイミングで何かが来るのを感じていた。とても大きい存在。まるで自分の持つフレイドラモンのような………

 

そしてその予感は的中し、弾は手札からさらにスピリットを召喚する。

 

 

「続けて…太陽よ、新たな炎を纏いて龍となれ!…太陽龍ジーク・アポロドラゴンX!!…LV2で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3

【太陽龍ジーク・アポロドラゴンX】LV2(3)BP9000

 

 

弾の背後で太陽のように燃え上がる何か、それは紅蓮の体を持つ龍へと姿を変え、バトルフィールドの外から内側へ、一歩、また一歩と咆哮を張り上げながら歩み寄る。そして、弾の前方まで来ると、ゆっくりと立ち上がった。

 

それは太陽龍ジーク・アポロドラゴンX。強力なXレアのスピリットだ。

 

 

「じ、ジーク・アポロドラゴンX……か、カッコいい!!」

 

「神託でアポローンにコアを追加」

【光導創神アポローン】(0⇨1)

 

 

こんな事を言っている場合ではないというにもかかわらず、椎名はそのドラゴンの勇姿に目を輝かせずにはいられなかった。

 

 

「行くぞ、アタックステップッ!!…翔けろ!!ジーク・アポロドラゴンX!!」

 

 

翼を広げ、空へと飛び立つジーク・アポロドラゴンX。そしてこの時、このスピリットには発揮できる効果がいくつも存在し………

 

 

「太陽龍ジーク・アポロドラゴンX、LV2のアタック時効果!!BP9000以下のスピリット1体を破壊する!!…ギルモンを破壊!!」

「っ!?」

 

 

空中から赤き炎を口内から放つジーク・アポロドラゴンX。その座標は地上にいるギルモンに合わせられている。

 

焦ってあたふためいているギルモン。しかし、椎名とてここで進化の起点となる成長期スピリットを失うわけにはいかない。

 

 

「真紅のスピリットが効果の対象になる時、手札のグラニの効果を発揮!!…ギルモンを指定、このターン、ギルモンは効果で破壊されず、手札、デッキには戻らない!!…さらに1コア支払ってギルモンに直接合体するように召喚!!」

手札3⇨2

【ディーアーク】(2⇨1)LV2⇨1

【ギルモン+グラニ】LV1(1)BP9000

トラッシュ5⇨6

 

「!」

 

 

刹那、ギルモンを護るべく謎の飛行物体がアポロドラゴンXの炎を受け止める。それはグラニ。ギルモンやデュークモンの相棒と言っても過言ではない赤のブレイヴだ。

 

この効果により、このターン、ギルモンは効果破壊されない。即ち、アポロドラゴンXの効果でも破壊できないのだ。

 

 

「グラニ……スピリットを護るブレイヴか…良い効果だ」

 

 

グラニの効果に関心するそぶりを見せる弾。だが、この程度で凌げるほど自分の攻撃は甘くはない。

 

それを椎名に示すように見せつけていく。

 

 

「太陽龍ジーク・アポロドラゴンXの効果!!自分の赤の創界神ネクサスがある時、相手のライフ1つを破壊する!!」

「っ!?マジか!!」

 

 

ギルモンは破壊できないと判断したか、アポロドラゴンXはその座標を椎名のライフへと移し替え、そこに向かって再び赤い炎を口内から放つ。

 

これは効果によるライフ破壊。スピリットでブロックはできない。

 

 

「……ぐっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

前方に現れるライフバリアが砕け散り、また椎名のライフが破壊される。これで残り2つ。いよいよ敗北も間近に迫ってきた。

 

だが、こんなつまらないところで負けてしまうほど椎名は弱くはない。伏せられていたバーストが勢い良く反転する。

 

 

「……ライフ減少がバースト発動の条件だ!!……発動!!マリンエンジェモン!!」

「!!」

 

「この効果により召喚!!さらにこのターン、自分のライフはコスト9以下のスピリットのアタックでは減らない!!……さらにディーアークの効果でカードをドロー」

手札2⇨3

リザーブ1⇨0

【マリンエンジェモン】LV1(1)BP3000

 

 

バーストカードの反転と共に飛び出してきたのは小さな究極体スピリット、マリンエンジェモン。マリンエンジェモンは登場するなり謎のメロディの歌を歌うと、椎名の周りに水のバリアが形成される。

 

これは生半可なスピリットでは突破は決してできない。アポロドラゴンXでさえもこの水のバリアは破る事は出来ないだろう。

 

しかし、何から何までできなくなるわけではない。

 

 

「…アポロドラゴンXのもう一つのアタック時効果でマリンエンジェモンに指定アタック!!…効果で破壊する!!」

「!?…まだそんな効果を!?」

 

 

上空からマリンエンジェモンの前方へと急速に降り立ったアポロドラゴンX。マリンエンジェモンは驚くそぶりすら見せる間も無く、アポロドラゴンXの鋭い爪に引き裂かれて爆発を起こした。

 

太陽龍ジーク・アポロドラゴンX。もう一つのアタック時効果。回復状態のスピリットを指定アタックし、その指定したスピリットを問答無用で破壊することができる。

 

 

「……ターンエンド」

【ブレイドラX】LV1(1)BP1000(回復)

【ブレイドラX】LV1(1)BP1000(回復)

【太陽龍ジーク・アポロドラゴンX】LV2(3)BP9000(疲労)

 

【光導創神アポローン】LV1(1)

 

バースト【有】

 

 

椎名のバースト、マリンエンジェモンの効果もあって、結果的にブレイドラX2体をブロッカーとして残してのエンドとなった弾。

 

次は何とか弾の強烈なアタックを凌いだ椎名。ここらでまた逆転せねば間違いなくやられてしまう。しかし、センスの塊とも言える彼女の正念場での強さは弾の予想をはるかに上回るものであって………

 

……それが今、次の椎名のターンで証明される。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

 

 

「ドローステップッ!!……ドローッ!!………っ!!よっしぁ!!」

手札3⇨4

 

 

ポーカーフェイスなど無いも同然。ドローステップ時でのドローを見るや否や、椎名は大きく笑みを浮かべる。しかしながら弾もまた、その表情からは分かりにくいが、椎名のドローしたカードに楽しみを覚えていた。いったいどんなカードでこの場を突破してくるのかが楽しみで仕方なかった。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨8

トラッシュ6⇨0

【ギルモン+グラニ】(疲労⇨回復)

 

 

ギルモンとグラニが疲労状態から回復状態となり、起き上がる。そしてギルモンは反撃開始と言わんばかりに咆哮を張り上げた。

 

 

「メインステップッ!!ギルモンとディーアークのLVを最大に!!」

リザーブ8⇨4

【ギルモン+グラニ】(1⇨4)LV1⇨3

【ディーアーク】(1⇨2)LV1⇨2

 

 

コアが追加され、ギルモンはそれを主張するかのようにより強い咆哮をこの場に轟かせる。

 

これで準備は万端。椎名は一気に勝負を決めるべく弾の場へと攻め込む。

 

 

「アタックステップッ!!ギルモンでアタック!!」

 

 

ギルモンはグラニの背に乗っかり、上空を翔ける。そしてこの瞬間、ギルモンと合体しているグラニの効果が発揮される。

 

 

「【合体時】のグラニの効果…相手のデッキを上から1枚破棄!!…同じ系統を持つスピリット1体を破壊!!」

 

「!」

破棄カード↓

【絶甲氷盾】×

 

 

グラニが眼光を放つと、弾のデッキの上から1枚がトラッシュへと破棄される。この時、同系統を持つスピリットを破壊できるのだが、今回は系統すらないマジックカード。破壊までには至らなかった。

 

だが、椎名はそんな博打じみたものに賭けてなどはいない。ここからが真打の出番だ。

 

 

「フラッシュ!!デュークモン クリムゾンモードの【チェンジ】を発揮!!この効果により、シンボル合計3つまで相手のスピリットを好きなだけ破壊する!!…当然、ブレイドラX2体とアポロドラゴンXを破壊!!」

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

 

「!!」

 

 

椎名の背後から真紅の炎で身体が構成された龍が尾を引いて現れる。それは弾の場へと突き進み、2体のブレイドラXやアポロドラゴンXを次々と飲み込んで行き、焼き尽くしていく。

 

 

「さらに!!この効果発揮後、赤一色のコスト7以上のスピリットと回復状態で入れ替える!!対象はグラニと合体しているギルモン!!」

 

 

その炎の龍は最後にグラニに乗っかっているギルモンにそれごと衝突。ギルモンは突然変異を遂げ、グラウモン、メガログラウモン、デュークモンへとその炎の龍の中で進化を繰り返していく。

 

 

「燃え上がれ聖騎士!!真なる深い紅を纏い、邪悪なる者皆、照らし破れッ!!」

 

 

デュークモンの右手の槍、左手の盾が消滅し、さらにその白い鎧が熱により深い紅に染まる。そこからさらに深紅のアーマーが各部に取り付けられていき、そして紅いマントも同様に消滅、背中には新たに純白の翼が10枚生えてくる。

 

そのスピリットは周りの炎を全て振り払い、姿を見せる。

 

 

「……デュークモン クリムゾンモードッ!!」

【デュークモン クリムゾンモード+グラニ】LV3(4)BP27000

 

 

それは椎名の持つ最強のスピリット。伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツであるデュークモンが究極体という概念を超え、さらに進化した姿。

 

その真なる深い紅の力と聖なる光の力の前には何人たりとも勝つことはできない。

 

 

「それが君の最強のスピリットか……!」

「あぁ、そうだ!!…これが私の最強スピリット、デュークモン クリムゾンモードだッ!!」

 

 

弾は椎名の呼び出した真っ赤に燃え上がる紅蓮の聖騎士を視認するや否や、それを最強のスピリットだと感じた。椎名も椎名で隠す気はなく、逆に主張する。

 

 

「さらに【チェンジ】の効果でバトルは続行!!」

「…だが先ずはこれから発動させてもらう!!…自分のスピリットの破壊によりバースト発動ッ!!」

「!」

 

「双光気弾!!カードを2枚ドロー、さらにコストを払い合体スピリットのブレイヴ1つを破壊するッ!!」

手札3⇨5

リザーブ5⇨2

トラッシュ3⇨6

 

「ッ!!…グラニっ!?」

【デュークモン クリムゾンモード】LV3(4)BP21000

 

 

椎名が追撃を仕掛ける直後、弾が事前にセットしていたバーストカードが反転する。その力により、弾は新たに2枚のカードを手にし、さらにそこから放たれた2つの火の玉がクリムゾンモードが自力で空を飛べるようになったため背中に搭乗させる必要がなくなり、クリムゾンモードの頭上をただただ旋回していたグラニに直撃、グラニは撃退され、爆発を起こした。

 

 

「だけど関係ない!!行くぞ弾!!……神剣 ブルトガング!!」

 

 

椎名はそれでもなお高いモチベーションを保ち、そう叫ぶと、クリムゾンモードは左手に光のエネルギーを凝縮、具現化させ、剣を象った武器を創生する。

 

弾は自分のスピリットを一掃しながら目の前に現れた強敵、クリムゾンモードを見て、静かにそのカードバトラーとしての魂を燃やしている。

 

やはり、【帰る前】、バトルする相手は彼女で正解だった。こんなにも刺激的なバトルができるなどとは思ってもいなかった。

 

 

「さっきも言ったけど【チェンジ】の効果でアタックは継続中!!…この一撃で決める!!」

 

 

クリムゾンモードにはアタック時、追加でさらに相手のライフを破壊する効果がある。この効果が決まれば椎名の逆転勝ちが確定する。

 

しかも弾は手札のカードでカウンターを使用するそぶりさえも一切見せず……

 

 

「そのアタックはライフで受ける!!」

ライフ3⇨2

 

 

そのままそれをライフで受けた。

 

クリムゾンモードの神剣の一閃が、弾のライフをまた一つ切り裂いた。これでライフ差は再び椎名と並ばれてしまう。

 

……そして、これで終わりだ。

 

 

「これで終わらせる!!…クリムゾンモードの効果!!アタックしたバトル終了時、相手のトラッシュにあるスピリットカード3枚につき1つ、相手のライフを破壊する!!」

「!!」

 

「神槍 グングニルッ!!」

 

 

椎名がそう言うと、クリムゾンモードは今度は右手に光のエネルギーを凝縮させ、前後ろの尖った槍の形へと具現化させる。

 

そして拳を突き出し、その槍を真横に構えて………

 

 

「今、弾のトラッシュには8枚のスピリットカードがある!!よってライフを2つ破壊!!……神槍の一撃…クォ・ヴァディスッ!!」

 

 

槍を手に持ち、突き出した拳から一筋の赤い光を放つクリムゾンモード。その光は全てを無に帰す究極の光。

 

しかし、弾はその赤い光が迫ってもなお無表情を貫き、それとの直撃を避けるべく、手札のカードを1枚使用する。

 

 

「リアクティブバリアの効果!!自分のライフが相手の効果で減少する時、これを破棄してダメージを1にするッ!!」

ライフ2⇨1

手札5⇨4

 

「なにっ!?今度は白のマジック!?」

 

 

クォ・ヴァディスが直撃する直前、弾の前方にライフバリアとは別の結晶のバリアが出現する。

 

それはクリムゾンモードの放ったクォ・ヴァディスに砕かれながらも、完全に通す事なく、弾のライフをスレスレで守り抜いた。

 

さらにそれだけに終わらず……

 

 

「その後、フラッシュ効果を発揮させ、アタックステップを終了させる!!」

リザーブ4⇨0

トラッシュ6⇨10

 

「!!」

 

 

弾のギリギリのコア捌き、まるでその全てが綺麗に計算されて導き出されたかのような美しい流れだ。椎名の場に猛吹雪が発生、それはクリムゾンモードさえもを弾き飛ばし、アタックステップの終了を強行させる。

 

 

「……くっ、クリムゾンモードでも倒せないなんて……ターンエンドだ」

【デュークモン クリムゾンモード】LV3(4)BP21000(回復)

 

【ディーアーク】LV2(2)

 

バースト【無】

 

 

ターンを終えた椎名。その直後、立ち込めていた猛吹雪は収まり、次は再び弾のターン。あれほどに強力なスピリットのアタックを平然とした態度で耐え抜いてしまうのは、やはり椎名とは乗り越えた修羅場の数の違いによるものなのか………

 

 

「……君の全力……良いものを見せてもらった………次は俺の番だ……!!」

「っ!!」

 

 

椎名のクリムゾンモードの強さに当てられたか、弾はまるで次の自分のターンで全てを終わらせるとでも言っているかのように静かながらも力強い眼力を見せる。しかし本気だ。本気でこの場を突破するつもりだ。

 

 

[ターン07]弾

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

 

 

「ドローステップッ!!……フッ、来たか…バローネ」

手札4⇨5

 

 

そのドローしたカードを見て、微かに口角を上げる弾。その様子を見れば椎名でもわかる。絶対に引いた。このバトルを終わらせることができる何かを………

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨11

トラッシュ10⇨0

 

 

「メインステップッ!!先ずはお前からだ!!…蒼白なる月は、赤き希望に染まる!!月紅龍ストライク・ジークヴルム・サジッタをLV3で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ11⇨2

トラッシュ0⇨5

 

 

弾の背後から咆哮を張り上げながら場へと飛び出してきたのは、赤き月の龍、ストライク・ジークヴルム・サジッタ。本来は白のスピリットであるストライク・ジークヴルムに、サジッタの赤の力が宿ったスピリットだ。

 

 

「赤い月の……ドラゴン」

 

「神託によりアポローンにコアを追加」

【光導創神アポローン】(1⇨2)

 

 

準備は整った。弾はここから最後のアタックステップへと乗り込んでいく。

 

 

「アタックステップッ!!…ストライク・ジークヴルム・サジッタでアタックッ!!」

 

 

背中のブースターで宙を翔けるストライク・ジークヴルム・サジッタ。狙うは当然椎名の残り2つのライフだが………

 

 

「クリムゾンモードでブロックッ!!」

 

 

左手に神剣、右手に神槍を持ち、クリムゾンモードもまた10枚の白き羽で飛翔する。ストライク・ジークヴルム・サジッタの眼前に瞬時に現れて神剣の一撃で撃ち落とし、撃墜させる。

 

 

「BPはクリムゾンモードの方が上!!私の勝ちだ!!」

 

 

BP差はあまりにも大きい。椎名の勝利はほぼ確実………かと思われたが、伝説のカードバトラーである弾は、さらに手札からカードを抜き取り、フラッシュの宣言と共にあのスピリットを………

 

………煌臨させる。

 

 

「フラッシュタイミング!!【煌臨】発揮!!」

【月紅龍ストライク・ジークヴルム・サジッタ】(4s⇨3)LV3⇨2

トラッシュ5⇨6s

 

「っ!?」

 

「天翔ける闇祓う光!超神光龍サジットヴルム・ノヴァ!!月紅龍ストライク・ジークヴルム・サジッタに煌臨!!」

手札4⇨3

【超神光龍サジットヴルム・ノヴァ】LV2(3)BP15000

 

 

弾の背後から飛び立つ何か、その何かに合わせるように同時に飛び立つストライク・ジークヴルム・サジッタ。そして一筋の光と共にその2つは重なりて、射手座の新たなスピリットが周囲の光を振り払い、弾の場へと出現する。

 

その名は超神光龍サジットヴルム・ノヴァ。おそらくは弾の持つデッキの中では最高にして最強のキースピリット。

 

 

「神託の効果でアポローンにコアを追加」

【光導創神アポローン】(2⇨3)

 

「す、すごい…こんなスピリットを持ってたなんて……」

 

 

その神々しい姿に椎名のバトラーとしての好奇心が疼く。自分の最強のエーススピリット、クリムゾンモードと、弾の最強のキースピリット、サジットヴルム・ノヴァ。どっちが強いのか、どうバトルするのか、それはどう展開されるのか、その事を考えるだけで、椎名の頭の中は幸福で満たされる。

 

 

「煌臨スピリットはその煌臨元になったスピリットのすべての情報を引き継ぐんだ!!バトルは続行!!いけぇ!クリムゾンモード!!」

「サジットヴルム・ノヴァ……いけぇ!」

 

 

2人の言葉に呼応するように動き出す両者2体。クリムゾンモードが再び瞬時に間合いを詰め、神剣を振るうが、サジットヴルム・ノヴァは巨体にはそぐわない身軽な動きで難なくそれを回避する。

 

サジットヴルム・ノヴァは直後、再びクリムゾンモードと距離を取り、弓を力強く引き、炎の矢を放つ。だが、クリムゾンモードは神剣でそれを容易く切り落とす。

 

そして、また距離を詰め、今度は神槍を横一閃に振るい、サジットヴルム・ノヴァをバトルフィールドの壁に叩きつけた。

 

 

「BPはクリムゾンモードが上っ!!…もらったぁ!!」

 

 

煌臨してもなお、椎名の優勢に変わりわない。この勝負、クリムゾンモードがサジットヴルム・ノヴァを倒し、椎名が勝利する。

 

しかし、弾はこの最高潮に達したクライマックスの状態で、負けじと手札にある、このタイミングで使える最後のカードを切る。

 

 

「これで終わりだと思うな………フラッシュタイミング!…マジック、タウラスチャージを使用!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

トラッシュ6s⇨8s

 

「…っ!?」

 

「効果により、サジットヴルム・ノヴァのBPを10000アップ!!さらに系統:光導を持つ創界神ネクサスがあるので、回復させる!」

【超神光龍サジットヴルム・ノヴァ】BP15000⇨25000(疲労⇨回復)

 

「…び、BP25000!?」

 

 

トドメと言わんばかりに、今一度クォ・ヴァディスを放つクリムゾンモード。しかし、それが直撃する直前、サジットヴルム・ノヴァは息を吹き返したようにそれを回避する。

 

クリムゾンモードはもう一度サジットヴルム・ノヴァを叩き伏せようと神剣、神槍を手に、急速に接近していく。だが、その間、サジットヴルム・ノヴァが放った矢が正確にクリムゾンモードの神剣、神槍を射抜き、消滅させた。

 

一瞬気をそっちに持っていかれてしまったクリムゾンモード。その一瞬が命取りとなった。サジットヴルム・ノヴァが弓矢を剣に変化させ、逆にクリムゾンモードに接近し、一閃。

 

刹那、クリムゾンモードの胸部から腹部にかけて剣の太刀筋が刻まれる。クリムゾンモードは力尽き、倒れ、大爆発を起こした。その爆発の爆煙、飛び散る火花の中、サジットヴルム・ノヴァは椎名の元にゆっくりと迫って来る。

 

 

「クリムゾンモードッ!」

 

 

勝負は決した。椎名の負けだ。

 

後は回復したサジットヴルム・ノヴァのアタックで終わる。だが、その前に………

 

 

「椎名……君はどこか俺に似ている」

「え?…そうかな?」

 

 

弾が徐に口を開き、椎名に語りかけてきた。それはなんというか、例えるならば、先輩として後輩に教えを口授している、と言うのが一番近いか………

 

これから起こる椎名の物語を知っているからこそ……その口は淡々と述べる。

 

 

「あぁ、似ているさ……だからこそ、今日の事を、バトルの楽しさを忘れるな!…覇道を歩む事になっても、怯むな!…運命に恐れずに前を向いて生きろ!!…今、俺から言える事はそれだけだ……!」

「っ?……どゆこと?……まぁでも、忘れないさ!!こんな楽しいバトル!!一生忘れない!!」

 

 

詳しい意味は理解せずとも、拳を固く握りしめ、強く返事をする椎名に対し、弾は強張っていた頬を僅かながらに緩め、このバトルのラストアタックを宣言する。

 

 

「超神光龍サジットヴルム・ノヴァでアタックッ!!……ダブルシンボルにより、ライフを2つ破壊する!!」

 

 

サジットヴルム・ノヴァが椎名の眼前で剣を上へと大きく構える。

 

……そして、

 

 

「来いっ!!…ライフで受ける!!」

ライフ2⇨0

 

 

その振り下ろされた剣は真っ直ぐに椎名のライフバリアを砕き、全てを破壊した。これにより、椎名のライフはゼロ。バトルは馬神弾の勝利に終わる。

 

 

 

 

ー『ありがとう椎名…君のおかげで、久し振りに充実した時を過ごすことができた』

 

 

 

ー『それはこっちのセリフだよ!!最近、色々あって私もバトルを楽しめなかったからさ!!……胸を借りられてよかった!!…またやろう!』

 

 

 

ー『……あぁ、…ありがとうございました!…良いバトルでした!』

 

 

 

ー『うん!次は私も負けないくらいもっともっと強くなるから!!』

 

 

 

謎めいた淡い色の空間の中、弾から差し出された手に対し、同じ手を差し出して彼との握手を交わす椎名。そして、そこを中心にまた眩い光が全域を包み込み…………

 

 

 

******

 

 

 

「……いな、」

「?」

「……椎名っ!!」

「ん!?…わわぁっ!?真夏!?」

 

 

椎名は気がつくと、元いた第3スタジアムに戻っていた。状況もさっきとまるで変わらない。

 

 

「あんた、なにずぅ〜っとボケっとしとんねん!」

「……あっはは、えぇ〜〜っと……」

 

 

全然時間が経っていないのか、真夏があまり心配していないところを見るに、その事は確信できる。だが、弾の事はどう説明すれば良いか悩む。

 

あれは夢だったのか、はたまた幻想だったのか、椎名はそんな事を考えながらもふと手にしていた1枚のカードを視認する。

 

……それは……

 

 

【激突王のキセキ】

 

 

「っ!!」

 

 

夢ではなかった。現実に、その証拠たるカードが自分の手の中にあった。本当に椎名は最強のカードバトラーと出会い、バトルしたのだ。不思議なバトルフィールドと呼ばれる空間で………

 

 

 

 

ありがとう弾。

 

私、頑張るよ!!今よりももっともっと強くなって、世界一カッコいいカードバトラーになる!!

 

だから弾も……頑張れ!!

 

 

 

椎名はそう、心の中に言葉を刻み、弾への想いを馳せた。

 

 




最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

私の夢が1つ叶いました。弾さんは当然ながら自分のキャラではないため、描写が難しく、苦労しましたが、なんとか書き終えることができました。

特に難しかったのが二人称。弾さんは人によってそれを使い分けるので、たいへん考えさせられました。椎名の事を「君」と呼ぶか、「お前」と呼ぶかで別れてしまいましたが、結局は「君」にしました。一応歳下の女の子だからという意味も含まれております。


次回からはまた本編に戻ります!!


リクエストもあって、弾さんのデッキレシピを掲載する事にしました。当時未発売のグランシャリオが入っていますが、設定上の都合上のため、ご了承ください。


特別編 馬神 弾デッキレシピ

総合枚数40枚

スピリット×19枚
ブレイドラX×3
モルゲザウルスX×3
翼竜ブレイブラスター×3
シャーマント・ヒヒ×3
太陽龍ジーク・アポロドラゴン×3
月紅龍ストライク・ジークヴルム・サジッタ×3
超神光龍サジットヴルム・ノヴァ×1

ブレイヴ×4
砲竜バル・ガンナー〈R〉×2
銀河星剣グランシャリオ×2

ネクサス×3
光導創神アポローン×3

マジック×14
シャーマニックドロー×2
双光気弾×2
ブレイヴドロー〈R〉×2
タウラスチャージ×2
絶甲氷盾×2
リアクティブバリア×2
デルタバリア×2


と、なっておりました。アニメ用っとぽく作成したため、当然ガチではありません。


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おーばーじゃないえゔぉりゅーしょんず!!

今回は本編とは全く関係のないいわゆるギャグ回です。バトルもしません。ただシリアス展開が余りにも長く続くので読者様方に少しでもほっこりしてもらうよう、考案したエピソードです。

本当は本編、二期4章を終わらせてから投稿したかったのですが、訳あって【本編の次回のバトルが執筆できない】ので、10日内の期限を守るため、こちらを先に投稿することにしました。

私は基本的にキャラ崩壊は作品の中では当然のごとく存在するものだと思っているので、タグにも書かないのですが、今回は流石にキャラ崩壊に注意です。

本編とはそもそもの時間軸が違う設定的なものを念頭に置いておいてください。なんかこう、コミックスの巻末の四コマや短編みたいな話です。

※時間が経てばその他の方に移動させます。


【ちっこなったしいな】

 

 

「あぁ、今日もあっつーーーねぇ真夏。アイス買って来てよ〜〜」

「嫌や」

 

 

時期は太陽が神々しく昇る夏。照りつける日光が公園のベンチに佇む椎名と真夏を襲う。

 

椎名はこの暑さをしのぐべく、真夏にアイスの購入を検討させようとするが、こんな暑い中で自分一人で行くと言うわけもなく、真夏は当然のごとく即答で断った。

 

 

「えーー、じゃあバトルで決めよう〜〜負けたらアイス買いに行くって事で」

「ズル!!…あんたそれ自分に有利な条件やんけ!!」

「え〜じゃあ何で決める?」

 

 

流石にバトルで決めるのは椎名に部があると見ている真夏は「う〜〜ん」と思考を動かす。

 

そして1つの考えに至った。

 

 

「あたしが今度ドーナツ買うてやるから今日はあんたが行けぇや」

「マジか!!約束だよ!!」

「マジマジ、せやかて早よ行ってきい」

「っしゃあ!!任せろ!!」

 

 

単純思考の椎名は真夏のドーナツに乗せられて結局言い出しっぺの自分がアイスを買いに行くはめになってしまった。真夏もあぁは言っているが、心の中では椎名の事を「チョロいな」と思っている。

 

椎名は暑さの疲れなど忘れたように吹り切り、コンビニへと走り出した。

 

そしてものの数分でコンビニに到着し、アイスのコーナーへと急行する。所狭しと並べられたアイスに心も体も冷やされる。

 

 

「真夏はモナ王派だからな……私は………む?」

 

 

真夏はアイスを食べる時はいつもモナカしか食べない事を知っている椎名は。モナ王1つを手に取る。ただ、その時、嫌に目に入ったアイスがあった。

 

 

「【ちっこなってアイス君】??……聞いたことないやつだな…………でもなんか気になるかも……!!」

 

 

紫で青くて黒くて、暗めの色がこれでもかとパッケージを覆い尽くしたアイスがあった。その様子からでもすでに不気味で怪しい。

 

だが、椎名は一体それの何に惹かれてしまったのか、取り憑かれたようにそのアイスへと手を伸ばした。

 

そして1分後、アイス2つを購入した椎名がコンビニから出て来る。

 

 

「結局なんなんだろうこのアイス?………公園に帰る頃には少しは溶けてそうだよね……じゃあ、今のうちに少しはかじろうかな………」

 

 

淡い食への誘惑に負け、椎名はついさっき購入した不気味なパッケージのアイスを開ける。それは棒状の周りに青いアイスが付いているベーシックなタイプだ。

 

椎名はそれを見て、「意外と美味しそう!!」と客観的な感想を述べると、そのままそれを一口かじった。

 

 

「おっ!!いける!!美味しい!!」

 

 

甘美の余り喜びの声を上げる椎名。一口だけとは思っていたものの、別に真夏も怒ることはないだろうと考え、もう一口、またもう一口と止まらずそれがなくなるまでただひたすらに食べていた。

 

自分の体の変化にも気付かず………

 

一方真夏は公園のベンチに座り、椎名の帰りを待っていた。

 

 

「もうそろそろやな〜〜……って言うとったら来た来た!!お〜〜い椎名あんたしっかりモナ王に…………し、」

 

 

木陰から真夏の方へと向かって歩いて来る人物。真夏は頭部の独特な形からそれが椎名である事を悟るが………

 

………違和感を感じていた。なんか右手に持っているアイスが入っているであろうコンビニの袋とあまりサイズが変わらないことに………

 

……ただ、その椎名らしき人物は迷う事なく真夏の方へと向かって来た。

 

 

「え??……誰やねん…………ッ!?」

 

 

真夏の目の前に現れたのは小さな小さな女の子。椎名のような髪色。アホ毛。パーカー。ゴーグル。

 

まるで椎名自身を縮小したかのような存在だった。真夏は一瞬だけ疑問を抱くも、その小さい少女が行った行動。呟いた言葉から全てを察する事になる。

 

 

「まにゃ!!もにょう!!」※まな!!もな王!!

 

 

その椎名に似た小さな少女は無垢な笑顔を見せながら真夏に購入して来たモナ王を差し出した。小さな小さな手でそれを大事そうに持っていた。

 

 

「え!?…ま、待て待て、嘘やん!!……ま、まさかとは思うけど………あ、あんた、名前なんて言うん?」

 

 

何かとんでもない事が起こっているのではないか。そう思い、真夏はその小さな少女に名前を聞く。すると、返答した答えは………

 

 

「しな!!」※しいな!!

「っ!?!?っ!?!!っ!??」

 

 

全て完全に把握した真夏。科学では到底信じられない出来事が今目の前で現実となって起こってしまった。

 

 

「し、椎名がちっこなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」

「むえ?」

 

 

真夏の渾身の叫びが公園のベンチを中心に大きく反響するのだった。

 

 

******

 

【ましゃーる】

 

 

「今緑坂さんの声がしなかった?」

「あぁ?なんかの聞き間違いだろ」

「いや、確かに………あ、ほらほらあそこだよ!!…ちょっと挨拶して来ようか」

「あぁ!?やんなくていいだろ」

 

 

真夏の渾身の叫びが偶然にも公園を横切ろうとしていた雅治と司の耳に入って来ていた。知り合いへの挨拶を疎かにしようとしない雅治。司も結局は渋々彼に着いて行く事にした。

 

 

「やぁ緑坂さん、こんにちは」

「お、おぉ、な、長嶺………ほ、ほぉ」

「あぁ?どうした関西女、頭でも打ったか?」

 

 

雅治と司が公園のベンチに座る真夏に話しかけるが、真夏は未だにさっきの信じられない出来事にショックで軽い放心状態に陥っていた。

 

その様子を不思議に思う2人だったが………

 

 

「ましゃーる!!ましゃーる!!」※まさはる!!まさはる!!

「ん?誰この子……緑坂さんの妹さんかい?」

 

 

小さくなった椎名が雅治に遊んで欲しいかのようにズボンの裾を小さな手で引っ張る。真夏はゆっくりと首をそこに傾け、とんでもない事実を口にする。

 

 

「ちゃ、ちゃうねん……それしいなや」

「「ソレシイナヤ??」」

 

 

2人は口を揃えて呪文のようなその言葉を復唱した。

 

 

******

 

 

【ちゅかしゃ】

 

 

「な、成る程……椎名はこれを食べて小さくなったと………」

「そやねん。もうあたしにも何が何だか……」

「まにゃ!!ましゃーる!!」

「……うーん、見た感じも中身もだいたい1歳くらいかな?」

 

 

一旦落ち着き、雅治と司に事情を説明した真夏。小さくなってしまった椎名は真夏の膝の上に綺麗に配備されている。

 

おそらく椎名はあの変なパッケージのアイス。【ちっこなってアイス君】を食べたせいでそうなったと今のところ彼らは推理している。というかそれ以外の原因が見出せない。

 

 

「元に戻るんかな?」

「さぁ、流石にここまで現実離れすると予想もつかないね」

「………でもな、長嶺」

「うん」

「あんたももうなんとなく気づいとるやろ…………」

「………そうだね」

 

 

世にも奇妙な不思議なアイスを口にして小さくなった椎名。彼女の友人としてはその身体の安否を心配するのが当たり前だろう。

 

しかし、真夏と長嶺はそれ以上に今の椎名に対してある事が気になっていた。

 

それは………

 

 

「「この椎名かわいい!!」」

 

 

2人して声を揃える真夏と雅治。

 

他でもない。小さくなった今の椎名は余りにもかわいすぎた。信じられないほどにかわいい。何故か体と一緒に縮んだ服もそうだが、何より、退行した中身や精神もまた無垢で純粋でかわいすぎる。

 

兎に角簡潔に説明すると、最高だった。もはや戻れるか戻れないかとは2人にとっては二の次三の次と言った具合まで意識を低下させていた。

 

 

「……もにょう!!」

「ごっつかわええ!!モナ王って言うとる!!」

「椎名頭良すぎ!!」

 

 

真夏の膝の上で、真夏の食べ終わったモナ王のパッケージを小さな手で見開き、さらにそれを大きな目で凝視しながらそこに書かれている振り仮名を口にするチビ椎名。

 

真夏と雅治はそのかわいさに度肝を抜かれて思考力が著しく低下の一途を辿り、言葉もそれらしくなる。

 

 

「もっかい!!もっかい私の名前言うてみぃ?チビしな!!」

「むえ?」

「ほら、私や私!!お姉ちゃんの名前はなんやった?」

「……まにゃ!!」

「ほわ〜〜!!賢ぉぉ!!」

 

 

真夏は余りのテンションの高さと高揚が抑えられず、有り余ってベンチの背をバシバシと手のひらで叩きまくる。

 

 

「じ、じゃあ、お兄ちゃんはわかる?……わかるよね??」

「ましゃーる!!」

「…お、おぉ!!もう嬉しい……!!……悶え死にたい!!」

 

 

椎名がかわいすぎて凝視できずに思わず顔を手のひらで覆う雅治。椎名はおかしな2人の様子を見て嬉しそうに笑っていた。そこから垣間見える無垢な笑顔がまた2人を謎の快楽に陥れていった。

 

ただ、それを側から見ていた司はその2人の様子に馬鹿らしさを感じているのか、ややいつもより冷たい目線でそれらを眺めていた。

 

 

「バカかこいつら」

 

 

2人に対して辛辣な言葉を思わず漏らす司。

 

が、彼にもチビしなの魔の手がすぐそこまで迫っていた。チビしなは司のすぐそばまで近づくと………

 

 

「ねぇーーちゃかしゃーーだっこーー」※ねぇーー司ーー抱っこーー

 

 

彼のズボンの裾を小さ過ぎる手で引っ張り、抱っこを要求して来た。その下から見上げてくる可愛らしい目線に、司は思わず負けそうになるが、それでもそこはグッと堪えて、自分のキャラを貫くかの如く名前を言えていないことに腹を立てて……

 

 

「テメェ、めざし………俺の名前を忘れやがったのかぁ!!」

「ねぇーーだっこーー」

 

 

怒りを露わにする司はチビしなの目線まで腰を下ろす。

 

そして1on1の戦いが幕を開ける。

 

 

「ちゅかしゃじゃねぇ!!俺は司だ!!……ほら、言って見やがれ!!……つかさ!!」

「ちゅかしゃ!!」

「違ぇ!!………つぅ!!」

「ちゅぅ!!」

「かぁ!!」

「かぁ!!」

「さぁ!!」

「しゃぁ!!」

「赤羽司!!!」

「あきゃっぱねちゅかしゃ!!」

「………!!」

 

 

最後の最後にフルネームを言わせてしまったのは不味かったか、司もとうとう純粋無垢なチビしなの不思議な魔力にとらわれてしまう。だが、その本来の理性も僅かながらに残っていたか、言葉使いにだけは気をつけ………

 

 

「あぁっ!!クッソがぁ!!……抱っこでもなんでもしてやるわコラァ!!!…俺は今日からちゅかしゃだぁぁぁ!!」

「むえぇぇぇ♪」

「……司のキャラが完全に壊れた」

 

 

 

司は両手で思いっきり抱きしめ抱っこした。それはとても手慣れた手つきだった。チビしなは高い所に来れて非常に嬉しそうな表情を見せる。

 

我の強い赤羽司でもチビしなには敵わなかった。

 

 

******

 

 

【もんしゅたー】

 

 

「ガハハハ!!芽座椎名!!今日こそお前のその鼻っ柱へし折ってやるぜ!!………って、うぉ!?なんかお前小さくなってね!?」

 

 

チビしなを愛でていた3人の前に現れたのは打倒芽座椎名を目指す体格太めの不良、毒島富雄。だが、来た瞬間直ぐに椎名が小さくなったことに気づく。

 

 

「あ、雌島やんけ」

「俺オスだし!!」

「違うだろ、モス島だろ?」

「バーガー食ってねぇから!!!」

「違うよ2人とも、毒島でしょ?」

「だから……………え、合ってる」

 

 

毎度毎度お馴染みの事ではあるが、出会ってそうそうに3人に名前で持て囃される毒島。3人目の雅治で何故か見事に的中され逆に戸惑う。

 

 

「ぶーっま」※ぶすじま

 

 

椎名も雅治の後に続くように毒島の名前を復唱する。このくらいの歳の子供はなんでも言いたがるため発音がままらなくてもついつい口ずさんでしまうのだろう。

 

 

「おい聞いたか、今毒島っつったぞ」

「うちらのチビしなどんだけ賢いねん!!」

「…………いや、言えてねぇし」

 

 

もはやキャラが壊れ尽くした司がそう言った。真夏もチビしなのかわいさに眩暈を覚える。そんな中、毒島だけが唯一冷静にツッコミを入れるが………

 

 

「ま、まぁでもよ、ちょっとはかわいいじゃねぇか……お、俺にも抱かせろよ……」

「はぁ!?なんであんたがそんな事言うねん!!キショ!!」

 

 

毒島がチビしなを大事そうに抱きかかえている真夏に言った。彼とてやはり人間か、他3人同様にチビしなの妙な魔力に当てられ、知らぬうちに虜にさせられていた。

 

 

「んな固い事言うなよ……ほれ、毒島おじちゃんですよ〜〜」

「なんであんたまでキャラ変わんねん」

 

 

毒島がゆっくりとチビしなの元へと近づいていく。その様子は最早子供狙う不審者にしか見えない。

 

そんな毒島を怖がったか、チビしなは涙目になりながら真夏にしがみつき……

 

 

「……ふぇっ、もんしゅたー……こわい、」※モンスター

「ぐっ!?」

「こっちきちゃ、ヤッ!!」※嫌

「ぐ、ぐはぁ!?」

 

 

怖がるチビしなとその無垢故の辛辣な言葉に、胸を串刺しにされる毒島。余りにも大き過ぎる精神的なダメージにより、血を吐きながらその場で倒れ込んでしまう。

 

 

「いや、こればっかりはあんたの自業自得やで」

 

 

真夏が泣きながらしがみついて来たチビしなを「お〜〜よしよし」とあやしながら倒れた毒島に言った。

 

 

「き、今日のところはこれくらいにしてやる………」

「まだ生きとったんかい!!」

 

 

うつむせに倒れた毒島が顔だけあげて言った。その表情は不良とは思えない程に和かで、何故かたいへん嬉しそうなものであった。

 

 

******

 

【はったしぇんしぇい】

 

 

「なにぃ!?その子が椎名だって言うのか!?」

「はい。そうなんですよ〜〜」

「体を小さするアイスなんて聞いたことないわね」

「むえぇ?」

 

 

次に4人は担任と副担の先生である空野晴太と鳥山兎姫と対面していた。

 

 

「という事で先生方もあたしらのチビしなを愛でてやってください〜〜」

「そうだ空野晴太、さっさとチビしなを愛でろ…!!」

「お前らキャラの崩壊具合が著しいな……特に司……」

 

 

すっかり小さくなった椎名にメロメロでデレデレになってしまった3人を心配する晴太。自分とて子供は嫌いではないが

 

 

「おい椎名、お前俺の事覚えてる?」

「むえ?」

 

 

晴太は小さくなった椎名に目線を合わせるために屈みながら言った。すると椎名はまたまた純粋無垢でかわいらしい笑顔を晴太に向けて……

 

 

「はったしぇんしぇい!!」※はれたせんせい

「〜〜!!」

 

 

と、言い放った。

 

晴太は他の者達同様にチビしなの妙な魔力に当てられてしまい、声にならない声をあげ、あっという間に虜にされてしまう。

 

 

「はったしぇんしぇい!!だっこーー」

「お、おぉ、いいぞ!!」

 

 

どんだけ高い所に行きたいのか、椎名は晴太に司同様抱っこを要求してくる。しかし、晴太とて断る理由はないか、チビしなをそのまま抱き抱え立ち上がった。

 

高い所に来れた椎名は嬉しそうにまた表情を歪ませる。晴太も椎名がかわいすぎてにやけが止まらない。

 

 

「あの小うるさい椎名もここまで小さくなったらかわいいもんだな……!!」

「せやろせやろ!!…今の椎名ごっつかわええねん!!」

「むえぇぇぇ♪」

 

 

椎名を抱いてあやしながら晴太は言った。それに合わせるように真夏も椎名のかわいさをより主張する言葉を言い放つ。

 

だが、ここまでは良い調子だったが、次の瞬間、晴太は言葉の選び違いを犯してしまう。

 

 

「いや〜〜…俺に娘がいたらこんな感じなのかな」

「ッッ!?!」

 

 

晴太としては単純になんとなく思い至ってなんとなく発した言葉だった。だが、その隣にいた兎姫は違った。晴太のその言葉を聞いた瞬時に様々な妄想が自分の頭の中に過ぎり……

 

……恥ずかしくなって………沸騰するように顔を赤くして………

 

 

「別に欲しくないんだからねぇぇぇぇぇえ!!」

「何がぶべら!?!」

 

 

晴太の頬を思いっきりビンタで引っ叩いた。晴太は吹っ飛ばされる。その勢いで飛んで行ったチビしなは偶然にも司の方へ飛んでいき、彼がキャッチする。

 

 

「ふっ、やはりチビしなは俺の懐がいいらしい」

「………相変わらずやな、晴太先生と兎姫先生」

「ふんっ!!今日は先に帰らせてもらうわよ晴太先生!!」

 

 

顔を真っ赤にしながらも、兎姫は皆の元をキリキリとした歩き方で去っていった。

 

 

「………俺、何も言ってないんですけど……」

「むえぇぇぇ♪」

 

 

晴太は涙目になりながら自分なりの意見を述べた。ただ、それが兎姫の耳に入る事はなく、また気の毒な事に、兎姫が怒った理由を教える者もいなかった。

 

 

【小さくした黒幕は】

 

 

「むえ、パシャパシャ!!」

「ごっつかわえぇぇぇえ!!!ほら、こっち向いて見?」

「ちゅかしゃ、パシャパシャ!!」

「そうだな、パシャパシャだな」

「そろそろ司が未開の地に足を踏み入れようとしている…………」

 

 

まだ公園でチビしなと遊ぶ真夏、雅治、司。真夏がBパッドのカメラ機能を使って小さい足で愛らしく走り回るチビしなを激写していく。因みにチビしなの言う「パシャパシャ」とは、カメラのシャッター音だ。

 

司もそろそろ危ない領域にまで達してきている。彼の威厳の強いキャラは戻ってくるのだろうか?

 

 

「ヌッフフ、エニーズ。随分と小さくなったようですね〜〜『ちっこなってアイス君』作戦は大成功だ!!」

「「「!?!」」」

 

 

そんな時だ。御老体から発せられたような声が聞こえて来た。彼らはそこへと顔を向けると、そこには老人の『Dr.A』と好青年の『銃魔』の姿があった。

 

 

「Dr.A、銃魔!?」

「なにしに来たんだ!!」

「ていうか今、『ちっこなってアイス君』って言わなかったか?」

 

 

何故か急に敵対する連中が現れた事に驚きを隠せない感じの3人。それもそのはず、何せ、これは『ギャグ次元』だ。ラスボス格のキャラが出てくるのは考え辛くて………

 

 

「ヌッフフ、実は私がエニーズに体の小さくなる『ちっこなってアイス君』を買わせるよう誘い込み、食べさせたのですよ!!」

「そして結果は貴様らの見てきた通りだ。エニーズは幼体にまで小さくなった。これで一から奴に鬼になるための教育を施すことができる!!」

「っ……そんな事のために……っていうかこれ、ギャグ次元だよね!?」

「随分それっぽい理由を並べたな………」

 

 

Dr.A達がエニーズを、椎名を小さくしたのは彼女を鬼として一からやり直すためだった。椎名は鬼の力を持つが、六月に育てられたため、心は普通の人間として育っているのだ。

 

それを一からやり直すとなると大変な事になるのは目に見えていて………

 

 

「つべこべ言わせませんよ〜〜銃魔!!」

「御意!!」

「むえ?」

「え!?…チビしな!?」

 

 

Dr.Aが銃魔に指示を送ると、銃魔は返事一つで一瞬にして真夏たちの足元にいたチビしなを捕らえ、連れ去っていた。見事な早業である。

 

というかそれ以前にあの堅物な銃魔が1歳くらいの子供が抱いているのはなんともミスマッチ極まりなかった。

 

やがて銃魔はそのチビしなをDr.Aの方へと預ける。

 

 

「ヌッフフ、お〜〜よしよし、私がお爺ちゃんだ」

「いや、ちゃうやろ!?」

「エニーズは私が造ったんだ。私の孫と決まっている」

 

 

急に何を言いだすかと思えばそんな事。

 

もう側から見たらそれを小さくなった椎名に言いたいがために事件を起こしたとしか思えない。

 

 

「ヌッフフ、私は君のために極上の『奇跡のたこ焼き』を買って来ましたよ〜〜召し上がると言い」

「わぁー!! あっがと〜〜!!」※ありがとう

 

 

Dr.Aからたこ焼きが入っている袋を渡され、チビしなはなんの疑いもなく、元気にその中のたこ焼きを貪り食べ始める。口から『もきゅもきゅ』とした食べる音が聞こえて来るのと、食べる仕草が余りにも可愛すぎる。

 

 

「おいしいかい?」

「ほいひーよ!!」※おいしいーよ

 

 

たこ焼きが口にあるからまともな発音もできないのがまた可愛い(※最初からできてない)

そんな様子に真夏たちは我を失いかけるが………

 

 

「いやいや!!あかんて!!チビしな!!そんな危ない人から物もらっちゃダメやでぇえ!!」

 

 

踏み止まった真夏が叱責するようにチビしなにそう言う。チビしなは少しだけ疑うような表情で自分を抱えているDr.Aの方へと振り向き………

 

 

「え。あぶないひとなの?」

「いや、私は危ない人ではないよ。ヌッフフ……」

「ほら!!」

「ほら、じゃないやろぉぉぉぉぉお!!」

 

 

安堵の表情を真夏に向けるチビしな。どこからどう見たってDr.Aは怪しい人物だ。しかもそれはDr.Aだけでなくて………

 

 

「ヌッフフ、君は本当に美味しそうに食べるね〜〜いい事だ」

「ところでDr.A。そろそろ俺にも妹を抱かせてください」

 

 

銃魔がそう言いながらたこ焼きを貪り食べている椎名をBパッドで激写する。銃魔も椎名と同じくDr.Aに造られた存在なので、一応便宜上は兄妹みたいな事になっている。

 

 

「いや、待て銃魔!!次は俺に抱かせろDr.A!!」

「なに!?赤羽司。貴様は散々妹を抱っこしてたではないか!!」

「うるせぇぇぇぇえ!!突然兄貴キャラを前面に押し出してくるんじゃねぇ!!テメェ本編ではほとんどそんな事言ってなかっただろうがぁぁ!!」

「どこからツッコめばいいんや……」

「……チビしなおそるべし……だね」

「むえぇぇえ♪」

 

 

誰も彼もが小さくなった椎名の可愛らしさに悶えた。チビしなは余りにも可愛すぎた。多分本編もこんな感じだったら世界は争いなどなく平和だったのかもしれない。

 

ただ、肝心のバトスピは一切してはいないが………

 

因みに、チビしなは1時間後に無事元の椎名に戻りました。

 

 

 

 

 




最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

こんな感じでコミックスの巻末のような話を書かせてもらいました。

もう一個くらい話を作りたかったんですけどね。オチが浮かばなかったのでここまでとさせていただきます。

好評でしたら第2弾を計画致します。




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【二期】第4章「ANYS編」
第80話「Dr.Aの進化」


 

 

 

 

 

 

 

 

Dr.Aとの命を賭けたスピリットアイランドでの戦いは終わった。椎名達はスピリットアイランドで唯一飛行する航空機に乗り、界放市へと帰還していた。ただ1人、Dr.Aに連れ去られた赤羽司を除いては………

 

 

「夜宵の奴、ずっと寝とるな……」

「無理もないよ、司があんな目にあったんだから……」

 

 

そう会話しているのは関西弁訛りの少女、緑坂真夏と茶髪の中性な顔立ちの少年、長嶺雅治。司の安否を気にかけていた夜宵。司がDr.Aに連れ去られてから、ずっと涙を流していた。それで疲れ切ったのだろう。

 

 

「なぁ、長嶺?………私らいったい何に巻き込まれとるん?」

「……椎名のお爺さんとDr.Aの因縁………かな多分あの2人の間には何かがあった………今回の会話からわかることはざっくり言うとこのくらいだね…」

「椎名は……本当の姿はあんな化け物なん?……もう嫌や私、何が何だか……」

「…………僕たちもいずれ腹を括る時が来るかもね…もう、椎名や夜宵ちゃんにあんな辛い思いはさせない……!」

 

 

今までとは段違いに違うスケールだった今回の大きな事件で、真夏は気が動転していた。雅治は今回何もできなかった自分に嫌気がさしていた。そして次こそは絶対にみんなを護る。その気持ちが露わになっていた。

 

椎名は彼らの5つくらい前の席に六月と共に座っている。本当はいつものように会話を楽しみたいと言うのに。

 

司が連れ去られたこと。自分の正体がとんでもない力を持つ化け物だったこと。それを知らなかったとはいえ隠していたこと。巻き込んでしまったことに罪悪感と責任感を覚えていたのだ。

 

椎名がここまでこう言った感情を外に出すのは非常に珍しい事であった。それほどまでに今回の事件が大きかったと思われる。

 

 

「ねぇ、じっちゃん!いい加減教えてよ〜〜」

「ここでは言えん、島に戻ってからじゃの」

 

 

しかし、飽くまで友人間だけの事での話であり、六月には至って今まで通り、普通の明るい態度を取っていた。

 

椎名の教えてほしい事とは六月とDr.A。そして界放市市長、木戸相落との間からで昔起こった出来事や、自分がどういった経緯で生まれたのか、についてだ。

 

今まで椎名は自分の過去には一切の興味がなかったが、何故か今になってそれに対する興味が湧き出ていたのだ。それは自分の中にあるとんでもない力を知ってしまったことに由来する。

 

しかしながら、本当の親がいない事、鬼であること、Dr.Aに造られた事を知っても全く精神的ダメージは入っていないとこを見る限り、本当に興味があるのはそれだけのようである。

 

 

 

こうして時は流れ、真夏、雅治、夜宵の3人は界放市へ、椎名と六月は離島の方へと向かった。季節は春。桜ひらひら舞い上がる春休みの季節だ。この時期を超えると、椎名達もいよいよ3年生。

 

しかし、その前に彼らには大きな試練が訪れることになる。

 

 

 

******

 

 

 

 

「……ん…」

 

 

赤羽司はゆっくりとその瞳を開けた。そこは目を閉じていても大して変わらない程に薄暗い。ぼんやりと何かの本や機器類が並んではいるものの、それがなんなのかは全く知れたものではない。

 

どんどん目が慣れていき、体の感覚が戻っていく。そしたら自然と自分が椅子に縛られているのがわかった。そして、目の前にいるのが誰なのかも視認できるようになった。

 

 

「………やぁ、お目覚めかい?……赤羽司君」

「………テメェ…Dr.A」

 

 

そこにいたのは顔に大火傷を負った老人、Dr.Aと、メガネをかけた青年、銃魔。それともう1人、なによりも驚くべき存在が司の目の前にあり………

 

 

「っ!?テメェは……芽座葉月!!?…なんでテメェがここにいる!?」

「赤羽のガキ、相変わらず口が悪いな…」

「……お互い様だろ」

 

 

中性的な顔立ちの青年、芽座葉月がそこにはいた。芽座葉月とは椎名の育て親である六月の実の孫であり、元々芽座一族が所有していると言われているロイヤルナイツを求めて旅をしている。

 

しかしながらその性格は非常に利己的であり、己の利益しか頭にはない。ロイヤルナイツを求めていると言うのも、一族のためではなく、実際は自分が最強のカードバトラーになるためだ。

 

 

「……テメェがDr.Aと繋がってたなんてな……」

「フンッ、ロイヤルナイツの情報が欲しいだけだ……おいDr.A!!俺はガキの相手はごめんだ、一旦お暇させてもらうぜ」

「ヌフフフフ、相変わらずだね、葉月。六月とは似て非なるよ……本当にね」

「クソジジイと比べんな」

 

 

そう言いながら、葉月はドアを蹴破り、乱暴に締めてこの謎めいた部屋を後にした。

 

 

「…………で?また俺をスカウトとか言いてぇのか?」

「ヌフフフフ、君は肝が座ってるねぇ…状況はわかってるのかい?」

 

 

司は今、机に手足ごと縛られている状況だ。こんな状態で巨悪と対峙してもなお冷静な口調で話すことができるのはさすがと言える。

 

 

「……いや何、君にはちょっとしたショーを見てもらいたくてね〜〜」

「ショー?」

 

 

そう言いながら、Dr.Aは懐からある試験管を取り出した。その中には【真紅の色をした液体】が入っていた。血には見えない。何かもっと特別な何かだと司は冷や汗をかきながらも考えた。

 

 

「ショーというのは、科学者における実験に等しい存在だ!!……これが成功するかしないかによって世界の運命は大きく変わることだろう!!」

「っ!?…何言ってんだ!?」

 

 

Dr.Aは試験管の栓を外し、その入り口に口を当て…………その謎めいた液体を勢いよく飲み始めた。これがいわゆる実験なのだろうか。

 

Dr.Aの奇行に驚く司。しかし、焦っていても手足が縛られていて、固唾を飲むことしかできない。銃魔はその真逆で、メガネを指先で定位置に戻しながら冷静な表情でそれを眺めていた。

 

そしてDr.Aはやがてその試験管に入っていた真紅の色をした液体を全て飲み干して…………

 

……試験管を木製の机に置いた…約数秒後………

 

 

「う、うぉぉお!!」

 

 

Dr.Aはもがき苦しみながらも体中から力が湧き上がってくるのを感じた。それは底が知れない進化の力。選ばれたものだけが行えるオーバーエヴォリューション。さらにそれを繰り返すことができる鬼の力を……

 

その影響なのか、Dr.Aの体中から熱が発せられ、温度差による湯気が立ち昇る。しわしわで弱々しかった肉体にははりが戻り、曲がっていた背骨は真っ直ぐに正されていく。

 

なによりも顔は………若く………凛々しく………変貌し………

 

 

「ハァッ…ハァッ………ふぅ、ふぅ……」

 

 

呼吸が荒れながらも司の目の前にいたのは紛れも無いDr.A本人だった。だがその肉体は謎めいた液体の力により若返っており………

 

あり得るのか……こんな事が………司は目の前のこの空前絶後な状況に対し、ただただ驚愕する事しか出来ず………

 

 

「……ハァッ……せ、成功だ!!……力を感じる!!そしてこの力が、全知の神が教えてくれている!!!!この力を持ち!!私がこの世界の新たな神になれとォォォォ!!……ヌフフフフ!!…ギ、ギヒヒヒヒヒ!!!」

「…おめでとうございます…Dr.A」

 

 

その力を示すかのように、高らかに拳を掲げ、そう強く言い放つDr.A。銃魔はそれに対し、いつもの静かで軽い口調で彼に祝いの言葉を送った。

 

 

「……だ、誰なんだテメェは!?」

「何を言ってる司君……Dr.Aさ……見てなかったのかい?」

 

 

信じられるかこんな状況。信じられるか、人間が若返るなど………

 

 

「ヌフフフフ、信じられないって感じの顔だね〜〜ですが、まだまだこんなもんじゃないよ司君……今から見せてあげよう……私の得た史上最強の進化した力を……さすれば君も嫌でも協力したくなる事だろう……」

「!!」

 

 

司はようやくわかった。理解した。

 

いや、本当はもっと早くでわかっていたのかもしれない。この男、Dr.Aはやばい。最初はただの戯言だと思っていたが、こいつは本当にこの世界ごと塗りつぶしてしまう程の………鬼を超えた……【悪魔】だ。

 

 

「今の私ならば造る事ができる!!……計画を果たすためには欠かせない【もう1人のエニーズ】を!!……消去する者と死神の意味を込めたその新たな名は………」

 

 

 

 

 

 

……【デ・リーパー】

 

 

 

 

 

 

椎名達の運命は今……大きく進化を超えようとしていた。

 

 

 




最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

本編までの時間がかなり空いていたので、今回は本編にスムーズに戻るために大事なこの場面をプロローグとして描かせてもらいました。まぁ、事実上の本編再スタートなのですが………

最近死ぬ程早く書いてますが、私の通ってる大学がそろそろ期末試験期間に突入するので、10日に1回の投稿は守ると思いますが、8月上旬くらいまではだいぶペースが鈍くなりそうです。

しかも次回もおそらくバトル無し回。読んでくださる方々にはたいへん嫌な気持ちにさせることとなるかも知れませんが、大事なシーンが多分に含まれているので避けようがありません。何卒ご了承ください。

ただ、今回の【ANYS編】は二期ラストとということもあって、凄いバトルがいくつも書けると思います。……というか、書いてみせます!!


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第81話「エニーズの生まれた日、椎名の生まれた日」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時、遡ること約55年前。ある3人の若者は殺風景でレトロな雰囲気漂う公園の草原にて、目を向けあい、ある誓いを立てていた。

 

その3人とは、当時16歳である後に界放市の市長となる男、木戸相落と、後に椎名の育て親となる男、芽座六月と………後にDr.Aとなる男、徳川暗利だ。

 

3人は同学年であり、共に日本のバトスピ最強と言われる界放市で育った盟友だ。

 

 

「いいか、私達は自分の夢を絶対に叶えるぞ!!……私、相落はこの界放市を治める市長に、暗利、お前はなんだ?」

「……俺は世界から戦争を無くす……この街のように穏やかに佇む海、鳥だけが飛ぶ空を作る事だ……」

 

 

相落がそう言うと、暗利は物静かな口調でそう言った。具体的にどうしたいかまでは言っていないが、この彼の大きな思想が後に世界を大きく揺るがすことになるとはこの時思ってもいないことであって………

 

 

「うむ、良い心がけだ!!…最後六月!!お前はどうだ?」

「あぁ?そうじゃなわしは……可愛い女の子と余生を過ごしたい………うん、孫じゃな、可愛い女の子の孫娘とそれはそれは幸せな余生を過ごすんじゃ」

「戯けが!!そんな腑抜けた夢があるか!!考え直せっ!!……と言うかまだお前既婚してすらないだろう!?」

「えぇ!?いいじゃろ!?…孫娘が生まれた時には絶対に名前を決めるんじゃ!!」

 

 

55年前から、喋り方や何から何までもが変わらない芽座六月。そんななんともパッとしないし、抽象的な夢に、相落も暗利も呆れており………

 

 

「………バカだな」

「バカとはなんだ暗利!!しっかりとした夢じゃろがい!!いいだろう聞かせてやる!!その子の名前は…………」

 

 

 

芽座椎名。

 

六月が適当につけた名前だった。代々、彼ら芽座一族には皆【月】の名が刻まれるのだが、六月はその古い習わしを押し切って、それ以外の名を直感で考えた。女の子が生まれたら必ずこの名をつけようと決めていた。

 

だが、後に彼の元に生まれた孫は男の子。名は【葉月】と【月】の名が刻まれた。その名を名付けたのは六月の息子だ。それでも六月は孫である葉月の事を可愛いがった。

 

しかし、結局その椎名の名は使われなかった事になるのだが………

 

 

後にその名はこの物語を大きく動かす事になるとは、彼自身も思ってはいなかっただろう。

 

 

******

 

 

 

そしてそこから時は経ち、37年後、今の時代から考えると、約18年前に起こった出来事だ。何もかも、全てはここから始まった。

 

あの日の夜から………

 

 

「……まさか、お前が本当に市長になるとはの……相落」

「フッ、お互い様だ、まさかお前が今では1人の祖父とはな……」

「孫は男の子じゃったがな……まぁ、かわいいからいいけど」

 

 

大方、木戸相落と芽座六月は自分の夢を叶えていた。相落は歴代でも最も信頼される界放市の市長へと成長し、六月も流浪の旅をしているうちに、愛するべき者と出会い、子を成して、家族ができていた。

 

ただ、不憫な事に、既に孫以外は不慮な事故で他界してしまったが…………

 

……そして、この2人は今、とある研究所を訪れていたのだ。それは徳川暗利の物であって………

 

 

「にしても暗利の奴、科学者になったのは知ってたが、なんのつもりで俺たちを呼びつけたんだ?」

「む〜〜…奴のことだ。きっと素晴らしい研究をし、人類の役に立つなにかを作り上げたに違いない」

「それで親友の俺らに見せたいってか?……かぁぁっ、あいつもあの年で青春かね、これだからわしぁ男の友情ってヤツぁ苦手なのよ」

 

 

そう言いながらもエレベーターに乗り込み、地下へと降りていく相落と六月。地下は1回だ。そう大して時間はかからなかった。

 

……そして、到着すると、2人を歓迎するように出向いていた1人の男性がいて………その人物は2人もよく知る人物だ。

 

 

「やぁ、久しぶりだね、相落、六月……ヌフフフフ」

「おい暗利、お前いつからそんな気持ち悪い喋り方になった?…ちょっと怖ぇんだけど」

「久しいな、暗利」

 

 

すっかりやつれた徳川暗利の姿だった。久しぶりの再会に喜ぶ3人。しかし、この時はまだ知る由もなかった。暗利がいったいなにを研究しているのかを……

 

……たんにやつれたのは研究熱心なだけではなかったこと………そして、後にこれは世界を大きく揺るがしてしまうこと。

 

 

「見せたいものとはなんだ?」

「……あぁ、付いてきたまえ」

 

 

そう聞き、言われるがままに暗利の研究室を案内される相落と六月。

 

この研究室には暗利以外の科学者はいない。彼専用のラボなのだ。しかし、彼以外と言っても、如何にも科学者ではないであろう人物が1人いた。というか、見つけた。六月が。

 

 

「……おい、黙ってないでこっちに来いよ」

「…………」

 

 

六月が見つけたのは部屋の片隅で縮こまっていたメガネを掛けた少年。若干6歳くらいか、孫の葉月と同じくらいの背格好である。

 

そのメガネを掛けた少年は、その当時の【銃魔】。銃魔は無表情のまま黙って六月に近づいた。

 

 

「お前の孫か?…暗利」

「いや、違う。色々あって受け持った子だ……面倒を見ていてね………そんなことより見せたいものはこの奥だ……入りたまえ……」

 

 

歩いている途中、ようやくその見せたいという物がある場所に到着したようだ。暗利はその鉄でできた重たいドアをゆっくりと開けて、彼らを通した。

 

暗がりだが、一見普通の研究所に見える。しかし、その中央にはとんでもないものが設置されており………

 

 

「……お、おい…暗利……な、なんじゃ、なんじゃこの…………」

 

 

 

赤ん坊は………

 

 

 

六月と相落は驚愕した。中央にある巨大なビーカーの中に入っていたのは生まれたてのような赤ん坊だった。ツノのような大きなアホ毛が際立っている。眠っているのか、目を開けてはおらず、不思議な液体の中で静かに浮いていた。

 

暗利に家族はいない。

 

六月のように自分で作ってもいない。

 

が故に、この赤ん坊の存在はよりおかしな事であって………2人はこの時点でその子からは何か邪悪ななにかを感じ取っていた。見た目はなんの変哲も無いただの赤子だと言うのに………

 

 

「あ、暗利………なんだこの子は……」

「ヌフフフフ、その子の名は【エニーズ】……世界を進化させる存在だ………君らも鬼は知っているだろう?その鬼の化石からDNAを採取し、それを人の細胞と混ぜて生み出した人造人間さ」

「「っ!?」」

 

 

そんな事が倫理的に許されるのだろうか。人が人工的に人を生み出すなどと………

 

 

「な、なんのために……」

「だから世界を進化させるためだと言っているだろう?………このエニーズには鬼同様オーバーエヴォリューションを繰り返す事ができる!!私はこの力を物にし、今を生きる者達を蹂躙してみせる!!」

「っ!?んだと暗利!?お前世界をぶっ壊そうってか!?」

 

 

気が狂ったように自分の思想を叫ぶ暗利。2人はようやく気づいた。今の暗利は昔から知るあの暗利では無い。自らの思想に心を酔い潰れさせられたただのイカれたマッドサイエンティストになっていたことを………

 

 

「世界平和はどうした?…人々の蹂躙などお前が望むものとは真逆じゃないか!!矛盾している!!」

 

 

相落が言った。

 

その通り、暗利は昔からよく夢は世界の争いをなくす事だと掲げていた。しかし、今のそのエニーズと呼ばれる赤ん坊を使い、世界を蹂躙するなど、明らかに矛盾している。自分から争いを起こしているのだから………

 

 

「分かったのだよ……相落、六月………この世はどうやっても争いはなくならない………何故なら、この世には国と、それを治める支配者というものがあるからだ」

「「っ!?」」

「国を支配する者は、己の欲に負け、富や資源を欲し、それを守るため、又は奪うために軍備を増強する。それに使われるのは国民だ。その間、支配者がいる限り、どうやっても戦争という道を踏み外すことなど不可能なのだよ………だからこそ、この無限に続くサイクルを壊すべく、一度全ての人間を消すべきなのだ!!退化の一途を辿る…この猿共を!!……そして私が神となり、新たな世界へと進化させる!!」

 

 

彼の暗利の言うことは確かに……

 

正しいのかもしれない。争いをなくすなど、綺麗事だけでは実践できないのかもしれない。本当に止めたいのであれば、世界ごと消し炭にしないといけないのかもしれない。

 

が、やはり……こんな事は……

 

 

「間違ってるじゃろ!!暗利ぃィィ!!目を覚ませぇ!!お前は何の罪もない子供に世界の破壊の片棒を担がせるつもりかぁ!!」

 

 

そう叫ぶ六月。だが、もはや暗利は聞く耳など立てやしない。せっかく親友だからと言う理由だけで新たなる進化した世界に連れて行ってやろうと思っていたのに………

 

………理解しあえないのであれば………

 

 

「………ならばお前達も退化の一途を辿る猿共と共に朽ち果てるがいい!!………私は今からこのエニーズに最後の力を注ぎ込む!!」

「っ!!そ、それは!?」

 

 

そう強く言いながら、暗利が懐から取り出したのは………

 

……伝説のデジタルスピリット、【ロイヤルナイツ】の1枚。【デュークモン】

 

 

「な、何故お前がそのカードを!?」

「ヌフフフフ、必死こいて探したんだよ……エニーズの力の覚醒には必須だからね〜〜」

 

 

大昔は六月が属している芽座一族のカードだったが、今は殆どが世界中に散らばり、消えている。暗利はそんなカードを世界の果てまで歩き回り、獲得したのだろう。

 

そして、その長旅の途中、多くの戦争や紛争を見てきたに違いない。でなければここまでの大きな思想は持てない。

 

 

「ロイヤルナイツには絶えず進化の力が流れている!!時代によって使い手を選ぶと言うのはその力を使いこなせる者を選んでいるからだろう!!……そして、この【デュークモン】のカードはこのエニーズと共鳴している!!この2つの力が合わさる時、エニーズは真に完成と言えるのだ!!」

「……何を訳の分からない事を………」

 

 

暗利は今まで、多くの人間のDNAを採取し、多くの赤ん坊を造り上げていた。さらにそこに鬼のDNAまでもを流したのが、エニーズ。

 

しかし、それだけでは完成とは言えない事は今までの実験からも理解できる。暗利はそこからさらにロイヤルナイツのカードを混ぜこもうと言うのだ。

 

 

「さぁ!!実験と行こうじゃないかぁ!!」

「っ!?やめろ暗利っ!!」

 

 

もう遅い、暗利はデュークモンのカードを機械にセットし、送信。エニーズとの融合を始めた。エニーズの入っている水が沸騰する。そしてその液体は真紅の色を灯し、どんどんエニーズに………赤ん坊に流れ込んでいく。

 

ここまでは順調だった。ここからは暗利も想像がつかなかったある現象が発生する。

 

突如として赤ん坊が真紅の光を強く解き放ち、爆発と共に衝撃波を発生させたのだ。その威力にビーカーのようなものは一瞬にしてひび割れ、中の液体は辺りに飛び散り、周りにいた六月達も壁に叩きつけられるように吹き飛ばされる。

 

 

「っ!?うわぁっ!!」

「ぐ、ぐぅっ!!」

「……す、素晴らしい!!ここまでとは!!」

 

 

そんな中、暗利はただ1人、背中を見て壁に打ち付けられながらも笑顔を見せていた。その予想以上の力の強さに……実験は成功だ。後はこのエニーズの幼体を成長させるだけ………

 

………かと思っていた。その爆風と爆煙が完全に晴れるまでは…………

 

 

「………グ、グルルルルルルッ!!」

「!?なんだこいつは!?」

 

 

最初にそれを見つけたのは相落。黄色い眼光を輝かせるその真紅の竜を見た。それはデジタルスピリットのように見える。ただ、研究はされてはいたものの、この時代はまだBパッドさえも存在しない時代。

 

目の前の現実に存在しているのかをスピリットに、六月と相落はただただ怯えることしかできなくて………

 

 

「ヌフフフフ、これは真紅の魔竜……その始まりの姿。デュークモンの進化前と呼ばれるスピリットだ………素晴らしい!!エニーズの力がここまで逸脱しているとは!!生まれただけで新たなカードを生み出しただけでなく、それを無意識のうちに実体化させるなど!!」

「……真紅の魔竜……デュークモンの進化前……だと!?」

 

 

ロイヤルナイツのカードを所有していた一族である六月でさえもその真紅の魔竜と呼ばれる存在は知らなかった。暗利はいったいどこまでこの事を調べているのだろうか。

 

だが、そんな事を考えている暇を与えられるわけがない。後にギルモンと呼ばれるそのスピリットは瞳孔を縮ませ、戦闘態勢に入る。

 

……そして……

 

 

「ッガォァ!!」

「っ!?…う、うあわっ!?」

 

 

六月に飛びかかってきた。六月は間一髪で交わすも、ギルモンは人1人よりも小柄ながら、その鋭い爪の一撃で鉄の壁、即ち塊を紙切れのように引き裂いた。

 

その後、直ぐに避けた六月の方を振り向き、大きな咆哮を張り上げて………

 

 

「っ!?」

 

 

デジタルコードに包まれた。進化しているのだ。もっと強大な存在になるために………目に映るものを全てを薙ぎ払うために……

 

やがてそのコードは解き放たれ………中からはさらにサイズアップした真紅の魔竜が姿を見せる。そのスピリットは後にグラウモンも名付けられる存在だ。

 

 

「っ!!進化した……」

「おぉ!!……真紅の魔竜よ!!」

「っ!!よせ!!暗利っ!!」

 

 

進化を遂げた真紅の魔竜を見て、居ても立っても居られなくなったか、暗利は相落の制止も聞かずに、その凶悪な存在の目の前へと飛び出してしまう。

 

 

「私は徳川暗利!!君の生みの親だ!!私とエニーズと共にこの世の全てを破壊する気はないか?」

「…………」

 

 

真紅の魔竜、その成熟期の姿は、暗利の方を振り向く。だが、見つめた時間、僅か2秒………

 

 

「ッガァァァァア!!」

「っぶっ!!?」

 

 

暗利はグラウモンの大きな腕に薙ぎ払われてしまう。当然だ。今の真紅の魔竜は獣も同然、話など聞くわけがない。暗利は壁に打ち付けられ、頭から血を流し、倒れ込んでしまった。

 

 

「暗利いっ!!」

 

 

叫んだのは六月。変わってはしまったが、親友であった暗利の身を案じていた。あんなになっても、死んで欲しくはなかった気の表れでもあって………

 

……そして、真紅の魔竜は、ゆっくりと別のところに歩み寄っていく。そこは六月や相落のところでもなければ、先程吹き飛ばした暗利の元でもない。

 

 

「………」

「っ!!まずい……赤ん坊のところだ!!…おい!!やめろっっ!!」

「むえ〜〜?」

 

 

グラウモンは赤ん坊のエニーズのところへと歩いていた。赤ん坊は目を覚まし、キョトンとした表情でただただ可愛げな瞳で真っ直ぐ前だけを見ており………

 

六月の言葉などに耳を貸すわけもなく、止まらない真紅の魔竜、成熟期の姿。だが……その後真紅の魔竜がとった行動は………

 

 

「っ!?」

「…………」

「……むえぇ〜〜♪」

 

 

その赤ん坊を殺害する事なく、手で拾い上げた。しかも大事そうに持っているではないか、まるでその赤ん坊をあやしているかのよう。

 

赤ん坊はその掌の上で真紅の魔竜の感触を肌で感じ取っていた。その表情は幼ささながらに喜んでおり、可愛いらしい産声を上げながらゴロゴロとその上で転がっていた。その様子はとても愛らしいのだが、魔竜の掌の上であることから、ミスマッチも良いところだ。

 

……そんな魔竜の奇行に、六月と相落はただただ口を開けて、凝視することしかできず…………

 

 

「………グルルルルルルッ……」

 

 

しかし、そんな不思議な時間も束の間……真紅の魔竜は再び目の前の六月と相落に敵対するような目を向ける。そして口内を開け、そこから高熱の熱線を放出した。

 

 

「ぬ、ぬぉっ!!」

 

 

また間一髪でそれを交わす六月。熱線により壁が溶解してしまう。まともに受け手仕舞えばひとたまりもないのが一目でわかる。このままでは打つ手がない。確実に全員この魔竜に殺害されることだろう。

 

しかし、微かな希望を、六月はこの部屋の片隅で偶然見つける。それは………

 

 

「こ、これは………【スピリットプロテクター】!!」

 

 

【スピリットプロテクター】とは、一見普通のカードプロテクターだが、スピリットカードを本当に実体化させるという代物。そのサンプル品がこの部屋に置かれていたのだ。その思考は悪道に染まったとはいえ、暗利も科学者の1人。そのアイテムを研究していたのだろう。

 

これは後に余りにも危険視され、販売は禁止、【スピリットアイランド】でのみの使用が許されることとなるのだが、今はまだそんな事など予知できたものではない。

 

六月も相落を通してこのアイテムを知っていた。しのごのと言ってられない。この絶望的な状況を脱すべく、咄嗟にそれを払い上げ………

 

……自分の持つカードをその中へと投入した。

 

 

「……召喚!!」

 

 

そのスピリットは自分のオーバーエヴォリューションで獲得した最も信頼できるデジタルスピリット。

 

 

 

「……インペリアルドラモン ドラゴンモードッ!!」

 

 

六月の叫びと共に現れたのは赤くて大きな翼を持つドラゴン。その余りにも巨大なサイズはこの部屋を圧迫する。

 

 

「頼むドラゴンモード!!」

 

 

ドラゴンモードと対峙するグラウモン。エニーズを抱えたままでの戦闘は危険とみたか、エニーズを今にも壊れそうなデスクの上に一旦置き、ドラゴンモードへと走り出した。

 

だが、グラウモンではドラゴンモードには全く通用しない。グラウモンはドラゴンモードの片手で押さえられ、壁に向かってぶん投げられてしまう。その衝撃で壁に大きな穴が開いてしまい、研究所に多大な損害を与えてしまう。

 

六月は隙を見て赤ん坊の方へと走り出し、救助を試みる。デスクの上に置かれた赤ん坊をタオルで包み上げ、抱きかかえた。

 

 

「よしよし、もう安心じゃぞ……」

「むえ〜〜?」

 

 

なんとも可愛らしい赤ん坊。本当にこの子が世界を破滅に導く存在だったのかと思ってしまうほどだ。

 

そうだ。この子には罪がない。勝手に造られて、勝手に兵器にされかけただけだ。生きて行かさねばならない。

 

一方、真紅の魔竜とドラゴンモードの戦闘は続く。グラウモンはこのままでは勝てないと見て、さらにデジタルコードをその身に包ませる。今一度進化しようとしているのだ。

 

そして、コードを消しとばし、中から新たに現れたのはさらに巨大になり、上半身に多大な武装を施した真紅の魔竜、完全体の姿。後にメガログラウモンと呼ばれる存在だ。

 

メガログラウモンは咆哮を張り上げながら胸部の武装から放射線を発射した。それはドラゴンモードさえもたじろぐ程の威力を有しており、研究所に大きな穴を開け、爆発させた。

 

そしてそれが連鎖するように次々と爆発を起こしていき、次第に辺り一帯は火事場となってしまう。

 

 

「まずいぞ六月!!早く脱出するぞ!!」

「暗利はどうする!?…」

「ほっとけそんな奴!!奴を放っておけば暴走した思想を元に、この世界を破壊する!!」

「……ぐっ!!」

 

 

早く脱出しなければ命はない。しかし、暗利を助けてしまうと、彼は必ずこの世界を破滅に追い込んでしまう。親友を助けられないもどかしさはあるものの、六月は赤ん坊を抱き抱え、相落と共に出口に向けて走り出した。

 

その時、六月の目には別の誰かが映る。それはこの部屋に入る前に見た、あの男の子………メガネを掛けていて、無表情なあの子だ。

 

 

「おいっ!!お前も早く来い!!…何をやっている!死にたいのか!?」

「…………」

 

 

六月の言葉を全く耳に入れず、ただただ爆発の場所をまじまじと見つめる、後に銃魔だと判明する少年。

 

六月が無理矢理にでも助けようと銃魔の元に駆けつけようとした瞬間、上からの落石がそれを妨げるかのように落下。行先を途絶えさせた。

 

 

「……っ!?」

「やめろ六月!!もう助からん!!それに今なら分かる!!あの子もおそらくその赤ん坊と同じ、暗利の実験体だったんだ!!……それとも何かぁ!?このまま2人とも火の海の中で心中するか!?」

「…………くっ……」

 

 

相落と六月は再び脱出するべく火事場となった研究所を駆け出した。そしてしばらくした時、またもや悲劇が彼らを襲う。

 

 

「…うわぁっ!!」

「っ!!相落ぅ!!」

 

 

相落と六月の間に突如として炎の壁が立ち塞がった。六月は運良く背後からだったが、相落は突然目の前に現れたそれに驚き、腰を抜かしてしまう。相落は脱出ルートを完全に閉ざされてしまう。

 

ここは一旦、六月とは別で行動した方が良いと考えた相落は……

 

 

「早くいけぇ!六月!!私も後から追いつく!!」

「っ!?…何言ってんだぁ!!…おいて行けるわけねぇだろ!!」

 

 

炎の壁越しでそう会話する両者。おいて行けるわけがないだろう。たった2人の親友なのだ。一気に2人も失ってたまるか………

 

 

「お前、私を誰だと思っている!!界放市の市長、木戸相落だ!!この街最強のバトラーは死んだりはせん!!」

「……ぬ、ぬぅ!……相落……!!……わかった!!じゃが、必ず生きて戻ってこい!!」

 

 

六月は腹をくくり、相落を置いて走った。歯を食いしばりながら、ただひたすらに、研究所の出口まで………

 

一方、業火の海の中、未だに戦いを繰り広げるメガログラウモンとインペリアルドラモン ドラゴンモード。メガログラウモンはドラゴンモードの顔に飛びつき、鋭利な爪の武器で何度も攻撃する。ドラゴンモードは頭を振りまし、メガログラウモンを引き離そうと必死だ。

 

 

……そして、そんな中、炎を纏った落石が2体の上に落下していき…………

 

……2体のドラゴンは大きな咆哮を張り上げ、激しくぶつかり合いながら、業火の炎の中へと姿を消していった。

 

 

******

 

 

界放市から少しだけ離れた研究所、警察や消防などやって来るわけもない殺風景な場所。六月は赤ん坊と共に火事場を脱出していた。

 

 

「………相落………暗利………」

 

 

2人の身を案じる六月。後悔はない。ないはずなのだ。自分で下した決断。たとえそれが間違っていたとしても、胸を張って生きると誓っていた。

 

が、やはり、今、ひょっとしたら生きているのではないか………と言った可能性があるこの時間がその心をより苦しくさせており……

 

だが、その心配は少しだけ解放されることとなる。

 

 

「……おぉ〜〜い!!」

「っ!!……相落!!」

 

 

木戸相落が手を振りながらこっちの方へ走って来る。六月は内心、たいへん喜んだ。良かった生きていて、本当に。

 

 

「……終わったんだな……」

「あぁ、そうじゃな………」

 

 

2人は未だに消えることのない爆炎をまじまじと見つめながらそう言った。これもそのうち可燃物が完全に消え去り、消えることとなるだろう。だが、その前に六月はまた決断しなければならない事があって…………

 

 

「六月…その赤ん坊……どうする気だ?」

「…………」

 

 

そう、その場で思わず体が動いて助けだしてしまった赤ん坊、暗利がエニーズと呼称していたものだ。しかも知らないうちにその小さな小さな手にはバトスピカードが握られている。

 

 

「むえぇぇぇ♪」

 

 

それは【真紅の魔竜】のカードと、【デュークモン】のカードだ。何もわかっていないのか、赤ん坊はそれを小さな両手で持ち、無邪気に口に咥えていた。その表情はたいへん幸せそうであって………

 

正直………正直だ。この赤ん坊はただ者ではない。うちにはおそらくまだ自分達も知らない何かが眠っているに違いない。それならば………

 

 

「殺してしまうのが得策だと思う………」

 

 

相落が言った。六月は少しだけ考えているのか、赤ん坊の方を見つめた。

 

そうだ。その方がいい、いっそここで殺して仕舞えば、世界は何かに怯えることはなくなるのかもしれない。

 

だが、さっきも考えた通り、この子自体に罪はない。勝手に造られて、勝手に兵器にされかけただけなのだ。

 

しかも……

 

 

「むえぇぇぇ♪」

 

 

笑っている。生きてている。ひょっとしたら今から自分を殺すかもしれない相手に対して………

 

……そう思うと……六月は自然と落ち着きを取り戻し…………ある決断を下した。

 

 

「……相落……この子はわしが育てる………世界を壊す鬼ではなくて、立派な人間に育てあげる………」

「………そうか、わかった……それがお前の判断ならば………」

「むえぇぇぇ!!」

 

 

これがいったいどれだけ重たい決断かは計り知れない。ゆくゆくは別の何かに、もっと言えば世界を破滅させるかもしれない化け物を育てる事になるのだから。

 

それでも六月は決めた。このエニーズを……赤ん坊を立派な人間として育て上げることを………

 

相落も特にその六月の判断を咎めたりはしなかった。

 

 

「………名はどうする気だ?……エニーズなんて名前じゃだめだろ」

「名か………そうじゃな〜〜」

「むえぇぇぇ!!」

 

 

この子の名前。不思議と、六月にはふと1つのネーミングが頭を過ぎった。

 

それは………

 

 

ー『バカとはなんじゃ暗利!!しっかりとした夢じゃろがい!!いいだろう聞かせてやる!!その子の名前は…………』

 

 

……芽座椎名………

 

 

そう名付けられ、その女の子は六月の元ですくすくと元気に育った。その子の持っていた真紅の魔竜とデュークモンのカードは芽座一族の祠に収められた。【いつかその子に返却できる日を信じて】………

 

そしてさらに時は流れ、現在……今の芽座椎名はここに存在しているのだ。

 

だが、椎名を造った暗利は生きていた。Dr.Aと名を改めて、世界のどこかでひっそりと………あの時のメガネの少年と共に……まさかこんな事になるなど、六月は思ってもいなかった事だろう。

 

 

******

 

 

ここは椎名の育った離島にある故郷。椎名は大勢の子供達が住まうハウスにて、15年の時を過ごしていた。そして界放市へと旅立ち、今の17歳の椎名が成り立っている。

 

六月は約束通り、椎名に真実の過去を全てを洗いざらい暴露していた。

 

 

「そして、時は経ち、椎名……お前にギルモンやデュークモンのカードを託しても良いと思った……それがあの日、葉月にバトルで負け、ここに戻ってきた時じゃ」

 

 

あの日、あの時、椎名が六月から【真紅の魔竜】と【デュークモン】のカード達を託された日。六月は確信した。決して椎名は暗利の言うように、世界を破滅しはしないと。

 

だが、椎名は鬼化し、結果、世界も彼女自身も無事ではあるが、流れは全て徳川暗利に向いてしまっている。

 

 

 

ーーわしの責任だ。

 

 

「………これが、わしの知る全てじゃ、椎名………今までお前を騙してて……悪かった……許せとは言わん……」

 

 

六月は謝罪の念を込めて、椎名に対し頭を下深々と下げた。今まで何も教えなかった事、隠していた事、全部。

 

しかし、椎名はそれに対して怒る事はなく………

 

 

「……アッハハ!!まぁ、隠したい事って誰にでもあるよね〜〜……全然いいよじっちゃん!!そんなことより、私にはしっかりとじっちゃんの愛情が注がれていた……それが事実だったんだ!!」

「っ!!」

「こんな嬉しい事はないって!!」

「………し、椎名……」

 

 

椎名の言葉を聞いて、涙ながらに顔を上げた六月。その一言だけでどれだけ自分の心は救われたことか………正直、椎名に殺されても文句は言えないほどの事だだというのに………

 

……やはり、自分の育て方は間違ってはいなかった。この子はエニーズではなく、しっかりと【芽座椎名】として育てられていた事を、彼は改めて自覚した。

 

 

「……それに、今の話ではっきりわかったよ!!私の力は世界を壊すためのものじゃない!!Dr.Aみたいな奴らから、大事な人達を守るためのものだって!!」

「……あぁ、共に暗利を倒そう……」

 

 

この力は決して破滅のものではない。何かを守るために神様が与えた力なのだと自覚した椎名。六月と共にDr.Aを倒す事を誓った。

 

が、突如として、その決戦の火蓋は切って落とされる。いや、既に落とされていた。というのが妥当か………

 

 

「椎名!!おじ様!!」

「!…シスター……」

 

 

黒いシスターの正装を着こなす若い女性は、シスターマリア。椎名を幼少の頃より見てきた人物だ。この物語にも既になんとか顔を見せている。

 

そんな彼女が慌てて、ハウスの前の広場から息を切らせ、走ってきた。その理由はただ一つ。目にしてしまったのだ。テレビの速報で………

 

 

「ど、どうしたマリアちゃん……」

「……ハァッ、ハァッ、か、界放市が……界放市がDr.Aに支配されました!!」

「「っ!?」」

 

 

既に始まっていた。Dr.A一派による、世界の進化が………だが、2人も界放市から侵攻するとは考えてもいない事だった事だろう。

 

しかし、界放市からの侵攻は、Dr.Aにとって好都合だった。その理由も後に判明する事だろう。

 

……そして、時はまた少しだけ遡り、約2日前、界放市にいったい何が起こったのかが語られることとなる。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「やったぁ!!ひっさしぶりの私のコォォナァァ!!本日のハイライトカードは【インペリアルドラモン ドラゴンモード】!!」

椎名「インペリアルドラモン ドラゴンモードはじっちゃんの使う究極体デジタルスピリット!!他にも色んな形態があるとか、ないとか?……とにかくすっゴォックカッコいいドラゴンだよ!!」


******


〈次回予告!!〉


時期は春休み、桜舞い上がるこの季節の界放市。真夏は帰郷していていないはずの椎名を見かけ………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「戦慄のデジタルスピリットキラー!!」……今、バトスピが進化を超える!!


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

本日登場の界放市市長、木戸相落は、【第39話】でも登場しております。

最近バトル無し回ばかりですみません。本当に大事な回だったんで、気合いは入れましたけど………この回だけで今までの謎がだいたい解けるかと思います。

それはともかく、【赤ちゃん椎名】を描写できて、私個人としては自己満足です笑

次回からはいつものように怒涛の連続バトル回です!!サブタイトルの【デジタルスピリットキラー】とは……


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第82話「戦慄のデジタルスピリットキラー!!」

 

 

 

 

 

 

 

これは椎名と六月が、Dr.Aによる界放市襲撃の報道を知る約2日前………

 

緑坂真夏は1人、公園のベンチでこれまでのことを振り返り、考えていた。これから自分はどうあるべきか、どうするべきか………なかなか気持ちの整理がつかないでいた。

 

自分も長嶺雅治のように誰かを守るためにと言い、巨悪に立ち向かう姿勢を示すべきなのだろうか?…椎名のように馬鹿正直に前だけを向いて突っ走るべきなのだろうか?

 

どちらにせよ彼らと行動を共にしてしまうとDr.Aと戦わなくてはならなくなる。真夏はそれが嫌で仕方なかった。それもそのはず、誰だって命など賭けたくはない。

 

しかし、かと言って逃げ出すと本当に椎名達を危険な目に合わせてしまうかもしれない。それも死ぬ程嫌だった。

 

そう言ったどうしようもないジレンマが真夏の心を蝕むように襲っていて………

 

 

「……はぁ……どないしたらええねん……」

 

 

赤羽司もいない。雅治も自分のデッキの改良に手を焼いており、夜宵も司がいなくなったことで抜け殻のように弱ってしまった。今の真夏が頼れる存在は………担任の晴太や兎姫……後、100歩譲って兄のヘラクレスくらいだが、この事を教えて良いのかもわからないし、危険に晒すことになるかもしれないと思うと相談できなかった。

 

それと、残りはもはや親友とまでなった芽座椎名だが、自身の過去を知るために今、彼女は育ての親、芽座六月と故郷の離島へと帰郷している。

 

真夏は不思議となってもいない孤独を味わっていた。

 

 

………と、その時、ふと彼女の目線には信じられないものが映る。それは……

 

 

「っ!?…椎名!?」

 

 

公園の片隅から外へと出ようとしていたのは他でもない、芽座椎名だ。散々見た後ろ姿を、真夏が間違えるはずはなく………

 

 

「う、うそやん、だって………」

 

 

まるで幽霊でも見ているような真夏。それもそのはずだ。何せ今椎名はこの界放市にはいないのだから。真夏は気になって椎名らしき人物の後を追った。

 

椎名らしき人物は暗がりの路地裏へと足を踏み入れた。その様子を見た真夏は後を追うように走った。【それが罠だとも知らずに】……【もう既に彼の計画は始まっているとも知らずに】…………

 

 

「椎名!!」

「…………」

 

 

真夏の制止を誘う叫びに足を止める椎名。しかし、いつものように元気な受け答えはせず、黙って真夏の方を振り向く。

 

 

「…あんた、島に帰ってたんとちゃうんか?」

「………」

 

 

その表情はらしくなく無表情で尚且つ冷たい。肌も体調でも悪いのかと思ってしまうほど青白い。

 

だが、真夏の困ったような表情を見るなり、途端にニヤリと不気味な角度で口角を上げて………

 

 

「……緑坂真夏………ウフフフ、待ってたよ〜〜」

「っ!?……椎名?」

 

 

今真夏の目の前に立つ人物は声色、髪の色、その長さ、アホ毛までも全く同じ。靴や私服のセンスまでも一緒だ。しかし、声のイントネーションやその声と共に放たれる雰囲気は全くの別物。

 

まだなんとなくではあるが、咄嗟に真夏は気づいてしまった。

 

 

 

目の前にいる人物は……椎名ではない。

 

 

よく似ている何者かだという事に。真夏はその事に驚愕し、警戒するように半歩後退る。

 

 

「い、いや、違う…椎名とちゃう!!…誰やあんた!?」

「ウフフフ……私の名は【エニーズⅡ】……二つ名は…【デ・リーパー】!!…私もDr.Aに造られた存在!!」

「っ!?…ど、Dr.A……!」

 

 

【Dr.A】……その名詞を聞くだけで思わず身がたじろいでしまう。

 

なんだ。エニーズとは1人ではなかったのか?……確かに椎名が1人である事は断言されたことではないものの……

 

どちらにせよ今目の前にいる椎名と瓜二つの顔を持つデ・リーパーと名乗る者は………自分達にとって敵。椎名と違ってDr.Aに非常に好意的な態度を見せている。いずれどこかで彼女とも戦わなくてはならないのは既に目に見えていて…………

 

 

真夏は今、決断を迫られていた。ここで逃げるか……はたまた意を決して戦うか………

 

言い換えると、自分の命を守るために仲間だけを頼るか……はたまたその仲間達のために命を賭して戦うか………17という若年世代にはあまりにも難しい問いだ。究極の選択とも取れる。

 

極端に追い詰められたこの状況………真夏は脳裏にフラッシュバックするように椎名の言葉が浮かんできた。それは自分の背中を押すにはあまりにも十分すぎる言葉。

 

 

ー『じっちゃん……みんな連れて逃げてよ………私は流異君を助ける』

 

ー『うぉぉお!!流異君を返せぇぇえ!!!』

 

ー『最後の最後の最後までッ!!………諦めないのが!!私のバトルスピリッツだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!』

 

 

思い出すだけで……悲しくなる。

 

思い出すだけで……涙が出てくる。なんでいつも椎名があんな目に合わなければならないのか………

 

ついこの間あったスピリットアイランドでの出来事、椎名は自分の過去など全く眼中に入れず、1人で出会って間もない少年を命を賭して救い出した。

 

今、逃げ出そうなどと考えていた自分が恥ずかしく思えてくる。椎名はずっと戦ってきた。スピリットアイランドの時だけでなく、紫治一族の時も、オーズ一族の時も……

 

そんな親友の力になりたいと思っていたからこそ、心の底から迷っていたのだ。

 

しかし、たった今吹っ切れた。真夏はデ・リーパーを睨みつける。

 

 

「……勝負や…」

「?」

「勝負やこの青白ボケェ!!椎名はもっと健康な肌しとるわぁ!!」

 

 

全力で啖呵を切る真夏。デ・リーパーはこれといって怒っている様子はないようだが………彼女とて、はなっから真夏とバトルする予定だったのだ。自分から勝負を仕掛けてくるこの状況など願ったり叶ったりだ。

 

 

「ウフフフ、いいわよ真夏……その勝負、乗ってあげる」

「………行くでぇ!!」

 

 

2人は懐から勢い良くBパッドを取り出し、一瞬にしてバトルの準備を行った。

 

そして人気が少なく、薄暗い路地裏で始まる。Dr.Aとの最終決戦となるこの戦いの最初のバトルスピリッツが………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

真夏とデ・リーパーのバトルが幕を開ける。

 

先行は……デ・リーパーだ。

 

 

[ターン01]デ・リーパー

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ………うっふふふ、バーストを伏せて、紫のネクサスカード、失われし楽園を配置してターンエンド」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【失われし楽園】LV1

 

バースト【有】

 

 

デ・リーパーは場にバーストを伏せると共に、背後に平穏を極限まで失った楽園を配置する。その様はデ・リーパー本人が放つ異彩な雰囲気も相まって非常に不気味である。

 

しかし、それでもこれ以上の行動にはどうしても制限がある。デ・リーパーはそのターンをエンドとし真夏にターンを渡した。

 

 

「……紫のネクサスカード、椎名なら絶対に使わんな」

「うふふふふふ、そりゃそうよ、だって私はエニーズではなくてデ・リーパー……エニーズとは違う進化を遂げるの」

「っ!!椎名はエニーズなんて化け物やない!!……行くでぇ、私のターン!!」

 

 

かつて、界放市の最強の学生バトラーと謳われた緑坂冬真、二つ名はヘラクレス。その妹、真夏のターンが幕を開ける。これ以上、友である椎名に苦難を与えないために。

 

 

[ターン02]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップッ!!…私もネクサスカード、賢者の樹の実を配置してエンドや!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

【賢者の樹の実】LV1

 

バースト【無】

 

 

真夏も同様にネクサスカードを背後に配置する。それは幹から枝、葉までが、神秘的な力に満ち溢れた聖なる大樹。そこから成る樹の実は生命の力を宿している。

 

しかしながら、順調とはいえそれだけで早々にターンを終える真夏。次は早くもデ・リーパーのターンだ。

 

 

[ターン03]デ・リーパー

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップぅ………は、何もしないかな〜〜うふふ、エンドよ」

【失われし楽園】LV1

 

バースト【有】

 

 

「っ!?」

 

 

ターンシークエンスを順序よく行っただけでそのターンを終えたデ・リーパー。いくらバーストがあるとは言え、高速で強力なスピリットを呼び出せるデジタルスピリットのデッキが多数を占めるこの環境にて、何もしないのは自殺行為とも取れるものであって………

 

しかし、それでもデ・リーパーは相変わらずニタニタと不敵な笑みを満面に浮かべており………

 

 

「何考えとんのか知らんけども後悔すんなよ!!」

 

 

次は真夏のターン。今がチャンスだと言わんばかりにターンを進めていく。

 

 

[ターン04]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップッ!!こっちから行くでっ!!…成長期スピリット、フローラモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨2

【フローラモン】LV1(1)BP3000

 

「うっふふふ、やはり出して来たね〜〜デジタルスピリット」

 

 

真夏が最初に召喚したのはトロピカルな植物型の成長期スピリット、フローラモン。効果は成長期らしく、サーチ効果だ。

 

 

「召喚時効果!!3枚オープンし、対象内のカードを1枚手札に!!」

オープンカード↓

【老賢樹トレントン】◯

【ライフチャージ】×

【螺旋ニードル】×

 

 

効果は成功。真夏はその中の対象となるカード、老賢樹トレントンのカードを手札に加える。しかし、真夏の行動に反応するかのように、デ・リーパーの伏せていたバーストが反転する。

 

………それはすべてのデジタルスピリットの天敵とも呼べる存在。

 

 

「………相手の手札が効果によって増えた時……バースト発動!!」

 

「っ!?」

手札4⇨5

 

「デ・リーパーADR-02!!……効果によりこれを召喚!!」

リザーブ5⇨2

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV2(3)BP3000

 

 

地底から出現する謎のコード。そのコードの先端部から不思議な形をした何かが現れる。それはとても邪悪で不気味で、いったい何を考えているのかも知れたものではない。

 

ただわかることは………敵であるということ。

 

 

「な、なんやこいつ!?…デ・リーパー?……あいつと同じ名前………」

「そう!!私自身もデ・リーパー!!…デジタルスピリットのデッキでは決して勝つことはできない!!…ADR-02の効果により、バースト発動時に増えたカード1枚につき、相手のデッキを1枚破棄!!」

 

「っ!?」

デッキ31⇨30

 

 

青の衝撃波が真夏のデッキを襲う。その上から1枚がトラッシュへと飛ばされる。しかし、こんなものまだ序の口、恐ろしいのはこれからだ。

 

 

「その後、手札にあるバーストカードをセットする………さらに、ネクサスカード、失われし楽園の効果、バースト効果を持つスピリットの召喚により、カードを1枚ドロー………うっふふふ、楽しいバトルねーー」

手札5⇨4⇨5

 

「っ!!…またバーストを…」

 

 

今一度バーストカードをセットするデ・リーパー。事前に配置されていたネクサスカードの効果でのドローで隙もない。

 

しかし、これだけではいささかデジタルスピリットの天敵とは認識しづらいものがある。真夏はさらに手札にあるスピリットを展開する。

 

 

「……こんな雑魚スピリットがデジタルスピリットの天敵?……アホな事抜かすなよ!!私はさらにパルモンを召喚!!さらに召喚時効果!!」

手札5⇨4

リザーブ3⇨1

トラッシュ2⇨3

【パルモン】LV1(1)BP3000

オープンカード↓

【ライフチャージ】×

【リリモン】◯

 

 

さっき召喚したフローラモンとはまた別の意味でトロピカルな成長期スピリット、パルモン。そして効果も成功。真夏は自身のエーススピリットであるリリモンのカードを手札に加えた。

 

………だが……

 

 

「バースト発動!!デ・リーパーADR-02!!…効果により召喚!!」

リザーブ2⇨1

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV1(1)BP1000

 

「っ!!2枚目!?」

手札4⇨5

 

 

同じくコードが伸び、2体目のADR-02が場に現れる。通常3枚しか入れられない同名カードが同じターン内で2回召喚されるのはなかなかない事だが、このスピリットは違う。

 

 

「ADR-02はデッキに20枚まで入れられる……効果によりデッキを1枚破棄し、またバーストをセット、失われし楽園の効果でドロー」

手札5⇨4⇨5

 

「っ!!……20枚まで……」

デッキ28⇨27

 

 

真夏のメインステップであるにもかかわらず、スピリットを2体も展開するデ・リーパー。真夏はここまでの試合運びの中で何となくデ・リーパーのデッキ概要を理解して来ていた。

 

おそらく、デ・リーパーのデッキは【デッキアウト】……あのADR-02で身を固めつつ、デッキを破棄、自身の回転率を高め、最後は何か強大なスピリットでデッキアウトを目指す。そう言ったところだろう。

 

デジタルスピリットの天敵と言うのもそう言うことだ。デジタルスピリット性質上、召喚するだけでデッキを複数枚オープンすることになる成長期スピリットを何度も召喚しなければらない。自然とデッキがなくなりやすいのだ。故に他のデッキよりデッキアウトも早い。

 

ここまでが真夏の推理だ。デッキアウトのデッキならばやることはただ一つ………速攻だ。

 

 

「さっさと終わらせるでぇ!!アタックステップ!!フローラモン!!パルモンでアタック!!」

 

 

単純な話だ。自分のデッキがなくなる前にデジタルスピリット特有の速さを活かして相手のライフをゼロにするまで………

 

……フローラモンとパルモンが走り出した。いずれもBPは3000。LV2のADR-02もBPは3000。ライフで受けるも守るもそのバトラー次第だ。

 

 

「………うっふふふ、まぁそうなるよね〜〜ライフで受ける」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

ライフの減少を選択したデ・リーパー。フローラモンとパルモンの体当たりが連続で炸裂し、そのライフを一気に2つ破壊した。

 

 

「……ターンエンドや」

【フローラモン】LV1(1)BP3000(疲労)

【パルモン】LV1(1)BP3000(疲労)

 

【賢者の樹の実】LV1

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、そのターンを終えた真夏。一見、デ・リーパーの戦術を捉えて上々であったターンにも覚えてくる。

 

しかし、仮にもデジタルスピリットの天敵と呼称される存在。これから真夏は理解していくことだろう。デ・リーパーにデジタルスピリットのデッキで挑む事がどれだけ無謀な事だったのかを………

 

 

[ターン05]デ・リーパー

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

 

 

「メインステップぅ〜〜…うっふふふ、私は次なるデ・リーパー……ADR-01をLV2で召喚!!」

手札6⇨5

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨1

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】LV2(2)BP6000

 

「っ!?」

 

 

同じく地底から伸びるコードに接続されたまま場へと飛び出して来たのは少女の姿を象った化け物。数存在するデ・リーパースピリットの一体だ。

 

その一体は不敵かつ不気味な笑い声を上げながら目の前の真夏を見つめており………真夏はその様子にただただ背筋を凍らせることしかできず………

 

 

「………な、なんやこいつ……気味悪いわ……」

「ADRは一体だけじゃないよ!!私は仮にもエニーズ!!オーバーエヴォリューションを繰り返せる!!」

 

 

まるでデ・リーパーデッキをオーバーエヴォリューションにより生み出したと言わんばかりの供述をするデ・リーパー。

 

そして、まだ進化は止まらないとでも訴えているかのようにも聞こえてくる。

 

 

「さぁ、反撃開始……アタックステップ!!行きなさいADR-02!!LVの方のアタック時効果でデッキのカードを1枚破棄!!」

 

「っ!!」

デッキ27⇨26

 

 

宙を舞い、翔け上がるLV1と2のADR-02。そしてその瞬間、再び青の衝撃波が真夏を襲い、デッキを破棄させる。因みに、破棄カードはネクサスカードの賢者の樹の実。

 

 

「……ライフで受けるっ!!………ぐうっ!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

ADR-02の体当たりが真夏のライフを襲う。この時、真夏に通常バトルとは思えないほどの激痛が体中を駆け巡った。あまりのダメージ量に足腰が立たなくなってしまう。

 

 

「…ぐっ!!……こんなに痛いんか………こんな痛みをずっと椎名は…………」

 

 

ずっと受けてきたのか……ずっとこんな痛みに耐え抜きながらみんなを護っていたのか………そう悟った真夏。

 

親友が今までずっと体を張ってきたのだ。自分がここで逃げるわけにはいかない。そう思いながらも震える足腰を持ち上げながら精一杯の火力で立ち上がってみせた。

 

 

「賢者の樹の実の効果でコアを2つ分増やすで………」

リザーブ3⇨4⇨5

 

 

賢者の樹の実が真夏のBパッドに投下され、新たに姿を変え、コアとなる。

 

 

「…うっふふふ、耐えるのねー……エンドよ」

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV1(1)BP1000(疲労)

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV2(3)BP3000(疲労)

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】LV2(2)BP6000(回復)

 

【失われし楽園】LV1

 

バースト【有】

 

 

ADR-01をブロッカーとして場に残し、そのターンをエンドとしたデ・リーパー。次は痛みに耐えた真夏のターン。ここから勝負を決めるべく、一気に畳み掛ける。

 

 

[ターン06]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨9

トラッシュ3⇨0

【フローラモン】(疲労⇨回復)

【パルモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップッ!!2体目のパルモンをLV1で召喚!!効果は使わへん!!」

手札6⇨5

リザーブ9⇨7

トラッシュ0⇨1

【パルモン】LV1(1)BP3000

 

 

真夏が新たに呼び出したのは2体目のパルモン。しかし、成長期スピリット特有の効果は使用しなかった。警戒しているのだ。あのADR-02のバーストを………

 

 

「続けて行くでぇ!!…老賢樹トレントンをLV1で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨3

トラッシュ1⇨4

【老賢樹トレントン】LV1(1)BP5000

 

 

突如として真夏の背後に大樹が茂る。それは人のような手足を伸ばし、真夏の眼前へと現れた。そしてその偉大なる大樹は頭部の木々を揺らし、森の仲間を呼び寄せる。

 

 

「召喚時効果!!緑のスピリットカードをノーコスト召喚!!……さぁ、美しく咲き誇りぃ!!…完全体スピリット、リリモンをLV2で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨0

【リリモン】LV2(3)BP10000

 

 

トレントンに呼び込まれるように現れた桃色の蕾。それが優雅に花開くと、中から妖精型の完全体スピリット、リリモンが姿を見せる。

 

これで真夏の場のスピリットは合計で5体。一気に勝負に出るには十分過ぎる体数だ。

 

 

「へぇ〜〜これがリリモン。うっふふふ、エニーズの戦闘データで見るよりかも可愛い顔してるじゃない…!!」

「一々リアクションがうっさいねん!!アタックステップッ!!リリモンでアタック!!」

 

 

4枚の羽を羽ばたかせて宙を舞うリリモン。狙うは当然残り3つのデ・リーパーのライフだが、リリモンはこのタイミングで発揮できる効果をいくつも備えており………

 

 

「アタック時効果!!…ボイドからコアを2つリリモンに追加し、ターンにいっぺん回復ッ!!」

【リリモン】(3⇨5)LV2⇨3(疲労⇨回復)

 

 

緑の光を浴び、LVアップと回復を同時にこなすリリモン。これで真夏は他のスピリットも含めて計6回のアタックが可能。デ・リーパーのブロッカーはADR-01のみ。

 

そしてそれも封じ込めるべく、真夏はさらに動き出す。

 

 

「リリモンのもう一つのアタック時効果!!【旋風:1】!!相手スピリット1体を重疲労させるで!…狙うはADR-01!!」

「………!!」

 

 

リリモンは両手に花を模したキャノン砲を取り付け、ADR-01に向けてそれを射出。その緑の光の弾丸は瞬く間にADR-01を捉え、命中。

 

ADR-01はこれで重疲労状態となり、身動きが取れなくなる…………はずだった……

 

 

「っ!?」

「うっふふふ……言わなかった?…デ・リーパーは皆デジタルスピリットの天敵だ……てね!!」

 

 

直撃したかに思えたリリモンの一撃は、ADR-01が左手で展開した三角形のバリアに防がれていた。

 

 

「…ど、どうなってんのや……!?」

「うっふふふ、ADR-01はデジタルスピリットの効果を受けない!!」

 

「……っ!!……ADR-02を対象にする……」

 

「………」

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】(疲労⇨重疲労)

 

 

ADR-01のバリアによって弾かれたリリモンの光の弾丸がADR-02に衝突。ADR-02は重疲労状態となり、身動きが取りづらくなった。

 

ADR-01。このスピリットは「アーマー体」「幼年期」を除くデジタルスピリットの効果を受けない力がある。デジタルスピリットのデッキは大抵の場合、「成長期」「成熟期」「完全体」「究極体」の4つが基本。

 

故に殆どのデジタルスピリットの効果ではあのスピリットを倒すのは不可能に近いと言える。特に真夏のような典型的なデジタルスピリットのデッキならば尚更だ。

 

 

「…せ、せやけどまだアタックは続いとる!!効果を受けんだけで何度もブロックできるんとちゃうやろ!!どちらにせよこのターンで終わりや!!」

「甘い……甘すぎる………この程度の実力でよく挑んできたわね………進化を繰り返せる私に!!」

「っ!!」

 

 

真夏の単純な戦法に飽きたか、デ・リーパーは怒りを露わにする。しかしながら、その顔は何故か不気味な笑顔に満ち溢れていて………

 

いったいどこが本当の感情で、気持ちなのかも定かではないデ・リーパー。だが、それは真夏では決して理解のできないもの。

 

彼女は椎名の戦闘データによって生まれた存在。つまり生まれたてなのだ。生まれたての生物は本能により己の成長を欲する。このデ・リーパーもまた己の成長を………ここで言う進化を求めていた。

 

そのため、無慈悲ゆえに複雑な性格をしている。

 

 

「…フラッシュマジック!!…絶甲氷盾!!…不足コストはADR達より確保!!フラッシュ効果によりこのバトルでアタックステップを終了させる!!」

手札5⇨4

リザーブ1⇨0

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】(3⇨1)LV2⇨1

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ1⇨5

 

「っ!!」

 

「アタックはライフ!!」

ライフ3⇨2

 

 

リリモンの上空からの前蹴りがデ・リーパーのライフを1つ砕く。しかし、その直後、デ・リーパーの使用していたマジックにより真夏の場に猛吹雪が発生。スピリット全て身動きが取れなくなる。

 

 

「くっ!!……ターンエンドや…」

【フローラモン】LV1(1)BP3000(回復)

【パルモン】LV1(1)BP3000(回復)

【パルモン】LV1(1)BP3000(回復)

【老賢樹トレントン】LV1(1)BP5000(回復)

【リリモン】LV3(5)BP12000(回復)

 

【賢者の樹の実】LV1

 

バースト【無】

 

 

致し方なく、そのターンを終える真夏。

 

しかし、正直なところ、ある程度の余裕もあった。自分のライフは3。ブロッカーは5体。そして相手の場はバースト効果だけが取り柄のスピリットと、効果を受けないだけのスピリット。

 

このままいけば必ずリリモン達の猛攻で勝つことができる。

 

確かに、それは普通のカードバトラーの考え方。決して真夏が弱いと言うわけではない。だが………次のターンで彼女は改めて自覚するようになる。今、自分が相手にとっているのはどれだけの化け物なのか、どれだけの危険因子なのかを………

 

そして気づいた時にはもう遅い。デ・リーパーは進化を始める。【鬼化】と言う名の………

 

 

「……ッガァァァァァァァァア!!!」

「っ!!」

 

 

デ・リーパーは力を呼び覚ますかの如く大きな雄叫びをあげる。そして、そのアホ毛が硬質化し、牙が生え、その上さらに暗い青色のオーラをその身に纏う。

 

これは紛れもなく鬼化。芽座椎名がこれまで幾度となく使用してきた力の象徴とも呼べる代物。

 

椎名のコピーとも呼べるデ・リーパーも当然使えるのであって………真夏は目の前の身も心も本物の鬼に、ただただ背筋を凍らせることしかできず…………

 

 

「ふうっ、ふうっ……うっふふふ、これが鬼化。Dr.Aの言う通り力が漲ってくる……!!」

 

 

力を初めて使ったのか、高揚から興奮がなかなか冷めない鬼化したデ・リーパー。そして脅威のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン07]デ・リーパー〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

 

 

「……ドローステップッ!!……見よ!!滅ぶべき人間!!これが私の鬼化!!オーバーエヴォリューション!!」

「……っ!!」

 

 

ドローステップ時、デ・リーパーのデッキが光り輝き出す。その色はとても邪悪な色。信じられない程に冷たく、深い青だった。

 

暖かく、深い赤色に光る椎名のものとは全くの正反対だ。

 

 

「…………ドローッ!!」

手札4⇨5

 

 

その輝くデッキからカードを抜き取ったデ・リーパー。当然ながらそれは自分のデッキには今までなかったカード。これからも生み出していくことになるだろう。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨7

トラッシュ5⇨0

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】(疲労⇨回復)

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】【重疲労⇨疲労)

 

 

ADR-02が回復する。そのうちの一体は重疲労状態だったため、未だに疲労しており……

 

 

「うっふふふ、メインステップッ!!ADR-02をもう一体召喚!!失われし楽園の効果で1枚ドロー」

手札5⇨4⇨5

リザーブ7⇨6

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV1(1)BP1000

 

 

場には3体目のADR-02が召喚される。とてもBPの弱いそのスピリット。しかし、それは嵐の前の静けさといったところか………これからデ・リーパーがオーバーエヴォリューションで創り上げた強力なカードを切ってくるなど、真夏でも直ぐにわかることであって………

 

 

「…データの死を司る…死神……リーパーをLV2で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨2

【リーパー】LV2(4)BP13000

 

 

地響きと共に何かが地の底で蠢く。やがてそれは地をヘドロに変え、浮き出てくるようにその巨体の姿を見せる。ヘドロのような肉体、多数の鎌。張り上げる咆哮。

 

その様はまさしく死神そのもの………

 

 

「うふふふふふ!!これが私のオーバーエヴォリューション!!こんなものまだまだほんの一端に過ぎない!!」

「……っ!!……で、でもなぁ!!でかいのが一体増えたからって5体分のスピリットを突破するなんて………」

 

 

不可能だ。

 

そう言おうとした真夏だったが、その舌が回る前に、デ・リーパーがそれを遮るかのように………

 

 

「可能ッ!!…何度も言っているけど、我らデ・リーパーはデジタルスピリットの天敵!!このデッキに勝てるデジタルスピリットなど存在しないのよぉお!!」

「……っ!!」

 

 

その笑い方はあまりにも不気味で気色悪い。だが、わかることもある。それは明らかに嘘はついていないと言うこと………

 

 

「アタックステップッ!!…行きなさいリーパー!!」

 

 

アタックの体制に入ったのか、より強く大きく咆哮を張り上げるリーパー。その風圧が真夏のスピリット達の葉をきめ細かと揺らしている。

 

そしてこの時、リーパーには強力なアタック時効果を発揮する。

 

 

「アタック時効果!!相手のデッキを8枚破棄!!」

 

「っ!!?」

デッキ25⇨17

 

 

リーパーの放つ青黒い衝撃波。それは真夏のデッキを襲い、それを一気に8枚もトラッシュへと送った。

 

その破棄されたカードの中には「スピリット」「ネクサス」「マジック」が一通り揃っており………これからがリーパーの効果の恐ろしいところだ。

 

 

「リーパーの効果!!破棄されたカードの中にスピリットカードがある時、ボイドから二つを自身に追加!!」

【リーパー】(4⇨6)LV2⇨3

 

「……!!」

 

 

コアの増加に伴い、LVアップするリーパー。

 

そして次は………

 

 

「ネクサスカード、ブレイヴカードが破棄された時、スピリット3体を疲労!!…3体の成長期スピリットを疲労!!」

 

「何やと!?」

【フローラモン】(回復⇨疲労)

【パルモン】(回復⇨疲労)

【パルモン】(回復⇨疲労)

 

 

リーパーは今一度青黒い衝撃波を放ち、今度は真夏の場の3体の成長期スピリットが吹き飛ばされる。これで一気に5体いたブロッカーが半数以下に減ったことになる。

 

だが、まだまだ悪夢は続く。

 

 

「うっふふふ、マジックが破棄されたらコスト8以下のスピリット1体を破壊………消えなさいトレントン!」

「……う、…嘘やろ……」

 

 

リーパーの体に多量に存在する鎌から放たれる斬撃波が真夏の場のトレントンをバラバラに引き裂いていく。トレントンはそれに耐えられるわけもなく、大爆発を起こした。

 

……これで真夏の場で唯一活動できるのはリリモンのみ………

 

 

「さぁ!!どうする!!」

「くっ!!…リリモン!!」

 

 

真夏は切羽詰り、リリモンにブロックの指示を送る。しかし、BPの差は一目瞭然。勝てるわけがない。

 

それでも果敢に立ち向かうリリモン。掌から緑の光線を放ち、打倒しようとするも、全く通じず、リーパーの多数の鎌で一閃……力尽き、大爆発を起こした。

 

真夏の残りライフは3。そして、デ・リーパーの残りのアタッカーも3。……終わりだ。

 

 

「2体のADR-02でアタック!!」

 

「っ!!……ら、ライフで……くうっ!!」

ライフ3⇨1

 

 

2体のADR-02は頭部のような場所から淡いビームを放ち、真夏のライフを一気に二つ破壊した。真夏のネクサスによりコアが増えるがもうそれは意味のないこと………

 

そして、これでラストだ。

 

 

「うっふふふ、最初のバトル相手にあなたを選んで良かった!!これで私は誰にも邪魔されずに進化することができた!!」

「………っ」

「ADR-01でアタック!!……恨むことな!!自分の弱さ!!無力さを!!」

 

 

翼を広げ、地面と平行に低空飛行を行うADR-01。その表情は狂気に満ちている。狙うは真夏の最後のライフ。もはや抵抗する術はない。ただそれを引き裂かれるのみ………

 

 

「……し、椎名………みんな………ごめん……っ」

ライフ1⇨0

 

 

自分は……

 

なんとカッコ悪いのだろう。意気揚々と敵に飛びかかったと言うのに、こんなにあっさり負けるなんて………

 

ずっと見てきた。親友の…椎名の逞しい背中を………ずっと憧れていた。どうやったらあぁなれるのか………真夏は最後のライフをADR-01の鋭利な爪に引き裂かれながら、涙ながらにそのことをようやく理解した。

 

そして、多大なバトルダメージにより、気を失い、その場に倒れ込んでしまった。

 

勝者は……デ・リーパーだ。狂気に満ちたそのスピリット達はバトルの終わりとともにゆっくりと消滅していく。だがまだだ。まだ予定は終わっていない………

 

 

「うふふふふふ……いただくよ…その身体!!」

 

 

デ・リーパーが倒れた真夏に向けて右手を翳すと、真夏の身体はデジタルの粒子に変換され、みるみるうちにその手の中に吸い込まれていく。

 

真夏を完全に取り込んだデ・リーパーはこれまでにない程に口角を上げ、その表情を不気味に歪めていた。

 

 

「うふふふふふ………うはははははは!!!これが普通の人間のデータ!!…なんと醜く、愚かな記憶なのだろう!!」

 

 

そう叫ぶデ・リーパー。おそらくは真夏の記憶データを指しているのであろうが、何を見ているのかは定かではない。

 

そんなデ・リーパーの前にある人物が現れる。それは彼女の生みの親であり、巨悪の根源。

 

 

「ヌフフフフ、ようやく手にしたのですねデ・リーパー……!!」

「っ!……Dr.A…!」

 

 

椎名の戦闘データを参考にして作り上げた謎の液体ですっかり若い男の姿となったDr.A。

 

彼もまたデ・リーパー同様に不気味な笑みを浮かべていた。理由はただ一つ……終わったのだ。世界を進化させる下準備が………すべて……

 

……あとは今いるこの野蛮で低俗な人間どもを根こそぎ葬り去るだけ………

 

 

「さぁ行きなさいデ・リーパァァァァア!!手始めにこの界放市の猿どもを全てデリートするのです!!」

 

 

Dr.Aがそう叫ぶと、デ・リーパーは不気味な顔のまま頷き、まるで鏡に写しているかのように次々と自身の体を分身させていく。

 

ただ、その分身体に顔はない。鬼のようなツノはあるものの、しっかりと顔があるのは本体だけだ。

 

 

「行けぇ!!我が分身達!!この世の全てをデータに書き換えるのだぁぁぁぁあ!!!」

 

 

デ・リーパーの本体がそう叫ぶと、他の分身達は一斉に散っていった。その後、界放市の人々の怒号や悲鳴が飛び交うのはすぐの事だった。

 

 

「ヌフフフ、じゃあ君は【拠点】に帰ってなさい……」

「……お前は何をするんだい?」

「私?……私も君と同じ、進化を目指すのさ……その相手は8年前からすでに決まっている……」

 

 

Dr.Aはどうやらここからまたさらに別の予定があるらしい。デ・リーパー同様にオーバーエヴォリューションを使うための相手………

 

……それは……

 

 

「ヌフフフ、待っていなさい………空野晴太……!!」

 

 

Dr.A達による界放市の進行が幕を開けた。

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【リーパー】!!」

椎名「リーパーは驚異のデジタルスピリットキラーの1体!!デッキを破棄して、その種類によって効果を変えるよ!!」


******


〈次回予告!!〉


界放市に訪れた惨状を知ることになった椎名と六月は急いで界放市に戻ろうとするが、そこにDr.Aの忠実なる僕、銃魔が現れる。銃魔は椎名との再戦を望んでおり………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「本気の本気、クリムゾンモードVSブラストモード!!」…今、バトスピが進化を超える!!


******

※次回サブタイは変更の可能性もあります。

最後までお読みくださり、ありがとうございます!!



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第83話「本気の本気、クリムゾンモードVSブラストモード!!」

 

 

 

 

 

 

 

椎名と六月はシスターマリアのBパッドで確認していた。今の界放市の有様を………

 

………街は全域を謎の青い繭のようなものに包まれていた。何かあったかはわからないが、ただ一つ言えることは……こんな芸当はDr.Aにしか、徳川暗利にしかできないということ。

 

そう思うと2人は急いで界放市に戻らなければと思考を過ぎらせた。

 

 

「……い、行かなきゃ!!」

「で、でも椎名いったいどうやっていくの!?界放市はあんな状態だから飛行機も船も出ないわよ!?」

 

 

慌ただしい様子で言葉を漏らした椎名に対し、シスターマリアが言った。その通りだ。界放市が異常を起こしているため、船も飛行機も出ることはないし、そこに止まる事もない。

 

しかし、やはりこの場で頼りになるのはこのご老人。

 

 

「なぁに!!心配するでない!!わしのボートを使えばよい!!」

「おぉ!!さすがじっちゃん!!カッコいい!!」

「おほ!!…そうじゃろそうじゃろ?……椎名、今のもう一回言ってくれんかの?…録音したいんじゃが……」

「おじさま気持ち悪いです」

 

 

まさかの自家用ボートを所持していた六月。これで界放市の港まで行くことが可能となった。

 

こんな状況でも相変わらず呑気な会話を繰り広げる3人。だが、そんな時、ある人物が目の前に現れる。それは意外で、かつ、驚異的な人物。

 

 

「……よお、楽しそうだな」

「っ!!」

「……銃魔!!」

 

 

現れたのはDr.Aの忠実なる僕、銃魔。いつものようなメガネを指先で定位置に戻しながらの登場だ。椎名達は思わずその場で身構えた。これまでも幾度となく椎名達の目の前に現れ、戦ってきた銃魔。その強さは本物であり、未だに本気でバトルしていない節もある。

 

 

「……お前さん…」

「久しぶりだな、芽座六月。まさかあんたとこうして再開できるとは思ってなかったぜ」

 

 

六月はもう知っている。銃魔は18年前に出会った少年だ。ついこの間までは徳川暗利、もといDr.Aとともに死んでしまったと思っていた。

 

あの時は本当にすまないことをしたと思っている。もう助からないとわかってからは手を指し伸ばそうとしなかったことを………だが、彼らのやろうとしていることは間違っている。それは絶対に止めなければならない。六月はそう考えている。

 

また、その真摯で険しい顔つきから、銃魔も六月の考え方をわかっている。

 

だが、今回の狙いは六月ではない。

 

 

「……俺が用があるのはお前だ……エニーズ」

「っ!!」

 

 

銃魔が目を向けた先は椎名だった。はなから六月など眼中にはない。自分がこんな島に来た理由はこれまでのようにDr.Aの命令ではない。

 

それは単純、カードバトラーならではの理由だ。

 

 

「……貴様と決着をつけたい……これから始まる本当の戦いの前に!!」

「………銃魔……」

 

 

銃魔の意志は固いとみた椎名はその場で大きく、それでいて明るく口角を上げて………

 

 

「じっちゃん、先に界放市に行っててよ!!…私は銃魔とバトルしてから行くから!!」

「っ!椎名」

 

 

Bパッドを懐から取り出して、バトルに対するやる気を露わにする椎名。完全に戦闘態勢に入っている。

 

銃魔とのバトルが危険なことなど六月もわかる。仮にもあの暗利と行動をともにしてきたのだから……だが、こうなってしまった椎名を止められないのは事実……

 

……六月は少しだけ考えると、すぐに返答した。

 

 

「……わかったわい、好きにしなさい……勝つんじゃよ」

「当然!!」

「……ほいっ!」

「っ!!」

「鍵じゃよ!!ボートは二台ある!!お前はもう一台の方に乗って来い!!」

「っ!!サンキューじっちゃん!!」

 

 

椎名を信じることにした六月。さっき約束したばかりだからだ。「一緒にDr.Aを倒そう」と。

 

椎名なら必ず自分の後を追いかけてやってくる。そう確信している。

 

 

「……じゃあ暗利によろしくのぉ、銃魔」

「……フっ」

 

 

六月は最後にそれだけを捨て台詞としておいていき、その場を去っていった。島の港に向かっていったのだ。

 

 

「……シスターはハウスに戻ってて」

「椎名………」

「ん?」

 

 

ハウスにいる子供達が心配だ。そう思っていた椎名はシスターマリアにそう告げた。

 

このまま行けばおそらく椎名はいっとき戻ってくることはないだろう。そう思ったシスターマリアは幼少の頃から見ていた椎名の大きくなった背中を見て何を思ったのか………

 

 

「……立派になったね……!!」

 

 

と言葉を漏らした。この時、椎名と過ごしていた思い出の時間が溢れ出ていたに違いない。本当は危険なところには行って欲しくはない。だが、椎名がそれを聞かないことは百も承知だ。

 

だからこそ、自分にできることはその背中を押してあげること………ただそれだけだ。

 

 

「えっへへ!!そお?…まぁ私ももうすぐ18だからね!!」

「…ふふ、…頑張ってね!!世界なんてサクッと救ってきなさい!!」

「うん!!」

 

 

そう言い残してその場を去っていくシスターマリア。椎名は親指を立てて「任せろ」と言わんばかりに強く宣言してみせた。

 

そして等々この場に取り残されたのは椎名と銃魔のみ。ようやく銃魔の望んでいたバトルが実現しようとしていた。

 

 

「茶番は済んだか?…行くぞ……!!」

「おうよ!!ぶっ飛ばしてやる!!」

 

 

2人はそう言い、Bパッドを展開、バトルの準備を瞬時に行う。そして始まる。3度目となる椎名と銃魔のバトルが……

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

草木がざわつき始める中、椎名と銃魔のバトルが幕を開ける。

 

先行は銃魔だ。

 

 

[ターン01]銃魔

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はインプモンをLV1で召喚……召喚時効果により3枚オープン」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【インプモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【クリスタニードル】×

【クリスタニードル】×

【幽騎士ナイトライダー】×

 

 

銃魔が早速呼び出したのは小悪魔のような見た目の成長期スピリット。効果によってカードをオープンするものの、対象内となるカードは1枚もなく、どれもトラッシュへと破棄された。

 

 

「……ターンエンド」

【インプモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

紫速攻のデッキパーツがふんだんに取り入れられている銃魔のデッキだが、先行の第1ターン目ではこれが限界か、早くも椎名にターンを渡した。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「よしっ!!メインステップッ!!先ずはこれだ!!…ネクサスカード、ディーアークとデジヴァイスをLV1ずつで配置してターンエンド!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

もはやお馴染みとなった椎名のネクサスカード達。それは椎名の異端なデジタルスピリットのデッキを大きく支える事に貢献している。

 

動きとしては上々のスタートだが、このターンはそれでエンドとしてしまう。次は一周回って銃魔のターンだ。

 

 

[ターン03]銃魔

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、魂鬼を召喚し、俺もネクサスカード、旅団の摩天楼を2枚配置!!…効果により2枚ドロー」

手札5⇨2⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨2

【魂鬼】LV1(1s)BP1000

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

 

やはりと言うべきか、銃魔は紫速攻のデッキには欠かせないカード達を次々と並べていく。

 

人魂ならぬ鬼魂、魂鬼が場に現れると同時に、細長く、高い摩天楼が2つ彼の背後に聳え立った。

 

 

(……っ!!あの顔……)

 

 

そしてその摩天楼の効果でドローし、銃魔がそれが何かを視認した瞬間。椎名は銃魔の表情の微かな変化に気づいた。

 

それは本当に微かな変化。目の良い椎名だからこそわかったことだ。確かに銃魔はその口角を僅かに上げた。椎名は理解した。その顔はエースをドローしたと言う安心感。この時点で引いたのだと、あの孤高の魔王を………

 

 

「アタックステップッ!!魂鬼、インプモン!!…行ってこい!!」

 

 

魂鬼が浮遊し、インプモンが地を駆ける。目指すは当然椎名のライフだ。前のターンでネクサスカードの配置に全力を注いだ椎名は守るスピリットもコアもなく………

 

 

「ライフだ!!持っていけ!!………………………あれ?」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

2体の体当たりがそれぞれ椎名のライフを粉々に砕いていく。しかし、椎名はその攻撃を受けた時、ある事に気付いた。

 

 

「……痛くない?」

 

 

そう、これっぽっちも痛みを感じなかった。これまでの銃魔とのバトルでは必ずと言っていいほどに多大なバトルダメージが発生していた。ベルゼブモンの弾丸で右肩を貫かれたのは記憶にも新しい。

 

しかし今はどう言う事なのか、普通のバトルとなんら変わらない柔らかい風が吹くだけで肉体的なダメージは一切なかった。

 

 

「今回は俺の一任でお前のところに来たからな、力を使う必要もない」

「ふ〜〜ん」

 

「ターンエンドだ」

【インプモン】LV1(1)BP2000(疲労)

【魂鬼】LV1(1s)BP1000(疲労)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

そのターンを終える銃魔。次は椎名のターンだ。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨8

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップッ!!さぁ、反撃開始だ!!ディーアークのLVを2に上げ、ギルモンをLV3で召喚!!…ディーアークの効果でカードをドローし、カードを5枚オープン!!」

手札4⇨3⇨4

リザーブ8⇨0

トラッシュ0⇨2

【ディーアーク】(0⇨2)LV1⇨2

【ギルモン】LV3(4)BP6000

オープンカード↓

【ブイモン】×

【ブイモン】×

【グラウモン】◯

【パイルドラモン】×

【マグナモン】×

 

 

椎名が反撃と称して召喚したのは真紅の魔竜、その成長期の姿、ギルモン。その効果で多くのカードを捲り上げ、その中の対象内となるグラウモンのカードを新たに手札へと加えさせた。

 

 

「いくぞ銃魔!!アタックステップ!!その開始時、デジヴァイスの効果で疲労させ、カードをドロー!!さらにギルモンの【進化:赤】を発揮させ、成熟期、グラウモンに進化!!」

手札4⇨5⇨6

【デジヴァイス】(回復⇨疲労)

【グラウモン】LV3(4)BP7000

 

 

ギルモンがデジタルコードに包まれていき、その中で進化する。やがてそれは破裂し、椎名の場に真紅の魔竜、その成熟期の姿、グラウモンが現れた。

 

 

「………真紅の魔竜……」

「グラウモンは相手の効果によってコアを取り除かれない!!」

 

 

銃魔はこの真紅の魔竜達を見て、あの時の、自分が幼少の頃の記憶を思い出していた。真紅の魔竜が、ギルモンが、グラウモンが、メガログラウモンがDr.Aの研究所で縦横無尽に暴れまわったあの時を………

 

インペリアルドラモンとの死闘を繰り広げていたあの時の事を記憶の片端から引っ張りだしていた………

 

別にそれに対して恨みを持っているわけではない。寧ろあの時の事件があったおかげで今の自分がいる。感謝したいくらいだ。ただ、Dr.Aとの関連を考えると、どうしても因縁というものが晴れないのも確かな事。

 

 

「ボーッとすんなよ!!アタックステップは継続!!グラウモンでアタック!!その効果でBP7000以下のスピリット、魂鬼を破壊!!」

「……!!」

「魔炎のエキゾーストフレイム!!」

 

 

思い出に浸っていた銃魔など気にかけることもなく、一喝するようにグラウモンでアタックを仕掛ける椎名。

 

グラウモンの口内から勢いよく放たれた一直線の炎が瞬く間に魂鬼を焼き尽くした。

 

 

「魂鬼の破壊時によりカードをドロー」

手札4⇨5

 

「グラウモンのさらなるアタック時効果!!【超進化:赤】を発揮!!完全体、メガログラウモンに進化!!」

【メガログラウモン】LV2(4)BP9000

 

 

魂鬼の破壊時効果など気にする事なく、椎名はグラウモンをさらに進化させる。グラウモンは今一度デジタルコードに包まれ、姿形を変え、再び飛び出す。

 

それはメガログラウモン。グラウモンよりもさらに巨大な体躯に加え、上部にはさらなる武装が施されているのが印象的。

 

 

「メガログラウモンは滅龍スピリット全てにコアシュート耐性を与える!!」

「………」

 

 

銃魔は魂鬼が破壊された時点でエースであるベルゼブモン を召喚する事は可能だった。が、強力なアタック時効果でベルゼブモンでさえも破壊できるメガログラウモンの存在を考えるとそれは不可能であって……

 

結果は案の定だ。召喚していたら間違いなく破壊されていた。

 

グラウモン系列のコアシュート態勢もかなり大きい。この状況ではベルゼブモンもただの召喚だ。効果が通じないのはかなりの痛手である。

 

そんな銃魔の盤面的にやり辛い状況を知るやしもなく、椎名はさらにメガログラウモンで攻める。

 

 

「メガログラウモンでアタックッ!!効果で2枚ドローし、シンボル1つ以下のスピリット、インプモンを破壊!!」

手札6⇨8

 

「……っ!!」

「原子の咆哮…アトミックブラスタァァァァア!!」

 

 

肩部の武装にエネルギーを溜め、一直線に放出するメガログラウモン。それはインプモンをとらえ、直撃させ、一瞬にして跡形もなく消し去った。

 

 

「アタックは継続中!!」

 

「………ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

銃魔を守るスピリットはどこにもいない。メガログラウモンのアタックをライフで受ける。

 

メガログラウモンの鋭利な腕部の武器の一撃が、銃魔のライフを1つ切り裂いた。

 

 

「よおっし!!良い調子っ!!ターンエンドッ!!」

【メガログラウモン】LV2(4)BP9000(疲労)

 

【ディーアーク】LV2(2)

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

怒涛の攻めを繰り出しつつ、異常な程にカードアドバンテージを稼いだこの椎名のターン。紫メタとも呼べるメガログラウモンを立ててのエンドは銃魔に対して少なくはないプレッシャーを与えたいて……

 

だが、乗り越えた修羅場の数が違うか、銃魔はその状況を理解していても平然とした涼しい表情を浮かべており………

 

 

[ターン05]銃魔

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨7

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ………俺はシキツルを2体召喚、2枚ドロー」

手札6⇨4⇨6

リザーブ7⇨3

トラッシュ0⇨2

【シキツル】LV1(1)BP1000

【シキツル】LV1(1)BP1000

 

 

折り紙の鶴のようなスピリットを合計2体召喚する銃魔。その効果でカードを1枚ずつドローする。

 

 

「アタックステップ……1体目のシキツルでアタック…!」

 

 

残りライフ3の椎名へシキツルでアタックさせる銃魔。メガログラウモンが疲労している今、1つでも多くのライフを減らしたいと考えたのか、

 

椎名は自分の手札を見て、ここは防がなければと瞬時に思い至り、手札のカードでそれを対処する。

 

 

「フラッシュマジック、リアクティブバリア!!」

手札8⇨7

 

「……!!」

 

「このアタックの終了時、アタックステップを終了させる!!…不足コストはメガログラウモンとディーアークのLVを1にして確保!!」

【メガログラウモン】(4⇨2)LV2⇨1

【ディーアーク】(2⇨0)LV2⇨1

トラッシュ2⇨6

 

 

銃魔がフルアタックを仕掛けたとしても、このターンでライフがゼロにならない椎名だが、ここでアタックステップ終了系のマジックカードを切った。

 

それには手札に理由があるのだが、今の銃魔には知れたことではない。

 

 

「アタックはライフで受ける!!」

ライフ3⇨2

 

 

上空から飛んで来るシキツルの体当たりが椎名のライフを勢いよく破壊した。

 

そしてこの瞬間、発揮させていたリアクティブバリアの効果が適応される。

 

 

「リアクティブバリアの効果でアタックステップを終了!!」

 

 

銃魔の場に吹き荒れる猛吹雪。シキツル達の身動きが取れなくなる。それは銃魔がこのターンのエンド宣言をしない限りは止む事はなく………

 

 

「………ターンエンドだ」

【シキツル】LV1(1)BP1000(疲労)

【シキツル】LV1(1)BP1000(回復)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

致し方なく、このターンはエンドとする銃魔。その宣言と共に、椎名の使用したリアクティブバリアの効果によって発生していた猛吹雪が腫れ上がった。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札7⇨8

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨8

トラッシュ6⇨0

【メガログラウモン】(疲労⇨回復)

 

 

メガログラウモンが咆哮を張り上げながら、疲労状態から回復状態となる。次はメインステップ。もう既にバトルも6ターン目なのだ。ここからの展開で大きく結果が変わってくることにだろう。

 

 

「メインステップ!!メガログラウモン、ディーアークのLVをもっかい2に上げて、グラウモンを再召喚!!ディーアークの効果でドロー!!」

手札8⇨7⇨8

リザーブ8⇨0

【メガログラウモン】(2⇨3)LV1⇨2

【ディーアーク】(0⇨2)LV1⇨2

【グラウモン】LV2(3)BP6000

トラッシュ0⇨2

 

 

場のカード達のLVを全体的に向上させると共に、【超進化】の効果で手札へと戻っていたグラウモンを再召喚する椎名。2体の魔竜が並び、それらは共鳴するように、より強い咆哮を張り上げた。

 

 

「さらにバーストをセットして……アタックステップ!!」

手札8⇨7

 

 

バーストをセットする椎名。だが、そのバーストカードはさっきの行動により、銃魔にはバレバレである。そして、彼の頭の中では既にこの場を切り崩す方法さえも存在しており………

 

 

(奴はここで必ずメガログラウモンからアタックする。カードを引きつつ、俺の場のスピリットを破壊してくる筈だ……そうなればそれに反応し、ベルゼブモンをLV2で召喚…返り討ちだ……)

 

 

メガログラウモンのアタック時の破壊効果を利用し、ベルゼブモンを召喚。返り討ちにする予定だった。メガログラウモンとグラウモン。単純にアドバンテージが獲得できるのはメガログラウモンだからだ。

 

今までの椎名だったら銃魔の予想通り、間違いなくそうしていたに違いない。

 

だが今は………

 

 

「………グラウモンでアタックッ!!」

「っ!?…なにっ!?」

 

 

あの表情をほとんど微動だにとしない銃魔がここに来て大きく動揺するように揺るがした。

 

メガロではなく、通常のグラウモンでアタックを仕掛ける椎名。これは銃魔にとっては大きな誤算。このままではある事態に陥ってしまう。

 

 

「アタック時効果でシキツルを1体破壊!!…エキゾーストフレイム!!」

「!!」

 

 

グラウモンの口内から放たれる熱き熱線。この強烈な一撃にシキツルが耐えられるわけもなく、あっさりと焼却されてしまった。

 

 

(くつ……ベルゼブモンを召喚したとして、メガログラウモンのアタック時効果で破壊されるだけ………)

 

 

そうだ。メガログラウモンがアタックして、スピリットを破壊しなければベルゼブモンを召喚できない。メガログラウモンもまたアタック時にベルゼブモンを破壊できる効果を所有しているためである。

 

メガログラウモンの持つコアシュート耐性も相まって、ベルゼブモンは手札にあっても召喚できない状況に陥っていた。

 

 

「さらにディーアークの【カードスラッシュ】の効果でギルモンのカードを破棄し、そのLV1BP、3000以下のスピリット1体を破壊!!」

手札7⇨6

破棄カード↓

【ギルモン】

 

「!!」

「もう1体のシキツルだっ!!…いけっ!!ロックブレイカァァア!!」

 

 

ディーアークの力によりギルモンを呼び出す椎名。それは走り出すと、シキツルに飛びつき、鋭い爪の一閃で引き裂いてみせた。その後、ギルモンは役目を終えたかのようにその姿を消滅させた。

 

これにより銃魔の場はガラ空き。できることと言えばそのアタックを食らうのみ……

 

 

「グラウモンのアタックは継続中!!」

 

「っ!!…ライフだ!!」

ライフ4⇨3

 

 

グラウモンの肘にある鋭利な外骨格が銃魔のライフ1つを一刀両断した。

 

 

「へへ……ターンエンドだ」

【メガログラウモン】LV2(3)BP9000(回復)

【グラウモン】LV2(3)BP6000(疲労)

 

【ディーアーク】LV2(2)

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【有】

 

 

メガログラウモンをブロッカーに立てて残し、そのターンをエンドとした椎名。銃魔にベルゼブモンの召喚を許さない、実に考えられた素晴らしいターンと言える。このままいけば完封勝利までもが目に見えてくる。

 

だが、この男、銃魔のバトルはその程度では打ち勝てない。それは次のターンでわかることだ。それと同時に次のターンは勝負を決める正念場とも言えて………

 

 

(………エニーズ…あの覚醒が奴を変えたか?……フッ、いいだろう……俺の力、見せてやる……!!)

 

 

クールな表情には似合わず、心の中ではカードバトラーとしての闘争本能を熱々と燃え滾らせている銃魔。そんな様子を見た椎名は何を思ったか、徐に口を動かしていく。

 

 

「あっはは!!…なんか銃魔、楽しそうだね!!」

「!?……楽しい……?」

 

 

椎名はそんな銃魔を見て笑った。そんな様子見て、その言葉を聞いて、銃魔は嘸かし不思議に思った事だろう。

 

敵である自分を前に高々と大きく笑うだけでもおかしな話だと言うのに、バトルを楽しく思っている?……このDr.Aという狂った科学者に忠誠を誓った男が?……信じられるものか………

 

 

「だってさぁ〜〜今考えてるでしょ?…私の場をどう崩すのかを……その顔、すっごく楽しそうだったよ!!」

「フッ、そんなバカな……それはバトルだったら当たり前の………」

「ほらほら!!その顔!!楽しそうだよ!!」

「っ!!?」

 

 

椎名に言われ、ようやく自分の感じていたものに少しだけ気がついた銃魔。しかもこの後、椎名はさらに銃魔が驚くような事を言いだしてくる。

 

 

「私が思うにさ……私と銃魔は仲良くなれると思うよ!!」

「はぁ?」

「最初あった時もなんかバトルしてるのが楽しそうだなぁって思ってたし!!……うん!!きっと仲良くなれるよ!!敵とか、味方とか、世界を壊すとか護るとか関係なしにさ!!」

 

 

目の前の少女は………

 

……今、自分に向けて何を言っているのだろうか。

 

あれだけの事をした自分を友達とでも思っているのだろうか?……仲良くなるなどあり得ない。このDr.Aと芽座六月の関係性がある限り。Dr.Aとの関係を自ら断ち切る事は出来ない。それは絶対だ。

 

 

「……お前のつまらん戯言に付き合う気は毛頭ない……バトルを続けるぞ…俺のターンからだ」

「……はは、まぁいっか!」

 

 

そんな事はありえない。そう思考を過ぎらせながら銃魔は再びバトルを進めていく。

 

 

[ターン07]銃魔

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ6⇨7

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ7⇨9

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ!!俺はインプモンを召喚!!効果のよりカードをオープン」

手札7⇨6

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨2

【インプモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【クリスタニードル】×

【幽騎士ナイトライダー】×

【旅団の摩天楼】×

 

 

重要極まりないこのターン。銃魔が初手で召喚したのは今回2体目とな?インプモン。だがその効果は失敗。全てトラッシュへと破棄されてしまった。

 

しかし、召喚時効果の当たりハズレなどもはや関係のない事……

 

……銃魔は今からこの椎名が作り上げたコアシュート対策の盤面を突破する。

 

 

「俺はさらにマジック、デッドリィバランスを使用!!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨5

トラッシュ2⇨3

 

「!!……それは!!」

 

 

紫のマジック、デッドリィバランス。基本的な扱い方は器用なタイミングで狙った相手のスピリットのみを破壊したり、能動的に自分の破壊時効果を持つスピリットの効果を発揮させたりするのが一般的だが、銃魔のデッキだとその基本的が一風変わってくる。

 

 

「効果により、俺はこのインプモンを破壊!!」

「………私はグラウモンだ……ごめん」

 

 

インプモンとグラウモンが紫の靄に包まれていき、破裂するように散って行ってしまう。グラウモンは普通に破壊されただけだが、

 

銃魔の手札ではこの瞬間に発揮可能な効果を持つスピリットが手札にはあって………椎名もそれを理解している。

 

 

「この瞬間、俺は手札のベルゼブモンの効果!!1コストを支払い召喚する!!」

リザーブ6⇨5

トラッシュ3⇨4

 

「!!…やっぱり……!!」

 

 

銃魔は自らのメインステップでエースであるベルゼブモンを効果により召喚する。

 

 

「孤高の魔王よ、百戦錬磨の力をこの世に知らしめよ!!……ベルゼブモン、LV2で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000

 

 

上空から地上へと降り立って来る何か………それが放つ禍々しいオーラは他のデジタルスピリットとは一線を画している。

 

そのスピリットの名はベルゼブモン。紫の究極体スピリットで、尚且つ、銃魔が最も信頼を置く、揺るぎないエーススピリットだ。

 

ただ、召喚時効果やアタック時効果で強力なコアシュート効果を発揮できるが、椎名のメガログラウモンによりそれが全てシャットダウンされているのは痛かったか………

 

 

「……へへ、出たねベルゼブモン!!」

「何を嬉しそうにしている」

「目の前にこんなすっごォォいスピリットが敵として立ち塞がっているんだ!!私にとってこれ程楽しい事はないよ!!」

「………そうか」

 

 

このまま椎名と会話をしていると自分の何かが壊れそうだ。銃魔は咄嗟にそう思い、椎名から目を逸らし、自分のターンをさらに前へと進めていく。

 

 

「アタックステップッ!!…行け、ベルゼブモン!!」

 

 

アタックステップへと移行し、エース、ベルゼブモンでアタックを仕掛ける銃魔。何度も言っているのだろうか通り、メガログラウモンにベルゼブモンの効果は効かない。

 

だが、銃魔のデッキはコアシュート効果が通らない程度で詰むようなデッキではない。銃魔はこのバトルの勝負を、何度もバトルしてきた椎名との決着をつけるべく、このベルゼブモンをさらに飛躍させる。

 

 

「フラッシュ!!【チェンジ】発揮!!対象はベルゼブモン!!」

「!!」

 

「この効果により、貴様のリザーブからコアを支払う!!そのコア数は3!!」

 

「……っ!!」

リザーブ3⇨0

トラッシュ2⇨5

 

 

椎名のリザーブにあるコアが紫の淡い光を纏ってトラッシュへと飛ばされていく。これも銃魔の持つ【チェンジ】を持つデジタルスピリットの力だ。

 

そして、この効果発揮後には、【チェンジ】の基本効果に則り、対象スピリットとの入れ替えだ………

 

 

「ベルゼブモン、モードチェンジ!!……ブラストモードッ!!」

【ベルゼブモン ブラストモード】LV2(3)BP16000

 

 

ベルゼブモンが進化を超える。その背には漆黒の翼が4枚、新たに生え、右手には陽電子砲が取り付き、一体化する。そのベルゼブモンに与えられた名はブラストモード。銃魔の持つ最強の切り札だ。

 

 

「……おぉ!!ブラストモード!!やっぱりカッコいいなぁ!!」

 

 

やばい状況だと言うにもかかわらず、椎名はいつものようにバトルを楽しみ、眼前に聳える強敵に武者震いしていた。

 

 

「エニーズ!!…お前が伏せたバーストは分かっている!!おそらくはライフ減少後のバースト…マリンエンジェモンあたりだろう?」

「!!」

 

 

唐突に椎名のバーストを予想し出した銃魔。だが、実際は的中していた。椎名の伏せているバーストはマリンエンジェモン。

 

前のターン、椎名がマジックでリアクティブバリアを使用した事を踏まえて考えたのだ。あの時のマジックはライフ減少後のバーストを使うためにライフを残すためのもの。そして、椎名のバーストと言えばマリンエンジェモン。簡単な推理だ。

 

 

「…図星のようだな、貴様のライフは2!!…そしてこのブラストモードはアタック時にダブルシンボルになる効果がある!!これで終わりだ!!」

 

 

ライフ減少後のバーストはライフがゼロになったら使えない。プレイヤーのライフがゼロになってしまったらバトル自体が終了するからだ。

 

それを見越して銃魔はこのターンでブラストモードを呼び出したのだ。しかも、【チェンジ】の効果で回復状態、2度のアタックが可能。これにより、椎名のメガログラウモンごと貫いてライフを破壊できる。

 

デッドリィバランスとベルゼブモンのコンボやこれまでのプレイングを含めても見事と言える。

 

だが、

 

 

「……流石銃魔だ……でも私のバトルもまだまだこれからだ!!…フラッシュマジック!!ブルーカードを使用!!不足コストはディーアークのLVを下げて確保する!!」

手札6⇨5

【ディーアーク】(2⇨1)LV2⇨1

 

「っ!?…このタイミングでブルーカード!?」

 

 

ブルーカード。それはデジタルスピリットを好きなタイミングで進化できる可能性を秘めたカード。非常に強力な効果だが、その効果発揮には運も試される。

 

デッキの上から4枚で場に存在するスピリットと同じ色を当てなければならない。今回だとメガログラウモンと同じ赤一色のスピリットが対象圏内だ。椎名はこの博打とも取れる戦法にバトルの命運を託していた。

 

 

「いくぞおおお!!…カードオープン!!」

オープンカード↓

【ワームモン】×

【スティングモン】×

【エクスブイモン】×

【デュークモン クリムゾンモード】◯

 

「っ!!」

 

 

引いた。椎名はその圧倒的なセンスでここ一番、4枚目のオープンカードで最高にして最強のカードを引き当てる。

 

 

「よっしゃぁっ!!…効果は成功、1コスト支払い、メガログラウモンをデッキの下に戻して召喚!!」

【ディーアーク】(1⇨0)

トラッシュ6⇨7

 

 

青いカードがメガログラウモンの身体を下からくぐっていく。メガログラウモンはそのカードの不思議な力により、姿形を大きく変えていく。その姿はまさしく紅い最強騎士。

 

椎名の召喚口上と共に完全に姿を見せる事になる。

 

 

「燃え上がれ聖騎士!!真なる深い赤をその身に纏い、邪悪なる者皆、照らし破れッ!!…デュークモン クリムゾンモードッ!!LV2で召喚!!」

【デュークモン クリムゾンモード】LV2(3)BP18000

 

 

そのスピリットは文字通り深い赤を見に纏う究極体の聖騎士、ロイヤルナイツであるデュークモンがさらに進化した姿、名をクリムゾンモード。椎名の持つ最強の切り札だ。

 

 

「……これがDr.Aの言っていたエニーズの最強スピリット………クリムゾンモード」

 

 

言葉でしか聞いたことのなかった銃魔はそのクリムゾンモードの姿を初めて視認した。確かに美しい。白い10枚の羽、深い赤の鎧……そのきめ細かなディテール。どれをとっても完璧だ。

 

銃魔は咄嗟に悟った。このスピリットを倒してこそ、真にエニーズに勝利した事になると………

 

 

「…ブラストモードのアタックはクリムゾンモードでブロックッ!!」

 

 

椎名のブロック宣言により、2人の最強の切り札がいよいよ衝突する。

 

先手を取ったのはブラストモード。陽電子砲の一撃を放ち、クリムゾンモードを狙うが………

 

 

「神剣 ブルトガングッ!!」

 

 

椎名がそう叫ぶと、クリムゾンモードは左手に光の力を束ねた神剣を生成、そのまま縦に振り下ろし、ブラストモードが放った一撃を断ち切ってしまう。

 

 

「BPはクリムゾンモードの方が上だッ!!いけぇ!」

 

 

白き10枚の羽でブラストモードのいる空中へと飛び立つクリムゾンモード。ブラストモードはそれを撃ち落とさんと陽電子砲で迎撃を試みるが、クリムゾンモードはその全てを紙一重で避け、そのままブラストモードの元へと近づいていく。

 

このままクリムゾンモードの神剣の一撃がブラストモードを切り裂くのかと思いきや、銃魔はまだ手があるのか、負けじと手札のカードを引き抜く。

 

 

「負けん!!フラッシュマジック……カオスドロー〈R〉!!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

トラッシュ4⇨6

 

「っ!!」

 

「この効果により、このターン、ブラストモードのBPを3000上昇、よって合計BP19000!!」

【ベルゼブモン ブラストモード】BP16000⇨19000

 

 

クリムゾンモードの神剣がブラストモードの喉元を捕らえようとした直後、ブラストモードの3つの眼はより力強く異彩なオーラを纏う。

 

そして、右手の陽電子砲でその神剣の一撃を止め、逆にクリムゾンモードを弾き飛ばした。クリムゾンモードはなんとか空中で姿勢を保つも、目を前に向けた直後、ブラストモードが目の前に存在しており、

 

そのままブラストモードの余った左手で殴られ、また飛ばされると、今度は陽電子砲の一撃を放たれる。クリムゾンモードはなんとかそれは躱すも、防戦一方、このままでは確実に破壊される事だろう。

 

 

「もうお前にマジックを使うほどのコアはない!!諦めろ!!」

 

 

椎名のフィールドとリザーブにあるコア数は合計3。クリムゾンモードに乗っているだけで全てだ。カウンターのマジックは到底打つことは叶わない。

 

……しかし、

 

 

「いや、まだだ!!まだまだぁぁぁあ!!!」

「……!!」

 

 

椎名は諦めることを知らない。手札からさらにカードを引き抜く。それはデジタルスピリットでもなければ況してや強いスピリットでもない。

 

ちっぽけなスピリットだが、ここでは……この局面を左右する重要なスピリットだ………

 

 

「フラッシュアクセル!!煌星竜スター・ブレイドラ!!」

手札5⇨4

 

「なにっ!?」

 

「このカードのアクセルは1コストの赤1軽減!!効果により、このターン、クリムゾンモードのBPを3000アップ!!…よって、そのBPは………」

【デュークモン クリムゾンモード】BP18000⇨21000

 

「に、21000だと!?」

 

 

トドメと言わんばかりに陽電子砲の一撃をクリムゾンモードに向けて放とうとするブラストモード。しかし、その瞬間、クリムゾンモードは力を高めるかのように、眼光を強く放ち、左手に持つ神剣を自分より上にあるブラストモードへと投擲し、陽電子砲を貫く。ブラストモードの陽電子砲は中でエネルギーが漏れ、神剣ごと爆発。ブラストモードはその爆発でほんの僅かに怯んでしまう。クリムゾンモードはその僅かな時間を逃さず、ブラストモードの懐に潜り込み、下に向かって顔面を殴りつけた。ブラストモードはそのまま下の地面へと叩き伏せられる。

 

 

「光爪 シャイニングクロー!!」

 

 

椎名がそう叫ぶと、クリムゾンモードは力を高めるかのように両手をクロスさせ、力強く解き放つと、その両手には新たに光の鉤爪の武器が取り付けられていた。その形やフォルムはウォーグレイモンのドラモンキラーに近い。

 

そしてそのままブラストモードの落ちた地へと猛スピードで急降下。これが最後の一撃だ。ブラストモードは迫ってくるクリムゾンモードを返り討ちにするために、立ち上がり、陽電子砲を失った右手に残った全エネルギーを集約。そのまま構える。

 

その熱きバトルを見ていた銃魔は我を忘れたかのように熱くなっていて………

 

 

「……俺の……俺のブラストモードは負けん!!負けんぞォォォォお!!」

「光爪の一撃!!……ラグナロクブレイカァァァァァァァァア!!!」

 

 

クリムゾンモードもそのままスピードを緩めることなくブラストモードに鉤爪を構え、突撃。そして空を切り裂くかのようには両者衝突、

 

互いの渾身の一撃が互いに炸裂した。

 

後ろを振り返らない両者。ブラストモードの最後の拳は届いていたのか、クリムゾンモードの右肩のアーマーに亀裂が生じていき、砕け散る。光の鉤爪もまた粒子のように流れ、消えていく。

 

だが、それ以上にブラストモードの腹部から胸部にかけて大きな鉤爪の傷跡が刻まれており………ブラストモードはそれに耐えられず、力尽き、倒れ、デジタルの粒子となってゆっくりとこの場から消滅していった。クリムゾンモードはその最後を一切振り返ることなく見届けた。

 

椎名のクリムゾンモードの勝利だ。

 

 

「………ターンエンド」

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

この状況に、いったい彼は何を思っていたのか……

 

銃魔は落ち着きを取り戻すと共にその瞳を閉じ、そのターンのエンド宣言を行った。次は見事に強敵、ベルゼブモン ブラストモードを返り討ちにしてみせた椎名のターンだ。

 

おそらく、これが最後のターンとなるだろう。

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

【デュークモン クリムゾンモード】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……全てのカードのLVを最大に!!」

リザーブ8⇨0

【デュークモン クリムゾンモード】(3⇨7)LV2⇨3

【ディーアーク】(0⇨2)LV1⇨2

【デジヴァイス】(0⇨2)LV1⇨2

 

 

LVがさらに上昇するクリムゾンモード。これで準備は万端だ。椎名はアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップッ!!クリムゾンモード……ラストアタックだ!!」

 

 

低空飛行で地面すれすれを翔けるクリムゾンモード。目指すものは当然銃魔のライフだ。銃魔はもうそのアタックを止める術はない。

 

 

「……ライフで受ける」

ライフ3⇨2

 

 

クリムゾンモードの真紅の拳が銃魔のライフを破壊する。そしてまだだ。まだクリムゾンモードの攻撃は終わらない。さらなる効果により、でこのバトルに終止符を打つ。

 

 

「クリムゾンモードのアタック時効果!!バトルの終了時、相手のトラッシュにあるスピリット3枚につき1つ、相手のライフを破壊する!!」

「…………」

「今、銃魔のトラッシュには11枚のスピリットカードがある!!よって破壊するライフは3!!……神槍 グングニルッ!!」

 

 

椎名がそう叫ぶと、クリムゾンモードは右手から光の力で神槍を生成する。そしてそれを手に持ち、銃魔に拳を向ける。そこから真紅の光のエネルギーを凝縮させ………

 

 

「神槍の一撃……クォ・ヴァディスッ!!」

 

 

一直線に発射。その一撃は回避不可の最強の技。瞬く間に真紅の光が銃魔のライフバリアの周りを包み込んで行き………

 

 

「……そうか、俺は……」

ライフ2⇨0

 

 

……楽しいバトルがしたかった。銃魔はそう心の中で言葉を呟いた。

 

銃魔はその光の中でようやく理解した。自分がこの場に来た本当の理由。それは椎名と楽しいバトルをしたかったから。体中が沸騰するような熱いバトルをするためだった。本当の戦いが始まり、それができなくなる前にやっておきたかったのだ。

 

銃魔は不思議と心の中にあった蟠りのような何かがライフと一緒に消え去って行くのを感じた。

 

椎名の熱いバトスピ魂は敵であるこの銃魔にも確かに響き、伝わり、届いていたのだ。

 

そしてその真紅の光は銃魔のライフを全て砕き切った。これにより、勝者は芽座椎名だ。クリムゾンモードとブラストモードの死闘に打ち勝ち、見事に本気の銃魔を下した。

 

 

「……いよっしゃぁ!!」

 

 

単純にバトルで勝ち、歓喜する椎名。勢いよくその両手を固め、上に掲げる。その様子を見届け、唯一場に残ったクリムゾンモードはその姿をゆっくりと消滅させていく。

 

そして、完全に消え去った後に、銃魔は椎名のところへと歩み寄り…………

 

 

「………ありがとうエニーズ………いや、椎名」

「っ!?」

 

 

銃魔は握手を求め、礼を言いながら右手を椎名に差し出した。その人が変わったような意外な行動に、椎名は一瞬だけ戸惑う。

 

 

「俺はお前の言う通り、楽しいバトルを求めていた。この身が沸騰するような熱いバトルを……決着の勝敗など、どうでも良い事だった……」

「………へへ!!私は結構最初からそうなんじゃないかって思ってたよ!!」

 

 

椎名も笑いながら銃魔が差し出してきた手と同じ手を差し出して握りしめた。椎名は敵であった銃魔と固い握手を交わした。

 

 

「……だが、俺はDr.Aを裏切る事は出来ない。次に会う時は戦場で、敵としてお前の前に立ちはだかるだろう」

「えぇっ!?なんでぇ!?」

 

 

銃魔はDr.Aを裏切ることができないわけがある。Dr.Aがどんなに凶悪で、間違っていることをしようと知っていてもだ。どうしても椎名達の味方をするわけにはいかなかった。

 

 

「椎名……お前のバトスピに対する熱い思いは飛び火し、人間兵器とも呼べるこの俺が最後の戦いの前に人間らしさを感じることができた………本当に感謝する」

「っ!!お、おい!!何勝手に1人で満足してるんだよ!!ちょっと待ってよ!!銃魔っ!!」

 

 

銃魔は今までと比べて信じられないほどに柔和な笑顔を浮かべ、感謝の言葉を述べながら、椎名との握手を離すと、島の柔らかな風と共にワームホールで姿を消した。椎名はどこかもどかしかった。せっかく銃魔と仲良くなれたのに………せっかくDr.Aから解放できたのに………

 

……結局、

 

……結局はどこかで戦わないといけないのかと思うと、どこか胸に引っかかるものがあってしょうがなかった。だが、立ち止まってもいられないのも確かであったため、椎名は六月のくれたボートの鍵を手に持ち、虚しさと悔しさに歯を食いしばりながらも島の港へと向かうのだった。




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【煌星竜スター・ブレイドラ】!!」

椎名「スター・ブレイドラは赤の0コストスピリット!!赤の1コスト1軽減でスピリットのBPをアップできるよ!!」

******


〈次回予告!!〉


時はまた少しだけ遡り、多くの分身デ・リーパーが蔓延る界放市。空野晴太はただ1人孤軍奮闘し、侵攻を食い止めていた。そんな時、彼の目の前に現れたのは界放市市長の木戸相落。彼は衝撃の事実を晴太に告げる……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「その名はエボルト、進化の頂点に立つ者」……今、バトスピが進化を超える!!


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


次回はDr.Aがバトルするのですが、結構衝撃的で面白くて、尚且つラスボス感のあるデッキだと思います!楽しみにお待ちください!!


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第84話「その名はエボルト、全ての進化の頂点に立つ者」

 

 

 

 

 

 

界放市……そこは日本におけるバトスピ学園の最高峰が合計6つも並び立っている日本バトスピ界の重鎮とも呼べる大都市。

 

だが、そんな大都市は危機に瀕していた。

 

轟音、破壊音、衝撃音。

 

飛び交う悲鳴や泣き声。逃げ惑う街の人々。その様はまさしく地獄絵図、阿鼻叫喚と言ったところ………平和だった大都市はデ・リーパーの軍団によって壊滅的な状態にあった。

 

デ・リーパー軍団はとにかく恐ろしかった。何も言わなければ破壊行動を起こし、この世界らしくバトルを仕掛ければいっときはおとなしくなるも、圧倒的な強さですぐさま倒し、また破壊行動を起こしていた。

 

しかも恐ろしいことはそれだけではない。

 

 

「ADR-02でアタック」

「ら、ライフで……う、うわぁぁァァァア!!」

 

 

無表情どころか顔がなく、どこから発しているかも知れない機械のような無機質な声色で羽の生えた最も小さいADR-02に指示を送るデ・リーパーの分身体。対戦していた勇敢な若い男性は最後の最後まで抵抗するも、デジタルスピリットの特効とも呼べるそのスピリット達の前に敗れ去ってしまう。それに最後のライフをあっさりと体当たりで砕かれた。

 

……そして……

 

 

「う、うわぁぁ!?!…な、なんだァァ!?なんだよぉ!!うわぁぁ!?!」

 

 

デ・リーパーの分身体に敗れ去った直後、若い男性はデジタル粒子に変換され、虚しい断末魔をあげながら地上から姿を消してしまった。

 

その粒子は今現在、街を覆っていこうとしている上空の青黒い壁に吸収された。それはどんどん人をデータ化し、拡大していく。大層不気味極まりなかった。

 

だが、界放市の人口が凄まじい勢いで減少していく中、この男はただ1人立ち向かい、勝ち続けていた。界放市立、ジークフリード校 教師 空野晴太だ。もはや車も通ることはない高層ビルの間の道路で多くのデ・リーパーの分身体を蹴散らしていた。

 

 

「いけぇ!!ビレフト!!バゼル!!ノヴァ!!」

 

 

晴太が3体の強力な馬型スピリット、エグゼシード達にそれぞれのデ・リーパーにアタックの指示を送る。すると、3体は一斉に駆け出し、その鋭利な一角でライフを全て貫いてみせた。

 

これにより、晴太の勝利だ。敗北したデ・リーパーの分身体達は敗北によってなのかは定かではないが、デジタル粒子となってこの場から消滅していった。

 

 

「ふぅ〜〜……ここら辺はこんなもんか……ったく!!なんなんだ急にぞろぞろと!!しかもよりにもよってこんな……全ての理事長や市長が集まる定例会議の時に限って!!」

 

 

そう愚痴を零す晴太。

 

彼の言う通り、今、最も頼りになるはずの学園の理事長や市長はいない。年に一度の定例会議に出向いているからだ。この定例会議は年に一度、春休みの時期に日本のバトスピ学園のそれぞれの心境報告を行うものだ。

 

一木聖子率いる警察も今は住民の避難に手がいっぱいだし、兎姫にも力を借りるわけにはいかないため、晴太はこうやってずっと孤軍奮闘していたのだ。

 

しかし、致し方ないが、あまりにも襲ってくるタイミングと、理事長達がいないタイミングがマッチしすぎている。晴太はこの偶然に妙な予感を感じ取っていた。

 

そんな時だ。彼の背後から聞き慣れた声色が自分を呼ぶ。

 

 

「おお〜〜い!!」

「っ!!」

 

 

ふと、晴太が振り返ると、そこにはこの界放市において、最も信頼できる存在。最も崇拝すべき存在が目の前にいて………

 

 

「…市長!!」

「やぁ!!無事で何より…!!」

 

 

そう緊張感のない腑抜けた声色の正体は、この界放市の市長、木戸相落。椎名の育て親、六月の幼馴染にして親友。Dr.Aこと、徳川暗利とも同じ関係であった。

 

 

「ど、どうしたんすか!?定例会議は!?」

「はっはっは!!そんなもの竜ノ字達に任せたよ!!街の一大事だからね!!」

 

 

歳はもう70は超えていると言うのに、その声はとても若々しく、張りがある。そんな印象もあって、これ程までに頼りになる存在はいないと、晴太は考えていた。

 

だが、次の彼が放った一言が、晴太の心の底を凍てつかせる。

 

 

「良かった、これなら百人力だ!!……じゃぁ一緒に…………」

「ヌフフフフ……それに君ともバトルしてみたかったしね〜〜空野君!!」

 

 

 

「………………は?」

 

 

思わず呆気に囚われた晴太。

 

今、市長の声色は明らかにおかしかった。優しそうな声から一変、不気味な声に転身した。それはとても耳に触り、震え上がらせるような汚い声だった。

 

だが、それ以上に気になったのは「ヌフフフ」と言う独特な笑い声………

 

この声にも笑い方にも、晴太は聞き覚え、見覚えがあって………

 

 

「ヌフフフ、何ですか空野君?…何か怖いものでも見ているような顔だよ……!!」

「………お、お前は……」

「……おや?覚えていないとでも言うのかい?……もう8年前にもなるのかな?君の友達のデッキを拝借してバトルしたじゃないか!!」

「……お前は……!!」

 

 

体中から冷や汗が止まらない。鳥肌が立ってしょうがない。間違いない。この人物はあの男だ。この世の怪事件の全ての元とまで言われている代表的なマッドサイエンティストが………

 

 

「ヌフフフ!!お気付きのようですが……私は…Dr.A!!この新たな世界を作る神だぁぁぁあ!!」

「っ!?!」

 

 

自分の顔を剥ぐ木戸相落。変装用のマスクが脱ぎ捨てられ、新たに出て来た顔は……若い顔の男性だった。Dr.Aのような焼け跡は残っているものの、彼の年齢からは到底想像もつかない顔であって……

 

 

「ど、Dr.A!?……だとしたら若過ぎる!!」

「あ〜〜これはちょっとした諸事情でこうなったんですよ〜〜」

 

 

話の次元が違う。若返ったとでも言うのか。確かに前のスピリットアイランドでの事件の報告書通り、顔には大きな火傷の跡があるが、それだけでは判別はできない。

 

 

「お前……市長にいつからなりすましていた?」

「ん?あぁ、そのことかい?…ざっと18年前さ……ヌフフフ」

「じゅ、18年!?」

 

 

例えば、18年前、あの研究所の大火事で死んだのが、徳川暗利ではなく、木戸相落だったら……それで暗利がずっと木戸相落になりすましていたとしたら……

 

……全ての事柄に辻褄が合う。

 

界放市の市長ならば、界放市に関するありとあらゆる報告が飛び交う。その情報の中で、椎名を監視していたのだ。だから修学旅行やスピリットアイランドに行った時もピンポイントで彼女らの前に立ち塞がる事が出来た。

 

 

「お、お前はその間ずっと一人二役を演じて来たとでも言うのか……!?」

「ヌフフフフフ、あぁ、界放市の市長は身を隠すにも便利な立場だったよ……本当にね」

 

 

晴太は信じられなかった。今までずっと見てきた市長が偽物だと言うことを……その衝撃的な事実を受け入れられなかった。

 

だが、目の前のものが全て現実なのだ。どう自分が解釈し、捉えようとも、決して覆ることのない真実。

 

なら、自分のすべき事はただ一つ………

 

 

「……勝負だ、市長……いやDr.A!!どうせあの化け物共もお前の産物だろ!!…俺が勝ったらあいつらを連れてここから去れ!!」

 

 

晴太は見た目が若くなったDr.Aに向けてデッキを構えながら、そう強く宣言した。Dr.Aとしては、どちらにせよ晴太とバトルする予定だったのだ。

 

寧ろこれは好都合と捉えたか、またいつものように不気味な笑い声を上げながら………

 

 

「ヌフフフフ、いいでしょう空野君!!今回は本気でお相手しますよ!!」

「行くぞ!!」

 

 

Dr.AもデッキとBパッドを取り出した。

 

2人はそのBパッドを展開と共にそこへデッキをセット。そして始まる。この界放市最強のカードバトラー、市長、木戸相落……もといDr.Aと、ただの担任教師、空野晴太のバトルスピリッツが………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが開始される。

 

先行は晴太だ。

 

 

[ターン01]晴太

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!マジック、エンペラードローを使用!!カードを2枚引き、ソウルコアの支払いにより2枚オープン!!」

手札5⇨4⇨6

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

オープンカード↓

【コレオン】◯

【ビーバン】◯

 

 

晴太が全てのコアをトラッシュへと送り、颯爽と使ったのはマジックカード。この効果により、オープンカードに皇獣スピリットは全て手札へと加えられる。今回はコレオンとビーバン。2体とも対象内のスピリットだ。

 

 

「この2枚を加えて、エンドだ!!……お前は昔兎姫ちゃんを…そして今は俺の大事な生徒達にも手を出している!!そんなお前を許すわけにはいかない!!…ここで俺がぶっ潰す!!」

手札6⇨8

 

バースト【無】

 

 

「ヌフフフフ、威勢が良いね〜〜……」

 

 

椎名達がこの男にどれだけ苦しめられたのかは晴太には痛いほどよく知っていた。スピリットアイランドでの事件。あれ以降Dr.Aの顔は世界中に知れ渡る事になったからだ。しかし、それだけでもない。紫治一族の時も、そしてオーズ一族の時も椎名達を、大事な生徒達を自分の目の見えないところでたくさん傷つけていたことがわかったのだ。晴太の溢れる怒りの感情の大きさは計り知れない。

 

どちらにせよ、8年前、兎姫を傷付けたまま何処かへと消え去ったあの時から許す気など毛頭ない。今度こそ徹底的に叩き潰す。

 

そんな気持ちもあってか、晴太は柄にもなく、それでいてらしくもなく、表情が強張っていた。

 

 

「さぁ、私のターンだ……ヌフフフ」

 

 

そんな晴太の掛けてくる圧など意に介す事なく、Dr.Aは自分のターンを進めていく。

 

そして、突如として彼のデッキから黒くて淡い色の光が湯気のように広がっていく。

 

 

「っ!?なんだその気持ち悪いのは!?」

「驚いたかい?……私はもうあの時のDr.Aではない!!…このオーバーエヴォリューションを繰り返せるこのデッキを手にしているのだからな!!」

 

 

Dr.Aは若い体になってからというもの、椎名によく似たデ・リーパーを作り、そして、さらにそれを元に自分のデッキを組んでいた。

 

それは普通のカードの束ではない。進化の力を何倍にも高めることができる特別仕様。Dr.Aが得た力と合わせて、理論上は何度もオーバーエヴォリューションを使用することが可能だ。この黒い光はその影響だ。

 

 

「……オーバーエヴォリューションを繰り返すだと………化け物が……!!」

「ヌフフフ!!……世界を変革させるには十分な力さ!!」

 

 

不敵な笑みを絶えず浮かべるDr.A。そして、いよいよ彼の、人智を超えたデッキとバトラーのターンが幕を開ける。

 

 

[ターン02]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

このドローステップ時、Dr.Aはその禍々しいデッキの上から1枚のカードを抜き取った。そのカードは当然ながら全ての人類どころか、Dr.A自身も知らない、全てを超越したスピリットカード。

 

このデッキにはそう言ったカード達の集まりと言っても過言ではないだろう。

 

 

「メインステップ!!……先ずは下準備と行きましょうかね〜〜!!…マジック、ストロングドローを使用!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨3

 

 

Dr.Aが使用したのは青属性の最も一般的なマジックと言える存在、ストロングドロー。その効果は至ってシンプル。故に強力。

 

 

「この効果により、デッキから3枚のカードを引き、その後2枚捨てる!!……ヌフフフ、これらを破棄!!」

手札4⇨7⇨5

破棄カード↓

【ゴジラ(2004)】

【仮面ライダーマッドローグ】

 

 

常にその禍々しい光を放つデッキ。Dr.Aはまたそこからカードを引く。進化を繰り返す、そのデッキから………

 

それも当然ながら信じられないほどに強力なカードばかりであって………

 

 

「ヌフフフ、良いですね〜〜よく回っていますよ〜〜…さらに私はバーストをセットし、ターンエンド!!」

手札5⇨4

 

バースト【有】

 

 

追加でバーストをセットし、そのターンを終えたDr.A。ここだけ見れば至って普通のターンだが、最初のターンでは流石にこの程度といったところか、

 

だが、デッキが完成しつつあるのは確かな事であって………

 

次は一周回って晴太のターン。最強のデッキを前にどう立ち回るか………

 

 

[ターン03]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札8⇨9

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

(何度もオーバーエヴォリューションを繰り返せるデッキ………なら長期戦は不利だ、バーストが気になるが、ここは……速攻だ!!)

 

 

晴太は考えた。カード及びデッキの進化、オーバーエヴォリューションを繰り返すことのできるデッキ。そんな人智を超えたデッキを相手に長期戦は不利。ならば最速で且つ、最短ルートで倒すしかない……と。

 

 

「メインステップッ!!俺はコレオンを1体、ハクビシンドローンを2体、ビーバンを1体召喚!!さらにネクサスカード、十二神皇の社を配置!!」

手札9⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨1

【コレオン】LV1(1)BP1000

【ハクビシンドローン】LV1(1)BP2000

【ハクビシンドローン】LV1(1)BP2000

【ビーバン】LV1(1s)BP2000

【十二神皇の社】LV1

 

 

手札の半分以上を切り、大量にカードを場に呼び出す晴太。

 

最早彼のデッキではお馴染みのデフォルメされた小さなライオン、コレオン1体、ドローンを駆り飛行するハクビシン、ハクビシンドローンが2体。そしてビーバーのようなスピリット、ビーバンだ。さらには背後に神社のようなものが出現。付近には馬のような彫刻も確認できる。

 

 

「ほお?…そんなに低コストのスピリットを抱えていたなんてね〜〜」

 

「…さらにバーストをセットし、アタックステップ!!…ビーバンでアタック!!ソウルコアが置かれているため、カードを1枚ドロー!!」

手札4⇨3⇨4

 

 

晴太の場にバーストが伏せられると共に颯爽と走ったのはビーバンだ。狙うは当然Dr.Aのライフ。

 

 

「ライフで受けよう!!貰うが良い!!」

ライフ5⇨4

 

 

コアも少ないためか、Dr.Aはあっさりとそれを承諾する。ビーバンの体当たりが彼のライフを1つ粉々に砕いた。そしてそのバーストは開かなかった。普通のデッキならば単なる事故かと思えてしまうが、このデッキは別だ。逆に怪しすぎる。

 

だが、今の晴太に考える余地はない。知りもしないカードを知ろうとしてどうする?…時間の無駄だ。そう言わんばかりに………

 

 

「続け!!コレオン!!」

 

 

コレオンにアタックの指示を送った。コレオンがDr.Aのライフめがけ走り出す。

 

 

「それもライフ!!」

ライフ4⇨3

 

 

コレオンのパンチがDr.Aのライフを1つ木っ端微塵に砕き切る。

 

 

「このまま一気に殴り続ける!!お前のライフは1だ!!」

「まぁまぁそう慌てることはない……バトルはまだ始まったばかりなのだから……!!」

 

 

2度目のアタックを受けた後、まるでこのタイミングを待ち望んでいたかのように口角を上げるDr.A。オーバーエヴォリューションの力で新たに生み出し、そして事前にトラッシュへと送っていたカードが………人智を超えたスピリットカードの1枚が今、動き出す。

 

 

「私はトラッシュに眠るゴジラ(2004)の効果を発揮!!」

「…!!」

 

「トラッシュにあるこのスピリットは自分のライフが減る時、2コストを支払い召喚できる!!」

「なにっ!?」

 

 

ゴジラ。その名を持つスピリットは非常に珍しい。古より存在する太古のスピリットの事である。時代、又はこの世界とは異なる時間軸、歴史によってはデジタルスピリットや仮面スピリットのようなタイプ分類があったのかもしれない。

 

だが、そのスペックはデジタルスピリットや仮面スピリットにも負けず劣らず高いのは確かな事だ。Dr.Aはそれがさらに強力になったスピリットを呼び出す。

 

 

「太古の神よ!!原子の力その身に宿し!!現れ出でよ!!ゴジラ(2004)!!LV1で召喚!!」

リザーブ4⇨1

トラッシュ3⇨5

【ゴジラ(2004)】LV1(1)BP10000

 

 

蠢く地の底より、咆哮を張り上げながら現れたのは黒い体に大きな尾を持つシンプルな怪獣と言った見た目のスピリット、ゴジラ。

 

だが、そこから感じられる迫力やオーラは美しくも凄まじく、神にも匹敵すると言って過言ではない。晴太は今まさしく、Dr.Aが所有するデッキの持つ大いなる力の一端を見ていて……

 

 

「………こ、これが……ゴジラ……!!」

「ヌフフフ、素晴らしい!!そしてなんと美しいのだろう!!これが私の求めていた力だ!!」

 

 

ゴジラの圧倒的な迫力に思わずたじろぐ晴太。使い手であるDr.Aは逆にその凄みに見惚れていた。それは力という名の凄みだ。どんな敵でも敵う事のない、圧倒的な………

 

だがしかし、晴太とて、この程度でモチベーションを完全に削がれるわけにはいかない。気を取られたのは一瞬だけで、直ぐに我に帰り………

 

 

「……アタックステップは続行する!!ハクビシンドローンでアタック!!」

 

 

ライフを1つでも多く破壊しようと言う魂胆か、晴太は残った2体のハクビシンドローンでもアタックを仕掛けるつもりである。エグゼシードデッキは一気にライフ2つを破壊できる特徴を持つため、戦術的には間違ってはいないが…………

 

ハクビシンドローン1体が、ドローンを器用に扱い、Dr.Aのライフめがけて飛翔した。

 

 

「ほぉ、臆せず攻めるか……だが甘い!!アタック後のバースト発動!!」

「っ!?ここでバースト!?」

 

 

Dr.Aは晴太のハクビシンドローンのアタックに合わせて、今まで微動だにとさせなかったバーストカードを勢いよく反転させる。

 

それもまた、オーバーエヴォリューションによって得た人智を超えたスピリットカードであり………

 

 

「究極体、ケルビモン(悪)!!効果によりこれを召喚する!!」

「っ!?…今度はデジタルスピリットだと!?」

 

「悪に染まりし大天使よ!!神と共に並び立つが良い!!ケルビモン(悪)!!LV1で召喚!!」

リザーブ1⇨0

【ケルビモン(悪)】LV1(1)

 

 

ドス黒い球体がDr.Aの場に静かに降り立つと、それは飛び散っていき、中から巨大な大天使の究極体デジタルスピリット、ケルビモンが現れた。その見た目はまるで肥えた道化師と言ったところで、大天使と呼ぶには似つかわしくないが、それでも究極体故に強力な力を保有している。

 

ただし、この姿は悪。本来は善の姿も存在するはずだが、Dr.Aのオーバーエヴォリューションの力による影響か、その身は悪に染まりきっていた。

 

 

「召喚時及びアタック時効果!!相手スピリット1体をBPマイナス10000!!……ヌフフ、これによりアタック中のハクビシンドローンを破壊しますよ〜〜!!……雷槍…ライトニングスピア!!」

 

「っ!?アタック中の方だと!?」

【ハクビシンドローン】BP2000⇨0(破壊)

 

 

ケルビモンは登場するなり空中から雷迸る槍を形成、謎の力でそれを空中にいるハクビシンドローンへと向けて放つ。あまりの速さに避けることは叶わず、ハクビシンドローンは貫かれ、撃墜されてしまうが………

 

 

(な、なんでだ!?…狙うならアタックしていないハクビシンドローンだっただろ!?……何か狙いがあるのか!?…)

 

 

そう思考を過ぎらせる晴太。ケルビモンの効果を使うのであれば、通常この場合、アタックしていない方のハクビシンドローンを破壊するのが正解だ。その方がより多くのスピリットを破壊できるからだ。

 

だが、Dr.Aはそれを行わず、アタック中のハクビシンドローンを破壊した。

 

何故か?……その理由は次のターンで明かされることになるだろう。ただし、そんな事、今の晴太には知るよしもなく………

 

 

「ヌフフフ!!さぁどうします?…もう1体でアタックしても良いのですよ?」

 

「っ!!……するわけないだろ……エンドだ……!!」

【コレオン】LV1(1)BP1000(疲労)

【ビーバン】LV1(1s)BP2000(疲労)

【ハクビシンドローン】LV1(1)BP2000(回復)

 

【十二神皇の社】LV1

 

バースト【有】

 

 

今アタックをすれば、本当にスピリットを無駄死にさせるようなものだ。当然行うわけがなく、結果としてハクビシンドローンがブロッカーに残ったまま、このターンを晴太は終えた。

 

次はとうとうデッキの力を使い始めてきたDr.A。だが、この程度、まだまだ序の口に過ぎない。それが今から証明される。

 

 

[ターン04]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップッ!!ゴジラとケルビモンをそれぞれLV2へアップ!!」

リザーブ6⇨0

【ゴジラ(2004)】(1⇨5)LV1⇨2

【ケルビモン(悪)】(1⇨3)LV1⇨2

 

 

コアの追加により、LVが上がるゴジラとケルビモン。それを主張するかのように大きな咆哮を張り上げ、共鳴させた。

 

 

「アタックステップッ!!ゴジラでアタック……!!」

 

 

Dr.Aはメインステップをそれだけで終わらせ、すぐさまアタックステップへと移行し、ゴジラにアタックの指示を送った。

 

鳴動するゴジラ。狙うは当然………

 

 

「ハクビシンドローン!!」

「……!?」

 

「このゴジラはいくつもアタック時効果を有している!!相手スピリット1体を指定アタックする事で、コアを増やし、回復する!!」

【ゴジラ(2004)】(5⇨6)LV2⇨3(疲労⇨回復)

 

「なにっ!?」

 

 

ゴジラが狙ったのは晴太のライフではなく、場にいるハクビシンドローン。しかもその際コアがボイドから追加で置かれ、さらにはおまけのように回復状態にまでなる。

 

まさに破壊の化身。これでは晴太の場は全てゴジラに破壊し尽くされる事だろう。

 

一方で盤面内でのバトルでは、ゴジラが宙に存在するハクビシンドローンを地面に向かって勢いよく叩きつける。あっという間に撃墜されたハクビシンドローンは呆気なく爆発を起こした。

 

そして次にゴジラが目をつけたのは………

 

 

「ヌフフフ、続いてビーバンに指定アタック……コアを置き、回復!!」

【ゴジラ(2004)】(6⇨7)(疲労⇨回復)

 

「……くっ!!」

 

 

ゴジラは次に目に入ったビーバンをあっさりと踏み潰した。ビーバンがその重量に耐えられるわけがなく、ハクビシンドローンと同様破壊された。

 

 

「そしてコレオン……コアを置き、回復」

【ゴジラ(2004)】(7⇨8)(疲労⇨回復)

 

 

ゴジラは最後に目の前で困ったようにあたふたしているコレオンを薙ぎ払った。これにより、晴太の場のスピリットは壊滅。残るはネクサスとバーストのみ。

 

これでも十分に強力過ぎるゴジラの効果。だが、まだある。これだけでは終わらない。

 

 

「ゴジラのもう1つの効果!!相手のスピリットが場から離れるたび、赤のシンボルを1つ追加する!!」

「…!!……なんだと!?」

 

「ヌフフフ、このターン、ゴジラはスピリット3体破壊した!!よってシンボルは3つ追加され……合計シンボル数4!!……さぁ、行きなさい!!」

 

 

ゴジラの青白い尾びれが真っ赤に染まっていく。それは原始の力が最大限に溜まった状態。そこから放たれるゴジラの高威力の熱線は全てを焼き尽くす。

 

 

「……赤色熱線!!」

 

 

口内から莫大な核エネルギーを一直線に晴太のライフへと放つゴジラ。もはや守る術のない晴太はそれを受けることしかできず………

 

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

ライフ5⇨1

 

 

もろに受けてしまう。そのライフが一瞬にして風前の灯となってしまった。それ相応に比例し、莫大なバトルダメージが晴太を襲い、彼に膝を突かせた。

 

 

「ヌフフフ、ちょっとしくじりましたね〜〜…思った以上に強力でした、ケルビモンは逆に召喚しない方が良かったかな?」

 

 

そう余裕のある表情を浮かべるDr.A。確かに前のターンでケルビモンを召喚せず、晴太のもう一体のハクビシンドローンを場に残していれば、さらにゴジラのシンボルが増え、一撃で終わっていたかもしれないが………

 

これは彼も新しいカードに僅かながらにも翻弄されている証拠だが、それも余りに強力過ぎるが故の事、嬉しい誤算であると言えて…………

 

 

「ハァッハァッ………ら、ライフ減少のバースト……絶甲氷盾!!」

「……!!」

 

「ライフを1つ回復し、コストを払い、アタックステップを終了させる!!」

ライフ1⇨2

リザーブ8⇨4

トラッシュ1⇨5

 

 

条件を満たした晴太のバーストが勢い良く反転し、そのライフが1つ元に戻る。そしてDr.Aの場に猛吹雪が吹き荒れ、場のスピリット達の視界を掻き消した。

 

 

「ヌフフフ、流石に粘りますね〜〜それでこそ私の最大の壁!!……いいでしょう!!ターンエンドです!!」

【ゴジラ(2004)】LV3(8)BP22000(疲労)

【ケルビモン(悪)】LV2(3)BP15000(回復)

 

バースト【無】

 

 

そのターンを終えるDr.A。その宣言と共に猛吹雪が止み、場が再び公開される。

 

次はなんとか凌ぎきるも、すでに満身創痍となった晴太のターン。しかし、その目は未だに諦めてはいない。大き過ぎる力の差を思い知った今でも大逆転を目指し、着いた膝を伸ばし、そのターンを進める。

 

 

[ターン05]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨10

トラッシュ5⇨0

 

 

「……ハァッハァッ……メインステップ!!俺はコレオンを2体召喚!!」

手札5⇨3

リザーブ10⇨8

【コレオン】LV1(1)BP1000

【コレオン】LV1(1)BP1000

 

 

晴太は手札に溜め込んでいた2、3体目のコレオンを続けて召喚。1体1体では力が弱く頼りないかもしれないコレオン。だが、複数集まれば強力なスピリットを呼び出すのに一役買う程度の力を発揮する。

 

 

「コレオンの効果!!神皇スピリットを召喚する時、そのコストを1減らす!!それが2体分!!さらに十二神皇の社の効果!!元々のコストが8以上のスピリットを召喚する時、そのコストを1減らす!!」

「ヌフフフ、成る程、これで合計3つ減ったか……!!」

 

 

Dr.Aは直感的に理解した。これから晴太が召喚するスピリットを……それは彼が持つ中でも最強のスピリット。

 

 

「いくぞDr.A!!…龍の力宿る時、全てを超越する神と化す!!…龍神皇ジーク・エグゼシード!!…LV3で召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ8⇨0

トラッシュ0⇨3s

【龍神皇ジーク・エグゼシード】LV3(5)BP26000

 

 

晴太の場に立ち昇る巨大な火柱。その中で佇むのは最強の午。最強の龍皇。炎の鬣を靡かせ、赤々と燃え滾る翼を広げ、火柱を吹き飛ばし、姿を現わす。

 

それは龍神皇ジーク・エグゼシード。晴太の持つエグゼシードの中で最も強力な効果を持つ事実上のエーススピリットだ。

 

 

「……俺はこのスピリットでお前を打ち倒す!!…アタックステップ!!ジークでアタックッ!!」

 

 

ジークを呼び出した直後、早々に攻撃を仕掛ける晴太。ジーク・エグゼシードには召喚したターンで一気に勝負を決めることができるほどの強力なアタック時効果を内包している。

 

今回もそれを発揮し、目の前の敵を完膚なきまでに敵を倒す………………はずだった。

 

 

「アタック時効果!!トラッシュにあるソウルコアをジークに置き、スピリットに指定アタック!!…………!?」

 

 

ジークの最初のアタック時効果。トラッシュにあるソウルコアをジーク自身に置き、スピリットを指定してアタックできる。

 

強力な効果であるが、今回、何故かそれが発揮できなかった。召喚する時にはしっかりとソウルコアを払い、準備は万端だったと言うのに…………

 

 

「どう言う事だ!?…なんでトラッシュからソウルコアが移動できない!?」

 

 

驚きを隠せない晴太に、Dr.Aは口角を上げ、今、いったい何が起こっているのかを口頭で説明する。

 

 

「ケルビモン、LV2、3の効果!!…相手のアタック時効果は発揮できない!!」

「っ!?」

 

 

そう言われ、晴太はケルビモンの周りを見渡してみる。ケルビモンの周りから黒いエネルギーが絶えず漏れ出しており、それが宙へと広がり、黒い霧のように全域を薄く覆っていた。

 

この黒い霧の中では晴太のスピリットが如何に強力であっても、そのアタック時効果を発揮することはできない。それは当然、この後に発揮されるはずだったジークのライフを奪う効果でもだ……

 

 

「終わりだ空野君!!…君は私に敗北し、私はこの衰退した世界を進化させ、新たな神となる!!」

「うっせぇ!!……まだバトルは終わってない!!」

 

 

だが、絶望的な状況であるにもかかわらず、晴太のその表情は未だに勝ちを諦めてはおらず、それでいて尚且つ冷静であった。

 

これも乗り越えた修羅場の数の影響なのか………晴太はこの状況を打開すべく、残り少ない手札を1枚切り、その効果を発揮させる。

 

 

「フラッシュマジック!!エグゼフレイム!!…不足コストはジークのLVを2に下げて確保!!」

手札2⇨1

【龍神皇ジーク・エグゼシード】(5⇨3)LV3⇨2

 

「っ!!」

 

 

このバトルが始まって以降、ようやくDr.Aの表情が一瞬険悪になった。それもそのはず、今から晴太が使うカードはエグゼシード専用の強力な効果を持つマジック。

 

 

「この効果により、BP15000以下まで相手スピリットを好きなだけ破壊!!……当然!!ケルビモンを破壊する!!……ジークッ!!」

 

 

マジックの影響により、蒼炎をその身に纏い、ケルビモンへと突進するジーク。ケルビモンは雷でできた槍をいくつも連射し、それを返り討ちにしようとするが、全く通じず、全てを焼き尽くされ、とうとうそれと衝突。大爆発を起こした。

 

ジークはその中でも前脚を上げ、気高く吠えていた。

 

 

「これで、アタック時効果の制限は消えた!!俺はさらにジークのアタック時効果を発揮!!フラッシュで手札にある十冠スピリット1枚をジークの煌臨元に追加する事で、相手ライフを2つ破壊し、ジークを回復させる!!」

「……っ!!」

 

「俺は手札のビレフトをジークの煌臨元に追加し、効果発揮!!……ぶちかませ!!龍神炎砲!!」

手札1⇨0

煌臨元追加カード↓

【エグゼシード・ビレフト】

【龍神皇ジーク・エグゼシード】(疲労⇨回復)

 

「ぐ、ぐぉぉぉぉぉ!!!!!!」

ライフ3⇨1

 

 

ジークの口内から放たれる莫大な大きさを誇る火炎放射。それがゴジラさえをも退き、Dr.Aのライフに直撃、一瞬にして2つが破壊される。これにより、Dr.Aのライフはレッドゾーンの1。

 

しかもジークは回復。追撃が可能。2体のコレオンも存在することから、ほぼ晴太の勝利は濃厚な状況だ。

 

 

「俺の…………勝ちだ!!ジークのアタックは継続中……いけぇ!」

 

 

晴太の場に帰ってきたかと思ったジーク。そして今一度Dr.Aのライフめがけて走り出す。肝心のスピリットであるゴジラは疲労状態。晴太の勝ちだ。

 

 

しかし………

 

……まだ終わりではなかった………

 

 

 

「ヌフフフフフフフ………ギ、ギッヒヒヒヒヒヒ!!」

「っ!?」

 

 

突然滑稽に笑い出したDr.A。負けそうになって気でも狂ったのか………晴太はそう思ったが、直感的にすぐわかった。これはそう言うわけではない。まだ何か奥の手があるのだと………

 

だがそれはいったいなんだ?……

 

 

「流石は空野晴太!!この進化した私をここまで追い詰めるとは………見事!!見事です!!」

「………」

「御礼と言ってはなんですが……お見せしましょう………私のデッキのエーススピリットを!!」

 

 

突然晴太を褒め称え始めるDr.A。

 

彼はDr.Aは心の中ではこう思っていた。やはり8年前、自分の力を覚醒させるためのバトルはこの晴太で良かったと………心の底から思っていた。

 

お陰で追い詰められ、この手札にある自分の最強のエーススピリットを召喚できるのだから………ゴジラやケルビモンなど、所詮は伏兵に過ぎない。Dr.Aの真なるエーススピリットが今、この場に堂々君臨する。

 

 

「このスピリットの効果で相手の場のコスト8以下のスピリット1体を手札に戻す!!コレオン…君だ」

 

「っ!?」

手札0⇨1

 

 

ブラックホールのようなものが2体のコレオンの前に現れ、その内の1体を脅威の吸引力で呑み込んだ。

 

これがこのスピリットを召喚するための条件。次は召喚だ。

 

 

「進化の頂点に立つ者よ!!愚かなる世界に変革をもたらすがよいィィィイ!!…仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム!!LV3で召喚ッ!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

【ゴジラ(2004)】(8⇨5)LV3⇨2

トラッシュ0⇨2

【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】LV3(6)BP13000

 

 

邪悪な黒い靄が現れたかと思うと、ゆっくりとそこから場へと足を踏み入れたのは、白いボディとこれでもかと多いディテール。仮面スピリットを名乗るにしては余りにも禍々しいスピリット………その名をエボル。仮面ライダーエボル。

 

Dr.Aの持つ、最強にして最凶のエーススピリットだ。

 

単にエーススピリットというのも彼の直感であった。これこそが切り札。最強のエースだと、不思議となぜかそのスピリットとは通ずる何かがあったのだろうか。

 

 

「……ここに来て仮面スピリットだと……っ!!」

 

 

そう驚いた言葉を漏らす晴太。無理もない。Dr.Aはこれまでゴジラやデジタルスピリット、そしてこの仮面スピリットと言う強力極まりないスピリット達を召喚し続けてきたのだから………

 

進化を続けるとは言っていたものの、こればかりは晴太の想像を遥かに超えていたと言える。

 

 

「くっ……だが、今更ブロッカーが1体増えたところで…………」

 

 

まだいける。晴太はそう思っていた。

 

が、Dr.Aの作り上げた進化を続けるデッキはこの程度でくたばるわけがなく…………

 

 

「エボルスピリットを召喚した時!!私はトラッシュにある仮面ライダーマッドローグの効果を発揮!!コストを払わずに召喚!!」

【ゴジラ(2004)】(5⇨4)

【仮面ライダーマッドローグ】LV1(1)BP5000

 

「っ!?」

 

 

エボルを守護するかのように前方に出現した黒い靄の中から現れたのは彼の尖兵、マッドローグ。紫のボディが特徴的だ。手札、又はトラッシュにある時、エボルが場に出たらコストを払わずに召喚できる効果を持つ。

 

 

「召喚時、2枚ドロー……そして守りなさい」

手札4⇨6

 

 

登場したばかりのマッドローグを、まるで囮のような扱い方でジーク・エグゼシードのアタックをブロックさせるDr.A。

 

マッドローグはジークに飛びかかるも、ジークはその大きな首を横に振り、それをあっさりと薙ぎ払う。

 

これもDr.Aの作戦だ。エースであるエボルを破壊されないための、そして尚且つドローするための………

 

 

「さらにフラッシュマジック!!絶甲氷盾!!不足コストはゴジラとマッドローグから使用!!よってマッドローグは消滅!!」

手札6⇨5

【ゴジラ(2004)】(4⇨1)

【マッドローグ】(1⇨0)消滅

トラッシュ2⇨6

 

「っ!?!」

 

 

ジークに叩きつけられたマッドローグが消滅したかと思うと、晴太の場に猛吹雪が発生。その視界を遮った。

 

これではどう足掻こうとエンド宣言を行うしか残された手はなくて………

 

 

「……くっ……エンドだ……っ!!」

【コレオン】LV1(1)BP1000(回復)

【龍神皇ジーク・エグゼシード】LV2(3)BP16000(回復)

 

【十二神皇の社】LV1

 

バースト【無】

 

 

苦渋の念を噛み締めながら、晴太はこのターンをエンドとしてしまった。その瞬間、猛吹雪はおさまるが、次はDr.Aのターン。

 

今一度人智を超えたスピリット達が晴太を襲う。

 

 

[ターン06]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

 

 

「ヌフフフ、私はこのドローステップ時!!手札にある仮面ライダーウォズの効果!!手元に置くことでその枚数をプラス1枚にする!!……その後、手札が4枚以上の時、1枚破棄」

手札5⇨4⇨6⇨5

破棄カード↓

【ストロングドロー】

 

 

また見たこともないスピリットの効果を発揮する。カードを手元に置くことでドロー枚数を稼ぐ効果があるようだが、実際はこの効果がメインなわけではない。それは後にわかることであって………

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨7

トラッシュ6⇨0

【ゴジラ(2004)】(疲労⇨回復)

 

 

疲労により硬直していたゴジラが今一度活動期限に入り、咆哮を張り上げながら復活を果たした。

 

 

「メインステップ……ゴジラのLVを2に……!!」

リザーブ7⇨6

【ゴジラ(2004)】(1⇨2)LV1⇨2

 

 

LVアップを主張するかのようにまた大きな咆哮を張り上げるゴジラ。そしてメインステップは終幕し、次なるはアタックステップ。

 

この瞬間にようやく事前に発揮させていたあの仮面スピリットの効果が解明される。

 

 

「アタックステップ!!その開始時、仮面ライダーウォズの効果!!コスト6のスピリットが場にいる時、コストを払わずに手元から召喚できる!!」

「っ!?」

 

「来なさい!!未来の仮面スピリット、その名もウォズ!!LV3で召喚!!」

リザーブ6⇨0

【仮面ライダーウォズ】LV3(6)BP12000

 

 

緑色の光が滞りなく溢れ出てくる。やがてそれは弾け飛ぶと、場には緑色を基準にした仮面スピリット……ウォズが優雅な立ち振舞いで現れていた。その仕草や様はまるでエボルを王として崇めているかのよう………

 

 

「……まだこんなスピリットを……!!」

「さぁ……フィニッシュです!!アタックステップは継続!!…行け!!その進化の力を示すが良い!!エボル ブラックホールフォーム!!アタック!!」

 

 

エボルがついに場の前戦を駆ける。目指すは当然晴太のライフだが、ここでエボルのアタック時効果が発揮される。

 

 

「アタック時効果!!相手スピリットのコア2つをリザーブに置き、さらに消滅するならばそのスピリットカードを除外する!!……コレオンをゲームから除外!!」

 

「なにっ!?除外だと!?…くっ!!」

【コレオン】(1⇨0)消滅

 

 

エボルは掌からブラックホールを発生させ、それをコレオンへと投げつける。コレオンはその中に吸収されたまま二度と姿を見せることはなかった。

 

 

「ヌフフ、アタックは継続中ですよ〜!!」

「っ!!ジークッ!!」

 

 

咄嗟にジークでブロック宣言を行う晴太。ジークが赤い翼を広げ、今一度前戦へとおどり出る。

 

ジークはエボルに狙いを定め、上空から力一杯莫大な火炎放射を放つ。だが、エボルには通じないのか、左手を翳して正六角形のビームバリアを発生させ、それで難なくその火炎放射を凌ぐ。

 

炎は効かないと見たジークは近接戦に持ち込もうと、エボルめがけ急降下するが………

 

 

「……フラッシュ!!仮面ライダーウォズのLV2、3の効果!!」

「……!!」

 

「このスピリットを疲労させる事で、ウォズを含まないコスト6以上のスピリット1体をBPプラス10000し、相手ライフ1つを破壊するッ!!」

【仮面ライダーウォズ】(回復⇨疲労)

 

「なにっ!?」

 

「対象は当然、エボル!!」

【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】BP13000⇨23000

 

「……ぐぉぉっ!!」

ライフ2⇨1

 

 

ウォズの体内から青色の光が溢れ出る。それはエボルの体内へと吸収され、彼に新たな力を宿す。そして、ウォズは薙刀のような武器から飛ぶ斬撃を放ち、晴太のライフを1つ一刀両断した。

 

これにより、ジーク・エグゼシードのBP21000。対するエボルのBPは23000………エボルが完全に超えた。

 

バトルでは飛び込んで来たジークを右手一本で押さえ込み、そのまま頭部を掴み上げ、体格差など意に介さず振り回し、地面に叩きつける。

 

さらにエボルはトドメと言わんばかりに倒れたジークへと力を溜め込んだ渾身の飛び蹴りを決める。ジークは流石に耐えることはできず、その場で爆発四散してしまった。

 

これで晴太の場にはもはやスピリット存在せず、残すは頼りにならないネクサスとライフが1つのみ………晴太の完全なる敗北だ。

 

 

「……ヌフフフ、君とのバトルはまぁ良い余興だったよ…………どうですか?絶望を味わっている気分は?」

「……へっ!!んな事、俺のライフをゼロにしてから言うんだな……!!」

 

 

晴太は敗北寸前だと言うのにもかかわらず、その顔つきは未だに希望を捨ててはいなかった。決して見栄を張っているわけではない。本気だ。本気で諦めていないのだ。

 

 

「フフ、流石は空野晴太だ……トドメだ、行きなさいゴジラ!!破壊の限りを尽くすのだ!!」

「……!!」

 

 

晴太がふと気づくと、目の前には黒い巨体を持つゴジラが存在していて………ゴジラはそのライフバリアに今にも噛み付こうとしている。

 

晴太はこの時、走馬灯と言うのか、不思議と昔の事を咄嗟に思い出した。あのエグゼシードを得てから見た夢の事を……あれは8年前の出来事の夢で、もう思い出すわけがないと思っていたのに………

 

……今思えば、やがて訪れる災害は今まさしくこれだ。自分が選ばれた………というのは、敗北寸前の今、本当かはわからない。しかし、晴太は直感的に、ある人物の顔が浮かんで来た………それは紛う事なき、芽座椎名だ。自分の大事な教え子の1人。

 

 

「……そうか、椎名………お前も………」

 

 

選ばれたのか……そう思った晴太。椎名も自分と同様、この前代未聞で空前絶後な災害を止めるために生まれたのだと………

 

晴太はそう思いながらも、その最後のライフを巨大な怪獣の大顎に噛み砕かれた。

 

 

「…………」

ライフ1⇨0

 

 

椎名………

 

………頑張れ……

 

……すまない。俺はこのざまだ。だけどお前なら………俺を超え、必ず奴に勝てる……自分を信じろ……そして不甲斐ないダメ教師の俺を………許してくれ………

 

 

 

晴太は最後にそう椎名に想いを託しながら、気を失い、身体がデジタルの粒子となって、飛び立ち、上空に広がる壁の一部になってしまった。

 

 

これにより、バトルはDr.Aの勝利。圧倒的なスピリット達のパワーで晴太を真正面から叩き潰してみせた。そのスピリット達は役目を終えたかのようにゆっくりとその場から姿を消していった。

 

 

「ヌフフフ、ありがとう空野君……君のお陰でとても良いデッキが完成したよ……!!」

 

 

Dr.Aがデ・リーパーが作った空の壁、晴太が消えた先に向かってそう言うと、彼の背後からまた別の人物の声がする………

 

……その人物は………

 

 

「おい、Dr.A………空野晴太は俺の獲物だったはずだ……」

「ん?…おやおやこれは申し訳ない事をした。そうだとも知らずに…………ねぇ、司君……!!」

 

 

Dr.Aのところにいた少年は、赤羽司。彼らに捕まって以降、行方が分からずじまいだったが、今はこうして彼らの元で動いていた…………椎名達の敵として……

 

………そこには彼なりの理由があるのだろうか?……それともただの恐怖による支配なのか?………その意見はこの時点では別れるに違いない…………

 

 

「いやはや、すまなかったよ………だったら、君には彼を倒してきて欲しいかな?」

「………っ!!」

 

 

Dr.Aが自分のBパッドで撮った写真を司に視認させる。そこに写っていたのは他でもない。司の長年の友であり、幼馴染、【長嶺雅治】だった………

 

司はほんのわずかな時間だけ苦い顔をする。

 

 

「……何か問題でも?」

「………………いや、別に…ただちょっと、あんたがこんな奴を消したいと思ってるのが意外だっただけだ」

「私に敵対する勢力は一刻も早く潰したくてね〜〜〜」

「…フンッ、お前にとって今を生きる人間どもは、顔にできたニキビと同然ってか?…まぁ俺は強くなるために俺の仕事をするまでだ………任せろ……これに成功したら俺にデ・リーパーの分身共のコントロールを半分もらえるんだろう?」

「あぁ、そうだとも……」

「フッ…………」

 

 

司はそう言って、新たに得たBパッドのワームホールの機能でそれを出現させ、その中へと姿を消し、Dr.Aのいるこの場から去っていった。

 

荒れに荒れ狂う、界放市。消えていった人々のデジタル粒子で形成されているデ・リーパーの壁が街を覆い尽くすのも時間の問題であった。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】!!」

椎名「仮面ライダーエボルは最凶の仮面スピリット!!フラッシュタイミングで、コスト8以下のスピリットを手札に戻しつつ召喚が可能で、アタック、ブロックした時にコアシュートが行えるよ!!さらにこの効果で消滅したスピリットカードはゲームから除外されるんだ!!…………そしてその名の通り、何度も進化を繰り返せる!!………かも?」


******


〈次回予告!!〉


長嶺雅治は晴太とはまた別の場所でデ・リーパーの分身体と戦っていた。デジタルスピリットへの特効効果を持つデ・リーパーデッキに対し、苦戦しながらもなんとか辛くも勝利を収め続けていた雅治。そんな彼の前に、囚われの身になっていたはずの赤羽司が現れ………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「帰って来い」…今、バトスピが進化を超える!!


******


※次回サブタイは毎度ながら変更の可能性があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


今回のサブタイトルはエボルトでしたが、これは後々登場するであろう進化系の名称も考慮してのことです。

因みに、Dr.Aのデッキは常に心象描写の通り、永遠に続くオーバーエヴォリューションの力により、常に禍々しい黒い光を放っています。故に、【毎ターンオーバーエヴォリューションを無言で繰り返しています】

ゴジラ(2004)は今年の9月下旬に発注されるプレバンの新規です。


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第85話「帰って来い」

 

 

 

 

 

続くデ・リーパーの分身体達による進軍。逃げ惑う街の人々は皆ほとんど姿をくらましていた。

 

この時点で、人々は合計3つに分断されていた。

 

1つは避難所に避難した者達、

 

1つは避難に遅れ、襲われ、又はバトルで敗北し、街を覆う不気味な障壁の一部と化してしまった者達。

 

最後は今もなお、デ・リーパー達とバトルしている者だ。今となってはデ・リーパーの分身達によって殲滅してしまったが、それでも長嶺雅治はたった1人、デ・リーパーの分身達と戦い、ダメージを追いながらも勝ち続けていた。

 

 

「いけっ!!シャッコウモン!!……アラミタマ!!」

 

 

土偶のような見た目に白い翼の生えた黄色の完全体スピリット、シャッコウモン。雅治の使役するスピリットの1体だ。

 

そのシャッコウモンがトドメと言わんばかりに両目から赤いレーザーをデ・リーパーの分身体に向けて照射。それを最後のライフごと焼き尽くした。それに伴ってか、デ・リーパーの分身体はデジタル粒子と化して頭からゆっくりと消滅していった。

 

 

「ハァッハァッ、……ぜ、全部倒せた……」

 

 

驚異のデジタルスピリットキラーの効果を持つデ・リーパーに息を切らしながらも、なんとか勝利を収める雅治。

 

頭の良い彼にはなんとなくわかっている事ではあったが、この者達には必ず本物がいて、そいつが一番強い。

 

だが、肝心のその本体らしき者がどこにもいないことに、雅治は不気味さを感じて取っており………

 

 

「………こんな時、司がいれば………」

 

 

一緒になんとかできていたはず………そう考えていた雅治。その司は今、おそらくこの事件の首謀者であるDr.Aに連れ去られていて行方不明。

 

心配な事は他にもある。緑坂さんや、夜宵ちゃん、そして他のみんなはしっかりと避難できたのだろうか?……椎名は島にいるのだろうか?………と、

 

不安な感情を押し殺しながらも息を回復させる雅治。

 

そんな時だ。彼の横から、聞き慣れた声が聞こえて来た。それは本当に昔も昔、幼少の頃よりずっと耳にしていた幼馴染の声。

 

 

「……よお、お疲れのようだな?………雅治」

「っ!!……つ、司!!」

 

 

その声主は他でもない、赤羽司だった。いつものようなぶっきらぼうな表情のまま話しかけて来た。

 

 

「ぶ、無事だったのか!!良かった!!」

「………」

「!?……ど、どうしたんだよ………なんでなにも言わないんだよ!?」

 

 

この時の雅治の安堵の気持ちは計り知れなかった事だろう。何せ、自分の人生の片割れとも呼べる存在が、こうして堂々と生きていてくれたのだから………

 

だが、そう思うのも束の間、雅治は自然と感じ取った。司が何か変だということを………決して久し振りに会ったからと言うわけではない。

 

もっとこう………

 

……何かに穢れを与えられたかのような………自分を見下しているような………そんな感じだ。

 

それを感じ取った雅治は途端に今一度司の目の前で表情を固めてしまう。そんな彼の様子を見て、司は不気味な角度で口角を上げ………

 

 

「単刀直入に言おう、雅治………もうすぐ世界はDr.Aのものになる……!!」

「な、なんだって!?」

 

 

司の言葉に、思わず驚いてしまう雅治。しかし、決して、Dr.Aが世界を手にする事に全て驚いているわけではない。ここで一番の問題なのは、司が現れ堂々とそんな事を言っている事だ。

 

この態度、立ち振舞い、言葉使い、雰囲気…………間違いない………司は………

 

赤羽司は………

 

 

「俺はあいつが創る、進化した新しい世界へと向かう……!!」

「っ!?」

 

 

寝返った。

 

しかもあんな最低最悪のマッドサイエンティストなんかに………雅治はこの事実が受け入れられず……

 

 

「どう言う事だ司!!あんな奴のとこにはいかないって散々言ってただろう!?」

「………気が変わった……俺はあいつから力を授かり、新しい世界で、めざし……いや、エニーズに勝つ!!」

「ば、馬鹿言うな!!…そんな力で椎名に勝ったって意味がないのを知らない君じゃないだろ!?」

 

 

スピリットアイランドではあれほどDr.Aからのスカウトを断り続けていたと言うのに………なんで今になってそんな事を言い出したのか………気が変わっただけという理由では到底理解はできない。

 

 

「あぁ、馬鹿言ってるさ……だからお前はさっさと尻尾を巻いて、恥を晒しながら逃げるんだなぁ!!」

「………司……!!」

 

 

本気だ。司は本気の目をしている。本気で何かをやり遂げようとしている目だ。こうなった司は誰にも止められない事を雅治は知っている。

 

だが、今ここで……誰かがDr.Aを……司を止めなければならないことは明白。雅治は少し前で決断していた。もう椎名には頼らず、自分の力だけでどうにかすると………

 

その決意が今、試される時だった…………

 

 

「……バトルだ司………僕とバトルしろ……その目を覚まさせてやる!!」

「ほお?…俺に喧嘩を売るか雅治…お前が俺に勝てた試しはないはずだぜ?」

「今は違う!!…昔のままの僕だと思うなよ!!」

「フッ……やる気はあるようだが、デ・リーパーの分身体……あの顔の無い化け物共がうろついている間、この街はバトルで負けた者をデータ化し、あの壁に吸収させる……それでもお前は………」

「やる!!」

 

 

朱雀である赤羽司にバトルを申し込む雅治。彼とバトルするのは何年振りになるだろうか………

 

今、この街はデ・リーパーによって汚染され、バトルで負けた者は皆あの青い壁に吸収される。この壁が完全に街を覆う時、この街はDr.Aの新たな拠点となり、彼は界放市以外の街、国を順に滅ぼして行くつもりなのだ。

 

だから先ずは界放市の人間達を順に消して行く計画なのだ。

 

 

「あいつら、デ・リーパーって言うのか……僕も今日、散々あいつらに負けて壁に吸収される瞬間を見てきたけど、分身体って事は本体がある………つまり、その本体を倒せば吸収されたみんなは元に戻るはずだ……!!」

「…………!!」

「図星………みたいだね?」

 

 

雅治のこの推理は当たっていた。確かにデ・リーパーの顔のある本体をバトルで倒して仕舞えばこの街は元に戻り、吸収された者達は皆解放される。司はDr.Aのところにいたことから、この事は認知しており………

 

 

 

 

相変わらず頭だけは良い奴………大人しく逃げていれば良いものを…………

 

司は雅治に対してそう思い、不機嫌な表情になりながらも、バトルに対するやる気を見せるかのようにBパッドを懐から静かに取り出した。

 

 

「……ようやくやる気になったみたいだね……今日こそは君を倒す、そして帰って来い……司ぁ!!」

「吠えるな、うるせぇ………どうしても逃げないって言うなら……今ここで俺がお前に引導を渡してやる……!!」

 

 

2人はそう言い合いながらもBパッドを勢いよく展開し、バトルの準備を行う………

 

……そして2人の不毛な戦いが幕を開ける。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルが開始される。

 

……先行は司だ。

 

 

[ターン01]司

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ……俺はホークモンを召喚!!…効果によりカードを3枚オープン」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【シンフォニックバースト】×

【絶甲氷盾】×

【アンティラモン(デーヴァ)】×

 

 

司が颯爽と呼び出したのは、小さな赤い鳥型の成長期スピリット、ホークモン。

 

だが、その効果は失敗に終わる。オープンされた3枚のカードは皆トラッシュへと破棄される。

 

 

「……ターンエンドだ」

【ホークモン】LV1(1)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとする司。次は雅治のターンだ。司を知り尽くしている彼はどう動くのか………

 

 

[ターン02]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップッ!!……僕はパタモンを召喚、効果によりカードを2枚オープン!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

【パタモン】LV1(1)BP1000

オープンカード↓

【イエローリカバー】×

【エンジェモン】◯

 

 

雅治が呼び出したのは小さな黄色の成長期スピリット、パタモン。そしてその召喚時効果も成功、雅治は新たに成熟期スピリットのエンジェモンのカードを加えた。

 

 

「……お前にしては運が良いじゃねぇか……」

 

「前の僕とは違うと言っただろう!!…僕はさらにペガスモンの【アーマー進化】を発揮!!対象はパタモン!!」

手札4⇨5

 

「……!!」

 

 

手札に加えた直後、雅治は別のカードに手を伸ばし、それを使用する。

 

 

「1コストを支払い、天翔る希望…ペガスモンをLV1で召喚!!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

【ペガスモン】LV1(1)BP5000

 

 

パタモンの頭上からデジメンタルと呼ばれるアーマー体の元のようなものが投下される。パタモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化を遂げる。新たに現れたのはペガサス型のアーマー体スピリット、ペガスモン。

 

 

「ペガスモンの召喚時及びアタック時効果!!…相手スピリット1体をBPマイナス3000!!……0になったら破壊する!!…対象はホークモンッ!!」

「…!!」

「…シルバーブレイズ!!」

 

「……ちぃっ!!」

【ホークモン】BP3000⇨0(破壊)

 

 

ペガスモンは登場するなり、額から銀色の光線をホークモンに向けて放ち、貫く。ホークモンはそれに耐えられず、倒れ、爆発を起こした。

 

 

「アタックステップッ!!ペガスモンッ!!」

 

「くっ、ライフだ………ッ」

ライフ5⇨4

 

 

ホークモンが消えたところでアタックステップへと移行する雅治。ペガスモンはその翼で飛翔し、強烈な前脚の一撃を司のライフへと叩きつけ、それを1つ砕いた。

 

 

「……ターンエンド……」

【ペガスモン】LV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

司のデッキの中心となるであろう成長期スピリットであるホークモンを倒しつつ、ライフを削り、なかなか上々なターンを行った雅治。

 

司は出鼻を挫かれたここからどう動くか………

 

 

[ターン03]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ……俺はネクサス、朱に染まる薔薇園をLV2で配置!!…さらにバーストを伏せ、エンド」

手札5⇨3

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨5

【朱に染まる薔薇園】LV2(1)

バースト【有】

 

 

ようやく司のデッキも回り始めて来たか、いつも通りのネクサスカード、朱に染まる薔薇園を配置する。彼の背後に朱い薔薇がこれでもかと咲き誇った。

 

コストの大きいこのネクサスカード、配置するターンはどうしても隙が生まれる。司はそれをカバーするためか、共にバーストも伏せた。

 

次は再び雅治のターンだ。

 

 

[ターン04]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

【ペガスモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップッ!!僕はパタモンをLV2で再召喚し、効果を発揮!!」

手札6⇨5

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

【パタモン】(3)BP2000

オープンカード↓

【サンクチュアリバインド】×

【アルマジモン】×

 

 

今一度召喚されるパタモン。しかし、2回目となるその効果は失敗に終わる。だが、それでも構わない。雅治はそう言わんばかりに司のライフを攻め立てて行く。

 

 

「バーストを伏せ、アタックステップッ!!その開始時にパタモンの【進化:黄】を発揮!!手札に戻し、成熟期スピリット、エンジェモンをLV2で召喚!!」

【エンジェモン】LV2(3)BP7000

 

 

パタモンがデジタルコードに巻き付けられ、その中で姿形を大きく変化させる。やがてそのコードは弾け飛び、新たに現れたのは、天使型の成熟期スピリット、エンジェモン。

 

 

「アタックステップは続行!!…いけぇ!エンジェモン!」

 

「……ライフだ……ッ」

ライフ4⇨3

 

 

白い翼で飛翔するエンジェモン。司は守るものがないため、そのアタックを受け入れる。飛翔するエンジェモンの光を纏わせた拳の一撃が、また彼のライフを1つ砕いた。

 

だが、司は防戦一方のこの状況を打破すべく、事前に伏せていたバーストを発動させる。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!…イビルフレイム!!」

「!!」

「効果により、シンボル1つのスピリット2体を破壊!!…エンジェモン、ペガスモンを破壊する!!」

 

 

雅治の場に突如現れる邪悪な炎。それがエンジェモンとペガスモンにまとわりつき、やがて焼き尽くした。

 

 

「……だから言ったろ?……お前じゃ俺には勝てねぇ、何度も言わせんな……!!」

 

 

子供の時からそうだった。

 

いつもバトルの腕を比べ、いつも勝敗を競い合っても結局最後に勝つのはいつも司………

 

……だけど……

 

 

「君も何度も言わせるな…今日の僕は違う!!……破壊後のバースト!!」

「!」

 

 

今回は違う。絶対に負けない。いくら司に敗者のレッテルを貼られようとも、いくらスピリットを破壊されようとも、最後には絶対に勝ってみせる。

 

雅治はその意思を右手に込め、バーストを勢いよく反転させる。そのバーストカードは司を驚愕させるほどの強烈な一手。

 

 

「姫銃−雅−!!」

「!」

 

「この効果により、破壊されたコスト5以下のスピリット、エンジェモンを再召喚し、このカードを直接合体!!」

リザーブ4⇨0

【エンジェモン+姫銃−雅−】LV3(4)BP13000

 

「なにっ!?」

 

 

雅治の場に現れる光の球体、その中から銃身が蝶のような形が象られている銃、姫銃−雅−を手に、イビルフレイムの効果で破壊されたエンジェモンが飛び出し、復活を果たした。

 

 

「エンジェモンで……再度アタック!!…雅との合体により、そのシンボルは2つ!!」

 

 

エンジェモンが雅を構え、そこに自身の光の力を込め、強烈な弾丸を司に向け、放つ。

 

それは真っ直ぐに、最短ルートを突っ切って………

 

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

ライフ3⇨1

 

 

司のライフを2つ撃ち抜いた。彼のライフは一気に風前の灯とも呼べる状態に陥ってしまう。司は多大なバトルダメージにより、思わず膝をついてしまう。

 

 

「…どうだ……どうだ司ぁぁぁぁあ!!!」

【エンジェモン+姫銃−雅−】LV3(4)BP13000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

このターンに自分は強くなったと、確かな手応えを感じつつ、雅治はこのターンをエンドとした。

 

司のカウンターをよみ、さらにそのカウンターを利用して追撃を仕掛け、司のライフを一気に残り1までに追い込んだ。

 

 

「……この……雅治……テメェッ!!」

「フッ、そうやって直ぐに頭に血が昇るは君の悪い癖だよ、司」

 

 

司は雅治に怒りを剥き出しにしながらも、そのついた膝を上げる。

 

 

「いいぜ、ここからは完膚なきまでにテメェを叩きのめす!!」

「やれるものならやってみろ!!」

 

 

完全に本気モードになった司のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン05]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップッ!!…俺はイーズナ、そしてハーピーガールを3体連続召喚する!!」

手札4⇨0

リザーブ9⇨0

【イーズナ】LV1(1)BP1000

【ハーピーガール】LV1(1)BP3000

【ハーピーガール】LV2(2)BP4000

【ハーピーガール】LV2(2)BP4000

 

「なにっ!?3体だって!?」

 

 

司は溜まっていた全ての手札のカードを投げ、合計4体のスピリットを召喚する。イタチのような見た目のイーズナ、体が所謂鳥人間となっている少女のスピリット、ハーピーガールだ。

 

司とのバトルで、今まで何度も見てきたスピリットたちだが、このハーピーガールが3体並ぶ事はそうそうなく……

 

……この多量展開は司の逆襲を表すには十分過ぎる行動であって………

 

 

「アタックステップッ!!…4体のスピリットでアタックッ!!……消え去れぇぇえ!!」

 

 

4体の獣のスピリットたちが宙を飛び、地を駆ける。前のターンで限界までアタックした雅治はそのアタックをライフで受けるしかなく………

 

 

「ら、ライフだ!!……ッ、ぐっぅぅう!!」

ライフ5⇨4⇨3⇨2⇨1

 

 

ハーピーガール3体とイーズナが鋭い爪で、雅治のライフにこれでもかと傷跡を残す。そのライフは一気に割れていき、司同様、ギリギリの1となってしまう。

 

しかも、しかもだ。司は何も考えなしにアタックしていたわけではない。これについてはもはや説明するまでもないだろう。

 

 

「ハーピーガールの【聖命】!!ライフを1つ回復!…さらに朱に染まる薔薇園LV1効果で1枚ドロー……それを三度行う……!!」

ライフ1⇨2⇨3⇨4

手札0⇨1⇨2⇨3

 

「くっ……!!」

 

 

あれだけ苦労して砕いたライフが一気に全快近くまで回復していく、しかも無くなった手札さえ補っていく。これが朱雀、赤羽司。

 

圧倒的なプレイング、引きの強さを駆使し、勝利を華麗に奪い取る。

 

 

 

「……ターンエンド」

【イーズナ】LV1(1)BP1000(疲労)

【ハーピーガール】LV1(1)BP3000(疲労)

【ハーピーガール】LV2(2)BP4000(疲労)

【ハーピーガール】LV2(2)BP4000(疲労)

 

【朱に染まる薔薇園】LV2(1)

 

バースト【無】

 

 

司は圧倒的なライフ差を逆に広げてそのターンを終える。次はライフ1まで追い込まれた雅治のターン。

 

逆転されてもなお、彼は勝つ可能性を捨てずにバトルへと臨む。

 

 

[ターン06]

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨7

トラッシュ2⇨0

【エンジェモン+姫銃−雅−】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップッ!!僕はもう一度パタモンを召喚!!効果発揮!!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨3

トラッシュ0⇨1

【パタモン】LV2(3)BP2000

オープンカード↓

【アルマジモン】×

【パタモン】×

 

 

本日三度目のパタモン。しかし、その効果はまたもや失敗に終わる。だが雅治の手札には既にきて欲しいカードは出揃っている。

 

これさえあればこのバトル、必ず朱雀、赤羽司を倒せると確信を持っていた。

 

 

「アタックステップッ!!僕はエンジェモンでアタック!!アタック時効果で相手スピリット1体をBPマイナス7000し、0になったら破壊!!ハーピーガールを破壊する!!……ヘブンズナックル!!」

 

「ちぃ……!」

【ハーピーガール】BP4000⇨0(破壊)

 

 

このターンのアタックステップ早々、エンジェモンの拳から光の鉄拳が放たれる。それは司の場にいるハーピーガール3体のうち1体に命中。ハーピーガールは吹き飛ばされ、爆発した。

 

さらにこれだけではない。雅治はその手を緩めることなく司をとことん追い詰めていく。

 

 

「そしてその効果、【超進化:黄】を発揮!!…エンジェモンを手札に戻し、完全体を召喚する!!…この時、合体している雅も一緒に手札へと戻す!!」

手札4⇨5

 

「っ!!」

 

 

エンジェモンにデジタルコードが巻きつけられる。その中でエンジェモンは姿を変えていく。それはより大きな大天使へと成長する。

 

 

「…来い!!……ホーリーエンジェモンッ!!」

【ホーリーエンジェモン】LV3(4)BP14000

 

 

デジタルコードを解き放ち、新たに現れたのはエンジェモンをさらにグレードアップさせたかのような大天使型の完全体スピリット、ホーリーエンジェモン。

 

これは司と知らない雅治のスピリットだ。そのことから最近得たことが理解できる。

 

 

「……そいつは……」

 

「僕の新しいスピリットだ!!……アタックステップ継続!!ホーリーエンジェモンでアタック!!その効果で僕のライフ1つを回復し、スピリット1体をBPマイナス12000!!…0になったら破壊!!…2体目のハーピーガール!!」

ライフ1⇨2

 

「……っ!!ライフを回復だと…!?」

【ハーピーガール】BP4000⇨0(破壊)

 

 

ホーリーエンジェモンの右手に装着されている剣。ホーリーエンジェモンはそれを横一閃に振り、光の斬撃を飛ばす。それは司のハーピーガール1体に届き、それをいとも容易く切り裂いた。

 

そして二の次と言わんばかりに、雅治のライフが閃光を浴びて回復を果たす。

 

 

「アタックは継続中っ!!」

 

「……ライフだ……ッ」

ライフ4⇨3

 

 

ホーリーエンジェモンは聖なる翼で司のライフめがけ飛翔し、それもまたその剣で縦一線に切り裂いた。

 

 

「パタモンでもアタック!!」

 

「そいつもだ……ッ」

ライフ3⇨2

 

 

パタモンの体当たりもまた司のライフに炸裂。そのライフを1つ破壊した。これにより3つの差があったライフも、お互い2のいいぶんとなる。

 

 

「……ターンエンドだ」

【ホーリーエンジェモン】LV3(4)BP14000(疲労)

【パタモン】LV2(3)BP2000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとする雅治。次は司のターン。残り2つの彼のライフを打つべくターンを進行する。

 

 

[ターン07]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ6⇨7

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ7⇨10

トラッシュ3⇨0

【イーズナ】(疲労⇨回復)

【ハーピーガール】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……スピリットのLVを上げ、バーストをセット……」

手札4⇨3

リザーブ10⇨6

【イーズナ】(1⇨3)LV1⇨3

【ハーピーガール】(1⇨3)LV1⇨3

 

 

スピリットのLVを上げ、パワーアップさせると同時に、また新たなバーストをセットする司。不思議とそのカードはこれまでにないくらいに不気味であり………

 

 

「アタックステップッ!!……いくら強力なスピリットを召喚しようが、疲労してたら使いもんにならねぇよな!!……ハーピーガールでアタック!!アタック時の【連鎖:赤】の効果により、BP3000以下のスピリット、パタモンを破壊する!!」

「っ!!」

 

 

羽を広げ、飛翔するハーピーガール。そしてその口内から渦巻く炎を放ち、雅治の場にいるパタモンを焼き尽くした。この時、LV2、3のスピリットでブロックされない効果も発揮されているが、回復状態のスピリットがいない雅治の場にとって、そんな効果は大して関係なく………

 

 

「こいつとイーズナのアタックで終わりだ……!!」

 

 

雅治の残りライフは2。計算的には確かにフルアタックでゲームエンドとなる。だが、こうなることなど予想済み。

 

雅治はさらなる奥の手をその手札から引き抜く。

 

……それは新たなる自分のエーススピリット。

 

 

「そう来るのは読んでいた!!…フラッシュ、【煌臨】を発揮!!対象はホーリーエンジェモン!!」

リザーブ6s⇨5

トラッシュ1⇨2s

 

「っ!!……お前が煌臨だと!?」

 

 

司の記憶の中では、雅治のデッキに今まで煌臨を持つカードはなかった。何が出てくるのかも未知数だ。

 

ホーリーエンジェモンが高度かつ上質な光の中に包まれていき、その中で姿をより高貴な存在へと大きく進化させていく。

 

 

「暗黒さえをも光に変える最高峰の熾天使!!……究極進化ぁぁあ!!」

手札5⇨4

 

 

やがて、その光の中のスピリットはそれを弾け飛ばし、場へと君臨する。その存在はまさしく最高峰の熾天使。

 

……その名は………

 

 

「セラフィモンッ!!」

【セラフィモン】LV3(4)BP14000

 

 

青き聖鎧を纏い、光の翼を広げ、雅治の場に現れたのは、黄色の究極体スピリット、セラフィモン。熾天使型のデジタルスピリットで、天使型では右に出るものはほとんどいないだろう。

 

これが雅治の新たなエーススピリット、Dr.Aとの戦いに備えて、ホーリーエンジェモンと共に揃えた強カードだ。

 

 

「……お前が究極体を………!!」

「まだまだ、驚くのはまだ早い!!……セラフィモンの煌臨時効果!!煌臨元にある黄色の完全体スピリットを手札に戻す事で、相手スピリット全てのBPをマイナス10000する!!」

「なにっ!?」

 

「僕はホーリーエンジェモンを手札に戻し、司、君の場のスピリットを一掃する……!!」

手札4⇨5

 

「……っ!?」

【イーズナ】BP3000⇨0(破壊)

【ハーピーガール】BP5000⇨0(破壊)

 

 

登場するなり、セラフィモンは高貴なる光をこの場に解き放つ。その中に取り込まれたハーピーガールとイーズナは塵一つ残らないくらいに分解される。

 

この効果により、司の場のスピリットは全て破壊され、全滅した。更地になった場が、寂しげな雰囲気に包まれる。

 

 

「……どうだ……司……!!」

 

「っ!!…………エンドだ」

【朱に染まる薔薇園】LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

セラフィモンの強力な煌臨時効果によって、何もできなくなった司は堪らずこのターンをエンドとしてしまう。

 

そして、ターンは再び流れをつかんだ雅治へと渡り………

 

 

[ターン08]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨8

トラッシュ2⇨0

【セラフィモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……なぁ司……」

 

 

このターン、息も尽くせぬ攻防を繰り返してきた2人のバトルもようやく終わりが見えたこのターン。

 

雅治はバトルの最中でゆっくりと自覚し、気づいたことを、この緊張感の中で司に投げかける。

 

 

「……君は……敵になったふりをしようとしている……!!」

「っ!?」

 

 

雅治の言葉に、驚くかのように目を丸くする司。

 

 

「図星か………相変わらず、君は意外とわかりやすいよね……」

「…………」

 

 

言葉を並べる雅治。司はこの点に関しては何もいいたくはないのか、口を噤む状態が続く。

 

 

「Dr.Aはあの時、君が椎名の鬼化を見たって言ってた、多分修学旅行、剣総って奴と戦った時だ……君はその時、剣総を倒した椎名を見て劣等感を覚えた………違うかい?」

「…………」

 

 

その通りだ。

 

あの日、あの時、あの瞬間、

 

めざしの強さに嫉妬した。進化を、オーバーエヴォリューションを繰り返す力が羨ましかった。

 

自分の方が上だと思っていたかった。界放リーグで奴に勝った時のように、まだ勝てると思っていた。

 

 

「そして、それを証明しようとしたスピリットアイランドのアイランドリーグの時に、Dr.Aが現れて、椎名の正体と素性を知った…………」

「…………何が言いたい?」

「つまり、君は先ず、Dr.Aを倒そうとしている!!一度彼らの味方について倒す機会を伺っている!!そしてその後で!!……君は椎名との決着を望んでいる………そうなんだろう?……それが今の君なんだろう!?」

「…………」

 

 

雅治のこの突飛な推理は……

 

果たして的中しているのかしていないのか、それは司がその口を閉じている限りは定かではない。

 

しかし、司の性格上……間違っていたら必ずと言っていい程に否定してくる。

 

それが無いと言うことは…………これもまた図星………なのかもしれない。

 

 

「………お前の馬鹿げた推理なんかどうでもいい……!!………さっさとターンを進めろ!!」

「…………わかったよ……」

 

 

長年、朱雀、赤羽司と行動を共にしてきた幼馴染の雅治は、この瞬間、

 

自分の考えを否定されたはずなのに、不思議と彼と心が通じ合えた気がした。

 

そんな気がした。それだけは確かなことだと胸に刻んで、自分のターンを改めて進める…………

 

 

「改めてメインステップ!!……僕は手札のブレイヴ、姫銃−雅−を召喚し、セラフィモンに合体!!」

手札6⇨5

リザーブ8⇨5

トラッシュ0⇨3

【セラフィモン+姫銃−雅−】LV3(4)BP17000

 

 

エンジェモンの【超進化】の効果でそれと共に手札へと戻っていたブレイヴカード、雅。今回はバーストとしては使わず、素で召喚し、合体させる。

 

セラフィモンは早くもその銃を手に持ち、重心を前かがみにおいて銃口を司のライフへと向ける。

 

 

「アタックステップッ!!セラフィモンでアタック!!……セラフィモンは雅との合体によりシンボルは2!!そして君のライフも2!!……僕の勝ちだ!!」

 

 

セラフィモンは雅に自身の光の力を注ぎ、弾丸として放とうとする。司がどんな強力なバーストをセットしていようと意味はない。この一撃で終わる。

 

このタイミングで意味があるのはおそらくライフ減少後のバーストではなく、アタック後のバーストカード。

 

司のデッキにはアタック後のバーストは無い。それを知っているからこその勝利への確信だった。

 

 

だが、

 

 

「フラッシュマジック!!……双光気弾!!……合体しているブレイヴ、雅を破壊する!!」

手札3⇨2

リザーブ12⇨10

トラッシュ0⇨2

 

「なにっ!!ここでブレイヴ破壊!?」

 

 

しかし、司は如何にも赤属性らしい効果でこのアタックを妨ぐ。司の背後から火の玉が2つ宙を舞うように翔け出したかと思うと、それはセラフィモンの手に持つ雅に直撃、火の玉はセラフィモンからそれを奪い取るように雅にまとわりつき、されを破壊した。

 

これにより、セラフィモンのシンボルは1。このアタックでは司のライフはゼロにはならない。

 

 

「………まだだ!!フラッシュマジック!!…イエローリカバー!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨3

トラッシュ3⇨5

 

「!!」

 

「この効果で黄色のスピリット、セラフィモンを回復!!」

【セラフィモン】(疲労⇨回復)

 

 

雅を失ったことにより、作戦を切り替えたかのように光の羽で飛翔するセラフィモン。そして、雅治の使用したマジックにより、黄色い光を一瞬纏い、疲労状態から回復状態となる。

 

 

「一撃じゃだめなら二撃で決めるだけだッ!!」

 

 

今度こそ終わり。

 

そう言わんばかりにセリフを吐く雅治。

 

しかし、あの雅を破壊した時点で………司は自分の勝利を確信していた。だが、その表情はどこか上っ面で、寂しそうで………

 

 

「………ライフで受ける」

ライフ2⇨1

 

 

セラフィモンの光を纏わせた拳の一撃が司のライフへと決まる。そのライフがまた1つ砕けて、ハーピーガールの効果で稼いでいた分がとうとう底を尽きた。

 

しかし、それこそが司の狙い………

 

………今こそ伏せていたバーストが反転し、驚愕のスピリットカードを召喚する………

 

 

「………ライフ減少により、バースト発動………」

「……!!」

 

 

雅治はこの時、ライフ減少のカードであるならば、イビルフレイムだと思った事だろう。この時点で発揮して意味があるのはそれくらいだからだ。

 

だが、そのカードは殆どの人物に認識されていないであろう………あのカードだ。

 

 

「…………ジョーカー……」

「っ!?」

 

「効果により、俺のライフが減った分、お前のスピリットのコアをボイドに置く……!!」

 

「っ!?」

【セラフィモン】(4 ⇨3)LV3⇨2

 

 

墨のように黒く、水々しい黒い球体が雅治のセラフィモンを襲う。それはその青い鎧を汚し、体内のコアを1つだけ抜き取り、ボイドに送る。

 

司のデッキでコアシュートが飛んでくることが意外だったか、突如飛んできた効果に、雅治は驚きを隠せず………

 

………しかし、本当に驚くのはこれからだ。この効果が発揮された後の、召喚の効果………

 

 

「……勝利へ導くワイルドカード………ジョーカー!!…俺の元にLV2で来い!!」

リザーブ11⇨9

【ジョーカー】LV2(2)BP12000

 

 

墨のように黒い球体は、司の場で熟し、水のように弾け飛び、中からそのスピリットが姿を見せる。その全身は黒く、触覚のような二本のツノ、緑色の顔が特徴的なスピリット………ジョーカー。

 

仮面ならざる仮面。

 

 

「な、なんだこのスピリットは………!?」

「お前は知らねぇだろうな………」

 

 

このスピリットは以前、剣総が使用したカード。彼が消え、カードだけが残り、今はDr.Aから司に託されていた。君の力だと言われて…………

 

 

「……LV2のセラフィモンとBPが同じ………くっ、ターンエンド………」

【セラフィモン】LV2(3)BP12000(回復)

 

バースト【無】

 

 

セラフィモンを犠牲には出来ないか、司が新たに召喚したジョーカーと、これ以上のカウンターを警戒して、そのターンをエンドとした雅治。

 

次はジョーカーを召喚した司のターン。勝負を決めるべく、ターンを進行する。

 

 

[ターン09]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ9⇨10

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ10⇨12

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ、イーズナを召喚し、ジョーカーのLVを3にアップ……!!」

手札3⇨2

リザーブ12⇨0

【イーズナ】LV1(1)BP1000

【ジョーカー】(2⇨13)LV2⇨3

 

2体目のイーズナが司の場に現れる。それと同時に、コアが置かれ、LVが上昇し、それを示すかのように大きな奇声を張り上げるジョーカー。そのBPは………

 

 

「に、26000……!?」

 

 

LV2の時とは桁外れに高いBPに驚愕する雅治。そして、司はこのターンでゲームエンドを狙うべく、アタックを仕掛けていく………

 

 

「アタックステップ……ジョーカー……やれ!!……さらにフラッシュマジック…イエローリカバー!!」

手札2⇨1

【朱に染まる薔薇園】(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ0⇨1

 

「っ!?」

 

「この効果で黄色のスピリットを回復……ジョーカーは六色のスピリット、回復させる!!」

【ジョーカー】(疲労⇨回復)

 

 

黄色い光を一瞬だけ浴び、ジョーカーは疲労状態から回復状態となる。これにより、このターン、2回目のアタック権利を得た。

 

 

「……アタックは継続中ッ!!」

「くっ、セラフィモン!!」

 

 

咄嗟に唯一のスピリットでブロッカーであるセラフィモンにブロックの指示を送る雅治。向かってくるジョーカーに向けて、セラフィモンが飛翔する。

 

セラフィモンは高威力の光球を合計7つを形成し、ジョーカーへと投げ飛ばす。ジョーカーもまた黒い墨のような球体を7つ形成し、セラフィモンへと投げ飛ばす。

 

その白と黒の球体は威力は同じなのか、互いに衝突し、爆煙を発生させながら対消滅していく。

 

その煙の中、ジョーカーとセラフィモンは取っ組み合うように手を繋ぎ合わせる。だが、その点で言えばジョーカーの方が圧倒的に強力か………ジョーカーはセラフィモンを押していき、終いには足でセラフィモンを蹴り飛ばす。

 

そしてトドメと言わんばかりに今一度黒い球体を形成、投げ飛ばし、今度こそセラフィモンに衝突させる。セラフィモンは流石に耐えられなくなり、力尽きて大爆発を起こした。

 

 

「……イーズナでアタック……」

 

「っ!!……ライフで受ける………ッ」

ライフ2⇨1

 

 

バトルの終わりを見るや否や、イーズナが地を駆け雅治のライフを狙う。そしてその鋭い爪で引っ掻き、残り少ないライフを1つ切り裂いた。

 

残りライフ1。

 

しかし、雅治はあのジョーカーのアタックをどうにかできるカードは手札にはなく………

 

 

「………終わりだ………消えろ……雅治」

 

 

そう雅治に言葉を投げかける司。

 

しかし………

 

 

「本当?………僕には消えろ、なんて思ってる顔には見えないな…………」

「…………」

 

 

司の表情は今までとは信じられないほどに、暗く寂しく、辛そうであって………

 

その雰囲気や佇まいから、司が根っからの悪に染まった訳ではないと証拠でもあった。

 

 

「……別に怒らないよ……でもさ、これだけは絶対に約束しろ………」

「…………」

 

 

これだけ、

 

絶対にどんなことがあってもこれだけは約束を守って欲しかった。

 

いくら己が道を貫いても構わない。どんなに辛く厳しい修羅の道を歩んでも構わない。それが君が選んだ道だと言うのであれば、僕はそれを受け入れよう。

 

だけど、絶対にこれだけは約束しろ………

 

 

「………必ず帰って来い………僕達のところに……」

 

 

それだけがただただ願いだった。

 

平和な学生生活。その中では、やはり自分の横には必ず司がいてくれないといけない。そう思い、考えているからこその発言だった………

 

………司はそんな雅治の必死な物言いに対し………

 

 

「……………………あぁ」

 

 

とだけ、ゆっくりと首を縦に振り、承諾した。

 

 

「………ジョーカーで…………ジョーカーでアタック………」

 

 

今一度走り出すジョーカー。その間に映るのは雅治の最後のライフのみ………

 

………そして、

 

 

「…………ライフで受ける」

ライフ1⇨0

 

 

そのライフを差し出す雅治。

 

ジョーカーはその鋭い爪でいとも簡単にそのライフを切り裂いた。雅治はその瞬間、体をデジタル粒子に変換され、地を離れていき、デ・リーパーの作る不気味な壁へと吸収されていった。

 

これにより、バトルの勝者は赤羽司。最後には異端なスピリットであるジョーカーだけがこの場に残って…………

 

 

「…………馬鹿野郎………」

 

 

司は何を思うか………

 

………その足元には雨が降っていないにもかかわらず、水が滴っていた………

 

………なんで逃げなかった………今はただその事だけで頭がいっぱいいっぱいだった。

 

 

******

 

 

ここはある場所にあるDr.A達の本拠地。そこは界放市のどこかにある事しか情報がない。

 

だが、その言葉の響き方とは裏腹に、とても広い敷地内であのか、六月の孫、芽座葉月と銃魔はだだっ広いそこで主人であるDr.Aの帰りを待っていた。

 

いや、待っていたと言うにはいささか不明な点があるか、少なくとも葉月はそんな事は微塵も思ってはおらず、ただただこの退屈な時が過ぎるのを待っていた。

 

 

「……なぁ銃魔……」

「………なんだ」

 

 

そんな時、銃魔に囁くように葉月が言葉を投げかけた。銃魔はいつも通り、その冷静沈着な表情を崩さず、メガネを指先で定位置に戻しながらその言葉に対して受け応えをする。

 

 

「お前……Dr.Aと新しい進化した世界を創ってどうしたい?」

「?」

 

 

葉月の自分を小馬鹿にでもしてくるような態度での質問は、意外と内容はしっかりとしており、答えづらかった。

 

自分は今まで争いや紛争のない世界とだけ聞かされていた。だが、聞かされたのはそれだけ、後はせいぜい神になると言っていたくらいで、特にはなかった。

 

正直、目指しているものは素晴らしいとは思うが、やってる事は正しいとは思ってはいない。言ってしまえば世界のリセット、今を生きる人々の絶滅なのだ。自分が今日の今までDr.Aの後ろをついていったのは彼に対する恩義からである。

 

 

「…………特にない。俺はDr.Aと共に暮らしたいだけだ……」

「あぁ?…んだよそれ、つまんねぇな」

 

 

銃魔のキャラとは全く合わない言葉に、葉月は拍子抜けしたような声を上げる。だが、銃魔にとって、理由はそれだけで良い。Dr.Aが自分のところにいてくれれば、家族として…………

 

だが………

 

 

「ヌフフフフ、本当につまらないですね〜〜〜…見損ないましたよ…銃魔……!!」

「「!!」」

 

 

2人が声のする方へと視線を移すと、そこには紛れもない若返ったDr.A。最大の障壁であろう空野晴太を倒し、帰ってきたのだ。

 

 

「……もうそろそろ貴方は処分ですかね………銃魔………!!」

「…………」

 

 

銃魔に向けて信じられない言葉を並べるDr.A。しかし、銃魔はまるでそう言われることをわかっていたかのような表情をしており……

 

………銃魔の運命やいかに…………




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【セラフィモン】!!」

椎名「黄色の究極体にして最も高貴な熾天使、セラフィモン、煌臨時に相手のスピリット全体の弱体化が可能だよ!!」


******


〈次回予告!!〉


次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ…「漆黒の聖騎士と孤高の魔王」…今、バトスピが進化を超える!!



******


※次回サブタイトルは変更の可能性があります。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


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第86話「漆黒の聖騎士と孤高の魔王」

 

 

 

 

 

 

銃魔。その名の由来は彼のオーバーエヴォリューションによって生まれたカード、銃を手に持つ魔人のデジタルスピリット、ベルゼブモンからDr.Aが取ったという。

 

特に気に入っているわけでもそうじゃないわけでもない。

 

ただ、銃魔はあの日、【自分の妹のような存在】が生まれるその日に起きた大火事で、顔に大きな火傷を負いながらも、身を呈して自分を護ってくれたDr.Aのために生き、必ず彼の悲願の野望を完遂させると誓ったのだ。

 

 

******

 

 

 

ここはDr.A達の本拠地。そこは地下だというにもかかわらず、界放市の中央スタジアム並みに広い。

 

銃魔はDr.Aに不要。と称された。

 

が、なんとなくであるがその理由はすでに理解していた。彼の性格を知り尽くしている彼だからこそ理解できることだ。

 

 

「一応、聞いておこうかDr.A。如何なる理由で俺を処分すると?」

「ヌフフフ、要らないものは要らないのです。それ以外に理由などは必要ない……まぁそうですね、強いて言うならば、貴方には資格がないと言うべきか」

「…………」

 

 

資格がない。とはどう言うことなのか、銃魔は当然のようにそれを理解しているような顔振を見せる。この3人の中で理解し切ってないのは葉月くらいのものであり……

 

 

「ヌフフフ、さぁ、Bパッドを出しなさい銃魔、私とバトルをし、デ・リーパーの壁の糧となるのです!!」

 

 

Dr.Aは遠回しに銃魔に負けろと言ってくる。

 

彼にそう言われ、懐からBパッドを取り出そうとする銃魔。しかし、このタイミングで、直ぐそばにいた青年が水を差しに来る。

 

 

「ちょっと待ってもらおうか?」

「葉月、なんですか?」

「そのバトル、俺がDr.A、あんたの代わりにやってやるよ……バトルは定期的にやっておかねぇと腕が鈍るからな」

「ほぅ?」

 

 

Dr.Aの目の前に立ち、銃魔と対峙しながら現れたのは芽座葉月。彼はこのバトル、Dr.Aの代わりに自分が受け、銃魔を倒すと言っていた。

 

 

「ヌフフフ、まぁ私としては断る理由はないですね〜〜…いいでしょう、そのバトル、貴方に任せますよ、葉月」

「だとよ……お前の相手は俺だ、銃魔……叩き潰してやるよ」

「………いいだろう」

 

 

2人はこのだだっ広い本拠地でBパッドを勢いよく展開、バトルの準備を一瞬で行い、2人の戦いが幕を開ける。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

バトルが始まった

 

先行は芽座葉月

 

 

[ターン01]葉月

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!…俺はグラッジドラゴンをLV2で召喚し、ターンエンド」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

【グラッジドラゴン】LV2(2)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

バトルが始まり、葉月が早々に呼び出したスピリットは、黒き竜、その身には常に怨念や恨みを妬みを具現化したようなオーラを纏っている。

 

次は銃魔のターン。彼は葉月のデッキに対しどう動くか………

 

 

[ターン02]銃魔

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ…俺は魂鬼、インプモンを連続で召喚する!!……さらにインプモンの効果でカードをオープン!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨2

【魂鬼】LV1(1s)BP1000

【インプモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【ベヒーモス】×

【魔界霧竜ミストヴルム】◯

【ベルゼブモン】◯

 

 

相手が誰であろうとやる事は変わらないか、銃魔が自分の場に呼び出したのはいつも通りの紫速攻のパーツとなるスピリット達。

 

インプモンの効果も成功し、その中の対象カードである【ベルゼブモン】を新たに手札へと加え、残りはトラッシュへと破棄した。

 

 

「そして、ネクサスカード、旅団の摩天楼を配置!!カードを1枚ドロー」

手札3⇨4

リザーブ1⇨0

トラッシュ2⇨3

【旅団の摩天楼】LV1

 

 

続けて銃魔は自身の背後に巨大で不気味な摩天楼を配置。それはこの異様な雰囲気と場所もあり、より異質な存在感を示す。

 

 

「アタックステップ!!行け!!魂鬼!!インプモン!!」

 

「ライフで受ける……ッ」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

魂鬼とインプモンは葉月のライフめがけ駆け出し、2体とも渾身の体当たりでそれを一気に2つ破壊した。

 

葉月はこの時、場にいたグラッジドラゴンでブロックし、カードをドローしつつ銃魔のスピリットをどれか1体返り討ちにできたが、銃魔の手札には紫のコスト3以下のスピリットが破壊された時に少ないコストで召喚できるベルゼブモンが存在することが判明しているため、結果としてその身を捧げた。

 

 

「……ターンエンドだ」

【魂鬼】LV1(1s)BP1000(疲労)

【インプモン】LV1(1)BP2000(疲労)

 

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

銃魔はそのターンを終える。速攻のデッキとしては十分なターンであった事だろう。

 

次は葉月のターン。増えたコアを活かし、反撃に転ずる。

 

 

[ターン03]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

 

 

「メインステップ!……行くぞ銃魔……俺は白の成長期スピリット、ハックモンをLV2で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨2

【ハックモン】LV2(2)BP4000

 

 

葉月が召喚したのは、自身のデッキのエンジン的な役割を担う白の成長期スピリット、ハックモン。その靡かせる赤いマントは他の成長期スピリットと比べても異端さが目につく。

 

 

「おぉ!…出たかハックモン……」

 

「何笑ってやがる……気持ち悪りぃな……召喚時効果!!カードを5枚オープンし、その中の対象カードを加える!!」

オープンカード↓

【黒皇機獣ダークネス・グリフォン】×

【ソードール】×

【ジエスモン】◯

【アルファモン】◯

【デスマサカー】×

 

 

効果は成功、葉月は効果により、ジエスモンのカードプラス究極体スピリット、アルファモンを手札へと加えて、残りをデッキの下に戻した。

 

 

「ジエスモンにアルファモン。世界に1枚しかないロイヤルナイツのカードを2種類とも加えたか……面白い」

 

「面白くねぇわ!!俺は手札に加えたジエスモンの煌臨を発揮!!対象はハックモン!!…この時、ハックモンの効果で自身にコアが3つ追加される!!」

手札4⇨6

リザーブ1s⇨0

トラッシュ2⇨3s

【ハックモン】(2⇨5)

 

 

なぜか自分とのバトルに楽しさを覚えてくるような銃魔の態度に葉月は気味悪がりながらも、煌臨を発揮させる。ハックモンは煌臨対象になった事でコアの恵みが与えられる。

 

さらにそのまま白いオーラを身に纏い、姿形を真の聖騎士たる姿へと華麗なる変貌を遂げて行く。

 

 

「究極進化!!白きロイヤルナイツ!!ジエスモン!!」

手札6⇨5

【ジエスモン】LV3(5)BP14000

 

 

やがてその真なる姿になった聖騎士は、白いオーラを弾け飛ばし、中から現れる。その名はジエスモン。伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツの1体。その手足の代わりになるように聖なる剣が生えており、周りには橙色のオーラが3つ存在する。

 

 

「ジエスモンの煌臨時効果!!相手のスピリット、ネクサスカード3枚を手札に戻す!!…対象は魂鬼、インプモン、旅団の摩天楼!!……くたばりやがれぇぇぇえ!!」

 

「っ!!」

手札4⇨7

 

 

ジエスモンが3つのオーラに指示を出し、銃魔の場を襲撃させる。橙色のオーラ達はそれぞれに突撃し、それらをデータ化、銃魔の手札へと強制的に帰還させた。

 

 

「ハッ!…他愛ねぇなぁ!!…俺はさらにネクサスカード、水銀海に浮かぶ工場島をLV2で配置する!!不足コストはジエスモンとグラッジドラゴンのLVを下げて確保する!!」

手札5⇨4

【グラッジドラゴン】(2⇨1)LV2⇨1

【ジエスモン】(5⇨1)LV3⇨1

トラッシュ3s⇨6s

【水銀海に浮かぶ工場島】LV2(2)

 

 

葉月はさらにロイヤルナイツのLVが下がる事も惜しまず背後に怪しげな雰囲気に包まれた工場島を配置する。だが、その効果はそれほどの価値があるものであって………

 

 

「水銀海に浮かぶ工場島LV2効果、俺の紫、白のスピリットは全て【重装甲:紫/白】を得る……これがどういう事だかわかるよな?」

「…!!」

 

 

水銀海に浮かぶ工場島のLV2効果により、紫と白のスピリットは全て【重装甲:紫/白】を得る。銃魔のデッキは紫一色。これにより、ジエスモンとグラッジドラゴンは銃魔のカードの効果をほとんど受け付けなくなる。

 

銃魔にとってはかなり厄介な存在のネクサスカードであるだろう。

 

 

「最後にバーストを伏せ、アタックステップ!!…ジエスモンでアタック!!」

手札4⇨3

 

 

宙を華麗に舞うジエスモン。目指す先は当然銃魔のライフ。銃魔は場のカードを全てジエスモンによって手札に戻された事によって、身を守るものがなく………

 

 

「ライフだ………ッ」

ライフ5⇨4

 

 

ジエスモンのアタックをライフで受ける。ジエスモンはその鮮やかな剣技で彼のライフ1つをこれでもかと切り刻んだ。

 

 

「続け、グラッジドラゴン!!」

 

 

追撃と言わんばかりにグラッジドラゴンにアタックの指示を送る葉月。グラッジドラゴンがその命令を受け、地を駆ける。

 

だがここで銃魔がここで動き出す。狙いは当然、エーススピリットのベルゼブモンの召喚だ。

 

 

「フラッシュ!!俺は自身の手札を2枚破棄する事で、トラッシュにある魔界霧竜ミストヴルムの効果を発揮!!コストを払わずに召喚する!!」

手札7⇨5

破棄カード↓

【インプモン】

【旅団の摩天楼】

リザーブ3⇨0

【魔界霧竜ミストヴルム】LV2(3)BP2000

 

「なにっ!?」

 

 

銃魔の場に突如として霧がが発生していく。そしてそれをエネルギーにするかのように吸い込見ながら現れる紫のドラゴンがいた。それは魔界霧竜ミストヴルム。文字通り紫の霧のようなスピリットだ。

 

 

「グラッジドラゴンの相手はこのミストヴルムが務めよう!!」

 

 

銃魔に向かって突進してくるグラッジドラゴン。ミストヴルムはそれを妨げるようにダイブし、まとわりつく。そして自身を犠牲にするように爆発を起こし、グラッジドラゴン諸共破壊された。

 

 

「ちぃ!!相打ちか……!!」

「フッ、相打ちなものか、ミストヴルムのコストは2!!」

「2?……ッ!!」

 

 

そう、ミストヴルムのコストは2。当然そのスピリットの破壊には手札にあるこいつが黙ってはいない。銃魔が最も信頼を置くエーススピリットが………

 

 

「手札のベルゼブモンの効果!!紫のコスト3以下のスピリットが破壊された時、1コストを支払い召喚する!!」

リザーブ3⇨2

トラッシュ3⇨4

 

「っ!!」

 

「来い!!孤高の魔王!!今こそ百戦錬磨の力を世に知らしめよ!!ベルゼブモン、LV1で召喚!!」

リザーブ2⇨1

【ベルゼブモン 】LV1(1)BP7000

 

 

どこからともなく、上空から飛来してきたのは紫の究極体スピリット、ベルゼブモン。その姿はまさしく魔王と呼ばれるに相応しい。

 

さらにそれだけではない。銃魔はさらにトラッシュから効果を発揮させる。

 

 

「そして、トラッシュにあるベヒーモスの効果!!ベルゼブモンが召喚された時、トラッシュからノーコスト召喚できる!!…そのまま直接合体!!」

【ベルゼブモン +ベヒーモス】LV1(1)BP13000

 

 

ベルゼブモンは右手から謎の魔力を宿し、それを地面に向けて放つと、その魔力の塊はバイク型マシーンへと変化した。ベルゼブモンはそれに跨る。

 

 

「………ちぃ!………エンドだ」

【ジエスモン】LV1(1)BP7000(疲労)

 

【水銀海に浮かぶ工場島】LV2(2)

 

バースト【有】

 

 

葉月のこのターン、最初こそハックモンとジエスモンのコンボで優勢に立っていたものの、銃魔のコンバットトリックにより、ベルゼブモンを召喚させるばかりか、ベヒーモスでさらに強化された。

 

ジエスモンには【重装甲】が付与されているものの、状況は圧倒的に銃魔が優勢だと言えた。

 

だが問題は………

 

 

(あのバースト………)

 

 

銃魔が警戒していたのは葉月が伏せたバーストカード。あれは間違いないと言っていいほどにアルファモンだ。銃魔とてその脅威的な強さを理解している。

 

しかし、それさえをも含めて葉月に勝利する方法が、既に銃魔の手札には揃っており………

 

 

[ターン04]銃魔

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップッ!!魂鬼を召喚し、ベルゼブモンのLVを2にアップ!!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨3

【魂鬼】LV1(1s)BP1000

【ベルゼブモン+ベヒーモス】(1⇨3)LV1⇨2

 

 

銃魔は前のターンでジエスモンによって手札に戻されていた魂鬼を召喚するとともに、ベルゼブモンのLVをアップさせた。これで準備は万端か、銃魔は目の色を変え、強く意気込むようにアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップッ!!ベルゼブモンでアタック!!……さらにフラッシュ!!ベルゼブモン ブラストモードの【チェンジ】の効果を発揮!!」

「っ!!」

 

「この効果により、貴様と俺のリザーブからコストを支払いベルゼブモンと回復状態で入れ替える!!」

リザーブ3⇨1

トラッシュ0⇨2

 

「…ちぃ!!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ6s⇨7s

 

 

ベルゼブモン ブラストモードのコストの支払い。これは自分のアタックステップに限って相手のリザーブからでも支払うことが可能である。

 

葉月のリザーブが謎の魔力でトラッシュへと移動してしまう。

 

 

「来いっ!!ベルゼブモン ブラストモード!!」

手札5⇨4

破棄カード↓

【シキツル】

【ベルゼブモン ブラストモード+ベヒーモス】LV2(3)BP22000

 

 

そして、ベルゼブモンには新たな4枚の漆黒の翼が生え、右手に陽電子砲が装着された。さらに、もともと合体状態にあったベヒーモスはバラバラに分解され、ブラストモードと合体を遂げる。

 

この時、葉月のネクサスカード、水銀海に浮かぶ工場島のLV1、2の効果により、銃魔は手札のカード1枚を破棄した。

 

 

「ベルゼブモン ブラストモードはアタック時、紫のシンボルを1つ追加する……よって、その合計シンボルは3!!」

「っ!!」

 

「お前のバーストは分かっている………終わりだ!!」

「バーストのアルファモンを予想し、事前に葉月のライフを3以下にダウンさせ、ブラストモードとブレイヴとの合体で一撃で仕留める………ヌフフフ、銃魔考えましたね〜〜」

 

 

これが銃魔の作戦だった。

 

こうなる事を予想していた銃魔は、アルファモンが伏せられなかった最初のターンでアタックを仕掛け、葉月のライフを3以下に、そして次のターンでブラストモードのアタックで一撃でバトルを終わらせる。

 

たしかに葉月のバーストはアルファモン。それ以外の何者でもない。

 

だが………

 

だが、

 

 

「終わるわけないだろう?…フラッシュマジック、リアクティブバリア!!不足コストは水銀海に浮かぶ工場島のLVを下げて確保する!!」

手札3⇨2

【水銀海に浮かぶ工場島】(2⇨0)LV2⇨1

トラッシュ7s⇨9s

 

「っ!?」

 

 

葉月が咄嗟に手札から使用したのは白のマジック、リアクティブバリア。だが、この効果はこのアタックの終わりがアタックステップの終わりになるという効果。

 

つまり、ベルゼブモン ブラストモードの一撃を止める力はない。意味がないのだ。

 

 

「そんなものに意味はない!!……やれぇ!!ブラストモード!!……混沌炎…カオスフレアァァア!!」

 

 

ブラストモードは左手で魔法陣を描き、それに向けて右手の陽電子砲の一撃を発射。魔法陣を潜り抜けて放たれるそれはより強靭な一撃となって葉月のライフめがけて飛び行く。

 

だが、相手はあの芽座葉月。無闇に意味のない行動などやるわけがなくて………

 

 

「俺は手札のフェイタルダメージコントロールを使用!!カードは自分のライフが一度に3つ以上減る時にコストを払わずに使用できる!!」

手札2⇨1

 

「なにっ!?」

 

「そのアタックはライフで受ける………ただし、フェイタルダメージコントロールの効果で、減る数は1だ」

ライフ3⇨2

 

 

カオスフレアが葉月のライフに直撃する直前、葉月の前方に、ライフバリアとは別のバリアが出現。ライフバリアと合わせて二重の守りに入る。

 

カオスフレアはそれさえをも砕き、葉月のライフを破壊するが、威力は弱まっていたか、葉月の減ったライフの数は僅か1に終わる。

 

さらに……

 

 

「俺のライフが減ったな……」

「っ!!」

 

「ライフ減少により、バースト発動!!アルファモン!!効果により魂鬼をデッキの下に置き、俺は手札を4枚になるようにドロー!!」

手札1⇨4

 

「……くっ……!!」

 

 

アルファモンの効果が起動する。魂鬼の背後からデジタル空間が広がり、そこから伸びた黒い腕が魂鬼をそこへと引きずりこんで行った。

 

そして、この効果発揮後は召喚だ。

 

 

「黒きロイヤルナイツ!!アルファモン!!LV1で召喚する!!」

リザーブ1⇨0

【アルファモン】LV1(1)BP7000

 

 

上空に出現するデジタルゲート。そこから白きマントを靡かせ、現れるのは黒鎧のロイヤルナイツ、アルファモン。葉月のエーススピリット的存在だ。

 

銃魔のここまで完璧だった作戦を全く意に介さず、葉月はそれを易々と召喚してみせた。これにより、白と黒、それぞれのロイヤルナイツが場に居合わせた。

 

 

「リアクティブバリアの効果でアタックステップを終了させる……」

 

「っ!!」

 

 

全てのアタックの流れが終わったことにより、葉月の発揮させていたリアクティブバリアの効果が適応される。猛吹雪が吹き荒れ、ブラストモードの行く手を阻む。

 

 

「……やるな、ターンエンドだ」

【ベルゼブモン ブラストモード+ベヒーモス】LV2(3)BP22000(回復)

 

バースト【無】

 

 

エンドの宣言をするとともに猛吹雪が止む。結果としてブラストモードをブロッカーとして残してのエンドとなった。

 

次は見事にアルファモンの召喚を成功させた葉月のターン。勝負を決めに行く気なのか、そのオーラが銃魔の方からでもビンビンに伝わってきており………

 

 

[ターン05]葉月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨10

トラッシュ9⇨0

【ジエスモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップッ!!アルファモン、ジエスモン、水銀海に浮かぶ工場島、共にLVアップ!!さらに異魔神ブレイヴ、竜機魔神を召喚し、アルファモンに右、ジエスモンに左合体!!」

手札5⇨4

リザーブ10⇨2

トラッシュ0⇨1

【水銀海に浮かぶ工場島】(0⇨2)LV1⇨2

【アルファモン+竜機魔神】LV1⇨2(1⇨3)BP17000

【ジエスモン+竜機魔神】LV1⇨3(1⇨4)BP18000

 

 

アルファモンとジエスモンのLVが上昇するとともに現れたのは、機械型の竜の異魔神ブレイヴ、竜機魔神。そして竜機魔神は両手から光線を放ち、右にアルファモン、左にジエスモンへと繋ぎ合わせて合体状態とする。

 

2体のロイヤルナイツはより強靭なスピリットへと仕上がる。

 

 

「アタックステップ!!アルファモンでアタック!!その効果でブラストモードのコアを2つリザーブへ置き、ジエスモンの効果で手札に戻す!!」

 

「っ!!……ベヒーモスは場に残す」

手札4⇨5

【ベヒーモス】LV1(1)BP6000

 

 

アルファモンが開くデジタルゲートから放たれるタ弾の波動弾と、ジエスモンの刃の飛ぶ斬撃が、ブラストモードをこれでもかと切り裂いていく。

 

堪らずブラストモードは身体をデータ化され銃魔の手札へと帰還する。合体していたベヒーモスは再びバイクの姿となって場へと残った。

 

 

「さらに異魔神ブレイヴ、竜機魔神の右合体時効果!!お前はお前の手札1枚を破棄する!!」

 

「………これにしよう」

手札5⇨4

破棄カード↓

【シキツル】

 

 

銃魔の手札が紫のオーラを纏い宙へ浮かぶ、銃魔はその中から1枚のカードを手に取り、トラッシュへ送ると、それらは彼の元へと戻ってきた。

 

 

「そして、アルファモンは2コア支払い回復する!!」

リザーブ2⇨0

【アルファモン+竜機魔神】(疲労⇨回復)

 

 

ダメ出しと言わんばかりに回復するアルファモン。

 

 

「ブロックしろベヒーモス!!」

 

 

単身でアルファモンへと走り出すバイク型マシーンベヒーモス。だが、アルファモンとのBP差は歴然。

 

 

「究極戦刃王竜剣!!!」

 

 

アルファモンは葉月の叫びに呼応するかのようにデジタルゲートから独特な形をした剣を手に取り、向かってきたベヒーモスを一瞬にしてそれで薙ぎ払った。

 

 

「まだ行くぞ!!アルファモン二度目のアタック!効果によりさらに回復!!さらにお前の手札を破棄!!」

【アルファモン+竜機魔神】(3⇨1)LV2⇨1(疲労⇨回復)

 

「………」

手札4⇨3

破棄カード↓

【インプモン】

 

 

LVが降格するものの、ほぼ同じ動作でアルファモンが回復し、銃魔の手札が破棄された。

 

この時点で銃魔の勝利はないと言えよう。だが、椎名の影響を受けているためか、彼は最後の最後まで諦めず………

 

 

「俺は手札2枚を破棄し、トラッシュにある魔界霧竜ミストヴルムの効果!!LV3で召喚する!!」

手札3⇨1

破棄カード↓

【インプモン】

【ベルゼブモン ブラストモード】

リザーブ5⇨0

【魔界霧竜ミストヴルム】LV3(5)BP3000

 

 

霧が発生し、またそこから紫の霧竜が姿を見せる。

 

 

「アルファモンをブロックしろ!!ミストヴルム!!」

「…ちぃ、しぶてぇ、…目障りなんだよぉぉお!!…王竜剣ッ!!」

 

 

しかし、現れたのも束の間、アルファモンの王竜剣の一撃がそれを容易く切り裂いた。

 

 

「まだだ!!まだ俺は足掻くぞ!!俺はこの破壊により、手札のベルゼブモンの効果を発揮!!1コストを支払い、召喚!!さらにベヒーモスの効果で再びトラッシュから召喚し、合体する!!」

手札1⇨0

リザーブ5⇨0

【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV2(4)BP17000

 

 

ミストヴルムの破壊に反応するように、再び上空からベルゼブモンが地上へと降り立つ。さらにベヒーモスまでもが復活を果たし、今一度ベルゼブモンを乗せる。諦めない心が生んだ状況とも言える………

 

………だが、

 

 

「………銃魔、Dr.Aがお前の事を用済みと言った理由がよくわかったぜ………」

「?」

「お前は椎名の奴に当てられ、弱者に成り下がった………バトルを楽しいだのとうつつを抜かす雑魚にな!!…進化した世界に、お前は確かに不要な存在だ!!」

「………」

 

 

葉月もようやく理解した。Dr.Aにとって銃魔がいらない理由。強さを求めていないからだ。強さを求めないものに、世界を変革させることはできない。だからこそだ。

 

もっとも、この芽座葉月は、世界の変革ではなく、ロイヤルナイツの情報を得たいがためにDr.Aについているのだが………

 

 

「ジエスモンでアタック!!効果によりベルゼブモンを手札に戻す!!」

 

「くっ!!……ベヒーモスは場に残す」

手札0⇨1

【ベヒーモス】LV1(5)BP6000

 

 

ジエスモンが再び宙を舞う。そして腕部の剣から飛ぶ斬撃を放ち、ベルゼブモンを切り裂く。ベルゼブモンはまたデータ化され、堪らず手札へと帰還してしまう。

 

ベヒーモスはスピリット状態で場に残るものの、

 

 

「ジエスモンは効果によりブロックされないっ!!」

 

「っ!!…ライフだ………ッ」

ライフ4⇨2

 

 

ジエスモンは自身の効果によりブロックされない。残ったベヒーモスでブロックを行うことができないのだ。そのままその攻撃を受けることになる。

 

ジエスモンの目にまとまらない剣技が銃魔を襲い、そのライフを一気に2つ破壊した。

 

 

「アルファモンでアタック!!竜機魔神の効果でベルゼブモンを破棄し、ジエスモンの効果でベヒーモスを手札に戻す!!」

 

「っ!!」

手札1⇨0⇨1

破棄カード↓

【ベルゼブモン】

 

 

回復しているアルファモンで再度アタックを仕掛ける葉月。竜機魔神が残ったベルゼブモンのカードを破棄させ、ジエスモンの飛ぶ斬撃がベヒーモスを切り刻み、銃魔の手札に戻した。

 

アルファモンは銃魔のライフを破壊すべく、ゆっくりとその場を歩む。

 

 

「お前の手札は1枚……ミストヴルムは使えん…終わりだな」

「あぁ、そうだな………」

 

 

もう勝負は決した。圧倒的な力を見せつけた葉月の勝ちだ。今の界放市のこの空間では、デ・リーパーの影響によって、敗北者は消滅し、街の上空を覆う壁になる。

 

にもかかわらず、銃魔は…………

 

 

「芽座葉月、良いバトルだった……貴様とバトルできた事を俺は誇りに思う…!!……縁があればまたやろう!!」

 

 

笑顔は見せていないものの、満足気な表情、物言いで葉月に対してそのような言葉を述べる銃魔。

 

 

「気色悪りぃっつってんだよぉ!!縁なんてあるわけねぇだろがぁぁ!!…俺の眼前から失せろぉ!!…銃魔ぁぁあ!!」

 

 

銃魔の言葉など全く響かない葉月。そして、アルファモンが銃魔の眼前へと迫り、その王竜剣を天に掲げ………

 

 

「………ライフで受ける」

ライフ2⇨0

 

 

振り下ろした。

 

その銃魔のライフは跡形もなく砕け散った。

 

デ・リーパーの壁の影響により、銃魔は自身のBパッドやデッキごとその体を消滅させていく。だが、その様子は今までのものと若干異なっており、妙に一粒一粒が太く、天には向かわず、その場で線香花火のように全てが消滅した。

 

Dr.Aはその事に違和感を覚える。しかし、少しだけ考えると答えがすぐに見つかり………

 

 

「ん?………あ〜成る程成る程!!」

「あぁん?どういう事だ!!何がおかしい!!」

「いやはや、全くしてやられたよ……流石は銃魔、腐っても私の1番の部下だったね〜〜……まさか自分のデータのバックアップを残してたなんて〜〜ヌッフフ」

 

 

銃魔がどこへと消え去ったのかは、まだ誰もわからない事であった。しかし、今言える確かな事は、

 

銃魔がまだどこかに潜んでいるという事………

 

 

「ちぃ!!往生際が悪い奴だなぁ…俺がもう一度片っ端探して………」

「いや、やめておきなさい」

「はぁ!?なんでだよ!?」

「ヌフフフ、どうせあの子は私を裏切らない……そんな事よりデ・リーパー……聞こえますか?」

 

 

銃魔がまだ生きていると確信しても何故か追い込もうとしないDr.A。しかし、それは銃魔の性格を知り尽くしている彼だからこそできる決断であって………

 

……そして、彼の呼び声の元、どこからともなく、暗がりの陰から椎名によく似た姿をしている少女、デ・リーパーが不気味な笑みを浮かべながら姿を見せる。

 

 

「うっふふ、なんだいDr.A?」

「いやなに、そろそろ反旗が翻る頃だと思うんでね?…少し上で罠でも貼って相手してやってくれ」

「うっふふ、やっと会えるのね、わかったわ……楽しみね〜〜!!」

 

 

【反旗が翻る】……と、口にしたDr.A。まだ誰かが彼に対して反抗してくるとでもいうのか……デ・リーパーはその人物の事を理解しているのか、また不気味な笑みを浮かべて、闇へと姿を消した。

 

 

「反旗が翻る?……誰があんたに刃向かうってんだ」

「ヌフフフ、まだわからないのかい葉月?……君のよく知る人物ですよ?」

「………よく知る………っ!!」

 

 

葉月もようやく理解した。その人物は………

 

 

「椎名か……」

「そう。……で、あと1人は…………君だよね?」

 

 

そう言いながら、Dr.Aは部屋の扉の方を振り向く。まるで誰かが今からやってくるのを予期しているかのように………そしてその予期は的中する。

 

 

“バーーン!!”

 

 

刹那、スタジアム程に広いこの部屋の鉄製のドアが勢いよく開いた。その人物は、Dr.Aの元親友にして、葉月の実の祖父…………

 

……心優しき御老人………

 

 

「……六月ぅぅ!!」

「まさか馬鹿孫と一緒とはな!!もう驚かんぞ…お前が若返ってもなぁ!!暗利ぃい!!」

「………クソジジイ……っ!!」

 

 

芽座六月。彼は若返ったDr.Aを見て、すぐにそれを本人だと認識し、大きな声で叫ぶ。

 

彼はこの大そびれてしまった大きな戦いに終止符を打つことができるのか………

 

 

 

******

 

 

一方ここは界放市の海岸付近。ある一台のボートが凄まじい勢いで海の上を走っていた。その操縦席には椎名が確認できる。心配なのは、そこには椎名しかいないという事であって…………

 

 

「よっし!!見えてきたぞ界放市!!……にしたって不気味な空だなぁ、いったい何があったんだろう……」

 

 

今の界放市の上空にある、デ・リーパーが作り上げた空にある不気味な壁を見て、そう呟く椎名。そこには倒されていった人達のデータがあるなどこの時は知る由もなく………

 

 

「じっちゃんのボートをどこかに止めないとね」

 

 

だが、彼女はここでとても重要な事に気がついてしまう。それは本当に致命傷的な事であり………

 

 

「どこに止めようかな〜〜!!…ブレーキ、ブレーキ………っと…………あれ、ブレーキどこだ?」

 

 

ブレーキの場所がわからなかった。今まで何となくマニュアルを読んで何となく運転していたからだ。ただ、そのマニュアルは海の潮風を浴びても今なおも健在。椎名はそれを読破し、ブレーキの場所を見つける。

 

 

「えぇ〜〜と、あっ、あったあった!!これだなぁ」

 

 

ブレーキの場所を見つけ、安堵する椎名。後はボートを波止場にでも止めれれば………

 

 

「よし!!あそこに止めよう!!こういうのは少し早くブレーキをかけて速度を落とすんだよね!!」

 

 

椎名はテレビで観た情報を元に何となくタイミングを計る。そして、今この時、ブレーキのレバーに手をかけ、それを全力で降ろした。

 

………すると、

 

 

“バキ!!”

 

 

そんな何かがへし折れるような鈍い音が自分の手の側から鳴り響いた。

 

 

「………え?」

 

 

椎名はふと、嫌な予感がして、自分のブレーキレバーを引いた右手の方を見つめる。すると、そこには無残な姿となったブレーキレバーの姿が………

 

……椎名は恐怖で頭の血がサァーっと流れ降っていくのを肌で感じた。

 

 

「う、うわぁァァぁぁァァァァあア!!!お、折れたァァぁぁァァぁぁあアあ!!」

 

 

止まらないボート。狂ったようにどんどんその走行速度を加速させていく。パニックに陥り、焦る椎名。その小さい脳味噌を捻りに捻った答えは………

 

 

「う〜〜ん、よし!!ボートが壁にぶつかった瞬間に飛んで降りよう!!多分行けるでしょ!!」

 

 

まさかのボート身代わり作戦。タイミングよく飛び出し、着地しようというのだ。普通の人間ならまず間違いなく死に至る。走行中のボートには慣性の法則が働いているため、ぶつかった瞬間に凄まじい勢いで前方に放り出される。

 

しかしこの芽座椎名が慣性の法則なぞ知る由もなく………

 

 

「そうと決まればボートの先端部へゴー!!」

 

 

どこからその自身は湧いて出てくるのか………椎名は操縦を放ったらかし、ボートの先端部へと移動した。強風が潮風と共に椎名を襲う。それでも椎名は姿勢を崩さず、構えて………

 

……波止場にぶつかるタイミングを合わせ………

 

残り20メートル

 

残り10メートル

 

残り5メートル

 

 

……そして………

 

 

「たぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁあ!!!!!」

 

 

ボートが波止場に激突した直後、勢い良くジャンプした。オリンピック選手顔負けのジャンプ力でより高く前へと飛んで行った。その距離実に10メートル。慣性の法則が働いているとは言え、立ち幅跳びは堂々ぶっちぎりの世界1位の記録だ。

 

 

「ぶへっ!!」

 

 

顔から落ちて、前方に転がる椎名。強い衝撃が身体全体を襲ったはずだが………

 

 

「あぁ!!びっくりしたぁ!!意外と飛ぶんだなぁ!!」

 

 

生きてた。まるで何事もなかったかのように、遊園地の絶叫アトラクションマシーンにでも搭乗した後のような感想をベラベラと述べ始める。終いには普通に自分の足で立ち上がった。

 

 

「あっちゃ〜〜これはやっちゃったかな〜〜ボートっていくらくらいするんだろ?………3000円で足りるかな?」

 

 

仕方なかったとは言え、結果として六月のボートをコンクリートの波止場にぶつけて壊した椎名。なんとか弁償しようと自分の財布の中にある金額を思い出していた。

 

因みに、このボートは3000円の実に10000倍の3000万円だ。とても椎名が支払える額ではない。

 

そんな時だ。黒い煙を立ち上げているボートを申し訳ない気持ちでまじまじと見つめていた椎名の背後から、ある人物の声が聞こえてきた。

 

その人物は………

 

自分の良く知る人物………

 

 

 

「…やはりな、界放市の交通手段が断たれた今、お前がボートあたりで来るのは予想していた」

「!!」

 

 

その耳覚えのある声に思わず反応する椎名。すぐさま振り返ると、そこには………

 

 

「そして、この界放市にある波止場はこのタイタス区だけ…………なぁ、エニーズ?」

「………つ、司……!?」

 

 

椎名の目の前にいたのは他でもない。Dr.Aに拉致されたからそれっきりとなってしまっていた赤羽司だった。

 

不思議と漂う緊迫感と緊張感。今、椎名と司の両名がこの場に再び出揃った瞬間であった……………

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【ベヒーモス】!!」

椎名「ベヒーモスはベルゼブモンが乗りこなすバイク型マシーン!!トラッシュにある時、ベルゼブモンが召喚されたら一緒に召喚できるよ!!」


******


〈次回予告!!〉


次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ…「お前を待っていた」…今、バトスピ が進化を超える!!


******


※次回サブタイトルは変更の可能性があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


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第87話「お前を待っていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右往左往としながらもようやく災害地と化した界放市に到着した椎名。だが、港で彼女を待ち構えていたのは他でもない、Dr.Aの手に落ちた赤羽司だった。

 

 

「………司……!!」

「相変わらずのアホ面だな……」

「ぶ、無事だったのか!!心配してたんだよ!!特に夜宵ちゃんなんて……!!」

「そんな事はどうでもいい、先ずは俺の話を聞け」

「……!!」

 

 

これまで行方不明という扱いだった赤羽司。その彼が今椎名の目の前で囁いている。どんなに嬉しい事だっただろうか。それは計り知れないものだろう。

 

ただ、司の物言い、立ち振舞いから、不思議と椎名は今の司が味方だとは思えていなくて……

 

 

「1つ目、Dr.Aの正体は界放市市長、【木戸相落】だった」

「……っ!?」

「奴は18年前、本物の木戸相落と入れ替わっていた。死んだのは本物の木戸相落で、生き残っていたのは徳川暗利…………Dr.AのAは暗利のAだけでなく、相落のAも含んでたってこった」

 

 

椎名を黙らせたと思うと、1つ目からさらっととんでもない事実を彼女に叩きつける司。

 

椎名としては信じられなかった事だろう。何せあの趣のあって優しかった市長が最低最悪のマッドサイエンティスト、Dr.Aだったのだから。本当は自分を監視するために界放市の市長になって六月まで欺いていたと思うととても心が苦しかった。

 

 

「そして2つ目、今のこの界放市は進化の力で若返ったDr.Aの作り上げたデ・リーパー……お前の姿に酷似した化け物が支配した。その際に立ち上がった奴らも今やほとんどが全滅し、あの空の壁の一部にされた………こんな奴らによってな!!」

「……っ!?」

 

 

司はそう言いながら懐から自身のBパッドを取り出して翳すと、そこから椎名に見せつけるかのようにデ・リーパーの顔のない分身体が3体程出現した。椎名はその不気味な姿に僅かながらにたじろぐ、それが自分と似たり寄ったりな存在だと思いもしないだろう。

 

 

「こいつらはその分身体だ………俺が指示を出せばこいつらはこの街の人間どもを襲う。襲われた、又はバトルで負けた人間どもを元に戻すためにはデ・リーパー本体を倒すしかない………そして、何故今、この俺がこいつらを使役しているか……わかるよな?」

「…………」

「エニーズ、街の人間がこれ以上消されたくなければ、今から俺の言うことを聞け………」

「………!」

 

 

司は……敵になったとでも言うのか?

 

椎名は瞬時にそう思考を過ぎらせていた。そう確信するには十分すぎるほどの言動と行動だ。何せ、敵の分身体を所有しているのだから………

 

今の司の口から発せられる言葉には椎名をプレッシャーにかけるにはあまりにも十分過ぎる。椎名は異端な存在になりつつある彼に対して不思議と反論の口が開けなかった。

 

ただ、その要件を聞くことしかできず………

 

だが、その要件は………

 

 

「……今からお前は俺と共にDr.Aの本拠地を襲撃し、奴をぶっ倒す……!!」

 

 

「……………は?」

 

 

司の口から発せられた言葉はこれまでとは打って変わってなんとも意外な要件だった。椎名は驚きのあまり思わず呆気に捉われる。が、司は引っ張り出したデ・リーパーの分身体を自身のBパッドに戻しながら、その理由や道筋を偉そうに、それでいて上から目線で椎名に説明していく。

 

 

「俺は奴に捕まった時、奴の限りない力を見た。無限に繰り返すオーバーエヴォリューションの力をな…………そこで、俺は一度奴の手に落ちたと見せかけ、密かにこのチャンスを伺った。」

「………はぁ」

「一時的に奴らの味方に加わった俺はお前の出世やDr.Aの計画を調べ上げた」

「………ふぅ〜〜ん」

「そして色々とわかった……奴、Dr.Aを倒せるのは同じく進化を繰り返す鬼の力を手にしているエニーズであるお前だけだ……!!」

「………ん?」

 

 

司はずっとこの時を待っていた。若返り、進化を繰り返す力を得たDr.Aに勝つには、同じく進化を繰り返すエニーズ、めざししかいない。

 

一度Dr.A達の味方に加わったと見せかけて彼を倒す機会を伺っていたのだ。そのためにデ・リーパーの分身体を操る権利を得、被害を最小限にしていた。椎名が来るのを待っていたのだ。

 

彼女が来るときに直ぐDr.Aのところへ行けるよう道を作るために………

 

だが、そんなものは司にとってただの通過儀礼に過ぎない。本当の目的は邪魔者であるDr.Aを倒し、椎名と決着をつけることだ。それ以外の理由などどこにもありはしなし、本質は変わらない。

 

 

「フッ……そうと決まればさっさと行くぞ、奴らの本拠地は【界放市中央スタジアムの地下】だ……!!」

 

 

司は椎名に一方的に説明して納得させた気でいる。振り返り、Dr.Aのいる場所へと向かおうとするが………

 

 

「んーーーー……ねぇ司………」

「あぁん?」

 

 

椎名が司を呼び止める。その声色には若干ながら不安めいたものが混じっており………

 

椎名はこの時必死に考えた。小さい脳味噌をフル回転させて司の言った事やった事を全て理解しようとした。が、やはり椎名の頭では演算処理が追いつかない。

 

 

「……え?……司は結局のところ……味方?……それとも敵になったのどっち?」

「…………」

 

 

その場が「シーン」となって白けた。

 

アホ面を曝け出しながら司にそう言った椎名。当然だ。椎名にそんな一度の情報量を入れる事など不可能なのだ。司はそんな椎名に対し、イライラし、有りっ丈の滾る血を沸騰させ………

 

 

「……ッだからぁ!!味方だっつってんだろォォガァぁぁぁ!!!」

「えぇぇぇ!?なんで切れてんのぉ!!?」

 

 

怒った。

 

とんでもないほど大袈裟に、信じられないほど急に………椎名に対して激怒し始めた。

 

 

「ここまで説明してもまだわかってねぇのかテメエは!!…どんだけアホなんだ!!『共に襲撃しに行く』っつった時点でなんとなく察しやがれぇっ!!」

 

 

どれだけ溜まっていたのか、司は事の理解をほとんどわかっていない椎名に対し怒りをぶつける。

 

だが、それはいつもの調子とも呼べる光景。いつもの司。いつもの椎名なのだ。椎名に至ってはただの天然だが………

 

 

「まぁまぁ落ち着けって〜〜」

「落ち着いてられるかぁ!!時間がねぇんだよぉ!!!」

「……そもそもさ〜私どこから理解すれば良いの?Dr.Aが市長で、若返って、私そっくりの怪物が暴れて…………で、司は敵なの?味方なの?」

「だから味方だっつってんだろ!!」

 

 

もはやわざとかのようにボケ倒す椎名。緊張のネジが弾け飛んでしまった司はツッコミの嵐がやまない。振り回すはずだった対象の人物に逆に振り回されてしまっている。

 

そんな司の様子を見て、椎名は………

 

 

「ぷっ!!……あっはははは!!!」

「あぁ?」

 

 

思いっきり吹き出して、笑い出した。全力で腹の底から大笑いした。空はデ・リーパーの作る壁により日光は遮られ、暗がりだというのに、太陽のように明るく、元気よく、

 

まるで世界が危険な状態になっていないかのような………平和な空間だった。

 

 

「んだよ、何がおかしい?」

「あっはは、いやだってさーー…司最近変だったじゃん?そのせいでなんかギクシャクしてたのに、今ではまたそれが嘘のように仲良くなれた!!」

「仲良くはない!!」

「いいんじゃんいいじゃん!!」

 

 

そう言いながら椎名は能天気に司の肩を軽く叩く。界放市どころか世界が終わるかもしれないこの状況で、この少女は何をこんなに楽しんでいるのか。

 

椎名は嬉しかったのだ。なんとなくの感じではあるが、司が自分の知る司に戻っているのが………

 

 

「ちぃっ、ったく、テメェといると自分がよくわからんくなる……早く行くぞ、テメェんとこのジジイもおそらくそこにいる」

「オッケー!!………あ、ちょっと待って…」

「んだよ!!まだあんのか!?」

「いや、ちょっとね〜〜知らせないと……海原じゃ電波通じなかったんだよね〜」

 

 

今から敵の親玉がいるところへと襲撃しようとする司と椎名。だが、椎名は先ず司の無事を報告したい人物がいた。椎名はBパッドの通話機能を使い………

 

 

******

 

 

ここは界放市離れの避難所、デ・リーパーの分身体による襲撃により避難を余儀なくされたもの、体が傷ついたものが大きな体育館のようなところに集まっていた。

 

ほとんどがブルーシートを敷き、家族ごとに座り込んでいる。怯えているのだ。あの人類ではない驚異的な存在に……植えつけられた恐怖が疼いていたのだ。

 

そんな場所に紫治夜宵はいた。司のことを考えながら、ただ1人、壁にもたれ、体育座りでその時が過ぎるのを待ち惚けていた。

 

 

「どうしたの?元気ないわね?」

 

 

だが、束の間、彼女に声をかける人物が1人………大人の女性のような声色、鳥山兎姫だ。落ち込んでいる様子の夜宵を偶然見かけていてもたってもいられなくなったのだろう。

 

 

「………」

「ほおら、黙っててもしょうがないわよ!!」

 

 

寡黙を貫く夜宵。司との不憫な別れが彼女を人間不信にさせているのかもしれない。それは副担任である兎姫とて同じか……

 

椎名に頼んだ。必死こいて、

 

椎名は必ず司を連れ戻すと約束した。なのに……なのに司は帰ってこない…………

 

 

「ま、どうせ紫治さんの事だから、赤羽君の事でも考えてたんでしょ?」

「っ!?」

「うっふふ、わかりやすいわね!!」

 

 

司の事を急にズバリ言われた事で、過敏な反応を見せる夜宵。その予想通りな様子に、教師である兎姫は夜宵に優しく微笑んだ。

 

そしてその横に揃うように座り込んで……

 

 

「私もね、分かるよ……男っていっつも勝手!!勝手に飛び出して勝手に心配させて……そして、勝手に変な顔して帰ってくる……」

「………!!」

「だから大丈夫よ!!…赤羽くんも必ずあなたのところに帰ってくるわ!!」

「兎姫先生……!!」

 

 

夜宵の表情は兎姫の言葉もあってすっかりと正気を取り戻しつつあった。これが教師たる力か……兎姫のこういった説得力は教師としての才能と言えるだろう。

 

そしてそんな時だ。夜宵の元にBパッドの着信音と共にとんでもない朗報が飛んでくる。

 

 

「?……椎名ちゃん?」

 

 

椎名からの着信だ。夜宵は恐る恐るその電話に応答すると………

 

 

〈おぉ〜〜い!!夜宵ちゃん!!おっひさ〜〜!!〉

「……椎名ちゃん…!!」

 

 

椎名からの開口一番の元気な挨拶に、夜宵は驚きながらも無事だったことに安堵を覚えた。さらにそれだけでは終わらない。

 

椎名は………

 

 

〈いや〜〜なんか今界放市に帰ってきたけどさぁ!!やばそうだね!!…でも私が今からサクッと【司】と救ってくるから待っててね!!〉

「………え?…今なんて……?」

 

 

夜宵は思わず椎名がサラッと言ったワードに反応した。確かに今【司】と言った。しかもまるで今現在一緒にいるかのような口ぶりで……

 

 

〈そう!!今いるんだ!!私の横に!!いつも通りのクールぶってる司が!!〉

〈………クールぶってねぇ!!めざしぃ!!さっさとその通話切りやがれ!!〉

「!?」

〈あわわわ!!わかったよ!!じゃ、夜宵ちゃん!!そういうことだから!!…必ず司と一緒に帰えって来るよ!〉

 

 

そこで椎名との通話は途絶えた。嵐のように慌ただしく通り過ぎていった椎名との通話だったが、確かにいた。

 

そこには確かにいつもの司がいた。自分が待ち望んでいた存在がいたのだ。司の事をよく知る彼女にとって、これほどの朗報はなく………

 

自然と頬を伝う涙が止まらなかった。

 

 

「………」

「よかったじゃない!!これで一安心ね!!…しっかし世界を救うなんて、大きく出たものね〜〜まぁ、あの子達はあの人が守ってくれるでしょ!!」

 

 

涙が止まらなくて震える夜宵の肩を流されるように手を置く兎姫。教師としてはそれを止めなければならないのだろう。しかし、おそらくそれは自分の役目ではなく、【空野晴太】の役目。

 

現場にいない自分ではない。彼ならば、信頼を寄せる彼ならば椎名達を守ってくれる。そう思っていた。

 

しかし、皮肉な事に、晴太ではどうしようもできないところまで来ているのは今の兎姫にはわからぬ事であって………

 

 

******

 

 

「ちょっとぉぉお!!無理矢理通話切らせなくてもいいでしょぉぉが!!」

「るっせぇ!!余計なお世話だってんだよ!!」

「はぁ、全く、夜宵ちゃんに後で謝りなよ〜〜……んじゃ、次は真夏に連絡するか………」

 

 

さっきは司が無理矢理椎名に電話を切らせた。これが単なる司の照れ隠しなのを椎名は理解している。

 

そんな椎名が次に電話をかけたのは真夏だったが、夜宵の時とは違い、彼女からは一向に連絡が取れない。椎名は少しだけ不思議に思うが………

 

 

「あれ?繋がらないや、真夏どうしたんだろう?」

「…………行くぞ………」

「え?何なに?急にどうしたの!!走って行かなくてもいいじゃん!?」

「急ぎなんだよ!!さっさとあの野郎をぶっ倒して、全てを元どおりにするぞ!!」

 

 

急に椎名を急かすように走りだした司。椎名はその様子を見て、違和感を感じるが、それが本当は不器用な司なりの気遣いであり………

 

………椎名はまだわからなかった。

 

自分のいない間に、晴太を始めとした仲間達のほとんどがあの界放市の上空を覆うデ・リーパーの壁になってしまっていることが…………

 

今起こっている事の大きさを含めた残忍さ残酷さがどれだけものなのか、歳不相応に内心が未だに子供で、幼い椎名にはイマイチわかっていない事であって………

 

 

******

 

 

人々は皆いなくなり、殺風景な雰囲気となってしまった界放市の街並み。椎名と司はそんな街を歩いていた。新鮮な気持ちにはなれるが、今は到底そんな事は考えつかなくて………

 

そして、とうとう、界放市の中央部に存在する名前もそのままのスタジアム、中央スタジアムが見えてきた。椎名がここに来たのは1年と半年程前に開催された界放リーグの時だっただろうか。

 

まさかずっとここの地下がDr.A達の隠れ家だったなどと考えもしなかった。

 

胸の鼓動が強く、それでいて高鳴り響く。いよいよ最終決戦と言わんばかりの気持ちが椎名と司、2人の心を満たしていた。

 

 

「着いた……うっひゃー…やっぱデッカいな〜〜中央スタジアムは……」

 

 

中央スタジアムの周囲のビルの前に到着した2人。椎名が広大な土地を占拠している中央スタジアムを久しぶりに見た感想を雑に述べる。

 

この地下。この地下にDr.Aや銃魔が拠点としている場所があるのだ。

 

だが、そこへ行くためには………

 

 

「てか、めっちゃさっきのうようよいるじゃん!!どうすんのさ?」

「るっせぇ!!一々感想を口にすんなっ!!」

「え〜〜私のアイデンティティ!!」

 

 

椎名の言うさっきの。と言うのはデ・リーパーの分身体達の事。それらはまるで銅像のように微動だにせずただただ立ち尽くしていた。

 

これは警備用だ。まるでこちらに本拠地であると分からせるためのようにも見える。

 

デ・リーパーのデッキにはデジタルスピリットに対する特効効果を持つものが多く含まれている。椎名と司がどんなに凄腕のバトラーでも、この数の分身体を一々相手にしていてはキリがないだろう。

 

しかし………

 

 

「この日のために俺は自分から進んで悪役になってたんだ……まぁ見てな…」

「?」

 

 

司はクールぶった顔でそう言うと、自身のBパッドから預かっていた総合数の約5割の数の分身体を呼び出した。これは司が雅治を倒し、その報酬で得た権利だ。

 

司が何故欲を言わず全部ではなく半分と言ったのか、その理由がこれだ。

 

 

「やれっ!!分身ども!!」

 

 

司が大勢の分身体に指示を出すと、その分身体は警備する分身体達めがけて一斉に走り出した。そして警備用の分身体達もそれに気づき、入れ乱れる乱闘が幕を開ける。

 

殴り殴られ、蹴り蹴られ、同じ力を持つ者達だからこその格好した戦闘がスタジアムの周囲で所狭しと展開されていく。

 

 

「今だ走るぞ!!」

「お?…おうよ!!」

 

 

全部の分身体を寄越せは流石に図々し過ぎてDr.Aに怪しまれる。そのため司は半分と言い、この時を計った。デ・リーパーの分身体達が味方同士で殺し合うことができるこの瞬間を。

 

椎名は特に意味がわかっているわけもなく、きょとんとした顔つきのまま、ただただ司の後ろを、デ・リーパー達の乱闘の中を全力で走った。

 

そんな時だ。

 

 

「「っ!?」」

 

 

3体の分身体が椎名と司の行く手を阻むように前方に現れる。本体とは違って顔がないため、喋る事は出来ないが、まるでここは通さないとでも言っているかのように思えてくる。

 

 

「ちぃ、なんとなくわかってたが、やはり半分ももらえてなかったか……!!」

「ん?ドユコト?」

 

 

半分の数対半分の数だったら当然力の同じ分身体達は引き分けで誰もこの道には現れなかった事だろう。

 

だとしたら考えられることはただ一つ、Dr.Aは、デ・リーパーの本体は司に半分の数をあげなかった事になる。ちょうど3体分超過するように司に配ったに違いない。

 

 

「ま、いいだろう、これも計算の内だ。めざし!!ここは俺が相手してやる!!お前は先に行け!!スタジアムのバトル場の中に隠し通路がある!!」

「っ!?大丈夫なの!?」

「俺を誰だと思ってる……こんな雑魚共に遅れを取るおれじゃない!!さっさと行け……!!」

 

 

司は既にBパッドまで展開して準備万端、戦闘態勢に入り、やる気満々だ。司はDr.Aに限って言えば倒せるのは椎名だけだと推測している。彼女を先に行かせるのは賢明な判断か………

 

椎名も司の確固たる決意が伝わってきたか、それを感覚で理解した。

 

 

「………わかった……」

 

 

椎名は静かにそう言って再び走り出し、分身体達を突っ切って中央スタジアムの中へと入っていった。司はそれを見届けると………

 

 

「テメェらの相手はこの俺だ………覚悟しろよ……っと言ってもテメェらは本体以外感情がないんだったな………」

 

 

3体の分身体達も司同様、自身のBパッドを展開。バトルの準備を完了させた。司と3体の分身体達によるバトルが今始まる。

 

 

「ゲートオープン、界放!!」

 

 

このコールは最終決戦の始まりのバトル。

 

椎名達とDr.A達による最後の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

******

 

 

一方椎名。中央スタジアムのバトル場へと足を踏み入れる。1年と半年前では大いに賑わっていたこのスタジアムだが、時期も時期、今も今であって人は1人も存在せずガラガラ。

 

椎名は同じ場所だと言うのに前に見た光景とは全く違う風景に新鮮さを感じながらも、司の言っていたそこの隠し通路を手当たり次第に探していく。

 

 

「んーーー……隠し通路ってどんなだよ……もっとわかりやすく作ってくれよ〜〜」

 

 

椎名は呆れていた。界放市どころか世界が危険なこの状況で、面倒くさがっていた。

 

司からはバトル場にあるとしか言われていない。つまり、バトル場の床にあると言う事だが、こんな広大なバトル場でそんなものを探すのはとても時間と労力がかかる。

 

が、そんな時だ。

 

 

ーガコッ!!

 

 

「っ!?」

 

 

椎名の少し離れたところの床が勝手に動き、開いた。おそらくはそれが隠し通路だ。

 

 

「おぉ、なんか……すごいかも……!」

 

 

カラクリのような感じで勝手に開いた床に、椎名はなんとなく心をくすぐられていた。その様子はあまりにも緊張感と緊迫感に欠けている。本当に今から世界を救いにいくのかと思えるほどだ。

 

だが、突如としてそれは終わりを迎える。

 

……その開いた床から上がってくる人物を見て………

 

そう、その床は決して椎名を導くために勝手に開いたわけではない。誰かが地下から普通に上がってきたのだ。椎名を倒すために…………

 

 

「…………え?」

 

 

自分の眼前に突如として現れた人物を見て、椎名は度肝を抜かれた。

 

その相手は…………

 

 

「……真夏……!?」

 

 

緑坂真夏。芽座椎名の親友とも呼べる存在。いつも一緒にいて、いつも一緒に笑っていた。しかし、今の真夏の表情は信じられないほどに冷たかった。まるで自分を敵として見ているような………そんな冷たい表情だった。

 

そんな真夏の様子に、椎名も今の状況ではとてもではないが笑えなかった。

 

 

「……エニーズ……戦え……戦え……」

「…ま、真夏!!どうしたんだよ!?しっかりしてよ!!」

 

 

壊れたレコーダーのように言葉を並べる真夏。能天気な椎名もただ事ではないと思い、ようやくこの事態に焦りを覚えていく。

 

だが、今更警戒しても時既に遅し………

 

……既に椎名は敵の罠に落ちている。真夏が自身のBパッドをこの場に瞬時に展開すると……

 

 

「っ!?」

 

 

なぜかそれに連動するかのように椎名のBパッドも勝手に展開し、バトルモードに移行してしまった。

 

 

「えぇ!?ちょっとちょっと!!どうなってんの!?」

 

 

いくら椎名がBパッドを元に戻そうとしても何故かそれはうんともすんとも言わず、バトルモード以外は一切の反応を示さない。

 

ここに来てBパッドが故障?

 

そんな馬鹿な……椎名とて手入れはしっかりしている。だとすると、理由はやはり真夏にある。

 

 

「デ・リーパー……意志、従う、エニーズ、倒す、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え…………」

「デ・リーパーって…あの化け物の……どう言う……」

 

 

もう何がなんだかさっぱりわからない椎名。困惑するが、その時、さらに追い討ちをかけるかのようにまた不思議な事起こる。

 

 

「うっふふふ!!…楽しみね〜〜!!」

「っ!?」

 

 

謎の囁きが椎名の耳の中に入って来る。しかし、椎名の周りには真夏以外は誰もいない。いったいこの謎の声主はいったい………

 

いや、謎ではない。聞き覚えがある。とても、とても聞き慣れた声だ。ずっと聞いている。

 

当然だ。何せ、この声は………

 

 

「……私の……声だ……」

 

 

紛う事なき椎名の声。喋り方や言動は全く別人だが、明らかにその声色は椎名と全く同じだった。

 

 

「うっふふふ!!ようやく気づいたね〜!!私はデ・リーパー!!その本体!!……よろしく、エニーズ!!」

「誰がエニーズだ!!…あなたが私そっくりの化け物だなぁ!!どこだ!どこにいる!!」

 

 

その声はデ・リーパー。姿はどこにも見せないが、確かに今、椎名と会話している。

 

 

「うっふふふ、私はここの地下にいるわ!!……でも、先ずはエニーズに準備運動をしてもらわないとね〜〜!」

「じゅ、準備運動?………っ!!」

 

 

この状況、準備運動と言う言葉のフレーズ、

 

頭の悪い椎名でもようやく察しがついた。

 

そう、これは椎名にとって決して避ける事のできない…………哀しき脅威のデスマッチだ。

 

 

「うっふふふ!!私に会いたかったらそこの緑坂真夏を倒してから来てね〜〜!!」

「戦え、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え………エニーズ………」

「…う、嘘でしょ?……ま、真夏………!!」

 

 

椎名の頭の血がサァーっと降って行く。今、この時、この瞬間、彼女に人生最大の難関が訪れていた。

 

友を倒し、先を急ぐか……

 

はたまたここで躊躇してわざと敗北し、デ・リーパーやDr.Aを倒せないままここで朽ち果てるか……

 

答えは2つに1つ……

 

しかし、その問いの答えは内心が幼い椎名にとってはあまりにも過酷で、惨たらしくて、更にそれでいて残酷なものだ。

 

 

 




〈次回予告!!〉


次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「死闘デスマッチ、椎名VS真夏!!」バトスピが今、進化を超える!!


******

※サブタイトルは変更の可能性があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

バトル無し回ですみません。しかし、ようやく事態が一本の場所に絞られつつあります。というか絞られました。


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第88話「死闘デスマッチ、椎名VS真夏!!」

 

 

 

 

 

 

界放市での戦いの場は遂に一点へと集中した。

 

Dr.Aの本拠地は界放リーグが開催される界放市中央スタジアムの地下に存在していた。そこへと乗り込む椎名と司。司はデ・リーパーの分身体を引きつけ、椎名を先へと急がせる。

 

先を急ぐ椎名だったが、そこで待ち構えていたのは、他でもない、緑坂真夏だった。椎名はデ・リーパーの策略に嵌り、真夏とのバトルを強いられてしまった。

 

 

「エニーズ、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え……」

「真夏!!やめてくれ!!目を覚ませ!!」

 

 

正気の目ではない真夏。明らかにデ・リーパーに操られている。

 

今のこの界放市の空間では、バトルの敗北者は上空のデ・リーパーの壁の糧となってしまう。司の話によれば、デ・リーパーの本体を倒すことができれば、すべて元通りになるのだが、

 

椎名に真夏を倒すことなどできない。いや、倒したくないと言うべきか。親友とも呼べる存在である真夏を犠牲にする勇気など、今の椎名には備わっていないのだ。

 

だが、そんな椎名の想いとは裏腹に、彼女のBパッドはコントロールを完全に掌握され、バトルモードに移行している。デッキからカードを引いたらバトルが始まってしまう状況だ。

 

 

「おいデ・リーパー!!早く真夏を元に戻せ!!…おい!!」

 

 

さっきまで頭の中に直接囁くかのように入って来ていたデ・リーパーの声はもう聞こえない。おそらくここよりさらに地下で待機しているのだろう。

 

 

「戦え、戦え、戦え、戦え、戦え、戦え、エニーズっ!!」

「…真夏!!気を確かにしてくれ!!そんな言葉使いじゃないだろ!!」

「戦え、戦え、戦え、」

 

 

いくら椎名が呼びかけても今の真夏にそれは届かない。永遠と真夏は椎名にバトスピで戦えと連呼するのみ……

 

そして、とうとう痺れを切らしたのか、洗脳された真夏はゆっくりとBパッド上のデッキからカードを抜き取り…………

 

 

「パルモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【パルモン】LV1(1)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

「っ!?…真夏っ!!」

 

 

勝手にバトルを開始させた。真夏は自分の場にトロピカルな花を咲かせる成長期スピリット、パルモンを召喚し、そのターンをエンドとした。

 

これにより、椎名がこのバトルを承諾しなければ、椎名は真夏のスピリットたちのアタックをただただのうのうと食らってしまうだけだ。そうなれば椎名は負け、晴太や雅治たち同様この場からデ・リーパーの壁の糧とされてしまうだろう。

 

つまり、是が非でもバトルをしなくてはならなくなってしまって………

 

 

「くっ……やるしかないのか……!!」

 

 

拳を強く固める椎名。

 

いくらデ・リーパーに勝てば良いからと、真夏に勝って彼女を消し去るなんてことはできない。「真夏を消した」と言う事実が心に残るからだ。

 

だが、このままただ突っ立っているわけにはいかない。だとしたらやれる事はただ一つ、このバトルを受けて、このバトル中に真夏を助けるだけだ。

 

椎名は拳と共にさらに決意を固めて、このバトルに臨む。

 

 

「待ってて真夏!!絶対元に戻すから!!……ゲートオープン、界放!!」

 

 

本来なら栄誉ある界放リーグでしか使用されないバトル場、そこで椎名と真夏の無益で無駄で、それでいて無謀なデスマッチが椎名のコールと共に幕を開けてしまう。

 

先行は真夏だったが、既にターンを終えたため、後攻の椎名のターンが今から始まる。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ……ワームモンを召喚!!効果でカードをオープン!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

【ワームモン】LV1(1)BP3000

オープンカード↓

【ライドラモン】×

【マグナモン】×

 

 

椎名が呼び出したのは芋虫のような緑の成長期スピリット、ワームモン。その効果を発揮させるものの、どれも対象内のカードではないため、いずれもトラッシュへと破棄された。

 

 

「アタックステップ!!目を覚まさせてやるっ!!アタックだワームモン!!」

 

 

ワームモンでアタックを仕掛ける椎名。ワームモンが体を丸めてゴムボールのようにはね飛ぶ。目指すは当然真夏のライフ。

 

 

「ライフで受ける……」

ライフ5⇨4

 

 

ワームモンの体当たりが真夏のライフを1つ破壊した。今のバトルはどれもライフが破壊されるたびに激痛が伴うはずだが、真夏は痛覚がないのか、平然とした顔でそれを難なく耐えた。

 

 

「どうだ真夏!!ターンエンド!!」

【ワームモン】LV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

椎名は勢い良くそのターンを終える。

 

が、真夏は………

 

 

「……スタートステップ……」

「っ!?」

 

 

椎名の熱い想いが込められたアタックなど全く意に介さず、冷たい表情のままそのターンを再び進める真夏。これだけでは足りないとでも言うのだろうか………

 

 

[ターン03]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ……フローラモンをLV2で召喚…効果、カードをオープン」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

【フローラモン】LV2(3)BP5000

オープンカード↓

【フローラモン】◯

【パルモン】◯

【トゲモン】◯

 

 

パルモンとはまた違った形でトロピカルな花を咲かせる緑の成長期スピリット、フローラモンを召喚する真夏。その効果で真夏は手札に新たなカード、【トゲモン】を手札に加え、残りを破棄した。

 

 

「アタックステップ開始時、フローラモンの効果、【進化:緑】を発揮、トゲモンに進化」

手札4⇨5

【トゲモン】LV2(3)BP6000

 

 

全く覇気のない声で進化を宣言する真夏。フローラモンにデジタルコードが巻きつけられ、その中で姿形を変えて、新たなスピリット、サボテンのような見た目のトゲモンとなって真夏の場に再び姿を見せる。

 

 

「トゲモン、パルモン、アタック……トゲモンの効果でコア一つをトゲモンに置く」

【トゲモン】(3⇨4)

 

 

走り出すパルモンとトゲモン。目指すは当然椎名のライフ。彼女の場は疲労しているワームモンのみ。このアタックはブロックできず………

 

 

「ライフで受けるっ!!……ッ、…ガッ!?」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

パルモンの爪の一撃、トゲモンの強烈なパンチが椎名のライフを粉砕した。椎名にライフ破壊に伴う激痛が走る。

 

 

「…くっ……こんくらいの痛みなら屁でもないね!!」

 

「ターンエンド」

【パルモン】LV1(1)BP3000(疲労)

【トゲモン】LV2(4)BP6000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

真夏はできることを全て終え、そのターンをエンドとした。次は椎名のターン。ここから反撃に転ずるべく、堂々動き出す。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

【ワームモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!……ワームモンのLVを2に上げ、グラウモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨4

【ワームモン】(1⇨3)LV1⇨2

【グラウモン】LV1(1)BP4000

 

 

椎名の場に飛び出してきたのは真紅の魔竜、その成熟期の姿、グラウモン。

 

 

「そしてバーストを伏せ、アタックステップ!!ワームモンの【進化:緑】を発揮!!成熟期スピリット、スティングモンを召喚!!さらに効果でコアを増やす!!」

手札4⇨3

【スティングモン】LV2(3⇨4)BP8000

 

 

今度は椎名の緑進化。場にバーストカードが伏せられると共にワームモンがデジタルコードに包まれ、進化する。そしてそれを突き破り、新たに現れたのはスマートな昆虫戦士、スティングモン。

 

ここまでは順調。手札にさらなる進化スピリットがあればさらに強力なスピリットを呼び出すことができるだろう。

 

……しかし、今回の真夏はひと味ちがう。

 

 

「相手がコストを払わずにスピリットを召喚した時、手札からこのカード、ソーンプリズン〈R〉の【ゼロカウンター】を発揮」

手札5⇨4

 

「なにっ!?【ゼロカウンター】だって!?」

 

 

真夏がそのカードの宣言を行うと、それだけで椎名の場、即ちスティングモンとグラウモンの眼前に木々の蔓のようなものが現れ、行く手を阻む。

 

 

「【ゼロカウンター】の効果、相手がバースト以外でコストを払わずに召喚した時、これをノーコストで発揮、発揮時の相手のステップを終わりにする」

「っ!?」

 

 

【ゼロカウンター】……それは相手がスピリット又はブレイヴを効果によってコストを支払わずに召喚した時のみ発揮可能な効果。ソーンプリズン〈R〉の効果はその発揮時点のステップを強制的に終了させるもの。

 

その効果でスティングモンとグラウモンの行く手を阻むように現れた蔓。【進化】はアタックステップ中に発揮される効果。つまり、椎名はアタックステップを止められたことになる。

 

 

「2コスト払い、追加効果、このカードを手札に戻す……トゲモンをLVダウン」

手札4⇨5

【トゲモン】(4⇨2)LV2⇨1

トラッシュ2⇨4

 

 

【ゼロカウンター】の厄介なところはそれだけではない。コストさえ払って仕舞えば手札に戻る事が可能。何度でも使用できるのだ。

 

このカードの存在のせいで、椎名は進化させづらくなったと言える。

 

 

「……くっ、ターンエンドだ」

【スティングモン】LV2(4)BP8000(回復)

【グラウモン】LV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

アタックステップが終わって仕舞えば何もすることなどない。椎名はそのターンを終えてしまう。

 

強力な効果を持つ成熟期スピリット2体を並べて何もできないのはどうも歯痒い。真夏をどうにか助けないといけないと言う想いもあって、今の椎名は心のどこかに焦りを覚えている。

 

 

[ターン05]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

【トゲモン】(疲労⇨回復)

【パルモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……エニーズは敵、排除する……」

「私はエニーズじゃない!!思い出せ真夏!!」

 

「老賢樹トレントンを召喚……!」

手札6⇨5

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

【老賢樹トレントン】LV1(1)BP5000

 

「っ!!」

 

 

真夏は椎名の事を椎名とは呼ばず、エニーズと呼称する。椎名の声は一切届かない。もはや1人の戦闘マシーンとなってしまった彼女は、自分の場に巨大な大木、老賢樹トレントンを呼び寄せた。

 

 

「召喚時効果、手札にあるリリモンを召喚……!」

手札5⇨4

【トゲモン】(2⇨1)

【リリモン】LV1(1)BP7000

 

 

さらにその生い茂る木々の中から姿を見せるスピリットが1体、それは真夏のエーススピリット、妖精型の完全体スピリット、リリモンが飛翔し、場へと降りてきた。

 

 

「くっ……リリモンまで……」

 

 

真夏だけでなく真夏のスピリットでさえも椎名を敵視した目で見つめる。

 

これはバトル。当然だ。あのスピリットたちは真夏に従う。だが、この真夏が洗脳されている状況では彼らもまた操られているように見えてしょうがなかった。

 

 

「アタックステップッ!…リリモンでアタック……」

「っ!!」

 

 

リリモンでアタック宣言を行う真夏。

 

椎名は今まで幾度となく受けてきたその強力なアタック時効果を今一度受けることになる。

 

 

「リリモンのアタック時効果、コアを2つ置き、ターンに一度回復!」

【リリモン】(1⇨3)LV1⇨2(疲労⇨回復)

 

 

リリモンはアタック時にコアを置きつつ、ターンに一度のみ回復。これだけでも強力だが、さらにまだ効果は続く。

 

 

「【旋風:1】の効果でグラウモンを重疲労!」

 

「っ!!…グラウモンッ!!」

【グラウモン】(回復⇨重疲労)

 

 

リリモンの両手に装備されるキャノン砲、そこから強烈な緑の光の弾丸が発射され、椎名の場のグラウモンを射抜く。グラウモンはあまりの疲労感により、その場でぐったりと地面に身体を伸ばししまう。

 

 

「アタックは継続中……死ね、エニーズ……」

 

「っ!!だから私はエニーズじゃないって!!……ライフで受ける………ッ!」

ライフ3⇨2

 

 

リリモンは椎名のライフめがけて掌から緑の光線を発射。椎名のライフに直撃し、それがまた一つ木っ端微塵に砕け散った。

 

 

「くっそぉ!!…まだやられる訳にはいかないッ!!……ライフ減少により、バースト発動!!…マリンエンジェモン!!」

「!!」

 

 

このままでは真夏を戻すこともできずにただただやられるだけだ。椎名は一先ずこのターンを凌ぐべく、伏せていたバーストを発動させる。

 

 

「マリンエンジェモンは効果により召喚!!」

リザーブ1⇨0

【マリンエンジェモン】LV1(1)BP3000

 

 

バーストが反転すると共に椎名の場へと現れ出たのは小さな桃色の究極体スピリット、マリンエンジェモン。

 

その効果は究極体らしく強力なものを有している。

 

 

「マリンエンジェモンの効果!!このターン、コスト9以下のスピリットのアタックじゃぁ、私のライフは減らないッ!!…オーシャンズラブ!!」

 

 

マリンエンジェモンは囀るように小さく歌うと、椎名の周りに水のバリアが展開。それはこのターンの間は解けることなく、一定のコスト体のスピリットのアタックを受け付けない。

 

 

「リリモンでアタック……コアを増やし、マリンエンジェモンを重疲労…!!」

【リリモン】(3⇨5)LV2⇨3

 

「っ!!」

【マリンエンジェモン】(回復⇨重疲労)

 

 

だが真夏はそれを見越してもまだアタックする事を止めず、リリモンでアタックを続行。リリモンの両腕から放たれるキャノン砲が椎名のマリンエンジェモンを撃ち抜いて地面へと這いつくばらせた。

 

 

「…くっ……アタックはライフで受ける」

ライフ2⇨2

 

 

リリモンが掌から光線を放ち、再び椎名のライフを砕こうとするも、椎名のライフはマリンエンジェモンの放ったオーシャンズラブの効果によって守られているため、それを全く寄せ付けない。

 

 

「………ターンエンド」

【トゲモン】LV1(1)BP4000(回復)

【パルモン】LV1(1s)BP3000(回復)

【老賢樹トレントン】LV1(1)BP5000(回復)

【リリモン】LV3(5)BP12000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

これ以上はアタックする必要がないとみたか、真夏はそのターンを終える。これに伴い、マリンエンジェモンが椎名の周りに出現させた水のバリアは消滅した。

 

次は椎名のターンだ。ここらで一度劣勢を覆さねば大量に存在する真夏のスピリットにタコ殴りにされるのは目に見えているが………

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

【グラウモン】(重疲労⇨疲労)

【マリンエンジェモン】(重疲労⇨疲労)

 

 

「くっ…グラウモンとマリンエンジェモンは回復できない……」

 

 

地面にぐったり倒れる2体はこのリフレッシュステップでようやく通常の疲労状態となる。少なくともこのターンはアタックができない。

 

今現在、椎名の場でアタックできるのはスティングモンだけだ。しかし、そのスティングモンだけではこの場はどうしようもない。せめてグラウモンが回復状態だったら破壊効果でどうにかできただろうが………

 

おそらく真夏もそれを見越してグラウモンを疲労させたのだろう………

 

 

「……とにかくスピリットを並べないと……メインステップッ!!ワームモンとブイモンを召喚!!それぞれの召喚時効果を発揮!!カードをオープン!!」

手札4⇨2

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨2

【ワームモン】LV1(1)BP3000

【ブイモン】LV1(1)BP2000

ワームモンオープンカード↓

【ディーアーク】×

【デジヴァイス】×

ブイモンオープンカード↓

【フレイドラモン】◯

【デュークモン】×

 

 

進化によって手札に戻っていたワームモンが再び椎名の場に垣間見える。さらに追加で青きドラゴンの成長期スピリット、ブイモンも召喚される。

 

その効果はブイモンのみ成功。椎名は新たにアーマー体であるフレイドラモンのカードを手札に加えた。

 

 

「アタックステップッ!!……もう一発!!これで目を覚まさせてやる!!スティングモンでアタック!!」

手札2⇨3

【スティングモン】(4⇨5)LV2⇨3

 

 

真夏の手札に【ゼロカウンター】がある限り椎名は進化ができない。ここは何もせず、スティングモンでのアタックを試みる。

 

が、このアタックによるフラッシュタイミングで、洗脳された真夏は椎名の目の前にとんでもないスピリットを呼び出す。

 

 

「フラッシュ…【煌臨】を発揮……対象はリリモン……ソウルコアの不足コストはパルモンから確保…よって消滅」

【パルモン】(1s⇨0)消滅

トラッシュ4⇨5s

 

「っ!!」

 

 

パルモンがソウルコアの確保のためにこの場から消滅させられる。しかし、その行いは決して無駄ではなく、新たなスピリットを呼び出すための礎………

 

リリモンが強烈な暴風、竜巻の中に閉じ込められて行き、新たなる進化を施される。それは究極体スピリットでなければ、デジタルスピリットでさえもない。

 

だがそれでも特別なスピリット。それはその竜巻を解き放ち、今この地上へと降り立つ。

 

 

「現れよ虚神!!天帝ホウオウガッ!!」

手札4⇨3

【天帝ホウオウガ〈R〉】LV3(5)BP22000(疲労)

 

「なにっ!?虚神だって!?」

 

 

荒れ狂う暴風と共にその姿を現したのは色鮮やかな翼を広げる巨大な彩鳥、天帝ホウオウガ。その貫禄はまさしく神にも等しいと言える。

 

だが、椎名は決してそんなところに驚いているわけではない。この程度のスピリットは今まで散々現れていたし、幾度となく乗り越えてきた。

 

問題なのは真夏が持ってもいないあのカードを使っていることだ。

 

 

「…真夏……どうしたんだよそのカード……!!」

 

 

真夏はデッキにそんなカードは入れていない。可能性があるとしたらDr.Aかデ・リーパーが真夏のデッキに投入した事になる。

 

さらにこの時、椎名はまた新たな事に気付き始める。それはホウオウガが雄々しく美しい翼を羽ばたかせながら、椎名を威嚇するかのように奇声を上げた時だ。

 

 

「っ!?…これは……!!」

 

 

椎名は不思議と感じ取ってしまった。ホウオウガの中にあり、僅かながらに漏れ出ている途方も無いエネルギーを……

 

 

「これは進化の力!?…あれが真夏をおかしくしているんだ……」

 

 

鬼化の力をコントロールした今の自分にはわかる。これは紛う事なき進化の力。真夏の力とは違う進化した力だ。

 

椎名は悟る。間違いない。真夏がおかしくなっているのはあのホウオウガのせいであると………

 

 

「じゃあ、あいつさえ倒せば真夏は……!!」

 

 

元に戻せる。あのホウオウガさえ倒せば……

 

そう確信した。

 

だが、これが一筋縄ではいかない事は確かな事。洗脳された真夏はそのホウオウガの効果を遺憾なく発揮させる。

 

 

「ホウオウガの煌臨時効果!!…【旋風:3】!!…ワームモン、ブイモン、スティングモンを重疲労……!!」

 

「なにっ!?」

【スティングモン】(疲労⇨重疲労)

【ワームモン】(回復⇨重疲労)

【ブイモン】(回復⇨重疲労)

 

 

ホウオウガの美しい翼から巻き起こる強風。それがブイモンとワームモンだけでなく、アタック中であるスティングモンさえも重疲労してしまう。

 

さらにこれだけでは終わらないか、真夏は追い討ちをかけるように手札のカードを引き抜いて………

 

 

「フラッシュマジック…ソーンプリズン〈R〉…相手は相手のスピリット2体を重疲労……!!」

手札3⇨2

【天帝ホウオウガ】(5⇨3)LV3⇨2

トラッシュ5s⇨7s

 

「っ!?…また重疲労……!!」

【グラウモン】(疲労⇨重疲労)

【マリンエンジェモン】(疲労⇨重疲労)

 

 

さっき使用した【ゼロカウンター】を持つマジックカードをこのタイミングで使用してきた真夏。ここで使ってきた椎名のターンでのアタックを封じるためか………

 

それともはたまた椎名のブロックできる確率を減らすためか………

 

 

「スティングモンのアタックはトゲモンでブロック……!!」

 

 

重疲労になってしまったとは言え、スティングモンのアタックは未だ継続中、その相手はトゲモンが務める。

 

トゲモンがヘビー級ボクサー並みのパンチをスティングモンに向けて放つが、スティングモンはそれをひらりと避け、逆にトゲモンの懐に強烈なカウンターの一撃をお見舞いする。

 

それを受けたトゲモンは吹き飛ばされ、爆発した。

 

 

「……くっ……ターンエンド」

【スティングモン】LV3(5)BP10000(重疲労)

【グラウモン】LV1(1)BP4000(重疲労)

【マリンエンジェモン】LV1(1)BP3000(重疲労)

【ワームモン】LV1(1)BP3000(重疲労)

【ブイモン】LV1(1)BP2000(重疲労)

 

バースト【無】

 

 

これだけ多量のスピリットを召喚していながら、アタックできたのは僅か一回、しかも全て重疲労状態にさせられてしまっている。

 

次はホウオウガで椎名の身動きを止めた真夏のターン。戦闘マシーンはトドメを刺すべく再びターンを開始する。

 

 

[ターン07]真夏

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

【天帝ホウオウガ〈R〉】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……フローラモンを召喚」

手札3⇨2

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨2

【フローラモン】LV1(1)BP3000

 

 

真夏は進化の効果によって手札に戻っていたフローラモンを今一度召喚する。

 

下準備なこんなものか、真夏はアタックステップへと移行し、椎名へのアタックを決行する。

 

 

「アタックステップ!!ホウオウガでアタック……」

 

 

羽ばたき飛び立つホウオウガ。そしてさらにその瞬間、ホウオウガの第2の効果が発揮される。

 

 

「フラッシュ、ホウオウガの効果によりリザーブのコアをボイドに置き、回復する」

リザーブ6⇨5

【天帝ホウオウガ〈R〉】(疲労⇨回復)

 

「っ!?」

 

 

ホウオウガはLV3の時、フラッシュタイミングでリザーブのコアを1つボイドに置けばターンに何度でも回復する。この効果により、ホウオウガはより強く、優雅な雄叫びを上げ、回復状態となった。

 

椎名のスピリットは全て重疲労状態。ライフは2。絶対絶命の状況だ。反撃したいところだが、なにぶんホウオウガのBPと効果が強すぎる………

 

 

「ライフで受ける……ッ」

ライフ2⇨1

 

 

ホウオウガの巻き上げる暴風が椎名のライフをいとも容易く消しとばした。いよいよレッドゾーンに到達してしまう。

 

 

「二撃目……フラッシュの効果により回復」

リザーブ5⇨4

【天帝ホウオウガ〈R〉】(疲労⇨回復)

 

「っ!!」

 

 

椎名を倒す事になんの躊躇や戸惑い真夏。最後のアタック宣言を行う。

 

しかし、最後だと思っているのは真夏だけ、椎名は今一度この強烈なアタックステップを退けるべく手札からカードを抜き取る。

 

 

「フラッシュマジック!!…デルタバリア!!…不足コストはスティングモンのLVを1に下げて確保する!!」

手札3⇨2

【スティングモン】(5⇨1)LV3⇨1

トラッシュ2⇨6

 

「!!」

 

「このターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックじゃ私のライフは減らない!!……ホウオウガのアタックはライフで受ける!!」

ライフ1⇨1

 

 

スティングモンのLVが降下するものの、椎名の前方にライフバリアとはまた違った三角形のバリアが出現。

 

ホウオウガが翼を叩きつけたり、脚で蹴りつけたりするものの、前方のバリアのお陰で椎名のライフには傷一つつかない。

 

だが、これが発揮されるのはコスト4以上のスピリットのみ、ホウオウガはコスト10のスピリットであるため守れたものの、今の真夏の場にはコスト3のスピリット、フローラモンも存在しており………

 

 

「フローラモンでアタック………」

 

 

それでアタックを仕掛けてきた。だが、これを見越していた椎名の表情には緊張感は漂うも、まだ余裕の顔が浮かんでおり………

 

 

「そりゃ、そう来るよね……でも真夏!!…私の手札には前のターンで加えたこれがある!!…フラッシュ、フレイドラモンの【アーマー進化】を発揮!!対象はブイモンッ!!」

「!!」

 

 

重疲労状態により、地面にぐったりと倒れるブイモンの頭上に、赤いデジメンタルが投下される。それはブイモンに直撃し、それと混ざり合い、新たな姿へと昇華させる。

 

 

「燃え上がる勇気!!…現れよ、フレイドラモン!!」

リザーブ2⇨1

トラッシュ6⇨7

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000(回復)

 

 

新たに現れたのは炎燃ゆるスマートな竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモン。【アーマー進化】の効果は【進化】とは違い、コストを支払う効果。仮に真夏が2枚目の【ゼロカウンター】を持っていても発揮できないし、新しい召喚扱いであるため、ブイモンの重疲労状態さえも解除し、回復状態となっている。

 

フレイドラモンの効果も相まって、今のこの状況にはこれ程までに適したスピリットは他にいないだろう。

 

 

「フレイドラモンの召喚時効果!!BP7000以下のスピリット、フローラモンを破壊!!」

「!」

 

「爆炎の拳…ナックルファイアァァァア!!」

手札2⇨3

 

 

フレイドラモンは登場するなり、拳から炎の鉄拳を放ち、迫ってくるフローラモンを迎撃、そして直撃。草花で身を包んでいるフローラモンがその炎の鉄拳に耐えられるわけもなく、あっさりと焼却されてしまった。

 

 

「………ターンエンド」

【老賢樹トレントン】LV1(1)BP5000(回復)

【天帝ホウオウガ〈R〉】LV3(5)BP22000(回復)

 

バースト【無】

 

 

完全に攻め手を奪われた真夏は致し方なくそのターンを終える。次は椎名のターン。もう後がない。ここでどうにかできないのであれば、自分も真夏も終わりだ。

 

そう思いながら、奇跡の大逆転を起こすべくターンを進めていく。

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨9

トラッシュ7⇨0

【スティングモン】(重疲労⇨疲労)

【ワームモン】(重疲労⇨疲労)

【グラウモン】(重疲労⇨疲労)

【マリンエンジェモン】(重疲労⇨疲労)

 

 

全てのスピリットが一段階回復するも、未だ疲労状態で動けないまま、今の椎名の場で動くことができるのはフレイドラモンだけだ。しかもこんな状態であのホウオウガを倒さなければならないのだ。

 

普通は不可能に近い。が、椎名はいつだってこんな状況を乗り越えてきた。どんなに劣勢に立たされても自分の引きの強さだけを信じて堂々としてきた。

 

……そして今回も………

 

 

「メインステップッ!!ブイモンを再召喚!!効果によりカードをオープン!!」

手札4⇨3

リザーブ9⇨7

トラッシュ0⇨1

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【ギルモン】×

【パイルドラモン】◯

 

 

椎名の場に【アーマー進化】の効果で手札へ戻っていたブイモンが再び現れる。そしてその効果も成功、椎名は新たにパイルドラモンのカードを手札へと加えた。

 

 

「よし……いくぞ真夏!!…私は至高の竜戦士、パイルドラモンをLV2で召喚!!」

手札3⇨4⇨3

リザーブ7⇨1

トラッシュ1⇨4

【パイルドラモン】LV2(3)BP10000

 

 

至高の光を放つ青と緑の光。それは混ざり合い、新たなるスピリットを呼び覚ます。そして椎名の場へと新たに君臨して来たのは青と緑の完全体スピリット、竜人型のパイルドラモン。

 

 

「パイルドラモンの召喚時効果!!…コスト7以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!!」

「コスト6のトレントンを破壊!!…デスペラードブラスター!!」

 

 

パイルドラモンは登場するなり、両腰に備え付けられた機関銃を真夏のトレントンに向け連射。木々や幹ごとぶち抜き破り、トレントンを爆破に追い込んだ。

 

 

「まだ行くぞ!!スティングモンを消滅させ、フレイドラモンのLVを2にアップ!!さらに青のブレイヴカード、双牙皇オルト・ロードを召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

トラッシュ4⇨5

【スティングモン】(2⇨0)消滅

【フレイドラモン】(1⇨3)LV1⇨2

 

 

不足コストの確保により、スティングモンが消滅してしまうものの、フレイドラモンのLVが上昇し、さらに場には青のブレイヴ、二つの首を持つ獣、オルト・ロードが姿を見せる。

 

 

「パイルドラモンとオルト・ロードを合体!!」

【パイルドラモン+双牙皇オルト・ロード】LV2(3)BP15000

 

 

オルト・ロードがパイルドラモンと衝突し、混ざり合う。パイルドラモンはその蒼き力を受け、姿を変えていく。上半身にはオルト・ロードの武装が施され、青と白の4枚の翼は消滅し、新たに巨大な漆黒の翼が2枚生えてくる。

 

その眼光さえも鋭く蒼く染まり、真夏の場のホウオウガを一点に睨みつける。

 

 

「準備は万端だ!!アタックステップッ!!…いけぇ!パイルドラモン!!」

 

 

アタックステップに入り、パイルドラモンが漆黒の翼を翻し、勢いよく空を飛ぶ。

 

 

「パイルドラモンのアタック時効果!!コアを2つ追加し、ターンに一度回復!!…エレメンタルチャージ!!」

【パイルドラモン+双牙皇オルト・ロード】(3⇨5)LV2⇨3(疲労⇨回復)BP15000⇨18000

 

 

パイルドラモンにボイドからコアが追加され、身体が一瞬のみ虹色に光り輝く。これは同時に回復している証拠でもある。これにより、最低二度のアタックが可能となった。

 

だが、今回に限ってはまだ終わらない。今度はフレイドラモンの効果だ。

 

 

「フレイドラモンのLV2効果!!…効果名に【進化】を含むスピリット全ては相手のスピリットを指定してアタックができる!!」

「!!」

「パイルドラモンは効果に【ジョグレス進化】を持つ!!…ホウオウガに指定アタックッ!!勝負だ真夏!!」

 

 

フレイドラモンの燃え上がる炎が伝達するようにパイルドラモンへと流れて来る。パイルドラモンはその身をその炎で焦がし、地上に佇むホウオウガへと急降下する。

 

それを見たホウオウガは戦闘態勢に入る。その場で竜巻を発生させ、上空のパイルドラモンを孕ませると同時に自身もまた上空へと飛び上がった。

 

パイルドラモンも負けじと平行線に並び立ったホウオウガにデスペラードブラスターを放つが、ホウオウガはそれを難なく回避、そして目にも留まらぬスピードでパイルドラモンに次々と一撃を与えていく。

 

BPは圧倒的にホウオウガの方が上、パイルドラモンは防戦一方のまま何もできず、破壊されるだろう。

 

飽くまでもこのままではの話だが………

 

 

「……パイルドラモン、負け、エニーズ、負け……」

「真夏だったらわかるはずだ!!私がこんなところで諦めるわけがないって!!…最後の最後まで全力で私のバトルスピリッツを貫く!!」

 

 

そうだ。椎名が、あの芽座椎名がこんなところで諦めるわけがない。必ず最後にはホウオウガに勝ち、真夏を助ける。

 

 

「フラッシュマジック!!ストロングドロー!!…不足コストはグラウモンから確保!!…パイルドラモンのBPを3000アップ!!」

手札2⇨1

【グラウモン】(1⇨0)消滅

トラッシュ5⇨6

【パイルドラモン+双牙皇オルト・ロード】BP18000⇨21000

 

 

ホウオウガの攻撃をただひたすらに受け続けるパイルドラモン。グラウモンの犠牲により、そのBPが上昇するが、まだそれには敵わない。

 

だがまだだ。まだまだだ。これでも足りないならまだカードを使うまで………

 

 

「フラッシュマジック!!ワイルドライド!!不足コストはワームモンとマリンエンジェモンから確保!!…パイルドラモンのBPをさらに3000アップ!!」

手札1⇨0

【ワームモン】(1⇨0)消滅

【マリンエンジェモン】(1⇨0)消滅

トラッシュ6⇨7

【パイルドラモン+双牙皇オルト・ロード】BP21000⇨24000

 

「!!」

 

 

追加でワームモンとマリンエンジェモンが消滅し、パイルドラモンのBPが追加で3000アップ。ついにホウオウガのBPを凌駕した。

 

何度も槍のように突進してくるホウオウガに対し、パイルドラモンはとうとうその動きを完全に見切り、紙一重で躱すと、ホウオウガの首根っこを捕まえ、振り回し、さらに上空へと投げ飛ばした。

 

さらにパイルドラモンは腰に備え付けられた機関銃を体勢を崩したホウオウガへと向け………

 

 

「真夏にそんなスピリットは似合わない!!…そんなカード捨てちゃえぇぇぇぇえ真夏ぁ!!……蒼銃撃……デスペラードブレイズッ!!」

 

 

椎名がそう強く叫ぶと、パイルドラモンはそれに呼応するかのように機関銃から蒼きエネルギーを射出。それは一直線にホウオウガの方へと伸び、直撃。ホウオウガは両翼をもがれ、撃墜し、大爆発を起こした。

 

そしてその時、椎名の予想は正しかったか、ホウオウガの破壊直後に真夏に異変が起こる………

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

「っ!!…真夏っ!!」

 

 

ホウオウガと真夏には何かしらの強いリンクがあったのか、ホウオウガ破壊直後に、真夏の体内からドス黒い靄が次々と飛び出していく。

 

それが進化の力とでも言うのか………その黒い靄は上空に伸び、ゆっくりとその姿を消滅させていった。

 

……そして、

 

 

「う、ぅぅっ!?……し、椎名?」

「っ!!真夏っ!!…良かった!!無事なんだね!!」

「あ、あたし、い、今まで何を……………ッ!?!」

 

 

ようやく本当の意識を取り戻した真夏。喋り方も言動もいつもの真夏へと元に戻る。

 

ただ、デ・リーパーに捕らえられていた時の記憶が残っているのか………その記憶を瞬時に取り戻していき………

 

……悟る。ここまでのバトル。今まで自分が何をしてきたのかを全て理解した上で……今自分が何をすべきなのかを………

 

 

「……椎名……あたしを倒せや……!!」

「………え?」

 

 

荒くなっていた呼吸が回復した真夏が開口一番に放った言葉はまさかの倒せという命令だった。椎名は一瞬わけがわからなくなった。

 

 

「な、何言って……」

「わかるんや、あたしには……このバトル、どっちかが朽ち果てるまで終わることはない。そして、負けたらあの壁の一部にされる……」

「………ッ」

「あたしとあんたやったら、どっちかっつーーと、あんたの方がまだ残った方がええやろ?」

 

 

一時デ・リーパーに身体を奪われていた真夏は今の界放市の仕組みをよく理解している。

 

その通りだ。負けた方は消える。そして、このバトルにおいては勝敗がつくまでBパッドはバトルモードを解除できない。罠に嵌った椎名のもそうだし、真夏のもそうなっている。

 

 

「だから椎名……早く倒しぃ」

「嫌だよ!!絶対に私はアタックしない!!……絶対に!!」

「アホ抜かせ、せやったらどないすんねん!!」

「……それは今から考える!!…だから自分から消えるなんて言わないでよ!!」

「ッ!!」

 

 

できるはずがない。デ・リーパーの本体を倒すことができればあの壁は消え、全てが元どおりになるとしても、

 

一度だって友達をそんな目に会わせるわけにはいかない。消えることがどんなに怖い事か計り知れない。況してやそれを自分のてで行うなど持っての他だ。

 

だが真夏は………

 

 

「はっはっは!!あんたは本当、マジモンのアホやな〜〜……でもあたしはそんなアホでバカみたいなあんたみたいに、かっこよぉ、なりたかったのかもしれへん………」

「……真夏…っ!?」

 

 

真夏はそう言い、右手をBパッド上にあるデッキの横へとゆっくり手を伸ばす。椎名は瞬時に理解した。その行いはまさしく【サレンダー】………

 

Bパッド上のデッキの直ぐ横にあるボタンをタップすれば、サレンダーが認められるのだ。

 

真夏は自ら身を引き、椎名に勝利を譲る気だ。

 

 

「じゃあな……足手まといで、ほんま、すまんなぁ………せやけど、あんたなら絶対……絶対みんなを救えるって信じとる!!」

「やめてくれよ……やめてくれ、そんな悲しい顔しないでくれよぉ!!………真夏ぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

真夏は椎名にそう言い残し、涙を流しながら止めようとする椎名の願いを聞かずに、そこにそっと右手を置いた。すると、彼女の身体がデジタル粒子に分解され……上空のデ・リーパーの壁に吸い付くされていった。

 

洗脳されていた椎名のBパッドがようやくバトルモードから解除され、元の形に戻る。それに伴い、場に残っていたブイモン、フレイドラモン、パイルドラモンが消滅していった………

 

………最も悲しきバトルは、こうして終わりを告げたのだった…………

 

ただ1人取り残された椎名は立つ気力さえをも失ったか、膝から崩れ落ちる。

 

 

「……う、ぅぅぅう!!!!」

 

 

自惚れていた。この【鬼】と呼ばれる力に……何でもできると思っていた。これさえあればみんなを必ず守れる思っていた。しかし、それはほんの思い違い……

 

………自分は決して、特別な存在ではなかった………

 

 

「なんでだよっ!?!…なんで私なんかのために命かけたんだ!?……くっそ……くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」

 

 

涙が止まらない。何もできなかった自分が憎い。存在が気に入らない。

 

友を倒してしまったという椎名の考えがその頭をおかしくしてしまう。体の中身を丸ごと抉り取られるような痛みに駆られる。全身が痒くて気持ち悪い。

 

椎名の嘆きとそこから発せられる後悔の叫びはしばらく収まる事はなかった………

 

 

******

 

 

一方ここは中央スタジアムの周囲。司が3体のデ・リーパーの分身体を引きつけ、バトルしていた。そしてその長いバトルもようやく終わりを迎えようとしていた………

 

 

「フッ、テメェらはやはり分身体だと弱くなるみたいだなぁ!!終わりだっ!!……やれ、ジョーカー!!」

 

 

黒き怪人、ジョーカーがデ・リーパーの分身体の最後のライフを腕に装着された鋭利な外骨格の一撃によって切り裂かれた。

 

これにより、バトルは司の勝利。見事、分身体の三連ちゃんでのバトルを制した。が、うかうかはしてられない。

 

 

「ちぃ、わざと俺のコントロールできる分身体を減らしやがったんだ。Dr.Aは俺の計画を計算に入れている可能性が高い……くっ、急ぐか……!!」

 

 

そうだ。本来ならば自分も芽座椎名と共にスタジアムの地下へと乗り込んでいたはずだ。自分のもらっていた分身体が半分ではなく、三体分超過されるように配られたのはこれを見越しての事だろう。

 

先を急ごうとする司………しかし、ここである異変が彼の体に起こる。

 

 

「ッ!?!…ぐ、ぐうっ!!」

 

 

唐突に身体に痛みが伴う。体中が蝕まれるような感覚が司を襲い始める。司はこの痛みの理由に当てがあったか、デッキからある1枚のカードを取り出す。

 

それは………Dr.Aから譲り受けたカード、ジョーカー……司の予想通り、そのジョーカーのカードは眩い光を発していた。その光がなくなると、司の痛みは和らいでいく………

 

このカードは彼らの目を欺くため、そして一時的なパワーアップのためにもらっていたカードだったが………

 

しかし、今はそんな事気にしてもいられない。司はカードとデッキを懐にしまい、その先を急ぐのだった。

 

 

 

 

 




《本日のハイライトカード!!》


真夏「本日のハイライトカードは【天帝ホウオウガ〈R〉】や!!」

真夏「ホウオウガは煌臨時、相手のスピリットを3体重疲労させて、フラッシュタイミングでリザーブのコアをボイドに置く事で回復できる効果も備えとるんや!!相手がどんなに強力なスピリットを並べていようと、一瞬やでっ!!」


******


《次回予告!!》


椎名「真夏は消えた……私に望みを託しながら、私はそれに応えて、早く行かないといけない!!待っててくれ真夏!!みんな!!私が絶対に全部元に戻すから!!……ッ!?そこを退いてくれ銃魔!!あなたと戦う理由はないんだ!!」

椎名「次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「椎名決断の時、築き上げてきた絆!」…今、バトスピが進化を超える!!」


******


※サブタイトルは変更する可能性があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

予告のやり方は気分で変えました。

パイルドラモン久し振りの大活躍。デュークモンが出てからと言うもの、めちゃくちゃ影が薄くなってた気がするので、今回なんとか活躍できて何よりです。

こんなシリアス展開なんて終わらせて早く三期に突入したい。余ってるデジモンカードを早く出したいのです。


最近メッセージボックスに【椎名達の私服と制服はどんなですか?】と質問が来ました。そう言えば最初はそれぞれのキャラに一先ずモチーフにするキャラを考えていたなぁと、その御質問が私に思い出させてくれました。まぁ、私の場合、だいたいデジモンのキャラになるのですが………

学園の制服はデジモンのゲーム、サイバースルゥースと言うゲームに登場する制服です。ググってもらえれば出てきますね。これは界放市の学園生みんなほとんど同じ制服です。バッジの色と数字でどこの学園で何年生なのかわかるようになっています。

私服はあんまり考えた事なかったですね。ただ、後で【もっと詳しく芽座椎名】にも載せようと思っていましたが、椎名のモチーフキャラはデジモンゲームのキャラ【四ノ宮リナ】です。こちらも直ぐに検索で出ると思います。設定を書いていくうちに仕方なく、髪色とか髪型とかいろんなものが変わっていきましたが、顔の表情とかは私の中では似通っています。服装も露出が高くない事以外はだいたい同じです。強いて言うなら、リナはパーカーのフードを被ってますが、椎名は取ってます。

他のキャラについてもゆっくり明記できたらと思います。まぁ、この点については読者様のご想像にお任せしたいのが素直な気持ちですけどね………


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第89話「椎名決断の時、築き上げてきた絆!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤羽司は界放リーグでのみ使用されるバトルスタジアム、中央スタジアムのバトル場を目指して走っていた。デ・リーパーの分身体によって大分時間を食わされたが、芽座椎名が先に行ったのだ。作戦としては上々。

 

だが、Dr.Aは自分の計画を知っている可能性が高い。一刻も早く椎名に追いつかねばならなかった。

 

そして、目指していた場所、中央スタジアムのバトル場に到着するものの、そこには何もせず、ただただ立ち尽くしている椎名の姿が見え………

 

 

「……めざし?」

「……司……」

「何やってんだお前は、早く地下に行………ッ!?」

 

 

いつもの調子で椎名と会話を仕掛けてしまう司。しかし、寸前でその空気、状況、何もかもを察した。

 

この状況、意味もなく展開されるBパッド、あれは自分の記憶が正しければ間違いなく緑坂真夏のものだ。椎名は真夏と戦ったのだ。きっとどうしようないところまで追い込まれた挙げ句の果てに戦ったのだろう。さらに今にも泣きそうな彼女の顔を見る限り、おそらく緑坂真夏はもういない………

 

 

「めざし……お前……」

「ごめん、行こうか……これが私に終わらせる事が出来ないのであれば、終わらせてやる………そして失った全てを取り戻すッ!!」

 

 

その椎名の静かなる言葉、言動には確固たる決意と、明らかな怒りの念が込められている。椎名が何かに対しここまで怒りを露わにするのは珍しい。

 

しかし、この時、司が入って来た入場口とは正反対の位置にある所から足音が聞こえてくる。その緩やかな音は明らかにデ・リーパーの分身体のものではない。しかも分身体達は今司のせいで乱闘状態で誰も追いかけては来ない。

 

椎名と司の前に現れたその人物は………

 

 

「……この先には行かせない……椎名、赤羽司……!!」

「……銃魔ッ!?」

 

 

メガネをかけた若い男性、銃魔だった。彼はやがて椎名達と同じバトル場のステージへと上がり、彼らと面と向かって対峙する。

 

 

「やはりな、赤羽司……Dr.Aは貴様が裏切ると確信していた」

「………やっぱな、まぁ別に仲間になってやったつもりもねぇけどよ……」

「だが、Dr.Aはそれでもお前を新たな世界へと受け入れようとしている……それこそが貴様の強さだと言ってな……」

「………とんだ変質者だな」

 

 

Dr.Aは最初から司が裏切って反旗を翻してくることなど百も承知だった。しかし、それこそが彼の強さであると、受け入れており、どうするかまでは定かではないものの、納得させ、自分の創る新しい世界へと彼を誘う予定だった。

 

 

「銃魔!!私達が戦う理由はないんだ!!先へ行かせてよ!!」

「椎名、前にも言っただろう、『次に会う時は敵同士』だと……俺は決してDr.Aには逆らわない。戦う理由などそれだけで十分だ」

「なんでだよ!?嫌だったら嫌って言えよ!!」

 

 

椎名の必至の説得にも全く耳を貸さない銃魔。これでは解決は出来ず、平行線を辿って行くだけと判断した司は、ここでも行動に出る。

 

彼は椎名の前に立ち、銃魔を睨みつけ……

 

 

「おいめざし……二度目になるがな、お前は先に地下に行け……このクソメガネの相手は俺がする」

「っ!?司!!……でも……」

「こいつと何があったかは知らねぇがお前、あいつと戦えないだろ?…………早く行け、後でまた追いかける」

「…待てよ!!銃魔は悪い奴じゃないんだ!!話せばきっとわかってもらえる!!」

 

 

椎名を先に地下へと向かわせようとする司。しかし、友達である2人に命を懸けたバトルをさせるなど受け入れられるわけもなく、拒む椎名。

 

 

「甘ったれるなよめざし!!…どっちにしろお前が勝てば全部チャラになるんだよ!!」

「司はどうなんだよ!?…銃魔を消したって言う事実だけは残るでしょ!!」

「……………俺ももう既に汚れてんだよ、これからいくら汚れようが俺の勝手だ………!」

「…………っ!」

 

 

言い合いになる椎名と司。その最中で椎名は司の言動から察した。司がDr.Aに寝返った時に既に仲間内の誰かを消滅させた事を………

 

 

「早く行け、そっちの方が効率が良い」

「…………わかった」

 

 

椎名は司の気持ちを汲んでやったか、渋々そう言って、真夏が通った地下への隠し通路を降りていった。全てを終わらせ、失った全てを取り戻すために………

 

この栄誉ある界放市中央スタジアムのバトル場には赤羽司と銃魔だけが取り残される。

 

 

「赤羽司……貴様、俺に勝てると思っているのか?」

「めざしを通しさえすれば俺達の勝ちだ………それに、ここで負ける気もさらさらねぇ……!!」

 

 

司は以前、スピリットアイランドでのアイランドリーグと呼ばれる大きな大会で銃魔に事実上の敗北を喫している。銃魔の圧倒的は実力は理解している筈だ。

 

しかし、それでも司は自然と今から行われるであろう彼とのバトルにおいて負ける気はなく………寧ろ勝って椎名に追いつこうという姿勢さえ垣間見える。

 

 

「その自身はどこから来るんだ……いいだろう、貴様を消す事はDr.Aの意に反してるとも言えるが、致し方ない……この崇高なる計画を邪魔立てすると言うのであれば……今ここで貴様に引導を渡してくれる……!!」

「行くぞクソメガネ…リベンジマッチだ……!!」

 

 

2人はそう言いながら自身のBパッドを展開、バトルの準備を瞬時に行う。

 

そして……

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルが幕を開けた。

 

 

******

 

 

一方、ここは中央スタジアムの最深部。巨大た空洞になっているこの場で、Dr.Aこと徳川暗利と、芽座葉月、そしてその祖父、芽座六月は対峙していた。

 

 

「…クソジジイィ!!どうやってここがわかりやがった!!」

「堕ちるとこまで堕ちたな、葉月よ……あの化け物共の進行する方向、あの趣味の悪い壁の中心を見ればそんなもの一目瞭然じゃ……!!」

「ヌフフフ、相変わらず感だけ鋭いね〜〜」

 

 

六月がこんなところまで来れたのは理由がある。彼はデ・リーパーの分身体達の進行する方向から推理し、ここまで辿り着き、何人もいたガードを抜け、ここまでやってきたのだ。

 

 

「やっとお前と決着をつけられるわい、暗利よ」

「ヌフフフ、六月……その怒りに満ちつつも冷静な様子だと、君は私の全てを知ってしまったようだね……私がこの18年間、【木戸相落として生きていたこと】もわかるのだろう?」

「………あぁ、すっかり騙されておった、お前の言っていた【詰めが甘い】……そう言う事だったんじゃな」

 

 

六月はここまでに来る道のりの中、既にDr.A、徳川暗利は界放市市長、木戸相落に成り代わって生きていた事を知っていた。

 

ここに行く時、界放市の現在の情報を聞き出そうと、六月は相落に電話をかけた。しかし、彼は一切出なかった。だが、六月は持ち前の直感力、及び推理力で全てを理解してしまった。

 

あの正義感の強い相落がこの街をほったらかしにするわけがない。そしてスピリットアイランドで暗利が自分に言い聞かせた言葉。それが全て繋がった。今を生きる相落は相落ではなく、Dr.A、徳川暗利だと言う事が………

 

六月は決してショックを受けて良いなかったわけではない。だが、それ以上に、歳故の器の器量が大きいのだ。彼は全てを受け入れ、暗利を倒し、元の世界に戻す事を誓いながらもこの場へととうとう足を踏み入れたのだ。

 

 

「お前にも散々言いたい事はあるがの、葉月……!!」

「あぁん!?俺がなんだってんだ!!…良いぜジジイ!!今ここで俺があの世に送り出してやる……!!」

 

 

葉月にとって、祖父の六月はとても腹立たしい存在。彼は睨みつけてくる六月に対し、睨み返しながらも、懐からBパッドを取り出し、戦闘態勢に入ろうと、展開しようとするが………

 

 

「まぁまぁ落ち着きなさい葉月……彼は私のお客だ……私が相手をするとしよう」

「っ!?」

「まぁ、そうだね、そんなに腹立たしいと言うのであれば、今から来るであろう【デ・リーパーかエニーズ】とストレス解消程度にバトルをして来なさい」

「………ちぃっ!…わぁったよッ!!…邪魔なんだろ?」

 

 

Dr.Aはこの目の前にいる元親友である六月と対面をしたいのか、葉月を遠回しに邪魔と言っているかのような言動で退けさせようとする。

 

しかし、【デ・リーパーかエニーズ】と言う言葉がどうも気にかかる。彼は確かに椎名も新しい世界へと誘おうとしているが………

 

まるで、デ・リーパーか椎名。どちらかを新たな進化した世界へと招こうとしているかのような言動であった。

 

ただ、葉月がそんな深いところまでを思考するわけがなく、六月が入る時に壊した扉を通って何処へと姿を消した。これにより、最深部にはDr.Aと六月だけだ。

 

 

「さあて、ようやく2人きりだね〜〜……」

「御託は良い、早く決着をつけるぞ」

 

 

六月はDr.Aを力強い眼光で睨みつけながら自身のBパッドを展開した。その様子を見たDr.Aは全く怯え、ひるむ事なく、いつものように不気味にニタニタと笑いながら自身のBパッドを展開する。

 

さらに彼はそこに晴太さえをも倒したあの禍々しい光を放つデッキをセットした。

 

 

「ヌフフフ、相変わらず血の気が多い事…いいでしょう!!…見せてあげますよ!!新世界の神たる力を!!…そして私を崇拝し、崇めるが良い!!」

「お前みたいな薄気味悪い神がいてたまるかってんだッ!!……行くぞぉぉっ!!」

 

 

Dr.Aも堂々たる覇気をその身に纏い、六月も負けじと年には似合わない程の声量を張り上げる。

 

両者の負けられない戦いが今、始まる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

芽座六月とDr.Aのバトルが、この界放市中央スタジアムの地下最深部でコールと共に幕を開けた。

 

 

******

 

 

一方椎名は、中央スタジアムの地下を下り、着々と六月達の元へと近づいていた。

 

が、彼女はそこにたどり着く前に、ある障害を乗り越えなければならない。それは自分にとっても、世界を救うにしても重要となる試練だ。

 

ただひたすらに走り、階段を下りる椎名。そのまま広大で薄暗い闇がかかっているフロアに入って来たと思うと、その瞬間に感じ取った。今の鬼化の力をコントロールした自分には手に取るようにわかる。

 

……あいつの気配だ。司曰く自分にそっくりでDr.Aの指示1つで街を壊滅に追い込んだあいつだ。あいつから流れる進化の力がビンビンに伝わってくる。

 

椎名はその場で大きく息を吸い込むと………

 

 

「デリィィぃぃィイパァァァァァ!!!」

 

 

と、まるで呼び出すようにその名を強く叫んだ。それは広大なフロアの壁に反響し、山彦のように鳴り響く。

 

 

「そこにいるのはわかってるんだ!!…私と決着をつけろぉぉ!!」

 

 

椎名の頭の中は怒りでいっぱいだ。

 

あのデ・リーパーという奴が憎い。あいつのせいで真夏をはじめ、きっと多くの人が消えた。

 

椎名は真夏が消滅した際に、司にはあえて聞かなかった。【他の仲間達は消滅していないのか?】と、

 

聞きたくなかった。誰が消えているのかなどと、知りたくもなかった。だったら今ここで自分がみんなを救うだけだ。失ったもの、失ったのかわからないものも全て………

 

 

「うっふふふ!!!」

「!」

 

 

そんな椎名の言葉に反応するかのように薄暗い闇の中から形を形成するかのように滑らかに現れてきたのは、デ・リーパーだった。相変わらず不敵な笑みを常に浮かべている。

 

 

「……私と、同じ顔………あなたが……!!」

「そう、デ・リーパーだよ。…本当に緑坂真夏を葬って来たんだね、驚きだよ」

「うっさい!!私は今あなたに対する怒りでいっぱいなんだ!!」

 

 

自分と全く同じ顔だからとて、決して怯える事なく、気味悪がる事なく、堂々とした態度で言い放つ椎名。

 

デ・リーパーは椎名とは違い、既に鬼化の状態だ。頭部にはツノがあり、左頬にはギルモン達同様のマークが現れている。椎名が覚醒した時と同じだ。

 

 

「決着をつけると言ったね?…いいだろう、私が相手になるよ。どちらにせよ、君と私、どちらかが生き残ってDr.Aの元へと行かないといけないからね」

「?……どういう事だ」

「うっふふふ、詳しく教える意味などない!!だって今から君は私に敗北してこの世から消されるのだからねっ!!」

「ッ!!」

 

 

デ・リーパーは自身のBパッドを懐から取り出し、展開。バトルの準備を瞬時に行った。それを見た椎名もデ・リーパーが言ったことを気にしながらも、反射的に自身のBパッドを展開。

 

 

「さぁ!!始めよう!!進化した世界のイヴを決める戦いを!!」

「!?…意味わかんないけど望むところだッ!!私はこのバトルで失った全てを取り返すッ!!行くぞッ!!」

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

椎名とデ・リーパーのこの世の存亡さえをも賭けたバトルスピリッツがコールと共に幕を開ける。

 

先行は椎名。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、ブイモンを召喚!!…効果でカードをオープン!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【ギルモン】×

【デジヴァイス】×

 

 

椎名が手始めに召喚したのは小さな青き竜、ブイモン。その効果は不発。手札に加えられず、トラッシュへと破棄された。

 

 

「ターンエンドだ」

【ブイモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

椎名はそのままそのターンをエンドとした。次はデ・リーパーのターンだ。椎名とは違い、既に鬼化している彼女はオーバーエヴォリューションを繰り返す事が可能。その証拠か、デッキから常に青黒いオーラが滾っている。

 

 

[ターン02]デ・リーパー〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「さぁ、私のメインステップだ、ネクサスカード失われし楽園を配置だよ!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

 

「!」

 

 

メインステップ開始直後、デ・リーパーは自身の背後に何もかもが失われ、闇だけが漂う楽園が配置される。このカード自体は普通のカードだ。一般的なものである。

 

 

「さらにバーストをセットしてターンエンドだよ」

手札4⇨3

【失われし楽園】LV1

 

バースト【有】

 

 

バーストカードがさらにセットされ、そのターンをエンドとするデ・リーパー。次は一周回って椎名のターン。怒りが心頭した状態のままターンを進行していく。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップッ!!ブイモンのLVを2へ!」

リザーブ4⇨0

【ブイモン】(1⇨5)LV1⇨2

 

 

リザーブの有りっ丈のコアがブイモンのカードに置かれる。それに伴いブイモンのLVは上昇し、同時に新たな効果も得る。

 

 

「アタックステップ!!その開始時にブイモンの【進化:青】を発揮!!」

「!」

 

「青の成熟期スピリット、エクスブイモンに進化!!」

【エクスブイモン】LV3(5)BP7000

 

 

ブイモンにデジタルコードが巻きつけられ、その身に進化が施されていく。姿形を大きく変え、コードを弾け飛ばし、新たに中から現れたのはブイモンをサイズアップさせたような成熟期スピリット、エクスブイモン。

 

 

「ふふ、一般的なデジタスピリットで私に勝負を挑むなんてね〜〜」

 

「うっさい!!エクスブイモンの召喚時効果!!デッキからカードを2枚ドローし、その後手札から2枚破棄!!この時、【進化】で召喚されていたなら破棄する枚数を1枚減らす」

手札5⇨7⇨6

破棄カード↓

【メガログラウモン】

 

 

椎名を煽るデ・リーパー。椎名は怒りに身を任せながらもエクスブイモンの召喚時効果を使用し、手札入れ替えていく。

 

が、この【進化】の効果発揮後時点で既にデ・リーパーの張っていた罠は発動の条件を満たしており………

 

それが今、この場で勢い良く反転する。

 

 

「相手の効果によって相手の手札が増えた後、バースト発動!!ADR-02 サーチャー!!」

「!!」

 

「効果によりノーコストで召喚!!」

リザーブ1⇨0

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV1(1)BP1000

 

 

デ・リーパーのセットしていたバーストカードが反転すると共に現れたのは小型の飛行物体。その外装は不気味で有り、他のスピリットとは一線を画しているのが伺える。

 

 

「ADR-02の効果!!バースト発動時に増えたカード1枚につき相手のデッキを上から破棄する!!」

 

「!!」

デッキ30⇨28

 

 

ADR-02が場へと飛来してきたかと思えば、青き衝撃波が飛び出し、椎名のデッキを襲う。そのカード達が上から2枚トラッシュへと破棄されて行った。

 

 

「さらにバーストをセットし、失われし楽園の効果でドロー」

手札3⇨2⇨3

 

 

今度はバーストをセットする効果を適応。デ・リーパーは効果によって今一度バーストを伏せ、失われし楽園の効果により、手札を補う。

 

失われし楽園はバースト効果を持つスピリットが召喚した時にドローできる効果を持つ。故に一般的なカードだが、ADR-02と相性が良好なのである。

 

椎名のターンであるにもかかわらず、凄まじい効果の連続発揮を見せつけるデ・リーパー。しかし、椎名はそれを見ても臆すことなく、凄まじい気迫を見せつけながら………

 

 

「もういいか?……アタックステップ、エクスブイモン、いけぇ!」

 

 

エクスブイモンに力強くアタックの指示を送りつけた。走り出すエクスブイモン。目指すは当然デ・リーパー本体のライフだ。

 

ADR-02は効果は強力だが、BP効率はイマイチ。故にエクスブイモンよりもBPが低い。つまりブロックすることなく………

 

 

「おやおや、怖いね〜〜……ライフで受けるよ」

ライフ5⇨4

 

 

ライフで受けた。迫ってきたエクスブイモンがデ・リーパーのライフを拳で殴りつけ、1つを粉々に粉砕した。

 

 

「これで先制点はもらった………ターンエンド」

【エクスブイモン】LV3(5)BP7000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

エクスブイモンの一撃に確かな手応えを感じつつ、そのターンを終える椎名。だがここでデ・リーパーがその不敵に笑い続ける表情を一旦崩したかと思うと、徐に椎名に問いかける。

 

 

「………ところで、鬼化はしないのかい?」

「っ!?」

 

 

と、まるでそれを、鬼化をするのが当たり前であるかのように。驚く椎名を前にしてもデ・リーパーは淡々と言葉を並べていく。

 

 

「正直ね、鬼化できなければ君は私には勝てないよ」

「…………っ」

 

 

デ・リーパーの言葉に対して何も言い返す事ができない椎名。

 

本当は自分だってわかっていた。自分も進化を繰り返す、つまりオーバーエヴォリューションを繰り返せる鬼化の力を使わなければ、このバトルには勝てない。いくら自分のバトルやアタックに手応えを感じたとしても、それはまやかしでしかない事など百も承知だった。

 

じゃあ何故使わないのか………

 

 

「うっふふふ、わかっているさ、私は君だからね。君の考えなんて手に取るようにわかる。君は制御できるようになった鬼化を無意識のうちに抑え込んでいる」

「!」

「本当は鬼化するのが怖いんだろう?…鬼化する時、君は人間ではなくなるからね〜。全く、人間臭い理由だよ」

「違う!!私はこの力でみんなを守るために………」

「使えてないじゃないか!!そんな優柔不断だから君は結局大事な友を目の前で失った!!」

「っ!?!」

 

 

椎名はスピリットアイランドでの出来事で自分の中に眠る鬼化の力を完璧に操れるようになった。

 

しかし、それが椎名を狂わせていたのか、椎名は自分の内にあるこの力に受け入れつつも拒絶していた。それもそのはずだ。何せ、椎名はついこの間まで自分の事を普通の人間だと思っていたのだ。

 

それが悪の科学者が創り出した人造人間で、鬼の力が宿っていて、進化を繰り返す等と馬鹿げた正体が発覚して仕舞えば、おかしくなって当然だ。寧ろ椎名は今まで普段通り振舞えていたのが不自然なくらいである。

 

それらが結果的に椎名が鬼化の力を意図的に使わない論理になってしまっている。鬼化の力は制御できたが、まだその力を受け入れられる程の器量がない。と言えば分かりやすいか………

 

 

「真夏が消えた事自体はあなたのせいだろ!!」

「どちらにせよ、せっかく私達の生みの親、Dr.Aが与えてくださった大いなる力だと言うのに、それを拒絶するなんて………なんと愚かな」

「…………早くターンを進めろ……っ!!」

 

 

強引にデ・リーパーを黙らせる椎名。確実に焦ってきているのが目に見えている。そんな彼女に対して、デ・リーパーは再び不気味な笑みを浮かべながら、自分のターンを進行していく。

 

 

[ターン04]デ・リーパー

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、さぁ来るがいい!!私の化身、ADR-01!!LV2で召喚だよ」

手札4⇨3

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨1

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】LV2(2)BP6000

 

「!」

 

 

ターンが始まって早々、飛来してくる禍々しい闇の瘴気の塊。それが翼の生えた人の姿となってデ・リーパーの場へと、地上へと舞い降りる。それはADR-01。少女の姿を象った化け物だ。

 

 

「さらにADR-02のLVを2に上げ、アタックステップだよ、ADR-02でアタック!…その効果で君のデッキを1枚破棄!」

リザーブ3⇨1

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】(1⇨3)LV1⇨2

 

「!」

デッキ28⇨27

 

 

青い衝撃波が今一度椎名のデッキを襲う。その破棄されたカードはスティングモン。スピリットカードだ。今度はADR-01の効果が発揮される。

 

 

「ADR-01の効果。デ・リーパースピリットの効果でスピリットカードがデッキから破棄された時、カードを2枚ドローし、その後手札を1枚破棄」

手札3⇨5⇨4

破棄カード↓

【ビルドアップ】

 

 

少女の姿を象った化け物、ADR-01の効果が発揮される。デ・リーパーはその手札を入れ替えた。

 

 

「さらにアタックは継続中だよ!!」

 

「っ!?……ライフで受ける………っ」

ライフ5⇨4

 

 

椎名の眼前へと飛来してくるADR-02。そのままライフバリアに体当たりし、1つだけ粉々に砕いた。椎名は与えられる激痛と共に、そこから感じられるデ・リーパーの持つ鬼化の力と、何もない自分の差を確かに実感していた。

 

 

「ターンエンドだ………」

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】LV2(2)BP6000(回復)

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV2(3)BP3000(疲労)

 

【失われし楽園】LV1

 

バースト【有】

 

 

デ・リーパーはADR-01をブロッカーに残し、そのターンをエンドとする。次は再び椎名のターンだが…………

 

 

(………確かに、私が鬼化すればデ・リーパーを倒せるかもしれない。みんなを元に戻せるのかもしれない………けど、そうなったら私は………いやダメだ、考えるな、勝つんだろ?勝ってみんなを取り戻すんだろ?……だったら鬼化して…………っ)

 

 

鬼化しようにも鬼化できない。デッキからカードを引こうと手を伸ばすが、震えて引けない。決して緊張しているわけではない。ただ、デ・リーパーの言う通り、怖いのだ。鬼化すればまた自分が自分でいなくなる気がして…………そのせいで萎縮して何もできなくなってしまっている。

 

……そして何より、みんなを元に戻せたとして、単なる怪物になった自分はそこにいる事が既にできない存在になってしまっているのではないか?

 

そういった不安感や恐怖心が椎名の体を硬直させていた。そんな事を考えるのはダメだとわかっていてもどうしてもそれが頭から離れてくれない。最初からそれを自覚していたわけではない。先程のデ・リーパーの言葉によって疼いていたものが広がって、拡大され、今の感情が剥き出しになってしまったと言ったところか………

 

………だが次の瞬間

 

 

「っ!?……うわっ!?」

 

 

そんな時だ。彼女のその負の気持ちに反応するかのようにデッキやカード達が光り輝き始めたのは………

 

椎名は眩しさに目を閉じた途端にそれに呑み込まれ、意識のみを違う場所へと強制的に移転させられた。

 

 

******

 

 

「っ………ここは?」

 

 

椎名が気がつくと、そこにはやや赤みで淡い光だけが存在する謎の空間。それはいったいどこまで大きく広がっているのか、いや、すぐ行き止まりかもしれない。そういった具合で広さも知り得ない程に不思議な空間に、椎名はただただ立ち尽くしていた。

 

だが、そこに立っているのは椎名だけではない。

 

 

「……椎名」

「っ!?…デュークモン………みんなも…」

 

 

椎名は声のする方へと首を動かすと、そこには彼女が使用してきたスピリット達の殆どが一挙に集合していた。ブイモンやワームモン。その進化系やアーマー体スピリット、パイルドラモン、ズバモン、マリンエンジェモン。メギドラモンを除く真紅の魔竜のスピリット達、そして椎名に語りかけてきたデュークモン。

 

今までも何度かこういう事があったからか、椎名は特に取り乱す事はなく、冷静で落ち着いた状態で当たり前であるかのように、そのスピリット達と対面していた。

 

 

「椎名。鬼化するんだ。そうしなくては奴には勝てない…………」

「…わかってる、わかってるよ………けど、そしたら私は私の居場所をなくすことになる。こんな化け物が今まで通り真夏達と笑いあって過ごすことなんてできない!!……何か方法はないかデュークモン!?…鬼化せずにあいつに勝つ方法は!!」

 

 

デュークモンは椎名に語りかける。デュークモンの言う通り、鬼の力を使えなければ必ず敗北し、何も成せずに終わってしまう。最善の手であろう。

 

しかし、女の勘と言ったところか、椎名にはわかっていた。このまま鬼の力に頼れば自分は自分ではなくなってしまう。全部が元に戻っても自分の立場だけは戻れなくなる事を直感で諭していた。

 

椎名は鬼化以外での勝つ方法をデュークモンに問うが………

 

 

「………椎名。戦いに勝ちつつ、今まで通りの日常を過ごす。素晴らしい志しだ。けど、それは君がまだ子供の甘い考え方だからこそ至った志しだ。……その考え方では悪しき者達には決して勝てない……」

「……子供?」

「あぁ、大人になるんだ椎名。この【デュークモンに宿る鬼の力】を制御する事の出来た君ならもうそれができる!!……君の力は君の居場所を壊すためのものじゃない!!それは君だって既に知ってるはずだ……!!」

「っ!!」

 

 

デュークモンの言っている事は………

 

正直今の椎名にはわからない事であった。それもそのはずだ。子供の考え方とか、大人の考え方だとか、わかるはずがない。しかし、その区別ができないからこそ、椎名はまだ甘い子供の考え方しかできないのであろう。

 

だが、深い意味までは理解できずとも、自ずと椎名はデュークモンの熱い熱意だけは確かにひしひしと伝わって来た。

 

 

「伝えたかった事はそれだけだ。後は私達はカードの中、デッキの中で君の運命を見届ける事にしよう………」

「みんな……っ!!」

 

 

椎名が「待ってくれ」と言わんばかりに手を差し出すも、届くわけもなく、全てのスピリット達はその姿をゆっくりと消滅させていく。

 

どんなに椎名がそこへ走ってもそのスピリット達との距離感は何も変わらないままであり、触れる事さえ許されなかった。

 

 

「椎名。確かに鬼化した戦いの果てには、君はいつもの君でいられなくなるかもしれない。君の居場所はなくなってしまうのかもしれない。だけどこれだけは忘れないでくれ、世界がどう変わり、君がどんな大人になろうとも、私達だけは必ず君の味方だ………」

 

 

デュークモンの強かな想いのこもった言葉に、他のスピリット達も同意するように頷く。スピリット達は皆心は一つ、椎名を護るために戦うのだと確固たる決意を固めていた。

 

そして完全にスピリット達は消滅し、椎名もまた光に包まれ意識を再び現実の方へと強制的に移転させられる。

 

 

******

 

 

「っ!?!」

「スピリット達との会話は済んだかな?」

 

 

椎名の意識は元に戻り、今一度デ・リーパーと対面する。デ・リーパーは早々に椎名に何が起こったのか知っているような口調で語りかけてきた。

 

椎名は手札のカード、トラッシュのカード、フィールドのカード、そしてデッキを見つめながら、デュークモンの言った言葉を少しずつ胸に刻み直していった。その熱き熱意が椎名の覚悟のなかった心に浸透していく。

 

 

ー『だけどこれだけは忘れないでくれ、世界がどう変わり、君がどんな大人になろうとも、私達だけは必ず君の味方だ………』

 

 

「………ありがとうデュークモン………みんな………確かに私の考えが甘かったのかもしれない………もう私はこの世界に自分の居場所なんて求めたりしない!!……私は……グ、コ、この鬼化ノ力ヲ使イ!!……真夏やみんなを元に戻す!!たとえその結果、私と言う人間がこの世を去ろうとも、必ずやり遂げる!!それが私に与えられた使命なんだッ!!」

「………鬼化………うっふふふ、いいね〜」

 

 

椎名が硬く刻んだ志は、もう二度と壊されることはない。椎名は自分の誓いを口にしながらも受け入れた力。鬼化の力を発現させる。

 

目が真紅の色に染まる。アホ毛が硬質化し、一角となり、右頬にはギルモン達に見られるマークが出現する。また、それに伴ってか、デッキが真紅の光に包まれる。これは鬼の力である進化の力が流れた結果だ。

 

鬼気迫る溢れんばかりの椎名の気迫に対し、デ・リーパーは態度を変えず、未だに不気味に笑っていた。

 

もう自分の決断に迷う事のない椎名は、自分のターンを堂々と進行していき、そのままそのデッキからカードをドローする。

 

 

[ターン05]椎名〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

【エクスブイモン】(疲労⇨回復)

 

 

このターン、椎名が真紅に輝くデッキから引いたカードは一度椎名が書き換えたカード。オーバーエヴォリューションにより、今一度創生されたのか、再びそれは椎名の手札へと帰還してきた。

 

 

「メインステップ……バーストをセット!!」

手札7⇨6

 

 

そのドローしたカードを迷う事なくバーストカードとして裏側でセットする椎名。さらにこれだけではない。椎名はさらに手を休める事なく、堂々とした態度のままメインステップを続行していく。

 

 

「いくぞ、私のデッキのスピリット達!!…………エクスブイモンのLVを1に下げ、ブイモンをLV2で召喚!!」

手札6⇨5

リザーブ2⇨0

【エクスブイモン】(5⇨2)LV3⇨1

トラッシュ0⇨2

【ブイモン】LV2(3)BP4000

 

 

エクスブイモンのコアが減少する。しかし、そのコアを糧として、手札に戻っていたブイモンが再召喚される。ADR-02の効果を考慮してか、召喚時効果は発揮させなかった。

 

 

「さらにライドラモンの【アーマー進化】を発揮!!対象はブイモン!!」

【エクスブイモン】(2⇨1)

トラッシュ2⇨3

 

「!」

 

 

立て続けに椎名は手札のアーマー体スピリット、ライドラモンの効果を発揮させる。ブイモンの頭上にデジメンタルと呼ばれる黒い瓢箪状のものが投下される。

 

ブイモンはそれを受け入れるように衝突し、混ざり合い、新たな進化を遂げる。

 

 

「轟く友情……ライドラモン!!」

【ライドラモン】LV2(3)BP7000

 

 

新たに現れたのは黒い鎧を身に纏い、青き稲妻を走らせる獣型のアーマー体スピリット、ライドラモン。

 

 

「ライドラモンの召喚時効果、コアを2つトラッシュへと追加!!」

トラッシュ3⇨5

 

 

ライドラモンは登場するなり大きな雄叫びを張り上げ、椎名のトラッシュへ新たなコアを生み出した。

 

しかし、それも束の間、デ・リーパーがニヤリと嘲笑し、ライドラモンの召喚に反応してバーストを発動させる。

 

 

「甘いね!!【進化】系の効果は相手の手札増加後のバーストに引っかかる!!発動!!ADR-02 サーチャー!!」

「!」

 

 

発揮されるのはこのバトルでは2枚目となるADR-02。【相手の効果によって手札が増えた後】のバースト効果を持つカードは皆、【進化】のように相手の手札が結果的には増えてなくとも、何かしらの効果によって手札が新たに加えられれば発動が可能。それはライドラモンの【アーマー進化】とて同じ事。

 

2体目のADR-02 サーチャーがデ・リーパーの場を飛来してきた。

 

 

「効果によって君のデッキを1枚破棄、さらに新たなバーストを伏せ、失われし楽園の効果で1枚ドローだ」

リザーブ1⇨0

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV1(1)BP1000

手札4⇨3⇨4

 

「………」

デッキ26⇨25

 

 

デ・リーパーのコンボが再び炸裂。カードアドバンテージを枯らす事なく潤沢に場を整えていく。しかし、今の椎名はそんな事など恐るるに足らない。

 

最強の味方と共に攻撃を仕掛ける。

 

 

「アタックステップ!!頼む、ライドラモン!!」

 

 

椎名の言葉に、ライドラモンはまるで「任せろ」と言わんばかりに、椎名の方を振り向いて頷くと、そのまま地を瞬足で稲妻の如く駆け回る。

 

 

「ライドラモンはアタックステップ中、ライフを減らせばさらにライフを破壊する……!!」

「知ってるさその程度、今召喚したばかりのADR-02でブロックしよう」

 

 

ライドラモンの行く手を阻むADR-02 サーチャー。しかし、BPは圧倒的にライドラモンの方が上。稲妻のような形をした頭角と瞬足を活かし、一瞬にしてそれを切り裂いてみせた。

 

 

「ターンエンドだ………エクスブイモン、ブロックは任せたよ」

【エクスブイモン】LV1(1)BP3000(回復)

【ライドラモン】LV2(3)BP7000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

椎名はそのターンを終える。エクスブイモンもライドラモン同様に、椎名の言葉に頷き、仁王立ちで構えた。そんなエクスブイモンを見て、椎名は依然として険しい表情のままではあるものの、ほんの僅かな時間だけ軽い笑顔を見せる。

 

今の椎名は、まるでスピリット達と完全に意思の疎通が取れているように思えてくる。そんななんとも不思議な光景であった。

 

次は再びデ・リーパーのターン。鬼化を使って来た椎名に合わせてか、自分もようやくその力を遺憾なく発揮させる。

 

 

[ターン06]デ・リーパー〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨3

トラッシュ1⇨0

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……うっふふふエニーズ、ようやく本気を出してくれたみたいで嬉しいよ〜〜これでやっと本気で戦える……!!」

「あなたの減らず口なんてどうでもいい、早くターンを進めたらどうだ……」

「…………あらあら、怖い怖い……でもそうね〜〜さっさと決着をつけて私が新たな世界のイヴたる存在だという事を証明しよう!!」

 

 

デ・リーパーが自分の手札に手をかける。自分とほとんど同じ存在である椎名を倒すべく、今こそ新たなるスピリットを呼び出すつもりなのだ。

 

 

「先ずはADR-02 サーチャーを召喚だよ、失われし楽園の効果でドロー!」

手札5⇨4⇨5

リザーブ3⇨2

【デ・リーパー ADR-02 サーチャー】LV1(1)BP1000

 

「またそいつか……」

「うっふふふ、言い忘れてたけど、ADR-02 サーチャーはデッキに20枚まで入るからね」

 

 

今一度姿を見せるADR-02 サーチャー。失われし楽園とのコンボで手札が減らない。そしてさらにデ・リーパーは自身の鬼の力により、新たに得たカードをこのタイミングで召喚する。

 

 

「ADR-07 パラティスヘッドをLV1で召喚!!」

リザーブ2⇨0

トラッシュ0⇨1

【デ・リーパー ADR-07 パラティスヘッド】LV1(1)BP6000

 

「!」

 

 

蠢く地中、そこから飛び出してくる紫色の巨大な物体。幾多もの触手を有しているADR。ADR-07 パラティスヘッドが椎名達の目の前に姿を現した。

 

 

「ADR-07 パラティスヘッドの効果!!相手の完全体以下のデジタルスピリット1体を破壊!!」

「!」

「エクスブイモンを破壊する!」

 

 

ADR-07は登場するなりその幾多もの触手を椎名のエクスブイモンへと伸ばすと、それを縛り上げ、データ化し取り込んだ。エクスブイモンは断末魔を上げることも許されず、この場から去ってしまう。

 

 

「エニーズ、君が本気になっても、少しだけ遅かったみたいね〜〜これで終わりだよ」

 

 

このお互いの盤面。バトル展開。明らかにデ・リーパーが優勢だ。このままのフルアタックで椎名は敗北が確定する。

 

が、椎名にはまだこれがある。自分が鬼化するたびに現れるあのカードが………今ならわかる。これが本当のギルモンの、真紅の魔竜の本来の究極の姿……

 

そのカードが今、椎名のバーストカードとして発動される。

 

 

「相手の召喚時発揮後によりバースト発動!!……メギドラモン!!」

「ッ!…そいつは!?!」

「この効果により、BP15000以下になるように相手スピリットを好きなだけ破壊する!!」

「くっ!?…けどこのADR-01はデジタルスピリットの効果を受けない……!!」

「ならそれ以外を破壊する!!……地獄の咆哮…ヘル・ハウリング!!」

「っ!?!」

 

 

椎名のバーストカードが反転すると共に地中から発せられる脅威の咆哮。それがデ・リーパーの場にいるADR達を分子レベルで崩壊させていく。

 

が、そんな中、少女の姿を象ったADR-01だけはその雄叫びを聞いても尚、涼しい表情を貫き、不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

「さらにその後召喚する……来い、真紅の魔竜、究極体の姿……メギドラモン!!」

リザーブ1⇨0

【ライドラモン】(3⇨1)LV2⇨1

【メギドラモン】LV2(3)BP11000

 

 

まるで地獄から現れるかのような勢いでマグマの熱を纏いながら、真紅の魔竜、究極体の姿、メギドラモンが地を破り飛び出して来た。その獰猛で猛々しい姿は他の究極体デジタルスピリットをも凌駕するだろう。

 

 

「デ・リーパー、もう私は鬼化の力を恐れたりはしない!!……このバトル、今まで私が築き上げてきたスピリット達との絆に掛けて、必ず勝つ!!」

「真紅の魔竜………どこまでもエニーズの味方をするつもりのようだね……ならば共に完膚なきまでに叩きのめしてあげるよ、このデジタルスピリットキラーであるADRの力を使ってね…………」

 

 

デ・リーパーに向かって、そう強く勝利宣言を行う椎名。その言葉に合わせるように、それでいて且つ、デ・リーパーを食らい尽くさんと言わんばかりに爆音の咆哮を張り上げるメギドラモン。

 

彼女達の生き残りをかけた熾烈なバトルは間もなくクライマックスを迎える寸前まで向かっていた………

 




〈本日のハイライトカード!!〉


デ・リーパー「本日のハイライトカードは【デ・リーパー ADR-01 ジュリ】」

デ・リーパー「ADR-01は私の化身。デジタルスピリットが放つ効果は一切受け付けないよ、ふふ、さらにLVが上がると………まぁ、それは次回の楽しみにとっておいておくれよ」


******

〈次回予告!!〉


デ・リーパー「真紅の魔竜とデュークモン、ロイヤルナイツが一緒に戦うなんて……皮肉なものだね」

椎名「……どういう事だ」

デ・リーパー「君も薄々感じているんだろう?…デュークモンのカードはロイヤルナイツではないという事をね……………」


椎名「次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「デュークモンの真実、デ・リーパーを救え!」………今、バトスピが進化を超える!!」


******

※次回のサブタイトルは変更の可能性があります。

※描写の都合上、【デ・リーパーADR-01 ジュリ】の効果はデジタルスピリットの効果は受けないと明言していますが、実際はその中でもアーマー体のスピリットや幼年期のスピリット効果は受けます。ご了承ください。

※【悲報】……デュークモンとうとう人語を口にする。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

【今回から椎名が少しずつ変わっていくと思います】

本当なら今回は司と銃魔のバトルを描きたかったのですが、色々あってこっちから先に描かせてもらいました。


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第90話「デュークモンの真実、デ・リーパーを救え!」

 

 

 

 

 

 

 

続く椎名とデ・リーパーのバトル。現在、お互いのライフは4。

 

椎名は自ら受け入れた鬼化の力を使い、その象徴たるスピリット、真紅の魔竜、究極体の姿、メギドラモンを召喚し、デ・リーパーの場のスピリットをほとんど破壊してみせた。

 

 

「デ・リーパー、もう私は鬼化の力を恐れたりはしない!!……このバトル、今まで私が築き上げてきたスピリット達との絆に掛けて、必ず勝つ!!」

「真紅の魔竜………どこまでもエニーズの味方をするつもりのようだね……ならば共に完膚なきまでに叩きのめしてあげるよ、このデジタルスピリットキラーであるADRの力を使ってね…………」

 

 

椎名とデ・リーパー。2人の熾烈極めるバトルスピリッツも終焉を迎えようとしていた。

 

ターンは第6。デ・リーパーのメインステップから行われる。

 

 

「ADR-02 サーチャーを3体連続召喚、失われし楽園の効果でカードを3枚ドロー!!」

手札4⇨1⇨3

リザーブ5⇨2

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV1(1)BP1000

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV1(1)BP1000

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV1(1)BP1000

 

「っ……まだそんなに持ってたのか」

 

 

メギドラモンで大量に破壊してもなおデ・リーパーはデッキ内で最もコストが低いADR-02 サーチャーを多量に抱え込んでいた。配置されているネクサスカード、失われし楽園の効果もあって手札が減らない。

 

そしてさらにそのドローでついに引いた。自身でさえも『死神』と言及できる程の悍ましいカードを………

 

鬼化し、進化の力をより敏感に捉えられるようになった椎名もデ・リーパーが何か強力なカードを引いた事を悟っている。いつもの彼女ならば『ワクワクする』などと笑って待機するであろうが、今回ばかりはそうはいかない。

 

 

「さぁエニーズ!!このカードで決着だ!!……死神、リーパーをLV2で召喚!!不足コストはADR-01とADR-02、2体から確保!!よって3体のうち2体のADR-02は消滅!!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】(2⇨1)LV2⇨1

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】(1⇨0)消滅

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】(1⇨0)消滅

トラッシュ1⇨3

【リーパー】LV2(3)BP13000

 

「!」

 

 

ADR-02が一気に2体も生贄にされるかのごとく消滅していく。だが、代償を払った分だけのスピリットが………いや、代償を払った分以上のスピリットが地中より蔓延る。その名はリーパー。その見た目のシンプルさ、悍ましさから、デジタルスピリットキラーをの異名を超え、もはや単なる死神にまでなった凶悪極まりないスピリットだ。

 

 

「っ、こいつは……!!」

「君達の感覚で言うところの、エーススピリットさ、私のねっ!!…アタックステップッ!!リーパーでアタック!!」

 

 

早速召喚したての死神、リーパーでアタックを仕掛けるデ・リーパー。この時、リーパーにはいくつものアタック時効果が備わっており………

 

 

「リーパーのアタック時効果!!君のデッキを上から8枚破棄だよ」

 

「っ!!」

デッキ25⇨17

 

 

巨大で不気味な壁のような死神、リーパーから放たれる青い衝撃波。それは椎名のデッキを襲い、またトラッシュへと叩き込む。

 

その破棄されたカードの中には、スピリットカードである【マグナモン】、ブレイヴカードである【ズバモン】、マジックカードである【ファイナル・エリシオン】が確認できる。デ・リーパーはそれを見てまた不敵な笑みを浮かべ続ける。

 

 

「うっふふふ、効果フルコンプリート!!」

「!?」

 

 

デ・リーパーの言っていることの意味を理解できなかった椎名。だが、直ぐに思い知ることになる。リーパーの効果の真髄を………

 

 

「リーパーの効果!!破棄されたカードの中にスピリットカードがあれば、コア2つをこのスピリットに追加し、ブレイヴカードがあれば、スピリット3体を疲労させる!!」

【リーパー】(3⇨5)

 

「!」

【メギドラモン】(回復⇨疲労)

 

 

リーパーから放たれる青い衝撃波第2波は、今度は椎名のデッキではなく、場のメギドラモンを襲い始める。メギドラモンは余りの威光に、膝をついてしまう。

 

だが、これだけやっても未だリーパーの効果は全て解決しておらず………

 

 

「その後、マジックカードが破棄されていたら、コスト8以下のスピリット1体を破壊!!」

「!」

「真紅の魔竜、究極体の姿を破壊だ!!…呪われるがいい!!」

 

 

リーパーは先端が鎌のようなものになっている触手をメギドラモンに向けて襲いかかる。幾本もの触手が闊歩する中、メギドラモンには回避する術がなく、先ず間違いなく破壊されるだろう。

 

……だが、椎名はそれを許さない。手札のカードをBパッドに置くと、メギドラモンを護るべく、どこからともなく真紅の飛行物体がその鎌の攻撃を遮っていく。

 

 

「なにっ!?」

 

「滅龍スピリットが対象になる時、手札のグラニの効果!!1コスト支払うことで召喚し、さらに対象になったスピリットはこのターン、効果破壊されない……!!」

手札6⇨5

【メギドラモン】(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ5⇨6

【グラニ】LV1(1)BP6000

 

 

リーパーの攻撃を遮った正体は赤のブレイヴカードであるグラニ。今まで椎名のバトルにおいては真紅の魔竜やデュークモンを護る盾として何度も活躍を見せたカードだ。そしてそれは今回も…………

 

 

「リーパーのアタックはそのままグラニでブロック!!」

「ちぃ、ならばリーパー!!そいつから八つ裂きにしてしまえ!!」

 

 

リーパーはデ・リーパーの指示通り、攻撃対象をグラニ1体だけに絞り、先端が鎌の触手で集中攻撃する。グラニだけでそれを全て回避できるわけがなく、集中砲火を浴び、撃墜されてしまった。

 

 

「助かったよグラニ、ありがとう」

「甘いね!!ADR-01と-02でアタック!!」

「!」

 

 

グラニの効果をフルに活用し、リーパーの攻撃を躱したのも束の間。デ・リーパーは残った2体でフルアタックを仕掛けてきた。もう回避できる分の手札もコアもない椎名はこのアタックを受け入れる他なく………

 

 

「ライフで受ける………っ」

ライフ4⇨3⇨2

 

 

少女の姿を象った化け物、ADR-01の鋭い爪の一閃がライフを引き裂いたかと思えば、ADR-02のなんの変哲も無い体当たりがまた椎名のライフを粉砕した。

 

 

「ターンエンド……なかなかしぶといじゃないか」

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV1(1)BP1000(疲労)

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】LV1(1)BP5000(疲労)

【リーパー】LV2(5)BP13000(疲労)

 

【失われし楽園】LV1

 

バースト【有】

 

 

「昔から運の良さだけが取り柄なんでね」

 

 

エンドの宣言と共に、デ・リーパーから言われた皮肉くさい言葉を冷静な態度で返答する椎名。次は再び彼女のターンだ。メギドラモンとライドラモンが再び動き出す。

 

 

[ターン07]椎名〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨10

トラッシュ6⇨0

【メギドラモン】(疲労⇨回復)

【ライドラモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、メギドラモンとライドラモンをそれぞれLV2にアップさせ、ブイモンをLV2で再召喚!」

手札6⇨5

リザーブ10⇨1s

トラッシュ0⇨2

【ライドラモン】(1⇨3)LV1⇨2

【メギドラモン】(1⇨3)LV1⇨2

【ブイモン】LV2(3)BP4000

 

 

コアが追加で乗せられ、LVアップする2体のデジタルスピリット。それをより激しく主張するかのように咆哮を張り上げる。さらにその横ではブイモンが本日3度目の登場を果たす。

 

そして椎名は、「よし、行くぞ!」と手札のカードを1枚抜き取る。それは、そのカードは椎名のデッキの象徴とも呼べる存在のエーススピリットだ。

 

 

「【煌臨】発揮!!対象はメギドラモン!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ2⇨3s

 

「……ほお、来るか」

 

 

真紅の光に身を包まれるメギドラモン。メギドラモンはその中で静かに佇み、その姿を大きく変え、変貌していく。その姿はもはや竜ではなく、騎士。

 

 

「来いっ!!デュークモン!!」

手札5⇨4

【デュークモン】LV2(3)BP14000

 

 

赤い光を弾け飛ばし、現れたその聖騎士の名はデュークモン。伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツの1体であり、椎名のデッキのエーススピリットだ。

 

 

「デュークモン………うっふふ、君は薄々感づいてはいるんだろう?」

「……何がだ」

「惚けなくてもいいんだよぉ?」

 

 

デ・リーパーはまた椎名に到達に語りかけてきた。その薄ら笑いに椎名は今までとは信じられないほどに冷たく返答する。

 

 

「デュークモンは【ロイヤルナイツ】ではない!!」

「………」

「いや、正確には途中からロイヤルナイツになったと言うべきだね」

 

 

さらっととんでもない事を言ってのけるデ・リーパー。椎名はそれに対して、本当に薄々この事に関して感じていたのか、無表情を貫き、冷静な顔つきでいる。

 

 

「君だって芽座六月から聞いたのならばわかるだろう?…【エニー・アゼムと芽座一族のロイヤルナイツが鬼を討伐した昔話】をね」

「……まぁね」

「【真紅の魔竜はその当時、鬼の雑兵達が扱っていたカード】だった。けど、その大勢いる中のただ1人だけがデュークモンへと間違った進化をさせ、真っ当な正義感に目覚めて、鬼でありながら鬼を裏切った」

 

 

鬼化が扱えるようになって、そして六月からこの昔話を聞いて、椎名もこの点についてはなんとなく察しがついていた。

 

ギルモンを含めた真紅の魔竜はその昔、鬼の雑兵達が使用してきたカードだった。しかし、その雑兵の1人がメギドラモンではなく、デュークモンに究極進化させた事で、その者はただ1人、鬼側を裏切ったのだ。

 

 

「やがて、デュークモンは他の12体のロイヤルナイツ、エニー・アゼムと共に鬼を討ち果たした。その後、デュークモンは晴れてロイヤルナイツの仲間入りを果たした………」

「…………」

「だからデュークモンには絶えず鬼の力が流れ出ていた。それを利用したのがDr.Aだ。Dr.Aは進化の力を手にすべく、デュークモンのカードとサンプルの鬼のDNAで作り上げた赤ん坊を混ぜた。そして生まれたのが君だ」

「……………」

 

 

デュークモンとて、真紅の魔竜の進化の派生形で生まれたデジタルスピリット。当然ながら鬼の力が内包されていた。Dr.Aはそこに目をつけ、試行錯誤し、実験を繰り返した結果、生まれたのがエニーズ。今の芽座椎名なのだ。

 

 

「鬼のカードだとか、本来とは違うとか、そんな事はどうでもいい。デュークモンはデュークモンだ……私のデッキの最高のエーススピリットだ。カードとバトラーが絆を結ぶのに、種族とか理とか関係ない」

「へぇー、一丁前な事言うじゃないか?…なら、その絆とやらで私を倒せるのかい?」

「倒せる倒せないじゃない、倒すんだ!!アタックステップッ!!」

 

 

だが、椎名ははなからデュークモンが本当は鬼のカードだとか、間違った進化だとかはどうでもよかった。鬼のカードであるギルモンを含めた真紅の魔竜も同様にだ。

 

何がどうあろうとも、デュークモンと真紅の魔竜達は椎名の最高のカード達だ。掛け替えのない仲間なのだ。デュークモンも彼女の気持ちを理解しているのか、槍を構え、戦闘態勢に入り、指示を待つ。

 

 

「………デュークモン、いけぇ!」

 

 

そして指示に従い、赤きマントを靡かせ、走り出すデュークモン。目指すは当然デ・リーパーの残り4つのライフ。

 

 

「デュークモンのアタック時効果、シンボル2つ以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!」

「リーパーを破壊、聖槍の一撃…ロイヤルセェェバァァァア!!!」

 

 

右手の槍を構え、その矛先から聖なる光の力を一点に集中させ、リーパーに向けて射出するデュークモン。リーパー程の巨体をもつ者がこれを避けられるわけもなく直撃。リーパーの体は貫かれる。

 

リーパーは激しい断末魔を上げながら紙吹雪のようにこの場から散っていった。

 

 

「さらにフラッシュ効果、ネクスト・イストリア!!…トラッシュにある滅龍スピリットカード、ギルモンを回収し、ターンに一度回復する!!」

手札4⇨5

【デュークモン】(疲労⇨回復)

 

 

椎名のトラッシュからギルモンのカードが手札に戻ると共に、デュークモンが疲労状態から回復状態となる。これにより、このターンは2度のアタックを行うことができる。

 

そしてさらに言えばデ・リーパーは前のターン、フルアタックを仕掛けたためにブロッカーがいない。このアタックはライフで受ける他なくて………

 

 

「ライフで受けるよ……っ」

ライフ4⇨3

 

 

デュークモンの聖なる槍の刺突がデ・リーパーのライフを1つ貫いた。

 

 

「まだだ!!ライドラモンLV2の効果!!アーマー体、完全体、究極体スピリットが相手ライフを減らした時、さらに追加で1つ破壊する!!」

「………っ」

 

 

ライドラモンが雷雲を呼び寄せ、デュークモンに落雷させる。デュークモンはその雷の力を自分のものにし、さらにもう一撃、槍の一撃を放つため、構える。

 

 

「雷槍の一撃……ライトニングランス!!」

 

「う、うぁぁっっ!?」

ライフ3⇨2

 

 

その聖なる槍の矛先から放たれた一撃はロイヤルセーバーに雷の力が合わさったようなものであり、それが凄まじい威力でデ・リーパーのライフを叩き壊した。

 

 

「どうだデ・リーパー!!次のアタックで終わりだ!!」

 

 

そう強く意気込む椎名。だが、快進撃もここまでか、デ・リーパーはすぐさま自分の伏せていたバーストカードに目を向け、それを勢い良く反転させ、効果を発動させる。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動!!絶甲氷盾!!」

「っ……ADR-02じゃない!?」

 

「君が手札を増やさなくなる事などお見通しなんだよ…………ライフ1つを回復、さらにコストを支払い、アタックステップを終了させる!!」

ライフ2⇨3

リザーブ7⇨3

トラッシュ3⇨7

 

 

吹き荒れる猛吹雪。それはデ・リーパーのライフを奪わんとするロイヤルナイツのデュークモンさえをも軽く吹き飛ばす。

 

これは椎名がターンの終了を宣言するまでは吹き止む事はない。故に、椎名は半ば強制的にターンの終了を迫られていた。

 

 

「………ターンエンド」

【ライドラモン】LV3(4)BP10000(回復)

【ブイモン】LV2(3)BP4000(回復)

【デュークモン】LV2(3)BP14000(回復)

 

バースト【無】

 

 

致し方なくそのターンを終える椎名。それと共に猛吹雪が去り、バトル可能な場へと元どおりになる。次はデ・リーパーのターン。

 

 

[ターン08]デ・リーパー〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨11

トラッシュ7⇨0

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】(疲労⇨回復)

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、マジック、ストロングドローを使用するよ、カード3枚ドローし、2枚破棄」

リザーブ11⇨10

トラッシュ0⇨1

破棄カード↓

【ビルドアップ】

【シキツル】

 

 

デ・リーパーがこのターン、颯爽と行ったのは手札の入れ替え。そしてそのドローでついにやってきた。オーバーエヴォリューションによって生まれた母なるデ・リーパーが。

 

 

「うっふふふ…………エニーズ、よくここまで足掻けたね〜褒めてあげるよ」

「別に褒められる筋合いはない」

「ふふ、お礼にこの母なる死神で幕を下ろしてあげよう」

「!」

 

 

デ・リーパーが手札のカードに手をかけると、空気が張り詰めるのがわかった。それと同時に、今から呼び出されるスピリットには途方も無い進化の力が注ぎ込まれているのが理解できた。

 

母なる死神。おそらくはそれがデ・リーパーの切り札。

 

 

「さぁ!!母なる死神、マザー デ・リーパーをLV2で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨7

【マザー デ・リーパー】LV2(3)BP16000

 

「!」

 

 

デ・リーパーの背後に突如として現れた黒い煙。その中から一つ目の鋭い眼光が放たれたかと思うと、全てのデ・リーパーの母。マザー デ・リーパーが姿を現した。そのサイズはこれまでのリーパー達とは比べ物にならない程に巨大だった。

 

 

「うっふふふ、マザー デ・リーパーは相手のデッキが20枚以下の時、コストを1にする」

 

 

マザー デ・リーパーの本来のコストは10。通常では莫大なコアを使用してしまうが、今現在、散々デッキ破壊された椎名のデッキ枚数は今や16。そのコストは1となり、軽減もあってノーコストで召喚されたのだ。

 

 

「さらにマジック、スプラッシュザッパー。コスト7以下のスピリット3体を破壊するよ」

手札3⇨2

リザーブ7⇨3

トラッシュ0⇨4

 

「!!」

 

 

マザー デ・リーパーの召喚に合わせて放たれる水の斬撃。それが椎名のブイモンとライドラモンを襲う。2体はなすすべなく切り刻まれ、力尽き、爆発を起こしてしまう。

 

 

「ふふ、これで後はデュークモン、君だけだね〜………アタックステップ!!マザー デ・リーパーの効果!!互いのアタックステップ中、リーパースピリットのLVを最大にする!!」

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】LV1⇨3

【デ・リーパーADR-02 サーチャー】LV1⇨3

【マザー デ・リーパー】LV2⇨3

 

「なに!?」

 

 

マザー デ・リーパーからコードが伸び、それが他2体のADR達の背に接続されたかと思えば、ADR達はより異様な形へと変貌を遂げていく。ADR-02には黒い鎧が体の所々に装着され、ADR-01は体格が大きくなり、バイザーが頭部に装着された。

 

 

「さぁ、行きなさい、先ずはADR-02 サーチャーでアタック!!その効果で君のデッキを上から1枚破棄!!」

 

「!」

デッキ16⇨15

 

 

ADR-02から放たれる青い衝撃波が椎名のデッキを襲う。破棄されたカードはスピリットカード【メガログラウモン】だ。

 

 

「リーパースピリットの効果によってスピリットカードが破棄された時、ADR-01のLV2、3の効果を発揮!!…カードを2枚ドローし、1枚捨てるよ」

手札2⇨4⇨3

破棄カード↓

【失われし楽園】

 

 

常に不気味な笑みを浮かべたまま、効果を連続発揮させていくデ・リーパー。椎名のライフは残り2つ。対してデ・リーパーのスピリットは合計3体。このままでは間違いなく椎名のライフは尽きることだろう。

 

だが、それでも諦めずに椎名は果敢に立ち向かう。

 

 

「デュークモンでブロック!!」

 

 

飛翔するADR-02 サーチャーのアタックは唯一残っているスピリット、デュークモンを向かわせる。

 

しかしながら、この瞬間。椎名の不本意ながらマザー デ・リーパーのもう一つの効果が発揮される事になる。

 

 

「マザー デ・リーパーの効果!!スピリットがブロックされた時、互いのデッキの上から1枚を破棄」

「!?」

 

 

マザー デ・リーパーが巨大な一つの眼光を放つと、デ・リーパーと椎名。それぞれのプレイヤーから1枚のカードが破棄される。

 

これだけでは一見地味だが、目的の効果はこの後だ。

 

 

「その後、トラッシュにあるコスト9以下のリーパースピリットを1コスト支払って召喚する!!」

「!?」

 

「さぁ復活だよ、リーパー!!」

リザーブ3⇨1

【リーパー】LV3(1)BP16000

 

 

高いタワーのような見た目のマザー デ・リーパーの麓から、何かが形成され、分離していく。

 

その正体は前のターンでデュークモンが倒したはずのリーパー。先端が鎌になっている触手を何本も携え、今一度この場へと復活してきた。

 

 

「さらに!!マザー デ・リーパーの効果でリーパースピリットはBPバトルでは負けない!!……終わりだねエニーズ!!…これで私がDr.Aの創る進化した世界へ行ける!!」

 

 

このターンで魑魅魍魎と化した盤面のスピリット達のアタックにより、エニーズを、芽座椎名を倒せる………デ・リーパーは勝利を確信していた。

 

………だが……

 

 

「それがマザー デ・リーパーの効果か………なんだ、大したことないな」

「なにっ!?」

 

 

椎名は何を思ったのか、マザー デ・リーパーの強力な効果と圧倒的なスピリット達の物量差を前にしても尚、冷徹で余裕の表情を浮かべている。

 

椎名はここまでの激しい攻防でわかったのだ。このデ・リーパーでは自分には勝てないと言うことを。所詮は椎名をコピーして作られた存在。オリジナルには勝てない。

 

そして椎名はこの状況を打破すべく、手札のカードを1枚引き抜く。

 

 

「フラッシュ、デュークモン クリムゾンモードの【チェンジ】発揮!!対象はデュークモン!!」

リザーブ7⇨1

トラッシュ2⇨8

 

「っ!?」

「この効果により、シンボル3つまで相手スピリットを好きなだけ破壊する!!」

「な、なんだって!?」

「破壊するのはシンボル2つのリーパーと、マザー デ・リーパー!!」

 

 

椎名の背後から突如として現れた龍を象った真紅の炎。それは唸り、宙を舞い、デ・リーパーの場へと突撃していく。リーパー、終いにはマザー デ・リーパーさえをも飲み込んで、それらを一気に燃やし尽くした。

 

マザー デ・リーパーの損失に伴ってか、姿が変わっていたADR-01と-02のLVも1まで低下し、元に戻る。

 

 

「……う、うそだ……」

 

「さらに、この効果発揮後、対象となったスピリットと入れ替える」

手札5⇨6

 

「!」

 

 

2体を焼き尽くした龍は最後に椎名の場のデュークモンへと降下。そしてデュークモンと衝突する。しかし、デュークモンは焼き尽くされることはなく………

 

 

「燃え上がれ聖騎士!!…真なる深い紅をその身に纏い、邪悪なる者皆照らし破れッ!!」

 

 

真紅の炎の中で、デュークモンの聖なる槍と盾、赤いマントが消失する。デュークモンの白い身体は燃えるような深い紅に染まっていき、さらには同じ色の外装が新たに所々取り付けられていく。背にはマントの代わりに10枚の白い羽が出現する。

 

 

「デュークモン、モードチェンジ!!……クリムゾンモード!!」

【デュークモン クリムゾンモード】LV2(3)BP18000

 

 

椎名の叫びと共にその炎を突き破って現れたのは、デュークモンの進化形態。椎名の切り札。クリムゾンモード。赤々と燃えたぎるような真なる深い紅の鎧と白い羽はこの薄暗がりな場を明るく照らしていた。

 

 

「【チェンジ】はそのスピリットの状態とバトルを引き継ぐ、ADR-02との勝負だったな……迎え討てクリムゾンモード、神剣ブルトガング!!」

「っ!?」

 

「無敵剣……インビンシブルソード!!」

 

 

椎名がそう叫ぶと、クリムゾンモードは左手に光の力を集約させて、神剣を生み出す。そしてそのまま無作為に突っ込んでくるADR-02へと一閃。あっさりと切り崩してみせた。

 

 

「……ターン、エンド……………………なんでだ………なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】LV1(1)BP5000(回復)

 

【失われし楽園】LV1

 

バースト【無】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとするデ・リーパー。だが、このターンの結果に満足できないのか、うちに溜まっていた莫大な怒りをとうとう露わにする。

 

そのデ・リーパーの感情というものは、生まれたて故の不安や恐れ、頼れるものが他にいなかったからこその憎悪なのだ。

 

 

「なんで、なんで君のカードは私のカードより強いっ!?……なんで私のカードを凌駕できる!?…オーバーエヴォリューションで進化させた回数は私の方が多いと言うのに!!……何故だ!!」

「…………」

「それほどまでに君に才能があるとでも言うのか!?……だったら私は何者なんだ!?何故生まれ、何故今、新たな世界のイヴたる存在を決めるために戦っているんだ!?……これ程までに差があると言うのであればやる意味などないじゃないか!!?!……私はなんで生きているんだぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

「…………デ・リーパー………!?」

 

 

怒れ狂ったような発狂するデ・リーパー。元々不安定だった情緒がより不安定になる。

 

生きる意味がわからなくなってきたのだ。彼女は椎名のデータを元にDr.Aの私利私欲のためだけに作られた。

 

その生みの親たる存在が言うことはなんでも聞いた。街を襲ったし、緑坂真夏を攫い、椎名と戦うよう仕向けた。そして今は自分がそれと戦っている。

 

理由はわかっている。それはどちらかが新しい世界へ行けるのか……Dr.Aはこのバトルで【椎名とデ・リーパーを選別しようとしている】

 

……負ければ不要。死ぬだけ……

 

そう言った椎名との葛藤やどうしようもないジレンマがデ・リーパーを常に苦しめていた。だからこそ力の差が明るみになった今、訳が分からなくなり、気が狂ったように叫び出したのだ。

 

 

「………そうか、デ・リーパー………あなたは………」

 

 

椎名はそのデ・リーパーの真意と本質に気づいたか……同情の念が込められた言葉を零す。そして、「今楽にしてやる」と言わんばかりに、自分のターンを進行させていくのだった。

 

 

[ターン09]椎名〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨10

トラッシュ8⇨0

 

 

「メインステップ、クリムゾンモードのLVを3に上げ……アタックステップ!!……翔けろ、クリムゾンモードッ!!」

リザーブ10⇨9

【デュークモン クリムゾンモード】(3⇨4)LV2⇨3

 

 

白き羽を広げ、低空飛行で翔けるクリムゾンモード。狙うは当然残り3つのデ・リーパーのライフ。

 

 

「ぐ、ぐぅぅぅうっ!!……ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!負けない!!負けないんだぁぁぁぁ!!……フラッシュマジック、マシッブアップ!!ADR-01のLVを最大にぃぃい!!」

手札3⇨2

リザーブ6⇨4

トラッシュ6⇨8

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】LV1⇨3

 

「っ!?」

 

 

クリムゾンモードに合わせて咄嗟に使用したマジックカード。この効果はLV3まで存在するスピリットのLVを最大にする効果を持つ。よって、ADR-01のLVが最大になり、マザー デ・リーパーの効果元でなくとも、より凶悪な姿へと変貌を遂げる。

 

 

「ADR-01でブロックゥぅ!!…さらにフラッシュマジック、ストロングドローとマントラドロー!!」

手札2⇨0

リザーブ4⇨0

トラッシュ8⇨12

 

「!!」

 

「効果によりBPをプラス6000!!これでADR-01のBPは23000!!!……消し去ってしまえぇえ!!」

【デ・リーパーADR-01 ジュリ】BP17000⇨20000⇨23000

 

 

神剣を手にADR-01へと迫るクリムゾンモード。

 

ADR-01は口内からガスを勢い良く発射する。クリムゾンモードは咄嗟にそれを神剣を構えてガードするも、そのガスは神剣を分子レベルで崩壊させた。

 

それにクリムゾンモードが驚愕する間も無く、ADR-01がクリムゾンモードの頭部を押さえ込んだ。

 

 

「私は…私は不要じゃない!!それだと生まれた意味がないじゃないか!!……本当にいらない存在なのは君だよエニーズ!!」

「!!」

 

 

ADR-01はクリムゾンモードの頭部を手で押さえ込んだ状態で足蹴りし、クリムゾンモードを蹴り飛ばす。クリムゾンモードは呻き声を上げながら壁に叩きつけられる。

 

その後も止まないADR-01の猛攻。クリムゾンモードは一方的に殴られ続ける。

 

 

「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉぉォォぉぉォォぉぉォォぉぉォォぉぉォォお!!!」

 

 

徐々に徐々にと傷ついていく真紅の鎧。

 

終いにはADR-01は地面に掌を合わせ、まるでマザー デ・リーパーのようなタワー型の塊を形成。倒れるクリムゾンモードを空中からそこへとぶち込んだ。

 

クリムゾンモードはそのリーパー達の血肉のような壁の中で少しずつ体がデジタル化され、融解されていく。

 

 

「……デ・リーパー……待ってろ、今………このバトルを終わらせる!!」

 

 

椎名はとっくに理解している。

 

この大勢の人々の心や体に深い傷を負わせたデ・リーパーもまたDr.Aの被害者だと言うことを……

 

……本当だったら分かり合える存在たった彼女を助け出すため……

 

……椎名は手札のカードを1枚抜き取り、最後のフラッシュ宣言を行う。

 

 

「…フラッシュマジック、レッドカード!!」

手札7⇨6

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨3

 

「っっ!?!」

 

「この効果により、このターン、クリムゾンモードのBPをプラス3000!!…よってBP24000!!」

【デュークモン クリムゾンモード】BP21000⇨24000

 

 

椎名の使用したマジックによってBPが上昇するクリムゾンモード。そのパワーアップを示すかのように眼光を力強く放ち、その体をより真紅に燃え上がらせ、リーパー達の血肉のような壁の中を突き進み、そこから飛び出し、ADR-01の眼前へと姿を見せる。

 

……そして……

 

 

「私は………いらない存在なんかじゃ……ないっ!!」

 

 

椎名の叫びと共に、クリムゾンモードがADR-01の腹部を全力で殴りつける。余りのダメージにより、ADR-01は激しい断末魔を張り上げながらゆっくりとこの場からデジタル粒子となって消滅していく。

 

 

「あ……あぁぁぁぁぁあ!?!!」

「クリムゾンモードのアタック時効果、バトル終了時、相手のトラッシュにあるスピリットカード3枚につき1つ、ライフを破壊する………神槍グングニル!!」

 

 

クリムゾンモードのアタック時効果の条件は整った。現在、デ・リーパーのトラッシュには11枚のスピリットカードが存在する。3点のダメージだ。

 

そして、デ・リーパーの残りライフも3。終わりだ。

 

クリムゾンモードは右手に光の力でできた神槍を作り出し、それを横に向けるように拳をデ・リーパーの方へと向けて…………

 

 

「神槍の一撃……クォ・ヴァディスッ!!」

 

 

そこから真なる深い紅の光を射出する。その光はもはや正気を保てなくなっているデ・リーパーへと一直線に飛び行き………

 

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁぁあ!!?!」

ライフ3⇨0

 

 

衝突し、そのライフを1つ残らず砕いた。

 

これにより、勝者は芽座椎名。鬼化の力の葛藤を乗り越え、見事にこのバトルを勝利で終わらせてみせた。終了に伴って、役目を果たしたような顔つきのまま消滅していくクリムゾンモード。

 

だが、椎名にはまだやり残している事がある。デ・リーパーの元へと歩み寄っていき………

 

 

「あぁなんでだ、なんでだよ……なんで私は……あ、あぁ!?!体が……体が消えていく!?!……う、うぁあ!?っ!」

 

 

敗北に伴ってか、はたまた【元々そう言う存在】だったのか、デ・リーパーの体がデジタル粒子となってゆっくりと消えようとしていく。

 

その恐怖が思わずデ・リーパーの口から言葉となって出てくる。そんな時、椎名がデ・リーパーの眼前に現れて………

 

 

「あぁエニーズ!?!…なんでだ!!なんでだ!!なんでお前が生きないといけないんだ!!なんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだなんでだぁぁぁぁぁあ!!」

「…………」

 

 

椎名はデ・リーパーに毛嫌いされながらも、デ・リーパーの消えゆく体を寄せて、優しく抱きしめた。椎名の奇行に、デ・リーパーは自然と言葉を見失ってしまう。

 

 

「ッ!?」

「…………ごめん………私は何もあなたの事を知らなかった……わかろうともしなかった。ただ怒りで頭がいっぱいで」

 

 

椎名が淡々と述べていく言葉に、デ・リーパーは何故か言い返す言葉が出なかった。不思議と温かいなにかの温もりを今を生きる肌で感じていたのだ。

 

 

「本当はただ怖かったんでしょ?……だからずっとDr.Aについて悪い事してた……頼りになるのがあの人しかいなかったから選択肢がなくて切羽詰まってた………家族いないのって怖いよね……わかるよ、私も血の繋がった家族は見た事なかったし」

「……ち、違う……私はそんなものは望んではいない……!!」

「違くないよ、デ・リーパーも言ってたじゃない、『私には君の考えている事がわかる』だから私もあなたの考えてる事がわかる………」

「………っ!?」

 

 

デ・リーパーは僅かばかり芽生えた反論の意思で椎名の言葉を否定するも、そんな嘘は通じないか、椎名はすぐさまその咄嗟についたデ・リーパーの嘘を見破った。

 

いや、本当に椎名はデ・リーパーの考える事がわかるようになっていた。何故だか理由は定かじゃないが、おそらく、椎名とデ・リーパーが似たような存在だからだろう。

 

 

「私達、違う出会い方だったら絶対もっと仲良くなれた…………」

「………」

「だからさーーなんというか、……うーむ、なかなか言葉が出てこないな………あっそうそう」

 

 

椎名は抱きしめていたデ・リーパーの体を話しながら言った。

 

 

「顔もこんなに似てるんだしさ、もう私達双子の姉妹みたいじゃん!!私のこと、「お姉ちゃん」って呼んでもいいよ!!」

「………………は?」

 

 

あんなに冷徹で冷たかったのに、唐突にいつものバカさ加減がとんでもない普通の椎名に戻った。真夏がいたら「こんな時でもボケかますなぁ!」とツッコまれそうだ。鬼化の状態も相まってとてもシュール極まりない。デ・リーパーはこの状況でボケをぶっ込んで来た椎名に対して浮かない顔をする。というか、引いてる。

 

椎名とて別に冗談のつもりではない。本気だ。血の繋がった家族のいない彼女にとって、デ・リーパーはなんとなくそれに近いものだと感じていた。

 

つまり、言いたかった事は【家族になろうよ】という事だ。

 

 

「あ、あれ!?…嫌だった!?…じゃあ「妹」で、私がね!!…私が妹で、お姉ちゃん!!」

「…………」

 

 

なにやら不穏な空気を感じた椎名が咄嗟に言葉を訂正する。だが、間違ってるのはそういう事ではない。

 

デ・リーパーはそんな椎名のバカっぷりに、もはや死の恐怖さえをも笑いの方が凌駕してしまい……

 

 

「ふ、あっはははははは!!!」

「?」

 

 

とうとう高らかに笑ってしまった。目の前のただのおバカに。それと同時に思ってしまった。家族とは、こんなに温かいものなのだと………

 

 

「あ〜可笑しいね〜〜家族とはそんなに可笑しなものなのかい?」

「へへ!!…あぁ!!可笑しくって笑えて、温もりがあって、楽しい!!…たとえ血が繋がってなくてもいいんだ!!私達はこうやって笑いあえる!!だから誰がなんと言おうとも家族だ!!……あと顔も似てるし!!………そうそうこれが言いたかったんだよ〜〜国語は苦手でさ〜〜」

 

 

家族とはなんとも良いものだな。そう思い、そのまま消滅しようと考えていたデ・リーパーだったが、椎名はまたデ・リーパーが驚愕するような一言を添える。

 

 

「デ・リーパー……まだ生きたいなら、私の中で生きよう……!!」

「……っ!?」

「あなたも私ならわかるはずだ。私達は1つになれる。同じ鬼化を進化の力を共有している……これから私の中で犯した罪を償おう!!……後、いっぱい話そう!!」

「……エニーズ……」

 

 

これは2人にしかわからぬ感覚。

 

椎名のコピーであるデ・リーパーは椎名とほぼ同じ鬼化、進化の力を持っている。体も普通ではないが故に、椎名の中に収まる事が可能である………と、なんとなく感じていた。

 

 

「何より私はあなたのお姉ちゃん兼妹としてまだ死んでほしくない!!……生きろ!!デ・リーパー!!」

「エニーズ………いや、椎名……君は邪な感情しかなかった私を………私を君の家族として受け入れるというんだね………」

「あぁ、せっかくできた姉妹なんだから、離しはしないさ……もうあなたは1人じゃない……!!」

 

 

デ・リーパーの体がいくつもの光に変換される。完全に消え去るかと思われたその灯火のような光は椎名の体の中に吸い込まれるように中へと入っていく。

 

椎名の鬼化が強制的に解除される。いや、これは解除ではなく、新たな鬼化。一見普通の人間の状態に見えるが、その両目には確かに【真紅の魔竜やデュークモンに見られるマーク】が刻まれていた。

 

椎名とデ・リーパーが和解し、互いが互いを理解して、1つになった瞬間であった。

 

 

ー『あぁ、共に生きよう、椎名……Dr.Aの事は君達に任せるよ……あんな極悪人でも私達の生みの親だ。けど、君にとって良い未来がある事を、私は望む』

 

 

デ・リーパーはその言葉を最後に消えた。椎名という本当の家族を手にしたデ・リーパーのその声は、なんとも喜びと幸福に満ち溢れていた。

 

デ・リーパーを取り込んで一体化した椎名は感じた。デ・リーパーを倒してもまだ戦いが終わらないことを………Dr.Aを倒さなければ真夏や他の消えた人達は戻って来ないことを………

 

デ・リーパーを倒せば元に戻ると言うのは、司の思い違いだったのだろうか?

 

 

「……下だ。下にじっちゃんがいるんだ………行かなきゃ」

 

 

……そう思うと、足が動いた。椎名は疲労故の覚束ない足取りのまま、また長い地下への階段を下っていった。




〈本日のハイライトカード!!〉


デ・リーパー「本日のハイライトカードは【マザー デ・リーパー】」

デ・リーパー「マザー デ・リーパーは相手のデッキが20枚以下の時に1コストになるスピリット。リーパー達に力を与える効果はまさしく母なる死神だね〜〜」


******


〈次回予告!!〉


椎名を先に地下へと向かわせた司は銃魔とバトルを繰り広げることになる。果敢に銃魔に挑む司。だが、Dr.Aに与えられたジョーカーのカードが彼の身体を蝕んで行き………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「リ・オーバーエヴォリューションズ」…今、司が進化を超える!!


******


最後までお読みくださりありがとうございました!!

クリムゾンモードの効果が強すぎてバトル構想がなかなか難しいこの頃です。こりゃ三期は出番が減りそうですね。

今回、結果的にお伝えしたかった事は、【デ・リーパーは決して悪者ではなく、本当に悪いのは生まれたて故に無垢なデ・リーパーの心を利用したDr.A】って事ですね。

デ・リーパーは椎名の心と1つになりました。今回だけではわかりづらいですが、決してこれから椎名の会話のたびにデ・リーパーが一々出てくるわけではなく、デ・リーパー自体はあまり表には出さないつもりですので、苦手な方々はどうか安心して本小説をお読みになってください。

※椎名は飽くまでも椎名です。

後次回ですが、多分今回以上に良い意味で驚愕される方も多いと思われます。いや、勘の良い方々はもしかしたらどうなるかわかるのかもしれませんね。ネタバレをするつもりは一切ありませんが。

これからは午前10時に投稿しなくなるかもしれません。(完成次第更新)

アンケートは参考程度にするつもりで、一番多いのが確定という訳ではないので、気軽にご投票ください。


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第91話「リ・オーバーエヴォリューションズ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椎名がデ・リーパーと激闘を繰り広げるその前、椎名を先に地下へと向かわせた赤羽司は、Dr.Aの野望遂行を願う銃魔との一騎打ちに臨んでいた。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

本来ならば栄誉ある界放リーグでのみ使用される中央スタジアム。その広大なバトル場にて、コールと共に赤羽司と銃魔のバトルが開始される。

 

先行は銃魔だ。

 

 

[ターン01]銃魔

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、インプモンを召喚……効果によりカードをオープン」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【インプモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【妖刀ムラサメ】×

【幽騎士ナイトライダー】×

【幽騎士ナイトライダー】×

 

 

銃魔が初手で呼び出したのは小悪魔のような成長期スピリット、インプモン。だが、その召喚時効果は不発。どれも加えられず、トラッシュへと破棄されてしまった。

 

 

「ターンエンド」

【インプモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

流石に先行の第1ターン目はこの程度か、銃魔はそれだけでこのターンをエンドとする。次は司のターン。

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はネクサスカード、朱に染まる薔薇園を配置し、ターンエンド」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

司のターンが始まって早々、背後に赤い薔薇園がこれでもかと咲き誇る。

 

 

[ターン03]銃魔

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、俺は旅団の摩天楼を2枚配置、効果で2枚ドローし、ターンエンド」

手札5⇨3⇨5

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【インプモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

銃魔の背後に暗がりの摩天楼を配置したかと思えば、まるで手札を入れ替えたかのようにカードをドローした。

 

お互い静かにターンを進めていく中、次ターンでついに司が動き出し、その均衡を破る事になる。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ…イーズナを召喚、さらに2枚目の朱に染まる薔薇園を配置!!」

手札5⇨3

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨2

【イーズナ】LV1(1)BP1000

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

 

このバトル、司が始めて召喚したスピリットは黄色でも赤でも扱えるイタチのようなスピリット。さらに背後には赤い薔薇が増加していく。

 

 

「さらにハーピーガールを2体、LV1ずつで召喚!!…不足コストはイーズナを消滅させて確保」

手札3⇨1

リザーブ3⇨0

【イーズナ】(1⇨0)消滅

トラッシュ2⇨4

【ハーピーガール】LV1(1)BP3000

【ハーピーガール】LV1(1)BP3000

 

 

出たばかりのイーズナがコア不足により消滅してしまうも、司の場には新たに手足が鳥のような姿になっているスピリット、ハーピーガールを2体姿を見せる。

 

 

「バーストを伏せ、アタックステップ!!……ハーピーガール2体でアタック!!」

手札1⇨0

 

 

場にバーストが伏せられると同時に、ハーピーガール達が飛翔する。

 

 

「ハーピーガールの【連鎖:赤】を発揮!!…BP3000以下のスピリット1体を破壊!!」

「!」

「消えろインプモン!!」

 

 

ハーピーガールの1体が銃魔のインプモンに向けて口内から螺旋状の炎を放つ。インプモンにそれを避けるすべはなく、難なく破壊されてしまった。

 

 

「これでテメェのブロッカーはゼロだ……そして、ハーピーガール2体のアタックは継続中」

 

「……ライフで受ける………ッ」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

コアの少ない銃魔はこのアタックをライフで受ける他ない。

 

ハーピーガール2体の急降下からの翼撃が銃魔のライフを一気に2つ破壊した。

 

 

「ハーピーガール2体【聖命】を発揮、ライフ2つを回復し、2枚分の朱に染まる薔薇園のLV1効果で4枚ドロー…………ターンエンド」

ライフ5⇨6⇨7

手札0⇨4

【ハーピーガール】LV1(1)BP3000(疲労)

【ハーピーガール】LV1(1)BP3000(疲労)

 

【朱に染まる薔薇園】LV1

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【有】

 

 

ライフと手札。その2つを大きく増やしていく司。銃魔とのアドバンテージの差は一目瞭然。誰が見ても圧倒的に有利な立場になった。

 

 

「なぁ銃魔、俺はもうお前の正体知ってんだよ」

「!?」

 

 

銃魔が自分のターンを進行しようとする直前、司が唐突に彼に対して語りかけてきた。

 

それは銃魔にとっては意外だと思っていたもの……赤羽司は自分の正体を知っている。

 

 

「お前も【鬼】……なんだろ?」

「……」

 

 

その真実を突きつけられ、寡黙になる銃魔。司はそんな様子の銃魔を見て、自分の推理が正しい事を理解する。

 

 

「Dr.Aの資料をちょっとだけあさくったらな、めざしが造られる前にもう1人造られてる【エニーズ】がいたのを知った……それがお前なんだな……ベルゼブモンもお前のオーバーエヴォリューションで手に入れたんだろ?」

「…………あぁ、そうだ………俺も………ぐっ!?…ぐぁがっぁっ!!」

「っ!?!」

 

 

銃魔は司の推理を認め、寡黙をやめたかと思うと、唐突にもがき苦しみ出した。その勢いに眼鏡がずれて地面に落ちる。

 

だが、それも一瞬、本当は進化していた。Dr.Aに与えられた力を使って………

 

額からは二本の長いツノが生え、その瞳は邪悪な紫色に染まる。

 

彼にとってこれは何年振りの進化だろうか。もう何年前なのか、彼はもう忘れてしまったことであって…………

 

 

「……そうだ赤羽司……貴様の言う通り、俺も【エニーズ】の1人、椎名を初号、デ・リーパーを2号と例えるのなら、差し詰め、俺は0号と言ったところか………」

「………」

「だがな赤羽司、俺の【鬼化】には進化の力はもうない。ベルゼブモンのカードを生み出した途端にオーバーエヴォリューションはできなくなった。…この姿ももうみてくれだけだ」

「……だからこそ、お前はDr.Aの手となり足となった……だろ?」

「その通りだ」

 

 

鬼化してもオーバーエヴォリューションを繰り返すことができなかった銃魔は、Dr.Aにとってはいわば失敗作と言える存在。だが彼はDr.Aの野望を手伝う形で今まで生きてきた。

 

額に生えた二本のツノ、邪悪な瞳、圧力のあるオーラ。これをみても俄かには進化の力がないとは思えないが、銃魔には確かにオーバーエヴォリューションはできないのだ。

 

 

「知りたかったことはこれだけか?」

「あぁ、お前にマウントとって見たかっただけだクソヤロー」

「ふっ、相変わらず口だけが達者に動くやつだな……この姿になったからには手加減はしないぞ」

 

 

話も一段落し、銃魔はみてくれだけの鬼化のまま自分のターンを進めていく。

 

 

[ターン05]銃魔〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!……クリスタニードルを召喚、さらにマジック、デッドリィバランスを使用!!互いのプレイヤーは自分のスピリット1体を選び、破壊する…俺はクリスタニードル」

手札6⇨4

リザーブ8⇨6

トラッシュ0⇨1

【クリスタニードル】LV1(1)BP1000

 

「ちぃ、俺はハーピーガール」

 

 

銃魔は小さな蛇のような紫のスピリット、クリスタニードルを召喚するや否や、すぐさまデッドリィバランスのカードを使用。銃魔のクリスタニードルと司のハーピーガールの1体が同時に爆発する。

 

 

「紫のコスト3以下のスピリットの破壊により、手札のベルゼブモンの効果を発揮…1コストを支払い、召喚する」

手札4⇨3

リザーブ7⇨6

トラッシュ1⇨2

 

「……」

 

「孤高の魔王よ、今こそ百戦錬磨の力をこの世に知らしめよ!!……ベルゼブモンをLV2で呼ぶ!!」

リザーブ6⇨1

【ベルゼブモン】LV2(5)BP11000

 

 

銃魔の前方に着地し、現れたのは魔王型の究極体スピリット、ベルゼブモン。彼の絶対的なエーススピリットだ。

 

 

「ベルゼブモンの召喚時効果、残ったハーピーガールのコアをリザーブへ……ダブルインパクトッ!!」

手札3⇨4

 

「っ!!」

【ハーピーガール】(1⇨0)消滅

 

 

ベルゼブモンは登場直後に、司のハーピーガールへと両拳銃の弾丸を連射。正確に撃ち抜きハーピーガールを消滅させた。

 

 

「バーストをセット………これで貴様の場はガラ空きだ……行くぞ、アタックステップッ!!ベルゼブモンでアタック!!」

手札4⇨3

 

 

司の隙を見つけ、エースのベルゼブモンでアタックを仕掛ける銃魔。そしてここでも彼はまた仕掛ける。

 

 

「フラッシュ【チェンジ】発揮!!対象はベルゼブモン!!」

「!!」

 

「この効果により、支払うコストは相手のリザーブからでも確保可能!!俺は自身のリザーブから1つ、貴様のリザーブから2つのコアを使用する!!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ2⇨3

 

「………」

リザーブ2⇨0

トラッシュ4⇨6

 

 

司の残っていたリザーブのコアが全てトラッシュへと葬り去られてしまう。これも銃魔の持つ【チェンジ】のカードの特有の効果。相手に反撃さえをも許さない。

 

 

「そしてその後対象となったスピリットと回復状態で入れ替える………ベルゼブモン、モードチェンジ!!……ブラストモードッ!!」

【ベルゼブモン ブラストモード】LV2(5)BP16000

 

 

ベルゼブモンの差が蠢き、そこから4枚の漆黒の翼が新たに生える。さらに上空から現れる陽電子砲を右手と一体化させる。

 

その名はベルゼブモン ブラストモード。銃魔のエーススピリットがさらに進化した最強の切り札だ。その圧倒的な存在感に強気な司も思わず半歩退がる。

 

 

「【チェンジ】の効果によりアタックは継続中!!…さらにブラストモードの効果で紫のシンボルを1つ追加!!ダブルシンボルとなる!!」

 

「……来いよ、ライフで受けてやる………っ」

ライフ7⇨5

 

 

ブラストモードは右手の陽電子砲から莫大なエネルギー砲を発射する。コアのない司はこれをライフで受ける他なく、ライフの減少を宣言する。

 

それは司のライフを難なく2つも粉々に砕いた。

 

 

「………ハッ、ライフ減少によりバースト発動!!……効果により減ったライフの数だけテメェのスピリットのコア2つをボイドに置く!!…ブラストモードだ」

 

「っ!!」

【ベルゼブモン ブラストモード】(5⇨3)

 

 

司が反撃と言わんばかりに事前に伏せていたバーストカードを勢いよく反転させる。黒い塊が銃魔のブラストモードを包み込むと、その内にあるコアを2つ消し炭にしてしまう。

 

銃魔は知っている……この効果を持つバーストカードを……間違いない……あいつだ。

 

 

「その後召喚する……来い、勝利へ導くワイルドカード……ジョーカー!!」

リザーブ2⇨0

【ジョーカー】LV2(2)BP12000

 

 

その黒い塊は司の場に到着した途端破裂したかと思うと、中から異様で異端な黒いスピリット、ジョーカーが緑色の複眼を輝かせ、そして甲高い奇声を張り上げながら姿を現した。

 

 

「どうだクソヤロー、これでテメェはアタックできねぇなぁ?」

 

「………ターンエンド」

【ベルゼブモン ブラストモード】LV2(3)BP16000(回復)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【有】

 

 

司のジョーカーを見るや否や、銃魔はBPで勝るブラストモードがいるにもかかわらず、アタックをせずにそのターンをエンドとしてしまう。

 

それにも理由がある。ジョーカーにはアタック時、疲労状態のスピリット1体を破壊し、そのアタック時効果を奪う効果がある。銃魔が仮にアタックしたとして、未だにライフに余裕のある司はこれをライフで受ける。そうなればブラストモードはジョーカーによって破壊され、挙げ句の果てにはシンボル増加のアタック時効果まで発揮され逆に追い込まれると見越してのエンドだった。

 

次は見事に銃魔の動きを制限した司のターンだが………

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨7

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!!…俺はホークモンを………っ!?!」

 

 

ターンシークエンスを順当に行い、攻めあぐねた銃魔を一気に叩き落とすべくスピリットを召喚しようとした……………その矢先だった………

 

Bパッド上のジョーカーのカードが光り出した……その瞬間。

 

 

「ぐ、ぐぁぁぁっぁっつぁあ!?!!」

 

 

司が苦しみだした。まるで体の中を抉り取られるような感覚が彼を襲い始めたのだ。今までにもあったこの痛み。だがこれまでとは全く比にならないほどの苦痛だった。

 

 

「限界か………」

 

 

銃魔はその原因まで何もかも理解しているのか、冷静な口調でそう呟いた。

 

そしてその原因までもを苦しみもがく司に淡々と説明していく。

 

 

「貴様は過ぎたカードだったな……そのDr.Aが貴様に渡したジョーカーはDr.Aが自らの研究で作り上げた代物……これがどういう事だかわかるか?」

「………!!」

「そのカードには絶えず大きな進化の力が流れている。大き過ぎる進化の力は普通の人間では扱えない……そのままではお前はジョーカーに体ごと乗っ取られるか……このバトルが終わる前に………死ぬ」

「………ハァッ、ハァッ」

 

 

スピリットアイランドでの流異が良い例だ。大き過ぎる進化の力を与えられ、制御しきれず、敢え無く自らのカードであるアーマゲモンに体を乗っ取られかけた。

 

司のジョーカーも例外ではない。このままではジョーカーに体を乗っ取られるか、はたまたその前に痛みて司が死ぬか………いずれかの選択が迫られていた。

 

 

「あぁそうかよ、ようやく謎が解けたぜ……まぁ要するにだ、俺が乗っ取られるか死ぬ前に……テメェをぶっ倒せば良いわけだ!!」

「っ!?」

 

「メインステップ続行!!ホークモン2体とテイルモンを召喚!!」

手札5⇨2

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨4

【ホークモン】LV1(1)BP3000

【ホークモン】LV1(1)BP3000

【テイルモン】LV1(1)BP3000

 

 

もうすぐ死ぬかもしれないと言うのにもかかわらず、司は身体中から覇気を飛ばし、恐れる事なく一気に3体のスピリットを召喚する。

 

 

「……馬鹿め」

 

「アタックステップ!!テイルモンでアタック!!その効果でカードをオープン!!」

手札2⇨3

オープンカード↓

【リボルドロー】

 

 

猫型に見えるが実はネズミ型の黄色の成熟期スピリット、テイルモンでアタックを仕掛ける司。しかし、その効果は失敗。手札には加わるもののライフの回復までには至らなかった。

 

 

「ライフで受ける……ッ」

ライフ3⇨2

 

 

ここでテイルモンのアタックをブラストモードでブロックして仕舞えばジョーカーのアタック時効果で終わりだ。銃魔はブロックの宣言が出来ず、そのままそれをライフで受けてしまう。

 

テイルモンの猫パンチが銃魔のライフを1つ砕いた。

 

 

「さらにホークモンでアタック!!…どうしたどうしたぁ!!このままだとテメェの方が先に朽ち果てるぞぉ!!」

 

「く、童ごときが……ライフで受ける……ッ」

ライフ2⇨1

 

 

死をも恐れない司の猛攻。絶えぬモチベーション。

 

2体いるうちの1体のホークモンが自身の羽を華麗に投げ、銃魔のライフをさらに砕く。

 

 

「ライフ減少のバースト、絶甲氷盾を発動!!…ライフ1つを回復!!」

ライフ1⇨2

 

「っ!?」

 

 

だが、銃魔とてこの程度の猛攻で落ちるわけにはいかないか、Dr.Aの野望を完遂させるべく、事前に伏せていたバーストカードを勢い良く反転させる。

 

危機に瀕していたライフが僅かばかり回復する。

 

 

「その後、コストを支払い貴様のアタックステップを終了させる!!」

リザーブ2⇨0

【ベルゼブモン ブラストモード】(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ3⇨7

 

「っ!!」

 

 

司の場に猛吹雪が立ち込める。これではホークモン達はおろか、ジョーカーさえもアタックを仕掛けることは不可能。司はターンの終了を迫られていた。

 

 

「……ターンエンドだ」

【ホークモン】LV1(1)BP3000(回復)

【ホークモン】LV1(1)BP3000(疲労)

【テイルモン】LV1(1)BP3000(疲労)

【ジョーカー】LV2(2)BP12000(回復)

 

【朱に染まる薔薇園】LV1

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

司の宣言と共に吹き止む猛吹雪。次は銃魔のターンだ。このターンで終わらせるべく動き出す。

 

 

[ターン07]銃魔

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ、俺はガスミミズクを召喚!!さらに2枚目のデッドリィバランスを使用!!…召喚したガスミミズクを破壊!!」

手札4⇨2

リザーブ8⇨6

トラッシュ0⇨1

【ガスミミズク】LV1(1)BP1000

 

「……俺は疲労したホークモンを破壊」

 

 

銃魔はメインステップ早々に紫のガスをその身に纏うミミズクを召喚したかと思うと、すぐさま2枚目となるデッドリィバランスを使用。

 

銃魔のガスミミズクと司のホークモンが同時に爆発を起こす。

 

……そして、またあのスピリットが目覚める。

 

 

「手札のベルゼブモンの効果、コスト3以下の紫のスピリットの破壊により、1コストを支払い召喚!!……LV1で現れよ!!」

手札2⇨1

リザーブ6⇨4

トラッシュ1⇨2

【ベルゼブモン】LV1(1)BP7000

 

「……ベルゼブモンが……2体……!!」

 

 

再び銃魔の場へと降り立つ孤高の魔王ベルゼブモン。元々いたブラストモードもいるため、実質的にベルゼブモンが2体存在することになる。

 

圧巻の存在感を示すダブルベルゼブモン。どう考えてもジョーカーだけでは太刀打ちができない。

 

 

「ベルゼブモン召喚時効果、回復状態のホークモンのコア2つをリザーブに置き、消滅!!」

手札1⇨2

 

「!!」

【ホークモン】(1⇨0)消滅

 

 

ベルゼブモンの弾丸が司のホークモンを貫く。ホークモンは敢え無くその場で消滅。銃魔は追加で1枚のカードをドローした。

 

 

「さらにブラストモードのLVを2に上げ、ガスミミズクを追加で2体召喚!!」

手札2⇨0

リザーブ4⇨0

【ガスミミズク】LV1(1)BP1000

【ガスミミズク】LV1(1)BP1000

【ベルゼブモン ブラストモード】(1⇨3)LV1⇨2

 

 

2、3体目のガスミミズクが召喚されると共に、ブラストモードのLVが上昇。これにより、再びシンボル増加の効果を発揮できる。

 

 

「アタックステップ、ベルゼブモンでアタック!!その効果でジョーカーのコアを2つリザーブへ!!」

「っ!!」

 

「……ダブルインパクトッ!!」

手札0⇨1

 

「……くっ!!」

【ジョーカー】(2⇨0)消滅

 

 

ベルゼブモンの両拳銃の弾丸の連射が司のジョーカーを襲う。ジョーカーはなすすべなくそれに貫かれ続け、力尽き、倒れ、消滅してしまう。

 

これにより司のブロッカーはゼロ。そしてライフは5。対する銃魔の場にはベルゼブモン、2体のガスミミズク、ダブルシンボルになるブラストモード。

 

何もなければフルアタックにより司の敗北でゲームエンドだ。

 

だが、司はそれを回避すべく、手札から1枚のカウンターのカードを発揮させる。

 

 

「フラッシュマジック!!ドラコフレイム!!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨2

トラッシュ4⇨6

 

「……っ!!」

「この効果により、BP3000以下のスピリットを全て破壊する!!…テイルモン諸共テメェのガスミミズクを焼き尽くす!!」

 

 

上空から降り注ぐ炎の弾丸。それが銃魔の場のガスミミズクはおろか、司のテイルモンまでもを襲い、それら全てを焼き尽くしていく。

 

しかしながらこれで頭数は減り、少なくともこのターンでの敗北は免れた。

 

 

「ベルゼブモンのアタックは継続中だ」

 

「…ライフで受ける………っ」

ライフ5⇨4

 

 

ベルゼブモンの弾丸が司のライフを1つ貫いた。これにより司のライフは4。多く見えるが銃魔を相手にしてるのなら決して安心はできない数だ。

 

ライフは未だに司が多いものの、圧倒的に有利な立場にあるのは銃魔の方であると言える。

 

 

「………ターンエンドだ」

【ベルゼブモン】LV1(1)BP7000(疲労)

【ベルゼブモン ブラストモード】LV2(3)BP16000(回復)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

惜しくもそのターンをエンドとしてしまう銃魔。次は辛うじて彼の猛攻を凌ぎ切った司のターン………

 

………だが……

 

 

「…ハァッ、ハァッ……お、俺の……た、ぐっ!!…ぐぁぁぁぁぁあ!!?!」

 

 

ターンシークエンスを進行しようとした直後、またジョーカーのカードによる影響で痛みが生じる。それは発生する度にどんどんどんどん増幅していく。

 

 

「もう諦めろ…言ったはずだ、貴様では俺には勝てん……」

 

 

慈悲なのかなんなのかは定かではないが、冷酷な口調で司に諦めるよう諭そうとする銃魔。だが司はそれを無視ながら痛みを抱えつつ………

 

 

「るっせぇぞクソヤロー!!…こんな痛み………こんな痛みなんてなぁ!!…消えていったあいつらの痛みと比べたらゴミ以下だ!!」

「……馬鹿め、感情論や根性論でどうにかなる痛みではない!!」

 

 

目が血走り、勢いでそう発言する司。普通ならもう失神してもおかしくはない痛みを与えられているというのに………実際はここまで耐えただけでも十分に評価できる。

 

が、【司は飽くまでも普通の人間】………進化を繰り返せる鬼のDNAをその身に宿す椎名とは違う。限界がある。

 

 

 

…………はずだった。

 

 

 

「ジョーカァァァァァア!!!……俺を乗っ取りたいんだろ!?…じゃあ乗っ取って見やがれぇぇ!!…俺は屈しないし、死にもしない!!………さぁ、駆け巡れぇぇえ!!」

「っ!?……イカれてるのか貴様!!」

 

 

司が行ったことは……【抵抗を止めること】……今までは無理に抑え込んでいたジョーカーの進化の力。それを解き放ち……今まさに激流の如くその力は彼の体内を流れる。

 

しかしそうなれば………

 

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁぁあ!!?!」

「当然だ!!死に急ぐ行為でしかないぞ!!」

 

 

今まで以上の痛みが司を襲い始める。これでは真っ先にジョーカーに身体を乗っ取られるか死ぬかの二択だ。

 

無理だ。不可能だ。

 

普通の人間では死ぬ。司の目がジョーカーと同じような緑色に変化していき、今まさに司はジョーカーという化け物に生まれ変わろうとしていた。

 

……しかし、

 

 

「ぐっ!?……う、うぉぉお!!……ジョーカー………俺に、俺に進化の力を寄越せぇえ!!……あいつを……めざしを超えれるだけの力を……………」

「!?!」

「………寄越せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!!」

「なにっ!?」

 

 

ジョーカーに身体を乗っ取られるかと思われた束の間。司はその魂の雄叫びと共に赤い衝撃波を体内から弾き飛ばす。その衝撃波と予想外の出来事に銃魔はたじろぐ。

 

ー「何が起こった!?」

 

そう思い再び司の方へ目を向ける…………

 

 

「…………」

 

 

そこには腕を組み、構える司がいた。その目はジョーカーの緑色ではなく、普通の黒に戻っている。

 

そして何より、そのBパッド上に置かれているデッキから赤い光が立ち昇っていた。それは紛れもない進化の力。

 

 

「………ば、馬鹿な!?気合だけでジョーカーの持つ進化の力を制御したとでも言うのか!?……2度目のオーバーエヴォリューションが使えるというのか!?……いや、貴様は普通の人間のはず!!…できるわけが……………」

「うるせぇ……騒ぐな……」

「っ!?」

 

 

信じられない出来事に驚愕する銃魔を圧倒的な圧力のある重たい声色で黙らせる司。

 

 

「ただ……俺が進化を超えただけだ……俺の生涯の【友】であり、【ライバル】……芽座椎名が何度でも進化を超えれるんだ………この俺が超えられないわけがないっ!!」

「っ!?」

 

 

圧巻の気迫、圧力、オーラ。その様子は本当にあの赤羽司なのだと思ってしまうほどだ。そして司は自分のターンを進めていく。

 

……このバトルを終わらせるために………

 

 

[ターン08]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨11

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ、マジック、リボルドローを使用……上から2枚のカードを引く………!!」

手札3⇨2⇨4

リザーブ11⇨9

トラッシュ0⇨2

 

 

司は前のターンでテイルモンの効果によって加えていたドローマジックを使用し、その手札をさらに増やす。

 

そして、そのドローした2枚のカードはいずれも知らないカード。だが、司はその扱い方を行く知っている……それが今、召喚される。

 

 

「俺は……仮面ライダーバロン バナナアームズをLV2で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ9⇨5

トラッシュ2⇨3

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV2(3)BP5000

 

 

司の場の上空より空間を裂くようにチャックのようなものが出現する。その中から降り立つスピリットが1体、仮面ライダーバロン バナナアームズ。司が新たに生み出した仮面スピリットだ。

 

 

「……仮面スピリットだと!?」

「狼狽えるな………本当の進化はここからだ………!!」

 

 

目の前の見たこともない仮面スピリットに驚嘆の声を張り上げる銃魔。

 

だがこんなものではない。司の2度目のオーバーエヴォリューションはこれだけでは終わらない。

 

 

「さらに【チェンジ】発揮!!対象はバナナアームズ!!」

リザーブ5⇨3

トラッシュ3⇨5

 

「!!」

「この効果によりBP12000以下のスピリット1体を破壊する!!……消えろベルゼブモン!!」

「なんだと!?」

 

 

司がそのカードの効果の発揮を宣言した途端、銃魔のベルゼブモンが赤の光にその身を包まれる。その光はベルゼブモンの身体を蝕んで行き、ベルゼブモンはそれに耐えられなくなり、断末魔をあげながら爆発した。

 

 

「その後、対象となったスピリットと入れ替える………来い!!仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ!!」

【仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ】LV2(3)BP10000

 

 

赤い仮面スピリット、バロンが赤く光り輝く。バロンはその中で姿形を変えていき、やがてそれを弾き飛ばすと、中からバロンの強化形態とも呼べる仮面スピリット、バロン レモンエナジーアームズが姿を現した。

 

 

「手札に戻ったバナナアームズを再召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨1

トラッシュ3⇨4

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV1(1)BP3000

 

 

司は【チェンジ】の効果で戻っていたバナナアームズが再び司の場へと登場する。司はこの2体の仮面スピリットで銃魔の息の根を止めにかかる。

 

 

「アタックステップ……バナナアームズの効果、自分のスピリットの数が2体以下の時、そのLVを最大にする!!」

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV1⇨3

 

 

バナナアームズがその身に赤いオーラを纏い、そのLVを最大にする。攻めにかかるには十分な布陣が整う。

 

 

「レモンエナジーアームズでアタック!!」

 

 

バロンの強化形態、レモンエナジーアームズで攻めにかかる。

 

だが………

 

 

「俺の場にはBP16000のブラストモードがいる!!…BP10000のそいつでは勝てんぞ!!」

 

 

そうだ。BPに於いては圧倒的に有利なブラストモードが存在する。強化形態とは言え、BP10000程度のレモンエナジーアームズでは勝てない…………

 

そう思っていた。レモンエナジーアームズの効果が発揮されるまでは………

 

 

「レモンエナジーアームズのアタック時効果!!」

「!!」

「相手の場の最もBPの高いスピリット1体を破壊するっ!!」

「なにっ!?」

「ブラストモードを破壊する………っ!!」

 

 

レモンエナジーアームズがその手に持つアーチェリーのような武器に力を極限まで溜め、ブラストモードに接近すると、目にも留まらぬ早技で切り刻んで行く。

 

ブラストモードの胸部から腹部にかけてバツの字が刻み込まれる。ブラストモードは流石に力尽き、倒れ、大爆発を起こした。

 

 

「アタックは継続中だ……!!」

 

「っ…ライフだ!!……っ!!」

ライフ2⇨1

 

 

ブラストモードの破壊に気を取られる束の間。迫り来るレモンエナジーアームズ。そのアーチェリーの武器にある刃で銃魔のライフを切りつけ、引き裂く。

 

これで銃魔のライフは1。

 

ブロッカーもいない。

 

終わりだ。

 

最後はこのスピリットが締める。

 

 

「トドメだ…バナナアームズでアタック……!!」

手札3⇨4

 

 

槍を構えて走り出すバナナアームズ。目指すは当然銃魔のライフ。

 

銃魔にはもはやそれに対抗するすべはなく…………

 

 

「……こんな事が………ライフで……受ける………っ」

ライフ1⇨0

 

 

バナナアームズの槍から直線に放たれる刺突が銃魔の最後のライフを貫く。

 

これにより、銃魔のライフはゼロ。赤羽司が見事リベンジを果たして勝利を収める。

 

 

「……俺の勝ちだ銃魔……!!」

 

 

司がそう言うと、役目を終えたかのようにバロン達が姿を消滅させていく。

 

 

「………赤羽司………貴様は何者だ……っ!?」

 

 

この空間での敗北に伴ってか、銃魔が足元からゆっくりと粒子化していく。その最中で銃魔は司に問うた。

 

赤羽司の正体。

 

本来、オーバーエヴォリューションを繰り返せるのは鬼の力だ。普通の人間ではそれを繰り返す事ができるのは2000年以上前に生きていた歴史上の人物であるエニー・アゼムのみ。

 

銃魔の調べでは赤羽司は普通の人間のはずだ。だが何故繰り返す事が出来た?

 

ただただその事だけが疑問だった。

 

 

「………俺がそゆなもん知るか…俺が知らねぇのにお前が知っててたまるか………」

 

 

だが、司とてそんな事は知らない。

 

自分にとって限界を超えて進化するなど当たり前だと銃魔に言わんばかりに強気な態度で返答する。

 

 

「そうか……まぁ、もういいか、俺はこの長い試練からようやく解放される………Dr.Aと椎名の行く末を見守る事が出来なかったのがせめてもの心残りか………」

「なぁにほざいてやがる、直ぐにこの地球の地面に足つかせてやるよ……」

 

 

銃魔ももう深く考えるのはやめにしたか、消えゆく自分の身体を見ながらそう言い放つ。

 

だが、司がそれに対して直ぐにDr.Aに勝利し、元に戻すと言っているかのような口振りで言い返す。

 

そうだ。この戦いにさえ勝つ事が出来れば他の消えた人々を元に戻す事ができる。雅治も真夏も晴太も蘇る。

 

しかし………この男だけは違った………

 

 

「いいや、もう戻れないさ……俺は一度Dr.Aに見限られ、芽座葉月とのバトルに敗北したのだから、そしてこの身体はバックアップ……わかりやすく言えば………もう身体は元には戻らない、2度目の負けは許されなかった」

「!!」

 

 

言葉を失う司。銃魔は一度葉月に敗北したものの、事前に取っておいた自分の身体データのバックアップにより復活を果たした。

 

が、リスクもある。それは単刀直入に言えば、バックアップの身体で敗北すれば二度と地上に足をつける事はできない。という事。

 

彼はそこまでの大きなリスクを背負った上で、Dr.Aのため、ただひたすらにバトルしていた。死を恐れていないのは司だけではなかった。

 

そして、銃魔の身体の粒子化が肩付近まで及ぶ。これで最期とみた銃魔は、最後に司にこう言い残した。

 

 

「赤羽司……最期の最後で貴様程のバトラーと戦えた事を…俺は誇りに思う……椎名を……妹の行く末を……見守ってくれ…………………っ」

「…………」

 

 

その粒子はデ・リーパーの壁に吸い込まれる事はなく、その場でポツポツと点滅していき、やがてバトル中に拾い上げることのなかった眼鏡だけを残し、消えていった……………

 

銃魔の人生は決して楽しいものではなかった。辛く険しくて、しかも最期まで報われないという何とも悲惨な結末で幕を閉じた。

 

そんな彼が最後に見出したのは唯一の肉親とも呼べる存在、芽座椎名だ。それを司に託し、彼は短い人生に終止符を打った。

 

 

「…………忘れねぇぜ、お前の事は……」

 

 

司は銃魔の粒子が完全に消え去るのを静かに見届けると、そう呟いた。この時、司が何を思い、考えたのかは彼だけが知る未曾有の事。

 

 

「………っ!!」

 

 

そんな時だった。司の身体が唐突に重くなってしまい、その場で力尽きたように仰向けに倒れてしまったのは、

 

まるで金縛りにでもあったかのような衝撃が司を襲った。一刻も早くめざしの所に行かねばならないというのに、いったい自分の体はどうしたというのだ。

 

 

「っ!?……ここに来て身体が限界だと……ふざけんな!!ここまで来て………クッソ、クッソォォォォォォォォオ!!」

 

 

その原因は単純な疲労困憊。このバトルで心身共に限界を超えた司は自分でも知らないうちに、所謂ガス欠状態に陥っていた。

 

途方も無い司の叫びが界放市中央スタジアムに響き渡る。司は椎名が最終決戦に臨もうとする中でただ存在する意識の中で、空に浮かぶデ・リーパーの壁を見つめることしかできなかった。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


司「本日のハイライトカードは【仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ】」

司「俺の新たなエーススピリット、チェンジの効果とアタック時効果でいかなる敵であっても葬り去る!!」


******


〈次回予告!!〉


Dr.Aとその親友であった芽座六月。2人の世界の命運を懸けたバトルスピリッツが幕を開ける。激戦の最中、六月はついに自分のデッキの最強スピリットを呼び出す……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ 「六月の皇帝竜」…今、バトスピが進化を超える!!


******


※次回サブタイトルは変更する可能性があります。

※バナナアームズの効果は司がアタックステップ開始時に発揮を宣言しているため、起動するタイプの効果に見えますが、実際は永続的に発揮される効果で、メインステップ中もLVが最大になっています。描写の都合上ですので何卒よろしくお願いします。

※何度も言いますが、本作に登場する仮面ライダー、又はそのカードを使うキャラに対して批判する行為、及びそれらしい行動はおやめになってください。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

結果的にですが、椎名が系統を強化していくのに対し、司は色を強化する方向性になりました。

ガイム系は今のところの予定では三期でのキーパーソンとなる予定です。

長かった二期も残すところ3話になりました。右往左往とした二期でしたが、こうしてもうすぐゴールテープを切る寸前まで来れた事を誇りに思っています。これからも妥協せず執筆していく所存です。

これからも何卒応援の方をよろしくお願いします!


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第92話「六月の皇帝竜」

 

 

 

 

 

 

 

界放市の中央部に位置する大きなバトルスタジアム、中央スタジアム。界放リーグという栄誉ある大会でしか使用されないこのスタジアムの広大な地下にて、人知れず世界の命運を分ける戦いが幕を開けていた。

 

Dr.A、本名徳川暗利、そしてその元親友であった芽座六月。この2人のバトルが切って落とされた。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルスピリッツが開始される。

 

先行は六月。Dr.Aに対する歳不相応に満ちた怒りを頭に心頭させ、ターンを進めていく。

 

 

[ターン01]六月

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、わしはネクサスカード、海底に眠りし古代都市を配置!!………エンドじゃ」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【海底に眠りし古代都市】LV1

 

バースト【無】

 

 

六月が早々に配置したのはあまりの強さにバトルスピリッツのルールにおいてはデッキに1枚しか入れられない究極カードに認定されている海底に眠りし古代都市。彼の背後に海底に沈む薄暗い都市が浮かんで来た。

 

 

「ほお、古代都市ですか……六月、君の本気度が伺えますね〜〜〜」

「黙っておれこの年齢不詳男め!!…さっさと己のターンを進めんか!!」

「ヌッフフ、はいはい、お爺さん」

 

 

今のDr.Aはオーバーエヴォリューション、即ち進化の力によって、椎名達と同じかそれ以上に若い姿になっている。

 

実際は実年齢70越えの老人なのだ。六月が年齢不詳男と言うのもうなづける。

 

そんな彼を嘲笑いながら、Dr.Aは楽しげな表情でターンを進めていく。

 

 

[ターン02]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ………ふむふむ、なら私もネクサスカード、賢者の樹の実を配置してエンドとしましょう」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

【賢者の樹の実】LV1

 

バースト【無】

 

 

Dr.Aは軽く指で顎を撫でながら考え、ネクサスカード、賢者の樹の実を配置する。彼の背後から神秘的な樹が一瞬にして立ち上がった。

 

 

[ターン03]六月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!ビヤーキーをLV1で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨2

【ビヤーキー】LV1(1)BP3000

 

 

このバトルにおいて六月が初めて呼び出したスピリットはなんとも異形な姿をしたスピリット。真っ黒の体に加え、背には虫のような4枚の羽を広げている。

 

その名はビヤーキー。見た目とは裏腹に、強力な効果を持つスピリットだ。

 

 

「異合スピリットの召喚により、海底に眠りし古代都市の効果でコアブースト」

リザーブ2⇨3

 

 

六月の配置していたネクサスカード、海底に眠りし古代都市が青く輝き、六月のBパッドにコアの恵みを与えた。

 

 

「さらにわしはカニコングをLV2で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨0

トラッシュ2⇨3

【カニコング】LV2(2)BP4000

 

 

六月が次に呼び出したスピリットもまたなんとも妙なスピリット。腕がカニで体がゴリラという可笑しな見た目のスピリット、カニコングだ。

 

しかしながらカニコングは低コストスピリットで尚且つ青でありながら緑としても扱える優秀なスピリットだ。

 

 

「異合スピリットの召喚により、海底に眠りし古代都市とビヤーキーの【連鎖:緑】がそれぞれ発揮!!コアを2つ追加!!」

リザーブ0⇨2

 

 

ビヤーキーは緑のシンボルがあれば、海底に眠りし古代都市同様に異合スピリットを召喚するだけでコアが増えていく。カニコングの緑シンボルが今回の発揮を満たしている。

 

ただの低コストスピリットを召喚するだけで、六月のコアは一気に2つ増加した。

 

 

「アタックステップ……カニコングでアタック!!」

 

 

アタックステップに入り、六月は様子見と言わんばかりにカニコングでアタックさせる。カニコングは当然横ではなく前向きに走っていき………

 

 

「ライフで受けようか………っ」

ライフ5⇨4

 

 

カニコングのカニの腕がDr.Aのライフを1つたたき壊した。

 

 

「……賢者の樹の実の効果でコアを増やそう」

リザーブ2⇨3

 

「ターンエンドじゃ」

【ビヤーキー】LV1(1)BP3000

【カニコング】LV2(2)BP4000

 

【海底に眠りし古代都市】LV1

 

 

賢者の樹の実が1つDr.AのBパッドに落下していき、彼にコアの恵みを与える。

 

そして六月はターンをエンドとした。本当はその気になればもっと大きくライフを破壊することはできたが、それではまだ勝てない。ここはゆっくり【射程圏内】に持ち込む戦術を取った。

 

 

[ターン04]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

 

 

「ドローステップ時、私は手札にある仮面ライダーウォズの効果を発揮、手札のこのカードを手元に置く事で、ドローステップでのドロー枚数を1枚増やす。だが、その時に手札が4枚以上なら1枚破棄しなければならない。私はこのカードを破棄」

手札4⇨3⇨5⇨4

破棄カード↓

【ゴジラ(2004)】

 

 

仮面ライダーウォズの効果を発揮させ、手札とデッキを目まぐるしく回転させるDr.A。トラッシュに強力なスピリットを配備しつつ、メインステップを迎えるが………

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ……バーストをセットして……エンドだ」

手札4⇨3

 

【賢者の樹の実】LV1

 

《手元》

【仮面ライダーウォズ】

 

バースト【有】

 

 

そのターンは結局1枚のバーストカードを裏側で伏せるのみでエンドとなった。

 

 

「ふんっ、余程そのバーストに自信があるんじゃな?」

「ヌッフフ、そうだね〜〜強いて言うなら、このデッキは全て私のオーバーエヴォリューションで創られたカード達。全部が全部私の自信作だ〜〜」

 

 

何はともあれ、次は六月のターン。Dr.Aが何もしないのであれば自分から攻めるだけだ。

 

そして何より、バーストの戦法は六月には効かない。いよいよ動き出す。

 

 

******

 

 

一方で椎名は最深部を目指してただひたすらに階段を下りていた。結果的に自分の魂と一体化したデ・リーパーの感覚に不慣れなのか、やや重たそうに、疲れた表情を浮かべていた。

 

だが、それでも急がなければならない。早く最深部で六月の元へ行かなければ……………………

 

だが、そんな彼女の道を阻むかのように、ある人物が姿を見せる。それは椎名が何よりも驚愕した存在。

 

 

「よぉ……椎名…」

「っ!!……葉月!?」

「あぁ?何驚いてやがる?…赤羽司に聞かなかったか?」

 

 

椎名の目の前に現れたのは他でも無い。義理の兄、芽座葉月。

 

椎名は司からは葉月まであちら側とまでは聞かされていなかった。故に、よりその存在に驚嘆の声を上げる。

 

 

「葉月……何で!?」

「俺は元々こちら側の人間なんだよ……それよりお前、その目…デ・リーパーと1つになったみたいだな……なんとなくわかるぜ」

「………」

 

 

今の椎名は所謂鬼化の状態。しかし、今までのようにツノや牙は生えず、その両目にギルモン系譜と同じマークが刻まれているだけだ。

 

しかし、その目には確かに進化の力の全てが集結していた。葉月もそれを感じ取っていた。

 

 

「いや、まぁんなことはどうでもいいか……」

「また私のロイヤルナイツを奪おうってか?」

「あぁ、お前にしては勘が良いじゃねぇか……だが、【それはまた今度でいい】……」

「…………え?」

 

 

葉月はそう言うと、自身のBパッドからワームホールを開く。

 

彼のこれまでの言動から察するに、この場から立ち去るつもりだ。しかも面倒ごとを全て椎名に押し付けて………

 

 

「葉月!!」

「俺はそもそも Dr.Aの野望なんざどうでもいいんだよ、ロイヤルナイツの情報さえ手に入ればそれで良い!!」

「 Dr.Aの野望は世界を一回全部壊して、またそこから自分の世界を創る事なんだぞ!!野放しにしていいわけないだろ!!」

「知るか、勝手にやってろ………それとお前、こんなとこで油売っててもいいのか?」

「………!?」

「今、ここの最深部では Dr.Aとジジイが戦ってる……ハッキリ言うと、ジジイに勝ち目はねぇ……消えないうちに早く行くんだなぁ!!」

「葉月!!」

「……後、前にも言ったが、お前のロイヤルナイツは必ず俺が全て回収する!!…肝に命じておくんだな!!」

 

 

葉月は地下最深部の情報を隈なく椎名に教えると、自分だけそのワームホールを潜り抜けて違う場所へと去っていった。はなからそうするつもりだったのだ。情報を得るだけ得て、使えないと見たらそこから去る。

 

実に葉月らしい考え方だ。

 

 

「葉月………くっ!!」

 

 

椎名とて、なんとか葉月を元の優しい彼に戻したかった。しかし、その腐れ果てた様子は前よりも寧ろ酷くなっているのを感じた。

 

だが、今はそんな事考えたって仕方がない。地下最深部で六月が、じっちゃんがバトルしているのを知った今、そっちを優先しなければならない。

 

椎名はまた覚束ない足取りで階段を下りていくのだった。

 

 

******

 

 

場面は戻り、六月と Dr.Aのバトル。次は六月の第5ターン目だ。いよいよ彼が本気で動き出す。

 

 

[ターン05]六月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

【カニコング】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ………条件は揃った……青か緑のスピリット2体の存在により、アルティメット・リーフ・シードラをLV2で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨0

【カニコング】(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ0⇨5

【アルティメット・リーフ・シードラ】LV4(2)BP24000

 

 

六月の前方に植物やシダが目に見える速度で伸びていく。そこに巨大な水の球体が投下されたかと思うと、それらは混ざり合い、巨大で尚且つ異形な姿をした龍型のアルティメット。リーフ・シードラが姿を現した。

 

 

「ヌフフフフ、アルティメット・リーフ・シードラ………そういえば使ってましたね〜」

「黙れ暗利!!お前との昔話に花咲かせるつもりはない!!このターンで終わりじゃぁっ!!」

 

 

スピリットよりも格段に強いアルティメットを従える六月を前にしてもDr.Aは嘲笑し、余裕の表情を浮かべる。

 

 

「アタックステップっ!!……行けぇ!!リーフ・シードラ!!アルティメットトリガーの効果!!」

 

「!!」

ロックオンカード↓

【双光気弾】ヒット

 

 

アルティメット・リーフ・シードラから放たれる衝撃波がDr.Aのデッキをトラッシュへと破棄させる。そのカードがアルティメット・リーフ・シードラのコスト、8より低ければヒットとなる。今回はコスト3。ヒットだ。その後の効果を発揮できる。

 

 

「ヒットじゃ!!この効果によりバーストカードを破棄し、ライフ1つを破壊する!!」

 

「っ!!」

バースト破棄カード↓

【ケルビモン(悪)】

ライフ4⇨3

 

 

周りにできた水溜りを弾き飛ばす程の咆哮をあげるアルティメット・リーフ・シードラ。その咆哮に怯えるようにDr.Aのバーストカードが消滅していき、振動だけでライフまでもが砕け散った。

 

 

「アタック後のバーストか、残念じゃったな……」

「……………」

「リーフ・シードラはダブルシンボル!!ライフ2つを破壊するぞ!!」

 

 

上空すれすれを滑走するように走り出すアルティメット・リーフ・シードラ。目指すは当然Dr.Aのライフ。

 

Dr.Aが抵抗できなければこのターンの六月のフルアタックで全てが終わる。

 

しかし、あのDr.Aがこの程度の動きで終わるわけがなく………寧ろここからが本領の発揮と言える。いよいよDr.Aが反撃に転ずる。

 

 

「私のライフが減った事で、トラッシュにあるゴジラ(2004)の効果を発揮!!2コスト支払い召喚する!!」

リザーブ9⇨7

トラッシュ0⇨2

 

「!?」

 

「太古の神よ、原子の力その身に宿し、現れ出でよ!!ゴジラ(2004)!!」

リザーブ7⇨5

【ゴジラ(2004)】LV2(2)BP15000

 

 

空間が張り裂ける程の咆哮を上げ、黒きシンプルな怪獣の姿をしたスピリット、ゴジラがその場に姿を現した。

 

 

「じゃがまだリーフ・シードラのアタックを止められたわけではない!!その程度のスピリットでは勝てん!!」

「ヌッフフ、わかってるさ六月、だからこそもう1枚、私のエーススピリットをご紹介致しましょう!!」

「っ…エーススピリット……!!」

 

 

六月の言う通り、確かにゴジラではアルティメット・リーフ・シードラは倒せない。が、Dr.Aはまだ動く。

 

次なるはあの空野晴太をも葬り去った彼の、彼自身のエーススピリットだ。

 

 

「フラッシュタイミング!!このカードの効果!!相手のコスト8以下のスピリット1体を手札に戻す事で召喚できる!!……ヌッフフ、私は君のカニコングを戻しましょう!!」

 

「っ!?」

手札3⇨4

 

 

六月のカニコングの前方に突如としてブラックホールが出現し、それはカニコングを飲み込んでいく。カニコングはその中でデジタル粒子に分解され、六月の手札へと帰還してしまう。

 

しかし、そんなものは飽くまでも条件に過ぎない。本命はこの後の召喚だ。

 

 

「進化の頂点に立つ者よ!!愚かなる世界に変革をもたらすがよいィィィイ!!…仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム!!LV2で召喚!!」

手札2⇨1

リザーブ5⇨1

トラッシュ2⇨4

【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】LV2(2)BP10000

 

 

邪悪で黒々とした靄が場に出現したかと思うと、そこから足を踏み入れてきたのは、白のボディに、これでもかと刻まれたディテールが特徴的な仮面スピリット、その名はエボル。Dr.Aのエーススピリットだ。

 

その内には他のスピリットとは違う強力な進化の力を内包している。

 

 

「アルティメット・リーフ・シードラのアタックはこのブラックホールフォームが受け持とう!!」

「なんじゃと!?BPはリーフ・シードラの方が14000も上じゃぞ!?」

 

 

方向を変え、アルティメット・リーフ・シードラはDr.Aの場に威風堂々と佇んでいるエボルを狙う。BPは圧倒的に優っているのだが………

 

 

「ヌッフフ、ブラックホールフォームのアタック、ブロック時効果!!…相手のスピリット、アルティメットのコア2つをリザーブに置き、消滅したカードを除外する!!」

「!!」

「私が対象とするのは、当然ながら……リーフ・シードラだ……!!」

 

「……!!」

【アルティメット・リーフ・シードラ】(2⇨0)除外

 

 

アルティメット・リーフ・シードラは体中のエネルギーを口内へと集中させ、そこから破壊光線を放つも、エボルは左手からエネルギー状の強固な盾を形成し、それを難なく凌ぐと、右手からブラックホールを形成し、アルティメット・リーフ・シードラへと投げ飛ばす。

 

それに被弾したアルティメット・リーフ・シードラは、自身より小さいそれに吸い込まれていき、最終的には呻き声を上げながら消滅してしまった。

 

 

「見たかい六月?…これがエボルの力さ……!!」

 

「っ…………エンドじゃ」

【ビヤーキー】LV1(1)BP3000(回復)

 

【海底に眠りし古代都市】LV1

 

バースト【無】

 

 

攻め手のアタッカーを失い、そのターンをエンドとしてしまう六月。しかし、ここまでは想定内だ。勝負は次のターン…………と、心の中ではそう言い聞かせていた。

 

まるでここまでのバトルでDr.Aのスピリット達を見極めようとしているようだ。

 

 

[ターン06]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、エボルのLVを3にアップ!!」

リザーブ6⇨2

【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】(2⇨6)LV2⇨3

 

 

コアが増加され、その強さを格段に上昇させるブラックホールフォーム。

 

 

「アタックステップ!!さらにその開始時、手元にある仮面ライダーウォズの効果!!コスト6以上のスピリットが存在する場合、コストを払わずに召喚が可能!!」

「!!」

 

「よってこの、未来の仮面スピリット、ウォズをLV2で召喚!!」

リザーブ2⇨0

【ゴジラ(2004)】(2⇨1)LV2⇨1

【仮面ライダーウォズ】LV2(3)BP8000

 

 

謎の浮力で浮かぶ黝ずんだ一反の布が球体を作り出す。それが弾けたかと思うと、中から緑色を基準とした仮面スピリット、ウォズが姿を見せる。複眼部に「ライダー」と書かれているのが妙に目につく。

 

 

「ヌフフフフ、アタックステップは続行!!……さぁ行きなさいゴジラ!!…効果によりビヤーキーを指定アタック!!…さらにそうした時、コアを1つ追加し、回復!!」

【ゴジラ(2004)】(1⇨2)LV1⇨2

 

「っ!?」

 

 

ゴジラがゆっくりと前進する。目指したのは六月のライフではなく、その場に存在するビヤーキー。ゴジラはビヤーキーの眼前まで現れると、体格差を活かし、片手で捕らえ、そのまま地面へと勢い良く叩き落とした。

 

ビヤーキーは堪らず爆発四散する。

 

 

「さらに相手のスピリットがフィールドから離れた時、ゴジラに赤のシンボルが1つ追加される!!」

「!?」

 

 

これがこの破壊神、ゴジラの脅威の効果だ。スピリットを指定し、破壊しつつコアも増やすだけでなく、シンボルまでもを増やし、ライフも狙える。

 

しかし………

 

……その後Dr.Aが取った行動は………

 

 

「ヌッフフ、ターンエンド」

【ゴジラ(2004)】LV2(2)BP15000(回復)

【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】LV3(6)BP13000(回復)

【仮面ライダーウォズ】LV2(3)BP8000(回復)

 

【賢者の樹の実】LV1

 

バースト【無】

 

 

「なにっ!?」

「さぁ君のターンだ六月……どうした?進めないのかい?」

「くっ……!」

 

 

そのターンをエンドとしてしまうDr.A。あれだけ強力無比なスピリット達を所狭しと並べたというにもかかわらず、六月のライフが未だに初期の5のままだと言うのにもかかわらず…………それは彼の圧倒的な余裕を表すには十分過ぎる行為といえよう。

 

しかし、そんなものは最早関係ない。

 

六月は遂に勝利を確信し、自分のターンを進めていく。

 

 

[ターン07]六月

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨10

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ、わしはカニコングをもう一度召喚!!…海底に眠りし古代都市の効果でコアを1つ増やす!!」

手札5⇨4

リザーブ10⇨8⇨9

トラッシュ0⇨1

【カニコング】LV1(1)BP2000

 

 

エボルの効果で手札に戻されていたカニコング。それが今一度姿を見せると共に、海底に眠りし古代都市の効果でコアが増える。

 

そして、いよいよ六月はこのバトルに終焉をもたらすため、召喚する。

 

自身の持つ最強のスピリットを……ロイヤルナイツにも勝るも劣らないデジタルスピリットを………

 

 

「召喚、世界を統べる皇帝竜!!!!…インペリアルドラモン ドラゴンモードッ!!」

手札3⇨2

リザーブ9⇨1

トラッシュ1⇨6

【インペリアルドラモン ドラゴンモード】LV2(3)BP13000

 

 

上空にて、空間を裂くように特大の異次元の渦が発生する。そこから出現するのは巨大なドラゴン。背には砲手、赤い翼を広げ、六月の場へと降り立つ。

 

その名はインペリアルドラモン。その風格はまさしく皇帝の名を冠するに相応しい。

 

 

「インペリアルドラモン……遂に本気か六月……」

「アタックステップ!!行けドラゴンモード!!」

 

 

六月の指示でその大いなる翼を広げ宙を翔けるドラゴンモード。そしてこのタイミングで、そのインペリアルドラモンは真の姿へと変化する。

 

 

「フラッシュ【煌臨】発揮!!対象はドラゴンモード!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ6⇨7s

 

「!」

 

 

ドラゴンモードが咆哮を張り上げながら変形していく。その姿は竜ではなく、人型となり、背にあった砲手も右腕に移行する。

 

 

「来い!インペリアルドラモン ファイターモード!!」

手札3⇨2

【インペリアルドラモン ファイターモード】LV2(3)BP15000

 

 

その名はインペリアルドラモン ファイターモード。ドラゴンモードが内に秘めたる力を覚醒させ、真骨頂となった姿だ。

 

 

「ファイターモードの煌臨時効果!!相手のスピリット10体を疲労させ、このターン、相手は手札にあるコスト4、6、8のカードを使用できん!!……ポジトロンレーザー!!」

 

「っ!!」

【ゴジラ(2004)】(回復⇨疲労)

【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】(回復⇨疲労)

【仮面ライダーウォズ】(回復⇨疲労)

 

 

ファイターモードがその右腕にある砲手をDr.Aのスピリット達に向け、そこからレーザーを放出する。その高威力のレーザーは次々とスピリット達を薙ぎ払い、吹き飛ばしていく。

 

 

「終わりじゃ暗利、ファイターモードはアタック時、相手のライフを破壊した時、さらに2つ破壊する……!!」

 

 

ファイターモードのもう1つの効果は、追加でライフを2つを破壊するというもの。つまり一撃で3つを破壊できる。Dr.Aのスピリットは今や全て疲労。そしてライフは3。

 

六月はずっとこのタイミングを見計らっていた。だから計算を尽くし、Dr.Aのライフを3になるように調整していた。

 

……終わりだ。これで六月がこのバトルに勝利し、世界は救れる。

 

 

 

………はずだった。

 

 

「ヌッフフ、ギ、ギッギャっハッハッハッハ!!!」

「……何がおかしい!!」

 

 

滑稽なのか、Dr.Aは六月に対して突然嘲笑うかのように笑い始めた。

 

それもそのはずだ。

 

何せ、六月はずっと自分の掌の上で転がっていただけなのだから………彼にとっては可笑しい以外の言葉が見つからない。

 

 

「いやはや〜〜君は私の手の内を全て把握したつもりだったのだろう?だが違うのだよ、私がこの数十年でインペリアルドラモンの効果を忘れたと思っていたのかね?……」

「!」

「六月……君のバトルにおいての昔からの短所はインペリアルドラモンに頼り過ぎる所だ……!!」

 

 

Dr.Aはそう言いながら手札のカードを発揮させる。

 

そのカードはファイターモードの制限に引っかかる事のないコスト9のカードだ。

 

そしてそのカードはDr.Aの切札……エボルの最終進化形態だ。

 

 

「フラッシュ【チェンジ】発揮!!対象はエボル!!」

【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】(6⇨1)LV3⇨1

トラッシュ0⇨5

 

「チェンジだと!?」

「六月ぅ!!本当に鈍ったね!!君は未知のカードと遭遇した時の対応力が欠如している!!」

「!」

 

 

疲労し、膝を付いていたエボルが起き上がり宙を舞い、さらにそこから悍ましい邪悪な黒い力がエボルを染めていく。

 

余りに強大な力にその白いアーマーが耐えられず弾け飛び………Dr.Aのエーススピリット、エボルは真なる姿を現わす。

 

 

「これが私の真の切札!!…覚醒、革命の時は来た!!エボルを超えたエボルト・怪人態!!」

【エボルト(怪人態)】LV1(1)BP8000

 

「!!」

 

 

あまりの衝撃に地がひび割れ、空気が痺れるように震撼する。その体からは宇宙で何度も行われる超新星かの如くエネルギーを常に放ち、それが異常であることをより強調している。

 

その名はエボルト・怪人態。エボルがDr.Aのオーバーエヴォリューションの力を得、さらに強大に進化した姿だ。その姿は最早仮面スピリットではない。ただの怪物だ。

 

 

「仮面スピリットを相手にするのならば、しっかり【チェンジ】を意識しておくことだ。まぁ最も、最早仮面スピリットでさえないがね」

「……!!……じゃが!!その程度のスピリット、インペリアルドラモンの敵ではない!!」

「だから言っているだろう六月!!…君の短所はインペリアルドラモンに頼り過ぎる所だと、このエボルト・怪人態はチェンジ時、相手スピリットのコアを3つリザーブへと送る効果がある!!」

「なにっ!?」

「ヌッフフ、対象はもちろんファイターモードの3つだ!!…消えなさい!!」

 

「っ!?…ファイターモードッ!?!」

【インペリアルドラモン ファイターモード】(3⇨0)消滅

 

 

エボルト・怪人態がファイターモードに手を翳す。するとそこから途方も無く黝ずんだブラックホールが放たれる。その大きさはブラックホールフォームの時の比ではなく、巨大な体躯のファイターモードをまるごと飲み込んでいく。

 

ファイターモードはそのままそのブラックホールの中で消滅してしまい、行方を眩ました。

 

 

「……素晴らしい!!これ程までの力があるとは!!これこそ私が求めていた最高の力だ!!世界を進化させる力だぁぁあ!!」

「くっ……暗利!!」

「さぁ六月ぅ!!…君の負けだ!!早くターンを終えなさい!!……終えなさい!!」

 

「…………ターン、エンド……」

【カニコング】LV1(1)BP2000(回復)

 

【海底に眠りし古代都市】LV1

 

バースト【無】

 

 

Dr.Aとエボルトの圧倒的な力の前に、六月はそのターンをエンドにせざるを得ず……

 

六月は屈辱と苦渋に襲われながらそのターンをエンドとしてしまう。そして、それは彼の最後のターンだった。

 

Dr.Aは余りにも強くなりすぎた自分に酔いしれながら最後のターンシークエンスを着実に進めていく。

 

 

[ターン08]Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

【ゴジラ(2004)】(疲労⇨回復)

【仮面ライダーウォズ】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、エボルト・怪人態をLV3にアップ!!」

リザーブ6⇨2

【エボルト(怪人態)】(1⇨5)LV1⇨3

 

 

カードにコアが置かれ、さらにその力を上昇させるエボルト。そしてこれが最後のアタックステップだ。Dr.Aは決着をつけるべく貯めに貯めた軍団で総攻撃を仕掛ける。

 

 

「アタックステップ!!ゴジラでカニコングを指定アタック!!コアを置き、回復!!」

【ゴジラ(2004)】(2⇨3)(疲労⇨回復)

 

 

アタックステップの開始時から早々に走り出すゴジラ。目指すは六月のカニコング。カニコングは対抗しようとするも、ゴジラの尾の一撃を浴びて吹き飛ばれ、爆発してしまう。

 

 

「この時!!ゴジラにシンボル1つを追加!!……追撃せよ!!」

 

 

回復したゴジラが背びれを真っ赤に染め上げる。そしてそこに溜められたであろうエネルギーを口内へと移行させ、六月のライフへと向けて………

 

 

「赤色熱線!!」

 

「ぐっ、ぐぁぁぁぁぁあ!!?!」

ライフ5⇨3

 

 

赤い色の熱線を放ち、六月のライフをこれでもかと焼き尽くした。

 

 

「ヌッフフ、あ〜良いね良いね〜〜!!あの六月がゴミのようだ!!私はここまで強くなってしまったのか!!」

「違うじゃろ……そんな自分を偽った姿で勝手に強くなってる気でいるんじゃ無い……このクズが……」

「ヌッフフ、弱々しい……そんなクズに負けるのが君だよ!!……さぁ行くがいい!!エボルトォォォォオ!!」

 

 

六月の言葉など全く聞かず、耳に入れず………Dr.Aは最後のアタックと言わんばかりにエボルトでアタックを仕掛ける。エボルトはその指示を聞き、ゆっくりと六月の元へと歩みを進める。

 

 

「ウォズの効果!!疲労させることで自分のスピリット1体をBPプラス10000!!そしてライフを1つ破壊する!!…対象は当然エボルト!!」

【仮面ライダーウォズ】(回復⇨疲労)

【エボルト(怪人態)】BP15000⇨25000

 

「ぐぅっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

その最中、ウォズが薙刀のような武器を取り出し、それを振り回して斬撃を放つ。それは一直線に六月の方へと飛び行き、彼のライフを切り裂いた。

 

 

「エボルトはダブルシンボル……一度のアタックでライフを2つ破壊する!!」

「………」

「正直、空野君とのバトルの方が楽しかったかな?」

 

 

まるで魔王を連想させるようなゆっくりとした歩き方で六月の元へと迫り来るエボルト。六月のライフは残り2つ。終わりだ。完全に Dr.Aの勝ちが確定する。

 

そしてこの時。

 

この時だ。

 

遂に、ようやくあの人物がこの場へと到着する。

 

 

「じっちゃぁぁん!!!」

「っ!!……椎名!!」

 

 

椎名が六月の事を叫びながら地下最深部へと姿を現した。

 

 

「やぁエニーズ!!やはりここに来たのはデ・リーパーではなく君だったか!!」

「ッ……あれがDr.A!?」

「だけど、これで終わりだよ……じゃあね六月、私の親友!!これで永遠にさよならだ!!」

 

 

しかし、時既に遅しか、Dr.Aは改めてエボルトにトドメの指示を下す。

 

 

「っ……椎名!!」

「じっちゃぁぁん!!!」

 

「ぐっ……ぐぁぁぁぁぁあ!!?!」

ライフ2⇨0

 

 

エボルトの途方も無いエネルギーを纏わせた拳の一撃が六月の残ったライフを全て粉々に砕く。

 

六月は余りのダメージに吹き飛ばされ、転がり込む。

 

 

「じっちゃん………じっちゃぁん!!」

 

 

力尽き、倒れる六月に思わず駆け寄る椎名。

 

 

「し、椎名………」

「じっちゃん!!」

 

 

倒れながらも、今にも消えそうな弱々しい声で椎名の名を呼ぶ六月。その身体は既にデジタル粒子となって分解されかけている。

 

 

「す、すまんのぉ……わしじゃあ奴には勝てんかった………」

「気にすんなよ!!じっちゃんは十分頑張った!!…後は……後は私に任せろ!!」

 

 

六月には………

 

椎名の変わり果てた目も見えていたはずだ。その進化の力が詰まった、その目を……

 

それを見ればここに来るまでに椎名がどう自分と向き合い、どう戦っていたのかが自ずと隅々まで理解できる。

 

椎名は生まれた環境、異質な存在であるせいで、ずっと子供のままでいいと思っていた。そして自分も、椎名をそうなるように育てて来た。

 

が、もう椎名は子供ではない。そう確信したからこそ、六月は震える手で、粒子化していく手で……最後の力を振り絞って………

 

……あるカードを椎名に手渡す………

 

 

「わ、わしのカードじゃ……使え………お前なら使いこなせる……!!」

「っ!?」

 

 

そのカードとは【インペリアルドラモン】……その3枚。

 

六月の長年の相棒であり、最も信頼を寄せるスピリットだ。このインペリアルドラモンなら、きっと椎名を助けると思い、六月は彼女にそれを託した。

 

そのカードに込められた想いを感じ取った椎名は、自然と頬に涙が流れる。

 

 

「じ、じっちゃぁぁん……!!」

「泣くな椎名……わしは椎名の笑った顔が見たい……出来損ないのクソジジイですまんのぉ……後は……後は任せるぞ!!」

「………!!」

 

 

もう二度と大事な何かを失いたくないと思っていた椎名にとって、これ程までに辛い事はなかった事だろう。本当は泣いて、悲しんでいたい………

 

……が、六月の気持ち全てを汲んだ椎名には、そんな事は許されないと思ったのか……

 

……凄い勢いで涙を拭い、六月の言った通り、笑顔を作り………

 

 

「おう!!任せてくれ!!必ず………必ず私が全部元に戻して見せるから!!」

 

 

無理矢理作っな強気な態度でそう強く言い放った………

 

 

「ほっほ……やっぱ椎名はかわいいのぉ〜〜……あぁ、カメラ……持ってくれば良かったわい………」

 

 

六月は最後にそう言い残し、デジタル粒子となって上の方へと消え去った。おそらくは他の者達同様デ・リーパーの壁に向かったのだろう。

 

これでこの場は椎名と Dr.A。ただ2人だけの空間となる。六月を見送った椎名は Dr.Aの方を振り向き、鋭い目つきで睨みつける。そこには当然Bパッドを閉じた若い Dr.Aの姿がある。

 

椎名はこの時初めて若返った Dr.Aを見たが、司に聞いていたこともあったか、たいして驚くそぶりを見せないでいた。

 

 

「ヌッフフ、エニーズ!!その目はなんだい?…いや、今の、進化の力を体得した私にはわかる!!それは君とデ・リーパーが1つになった結果だ!!…素晴らしい!!なんと進化の力は偉大なのだろう!!」

「……………」

 

 

ついさっき自分で元親友である六月を殺すに近い行いをしたと言うのに、 Dr.Aは相変わらず自分の事と進化の力の事だけで頭がいっぱいのようだ。

 

 

「さぁさぁ、これで新たなる世界のアダムとイヴたる存在が集結した事になるが………どうだいエニーズ?…私と共に来る気はあるかい?」

 

 

あまり言及されてはいないが、 Dr.Aは椎名を自分の妃に迎えるつもりでいた。椎名を女に作ったのもそのため。あの18年前からずっとこの瞬間を想定してきたのだ。何せ、一度世界を滅ぼすとしたら、新たに子孫を残さなければならないのだから。

 

新世界のアダムとイヴとはそういう事なのだ。

 

 

「行くわけないだろ………私と今ここで決着をつけろ Dr.A!!…私の託された想いに懸けて、私は必ずあんたを倒す!!」

 

 

椎名は至って冷静な表情だが、言動からは確かな怒りが感じ取れる。勢いよくBパッドを展開し、バトルの準備を行う。

 

 

「はぁ、ここまで言ってもわかってくれないんだね〜〜まぁいいよ、今となっては君程度の存在はいつでも作る事ができる………仕方ない、出来損ないは六月同様処分しなきゃね〜…ヌッフフフ!!!」

 

 

Dr.Aもそう言いながら仕舞ったばっかりのBパッドを取り出した。

 

今、この界放市中央スタジアムの地下最深部にて、世界の存亡を賭けた史上最大のバトルスピリッツが行われようとしていた。




〈本日のハイライトカード!!〉


六月「本日のハイライトカードは【インペリアルドラモン】!!」

六月「インペリアルドラモンはドラゴンモード、ファイターモード、そしてもう1つと合わせて3つの形態を持つ青と緑の究極体スピリット!!椎名、後は頼んだぞ!!」



******

〈次回予告!!〉


次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「最終決戦、椎名VS Dr.A!!…今、バトスピが進化を超える!!


******

※次回サブタイトルは変更の可能性があります。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!



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第93話「最終決戦、椎名VSDr.A」

 

 

 

 

 

 

 

 

日本におけるバトスピ最大都市、界放市。その中央スタジアムの地下最深部にて、2人の人物が張り詰めた緊張感の中で対峙していた。

 

芽座椎名と Dr.A。

 

今、後にA事変と呼ばれる大災害の最後のバトルスピリッツが切って落とされようとしていた。

 

 

「ヌッフフ、エニーズ、本当に私と共に来ないつもりなのかい?…進化した新しい世界は戦争や紛争さえもない平和な世界だと言うのに」

「いらない!!いくら平和だからって、真夏やじっちゃん、他のみんながいない世界なんてあり得ない!!…そんな世界に生きる価値なんてない!!」

 

 

湿っとした気味が悪い笑い声と共に、椎名を諭すようにそう語りかけてくる Dr.A。今や進化の力で70を超えた年齢とは思えない若い姿をしている。

 

方や椎名も断固として Dr.Aに着こうとはしない。当たり前だ。椎名は真夏や六月、消えていった仲間達のためにここまで来たのだ。 Dr.Aと新しい世界に行くためではない。

 

 

「ふむ、君に何を言っても無駄なようだ………名残惜しいが、処分と行こうか……!!」

「こちとらはなっからそのつもりだ!!」

 

 

椎名と Dr.Aは互いに自身のBパッドにデッキをセットする。Bパッドがバトルモードに入り……

 

今、全てが決まる戦いが幕を開ける。

 

 

「行くぞ Dr.Aぇぇぇぇえ!!」

「見せてあげましょう、私の神にさえなれる進化の力を!!」

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルスピリッツが始まる。

 

先行は Dr.A。進化を繰り返す自分だけのカードで構成されたデッキを回転させていく。

 

 

[ターン01] Dr.A

《スタートステップ》

 

 

「ヌッフフ、ドローステップ時、手札の仮面ライダーウォズの効果!!このカードを手元に置く事でドロー枚数を1枚増やし、その後手札を1枚破棄」

手札4⇨3⇨5⇨4

破棄カード↓

【シキツル】

 

「!」

「言い忘れていたね〜〜このデッキは君の常識を遥かに超えるカード達ばかりだよ」

「御託はいいから早くしろ……!!」

 

 

Dr.Aは早速仮面ライダーウォズのカード効果を発揮させる。結果として手札は増えてはいないものの、そのデッキは確かに回転している。

 

 

「これは失敬……では、メインステップ、私はネクサスカード、賢者の樹の実を配置して、そのターンをエンドとしよう……ヌッフフ、さぁエニーズ、君のターンだ」

手札4⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【賢者の樹の実】LV1

 

《手元》

【仮面ライダーウォズ】

 

バースト【無】

 

 

Dr.Aはさらに六月の時同様、背後に神秘的な大樹を配置して、そのターンをエンドとした。初ターンにしては大分デッキが回っていると言える。

 

次は椎名のターンだ。その目に宿る進化の力が輝く。

 

 

[ターン02]椎名〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、私はブイモンを召喚!!……召喚時効果発揮!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【デジヴァイス】×

【ライドラモン】◯

 

 

椎名が早速召喚したのは青い小竜型の成長期スピリット、ブイモン。そしてその召喚時効果も成功。椎名はその中の対象となるカード、ライドラモンを手札に加え、

 

すぐさまそれを呼び出す。

 

 

「ライドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!1コストを支払って召喚する!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

 

「!」

 

「轟く友情、ライドラモンを召喚!!」

【ライドラモン】LV1(1)BP5000

 

 

ブイモンの頭上から黒い瓢箪型のデジメンタルが投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、進化する。そして新たに現れたのは一角を生やした緑属性のアーマー体スピリット、ライドラモンだ。

 

 

「ライドラモンの召喚時効果でコアを2つトラッシュに追加!!」

トラッシュ4⇨6

 

 

ライドラモンは登場するなり、気高く、それでいて獰猛に吠える。すると、椎名のトラッシュにコアが新たに追加された。

 

 

「アタックステップッ!!ぶち込め、ライドラモン!!」

 

 

召喚したばかりのライドラモンで攻めに入る椎名。ライドラモンが迅雷の如く速さで地を駆ける。

 

 

「……ふむ、ライフで受けましょう〜〜」

ライフ5⇨4

 

 

スピリットもコアもバーストもない Dr.Aはこれをライフで受ける他なく、あっさり承諾する。

 

ライドラモンが勢いを殺さぬまま Dr.Aのライフへと激突。そのライフを1つ粉々に砕いた。

 

 

「賢者の樹の実の効果。コアを1つ追加します」

リザーブ1⇨2

 

「……ターンエンド」

【ライドラモン】LV1(1)BP5000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

賢者の樹から実が Dr.AのBパッドにこぼれ落ち、それが新たコアとなる。

 

果敢に攻める椎名。このターンは一先ずエンドとした。果てしなく続く緊張感の中、 Dr.Aは気持ち悪い程の薄ら笑いを浮かべ、またターンを進めていく。

 

 

[ターン03] Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

 

 

「ドローステップ時、私は2枚目の仮面ライダーウォズの効果を使用!!手元に置き、ドロー枚数を増やしますよ、さらに破棄」

手札3⇨2⇨4⇨3

破棄カード↓

【ゴジラ(2004)】

 

 

2枚目の仮面ライダーウォズの効果が発揮され、今度はゴジラのカードが破棄される。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ……バーストを伏せ、私は2枚目の賢者の樹の実を配置!!」

手札3⇨1

リザーブ7⇨4

トラッシュ0⇨3

【賢者の樹の実】LV1

 

 

こちらも2枚目。 Dr.Aは場にバーストカードをセットすると共に、さらに賢者の樹を増やす。二本になったため、スピリットによってライフが減る際に増えるコアは2つとなる。

 

 

「ヌッフフ、では……アタックステップ!!手元の2枚のウォズの効果!!場にコスト6以上のスピリットが存在する時、コストを払わずに召喚できます!!」

「っ……ライドラモンのコストは6……」

 

「そう……LV1と2で2体を召喚!!」

リザーブ4⇨0

【仮面ライダーウォズ】LV1(1)BP5000

【仮面ライダーウォズ】LV2(3)BP8000

 

 

黝ずんだ一反の布が球状を形成する。それが弾け飛ぶと、中から緑を基調とした仮面スピリット、ウォズが優雅な立ち振舞いで姿を見せる。しかもそれが二度行われ、計2体のウォズが Dr.Aの場に出現した。

 

 

「さぁ、アタックステップは継続!!…行きなさい、2体のウォズよ!!」

 

 

薙刀のような武器を手に持ち、2体のウォズが地を駆ける。狙いは当然椎名のライフ。椎名は前のターン、ライドラモンでアタックを仕掛けたためにコアがない、そのためライフで受ける他なく……

 

 

「ライフで受ける……っ」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

2体のウォズがその薙刀のような武器で椎名のライフを切り裂いていく。椎名のライフは一気に砕かれ、逆転された。

 

 

「ヌッフフ、ターンエンドです」

【仮面ライダーウォズ】LV1(1)BP5000(疲労)

【仮面ライダーウォズ】LV2(3)BP8000(疲労)

 

【賢者の樹の実】LV1

【賢者の樹の実】LV1

 

 

Dr.Aはできることを全て終え、そのターンをエンドとした。次は今尚も世界を懸けて戦っているというにもかかわらず、冷静な表情でいる椎名のターンだ。

 

 

[ターン04]椎名〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨9

トラッシュ6⇨0

【ライドラモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!一気に行くぞ、ブイモンを召喚!!カードをオープン!!」

手札6⇨5

リザーブ9⇨6

トラッシュ0⇨2

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【スティングモン】◯

【ワームモン】×

 

 

ライドラモンの【アーマー進化】の効果によって手札へと戻っていたブイモンが再召喚される。そしてこの効果でオープンされたスティングモンは新たに手札へと加えられた。

 

 

「さらに追加効果!!2コストを支払い、スティングモンを召喚!!」

手札5⇨6⇨5

リザーブ6⇨3

トラッシュ2⇨4

【スティングモン】LV1(1⇨2)BP5000

 

 

ブイモンの追加効果だ。颯爽とブイモンの横に現れたのは緑のスマートな昆虫戦士、スティングモン。その召喚時効果でさりげなくコアが増えていく。

 

そしてまだ椎名は動くのか、さらに手札に1枚のカードを掛け………

 

 

「さらにマグナモンの【アーマー進化】を発揮!!対象はブイモン!!1コスト支払って召喚する!!」

リザーブ3⇨2

トラッシュ4⇨5

 

「!」

 

「黄金の守護竜、マグナモンをLV2で召喚!!」

リザーブ3⇨1

【マグナモン】LV2(2)BP8000

 

 

ブイモンの頭上に黄金のデジメンタルが投下される。ブイモンはそれを受け入れるように衝突し、混ざり合い、今一度進化する。

 

新たに現れたのは黄金の鎧その身に纏う守護竜、ロイヤルナイツの1体、マグナモン。その防御に適した効果はいつだって椎名を守り抜いてきた。

 

 

「ほぉ、マグナモン……ヌッフフ、綺麗なものですね〜〜」

「浸ってる場合じゃないぞ!!召喚時効果!!…相手の場の最もコストの低いスピリット1体を破壊する!…対象はLV2のウォズ!!」

「!」

「黄金の波動……エクストリーム・ジハードッ!!」

 

 

マグナモンは登場するなり、その身に宿る黄金の力を自身を中心に解き放つ。それは Dr.Aの場まで伸びていき、ウォズ1体を飲み込んでいく。ウォズはその中で塵と化して破壊された。

 

 

「ネクサスカード、デジヴァイスを配置!!」

手札5⇨4

リザーブ1⇨0

トラッシュ5⇨6

【デジヴァイス】LV1

 

 

未だ終わることを知らない椎名の連続カード使用。今度は手のひらサイズの機械が彼女の腰に装着された。

 

 

「アタックステップッ!!…行くぞスティングモン!!」

【スティングモン】(2⇨3)LV2⇨3

 

 

ようやくアタックステップへと移行し、颯爽とスティングモンでアタックを仕掛ける椎名。その効果でスティングモンにコアが追加され、LVアップする。

 

そしてこの時、スティングモンに新たな効果が追加され、更なる姿へと進化することが可能となった。椎名はそれを遺憾なく発揮させる。

 

 

「スティングモンの【超進化:緑】を発揮!!…スティングモンを完全体、至高の竜戦士、パイルドラモンへ進化させるっ!!」

【パイルドラモン】LV2(3)BP10000

 

「!」

 

 

スティングモンにデジタルコードが巻きつけられ、その中で姿形を大きく変化させる。やがてその中のスピリットはそのコードを解き放ち、椎名の場へと姿を見せる。

 

それはパイルドラモン。椎名のデッキのエースの片棒を担ぐ、竜の力と昆虫の外殻を併せ持つ至高の竜戦士だ。

 

 

「召喚時効果!!…コスト7以下のスピリット1体を破壊する!!…残ったウォズを破壊!!」

「!!」

「デスペラードブラスタァァァァア!!」

 

 

パイルドラモンは登場するなり両腰に備え付けられた2つの機関銃を手に持ち、それをウォズへ向けて連射。嵐のように飛んでくる弾丸を全て避けられるわけがなく、ウォズは被弾し、堪らず爆発した。

 

 

「ほぉ、マグナモンにパイルドラモン………ん〜〜実に良い!!……やはりこの2体は進化の力に満ち溢れている!!」

 

 

椎名のマグナモンとパイルドラモンを見ながら、そう呟く Dr.A。だが、椎名はそんな事に耳を傾ける事なく、自分のバトルスピリッツを貫き通す。

 

 

「アタックステップは継続!!……いけぇ!…パイルドラモン!!アタック時効果!!……コアを2つパイルドラモンに追加し、ターンに一度回復する!!…エレメンタルチャージ!!」

【パイルドラモン】(3⇨5)LV2⇨3(疲労⇨回復)

 

 

改めてパイルドラモンでアタックを仕掛け、畳み掛ける椎名。パイルドラモンはその体を虹色に輝かせ、コアブーストと回復、その両方を一度にやってのける。

 

このターン、 Dr.Aが特に反撃をしなければ椎名の勝利で終わるが………

 

そんなわけがなく、 Dr.Aは伏せていたバーストをついに発動させる。

 

 

「ヌッフフ、待ってましたよ〜〜…相手のスピリットのアタックによりバースト発動!!…ケルビモン(悪)!!」

「っ……仮面スピリットの次はデジタルスピリット!?」

 

 

「悪に染まりし大天使よ!!神と共に並び立つが良い!!ケルビモン(悪)!!LV2で召喚!!」

リザーブ4⇨1

【ケルビモン(悪)】LV2(3)

 

 

Dr.Aのバーストカードが反転すると共に、ドス黒い球体が彼の場に静かに降り立つと、それは飛沫となって飛び散っていき、中から巨大な大天使の究極体デジタルスピリット、ケルビモンが現れた。その見た目はまるで肥えた道化師と言ったところで、大天使と呼ぶには似つかわしくないが、それでも究極体故に強力な力を保有している。

 

ただし、この姿は悪。本来は善の姿も存在するはずだが、Dr.Aのオーバーエヴォリューションの力による影響か、その身は悪に染まりきっていた。

 

 

「ケルビモンの召喚時及びアタック時効果……相手スピリット1体をBPマイナス10000し、0になれば破壊する!!……私の対象はライドラモン!!」

「!!」

「ライトニングスピア!!」

 

「くっ……ライドラモン!!」

【ライドラモン】BP5000⇨0(破壊)

 

 

ケルビモンは登場するなり雷の力を纏わせた槍を形成し、それを掴み、ライドラモンへと投げつける。ライドラモンはそれに串刺しにされ、力尽き、爆発を起こした。

 

 

「ヌッフフ、さらにケルビモンが存在する限り、相手はアタック時効果を使えない!!」

「!?」

 

 

ケルビモンのもう1つの効果が説明される。これで椎名はパイルドラモンを始めとして多くのカードの強力なアタック時効果の使用が不可となった。

 

 

「っ……けどパイルドラモンのアタックは継続中!!」

 

「ヌッフフ、それはライフで受けよう……っ」

ライフ4⇨3

 

 

パイルドラモンのアタック中に起こった出来事であるため、パイルドラモンの本命のアタックがようやく解決される。

 

パイルドラモンは Dr.Aへと低空飛行で急接近し、そのライフを強靭な拳で殴りつけ、1つを粉々に粉砕した。

 

 

「よしっ!!」

 

 

その様子に軽く拳を固め、ガッツポーズを決める椎名。

だが、このタイミングでも Dr.Aは動く。今度は怪獣の王、破壊神をこの場へと呼び出す。

 

 

「私のライフ減少により、賢者の樹の実2つ分の効果でコアを2つ増やしますよ…………ヌッフフ、そしてトラッシュにあるゴジラ(2004)の効果!!2コストを支払い召喚します!!」

リザーブ2⇨4

 

「っ!?」

 

「太古の神よ!!原子の力その身に宿し!!現れ出でよ!!ゴジラ(2004)!!LV2で召喚!!」

リザーブ4⇨0

トラッシュ3⇨5

【ゴジラ(2004)】LV2(2)BP15000

 

 

蠢く地の底より、咆哮を張り上げながら現れたのは黒い体に大きな尾を持つシンプルな怪獣と言った見た目のスピリット、ゴジラ。

 

だが、そこから感じられる迫力やオーラは美しくも凄まじく、神にも匹敵すると言って過言ではない。椎名はただただそれに驚愕することしかできず………

 

 

「っ……なんだこのスピリット達は……!?」

「だから私のオーバーエヴォリューションで得たカード達だと言っているではありませんか〜〜……ヌッフフ、さて、どうなされますか?…まだバトルをしてもよろしいのですよ?」

 

「っ……ターンエンドだ」

【マグナモン】LV2(2)BP8000(回復)

【パイルドラモン】LV3(5)BP13000(回復)

 

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

このターン、ロイヤルナイツと自身のオーバーエヴォリューションで得たスピリットを軸に攻めた椎名の前に姿を現したのは、そんなものが貧相に見えてしまうほどの脅威の2体のスピリット。

 

Dr.Aのスピリットはその1体1体が神の領域に達する事を不本意ながら、椎名は感じ取ってしまっていて………

 

……だが、それでも臆する事なく次に取る手段を頭の中で思考していた。

 

そして、次は見事に巨大な2体のスピリットを召喚して見せた Dr.Aのターン。

 

 

[ターン05] Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ……私は仮面ライダーマッドローグを召喚!!…召喚時効果でカードを2枚ドローしましょう…!!」

手札2⇨1⇨3

リザーブ6⇨0

【ゴジラ(2004)】(2⇨1)

トラッシュ0⇨6

【仮面ライダーマッドローグ】LV1(1)BP5000

 

 

Dr.Aが次に呼び出したのはまたもや仮面スピリット。2つの拳銃を武器に持つ仮面スピリット、マッドローグ。その召喚時効果はシンプルながらも強力なもの、 Dr.Aは減っていた手札を潤した。

 

そして、ついに破壊神が鳴動と共に動き出す。

 

 

「アタックステップ……行きなさいゴジラ!!…パイルドラモンに指定アタック!!…効果によりコアを置き回復!!」

【ゴジラ(2004)】(1⇨2)LV1⇨2(疲労⇨回復)

 

「なにっ!?」

 

 

破壊神ゴジラで攻める Dr.A。その効果にはいくつもの強力な効果が備わっている。コアが置かれ、LVアップしつつ次のアタックを可能にした。

 

パイルドラモンはデスペラードブラスターでゴジラの進行を阻止しようと試みるも、ゴジラはそれに被弾してもビクともせず、ゆっくりとパイルドラモンに迫り来る。

 

 

「エニーズ、君は私がこの力を得るためのサンプルに過ぎない、そんな君が私に勝てるわけないでしょうにね〜」

「黙れ!!…んなもん関係ない!!私は私、エニーズじゃなくて芽座椎名だ!!どんな逆境に立たされても諦めないのが私のバトルスピリッツだ!!」

 

 

だが、椎名にはまだ手があった。手札にある六月に託されたカードを見つめ、諦めない心と共にそれを勢いよく抜き取る……

 

 

「じっちゃん……使わせてもらうよ……フラッシュ【煌臨】発揮!!対象はマグナモン!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ6⇨7s

 

「っ!?……煌臨……」

 

 

椎名の場の上空に異次元の渦が発生すると、マグナモンはそこへと飛び上がり、吸い込まれるように中へと入っていく……

 

マグナモンはその中で姿形を大きく変え、進化を超える。

 

 

「来いっ!!……インペリアルドラモン ファイターモードッ!!」

手札4⇨3

【インペリアルドラモン ファイターモード】LV1(2)BP10000

 

 

異次元の渦から何かが腕を組み、飛来してくる。それはマグナモンではない別の何か。

 

その正体は六月の相棒だったスピリット、インペリアルドラモン ファイターモード。赤い翼と黒い鎧、右腕の砲手を携え、今椎名の場へと煌臨した。

 

Dr.Aは六月のスピリットの登場に少しばかり動揺した様子を見せる。

 

 

「……六月のカード……!!」

「ファイターモードの煌臨時効果!!…相手スピリット10体を疲労!!」

「っ!?」

 

「……革命の一撃……ポジトロンレェェェェザァァァァア!!!」

 

「……ぬっ!?」

【ゴジラ(2004)】(回復⇨疲労)

【ケルビモン(悪)】(回復⇨疲労)

【仮面ライダーマッドローグ】(回復⇨疲労)

 

 

ファイターモードの右腕の砲手から放たれる高威力のレーザー。それが Dr.Aのスピリット達を次々に吹き飛ばしていき、行動不能の状態まで後退させた。

 

 

「……六月……消滅しても尚、私の覇道を阻むと言うのか………!!」

「助かったよ…じっちゃん……!」

 

 

目の前のファイターモードに六月の執念を感じる Dr.A。そんな中、椎名はこのカード達を自分に与えてくれた六月に感謝の意を込めた言葉を送った。

 

 

「だがエニーズ……ゴジラとパイルドラモンのバトルは続く!!……破壊しなさい!!」

「っ……パイルドラモンっ!!」

 

 

吹き飛ばされたにもかかわらず、ゴジラは横転した状態から青い色の熱線を放ち、パイルドラモンを貫く。パイルドラモンは堪らず爆発してしまう。

 

だが、疲労状態には変わりはない。故に、 Dr.Aはターンの終了を迫られていた。

 

 

「……ふむ、まぁいいでしょう……ターンエンドです」

【ゴジラ(2004)】LV2(2)BP15000(疲労)

【ケルビモン(悪)】LV2(3)BP13000(疲労)

【仮面ライダーマッドローグ】LV1(1)BP5000(疲労)

 

【賢者の樹の実】LV1

【賢者の樹の実】LV1

 

バースト【無】

 

 

Dr.Aはそのターンを終えるが、未だにその表情は涼しく、不気味なくらいの余裕を保っている。

 

次は六月のファイターモードでなんとかこの場を凌いだ椎名のターンだ。反撃が幕を開ける。

 

 

[ターン06]椎名〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨13

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!!…ネクサスカード、ディーアークを配置し、ブイモンをもう一度召喚!!…効果発揮!!」

手札4⇨2

リザーブ13⇨8

トラッシュ0⇨4

【ブイモン】LV1(1)BP2000

【ディーアーク】LV1

オープンカード↓

【フレイドラモン】◯

【D-3】×

 

 

椎名の腰にデジヴァイスとはまた違った機械が装着されると共に、今回三度目の登場となるブイモンが姿を現した。その効果でオープンされたカード、フレイドラモンを手札に加えた。また、D-3も自身の効果で手札へと加わった。

 

 

「よし!!2枚とも手札に加えて……追加で2コストを支払い、スティングモンも呼ぶ!!」

手札2⇨4⇨3

リザーブ8⇨5

トラッシュ4⇨6

【スティングモン】LV1(1⇨2)BP5000

 

 

今度は追加効果により、【超進化】の効果で手札へと戻っていたスティングモンも再召喚される。その召喚時効果により、またさり気なくコアが増える。

 

 

「デジタルスピリットの登場により、ディーアークの効果で1枚ドロー!!…さらにもう1枚ネクサスカード、D-3を配置し、バーストをセット!!」

手札3⇨4⇨2

リザーブ5⇨3

【D-3】LV2(2)

 

 

終わらぬ展開、椎名はバーストをセットすると共に、3種類目のデジタルスピリットサポートアイテム、D-3をその身に装着する。

 

 

「さらにコアを調整!!」

リザーブ3⇨0

【インペリアルドラモン ファイターモード】(2⇨1)

【デジヴァイス】(0⇨2)LV1⇨2

【ディーアーク】(0⇨2)LV1⇨2

 

 

椎名は残ったリザーブのコアでネクサスのLVを調整する。

 

そして、準備は万端か、ここで Dr.Aを仕留めるべくアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!!…その開始時、デジヴァイスの効果!!成長期スピリット、ブイモンがいるため、疲労させることで1枚ドロー!!」

手札2⇨3

【デジヴァイス】(回復⇨疲労)

 

 

椎名がデジヴァイスをタッチすると、それとデッキが共鳴するように光出し、椎名にドローする権限を与えた。椎名はそこからドローすると、一気にアタックを仕掛ける。

 

 

「アタックステップ継続!!……いけぇ!…ファイターモードッ!!」

 

 

巨大な体躯、大いなる翼を広げ、上空へと飛翔するファイターモード。狙うは当然 Dr.Aのライフだ。

 

そして椎名はこのフラッシュタイミングで事前に配置していたネクサスカードの力を使い、あのスピリットを呼び出す。

 

 

「フラッシュ!!D-3のLV2効果!!疲労させることで【アーマー進化】の条件を無視して発揮させる!!」

【D-3】(回復⇨疲労)

 

「!!」

 

「私はこのカード……フレイドラモンを召喚する!!」

【D-3】(2⇨0)

トラッシュ6⇨7

 

 

椎名は腰に備え付けられたD-3をタッチする。すると、手札のカードがそれと共鳴するように輝く。そのカードは椎名の最初のエーススピリットにして、彼女の最もお気に入りのカード。

 

 

「燃え上がる勇気……フレイドラモンをLV1で召喚!!」

手札3⇨2

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000

 

 

燃え上がる炎と共に姿を現したのは、竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモン。これまで幾度となく椎名を支えてきたエーススピリットだ。

 

 

「ヌッフフ、今更そんな市販のカード達で何をするつもりなのかね?」

「オーバーエヴォリューションで得られるカード達だけが全てじゃない!!…フレイドラモン達は今まで私というカードバトラーの記憶、そして生きた証だ!!……召喚時効果!!」

「!!」

 

「BP7000以下のスピリット、マッドローグを破壊!!……爆炎の拳……ナックルファイァァア!!」

手札2⇨3

 

 

ブイモンやフレイドラモンと言った、椎名が今まで使ってきたスピリット達は……確かに普通のカードだ。誰もが手にできるカードだ。

 

オーバーエヴォリューションで得られるカードではない。弱いかもしれない。

 

が、このカード達には椎名とバトルしてきた記憶が染みついている。それはまさしく椎名がこれまで芽座椎名として生きてきた証とも呼べて………

 

刹那、フレイドラモンの燃え上がる炎の鉄拳が一直線にマッドローグに被弾し、マッドローグはそのまま燃やし尽くされた。

 

 

「ファイターモードのアタックは継続中!!」

「!!」

 

 

フレイドラモンだけに目を奪われてはいけない。これはファイターモードのアタック中のフラッシュタイミングでの出来事。ファイターモードは Dr.Aにポジトロンレーザーを撃つべく、右手の砲手をそのライフへと向けた。

 

だが、 Dr.Aもこのままで終わるわけがなく、手札のカードを1枚抜き取った。

 

 

「ヌッフフ、甘いですね〜〜フラッシュマジック!!…リアクティブバリア!!……不足コストはゴジラとケルビモンから確保!!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

【ゴジラ(2004)】(2⇨1)

【ケルビモン(悪)】(3⇨1)

トラッシュ6⇨10

 

「!!」

 

 

それは単純な白のアタックステップ終了系のマジックカード。いつ、どんな時でも強い、汎用性に富んだカード。

 

 

「そのアタックはライフで受けましょう〜〜〜……っ」

ライフ3⇨2

 

 

ファイターモードのポジトロンレーザーが Dr.Aのライフを1つ貫く。が、この瞬間に、発揮させていたマジックの効果が起動する。

 

 

「2枚分の賢者の樹の実の効果でコアを2つ増やし、リアクティブバリアの効果でアタックステップは終了ですよ〜〜ヌッフフ!!」

リザーブ1⇨3

 

「!!」

 

 

突如として椎名の場に吹き荒れる猛吹雪。これではいかなるスピリットであっても Dr.Aのライフを砕く事は叶わない。

 

椎名にこのターンを終了させられるよう、半ば強制的に迫られていた。

 

 

「………ターンエンド」

【インペリアルドラモン ファイターモード】LV1(1)BP10000(疲労)

【ブイモン】LV1(1)BP2000(回復)

【スティングモン】LV1(2)BP5000(回復)

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000(回復)

 

【デジヴァイス】LV2(2)(疲労)

【ディーアーク】LV2(2)

【D-3】LV1(疲労)

 

バースト【有】

 

 

椎名がそう宣言すると、唐突にその猛吹雪は収まる。視界が開けると共に、 Dr.Aのターンが再び幕を開ける。

 

 

「さぁ、進化した世界の…新たなる神のターンだ……!!」

 

 

[ターン07] Dr.A

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨14

トラッシュ10⇨0

【ゴジラ(2004)】(疲労⇨回復)

【ケルビモン(悪)】(疲労⇨回復)

 

 

インペリアルドラモンに疲労させられた2体も鳴動共にようやく復活を遂げる。

 

 

「ヌッフフ、メインステップ……賢者の樹の実1枚をLV2に、さらにゴジラをLV3、ケルビモンをLV2に!!」

リザーブ14⇨11⇨5⇨3

【ゴジラ(2004)】(1⇨7)LV1⇨3

【ケルビモン(悪)】(1⇨3)LV1⇨2

【賢者の樹の実】(0⇨3)LV1⇨2

 

 

コアが追加され、LVを上昇させていく Dr.Aのパワーカード達。そしてこのターンも破壊神が動く。

 

 

「バーストをセットし、アタックステップ!!今度こそその目に捉えた者全てを破壊しなさい……ゴジラ!!」

手札3⇨2

 

 

ゴジラが再びゆっくりと椎名の場へと歩みを進める。そして、その指定アタック効果の対象は………

 

 

「先ずはブイモン!!コアを追加し、回復!!」

【ゴジラ(2004)】(7⇨8)(回復)

 

「っ……ブイモン!!」

 

 

ゴジラが椎名とそのスピリット達の前方に到着すると、ゴジラは先ず、ブイモンを摘み上げ、地面に叩き落とした。ブイモンがその強い衝撃に耐えられるわけがなく、あっさりと爆発してしまった。

 

 

「次はスティングモン……!!」

【ゴジラ(2004)】(8⇨9)(疲労⇨回復)

 

「!!」

 

 

次はスティングモン。蹴り飛ばし、壁に叩きつけて爆発させた。

 

 

「フレイドラモン!!」

【ゴジラ(2004)】(9⇨10)(疲労⇨回復)

 

「っ……フレイドラモンっ!!」

 

 

止まぬ咆哮、追撃、ゴジラは尾でフレイドラモンを薙ぎ払い、スティングモン同様壁に叩きつけて爆発させた。

 

これで残る椎名のスピリットはインペリアルドラモン ファイターモードのみ……

 

 

「これで六月の忘れ形見も消え去る……ファイターモードに指定アタック!!効果でコアを追加し、回復!!」

【ゴジラ(2004)】(10⇨11)(疲労⇨回復)

 

「!!」

 

 

ファイターモードに目をつけるゴジラ。それに向けて口内から青い熱線を放つ。ファイターモードはポジトロンレーザーで対抗するが、拮抗したのはほんの僅かな時間のみで、ゴジラの熱線がポジトロンレーザーを押し返し………

 

ファイターモードに直撃、ファイターモードはとうとうそれに焼き尽くされ、この場から消え去った。

 

 

「……ありがとうファイターモード……お前の破壊は無駄にしない……」

 

 

六月のインペリアルドラモン ファイターモードが破壊されてた尚、諦めない志を見せる椎名。

 

だが、 Dr.Aはそんな椎名を嘲笑うかのように………

 

 

「ヌッフフ、ギッギッヒッヒッヒ!!……終わるんですよ〜〜この一撃で〜〜!!…ゴジラは相手のスピリットが場から離れるたびに、そのシンボルを増やす!!」

「なんだって!?」

「このターン、ゴジラは4体のスピリットを破壊しました………つまり、そのシンボルは今や5!!」

 

 

ここに来てゴジラの最後の効果。 Dr.Aはこのアタック一撃で終わらせる気だ。

 

ゴジラがその水晶のような背びれに赤い力を蓄積していき、発光させ……その力を口内に宿し………

 

 

「終わりだエニーズぅぅ!!……赤色熱線!!」

 

 

これまでとは温度も威力も比にならない程の熱線を放つゴジラ。そのシンボルは5。

 

まともに受けて仕舞えば終わりだ。

 

椎名は手札のカードを引き抜いて、最善の手を尽くす。

 

 

「フラッシュマジック!!…デルタバリアを使用!!」

リザーブ5⇨1

トラッシュ7⇨11

 

「!!」

 

 

刹那、椎名の前方に3つの円が現れたかと思うと、それらは電力で繋がり、三角形の盾となる。それは相手が強ければ強いほどそれを防ぐという一風変わった効果を持っていて………

 

 

「デルタバリアの効果により、このターン、私のライフはコスト4以上のスピリットのアタックでは0にならない!!………そのアタックはライフで受ける………っ!!」

ライフ3⇨1

 

 

ゴジラの赤い熱線が椎名のバリアとライフに直撃する。余りの威力に、デルタバリアは貫通するも、なんとか耐え抜き、椎名のライフを1つに抑えた。

 

 

「くっ……流石に5点分はキツイな……でも、ライフ減少により、バースト発動!!マリンエンジェモン!!」

「!!」

 

「効果により、これを召喚する!!……さらにデジタルスピリットの召喚により、カードを1枚ドロー!!」

手札2⇨3

リザーブ3⇨0

【マリンエンジェモン】LV3(3)BP9000

 

 

椎名の事前に伏せていたバーストカードが勢いよく反転すると、場に小さなピンク色の究極体スピリット、マリンエンジェモンが召喚される。

 

これでこのターン、 Dr.Aはどう足掻いても椎名のライフを0にすることはできなくなった。

 

 

(……マリンエンジェモンを破壊しても良いですが………)

 

 

Dr.Aは思考を進めていた。このターン、アタックステップが終わったわけではないため、マリンエンジェモンをあの手この手で破壊することは可能。

 

しかし、自分の手札にあるあのスピリットの存在により、その手は止まる。

 

 

「ヌッフフ、さぁいつまで待ちますかね〜〜エンドステップ、賢者の樹の実LV2の効果でゴジラを回復させ、ターンエンドです」

【ゴジラ(2004)】LV3(11)BP22000(疲労⇨回復)

【ケルビモン(悪)】LV2(3)BP13000(回復)

 

【賢者の樹の実】LV2(3)

【賢者の樹の実】LV1

 

バースト【有】

 

 

余裕のある表情のまま、品のない笑い声をあげ、そのターンをエンドとする Dr.A。

 

次はライフ残り1というスレスレで耐え切った椎名のターン。

 

 

「いつまで持つだって?…… Dr.A…それはこっちのセリフだよ」

「!?」

 

 

ターンが始まる前、椎名は唐突にそんなことを口にした。それは突然に、それでいて自然に、嘸かしこれから自分が次のターンで勝利を収めると宣言しているかのように…………

 

口角を上げ、静かに笑っていた。その笑い方は最早あの温かい椎名のものとは思えない程だ……

 

 

「ヌッフフ、何を言うかと思えば……強がりはやめたまえ……君の自尊心が傷つくだけですよ〜〜……」

 

 

Dr.Aは椎名にそう言い返した。椎名の言っていることを丸っ切り信用してはいない。

 

当たり前だ。こんな状況で勝てるわけがない。エニーズ、椎名は、所詮は自分が造った存在。自分に勝てるわけがない。

 

そう思っていた。

 

 

「だったら証明してやるよ……このターン……私の全てをあんたにぶつける……!!」

 

 

そして芽座椎名は第8ターンを進める。自分のデッキを信じて……今まで培ってきたもの全てを信じて………己のバトルスピリッツを信じて………

 

 

[ターン08]椎名〈鬼〉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

 

 

「ドローステップ……ドロー!!……」

手札3⇨4

 

 

椎名がこのターンのドローステップで引いたカードはまさしく奇跡の1枚とも呼べる存在だった。いつもの椎名ならここで大いに笑っているが、これまでの戦いで精神的に成長しているからか、もうそんな様子は一切見せず、ターンを進めていく。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨12

トラッシュ11⇨0

 

 

「メインステップ!!真紅の魔竜成長期の姿、ギルモンを召喚!!…効果でカードをオープン!!」

手札4⇨3

リザーブ12⇨9

トラッシュ0⇨2

【ギルモン】LV1(1)BP3000

オープンカード↓

【エクスブイモン】×

【グラニ】◯

【ディーアーク】×

【デジヴァイス】×

【デルタバリア】×

 

 

椎名の場に鬼のカードである真紅の魔竜、その成長期の姿。ギルモンが召喚される。そしてこの効果も成功。椎名は赤のブレイヴカード、グラニを加えた。

 

 

「ディーアークの効果でドロー!」

手札3⇨4⇨5

 

「出たね〜〜真紅の魔竜……あの時は痛かったよ〜〜」

 

 

Dr.Aは昔の事を思い出していた。あのエニーズ、椎名が生まれた日、グラウモンに殺されかけたあの日を……

 

今思えばあの日があったからこそ今の芽座椎名がいる。それからと言うもの、幾多もの試練を乗り越え、今椎名はこの場に立っている。

 

 

「いくぞ Dr.A!!………私はマジック、ブルーカードを使用!!」

手札5⇨4

リザーブ9⇨8

トラッシュ2⇨3

 

「!」

 

 

椎名がここで使うマジックカードは運にもよるが、デジタルスピリットを進化させる可能性のあるカード。デッキの中に眠るあのスピリットを呼び覚ますべく、椎名はカードをオープンしていく。

 

 

「効果によりカードを4枚オープン、その中にある進化系スピリットを色が一致する自分の場のスピリットをデッキの下に戻し、1コスト支払う事で召喚する!!」

オープンカード↓

【グラウモン】◯

【インペリアルドラモン ドラゴンモード】×

【ブイモン】×

【デュークモン】◯

 

 

効果は成功。椎名はこのタイミングで最高のカード、自分の持つ最強のエーススピリット、デュークモンを引き当てる。召喚するのは当然これだ。

 

 

「よしっ!!……ギルモンをデッキの下に戻し、ロイヤルナイツ、デュークモンを召喚!!」

リザーブ8⇨0

トラッシュ3⇨4

【デュークモン】LV3(8)BP18000

 

 

ギルモンの足元から青色のカードが潜る。ギルモンはその中で進化していく。それが完全に潜り抜けると、そこには左手に盾、右手に槍を携え、赤いマント靡かせるロイヤルナイツ、デュークモンが存在していた。

 

 

「ヌッフフ、やっと来ましたね〜〜デュークモン……ですが、それだけで私に勝てると思っているのかな?…私の場にはアタック時効果を封じるケルビモンがいるのですよ?」

「構うもんか!!…アタックステップ、行くぞデュークモン……アタックだ!!」

 

 

椎名は勝負に出る。ケルビモンによりアタック時効果が封殺されているにもかかわらずデュークモンでアタックを仕掛けた。

 

そして、 Dr.Aはこのアタックさえも止めるべく事前に伏せていたバーストカードを勢いよく反転させる。

 

 

「ヌッフフ、アタック後のバースト!!…2枚目のケルビモン(悪)!!…効果によりこれをLV3で召喚する!!」

リザーブ3⇨0

【ゴジラ(2004)】(11⇨7)

【ケルビモン(悪)】LV3(7)BP20000

 

「!」

 

 

再びドス黒い球体が地に堕ち、その中から2体目のケルビモンが姿を見せる。他のスピリットを含まずとも、最早その存在はロイヤルナイツ1体分の存在を遥かに凌駕している。

 

 

「もちろん効果は覚えてますよね〜〜ケルビモンの召喚時効果!!相手スピリット1体をこのターン、BPマイナス10000!!…私が選ぶのは、デュークモン!!………ライトニングスピア!!」

 

「……っ」

【デュークモン】BP18000⇨8000

 

 

2体目のケルビモンは登場するなり雷を槍の形に変形させ、それをデュークモンに投げ飛ばす。デュークモンは咄嗟にそれを聖なる盾で防ぐも、余りの威力に盾は粉々に砕け散り、素手が露わになってしまう。

 

 

「そんな低俗なBPでまだ何かするのかねエニーズ!!」

 

 

椎名に対してそう強く言い放つ Dr.A。

 

しかし、椎名とてこの程度のバーストは読んでいる。椎名はこの熾烈極めるバトルスピリッツに勝つべく自分の最強の切り札を呼び出す。

 

その際、椎名の進化の力が詰まった目がより強く気高く光輝く。

 

 

「フラッシュ【チェンジ】発揮!!対象はデュークモン!!」

【デュークモン】(8⇨6)

【マリンエンジェモン】(3⇨2)LV3⇨2

【デジヴァイス】(2⇨0)LV2⇨1

トラッシュ4⇨9

 

「!!」

「この効果でシンボル合計3つまで相手のスピリットを好きなだけ破壊する!!…ゴジラとケルビモン2体を破壊する!!」

 

 

椎名の背後から炎のエネルギーで塊で出来た龍が飛び出す。その龍はまるで飲み込むようにゴジラと2体のケルビモンを焼き尽くしていく。ゴジラ達は断末魔を上げながら消えて行った。

 

 

「そしてその後、対象のスピリットと入れ替える!!」

「ヌッフフ、来るのですか、進化を超えたロイヤルナイツが……!!」

 

 

炎の龍は最後に椎名の場のデュークモンへと降下。そしてデュークモンと衝突する。しかし、デュークモンは焼き尽くされることはなく………

 

 

「燃え上がれ聖騎士!!…真なる深い紅をその身に纏い、邪悪なる者皆照らし破れッ!!」

 

 

真紅の炎の中で、デュークモンの聖なる槍、赤いマントが消失する。デュークモンの白い身体は燃えるような深い紅に染まっていき、さらには同じ色の外装が新たに所々取り付けられていく。背にはマントの代わりに10枚の白い羽が出現する。

 

 

「デュークモン、モードチェンジ!!……クリムゾンモード!!」

【デュークモン クリムゾンモード】LV3(6)BP11000

 

 

椎名の叫びと共にその炎を突き破って現れたのは、デュークモンの進化形態。椎名の切り札。クリムゾンモード。赤々と燃えたぎるような真なる深い紅の鎧と白い羽はこの薄暗がりな場を明るく照らしていた。

 

 

「クリムゾンモード………ヌッフフ、良いね良いね〜〜進化の力で満ち溢れたその存在!!……それでこそ潰し甲斐があると言うもの……!!」

「終わりだ Dr.A!!このクリムゾンモードのアタック時効果で……」

 

 

Dr.Aは椎名のクリムゾンモードを見て興奮が収まりきれないでいた。底知れぬ進化の力に美しさを感じているのだ。

 

そして、自分の野望を達成するべく、それを破壊するため…………彼は自分のエーススピリットもこの場へと呼び出す。

 

 

「フラッシュ!!このカードの効果、コスト8以下のスピリット1体を手札に戻す!!……マリンエンジェモンを戻そうか!!」

 

「……っ」

手札4⇨5

 

 

突如、椎名のマリンエンジェモンがデジタル粒子に変換され、手札に戻ってしまう。

 

これだけでも強力な効果だが、この程度、ただのスピリットを呼び出すための条件に過ぎない。 Dr.Aはついにその脅威の存在をこの場へと高らかに呼び出す。

 

 

「進化の頂点に君臨する仮面よぉ!!今こそこの世界に変革をもたらすがよいぃぃい!!……仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム…LV3で召喚!!」

手札2⇨1

リザーブ17⇨9

トラッシュ0⇨2

【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】LV3(6)BP13000

 

 

黒く染まった靄が Dr.Aの場に現れる。そしてそこから足を踏み入れる存在が1人……それは仮面スピリットの1体、 Dr.Aのエーススピリット。白くきめ細かいディテールが特徴的なエボル ブラックホールフォームがその姿を現した。

 

 

「……こいつは……!!」

 

 

椎名は、突如自分とクリムゾンモードの前に立ちはだかったその異質な存在に思わずたじろいだ。

 

 

「さらにトラッシュにある仮面ライダーマッドローグの効果!!エボルが召喚された時、トラッシュからノーコスト召喚!!効果によりカードを2枚ドロー!!」

手札1⇨3

リザーブ9⇨5

【仮面ライダーマッドローグ】LV3(4)BP9000

 

「なにっ!?」

 

 

エボルの召喚に合わせて、マッドローグが紫の靄と共に復活を遂げる。さらにその効果で Dr.Aの手札が潤う。

 

そしてここから………

 

クリムゾンモードとエボルによる………壮絶なバトルが幕を開ける。

 

 

「準備は整った………行くぞエニーズぅう!!…クリムゾンモードのアタックはエボルでブロック!!…その効果、スピリット1体のコア2つをリザーブへ送る!!」

 

「っ……!!」

【デュークモン クリムゾンモード】(6⇨4)

 

 

エボルは一瞬にしてクリムゾンモードモードとの間合いを詰め、その腹部を殴り飛ばす。クリムゾンモードは身体ごとコアを吹っ飛ばされ、横転する。

 

エボルはその後、余裕があるのか、クリムゾンモードを嘲笑するかのような仕草をしながら、自分の力を見せしめるかのように上空へと飛翔し、そこに佇む。

 

 

「くっ!!」

 

 

クリムゾンモードはケルビモンの召喚時効果でBPが低下している。今のままではこのエボルには勝てない。しかし、椎名とてここで立ち止まるわけにはいかない。

 

手札のカードを1枚引き抜き、反撃に出る。

 

 

「相手が誰だろうと…どんなスピリットだろうと……負けてたまるかぁぁあ!!フラッシュマジック、レッドカード!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨2

トラッシュ9⇨11

 

「!!」

 

 

漏れ出るほどの高いモチベーション。気合いの雄叫び。それと共に少女の手から放たれる1枚のマジックカード。それはこのバトルを一転させるもの。

 

 

「効果によりこのターン、クリムゾンモードのBPを3000アップ!!…これで合計BP14000!!」

【デュークモン クリムゾンモード】BP11000⇨14000

 

「………ほぉ?」

 

 

横転したクリムゾンモードは立ち上がると、マジックの力でそのBPを増幅させ、その身をより真紅の赤色に焦がす。これでBP13000のエボルを超えた。

 

 

「神剣ブルトガング!!……神槍グングニル!!」

 

 

椎名がそう叫ぶと、クリムゾンモードはそれに呼応するように、左手に神剣を、右手に神槍を光の力で作り上げる。そしてそれを構え、上空にて佇むエボルに向かって飛翔し…………

 

 

「いけぇ!……無敵剣…インビンシブルソードッ!!」

 

 

神剣から放たれる強靭な刺突は、エボルの腹部を貫く。エボルは堪らずクリムゾンモードの目の前で大爆発を起こした。

 

その様子を視認した椎名は、若干口角を上げて………

 

 

「よっしゃっ!!これでクリムゾンモードの効果で………」

 

 

Dr.Aを倒せる………

 

そう思った。

 

束の間だった。爆発による爆煙や砂埃が舞う中で…………確かに赤い眼光が鋭く放たれた。その存在は間違いなく倒したはずのエボル。

 

 

「っ!?……エボルは倒したはずだ!?」

 

 

そう叫んだ椎名。

 

確かに。そう確かにさっきクリムゾンモードの神剣から放たれた刺突がエボルを貫き、それを完全に破壊したはずだった………

 

 

「ヌッフフフフフ………ギッギイッヒッヒッヒ!!」

「っ!?」

「エニーズ……君が壊したのはエボルの外装に過ぎない!!………見たまえ!!」

「………っ!!」

 

 

完全に爆煙と砂埃が晴れていく………

 

……そこにはエボルを超えた存在。 Dr.Aの最強最後の切り札が……空気が痺れる程のオーラをその身に纏う異形の姿をした圧倒的な存在が……クリムゾンモードの目の前に存在していた………

 

 

「………君もさっき見ただろう?……これこそ……これこそがぁぁぁぁあ!!進化した新たな世界の神たる証のスピリット!!進化の頂点!!象徴!!」

「っ……!!」

 

 

完全に爆煙と砂埃が晴れる時……

 

Dr.Aはそのスピリットの名を叫ぶ………

 

 

「エボルト・怪人態!!」

【エボルト(怪人態)】LV3(5)BP15000

 

「……エボルは……コイツの進化前だったのか……っ!!」

 

 

エボルの白いアーマー、外装が剥がれ落ち、真なる姿を現した最凶最悪のスピリット、エボルト・怪人態。

 

互いが互いを睨み合う、圧倒的な進化の力を常に漂わせる脅威の存在、エボルの最終進化形態、エボルト・怪人態と真紅の魔竜と一体化したロイヤルナイツ、デュークモン クリムゾンモード………

 

……このハイスペックな力を保有する2体のうち、どちらかが……椎名と Dr.Aの熾烈を極める最終決戦に終止符を打つことになる。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


Dr.A「ヌッフフ、本日のハイライトカードは【エボルト(怪人態)】……!!」

Dr.A「エボルトはエボルが進化した私の切札……チェンジした時に相手のコアを多量に奪う効果とアタック時に手札を破棄する力がありますよ」


******


〈次回予告!!〉


椎名の切札クリムゾンモード。
Dr.Aの切札エボルト・怪人態。
この2体の壮絶な戦いに終止符が打たれるその時、ついに長きに渡った戦いが幕を下ろされる事になる。椎名は界放市を、世界を救う事が出来るのか……

次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「真なる深い紅をその身に纏い、邪悪なる者皆、照らし破れ」…今、バトスピが進化を超える!!


******



※エボルトのチェンジコストの確保はブラックホールフォームから1つと、賢者の樹の実の3つから用いました。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

次回で二期ラスト!!

しかもこの後夜21時より更新!!


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第94話「真なる深い紅をその身に纏い、邪悪なる者皆、照らし破れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熾烈極める椎名とDr.Aのバトルスピリッツも遂に大詰め、最終局面を迎えた。互いの最強のスピリット、クリムゾンモードとエボルト・怪人態が上空にて互いを睨み合い、対峙する。

 

この2体のBPバトルの行く末が、このバトルの結末に直結すると言っても過言ではない状況であった。

 

互いの場の状況は以下の通り……

 

 

《椎名》(ライフ1)手札4

【デュークモン クリムゾンモード】LV3(4)BP14000

 

【ディーアーク】LV2(2)

【デジヴァイス】LV2(2)

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

《 Dr.A》(ライフ2)手札3

【エボルト(怪人態)】LV3(5)BP15000

【仮面ライダーマッドローグ】LV3(4)BP9000

 

【賢者の樹の実】LV1

【賢者の樹の実】LV1

 

バースト【無】

 

 

そして今はクリムゾンモードとエボルト・怪人態のBP比べのフラッシュタイミング。エボルト・怪人態のチェンジの効果発揮が待機している。

 

 

「エボルト……それがあんたの切り札か、 Dr.A……」

 

 

椎名がエボルトを見てそう呟く。効果までは知れたものではないが、見ただけでそれがどれだけ進化の力を内包していて、どれだけ驚異的で強敵なのかは理解できている。

 

そんな椎名に対し、 Dr.Aは既にこの勝負に勝ちを確信しているのか、余裕のある表情を椎名に見せながら………

 

 

「エニーズ……これが最後のチャンスだ……」

「?」

 

 

Dr.Aが椎名を誘うように手を差し伸べる。エボルトもまたクリムゾンモードを誘うように手を差し伸べる。

 

そして、彼はその要件を述べていく。

 

 

「私と共に新たな進化した世界へと来る気はないかい?」

 

 

と、 Dr.Aは椎名に問うた。さらに続けて……

 

 

「君と私は何度でも進化を超えることができる……オーバーエヴォリューションを繰り返す事が出来る……それはつまり、このくだらない世界を素晴らしいものへと変革させる力があると言う事だ……その力を私の元でもっと有意義に使わないかい?」

「………」

 

 

椎名の持つ進化の力と言うものは……

 

デ・リーパーと一体化する事で完全なものになった。鬼化せず、その目だけに凝縮されていった。

 

椎名にはそれだけの力が存在するのだ。この世を全て塗り替えてしまうような、そんな凄まじい力が……

 

Dr.Aも同様のものを保持している。だからこそ、 Dr.Aは椎名を手中に収め、新たなる世界で子孫繁栄のために連れて行きたいのだ。

 

しかし、椎名は……

 

 

「………嫌だ」

 

 

即答。

 

即答でそれをあっさり拒否した。Dr.Aはそれを聞いて怪訝そうな表情を浮かべる。

 

 

「私は、あんたのところに行く気はない……!!」

 

 

そして強く否定した。

 

そうだ絶対に行かない。行くわけがない。椎名が今ここにいるのは消えていった仲間達を救うためだ。決して Dr.Aの仲間になるためではない。

 

さらにこの後、椎名はとんでもないことを口にし……

 

 

「あんたの言う進化の力がそう言うくだらない事のためにあるものだって言うのなら………私は進化の力なんて……オーバーエヴォリューションなんて………要らない!!」

「!!」

 

 

そう言うと、椎名はその目に宿る進化の力を抑え、消滅させる。ギルモン系譜と同じマークがその両目から消し去り、普通の人間の目となった。

 

Dr.Aにとって、そんな行為は愚の骨頂に等しい。彼は進化の力を理解しきれていない椎名に呆れ………

 

 

「なんと愚かな、せっかく世界を変革させる力を与えてやったと言うのにそれを拒絶するとは………もういい、この場で六月共々朽ち果てるがいい………」

「………」

 

 

………そして………

 

 

「………やれ!」

「!」

 

 

Dr.Aが命令を下すと、エボルトが遂に動き出す。目の前のクリムゾンモードを一瞬の内に殴りつけ、地面へと叩き伏せた。

 

クリムゾンモードが地面に撃墜した衝撃で砂埃が舞う。

 

 

「エボルトのチェンジ時効果……相手スピリットのコアを3つリザーブへ送る……ヌッフフ、これでクリムゾンモードのLVは1…………」

 

 

エボルトのチェンジ効果だ。相手スピリットのコア3つをリザーブに送れる。その効果をもろに受けて仕舞えば、コア4つのクリムゾンモードのLVは、立ち所に1となってしまう。

 

はずだったのだが………

 

 

「滅龍スピリットが効果の対象になる時、手札のグラニの効果!!」

「!?」

 

「このカード1コスト支払って召喚する事ができる」

リザーブ2⇨0⇨3

【デジヴァイス】(2⇨0)LV2⇨1

【デュークモン クリムゾンモード+グラニ】LV3(4⇨7⇨4)BP20000

 

 

砂埃が晴れると、そこにはクリムゾンモードに加え、さらに赤き飛行物体、グラニの姿があった。

 

Dr.Aは察した。グラニ効果による召喚の召喚タイミングにて、コアが除去されても大丈夫なようにクリムゾンモードにコアを置き、そのLVを保持したのだと。

 

しかも逆に合体によってBPもさらに増した。これでクリムゾンモードはエボルトのそれを上回った。

 

一気にクリムゾンモードの逆転だ。左手に神剣、右手に神槍を携え、エボルトを討つべく、グラニと共に飛翔する。

 

 

「これで私のクリムゾンモードの方が強い!!…いけぇ!」

 

 

グラニが先端からエボルトに向けてレーザーを放つ、エボルトは難なくそれを回避する。そしてその避けた先にクリムゾンモードが突っ込んでくる。隙をついてクリムゾンモードは神槍グングニルで刺突の一撃をお見舞いしようとするが………

 

エボルトは素手でそれを殴り、逆に神槍を粉々に砕いてしまう。それどころかそのままクリムゾンモードを地面へと向かって殴りつけた。

 

クリムゾンモードは辛うじて体勢を整えて空中で踏み留まる。

 

 

「甘い……甘いですね〜〜その程度で勝てるわけないでしょう?…私は神ですよ?新世界の、進化した世界の……進化の力を捨てた愚かな子供が……万に一つとして私に勝つ事など、あり得ない!!」

「!!」

 

 

Dr.Aは不気味な笑みを浮かべて、自分の手札からさらに1枚のカードを引き抜く。それはこの状況を覆すには余りにも十分過ぎるカードであって………

 

 

「フラッシュマジック!!双光気弾!!合体しているブレイヴ、グラニを破壊!!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨1

トラッシュ4⇨7

 

「っ……なにっ!?」

【デュークモン クリムゾンモード】BP14000

 

 

上空にいるエボルトが、空中で踏み留まったクリムゾンモードに手を翳すと、そこから赤々と燃え滾る火の玉が3つ、クリムゾンモードの元へと飛び行く。

 

避けきれないクリムゾンモード。その時、グラニがクリムゾンモードを護るかのように前方に瞬時に現れ、クリムゾンモードの代わりに被弾。撃墜されてしまう。

 

 

「くっ……負けるなぁ!!クリムゾンモードッ!!」

 

 

そしてその爆風、爆煙と共にクリムゾンモードがグラニの仇を討つべく、再び飛翔し、残った武器、神剣ブルトガングを左手に、果敢にエボルトに戦いを挑む。

 

スピーディな試合が繰り広げられる。だが、その神剣の一太刀一太刀は全て紙一重で容易く回避され、寧ろ一度の攻撃が終わる度にクリムゾンモードがエボルトに殴られ続けていた。クリムゾンモードの真紅の鎧が徐々に徐々にと音立てながら砕けていく。

 

このままでは勝てないと見たクリムゾンモードは神剣を今一度構え、エボルトより上空を飛び、とびっきりの一撃を浴びせようとするも………

 

エボルトはそれさえをも軽く回避し、逆にクリムゾンモードを蹴飛ばした。クリムゾンモードはその弾みで上空から神剣を地面へとこぼれ落としてしまう………

 

だが、諦めるわけにはいかないか、クリムゾンモードは蹴り飛ばされた勢いを殺し、再びエボルトの方を振り向くが、その一瞬の隙をついてエボルトはクリムゾンモードに向かって手を翳し、それを丸ごと自身の生み出したブラックホールに飲み込ませ、中に閉じ込めた。

 

エボルトがその翳した手を力強く握ると、そのブラックホールはどんどん圧縮されていき、クリムゾンモードの鎧がさらにひび割れ、音を立てながら砕け散っていく。

 

 

「くそっ!!」

「ヌッフフ、無駄ですよ〜〜……もう終わりだ……エニーズ!!……進化前の世界と共に朽ち果てるがいい!!」

「……!!」

 

 

「終わりだ」 Dr.Aにそう言われた時、椎名はハッとなって思い出した。今までの仲間達の言葉、共に過ごした苦しい時間、楽しい時間……

 

……椎名はそれを取り戻したい。元に戻りたい。そのためには、このバトル、絶対に勝たないといけない。

 

そう思うと、腹の奥底から自然と力が湧き上がってきて…………

 

 

「私の……私のバトルスピリッツにぃぃイ……終わりも…ラストも……ジ・エンドもあるもんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!」

 

 

椎名の腹の底から放たれた叫びが、空気を震撼させ、ブラックホールに閉じ込められたクリムゾンモードにまで伝わる。

 

クリムゾンモードにも椎名の諦めない気持ちが砕けた鎧の先まで浸透してきたか………力を振り絞り、その両手に光の力で鉤爪を形成し、纏わせつつ……力強い真紅の眼光を放ち、高速で回転し始める。

 

それはブラックホールをどんどん切り刻み、打ち消していき……

 

そして……

 

 

「!」

 

 

完全にブラックホールを力ずくで強引に掻き消した。クリムゾンモードはボロボロになりながらも、そこから遂に脱出を果たす。

 

そのブラックホールの形を維持するため、手を翳し、構えていたエボルト。それが元の姿勢に戻り、構え直すほんの一瞬、わずかな時間。クリムゾンモードは回転した状態、遠心力に身を任せ、エボルトに接近していき…………

 

……その赤い光の力で形成した鉤爪で、エボルトを一閃………しかし、エボルトはまたその攻撃を紙一重で容易く避けた………

 

……かに思えたが……

 

 

ーピキィッ!!

 

 

「なにっ!?」

 

 

驚嘆の声を上げる Dr.A。それもそのはずだ。何せ、無謀かと思われたクリムゾンモードの一撃。それは決してヤケクソではなく、しっかりとエボルトの胸部に傷を負わせていたのだから……

 

……そして……

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!」

 

 

これに怯んだエボルトに向かって、クリムゾンモードはさらにそれを目まぐるしい速度で殴り、蹴り、また殴っては蹴り、殴っては蹴りの追撃を何度も仕掛ける。

 

これまで圧倒的な強さで無敵を誇っていたエボルトに嘘のような連撃が通っていく。

 

 

「……っどうなっている!?」

 

 

突如始まった猛追、猛反撃に、これまで終始余裕だった Dr.Aの表情が崩れ去っていく。自分の最強のスピリットが不完全な存在に殴り飛ばされている。それだけで既に屈辱の塊だと言うのに…………

 

……自分は史上最強のカードバトラーで尚且つ神に等しい進化の力を持つ存在だというのに……こんな自分が作った存在に負けていいわけがない。

 

しかし、現実は嘘をつかない。クリムゾンモードはエボルトをそのまま下へと蹴り飛ばす。エボルトはなんとか空中で体勢を整えて踏み留まるも、右腕の鉤爪を前方に突き出しながら、クリムゾンモードが上空から更なる追撃を仕掛けてきた。

 

これにエボルトは咄嗟に左手からビームバリアを形成し、ガードするが、上からの圧力もあってか、クリムゾンモードの鉤爪に押されつつあった。

 

 

「何故だ!!何故だ何故だ何故だ何故だぁ!!……君は私が作った存在だ!!サンプルに過ぎないんだぞぉお!!…私の力よりも優れているわけがない!!……不完全な存在のくせに…完全な存在の、私のエボルトを殴るなぁぁぁあ!!」

「うるさいっ!!あんたが作ったのは私の身体だけだ!!この中には……この不完全で空っぽだった身体の中には……真夏やじっちゃん、司や雅治!!……いろんな人達の大切な思い出が詰まってるんだ!!……そんな私が……何もないあんたなんかに、負けるわけないだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!」

 

 

椎名はまた強く叫び、手札のカードを1枚抜き取って、最後のフラッシュ宣言を行う。

 

それは彼女を勝利へと導くキーカード……

 

 

「フラッシュマジック!!…2枚目のレッドカード!!」

手札3⇨2

リザーブ3⇨1

トラッシュ12⇨14

 

「っ!?」

 

「この効果により、このターン、クリムゾンモードのBPを3000アップ!!……これでBP15000を超えた、BP17000となるっ!!」

【デュークモン クリムゾンモード】BP14000⇨17000

 

 

このターン、二度目となるレッドカード。その効果でクリムゾンモードのBPがさらに上昇する。それに伴って今一度眼光を強く放ち、右手の鉤爪をエボルトのバリアへと押し込んで行き、そこに亀裂を生じさせる………

 

……そして、

 

そのバリアは豪快に砕け散り、クリムゾンモードの鉤爪の一撃はエボルトの左腕を切断する。

 

呻き声を上げながら地面へと叩きつけられるエボルト。しかし、その目の前にはクリムゾンモードが落とした神剣ブルトガングがあり、エボルトは残った右手でそれを拾い上げると、同じく地に足をつけたクリムゾンモードへとすぐさま襲いかかるべく走り出した。

 

クリムゾンモードも同じく鉤爪を構え、低空飛行でエボルトへと迫っていき………

 

 

「う、ぅぅぅう!!!!…私は負けない!!負けないんだぁぁ!!神だ、私は神なんだぁぁぁあ!!」

「そんな勝手な神がこの世にいてたまるかぁぁぁぁあ!!……神様なら神様らしく、私達の行く末を、黙って見守れぇぇぇぇ!!」

 

 

刹那。

 

クリムゾンモードの右腕の鉤爪の一撃と、エボルトのクリムゾンモードから奪い取った神剣の一撃の一閃が衝突する。どちらかの攻撃が敵を貫き、どちらかの一撃が不発に終わっている。

 

最初と同様に互いを睨み合うクリムゾンモードとエボルト………

 

エボルトの剣はクリムゾンモードの腹部を僅かながらにそれており、クリムゾンモードに致命傷は与えられなかった………

 

だが、クリムゾンモードの鉤爪は………

 

 

ーバキィッ!!

 

 

しっかりとエボルトの胸部と腹部の間を貫いていた。エボルトが力尽き、爆発すると見たクリムゾンモードは右手の鉤爪をエボルトから引き剥がすと、そのまま後方へと離脱。

 

エボルトは流石に耐えられず、倒れ、激しい断末魔を上げながらクリムゾンモードの神剣共々大爆発を起こした。

 

 

「う、ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

眼前の光景が信じられないような様子で、気が狂って叫びだすDr.A。

 

だが、いくら叫んだところでこれが現実だ。椎名の今までの集大成がDr.Aの進化の力のそれを凌駕したのだ。

 

これで本当に終わりだ。このタイミングでクリムゾンモードのアタック時効果が発揮される。

 

 

「クリムゾンモードのアタック時効果!!…トラッシュにあるスピリット3枚につき1つ、相手ライフを破壊する!!」

 

 

今現在、Dr.Aのトラッシュにあるスピリットカードは7枚。ライフを2つ破壊できる。そして、今の彼のライフも2。

 

クリムゾンモードは鉤爪を消滅させ、その右手に今一度神槍グングニルを形成し、握ると、そのままその拳を Dr.Aへと向けて、槍から拳へと赤い光の力を一点に集中させる。

 

 

「……神槍の一撃……クォ・ヴァディスッ!!」

 

「……っ、…う、うァァァォァァォォア!!」

ライフ2⇨0

 

 

クリムゾンモードは拳から赤い光を一点に発射し、 残ったマッドローグさえをも蹴散らして、Dr.Aのライフを一気に2つを一瞬で破壊した。

 

長きに渡るバトルもついに決着がついた。勝者は最後まで本当の自分を信じ続けた芽座椎名の勝利だ。

 

ただ、この時、ちょっとした異常が発生する。

 

 

「う、ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!!!……私の……私の進化の力がぁぁぁぁ!?…抜けていくぅぅぅぅぅ!!」

「!?」

 

 

Dr.Aの体内からみるみるうちに謎のエネルギーが漏れ出していく。それが抜けていくたびに、 Dr.Aは若い姿を保てなくなっていき、どんどん肌がシワシワになり、腰が曲がり、老けていく。

 

そして、元の老人の姿に戻ってしまった………

 

さらに椎名の勝利は界放市全体にも影響を及ぼしていく。デ・リーパーの壁は消えていき、空は明るい空を取り戻す。そして消えていった街の人々も次々と復活していく。

 

中央スタジアムにて、銃魔とのバトルで無茶をし、身体が動かなくなった司は仰向けになりながらその光景を眺めると、「フッ」と鼻で笑った。その笑い方は安堵感が伝わるものであって…………

 

そして場所は戻り地下最深部、ここでも消えた人間が蘇る。それは芽座六月。デジタル粒子が彼の身体を形成していき、復活させた。椎名はその様子に、若干感涙する。

 

 

「……じ、じっちぁぁん!!」

「ほっほ!!泣き顔もかわいいのぉしいなぁ!」

 

 

六月はそうふざけながらも察した。椎名があの後、自分の代わりに Dr.A。徳川暗利と戦い、勝利を収めたのだと。

 

六月はこうなる事を確信していたからこそ、自分が復活したことに疑問を抱くことなく寧ろふざけていた。

 

 

「椎名……よく頑張った……この18年、お前を育ててきた事、本当に嬉しく思っとる!!」

「……へへ!!」

 

 

六月にそう言われ、椎名は明るく笑いながら、照れ臭そうに鼻の下を人差し指でさすった。

 

 

「椎名……後の事は、暗利の事はワシに任せてくれぬか?……お前は先に上に上がっておれ…」

「え、でもまだ Dr.Aは……」

「安心せい、もうあいつには反撃の力も残っとらん……早く街の様子を見て来い」

 

 

六月は最後にゆっくりと暗利、 Dr.Aと1対1で対話したいのか、椎名を先に上に上がらせようとする。確かに Dr.Aも今ではもはや単なる弱々しい老人と化してしまい、ぐったりと倒れているし、何の力も感じられない。

 

椎名はこれは大丈夫だと確信して……

 

 

「わかった……後は任せたよ」

「ほっほ」

 

 

椎名は覚束ない足取りで今度は地下から上へと階段を上っていった。

 

そして、椎名の姿が見えなくなったところで、六月は倒れているDr.Aの元へ行き、腰を下ろし、膝を曲げた。

 

 

「よぉ、暗利……」

「六月……私はただ、ただ、戦争のない世界を……穏やかに佇む海を、鳥だけが自由に飛ぶ空を見てみたかっただけなんだ………」

 

 

Dr.Aの狂気に満ちていた性格も椎名に負けたから一変。進化の力を酷使し過ぎたのが原因か、すっかり弱々しくなり、良くも悪くも立ち振舞いが歳相応になる。

 

 

「馬鹿野郎、どう考えてもやり方が違うじゃろ……」

「それ以外のやり方がないから私はそうしたんだ………」

 

 

六月の言う通り、やり方が間違えている。いくら最善の思想を抱えても、そのやり方が間違っていれば、それは最早ただ悪。

 

しかし、 Dr.Aも頑なにそれを否定しようとはしない。

 

 

「なぁ暗利よ、ワシらは何故違った?」

「?」

「お前1人が考えたことなんてちっぽけなもんじゃ、ワシと、今はいないが相落の3人で考えれば、もっといい何かがあったはずじゃ……」

「……」

「罪を償え、暗利よ、償って、必ずお前の野望を達成しろ!!そんな時はワシも力になるぞ!!」

 

 

六月は……

 

何故ここまでした自分にここまで優しく接する事が出来るのか、さっきまではあんなに2人していがみ合って、昔話に花を咲かせる気は無いと言ったはずなのに。

 

何故、最後の最後に友情という見返りが付いてくるのか……暗利には到底理解し得ないものだった。

 

 

「六月……どちらにせよもう遅い、私は進化の力を酷使し過ぎた……もうすぐこの世から消える……」

「!!」

 

 

暗利がそう言い、六月がふと暗利の体全体を見渡すと、彼の体は足元からゆっくりとデジタル粒子となって消滅しようとしていた。

 

 

「別に構やしないさ、私は先に相落の元へ行くだけだ。罪滅ぼしならそこでさんざやってやろう………」

「暗利……」

「六月………お前は……お前だけは……後でゆっくり………来い………」

 

 

暗利は最期の最後にそう呟くと、体全てがデジタル粒子に変換され、完全に消え去った。

 

その最後の言葉は……彼にとっての僅かながらの会心のつもりだったのか、そんなニュアンスを感じずにはいられなかった。

 

六月は不思議と、彼との思い出が蘇り、哀しみを覚え……その床を濡らした。

 

これが約18年間世界を引っ掻き回した狂気の悪の科学者、 Dr.A、本名徳川暗利の最後だった。

 

 

******

 

 

椎名はゆっくりと地下の階段を上っていた。デ・リーパーをその内に内包したためか、Dr.Aを倒してから、デ・リーパーが作ったあの壁は完全に消え去ったと言うことはなんとなく理解できた。

 

後は消滅してしまった他のみんなが心配だった。無事に帰って来れているのか、それだけが………

 

……そして、椎名はついに中央スタジアムのバトル場に戻ってきた。そこには………

 

 

「……誰も……いない……!?」

 

 

誰もいなかった。司さえも存在せず、ただただ椎名は1人で広大な界放市の中央スタジアムに立っていた。椎名はみんな消えてしまったのではないかと、一抹の寂しさを感じてしまうものの…………

 

 

 

「おぉ〜〜〜い!!」

 

 

誰かの声が椎名の耳に聞こえてきた。間違いなく自分を呼んでいる声だ。そしてその声主は………

 

 

「……真夏っ!?!!」

 

 

真夏だった。走ってこっちへと向かって来ている。

 

さらに………

 

 

「椎名!!」

「椎名ちゃん!」

「雅治……夜宵ちゃん!!」

 

 

雅治と、皆んなが心配で避難所から駆けつけて来た夜宵の姿も見える。

 

 

「椎名!!」

「芽座さん!!」

「晴太先生!!……兎姫先生!!」

 

 

晴太と兎姫の姿もそこにはある。この5人だけでは無い。大勢の人々が椎名の名前を呼んで集まって来ていた。まるで椎名の勝利を称えるかのように………

 

そして椎名を囲むように皆集結する。ざっと見ても50人はいるだろう。

 

椎名はみんなが無事だったことに安堵感を覚えらと共に、ずっと1人で心細かったのもあって思わず感涙してしまう。

 

 

「……みんな……っ!」

「ほら、泣くな泣くな椎名!!」

 

 

涙する椎名を励ます真夏。椎名は袖で全力で涙を拭うと、いつものように明るく笑って……こういうのだった。

 

 

「みんな……今日はせっかくこの中央スタジアムが貸切なんだ………だからさ……めいいっぱいバトルしよう!!気がすむまでとことん!!」

 

 

椎名がみんなに対してそう言うと、如何にもバトル好きな芽座椎名らしい発言に、周りの人達は全員口を押さえ、又は腹を抱えて笑いだした。

 

 

「めざし……認めてやるよ、今のお前は俺より強い……だが、今だけだ……俺はいずれ、必ずお前を超える!!……そしてお前は、俺にできた2人目の親友だ」

 

 

スタジアムの裏で椎名達を見つめながらそう呟く赤羽司。そして若干口角を上げ、笑みを浮かべながらこの場から去っていった。

 

一方スタジアムのバトル場では、皆しっかりとBパッドとデッキを構えており………椎名はそれを視認すると、自分もデッキとBパッドを抱え、空いてる人差し指を天に掲げながら、こう宣言するのだった。

 

 

「よっしゃぁっ!!じゃあ行こう!!………せぇぇぇのぉっ!!」

 

 

ー『ゲートオープン、界放!!』

 

 

栄誉ある界放市中央スタジアムから、バトスピの始まりのコールが聞こえてくる。

 

この後に【A事変】と呼ばれる今回の大きな事件が与えた界放市への甚大な被害は計り知れないものだった筈だ。

 

しかし、天地が避けようとも、家々やビルが崩壊しようとも、人が生きてさえいれば、人の心さえ死ななければ街が死ぬことは決して無い。活気あふれたこの様子を見るに、すぐさま元に戻っていくはずだろう。

 

ただ、今だけはそんな被害の事など全く気にする事なく、椎名達はバトルスピリッツという世界一熱いカードゲームを楽しんだ。心の底からワクワクするような、沸騰するような、熱いバトルを………

 

 

バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ

 

二期

 

ー完ー

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【デュークモン クリムゾンモード】!!」

椎名「クリムゾンモードはチェンジの効果でスピリットを破壊しつつ、アタック時効果で相手のライフを根こそぎ奪う効果を発揮できるよ!!まさしく、デュークモンの最終進化形態!!」


******


〈次回予告!!〉


Dr.Aが巻き起こしたA事変から2ヶ月後、遂に椎名達も3年生に進級する。だが、これまでの戦いの影響なのか、椎名は今までのような明るさは無く、真夏達に対しても距離を取っていて………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「襲来!!新たな敵は赤羽茜!?」…今、バトスピが進化を超える!!


次回からは三期第1章「椎名と仲間達編PART3」と銘打ってお届けいたします。


******


※次回サブタイトルは変更の可能性があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

長かった二期もようやく終わることができました。次回からは三期の幕開けです。椎名達もいよいよ3年生になります。ですが、三期の敵側のインパクトをより色濃く残したいので、頭の3、4話くらいは日常話はやらないつもりでいます。

読者の皆様、これからもご応援の方をよろしくお願い致します!!

三期の椎名に関しては、実は【1周年記念特別編 椎名VS弾】で弾が椎名の最後のライフを破壊する直前に言ったセリフにわかりづらいですがちょっとした伏線がありました。特別編ですから時系列は関係ないんですけどね。


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【三期】第1章「椎名と仲間達編PART3」
第95話「襲来!新たな敵は赤羽茜!?」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく……ようやくこの時が来たのですね……」

「……あぁ、2000年だ……2000年という年月、妾はこの時を待っていた…………妾から【進化の力】を奪った愚かな人間共に復讐できる……この時を……!!」

 

 

荒れ果てた荒廃。

 

これでもかと倒壊した瓦礫の山。本来ならば人1人の気配すら感じ得ないこの場所に、そのフードを被った女性はいた。そしてその側には手下なのか、彼女を崇め、敬うように膝をつく黒髪の男性が1人………

 

2人のその声色からは憎悪を感じる。それはとても深く、悍ましいものである。

 

そんな彼らのその怒りの矛先は人間という種族。

 

今、芽座椎名の最後の物語が幕を開けようとしていた。

 

 

******

 

 

Dr.A、本名徳川暗利が起こしたA事変から約2カ月。デ・リーパーの分身体達によって壊された界放市の街並みも、今は殆どが修復されていた。界放市市長の損失の穴も学園の理事長全員で率先して穴埋めを行なっている。

 

そして、時期も春が訪れた事もあって、界放市の学園生だけでなく、界放市全ての者達が新たな生活のスタートラインに立っていた。だが、変わったと言えばそれだけで、他の点について言えば対して変わることはない。

 

だが、たった1つ、たった1つだけ変わり果ててしまった人物が1人…………

 

 

 

「おぉ〜〜い、椎名ぁ!」

「!」

 

 

界放市立バトスピ学園 ジークフリード校。

 

今は放課後の時間。

 

校舎内の廊下にて、関西訛りの強い少女、緑坂真夏が、オレンジの髪とツノのようなアホ毛、首から下げたゴーグルが特徴的な少女、芽座椎名に話しかけてきた。

 

 

「なぁ椎名、これからカラオケでも行かへん?…3年なって、勉強勉強言われてストレスやろ?ここらでぱあっと発散しとこうや!!」

 

 

上機嫌で尚且つ乗り気な感じで真夏が椎名をそう誘った。

 

しかし、椎名は霞んだように小さく笑うと………

 

 

「いや、今日は遠慮しとくよ……また今度ね」

「……そ、そうか……暇あったらいつでも言いや!!」

「あぁ、あったらね」

 

 

こんな感じで断られてから、いったい何度目になるだろうか。

 

椎名は素っ気なくて、それでいてやや冷たい態度のまま、静かにまた歩みを進めた。おそらく校舎を出るつもりなのか、靴箱の方がある道を辿っていった。

 

そんな椎名の寂しそうな背中を、真夏はただただ同じように寂しく見つめることしかできなかった。

 

 

「変わったね、椎名」

「…長嶺……」

 

 

真夏に話しかけてきたのは茶髪の少年長嶺雅治。彼とて、椎名の目まぐるしい変化に気づかないわけがなく……

 

 

「何というか、大人になったって言うのかな?」

「………もうあたしらの知っとる椎名とちゃうんかな……」

 

 

2人は椎名の存在が遠く感じていた。ほんの少し前まではあんなに近くで寄り添っていたと言うのに………

 

原因は、やはりあのA事変だろう。

 

もうあんな事気にしなくても言いと言うのに………

 

 

 

そしてそんな生徒達のやりとりを裏でこっそり聞いていた人物が1人………

 

……彼らの担任の教師、空野晴太だ。何やら椎名の態度に真夏達同様不満な表情を浮かべており………

 

 

******

 

 

「……3枚目のインペリアル……」

 

 

夕方だが、未だに空が橙色にも染まらない時間帯。椎名は河川敷の草原で寝転がり、黄昏ながらある1枚のカードを見ていた。それはあの時、 Dr.Aと戦う前に手渡されたインペリアルドラモンのカード達、その1枚

 

インペリアルドラモン パラディンモード

 

このカードだけは他2枚とは違い最初から名前しかなく、他のテキストは一切存在しなかった。当然バトルでは使えない。

 

後で六月に聞くと、他の2枚は昔、このカードに力を与えられた自分のオーバーエヴォリューションで手に入れたのだと言う。このパラディンモード自体は芽座一族の祭壇のような遺跡に最初からあったそうなのだ。

 

このカードが何なのかはわからない。当然ロイヤルナイツでもない。本当に謎めいたカードなのだ。

 

だが、椎名はこのカードを手にしてから妙な予兆を感じるようになっていた。

 

それはまるで【これからまたこの街に何かが起ころうとしている】………そんな嫌な予感だ。

 

 

「……椎名っ!!」

「っ………先生」

 

 

そんな時だった。考える椎名に話しかけてきたのは他でもない、担任の空野晴太。

 

 

「おいおい、今日は暇だったのか?それなら別に真夏と一緒にカラオケ行ったって良かったんじゃねぇか?」

「聞いてたのか……別にいいだろ?…行きたくなかったんだから」

 

 

椎名を問い詰めようとする晴太。しかし、椎名はそれに対しても素っ気ない冷たい態度で言い返す。

 

 

「お前……界放市の英雄になってから変だぞ……余りにも変わりすぎだ、いったい何があったんだ」

 

 

晴太とて、椎名があの時どれだけの重荷を背負ってDr.Aと戦ったのか理解できる。辛かったに違いない。こんなに若いのに世界の命運を懸けて戦ったのだから………

 

が、先ずは相談して欲しかった。

 

自分は教師だから。担任だから。

 

 

「別にどうってことはないさ、私は私………今も、そしてこれからも………」

 

 

椎名はまたもや晴太に対して素っ気ない態度で返事をする。そして、立ち上がり、カバンを背負って帰宅しようとした……………その時だった。

 

 

「っ!!…誰だ!!」

「?」

「どこにいる……姿を現したらどうだ!!」

 

 

椎名はこの一瞬のうちにただならぬ気配を感じた。

 

その気配は一言で言うならば【悪意の塊】……悍ましい何かを感じた。普通の人である晴太にはそれを感じる事は出来ず、ただただ不思議そうに首を傾けた。

 

……そしてその悪意の塊は姿を、正体を見せる。

 

 

「ほぉ?…妾の気配に気付くとはやるな、芽座椎名」

「………私もただの人間じゃないからね。あんたみたいな悪意の塊みてぇな奴の気配は直ぐにわかるよ」

「悪意の塊とは心外じゃの」

 

 

黒い靄が唐突に2人の前に姿を現したかと思うと、それが晴れると共にフードを深く被った1人の女性が現れた。それこそ、椎名が感じた悪意の塊の正体。

 

 

「パラディンモードのカードは其方が待っておるな?」

「なに?」

「それは妾のカードだ……返してもらうぞ」

 

 

その女性は椎名のパラディンモードが狙いなのか、突如それを要求してくる。そもそもこのカードの存在を知っているのは椎名と六月を含めたごくわずかな人間だけだと言うのに。

 

 

(……なんだ……こいつの声は……やけに聞き覚えがある)

 

 

そんな彼女らのやり取りの最中、晴太はそんな事を考えていた。この突然現れた女性の声色。確かに晴太には聞き覚えがあった。

 

だがその謎も直ぐに解き明かされる事となる。

 

 

「このカードは私がもらったんだ……あんたみたいな奴には絶対に渡さない……!!」

「小娘が粋がりおって……いいだろう、なら力づくで奪うまでじゃ!!」

「「!!」」

 

 

女性がフードを脱ぎ捨て、その素顔を露わにすると同時に、懐から取り出したBパッドを展開、バトルの準備を瞬時に行った。

 

晴太は驚愕した……その容姿。紛う事なきあいつだった。自分の生涯のライバルであったあいつだ。

 

 

「あ、茜?」

「っ……先生?」

「お前は赤羽茜なのか!?」

 

 

その女性に対してそう言い放つ晴太。

 

そうだ。その女性は赤羽茜その人だった。見間違えるはずがない。炎などよりももっと滾っている赤い髪。その顔。

 

 

「赤羽茜?……赤羽………!!……そうか赤羽茜、司の姉ちゃんだ」

 

 

椎名もようやくその顔を思い出す。以前、赤羽一族の家で見た司の姉、赤羽茜の写真。今目の前の女性は紛う事なきその人物だった。

 

 

「其方、【この肉体の身内】か?」

「何言ってんだよ茜……俺だ!!晴太だ!!こんな口のうるさい奴、忘れたとは言わせねぇぞ!!」

 

 

目の前の信じられない光景に気が動転してしまう晴太。目の前の現実から目を背けられない。死去した自分のライバルが突然眼前に現れたのだ。無理もないが………

 

……椎名にはわかる。

 

あれは……

 

 

「先生、あいつは司の姉ちゃんじゃない、私にはわかる!!」

「っ!!……椎名……」

 

 

椎名の一言で晴太は我に帰る。

 

そうだ。茜は確かにあの日、持病で命を落とした。あの後は葬式もした。焼却もした。確実にいないのだ。もうこの世には………

 

 

「さぁかかって来い芽座椎名……妾のインペリアルを返してもらうぞ……!!」

「待てよ椎名、じゃあ【肉体】って言うのは……」

「それはわからない。でも確実に中身は全くの別人だ……さっきも言ったけど、あれはただの悪意の塊。司の姉ちゃんと思わない方がいい」

 

 

そう言うと、椎名もまた自分のBパッドを展開してバトルの準備を瞬時に行う。

 

 

「おい椎名!!まさかこのバトルを受ける気じゃないだろうな!?」

「バトルしないと何も始まらないだろ?」

「待て待て、じゃあ俺が……」

「先生は下がってろ、敵さんもどうやら私をご指名みたいだしね」

「!!」

 

 

バトルに挑もうとする椎名を止めようとする晴太。代わりにやろうともするが、椎名の途方も知らないオーラ、その口から発せられる威圧感のある声。また、赤羽茜と同じ姿をしている女性のオーラが、まるで自分を近づかせず、それを拒んだ。

 

情けない。とも教師として思ったが、おそらくバトルを拒んだ本当の理由は目の前が赤羽茜だからだろう。晴太が本気を出せるわけがない。

 

この場は椎名を、自分の生徒を信じるしか彼に道はなくて………

 

 

「準備は良いか芽座椎名?」

「あぁ、上等だ……いつでも来い」

 

 

そして、芽座椎名と赤羽茜に似た女性のバトルが、この河川敷にて幕を開ける。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先行は赤羽茜に似た女性だ。

 

 

[ターン01]赤羽茜?

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ……来るがいい、運命の蠍座……スコーピオン・ゾディアーツ!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【スコーピオン・ゾディアーツ】LV1(1)BP1000

 

「……見たことないスピリットだ……」

「紫、やはり椎名の言う通り、奴は茜じゃないのか……」

 

 

場に蠍座の星座が輝いたかと思うと、黒い靄と混ざり合い、頭部が蠍のような形をしている怪物の姿へと変化を遂げる。その名はスコーピオン・ゾディアーツ。紫のスピリットだ。

 

見たこともないスピリットに椎名は改めて気を引き締める。

 

 

「召喚時、1枚引く……妾の番は終わり」

【スコーピオン・ゾディアーツ】LV1(1)BP1000(回復)

 

バースト【無】

 

 

いくら椎名や晴太も知らない未知のカードを使うと言えども、先行の第1ターン目ではこの程度か、早々に椎名のターンが回ってきた。

 

 

「未知なるカード……上等だ……どんなバトラーやスピリットが相手だろうと、私は勝つ……」

「……椎名……」

 

 

変わり果てた椎名の声色、言動。堂々としている点では同じかもしれないが、その様子はまるでバトスピを楽しんでいないかのよう、ただ精密にバトルをこなそうとしているかのようだ。

 

そんな芽座椎名のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ……来い、ギルモン!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

【ギルモン】LV2(2)BP4000

 

「……真紅の魔竜か……鬼の雑兵のスピリット如きが妾に逆らおうと言うのか……!!」

 

 

椎名が初手で呼び出したのは、真紅の魔竜、その成長期の姿、ギルモン。成長期宛らに小柄だが、力強さと才覚は確かにその内に秘めている。

 

 

「アタックステップ………ギルモン、いけぇ!」

 

 

颯爽とギルモンで敵陣へと殴りかかる椎名。ギルモンが二本の脚で勢いよく走り出した。目指すは当然敵のライフ。

 

 

「妾で受けよう……っ」

ライフ5⇨4

 

 

そのアタックをライフで受ける女性。ギルモンがその鋭い大きな爪でライフを1つ切り裂いてみせた。

 

 

「……ターンエンド」

【ギルモン】LV2(2)BP4000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとする椎名。次は再び女性のターンだ。

 

 

[ターン03]赤羽茜?

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ……来るがいい、運命の天秤座、リブラ・ゾディアーツ!!」

手札6⇨5

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

【リブラ・ゾディアーツ】LV2(3)BP5000

 

「っ……今度は天秤座……」

 

 

天秤座の星座が浮かぶと、今一度黒い靄と共に、今度は長い触覚と杖をついている怪物へと変化を遂げる。

 

 

「召喚時効果、3枚見、その中の対象札1枚を加える」

オープンカード↓

【スコーピオン・ゾディアーツ】◯

【旅団の摩天楼】×

【レオ・ゾディアーツ】◯

 

 

リブラがその杖を地面につくと、女性のデッキから3枚のカードがめくれ上がる。彼女はその中の対象となるカード、【レオ・ゾディアーツ】のカードを新たに手札へと加え、残りはトラッシュへと破棄した。

 

 

「さて、妾も攻めるとしようか、アタックステップ………スコーピオン、リブラ……あの小娘に力の差を見せつけてやれ!!」

手札5⇨6

 

 

女性の指示1つで走り出す2体のゾディアーツ。目指すは当然椎名のライフ。前のターンでアタックを仕掛けたことから、それを守るものは存在せず…………

 

 

「ライフで受ける………っ」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

スコーピオンが腕にある蠍の尾のような爪で、リブラが杖の先端部による刺突で、それぞれ椎名のライフを1つずつ破壊した。

 

 

「妾の番は終わり」

【スコーピオン・ゾディアーツ】LV1(1)BP1000(疲労)

【リブラ・ゾディアーツ】LV2(3)BP5000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

そのターンをエンドとする女性。次は今一度椎名のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

【ギルモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、ブイモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨3

【ブイモン】LV1(1)BP2000

 

 

椎名が新たに召喚したのは青い小竜型の成長期スピリット、ブイモン。

 

 

「まだいくぞ……マジック、ブルーカード!!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

トラッシュ3⇨5

 

「!」

 

「このカードの効果により、自分のデッキの上から4枚オープン、その中の進化系スピリットを色が一致するスピリットに進化させる!!……カードをオープン!!」

オープンカード↓

【ディーアーク】×

【インペリアルドラモン ファイターモード】×

【ワームモン】×

【デュークモン】◯

 

 

なんの迷いもなく手札のカードを次々と切っていく椎名。そしてブルーカードの効果も成功。見事にギルモンの赤と一致する色を持つデュークモンを引き当てた。

 

 

「よし……来い、デュークモンッ!!」

【ギルモン】(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ5⇨6

【デュークモン】LV1(1)BP9000

 

 

ギルモンの足元から青色のカードが潜り抜ける。ギルモンはその中で姿形を大きく変え、槍と盾、白い鎧と赤いマントを携える聖騎士型のデジタルスピリット、デュークモンへと進化を遂げた。

 

 

「……デュークモン……そうか、今は芽座椎名の切札か……」

「何をぶつぶつ言ってる……私のバトルは甘くないぞ……アタックステップ!!…デュークモンでアタック!!」

「!」

 

 

まるで椎名のデュークモンの事を知っているかのような口ぶりで呟く女性。しかし、それも束の間。椎名のエースであるそのデュークモンが動き出す。

 

 

「デュークモンのアタック時効果!!…シンボル2つ以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!」

「私が破壊するのはスコーピオン・ゾディアーツ!!……やれ、デュークモン、聖槍の一撃……ロイヤルセーバーッッ!!」

 

 

デュークモンがスコーピオンへと右腕の槍を構えると、その先端から光の力が凝縮された強力なビームを一点にそこへと放つ。

 

スコーピオンは避ける間も無くそれに腹部を貫かれ、力尽き、爆発を起こした。さらにこの際、スコーピオンには破壊時効果があったのだが、それもデュークモンの効果でねじ伏せられていた。

 

 

「アタックは続いているぞ……!!」

 

「っ……妾の身で受けよう」

ライフ4⇨3

 

 

爆発による爆煙が晴れるその時、デュークモンは既に女性の目の前に存在しており、そのままそのライフ1つを自慢の槍で貫いた。

 

 

「続けブイモン……!!」

 

「それもじゃ……っ」

ライフ3⇨2

 

 

デュークモンのアタック後、すぐさまブイモンも地を駆ける。そしてそのままそのライフを強靭な額で1つ粉々に砕いた。

 

 

「……ターンエンド」

【ブイモン】LV1(1)BP2000(疲労)

【デュークモン】LV1(1)BP9000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

エースであるデュークモンを起点にアタックを仕掛け、そのターンをエンドとする椎名。次は女性のターン。もう手加減はしないと言わんばかりの挙動でそれを進行していく。

 

 

[ターン05]赤羽茜?

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨6

トラッシュ2⇨0

【リブラ・ゾディアーツ】(疲労⇨回復)

 

 

「妾のメインステップ……其方のそのデュークモンさえ破壊して仕舞えば妾の勝ちは確実のようじゃな」

「………」

 

 

謎の女性は椎名のデュークモンをそう捉えている。バトスピというゲームの関係上、別にデュークモンを倒しても勝てるわけではないが、確かに今のデュークモンさえ倒して仕舞えばかなり有利になる事だろう。

 

 

「来るがいい、運命の獅子座……レオ・ゾディアーツ!!……強さは2、コアはリブラから用い、確保」

手札7⇨6

リザーブ6⇨0

【リブラ・ゾディアーツ】(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ0⇨5

【レオ・ゾディアーツ】LV2(3)BP10000

 

「!」

 

 

今度は獅子座の星座が浮かぶと、また黒い靄と混ざり合い、白い怪物が姿を見せる。その頭部は獅子座の名にそぐわない獅子の顔を連想できるものであって………

 

 

「アタックステップ……行くがいい獅子座のレオ……その剛力を見せる時じゃ!……効果により、墓地に眠るスコーピオンの効果を発揮させ、妾は札を引く」

手札6⇨7

 

 

アタックステップに入るとともに二本の足で地を駆けるレオ。目指すは当然………

 

 

「さらにその力により、疲労状態のスピリット1体を狙う…先ずはブイモンとやら……餌になるが良い」

「!」

 

 

レオが狙っていたのは椎名のライフではなく、ブイモン。レオはブイモンに高速で接近し、鋭い爪を持つ腕でそれを容易く切り裂いた。

 

さらにそれだけではなく………

 

 

「レオが狙ったスピリットは問答無用で破壊され、さらにレオは回復する」

【レオ・ゾディアーツ】(疲労⇨回復)

 

「!」

 

 

レオはその身に黒いオーラを纏う。それは自身が回復している証拠。これで二度目のアタックが可能となった。

 

 

「さぁ、次は当然、デュークモン……其方じゃ!」

手札7⇨8

 

「!」

 

 

レオが次に狙いを定めたのはデュークモン。そしてその時、再びスコーピオンの効果がコピーされ、女性はカードを引いた。

 

今度はデュークモンが効果で破壊され、また回復するかと思われたその時、椎名の手札が光る。

 

 

「滅龍スピリットが相手の効果の対象となった時、手札にあるグラニの効果!!1コスト支払ってデュークモンに直接合体するように召喚」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

トラッシュ6⇨7

【デュークモン+グラニ】LV1(1)BP15000

 

「…!」

 

 

デュークモンのすぐ横に、どこからともなく赤い飛行物体、グラニが出現する。これでレオのBPは上回ったが………

 

 

「愚かな、いくら力を上げてもレオは狙ったスピリットを効果で破壊する……!!」

 

 

そうだ。さっきのブイモンもレオの効果で破壊されていた。デュークモンに対してもレオはその鋭い爪をデュークモンの鎧に突きつけて貫こうとする………

 

が………

 

 

「……ふっ、それはどうかな?」

 

 

椎名はこの光景を見るや否や、鼻で笑い、口角を小さく上げた。

 

それもそのはず、そのレオの鋭利な爪は全くデュークモンの鎧を通さないどころか、傷一つつかないのだから。

 

 

「なに!?」

「残念だったね、グラニの効果を受けたデュークモンはこのターン、相手の効果では破壊されない……!!」

「!」

「反撃だ……いけ、デュークモンッ!!」

 

 

椎名の叫びと共に、その眼光を強く放つデュークモン。その右手の槍を振るい、レオを吹き飛ばす。それでも尚果敢に迫ってくるレオに向けて、デュークモンはさらに盾に真紅の力を充填させていき………

 

 

「聖盾の一撃……ファイナル・エリシオン!!」

 

 

そこからそれをレオに向けて一点に放出。レオはなす術なくそれに包み込まれ、身体ごと掻き消され消滅してしまう。

 

 

「……くっ」

「どうした、そんなもんか?……そのチンケな天秤で殴ってもいいんだぞ」

 

「っ………妾の番は終わり」

【リブラ・ゾディアーツ】LV1(1)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

腑に落ちない表情のまま、女性はそのターンをエンドとする。次は椎名のターン。がら空きとなった場にトドメの一撃を送る。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

【デュークモン+グラニ】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……デュークモンのLVを最大にして、アタックステップ……デュークモン、いけぇ!」

リザーブ8⇨3

【デュークモン+グラニ】(1⇨6)LV1⇨3

 

 

メインステップもそれだけで終わり、すぐさまデュークモンでアタックを仕掛ける椎名。デュークモンがグラニに搭乗し、超速で宙を翔ける。

 

 

「デュークモンのアタック時効果でリブラを破壊し、グラニの効果でデッキを1枚破棄!」

 

「!」

破棄カード↓

【デルタバリア】

 

 

デュークモンのロイヤルセーバーとグラニの先端から放たれるビームが女性のデッキとリブラの両方を襲う。リブラはその中で木っ端微塵に砕け散り、爆散した。

 

そして後はライフを砕くのみ、デュークモンはグラニとの合体によりダブルシンボル。つまりライフを2つ破壊できる。

 

 

「終わりだ……竜騎絶撃……ドラゴンドライバァァァァァァァァア!!!」

 

「……っ!」

ライフ2⇨0

 

 

グラニの背に搭乗したデュークモンが凄まじい勢いで女性のライフへと激突する。そのライフは容易く残った2つを砕き、破壊した。

 

これにより、勝者は芽座椎名。圧巻のバトルを見せつけた。

 

 

「どうだ、これがデュークモンの力だ!!」

「……不完全な札だけではこの程度か………次は妾の力の一端を用いて手合わせしてやろう……その時が芽座椎名、其方の最後じゃ」

「!」

 

 

椎名が勝利を宣言するようにそう強く言い放つと、女性はゾディアーツを召喚した時のような黒い靄に包み込まれ、捨て言葉を吐きながらこの場から去っていった。

 

 

「椎名!!」

 

 

バトルの終了に伴い、晴太が椎名のところへ駆け寄る。

 

 

「司の姉ちゃんに似た女………あいつは何者だ?」

 

 

疑問が残る事だらけだった一連の出来事。

 

だが、この戦いは始まりに過ぎない。これから、椎名達はDr.Aなどよりも遥かに凶悪な化け物とバトルスピリッツで雌雄を決する事となる。

 

 

******

 

 

時はまた少しだけ遡って、椎名が謎の女性とバトルを行う約10分前の出来事。放課後になり、自分の家に1人で帰宅しようとしていたのは……

 

……【朱雀】こと、赤羽司。芽座椎名の最大のライバルだ。

 

そんな帰宅の彼を妨げるかのように、妙な人物が異様なオーラを放ちながら前方に立ち塞がっていた。

 

 

「誰だテメェは」

「我の名は【バーク・アゼム】……エニー・アゼム様の子孫にして、あの方の完全な復活を望む者だ……返してもらうぞ……貴様の…バロンを……!!」

 

 

バークと名乗る黒髪の若い男性。彼の狙いはあの戦いで司が自分のオーバーエヴォリューションで入手したバロンのカード。

 

この場でも新たな敵が堂々蠢き出していた。

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【レオ・ゾディアーツ】」

椎名「新たな敵のキーカード。トラッシュにある同様のスピリットの効果をコピーできるよ」


******


〈次回予告!!〉


司に襲い掛かってきたのはエニー・アゼムの子孫を名乗るバークと言う男。狙いはなぜか司の持つバロンのカードだ。司は当然の如くそれを断り、バトルを行うのだが………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「鎧武、オンステージ」…今、バトスピが進化を超える!!


******


※次回サブタイトルは変更の可能性があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!今回は最初と言う事で、簡単なバトルにしました。

新章が始まりましたが、コラボカードの補給のためにしばらくの間休載の選択肢も視野にある悲しい今日この頃です。私が休載しないと選んだ時は日常の話でなんとか次のコラボまで持ちこたえる予定です。

以前のアンケートでオリカは使って良いのはわかったのですが、少なからず嫌だと思うと人もおられるので、極力避けたいんですよね。

椎名は最初からこうなる設定がありました。ざっくり言えば弾くんから弾さんになった感じです。



【芽座椎名(三期)デッキレシピ】

デッキ×40

《スピリット》×26
ブイモン×3
ワームモン×1
エクスブイモン×1
スティングモン×3
パイルドラモン×1
マリンエンジェモン×2
インペリアルドラモン ドラゴンモード×1
インペリアルドラモン ファイターモード×1
フレイドラモン×1
ライドラモン×1
マグナモン×1
ギルモン×2
グラウモン×2
メガログラウモン×2
メギドラモン×2
デュークモン×1
デュークモン クリムゾンモード×1

《ブレイヴ》×4
ズバモン×2
グラニ×2

《ネクサス》×6
デジヴァイス×3
D-3×1
ディーアーク×2

《マジック》×4
レッドカード×1
ブルーカード×1
デルタバリア×2


元々いずれ掲載する予定でもありましたが、ご要望のあった椎名デッキレシピです。二期の終わりも散々デッキがオーバーエヴォリューションなどでいじりましたが、スピリットの枚数比率はいつもこんな感じでした。デルタバリアはリバイバルでも構いません。ただこの作品ではどっちを使っても対して変わらない場合が多いため、文字数が少ないリバイバル前にしてます。

ハイランダー寄りのビートダウンって感じですね。一先ずブイモン→スティングモンの流れを決めたいところです。できるかできないかで大分展開が違います。フィニッシュは合体したパイルドラモンやデュークモン、ファイターモードと言った具合です。最近出番が減ってますが、ズバモンが割といろんな意味で鍵です。作中で椎名が魅せるコンボのように、無限の可能性が広がっているデジモンデッキです。



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第96話「鎧武、オンステージ」

 

 

 

 

 

 

殺伐とした風景。人気も全くと言っていい程にない薄暗い裏路地にて、赤羽司は下校中、謎の男と対峙していた。黒髪で若くて、やや背丈の低い男性。だが、そんな肩書きなど決して似合わない程の憎悪を纏った黒いオーラ。

 

そんな彼は司のバロンのカードを欲していて………

 

 

「バロンを返せだと?…あれは俺のオーバーエヴォリューションで手に入れたカードだ、テメェのもんみたいに言うんじゃねぇ」

「貴様の物でも我の物でもない、バロンのカードは元々我の祖先、エニー・アゼム様の物だ」

 

 

この男の名はバーク・アゼム。彼は自分の事を2000年以上前に生きていた人物、エニー・アゼムの子孫だと言う。

 

 

「エニー・アゼムの祖先?…馬鹿かテメェは、エニー・アゼムがこんなカードを持っていたと言う記録はない」

 

 

そうだ。エニー・アゼムは何かしらのカードは持っていたらしいが、それがなんなのかは今の歴史学では到底わかり得ない。それ故に、この男の言っていることは余りにも不自然で信じ難く、怪しい。今自分の手の中にあるバロンのカードがその証拠だ。

 

バロンは紛れもなく自分のオーバーエヴォリューションで手に入れたカード。自分だけのカードのはずなのだ。

 

 

「違う、それは人間が奪ったんだ……人間がエニー様を殺し、進化の力を奪った……【バトスピ一族】は最も穢れし一族だ……!!」

「?」

 

 

バークの言っていることを理解できない司。

 

人間がエニー・アゼムの進化の力を奪った?

 

確かに人間のオーバーエヴォリューションの発展となったのはエニー・アゼムと言われているが、どんな諸説でもそんな人間の私利私欲のためにエニー・アゼムが消されたと言う歴史は聞いたことがない。

 

 

「何言ってんだテメェは…………まぁいい、そんなに俺のバロンが欲しかったら、やる事は1つだ」

 

 

司はそう言いながらデッキをバークに突きつける。まるで自分に強さを証明しろと言わんばかりに………

 

司はバトスピで勝負を着ける気だ。

 

この世界の何事においても優先されるカードゲーム、バトルスピリッツ。この場でもそれが起用されようとしていた。

 

 

「いいだろう、確かに貴様相手だとこっちの方が手っ取り早い……我は強いぞ」

「俺の経験上、そうやって強い強いと豪語する奴に限って対してそうでもないことが多いんだよな………」

「フッ、減らず口を……餓鬼が……」

 

 

2人はそう言い合いながらも、自身のBパッドを展開し、バトルの準備を行った。

 

そして始まる。司のバロンを賭けたバトルスピリッツが………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルスピリッツが開始される。

 

先行は司だ。

 

 

[ターン01]司

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はネクサスカード、ヘルヘイムの産物を配置し、エンドだ」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【ヘルヘイムの産物】LV1

 

バースト【無】

 

 

司が初手で配置したネクサスカードはヘルヘイムの産物と言うカード。彼の背後から不気味な樹が現れる。その周りには蔓が伸びており、そこからさらに紫色で不思議な形をした果実のようなものがいくつも存在している。

 

 

[ターン02]バーク

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「我のメインステップ、我は……いや、我もヘルヘイムの産物を配置!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

 

「…!!」

 

 

バークの背後にも同様のものが配置される。

 

 

「ターンエンド、さぁ来い赤羽司、我の先祖代々、エニー様から受け継がれて来たこのデッキで、残ったバロンを回収してくれる……!!」

【ヘルヘイムの産物】LV1

 

バースト【無】

 

 

「受け継がれて来た?……俺の猿真似をしたの間違いだろ?」

「今にわかる、さぁ、早く手を進めろ……!!」

「っ……」

 

 

司は同じネクサスを配置された事を不自然に感じながらも、次なる自分のターンを進めていく。

 

 

[ターン03]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、俺はイーズナを2体召喚!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨3

【イーズナ】LV1(1)BP1000

【イーズナ】LV1(1)BP1000

 

 

司がこのバトルにおいて初めて召喚したスピリットはイタチのような小さいスピリット、イーズナ。赤としても黄色としても扱える優秀なスピリットだ。

 

 

「そしてホークモンをLV1で召喚する!!……召喚時効果を発揮!!」

手札3⇨2

リザーブ3⇨1

トラッシュ0⇨1

【ホークモン】LV1(1)BP3000

オープンカード↓

【シルフィーモン】×

【イビルフレイム】×

【ウィザーモン】◯

 

 

その次に司が呼び出したのは赤い翼を持つ小さな鳥型の成長期スピリット、ホークモン。そしてその効果も成功。司は成熟期スピリットであるウィザーモンのカードを新たに手札へと加えた。

 

 

「さらにこの効果の追加効果で2コストを支払い、ウィザーモンを召喚!!…不足コストはイーズナから踏み倒す!!」

手札2⇨3⇨2

リザーブ1⇨0

【イーズナ】(1⇨0)消滅

【イーズナ】(1⇨0)消滅

【ウィザーモン】LV1(1)BP4000

 

 

イーズナ2体のコアが取り除かれ、消滅していく。そしてその代わりに現れたのは、まるで魔法使いのような姿をした成熟期のデジタルスピリット、ウィザーモン。

 

 

「召喚時効果により、カードを2枚ドロー!!……バーストをセットする!!」

手札2⇨4⇨3

 

 

3ターン目で異様な展開を見せつけていく司。

 

そして「ここからだ」と言わんばかりにアタックステップへと移行し………

 

 

「やれ、ホークモン、ウィザーモン!!」

 

 

走り出す司の場の2体のスピリット。目指すは当然、バークのライフ。バークはこのアタックを………

 

 

「我のライフ、くれてやろう……っ」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

ホークモンの翼で打つ攻撃と、ウィザーモンの魔法の杖から放たれる魔力の一撃がバークのライフを一気に2つ破壊する。

 

 

「……ターンエンド」

【ホークモン】LV1(1)BP3000(疲労)

【ウィザーモン】LV1(1)BP4000(疲労)

 

【ヘルヘイムの産物】LV1

 

バースト【有】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとする司。次はバークのターン………

 

……このターン、いよいよ彼も自分の力の一端を曝け出して行く。

 

 

[ターン04]バーク

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ……いくぞ、赤羽司……」

「!?」

 

 

バークがその手札の1枚に手を掛けた途端、司は重たいオーラと凄みを感じた。何か強い者がこの場に呼び出されることだけは瞬時に理解した。

 

そしてバークはそのスピリットの名を呼ぶ……

 

 

「仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ!!…LV2で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨2

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ[2]】LV2(2)BP5000

 

「!!」

 

 

バークの場の上空からチャックが出現する。それは音を立てながら開くと、繋がっている別の空間から飛び降りてくる影が1つ。それは着地すると、剣を堂々と司に向け、構える。

 

その名は鎧武。仮面スピリットの1種。オレンジの名に恥じぬ橙色の鎧、その出で立ちと風貌は侍のよう。

 

 

「アームズ……俺のバロンと同じ………」

 

 

だが、司が気になったのは、その未知の仮面スピリットの事ではなく、その名前だ。

 

ー『アームズ』

 

この名前は自身が持つバロンにも付いている名称だ。登場の仕方などから含めても、明らかに鎧武とバロンは似たような存在であることが伺えたのだ。

 

 

「だから言っているだろう……貴様のバロンと、この鎧武は元々エニー様の物……そして、今はこの我がそのカード達を受け継いでいるのだ……それを貴様ら下等な生き物が……!!」

「言ってる意味がわかんねぇんだよ、奪いたきゃ口先じゃなくて力づくで奪い取れ……!!」

 

 

バークの言っている意味はなかなか理解できないものである。少なくとも今は余りにも情報量が不足している。

 

だが、司とて理解できることはある。

 

それはバロンのカードは渡さないという事……バークに己の力を証明しろと言わんばかりに煽りだす。彼もまたはなからそのつもりなのか、さらにメインステップを続けていき………

 

 

「最初からそのつもりだ!!…我はバーストを伏せ、さらにブレイヴカード大橙丸を召喚し、オレンジアームズと合体!!」

手札4⇨2

リザーブ4⇨2

トラッシュ2⇨4

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ[2]+大橙丸】LV2(2)BP9000

 

 

オレンジアームズの左手にさらにもう一本の刀が握られる。その刀身は蜜柑の断面図をモチーフに作られており、それらしい見た目をしている。

 

バークは晴れて二刀流となったオレンジアームズで司に逆襲を仕掛ける。

 

 

「アタックステップ、オレンジアームズでアタック!!……大橙丸の効果でデッキ下から1枚ドローし、さらに鎧武と同じ黄色を持つスピリット、ウィザーモンをデッキの下へと戻す!!」

手札2⇨3

 

「!?」

 

 

オレンジアームズが左手に持つ大橙丸に力を込め、飛ぶ斬撃をウィザーモンに向けて放つ。ウィザーモンは避けきれず、それに直撃、引き裂かれ、デジタル粒子となった司のデッキの下へと送られてしまった。

 

さらにこれだけでは済まさないか、バークはさらに手札のカードを1枚引き抜いて……

 

 

「フラッシュマジック、無頼キック!!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

トラッシュ4⇨6

 

「!」

「この効果により、鎧武のアタック中、相手スピリット1体のBPをマイナス15000、0になれば破壊する……消え去れホークモン!!」

 

「!?」

【ホークモン】BP3000⇨0(破壊)

 

 

上空へと飛び上がるオレンジアームズ。その右足に橙色の力を纏わせ、ホークモンへと急降下。それを力強く蹴り飛ばす。ホークモンは堪らず爆発を起こし、その場からはオレンジの果汁が飛び散って行った。

 

 

「フッ、デジタルスピリットなど恐るるにたらん……!!」

 

 

司にそう言い聞かせるように強気な発言をするバーク。しかし、司もこの程度の事でやられる程やわではない。

 

バーストを反転させ、反撃に転ずる。

 

 

「破壊後によりバースト発動!!シャイニングバースト!!」

「!」

「この効果によりBP10000以下のスピリット、貴様の鎧武を破壊する!!」

 

 

オレンジアームズに光が漂い、まとわりつく。その光は次々に爆発していき、オレンジアームズを破壊………

 

……したかに思われたが……

 

 

「オレンジアームズの効果、我のライフをオレンジアームズへと送る事で破壊を回避する……!!」

ライフ3⇨2

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ[2]+大橙丸】(2⇨3)

 

「なに!?」

 

 

バークのライフが減少する。これにより、オレンジアームズは爆発による破壊を凌ぎ、爆煙の中、その場に健在していた。

 

 

「緩い、緩いバトルスピリッツだ……赤羽司……!!」

「くっ……!!」

 

 

バークはその効果によって増えたコアを使い、さらなるカードを手札から切る。

 

今度は鎧武のパワーアップだ。

 

 

「フラッシュ【チェンジ】発揮!!対象はオレンジアームズ!!」

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ[2]+大橙丸】(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ6⇨8

 

「!」

 

 

【チェンジ】……それは仮面スピリットのデッキならばごく自然と存在するキーワード効果。鎧武にも当然それは存在しており………

 

 

「この【チェンジ】効果により、このバトルの間、バトルしているスピリットのシンボルを2にする!!」

 

 

そのカードの【チェンジ】の効果が発揮される。この場合だと、オレンジアームズ、又は道中で入れ替わったスピリットに適応される。

 

そして、その効果発揮後は、入れ替えの効果だ……

 

 

「我はオレンジアームズをジンバーレモンアームズにチェンジ!!」

【仮面ライダー鎧武 ジンバーレモンアームズ+大橙丸】LV1(1)BP10000

 

 

鎧武は腰のベルトに別の何かを付け足し、レバーを引き、その力を解放する。すると、オレンジの鎧がオレンジの形となって上空へと向かったかと思うと、今度は別の何かがそれと衝突し、合わさり、鎧武へと再び落下。

 

鎧武はその新しくなった鎧を身に纏う。その名はジンバーレモンアームズ。その鎧は鎧と言うよりかは陣羽織のような模様になっている。

 

 

「【チェンジ】の効果でアタックは継続中、さらにジンバーレモンの効果でそのシンボルは2つだ……!!」

 

「ちぃっ!!…ライフで受ける!!……っ」

ライフ5⇨3

 

 

ジンバーレモンが動きだす。その手に持つ刃のついたアーチェリーのような武器で司のライフを一気に2つを斬りつける。

 

さらに今のジンバーレモンはチェンジの効果で回復状態であり……

 

 

「今一度行け、ジンバーレモン!!…大橙丸の効果でドロー!!」

手札2⇨3

 

「……くっ、ライフだ………っ」

ライフ3⇨2

 

 

再び司のライフを斬りつけるジンバーレモン。今度は1つが破壊され、残りライフは2となる。

 

 

「フンッ、他愛もない、貴様は次のターンで終わりだ………ターンエンド」

【仮面ライダー鎧武 ジンバーレモンアームズ+大橙丸】LV1(1)BP10000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

余裕のある表情を浮かべながら、バークはそのターンをエンドとする。

 

 

「……終わりだと?……ライフ2でブロッカーもいないテメェが言えた口かよ……見てな…テメェの愚弄するバトスピ一族の強さって奴をな……!!」

 

 

バークに対し、そう言い返す司。

 

彼は別に自分が一族であることには対して関心はないものの、今回ばかりはそう言い返した。自分の強さを見せつけるための言い回しのようなものだったのだろう。

 

理由はともあれ、司が本気になったのは確かなことであって………

 

赤羽司の反撃が幕を開ける………

 

 

[ターン05]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨9

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、3体目のイーズナを召喚……さらに来い、仮面ライダーバロン バナナアームズ!!」

手札4⇨2

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨1

【イーズナ】LV1(1)BP1000

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV3(3)BP7000

 

「来たな……バロン……今こそ我の手中に収めてくれる……!!」

 

 

司の場に3体目のイーズナが姿を見せると共に、鎧武の時同様、上空の空間にチャックができ、開いたかと思えば、そこから槍を携えた赤い仮面スピリット、バロンが姿を現した。

 

それを視認したバークはやる気をより向上させ………

 

 

「馬鹿が、こいつは俺のカードだと何度言わせる気だ!!…【チェンジ】発揮!!対象はバナナアームズ!!」

リザーブ4⇨0

トラッシュ1⇨5

 

「!!」

「この効果によりBP12000以下のスピリット、鎧武 ジンバーレモンを破壊!!」

 

「っ……大橙丸は場に残す」

【大橙丸】LV1(1)BP4000

 

 

司がそう反論しながらも、手札のカードを1枚引き抜く。それはチェンジを持つ仮面スピリットのカード。彼の新たなエーススピリットのカードだ。

 

バークの場のジンバーレモンが赤いオーラに包まれたかと思うと、ジンバーレモンはそれに取り込まれるかのように消滅してしまう。残った大橙丸が虚しく地面に刃を向けて突き刺さる。

 

 

「そしてその後チェンジする……仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ!!」

【仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ】LV2(3)BP10000

 

 

バロンにも赤いオーラがまとわりつく。だがバロンは消滅せず、その力を取り込み、己の姿形を変えていく。

 

そしてそれを解き放ち、中からバロンの進化した携帯、レモンエナジーアームズが姿を見せた。赤いマントを羽織り、さらにはジンバーレモンと同様の武器を手に持っている。

 

 

「これで鎧武は消えた……テメェのライフは2……終わりだ!!……やれ、レモンエナジー!!」

 

 

アタックステップへと移行し、司はレモンエナジーアームズにアタックの指示を送る。レモンエナジーはそれを聞くなり、バークのライフめがけ走り出す。

 

 

「アタック時効果、最もBPの高いスピリットを1体破壊!!…残った大橙丸を破壊するっ!!」

「!」

 

 

レモンエナジーは走りながらも地面に突き刺さっている大橙丸を真っ二つに叩き切った。これで後はバークのライフを破壊するだけだ。

 

 

「……ライフで受ける」

ライフ2⇨1

 

 

レモンエナジーのアーチェリーのような武器の一閃がバークのライフを斬りつける。彼のライフはまた1つ失われた。後1点、司の場に残ったイーズナのアタックで彼の勝ちが確定するが……

 

……彼のバトルスピリッツは甘くはなく………

 

 

「……ライフ減少によりバースト発動!!…アルティメットウォール!!」

「なにっ!?」

「この効果によりアタックステップを終了させる!!」

 

 

バークのバーストが勢いよく反転したかと思うと、司の場が忽ち猛吹雪に襲われる。イーズナどころかレモンエナジーさえも身動きが取れない状態に陥り………

 

 

「くっ……ターンエンド」

【イーズナ】LV1(1)BP1000(回復)

【仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ】LV2(3)BP10000

 

【ヘルヘイムの産物】LV1

 

バースト【無】

 

 

司が致し方なくそのターンをエンドとすると、すぐさま猛吹雪も収まり、視界が確保された。

 

次はギリギリで踏みとどまったバークのターン。

 

 

[ターン06]バーク

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨11

トラッシュ8⇨0

 

 

「メインステップ……終わりだ、赤羽司」

「なに!?」

 

 

ターンシークエンスが進行され、メインステップ開始時直後、バークが言い放った言葉は司への唐突な勝利宣言。

 

そして、彼は自分の手札からあるカードを1枚引き抜く。

 

 

「ここからは、我の舞台だ……何人たりとも踊る事は許さん!!」

「!」

 

 

バークの背後で踊るように燃え上がる戦火。その炎の中には確かに何か仮面スピリットらしき影が見える。

 

それは未だに場に現れていないと言うのに司に圧倒的なプレッシャーを与えていて……

 

 

ーいざ、出陣……エイエイオー!!

 

 

「っ!?」

【イーズナ】BP1000⇨0(破壊)

【仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ】BP10000⇨0(破壊)

 

 

見た目の威圧感だけではない。その炎は謎の無機質な機械音の掛け声と共にイーズナとレモンエナジーの方まで伸びていき、それらを焼き尽くしていく。

 

 

「……なんだこの効果はっ!?」

「教えてやる必要はない……貴様はここで負けるのだからな!!」

 

 

司は優勢を保っていた場が一瞬にして崩壊していく様を、ただただ見届けることしかできず………

 

 

「戦火より現れ出でよ!!……召喚、仮面ライダー鎧武……」

 

 

その時……

 

バークがそのスピリットの名を叫び、場へと呼び出そうとした……その直後だ。

 

 

「待ちなさい、我が子孫よ」

「っ!?…エニー様!?」

 

 

バークの耳元から柔らかい声が聞こえてきた。その声主はフードを深くかぶった若い女性。椎名と晴太の前にも姿を現したあの女性だ。

 

どこからともなく、そして音もなくバークの側に現れていて……

 

 

「戦いは一時中断なさい」

「っ…なんでですか!!…もう少しでバロンは手に入ります!!」

「言いから、Bパッドを閉じなさい」

「っ………分かりました……」

 

 

その女性の言う通りにし、バークは渋々Bパッド上のデッキを取り上げ、それを閉じる。今召喚されようとしていた謎のスピリットもそのまま登場する事はなく、この場から燃え上がる戦火と共に消え去ってしまう。

 

切断された事で司のBパッドもバトルモードが強制的にオフになる。

 

 

「さぁ、一時帰還しましょう」

「………赤羽司、命拾いしたな……次こそは必ず我は貴様のバロンを手にする!!」

「っ……待ちやがれ!!」

 

 

女性が手のひらを地面にかざすと、そこから黒い靄が出現する。彼女が椎名の前に現れた時と同じだ。

 

司の聞く耳を持たず、バークはそう捨て言葉を吐きながら、女性が手のひらからだした黒い靄の中へと姿を消して行った。

 

 

「赤羽司………確かこの【肉体の弟】じゃったな……」

「っ!?」

 

 

バークの姿が消えた後、エニーと呼ばれる女性は司の方を向き、徐にその被っていたフードを外し、その素顔を司に晒す………

 

司はそれを視認するなり目を丸くした。

 

無理もない。何故ならそこにいたのは………

 

 

「……ね、姉さん!?……姉さんなのかっ!?!………いや……こいつは……」

 

 

司の姉である赤羽茜だった。

 

動いているこの顔を見るのは何年振りであろうか、司は驚愕のあまり体が硬直し動けなくなる。

 

だが、それでもわかる。この女性は自分の知る【赤羽茜ではない】

 

それは言動だったり、雰囲気だったり、目の前にいるそれから発せられる全てが、赤羽茜本人ではないと証明しているのが伝わったからだ。

 

 

「ハッハッハ!!姉の姿に動揺が隠せないようじゃな!!……わかっているとは思うが、妾は其方の姉、赤羽茜ではない!!」

「………」

 

 

そんな司の様子を見て、女性は高らかに嘲笑いだした。

 

そしてついに、彼女は自分の正体を司に明かす……

 

 

「妾の名は【エニー・アゼム】……!!」

「っ……エニー・アゼムだと!?」

 

 

エニー・アゼム。それは2000年前の日本にて、芽座一族と共に鬼を滅ぼした英雄の女性。何度もオーバーエヴォリューションを繰り返すことができる唯一無二の人間。

 

司の目の前にいる赤羽茜の姿を象ったこの女性は自分の事をその人物だと言う。こればかりは嘘だと信じたかったが、言動やそぶり、又、茜の身体から、彼女の言っていることが嘘だとは断言出来なかった。

 

 

「2000年の時を超え、妾はこの世界に新たな肉体を得て不完全ながら蘇った!!妾から進化の力を奪った愚かな人間共に復讐するために!!」

「っ……!!」

 

 

『復讐』すると口にするエニー・アゼム。彼女は鬼から人間達を救った英雄ではなかったのか?

 

その考えが司の脳裏に浮かんで来るが……

 

 

「楽しみにしているがいい……これから我が子孫が其方の持つバロンのカードを手にする時、そして妾が芽座椎名の持つパラディンモードを奪い返す時……この世界の人間は全て滅び去っていくだろう……!!」

「!?」

 

 

エニー・アゼムは司にそう言い残すと、また大きく高笑いしながら自ら生み出した黒い靄へと姿を眩ませて行った。司はただ1人、路地裏に取り残され………

 

 

「何だったんだ………この世界に何が起ころうとしている?」

 

 

そう呟いた。

 

オーラだけで伝わる驚異的な敵。深まるばかりの謎。余りにも情報量が不足している。

 

だが、司は1人だけ、エニー・アゼムや一族の歴史について詳しい人物を知っていた。それは彼の実の父である赤羽紅蓮。

 

彼は敵の確かな情報を得るため、今一度自分の生まれた故郷へと帰郷する事を密かにその心に固めていた。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


バーク「本日のハイライトカードは我の【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ[2]】」

バーク「鎧武の原点の姿、オレンジアームズは効果で場から離れる時、我のライフを食らう事で場に残る事ができる。残った直後にそのコアを用い、チェンジで畳み掛ける事も可能だ」


******


〈次回予告!!〉


敵の正体がわかった。敵は2人、2000年の時を経て蘇ったエニー・アゼムとその子孫、バーク・アゼム。司は父である紅蓮から情報を得るため、椎名を誘い故郷へと向かう………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「敵はエニー・アゼム、獣王吠える!」…今、バトスピが進化を超える!!


※予定変更して、予告を少し変えました

******


※次回サブタイトルは変更の可能性があります


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!




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第97話「敵はエニー・アゼム、獣王吠える!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、司もあいつと遭遇したんだ」

「あぁ、全くもって全てが意味深な奴らだったぜ」

 

 

椎名と司が敵からの急襲を受けた翌日の教室にて、2人は今知るある程度の情報を話し合っていた。

 

敵が赤羽茜の屍を乗っ取ったエニー・アゼムとその子孫だと言うこと、狙いは椎名のパラディンモードと司のバロンだと言うこと。そして、最終的には人間を滅ぼそうとしていると言うこと………

 

しかし、それがわかるだけでエニー・アゼムが具体的にどうしたいのか理屈がイマイチピンときていないのは2人して同じであって………

 

 

「めざし、次の休日少し俺と付き合え…俺の親父なら何か知ってるはずだ」

「うん、わかった」

 

 

司の提案に賛同する椎名。戦うならやはり敵の情報は少しでも耳に入れておきたいのだろう。

 

次の休日、向かう先は赤羽一族が住まう屋敷だ。あそこにいくのは実に2年ぶりくらいだろう。そして、そんな2人の会話を裏でこっそりと聞いていた人物が2人ほどいて………

 

 

******

 

 

小刻みに揺れる。椎名と司は今尚急行している列車の中にいた。司の故郷に行くためだ。ここら一帯は界放市とは違い自然的で高いビルなどは一切存在しない。

 

そんな何もない情景を目に映しながら椎名は言った………

 

 

「……で、なんで真夏と雅治もいるんだよ……」

 

 

司と椎名の横には真夏と雅治がちゃっかり、そして堂々と着席しており………

 

 

「ちょいちょい、別にええやん!!…新しい敵が出たんやろ?」

「それだったらA事変の時に命張った僕達4人の出番だよね!!」

 

 

2人ともテンション高めな口調で誤魔化すように椎名にそう言った。

 

が、2人は巻き込みたくない椎名がそんな事を許せるわけもなく……

 

 

「ダメだ、2人は早く帰ってくれ」

「………椎名」

 

 

そうやってまた2人を、見知った仲間達を冷たい態度で突き放す。

 

当たり前だ。

 

今回もDr.Aと同じかそれ以上の危険性を秘めているのだ。

 

【二度も失ってたまるか】

 

椎名は心の中で強くそう想っている。

 

 

「別に構わんだろ、敵の情報を得るだけなんだからな……寧ろこいつらも知っていた方がいい」

「おっ!!話がわかるやないか朱雀!!…流石ツンデレ!!」

「……どこにもデレ要素はねぇ」

「よっ!!流石僕の友!!」

「調子に乗んな、関われとは言ってねぇぞ」

 

 

2人にフォローを入れるかのように司がそう言った。そう言われると案外2人がここに来るのは理にかなっていると言える。

 

なんとか一緒に居られると言う安心からか、妙なテンションで司を褒めちぎる真夏と雅治。だが、2人は飽くまでも普通の人間。対抗力があるわけではない。

 

そう言った意味では椎名の言葉もまた理にかなっていて…………

 

 

「…………」

「あ、おい椎名!!」

 

 

真夏と雅治を界放市に戻す事は出来ないと悟った椎名は無表情のまま席を立ち、別の席に移動してしまう。この行為には明らかな心の距離を感じるには余りにも十分過ぎて………

 

 

「今は放っとけ、気持ちの整理がつかないんだろ」

「司………」

 

 

椎名に付き添い、寄ろうとした雅治を司がそう言い制止させる。椎名自身もまだどう彼らと接していいのかわからなくなってきているのだろう。

 

何せ、自分は鬼のDNAが混ざった存在、エニーズなのだから…………

 

その悲しみに釘を打つように列車は音を立てて急行を続けた………

 

 

******

 

 

そして時は経ち、4人は赤羽一族の家に到着した。古びた神社のような見た目であり、玄関前には大人1人分程度の大きさのホウオウモンの石像が置かれている。

 

4人は既に司の家族、父の紅蓮、母の緋色、10歳年下の妹可憐と邂逅していた。

 

 

「椎名ちゃん久し振りだなぁ!!…俺の事覚えてる?…紅蓮のおじさんさ!!」

「うん、久しぶり」

「お、おぉ、なんか雰囲気変わったね……おおっと、横にいるのは友達かい?」

 

 

兎に角かわいい子が大好きな中年男紅蓮は久しぶりの椎名に突撃するが、変わり果てた椎名の態度と雰囲気を前に思わずたじろぐが、すぐ横にいた真夏を見るなり再びちょっかいをかける。

 

 

「朱雀の親父さんってこんなんやったんや………」

「紅蓮さんぶれないな………」

 

 

司とは似ても似つかない性格に軽く困惑する真夏。雅治は紅蓮の変わりようのない性格に呆れていた。

 

確かに自分の妻が目の前にいる時の態度とは到底思えない。

 

 

「しーなおひさ〜〜〜!!」

「おっ、可憐ちゃん久し振り」

 

 

司の妹可憐が椎名に話しかけてきた。会うのは実に2年ぶりか。あの時に沢山遊んだ記憶が椎名の頭をよぎる。

 

 

「みてみてランドセル〜〜!!」

「おぉ、似合ってるじゃん」

 

 

持ってきていた赤いランドセル姿を椎名に見せる可憐。まだ小学2年であるからか、やはりランドセルを着こなすと言うよりかは、ランドセルに着せられている感はどうも咎めないが、

 

椎名は腰を下ろし、可憐に目線を合わせた。

 

 

「可憐ちゃん、ちょっと大きくなったね……顔はまだ変わんないかな?」

「うん!!しーなも全然変わんないね!!」

「っ私も?………はは、そうか」

 

 

可憐に変わらないと言われた椎名は、少しだけ動揺するも、柔らかい笑顔を向けて、可憐の頭を軽く撫でてあげた。

 

多分変わったのは体の大きさのことだ。1年の時と比べても、全然変わらない。

 

きっとそうだ。

 

そう胸の中では思い続けた。

 

 

「もういいだろ?お袋と可憐は家に戻れ」

「えぇ!!…にいにだけしーなと遊ぶのずるい!!」

「にいには遊びじゃねぇんだよ、ほらお袋、早くどっか行け」

「はいはい……じゃあみんな後でね〜〜」

 

 

本題に入らせようと、母と妹を無理矢理どかそうとする司。可憐は司に愚痴を言いながらも緋色に連れられ、渋々家内に赴いた。

 

 

「ん、もういいだろ?さっさと話せよ親父」

「全くお前って奴はもうちょっと余興というものを覚えろよな」

 

 

紅蓮を急かす司。紅蓮としてはもうちょっとふざけた態度で女の子と話したかったが、ここまで急がされては致し方ないか、ため息ひとつついた後にようやく本題へと入る。

 

 

「エニー・アゼムやバロンの秘密だったな………」

「あぁ」

「確かに、俺たち赤羽一族は他と違って特別だ。そしてそれを【証明する場所】もある。この話は説得力を増幅させるためにもその場所に行かなければいけないんだが………」

「だが?」

 

 

やはり紅蓮は何かを知っている。それはおそらくこれから起こるであろう事件。今尚も蠢いている何かを知るためには十分過ぎる情報であることがこの時点で伺える。

 

しかし………

 

 

「雅坊と真夏ちゃん……後100歩譲って司まではそこに立ち入る事は許そう」

「なんで赤羽の俺が100歩譲るんだよ」

「だが椎名ちゃん……君だけはそこに連れて行けない」

「!」

「な、なんでなん!?」

 

 

呟くようにそう言った紅蓮。

 

だが、ちゃんとした理由があるのだ。2000年以上続くしきたりが……

 

 

「司から大体の話は聞いた。椎名ちゃん、君は鬼の力が混ざった存在らしいね」

「…………」

「昔から鬼は入ってはいけない掟がその部屋にはある……だから君だけは連れては行けない」

 

 

ここに来る前、紅蓮は司から今までなにが起こっていたのかを聞いていた。もちろん椎名の鬼化や進化を繰り返す力のことも。

 

その部屋には鬼を断じて立ち入る事を禁じていた。鬼は基本的に危険な存在だ。昔の人々の言い分も痛い程伝わってくる。

 

 

「紅蓮さん待ってください、椎名は危険な存在じゃありません!!」

「そや!!私らと同じ人間です!!」

 

 

椎名のフォローに入るように真夏と雅治がそう言った。だが紅蓮は断固としてその表情を固くしており………

 

 

「おいクソ親父、今はそんな古臭い掟とかしきたりとかどうのこうの言ってる場合じゃねぇんだよ」

 

 

司もそう言った。司に関して言えば明らかにその声色に怒りの念が募っていて………

 

だが、紅蓮はまだその表情を固くしている。

 

しかし、彼とて理解している。2000年以上前の遥か昔の掟など、ほとんどないものに等しい。そもそも鬼は絶滅しているため、そんな事は起こらなかったのだが………

 

……だからこそ……

 

 

「あぁ、だからこそ、これで決める……!!」

「っ……!」

 

 

紅蓮は椎名にそう言いながら自分のデッキを突きつけた。

 

この世において何よりも優先されるバトルスピリッツで決めるつもりだ。椎名が勝てば通れる。負ければ掟通り通れない。これで自分で決める事はなく、勝敗に委ねればいいのだから、こっちの方が確かに楽である。

 

椎名も寡黙を貫きつつもそれを理解したか、紅蓮とある程度の距離を取ると、懐からBパッドを展開し、そこにデッキをセットした。

 

 

「みんな、これは私のバトルだ……手は出さないでよ」

「っ……椎名」

 

 

そう言って同時に真夏達との心の距離も冷たく突き放す椎名。真夏もどんどん心苦しささえ覚えてくる。

 

椎名の真剣な表情を見て、紅蓮もまた自分のBパッドを展開し、そこに己のデッキをセット。これで互いにバトルの準備が整った。

 

この様子に、他3人は黙って行く末を見守る事しか出来ず……………

 

 

「行くぞおじさん、このバトル全力でいかせてもらう…!!」

「あぁ、俺も本気だ。女の子だからと容赦するつもりはない」

「そう来なくちゃね……行くぞ」

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

鬼の力を内に内包した少女、芽座椎名と、赤羽一族の元長、赤羽紅蓮のバトルスピリッツがコールと共に幕を開けた。

 

先行は紅蓮だ。

 

 

[ターン01]紅蓮

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、バーストを伏せ、ネクサスカード燃えさかる戦場を配置!!」

手札5⇨3

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

【燃えさかる戦場〈R〉】LV1

 

「!」

 

 

紅蓮は颯爽と場にバーストをセットすると、背後に地面を常に焦がす程燃え上がる炎が出現。

 

椎名はこのネクサスを配置する紅蓮の様子を見ただけで、今回の彼の本気度が高い事を察していて………

 

 

「さぁエンドだ、かかって来なさい椎名ちゃん」

【燃えさかる戦場〈R〉】LV1

 

バースト【有】

 

 

先行の第1ターン目としてはこの程度の動きが限界か、盤石とは言え、紅蓮はそのターンを椎名に明け渡す。

 

次は椎名のターンだ。その凛とした表情からは必ず勝利するという意気込みだけが確かに伝わって来ていて………

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!…ブイモンを召喚!!…効果でカードをオープンッ!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【ギルモン】×

【フレイドラモン】◯

 

 

このバトル。椎名が手始めに召喚したのは青くて小さい竜。その効果で椎名は新たにアーマー体、フレイドラモンのカードを手札に加え、

 

それをすぐさま呼び込む。

 

 

「さらにフレイドラモンの【アーマー進化】発揮!!…対象はブイモン!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

 

「!」

 

 

ブイモンの頭上にデジメンタルと呼ばれる赤い卵状の物が投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化を遂げていく。

 

 

「燃え上がる勇気…フレイドラモン!!」

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000

 

 

椎名の場に新たに現れたのはスマートな竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモン。椎名の最初のエーススピリットにして原点だ。

 

 

「アタックステップッ!!…どんなバーストも開いて見ないとわからない!!…フレイドラモン…いけぇ!」

 

 

椎名のアタックステップが始まる。紅蓮の場にはバーストがあるものの、恐れていてはバトルは出来ないか、フレイドラモンでアタックを仕掛ける。

 

防ぐ手段のない紅蓮はそのアタックを止める手段はなく………

 

 

「……ライフで受ける……っ」

ライフ5⇨4

 

 

ライフの減少を宣言した。フレイドラモンの炎を纏った拳の一撃が彼のライフを粉々に砕いた。

 

 

「バーストをも恐れぬ勇気ある一撃だな……いや、迷いがない……と言った方が良いかもしれねぇな……」

 

 

紅蓮はフレイドラモンのアタックで今の椎名がどう言ったカードバトラーになっているのかを瞬時に読み取っていた。

 

彼の言う通り、今の椎名には全く迷いがない。兎に角バトルに勝つ。勝つためにバトルをしている。

 

 

「だが……バトルに迷いがないのは俺とて同じだ……ライフ減少によりバースト発動!!…レオモン[2]!!」

「!?」

 

 

そう言って紅蓮は勢いよく前のターンで伏せておいたバーストカードを反転させる。

 

 

「この効果によりBP8000以下のスピリット1体を破壊!!…フレイドラモンを焼き尽くせ!!」

「っ……フレイドラモン!?」

 

 

フレイドラモンが突然体の内側から破裂するように爆発してしまう。これもそのバースト効果を持つデジタルスピリットの力だ。

 

そしてこの効果発揮後は、当然それの召喚だ。

 

 

「この効果発揮後、これを召喚する……俺と共に吠えよ獣王!!…レオモンを召喚!!」

リザーブ2⇨1

【レオモン[2]】LV1(1)BP5000

 

 

燃えさかる戦場を駆け抜け、紅蓮の場に現れたのは赤の成熟期のデジタルスピリット、レオモン。頭部が獅子で身体が人型という異形な姿だが、その風格は獣王、又は勇者そのものであり………

 

 

「椎名ちゃん、俺の本気中の本気……このレオモンデッキの力をとくと味わってもらう……!!」

 

「レオモンか……相手にとって不足はないね……ターンエンドだ」

バースト【無】

 

 

そんなレオモンの風貌や雰囲気に呑まれる事もなく、椎名はがら空きの場を残したままそのターンをエンドとしてしまう。

 

次は見事にレオモンを召喚し、カウンターを決めた紅蓮のターンだ。

 

 

[ターン03]紅蓮

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ……俺はレオモンをさらに召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

【レオモン】LV1(1)BP5000

 

 

紅蓮の場に現れたのは2体目となるレオモン。

 

だが、そのレオモンは前のターンでバースト召喚されたものとは違う存在。見た目は完全にレオモンだが、その効果は最初のレオモンとは全くの別物であって………

 

 

「アタックステップ……2体のレオモンでアタックする!!」

 

 

2体のレオモンが椎名のライフに狙いを定めて地を駆ける。椎名は前のターンで破壊されたフレイドラモンの召喚コストに全力を注いだため、ブロッカーが存在せず……

 

 

「ライフで受ける……っうぅっ!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

懐から短剣を取り出した2体のレオモンがそれぞれ一つずつ椎名のライフをそれで引き裂いてみせた。

 

 

「初めて見た……これが紅蓮さんの本気……」

 

 

そう呟いた雅治。

 

それもそのはず、この男、赤羽紅蓮はほとんどと言って良いほどに本気を見せない。普段からふざけている態度もあって、威厳を全く感じ得ないのだから。

 

それが今はどう言うことか、あの芽座椎名相手に善戦どころか豪快に攻め込んでいる。やはり腐っても赤羽一族の実力者であることがこの時点で伺えて………

 

 

「ターンエンドだ」

【レオモン】LV1(1)BP5000(疲労)

【レオモン[2]】LV1(1)BP5000(疲労)

 

【燃えさかる戦場〈R〉】LV1

 

バースト【無】

 

 

カウンターからの豪快な攻めを決め、紅蓮はこのターンをエンドとする。

 

次は椎名のターン。挽回すべく動き出す。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、ネクサスカードディーアークとデジヴァイスを配置し、バーストを伏せてエンド」

手札6⇨3

リザーブ8⇨1

トラッシュ0⇨5

【ディーアーク】LV2(2)

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【有】

 

 

「椎名、防戦一方やん……本当に勝てるんか?」

「ネクサスカードはめざしの必勝パターンだ、まぁなんとかなるだろ」

「雑やなぁ」

 

 

呟いた真夏に司が答えた。

 

確かにこのターン、椎名はバーストとネクサスの配置だけで手がいっぱいだったが、あの腰に備え付けられたネクサスはデジタルスピリットを全力でサポートする力がある。椎名は何度もその効果で窮地を乗り越えてきたのだ。必勝パターンと言われてもおかしくはない。

 

が、状況は明らかに不利だ。真夏が椎名を心配する気持ちもまた理解するには十分過ぎるものであって………

 

 

[ターン05]紅蓮

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

【レオモン】(疲労⇨回復)

【レオモン[2]】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺は3体目となるレオモン、レオモン・テイマーズをLV2で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨2

【レオモン(テイマーズ)】LV2(2)BP5000

 

「っ…3種類目のレオモン!?」

 

 

紅蓮はさらにレオモンを呼び出す。その3体目も1、2体目同様全くと言って良いほどに姿形が変わらない。しかしながらやはり効果はまた別物であるのは確かな事であって………

 

 

「さらにバーストを伏せ、アタックステップ!!…行け、レオモン・テイマーズ!!……効果で1枚ドロー!」

手札3⇨2⇨3

 

 

今一度紅蓮の場にバーストが伏せられると共に3体目のレオモンが地を駆ける。狙うは当然椎名のライフ。

 

 

「……ライフで受ける……っ」

ライフ3⇨2

 

 

レオモンが短剣を用い、椎名のライフをまた1つ切り裂いた。いよいよピンチに陥る椎名のライフ。だが、流石にここでは終わらないか、事前に伏せていたバーストカードが反応を示すかのように勢いよく反転し、発動される。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動!!…マリンエンジェモン!!」

「!?!」

 

「この効果によりこのターン、コスト9以下のスピリットのアタックではライフが減らない!!…その後召喚!!…ディーアーク効果でドロー」

手札3⇨4

リザーブ2⇨0

【マリンエンジェモン】LV2(2)BP6000

 

 

バーストカードが反転すると共に現れたのは桃色の小さな究極体デジタルスピリット、マリンエンジェモン。この効果でこのターン、紅蓮はアタックしてこないと思われたが………

 

 

「レオモンでアタック!!」

「!!」

 

 

紅蓮は続け様にカード名が無印のレオモンでアタックを仕掛けてきた。

 

そのレオモンのコストは5。マリンエンジェモンの効果の範疇だ。ライフは減らせない。が、完全に何もできなくなったわけでもなく……

 

 

「アタック時効果でBP10000以下のスピリット、マリンエンジェモンを破壊!!」

「!?」

「獣王拳!!」

 

 

レオモンが拳から体中の気を右手に込めてオーラの塊を撃ち、放つ。獅子を模したそのオーラは瞬く間に椎名のマリンエンジェモンに直撃、耐えられるわけがなく、マリンエンジェモンは爆発した。

 

その後、レオモンはライフを破壊できない事を知っているからか、椎名のライフまでを狙おうとはせず、疲労状態である事を表すかの如くその場で膝をついた。

 

 

「……これでターンエンドだ」

【レオモン】LV1(1)BP5000(疲労)

【レオモン[2]】LV1(1)BP5000(回復)

【レオモン(テイマーズ)】LV2(2)BP5000(疲労)

 

【燃えさかる戦場】LV1

 

バースト【有】

 

 

そのターンをエンドとする紅蓮。次はなんとかマリンエンジェモンの効果で紅蓮のアタックを凌ぎ切った椎名のターン。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨8

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!!…このターンから反撃だ…行くぞ、私のデッキのスピリット達……!!」

 

 

そう小さく言い放ち、大きく意気込む椎名。その表情は信じられないほどに険しい。今までの明るい椎名とは全くの別人のようにも見えてしまうほどだ。

 

 

「ブイモンを召喚!!効果でカードをオープン!!」

手札5⇨4

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨3

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【グラウモン】◯

【スティングモン】◯

 

 

フレイドラモンの【アーマー進化】で手札へと戻っていたブイモンが再び椎名の場に姿を見せる。そしてその効果も成功。椎名は新たに【スティングモン】のカードを加え、残ったカードを破棄した。

 

 

「さらに追加効果!!2コスト払い、今手札に加えたスティングモンを召喚!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ3⇨5

【スティングモン】(2⇨3)LV1⇨2

 

 

ブイモンのすぐ横に颯爽と現れたのは緑のスマートな昆虫戦士、成熟期のスティングモン。その効果でさりげなくコアが増えていく。

 

 

「ディーアークの効果でドロー!!さらにデジタルブレイヴ、ズバモンを召喚し、スティングモンと合体!!」

手札4⇨5⇨4

【スティングモン+ズバモン】LV2(3)BP11000

 

 

椎名が次に呼び出したのは黄金の鎧を持つ唯一のデジタルブレイヴ、ズバモン。ズバモンは自身の体を分解させていき、スティングモンにそれらを装着させる。スティングモンはズバモンの黄金の鎧をその身に纏った。

 

 

「まだ終わりじゃない!!さらにデュークモンの【煌臨】を発揮!!対象はスティングモン!!」

【ディーアーク】(2s⇨1)LV2⇨1

トラッシュ5⇨6s

 

「!」

 

 

刹那。

 

スティングモンがズバモンとの合体を果たした一瞬のうちに、椎名は手札から新たなカードを抜き取り、それの発揮を宣言する。

 

スティングモンは深い赤の光に身を包まれ、その姿形を大きく変えていく。その風格はまさしく騎士。

 

 

「赤きロイヤルナイツ、デュークモンをLV2で煌臨!!」

手札4⇨3

【デュークモン+ズバモン】LV2(3)BP17000

 

「……ほお、いよいよエースのご登場って感じだな」

 

 

深い赤の光を解き放ち、中から赤いマントを携えた騎士型のデジタルスピリット、デュークモンが堂々と姿を見せた。今回はズバモンとの合体中であるため、その鎧は全体的に鋭利なものとなっており、右手の槍はビーム状になっている。

 

 

「アタックステップ、その開始時、ブイモンの存在により、デジヴァイスを疲労させる事でドロー!」

手札3⇨4

【デジヴァイス】(回復⇨疲労)

 

 

デュークモンが場に立ち、いよいよアタックステップに移行する椎名。デジヴァイスの効果で手札を増やすと共にデュークモンが眼光を放ち、戦闘態勢に入る。

 

 

「デュークモンでアタック!!アタック時効果でシンボル2つ以下のスピリット、識別番号2のレオモンを破壊する!!」

「!」

「無双の一振り……ジークセーバーッッ!!」

 

 

デュークモンがそのビーム状となった槍を天に掲げ、より長大化させ伸ばしていく。極限まで達すると、デュークモンはそれを識別番号2のレオモンへと振り下ろす。レオモンは逃れられず、その槍のエネルギーに飲み込まれ、大爆発を起こして散って行った。

 

 

「これで唯一のブロッカーは消えた!…デュークモンのもう1つのアタック時効果、ターンに一度トラッシュにある滅龍スピリット1体を手札に戻し回復する!!」

「なに!?」

 

「私はトラッシュにあるグラウモンを手札に戻し回復させる、ネクスト・イストリア!!」

手札4⇨5

【デュークモン+ズバモン】(疲労⇨回復)

 

 

グラウモンのカードが吸い込まれるようにトラッシュから椎名の手札へと移動すると、場のデュークモンが赤い光を一瞬だけ纏う。それは回復した証。これでこのターン、二度目のアタック権限を得た。

 

しかも今のデュークモンはズバモンとの合体によりダブルシンボル。一度のアタックでライフを2つ破壊できる。紅蓮のライフは4。

 

終わりだ。

 

ただし、このまま何もなければの話ではあるが………

 

 

「そのアタック、ライフで受けよう!!……っ」

ライフ4⇨2

 

 

デュークモンの聖槍の横一線の一太刀が紅蓮のライフを襲い、そのライフを一気に2つ引き裂いた。

 

だが、これは同時に彼の伏せていたバーストカードの発動条件でもあって………

 

 

「ライフ減少によりバースト、アルティメットウォール!!」

「っ……なに!?」

「この効果によりこのターンのアタックステップを終了させる!!」

 

 

紅蓮のバーストが反転すると共に吹き荒れる猛吹雪。それはズバモンとの合体によってより強力な姿となったデュークモンさえも容易く吹き飛ばして………

 

椎名はアタックステップの終了を迫られていた。

 

 

「………ターンエンドだ」

【ブイモン】LV1(1)BP2000(回復)

【デュークモン+ズバモン】LV2(3)BP17000(回復)

 

【ディーアーク】LV1(1)

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

アタックステップを止められては致し方ない。椎名はそのターンをエンドとする。そしてそれに合わせるかのように猛吹雪は晴れ上がり、真っ白で何も見えなかった椎名達の視界も元に戻る。

 

 

[ターン07]紅蓮

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨7

トラッシュ2⇨0

【レオモン】(疲労⇨回復)

【レオモン(テイマーズ)】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……レオモンをLV3に、燃えさかる戦場をLV2へアップ!!」

リザーブ7⇨1

【レオモン】(1⇨5)LV1⇨3

【燃えさかる戦場〈R〉】(0⇨2)LV1⇨2

 

 

紅蓮は新たなスピリットを召喚はせず、既に並べているカード達のレベルを最大限に上昇させていく。

 

この時点で椎名はある程度察していた。

 

このターン、おそらく紅蓮は自分の持つ最強のカードを呼び出す…と。

 

 

「アタックステップ……レオモンでアタック!!その効果でBP2000のブイモンを破壊する!!」

「!」

「獣王拳!!」

 

 

レオモンの具現化された闘気が右手から放たれ、ブイモンに直撃。ブイモンは堪らず爆発を起こす。

 

そしてさらに紅蓮は動き出す。

 

 

「さらにこの時、レオモンは条件を無視して【煌臨】できる!!」

「なに!?」

 

「【煌臨】発揮!!対象はレオモン!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ0⇨1s

 

 

レオモンが猛々しく吠える。それに呼応するかのように赤い光に包まれ、その姿形を大きく変化させていく。

 

 

「究極進化!!……サーベルレオモン!!」

手札4⇨3

【サーベルレオモン】LV3(5)BP18000

 

 

やがてその光を解き放ち、紅蓮の場に新たに現れたのはレオモンが完全に獣化したとも言える姿をしたサーベルレオモン。ただ、そのサイズ感、前の姿よりも遥かに上回るプレッシャーは究極体を名乗るには十分過ぎる程であって………

 

 

「一気に究極体に進化した……」

 

「これが俺のレオモンデッキの特徴さ………煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ、サーベルレオモンはアタック中、さらに燃えさかる戦場の効果でBPが3000上がり、最初のこのアタックはブロックしなければならない!!」

【サーベルレオモン】BP18000⇨21000

 

「……っ」

 

 

レオモンが究極体に進化した事に動揺する暇などない。燃えさかる戦場の効果をフルに受けたサーベルレオモンが凄まじい速度で地を駆ける。

 

この時、椎名のブロッカーはデュークモンしか存在せず………

 

 

「……デュークモンでブロック……」

 

 

BP17000のデュークモでブロックする椎名。それ以外の選択肢がなかったのだ。

 

デュークモンの目でも追えないほどの速度でその周りを疾風迅雷の如く駆け回るサーベルレオモン。そしてデュークモンに飛び出してはその鋭い爪で攻撃し、また飛び出しては攻撃を繰り返していく。デュークモンもなんとか回避しようと盾を構えるも、なかなかサーベルレオモンを捉えられず………

 

 

「ネイルクラッシャーッッ!!」

 

 

紅蓮がサーベルレオモンの技名を叫ぶ。それに応えるかのようにサーベルレオモンは爪に全エネルギーを集中させデュークモンにトドメの一閃。

 

デュークモンの胸部から腹部にかけて深い爪痕を残した。これには流石に耐えられなかったか、デュークモンはその場で力尽き、倒れ、大爆発を起こした。その際に合体していたズバモンが脱出し、逃げるように飛び出して行った。

 

 

「っ……デュークモン……」

 

 

今の椎名はただただデュークモンの破壊による爆風を肌で感じるしか出来ず………

 

 

「サーベルレオモンの効果、相手スピリットを破壊した時、2枚ドロー!!……エースの死を嘆く暇はないぞ!!」

手札3⇨5

 

「!」

 

「レオモン・テイマーズでアタック!!効果でドロー!!」

手札5⇨6

 

 

立て続けに攻めつつも、バトルによる破壊やアタック時効果を巧みに使い、その手札を大きく潤していく紅蓮。

 

迫ってくるレオモン・テイマーズに対して、椎名はなにも出来ず………

 

 

「……ライフで受ける……っ」

ライフ2⇨1

 

 

ライフで受けた。

 

レオモン・テイマーズの剛拳が椎名のライフをまた1つ粉々に粉砕した。いよいよラスト1となる。

 

 

「……ターンエンドだ」

【レオモン(テイマーズ)】LV2(2)BP5000

【サーベルレオモン】LV3(5)BP18000

 

【燃えさかる戦場〈R〉】LV2(2)

 

バースト【無】

 

 

その荒々しく、豪快なターンをエンドとした赤羽紅蓮。椎名のデュークモンを破壊しつつ、手札を増やし、さらにはライフまでもを砕いた見事なターンであったと言える。

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨11

トラッシュ6⇨0

【ズバモン】(疲労⇨回復)

【デジヴァイス】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、私はデジヴァイスのLVを2に上げ、グラウモンをLV3で召喚!!ディーアークの効果でドローし、ズバモンと合体!!」

リザーブ11⇨2

トラッシュ0⇨2

【デジヴァイス】(0⇨2)LV1⇨2

【グラウモン+ズバモン】LV3(6)BP10000

 

 

真紅の魔竜、成熟期の姿、グラウモンが椎名の場に降り立つと共に、場に残ったズバモンが今度はそれと合体。グラウモンは黄金の鎧を身に纏う。

 

 

「アタックステップッ!!……グラウモンでアタック!!その効果で燃えさかる戦場を破壊!!」

手札6⇨7

 

「!」

「魔炎のエキゾーストフレイム!!」

 

 

戦闘態勢に入るなり、グラウモンは口内から莫大な炎を一直線に紅蓮の背後で燃え上がる燃えさかる戦場へと放つ。その炎は燃えさかる戦場などよりもさらに高温なのか、それを焼き尽くしてみせた。

 

 

「よし!!ダブルシンボルのアタックやで!!椎名の勝ちや!!」

 

 

そう言った真夏。紅蓮のライフは2。ズバモンとの合体により、グラウモンのシンボルも同じく2。ブロッカーもいない事から、これで勝負が決まると思われたが……

 

 

「フラッシュマジック、スクランブルブースター!!」

手札6⇨5

リザーブ2⇨0

トラッシュ1⇨3

 

「!」

「この効果によりこのバトルの間、スピリット1体は疲労ブロッカーとなる!!…対象は当然サーベルレオモン!!…ブロックしろ!!」

 

 

効果により疲労ブロッカーとなったサーベルレオモンが今一度戦闘態勢に入り、凄まじいスピードですぐさまグラウモンに迫る。爪を立て、グラウモンを引き裂こうとするが、グラウモンはなんとかその手を抑え込む。

 

が、デュークモンを破る程のパワーがのし掛かり、押されていく。

 

 

「BP差は歴然、椎名ちゃん、君の負けだ!!」

 

 

そう強く言い放つ紅蓮。

 

だが、椎名はそんな様子を見るなり、小さく口角を上げて……

 

 

「フッ、それはどうだろうね?」

「!?」

「フラッシュ、私はこのカードを使う!!」

「な、なに!?そいつは……」

 

 

椎名がそう言いながら紅蓮に見せつけるように手札のカード1枚を見せる。

 

紅蓮はそのカードに驚愕する。無理もない。何せそれは前のターンで破壊したはずであるデュークモンのカードだったのだから。

 

デュークモンがデジタルスピリット以外に属するカードカテゴリ、ロイヤルナイツはこの世に1枚しか存在しない。2枚目などあるはずがない。

 

が、カラクリは簡単な事。

 

 

「デジヴァイスの効果さ、成熟期スピリットがアタックした時、トラッシュにある究極体スピリットカード1枚を手札に戻す事ができる!!…私はグラウモンのアタックによってこのカード、デュークモンを回収していたんだ」

「……!!」

 

「これでもう一度呼び出す事ができる!!……【煌臨】発揮!!対象はグラウモン!!」

リザーブ2s⇨1

トラッシュ2⇨3s

 

 

グラウモンの眼光が強く輝いたかと思うと、サーベルレオモンを脚の裏で蹴り飛ばし、その間に深い赤の光を纏ってその姿形を大きく変えていく。

 

 

「もう一度来い、赤きロイヤルナイツ、デュークモン!!」

手札7⇨6

【デュークモン+ズバモン】LV3(6)BP21000

 

 

そしてその光を解き放ち、今一度姿を見せたのは赤属性のロイヤルナイツ、デュークモン。今回もズバモンとの合体により、姿がいつもと異なっている。

 

 

「ロイヤルナイツが復活しただと!?」

「煌臨スピリットはその煌臨元となったスピリット全ての情報を引き継ぐ!!サーベルレオモンとのバトルは続行!!さらにLV2、3のアタック時効果でトラッシュのギルモンを手札に戻して回復!!」

手札6⇨7

【デュークモン+ズバモン】(疲労⇨回復)

 

 

紅蓮がデュークモンの復活に驚愕する暇もなく再び開始されるデュークモンとサーベルレオモンの戦闘。

 

サーベルレオモンが爪にエネルギーを溜め、デュークモンに牙を剥く。目にも留まらぬ凄まじい速度で急接近するが………

 

 

「デュークモンのBPはLV3によりBP21000!!…BP18000のサーベルレオモンを超えたっ!!」

「くっ……!!」

 

 

その俊足からの剛強な爪の一撃に反応し、瞬時に盾で防ぐデュークモン。そのままサーベルレオモンの動きを止めつつ、盾にエネルギーを充填していき……

 

……そして……

 

 

「聖盾の一撃……ファイナル・エリシオンッッ!!」

 

 

その盾の中心から放たれたその赤いエネルギーは一直線にサーベルレオモンを貫く。流石に耐えられなかったか、サーベルレオモンは力尽き、ゆっくりと地面に横転し、デュークモのの目の前で大爆発を起こした。

 

 

「回復したデュークモンで再度アタック!!…アタック時効果により、レオモン・テイマーズを破壊!!」

「!!」

「ライフごと切り裂け!!…無双の一振り…ジークセイバーッッ!!」

 

 

トドメと言わんばかりの椎名の叫びと呼応するように、デュークモンは再び天に向かってビーム状となった槍を掲げると、それを長大化させ、レオモン・テイマーズと紅蓮のライフへと振り下ろしていく。

 

レオモン・テイマーズはその莫大なエネルギーの中で跡形もなく消え去ってしまう。

 

 

「……これが……鬼の……いや、芽座椎名の力か………っ!」

ライフ2⇨0

 

 

紅蓮もそう呟きながらその長大化せれたビーム状の槍の中に飲み込まれていった。その一撃でついにライフがゼロとなってしまう。

 

これにより、勝者は芽座椎名。見事大逆転勝利で赤羽司の父、赤羽紅蓮に勝利してみせた。ただ昔とは違い、その表情には一切笑顔は垣間見えないが………

 

 

「私の勝ちだおじさん、これでいいんでしょ?」

「フッ、はっはっはっは!!」

 

 

無表情で、尚且つ冷徹な顔つきのままそう言い放つ椎名。その堂々とした態度に彼女の器の大きさを感じたか、紅蓮は大きく笑って見せ……

 

 

「やっぱ時代は変わったんだな!!ご先祖様なんぞの古めかしい言い分を無理に守ろうとして悪かった!!…椎名ちゃん、君も案内してやろう!」

「よし!やったな椎名!!」

 

 

そう言い放つ紅蓮。真夏達も喜んだ表情を見せる。

 

 

「でも紅蓮さん、その場所ってどこなんです?」

 

 

雅治が紅蓮に聞いた。

 

それもそのはず、幼い時より過ごしている雅治と司はここら一帯の地形を全て理解している。自分達の知らないとこなどどこにもないのだ。

 

そんな彼に対し、紅蓮は口角を大きく上げると……

 

 

「雅坊、よく聞いてくれたな……おい司、そこにあるホウオウモンの像を回してみろ」

「あぁ!?…んでそんな事……」

「いいから、俺もやるからよ」

 

 

司がそう言われ、不機嫌な表情になりつつも、渋々ホウオウモンの像の翼の部分に手をやる。紅蓮もまた反対側の翼を起点に回す。

 

重たい石像がゆっくり横に傾いた。

 

……すると……

 

 

「!?」

 

 

鳴動と共に石像のすぐ横の地面がスライドしていき、中から地下へと繋がる階段が突如として出現した。椎名達は咄嗟にこの石像がその場所へのスイッチなのだと理解して…………

 

 

「さぁさぁ行こうじゃないか少年少女共!!」

 

 

その道からは確かに不穏な空気が流れ出ている。この先に椎名達を待ち受けているものとは…………

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【サーベルレオモン】」

椎名「赤の究極体スピリット、サーベルレオモン。相手スピリットをバトルで破壊したら2枚ドローする効果に加え、破壊時に自分より弱いスピリットを壊滅させる強力な1枚」


******


〈次回予告!!〉


紅蓮の口からついに語られるエニー・アゼムと鎧武の秘密。伝説の英雄、エニー・アゼムとはいったい何者なのか?…そして茜の姿を装ったエニー・アゼムはバトルスピリッツ史上最強のスピリットを手に椎名達の目の前に現れ………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「歴史語られる、VS絶対なる幻龍神!」…今、バトスピが進化を超える!!



******


※次回サブタイトルは変更の可能性があります。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

三期椎名、通称「凛々椎名(りりしいな)」の無敵感が半端ねぇ……

ここ最近芽座椎名の名前の汎用性の高さを実感しつつあります。「覚えやすい」「言いやすい」「弄りやすい」この三拍子が揃った実にいい名前です(自画自賛)




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第98話「語られる歴史、VS絶対なる幻龍神!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椎名、司、雅治、真夏の4人は司の父親である紅蓮に連れられ、赤羽一族の石像の前にあった地下への階段を下りていた。薄暗いため、先頭にいる紅蓮がライトで前方を照らしている。

 

が、直ぐにそんなものは必要なくなる。

 

 

ー!

 

 

「な、なんやここ」

「なんでこの場所だけ明るいんだ?」

(………進化の力がそこら中に溢れている……?)

 

 

その最深部であろう広大な場所に到着した。そこはライトなど必要ない程の鮮やかな色の光に満ちている。他の者はわからずでいるが、椎名だけは咄嗟に理解した。この光は進化の光。オーバーエヴォリューションによってデッキに発生する光そのものだ。何故か常にそれがこの空間に漂っている。

 

 

「ここは進化の間(しんかのま)……大昔の赤羽一族がエニー・アゼムの勇姿と栄誉を称えるために作られた場所だ」

「奴は本当に教科書通りの英雄なのか?」

「まぁそう焦るな司、今から語ってやるよ」

 

 

紅蓮はいつものおちゃらけた態度を一変させて自分の知る全てを語る。エニー・アゼムや2000年前の情報を………

 

 

「エニー・アゼム。知っての通り教科書で習うくらい有名な2000年前の人間で、渡来人だ。彼女は確かに英雄だった。鬼を滅ぼし、人々を救った…………だが、その後に彼女を待ち受けていたのは人間達からの迫害と追放」

 

 

ー!

 

エニー・アゼムの迫害、追放。その言葉に一同はたじろいだ。

 

 

「人間達は彼女の力を妬み、奪った」

「おいまさか、その奪った力っつうのは……」

「そう、進化の力だ。だからこそ今の人間達はオーバーエヴォリューションが可能となった。そして大昔の赤羽一族はエニー・アゼムからバロンを奪い、その力を一族の者に吸収させた。長い年月をかけて司、お前の体の中にバロンが宿り、何らかの作用によって復活した。敵としても最善のタイミングだったろうよ」

「も、もうなんのこっちゃ……」

 

 

鬼に似た強い進化の力を持っていたエニー・アゼム。彼女は鬼を滅ぼした後に、その力に嫉妬、恐怖した人間達から激しい差別及び迫害と追放を受け、さらには自らの進化の力の大半を奪われた。

 

それが後々の【オーバーエヴォリューション】だ。人間達は皆これを一度だけ使える可能性を秘めているのはこの昔話が原因なのだ。

 

そして大昔の赤羽一族はそのデッキのカード、バロンを奪った。それが今になって司のもとに宿り、復活したのだ。紅蓮の言う何らかの作用とは、おそらくジョーカーの進化の力。あの時、強大で危険な進化の力を御した司は偶発的にバロンをこの世に蘇らせた。

 

 

「まぁ要するにエニー・アゼムの人間に対する恨みは相当なもの。彼女ほどの力ならばこの世に誰かの肉体を借りる形で復活することくらい用意だったろうよ」

「フッ、結局ここに来ても答えは同じか……奴らとのバトルに勝つ、それだけだ」

 

 

バーク・アゼムが何故自分のバロンを狙っていたのかを理解した司は強気な態度でそう答えるが……

 

 

「ちょっと待ってくれおじさん、じゃあこのカード、パラディンモードはなんなんだ?…エニー・アゼムはこのカードを自分のカードって言っていたんだ」

 

 

椎名としては疑問に残ることもあった。それはエニー・アゼムが狙っていたインペリアルドラモン パラディンモードのカード。それを紅蓮に見せつけながら問い詰めた。

 

紅蓮はしばらくそのカードを眺め、見つめるが……

 

 

「………んーーー…いや、俺の知る限りだとエニー・アゼムがそんなカードを使っていた記録はないな…彼女はアームズと名のつく仮面スピリットしか使わないはずだ」

「……」

 

 

紅蓮でもパラディンモードの正体は分からずでいた。芽座一族である六月でも知らないとなると、とうとうわかるのはエニー・アゼム本人くらいか………

 

椎名の頭の中にそう過ぎった直後………

 

……その瞬間だった。5人の目の前に巨大な黒い靄が出現したのは。それはまるでこの光に満ち溢れた空間を塗りつぶすかのように………

 

 

「5日振りじゃの、芽座椎名、そして赤羽司……!!」

「っ!!……エニー・アゼム!!」

「っ……あれが!?」

 

 

その中から現れたのは他でもない。赤羽茜の姿を象ったエニー・アゼムだ。

 

 

「本当に茜さんの身体を………その身体から離れろ!!」

「元より死人だ、奪おうと妾の勝手だろう?」

「無茶苦茶言いやがる女だね、エニー・アゼム様は……いくら愛娘の姿借りてても、俺はヒステリックな女は嫌いだね」

 

 

茜の肉体を動かしているエニー・アゼムに対し、雅治が言うと、それを当然のような理屈を立てるエニー・アゼム。そんな彼女に紅蓮は少々呆れていた。まぁ彼としても大昔の人間が復活した事に実感が湧いていないのかも知れない。

 

 

「さぁ芽座椎名……今ここで決着をつけようぞ、其方の持つパラディンモードを今ここで妾の手中に……」

 

 

エニー・アゼムがそう言うと、椎名は黙りながらも懐から自身のBパッドを用意する。

 

が、その前に聞きたいい事があって………

 

 

「このカードはあんたにとってなんだ?」

 

 

椎名がエニー・アゼムにパラディンモードのカードを見せつけながら問い詰めた。

 

エニー・アゼムは少しだけ口を閉じた後に直ぐ答える。

 

 

「………………そのカードは妾の創り出した【14番目のロイヤルナイツ】……共に戦った芽座一族に祝いとして創り出し、譲渡した物だ。そこには妾の進化の力が詰まっている……だからこそそれを取り返し、真の力を解放しなければならないのだ」

「………それは本当か?」

「本当じゃ」

 

 

エニー・アゼムの答えに、椎名はいささか疑問を拭えきれない。

 

これは椎名の女の勘だ。何故だろうか。何故かエニー・アゼムは嘘をついているような気がする………そんな予感がしていた。

 

しかし、やる事は理解している。パラディンモードのカードをエニー・アゼムに渡すわけにはいかない。やる事はただ一つ……バトルあるのみだ。椎名はそう思い、自身のBパッドを展開すると………

 

 

「ここは危険だ、みんなは戻っててくれ」

「椎名っ!!」

 

 

1人エニー・アゼムに挑もうとする椎名。また仲間達を突き放すような態度で言葉を放った。

 

 

「なんであんたあたしらを突き放すんよ椎名!!…自分だけ危険な所に残ろう言い張って!!」

「そうだよ、僕達は今まで一緒に戦ってきたじゃないか!!」

「だからこそだ」

「っ!?」

 

 

「だからこそ私はみんなを守らないといけない。たとえ私が私じゃ無くなったとしても……!!」

 

 

真夏と雅治を黙らせるようにまた強く言い放った椎名。その目線は常に敵であるエニー・アゼムの方を向いている。

 

……が、そんな椎名に詰め寄っていく人物が1人………

 

真夏だ。

 

真夏はその手を椎名の耳まで伸ばし………

 

 

「しい〜〜〜なぁ〜〜っ!!」

「っ……痛てててててて!?……ちょちょ!耳千切れる!!」

 

 

詰め寄った真夏が怒りのままに全力で椎名の耳を引っ張った。まるで椎名を引き留めるかのように、説教するかのように……そして、元の椎名に戻そうとするかのように、現に椎名は久し振りに昔のようなコミカルな表情を見せている。

 

 

「アホかあんたは!!…誰もそんな事望んでないっちゅうねん!!」

「!?」

「どんなに世界が平和になったって、どんなに時代が変わったって、椎名が椎名じゃ無くなるだけであたしらは嫌なんや!!」

「………真夏……」

「だからあたしらにあんたの近くに居させろや!!あんた青春の最後をそんな形で終わらせる気やないやろな?」

「…………!!」

 

 

真夏の必至な想い。

 

それは今椎名を心配する世界中の人間達の代表と言っても過言ではない。

 

そんな想いが椎名の心を再び強く惹きつけて………

 

 

「………うん……わかった………見ててよ真夏!!必ず勝つからさ!!」

「っ……椎名……!!」

 

 

約2ヶ月振りに明るい笑顔を見せて笑った椎名。真夏も雅治も、ひょっとしたら司も、こんな笑顔をずっと待ち望んでいた。

 

椎名は不思議と肩の重荷が軽くなるのを感じた。自分にはこんなにも頼っていい仲間がいるんだと心から感謝している。そんな彼らを紅蓮は微笑ましい笑顔で眺めていた。

 

 

「……茶番は終わりか?……ここから生きて帰れると思うなよ?」

「帰るさ!!帰って明日も学園に行く!!…真夏達と一緒に!!」

 

 

そう強く言い放ち、意気込む椎名。

 

エニー・アゼムも自身のBパッドを展開し、デッキをセットする。

 

そして、真夏達が見守る中、大昔の赤羽一族がエニー・アゼムの勇姿と栄誉を称えるために作った広大な進化の間にて、バトルスピリッツが切って落とされる。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルが開始される。

 

先行は椎名だ。

 

 

[ターン01]椎名

《スタートステップ》

《ドローステップ》

 

 

「メインステップ、私はネクサスカード、デジヴァイスを配置してターンエンド!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

椎名の初手はデジタルスピリットを全力でサポートする小さな機械を腰に取り付けてのエンドとなった。

 

 

[ターン02]エニー・アゼム

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「妾はエイプウィップを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ5s⇨0

トラッシュ0⇨4s

【エイプウィップ〈R〉】LV1(1)

 

「緑?…今のあんたは紫じゃないのか?」

 

 

エニー・アゼムが初手で呼び出したスピリットは緑属性のエイプウィップ。4本の手を生やした猿型のスピリットだ。彼女は以前、ゾディアーツと呼ばれる紫のスピリット群を使用していた事から違和感を感じる椎名。

 

 

「前も言ったろう…次なるは妾の力の一端を見せるとな!!…召喚時、コア1つをリザーブへ、さらにソウルコアを使用しての召喚の場合、さらにコアの墓地へと2つコアを追加!!」

リザーブ0⇨1

トラッシュ4⇨6

 

「……一気に3つもコアを……!?」

 

 

貧相な見た目の猿、エイプウィップが遠吠えを上げると、エニー・アゼムのリザーブとトラッシュにそれぞれコアが追加された。

 

 

「妾の番はこれで終わり」

【エイプウィップ〈R〉】LV1(1)BP1000(回復)

 

バースト【無】

 

 

多量のコアを増やし、そのターンをエンドとするエニー・アゼム。次は椎名のターン。

 

 

[ターン03]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ……私はブイモンを召喚!!……効果でカードをオープン!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【ギルモン】×

【ライドラモン】◯

 

 

小さな青い竜が椎名の場に現れる。そしてその召喚時効果も成功し、椎名は新たにアーマー体スピリット、ライドラモンのカードを手札へと加え、さらにそれを発揮させる。

 

 

「さらにライドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

 

 

椎名がそう宣言すると共に、ブイモンの頭上に黒い瓢箪の形をしたデジメンタルが投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな進化を遂げる。

 

 

「轟く友情……ライドラモンを召喚!!」

【ライドラモン】LV1(1)BP5000

トラッシュ4⇨6

 

 

椎名の場に新たに現れたのは黒いボディの獣型のアーマー体スピリット、ライドラモン。登場するなり大きく、それでいて気高く雄叫びを上げて椎名のトラッシュにコアの恵みを与えた。

 

 

「………エンドだ」

【ライドラモン】LV1(1)BP5000(回復)

 

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

「っ……椎名らしくもないな、もうターンを終えるやなんて……」

「あのバカはエニー・アゼムのバトルを見極めようとしてんのかもな、仕掛けるなら次のターンからだろう」

 

 

アタックを行う事なくそのターンを終える椎名。その様子に疑問を抱く真夏に対し、司が冷静な口調でそう言った。

 

実際は司の言う通りだった。相手はどんなに力を隠し持っているか未知数なエニー・アゼム。彼女のバトルをこの序盤の数ターンで見極める必要が確かにあって………

 

 

[ターン04]エニー・アゼム

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨8

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ、妾は2体目のエイプウィップを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ8s⇨1

トラッシュ0⇨3s

【エイプウィップ〈R〉】LV2(4)BP4000

 

「っ!?…2体目!?」

 

「当然ソウルコアを支払う、よってコアを3つ増加!!」

リザーブ1⇨2

トラッシュ3s⇨5s

 

 

エニー・アゼムは前のターンで存分に増えたであろうコアをさらに増加させるために2体目のエイプウィップを召喚。そのコアが増していく。

 

これで増えたコアは合計6個。椎名のライドラモンと比べても実に3倍の速さでコアが増加している。

 

 

「………妾の番はこれで終わり」

【エイプウィップ〈R〉】LV1(1)BP1000(回復)

【エイプウィップ〈R〉】LV2(4)BP4000(回復)

 

バースト【無】

 

 

だがしかし、エニー・アゼムはまたもやそれだけでそのターンを終えてしまう。

 

彼女の不気味なコアバーストが続く中、椎名の第5ターンがスタートする。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨7

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ……(あんなにコアを増やして何がしたいのかはわからないけど、ここは全力で私のバトルを押し通す!!)……ブイモンを再召喚し、効果発揮!!」

手札6⇨5

リザーブ7⇨3

トラッシュ0⇨3

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【マグナモン】◯

【スティングモン】◯

 

 

そう思考し、椎名はライドラモンの【アーマー進化】で手札に戻っていたブイモンを再度場へと呼び出し、効果も成功ささる。今回はその中の対象カード、【スティングモン】を手札に加えた。

 

 

「さらに2コスト支払い、スティングモンを召喚!!」

手札5⇨6⇨5

リザーブ3⇨0

トラッシュ3⇨5

【スティングモン】(1⇨2)

 

 

ブイモンの追加効果だ。ブイモンのすぐ横に颯爽とスマートな昆虫戦士、スティングモンが現れ、その効果でさりげなくコアを増やした。

 

 

「もう出し惜しみはしない!!アタックステップ!!デジヴァイスを疲労させてドロー!!…ライドラモン、スティングモン…いけぇ!」

手札5⇨6

【デジヴァイス】(回復⇨疲労)

【スティングモン】(2⇨3)LV1⇨2

 

 

アタックを仕掛ける椎名。2体のスピリットが地を駆ける。スティングモンがまたさり気なくコアを増やした。

 

そんな椎名の行動に対し、エニー・アザムが取った行動は…………

 

 

「妾のライフ、もらうがいい!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

ライフの減少を宣言。スティングモンの拳の一撃と、ライドラモンの頭角が突き刺さる体当たりがそれぞれ1つずつ彼女のライフを破壊した。

 

 

「…………ターンエンドだ」

【ライドラモン】LV1(1)BP5000(疲労)

【ブイモン】LV1(1)BP2000(回復)

【スティングモン】LV2(3)BP8000(疲労)

 

【デジヴァイス】(疲労)

 

バースト【無】

 

 

攻めるには攻めたものの、エニー・アゼムから発せられる違和感と不気味さが拭えぬまま、そのターンをエンドとした椎名。

 

次はまたエニー・アゼムの番だ。

 

 

[ターン06]エニー・アゼム

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨10

トラッシュ5⇨0

 

 

「妾のメインステップ………罠を伏せる………遂にこれを呼び出す時が来たか……」

手札5⇨4

 

「?」

 

 

エニー・アゼムのメインステップ。ここで言う罠とはバーストカードのことだ。彼女の場に裏向きで伏せられる。

 

彼女は怪しげで不気味な表情をこれでもかと前面に晒し出しながら言った。まるでこのターンで一気に勝負を着けると宣言しているかのように………

 

……これは……

 

……今から呼び出されるソレは……

 

……エニー・アゼムという超常な存在が持つ力の一端に過ぎない……彼女の持つ進化の力と言うのは、椎名達が持つそれとは比べ物にはならない。それがいま証明される。

 

 

「………照覧あれ!!全てのスピリットの頂点に立つ絶対なる神よ!!…龍神を象り、今こそ地上に天罰を下せ!!………絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン!!召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨0

トラッシュ0⇨10

【エイプウィップ〈R〉】(1⇨0)消滅

【エイプウィップ〈R〉】(4⇨0)消滅

【絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン】LV1(5)BP50000

 

 

ー!

 

 

進化の力による光に満ち溢れていた進化の間に暗がりの悪雲が立ち込める。そこから稲光と共に姿を見せたのは、絶対なる幻龍神。

 

名もアマテラス・ドラゴン。この世界においては歴史の教科書でも習う程に有名な伝説のスピリット。だがそれは飽くまでも仮説の塊。その全貌はほぼ謎に包まれているが、ただ1つだけ言えることがある。

 

それは……

 

そのカードがバトルスピリッツというカードゲームの中で最強の僕であるという事……

 

 

「あ、アマテラス・ドラゴン!?」

「うそやん……本物?」

「フッフ、いや、これは妾の進化の力で作り上げた謂わば模造品じゃ」

「模造品って……」

 

 

当然の如く驚嘆し、驚愕する椎名達。そう、これはエニー・アゼムの進化の力で作り上げた言わば偽物。

 

だが、その圧倒的な効果。他を寄せ付けない無敵の効果はそのままであり………

 

 

「アマテラス・ドラゴンの召喚時!!全てのスピリットを破壊する!!」

「っ……なにっ!?」

「その咆哮、神光は全てを無に帰す……!!」

 

 

圧倒的な存在感と重圧を放つアマテラス・ドラゴンは登場するなり、気高く透き通るような咆哮を神光と呼べる後光と共に放つ。それを聴いた者、見た者は忽ち分子レベルで崩壊していく。

 

椎名のスピリット達も例に溺れず、一瞬にして細かく散って行った。椎名はただそこから巻き起こった風圧を受け止めることしかできず………

 

 

「……これがアマテラス・ドラゴンの力………私の場が一瞬にしてゼロに……」

「緩くはないぞ……アタックステップ!!……行くがいい、アマテラスよ!!」

「っ!!」

 

 

そのままアタックステップに直行するエニー・アゼム。アマテラス・ドラゴンがその細長い身体をくねらせながら椎名のライフへと迫りいく。

 

場のスピリットカードを失った椎名にこのアタックを守る手段があるわけもなく………

 

 

「……ライフで受ける……」

 

 

と、宣言するしか出来なかった。

 

 

 

「ならば受けるがいい、3つ分の痛みを!!」

 

「っ………う、うぁぁぁぁっ!!!」

ライフ5⇨2

 

「「椎名!!」」

 

 

アマテラス・ドラゴンの口内から放たれる神々しい天上の力を携えた熱線が椎名のライフを襲う。そのライフは一瞬にして大半が粉々に砕け、気づけば残り半分以下の2となってしまう。

 

これがスピリット全滅効果以上にアマテラス・ドラゴンの恐ろしい特徴、それはトリプルシンボル。一度のアタックで3つのライフを破壊できる………

 

真夏と雅治が咄嗟に椎名の名を叫ぶ………椎名も流石にあれだけのダメージを受けて無傷なわけがないか、膝をついていた。

 

 

「………妾の番はこれで終わりじゃ、さぁ立て虫ケラよ、まだまだこれからじゃ……」

「っ………上等……!!」

 

 

椎名は驚異的な強さを持つアマテラス・ドラゴンを前にしても怯まず、臆さず、再び膝を伸ばし立ち上がった。

 

 

「……妾の番はこれで終わり」

【絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン】LV1(5)BP50000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

自分の他とは違う進化の力を見せつけ、そのターンをエンドとするエニー・アゼム。確かにこの時点でオーバーエヴォリューションの原点の力と言える。

 

が、次はそれにも屈しない精神を持つ芽座椎名のターン。勢いよく、そして堂々とそれが開始される。

 

 

[ターン07]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ8⇨9

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ9⇨14

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ……ギルモンを召喚!!」

手札7⇨6

リザーブ14⇨10

トラッシュ0⇨3

 

 

スピリットの神と呼べるアマテラスを前に椎名が呼び出したのは真紅の魔竜成長期の姿ギルモン。

 

 

「さらにマジック、ブルーカードを使用!!…カードを4枚オープン!!」

手札6⇨5

リザーブ10⇨9

トラッシュ3⇨4

オープンカード↓

【エクスブイモン】×

【ティーアーク】×

【マリンエンジェモン】×

【デュークモン】◯

 

 

椎名が使用したのはデジタルスピリットを進化させるブルーカード。今回はギルモンと同じ赤一色のスピリットが該当する。

 

よって召喚されるのは………

 

 

「よし、赤きロイヤルナイツ、デュークモンをLV3で召喚!!」

リザーブ9⇨3

トラッシュ4⇨5

【デュークモン】LV3(6)BP18000

 

 

青色のカードがギルモンの身体を潜り抜ける。ギルモンはその中で白い鎧と赤いマント、左手に巨大な盾、右手に槍を持つ赤属性のロイヤルナイツ、デュークモンに進化を遂げた。

 

 

「来たかデュークモン……最早妾の力は其方程度では止められはせんぞ!!」

 

「ごちゃごちゃ言うな、アタックステップ!!…デュークモンでアタック!!さらにフラッシュ、その効果でトラッシュにあるギルモンを手札に戻し回復!!」

手札5⇨6

【デュークモン】(疲労⇨回復)

 

 

召喚したてのデュークモンでアタックを仕掛ける椎名。その効果で回復状態となり、2度目のアタックを可能にした。唯一のスピリットであるアマテラスは疲労状態。エニー・アゼムはライフで受ける他なく………

 

 

「妾のライフ、もらうがいい!!」

ライフ3⇨2

 

 

デュークモンの聖なる槍の刺突がエニー・アゼムのライフを1つ貫いて見せた。

 

が、これは同時に彼女の伏せていたバーストの発動条件でもあって………

 

 

「妾の罠を発動!!…絶甲氷盾!!…ライフ1つ回復、さらにアタックステップは終了!!」

ライフ2⇨3

リザーブ1⇨0

【絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン】(5⇨2)

トラッシュ10⇨14

 

「……っ」

 

 

エニー・アゼムのライフが瞬時に回復すると共に、フィールドに猛吹雪が吹き荒れる。椎名はアタックステップ、及びこのターンのエンドを迫られた。

 

 

「っ………ターンエンド」

【デュークモン】LV3(6)BP18000(回復)

 

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

椎名がエンドの宣言を行うと、すぐさまその猛吹雪は収まり、視界を確保させた。

 

次はもう一度エニー・アゼムのターン。彼女の持つ強力無比極まりないスピリット、アマテラス・ドラゴンが今一度動き出す。

 

 

[ターン08]エニー・アゼム

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨15

トラッシュ14⇨0

【絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン】(疲労⇨回復)

 

 

「妾のメインステップ………」

 

 

メインステップの開始直後、エニー・アゼムはその4枚の手札の内1枚を見つめ、すぐさまそれを抜き取る。

 

そのカードは椎名達をまたもや驚愕させるには余りにも十分なものであって………

 

 

「妾は……2体目となる絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴンを召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ15⇨1

トラッシュ0⇨10

【絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン】LV1(4)BP40000

 

「なにっ!?」

「2体目のアマテラス・ドラゴンだと!?」

 

 

悲鳴をあげるように空気が震撼し、雷が鳴り響く。そんな中、2体目となるアマテラス・ドラゴンが現れ、最初の1体目の横に並び立った。

 

今まで……

 

今まで伝説のカードといえばそれただ1枚しか存在していなかった。こればかりは盲点だった。想定外の出来事に誰もが呆気に取られる。

 

 

「召喚時、スピリット全てを破壊する!!…この時、最初のアマテラス・ドラゴンは自身の能力によりその効果を受けない!!」

「……っ」

「よって破壊されるのは其方のデュークモンだけ……くたばるがいい!!」

 

 

2体目のアマテラス・ドラゴンが最初の1体目と同じく透き通るような甲高い咆哮と神光とも呼べる後光を解き放つ。同格の神である最初のアマテラスはそれを弾くが、デュークモンはそう言うわけにはいかない。

 

……しかし、守れないと言うわけでもなく……

 

 

「くっ……手札のグラニの効果!!1コスト支払いデュークモンと合体するように召喚!!…さらにこのターン、デュークモンは効果で破壊されない!!」

手札6⇨5

リザーブ3⇨2

トラッシュ5⇨6

【デュークモン+グラニ】LV3(6)BP24000

 

「なに!?」

 

 

椎名が勢い良く手札から抜いた1枚のカードは赤のブレイヴカードグラニ。音を超える速度でデュークモンの前方に現れたかと思うと、その力を存分に発揮させるように赤い光を解き放ち、それを相殺。デュークモンを破壊から護った。

 

 

「……神の力を退けるとはな……じゃが、まだ妾のターンは終わってない!!…アマテラスにコアを追加し、今一度罠を伏せる」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

【絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン】(2⇨3)BP20000⇨30000

 

 

2体目のアマテラスの効果はほぼ不発に終わったが、エニー・アゼムのターンが終わったわけではない。バーストを伏せ、アマテラスのBPを調節すると、そのままアタックステップへと直行する………

 

 

「アタックステップ!!……2体目のアマテラス・ドラゴンで攻撃!!その戦闘力は40000!!」

 

 

コアが4つ置かれたアマテラス・ドラゴンで攻めるエニー・アゼム。

 

桁外れのBP。桁外れのシンボル数。

 

余りにもカードのスペックに差があり過ぎる。あのロイヤルナイツのデュークモンでさえも霞んで見えてしまう。

 

が、椎名も負けてはいられない。手札のカードをさらに切り、このターンを凌ぐべく動き出した。

 

 

「フラッシュマジック、デルタバリア!!」

手札5⇨4

【デュークモン+グラニ】(6⇨3)LV3⇨2

トラッシュ6⇨9

 

「……っ」

 

「この効果によりこのターン、コスト4以上のスピリットのアタックじゃ私のライフはゼロにならない!!…それはライフで受ける!!………う、うぅっ!!」

ライフ2⇨1

 

 

椎名の前方に球体が3つ現れたかと思うと、それらは電磁を発して繋がれていき、三角形の壁を形成。それは砕かれながらもアマテラス・ドラゴンの口内から放たれる神々しい天上の力を携えた熱線から椎名のライフを辛うじて守り抜いた。

 

 

「これは私のライフに関係する効果、アマテラス・ドラゴンにも適応される………」

 

「……しぶとい……まぁ良い、妾の番はこれで終わり。次の番で其方の最後じゃ」

【絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン】LV1(3)BP30000(回復)

【絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン】LV1(4)BP40000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

2体の神を従え、そのターンをエンドとするエニー・アゼム。今、彼女はこのバトルの勝利を確信していた。

 

それもそのはず、伏せているバーストカードは2枚目となる【絶甲氷盾】……さらに手札には【3枚目の絶対なる幻龍神アマテラス・ドラゴン】までもある。

 

万に1つあっても負けるわけがない。その確固たる自信が今の彼女には確かに存在していた。椎名もこの時点で何となくそれを予想しており………

 

 

(……このターンが最後だ……あるのか、私のデッキにこの状況をひっくり返す切札は………?)

 

 

そう思考を巡らせていた。敵の残りライフは3つ。ブロッカーはBP30000のアマテラス・ドラゴンが1体。バーストもある。

 

デュークモンだけではまず間違い無く勝てない。

 

………しかし、

 

 

(……ある……たった1つだけ残された手が……)

 

 

1つだけ……たった1つだけこの状況を覆せる可能性のあるカードを椎名は思い出した。それはA事変の時、散々繰り返した進化の力によって生み出され、勝手にデッキに入っていたカード。

 

使う機会もなかったが、今、ここが使い時であると椎名は見た。

 

今も昔もこれからも、椎名はバトルに迷ったりはしない。明日も真夏達と学園に通うため、椎名はそのカードをドローする事に全身全霊を注ぎ、全てを懸ける。

 

 

[ターン09]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

 

 

「ドローステップ………ドローッッ!!……よしっ!!」

手札4⇨5

 

 

強く意気込みドローを行う椎名。そのドローした運命のカードはまさしく狙っていたそのカード。久し振りに椎名はポーカーフェイスを忘れ、僅かながらに口角を上げた。

 

その様子をエニー・アゼムは余裕の表情で眺めていた。勝てるわけがない。この状況をどうにかできるわけがない。そういった考えから来るものであって………

 

そして椎名は今からそのエニー・アゼムの余裕を崩す。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨13

トラッシュ9⇨0

 

 

「メインステップ!!ギルモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ13⇨10

トラッシュ0⇨2

【ギルモン】LV1(1)BP3000

 

 

真紅の魔竜、成長期の姿であるギルモンが今一度椎名の場に現れる。

 

そしてここからだ。ここからが真打の登場である。

 

 

「私はこのブレイヴカード、断罪ノ滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソードを召喚!!…その際にギルモンを消滅!!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨4

トラッシュ2⇨6

【ギルモン】(1⇨0)消滅

【断罪ノ滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】LV1(3)BP5000

 

「っ!?……なんだ!?」

 

 

ギルモンが不足コストにより消滅し、トラッシュへと送られた直後……

 

椎名とデュークモンの前方に悍ましくも禍々しい剣が切っ先を地へと向けて現れた。それは滅龍の力がこれでもかと凝縮された一振りの魔剣。

 

その存在にエニー・アゼムはおろかアマテラス・ドラゴンさえも驚愕し、怯えているように見える。

 

 

「なんだその剣は……!?」

 

「これは私の進化の結晶……みんながいたからこそ生まれたカードだ!!…このカード共にあんたを討つ!!」

 

 

椎名はエニー・アゼムに対してそう強気な態度で言い放つと、メインステップを再開する。次はブレイヴらしく合体だ。

 

 

「グラニとの合体を解除し、断罪ノ滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソードをデュークモンに合体!!」

リザーブ4⇨3

【グラニ】LV1(1)BP6000

【デュークモン+断罪ノ滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】LV3(6)BP28000

 

「っ……デュークモンが黒く変わっていく……!?」

 

 

グラニとの合体が解除されると、デュークモンはその地へと突き刺さったジャッジメント・ドラゴン・ソードを抜き取るべく、盾と槍を解除して素手を露わにする。

 

デュークモンがその手で魔剣を地面から引き抜くと、その魔剣に宿る黒い力が身体全体を巡っていく、その作用のせいか、赤いマントは消滅。代わりに漆黒の翼が新たに生え、純白だった白い鎧も黒く染まった。その姿はとてもではないがデュークモンとは言えない。

 

魔剣同様に悍ましくも禍々しくなったデュークモンに対して真夏を始めとした誰もが驚愕した。しかし、その姿を仲間内で誰も非難する事はなく………寧ろ椎名の新しいカードの登場を喜んでいるようであった………

 

 

「アタックステップ!!……デュークモンで合体アタック!!…効果でトラッシュにあるギルモンを手札に戻し回復!!」

手札3⇨4

【デュークモン+断罪ノ滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】(疲労⇨回復)

 

 

魔剣を荒々しく構え、黒い残像が残る程の速度で翔けるデュークモン。目指すは当然エニー・アゼムの残り3つのライフだ。

 

 

「フッ、いくら強化されたとはいえ、所詮は戦闘力28000!!30000のアマテラス・ドラゴンで返り討ちにしてくれる!!」

「………っ」

 

 

そう言いながらコアが3つ置かれている唯一のブロッカー、アマテラス・ドラゴンにブロックの指示を送るエニー・アゼム。アマテラス・ドラゴンは神の如く透き通る咆哮を上げながらデュークモンへと迫る。

 

激しくぶつかり合う両者。アマテラス・ドラゴンの方が圧倒的に体格が上だが、デュークモンはスピードでそれを翻弄する。アマテラス・ドラゴンの熱線をこれでもかと何度も回避し、何度も魔剣で撃ち返していた。

 

 

「所詮は虚仮威し!!…終わりじゃ、パラディンモードは貰うぞ!!」

 

「いや、まだだ。まだ私のバトルスピリッツは終わらない!!フラッシュマジック、レッドカード!!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨1

トラッシュ6⇨8

 

「!?」

 

「この効果によりこのターン、デュークモンのBPを3000アップ!!よってBP31000!!」

【デュークモン+断罪ノ滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】BP28000⇨31000

 

 

椎名の叫びと放たれた1枚のマジックカード。それが魔剣を握るデュークモンに更なる力を与えた。デュークモンは漆黒の翼を広げ、アマテラス・ドラゴンよりも上空へと飛び立ち、魔剣の切っ先をアマテラス・ドラゴンへと向けながら急降下する。

 

アマテラス・ドラゴンはそれを迎撃しようと熱線を何度も何度も放つが、全て魔剣に吸われるように消滅していく。

 

………そして……

 

 

「神をも穿つ一撃……ジャッジメント・スラストッッ!!」

 

 

その魔剣から繰り出されるデュークモンの刺突はアマテラス・ドラゴンを完全に捉え、貫いた。アマテラス・ドラゴンも流石に耐える事は出来なかったか、甲高い呻き声を上げながら上空で遂に大爆発を起こした。

 

 

「……おぉ、あのアマテラスを倒すとは……なんて子だ……」

「それが椎名やでおじさん!!…どんな不可能も可能にする……それが芽座椎名のバトルスピリッツや!!」

 

 

この光景を前にそう呟いた紅蓮に対し、真夏がそう答えた。

 

そうだ。いつでもどんな時でも、どんなに劣勢でも、どんな強敵が目の前に現れても椎名は必ず逆転して見せた。そして今回も………

 

 

「回復したデュークモンで再度アタック!!」

 

 

魔剣を今一度構え、今度はエニー・アゼムのライフを狙うデュークモン。エニー・アゼムの場はもはや疲労状態のアマテラスのみ。

 

このアタックはライフで受ける他ない。

 

 

「妾のライフ…貰うがいい………っ」

ライフ3⇨1

 

 

魔剣を荒々しく構えたデュークモンの横一閃の一撃がエニー・アゼムのライフをまるで紙切れのように一気に2つ切り裂いた。

 

これで残り1つ。椎名の場にはまだアタックしていないグラニが存在する。これで終わりだ………

 

と、思われたが、詰めが甘かったか、エニー・アゼムが事前に伏せていたバーストカードが発動される。

 

 

「妾の罠、絶甲氷盾を発動!!…ライフを1つ回復させ、アタックステップを終わらせる!!」

ライフ1⇨2

リザーブ5⇨1

トラッシュ10⇨14

 

「………っ」

「嘘だろ!?」

 

 

今一度発動するエニー・アゼムの絶甲氷盾。ライフが瞬時に1つ復活すると共に、椎名の場に猛吹雪が発生。ターンのエンドを迫られた…………

 

 

「………ターンエンド」

【デュークモン+断罪ノ滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】LV3(6)BP28000(疲労)

【グラニ】LV1(1)BP6000(回復)

 

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

ターンのエンドを宣言する椎名。その瞬間に猛吹雪も収まる。その様子にエニー・アゼムは笑みを浮かべて………

 

 

「フッ、はっはっはっは!!!…所詮はこの程度か!!……これで妾の番、妾は3枚目のアマテラス・ドラゴンを召喚し、勝利を収める!!」

「…………」

 

 

そう強く言い放ち、手札のアマテラス・ドラゴンを椎名達に見せつけるエニー・アゼム。

 

終わりだ。

 

1体倒すだけでもあれだけ骨が折れるというのに、3体目のアマテラス・ドラゴンなど対処のしようがない。

 

ただ……

 

飽くまでも【次のターンが存在していれば】の話ではあるが…………

 

 

「ジャッジメント・ドラゴン・ソードのアタック時効果……このターンの終わりに、私はもう一度自分のターンを行う……!!」

「………っ!?……もう一度自分の番を……!?」

 

 

デュークモンの持つ魔剣からこれでもかと言わんばかりに悍ましい闇が放出されていく。その様子は椎名のエクストラターンが発生している証拠。

 

そう、その魔剣の真の力とは時をも壊す超越的な力。バトルスピリッツのルールさえをも覆す力だ。その驚愕の力に、流石のエニー・アゼムも驚きを隠せないでおり……

 

 

「……もう一度私のターン!!」

 

 

魔剣から放出された闇が上空を包み込み、椎名のエクストラターンが幕を開ける。

 

そしておそらくそれがこのバトル最後のターンとなるであろう。

 

 

[ターン10]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

【デュークモン+断罪ノ滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……そしてアタックステップ……!!」

「……っ」

「トドメだデュークモン!!」

 

 

メインステップを丸投げにし、デュークモンで即座にアタックを仕掛ける椎名。デュークモンがまた黒い残像が見える程の速度で翔ける。

 

対するエニー・アゼムの場は疲労したアマテラスのみ。身を守るものは何もなく………

 

 

「馬鹿な……芽座椎名は神をも超えるとでも言うのか!?………っ」

ライフ2⇨0

 

 

そう言い残し、減少の宣言をするまでもなくデュークモンの手に持つ魔剣の縦一閃が彼女のライフを一瞬にして斬り裂いた。

 

唯一彼女の場に残っていたアマテラス・ドラゴンは悲鳴のような呻き声を上げながら光の粒となって散って行った。最後まで残っていたのは絶対なる神ではなく、魔剣を携えた椎名のエース、デュークモン。

 

これにより、椎名の勝利に終わる。見事に神のカードを壮絶なバトルの末、打ち破り、大逆転を収めて見せた。しかし、アマテラス・ドラゴンが完全に消えた直後、気づけばエニー・アゼムの姿は既に見当たらず………

 

 

ー覚えているが良い、芽座椎名!!そしてその仲間達!!もうパラディンモードには頼らん!!……じゃが近い将来、必ず妾は真の力を取り戻す!!その時が其方らの最後じゃ!!

 

 

そう強気な声だけが聞こえてきた。結果的にはエニー・アゼムは一時逃亡したと捉えられるか………

 

椎名は鋭い目つきをエニー・アゼムがいた場所に向けていた。まるでいつでもかかって来いと言わんばかりに…………

 

 

「椎名!!」

「椎名!!」

「………っ!」

 

 

そんな時だ。椎名の勝利を祝うかのように仲間達が彼女の元に集結した。

 

 

「次は僕達も戦う!!僕達でこの世界を護ろう!!」

「そやな!!椎名だけに良いとこは譲らんでぇ!!」

「俺は俺で、勝手にやらせてもらうぞ、少なからずバロンも関わっているのがわかったわけだしな」

「………みんな………あぁ、一緒に頑張ろう……!!」

 

 

椎名は……

 

決して1人ではない。

 

この3年間で培ってきた仲間達がいる。頼り甲斐があって、掛け替えのない存在がいる。椎名はそんな仲間達と強い絆がある事を再確認したのだった…………

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【断罪ノ滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】」

椎名「赤のブレイヴ、ジャッジメント・ドラゴン・ソード。合体条件が限りなく限定されるけど、アタックした瞬間にエクストラターンの効果を付与してくれる最強の1枚だ!!」


******


〈次回予告!!〉


エニー・アゼムの脅威は一時去った。どこへ消えたかも検討がつかない椎名達は普段通りの日常を送ることになる。そんな時、椎名の目の前に現れたのは………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「岬 五町、宇宙キターーー!!」今、バトスピが進化を超える?


******


※次回サブタイトルは大きく変更する可能性があります。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

次回からは皆さんお待ちかね?…の日常回です。頑張って10話分くらいはやろうと思っています!!

そして次回は早速新キャラ【岬 五町】の登場です!!少しだけネタバレしますと、彼女は椎名達の2つ下の後輩で、使うデッキは………アレです。

何はともあれ、次回も楽しみにお待ちください!!


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第99話「岬五町、宇宙キターーー!!!」

 

 

 

 

 

 

椎名がエニー・アゼムとバトルをしてから約一週間が経過した。あれ以降エニー・アゼムもバーク・アゼムも椎名達の前から姿を一切見せなくなり、一時態勢を整えようとしているのが確かに伺えて………

 

敵のいる場所がわかるわけもなく、椎名達は再び平和で平穏な日常を過ごす事になった…………ただ、それは当然ただの平穏ではなく……

 

……なんとも騒がしい平穏な日々である。

 

 

******

 

 

季節は5月、気温は暑すぎず寒すぎず、ただ散って行った桜並木の桜だけがアスファルトの上に残り、刹那さを感じさせるこの季節。椎名と真夏は鞄を持って学園に向かって登校しており………

 

 

「結局エニー・アゼムはいつやって来るんやろな?」

 

 

真夏が横を歩く椎名に聞いた。

 

 

「さぁね、なんか別の方法で完全復活するみたいなニュアンスだったけど………まぁいつやって来たってまた返り討ちにするだけだ……」

 

 

すっかりクールな性格が板について来た椎名。他の仲間達とある程度は絡むようになったはいいものの、この一見冷めたような振る舞いと態度までは改善されていなかった。

 

 

「あんたやっぱ変わったなぁ」

「え、そう?」

「変わった変わった!!…全然ボケんくなったし」

 

 

真夏もそんな椎名の変化を感じないわけがない。別に無理して前の明朗快活な椎名に戻って欲しいわけでもないが、やはりどこか違和感は拭えず………

 

……そんな時……

 

 

「いた………」

「「?」」

「ついに見つけた………」

 

 

2人の背後から声がした。女の声だ。2人は声のする方へと振り向いた。それはこの学園の女子生徒、おそらく1年生。肌が椎名と同じくらい白くて、髪色も金髪で、長い後髪がシュシュで2つに分かれているのが特徴的。背は椎名よりも若干低いくらいか……

 

……だが、一番印象的なのはその来ている上着が制服ではなくジャージであるという事。

 

 

「やっぱそうじゃん!!…私1年の【岬 五町(みさき こまち)】って言いまス!!……椎名先輩っスよね!!くぅ〜〜っ会えて光栄だぁっ!!」

「お、おぉそうなの……」

 

 

五町という1年少女の勢いに思わずたじろぐ椎名。この時点で彼女から椎名への憧れが強く感じ取れる。だがこれだけではない。五町は椎名に頼みたいことがあって………

 

 

「早速っスけど、この私を、岬五町をあんたの弟子にしたください!!」

「…………は?……私の!?」

「はい!!」

 

 

気合い十分、明るい口調で単刀直入に椎名にそう言い放った五町。流石に困惑する椎名。それもそうだろう。誰でも急に現れた人物に「弟子にしてくれ」と言われたら戸惑うに決まっている。

 

 

「椎名先輩は私の憧れなんっス〜〜〜!!…界放市どころか世界丸ごと救った英雄で、顔も良いしスタイルも良いしミスコン2連覇してるし、兎に角憧れてまス!!私を弟子にして!!」

「はっはっは!!なんや面白いやっちゃな、後半ほぼルックス褒めただけやけど」

 

 

椎名をべた褒めする五町。

 

理由はどうあれ、彼女が椎名に弟子入りしたいのは本気のようであり、その嘘をつかない性格なのがこの時点で確かに2人に伝わって来ていて………

 

 

「1年生、残念だけど私は弟子を取る趣味はないよ」

「え〜〜!!そこをなんとか!!」

「そもそも、私とは関わらない方がいい」

 

 

椎名は素っ気ない態度で五町を突き放す。

 

椎名側としても理屈にはなっている。今ここで交友を広く持てば、必ずいずれ訪れるであろうエニー・アゼム達との戦いに巻き込んでしまう事になる。

 

気にし過ぎている気もするが、椎名はそれが堪らなく嫌なのだ。

 

……しかし……

 

 

「じゃあ『姐さん』って呼んでもいいっスか?」

「今の会話の流れでなんでそうなる!?」

 

 

五町は椎名の話を聞いていないのか、ニコニコ笑いながら全く的外れな事を言い出した。

 

 

「なんか、昔のあんたに似とるな」

「え、私ってこんなんだった?」

 

 

真夏にそう言われ、少しだけ戸惑いを見せる椎名。

 

………俄かには信じられない。昔の自分は客観視に見てもうちょっとマシだっただろ。

 

そんな事を頭の中で咄嗟に考えた。

 

 

「ニッヒッヒ!!…やったね、これで私は姐さんの弟子だ!!」

「いや、だからなんでそうなるんだよ……」

 

 

両手を挙げながら満面の笑みで微笑ましく喜ぶ五町。どんどん勝手に話を進め、もう既に椎名の弟子になった気分でいる。

 

 

「まぁええやん、可愛い後輩がまた1人増えたんやし」

「………はぁ、めんどくさいな……」

「そう言わずに、先ずは私とバトルしてくれ!!………と、言いたいところっスけど、私今日【代表バトル】に出ないといけないのでこれで一旦失礼しまっス!!」

「代表バトル?…あんたそれに出るくらい強いんか?」

「はいもちろんっスよ!!…なんせ私は姐さんの弟子っスから!!」

 

 

【代表バトル】……月に一度行われるバトルの成績優秀者によるバトルスピリッツを行うジークフリード校の学校行事。椎名達も何度もそれをやった事がある。

 

特に同じ年代は椎名と司がバトルした時の記憶が根強く残っているはずだろう。

 

そんな代表バトルにこの五町は参戦すると言うのだ。この時点で既に彼女がそれなりの実力者である事が理解できて…………

 

 

「んじゃ!!そういう事で!!…絶対観に来てくださいね〜〜!!」

 

 

まるで嵐。

 

五町は吹き抜ける風のように椎名達の前から走り去っていった。

 

 

「………また変な奴が出た………」

「岬 五町かぁ〜〜また妙なんが現れよったな」

 

 

それぞれそう言葉を漏らした椎名と真夏。

 

椎名自身、前々から気づいていた事ではあったが、椎名は何故か妙に変な人物に絡まれる事が多い。3年になった今ではめっきりなくなった物だと思っていたが、今回の件でそれがまだ自分にはあると改めて自覚を持った。

 

 

「で、どないすんねん、観に行くか?」

「追い回されるのも面倒だからね、……一応行くよ……」

 

 

あの元気溌剌少女に後々追いかけられるのも面倒だ………そう思い結局椎名は今日の昼、めんどくさいと思いつつも、五町の代表バトルを観戦することにした。

 

 

******

 

 

そしてその昼頃、今月の代表バトルが幕を開けた。それぞれの学年の生徒は各々の学年のバトルを見物しようとする中、3年の椎名と真夏は1年生がバトルを行う第3スタジアムに足を運んでいて………

 

椎名はこの学園のカリスマ的存在だ。人気も格段に高い。1年生の目に止まれば忽ちそこに湧いてくる。そのためか、真夏と共に観客席の端っこでこっそりとバトル場を眺めていた。

 

 

「このスタジアムも随分懐かしく感じるな」

「そやな〜〜……あんたと朱雀の代表バトルもここでやりよったな」

 

 

感慨深い思い出話をする椎名と真夏。

 

今思えばあの2年前の椎名と司の代表バトル。あのバトルで当時同じ年代には負けないと思われていた超エリートの司に椎名が勝った事で椎名は少しずつ有名になっていった。

 

ある意味で言えば椎名のオリジンなのかもしれない。

 

 

と、その時だった。

 

 

「あ、姐さん〜〜!!…私ここっスよ〜〜!!」

「げっ……五町……」

 

 

椎名を見つけたバトル場にいる五町が大きな声で自分の存在をアピールする。別にそれ自体は悪くもないし、咎められる事でもない。

 

ただ、その相手が芽座椎名だと話が大きく変わってくる。

 

 

「え?あれって3年の芽座椎名先輩じゃない!?」

「うっそ〜〜ここ1年のスタジアムなのに!!」

「わざわざ観に来てくださったの!?」

「うぉぉぉぉお!!芽座椎名先輩だぁ!!」

 

 

椎名が「やばい」と思った頃には時すでに遅し………

 

周りの生徒が五町の振り向いた方を振り向き、瞬時に椎名の存在に気づく。そして憧れの椎名先輩に近づこうとどんどんどんどん2人の周りに1年生が群がっていく。極力バレないようにしようとしていたのが台無しだ。

 

 

「ちょちょちょっ!!…多すぎ……!」

「あんた人気えらいことになっとったんやな………」

 

 

椎名自体、元々界放リーグで活躍して以降から人気が高かったが、界放市をDr.Aから救ってからはその人気にさらに拍車がかかり、皆の憧れの存在的となっていた。

 

 

「椎名先輩!!真夏先輩もどうぞ前の席へ!!」

「どうぞどうぞ!!」

「へ?…あ、おいちょっと」

 

 

何人かの1年生に手を引っ張られて強制的に移動させられる椎名と真夏。向かった先はバトル場が見やすい1番前の席。2人はそこに着席させられた。

 

 

「……これは案外結果オーライとちゃう?」

「んーーー別に前に行きたかったわけじゃないんだけどなぁ」

 

 

そう言葉を漏らす椎名と真夏。そんな彼女らを周りの1年生が幸せそうに眺めていた。

 

 

「さっすが姐さん!!人気もバリ高ッス!!」

「おい五町、私の事はいいから目の前の相手に集中しろ〜〜!…後、私を姐さんって呼ぶな!!」

「はい姐さん!!」

 

 

結局椎名の事を「姐さん」と呼称する五町。そして言われた通り、そのシュシュで2つに纏めた長い金髪を揺らしながら、今回の代表バトルの相手の方へと振り向く。

 

 

「………ま、まさかあの椎名先輩がこんなしがない1年生などのバトルを観に来られるとは………感激だ」

 

 

そう感慨深く呟いたのは今回の代表バトルで五町とバトルを行う1年生の男子、今は亡き銃魔のような四角いメガネが特徴的。その名は………

 

 

「よし、勝負だメガネ!!」

「メガネじゃない!!嵯峨根、【嵯峨根教(せがね きょう)】だ!!…何度言ったらわかる岬五町!!」

 

 

思いっきりメガネと呼称する五町。それを否定する嵯峨根。言い方から、この2人は既に知人同士であるのが伺えて…………

 

因みに、嵯峨根の事を簡単に説明すると、エリート思考で真面目でメガネだ。

 

 

「いやいや、聞き間違いだってちゃんと言ったよ……せ、メガネ」

「言い直した挙句間違えるんじゃない!!合っていただろう、舐めてるのか貴様!!……俺はジュニア時代からのエリートなんだぞ!!」

「え〜〜だからなんだよ〜〜」

 

 

せがねとメガネ。確かに語呂は似ているし、発音もほぼ同じだ。ただ、五町はわざとやっている。理由はただ1つ、堅物で真面目な嵯峨根を弄るのが楽しいから。

 

 

「今日この日、小生意気な貴様を倒す時が来た!!…さぁBパッドを展開しろ!!」

「私もそのつもりだ!!勝って姐さんに良いところを見せるぞっ!!」

「あの方は貴様の姉じゃないだろうこの下郎が!!」

 

 

そう言い合いながら2人は懐から取り出したBパッドを展開し、バトルの準備を瞬時に行う。

 

 

「岬五町、タイマン張らせてもらうぜッッ!!」

 

 

右手の拳を固めて対戦相手である嵯峨根の方へと向けながらそう言い放つ五町。

 

これは所謂彼女の決まり文句。これを言うと言わないではバトルに対するモチベーションが全く異なってくるのだ。

 

 

「行くぞ!!」

「おうよ!!」

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共に、殆どが1年生で埋め尽くされたこの広大な第3スタジアムにて、今月の代表バトルが幕を開ける。

 

先行は椎名達も一応注目する岬五町だ。

 

 

[ターン01]五町

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップッ!!……よし、早速来た……行くぞメガネ!!私の相棒を見せてやるよ!」

「相棒だと?」

 

 

強く宣言する五町。嵯峨根は何度も五町と絡んではいたものの、クラスが違うため、彼女のデッキが何なのかまではわからない。

 

仮にも今月の代表バトルに選ばれる程だ。油断しているつもりもないが………

 

 

「よし、行くぞっ!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

五町が改めてメインステップを続行し、その「相棒」と呼称するカードをBパッドに置いた。

 

………すると……

 

 

 

スリー!!

 

 

ツー!!

 

 

ワン!!

 

 

「召喚!!」

 

 

 

「…な、何事だ!?」

 

 

無機質な機械音の謎のカウントダウン。そして五町の召喚の合図で白い煙がスタジアム中に充満する。

 

突然の出来事に会場中が驚愕する。それに何が起こっているのかを理解しているのは五町と同じクラスの人間くらいなものだ。

 

そして煙が晴れると………

 

 

「仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ!!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]】LV1(1)BP2000

 

「っ……仮面スピリットだと!?」

 

 

煙が発生した中心五町の場にはスピリットがいた。

 

それもただのスピリットではない。1枚1枚がデジタルスピリット以上のレアカードである仮面スピリットだ。

 

見た目も特徴的なものが多い仮面スピリットだが、五町の持つ仮面スピリットは白い。まるで宇宙服を模しているかのよう………

 

 

「……よぉ〜しっ!!……宇宙キターーー!!!」

「ふざけてるのか貴様………!!」

「まぁまぁ、固いことは気にしなさんなって」

 

 

相棒であるフォーゼの召喚にテンションが上がったか、五町は両手を天に上げ、そう力強く叫んだ。場のフォーゼも同様に五町と同じポーズを取った。

 

嵯峨根はそれに対して苛立ちを覚えている。別にふざけているわけではない。これもまた彼女のお決まりのセリフであって……

 

 

「白い仮面スピリット……」

「宇宙キタって、来てないやんけ……」

 

 

そう言葉を漏らした椎名と真夏。しかし、ツッコミどころ満載の五町とフォーゼのバトルはまだ始まったばかりだ。五町はフォーゼの効果を発揮させる。

 

 

「改めてベースステイツの召喚時効果!!…4枚オープン!!」

オープンカード↓

【ロケットモジュール】◯

【仮面ライダーメテオ】◯

【仮面ライダーなでしこ】◯

【ランチャーモジュール】◯

 

 

五町のデッキの上のカードが捲り上げられる。効果は成功、五町はその中の【ロケットモジュール】を1枚手札へと加え、残りをデッキの下へと戻した。

 

 

「まぁこんなもんか……よし、ターンエンドだ!!…あんたの番だぞ、メガネのダンナ!!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

「誰がメガネのダンナだ!!…そんな仮面スピリットなんぞに臆したりはせん、俺のターン!!」

 

 

白の仮面スピリットフォーゼを呼び出し、幸先の良いスタートを切った五町はそのターンをエンドとする。次は嵯峨根のターン。

 

五町のフォーゼに気を取られている者も多いが、嵯峨根もまた彼女と同じように代表に選ばれてこの場に立っている事を忘れてはならない。

 

嵯峨根はメガネを指先で定位置に戻すと、自分のターンを開始する。

 

 

[ターン02]嵯峨根

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、ロクケラトプスとネクサス、竜の尻尾奇岩を配置!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

【ロクケラトプス〈R〉】LV2(2)BP5000

【竜の尻尾奇岩】LV1

 

 

嵯峨根が最初に呼び出したのは立派な3本の立派な頭角を持つ四足歩行の恐竜のようなスピリット、ロクケラトプス。さらに背後には竜の尾のように唸る奇妙な形をした岩。

 

 

「おっ…あのメガネは赤みたいやな!」

「……花火さんと同じタイプか」

 

 

この時点で嵯峨根が赤属性のデッキである事が伺える。しかもこのタイプは椎名が憧れている存在、一木花火と似ている。

 

 

「ターンエンドだ」

【ロクケラトプス〈R〉】LV2(2)BP5000(回復)

 

【竜の尻尾奇岩】LV1

 

バースト【無】

 

 

 

一旦は様子見か、嵯峨根もすぐさまそのターンをエンドとする。次はフォーゼを召喚した五町のターン。

 

 

[ターン03]五町

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、ベースステイツのLVを2へ!」

リザーブ4⇨3

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]】(1⇨2)LV1⇨2

 

 

五町の場に存在するフォーゼにコアが新たに追加されそのLVが上昇する。そしてここからが仮面ライダーフォーゼの真骨頂だ。

 

五町はそう言わんばかりに手札のカードを切る。

 

 

「さらにブレイヴカード、ロケットモジュールを召喚し、フォーゼと合体!!ベースステイツの効果でコアを追加!!」

手札6⇨5

リザーブ3⇨1

トラッシュ0⇨2

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+ロケットモジュール】LV2(2⇨3)BP7000

 

「っ……ブレイヴだと?」

 

 

フォーゼの腰にあるドライバーにオレンジ色のスイッチが配備される。フォーゼはさらにさりげなくコアブーストを行い、コアを増やす。

 

見た目も殆ど変わらないこの合体。しかし、その本領を見せる時は五町のアタックステップであって………

 

 

「アタックステップ!!…フォーゼ ベースステイツでアタック!!そしてロケットモジュールのスイッチオン!!」

「っ!?」

 

 

♬ロオケット、オン

 

 

フォーゼがそのスイッチのボタンを押すと、無機質な機械音のメロディと共に、右手にオレンジ色のロケットが出現。フォーゼはその噴射を利用し、空を飛翔する。

 

 

「ロケットモジュールの効果、相手はコスト6以下のスピリットでブロックできない!!」

「なに!?」

「ロクケラトプスじゃブロックは不可!!…いけ、ライダーロケットパァンチッ!!」

 

「……っ」

ライフ5⇨4

 

 

ロケットモジュールにより、凄まじい勢いで前方へと飛翔するフォーゼは眼前のロクケラトプスをそれで殴って吹き飛ばし、そのまま嵯峨根のライフまでもを叩く。

 

ロケットを装着した拳の一撃が嵯峨根のライフ1つを粉々に砕いた。

 

 

「まぁざっとこんなもんかな?…ターンエンドだ!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+ロケットモジュール】LV2(3)BP7000

 

バースト【無】

 

 

「……ライフ1つでいい気になるなよ!!」

 

 

合体を使いこなすという仮面スピリットでは少し変わった特徴を持つフォーゼ。ただ、そんなものを警戒していたら自分のバトルができなくなるのを知っているのか、嵯峨根は恐れずに自分のバトルを行なっていく………

 

 

[ターン04]嵯峨根

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ…竜の尻尾奇岩のLVを2へアップし、2体目のロクケラトプス、さらにデジタルスピリット、ティラノモンを召喚!」

手札4⇨2

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

【竜の尻尾奇岩】(0⇨1)LV1⇨2

【ロクケラトプス〈R〉】LV1(1)BP3000

【ティラノモン】LV1(1)BP5000

 

「おぉ、恐竜の型のデジタルスピリットか!」

 

 

嵯峨根側の場の地底が蠢いたかと思うと、そこから勢いよく飛び出してきたスピリットが1体。

 

それは赤の成熟期スピリット、ティラノモン。体色は赤く、見た目はその名の通り肉食恐竜のような見た目をしている。

 

ティラノモンは現れるなり大きな咆哮を力強く張り上げる。その猛々しい様を前にして、五町は怯えることなく寧ろ喜んでおり………

 

 

「ふざけてられるのも今のうちだぞ、アタックステップ!!…竜の尻尾奇岩のLV2効果で全ての地竜スピリットのBPを+3000!!」

【ロクケラトプス〈R〉】BP5000⇨8000

【ロクケラトプス〈R〉】BP3000⇨6000

【ティラノモン】BP5000⇨8000

 

 

嵯峨根がアタックステップに移行した事により、竜の尻尾奇岩の効果が適応される。3体の地竜スピリットの力が増幅し、それを主張するようにより力強い咆哮を張り上げる。

 

 

「ロクケラトプス1体、ティラノモンの2体でアタックッ!!」

 

 

嵯峨根の支持を受け、走り出すロクケラトプス1体とティラノモン。目指すは当然五町のライフ。

 

五町は前のターンでフォーゼがアタックしたため、ブロッカーが場には存在せず………

 

 

「私で受ける!!……っ」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

ティラノモンの鋭い爪の一撃が、ロクケラトプスの頭角の突き刺さる体当たりが五町のライフをそれぞれ1つずつ破壊する。

 

 

「やるな〜〜!!…ほら、もっと来いよ!!」

 

「っ………エンドだ」

【ロクケラトプス〈R〉】LV2(2)BP5000(回復)

【ロクケラトプス〈R〉】LV1(1)BP3000(疲労)

【ティラノモン】LV1(1)BP5000(疲労)

 

【竜の尻尾奇岩】LV2(1)

 

バースト【無】

 

 

余りにも好戦的な態度を見せる五町に一瞬だけ呑まれる嵯峨根。その事もあったかここでターンを切ってしまう。ただ、ブロッカーを残しておきたい状況ではあるため、最善の手ではあった。

 

 

「あら来ないのか?じゃあ今度はこっちの番だな……!」

 

 

バトルを楽しげな表情で行う五町の次なるターンが幕を開ける。

 

 

[ターン05]五町

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨6

トラッシュ2⇨0

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+ロケットモジュール】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!…今度はこれだ!!…ドリルモジュールを召喚し、フォーゼに合体!!フォーゼの効果でコアブーストッ!!」

手札6⇨5

リザーブ6⇨4

トラッシュ0⇨2

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+ロケットモジュール+ドリルモジュール】LV2(3⇨4)BP10000

 

「ダブル合体だと!?」

 

 

フォーゼの腰にあるドライバーに新たなスイッチが配備される。これもまたフォーゼの装備の1つであって……

 

だが、嵯峨根が驚いた事はそんな事ではない。

 

通常、ブレイヴとはスピリット1体につき1つまで合体できる。このフォーゼはこの基本ルールを無視して2つのブレイヴと合体している。嵯峨根はそこに驚いていて……

 

 

「へへぇ!…フォーゼの武器、モジュールは同型のブレイヴなら4つまで合体できる!!」

「っ……なんだその貴様に似つかわしくない効果は……!!」

「お前が何言ったって構わないさ、私とフォーゼは一心同体なんだから!!……アタックステップ、フォーゼでアタック!!」

 

 

五町は今一度アタックステップへと移行し、2つのスイッチを持つフォーゼ ベースステイツでアタックを仕掛ける。

 

フォーゼはドライバーに装備したスイッチを押し、捻る。

 

…すると…

 

 

♬ロオケット、ドリルオン!

 

 

また無機質な機械音のメロディがそこから響くと、右腕のロケットに加え、今度は左足の先に黄色いドリルが装着される。

 

 

「ロケットとドリルは2つ揃ってより強力な力となる!!…ロケットはドリルがある時、アタック時にブロックされなくなり、ドリルは手札バウンスをデッキ下バウンスに変更する!!」

「っ……!!」

「私はこの効果でティラノモンをデッキ下に送る!!」

 

 

2つ以上の組み合わせでより強力なスピリットへと成長していくフォーゼ。ロケットはコスト制限が取り払われ、ドリルはデッキ下バウンスになる。

 

フォーゼはロケットで上空に飛び上がり、嵯峨根の場のティラノモンに狙いを定めると、そのままロケットを傾け、足先のドリルを回転させながら急降下する。

 

 

「ライダーロケットドリルキィックッ!!」

 

 

気合いと共に技名を叫ぶ五町。フォーゼはそのままティラノモンをドリルキックで貫き、ティラノモンをデジタル粒子に変換させ………

 

 

 

るかと思われたが………

 

 

「あれ?」

 

 

気が抜けた声が漏れる五町。

 

それもそのはず、何せ、ティラノモンはドリルには貫かれず、フォーゼをそのまま巨大な腕ではたき落したのだから。

 

 

「馬鹿め、俺のネクサス、竜の尻尾奇岩の効果により、地竜スピリットはバウンスされない!!」

「…んだよそれぇ!!ずるっ!!」

「貴様の勉強不足のせいだろ!!」

 

 

その理由は嵯峨根の配置したネクサスカードにあった。竜の尻尾奇岩は白属性の十八番であるバウンス効果の耐性を地竜スピリット全域にばら撒く効果を備えている。

 

LV1のティラノモンがドリルでデッキ下に戻らなかったのもそのためだ。

 

 

「まぁいいや、アタックが終わったわけじゃない、どちらにせよブロックはできない!!」

 

「たかが1点……ライフで受ける」

ライフ4⇨3

 

 

叩きつけられて地面にめり込んだフォーゼ。腰の状態を確認しながらゆっくりと起き上がり、気合いを入れてまたロケットで飛び上がり、ドリルキックで嵯峨根のライフを1つ砕いた。

 

 

「ん、じゃあターンエンドだ!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+ロケットモジュール+ドリルモジュール】LV2(4)BP10000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

致し方なくそのターンを終える五町。ティラノモンを除去出来ず、結局ライフしか破壊できないターンになってしまった。

 

だが、それ以上に厄介なのは次のターン、嵯峨根のフルアタックで五町の残り3つのライフが尽きてしまう事であって…………

 

 

「フンッ……馬鹿が、他のスピリットを1体も召喚しないとは、それとも事故か?」

「おいおい、そういう事言うと負けフラグが立っちゃうぞ〜〜!!」

「……減らず口を……もうこのバトルは俺の勝ちだ!!」

 

 

勝ちを確信した嵯峨根は自分のターンシークエンスを勢いよく始めて行く。

 

 

[ターン06]嵯峨根

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

【ロクケラトプス〈R〉】(疲労⇨回復)

【ティラノモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺は2体目のティラノモンをLV2で召喚しよう!!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

【ロクケラトプス〈R〉】(2⇨1)LV2⇨1

【ティラノモン】LV2(3)BP7000

 

「っ…2体目か!!」

 

 

追い討ちをかけるように2体目となるティラノモンを呼び出す嵯峨根。これで数の差は圧倒的なものとなる。

 

 

「アタックステップッ!!竜の尻尾奇岩の効果を起動し、計4体のスピリット全てのBPを3000アップ!!」

【ロクケラトプス〈R〉】BP3000⇨6000

【ロクケラトプス〈R〉】BP3000⇨6000

【ティラノモン】BP5000⇨8000

【ティラノモン】BP7000⇨10000

 

 

数も増え、BPも上昇し、着実と力をつけて行く恐竜軍団。

 

準備は万端。嵯峨根は五町にとどめを刺すべくついにアタックを本格的に仕掛ける。

 

 

「行け、LV2のティラノモンでアタック!!」

 

 

力強い二本の脚で駆け出すティラノモン。目指すは当然五町のライフ。竜の尻尾奇岩のバウンス耐性を与える効果はタイミングを選ばない。

 

故に五町が白特有のバウンス効果を持つカードを持っていたとしてもそれは通用せずに終わる。そしてこの数の差。

 

………五町の負けか……

 

……会場中の殆どの人物がそう思われた中、五町は手札のカードを1枚抜き取り、発揮させる。

 

……これもまた白特有のカードであって………

 

 

「甘いぞメガネ!!…フラッシュマジック、アルテミックシールド!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ2⇨5

 

「っ!?」

「このカードの効果により、このバトル終了後、アタックステップが終わる!!」

「な、なんだと!?」

 

「そのアタックは私に来い!!………っ」

ライフ3⇨2

 

 

五町の元へと接近してきたティラノモンの爪の一撃がまたもや彼女のライフを1つ引き裂いた。

 

衝撃の勢いで僅かばかりに仰け反る五町。だが、これで条件は満たした。発揮させていたアルテミックシールドの効果が起動する。

 

 

「アルテミックシールドの効果でアタックステップが終了!!」

「くっ………!!」

 

 

ティラノモンのアタック終了後と共に吹き荒れる猛吹雪。これは嵯峨根がターンのエンドを宣言するまでは収まることはない。

 

彼は五町に是が非でもターンエンドを迫られていて………

 

 

「……小癪な、ターンエンドだ………」

【ロクケラトプス〈R〉】LV1(1)BP3000(回復)

【ロクケラトプス〈R〉】LV1(1)BP3000(回復)

【ティラノモン】LV1(1)BP5000(回復)

【ティラノモン】LV2(3)BP7000(疲労)

 

【竜の尻尾奇岩】LV2(1)

 

バースト【無】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとする嵯峨根。それと共に五町の放ったアルテミックシールドによる猛吹雪が晴れ上がる。

 

次は嵯峨根のアタックを凌いだ五町のターン。

 

だが………

 

 

「だが、貴様の場のスピリットはブロックされないとは言え1体、シンボルも1つ!!……更なるスピリットを呼ぼうと、それらにもブロックされないと言う効果がないのなら恐竜軍団が俺のライフを守る!!」

「ん〜〜まぁ確かにな」

 

 

自分のこれだと思う意見を豪語する嵯峨根に対し、五町は楽観的な表情を見せる。

 

彼女とてこのままでは勝てないことは理解はしている。だが、五町のデッキにはある。このライフレースを覆す驚異的な【最強のフォーゼ】が…………

 

 

「なぁメガネ、今は強くても、頭の中が凝り固まってると、この先勝てないと思うぞ」

「っ……なんだと!?…この無礼者、俺はエリートだぞ、ジュニア時代で俺が幾多の賞を勝ち取ったと………」

「関係ない……」

「っ!?」

「関係ないねそんなもん………姐さん、私の尊敬する椎名先輩は、初めはなんの知名度もありはしなかったのに自分の実力だけで高みに登ってきた………あんたみたいに初めから自分の事をエリートなんて豪語してる奴が上に行けるとは私には思えないね」

「っ………戯言を……」

「戯言かどうかは私のターンを見てから言うんだな!!…行くぞメガネ!!」

 

 

五町はこれまでにはない、少しだけ真剣な表情で嵯峨根に言った。

 

今の椎名はこれを聞いてどう思っただろうか。五町は椎名を客観的に見て考えたのだろうが、実際の椎名は1人で強くなったわけではない。仲間がいたからこそ強くなれたのだ。

 

そう考えると、五町の言葉は全部が全部正しいわけでもない…………

 

だが、彼女はそれでも自分の中にある憧れの椎名を信じ、満面の笑みを浮かべながら自分のターンを進行させていく。

 

 

[ターン07]五町

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

 

 

「ドローステップ!!………っ!!……よっしゃぁ、いいのきたきた!!」

手札4⇨5

 

(くっ……なんだ、何を引いた!?)

 

 

ポーカフェイスなどあったものではない。五町はドローカードを見て大きく口角を上げた。これでは嵯峨根に良いカードをドローしたのがバレバレである。

 

しかしながら、嵯峨根も嵯峨根で未知数の仮面スピリット、フォーゼのカードがわからないため、察しても何が来るのかまでは予想できずにいた………

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨8

トラッシュ5⇨0

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+ロケットモジュール+ドリルモジュール】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!………………は、もういいや!!アタックステップ!!」

「なにっ!?…スピリットを召喚しないだと!?」

「あいつ、何考えとるんや?」

「……………」

 

 

メインステップを素通りし、そのままアタックステップを行う五町。この状況と言えばこのままフォーゼが単身で殴る事くらいだが…………

 

椎名もこのバトルで五町がどう言うバトラーなのかを見極めようとしているのか、より集中した表情でバトル場を眺める。

 

 

「フォーゼでアタック!!……この時、ロケットの効果で相手はブロックできない!!」

「既に理解している!!……だが、それだけでは足りん!!」

 

 

そうだ。いくらロケットモジュールの効果でフォーゼのアタックはブロックされないとは言え、そのシンボルの数は1つ。どう足掻こうとも嵯峨根の残り3つのライフを全て破壊するとこはできない。

 

ここで決められないと、今度こそ嵯峨根の恐竜軍団が五町にとどめを刺す事だろう。

 

………しかし、

 

ここで五町がこのターンでドローした奇跡の1枚が光り輝く。そしてそれはまさしく【最強のフォーゼ】………

 

 

「足りんだって?……なら足すまでだ、このカードで!!……フラッシュ【煌臨】発揮!!対象はフォーゼ ベースステイツ!!」

リザーブ8s⇨7

トラッシュ0⇨1s

 

「煌臨だと!?」

「あぁ、これでこのフォーゼは究極の姿になる!!」

 

 

フォーゼの腰にあるドライバーに、まるで自爆スイッチのような形をしたスイッチが配備される。フォーゼはそれを開き、押した…………

 

 

 

♬コーズーミ〜〜ックオン!

 

 

 

また無機質な機械音のメロディが流れたかと思うと、フォーゼに合計40ものスイッチが吸い込まれるように集結していき、様々な色の光に包まれ、僅かながらにフォルムを変えていく……さらにその右手には新たに巨大な剣が出現する。フォーゼは光を解き放ち、新たな姿を見せると同時にその剣を力強く握り締めた。

 

 

「私はバトスピを掴む!!……来い、仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ!!」

手札5⇨4

【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ+ロケットモジュール+ドリルモジュール】LV2(4)BP18000

 

 

「っ………なんだ、なんだその姿は……!?」

これが私のエースにして切札、フォーゼ コズミックステイツさ!!」

 

 

宇宙の力をその身に宿した事で、体が水色に変色したフォーゼ。名をコズミックステイツ。これは五町の持つカード中で最強のカードであり、フォーゼ最強の姿でもある。

 

その凄みのある存在を前に、嵯峨根は一瞬たじろぐ、しかし、一度冷静に考えてみると、自分の有利は未だに変わらないのであって………

 

 

「だが、その程度では俺のライフはゼロにできない!!」

「それはどうかな?……煌臨時効果、このバトルの間、コズミックステイツは相手のスピリットとネクサスの効果を受けない!!」

 

 

自分が勝てるという意見を曲げない嵯峨根。そんな中、五町はコズミックステイツの効果を発揮させる。強力な効果耐性を与える。

 

しかし、大事なのはそこではない。五町はさらにコズミックステイツのもう1つの効果を起動させる…………

 

 

「フォーゼ コズミックステイツはアタック時、合体しているモジュール1つにつき白のシンボルを1つ追加する!!」

「なにっ!?」

「今、フォーゼ コズミックステイツが合体しているモジュールはロケットとドリルの2つ!!………よってそのシンボル数は3!!」

 

 

コズミックステイツは胸部にある1と2のナンバープレートをタッチすると、そここら力が溢れ出ているのか、コズミックステイツは新たな力を得る。

 

シンボルの合計は3。嵯峨根のライフは残り3つでしかもロケットの効果でブロックもできない………

 

終わりだ。

 

コズミックステイツがシャトルのような形をした巨大な剣のレバーを引くと、その剣はゆっくりと二等分に割れ、中から刀身のある真なる剣が出現する。

 

その真なる剣には膨大な宇宙のエナジーが蓄積され、青く変色していき………

 

 

「そ、そんなバカな………」

「終わりだぁ!!……ライダー超銀河フィニィィッシュッ!!」

 

 

五町がコズミックステイツの技名を叫ぶ。コズミックステイツは横一線に飛ぶ斬撃を放つ。その宇宙のエナジーが凝縮された一閃は、空を切り、ロクケラトプスとティラノモン達を吹き飛ばし………

 

そして………

 

 

「う、うぁぁぁぁっ!!!」

ライフ3⇨0

 

 

嵯峨根のライフまで届き、残っていたライフ3つを一気に両断した。

 

これにより、彼のライフはゼロ。勝者は未知なる仮面スピリット、フォーゼを操る岬五町。凄まじい逆転劇に、会場中にいる殆どの1年生が感銘を受け、拍手喝采を彼女に浴びせる。

 

 

「ま、負けた………だと?…エリートであるこの俺が………こんな不真面目な奴に………」

「ヘヘッ……出直してきな、でもって次はもっと楽しいバトルをしようじゃないか!!」

「くっ………!!」

 

 

自分よりも弱いと思っていた五町に負けたからか、嵯峨根はショックを隠せない。だが、敗者に言葉はないか、言い返せる言葉もなく、彼はそのまま去っていった…………

 

 

「どうっスか姐さん!!…私のバトルスピリッツは〜〜!!ねぇ凄かったっしょ!?ねぇ!?…………あれ?」

 

 

バトルも終わり、役目を終えたフォーゼ コズミックステイツもゆっくりと消滅した直後、五町はころっと態度を変えて、勢いよく椎名のいる観客席へと振り向いた。

 

しかし、そこに椎名の姿はなく、いたのは真夏だけであり……………

 

 

「あ、あぁすまんな五町……椎名ならあのコズミックなんたらが出た時くらいに帰りよったで」

「っ!?」

 

 

苦笑いでそう五町に答える真夏。コズミックステイツの煌臨直後、五町の勝ちを確信した椎名はそのまま真夏だけに帰ると告げてスタジアムをこっそり去っていったのだ。

 

 

「うっそ〜〜!!せっかく頑張ったのに!!……まだそんなに遠くは言ってないはず………地の果てまで追いかけますよ姐さん〜〜!!」

 

 

Bパッドを勢いよくたたみ、懐に仕舞ったかと思うと、すぐさま椎名を追ってスタジアムを竜巻の如く走り去っていく五町。

 

真夏はそんな五町をまた苦笑いで見送った…………

 

 

「はっは〜〜やっぱあいつおもろいわ〜〜………椎名は生涯ずっとあんなのに絡まれるんやろなぁ」

 

 

真夏は椎名の変な人間にしょっちゅう絡まれる不思議な体質を不憫に思いながらも、楽しげな表情を見せた。

 

しかし、その表情には椎名に心配はいらないと言う表れでもある。真夏はなんとなくだが、あの【椎名二号】とも呼べる五町が明るい椎名を取り戻してくれるのではないか?………そう思っていた。

 

 

 

 

 

何はともあれ、バトスピ学園 ジークフリード校1年、岬五町のバトスピ物語はまだ始まったばかりである。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


五町「本日のハイライトカードは【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ】!!」

五町「私の相棒ベースステイツは、モジュールのブレイヴカードが召喚されるたびにコアを増やすという序盤では嬉しい効果を発揮させまスよ〜〜!!……序盤でコアを貯めて、最後はコズミックステイツで超銀河フィニッシュッ!!」


******


〈次回予告!!〉


一日中椎名を追いかけ回す五町。放課後までは相手できないと逃げ回る椎名。そんな最中、五町はある人物と遭遇する。それは他でもない、あのエニー・アゼムのカード、鎧武を使う彼女の子孫、バーク・アゼムだった………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「フォーゼ&鎧武」……今、バトスピは進化を超える!!


******


※次回サブタイトルは変更の可能性があります


最後までお読みくださりありがとうございました!!

岬五町の名前の由来はフォーゼが4つのスイッチで変身するという設定に、さらにプレイヤーを足して5だからという理由です。


こんな感じでゆったりと日常回をやっていきたいと思っております。これが終わればついに最終章です。


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第100話「フォーゼ&鎧武」

 

 

 

 

 

 

芽座椎名は困っていた。約1ヶ月前に知り合った岬五町という1人の1年の少女。

 

彼女は簡潔に説明すると【椎名の大ファン】

 

椎名の事を「姐さん」と呼び慕っている。

 

百歩譲ってそれは別に構わない。

 

問題なのは、あの日以来、彼女がずっと椎名についてくるという事であって…………

 

 

******

 

 

「姐さん今日もカッコいいっス!!」

「ん、あぁそ」

「姐さん今日もかわいいっス!!」

「ん、あぁそ」

「姐さんカバン持ちましょうか?」

「いや、いい」

 

 

椎名をべた褒めする五町。それに対して椎名はどうでも良さそうに受け流す。

 

時期は6月。時間は放課後。椎名は帰宅中にもずっと五町に絡まれていた。

 

 

「姐さん!!私とバトルしましょうよ〜〜!!」

「いや、いい、今は帰って寝たい気分〜〜」

「え〜〜またそう言ってはぐらかす!!」

「別にはぐらかしてはないけどね」

 

 

別に帰宅中だけじゃない。朝も昼もずっとこの調子だ。椎名も対抗して何度か走って逃げてみたが、五町も椎名同様足が速く、なかなか振り切れないという事が判明したため、結局こんな感じで落ち着いてしまった。本当はもっと距離を置きたいが、なにぶん五町の椎名に対する距離が近すぎる。

 

別に五町が嫌というわけではない。あまり親しみ過ぎると、今後必ず訪れるであろうエニー・アゼムとの決戦に巻き込んでしまうかもしれないためである。

 

しかしながら、椎名は知らずのうちに五町が自分の横にいるのが当たり前のような感覚になってきていて………

 

 

「ねぇ五町、あんたずっと私にべったりだけどさ、結局何がしたいのよ?」

「へ?…ンなの無論っスよ!!…姐さんのように強くてかっこいいバトラーになる事っス!!」

 

 

そう言えばと思い、椎名は唐突に五町に質問を投げかけた。こんなに自分に近づいてくるのは必ず何か理由があるはずだと…………

 

それに対して五町は当たり前かのようにそう強く言い放った。自分は強い椎名に憧れ、この学園に入学して椎名の弟子(※無理矢理)になった。そう言わんばかりに…………

 

 

「はぁ、あんたはなんか勘違いしてるよ………私は全然強くなんてないし、況してやカッコ良くもない……!」

「え?」

 

 

しかし、椎名が次に言い放った言葉は五町にとっては意外なもの。優しい表情から一変、どこか冷めているものに変わって、寂しそうに答えた………

 

 

「じゃあ、ここまで、私の家まではついてこない約束だからね」

「え、あ、お、おうっス!!また明日!!」

 

 

いつもの分かれ道。椎名は五町の方を振り向かず、手をあげるだけで五町の元から離れていく。五町はさっきの椎名の言葉に動揺が隠せないながらも元気よく返事をしてそれを見送り、

 

椎名の背中が見えなくなるまでさっきの言葉について考えてみるが………

 

 

「姐さん………そんなミステリアスな所も素敵っス!!」

 

 

今はまだ椎名の言っていることが理解できなかった五町。椎名を一旦ミステリアスだと勝手に印象付け、さっきの言葉を綺麗さっぱり忘れ去った。

 

 

******

 

 

(エニー様はいったい何を考えてらっしゃるのだ?)

 

 

界放市のとある路地にて、2000年前に鬼から人々を救った英雄、エニー・アゼムを祖先に持つ黒髪の青年、バーク・アゼムはそう思い、考えた。

 

今尚、絶賛バトル中であるにもかかわらず…………

 

 

「おい!!何ボーッとしてやがる!!」

「黙れ!!」

「えぇ……!?」

 

 

対戦相手の若い男性にそう注意された直後、バークは腹が立っていたのか、逆にその男性を怒鳴りつけた。

 

これは所謂ストリートバトル。バーク・アゼムは飛び入り参加し、連戦連勝を重ねてきていた。今でちょうど10試合目になるか………

 

彼がこんなところにいる理由は間違いなくエニー・アゼムであろう。彼女は芽座椎名に二度敗北して以降、バークに【しばらくの間、芽座椎名とその仲間達には関わるな】と告げたのだ。

 

崇拝しているエニー・アゼムのいう事ならば従うまでだが、彼としては一刻も早く赤羽司の持つバロンのカードを得たいため、この時間はどうしても無駄であると感じていた。

 

だからこそむしゃくしゃしてこんなところで油を売って人目のつくところでバトルしていた。

 

 

「終わりだ………斬月!!」

「くっ…ライフで受ける……!!」

 

 

バークが自分のスピリットに最後のアタックを命ずる。それは白くて日本刀の様な刀を握っている仮面スピリット斬月。鎧武やバロンと同等の存在だ。

 

対戦相手の男性はこの時点でなすすべはなく、それをライフで受けた。

 

斬月はしなやかな太刀筋でその男性の最後のライフを紙切れのように斬り裂き、バークに勝利をもたらした。

 

 

「つ、強い……!!」

「貴様らが弱すぎるだけだ……他に我とバトルする奴はいないか!!」

 

 

そう言ってバークは周りに目線を移すが、周りの誰もが彼から視線をそらし、名乗りを上げない。当たり前だ。挑んだ所で、どうせ無様に負けるだけなのだから………

 

しかし、たった1人、たった1人だけ挙手し、名乗りを上げる者がいて………

 

 

「え?誰もいないの!?…じゃあさじゃあさ、お兄さん、私とやろう!!」

「?」

「トドメの瞬間見たぞ!!…あんたも仮面スピリット使うんだな!!」

 

 

騒つく人々の中、金髪のツインテールの少女がバークの前に現れた。それは帰路に着いたはずの五町。立ち寄った大通りで偶然にもバークのバトルを見かけたのだ。

 

当然、五町はバークが椎名達の敵であることを知らない。

 

因みに、五町は上着がジャージであるため、バークに学園生とも思われていない。背もそんなに高くはないこともあって中学生くらいに思われている。

 

 

「ほお?次は貴様か小娘……いいだろう、返り討ちにしてくれる」

「よっしゃぁ!!岬五町、タイマン張らせてもらうぜッッ!!」

 

 

五町のやる気は十分。鬱憤払いに来ただけのバークも同様だ。しかし、周りの人達は正直五町の怖いもの知らずな所に呆れていた。

 

ただ、そんな中でも2人は颯爽とBパッドを取り出し、デッキをセット。バトルの準備を行って………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルが始まった。

 

先行はバーク・アゼム

 

 

[ターン01]バーク

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、我は仮面ライダー鎧武 オレンジアームズを召喚、効果でカードをオープン!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

オープンカード↓

【仮面ライダー龍玄 ブドウアームズ】◯

【ヘルヘイムの産物】×

【ヘルヘイムの産物】×

 

「おぉ、それがあんたのデッキの核っスか!!」

 

 

バークの場の上空から空間を裂いてチャックが現れたかと思うと、それが開き、そこからオレンジの甲冑を着た黄色の仮面スピリット、鎧武が姿を見せる。

 

そしてその効果も成功。バークは【仮面ライダー龍玄 ブドウアームズ】のカードを新たに手札へと加えた。

 

 

「我はターンエンド、次は小娘、貴様の番だ」

手札4⇨5

 

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

「言われなくともやってやるっスよ!!」

 

 

バークがターンを終えると、待ちに待っていたた言わんばかりに五町が自分のターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン02]五町

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、私は仮面ライダーフォーゼ ベースステイツをLV2で呼び出す!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

スリー!!

 

 

ツー!!

 

 

ワン!!

 

 

 

「召喚!!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]】LV2(2)BP4000

 

 

五町の前方に白い煙がもくもくと上がったかと思えば、その中から白い仮面スピリット、フォーゼ ベースステイツが勢いよく姿を現した。

 

 

「宇宙キターーー!!!」

 

 

いつもの気合入れ、五町は両手を天に上げ、そう叫んだ。前方にいるフォーゼも同様のポーズを取っている。

 

五町の奇行にバークを除く周囲の人々は唖然として見ており………

 

 

「それがお前の仮面スピリットか」

 

「そうっス、でもって召喚時効果!!」

オープンカード↓

【仮面ライダーなでしこ】◯

【仮面ライダーメテオ】◯

【ランチャーモジュール】◯

【仮面ライダーなでしこ】◯

 

 

召喚時効果は成功。五町はその中の対象カードである【ランチャーモジュール】を1枚手札に加え、残りをデッキ下へと戻した。

 

 

「アタックステップ、いけ、フォーゼ!!」

手札4⇨5

 

「ライフで受ける」

ライフ5⇨4

 

 

背中にあるブースターの逆噴射で軽くバークの元まで飛び上がったフォーゼはそのまま拳でバークのライフを1つ殴りつけ、破壊してみせた。

 

 

「よっし、幸先良いスタート!!ターンエンドっス!!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]】LV2(2)BP4000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

五町はそののターンをエンドとする。

 

次は再びバークのターンだ。

 

 

[ターン03]バーク

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、我は仮面ライダー龍玄 ブドウアームズを召喚、効果により鎧武とトラッシュに1つずつコアを追加!」

手札6⇨5

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨2⇨3

【仮面ライダー龍玄 ブドウアームズ】LV1(1)BP4000

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ】(1⇨2)LV1⇨2

 

 

バークの場の上空に今一度チャックが出現し、開いたかと思えば、そこから紫色の鎧に包まれた仮面スピリットが飛び出してくる。

 

それは仮面ライダー龍玄。右手には片手銃が握られている。これもまた昔々、エニー・アゼムが使役していた1枚だと言う。その効果によりバークのコアが増加し、鎧武もLVが上昇した。

 

 

「さらにバーストを伏せ、ヘルヘイムの産物を配置!!」

手札5⇨3

リザーブ2⇨0

トラッシュ3⇨5

【ヘルヘイムの産物】LV1

 

 

バークの場にバーストカードが裏向きで伏せられると共に、背後に古びた樹木が姿を見せる。そこには奇妙な色と形をした実が生っており………

 

 

「アタックステップ、鎧武と龍玄でアタック!!」

 

「おっ、来たな……私で受け止めるっス!!……っ」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

鎧武の刀の一太刀と龍玄の弾丸が五町のライフをそれぞれ1つずつ斬り裂き、貫いた。

 

 

「………エンドだ」

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ】LV2(2)BP5000(疲労)

【仮面ライダー龍玄 ブドウアームズ】LV1(1)BP4000(疲労)

 

【ヘルヘイムの産物】LV1

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとしたバーク・アゼム。次は五町のターン。増えたコアを用いて反撃に転ずる。

 

 

[ターン04]五町

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、バーストをセットして、レーダーモジュールとランチャーモジュールをフォーゼに合体するように召喚するっス!!」

手札6⇨3

リザーブ6⇨4

トラッシュ0⇨2

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+レーダーモジュール+ランチャーモジュール】LV2(2⇨3)

 

 

五町の場にバーストカードが伏せられると共に、フォーゼの腰にあるドライバーにスイッチが2つ装填される。フォーゼはさらに自身の効果でコアを増加させた。

 

 

「行くっスよ!!アタックステップ、フォーゼでアタック!!…ランチャーモジュールのスイッチ、オン!! 1コスト支払って回復!!」

リザーブ4⇨3

トラッシュ2⇨3

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+レーダーモジュール+ランチャーモジュール】(疲労⇨回復)

 

 

♬レーダー、オン

♬ランチャー、オン

 

 

フォーゼがレーダーモジュールとランチャーモジュールのスイッチをオンにすると、左手にレーダー、右足にランチャーが出現。

 

フォーゼはレーダーで鎧武と龍玄を捉え、そこめがけて足踏みし、ランチャーを放つ。四方八方へと飛び散るランチャーは最後には全てそこへと到達し、爆発した。

 

鎧武と龍玄は破壊はされないものの、吹き飛ばされる。フォーゼは逆に疲労状態から回復状態となった。

 

 

「フッ、たかだかその程度のコンボで我を倒そうと言うのか、舐められたものだな!!」

 

「別に舐めちゃいないっスよ!! 寧ろここからが本気っス!! フラッシュ【煌臨】発揮、対象はフォーゼ!!」

リザーブ3s⇨2

トラッシュ3⇨4s

 

「っ!?」

 

 

フォーゼはレーダーとランチャーのスイッチを一旦オフにすると、腰にあるドライバーに、まるで自爆スイッチのような形をしたスイッチが配備される。フォーゼはそれを開き、押した…………

 

 

 

♬コーズーミ〜〜ックオン!

 

 

 

また無機質な機械音のメロディが流れたかと思うと、フォーゼに合計40ものスイッチが吸い込まれるように集結していき、様々な色の光に包まれ、僅かながらにフォルムを変えていく……さらにその右手には新たに巨大な剣が出現する。フォーゼは光を解き放ち、新たな姿を見せると同時にその剣を力強く握り締めた。

 

 

「私はバトスピを掴む!!…仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ、煌臨!!」

手札3⇨2

【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ+レーダーモジュール+ランチャーモジュール】LV2(3)BP16000

 

「………っ」

 

 

現れたのは水色に輝く究極のフォーゼ、フォーゼ コズミックステイツ。

 

バトスピを掴む。五町の最強エースでもある。

 

 

「煌臨時効果!! 相手スピリット1体をデッキ下に戻すっス!! 龍玄を下に!!」

 

「……っ」

 

 

コズミックステイツは登場するなり、龍玄の背後に宇宙へと繋がるワームホールを形成し、背中にある逆噴射で勢いよく龍玄に飛びつき、それをその中へと蹴り飛ばした。

 

龍玄は宇宙の彼方へと消え去った………

 

 

「さらにコズミックステイツの煌臨中効果!!合体しているモジュール1つにつき白のシンボルを1つ追加!!」

 

「なにっ!?」

「今、コズミックステイツにはレーダーとランチャーが合体している………これにより、合計シンボルは3!!」

 

 

五町の持つカード効果に初めて驚くバーク・アゼム。

 

コズミックステイツは胸部にある3と4のパネルをタッチすると、その力が充填され、合計でトリプルシンボルのパワーを得る。

 

コズミックステイツがシャトルのような形をした巨大な剣のレバーを引くと、その剣はゆっくりと二等分に割れ、中から刀身のある真なる剣が出現する。

 

その真なる剣には膨大な宇宙のエナジーが蓄積され、青く変色していき………

 

 

「ライダー超銀河フィニィィィッッシュッッ!!!」

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁあ!!!」

ライフ4⇨1

 

 

それを横一閃に振るい、放たれた斬撃が鎧武をも蹴散らしてバークのライフに直撃する。そのライフは一気に3つも砕かれてしまい、残りたったの1つだ。

 

しかもコズミックステイツはランチャーモジュールの効果で今現在も回復状態であるため、追撃が可能………

 

 

「これで終わりっス!! コズミックステイツの二撃目で……………」

「くっ……させん、バースト発動!! アルティメットウォール!! このターンのアタックステップを終了させる!!」

「なっ!?」

 

 

さらに力を溜め込み、二撃目の超銀河フィニッシュを放とうとしたコズミックステイツを前に、バークは先手を打つように事前に伏せていたバーストカードを反転させる。

 

そこから放たれた猛吹雪がコズミックステイツをも吹き飛ばし、五町にターンの終了を迫らせた………

 

 

「くぅ〜〜惜しかったなぁ!!…まぁいいや、ターンエンド!!」

【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ+レーダーモジュール+ランチャーモジュール】LV2(3)BP16000(回復)

 

バースト【有】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとした五町。しかしその顔は侮辱に濡れてはおらず、寧ろギリギリのこの状況を楽しんでいた。

 

 

「………小娘……貴様は初めて我を本気にさせた……!!」

「っ……おぉ、それっぽい!! よっしゃかかってこい!!」

「フンッ、どこまでもふざけた奴だ………我のターン!!」

 

 

バークはこのターンの五町の速攻により、気が高ぶったか、自分の力の一端を見せてやると言わんばかりにそのターンシークエンスを進めていく………

 

 

[ターン05]バーク

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨10

トラッシュ5⇨0

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、我は仮面ライダー斬月 メロンアームズを召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ10⇨5

トラッシュ0⇨4

【仮面ライダー斬月 メロンアームズ】LV1(1)BP5000

 

「おっ! さっきのやつっスか!!」

 

 

バークの場の上空にチャックが出現し、全開すると、そこから白い仮面スピリットが刀を手に飛び降りてくる。それは仮面ライダー斬月。強力な効果を持つ白属性の仮面スピリットだ。

 

 

「さらにヘルヘイムの産物のLVを2へアップ!!」

リザーブ5⇨1

【ヘルヘイムの産物】(0⇨4)LV1⇨2

 

 

場には鎧武に加え、斬月。そしてネクサスカード、ヘルヘイムの産物。

 

準備は整った。バークは勢いよくアタックステップへと移行し…………

 

 

「アタックステップ、斬月でアタック!!その効果でコズミックステイツを手札に戻し、コア1つを追加!!」

【仮面ライダー斬月 メロンアームズ】(1⇨2)LV1⇨2

 

「っ………コズミック!? …くっ…… レーダーモジュールとランチャーモジュールは場に残すっス!!」

手札2⇨4

【レーダーモジュール】LV1(1)BP2000(回復)

【ランチャーモジュール】LV1(1)BP2000(回復)

 

 

斬月が刀を縦一閃に振るい、斬撃の衝撃波を放つ。コズミックステイツはシャトルのような剣でガードするも、それごと吹き飛ばされ、デジタル粒子に変換されて五町の手札へと帰ってしまう。

 

その際に合体していたスイッチが取り残された。

 

 

「斬月のもう1つの効果、ターンに一度、回復する!!」

【仮面ライダー斬月 メロンアームズ】(疲労⇨回復)

 

「うぉ、マジっスか!? 効果てんてこ盛り!!強っ!!」

「一々リアクションがうるさい!!」

「えぇっ!?」

 

 

回復状態となるメロンアームズ。これにより二撃目のアタックが可能となった。

 

………しかし……

 

 

「私の場は回復状態で残っているモジュールが2つある!!このターンはそれで凌いで見せる!!」

 

 

そう、五町の場にはコズミックステイツの置き土産とも言えるモジュールが2つ残っている。連続アタックと言えども、これで守って仕舞えば、次のターンで勝機も見えてくる。

 

五町はそう考えていたが………

 

 

「甘い……甘いな、貴様のバトルスピリッツは……」

「っ!?」

「……見せてやる……ここからが我の舞台だ……!!」

 

 

このターンで確実に五町の息の根を止めようとしているバーク。その強気な発言から、五町もここから何かとんでもないものが来る事は容易に想像ができて………

 

 

******

 

 

一方、椎名は自分の住む住宅に帰宅していた。

 

暗がりであまり物も置かれていない部屋。その部屋のベッドの上でリラックスするように仰向けで寝転がって、ある事を考えていた。

 

 

「五町のするバトルは楽しそうだな…………そう言えば、私は最近命懸けのバトル続きで全然そんな余裕なかったっけ…………」

 

 

これまでの五町のバトルを頭の中で思い返していた。真夏の言う通り、確かに昔の自分に似ている。バトルを心から楽しむことができる。

 

自分も【あんな事件】さえなければ今でもあんな感じで、五町ともしっかり意気投合していたのだろうか?

 

そう思考をよぎらせていて…………

 

 

「………今まで一緒に戦ってきた仲間達………お前たちはどう思う?」

 

 

椎名はふと、懐から自分のデッキを取り出し、そのカードたちを眺めた。ブイモンやフレイドラモン、デュークモンやギルモン。今まで一緒に戦ってきた仲間達のカードが見える。

 

そんな質問など投げ掛けても返事など帰ってくるわけがないが、椎名はそれでも少しだけ優しく口角を上げて………

 

 

「そうだよね、今まで考え過ぎだったか………」

 

 

何か大切な事に気づいたのか、その柔らかい表情の中には確かに昔の椎名らしい感情が含まれていて………

 

しかし、その直後……

 

 

「っ!?……なんだ、これ!?」

 

 

身体が騒つく。

 

荒ぶる得体の知れない何かを感じ取ったのだ。

 

それは進化の力。しかも普通の人間から発せられるものではない。とても高密度で、とてもではないが1人の人間が持っていていいものではない。

 

これ程の力を持っているのは………エニー・アゼムか、会ったことはないが、その子孫のバーク・アゼムくらいだ。

 

 

「くっ……こんな時に……!!」

 

 

今正に街の何処かで何かが起ころうとしている事を知った椎名はすぐさまデッキを懐にしまい直し、制服のまま家から飛び出していった。

 

 

******

 

 

「フラッシュ【煌臨】発揮、対象は斬月!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ4⇨5s

 

「っ……あんたも煌臨を使うんスか!?」

 

 

舞台は再び戻ってストリート内で行われている五町とバークのバトル。

 

バークは椎名が感じた進化の力の正体を今この場に呼び出そうとしていて………

 

 

ーいざ、出陣、エイエイオー!!

 

 

戦が始まると言わんばかりに角笛の音が鳴り響く。そして、それに合わせるかのようにバークの背後から何かが飛び出してくる。

 

それは場の斬月と重なりて、この場に実態を持ち、姿を現わす。

 

 

「煌臨、仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ!!」

手札3⇨2

【仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ】LV2(2)BP10000

 

「………おお!!カッコいいっスね!!」

 

 

新たに現れたのは鎧武の進化系態、カチドキアームズ。重圧なオレンジの武装に加えて背部に2本の旗が立っているのが特徴的である。

 

 

「煌臨時効果!!相手スピリット2体のBPをマイナス15000、0になれば破壊!!…モジュール2つを破壊する!」

 

「っ!?」

【レーダーモジュール】BP2000⇨0(破壊)

【ランチャーモジュール】BP2000⇨0(破壊)

 

 

カチドキアームズは登場するなり、その2本の旗を掲げ、そこに炎を宿し、踊るように振るう。その炎は五町の場のモジュールまだ伸び、流れるように焼き尽くした。

 

 

「これで貴様の場はガラ空き、このターンで消し去ってくれる!! 行け、カチドキアームズ!!」

 

「私が受ける!!……っ」

ライフ3⇨2

 

 

煌臨したスピリットは煌臨元となったスピリットのすべての情報を引き継ぐ。それに沿ってカチドキアームズも斬月と同じアタック状態、回復状態となり、五町の場へと走り行き、

 

その炎を纏わせた2本の旗を掲げ、五町のライフへと勢いよく叩きつけて1つを砕いた。

 

 

「……だけどそれが私のバーストのトリガーとなる!!発動、仮面ライダーメテオ!!……効果によりこれを召喚!!」

リザーブ6⇨1

【仮面ライダーメテオ】LV3(5)BP12000

 

「っ!!」

 

 

だが、五町もただでは転ばない。事前に伏せていたバーストカードを反転させる。それはフォーゼではないが、フォーゼのダチである仮面スピリット………

 

カードが反転すると共に上空から青い流星が轟音を立てながら降り注ぐ。そしてその中から黒いボディの仮面スピリット、仮面ライダーメテオが姿を現した。

 

 

「貴様も別の仮面スピリットを……」

「これがフォーゼと私のダチの1人、仮面ライダーメテオだ!!召喚時効果でスピリット1体をデッキ下に送る!!」

「っ!?」

 

「対象はカチドキアームズ!!」

 

 

メテオは登場するなり、右腕のスイッチを入れ、まるで土星のような形をしたものを右手に纏わせる。そしてそのままカチドキアームズの元まで走り、中国拳法のような動きでカチドキアームズの重圧な装甲に殴りつけた。

 

接地面から火花が飛び散る。このままでは間違いなくカチドキアームズはメテオに自身の装甲を砕かれ、デッキの下に戻ってしまうだろう…………

 

が………

 

そんな様子を見ていてもバークは冷徹且つ余裕のある表情を浮かべており………

 

 

「アームズスピリットが効果でフィールドを離れる時、ネクサス、ヘルヘイムの産物のLV2効果を発揮!! このネクサスのコア1つをそのスピリットに置き、同じ状態でフィールドに残す!!」

【ヘルヘイムの産物】(4⇨3)

【仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ】(2⇨3)

 

「なにぃっ!?」

 

 

突如として……

 

ヘルヘイムの樹が細かく揺れていく。その木の実の1つが吸い込まれるようにメテオと交戦中であるカチドキアームズの方へと飛び出し、その中へと入っていく。

 

それにより、力を増幅させたカチドキアームズはメテオを気合いで勢い良く弾き飛ばした。

 

 

「これで貴様のスピリット効果は無効!!…アタックステップは継続させ、オレンジアームズでアタック!!」

 

 

今までの戦闘タイミングはライフ減少後のバースト効果で召喚されたメテオの召喚時効果の処理。それが不発に終わった今、ようやくバークは次の攻撃を仕掛けられるようになったのだ。

 

剣を手に持ち、五町のライフをめがけて走り出すオレンジアームズ。そしてこの瞬間にもカチドキアームズの効果が発揮されて………

 

 

「カチドキアームズの効果!!自分のスピリットがアタックした時、相手スピリット1体をBPマイナス10000!! 0になればデッキの下に戻る、メテオが対象だ!!」

 

「っ!!」

【仮面ライダーメテオ】BP12000⇨2000

 

 

オレンジアームズの動きに合わせてカチドキアームズが再びその2本の旗を掲げ、炎を纏わせて振るう。その炎は旗から離れてメテオへと飛び行き、メテオを熱する。

 

メテオは倒されないまでにも、大きく弱体化してしまい、膝をついてしまう。

 

 

「でもまだBPは残ってるっス、このままブロックして……………」

 

「俺にそんな手は通用しない、フラッシュマジック、無頼キック!!……メテオのBPをマイナス15000して破壊する!!」

手札2⇨1

【ヘルヘイムの産物】(3⇨1)

トラッシュ5s⇨7s

 

「なぁっ!?」

【仮面ライダーメテオ】BP2000⇨0(破壊)

 

 

しかし、バークのバトルスピリッツは五町の想像をはるかに上回るものであって………

 

飛び上がるオレンジアームズ。そのまま右足に力を込め、メテオの方へと急降下する。メテオはそれに直撃し、流石に力尽きて大爆発を起こした。

 

さらに着地したオレンジアームズは再び五町の方へと歩みを進めて…………

 

 

「くっ………私で受け止める!!」

ライフ2⇨1

 

 

オレンジアームズは無双セイバーと呼ばれる刀で五町のライフを一太刀。五町のライフ1つは紙切れのように切り崩された。

 

もう五町の場には抵抗するべくカードはなく…………

 

 

「終わりだ小娘………カチドキアームズでアタック!!」

 

 

カチドキアームズは巨大な銃を取り出し、そこに最大限の力を込めて五町の残ったライフの方へと向けて放つ。

 

コズミックステイツも手札に戻り、メテオもやられた五町にはもう打つ手立てはなく………

 

 

「あんたとのバトル、忘れないっス!!………私が受ける!!」

ライフ1⇨0

 

 

その攻撃の全てを受け入れた。五町の最後のライフは呆気なく散って行った。

 

これにより、勝者はバーク・アゼム。本気の力を見せつけ、見事に五町に勝利を収めてみせた。

 

彼の場に残ったスピリットやネクサスもそれに合わせてゆっくりとこの場から消えて行く………

 

 

「フンッ、どこもかしこもこの程度のバトラーか……興醒めだな……」

 

 

そう界放市のバトラー全域に向けたような発言をし、そのまま帰ろうとするバーク・アゼム。

 

だがその前に敗北した五町が………

 

 

「あ、おいあんた!!」

「?」

「スッゲェ楽しかったっスよ!!またやろう!!」

 

 

バークを呼び止めた五町がそう明るい笑顔と声色で言った。バークは冷徹且つ冷静な表情を崩すことはなかったが、五町の行動に内心僅かながらに驚いていた。

 

今さっき負けたはずなのに………

 

何故目の前の小娘はすぐさま立ち上がってそんな言葉を自分に対して口にできるのか?

 

そんな五町の行動心理が彼には理解なくて……

 

 

「岬五町………と言ったな、一応、覚えておこう………」

「おうっス!!……じゃあな!!」

 

 

とだけ口にし、大通りの中を歩いて行った。バークの事を恐れてそこには人が避けていく。

 

 

「いや〜〜世界は広いようで狭いなぁ〜〜!!」

 

 

バークの姿がまだ視認できる頃、五町はバークのバトルに感激したような言葉を漏らす。

 

と、その時だ………

 

 

「五町ッッ!!」

「っ!!……姐さん!!」

 

 

椎名が五町の方へと走り出してきた。今日また会えるとは思っていなかった事もあって、五町は喜びの頂点のような笑顔を見せる。しかし、椎名のその表情には切羽詰まったものがあり…………

 

 

「なんともないか五町ッ!?……どうもない!?」

「へ? 何が?…元気ピンッピンっスよ!!……あ、聞いてください、さっき私と同じ仮面スピリット使いの人とバトルしたんスよ〜〜その人が強くって強くって…もうコテンパンのパンで〜〜……鎧武って言う仮面スピリットなんスけど…………」

「鎧武……………っ」

 

 

心配していたこともあって、五町の肩に勢い良く手を置き、言い寄る椎名。

 

そして間違いない。バーク・アゼムとバトルしていたのはこの五町だ。そう思い、五町が指差す方へと首を傾ける椎名。その先には確かに司の情報通り小柄で黒髪で異端なオーラを放つ男性がいて……

 

バークは少しだけ振り返り、椎名とわずかな時間だけ目を合わせる………

 

これは芽座椎名とバーク・アゼムが初めて顔を合わせた瞬間………この先、間違いなく敵対するであろう相手なのだ…………

 

バークはエニー・アゼムの言いつけを守るためか、それ以外は特に何もせず、大通りの人混みの中にその姿を眩ましていった…………

 

 

「あれが、バーク………」

「って、姐さん聞いてます?……ねぇ、姐さんってば!!」

 

 

五町の声も耳には届かない椎名。だがこの後、また五町にしばらくの間付き合わされて中々家に帰れなくなったのはまた別の話…………

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


バーク「本日のハイライトカードは【仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ】」

バーク「我のエースカチドキアームズ、召喚時に2体のスピリットのBPをマイナス15000させ、さらに自軍のスピリットのアタックでもさらなる弱体化を狙えるぞ」


******


〈次回予告!!〉


界放市に集まるバトスピ一族、【赤羽】【紫治】【九白】には年に一度その戦績優秀者を讃えるため、そして交流を深めるため宴が開かれる。そこに司と九白の落ちこぼれ英次は参加することになるが………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「赤羽と九白の激突、サイバードラモン咆哮!」…今、バトスピが進化を超える!!


******

※次回サブタイトルや内容は変更の可能性があります。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

ターン自体は短めのバトルだったと思いますが、その分ハイスピードで濃ゆい内容だったかと思います。

次回は九白英次が2年になった状態で久しぶりの登場です。お楽しみに〜〜


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第101話「赤羽VS九白、サイバードラモン咆哮!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

界放市に集結している3つのバトスピ一族。

 

赤羽

 

紫治

 

九白

 

 

この3つの一族は毎年、夏の期末頃に最も戦績優秀者を讃えるため、集会し、宴会が行われる。

 

ただ、紫治一族に関してはラジオ番組を開いていて、アイドルじみた人気を持つ紫治夜宵や今ではそこの長を務めている紫治明日香の多忙さもあって誰も来ることはない。

 

赤羽一族もこの世代は赤羽司しかいないため、事実上人数も圧倒的に多い九白一族の集会と言っても過言ではなかった………とは言っても、その赤羽司は間違いなく最も優れた戦績を持っているのだが………

 

 

******

 

 

「司さん!!」

「!…英次か………」

「はい!!お久しぶりです!!」

 

 

総勢300人を超える優雅で華やかな雰囲気の会場。大半が九白一族の者達の中にただ1人凛として佇む司に声をかけたのは、今ではもう2年生となった少年、九白英次。相変わらずその背丈は小柄である。

 

 

「やっぱり、今年の1位も司さんで決まりなんですかね?」

「フッ、だろうな」

 

 

そう言った英次に対し、司はさぞかし当たり前であるかのような振る舞いで答えた。

 

毎年この会では上位三名が九白一族の長にその名を呼ばれる。司は入学して以降、2年連続で1位を獲得している。そのこともあって期待値は高く………

 

 

「ちっ、赤羽のドブネズミが………」

「不純物までいやがる……あのジークに落ちた落ちこぼれが……」

「何故あんな低俗な一族もこの栄誉ある式に参加せねばならないのだ、赤羽などあってもなくとも変わらないだろう、不純物に至っては九白を名乗るだけでも厚かましいと言うのに……!」

 

 

しかし、周りにいる殆どの九白一族はその事を決して甲斐がしく思ってなくて………

 

九白一族とは所謂白属性絶対主義。他の色の者など言語両断。真逆の特性を持つ赤属性の一族である赤羽一族など、野蛮で貧相な一族としか思っていない。

 

だが、司の強さが証明されている今、もはやその言葉は自分の弱さを隠すためのものにしか聞こえないが………

 

 

「おぉ〜〜い、英次ぃ!!」

「わっ!?小波義姉さん!?」

 

 

そんな最中、英次に飛びついてきたのはショートカットの九白の少女。3年の九白小波だ。今現在の学生中では九白の最高傑作とまで謳われる程の実力者だ。一度、タッグバトルで英次と椎名とバトルを行なったことがある。

 

しかし、重度の可愛い者好きであり、バトルにさえ影響を及ぼす。しかしながらそれでも勝率は毎年司に次いで高いのだが………

 

白と青属性が混ざったカードを一族の中で唯一貰い受け、【不純物】と馬鹿にされている英次を分け隔たりなく接する事ができる数少ない人物でもある。

 

 

「いや〜〜1年経ったら流石に背が伸びるかと思ったら全然伸びないね〜〜良かった良かった!!」

「良くないですよ!!」

「可愛い〜〜!!抱きしめて良い?」

「ダメです、やめてください!!」

「なんなんだテメェらは………」

 

 

小さい英次を兎に角愛でる小波。2年になっても小さいままの英次を嫌々言われながらも無理矢理抱きしめる。英次とて、別に背が低いままなのが良いわけではない。

 

と、その時だ。会場のステージに一筋の光が射し込む。思わずそこに目を向ける会場の面々。そのスポットに立っていたのは他でもない

 

オーディーン校の理事長にして九白一族の頭領、【九白漣】だった。今年で62になるとは思えない程に凛々しい顔立ち、真っ直ぐな背中が強く印象に残る。他の九白一族にとっては神のような存在である彼が現れた事で、会場にいる殆どの九白一族は轟音のような歓声を上げた。

 

 

「…静粛に………」

 

 

マイクを片手に持ち、握り、口元に寄せ……放たれる威厳のある声色。その重圧な一言に思わず誰もが静まり返る。

 

 

「私は九白一族の頭領、九白漣。知っての通り今年も戦績優秀者の発表を行う。僭越ながら今年もこの私が努めよう……!!」

 

 

唾を飲み込む九白の一族達。いよいよ始まるのだ。栄誉ある上位三名の名を呼ばれる時が…………

 

そして、漣はその名を呼ぶ。先ずは1人目だ………

 

 

「先ず1位………赤羽司」

 

 

その瞬間、寂しくて今にも消えそうな小さい音の拍手が会場中に響いた。

 

その名前は……

 

予想通りというか、他の一族に一位を取られて腹立たしいような表情を見せる者がほとんどであって……

 

 

「司さん、おめでとうございます!!」

「まぁ当然だな」

 

 

しかし、その中でも司はそんなの知ったことではないと言わんばかりに堂々とした態度で振舞っていた。その態度がまた優越感に浸っていると思われて、九白の反感を買っているとも知らず…………

 

 

「2位は九白小波」

 

 

と、漣は立て続けにそう言った。九白小波。昨年度も司に次いで2位だったのもあり、癪ではあるが、大抵の人物はここまで予想していた事だろう。

 

 

「ま〜〜たあんたの次か〜〜別にこんなものに興味はないけど」

「……そうか」

 

 

小波は性格に難があるため、本気でバトルすることは少ない。そのため、その気になればこの結果はどうなっていたか定かではなくて……………

 

そして、いよいよ3人目の発表。司と小波の名が上がると予想されていたため、ここからが本番だ。九白一族達はよりそこに耳を傾ける………

 

 

が、最後に呼ばれたその名前は…………

 

 

「3位は………九白英次だ」

 

 

 

ー!

 

 

 

「え?………えぇぇぇ!?僕ですかぁぁぁあ!!?」

 

 

どよめく会場。驚愕のあまり叫ばずにはいられない英次。

 

無理もない。九白英次と言ったら、数多い九白の中で最も落ちこぼれ。強くもなければ与えられたカードも青が混ざっているという不純物。

 

そんな存在が今回の戦績3位。つまり、他の九白一族よりも優秀である事が証明されたのだから………

 

 

「以上で発表は終わりとする。後は各自適度な食事を取り、明日からのバトルに備えよ」

 

 

そう言って、マイクのスイッチを切り、発表を終えた九白漣。そしてそのまま唖然としていた会場を去っていくが…………

 

 

「納得行かねーー」

「あの不純物が俺らより上だと!?」

「虫酸が走りますわ………!!」

 

 

その直後、結果に不満を持つ九白達による嵐のように飛び交う英次に対する愚痴。自分の方が遥かに英次より優れている言わんばかりに………

 

認めないし、

 

認められない………

 

 

「英次ぃぃい!!やるじゃん!!いつのまに強くなっちゃってもう〜〜お姉ちゃん嬉しいわ〜〜!」

「あ、ありがとうございます………でも……」

 

 

九白小波は九白の中で唯一英次の栄光を嬉しそうに褒めた。まるで自分の事のように。しかし、英次は嬉しくはあるが、やはり周りの罵倒がどうしても気になり………

 

自分でも納得はできない。こんな自分が小波を除く他の九白よりも優秀であるなどと。

 

そんな英次を見兼ねてか、1人の男が立ち上がる。

 

それは赤羽司だ。

 

 

「おい、英次」

「?」

「俺とバトルしろ」

「え!?」

 

 

突然。

 

それは突然の要求。

 

単刀直入でシンプルな要件に英次はたじろいだ。この司の言葉にさらに騒つく周りの九白達。そんな九白達に向かって、司はさらに口を開き………

 

 

「おい九白のモブども………よく見とけ、テメェらが見下してたもんの力をな………!!」

 

 

ー!

 

 

確かな力と胆力を確信させる司の声、圧力。のし掛かる重圧が小波を除く九白一族達を黙らせた。

 

 

「ほれ、早くBパッドとデッキを出せ英次、始めるぞ…………緊張はすんな、本気で来い」

「は、はい!!」

 

 

しかしながら憧れている人物の一人である司にバトルを申し込まれたことは嬉しかったらしく、英次は瞬時に懐からBパッドとデッキを取り出し、展開してバトルの準備を行った。それに合わせて司も準備を行った。

 

そして始まる。この優雅で華やかな会場にて、

 

証明のバトルスピリッツが………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

九白一族達が見守る中、赤羽司と九白英次のバトルがコールと共に幕を開ける。

 

先行は赤羽司

 

 

[ターン01]司

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺は仮面ライダーバロン バナナアームズを召喚」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV3(1)BP7000

 

 

司の場の上空に不可思議なチャックが現れ、開き出す。そこから地上へと飛び出してきたのは槍を携えた赤い仮面スピリット、バロン。

 

 

「っ……これが司さんの仮面スピリット……!」

 

「ターンエンド」

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV1(1)BP7000(回復)

 

バースト【無】

 

 

そのターンをエンドとする司。次は英次のターン。彼もやはり成長しているのか、司のバロンを見ても臆する事なくそのターンを進めていく。

 

 

[ターン02]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「め、メインステップ………行きます、ゲッコ・ゴレムを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨3

【ゲッコ・ゴレム】LV1(1)BP1000

 

 

英次が初手で呼び出したのはトカゲのようなスピリット。その効果で青のシンボルに加えて、白のシンボルが2つ追加されている。

 

 

「さらにネクサスカード、甲竜の狩り場を2枚配置!!」

手札4⇨2

リザーブ3⇨1

トラッシュ1⇨3

【甲竜の狩り場】LV1

【甲竜の狩り場】LV1

 

 

荒れに荒れた荒廃が英次の背後に鳴動しながらこれでもかと出現した。

 

 

「そして、ゲッコ・ゴレムから不足コストを確保して、メノウドラゴンをLV1で召喚!!」

手札2⇨1

リザーブ1⇨0

【ゲッコ・ゴレム】(1s⇨0)消滅

トラッシュ3⇨4

【メノウドラゴン】LV1(1s)BP9000

 

「!」

 

 

唸りを上げる地面から飛び出してきたのは鉱物の塊でできた4足歩行の竜。その身体の光沢から、会場の眩いライトもあってその存在感は強い。

 

 

「最後にバーストをセットしてターンエンドです」

手札1⇨0

【メノウドラゴン】LV1(1s)BP9000(回復)

 

【甲竜の狩り場】LV1

【甲竜の狩り場】LV1

 

バースト【有】

 

 

「メノウドラゴン……青としても扱える白のスピリット、汚ぇなぁ、不純物にはぴったりだ」

「ほんとほんと、デッキは白一色だろ普通」

 

 

後攻1ターン目から全ての手札を使い切り、意外にも大胆に動き出した英次。九白一族達には白と青が混ざったそのデッキの評価は低い。

 

英次はその酷評を耳にしながらも、聞こえないふりをした。

 

 

(メノウドラゴン、ソウルコアが置かれている間、甲竜スピリットのBPを飛躍的に上昇させる。なによりスピリットの効果を受けない………いきなり厄介な奴が出て来たな………)

 

 

しかしながら、初手でメノウドラゴンを召喚した点に関しては司の評価は高い。事実耐性持ちのBP9000のスピリットが立たれた事で嫌にも攻め辛いものがある。

 

 

[ターン03]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、イーズナ、続けてホークモンを召喚……効果によりカードをオープンする」

手札5⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨1

【イーズナ】LV2(2)BP2000

【ホークモン】LV1(1)BP3000

オープンカード↓

【仮面ライダーバロン レモンエナジーアームズ】×

【イーズナ】×

【ホウオウモン】×

 

 

バロンの横にイタチのような姿をした小さなスピリット、イーズナと、赤き成長期の鳥型スピリット、ホークモンが現れる。

 

しかし、そのホークモンの召喚時効果は失敗。全てトラッシュへと送られてしまう。

 

 

「相手の召喚時効果発揮後によりバースト発動!!」

「!!」

 

「双翼乱舞!!…2枚ドローします!」

手札0⇨2

 

 

その瞬間に勢いよく反転する英次のバースト。それは赤属性の単純なドロー効果を持つカードだ。その効果で英次は損なわれた手札を潤すが………

 

 

「赤!?…あいつ頭イかれてんじゃないのか!?」

「信じられん……ただでさえ青を入れるだけではしたないと言うのに………」

 

 

他の九白一族達の反感を又しても買ってしまう。

 

実際は白が他の色よりも優れているという根拠は存在しない。誰が何の色のカードをデッキに入れようともそれはそのバトラーの勝手だ。

 

 

「アタックステップ、バロンでアタック!!」

 

「!」

 

 

司がアタックステップに移行し、バロンで攻め立てる。今英次の場にはBP9000のメノウドラゴンがいるにもかかわらず、しかも今現在は2枚の甲竜の狩り場の効果でBP13000にまで膨れ上がっている。

 

チャンプアタックか………それとも……

 

 

(……まさか、フルーツチェンジ!?……ならバトルは避けるべきだ。今メノウドラゴンを失うわけにはいかない………)

 

 

BPが全体的に低めな司のスピリット達。彼はそれを補うべく様々な補強カードが何枚か投入されている。そのうちの1枚が黄色のマジック、フルーツチェンジだ。

 

BPを入れ替える効果を持つそれは、決まって仕舞えばどんなに自分のスピリットのBPを上げようが最後には必ず敗北してしまう。

 

 

「……バロンのアタックはライフで受けます!!」

ライフ5⇨4

 

 

フルーツチェンジを警戒し、英次はバロンのアタックをライフで受けた。バロンの手に持つ槍から繰り出される刺突が英次のライフを1つ貫く。

 

 

「続け、イーズナ、ホークモン」

 

「っ……それもです!」

ライフ4⇨3⇨2

 

 

立て続けにアタックを仕掛ける司。英次はこれもメノウドラゴンではブロックをせず、ライフで受けた。ホークモンの赤羽を投げる攻撃とイーズナのひっかく攻撃がそれぞれ1つずつライフを破壊した。

 

 

「おいおい、あいつ本当にバトルのルールをわかってんのか〜〜?」

「BPのデカさだけが取り柄のスピリットでブロックしないなんて、これだから不純物の落ちこぼれは」

 

 

なんと言って英次を小馬鹿にする九白一族だが、実際、司の手札には確かにフルーツチェンジのカードがあった。マジックの効果は防げないメノウドラゴンは間違いなくブロックしていたら破壊されていた事だろう。

 

司はそんな英次の読みを険しい表情ながらに感心していて………

 

 

「………ターンエンドだ」

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV1(1)BP3000(疲労)

【イーズナ】LV2(2)BP2000(疲労)

【ホークモン】LV1(1)BP3000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

そのターンをエンドとする司。次はメノウドラゴンで敢えてブロックはせず、結果として残す事に成功した英次のターン。

 

 

[ターン04]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ………結果的にライフが3つ減ったのは好都合だったかもしれません………」

「………」

 

「僕はこのスピリットを召喚します……来てください、サイバードラモン!!」

手札3⇨2

リザーブ8⇨3

トラッシュ0⇨2

【サイバードラモン】LV2(3)BP17000

 

 

英次の場に突如飛来したのは白属性に加え、青属性が混ざったドラゴン。黒々としたその身体には確かなテクノロジーが詰め込まれている。それは司を威嚇するかのように鋭い咆哮を張り上げた。

 

サイバードラモン………英次のエーススピリットの一角である。

 

 

「出たよ、相変わらず黒ずんでて汚ぇドラゴンだ」

「あれで完全体なのが腹立つよな」

 

 

英次とサイバードラモンに対して罵声が飛び交う。英次の耳にもそれが入ってきて、また少しだけ表情が暗くなる。恥ずかしいのだ。自分が。自分の混ざっている色が…………

 

 

「おい英次、何してる?」

「っ……」

「バトルは続いているぞ………あんなモブどもの偏見なんぞに耳を傾けんじゃねぇ……!!」

「司さん………」

 

 

苛立ったような表情で司は言った。彼は短気だ。非常に気が短い。故にか、昔からあぁ言う身勝手な偏見で差別する人間が嫌いなのだ………

 

司にそう言われた英次は再びモチベーションを上げ、バトルを続行する。

 

 

「メノウドラゴンのLVを2に上げ………行きます、アタックステップ!! この時、サイバードラモンは必ずアタックします!!」

リザーブ3⇨2

【メノウドラゴン】(1s⇨2s)LV1⇨2

 

 

英次がアタックステップの宣言をするなり、サイバードラモンが戦闘態勢に入り、翼を広げて司のライフめがけて地面スレスレを飛翔する。

 

 

「ライフだ……っ」

ライフ5⇨4

 

 

サイバードラモンの鋭い爪の一撃が司のライフを1つ紙切れのように切り裂く。

 

 

「続けてメノウドラゴン、お願いします!」

 

「それもだ、来い……っ」

ライフ4⇨3

 

 

メノウドラゴンも動く。司のライフまでゆっくりと近づくと、長い首を活かした強烈な頭突きで司のライフを1つ破壊した。

 

 

「このターンのアタックステップの終了時、サイバードラモンは回復します!!…これでターンエンドです!!」

【サイバードラモン】LV2(3)BP17000(疲労⇨回復)

【メノウドラゴン】LV2(2s)BP11000(疲労)

 

【甲竜の狩り場】LV1

【甲竜の狩り場】LV1

 

バースト【無】

 

 

好戦的な効果を持つサイバードラモンは回復状態となる。英次はそれを見届けるなりそのターンをエンドとする。

 

次は司のターン。

 

 

[ターン05]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨4

トラッシュ1⇨0

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】(疲労⇨回復)

【イーズナ】(疲労⇨回復)

【ホークモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺はマジック、ボルカニックブレイクを使用!!…テメェのネクサスを全て破壊し、その数だけドローする」

手札3⇨2⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

 

「っ!?」

 

 

英次の背後にある荒れ果てた荒廃が焼き尽くされていく。2枚の甲竜の狩り場は破壊され、司はその枚数分、即ち2枚のカードをドローした。

 

 

「さらに俺はネクサス、朱に染まる薔薇園を配置」

手札4⇨3

リザーブ1⇨0

【イーズナ】(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ3⇨5

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

 

今度は司の背後にネクサスカードが配置される。澄んだ赤い薔薇がこれでもかと咲き誇った。

 

 

「アタックステップ、捻じ伏せろバロン!!」

 

 

バロンが今一度戦闘態勢に入る。イーズナとホークモンも同様だ。このターン、フルアタックすれば司は物理的に勝利することが可能。

 

だが、今まさにそれを実行しようとした直後、英次は手札から1枚のカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック、スプラッシュザッパーを使用!! 不足コストは全てのスピリットのLVを下げて確保します!!」

手札2⇨1

リザーブ2⇨0

【サイバードラモン】(3⇨1)LV2⇨1

【メノウドラゴン】(2s⇨1)LV2⇨1

トラッシュ2⇨7

 

「なにっ!?」

「コスト7以下のスピリットを3体破壊!!よって司さんのスピリットを全て破壊します!!」

 

 

英次の使うカード、使うタイミング、プレイングで初めて驚嘆の声を上げる司。

 

そしてその瞬間、水の斬撃が飛び交い、司の場にいる3体のスピリット、イーズナ、ホークモン、バロンを纏めて斬り刻んだ。誰もそれには耐えられず、堪らず全員が爆発四散した。

 

 

「おぉおぉ、やるじゃん英次ぃ!!そしてかわいい、今すぐ愛でたい!」

 

 

司のスピリットを全て壊滅できるタイミングでスプラッシュザッパーを使った事を褒めたい九白小波。それ以外の九白一族達はどういうわけか、今度はあからさまに沈黙しており………

 

 

「………エンドだ」

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

「よ、よし!!僕、た、戦えてるぞ!!」

 

 

致し方なくそのターンをエンドとした司。次は【朱雀】相手に勝機が見えてきた英次のターン。若干戸惑いながらも、着実とそのターンを進めていく。

 

 

 

 

[ターン06]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札1⇨2

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

【サイバードラモン】(疲労⇨回復)

【メノウドラゴン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、僕はゲッコ・ゴレムを召喚し、全てのスピリットのLVを最大に!!」

手札2⇨1

リザーブ8⇨3

【ゲッコ・ゴレム】LV2(2)BP7000

【サイバードラモン】(1⇨3)LV1⇨2

【メノウドラゴン】(1s⇨2s)LV1⇨2

 

 

2体目となるゲッコ・ゴレムが英次の場に現れる。サイバードラモンとメノウドラゴンも今一度LV MAXとなる。

 

 

「そしてアタックステップ!!ゲッコ・ゴレムでアタック!!」

 

「ちぃ、ライフだ………っ」

ライフ3⇨2

 

 

勢い良くアタックステップへと移行する英次。手始めにゲッコ・ゴレムが地を這いながら進行し、司のライフ1つを体当たりで砕いた。

 

 

「続けてお願いします、サイバードラモンッッ!!」

 

 

今度はエースであるサイバードラモンが翼を広げ、低空飛行で司のライフを狙う。

 

このままサイバードラモンとメノウドラゴンのアタックを受けて仕舞えば司の敗北だ。流石に黙って見てるわけがなく、司は手札のカードを1枚切って対処しないく。

 

 

「フラッシュマジック、シンフォニックバースト!!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨2

トラッシュ5⇨7

 

「!」

 

「そのアタックはライフで受ける……っ」

ライフ2⇨1

 

 

サイバードラモンの鋭い爪が再び司のライフを1つ切り裂いた。いよいよ残り1つ。英次の場に残ったメノウドラゴンがアタックすれば勝ちだが………

 

 

「シンフォニックバーストの効果!!俺のライフが2以下の時、このアタックステップを終了させる!!」

「っ!!」

 

 

黄色い煙が辺りに充満する。これでは英次のスピリット達は先に進む事は出来ない。

 

英次にはこのターンのエンドが迫られていて………

 

 

「アタックステップ終了時、サイバードラモンの効果。回復させます…………エンドです」

【サイバードラモン】LV2(3)BP17000(疲労⇨回復)

【メノウドラゴン】LV2(2s)BP11000(回復)

【ゲッコ・ゴレム】LV2(2)BP7000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとする英次。その瞬間に黄色い煙が晴れ上がっていった。

 

しかしながら司のピンチには変わりがなく、どうにかしてあのメノウドラゴンとサイバードラモンを潜り抜けねばならない。

 

 

「成る程な、これが今のお前か………」

「?」

「英次、俺のバトルに食らいついてこい………全力でなッッ!!」

「は、はい!!」

 

 

だが、司はまるで自分にピンチが訪れていないかのような振る舞いを見せている。その堂々とした自信。揺るがないプライドが彼の強さの証である。

 

そんな司のターン。成長した英次を本気で叩きのめすべく、彼は自分のターンを進行していく。

 

 

[ターン07]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨11

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ、俺は朱に染まる薔薇園のLVを2にアップ………これにより手札にある赤のスピリットカードの軽減シンボルは黄色としても扱う……よって俺はこのスピリット、ホークモンを召喚!!効果を発揮させる!!」

手札3⇨2

リザーブ11⇨8

トラッシュ0⇨1

【朱に染まる薔薇園】(0⇨1)LV1⇨2

【ホークモン】LV1(1)BP3000

オープンカード↓

【シュリモン】◯

【ホルスモン】◯

【ウィザーモン】◯

 

 

「っ……2枚目を既に……!!」

 

 

司は背後にあるネクサスカード、朱に染まる薔薇園の効果を発揮させ、手札にある2枚目のホークモンをフル軽減で召喚してみせる。

 

そひてその召喚時効果も成功。司はその中の【ウィザーモン】のカードを手札に加え、残りを破棄した。

 

 

「さらに2コスト支払い、このウィザーモンを召喚!!効果により2枚ドロー!!」

手札2⇨3⇨2⇨4

リザーブ8⇨3

トラッシュ1⇨3

【ウィザーモン】LV2(3)BP6000

 

 

ホークモンの追加効果。それにより少ないコストでウィザーモンを召喚した。

 

魔法使いのような姿をした黄色と紫のデジタルスピリット、ウィザーモンが魔法の杖を携え、司の前方、ホークモンの横に現れる。

 

 

「アタックステップ!!ウィザーモンでアタック!!さらにその効果【超進化:黄】を発揮!!」

「っ!!」

 

「この効果により、俺はウィザーモンを黄色の完全体、シルフィーモンに進化させる!!」

【シルフィーモン】LV3(3)BP9000

 

 

ウィザーモンは紫と黄色の超進化の効果を所有している。司はそのうちの黄色を発揮させ、進化させる。

 

ウィザーモンがデジタルコードに身を包まれ、その姿形を書き換えていく。そしてそれを弾き飛ばし、中から新たに現れたのは聖なる獣人型の完全体スピリット、シルフィーモン。

 

 

「シルフィーモンの召喚時効果、BP15000以下のスピリット、ゲッコ・ゴレムを破壊!!」

「!」

「トップガン!!」

 

 

シルフィーモンは登場するなり、両手にエネルギーをねじ込むように溜めて、それをゲッコ・ゴレムのいる前方へと放出する。

 

弾丸状となって飛び行ったそれは瞬く間にゲッコ・ゴレムに衝突。ゲッコ・ゴレムがそれに耐えられるわけもなく、あっさりと吹き飛ばされ、小さく爆発した。

 

 

「アタックステップは続行、シルフィーモンでアタック!!……さらにフラッシュマジック、イエローリカバー!!黄色のスピリットであるシルフィーモンを回復!!」

手札4⇨3

リザーブ3⇨1

トラッシュ3⇨5

【シルフィーモン】(疲労⇨回復)

 

 

立て続けにアタックを仕掛ける司。さらにそれをマジックの効果で回復もさせる。

 

しかし、シルフィーモンのBPでは英次のスピリットの誰にも勝てない。BPを入れ替える一発逆転のカード、フルーツチェンジがあるものの、【重装甲:黄】を持つサイバードラモンを当てられると敵わない。

 

しかしながら司には既にこの時点で勝機を見出している。特大の一手が既にそこに眠っていて………

 

 

「フラッシュ、俺はトラッシュにあるホウオウモンの【煌臨】を発揮!!対象はシルフィーモン!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ5⇨6s

 

「っ!!トラッシュからホウオウモン!?………まさか最初のホークモンの召喚時効果で既に………」

 

 

司の持つエースの1体、ホウオウモンはトラッシュ、いわゆる墓場からでも煌臨ができる異端なスピリット。

 

今回もそれを司は発揮させる。

 

 

「永き眠りから覚め、今こそ輪廻せよ!!究極進化ぁぁぁぁあ!!!」

 

 

シルフィーモンが炎に包まれ、その中で大きく姿形を変えていく。そして眼光を強く輝かせる……

 

 

「ホウオウモン!!」

【ホウオウモン】LV2(3)BP12000

 

「こ、これがホウオウモン……!!」

 

 

4枚の黄金の翼で炎を断ち切り、現れたのは金色の鳳凰。気高い雄叫びを上げながら今、司の場へと顕現した。その凄みに対戦相手のエイジどころか他の九白一族もたじろいでいる。

 

 

「そして煌臨時効果!!煌臨元となった赤のスピリットカード1枚を回収する事で、BP10000以上のスピリット1体を破壊する!!」

「!!」

 

「俺はシルフィーモンのカードを手札に戻し、サイバードラモンを破壊する!!………金色の超炎……シャイニングエクスプロージョン!!」

手札3⇨4

 

 

ホウオウモンは登場するなり、その4枚の翼に金色の超炎の力を込めていく。そしてそれを司の叫びと共に一気にサイバードラモンへ向けて放出。

 

サイバードラモンは熱され、溶解していき、やがて大爆発を起こした。

 

 

「くっ……サイバードラモン………でもまだ負けてない!!」

「あぁ、そうだ……今から倒す!!」

「行きます、ホウオウモンのアタックはメノウドラゴンでブロック!!」

 

 

エースであるサイバードラモンを失っても尚、強くて逞しいモチベーションを保つ英次。既に2度目のアタック権限を得ているホウオウモンのアタックを止めるべく、手札にある最後のカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュマジック、オーバードライブ!!」

手札1⇨0

リザーブ8⇨5

トラッシュ0⇨3

 

「!」

 

「この効果でメノウドラゴンのBPをプラス5000!!さらに【連鎖:白】を発揮させ、メノウドラゴンを回復させます、これでホウオウモンのBPは超えました!!」

【メノウドラゴン】BP11000⇨16000(疲労⇨回復)

 

 

BPパンプ&回復効果を持つマジックを発揮させる英次。メノウドラゴンが大きくパワーアップして見せる。

 

しかし…………

 

 

「甘いな英次、そう来たらお前が予期していたこいつが火を噴く………」

「え?………っ!? まさか!!」

 

「そのまさかだ………フラッシュマジック、フルーツチェンジを発揮!!不足コストはホウオウモンから補う、よってLVダウン」

手札4⇨3

【ホウオウモン】(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ6s⇨8s

 

 

英次の戦略と読みにより、バトルが始まって以降、ずっと腐っていたフルーツチェンジ。この大一番でようやく起動された。

 

 

「その効果により、このバトルのBP比べのBPを入れ替える!!俺のホウオウモンはメノウドラゴンのBP16000を得………」

【ホウオウモン】BP7000⇨16000

 

「っ………逆にメノウドラゴンはホウオウモンのBP7000に…………」

【メノウドラゴン】BP16000⇨7000

 

 

黄色い空間が辺りを包み込む。その中でホウオウモンはメノウドラゴンのパワーアップ分をまるごと自分の力へと変化させるが、逆にメノウドラゴンはより大きくその力を後退させてしまう。

 

 

「ホウオウモン、やれッッ!!」

「!!」

 

 

司がホウオウモンにそう指示を送ると、ホウオウモンは上空からメノウドラゴン目掛けて急降下し、強靭な脚でそれを掴み上げ上昇していく。

 

そして今一度急降下し、メノウドラゴンを勢い良く地面に落とし、叩きつける。メノウドラゴンは堪らず爆発を起こした。

 

 

「ホークモン、アタックしろ!!」

 

「っ!!……ライフです!!」

ライフ2⇨1

 

 

そんな破壊など待つまでもなく、司が今度はホークモンに指示を送る。ホークモンは自らの赤い羽根を華麗なフォームで投げ飛ばす。それは英次のライフ1つに直撃し、それを破壊した。

 

 

「終わりだ………ホウオウモンッッ!!」

 

 

事前にマジックで回復していたホウオウモンが今一度飛翔する。目指すは当然英次の最後のライフであって…………

 

今や手札盤面共にゼロとなった英次はこれをライフで受ける他なくて…………

 

 

「………ありがとうございました司さん………ライフで受ける」

ライフ1⇨0

 

 

ホウオウモンの振り下ろされる脚の爪の一撃が英次の最後のライフを一瞬にして切り裂いた。

 

これにより、勝者は赤羽司となる。悪戦しながらも、見事に勝利を収めてみせた。バトルの終わりを告げるかのように残ったホークモンとホウオウモンもその姿をゆっくりと消していく。

 

 

「興醒め興醒め、帰ろうぜ」

「あぁ、やはり不純物は不純物だったな。戦績トップスリーに入れたのも何か裏があるに違いない」

「ドブの赤一族の赤羽に負けるとかないわ〜〜」

 

 

小波を除く九白の面々はそのような会話をしながら続々と会場を後にして行った。実はもう既に英次が自分達を超えているなどと知る由もなく、

 

いや、本当は知っている。

 

が、認めたくないだけだ。

 

 

「英次ぃぃ!!」

「わっ!…小波義姉さん!?」

「凄いじゃ〜〜ん!…いつのまにそんな強くなっちゃったのさ〜〜」

「いや、そんな事………」

「もう〜謙遜しちゃって〜〜かわいいんだから」

 

 

思わず英次に詰め寄る小波。そして勝利を収めたこの男も英次の元まで歩み寄り………

 

 

「司さん………」

「英次……お前はもう十分強い、この俺が保証する……胸を張れ」

「っ………はいっ!!…お手合わせ、ありがとうございましたッッ!!」

 

 

司はそう言って英次と小波に背を向け、自分も会場を後にしようとする。その背中は英次にとって逞しく、偉大に見えた。英次は改めて司に礼を言うと共に、それに対して深々と頭を下げて一礼した。

 

もう他の九白に認められなくても良い、なんせ自分はもうもっと凄い人達に認められたのだから。そう胸に刻んだ英次だった。彼が椎名達の世代が卒業した後に界放市最強の学生バトラーとなるなど、当時は誰も思ってもなかっただろう。

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

英次「本日のハイライトカードは【サイバードラモン】です!!」

英次「サイバードラモンは白と青の完全体、汚くて、見窄らしいかもしれませんが、それでも僕の大事なエースです!!」


******


〈次回予告!!〉


ついにあの最強の男が界放市に帰ってくる。その名は緑坂冬真。又の名をヘラクレス。しかし、彼はひょんな事から真夏に彼氏がいると知り………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「憤怒のヘラクレス、デュークモンVSヘラクルカブテリモン!」…今、バトスピが進化を超える!!



******


※次回サブタイトル及び内容は変更される可能性があります。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!

九白小波の存在は【第41話】等でも確認できます。

活動報告でも述べましたが、最近三期に繋がる割と重要な【外伝】の話が全く読まれていなかったので、続けて読みやすいように、外伝特有だった「ep.〜」を消していつもの「第?話〜」とさせていただきました。その結果、この作品が通算100話を超えました。

特に最後の最後の最後はエニー・アゼムが赤羽茜の身体を乗っ取っている決定的瞬間があるので是非ご覧になってください。

次回は超久しぶり、カブテリモンデッキの真夏の兄、ヘラクレスこと緑坂冬真の登場です!!お見逃しなく!!


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第102話「憤怒のヘラクレス、デュークモンVSヘラクルカブテリモン!」

 

 

 

 

季節は夏。

 

学生達は夏休み真っ只中だ。

 

だが、そんな中でも大人達は働く。2年前に高校を卒業したこの色黒の関西男、緑坂冬真、又の名をヘラクレスも同様。

 

しかし、そんな彼に限っての仕事とは、プロとしてのバトルをこなしていくだけなのだが………

 

 

「行って来いアトラーカブテリモンッッ!!……レッドホーン!!」

「ら、ライフで……う、うぁぁぁぁっ!!!」

 

 

とあるプロのバトラーのリーグが行われる会場にて、ヘラクレスは決勝のバトルを行なっていた。赤き甲虫の完全体スピリット、アトラーカブテリモンがその赤い一角に稲妻を纏わせ突進していき、対戦者の最後のライフをそれで貫き、彼に勝利をもたらした。

 

 

ー「き、決まったぁぁぁぁ!!!!この夏のビッグイベントを制したのは又もやこの男、ヘラクレスだぁぁぁ!!!」

 

 

テンションがハイになった実況者がそう叫ぶと、周りの観客たちも轟音のような歓声と拍手喝采をヘラクレスに浴びせていく。実況者の言葉から、ヘラクレスはここ以外でも多くの大会で優勝しているのが伺えて………

 

 

「いや〜はっはっは!!どうもどうも〜〜!!」

 

 

止まぬ轟音。止まぬヘラクレスコール。今を生きる日本のカードバトラー達が皆彼に熱い視線を送り、注目するのだった。

 

 

「サインは可愛い女の子だけ受け付けるでぇぇぇ!!」

 

 

ただ、この女好きの性格は相変わらずであり、バトルする時以外は常にそのことばかりである。良くも悪くも何も変わらない。

 

しかし、そこが彼の強さであるのだろう。

 

こうして、夏のビッグイベントはヘラクレスの優勝で締めくくり、幕を下ろしたのだった。

 

 

******

 

 

それから約一週間後、ヘラクレスはリーグもひと段落した事もあって、第二の故郷である界放市に帰郷していた。

 

今の時間帯は夜。昼間は賑やかだが、真夜中のみ人気が少ない公道を彼は呑気に歩いていて………

 

 

「………と、言うわけで前置きは終わりや〜〜さぁ!!ここからが俺にとっての夏のビッグイベントやでぇぇぇ!!今から真夏ちゃん家行って寝込みを襲ってくる!!でもって優勝した事を褒めてもらうんや〜〜」

 

 

意味深な発言も見受けられるが、ヘラクレスはどうやら妹である真夏の家に向かっているらしい。サプライズのつもりなのか、夜に来たという理由もそこからであろう。

 

 

「おっ!!真夏ちゃん家や〜〜るんたったのた〜〜!!」

 

 

真夏の家が見えてくるところまで近づいた上機嫌なヘラクレスはやや独特で気色悪いスキップをしながらさらに近づいていく。

 

界放市で真夏が借りている家は1階建だ。木製だが、新築であり、汚れもあまりない。ヘラクレスはそんな真夏の家の玄関を避け、一旦回り込んだ。

 

真夏の部屋を除くためだ。急に出てきてサプライズするつもりなのだ。

 

 

「おっ、灯りついとんな〜〜……フォフォッフォ〜〜夜更かしは美容の大敵やで〜〜」

 

 

気づかれぬよう、小声で忍び足で近づいていくヘラクレス。その行いは最早軽い犯罪を犯している。

 

そんな彼はとうとう真夏の部屋の窓付近に到達する。ヘラクレスはカーテンの隙間から微かに見える真夏の姿を確認した。

 

 

「おぉ〜〜真夏たん!!風呂上がり?風呂上がりだよね〜〜!!可愛い〜〜流石は我が妹………国宝級……1万円札に推薦しとくべきやったわ〜〜」

 

 

黒々とした髪をクシでとかしながらBパッドを触っている真夏を見ながら、犯罪者ヘラクレスはまた小声でそう呟いた。

 

しかし、幸せな時間はそう長くは続かず………

 

 

「ん、あ〜〜ええよ、また明日会うか〜〜えぇ?いや、恥ずいわ!!」

「っ!?」

 

 

真夏はBパッドで誰かと通話していた。その内容の一部がヘラクレスの耳の中に飛び込んで来る。

 

その内容は彼にとって衝撃的なもの。頭の中に落雷が落ちてきた。

 

 

(え?なになに………なにこの会話、明日会う?………え、誰とや?………しかも、『恥ずいわ!!』って………なにこの感じ………まさか、まさかやと思うけど……………………)

 

 

ヘラクレスは頭の中で素早く整理し推理していく。しかし、余裕がなくなっていたこともあってか、その答えはたった1つしか出てこない………

 

それは………

 

 

(ま、真夏ちゃん……彼氏できたのぉぉぉぉぉ!?)

 

 

心の中で強く叫び、気力を吸われたように意気消沈するヘラクレス。信じられない。まさか真夏が、自分の妹に限ってそんな………

 

 

(ありえんへんありえんへん!!なんで?もう高校3年やで!?……そ、そんなん今更………)

 

 

………許せない。それだけは絶対に

 

意気消沈したヘラクレスは空っぽになった中身に真夏の彼氏に対する憎悪が次々と注ぎ込まれていく。

 

そして彼は徐にBパッドを取り出し、ある人物にメールを送りつけた。それは真夏の事をよく知る人物だ。

 

 

(お、覚えとけよ彼氏!!明日中にはお前を特定して虫の糧にしてくれるぅぅぅう!!!!)

 

 

ヘラクレスは結局その晩は真夏と顔を合わさなかった。翌日も会うと言っていた事を利用し、それを尾行するためである。

 

明日、ヘラクレスはBパッドのメール機能で協力を求めた人物と共に真夏を尾行する…………はずだった。

 

 

******

 

 

翌日、ヘラクレスはアフロとメガネを着用し、変装してある人物と共に真夏を尾行、そしてとある喫茶店に赴いていた。

 

だが、少し気になることもある。その一緒に尾行した人物についてだ………

 

 

「………ところで君、誰やねん」

「おっス!!…私姐さんの弟子の岬五町っス!!用があって無理だって言う姐さんの代打でやって来たしょぞんっス!!」

「し〜〜ッッ!!声がでかいねん!!真夏ちゃんに勘づかれるやろ!!」

 

 

ヘラクレスが協力を求めていたのは他でもない、芽座椎名だった。しかし、今日現れたのはこの長い金髪を2つのシュシュで束ね、上着が学校ジャージの少女、岬五町。ヘラクレスに合わせて彼女もアフロとメガネで変装している。

 

 

「まさか、本当にあのヘラクレスと会えるなんて、光栄っス!!」

「めざっち、かわいい子をよこすのは全然えぇけど、こん時にこんなハツラツな子をよこさんくても良かったやろ」

 

 

ヘラクレスとて五町のような顔はかわいい女の子は好きだが、五町の性格はあまりにも尾行には向いていない。

 

 

「ところで五町ちゃんやったな?」

「うっス!」

「真夏ちゃんの彼氏ってどんなんや?」

「彼氏?……真夏パイセン彼氏とかいたんスか?…まぁ確かに真夏パイセンモテそうですけど」

「だからこうやって尾行して探ってるんや!!……そうか〜〜まぁ1年やったらわからんかもな」

 

 

季節は夏休み。その時期に彼氏ができたって事もあるかもしれない。故に1年の五町に聞いてもその情報は出回っていない可能性が確かにあった。

 

 

「真夏パイセン、誰と待ち合わせしてるんスかね?」

「そりゃ、もちろん彼氏やろ、あんなかわいい服着とるんやし」

「あっ、誰か来ましたよ」

「彼氏や!!絶対彼氏や!!」

 

 

真夏の座っているテーブルに誰かが近づいてくる。2人は目を凝らしてその人物を視認しようとする。

 

しかし、その人物とは………

 

 

「ごめんごめん、遅くなった」

「もう〜遅いでぇ、椎名!」

 

 

他でもない。いつもの黒いパーカーとゴーグルと、膝付近まである長いブーツを履いている芽座椎名だ。間違いない。

 

 

「え?あれ姐さん?……用事ってそう言う事?」

「え?めざっち?………あ、まさか昨日真夏ちゃんと電話しとったんて………」

 

 

少し離れてる席でそれを見たヘラクレスと五町は目を丸くしながら小声で呟いた。椎名は真夏と会う約束があったから、五町にヘラクレスの相手を任せたのであろう。

 

そして昨日、真夏と電話で通話していたのも椎名だ。そう思ったヘラクレスは安堵するが………

 

 

「ていうか、あれめざっちなんか?……雰囲気変わったな〜〜」

「え?そうなんスか?…私と出会った時からあんな感じっスよ、クールっていうか」

「クール?……あのめざっちが?…なんや色々あったんやな〜〜」

 

 

椎名と会うのは実に2年ぶりだが、その雰囲気や顔つき等、あまりの変容っぷりに若干の戸惑いを見せるヘラクレス。

 

 

「どっちかっつうと、昔のめざっちは君みたいな感じやったで?」

「おおっ!!まじっスか!!私が姐さんに似てるんスか!!」

「だから声がデカイィィィィイ!!…お願いやから静かにしてくれぇぇ!!」

 

 

確かに五町は昔の椎名に近いかもしれない。明るいところとか、猪突猛進なところとか、数えると数え切れないくらいはあるかもしれない。

 

 

「まぁ、めざっちならえぇか、女の子同士なら寧ろ好物やわ」

「うわっ!!それ赤字タグが増える奴っスよ!!」

「メタ発言やめぇい!!………まぁ、邪魔すんのもあれやし、俺らも帰ろか」

「うっス!!」

 

 

ガールズトークを繰り広げる椎名と真夏の間を気づかれないようにゆっくりと通り抜けようとするヘラクレスと五町。しかし、その道中で椎名と真夏の会話が耳に入ってきて…………

 

 

「………ところでさ真夏、アレ、渡すの?」

「はぁ!?まだ考え中やて!!」

「「!?」」

 

 

その会話に思わず足を止めてしまう2人。

 

 

「でもさ、絶対喜ぶと思うよ」

「いや………でもな」

 

 

椎名の言葉に頬を赤らめて恥じらう真夏。ヘラクレスは咄嗟に頭の中で情報をまとめていく。

 

『アレ渡すの?』椎名からの発言なのだ、椎名に渡すものではないのが見受けられる。真夏の顔も赤い。つまりこれは………これって………

 

 

(彼氏おんの確定やん!?!!)

 

 

そう心の中で叫んだヘラクレス。そして収まり切れない怒りの感情が彼を襲い………

 

 

「うぉぉぉぉお!!」

「「「!?!」」」

 

 

叫んだ。本当に叫んだ。五町の声の大きさとは比べものにならない程の爆音を、しかも椎名と真夏の目の前で…………

 

これには流石に椎名と真夏も気づいて………

 

 

「え?…その声ってまさか………」

「真夏の兄ちゃん!?(ほんとに帰ってきてたのか………)」

「あぁ、そうや!!コンチクショーめ!!」

 

 

そう強く言い放ちつつ、ヘラクレスは着用していたアフロとメガネを外した。椎名と真夏の目の前でその姿を露わにする。

 

 

「え?待て、じゃあ横にいるのは………」

「あ、私っス、姐さん!!」

「やっぱあんたか、五町」

「はぁ!?なんやどうなっとるんや!?」

 

 

五町も徐にアフロとメガネを外して正体を現した。送りつけた椎名は冷静な表情を見せているが、何も知らなかった真夏だけは困惑の表情を浮かべている。

 

 

「真夏ちゃん!!彼氏って誰や!!もう我慢ならんねん!!教えてくれやぁぁあ!!」

「はぁ!?何言うとんのん、兄さん!?」

「しらばっくれんのかぁ!?しらばっくれる言うのなら君はどうやめざっちィィィィ!!!」

「いや、彼氏ってなんの事だよ」

 

 

怒りのままに椎名と真夏に質問責めを繰り出してくるヘラクレス。その内容は真夏に彼氏がどんな奴かの一点張り。2人は意味がわからないと言わんばかりに言い返す。

 

そんな状況を見かねて、ヘラクレスはある作戦に動き始める。

 

 

「じゃあ、めざっち、俺とバトルせぇ!!俺が勝ったら真夏ちゃんの彼氏の事を洗いざらい話してもらうでぇぇぇ!!でもってそいつは俺が潰す!!」

「はぁ!?なんでそうなるんだ!?」

「しらばっくれるからだろがい!!」

「おぉ!!姐さんとヘラクレスパイセンのバトル!!」

「もう………どう言うこっちゃ」

 

 

バトルを椎名に降ってくるヘラクレス。強行作戦に出た。界放市を救った椎名と、界放リーグ初の3連覇を成し遂げた男ヘラクレスのバトル。五町は大はしゃぎするが、真夏は疲れ果てたような表情をしている。

 

その後、ヘラクレスの凄まじい勢いを止める事は出来ず、結局バトルする羽目になった椎名。喫茶店を出て、緑の多い公園に行き、バトルの準備を行った………

 

 

「さぁ、いくでぇめざっち!!」

「なんでこんな事に………まぁいいや、やるからには全力で行くよ」

 

 

ヘラクレスは椎名から真夏の彼氏が誰かを聞くため、椎名は何やら勘違いしているヘラクレスを落ち着かせるため、バトルスピリッツが開始される。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

五町と真夏が見守る中、コールと共に2人のバトルが幕を開ける。先行はヘラクレスだ。

 

 

[ターン01]ヘラクレス

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、来いやテントモン!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【テントモン】LV1(1⇨2)BP2000

 

 

「おぉ!アレが噂のテントモンっスか!!」

「兄さん、本気やな」

 

 

ヘラクレスが初手で呼び出したのはてんとう虫型の成長期スピリット、テントモン。その効果でコアが増える。

 

 

「ターンエンドや、さぁ早よ来んかい!」

【テントモン】LV1(2)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

「言われなくとも、やってやるよ……!」

 

 

椎名を急かしながらそのターンをエンドとするヘラクレス。彼が女性に対してこのような事を口にするのは珍しい。それほど切羽詰まっているのが見受けられる。

 

次は椎名のターン。颯爽と進行していく。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、来い、ブイモン!!……召喚時効果発揮!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【ギルモン】×

【ワームモン】×

 

 

椎名は青くて小さな竜型の成長期スピリット、ブイモンを呼び出す。その効果は失敗し、トラッシュへと破棄された。

 

 

「アタックステップ!!……先手必勝だ、ブイモン、いけぇ!」

 

「………ライフで受けるでぇぇぇ!!」

ライフ5⇨4

 

 

早速ブイモンでアタックを仕掛ける椎名。ヘラクレスはテントモンでは守らず、そのアタックをライフで受けた。ブイモンの頭突きがそれを1つ砕く。

 

 

「ターンエンド」

【ブイモン】LV1(1)BP2000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

先制点を与え、そのターンをエンドとする椎名。次はヘラクレスの第3ターン目だ。

 

 

[ターン03]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、2体目のテントモンを召喚やで!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

【テントモン】LV2(3⇨4)BP3000

 

ー!

 

 

ヘラクレスの場に2体のテントモンが並ぶ。そのコア数が加速していき、ヘラクレスはアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!!テントモンの【進化:緑】を発揮!!成熟期スピリット、カブテリモンに進化や!!」

【カブテリモン】LV2(4)BP8000

 

 

テントモンがデジタルコードに巻かれていき、その中で姿形を大きく変化させる。やがてそれは飛び散っていき、中から新たに4本の腕、立派な一角を持つ甲虫型の成熟期スピリット、カブテリモンが奇声を張り上げながら姿を現した。

 

 

「早速来たな……」

「余裕ぶっこいてられるんも今のうちやで!!アタックステップは継続、カブテリモンでアタックや!!その効果でブイモンをデッキの上に!!」

「!?」

 

 

カブテリモンはヘラクレスの指示を聞くなり、羽根を広げ飛び出していく。そして一角からビームを照射して、椎名のブイモンを狙い撃った。ブイモンはそれに直撃してしまい、デジタル粒子となってデッキの上に戻ってしまう。

 

 

「アタックは継続中や!!」

 

「くっ……ライフで受ける………っ」

ライフ5⇨4

 

 

カブテリモンは4本の腕を活かし、椎名のライフをこれでもかと殴りつけ、それを1つ粉々に砕いた。

 

 

「ターンエンドや………早く真夏ちゃんの彼氏の情報を吐いてもらうでぇ」

【テントモン】LV1(2)BP2000(回復)

【カブテリモン】LV2(4)BP8000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

「だから兄さんは何を勘違いしとるんや」

「え?真夏パイセン彼氏いないんスか?」

「おらんおらん、いるわけないやん!」

 

 

『どう言うことだ?』そう思う五町。頭の悪い彼女でも何かを勘違いしていたことになんとなく勘付いて来た。ただ、怒りで頭がいっぱいのヘラクレスにはその声は一切届かないが…………

 

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、私はネクサスカード、ディーアークをLV2で配置!!」

手札5⇨4

リザーブ7⇨2

トラッシュ0⇨3

【ディーアーク】LV2(2)

 

 

椎名は自分の腰に手の平サイズの機械を装着した。

 

 

「さらにディーアークの【カードスラッシュ】の効果、手札にあるブイモンのカードを破棄し、そのLV1BP2000以下のテントモンを破壊!!」

手札4⇨3

破棄カード↓

【ブイモン】

 

「!?」

「ブイモンヘッド!!」

 

 

ブイモンのカードをトラッシュに捨て、【カードスラッシュ】の効果を発揮させる椎名。ブイモンが場に現れ、テントモンに頭突きをかまして消滅する。テントモンはその衝撃で爆発してしまう。

 

 

「さらにバーストを伏せ、ターンエンド」

手札3⇨2

【ディーアーク】LV2(2)

 

バースト【有】

 

 

そのターンをエンドとする椎名。攻める事は出来なかったものの、強力なネクサス、ディーアークの配置には成功したため、磐石となったといえば聞こえはいいか………

 

次はヘラクレスのターン、数を並べ、攻めいく………

 

 

[ターン05]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨5

トラッシュ2⇨0

【カブテリモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!一気にいくでぇ!!テントモンを召喚!!効果でコアを増やす!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨2

【テントモン】LV1(1⇨2)BP2000

 

 

前のターン、【進化】の効果で手札に戻ったテントモンが今一度呼び出される。その召喚時効果でコアがまた増加した。

 

 

「さらに!!完全体、アトラーカブテリモンをLV1で召喚するでぇぇぇ!!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

【カブテリモン】(4⇨1)LV2⇨1

【テントモン】(2⇨1)

トラッシュ2⇨7

【アトラーカブテリモン】LV1(1)BP10000

 

「!!」

 

 

蠢く地中から飛び出してきたのは赤き甲殻を持つ甲虫型の完全体スピリット、アトラーカブテリモン。ヘラクレスの持つデッキにおいては優秀なアタッカーである。

 

しかし、弱点もある。何か打つ手があるのか、椎名は少しだけ口角を上げて……

 

 

「アトラーカブテリモンの召喚時効果は強制効果………つまり、私のスピリットはいなくとも、効果は発揮されている……!!」

「?」

「つまり、これを発動できる………バースト発動!!メギドラモン!!」

「!?」

 

 

椎名が待っていたと言わんばかりにバーストカードを勢いよく反転させる。そのカードは1年前は振り回されっぱなしだった鬼の力を象徴するカード。

 

 

「その効果で合計BP15000以下まで好きなだけ破壊する!!」

「なんやと!?」

「私はBP5000のカブテリモンと、BP10000のアトラーカブテリモンを破壊!! 地獄の咆哮…ヘル・ハウリング!!」

 

 

地中から響く轟音。爆音。それにカブテリモンとアトラーカブテリモンは的にされ、まともに受けてしまい、大爆発を起こした。

 

 

「その後召喚する……来い、地獄の魔竜、メギドラモン!! さらにディーアークの効果でドロー!」

手札2⇨3

リザーブ2⇨0

【メギドラモン】LV1(2)BP7000

 

 

地獄の底から飛び出してくるように場へと現れたのは、真紅の魔竜、究極体の姿、メギドラモン。その凶悪な姿は他のデジタルスピリットの一線を逸脱している。

 

 

「椎名………あれも平気で使うようになってたんか………」

 

 

あのメギドラモンを平然と召喚する椎名を見て、そう呟いた真夏。メギドラモンとて椎名の仲間だ。デ・リーパーとバトルした時にそう気づき、椎名はそれ以降、メギドラモンをずっとデッキに入れていた。

 

 

「………なるほどなぁ……めざっち本当強うなったなぁ〜…………せやけど」

 

 

椎名の底知れない強さを目の当たりに、そう言葉をこぼすヘラクレス。しかし、その軽い言動は決してバトルを投げ出しているようには見えなくて………

 

そして反撃に出ると言わんばかりに、彼は手札のカード1枚を引き抜いた。

 

 

「俺には勝てんで!!…殼人スピリットが効果で破壊された時、このカード、重殼騎士ガンゾウムの効果を発揮させるでぇ!!」

「なに?なんだそれは!?」

 

「このスピリットを1コスト支払って召喚、さらにそうした時、破壊されたスピリット1体を同じ状態でフィールドに残す………来るんやガンゾウム!!そして蘇れ、アトラーカブテリモン!!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

【テントモン】(1⇨0)消滅

トラッシュ7⇨8

【重殼騎士ガンゾウム】LV1(1)BP6000

【アトラーカブテリモン】LV1(1)BP10000

 

「っ!?…なんだって!?」

 

 

唯一場に残ったテントモンが消滅したかと思えば、ヘラクレスの場に上空から重圧な鎧を纏った殼人スピリット、ガンゾウムが現れる。そしてガンゾウムは手に持つ巨大な槌を両手で振るい上げ、地面に勢い良く叩きつけると、地中からアトラーカブテリモンが浮き出てきて、復活を果たした。

 

 

「こんなんに驚いとる暇ないでぇ、アタックステップや!!アトラーカブテリモン、ガンゾウムでアタック!!アトラーの効果でメギドラモンを疲労!!」

 

「っ!!」

【メギドラモン】(回復⇨疲労)

 

 

場に残ったアトラーカブテリモンとガンゾウムでアタックを仕掛けるヘラクレス。アトラーカブテリモンは甲殻の至る所から赤い稲妻を轟かせ、メギドラモンを狙い撃った。メギドラモンはそれを受け、膝をつき、疲労状態となってしまう。

 

 

「っ………ライフで受ける…………」

「なら受けてみよ、このヘラクレスのキングスロードのアタックをなぁ!!」

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁあ!!!」

ライフ4⇨3⇨1

 

 

アトラーカブテリモンの一角の一撃が1つ、ガンゾウムの槌を叩きつける重たい一撃がそれぞれ椎名のライフを襲い、2つ、合計3つが破壊された。

 

 

「くっ………強い……メギドラモンで凌いだ気でいたけど、それを超えてライフを破壊して来るなんて………」

 

 

改めてヘラクレスの実力を再認識する椎名。

 

そうだ。この目の前の男は過去に界放リーグの3連覇を成し遂げた程の人物。どんなに厚い壁を用意してもキングスロードの呼ばれる戦術で容易く飛び越えて来る。

 

そんな強敵と椎名は今対峙しているのだ。油断しているつもりはないが、この調子では間違いなく敗北する。

 

 

「どうしためざっち、もう終わりかいな?………ターンエンドや」

【重殼騎士ガンゾウム】LV1(1)BP6000(疲労)

【アトラーカブテリモン】LV1(1)BP10000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

圧倒的な攻撃力を見せつけ、そのターンをエンドとするヘラクレス。次は椎名のターン。気を改めて引き締め、ターンを進行していく。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

【メギドラモン】(疲労⇨回復)

 

 

「よし、メインステップ、メギドラモンのLVを2に上げ、【煌臨】発揮!!対象はメギドラモン!!」

リザーブ7s⇨5

【メギドラモン】(2⇨3)LV1⇨2

トラッシュ0⇨1s

 

「!!」

 

 

このターン、椎名が初めて使用したのは煌臨の効果。メギドラモンが赤き光に包まれていき、その中で呪われたような竜の姿が清廉潔白、勇猛なる騎士へと変わっていく。

 

 

「来い、赤きロイヤルナイツ……デュークモン!!」

手札4⇨3

【デュークモン】LV2(3)BP14000

 

「!?……ロイヤルナイツ!!」

 

 

その光を解き放ち、新たに椎名の場へと姿を現したのは槍と盾を携える赤属性のロイヤルナイツ、デュークモン。ヘラクレスは一目見てそれが今の椎名のエースである事を悟る。

 

 

「おぉ!!これが姐さんのエース、デュークモン!!」

 

 

五町も椎名のデュークモンを生で見たのは初めてだったか、嬉しそうにはしゃぎだした。

 

 

「ディーアークの効果でドロー………さらに2枚目となるネクサス、D-3をLV2で配置!!」

手札3⇨4⇨3

リザーブ5⇨1

トラッシュ1s⇨3s

【D-3】LV2(2)

 

 

デュークモンに続き、椎名はディーアークとさらにもう1つの機械を腰に装着する。

 

 

「アタックステップ!!…駆けろ、デュークモンッッ!!」

 

 

椎名の指示を受け、槍を構えるデュークモン。そしてこの瞬間に特有のアタック時効果が発揮される。

 

 

「デュークモンのアタック時効果、シンボル2つ以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!!」

「対象はアトラーカブテリモンだ………聖槍の一撃…ロイヤルセーバーッッ!!」

 

 

デュークモンの強力なアタック時効果。槍の先から勢い良く発射されるビームは一直線にヘラクレスのアトラーカブテリモンまで伸びていき………直撃した……爆発による爆風、爆煙が辺りに飛び散っていく。

 

………しかし……

 

 

「っ!?」

「残念やったなめざっち、アトラーカブテリモンは健在やで……!!」

 

 

その爆煙から姿を見せたのはロイヤルセーバーが直撃したはずのアトラーカブテリモン。特に耐性効果もないスピリットのはずだが、その甲殻には傷1つ付いていない。

 

 

「ガンゾウムのもう1つの効果、殼人スピリット全てに【重装甲:赤/青】を与える」

「なに!?」

「ロイヤルナイツと言えども赤である限り、効果破壊は通用せんでぇ」

 

 

ガンゾウムは正しく鉄壁の盾。それが存在する限り、破壊に特化している赤と青の効果をシャットアウトする効果を味方にばら撒く事ができる。

 

アトラーカブテリモンにロイヤルセーバーが効かないのもそれが原因だ。

 

 

「くっ……だけどアタックは続いている、デュークモンのもう1つのアタック時効果でトラッシュにあるギルモンを手札に戻し、ターンに一度回復!」

手札3⇨4

【デュークモン】(疲労⇨回復)

 

 

トラッシュに落ちていたギルモンのカードが椎名の手札へと戻り、アタック中ながらもデュークモンは赤き光を一瞬帯びて回復状態となる。

 

 

「さらにネクサス、D-3の効果!!疲労させる事で【アーマー進化】を行う!!来い、フレイドラモン!!」

手札4⇨3

【D-3】(回復⇨疲労)(2⇨0)

トラッシュ3s⇨4s

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000

 

 

まだ動く椎名。今度はD-3の効果を発揮させ、成長期スピリットが不在にもかかわらず、【アーマー進化】を行う。上空から赤きスマートな竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモンが椎名の場へと降り立った。

 

 

「デュークモンのアタックは継続中!!」

 

「ライラや!!………っ」

ライフ4⇨3

 

 

デュークモンがヘラクレスの前方へと迫り、その鋭い槍の一撃でそのライフを1つ貫く。

 

 

「まだだ、今度はデュークモンとフレイドラモン2体でアタック!!」

 

「っ!!……それも受けたろやないかい!!……っ、ぐうっ!!」

ライフ3⇨2⇨1

 

 

今度は召喚したてのフレイドラモンもアタックを仕掛ける。デュークモンが再び槍でライフを貫いた直後、フレイドラモンの炎を纏わせた拳の一撃が炸裂し、合計2つのライフが消し飛んだ。

 

これでヘラクレスも椎名同様ギリギリの1となった。

 

 

「………ターンエンドだ」

【デュークモン】LV2(3)BP14000(疲労)

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000(疲労)

 

【ディーアーク】LV2(2)

【D-3】LV1(疲労)

 

バースト【無】

 

 

できることを全て終え、そのターンをエンドとした椎名。ライフが残り1であるにもかかわらず攻め立てたのは次の返しのターンを守り抜ける自信があるが故なのか、それともハッタリか………

 

だが、そんなものは考えたところで仕方のないこと、ヘラクレスは自分のターンを迷う事なく進行した。

 

 

[ターン07]ヘラクレス

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨12

トラッシュ8⇨0

【アトラーカブテリモン】(疲労⇨回復)

【重殼騎士ガンゾウム】(疲労⇨回復)

 

 

「めざっちぃぃ、いいやないか、中々面白い成長を遂げたみたいやな!!」

「………まぁね」

「せやけど、俺の成長の方が遥かに上回っている!!…それをこのターンで証明してやるわぁぁ!!」

 

 

強者故のオーラ。迫力を剥き出しにするヘラクレス。並大抵のバトラーでは立ってられないような衝動は椎名の内心をざわつかせる。

 

ここまで彼が何かしらに熱くなることは意外と少ない。妹の真夏が関わっている事も理由の1つであろう。

 

 

「メインステップ!!2体のLVを最大にアップ!!」

リザーブ12⇨6

【アトラーカブテリモン】(1⇨3)LV1⇨2

【重殼騎士ガンゾウム】(1⇨5)LV1⇨3

 

 

コアが増加し、その力をより増幅させる2体の殼人スピリット達。ヘラクレスはそんな彼らを操り、椎名の最後のライフを撃つべくアタックステップへと移る。

 

 

「アタックステップ!!アトラーでアタック!! その効果で疲労状態のスピリット2体を手札に戻す!!」

「!!」

「フレイドラモンとデュークモンの2体や!!」

 

 

アトラーカブテリモンがヘラクレスから指示を受けるなり、4本の腕に赤い稲妻を纏わせ、それを地面に叩きつけて椎名の場へと走らせる。

 

だが、椎名も負けじと反撃に転じる。

 

 

「滅龍スピリットが効果の対象となる時、手札のグラニの効果発揮!!」

「なに!?このタイミングで!?」

 

「1コスト支払って召喚する事で、デュークモンは手札に戻らない!!」

手札3⇨2⇨3

リザーブ1⇨0

トラッシュ4⇨5

【デュークモン】(3⇨2)LV2⇨1

【グラニ】LV1(1)BP6000

 

 

デュークモンの前方に突如飛来するグラニ。それがデュークモンの盾となって赤い稲妻を搔き消すも、フレイドラモンはそのまま直撃、デジタル粒子に変換されて椎名の手札へと戻った。

 

 

「流石っス姐さん!!効果を逆手にとってブロッカーを出した!!」

 

 

椎名のプレイングに感激するように五町は叫んだ。確かにこれでグラニというブロッカーが新たに場へと立ったが…………

 

 

「あまいでめざっち!!俺にこれがあるのを忘れとらんとちゃうか?……フラッシュ【煌臨】発揮!!対象はアトラーカブテリモン!!」

リザーブ6s⇨5

トラッシュ0⇨1s

 

「っ!!」

「来る、兄さんの最強スピリット………!」

 

 

ヘラクレスが負けじとそう宣言すると、アトラーカブテリモンが黄金の光に身を包まれていく。アトラーカブテリモンはその中で姿形を大きく変えていく。

 

 

「赤き甲虫よ!今こそ黄金の甲虫王者となり、眼前の敵をひねり潰せ!究極進化ぁぁあ!!」

手札3⇨2

 

 

ヘラクレスが呼び出すのは自身の持つ最強のエース、最強のカブテリモン………

 

 

「ヘラクルカブテリモンッッ!!」

【ヘラクルカブテリモン】LV1(3)BP12000

 

 

黄金の光を弾き飛ばしながら現れたのは黄金の甲殻、強靭な三本の頭角を持つ究極体スピリット、ヘラクルカブテリモン。その雄叫びがフィールド全体に木霊した。

 

 

「おぉ!!これがヘラクルカブテリモンっスか〜〜!!かっちょいい!!!」

「でもこれ、椎名ごっつやばいで」

 

 

ヘラクルカブテリモンの登場に感激する五町。しかし、椎名側にとってこの事態は非常に危険。何せ、このヘラクルカブテリモンは自分達が1年の時にはほぼどうする事もできなかった程のスピリットなのだから。

 

 

「また会えて嬉しいよ、ヘラクルカブテリモン……!!」

 

「呑気やな!!煌臨時効果発揮!!煌臨元カードを手札に戻し、コアを3つヘラクルカブテリモンに追加ッッ!!」

手札2⇨3

【ヘラクルカブテリモン】(3⇨6)LV1⇨2

 

 

煌臨元となったアトラーカブテリモンのカードがヘラクレスの手札へと戻り、ヘラクルカブテリモンにコアが追加される。それによってLVが上昇した。

 

 

「さらにさらにヘラクルカブテリモンのもう1つの効果発揮!!3コスト支払い、敵スピリットを1体披露させ、ヘラクルカブテリモンを回復!! グラニはおねんねや!!」

リザーブ5⇨2

トラッシュ1s⇨4s

【ヘラクルカブテリモン】(疲労⇨回復)

 

「っ!!」

【グラニ】(回復⇨疲労)

 

 

ヘラクルカブテリモンの放つ突風がグラニの飛行を妨げる。しかしそれはヘラクルカブテリモンにとっては追い風。逆にヘラクルカブテリモンは回復状態となった。

 

 

「煌臨したスピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!アトラーカブテリモンはアタック状態やった、つまりこのヘラクルカブテリモンもアタック状態!! これで終わりやぁぁあ!!真夏ちゃんの彼氏を教えろぉぉぉぉぉ!!」

「………まだ覚えてたんや……」

 

 

バトル展開が熱くて忘れがちになっていたが、しっかりと真夏の事を覚えていたヘラクレス。流石は重度のシスコンと言ったところか。

 

椎名のライフは残り1。このアタックが通るだけで終わりだ。ブロッカーも寝かされた。

 

しかし、まだ逆転する手立てはその中にあって………

 

 

「フラッシュマジック、デルタバリア!!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

【ディーアーク】(2⇨0)LV2⇨1

【デュークモン】(2⇨1)

トラッシュ5⇨9

 

「なんやと!?」

 

「これにより、このターンの間、私のライフはコスト4以上のスピリットからは0にされない!!そのアタックはライフで受ける!!」

ライフ1⇨1

 

 

椎名の前方に三角形のバリアが出現する。ヘラクルカブテリモンはその眼前まで迫り、それを殴ったり頭角で貫こうとするも、ことごとく失敗。諦めてヘラクレスの場へと戻った。

 

 

「くっ……ライフごと守るマジックかいな、小賢しい………まぁええ、次の俺のターンで終わりや、ターンエンド」

【ヘラクルカブテリモン】LV2(6)BP18000(回復)

【重殼騎士ガンゾウム】LV3(5)BP10000(回復)

 

バースト【無】

 

 

致し方ないか、デルタバリアを突破できない今、このターンをエンドとするしか他になくて………

 

次はなんとかヘラクレスの猛攻を凌ぎ切った椎名のターン。全身全霊を込めてカードをドローする。

 

 

「私のターン……!!」

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨10

トラッシュ9⇨0

【デュークモン】(疲労⇨回復)

【グラニ】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ………デュークモンとD-3、ディーアークのLVを最大に!!」

リザーブ10⇨1

【デュークモン】(1⇨6)LV1⇨3

【D-3】(0⇨2)LV1⇨2

【ディーアーク】(0⇨2)LV1⇨2

 

 

椎名の場にある全てのカードのLVが上昇する。

 

 

「さらにディーアークの【カードスラッシュ】の効果でギルモンを破棄!!」

手札3⇨2

破棄カード↓

【ギルモン】

 

「?」

 

 

ディーアークの【カードスラッシュ】の効果。その効果をメインステップで使用する椎名。破棄したギルモンのカードのLV1BPは3000。しかし、ヘラクレスの場にはそんな低BPのスピリットもいなければガンゾウムの与える【重装甲】によって受付もしない。

 

所謂空打ちと呼ばれるもの。だが、これは消して無駄な行いではなく………

 

 

「アタックステップ!!デュークモン……いけぇ!」

「!!」

 

「さらにこのフラッシュタイミングでデュークモンのアタック時効果を発揮させ、トラッシュにあるギルモンを再度手札に戻し、回復する!!」

手札2⇨3

【デュークモン】(疲労⇨回復)

 

「なるほど!!だから先にディーアークの効果でギルモンを落としたんだ!!」

 

 

赤き光を一瞬だけ帯びて、回復状態となるデュークモン。椎名の狙いはこれだった。五町も流石と言わんばかりに声を上げる。

 

 

「めざっち、君が考えんとしている事がわかったでぇ」

「!!」

「デュークモンとグラニでアタック、俺の2体のスピリットでブロックさせ、その道中のフラッシュタイミングでフレイドラモンを召喚し、残り1つのライフを破壊する………やろ?デュークモンの回復効果を使ったんも、BPが同じヘラクルカブテリモンを誘き出すため………」

 

 

椎名の戦術をズバリ言い当てるヘラクレス。実際は正解だ。椎名は3体のスピリットを並べてヘラクレスの最後のライフを破壊しようとしている。

 

 

「……せやけど、受けて立つで、ヘラクルカブテリモン!!デュークモンの相手しやれ!!」

 

 

ヘラクレスの指示を聞くなり、ヘラクルカブテリモンがデュークモンの方へと飛び出す。デュークモンも槍と盾を構え、戦闘が幕を開ける。

 

ぶつかり合う両者。デュークモンが槍で貫こうとするも、ヘラクルカブテリモンの強固な甲殻に阻まれる。ヘラクルカブテリモンが太く巨大な腕でデュークモンを叩きつけ、それを吹き飛ばす。デュークモンはなんとか態勢を整え、再び槍を構えるが…………

 

 

「やっぱまだまだ甘いでぇ!!フラッシュマジック、ワイルドライド!!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨1

トラッシュ4⇨5

 

「!!」

 

「この効果により、このターン、ヘラクルカブテリモンのBPを3000アップ!!そしてBPを比べてスピリットを破壊しよったら回復できる!!」

【ヘラクルカブテリモン】BP18000⇨21000

 

 

ヘラクルカブテリモンがデュークモンに迫り、巨大な腕でそれを掴んで離さない。そのまま体電を放ち、デュークモンを破壊する気でいるのか、頭部の方から音を立てながら電流が発生する。

 

 

「これでヘラクルカブテリモンは何度でもブロック可能!!…手始めにデュークモンを消し去れぇぇ!!」

 

「いや、まだだ!!フラッシュマジック、ブルーカードを使用!!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

トラッシュ0⇨2

【デュークモン】(6⇨5)LV3⇨2

 

「っ!?」

 

「この効果により、カードを4枚オープン、その中の「成熟期」「完全体」「究極体」を持つスピリットカードを場に存在する色が一致しているスピリット1体をデッキの下に戻して召喚する!!……カードをオープン!!」

オープンカード↓

【デジヴァイス】×

【ライドラモン】×

【メガログラウモン】◯

【ズバモン】×

 

 

椎名が突如として放ったマジックカード。その効果でカードがオープンされる。

 

効果は成功。椎名は見事にデュークモンと同じ赤一色のスピリット、メガログラウモンを引いた。よってこれを呼び出す。

 

 

「デュークモンをデッキの下に戻し、現れろ!!メガログラウモンッッ!!」

【ディーアーク】(2⇨1)LV2⇨1

トラッシュ2⇨3

【メガログラウモン】LV3(5)BP12000

 

 

椎名の場のデュークモンがヘラクルカブテリモンの目の前で消滅する。その代わりか、地響きと共にメガログラウモンが新たに出現した。

 

 

「…メガログラウモンの登場により、ディーアーク効果でドロー………バトルエスケープだ、これでヘラクルカブテリモンは回復しない!!」

手札2⇨3

 

「くっ……!!」

 

 

ワイルドライドの与える効果はBPバトルによる勝利が条件。しかし今回はデュークモンがBPバトルの途中で戦線を離脱したため、無効。

 

結果的にヘラクルカブテリモンは回復しなかったのだ。

 

それどころか、今現在の椎名の場はグラニとメガログラウモンの2体。フレイドラモンを呼ばずともガンゾウムの上からさらにライフを破壊できて………

 

 

「だがなぁ、めざっち、この程度の小手先で俺が屈すると思うたか?……まだまだ在学生には負けられんでぇ!!フラッシュマジック、英雄獣の双牙!!」

手札2⇨1

【ヘラクルカブテリモン】(6⇨4)

トラッシュ5⇨7

 

「!!」

「この効果により、スピリット2体を疲労させる……グラニとメガログラウモンや!!」

 

「っ!?」

【グラニ】(回復⇨疲労)

【メガログラウモン】(回復⇨疲労)

 

 

鋭く鋭利な爪の形を象った疾風がメガログラウモンとグラニを襲う。2体はそれに叩きつけられ、疲労状態となり、このターンの身動きを封じられた。

 

 

「これで、フレイドラモンだけじゃ突破はできひんなぁ?」

「…………」

 

 

絶望的な状況。次のターンに回して仕舞えば間違いなく負けると言うのに。D-3の効果でフレイドラモンを呼び出しても無駄、ガンゾウムに阻まれるだけだ。

 

 

「ウソ……姐さん………」

「心配なんかせんでええよ五町……」

「え?」

「あの椎名の顔は『勝つ』って言う時の椎名やから!!」

 

 

椎名の敗北が濃厚になり、顔色を暗くする五町。しかし、当の本人である椎名の表情は決して曇ってはおらず………

 

真夏はその椎名の顔を知っている。この時の椎名は必ず勝つ。そして椎名は僅かばかりにその口角を上げると………

 

 

「真夏の兄ちゃん…いや、ヘラクレス!!…私はこの時を待っていた!!あんたが非公開情報だったカード全てを使い切るこの時を!!」

「っ!?」

 

 

そう強気に言い回す椎名。

 

ヘラクレスの手札には何かあると考えていた椎名は先ずはそれが何かを探るのが目的だった。そして、彼の手札がアトラーカブテリモンのみとなった今がチャンス。そう言わんばかりに彼女は手札からあるカードを引き抜いた。

 

 

「フラッシュ【チェンジ】発揮!!対象はメガログラウモン!!」

【ディーアーク】(1⇨0)

【メガログラウモン】(5⇨3)LV3⇨2

トラッシュ3⇨6

 

「!?…【チェンジ】やと!?」

 

 

仮面スピリット特有の効果という概念があるが故に、デジタルスピリットのデッキでは聞きなれない【チェンジ】の効果。椎名はそれを発揮させる。

 

上空に異次元の渦が発生し、メガログラウモンは立ち上がり、そこへと飛び立ち、吸い込まれるように中へと向かっていった。

 

 

「吠えよ皇帝竜……インペリアルドラモン ドラゴンモード!!」

【インペリアルドラモン ドラゴンモード】LV2(3)13000(回復)

 

「っ………デ、デカ!!」

 

 

渦の中から新たに現れたのはメガログラウモンではなく、巨大な体躯、翼を持つドラゴン、インペリアルドラモン。それが現れるだけで風圧が発生し、椎名達の髪や服を強く靡かせる。

 

 

「ドラゴンモードでアタック!!」

 

 

回復状態で入れ替わっているため、ドラゴンモードはアタックが可能。椎名は間髪入れずにドラゴンモードに指示を送り、それを受けたドラゴンモードが大きな咆哮を張り上げ、戦闘態勢に入った。

 

 

「さらにフラッシュタイミング、D-3の効果で【アーマー進化】発揮!!もう一度来い、フレイドラモン!!」

手札2⇨1

【D-3】(2⇨0)LV2⇨1(回復⇨疲労)

トラッシュ6⇨7

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000

 

 

再びD-3の効果が発揮され、フレイドラモンがドラゴンモードの背の上に乗る形で現れた。腕を組み、堂々と構えている。

 

 

「ドラゴンモードのアタックは継続中!!」

「っ……ガンゾウムでブロックや……!!」

 

 

ライフは1。守る手札のカードもない。唯一のブロッカーであるガンゾウムに指示を送るヘラクレス。ドラゴンモードは背にある砲台にエネルギーを充填していき………

 

 

「ぶちかませドラゴンモード!!……超弩級砲!!メガデスッッ!!」

 

 

椎名の叫ぶ技名と共に砲台から放たれる高エネルギーが凝縮された弾丸。それは空を切り、唸りを上げながらガンゾウムの元へと一直線に迫っていく。

 

そしてガンゾウムに直撃、ガンゾウムの重圧で強固な鎧が一瞬にして砕け散っていき、敢え無く大爆発を起こした。

 

 

「……な、なんてやっちゃ……!!」

 

 

いったい、これほどの力を身につけるのにどんな経験をしたというのか………椎名の底知れない強さを改めて実感したヘラクレス。

 

そして、これで終わりだ。

 

椎名はそう言うように………

 

 

「フレイドラモン……いけぇ!……渾身の爆炎……ファイアァァロケットッッ!!」

 

 

ドラゴンモードの背からフレイドラモンが脚力を活かし跳び上がり、炎全身に纏ってヘラクレスの方へと急降下していく…

 

……そして

 

 

「ぐ、う、うぁぁぉぁぁ!!」

ライフ1⇨0

 

 

そのまま激突し、最後のライフを砕き切った。

 

これにより椎名の勝利。2年前では学生最強を誇っていた緑坂冬真、ヘラクレスを遂に超えた。

 

 

「へへ、まぁ楽しいバトルだったよ、真夏の兄ちゃん!」

「めざっち……こんなに強ぉなっとったんか、完敗や……せやけど」

「だけど?」

「真夏ちゃんの彼氏だけは誰か教えてくれぇぇぇぇ!!!」

「えぇ!?、まだ言うの!?」

 

 

負けるのはいい。けどどうしても真夏の彼氏だけは知りたかった。どうしても抑えられない欲求が彼を動かしていて…………

 

困り果てる椎名。しかし、そんなヘラクレスを止めたのは…………

 

 

「アホかぁぁあ!!」

「ふぼぉぉ!?」

「え?真夏!?」

 

 

真夏だった。ヘラクレスの前に、自分の兄の目の前に近づくと、思いっきり顔面をぶん殴った。怒りの鉄槌がヘラクレスを黙らせた。

 

 

「あたしに彼氏なんておらん!!」

「え?だって……なんかあげるとかなんとか言って恥ずかしそうにしとったやん」

「そ、それは……」

 

 

少しだけ照れる真夏。ヘラクレスはそう言う真夏の行動から、確実に彼氏がいると思っていた。

 

しかし、実際は………

 

 

「それはあんたにあげるもんや!!ほれっ!!」

「っ!?」

 

 

真夏は懐から取り出した小さな紙袋をヘラクレスに手渡した。困惑するヘラクレス。中身を恐る恐る見てみると、そこにはタコのような可愛らしいマスコットのキーホルダーが入っていて………

 

 

「え?なに、これ?」

「だぁぁかぁぁらぁぁぁあ!!!あんたがこん間夏のリーグ優勝したからあげる言うとるんやぁぁあ!!さっさと貰えやッッ!!」

「そう言うことだったんスね」

 

 

ようやく全ての事柄が1つに纏った。真夏はずっとヘラクレスにそのプレゼントを渡そうと思っていた。だが、ヘラクレスはずっと渡す相手が彼氏だと思い込んでここまで拗れてややこしくなった。

 

五町もようやく納得した。椎名もBパッドをしまいながら微笑ましくその2人を見守っている。

 

 

「な、なんだ…そゆことやったんか…………真夏ちゃん………ありがとうな!…なんか嬉しいで!!」

「べぇ、別に渡したかったわけやないで!!椎名がそうしようって言うからだからして……」

「はっはっは!!」

 

 

照れ隠しなのか、真夏は誤魔化そうとしている。しかしながら頬を赤らめているためその説得力はない。ヘラクレスはそんな真夏の様子を見て大きく笑った。

 

そして……

 

 

「さぁ!!真夏ちゃん!!事件もひと段落したところでぇ!!今から共に街へと洒落こむでぇぇ!!」

 

 

刹那。

 

一瞬のうちにヘラクレスはいつもの純度の高いシスコンの正確に戻り、真夏に向かって飛び込み、抱きしめようとするが……………

 

 

「誰が洒落こむかぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

「ぐっほぉぉぉ!!」

 

 

自分に向かって飛び込んでくるヘラクレスの顔面をまた思いっきりぶん殴る真夏。しかし、これがいつもの調子。これがいつもの緑坂兄妹なのだ。

 

 

「やっぱ仲良いよね、真夏と真夏の兄ちゃん!」

「い、いいんスかね?」

 

 

椎名が真夏とヘラクレスのやり取りを微笑ましいと言うように呟くが、側から見たらヘラクレスが一方的に真夏に殴られているようにしか見えないこともあって、五町はやや疑問符を浮かべながら相槌をうった。

 

 

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【インペリアルドラモン ドラゴンモード】」

椎名「チェンジで入れ替わる対象は完全体か究極体だったらなんでもいい、連続アタックや、防御札にも使えるよ」


******


〈次回予告!!〉


夏が終わり、季節は秋が訪れてきた。そんな中、晴太の誕生日プレゼントを買いに出かけていた鳥山兎姫はその道中で………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「恋路決着!?エグゼシードVSゲイル・フェニックス!」…今、彼らは一線を超える?


******


※次回のサブタイトルや内容は予告なしに変更の可能性があります。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

今回のサブタイトルは後で変更するかもしれません。

多分この章は107話くらいまで続くと思います。それ以降は最終章です。取り敢えず今は椎名達の平和な日常をお楽しみください!

都合上、椎名も偶に前の椎名みたいな感じになる時があるかもしれません。

最近は私、バナナの木の活動報告も潤ってきております。お目を通していない方は是非一度見ていってください!


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第103話「恋路決着!?エグゼシードVSゲイル・フェニックス!」

季節は秋。暑すぎる夏の季節の後だと言うのもあって気温も涼しく感じるこの季節、そんな時が椎名の担任教師、空野晴太の誕生日なのだ。今年で25になる。

 

 

 

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

 

 

昼間、街中の一角、その事に関して、鳥山兎姫は地鳴りのような呻き声を上げ、困っていた。翌日に控えた晴太の誕生日に上げるプレゼントがなかなか見つからないのだ。

 

渡した事がない事もあって、いったいどれをあげれば正解なのかがわからない。街に出たはいいものの、それらしいものが多すぎて皆目見当もつかなかった。

 

 

「あ、兎姫先生……」

「ッッっっ!?!?!」

 

 

悩みながら服屋のショーケースを眺めていると、横からそんな声をかけられる。兎姫は内心「ぎくっ」と思い、首をギギギと音を立てながらそこを見てみると、そこには芽座椎名がいた。

 

 

「(晴くんの誕生日プレゼントを買いに来たとは言えない…………)あら、芽座さんじゃない、こんにちわ」

「こんちわーー」

 

 

一瞬慌てて取り乱しそうになったが、すぐさま冷静さを取り戻す兎姫。椎名と自然な流れで挨拶を交わした。椎名も軽くお辞儀をする。

 

まだ見つかったのが芽座椎名で良かった。晴太とあって仕舞えば一貫の終わりだった。そう思った矢先だ。

 

 

「兎姫先生も晴太先生のプレゼント買いに来たの?」

「なっ!?!!」

 

 

さらに突然質問を仕掛けられる兎姫。動揺が隠せない。それでも椎名は続けて………

 

 

「ちょうどよかった……私今先生のプレゼント探してるんだけど、先生の好みとか全然わからなくて、幼馴染の兎姫先生ならなんか色々知ってるんじゃない?…よかったら教えてよ」

「え?…あ、あぁそうね…………実は私もよくわからないの……だからあの人にプレゼントは上げた事ないわ」

「ん〜〜そっか」

「!!」

 

 

椎名もどうやら晴太の誕生日プレゼントに行き詰まっているようである。兎姫はまるで「だからこそ自分は今年もプレゼントを上げない」と言わんばかりにそう言い返した。

 

しかし、こう言い返した途端だ。その途端に彼女は閃き、内心でニヤリとした。それはこのプレゼント選びと誰かに見つかってもダメのダブル地獄から抜け出せる方法であって…………

 

 

「ハァ……仕方ないわね、私も一緒に探してあげる、一緒につき合ってあげるわ」

「へ?いいの?」

「えぇ、構わないわ、私も丁度あの人を驚かせてやりたいと思ってたのよ……ついでに………そう、芽座さんのプレゼントのついでに私もあげるわ」

 

 

兎姫は「やれやれ」といった様子で椎名のプレゼント選びに加わろうとしている。自分の生徒がプレゼントを買いたいというので、仕方なく付き添って「あげる」

 

 

(このスタンスなら……まぁ、悪くないわね……!)

 

 

兎姫先生はなにかと面倒くさいのだ。確かにこのスタンスなら晴太の誕生日プレゼント選びに積極的ではないというアピールはできる。

 

そんな兎姫の細かい事情など知らず、というか理解できない椎名は………

 

 

「じゃあ決まりだね! 一緒にプレゼント探しに行きますか!」

 

 

あっさり承諾した。兎姫は内心で「よし!」とサムズアップをかました。

 

こうして、天然女子と面倒くさいツンデレ女子のプレゼント選びが幕を開けたのだった。

 

 

******

 

 

そのまま2人は繁華街の中心を貫く大通りへとやってきていた。通りの左右には大小様々な店舗が軒を連ね、多種多様な品々を商品として陳列している。この場所であれば、なにか気に入った物が目に触れるのではないか、という考えの元、2人はこの通りの端から歩く事に決めたのだった。

 

そうして歩いてきた矢先、椎名はうなりを上げながら兎姫に言う。

 

 

「やっぱこんなに候補があると、目移りするよね」

「それはしょうがないわ、空野先生に似合いそうなのをピックアップしていくしかないわね」

「似合いそうなのね〜〜………晴太先生は赤属性だからルビーの指輪とか?」

「バカね、確かに似合うかもだけど、そんな高価な物買えるわけないでしょ」

 

 

椎名の突飛な発想を一刀両断する兎姫。まぁ確かにルビーなんて高価な物は学生が買える代物ではない。

 

 

「そうね、じゃあ使用頻度で選んで見たらどう?」

 

 

兎姫はそう言いながら手近にあった服屋へと足を運んで行った。椎名もそれの後をつけるように足を踏み入れた。兎姫はさらにそのまま店頭にずらりと並んでいるネクタイを漁りながら、やや顔を赤くして話を続ける。

 

 

「例えば……晴く……じゃなかった空野先生はよく赤いネクタイを毎日着まわしているわよね?それと似たようなものだったら、いくらあっても困らないと思うわ」

 

 

そんな兎姫の意見に、椎名は口を尖らせて、

 

 

「ん〜〜それだったらなんか面白くないな、晴太先生のネクタイは赤だから面白いんだと思う……っていうかそれだと「自分で買え」ってならない?」

「だから、自分では選ばないようなデザインの物や、ワンランク上の素材を使った物を選ぶのよ。それなら気分転換したい時にでも着られるでしょう?」

「なるほど………」

 

 

と、椎名は兎姫の意見に素直に感心しながら頷いた。流石は大人の女性。伊達に歳は食ってない。取り立て別に特別な事を言っているわけではないのだろうが、それをすぐに思いついて実行に移せてしまうところがカッコいい。きっとセンスもあるのだろう。

 

やがて、兎姫は選び取った1枚のネクタイを持ちながら椎名の方へと振り返った。

 

 

「そうね、だいたいこの辺りの物が妥当かしら?」

 

 

そう言って兎姫がドヤ顔で椎名の前へと差し出した物は………

 

 

「……………」

 

 

赤い悪魔やドクロがびっしりと詰め込まれ、描かれたものすごく趣味の悪いネクタイだった。それを視認した途端、椎名は言葉を失う。

 

 

「え?なに、その微妙な反応………」

 

 

兎姫も椎名が作り出した微妙な空気に気付き始めた。そして椎名は言葉を選びに選んで兎姫に言う。

 

 

「先生、これ多分、『自分では買わないし高価な物』じゃなくて、『誰も買わないし無駄な高価な物』だと思う」

「えぇ!?いや、カッコいいでしょ……ほら、ドクロだし」

「…………」

 

 

椎名は兎姫に聞くのをやめた。この人のセンスは多分やばい。何故そこまでドクロを推すのか意味がわからない。

 

鳥山兎姫。今年で25歳。

 

彼女は今まで一度も異性にプレゼントを渡したことがない。それ故に、センスがない。

 

その後も2人のプレゼント選びは難航していき………

 

 

******

 

 

「もうシンプルに食べ物で行こう」

「食べ物?」

 

 

繁華街を歩く中、椎名が突然宣言した。兎姫はその言葉を聞くなり、頭をかき混ぜるように回転させる。

 

別に食べ物なら間違いなく好意があるとは思われないだろうし、一応プレゼントは渡せる………これだ。

 

 

「そうね、芽座さんがそう言うなら、そうしましょうか……」

 

 

また「仕方ないな」と言わんばかりに椎名の提案に乗っかり出す兎姫。彼女は何かと面倒くさいのだ。

 

椎名は「じゃあ……」と言って、店を選ぶように指を指して………

 

 

「一先ずはあそこかな?」

「お土産屋、まぁ良い選択じゃない」

 

 

お土産屋だ。そこなら界放市のグルメなものが大抵は詰まっていると推測したのだろう。兎姫は当然ながらに反対する理由がなく、椎名と共にそこへと向かった。

 

しかし、その店内に来店した直後の事だった。自動ドアが開いた途端…………

 

 

「おめでとうございま〜〜す!!あなた方は1万人目のお客様です〜〜!!」

「「!?」」

 

 

突然2人の店員にクラッカーを鳴らされた。紙吹雪が舞う中でも全く理解が追いつかなくて………

 

そんな2人など露知らず、店員は2人にあるものをプレゼントする。

 

 

「はいどうぞ!!記念品の『奇跡のたこ焼き』です!!」

「あ、どうも………」

 

 

店員から椎名に奇跡のたこ焼き一箱分がプレゼントされた。奇跡のたこ焼きはなかなか見ない代物のはずだが、最近は意外と結構な頻度で椎名の元にやってくる………

 

 

「まさかこんな事になるなんて………奇跡のたこ焼き、意外とどこにでもあるわね……」

「これ晴太先生にあげます?……2人の分です、的な感じで………」

「いや、それはダメ、それはあなたがあの人にあげなさい………」

 

 

晴太にあげようと言う発想に至った椎名。しかし、一箱しかないため、2人分はあげられない。兎姫はおとなしくてを引こうとしたが………

 

ここである事件が発生した。

 

 

「お?…あれ、椎名と………兎姫ちゃん!?」

 

 

不意に背後から聞き覚えのある男の声がかけられる。

 

 

「!?」

 

 

兎姫が恐る恐る振り返ってみると。そこには………

 

 

「お、やっぱそうだ。どうした2人ともこんなところで〜〜」

「あ、晴太先生……こんちわ」

 

 

明日が誕生日の男性。空野晴太が普通のスーツ姿で佇んでいたのだった。椎名は軽く会釈する。

 

 

(………嘘でしょ)

 

 

突如として訪れた最大の逆境に、兎姫は顔を真っ青にしていた。まさかこんな形で鉢合わせてしまうなんて………

 

そして晴太は徐に口を開いて………

 

 

「で、お前ら何しに来たんだ?ここ繁華街のお土産屋だぞ?」

「あ、あんたこそ何しに来たのよ!?」

「えぇ?」

 

 

咄嗟のことに質問を質問で返す兎姫。急に兎姫が怒ったものだから、椎名も「これは黙っとこう」と思って口を閉じる。

 

晴太は何かやばい雰囲気を感じているものの、受け答えするようにその質問に答える。

 

 

「いや、プレゼント買いに来たんだよ」

「プレゼント?…可哀想ね晴太先生、自分の誕生日に自分へのプレゼントを買うなんてね」

「え?…………あ、そっか俺明日誕生日だわ……」

「はぁ!?忘れてたのあんた!!」

 

 

兎姫との会話の道中で自分の誕生日が明日であることを思い出す晴太。そしてそのまま椎名が持っている「奇跡のたこ焼き」にも気がついて………

 

 

「え?…じゃあもしかして椎名、それは俺へのプレゼントか!?」

「ん?……あぁ、はい、一応」

「よぉしよしよし!!明日持ってこいよ〜〜!!」

「何テンション上がってるのよ、キモ」

 

 

若干変な雰囲気が漂っている事に気づいている椎名は、困惑しながらも晴太に返事をした。自分へのプレゼントがあると知った晴太は嬉しそうに顔を緩ませる。

 

しかし、その瞬間、兎姫が怒りの念が詰まった声色で……

 

 

「ところで………!!」

「!?」

「誰にあげるの?」

「え?何を……!?」

「だからあんたはなんのプレゼントを買いに来たのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

(えぇぇ!?ブチ切れてるぅぅ!?なんでぇぇ!?)

 

 

晴太が誰かにプレゼントをあげると知った兎姫は、嫉妬からか、凄まじい闘気を燃やしていた。何故彼女が怒っているかわからない晴太と椎名は兎に角驚いたし、焦っていた。

 

そして兎姫はある行動に移る………

 

 

「バトルしなさい、空野先生………」

「……え?」

「バトルなさいって言ってるでしょうがぁぁあ!!」

「は、はいぃぃぃい!!!」

「私が勝てば、そのプレゼント……誰に上げるのか教えなさい」

「どう言う案件!?なんで兎姫先生怒ってんだ!?」

「お黙り!!」

「は、はい………」

 

 

もはや融通の効かない兎姫。完全に頭に血が上っている。これでは流石にどうしようもないか、晴太は承諾しなければ命はないと思い、そのバトルを引き受ける。その後、3人は場所を変え、繁華街から少し離れた緑溢れる公園へと赴いた。

 

そこで2人は互いのBパッドを構えていた。

 

 

「な、何がどうなってるだ………なんで俺は兎姫ちゃんに怒られてるんだ………?」

「早くバトルの準備をしろ」

「は、はいぃぃぃい!!!」

 

 

意味がわからない。自分が誰にプレゼント上げてもいいだろうに、何をそんなに知りたいのだろうか。

 

しかし、いくら考えても晴太の鈍感な性格では皆目見当がつかなくて………

 

何度も言うが、鳥山兎姫は面倒くさいのだ。

 

そして、2人はバトルの準備をし終えると、いつもの掛け声ですぐさまバトルを開始させた。

 

 

「行くわよ、ボンクラ」

「は、はい………」

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

椎名が見守る中、怒りに満ち溢れる兎姫と、それに怯え続ける晴太のバトルが開始された。

 

先行は兎姫。

 

 

[ターン01]兎姫

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、チキンナイトを召喚し、ネクサスカード、白雲に茂る天翼樹を配置!!効果でリザーブにコアを2つ追加し、そのコアで2枚目の白雲に茂る天翼樹を配置!!さらに2つコアを追加!!」

手札5⇨2

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨5

【チキンナイト】LV1(1)BP2000

【白雲に茂る天翼樹】LV1

【白雲に茂る天翼樹】LV1

 

 

「………いきなりですかい……」

 

 

いつものパターン。しかし、今回に限っては余りにもオーバーしている。兎姫の場にコミカルな鶏の騎士が現れたかと思うと、背後に白雲を貫く巨大な樹が姿を現し、コアを増やしていく。

 

兎姫はこのターンだけで既に4つものコアを増加させている。先行のコアステップがないデメリットなど帳消しどころか寧ろ上回る速度でコアを増やしている事になる。

 

 

「リザーブのコアでチキンナイトのLVを上げて、ターンエンド」

【チキンナイト】LV2(3)BP4000(回復)

 

【白雲茂る天翼樹】LV1

【白雲茂る天翼樹】LV1

 

バースト【無】

 

 

そのターンを終える兎姫。まだ晴太のターンは一度も始まっていないにもかかわらず、凄まじいコアブーストを見せつけた。その行為に、彼女の本気度がより強く伺えて…………

 

 

「何をそんなカリカリしてんだよ………」

「早くしろ……!!」

「は、はいぃぃぃい!!!」

 

 

逆らったら命はない。晴太は怒りに満ち溢れている兎姫に怯え、取り敢えず自分もできるだけバトルを行う事にした。

 

 

[ターン02]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ……(こりゃ、逆らったら命はないな………)コレオンを召喚、さらにネクサスカード、十二神皇の社を配置!!………でもって、マジック、エンペラードローを使用!!2枚ドローし、2枚オープン、その中の皇獣スピリットを加える!!」

手札5⇨2⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4s

オープンカード↓

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】◯

【コレオン】◯

 

 

晴太も勢い良く展開していく。デフォルメされた獅子型のスピリット、コレオンが現れ、背後には古い趣のある神社が現れる。さらにソウルコアを使用し、エンペラードローを使用。その追加効果はどれも成功。晴太は一気に手札を増加させた。

 

 

「バーストを伏せ、エンドだ!!」

手札4⇨6⇨5

【コレオン】LV1(1)BP1000

 

【十二神皇の社】LV1

 

バースト【有】

 

 

「フンッ、何、その程度で終わり?」

「あ、はい………そうです〜〜」

 

 

高圧的な物言いをする兎姫。そして肩身の狭い晴太。昔からどうもこうなったら兎姫には敵わない。しかしそれは彼が女心をこの歳になってもわからないのが原因でもあって………

 

 

[ターン03]兎姫

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!!ネクサス2つのLVを上げ、バーストを伏せる!!」

手札3⇨2

リザーブ6⇨2

【白雲に茂る天翼樹】(0⇨2)LV1⇨2

【白雲に茂る天翼樹】(0⇨2)LV1⇨2

 

(………バースト……)

 

 

白雲に茂る天翼樹のLV2効果は、相手がスピリットの効果でドローする度に、相手のスピリットを疲労させるというもの。だが、今晴太が気にしているのはそれ以上にあのバーストだ。

 

 

「アタックステップ、行きなさいチキンナイトッッ!!」

 

 

小さな剣を掲げ、走り出すチキンナイト。晴太はBPの弱いコレオンで守るわけにもいかず………

 

 

「ライフで受ける!!」

ライフ5⇨4

 

 

チキンナイトの剣の一撃が彼のライフ1つを切り裂いた。しかし、そんな痛みなど軽いものだ。何せ、今からこれを呼び出せるのだから………

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル!!」

「!!」

 

「効果によりこれをLV1で召喚!!」

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV1(1)BP10000

 

 

晴太の前方に燃え上がる熱い火柱。その中でそれを掻き消して現れたのは爆炎をも操る神皇、バゼル。気高い雄叫び、気高く前脚を上げ、その存在を強烈に見せつける。

 

 

「……ターンエンドよ」

【チキンナイト】LV2(3)BP4000(疲労)

【白雲に茂る天翼樹】LV2(2)

【白雲に茂る天翼樹】LV2(2)

 

バースト【有】

 

 

そんなバゼルを見ても微動だにせず、兎姫はそのターンをエンドとした。まるでそれを予め読んでいたかのような振る舞い方にも見える。

 

次は晴太のターン。バゼルの力を発揮させ、攻めに転ずる。

 

 

[ターン04]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、バゼルのLVを2に上げ、2枚目の十二神皇の社を配置!!……さらにソウルコアを使い、2枚目のエンペラードロー!!」

手札6⇨4⇨6

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3s

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】(1⇨3)LV1⇨2

オープンカード↓

【龍神皇ジーク・エグゼシード】◯

【ソウルドロー】×

 

 

バゼルのLVが上昇する。さらに背後には2軒目の神社が現れる。そして晴太はエンペラードローの効果で赤属性らしいドロー効果を発揮させる。効果は半分成功。晴太は1枚のカードを手札に加えた。

 

 

「さ、手札も増えたことだし……アタックステップと行くか!!バゼルでアタック!!効果でチキンナイトを指定する!!」

手札6⇨7

 

「っ……チキンナイトでブロック」

 

 

やれる事をやり、アタックステップへと移行する晴太。バゼルが地を迅雷の如く駆ける。狙いはチキンナイトだ。

 

バゼルはサイズの小さいチキンナイト如きが敵う相手ではない。通り過ぎるように前脚で踏み潰され、爆発した。だが、兎姫はまるでそれさえもお見通しだったかのように口角を上げて見せ………

 

 

「破壊後のバースト発動!!ミストラルフィニッシュ!!」

「っ!?」

 

「この効果でカードを3枚オープンし、対象内のカードを好きなだけノーコスト召喚する!!……カード、オープン!!」

オープンカード↓

【兎魔神】◯

【兜魔神】◯

【輝きの神皇ゲイル・フェニックス・オーバーレイ】◯

 

「なにっ!?」

 

 

兎姫のバーストカードが勢い良く反転したかと思えば、続けざまにデッキがオープンされる。晴太は驚愕し、目を見開いた。

 

それもそのはず、何せそれらのカードは皆対象内のカードなのだから。つまり、全てがノーコスト召喚可能。

 

 

「全て成功!!……来なさい、私の兎魔神、兜魔神!!……そして、神をも超える輝き、ゲイル・フェニックス・オーバーレイ!!」

リザーブ5⇨1

【兎魔神】LV1(0)BP4000

【兜魔神】LV1(0)BP3000

【輝きの神皇ゲイル・フェニックス・オーバーレイ】LV3(4)BP20000

 

 

脱兎の如く、上空から兎型の異魔神ブレイヴ、兎魔神が現れたかと思うと、その直ぐ隣に兜をつけた異魔神ブレイヴ、兜魔神も地中から飛び出し、姿を見せる。

 

そして、荒れ狂う竜巻が発生し、それを掻き消して中から現れるのは崇高な輝きを放つ最強のゲイル・フェニックス、名をオーバーレイ。

 

 

「兎姫先生すごい………!」

 

 

椎名も微かに感激の言葉が溢れる。それもそうだ。あの状況からこんな凄まじい状況をいとも容易く作り上げたのだから。しかも単なる運で来たとは思えないほどに彼女は堂々としている。

 

 

「っ……でも、バゼルの効果は終わらない!!…ライフ2つを破壊する!!」

 

「っ!!」

ライフ5⇨3

 

 

バゼルがオーバーレイ達を避け、腰にある刀を口に咥え、刀身に爆炎を灯し、彼女のライフを斬りつける。それは一気に2つ失われた。

 

 

「………エンドだ」

【コレオン】LV1(1)BP1000(回復)

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV2(3)BP15000(疲労)

 

【十二神皇の社】LV1

【十二神皇の社】LV1

 

バースト【無】

 

 

このターンで兎姫のライフを一気に2つ破壊した晴太だが、ミストラルフィニッシュの効果で呼び出されたスピリットとブレイヴの圧倒的な存在感のせいでその動きはどうしても霞んで見えて……

 

次は兎姫のターン。今、最強のゲイル・フェニックス・オーバーレイが飛翔する。

 

 

[ターン05]兎姫

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

 

 

「メインステップ………この手で塵にしてくれる…!!」

「いやいや、こわいこわい!!」

 

 

晴太を潰さんと言わんばかりの兎姫の言動に怯える晴太。このターン、兎姫はオーバーレイの効果をフルに活用し、ある特別な合体を行う………

 

 

「オーバーレイに兎魔神を左合体!!さらに兜魔神を右合体!!」

【輝きの神皇ゲイル・フェニックス・オーバーレイ+兎魔神+兜魔神】LV3(4)BP27000

 

「ダブル合体!?」

 

 

晴太はその効果を熟知しているからか、何も驚愕することはなかったが、椎名だけはその異端な効果に驚愕の声を上げて………

 

オーバーレイの持つ独自の効果、ダブル合体。兎魔神の左手から放たれる光線が、兜魔神の右手から放たれる光線が、それぞれオーバーレイに集約、リンクするこれによりオーバーレイはその才能をさらに飛躍させた。

 

五町のフォーゼの時とは違い、それはシンボル付きのブレイヴ、つまり今のオーバーレイは実にアマテラス・ドラゴンにも並ぶ3点シンボルとなった。

 

 

「さぁアタックステップ!!行きなさいオーバーレイ!!兜魔神の効果でドロー!!さらにBPプラス5000!!そしてオーバーレイ自身の効果でさらにBPプラス5000!!」

手札3⇨4

【輝きの神皇ゲイル・フェニックス・オーバーレイ+兎魔神+兜魔神】BP27000⇨32000⇨37000

 

「び、BP37000!?」

 

 

凄まじくその力を上昇させていくオーバーレイ。兜魔神の効果で手札まで増加させる。しかし、これだけでは終わらない。彼女はさらに兎魔神の効果を発揮させ………

 

 

「兎魔神の効果!!疲労状態のスピリット1体をデッキの下に戻し、ターンに一度回復する!!」

【輝きの神皇ゲイル・フェニックス・オーバーレイ+兎魔神+兜魔神】(疲労⇨回復)

 

「っ!!」

「消えなさいバゼル!!」

「えぇ!?マジィ!?」

 

 

オーバーレイが神々しい光を全身から放つと、それを浴びたバゼルは浄化され、デジタル粒子に変換されてしまい、晴太のデッキの下へと帰還してしまう。

 

しかもそれだけではない。オーバーレイは回復状態となり、このターン、2度目のアタックを可能にした。

 

 

「くっ……ライフで受ける……!!」

「ならば受けなさい!!3点分の怒り!!」

 

「ぐ、ぐぅぅっ!!」

ライフ4⇨1

 

 

雄々しく美しい翼を広げ、飛翔するオーバーレイ。そして胸部からエネルギービームを放ち、それが瞬く間に晴太のライフを一気に3つを貫いた…………

 

 

「まだ行くわよ!!オーバーレイ!!」

手札4⇨5

 

 

再び羽ばたくオーバーレイ。兜魔神の効果でカードがドローされ、またBPも37000という驚異の数値となる。

 

 

「空野先生、あなたのスピリットは矮小なコレオンのみ!!これで終わりよっ!!」

「………」

 

 

晴太の場でブロックできるのはBP1000という貧弱なコレオンしかいない。しかも、オーバーレイはゲイル・フェニックスの名を持つ事から、独自でも回復効果を備えている。

 

終わりだ。兎姫がそう思った瞬間だった。晴太が手札から1枚のカードを抜き取ったのは………

 

 

「甘いぜ兎姫ちゃん!!……フラッシュマジック、リミテッドバリアを使用!!」

手札7⇨6

リザーブ6⇨2

トラッシュ3⇨7

 

「っ!?」

 

「このターン、俺のライフはコスト4以上のスピリットのアタックでは減らない!!そいつはライフで受けるぜ!!」

ライフ1⇨1

 

 

晴太の前方にライフバリアとは別の透明なバリアが出現。オーバーレイはそれごと砕こうと翼の一撃を与えるが、そのバリアはまるでビクともせず………

 

 

「くっ……しぶといわね、……オーバーレイの効果、2コアを支払い回復させ、ターンエンド」

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨2

【輝きの神皇ゲイル・フェニックス・オーバーレイ+兎魔神+兜魔神】LV3(4)BP27000(疲労⇨回復)

 

【白雲に茂る天翼樹】LV2(2)

【白雲に茂る天翼樹】LV2(2)

 

バースト【無】

 

 

カリカリしながらそのターンをエンドとする兎姫。

 

嫉妬した女は怖い。

 

だが、彼女の場合は怖いというよりかは面倒くさいと言った方が的確か………

 

 

「なぁ兎姫ちゃん、いい加減なんでブチ切れてんのか教えてくれよ………俺もう意味わかんないんだけど」

 

 

晴太が兎姫に聞いた。

 

 

「知らないわよそんなのぉ!!あんたがプレゼントを誰かにあげようとしてるからでしょうがぁ!!」

「えぇ!?……理由言ってるし……」

 

 

これに関しては兎姫は内心『しまった』と思った。しかし、晴太は………

 

 

「てか別に俺が誰にプレゼントあげようが俺の勝手だろ?」

「………」

 

 

果てしなく鈍感だ。気づくわけがなかった。兎姫は内心ホッとするが………今回の晴太は凄かった………少しだけ頭を捻り、「うーむ」と考え………

 

……閃いてしまった。そして平然とした顔で咄嗟にそれを口にする。

 

 

「……あ、もしかしてそのプレゼントをあげる相手に嫉妬してるとか?」

「っ!?!?!!」

「だったら色々納得するよなぁ〜〜うん」

 

 

ズバリ言い当てた。遂に晴太は言い当てた。

 

来たのだ。ようやくこの時が。20年以上に渡る兎姫先生の恋路に決着が着く瞬間が訪れたのだ。

 

しかし、突然の事に焦った兎姫は顔を真っ赤に染めながら………

 

 

「な、なわけないでしょうがぁぁ!!!」

「えぇぇ!?どんな情緒ぉぉぉぉぉ!?」

 

 

全力で否定した。晴太はまさしく正解を言い当てたにもかかわらず、ここで仮に『そうだ』などと肯定していれば何かしらの発展はしたかもしれないというのに………

 

しかし、それが鳥山兎姫。超クールに見えて、本当はただの超ツンデレガールなのだ。

 

だが、晴太はそんな兎姫を見て「ニカッ!」と明るい笑顔を向けて………

 

 

「はは、まぁ俺はそんな兎姫ちゃんも好きだけどな!!」

「…………は、はぁぁぁ!?!?」

 

 

晴太の言葉に、思わず顔が「ボッ!」と音を立てながら顔をまた真っ赤に染める兎姫。なんだそのあからさまに自分に好意があるような言葉は………

 

 

「よし!!んじゃ俺のターンだな!!一気に攻めるぜ!!」

「ちょ、ちょっ、と、と、とっっっ。ま、」

 

 

晴太の言葉にすっかり落ち着きが取り戻せない兎姫。晴太はターンを進行していき………

 

 

[ターン06]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨10

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!!…コレオンを追加召喚!!」

手札7⇨6

リザーブ10⇨9

【コレオン】LV1(1)BP1000

 

 

晴太の場に2体目のコレオンが呼び出される。2体のコレオンは目を合わせるなり、可愛げにハイタッチをした。

 

そして晴太はさらに呼び込む。自分の持つ最強のエーススピリットを………

 

 

「2体のコレオンの効果で神皇スピリットのコストをマイナス2!!2枚の十二神皇の社の効果でさらにマイナス2!!よってこのカード、龍神皇ジーク・エグゼシードのコストは5だ!!軽減も合わせ、1コストで召喚する!!」

手札6⇨5

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨1s

【龍神皇ジーク・エグゼシード】LV2(4)BP21000

 

「っ!!」

 

 

晴太の場に立ち昇る巨大な火柱。その中で佇むのは最強の午。最強の龍皇。炎の鬣を靡かせ、赤々と燃え滾る翼を広げ、火柱を吹き飛ばし、姿を現わす。

 

それは龍神皇ジーク・エグゼシード。晴太のエーススピリットだ。兎姫もそれの登場にようやく落ち着きを取り戻せたか、凛々しい表情に戻り、一旦バトルに集中する事にした。

 

 

「アタックステップ!!いけ、ジーク!!効果によりトラッシュのソウルコアをジークに置き、オーバーレイに指定アタック!!」

トラッシュ1s⇨0

【龍神皇ジーク・エグゼシード】(4⇨5s)LV2⇨3

 

 

事前に召喚コストでトラッシュにソウルコアを送っていた晴太。そのソウルコアがジークに追加され、ジークはさらにLVアップしBPを伸ばす。

 

さらにそれだけではない。

 

 

「ジークのもう1つの効果!!手札にある十冠スピリットをジークの煌臨元に追加して相手のライフに2点のダメージを与える!!」

「くっ……!!」

 

「俺はビレフトを追加して、効果を発揮させる………ぶちかませ、龍神炎砲!!」

手札5⇨4

 

「ぐうっ!!」

ライフ3⇨1

 

 

ジークの口内から莫大な炎が放たれる。それはオーバーレイさえをも退け、兎姫のライフを一気に2つ焼き尽くした。

 

 

「さらにジークは回復する!!」

【龍神皇ジーク・エグゼシード】(疲労⇨回復)

 

「だけど甘いわね!!BPは私のオーバーレイの方が上よ!!」

 

 

ダブル合体している事で、オーバーレイはジークよりもBPが僅かながらに高い。

 

上空で熾烈な戦いを繰り広げる両者。火花を散らし合い、雷鳴が轟く。だが、このままではBPの不足しているジークは敗北するであろう………

 

飽くまでも晴太が何もしなければの話ではあるが…………

 

 

「それも既に解決してるぜ!!フラッシュマジック、3枚目のエンペラードローを使用!!ジークのBPを3000上げる!!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨2

トラッシュ0⇨2

【龍神皇ジーク・エグゼシード】BP26000⇨29000

 

「っ!?……3枚目!?」

「これでオーバーレイを超えた!!行け、ジークッッ!」

 

 

激闘を繰り広げる中、ジークが遂にオーバーレイを捉える。翼を口で咥え、全力でそれを地面に叩き落とした。さらにそこへ向けてこれまでとは比にならない程の炎を放出した。オーバーレイは流石に耐えられず大爆発を起こしてしまう。

 

飛び散る火花、爆煙の中、ジークは再び地上へと舞い降りて………

 

 

「終わりだ……兎姫ちゃん………ジーク、締め括れ!!ラストアタックだ!!」

 

 

地を駆けるジーク。目指すは当然兎姫のライフ。兎姫の場にはブロックできない異魔神ブレイヴとネクサスのみ、終わりだ。

 

 

「………流石ね、空野先生……………ライフで受ける………」

ライフ1⇨0

 

 

兎姫の宣言と共に、前方に現れたジークの前脚を振り下ろす一撃が最後のライフを砕いた。これにより、勝者は空野先生、見事に、勝利してみせた。

 

 

「空は……快晴なり!!」

 

 

自分で勝利を言わんかのようにいつもの決め台詞を決める晴太。

 

バトルが始まる前は怒りに満ちていた兎姫は何故か今では気持ちは晴れやかになっていた。晴太の見事なバトルのお陰なのか、はたまた彼が言い放った無神経な一言に内心喜んでいるのかは定かではないが、どちらにせよ怒ってはいない様子に、晴太はホッと肩を撫で下ろしていて………

 

そして互いにBパッドをしまった時、兎姫は口を開いて………

 

 

「空野先生、そのプレゼントとやら、早く渡して来なさい」

「え?」

「早い方がいいわよ」

「あんなに怒ってたのに、急にどうしたんだ兎姫先生?」

 

 

満足気にそう言った兎姫。不自然なくらいの怒りの静まり方に、流石に困惑を覚える晴太と椎名。相変わらず彼女の情緒がイマイチよくわからない。

 

まぁ、考えてても仕方ないか、そう思った晴太は口を開いて………

 

 

「そ、そうなの?じゃあ渡しとくか………兎姫ちゃんに」

「………そうそう、早めに………え?」

 

 

兎姫の前まで来ると、晴太は小さな箱を彼女の前に差し出した。ついさっきまで余裕そうだった兎姫の表情は再び真っ赤に染まって覚束ないものとなる。

 

 

「は!?、ま、まさか私宛てだったの!?」

「え?あぁそうだけど………」

 

 

晴太は呑気な声を上げながら兎姫の言葉に受け答えをする。兎姫もまさか自分に来るとは思ってもなかったので、内心はすこぶる喜んでいる。

 

しかも、

 

しかもだ。

 

まだまだこれで終わりではなかった………

 

晴太がその小箱をゆっくりと開けるとそこには………

 

 

 

そこには………

 

 

 

なんの変哲も無い指輪があった………

 

 

 

そして…………

 

 

 

「ん、兎姫ちゃん、結婚すっか」

「は………………はぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁぉぁぉあぁぁ!?!?!!」

 

 

 

何の前振りも無く、突然婚約された。しかもいつも通りの平然とした表情で、こんなローテンションの声使いでプロポーズなどが存在するのだろうか………

 

しかし、現実は今目の前に怒っている。兎姫は確かに晴太からプロポーズされた。晴太は平然としているが、彼女はもうデッドヒート寸前だ。流石の椎名もこの展開に目を丸くしながら驚愕の表情を浮かべている。

 

 

「な、な、な、な、なんで!?」

「あぁん?何が?」

「結婚よぉ!!おかしいでしょうが!!」

「いや、俺達もそろそろかな〜〜と思って」

「何がそろそろよ!!おんのれは何処の戦闘民族じゃ!!!……いつから!?私のこといつからそんな目で見てたのよ!?」

 

 

そうだいつからだ。なぜ急にそんな歴戦のカップルみたいな展開になっているのだ。そもそも付き合ってもなかっただろう。意味がわからない。

 

そんな彼女の言葉に、晴太はまた能天気な表情を見せながら………

 

 

「そんな目って、心外だな……普通に子供の時からだけど………」

 

 

全然普通じゃねぇぇぇぇぇぇ!!!

 

そう心の中で絶叫した兎姫。どんだけデリカシーに欠けているのだこの男は。何をどうしたらそこから結婚に行き着くのだ、というか、何で『結婚しよう』なんて羞恥に満ち溢れた言葉を平然とした顔つきで軽々しく口にできるのか………

 

 

「で、どうよ、そろそろ結婚しようぜ」

「っ!??!?!?!」

 

 

晴太はまた明るい笑顔を向ける。改めて求婚された兎姫。果たしてその返事は………

 

 

「す、」

「す?」

 

 

その言葉だけを耳にした途端、晴太は突然背筋が凍りつき、自らの身の危険を感じた。それもそのはず、何せ「す」とだけ言った兎姫はこの時、拳を晴太に向かって構えていたのだから………

 

咄嗟に回避しようと試みる晴太。だが時既に遅し………

 

 

「するに決まってんでしょうがぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

「何故なのぶへらぁ!!?」

「先生ィィィィ!?!」

 

 

全力で顔面を殴られた。凄まじい鉄拳が晴太を襲う。椎名も突然晴太がぶん殴られて仰天している。何故返事はオッケーなのに晴太は殴られているのだろうか………

 

2人はわからないだらうが、これは彼女の照れの裏返しともとれて………

 

 

「あ、あの〜兎姫ちゃん、いや、兎姫様?……何故私めは殴られなければならないのでしょう?」

 

 

晴太が殴られてヒリヒリする頬を撫でながら兎姫に言った。

 

 

「んなのどうでもいいわよ、ん!!」

「へ?」

「ん!!入れなさいよ私の指に!!その指輪!!」

「あ、あぁあぁ!!なるほどね〜〜」

 

 

兎姫が自分の指を晴太に向けて差し出し、指輪を入れることを要求して来た。晴太もようやく理解し、指輪を箱から取り出した。

 

そして………

 

遂に………

 

 

ゴールイン………

 

……かと思われたが、ここである問題が1つ発生した………

 

 

「あれ?」

「何よ?………」

「あっはは!!指輪全然入んねぇわ!!」

「……………」

 

 

指輪が小さくて入らなかった。兎姫の指のサイズを計算していなかった証拠だ。兎姫はこの時点で少しまた腹が立ったが、一旦黙って見た。するとこの鈍感男はどんどんどんどん口が達者になっていき………

 

 

「いや〜〜兎姫ちゃんの指意外と太いんだなぁ!!20年以上一緒にいて全然気付かんかった〜〜なっはっはっは!!」

「おんのれは……」

「へ?」

 

 

また何かを察した晴太。だが、今度は逃げようと考える暇すら与えられず………

 

 

「おんのれはデリカシーっちゅうもんを知らんのかこのボンクラァァァァァァァァァァァァア!!!」

「ぎ、ギャァァァァァァア!!」

「せ、先生ィィィィ!!?」

 

 

鬼神と化した兎姫の怒号の雄叫び、晴太の悲鳴と言う名の絶叫、椎名の晴太を案ずる叫びが、その公園に木霊して…………

 

 

 

******

 

 

翌日の朝のホームルーム、空野晴太の誕生日が訪れた。教卓の上には晴太の誕生日を祝わんと、クラス中の生徒の誕生日プレゼントが置かれていて………

 

そんな教室から、生徒達に向けてか、晴太の声が聞こえて来た………

 

 

「みんな!!ありがとう!!先生は嬉しいぞ!!………っと、後、俺今度副担の兎姫先生と結婚する事になった!!」

 

ー!!!

 

 

その言葉に、椎名以外のクラスメイト達の誰もが驚愕した。しかし、その驚愕もほんの一瞬、生徒達は次々とその朗報に「おめでとう」と、祝いの言葉を彼に送っていく。

 

教師として、こんなに嬉しいことはないだろう………

 

 

「ありがとうみんな!!ありがとう!!……だけどな、人生の先輩として1つだけ忠告させてくれ………」

 

 

晴太はために溜めて、受け持った生徒達全員に向けてメッセージを送る………

 

………それは

 

 

「結婚って命懸けだぞ………」

 

 

今の空野晴太は………

 

兎姫に散々やられて、包帯でぐるぐる巻きにされている状態だった。しかも挙句の果てには松葉杖で歩いている。そんな悲惨で痛々しい状態だったのもあって、その晴太の言葉は確かに凄まじい説得力があって……………

 

 

「はは……おめでとう、晴太先生……」

 

 

そんな中で、椎名は苦笑いしながらも、もう一度晴太に「おめでとう」と祝いの言葉を送るのだった………

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【輝きの神皇ゲイル・フェニックス・オーバーレイ】」

椎名「特殊なブレイヴ、異魔神ブレイヴ2つと合体する事ができる特別なスピリット!!高BPのトリプルシンボルで勝利を掴もう……!!」



******


〈次回予告!!〉


例年よりも早い文化祭の季節がやって来た。一層賑やかになるジークフリード校の生徒達、しかし、ここでもちょっとした事件が………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「雅治の想い、ギガデス発動!」…今、バトスピが進化を超える!!


******


※次回サブタイトル等は予告なく変更の可能性があります。予めご了承ください。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!




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第104話「雅治の想い、ギガデス発動!」

 

 

 

 

 

 

 

幼馴染である赤羽司と長嶺雅治は界放市の市街地にてアパートの一室を借りて共に暮らしている。経費を節約するのも理由の1つだが、何より、『雅治がいれば安心』と言う司の両親からの提案でもある。

 

とある日、赤羽司は朝が来た事を感じ、自分の部屋にて唐突に目が覚めた。しかし、違和感も同時に覚えた。何せ、いつもは雅治が自分を起こすと言うのに、今回はなぜか自分で勝手に起きる事が出来たのだから……

 

その一抹の不安を抱えながら、司はまだ起きていないだろうと思われる雅治の部屋へと足を踏み入れれる。

 

すると、そこには目覚めてはいるが、布団の上で冷えピタを貼りながら仰向けになって寝ている雅治が目に入って来て………

 

 

「ごめん司、風邪引いた。今日は1人で行ってくれ」

「フンッ、軟弱だな」

「全くだよ、せっかく今日は『文化祭』だって言うのに倒れるんだから……」

 

 

悪態をついてくる司。そして雅治は少しだけ悲しそうな顔をしながらそう鼻声にながらも言った。

 

そうだ。今日は3年生の彼らにとっては最後となる文化祭。その当日、不運な事に、雅治は風邪を引いてしまったのだ。

 

 

「まぁ、そう言うわけだから、何か出店の物でいいからお土産よろしく〜〜」

「ハッ、誰が買ってくるかンなもん」

「そう言いつつ、何だかんだ買ってくるのが僕の知る司だよ」

「言ってろ軟弱者、どちらにせよ俺は『文化祭』なんぞ楽しみにはしとらん」

 

 

司はそう言って、雅治の部屋を後にし、服を着替え、速攻で学園に向かって歩き出した。彼が本当に文化祭を楽しみにしていなかったのは本当の事だ。彼がこの学園生活で楽しみにしていることと言えば、いつか訪れるであろう奴との決着のみ………

 

 

「あいつへのお土産と言ったら、これ1つしかあるまい……!」

 

 

………しかしながら、なんだかんだでお土産は買おうとしている。司はなんだかんだで一周回って優しい人間なのだ…………

 

司は雅治へとあげるお土産を頭に浮かべながらいつもの通りの通学路を歩いて行った。

 

 

******

 

 

賑やかな声が学園中のあちこちで木霊し、耳に入ってくる。本日、バトスピ学園 ジークフリード校は例年よりも早い文化祭真っ只中だ。校舎も華やかにデコレーションされており、一種のアミューズメントパークを連想させる仕上がりになっていた。

 

しかし、他の学生達が盛り上がっている中、この少女、芽座椎名は何もない屋上にて陽の光を浴びながら寝転がっていて………

 

 

「ふぁ〜〜あ、やっぱ秋の涼しい日こそ、日向ぼっこだよな〜〜」

 

 

と、欠伸をかきながら口にした。単純に文化祭が面倒なのだ。バトルもしないし、下手に校舎を歩けばあのイベントに出てくれ等、四方八方から呼びかけがかかる。

 

そんな事は人気のある椎名にしか起きない現象ではあるが………

 

彼女はこの日、授業がない文化祭だからこそ、こうして邪魔者のいない屋上で至福の時を過ごしていたのだ。

 

しかし、それも束の間………

 

 

「姐さん大変ッス!!」

「っ!?…五町!?」

 

 

屋上の扉が『バターンッ!』と勢いよく開いたかと思えば、そこから長い金髪を揺らす、上着がジャージの1年生、岬五町が椎名を探していたかのように息を切らしながら姿を見せた。

 

 

「あんたなんでここがわかったんだよ?」

「姐さんいつも暇な時はここにいるって聞いた事ありまスからね〜〜」

「誰の情報だよ?」

「真夏パイセンっス!!」

「………やっぱ真夏か……」

 

 

『何自分の飛びっきりの場所を教えてるだよ』と、いもしない真夏に心の中にそう言う椎名。そして五町は何かを思い出したように『ハッ!』として………

 

 

「じゃなかったじゃなかった!!それどころじゃないんスよ!!…司先輩がお呼びッス!!」

「はぁ?…司が?」

 

 

大きく声を上げて、再び慌てふためく五町。どうやら、司が五町に椎名を探させたようだ。その後椎名は五町に連れられるように学園の体育館へと向かった。

 

 

******

 

 

「おぉ!!椎名先輩だ!!」

「今日もかっこいいなぁ!!」

「今年ミスコン出てくれないかな〜〜!!」

 

 

体育館の中、大勢の生徒達が集まる中で椎名と五町は歩いていた。しかしながらやはり椎名は目立つか、歩くだけで他の生徒達から話題にされる。

 

椎名はもう慣れっ子なのか、一々返事もしてられないし、平然とした顔つきでその場を通り過ぎていく。

 

 

「流石っス姐さん!!歩くだけで大反響!!」

「五町うるさい……で、肝心の司はどこだよ?」

 

 

そうだ。椎名をここに呼びつけたのは他でもない、【朱雀】こと赤羽司だ。五町はそう言われると、少しだけテンションを低くして、椎名に言った………

 

 

「あ、あぁ、司パイセンなら……あそこっス……」

「ん?」

 

 

五町が司のいる方向へと指をさし向けると、椎名もそこへと首を傾ける。すると、そこには確かに赤羽司がいた。しかも………体育館の舞台上で堂々と胸を張って、マイクをスタンバイしていた………こんな事は絶対しないであろう、あの司がだ。

 

 

「な、何やってんだ………司……」

 

 

司のキャラにもないような異様な光景に、椎名はドン引きしていた。もちろん椎名だけではない、五町も周りの生徒達も皆ドン引きである。

 

そして司はマイクを手に堂々と椎名に語りかけてきた。

 

 

「よく来たなめざし……」

「司ぁ!!何の用だぁ!?…早いとこ済ませてくれよぉ!?」

 

 

スピーカー越しに司の声が聞こえてきた。椎名は体育館の舞台に立つ司に声が届くくらいの大きな声量で話す。

 

 

「テメェに来てもらったのは他でもない、テメェににしかできない頼みがあるからだ」

「私にしかできない………頼み?」

 

 

あのプライドの高いバトラーである赤羽司がそのライバルである椎名に頼み?

 

そんな事があるのかと、椎名を含めた生徒達が考えた事だろう。大勢の生徒達が集まっているこの体育館で話す程だ。余程重要な事なのだろう。

 

そう誰もが考えていた。司がその内容を口にするまでは……………

 

 

「単刀直入に言おう、めざし………テメェ、雅治と付き合え」

「はぁ?」

 

 

ーは?

 

その衝撃的な発言に対し、誰もが驚愕した。あの赤羽司が自分の親友とライバルが付け合わせようとするなど、いったい誰が想像できただろうか。

 

さらに司は続け………

 

 

「あいつは不憫な奴だ。最初は主人公に好意があるキャラとして定着していたのにもかかわらず、他の連中があまりにも濃ゆすぎて全く目立たなかった……それ故か、奴がバトルする回は基本的にアクセス数が少ない、奴自体に人気がない証拠だ………」

「何言ってんだ司………」

「しかも、しかもだ!!…作品自体が鬱展開で尚且つぶっ飛んじまって最早奴はいてもいなくても変わらないくらい影が薄いキャラになっちまった!!…俺は正直奴に同情している!!」

 

 

メタ発言が止まない司。椎名は当然理解できていない。さらに司の勢いは止まらず………

 

 

「奴はここらでいい加減報われないと行けない!!だから頼むめざし!!奴と付き合え!!……この通りだ!!」

「あ、あの司が私に頭下げた………」

 

 

あの誇り高き赤羽一族の【朱雀】がライバルに向けて頭を下げた。しかもバカみたいな理由で………

 

熱でもあるのか、完全にキャラがぶっ壊れている司。いつものクールなキャラなど微塵も感じられない。しかし、椎名は一応司の気持ちは伝わり、理解したのか、「う〜〜ん」とうねりを上げながら少しだけ考えると………

 

 

「ま、いいか……おぉ〜〜い、司ぁ!!いいぞぉ!!…………雅治と突き合えばいいんだろぉぉ〜〜!!……でも私は負けないよ!!」

「おぉ、そうか、めざし、恩に着る!!」

 

 

椎名が能天気な口調でそう承諾する声を上げると、珍しく純粋に嬉しそうな表情を見せる司。だがこの時、椎名本人と司以外の生徒達は咄嗟に理解した。

 

『あ、この人(椎名)、絶対話の内容理解してないな』…………と、

 

椎名はあの空野晴太と肩を並べるほどの鈍感キャラ。司の言っている事がまさか『雅治と恋仲になれ』という意味が含まれてるなど知るわけがなかった………

 

その証拠に、彼女の発していたのは『付き合え』ではなく、『突き合え』であった………これがこの後ちょっとした事件が起こる事など、司はまだ知る由もなくて……

 

 

******

 

 

その日の夜、赤羽司は満足気な表情を浮かべながら帰路についていた。それもそのはず、何せ自分は雅治に贈る最高のお土産を用意したのだから………

 

そしてタイミング良く雅治から電話がかかって来た。司は周りに誰もいないにもかかわらず、ドヤ顔でそれに応じて…………

 

 

「よぉ、雅治…気分はどうだ?」

「うん、もう大丈夫だよ………今さっき椎名からメールが届いたんだけど……」

「っ!!……おぉそうか!!どんな内容だ?」

 

 

司は椎名が約束を守ってくれたのだと確信した。その内容は正しく『私と付き合ってくれ』というものだと思った。しかし………それは『付き合え』ではなく………

 

 

《『ぜひ突き合おう』って『果たし状』が届いたんだけど》

「は?………」

《場所は武道場が指定されてる、そしてこれは今日司とみんなの前で約束したんだって……》

「まじかあいつ……」

 

 

『突き合え』……つまりバトルをしろと言われた。司はようやく自分も椎名が意味を理解していないことを気づいた。

 

そして雅治は柔らかい声色から深い怒りの念が込められた声色へとシフトしていき………

 

 

《司……どういうわけか説明してくれるよね?》

「いや……それは………」

《ね?》

「………はい……」

 

 

この日、司は流石に雅治にこっ酷く叱られた。偶に言い合いになる時は今まで何度かあったが、今回ばかりは司は何も言い返せなかった………

 

それもそのはずだ。雅治の気も知らず、勝手に独断で椎名とこんな話をしたのだから、しかも大勢の生徒たちの前で………

 

司は激しく反省した………

 

 

 

******

 

 

翌日、その早朝、文化祭は終わり、今日は振り返り休日だと言うにもかかわらず、雅治は武道場前に訪れていた。その理由は昨日、司がきっかけで起きた出来事のせいだ。

 

椎名は司の言葉を勘違いしたままであるが、このまま訳を説明してしまうと、自分の好意が彼女にバレるどころか告白同然であるからである。

 

こうして、渋々彼は武道場で椎名の果たし状を受ける事を決めたのだ………

 

溜息しながら雅治は武道場の扉を開ける。すると、そこには………

 

 

「よっ!!おはよう雅治!!昨日は風邪ひいて散々だったね!!」

「うん……おはよう……」

 

 

Bパッドとデッキをセットしてやる気満々の椎名が武道場で待ち構えていた。明らかに告白なんてやる雰囲気ではない。雅治は椎名が本当に勘違いしていた事に少しだけがっかりしながらも、自分も椎名の対角線上に立ち、Bパッドとデッキをセットした。

 

 

「病み上がりなのにごめんね、司が急に雅治とバトルしろって言うからさ〜〜」

「はは、まぁでもあいつ偶に頭イかれるからね……じゃあ、始めようか」

「おう!!」

 

 

呑気な声色でそう言う椎名。一応病み上がりの雅治を呼び出してしまったのは申し訳ないと思っているようである。

 

雅治も実際は椎名とバトルできる事を悪いようには捉えてはいない………

 

……偶発的ではあるが、寧ろこれは彼女に対する【告白のチャンス】であるとも考えていて………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共に椎名と雅治のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先行は雅治だ。

 

 

[ターン01]雅治

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、僕はアルマジモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【アルマジモン】LV1(1)BP2000

 

 

雅治の場にアルマジロ型の成長期スピリット、アルマジモンが姿を見せる。

 

 

「ターンエンド。どうぞ椎名、君のターンだ」

【アルマジモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

「あぁ、私のターンだ!」

 

 

そのターンをエンドとする雅治。丁寧な言い回しで椎名へとターンを譲渡した。椎名もそれを聞くなり、ターンを進行する。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、来い、エクスブイモン!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

【エクスブイモン】LV1(1)BP3000

 

 

椎名の場にブイモンが一段階進化した姿、エクスブイモンが姿を見せる。

 

 

「効果により2枚ドロー!!…そして2枚を破棄する」

手札4⇨6⇨4

破棄カード↓

【ワームモン】

【グラウモン】

 

 

青特有の手札入れ替え効果が発揮され、椎名の手札の質がより良く向上した。

 

 

「ターンエンドだ」

【エクスブイモン】LV1(1)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

椎名はアタックをせずにそのままターンを終えた。

 

 

[ターン03]雅治

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、バーストを伏せて、ネクサスカード、華王の城門を2枚、連続配置!!」

手札5⇨2

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

【華王の城門】LV1

【華王の城門】LV1

 

 

雅治の場にバーストが伏せられると共に、背後に色鮮やかな城門が2つ現れる。このままではまだ終わらない。雅治はさらに手札を引き抜き………

 

 

「ディグモンの【アーマー進化】発揮!!対象はアルマジモン!!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

 

「!」

 

 

アルマジモンの頭上にデジメンタルと呼ばれる卵状の物が投下される。アルマジモンはそこに向かって飛び立ち、衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化していく。

 

 

「鋼の叡智、ディグモンを召喚!!」

【ディグモン】LV1(1)BP4000

 

 

新たに現れたのは両手と鼻先がドリルになっているスピリット、ディグモン。椎名を威嚇するかの如く、そのドリルを回転させ、甲高い音を立てている。

 

 

「ディグモンの召喚時効果!!相手スピリット1体を指定して、このターン、そのスピリットはブロックできない!!………指定するのはエクスブイモン!!」

「!!」

 

 

ディグモンは登場するなり、両手のドリルで地面を掘る。すると、そこを中心に地割れが発生し、エクスブイモンの片足が巻き込まれ、身動きが取れない状況に陥ってしまう。

 

 

「アタックステップ、ディグモンでアタック!!」

 

「ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

ディグモンのドリルで削る攻撃が椎名のライフ1つを貫いた。

 

 

「………これ、なんか懐かしいな、1年生の時も食らったよね」

「うん、あの時から君は本当に面白い人だなぁって思ってたよ」

「いやいや、『面白い』って……別にそんなつもりはなかったんだけどな」

 

 

椎名と雅治は自分達の最初のバトルを思い出していた。あの時の椎名はただただバトルを楽しんでいるだけであった。

 

 

「いや、君は面白いよ!!今も昔も!!こんなにユーモラスに溢れたバトラーを僕は知らない!!」

「はは、なんかそう言われると照れくさいなぁ」

 

 

1年の当時から、椎名は雅治の憧れの的だった。恋愛的な意味で見ても、バトル的な意味で見ても、人間的な意味で見ても………

 

自分なんかは彼女に相応しくないと思う。

 

しかし、3年間、この胸に秘めていた想いだけは全て伝えたい………今日はその一心でここに来たのだ。

 

そんな雅治は意を決して………

 

 

「し、椎名………ぼ、僕は……き、」

 

 

『君の事が好きだ』……ただその一言だけを言いたいはずなのに、胸の鼓動が跳ね上がるばかりか、舌も回らななくなる。

 

 

「よし、私のターンだね!」

 

「え、えあ、あ、う、うん、た、ターンエンド」

【ディグモン】LV1(1)BP4000(疲労)

 

【華王の城門】LV1

【華王の城門】LV1

 

バースト【有】

 

 

椎名にそう言われ、咄嗟に我に返った雅治。気が動転しながらもそのターンをエンドとした。告白は一旦持越しか…………

 

そのターンエンドの宣言と共に、ディグモンが割った地面が元に戻り、エクスブイモンは再び行動可能となった。

 

次はそんな彼の恋心など全く理解していない椎名のターンだ。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、ブイモンを召喚!!効果によりカードをオープン!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨1

トラッシュ0⇨2

【ブイモン】LV2(3)BP4000

オープンカード↓

【ライドラモン】◯

【フレイドラモン】◯

 

 

椎名の場に小さな青い竜、ブイモンが現れる。その効果も成功。椎名は新たに【ライドラモン】のカードを手札に加え、残りを破棄した。

 

さらに加えたそれを雅治に見せつけるように翳し………

 

 

「ライドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ2⇨3

 

「!」

 

 

ブイモンの頭上に黒いデジメンタルが投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと進化を遂げる。

 

 

「現れろ!!轟く友情、ライドラモン!!」

【ライドラモン】LV2(3)BP7000

トラッシュ3⇨5

 

 

新たに現れたのは黒いアーマー体スピリット、ライドラモン。その効果で椎名のトラッシュにさりげなくコアが増えた。

 

 

「ライドラモン……こうして見ると本当に懐かしいね、あの時もこれに負けた……!」

「今度もこれで私が勝つさ!!…アタックステップ、エクスブイモン、いけぇ!」

 

 

雅治がライドラモンの懐かしさに浸る中、椎名がエクスブイモンでアタックを仕掛ける。ブロッカーのいない雅治はこれをライフで受けるしかなくて………

 

 

「ライフで受ける……っ」

ライフ5⇨4

 

 

エクスブイモンの強靭な肉体から繰り出される拳の一撃が、雅治のライフ1つを砕いた。

 

 

「まだ行くぞ、ライドラモンッッ!!」

 

 

追い討ちをかけるようにライドラモンでアタックを仕掛ける椎名。雅治はこれも受けるしかなく………

 

 

「ライフだ!!」

ライフ4⇨3

 

 

ライドラモンの高速の体当たりが炸裂し、そのライフ1つを粉々に砕いた。さらにライドラモンはこの瞬間に発揮できる力が備わっており………

 

 

「ライドラモンの効果!!ライフを減らした時、さらにもう1つのライフを破壊する!!……ブルーサンダァァ!!」

 

「ぐっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

吠えるライドラモン。すると、雅治のライフに青い色の雷が落雷し、それをさらに1つ砕いた。

 

 

「へへ、どうだ雅治!!一気に追い詰めた!!」

 

 

口角を上げ、言葉を漏らす椎名。しかし、口角を上げていたのは雅治も同じ事、彼はこの時を待っていたと言わんばかりに伏せていたバーストを勢いよく反転させて………

 

 

「甘いよ椎名!!バースト発動!!砲天使カノン!!」

「!?」

 

「この効果で相手スピリット全てのBPをマイナス10000!!0になったら破壊して召喚する!」

リザーブ3⇨0

【砲天使カノン】LV3(3)BP10000

 

「なにっ!?…うわっ!!」

【エクスブイモン】BP3000⇨0(破壊)

【ライドラモン】BP7000⇨0(破壊)

 

 

雅治の場に飛来するのは厳つい砲手を携えた華奢な天使。その天使はそれをぶっ放し、エクスブイモンとライドラモンを吹き飛ばしていく。

 

2体は敢え無く大爆発を起こした。

 

 

「マジか、一瞬で全滅………」

「どうだい椎名?…僕も3年前とは比べ物にならないだろう?」

 

「あぁ、マジ強いよ!!…ターンエンド」

バースト【無】

 

 

このターン、明らかに実感したのは長嶺雅治と言う生徒の確かな成長。少なからず、昔の椎名の戦法では歯が立たない事だろう。

 

そんな彼は再び心を引き締め、ターンを進行していく。

 

 

[ターン05]雅治

 

「スタートステップ時、華王の城門の効果、手札のカードを手元に置き、1枚ドロー……2回分使い、僕はアルマジモンとホーリーエンジェモンのカードを置いて2回ドローする!!」

手札2⇨0⇨2

 

 

華王の城門の効果で雅治の手元、手札共に潤っていく。

 

 

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

【ディグモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、手元より、アルマジモンとホーリーエンジェモンを召喚!!」

リザーブ5⇨0

【砲天使カノン】(3⇨1)LV3⇨1

トラッシュ0⇨4

【アルマジモン】LV1(1)BP2000

【ホーリーエンジェモン】LV2(2)BP9000

 

 

アルマジモンが再び姿を見せ、上空から勇士ある大天使が飛翔してくる。それは強力な効果を持つ完全体スピリット、ホーリーエンジェモン。今の雅治のエースと言っても差し支えないカードである。

 

 

「行くぞ椎名!!僕の全力!!何もかもを受け止めてもらう!!」

「あぁ来い、雅治!!」

 

 

バトルの熱い展開によって引き上げられるモチベーション。雅治は残り4つの椎名のライフを破壊すべく……そして想いを伝えるべく、アタックステップへと移行する………

 

 

「アタックステップ!!ホーリーエンジェモンでアタック!!その効果で僕のライフ1つは回復する!!」

ライフ2⇨3

 

 

ホーリーエンジェモンが戦闘態勢に入り、椎名のライフめがけて飛び立つと共に、さりげなく雅治のライフが回復した。

 

全滅した椎名の盤面。当然ながらブロックできるスピリットは存在せず………

 

 

「ライフで受ける………っ」

ライフ4⇨3

 

 

ホーリーエンジェモンの腕に携えられた剣の一撃が椎名のライフ1つを切り裂いた。

 

 

「次だ、ディグモンでアタック!!」

 

 

ディグモンが走り出す。目指すは当然椎名のライフだ。椎名はこのタイミングでアタックステップを止めるべく動き出した。

 

 

「フラッシュマジック、ブリザードウォール!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ5⇨10

 

「っ!?」

 

「この効果により、このターンの間、私のライフはアタックによって1つしか減らない………そのアタックはライフで受ける!!」

ライフ3⇨2

 

 

ディグモンのドリルで削る攻撃が椎名のライフを今一度貫くと同時に、椎名の前方に壁のような猛吹雪が発生。それは椎名のライフがこれ以上破壊されないと言う証であり…………

 

 

「………ターンエンド」

【ディグモン】LV1(1)BP4000(疲労)

【砲天使カノン】LV1(1)BP6000(回復)

【アルマジモン】LV1(1)BP2000(回復)

【ホーリーエンジェモン】LV2(2)BP9000(疲労)

 

【華王の城門】LV1

【華王の城門】LV1

 

バースト【無】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとする雅治。

 

届かなかった椎名のライフ………

 

……しかし、今、この想いだけは絶対に伝えたい。何せ自分達は後半年もしないくらいで卒業してしまうのだから………雅治は気持ちを強く引き締め………高鳴る鼓動を無理矢理捩伏せ………

 

 

「よし、私のターン…………」

「ちょっと待って椎名!!」

「?」

 

 

自分のターンを始めようとする椎名を呼び止めた。

 

そして………

 

 

「椎名………急で驚くと思うんだけど………」

 

 

遂にこの時が来た………雅治は顔を真っ赤にしながらも、椎名に………

 

 

「僕は君の事が好きだッッ!!」

「!」

 

 

伝えた……

 

とうとうこの想いを、あの椎名に………入学試験の時に一目惚れしてから約2年と半年、遂に……胸のうちを全てさらけ出した………

 

雅治はこの告白の結末は3種類あると考えていた………

 

1つ目は、この告白が受け入れられて2人は恋仲になる。

 

2つ目は、雅治が振られてこの関係は全てなかったことになる………

 

そして、最後の3つ目は…………

 

 

「はは、何を言うかと思えば………あぁ、私も、雅治が大好きだ………真夏も司も……界放市で出会った人達は私にとって掛け替えのない存在だ!!」

「…………」

「卒業しても、友達でいよう!!」

 

 

椎名は雅治の言葉に一瞬はキョトンとしていたが、自分なりに解釈、理解した途端、そう言い始めた。残念な事に、雅治の告白の言葉とは全く噛み合っていない………

 

そう、最後の3つ目はそもそも恋愛対象に見られていないため、告白が伝わらないという結末………

 

 

(………そうだよね、それでこそ僕が知る芽座椎名だ………僕なんかで収まっていい人じゃない……)

 

 

そう胸の内側で悟り、自分にそう言い聞かせる雅治。椎名はこれから先、きっともっと今よりも大きく羽ばたいていく事だろう。

 

そう考えると、無理矢理その羽に手を伸ばすことは、自分にはできない。この恋は【一旦】終わりにしよう………そう思い至って、納得した。

 

 

「うん。椎名………僕達は卒業しても仲間だ!!君と過ごした3年間は絶対に忘れない!!さぁ、次は君のターンだ!!今度は君の全力を見せてくれ!!」

「あぁ、言われなくとも………!!」

 

 

意味が伝わっていない椎名の言葉に合わせ、尚且つ彼女の背中を押すように言った雅治。その表情は告白が伝わらなかったにもかかわらず、どこか満足そうであり…………

 

そして椎名は、そんな雅治の愛情など知らず、自分のターンを開始していく………

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨12

トラッシュ10⇨0

 

 

「メインステップ!!……私は、このカード、インペリアルドラモン ドラゴンモードをLV2で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ12⇨1

トラッシュ0⇨8

【インペリアルドラモン ドラゴンモード】LV2(3)BP12000

 

「!!」

 

 

椎名が前方に呼び出したのは巨大なドラゴン。大いなる翼広げ、激しい咆哮と共に姿を現した。

 

 

「アタックステップ!!……ドラゴンモードでアタック!!」

 

 

椎名の指示に従い、ゆっくりと4本の脚を動かし、歩みを進めるドラゴンモード。目指すは当然雅治のライフだ。

 

しかし………

 

 

「僕の場には2体のブロッカー!!そして3つのライフ!!それだけじゃ突破できない!!」

 

 

雅治が強く宣言した。しかしながら、雅治はこの時点で何となく察していた。椎名は必ずこの盤面を突破して、自分のライフを全て破壊すると………

 

その予想は的中していたのか、椎名は柔らかく口角を上げながら、手札のカードを1枚引き抜いた………

 

 

「へへ……フラッシュ【煌臨】発揮!!対象はドラゴンモードッッ!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ8⇨9s

 

「っ!!」

 

 

椎名のカード発揮の宣言と共に、ドラゴンモードが眩い光に身を包まれていき、その中で姿形を変形させていく………

 

 

「モードチェンジ!!…現れろ!!インペリアルドラモン ファイターモードッッ!!」

手札4⇨3

【インペリアルドラモン ファイターモード】LV2(3)BP15000

 

「……おぉ!!」

 

 

その光を解き放ち、新たに現れたのは、人型へと姿を変えたインペリアルドラモン。名をファイターモード。ドラゴンモードの頭部が胸部へと移動し、背中の砲手は右腕に存在している。

 

そしてその解き放たれた効果を遺憾無く発揮させる。

 

 

「煌臨時効果!!相手スピリット10体を疲労させる!!」

「なにっ!?」

「ポジトロンレーザー!!」

 

「っ!!」

【砲天使カノン】(回復⇨疲労)

【アルマジモン】(回復⇨疲労)

 

 

ファイターモードが腕にある砲手を雅治のスピリット達に向けて放つ。その光線にスピリット達は忽ち吹き飛ばされ、行動不能に陥ってしまう。

 

 

「煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ………よってファイターモードはアタック状態!!」

 

「っ……ライフで受ける!!」

ライフ3⇨2

 

 

ファイターモードは雅治にもポジトロンレーザーを発射させ、そのライフを1つ粉々に砕いた。雅治のライフもとうとう椎名と同じ2つとなる………

 

 

「だけど、これでファイターモードのアタックは終わり…………次の僕のターンで…………っ!?」

 

 

「トドメを刺す」………そう言おうとしたが、笑顔を浮かべている椎名の表情を見るなり、止まってしまった。間違いない。今まで椎名を見てきた自分には理解できる。

 

椎名はこのターンで自分にトドメを刺す術を持っている…………そう確信した。そしてその予測も的中して…………

 

 

「ファイターモードのアタック時効果、相手のライフを破壊した時、さらに2つのライフを破壊する!!」

「っ!?」

 

 

ファイターモードは腕にある砲手を胸部にあるドラゴンモードの頭部へと合体させると、そこから徐々にと膨大なエネルギーを溜めていき…………

 

 

「行け、ファイターモード………超然の一撃……ギガデスッッ!!」

 

 

椎名の叫ぶ技名と共に、雅治のライフに向けて、その膨大なエネルギーが溜まった巨大な弾丸を放つ。それは一直線に彼の元へと飛び行き………

 

 

「………やっぱり椎名は面白いな………僕なんかじゃ全然届かないや………」

ライフ2⇨0

 

 

ライフに直撃し、被弾した。残ったライフは跡形もなく木っ端微塵に砕け散る。

 

これにより、勝者は芽座椎名だ。成長した雅治を恋心諸共、急に吹き荒れる旋風の如く吹き飛ばして見せた。

 

 

「私の勝ちだな!!ありがとう雅治!!久し振りに楽しいバトルだった!!」

「あぁ……僕こそ、ありがとう椎名………本当に!!」

 

 

2人はそう言うと、互いに近づいていき、固い握手を交わした。それは恋愛感情からのものではなく、熱い友情によって交わされたもの………

 

雅治は全てを理解しているからこそ、それが寂しくもあり、誇らしくもあって…………

 

 

「あ、そうだ。この後暇なんだけど、一緒に街でも行かない?」

「!!」

「雅治昨日風邪引いて文化祭なにもしてないでしょ?…まぁかく言う私もなにもしてないけどさ、折角だし、奢るよ!」

「…………椎名……」

 

 

椎名の急な誘い。彼女は当然自覚無しだが、雅治側からすればそれは所謂デートのお誘いと言っても過言ではなくて…………

 

こんなに嬉しい事はない。この椎名の言葉は自分が今までずっと彼女の友達でいた何よりの証拠のような言葉でもあって………

 

 

「うん!!『付き合おう』かな!!」

「よしっ!!んじゃ行きますか!!」

 

 

2人は恋仲など決してなる事はないのかもしれない。が、決して無くならないものとして、深い友情が確かにあって………

 

………しかし、雅治はこの恋を諦めたわけではない。いつかもっと成長して、自分が椎名に追いついた時、

 

その時だ。もう一度、堂々と面と向かって………再びこの想いを伝えよう…………雅治は胸の奥でそう誓った。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【インペリアルドラモン ファイターモード】」

椎名「インペリアルドラモンが力を解き放った姿、ファイターモードは煌臨時、スピリットを疲労させ、一気に3つのライフを破壊する強力な効果を備えているよ」


******


〈次回予告!!〉


エニー・アゼムとバーク・アゼムが遂に動き出した。彼らは今年の界放リーグに廃校となったデスペラード校の代わりに出場する事が判明した。椎名も当然今年の界放リーグへの出場を希望するが、それを良しとせんかったのはこれまで幾度となく椎名達を見てきた晴太だった。次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「椎名と晴太、赤きロイヤルナイツVS赤き神皇!!」…今、バトスピが進化を超える!!


******


※次回のサブタイトルや内容等は予告なしに変更する可能性があります。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!


ファイターモード、ギガデス(LV2効果)の初起動おめでとう!!今回の話の【椎名のスピリット達の心の中】は後に活動報告やTwitterにて掲載致します。

司のキャラ崩壊が凄まじい。しかしながらおそらく司があんなになるのは今回が最後だと思います笑

【第107話】でこの三期第1章も終わりです。つまり後3話ですね。そんな【第107話】では遂にあのオメガモンが満を辞しての登場です!!お楽しみに!!


そして【第108話】より、新章で尚且つ最終章、【最後の界放リーグ編】が幕を開けます。椎名の最後の戦い、最後の進化をお見逃しなく……!


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第105話「椎名と晴太、赤きロイヤルナイツVS赤き神皇!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は真夜中、陽の強い光など片鱗も見せず、月の淡い光だけで界放市にある特大のスタジアム、中央スタジアムは照らされていた。

 

【中央スタジアム】…………と言えば、去年は行われなかったが、界放市で1番の学生バトラーを決める祭典、界放リーグが行われる場所であり、Dr.A、本名徳川暗利が計画の拠点としていた場でもある。椎名と司が乗り込んで行き、彼の野望を阻止したのは界放市民の記憶にも新しい。

 

しかし、そんな中央スタジアムにまた新たな不穏な影が2つ………

 

 

「エニー様、ここは………」

「ここは界放市中央スタジアム。界放市の中心部に位置するスタジアムであり、Dr.Aが拠点としていた場所」

 

 

それは黒髪でやや小柄の青年、バーク・アゼムと、その祖先にあたる英雄、エニー・アゼム。エニー・アゼムは今は亡き司の姉、赤羽茜の死体に憑依している。

 

 

「我が子孫よ、感じないか?……ここに眠るDr.Aが蓄えていた進化の力を………」

 

 

エニー・アゼムは不気味な笑みを浮かべながらバークに言った。中央スタジアムの地下にははDr.Aの研究施設があった。確かにここならそれらが残っていてもおかしくはない…………

 

 

「……いえ……何も、流石に2000年の時が経って、あなた様の血の力は薄れているようで、私には到底感じ得ません」

「ふむ、そうか……致し方ないが、それは少し残念じゃな」

 

 

エニー・アゼムはこの中央スタジアムから微かにDr.Aが蓄えていた進化の力の残滓を感じていた。今を生きる生物の中で、他にこの力を感じれる者がいるとすれば、芽座椎名くらいであろう。

 

 

「我が子孫、妾は確信しているぞ。再びここで激闘が繰り広げられる時、妾は元の力を取り戻す!!」

「っ!?…本当ですか!?」

 

 

気が高ぶるエニー・アゼム。それを讃えるようにバークも高揚している。

 

ようやく。ようやくである。遂にエニー・アゼムは元の力を取り戻す時が来た………今年2年ぶりに開催される【界放リーグ】によって………

 

そして、皮肉にも再びこの界放市中心スタジアムが椎名達の最終決戦の場となるのだった…………

 

 

******

 

 

とある日のジークフリード校。その校舎の廊下にて、ジークフリード校最強どころか、界放市最強なのではと、噂される芽座椎名、そしてそのライバルである赤羽司は若き男性教師、空野晴太に連れられ、理事長室にいた。

 

バトスピ学園 ジークフリード校理事長、龍皇竜ノ字。今年で年齢が62となる大ベテランの伝説バトラーだ。そんな彼が座る前方に、3人は並び立っており…………

 

 

「理事長、急に私たちを呼び出して何の用ですか?」

「どうでもいい内容だったら帰らせてもらうぞ」

「おいお前ら! 理事長に失礼だろ!?なんだその粗野な態度は!!」

 

 

竜ノ字から発せられる圧倒的な強者のオーラを物ともせずに無神経で失礼な発言をする椎名と司。晴太はそれに対して叱責するも、2人の表情からは反省の色は一切見えない。

 

しかし、懐の広い彼はそんなものは全く気にするそぶりを見せず………

 

 

「ハッハッハ!!いいよいいよ!!学園最強たる者、それくらいの器量がなくては困る………いやはや、君達をここに呼んだのは他でもない、今度行われる【第10回界放リーグ】に参加してもらいたいんだ」

「界放リーグ………」

「………」

 

 

【界放リーグ】……随分と懐かしい響きだ。去年はデスペラード校の廃校に伴い、見合わせを兼ねて中止となった。それが等々復活する………

 

 

「まだデスペラード校は復校していないがね、【特別ゲスト2人】が加わるため、急遽、例年より遅い開催が決定したんだ」

「ふぅ〜〜ん、ゲストね」

 

 

界放リーグは6つの学園からそれぞれ代表が2名ずつ選出され、最強の名を冠するためにしのぎを削る。今年はデスペラード校の2名の代わりに、竜ノ字の言う【特別ゲスト2人】が参戦する様子である………

 

 

「どうだい!!参加してみないかい?」

 

 

椎名と司に期待の眼差しを向ける竜ノ字。彼ら学園の理事長は毎年のように自分たちの生徒たちが優勝できるかを競っている。2人が出場したらほぼ勝ち確であるため、是が非でも出てもらいたいのだ。

 

しかし、彼らは………

 

 

「いや、私は出ないかな」

「え?」

「あぁ、俺もパスだ」

「えぇ!?」

 

 

その理事長からの直々の申し出を続け様にあっさりと断ってしまった。学園のバトラーにとってはこれほど栄誉ある事はないと言うのに………

 

 

「ど、どうして」

 

 

理事長は何故出ないのかと理由を聞く。

 

 

「ん〜〜今はなんかそう言う気分じゃないって言うかさ〜〜……」

「他にやるべき事がある」

「他って………進路とかかい?」

「いや、進路じゃないんですけど、まぁ色々とね」

 

 

口を揃える椎名と司。やるべき事とはエニー・アゼムとバーク・アゼムとの決着だ。彼らがいつこの街を襲ってくるかわからない今、界放リーグに参加する訳にはいかなかった………

 

 

「そうか〜〜なら仕方ない、代表はいつも通り予選で決めるかな」

「すんませんね、理事長」

「いやいや、詫びを入れる必要はないよ、強要しようとしていたのはこっちの方だからね」

 

 

軽く頭を下げる椎名。理事長も流石は長年を生きてきた大人か、ムキになる事はせず、丁寧に言葉を返した。これが同窓生でもある他の理事長達と話すと途端に荒々しくなるのだから、俄かには信じられない。

 

 

「いやはや、やはり少し残念ではあるな。なんせ、あの【エニー・アゼムの末裔様がゲスト出場】されのだからね」

「え!?」

「「………っ!?」」

「君達と彼らがバトルするのを見てみたかったな」

 

 

竜ノ字のその言葉に耳を伺った椎名、司、そして晴太。【エニー・アゼムの末裔】……普通の民間人が聞けば、感極まりない程に凄まじい言葉である。

 

何せ、そもそもエニー・アゼムは進化を繰り返す事ができる歴史上の人物として名を馳せている偉人なのだから。

 

しかし、実際は少しだけ趣が異なる。エニー・アゼムは鬼を滅ぼし、英雄となっている。しかもその際、当時の人間達に進化の力を奪われ、追放、迫害を受けたことにより、人間と言う種族を心の底から恨んでいる。

 

つまり、【エニー・アゼムの末裔】は危険な存在なのである。そしてそれを知る者は実際にバーク・アゼムや蘇ったエニー・アゼムと死闘を繰り広げた椎名と司、そしてその仲間達くらいなのだ。普通の民間人が知る由もない。

 

 

「り、理事長……お言葉ですが、その末裔様のお名前は存じ上げておられますか?」

「む?あぁ、【バーク・アゼム】と【ノヴァ・アゼム】だ。年齢は空野先生と変わらんくらいだと聞いているよ」

「そ、そうですか………」

 

 

晴太がそう言い、竜ノ字が質問に答えた。これで3人は確信した。間違いない。今年の界放リーグで参加してくるのはあの時あった2人だ。

 

赤羽茜の死体を乗っ取っているエニー・アゼムは当然ながらそのままの名前で参加する訳にはいかなかったのだろう。【ノヴァ・アゼム】はおそらく偽名だ。

 

椎名と司はお互いに顔を見合わせる。そのお互いの表情は何かを決意している顔だ。そして何も知らない竜ノ字の方へと顔を戻して………

 

 

「やっぱ参加させてください!!」

「参加させろ」

「おぉ!!そうかそうか!!良かった〜〜期待しているぞ!!」

 

 

2人はまた口を揃えてそう言うのだった。このままエニー・アゼム達を野放しにできる訳がないと言う判断からであろう。

 

竜ノ字もその言葉に大喜びし、高価そうな腰掛けから離れて2人の肩に手を置いた。

 

 

「…………」

 

 

そんな楽しげな光景を心配そうに見つめていたのは他でもない、晴太だ。彼はまるで何かの悔しさをぶつけるかのごとく、静かに拳を強く、そして固く握りしめていた。

 

 

******

 

 

放課後、椎名と司は人1人、誰もいない第4スタジアムにて、バトルの特訓、及びデッキの調整を行なっていた。直ぐに訪れるエニー・アゼム達との決戦に備えているのだ。互いにレベルの高い攻防が一進一退と繰り広げられていた。

 

 

「まさかお前とデッキを調整する時が来るとはな」

「まぁ状況が状況だからね、私達がやるしかないし…………いけ、デュークモンッッ!!」

「切り崩せ、バロン!!」

 

 

彼らがそんな会話をしながらも、椎名のエーススピリット、槍と盾を携える赤属性のロイヤルナイツ、デュークモン。そして、司のエーススピリット、赤き仮面スピリット、バロン レモンエナジーアームズがぶつかり合う。

 

デュークモンが槍による刺突でバロンを貫こうと試みたいるも、バロンはそれを鮮やかに躱し、反撃の機会を伺っている………

 

しかし、その時だった………

 

 

「そこまでだ!!司、椎名ッッ!!」

「え?………晴太先生!?」

 

 

スタジアムのバトル場の傍から晴太が椎名と司のバトルを止めるように姿を現した。椎名と司は一旦Bパッドをデッキごとしまい、場のスピリット達を消滅させた。

 

 

「なんの真似だ、空野晴太」

 

 

突然の乱入に、司が晴太に問い詰めた。晴太の表情からは確かな怒りが募っている事が伺えて………

 

 

「なんの真似もこんな真似もない……お前たちは今年の界放リーグに出るな!!」

「え?」

「なんだと!?」

 

 

晴太のとんでもない発言に驚愕する椎名と司。それもそのはず、この晴太は全ての事情を椎名たちから聞いている。理解してはいるはずなのに、何故か彼は2人の参加を止めようとしていた。

 

 

「テメェ、どう言うつもりだぁぁ!!…テメェにはバークの事もエニー・アゼムの事も、俺たちが知る全ての情報を余す事なく教えたはずだろ!!何故止める!?」

 

 

怒りに任せた司が晴太の胸ぐらを力強く掴む。晴太はそんな司に対し全く臆する事なく目つきを鋭くさせて………

 

 

「だからこそだろ?」

「っ!?」

 

 

その晴太の研ぎ澄まされた迫力に思わずたじろぐ司。晴太はさらに続けて………

 

 

「この俺がいる限りもう2度とお前らに危険な真似はさせない………絶対だ!!」

 

 

そう強く言い放った。

 

ある意味、教師としては当たり前なのかもしれない。今から椎名たちは今一度巨悪と戦いに行くのだ。そんな事みすみす野放しにはできない。

 

そんな心優しい彼だからこその行動なのだろう。

 

 

「まぁまぁ先生、そうカッカするなって、司も落ち着け」

「………」

「椎名………」

 

 

椎名がそう言うと、司は腹を立てながらも、掴んでいた晴太の胸ぐらから手をゆっくりと離した。

 

 

「先生、ちょうど場所もいいし、久し振りに私とバトルしないか?」

「なに?」

「私が勝ったら、出場を認めてよね」

 

 

椎名からの突然のバトルの提案。その声色や表情からは確かな自信と余裕が伝わってきて…………

 

 

「椎名、お前英雄と言われるようになってから随分と鼻が高くなったな。お前ごときが俺に勝てるわけなだろう?」

「へへ、いやいや、実を言うと、卒業前にもう一度先生ともバトルしておきたかったんだなこれが」

 

 

晴太は少しだけ考えるように顔を下に向ける。そして彼らを止めるためには口よりもバトルの方が適切であるとすぐさま判断し………

 

 

「…………いいだろう、相手してやる」

「よし!!約束だよ!!」

 

 

晴太のその言葉に椎名はサムズアップを見せる。そして2人はバトル場に立ち、互いにBパッドを展開し、デッキをセットした。司は離れたところでその様子を黙って眺めていた。

 

 

「行くよ先生」

「あぁ、お前のその鼻っ柱、へし折ってやる!!」

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先行は晴太だ。

 

 

[ターン01]晴太

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はネクサスカード、情熱サーキットを配置!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨5

トラッシュ0⇨4

【情熱サーキット】LV1

 

「情熱サーキット?……なんだそれは?」

 

 

晴太と椎名のバトル場を包み込むようにサーキットが出現する。初めて視認するネクサスに椎名は疑問符を浮かべる。

 

 

「知らないのはお前の勉強不足だ椎名、俺はこれでターンエンド」

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【無】

 

 

「まぁいいや、何が来ようと、私は私のバトルを貫くだけだ」

 

 

晴太は先行の第1ターン目をエンドした。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!……ネクサスには、ネクサスだ!!……来い、ディーアーク、D-3!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

椎名の腰に小さな機械が取り付けられる。

 

 

「私はこれでターンエンドだ………さ、先生のターンだよ」

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

椎名はそう言いながらターンをエンドとした。

 

 

[ターン03]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!俺はソウルコアを使用し、マジック、エンペラードローを使う!!…2枚ドローし、2枚オープン、その中の対象カードを全て加える!!」

手札5⇨4⇨6

リザーブ5s⇨2

トラッシュ0⇨3s

オープンカード↓

【エグゼシード・ビレフト】◯

【エグゼシード・ビレフト】◯

 

 

エンペラードローの効果は2枚とも成功。晴太は晴太は一気に凄まじい枚数の手札を増やしていく。

 

 

「バーストをセットし、エンドだ」

手札6⇨8⇨7

 

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【有】

 

 

晴太はさらにバーストをセットした。そしてこれでエンドとなる。互いに遅めのスタートを切ったと言えるこのバトル。

 

しかし、ここから一気に加速するのは目に見えていて…………

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ……(手札増加にバースト………そしてあのネクサス………)」

 

 

メインステップまでターンを進行したものの、晴太のプレイングに不気味さを覚える椎名。どう考えてもこれは罠だ。必ず何かあると睨んでいる………

 

 

(まぁでもここで怖気ついたらエニー・アゼムやバーク・アゼムには絶対に勝てないしな、……行くぞ、私のデッキのスピリット達!!)

 

 

心の中でそう誓い、椎名は自分の手札に手をかける。そうだ。ここで怖気つくのは椎名ではない。デッキのスピリット達と共に、真っ向から晴太に挑む………

 

 

「来い、ブイモン!!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨2

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【ワームモン】×

【スティングモン】◯

 

 

椎名の場に青い竜の成長期スピリット、ブイモンが姿を見せる。そしてその効果も成功。椎名は新たに【スティングモン】のカードを加えた。

 

 

「さらに2コストを支払い、スティングモンを追加召喚!!ディーアークの効果で1枚ドロー!!」

手札3⇨4

リザーブ3⇨0

トラッシュ2⇨4

【スティングモン】LV1(1⇨2)BP5000

 

 

ブイモンの隣に即座に現れたのはスマートな昆虫戦士、スティングモン。その効果でさり気なくコアが増える。

 

 

「そしてもう1枚ネクサスカード、デジヴァイスを配置!!」

手札4⇨3

【デジヴァイス】LV1

 

 

椎名の腰に3種類目となる機械が取り付けられた。彼女のデッキが潤滑に回転しているのが伺える。

 

 

「アタックステップ、デジヴァイスの効果!!成長期スピリットのブイモンがいることにより、疲労させて1枚ドロー!!」

手札3⇨4

【デジヴァイス】(回復⇨疲労)

 

「……減りすぎる手札をネクサスで補うか……昔のお前だったら手札の減少なんざ気にせずスピリットを並べて単調な攻撃を仕掛けるだけだったな」

「へへ、私も昔のままの私じゃないんでね!」

 

 

椎名のプレイングに対し、沈着な表情を浮かべながらそう評価した晴太。この第4ターン、確かに椎名の成長を感じられるものがある。

 

 

「アタックステップは続行!!スティングモンでアタック!!……さらにこの時、フラッシュタイミングでライドラモンの【アーマー進化】を発揮、対象はブイモン!」

【スティングモン】(2⇨3⇨2)

トラッシュ4⇨5

 

「………」

 

 

椎名がそのカードの使用を宣言すると、ブイモンの頭上に黒いデジメンタルが投下される。ブイモンはそれと衝突し、混ざり合い、新たな姿へと昇華していく。

 

 

「轟く友情……来い、ライドラモン!!」

【ライドラモン】LV1(1)BP5000

トラッシュ5⇨7

 

 

新たに椎名の場へと姿を見せたのは黒いアーマー体スピリット、ライドラモン。その効果でまたさり気なくコアがトラッシュへと置かれた。

 

 

「スティングモンのアタックは生きてる、いけぇ!」

 

「……ライフで受ける……」

ライフ5⇨4

 

 

スティングモンの拳が晴太のライフ1つを粉々に砕く。だが、これは晴太の多くのカードの効果を発揮するためのトリガーとなって………

 

 

「椎名、なんの警戒もせず俺のライフを叩くとはな、3年間教えていた身としてはがっかりだぜ………俺は情熱サーキットの効果を発揮!!」

「っ!?」

「カードを1枚オープンし、それが十冠スピリット、又は神皇スピリットだった場合、ノーコスト召喚する!!」

「なに!?」

 

「カード、オープン!!」

オープンカード↓

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】◯

 

「っ………よりにもよってバゼル!?」

 

「効果は成功だ。俺はこいつを……バゼルを呼ぶ!!」

リザーブ3⇨2

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV1(1)BP10000

 

 

サーキットを駆け巡った後に晴太の場に現れたのは、爆炎を操る覇神皇、バゼル。登場しただけで熱気が辺りに飛び散る。

 

 

「まだこんなもんじゃ終わらんぞ椎名!!バースト発動!!」

「ライフ減少後のバースト………」

 

 

晴太が事前に伏せていたバーストが勢いよく反転する。そのカードに、椎名は驚かざるを得なくて………

 

 

「2枚目のバゼルだ!!」

「に、2枚目のバゼルだって!?」

 

「LV1だ、来いよ!!」

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV1(1)BP10000

 

 

晴太の場に火柱が立ち昇り、その中から2体目となるバゼルがそれを掻き消しながら姿を見せる。

 

計2体のバゼルは共鳴するように気高く鳴いた。その行動がより椎名に強い迫力を与えていて………

 

 

「さぁどうする椎名!!」

 

「くっ……ターンエンドだ」

【スティングモン】LV1(2)BP5000(疲労)

【ライドラモン】LV1(1)BP5000(回復)

 

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

【デジヴァイス】LV1(疲労)

 

バースト【無】

 

 

突如現れたバゼルにライドラモンを突撃させるわけにも行けない。椎名はそのターンをエンドとした。

 

次は晴太のターン。並べられたバゼルの力を遺憾なく発揮させていく。

 

 

[ターン05]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札7⇨8

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、バーストを新たに伏せ、2体のバゼルと情熱サーキットをLV2へアップ!!」

手札8⇨7

リザーブ5⇨0

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】(1⇨3)LV1⇨2

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】(1⇨3)LV1⇨2

【情熱サーキット】(0⇨1)LV1⇨2

 

「………っ」

 

 

LVが上昇し、より迫力が増していく晴太の盤面。2体のバゼルの前には、椎名の使役する成熟期のスティングモンとアーマー体のライドラモンは弱小で矮小な存在にしか見えなくて………

 

 

「アタックステップ!!駆けろバゼル!!狙うはスティングモンだ!!」

「っ!?」

 

 

1体のバゼルでアタックを仕掛ける晴太。バゼルには敵スピリットを指定アタックする力があり、今回はスティングモンが対象となった。

 

腕をバツの字に固め、防御の姿勢に入るスティングモン。しかし、そんなものは通用するわけないか、バゼルは刀を口に咥え、その刀身に爆炎を灯し、スティングモンを一瞬のうちに一刀両断した。

 

スティングモンは堪らず大爆発を起こす。

 

 

「そしてさらにこの時、ライフ2つを破壊する!!」

「くっ……!!」

 

 

エグゼシードのお家芸であるライフ貫通効果が発揮される。バゼルは椎名の元まで歩みを進めると、スティングモン同様、刀で椎名を斬りつけようとするも………

 

椎名も負けてばかりではいられないか、手札のカードを1枚抜き取り、構え……

 

 

「効果ダメージが発生する時、私は手札のリアクティブバリアの効果発揮!!」

「っ!!」

 

「このカードを破棄する事でそのダメージを1にする!!………っ」

手札4⇨3

ライフ5⇨4

 

 

バゼルが椎名のライフを斬りつける直後、椎名の前方にライフバリアとは別のバリアが出現し、椎名のライフへの威力を和らげる。

 

 

「さらにその後、コストを払うことにより、このアタックの終了時、そのアタックステップを終了させる!!」

リザーブ3⇨0

トラッシュ7⇨10

 

 

配置していたデジヴァイスの持つ白のシンボルがここで活きた。ライドラモンを消滅させることなくアタックステップを終了させる効果が発揮できた。

 

少なくともこのターンは無事でいられるが…………

 

 

「バゼルにはまだ隠された効果がある!!」

「!?」

「バトル終了時、俺の伏せられたバーストカードの条件を無視して発動できる!!」

「また………バースト……っ、まさか!?」

 

 

バゼルには指定アタックとライフを破壊する効果だけではない。本来ならば罠のように敵がかかるのを待つカード、バーストカードの効果だけを発揮させる力も同時に備えていて………

 

しかし、椎名はその効果を聞くなり血相を変えた理由はそれではない。察したのだ。あのバーストカードは………

 

 

「バースト発動!!3枚目のバゼルだ!!」

「っ……やっぱり……」

 

「バースト効果だ、召喚する!!」

【情熱サーキット】(1⇨0)LV2⇨1

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV1(1)BP10000

 

「………3体のバゼルだと……!?」

 

 

火柱がまた立ち昇り、その中から3体目となるバゼルが姿を現した。この荒々しい晴太の場に流石の司も驚嘆の声を上げた。

 

 

「3体目のバゼルなんて………凄すぎだよ、先生……!!」

「うるさいぞ椎名!!真剣にやれ!」

 

 

晴太の圧倒的な戦力差を前にして、椎名はよりバトルに楽しみを見出す中、晴太はそんな椎名を叱責する。

 

 

「だいたいお前はいつもいつも………」

「まぁそう言うなって、次は私のターンだな」

 

「…………ターンエンド」

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV2(3)BP15000(疲労)

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV2(3)BP15000(回復)

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】LV1(1)BP10000(回復)

 

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【無】

 

 

晴太の生徒を危険な目には会わせたくないという強い気持ちが露わになっていく中、椎名の第6ターンが開始される。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨11

トラッシュ10⇨0

【デジヴァイス】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、ブイモンを再召喚!!ディーアークの効果で1枚ドロー!!」

手札4⇨3⇨4

リザーブ11⇨9

トラッシュ0⇨1

【ブイモン】LV1(1)BP2000

 

 

ライドラモンの側にブイモンが再度姿を見せる。椎名はディーアークの効果でドローしたカードを視認するなり、少しだけ口角を上げる。

 

何かを引いたのだ。この圧倒的に不利な局面をも一変させられるカードを………

 

 

「さらに私はエクスブイモンをLV2で召喚!!効果により2枚ドローし、2枚捨てる!!」

手札4⇨3⇨5⇨3

リザーブ9⇨5

トラッシュ1⇨2

【エクスブイモン】LV2(3)BP5000

破棄カード↓

【ギルモン】

【ディーアーク】

 

 

青き闘竜、エクスブイモンがさらに椎名の場に姿を見せたかと思うと、椎名に手札を入れ替えさせた。だが、これだけでは晴太の3体のバゼルと比べたら見劣りする。

 

椎名はさらに手札を引き抜いて………

 

 

「デジタルブレイヴ、ズバモンを召喚し、エクスブイモンと合体!!」

手札3⇨2

【エクスブイモン+ズバモン】LV2(3)BP8000

 

 

黄金の鎧を身に纏う異端なデジタルブレイヴ、ズバモンが場に現れ、直後にエクスブイモンと合体する。エクスブイモンは黄金の鎧を新たに装着した。

 

 

「これで準備は整った……デュークモンの【煌臨】発揮!!対象は全色となったエクスブイモン!!」

リザーブ5s⇨4

トラッシュ2⇨3s

 

「………来るか………」

 

 

ズバモンと合体したエクスブイモンが赤き光に身を包まれ、その中で姿形を大きく変化させていく……それは正しく聖騎士の姿だ。

 

 

「来い、赤きロイヤルナイツ、デュークモンッッ!!」

手札2⇨1

【デュークモン+ズバモン】LV2(3)BP17000

 

 

その光を解き放ち、その中から強固たる白い鎧を身に纏い、赤いマントを靡かせるデュークモンが姿を見せる。ズバモンとの合体の影響から、その姿はいつもよりも刺々しく、右手の槍もビーム状となっている。

 

 

「ライドラモンをLV3にアップ!!」

リザーブ4⇨1

【ライドラモン】LV3(1⇨4)LV1⇨3

 

 

椎名は仕上げと言わんばかりにライドラモンのLVを最大にする。これで攻撃の準備は整った。デュークモンが戦闘態勢に入り、構える。

 

 

「アタックステップ!!デジヴァイスの効果でドロー!!……デュークモン、いけぇ!」

手札1⇨2

【デジヴァイス】(回復⇨疲労)

 

 

デュークモンにアタックの指示を送る椎名。そしてロイヤルナイツのデュークモンにはこの瞬間に発揮できる強力な効果があって………

 

 

「アタック時効果、シンボル2つ以下のスピリット、回復状態のままのLV2バゼルを破壊する!!」

「っ!!」

「無双の一振り……ジーク・セイバーッッ!!」

 

 

デュークモンがビーム状となった槍を天高く伸ばしていき、そのまま1体のバゼルへと向けて荒々しく振り下ろす。バゼルはその中で堪らず大爆発を起こした。

 

 

「さらにデュークモンのもう1つのアタック時効果で、トラッシュにあるギルモンのカードを手札に戻して回復する!!」

手札2⇨3

【デュークモン+ズバモン】(疲労⇨回復)

 

 

回復し、2度目の攻撃を可能にしたデュークモン。このまま一気に晴太の盤面を大きく瓦解させる予定だったが………

 

流石に一筋縄ではいかないか、彼は手札から1枚のカードを抜き取り、それを阻止する。

 

 

「フラッシュマジック、絶甲氷盾!!」

手札8⇨7

リザーブ3⇨0

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】(3⇨2)LV2⇨1

トラッシュ0⇨4

 

「っ!?」

 

「この効果により、このバトルの終わりがお前のターンの終わりだ椎名!!……来い、ライフで受ける!!」

ライフ4⇨2

 

 

白の鉄板マジック、絶甲氷盾。それが発揮される。

 

しかし、晴太はデュークモンのアタックを守る事はせず、自らのライフを差し出した。デュークモンの無双の二振り目が晴太のライフを一気に2つ破壊した。

 

 

「まだだ!!ライドラモンの効果!!究極体を持つデュークモンがライフを破壊したことにより、さらにもう1つ破壊する!!」

 

「ぐっ………」

ライフ2⇨1

 

 

ライドラモンが気高く吠える。すると、デュークモンの槍に青い稲妻が落雷し、デュークモンに新たな力を与える。

 

そして、デュークモンはその力を使い、無双の三振り目で晴太のライフをまたもや砕いて………

 

 

「っ………情熱サーキットの効果………」

オープンカード↓

【コレオン】×

 

 

ノーコスト召喚が可能となる情熱サーキットの効果は不発。そのままトラッシュへと破棄された。しかも彼のライフは1。ライフ回復がなければもう2度とその効果は使用できなくて………

 

そしてこの瞬間に発揮されていた絶甲氷盾の効果が適用され、椎名の場に猛吹雪が発生し、そのターンのエンドを迫られた。

 

 

「……ターンエンドだ」

【ライドラモン】LV3(4)BP10000(回復)

【ブイモン】LV1(1)BP2000(回復)

【デュークモン+ズバモン】LV2(3)BP17000(回復)

 

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

【デジヴァイス】LV1(疲労)

 

バースト【無】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとした椎名。そしてその宣言と共に猛吹雪は消え失せ、晴太のターンとなる。

 

 

[ターン07]晴太

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札7⇨8

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……俺はお前を、お前達の界放リーグへの出場は許可できない!!」

「わかってくれ先生!!…先生がいくら私達を止めたって、界放リーグは始まるし、司の姉ちゃんの体を乗っ取ったエニー・アゼムは人間を滅ぼそうとする!!……私たちじゃないとそれは止められないんだ!!」

「っ……!!」

 

 

そんな事は分かっている。分かっているんだ。このバトルが無駄な事くらい。何の意味も無い事くらい………

 

だが何もせずにいられるわけがない。自分の生徒が世界の危機に立ち向かおうとしているのに、指を咥えて見ている事しかできないのが辛い……

 

 

「………ダメったらダメだ!!行かせない!!俺はまた何か大事なものがなくなるのが嫌なんだ!!」

「先生………」

 

 

椎名と司を止めるため、晴太は改めて自分のターンを進める。もう2度とあの時の、茜のような大事な人を失うわけにはいかない………そう胸に誓って………

 

 

「【煌臨】発揮!!対象はバゼル!!」

リザーブ8s⇨7

トラッシュ0⇨1s

 

「!!」

 

 

2体のバゼルのうち1体が紅蓮の炎に包まれていき、その中で姿形を大きく変化させていく。それは荒ぶり、猛々しく吠え………今、姿を現わす。

 

 

「来い、龍神皇ジーク・エグゼシード!!」

手札8⇨7

【龍神皇ジーク・エグゼシード】LV1(2)BP16000

 

「……ジーク……」

「椎名、お前にこいつを使う時が来るとはな……」

 

 

龍神皇ジーク・エグゼシード。それは最強のエグゼシードにして晴太の持つ最も強力なスピリット。これが呼び出されたという事はそれ即ち晴太の本気の中の本気。

 

しかもこれだけではない。晴太はさらに手札を引き抜いて………

 

 

「さらに俺は異魔神ブレイヴ、炎魔神を召喚!!」

手札7⇨6

リザーブ7⇨4

トラッシュ1s⇨4s

【炎魔神】LV1(0)BP5000

 

「っ!?…炎魔神まで!?」

 

 

唸る轟音、凄まじい爆音が響き、炎の歯車の中より異端なブレイヴ、炎魔神が堂々と姿を見せた。

 

 

「バーストをセット!!…情熱サーキットのLVを上げ、ビレフトも呼ぶ!!」

手札6⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ4s⇨6s

【情熱サーキット】(0⇨1)LV1⇨2

【エグゼシード・ビレフト】LV1(1)BP3000

 

 

小型のエグゼシード、ビレフトも呼び出される。これで晴太の場には3種類の強力なエグゼシードに加え、異魔神ブレイヴの炎魔神と、誰が見ても強力な布陣が完成した………

 

 

「そして俺は炎魔神の右にジーク、左にバゼルを合体させる!!」

【龍神皇ジーク・エグゼシード+炎魔神】LV1(2)BP21000

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル+炎魔神】LV1(1)BP15000

 

 

炎魔神は両手から光線を放ち、右側はジーク、左側はバゼルへとそれぞれ繋がり、リンクする。

 

 

「もう容赦はしない、アタックステップ!!……いけ、ジーク!!効果によりトラッシュのソウルコアを自身に置き、LVアップ!!」

トラッシュ6s⇨5

【龍神皇ジーク・エグゼシード+炎魔神】(2⇨3s)LV1⇨2

 

 

ついにアタックを仕掛ける晴太。ジークのLVも追加されたソウルコアで上昇する。これにより強力な効果を発揮できるようになるが………その前に炎魔神の右側の力が働く。

 

 

「炎魔神の右合体時効果!!このスピリットのBP以下のスピリット1体を破壊する!!」

「っ!!」

「俺はデュークモンを破壊する!!」

 

 

炎魔神が右手の拳を回転させながら射出する。それは一直線に椎名のデュークモンの方まで伸びていき、直撃、デュークモンは吹き飛ばされ、堪らず爆散してしまう。その際に合体していたズバモンが逃げるように飛び出した。

 

 

「っ……デュークモンッッ!?」

 

 

椎名はデュークモンの爆発による爆風と爆煙を肌で感じながらそう叫んだ。しかし晴太は間も無くジークの効果を発揮させ………

 

 

「ジークのもう1つのアタック時効果、手札にある十冠スピリットを1枚煌臨元として追加することにより、お前のライフ2つを破壊して、回復する!!」

「っ!!」

 

「俺は手札にあるビレフトを追加し、効果発揮!!………くらえ、龍神炎砲!!」

手札4⇨3

【龍神皇ジーク・エグゼシード+炎魔神】(疲労⇨回復)

 

「っ……ぐ、ぐぁぁぁぁあ!!!」

ライフ4⇨2

 

 

ジークの口内から放たれる紅蓮の炎。それが椎名のライフへと直撃し、一気に2つが消し飛んだ。しかもそれだけではない。晴太はさらに手札を1枚引き抜く………

 

 

「フラッシュマジック!!エグゼフレイム!!……不足コストはジークより確保!!」

手札3⇨2

【龍神皇ジーク・エグゼシード+炎魔神】(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ5⇨7

 

「っ!?…それは!!」

「BP15000までスピリットを好きなだけ破壊し、さらにお前のネクサスも全て破壊する!!」

「私のスピリットのBP合計は……15000!?」

「そう、全滅だ!!」

 

 

ジーク・エグゼシードが青き炎をその身に纏い、椎名の場へと突進してくる。BP10000のライドラモン、BP3000のズバモン、そしてBP2000のブイモンが容赦なく焼き尽くされていった………

 

さらに椎名の腰にあるネクサスカードも蒼炎に包まれ、焼却される。

 

 

「さらにこのアタックは継続中……ダブルシンボルのアタックで終わりだ、椎名!!」

 

 

椎名のライフは2。そしてアタック中のジークも炎魔神との合体によりダブルシンボル化している……これが決まれば終わりだ………

 

しかし、椎名もただでは終わらない。手札を1枚引き抜いて………

 

 

「っ……フラッシュマジック、デルタバリア!!」

手札3⇨2

リザーブ11⇨8

トラッシュ3⇨6

 

「なに!?」

 

「この効果によりこのターン、コスト4以上のスピリットのアタックじゃ0にならない!!……ジークのアタックはライフで受ける!!」

ライフ2⇨1

 

 

椎名の前方に三角形のバリアが出現する。ジークが前脚で踏み潰す形で椎名のライフを砕こうとするが、いくら踏んづけても椎名のライフは1しか砕かれず………

 

 

「これでこのターンのアタックは無意味だ、先生」

 

「くっ……だが、お前のライフは残り1、そして場には何も存在せず、手札もたった2枚、俺の勝ちは濃厚だ…………ターンエンド」

【エグゼシード・ビレフト】LV1(1)BP3000(回復)

【爆炎の覇神皇エグゼシード・バゼル+炎魔神】LV1(1)BP15000(回復)

【龍神皇ジーク・エグゼシード+炎魔神】LV1(1)BP21000(回復)

 

【情熱サーキット】LV1

 

バースト【有】

 

 

デルタバリアの前では少なくともこのターンのライフ破壊は困難を極める。晴太はそのターンを終え、次は椎名のターンとなる………

 

盤面はゼロ。ライフは風前の灯、手札はたったの2枚。ここからの逆転はほぼ不可能と言える………

 

しかし…………

 

 

「へへ、このバトル楽しいな先生!!………次のターン、私の3年間の集大成を先生にぶつけてやるよ!!」

(……なんだ、なんだこの感じは………圧倒的に俺の方が有利なはずなのに……)

 

 

絶体絶命の状況だというにもかかわらず不敵な角度で口角を上げる椎名。そんな勝気な彼女の姿を見た晴太は………

 

 

(まだ終わらない……そんな気がする……絶対にこいつは、俺を超える……)

 

 

確信してしまった。椎名は間違いなく超えてくる。3年間で強くなった力を自分にぶつけてくる………

 

何故だろうか、彼は椎名同様にバトルが楽しくなっていた。自然と椎名のバトルに魅せられていた。勝たなければならない大事なバトルだというのに、

 

椎名があれからどう成長したのか、そしてここからどうやって自分を乗り超えるのか気になって仕方が無い。

 

晴太はそんな複雑な気持ちに揺さぶられていて…………

 

 

「私のターンッッ!!」

 

 

そして椎名のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ9⇨10

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ10⇨16

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ、ギルモンとグラニを召喚し、合体!!」

手札3⇨1

リザーブ16⇨5

トラッシュ0⇨7

【ギルモン+グラニ】LV3(4)BP12000

 

 

真紅の魔竜、成長期の姿、ギルモンが椎名の場に現れると、すぐさま、真紅の飛行物体、グラニも姿を見せ、ギルモンはその背中に飛び乗った。

 

 

「アタックステップ!!…ギルモンでアタック!!」

 

 

アタックステップに移行し、アタックを仕掛ける椎名。そしてこの瞬間、合体したグラニの効果が発揮されて………

 

 

「グラニの効果!!相手のデッキの上から1枚を破棄し、それと同じ系統を持つスピリット1体を破壊する!!」

 

「っ……!!」

破棄カード↓

【コレオン】◯

 

 

晴太のデッキの上からカードが1枚トラッシュへと落ちる。そのカードはコレオン。系統皇獣を持つスピリットカードだ。そして、晴太の操るスピリットは全て皇獣。いずれかのスピリットを破壊できる。

 

 

「効果は成功!!コレオンと同じ皇獣スピリットのジークを破壊する!!………いけグラニ、ユゴスブラスタァァァァア!!」

 

 

グラニの口から膨大なエネルギーが蓄積されたビームが放たれる。それはジークに直撃し、貫いて爆発させた。一見ギルモンとグラニのコンボでジークを倒し、大金星を挙げたかに見えたが………

 

それを見越していたかのように晴太はバーストカードを反転させ………

 

 

「破壊後のバースト、五輪転生炎!!」

「っ!?」

 

「この効果によりジークを復活!!蘇れ!!」

【龍神皇ジーク・エグゼシード】LV1(1)BP16000

 

 

晴太がマジック、五輪転生炎〈R〉の効果を発揮させる。燃え盛る炎の輪が現れ、その中からグラニによって破壊されたはずのジークが勢い良く飛び出し、場へと復活を果たした。

 

 

「これで空野晴太のブロッカーは3体………どうする気だめざし、このままじゃ突破できんぞ」

 

 

この光景を前に、司は呟いた。確かにこのままでは晴太の残り1つのライフは破壊できない。

 

 

「ジークでブロック!!返り討ちにしてやれ!!」

 

 

復活したジークが口の中に炎を溜め込み、ギルモンを乗せているグラニごと破壊すべく、それを放出した。ギルモンとグラニはそれに呑み込まれ………

 

大爆発を起こした…………

 

飛び散る爆煙と爆風。

 

しかし、そこから姿を見せるスピリットが1体………

 

……それは………

 

 

「なに!?………こいつは………」

 

「BP破壊される直前のフラッシュ、私はフレイドラモンの【アーマー進化】を発揮させ、ギルモンをグラニごと手札に戻し、これを召喚したんだ………」

手札1⇨2

トラッシュ7⇨8

【フレイドラモン】LV2(3)BP9000

 

 

その爆煙、爆風の中姿を現したのは赤きアーマー体スピリット、フレイドラモン。椎名が小さい頃から愛用するマイフェイバリットカードだ。

 

だが………

 

 

「今更その程度のスピリット………俺のバゼルとジークの敵じゃないぞ」

 

 

そうだ。椎名とフレイドラモンに立ちはだかる壁は、フレイドラモンの力だけでは超えることはできない………

 

 

「だけど、可能性がなくなったわけじゃない、フレイドラモンの召喚時効果!!BP7000以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!!」

「BP3000のビレフトを破壊だ、爆炎の拳……ナックルファイアッッ!!」

 

 

フレイドラモンは登場するなり爆炎をその拳に纏わせ、殴りつけるように炎の球として射出。その炎の球はビレフトに直撃し、それを焼き尽くした。

 

それを見届けた椎名はまた少しだけ口角を上げて………

 

 

「そしてこの効果で破壊した時、カードをドローする!!」

「っ………!!」

 

 

 

フレイドラモンのドロー効果に全てがかかったこの状況…………

 

晴太は「ハッ」となって気づき、衝撃を受けた。それもそのはず、今の椎名の言葉、盤面の状況はあの日、椎名達の入学試験で椎名とバトルした時と状況が瓜二つなのだ。

 

晴太は懐かしさから、自然と笑みが溢れて………

 

 

「おいおい、まさかそれで逆転する気じゃないだろうな?たった1枚で」

「へへっ、そのまさかですよ先生、このドローは奇跡を起こしますよ!」

 

 

あの時と同じ言葉を晴太は咄嗟に口にした。椎名も同様にあの時と同じ言葉を使った………

 

そうだ。

 

いつだってそうだ。

 

いつだって椎名のドローは奇跡を起こしてきた………

 

そして今回もそれは起きる………

 

 

「カード、ドローッッ!!」

手札2⇨3

 

 

カードをドローした椎名。これで手札はグラニとギルモンを含め3枚。この状況で晴太のエグゼシードに戦いを挑みに行く………

 

 

「行け、フレイドラモンッッ!!」

 

 

椎名の指示を聞くなり、高い脚力を活かして宙へと飛び上がるフレイドラモン。必殺技である「ファイアロケット」の予備動作だ。

 

 

「だがどうする椎名!!俺はまだバゼルでブロックが可能だぞ!!」

 

 

そう言い張る晴太。しかしその表情は既に憤怒はしておらず、椎名同様にバトルを楽しんでいるのが確かに伺えて………

 

それに対し、椎名はまた楽しげに口角を上げ、最後の最後、この大一番で引いてみせたカードを使用する………

 

 

「フラッシュ【チェンジ】……デュークモン クリムゾンモードの効果発揮!!」

手札3⇨2

【フレイドラモン】(3⇨2)LV2⇨1

リザーブ5⇨0

トラッシュ8⇨14

 

「っ!!」

「この効果により、シンボル合計3つまでスピリットを好きなだけ破壊する!!…バゼルとジークを破壊だ!!」

 

 

紅蓮の炎の龍が椎名の場に現れたかと思うと、すぐさま飛び立ち、晴太のエグゼシード軍団を次々と焼き尽くしていく。

 

ジークとバゼルは忽ち大爆発を起こし、晴太の場はアタックもブロックもできない炎魔神だけが残った………

 

 

(…俺はバカだ……今わかった……下の世代の子達に俺や茜と同じような思いをさせないために教師になったって言うのに、俺は自分で椎名達に同じ思いをさせようとしていたんだ…………)

 

 

紅蓮の炎の龍に焼き尽くされる盤面。フレイドラモンが目を付け、最後のライフを砕こうとする最中、晴太は心の中でそう思った。

 

そうだ。自分はあの日、界放リーグで茜と決着をつけられなかった。ここで椎名が参加できないようにしたら、つまりそれは椎名に自分と同じ思いをさせることになる………晴太は激しく、猛烈に反省して………

 

 

「渾身の爆炎……ファイアァァロケットッッ!!」

「っ!?」

 

 

椎名がそう言うと、フレイドラモンはその身に激しく炎を纏い、晴太の最後のライフめがけて急降下する。晴太は椎名とフレイドラモンのその姿に、赤羽茜とウォーグレイモンの姿を重ね、嬉しさと悲しさから一筋の涙が頬を流れた…………

 

 

「ごめんな、椎名………俺はライフで受ける………」

ライフ1⇨0

 

 

そしてそのアタックを受け入れ、フレイドラモンの渾身の爆炎が、彼の最後のライフを粉々に打ち砕いた………

 

これにより、勝者は芽座椎名。実に3年、ついに彼女は空野晴太を超えてみせた。

 

 

「楽しいバトルだったよ、先生!!」

 

 

椎名は晴太に向けて「ニカッ」と明るく笑いながらガッツポーズを見せつける。その様子を見た晴太は流れた涙を拭い、椎名の前まで行き………

 

 

「俺の負けだ、お前の先生になれた事を………俺は誇りに思うッッ!!」

「……先生」

 

 

ありふれた溢れんばかりの言葉を椎名へと送った。それを聞いた椎名は嬉しそうに頬を緩ませる。

 

 

「参加は許可してやる………でも、無理はすんなよ………」

「あぁ、わかってるよ!!……ありがとう!」

 

 

晴太の教師人生の中、及び生涯を通しても、この芽座椎名程に衝撃的なバトラーは今後、現れない事だろう。晴太はそんな椎名を教師として育てる事が出来た事を何よりの誇りとしていて………

 

その光景をただ1人眺めていた司もそれをクールな表情で尚且つ鼻で笑いながらも、それを微笑ましく見つめていた。

 

だが、ここでまた1つ問題が発生する。晴太はその事を思い出したように口を開き、声を上げ………

 

 

「あっそうだ椎名………」

「はい?」

「界放リーグに参加するんだったらお前、次のテストで赤点は取れんぞ」

「…………へ?」

 

 

晴太の言葉に呆気にとられる椎名。そうだ。当然の事だが、界放リーグは成績が芳しくない生徒は参加できない。筆記試験で赤点が出ればいくらあの芽座椎名と言えども参加するのは不可能だ………

 

 

「良し!!今から俺がお前の成績に赤点をつけられないように、みっちり勉強を見てやろう!!」

「え?……いやいや、いいよんなの!!」

「なぁに言ってんだ、遠慮しなくていいって!」

 

 

晴太からの突然の提案に、椎名の頭の血がサァーっと流れていく。バトルは兎も角、普通の勉強は嫌だ。今まで何度も言われてきているが、椎名は勉強が苦手だ………

 

 

「よし!!そうと決まれば教室に戻るぞ!!」

「え!?いや、ちょ!」

 

 

晴太は椎名が逃げられないように首根っこを捕まえて、椎名を持ち上げて連れ去ろうとする。

 

 

「司!!助けてくれッッ!!」

「こればかりはお前の問題だ、お前がどうにかしろ」

「バカァ!!」

「バカはお前だ」

 

 

咄嗟に司に助けを求めるが、司は助けないし、助ける理由もない。涼しい顔のままそれを断る。

 

 

「さぁ行くか!!先ずはレポート100枚だ!!」

「うわぁぁぁぁ!!!こんな事だったらもっと勉強しとくんだったぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

3年間学業を疎かにしていたツキが回って来た。今日この日は椎名の悲痛な叫びがずっと続いたのだと言う…………

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉

椎名「本日のハイライトカードは【フレイドラモン】」

椎名「私のマイフェイバリットであるフレイドラモン。指定アタックと効果破壊、そしてドローの効果は何度だって私を助けて来れた」


******


〈次回予告!!〉


冬休み、椎名は晴太に呼び出され、学園に行くことに………そしてそこで遂にあの人物と邂逅することになる。……次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「奇跡の邂逅、芽座椎名VS一木花火!」……今、バトスピが進化を超える!!


******


※次回サブタイトルや内容等は変更の可能性があります。予めご了承ください。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


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第106話「奇跡の邂逅、芽座椎名VS一木花火!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『冬休み』………

 

夏と比べ、比較的短い休暇だが、クリスマスや正月等、忙しいイベントが盛りだくさんのこの時期は、多くの学生達が楽しみにしている。

 

この芽座椎名も例外ではないが、彼女にとってはぐうたらでだらしない生活を送れるという理由である。椎名は一人暮らしの自分の家の中、部屋のベッドの上にだらだらと寝転がっていた。

 

この冬休みが明けたらすぐさま全てを懸けた界放リーグが開幕するというにもかかわらずにだ。

 

その異常な落ち着きようは経験によるものなのか、はたまた単に頭がおかしいのかは定かではない…………

 

 

(そんなにのんびりとしていていいのかい椎名?…もうすぐ大きな催しが始まるんだろう?)

「何だよリーパー、知ってたのか」

(ふふ、私は君と一心同体だからね〜〜君が見たものは全部記憶しているんだよ……君の姉兼妹をなめてもらっては困る)

「はいはい」

 

 

そんな椎名の心に直接語りかけてきた人物がいた。

 

その正体は【デ・リーパー】……椎名と瓜二つの容姿を持つエニーズ2号だ。

 

約一年前、Dr.Aが巻き起こしたA事変において街を襲い、破壊した張本人。しかし、実際は生まれたて故の無知な面をDr.Aに利用されていて、自分には居場所がないという余裕の無さからの起こした行動であった。

 

椎名とのバトルで落ち着きを取り戻し、完全に和解。以降彼女らは一体となった。

 

椎名が鬼化せず、その力が凝縮させた進化の目を覚醒させる事ができたのはこのリーパーが体の中にいるためである。

 

椎名とリーパーは今や一心同体。姉妹も同然の仲となっていた。

 

 

「デッキはこの間司と調整した分で十分だよ」

(ふふ、そうか………しかし、あのエニー・アゼムには気をつけるんだよ?……奴はまだ何かを隠している)

「あぁ、わかってる……大丈夫だよ」

 

 

赤羽茜の身体を乗っ取った2000年前の偉人、エニー・アゼム。彼女は必ずまだ何かを隠している………と、言うよりかは嘘を付いている……と言った方が適切かもしれない。

 

椎名とリーパーはどうにも彼女の言っている事が信用できないでいた。それは彼女と最初に出会った時に、彼女から感じた【悪意の塊】が原因であって………

 

 

(まぁ、君の事だから特に心配はしていないけどね………)

 

 

リーパーが椎名に対して安堵したようにそう言った時だ。椎名のBパッドが震え、着信音が鳴り響いた。椎名は机に置いていたBパッドを手に取り、それに応答する。

 

 

「はい」

〈姐さん聞いてください!!〉

「………なんだ五町か」

〈ローテンション!!〉

 

 

その相手は五町だった。活発な明るい声が椎名の耳を通過していく。

 

 

「で、なんだよ?」

〈そうそう、聞いてください!!今日界放リーグの予選があったんスけどね?〉

「うん」

〈なんとなんと!!私そこで優勝してジークフリード校の代表の1人になっちゃいました〜〜!〉

「!?」

 

 

目を見開き、少しだけ驚いた表情を見せる椎名。

 

それもそのはずだ。今回の界放リーグ。ジークフリード校からは椎名と司が代表として出る予定だったが、ジークフリードは強いバトラーが多いため、出来るだけ強いバトラーを参加させようと、司は自分の判断で急遽タイタス校の代表として参加することになったのだ。

 

つまり、結果的にジークフリード校の枠が1つ余った事になっていたのだが、なんとそこにあの岬五町が入ってきたのだ。

 

 

〈これで姐さんと一緒に界放リーグに出れるっス〜〜マジ感動!!〉

「はいはい」

〈適当!!…まぁいいスよ、お互い界放市の最強バトラー目指して頑張しましょう!!〉

 

 

憧れの芽座椎名と同じ舞台に立つ事が出来るのだ。五町としてはこの上ない幸せであろう。

 

しかし、彼女はエニー・アゼムやバーク・アゼムがこの世界を壊そうとしている事を含め、殆どの事情を知らない。戦いに五町を巻き込んでしまった事になる。

 

だが………

 

 

「………あぁ、一緒に頑張ろうな」

〈ハイっス!!姐さんと当たっても手加減しませんよ!!〉

「はは、当然だ……あんたに手加減されちゃ、かっこつかないしな」

 

 

五町に全ての事情を話すわけにはいかない。況してや『危険だ、参加はするな』とも言えない。それは結果として事情を話すことになるからだ。

 

今椎名が五町にできることは五町が危険な相手とバトルしない事を祈る事と五町のバトルの実力を信じる事だけであって…………

 

 

〈んじゃ、楽しみにしてまスよ、姐さん!!〉

「あぁ」

 

 

そう言って、五町は椎名との通話を切った。彼女の活発な声が無くなった事で、椎名の部屋は再び静まりかえる。

 

 

(よかったのかい椎名?…妹分なのだろう?)

「大丈夫さ、私も一緒にいれば守ってやれるし………それに」

(それに?)

「五町は強い。きっと自分の力で危機を乗り越えてくれるさ」

 

 

心の中でリーパーが口を開く。椎名は知らずのうちに五町を認めていた。最初はめんどくさかったが、今では本当に大事な妹分だとも思っている。

 

 

(ふふ、そうか、なんか妬けるな)

「怪しい発言はやめてくれ…………ん?…メールが来てる………」

 

 

椎名がふとBパッドを見ると、一通のメールが来ていた。その相手は空野晴太だ。

 

『お前に会わせたい人がいる』

 

と書かれており、続けざまに場所が指定されていた。おそらくここに来い。と言う事なのだろう。

 

 

「なんだよこんな寒い時期に……ていうか、私に会わせたい人って誰だよ」

 

 

それにしても、『自分に会わせたい人』とだけ言われても検討がつかない……

 

椎名は少しめんどくさかったが、致し方ないか、服装を整え、その指定された場所へと向かう事にした。

 

 

******

 

 

ジークフリード校にある第3スタジアム。いくつもの激戦が繰り広げられて来たこのスタジアムが晴太が椎名に指定して来た場所、椎名は今このスタジアムの扉の目の前にいる。

 

椎名は鉄でできたその扉を両手で開け、中へと入る。そしてすぐさま、自分に背を向け、バトル場に立っていた晴太と思わしき人物に声をかける……

 

が………

 

 

「おぉ〜〜い、先生〜〜!!……来てやったよ〜〜…………?」

「………晴太の奴は来ねえよ」

「あ、あなたは!?」

 

 

衝撃を受け、思わず口を閉じる椎名。それもそのはず、その場に立っていた男性は晴太ではなく………

 

予想だにしていなかった人物………

 

 

「い、一木花火さん!?」

「はじめまして………ではないよな?…芽座椎名ちゃん」

 

 

明るい茶髪の髪の毛、首にかけられた椎名のものより大きなゴーグル。確かな力強さを感じさせる雰囲気と物言い………彼は椎名がずっと憧れていた存在である、プロのカードバトラー、一木花火その人だった。

 

 

「な、なんであなたが………」

「え?いやなんか、晴太が君との約束を守るためだからってどうたら言ってたから来てやっただけだけど………」

「約束………あ」

 

 

椎名は思い出した。2年以上前に確かに晴太は椎名に約束していた。『俺に勝てば一木花火に会わせてやる』と………そして先月、自分はそれを達成し、彼はその約束を守った。

 

その結果がこの状況だ。遂に椎名と花火は奇跡の邂逅を果たしたのだった。

 

 

「その角みたいな髪型………やっぱ君はあの時の『しいちゃん』なんだろ?……そのゴーグルも俺のだしな」

「お、覚えててくれたんですか!?」

「あぁもちろんさ!!」

 

 

花火はなんと12年前に当時6歳の椎名と出会っていたことを覚えていた。椎名にとってこれほどの喜びはないだろう。

 

 

「あ……あの……」

「ん?」

「こ、このゴーグル……」

 

 

椎名は首にかけていたゴーグルをぎこちない様子で取り、花火に差し出した。彼女は決めていた。次に会うときに絶対にこのゴーグルを返そうと………

 

だがその様子を察した花火は………

 

 

「いいよいいよ、返さなくて、元々あげるつもりだったし」

「え?…いや、でも………」

「いいっていいって!」

 

 

親指を上に立てながらそう明るく言う花火に、椎名は戸惑いながらもそのゴーグルを自分の首にかけ直した。

 

 

「そう緊張すんなって、俺がなんで晴太に呼び出されてここに来たかわかるか?」

「なんでって…………………ハッ…まさか私とバトルするために!?」

「察しが良いな、御名答だ!!」

 

 

いつもはクールな椎名も流石に憧れの一木花火との会話では緊張している様子である。

 

だが、花火にとっては今から自分とバトルする椎名に緊張してもらっては困る。花火は晴太を超えるくらい強くなった椎名に興味が湧き、今ここにいるのだ。

 

 

「俺とのバトルスピリッツ……受けてくれるよな?」

「……は、ハイ!!よろしくお願いします!!」

「いや、だから固くならなくていいって……天然?」

 

 

珍しく……いや、久し振りと言うべきか、真っ直ぐな姿勢で礼儀正しくお辞儀する椎名。花火をどれだけ強く尊敬していたのかが理解できる。

 

2人は颯爽とこのスタジアムのバトル場に立ち、自身のBパッドを展開し、デッキをセットした。

 

 

「さぁ!君の実力を俺に余すことなく見せてくれ!!」

(この人は私が知る中じゃ一番強くてかっこいいカードバトラーだ………まさか、ほんとにバトルできる日が来るなんてね……)

 

 

憧れていた人物とのバトル。こんなに嬉しいことはない。椎名は心の底からワクワクしていた。

 

そして、遂に始まる。2人の英雄のバトルが………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共に世紀の一戦とも呼べるバトルスピリッツが幕を開ける。先行は花火だ。

 

 

[ターン01]花火

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はネクサス、勇気の紋章を配置!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【勇気の紋章】LV1

 

「っ!!」

 

 

花火の背後に太陽を模した紋章が浮かび上がってくる。これは彼の操るグレイモンデッキには必須級のカード。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ!…次は君の番だ、見せてみろよ、君のバトルスピリッツを!!」

【勇気の紋章】LV1

 

バースト【無】

 

 

「はい!!…行きますよ花火さん!!」

 

 

そのターンをエンドとする花火。次は椎名のターンだ。勢いよくそれを進行する。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ(……勇気の紋章、花火さんのライフが減るたびに私のBP5000以下のスピリットを破壊する効果を持つ……でも今私の手札には、これがある!!)

 

 

椎名は勇気の紋章の効果を思い出しながら、有効となる一手を見出した。早速手札のカードを1枚引き抜いて………

 

 

「私はブイモンを召喚!!効果を発揮!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨3

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【フレイドラモン】◯

【デジヴァイス】×

 

「なるほど、それが君のデッキの成長期スピリットか」

 

 

小さな青い竜の成長期スピリット、ブイモンが椎名の場に呼び出される。その効果も成功し、椎名は【フレイドラモン】のカードを手札に加える。

 

そしてたった今加えた手札のそれを花火に見せつけるように翳し、効果発揮の宣言を行う。

 

 

「フレイドラモンの【アーマー進化】発揮!!対象はブイモン!!」

手札4⇨5

リザーブ1⇨0

トラッシュ3⇨4

 

「!!」

 

 

ブイモンの頭上に赤いデジメンタルが投下される。ブイモンはそこに向かって飛び立ち、それと衝突して混ざり合い、新たな姿へと進化を遂げる。

 

 

「燃え上がる勇気、フレイドラモンッッ!!」

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000

 

 

現れたのは炎燃ゆる竜人型のアーマー体スピリット、フレイドラモン。椎名のマイフェイバリットカードだ。

 

 

「アーマー体スピリット……成る程、勇気の紋章の上限を超えてきたか……」

「その通りです!!…アタックステップ、フレイドラモン……いけぇ!」

 

 

フレイドラモンのBPは6000。勇気の紋章の破壊効果の上限を超えている。

 

椎名の指示により、フレイドラモンが炎の弾丸を拳から発射する。花火は当然ながらこれを守る手段は無くて………

 

 

「ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

花火のライフ1つがそれと衝突し、粉々に砕け散った。

 

 

「よし、ターンエンドだ!」

【フレイドラモン】LV1(1)BP6000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

笑顔を見せ、そのターンをエンドとする椎名。次は花火のターン。彼はゆっくりとターンを進めていき………

 

 

[ターン03]花火

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、行くぞ椎名ちゃん!」

「っ!!」

 

 

手札を構える花火。それを見るなり身構える椎名。

 

花火は手札からあのスピリットを召喚する。

 

 

「俺はアグモンをLV2で召喚!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨1

【アグモン[2]】LV2(3)BP5000

 

 

体の黄色い恐竜を限りなくデフォルメしたような赤属性の成長期スピリット、アグモン。花火のデッキの核となる重要なスピリットだ。

 

 

「これが花火さんのアグモン……!!」

 

 

椎名はこの3年間の間で何度かこのアグモン自体は視認してきているが、あの一木花火が召喚したアグモンだと、やはりわけが違うか、感動の声を上げた。

 

 

「さらにネクサス、友情の紋章を配置!!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

トラッシュ1⇨3

【友情の紋章】LV1

 

「……またネクサスが」

 

 

花火は続けざまに背後に勇気の紋章と並ぶ友情の紋章を配置。太陽の横に紫色の文様が浮かび上がってきた。

 

 

「でもって、俺も攻めるか………アタックステップ、アグモンの【進化:赤】を発揮!!」

「!!」

 

「成熟期スピリット、グレイモンに進化!!」

【グレイモン】LV2(3)BP5000

 

 

アグモンがデジタルコードに包まれて行き、その中で姿形を大きく変化させる。やがてそれを解き放ち、新たに姿を見せたのは、三本の立派な頭角を持つ成熟期スピリット、グレイモン。

 

 

「おぉ!進化した!!」

「喜んでる場合じゃないぞ!!俺はさらにグレイモンでアタック!!【超進化:赤】を発揮!!」

「!!」

 

「グレイモンを完全体、メタルグレイモンへと進化ッッ!!」

【メタルグレイモン】LV2(3)BP9000

 

 

グレイモンがさらにデジタルコードに包まれていき、その身体をより巨躯たるものに、そしてサイボーグ化させていく。

 

やがてそれを弾け飛ばし、中から現れたのは完全体のグレイモン、メタルグレイモン。椎名とフレイドラモンに対して威嚇するように咆哮を張り上げた。

 

 

「す、すごい、これが花火さんの進化コンボ!!」

「だから、喜んでる場合じゃないぞ……メタルグレイモンの召喚時効果、BP12000以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!!」

「フレイドラモンを破壊だ!!……ギガデストロイヤーッッ!!」

「フレイドラモンッ!?」

 

 

メタルグレイモンは登場するなり胸部のハッチを開き、そこから巨大なミサイルを発射する。それは真っ直ぐに椎名のフレイドラモンへと向かって行き、やがて被弾。フレイドラモンは堪らず爆発四散した。

 

 

「……………へへ、浮かれ過ぎたかな?」

 

 

笑みを浮かべながらそう言う椎名。生で花火の進化コンボを堪能できた喜びと、今それと真正面でバトルしている喜びが確かにこの逆境を楽しむスパイスになっていて………

 

 

「メタルグレイモンでアタック!!…友情の紋章の効果でアタックステップ中、完全体以下のデジタルスピリットはBP3000アップ!!」

【メタルグレイモン】BP9000⇨12000

 

 

そんな椎名に対しても容赦なく攻撃を仕掛けてくる花火。友情の紋章は自分のアタックステップ中、成長期から完全体のスピリットのBPを上昇させる力がある。

 

 

「ライフで受ける!!」

ライフ5⇨4

 

 

メタルグレイモンのサイボーグ化した左半身の強靭なアームによる一撃が椎名のライフを襲う。それは1つ切り裂かれた。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ」

【メタルグレイモン】LV2(3)BP9000(疲労)

 

【勇気の紋章】LV1

【友情の紋章】LV1

 

バースト【無】

 

 

そのターンを終える花火。流石と言ったところか、たったの1ターンで椎名との立場を逆転させてしまった。

 

そして次は椎名のターンだ。この逆境にどう挑むか……

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨7

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!私もネクサスカード、ディーアーク、デジヴァイス、D-3の3枚を連続配置!!」

手札6⇨3

リザーブ7⇨1

トラッシュ0⇨6

 

 

椎名の腰に3つの小さな機械が取り付けられる。それはデジタルスピリットを全力でサポートするネクサスカードだ。場を瓦解させられた今、これらで新たな足場を作ることを優先したのだろう。

 

 

「さらにバーストを伏せ、ターンエンド!」

手札3⇨2

 

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【有】

 

 

さらにバーストまでセットしてそのターンをエンドとした。次は今一度花火のターンだ。

 

 

[ターン05]花火

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

【メタルグレイモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、俺は勇気の紋章と友情の紋章をLV2へアップ!」

リザーブ4⇨2

【勇気の紋章】(0⇨1)LV1⇨2

【友情の紋章】(0⇨1)LV1⇨2

 

 

勇気の紋章と友情の紋章がそれぞれ赤と紫に光り輝く。それにより新たなる効果を得た。

 

 

「さらに俺は成長期スピリット、バクモンをLV1で召喚!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

トラッシュ0⇨1

【バクモン】LV1(1)BP2000

 

 

花火はさらにメタルグレイモンの横にバクのような見た目の成長期スピリット、バクモンを召喚する。その効果は成長期スピリットらしくサーチ効果だ。

 

 

「効果により2枚オープン、その中の完全体、究極体のスピリット1枚を手札に!!」

オープンカード↓

【ダイナパワー】×

【ウォーグレイモン】◯

 

 

効果は成功。花火は究極体スピリットであるウォーグレイモンのカードを手札へと加え、残りはトラッシュへと破棄した。

 

しかし、椎名はその瞬間に伏せていたバーストを勢い良く反転させて…………

 

 

「私はこの時を待っていた!!……相手のスピリットの召喚時効果発揮後のバースト、メギドラモンを発動!!」

 

「!!」

手札3⇨4

 

「この効果により、スピリットを合計BP15000まで好きなだけ破壊する!!私はBP9000のメタルグレイモンと2000のバクモンを破壊する!!」

「成る程、メタルグレイモンは疲労状態だとスピリットとブレイヴの効果を受けないからな。疲労させたくてもできないこのメインステップが狙い目だったってわけだ」

「その通りだ………地獄の咆哮…ヘル・ハウリング!!」

 

 

花火の場の地面から怒号のような雄叫びが木霊する。それを直に受けてしまったバクモンとメタルグレイモンは堪らず爆発四散する。

 

 

「さらにその効果発揮後、メギドラモンを召喚する!!……現れよ!!」

リザーブ1⇨0

【メギドラモン】LV1(1)BP7000

 

 

椎名の場の地面から煉獄の炎と共に勢い良く飛び出してきたのは、地獄の魔竜、メギドラモン。荒々しい咆哮、佇まいはこの場で一際印象に残る。

 

 

「さらにディーアークの効果でカードドロー!」

手札2⇨3

 

 

劣勢だった状況から一変。疲労状態では耐性を持つメタルグレイモンを除去しつつ、それより強力な究極体スピリットを召喚してみせた。

 

……だが、一木花火はそこまで甘くはない。バクモンとメタルグレイモンの爆発による爆煙。それが晴れる時、何もいないはずの彼の場には、他でもない、破壊されたはずのメタルグレイモンが健在していた。それも膝をついた疲労状態で………

 

 

「なにっ!?」

 

「フッ、中々良い一手だったけど、甘かったな。俺はネクサスカード、友情の紋章のLV2効果を発揮させたのさ!!………自分の完全体、究極体スピリットが破壊される時、手札1枚を破棄する事で、疲労状態で残る!」

手札4⇨3

破棄カード↓

【グレイモン】

 

「そ、そんな効果が………」

 

 

メギドラモンのヘル・ハウリングの効果でメタルグレイモンが破壊された時、花火は咄嗟にその効果を発揮させ、蘇らせたのだ。

 

場を瓦解させたつもりが、結局は花火の思惑通りにバトルが展開された事になる。

 

 

「発想は良かったけどな。俺はマジック、大切なものを使用し、カードを2枚ドロー!!………バーストを伏せる」

手札3⇨2⇨4⇨3

【メタルグレイモン】(3⇨1)LV2⇨1

 

 

このターンはもうまともな攻撃はできないとみた花火はシフトを変え、ドローとバーストのセットを行った。

 

 

「そしてエンドステップ、トラッシュにあるダイナパワーの効果、地竜スピリットであるメタルグレイモンが存在するため、手札に回収…………でもってエンドだ!!」

手札3⇨4

 

【メタルグレイモン】LV1(1)BP6000(疲労)

 

【勇気の紋章】LV2(1)

【友情の紋章】LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

バクモンの効果で落とされていたマジックカード、ダイナパワーが自身の効果で彼の手札へと向かう。そして花火はそのターンをエンドとした。

 

結果としては花火の読みが当たり、メタルグレイモンが万全の状態で構えた事になる。

 

 

(つ、強い……戦術を読みきったつもりでも読みきれない…………!!)

「なぁ椎名ちゃん」

「?」

 

 

プロのカードバトラーである一木花火の隙のない圧倒的な実力を感じ始める椎名に、その花火が口を開いて………

 

 

「君は確かに強い……けど、君はその強さの先に何を見る?」

「へ?……何って………」

 

 

花火からの突然の謎めいた問い掛けに、椎名は逆に疑問符を浮かべる………

 

 

「言い方を変えようか………これから先、君が学生の間で今できることを全て終えた後、その先をどうするのか聞いてるんだ」

「今できることを終えた後………」

 

 

考えてもいなかった。

 

エニー・アゼム達を倒した後、卒業した後、自分が何をするかなんて…………

 

他のみんなは大抵の進路はすでに決まっている。例えば、司と雅治はプロになるし、真夏はバトスピ学園の教師の資格を取るために大学に入学する。

 

自分は何も考えていなかった。昔はただただ花火のようなカッコいいバトラーになるという漠然とした夢を掲げていたが、今となっては具体的にどうすればいいのか決断できない。

 

 

「俺は自分の強さの先にプロになる道を選んだ。もともと俺はあまりバトルの表舞台に立つ気は無かった………けど、俺の強さをこの世界に証明することができればきっと俺の仲間やライバルに届く……そう信じた結果の道なんだ!」

「仲間やライバルに届く……?」

「はっは、まぁわかんなくてもいいよ!」

 

 

花火は約13年前、異世界で冒険した事がある。その仲間達やライバルとはその世界で出会った人物達の事を指している。当然ながらその異世界に出向いたことのない椎名が分かるわけもなくて………

 

 

「私の道………」

「まぁそんな躍起になって考えなくてもいいさ………多分、その答えはこのバトルの中にあるぜ!」

「……バトルの中に……」

「あぁ、そのために今君の目の前に俺がいる!!」

「………ッ!」

 

 

花火の言葉に、椎名は椎名は確信を持った。このバトルの中………

 

最高にして最強にカッコいいカードバトラーである彼なら、彼とのバトルなら………

 

何かが見えてくる。そんな気がした。

 

そう思うと、深く考えていて塞ぎ込んでいた表情も明るくなっていて…………

 

 

「来いよ椎名ちゃん!!」

「はい!!花火さん、私のターンだ!!」

 

 

椎名はまた飛び出すような勢いでターンを進行していく。

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨7

トラッシュ6⇨0

 

 

「メインステップ!!…私はブイモンを召喚!!効果発揮!!」

手札4⇨3

リザーブ7⇨4

トラッシュ0⇨2

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【マリンエンジェモン】×

【スティングモン】◯

 

 

椎名の場に再びブイモンが姿を見せたかと思うと、すぐさま効果を発揮させ、椎名の手札に新たなカード、【スティングモン】が加えられる。

 

 

「さらに2コア支払いスティングモンを追加召喚!!……ディーアークの効果でドロー!!」

手札3⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ2⇨4

【スティングモン】LV1(1⇨2)BP5000

 

 

スマートな昆虫戦士、スティングモンも場へと姿を見せる。その効果でさり気なく椎名のコアが増加する。

 

 

「そしてメギドラモンをLV2へアップ!!」

リザーブ1⇨0

【スティングモン】(2⇨1)

【メギドラモン】(1⇨3)LV1⇨2

 

 

メギドラモンのLVが上昇する。メギドラモンはそれを主張するかのように、また巨大な咆哮を張り上げてみせた。

 

 

「行くぞ花火さん!!アタックステップ、成長期スピリットのブイモンがいる事により、デジヴァイスを疲労させ、1枚ドロー!!」

手札4⇨5

【デジヴァイス】(回復⇨疲労)

 

 

猛烈にデッキを回転させていく椎名。あれだけスピリットを展開しているにもかかわらず、手札はほとんど減らないどころか寧ろ増幅させている。

 

 

「スティングモンでアタック!!」

【スティングモン】(1⇨2)

 

 

このターンの最初のアタックはスティングモン。その効果でまたさり気なくコアが増加した。

 

だがこの初っ端のタイミングで花火はカウンターを仕掛ける…………

 

そのカードは今や誰もが知るあのエーススピリット。

 

 

「【煌臨】発揮!!対象はメタルグレイモン!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ1⇨2s

 

「!!」

 

 

メタルグレイモンが強い咆哮を上げる。それはまさしく進化の兆し。みるみるうちにオレンジの炎に包まれていく………

 

その様子に、椎名は思わず嬉しさに顔を歪ませる。わかっているのだ。今から何が呼び出されるのかを…………

 

 

「鋼鉄の竜よ!!今こそ最強の竜戦士となりて敵を討て!!……………究極進化ぁぁあ!!!」

手札4⇨3

 

 

メタルグレイモンはそのオレンジの炎の中で大きく姿形を変化させていく。それはもはや恐竜ではなく、竜人。無敵の武装と共に敵を穿つ最強の竜戦士だ。

 

 

「……………ウォーッ!!グレイモンッ!!!」

手札4⇨3

【ウォーグレイモン】LV1(1)BP9000

 

 

その炎を腕の鉤爪の武器で切り裂きながら姿を見せたのは、一木花火の長年のエーススピリットにしてフェイバリットカード、【ウォーグレイモン】これまで数々のドラマと奇跡を生んできた、まさにヒーローオブヒーローとでも言うべきスピリットである。

 

 

「おぉ!!これが花火さんのエース、ウォーグレイモンッッ!!やっぱ本物は違うなぁ!!」

 

 

ようやく出会えたウォーグレイモンに、椎名も胸を踊らせ、歓喜の声を上げる。

 

 

「そう、これが俺のエース、ウォーグレイモンだ!!……俺は今までどんな時でもこいつと一緒に乗り越えてきた!!」

「……どんな時でも……!!」

 

 

拳を握り、そう語る花火。その澄み切った声色からは確かな説得力があり、椎名は心を震わせ感激した。

 

 

「ウォーグレイモンの煌臨時効果!!BP15000までスピリットを好きなだけ破壊する!!」

「!!」

「BP2000のブイモン。そしてBP11000のメギドラモンを破壊する!!……大玉ガイアフォースッッ!!」

 

 

ウォーグレイモンは登場するなり、掌を合わせ、間隔を広げると共にその間から巨大な炎の球を形成させていく。最大まで大きくすると、それをブイモンとメギドラモンに向けて全力で投げ込んだ………

 

 

「でも、そう来るのはわかってた……滅龍スピリットが効果の対象となる時、私は手札のこのカード、グラニの効果を発揮!!」

「っ!?」

 

「1コスト支払ってメギドラモンに直接合体する形で召喚!!……さらにこのターン、メギドラモンは効果破壊できない…弾き返せッッ!!」

手札5⇨4

【ブイモン】(1⇨0)消滅

トラッシュ4⇨5

【メギドラモン+グラニ】LV2(3)BP17000

 

 

ブイモンが不足コストで消滅してしまうものの、椎名の場に真紅の飛行物体、グラニが現れる。

 

グラニはウォーグレイモンのガイアフォースを天井へと弾き飛ばした。ガイアフォースはそのまま消滅する。

 

 

「……大玉ガイアフォースを凌ぐなんてな………」

 

「まだまだ!!私のバトルはこんなものじゃない!!今度は私のフラッシュ!!……【煌臨】を発揮!!対象はメギドラモン!」

【スティングモン】(2s⇨1)

トラッシュ5⇨6s

 

「っ……君も煌臨を……!!」

 

 

メギドラモンを守るだけじゃない。椎名は攻勢に転ずるべく、花火同様煌臨を発揮させる。

 

メギドラモンが赤い光に包まれていき、その姿形を大きく変化させていく。その容姿、勇姿はまさしく聖騎士。やがてそれはその光を弾き飛ばし………

 

 

「来い、赤きロイヤルナイツ…デュークモンッッ!!」

手札4⇨3

【デュークモン+グラニ】LV2(3)BP20000

 

「っ!!」

 

 

メギドラモンに代わり新たに椎名の場へと姿を現したのは白い鎧を身に着け、赤きマントを靡かせる赤属性のロイヤルナイツ、デュークモン。

 

 

「花火さん!!あなたのエースがそのウォーグレイモンなら、私のエースはこの、ロイヤルナイツ……デュークモンです!!」

「成る程、同じターンに互いのエーススピリットの登場……ますます面白い子だ……!!」

 

 

睨み合うウォーグレイモンとデュークモン。互いの最強にして最高のエーススピリットが召喚された今、このバトルはより加速していくことが目に見えていて………

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【ウォーグレイモン】!」

椎名「花火さんのエース、ウォーグレイモンはグレイモン系最強と言われるスピリット。召喚と煌臨時の破壊効果と、アタック時のライフバーン効果を有していて、纏まった性能を持ったオールラウンダーだ」



******


〈次回予告!!〉


この最高のバトル。最高の時を過ごせた事は、椎名にとって二度と忘れられない記憶となる事だろう………椎名はこのバトルの先にいったい何を見出すのか………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「勇気&友情VS皇帝竜&真紅の騎士!」……今、バトスピが進化を超える!!


******


※次回のサブタイトルや内容等は変更の可能性があります。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

最終回じゃないですよ〜〜どうしようにもこういう展開にしかできなかった私を許してください………しかしながらまだ最終章じゃないですしね。そこらへんは差別化できます。きっと………


セリフやタイミング等の都合もあって、友情の紋章はアタックステップ中ずっと発揮されますが、今回はメタルグレイモンのアタック時に発揮されているかのような描写になっています。予めご了承ください。

前回の【第105話】にてご指摘があったのですが、それに返信した途端に何故かそのコメントごと消えてしまったので、他の方々を含めても伝わっているかわからない事もあり、一応今ここでもう一度説明させていただきます。

合体スピリットが破壊されて、五輪転生炎等の破壊後のバースト効果で復活する際は、その合体していたブレイヴは合体状態では復活できません。
あの時はジークとバゼルが炎魔神と合体している状態で、椎名がグラニの合体時効果でジークを破壊。先生が五輪転生炎〈R〉の効果でジークをトラッシュから蘇生。だけど、ジークはその破壊によって炎魔神との合体が切断されていました。よって、椎名のクリムゾンモードの【チェンジ】の効果でジークのシンボル1つと、炎魔神と合体したバゼルの2つの合計3つで纏めて破壊できたんですよね。その証拠に、ジークが復活した際は【龍神皇ジーク・エグゼシード】のみの表記となっており、【+炎魔神】の一文は消えていました。
その点ももっと詳しく説明を入れたかったのですが、なにぶんテンポや雰囲気が悪くなるため、不可能でした。

後、これからは感想欄なて、ご指摘のみのコメントが送られたら、私からの返信は一切しないことにします。(確認はします)本来感想欄は作品の感想を書くところです。ご指摘のみでしたら誤字報告等を活用してください。ご理解のほどよろしくお願いします!



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第107話「勇気&友情VS皇帝竜&真紅の騎士!」

因みに度々登場していた一木花火とはオバエヴォが始まる前の私の前作、『バトルスピリッツ オメガワールド』の主人公です。
そんなオメガワールドの特別編にて、椎名や六月、葉月が実は先行で登場していました。椎名の首にゴーグルが掛けられている理由も判明します。


 

 

 

 

 

 

 

芽座椎名は生涯、このバトルのことを………

 

与えられた最高の時間を、片時も忘れることはないだろう………

 

 

******

 

 

芽座椎名と一木花火のバトルは続く。現在は椎名の第6ターン目。

 

 

《椎名》『ライフ4』『手札3』

【スティングモン】LV1(2)BP5000(疲労)

【デュークモン+グラニ】LV2(3)BP20000(回復)

 

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

《花火》『ライフ4』『手札3』

【ウォーグレイモン】LV1(1)BP9000(疲労)

 

【勇気の紋章】LV2(1)

【友情の紋章】LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

椎名のアタックステップ中であり、スティングモンが現在進行形でアタック中である。その最中で花火のウォーグレイモン、そして椎名のデュークモンが煌臨したのだった………

 

互いのエーススピリットである両者は沈黙ながらも鋭い視線で睨み合っていて………

 

 

「花火さん!!あなたのエースがそのウォーグレイモンなら、私のエースはこの、ロイヤルナイツ……デュークモンです!!」

 

 

強く叫ぶ椎名。今まさに最強のデジタルスピリット同士のバトルが繰り広げられようとしていた………

 

 

「そうか、それが君のエーススピリット、デュークモンか、世界で1枚ずつしか存在しない伝説のデジタルスピリットカード、ロイヤルナイツの一柱!……こいつは面白くなってきたな」

「へへ、だけど先ずはスティングモンのアタックを受けてもらいますよ!!……いけぇ!」

 

 

ウォーグレイモンの煌臨も、デュークモンの煌臨も、全ては椎名のスティングモンのアタック中のフラッシュタイミングで起こった出来事。

 

それ故にスティングモンが無駄の無い動きで地を走る。狙いは当然、花火のライフだ。

 

 

「来いよ、ライフで受けてやる……っ」

ライフ4⇨3

 

 

スティングモンの拳の一撃が花火のライフを1つ玉砕する。だがここで同時に花火のカードが起動し………

 

 

「この瞬間、勇気の紋章の効果でBP5000以下のスティングモンを破壊する!!」

「!!」

 

 

花火の背後で照りつけるように輝く太陽を模した勇気の紋章から炎の弾丸が放たれる。スティングモンはそれに直撃し、焼き尽くされた。

 

しかしながら椎名とてこうなる事はわかっていた。今度は待ちに待ったデュークモンのアタック。椎名はBパッド上にあるそのカードを横向きにし………

 

 

「これが大本命だ……デュークモンでアタックッッ!!」

 

 

デュークモンにアタックの指示を送る椎名。デュークモンとそれと合体しているグラニにはこの瞬間に発揮できる効果があり……

 

 

「グラニの合体時効果!!相手のデッキを1枚破棄し、それと同じ系統のスピリットを破壊する!!」

 

「!!」

破棄カード↓

【ガルルモン[2]】×

 

 

デュークモンの頭上を旋回するグラニが花火に向かって眼光を放つと、彼のデッキの上のカード1枚が怯えるようにトラッシュへと送られる。

 

だが、それはウォーグレイモンの持つ系統を持たないガルルモン[2]のカード。破壊には至らなかった……

 

しかし………

 

 

「ハズレだな」

「いやまだだ!!今度はデュークモンのアタック時効果!!…シンボル2つ以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!?」

「私は当然、ウォーグレイモンを破壊する!!……聖槍の一撃……ロイヤルセェェバァァァア!!!」

 

 

デュークモンが右腕の槍を構えると、その先端部に光の力を集中させる。最大限にまでためると、それをウォーグレイモンに向けて一直線に放出。

 

ウォーグレイモンはそれに腹部を貫かれ、大爆発を起こした。これで破壊され、エーススピリット同士の対決は椎名のデュークモンが勝利した………

 

かに見えたが………

 

 

「ッ!!」

 

「俺は友情の紋章LV2効果により、手札を1枚破棄し、ウォーグレイモンを疲労状態で場に残す!!」

手札3⇨2

破棄カード↓

【アグモン[2]】

 

 

ウォーグレイモンの破壊による爆発で生じた爆煙と爆風が晴れると共に姿を現したのは、破壊されたはずのウォーグレイモン。

 

その決着は未だ着かずか……

 

 

「だけどまだデュークモンのアタックは生きてる!!…貫けぇ!!」

 

「それもライフだ!!……っ」

ライフ3⇨1

 

 

ウォーグレイモンが破壊されなかったとは言え、デュークモンのアタック自体が空振りになったわけではない。デュークモンの槍から繰り出される刺突が、その上空を飛ぶグラニの体当たりがそれぞれ1つずつ花火のライフを破壊した。

 

この猛攻により、花火のライフは風前の灯である1に陥ってしまったが………

 

 

「流石ロイヤルナイツ……効いたぜ、だけどまだまだだな!!ライフ減少によりバースト発動!!」

「!!」

 

「エクスティンクションウォール!!このバトル中に破壊された分のライフを回復!!よって、俺のライフは2回復だ!!」

ライフ1⇨3

 

「なにっ!?」

 

 

花火のバーストカードが勢いよく反転したかと思えば、そのライフが急激に回復していく。この効果により、デュークモンのアタックがプラマイゼロとなってしまい………

 

 

「デュークモンの攻撃をここまで躱すなんて……!!」

「いやいや、避けるだけじゃない。次のターンで俺は攻めるぞ!!」

 

「っしゃぁ!!かかってこい花火さん!!ターンエンド!!」

【デュークモン+グラニ】LV2(3)BP20000(疲労)

 

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV1(疲労)

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

バトルに対する熱がどんどん熱くなってきた両者。椎名はそのターンをエンドとし、それを花火へと渡す。彼は勢い良くターンを進行していき………

 

 

[ターン07]花火

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札2⇨4

 

 

このターンのドローステップ時、花火のネクサスカード、勇気の紋章LV2効果が発揮され、そのドロー枚数を1枚増やした。

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨8

トラッシュ4⇨0

【ウォーグレイモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!ウォーグレイモンのLVを3にアップさせ、マジック、ダイナパワーを発揮!!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨1

【ウォーグレイモン】(1⇨4)LV1⇨3

 

「!!」

 

「この効果により、このターンの間、ウォーグレイモンはBPプラス3000!!さらに指定アタックの効果を得る!!」

【ウォーグレイモン】BP16000⇨19000

 

 

急速に力を増幅させていくウォーグレイモン。瞬間的に赤き光を放ち、椎名の場に佇むデュークモンを睨みつける………

 

 

「アタックステップ!!…ウォーグレイモンでアタック!!ダイナパワーの効果で君のウォーグレイモンを狙い撃ちにさせてもらうぞッッ!!」

「っ!?…BPはまだデュークモンの方が高いのに!?」

 

 

花火の指示により、ウォーグレイモンが椎名のデュークモンめがけて駆け出す。デュークモンもグラニと共に迎撃に向かう。

 

手始めに掌から小型のガイアフォースを何発も投げ込むウォーグレイモン。デュークモンは槍や盾でそれを弾き飛ばしていく。

 

今のままではウォーグレイモンはデュークモンには勝てない。1000という僅かな差ではあるが、ウォーグレイモンはデュークモンに劣っていて………

 

しかし、一木花火が何も考え無しに突っ込んで来るわけがなく…………

 

 

「それはどうかな?……フラッシュマジック、ソウルドロー!!……ウォーグレイモンのBPをさらに4000アップ!!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨1

トラッシュ1⇨4

【ウォーグレイモン】BP19000⇨23000

 

「ッッ!!」

 

 

グラニがウォーグレイモンに向かって突撃する。しかし、その間にウォーグレイモンのBPがさらに跳ね上がる。ウォーグレイモンは向かって飛んでくるグラニを捕まえて椎名の場へと投げ飛ばした。

 

グラニは破壊はされていないものの、鈍い機械音を立てながら撃墜してしまう………

 

 

「これでBP20000のデュークモンは超えた!!そのまま打ち上げろ!!」

 

 

彼の決めセリフである「打ち上げろ」と共にウォーグレイモンが今一度デュークモンに狙いを定めて駆け出す。デュークモンも改めて槍と盾を構える。

 

椎名もやられてばかりではない。反撃に出るべく手札のカードを引き抜いて………

 

 

「フラッシュマジック、レッドカード!!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

トラッシュ6⇨8

 

「!!」

 

「このターン、デュークモンのBPを3000上げる!!……これでウォーグレイモンと並んだ……!!」

【デュークモン+グラニ】BP20000⇨23000

 

 

椎名も負けじとBPパンプアップのマジックを切る。デュークモンのBPが3000上がり、ウォーグレイモンと並んで見せた。

 

 

「やっぱ君面白いな!!……打ち上げろウォーグレイモンッッ!!」

「デュークモン……いけぇ!」

 

 

2人の指示により、ウォーグレイモンは鉤爪を、デュークモンは槍と盾を構えて飛び交う。互いが互いを狙った一撃が同時に炸裂し、2体はほぼ同時に力尽き、大爆発を起こした。

 

これにより、エーススピリット同士のバトルは引き分けとなる。

 

 

「(これ以上手札は減らせないか………)俺は友情の紋章の効果を発揮させない………」

 

 

この時、花火には手札1枚を犠牲にすることによって、ネクサスカードである友情の紋章の効果を発揮させ、ウォーグレイモンの破壊を防ぐ事が出来た。

 

が、これ以上の手札の損失は椎名とのバトルでは危ないと見て、今回は見送ったのだ。

 

 

「まさか、俺のウォーグレイモンと引き分けるなんてな!!……ターンエンドだぜ!!」

【勇気の紋章】LV2(1)

【友情の紋章】LV2(1)

 

バースト【無】

 

 

出来ることは全て終え、花火はこのターンをエンドとした。次は椎名のターンだ。彼の場がガラ空きの今がチャンスではあるが………

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨11

トラッシュ8⇨0

【グラニ】(疲労⇨回復)

【デジヴァイス】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!至高の竜戦士、パイルドラモンをLV3で召喚ッッ!!」

手札3⇨2

リザーブ11⇨0

トラッシュ0⇨6

【パイルドラモン】LV3(5)BP13000

 

「おぉっ、今度は完全体か!!」

 

 

椎名の場に飛来してきたのは強固な甲虫の甲殻を持つ竜人型のデジタルスピリット、パイルドラモン。

 

 

「ディーアークの効果でドロー!!…バーストを伏せる」

手札2⇨3⇨2

 

 

さらにネクサスでのドロー、守りを固めるべくバーストも新たにセットする椎名。

 

 

「アタックステップ!!……パイルドラモンでアタック!!その効果により、コアを2つ追加し回復するッッ!!」

【パイルドラモン】(5⇨7)(疲労⇨回復)

 

 

パイルドラモンが一瞬虹色に光り輝く。それはコアが追加されると同時に回復状態となった証拠である。これにより、このターン、パイルドラモンは二度のアタックが可能となって………

 

 

「このパイルドラモンの2回のアタックとグラニのアタックで終わりだ!!……いけぇ!」

 

 

椎名の指示を聞くなり、地を駆けるパイルドラモン。狙いは当然花火の残り3つのライフ。グラニとの連続アタックで勝機を見出している椎名。

 

しかし、やはり花火は手強いか、彼はカウンターを狙うべくまた手札を1枚引き抜いて………

 

 

「フラッシュ!!俺はブラックウォーグレイモンの効果を発揮!!」

「っ……そいつは!?」

 

「相手のBP8000以上のスピリットがアタックしている時、1コストを支払い召喚できる!!………漆黒の竜戦士、ブラックウォーグレイモンッッ!!……LV3で召喚!!」

手札2⇨1

リザーブ5⇨1

【友情の紋章】(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ4⇨5

【ブラックウォーグレイモン】LV3(4)BP15000

 

 

花火の場に黒い炎が蔓延する。その中で眼光を放つ竜人が鉤爪を振るい、その炎を引き裂き、姿を見せる。

 

それはいわば黒いウォーグレイモン。花火のデッキの守りの要、ブラックウォーグレイモンだ。椎名も一度聖子とのバトルでこのスピリットを見ている。が、効果的にあまりにも不意に登場してくるため、読もうにも読むことは難しい。結果的に今回もその召喚を許してしまった。

 

 

「召喚時効果!!BP12000以下のグラニを破壊する!!」

「!!」

「暗黒のガイアフォースッッ!!」

 

 

ブラックウォーグレイモンは登場するなり掌を合わせ、その間に炎をため、間隔を広げながらそれを最大限まで大きくすると、それをグラニに向かって投げ飛ばす。

 

グラニはそれに被弾し、撃墜されてしまう。

 

 

「くっ……強いっ!!」

「まだだぜ、驚くのは早い!!今度はこいつだ、【煌臨】発揮!!対象はブラックウォーグレイモンッッ!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ5⇨6s

 

「っ……また煌臨を!?」

 

 

再び煌臨の効果発揮の宣言を行う花火。ブラックウォーグレイモンが紫の光に身を包まれていき、その中で姿形を大きく変化させていき………

 

 

「鉄壁たる神獣、メタルガルルモンを呼ぶ!!」

手札1⇨0

【メタルガルルモン】LV3(4)BP16000

 

 

やがて光の中のスピリットがその紫の光を雄叫びと共に弾き飛ばすと、身体が鋼鉄で覆われた狼のような姿をしている究極体のデジタルスピリット、メタルガルルモンが姿を現した………

 

 

「め、メタルガルルモン?……紫のスピリットがなんで花火さんのデッキに!?」

「ふふ、このデッキは俺がいつも使ってるデッキとは違うのさ、言うなれば、勇気と友情の混合デッキだ!!」

「勇気と友情の……混合!?」

 

 

花火の言っていることが理解できず、疑問符を浮かべる椎名。

 

今の一木花火のデッキは単なる地竜スピリットでビートを仕掛けるデッキではない。さらにそれに加えて紫のカードが多数混じっていて…………

 

 

「でもって、パイルドラモンのアタックはこのメタルガルルモンがブロックしておくぜ!!」

「っ!?」

 

 

メタルガルルモンが登場した途端に椎名のパイルドラモンに牙を向ける。俊足の如くパイルドラモンとの距離を詰め、勢いよく体当たりを仕掛け、パイルドラモンを押し倒したかと思えば、メタルガルルモンはそれに向けて凍てつく息吹を発射。

 

それをまともに受けたパイルドラモンは凍りつき、バラバラに砕け散った…………

 

 

「さぁ君のスピリットは全滅だ。この先はどうする?」

 

「っ………ターンエンド」

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【有】

 

 

グラニとパイルドラモンを同時に失っては攻めるにも攻める事が出来ない。椎名はそのターンを致しかたなくエンドとしてしまう。

 

次はメタルガルルモンを呼び出すことに成功した花火のターンだ。その効果を遺憾なく発揮させる気であり………

 

 

[ターン09]花火

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札0⇨2⇨1

破棄カード↓

【アグモン】

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨7

トラッシュ6⇨0

【メタルガルルモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、友情の紋章をLV2へ戻し、バーストを伏せる!!」

手札1⇨0

リザーブ7⇨6

【友情の紋章】(0⇨1)LV1⇨2

 

 

今一度花火の場にバーストカードが裏向きでセットされる。それが今後このバトルにどう響いてくるのかは定かではないが、間違いなくこの局面でセットできたのはかなり大きくて………

 

 

「アタックステップ、メタルガルルモンでアタックだ!!」

 

 

アタックステップに移行し、メタルガルルモンでアタックを仕掛ける花火。メタルガルルモンにはこのタイミングで発揮可能な強力無比な効果があり……

 

 

「メタルガルルモンのアタック時効果、相手のコア2つをトラッシュに置くことで回復する!!」

【メタルガルルモン】(疲労⇨回復)

 

「なに!?…コアを!?」

リザーブ8⇨6

トラッシュ6⇨8

 

 

椎名のリザーブのコア2つが吸い寄せられるようにトラッシュへと赴いてしまう。そしてメタルガルルモンがその動きに反応を示すかのように紫の光を一瞬放ち、回復状態となる。

 

これはメタルガルルモンの効果。椎名のコアが2つ以上ある限り発揮できる強力なものである。

 

 

「メタルガルルモンのアタック時効果にターン制限はない。でもってメタルガルルモンは効果では破壊できない!!」

「っ!!」

「メタルガルルモン!!ライフを砕けッッ!!」

 

 

花火の指示を聞き、鈍い機械音を鳴らしながら地を駆けるメタルガルルモン。目指すは当然椎名のライフ。だが、今の彼女の場には盾となるブロッカースピリットが1体も存在せず…………

 

 

「ライフで受ける!!」

ライフ4⇨3

 

 

ライフで受ける他なかった。メタルガルルモンの噛み砕く攻撃が椎名のライフ1つを粉々に噛み砕いた。

 

だが、椎名はこれを待っていた。口角を少しだけ上げると、事前に伏せていたバーストカードを勢いよく反転させる。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動!!マリンエンジェモン!!」

「!!」

 

「効果によりこれを召喚!!さらにこのターン、私のライフはコスト9以下のスピリットのアタックでは減らされない!!」

リザーブ7⇨5

【マリンエンジェモン】LV2(2)BP6000

 

 

椎名のバーストカードが反転すると共に現れたのはピンクの妖精のような小さな究極体デジタルスピリット、マリンエンジェモン。

 

マリンエンジェモンは登場するなり囀るように歌いだすと、椎名の周りが水のベールに包まれる。これは並大抵のスピリットでは突破することができない代物。あのメタルガルルモンでも不可能である。

 

 

「ディーアークの効果によりドロー!」

手札2⇨3

 

「そんな強力なバーストを伏せていたなんてな………だが、ライフは減らないと言っても、効果は通じるんだよな!!……アタックを続行しろメタルガルルモン!!その効果でマリンエンジェモンのコア2つをトラッシュに送る!!」

【メタルガルルモン】(疲労⇨回復)

 

「っ!!」

【マリンエンジェモン】(2⇨0)消滅

トラッシュ8⇨10

 

 

このターンでライフは破壊できないとまた花火は狙いをすぐさま切り替え、椎名のライフからマリンエンジェモンへと変えてきた。

 

メタルガルルモンが口内から勢い良く凍てつくブレスを発射し、マリンエンジェモンを凍りつかせる。マリンエンジェモンはパイルドラモンと同様に砕け散っていった。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ……やるな、まさかメタルガルルモンの攻撃まで凌くなんて!」

【メタルガルルモン】LV3(4)BP16000(回復)

 

【勇気の紋章】LV2(1)

【友情の紋章】LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

「いや、マリンエンジェモンじゃなかったらあの攻撃は凌げませんでした。………花火さん強ぇ、マジ強いよ!!こんなバトラーと戦えて超嬉しい!!」

「そりゃこっちのセリフだぜ椎名ちゃん。君ほどデッキのスピリット達と固い絆で結ばれたバトラーを、俺は他に知らない」

 

 

言葉を交わしていく両者。椎名からは花火に対する尊敬の念が確かに伝わってくる。一方で花火は純粋に椎名のすごさを感じ、褒め称えていた。

 

互いに素晴らしいカードバトラーと出会えて、心の底から喜んでいたのだ。

 

 

「椎名ちゃん。世界には俺なんかより遥かにすごい奴らがわんさかいる!!」

「は、花火さんよりすごい人たちが!?」

「あぁ、そりゃもううじゃうじゃさ!!」

 

 

これは実際に世界のリーグを駆け巡ってきた一木花火だからこその言葉。『世界は広い』……その事を椎名に伝えたかったのだ………

 

そして、さらにここから彼は椎名にある提案を持ちかける。

 

 

「椎名ちゃん。君にその気があれば、俺と一緒にこの広大で広い世界を旅してみないか?」

「え!?」

「俺実はしばらくの間プロを休業するんだけどさ。その間にすごい奴らとバトルして見たいんだ!!まだ見ぬ強敵と!!君となら絶対に良い冒険が待ってると俺は思うんだ!!」

 

 

突然の花火からの申し出。椎名は一瞬だけ目をキョトンとさせるが、次第に彼が言っていることを理解していくと、徐々に歓喜溢れる表情にシフトしていって………

 

 

「ま、マジですか、私が花火さんと一緒に旅を………感激だ!!絶対行く!!」

「おぉそうか!!じゃあ卒業してからだな、それまで俺はのんびりと待たせてもらうよ」

 

 

椎名としては断る理由がない。卒業後も何もないため、もちろんそれを笑顔で承諾する。

 

さっき花火が言っていた『答えはバトルの中』にあるとはこの事だったのだろう。花火はずっと椎名を試していたのだ。一緒に旅をして楽しい人物か否かを………

 

 

「さぁ、次は君のターンだ。俺と一緒に旅をする奴なんだ。きっとここからとんでもない事をやってくれるんだろ?」

「あぁ花火さん!!このターン、私の全身全霊を込めてあなたに挑む!!……私のターンッッ!!」

 

 

そう言い切ると、椎名は勢い良く自分のターンシークエンスを進行していく………

 

 

[ターン10]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨16

トラッシュ10⇨0

 

 

「メインステップ!!……私は真紅の魔竜、成長期の姿、ギルモンをLV3で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ16⇨10

トラッシュ0⇨2

【ギルモン】LV3(4)BP6000

 

 

ガラ空きとなった場に、椎名が新しく呼び寄せたのは、真紅の魔竜、その成長期の姿であるギルモン。

 

 

「ディーアークの効果でカードドロー!!……ギルモンの召喚時効果でカードを5枚オープン!!その中の対象となるカード1枚を手札に加える!!」

手札3⇨4

オープンカード↓

【マグナモン】×

【ワームモン】×

【エクスブイモン】×

【グラウモン】◯

【インペリアルドラモン ドラゴンモード】×

 

 

その召喚時効果は成功。椎名は同じく真紅の魔竜である【グラウモン】のカードを手札へと引き込んだ。

 

だが、その効果発揮後に、花火は鼻で笑いながら伏せていたバーストを反転させて………

 

 

「ふっ、相手の召喚時発揮後のバースト、双翼乱舞を発動!!」

「!!」

 

「カードを2枚ドロー!!さらにコストを払い、さらに2枚ドロー!!」

手札0⇨2⇨4

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨3

 

「っ……手札が一気に回復した!?」

手札4⇨5

 

 

椎名がグラウモンのカードを引き込むまでは良かったものの、それと同じくして花火も大量のカードをドローした。メタルガルルモンの存在もあって、よりターンの重圧がかかる……

 

だがこの程度でたじろぐわけにはいかない。椎名はさらに手を動かして………

 

 

「私はグラウモンもLV3で召喚する!!」

手札5⇨4

リザーブ10⇨4

トラッシュ2⇨4

【グラウモン】LV3(4)BP7000

 

 

地中より地響きと共に、真紅の魔竜、成熟期の姿、グラウモンが姿を見せる。

 

 

「さらにデジタルブレイヴ、ズバモンを召喚し、グラウモンと合体!!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨3

【グラウモン+ズバモン】LV3(4)BP10000

 

「デジタルブレイヴ!?…面白いカードを持ってるな!!」

 

 

黄金の鎧を持つ成長期のブレイヴ、ズバモンが現れ、グラウモンと合体。グラウモンはズバモンの黄金の鎧を見に纏った。

 

 

「アタックステップ、デジヴァイスの効果!!成長期スピリットであるギルモンが存在するため、自身を疲労させてカードをドロー!!」

手札3⇨4

【デジヴァイス】(回復⇨疲労)

 

 

ギルモンとグラウモンはやる気を示すかのように大きな咆哮を張り上げる。その豪快な雄姿に花火も見を構えて………

 

 

「行くぞ花火さん………グラウモンでアタック!!」

 

 

最初に飛び出していくのはズバモンと合体し、黄金の鎧をその身に纏うグラウモン。そしてその瞬間にアタック時効果が発揮され………

 

 

「アタック時効果により、ネクサスカード、友情の紋章を破壊!!」

「!!」

「魔炎のエキゾーストフレイム!!」

 

 

グラウモンは口内から高熱の炎の熱線を放出。狙い先は花火の背後にある紫の紋章。熱線はそれを容易く焼き尽くした。

 

 

「よし!!これで厄介な友情の紋章は破壊した!!」

「だけど椎名ちゃん!!肝心のメタルガルルモンはどうする?…こいつは効果では破壊できないぞッッ!!」

 

 

花火の場にはブロッカーとして、強固な耐性効果を所持しているメタルガルルモンが健在である。

 

だが椎名に抜かりはない。このフラッシュタイミングでさらに手札のカードを引き抜いて………

 

 

「へへ、心配無用ですよ花火さん………フラッシュ【煌臨】発揮!!対象はグラウモン!!」

【グラウモン+ズバモン】(4s⇨3)LV3⇨2

トラッシュ4⇨5s

 

「っ……また煌臨!!」

 

 

椎名が小さく笑うように口角を上げながら煌臨発揮の宣言を行う。

 

それと合わせるように上空に異次元の渦が発生。グラウモンは吸い込まれるようにその中へと飛び込んでいき………

 

新たな姿へと昇華する………

 

 

「現れよ!!…皇帝竜……インペリアルドラモン ファイターモードッッ!!」

手札4⇨3

【インペリアルドラモン ファイターモード+ズバモン】LV2(3)BP18000

 

「……こいつは……!!」

 

 

椎名がそう叫ぶと、荒れ狂う渦の中から黒いボディと赤い翼を広げる皇帝竜、インペリアルドラモン ファイターモードが腕を組みながら出現した。

 

その腕にある砲手は合体しているズバモンの影響を受けてか、黄金に輝いていて………

 

 

「今度は青と緑の究極体か!」

「余裕ぶっこいてられるのも今のうちですよ!!……ファイターモードの効果、スピリットを疲労させる!!」

「っ!!」

「そう、私は効果で破壊できないメタルガルルモンを疲労させる!!………ポジトロンレーザーッッ!!」

 

「………そう来たか……」

【メタルガルルモン】(回復⇨疲労)

 

 

ファイターモードは登場するなり、腕の砲手をメタルガルルモンに向け、そこからエネルギー熱線を放出。メタルガルルモンに被弾し、メタルガルルモンは疲労状態に陥ってしまう………

 

効果で破壊できないメタルガルルモンも決して無敵ではない。これによりバトルへの参加は不可となってしまう。

 

 

「さらにファイターモードはこのターン、相手の手札にあるコスト4、6、8のカードの使用を封じ込める効果に加えて、相手のライフを減らした時、さらに2つのライフを破壊する!!………これで終わりだ!!」

 

 

ファイターモードが次に目を向けたのは一木花火。そこへ自身の腕にある砲手を差し向けて………

 

……トドメの一撃を放とうとした………

 

その直後だ。花火が笑ってみせたのは………

 

 

「それはどうかな?」

「なに!?」

「コスト4、6、8ね………成る程、これは使ってもいいわけだ………」

 

 

そう言いながら、花火は自分の手札から1枚のカードを引き抜く………

 

それは誰もが知る究極のカードだが、誰でも得ることができるわけではない代物………

 

それが今、発揮される………

 

 

「フラッシュ【煌臨】発揮!!対象はメタルガルルモンッッ!!」

リザーブ3s⇨2

トラッシュ3⇨4s

 

「っ……花火さんもまた煌臨!?……しかもメタルガルルモンに!?」

 

 

花火の3度目の煌臨。しかも煌臨中であるメタルガルルモンが対象である。

 

そしてその刹那、メタルガルルモンの横に炎のゲートが現れ、開いたかと思うと、そこから破壊したはずのウォーグレイモンが飛び出してきて………

 

 

「ウォーグレイモン!?…なんでだ、破壊したはずじゃ………」

 

 

咆哮と雄叫びを張り上げるウォーグレイモンとメタルガルルモン。ただの煌臨でスピリットが増えるなど聞いたことがない。

 

だがここからが本番。花火は気合を入れるように大きく息を吸い込んで………

 

 

「行くぜ椎名ちゃん…………右に友情、左に勇気!!その2つが合わさる時!暗黒を払いのける、真の英雄となる!」

 

 

ウォーグレイモンとメタルガルルモンがそれぞれ赤い光と紫の光を纏いながら宙へと飛び行く。螺旋状に回る2体はやがて正面から衝突し………

 

今こそ進化を超え、混ざり合って、顕現する………

 

 

「最強にして究極のデジタルスピリット…………オメガモン!」

手札4⇨3

【オメガモン】LV3(4)BP21000

 

 

天より、ウォーグレイモンを模した左腕、メタルガルルモンを模した右腕を携え、後光と共に花火の場に姿を現したのは………

 

伝説のデジタルスピリット群、ロイヤルナイツの一柱にして、最強との呼び声も高いオメガモン。その神々しい姿に椎名は驚愕と興奮を同時に覚えていて………

 

 

「に、2体が合体………し、しかもお、オメガモンだって!?……葉月の探している伝説のロイヤルナイツ……なんで花火さんが………」

「おいおい、君だって持ってるんだから、俺が持ってたって不思議じゃないだろ?」

「いや、まぁそりゃそうなんだけどさ……」

 

 

確かに滅多にあることではない。しかもそれを花火が所持していたのだから驚くのも無理はないと言えて………

 

しかしながら今現在はバトル中。椎名は気持ちを切り替える。その様子を見た花火は改めてバトルを進行させ、オメガモンの効果を早速発揮させる。

 

 

「オメガモンの煌臨時効果!!このスピリットのBP以下のスピリット1体を破壊する事で回復する!!」

「!!」

 

「ファイターモードを破壊するぜ………ガルルキャノンッッ!!」

【オメガモン】(疲労⇨回復)

 

 

オメガモンはマントを広げ、メタルガルルモンのような右腕から砲台のようなものを発現させる。そしてそれで狙いを定め、ファイターモードに豪快な砲撃を放つ。その威力は凄まじく、ファイターモードなど本当にいたかもわからない程に吹き飛ばされ、爆発してしまう。

 

 

「くっ……ファイターモード!!……ズバモンはスピリット状態で残す!!」

【ズバモン】LV1(1)BP3000

 

 

その爆発の中から逃げるように脱出してきたズバモン。アタック中であったファイターモードから分離したため、アタックが継続された状態である。

 

 

「ズバモン…いけぇ!」

 

「ライフだ……来いよ!!」

ライフ3⇨2

 

 

強敵の出現。ファイターモードの損失で椎名のモチベーションが無くなるわけもなく、寧ろ向上したような勢いでアタックを仕掛ける。

 

ズバモンの鋭利な爪の一撃が花火のライフを切り裂いた。

 

 

「ここで勇気の紋章の効果!!ズバモンを破壊する!!」

「!!」

 

 

残った勇気の紋章から炎の弾丸が放たれる。ズバモンはそれに被弾してしまい、忽ち爆発を起こした。

 

椎名の場に残されたのはギルモンのみ。しかも花火の場にはブロッカーとして強力無比なオメガモンが存在する………

 

絶望的な状況だ。しかし椎名はそれでも笑う顔を見せていて………

 

 

「流石花火さんだ……でも、私のデッキの真骨頂はここからだ!!ギルモンでアタック!!」

 

 

ズバモンの破壊から間髪入れず、ギルモンでアタックを仕掛ける椎名。一見無謀とも取れるこの行いだが、これは一か八かの勝負だ。

 

さらに手札のカードを1枚引き抜いて………

 

 

「フラッシュマジック、ブルーカード!!」

手札3⇨2

リザーブ5⇨4

トラッシュ5s⇨6s

 

「!!」

 

 

椎名が発揮させたマジックはブルーカード。デジタルスピリットを進化させる可能性のあるマジックだ。しかし、飽くまで可能性があるだけ………

 

4枚のオープンに椎名の命運が託される。

 

 

「カードを………オープンッッ!!」

オープンカード↓

【ディーアーク】×

【ブイモン】×

【スティングモン】×

【デュークモン クリムゾンモード】◯

 

 

効果は成功した。ギルモンと同じ赤一色のスピリットカードがめくれる。それもそれは椎名のデッキにおいての最強カード………

 

 

「よしっ!!…ギルモンと同じ色を持つこのカードを、ギルモンから進化召喚させる!!」

リザーブ4⇨3

トラッシュ6s⇨7s

 

 

刹那。

 

ギルモンの頭上から真紅の色をした炎の龍が、ギルモンを飲み込むように落下してきた。ギルモンはその炎の中で幾多もの進化を繰り返していく………

 

ギルモンからグラウモン。グラウモンからメガログラウモン。メガログラウモンからデュークモンへと………

 

そして、デュークモンになると、その槍と盾、マントが消失し、その鎧が真紅の色へと変化していき、さらには10枚の白い羽が新たに現れる………

 

 

「真なる深い赤をその身に宿し、邪悪なる者皆、照らし破れッッ!!……召喚!!…デュークモン クリムゾンモードッッ!!」

【デュークモン クリムゾンモード】LV3(4)BP21000

 

 

やがてそのスピリットはその炎を気迫だけで消し飛ばし、姿を見せる。それはデュークモンの進化系にして、椎名の最強スピリット、デュークモン クリムゾンモード。

 

 

「……デュークモンが進化した姿………!!」

「どうだ花火さん!!これが私の、私とスピリット達の絆の力だ!!」

「はは、最高だ……最高だぜ椎名ちゃん!!俺はこんなバトルを心待ちにしていた!!」

 

 

椎名とクリムゾンモードの勇姿を視認するなり、心を震わせ、熱くする花火。その声色や言動から、確かにそれが椎名にも伝わっていて………

 

 

「私もだ!!こんなにワクワクが止まらないのは久し振りだ!!」

「その君の全力……この俺に余すことなくぶつけてみろ!!」

 

 

その2人の言葉に合わせるように、オメガモンは左手から剣を発現させ、クリムゾンモードも左手に神剣を光の力で形成する。

 

 

「あぁ、行くぞ花火さん、これが私の全力!!………行け、クリムゾンモードッッ!!」

 

 

椎名の込められた全力の想いと共に、クリムゾンモードが神剣を構え、戦闘態勢に入ったオメガモンに向かって飛翔する…………

 

 

 

ありがとう先生、そして花火さん!!

 

私は今日という日を、与えられた最高の時間を………このバトルを二度と忘れない!!

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

暗がりの部屋。片隅のベッドの上で、芽座椎名は仰向けになって寝転んでいた。

 

あの時のバトルの興奮がまだ身体に染み付いているのか、天井に向かって上げる右手は震えが止まらない。しかしながら、椎名は確かに後悔のない顔つきで笑っていて………

 

 

「待ってろ花火さん!!……卒業したら、必ず私はあなたと共に旅をします!!………今日という日を、ありがとう!!」

 

 

椎名は確固たる決意を胸に、拳を硬く握り締めながら誓いを立てた………

 

そんな来月、年明けから遂にエニー・アゼム、バーク・アゼムらとの決戦。自分達にとっての最後の界放リーグが開幕を迎える………

 

 

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【オメガモン】」

椎名「伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツ。その中でも最強と言われるオメガモン。ウォーグレイモンとメタルガルルモンが合体した姿だ!」


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〈次回予告!!〉


それぞれの想いと誓いを胸に、遂に第10回界放リーグが開幕する!!次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ…「開幕、最後の界放リーグ!!」……今、バトスピが進化を超える!!


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※次回のサブタイトルや内容等は変更の可能性があります。予めご了承ください。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

決着のつけられなかった私を許してくれ………


実は12月末発売の仮面ライダーブースター第5弾にて、ロードバロンのカードがエックスレアとして登場するという確かな情報を入手しました。

ですので、それが判明するまで、しばらくの間、本編の更新はお休みとさせていただきます。バトスピの情報は他のカードゲームと比べて比較的公開が早いので、そんなに長いこと休まないとは踏んでいますが、その間にまた何か別のものを更新する可能性があると考えていてください!

本編をいつも楽しみに読んでおられる方々は本当に申し訳ございません!!推定約1ヶ月間の休載期間、本編の再開を楽しみにしていただけましたら幸いです!!


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活動報告のネタエピソードまとめ※新作情報有り

今現在、ロードバロンのカードの情報待ち(昨日出た)のため、事実上の休載期間に入っています。
ですので、今回は繋ぎとして、今まで私の活動報告にて書かせてもらいましたネタエピソード集を恐縮ながら配置させていただきます!!
さらにサブタイトルの通り、最後にオバエヴォ完結後の『新作』の予告もあります!!



先ずは台本形式で描写した椎名のスピリット達の心の中シリーズです。飽くまでもネタエピソードで、実際にはこんな事は考えておりませんので予めご了承ください。

 

 

『第102話のスピリット達の心の中』

 

メギドラモン「うぉぉぉぉお!!遂に日常回デビューだぜぇ!!」

 

椎名「【煌臨】発揮!!対象はメギドラモン!!……来い、赤きロイヤルナイツ、デュークモン!!」

 

メギドラモン「え?……解せぬ……」

デュークモン「やはりこのデュークモンの出番のようだな。サブタイの伏線回収だ、行くぞフレイドラモン!!」

フレイドラモン「俺は先輩だ!!指図すんな!!」

 

 

〜〜次のターン〜〜

 

 

ヘラクレス「アトラーの効果でスピリット2体を手札に戻す!!」

 

デュークモン「守れグラニ!!」

グラニ「へいおまち!!」

フレイドラモン「解せぬ………」←自分だけ手札に帰る

 

 

〜〜次のターン〜〜

 

 

デュークモン「来たなヘラクルカブテリモン!!このデュークモンと一騎打ちだ!!」

ヘラクルカブテリモン「ワイとでっか?ワイは強いで?」

デュークモン「いいんだよ、どうせクリムゾンモードになるか断罪剣持つかでサクッと勝てるし………」

 

椎名「ブルーカードを使用!!」

 

デュークモン「え?」

 

椎名「現れよ、メガログラウモン!!」

 

デュークモン「何故退化………」

メガログラウモン「久し振りの出番ダァ!!」

 

ヘラクレス「英雄獣の爪牙!!」

 

メガログラウモン「エェェェェェェエ!?」←疲労させられる

グラニ「私もです」

 

※メガログラウモンはいつも出番が少ない。

 

椎名「吠えよ皇帝竜、インペリアルドラモン ドラゴンモード!!」

 

ドラゴン「ガルァァ!!」←初めてのまともな出番に喜んでいる

 

椎名「超弩級砲……メガデスッッ!!」

 

ドラゴン「ガルァァ!!」←張り切って、メガデスを放つ

ガンゾウム「ギャァァァァァァア!!?」←破壊される

ドラゴン「ガル!」(よし、このままフィニッシュだ!)

 

椎名「いけ、フレイドラモン!!」

 

ドラゴン「ガル?」(え?)

 

椎名「渾身の爆炎……ファイアァァロケットッッ!!」

 

フレイドラモン「イィィィィヤッホォォォオイ!!」←ファイアロケットして最後のライフを破壊する

ドラゴン「ガル……」(解せぬ)

 

 

 

 

『第104話のスピリット達の心の中』

 

 

椎名「来い、エクスブイモン」

 

エクスブイモン「デュークモンに総合召喚回数を超えられた私が来た!!……ほれ椎名、カードだ。2枚あげるけど、2枚捨てな」

 

 

〜次のターン〜

 

 

椎名「轟く友情、ライドラモン!!」

 

ライドラモン「やぁエクスブイモン、久し振り〜〜一緒に仕事した事あったっけ?」

エクスブイモン「だいたいすれ違いとかだった気がするな」

ライドラモン「じゃあ今日は日頃の鬱憤も兼ねてパァーッと行きますか!!」

エクスブイモン「そうだな!!」

 

椎名「エクスブイモンでアタック!!」

 

エクスブイモン「よぉし!!先ずは俺の番だ!!……ていっ!!」←ライフ壊す

ライドラモン「おぉ〜〜何だよお前、そんなに訛ってないじゃん!!」

エクスブイモン「そりゃまぁ、手札交換やパイルドラモンの素材に使われるのは嫌だからな!!デッキの中で日中特訓してたのよ!!」

 

椎名「行け、ライドラモン!!」

 

ライドラモン「おっ僕の番だ。久し振りにこの技を使う時が来たな………ブルーサンダァァ!!」←青い雷を落とす

エクスブイモン「おぉ!なんか意外と久し振りに見た気がする!!」

ライドラモン「フレイドラモンとか、最近はデュークモンの補助に使われる時が多かったからね〜〜自分で下の効果を発揮するのは何話振りかな〜〜」

 

雅治「バースト発動!!砲天使カノン!!」

 

エクスブイモン&ライドラモン「へ?」

 

雅治「スピリット全てをBPマイナス10000!!0になったら破壊する!」

 

カノン「えいっ!!」

エクスブイモン&ライドラモン「ギャァァァァァァア!!!!」←破壊される

 

 

〜次のターン〜

 

 

椎名「煌臨!!……モードチェンジ!!現れよ!!インペリアルドラモン ファイターモード!!」

 

ファイター「もう不遇とは言わせない!!」

 

椎名「超然の一撃……ギガデスッッ!!」

 

ファイター「もう不遇とは言わせないぃぃぃぃいぃぃぃいい!!!」←2回目

 

 

 

本当によく頑張ったよファイターモード。

 

 

 

 

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続きまして赤ちゃん椎名の話です。可愛さと愛らしさ全開で書きました!!

 

 

 

『0歳児椎名、ブイモンを得るまで!』

 

 

 

【兎にも角にも可愛い】

 

「しいを預かってから早数ヶ月。あれから何も起こらぬが、いつまたこの子があの力を使うかもわからん………ここはわしが用心せねばなるまい」

 

そう言いながら六月は椎名(0歳)のいる揺かごの方に目を向ける。そこではおしゃぶりを咥えた椎名が揺籠から愛らしい表情で彼を見つめており………

 

「むえぇぇぇ!!」←上機嫌な声、そして揺籠の縁を小さな手で叩く。

「〜〜!?」←椎名が可愛すぎて声にならない声が出る。

 

まるで意味はわからないが、仕草から声から顔まで何もかもが完璧に可愛かった椎名。六月は一瞬で外に出て、大きく息を吸い込むと………

 

「可愛すぎるワァァァァァァァア!!!」

 

絶叫した。この日から彼は椎名に対して一切警戒心が無くなり、凄まじく溺愛したのだと言う……おそらく絶叫の声と共に警戒心も飛んで行った。

 

 

******

 

 

【速い】

 

 

赤ちゃん椎名はよく走る………ハイハイで。

 

「むえぇぇぇ!!」←ツッテケテー!

「ま、待ってしい、それハイハイの速度じゃ無いぞ!?」

 

ハイハイ、つまり四つん這いの状態でハウス中を楽しそうに縦横無尽、疾風の如く駆け回る赤ちゃん椎名。当時既に50を超えていた六月は赤ちゃん椎名の圧倒的なハイハイの速度に追いつけなかった。

 

芽座椎名はこの時から運動神経が飛び抜けて高かった。

 

※100mを10秒以下でゴールできる速度でハイハイしてた

 

 

******

 

【お薬】

 

赤ちゃん椎名はお薬が嫌い。理由は単純、苦いから。いくら風を引いた時でもそれを決して飲もうとはしない。六月は椎名の嫌がることはしたく無いが、この時ばかりは心を鬼にして薬を飲まさないといけなくて………

 

「しい、お薬を飲まんと良くならんぞ?」

「むえぇぇぇ!!」←泣きじゃくってる

 

哺乳瓶の中に薬が入っている。六月はそれをなんとか椎名の口に飲ませようとするが、それを嫌がる赤ちゃん椎名はそれを小さな手と足をフルで活用し、必死になって押し返そうとしている。

 

「むえぇぇぇ!!」←まだ泣きじゃくってる

 

この後8時間くらいの激闘の末、椎名は薬を飲まずに普通に風邪が治った。

 

 

******

 

 

【葉月に可愛さは通じない】

 

 

芽座葉月。当時6歳。椎名の事情をある程度は理解している。『拾い子だけど、妹のように思い、接しろ』……六月はそう言った。

 

(正直のところ、うちのじじいは馬鹿だと思う。何せ、捨て子をわざわざ拾い上げ、育てると言い張るのだから………だが、それ以上の馬鹿はこの捨て子だ………)

 

六月は椎名に甘い。超がつくほど甘やかしている。だからと言って、別に自分も甘やかしてほしいなんて子供染みた事は考えていない。

突然妹ができたと言われようが別にどうでも良い。

だが、どうにも納得できない事があって………

 

「むえぇぇぇ!!」←ツッテケテー!

「なんで追いかけてくるんだこのガキ!!」

 

巨大な敷地を持つハウスの中で赤ちゃん椎名にハイハイで追われ続けている葉月。逃げ続けるが、犬レベルで足が速いため、なかなか振り切れない。

 

「おいお前!!なんで俺を追いかけ回す!?」

 

葉月が立ち止まって赤ちゃん椎名に向かい、そう強く言い放った。

 

「むえぇぇぇ!!」←抱っこしてほしい

「わからぁぁぁぁぁあん!!!!」

 

しかし、当時0歳の椎名にいくら話しかけても無駄だった。何を聞いても「むえぇぇぇ!!」の一点張り。話しようがない。

 

「いい加減お前はじじいが帰ってくるまで揺籠の中で寝てろ!!」

「……ッ!」

 

葉月はそう言って、赤ちゃん椎名を手で退かそうとするが、その瞬間に赤ちゃん椎名は「今だ」と言わんばかりに眼光を輝かせて………

 

 

 

 

 

「むえぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

と、叫びながら葉月の手の方へと飛び込んでいき………

 

 

 

 

 

 

ーパクッ!!

 

 

 

葉月の指を咥え、舐め回し始めた。「ちゅぱちゅぱ」という音がそこから聞こえて来る。赤ちゃん椎名にとっては快楽なのか、幸せそうな顔でまた「むえぇぇぇ」と言っている。

だが、葉月はその刹那に背筋が凍えていき………

 

「ギャァァァァァァア!!離せこの角ガキィィィィィイ!!!」

「むえ、むえ!」←楽しい

 

咄嗟にその手を赤ちゃん椎名ごと振り回し、引き剥がそうとする葉月だったが、赤ちゃん椎名の吸引力が凄まじいのか、全く剥がれない。

ずっと葉月の指を舐め回していた………

出会ったこの時から葉月は椎名のことが嫌いだった。底なしの馬鹿だから………

妹だろうがどうでもいい。しかし、自分の時間を邪魔する事だけは納得できない。葉月は昔からしっかりとエゴイストだった…………

 

 

 

【初めて喋った言葉】

 

 

「むえぇぇぇ!!」←カードを口に咥えてる

「これこれ、しいよ、カードは食っちゃいかん!」

 

このくらいの歳の子はみんななんでも口の中に入れてしまうから困ったものだ。六月は椎名からカードを取り上げ、そのカードがなんなのかを教えることにした。

 

「いいか、しい!!お前ももう少し大きくなったらこれを覚える事になるのじゃからな!!このカードはブイモンと言うのじゃ!」

「むえ?」

 

六月が赤ちゃん椎名の口に咥えていたブイモンのカードの名前を教える。すると赤ちゃん椎名はジィーッとそのカードを見つめ………

 

「ぶいみょん!!」※ブイモン!!

「〜〜!?」←声にならない声part2

 

まさか本当に復唱するとは思ってなかったか、これを聞いた六月は堪らずまた外に飛び出して………

 

「だから可愛すぎるワァァァァァァァア!!!」

 

また絶叫した。

 

 

******

 

オマケ↓

 

赤ちゃん椎名「ふえいどやみょん!!」

※フレイドラモン!!

 

偶然だったが、この時から六月は椎名にブイモン達を上げようと思った。

 

 

☆むえぇぇぇ!!という椎名の謎の声!

 

 

 

******

 

 

ここからはオバエヴォ完結後に執筆する予定の新作です!!

 

 

ー…

 

 

ここは幾億もの人々が住まうとある世界。そこには現実離れした広大なファタジーの景色が無限に広がっている。

 

舞台となるのはその世界の1つの国。その国の人間たちの身分は最上位の『エックス』…バトスピ貴族と呼ばれる『マスター』…所謂平民である『レア』…そして、最も貧しく、身分も低い『コモン』の4つに分けられていた。

 

そんな世界でも当たり前のように存在し、誰もが息をするように行うカードゲームがあった………

 

その名はバトルスピリッツ。この世界ではこのバトルスピリッツこそが至高であり、バトルスピリッツの優劣こそが絶対である……

 

これは何も無かった1人の少年の証明の物語。

 

 

「ソウルコアが無くても俺は最強になる、最後まで諦めないのが俺のバトスピだ!!……召喚!!俺のライダースピリット、龍騎!!」

 

 

今、革命が始まる!

 

 

 

ー…

 

 

オーバーエヴォリューションズ完結後の近日公開!!

 

 

 

 

 




前書きでも言いましたが、ロードバロンが大まかに効果が判明しましたので、最終章に向けて本格的に動き出します。

新作についてですが、場合によっては主役は龍騎じゃ無くなる可能性もあります。





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【三期】最終章「最後の界放リーグ編」
第108話「開幕、最後の界放リーグ」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

界放市。日本に存在する最大のバトスピ都市であるこの街では、年に一度、界放市の6つの学園の代表者をバトルさせ、優劣を競う催しが存在する……

 

それがこの今年で10回目を迎える『界放リーグ』だ。

 

去年はデスペラード校が廃校と化したため、様子見も含めて開催はできなかったが、今年、『エニー・アゼム』の祖先達の参加により、2年ぶりの再開が行われることとなった。

 

 

 

ー…

 

 

 

界放リーグの開催地、界放市。そのど真ん中に位置する広大な中央スタジアムにて、溢れんばかりの人々と轟音のような歓声が密集していた。スタジアム内ではその催しを祝うようにジェット機や風船が飛び交っている。

 

いよいよ、第10回界放リーグの開催なのである。2年ぶりということもあって、界放市の大半の人間が胸を踊らせていた事だろう。

 

だが、そんな彼らよりも胸を踊らせていたのは他でもない選手一同だ。スタジアム裏にて開会式での入場行進を待つ選手達の様子は………

 

 

「姐さん緊張するっス〜〜!!」

「うるさいぞ五町、後姐さんって呼ぶな」

「ハイ姐さん!!」

 

 

薄暗いそこでは、ジークフリード校の代表である岬五町と芽座椎名の様子があった。

 

五町にとっては初めての界放リーグ。緊張するのも無理はないが、椎名から見てその言動や行動は明らかに緊張感に欠けているようにしか見えない。

 

しかしそれが岬五町と言う人間と言えるのかもしれない。ある意味で『大物』と言った意味合いで………

 

 

ー…

 

 

「うぉぉぉぉお!!遂に!!遂に来たのだな我がライバル赤羽司!!お前と決着をつけるこの日が!!」

「黙れ空牙」

「なぜ黙らなければならない!!青春はもうすぐ終わろうとしているのだぞ!!黙る必要などない!!」

 

 

別の場所ではタイタス校の代表である岸田空牙と赤羽司の様子が見えた。

 

岸田空牙。タイタス校三年生であり、椎名達と同じ年の少年である。普通の市民ながら仮面スピリットであるクウガを扱う。後超の字がつくほど暑苦しい。

 

司がタイタス校の代表になったのは、ジークフリード校から最も距離が近いためであるが、誤算だった。この男をすっかり忘れていたのだ。正直彼は少しだけ後悔している。

 

 

ー…

 

 

そして遂にその時が訪れる。

 

開会式の入場行進だ………

 

 

《タイタス校3年、岸田空牙君》

 

 

「よっしゃぁ行くぜぇぇぇ!!青春だぁ!!」

 

 

無機質な音のアナウンスに早速名を呼ばれたのは空牙。裏からスタジアムへと歩き出した。やはり言動が暑苦しい。

 

 

《同じくタイタス校3年、赤羽司君》

 

 

「………」

 

 

司も名を呼ばれ、歩き出した。先に行った空牙とは違い、一言も喋らず、冷静沈着な印象を与える表情を浮かべていた。

 

その後も『ミカファール校』『オーディーン校』の順で入場行進は行われた。だが、そのオーディーン校には意外な人物が1人いて………

 

 

《オーディーン校3年、九白小波さん》

 

 

「ふぁ〜〜ぁ、寝み」

 

 

最初に歩み寄ってきたのは現在の学生の九白では最強で尚且つ最高傑作とも言われている九白小波。その本気を見たものは数少ない。

 

彼女はこんな催しに興味があるわけではない。寧ろ面倒だと言って参加は先ずしないだろう。しかし、今年に限っては参加しなければならない理由があった。

 

それが次に入場する彼だ。

 

 

《同じくオーディーン校2年、九白英次君》

 

 

「!」

 

 

その名前がアナウンスされた途端。司が少しだけ目を見開いてそこへと振り向いた。

 

そこにはあの英次がいた。おそらくジークフリード校でのバトルはせず、司同様にオーディーン校に自ら足を踏み入れて代表を勝ち取ったのだろう。大抵の九白一族からは落ちこぼれ扱いを受ける英次がそこに自ら足を入れたのは並大抵の勇気ではなかった事だろう。

 

その事を司と裏口で待機している椎名は思っていて……

 

 

「いや〜〜お姉さん嬉しいわ〜〜あの英次がオーディーン校に来てくれるなんて〜〜そんな事言うもんだから一緒に大会出るために久し振りに本気出しちゃったじゃない」

「はは……今回はよろしくお願いします。小波義姉さん」

 

 

英次のその強張った表情には確かな決意が感じられる。

 

見てもらわなければならないのだ。自分の今の強さを………『あの人』に……

 

 

ー…

 

 

その後はさらに『キングタウロス校』が入場する。その次のデスペラード校は現在なくなっているため、飛ばされる。

 

そして次はいよいよ『ジークフリード校』だ。

 

 

《ジークフリード校1年、岬五町さん》

 

 

「うぉぉ!!すっごいい!!ヤッホォォォ!………スタジアムキターーー!!!」

 

 

名前を呼ばれると共に五町が飛び出していくが、その様子に先程言った緊張の文字は無く、子供のようにはしゃいでいた。

 

そんな彼女の内心は憧れの姐さん、芽座椎名に良いところを見せたい気持ちでいっぱいだ。今年の界放リーグはそれだけで出たところもある。

 

 

《同じくジークフリード校3年、芽座椎名さん》

 

 

「よし……行くか……」

 

 

椎名がゆっくりとスタジアムに入場する。

 

足を踏み入れた途端、会場からは轟音のような歓声や声援が送られる。世界を救った芽座椎名の登場なのだ。当然と言えば当然か………

 

だが、椎名がそんな中でも目に映り耳に入って来たのは真夏と雅治だった。誰よりも大きな声で自分を応援してくれている声が聞こえてきた。椎名はそれに応えるように若干頬を緩め、手を挙げた。

 

 

ー…

 

 

これにて今年の参加する全ての生徒達がスタジアムにて集められた。

 

だが、選手はこれだけではない。一部の人間にしか知らされてはいないあの人物達が堂々と登場する………

 

 

《スペシャルゲスト………アゼム一族、『バーク・アゼム』『ノヴァ・アゼム』》

 

 

勢い良く噴き上がる煙。そこから姿を見せたのはあのバーク・アゼムと、司の姉である赤羽茜の体を乗っ取っているエニー・アゼムだ。ただし、エニー・アゼムの名前はこの時代では不都合だったのか、今回はノヴァ・アゼムと名を偽っている様子である。

 

そんな2人がジークフリード校の横へと配置された。椎名の横にはエニー・アゼムが来る。

 

 

「久しいな小娘。其方らの命運も今日で終わりじゃ」

「減らず口は相変わらずなんだな、ノヴァ・アゼム……」

 

 

対戦前から小声で言い合い且つ睨み合い、火花を散らす両者。だがその1つ前では………

 

 

「ん?……あ、あれ、あんたあの時の仮面スピリットの!!」

「っ!?……あの時の小娘か……」

「そうっスよ!!あん時の小娘っス!!」

 

 

バークと五町が久し振りの再会を果たしていた。因みに、五町はなんの事情も知らない。あのバークとノヴァがまさかこの世界を破滅に導こうとしていることなど思ってもいないだろう。

 

 

「成る程〜〜あんたエニー・アゼムの子孫だったんスか!!そんならあの強さも納得っスね〜〜でも今回は私のフォーゼが勝つっスよ!」

「………馴れ馴れしくするつもりはない」

「またまた〜〜そんなお堅い事言って〜〜」

 

 

自分の事を友達のように接してくる五町に呆れるバーク。彼のこの大会での目的は赤羽司に勝利し、バロンを手に入れる事………

 

ただそれだけが目的なのだ。位置は遠いが、彼は司を鋭い視線で睨みつけていて………

 

 

《開会宣言、タイタス校3年、赤羽司君》

 

 

「へいへい」

 

 

大会ならばあって当然の開会宣言。今年は一昨年の界放リーグで2位だった司だ。1人持ち場を離れ、スタンドマイクが設置されている場所へと赴いた。

 

司は手慣れた手つきでマイクのスイッチを入れ、それを口元に近づけ………言った………

 

 

「せんせー………俺が芽座椎名に勝って優勝する……以上」

 

 

 

ーは?

 

 

 

司のあっけらかんとした宣誓に、いや、突然の勝利宣言に唖然とする会場。いったいどれだけ勝つ自信があるのか………

 

だが、すぐさま怒号の声と声援のような歓声が上がる。怒号と言うのは司ではない別の誰かを応援している者達の声。声援は司を応援する者達と笑う者達の声が混じったものだ。

 

司は元の場所に戻る時に椎名の方を向き、ドヤ顔で見つめた。まだ勝負などしていないと言うにもかかわらずだ。

 

この男、最初からエニー・アゼムの一族達との戦いなんて興味はない。彼が興味があるのはただ一つ『芽座椎名との決着』…………

 

 

「へへ、司の奴言ってくれるじゃん……でも、勝つのは私だ」

 

 

椎名も思わずそう口にした。彼女もまた司とのバトルを楽しみにしていた。

 

 

(………奴め……既に我は眼中にないと言うのか……低俗な一族の分際で……!!)

 

 

だがすぐその付近でバークは怒りの心で溢れかえっていた。今すぐにでも司を八つ裂きにしてやらんと言わんばかりのオーラを噴き出している………

 

 

《開会式は以上となります。第一試合の選手以外の皆様は速やかにご自身の控え室へとお戻りください》

 

 

無機質な声のアナウンスがそう告げると、巨大なモニターにトーナメント表が映し出された。

 

今年の界放リーグは例年とは少し違う。1回戦は4人がシードとして不戦勝となる。そして余った8人で1回戦を行い、残った4人と合計8人で2回戦を行うのだ。

 

 

そして、映えある1回戦の第一試合は………

 

 

「私か……」

「姐さんいいな〜〜1回戦目で!!私シードっスよ!?お預けっスよ!!」

「うるさいぞ五町」

 

 

一昨年同様、所詮は椎名の出番のようだ。シードのため1回戦を見送ることになった五町は残念そうな声を上げる。

 

 

「え〜〜っと、で、相手は…………」

「僕さ!」

「「?」」

 

 

椎名が気になる対戦相手を確認しようとした直後だ。椎名と五町の背後から声をかける人物が1人………

 

その生徒はミカファール校の制服を着ている。そして何よりも超絶的な美男子であった。百人に聞いたら間違いなくそう答えるだろう。

 

 

「誰だあんた」

「よくぞ聞いてくれた!!僕の名は嵐を呼ぶ美男子!!ミカファール2年の『模手最 的(もても てき)』!!……いぞ、お見知り置きを、レディ達」

「なんか胡散が臭そうなのが着たっスね」

「模手最?……なんかどっかで聞いた事あるような………」

 

 

自己評価の高い男、模手最的の自己紹介に椎名は何処かで聞いたような、又は見たような事を思い出そうとしていた。しかし、その後直ぐに考えるのを諦めてしまうのだが………

 

 

「貴女が噂の芽座椎名さんか………噂通りの美しい女性だ。どうだい、界放リーグが終わった後でも2人で夜の街へと洒落込みませんか?」

「嫌だ」

 

 

挨拶も束の間、突然椎名をナンパする模手最的。だが椎名はそれを聞くなりどうでも良さそうに目線を逸らしながら即答で断りを入れた。

 

 

「ふむ、この美しい僕に一目で見惚れては来れないか。だがそれが良い。その私に向ける冷ややかな態度。それこそ私が求めていた至高の女性!!」

「ちょっとぉぉぉぉぉ!!あんたさっきから聞いてたら好き勝手に言ってくれるっスね!!ウチの姐さんはあんたみたいな胡散臭い男に興味はないっスよ!!」

「まぁまぁ落ち着きなさい、小さき者よ。せっかく見た目は可愛いのだ。美しい僕や椎名さんを見習って精進するがよい」

「誰が小さき者だぁぁぁぁあ!!!私はずっと姐さんを見習ってるっス!!」

 

 

 

椎名がナンパされてるとわかった途端、居ても立っても居られなくなり、五町は模手最的に詰め寄るが、彼の気持ち悪いナルシストな言い回しに激怒してしまう。

 

 

「うるさいぞ五町」

「だって姐さん〜〜あいつキモイっス!!」

「わかったから、下がってろ。もう他の奴らはみんな控え室に帰ったぞ」

 

 

見かねた椎名が五町を引っ張り戻す。そして対戦相手である模手最的の前へと赴くと………

 

 

「おいあんた。生憎だけど、私は恋愛なんて興味ないぞ。どうしても語りたいなら私とのバトルで勝ってから語るんだな」

「ふむ、成る程。界放市を救った英雄である貴女らしい発言だ………いいでしょう、僕の実力。見せちゃいます!!」

 

 

椎名に言われ、ようやくバトルに対する姿勢を見せる模手最的。だがそのナルシストっぷりは取れない。

 

 

「姐さん勝ってくださいっスよ〜〜!!」

「はいはい」

 

 

五町は最後に言い残すと、速やかにスタジアムの裏口を通って自分の控え室へと向かった。

 

椎名と模手最的はその後直ぐに広大なスタジアムのバトル場へと足を運び、踏み入れる。

 

そして、椎名と模手最的がBパッドを展開した。その時だ。少し下の方で椎名を呼ぶ声が聞こえてきたのは………

 

 

「おい椎名!!」

「っ……晴太先生!?……なんで」

 

 

バトル場の直ぐ下にいたのは他でもない、椎名達の担任の教師、晴太だった。椎名は意外な人物の登場に少しだけ驚く。

 

 

「なんでってお前、俺が審判兼連絡役としてここにいるからに決まってるだろ?」

「全く、どんだけ心配なんですか………」

 

 

晴太は椎名達のバトルをできるだけ近くで観戦したかった。それで頼み込んだ結果。この役回りとして他の観客よりも間近で見る事が可能になって………

 

 

「つべこべ言うな!!全力で行けよ!!」

「はいはい」

「はいは一回!!」

「は〜〜い」

 

 

どこまでも熱血な晴太。椎名はまた違う意味でめんどくさそうに受け答えする。

 

そして改めて展開させたBパッドの上にデッキを置いて、起動させ………

 

 

「ふっふ、余談は済んだかな?」

「あぁ、もうお腹いっぱいだ」

「それは良かった。では、今から貴女を魅了させる魅惑のバトルスピリッツをご堪能いただこう!!」

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

伝統ある界放リーグ。記念すべき10回目となる今回の第一試合が幕を開けた。熱狂の歓声がこだまする中、先行は模手最的でスタートする。

 

 

[ターン01]模手最

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「美しい僕のメインステップ、僕は美しい光楯の守護者イーディスを召喚!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【光楯の守護者イーディス】LV1(1)BP1000

 

 

模手最的が華やかな手際で呼び出したのは、黄色の麗しい天使型スピリット。金色の盾を所持するイーディス。

 

 

「美しい僕はこれでターンエンド!!……どうだい?場持ちの良い守護者スピリット。これで次のターンから僕の場は美しい天使達で埋め尽くされる!!」

【光楯の守護者イーディス】LV1(1)BP1000(回復)

 

バースト【無】

 

 

イーディスのような名称に『守護者』と入るスピリットには、自身を含めたコスト3以下のスピリットを効果破壊から守る効果を備えている。

 

これにより、シンボルが残りやすく、次ターンからより強力なスピリットを呼ぶ事が可能になって来るのだが…………

 

 

「あぁ、そうだな………ただし、次のターンがあればの話だけどね」

「え?」

 

 

その椎名の言葉に僅かばかりの殺気を感じ、身震いする模手最的。

 

界放市を救った英雄、芽座椎名のターンがいよいよ幕を開ける。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、私はズバモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

【ズバモン】LV1(1)BP3000

 

 

椎名が手始めと呼び出したのは金色に輝く鎧を身に纏う成長期ブレイブ、ズバモン。スピリットではなくブレイブということもあって、他のデジタルスピリットとは一風変わった印象を受ける。

 

 

「アタックステップ!!ズバモンの【進化:全色】発揮!!緑の成熟期スピリット、スティングモンに進化!!」

【スティングモン】LV1(1⇨2)BP5000

 

ズバモンがデジタル粒子に変換され、椎名の手札に帰還したかと思えば、新たに緑のスマートな昆虫戦士、スティングモンが出現する。その効果でさり気なくコアが増加する。

 

 

「アタックステップは継続!!……スティングモンでアタック!!効果でコアを増やし、LV2にアップ!!」

【スティングモン】(2⇨3)LV1⇨2

 

 

さらにスティングモンにコアが追加され、LVか2へと上昇する。そしてこの時、さらに発揮されるアタック時効果が存在していて………

 

 

「【超進化:緑】発揮!!……スティングモンを完全体スピリット、パイルドラモンに進化!!」

【パイルドラモン】LV2(3)BP10000

 

 

スティングモンが0と1のデジタルコードに巻かれていく。それは膨らんでいき、やがて破裂すると、中からは新たに進化した姿、赤い頭部、4枚の羽、腰に2つの機関銃を所持する完全体スピリット、パイルドラモンが現れる。

 

 

「に、2ターン目で完全体!?」

「この程度で驚くな、まだまだ序の口だって……召喚時効果でコスト3のイーディスを破壊する……デスペラードブラスター!!」

「!!」

 

 

パイルドラモンは登場するなり、腰に備え付けられた2つの機関銃をイーディスに向けて連射する。イーディスは盾を構え、その弾丸を受け切った。

 

 

「だから言ったでしょう?…守護者のイーディスに効果破壊は効かない!!…美しく疲労状態で場に残る!」

【光盾の守護者イーディス】(疲労)

 

 

盾を構えたことにより、疲労状態になるが、パイルドラモンのデスペラードブラスターから身を守ったイーディス。だが彼は甘い。

 

何せ、椎名の本当の狙いはイーディスを破壊することではなく、疲労させることなのだから………

 

 

「パイルドラモンでアタック!!効果でコアを2つ追加し、ターンに一度回復する!!」

【パイルドラモン】(3⇨5)LV2⇨3(疲労⇨回復)

 

 

パイルドラモンは一瞬鮮やかな色に光輝く。それはコアブーストと回復を同時に行った証。このターンは2度目のアタックが可能となった。

 

 

「そして本命のアタックだ、いけぇ!」

 

「ふふ、回復したとはいえ、高々シンボル1つのアタック。いいでしょう、この僕の美しいライフを捧げましょう!!」

ライフ5⇨4

 

 

未だ余裕の表情を見せる模手最。気持ち悪い言い回しを述べながらパイルドラモンのアタックをライフで受けた。

 

パイルドラモンの強靭な拳の一撃が彼のライフ1つを粉々に砕いた。

 

 

「もう一度だ。パイルドラモンでアタック!」

【パイルドラモン】(5⇨7)

 

 

再びパイルドラモンでアタック宣言を行い、さり気なくコアを増加させる椎名。さらにこのタイミングであるカードを1枚引き抜く。

 

 

「フラッシュ【チェンジ】…インペリアルドラモン ドラゴンモード!!対象はパイルドラモン!!」

【パイルドラモン】(7⇨4)LV3⇨2

トラッシュ4⇨7

 

「なに!?…デジタルスピリットを対象にチェンジ効果を!?」

 

「だからそのくらいで一々驚くなって………パイルドラモン、究極進化!!…来い、インペリアルドラモン ドラゴンモードッッ!!」

【インペリアルドラモン ドラゴンモード】LV2(4)BP13000(回復)

 

 

パイルドラモンが高密度な光に包まれ、その中で姿形を大きく変化させていく。

 

その体はより巨躯たるものになり、背には巨大な赤い翼、砲手が出現。やがてその巨大な竜は光を弾き飛ばし、姿を現した。その名はインペリアルドラモン ドラゴンモード。パイルドラモンが進化を遂げた青と緑の究極体スピリットである。

 

 

「【チェンジ】の効果により回復状態のままアタックを続行!!」

 

「くっ!!…ライフを捧げましょう!」

ライフ4⇨3

 

 

ドラゴンモードの巨大な前脚から繰り出される鋭い爪の一撃が模手最的のライフを1つ切り裂いた。

 

 

「ドラゴンモードは回復状態、3度目のアタックだ!!」

 

 

すかさずこのターンの3度目のアタックを行う椎名。直後に手札のカードをまた1枚引き抜き………

 

 

「最強の進化コンボはこれからだ!!フラッシュ【煌臨】発揮!!対象はドラゴンモード!!」

【インペリアルドラモン ドラゴンモード】(4s⇨3)

トラッシュ7⇨8s

 

「!?」

 

 

突然の椎名の煌臨宣言。上空に激しい雷鳴を鳴り響かせる異次元の渦が現れたかと思うと、ドラゴンモードはそこに吸い込まれるように中へと向かい、姿形を大きく変形させていく。

 

 

「インペリアルドラモン、モードチェンジ!!……現れよ、ファイターモードッッ!!」

手札4⇨3

【インペリアルドラモン ファイターモード】LV2(3)BP15000

 

 

その異次元の渦から再び姿を見せたのはドラゴンモードではなく、竜型から人型へと形を変えたインペリアルドラモン。名をファイターモード。

 

 

「な、なんだ………なんだこの化け物は!?」

 

 

ファイターモードの圧倒的な存在感、強者のオーラに呑まれてしまい、怯え、怯み、たじろぐ模手最的。

 

だが椎名はそんな彼の様子など伺うこともなくアタックを継続させ………

 

 

「煌臨スピリットは煌臨したスピリットの全ての情報を引き継ぐ……ファイターモードでアタックを続行!!」

 

「くっ……また僕の美しいライフを捧げよう……!!」

ライフ3⇨2

 

 

ファイターモードは腕に装着された砲手を模手最的に差し向け、そこからレーザービームを放出。そのライフを難なく貫いて見せた。

 

 

「……へ、へへ……終わり……まだ僕の美しいライフは健在……」

 

 

ファイターモードが攻撃を終えたその様子を視認するなり、安堵の表情を浮かべる模手最的。

 

だが、まだ終わりではない………

 

椎名はファイターモードの効果を発揮させる。

 

 

「ファイターモードのアタック時効果!!」

「!?」

「相手のライフを減らした時、さらに2つのライフを破壊する!!」

「はぁ!?」

 

 

椎名がそう宣言すると、ファイターモードは胸部にある竜口を開口させ、そこに分解した砲手を取り付け、エネルギーを限界まで蓄積させる………

 

 

「行けファイターモード………超然の一撃……」

「ちょ、ちょっと待っ………」

「ギガデスッッ!!」

 

 

模手最的の有無を聞かず、効果の発動を宣言する椎名。ファイターモードはついに胸部の竜口から莫大なエネルギーが詰まった弾丸を彼のライフへ向け、放つ。

 

 

「う、うぁぁぁぁっ!!!?」

ライフ2⇨0

 

 

それは瞬く間にライフへと直撃し、一瞬にして全てを破壊する。噴き上がる狼煙は椎名の圧倒的な強さと勝利を見せつけるには十分すぎるものがあって………

 

唖然とし静まり返る観客達………しかし、爆煙が晴れ上がり、模手最的が無様でみっともない格好で横転している様子を視認してからは椎名が勝利を収めた事を理解していき、一瞬のうちにまた轟音のような歓声を上げた。

 

 

『1ターンキル』

 

 

僅か一度のターンで勝負を決める事を総じてそう呼ばれる。しかし、それを行えるデッキ、及びカードバトラーは滅多にいない。今の芽座椎名がどれだけ常識を逸した強さを秘めているのかが伺える。

 

模手最的が弱すぎるのではない。芽座椎名が余りにも強すぎるのだ。

 

 

「フンっ、それくらいでないと困る!!」

 

 

控え室でその試合をモニター越しで眺めていた赤羽司はそう嬉しそうに感想を述べた。

 

 

ー…

 

 

「ま、悪く思うなよ〜〜」

 

 

無様でみっともなく倒れている模手最的にそう告げ、余裕のある表情を浮かべながらスタジアム裏にゆっくりと歩みを進める椎名。

 

 

(バーク、エニー・アゼム……どっからでもかかって来い!!……この大会で決着をつけてやる!!)

 

 

心の中で打倒エニー・アゼム達を志す椎名。その意思は鋼のように固い。

 

第10回界放リーグ。椎名達の最期の界放リーグはまだまだ始まったばかりである………

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは【スティングモン】」

椎名「緑の成熟期スピリットスティングモン。アタック時と召喚時でコアを増やすことができる。そのターン中にパイルドラモンに進化が可能だ」


******


〈次回予告!!〉


続々と1回戦の勝者が決まっていく中、注目の一戦が幕を開ける。それはかの有名なバトスピ 一族、九白の最高傑作と言われる少女、九白小波。そんな彼女の本気とは………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「九白小波の本気、機動城塞セントガルゴモン!!」……今、バトスピが進化を超える……!!」


******


※次回のサブタイトル及び内容は予告なく変更の可能性があります!!予めご了承ください!!


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

遂に最終章です!!おそらく後10話とちょい程度で完結だと思います!!


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第109話「九白小波の本気、機動城塞セントガルゴモン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第10回界放リーグ。その最初の試合は芽座椎名が圧倒的な強さを見せつけての勝利を収めた。

 

その後も1回戦は続いている。今年のシードは4人。『岬五町』『岸田空牙』『ノヴァ・アゼム』『バーク・アゼム』

 

つまりそれ以外の者達がこの1回戦でバトルを行う事となる。

 

今現在はジークフリード校の生徒でありながら、オーディーン校の代表として勝ち上がり、界放リーグへと出場を果たした英次がキングタウロス校の生徒としのぎを削っていて………

 

 

「トドメです……いけぇ!…ジャスティモン…ジャスティキックッッ!!」

 

「ぐっ、うわぁぁぁ!!」

ライフ1⇨0

 

 

赤いマフラーを靡かせる正義のヒーローのような見た目の究極体スピリット、ジャスティモンが飛び蹴りを放ち、キングタウロス校の生徒のライフを砕く。

 

英次の勝利だ。彼の小さな勇姿にスタジアムを囲む観客達は大いに沸いて見せた。

 

そして次は第三試合、英次の義理の姉である九白小波のバトルだ。

 

 

ー…

 

 

晴れやかな晴天下の元、オーディーン校の代表、九白小波と、キングタウロス校の代表であり、尚且つ界放リーグ3連覇を成し遂げた緑坂冬真、ヘラクレスの一番弟子、炎林頂が面と向かって対峙していて………

 

 

「俺の相手は九白最強の女か……不足無しだな、よろしく頼むぞ」

「ふぁ〜〜あ。……さて、英次と一緒に界放リーグに出る夢は叶ったし、どうするかな〜」

 

 

やる気満々の炎林に対し、眠そうに欠伸をする九白小波。彼女のこの大会に対するモチベーションは著しく低い。

 

それは何故か?

 

理由はただ1つ、小さくて可愛い義弟、英次と一緒に大会に出るという夢が叶ったからだ。優勝が狙いの他の参加者とは違い、彼女の目標は既に叶っていたのだ。それ故、燃え尽き症候群的な感じになっている。

 

 

「おいお前!!さっきから何ボサッとしてんだ!!やる気あんのか?」

「無いよ〜〜」

「無い!?」

 

 

炎林が小波にそう聞く。小波の裏もなさそうなきっぱりとした言い方に、思わず驚いてしまう。

 

界放市に住まう者なら、界放リーグの代表に選ばれるという事は栄誉ある事なのだ。それをあんな粗野にしているような態度が彼にとっては信じられなくて………

 

 

「こいつ……良いだろう。お前のその性根、叩き直してやる!!このヘラクレスの弟子である、炎林がな!!」

「ん?なんであんたは怒ってんだ?……まぁどうでもいいけど」

 

 

2人はそう言いながら自身のBパッドを展開する。そのままデッキをセットし………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共に、1回戦 第三試合のバトルが開始される。しかし、その温度差は歴然。最初は九白一族最強の刺客、九白小波のターンだ。

 

 

[ターン01]小波

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ………さぁおいでませ、テリアモン!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【テリアモン】LV1(1)BP2000

 

「っ……九白一族の最強スピリットの成長期の姿か!!」

 

 

小波が早速呼び出したのは……

 

所謂白いもふもふ。主に長い耳のもふもふ感が凄い。

 

炎林は気を抜かずでいるが、当の本人は………

 

 

「あ〜〜やっぱテリアモンは癒しだわ〜〜……この殺伐としたバトルに癒しを与えてくれている!!」

「………は?」

 

 

目の前にいる自分が召喚したテリアモンに夢中になっていて、全く炎林とのバトルに集中していなかった。

 

 

「おいお前!!ふざけるんだったらとっととサレンダーしろよなぁぁ!!」

「うっさいなぁ、せっかくテリアモン成分を補給していたのに………それに適当にバトルしたら叱られるのは私なんだぞ!?」

「いや、知らん!!」

 

 

当然の如く怒鳴りつける炎林。その行いは決して恥じる事はない当然の行い。

 

小波はライバルたちと切磋琢磨し、勝ち上がってきた者達への侮辱にも等しい事をしているのだから………

 

しかし、そんな事も全く意に介さず、独自の考えだけで動く彼女にとって、炎林の価値観は理解できず………

 

 

「まぁ怒られるし、召喚時効果くらい使っておくか……」

オープンカード↓

【リアクティブバリア】×

【ラピッドモン(テイマーズ)】◯

【ドリームリボン〈R〉】×

 

 

召喚時効果もめんどくさそうに使う始末である。一応は成功し、小波は新たにカードを加えた。

 

 

「ターンエンド……さ、私がテリアモンに見惚れている間にあのゴーグル女見たく、さっさとワンターンキルでも決めな〜〜」

手札4⇨5

 

【テリアモン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

「できるか!!」

 

 

ワンターンキルだったらしょうがなかったと言う理由で上から叱られる事はないだろうと考えている小波。

 

しかし、当然のように、あんな事が出来るのは芽座椎名くらいなものである。炎林は小波の奇行に腹を立てつつ、戸惑いながらも、自分のターンを進行していく。

 

 

[ターン02]炎林

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はホムライタチを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

【ホムライタチ】LV2(3)BP3000

 

「あら可愛いじゃない!!」

「うるせぇ!!」

 

 

炎林が召喚したのは尾が炎のように燃えているイタチ型スピリット、ホムライタチ。その効果によりメインステップ中、常時緑シンボルが浮かんでいる。

 

 

「俺はこれでエンドだ!!」

【ホムライタチ】LV2(3)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

「全く、早く勝負をつけてくれよ〜〜私も出来る限りは抵抗する姿勢を見せないと怒られるし」

「なんでお前はハナっから負けるつもりなんだぁぁ!!」

 

 

小波はもう既に満足しているため、このバトルの勝敗は気にしていない。だが、適当に負けても九白一族の上部層からお叱りが飛ぶ事から、こうして炎林が自分のデッキのフィニッシュパターンを行うのを待つしかなくて………

 

この少女、九白小波は『可愛いものが好き』……しかし、余りにも度がすぎる。

 

 

[ターン03]小波

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、さあて、どうしたものかな………あっ、モーマンタイ。丁度御誂え向きなのがあるじゃん………召喚、氷楯の守護者オーシン」

手札6⇨5

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨2

【氷楯の守護者オーシン】LV1(1)BP2000

 

「っ……守護者スピリットか……どんだけそのテリアモンが大事なんだよ」

 

 

凍てつく吹雪が小波の場を駆ける。それが過ぎ去ったかと思えば、その場には盾を持つ白いボディのロボットが存在していて………

 

このロボットのスピリット、オーシンは守護者スピリット、コスト3以下のスピリットを効果破壊から守る効果を備えている。小波はテリアモンを守るための布陣を固めたのだ。

 

 

「これでしばらくはテリアモンを眺めてられるな〜〜あ〜〜しあわせ!!」

「早くターンを進めろぉぉぉぉぉぉお!!」

 

「カリカリしなさんな、テリアモンのLVを2に……」

リザーブ1⇨0

【テリアモン】(1⇨2)LV1⇨2

 

 

小波はどこまでもまともにバトルをする気は無いようだ。どう転んでも自分が負けるようにバトルしようとしている。

 

 

「さてと、コアを増やしてやるか……アタックステップ、テリアモンでアタック!!」

 

「っ……ライフで受ける!」

ライフ5⇨4

 

 

テリアモンは長くて太い耳を中心に回転し、小さな竜巻を発生させる。それは炎林のライフまで届き、砕いた。

 

 

「はわ〜〜!!ライフを削るモーションもかわいい!!」

 

 

このタイミングで炎林のライフを減らしたのは、彼にコアを増加させることによって、自分の敗北を近づかせるのが理由である。

 

 

「エンド〜〜早くデッキ回転させろよ〜〜」

【テリアモン】LV2(2)BP5000(疲労)

【氷楯の守護者オーシン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

「良い気になりやがって………良いぜ、この俺の力、とくと味わえ!!」

 

 

小波の無意識な煽りもあって、炎林の怒りはピークに達している。彼の力強いターンが幕を開ける。

 

 

[ターン04]炎林

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨4

トラッシュ2⇨0

 

 

「メインステップ、俺は六分儀剣のルリ・オーサをLV2で召喚!!その効果でホムライタチと自身にコアを1つずつ追加!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

【六分儀剣のルリ・オーサ】LV2(2⇨3)BP5000

【ホムライタチ】(3⇨4)

 

 

剣を携えるスマートな昆虫騎士、ルリ・オーサが召喚されたかと思えば、元々いたホムライタチ共々コアが増加する。

 

 

「さらに2体目を召喚し、さらにコアブースト!!」

手札4⇨3

トラッシュ2⇨3

【六分儀剣のルリ・オーサ】LV1(1)BP3000

【六分儀剣のルリ・オーサ】(3⇨2⇨3)

【ホムライタチ】(4⇨3⇨4)

 

 

すぐさま2体目が召喚されてまたコアが増える。ただ、彼の熱のこもった言動からはまだこれで終わる雰囲気もなくて………

 

 

「3体目だ!!さらにコアブーストする!!」

手札3⇨2

トラッシュ3⇨4

【六分儀剣のルリ・オーサ】LV1(1)BP3000

【六分儀剣のルリ・オーサ】(3⇨2⇨3)

【ホムライタチ】(4⇨3⇨4)

 

 

炎林の場には3体のルリ・オーサが並ぶ。このターンだけで実に6個のコアが追加された。1ターンで、しかも第4ターン目でこれほど数が並ぶデッキは数少ない事だろう。

 

 

「LV調整!!アタックステップ!!……翔けろルリ・オーサ!!」

【六分儀剣のルリ・オーサ】(3⇨2)

【六分儀剣のルリ・オーサ】(1⇨2)LV1⇨2

【ホムライタチ】(4⇨3)

【六分儀剣のルリ・オーサ】(1⇨2)LV1⇨2

 

 

小波のライフめがけ、1体のルリ・オーサが羽根を広げ、飛翔する。

 

 

「やぁっとお出ましか〜〜ライフで受けるよ」

ライフ5⇨4

 

 

ルリ・オーサの鋭い剣撃が小波のライフを襲い、それを1つ砕いた。

 

 

「まだまだぁ!!残りのルリ・オーサでもアタック!!」

 

「はいはい、ライフだ受けまーす」

ライフ4⇨3⇨2

 

 

2、3体目のルリ・オーサも1体目同様小波のライフを切り裂く。これで彼女のライフはあっという間に僅か2となってしまう。

 

 

「どうだ舐めプ女、これで少しはやる気になったか!!俺はターンエンドだ!!」

【ホムライタチ】LV2(3)BP3000(回復)

【六分儀剣のルリ・オーサ】LV2(2)BP5000(疲労)

【六分儀剣のルリ・オーサ】LV2(2)BP5000(疲労)

【六分儀剣のルリ・オーサ】LV2(2)BP5000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

散々アタックした炎林はそのターンをエンドとした。

 

しかし、彼からの猛ラッシュを受けても、未だにライフがゼロになっていない事に対し、小波はやや不服そうな表情を浮かべており………

 

 

「早く終わりたいんだけどな〜〜」

 

 

と、やる気のない言葉を呟きながら、再び自分のターンを進める。

 

 

[ターン05]小波

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨6

トラッシュ2⇨0

【テリアモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ…………んーーーーエンド」

【テリアモン】LV2(2)BP5000(回復)

【氷楯の守護者オーシン】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【無】

 

 

「はぁっ!?」

 

 

しかし、彼女の盤面はほとんどと言っていいほど動かず……

 

前のターンにあれだけ派手にライフを奪われたにもかかわらず、反撃する姿勢も、スピリットを召喚し、守りを固めるそぶりすら見せなくて………

 

 

「なんなんだお前は!!なんで反撃して来ない!?」

「だーかーらー…何度も同じ事を言わせるなって、面倒なんだよ、私はさっさと負けて愛しい英次の応援に回りたいわけ!」

 

 

仮にも栄光の界放リーグの代表として選ばれている選手が口にする発言とは思えない。

 

もっと言えば、あの勝負の勝敗に拘る九白一族の最強のバトラーとは思えず………

 

 

「っざっけんなぁぁ!!俺達がどれだけ苦労してこの大会に出場したと思ってんだ!!…お前は他の代表になれなかった奴らの気持ちを無下にしているんだぞ!?」

 

 

小波のその行為に、ただでさえ怒りのピークに達していた炎林はさらに強く彼女を怒鳴りつける。

 

彼の言い分はもっともだ。同じ学園生の並み居る強敵を倒し、ここまで勝ち上がってきたと言うのに、何なのだこの女は……自分の代表としての責務を全く理解していない。

 

 

「もう、うっさいなー……君の価値観を私に押し付けないでくれる?…そんなの私にとってはモーマンタイ。問題無いんだよ」

「な、なんだと……このクソ女!!」

 

 

当然、小波が炎林の声などまともに聞くわけもない。彼女にとって、バトルの勝ち負けなどどうでもいい。

 

勝とうが負けようが、可愛らしいスピリット。最愛のテリアモンさえ眺められればそれでいいのだ。

 

それこそが今の九白一族の最強傑作、九白小波なのだ。おそらく九白の長い歴史上、もっとも厄介な性格をしているのは間違いない。

 

 

「さ、わかったらその4体のスピリットで私のライフを狙って〜〜、それでゲームエンドだから」

「おぉ、わぁったよ………全力でお前の全てを破壊してやる……!!」

「?」

 

 

炎林から僅かながらに違和感を感じた小波。実際、特に大したものではないが、何故だろうか、彼女にしては珍しく若干の危機感を覚えた。

 

そして、心が怒り満ち溢れた炎林のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン06]炎林

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

【六分儀剣のルリ・オーサ】(疲労⇨回復)

【六分儀剣のルリ・オーサ】(疲労⇨回復)

【六分儀剣のルリ・オーサ】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!俺はバーストをセットし、アクセル、煌星第一使徒アスガルディアの効果発揮!!」

手札3⇨1

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨3

 

「!!」

「この効果によりBP12000以下のスピリットを全滅させる!!これでお前のテリアモンは終わりだ!!」

「いやいや、バカか、テリアモンは守護者によって護られる………」

 

 

炎林が使ってきたアクセルカードは赤属性の一掃系効果を持つ強力無比なもの、しかし、それを使われてもなお小波は落ち着いた表情を崩さない。

 

大事なテリアモンは守護者オーシンが文字通り守護するからである……

 

だが………

 

 

「バカはテメェだ!!アスガルディアは破壊したスピリットの効果を無効にする!!」

「?」

「守護者スピリットは破壊されたスピリットを結果として場に残す効果、根本となる効果を妨げている訳ではない!!よって、2体とも場に残らず破壊されるっ!!」

「っ!!」

 

 

ここに来て初めて小波の落ち着いた表情が変わる。

 

思わず愛でる存在であるテリアモンの方へと目を向けるが、その直後、大気を揺るがすほどの大爆発が彼女の場を襲い………

 

テリアモンとオーシンは焼き払われた………

 

 

「…………」

 

 

その阿鼻叫喚しかねない光景に、小波は言葉が出ず暗い表情を浮かべ……………

 

 

「よっしゃぁぁどうだ舐めプ女!!ヘラクレスの弟子を舐めんなよ!!アタックステップ、ホムライタチでアタック!!」

 

 

バトルに勝とうとはせず、頑なに最後までテリアモンを眺めようとしていた小波の目論見を潰したからか、勢いづく炎林。そんな彼の指示に従い、ホムライタチが地を駆ける………

 

 

「………おい」

「?」

「……私のテリアモンに何すんだ?」

「っ!?」

 

 

小波の方から悪寒を感じさせる声色が聞こえてくる。その凄みに彼は思わずたじろいだ。小波はテリアモンを破壊した事に怒りを静かに燃やしていて………

 

炎林は既に虎の尾を踏んでいた事に気付いていなかった。躍起になってテリアモンを破壊せずに普通に彼女の言う通り勝っていたらどれだけ幸福だった事だろうか…………そう気づくのは少しだけ未来の話となる。

 

 

「フラッシュマジック、アルテミックシールド……ホムライタチのアタックはライフで受ける」

手札6⇨5

リザーブ9⇨5

トラッシュ0⇨4

ライフ2⇨1

 

「!!」

 

「そして、アタックステップは終わる」

 

 

まるで別人になった小波が手札から発揮させたのは白のありふれた防御マジック。ホムライタチが体当たりで彼女のライフを破壊した事に反応し、炎林の場に猛吹雪を発生させる。

 

 

「お前のアタックなんてこんなちんけでありふれたマジックでいくらでも止められる。どうした、そんなものか?」

 

「っ………エンドだ……」

【ホムライタチ】LV2(3)BP3000(疲労)

【六分儀剣のルリ・オーサ】LV2(2)BP5000(回復)

【六分儀剣のルリ・オーサ】LV2(2)BP5000(回復)

【六分儀剣のルリ・オーサ】LV2(2)BP5000(回復)

 

《手元》

【煌星第一使徒アスガルディア】

 

バースト【有】

 

 

猛吹雪が止み、炎林のターンがエンドとなる。次は完全にブチ切れてグレている小波のターン。

 

 

「テリアモンを破壊した罪を償えよ」

「うっさいぞ!!そもそもお前がテリアモンを召喚しなければ良かった話じゃないのか!?」

 

 

最もな意見である。

 

破壊されたくないのであればテリアモンなんて召喚しなければ良い。だが、この九白小波にそんな常識的な考え方は一切通用しない。自分の考えこそが至高且つ絶対であると心の何処かで認識しているからだ。

 

この可愛いスピリットを見たいがためだけにバトルしている『九白小波』が何故『九白最強』と言われているのか………

 

その理由はただ1つ、テリアモンがやられた時に本気を出すからだ。その本気の本気とバトルしたバトラーの中で未だ勝利を収めた者は誰もいない………

 

 

その真の実力がこのターンで発揮される。

 

 

[ターン07]小波

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ6⇨7

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ7⇨11

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ……要塞都市ナウマンシティーを配置!!」

手札6⇨5

リザーブ11⇨6

トラッシュ0⇨5

 

「!!」

 

 

小波が怒りのままに背後に呼び寄せたのは巨大な城塞を連想させる都市。その本領発揮は配置した直後だ。

 

 

「この効果で手札にある白属性のスピリット、ラピッドモンをLV3で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨2

【ラピッドモン(テイマーズ)】LV3(4)BP11000

 

 

要塞都市から緑色の金属で出来た装甲を纏う完全体のスピリット、ラピッドモンが現れた。やる気があるのか、その両腕にあるミサイル砲を四方に回転させている。

 

 

「ハッ、今更完全体かよ……その程度じゃ俺はやられねぇ!!」

 

 

炎林はそれを視認するなり少しだけ安堵の表情を浮かべた。ラピッドモンは完全体と言うにはやや体格の小さいスピリットである。小波の威勢の割にには大した事ないと言いたげだ。

 

さらに安堵できる理由として、彼の場には汎用性の高いバーストカード『絶甲氷盾』が伏せられていた。ブロッカーの数もさることながら、確かに小波がこの場を突破するのは難儀するのが伺える………

 

しかし、やはりと言うべきか、彼のその見通しは甘く………

 

 

「お前は塵も残らんと思え………アタックステップ、ラピッドモンで攻撃を仕掛ける!!」

「!」

 

 

何の躊躇いも躊躇もなく、ラピッドモンでアタックを仕掛ける小波。

 

 

「アタック時効果、相手スピリット2体を手札に戻す………散れ、ルリ・オーサ!」

 

「っ!!……この程度……」

手札1⇨3

 

 

ラピッドモンが彼女からアタックの指示を受けるなり、手先の砲手からミサイルを乱射する。読めない起動を描きながら落ちた先は炎林の場。ルリ・オーサ2体に被弾し、それらをデジタルの粒子へと変え、手札へと帰還させた。

 

だが、この程度、どうと言うことはない。自分のライフは残り4。バーストカードもある。次のターンで終わりだ。

 

炎林がそう思っていた直後だ。小波がさらに手札から1枚のカードを引き抜いたのは………

 

それは九白最強と言われるデジタルスピリット………

 

 

「フラッシュ【煌臨】発揮……対象はラピッドモン!!」

手札4⇨3

リザーブ2s⇨1

トラッシュ4⇨5s

 

「!?」

 

 

デジタルスピリットを究極体へと進化させる力、煌臨が発揮される。ラピッドモンが白き光の中で姿形をより巨躯たるものへと変化させていき、さらにそれと共に身体の部分にどんどん重々しい装備が施されていき………

 

 

「ラピッドモン、究極進化………セントガルゴモンッ!!」

【セントガルゴモン】LV3(4)BP16000

 

 

その白い光を弾き飛ばしながら現れたのはスタジアムを見下ろすほどに巨大な体躯を持つ白の究極体スピリット、セントガルゴモン。九白一族の最強の称号を持つ者だけが与えられるというカードであり、代々受け継がれている。

 

その姿はまるで生きた要塞。

 

 

「な………で、でかい……!?!」

 

 

見上げるほど巨大なセントガルゴモンの登場に怯む炎林。しかし、小波はそんな彼が落ち着く間もなくセントガルゴモンの効果を遺憾なく発揮させていき………

 

 

「煌臨時効果、スピリット1体、バースト1つをデッキの下へ!!」

「はぁ!?」

「沈め、3体目のルリ・オーサ………目障りなバーストカード!!」

「ぐっ……う、うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 

小波がそう宣言すると、セントガルゴモンは身体のあちこちからミサイルや爆弾等の遠距離兵器を一斉に放出する。その圧倒的な火力に、バーストカードやルリ・オーサが跡形もなく消え去っていく………

 

 

「セントガルゴモンはダブルシンボル。一度のアタックでライフを2つ破壊するっ!! さらに煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!! セントガルゴモンでアタック!!」

「っ……だが!!俺のライフは4!!抜かったな九白最強の女、まさかライフ計算もできないとは…………」

 

「フラッシュマジック、ダイヤモンドストライク!! セントガルゴモンを回復させる!!」

手札3⇨2

リザーブ1⇨0

トラッシュ5s⇨6s

【セントガルゴモン】(疲労⇨回復)

 

「………は、はぁ!?」

 

 

小波が唐突に放った1枚のマジック。それがセントガルゴモンのカードを疲労状態から回復状態に戻し、このターン、2度目のアタックが行えるようになった。

 

ダブルシンボルの2回の攻撃。もはや指を折り曲げて数えるまでもないだろう。

 

 

「ら、ライフで………うおっ!?」

ライフ4⇨2

 

 

セントガルゴモンの重たい拳の一撃が炎林を襲い、そのライフを粉々に玉砕した。

 

 

「セントガルゴモンで再度攻撃する。その効果でホムライタチを沈める!!」

「!!!」

 

 

セントガルゴモンは足元でうろついているホムライタチを踏み潰すと、今一度炎林の方へと顔を向け………

 

 

「テリアモンの恨みを思い知れぇぇっ!!」

 

「馬鹿な……ヘラクレスの弟子のこの俺が………ぐ、ぐぁぁぁぁあ!!!」

ライフ2⇨0

 

 

セントガルゴモンは炎林のライフを踏み付け、そのライフを完膚なきまでに粉砕した。無機質なアナウンスが小波の勝利を告げ、それと共に観客達は彼女に声援を送った。

 

 

「くっ………ちくしょう……!!」

 

 

あまりのショックと悔しさに地面に手をつけ項垂れる炎林。だが、小波はそんな彼を見ることもなく、颯爽とスタジアムのバトル場を立ち去っていく。

 

 

「あ〜〜イライラするぅ〜〜」

 

 

その言動と表情からはテリアモンを破壊された怒りがまだ晴れていないのが伺える。

 

少々変わり者だが、本気を出せば椎名や司にも負けると劣らない実力のある九白小波。やはり九白最強の名は伊達ではなかった………

 

 

ー…

 

 

「さぁ〜〜てと、次は僕の試合だ。華々しいデビューを飾ろう。このサクヤモンと………『神のカード』で」

 

 

モニターで小波と炎林の試合を観戦しながらそう口を動かしていたのはミカファール校1年の生徒。余程腕に自信があるのか、自分のデッキを調整するそぶりすら見せず、ただカードを眺めていた。

 

それは世にも珍しい『神のカード』であるのは間違い無くて………

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


椎名「本日のハイライトカードは『セントガルゴモン』」

椎名「九白一族最強の者だけが持つと言われている最強デッキの象徴たるスピリット。その破壊力は他の追随を許さない」


******


〈次回予告!!〉


第10回界放リーグの1回戦も遂に最後の試合となった。その対戦カードは朱雀である赤羽司と、元界放市市長『木戸 相落』の実の孫『木戸 相葉』………相葉は『自分には神のカード』があると豪語するが………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「ロード・バロン……!!」……今、バトスピが進化を超える!!


******


次回のサブタイトルや内容等は予告もなしに変更の可能性もあります。予めご了承ください!!



最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

デジモンコラボやガンダムコラボが発表されました。小説の感想欄に小説意外の話で雑談する事を嫌がる読者様もおられますので、その点のお話はバナナの木の活動報告の『デジモンコラボやガンダムコラボについて』のコメントにて受け付けます。
ですので、一定の摂理は御守りくださるようお願いします!!

ミスやルール指摘等は極力誤字報告やメッセージボックスでお願いします!!


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第110話「ロード・バロン……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

A事変で銃魔と激闘を繰り広げた赤羽司。

 

あの時……

 

彼は自分の身体を蝕んでいく『ジョーカー』の力に苦しみながらも己の気力と胆力のみでそれを克服、及び制御し、『バロン』のカードをこの世に蘇らせた。

 

ただ……

 

あの時の『ジョーカー』のカードがその後どうなったのかは………

 

未だ彼のみしか知らぬ事であって………

 

 

******

 

 

第10回界放リーグの1回戦もいよいよ大詰めだ。スタジアムのバトル場を囲む観客達が熱狂の声を上げる中、最後の対戦カードである2人が同時に歩み寄る。

 

1人はタイタス校の代表として勝ち上がってきた芽座椎名最大のライバル、朱雀こと『赤羽司』

 

そしてもう1人は………

 

 

「こんにちわ、赤羽先輩……僕はミカファール校1年の『木戸相葉(きどあいば)』と申します」

「木戸?」

 

 

対戦相手であるミカファール校の小柄で天然の癖毛が特徴的な男子生徒が司に声をかけてきた。礼儀正しいその声色は1年生にしてはどこか落ち着いていて、余裕だった。

 

司が気になったのは彼の『木戸』と言う苗字だ。

 

 

「はいそうです。僕の祖父は界放市市長で『Dr.A』だった『木戸相落』です」

「………」

 

 

相葉はニコッと笑い、柔らかい笑顔を見せながら司に返答した。

 

『木戸相落』と『Dr.A』

 

『Dr.A』の本名は『徳川暗利』だが、約18年前、『木戸相落』が死してからは彼が『木戸相落』となり、界放市の市長として表でも裏でも街を支配していた。その結果、『A事変』が彼の思惑通りにスムーズに進行していってしまった。

 

相葉はそんな『木戸相落』本人の実の孫であるのだ。

 

 

「いや〜〜びっくりしましたよ最初に聞いた時は、まさか生まれた時からずっと見ていた祖父が『Dr.A』という怪物だったなんてね〜〜」

「………」

「だけど、赤羽先輩と芽座先輩の活躍であいつは死んだ………ニッヒッヒ、そのお陰様で僕は『サクヤモン』を継承した!!」

 

 

1人で言葉をずらずらと並べていく相葉。その言い草は仮にも祖父だった男が死んだ後とは思えなくて………

 

『木戸』の名前を持つ者は代々、『サクヤモン』を受け継いでいた。『木戸相落』の次はあの相葉だったため、相落に扮していた『Dr.A』が亡くなった事により『サクヤモン』のカードが彼に渡ったのだ。

 

 

「僕には『神のカード』がある!!生まれた時から!!…こいつを扱うためには爺ちゃんの『サクヤモン』が必要不可欠だった!!感謝するよ、あんたと芽座先輩にはねぇぇ!!」

 

 

相葉は………

 

生まれた時から『神のカード』がオーバーエヴォリューションによって与えられていた。物心ついた時からずっと、彼は相落の持つ『サクヤモン』を欲していたのだ。

 

そして今、彼の手にはその『サクヤモン』がある。向かう所敵なしの気分でいるのだろう。

 

 

「言いたい事は言ったか?……じゃあ始めるぞ、『モブ野郎』」

「………は?」

 

 

相葉の話が一段落ついたと見た司は突然そう言いだした。2人は対戦相手として互いの眼前に聳え立っているため、その言葉は当たり前ではあるが………

 

相葉がカチンときたのは自分の事を『モブ野郎』と例えた事だ。

 

 

「モブ野郎?……ふふ、僕が聞き間違えたのかなぁ?……まさか『神のカード』を持つ僕がモブな訳ないよね〜〜」

「お前しかいないだろ?早くBパッドを出せ、『モブワカメ』と呼んでも良いんだぞ?」

「………」

 

 

相葉の髪型は確かにワカメのような縮れた癖毛だ。

 

赤羽司は基本的に『認めていない相手は名前で呼ばない』という傾向がある。芽座椎名のように認めてはいても渾名で呼ぶ例外もあるが、それ以外は基本的に見た目の特徴を捉えた名称で呼ぶ事がほとんどだ。

 

どこからどう聞いても自分に対する煽りにしか聞こえなかった相葉は腹を立てて………

 

 

「全く、開会式の時の優勝宣言といい、今といい、本当に僕を苛つかせる人だ……この『神』に選ばれた僕を『モブ』と呼んだ事、許すまじ………あなたの方が『モブ』だという事をはっきり分からせてあげるよ、このバトルでねぇ!!」

「ふっ、弱い犬ほどよく吠えるってな………」

 

 

2人はそう言いながら自身の懐からBパッドを取り出し、展開させ、デッキをその上にセット、準備を完了させる。

 

そして………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

第10回界放リーグ、その1回戦最後の試合が轟音のような歓声の中、幕を開ける。

 

先行は『神のカード』を持つ相葉だ。

 

 

[ターン01]相葉

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、僕はレナモンを召喚する!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【レナモン】LV1(1)BP3000

 

 

相葉が颯爽と呼び出したのは黄色い狐のような姿をした成長期スピリット。

 

 

「効果発揮!!カードを4枚オープンする!!」

オープンカード↓

【タオモン】◯

【孤葉楔】×

【牧野 留姫】◯

【フーリン】◯

 

 

デッキのカードがオープンされる。その効果は成功。彼は一気に2枚のカードを手札に加えた。

 

 

「………ニッヒッヒ……ターンエンド」

手札4⇨6

【レナモン】LV1(1)BP3000(回復)

 

バースト【無】

 

 

不気味な笑みを浮かべながらそのターンをエンドとする相葉。御満悦な理由はどうやら手札に加えたカードにあるようだ。

 

次は赤羽司のターン。ターンを進行していく。

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺は仮面ライダーバロンとイーズナを召喚する!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨3

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV3(1)BP7000

【イーズナ】LV1(1)BP1000

 

 

司の場の上空よりチャックが現れ、開いたかと思うと、そこに繋がる別の空間から赤い仮面スピリット、バロンが姿を見せた。同時にイタチ型のイーズナも現れる。

 

 

「アタックステップ、やれバロン、イーズナ!!……バロンのアタック時効果で1枚ドローし、BP5000以下のスピリット1体を破壊する!!砕け散れレナモン!!」

手札3⇨4

 

「!!」

 

 

走り出すバロンとイーズナ。

 

バロンは一瞬でレナモンとの距離を詰め、手に持つ大きな槍でレナモンの腹部を突き刺す。レナモンは力尽き破裂するように爆発した。

 

 

「成る程、それが仮面スピリット、バロンの力か………3コストのスピリットにはそぐわない力だ……」

「無駄口を叩くな、ライフで受けるのか?受けないのか?」

 

「っ……あんたも一々減らず口をほざくんじゃない!!ライフで受けてやるよっ!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

バロンの槍による刺突と、イーズナの体当たりが相葉のライフを1つずつ壊していく。

 

 

「ターンエンドだ」

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV3(1)BP7000(疲労)

【イーズナ】LV1(1)BP1000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

僅か2ターン目で大きくアドバンテージを確保し、大きく相葉のライフを破壊した司。そのターンをエンドとする。

 

次は相葉のターン、彼は司のどこまでも上から目線の態度を癪に感じながらもターンを進行していく。

 

 

[ターン03]相葉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札6⇨7

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!!僕はネクサスカード、フレグランスリバーをLV2で配置!!」

手札7⇨6

リザーブ7⇨2

トラッシュ0⇨3

【No.37 フレグランスリバー】LV2(2s)

 

 

相葉の背後に水の代わりにうどんが流れる川が配置される。その光景は奇妙極まりない。

 

 

「そして、遂に降臨の時だ………僕は『神のカード』……創界神ネクサス、『牧野 留姫』を配置!!」

手札6⇨5

リザーブ2⇨1

トラッシュ3⇨4

【牧野 留姫】LV1

 

「!」

 

 

相葉はさらに『神のカード』を使う。世にも珍しい『神のカード』……

 

使われるべきカードであったカードが無かったこともあって使ったことがないそれが等々発動される。ネクサスカードであるようだが、背後には特に何が現れるわけでもなく、何かが変わったわけではない。

 

 

「に、ニッヒッヒ……ち、力が、力が湧き上がってくる!!……これが、これが『神のカード』!!……今日、今日この日から僕の伝説が始まるんだぁぁぁぁぁ!!」

 

 

しかし、その力は確かにあるのか、相葉は身体中から溢れんばかりの力を感じ取っていた。高揚からか、感情の起伏が激しくなっている。

 

 

ー『神のカード』

 

総称『創界神ネクサスカード』

 

この世界では『オーバーエヴォリューションで生まれたカード』よりも希少な存在であり、それを持つ者には神に選ばれたと口を揃えて言われる。

 

その実態は『別の世界の偉大な英雄や王や神が転生して生まれ変わった姿』だと言われているが、余りにも数が少ないため、その立証は未だ確立されていない。

 

 

「配置時、【神託】の効果によりデッキからカードを3枚トラッシュに置き、その中の対象カード1枚につきコア1つを神に追加する!!」

神託カード↓

【レナモン】◯

【タオモン】◯

【キュウビモン】◯

【牧野 留姫】(0⇨3)LV1⇨2

 

 

相葉のデッキのカードが3枚トラッシュに流れ、『神のカード』にコアが追加される。創界神ネクサスはそのコアを使い、効果を発揮する。

 

 

「さらにバーストを伏せ、エンドステップ、フレグランスリバーの効果によりトラッシュにあるレナモンを手札に戻し、ターンを終える!!」

【牧野 留姫】LV2(3)

【No.37 フレグランスリバー】LV2(2s)

 

バースト【有】

 

 

そのターンをエンドとする相葉。ようやく『神のカード』を呼び出すことができて御満悦な様子だ。

 

次は赤羽司のターン。

 

司は一生に一度見れるかもわからない『神のカード』を前にしても平然とした表情を浮かべている。いや、どうでもいいのだろう、彼はこの大会では『芽座椎名との決着にしか興味がない』

 

 

「直ぐに崩してみせますよその余裕のかる顔!!」

「ベラベラ喋るな。バトラーとしての価値が下がるぞ。いや、もう下がってるか」

「早くターンを進めろ!!あんたの減らず口も大概だろ!!」

 

 

『神のカード』を前にしても顔色も態度を1つ変えない司。その堂々とした気迫はどうしても相葉の気に触っている。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】(疲労⇨回復)

【イーズナ】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ、バーストを伏せ、ホルスモンを召喚!!」

手札5⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【ホルスモン】LV1(1)BP4000

 

 

司の場に鳥の顔と獣の身体を持つ赤のアーマー体スピリット、ホルスモンが現れる。その効果は赤らしくネクサスキラーと呼べる代物であって………

 

 

「召喚時効果、ネクサスカードを破壊する!!…『神のカード』とは言ってもネクサスカードには変わりはない、それを破壊する!!」

「!!」

 

 

ホルスモンは登場するなり相葉を鋭い眼光を向ける。普通のネクサスカードはそれに睨まれるだけでトラッシュへと沈んで行くのだが………

 

 

「!!」

「馬鹿め!!『神のカード』は『神のカード』以外の効果を受けない!!そんなちんけなスピリット効果など聞くわけないだろう?」

 

 

『神のカード』にはホルスモンの効果は効かない。それはホルスモンが普通のネクサスカードのみを対象にしているからである。

 

 

「そうか、なら俺はフレグランスリバーを破壊し、カードをドローする」

手札3⇨4

 

「!!」

 

 

即座に対象を変更するホルスモン。その目先は相葉の背後にあるフレグランスリバー。睨まれるなり地の底へと沈んで行った。

 

 

「アタックステップ、行ってこいホルスモン!!」

 

 

翼を広げ空へと飛び立つホルスモン。狙うは相葉の残り3つのライフ。このターン、司のフルアタックが成功すれば彼の勝利だが………

 

 

「ライフで受ける!!」

ライフ3⇨2

 

 

ホルスモンが相葉のライフに勢い良くぶつかっていく。そのライフはまた1つ砕け散った。

 

が、それは同時に相葉の伏せているバーストの条件でもあり………

 

 

「ライフ減少によりバースト発動、イマジナリーゲート!!」

「!」

 

「その効果により、手札にあるタオモンを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

【タオモン】LV3(3)BP10000

 

 

相葉のバーストが勢い良く反転すると同時に、上空より神々しいゲートが開き、そこを通って場に降り立つスピリットが1体。

 

それは陰陽道を極めた狐の姿をした完全体スピリット、タオモン。

 

 

「対象スピリットの登場により『神のカード』にコアを追加!!」

【牧野 留姫】(3⇨4)

 

 

『神のカード』である創界神ネクサスカードは対象内のスピリットが召喚される度に【神託】の効果でその上に置くコアが増えていく。タオモンの登場によりコアが追加された。

 

 

「ターンエンドだ」

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV1(1)BP3000(回復)

【イーズナ】LV1(1)BP1000(回復)

【ホルスモン】LV1(1)BP4000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

タオモンの登場により攻めきれないと見たか、司はそのターンをエンドとする。

 

 

「さぁ、これからが神の本領発揮だ!!伝説のターンの幕開けだ!!」

 

 

口数が最小限な司に対して「あぁだこうだ」と口が塞がらない相葉。彼にとってはこの日を待ち望んでいたのだろう。楽しみにしていたのだろう。この自分が伝説になる日を………

 

 

[ターン05]相葉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!レナモンを召喚!!効果によりカードをオープンする!!」

手札5⇨4

リザーブ6⇨4

トラッシュ0⇨1

【レナモン】LV1(1)BP3000

【牧野 留姫】(4⇨5)

オープンカード↓

【キュウビモン】◯

【イエローリカバー】×

【シンフォニックバースト】×

【イエローリカバー】×

 

 

前のターン、フレグランスリバーの効果によって手札に戻っていたレナモンが再び相葉の場に姿を見せる。そしてその効果も成功。相葉は新たにカードを加える。

 

 

「そして僕は加えたキュウビモンをLV2で召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ1⇨2

【キュウビモン】LV2(2)BP6000

【牧野 留姫】(5⇨6)

 

 

9本の尾を持つ狐型の成熟期スピリット、キュウビモンが相葉の場にレナモン、タオモンと共に並び立つ。

 

これで相葉の場には3体もの黄色い狐型のスピリット達が並んだ。

 

 

「アタックステップ!!…タオモンでアタック!!」

 

 

スピリットが並んだところでアタックを仕掛ける相葉。完全体のタオモンに指示を送る。

 

そしてこの時だ。この一瞬のフラッシュタイミングで相葉は手札のカードを切る。それはそのデッキのエースにして、『化身』のような存在であって……

 

 

「フラッシュ【煌臨】を発揮!!対象はタオモン!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ2⇨3s

 

「!」

 

 

タオモンの姿がが突如吹き荒れる桜吹雪の中に隠れていき、その中で姿形を大きく変化させていく………

 

 

「神の代行者たる巫女、ここに煌臨……サクヤモン!!」

手札4⇨3

【サクヤモン】LV3(3)BP14000

【牧野 留姫】(6⇨7)

 

 

桜吹雪が飛び散っていくと、中から狐の面を被ったスマートで美しい巫女が姿を現した。それは『木戸相落』のエースだったスピリット、サクヤモン。

 

『神のカード』と合わせてその強い存在感がフィールドを支配していく………

 

 

「煌臨時効果!!スピリット4体をLV1にし、LV1スピリットのアタック、ブロックを封じる!!」

 

 

サクヤモンは登場するなり金色の神々しい輝きを放つと、光輪がホルスモン、イーズナ、バロンを捕獲し、身動きを封じる。

 

このサクヤモンの効果は木戸相落が使用していたこともあって世間では有名である。

 

が、次なるは相葉だけが所有する『神のカード』の効果が本領を発揮させる。

 

 

「『神のカード』の効果!!サクヤモンにコアを2つ移動させる事により、LV1スピリット1体をデッキ下に戻す!!……バロンを下に戻す!!」

【牧野 留姫】(7⇨5)

【サクヤモン】(3⇨5)

 

「!!」

 

 

Bパッド上にある『神のカード』の上に置かれるコアがサクヤモンに移動する。それと同時にバロンがデジタル粒子となって消滅した。

 

 

「これが神の力だ!!……あんたみたいなレトロなバトルしかできない奴とは格が違う!!」

「…………」

 

 

口数が減らない相葉に対して殆ど口を開かない司。しかし未だに余裕がある様子ではあって………

 

 

「ニッヒッヒ、驚いて言葉も出ないか!!」

 

「フラッシュマジック、双光気弾……場のホルスモンとイーズナから不足コストを確保し、消滅させる」

手札4⇨3

【ホルスモン】(1⇨0)消滅

【イーズナ】(1⇨0)消滅

トラッシュ3⇨5

 

「っ………空打ち!?」

 

 

司が唐突に手札のマジックを発揮させる。しかし、その効果は今使用しても無意味な効果を持つ双光気弾。それに使用コストにホルスモンとイーズナから使用した事により2体も消滅。

 

だが、司も無意味な行動をしているわけではない。司は相葉の持つ『神のカード』の効果で再びスピリットをデッキ下に戻されつつ、コアを増やされるのを防ぐために事前に自分のスピリットを消滅させたのだ。

 

 

「ニッヒ、勝つためには自分のスピリットでさえも踏み倒すか!!……愚かだな!!」

「…………」

 

 

司の一見非道な行いをそう評価する相葉。確かにバトルの場の状況を見れば司がそうせざるを得ない状況に追い込まれている様にしか見えないだろう。

 

相葉はそんな司にさらに追い討ちをかけるようにサクヤモンの効果を発揮させ………

 

 

「さらに僕はサクヤモンのLV3効果!!手札1枚を破棄する事で回復し、バトル中シンボルを2つにする!!」

手札3⇨2

【サクヤモン】(疲労⇨回復)

 

 

力を込め、詠唱を唱えるサクヤモン。このバトル中のみダブルシンボルにし、回復状態となる。

 

 

「煌臨スピリットは煌臨元となったスピリット全ての情報を引き継ぐ……故にアタックは継続!!」

 

 

「ライフだ」

ライフ5⇨3

 

 

空気に溶け込むような速さで司のライフまで近くサクヤモン。そして金色の杖の様な武器で司のライフを一気に2つ叩き壊した。

 

 

「ほらほら手詰まりかぁ!?……もう一撃ぃい!!」

 

「………」

ライフ3⇨2

 

 

サクヤモンが追撃を仕掛ける。またその杖が司のライフを1つ砕いた。

 

ライフ的に追い詰められた司。だが、やられっぱなしではない。防御用のバーストカードを勢い良く反転させる。

 

 

「バースト発動、絶甲氷盾。ライフ1つを回復させ、コストを支払いアタックステップを止める」

ライフ2⇨3

リザーブ4⇨0

トラッシュ5⇨9

 

「っ……絶甲氷盾か……めんどくさいバーストを」

 

 

司のライフが1つ回復すると、相葉の場に猛吹雪が発生する。これでは彼のスピリットは身動きが取れない………

 

 

「ターンエンドだ……だが次はない」

【サクヤモン】LV3(5)BP14000(疲労)

【レナモン】LV1(1)BP3000(回復)

【キュウビモン】LV2(2)BP6000(回復)

 

バースト【無】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとする木戸相葉。次はなんとか凌いだように見える赤羽司のターン。

 

そのターンシークエンスをゆっくりと進行させていく………

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨10

トラッシュ9⇨0

 

 

「メインステップ…………ターンエンドだ」

バースト【無】

 

「なにっ!?……何もしないだと!?」

 

 

ターンが開始された直後、司はほぼ何も行わずにそのターンをエンドとしてしまう。

 

普通のバトルでは自殺行為とも取れるプレイングに驚く相葉。信じ難いのだろう、強力なバトラーであるのは間違いないはずであるのにここに来て手札事故は考えにくい………

 

 

「エンドと言ったんだ、聞こえなかったのか?」

「遊んでるのか!?」

「あぁ、遊んでるさ」

「!?」

「お前は『モブ』だ。俺と比べてLVが低い、少しくらい遊ばなければ対等にはなれないだろう?」

「また『モブ』と……僕は『神』に選ばれたんだぞ!!お前なんかとは違うんだぞ!?まだ僕との実力差を理解していないのか!?」

「理解していないのはテメェだろ、いいからさっさとターンを進めろ」

「っ………」

 

 

司は完全に相葉を舐めている。

 

相葉もそれを身を以て感じているからこそより怒りを爆発させていて………

 

彼にとって司の発言は屈辱で仕方なかった事だろう。下だと見下していた人物が何故か堂々と偉そうにしているのだから………

 

そんな苛立ちを覚えながらも相葉は自分のターンを進行させていく。全ては赤羽司の息の根を止めるためだ。

 

 

[ターン07]相葉

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

【サクヤモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ……後悔させてやるよ、この僕を軽んじた事をね!!…レナモン、キュウビモンを召喚!!」

手札3⇨1

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨2

【サクヤモン】(4⇨3)

【レナモン】LV1(1)BP6000

【キュウビモン】LV2(2)BP6000

【牧野 留姫】(5⇨6⇨7)

 

 

相葉は司にとどめを刺すべくさらにスピリットを展開する。これで合計5体の狐のスピリットが並んだ。司の場のスピリットゼロ、ライフは3。サクヤモンの効果も考えるとややオーバーキル感は咎めないが、彼としても司をいたぶりたいのだろう。

 

 

「アタックステップ!!キュウビモン、あの見窄らしいゴミを焼き尽くせ!!」

 

 

手始めと言わんばかりにキュウビモン1体でアタックを仕掛ける相葉。キュウビモンは9本の尻尾を司に向けると、その先から青い炎を灯し、弾丸として発射する。

 

 

「……さっき受けてわかった。軽いんだよな、テメェの攻撃は……」

「はぁ?」

 

 

青い炎が司のライフ目掛けて飛び交う中、司が言った。相葉はその発言の意味が分からず疑問符を浮かべる。

 

 

「テメェはあいつと比べ物にならねぇ、だから『モブ』だ。あいつは、『銃魔』はもっと重たかった。あいつの攻撃に比べたらテメェの攻撃はカスみたいなもんだ」

「銃魔ぁ!?…誰だそれ」

 

 

『銃魔』

 

かつてDr.Aの配下につき従い、彼の野望のために暗躍していた人物。優しい人間だったが、最後まで彼はDr.Aのために動いた。

 

そんな彼と最後にバトルしたのが司だ。

 

銃魔の攻撃はもっと重たかった。確固たる信念と心情があったからだ。しかし、相葉は軽いし、生温い。それは彼が浮ついた理由でバトルをしているからである。

 

これは銃魔とあのバトルを経験した司だからこそわかるようになった不思議な感覚。到底相葉には理解し難いものであるだろう。

 

そしてその間に司はさらに手札のカードを引き抜く。

 

 

「フラッシュマジック、シンフォニックバースト、救世神撃破!!」

手札4⇨2

リザーブ10⇨3

トラッシュ0⇨7

 

「2枚のマジック!?」

 

 

司はマジックを連続発揮させる。

 

 

「救世神撃破の効果、カードをドローし、バーストをセット!!」

「っ……」

 

 

司はカードをドローし、直後にバーストカードを裏側でセットする。

 

 

「そのアタックはライフだ」

ライフ3⇨2

 

 

キュウビモンの青い炎が司を襲い、そのまま1つのライフを焼き尽くす。

 

 

「俺のライフは2になった。これでシンフォニックバーストの効果が発揮され、アタックステップが終わる」

「っ……」

 

 

辺りに黄色い波動が飛び散っていく、それは相葉のアタックステップの終わりを知らせるサイン。彼はこれ以上アタックできない。

 

……そしてここだ。

 

このタイミングで………

 

あのカードが『蘇る』

 

 

「テメェごときにコイツを使うのは気に食わんが、めざしに見せつけるには丁度いいタイミングだ……使ってやるよ」

「何言ってんだよ」

「光栄に思えよ……!!」

「っ!?」

 

 

突然司の言葉に重みが増したのを感じる相葉。それと同時に背筋が凍りつく。

 

何故か……

 

それは赤羽司が自身の持つ最強のスピリットを呼び出そうとしているからだ。まだ何もしていないのにスタジアム中の大気が悲鳴をあげるように震撼している………

 

 

「ライフ減少によりバースト発動………!!」

「!?」

 

 

司のバーストカードが重々しく鈍い音を立てながら反転する。そしてこの時、既にその効果は開花していて…………

 

 

「なにっ!?」

【サクヤモン】(3⇨2)LV3⇨2

【レナモン】(1⇨0)消滅

【レナモン】(1⇨0)消滅

【キュウビモン】(2⇨0)消滅

【キュウビモン】(2⇨0)消滅

トラッシュ2⇨9

 

 

赤黒い稲妻が迸る。それが相葉の場全体に行き渡り、スピリットたちを苦しめていく、サクヤモンは辛うじて耐えたものの、レナモンやキュウビモンたちは忽ち堪らず消滅していく………

 

 

「なんだ、なんなんだその効果は!?」

 

 

意味がわからなかった事だろう。その殺伐とした光景が信じられなかった事だろう。

 

だが、その効果を招いてしまったのは自分の持つ『神のカード』のせいだとは思いもしていなくて………

 

 

「そしてその後コイツを召喚する」

 

 

A事変で銃魔と激闘を繰り広げた赤羽司。

 

あの時……

 

彼は自分の身体を蝕んでいく『ジョーカー』の力に苦しみながらも己の気力と胆力のみでそれを克服、及び制御し、『バロン』のカードをこの世に蘇らせた。

 

ただ……

 

あの時の『ジョーカー』のカードがその後どうなったのかは………

 

未だ彼のみしか知らぬ事であって………

 

その答えがその『バーストカード』だ。『ジョーカー』は変化してしまったのだ。司の力によって無理矢理捻じ曲げられてしまった。

 

文字通りの『切札』へと………

 

 

「聞け!!魔王の轟く怒号を……そして慄き戦慄せよ!!………来い、ロード・バロン!!」

リザーブ3⇨0

【ロード・バロン】LV2(3)BP12000

 

「!?」

 

 

赤黒い稲妻が司の場へと落雷する。その衝撃が全て飛び散っていくと、そこから赤い肉体を持つ魔王が1人………

 

名をロード・バロン。右手に魔剣を携え見参した。

 

それは司が独自に進化させた。いや、させていたバロン。エニー・アゼムでさえも知らないカードが呼び出された。

 

その仮面スピリットらしからぬ異形な姿に会場中だけでなく、控えの選手たちの誰もが驚愕していた。もちろん椎名も、バークも………

 

 

「な、なんだこの………化け物は!?」

「名は名乗ったぞ、ロード・バロンだ」

 

 

そういうことではない。

 

明らかにサクヤモン以外のスピリットを葬ったのは間違いなくこのスピリット。その荒々しく禍々しい姿に自然と恐怖が刻まれているのだ。相葉の本能が訴えている………

 

ー『こいつはやばい』と

 

しかし、シンフォニックバーストの効果が発揮された今、彼はターンをエンドとせざるを得ない。サクヤモンだけを残し、そのターンをエンドとしてしまった。次はその異端で異形のスピリットを呼び出した司のターンだ。

 

 

[ターン08]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨8

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ、俺はロード・バロンのLVを3に上げ、バロンを召喚する!」

手札3⇨2

リザーブ8⇨4

トラッシュ0⇨1

【ロード・バロン】(3⇨5)LV2⇨3

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV3(1)BP7000

 

 

ロード・バロンのLVが最大に上がり、2体目のバロンも召喚される。その効果により常時LVマックスである。

 

 

「アタックステップ!!」

「っ!?…運の悪い奴め、スピリットも並べられないか!!終わりのようだな!!」

 

 

このタイミングでアタックステップに移行する司を見て笑みを浮かべる相葉。

 

それもそのはずだ。何せ、自分のライフは残り1。ブロッカーはサクヤモン1体。最低でも3体並べる必要がある。それがどうした事だろうか、司の場には2体のスピリットしかいない。

 

彼がこのターンで勝負は決められないと踏んだ相葉。

 

ただ、司がそんな甘いプレイングなんてするわけないのだが………

 

 

「ロード・バロンでアタック、その効果で最もBPの高いスピリット1体を破壊する!!」

「な、なんだと!?」

「サクヤモンを切り避け!!」

 

 

ロード・バロンのアタック時効果が発揮される。魔剣に闇の力を込め、相葉のサクヤモンに向けて飛ぶ程に斬撃として放つ。サクヤモンは逃げる間も無く、それに切り裂かれ、静かに消滅していった………

 

それは相葉にとっては絶望に等しい光景であって………

 

 

「う、嘘だ……嘘だ。僕は『神のカード』に選ばれた存在なんだぞ!?」

「何度も言わせるな、お前は『モブ』だ。例え『神のカード』に選ばれていてもな」

「うるさい、うるさいうるさいぃい!!気に触るんだよ、そのあんたの言い方!!ムカつくんだよ、吐き気がするんだよぉぉ!!」

 

 

みっともなく嘆く相葉。その間にもロード・バロンが一瞬で彼との距離を縮めていて………

 

その魔剣を手に構え………

 

 

「あぁったく!!ライフだ、ライフで受けてやる!!」

ライフ2⇨1

 

 

ロード・バロンの魔剣の一撃が彼のライフ1つを紙切れのように引き裂いた。

 

 

「あばよ『モブワカメ』……バロンでアタック!!」

手札2⇨3

 

「!!」

 

 

最後のアタックだ。バナナアームズのバロンが槍を構え、地を駆ける。狙うは当然相葉のライフ。

 

 

「ぼ、僕の伝説は……こ、これから……これから始まるはずだったのにぃい!!」

ライフ1⇨0

 

 

強力な刺突がバロンの槍から繰り出され、相葉のライフは跡形もなく粉砕された。

 

このバトル、勝者は赤羽司だ。『神のカード』に臆する事なく戦い抜いた事、『ロード・バロン』という異形を呼び出した事もあり、会場は熱狂の渦に飲み込まれた。

 

 

「で、伝説に……僕は……伝説に……」

「テメェの小せえ物差しでバトルを計るな。後、バトルの腕だったら『めざし2号』の方がまだマシだ」

 

 

やや放心状態気味となってブツブツ願望を呟く相葉に、司が言った。『めざし2号』とは五町の事だ。

 

相葉は『神のカード』があるからと、なんの鍛錬もしてこなかった。ただ『サクヤモン』さえあれば強くなれると思い違いをしていた。

 

デッキがいくら強くとも、完成度が高くとも、己が、カードバトラーが強くなくては、『伝説には到底なれない』………

 

 

ー…

 

 

「あれがバロンだと!?………っざけるな、ふざけるなよ…赤羽司ぁぁあ!!」

 

 

一方、選手専用の個人控え室ではバーク・アゼムがモニターに映る『ロード・バロン』と司を見て憤怒していた。

 

エニー・アゼムがかつて操っていたはずのバロン。それがあんな歪められた姿になるのが耐え難い屈辱だったのだろう。

 

 

ー…

 

 

これにて第10回界放リーグの1回戦、全ての試合が終了した。シードを含め、2回戦に勝ち残ったのは……

 

『芽座椎名』

『九白英次』

『九白小波』

『赤羽司』

『岸田空牙』

『岬五町』

『バーク・アゼム』

『ノヴァ(エニー)・アゼム』

 

の8名。

 

この8名が2回戦で凌ぎを削ることとなる。

 

 

 

 




〈本日のハイライトカード!!〉


司「本日のハイライトカードは『ロード・バロン』」

司「俺のエース『ロード・バロン』は俺の力と『ジョーカー』のカードが混ざって生まれたスピリット。その強さは神をも殺す」


******


〈次回予告〉


2回戦が始まり、椎名と英次がバトルする事に、『対策は万全です』と強気な発言をする英次。椎名は自身を対策してきた英次の壁を越えることができるのか………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「奇跡を超える力、クリムゾンモード!!」……今、パトスピが進化を超える!!


******


※次回のサブタイトル及び内容等は予告なく変更の可能性がありますので、予めご了承ください。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!




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第111話「奇跡を超える力、クリムゾンモード!」

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は昼を過ぎた。

 

これから2回戦が始まろうとしている。次なる2回戦からはシードの4人も加わり、合計8人がしのぎを削り合う。

 

その第一試合は『赤羽司』と『九白小波』…………

 

バトスピ一族間ではトップクラスの実力を誇る彼ら。そんな2人が遂に激突し合うのだ。この対戦カードには非常に多くの人々が注目の的にしていたに違いない……

 

だが………

 

 

ー…

 

 

「………」

 

 

《九白小波は大会を辞退しました。よって、2回戦第一試合は赤羽司の不戦勝となります…………》

 

 

スタジアムの会場で小波を待ちぼうけていた司。そこから無機質なアナウンスからお知らせが届く。

 

九白小波は大会を辞退した。理由はただ一つ、面倒だから。それに1回戦はまだしも、これから先さらに強い相手と戦うとなると、『テリアモンを眺めるだけ』などできやしないし、必ずと言っていいほど破壊される。

 

そう考え、この大会を辞退したのだった。なんとも身勝手な理由だが、彼女にとってはバトルする理由もないのだ。

 

 

「さぁ!!私は英次の応援するぞ〜〜!!頑張れ〜〜!!」

 

 

会場の観客席でそう叫ぶ九白小波。バトルしないのであればやる事は英次の応援のみ。可愛い義弟のため、力一杯の声援を送った。

 

そう、次なる第二試合は九白英次のバトルなのだ。その相手はあの『芽座椎名』であって………

 

 

ー…

 

 

「お?…司じゃん」

「……」

 

 

スタジアムのバトル場に向かう最中、椎名は控え室に戻ろうとしていた司と鉢合わせた。

 

 

「めざしか……」

「めざしか、じゃないよ……アレなんだよ」

「アレ?」

「あのスピリット、ロード・バロンだ!!あんなのいつデッキに………」

「アレは持ってたんだ、初めからな。テメェに見せたくなかっただけだ……あのカードと共に、俺はお前と決着をつける!」

「って、あぁおい!!」

 

 

そう言いながら椎名の横を通り過ぎていく司。椎名がいくら話しかけても『決着をつける』の一点張りだ。本当に彼がこの大会が人類存亡を賭けた戦いであると自覚しているのだろうかと疑問を抱いてしまう。

 

だが、司なりに本気でバトルと向き合っているのは間違いようのない事だ。「司はまぁ、大丈夫か……」と独り言を零すと、椎名は再びスタジアムのバトル場へと歩みを進めた。

 

栄誉ある界放市中央スタジアムのバトル場。そこで椎名を待ち受けていたのは轟音のような歓声だけでなく、2回戦の対戦相手であり、尚且つ1つ下の後輩、九白英次も緊張した顔つきで待ち構えていて……

 

 

「よっ!!結構久しぶりだな英次!!」

「椎名さん、今日は本気でお願いしますよ………」

「何言ってんだ。私はいつも本気だ」

 

 

椎名の陽気で英次に話しかける。が、彼にはそんな余裕はないのか、緊張の糸を解す様子は一切見られず………

 

 

「今日この日、僕はあなたに勝つために界放リーグを勝ち残って来ました!!……僕の全力、受け止めてください!!」

「……英次とバトルするのも、久しぶりだよな………よし、受け止められるものなら受け止めて見ろ!!……行くぞ英次!!」

「はい!!」

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

Bパッドが展開され、即座に2回戦の第二試合が開始される。

 

先行は九白英次だ。そのターンシークエンスを早々と行っていく……

 

 

[ターン01]英次

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!…椎名さん、今日僕はあなたを研究し尽くしてきた!!対策は万全です!!」

「ほお?…じゃあ見せてもらおうかな」

 

 

英次はどうやら椎名を越えるための秘策がいくつかあるようだ。並み居る強豪が揃う界放リーグを勝ち残ったのだ、椎名は英次のバトルに対して油断も隙も見せるつもりは毛頭なくて………

 

 

「先ずはネクサスカード、永遠なる水道橋を配置!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【永遠なる水道橋】LV1

 

「!!」

 

 

青属性のネクサスカードだ。英次の背後に見惚れるような美しい水道橋が浮かび上がってきた。

 

 

「この効果により、お互い『スピリットとブレイヴの召喚時効果』は発揮されない!!」

「なに!?」

 

 

水道橋からは常に青い波動が溢れ出ている。それは存在する限り全てのスピリットとブレイヴの召喚時効果を無効にする証のようなもの。この影響下では成長期スピリットお得意のサーチ効果は一切発揮されない。

 

 

「手札は………」

 

 

椎名は自分の手札を確認する。その中にあったのは強力な召喚時効果を持つ『ブイモン』のカード。しかし、それも永遠なる水道橋がある限り単なる弱小スピリットと化してしまう。

 

もちろんこの効果は英次にもリスクがある。自分の召喚時効果も無効になるからだ。しかし、椎名の対策をしてきたと言い張っていた英次が自分のカードで自分の首を締めるとは椎名には到底思えない。

 

 

「ターンエンドです!!」

【永遠なる水道橋】LV1

 

バースト【無】

 

 

第1ターン目が終わる。次は椎名のターン。行動を大きく制限された中でどう動くのか………

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!(成長期スピリットの効果が使えなくても手札を増やす方法はある………)……ネクサスカード、ディーアークとデジヴァイスを配置!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV1

 

 

椎名の腰に手のひらサイズの小さな機械が取り付けられる。いずれもデジタルスピリットをサポートする強力なカードだ。

 

 

(……よし)

 

 

英次は内心喜んでいた。デッキの足が速い椎名の初手を遅らせることに成功したからである。ネクサスカードがいくら強力と言っても、成長期スピリットと違ってアタックはできないし、このターンだけでは手札を増加させられない。

 

椎名は英次に完全に出鼻を挫かれたのだ。

 

 

「ターンエンド」

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

致し方なくそのターンを終える椎名。次は英次のターン。素早くターンシークエンスを行っていき…………

 

 

[ターン03]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、僕はさらなるネクサスカード、最後の優勝旗を配置!!その効果でコアを1つ増やします!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨1

トラッシュ0⇨4

【最後の優勝旗】(0⇨1)LV1⇨2

 

 

英次の背後に古びた優勝旗が現れる。その効果で使用できるコアの上限が増した。

 

 

「さらに僕はストロングドローを使い、手札を入れ替えます!!」

リザーブ1⇨0

トラッシュ4⇨5

 

 

次に英次が使用したのは青の鉄板マジックストロングドロー。その効果で手札の枚数は全く変わらず無駄なく質を向上させた。

 

 

(ここまでは上々……でも、ここで気をつけないといけないのは『グラウモン』……アタック時で永遠なる水道橋を破壊されてしまう。前のターンで召喚されなかったって事は初手にはなかったんだ。けど、椎名さんは次のターンで必ずそれをドローする………)

 

 

英次は心の中で予め決めていた作戦をもう一度考える。その中でもこの場面で最も警戒していたのは『グラウモン』だ。

 

まだ椎名の手札にそれが無いことを悟る英次。しかし、相手はあの芽座椎名。次のターン、間違いなくそれをドローするのが目に見えていて………

 

 

「バーストを伏せ、ターンエンドです」

手札4⇨3

【永遠なる水道橋】LV1

 

バースト【有】

 

 

思考を巡らせながらそのターンをエンドとした英次。次は再び椎名のターンだ。

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ、ズバモンとグラウモンを召喚!!」

手札4⇨2

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨4

【グラウモン】LV1(1)BP4000

【ズバモン】LV1(1)BP3000

 

 

(っ……本当に引いた!!やっぱり椎名さんはすごい!!)

 

 

椎名の場に黄金の鎧纏うデジタルブレイヴ、ズバモンと、たった今ドローされた真紅の魔竜成熟期の姿、グラウモンが呼び出される。

 

 

「ディーアークの効果でドローし、バーストをセット!!……そして、グラウモンにズバモンを合体!!」

【グラウモン+ズバモン】LV2(2)BP9000

 

 

バーストが伏せられると同時に、ズバモンが黄金の鎧を残して消滅。その鎧はグラウモンに装着され、より強力なスピリットへと変貌した。

 

 

「アタックステップ!!グラウモンでアタック!!………その効果で永遠なる水道橋を破壊だ」

「!!」

 

 

グラウモンが走り出すと共に口内から炎を一直線に水道橋へと放出。水道橋はその水ごと焼却されてしまう。

 

 

「さぁ英次、このアタックはどう受ける?」

 

「っ……ライフです。ライフで受けます!!」

ライフ5⇨3

 

 

グラウモンの鋭い牙が英次のライフを襲い、それが一気に2つ砕かれた。永遠なる水道橋も破壊され、ここから一気に椎名のペースに持ち込まれる………

 

かと思われたが………

 

 

「その攻撃、僕は読んでましたよ、椎名さん!!」

「なに!?」

「ライフ減少によりバースト発動!!…鉄拳明王!!」

「!!」

 

 

椎名の行動を読みきっていた英次のバーストカードが勢いよく反転する。それは青のスピリットカードだ。

 

今、英次が椎名を圧倒する………

 

 

「その効果により、トラッシュにある3枚のネクサスカード、2枚目の『最後の優勝旗』『要塞都市ナウマンシティー』『永遠なる水道橋』をノーコスト配置!!」

【最後の優勝旗】(0⇨1)LV1⇨2

【要塞都市ナウマンシティー】LV1

【永遠なる水道橋】LV1

 

「っ……ネクサスがトラッシュから復活!?」

 

 

英次の背後に次々と現れるネクサス達。その中には破壊されたばかりの水道橋や、前のターンのストロングドローの効果で破棄されていたものも含まれる。

 

英次は最初からこれが狙いだったのだ。椎名のグラウモンもしっかりと行動パターンに仕込んだ上で………

 

 

「ナウマンシティーの配置時効果、来てください!!サイバードラモン!!……そしてバースト効果で鉄拳明王も召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ2⇨0

【最後の優勝旗】(1⇨0)LV2⇨1

【最後の優勝旗】(1⇨0)LV2⇨1

【サイバードラモン】LV2(3)BP12000

【鉄拳明王】LV1(1)BP6000

 

 

長い効果処理の中、上空より黒くてスマートなボディを持つ完全体スピリット、サイバードラモンと、強靭な肉体を持つ明王、鉄拳明王が英次の場へと見参した。

 

 

「マジか……」

 

 

その光景にただ驚く事しか出来なかった椎名。

 

自分のターンであるはずなのに英次がこれ程までに強力なスピリットやネクサスを展開しているのだ。無理もないが………

 

見違えたのだ。あの弱気だった英次がここまでやれるようになっていたから………

 

 

「やるな英次……私はこれでターンエンドだ」

【グラウモン+ズバモン】LV2(2)BP9000(疲労)

 

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【有】

 

 

そのターンをエンドとしようとする椎名だったが………

 

 

「待ってください!!そのエンドステップ時!!僕はサイバードラモンの第二の効果を発揮!!……サイバードラモンが相手のエンドステップで回復状態だった時、相手のライフ1つを破壊します!!」

「!!」

「お願いしますサイバードラモン……クライズブレイカー!!」

 

「っ……うわぁっ!!」

ライフ5⇨4

 

 

サイバードラモンが腹の底から空間が張り裂けるような咆哮を放つ。椎名のライフはその咆哮だけでライフが1つ砕け散ってしまう。

 

そして改めてエンドとなり、次は英次のターン。今現在、完全に彼の思惑がはまり、バトルが彼のペースで進んでいるのが会場中の誰もが伝わっていて………

 

 

[ターン05]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!!僕はスピリットのLVを上げ、異魔神ブレイヴ、幻魔神を召喚し、左にサイバードラモン、右に鉄拳明王を合体!!」

手札3⇨2

リザーブ6⇨2

トラッシュ0⇨2

【サイバードラモン+幻魔神】LV2(3)BP15000

【鉄拳明王+幻魔神】LV1⇨2(1⇨3)BP13000

 

 

「!!」

 

 

英次の場、サイバードラモンと鉄拳明王の背後に凍てつく異魔神ブレイヴ、幻魔神が現れ、その手から放たれる光線が2体とリンクし、合体状態となる。

 

2体には【重装甲】が与えられるが、特にサイバードラモンに赤の装甲が与えられたのはこの先厄介になる事は間違い無くて………

 

 

「そのままアタックステップです!!お願いします!!サイバードラモンッ!!」

 

 

英次の指示を聞く前から暴走するように走り出すサイバードラモン。その目指す先は椎名のライフであって………

 

 

「来たな……ライフで受ける!!」

ライフ4⇨2

 

 

サイバードラモンは空が張り裂けるような咆哮を上げながら、その鋭い爪で椎名のライフを一気に2つ引き裂く。これでさらに鉄拳明王の追撃も来て仕舞えば椎名は敗北するが………

 

 

「ライフ減少によりバースト発動、マリンエンジェモン!!」

「!!」

 

「効果によりこのターン、私のライフは合体コストを無視してコスト9以下のスピリットのアタックでは減らされない!!そしてその後召喚する!!現れろ!!」

手札2⇨3

リザーブ3⇨0

【マリンエンジェモン】LV3(3)BP9000

 

 

椎名のバーストカードが勢い良く反転すると共にピンク色の小さい究極体スピリット、マリンエンジェモンが飛び出してくる。その力でこのターン限定で椎名のライフは減らされない。

 

椎名はさらにディーアークの効果で手札を少しずつ回復していく。

 

 

「マリンエンジェモン………ですが、この程度はまだ許容範囲で、想定内です!!…ターンエンド!!」

【サイバードラモン+幻魔神】LV2(3)BP15000(疲労⇨回復)

【鉄拳明王+幻魔神】LV2(3)BP13000(回復)

 

【永遠なる水道橋】LV1

【最後の優勝旗】LV1

【最後の優勝旗】LV1

【要塞都市ナウマンシティー】LV1

 

バースト【無】

 

 

そのターンをエンドとした英次。サイバードラモンは自身の効果で回復する。

 

マリンエンジェモンでフィニッシュまで至らなかったものの、あの椎名をここまで追い詰めているのだ。十分過ぎるほどに戦えているといえて………

 

次は椎名のターンだ。『反撃に出る』……そう言わんばりに自身のターンを強気な姿勢で進行していき………

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

【グラウモン+ズバモン】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!グラウモンと合体しているズバモンをマリンエンジェモンに移動!!」

リザーブ5⇨2

【マリンエンジェモン+ズバモン】LV3(6)BP12000

 

 

グラウモンからズバモンが飛び出してくると、ズバモンは頭の上にマリンエンジェモンを乗せ、新たな合体状態となった。

 

マリンエンジェモンはこれで全ての色を持つスピリットとして扱えるようになった。それを見越して椎名は手札のカードを1枚引き抜いて………

 

 

「【煌臨】発揮!!対象はマリンエンジェモン!!」

リザーブ2s⇨1

トラッシュ0⇨1s

 

「っ……来る!!」

 

 

マリンエンジェモンがズバモンと共に真っ赤な光に包まれていき、その中で大きく姿形を変えていく。

 

そんな様子を見て、英次は身震いした。来るのだ。間違いなく、あの芽座椎名の最強のスピリットが………

 

 

「来い、赤きロイヤルナイツ、デュークモンッッ!!」

手札4⇨3

【デュークモン+ズバモン】LV3(6)BP21000

 

 

その光を弾き飛ばしながら現れたのは白い鎧と赤いマントを持つ究極体のデジタルスピリット、デュークモン。ズバモンとの合体状態であるため、その姿はいつもよりも刺々しく、槍はビーム状となっていて………

 

 

「出た……今の椎名さんのエース。これを超えてこそ真の勝利だ………!!」

 

「ディーアークの効果でドローし、デュークモンに合体しているズバモンをグラウモンに移動させる!!」

手札3⇨4

【グラウモン+ズバモン】LV2(2)BP9000

 

 

強化されているはずのデュークモンの合体状態を解除し、再びグラウモンに黄金の鎧を纏わせる椎名。デュークモンは通常状態に戻った。

 

今からデュークモンで攻めるとなると、ズバモンとの合体により付与される『全色』が邪魔をする。幻魔神の与える【重装甲】に阻まれ、効果でスピリットを1体も破壊できないのだ。

 

英次も当然ながらそれを見越していて………

 

 

「行くぞ英次、ここからがバトルだ!!……アタックステップ、デュークモンでアタック!!」

 

 

気合いを入れ、アタックステップへと移行する椎名。デュークモンがその聖なる槍を構える。

 

 

「そのアタック時効果!!シンボル2つの鉄拳明王を破壊!!」

「!」

「聖槍の一撃……ロイヤルセーバーッッ!!」

 

 

デュークモンがその槍の先端にエネルギーを溜め、一点集中で鉄拳明王に向けて放つその一撃は鉄拳明王の屈強なる肉体に突き刺さり、貫いて爆発させた。

 

 

「どうだ英次!!このまま一気に……」

「甘いです椎名さん!!」

「!?」

 

「僕はフラッシュアクセル……ジャスティモンの効果発揮!!」

リザーブ5⇨3

トラッシュ2⇨4

 

 

英次はまたしてもこの展開を読んでいたと言うように手札のカードを使用する。それは自身のオーバーエヴォリューションによって生み出された奇跡のカード。

 

白と青の自分だからこそ生まれてきてくれたカードだ。

 

 

「ジャスティモンの効果!!相手スピリット1体をデッキの下に!!……ジャスティキックッッ!!」

 

 

英次とサイバードラモンの背後から飛び出してきたのは赤いマフラーを靡かせるヒーローのような究極体スピリットジャスティモン。

 

ジャスティモンは高い跳躍力を活かして上空へと跳び上がり、滑空するようにデュークモンに向けてキックを放つ…………その一撃は確かにデュークモンを粉砕する力があったが………

 

 

「手札にあるグラニの効果!!」

「え!?」

 

「1コスト支払ってデュークモンに直接合体するように召喚!!さらにこのターン、デュークモンは手札デッキに戻らない!!」

手札4⇨3

リザーブ1⇨0

【デュークモン+グラニ】LV3(6)BP24000

 

 

真紅の飛行物体、グラニが現れ、ジャスティモンを弾き飛ばす。

 

 

「っ……その後1コスト支払ってジャスティモンを召喚します!」

リザーブ3⇨0

トラッシュ4⇨5

【ジャスティモン】LV2(2)BP10000

 

 

グラニに突撃され、弾き飛ばされたジャスティモンだったが、そのまま受け身を取り、華麗に英次の場、サイバードラモンの横へと着地した。

 

 

「詰めが甘かったな英次……デュークモンのアタックは続行!!そしてサイバードラモンはこのアタックを効果によりブロックしなければならない!!」

「!!」

 

 

当然デュークモンのアタックは継続される。グラニと共に英次の場へと駆ける。サイバードラモンもそれを視認するなり、主人を守らんとするように咆哮を上げ、迎撃にむかう。

 

激突するデュークモンとサイバードラモン。デュークモンの聖なる槍から繰り出される刺突を脇に挟み、抑え込むサイバードラモン。しかし、やはりデュークモンの方が力が強いか、その状態のままサイバードラモンをジリジリと押し続けていく………

 

だが………

 

 

「椎名さん。僕はあなたのグラニの効果も想定済みでした!!」

「!?」

 

「フラッシュマジック!!フルーツチェンジ!!」

手札1⇨0

【ジャスティモン】(2⇨1)LV2⇨1

【サイバードラモン+幻魔神】(3⇨1)LV2⇨1

トラッシュ5⇨8

 

「何!?黄色のカード!?」

 

 

英次使用したのは白でも、況してや青でもない黄色のカード。椎名とのバトルを考え、グラニカードをも想定内に入れたカードだ。

 

椎名もその効果をよく知っている。

 

 

「この効果により、サイバードラモンとデュークモンのBPを入れ替えます!!」

【サイバードラモン+幻魔神】BP10000⇨24000

 

「くっ……!!」

【デュークモン+グラニ】BP24000⇨10000

 

 

拮抗するデュークモンとサイバードラモンを黄色いオーラが包み込んで行く。不思議な事に、その中で2体の力の差は一寸の狂い無しに入れ替わって………

 

 

「いけぇ!サイバードラモンッッ!!」

 

 

英次の叫びと共に再び鋭い咆哮を上げるサイバードラモン。デュークモンの槍を力任せに砕き、固めた拳でそれを殴り飛ばした。デュークモンはあまりのダメージに力尽き、グラニを残して爆発四散してしまう。

 

 

「っ……デュークモン!!」

「倒した……サイバードラモンが……僕が……椎名さんのデュークモンを……!!」

 

 

歓喜の声を震わせる英次。今、この瞬間。彼は椎名のデュークモンを倒した事で自分の成長を確かに肌で感じ取ったのだろう。

 

 

「ターンエンドだ……やるな英次、まさかデュークモンが負けるなんて!」

【グラウモン+ズバモン】LV2(2)BP9000(回復)

【グラニ】LV1(1)BP6000(疲労)

 

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

「椎名さんのお陰です!!僕はあなたのお陰で強くなれたんです!!」

「へへ、嬉しいけど、バトルは終わってない。負けるつもりはないぞ!!」

「はい!!僕もこれからです!!」

 

 

グラウモンをブロッカーとして場に残し、そのターンをエンドとした椎名。アタックしてジャスティモンごとライフを破壊することもできたが、それでは英次に大きくコアを与えてしまうと考えたのだろう。

 

そして次はここまで見事にあの芽座椎名を完封している英次のターン。勝負を決めるべくターンを進行させていく。

 

 

[ターン07]英次

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札0⇨1

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨9

トラッシュ8⇨0

【サイバードラモン+幻魔神】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!スピリットのLVをアップ!!ジャスティモンに幻魔神を右合体させて、マジック、秘剣燕返し!!合体しているズバモンを破壊して、その効果発揮後にコスト4のグラウモンも破壊します!!」

手札1⇨0

リザーブ9⇨3

【サイバードラモン+幻魔神】(1⇨3)LV1⇨2

【ジャスティモン+幻魔神】(1⇨4)LV1⇨3

 

「!!」

 

 

英次のスピリットたちが強化されていく中、青い斬撃がズバモンと合体しているグラウモンを襲う。鎧共々斬り裂かれ、爆発四散した。

 

 

「アタックステップ!!サイバードラモンッッ!!」

 

 

サイバードラモンが今一度椎名に牙と爪を向け、残り2つのライフを砕くべく走り出した。後方にはまだジャスティモンも控えている。

 

英次は勝利を確信したが………

 

 

「フラッシュマジック、デルタバリア!!」

手札3⇨2

リザーブ7⇨4

トラッシュ2s⇨5s

 

「!?」

 

「この効果により、このターン、私のライフはコスト4以上のスピリットのアタックではゼロにならない。そのアタックはライフで受ける!」

ライフ2⇨1

 

 

サイバードラモンが椎名のライフを砕く直前。椎名が引き抜いたカードにより、前方に三角形のバリアが現れ、サイバードラモンの攻撃から椎名のライフを守る。

 

 

「どうした英次、私の壁はまだまだ厚くて、高いぞ……」

「そ、そんな……まだそんなカードを残してたなんて…………ターンエンドです」

【サイバードラモン+幻魔神】LV2(3)BP15000(疲労⇨回復)

【ジャスティモン+幻魔神】LV3(4)BP19000(回復)

 

【永遠なる水道橋】LV1

【最後の優勝旗】LV1

【最後の優勝旗】LV1

【要塞都市ナウマンシティー】LV1

 

バースト【無】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとする英次。その瞬間にサイバードラモンが自動で回復する。

 

次は椎名のターンだが、何とか首の皮一枚繋がった状態であるのは確かな事。勝利までは絶望的な道のりだ。

 

だが、英次は不思議とこの時点で椎名が何か奇跡を超える事をするのではないかと直感で悟っていて………

 

 

「英次……このターンで最後だ!!」

「!!」

 

 

今、ラストターンの宣言と共に椎名のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨11

トラッシュ5⇨0

【グラニ】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!ギルモンを召喚!!ディーアークの効果でドローし、グラニと合体!!」

リザーブ11⇨6

トラッシュ0⇨2

【ギルモン+グラニ】LV3(4)BP12000

 

 

真紅の魔竜成長期の姿、ギルモンが召喚される。ギルモンは飛翔するグラニの背にまたがり、合体スピリットとなる。

 

 

「アタックステップ!!ギルモンでアタックだ!!」

 

「っ!!」

破棄カード↓

【グリードサンダー】

 

 

グラニがギルモンを乗せて飛翔する。その瞬間にグラニの効果で英次のデッキからカードが破棄される。

 

さらに椎名は手札を引き抜く。この場にデュークモンを超える奇跡のスピリットを呼び出すために………

 

 

「フラッシュチェンジ!!デュークモン クリムゾンモード!!」

リザーブ6⇨2

トラッシュ2⇨6

 

「!!」

「この効果によりシンボル3つまでスピリットを破壊する!!……赤の装甲が無いジャスティモンを破壊する!!」

 

 

椎名の背後から真紅の炎で身体が構成された龍が尾を引いて現れる。それは英次の場へと突き進み、ジャスティモン飲み込み、焼き尽くした。

 

 

「さらに!!この効果発揮後、赤一色のコスト7以上のスピリットと回復状態で入れ替える!!対象はグラニと合体しているギルモン!!」

 

 

その炎の龍は最後にグラニに乗っかっているギルモンにそれごと衝突。ギルモンは突然変異を遂げ、グラウモン、メガログラウモン、デュークモンへとその炎の龍の中で進化を繰り返していく。

 

 

「燃え上がれ聖騎士!!真なる深い紅を纏い、邪悪なる者皆、照らし破れッ!!」

 

 

デュークモンの右手の槍、左手の盾が消滅し、さらにその白い鎧が熱により深い紅に染まる。そこからさらに深紅のアーマーが各部に取り付けられていき、そして紅いマントも同様に消滅、背中には新たに純白の翼が10枚生える。

 

そのスピリットは周りの炎を全て振り払い、姿を見せる。

 

 

「……デュークモン クリムゾンモードッ!!」

【デュークモン クリムゾンモード+グラニ】LV3(4)BP27000

 

 

それは椎名の持つ最強のスピリット。伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツであるデュークモンが究極体という概念を超え、さらに進化した姿。

 

その真なる深い紅の力と聖なる光の力の前には何人たりとも勝つことはできない。

 

 

「こ、これがデュークモンを超えた………クリムゾンモード……!!」

 

 

『芽座椎名』は基本的に『クリムゾンモード』を使わなかった。それはその前段階であるデュークモンや他のスピリットで十分勝つことができたからだ。

 

つまり、英次の前でそれを使ったという事は、椎名が英次相手に本気になったと刺し違えない。

 

 

「アタックは継続中だ!!」

「っ………僕はサイバードラモンでブロックします!!」

 

 

サイバードラモンは効果によってブロックせざるを得ない。咆哮を上げながらクリムゾンモードを迎え撃つ。

 

 

「神剣ブルトガングッッ!!」

 

 

椎名がそう叫ぶと、クリムゾンモードは光の粒子一粒一粒を操り、剣の形を形成する。そしてサイバードラモンの懐へと一瞬で潜り込み………

 

 

「無敵剣……インビンシブルソードッッ!!」

 

 

作り上げた神剣を振るい、サイバードラモンを瞬く間に斬り刻む。サイバードラモンは流石に耐えられず大爆発を起こしてしまう。

 

 

「さらに!!バトル終了時、相手のトラッシュにあるスピリットカード3枚につき1つ、ライフを破壊する!!」

 

「!!」

「神刀カムイ!!」

 

 

クリムゾンモードは光で構成された刀を左手に握る。そのままその刀と神剣の切っ先を英次のライフへと向け………

 

 

「っ……!!」

ライフ3⇨2

 

 

その先端部から光線を放ち、英次のライフを1つ貫いてみせた。さらにクリムゾンモードは神剣と神刀を改めて構え直し………

 

 

「これで終わりだ英次!!……クリムゾンモードで二度目のアタック!!」

 

「!!」

破棄カード↓

【ストロングドロー】×

 

 

グラニが自身の効果で英次のデッキを1枚破棄する。クリムゾンモードが高速で英次のライフへと接近、そして神剣と神刀を高々と上へ振り翳し………

 

 

「……やっぱり、椎名さんはかっこいいな……………僕はライフで受けます……ありがとうございました!!椎名さん!!」

ライフ2⇨0

 

 

振り下ろされた。その二本の刀身により英次の残った2つのライフは斬り裂かれる。2回戦第二試合は芽座椎名の勝利だ。それを祝うように観客達も轟音のような歓声を上げた。

 

 

「英次、ほんと……強くなったな!!見違えたよ……」

「椎名さん……」

 

 

バトルが終わり、椎名はBパッドを閉じ、英次に近づきながら言った。

 

ずっと彼女の背中を追いかけ続けていた英次にとって、その言葉は何よりも嬉しくて………

 

 

「私達はさ、もうすぐ卒業だから、これからは英次が学園を引っ張って行けよ!!」

「っ……はい!!ありがとうございます!!」

 

 

英次は椎名から差し出された手を固く握った。

 

 

「で、でも卒業する前にもう一度僕とバトルしたください!!僕、もっと強くなって椎名さんに勝ちます!!」

「あぁ、どっからでもかかって来い!!いつでも相手になるさ!」

 

 

こうして、椎名は強敵となった英次に勝利を収め、見事に2回戦を突破し、準決勝へと駒を進めたのだった。

 

 

ー…

 

 

「成る程、あれが『デュークモン クリムゾンモード』……初めてあの小娘の本気を見たな」

 

 

そう自分の控え室で呟いたのは『エニー・アゼム』

 

芽座椎名のバトルをこの目で見て、彼女の底に眠る力を確認していた。ロイヤルナイツであるデュークモン。それがさらに進化したクリムゾンモード………

 

 

「取るに足らんな……鬼の雑兵のカードではそんなものか………」

 

 

だが、その絶大な力を見てもなお、エニー・アゼムは余裕ある表情を見せながら、まるでその力を簡単に捻り潰せるような物言いを口ずさんだ。

 

 

 




〈次回予告!!〉


2回戦は続く、バークも勝ち上がっていく中、遂にエニー・アゼムが重たい腰を上げる。その対戦相手は五町。彼女が悪人だという事も何も知らない五町は………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「フォーゼVSゾディアーツ!!」……今、バトスピが進化を超える!!



******


※次回のサブタイトルや内容などは予告なく変更の可能性があります。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

今回から本日のハイライトカードは無くなりました。

最近全く話に動きがありませんが、次回あたりから傾いていく予定です。

私はこの間、自分の活動報告にて、『感想欄で読者様の発言を制限しすぎました』と謝罪し、『今後は感想の内容が含まれていたら返信します』と言いましたが、『感想欄に作品とは関係の無い雑談等の目的で喋る人が嫌』と言う方々もおられる事は間違い無いので、感想を書く際はその点をしっかりと考慮した上で行なってくださるようお願いします!!
※活動報告等でのコメントでは気にしなくていいです!!






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第112話「フォーゼVSゾディアーツ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれ、オレンジアームズ!!」

 

「くっ……ライフだ!!」

ライフ1⇨0

 

 

苛烈を極める第10回界放リーグ。その2回戦第三試合。『バーク・アゼム』と『岸田空牙』のバトル。バークの操る侍のような姿をした鎧武が手に持つ二本の刀で空牙の最後のライフを容赦なく切り捨てる。

 

これにより、勝者はバークだ。あのエニー・アゼムの末裔の勝利に、観客の歓声が一斉に沸き上がった。

 

 

「くっソォォォォォォオォ!!負けちまったぁぁあ!!俺の青春が今、終わったぁぁぁあ!!……すまん、我がライバル赤羽司ぁぁあ!!」

「………」

 

 

どこまでも暑苦しい男、空牙は敗北しても尚、テンションが下がらず暑苦しい言葉の羅列を並べた。

 

 

「ふんっ……お前では我は足りん」

 

 

そう言ってスタジアムのバトル場を後にするバーク。

 

彼は今、猛烈に腹を立てている。

 

理由は『司の開会式での唐突な優勝宣言』『司のロード・バロン』だ。平たく言えば『赤羽司という人間そのもの』に腹を立てている事になる。バークは早く司を潰したくてしょうがなかった。

 

 

ー…

 

 

「いよいよっスね!!」

 

 

第三試合が終わり、次はラストとなる第四試合。その対戦カードは『岬五町』と『ノヴァ・アゼム』

 

五町はバトル場へと立つべく、スタジアム裏を堂々と胸を張って歩いていた。そのそぶりや仕草からは緊張の文字はなくて………

 

そんな時だ。

 

 

「よっ!!五町!!」

「姐さん!!」

 

 

広大なバトル場の入り口にて彼女を待ち構えていたのは、彼女が『姐さん』慕う存在、『芽座椎名』

 

最早癖になっているのか、五町は椎名を目に移すなりその瞳を輝かせる。強くて可愛くてかっこいい。そんな椎名のようなバトラーを彼女は目指しているからでもあるが………

 

 

「姐さん!!あたしの応援、近いところでしてくれるんスか!?」

「あぁ、まあね」

「おぉ、感激っス!!あたし、絶対勝つんで見ててください!!」

 

 

あの尊敬する『芽座椎名』が間近で自分のバトルを見てくれる。そんな嬉しい事は五町にとってはない。歓喜の声を上げながらバトル場へと走っていくが………

 

 

「気をつけろよ、五町………」

 

 

走り行く五町の背中を見つめながらそう呟いた椎名。

 

内心、心配していた。相手はあのエニー・アゼム。あの身体には進化の力がふんだんに詰まっている。危険な香りしかしない。

 

椎名は五町に何かあった時、いつでも護ってあげれるように今、ここに居座っていたのだ………

 

 

******

 

 

一方で広大な中央スタジアムのバトル場。第四試合を行う『岬五町』と『エニー(ノヴァ)・アゼム』はお互いの顔を見合いながら対峙しており………

 

 

「あんたがノヴァ・アゼム!!くぅ〜〜っ!!なんかもう強そうな感じあるっスね!!……あたしは岬五町!!よろしくっス!!」

「人間とじゃれ合う気は無い。妾と対戦できる事を光栄に思うが良い小娘」

「超上から!!」

 

 

ノヴァ・アゼムの予想以上の上から目線に一瞬戸惑う五町。

 

五町はノヴァ・アゼム。いや、エニー・アゼムの本性を知らないのだ。椎名が彼女を巻き込まないために一切話していないからだ。

 

つまり、五町は危険なバトルを知らずして楽しもうとしていて………

 

 

「さぁ行くぞ小娘。妾の進化の力を溜めるための生贄となるが良い」

「怖っ!!」

 

 

Bパッドを展開しながらそう言ったエニー・アゼム。五町はこの言葉を単なるジョークと思っていて、その言葉を間に真に受けてはいない。

 

 

「へへっ!!でも、相手はあのエニー・アゼムの末裔さん!!不足無しっスね!!」

 

 

やる気十分な五町。自身もBパッドを展開する。

 

そしていよいよ始まる第10回界放リーグ。その2回戦最後の試合が…………

 

 

「岬五町、タイマン張らせてもらうぜッ!!」

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと共にバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先行は五町だ。笑顔を絶やさぬままそのターンを進行していく。

 

 

[ターン01]五町

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、行くぞ相棒!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

 

 

五町は「相棒」と呼称するカードをBパッドに置いた。

 

………すると……

 

 

 

スリー!!

 

 

ツー!!

 

 

ワン!!

 

 

「召喚!!」

 

 

 

「…!?」

 

 

無機質な機械音の謎のカウントダウン。そして五町の召喚の合図で白い煙がスタジアム中に充満する。

 

そして煙がゆっくりと晴れていくと………

 

 

「仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ!!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]】LV1(1)BP2000

 

「っ……仮面スピリット………」

 

 

煙が発生した中心五町の場にはスピリットがいた。

 

それもただのスピリットではない。1枚1枚がデジタルスピリット以上のレアカードである仮面スピリットだ。

 

見た目も特徴的なものが多い仮面スピリットだが、五町の持つ仮面スピリットは白い。まるで宇宙服を模しているかのよう………

 

 

「……よぉ〜しっ!!……宇宙キターーー!!!」

「小娘。其方は妾を小馬鹿にしているのか?」

「まぁまぁ、お固いことは気にしなさんなって…気合い入れっスよ〜〜」

 

 

相棒であるフォーゼの召喚にテンションが上がったか、五町は両手を天に上げ、そう力強く叫んだ。場のフォーゼも同様に五町と同じポーズを取った。

 

別にふざけているわけではない。これは彼女のお決まりのセリフであって……

 

 

「そんじゃ気を取り直して召喚時効果発揮!!カードをオープンし、その中の対象となるカードを手札に加える!」

オープンカード↓

【仮面ライダーメテオ】◯

【仮面ライダーメテオ】◯

【仮面ライダーなでしこ】◯

【仮面ライダーなでしこ】◯

 

 

その効果は成功。五町は新たに【仮面ライダーメテオ】のカードを新たに1枚加えた。

 

 

「さらにバーストを伏せ、エンドっスよ!!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]】LV1(1)BP2000(回復)

 

バースト【有】

 

 

バーストもセットされ、中々に上々なスタートを切った五町。次なるはエニー・アゼムのターン。この大会での肩書きもあって、そのバトルに多くの観客達が期待していた。

 

それは五町も一緒である。次の作戦など考えずにただただエニー・アゼムのターンを期待の眼差しで眺めていた。

 

 

[ターン02]エニー・アゼム

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「準備だ。妾は旅団の摩天楼を2枚配置する」

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

 

 

エニー・アゼムの背後に細長く巨大な摩天楼が2つ連なり現れる。その効果でカードをドローし、その質を向上させていく。

 

 

「さらに妾も罠を伏せ、終わりとしよう」

手札5⇨4

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【有】

 

 

彼女の言う『罠』とは、ここでは『バーストカード』を指す。エニー・アゼムはそのターンをエンドとした。

 

五町にとって、まだエニー・アゼムの情報は紫のデッキという事しか認知できていない。

 

だが、五町はそんな細かな戦術や計算などはしない。バトルスピリッツを直感のみでやっている。

 

彼女のやる事は常に1つ。敵のライフを一気にぶち壊していくだけだ。

 

 

[ターン03]五町

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨4

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ!!…良いもん引いたっス!!…フォーゼのLVを上げて、チェーンソーモジュールのスイッチ、オン!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨3

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+チェーンソーモジュール】LV1⇨2(1⇨2)

 

 

ーチェーンソーオン♪

 

 

フォーゼの手に小さなスイッチが握られる。フォーゼはそれをベルトに差し込み、そのスイッチを入れる。すると、右足にチェーンソーのような物が装着された。

 

 

「チェーンソーモジュールの効果!!コアを1つ増やすっス!!さらにフォーゼの効果でもう1つ!!」

リザーブ0⇨1⇨0

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+チェーンソーモジュール】(2⇨3⇨4)

 

 

チェーンソーモジュールとフォーゼのコンボだ。五町のコア数が急激に増加していく。しかもダブルシンボルのスピリットを場に出しつつだ。

 

 

(っ……なんだ、この小娘。この仮面スピリット……この違和感………)

 

 

エニー・アゼムは五町の展開を視認しながら不思議と寒気を感じていた。

 

何か自分が恐れているものがあるような………そんな感覚があのフォーゼから発せられている気がしてならない。

 

 

「アタックステップ!!速攻で行くっスよフォーゼ!!」

 

 

アタックステップに移行する五町。フォーゼが拳を構え、戦闘態勢に入る。五町が得意としているこの戦法。攻撃を仕掛けたという事は『あのカード』も同時に手札にあることは明白であって…………

 

 

「【煌臨】発揮!!対象はフォーゼ!!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+チェンソーモジュール】(4s⇨3)

トラッシュ3⇨4s

 

「!?」

 

 

フォーゼはチェーンソーのスイッチを一旦オフにし、消滅させると、腰にあるドライバーに、まるで自爆スイッチのような形をしたスイッチが配備される。フォーゼはそれを開き、押した…………

 

 

 

♬コーズーミ〜〜ックオン!

 

 

 

また無機質な機械音のメロディが流れたかと思うと、フォーゼに合計40ものスイッチが吸い込まれるように集結していき、様々な色の光に包まれ、僅かながらにフォルムを変えていく……さらにその右手には新たに巨大な剣が出現する。フォーゼは光を解き放ち、新たな姿を見せると同時にその剣を力強く握り締めた。

 

 

「私はバトスピを掴む!!…仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ、煌臨!!」

手札4⇨3

【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ+チェンソーモジュール】LV2(3)BP17000

 

「………っ」

 

 

現れたのは水色に輝く究極のフォーゼ、フォーゼ コズミックステイツ。

 

バトスピを掴む。五町の最強エースでもある。

 

 

「煌臨時効果!! このバトル中、コズミックステイツはスピリットとネクサスの効果を受けない!!」

 

「ほぉ、耐性か……白らしい。だが、その程度で妾を崩せるか!」

 

 

余裕の表情を浮かべたエニー・アゼム。

 

だが、コズミックステイツの恐ろしいところはさらにもう一つの効果だ。五町はドヤ顔でその説明を行う。

 

 

「えっへへ、コズミックステイツは合体しているモジュール1つにつき白のシンボルを1つ追加するっス!!」

「なに!?」

「今、コズミックステイツにはチェンソーが合体している………これにより、合計シンボルは3!!」

 

 

コズミックステイツは胸部にある8のパネルをタッチすると、その力が充填され、合計でトリプルシンボルのパワーを得る。

 

コズミックステイツがシャトルのような形をした巨大な剣のレバーを引くと、その剣はゆっくりと二等分に割れ、中から刀身のある真なる剣が出現する。

 

その真なる剣には膨大な宇宙のエナジーが蓄積され、青く変色していき………

 

 

「ライダー超銀河フィニィィィッッシュッッ!!!」

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁあ!!!」

ライフ5⇨2

 

 

それを横一閃に振るい、放たれた斬撃が鎧武をも蹴散らしてバークのライフに直撃する。そのライフは一気に3つも砕かれてしまい、残りたったの2つとなる。

 

 

「くっ、ライフ減少によりバースト発動!!絶甲氷盾!!」

「!!」

 

「ライフ1つを回復!!」

ライフ2⇨3

 

 

エニー・アゼムの伏せていたバーストがオープンされる。その効果で瞬時にライフ1つが回復するが、それでも3つ。コズミックステイツにとっては簡単に破壊できるラインのままだ。

 

 

「やっしゃぁ!!どうっスかノヴァ・アゼム!!…芽座椎名の弟子、岬五町の実力は!!……ターンエンド!!」

【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ+チェンソーモジュール】LV2(3)BP17000(疲労)

 

バースト【有】

 

 

「芽座椎名の弟子……だと!?」

 

 

エニー・アゼムが五町のコズミックステイツから受け取った攻撃より感じてしまったのは『恐怖』

 

何故だか知らないが五町とあのフォーゼからは果てしない恐怖を感じていた。そしてその思考の行き着いた境地は…………

 

『奴をこの世から消さねばならない』というものであって…………

 

 

「岬五町………妾は其方を消す!!」

「いや、だから言い回し怖っ!!」

 

 

エニー・アゼムが今までにない程に殺気だったオーラを放つ。それに最も近くて気づきやすいはずの五町だが、全く気づかず、寧ろその言葉をネタのように捉えている。

 

実際ふざけている場合ではない。五町は知らずしてこの世を救う英雄になろうとしていた………

 

 

[ターン04]エニー・アゼム

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!!魂鬼を召喚し、運命の獅子座、レオ・ゾディアーツを呼ぶ!!」

手札5⇨3

リザーブ9⇨0

トラッシュ0⇨3

【魂鬼】LV1(1)BP1000

【レオ・ゾディアーツ】LV3(5)BP12000

 

 

人魂ならぬ鬼魂、魂鬼が呼び出されると共に、黒い靄が現れ、そこに獅子座が浮かび上がり、中から白き体を持つ獅子座の怪物が出現した。

 

 

「おおっ!!何スかそのスピリットッ!!」

 

 

自身の身に迫る危機を知らずでいる五町。目の前のレオ・ゾディアーツに興奮を覚えている。

 

 

「黙れただの人間!!其方に発言権はない!!……アタックステップ!!レオよ、あの仮面スピリットに指定アタック!!」

「え!?BPはコズミックステイツの方が高いのに!?」

 

 

レオがコズミックステイツを睨みつけ、ターゲットにし、そこはめがけて走り出す。コズミックステイツもそれを見兼ねて独特な形をした剣を構える。

 

しかし、丁度レオの鋭利な爪とその剣が音を立てながら激突した直後………

 

 

「レオの効果!!指定したスピリットを効果で破壊し、レオを回復する!!」

【レオ・ゾディアーツ】(疲労⇨回復)

 

「何ィィィィ!?」

 

 

コズミックステイツの剣がレオの爪の力により腐食していく。そしてレオは力任せにコズミックステイツを殴り飛ばすと、そのままその爪でコズミックステイツの胸部を突き刺した。コズミックステイツは堪らず爆発してしまう。

 

この時、五町はコズミックステイツと合体していたチェーンソーモジュールを場に残すことができたが、残したとしてもレオの効果で破壊されるのが目に見えていたので、場には残さず、コズミックステイツと共にトラッシュへと送った。

 

 

「何者かは知らぬが朽ちてもらうぞ!!魂鬼で攻撃!!」

 

「っ……ライフで受ける!!」

ライフ5⇨4

 

 

エニー・アゼムが間髪入れずに魂鬼でアタックを仕掛ける。それは五町のライフ1つを体当たりで破壊した。

 

だが、これは五町が事前に伏せていたバーストカードの発動条件でもあって………

 

 

「よっし!!反撃!!……ライフ減少によりバースト発動!!…仮面ライダーメテオ!!」

 

 

五町のバーストカードである強力な仮面スピリット、メテオが見参し、レオや魂鬼を蹴散らす………

 

かと思われたが、その動きに合わせるようにエニー・アゼムはあるカードを手札から引き抜いて………

 

 

「緩い!!妾な手札にある超星使徒スピッツァードラゴンの効果!!」

「!?」

 

「罠が発動した時、召喚する!!さらにその罠を発動前に破棄する!!」

手札3⇨2

【レオ・ゾディアーツ】(5⇨3)LV3⇨2

トラッシュ3⇨4

【超星使徒スピッツァードラゴン】LV1⇨2(1⇨3)

 

「っ!?」

 

 

猛々しい赤い炎と禍々しい紫の炎が渦巻いていく。その中で生まれた竜はそのエネルギーを全て吸収し、現れる。その名はスピッツァードラゴン。脅威的な効果を持つスピリットである。

 

その誕生と共に五町の伏せていたメテオのカードが粉々に砕け散った。さらにオマケと言わんばかりにさり気なくコアまで増加しており、最早やりたい放題な状態。

 

 

「召喚しつつバースト破棄!!!てか、かっこよ!!」

 

 

しかし、絶望的な状況でも五町はその笑顔を絶やさない。バトルスピリッツをどこまでも楽しんでいる証拠でもあるが、ここまで来ると鈍感が過ぎるものもある。

 

 

「……やばい……」

 

 

その様子を近くで見ていた椎名はようやく気づいた。エニー・アゼムが五町に対して本気を出していることを。思わず身体が前のめりになり、今にも飛び出さんとするように身構えていた。

 

 

「これで其方を守るものは何もない!!レオ、スピッツァー!!攻撃せよ!!」

 

 

レオとスピッツァーが五町のライフ目掛けて走り出し、飛び立つ。五町に打つ手はない。それを受ける他無くて………

 

 

「ライフで受けるっス!!………っ!?」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

スピッツァーの赤と紫の炎をぶつける攻撃。レオの鋭い爪から繰り出される刺突が五町のライフを破壊するが……

 

五町はそこから発せられる妙な痛みを感じた。身体が中から抉られるような感覚。まだ軽いものではあるが、椎名と違い未経験な彼女にとって違和感は拭えなくて………

 

 

「っ……なんだ、これ、なんか変な感じっスね」

 

「………鈍感な小娘だ。妾の番は終えよう」

【魂鬼】LV1(1)BP1000(疲労)

【レオ・ゾディアーツ】LV2(3)BP10000(疲労)

【超星使徒スピッツァードラゴン】LV2(3)BP8000(疲労)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

「Bパッドの不調?……へへ、まあいいや。ここからが楽しいバトルだ!!私の力を見せつけてやる!!」

「………五町」

 

 

だが、五町のバトルに対してのモチベーションが下がる事はなく、寧ろその痛みは一種のスパイスのようになってしまっている。

 

椎名はその五町の逞しい背中を見ながら昔の自分と姿を重ねた。客観的に見て、自分もあんな感じだったのか、あんな怖いもの知らずで鈍感だったのか……と。

 

そう考えると、五町の気持ちを今は尊重して、このバトルを最後まで見届けたいところではあるが、椎名は『このバトルを終わらせるべく』同じバトル場で審判をしている晴太の元へと走って行った。

 

そんな中でも五町のターンが幕を開けていて………

 

 

[ターン05]五町

《スタートステップ》

《コアステップ》6⇨7

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ7⇨11

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!2体目のフォーゼ ベースステイツを召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ11⇨3

トラッシュ0⇨3

 

 

スリー!!

 

 

 

ツー!!

 

 

 

ワン!!

 

 

 

「召喚!!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]】LV2(5)BP4000

 

 

白い煙が吹き出て、そこから今回2体目となるベースステイツが姿を現した。

 

 

「気合い入れ直しだ……うぉぉお!!宇宙キターーー!!!」

 

 

再び両手を上げ、叫ぶ五町。その勢いはエニー・アゼムを知らずのうちに恐怖させている。

 

 

「ノヴァ・アゼム。改めて、タイマン張らせてもらうぜっ!!召喚時効果!!」

オープンカード↓

【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ】◯

【チェーンソーモジュール】◯

【アルテミックシールド】×

【仮面ライダーなでしこ】◯

 

 

効果は成功。五町は前のターンも使用したセットである【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ】と【チェーンソーモジュール】を加え、さらに【アルテミックシールド】は自身の効果で手札に加えられた。

 

 

「よし、3枚ゲット!!」

手札3⇨6

 

「っ……またあのカードを!?」

 

 

五町の凄まじい引きの強さに驚嘆するエニー・アゼム。五町は全く同じ行動パターンで彼女を追い詰めていく………

 

 

「チェーンソーモジュールを召喚!!効果で魂鬼を手札に戻しつつコアブースト!!さらにベースステイツの効果でさらに追加!!」

手札6⇨5

リザーブ3⇨0⇨1

トラッシュ3⇨6

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+チェーンソーモジュール】LV2(5⇨6)

 

「っ!?」

手札2⇨3

 

 

フォーゼがチェーンソーモジュールのスイッチを入れ、右足にチェーンソーを装備すると、それを利用して魂鬼を切り刻む。魂鬼は敢え無く切断され、粒子と化し、手札に戻ってしまう。

 

 

「アタックステップ!!フォーゼでアタック!!…そしてこれがこのバトルの締めっスよ!!【煌臨】発揮!!対象はベースステイツ!!」

【仮面ライダーフォーゼ ベースステイツ[2]+チェーンソーモジュール】(6s⇨5)

トラッシュ6⇨7s

 

 

♬コーズーミ〜〜ックオン!

 

 

 

また無機質な機械音のメロディが流れたかと思うと、フォーゼに合計40ものスイッチが吸い込まれるように集結していき、様々な色の光に包まれ、僅かながらにフォルムを変えていく……さらにその右手には新たに巨大な剣が出現する。フォーゼは光を解き放ち、新たな姿を見せると同時にその剣を力強く握り締めた。

 

 

「私はバトスピをもう一度掴む!!…仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ、煌臨!!」

手札5⇨4

【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ+チェンソーモジュール】LV3(5)BP20000

 

「………っ」

 

 

新たに現れたのは今回2度目の登場となるコズミックステイツ。その効果によりシンボルの合計は3となっている。一撃で勝負を決めれる程のスペックがこの時点で存在していて…………

 

 

「煌臨時効果!!スピリット1体をデッキ下に!!レオっス!!」

「!!」

 

 

コズミックステイツがシャトルのような形をした剣を構え、凄まじい勢いでレオに襲いかかる。レオは咄嗟に鋭い爪を立てて守りの姿勢に入るも、既に遅し、コズミックステイツは一瞬にしてレオの身体をバラバラに引き裂いていて、レオは堪らず爆発四散した。

 

 

「そして効果によりシンボルは3つ!!……終わりだぁぁあ!!」

 

 

今度はエニー・アゼムに向けて飛び立つコズミックステイツ。エニー・アゼムの場のスピリットは疲労しているスピッツァードラゴンのみ。

 

終わりだ。

 

誰もがそう思える状況だった。

 

しかし、エニー・アゼムは血眼になって手札のカードを1枚引き抜いた。

 

 

「マジック、デルタバリア!!」

手札3⇨2

リザーブ4⇨0

トラッシュ4⇨8

 

「!?」

 

「これにより妾のライフは0にならない!!…その攻撃はこの身で受ける!!」

ライフ3⇨1

 

 

コズミックステイツの剣がライフを切り裂く寸前。突如としてエニー・アゼムの前方に三角形のバリアが出現。コズミックステイツからエニー・アゼムの最後のライフを守り抜いた。

 

 

「オッシィィ!!……この感じ、堪らないな!!ターンエンドっス!!」

【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ+チェーンソーモジュール】LV3(5)BP20000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

このターンで勝てなかったにも関わらず、バトルを楽しむ姿勢を崩さない五町。そんな五町の凄みのある様子に、エニー・アゼムは段々と余裕がなくなってきており…………

 

 

「晴太先生!!」

「?……どうした椎名!?…今日のバトルはこれで終わりだぞ!?」

「どうしたもこうしたもない!!早く今のバトルを中止させろ!!このままだと五町が死ぬ!!」

「っ……わかった。理事長達の所に行ってくる……!!」

 

 

一方で椎名はこのバトルの審判を務めていた晴太と接触。このバトルを中止させるように指示する。晴太も椎名を信用しているため、その言葉を信じ、学園の理事長達が集うVIPルームへと急いで向かった。

 

だが、そんな中、エニー・アゼムが本腰を入れる。

 

 

[ターン06]エニー・アゼム

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨11

トラッシュ8⇨0

 

 

「メインステップ…………まさかこんな小娘如きに妾が恐怖を感じるとはな…………」

「?」

「貴様だけは今すぐ『俺様』の手で殺さなければならない!!」

「!?」

「2000年の苦労を水の泡にされてなるものか!!」

 

 

五町は一瞬、エニー・アゼムの声が図太くなったのがわかった。そしてその束の間。エニー・アゼムは自身のデッキのエースとも取れるカードを呼び出す。

 

 

「運命の射手座……サジタリウス・ゾディアーツを呼ぶ!!」

手札3⇨2

リザーブ11⇨3

トラッシュ0⇨4

【サジタリウス・ゾディアーツ】LV3(4)BP10000

 

 

紫の靄。そしてそこに映し出される射手座。

 

それを吸収するように吸い込みながら現れたのは最強のゾディアーツにして頂点。サジタリウス・ゾディアーツ。その異形な姿は他のゾディアーツを逸脱している。

 

 

「っ……カッチョいいっスね!!」

 

「召喚時効果!!2枚引く!!さらにその後手札からゾディアーツを呼ぶ!!……来い、レオ!!」

手札2⇨4⇨3

リザーブ3⇨1

トラッシュ4⇨5

【レオ・ゾディアーツ】LV1(1)BP7000

 

 

サジタリウス・ゾディアーツは全てのゾディアーツを呼ぶ事ができる。今回2枚目となるレオが颯爽と場に現れた。

 

 

「アタックステップ!!…サジタリウス・ゾディアーツよ、力の差を見せつけよ!!」

 

 

エニー・アゼムの指示を受け、戦闘態勢に入るサジタリウス。しかし、五町の手札には………

 

 

「フラッシュマジック、アルテミックシールド!!」

手札4⇨3

リザーブ1⇨0

【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ+チェーンソーモジュール】(5⇨4)LV3⇨2

トラッシュ7s⇨9s

 

「!!」

「この効果により、このバトルの終わりがアタックステップの終わり!!そして私の勝ちっス!!」

 

 

そうだ。五町には効果によって加えられたアルテミックシールドがある。これで辛うじてこのターンを凌ぎ、次のターンで再び逆転して勝利。この『殴り合い』とも取れるバトルを制する事ができる………

 

はずだった。エニー・アゼムがあるカードを切るまでは…………

 

 

「だから緩いと言っている!!【煌臨】発揮!!対象はサジタリウス!!」

リザーブ1s⇨0

トラッシュ5⇨6s

 

「!?」

 

 

エニー・アゼムの煌臨の効果発揮宣言と共に、サジタリウスが禍々しい光を放つ。その装備されていた鎧は弾き飛んで行き、より強大な力を身に宿すようになる。

 

 

「ゾディアーツを超えた究極の存在!!その名も『ノヴァ』!!……サジタリウス・ノヴァを煌臨!!」

手札3⇨2

【サジタリウス・ノヴァ】LV2(4)BP9000

 

「さ、サジタリウス………ノヴァ!?」

 

 

その赤黒いボディから滲み出る殺意。吐き気がするような鈍い闘気。五町は理解した。おそらくこれがノヴァ・アゼムの最強のスピリットなのだと………

 

そしてそのサジタリウス・ノヴァは容赦なく五町を襲う。

 

 

「サジタリウス・ノヴァの煌臨時効果!!スピリット1体のコアを12個リザーブへ送る!!」

「!?」

「対象は当然コズミックステイツ!!」

 

「くっ!!……コズミックステイツ!!」

【仮面ライダーフォーゼ コズミックステイツ+チェーンソーモジュール】(4⇨0)消滅

 

 

 

進化系であるサジタリウス・ノヴァが闇の力を込めた弾丸をその手から発射する。コズミックステイツはそれに身体を撃ち抜かれ、堪らず爆発四散した。

 

 

「さらにこの時、1コスト支払う事で敵のライフを1つ破壊する!!」

【サジタリウス・ノヴァ】(4⇨3)

トラッシュ6s⇨7s

 

「なに!?………ぐっ、う、うぁぁぁぁっ!!!」

ライフ2⇨1

 

 

その闇の弾丸はコズミックステイツのみに留まらず、五町のライフまでもを貫いた。エニー・アゼムはアルテミックシールドの効果でアタックステップが終わるまでに五町のライフを破壊する気でいて………

 

それに加え、五町は多大なバトルダメージに襲われる。

 

 

「煌臨スピリットはその煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ………終わりだ小娘!!」

「やめろエニー・アゼム!!」

「っ………」

「ね、姐さん!?」

 

 

エニー・アゼムが五町にトドメを刺そうとした直後。最早間に合わないと見た椎名がバトルを中断させるべく、付近まで割って入って来た。

 

 

「五町!!あんたさっきからライフが破壊されるだけで本当にダメージがあるだろ?……早くBパッドを閉じろ!!」

「ど、どうしたんスか姐さん?」

 

 

いきなりの事でキョトンとする五町。状況がイマイチ飲み込めていない証拠だ。ここまで来たら五町自身が自分で負けを認めるしかない。

 

このままライフゼロに追い込まれたら命も保証もできないのだ。

 

 

「うるさいぞ芽座椎名!!……この小娘は今ここで妾が始末する!!危険だ………!!」

「危険なのあんただろ!!」

「ん?……なんの話??」

 

 

エニー・アゼムとしては何故か恐怖を抱いてしまう五町の『フォーゼ』を消したくてしょうがなかった。椎名としては当然これを止めないといけなくて…………

 

 

「もう妾は止められん!!行け、サジタリウス・ノヴァ!!」

「!!」

「五町!!」

 

 

サジタリウス・ノヴァが再び五町に目を向けて、手の平から闇の弾丸を放つ。その一撃はまともに受ければ間違いなく五町は死ぬ。この世とお別れだろう。

 

なんの事実も知らぬまま、朽ち果てるのだ。

 

だが…………

 

 

 

直撃寸前のところで、五町の前半に巨大な盾を持つ白い騎士が赤いマントを靡かせながら現れて………

 

その闇の弾丸を上空へと弾いた。その弾丸は空中爆発を起こし、五町の命は事なきを得た。

 

 

「!?」

 

 

そこに立っていたのは他でもない。椎名のエーススピリットである『デュークモン』だったのだ。ギリギリ椎名が召喚し、五町を護ったのだ。

 

 

「おい、エニー・アゼム………あんたは本気で私を怒らせたぞ……!!」

「……どいつもこいつも妬ましく、図々しくて醜い小娘共だ!!」

 

 

椎名は久し振りに誰かに対してブチ切れていた。その確かな怒号を含んだ静かな声色はエニー・アゼムの癇に障っていて………

 

 

「……??………なんか知らないっスけど、姐さんカッコイイっス!!」

 

 

しかし、この五町だけは何が起こっているのか理解しておらず、椎名とデュークモンの勇姿を見て目を輝かせていた。

 

後に発表され、岬五町の正式な敗北が認められた。これにより、このバトルでの勝者は『ノヴァ・アゼム』となり、彼女が準決勝へと駒を進めた。

 

これにて1日目が終了した。準決勝以降の戦いは翌日となる。残った4人のメンバーは『芽座椎名』『赤羽司』『バーク・アゼム』『エニー・アゼム』

 

翌日のバトルで世界の命運が決まる。

 

 

 




《次回予告!!》


第10回界放リーグもいよいよ大詰め。ベスト4が凌ぎを削る。その第一試合は『赤羽司』と『バーク・アゼム』であり………バークは与えられたさらなる力で司に襲いかかる。次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「鎧武とバロン……そして黒幕」……今、バトスピが進化を超える!!


******


※次回のサブタイトル及び内容等は変更の可能性があります。


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!


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第113話「鎧武とバロン……そして黒幕」

『バトルスピリッツ コラボストーリーズ』
略して『コラスト』というバトスピ小説も投稿いたしました!!
生まれつきソウルコアが使えない少年アスラが最強を目指すべく、熱いバトルを繰り広げていきます!!
本格的な連載はこの作品が完結してからですが、そちらも是非お読みになってくれたら嬉しいです!!
それでは真実に近づく第113話をどうぞ!!





 

 

 

 

 

 

 

第10回、界放リーグの2回戦までが終わった。勝ち残った4人の試合は翌日にて行われる。それまで暫し休憩だ。

 

あれだけ大いに盛り上がって見せた中央スタジアムも、深夜となり、人々もいなくなったため、嘘のように静寂な空間となっていた。

 

そんな誰もいないはずの広大なバトル場には、『エニー・アゼム』とその子孫である『バーク・アゼム』が立ち並んでおり………

 

 

「エニー様。明日、いよいよこの世界は変わるのですね」

 

 

バークが横で同じ景色を眺めているエニー・アゼムに改めて聞いた。

 

世界が変わる。それは愚かな人間共の滅亡そのもの。

 

 

 

 

 

生物が消え去る事でより良くなるという理論だ。

 

 

「うむ。そうだ我が子孫。そのためにも明日、あの赤羽の小童に勝利し、バロンを得、さらに鎧武を『究極の鎧武』へと昇華させるのだ」

「はい。わかっております……汚い血の混ざった奴はこのままにする事は出来ません」

 

 

明日の準決勝。その初戦はこの『バーク・アゼム』と『赤羽司』なのだ。バークはこの戦いに勝利し、エニー・アゼムの言う『究極の鎧武』を手に入れなければならない。

 

進化の頂点に達したその力を手に入れる。

 

それこそが崇拝する祖先、エニー・アゼムが望む事なのだ。

 

 

「既に其方は妾の進化の力の一端を与えた。それさえあれば必ず勝利を収める事ができるであろう」

「はい。ありがたき幸せです」

 

 

バークはエニー・アゼムから既にその進化の力の一端を授かっているようである。その力とは何なのか………

 

それはおそらく明日の司とのバトルで拝見できるのは目に見えていて…………

 

 

******

 

 

翌日。

 

冬の時期だと言うにもかかわらず、栄誉あるバトラーを一目見ようと再び中央スタジアムに大勢の人々が集まった。

 

 

第一試合が行われるバトル場には既に司とバークが今にも殴り合いそうな雰囲気の中睨み合っている。そのバトル場の端にはエニー・アゼム。さらに少し離れたところでは椎名と晴太も確認でき………

 

 

「今日、決着がつくんだな、椎名」

「あぁ、絶対に私と司が勝つ!!」

 

 

晴太がそう言うと、強く意気込む椎名。頭の中で考えているのは今日の勝利の事のみ。勝たねばこの世界は終わる。

 

栄誉ある界放リーグが世界の存亡を賭けた戦いになっている事を知っているのはバトル場にいる5人を含めてもごく僅かな数しかいないのだ。

 

 

「随分と機嫌が良さそうだな、バーク」

 

 

司がバークに言った。

 

 

「あぁ、良いさ。何せようやく貴様を叩きのめす事ができるのだからな!!……返してもらうぞ、エニー様のバロンを!!」

 

 

バークは司とバトルできるこの時を心から待ち望んでいた。エニー・アゼムからバロンを奪った一族の末裔である彼をこの手で始末できる………子孫である彼にとってはこれほど栄誉ある事はないのだろう。

 

 

「奪ったのは大昔の赤羽だろ?…バロンは俺の力だ。もうエニー・アゼムのものじゃない」

「貴様らのような醜い普通の人間共は我に対する発言権すら与えられない!!……さぁ、Bパッドを出せ!!」

「あぁそ」

 

 

2人は懐から自身のBパッドを取り出し、展開。バトルの準備を行った。

 

 

「まぁいいだろう。良い準備運動になる事を祈るぜ」

「っ……どこまでも我を小馬鹿にする気かぁぁあ!!」

 

 

別に小馬鹿にしているつもりはない。司にとっては芽座椎名とのバトルまでの他のバトルなど準備運動でしかないのだ。だが、バークはその点に腹が立ってしょうがない。どうしようもなくムカつくのだ。イライラするのだ。あの赤羽司の余裕のある態度が。

 

そしてそんな彼らのバトルスピリッツが幕を開ける。

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

コールと歓声の中、バトルが始まる。

 

先行はバーク・アゼムだ。

 

 

[ターン01]バーク

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ………赤羽司。貴様はどうしてもこの我をこけにしたいようだな……」

「本当の事を言っているだけだ」

「そう言うところがこけにしていると言っているのだ!!見せてやる。エニー様より授かりし進化の力によって得た………我の新たな力を!!」

「?」

 

 

バトル開始から既に余裕のない表情を浮かべているバーク。彼としては早くエニー・アゼムのためにバロンを得なければならないと思っているのだろう。

 

そして、そんな彼の新たな力が今、発揮される。

 

 

「変身!!仮面ライダー鎧武!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨1

トラッシュ0⇨3

【変身!!仮面ライダー鎧武】LV1

 

「!!」

 

 

バークの腰にドライバーのようなものが装着される。バークはさらに手に握られたオレンジのアイテムをそこへとはめ込み、レバーを引いてそれを切った………

 

そして上空からチャックが現れ、それが全開し、そこからオレンジのようなものが落下。バークの頭にすっぽり入っていった。最後にそのオレンジは割れ、バークの装備となる………

 

気がつくと、司の目の前には………

 

 

「テメェ自身が………鎧武」

「あぁそうだ。この俺が鎧武になった!!」

 

 

流石に少しだけ目を見開いた司。今、目の前にいるのはバークだが、その姿は正しく鎧武 オレンジアームズそのものだったからだ。

 

これこそ、バークがエニー・アゼムに与えられた進化の力の結晶。赤羽司に勝つための切り札だ。

 

 

「配置時の効果でデッキからカードをトラッシュに……………対象カードは3枚。我に3つのコアを増やす…………我はこれでターンを終えよう!!……さぁ、早くターンを進めろ!」

神託カード↓

【仮面ライダーブラーボ ドリアンアームズ】◯

【仮面ライダーブラーボ ドリアンアームズ】◯

【仮面ライダー斬月 メロンアームズ】◯

 

【変身!!仮面ライダー鎧武】LV1(0⇨3)

 

 

「ギャーギャーギャーギャーうるせぇ、言われなくてもさっさと終わらせてやるさ」

 

 

そのターンを終えるバーク。次なるは司のターンだ。その手札には既にいつもの速攻部隊が出揃っており………

 

 

[ターン02]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、バロン バナナアームズとイーズナを召喚!!」

手札5⇨3

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV3(1)BP7000

【イーズナ】LV1(1)BP1000

 

 

司の頭上からチャックが出現し、全開となり、そこから赤い仮面スピリット、バロンが降り立つと共に、場にイタチ型の小さなスピリット、イーズナが現れる。

 

 

「フンッ…相変わらず、馬鹿の一つ覚えの速攻か!!」

 

「あぁそうだ。馬鹿の一つ覚えだ。そして、そんな馬鹿に負けるのがテメェだ!!アタックステップ!!バロンとイーズナでアタック!!」

手札3⇨4

 

 

バロンが槍を構え、バークのライフに向けて走り出した。イーズナも同様だ。バークもとい、鎧武を守るスピリットはいない。

 

彼はそのアタックをライフで受ける他なくて………

 

 

「ライフで受ける!!」

ライフ5⇨4⇨3

 

 

バロンの槍から繰り出される強烈な刺突。イーズナのひっかく攻撃がバークを襲う。そのライフが一気に2つ砕け散った。

 

 

「ターンエンドだ………どうした、そんなものか?」

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV3(1)BP7000(疲労)

【イーズナ】LV1(1)BP1000(疲労)

 

バースト【無】

 

 

バークを軽く煽りながらそのターンを終える司。敵が未知なるカードを繰り出してこようがその立ち振舞いを一切変えない。

 

 

[ターン03]バーク

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨7

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、我は鎧武と龍玄を召喚!!我にコアを置き、召喚時効果でカードをオープンし、対象のカードを手札に加え、コアを増やす!!」

手札5⇨3⇨4

リザーブ7⇨0

トラッシュ0⇨4⇨5

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ】LV2(2⇨3)BP5000

【仮面ライダー龍玄 ブドウアームズ】LV1(1)BP4000

オープンカード↓

【アルティメットウォール】×

【仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ】◯

【ヘルヘイムの産物】×

【変身!!仮面ライダー鎧武】(3⇨5)

 

 

バークの場にオレンジアームズとブドウアームズが現れ、手札やコアを増やしていく。バークの手札には新たに【仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ】のカードが握られた。

 

 

「アタックステップ!!その開始時!!【変身!!仮面ライダー鎧武】の【転神】を発揮!!コア2つをボイドに置き、我はアタックが可能となる!!」

【変身!!仮面ライダー鎧武】(5⇨3)

 

「っ……テメェ自身がアタックできるようになる効果?」

 

「アタックステップは続行!!我が貴様に攻撃する!!」

手札4⇨6

 

 

腰にある刀を抜き取り、構えて走り出したのは鎧武に変身しているバーク自身。司に有りっ丈の怒りをぶつけようとしている。

 

 

「ライフだ……来いよ……」

「オォォォォォオッッッ!!!」

 

「っ!!」

ライフ5⇨4

 

 

怒りのままに、全力で司のライフを斬り裂くバーク。やはり進化の力で手に入れたカードは違うのか、司には多大なるバトルダメージが蓄積される。

 

 

「どうだ赤羽司!!我の渾身の一撃は!!」

「……別に……軽いな」

「っ……強がるんじゃない!!……龍玄でアタック!!」

 

 

だが、単純に大きなバトルダメージで司はビクともしない。あの銃魔との激戦を繰り広げたからである。

 

あの時の銃魔の悲痛な想いと覚悟に比べたら……

 

この程度へでもなくて………

 

 

「さらに【煌臨】発揮!!対象はアタック中の龍玄!!……さらにこの時、ソウルコアの代わりに我のライフを1つ破壊する!!」

ライフ3⇨2

 

「!!」

 

 

いつもの【煌臨】発揮宣言。だが、それと共に彼のライフ1つが飛び散った。そのピーキーな条件から、より強力なスピリットが呼び出されるのは目に見えていて………

 

龍玄の頭上から禍々しい気を放つ鎧が降下され、龍玄はそれを受け入れ、衝突し、新たな姿へと昇華する。

 

 

「来い、仮面ライダー龍玄・黄泉 ヨモツヘグリアームズ!!」

手札6⇨5

【仮面ライダー龍玄・黄泉 ヨモツヘグリアームズ】LV1(1)BP5000

 

 

現れたのは赤茶色いアームズを身に纏う龍玄。その姿は同類が多いこのバトルの中でもより異端であって………

 

 

「ヨモツヘグリって……何の果物だよ」

 

 

しかし、司の態度は変わらず。ヨモツヘグリの名前に軽くツッコンた。

 

 

「効果でコア2つを追加!!」

【仮面ライダー龍玄・黄泉 ヨモツヘグリアームズ】(1⇨3)LV1⇨2

【変身!!仮面ライダー鎧武】(3⇨4)LV1⇨2

 

 

ヨモツヘグリにコアが追加される。

 

そして、アタック中のスピリットに煌臨したため、今尚もアタック中であって………

 

 

「ライフで受ける……っ」

ライフ4⇨3

 

 

ヨモツヘグリアームズの強烈な拳が司のライフを粉々に粉砕した。

 

 

「これで貴様とのライフ差は同じ。ターンを終えよう」

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ】LV2(3)BP5000(回復)

【仮面ライダー龍玄・黄泉 ヨモツヘグリアームズ】LV2(3)BP7000(疲労)

 

【変身!!仮面ライダー鎧武】LV2(4)

 

 

オレンジアームズをブロッカーとして残し、そのターンをエンドとしたバーク。次なるは司のターン。勝負を決めるべくターンシークエンスを進める。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ2⇨3

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ3⇨6

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、俺はネクサスカード、朱に染まる薔薇園をLV2で配置し、イーズナのLVを3にアップ」

手札5⇨4

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨3

【イーズナ】(1⇨3)BP3000

【朱に染まる薔薇園】LV2(1)

 

 

司の背後に鮮やかな朱色の薔薇が咲き誇る。

 

 

「アタックステップ!!バロンでアタック!!…カードをドローし、BP5000以下のスピリットを破壊する!!」

手札4⇨5

 

「!!」

「破壊するのは鎧武、オレンジアームズだ!!」

 

 

バロンが槍の切っ先を鎧武に差し向け、その先端からバナナの形をしたエネルギーを飛ばす。鎧武はそれに貫かれ、爆発するかに見えたが………

 

 

「オレンジアームズの効果!!我のライフ1つをこのスピリットに置くことで場に残る!!」

ライフ2⇨1

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ】(3⇨4)

 

「!!」

 

 

しかし、オレンジアームズはその一撃を紙一重で避けてみせた。バークは自分のライフの減少など全く意に介さず、オレンジアームズを守った。

 

 

「貴様如きが鎧武に、エニー・アゼム様のカードに勝てると思うな!!……フラッシュ、【変身!!仮面ライダー鎧武】の効果【神技】を発揮!!」

「!!」

 

「コアを4つボイドに置き、手札にあるアームズスピリットを召喚する!!……我は手札から仮面ライダー鎧武 カチドキアームズをLV2で召喚!!」

手札6⇨5

【変身!!仮面ライダー鎧武】(4⇨0⇨1)LV2⇨1

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ】(4⇨2)

【仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ】LV2(2)BP10000

 

 

鎧武の姿となっているバークが天に手をかざすと、その上空からチャックが出現、全開し、そこから重圧な装甲を持つ鎧武 カチドキアームズが飛び降りてやってきた。

 

 

「カチドキアームズの効果!!貴様のスピリット2体をBPマイナス15000し、0になれば破壊する!!」

 

「!!」

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】BP7000⇨0(破壊)

【イーズナ】BP3000⇨0(破壊)

 

 

カチドキアームズが二本の橙色の旗を豪快な炎と共に振り回す。旗の動きと連動して踊るように舞うその炎はバロンとイーズナを瞬く間に包み込み、焼き尽くした。

 

………司の場のスピリットはゼロ。少なくともこのターンはもう動く手は無くて……

 

 

「……ターンエンドだ」

【朱に染まる薔薇園】LV2(1)

 

バースト【無】

 

 

その顔色は未だに冷静な表情を浮かべている司。余裕とも取れるその表情は作戦なのか、はたまた素であるのかはわからないが、少なくとも負ける気がないのは伺えて……

 

 

「気取るな、赤羽司!!……もう貴様の負けだ!!」

「……じゃあ減らしてみろよ、俺の3つのライフ!!……貴様如きでは不可能だと思うがな!!」

「っ……黙れ!!」

 

 

バークを煽る司。バトルの優勢は圧倒的に彼が有利であるが、所謂会話のマウント合戦では、司が完勝していると言える。

 

そんな怒りに浸透したバークが司の息を止めるべくターンを進めて………

 

 

[ターン05]バーク

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

【仮面ライダー龍玄・黄泉 ヨモツヘグリアームズ】(疲労⇨回復)

 

 

「メインステップ!!我は仮面ライダー黒影 マツボックリアームズを2体連続召喚!!…効果により2枚ドロー!!」

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨4

【仮面ライダー黒影 マツボックリアームズ】LV1(1)BP3000

【仮面ライダー黒影 マツボックリアームズ】LV1(1)BP3000

【変身!!仮面ライダー鎧武】(1⇨2⇨3)

 

 

黒いボディと平凡な槍を持つ黒影がバークの場に2体現れ、その分カードをドローした。

 

 

「アタックステップ!!…やれカチドキアームズ!!…あの愚か者のライフを砕け!!」

 

 

バークの指示で2本の旗を構え、司のライフを砕くべく走り出す。

 

だが、司はそんな必死なバークを滑稽だと言わんばかりに手札からカードを1枚引き抜いて………

 

 

「フラッシュマジック、シンフォニックバースト!!」

手札5⇨4

リザーブ4⇨2

トラッシュ3⇨5

 

「!?」

 

「そのアタックはライフで受ける!……そして、シンフォニックバーストの効果でテメェのアタックステップは終わりだ!!」

ライフ3⇨2

 

 

カチドキアームズが二本の旗を振るい、司のライフ1つを破壊する。

 

が、その直後に司の使用したシンフォニックバーストの効果が適応。黄色い輝きが解き放たれ、バークのスピリット全ての身動きを封じ込めた。

 

 

「ほら、テメェじゃ俺は倒せない」

 

「っ……ターンエンド……!!」

【仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ】LV2(2)BP5000(回復)

【仮面ライダー龍玄・黄泉 ヨモツヘグリアームズ】LV2(3)BP7000(回復)

【仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ】LV2(2)BP10000(疲労)

【仮面ライダー黒影 マツボックリアームズ】LV1(1)BP3000(回復)

【仮面ライダー黒影 マツボックリアームズ】LV1(1)BP3000(回復)

 

【変身!!仮面ライダー鎧武】LV1(3)

 

バースト【無】

 

 

大量のスピリットを展開したものの、司のマジック1枚で身動きを封じられたバーク。このターンはエンドとするしかなくて………

 

 

「おい椎名。司は大丈夫なのか!?…誰がどう見ても不利だぞ!!」

「心配する事ないさ、先生。あいつは本当、何考えてるかわからないけど、私とバトルするまでは負けない」

 

 

周囲で司のバトルを見守っている椎名と晴太が言った。

 

そうだ。

 

赤羽司は芽座椎名に勝つまで負ける事はないし、況してやバーク・アゼムごときに敗北を喫する訳がない。

 

 

[ターン06]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ3⇨4

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ4⇨9

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ!!…バーストを伏せる!!」

手札5⇨4

 

「!!」

 

 

司の場にバーストカードがセットされた。いつものバークだったら大した警戒はしないだろう。

 

しかし、あの『ロード・バロン』だった場合は話が変わってくる。

 

ただ、あのカード自体は単なるバーストカードに過ぎない。召喚されなければ何の意味もない。ライフ減少がなら対策もしやすい……

 

そこまで思考が過ったバークの表情から思わず小さい笑みがこぼれるが………

 

今の赤羽司の強さは彼の想像をはるかに超えるものであって………

 

 

「さらに俺は、ダークナイト・ドラゴンを召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨4

【ダークナイト・ドラゴン】LV1(1)BP4000

 

「!!」

 

 

司の場に黒き鎧を身につけたドラゴンが現れる。

 

 

「召喚時効果!!俺のライフ1つをボイドに送り、BP6000以下のスピリット1体を破壊する!!……オレンジアームズを破壊!!」

ライフ2⇨1

 

「!!」

 

 

司のライフが破裂し、残り1つとなってしまうが、ダークナイト・ドラゴンの持つ剣から繰り出される斬撃がオレンジアームズを切り崩した。

 

一見……

 

一見してみると、単に効率の悪いBP破壊にしか見えない。だが、ここでは『ライフが減ったことに価値があり、意味がある』

 

今、伏せたばかりの司のバーストカードが勢い良く反転してみせて………

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!『ロード・バロン』!!」

「っ……自発的にバーストを発動だと!?」

 

「消えろ、カチドキアームズ、黒影!!」

 

「くっ……!!」

【仮面ライダー鎧武 カチドキアームズ】(2⇨0)消滅

【仮面ライダー黒影 マツボックリアームズ】(1⇨0)消滅

トラッシュ4⇨7

 

 

そのバーストカードが反転されるなり、異常気象でも発生したような赤黒い竜巻が発生し、バークの場を襲う。カチドキアームズと黒影1体が巻き込まれ、その姿を消滅させられてしまう。

 

 

「そしてその後、召喚する!!……聞け!!魔王の轟く怒号を……そして慄き戦慄せよ!!………来い、ロード・バロン!!」

リザーブ4⇨0

【朱に染まる薔薇園】(1⇨0)LV2⇨1

【ロード・バロン】LV3(5)BP16000

 

 

赤い稲妻が落雷する。その衝撃と共に現れたのは赤羽司最強のスピリット、ロード・バロン。

 

エニー・アゼムの力の枠組みから外れ、司の己の力で進化させたバロンの異端な究極形態である。

 

 

「アタックステップ!!……やれ、ロード・バロン!!効果でヨモツヘグリアームズを破壊する!!」

「!!」

 

 

ロード・バロンがその手に持つ巨大な魔剣を地面に勢い良く突き刺す。すると、そこから凄まじい衝撃波が放たれ、一瞬にしてヨモツヘグリアームズを粉砕する。

 

 

「アタックは続行!!……テメェは受け切れるのか、この俺の重い一撃を!!」

「くっ……黒影で守る!!」

 

 

バークは反射的に黒影で身を守る。黒影が槍を構え、ロード・バロンに立ち向かうが、ロード・バロンの力を入れていないような緩い太刀筋であっさり切り崩され、爆発してしまう。

 

 

「……ふざけるな……ふざけるなよ、赤羽司ぁあ!!」

 

 

この爆発の最中………

 

バーク・アゼムは唐突に察した。目の前の男の圧倒的な強さを……

 

自分では到底敵わないという事を……

 

 

「終わりだ。ダークナイト・ドラゴンでアタック!!」

 

 

司の指示により、ダークナイト・ドラゴンが自身の剣を抜き取り、バークの最後のライフ目掛けて走り出した。

 

もう彼の場にはスピリットがいない。

 

文字通り、これで終わりだった。

 

 

「………」

ライフ1⇨0

 

 

そして、ライフで受ける宣言をするまでもなく、その剣は彼のライフを切り崩した。ライフがゼロになったことに伴い、バークの姿も元の人間に戻る。

 

これで赤羽司の勝利だ。しかも圧倒的な実力差を見せつけての完勝………

 

これでまた彼の望む芽座椎名とのバトルに一歩近づいた。それと同時に人類を救ったとも言えるのだが、彼にとっては圧倒的に前者の方が重要であって………

 

バトル場の周囲ではそのバトルを見守っていた椎名と晴太がガッツポーズをして喜んでいた。

 

 

「何故だ………何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だァァァァアぁぁぁぁぁァァァァア!!!」

「うるせぇ奴だな」

「貴様のような奴が何故我より強い!?…固い信念を持つこの我よりも!!」

 

 

敵の方が実力が上だと理解しても尚、自分の敗北が受け入れられないバーク・アゼム。それをよそに見ていたエニー・アゼムが彼の側まで近寄り………

 

 

「気に病むことは無い、我が子孫……」

「っ……エニー様!!」

 

 

仏のような表情でバークを見つめるエニー・アゼム。その表情を見るなり、バークは言葉を詰まらせてしまう。

 

 

「良くやったよ、本当に………」

 

 

 

 

しかし、次の瞬間。

 

敗北してしまった事をバークが謝罪しようとした……

 

その直後だった。

 

 

「この俺様のためにな………!!」

 

 

 

エニー・アゼムが不気味な笑みを浮かべて、手のひらに鎧武を含むバークの持つカードが全てあっという間に吸収されたのは…………

 

 

 

「え?」

 

 

 

その光景に驚くバークや、周囲の面々。

 

確かに元々はエニー・アゼムのカードだ。『使えなくなった』とはバークも聞いていたが、使えるようになったとでも考えればありえない話では無い。

 

しかし、その異様な光景はどう見ても『吸収した』ようにしか見えなくて………まるで、鎧武から発せられていた進化の力を奪うかのように………

 

 

「ど、どういう事ですか!!? エニー様!!!……鎧武は……」

「溜まった」

「は?」

「今の鎧武を取り込んだ事で、進化の力が完全に『俺様』の全盛期の頃、いや、それ以上に………溜まった」

「な、何を!?」

 

 

意味深な事を口にするエニー・アゼム。その声色はいつもの優しいものとは違い、

 

とても静かで……

 

冷たくて………

 

それでいて凶悪で………

 

 

「今日この日、ようやく世界は『鬼の世界』になる!!」

「!!?」

「おかえり、そしてただいま。俺様!!」

 

 

そう言うと、エニー・アゼムの体からドス黒い何かが溢れ出していく。依り代となっていた赤羽司の姉、赤羽茜の体がその場で倒れる。

 

やがてそのドス黒い塊は次第に何か異形な姿へと形を形成していき………

 

 

「……まさか……コイツは……」

 

 

それが形成されていく中、バークはついに察した。

 

このエニー・アゼムの……

 

いや、『エニー・アゼムを名乗っていた者』の正体が………

 

 

「ガッガッガ……」

 

 

奇妙な笑い声が聞こえて来た。

 

その姿はこの世の生物とは思えないほど、黒くて………

 

その頭には黒くて長い角が二本生え、耳は尖っており、翼が生え、尾があり………

 

 

「何……だ……!?……この生物は……!!!」

 

 

その光景を見ていた晴太がそう口にした。その姿はまさしく悪魔とも取れる異形だった。古に伝わるような真の怪物其の物だった。

 

この異形を視認するなり、会場にいた多くの人々が騒ぎ、パニックになってしまうが………

 

 

「ガッガッ……煩いな。下等種族共は今も昔も変わらない……!!」

 

ー!?

 

 

赤羽茜の体から出てきた異形がそう言い、手をかざすと、すぐさま、会場全体が闇に包み込まれ、不思議な空間が完成してしまう。

 

人々はどうなってしまったのか、声も聞こえなければ一寸先のものも視認するのが困難になった。辛うじてバトル場周辺は見えるが、決して満足いくものではなく………

 

まるで別の世界に誘われたような………

 

そんな感覚が椎名達を襲った。

 

 

「私はさ………ずっと、あんたの事が疑問だった………」

 

 

椎名が口を開いた。その異形は椎名の方へと首を向ける。

 

 

「元々、エニー・アゼムは善人だった。そいつがいくら誰かに復讐したいと言っても、『悪意の塊』になるのはどうしても違和感があった………」

 

 

椎名は最初から不思議でならなかった。元は善人のエニー・アゼムが完全な悪意の塊になっていたことに………普通は少しでも善意は残るはずであるのに………

 

その謎がようやく解けた。その顔、角。間違いない………

 

 

「ガッガッガ……ヒントは与えてやったけどな。気づくのが一足遅かったな………」

 

 

そして異形はその名を名乗る………

 

 

「そう………俺様の名は『ノヴァ』!!エニー・アゼムではない!!………愚かな下等種族共を消し去るために生まれた、『鬼の頂点に立つ者』!!!……」

 

 

そうだ。

 

その正体は約2000年以上前に生息していた鬼。

 

しかもそれを統べる王とも呼べる存在。奴は今まで赤羽茜として、エニー・アゼムとして………暗躍していた………

 

全ての黒幕………

 

今一度鬼の世界を築き上げるため、2000年前に戦いで自身を倒した人間達に復讐するため、彼は再びこの現世に姿を現した………

 

まさに、史上最悪の侵略者………

 

 

 




《次回予告!!》


次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「古の侵略者、鬼王ノヴァ!!」……今、バトスピが進化を超える!!


******


最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

実は赤羽茜の体を乗っ取り、今までエニー・アゼムとして振舞っていた人物は全てあの鬼王ノヴァでした。

長々と話していましたが、結論から言うと全部アイツが悪いです。


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第114話「古の侵略者、鬼王ノヴァ!!」

『鬼王ノヴァ』

 

 

2000年以上前、人間に代わり万物の頂点に立とうとしていた異種族、鬼の長にして、この世で最も深く、膨大で、巨大な進化の力の持ち主。

 

真紅の魔竜を操る他の鬼達を引き連れ、世界から人間そのものを抹消しようと目論んだが、エニー・アゼムと芽座一族との激戦の末敗北………

 

鬼は滅んだかに見えた………

 

だが、

 

ノヴァは世界の果てでひっそりと生き長らえ、再び進化の力が溜まっていくのを今か今かと待ちわびていた………

 

全ては下等種族、人間に復讐するために…………

 

 

******

 

 

「お、鬼の王………だと!?……じゃあ今まで貴様は……我を騙してきたと言うのか!!」

「ガッガッガ……じゃなかったらなんだと言うんだ」

 

 

周囲に冷ややかな闇が漂う中、エニー・アゼムのフリをしてバークや多くの者達を騙し続けていた鬼の王ノヴァがバークに言った。

 

 

「まぁ別に俺様が言った事は全てが嘘だと言うわけではない。例えば、バロンは本当に赤羽に奪われた」

「!!」

「ガッガッ……だが、エニー・アゼムは真の英雄だったよ。救った人間に殺されたにもかかわらず、それが正しいと思っていたのだからな」

 

ー!?

 

「皮肉なものだな。そのせいで俺様に利用された……やはりいくら時を超えても、人間とは愚かな生き物だ」

 

 

古を生きていた鬼王ノヴァが真の歴史を語る。エニー・アゼムはどこまでも善人であった事が伺える。

 

どうせ自分は死ぬのだ。いずれ来るであろう災難を救うためにはこの力を他の人間達に譲渡した方が良いと考えたのだ。

 

儚げで健気な話だが、実際はその歴史のせいでバークは鬼王ノヴァに騙され続けてしまっていた。

 

 

「ガッガッガ、でも、お前との時間は楽しかったぜ、バーク」

「黙れ!!貴様は……貴様はぁぁあ!!」

「ガッガッ、怒りに駆られるのはいいが、デッキの無いお前に何ができる??」

「くっ!?」

 

 

ノヴァがバークの首を掴み、体を持ち上げる。バークは反射的に手でノヴァの腕を外そうともがくが、一向に離れる気配がない。

 

ノヴァはさらにもう1つの手で、置き去りとなった茜の遺体を持ち上げ、2人まとめて椎名と晴太の方へと投げ飛ばした。椎名はバークを、晴太は茜をそれぞれキャッチした。

 

 

「……芽座椎名……我は…我は間違っていたのか……?」

「あんたはもう理解しているだろ。でも、いくらでもやり直せる。それが人間だ」

「………」

「待ってろ……今、私があの黒くて気持ち悪い奴をぶっ飛ばしてやる!!」

 

 

椎名がバトル場に立ち、鬼王と向かい合う。その目はやる気に満ちており、負ける気などさらさら無いのが伺える。

 

 

「ガッガッ、芽座椎名………所詮は鬼の雑兵程度、いや、それ以下の進化の力しか持たないお前が、俺様に勝てると思ってるのか?………俺様はこの世で最も進化の力を有している鬼の王だ!!」

「知るか、そんなもん!!……だいたい、あんたはなんで生きてんだ!!エニー・アゼムと芽座一族に斃されたんじゃないのか!?」

「無粋な質問だな。俺様は鬼の王だ……進化の力を酷使さえすれば死なん……まぁそのお陰で一から進化の力を蓄えなければならなくなったがな」

 

 

椎名はその身に鬼の力を宿している。しかし、その力は所詮普通の鬼から採取された力。普通の鬼よりも微弱で矮小なもの………鬼の中でも頂点だったノヴァの足元にも及ばない。

 

だが、今、戦えるのは椎名1人では無くて……

 

 

「おいおい、待てよめざし。俺も混ぜろ」

「っ……司!?」

 

 

椎名の横に赤羽司が並び立った。状況が状況であるはずなのにその表情は何故か冷静でいる。

 

 

「あんなわかりやすいラスボス、他にいないだろ……何度も言わせるな、俺も混ぜろ」

「………わかったよ」

 

 

実際、司が共に戦ってくれるのは嬉しかったし、心強かった。椎名は自分一人では鬼王には勝てないと直感的に悟っていたからだ。

 

 

「なぁに、納得しちゃってんのかな〜〜……まぁ、2人でも3人でも変わらないがな」

「晴太先生は司の姉ちゃんの遺体とバークを頼みます!!」

「わかった……勝てよ、…椎名、司!!」

「「当然!!」」

 

 

やる事は決まった。単純な事だ。今までやって来た自分達のバトルスピリッツであの黒くて気持ち悪い奴を倒すだけ……

 

ただそれだけの事だ。椎名的にはわかりやすくて助かる。

 

 

「行くぞ司!!」

「俺に指図するな!!」

 

 

2人は勢いよく自身のBパッドを展開し、デッキをセット。バトルの準備を行う。

 

 

「ガッガッ、面白い。たった2人で俺様に勝つ気とはな!!……いいだろう!!どちらにせよ貴様らはこの場で殺すつもりだった!!エニー・アゼムに似せて造られた鬼、エニーズ、芽座椎名!!…そして、エニー・アゼムのカードを引き継いだ赤羽司!!……人間に復讐するには打って付けの相手だ!!」

 

 

ノヴァは黒い靄で展開したBパッドと全く同じ形状にし、バトルの準備を行った。

 

そして遂に、世界の存亡がかかった最後のバトルスピリッツが始まる………

 

 

「「「ゲートオープン、界放!!!」」」

 

 

コールと共にバトルスピリッツが開始される。2対1の変則マッチだ。1人でバトルするノヴァは椎名と司の2人分の手札、ライフ、リザーブを得る。

 

 

「先行はお前達にあげよう。ターンを進めるがいい」

「っ…2対1で先行を譲るだと?」

 

 

基本的に、このルールかにおいては1人側が先行となる。後行になって仕舞えば圧倒的に不利になるからである。しかし、このノヴァはそれを知りながら椎名と司に先行を明け渡した。

 

ノヴァの余裕っぷりがあからさまに伺えて………

 

 

「めざし、先ずは俺から行かせてもらうぞ」

「あぁ、任せる」

 

 

一言二言だけで簡単に決める司と椎名。この会話によりターンの順番が決まった。最初は司。次は椎名。最後はノヴァだ。

 

落ち着いた表情のまま、司が自分のターンを始める。

 

 

[ターン01]司

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、イーズナ2体を召喚!!さらにコイツらから不足コストを確保してネクサスカード、朱に染まる薔薇園を配置!!……ターンエンド」

手札5⇨2

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

イタチのようなスピリット、イーズナが2体現れるが、すぐさま消滅されてしまい、司の背後にいくつもの色鮮やかな薔薇が咲き誇った。

 

次は椎名のターン。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ!!ネクサスカード、ディーアークとD-3を配置して、エンド!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

椎名の腰に手のひらサイズの機械達が装着される。

 

そして次は鬼王ノヴァのターン。不気味な笑い声を上げながら自分のターンを行なっていく。

 

 

[ターン03]ノヴァ

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ8⇨9

《ドローステップ》手札8⇨9

 

 

「ガッガッガ…メインステップ、旅団の摩天楼を2枚配置……2枚ドロー」

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨5

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

 

ノヴァの背後に細長い摩天楼が聳え立っていく。

 

 

「さらに運命の蠍座……スコーピオン・ゾディアーツを召喚!!効果でドロー」

リザーブ4⇨1

トラッシュ5⇨7

【スコーピオン・ゾディアーツ】LV1(1)BP1000

 

 

黒い靄がノヴァの場に現れ、そこに蠍座の星が刻まれたかと思うと、そこから蠍をイメージとした怪物、スコーピオン・ゾディアーツが姿を見せた。その効果でノヴァは手札の枚数をキープする。

 

 

「ガッガッガ……ターンエンド」

【スコーピオン・ゾディアーツ】LV1(1)BP1000(回復)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【無】

 

 

そのターンを終えるノヴァ。

 

次は一周して司のターンに戻るが、このバトルのルール上、このターンからアタックステップが開放される。

 

 

[ターン04]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、朱に染まる薔薇園のLV2に上げ、効果発揮…このホークモンの軽減シンボルを黄色としても扱い、1コストで召喚!!…召喚時効果発揮!!」

手札3⇨2

リザーブ5⇨2

トラッシュ0⇨1

【朱に染まる薔薇園】(0⇨1)LV1⇨2

【ホークモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【ロード・バロン】×

【テイルモン】◯

【イーズナ】×

 

 

赤い鳥型の成長期スピリット、ホークモンが現れ、カードがオープンされる。

 

 

「俺はこの中のテイルモンを手札に、さらにロード・バロンは自身の効果で手札に加えられる」

手札2⇨4

 

「ガッガッ……そいつ、そんな効果もあったのか」

 

 

対象内のテイルモンだけでなく、ロード・バロンも同時に手札に加える司。

 

 

「ホークモンの追加効果!!2コスト支払い、俺は手札に加えたテイルモンを召喚する!」

手札4⇨3

リザーブ2⇨0

【朱に染まる薔薇園】(1⇨0)LV2⇨1

トラッシュ1⇨3

【テイルモン】LV1(1)BP3000

 

 

ホークモンのすぐ横にネズミ型の黄色いスピリット、テイルモンが現れる。

 

 

「バーストを伏せ、アタックステップ!!ホークモンとテイルモンテイルモンでアタック!!…テイルモンの効果でカードをオープンし、それを手札とする!!」

オープンカード↓

【ダークナイト・ドラゴン】×

 

 

勢い良くアタックを仕掛ける司。ホークモンとテイルモンが鬼王ノヴァのライフを狙い走り出した。

 

 

「ガッガッ……ライフで受けよう!!」

ライフ10⇨9⇨8

 

 

ホークモンの翼で打つ攻撃、テイルモンのパンチがそれぞれ1つずつノヴァのライフを砕いた。

 

 

「ターンエンドだ」

【ホークモン】LV1(1)BP2000(疲労)

【テイルモン】LV1(1)BP3000(疲労)

 

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【有】

 

 

次なるは椎名のターン。司の後を引き継ぎ、ノヴァのライフへと迫る。

 

 

[ターン05]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ、ブイモンを召喚!!ディーアークの効果でドローし、カードをオープン!!」

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨2

オープンカード↓

【スティングモン】◯

【ワームモン】×

 

 

椎名の場に青い小竜型の成長期スピリット、ブイモンが現れる。その効果でカードがオープンされ、椎名はその中のスティングモンのカードを加えた。

 

 

「さらに2コストを支払い、スティングモンを召喚!!」

手札4⇨5⇨4

リザーブ3⇨0

トラッシュ2⇨4

【スティングモン】LV1(1⇨2)

 

 

ブイモンのすぐ横に颯爽と緑のスマートな昆虫戦士、スティングモンが現れ、その効果でさりげなくコアが増える。

 

 

「アタックステップ!!スティングモンでアタック!!コアを増やしてLVアップ!!さらに【超進化:緑】を発揮!!……完全体、パイルドラモンを召喚!!」

【パイルドラモン】LV2(3)BP10000

 

 

スティングモンがデジタルコードに巻かれ、その中で姿形を大きく変えていく。やがてそれを吹き飛ばしながら現れたのは赤い頭部、黒いボディ、腰に備え付けられた機関銃、青と白の4枚の翼を持つ青と緑の完全体スピリット、パイルドラモン。

 

 

「パイルドラモンの召喚時効果!!コスト7以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!」

「スコーピオン・ゾディアーツを破壊!!……デスペラードブラスター!!」

 

 

パイルドラモンは召喚されるなり、スコーピオン・ゾディアーツに向けて腰の機関銃を連射する。スコーピオンはその身体の面積を撃ち抜かれ、力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「ガッガッ……スコーピオンの破壊時効果、このカードを除外し、1枚ドロー」

手札9⇨10

 

「アタックステップは続行!!パイルドラモンでアタック!!効果により、コアを2つ増やし、ターンに一度回復する!!」

【パイルドラモン】(3⇨5)LV2⇨3(疲労⇨回復)

 

 

パイルドラモンでアタックを仕掛ける椎名。その効果によりコアを大きく増やしつつ回復した。

 

 

「ライフ……」

ライフ8⇨7

 

 

パイルドラモンが機関銃を連射する。その弾丸がノヴァのライフ1つを砕く。

 

 

「まだまだぁぁぁあ!!今度はブイモンとパイルドラモンでアタック!!」

【パイルドラモン】(5⇨7)

 

「それもだ……」

ライフ7⇨6⇨5

 

 

畳み掛ける椎名。ブイモンの頭突きが、パイルドラモンの拳がそれぞれ1つずつノヴァのライフをさらに破壊した。

 

これにより、ルールにより2倍だったノヴァのライフは通常のバトルのライフと同じ数値になった。

 

 

「へっ……なんだよ、鬼王を名乗る割には大したことないんだな……ターンエンド」

【ブイモン】LV1(1)BP2000(疲労)

【パイルドラモン】LV3(7)BP13000(疲労)

 

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

司と共にライフを大きく削ぎ落とし、優勢に立った椎名。

 

だが、それなのにもかかわらず、鬼王ノヴァの表情は未だに余裕のあるものであって………

 

 

「ガッガッガ……オマエ達良いな〜〜…なかなかに鬱陶しくて、目障りで…醜い……それでこそ潰し甲斐があるというもの!!」

「「!!」」

 

 

鬼王のターンが進行していく。今までの誰からも感じ取れるものがなかった凄まじい覇気と闘気が椎名と司にまで伝わってきた。

 

 

[ターン06]ノヴァ

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ7⇨8

《ドローステップ》手札10⇨11

《リフレッシュステップ》

リザーブ8⇨15

トラッシュ7⇨0

 

 

「メインステップ!!…俺様はヤン・オーガを2体、LV3と1で召喚する!」

手札11⇨9

リザーブ15⇨7

トラッシュ0⇨3

【ヤン・オーガ】LV3(4)BP5000

【ヤン・オーガ】LV1(1)BP3000

 

 

鬼王ノヴァの場にトンボ型の緑のスピリット、ヤン・オーガが2体現れる。

 

 

「さらにもう1体、全てに死をもたらす漆黒鳥ヤタグロスをLV1で召喚!!」

手札9⇨8

リザーブ7⇨2

トラッシュ3⇨7

【漆黒鳥ヤタグロス】LV1(1)BP3000

 

ー!!

 

 

ヤン・オーガ達の頭上に現れたのは尾が樹木の枯れ木のような形をした黒い鳥型のスピリット、ヤタグロス。

 

 

「マジック、ライフチャージを使用!!LV3のヤン・オーガを破壊して、コアを3つ増やす!!さらにヤン・オーガの効果でそのLVの数だけコアを増やす!!」

手札8⇨7

リザーブ2⇨0⇨4⇨7⇨10

トラッシュ7⇨9

 

 

ノヴァが放ったマジックカードによってヤン・オーガが体の内側から破裂する。その効果が合わさり、ノヴァのリザーブのコアを急激に増加させた。

 

だが、こんなものはまだまだ序の口。

 

 

「2体目のヤン・オーガのLVを3に上げ、2枚目のライフチャージを使用!!破壊して、合計6個増やす!」

手札7⇨6

リザーブ10⇨5⇨9⇨12⇨15

トラッシュ9⇨11

 

 

また同じ事が繰り返され、ノヴァのコアがさらに増加する。

 

 

「そして!!ヤタグロスのLVを3に上げ、3枚目のライフチャージを使用!!…ヤタグロスを破壊!!」

手札6⇨5

リザーブ15⇨0

【漆黒鳥ヤタグロス】(1⇨13)LV1⇨3

トラッシュ11⇨14

 

 

3枚目のライフチャージだ。

 

LVが上がり、強化されたヤタグロスが即座に破壊された。

 

 

「ヤタグロスの効果!!置かれていたコアの数だけコアを増やす!!ライフチャージの効果と合わせ、16個のコアをリザーブへ!!」

リザーブ13⇨16⇨29

 

「っ……どんだけコアを増やせば気がすむんだよ」

 

 

信じられないほどコアを増やしていくノヴァ。そしてもうそろそろ頃合いだと言わんばかりに手札からさらなるカードを抜き取り……

 

 

「俺様は!!運命の射手座!!サジタリウス・ゾディアーツを召喚!!」

手札5⇨4

リザーブ29⇨21

トラッシュ14⇨18

【サジタリウス・ゾディアーツ】LV3(4)BP10000

 

 

黒い靄がノヴァの場に現れ、そこに射手座の星々が刻まれ、ゾディアーツの頂点に立つスピリット、サジタリウスが姿を見せる。

 

 

「ガッガッガ……召喚時効果で2枚ドロー…その後1コストを支払い、ゾディアーツを召喚……2体目のサジタリウスを呼ぶ!!」

手札4⇨6⇨5

リザーブ21⇨20⇨16

トラッシュ18⇨19

【サジタリウス・ゾディアーツ】LV3(4)BP10000

 

 

2体目のサジタリウスがノヴァの場に現れる。

 

 

「まだだ。2枚ドローし、ゾディアーツ……サジタリウスを召喚!!…今一度カードをドロー!!」

手札5⇨7⇨6⇨8

リザーブ16⇨15⇨11

トラッシュ19⇨20

【サジタリウス・ゾディアーツ】LV3(4)BP10000

 

 

3体のサジタリウスがノヴァの場を埋め尽くした。闇で覆われたフィールドなのもあり、鬼王の異様さがよく伝わってきていた……

 

 

「……チッ…ターンが長い」

「……司、今はふざけてる場合じゃないぞ」

 

 

ノヴァのターンが長すぎて腹を立てた司が舌打ちをした。椎名はノヴァの異常さと共に司の緊張感の無さも伝わってきた。

 

 

「ガッガッガ……お望みなら早く終わらせてやろう……【煌臨】発揮!!対象は1体のサジタリウス!!」

リザーブ11s⇨10

トラッシュ20⇨21s

 

ー!!

 

 

煌臨の効果発揮宣言と共に、サジタリウスが禍々しい光を放つ。その装備されていた鎧は弾き飛んで行き、より強大な力を身に宿すようになる。

 

 

「ゾディアーツを超えた究極の存在!!その名も『ノヴァ』!!……サジタリウス・ノヴァを煌臨!!」

手札8⇨7

【サジタリウス・ノヴァ】LV3(4)BP12000

 

 

現れたのは五町を倒したゾディアーツを超えた究極形態、ノヴァ。鬼王の力が混ざったことにより生まれた存在である。

 

 

「煌臨時効果発揮!!スピリット1体のコアを12個除去する!!」

「!!」

「多対1ルールにより、貴様達の場からそれぞれ1体を対象に取る!!…テイルモンとパイルドラモンを消し去る!!」

 

「っ!!」

【パイルドラモン】(7⇨0)消滅

 

「………」

【テイルモン】(1⇨0)消滅

 

 

サジタリウス・ノヴァの両手から放たれる禍々しいエネルギーの弾丸。それが椎名のパイルドラモン、司のテイルモンに直撃してしまい、2体は力尽きて消滅してしまう。

 

 

「ガッガッ……バーストを伏せ、アタックステップ!……サジタリウス・ノヴァ…奴らを塵と化せ!」

手札8⇨7

 

 

ノヴァが遂に攻撃を仕掛けてきた。サジタリウス・ノヴァが異様な雰囲気を漂わせながらゆっくりと2人の元へと歩み寄っていき………

 

 

「サジタリウス・ノヴァはアタック時に煌臨時効果を発揮できる!!」

「「!!」」

「ブイモンとホークモンを削除!!」

 

「くそっ!!」

【ブイモン】(1⇨0)消滅

 

「……」

【ホークモン】(1⇨0)消滅

 

 

今度はブイモンとホークモンが標的にされ、黒いエネルギーの弾丸が2体を貫き破壊した。

 

 

「さらにサジタリウス・ノヴァの効果で1コスト支払い、貴様らに1つのダメージ!!」

リザーブ10⇨9

トラッシュ21s⇨22s

 

「「っ!!」」

ライフ5⇨4

 

 

ブイモンとホークモンを破壊したエネルギー弾はさらに椎名と司のライフをも砕いていく。

 

 

「ガッガッガ……」

「ガッガッガッガッうるせぇ!!……ライフ減少により、バースト発動!!ロード・バロン!!」

 

 

ライフが減ったことにより、司が事前に伏せていたエースカード、ロード・バロンを召喚しようとするものの……

 

 

「黙るのは貴様だ虫ケラ!!…敵のバースト発動時、手札の超星使徒スピッツァードラゴンは1コスト支払い召喚できる!!」

手札7⇨6

リザーブ9⇨8⇨3

トラッシュ22s⇨23s

【超星使徒スピッツァードラゴン】LV3(5)BP12000

 

「っ……これは五町の時の!!」

 

 

赤と紫の炎が舞い上がり、1つの球体を形成。その中で新たな龍が目覚め、それらを吹き飛ばしながら姿を見せる。その名はスピッツァードラゴン。その性質はまさしくバーストキラーとも呼べる代物であって………

 

 

「この効果でスピッツァードラゴンを召喚した時、そのバーストを発動前に破棄し、コア2つを追加する!!」

【超星使徒スピッツァードラゴン】(5⇨7)

 

「!!」

【ロード・バロン】破棄

 

 

右手からは赤い炎、左手からは紫の炎を放つスピッツァードラゴン。それらは司のバーストカードまで伸び、それを焼き尽くした。

 

 

「さあ!!頼るものは無くなったぞ!!…この攻撃はどう受ける??」

 

「だったら私が止めてやる!!フラッシュマジック、ブリザードウォール!!」

手札4⇨3

リザーブ9⇨4

トラッシュ4⇨9

 

 

「!!」

 

「この効果によりこのターン、私達のライフはスピリットのアタックでは1つしか減らない!!…それはライフで受ける!!」

ライフ4⇨3

 

 

椎名と司の場全体を覆うように猛吹雪が発生する。サジタリウス・ノヴァはそのまま前進し、椎名と司のライフを拳で砕くが、このターン、減らされるのはこれで終わり。他のスピリットではいくら足掻いてももうライフは減らない。

 

 

「ガッガッ…二重のガードで守ったか……まあ良い、エンドだ」

【サジタリウス・ノヴァ】LV3(4)BP12000(疲労)

【サジタリウス・ゾディアーツ】LV3(4)BP10000(回復)

【サジタリウス・ゾディアーツ】LV3(4)BP10000(回復)

【超星使徒スピッツァードラゴン】LV3(7)BP12000(回復)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

 

バースト【有】

 

 

圧倒的な実力を見せつけ、その長い長いターンをエンドとする鬼王ノヴァ。

 

 

(奴にバースト戦法は通じないか………なら)

 

 

次は司のターン、ロード・バロンが戦わずして破られた今、この絶望的な状況をどう打開するのか………

 

 

[ターン07]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨8

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、朱に染まる薔薇園をLV2に上げ、ハーピーガールを召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨2

トラッシュ0⇨2

【朱に染まる薔薇園】(0⇨1)LV1⇨2

【ハーピーガール】LV3(3)BP5000

 

 

司の場に鳥の意匠を受け継いだ女性型スピリット、ハーピーガールが舞い降りる。

 

 

「アタックステップ!!ハーピーガールでアタック!!効果により、テメェはLV2と3のスピリットでブロックが不可能となる!!」

「ほお?…なかなかに小賢しい効果だな〜〜」

 

 

ハーピーガールが翼を広げ、飛翔する。ノヴァの場のスピリットは多量のコアブーストもあり、全てがLV3。彼はこのアタックをライフで受ける他なくて………

 

 

「ガッガッガ……まぁいいだろう。それはライフで受ける!!」

ライフ5⇨4

 

 

ハーピーガールの翼撃がノヴァのライフ1つを砕く。さらにこの瞬間、2つの効果が順序よく誘発する。

 

 

「ハーピーガールの効果でライフ1つを回復!!さらに朱に染まる薔薇園の効果!…俺はカードをドロー!!」

ライフ3⇨4

手札3⇨4

 

 

椎名と司のライフが回復する。

 

 

「ガッガッガ……やはり虫ケラだな。貴様程度では俺様には勝てんぞ」

「ハッ!!今のうちに息巻いてるんだな!!……おいめざし!!お膳立てはしてやったぞ!…さっさとクロキモヤローのライフをブチ抜け!!」

「??」

「……わかったよ………私の全力の攻撃でブチ抜いてやる!!」

 

 

司の狙いは単にハーピーガールによるライフ破壊と回復ではない。朱に染まる薔薇園をLV2として残しておくのが本当の狙いだった。

 

このルール上、椎名は司の場に残ったカードなら自身が使用できる。

 

つまり、司の朱に染まる薔薇園のLV2効果である、赤のスピリットとブレイヴの軽減シンボルを黄色としても扱う効果が椎名の手札にも付与される。

 

阿吽の呼吸で連携する椎名と司。司が勝手にやっているかのように見えて実は全力で椎名をサポートしていたのだ。

 

椎名の鬼王の余裕を崩す程の攻撃がやって来る………

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨15

トラッシュ9⇨0

 

 

「メインステップ!!ギルモンを1コストで召喚!!ディーアークの効果でドローし、カードを5枚オープン!!」

手札4⇨3⇨4

リザーブ15⇨10

トラッシュ0⇨1

オープンカード↓

【デュークモン クリムゾンモード】◯

【エクスブイモン】×

【ライドラモン】×

【デジヴァイス】×

【マグナモン】×

 

 

真紅の魔竜成長期の姿、ギルモンが場に現れる。椎名はその効果でデュークモン クリムゾンモードのカードを新たに加えた。

 

 

「ガッガッガ……俺様を裏切った真紅の魔竜か」

 

「あんたみたいなのがボスだったらギルモンが鬼を裏切ったのも理解できるな!!…さらに手札からブルーカードを使用!!」

手札5⇨4

リザーブ10⇨9

トラッシュ1⇨2

 

 

椎名が使用するのはデジタルスピリットを進化させる可能性のあるマジック。そのコストも司の場の黄色シンボルのお陰でいつもより多く軽減されていて……

 

 

「カードをオープン、その中の赤一色のデジタルスピリットを進化召喚させる!!」

オープンカード↓

【デュークモン】◯

【フレイドラモン】×

【グラウモン】◯

【ブイモン】×

 

 

効果は成功。当然椎名はその中でも強力なスピリット、デュークモンを選んだ。

 

 

「よし!!1コストを支払い、デュークモンをLV2で召喚!!」

リザーブ9⇨8

トラッシュ2⇨3

【デュークモン】LV2(4)BP14000

 

 

ギルモンが青いカードを潜り抜け、その間で進化を繰り返していく。最終的には赤きロイヤルナイツ、デュークモンへと進化を果たした。

 

 

「ガッガッガ!!ロイヤルナイツに成り果てた真紅の力!!……オマエ達に1ついい事を教えてやろう!!」

「「??」」

「2000年前、俺様が敗れた理由はエニー・アゼムと13枚のロイヤルナイツだ!!……何が言いたいかわかるか?……勝てないんだよ、貴様じゃ!!どうやってもな!!」

 

 

2000年前、鬼王ノヴァを討伐するために、エニー・アゼムの力と13枚のロイヤルナイツの力が必要だった。

 

が、今はその一部を引き継いだ椎名と司しかいない。

 

単純に考えて、不可能なのだ。あの鬼に勝つ事など………

 

 

「知るかそんなモン」

「黙ってろクロキモヤロー」

 

 

しかし、2人にとってはそんな鬼王の言い分など耳を傾ける必要もない。

 

2000年前がどうだったなんて知らない。自分たちの全身全霊をアレにぶつけていくだけだ。

 

 

「朱に染まる薔薇園の効果で経減シンボルを黄色としても扱い、ブレイヴカード、断罪の滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソードをフル軽減で召喚!!」

手札4⇨3

リザーブ8⇨5

トラッシュ3⇨6

 

「っ……それはあの時の……」

 

 

蘇るノヴァの記憶。

 

その最中、闇のエネルギーを帯びた巨大な魔剣が椎名の場へと突き刺さる形で現れた。

 

 

「デュークモンと合体!!」

【デュークモン+断罪の滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】LV2(4)BP24000

 

 

手の槍と盾を消滅させ、突き刺さったジャッジメント・ドラゴン・ソードを握り、抜き取るデュークモン。その闇の力がデュークモンの身体全体を隈なく駆け巡る。

 

その鎧は黒に染まり、背にはあかいマントに代わって黒い翼が生えた。

 

 

「アタックステップ!!デュークモンでアタック!!効果によりスピッツァードラゴンを破壊!!」

「!!」

 

 

デュークモンは魔剣を振るい、その刃から斬撃を放つ。ジャッジメント・ドラゴン・ソードの力を受け継いだそれはあっさりとスピッツァードラゴンを斬り裂き、破壊した。

 

 

「さらにこの瞬間に、ジャッジメント・ドラゴン・ソードの効果でエクストラターンが確定!!」

「くっ!!」

 

 

ここに来て鬼王の表情は僅かながら余裕が失われつつあった。

 

そんな彼に対し、椎名はここでさらなるカードを使用して…………

 

 

「フラッシュ!!【チェンジ】発揮!!対象はデュークモン!!」

リザーブ5⇨1

トラッシュ6⇨10

 

「!!」

「この効果により、シンボル3つまで好きなだけ破壊する!!……ノヴァとゾディアーツ2体を破壊!!」

 

 

炎の龍が咆哮を上げ、ノヴァのスピリット達を呑み込み、焼き尽くしていく。

 

 

「そしてその後、対象となったスピリットと入れ替える!!……来い、デュークモン クリムゾンモード!!」

【デュークモン クリムゾンモード+断罪の滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】LV3(4)BP31000

 

 

炎の龍がデュークモンと激突する。デュークモンはその中で身体が真紅の赤に染まり、新たにそれと同じ色の装甲が装着される。

 

そしてその炎を弾き飛ばして新たに現れたのは椎名の最強スピリット、クリムゾンモード。

 

 

「クリムゾンモードに……魔剣」

「アタックは継続中!!」

 

「っ……ライフで受ける!!」

ライフ4⇨2

 

 

クリムゾンモードの手に持つ魔剣の一撃がノヴァのライフを一気に2つ砕く。

 

 

「そしてこの瞬間!!クリムゾンモードの効果!!アタックしたバトル終了時、トラッシュにあるスピリットカード3枚につき1つ、ライフを破壊する!!」

 

 

今現在。

 

ノヴァのトラッシュにあるスピリットは8枚。2点のライフを破壊が可能。

 

これで終わりだ。

 

クリムゾンモードが魔剣に相反する光の力を注ぎ込み、さらなる斬撃を放つが………

 

 

「終わりだと思うか?」

「!?」

 

「ライフ減少により、バースト発動!!エクスティンクションウォール!!……減った分のライフを回復する!!…さらにフラッシュ効果でアタックステップを終了!!」

ライフ2⇨4

リザーブ25⇨20

トラッシュ23⇨28

 

ー!!

 

 

ノヴァのバーストが勢い良く反転する。その効果なのか、ライフが回復する。

 

 

「その攻撃もライフだ!!」

ライフ4⇨2

 

 

クリムゾンモードの斬撃がノヴァのライフを斬り裂くも、今一歩遅し、ライフは結果的に2のままとなった。

 

 

「だけどまだだ!!ジャッジメント・ドラゴン・ソードの効果でもう一度私のターンを行う!!」

 

 

クリムゾンモードがジャッジメント・ドラゴン・ソードを天に掲げる。すると、その切っ先に闇の力が集中し、椎名に今一度ターンを行う権利を与えた。

 

 

「決めるとしたらここだ!!……行くぞ!!」

 

 

[ターン09]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨12

トラッシュ10⇨0

 

 

「メインステップ!!スティングモンとデュークモンを再召喚!!…ディーアークの効果でドロー!!」

手札4⇨2⇨3

リザーブ12⇨0

トラッシュ0⇨8

【スティングモン】LV1(1⇨2)BP5000

【デュークモン】LV2(3)BP14000

 

 

効果により手札に戻っていたスティングモンとデュークモンが今一度椎名の場へと現れる。

 

 

「2体のデュークモンが並んだ!!行けるぞ椎名!!」

 

 

茜の遺体を抱え、バークと共にこのバトルを見届けている晴太が言った。

 

そう……

 

おそらく初めて2体のデュークモンが場に並んだ。いつもならどちらかのみでバトルが終了するため、滅多に見られる光景ではない。

 

 

「ジャッジメント・ドラゴン・ソードをデュークモンに合体し直す!!」

【デュークモン+断罪の滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】LV2(3)BP24000

 

 

クリムゾンモードが手に持つ魔剣を上空へと放り投げる。そしてそこに飛び上がったデュークモンがその魔剣を新たに握り、今一度闇の力が注がれた状態へと姿を変える。

 

 

「叩き込めめざし!!さっさと終わらせろ!!」

「わぁってるよ!!……アタックステップ!!……デュークモンでアタックッッ!!」

 

 

椎名の指示により、魔剣を豪快に構えたデュークモンが背後に黒い残像を見せるほどの速度で駆け出した。

 

狙うは当然鬼王ノヴァの残り2つのライフ。

 

 

「この一撃で決めるっ!!」

 

 

 

今まさにこの世界の命運を賭けたバトルが終末を迎えようとしたその直後………

 

 

 

「遊びは終わりだ……醜くき下等種族共……!!」

 

 

その異形の顔、表情をさらに歪ませた鬼王ノヴァ。人間に対する確かな怒りが込められたその声色と言動から……

 

……未だその内には秘められた何かを隠しているようにしか見えなくて………

 

 

 

 




〈次回予告!!〉

圧倒的な実力を見せつける鬼王ノヴァ。椎名と司の諦めない心が世界の最後の希望となる………次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ「最後のオーバーエヴォリューション」……今、バトスピが進化を超える!!


******


最後までお読みいただき、ありがとうございました!!



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第115話「最後のオーバーエヴォリューション」

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼王ノヴァとの世界の命運を賭けたバトルスピリッツは続く………

 

 

今は椎名のアタックステップ。

 

魔剣を手にしたデュークモンが背後に黒い残像を残すほどの速度で地を駆ける。狙うは当然鬼王ノヴァのライフ。

 

後2つ。

 

この一撃は世界を救う………

 

はずだった。

 

そんな淡い期待など、ノヴァの手札1枚で呆気なく潰される…………

 

 

「フラッシュマジック……デルタバリア!!」

手札6⇨5

リザーブ22⇨18

トラッシュ28⇨32

 

ー!?

 

「この効果により、このターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックではライフが0にならない!!」

ライフ2⇨1

 

 

デュークモンが豪快に魔剣を振り回し、ノヴァのライフを破壊しようと試みるも、彼の前方に現れたバリアがそれを拒む。

 

突撃も虚しく、僅か1つの破壊でデュークモンは後方へと帰還し………

 

 

「………ターンエンドだ」

【デュークモン クリムゾンモード】LV3(4)BP21000(回復)

【デュークモン+断罪の滅刃ジャッジメント・ドラゴン・ソード】LV2(3)BP24000(疲労)

【スティングモン】LV1(2)BP5000(回復)

 

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

場のスピリット達が強力すぎて逆にデルタバリアの効果を超えることができない今、椎名はそのターンをエンドにせざるを得なかった。

 

次なるは鬼王ノヴァのターンだ。

 

 

「ガッガッガ……あぁ、やっと新しい身体も馴染んできた!!……グッガッガッガ……哀れで愚かな猿共よ……終わりだ……!!」

 

ー!?

 

 

鬼王ノヴァの身体に変化が訪れる。そのサイズはより巨大になり、口は裂け、鬼の象徴たる角が身体中から生えて来た。

 

ここまで来たら最早単なる化け物だ。

 

 

「ガッガッガ………俺様のターンだ!!」

 

 

そんな化け物、鬼王ノヴァのターンが今一度幕を開ける。

 

 

[ターン11]ノヴァ

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ19⇨20

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ20⇨52

トラッシュ32⇨0

 

 

「メインステップ………召喚……!!」

 

 

ノヴァは手札からゆっくりと自身のBパッドの代わりとなっている闇の塊の上へと置いた。

 

今から呼び出されるスピリットは……

 

おそらく、史上最大で、最強の存在。ノヴァの進化の力が余りにも強大すぎて自ずと完成してしまった究極の1枚…………

 

 

「………来い………『オーマジオウ』!!」

手札6⇨5

リザーブ52⇨32

【仮面ライダーオーマジオウ】LV3(20)BP50000

 

ー!!

 

 

この世の終末を告げるかのように地から異常な程マグマが噴出する。その中からノヴァの場へと現れたのは史上最強で最悪の魔王………

 

その名はオーマジオウ。

 

ノヴァが鎧武を取り込んだことで新たに得ていたスピリットカードだ。

 

 

「召喚時効果!!コスト20以下のスピリット1体を破壊する!!……小僧の場からはハーピーガールを、小娘の場からはデュークモンを破壊する!!」

 

ー!!

 

 

オーマジオウは現れるなり手を宙に翳す。すると、ハーピーガールとデュークモンの四方から目で追えない程の攻撃がいくつも飛び交ってきた。

 

2体は耐えられず、何故破壊されたかも理解できぬまま力尽き、大爆発を起こした。デュークモンの握られていた魔剣が爆風に飛ばされ、虚しく地面に突き刺さった。

 

 

「っ……ここに来てBP50000の化け物……!!」

 

「緩いな!!俺様がそれだけで終わると思うか!?……俺様はさらに2体のオーマジオウを呼ぶ!!」

手札5⇨3

リザーブ32⇨9

【仮面ライダーオーマジオウ】LV3(20)BP50000

【仮面ライダーオーマジオウ】LV2(3)BP30000

 

ー!!

 

 

まだ終わらない。鬼王ノヴァは手札からさらなるオーマジオウを呼び出していく。

 

 

「召喚時効果!!ジャッジメント・ドラゴン・ソードとクリムゾンモードを破壊する!!」

「くっ……!!」

 

 

またあの攻撃だ。魔剣とクリムゾンモードが標的にされ、目にも止まらない攻撃が四方から高速で直撃。

 

2体も敢え無く爆発を起こしてしまう。

 

 

「そして手札からマジック、セイントフレイム、ボルカニックブレイク!!……BP10000以下のスピリット、スティングモンと貴様らのネクサス全てを破壊し、破壊したネクサス分カードをドロー!!」

手札3⇨1⇨4

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨5

 

ー!!

 

 

椎名と司の場一帯を業火の炎が埋め尽くしていく。スティングモンやネクサスカード達が耐えられるわけもなく、あっさりとそれに焼却されてしまい、遂に2人の場からは一切のカードが姿を消した。

 

 

「っ……ダメだ……芽座椎名達の負けだ……あんな化け物どうしろと言うのだ!?」

「諦めるなバーク、椎名達をよく見てみろ!!……まだあいつらの目は死んでない!!」

 

 

鬼王ノヴァの圧倒的な強さに絶望を覚えるバーク。しかし、晴太は違った。ずっと見てきた教え子。自分の誇りである彼らは必ず巨悪を倒してくれると信じていた。

 

 

「ガッガッガ……これで詰みだ。ネクサスカード、ダークタワーを配置!!」

手札4⇨3

リザーブ4⇨3

トラッシュ5⇨6

【ダークタワー】LV1

 

「っ……!?」

「この効果により、貴様達は自分のターンに【煌臨】と【進化】を行う事ができない!!」

 

 

ノヴァの背後に黒い塊のような塔が配置される。その異質な力により、椎名と司は【進化】をはじめとしたノーコスト召喚と【煌臨】を封じられた。

 

 

「アタックステップ!!1体目のオーマジオウでアタック!!」

 

 

いよいよだと言わんばかりにアタックステップへと移行するノヴァ。オーマジオウがゆっくりと歩みを進める。シンボルは2つあるため、一撃で2つのライフを破壊できる。

 

だが、この状況を咄嗟に察した司が手札から1枚のマジックカードを引き抜いて………

 

 

「フラッシュマジック!!シンフォニックバースト!!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨3

トラッシュ2⇨5

 

ー!!

 

 

「そのアタックはライフで受ける!!……そしてライフが2以下のため、この一撃でアタックステップは終わりだ!!」

ライフ4⇨2

 

「よっし!!ナイス司!!」

 

 

オーマジオウがその豪腕で椎名と司のライフを一気に2つ砕く。しかし、その直後に黄色い波動が解き放たれ、ノヴァの全てのスピリットの動きを封じ込めた。

 

 

「ガッガッガ……そんな事をしたところで延命にしかならん。貴様らとてとうに理解しているだろう?……ターンエンドだ」

【仮面ライダーオーマジオウ】LV3(20)BP50000(疲労)

【仮面ライダーオーマジオウ】LV3(20)BP50000(回復)

【仮面ライダーオーマジオウ】LV2(3)BP30000(回復)

 

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

【ダークタワー】LV1

 

バースト【無】

 

 

そのターンをエンドとする鬼王ノヴァ。その表情はどこまでも余裕であり、このバトルの勝ちを確信していた………

 

次はなんとか命を繋いだ司のターン……

 

だが………

 

 

[ターン11]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨11

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ………何もしねぇ、エンドだ」

バースト【無】

 

「え!?司!?」

 

 

どういうわけか、司は何も行わずにそのターンをエンドとしてしまう。何もできないような手札ではないのはわかっている。

 

だからこそ椎名も驚いていて……

 

とてもではないが世界の存亡が肩に乗っているバトルで行う行為ではない。

 

 

「ガッガッガ!!……諦めたか赤羽司!!賢明な判断だ!!確かに貴様のスピリットでは俺様に一矢報いる事すら出来ない!!」

 

 

そんな司の様子を見て滑稽だと言うように笑い出す鬼王ノヴァ。

 

だが司は………

 

 

「は?……何言ってんだテメェ、俺が本気を出せばテメェなんざ余裕だ。俺がこのバトルに飛び入りで参加したのはめざしが百パーセント勝てるようにするためだ」

「っ!?」

「もうその必要はねぇ、テメェは次のターンでこいつに負けて、あの世行きだ……じゃあな、三下」

「ッッ!?!」

 

 

ハナっから自分でノヴァにとどめを刺すつもりはなかった。これは飽くまで『界放リーグ』で、まだそのバトルの途中なのだから。

 

横にいるコイツと決着をつけたいだけだ。こんなバトル、単なる『界放リーグ』の準決勝に過ぎない。

 

 

「この俺様が……鬼王が…さ、三下……だと!?……侮辱するのも………」

「?」

「侮辱するのもいい加減にしろこの猿共ガァァァァァァァァア!!!!!」

 

 

鬼王という強大な存在を目の前にしても一切怯まず、尊大な態度で振る舞う司に遂にノヴァが本気で怒りを露わにした。その叫びだけでまるで天変地異でも起こったかのように多くの稲妻が上空を迸り、地や空気が怯えているように震撼する。

 

 

「おいめざし、テメェ、『あのカード』がもうなんなのかわかるだろ?」

「!?」

 

 

司が唐突に椎名に質問してきた。椎名もその内容を理解している。

 

そう。

 

2000年もの間ずっと芽座一族の祠に眠っていたあのカード。

 

あれは間違いなくエニー・アゼムがこの時が来るのを予測して準備したものだ。

 

鬼王ノヴァを倒せるとしたらそれしかない。

 

 

「あぁ、わかってる……」

「フンッ…だったらさっさとそれを引いてあのクロキモヤローを倒すんだな」

 

 

もう言うことはない。

 

後は決めるだけ、

 

 

全ての命運がのし掛かった椎名のターンが始まる……

 

 

[ターン12]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ11⇨12

 

 

「ドローステップ……ドロー!!……っ!!」

手札2⇨3

 

 

《リフレッシュステップ》

リザーブ12⇨20

トラッシュ8⇨0

 

 

椎名がドローしたのはあの名前だけが記載されているカードだった。バトルが始まる寸前。このカードが必ず切り札になると確信して投入した1枚。

 

おそらく、自分の進化の力を注ぎ込むことで再び目覚めるだろう。

 

 

(椎名、使うのかい?そのカードを?)

(……リーパー……)

 

 

今では同じ身体を共有する仲となった椎名の相棒であるデ・リーパーが彼女の心の中から語りかけてきた。

 

 

(あぁ、もう進化の力は使わないって言ったけど、今はしのごのと言ってる場合じゃない)

(そう言う心配をしてるんじゃない。その中にはエニー・アゼムの膨大な進化の力が内包されている………わかるだろ?場合によっては溢れ出した進化の力で君はまた『鬼化』するかもしれない)

(…………)

 

 

知っている。

 

そうだ。このカード、『インペリアルドラモン パラディンモード』にはエニー・アゼムが復活したノヴァを倒すべく自身の進化の力がこれでもかと詰まっている。

 

その力をこじ開けるためにはそれなりの進化の力が必要になるのは明白。

 

鬼の雑兵以下の進化の力しかない自分で操れるのか………

 

 

(いや、操れるかじゃない。操るんだ!!)

(!!)

(私を信じろ、リーパー……私の妹兼姉はいつだって心の底で私を信じてくれるはずだよ)

(……ふふ、そうだったね、君はそう言う人間だった………わかった。私も出来る限りサポートしよう)

 

 

お互いの絆を確かめ合った椎名とデ・リーパー。

 

その志を確かに、椎名は自身のメインステップを行なって………

 

 

「メインステップ!!私はインペリアルドラモン ファイターモードを召喚!!」

手札3⇨2

リザーブ20⇨6

トラッシュ0⇨9

【インペリアルドラモン ファイターモード】LV2(5)BP15000

 

 

椎名の場に皇帝竜の2つ名を持つ青と緑の究極体スピリット、インペリアルドラモン ファイターモードが姿を現した。その黒々としたボディ、勇ましい赤い翼は普通のバトラーが相手ならば大きなプレッシャーを与えられるのだが………

 

 

「ガッガッガ……今からそんなスピリットに何が出来る!?俺様の場にはBP30000超えのオーマジオウが3体!!その程度で突破はできん!!」

 

 

それ以上にノヴァの場が凄まじい。オーマジオウの圧倒的なBPの前ではほぼ無力に等しかった。

 

 

「………行くぞ、ここからが勝負だ……私の内に秘めた進化の力を解き放つ……!!」

 

ー!!

 

 

椎名がドローしたカードを強く握り、身体中にある進化の力をそのカードへと注ぎ出した。そのカードの真の力を解放するために………

 

その際に椎名の目にギルモンやデュークモンと同じマークにが刻まれる。

 

そして、成功しているのか、そのカードにテキストが刻み込まれていき…………

 

椎名はそのカードの発揮を宣言する………

 

 

「よし………これなら………手札のインペリアルドラモン パラディンモードの【チェンジ】発揮!!対象はファイターモード!!」

リザーブ6⇨1

トラッシュ9⇨14

 

「っ……それは!!」

 

 

椎名の使用したカードにようやくノヴァも気づいた。間違いない。それはエニー・アゼムが自分を殺すために遺したカード。念のために自分が何度も回収を試みようとした代物だ。

 

 

「この効果で先ずはオーマジオウ1体を破壊し、あんたのトラッシュ全てをゲームから除外する!!」

「!!」

 

 

白くて巨大な剣が周囲の闇を切り裂くが如く降り注ぎ、オーマジオウ1体の胸部へと直撃した。

 

オーマジオウも流石にその一撃には耐えられず、激しい断末魔を上げて大爆発した。

 

そしてその爆風の中、巨大な剣はファイターモードの方へと飛びいき…………

 

 

「そしてこの効果発揮後、対象となったスピリットと入れ替える!!」

 

 

対象となっていたファイターモードがその自身の体躯と同等程の刀身がある巨大な剣を両手で固く握る………

 

が………

 

それを握った直後だ………

 

椎名の身に異変が起きてしまったのは………

 

 

ー!!

 

 

パラディンモードのカードから凄まじい進化の力が一気に漏れ出し、椎名を包み込んだ。ファイターモードにも白き大剣から溢れ出た黒い力がまとわりついてくる………

 

 

「めざし!?」

「ぐっ……がっ………がっ!?」

 

 

苦しみもがき出す椎名。リーパーのサポートがあってこれだ。エニー・アゼムがどれだけ強力な進化の力の持ち主だったかが安易に理解できる………

 

 

「ガッガッガ!!愚かな!!それは貴様如きでは扱えない!!……自ら死に急ぐか鬼化してしまうぞ!!」

「ぐっ……がっっ………グガァァァァァァァ!!!!」

 

 

まとわりついてくる進化の力が影響して、椎名の身体が徐々に変化してくる。鬼のような角や牙が生え、昔のように理性が失いかけている。

 

危険な状態だ。

 

 

 

ただ、そんな状況でも冷静沈着な表情のまま椎名の肩にそっと手を置いた人間が1人………

 

それは椎名の生涯のライバル、赤羽司だ………

 

 

「おい、めざし………俺にとってはどうでもいい事だがよ………」

「グッ……グルぅぅぅう!!?」

 

 

人間の理性と鬼の本能の間に揺れる椎名がゆっくりと司の方へと首を傾けた。一瞬でも椎名が気を抜いて完全に鬼化を暴走させて仕舞えば司の命は保証できないだろう。

 

だが司はそんな事は知ったことではないと言う感じでまた軽々しく偉そうな口を開いて………

 

 

「テメェは世界一カッコいいカードバトラーになるんだろ?」

 

ー!?

 

 

そう言った………

 

私の生涯のライバルがそう言った………

 

そうだ。

 

これが終われば私は世界一カッコイイカードバトラーの花火さんと旅ができる。それだけじゃなしにこれから楽しい事がいっぱいある。

 

そんな素晴らしい未来が待ち構えているのに………

 

こんなとこで終わらせてたまるかぁぁあ!!

 

 

 

「グッ……ぐっ………うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

「なにぃ!?」

 

 

鬼の本能に打ち勝ち、己の気力だけでそれを制御し、息を吹き返した椎名。一瞬にして鬼化状態から人間の状態に逆戻りし、まとわりついていた進化の力が再びカードの中へと吸い込まれていった………

 

そして遂に………

 

遂に伝説のデジタルスピリット、パラディンモードがそのベールを脱ぐ………

 

 

「究極モードチェンジ!!現れろ!!インペリアルドラモン パラディンモードッッ!!」

【インペリアルドラモン パラディンモード】LV3(5)BP23000

 

 

ファイターモードもまとわりついていた進化の力を克服する。その姿は巨大な剣の力でみるみるうちに美しい純白なものへと変わっていく…………

 

そして新たに現れたのは伝説のデジタルスピリット、2000年の時を超え、呼び出された、インペリアルドラモン パラディンモードだ。

 

 

「ば、バカなぁぁあ!!単なる小娘如きがパラディンモードを使いこなすというのか!?」

「これは私1人の力じゃない!!…今まで私が培ってきた思い出と絆で繋がれた結晶だ!!……あんたには到底、わからないだろうけどな!!」

 

 

準備は万端だ。カードは出尽くした。

 

一気に終わらせる。

 

 

「アタックステップ!!パラディンモードでアタック!!」

 

 

アタックステップへと移行し、パラディンモードで攻める椎名。そしてこの瞬間、その力を遺憾なく発揮させる。

 

 

「パラディンモードのアタック時効果!!トラッシュにあるコアを全てパラディンモードに置き、スピリット全てを疲労させる!!」

トラッシュ14⇨0

【インペリアルドラモン パラディンモード】(5⇨19)

 

「ガッ!?……何だと!?」

【仮面ライダーオーマジオウ】(回復⇨疲労)

【仮面ライダーオーマジオウ】【回復⇨疲労)

 

 

パラディンモードがその大剣を天に掲げる。

 

すると、コアが巻き上がり、吸い込まれるように大剣に取り込まれた。そしてそこから発せられた衝撃波が2体のオーマジオウに膝をつかせた………

 

 

「これであんたの場にブロックできるスピリットはいない、そしてパラディンモードはダブルシンボル!!……これで終わりだ!!」

 

ー!!

 

 

ノヴァのライフは残り2。

 

パラディンモードの伝説の一撃が

 

2000年前の因果関係を全てを終わらせる…………

 

はずだった………

 

 

「残念だったな……フラッシュ【神速】召喚、クワガーモン!!」

手札3⇨2

リザーブ13⇨6

トラッシュ6⇨10

【クワガーモン】LV2(3)BP6000

 

「なに!?」

「ガッガッガ……この俺様に勝てると思ったのか!?……その程度で俺様の2000年が無駄に終わるわけないだろう!?ないだろう??……なぁ!!芽座椎名ぁぁあ!!」

「くっ……!!」

 

 

ここに来てノヴァの手札から神速によるスピリットの召喚。場に赤い甲殻を持つクワガタのような姿をしたスピリットが現れる。

 

本当に絶望を感じた椎名。

 

パラディンモードの攻撃がブロックされたら終わりだ…………

 

だが、この男がそれを許さなかった。

 

 

「無駄かどうかはこの俺の手札を見てから言うんだな。フラッシュマジック、レッドライトニング………クワガーモンを破壊」

手札4⇨3

リザーブ11⇨7

トラッシュ0⇨4

 

「…………はぁ?」

 

 

司の手札から突然放たれたマジック。

 

赤い稲妻が迸り、出たばかりのクワガーモンを難なく破壊してみせた………

 

 

「な……なんだと!?」

「言ったろ、めざしを勝たせるために俺はいる………」

「……司……!!」

 

 

司のナイスプレーに椎名は思わず笑みを浮かべた。

 

 

「おのれぇぇぇぇ!!手を振れば死ぬ塵芥の分際でぇぇえぇぇ!!……貴様らぁぁあ!!」

 

 

敗北が確定したのか、ようやく慌ただしい表情を浮かべ、情緒が安定しなくなる鬼王ノヴァ。

 

 

「いけ、めざし……!!」

「あぁ……行くぞ司!!」

 

 

 

今………

 

 

 

私は…………

 

 

 

進化を超える!!!

 

 

 

「伝説の一撃………」

「………やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!」

 

 

パラディンモードが巨大な剣を豪快に地面に突き刺した。そしてその接点を中心に神々しい光が溢れんばかり飛び出して行き…………

 

 

 

「……オメガ・ザ・レジェンダリー!!!」

 

「がっがっ……がぁぁぁぁぁぉぁぁぁぉ!!!!」

ライフ2⇨0

 

 

その光は残っていたオーマジオウごと、鬼王ノヴァの残ったライフ全てをかっさらっていった………

 

椎名と司の勝ちだ。伝説の一撃は………2000年に渡って渦巻いていた巨悪の根源を断ち切り……全てを終わらせた………

 

 

「ガッ……ガッ………」

 

 

今まさにその身を塵と化そうとしている鬼王ノヴァ。

 

 

「俺様は………何度でも蘇ってやる………この世を鬼の世界に変えるため、貴様ら人間共を滅ぼすため…………何度でもな…………」

「上等だ。何回でも来いよ……いつだって私達が………」

「いや、俺たちカードバトラーがテメェをぶっ倒すだろうぜ」

 

 

鬼王ノヴァは進化の力さえ酷使すれば何度でもこの世に蘇る事ができる。

 

だが、何度蘇ったところで全て結果は同じだろう。

 

何せ、この世界には椎名や司のような最後の最後まで諦めないカードバトラーが大勢いるのだから。

 

 

「ガッ……がぁぁぁぁぁぉぁぁぁぉ!!!」

 

 

限界を迎えたか、身体の内側から破裂する鬼王ノヴァ。凄惨な死を遂げた………

 

そしてそれに伴ってか、ノヴァの力で覆われていた闇が取り払われ、辺り一面は界放リーグの会場へと返り咲いた。

 

この出来事は観客達には一瞬の出来事だったのか、一瞬だけ静寂が保たれるが、椎名と司が自分たちを救ってくれたと考えが至った途端に大きな歓声を彼らに浴びせた…………

 

 

「やったな、椎名………っ」

 

 

遠目で椎名に対してそう言う晴太。すると、すぐさま茜の身体が発行し、光の粒子となって闇共々きえさっていく………

 

おそらく、この茜の身体はノヴァが茜の遺骨から作り出したものだったのだ。

 

 

「じゃあな。茜………また俺がまともに死んだらな………」

 

 

晴太はその流れ行くライバルの光を見つめ、楽しみでありながらも、儚い約束ごとを呟くのだった………

 

 

「……ありがとう、芽座椎名………そして赤羽司………お前達の事は一生忘れない………我は自分が犯した誤ちを償うべく旅をする………いつか、お前達に借りた大きな借りを返そう………」

 

 

バークも椎名と司を目に移しながら、そう呟き、スタジアムを後にした………

 

償うには余りにも遠い道のりではあるが、彼ならばいつかきっとそれらを償い、椎名と司の目の前に姿を見せる事だろう………

 

 

ー…

 

 

「終わったんだな………全部……」

 

 

少し落ち着いたところで、椎名は数百万を超える観客達の歓声を浴びながら司に言った。

 

何もかも、終わったのだ。

 

2000年に渡る長い長い戦いが………

 

 

椎名は干渉に浸っていた…………

 

 

 

 

「何言ってやがる………まだ残ってるだろ………」

「!?」

「俺たちは界放市を救った英雄となった。が、どっちも1位じゃ俺は納得しない……」

 

 

司が椎名に言い返した。まるでその言葉を訂正しようとするように………

 

そうだ。

 

まだある。

 

己が心から願っていた欲望がまだ叶えられてはいないではないか………

 

 

「俺と決着をつけろめざし………お前と言う英雄が俺を超えるか、それとも、俺と言う英雄がお前を超えるか……勝負しろ!!」

「っ………司……!!」

 

 

 

2人は界放市どころか世界を救った英雄になった………

 

だが、芽座椎名の物語…………

 

いや、この物語はある英雄を超えるまでの物語………

 

 

 

「さぁ、Bパッドを構え直せ!!」

「………あぁ…わかったよ………思い残す事は何もない!!ここからは正真正銘、楽しいバトルだ、行くぞ司!!」

 

 

2人はそう言い合いながら自身のBパッドを構え直し、お互いの方向へと向ける。

 

……そして………

 

 

「「ゲートオープン、界放!!」」

 

 

 

沸き上がる激しい歓声の中、2人のコールと共にバトルが開始される。

 

芽座椎名の物語最後のバトルスピリッツが今、始まりを迎えたのだった………

 

 

先行は赤羽司。自身の欲求をようやく満たすことができると理解した彼からは途方も無い気迫が感じ取れて………

 

 

[ターン01]司

《スタートステップ》

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、俺はネクサスカード、ヘルヘイムの産物を配置。ターンエンド」

手札5⇨4

リザーブ4⇨0

トラッシュ0⇨4

【ヘルヘイムの産物】LV1

 

バースト【無】

 

 

司の背後から異様な雰囲気を醸し出す大樹が生えてくる。そこで成っている実はこの世のものとは思えないほど異質で………

 

 

「さぁ、テメェのターンだ!!俺は待ち侘びていたんだぜ、この時を!!邪魔者は消えた!!これで問答無用でテメェとバトルできる!!」

「……私も手は抜かない……全力だ!!」

 

 

止まらないバトルによる快感。司の頭の中は最早椎名との決着の事でいっぱいいっぱいである。

 

次はそんな椎名のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン02]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

 

 

「メインステップ、私もネクサスカード、ディーアークとD-3を配置し、エンドだ!!」

手札5⇨3

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨5

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【無】

 

 

椎名も負けじと足場を固める。その腰に小さな機械が取り付けられた。

 

 

[ターン03]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨5

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ、俺は新たにネクサスカード、朱に染まる薔薇園をLV2で配置!!」

手札5⇨4

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨4

【朱に染まる薔薇園】LV2(1)

 

 

司の背後にこれまた鮮やかな朱色の薔薇園が咲き誇る。

 

 

「バーストを伏せ、ターンエンド………さぁ来い、めざし!!」

手札4⇨3

【ヘルヘイムの産物】LV1

【朱に染まる薔薇園】LV2(1)

 

バースト【有】

 

 

バーストを伏せ、そのターンを終える司。ターンを椎名へと譲渡する。

 

 

お互いにネクサスカードを配置し合ったこの最序盤。

 

運命的なラストバトルはこれからが本番である事など、誰が見ても明らかなものであって…………

 

 

 

 

 




《次回予告!!》

鬼王ノヴァを倒し、司と決勝戦でバトルをすることになった椎名。その激闘の果てには………

次回、バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ最終回「ラストバトル!!」

今、バトスピが進化を超える!!


******


最後までお読みくださりありがとうございました!!

なんとなんと、次回で最終回を迎えます。少し早いかもですが、読者の皆様、これまで約1年と半年、私などの作品をお読みくださり、ありがとうございました!!

次回作である『バトルスピリッツ コラボストーリーズ』は『オーバーエヴォリューションズ』と全く世界観が違う事もあり、いつものようにポンポン更新はできませんが、これからも私、バナナの木とそのバトスピ作品を何卒よろしくお願いします!!

次回の更新は年内には叶わないかもしれません。


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最終話「ラストバトル!!」

新作も更新しました!!
ソウルコアを使えない少年の躍進の物語をお楽しみください!!
https://syosetu.org/novel/209368/


いつだって………

 

いつだって私は自分が楽しむためにバトルしてきた。

 

そのつもりだった。

 

いつからだろうか、

 

自分ではなく、他の人達のためにバトルをするようになっていったのは……

 

だけど、もう気負う必要もない。

 

ここからは全力で私自身のバトルを楽しむ!!

 

 

******

 

 

大勢の観客達が見守る中、椎名と司の最後のバトルスピリッツは続いている。

 

次は椎名のターンだ。勢い良く自身のターンシークエンスを進行していく……

 

 

[ターン04]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ0⇨1

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ1⇨6

トラッシュ5⇨0

 

 

「メインステップ、ブイモンを召喚!!…効果によりカードをオープン!!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨3

トラッシュ0⇨2

【ブイモン】LV1(1)BP2000

オープンカード↓

【スティングモン】◯

【ギルモン】×

 

 

椎名のデッキの軸となる成長期スピリット、青くて小さな竜、ブイモンが姿を見せる。その効果も成功、椎名は新たにスティングモンのカードを加えた。

 

 

「さらに追加効果でこのスティングモンを召喚!!…ディーアークの効果でドロー!!」

手札3⇨4⇨3⇨4

リザーブ3⇨0

トラッシュ2⇨4

【スティングモン】LV1(1⇨2)

 

 

ブイモンの横に颯爽と現れたのは緑のスマートな昆虫戦士、成熟期のスティングモンだ。その効果でさりげなくコアが増加した。

 

 

「行くぞ、先ずは小手調べだ!!バーストをセットして、スティングモンでアタック!!」

手札4⇨3

【スティングモン】(2⇨3)LV1⇨2

 

「!!」

 

 

椎名がこのバトル始まって最初の攻撃を仕掛ける。スティングモンが自身の拳を固く握り、地を駆ける。狙うは当然司のライフだ。

 

 

「………ライフだ!!」

ライフ5⇨4

 

 

この初撃を守る理由もない。司は椎名がやる気があるのを悟ったのか、嬉しそうに目をギラギラさせながらライフで受ける宣言を行った。

 

スティングモンの固められた拳の一撃がそのライフを砕いた。

 

 

「だがここで、バースト発動!!イビルフレイム!!」

「!!」

「この効果により、シンボル1つのスピリット2体を破壊する!!……ブイモンとスティングモンを破壊する!!」

 

 

ライフの破壊と共に勢い良く反転する司のバーストカード。そこから放たれた邪悪な色をした炎がブイモンとスティングモンを包み込んでそれらを焼き尽くした。

 

 

「へへ……やるな。ターンエンドだ」

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

 

バースト【有】

 

 

場のスピリットを失ったため、半ば強制的にターンエンドとさせられる椎名。次は司のターン。勢い良く自身のターンシークエンスを進行していく。

 

 

[ターン05]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札3⇨4

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨6

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!来い、バロン バナナアームズ!!」

手札4⇨3

リザーブ6⇨0

トラッシュ0⇨1

【仮面ライダーバロン バナナアームズ】LV3(5)BP7000

 

 

司の頭上から空間を裂くようにチャックが現れ、それが全開すると、そこと繋がった別の空間から飛び降りてくる仮面スピリットが1体……

 

仮面ライダーバロン。最早司の代名詞とも言えるスピリットである。

 

 

「新たなバーストを伏せ、アタックステップ!!バロンでアタック!!」

手札3⇨2⇨3

 

 

司は今一度バーストカードをセットし、バロンでアタックを仕掛ける。そしてこの時だ。司が椎名のライフを叩き込むべくさらにてふだからあるカードを1枚抜き取ったのは………

 

 

「フラッシュ【煌臨】発揮!!対象はバナナアームズ!!」

【朱に染まる薔薇園】(1s⇨0)LV2⇨1

トラッシュ1⇨2s

 

「っ……煌臨!?」

 

 

バロンが赤く光り輝く。その光の中、バロンはさらなる姿へと昇華しており………

 

 

「禁断の力用い現れろ!!バロン リンゴアームズ!!」

手札3⇨2

【仮面ライダーバロン リンゴアームズ】LV3(5)BP12000

 

「っ……見たことないバロン!!」

 

 

その赤い光を弾き飛ばし現れたのは真っ赤に染まったバロン。手には槍の代わりに盾と長めの剣が備え付けられていた。

 

 

「煌臨時効果でドロー……そして、煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!……やれ、リンゴアームズ!!」

手札2⇨3

 

「……ライフで受ける……!!」

ライフ5⇨4

 

 

この攻撃を守れるものは何もない。致し方なく椎名はリンゴアームズのアタックをライフで受けた。リンゴアームズの鋭い剣戟がそのライフを1つ斬り刻んだ。

 

だが、椎名もやられっぱなしでは終わらない。事前に伏せていたバーストカードを勢い良く反転させて………

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!…マリンエンジェモン!!」

「!!」

 

「この効果により、召喚!!…さらにこのターン、私のライフはコスト9以下のスピリットのアタックでは減らない!!……ディーアークの効果でドロー!!」

手札3⇨4

リザーブ5⇨2

【マリンエンジェモン】LV3(3)BP9000

 

 

ピンク色で小さな究極体スピリット、マリンエンジェモンが椎名の場に現れ、椎名の前方には水でできたバリアが形成された。

 

 

「どうだ司!!これでこのターンは………」

「エンドになる……そう言いたいのかめざし!!」

「!?」

 

 

このタイミングでのマリンエンジェモンの防御に絶対的な自信があった椎名。

 

だが、今の司は椎名の一手二手先を行く………

 

 

「リンゴアームズのさらなる効果!!バトル終了時、相手のライフ1つを破壊し、ターンに一度回復する!!」

【仮面ライダーバロン リンゴアームズ】(疲労⇨回復)

 

「なにっ!?」

「テメェも気づいたようだな!!マリンエンジェモンで無効にできるのは飽くまでスピリットのアタックのみ、効果での破壊は防げん!!……その身に焼き付けろぉぉお!!」

 

「ぐっ……うぁぁぁぁっ!!!」

ライフ4⇨3

 

 

リンゴアームズがその剣の刀身に炎を灯し、椎名のライフへと追撃してきた。その炎はマリンエンジェモンが作り出した水のバリアを突き破って椎名のライフを焼き尽くした。

 

 

「まだだ。さらに行け、リンゴアームズ!!」

 

「くっ……ライフで受ける!!」

ライフ3⇨3

 

 

回復したバロンが3度目の攻撃を繰り出してくるが、マリンエンジェモンの水のバリアが復活し、その攻撃を防いだ………

 

だが………

 

 

「ターンに一度の効果は回復のみ、ライフを破壊する効果はここでも発揮される!!…喰らいやがれぇぇ!!」

 

「ぐっ!!」

ライフ3⇨2

 

 

再び……

 

リンゴアームズの熱き炎の剣戟が椎名のライフを襲った。

 

 

「すげぇ……マリンエンジェモンを使ったのにここまでダメージが来るなんて……!!」

 

 

明らかに椎名がピンチなこの状況。

 

しかし、彼女は笑っていた。不思議で、不気味なくらい………

 

どうしようもないくらいこの司のバトルが楽しかった。いつまでもやっていたいくらいだ。

 

 

「フッ……ようやくいつもの調子が戻ってきたみたいだな………さぁ来い、次はテメェのターンだめざし!!」

【仮面ライダーバロン リンゴアームズ】LV3(5)BP12000(疲労)

 

【ヘルヘイムの産物】LV1

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【有】

 

 

攻撃的な効果を持つリンゴアームズで豪快に攻め、そのターンをエンドとした司。

 

次は椎名のターンだ。反撃すると言わんばかりにそのターンを進行していく………

 

 

[ターン06]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ4⇨5

《ドローステップ》手札4⇨5

《リフレッシュステップ》

リザーブ5⇨9

トラッシュ4⇨0

 

 

「メインステップ!!ネクサスカード、デジヴァイスを新たに配置し、ズバモンを召喚!!マリンエンジェモンと合体!!」

手札5⇨3

リザーブ9⇨4

トラッシュ0⇨2

【マリンエンジェモン+ズバモン】(3⇨6)BP12000

 

 

椎名の場に黄金の鎧を持つデジタルブレイヴ、ズバモンが現れる。マリンエンジェモンはその頭の上に乗っかった。

 

 

「さらにマジック、フェイタルドロー!!私のライフが2以下のため、カードを3枚ドロー!!」

手札3⇨2⇨5

リザーブ4⇨2

トラッシュ2⇨4

 

 

椎名はマジックカードの効果によりさらにその手札を増加させる。そしてここだ。このタイミングでいよいよ真打のお出ましだ……

 

 

「【煌臨】発揮!!対象はマリンエンジェモン!!

リザーブ2s⇨1

トラッシュ4⇨5s

 

「!!」

 

 

マリンエンジェモンとズバモンが赤い光に包まれていき、その中で姿形を大きく変化させていく………

 

その姿はまさしく洗練された聖騎士と言えるものであって…………

 

 

「来い、赤きロイヤルナイツ、デュークモンッッ!!」

手札5⇨4

【デュークモン+ズバモン】LV3(6)BP21000

 

 

やがてその光を弾き飛ばしながら現れたのは赤属性のロイヤルナイツのスピリット、デュークモン。これまで椎名のと共に幾多もの死線を潜り抜けてきた真のエーススピリットだ。その姿はズバモンとの合体により、シャープな印象となっている。

 

 

「ディーアークの効果でドロー!!……そしてアタックステップ、デュークモン……いけぇ!」

手札4⇨5

 

 

アタックステップへと移行する椎名。デュークモンがビーム状と化した槍を構える。

 

そしてこの瞬間に発揮できる効果があり………

 

 

「デュークモンのアタック時効果により、シンボル2つ以下のスピリット、リンゴアームズを破壊!!」

「!!」

「無双の一振り……ジークセイバーッッ!!」

 

 

デュークモンがそのビーム状の槍を天高く伸ばし、そのままリンゴアームズに向けて勢い良く叩きつける。

 

リンゴアームズはその威力に耐えられず、敢え無く大爆発を起こしてしまった。

 

 

「デュークモンのさらなる効果!!トラッシュにあるギルモンを手札に回収する事で回復する!!」

手札5⇨6

【デュークモン+ズバモン】(疲労⇨回復)

 

 

椎名の手札にギルモンのカードが舞い戻り、デュークモンもそれに合わせて回復状態となる。これでこのターンは二度目の攻撃権利を得た。

 

ダブルシンボルの2撃が指す意味は4点のライフをターン中に破壊できるという事………

 

このまま司が何もなければ椎名の勝ちは確定だった………

 

 

「何もない俺じゃない!!フラッシュマジック、シンフォニックバースト!!」

手札3⇨2

リザーブ5⇨4

トラッシュ2⇨3

 

「!!」

 

 

流石と言うべきか、司はカウンターのマジックを手札から堂々と切ってきた………

 

シンフォニックバースト。司を何度も窮地から救ってきた絶対的防御札。それがこの最後の最後のバトルでも遺憾無く発揮される………

 

 

「そのアタックはライフだ……!!」

ライフ4⇨2

 

 

デュークモンの聖なる槍から繰り出される刺突の一撃が彼のライフを一気に2つも砕いてみせた………

 

そしてここでも彼の伏せていたバーストが輝く………

 

こちらも、真打の登場だ………

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!」

「!!」

 

 

司の高らかなバースト発動宣言により、椎名も察した。あのバーストカードの内容を………

 

間違いない。アレは司が持つ最強のスピリット、最後のバロン………

 

 

「効果によりコイツを召喚する!!……聞け!!魔王の轟く怒号を……そして慄き戦慄せよ!!………来い、ロード・バロン!!」

リザーブ6⇨1

【ロード・バロン】LV3(5)BP16000

 

 

迸り落雷する赤い稲妻。そこへ現れたのは魔剣を片手に持つ、赤き仮面スピリットの異形……名をロード・バロン。赤羽司の最強のエーススピリットだ………

 

 

「出たな……ロード・バロン!!」

「そしてこの瞬間、シンフォニックバーストの効果でテメェのアタックステップは終わる!!」

 

 

司のライフが2以下であるため、シンフォニックバーストの条件が満たされる。黄色い衝撃波が解き放たれ、椎名のデュークモンの動きを封じ込めた………

 

 

「っ……ターンエンドだ」

【デュークモン+ズバモン】LV3(6)BP21000(回復)

 

【ディーアーク】LV1

【D-3】LV1

【デジヴァイス】LV1

 

バースト【無】

 

 

そのターンをエンドとする椎名。次はロード・バロンの召喚を成功させた司のターン。これで終わりにすべく、ターンを進行していく………

 

 

[ターン07]司

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ1⇨2

《ドローステップ》手札2⇨3

《リフレッシュステップ》

リザーブ2⇨5

トラッシュ3⇨0

 

 

「メインステップ、ヘルヘイムの産物のLVを2に上げ、イーズナをLV2で召喚!!……さらにマジック、双光気弾!!…テメェのブレイヴ、ズバモンを破壊する!!」

手札3⇨1

リザーブ5⇨0

トラッシュ0⇨2

【イーズナ】LV2(2)BP2000

 

「!!」

 

 

司の場にイタチ型の小さなスピリット、イーズナが現れたかと思うと、どこからともなく突然炎の弾丸が飛び交い、椎名のデュークモンを襲う。その炎はデュークモンと合体していたズバモンのみを正確に撃ち抜いて焼き尽くした。ズバモンの破壊により、デュークモンは通常の状態へと戻る。

 

 

「終わりだ……これで決めてやる!!…アタックステップ!!……ロード・バロン!!」

 

 

司がアタックステップへと移行し、ロード・バロンにアタックの指示を送る。ロード・バロンは魔剣を構え、自身のアタック時効果を発揮させて………

 

 

「効果により、BPの最も高いスピリット、デュークモンを破壊する!!」

「!!」

 

 

ロード・バロンは魔剣に禍々しい赤黒いエネルギーを蓄積。極限まで溜めると、それを全力で振るい、斬撃をデュークモンに向けて飛ばす。

 

デュークモンは盾でなんとか凌ごうとするも、ロード・バロンの飛ばした斬撃はその盾ごとデュークモンを斬り裂いた。デュークモンは力尽き、大爆発を起こしてしまう…………

 

 

「どうしたもう終わりか!?…アタックはまだ続いているぞ!!」

「!!」

 

 

ロード・バロンが椎名めがけて走り出した。残り2つのライフを奪うためだ。彼女の残りライフは2つ。イーズナとのアタックで全てを破壊することが可能………

 

だが、それを当然見越している椎名は、手札から1枚のカードを堂々と抜き取って反撃に出る………

 

 

「フラッシュマジック、リアクティブバリア!!」

手札6⇨5

リザーブ7⇨4

トラッシュ5⇨8

 

「!!」

 

「そのアタックはライフで受ける!!………そして効果により、そのアタックでアタックステップが終了する!!」

ライフ2⇨1

 

 

ロード・バロンが魔剣を振るい、椎名のライフ1つを紙切れのように斬り裂くも、すぐさま司の場に猛吹雪が発生し、彼のスピリットたちは身動きが取れなくなった………

 

 

「………ターンエンドだ」

【ロード・バロン】LV3(5)BP16000(疲労)

【イーズナ】LV2(2)BP2000(回復)

 

【ヘルヘイムの産物】LV2(1)

【朱に染まる薔薇園】LV1

 

バースト【無】

 

 

致し方なく、ターンをエンドとする司。その宣言と共に猛吹雪が収まり、視界が全開になる。

 

次は椎名のターン。

 

彼女は不思議と今までの思い出が頭の中をよぎっていた。楽しかったこと辛かったこと、嬉しかったこと泣いたこと………その全てが………直接頭に叩きつけられた………

 

 

「なぁ司………」

「なんだ」

 

 

ターンを始める直前、椎名が口を開いた………

 

 

「この界放市に来て、色んなバトルをした………私はその中で、バトルは楽しいだけじゃない。辛く険しいものも沢山あるんだって理解した」

 

 

昔はただただバトルを楽しむことしか考えてなかった。でも、それが時には命すら賭けなければならないと知った………

 

 

「でも、これだけは忘れちゃダメだった……私のこの手はカードやコアを握って敵を倒すためだけにあるんじゃない……」

 

 

椎名の手はバトルスピリッツで敵を倒すためにあるんじゃない。況してや誰かを傷つけるためにあるんじゃない………

 

 

「仲間達と熱く、楽しいバトルをして、その後に固く握手をするためにあるんだ………」

 

 

そう、

 

きっとそう思う。

 

今だからこそ、

 

こう考えられる………

 

 

「フッ……御託はいい、続きをやるぞ……!!」

「へへ、あんたならそう言うと思ったよ!!」

 

 

司が別に無頓着なわけではない。内心では少し微笑んでいる。

 

だが、今自分が求めているのは椎名の言葉よりもバトルだ。

 

椎名もそれを理解しているからこそ、全力でそれに応えようとしていて………

 

 

「行くぞ司!!これがラストターンだ!!」

「できるものならやってみろ!!……そうはいかんぞ!!」

 

 

今……

 

進化と限界を超えた………

 

椎名のターンが幕を開ける………

 

 

[ターン08]椎名

《スタートステップ》

《コアステップ》リザーブ5⇨6

《ドローステップ》手札5⇨6

《リフレッシュステップ》

リザーブ6⇨14

トラッシュ8⇨0

 

 

「メインステップ!!……最後はこれで決めるのが相応しい……私の最初のエーススピリット………」

 

 

椎名は手札から勢い良くそのカードをBパッド上に叩きつけ………

 

そのスピリットの名を叫ぶ………

 

 

「燃え上がる勇気……来い、フレイドラモン!!」

手札6⇨5

リザーブ14⇨7

トラッシュ0⇨4

【フレイドラモン】LV2(3)BP9000

 

「っ……ここでフレイドラモンだと!?」

 

 

椎名の前方が赤い炎で燃え上がる。その中で眼光を放つスピリットはそれを全て振り払い、姿を見せる。

 

その名はフレイドラモン。

 

椎名が幼き頃よりエースとして来た一番の相棒である。

 

 

「フレイドラモンの召喚時、BP7000以下のスピリット1体を破壊する!!……イーズナを破壊だ!!」

「!!」

 

「爆炎の拳……ナックルファイアッッ!!」

手札5⇨6

 

 

フレイドラモンがその拳から炎の弾丸を放つ。熱々と燃え滾るそれは司のイーズナへと直撃し、それを焼き尽くした。

 

 

「さらに!!青のブレイヴ、双牙皇オルト・ロードを召喚!!」

手札6⇨5

リザーブ7⇨4

トラッシュ4⇨6

【双牙皇オルト・ロード】LV1(1)BP5000

 

「……こいつは……!!」

 

 

椎名の背後から場へと飛び出して来たのは2つの首を持つ獣型のブレイヴ、オルト・ロード。

 

フレイドラモンとオルト・ロード。この2体が並び立ったことで司は気づいた。この布陣、間違いなくあの時のバトルと同じであると………

 

 

「フレイドラモンにオルト・ロードを合体!!…合体スピリットとなれ!!」

【フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード】LV2(4)BP14000

 

 

フレイドラモンとオルト・ロードが呼吸を合わせ、跳び上がり、激突し、混ざり合う………

 

そして新たに現れたのは言わば蒼炎のフレイドラモン。背には黒い翼が生え、体中から溢れんばかりの蒼炎が漏れ出ており、その異常さが理解できる………

 

 

「アタックステップ!!フレイドラモンでアタック!!…オルト・ロードの合体中効果により、手札3枚を捨て、回復する!!」

手札5⇨2

破棄カード↓

【ギルモン】

【インペリアルドラモン ドラゴンモード】

【グラウモン】

【フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード】(疲労⇨回復)

 

 

椎名の手札からコストとして3枚のカードが破棄される。椎名のその行為に呼応するように雄叫びを上げるフレイドラモンは回復状態となった……

 

 

「フレイドラモンはダブルシンボル!!…あんたが何もなければ私の勝ちだぞ!!」

 

 

司の残りライフは既に2。この合体しているフレイドラモンのアタックを一撃でも受けて仕舞えばその時点で敗北が確定する。

 

しかし、

 

あの赤羽司がこの程度でくたばるわけもなく………

 

 

「俺が何もないと考えていたのならテメェの負けは確定だ!!……フラッシュマジック、スクランブルブースター!!…このバトル中、ロード・バロンは疲労状態でのブロックが可能となる!!……ブロックしろ、ロード・バロン!!」

手札1⇨0

リザーブ2⇨0

トラッシュ2⇨4

 

「……!!」

 

 

司の使用したマジックにより疲労ブロックが可能となったロード・バロン。膝をついている疲労状態から起き上がる……

 

フレイドラモンがロード・バロンに狙いを定め、低空飛行で超速移動し、一瞬にしてロード・バロンの懐に潜り込む。

 

襲いくるフレイドラモンを前に、ロード・バロンは咄嗟に魔剣を盾にするも、フレイドラモンはそれに噛み付いて難なくそれを噛み砕いてしまう……

 

だがロード・バロンもやられっぱなしではない。フレイドラモンを殴りつけ、前方へと吹き飛ばし、そのまま自身の体を赤黒い煙状態へと変化させ、フレイドラモンに纏わり付き、上空へと追いやった………

 

 

「俺のロード・バロンのBPは16000!!……対するフレイドラモンはBP14000!!…勝負あったな!!」

 

「まだだ!!まだ私は諦めない!!……フラッシュマジック、レッドカード!!……フレイドラモンのBPを3000アップ!!」

手札2⇨1

リザーブ4⇨2

【フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード】BP14000⇨17000

 

「!!」

 

 

椎名が咄嗟に引き抜いたマジックカードの効果により、フレイドラモンがそのBPを上昇させる。

 

煙状態となって纏わり付いていたロード・バロンを蒼炎を纏わせた足蹴りで地面へと叩きつけた。ロード・バロンはその威力に思わず元の状態へと逆戻りしてしまう………

 

 

「これでフレイドラモンはロード・バロンを上回った!!……打ち込め、フレイドラモン……渾身の蒼炎……バーニングインフォースッッ!!」

 

 

フレイドラモンが上空から両手を前方に突き出し、体中に蒼炎を纏いながらロード・バロンに向かって急降下していく………

 

ロード・バロンは超速でぶつかってくるそれを両手で支えるも、その様子から時間の問題と見える………

 

が、

 

まだこの男、赤羽司は諦めてはいなかった………

 

 

「めざしぃぃい!!!……フラッシュ、ヘルヘイムの産物の効果!!…ヘルヘイムの産物のコア1つを対象となるスピリットに置き、そのターン、そのスピリットのBPを3000アップさせる!!」

【ヘルヘイムの産物】(1⇨0)LV2⇨1

【ロード・バロン】(5⇨6)BP16000⇨19000

 

「!!」

 

 

激突するフレイドラモンとロード・バロン。しかし、ロード・バロンがまたしてもフレイドラモンのBPを上回ったため、ロード・バロンは力任せにフレイドラモンを上空へと弾き飛ばした………

 

 

「これで終わりだぁぁあ!!」

 

 

勝利が間近に近づいた事で昂ぶったテンションが下がる事を知らない司。

 

………だが………

 

 

「あぁ、終わりだな……私の勝ちで!!」

「っ!?」

 

「フラッシュマジック、レッドカード!!……フレイドラモンのBPをさらに3000アップさせる!!」

手札1⇨0

【フレイドラモン+双牙皇オルト・ロード】BP17000⇨20000

 

「っ……2枚目だと!?」

 

 

弾かれたフレイドラモンが息を吹き返し、高い跳躍力を活かしてさらに上空へと跳び上がる……

 

限界まで昇ると、フレイドラモンはその身にさらなる蒼炎と、元々存在する自身の赤い炎を同時に纏って………

 

再びロード・バロンに向かって急降下する。今度の炎はさっきのものとは格が違うほど巨大であり……

 

 

「……行け、フレイドラモン……」

 

 

 

渾身の………

 

 

 

超爆炎…………

 

 

 

「ファイナルロケットッッ!!」

 

 

「……っ!!」

 

 

 

ロード・バロンでも受けきれないほどの威力で突撃してきたフレイドラモン。その余波、及び爆風が会場全体を大きく揺らして………

 

 

そんな中、爆煙が晴れ上がり、フレイドラモンが姿を見せる。当然ながらそこにはもうロード・バロンは存在しない。勝利したのだ。この……椎名のフレイドラモンが………

 

 

「フッ………俺の負けか………」

 

 

その様子を見た司は自身の負けを悟った。だが、その表情からは安堵と喜びが感じ取れて………

 

 

「へへ………行け、フレイドラモン!!……これでラストアタックだ!!」

 

 

フレイドラモンがその蒼炎を纏わせた拳を司へと向ける…………

 

 

「っ!!」

ライフ2⇨0

 

 

もう宣言などする必要もない。

 

フレイドラモンの蒼炎の拳は司のライフを一気に2つ破壊し………

 

椎名を勝利へと導いた………

 

 

「勝った………っ!!勝ったぞぉぉぉぉぉお!!」

 

 

優勝した事による喜びと高揚から、大きな声を上げる椎名。そしてそれを遮るかのように数百万を超える観客達から轟音のような歓声が与えられた………

 

役目を終えたフレイドラモンはゆっくりとその場から姿を消失させた。

 

 

「めざし!!」

「!!」

 

 

司が椎名の元まで歩み寄って来た。

 

 

「……優勝、おめでとう……!!」

「へ??」

 

 

椎名は戸惑った。

 

それもそのはず、あの頑固でへそ曲がりな司が自分に「おめでとう」と言うばかりか握手まで求めるように手を差し出したのだから………

 

 

「へへ、なんだ、最後はやけに素直じゃない司!!」

 

 

だが、椎名はあっさりと受け入れて、司との握手を交わした。

 

 

「めざし……卒業後、俺はプロになる。テメェは一木花火と旅に出ると言っていたな……」

「あぁ」

「なら、いつかリベンジさせてもらう!!俺は更なる高みへと向かうぞ!!精々首を洗ってるんだな!!」

「なんだ、結局そう言う感じになるのね〜〜………へへ」

「フッ………」

 

 

最後に2人は微笑みあった。

 

それは友として、ライバルとして、絶妙な言葉のニュアンスによって固い友情を確かに確信した証拠であり………

 

 

鬼王ノヴァという異端な存在との戦いもありながら、第10回界放リーグは芽座椎名の優勝で幕を閉じた………

 

……それと同時に、芽座椎名と赤羽司は界放市の英雄として、これからの長い歴史に名を刻まれることとなった………

 

 

これにて、

 

 

芽座椎名の物語は完結した………

 

 

 

かに見えた………

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

第10回界放リーグが閉幕してから約半年が経過した。時期は7月。芽座椎名を始めとした第9期生はバトスピ学園を去り、それぞれの未来へと駆け出した………

 

そんな少し未来の話………

 

 

ー…

 

 

「椎名ちゃん、何見てんだ??」

 

 

どこかの街、大きな大都市、並び立つビルが彩る街並みにて………

 

芽座椎名と共に旅をしている茶髪の青年、一木花火はBパッドを眺めている椎名に聞いた………

 

 

「ん?…あぁいや、晴太先生と兎姫先生が結婚式を挙げたので、友達からその写真が送られて来たんですよ〜〜」

「あぁ、そういやあの2人結婚したんだよな……今考えてもよく結婚できたよな、晴太の奴」

「本当ですよね〜〜」

 

 

晴太を弟子に持つ花火は晴太の鈍感な性格を思い浮かべながら言った。確かによく結婚できたものである。

 

 

「さ、この街でやる事は終わったし、そろそろ違う街へ行こうか!!」

「はい!!」

 

 

話を切り替え、重たい荷物を背負う椎名と花火。

 

さて、次はいったいどこへ行くのやら………

 

 

「おっ……花火さん、ちょっと私用事できました!!」

「へ?……あ、ちょっと椎名ちゃん!?」

 

 

しかし、椎名は路地裏にある光景を目に移した途端に、そこへと走り出してしまう。

 

その光景とは…………

 

 

ー…

 

 

「か、返してください!!ぼ、僕のデッキ!!」

「ちょっとお金に変えてくるだけだって、悪いようにはしねぇよ!!ワッハッハ!!」

 

 

昼間だと言うのに暗めの路地裏。そこではまだどう見積もっても小学6年生くらいの黒髪の少年がチャラチャラしたガラの悪い男に自身のデッキを獲られかけていた……

 

こんな人影のあまりない路地裏。誰も助けに来るわけがない………

 

少年は絶望していた………

 

だが、そんな時だ。

 

暖かくて、優しい声が聞こえて来たのは………

 

 

「全く、どんなに街のセキュリティが高くても、こういう馬鹿は絶滅しないんだな……」

「あぁ!?なんだテメェ!!」

 

 

いつのまにか、その2人の間にはオレンジ頭の少女が立っていた。

 

 

「そんなにデッキが欲しいなら、私のデッキでもいるか?……ただし、私に勝てたらな。逆に私が勝ったらその子のデッキ、返してもらうぞ」

「ほぉ?…なんだヤケに自信があるんだなネェちゃんよ〜〜!!」

 

 

オレンジ頭の少女が不気味とも言える角度で口角を上げながらガラの悪い男に言った。ガラの悪い男はその申し出に承諾するつもりなのか、すぐさま自身のBパッドとデッキを構え、バトルの準備を行った………

 

 

「上等だゼェ!!やってやろうじゃんかよぉぉぉぉぉお!!」

「へへ……後悔すんなよ?」

 

 

オレンジ頭の少女もデッキを構え、バトルの準備を瞬時に行う。

 

 

ーゲートオープン、界放!!

 

 

薄暗い路地裏の中、コールと共にバトルスピリッツが幕を開けた………

 

 

******

 

 

 

「な、なんだ!!なんなんだお前は!?」

 

 

バトルが始まって数ターン。

 

ガラの悪い男はそのオレンジ頭の少女の圧倒的なバトルの強さに驚愕し、腰を抜かしていた。

 

 

「へへ……燃え上がる勇気、フレイドラモンを召喚!!」

 

 

少女の場に存在するのは騎士のような見た目のスピリット、デュークモン。そしてその直ぐ横にある街灯に着地したのは赤い炎を操るスマートな竜人型のスピリット、フレイドラモンだ。

 

 

「アタックステップ……デュークモンとフレイドラモンでアタック!!」

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁあ!!!」

ライフ2⇨1⇨0

 

 

デュークモンの聖なる槍から繰り出される刺突とフレイドラモンの流星を思わせるような炎を身に纏った突撃がガラの悪い男のライフを全て砕いた。

 

これにより、オレンジ頭の少女の完勝でバトルは幕を閉じた………

 

 

「だから言ったろ?…後悔すんなよって」

 

 

オレンジ頭の少女がフレイドラモンとデュークモンの攻撃による爆発で転がって来た少年のデッキを手にしながらガラの悪い男に言った。

 

 

「ほれ、これ君のカードだろ??……ほんじゃな、大事にすんだぞぉ〜〜」

「え、あっはい!!」

 

 

オレンジ頭の少女が少年にデッキを手渡した。少年はそのオレンジ頭の少女のバトルに見惚れてしまっていてそれどころではなかったが、戸惑いながらも感謝の言葉を述べた………

 

そして、その去って行こうとするオレンジ頭の少女に向かって少年は聞いた………

 

 

「あ、あの!!……あなたのお名前はなんですか!!」

 

 

と、勢いよく、目を輝かせ、ワクワクした様子で………

 

オレンジ頭の少女は振り返り、少年の顔を見ると、微笑ましく笑いながらこう答えるのだった………

 

 

 

「私は芽座椎名!!……いつかこの世界で一番かっこいいカードバトラーになる奴の名前だから、しっかり覚えとけよ!!」

 

 

椎名は右の拳を突き出しながらその少年に言った………

 

 

芽座椎名の物語は………

 

 

まだまだ続く。

 

 

彼女が世界で一番かっこいいカードバトラーになる、その日まで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ』

ー完ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




《新作予告!!》


ここは幾億もの人々が住まうとある世界。そこには現実離れした広大なファタジーの景色が無限に広がっている。
 
舞台となるのはその世界の1つの国。その国の人間たちの身分は………

………最上位の『エックス』

………バトスピ貴族と呼ばれる『マスター』

………所謂平民である『レア』

………そして、最も貧しく、身分も低い『コモン』の4つに分けられていた。
 
そんなファンタジーの世界でも当たり前のように存在し、誰もが息をするように行うカードゲームがあった………
 
その名は『バトルスピリッツ』
 
この世界ではこのバトルスピリッツこそが至高であり、バトルスピリッツの優劣こそが絶対である……
 
 
そして、この国で最も強いカードバトラーを人々は『頂点王』と呼んだ。
 

「ソウルコアが無くてもオレは頂点王になる!!諦めないのがオレのバトスピだ!!…召喚、オレのライダースピリット、仮面ライダー龍騎!!」
 
 
これは何も無かった1人の少年の証明の物語。
 


『バトルスピリッツ コラボストーリーズ』

第1話絶賛公開中!!



******


最後までお読みいただき、ありがとうございます!!
そして、約一年と半年の間、ご愛読くださり、ありがとうございました!!



『バトルスピリッツ オーバーエヴォリューションズ』及び、その世界観の小説はここで一旦完結となりますが、次作である『バトルスピリッツ コラボストーリーズ』では、椎名など人気のあったキャラクターを一部名前と見た目を引き継いで参加させようと思っています!!

※コラボストーリーズはオーバーエヴォリューションズの世界観とは違います。

※『仮面ライダーバロン リンゴアームズ』の煌臨条件は【仮面&コスト5以上、バロン】ですので、問題なく煌臨できます。


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【完結編】集結のロイヤルナイツ
EP1「聖騎士を呼ぶ咆哮」


今は使われていない、かつて王族が住んでいたとされる巨大な城。今となっては殺風景となってしまったこの場所に、青年、芽座葉月はいた。

 

大昔の王者が腰を下ろしていたであろう玉座にその身を置いている。

 

 

「葉月………芽座葉月」

 

 

誰かが彼を呼ぶ。彼の脳内に直接語り掛けてくる。

 

これは今に始まった事ではない。彼が物心付いた時からずっと、絶え間なく聞こえ続けている。

 

 

「13枚ある全てのロイヤルナイツを揃えるんだ。さすれば君は最強のカードバトラーになれる」

「…………」

「僕は信じてるよ。君ならロイヤルナイツを揃え、最強になって、いつか僕を迎えに来てくれると」

「………黙れ。何度同じ事を呟けば気が済む」

 

 

葉月がそう告げると、語り掛けてきた声は途端に聞こえなくなった。これも、いつもの事である。

 

 

「………言われなくともそのつもりだ。オレは全てのロイヤルナイツを得て無敵のカードバトラーとなる」

 

 

そして、葉月の言葉に呼応するように、影から深く白いフードを被った3人の女性が姿を見せる。見た目や立ち振る舞いからして、おそらくはまだ16、17歳程度の年齢だろう。

 

そんな彼女らは葉月に忠誠心があるのか、現れるなり葉月の目の前で片膝を突く。

 

その後、葉月が彼女らの前に1枚の写真を投げた。その中にはオレンジの長い髪に、触角のような1本の長いアホ毛が特徴的な少女が写っている。

 

 

「芽座椎名。知っての通り、今ではDr.A、鬼王ノヴァを倒し、二度世界を救った英雄として語られている…………『三聖騎シスターズ』ども、奴の持つ2枚のロイヤルナイツ『デュークモン』と『マグナモン』を回収して来い。手段は問わん」

 

 

全ては葉月様のために………!!

 

 

葉月から『三聖騎シスターズ』と呼ばれる3人の少女達。彼女らは親愛なる彼からの命を受けると、まるで忍者のように影へと姿を眩ました。

 

これは、芽座椎名の最後の物語…………

 

 

 

******

 

 

鬼王ノヴァによる脅威が去ってから3年が経過した。

 

世界を二度救った英雄となった芽座椎名は今、界放市を離れ、1人楽しく世界各地を放浪していた。

 

 

「シーズグローリー………結構強いな、コレ」

「お嬢さんお目が高いね。そいつはここら辺では一点物のレアカードでさぁ」

「お嬢さんはよしてくれよ。私こう見えて21なんだ」

 

 

今現在はヨーロッパの辺境にいる。よく言えば趣がある、悪く言えば信じられない程田舎臭い、そんな場所だ。

 

その中でもここはカード市場らしく、多種多様なカード達が売買されていた。そこで椎名が目をつけたのは、腹巻をしたヨーロッパと言う場所には似つかわしくない姿をした男性が売買していた「シーズグローリー」と言うマジックカード。

 

 

「バカ言え〜〜ワシから見れば21なんてまだまだ立派なお嬢さんよ、ガハハハ!!!」

「………はは」

 

 

取り敢えず苦笑いしておく。

 

 

「こんなべっぴんさんに会えるたぁ、今日は吉日だな。よし、そのカードは記念に持って来な」

「マジ、くれるの!?……サンキューおじさん!!」

「おう、コレも何かの縁ってな!!」

 

 

カード市場の男性からカードを貰い受ける椎名。顔が良いのは得するもんだなぁと思うと、そのカードを腰にあるデッキケースへとしまった。

 

こんな感じで世界各国を渡り歩き、人々、カードバトラーと交流していく事が、今の椎名の楽しみの1つであった。

 

しかしそんな時だ。

 

 

「あ………あぁァァァー!!!」

「ッ……この喧しい声………まさか」

 

 

右方向から女の子の声が聞こえて来た。そのうるさく喧しい声は椎名に界放市にいた頃の記憶を強く甦らせるモノであって…………

 

 

「椎名先輩!!……ようやく見つけたっスよ!!!」

「こ、五町……なんでアンタこんな所にいんのよ!?」

「そりゃまぁ椎名先輩いる所に私有り!!……スからね!!……ジークフリード校を卒業してから早1年、ずっとずっと追いかけ続けたんスから!!」

 

 

小柄で、黒く長い髪をシュシュで束ねているこの少女の名は岬五町。椎名の2つ下の後輩であり、彼女を誰よりも崇拝している存在である。

 

芽座椎名がバトスピ学園ジークフリード校を卒業してから3年、2人はこうして再び巡り合った。当の椎名は面倒臭そうな表情を見せているが…………

 

 

「まさか3年越しにまたアンタの顔と声を拝まないと行けなくなるとは…………」

「ガーーーン!!!……ひどいっスよ、なんスかその言い方!!………って、アレ??……そう言えば今は一木花火さんと一緒に旅してるんじゃなかったんスか?」

 

 

五町が椎名に聞いた。一木花火とは世界的にも有名なプロのカードバトラーであり、今の椎名の兄貴分みたいな存在である。椎名は卒業後、彼と2人旅をしていたのだ。

 

 

「あぁ、花火さんはプロリーグに参加中だからね。だからこうして今は1人旅……………アンタこれ一般常識じゃない?」

「え??……いや〜〜ここ1年、椎名先輩を探す事だけを考えて来ましたからね」

「そうか」

 

 

その後五町は「そんな事より!!」と強引に話を切り替えて…………

 

 

「私、さっき町外れで面白いモノ見つけたんスよ!!……椎名先輩にも是非見て欲しいっス!!」

「え、あ、おい!!……パーカーの袖引っ張んな!!」

 

 

相変わらずの嵐のような竜巻のような強引振りを発揮する五町。憧れの椎名を引っ張り、町外れで見つけたある場所へと案内するのであった…………

 

 

******

 

 

「ここ、ここっすよ!!」

「………なんだよここ………洞窟?」

 

 

椎名が五町に連れて来られたのは、トンネルよりも大きな入り口をした、大きな大きな洞窟。

 

 

「どうスか?……なんだか冒険の匂いがプンプンしないスか!?」

「うるさいぞ五町。Bパッドで地図を調べた感じだと、この場所にあるのは洞窟じゃなくてただの草原っぽいな」

「えぇ!!……それって地図にも載ってない無敵のダンジョンじゃないスか!!」

「………無敵要素、どこ?」

 

 

突如出現したかもしれない洞窟に興奮する五町。そんな好奇心旺盛な彼女とは裏腹に、椎名はこの洞窟の最奥部からなにやら嫌な予感を感じ取っていて…………

 

 

「兎に角入ってみましょうよ!!」

「…………そうだな。念のため、調べてみるか」

「よし決まり!!……それじゃあ早速、レッツゴーッスよ!!」

 

 

不穏な何かを感じずにはいられないこの洞窟。何かが始まってからでは遅いと考えた椎名は、五町と共にこの洞窟へと足を踏み入れる事にした。

 

 

******

 

 

歩き始めてから約30分と言った所か、ようやく洞窟の最奥部に到着する。

 

コレまでの道中、コウモリなどの洞窟にいそうな生物も全く見つからず、ただの岩の塊を歩き続けただけだった。最奥部も、言うなればただの大きな空間の行き止まりと言った感じで、変わった所と言えば、天井がなく、陽の光が差し込んで来ていた事くらいだ。

 

 

「…………何もないスね」

「あぁ、何もないな」

 

 

本当に殆ど何も存在しない。嫌な予感がして警戒していた椎名だったが、この拍子抜けの最奥部を見て「考え過ぎか」と気を改める。

 

しかし…………

 

異変が起きるのは洞窟の内部からではなく、椎名のデッキからであり…………

 

 

「ッ………なんだ、デッキが光って」

 

 

椎名の腰にあるデッキケースが光る。するとそこから光源であろう2枚のカードが飛び出して来た。

 

そのカードは彼女のデッキの代表格でもあるロイヤルナイツ『デュークモン』と『マグナモン』…………

 

 

「デュークモンにマグナモン………ロイヤルナイツの2枚」

「五町離れろ、やっぱり嫌な予感は的中していた。デュークモンとマグナモンの力に呼応して、何かが来るぞ………!」

 

 

椎名はデュークモンとマグナモンの異変に反応するように何かがこちらに向かっている事を察知した。

 

いや、どちらかと言えば共鳴し合っているとでも言うべきか。ロイヤルナイツの2枚と共鳴すると言う事は、そのカードもまた…………

 

 

「………!!」

「なんスかァァァー!?!……じ、地面からカードが飛び出たァァァー!?!」

 

 

椎名は気づいていた。この地に眠っていたのはロイヤルナイツのカードである事を。デュークモン、マグナモンとの共鳴によりそれが永き眠りからそれが解き放たれたのだと…………

 

そして、その復活したロイヤルナイツの名前は…………

 

 

「エグザモン………デュークモン達と同じ、世界に13種、1枚ずつしか存在しない、伝説のデジタルスピリット。エニー・アゼムと芽座一族を繋ぐピース」

 

 

久し振りに新しいロイヤルナイツと遭遇した。椎名がロイヤルナイツを見て思い出す事はただ1つ、兄である芽座葉月だ。

 

彼の顔や告げられた様々な言葉が彼女の脳裏を横切る。

 

 

「ほえ〜〜……これがエグザモン。伝説のロイヤルナイツの1体スか。世界を駆けて見るもんすね!!……こんなお宝カードをゲットできるなんて」

「…………」

 

 

葉月の事を考えている間に、五町が宙に浮かんでいた『エグザモン』のカードを手に取った。対する『デュークモン』『マグナモン』は役目は果たしたと言わんばかりに椎名のデッキケースの中へと帰って行く。

 

伝説のデジタルスピリットカードが復活と言う熱い展開からやや熱りが冷めたこの瞬間、椎名が五町に告げた。

 

 

「………所で五町。ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「ん?……何スか、何でも聞いてください」

「………オマエは誰だ?」

「!?!」

 

 

目の前にいる五町に、椎名がそう告げた。

 

その言葉は、今目の前にいる五町に対して偽物だと言っているのと同義。

 

 

「い、いやだなぁ椎名先輩。オマエは誰って、どこからどう見ても私は岬五町。貴女を慕う後輩スよ」

「五町の事を調べてるようだけど、甘いな。アイツは私の事を「先輩」とは呼ばない………アイツはどんな時でも私を「姐さん」って呼ぶんだ」

「!!」

「もう一度聞く、オマエは……誰だ」

 

 

そう。

 

実際は呼吸の仕方や歩き方などから違和感を覚えていたが、この呼び方が決めてになった。岬五町は常に芽座椎名の事を「姐さん」と呼ぶのだ。あの聞く耳のなかった彼女が急にそれ以外の呼び方をするのは考えられない。

 

 

「…………あーあ、バレてたのか、流石は世界を二度も救った英雄様。変装と演技には自信があったんだけどな」

「………狙いは今オマエが手に持つエグザモンか?」

「あぁ、あそこにエグザモンのカードがあるのはハナから知っていたぜ。ロイヤルナイツはロイヤルナイツに共鳴するからな。テメェのデュークモンとマグナモンを近づければ反応するかと思ったんだよ」

 

 

五町の偽物はその本性を表す。女性である事には変わりないようだが、本当の声は思ってたよりもかなり若い。おそらく実際の五町よりも若い子なのだろう。

 

そして彼女は五町の顔を模ったマスクを取り外し、その血のように赤い髪を晒す。

 

 

「しょうがねぇから名乗ってやんよ。アタシ様の名は『ルージュ』………芽座葉月様に仕える『三聖騎シスターズ』の1人だ」

「ッ………葉月に仕える……!?」

 

 

赤い短髪の少女がその正体を椎名に明かす。年齢は16程度と言った所か、どうやら彼女は椎名の兄である葉月に仕えている存在のようである。

 

 

「ルージュとか言ったな……今葉月はどうしてる、まさかまだロイヤルナイツを集めているのか?」

「当然だ。アタシらが愛する葉月様はロイヤルナイツを全て集め、最強のカードバトラーになる男…………そして、その悲願はもうすぐ達成される!!」

「…………」

 

 

葉月と最後に会ったのは4年前。Dr.Aと戦った時以来だ。彼女の口振りから察するに、おそらく今では殆どのロイヤルナイツを収集したに違いない。

 

 

「そしてつい先日、葉月様がアタシら三聖騎シスターズにある1つの命令を下した。『芽座椎名の持つ2枚のロイヤルナイツを回収して来い』ってな」

「………やっぱり、私のデュークモンとマグナモンも回収する気か」

 

 

ルージュは宣戦布告するようにそう告げると、懐から己のBパッドを取り出し、左腕に装着し、展開。さらに手に入れたばかりのエグザモンをデッキに投入し、Bパッドへとセットした。

 

 

「さぁ来いよ英雄様。このバトルにアタシ様が勝ったら、2枚のロイヤルナイツをいただくぜ」

「………どうやら、避けては通れなさそうだな」

 

 

相手はあの因縁の相手葉月の僕。逃れられない戦いであると察した椎名もまた、Bパッドを展開し、デッキをセットした。

 

 

「私が勝ったら、葉月の居場所を吐いてもらうぞ………アイツには伝えたい事があるんだ………絶対に」

「ハッ……別にいいぜ、このアタシ様に敵うってんなら、かかって来やがれぇぇぇぇえ!!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

ロイヤルナイツのカード『エグザモン』が眠っていた陽の光が差し込む洞窟。その最奥部にて、芽座椎名とルージュによるバトルスピリッツが開始される。

 

先行はルージュだ。エグザモン、ロイヤルナイツ使ってバトルするのが余程楽しみだったのか、狂気に満ちた笑みを浮かべながらそのターンを進めていく。

 

 

[ターン01]ルージュ

 

 

「アタシ様のメインステップ!!……赤のネクサスカード、ドラゴンズミラージュを配置!!」

 

 

ー【ドラゴンズミラージュ】LV1

 

 

たちどころに、ルージュの背後から赤いドラゴンの紋章が出現した。このカードから察するに、彼女は赤デッキの使い手である事が窺える。

 

 

「見た目通り、赤のデッキか」

「おうよ!!……アタシ様のデッキは昔々から真っ赤っかだぜ、ターンエンド」

手札:4

場:【ドラゴンズミラージュ】LV1

バースト:【無】

 

 

自分のロイヤルナイツを賭けたこのバトル、椎名としては負けるわけにはいかない。気を引き締め、己のターンを開始していく。

 

 

[ターン02]芽座椎名

 

 

「メインステップ!!……私もネクサスカード、ディーアークをLV2で配置する」

 

 

ー【ディーアーク】LV2(2S)

 

 

椎名の腰に手のひらサイズの機械が装着される。これはデジタルスピリットを大きくサポートするネクサスカードの1種だ。これを配置するしないで、彼女のデッキの回転率は大きく変わる。

 

 

「ターンエンド。さぁ、どこからでも来い!!」

手札:4

場:【ディーアーク】LV2

バースト:【無】

 

 

そのターンをエンドとする椎名。一周回り、ルージュのターンが始まる。

 

 

[ターン03]ルージュ

 

 

「アタシ様のターン、ドローステップ時にドラゴンズミラージュの効果でドロー枚数を1枚増やし、その後1枚破棄………ロケッドラのカードを捨てるぜ」

 

 

ドラゴンズミラージュの持つ効果は赤属性には多い、ドローステップ時のドロー増加。その代償として、彼女は手札から1枚をトラッシュへと破棄した。

 

 

「メインステップ………もう1枚ドラゴンズミラージュを配置だ」

 

 

ー【ドラゴンズミラージュ】LV1

 

 

ルージュが配置したのは2枚目となるドラゴンズミラージュ。これにより、彼女は次のターンのドローステップではデッキから3枚引き、その後2枚を捨てる事となる。

 

バトルスピッツと言うカードゲームにおいて、デッキを引き進めると言う行為がどれだけ強い動きなのかは計り知れない。それだけでこの状況、ルージュの方が椎名よりも先行していると言える。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:4

場:【ドラゴンズミラージュ】LV1

【ドラゴンズミラージュ】LV1

バースト:【無】

 

 

緊張感漂うこのバトル、互いに1体もスピリットを召喚せぬまま、第4ターン目へと突入して行く。

 

 

[ターン04]芽座椎名

 

 

「メインステップ………意外と消極的だな。そっちから来ないなら、こっちから行くぞ……!!」

「へへ」

 

 

ルージュは椎名の強者としての気迫を受けても尚、臆さず、寧ろ鼻で笑うと言う軽い態度を見せる。

 

 

「ブイモンを召喚!!」

 

 

ー【ブイモン】LV1(1)BP2000

 

 

このバトルで初めてスピリットを呼び出したのは椎名。青き小さな竜、ブイモンがこの場に召喚される。

 

やる気は満々と言った所か、ブイモンはその両拳をぐっと握り締め、そのやる気を示す。

 

 

「召喚時効果、デッキから2枚オープンし、その中にある対象のカードを1枚手札に加える…………よし、私はこのカード『メガログラウモン』を手札に加えて、残りはトラッシュへ破棄。さらにディーアークの効果、同名でターンに一度、デジタルスピリットが召喚、または煌臨した時、デッキから1枚ドロー!」

 

 

ブイモンとディーアークの効果で手札を加速させる椎名。そしてまだまだこんなモノではない。

 

 

「手札から【アーマー進化】を発揮!!……対象はブイモン」

「!!」

「ディーアークから1コストを支払い、対象となったブイモンを手札に戻す事で現れよ!!……轟く友情、ライドラモンッッ!!」

 

 

ー【ライドラモン】LV1(1)BP5000

 

 

ブイモンの頭上に黒色の友情のデジメンタルが投下される。ブイモンはそれと衝突し、新たなる姿へと進化を果たす。

 

それは黒き鎧を身につけた獣型のアーマー体デジタルスピリット、ライドラモン。今青き稲妻を纏いて、椎名の場へと参上する。

 

 

「ライドラモンの召喚時効果、ボイドからコア2つを私のトラッシュに追加する」

 

 

登場するなり雄叫びを張り上げるライドラモン。その影響により、椎名のトラッシュにコアの恵みが与えられた。

 

 

「アタックステップ、駆け抜けろライドラモン!!」

「………ライフで受けるぜ」

「くらえ!!……青き稲妻、ブルーサンダー!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ルージュ

 

 

ライドラモンの一角より放たれし青い落雷はルージュのライフバリアへと直撃し、それを1つ砕く。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:6

場:【ライドラモン】LV1

【ディーアーク】LV1

バースト:【無】

 

 

椎名は呼び出したライドラモンで先制点を与え、そのターンをエンドとする。次はルージュのターン、再びターン開始直後にドラゴンズミラージュの効果が発揮されて…………

 

 

[ターン05]ルージュ

 

 

「ドローステップ。2枚のドラゴンズミラージュの効果と合わせてデッキから3枚ドロー、その後2枚捨てる」

 

 

このバトルが始まってからと言うモノ、常にドローを加速し続けているルージュ。だがこのターン、椎名に合わせてようやくスピリットカードを召喚して行く…………

 

 

「メインステップ………アタシ様は宙征竜エスパシオンを召喚するぜ」

「!」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン】LV2(3)BP7000

 

 

赤のシンボルが砕け散ると共に出現したのは、鋼鉄の武装を装備した赤きドラゴン、宙征竜エスパシオン。それは現れるなり、椎名を威嚇するように機械音混じりの咆哮を張り上げる。

 

 

「召喚時効果、BP7000以下のスピリット1体を焼く」

「!!」

「消えなライドラモン!!」

 

 

エスパシオンは口内から炎のブレスをライドラモンへ向けて放つ。それに飲み込まれたライドラモンはたちまち焼き尽くされて爆散した。

 

 

「さらにアタックステップ開始時。エスパシオンのLV2からの効果、トラッシュのコア5つまでを自身に追加。手札が4枚以下なら2枚ドロー………アタシ様の手札は4枚、よって2枚引きつつ、エスパシオンのLVもアップだ」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン】(3➡︎6)LV2➡︎3

 

 

「ッ……コアの回収とドローを両立できるのか」

「ハッ!!……アンタらの生温いカードの時代はとうに終わってんのさ!!……言って来なエスパシオン、アタックだ」

 

 

厄介な効果を持つエスパシオン。今度はライドラモンではなく、椎名に向けて炎のブレスを放って来た。

 

スピリットのいない椎名はこれをライフで受ける他ない。

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉芽座椎名

 

 

エスパシオンの炎のブレスがそのまま彼女のライフバリア1つを焼き払った。互いにライフ4同士だが、エスパシオンがフィールドにいる分、ルージュの方がやや優勢に立ったと言った所か。

 

 

「ターンエンド。どうしたどうしたぁ??……エスパシオン程度に臆してんのかよ、伝説の英雄様の実力がこんなモンか??」

手札:6

場:【宙征竜エスパシオン】LV3

【ドラゴンズミラージュ】LV1

【ドラゴンズミラージュ】LV1

バースト:【無】

 

 

「ふ……いや、ちょうど面白くなって来たなって、思っただけだ」

「何笑ってんだよ、気持ち悪い」

 

 

どんなバトルでも、バトルを楽しむ心を常に忘れない椎名。劣勢の中でも口角を上げながら、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン06]芽座椎名

 

 

「メインステップ………メガログラウモンをLV2で召喚!!」

 

 

ー【メガログラウモン】LV2(3)BP9000

 

 

「ディーアークの効果で1枚ドロー」

 

 

大地を砕き、飛び出して来たのは赤き完全体デジタルスピリット、メガログラウモン。上半身に装着された強靭な武装が何よりも印象に残る見た目をしている。

 

 

「アタックステップ!!……メガログラウモンでアタック、その効果で先ずはデッキから2枚ドロー。そしてもう1つの効果で、シンボル1つのスピリット1体を破壊!!」

「!!」

「エスパシオンを破壊だ………原子の咆哮……アトミックブラスター!!」

 

 

肩部の武装にエネルギーを溜め、極太のレーザー砲を放つメガログラウモン。それはエスパシオンに直撃、跡形もなく消し飛ばして見せた。

 

 

「ッ……エスパシオンを一撃で吹き飛ばしただと!?」

「その程度で狼狽えるなら、まだまだだな」

「なに!?」

「フラッシュ【煌臨】を発揮、対象はアタック中のメガログラウモン!!」

 

 

コストとしてリザーブのソウルコアをトラッシュに置き、スピリットカードにスピリットカードを重ね合わせ、さらなる進化を遂げる効果【煌臨】………

 

椎名はたった今その効果発揮の宣言を行ったが、ルージュは速攻で理解した。この状況このタイミング、呼び出されるのは間違いなくあのスピリットだと言う事を…………

 

 

「来い、赤きロイヤルナイツ……デュークモンッッ!!」

 

 

ー【デュークモン】LV2(3)BP14000

 

 

メガログラウモンが0と1のコードに包み込まれ、その中で姿形を大きく変貌させて行く。やがてそれは周囲のコードを弾き飛ばし、その姿をフィールドに晒す…………

 

現れたのは白き鎧、槍、盾を備えた聖騎士型の究極体デジタルスピリット『デュークモン』…………

 

伝説のロイヤルナイツの1体でもあり、且つ芽座椎名のデッキのエースカードである。

 

 

「こ、これが………芽座椎名のデュークモン」

 

 

さっきまでの勢いはどこへ行ったのか。ルージュは芽座椎名と彼女の操るデュークモンの姿に無意識の内に怯え、あとずさる。

 

別にルージュが情けないわけではない。ただそれ程までに強力なカードバトラーとそれが操るエースカードの揃い踏みは、対戦相手に恐怖を与えるだけなのだ。

 

 

「さらにフラッシュ……デュークモンのアタック時効果、ターンに一度、トラッシュから滅龍スピリットカード1枚を手札に戻す事で回復する」

「!!」

「私はトラッシュにあるギルモンを手札に戻し、デュークモンを回復させる……!!」

 

 

椎名がトラッシュにあるギルモンのカードを手札に戻すと、フィールドにいるデュークモンは瞬間的に赤いオーラをその身に纏う。

 

これは回復状態となった証。この行動が終わった後でも、デュークモンはアタック、ブロックが可能となる。

 

 

「マジかよ回復………ギルモンなんていつトラッシュに送ったよ」

「ブイモンの召喚時効果だ。あの効果でオープンされ、その後トラッシュに行ってた」

「くっ………あの時」

「行け……デュークモン!!」

 

 

芽座椎名のデッキに死角はない。一見色も効果もバラバラのスピリット達だが、彼女はそれら全てを手足を動かすかのように容易に纏め上げる…………

 

だからこそ彼女は伝説のカードバトラーの肩書きを持つのに相応しい。

 

 

「ら、ライフで受ける………」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉ルージュ

 

 

接近するデュークモン。ルージュのライフバリアを右腕の聖槍で刺突、難なく貫き、破壊した。

 

 

「………ターンエンド」

手札:8

場:【デュークモン】LV2

【ディーアーク】LV1

バースト:【無】

 

 

回復したデュークモンで再度アタックは無し。ブロッカーとして次のターンを乗り切る選択肢を取った椎名。

 

ターンが終わり、次のルージュへとターンが回って来るが…………

 

 

「………デュークモン、そしてそれを扱う芽座椎名か」

「?」

 

 

アレだけ声を張り上げて続けていた少女、ルージュ。何故か急に静かになり、小言を呟く。

 

だが椎名は見逃さない、その声に隠れた不敵な笑みを。

 

 

「………ア、アッハハハ!!!……こりゃあいい、ぶっ壊し甲斐がありそうだぜ!!」

「!!」

 

 

急に静かになったかと思えばまた大声を出して喧しくなる。

 

どうやら、まだまだ椎名に勝利を明け渡してくれる気にはなっていないみたいだ。ルージュは跳ね上がったテンションに身を任せ、巡って来たターンシークエンスを進めて行く。目の前の強敵を倒すために…………

 

 

[ターン07]ルージュ

 

 

「ドローステップ時、ドラゴンズミラージュ!!」

 

 

またもやネクサス、ドラゴンズミラージュの効果が2枚分適用。ルージュはデッキから3枚ドローし、その後2枚をトラッシュに破棄した。

 

そして、どうやらそのドローで良いカードを引き込めたのか、彼女はまた不適に笑う。

 

 

「メインステップ!!……先ずは3枚目のドラゴンズミラージュを配置」

 

 

ー【ドラゴンズミラージュ】LV1

 

 

3枚目のドラゴンズミラージュがルージュの背後に出現する。そして直後に彼女はまた別のカードを手札から1枚引き抜き…………

 

 

「遂に来たぜ来たぜ!!……アタシ様がロイヤルナイツを使う時が!!」

「ッ………まさか」

 

 

椎名は察した。ルージュがこのターン、何をドローしたのかを、そして今から何を召喚するのかを…………

 

 

「そのまさかだ!!………来い、全てのドラゴンの頂点に立つ、竜帝よ!!……目の前の奴ら全てを焼き払え!!……召喚、ロイヤルナイツ……エグザモン!!」

「!!」

 

 

ー【エグザモン】LV2(3)BP25000

 

 

ルージュの背後にある3つのドラゴンズミラージュが途端に破裂していく。それに合わせ、彼女のフィールドからマグマが吹き荒れ、そこから飛び出して来る巨大な竜の影が1つ…………

 

その名はエグザモン。ロイヤルナイツの1体であり、その体格は同じロイヤルナイツであるデュークモンを遥かに凌ぐ。

 

良くも悪くもロイヤルナイツに似つかわしくないその竜帝たる姿は、椎名を驚愕させるには余りにも十分すぎる素材であった。

 

 

「このスピリットは自分の場にある赤一色且つコスト4以上のスピリット、ネクサスを3つまで破壊する事で、破壊した数1つにつきその召喚コストを4下げる。アタシ様は3枚のドラゴンズミラージュを破壊する事で、この12コストもあるエグザモンをノーコストで呼び出したってわけだ」

「…………」

「さぁここからが本番だぜ英雄様ぁ………このエグザモンで、全て燃えカスにしてやんよォォォォォォ!!!!」

 

 

竜帝は兎に角吠える、吠える、吠える。

 

ルージュもまた、吠える、吠える、吠える。

 

2体のロイヤルナイツが揃い、戦いはさらに苛烈して行く事だろう…………

 




オバエヴォ完結から2年と半年。大変長らくお待たせ致しました。
本気の完結編、始動です。(全7話か8話の予定です)

エグザモンはオリカです。詳細は次回。

目標としては、続編である『バトルスピッツ 王者の鉄華(https://syosetu.org/novel/250009/)』に繋がるよう終着させて行きたいですね。


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EP2「真紅VS竜帝」

「これが6枚目のロイヤルナイツ、竜帝のエグザモン………」

 

 

ロイヤルナイツを賭けた芽座椎名と三聖騎シスターズの1人、ルージュによるバトルスピリッツ。

 

中盤にエースたるスピリット、デュークモンを呼び出した椎名に対して、ルージュも赤き巨大なる竜帝、エグザモンを繰り出した。この2体のロイヤルナイツが、このバトルをさらに加速させる。

 

 

「行くぜ、エグザモンの召喚アタック時効果!!」

「!!」

 

 

手のひらを天に掲げ、ルージュはエグザモンの強大な効果の発揮を宣言する。

 

 

「1ターンに一度、シンボル合計3つまで相手スピリット、ネクサスを好きなだけ焼ける!!」

「なに……!!」

「当然、アタシ様はアンタの場にあるデュークモンとディーアークを選択。焼き払い吹き飛ばせ………ドラゴニックインパクトッッ!!」

 

 

天空へと急上昇するエグザモン、そのままデュークモンへと狙いを定めて急降下。まるで隕石の落下を思わせるようなその突進は、衝突して仕舞えば間違いなくデュークモンは木っ端微塵に粉砕されてしまう事だろう。

 

ただし、衝突して仕舞えばの話ではあるが………

 

 

「デュークモンが相手の効果の対象になったこの瞬間、私は手札から赤のブレイヴカード、グラニの効果を発揮!!」

「!!」

「このカードを召喚する事で、デュークモンはこのターンの間相手の効果で破壊されない………来い、グラニ!!」

 

 

ー【グラニ】LV1(1)BP6000

 

 

エグザモンの航路を遮断するかのように出現したのは、赤きブレイヴ、グラニ。その力により、デュークモンを囲うように赤いバリアを展開。

 

椎名のバトルスピリッツの歴史において、幾度となくデュークモンはこの力によって守られ、逆転の道を作り上げて来た。

 

だが…………

 

 

「そう来るのは想定済みなんだよ!!……エグザモンのこの効果は、相手の効果で防げない!!」

「ッ……なんだって!?」

「よって、グラニのバリアを突き破り、エグザモンはデュークモンを焼き吹き飛ばす!!」

 

 

衝突するエグザモンとグラニのバリア。しかしそれはエグザモンの咆哮によって呆気なく掻き消されてしまい、エグザモンのドラゴニックインパクトはデュークモンへと直撃。

 

デュークモンは激しい断末魔を上げながら爆散。その衝撃の余波は椎名の腰にあるディーアークも粉砕して行く。

 

 

「くっ……デュークモン!!」

「そしてこれが本命のアタック!!」

「ッ……ライフで受ける!!………ぐうっ!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉芽座椎名

 

 

その強力無比な効果によりデュークモンを葬り去ったエグザモン。今度はその剛腕に備え付けられた巨大な槍を使い、椎名のライフバリアを1つ突き破った。

 

 

「ターンエンド!!……どうだこれがアタシ様が長年追い求めて来たロイヤルナイツ、エグザモンの力だ!!……そんじょそこらのロイヤルナイツとは比べようがないんだよ!!」

手札:5

場:【エグザモン】LV2(3)BP25000

バースト:【無】

 

 

結果的に椎名の場にはグラニだけが残る。ルージュはデュークモンを倒した事により、自身が今かなり優位性を保っている事を自覚し、そのターンをエンドとした。

 

次は椎名のターンだ。挽回すべく、ターンシークエンスを進めて行く。

 

 

[ターン08]芽座椎名

 

 

「メインステップ………ブイモンを再召喚」

 

 

ー【ブイモン】LV1(1)BP2000

 

 

小型の青い竜、ブイモンが再び椎名の場に姿を見せる。

 

 

「召喚時効果、デッキから2枚オープンし、その中にある対象のカードを1枚手札に加えられる………」

 

 

だが、今回の対象カードは0枚。手札は増えずにトラッシュだけが肥える。しかし、ブイモンの召喚時効果の真骨頂はここからだ。

 

 

「そしてその後、手札から緑の成熟期スピリットを2コストで召喚する…………来い、スティングモン!!」

 

 

ー【スティングモン】LV1(1)BP5000

 

 

「召喚アタック時効果でボイドからコア1つを自身に追加」

 

 

グラニ、ブイモンに続いて現れたのはスマートな昆虫戦士スティングモン。その効果でコアが1つ追加される。

 

そして椎名はまだまだこれからだと言わんばかりに、手札からさらに1枚のカードを引き抜き…………

 

 

「手札から【アーマー進化】を発揮!!……対象はブイモン!!」

「!!」

「デュークモンでダメなら、コイツで勝負だ………ロイヤルナイツ、黄金の守護竜……マグナモンッッ!!」

 

 

ー【マグナモン】LV2(2)BP8000

 

 

黄金の輝きを解き放ち、ブイモンがアーマー進化。黄金の鎧をその身に纏う守護竜、マグナモンの登場だ。

 

 

「2体目のロイヤルナイツ……今度はマグナモンか」

「召喚時効果、相手の場の最もコストの低いスピリット1体を破壊する」

「!!」

「今のアンタのスピリットはエグザモンのみ………よってそれを破壊する!!……黄金の波動……エクストリーム・ジハード!!」

 

 

マグナモンが固く両手に力を込めると展開される黄金の波動。それはエグザモンを呑み込まんと、徐々に徐々にと迫って行くが…………

 

 

「!?!」

 

 

破壊できると思った直後、エグザモンは咆哮1つでマグナモンの放った黄金の波動を打ち破ってしまう。

 

 

「フ……残念だったな。エグザモンは効果で破壊されねぇ、マグナモンの効果は無効だぜ」

「くっ……そんな効果まで……だけどまだ私のターンは死んでない。手札からブイモンを再召喚!!」

 

 

ー【ブイモン】LV1(1)BP2000

 

 

三度現れるブイモン。その召喚時効果も発揮されるが、今回も不発に終わった。

 

エグザモンを倒す事もできず、一見椎名の不利に見えて来るこの状況だが…………

 

 

「エグザモンが如何に強力なロイヤルナイツでも、疲労状態ならバトルに参加はできない」

「…………」

「行くぞみんな、アタックステップだ!!」

 

 

ルージュの場には疲労状態のエグザモン1体しか存在しないのに対し、椎名の場には合計4体のスピリット。ここを勝機とみた椎名は果敢にアタックを行っていく…………

 

 

「スティングモンでアタック!!……その効果でコアを増やし、LV2にアップ!!」

 

 

スティングモンが地を駆け抜ける。その召喚アタック時効果でコアが増え、LVアップ、BPは8000となる。

 

 

「その攻撃はライフで受けるぜ」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉ルージュ

 

 

スティングモンの拳がルージュのライフバリアへと刺さり、それを1つ砕く。残りライフは2となったため、残ったグラニ、ブイモン、マグナモンのアタックをいずれか2つ倒して仕舞えば彼女の敗北が確定してしまうが…………

 

それをそう易々とさせる訳もなく…………

 

 

「アタシ様のライフが減った事により、手札から白マジック、絶甲氷盾の効果を発揮!!」

「!!」

「このカードは自分のライフが減った時に手札からノーコストで効果を発揮できる優れ物!!……その効果で英雄様、アンタのアタックステップはこれで終わりだ!!」

 

 

椎名達の前に立ち塞がる氷壁。エグザモンは愚か、広大な洞窟の最奥部全体を取り囲むこの氷壁があっては、椎名のそのスピリット達はこれ以上のアタックができなくて…………

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:5

場:【ブイモン】LV1

【スティングモン】LV2

【マグナモン】LV2

【グラニ】LV1

バースト:【無】

 

 

椎名の宣言と共に氷壁は崩れ去る。だが既にターンはルージュに巡った、エグザモンを従えた、彼女の凶悪なターンが幕を開ける。

 

 

[ターン09]ルージュ

 

 

「メインステップ………アタシ様は2体目のエスパシオンを召喚する」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン】LV2(2)BP7000

 

 

機械の体を持つ強靭なドラゴン、エスパシオン。その2体目がルージュの場へと出現した。

 

 

「召喚時効果でブイモンを焼く!!」

 

 

エスパシオンの口内から放たれた炎のブレスが言葉通り、ブイモンを焼却。

 

 

「アタックステップ開始時。エスパシオンのもう1つの効果、トラッシュからコア5までを機竜スピリット、もしくはネクサスに戻し、手札が4枚以下なら2枚ドローする………トラッシュのコア4つをエスパシオンに追加、そして今のアタシ様の手札はきっかり4枚、2枚のカードを引かせてもらうぜ」

「くっ………」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン】(2➡︎6)LV2➡︎3

 

 

ルージュはエスパシオンの効果で、エグザモン召喚の際に失ったディスアドバンテージを取り戻していく。

 

そしてこの効果終了直後、場にいるエグザモンの眼光が光り輝いた。

 

 

「エグザモン、アタックだ!!……その効果でグラニ、スティングモン、マグナモンを焼き吹き飛ばす!!」

「くっ……マグナモンは相手のスピリット効果を受けない」

「バカタレ!!……その効果も貫通だよ、ドラゴニックインパクトッッ!!」

「ぐっうぅ……!!」

 

 

デュークモンを倒した時と同じ技を今一度繰り出すエグザモン。隕石の衝突のようなその衝撃波は椎名の場にいるグラニ、スティングモン、マグナモンの3体を一気に蹴散らして見せた。

 

これで椎名の場のスピリットは殲滅、再び場にカードがない状況に陥ってしまい…………

 

 

「オラァ!!……エグザモンのアタックは続いてるぞ!!」

「………ライフで受ける………ぐっ!?!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉芽座椎名

 

 

今度は口内から炎のブレスを放ち、椎名のライフバリアを1つ焼き払う。

 

この攻撃により、椎名のライフは残り2。先も言ったようにスピリットを殲滅させられた事から、かなり危機的な戦況と言える…………

 

 

「エスパシオンでアタックと言いたいとこだが、今回はやめといてやるぜ…………ターンエンド」

手札:6

場:【エグザモン】LV2

【宙征竜エスパシオン】LV3

バースト:【無】

 

 

エスパシオンで攻撃してもまだ椎名のライフを0にする事はできないからか、ルージュはエスパシオンをブロッカーとして残し、そのターンをエンドとした。

 

次は巡り巡って、椎名のターンとなるが…………

 

 

「もう諦めな!!」

「!?」

「このバトル、アンタはアタシ様には勝てない」

 

 

そのターンが始まる直前、ルージュが椎名に対して勝ち誇った態度を見せながらそう告げて来た。

 

 

「なんでそう思う」

「はぁ?……見りゃわかんだろ。アンタの2体のロイヤルナイツ、デュークモンとマグナモンはこのエグザモンに倒され、場のカードも0………こりゃもうアタシ様が勝ったも同然!!……弱い者イジメは嫌なんでなぁ、さっさとサレンダーしてそのカードだけ寄越しやがれよ」

 

 

誰が見ても一目瞭然の戦力差、何よりエグザモンの体格の大きさがよりそれを流暢に表している。

 

彼女の言うように、確かにデュークモンとマグナモンは効果の相性もあり、エグザモンに破れ去った。ロイヤルナイツのカードを持つ者同士のバトルにおいて、ロイヤルナイツを制する事はそれだけで勝利を意味していると言っても過言ではない。

 

だが、それはあくまで普遍的な考え方での話。世界を二度も救った英雄である芽座椎名にその考え方は決して通用しない。

 

 

「フ………甘いな」

「なに!?」

「バトルはロイヤルナイツだけで戦うモノじゃない。自分が選んだ、40枚以上のカード達で戦うモノだ…………例えデュークモンやマグナモンが倒れても、残った38枚で、私は必ず勝機を掴み取る……!!」

「………ザレゴトを」

 

 

そこまで強く言い切ると、椎名は自分のデッキに手を掛け、ドローの構えを取る。

 

 

「それに、まだ私のロイヤルナイツも、完全に倒れた訳じゃない」

「!?!」

「行くぞ、私のターン!!」

 

 

迎えた椎名のターン、コアが増え、彼女はカードをドローして行く…………

 

 

[ターン10]芽座椎名

 

 

「メインステップ!!……ギルモンを召喚」

 

 

ー【ギルモン】LV3(4)BP6000

 

 

このターン、場のカードが0枚となった椎名がはじめて投入したカードは、真紅の魔竜、成長期の姿であるギルモン。その召喚の余韻に浸らず、椎名は手札のカードをさらに使用していく。

 

 

「マジックカード、ブルーカードを発揮!!」

「!!」

「このカードは、デッキからカードを4枚オープンし、その中からギルモンと同じ、赤一色のデジタルスピリットを進化召喚する事ができる………行くぞ、カードオープン!!」

 

 

デジタルスピリット専用のマジック『ブルーカード』…………

 

そのカードの効果で椎名のデッキの上から4枚がオープンされる。『ワームモン』『パイルドラモン』『フレイドラモン』と言ったカード達が次々とオープンされ、最後の4枚目にギルモンと同じ赤一色のカード『デュークモン クリムゾンモード』のカードが捲れた…………

 

そのカードを視認するなり、椎名の口角は上がる。

 

 

「よし、私はギルモンをデッキの下に戻す事で、このカードを召喚する……!!」

「チィッ………引きやがったか」

「燃え上がれ聖騎士!!………真なる深い赤をその身に纏い、邪悪なる者皆、照らし破れ!!………デュークモン クリムゾンモード、LV3で召喚ッッ!!」

 

 

ー【デュークモン クリムゾンモード】LV3(4)BP21000

 

 

ギルモンが出現したブルーカードをくぐり抜けると、グラウモン、メガログラウモン、デュークモンを飛び越え、その最終進化形態『デュークモン クリムゾンモード』へと進化を遂げる。

 

文字通り真なる深い赤の鎧をその身に纏い、10枚の白い翼を羽ばたかせ、それは椎名の場へと顕現した。

 

 

「こ、これがデュクモン クリムゾンモード………ロイヤルナイツのデュークモンがさらに進化を超えた姿…………」

「あぁ、このスピリットはアタックしたバトルの終了時、相手のトラッシュにあるスピリットカード3枚につき1つ、相手ライフを破壊する」

「!!」

「気づいたか?……アンタのトラッシュのスピリットカードは、ドラゴンズミラージュの効果で散々捨ててた影響で6枚。つまり、クリムゾンモードは今、バトルの終わりにライフを2つ破壊できる、そしてアンタのライフも残り2つだ………!!」

「…………」

「アタックステップ……翔け上がれ、クリムゾンモード!!」

 

 

持ち前の以上なまでの引きの強さで本当に勝機を見出して見せた椎名。クリムゾンモードが天高く舞い上がり、急降下、エスパシオン、エグザモンのいるフィールドへと侵略を始めるが……………

 

その直後に、ルージュはニヤリと笑みを浮かべ…………

 

 

「かかったな………フラッシュマジック、スクランブルブースター!!」

「!?」

「エグザモンを指定。このカードの効果で、このバトルの間、指定されたエグザモンは疲労状態でのブロックが可能となる!!………クリムゾンモードを迎え撃て!!」

 

 

疲労状態となっていて身動きをしていなかったエグザモンが、ルージュのマジックカードにより復活。突如としてクリムゾンモードに襲い掛かる。

 

右手に握られた極太の槍でクリムゾンモードを突き刺そうとするが、クリムゾンモードはそれを紙一重で回避した。

 

 

「知ってるぜ、クリムゾンモードの効果は自分がアタック中、最後まで生き残っていないと使えないって事をな!!」

「………」

「進化を超えたとは言え、所詮デュークモンはデュークモン………BP25000もある、このエグザモンの敵じゃねぇのさ!!」

 

 

体格差を活かしてクリムゾンモードを防戦一方の状況に追い込むエグザモン。クリムゾンモードはその攻撃を回避するので手がいっぱいだ。

 

 

「これで終いだ………焼き吹き飛ばせ、エグザモンッッ!!………ドラゴニックインパクトッッ!!」

 

 

エグザモンはクリムゾンモードにトドメを刺さんと、再び上空へと飛翔し、自身を隕石のように突進させる必殺技、ドラゴニックインパクトを発動する。

 

クリムゾンモードは白きオーラの力で盾を形成し、エグザモンのそれを受け止めようとするが、おそらくは時間の問題。やがて盾は消え、クリムゾンモードは破壊されてしまうだろう…………

 

芽座椎名の1枚がなければ…………

 

 

「フラッシュマジック……シーズグローリー!!」

「!?」

「このカードの効果で、このターンの間、エグザモンのBPをマイナス7000する!!」

「なんだと!?」

 

 

ー【エグザモン】BP25000➡︎18000

 

 

突如、もう一歩の所でクリムゾンモードを粉砕できると言う直前で、エグザモンに稲妻迸る神の槍が突き刺さる。余りのダメージにエグザモンは悲鳴を上げながら地面へと落下。

 

 

「これで、エグザモンのBPはクリムゾンモードを下回った」

「ッ………!?」

「いけ、クリムゾンモードッッ!!……無敵剣、インビンシブルソードッッ!!」

 

 

その隙を決して逃しはしない。クリムゾンモードは白きオーラの力で盾を剣に変え、エグザモンに向かって十字斬り…………

 

今までデュークモンやマグナモンなどのスピリット達を葬ってきたエグザモンだが、流石にこれは応えたか、激しい断末魔を上げながら無惨にも散って行った……………

 

 

「ア、アタシ様のエグザモンが………」

「そして、クリムゾンモードのアタック時効果……バトル終了時に、アンタのライフにダメージを与える」

「!?!」

「トドメだ………神槍の一撃………クォ・ヴァディスッ!!」

 

 

エグザモンを倒したクリムゾンモード。今度は槍を作り出し、それを天高くへと投擲する。そしてそれはやがて赤い光へとなって、ルージュのライフバリアへと滝のように降り注ぐ…………

 

 

「う、うァァァァァァァァ!?!!」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉ルージュ

 

 

もはや何も抵抗できず、ルージュの残った2つのライフバリアは粉々になり砕け散って行く。

 

これにより、勝者は芽座椎名だ。ロイヤルナイツのエグザモンにやや翻弄されながらも、見事に大逆転勝利を決めて見せた…………

 

 

「私の勝ちだな………でも、良いバトルだったよ」

 

 

バトルを締めるように椎名がルージュにそう告げると、彼女のカードの1枚、エグザモンが再び赤く光り輝き椎名の元へと飛び立った。

 

 

「!!」

「ア、アタシ様のエグザモンが……!?」

 

 

ロイヤルナイツは時代によって人を選ぶ。これまでも何度かカードバトラーの元を離れ、別のカードバトラーの元へと去って行くロイヤルナイツのカードが確認されている。

 

だから今回もきっとそう言う事なのだろう…………

 

 

「は、葉月様のために死に物狂いで探した、アタシ様の、アタシ様だけのロイヤルナイツが………!!」

「………」

 

 

余裕がなくなり続けるルージュ。椎名は何を思っているのか、手にしたその『エグザモン』のカードを見つめる…………

 

そしてその時……………

 

 

「ロイヤルナイツの中でも最も破壊力があると言われているエグザモンを倒すなんて、流石は芽座椎名…………世界を二度も救った英雄なだけはあるわね」

「!!………誰だ」

 

 

一瞬気を取られた隙に、ルージュの側に2人の女性がいた。1人はメガネを掛けた水色の長い髪の少女、もう1人は肩まで伸びた金髪の少女、おそらくこの金髪の方が椎名に声を掛けたものと思われる。

 

 

「私の名前はティア。ルージュと同じ三聖騎シスターズの1人です」

「私はスイート、スイート・サンダーボルト。三聖騎シスターズのリーダー」

 

 

メガネで水色の長い髪の少女の名はティア。金髪のリーダー格の少女の名はスイート。いずれにせよルージュを含めて皆個性的なメンバーだ。

 

 

「ほら、帰りますよルージュ………全く、もっと作戦を練ってから挑むってスイートに言われてたじゃないですか」

 

 

ティアがそう言いながら、片膝を突くルージュに肩を貸すが…………

 

 

「ダメだ、帰れない。アタシ様のエグザモンを奪われたんだ………このまま引き下がれるわけねぇだろ」

「えぇ、何言ってんですか。後、ロイヤルナイツはルージュのじゃなくて葉月様のでしょ?」

「細けぇ事はいんだよ!!……おい英雄様ぁ、もう一度バトルしやがれ!!」

 

 

ティアに肩を借りてやっと立てる程に疲弊していると言うのに、全く闘志を失わないルージュ。それどころかさっきよりも燃え上がっているようにさえ思えてくる。

 

そんな彼女に対して「聞き分けのない子だな」とスイート。対して椎名は手に持つエグザモンのカードを…………

 

 

「ッ………エグザモンのカード!?」

「ほら、返すよ……大事なんだろ」

「な、なんで」

 

 

そのまま投げて返した。カードは地面に突き刺さり、ティアが拾う。それを受け取ったルージュは安心して気が抜けてしまったのか、そのまま気を失ってしまう。

 

 

「世界にただ1枚ずつしかない貴重なロイヤルナイツのカードを返すなんて、貴女正気ですか!?」

 

 

ティアが椎名に聞いた。

 

 

「フ……そう気にすんなよ、ただの気まぐれだから」

「!!」

 

 

お茶を濁したが、実際は椎名の優しによるものだ。彼女的には、人のカードを奪った感じがして、少しやらせない所もあったのだろう。

 

そしてそれを聞いたティアは…………

 

 

か、カッケェ………!!

 

これが本物の芽座椎名、くぅ〜〜〜……マジカッケェ……!!

 

後喋っちゃった、喋っちゃった!!

 

 

内心ですこぶる感動していた。実は彼女、椎名と敵対する側にいながら、彼女のファンと言う矛盾を抱えた存在でもあった。実際は初対面で緊張しててしょうがないのである。

 

 

「………今日の所はこの辺にしておきましょう。いずれ貴女と、一木花火の持つロイヤルナイツは我らが葉月様の手に収めて見せます」

 

 

スイートがそう言うと、Bパッドの画面をタップして渦状のワームホールを形成。三聖騎シスターズ達は退散しようと、そこへ足を踏み込んで行く………

 

 

「ッ………待て、葉月の居場所は………」

「そんなの、教えるわけないでしょう。ルージュには後でキツイお仕置きが必要みたいね………!!」

「ヒェェェ………」

 

 

どれ程キツイお仕置きが待っているのかは知らないが、別に受けるわけでもないティアが震え上がっているのを見るに、相当凄まじいお仕置きなのだろう…………

 

 

「さらばです、芽座椎名………精々、足掻いて見せなさい」

「………」

 

 

三聖騎シスターズ達はスイートのその最後の言葉を残し退散。椎名は彼女らを深追いするそぶりは見せず、結局そのまま黙って3人を見送った。

 

ヨーロッパの辺境にある洞窟の最奥部にて1人になった。今回の件で分かった事は、葉月が遂に本腰を入れて全てのロイヤルナイツを回収しようとしているという事…………

 

 

「………ロイヤルナイツ」

 

 

椎名は自分のデッキを取り出し、その中のロイヤルナイツカード、デュークモンとマグナモンを見つめる。

 

 

「なんで葉月はコイツらを全部集めようとしてるんだ………バトルで強くなる方法なんて、他にいくらでもあるのに………」

 

 

昔からそれが気掛かりであった。葉月が強さを欲しているのは幼少期から分かっていたが、その根源がロイヤルナイツだと知ってからは何故そこまで執着する必要があるのか疑問視していた。

 

確かにロイヤルナイツは元々芽座一族のカード。葉月がそれを全て集めたいと言ってもおかしい話ではないのだが、椎名はどこか葉月のロイヤルナイツ集めに違和感を感じていて…………

 

 

「ロイヤルナイツが詳しいアイツに聞いてみるか………」

 

 

直後、椎名はBパッドを取り出し、ある人物と連絡を取った。

 

 






次回、EP3「神速のアルフォース」


******

〜〜オリカ紹介〜〜

【エグザモン】

コスト12
色:赤
軽減シンボル:0
系統:究極体、戦騎、龍帝
LV1(1)BP14000
LV2(3)BP25000
シンボル:赤

このスピリットカードは効果で召喚できない。
このスピリットカードを召喚する時、自分のコスト4以上で赤1色のスピリット/ネクサスを3つまで破壊する事で、破壊した数1つにつき、このカードのコストを4減らす。
LV1、LV2『このスピリットの召喚/アタック時』
1ターンに一度、シンボル合計3つまで相手スピリット/ネクサス/創界神ネクサスを好きなだけ破壊できる。この効果は相手の効果では防げない。
LV1、LV2
このスピリットは効果で破壊されない。


******


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EP3「神速のアルフォース」

「ルージュ………私たち三聖騎シスターズが葉月様に与えられた役目は何?」

「め、芽座椎名からロイヤルナイツのデュークモンとマグナモンを奪う事です」

「そう。知っての通り、芽座椎名はこの世界を二度も救って来た英雄。一筋縄では行かない事はもちろんわかっていたわよね??」

「で、でもエグザモンが手に入ればあんな奴やっつけられる…………って思って………」

「………」

 

 

廃墟と化している城の中、三聖騎シスターズの1人である赤髪のルージュは、単独で勝手な行動を取ったからか、彼女らのリーダー格である金髪のスイートに説教をされていた。

 

スイートはその表情こそ無そのモノであるが、背中からなじみ出ているオーラがルージュに恐怖を与えている。それを側から見ている青髪のティアもまた恐怖で震え上がっていた。

 

 

「で、でもこう見えてめちゃくちゃ頑張ったんだぜ………だ、だからその、スイート……どうか穏便に………」

「ルゥゥゥジュゥゥゥ………!!」

「は、はいィィィー!!!」

「仮にも葉月様に仕える者の1人ならば、少しは考えてから行動しなさい!!!………貴女は罰として、ピーマン地獄の刑よ!!……このピーマンの山を朝までに平らげなさい!!」

「ひ、ひぇェェェ!!!」

 

 

ブチ切れたスイートが、山のように積み上げられたピーマンを指差しながらそう告げた。余りの刑の重さにルージュも、それを見ているだけのティアも涙が止まらない。

 

 

「………本当は人参の山も平らげて貰う予定だったけど、ロイヤルナイツの一柱『エグザモン』を見つけてくれたから、今回は見逃してあげるわ」

 

 

どうやら彼女なりの温情もあるようで、一応これでも刑は軽くなっているようである。

 

 

「うぐっ……うぅ、苦い」

「だ、大丈夫ですかルージュ?」

「ティア、ルージュを甘やかさないで」

 

 

ピーマン地獄の刑にもがき苦しむルージュ。年齢が同じで仲良しのティアが心配するが、それもスイートは一蹴して黙らせる。

 

 

「ところでティア、話してた芽座椎名キラーのデッキは完成したの?」

「あ、はいスイート。ルージュのBパッドにある戦闘データを元にさっき作成して来ました」

「ふむ。よし、じゃあ早速だけど単独で彼女の元に向かってくれる?」

「え、単独でですか?」

「えぇ、私はこのバカがピーマン地獄の刑をちゃんとやるか見てなきゃ行けないし……貴女は真面目だから問題ないでしょう」

「お、おぉ………りょ、了解です!!……必ずや成果を上げて見せます!!」

 

 

ティアは少しだけズレたメガネを定位置に戻し、敬礼。その後はルージュに「頑張って」と耳打ちし、何故かスキップをしながら任務へと向かって行った…………

 

 

うぉぉお!!

 

芽座椎名に会えるゥゥゥ!!

 

凄く楽しみ〜〜!!

 

 

三聖騎シスターズの1人『ティア』…………

 

彼女は芽座椎名のファンであった。

 

 

 

******

 

 

「あぁ、だから花火さんの『オメガモン』も、葉月とその三人娘に狙われる可能性が高い。気をつけて」

 

 

椎名は今、中国にいる。

 

中国と言っても都市化の進んでいる地帯ではなく、人影すら一切存在しない暗い森の中だ。通話の相手は彼女の兄貴分に当たる存在、プロカードバトラーの一木花火。彼もまたロイヤルナイツを持つ者の1人。

 

 

「………よし、行くか」

 

 

Bパッドの通話モードを切り、椎名はただ1人、森の奥深くへと真っ直ぐ突き進んで行った。

 

 

ー…………

 

 

「…………」

 

 

森の奥深く、暗がりの夜を焚き火で照らし、その火を腰掛けに腰を下ろして眺めている青年がいた。その直ぐそばにおそらく彼の住まいであろう木造の家が目に映る。

 

 

「………界放市にはいないと聞いていたけど、まさか中国のこんな辺境に家を建てて過ごしてるなんて、考えもしなかったよ」

「ッ………来たか椎名」

「あぁ、久し振りだな……バーク」

 

 

そこに芽座椎名が現れ、彼の名を口にした。

 

その名は『バーク・アゼム』…………

 

あの芽座一族と共に鬼を倒したとされる最強カードバトラーの女性『エニー・アゼム』の子孫にしてライダースピリット『鎧武』の使い手である。椎名とは一度敵対していた仲ではあるが、事件後は打ち解けている。

 

 

「赤羽司は元気にしているか?」

「私はそばにはいないけど、ニュースとかを見てる限り、プロとしてはまぁ活躍してるみたいだな」

「………オマエはプロにならなくてよかったのか?」

「私はそんな大層立派な職業に就く気はないね。風の向くまま、気の向くまま、自由に生きていくつもりさ………それが私なりのかっこいいって奴だよ」

「ふ………そうか」

 

 

バークが口にしたのは自身と激闘を繰り広げ、且つ、芽座椎名の好敵手に位置する青年『赤羽司』…………

 

今ではプロとなり、世界で活躍しているのだ。

 

 

「で、要件はロイヤルナイツについてだったな」

「あぁ、葉月が遂に動き出したんだ」

 

 

本題に入る。どうやら椎名は、バークにロイヤルナイツについて聞きたいことがあったようだ。

 

 

「芽座葉月。オマエの義理の兄に当たる存在か、ロイヤルナイツへの執念は強く、そのためにあのDr.Aについていた事もあると聞く…………そんな奴が、遂にオマエのロイヤルナイツに白羽の矢を立てたと言う事か」

 

 

バークの言葉に対して、椎名は黙って頷く。

 

 

「………だがオマエからしたら、ただ自分の大事なカード達を守るだけの事だろう。何故今更ロイヤルナイツの事を聞く。聞いてどうする?」

「私にはどうも葉月がロイヤルナイツにこだわる理由が気になるんだ。強さを求めるって言うなら、この世界には既にロイヤルナイツ以上に伝説のカード、強力なカードが潜んでいるはずなのに………なんで葉月はロイヤルナイツだけを執拗に集めようとしているのか」

「それはただ単に芽座一族が元々ロイヤルナイツの所有者だったからじゃないのか」

「………でもなんか、嫌な感じがするんだ。ロイヤルナイツが集まって行くと…………」

 

 

椎名は葉月がロイヤルナイツを全て集めようとする理由を知りたがっていた。ひょっとしたら全て集めた先に何かあるのではないか、と。

 

そう感じていた。だからこそ遥々中国までバークの元へと足を運んだのだ。

 

 

「………残念だが、オレのロイヤルナイツに関する知識はオマエらと同等程度だ」

「!」

「しかし、オマエの育ての親である『芽座六月』ならば何か知っているのではないか?……落ちぶれたオレなどより、よっぽどそちらの方が…………」

 

 

………『芽座六月』

 

芽座椎名の育ての親に当たる存在であり、彼女は祖父同然のように慕っている。血の繋がった家族ではないが、椎名は六月が大好きだ。

 

そんな彼の名前が出てくるなり、椎名は悟ってくれと言わんばかりにバークに軽く微笑む。その笑顔に彼は察して…………

 

 

「そうか、すまなかったな」

「………私は知りたい。13枚のロイヤルナイツが全て集まった時何が起こるのかを、葉月の本当の狙いはなんなのかを、そして、もし大変な事になってしまうのなら、私はそれを阻止しないといけない!!………頼むバーク、私に協力してくれ」

 

 

その瞳は焚き火の光で輝き、真っ直ぐとバークを見つめる。その一点の曇りもない視線からは、バークは決して逃げる事はできない。

 

いや、元々逃げるなどと言う選択肢はない。何せ、彼女は自分を救ってくれた恩人の1人なのだから…………

 

 

「言われなくともそのつもりだ。オマエ達には大きな貸しがあるからな………微力ながら、オレも協力させてもらおう」

「ありがとう。よろしく頼む」

 

 

2人が同意し、互いに握手を交わしたその直後だった。

 

 

「宛ら、戦場で合間見えていく内に芽生えた美しい友情、と言った所でしょうか?」

「ッ……貴様は」

「三聖騎シスターズの……ティア!!」

 

 

葉月に仕える三聖騎シスターズの1人、ティアがそこにはいた。トレードのマークのメガネを定位置に戻している。

 

 

「そう。私はルージュと同じく三聖騎シスターズのティア………芽座椎名、貴女のロイヤルナイツを頂戴しに来ました」

「…………」

「奴が椎名の言っていた三聖騎シスターズ………まだ子供じゃないか」

 

 

ティアは表面こそいつものクールさを取り繕っているが、内心では「一回しか名乗ってないのに名前を覚えられてた」と、凄まじく大喜びしている。

 

 

「………コイツの相手は私がする。バーク、アンタはここを離れて早くロイヤルナイツの事を調べて来てくれ」

「椎名」

「私なら大丈夫だ。負けはしない」

 

 

バークに一刻も早くロイヤルナイツの事を調べてほしい椎名は、彼にそう催促する。最初こそ不安そうな声色で彼女の名前を呼んだバークであったが、その次に放った自信しかない一言に首を縦に振り…………

 

 

「わかった。くれぐれも無茶はするなよ」

「あぁ、頼んだ」

 

 

最後にバークはそう告げ、ロイヤルナイツのため、椎名のため、この場を後にする。

 

残った椎名とティアは、互いにBパッドを展開し、左腕にはめ、そこに己のデッキをセットすると、視線を合わせる。その目はどちらとも戦士の目だ。

 

 

「戦う前に1つ聞かせてくれ………なんでアンタ達は葉月に従う?」

 

 

目の前の勇ましくも麗若き少女に、椎名がそう聞いた。

 

 

「………私とルージュは元々孤児でした。頼れる身寄りもなく、辛く、虚しく、険しい日々ばかりを過ごして来ました」

「…………」

「誰も助けてくれませんでした。汚いからと言う理由だけで………でもそんな私達を、葉月様は見逃さず、手を差し伸べてくれた…………あの人は私達の家族になってくれたのです」

「葉月がそんな事を………まるで」

 

 

………「まるでじっちゃんみたいだ」

 

椎名はそう思い、何よりも驚いた。無理もない、芽座葉月の祖父に当たる芽座六月もまた、身寄りのない子供達を招いては家族にしていたからだ。

 

 

「家族の願いを叶えるために、行動しない理由がいったいどこにありますでしょうか??………私は勝ちますよ、このバトル。例えその相手が世界を救った英雄だとしても」

「………凄まじい覚悟を持ってるんだな。でも、私もデュークモン達をそう簡単に渡すわけにはいかない………悪いけどこのバトル、全力で行かせてもらう」

 

 

こうしてBパッドを構える2人。直後に夜風が吹き、焚き火が消えて暗がりになると、そのコールは突然発せられる…………

 

 

…………ゲートオープン、界放!!

 

 

2人のバトルスピリッツの幕が切って落とされる。

 

先行は椎名だ。そのターンを進めていく。

 

 

[ターン01]芽座椎名

 

 

「メインステップ………ネクサス、ディーアークを配置」

 

 

ー【ディーアーク】LV1

 

 

椎名の腰に手のひらサイズの機械が装着される。これはデジタルスピリットに関する効果を持つネクサス、特性の全く異なるデジタルスピリット達のデッキを扱う彼女のデッキにおいては、特に有力なサポートカードの1枚だ。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ディーアーク】LV1

バースト:【無】

 

 

エンド宣言し、ティアにターンが渡る。

 

 

[ターン02]ティア

 

 

「………ディーアーク………自分がデジタルスピリットを召喚、もしくは煌臨した時にデッキから1枚ドローする効果を持つネクサスカード。貴女のデッキではよく使用されるカードですね」

「やけに詳しいな」

「そりゃそうです。だって私は貴女のファ………じゃなかった、貴女のデッキを研究し尽くしているのだから。このバトル、万に1つ、いや億に1つ、貴女に勝ち目はありませんよ」

 

 

そう告げながら、内心では彼女とバトルできる事に喜びを感じているティア。

 

だが負けられのも本当だ。親愛なる葉月のため、姉妹達のため、彼女はメインステップへと移行し、手札にある1枚のカードを切った…………

 

 

「メインステップ!!……アクセル、七大英雄獣ヘクトルの効果を発揮」

「!」

「効果でトラッシュにコアを1つ追加………その後ヘクトルのカードは手元へ置かれます」

 

 

スピリットでありながらマジックカード宛らの効果を発揮できるアクセルは、使用後、手元へ移動すると言う特徴がある。

 

本来であればそこから召喚し、更なる展開へと繋げるのが鉄板の動きなのだが、このティアが使用したアクセル効果を持つ緑のスピリットカード『七大英雄獣ヘクトル』は違った。

 

 

「このヘクトルが私の手元にある間、お互いに赤/紫/黄/青のスピリット、ネクサス効果によってドローを行えない」

「!!」

「気がつきましたね。そうです、この効果があれば、ディーアークの効果で貴女は手札を増やせない」

 

 

手元にある間、強力な効果を発揮し続けるヘクトル。しかも手元のカードは基本的に破棄される事はないため、強固な効果でもある。

 

お互いに及ぶとは言え、手札の増加に大半をネクサスカードで補っている椎名のデッキにとって、このカードはまさに天敵と言えよう。

 

 

「私はこれで、ターンエンドです!!」

手札:4

手元:【七大英雄獣ヘクトル】

バースト:【無】

 

 

ドローを行えなくすると言う強力なメタ効果を張り、ティアはそのターンをエンドとする。

 

 

[ターン03]芽座椎名

 

 

「メインステップ………ドローを封じる効果、確かに私のデッキとは相性最悪の効果だな。でも、それだけじゃ私と、私のデッキは止められない……!!」

「!!」

「ブイモンを召喚!!」

 

 

ー【ブイモン】LV1(1)BP2000

 

 

椎名の場に、青い身体の小竜型の成長期デジタルスピリット、ブイモンが召喚される。

 

 

「ディーアークのドロー効果はヘクトルによって無効だが………召喚時効果、デッキからカードを2枚オープンし、その中にある対象のカード1枚を手札に加える……」

 

 

ブイモンの効果でデッキのカードが2枚オープン、その中にいた1枚は「フレイドラモン」のカード……………

 

 

「フレイドラモンのカードを手札に加え、残りは破棄する。ドローを封じる事はできても、オープンカードを加える成長期のデジタルスピリットの効果までは掻き消せないだろう?」

「カッ………」

 

 

………カッケェ………

 

ロイヤルナイツを賭けた大事な対戦中でありながら、ティアは敵である椎名の力強い仕草、言葉に感動を覚えていた。

 

何でブイモンを召喚しただけでここまでカッコいいのか、そう思っただけで軽く感涙さえしてしまう。

 

 

「………え、なんかちょっと泣いてる!?………ご、ごめん。なんかした?」

「い、いえ!!……泣いてなどいませんとも!!……お気になさらずターンを進めてください」

「そ、そうか。わかった」

 

 

しかも敵である自分にさえ気を使う優しさまで兼ね備えている。

 

あぁ、芽座椎名。めっちゃ良い…………

 

 

「手札にある【アーマー進化】の効果を発揮!!……対象はブイモン!!」

「ッ……来る」

「出でよマイフェイバリット…………燃え上がる勇気、フレイドラモンをLV1で召喚……!!」

 

 

ー【フレイドラモン】LV1(1)BP6000

 

 

ブイモンが勇気のデジメンタルと呼ばれる炎の紋様が刻まれた卵状の物体と融合。燃え上がる炎の中から、スマートな炎の竜戦士、フレイドラモンが登場する。

 

これは知る人ぞ知る、芽座椎名が一番好きなマイフェイバリットスピリットだ。

 

 

「これがフレイドラモン………」

「容赦はしない。アタックステップ………行け、フレイドラモン!!」

 

 

直後にアタックステップへと突入する椎名。フレイドラモンは高い跳躍力を活かし、ティアへと飛び掛かる。

 

だが、この時、その攻撃を読み切っていたかのように、彼女は手札からある1枚のカードを抜き取って…………

 

 

「だけどその攻撃は想定内です!!………フラッシュ【ソウル神速】を発揮します!!」

「何、ソウル神速だって!?」

 

 

【ソウル神速】…………

 

ソウルコア1つでコストを支払い、自身を手札から召喚できる効果。ただ、煌臨が流行っているこのご時世には余りその効果を持つカードをデッキに入れる者はいない。

 

だがしかし、今からティアがその効果で召喚するスピリットは…………

 

 

「青き神速剣で敵を斬れ!!………ロイヤルナイツの一柱、アルフォースブイドラモンをLV1で召喚します!!」

「ッ………ロイヤルナイツ」

 

 

ー【アルフォースブイドラモン】LV1(1)BP8000

 

 

その登場は一瞬だった。ほんの一度瞬きをした瞬間に、ロイヤルナイツ、アルフォースブイドラモンは、斬撃の音と共にティアのフィールドへと参上した。

 

身体は青く、両腕には光の剣が装着されている。この間のエグザモンとは違い、アルフォースブイドラモンはデュークモン同様、聖騎士を名乗るに相応しい外見をしていると言える。

 

 

「これが私の持つロイヤルナイツにしてエース、アルフォースブイドラモン。本来であれば緑のスピリットしか持たない【ソウル神速】を使う事ができる、青属性のスピリットです」

「驚いた。まさかこのタイミングでロイヤルナイツとはな」

「………それにしてはあんまり驚いているようには見えませんね。アルフォースブイドラモン、フレイドラモンを返り討ちにしなさい!!」

 

 

飛びかかって来たフレイドラモンの攻撃を装着されている剣で容易く受け止めるアルフォースブイドラモン。そのまま恥飛ばし、胸部に装備されたVの字型の高熱板へエネルギーを集中させる…………

 

 

「光の一撃………シャイニングVフォースッッ!!」

 

 

そこから掃射されるVの字型の光線は、瞬く間にフレイドラモンを包み込み、爆散へと追いやった。

 

 

「くっ………」

「まだまだこんなモンじゃありません。ここからどんどんお見せしていきますよ、このアルフォースブイドラモンの力を……!!」

「………フ、それは楽しみだ。ターンエンド」

手札:5

場:【ディーアーク】LV1

バースト:【無】

 

 

第3ターンにして早くもティアのロイヤルナイツ、アルフォースブイドラモンが登場。椎名は手痛い反撃を食らってしまうが、少なくともこのターンでは手も足も出ない。大人しくそのターンをエンドとした。

 

 

[ターン04]ティア

 

 

「メインステップ………マジック、ストロングドローを使用します」

「…………」

「ヘクトルがドロー効果を無効化できるのはスピリットとネクサスのみ、つまり、マジックのストロングドローは有効です。デッキから3枚ドローして、その後2枚を破棄します」

 

 

ヘクトルでは無効化できないマジックカードでドロー効果を発揮するティア。青特有の手札入れ替え効果で手札の質を向上させる。

 

 

「さらにアルフォースブイドラモンのLVを2へアップ!!……BPは13000!!」

 

 

ー【アルフォースブイドラモン】(1➡︎3)LV1➡︎2

 

 

アルフォースブイドラモンのBPが上昇、それを示すかのように、その身体は瞬間的に青く発光した。

 

 

「アタックステップ!!……アルフォースブイドラモンでアタックします」

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉芽座椎名

 

 

襲い掛かるアルフォースブイドラモン。その俊足で瞬く間に間合いを詰め、装備されたブレードで彼女のライフを1つ斬り裂いた。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【アルフォースブイドラモン】LV2

手元:【七大英雄獣ヘクトル】

バースト:【無】

 

 

できる事を全てやり終え、ティアはそのターンをエンド。一旦椎名へとターンを渡す。

 

 

[ターン05]芽座椎名

 

 

「メインステップ………ブイモンを再び召喚する」

 

 

ー【ブイモン】LV1(1)BP2000

 

 

前のターン、フレイドラモンの【アーマー進化】で手札に戻っていたブイモンが、今一度椎名の場へと登場する。

 

だが…………

 

 

「召喚時効果、デッキから2枚オープンし、その中の対象カードを加える…………」

 

 

この時、ティアはメガネを指先で定位置に戻しながら、笑みを浮かべた。

 

 

「ふふ……無駄ですよ芽座椎名。アルフォースブイドラモンの効果、お互いにカードをオープンする事はできない」

「!?」

「よって、ブイモンの召喚時効果はほぼ無効!!……これで貴女は殆どの効果で手札を増やせなくなった!!」

 

 

ブイモンをはじめとした成長期のデジタルスピリットには、召喚時に所謂サーチ効果と呼ばれる効果が存在する。デッキからカードをオープンし、その中にある対象カードを加えるのだが、このティアの持つロイヤルナイツ、アルフォースブイドラモンがいる限り、そもそもそのカードをオープンすると言う行為が不可能となる。

 

ヘクトルでドローを、アルフォースブイドラモンでオープンを封じられ、椎名の手札を増やす手段はその殆どが潰えてしまったのだ。

 

 

「………成る程、伊達に対策して来てないって事か」

「貴女は運の強さが異常だ。でもその機会を減らせば、勝つ確率はかなり下がるはず」

「………でもブイモンの召喚時効果は完全に死んだわけじゃない。その後2コストを支払い、緑の成熟期スピリット、スティングモンを召喚」

 

 

ー【スティングモン】LV1(1)BP5000

 

 

「召喚アタック時効果で1コア増やす」

 

 

ブイモンの効果により、呼び出されるのは緑のスマートな昆虫戦士スティングモン。その効果で椎名のコアが増える。

 

 

「手札を増やせないなら、今いるスピリット達で何とかするまでさ………アタックステップ、ブイモン、スティングモンで連続アタック!!……スティングモンの効果で再びコアブースト」

「………2体の攻撃はライフで受けます」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉ティア

 

 

突撃していくブイモンとスティングモン。ブイモンは頭突きで、スティングモンは拳で、それぞれ1つずつティアのライフを砕いた。

 

 

「………ターンエンド」

手札:4

場:【ブイモン】LV1

【スティングモン】LV2

【ディーアーク】LV1

バースト:【無】

 

 

ブイモンとスティングモンのコンビでライフアドバンテージでは優位に立った椎名、一度ターンを終えるが、戦況は誰がどう見てもロイヤルナイツ、アルフォースブイドラモンを従えるティアの優勢。

 

そんな状況が続く中、再び彼女にターンが回って来た。

 

 

[ターン06]ティア

 

 

「メインステップ………庚戌兵パーシュアー・ボルゾイをLV3で召喚します」

 

 

ー【庚戌兵パーシュアー・ボルゾイ】LV3(4)BP8000

 

 

ティアはフィールドへ2体目のスピリットを投入。背中に木でできた剛腕を生やしている狼の姿をしたスピリット、庚戌兵パーシュアー・ボルゾイだ。

 

 

「アタックステップ!!……ここからさらに追い込みます………アルフォースブイドラモンでアタック」

 

 

ここでまたアルフォースブイドラモンでアタック宣言。そして今回は、その真の力も解放される。

 

 

「アタック時効果、コスト7以下のスピリット2体を破壊します!!」

「………!」

「ブイモンとスティングモンを破壊!!……神剣の二撃………アルフォースツインセイバー!!」

 

 

アルフォースブイドラモンの俊足より放たれる剣技が、椎名のブイモンとスティングモンを襲う。2体は避ける術もなく、直撃し、堪らず爆散していった。

 

 

「まだ終わりません。この効果で破壊したスピリット1体につき1枚、相手の手札1枚を見ないで破棄します」

「ッ………手札破壊効果…………ぐっ」

 

 

効果はこれだけで終わらなかった。4枚ある椎名の手札の内の2枚、半分がトラッシュへと強制破棄されてしまう。

 

 

「なんてこった。ドローステップ以外でまともに手札を増やせず、残った手札も破棄されるのか」

「これが貴女のデッキに対する答え。究極の芽座椎名キラーデッキ………さぁ、アルフォースブイドラモン本体の攻撃はまだ残っていますよ?」

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉芽座椎名

 

 

アルフォースブイドラモン神速の剣技が、今度は椎名を襲う。そのライフバリアをまた1つ切り刻んだ。

 

 

「続けてポルゾイでアタック!!……その効果でコア1つを追加し、バーストを発動できません。さらに【連鎖:青】によりマジックカードの使用も禁じます」

「それもライフで受ける………!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉芽座椎名

 

 

ポルゾイは背中から生えている木の剛腕に握られている2丁の拳銃を掃射。椎名のライフバリアを1つ撃ち抜いた。

 

これで彼女のライフは残りたったの2つ。アルフォースブイドラモンの効果によってフィールドと手札も大きく削がれてしまったため、絶体絶命な状況に陥ったと言える。

 

 

「………ターンエンドです」

手札:4

場:【アルフォースブイドラモン】LV2

【庚戌兵パーシュアー・ボルゾイ】LV3

手元:【七大英雄獣ヘクトル】

バースト:【無】

 

 

「………」

「次のターンで必ず貴女を倒します」

 

 

勝てそうだ。あの芽座椎名に…………

 

アレだけ対策カードを積んだのだから、そりゃそうか。

 

ティアはこの時そう思った。このバトル、初手でヘクトルとアルフォースブイドラモンを引いていた時点で自分の勝ちだったのだと…………

 

正直、あの英雄、芽座椎名がこの程度だった事にがっかりした。

 

 

[ターン07]芽座椎名

 

 

「…………ドローステップ」

 

 

椎名のターン。このターンも力強くドローし、その手札の枚数は合計3枚。

 

 

「………ネクサスカード、デジヴァイスを配置」

 

 

ー【デジヴァイス】LV2(2)

 

 

椎名の腰にディーアークとは違う、もう1種の手のひらサイズの機械が装着される。これはまた、ディーアークとはやや違った方向でデジタルスピリットをサポートするネクサスカードだ。

 

 

「続けてギルモンを召喚する」

 

 

ー【ギルモン】LV2(2)BP4000

 

 

椎名の場に真紅の魔竜、その成長期の姿であるギルモンが召喚された。

 

このギルモンは召喚時、デッキから5枚ものカードをオープンし、同じく真紅の魔竜達を手札に加える力を備えているが…………

 

 

「折角のギルモンですが、アルフォースブイドラモンによってその効果は実質無効。さらにディーアークとデジヴァイスによるドロー効果もヘクトルで封殺………手札は増えさせません」

「………」

 

 

ここでもアルフォースブイドラモンとヘクトルのメタ効果が突き刺さる。椎名は手札を増やす事ができず、その枚数も遂に残り1枚となっていた。

 

 

「………なら、最後に私はバーストを1枚セットして、ターンエンドだ」

手札:0

場:【ギルモン】LV2

【ディーアーク】LV1

【デジヴァイス】LV2

バースト:【有】

 

 

「ッ………ここでバースト………手札を使い切ってまで伏せるなんて」

「さぁ来いよ。アンタのターンだ」

「………わかってますよ」

 

 

遂に全ての手札を使い切った椎名。堂々とした態度でそのターンを終える。次はティアのターン、彼女にとっては絶対的に優勢な状況でターンを迎える事になるが…………

 

 

[ターン08]ティア

 

 

「メインステップ…………」

 

 

手札を使い切ってまで伏せた、あのバースト…………

 

ひょっとしてただのブラフ??

 

いや、勝利は目前だ、だからこそ気を抜くな。この局面で攻撃を耐えるための1枚なら、間違いなく青の究極体デジタルスピリット『マリンエンジェモン』だ。アレはライフ減少後に発動できて、このターンの間、コスト9以下のスピリットのアタックではライフを減らせなくすると言うモノ…………

 

決まって仕舞えばポルゾイどころかアルフォースブイドラモンでさえもライフを破壊できなくなる。しかもこの状況、バーストセット時は耐性を得ているから、ポルゾイでも突破できない……………

 

でも、ライフ減少後のバーストならではの弱点はある………!!

 

 

「私は異魔神ブレイヴ、青魔神を召喚し、アルフォースブイドラモンに直接合体!!……そしてLV3にアップします!!」

「………!!」

 

 

ー【アルフォースブイドラモン+青魔神】LV3(6)BP23000

 

 

ティアのフィールドに呼び出されたのは青き魔神。それはスピリット2体と合体する事が可能な特殊なブレイヴ、青魔神だ。

 

青魔神はアルフォースブイドラモンの背後に位置すると、その手のひらから光線を放ち、それをアルフォースブイドラモンへと繋ぎ、リンクする。

 

 

「ブレイヴの召喚時効果、コスト3以下のスピリット1体を破壊します………消えてください、ギルモン!!」

「くっ……!!」

 

 

青魔神の効果により、ギルモンが何もない所で爆散する。これで椎名のフィールドは再びネクサスのみとなってしまう。

 

 

「よし、これでバーストがマリンエンジェモンでも突破できる。ライフ減少後のバーストも、ライフを一撃で0にして仕舞えば意味はない!!」

 

 

シンボルが2つある異魔神ブレイヴ、青魔神と合体した事により、アルフォースブイドラモンはトリプルシンボルとなった。

 

確かにこれなら椎名のバーストがマリンエンジェモンだったら意味はない。

 

 

 

しかし、本当にそれがマリンエンジェモンならの話ではあるが…………

 

 

「フ………相手のブレイヴの召喚時効果発揮後によりバースト発動!!」

「ッ!?!……しょ、召喚時発揮後!?」

「青のバーストマジック、キングスコマンド!!」

 

 

椎名が伏せていたバーストが、青魔神の召喚時効果に強く反応し、勢い良く反転。そう、彼女が伏せていたバーストカードは召喚時効果発揮後によるモノであった…………

 

 

「効果により、デッキから3枚ドローし、1枚を破棄する………ヘクトルの効果はマジックカードには及ばないんだったな」

「………ここに来てドローを許すなんて………」

 

 

ようやく。

 

ようやくだ。ようやく椎名は手札を増やす事に成功した。合計2枚しかないが、このバーストの発動はかなり大きな影響を与えたと言える…………

 

 

「その後フラッシュ効果を使用し、このターンの間、相手のコスト4以上のスピリット全てはアタックができない」

「ッ……アルフォースブイドラモンもポルゾイも、このターンはアタックができない!?!」

「そう言う事」

 

 

ドローを行い、さらに攻撃まで封じ込めた椎名。ティアは何とかコスト3以下のスピリットを2体呼び出そうと考えたが、今だと手元のヘクトルしか該当するモノがないため、それは叶わなかった。

 

 

「………そんな、私がバーストを読み違えるなんて………しかも青魔神を召喚せず、そのままアタックしてたら勝ってた」

 

 

自分のプレイングミスに、落胆するティア。それもそのはずだ。それさえなければあの英雄、芽座椎名にバトルスピリッツで勝利を収めていたのだから…………

 

 

「アンタは私のデッキをかなり調べて来たようだったから、ひょっとしたらバーストをマリンエンジェモンだと警戒してくれるんじゃないかって思ったんだよね」

「ッ………偶然じゃない!?」

「いやまぁ、正直賭けだったよ」

 

 

今この瞬間、ティアは芽座椎名の強さの理由の1つを知ることとなった。それは引きの強さでも、カードの強さでもない、バトルの流れを掴む才能である。

 

ひょっとしたら負けていたかもしれないこの局面、あそこまで堂々としていた事に戦慄さえ覚える。

 

 

「………ターンエンド………です」

手札:4

場:【アルフォースブイドラモン+青魔神】LV3

【庚戌兵パーシュアー・ボルゾイ】LV3

 

 

歯を噛み締め、悔しさを表しながらもそのターンをエンドとするティア。余程悔しかったに違いない。

 

そして次は椎名のターンだ。このバトルの流れを掴んだ彼女は、ここから一気に大逆転を起こすため、巡って来た己のターンを進めていった…………

 

 

[ターン09]芽座椎名

 

 

「メインステップ………至高の竜戦士、パイルドラモンをLV2で召喚」

 

 

ー【パイルドラモン】LV2(3)BP10000

 

 

反撃の狼煙が上がる。椎名のフィールドには竜の強靭な肉体と甲虫の強固な甲殻を併せ持つ至高の竜戦士、パイルドラモン。

 

 

「召喚時効果でポルゾイを破壊………デスペラードブラスター!!」

「!!」

 

 

パイルドラモンは召喚されるなり腰に備え付けられた機関銃を掃射。ポルゾイを撃ち抜き粉砕する。

 

 

「そしてアタックステップ!!……行くぞパイルドラモン、アタックだ!!」

 

 

椎名の指示を受け、パイルドラモンはその眼光を輝かせ、走る姿勢を取る。

 

 

「アタック時効果でコア2つを増やし、ターンに一度回復する」

 

 

パイルドラモンは効果によりコアが増え、回復状態となる。

 

 

「くっ………ですが一度回復しただけでは3つのライフは破壊できませんよ」

「まだだ、私の進化コンボは終わらない!!……フラッシュ【煌臨】を発揮、対象はアタック中のパイルドラモン!!」

「!?」

 

 

このタイミングで【煌臨】の宣言。パイルドラモンの足元から大竜巻が発生し、その中で大きな進化を遂げていく…………

 

 

「現れよ、皇帝竜………インペリアルドラモン・ファイターモード!!」

 

 

ー【インペリアルドラモン ファイターモード】LV2(5)BP15000

 

 

大竜巻を覇気で吹き飛ばし、中より現れたのはパイルドラモンが進化した姿であるインペリアルドラモン・ファイターモード。赤く大きな翼に体格、胸部の龍の顔がティアの目にも入る。

 

そして思い出す、その効果を…………

 

 

「ファイターモードの煌臨時効果発揮、相手スピリット10体を疲労させる」

「!!」

「アルフォースブイドラモンを疲労だ……ポジトロンレーザー!!」

 

 

右手に装備された砲手からエネルギーの凝縮されたレーザーを放ち、アルフォースブイドラモンに直撃させる。ロイヤルナイツと言えど、流石に応えたか、アルフォースブイドラモンは片膝を突いてしまう。

 

 

「これでアンタを守るスピリットはいなくなった………!!」

「ッ………ライフです!!………ぐうっ……!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉ティア

 

 

飛翔するファイターモード。その巨大が上空で通り過ぎる風圧だけでティアのライフバリア1つは砕け散って行く……………

 

そして。

 

 

「私のデッキを調べ尽くして来たアンタなら、ファイターモードのもう1つの効果も知ってるわよね?」

「………イ、インペリアルドラモン・ファイターモード………LV2のアタック時効果、ターンに一度、アタックによってライフを減らした時、追加で2つのライフを破壊する………!!」

「フ………御名答だ。行け、ファイターモード!!……超然の一撃……ギガデス!!」

 

 

ファイターモードは胸部にある龍の顔からもう1つ巨大な砲手を出現させ、そこから凝縮されたエネルギー弾を発射。

 

それは大気をも震わせる程の勢いのまま、ティアのライフバリアへと直撃し…………

 

 

「こ、これが芽座椎名の力………なんて言う規格外な……………うっ……くっ……あ、あァァァァ!?」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉ティア

 

 

それら全てを爆散させ、彼女ごと吹き飛ばした。

 

これにより、このバトルの勝者は芽座椎名だ。葉月に従う三聖騎シスターズの2人目も、己のデッキとの強い絆で乗り越えて見せた。

 

 

「三聖騎シスターズのティア………スリリングで良いバトルだったよ」

「………」

 

 

バトルで傷ついた身体を震え立たせながら起き上がるティア。その内心では『芽座椎名はやっぱり、私が憧れる伝説のカードバトラーだった』と思い、感動していた。

 

 

「見事な勝利でした………その引きの強さと勝負強さ、流石は葉月様の妹様ですね」

「……血は繋がってないけどね」

「…………私は、いつか貴女も家族になってくれると、信じています」

「………!!」

 

 

ティアのこの言葉を受け、椎名はどこか胸の辺りが暖かくなるのを感じた。

 

前に戦った時も思ってはいたが、この子達は案外思いやりのある、優しい子達なのだろう…………

 

 

「………ありがとう。優しいんだな」

「!!」

 

 

椎名の感謝の言葉に、ティアは凄まじい勢いで顔を赤くする。憧れの人物に褒められて、驚いたのだろう。

 

 

「で、ですがロイヤルナイツの件は別です!!……今回は負けましたが、次こそは貴女に勝てるデッキを作って来ます」

「あぁ、いつでも受けて立つ。待ってるよ」

 

 

椎名は優しい笑顔を彼女に向ける。

 

対してティアは、これ以上同じ空間には入れないと判断し、Bパッドに備え付けられたワームホーム機能を使い、ワームホームをその場に出現させる。

 

 

「………最後に1つ、1つだけお願いしても良いでしょうか?」

「ん?……なんだ」

「…………ツー………」

「ツー??」

「わ、私と………ツーショット写真、撮ってください」

「…………」

 

 

その後、2人は写真を撮った。椎名は苦笑いだったが、ティアはクールな印象を受ける顔からかは想像もつかない程の満面の笑みを浮かべていた…………

 

 

 






次回、EP4「獣神の弓、天馬の矢」


******


オバエヴォの続編『バトルスピリッツ 王者の鉄華(https://syosetu.org/novel/250009/)』の方も是非よろしくお願いします!!
最近では遂にアイカツスピリットが初登場!!


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【アルフォースブイドラモン】

コスト8
色:青
軽減シンボル:青3
系統:究極体、戦騎、竜人
LV1(1)BP8000
LV2(2)BP13000
LV3(6)BP17000
シンボル:青

フラッシュ【ソウル神速】『お互いのアタックステップ』
手札にあるこのスピリットカードは、リザーブのソウルコア1個で召喚コストを全て支払う事ができ、リザーブのコアを上に置く事で召喚できる。
LV1、LV2、LV3
お互いにカードをオープンする事ができない。
LV2、LV3『このスピリットのアタック時』
相手のコスト7以下のスピリット2体を破壊し、破壊した数1体につき、自分は相手の手札の内容を見ないで1枚を破棄する。


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EP4「獣神の弓、天馬の矢」

「…………」

 

 

場所はオーストラリア。一風変わった様々な動物達が生息するこの土地に、青年、一木花火はいた。

 

芽座椎名と共に旅をしている事でも知られている彼だが、何故1人でここにいるのか。それは今から5日前の話まで遡る。

 

 

 

******

 

 

「………芽座葉月が動き出した?」

《あぁ、花火さんもロイヤルナイツの『オメガモン』を所持している。必ず奴らはそれを狙ってやって来る。気をつけてくれ》

 

 

今ではすっかり今では妹分となっている芽座椎名。彼女からの一通の電話が、彼をオーストラリアに向かわせるきっかけとなったのだ。

 

 

《………後、これは私の勘なんだけど、ロイヤルナイツは13枚揃ったら何かが起こる》

「…………」

《今、バークって奴に調べてもらってる。何かがあってからじゃ遅い。花火さんは、絶対にオメガモンを守ってくれ》

 

 

椎名の声を聞き取り、花火は「ふむ」と呟き、少しの間考える。

 

 

「………実は最近、プロリーグ中に面白い噂を聞いたんだけどさ。何でも、オーストラリアの『エアーズ・ロック』にロイヤルナイツのカードがあるんだと」

《!!》

「丁度プロリーグは終わったし、今からオレがそっちに行ってみようか?……椎名ちゃんの勘は、よく当たるしな」

《でも………》

「気にする必要はねぇよ。ちょっくら行って、探して来るだけだよ…………それに、君だけに無茶はさせられないしな」

《………すまない花火さん、じゃあオーストラリアの方は頼みます》

「……あぁ」

 

 

こうした一連の流れもあって、彼はこうしてオーストラリアの荒野をただひたすら歩いていた。目指す先はオーストラリア名所の1つ『エアーズ・ロック』と言う高さ300メートルにも及ぶ大きな一枚岩だ。

 

 

******

 

 

「おぉ〜〜……これがエアーズ・ロック。流石に間近で見るとすげぇ迫力だな。朝方に見たかったぜ」

 

 

そしてたった今、花火はそこに到着した。絶景と呼ばれるその岩壁は、確かに見事なモノである。

 

 

「てか、着いたはいいものの、こっからどうやって探せばいいんだ………取り敢えず周りを一周してみるか?」

 

 

ロイヤルナイツのカードを探すために、噂を辿ってここまでやって来た花火であったが、肝心の場所はわからず、取り敢えず周りをぐるっと一周して見ようと考える。

 

 

「!」

 

 

しかし、その第一歩を踏み出す直前、彼のデッキから1枚のカードが、光を帯びて飛び出して来た…………

 

 

「オメガモン??」

 

 

花火の持つロイヤルナイツ、オメガモン。そのカードが、何かに強く反応を示すかのように、彼のデッキから飛び出して来たのだ。

 

決してそれは初めての事ではない。オメガモンが自分の目の前に飛び出して来る時は、いつも決まって何かが起こる時、そう考えている花火は、直感的にオメガモンのカードを手に取り、身構える。

 

 

「………地震!?」

 

 

オメガモンに反応するように…………

 

いや、どちらかと言うと、ロイヤルナイツ同士の共鳴に同調するかの如く、大地が揺れ動く。

 

そして、エアーズ・ロックの頂上から小さな亀裂が生じ、そこからある2枚のカードが飛び出して来た。おそらくロイヤルナイツであろうそれらは、オメガモンと同様に光を帯びながら、花火の元へとやって来た…………

 

その名は…………

 

 

「『デュナスモン』と『ロードナイトモン』………!!」

 

 

どちらも13種存在する、ロイヤルナイツの一柱。花火はロイヤルナイツのカードがあると言う伝説じみた噂は聞いていたものの、まさか2枚も発見できるとは思ってもいなかったみたいで………

 

 

「どっちも伝説に名を連ねるロイヤルナイツだ………噂も信じてみるもんだぜ、まさか本当に見つかっちまうなんて、しかも2枚」

 

 

オメガモンのカードをそっとデッキにしまいながら、そう呟く花火。その様子から、岩からカードが飛び出して来た事自体には驚いていないのがわかる。

 

世間的には有名ではないが、彼もまた椎名と肩を並べる世界のために戦った歴戦の戦士のリーダーの1人。こう言った少し変わった異変には慣れているのだろう。

 

 

「よし、じゃあ一旦椎名ちゃんに連絡して………」

「ステイ。オメガモンの所持者、一木花火……!!」

「!!」

 

 

浮遊するデュナスモンとロードナイトモンのカードを眺めながら、椎名に連絡しようとした花火。だがその直前に、ある1人の少女の声が、その耳を通過して…………

 

 

「君は………」

「私は芽座葉月様にお支えする、三聖騎シスターズの1人にして、そのリーダー『スイート・サンダーボルト』…………葉月様のため、貴方の持つロイヤルナイツ、オメガモンを頂戴しに参りました」

「ドストレートだな」

 

 

肩に掛かった金髪が特徴的な彼女の名は『スイート・サンダーボルト』…………

 

大人びている印象を受けるが、見た目は精々17歳程度と言った所か、他の2人よりかは若干上ではあるようだ。そんな彼女の口振りや雰囲気、佇まい、何より芽座葉月にお支えすると言う言葉から、花火は早速彼女を敵だと認識する。

 

 

「………芽座葉月はこんな女の子まで使ってロイヤルナイツを……」

「貴方に同情される覚えはありません。私は、私が好きでロイヤルナイツを集めているのです………全ては葉月様のために」

「………」

「さぁ、早くそこの2枚のロイヤルナイツとオメガモンのカードを渡すのです。さもなければ、痛い目を見ますよ?」

 

 

Bパッドを展開し、己のデッキをセットしながらそう告げるスイート。ロイヤルナイツを誰よりも欲する葉月に忠誠を誓っている彼女が求めている物は、目先に映る新たに出現した、宙に浮かぶ2枚のロイヤルナイツと、花火のデッキにあるであろうオメガモンのみ…………

 

女の子とカードを賭けてバトルするなど、気が引けていた花火であったが、彼女の覚悟や忠誠心を聞くなり、自然と自分もBパッドを展開し、デッキをセットした。

 

 

「あら、痛い目を見る気ですか?………言って置きますけど、私はそこら辺のプロのカードバトラーよりは強いですよ」

「ふ………そこら辺のプロか………いいぜ、ロイヤルナイツを賭けて、オレとバトルだ」

 

 

仮にもロイヤルナイツであるオメガモンに選ばれている花火を『そこら辺のプロ』と吐き捨てるスイート。余程自分の腕に自信があると思われる。

 

その後、2人は一定の距離を取り、バトスピのゲームにおいて、初手となる4枚のカードをドローした…………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

オーストラリアの誇る巨大な一枚岩、エアーズ・ロックの麓で、伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツのカード達を賭けて、プロのカードバトラーの青年、一木花火と、芽座葉月に忠誠を誓う三聖騎シスターズのリーダー、スイート・サンダーボルトのバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先行はスイートだ。

 

 

[ターン01]スイート・サンダーボルト

 

 

「メインステップ………私はネクサス、夢中漂う桃幻郷を配置」

 

 

ー【夢中漂う桃幻郷】LV1

 

 

殺風景なエアーズ・ロックの周囲を掻き消すかのように、スイートの背後には幻想の世界が広がって行く。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【夢中漂う桃幻郷】LV1

バースト:【無】

 

 

「黄色のデッキか」

 

 

次は花火のターン。スイートの配置したネクサスカードにも注意しつつ、それを開始して行く。

 

 

[ターン02]一木花火

 

 

「メインステップ!!……相手が黄色のデッキなら、先ずは序盤の殴り合いを制す………来い、ロクケラトプス、アシガルラプター!!」

 

 

ー【ロクケラトプス〈R〉】LV2(2)BP5000

 

ー【アシガルラプター】LV1(1S)BP2000

 

 

花火の場に出現したスピリットはいずれも小型の赤属性のスピリット。四足歩行に立派な三本角を持つロクケラトプスと、足軽のような軽装を身に纏った二足歩行の恐竜、アシガルラプターだ。

 

 

「ロクケラトプスにアシガルラプター……随分と古いカードを使うのね、流石は今年で33歳」

「年齢言うな!……後、桃幻郷なんか使ってる奴が言えるセリフじゃねぇぞ!!………アタックステップ、ロクケラトプスとアシガルラプターでアタック!!………アシガルラプターの効果で1枚ドロー」

 

 

動き出す2体のスピリット。アシガルラプターには自身の上にソウルコアが置かれている時、アタック時にデッキから1枚ドローできるため、花火は1枚のカードを引く。

 

 

「……アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉スイート・サンダーボルト

 

 

ロクケラトプスの突進が、アシガルラプターの噛み付く攻撃が、それぞれ1つずつスイートのライフバリアを破壊した。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ロクケラトプス〈R〉】LV2

【アシガルラプター】LV1

バースト:【無】

 

 

できる事を全てやり終え、ライフの差で優位に立った花火は、そのターンをエンドとする。

 

 

[ターン03]スイート・サンダーボルト

 

 

「メインステップ………ガトーブレパスを2体、LV2で連続召喚」

 

 

ー【ガトーブレパス】LV2(2)BP2000

 

ー【ガトーブレパス】LV2(2)BP2000

 

 

「夢中漂う桃幻郷の効果で、想獣スピリットが召喚されたので1枚ドロー、これを2回」

 

 

スイートの場に出現したのは、黒い翼の生えた牛のようなスピリット。それが2体揃い、互いに共鳴するように小さな雄叫びを上げた。

 

 

「ガトーブレパスはマジで人の事言えないじゃん」

「アタックステップ!!……ガトーブレパス2体で攻撃!!」

 

 

スイートは前のターンの花火同様、2体のスピリットでフルアタックを仕掛ける。これに対し、花火は…………

 

 

「2体ともライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉一木花火

 

 

軽やかに走る2体のガトーブレパス。それぞれ突進していき、花火のライフバリアを1つずつ砕いて行った。

 

さらに、ガトーブレパスはそれだけでは終わらない。

 

 

「ガトーブレパスの【聖命】………アタックによってライフを減らした時、私のライフ1つを回復する」

 

 

〈ライフ3➡︎4➡︎5〉スイート・サンダーボルト

 

 

「これで元通り」

「…………やるな」

 

 

ガトーブレパス2体分の力により、一気に2つのライフが回復。花火とのライフアドバンテージを取り戻すどころか、そのまま抜き去ってしまう。

 

 

「ターンエンド。序盤の殴り合い、制する事はできなかったみたいだけど、どう?」

手札:5

場:【ガトーブレパス】LV2

【ガトーブレパス】LV2

【夢中漂う桃幻郷】LV1

バースト:【無】

 

 

「へっ……痛い所突いて来るな〜〜………だけど安心しな、やられたら、ちゃんとやり返してやるぜ」

 

 

花火のターン、彼の反撃が幕を開けて行く。

 

 

[ターン04]一木花火

 

 

「メインステップ!!……アグモンを召喚!!」

 

 

ー【アグモン】LV3(4)BP6000

 

 

花火の場に呼び出されたのは、デフォルメされた肉食恐竜のような見た目に、黄色い体表を持つ、赤属性の成長期デジタルスピリット、アグモン。

 

 

「召喚時効果で2枚オープン、その中にある対象のカードを1枚手札に加える…………よし、オレはグレイモンのカードを加える」

「アレが一木花火のデジタルスピリット、その原点……アグモンか」

 

 

さらに花火は、ここからだと言わんばかりの勢いで、アタックステップを宣言して…………

 

 

「アタックステップ!!………アグモンの【進化:赤】を発揮!!……自身を手札に戻し、成熟期スピリット、グレイモンに進化だ!!」

 

 

ー【グレイモン】LV3(4)BP7000

 

 

アグモンが0と1のコードに身を包まれていき、その中で姿形を大きく変えて行く。やがてそれらを弾け飛ばしながら姿を現したのは、三本の頭角を持つ肉食恐竜型、グレイモン。

 

 

「グレイモンでアタック!!……その効果でBP5000以下のスピリット1体を破壊する事で1枚ドロー……オレはガトーブレパス1体を破壊!!」

「!!」

 

 

グレイモンはその効果により、口内より燃え滾る火球を放つ。ガトーブレパス1体は、それに被弾してしまい、たちまち爆散した。

 

 

「まだ行くぜ、グレイモンのもう1つのアタック時効果【超進化:赤】を発揮!!……完全体のメタルグレイモンに進化だ!!」

 

 

ー【メタルグレイモン】LV3(4)BP11000

 

 

グレイモンが更に0と1のコードに身を包まれていき、その姿を変化させて行く。そして再び爆誕したのは、左半身が完全にサイボーグと化し、歴戦の戦いを感じさせる翼を携えた完全体のグレイモン、メタルグレイモンだ。

 

 

「召喚時効果……BP12000以下のスピリット1体を破壊する」

「!!」

「残ったガトーブレパスを破壊、ギガデストロイヤー!!」

 

 

メタルグレイモンは登場するなり、胸部のハッチを開き、そこから凶弾を放つ。それは一直線にガトーブレパスの元へと飛んで行き、被弾、爆散していき、スイートのスピリットを全て蹴散らした。

 

 

「続けて行くぞ……メタルグレイモンでアタック!!」

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉スイート・サンダーボルト

 

 

スイートのライフバリアに急接近するメタルグレイモン。左腕に施された強靭にして鋼鉄のアームで、それを1つ砕いて見せる。

 

だが直後、スイートは涼しい表情を崩す事なく、誘発条件を満たしたカードを手札から提示して…………

 

 

「私のライフが減った事により、手札からエジットの天使モニファーエルの効果発揮………トラッシュに黄色1色のカードが1枚以上ある時、このカードのバーストを発動できる」

「!!」

「私のライフを1つ回復し、この効果発揮後、召喚します。現れなさい………モニファーエル!!」

 

 

〈ライフ4➡︎5〉スイート・サンダーボルト

 

 

ー【エジットの天使モニファーエル】LV3(3)BP7000

 

 

再びスイートのライフが5まで回復する。そしてそれと同時に、美しい純白の翼を持つ、褐色肌の天使、モニファーエルが地上へと降り立った。

 

 

「今度は天霊か。器用な子だな」

「貴方がガトーブレパスを破壊しながら突っ込んで来るのはお見通しです。さぁどうします?……残ったスピリットでは、このモニファーエルは倒せないみたいですけど」

「あぁ、このターンはエンドにするよ」

手札:6

場:【メタルグレイモン】LV3

【ロクケラトプス〈R〉】LV2

【アシガルラプター】LV1

バースト:【無】

 

 

残ったロクケラトプスとアシガルラプターでは、スイートの召喚したモニファーエルには勝てない上に、フルアタックしても彼女のライフは削りきれない。無謀かつ無策なアタックはせず、花火はそのターンを終えた。

 

 

[ターン05]スイート・サンダーボルト

 

 

「メインステップ………白猿のシャラバを2体、連続召喚」

 

 

ー【白猿のシャラバ】LV2(2)BP3000

 

ー【白猿のシャラバ】LV2(2)BP3000

 

 

「夢中漂う桃幻郷の効果、この召喚に合わせて、それぞれ1枚枚ずつ、デッキからカードをドロー」

 

 

メインステップ開始早々にスイートの場に2体並んだのは、デフォルメされた白く、小さな猿型スピリット、シャラバ。これもまた系統に「想獣」を持っているため、夢中漂う桃幻郷の効果により、彼女はまたドローを重ねる。

 

そしてそのドローカードの中にお目当てのカードが有ったか、口元は緩み、「くすっ」と笑みを見せる。

 

 

「ロイヤルナイツの中でも最強格と言われている葉月様のアルファモン。それと同等の力を持つとされるオメガモンを拝む事ができなくなるのは残念ですが………いいでしょう。終わりにして見せますよ、このバトル」

「ッ………来るのか」

 

 

空気が変わるのを感じた。今から来るのは間違いなくスイート・サンダーボルトのエース。おそらくはロイヤルナイツの1体だ…………

 

 

「獣神の弓、天馬の矢……暗闇を祓え!!……ロイヤルナイツ、スレイプモン!!……モニファーエルを対象に、煌臨!!」

「!!」

 

 

ー【スレイプモン】LV3(3)BP17000

 

 

スイートの背後、遥か遠くより、フィールド目掛けて何者かが駆け抜けていく。やがてそれは高く跳び上がると、同じくして飛び上がったモニファーエルと共に光となり、重なり合い、1つとなる。

 

こうして誕生したのは、赤い装甲に身を纏う、ケンタウロスのような姿をしたロイヤルナイツの1体、スレイプモン。口上通り、獣神の弓と天馬の矢を携え、スイートの場へと顕現した。

 

 

「……これがロイヤルナイツ、スレイプモン」

「葉月様に仕える、私のエースカード………アタックステップ!!……行きなさい、スレイプモン!!」

 

 

スイートの指示を聞くなり、スレイプモンは疾風の如く、フィールドを駆け抜けて行く。

 

そしてこの時、その強力無比なアタック時効果が、花火に襲い掛かる。

 

 

「アタック時効果!!……相手スピリット1体のBPをマイナス20000。0になった時破壊する」

「!」

「対象はアシガルラプター……消えなさい」

 

 

スレイプモンが獣神の弓より天馬の矢を放ち、花火の場にいるアシガルラプターを射抜く。伝説のロイヤルナイツからの一撃に耐えられるわけもなく、アシガルラプターはあっさり撃沈し、爆発四散。

 

 

「さらに、この効果で破壊した時、このバトル中、このスピリットに黄のシンボルを1つ追加」

「ッ……自前でダブルシンボルになった!?」

 

 

フィールドを駆け抜けるスレイプモンに、宝石のパールを模した、黄色のシンボルが1つ追加される。これによりスレイプモンはダブルシンボルになり、一撃で花火の2つのライフを射抜ける状態となった。

 

だが、これだけでは終わらなくて…………

 

 

「スレイプモンのもう1つのアタック時効果、相手のスピリット1体に指定してアタックができる………対象はもちろん、メタルグレイモン!!」

「なに………疲労状態のメタルグレイモンは相手のスピリット効果は受けないぞ」

「百も承知です。スレイプモンの指定アタック効果は、相手の効果では防げない………そして、バトル終了時、このスピリットのシンボル分のダメージを相手に与えます………!!」

「ッ………!!」

 

 

スイートの狙いはおそらくメタルグレイモンを指定アタックで倒しつつ、花火のライフを一気に2つ破壊し、圧倒的な優位性に立つ事。

 

フィールドでは、メタルグレイモンを射抜こうと弓を引き、矢を飛ばすスレイプモン。メタルグレイモンはそれに気づき、左腕のアームでそれらを弾き返す。

 

しかし、攻撃を防ぐ事に夢中になる余り、スレイプモンの接近を許してしまう。スレイプモンはそのまま前脚蹴りでメタルグレイモンを大きく突き飛ばした。

 

 

「………そう安易と負けてたまるか。フラッシュ、オレも【煌臨】を発揮!!……対象はバトル中のメタルグレイモン!!」

「!!」

 

 

突き飛ばされたメタルグレイモンは、空中で体勢を整え着地。直後に爆音の咆哮を上げ、それと共鳴するかの如く周囲から爆炎が吹き荒れる。

 

そしてメタルグレイモンは、それらを自身の体内へと吸収していき、新たな進化を遂げて行く…………

 

 

「鋼鉄の竜よ、今こそ最強の竜戦士となりて敵を討て!!………究極進化、ウォーグレイモンッッ!!」

 

 

ー【ウォーグレイモン】LV3(4)BP16000

 

 

メタルグレイモンが煌臨、究極進化したのは、グレイモン系列のデジタルスピリットの中では最高クラスの力を有すると言われている、竜戦士、ウォーグレイモン。

 

世界的にも有名な、一木花火のエースカードで、デジタルスピリットがこの世界に浸透し始めた時のカードでもあるため、それら全ての「顔」とも呼べる存在でもある。

 

 

「……ウォーグレイモン。オメガモンの左側が来たわね」

「煌臨時効果、合計BP15000まで、相手スピリットを好きなだけ破壊する」

「しかし、スレイプモンのBPは17000。その効果では倒せませんよ」

「わかってるさ!!……オレは、BP3000の白猿のシャラバ2体を破壊する。大玉ガイアフォース!!」

 

 

登場するなり、ウォーグレイモンは両掌を合わせ、その間に炎の火球を形成、徐々にその間隔を広げていき、炎の火球もそれに合わせて肥大化して行く。

 

極限まで肥大化させると、ウォーグレイモンは遂にそれを全力投球。スレイプモンはヒラリとかわすが、残った白猿のシャラバ2体はそうはいかない。避けるままなく直撃し、焼き尽くされた。

 

しかし、スイートはそれでも依然として涼しい表情を見せており………

 

 

「………甘いですね。このスレイプモンを倒さない限り、貴方に勝ち目はありませんよ?」

 

 

煌臨スピリットは、煌臨元となったスピリットから全ての情報を引き継ぐ。

 

それ故、今、ウォーグレイモンは煌臨元となったメタルグレイモンの情報を引き継いでいるため、スレイプモンとのBPバトルの最中なのである。

 

スレイプモンの弓より、彗星の如く放たれる矢を、ドラモンキラーと呼ばれる近接武器で全て難なく弾き返すウォーグレイモン。そのままそれを討たんとした勢いで前進して行く。

 

 

「フラッシュマジック、エクスキャベーション!!」

「!!」

「不足コストはロクケラトプスから確保。よって消滅…………効果により、ウォーグレイモンのBPをプラス3000!!」

 

 

ー【ウォーグレイモン】BP16000➡︎19000

 

 

「これで合計19000!!……スレイプモンのBPを上回ったぜ」

 

 

コア不足により、ロクケラトプスは消滅してしまうものの、ウォーグレイモンは瞬間的にオーラを纏い、そのBPが助長される。

 

パワーアップしたウォーグレイモンはさらに勢いを増して突き進み、遂にスレイプモンの懐へと飛び込んだ。そしてその腕に装着されているドラモンキラーが、スレイプモンに突き刺さろうとした直後だ。

 

スイートもまた、手札から1枚のカードを切ったのは…………

 

 

「そんな小学生みたいな戦法で、よくこの私に勝てると思いましたね…………フラッシュマジック、サンダーブランチ!!」

「!!」

「このターンの間、相手スピリット全てのBPを2000として扱います。これでウォーグレイモンのBPはエクスキャベーションのBP加算を合わせても5000………スレイプモンの敵ではありません!!」

 

 

ー【ウォーグレイモン】BP5000

 

 

スレイプモンにトドメを刺す直前、突如として落ちて来た落雷に撃たれ、BPを弱体化させられてしまう。

 

そしてその一瞬の隙を突き、スレイプモンは超近距離から灼熱の矢を放ち、ウォーグレイモンの腹部を射抜く。ロイヤルナイツの渾身の一撃により、ウォーグレイモンは倒れ、爆発四散した。

 

 

「ウォーグレイモン!!」

「そしてバトル終了時、スレイプモンのシンボル分、2点のダメージを与える!!」

「ぐっ………ぐおっ」

 

 

〈ライフ3➡︎1〉一木花火

 

 

ウォーグレイモンを倒した勢いで、花火にも灼熱の矢を放つスレイプモン。その放たれた矢は一直線に彼のライフバリアを射抜き、2つも破壊した。

 

これで彼の残りライフはたったの1。対するスイートのライフは初期値と変わらない5。エースカード同士の対決にも敗北してしまった事から、絶望的な差が開いてしまったと言える。

 

 

「ターンエンド。オメガモンが出てなければこんなもんよね。ロイヤルナイツでもない究極体が、ロイヤルナイツに勝てるわけがない」

手札:3

場:【スレイプモン】LV3

【夢中漂う桃幻郷】LV1

バースト:【無】

 

 

「よし、オレのターンだな」

「…………」

 

 

絶望的な状況であるはずだと言うにも関わらず、淡々と自分のターンを進めようとする花火。そんな彼を見て、スイートは「なぜそんなにヘラヘラしていられる」と、内心で疑問を抱く。

 

確かな戦力差、圧倒的な力を、プレイングを見せつけたと言うのに、何故この男はこんなにも余裕に溢れているのだ…………と。

 

そんな彼女の疑問は解決されぬまま、一木花火のターンが幕を開けた。

 

 

[ターン06]一木花火

 

 

「メインステップ……アグモンをLV2で召喚」

 

 

ー【アグモン】LV2(3S)BP5000

 

 

前のターンに【進化】の効果で花火の手札に戻っていたアグモンが再度召喚される。その効果で、デッキからカードがオープンされるも、対象カードは無し、1枚も手札を増やさないまま、それは全てトラッシュへと破棄された。

 

 

「マジック、バスタースピア。ネクサス1つを破壊し、デッキから2枚のカードをドロー」

「………」

「オレは君のネクサス、桃幻郷を破壊して、2枚ドロー」

 

 

灼熱の炎を纏う槍が、スイートの背後にある桃幻郷に突き刺さる。それにより桃幻郷は消滅、花火はデッキから2枚のカードをドローした。

 

 

「続けてマジック、リバイヴドロー………トラッシュにあるウォーグレイモンを手札に戻す」

「ウォーグレイモンを手札に?」

 

 

続け様のマジックカードの効果により、花火は自身の手札にウォーグレイモンを再び手繰り寄せる。

 

 

「アタックステップ………アグモンの【進化:赤】……グレイモンに進化だ」

 

 

ー【グレイモン】LV2(3S)BP5000

 

 

アグモンは0と1のコードに包まれ、再び進化を果たし、グレイモンとなる。

 

グレイモン自体は、強力なデジタルスピリットに違いないが、スイートのロイヤルナイツの称号を冠するスレイプモンと比べると、そこには天と地程の差がある。

 

 

「アタックステップは続行………行け、グレイモン!!」

「ふん。たかだか1体のみのアタック………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉スイート・サンダーボルト

 

 

突進して行くグレイモン。その立派な三本の頭角を活かし、スイートのライフバリアを1つ破壊した。

 

だが、それでもまだ花火が勝つには、彼女のライフを後4つ破壊する必要があって……………

 

 

「オレのターン、エンドだ」

手札:5

場:【グレイモン】LV2

バースト:【無】

 

 

「やはりその程度か、一木花火。所詮はただのプロバトラー………芽座椎名の足元にも及ばないようね」

「いや〜〜はっはっは。確かに椎名ちゃんよりかは弱いかもな〜〜」

「何をヘラヘラしてるのですか。今から負けると言うのに」

「………そっちこそ、何をイライラしてるんだ?」

「…………」

 

 

こんなふざけた奴とバトルしていたら、こっちまで変になって来そうだ。そう思ったスイートは、巡って来た自分のターンを開始して行く。

 

全ては一木花火に勝つため、ロイヤルナイツを得るため、そして、彼女が心から愛している芽座葉月のため…………

 

 

[ターン07]スイート・サンダーボルト

 

 

「メインステップ………は、もう要らない。そのままアタックステップ!!……駆け抜けろ、スレイプモン!!」

「………」

「その効果でグレイモンのBPをマイナス20000!!……破壊して、黄のシンボルを1つ追加!!」

 

 

スレイプモンの天馬の矢に射抜かれるグレイモン。他のスピリット達同様、撃沈し、大爆発を起こす。

 

これで花火の場のカードは0。ライフも0にせんと言わんばかりに、スレイプモンが彼の方へと疾走する。

 

 

「これで終わりよ!!……大人しく、葉月様の礎となりなさい!!」

「いや、まだだ。オレは手札からブラックウォーグレイモンの効果を発揮!!」

「!?」

「相手のBP8000以上のスピリットがアタックしている間、このスピリットを1コスト支払って召喚できる………来い、ブラックウォーグレイモン!!」

 

 

ー【ブラックウォーグレイモン】LV1(1)BP9000

 

 

花火の危機に合わせてフィールドに出現したのは、その名の通り黒いウォーグレイモン、ブラックウォーグレイモン。

 

しかし、ウォーグレイモンと同じく強力なデジタルスピリットではあるが、コア不足により、そのLVは1止まり。もっと言ってしまえば、仮にLVが最大であったとしても、ロイヤルナイツのスレイプモンには届かない…………

 

 

「今更その程度のスピリット………忘れたの?……スレイプモンはアタックしたバトルの終了時に、自身のシンボル分のダメージを相手に与える」

「…………」

「………そいつごと貫いて、今度こそチェックメイトよ」

 

 

この程度では止まらない、止められない。

 

スイートのロイヤルナイツへの執念と芽座葉月への愛情は、ブラックウォーグレイモンだけでは止める事など不可能。

 

だがそれは、飽くまでもブラックウォーグレイモンだけではの話である。花火はこのピンチ、逆境を楽しむかのように口角を上げ、手札から1枚のカードを切った。それは、新たな進化の兆し…………

 

 

「フラッシュ【煌臨】発揮、対象はブラックウォーグレイモン」

「ッ……【煌臨】!?……またウォーグレイモンか。そんなスピリットでいくら戦いを挑んでも、私のスレイプモンには………」

「誰が、ウォーグレイモンって言った?」

「!!」

「オレが呼ぶのはコイツだ………黒き竜戦士よ、今こそ真紅の鋼鉄竜へ覚醒せよ!!………煌臨、ブリッツグレイモンッッ!!」

 

 

ー【ブリッツグレイモン】LV1(1)BP9000

 

 

ブラックウォーグレイモンの上から、真紅の装甲が次々と装着されて行く。こうして新たに爆誕したのは、真っ赤に染まる新たなるグレイモンの境地、ブリッツグレイモン。

 

ウォーグレイモンとは違い、その腕には、近接用武器ドラモンキラーではなく、電流火器プラズマステークが施されている。

 

 

「ブリッツグレイモン!?……聞いた事がないデジタルスピリットだ」

「これがオレのグレイモンデッキの、新たな力だ」

「し、しかし……LVはたったの1。それではスレイプモンは倒せない……!!」

 

 

新たなるグレイモン、ブリッツグレイモンの登場に動揺が隠せないスイート。だがまだ、ロイヤルナイツのスレイプモンがいる限り、自分に負けはないと、絶対的な自信があるようだ。

 

そんな彼女を一蹴するように、「それはどうかな?」と、花火は笑みを浮かべる。

 

今こそ反撃の時…………

 

 

「ブリッツグレイモンの煌臨時効果、トラッシュにあるソウルコアを戻し、BP15000以上のスピリット1体を破壊する!!」

「な、なんですって………15000以上!?」

「あぁ、よって、BP17000のスレイプモンを破壊する………プラズマステーク!!」

 

 

ブリッツグレイモンは背中にあるバーニアで、スレイプモン目掛けて飛翔する。スレイプモンはブリッツグレイモンを撃ち落とさんと、灼熱の矢を何本も放つが、ブリッツグレイモンはそのドッシリとした真紅のボディで傷一つ付かない。

 

そして獣神の弓を弾き、スレイプモンの懐に潜り込んだブリッツグレイモンは、両腕の電流火器から赤い稲妻をスレイプモンの体内に流し込んでいく……………

 

流石のロイヤルナイツも、この攻撃には耐えられなかったか、悲鳴を上げながら、大爆発してしまい、最期を迎える。

 

 

「さらに、グレイモンに煌臨していたら、デッキから2枚のカードをドローする」

「そ、そんな………ロイヤルナイツでもないスピリットに、ロイヤルナイツのスレイプモンが負けるなんて………」

「へっ……工夫さえすれば、勝てないスピリットなんて、この世に存在しないのさ」

「くっ………ターン、エンド」

手札:4

バースト:【無】

 

 

圧倒的優位だったはずの状況が一変。ブリッツグレイモンと言う、予想外のグレイモンの登場により、ロイヤルナイツ、スレイプモンを失い、逆に追い詰められてしまったスイート。

 

致し方なく、そのターンをエンドとする。

 

次は花火のターンだ。ブリッツグレイモンがまた動き出す。

 

 

[ターン08]一木花火

 

 

「メインステップ………ブリッツグレイモンのLVを3に上げる」

 

 

ー【ブリッツグレイモン】(1➡︎5S)LV1➡︎3

 

 

このターンに返って来たコアを使い、ブリッツグレイモンのLVを上げる。そのBPも上昇し、ウォーグレイモンと並ぶ16000となった。

 

 

「アタックステップ………行け、ブリッツグレイモン!!」

「くっ……」

 

 

花火からの命を受け、再び背中のバーニアで飛翔するブリッツグレイモン。今度の狙い先は、もちろんスイートのライフだ。

 

そしてその直後、花火は勝利を決定的にすべく、すぐさま手札のカードを切って…………

 

 

「フラッシュマジック、ガイアフォース」

「!!」

「効果により、ブリッツグレイモンを回復」

 

 

使用したマジックカードの効果により、アタック中のブリッツグレイモンは回復状態となる。これにより、このターンは2回目のアタックが可能となった。

 

このタイミングでこのカードを使用した、という事は、相応の意味があるのは間違いない。

 

 

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉スイート・サンダーボルト

 

 

ブリッツグレイモンは電流火器を装備した事により、極太となったその腕を、スイートのライフバリアへと叩きつけ、それを1つ砕いた。

 

 

「まだ続くぞ!!……アタックしたバトル終了時、追加でもう1つ、ライフをリザーブに置く!!」

「ッ………なに!?………ぐ、ぐぁっ!?」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉スイート・サンダーボルト

 

 

スレイプモンを下した電流火器プラズマステークの一撃が、スイートのライフバリアにも突き刺さる。そのライフは遂に半数を切り、たったの2となった。

 

しかもブリッツグレイモンは、ガイアフォースの効果でアタックしても尚回復状態。もう一撃それのアタックを食らって仕舞えば一環の終わり。

 

そう思い至った彼女は、反射的に手札から1枚のカードを切った…………

 

 

「わ、私のライフが減った時、手札から絶甲氷盾の効果を発揮!!」

「!!」

「このアタックの終了が、このターンのエンドになる!!」

「ッ………これでもまだ耐えれるのか」

 

 

彼女の残ったライフバリアから、半透明のバリアが飛び出して来る。ブリッツグレイモンはそれに弾かれ、花火のフィールドへと戻される。

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:5

場:【ブリッツグレイモン】LV3

バースト:【無】

 

 

絶甲氷盾の効果に阻まれ、花火は致し方なくそのターンをエンドとする。しかし『辛うじて凌いだ』と言う言葉がピッタリなこの状況、明らかにスイートに不利な状況が続いている。

 

最早、このバトルの勝利は一木花火も同然だ。

 

しかし、それでもまだ、スイートは自分の勝利を諦めてはいなくて…………

 

 

「ハァッ………ハァッ………!!」

「………1つ聞かせてくれ、なんで君はロイヤルナイツのために、芽座葉月のためにそこまでするんだ?」

 

 

追い詰められても尚、おそらく芽座葉月のために戦うのをやめないスイートに、花火が訊いた。その疑問、質問は、彼女にとっては愚問に等しい。

 

 

「………当然よ。だってあの人は、私の命の恩人…………落ちぶれ貴族の娘で、ゴミ同然だった私に居場所を、家族をくれたのだから」

「それが例え、ロイヤルナイツのためなら平気で人を傷つけるような、悪人でもか」

「あの人は、悪人なんかじゃない!!………貴方達に何がわかる!!……貴方や芽座椎名みたいに、ただバトスピ楽しんでいるだけでいい人達に、何が!!」

「……!!」

 

 

無神経な言葉を使ってしまったか、無自覚ながらもスイートの怒りを逆撫でる言動を口走ってしまった花火。

 

スイートは怒りのまま、己の巡って来たターンを進めて行った。

 

 

[ターン09]スイート・サンダーボルト

 

 

「メインステップ!!……白猿のシャラバ、ガトーブレパス、モニファーエルの3体を連続召喚!!」

 

 

ー【白猿のシャラバ】LV2(2)BP3000

 

ー【ガトーブレパス】LV3(3)BP3000

 

ー【エジットの天使モニファーエル】LV3(3)BP7000

 

 

残りライフ1つの花火にトドメを刺すべく、スイートは手札から全てのスピリットカードを展開。今回のバトルで見えたスレイプモン以外のスピリット達が、それぞれ1体ずつ場に出揃った。

 

 

「アタックステップ!!……行きなさい、私のスピリット達!!」

 

 

さっきまでの余裕は、もうどこにもない、切羽詰まる様子で、全てのスピリット達に攻撃を指示する。

 

 

「………悪いな。君がどんなに勝ちたくても、オレにだって負けられない理由がある………フラッシュ【煌臨】発揮、対象はブリッツグレイモン!!」

「!!」

「来い、ウォーグレイモン!!」

 

 

ー【ウォーグレイモン】LV3(4)BP16000

 

 

ブリッツグレイモンはその真紅の装甲をパージし、ウォーグレイモンの姿へと変化を遂げる。そして当然ながら、その効果も使用可能だ。

 

 

「煌臨時効果、BP15000まで、相手スピリットを好きなだけ破壊する!!………君の場の全てのスピリットを破壊だ!!」

 

 

ウォーグレイモンは両掌から再び巨大な火球を生成し、投擲。

 

まるで隕石のように降り注ぐそれは、スイートの展開したスピリット達を、一匹残らず焼き尽くすには余りにも十分過ぎた。

 

 

「く、クソッ………ターン、エンド」

手札:1

バースト:【無】

 

 

…………『強過ぎる』

 

スイートは花火に対してそう思った。大した事ないと見下していたが、素の大らかな性格が幸いしているのか、その途方もない強さに、全く持って気が付かなかった。

 

見ただけで強者だとわかるオーラを放つ、芽座椎名や葉月とは違う。また異なる強さが、彼の中にはあるのだ。それは、実際に彼と対面し、バトルしなければわからない、不思議で、特別なモノ…………

 

 

「オレのターンだな」

 

 

スイートが自分に戦慄してる事など知らず、花火は迎えた自分のターンを開始して行く。

 

 

[ターン10]一木花火

 

 

「メインステップ………ソウルコアを支払い、アグモンを召喚」

 

 

ー【アグモン】LV3(4)BP6000

 

 

このバトルでは三度目の登場となるアグモン。コストの支払いにソウルコアを払ったため、今、花火のトラッシュにはソウルコアが置かれた状態となった。

 

 

「アタックステップ…………オレは今、妹分の椎名ちゃんのために戦っている」

「………」

「ロイヤルナイツが全て集まってしまったら、何か大変な事が起こるかもしれない、なら止めないと行けないと…………そう言っていた」

 

 

花火は、今の自分の気持ちを表明しつつ、アタックステップの開始を宣言する。

 

 

「………何が言いたい?」

「バトスピを楽しんでいるだけじゃない、椎名ちゃんも君たちと同じだ。多分、芽座葉月のために戦っている………アイツが、取り返しのつかない事を、する前に………!!」

「!!」

「アタックだ、ウォーグレイモン!!」

 

 

大地を強く踏み締め、力強く走り出すウォーグレイモン。その目指す先は、スイートのライフバリア。

 

そして、その行手には、もう敵はいない…………

 

スイートが宣言するべき言葉は、たった1つしか残されていなくて…………

 

 

「………ライフで、受ける」

「ウォーグレイモンは、アタックしたバトル終了時、トラッシュにあるソウルコアを自身に戻す事で、追加で1つのライフをボイドに置く」

 

 

〈ライフ2➡︎1➡︎0〉スイート・サンダーボルト

 

 

ウォーグレイモンは、ドラモンキラーにガイアフォースの燃える力を込め、スイートのライフバリアを一気に2つ破壊する。

 

これにより、花火の勝利だ。ロイヤルナイツのスレイプモンに苦戦させられたが、最後に圧倒的な力の差を見せつけた。

 

 

「ッ………」

 

 

自分の敗北という事実を実感したスイートは、その場で座り込んでしまう。

 

 

「………悪いけど、デュナスモンとロードナイトモンのカードはオレが貰って行くよ。後、さっき言った事は忘れないで欲しい。椎名ちゃんもまた、家族のために戦ってるって事を…………」

「…………」

 

 

最早何も言い返す気力も、言葉もない。スイートはただただ呆然とするのみ。

 

一方で花火は、未だに宙に浮かぶ、2枚のロイヤルナイツのカードを手に取ろうと、その腕を伸ばした。

 

しかし、その瞬間…………

 

 

「………久し振りだな、一木花火」

 

 

ー!!

 

 

「オレがガキの頃に、一度会った時以来か」

 

 

声が聞こえて来た。男の声だ、どこまでも冷たく、この世の温みさえも全て凍り付かせてしまうような、そんな冷たい男の声だ。

 

花火はその声を聞いた事はなかったが、その声の主が誰なのかは、すぐにわかった。

 

 

「芽座葉月………!!」

「葉月様!!」

 

 

そう。その人物は、芽座葉月。芽座椎名の義理の兄にして、ロイヤルナイツためならば平気で犯罪にも手を染める極悪人。あのDr.Aとも結託していた事もあって、今では世界中の治安維持局に追われる身となっている…………

 

しかし、そんな彼でも、スイートら三聖騎シスターズにとっては父、もしくは兄と言った家族同然。彼の登場に、曇っていたスイートの表情は明るくなる。

 

 

「………オマエ、ロイヤルナイツを全て集めて、何をするつもりだ………アイツらは、ただのカードじゃないんだろ?」

「全てはオレが、最強のカードバトラーになるためのシナリオだ。オレが何をしようと、貴様には関係ないだろ」

「椎名ちゃんが心配してたぞ。オマエの妹だったら………」

「オレに妹などいない。オレにあるのは、力が欲しいと言う欲望だけだ」

「………テメェ」

 

 

相も変わらず、その目先にはロイヤルナイツしか映っていない葉月。義理の妹であるはずの椎名の事も、家族とは思ってはおらず、ただのロイヤルナイツを持っている不届き者程度の認識しかない。

 

そして花火に対してもまた、同じ認識である。

 

 

「来い、ロイヤルナイツ………デュナスモン、ロードナイトモン」

「!?!」

 

 

葉月は、花火、正確には2枚のロイヤルナイツの方へ手を翳す。すると、その2枚は、まるで彼の手の中に吸い寄せられるように、彼の元へと飛んで行った。

 

何が起こったのかは全く持って理解できない花火だが、少なくとも、今の葉月が異形じみた力を保有している事だけは、難なく想像できて…………

 

 

「これでオレの得たロイヤルナイツは7枚。三聖騎シスターズ共の3枚のロイヤルナイツと併せて、残り3枚………」

「………」

「そうだ。貴様のオメガモンと、椎名のデュークモン、マグナモンで全て揃う………そして、先ずは貴様からだ」

 

 

Bパッドを展開しながら、葉月が花火に対してそう告げて来た。

 

そして、花火もまたBパッドを展開し直すが…………

 

 

「へっ……そう簡単に渡してたまるかよ。寧ろ、テメェから全部ぶんどって、またバラバラにしてやるぜ」

「粋がるなよ、小物が………オレを誰だと思っている?」

「………!!」

 

 

花火は………

 

何となくこの時点で感じ取っていた。

 

仮に、百万回百億回、このバトルをやり直せたとしても、決して、葉月から勝利する事はできない…………と。

 

そして、これはプレッシャーのあまり見えてしまった、彼の幻覚かもしれないが、その背後に天使のような翼があった。花火は一瞬だけ見えたその姿を、不本意ながら脳裏に刻み込み、彼とのバトルに臨んだ。どう足掻いても勝つ事のできない、彼とのバトルに…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、EP5「芽座葉月」


******


【スレイプモン】

コスト9
色:黄
軽減シンボル:黄4
系統:究極体、戦騎、想獣
LV1(1)BP9000
LV2(2)BP12000
LV3(3)BP17000
シンボル:黄

フラッシュ《煌臨:黄&コスト6以上『自分のターン』》
LV1、LV2、LV3『このスピリットのアタック時』
相手スピリット1体のBPをー20000し、0になった時、破壊する。この効果で破壊した時、このバトルの間、このスピリットに黄のシンボル1つを追加する。さらに、バトル終了時、このスピリットのシンボルの数だけ、相手ライフ1つをリザーブに置く。
LV2、3『このスピリットのアタック時』
相手スピリット1体を指定してアタックができる。この効果は相手の効果では防げない。


******


【ブリッツグレイモン】

コスト9
色:赤
軽減シンボル:赤4
系統:究極体、地竜、機竜
LV1(1)BP8000
LV2(3)BP12000
LV3(4)BP16000
シンボル:赤

フラッシュ《煌臨:赤&コスト6以上『お互いのアタックステップ』》
LV1、LV2、LV3『このスピリットの煌臨時』
[ターンに1回:同名]トラッシュのソウルコアをこのスピリットに置き、相手のBP15000以上のスピリット1体を破壊できる。さらに、このスピリットが「グレイモン」に煌臨していた時、自分はデッキから2枚ドローする。
LV2、LV3『このスピリットのアタック時』
アタックしたバトルの終了時、相手ライフ1つをリザーブに置く。


******

オバエヴォの続編『バトルスピリッツ 王者の鉄華(https://syosetu.org/novel/250009/)』の方も是非よろしくお願いします!!
バルバトス、鉄華団の新規カード、待ってます( ̄∀ ̄)


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EP5「芽座葉月」

「………う〜〜ん。ダメだ、どの資料を漁っても、欲しい情報が見つからない」

 

 

界放市ジークフリード区。バトスピ学園ジークフリード校。芽座椎名の母校である。

 

今、芽座椎名はその学内にある図書館にいた。様々なバトスピの歴史が綴られているこの図書館だが、それでも、椎名が欲しい情報が詰まった本は出てこなかった。

 

もちろん、欲しい情報はロイヤルナイツに関する事だ。確かにロイヤルナイツに関する書類ならある。だが、それら全てが集結した時、何が起こるのかは一切記されてはいないのだ。

 

 

「………どうや、見つかったか、椎名?」

「おぉ真夏。いや、全然ダメだよ………ここは本当に由緒正しき界放市のバトスピ学園なのか?」

「ディスんなディスんな、学生時代に殆ど足運んでないくせに」

 

 

椎名に声を掛ける「真夏」と呼ばれる関西弁混じりの女性。

 

彼女の名は「緑坂真夏」…………

 

椎名の同窓生であり、親友である。今は教師となり、ジークフリード校でバトスピを教えている。

 

 

「………つか、真夏が教師とはね〜〜」

「ごっつ驚いたわ、まさか今界放市にいて、学校の図書館借りたいだなんて急に電話して来るんやもん」

「いや〜〜ごめんごめん、宛がなくてさ」

 

 

椎名が界放市を去ってから3年が経過している。久し振りに親友水入らずの会話に、和まされる。

 

そんな折、真夏は椎名がロイヤルナイツに関係する本を手に取っているのを目にし…………

 

 

「なんでロイヤルナイツなんか………」

「あ、いや、別に何でも」

「………ま、まさか芽座葉月が」

「だから何でもないって、心配しないでよ」

 

 

長い事椎名を見て来ている真夏にはわかる。咄嗟についた彼女が吐いた言葉が嘘で、自分の直感が真実である事を…………

 

いつもそうだ。大事な事は言わず、全て自分だけで解決しようととする。

 

 

「………変わらへんな、そう言うとこ」

「…………ごめん」

 

 

葉月との戦いに、真夏を勝手に巻き込むわけにはいかない。そう思っている椎名は、敢えて彼女には何を告げなかった。

 

ただ、そう言う気持ちは、真夏には筒抜けである。

 

そしてそんな椎名に、一通の電話が鳴り響く。椎名は取り敢えずBパッドを取り出し、着信に出てみる。

 

 

「はい」

《椎名。よかった、オマエは無事のようだな》

「おぉバーク………無事って?」

「え?……バークって、あのバーク・アゼムの事かいな?」

「うん、まぁね」

 

 

椎名とは協力関係にある、バーク・アゼムからの着信であった。

 

真夏との会話を電話越しに聞いたバークは「オマエ今どこにいる?」と一言。椎名はそれに対し「母校」とだけ告げた。

 

 

「そんな事より、無事ってどう言う事だよ。なんかあったのか?」

《………落ち着いて聞け………昨日、プロバトラーの一木花火がオーストラリアで何者かの襲撃に遭い、倒れた》

「ッ………なに、花火さんが!?」

 

 

自分の兄貴分に等しい存在である、一木花火の突然の負傷報告に、椎名は声を荒げ、戸惑いを見せる。その声を聞くなり、真夏もより一層険しい表情を見せると同時に、やはり何かあったに違いないと確信を持つ。

 

 

《意識は不明で、詳しい事情はまだ何もわからないとの事だ………これは飽くまでオレの仮説なんだが、それをやったのは、芽座葉月だ》

「!!」

《彼をあそこまで痛めつけられるカードバトラーはそういない。確認は取れていないが、おそらく『オメガモン』も盗られているだろう》

「…………」

 

 

………『オメガモン』

 

一木花火の持つロイヤルナイツの一種で、葉月のアルファモンと同じくロイヤルナイツの中でもトップクラスのスペックを誇るとされている。それが葉月の手に渡ったとなると、いよいよ持って深刻な状況だ。

 

 

《………後、オマエの直感は的中していたよ》

「ッ……まさかわかったのか!?……ロイヤルナイツが全て集まったら、何が起こるのかを」

《あぁ》

 

 

ここ数日、米立の広大な図書館でその事を調べていたバーク。エニー・アゼムの子孫である彼でさえ知らなかった事実を今、椎名にも語り出す。

 

 

《………ルーチェモン》

「!?」

《ロイヤルナイツが全て集結した時に復活するとされる、大天使だ》

 

 

バークは結論から語り出す。

 

………ルーチェモン。名前からして、デジタルスピリットだろうか。だが、バークの口振りからして、カードではなく、どうやら実在する存在のようだ。

 

 

《大天使と言っても、その実態や、やって来た所業は悪魔に等しい。鬼などよりも強大な力を持つ彼は、鬼王ノヴァがエニー・アゼムと芽座一族に敗れた後、世界を滅ぼそうと目論むが、またしてもエニー・アゼムたちが阻止。その力は13枚のロイヤルナイツのカードに分断され、今も深い眠りについていると言う…………》

「…………デュークモン達に、そのルーチェモンの力が……!?」

 

 

バークにそう言われた直後、椎名はデッキからデュークモンのカードを取り出し、それを見つめる。

 

今まで何も気にせず使用して来たロイヤルナイツのカード達には、その世界を滅ぼそうと目論みを立てた大天使の力が含まれていたのだ。

 

 

《13枚のロイヤルナイツが揃うと、ルーチェモンの力が共鳴し合い、復活の助力をしてしまうかもしれない。そう考えた芽座一族は、ロイヤルナイツのカード達を世界各国にばら撒いたのだ。二度と揃わなくさせるために》

「だから芽座一族の祠には、最初からマグナモンとデュークモンしかいなかったのか……………待て、じゃあ葉月はそんな危険な奴を復活させようとしているのか!?」

《それはわからん。アイツがそれを知っててロイヤルナイツを集めようとしているとは思えないが…………兎に角だ、一木花火の元へはオレが行く。オマエは心配せず、今のうちに界放市で英気を養っておけ》

「…………あぁ、わかったよ」

 

 

その言葉を最後に、椎名はバークとの通話を切った。花火の怪我とロイヤルナイツの情報がどっちも頭の中に入り、まだその困惑を抑えられない。

 

だが目的は定まった。ロイヤルナイツを集めようとする葉月を止め、ルーチェモンの復活を阻止。それだけが判明しただけでも十分な進歩だ。

 

 

「………休んでなんか、いられないな。葉月に取られる前に、私が残りのロイヤルナイツを集めないと」

「椎名………」

 

 

気を張り詰めている椎名。バークの忠告も、受ける気はないらしい。

 

真夏は、そんな余裕のない椎名を見て…………

 

 

「椎名。私がいくら止めようとした所で、結局戦いに行くんやろ?………もうわかりきってんねん」

「………真夏」

「そんで、私らみたいな一般人が敵う敵でもないって言うのも、わかんねん。だから、せめて、帰って来て、また元気な顔見せてーな。それだけが、私の願いや」

「…………あぁ、また来るよ」

 

 

椎名は真夏からある1枚のカードを受け取りながら、その言葉も真摯に受け止めた。命を賭ける気などない、必ず生きて帰って来る、そう誓って…………

 

 

「ふ………やっぱ真夏は私の中のオアシスだな」

「イケメンみたいなセリフ言うなや、元頭の中お花畑のくせに」

「はは、違いないや」

 

 

2人は笑い合い、久し振りに楽しいひと時を過ごした。この時間が、バークの言う「英気を養う」時間になって……………

 

 

******

 

 

数時間後、取り敢えず他のロイヤルナイツを探すため、空港へと向かって歩みを進める椎名。

 

界放市の都心部を越え、空港を利用する者以外は誰も通ることのない一本道を、ただひたすらに歩いていた。周囲は原っぱや田んぼなどが目に入り、とてものどかだ。

 

そんな折、椎名に向かって歩いて来る少年が1人。精々12歳程度か、その少年は椎名の目の前まで来ると、立ち止まり、彼女の歩みを制止させた。

 

 

「………こんな所に子供?」

「芽座椎名だな。オレと、バトスピしろ」

「…………」

 

 

突然デッキを突きつけられる。少年の自信に満ち満ち溢れているこの表情は、どこか昔の葉月を連想させられてしまう。

 

 

「………悪いな。今お姉さん忙しくて、いつかやれる日を待ってるぞ」

「は、はぁ!?……お、おい何言ってんだテメェ!!」

 

 

華麗にスルーした椎名。言ってる意味がわからないと言わんばかりに、少年は声を張り上げる。

 

 

「は、はは〜ん。さては貴様、このオレに負けるのが怖いんだな」

「??……いや、別に」

「じゃあなんで断るんだよ!!」

「だから忙しいんだって。早くそこをどきなさいよ」

 

 

煽ってみるが、特に効果無し。世界を二度も救った伝説のカードバトラー、芽座椎名に隙はない。

 

 

「………貴様、このオレを誰だと思っている!!」

「……………子供」

「そう言う事じゃねぇ!!……聞いて驚くなよ、オレの名は「獅堂レオン」………あの芽座葉月の一番弟子だ!!」

「ッ!?……葉月の一番弟子!?」

「へへ、ようやく顔色が変わったな」

 

 

目の前にいる銀髪の少年の名は「獅堂レオン」…………

 

彼は誇らしげに芽座葉月の一番弟子と名乗る。その事実に、流石の椎名も驚きが隠せない。

 

 

「葉月が……弟子を?……何のために」

「オレは、師匠にバトスピのイロハを教えてもらった身!!……もう誰が相手でも負ける気がしねぇ、例えそれが、師匠の義理の妹だとしてもな!!」

「………」

「バトスピを楽しむモノだとかうつつを抜かしてる貴様が、「勝つためのバトル」を追求したこのオレに勝てるわけがねぇ!!……今日それを証明してやるぜ」

「……勝つためのバトル………か」

 

 

レオンと言う少年の言動や趣向、バトルに対する価値観などからは確かに、あの葉月に通じるものがある。どうやら本当に、彼は葉月の弟子らしい。

 

椎名的には、あの自分以外に興味のなさそうな葉月が弟子をとるとは到底思えないのだが………

 

 

「………いいぞ。やろうか、バトル。私が勝ったら葉月の所に連れて行ってもらう」

「へへ、ようやくその気になったか。勝つのは強者の特権。オマエを倒して、オレも師匠みたいに名乗りを上げてやる」

 

 

だが椎名にとってもこれは好都合。レオンを倒し、早急に葉月の元へと辿り着く事ができる。いつもは後手に回ってしまっていたが、今度はこっちから仕掛けられる…………

 

そう思っていた。

 

 

「その必要はないぞ、レオン」

「!!」

「し、師匠!?」

 

 

本の一瞬、瞬きの間に、今ではS級の犯罪者として有名となってしまっている、芽座葉月が、そこに現れていた。リーパーと一体化し、既に人ならざる者となっている椎名でも、その存在を今まで感じる事ができなかった。

 

この時点で椎名は、既に葉月も人ならざる者となっている事に気がつく。

 

 

「は、葉月………!!」

「椎名。随分とトゲが目立つ女になったな。そんな気色悪い目で、オレを見るな」

「………今まで、どこに行ってたんだよ」

「オマエの質問に、答えてやる義務はない」

 

 

約4年ぶりにあった義理の妹であるにもかかわらず、その態度はとても冷たい。それもそのはず、葉月は昔から、椎名の事を『妹』だと認識した事はないのだから…………

 

 

「し、師匠。なんでここに……オレに芽座椎名を倒させてくださいよ!!」

「レオン。残念だが、オマエでは椎名は倒せん」

「!!」

「アイツももう、それなりに怪物だからな………オマエは帰って、シスターズ達に稽古でもつけてもらえ」

「……は、はい」

 

 

勝てないと言われたのが、それなりにショックだったのか、レオンは肩をすくめながら、Bパッドの機能を使ってワームホールを形成。それを潜り抜けて去って行った…………

 

これで、椎名と葉月は2人きりとなって…………

 

 

「アンタが、弟子を取るなんてな。どう言う風の吹き回しだ?」

「…………オレの手持ちのロイヤルナイツは8枚」

「!?」

 

 

椎名の質問を無視し、又しても葉月は自分勝手に語り出す。

 

 

「オマエが戦った三聖騎シスターズどものロイヤルナイツと合わせて11枚。これが、どう言う事かわかるよな?」

「………私の2枚のロイヤルナイツと合わせて、13枚全てのロイヤルナイツが、現世に揃った!?………じゃあやっぱり、花火さんもアンタが」

「あぁ、奴のオメガモンもオレがもらった………そして、オマエの持つロイヤルナイツも、これから貰う」

「ッ………!!」

 

 

張り詰めた空気の中、花火を重傷に追いやったのも、葉月である事が判明。それを知った椎名は、頭に血が昇りかけるが、どうにかそれを抑えて…………

 

 

「アンタ、知ってんのかよ。ロイヤルナイツが揃ったら、どうなってしまうのかを」

「伝説の怪物、ルーチェモンが復活する………だろ?」

「ッ………まさか、それを知った上で!?」

「当然だ。伝説の怪物、オレにこそ相応しい力だ………その力は、幼少期より、オレを選んでいた」

「!?………どう言う事」

「これから敗れ去るオマエが、知る必要はない」

「………」

 

 

バークが調べ上げて来たロイヤルナイツの秘密、伝説の怪物ルーチェモン。葉月はそれさえをも承知の上で、ロイヤルナイツを揃え、蘇らせようとしていた。

 

そして「もう話は終わりだ」とでも告げるかのように、彼は己のBパッドを展開し、デッキをセット。椎名に大きな圧を掛ける。椎名は当然、そのバトルからは逃げる事はできない…………

 

 

「さぁ、決着をつけるぞ。オマエのロイヤルナイツを全ていただく、今ここで………」

「ロイヤルナイツは渡さない。絶対に阻止してみせる!!」

 

 

椎名もまたBパッドを展開し、デッキをセット。互いにバトルの準備を完了させる。

 

そして…………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

およそ4年ぶりに、2人のバトルスピリッツが幕を開けた。この戦いは、世界の存亡が掛けられていると言っても過言ではない、危険なモノ…………

 

それに臆せず、椎名の第1ターンが幕を開ける。

 

 

[ターン01]芽座椎名

 

 

「メインステップ……ワームモンを召喚」

 

 

ー【ワームモン】LV1(1)BP3000

 

 

椎名の場に、可愛らしい芋虫型の成長期デジタルスピリット、ワームモンが召喚される。その効果はブイモン、ギルモンと同様に、サーチ効果だ。

 

 

「召喚時効果、デッキから2枚オープン、その中にある、完全体か究極体のデジタルスピリット1枚を手札に加える…………よし、私はデュークモンのカードを手札へ」

「………」

 

 

早速。椎名はエースカードで、尚且つロイヤルナイツの一柱である「デュークモン」のカードを引き当てて見せる。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【ワームモン】LV1

バースト:【無】

 

 

幸先の良いスタートを切り、第1ターン目をエンドとする椎名。だが、気は抜かず、手札を固く握り締め、次の葉月のターンに備える。

 

 

[ターン02]芽座葉月

 

 

「メインステップ…………犀ボーグを召喚。効果でコアブースト」

 

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV2(3)BP5000

 

 

葉月が手始めに呼び出したのは、犀の姿をしたサイボーグ。背中にキャノン砲を備えているのが特徴的だ。彼はその効果でさりげなくコアを1つ増加させる。

 

 

「バーストをセットし、ターンエンド」

手札:3

場:【犀ボーグ〈R〉】LV2

バースト:【有】

 

 

…………『バースト。アルファモンか?』

 

葉月のターンエンドの宣言と共に、椎名はそう思考した。葉月の持つロイヤルナイツの1つにして、彼のエース「アルファモン」…………

 

それは強力なバースト効果持ちのスピリット。警戒心を強めるのは、無理もない事だ。

 

 

[ターン03]芽座椎名

 

 

「メインステップ………【アーマー進化】発揮!!……対象はワームモン」

「!!」

「現れよ、黄金の守護竜………マグナモン!!」

 

 

ー【マグナモン】LV3(4)BP10000

 

 

ターン開始早々に仕掛ける。場のワームモンがデジタル粒子となり消滅、椎名の手札へと帰還すると、その代わりになるように、黄金の鎧をその身に纏う、青き竜人が降り立つ。

 

そのスピリットの名はマグナモン。椎名の持つ強力なスピリットにして、ロイヤルナイツの一柱。

 

 

「……マグナモン。もう一度貴様を手中に収める日が来たか」

「召喚時効果!!……最もコストの低い、相手スピリット1体を破壊する…………黄金の波動、エクストリーム・ジハードッッ!!」

 

 

マグナモンは現れるなり、全身から黄金の波動を解き放つ。葉月の場にいる犀ボーグはそれから逃れられず、たちまち飲み込まれていき、爆散していった。

 

だが、それをされるのは、葉月も計算の内だったらしく…………

 

 

「召喚時効果発揮後のバースト、双翼乱舞」

「ッ……アルファモンじゃない?」

「効果により、デッキから2枚ドロー」

 

 

警戒していたバーストカードは、アルファモンではなく、採用率の高いバーストマジック「双翼乱舞」…………

 

効果により、彼は2枚のカードを引く。

 

 

「………アタックステップ、マグナモン!!」

「ライフだ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉芽座葉月

 

 

予想がハズレ、少し動揺するが、すぐさま切り替えてマグナモンにアタックの指示。黄金のオーラを纏った拳の一撃が、葉月のライフバリア1つを砕いた。

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:6

場:【マグナモン】LV3

バースト:【無】

 

 

フィールドに無限ブロック効果を持つマグナモンを備え、そのターンをエンドとする椎名。

 

次はどこまでもその一手一手が読めない、葉月のターンだ。

 

 

[ターン04]芽座葉月

 

 

「メインステップ………2体目の犀ボーグを召喚。コアブースト」

 

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV2(2)BP5000

 

 

マグナモンに破壊された犀ボーグが又しても出現。その効果で葉月のコアが増える。そして、その増えたコアを使い、彼は手札から別のスピリットカードを召喚していく………

 

 

「さらに来い、ハックモン」

「!!」

 

 

ー【ハックモン】LV2(2)BP4000

 

 

葉月のフィールドに現れたのは、赤いマント、ゴーグルを着用した、小型の白い竜。一見すると、ただの成長期のデジタルスピリットだが、椎名はこれが、あのスピリットに進化する事を知っている…………

 

 

「召喚時効果……5枚オープンし、その中の対象カードを加える………ジエスモン」

「!!」

「よってこれを手札に加え、そのままハックモンを対象に煌臨。現れよ、白きロイヤルナイツ………ジエスモン!!」

 

 

ー【ジエスモン】LV3(5)BP14000

 

 

ハックモンの足元から出現した大竜巻。彼はその中でデジタル粒子を身に纏い、大きな成長を果たす。

 

やがてハックモンだったそれは、大竜巻を容易く一刀両断し、その姿を見せる。全身が剣で構成されたような、鋭い身体を持つロイヤルナイツの一柱、ジエスモンだ。

 

 

「ジエスモン………」

「ハックモンはその効果で3つのコアをジエスモンに齎す…………アタックステップだ、やれ、ジエスモン!!」

 

 

ジエスモンは高速で浮遊し、椎名のライフバリアへと迫る。

 

 

「ジエスモンはその効果により、ブロックされない」

「………ライフで受ける…………ぐっ!?」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉芽座椎名

 

 

ジエスモンの剣撃が、椎名のライフバリアを紙切れのように斬り裂く。いつもとは違う、大きなライフダメージに、椎名は痛みと共に、過酷だったDr.Aらとの戦いを瞬間的に思い浮かべる。

 

 

「………ターンエンド」

手札:5

場:【ジエスモン】LV3

【犀ボーグ】LV2

バースト:【無】

 

 

マグナモンとジエスモン。2体のロイヤルナイツが出揃い、バトルは中盤の第5ターン目へと移行していく…………

 

 

[ターン05]芽座椎名

 

 

「メインステップ………マグナモンのLVを2に下げ、もう一度ワームモンを召喚」

 

 

ー【ワームモン】LV2(3)BP5000

 

 

「召喚時効果。2枚オープン………!」

 

 

再びワームモンを召喚し、その効果を発揮させる椎名。そのオープンされた2枚のカードの中には、親友、真夏から渡されたカード…………

 

必ず無事に戻って来ると誓いを込めたカードである。

 

 

「私はこのカード『リリモン』を手札に加える」

「………緑坂真夏のカード………?」

「行くぞ葉月、私は負ける訳には行かないんだ。アタックステップ、その開始時に、ワームモンの【進化:緑】を発揮!!……緑の成熟期スピリット、スティングモンに進化!!」

 

 

ー【スティングモン】LV2(4)BP8000

 

 

「効果で1つ、コアブースト」

 

 

ワームモンが0と1のデジタルコードにその身を包み込まれていき、進化を果たす。新たに現れたのは、甲殻を持つスマートな昆虫戦士、スティングモン。

 

 

「さらにスティングモンでアタック!!……その効果でもう1つコアを増やし、【超進化:緑】により、緑の完全体スピリット、リリモンを召喚!!」

 

 

ー【リリモン】LV3(5)BP12000

 

 

立て続けに発揮される、デジタルスピリット特有の進化コンボ。スティングモンは可憐且つ巨大な花に包み込まれていき、そこで妖精のような姿に進化を果たす。

 

やがて花は開花し、その中から緑の完全体デジタルスピリットにして、芽座椎名の親友、緑坂真夏のエースカード、リリモンが、しなやかにフィールドへ舞い踊る。

 

 

「使わせてもらうよ、真夏。リリモンでアタック!!」

 

 

学生時代、何度も間近で見て来た真夏のリリモン。それを今、初めて椎名が使用して行く。

 

 

「その効果でコア2つを自身にブーストし、回復。さらに【旋風:1】の効果でジエスモンを重疲労させる!!」

「!!」

「フラウカノン!!」

 

 

リリモンは両腕で装備する、花の形をした巨大な砲手から、花々木々などの自然の力が込められたエネルギー弾を発射。それはジエスモンに被弾し、ジエスモンは高重力にでも掛かったかのように、地面へ倒れ行く。

 

 

「一度の回復でも疲労状態に戻るだけの重疲労状態なら、ジエスモンのアタックは封じ込められる」

「………」

「そしてこれが、リリモンの本命のアタック!!」

「ライフだ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉芽座葉月

 

 

リリモンはフラウカノンを仕舞うと、軽やかに宙を舞い、葉月のライフバリアに接近。それを蹴り付け、1つ破壊する。

 

そして直後に、葉月は手札から1枚のカードを抜き取り…………

 

 

「オレのライフ減少により、手札から絶甲氷盾の効果を発揮」

「!?」

「このアタックステップを強制終了させる」

 

 

放たれたマジックカードは「絶甲氷盾〈R〉」…………

 

その効果により、いくら強力な効果を持つリリモンがいても、ロイヤルナイツの称号を持つマグナモンがいても、少なからず、このターン、椎名はアタックができなくて…………

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:7

場:【マグナモン】LV3

【リリモン】LV3

バースト:【無】

 

 

アタックステップは止められるものの、ロイヤルナイツのジエスモンを重疲労状態は追いやり、それからの次の攻撃を阻止した椎名。一度そのターンをエンドとする。

 

次は劣勢に立たされているにも関わらず、何故か焦り一つ見せない、葉月のターンだ。

 

 

[ターン06]芽座葉月

 

 

「………メインステップ。アルマジトカゲを2体、連続召喚」

 

 

ー【アルマジトカゲ】LV2(2)BP3000

 

ー【アルマジトカゲ】LV2(2)BP3000

 

 

葉月のフィールドに、硬い鱗を持つ小さなトカゲ、アルマジトカゲが2体出現。その効果は、白でありながら、赤としても扱えると言う、非常にシンプルな力。

 

 

「マジック、ソウルドロー。コストにソウルコアを支払う事で、3枚のカードをドローする」

 

 

スピリットの召喚と手札の増加を壮大に行い、己のデッキを回転させる葉月だが、肝心のジエスモンは、リリモンの効果によって、今尚疲労状態。

 

その上で、さらに無限ブロック効果を持つマグナモンが、椎名の場で構えているため、他のスピリットでも攻撃ができなくて…………

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:5

場:【ジエスモン】LV3

【犀ボーグ〈R〉】LV2

【アルマジトカゲ】LV2

【アルマジトカゲ】LV2

バースト:【無】

 

 

可能な限り、できる事を終えたのか、そのままターンエンドの宣言。再び椎名へとターンが巡って来る。

 

椎名からしたら、この有利な状況を保ったまま、どうにか勝ちへと向かいたい所だが…………

 

 

…………『あの手札には、何かある』

 

 

そう感じずにはいられなかった。

 

 

[ターン07]芽座椎名

 

 

「メインステップ………ワームモン、スティングモンを連続召喚」

 

 

ー【ワームモン】LV1(1)BP3000

 

ー【スティングモン】LV1(2)BP5000

 

 

前のターンの進化コンボで利用したスピリット達を一斉召喚する椎名。ワームモンの召喚時効果が発揮されるが、今回は不発に終わる。

 

 

「アタックステップ!!……リリモンでアタック、効果でコア2つをボイドから追加し、回復。【旋風:1】でジエスモンを再び重疲労状態に!!」

 

 

今一度、リリモンの効果が猛威を振るう。フラウカノンが被弾し、ジエスモンはまた重疲労状態に陥る。

 

 

「阻め、アルマジトカゲ」

 

 

まるで石ころでも投げるような、軽い気持ちでブロックの宣言を告げる葉月。そんな彼からの命令でも、一生懸命にリリモンへ立ち向かうアルマジトカゲ。

 

駒のように回転し、リリモンへと襲い掛かるが、平手打ちで弾き返され、無惨にも爆散してしまう。

 

 

「回復したリリモンでもう一度アタック!!……その効果でコアを増やし、残ったアルマジトカゲ1体を重疲労」

 

 

三度目のフラウカノン。今度は2体目のアルマジトカゲに命中し、それを地面に磔にする。

 

 

「犀ボーグ」

 

 

二度目のブロックは犀ボーグ。リリモンを仕留めようと、背中のキャノン砲から砲弾を射出しようとするが、その前にリリモンのフラウカノンが顔面に直撃。力尽きて爆散してしまう。

 

これで、葉月のフィールドは重疲労状態となったジエスモンとアルマジトカゲが1体ずつ、ブロッカーは全て消え去って…………

 

残ったスピリットでフルアタックすれば勝てると言う、圧倒的に優位な状況。だが、椎名は…………

 

 

………『勝てる、勝てそうだけど………なんだ、この葉月から滲み出て来る、途方もないプレッシャーは……!?』

 

 

そう感じ、戸惑っていた。

 

手元にロイヤルナイツが増えすぎた影響か、葉月がもうただの人ではなくなっている事はなんとなく気づいていたが、それにしても彼から発せられるプレッシャーは尋常ではなかった。

 

しかしこの状況、カードバトラーであるのならば、勇気を持って前へ出る以外の選択肢はない……………

 

 

「………マグナモンで、アタック!!」

 

 

振り絞った勇気で、マグナモンへアタックの宣言を送る椎名。マグナモンは首を縦に振り、低空飛行で彼のライフバリアへと飛び行く……………

 

だが、案の定と言った所か。葉月は手札からある1枚のカードを切り、それをBパッドへと叩きつけた。

 

 

「フラッシュ………ロイヤルナイツ、デュナスモンの効果を発揮」

「ッ………別のロイヤルナイツ!?」

「相手のコスト6以上のスピリットがアタックしている時、1コスト支払い、手札から召喚できる!!………現れよ、飛竜のロイヤルナイツ、デュナスモン!!」

 

 

ー【デュナスモン】LV3(4)BP17000

 

 

空を切り、上空から葉月のフィールドへと現れたのは、飛竜の力を持つロイヤルナイツ、デュナスモン。デジタルスピリットの龍らしい顔と、白い鎧、紫の翼が印象に強く残る。

 

これは、葉月がオーストラリアのエアーズ・ロックで得た、新たなロイヤルナイツであり…………

 

 

「召喚アタック時効果、BP20000以下のスピリット1体を破壊する」

「!!」

「いい加減目障りだ、消えろ、リリモン」

 

 

デュナスモンは登場するなり、全身のオーラを飛竜の形へと変え、それをリリモンへと放つ。リリモンは避ける暇もなくそれに被弾したしまい、その身体燃え上がって消し炭となってしまう…………

 

 

「くっ……ごめん、真夏」

「謝る暇など与えんぞ………さらに手札からロイヤルナイツ、ロードナイトモンの効果を発揮」

「ッ………!?」

「互いのアタックステップ中にスピリットが召喚された時、このスピリットを1コストで召喚する………現れよ、正義のロイヤルナイツ、ロードナイトモン!!」

 

 

ー【ロードナイトモン】LV3(3)BP16000

 

 

華麗に舞う薔薇の花吹雪と共に姿を見せたのは、桃色の鎧を持つロイヤルナイツ、ロードナイトモン。

 

ロイヤルナイツの2体連続召喚に、流石の椎名も驚愕せざるを得ない。

 

 

「ロードナイトモンの召喚アタック時効果。このターンの間、相手スピリット1体のBP12000、0になれば破壊する………散れ、スティングモン」

「!!」

 

 

ー【スティングモン】BP5000➡︎0(破壊)

 

 

ロードナイトモンの鎧から伸びる4本の帯刃。それが鞭のようにしない、スティングモンを切り刻む。耐えられなくなったスティングモンは敢えなく爆散。

 

 

「マグナモンのアタックは、デュナスモンでブロックする!!」

「くっ………!!」

 

 

止まらない、止められないマグナモンのアタック。それをデュナスモンが阻み、ロイヤルナイツ同士の戦闘となる。

 

両腕を取り合い、取っ組み合いになる両者。最初こそ互角であったが、デュナスモンがマグナモンを上空へと蹴り上げた事で状況は一変。

 

マグナモンは上空でもなんとか耐性を立て直そうとするが、その前にデュナスモンが空いた両腕から高エネルギー弾を数弾発射。それらはマグナモンの堅牢な鎧を容易く砕き、それを爆散にまで追い込んだ。

 

 

「………これで、オマエのスピリットは貧弱な虫だけだ」

「…………」

 

 

デュナスモン、ロードナイトモンのコンボによるカウンターを受け、椎名の場は、成長期スピリットのワームモンのみとなってしまう。

 

 

「……1つだけ質問していいか?」

「…………」

 

 

突然手を止め、葉月に質問してもいいかと了承を得ようとする椎名。葉月は無視するが、それでも彼女は勝手に質問を投げ掛ける…………

 

 

「そんなにまで強くなって、葉月はいったい、何がしたいんだ?」

「………強くなる事に、何の問題がある」

「問題があるのはその手段だ!!……他の人を傷つけてまで強くなろうとする理由はなんだって聞いてんだ」

 

 

葉月の、執拗なまでにロイヤルナイツを集めて強くなろうとする理由を、椎名は訊いた。

 

葉月は少しだけ沈黙すると、ようやく椎名の質問に答える。

 

 

「………オレは、あの芽座一族だ。大昔、ロイヤルナイツを駆り、エニー・アゼムと共に鬼どもを絶滅させた、由緒正しき最強のバトスピ一族だ…………その子孫たるオレが最強を目指して、何が悪い?」

「…………いや、別に悪いとかじゃなくて」

「オレは、ジジイのように生温い考え方は持たない。必ず最強になり、芽座一族こそが、いやこのオレこそが最強であると、この世界に知らしめてやる」

「!!」

 

 

今、初めて聞いた気がした。葉月が強くなろうとする、本当の理由を…………

 

彼の言う『ジジイ』とは、彼の実の祖父、椎名の育ての親である「芽座六月」に他ならない。そんな彼が話題の一端として上がった時、椎名は…………

 

 

「葉月………それが、アンタの強くなりたい理由なのか。芽座一族……強さと、それに伴う名誉が、そんなに大事なのかよ」

「………あぁ、それがオレの全てだ」

「…………1つだけ、アンタに言わないといけない事があったんだ」

 

 

強くなりたい理由に、呆れる椎名だが『これを聞いたら、何か変わってくれるかもしれない』と思い、唇を震わしながらも、ある事を、葉月に告げる…………

 

 

「葉月………芽座六月、じっちゃんは…………じっちゃんは………」

「…………」

「じっちゃんは………死んだんだ」

 

 

 

 

 




次回、EP6「アルファモン王竜剣」



******


オバエヴォの続編『バトルスピリッツ 王者の鉄華(https://syosetu.org/novel/250009/)』の方も是非よろしくお願いします!!


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EP6「アルファモン王竜剣」

今からおよそ、1年前の出来事だ。

 

とある田舎の病院。田舎と言っても、それなりの大きさを持つ有益な病院。その病院の一室に、芽座椎名と、ベッドに横たわる老人、芽座六月はいた。

 

その雰囲気はどこか物寂しく、窓からやって来るからっ風がよりそれを助長させて来る。

 

 

「………気分はどう、じっちゃん?」

「もう最高じゃよ。こうして最後に可愛いオマエの顔を見れたんじゃからな!!」

「………そっか」

 

 

死期が近いと言うのにも関わらず、六月は豪快に笑い、それに釣られて椎名もまた苦笑いする。

 

 

「………あの日、暗利の……Dr.Aの研究室から、まだ赤ん坊だったオマエを助け、育て上げた事は後悔していない。寧ろ誇りだ」

「……どうしたんだよ、急にかしこまって」

 

 

今から20年以上前の出来事。進化を無限に繰り返す人造人間「エニーズ」としてDr.Aに造られた椎名を、六月が保護したあの日…………

 

あの日は六月の人生を大きく狂わせることとなった。だが、それは同時に彼にとって椎名と言う大事な存在ができるきっかけにもなった…………

 

しかし、それによって、もう1人人生が狂わされた者が1人いると六月は考えていて…………

 

 

「葉月じゃよ」

「!!」

「アイツは馬鹿孫だ。愚か者だ。じゃが、オマエを甘やかしてばっかりで、アイツに愛情を全力で注いでやれなかったワシもまた悪かった」

「そ、そんな事……」

「椎名。この先、どんな事があっても、アイツを見捨てないでおくれ…………だってオマエは、アイツの妹、兄妹なんじゃから…………」

「………じっちゃん……じっちゃん!!」

 

 

最後にそう言い残し、六月は息を引き取った。死因は単純な寿命らしい。

 

動かなくなった六月を見て、椎名は拳を固めた。悲しさと、切なさと………………悔しさで。

 

 

 

******

 

 

 

「………ジジイが死んだ?」

「あぁ、一年前に………な」

 

 

舞台は戻って現在。椎名は今、空港までにある長い一本道の上で葉月とバトルをしている。

 

その中で、彼女の育て親で、尚且つ葉月の祖父である「芽座六月」が1年前に亡くなった事を伝えた。椎名にとっては嫌な思い出なのは間違いないため、非常に心苦しかったな違いない。

 

 

「じっちゃんは、アンタを心配してた。アンタが捻くれたのは自分のせいだって、悲観してた」

「…………」

「強くなろうとするのは勝手だ。けど、やっぱりやり方が間違ってる。じっちゃんの言葉を受け取って欲しかった…………もう、罪を重ねてまで強くなるのはやめろ」

 

 

必死の懇願、訴え。六月がどんな思いで「葉月を見捨てないでくれ」と自分に言ったのを理解しているからこそ、本心から、この言葉が送れるのだろう…………

 

だが葉月は…………

 

 

「くくく………」

「?」

「くはははは!!!」

「!?」

「ようやくくたばったか、あの頑固ジジイ。年齢は精々70くらいか?……はっ80も生きられないとは、無茶が祟ったなぁ」

「は、葉月!?」

 

 

笑い出した。

 

その事実を聞いて、無邪気に、真っ直ぐに、邪悪に、面白そうに…………

 

椎名は呆れるのを通り越して、怖くなった。本当はこんな事思いたくもなかったが、葉月にはもう何を言っても通じないのだろうと本気で考えてしまった。

 

 

「ジジイが死んで………だからなんだ椎名。オレは、オレこそが最強である事をこの世に教えられればそれでいいんだよ」

「……葉月……ッ!!」

「さぁバトルの続きだ椎名。もっとも、オマエの場のスピリットはチンケなイモムシだけ、オレの2体のロイヤルナイツに敵うわけがないんだけどな」

「………ターンエンドだ」

手札:5

場:【ワームモン】LV1

バースト:【無】

 

 

こうなったらもう、バトルに勝って、無理矢理にでも止めるしかない。そう思った椎名は、一先ずそのターンをエンドとする。

 

次は伝説のデジタルスピリット「ロイヤルナイツ」に属する「デュナスモン」と「ロードナイトモン」の2体を従えている葉月のターンだ。

 

 

[ターン08]芽座葉月

 

 

「メインステップ………疲労しているジエスモンとアルマジトカゲを消滅させる」

「!?」

 

 

ターン開始直後の刹那。葉月はあろう事かロイヤルナイツの一柱である「ジエスモン」からコアを全て奪い、フィールドから消滅させた。

 

確かに前のターンにリリモンによって重疲労状態にさせられたため、少なくともこのターンまでは身動きが取れなくなっていたが、そうだとしても、正気の沙汰とは思えない。

 

 

「何を驚いている、使えない物を捨てただけだ。マジック、ソウルドロー。コストにソウルコアを支払い、効果で3枚ドロー」

 

 

再びソウルドローで手札を稼ぐ葉月。あらゆる手段で強い盤面を構築しようとする彼のその動きは、まるで彼の人生そのモノであるとも言えて………

 

 

「アタックステップ………デュナスモンでアタック、その効果で残ったワームモンを破壊する」

「!!」

 

 

椎名のライフバリアを破壊するべく飛翔するデュナスモン。その間に右手から火炎弾を放ち、ワームモンに被弾させる。ロイヤルナイツの一撃に、単なる成長期スピリットのワームモンが敵うわけもなく、力尽きて爆散した。

 

 

「さぁ椎名。敗北を味わえ!!」

「くっ……!!」

 

 

椎名とて、世界のためにも、じっちゃんのためにも、ここで負けるわけにはいかない。手札にある1枚のカードを切り、それをBパッドへと叩きつけた。

 

 

「フラッシュチェンジ!!……デュークモン クリムゾンモード!!」

「!!」

「効果でシンボル3つ分、デュナスモンとロードナイトモンの2体を破壊!!」

 

 

椎名の背後から出現する、熱き広大な炎の塊。それは龍へと形を変えて、葉月のロイヤルナイツ、デュナスモンとロードナイトモンへと襲いかかる。

 

2体は一溜りもなくそれに焼き尽くされて爆散して行った。

 

 

「………入れ替えの対象はない。この効果発揮後、これはトラッシュへ破棄する」

「…………デュークモン クリムゾンモード。オマエがデュークモンを進化させたカードか………しかし、それだけではオレは倒せんぞ」

 

 

そう告げながら、葉月はアタックステップを終了させ、エンドステップへと移行すると、トラッシュに落ちたカードの効果を、猛々しく発揮の宣言をして…………

 

 

「トラッシュにあるデュナスモンとロードナイトモンの効果!!……このカード達はゲーム中に一度、エンドステップ時に、手札1枚を破棄する事で、トラッシュから手札へと帰り咲く!!」

「なに!?」

「オレは2枚の手札を破棄し、2枚を回収!!……ターンエンドだ」

手札:6

バースト:【無】

 

 

まさかの復活効果を発揮するデュナスモンとロードナイトモン。トラッシュから彼の手札へと戻っていく。

 

そして次の椎名のターン、彼女がアタックするのであれば、また厄介な召喚コンボがそれを邪魔する事だろう。そのプレッシャーや存在感は半端なモノではない。

 

 

「………次のターンにまた私の攻撃に合わせて来る気か、厄介だな。でも、邪魔して来るなら、それごとぶち抜き破るまで!!」

 

 

プレッシャーに押されても、まだまだそれを押し返せる程の戦意を、決して捨てたりはしない。葉月の全てを突破するべく、椎名は己のターンを開始した。

 

 

[ターン10]椎名

 

 

「メインステップ…………ブイモンを召喚!!」

 

 

ー【ブイモン】LV2(3)BP4000

 

 

「召喚時効果でデッキ上から2枚オープン………よし、フレイドラモンを手札に加える」

 

 

椎名のデッキの起点となる成長期デジタルスピリット、青き小竜型のブイモンがその姿を見せる。

 

椎名はその効果で「フレイドラモン」のカードを手札へと加えると、すぐさまその効果を発揮させて…………

 

 

「【アーマー進化】発揮!!……対象はブイモン!!」

「………」

「燃え上がる勇気、フレイドラモンを召喚!!」

 

 

ー【フレイドラモン】LV2(6)BP9000

 

 

上空に出現した炎の紋様が浮かんだ卵、勇気のデジメンタルに飛び込んでいくブイモン。それと衝突して1つとなり、椎名のマイフェイバリットスピリット、燃え上がる炎の竜人、フレイドラモンがその姿を見せる。

 

そしてまた、手札を切る。

 

 

「さらにフレイドラモンを対象に【煌臨】!!………呼ぶのは当然こいつだ!!」

 

 

そう告げながら椎名は葉月に「デュークモン」のカードを見せつけると、それを己のBパッドへと叩きつけた…………

 

 

「赤きロイヤルナイツ、デュークモンをLV3で煌臨!!」

 

 

ー【デュークモン】LV3(6)BP18000

 

 

フレイドラモンが赤き聖なる光を纏い、究極進化を果たす。

 

白い鎧と赤いマントを靡かせるそのデジタルスピリットの名はデュークモン。伝説のロイヤルナイツの一柱にして、椎名のデッキの象徴、エーススピリットである。

 

 

「来たか、デュークモン。待ち侘びたぞ」

「アタックステップ!!……行くぞ、デュークモン!!」

 

 

勢いのままアタックステップ。椎名はデュークモンで突撃を仕掛ける。

 

デュークモンは槍を前方に突き出しながら、前へと突き進んでいくが……………

 

葉月がそれを許すわけもなくて。

 

 

「フラッシュ、デュナスモンの効果………コスト6以上の相手スピリットがアタック、ブロックしている時、1コストで手札から召喚できる」

「ッ………」

「来い!!」

 

 

ー【デュナスモン】LV3(4)BP17000

 

 

飛竜の力を宿すロイヤルナイツ、デュナスモン。ロイヤルナイツの一柱として、十分過ぎる程の強力な効果を持つそれが、今一度フィールドへと降り立つ。

 

 

「召喚アタック時効果………BP20000以下のスピリット1体を破壊する」

「!!」

「くたばるがいい、デュークモン!!」

 

 

登場するなり、飛竜の力を宿す紫色の闘気を拳から撃ち放つデュナスモン。デュークモンは、それを回避する間もなく被弾……………

 

するかに見えたが…………

 

 

「………む」

「手札からグラニの効果を発揮!!……効果でデュークモンを守り、合体する」

 

 

ー【デュークモン+グラニ】LV3(6)BP24000

 

 

その直前で赤き飛行物体、デュークモンの相棒であるグラニが、それを代わりに受けていた。頑丈な装甲はその程度ではひび割れも起こしはしない。

 

一見、デュークモンの破壊を防ぎ、劣勢を覆したように見えるが、葉月にはまだ使えるカードが手札にあり…………

 

 

「互いのアタックステップ中、効果でスピリットが召喚された時、手札からローナイトモンを1コストで召喚する」

 

 

ー【ロードナイトモン】LV3(3)BP16000

 

 

赤い薔薇の花吹雪と共に、華麗に再登場を果たす桃色の鎧持つロイヤルナイツ、ロードナイトモン。

 

その効果はデュナスモンと合わせてかなり厄介な効果であり…………

 

 

「召喚アタック時効果で相手スピリット1体をBPマイナス12000!!………グラニはデュークモンを効果破壊とバウンス効果から守る事はできるが、それ以外には無力!!」

「くっ……!!」

 

 

ー【デュークモン+グラニ】BP24000➡︎12000

 

 

ロードナイトモンの手に持つ黄金の鞭が伸び、デュークモンを縛り付ける。そこから電気ショックが流れ、デュークモンのBPは大幅に低下、弱体化してしまう。

 

 

「これでデュークモンのBPは12000。デュナスモンで返り討ちにしてくれる……!!」

 

 

動きの止まったデュークモンを仕留めんと、デュナスモンがゆっくりと迫り行く。

 

圧倒的にピンチなこの状況。しかし椎名はこの状況下でも笑って見せて…………

 

 

「フ………そう来ると思ってたよ」

「!?」

「デュークモンの効果、トラッシュにある滅龍スピリットカード1枚を手札に戻し、回復する………この効果で、私は「クリムゾンモード」を手札へ戻し、そのままデュークモンを対象に【チェンジ】だ!!」

 

 

この土壇場で椎名がトラッシュから手札に戻したのは、前のターンにも使用した「デュークモン クリムゾンモード」のカード。

 

そのカードを使い、逆転を狙う。

 

 

「効果により、再びデュナスモンとロードナイトモンを破壊!!」

「チイッ……!!」

 

 

前のターンと同様、燃え盛る炎が龍の姿で飛び交い、デュナスモンとロードナイトモンを焼き払っていく。

 

そして、前のターンと違うのは、椎名のフィールドにデュークモンがいる事であり…………

 

 

「この効果発揮後、デュークモンと回復状態で入れ替える!!……燃え上がれ聖騎士!!……真なる深い赤をその身に纏い、邪悪なる者皆、照らし破れ!!……モードチェンジ、クリムゾンモード!!」

 

 

ー【デュークモン クリムゾンモード+グラニ】LV3(6)BP15000

 

 

宙を飛び回る炎は、最後にデュークモンへと直撃。だが他とは違い、炎はデュークモンを焼き払うのではなく、さらなる進化へと誘う。

 

炎の力を吸収した、デュークモンの装甲は真紅に染まり、背中からは10枚の白き羽が生える。これこそ、椎名のデッキの最強のスピリット、究極体を超越した、デュークモンの最終形態「デュークモンクリムゾンモード」………

 

 

「2体のロイヤルナイツの復活効果はゲーム中に1回のみ、もう復活はできない!!……そして、チェンジで入れ替えたクリムゾンモードのアタックは継続中!!」

「………」

 

 

今度こそ完全に葉月のフィールドのスピリット達を全て倒した椎名。その勢いのままに、クリムゾンモードが猛追を仕掛ける。

 

クリムゾンモードはアタックしたバトルの終了時に、相手ライフを追加で破壊する力を持つ。つまり、これが通りば椎名の勝ちはほぼ確定なのだが…………

 

それをあの芽座葉月が許すわけもない。

 

 

「フラッシュマジック、デルタバリア」

「なに!?」

「これにより、このターンの間、効果とコスト4以上のスピリットのアタックでは、オレのライフは0にならない。その攻撃はライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎1〉芽座葉月

 

 

クリムゾンモードは真紅となったその拳で、葉月のライフバリアを殴りつけるが、そのライフバリアは全て破壊されず、1枚だけかろうじて残る。

 

その後もクリムゾンモードは何度もそれを殴りつけるが、それだけがどうやっても破壊できなかった。

 

 

「クリムゾンモードの効果は見切っている。それでオレのライフを全て掻っ攫おうとする予定だったようだが、詰めが甘かったな………そうだ、オマエはいつも詰めが甘い」

「くっ………何を思い出したように。ターンエンドだ」

手札:4

場:【デュークモン クリムゾンモード+グラニ】LV3

バースト:【有】

 

 

デルタバリアの効力を切らすためには、一度そのターンをエンドとするしかない。それを知っている椎名は、すぐさま葉月へとターンを渡した。

 

ここを凌ぎ、次の自分のターンで勝利するために…………

 

 

「………オレからも、1つだけ聞こう椎名」

「?」

「オマエはどうしてそこまで必死になる。オレが最強になるのをやめさせて、オマエに何の特がある?」

 

 

自分のターン開始直前、葉月が椎名に聞いた。

 

 

「ッ………そりゃやめさせるだろ、他の人をあんなに傷つけるようなら!!……それに、家族が危険な目に遭うかもしれないのに、放っておくわけないだろ!?」

「家族?……オレにそんな者はいない」

「なに!?………じゃあ三聖騎シスターズや、あの弟子の子は何なんだよ!!……ティアはアンタの事を家族だって言ってたぞ!!」

 

 

椎名のファンでもある三聖騎シスターズのティア。椎名は彼女を通して、三聖騎シスターズ達が、元は身寄りのない子供達で、葉月がそれを拾い、育てていた事を知っている。

 

だから、少なくとも、まだ心根の方では、きっと葉月はまだ人間らしい感性を持ち合わせている。

 

そう信じていた…………

 

 

「………ティアがそんな事を??」

「あぁ」

「はは、甘い蜜を吸いすぎたようだなティアめ…………奴らは使えそうだから育ててやったに過ぎん。まぁ、毛程も役に立たなかったけどな」

「ッ………葉月!!」

 

 

ティアはきっと、葉月の事を、父、もしくは兄のような存在として見ていたはずだ。

 

そして、おそらくそれは他の三聖騎シスターズ達も同じ事。身寄りがなく、苦しかった生活に刺した一条の光、それが葉月だったはずだ。そんな彼女らを単なる道具のようにしか思っていなかったと言う事実に、椎名は大いに腹を立てる。

 

 

「………葉月!!」

「人の名前を連呼するな、喧しい。質問コーナーは終わりだ………ここからは、オレのターンだ。終わらせるぞ、触角女!!」

 

 

今現在、葉月の残りライフは『1』…………

 

対する椎名は『4』…………

 

フィールドには椎名の方にのみ、強力なクリムゾンモードが存在する。こんな状況、誰が見ても逆転できるわけがないと豪語するだろう。

 

しかし、こんな状況下でも、何故かその場の流れと雰囲気、空気は『葉月の勝利』とでも言いたげな不穏なモノが漂っていて…………

 

 

[ターン01]芽座葉月

 

 

「メインステップ………歴戦の黒きロイヤルナイツ、アルファモンをLV3で召喚!!」

「ッ……アルファモンを普通に召喚!?」

 

 

ー【アルファモン】LV3(6)BP20000

 

 

出現するデジタルゲートの渦。その中心より姿を見せるのは、黒き鎧のデジタルスピリット。葉月が初めて手にしたロイヤルナイツにして、彼のエースカード、アルファモン。

 

ロイヤルナイツの中でも、オメガモンと並んでトップの力を持つとされる。

 

 

「………そしてこれが、オマエを敗北へと導くカードだ」

 

 

葉月は椎名にさらにそう告げると、手札からさらなるカードを引き抜く。

 

それは、そのカードは…………

 

葉月とアルファモンの強さの証明とでも言うようなカードであり…………

 

 

「【チェンジ】発揮!!……対象はアルファモン」

「葉月がチェンジ!?」

「この効果により、オマエのBP20000以下のスピリット、ブレイヴ、ネクサス、バースト全てをデッキの下に戻す。これは効果で防げない」

「なに!?………うあッ!?!」

 

 

アルファモンが前方に手を翳すと、その先からデジタルゲートが開き、まるでブラックホールのように椎名のカード達を吸い込んでいく。

 

クリムゾンモードは辛うじて生き残るが、そばにいたグラニ、伏せていたバースト『マリンエンジェモン』のカードは全てそれに吸い込まれていった…………

 

 

「そして、この効果発揮後、アルファモンと入れ替える!!………王の証、黒き魂!!……聖なる者皆、撃ち抜き破れ!!……モードチェンジ、アルファモン 王竜剣!!」

「!?」

 

 

ー【アルファモン 王竜剣】LV3(6)BP23000

 

 

アルファモンの手に握られるのは、王の証とも呼べる巨大な斧剣。それを握った途端、背中は黄金に輝き、その鎧はより黒く染まる。

 

これこそ、アルファモン 王竜剣。デュークモンのクリムゾンモードと同様、アルファモンの境地。

 

 

「あ、アルファモン……王竜剣」

「自分だけロイヤルナイツを進化させたと思い込んでいたか?………残念だったな、オマエにできる事は、オレにもできる」

 

 

アルファモンの進化形態、アルファモン 王竜剣を目の当たりにして動揺が隠せない椎名。その動揺を振り切る前に、葉月は「アタックステップ………」と、静かに宣言して…………

 

 

「行け、アルファモン 王竜剣!!……その効果でトラッシュのコア2つを自身に置き、回復する!!」

「!!」

 

 

葉月からの命を受け、ゆっくりと歩みを進めるアルファモン 王竜剣。その眼光を一瞬だけ輝かせ、アタック時効果を発揮。トラッシュのコアを戻しつつ、回復状態となった。

 

 

「くっ……クリムゾンモードのBPは21000。アルファモン 王竜剣の23000に届かない」

「そりゃそうだ。デュークモンに、アルファモンが負けるわけない」

「…………ライフで受ける。ならしかと受け止めよ、ダブルシンボルのアタックだ!!」

「ぐっ………ぐぁぁぁぁあ!?!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉芽座椎名

 

 

アルファモンが新たに手に入れた武器、王竜剣が、椎名のライフバリアに刺さる。身体が恥じけ飛ぶほどの凄まじいダメージが彼女を襲う。

 

 

「ぐっ……ぐっぅ」

「フ………良い眺めだな。再度アタックせよ、アルファモン 王竜剣!!……効果で回復!!」

 

 

再び王竜剣を振りかぶるアルファモン。ダブルシンボルであるため、この一撃を受けて仕舞えば、椎名の負けとなる。

 

 

「………ブロックだ、クリムゾンモード!!」

 

 

敗北を回避すべく、クリムゾンモードが、寸前でアルファモンの懐に飛び込み、椎名から引き離す。

 

だが直後に、アルファモンは片手からエネルギー弾をクリムゾンモードに放ち、それを吹き飛ばした。

 

クリムゾンモードも負けじと体勢を整え、光の力で剣を生成。再び飛び込んでいくが、最小限の動きで回避され、殴り蹴られ、返り討ちにあう。

 

そしてその怯んだ瞬間に、アルファモンの王竜剣による一閃がクリムゾンモードの身体を斬り裂く。耐え切れないほどのダメージが蓄積されたクリムゾンモードは力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「所詮オマエはこの程度………オレを止める事など、不可能だ」

「ッ………葉月?」

 

 

何故か。

 

椎名に向けられる葉月の悲しげな顔。彼女の脳裏に、それは鮮明に焼き付いて…………

 

 

「ラストアタックだ、盛大に散らせよ………アルファモン 王竜剣!!」

 

 

アルファモンはクリムゾンモードの大爆発による爆炎、爆煙の中、次はオマエの番だと言わんばかりに、椎名へ鋭い眼光を向ける。

 

彼女の残りライフは2つ。このアタックを受けて仕舞えば終わりと言うこの状況……………

 

もう、椎名に打つ手立ては残っていなくて…………

 

 

「くっ………くそ……ライフで受ける………!!」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉芽座椎名

 

 

「ッ………!!」

 

 

王竜剣による刺突が椎名の最後のライフバリアを粉々に粉砕する。

 

椎名はその凄まじいダメージにより、深く傷つき、やがて膝を突き、倒れた。

 

それにより、芽座葉月の勝利だ。進化したロイヤルナイツ同士の激闘を制し、それを掴み取ってみせた。

 

 

「勝者、強者………即ちこのオレ、芽座葉月の元に集え、ロイヤルナイツ、デュークモン、マグナモン!!」

 

 

気を失った椎名へ向けてその手を翳す葉月。それに吸い寄せられるように、彼女の持つマグナモンとデュークモンのカードは飛んで行き、その手に収まる。

 

これで、部下である三聖騎シスターズの3枚のロイヤルナイツと合わせ、遂に自分の手の中に13種のロイヤルナイツが揃った。その達成感と高揚感により、葉月は大きく口角を上げる…………

 

 

「フ………フハハハハハハ!!!……遂に、遂に揃ったぞロイヤルナイツ!!」

「………よくやったね葉月。これで僕は復活できる………君の力になる事ができる」

 

 

直後に頭の中からいつものあの声が自分に囁く。葉月が幼少期から耳にしているこの声…………

 

その声の正体に、葉月は既に気が付いていて…………

 

 

「あぁ、直ぐにオレの一部にしてやるぞ………伝説の怪物、ルーチェモン………!!」

 

 

芽座椎名と芽座葉月。2人の物語にいつも中心として立っていたロイヤルナイツのカード達。

 

それらが全て揃った事で、その物語は遂に根幹へと誘われる……………

 

バトスピが今、進化を超える。

 

 

 

 






次回、EP7「ルーチェモン」


******


【オリカ紹介】

【デュナスモン】
コスト8
色:赤/白
軽減シンボル:赤3
系統:究極体、戦騎
LV1(1)BP8000
LV2(3)BP13000
LV3(4)BP17000
シンボル:赤

手札にあるこのスピリットカードは、相手のコスト6以上のスピリットがアタック/ブロックしている時、フラッシュタイミングで1コスト支払って召喚できる。
[ゲームに1回:同名]トラッシュにあるこのスピリットカードは、お互いのエンドステップ時に自分の手札を1枚破棄する事で、手札に戻る事ができる。
LV1、LV2、LV3『このスピリットの召喚/アタック時』
ブレイヴの「BP+」を無視して、BP20000以下の相手スピリット1体を破壊できる。


ー…………


【ロードナイトモン】
コスト:8
色:黄/白
軽減シンボル:黄3
系統:究極体、戦騎
LV1(1)BP7000
LV2(2)BP12000
LV3(3)BP16000
シンボル:黄

手札にあるこのスピリットカードは、スピリットがお互いのアタックステップ中に召喚された時、1コスト支払って召喚できる。
[ゲームに1回:同名]トラッシュにあるこのスピリットカードは、お互いのエンドステップ時に自分の手札を1枚破棄する事で、手札に戻る事ができる。
LV1、LV2、LV3『このスピリットの召喚/アタック時』
このターンの間、相手のスピリット1体をBP−12000し、0になった時破壊する。


ー………


【アルファモン王竜剣】

コスト11
色:全色
軽減シンボル:紫3・白3
系統:究極体、戦騎
LV1(1)BP14000
LV2(3)BP17000
LV3(4)BP23000
シンボル:紫白

このスピリットカードのチェンジを使用する時、自分の「アルファモン」がいれば、《チェンジ:コスト2軽減無》で使用できる。
フラッシュ《チェンジ:コスト8軽減無》
BP20000以下の相手スピリット、ブレイヴ、ネクサス、バースト全てをデッキの下に戻す。この効果で相手の効果で防げない。この効果発揮後、コスト8以上の「戦騎」と入れ替える。
LV1、2、3『このスピリットのアタック/ブロック時』
自分のトラッシュにあるコア2つを、このスピリットに置く事で、このスピリットは回復する。




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オバエヴォの続編、『バトルスピリッツ王者の鉄華(https://syosetu.org/novel/250009/)』もよろしくお願いします!!

今年の11月に、鉄血強化が確定して、創作意欲が爆発しております( ̄▽ ̄)


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EP7「ルーチェモン」

全てが終わりに向けて、始まる。

 

 

 

******

 

 

全てにおいてバトルスピリッツが中心となる大都市『界放市』から遠く離れた、どこかの離島。木々が茂り、威風堂々と巨大な山が聳え立つこの島は、芽座椎名、芽座葉月の生まれ育った土地、故郷である。

 

葉月は、10年ぶりに、そんな故郷の大地に足をつけた。そのすぐそばには、彼を慕う三聖騎シスターズの3人と、弟子である獅堂レオンも確認できる。

 

 

「へ〜〜……ここが葉月様の故郷っすか」

「言葉を慎みなさいルージュ。葉月様は今から大いなる力を手にするのですよ………気が散ってしまわれたらどうするつもりですか?」

「うっせぇなスイートは、そんなんでアタシ様らの葉月様が取り乱すわけないでしょ、ね?」

 

 

口数の減らない赤髪のルージュに、金髪のリーダー格であるスイートが制止させようとする。だが、ルージュは能天気な性格故黙らず、寧ろ、より多くの言葉を口にし出す。

 

 

「ルージュ、いい加減黙らないと、またスイートにお仕置きされますよ?……今度はピーマンだけにあらず、にんじんまで生で口に入れられるかも………」

「げっ……それは勘弁だぜ」

 

 

メガネで青髪のティアがそう言うと、物理的に苦い思いをした記憶を思い出し、流石のルージュもしっかりと口にチャックをする。

 

 

「いよいよですね師匠!!……もうすぐ師匠はこの世界で誰にも負けない、無敵のカードバトラーになるんだ!!」

「………」

「くぅ〜〜〜カッケェぜ、オレもいつか追いついて見せます」

 

 

10歳程度の少年、レオンが師匠である葉月にそう話しかけるが、とうの葉月は集中しているのか、視線どころか耳すらも彼に傾けてはくれない。

 

だがそんな彼でも、レオンは迷わずにどこまでもついていく。鋼の強さを持つ、彼に憧れているからだ。

 

 

「レオン〜〜……オメェじゃ葉月様には勝てねぇよ。何てったって、このアタシ様が一生勝てないんだからな」

「んだとルージュ!!……んなもんやってみねぇとわからねぇじゃんか!!」

「はいはい2人とも、ムキになりませんよ」

 

 

ティアがレオンとルージュの口喧嘩を強引に終了させる。

 

こうしてる内に、一向は山の麓に辿り着く。麓には気が遠くなるような長い長い石の階段があり、その先に、葉月の実家とも言える場所『ハウス』が存在する。

 

そして、そこにはあの「ロイヤルナイツ」達が収められていた『芽座一族の祠』も…………

 

 

「………オマエらはここで見張っていろ」

「え?」

「ここから先は、オレ1人で十分だ………」

 

 

葉月のその言葉にいち早く反応を示したのは、他でもない、三聖騎シスターズ達の中で最も彼に忠誠心があるスイートだった。

 

 

「ちょっとどう言う事だよ師匠!!……貴方が最強になった瞬間を、このオレにも見せてくださいよ!!」

「………許せ、レオン。もう、後戻りできないところまで来てしまったんだ」

「??…………どう言う事ですか?」

 

 

葉月の言葉の意味がわからず、レオンは首を傾ける。その反面、絶対そうだとは言い切れないものの、スイートは彼の言葉の意味をある程度理解し…………

 

 

「………わかりました。ここは私たちにお任せください」

「はぁ!?……スイートまでなんだよ!?」

「葉月様は邪魔者が来ないか、見張って欲しいんですよ。わかってください、坊っちゃま」

「誰が坊っちゃまだ!!」

 

 

スイートは暴れるレオンの頭に手を置き、制止させながら、彼にそう告げる。レオンまだ子供すぎるが故に、葉月やスイートの言葉から、何も察する事ができないようで…………

 

 

「ねぇルージュ、葉月様、ひょっとして………」

「あぁ、多分そう言う事なんだろうな」

 

 

スイートの対応を目にし、遅れてティアとルージュも、葉月の言葉の意味を理解し察し始める。

 

 

「すまんな三聖騎シスターズども。後の事は、頼むぞ」

「「「はい、葉月様の仰せのままに」」」

 

 

葉月は最後にそう告げると、1人、石階段を駆け登り始めた。目指す先はおそらく『芽座一族の祠』であろう。

 

 

「ちぇ、結局留守番かよ」

「そう拗ねないの坊ちゃん。テトリスやる?」

「何で持ってんだよ!!……後、坊ちゃんって言うな!!」

「やるの、やらないの?……テトリス」

「やるよ!!」

 

 

ティアとレオンが早速テトリスで遊び始める。それを見たルージュも「まぜろ」と言って駆け出す。

 

残ったスイートは1人、葉月の影も見えなくなった山に向かって、願いを込めるように手を握り…………

 

 

「葉月様、どうかご無事で…………」

 

 

この時点で、三聖騎シスターズの3人は何となく理解していた。

 

葉月がこれから得ようとしている力は禁忌の力。それを得たら、どうなるかわからない。だからこそ、自分達をここで切ったのだと言う事を…………

 

 

 

******

 

 

川のせせらぎが心地よい、喉かな原っぱ。

 

そこでは、ある小さな男の子と女の子がテーブルを広げ、バトルスピリッツを行っていた。

 

 

「………もう諦めろよ椎名。オマエじゃオレには一度たりとも勝てん」

「い〜〜や〜〜だぁ〜〜!!……かつまでやるの!!!」

「ったく………」

 

 

それは、幼き日の椎名と葉月。それぞれ4歳と9歳の頃。

 

この時はまだ、葉月がマグナモンに選ばれるための修行はしておらず、この通り、仲が良かった。もっとも、そんな事を思っているのは、椎名だけかもしれないが…………

 

 

「言っとくけど、オレはバトスピでは絶対手を抜かねぇからな」

「とうぜん!!……こんどこそかちゅ!!」

「まぁでも今日はダメだな」

「ズコーーー!!……なんでなんで!?」

「………いや、もう陽が沈むし、オマエを夜遅くまで遊ばせるとジジイがおっかねぇからな」

「ちぇ」

「そう拗ねんなって、バトスピなんか、いつでもできるだろ??」

「…………そだね!!」

 

 

幼さの割にあった純真な笑顔を葉月に向ける椎名。この時の葉月も笑っていたのを思い出す。あの時の笑顔は、多分もう、絶対に見られない。

 

………『バトスピなんか、いつでもできるだろ?』

 

 

昔の葉月の言葉が、頭の中で反響する。

 

 

「葉月の………嘘つき」

 

 

 

******

 

 

 

「ッ………!!」

 

 

夢という名の幻が消え、目が覚める。知らない天井、知らない窓、そして、知らない女の子……………

 

 

「あ………」

「お、えぇっと………お、お邪魔してます……」

 

 

少女の年齢は大体10歳程度であろうか。桃色の長い髪とふっくらした頬っぺたが可愛らしい。椎名は、取り敢えず歯切れの悪い挨拶で誤魔化す。

 

すると、少女は大慌ての様子で…………

 

 

「お父さんお父さん!!……お姉さん起きた、お姉さんホントに起きたよ!?!」

「………」

 

 

別室にいるであろう父親を呼びに行った。

 

その様子はとても面白おかしく、且つ愛らしかった。おそらく少しだけ、昔の自分に似ていたからだろう。何にせよ、少女の反応や挙動は、肉体精神共に傷んでしまった今の椎名にとって、良い感傷剤になってくれた。

 

 

「早く早く、お父さん!!」

「あぁわかってるよ、引っ張らない引っ張らない」

 

 

桃色の髪の女の子が連れて来たのは、メガネを掛けた細身の40代くらいの男性。あんまり髭は剃ってないのか、顔から加齢臭みたいなのを感じる。

 

 

「あぁすまないね。驚かせてしまって………ここには私とこの子しかいない、ゆっくり寛いで行きなさい」

「ありがとうございます……でも私、急がないと」

 

 

そう言うと、男性の温かみのある言葉を蔑ろにするかのように、椎名は勢いよく立ちあがろうとするが…………

 

 

「ッ……!!」

「無理しない方が良い。見たところ、おそらく全治1ヶ月は掛かる怪我だ。今だと満足に歩けもしないだろう」

「………」

 

 

本当だったら、今すぐにでも葉月の所に行かないといけない。どこに向かっているのかは健闘がついている。あのバトル最後、自分に向けたあの悲しい表情。アレがどうにも忘れられないんだ…………

 

そう自分を奮い立たせようとするが、身体は言う事を聞かず。

 

 

「ここは?」

 

 

苦渋の思いで一度ベットの上に戻ると、この場所がどこなのかを質問する。

 

 

「界放市の外れにある、知り合いの別荘だよ。私は「春神イナズマ」………こっちは娘の「ライ」だ。2人で住む場所を転々としていてね。今はここと言うわけさ………もっとも、丁度出ようとした時に、空港での道筋で君を拾って、結局戻って来たんだけどね」

「あっはは………なんか、すみません」

「いやはは、そう言うつもりじゃないんだ許しておくれ………ライ、お姉さんに温かいスープを持って来てやりなさい」

「は〜い!」

 

 

春神イナズマと春神ライ。どう言う事かは知らないが、この2人もどうやら色々と訳ありらしい。

 

色々と察し、椎名は彼らに甘える事にした。

 

 

 

******

 

 

再び場所は戻り、山の頂上、芽座一族の祠。その最奥部には以前、マグナモンが収まっていた巨大な石碑がある。

 

そして、そこには円を描くように、それと同じ物が丁度12個、合計で13ある。これ即ち、ルーチェモン封印の棺…………

 

それを確信している葉月は徐に、13枚のロイヤルナイツのカード達を取り出した。

 

 

「長かった………長い道のりだった」

「あぁ、これで君は最強になれる………本当に優秀な逸材だったよ君は、本当にね………」

 

 

これまでの道のりの干渉に浸る葉月の脳内で、またルーチェモンが語りかける。その声の節々に「早く復活させろ」と言う旨を感じる。

 

そして葉月は13枚のロイヤルナイツのカード達を束ね、天に掲げる…………

 

 

「さぁロイヤルナイツどもよ!!………大天使を縛りつけた、忌々しい封印から解き放って見せよ!!」

 

 

すると、13枚のカード達は、淡く優しい光を放ちながら、それぞれの石碑へと収まっていく…………

 

だが、その光は徐々に徐々にと邪悪さを増していき、やがて黒一色に染まり、石碑は砕け散っていく…………

 

そして、その中心より、白く、純白な12枚の翼を束ねし大天使が今、何千年の時を経て、復活を果たした。

 

 

「おぉ、遂に、遂に」

「………幼き日から聞こえて来たオマエの声、まさかこうして対面する日が来る事になるとはな………」

「フフ………そうさせてくれたのは君だよ葉月。さぁ、1つになろう………最強になるために………」

 

 

ルーチェモンはそう告げると、天使とは思えないような不気味で、邪悪な黒のオーラを纏った触手を生やすと、それを葉月の方へと伸ばしていった…………

 

 

 

******

 

 

その日の夜、春神イナズマとライの別荘。

 

喋り疲れたライがよだれを垂らしながら転がり、気持ち良さそうに眠っている。今日一日、椎名はライと話していたが、昔の自分と話しているみたいで、とても落ち着いたし、とても楽しかった。

 

椎名はそんなライに掛け布団を掛けてあげると、Bパッドを腕にハメ、デッキを整え…………

 

 

「………もう出るのかい?」

「イナズマさん、起きてたのか」

 

 

こっそりと家を出て行こうとする椎名に声をかけたのは、他でもないイナズマだ。

 

 

「すみません。信じられないかもだけど、ひょっとしたら世界全体の危機かもしれないんだ、行かせてください」

「全治1ヶ月は掛かると伝えたはずだが………」

「あぁ、それなら大丈夫。私は普通の人間じゃないから………」

 

 

腕を軽く回し、元気になった事をアピールする椎名。だが本当はもう少し痛い。

 

だが、椎名が普通の人間ではないと言うのも本当の話である。何故なら彼女は…………

 

 

「エニーズ」

「ッ!?!」

「そうなんだろ?」

 

 

イナズマから発せられた意外な言葉に、椎名は驚かされる。

 

そう、自分は『エニーズ』…………

 

悪魔が造った、進化した世界のための生命体。

 

 

「なんで、アンタがその事を………」

「やはり、そうなんだね。Dr.Aに造られた人工生命体………まさか君とこうして向かう日が来るとは思ってもなかったよ」

「アンタ、まさか………」

 

 

世界を二度救った英雄として、数多くの人々に認知されている椎名だが、彼女の正体を知る者は少ない。それを知るのは、自分や、既に死亡しているDr.Aや六月、他はA事変に関わった同窓生くらいなものである。

 

他にそれを知る可能性があるとすれば…………

 

 

「そう。私は………科学者だ。かつて、Dr.Aもとい、徳川暗利の元で助手を務めていた」

「ッ………!!」

 

 

そう、春神イナズマは、あのDr.Aの助手だった男。共に人工生命体エニーズを生産、研究していた存在。

 

こんな穏やかそうな男が、あの「世界全てを進化の力で満たした進世界」を目指した、狂気の科学者の元にいたと言う事実は、俄には信じ難いモノだが…………

 

 

「最も、今から20年以上前の事だけどね。彼の狂気を知ってからは…………彼から逃げるように研究所を去ったよ。そして紆余曲折あり、今は娘のライと共に旅をしている」

「…………」

「君には本当に辛い思いをさせてしまった。徳川教授は、本当なら僕らが止めるべきだったのに………この通り、謝らせてほしい」

「え、いやいいって………頭なんか下げないでよ。そりゃ辛い事もたくさんあったけどさ、今は結構楽しいんだ」

 

 

イナズマは20年以上溜まりに溜まった罪悪感から、頭を深々と下げる。20年以上、彼から逃げ続け、責任を誰かに押し付けるような自分が、許せなかったのかもしれない。

 

兎に角、悲しくて、悔しかった事だろう。

 

 

「………そう言ってくれて、嬉しいよ」

「アンタも辛い事たくさんあったんだろうな………」

「あぁ、僕はずっと逃げて来た」

「ふ……だったら、娘の……ライからは絶対逃げないようにしないとな」

 

 

椎名は自分の言葉に、イナズマが頷くのを見届けると「私も、逃げないようにしないとな………」と、最後に告げて、この場を後にした。

 

目的地はもう決まっている…………

 

この世でだった1人しかいない、兄の元だ。

 

 

******

 

 

葉月が1人で山を登ってから、およそ1日は経過した。夜を迎えて、明けて、今度は日は上り、鳩の間抜けな鳴き声が頭に響いて来る。

 

それでも三聖騎シスターズの3人と、獅堂レオンは、葉月の命令通り、この道を守護していた。もう誰も来ないと言う事は、わかっていると言うのに………

 

 

「なぁ、師匠はまだか?」

「さぁ………いつになったら帰って来るのでしょうね」

 

 

レオンの質問に、ティアが指先でメガネを定位置に戻しながら答える。

 

 

「おい、スイート………もうここで待つのはいいんじゃねぇのか?」

「!!」

 

 

レオンには聞こえなよう、ルージュがスイートに囁く。

 

 

「レオンにももう誤魔化しきれねぇ。ならいっそアタシ様らも上に登って…………」

「それはなりません。葉月様の命令でここを任された以上、葉月様が帰って来るまでは、ここは離れません」

 

 

実際はルージュの言っている事は正しい。1日経過しても帰って来ないのであれば、その様子を見にいくのが普通だ。

 

だが、スイートは彼の命令だからとそれを拒否。彼女程の頭脳ならば、その事くらい、容易に想像はついただろうに…………

 

余程、葉月を信頼しているのか、それとも、彼の亡き姿をこの目に映してしまう事を恐れているのか…………

 

どちらにせよ、頑固である。

 

 

「………ふざけた事抜かすなよスイート………アンタならもうわかってるはずだろ………葉月様が、命を賭けてでも、世界最大の力を得ようとしている事を」

「………」

「アタシ様らは、それを見届ける責任があるんじゃねぇのかよ………!!」

「………何度言われようが、持ち場を離れる事は容認できない」

「………チッ……そうかよ」

 

 

軽く口論になる2人。それを見たレオンは「お、なんだ喧嘩か?」と、煽り、ティアに軽く頭部をチョップされる。

 

そして、そんな時だ。こちらに向かって来る人影が薄らと見え始めたのは………

 

 

「………アレは」

 

 

スイートは遠目ながらそれを視認すると、その特徴的な一角のようなアホ毛から、すぐに誰かを特定する………

 

 

「め、芽座椎名………!?」

「はぁ!?……葉月様がボコったんじゃないのかよ、なんで1日で回復してんだ!?」

「それより、なんでこの場所が………」

 

 

真っ直ぐ近づいて来る人影の正体は、紛れもない芽座椎名本人。その存在に、三聖騎シスターズ達は驚きを隠せない。

 

 

「なぁに、復活したなら、またボコるだけだろ………今度はこのオレが直々に」

「いや待ちなさい坊っちゃま。ここは私が………」

 

 

名乗り出ようとするレオン。それを危ないと判断したスイートは、彼を制止させ、代わりに自分が名乗りを上げる。

 

そして、椎名はようやく彼女らの目の前まで辿り着いて…………

 

 

「三聖騎シスターズと、葉月の弟子か。やっぱり、葉月は山の頂上にいるんだな」

「………ここは通しません。私は今、ロイヤルナイツを持ちませんが、それは貴女とて同じ事………必ず死守して見せます」

 

 

スイートはBパッドを展開し、己のデッキをセット。バトルの準備を進めるが…………

 

対する椎名はそんなそぶりは一切見せず…………

 

 

「どけよ」

「!?!」

 

 

そのたったひとつの言葉の重圧に、スイートはおろか他の3人まで大きなプレッシャーを与えられる。

 

それは、並大抵のカードバトラーであれば、失神してしまうのではないかと言う程に強大なモノ。

 

だがスイートはそれにも負けず、冷や汗を掻きながらも、ゆっくりと自分達を素通りしようとして来る椎名を迎え撃とうとして…………

 

 

「聞こえなかったか??」

「…………!?」

「命張る覚悟もないんだったら、私の前に立つな……!!」

「ッ………!!」

 

 

次の瞬間、椎名に与えられた重圧、プレッシャー、恐怖に負けたスイートは、腰が抜けたようにその場でへたれ込む。椎名はそんなスイートを通り過ぎ、先を急ごうと山の階段を登り始める。

 

他2人のシスターズは、彼女の身を案じるように、その場に駆け寄る一方で、レオンは椎名のカードバトラーとしての強者の圧に気圧され、腰を抜かし、かける言葉さえも発する事ができなかった。

 

 

「ま、待ってください!!」

「………」

 

 

湧き上がって来る恐怖の中、声を振り絞り、スイートは椎名に声を掛ける。

 

 

「あ、貴女なら………貴女なら葉月様を助けてくださるのですか!?……貴女なら、私たちにできない事も、やってくれるのですか!?!」

 

 

涙ながら、声を荒げる。

 

誰よりも葉月に忠誠心のあるスイート。だがそれ故に、彼の目指す目標と彼の身の安否、どちらを取るかで悩んでいたのだろう。

 

そして、もう自分達ではどうする事もできない状況にまで陥ってしまった。今は芽座椎名に希望を託すしか他ならない。

 

そう。もう彼女しかいないのだ。

 

世界を二度も救った英雄、芽座椎名しか…………

 

 

「………そのために、私がいる」

 

 

椎名はスイートだけではなく、三聖騎シスターズ全員に向けてその言葉を送ると、再び階段を登り始めた。

 

 

 

******

 

 

芽座一族の祠を目掛けて走る椎名。薄気味悪い洞窟を抜け、遂に広々としたその空間へと突入する。

 

そして、そこには予想通り、葉月がたった1人いて…………

 

 

「葉月………!?」

 

 

彼に近づこうとする椎名であったが、直ぐに違和感を感じる。

 

それは、いつもの葉月には持ち合わせていない、途方もない邪悪な気配を感じたからであり…………

 

 

「いや、葉月じゃない………オマエは」

「フフ………ようやくここに辿り着いたか、お初にお目に掛かるね………僕の名はルーチェモン。ロイヤルナイツに力を封印されていた存在さ」

「!!」

 

 

通りで邪悪な気配を感じるわけだ。

 

ルーチェモンは既に復活していたのだ。しかも葉月に憑依までしている。

 

 

「葉月から離れろ!!」

「そう言われてもなぁ、これは彼自身の願いだからね」

「なに!?」

「最強になるため、彼は僕と融合する道を選んだ。まぁ最も、人間の彼の意識はとっくに死んでるけどね」

「ッ………ふ、ふざけんな!!………葉月、葉月!!……アンタはまだ死んじゃダメだ、三聖騎シスターズや弟子達のためにも帰らないといけないんだ!!………葉月!!」

「フハハハハハハハハハ!!!!……いくら呼んでも無駄だよ。芽座葉月は死んだ」

 

 

本来の力を全て取り戻しただけではなく、葉月の肉体まで得たルーチェモンの高笑いは止まる事を知らない。

 

きっと、何千年もの間、己がこう来て復活する事をずっと考えていたのであろう。それが全てうまく行った時の快感から、笑いが止まらないのだ。

 

 

「この世界にはもう芽座一族も、エニー・アゼムもいない。僕はこの世界の覇者だ!!………でも、そのエニー・アゼムに似せて造られた君は鬱陶しいよね、芽座椎名」

「………!!」

「そうだ。君を潰す事で、僕は真の意味で覇者となる!!……集結せよ、13枚のロイヤルナイツを達!!」

「!?!」

 

 

ルーチェモンが手を翳すと、13枚の石碑に埋め込まれていたロイヤルナイツのカード達が彼の元に集う。そしてそれを葉月のデッキに入れ、展開したBパッドへとセットした。

 

その狙いは当然椎名の命…………

 

 

「………いいぞ、上等だ。アンタに勝って、世界も葉月も守る!!」

「フフ、そう来なくては困ると言うモノだよ」

 

 

ルーチェモンに勝てば、葉月を取り戻せるかもしれない。椎名はそう思い至ると、自身もまたBパッドにデッキをセットした。

 

 

「行くぞルーチェモン!!」

「あぁ、来るがいい、芽座椎名!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

広々とした芽座一族の祠の中、葉月を取り戻すためのバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先行はルーチェモンだ。葉月の肉体を通し、己がターンを進めていく。

 

 

[ターン01]ルーチェモン

 

 

「メインステップ………フフ、いいね。先ずはこのカード、僕の分身、契約スピリット『ルーチェモン』を召喚!!」

「!?」

 

 

ー【ルーチェモン】LV1(1)BP1000

 

 

ルーチェモンの場に召喚されたのは、自身の真の姿と酷似した天使型のスピリット。『分身』と称している事と、同名である事から、おそらくは彼自身なのであると思われる。

 

 

「契約スピリット………!?」

「あまり馴染み深くはないだろうね。契約スピリット、契約カードは、僕みたいな特異なスピリットと契約したカードバトラーにのみ与えられるカードの事さ。つまり、葉月はその資格を得たと言う訳」

「ッ……無理矢理葉月の肉体を奪ったクセに……!!」

「おおっと、勘違いしないでくれたまえ。これを望んだのは葉月自身だよ………君も知っているだろう、葉月が最強を目指していた事を」

「…………」

 

 

椎名が言い返す言葉を詰まらせた所で、ルーチェモンは召喚したスピリットの効果発揮を宣言する。

 

 

「僕の効果を発揮!!……1ターンに一度、手札、トラッシュ、デッキからロイヤルナイツ1枚をゲームから除外する事で、ボイドからコア1つをトラッシュに置き、カウント+1」

「なに、ロイヤルナイツをゲームから除外!?」

「フフ……僕はデッキから『ジエスモン』を除外し、コアをトラッシュに追加。その後、デッキから除外したら、それをシャッフルする。ターンエンドだ」

手札:4

場:【ルーチェモン】LV1

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

契約スピリット『ルーチェモン』の効果により、彼のデッキからロイヤルナイツの1枚である『ジエスモン』がデッキから外される。ジエスモンは謎の浮力で浮かび上がり、彼の頭上で停滞する。

 

しかし、それ1枚でバトルの流れを大きく変える力を持つ、ロイヤルナイツのカードを使えなくしてまで、使用する効果には思えない。

 

椎名はこの効果の裏に、必ず何かあると睨んで…………

 

 

[ターン02]芽座椎名

 

 

「メインステップ、ブイモンを召喚!!……その召喚時効果を発揮」

 

 

ー【ブイモン】LV1(1)BP2000

 

 

椎名の場に現れるのは、いつものブイモン。

 

その効果でデッキ上2枚がオープンされ、椎名はその中にある「フレイドラモン」のカードを手札に加えて、すぐさまそれを呼ぶ。

 

 

「ブイモンを【アーマー進化】!!……燃え上がる勇気、フレイドラモン!!」

 

 

ー【フレイドラモン】LV1(1)BP6000

 

 

「ほう、フレイドラモン。君が幼き頃から持つ、唯一無二のフェイバリットカードだったな」

 

 

ブイモンと勇気のデジメンタルが融合し、炎の竜戦士、フレイドラモンが出現する。

 

ルーチェモンから常に排出される、この世のモノ全てを駆逐せんとする邪悪なプレッシャー、それに立ち向かうにしては、フレイドラモンではやや力不足感があるのは否めないが、マグナモンやデュークモンと言ったロイヤルナイツをデッキから失った今、椎名は他のスピリット達のみで戦うしかなくて…………

 

 

「フレイドラモンの召喚アタック時効果!!……BP7000以下のスピリット1体を破壊する事で1枚ドロー!!」

「………」

「もちろん、対象はオマエだ、ルーチェモン!!……爆炎の拳、ナックルファイアッ!!」

 

 

フレイドラモンは拳から燃えたがる炎の弾丸を放出する。それはルーチェモンを純白の翼ごと焼き尽くした……………

 

かに見えた。

 

 

「!?」

 

 

放った爆炎が自然消滅すると、そこにはまだルーチェモンがいた。薄く青い、半透明のバリアでその身を包み込んでいる。

 

 

「ナックルファイアを耐えた………耐性持ちスピリット!?」

「いや違うね、きちんと破壊はされたよ。でも契約スピリットは特殊でね、破壊されても【魂状態】として残る………ルーチェモン、僕の分身は、まさに今その状態になったのさ」

「魂状態!?」

 

 

聞き慣れない言葉、効果が飛び交う。そもそもそれが効果なのかも怪しい。

 

わからない事だらけだが、それでも唯一理解している事は、ルーチェモンは未だ健在であると言う事……………

 

 

「よくわからないけど、何かされる前に、ライフを全て破壊するまでだ!!………アタックステップ、フレイドラモン!!」

「ライフで受けよう」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ルーチェモン

 

 

フレイドラモンが飛び掛かり、炎を纏った拳で、ルーチェモンのライフバリアを1つ叩き壊す。

 

その数は4つとなり、一先ずは椎名の優勢となる。

 

 

「フフ……だけど君のアタックステップ終了時、ルーチェモンはさっきと同じ効果を発揮する」

「なに!?……その状態でも効果は使えるのか!?」

「もちろんさ。僕はデッキからロイヤルナイツ『ガンクゥモン』をゲームから除外、トラッシュにコアを1つ追加」

 

 

椎名の攻撃終了に合わせ、再びルーチェモンの効果が発揮される。今度は『ガンクゥモン』と呼ばれるロイヤルナイツのカードがデッキから除外され、ジエスモンと同様に、ルーチェモンの頭上で停滞する。

 

 

「くっ……ターンエンドだ」

手札:6

場:【フレイドラモン】LV1

バースト:【無】

 

 

できる事を全てやり終えた椎名。ルーチェモンの繰り出して来た、全く知らないカードの翻弄されながらも、そのターンをエンドとする。

 

 

[ターン03]ルーチェモン

 

 

「フフ……僕のメインステップ、再びルーチェモンの効果で、今度は君にとっても馴染み深いであろうこのカード『マグナモン』をゲームから除外させてもらうよ」

「ッ………マグナモン」

 

 

3枚目に選ばれたのはマグナモンだ。デッキから除外され、ルーチェモンの頭上へと浮遊する。

 

 

「…………もうね、何となく気がついていると思うけど、僕の狙いは除外ゾーンに13枚あるロイヤルナイツを揃える事」

「!」

「そして、契約スピリット『ルーチェモン』により、それらは毎ターン最低でも1枚ずつ揃っていく。今は3枚目、つまり最高で残り10ターン………それが君に残されたタイムリミットだと言う事だよ、精々残りのターンを楽しむといい」

「………」

「フフ、フハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

バトルが始まって以降、毎ターン余裕のある笑みを見せるルーチェモン。

 

椎名はそれを崩す事ができるのか、そして、葉月と世界を救う事はできるのか……………

 

最後のバトルスピリッツは、まだ始まったばかり。

 

 

 

 





次回、EPファイナル「激闘の果て」…………



******


主人公の使用するデッキは鉄華団!!
ガンダム・バルバトスがエースとなる続編『バトルスピリッツ 王者の鉄華(https://syosetu.org/novel/250009/)』もよろしくお願いします!!


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EPファイナル「激闘の果て」

とある離島の山の頂上にたる、最強のバトスピ一族『芽座一族』の祠にて、椎名VSルーチェモンが続く。

 

ルーチェモンに肉体を奪われ、もう後戻りができなくなった葉月を救うべく、椎名はロイヤルナイツのないそのデッキを振るう。

 

 

******

 

 

「バーストをセットし、僕のターンはエンドだ」

手札:4

魂状態:【ルーチェモン】

バースト:【有】

カウント:3

 

 

バーストが伏せられ、ルーチェモンの第3ターン目が終了する。

 

彼の狙いは13枚あるロイヤルナイツを、自分の分身である「ルーチェモン」のカード効果で除外ゾーンに揃えること。おそらく揃うと何かが起こるのだろう。

 

各ターン1枚増やしていくため、合計で13ターン。椎名はそれまでに決着をつけなければいけなくて……………

 

 

「さぁ、君のターンだ」

「………この私を前に、13ターンも生き延びれると思うなよ!!」

 

 

椎名の場のフレイドラモンが、リフレッシュステップにより、立ち上がる。

 

葉月を救うべく、再び椎名のターンが動き出した。

 

 

[ターン04]芽座椎名

 

 

「メインステップ………ブイモンを再召喚」

 

 

ー【ブイモン】LV1(1)BP2000

 

 

青き小型の竜、ブイモンが再び椎名の場に出現する。その召喚時効果により、椎名は新たに「スティングモン」のカードを手札は加えた。

 

そしてそれも呼び出す。

 

 

「ブイモンの効果、2コストを支払い、緑の成熟期スピリット、スティングモンを召喚!!……不足コストはブイモンとフレイドラモンから確保、よって消滅」

 

 

ー【スティングモン】LV1(2)BP5000

 

 

ブイモンとフレイドラモンがその場から消滅してしまうが、フィールドにスマートな昆虫戦士、スティングモンが姿を見せる。

 

その召喚時効果でさりげなくコアが増えた。

 

 

「アタックステップ!!……スティングモンでアタック、その効果でコア1つを増やし、LV2にアップ」

 

 

スティングモン単騎となったフィールド。椎名がそれで攻撃を仕掛けるが、その真骨頂はその直後にある。

 

 

「【超進化:緑】を発揮!!……スティングモンを至高の竜戦士、パイルドラモンに進化!!」

 

 

ー【パイルドラモン】LV2(3)BP10000

 

 

スティングモンはデジタル粒子に身を包み込まれ、その中で進化を果たす。やがてデジタル粒子の繭を突き破って現れたのは、甲虫の甲殻を纏う至高の竜戦士、パイルドラモン。

 

 

「パイルドラモンか。ロイヤルナイツを失った今、君のデッキで頼りになるのはそれとインペリアルくらいだものね」

「ロイヤルナイツだけじゃない。私のデッキのスピリットは、その全てが切り札だ!!……パイルドラモンでアタック、その効果でコア2つを自身に追加し、一度だけ回復!!」

 

 

パイルドラモンがその効果で自身のLVを3に上げつつ走り出す。目指す先は当然、葉月に憑依したルーチェモンのライフバリア。

 

 

「ライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉ルーチェモン

 

 

パイルドラモンの硬い甲殻で覆われた拳による一撃が、ルーチェモンのライフバリアを1つ砕く。

 

しかしそれは、彼の伏せていたバーストの発動条件でもあって…………

 

 

「ライフ減少により、バースト発動。エクスティンクションウォール」

「!!」

「ライフ1つを回復。コストを払い、アタックステップを終了させる」

 

 

〈ライフ3➡︎4〉ルーチェモン

 

 

勢い良く反転したバーストカードは、汎用性の高い白の防御マジック。それにより、ルーチェモンのライフが1回復し、椎名のアタックステップを強制的に終了させた。

 

 

「………ターンエンド」

手札:6

場:【パイルドラモン】LV3

バースト:【無】

 

「君のエンドステップ時、魂状態のルーチェモンの効果、デッキからロイヤルナイツ「ドゥフトモン」を除外して、カウント+1。トラッシュにコア1つを追加するよ」

「………4枚目のロイヤルナイツ」

 

 

ルーチェモンの頭上には13枚中4枚のロイヤルナイツが揃う。

 

 

[ターン05]ルーチェモン

 

 

「メインステップ………君に残された寿命をさらに縮めてあげよう」

「!?」

「マジック、グランドクロス……この効果で手札かデッキ、トラッシュからロイヤルナイツのカードを3枚除外し、その数だけカウント+1」

「なに!?」

「僕はこの効果でデッキから「アルフォースブイドラモン」「エグザモン」「スレイプモン」の3枚を除外し、カウント+3」

 

 

ルーチェモンがメインステップの開始早々に放った1枚のマジックカード。その1枚で新たに3枚のロイヤルナイツのカードが除外ゾーンに追加され、実にルーチェモンの効果3ターン分加速する。

 

そして、これだけでは終わらず…………

 

 

「さらに魂状態を含むルーチェモンがいる時、相手スピリット1体のBPをー7000」

「!!」

「パイルドラモンだ」

 

 

ー【パイルドラモン】BP13000➡︎6000

 

 

パイルドラモンに纏わりつく光のオーラ。これが力を奪い、BPは6000まで低下する。

 

 

「さらにもう1枚グランドクロスを使用!!」

「なに!?」

「今度は「デュナスモン」「ロードナイトモン」「クレニアムモン」の3枚をゲームから除外し、カウント+3。そしてパイルドラモンのBPを下げ、破壊する」

「くっ……!?」

 

 

ー【パイルドラモン】BP6000➡︎0(破壊)

 

 

除外されたロイヤルナイツとカウントの追加、さらにはパイルドラモンが淡い光に包まれて爆散する。

 

 

「最後に魂状態のルーチェモンの効果、デッキからこのカード「オメガモン」を除外し、カウント+1。トラッシュにコアを1つ追加」

「………オメガモン」

 

 

その名を耳にするなり、椎名が思い浮かべるのは、今も意識不明の重体となっている兄貴分「一木花火」…………

 

彼のためにもこのバトル、負けるわけにはいかない。

 

 

「ターンエンド………これで僕の除外ゾーンに溜まったロイヤルナイツの合計は11枚。後2枚で全て揃う、君が自由に動けるターンは次が最後だ」

手札:3

魂状態:【ルーチェモン】

バースト:【無】

カウント:【11】

 

 

「………まだ、1ターンある」

「フフ、負け惜しみか。伝説の英雄は言う事が立派だね」

 

 

ロイヤルナイツは全部で13枚。ルーチェモンはその内11枚を揃えてリーチをかける。

 

椎名はその残された1ターンで、ルーチェモンの4つのライフを全て破壊するべく、カードをドローする…………

 

 

[ターン06]芽座椎名

 

 

「メインステップ……スティングモンとスバモンを召喚。スティングの召喚時効果でコアブーストし、スバモンと合体………さらにネクサス、デジヴァイスを配置」

 

 

ー【スティングモン+ズバモン】LV1(2)BP8000

 

ー【デジヴァイス】LV1

 

 

前のターンに手札に戻っていたスティングモンが再召喚。さらにデジタルブレイヴであるズバモンが剣の姿に変形し、その腕に収まる。

 

椎名の腰に、デジタルスピリットをサポートする掌サイズの機械、デジヴァイスが装着されたところで準備完了だ。逆転への狼煙が上がる。

 

 

「アタックステップ………スティングモンでアタック!!」

 

 

ズバモンと合体しているスティングモンのアタック。椎名はその効果でコアが増加したのを見届けると、フラッシュタイミングである1枚のカードを切る…………

 

 

「フラッシュ【煌臨】を発揮!!……対象はスティングモン!!」

「!!」

「唸れ、猛き皇帝竜……インペリアルドラモン ファイターモードッッ!!」

 

 

ー【インペリアルドラモン ファイターモード+ズバモン】LV2(3)BP18000

 

 

甲虫型のスティングモンが、一瞬にして皇帝竜インペリアルドラモン、その竜人形態であるファイターモードへと姿を変える。

 

ファイターモードは、気合を入れるように、右手に力を込めると、そここら砲手を展開、さらには左手には剣の姿で合体したままのズバモンが握られており、その構えには隙がない。

 

 

「………これがインペリアルドラモン。エニー・アゼムの遺産か」

「煌臨時効果、このターンアンタは、手札からコスト4、6、8のカードを使用できない」

「………」

「さらに、ファイターモードはアタックによってライフを減らした時、追加で2つのライフを破壊する!!……合体によるダブルシンボルと合わせて4点のダメージで、私の勝ちだ!!」

 

 

場には何もなかった状態から僅か1ターン。一撃で4点ものライフを砕くコンボを完成させた椎名。

 

オマケに手札のカードの使用も制限しているため、この一撃を凌げるカードもかなり限られている。普通のカードバトラーならば先ずこの一撃は通ってしまうに違いない。

 

もっとも、その相手が今は普通ではないのだが……………

 

 

「へぇ、面白い効果だね。フラッシュマジック、氷刃血解」

「ッ……コスト3のマジック」

「これにより、このバトルの間、僕のライフは一切減らない……そのアタック、ライフで受けるよ。減らないけどね」

 

 

〈ライフ4➡︎4〉ルーチェモン

 

 

ファイターモードが右手の砲手から放った極太のレーザー光線。ルーチェモンはたった1枚のマジックカードから展開した半透明のバリアでそれを凌ぐ。

 

ファイターモードのアタック時効果はライフを減らさなければ発揮できないため、結果的にルーチェモンのライフバリアを1つも奪えない状況に陥ってしまう。

 

 

「……さぁ、君のアタックできるスピリットはそれだけ、つまりそのアタックを終えた今、強制的にエンドステップとなる。僕の分身、ルーチェモンの効果を再び発揮………「デュークモン」デッキから除外してカウント+1。トラッシュにコアを1つ追加」

「ッ………ターンエンドだ」

手札:3

場:【インペリアルドラモン ファイターモード+ズバモン】LV2

【デジヴァイス】LV1

バースト:【無】

 

 

12枚目のロイヤルナイツ「デュークモン」が除外された。

 

それを見届けることしかできない椎名は、歯痒くもそのターンをエンドとする。

 

 

[ターン07]ルーチェモン

 

 

「メインステップ……待たせたね。ルーチェモンの効果」

「!!」

 

 

ロイヤルナイツ。

 

全部で13枚あるそれは、その昔、芽座一族の戦士達が鬼と戦うために使ったカード達だと言われている。それらのカード達は1枚1枚がバトルを大きく揺るがす性能を誇っており、カード自身が、その使用者を選ぶ…………

 

だが、そのカード達は今、不本意ながら、悪しき者の手によって集結してしまう…………

 

 

「最後のロイヤルナイツ「アルファモン」を除外!!」

「………13枚のロイヤルナイツが揃った………!?」

 

 

遂に除外ゾーンにて集結する13枚のロイヤルナイツ。ルーチェモンのカウントもまた13に到達した。

 

これにより、呼び出す条件を満たしたカードが、彼の手の内にある。

 

それは、ロイヤルナイツでさえも脅かされる凶悪なデジタルスピリットであり…………

 

 

「時は満ちた。今こそ完全なる復活を果たす時………!!」

「!?」

 

 

突如、ルーチェモンが乗っ取った葉月の肉体から、白と黒の翼が10枚ほど生える。

 

ルーチェモンはその翼で宙を舞うと、見上げる椎名に憎たらしい笑顔を見せながら、そのカードを手札から切った…………

 

 

「【契約煌臨】……対象は魂状態のルーチェモン………聖騎士を糧に君臨するがいい、ルーチェモン フォールダウンモード!!」

「!?」

 

 

ー【ルーチェモン フォールダウンモード】LV3(3)BP23000

 

 

「………ルーチェモンが進化した!?」

 

 

13枚のロイヤルナイツ達の力がエネルギーに変換され、魂状態のルーチェモンに力を与える。

 

ルーチェモンは激しい稲妻と突風に身を包み、超越とも呼べる凶悪な進化を果たす。その名はルーチェモン フォールダウンモード。

 

天使と悪魔、その両方の力を宿す、最も神に近いスピリットである…………

 

 

「流石は葉月の肉体…………思っていた以上に、最高の復活だ。まさかフォールダウンモードの効果をここまで引き出せるとはね」

「………」

「煌臨時効果、カウント1につき、相手の手札を1枚破棄」

「なに!?」

 

 

煌臨直後、戦慄する間もなく、フォールダウンモードが掌を椎名に翳すと、その手札は彼女の手を抜け、全てトラッシュへと破棄されていく。

 

カウントが13もあるのだ。残る手札などあるわけがない。

 

 

「その後この効果で破棄したカード1枚につき、相手のスピリットのコアをリザーブに置く………消えなよインペリアルドラモン!!」

「ぐっ………ズバモンはスピリット状態で残す」

 

 

ー【インペリアルドラモン ファイターモード+ズバモン】(3➡︎0)消滅

 

 

フォールダウンモードは掌をファイターモードへと向け直すと、ファイターモードは暗黒の力に肉体を蝕まれ、瞬く間に消滅していく…………

 

辛うじてズバモンのみがスピリット状態となり場に残るが、手札の破棄もあり、その戦力差は圧倒的に開いたと言える。

 

 

「アタックステップ、フォールダウンモードでアタック。その【OC】効果により、紫のシンボルを1つ追加し、ターンに一度回復する」

「………そんな効果まで」

 

 

ー【ルーチェモン フォールダウンモード】(疲労➡︎回復)

 

 

シンボル2つとなり、2回アタックを行えるフォールダウンモード。単体で実に4点ものライフを破壊できることになる。

 

 

「………アタックはライフで受ける………ぐぁっ!?」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉芽座椎名

 

 

「フフ、いいね。もう一度君の苦しむ姿が見たいよ、再度アタック!!」

「………それもライフだ………ぐっがぁっ!?!」

 

 

〈ライフ3➡︎1〉芽座椎名

 

 

フォールダウンモードの掌から放たれる黄色と紫の光球が椎名を執拗に襲い続け、そのライフは一気に残り1つまで減少した。

 

Dr.Aの造った人造人間エニーズ故に、椎名は頑丈だが、前日の葉月との激しい戦いで既に疲弊していたのもあってか、片膝をついてしまう…………

 

 

「ハァッ………ハァッ………クソッ!!」

「ターンエンド。折角だからもうちょっと足掻いてみてよ。この強さを試す場所が、この世だともう君しかいないんだから」

手札:2

場:【ルーチェモン フォールダウンモード】LV3

バースト:【無】

 

 

目の前のフォールダウンモードはおそらく、13枚のロイヤルナイツ達の力が無理矢理収束させられた力の結晶。

 

この世界のカードで、そんなバケモノみたいなスピリットに勝てるカードなど、ごく僅かしかいないだろう。ただ、不幸中の幸いか、はたまたこれまでの戦いが功を奏したのか、椎名のデッキには、これを覆すカードがたったの1枚投入されていて……………

 

 

「…………負けられない。このバトルには葉月の、みんなの命がかかっているんだ!!」

 

 

糸よりも細い、ごく僅かの勝利への可能性を信じ、椎名は奮い立つ。

 

 

[ターン08]芽座椎名

 

 

「ドローステップ………ドロー!!」

 

 

足掻く椎名の渾身のドロー…………

 

そのカードを視認するなり、疲れ切っていた椎名の表情は一点、明るくなる。それを見たルーチェモンは余裕だった表情をほんの少し掠めた。

 

 

「メインステップ………」

 

 

椎名は1枚になったその手札のカードを颯爽と使用していく。

 

全てはルーチェモンのエースたらスピリットを葬り去るために…………

 

 

「インペリアルドラモン パラディンモードの【チェンジ】発揮!!……最もコストの高い相手スピリット1体を破壊」

「ッ………!!」

「そう。アンタの場のスピリットは1体、フォールダウンモードは破壊される!!」

 

 

巨大な白き聖剣が降り注ぎ、フォールダウンモードの胸部へと突き刺さる。強大なBPとコストを持つそれだが、この効果の前では敢えてそれが仇となり、悲鳴を上げて爆散していく…………

 

 

「よし、これで互いのエースカードは破壊された。まだ勝負は終わらない」

 

 

爆炎により舞う爆煙の中、椎名がそう呟く。

 

手札は0だが、最も厄介になるスピリットを破壊できたために、まだ自分にも勝ちの芽があると、そう信じていた……………

 

 

「フォールダウンモードが相手によってフィールドから離れた時、ルーチェモン サタンモードの効果発揮」

「!!」

「手札から自身をノーコストで召喚する!!……現れ出でよ、究極を超えた魔獣、ルーチェモン サタンモード!!」

 

 

ー【ルーチェモン サタンモード】LV3(3)BP30000

 

 

「な、なんだって………まだそんなカードを!?」

 

 

フォールダウンモードの破壊に反応し、爆煙を吹き飛ばしながら現れたのは、これまでの美しき姿とは一点して醜き異形となり、変わり果てたルーチェモンの最強進化形態「サタンモード」……………

 

足掻き、足掻き抜いて倒した強敵。だがさらにその上の存在までは予想すらしていなかった。今の椎名が抱える感情はただ絶望のみ…………

 

 

「サタンモードは互いのエンドステップ時、互いのライフを1つずつボイドに置く」

「!!」

「僕のライフは4。対する君のライフは1。勝負あったね………葉月は死ぬし、君が愛した友人や家族、仲間も世界も、全て僕によって壊れるんだ」

 

 

果てなき破壊衝動を持つルーチェモン。その純粋な瞳の奥には、ただの幼稚な遊び心のみ…………

 

遊び感覚で、彼は人を殺せるのだ。

 

 

「さぁ、ターンエンドを宣言するんだ」

「………」

「早く、さぁ早く早く早く!!!………アーッハッハッハ!!!!」

 

 

何かを壊す行い自体が久し振りなのだろう。ルーチェモンはそれが目前に迫った事に対する悦びが抑えきれずに大きな口を開けて笑い出す。

 

だが、ある人物によって、直後にその口は閉じる。

 

 

「………し、椎名………」

「葉月!?」

 

 

ルーチェモンを抑え、葉月の自我が飛び出して来た。これまでの激闘でルーチェモンが疲弊したからなのか、葉月の底力がルーチェモンを押し退けたのかは定かではないが、椎名はひとまず葉月の命がまだ存在する事に喜ぶ。

 

 

「な、何故だ。何故オマエはそこまでしてオレを救けようとする………こんな、力に驕れるオレなんかを………!!」

「………!!」

 

 

ルーチェモンの意識と闘い続けているのか、苦しそうな声で葉月がそう告げた。

 

椎名は笑顔でそれに答える。

 

 

「………そんなの決まってるじゃん。家族だから」

「!!」

「葉月は世界でたった1人の私の兄ちゃんだから………大事じゃないわけがない。今助けるから、もう少しだけ待っていてくれ」

「…………椎名」

 

 

椎名の慈愛の言葉に、葉月はいったい何を思い、考えたのか、苦しそうにしながらも、安らかに、その瞳を閉じる。

 

さらに、彼の意識が弱まった事を察知したのか、再びルーチェモンの意識が復活して…………

 

 

「やれやれ、タフな男だ。私の中でまだ消えていなかったとは」

「………私は諦めないぞ」

「あぁ?」

「葉月を、兄ちゃんを取り戻すまで、絶対に諦めないぞ!!」

 

 

決意を改め、椎名は手札0のまま戦いに臨む。

 

そして、その決意に応えんとする2枚のカードが、それぞれ赤と黒の輝きを放つ……………

 

 

「ッ………なに、デュークモンにアルファモンが………!?」

「!!」

 

 

椎名の葉月を助けたいと言う感情に呼応するかのように、ルーチェモンの除外ゾーンから封印されていたデュークモンとアルファモンのカードが2枚、それぞれ赤と黒の輝きを纏いながら椎名の元へと帰還。そのデッキへと装填される。

 

2枚のロイヤルナイツの力により、椎名のデッキは燃え上がるように輝きを放ち、進化を果たす。

 

 

「デュークモン、アルファモン。ありがとう、行くよ………!!」

 

 

サタンモードによって消えかけた逆転への道筋…………

 

その道が、2枚のロイヤルナイツの力、椎名の進化の力によって、今再び示される。

 

 

「アタックステップ。その開始時、成長期スピリットのズバモンがいる事により、デジヴァイスの効果発揮、疲労させる事で、1枚ドロー!!」

 

 

進化を何度も繰り返し、蠢き続けるデッキの上から1枚をドローする椎名。そのカードはまさに、この奇跡のために創造されたスピリットカード…………

 

 

「さらに同じタイミングで、このカードのスピリット効果を発揮!!」

「!?」

「自分のライフが2以下の時、手札からノーコスト召喚できる………赤の聖騎士、黒の聖騎士が混ざり合う!!………森羅万象、伝説さえをも覆せ!!………アルファデュークモンをLV3で召喚!!」

 

 

ー【アルファデュークモン】LV3(5)BP25000

 

 

赤と黒の光が、螺旋状に交差し合いながらゆっくりと交わり、地面に投下され、そこから発せられる衝撃と爆発により、新たなるデジタルスピリットが誕生した。

 

その名はアルファデュークモン。デュークモンをベースに、アルファモンの黒い鎧が重なり合った姿をしている、究極形態。

 

 

「あ、アルファデュークモン!?……デュークモンとアルファモンが合体しただと!?」

「これが、ロイヤルナイツ達の絆の力だ。決してオマエみたいな奴に扱えるような力じゃない!!」

「ほざけ!!……所詮は2体分の力…………このサタンモードで蹴散らしてやる」

 

 

まさかの合体、意外な展開に、ルーチェモンは僅かな焦りを感じ始める。

 

そして、その僅かを確信に変えるべく、椎名はアルファデュークモンを駆る。

 

 

「アタックだ、アルファデュークモン!!……その効果発揮、トラッシュにあるデジタルスピリット1体の効果とシンボルを得る!!」

「ッ………!!」

「私はトラッシュにあるインペリアルドラモン パラディンモードの効果とシンボルを得て、効果発揮、トラッシュにあるコア全てをアルファデュークモンに置き、ルーチェモン サタンモードを疲労させる!!」

「な、なんだと!?!」

 

 

アルファデュークモンは、一瞬だけパラディンモードの影を纏うと、そのシンボルと効果を確保。右手で薙ぎ払っただけで発生させて大風は、たちまちサタンモードの足を取り、疲労状態へと追いやった。

 

これでバトルに参加させる事は不可能…………

 

 

「元から赤と紫のシンボルを持っているアルファデュークモンに、パラディンモードの青緑のシンボルを追加した!!………これで、クアドラプルシンボル。一撃で4つのライフを消し飛ばす!!」

「ば、馬鹿な………そんな事が………この僕が」

 

 

アルファデュークモンは、デジタルハザードのマークが刻まれた巨大な剣斧状の武器、王竜聖刃を両手に握り締め、ルーチェモンに凄まじい速度で接近する。

 

 

「終焉の一撃………王竜聖刃!!!」

 

 

そして、赤紫青緑のシンボルを持つその一撃が、バトルに決着を齎す……………

 

 

「ぐっ………ぐぁぁぁぁあ!?!」

 

 

〈ライフ4➡︎0〉ルーチェモン

 

 

王竜聖刃による強烈な一撃が、ルーチェモンのライフバリアに直撃、一刀両断された。

 

彼のライフが0になった事によるものなのか、場に残ったサタンモードは痛々しい喘ぎ声を張り上げ、もがき苦しみながら粉塵と化し、この場より消滅して行った…………

 

 

「ぐっ………あ、ありえない。ロイヤルナイツを扱える完全な肉体を手にした、この僕が………嘘だ。嘘だァァァァ!!!!」

 

 

葉月の中に宿っていたルーチェモン。フォールダウンモードの姿で飛び出していき、これもまた、粉塵となってこの場より消滅していった……………

 

その光景を見るなり椎名が抱いた感情は、殺めてしまった僅かな罪悪感と、世界を救えたと言う安心感。そして、葉月の安否だ。

 

 

「葉月!!」

 

 

倒れる葉月を抱き抱え、名前を呼ぶが、返事がない。

 

 

「葉月、葉月!!……おい!!」

「………んだよ。うっせぇな………椎名」

「葉月………」

 

 

無事に目を覚ます。兄の生還に、椎名は安堵し肩を撫で下ろした。

 

 

「…………なんでだ」

「え?」

「なんでオマエはオレに構う。助けようとする…………馬鹿がよ」

 

 

何度も聞いたその質問。椎名はいつものように反射的に思った事を口にする。

 

 

「何度も言わせるなよ!!……家族だから、兄ちゃんだからだ………って…………」

「…………」

 

 

そっぽを向く葉月のその目には涙が溢れ落ちていた。その光景に、椎名は驚いて声も出せなくなる。

 

弟子を取ったり身寄りのない子供達を拾ったりしていた事を知った時から何となく感じてはいたが、葉月にもまだ人の心が残っていたのだ…………

 

長年、ルーチェモンという怪物の声を聞きながらも、人の善意の感情をしっかりと持っていたのだ。

 

そう思うと、椎名は自然と笑顔になれた。

 

 

******

 

 

あれから小一時間程の時間が経過。椎名も葉月も、自分一人で動ける程には回復した。

 

そして葉月はここから立ち去らんと、Dr.Aに改造されたBパッドの機能を使ってワームホールを開口させた。

 

 

「………もう行くの?」

「あぁ」

「下にはまだ葉月の弟子と、慕う女の子達がいるよ?」

「いいんだ。アイツらにはオレは死んだと伝えておいてくれ…………オレと一緒にいるだけで、アイツらには迷惑をかけるからな」

「…………」

 

 

世間では、葉月は今でもS級の犯罪者として扱われている。三聖騎シスターズやレオンと一緒にいたい気持ちは葉月とて山々であるが、このままだと彼らまで犯罪者扱いになってしまう危険がつきまとう。

 

だから葉月は大人しくここを去るのだ。

 

 

「………わかった。わかったけど葉月」

「なんだ」

「最後にまたバトスピしないか?」

「!!」

「昔みたいに、楽しくさ」

 

 

椎名の心からの懇願。それに対し、葉月の返答は…………

 

 

「嫌だ」

「………え?」

「オレはもう疲れた。一刻も早くここを出たいんだよ」

 

 

まさかのNOだった。椎名は少しばかりショックを受けるが…………

 

 

「そう拗ねんなって、バトスピなんか、いつでもできるだろ??」

「!!」

 

 

昔、まだ幼かった頃と全く同じ言葉。椎名の目からも涙が落ちる。

 

間違いなく、今の葉月は昔のあの優しい芽座葉月なのだ。

 

 

「………そうだね!!」

「ありがとうな、椎名」

 

 

椎名も昔と全く同じ返答をすると、そんな変わらないでいてくれた、変わってしまった自分を連れ戻してくれた大事な妹に、葉月は感謝の言葉を送った………………

 

 

 

 

 

 








これでオーバーエヴォリューションズのお話は全て終了でございます。

この完結編は、続編の「王者の鉄華(https://syosetu.org/novel/250009/)」に関係した事柄がいくつか存在します。それに関する点は、是非本編をご覧になってください!!

それでは読者の皆様、今まで芽座椎名の物語を見守ってくださり、本当にありがとうございました!!




******

【ルーチェモン】
コスト3
色:黄
軽減シンボル:無
系統:成長期、天霊
LV1(1)BP1000
《OC13+》+1000
シンボル:無

魂状態のこのカードには《契約煌臨》できる。このとき、煌臨するカードに、自分のフィールド/リザーブのコアを好きなだけ置く。
【魂状態】/【スピリット】LV1『自分のメインステップ』/『相手のアタックステップ終了時』
[ターンに1回:同名]手札/トラッシュ/デッキから、系統:「究極体」か「アーマー体」を持つ、系統:「戦機」のスピリットカード1枚をゲームから除外する事で、ボイドからコア1つをトラッシュに置き、カウント+1。その後、デッキから除外していたら、デッキをシャッフルする。
【契約煌臨元】LV1
相手のスピリット/アルティメットがアタックしたとき、このスピリットは回復する。


******


【グランドクロス】
マジック
コスト4
軽減シンボル:黄2

フラッシュ:自分の手札/トラッシュ/デッキから系統:「究極体」か「アーマー体」を持つ、系統:「戦機」のスピリットカード3枚までゲームから除外する事で、その数1つにつき、カウント+1。その後、デッキから除外されていたら、デッキをシャッフルする。この効果発揮後、相手スピリット1体のBPをー7000し、0になったとき破壊する。


******


【ルーチェモン フォールダウンモード】
コスト12
色:黄紫
軽減シンボル:黄3・紫3
系統:完全体、天霊
LV1(1)BP6000
LV2(2)BP7000
LV3(3)BP10000
《OC13+》+13000
シンボル:黄

「フラッシュ《契約煌臨》ルーチェモン&C13以上『自分のターン』」
LV1、LV2、LV3『このスピリットの煌臨時』
自分のカウント1につき、相手は自分の手札を1枚選んで破棄する。その後、この効果で破棄したカード1枚につき、相手スピリットのコア1つをリザーブに置く。
《OC中》『このスピリットのアタック時』
このスピリットに紫シンボルを1つ追加し、ターンに1回回復する。


******


【ルーチェモン サタンモード】
コスト12
色:紫
軽減シンボル:黄3・紫3
系統:究極体、天霊
LV1(1)BP15000
LV2(2)BP20000
LV3(5)BP30000
シンボル:黄紫

このスピリットカードは、自分の「ルーチェモン フォールダウンモード」が相手によってフィールドから離れたとき、手札からコストを支払わずに召喚できる。
LV1、LV2、LV3『お互いのエンドステップ時』
お互いのライフを1つずつボイドに置く。
LV2、LV3『このスピリットのアタック/ブロック時』
相手のスピリット3体のBPをー15000し、0になったとき破壊する。


******


【アルファデュークモン】
コスト12
色:赤紫
軽減シンボル:赤3・紫3
系統:究極体、戦機、滅龍
LV1(1)BP12000
LV2(3)BP20000
LV3(5)BP25000
シンボル:赤紫

『自分のアタックステップ開始時』
このスピリットカードは、自分のライフが2以下のとき、手札からコストを支払わずに召喚できる。
LV1、LV2、LV3
このスピリットは相手の効果で破壊されず、手札/デッキに戻らない。
LV2、LV3『このスピリットのアタック時』
自分のトラッシュにある系統:「究極体」/「アーマー体」のスピリットカード1枚の効果とシンボルを全て得る。





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特別編「椎名に勝った世界線のDr.Aの話」





既に完全に完結した「オバエヴォ」ですが、今回は特別編として、僕の創作仲間で友人の「置き物」君の名オリキャラ「エドワード・ハイ」と、二期のラストバトルで椎名に勝利した世界線の「Dr.A」の対決を執筆致しました!!

元々は、僕個人が彼へのプレゼントとして書き上げた物だったのですが、折角ですのでこうして投稿する事にしました。

オバエヴォのあり得た可能性の世界を堪能していただければ幸いです( ̄∀ ̄)




 

 

 

 

特別編『Dr.A VSエドワード』

 

 

 

 

 

その名はエドワード・ハイ。

バトルスピリッツのカードを通し、バトスピで繋がる数多の世界を巻き込みながら、自身の計画を進めている狂気の科学者。

彼はとある世界での一件後、新たなる力を求め、強力な力のある世界を探し続けていた。

 

そして、遂に見つけたのは『進化の力』…………

 

彼は、それがある世界へ、自身が開発した人造人間の1体「TYPE・アポストル」を尖兵として送り込んでいたのだが……………

 

 

「アポストルの反応が消えただと……?」

 

 

向かわせた先兵、アポストルからの反応が途絶える。

 

アポストルが並大抵の事では消滅しない事を理解している彼は、その世界が一筋縄ではいかない事を確信した。

 

 

「ならば、行くしかないな………この私自身が」

 

 

エドワードはようやく見つけ出した「進化の力」を宿す世界へと、自ら赴く。

 

ただ、この時はまだ知らなかった。その世界には自分以上の狂気の科学者がいる事を…………

 

 

 

今、2つの狂気が交わる…………

 

 

 

******

 

 

とある世界、とある街、とある場所。

 

空間が張り裂けると、そこからワカメヘアーと眼鏡、黒衣が特徴的な狂気の科学者エドワード・ハイが降り立った。

 

 

「………ここは、なんだ。素晴らしいな」

 

 

倒壊した街の建物、コンクリートの地面に走っている亀裂。何の物質で構成されているかもわからない、黒い霞に遮られた日光。まるで世界が滅んだかのような、情景に、エドワードは早くも心を打たれた…………

 

期待通りだった。この世界に存在する「進化の力」には、自分が求めるだけの力が間違いなくある。

 

 

「………これは」

 

 

ふと足元を見てみると、黄色の液体が辺り一面に散らばっていた。

 

エドワードは、それが送り込んだ尖兵、人造人間「TYPE・アポストル」だと直ぐに理解した。おそらくここで負けたのだろう、バトルスピリッツで。

 

そして、それ以外にも発見した者が1つ…………

 

 

「………誰だ」

 

 

物陰から自分を見つめていた誰か。それに気がつくが、すぐさま足音を立てて何処かへと去っていく。

 

異世界での有機生命体の発見。科学者として、これは心躍る。

 

 

「………追いかけっこか、いいだろう」

 

 

エドワードは、早速その足音を追跡した。

 

 

******

 

 

あれから20分程だ。ペタペタと裸足で走りながら、崩壊した街の中央へと進んでいく有機生命体と、それを追い掛けるエドワード。

 

これまでの様子からして、有機生命体はおそらくただの人間。しかも少女。この崩壊した街の生き残りか何かなのだろう。

 

 

「………異世界の人間。良いモルモットになりそうだ」

 

 

その言葉は彼の異常さを物語っている。

 

崩壊した街の人間の生き残り。そう聞いたら普通の人であれば、優しく手を差し伸ばしてあげるだろうに………

 

だが、彼はまだ知らない。

 

この世界には、自分よりも異常で、悍ましく、狂気に包まれている存在を……………

 

 

「………ヌッフフ、あんまりイジメないでくれるかな?」

「!!」

「彼女は、私にとって大事な存在。何せ、この進化した世界『進世界』のイヴなのだからね」

 

 

柔らかい声色で話しかけて来たのは、精々15、6程度の少年だった。白髪で、その顔には大きな火傷の痕が痛々しく残っている。

 

崩壊してボロボロになっている街並みにはそぐわない、おろしたてのような立派で綺麗な白衣を着用している事から、直ぐにその少年が普通ではない事を悟った。

 

 

「………お前は誰だ」

 

 

エドワードが少年に訊いた。

 

すると、先程まで追い掛けていた少女が少年の元に寄り添う。少女は長いオレンジの髪に整った顔立ちの美人だったが、服が囚人服のようにボロボロで、その目にはまるで感情が感じられず、まるでアンドロイドみたいだった。

 

 

「私の名はDr.A………この進世界のアダムだ」

 

 

狡猾そうな口元で、少年は答えた。白衣にDr.と言う名前からして、彼も同じく科学者なのだろう。しかも飛び切り悪の……………

 

そしておそらく、この世界を崩壊させたのもコイツだ。エドワードはそう確信する。

 

 

「………それにしても、まだ普通の人間が生きているなんてね。君は、いったい何者だい?」

 

 

今度はDr.Aと呼ばれる少年がエドワードに訊いた。彼もまた、エドワードがただ者ではない事を理解しているのだろう。

 

 

「………私の造ったアポストルをやったのはお前か?」

「おいおい、質問しているのは私の方だぞ。ヌッフフ、まぁいい、存じ上げない名前だが、ひょっとして、昨日エニーズが倒した、あの黄色い液体さんの事かな?」

「!!」

「成る程、アレは君の発明品だったのか」

 

 

エニーズとは、ニュアンスからして、「イヴ」とも呼ばれていた、さっきまで追い掛け回していたあの少女の本名か何かだろう。

 

あんな無機質な目をした子供に、自分の尖兵である人造人間「TYPE・アポストル」が敗れた事に驚きが隠せない。

 

 

「………そんな子供に、私のアポストルが負けただと」

「ヌッフフ、私の造ったエニーズはそこらの人間よりも進化の力を多く内包できる。そりゃ動くだけの人形じゃ、勝てるわけないよね」

「造った………?」

 

 

目の前の少女を造ったと言うDr.A。あんな若造にそんな事ができるかは俄ではないが、少なくとも、彼の異常さはそれなりに伝わって来た。

 

ここからは本題だ。エドワードは、少しだけ間を置き、会話を再開する。

 

 

「……私の名はエドワード・ハイ」

「お、急に名乗った」

「お前の言う「進化の力」を奪いに来た。根こそぎな」

 

 

新たな力「進化の力」を得るため、エドワードは単刀直入にDr.Aに問うた。

 

 

「ヌッフフ………異端な技術者よ。進化の力はこの世界でのみ起こる現象。しかも、バトスピをしていれば、それを知らぬ者はいない………つまり」

「………あぁ、私は異世界人だ。お前の答えは2つに1つ。進化の力を寄越すか、ここで俺に負けて朽ち果てるかだ」

「成る程、私の次なる敵は異世界からの侵略者ですか。おぉおぉ、怖い怖い」

 

 

そういう割にはマイペースであり、Dr.Aは全く怖気付いてはいない。

 

 

「ヌッフフ、しかし今日は進世界が始まって1年という大事な記念日。我が愛しきイヴのため、このDr.Aが人肌脱ぐとしますかね」

 

 

彼はそう言うと、懐から取り出したタブレット状の機械をエドワードに投げ渡す。

 

 

「………なんだこの薄っぺらい機械は」

「Bパッドも知らないのかい。本当に異世界から来たんだね〜〜……それを腕にはめてバトルするのがこの世界では一般常識なんですよ」

「…………」

「ヌッフフ、もっとも、その世界を壊したの、私なんですけどね」

 

 

Dr.Aの言葉を無視しつつも、エドワードはBパッドを腕にはめ、己のデッキをセットする。

 

 

「……お前の自慢話はいい。そっちのフィールドに付き合ってやるから、さっさと来るがいい」

「おぉ、野蛮だね〜〜」

 

 

Dr.Aもまた己のBパッドを展開し、デッキをセットすると、バトルが始まるのを察したのか、先程まで彼の肩に静かに抱きついていたエニーズが、ゆっくりとその場から離れる。

 

 

「ヌッフフ………多分だけど、バトル開始のコールは、どの世界でも共通だよね」

「当然だ。バトスピの文化や価値観はその世界によって異なるが、はじめの言葉はアレ以外あり得ない」

「………じゃあ、はじめようか」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

全てのバトスピ文化共通の掛け合いではじまる、狂気の宴。Dr.Aとエドワードによるバトルスピリッツが幕を開けた。

 

先攻はエドワードだ。Dr.Aの持つであろう、進化の力を得るため、そのターンを進めていく。

 

 

[ターン01]エドワード・ハイ

 

 

「………成る程、この端末がそのままバトル台となるのか………ならばメインステップ、ネクサス、フューチャーアースを配置」

「ほぉ、赤ですか」

 

 

ー【フューチャーアース】LV1

 

 

Bパッドの使い方を理解したエドワードが初手に配置したのは、寂れた情景が描かれた、赤属性のネクサスカード。

 

それが彼の背後へと配置されるが、その絵は周囲の痛々しい街の風景となんの違和感もなく重なり合い、溶け込んだ。

 

 

「………ターンエンド。お前のターンだ少年」

手札:4

場:【フューチャーアース】LV1

バースト:【無】

 

 

「ヌッフフ………『少年』ですか。それは実に複雑ですね〜〜………では我が愛しきエニーズよ、よおく見ててくださいね、この私、Dr.Aの勇姿を」

 

 

Dr.Aは少女、エニーズが無表情のまま、首をこっくりと縦に振るのを確認すると、己のターンを開始した。

 

 

[ターン02]Dr.A

 

 

「メインステップ……私もネクサスを置きますか、紫の世界」

 

 

ー【紫の世界】LV1

 

 

「配置時で1枚ドロー」

 

 

Dr.Aが背後に配置したのは、黒き居城が聳え立ち、常に闇が蔓延する紫の世界。

 

その効果で彼は1枚のカードをドローする。

 

 

「最後にバーストを伏せ、ターンエンドです」

手札:4

場:【紫の世界】LV1

バースト:【有】

 

 

「………そう言うお前は紫使いか」

「私みたいな悪に染まる者は紫使いと相場は決まっていますからね〜〜」

 

 

ネクサスとバーストを備え、Dr.Aはその最初のターンをエンドとした。

 

バトルは一周し、再びエドワードのターンへと移る。

 

 

[ターン03]エドワード・ハイ

 

 

「………メインステップ、私はタマムッシュをLV1で召喚する」

「ふむ、今度は緑ですか」

 

 

ー【タマムッシュ】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でボイドからコア1つを自身に追加する」

 

 

エドワードのフィールドに現れたのは、玉虫型の緑のスピリット、タマムッシュ。

 

その召喚時効果はコアを増加させるという、緑スピリットらしいモノ。

 

だが、これがDr.Aの伏せていたバーストの引き金になり…………

 

 

「ヌッフフ………良い効果ですが、その行為は命取りとなる。あなたのコアの増加に伴い、このバーストを発動が発動!!」

「!!」

「バースト、ナスカ・ドーパント!!」

 

 

彼の伏せていたバーストが勢いよく反転する。

 

 

「このバーストはライフ減少時のバーストカードですが、相手がボイドからコアを増やした時にも発動が可能です。その効果、先ずは相手のスピリットからコアを4つリザーブに置きます、もちろん対象はタマムッシュ」

「…………」

「さらに、それだけでは終わりませんよ。このバーストがメインステップで発動していた場合、相手のトラッシュにあるコアを3つボイドに置きます」

「ッ………コアをボイドだと!?」

「ヌッフフ………えぇ」

 

 

エドワードの場に飛び交う、紫の斬撃の数々。それらはタマムッシュだけにあらず、彼のBパッドからコアをも斬り刻む。

 

 

「そして、この効果発揮後、ノーコスト召喚します。来なさい、ナスカ」

 

 

ー【ナスカ・ドーパント[2]】LV1(1)BP7000

 

 

タマムッシュとコアを斬撃で斬り刻み、消滅させた正体が今、Dr.Aのフィールドに登場する。

 

その名はナスカ・ドーパント。蒼白なボディに鋭い剣を持つ怪人型のスピリットだ。

 

 

「………私のコアが、たったの3つに………くっ、それがお前の持つ進化の力のカードなのか!?」

「ヌッフフ………この程度、まだまだ序の口ですとも」

「…………ターンエンドだ」

手札:4

場:【フューチャーアース】LV1

バースト:【無】

 

 

ナスカ・ドーパントの力により、コアの総数を3つと大きく削がれたエドワード。致し方なく、そのターンをエンドとする。

 

 

[ターン04]Dr.A

 

 

「メインステップ………ふむ。では先ず、ナスカのLVを最大に引き上げましょうか」

 

 

ー【ナスカ・ドーパント[2]】(1→4)LV1→LV3

 

 

「さらに今一度バーストをセット」

「ッ………またか」

 

 

強さが滲み上がるほど強烈な効果を持つDr.Aのバーストカード達。狂気の科学者であるエドワードでさえも、2度目のバーストを大きく警戒する。

 

 

「ではでは、お待ちかねのアタックステップですよ。行きなさい、ナスカ」

 

 

Dr.Aが指示を送ると、ナスカは静かに頷き、剣を構える。

 

 

「効果により、このアタックはブロックできません。もっとも、君の場にスピリットは1体もいませんがね………ヌッフフ」

 

 

対するエドワードは、前のターンにナスカによって、場のスピリットとコアを失っているため、この攻撃を防ぐと言う選択肢はどこにもなくて…………

 

 

「………ライフで受ける………ぐっ、ぐおぉっ!?」

 

 

〈ライフ5→4〉エドワード・ハイ

 

 

ナスカの神速俊速の剣撃が、彼の前方に展開された5枚のライフバリアの内1枚を八つ裂きにする。

 

それに伴い発生する激痛が、彼を襲った。

 

 

「どうだい痛いだろう、進化の力が込められた、カードの一撃は」

「………この程度、まだまだ序の口だな」

「ヌッフフ……減らず口ですね〜〜……ナスカの効果、アタックしたバトル終了時、相手の手札を1枚、内容見ずに破棄します」

「!?」

「1番右のカードを破棄!!」

 

 

エドワードの手札から1枚のカードがトラッシュ、つまり使用不可となるゾーンへと捨てられる。

 

バトスピにおいて重要なのはコアと手札。ナスカはその両方を減少させる効果を持ち合わせている、まさに死神のようなスピリットだ………

 

 

「………コアだけでなく、手札までも…………!!」

「ヌッフフ………折角の余興だ、もう少し足掻いてみてくださいね。私はこれでターンエンド」

手札:4

場:【ナスカ・ドーパント[2]】LV3

【紫の世界】LV1

バースト:【有】

 

 

ここでDr.Aはターンエンド。再びエドワードへとターンが渡る。

 

 

[ターン05]エドワード・ハイ

 

 

「………メインステップ。森林のセッコーキジ、六分儀剣のルリ・オーサを連続召喚」

 

 

ー【森林のセッコーキジ】LV1(1)BP1000

 

ー【六分儀剣のルリ・オーサ】LV2(2)BP5000

 

 

エドワードの場に、甲冑と刀を装着したキジ、セッコーキジと、剣を装備するスマートな甲虫戦士、ルリ・オーサが出現する。

 

 

「ルリ・オーサの召喚時効果、ボイドからコア1つずつを赤のスピリット2体に置く。私は赤としても扱うこの2体のスピリットにコアを追加する」

 

 

ルリ・オーサの持つ強力な召喚時効果。それにより、エドワードは一気に2つのコアを増加させる。

 

ここで警戒しなければならないのは、当然2枚目のナスカ。再び使用されて仕舞えば、このコアブーストは帳消しとなってしまうからだ。

 

緊張感走る中、やはりと言うべきか、Dr.Aは口角を不気味な角度で上げながら、その伏せたバーストカードを発動させる。

 

 

「ヌッフフ………相手の召喚時発揮後のバーストを発動」

「!!」

「ハートロイミュード」

「ッ……ナスカじゃないだと!?」

「効果により、先ずはこのスピリットを召喚しますよ。現れなさい、ハート」

 

 

ー【ハートロイミュード】LV2(2S)BP12000

 

 

凄まじい熱量を放つ、心臓のような形をした何かが投下される。

 

それは放っていた熱を閉じ込めて爆発すると、爆炎、爆煙の中より、赤き異形の怪物、ハートロイミュードを爆誕させた。

 

 

「おやおや、あの程度は序の口だと、お伝えしたじゃないですか…………ハートロイミュードのバースト効果は続きますよ。召喚後、相手の手札1枚の内容を見ないで破棄」

「また手札を!?」

「今度は1番左のカードを破棄しましょうかね」

 

 

ハートロイミュードは登場するなり荒れ狂ったような咆哮を張り上げる。

 

すると、エドワードの手札はまた1枚、トラッシュへと破棄されて行った。これにより、残り手札は1枚のみとなってしまう。

 

 

「ヌッフフ………コアはそれなりに取り戻せたようですが、今度は手札がズタズタみたいですね〜〜」

「くっ………ターンエンドだ」

手札:1

場:【森林のセッコーキジ】LV2

【六分儀剣のルリ・オーサ】LV2

【フューチャーアース】LV1

バースト:【無】

 

 

手札やコアを減少され続け、自由にバトルをする事さえも許されないエドワード。

 

このターンも致し方なくエンドを宣言。Dr.Aへとターンが渡った。

 

 

[ターン06]Dr.A

 

 

「メインステップ………紫の世界にコア1つを置き、アタックステップへ………行きなさい、ナスカ」

 

 

ターン開始早々にメインステップを切り上げてアタックステップへと突入するDr.A。再びナスカが動き出す。

 

 

「ナスカのアタックはブロックできない」

「………ライフで受ける。ぐっ………!!」

 

 

〈ライフ4→3〉エドワード・ハイ

 

 

ナスカの神速俊速の剣撃がこのターンも炸裂。エドワードのライフバリアをまた1つ斬り裂く。

 

 

「バトル終了時、最後の手札も破棄してもらいましょうか」

「ッ………」

 

 

ナスカの効果により、エドワードの最後の手札が破棄され、遂にその手札は0枚にまで追い込まれてしまう。

 

 

「続きなさい、ハート」

 

 

今度はハートが行く。夥しい量の熱と、それに伴う蒸気を発生させながら、エドワードの元へ飛びかかる。

 

 

「………それもライフだ。ぐうっっ!?」

 

 

〈ライフ3→2〉エドワード・ハイ

 

 

ハートの拳が、エドワードのライフバリアをさらに砕いていく。

 

彼はライフダメージの激痛に堪えるも、思わず片膝を地につけてしまう。

 

 

「ヌッフフ……では、このターンはエンドで」

手札:5

場:【ナスカ・ドーパント】LV3

【ハートロイミュード】LV2

【紫の世界】

バースト:【無】

 

 

強烈な効果を所持する強力な2体のスピリット『ナスカ』と『ハート』を従えるDr.A。

 

余裕の表情のまま、そのターンを終えた。

 

 

「さぁ、君のターンですよ、立ち上がってください。まぁ、仮に立てたとして、進化の力を微塵も持ち合わせていない君如きでは、この私に勝つ事など、万に1つ、いや、億に1つでもあり得ない事ですがね〜〜………ヌッフフ」

「…………」

 

 

限りなく無限に等しい進化の力を内包するDr.A。そんな彼のデッキも、常識では考えられない程恐ろしい強さを誇っている。

 

エドワードも、この数ターンでそれはかなり身に染みた筈。

 

ならば力の差に絶望したに違いない。

 

Dr.Aはそんな彼の絶望に歪んだ表情を楽しみにしていたのだが……………

 

 

「くく………」

「?」

「アーッハッハッハ!!!」

 

 

立ち上がりながら見せたその表情は、絶望ではなく、寧ろ希望に満ち溢れていた。

 

彼のその狂ったように笑い出す様は、あえなき探究心を剥き出しにしているようにも見える。

 

今、Dr.Aもここでようやく気がついた。

 

 

………『彼もまた、狂っている』

 

 

と。まるで、昔の自分を見ているような感覚だった。

 

 

「いいな、いいなぁ進化の力!!……これこそまさに俺の追い求めていた力に相応しい!!……必ず、必ず手中に収めて見せよう!!!」

「ヌッフフ………つくづく面白い男だよ、君は」

 

 

進化の力の強さと奥深さに、血でも沸騰しているかのような興奮振りを見せるエドワード。一人称も「私」から「俺」になり、言動もかなり荒々しくなっている。

 

おそらくこれが、本当の彼なのだろう。

 

 

[ターン07]エドワード・ハイ

 

 

「メインステップ!!!………マジック、フォースブライトドロー!!」

「!」

「効果により、俺は手札が4枚になるまでデッキからドローする。今の俺の手札は0、よって4枚のカードをドローする」

 

 

起死回生の赤のドローマジック。

 

エドワードはその効果で手札を一気に4枚まで増やした。さらにその中に良いカードがあったのか、口角を上げ、それらを切っていく………

 

 

「手札の五賢龍帝アウレリウスの効果。12コストのこのスピリットを5コストとして召喚できる」

「……ふむ」

「来い、LV1で召喚だ」

 

 

ー【五賢龍帝アウレリウス】LV1(1)BP10000

 

 

上空から、エドワードの場へと飛来して来たのは、多くの装飾を飾り付けた巨大なドラゴン達の帝王、アウレリウス。

 

強力な効果を持つスピリットだが、それでさえも、まだまだ序の口。彼のデッキの真骨頂はここからであり…………

 

 

「ここで、ネクサス、フューチャーアースの効果を発揮!!」

「!」

「場にいるアウレリウスを破壊する事で、今から召喚するこのスピリットのコストを、破壊したアウレリウス分、12下げる」

「ヌッフフ………成る程、それは面白いコンボだ」

 

 

ここに来て第1ターンに配置したネクサス「フューチャーアース」の効果が起動。

 

登場したばかりのアウレリウスが爆散され、その爆発のエネルギーは、エドワードの手札にある1枚のカードへと集約される。

 

 

「行くぞDr.A!!!」

 

 

そして、彼はそれを呼び出す。

 

 

「生命を喰らい。絶望を喰らい。世界を喰らい。今、世界に混沌と新たなる秩序をもたらす為、滅亡の邪神は降臨する。顕現しろ、滅亡の邪神 ハイパーゼットン……!!」

 

 

突如、フィールドの空間全土を焼き尽くすように大爆発の大嵐が起こる。

 

そして、その唸る大爆発の中で、黒い怪物、ハイパーゼットンは、機械音混じりの咆哮を張り上げると、それらの大爆発が収まる。

 

 

ー【滅亡の邪神 ハイパーゼットン(イマーゴ)】LV2(3)BP20000

 

 

このフィールドに現れたハイパーゼットンこそ、エドワード・ハイのエースにして、彼を狂気の科学者と言わしめる存在。

 

 

「ふむ。ハイパーゼットン………私でも見た事のないスピリットですね」

「俺にこれを召喚させたのはお前の失態だ!!……異空間の粉塵にしてくれる!!」

「おやおや、それは物騒な」

「召喚時効果、相手のBP20000以下のスピリットを3体破壊し、破壊した数だけ、トラッシュのコアを2つ戻す」

「!!」

「くたばれ、ナスカ・ドーパント、ハートロイミュード!!」

 

 

ハイパーゼットンの黄色い胸部から放たれる、何億度もある火炎弾。それらはDr.Aの場に直撃、広がり、ナスカとハートを焼き尽くしていく。

 

 

「破壊したスピリットは2体、よってコア4つをハイパーゼットンに」

 

 

ー【滅亡の邪神 ハイパーゼットン(イマーゴ)】(3→7)LV2→LV3

 

 

トラッシュにあるコアが、ハイパーゼットンのカードに移動し、LVを上昇、そのBPは30000となり、バトルスピリッツの中では最高峰のパワーを獲得した。

 

 

「アタックステップ!!……ハイパーゼットンでアタック、その効果で紫の世界を破壊だ」

 

 

アタックステップに突入し、エドワードがハイパーゼットンに攻撃の指示を送る。

 

Dr.Aの背後にある紫の世界を焼き尽くさんと、ハイパーゼットンは再び胸部から火炎弾を放つ。

 

 

「………紫の世界の【転醒】の効果を発揮。ソウルコアを自身に置き、紫の悪魔神に転醒」

 

 

ー【紫の悪魔神】LV1(2S)BP6000

 

 

間一髪の所で、迫り来る火炎弾を邪悪な禍々しい剣で斬り裂いたのは、紫の世界が生み出した、紫の悪魔神。

 

それがそのままDr.Aのフィールドへと降り立つ。

 

 

「ふむ。まぁ、即席のブロッカーとしては十分かな」

「即席のブロッカー?……そんな生温い戦法がこの俺に通用するかよ!!」

「!」

 

 

そう告げると、エドワードはまた1枚の手札をBパッドに叩きつける。

 

 

「フラッシュタイミング、マジック『シックスブレイズ』!!」

「ほぉ」

「不足コストは、ハイパーゼットンから確保」

 

 

ー【滅亡の邪神 ハイパーゼットン(イマーゴ)】(7→4)LV3→2

 

 

「よってLV2にダウンするが、シックスブレイズは、BP12000まで相手のスピリットを好きなだけ破壊し、その効果を発揮させない!!……紫の悪魔神を破壊だ!!」

 

 

ハイパーゼットンのLVとBPがダウンしてしまうものの、エドワードの背後からは、ハイパーゼットンのモノよりかは小規模なものの、6つの火炎弾が放たれる。

 

それらは、Dr.Aの紫の悪魔神に直撃していき、木っ端微塵に砕いた後に、完全に焼き払った。

 

 

「これで再びお前のブロッカーは0。大人しくハイパーゼットンの攻撃を受けるんだな」

「…………」

 

 

滅亡の邪神の名に恥じない暴れっぷりを披露したハイパーゼットン。今度はDr.Aのライフを破壊せんと、ゆっくりと歩み、進んで来る。

 

盤面をひっくり返され、不利に立ったDr.Aだったが、そんな彼の表情は未だに余裕を貫いていて…………

 

 

「ヌッフフ………異世界にも、こんなにぶっ飛んだ効果を持つスピリットがいたとはね。恐れ入ったよ、やはり君は面白い」

「…………」

「だがね、それでも進化の力には敵わないよ。君が思っている以上に、進化の力は偉大なんだ」

「だからそれを奪いに来たんだ」

「ヌッフフ………良い目だね。将来有望だよ」

 

 

Dr.Aは、その真っ直ぐな狂気を向けるエドワードの目に、若き頃の自分を重ね合わせると、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつけた。

 

 

「………手札にあるこのスピリットカードの効果、相手のコスト8以下のスピリット1体を手札に戻す事で、2コストを支払い召喚できる」

「なに!?」

「私は、ルリ・オーサを手札に戻して、これの条件を満たす」

 

 

ハイパーゼットンが歩みを進める中で、ルリ・オーサの身体が粒子化され、消滅。そのカードはエドワードの手札へと戻る。

 

そして、その直後にDr.Aも、自身の最も信頼するエースカードを呼び寄せる…………

 

 

「進化の頂点に立つ者が、愚かなる世界に変革をもたらす……仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム………LV2で召喚ッ!!」

 

 

ー【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム】LV2(4)BP10000

 

 

フィールドに現れた、逆巻く黒い渦。その中より出現したのは、禍々しいオーラを常に放っている、白いライダースピリット。

 

その名はエボル。Dr.Aのエーススピリットだ。

 

 

「………それがお前のエースカードか」

「えぇ、私の進化の力を注ぎ込んで誕生させた、最高の相棒です。エボル、ハイパーゼットンをブロックしてあげなさい」

 

 

Dr.Aの指示でエボルがハイパーゼットンの行手を阻む。

 

 

「アタックブロック時、相手のスピリット1体のコア2個をリザーブへ、さらに消滅後はゲームから除外される。消え去りなさい、森林のセッコーキジ」

 

 

ー【森林のセッコーキジ】(1→0)消滅

 

 

エボルがセッコーキジに向かって手を翳すと、そこにブラックホールが形成、セッコーキジを吸引し、消滅させた。

 

 

「ルリ・オーサとセッコーキジ程度のスピリットを排除できても、俺にはこのハイパーゼットンがいる!!……BP10000では遠く及ばん!!」

 

 

エボルはハイパーゼットンへ向けて、再び小型のブラックホールを何発も発生させるが、ハイパーゼットンは両腕を振るうだけでそれを掻き消す。

 

BPバトルでは圧倒的にエボルが不利だ。このまま肉弾戦に突入すれば先ず間違いなく返り討ちに遭う事だろう。

 

しかし、それを覆せる策が、彼の、Dr.Aの手の中にはあって…………

 

 

「フラッシュ【煌臨】発揮!!……対象はエボル」

「ッ………このタイミングで煌臨を!?」

 

 

Dr.Aは、ソウルコアをコストに、スピリットを重ね合わせ、進化させる煌臨を発揮する。

 

その刹那、青と紫の2つの淡い光球がエボルを覆い尽くし、さらなる進化を促していく……………

 

 

「進化の頂、究極の頂を我が手に宿せ!!……仮面ライダークローズエボル………LV3で煌臨ッッ!!」

 

 

ー【仮面ライダークローズエボル】LV3(4)BP20000

 

 

「………進化しただと」

 

 

完全に進化を果たしたそれは、纏わりつく青と紫の淡い光を己の覇気で弾き飛ばす。

 

こうして姿を現したのは、青きドラゴンの力を宿した、エボルの最強進化形態『クローズエボル』…………

 

 

「煌臨アタック時効果、相手スピリットのコア3個をリザーブへ!!」

「!!」

「ハイパーゼットンからコア3つを外し、LVを1まで下げる」

 

 

ー【滅亡の邪神 ハイパーゼットン(イマーゴ)】(4→1)LV2→LV1

 

 

登場早々に、右の拳で空を殴りつけると、その先から青と紫のオーラで構成されてドラゴンが出現、ハイパーゼットンの元へと飛び出して行き、激突していく…………

 

天空や大地さえをも揺るがすその一撃を受けたハイパーゼットンは思わずダウン。LVは下がり、BPも15000となってしまう。

 

対してクローズエボルのBPは20000。最早勝てるわけがない。

 

 

「………まさか、負けるのか。俺のハイパーゼットンが」

「ヌッフフ………えぇ、そのまさかですよ」

 

 

直後に「トドメを刺してあげなさい」と、クローズエボルに向けて告げるDr.A。

 

クローズエボルは、それに応えるように、右足へ先程の青と紫のオーラを溜め込み、一気に天空高く飛び上がった。

 

 

「余興にしては贅沢なスピリットでしたよ!!」

「ッ………!!」

 

 

力を溜め込んだ右足を突き出し、ハイパーゼットンへ向けて、上空からライダーキックを放つクローズエボル。

 

ハイパーゼットンはやっとの思いで立ち上がるが、直ぐにそれが直撃。強固な黒いボディが容易く貫かれてしまう…………

 

そして、着地したクローズエボルが振り返る間もなく、ハイパーゼットンは力尽き、大爆発を起こした。

 

 

「…………な、なんと素晴らしい。これが進化の力か」

「ターンエンドですか?」

「………あぁ」

手札:2

場:【フューチャーアース】LV1

バースト:【無】

 

 

進化の力に興奮気味だったエドワード。だが、このターンでそれの更なる高みを見た今、テンションがオーバーフローして逆に少し冷静になれた。

 

 

欲しい。

 

その力が欲しい。

 

今すぐに…………

 

 

力への真っ直ぐな欲望の渦がまた感情を支配して来る。しかし、目の前にあるそれを満たせるモノに手が届かないまま、ターンはDr.Aへと移る。

 

 

[ターン08]Dr.A

 

 

「メインステップ………は、もう必要ありませんね。アタックステップ、クローズエボル、ラストアタックで締めにしましょうか」

「!!」

 

 

彼がそう告げると、クローズエボルは既にエドワードの眼前へと姿を現していた。

 

 

「は、ハハ………ライフだ、奪うがいい。進化の力の象徴よ!!」

 

 

そして、その拳を固く握り締め、不気味に笑い出すエドワードのライフバリアを、その果てなき欲望ごと殴り壊した………….

 

 

「ぐっ………ぐっォォォォォォ!!!!」

 

 

〈ライフ2→0〉エドワード・ハイ

 

 

エドワードのBパッドから、敗北を告げる「ピー……」と言う無機質な機械音が流れる。

 

これにより、勝者はDr.A。彼は倒れるエドワードを、無様だと言わんばかりに、嘲笑うように鼻で笑った。

 

 

「ヌッフフ………君は、将来有望な科学者だよエドワード君。どうだい、進化の力のために、この私について来る気はあるかね?」

「…………」

「より良い方向へ、この進化した世界『進世界』を導くんだ」

 

 

エドワードに手を差し伸べる。おそらく、彼から滲み出る狂気から、自分に近いものを感じ取ったからだろう。

 

そして、エドワードはその差し出された手を…………

 

 

「………あ、あはは」

「?」

「アー、アー、アーッハッハッハ!!!」

「!!」

 

 

掴まなかった。差し伸ばしたその手を、軽く弾き、先程よりも大きく表情を歪ませ、やや過呼吸気味に笑い出した。

 

その狂気的、怪奇的咆哮とも呼べるそれは、あのDr.Aでさえも、背筋に悪寒が走るのを感じてしまう程。

 

 

「俺が、俺が誰かの下につくわけないだろう。俺につくのは、俺だけだァァァァァァァァアーッハッハッハ!!!!!」

「………ふむ」

「貰うぞ、お前の………お前のォォォ!!!……進化の力ァァァ!!!!」

「!!」

 

 

デッキを外したBパッドを、Dr.Aへ向かって勢い良く投げ返すエドワード。

 

Dr.Aはそれを手で弾くも、エドワードの手が自分の左胸を捕らえたのを感じて…………

 

 

「よこせ、進化の力………よこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせよこせぇぇぇぇえ!!!」

「ぬ、ヌゥォォォォ!?!!」

 

 

胸を掴まれ、喘ぎ声を上げるDr.A。

 

残された力でそれを握るエドワードの手からは、進化の力なのか、徐々に虹色の輝きが漏れ出して……………

 

 

「………若造が、この私を誰だと思っている!!………うぉぉぉぉ!!」

「!!」

「私はDr.A。この世界を支配した、進世界の神だァァァァ!!!!」

 

 

もがきながらも叫び、片手でエボルのような小型ブラックホールを形成するDr.A。そこに全力でエドワードをぶん投げる。

 

そのブラックホールは直ぐに閉ざされ、エドワードはまた謎の空間を漂う事となる……………

 

 

「ハァッ………ハァッ」

「……………」

 

 

エドワードが消えた事で静まり返る進世界。息が荒くなったDr.Aを支えるように、エニーズが寄り添う。

 

感情の入っていない、真っ直ぐな瞳で、彼を見つめる。

 

 

「あぁ、心配かけたねエニーズ。ほんの少しだけ、進化の力を持っていかれたようだ。だが問題ない、この程度は修復可能さ」

 

 

やはり、あの時彼の胸から漏れ出ていた虹色の光は進化の力。

 

エドワードはそれを、Dr.Aから奪い取ったのだ。

 

 

「………エドワード・ハイ。ヌッフフ………あなたの成すことやる事には微塵も興味がありませんが、いいでしょう」

 

 

 

私のその進化の力。

 

あなたのその狂気的な欲望を満たすために、役立てなさい。

 

私は常に、大いなる力を求める者の、味方ですよ。

 

 

 

Dr.Aはまた「ヌッフフ……」と、気味の悪い笑い声を上げると、最愛の女性エニーズと共にどこかへ消え去って行った……………

 

彼と同じく狂気的な道を辿る青年「エドワード・ハイ」の物語は、まだ終わらない。

 

 

 

 






最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

今回登場した「エドワード・ハイ」と言うキャラクターは、前述した置き物君の考えたオリキャラです。彼のTwitter等で、うちの子よその子の交流会、いわゆる「うちよそ」と呼ばれる物で活躍している名オリキャラですね。

是非今後のエドワードの活躍を見届けてあげてください!!


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