この空の果てまで (飛び出す絵本(りみてっど))
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城塞都市アルビオン Ⅰ


ヴィーラさんのLB100達成記念



 

 美しい青空が無限にも思えるほど果てしなく広がる空の世界。

 そんな世界を構成するうちのとある島のとある場所では、座り込んで涙を流す幼い少女と、その涙を優しく拭う少年が向かい合っていた。

 

 少女の涙を拭い終えた少年は、その小さな口を開けて呆然とした顔で彼を見上げている少女の髪を、努めて優しい手つきで撫でながら口を開いた。

 

「なぁ、ヴィーラ。空の世界に興味はないか?」

 

「…おそら?」

 

「ああ、空だ。空の世界にはまだまだヴィーラが知らない人や物がたくさんあるんだ。そこでは何だってできるぞ。ヴィーラが本当にしたいことだってきっと見つかる」

 

 きっと、とは言いつつもどこか確信したような声色で優しく語りかける彼に対して、しかしヴィーラと呼ばれた少女は再び顔を俯かせてぽつりと言葉を溢した。

 

「でもしらないこと…こわいよ」

 

 それを聞いた彼は驚いた顔をしたが、それからすぐに表情を優し気なものへと戻して少女に告げた。しかし、俯いたままの少女の目に彼のその表情が映ることはなかった。

 

「確かにいいこともあれば嫌なこともあるだろうな。嫌なことを知るのは怖いかもしれない」

 

「…うん。だから…「だから!」

 

 少し震え始めた声で全てを諦める言葉を告げようとした少女を、敢えて彼は遮るように強めに声を出した。それがあまりにも珍しいことだったためか、少女は再び顔を上げて彼に目を向けた。

 

 ――その時、少女は思った。これから先、何があったとしても今日この時のことを忘れることはないだろう、と。

 何故ならその時の彼の表情は余りにも優しくて、頼もしくて―――輝いて見えたから。

 

「だから俺といっしょに行こう、ヴィーラ。お兄ちゃんに任せておけ。危険なことがあっても、俺が守り切って見せる。悲しいことがあっても、俺が何とかする。だから楽しいことがあったら――そのときは、一緒に笑おう」

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

 慣れ親しんだ意識が昇ってくるような感覚と共に、ヴィーラ・リーリエは目を覚ました。そして窓から入る心地よい日差しの暖かさを感じつつ寝起きの体を起こすと、呟く。

 

「これで1866日連続です。本日も最高の目覚めでしたね…… うふふふふふふふふ、お兄様ぁ」

 

 お兄様の夢を見てから迎える朝は、控えめに言っても最高である。

 これは夢の中に出てくるお兄様が最高の存在だからだろうと、ヴィーラは思っている。もちろん、これからお会いできる現実のお兄様も最高の存在なのだが。というより、過去現在未来全てにおいてありとあらゆるお兄様がヴィーラにとって至高の存在である。

 

 例えばヴィーラとお話してるときのお兄様は最高である。自身がどれほど大切にされているのかをより一層強く感じることのできる時間であり、時折その事実に極まって会話中にも関わらずに意識を飛ばしそうになる。

 例えば訓練をしているときのお兄様は最高である。いつもの凛々しい顔つきがより一層真剣味を帯びているのを見ると、胸の鼓動が早まるのを抑えることができない。あのような表情をしたお兄様に迫られる妄想をしたのは、一度や二度のことではない。

 例えば政務に取り組んでいるときのお兄様は最高である。この都市アルビオンの住民のことを心から考えて実施した政策が、効果を挙げたことを報告されたときにこぼれる小さな微笑みを見たときなどはもうたまらない。

 例えば、例えば、、例えば、、、

 

「あぁ、お兄様ぁ…… お兄様、お兄様、お兄様!お兄様ぁ!」

 

 それからはしばらくお兄様のことを想って幸せの絶頂にいたが、ふと時計を見て気付く。そろそろ着替えなければいけない時間だ。

 そうと決まれば早速とばかりに立ち上がると、部屋に立てかけてある全身鏡を用いて身支度を始めた。

 着替えたらあとは髪型だ。お兄様に見られて恥ずかしいと思うような身嗜みなどもってのほかである。

 

「……ん」

 

 まずはヘアゴムを口に咥えて両手で髪をまとめてからヘアゴムをした後、リボンで髪を結んだ。

 ――お兄様から頂いた、お気に入りの紅いリボンで。

 

「これで問題ありませんね。ふふ…本日はどんな一日に致しましょうか、お兄様」

 

 幸せのあまりにこぼれてしまった笑みを隠すこともせずに、ヴィーラは私室の扉を開いた。

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 俺、ことレン・リーリエの朝は早い。

 

「998……999……1000、と。今日はここまでだな」

 

 そう呟いて剣の鍛錬を終えると、遠くからその様子を見ていた士官学校の制服を着ている男子が手にタオルを持って近づいてきた。

 

「本日の訓練お疲れさまでした、レン様。こちらタオルになります!」

 

「ん、ありがとう。…そういや、ずっと見ていたみたいだが。別に俺が使ってようが、気にせず使っていいんだぞ?」

 

 そう言って汗を拭きながらその男子生徒に告げると、彼はとんでもないといった表情になって口を開いた。

 

「いえいえ、『剣神』の二つ名を持つレン様の訓練が見られる機会なんてそうありませんから! すごく勉強になりますし、むしろ他の奴らに言ったら羨ましがられますよ!」

 

「まぁ、それならいいんだけどな…俺は先に上がらせてもらうが。訓練、無理しない程度に頑張れよ」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 背後からひしひしと伝わる尊敬の視線に片手を挙げることで応えつつ、訓練所を後にするとシャワーを浴びるために領主専用の執務室へと向かう。

 ……そう、執務室だ。まず間違いなく一般市民が立ち寄るような場所ではない。しかし俺の私室は執務室を経由せずには入れないようになっている。何故俺の私室が執務室とつながっているかというとそれは――俺がこの城塞都市アルビオンの領主だからである。

 

 この都市の規則(ルール)はおおよそ脳筋と呼べるものばかりだ。その中でも特にイカれたメンバーを例として二つばかり紹介しよう。

 

 1.アルビオンの領主は血縁ではなく実力で決める。実力で決まった領主は死ぬまで何があろうと退職できず、領主が死んだあとは武術大会を開きその優勝者を領主として据える。出身国などは一切考慮しないが、私用であるなしに関わらず領主は一生アルビオンから出られない。

 

 2.実戦経験を積みたい奴のために、街中に魔物を放置する。そこで数が減ってきたら捕まえられる実力者が依頼という形で金を受け取り、捕まえてきて街で放す。もちろん魔物は経験を積みたい奴かどうかなど関係なしに襲うので、邪魔になった時には邪魔だと思った奴が殺す。

 

 もうね、、、ゴリラかと。特に二つ目の規則なんて他所でやったらただのテロリストだ。実際に過去には魔物を召喚して街を破壊しようとした邪悪な魔法使いが、依頼を受けた人物と勘違いされて多額の報酬を渡されて帰らされかける、などというミラクルプレーまで披露されたことがある。

 

 その時の騒動についてはさておき、ここまで言えばわかると思うが俺が領主を務めている理由は、前領主が亡くなった後に行われた武術大会にて優勝したからだ。

 もちろん当時の俺は領主になりたいわけでもなくひいては勝ち残るつもりもなかったのだが、俺には負けることができなかった。

 その時既に俺は『剣神』という二つ名を持つ全空でもちょっとばかり有名な剣士であり、明らかに負けるはずのない相手に対して負けたとあれば八百長疑惑を抱かれたであろうことは想像に難くない。

 ならばそもそもその都市を離れるなどして武術大会に参加しなければいいのではと思われるかもしれないが、それも無理だった。妹のヴィーラがアルビオンの士官学校に通っていたためだ。妹を置いていくことなど俺には出来ないし、できたとしても妹をダシに何とかして俺を呼び戻そうとするだろう。アルビオンの領主に求められているのが強さである以上、より強い領主が就任することは全住民の望むところであるからだ。

 

「ほんとこれ、どうすればいいんだ……」

 

 俺の何度目になるかも分からない呟きは、誰の耳にも入らず空気へ溶けていった。

 

 



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城塞都市アルビオン Ⅱ

 

 

「レン様、報告致します! 西地区で巨大な虎の魔物が複数暴れており、周辺の住居に甚大な被害が出ています!」

 

「虎だと……? 放し飼いのリストにそんな魔物いなかったはずだが、どうした?」

 

「いえ……それが、その…」

 

「……まさか、またか?」

 

「………はい。未だに捕まえた魔物なら何でも買い取っていると思ってこの都市に来た余所者の奴らが、現在は基本的に買取を行っていないことを知るとキレまして…… 腹いせに置いて帰りました」

 

「……はぁ、仕方ないな。被害を確認する必要もあるし、俺が出よう。それと何人か学生を借りていくぞ。20分くらいしたら戻る」

 

「は、了解いたしました!」

 

 それで俺は一体いつまで、この罰ゲームとしか思えないような歴代領主の尻拭いをさせられるのだろうか。そろそろ真剣にアルビオンから離れる方法を考える必要があるのかもしれない、と心の底から思っている。

 

 俺が領主になって初めに行ったことの一つが、誰であっても捕まえた魔物を街に放つことで報酬を受け取れるというクソシステムを廃止することだった。先代領主に至るまで続けられていたこの政策は、あまりににもガバガバであったからだ。

 例えばの話だ、優秀な騎空団が100体の魔物を捕まえてきたとしよう。もちろんアルビオンは魔物の数を増やしたいので彼らから魔物を受け取り、報酬を渡す。そして、十分な金銭を得た彼らは魔物を捕まえようと再びこの都市の外へと出ていく。―――行きと帰りの道中で100体近くの魔物を倒しながら。

 

 控えめに言ってもマッチポンプと言わざるを得ないし、何なら奴らは金を報酬にもらってジムに鍛えに来てるような意味不明な状態である。この現状をいくつかの資料から理解した俺は、当然の如くキレた。

 余談だが、執務室に飾られていた歴代領主の肖像画が須らく灰と化したのもこの日のことであった。

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

「それで兄さん、そんなに疲れた顔してんの?」

 

 執務室のソファーに座って、お茶を飲みながらそんな疑問を溢した人物の名は、ゼタ。ブロンド色の髪で左右に結ばれたツインテールと美しい青い瞳、それと妹のヴィーラを彷彿とさせるような紅い防具を軽装のように身にまとっていることが特徴の女性だ。

 俺が『剣神』などという大層な二つ名を付けられるきっかけとなった事件で巡り合った彼女とは、もうかれこれ6年ほどの付き合いになるだろうか。初めの出会いこそお世辞にも良いものとは言えなかったが、今では彼女がアルビオンの付近を通る際にはこうして顔を合わせに来てくれるほどの仲になった。

 

「いや、疲れたのはその後だな。……東地区で対魔物用の新作兵器を試した奴らが、地区を半壊させた」

 

「はぁ!? 一日で東西地区が半壊してるじゃないの!?」

 

「それな」

 

「……はぁ。相変わらず苦労してるわね、ホント」

 

 思わず死んだ目になったであろう俺に対してゼタは心底同情したような顔をしばらく向けていたが、ふと何かに思い至ったのか途端に満面の笑みで話しかけてきた。

 

「……あ、そうだ! 良いこと思いついたわ。 ねぇねぇ、兄さん。そろそろ領主なんてやめてさ、あたしと一緒の職場で働かない?」

 

「何だと? ……いや、というよりそれ以前にな? そもそもゼタが普段何の仕事してるか知らないんだが…」

 

「……んー、まぁ、ちょっとした組織、みたいなとこに所属してるんだけど。守秘義務とかあるからさ、入ってからじゃないとあんまり詳しく話せないのよねー。…まぁただ、やることは単純よ。星晶獣を狩る仕事ね! ほら、兄さんにぴったりじゃない?」

 

「どこら辺がぴったりなんだ…… というかゼタ、お前そんなにハードな仕事してたのか?」

 

 ゼタが強いことは知っている。俺のところへちょくちょく訪れる彼女とは、時折模擬戦という形で手合わせを行うことがあるからだ。しかし俺には彼女が、一般的な星晶獣と渡り合える程の強さであるとは思えなかった。であれば、彼女の持つ妙な力を感じる槍が対星晶獣に特化した武器なのだろう。そんな規格外な武器が存在するとは初耳だし、それを用いたとしても楽な仕事だとはとても思えないが。

 

「まぁ、そうね。もう分かってるだろうとは思うけど、この『アルベスの槍』を使うようになってからはずっとよ」

 

「それはまた……ずいぶん前からだな。今までにどのくらいの星晶獣を倒してきたんだ?」

 

「んー。それも多分、守秘義務すれすれなのよね。でも兄さんが入るって宣言してくれれば、今すぐにでも話せるわよ? ……それにほら、兄さんなら間違いなく一線級の戦力になれるって!」

 

「……随分と推してくるな。俺を勧誘するとゼタに何かメリットでもあるのか?」

 

 ゼタには悪いが、現段階ではそもそも情報がふわっとしすぎて胡散臭いんだよなぁ、と思っている。守秘義務とかある辺りが特に。組織との折り合いが悪くなって退職する奴とかも出てくるだろうし、そういった奴の中にはまず間違いなく周囲にその内容を吹聴する奴とか出てくるんだろうけど、どうするんだろうか。……まぁ、文字通り『処理』するんだろうなぁ、とは薄々感じている。

 

「いろいろあるわよ? 単純に『上』からの評価は高くなるだろうし。何より、兄さんとお酒とか飲みに行きたいじゃない!」

 

「……は? なんでここで酒の話が出てくるんだ?」

 

「そりゃー、ねぇ。あたしが酔って守秘義務とか漏らしちゃったら、まずいじゃない。 ただでさえ兄さん、話しやすい雰囲気なのにお酒とか入ったら普通に話しちゃいそうで誘えないのよ! だからこれまでずっと、泣く泣く我慢してきたんだからね!」

 

「ははっ……なんだよ、そんな理由か。無駄に深読みして警戒しただろうが」

 

「そんな理由とは何よー! 私がお酒好きなの知ってるでしょ、こちとら死活問題なのよ! 何が悲しくて一二を争うくらい仲の良い相手と飲みに行くのを、よりにもよってあたし自ら避けなくちゃいけないわけ!」

 

 如何にも怒ってます、と言わんばかりのゼタをなだめつつ、それからしばらくは他愛のない話を交わすだけの穏やかな時間が流れた。

 そしてそろそろお別れだな、という時間に差し掛かったことでどちらからともなく立ち上がったところで、口を開いた。

 

「ゼタ。次来るときには魔物、また頼んでもいいか? 金額はいつもの分用意しておくから」

 

「んー、いいわよ。結構実入りいいしねー、これ」

 

 そう、俺はゼタを始めとして幾名かの信頼でき、かつ実力のある人物にのみ魔物の捕獲を依頼している。これが現在のアルビオンに放たれている魔物たちで、それらは極めて多くのことに配慮したうえで場所を決めてから放し飼いにし、リストにまとめられている。

 領主に着任した最初の頃こそ完全に廃止しようとしていたが、住民の強い反対(他所ならまず出ないだろうが)や士官学校の教育方針においてあまりにも重要なウエイトを占めていたことなどが原因でこのような形で落ち着いた。

 

「それはそうと、さっきの組織の件だが。ゼタには悪いけど、断るよ」

 

「ええっ!? 何でよー?」

 

「まぁ、理由はいろいろあるんだけどな…… 一番の理由はな、領主になった俺は死ぬまでアルビオンから出られないからだ」

 

 それから俺がアルビオン領主の呪いみたいなものについての長々とした説明を話すと、案の定ゼタはキレた。

 

「はぁ!? 何よ、それ! ……その星晶獣、倒したら解除とかされないかしら?」

 

「待て待て、それはなしだ。解除されるかも分からんし、シュヴァリエ自身と俺の仲は良好でな。悪いが、それ以外の方法は何かないか?」

 

「んー。あたし、残念ながらそういう知識面のことはさっぱりなのよねー…… ま、あたしはいろんな島に行くしね。任務のついでに探しておいてあげるわ」

 

「いいのか? ……ありがとうなゼタ、助かるよ」

 

「…ん。どういたしまして」

 

 面と向かってお礼を言われることに耐性がないところは相変わらずだな、と思う。そのまま耳を赤くしてそっぽを向いたゼタを微笑ましく思いながら、彼女を後ろに連れて城の門まで見送った。

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

 同日、夕刻にて執務室での会話。

 

「……お兄様、私がいない間にどなたかいらっしゃいましたか? この執務室に」

 

「ああ、ヴィーラが東区の件でいなかったときの話か。ちょうど近くに寄ったらしくゼタが来てたな。それがどうかしたか?」

 

「…………いいえ、何でもありませんわ。……つくづく運のいい方ですね、忌々しい。 ……お兄様、本日の夕食はいかがいたしましょうか? このヴィーラ、腕によりをかけてお作り致します!」

 



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城塞都市アルビオン Ⅲ


※ちょっとした注意
♪は普段は使いませんが、今回から出るキャラは原作の台詞準拠で使います



 

 朝、轟音で目を覚ました。

 

「……最悪の目覚めだな」

 

 そう呟いてから体を起こしてベッドに座るような体制になり、精神を集中する。侵入者や魔物の気配はなく、地下の方から見知った気配の慌ただしい動きを感じ取り、どこのどいつがやらかしたのかを大まかに把握すると、深いため息を吐いた。

 

 それからすばやく着替えて身支度を整えていると、コンッ、コンッ、と配慮を感じさせる控えめなノックが私室のドアから聞こえてきたので、手を止めて扉越しに返事をする。

 

「ああ、いつもの君か。おはよう。さっきのアレについての話か?」

 

「おはようございます、レン様! ……はい、ご明察の通りです。朝早くから誠に申し訳ありませんが…… この騒ぎの元凶のところへご案内いたしますので、ご支度を終えるまでここで待たせていただいてもよろしいですか?」

 

「構わない。あと2分ほどで終える」

 

 この兵士、以前の虎の魔物の時から被害報告担当みたいになっている。なので日々、彼は胃の痛みを感じているのだろう。今もそんな雰囲気を感じる。そして俺も胃が痛くなるのを感じている。

 嫌な仲間意識もあったものだと思う。

 

 それから彼を連れて地下へと向かいつつ、到着してからの説明時間を短縮するために道すがら大まかな話を聞いてみることにした。

 

「で、地下と言えば魔法使い達の研究地区だろう。あいつら今回は何をやらかした?」

 

「それがですね…… 昨夜魔法構築についての議論をする会を開いていたようなのですが、白熱した結果深夜まで続いたそうです。ここまでは普段通りでした」

 

「あぁ、うん。…それで?」

 

「そんな中どなたが言い出したのか『なぁ、前々から思ってたんだけどお前らの使い魔弱すぎひん?』との煽りがきっかけで……」

 

 あぁ、もう十分理解できた。深夜特有のテンションのせいもあり、そこから使い魔同士を戦わせる流れになったんだろう。非常に残念ながら、こういった魔法使い同士が軽いノリで被害を出すことは割と日常的な出来事だ。

 

 もういっそ城から離れた場所にでも隔離してやりたいのだが、手元に置かなければ今よりもっと大きな騒ぎを起こすことは明白だ。そのうちゾンビパーティとかを引き起こしそうで夜も眠れなくなるだろう。

 しかし一方で、対魔物用のスペシャリストや魔法の神髄ともいえる領域に足を踏み込みかけている優秀な奴らばかりなのもまた事実である。こいつらはアルビオンが都市として得ている収入額と支出額の両方でトップをとっているのだから、実に頭の痛い存在だと言える。

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

 地下に到着した辺りで、ここまで連れてきてくれた兵士には礼を言って返した。ここから先で待つ胃痛を味わうのは、俺一人で十分だろう。

 

「……ふぅ。よし、開くか」

 

 一度深呼吸をして覚悟を決めてから扉を開くと、我が妹に向かって男女合わせて6名の魔法使いが扇形になって土下座していた。

 そのあまりに異様な光景に言葉を失っていると、扉を開けた音に反応してこちらを振り向いたヴィーラが、満面の笑みを浮かべて口を開いた。

 

「あぁ、お兄様! ご足労いただきありがとうございます! ……それで、この羽虫たちの件ですが。今日という今日はお兄様の寛大な慈悲も必要ございません。私が責任をもって処理致しますので、ご許可をいただけますか?」

 

 処理、という露骨に死を連想させる語句にビクッと肩を震わせた6人だが、顔を上げることはしなかった。……おかしい。こいつらは使い魔の乱闘騒ぎを起こした程度でそんなに反省するような殊勝な奴らだっただろうか。いや、ありえん。普段のこいつらならすでに開き直っているはずだ。

 

 非常に、嫌な、予感が。

 

「……まさか、使い魔騒動の他にも何か?」

 

 その問いに対して、ヴィーラは笑顔で答えた。目は一切笑っていなかったが。

 

「ええ、それはもう。……よりにもよってこの虫ケラたちは!お兄様の至宝たる剣を!真っ二つに折ったのですから!」

 

「………………は?」

 

 呆然とした声が思わず漏れる。それも仕方のない事だろう。

 ヴィーラのいう至宝の剣と言えば、『クロノスの剣』でまず間違いない。

 『クロノスの剣』というのはゼタの持つ『アルベスの槍』並みに貴重な武器で、その能力は()()()()()()()()()()()()()()()()こと。あまりにも強力であり、能力を任意で抑えるの事のできないこの剣を危険だと判断した俺は、それでもいつか使わざるを得ない状況に陥った時のことを考え、とあるツテを用いて俺以外にとってはただの剣になるよう能力を封印し、地下の宝物庫に厳重に保管しておいたのだが。

 

「………よし、話だけは聞いてやる。誰でもいい、説明しろ」

 

「では私めが! 是非とも!」

 

「……分かった、お前でいい」

 

 その言葉を聞いたシルクハットと杖が特徴の男はゆっくりと立ち上がると、それまで土下座していた人間の表情とは思えないほど晴れやかな顔で口を開いた。

 

「さすがは聡明にして慈悲深き領主様! さすがの私も、例の剣が折れた時には『あ、これは殺されるわ』と思いましたが! まさかお話を聞いていただけるとは!」

 

「お兄様が素晴らしいのは当たり前の事です。ところで、優秀で立場のあるお兄様は当然、あなたたちのような羽虫とは違い予定が詰まっているのですが……? これ以上余計なことを話して時間をとらせるのであれば、お優しいお兄様に免じて与えた弁明の時間はここで終わりにしますが、よろしいのですね……?」

 

 ヴィーラが威圧感たっぷりにそう言い放つと、未だに正座を崩すことを許されていない5人は、てめーのせいで巻き添えになるだろ、とばかりに一斉に男を睨みつけた。

 それを横目に見つつ、仕方がないので助け舟を出すことにした。

 

「今はそういうのはいいから。さっさと話せ」

 

「かしこまりましたぁ! 確かに、初めこそ領主様のおっしゃる通り、ただ使い魔を1対1で戦わせて強さを競わせているだけでした…… そう、使い魔たちの戦闘で生じた音を耳にしたケルちゃん様が『使い魔同士のバトル? なんだか楽しそうね♪ アタシも使い魔なんだし、参加してもいいわよね♪』と言っておもむろに乱入してくるまでは!」

 

「あぁ、うん……」

 

「そしてそれを目にした瞬間、我々は即座にアイコンタクトを交わし、緊急会議を行いました!『星晶獣ktkr』『6対1でも勝てんぞ!』『無理ゲーすぎぃ!』『……いや、逆に考えるんだ。私たちも参加して12対1なら勝てるのでは?』『それな』『それな』 と」

 

「お、おう……」

 

「そしてついに始まった激闘ぅ! 我々の息の合ったコンビネーション技の前には、ケルちゃん様といえども防戦一方という具合でした! しかしっ、残念ながら! 我々の中には対魔物のプロフェッショナルこそ居れども、対星晶獣のプロは居りませんでした…… 勝負を決め切れることは叶わず、一名が魔力切れで脱落してからは、徐々に押し返されてしまい…… くっ……」

 

「あ、はい」

 

「しかしあわや残り三名でこちらの敗北となったときに、私はふと思いました!『これはもしや……私の秘められし力がこの窮地に覚醒して、奇跡の勝利を掴むパティーンでは!?』と! それから私は、宝物庫へと走りました。そしていつかここぞという時に披露しようと、20年もの時をかけて用意していた『宝物庫の全ての仕掛けを指パッチンで解除する魔法』を用いて悠々と中へ入りました! そこで私が見たものとは! そう、まさに封印されし剣、といった見た目をした武器でした!」

 

「うわぁ……」

 

 考えうる限り最悪の連鎖反応が起きてやがる。どうなってんだ。

 

「そしてそのやたら重い剣を持って決戦場へと舞い戻った私は、その剣でケルちゃん様に切りかかりましたが……はっはっは! まるで駄目でしたな! ミミ殿にあっさりと受け止められた挙句、その場でぽっきりと折れてしまいました!」

 

「説明ご苦労。お前、10年減給な」

 

「何ですと!?」

 

 むしろお前、本来なら牢屋ぶちこみ確定だから。

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

 ヴィーラを連れて宝物庫の扉を開けると、両手に犬のような生き物を付けて露出度の高い恰好をした女性が居り、真っ二つに折れた剣を前にしてうんうんと唸り声を上げていた。

 この女性の名前はケルベロス。魔力関係はからっきしな俺が、とある事故で彼女を召喚して以来、責任をもって面倒を見ている使い魔である。

 

「うーん、この剣よねー。どうにか直せないかしら?」

 

「無理に決まってるわん!」

 

「専門外にもほどがあるわん!」

 

「でもでもー。これが直せたらマスター、ぜっったいに喜んでくれるわ♪」

 

「ウチとココには何の関係もないことわん!」

 

「全くもってその通りだわん!」

 

「えー? そんなことないわよ♪ ご褒美は、マスターとのお散歩にするんだから♪ お散歩なら好きでしょ?」

 

 両手の犬ーミミとココという名前らしいーと会話を続けるケルベロスに、後ろから声をかける。

 

「ケルベロス。その剣、ちょっと見せてくれ」

 

「あら、マスター来てたの? いらっしゃい♪ 待ってたわ♪」

 

「……あまり私のお兄様に、近づかないでいただけますか?」

 

 こちらに近づいてくるケルベロスと俺の間に滑り込むような形で入り込んだヴィーラは、ケロべロスに鋭い目を向けながら話しかると、剣を取ってこちらに手渡してきた。

 それからも俺の背後ではミミココとヴィーラ達が言い争っていたが、その声も耳に入らないほどに集中して、俺は二つに折れた『クロノスの剣』をしばらくの間じっと見つめていた。

 

「これは確かに……どうしようもないか。 いや、加工して短剣に生まれ変わらせたりできるならまだワンチャンあるか…?」

 

 次に向かうべき目的地は、どうやら鍛冶屋になるらしい。

 今日という日はまだまだ長い一日になりそうだ。そんな予感を抱きつつ、未だに言い争っている二人と二匹を連れて城下町へと足を進めた。



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城塞都市アルビオン Ⅳ

 

「旦那ぁ、こりゃぁもう駄目だ。手の打ちようがねぇよ」

 

「そうか……」

 

 差し出した真っ二つの『クロノスの剣』を様々な方法で検査してくれていた鍛冶屋の親父が、きっぱりと断言した。

 

「一介の鍛冶師にゃ過ぎねぇ俺が、今後一生関わることはねぇレベルの逸品だってこたぁ分かるんだがなぁ…… 金槌で軽く叩きゃぁ分かる、こいつは()()()()()()

 

「そこまでか? もう少しは手の施しようがあるかと思ったんだがな…」

 

 彼はこのアルビオンで随一の鍛冶師だ。彼が言うからにはそうなんだろうが、ケルベロスの防御力がいくら高かったとしても、一度使った程度で果たしてそれほどの結果が生まれるのだろうか、という疑問が残る。

 

「そうですねぇ、こいつは俺の感覚みてぇところからの推測になるんですが…… 本来の力が使えねぇ状態で、力を引き出さざるを得ねぇような相手を切りつけたことで、無理やり能力を発動しようとした結果自壊した、みてぇな感じを受けまさぁ」

 

「あぁ、うん。そっかぁ…」

 

「……お兄様、やはり今からでも遅くはありません。あの男、処刑することに致しましょう」

 

 隣で話を聞いていたヴィーラが表向き冷静な態度でそう告げるが、俺には分かっている。ここ最近で一番と言ってもいいほど、この妹がキレているということが。

 ちなみに、ケルベロスとミミココのコンビは検査の待ち時間が退屈だったのか、少し散歩してくると告げてどこかへ行ったためこの場にはいない。

 

「いや、いいさ。宝物庫の管理に問題があることも比較的ましな段階で分かったし、この剣も最近は一度として使う機会がなかったからな。それに何より、領主ともあろう者がいかに少数と言えども、人前で一度下した判断をすぐさま翻すというのは好ましくないからな。そのあたりはヴィーラも分かっているんだろう?」

 

 ヴィーラを落ち着かせるためというのも確かにあるが、これは割と本音だ。あの時はあまりにも予想外の出来事だったため呆然としてしまったが、そもそも『クロノスの剣』は偶然手に入れたものであって、苦労して探したものではない。その上、使ったことが数えるほどしかないので、自分の物だという感覚があまり無いというわけだ。

 もちろん選択肢は多いに越したことはないので、痛くも痒くもないとは言えないが。

 

「……ええ、そうですね。しかし、このままあの者たちがお兄様の優しさの上に胡坐をかき、これまで以上の厄介ごとをお兄様に押し付けるようなことがあれば…」

 

「あぁ、そうなった時には頼む。それと……いつもありがとう、ヴィーラ。お前が常日頃から俺のことを思って行動してくれていることは、俺も十分に理解しているつもりだ。妹頼みなのは兄として少しばかり情けないが、やはり領主としての立場ゆえに目の届かないところも出てくるからな…… これからもよろしく頼む」

 

 そう告げてヴィーラの髪をリボンが解けない程度の強さでゆっくりと撫でると、彼女から出ていたピリピリとした空気は瞬く間に離散した。

 こういった切り替えの早さは、妹の美点の一つである。

 

「そんな……勿体ないお言葉です。お兄様の脅威を排除することこそ、妹である私の役目なのですから……」

 

 それから少し経ったあたりで、趣味の散歩に行っていたケルベロスが戻ってきたのでヴィーラの髪から手を離した。

 

ちっ…… 犬っころが余計なことを……

 

「たっだいまー♪ マスターの用事も終わったかしら?」

 

「ああ、ちょうどいいタイミングだ。直せないということも分かったし、これ以上の長居は無用だろう。店主、今回はただ働きさせて済まなかった。次は仕事の話をしに来よう」

 

「いえいえ、とんでもねぇです! また何かあった時にはお待ちしてまさぁ」

 

 そうして鍛冶屋を後にして表通りへ出ると、そこかしこの料理店から食欲をくすぐる匂いがしていたことで、すでにお昼時になっていたことに気付いた。

 

「ちょうど良い時間だし、昼食はここらで済ませるか。どこか行きたい店はないか?」

 

「そうですね…… でしたら、最近この辺りに新しくできた飲食店はいかがでしょうか? 中々の評判であると耳にしておりますが……」

 

「ふむ…ケルベロスたちもそれでいいか?」

 

「もちろんいいわよ♪ お外での食事なんて久しぶりね♪」

 

「ウチらもお腹ぺこぺこだわん!」

 

「食えればなんでもいいわん!」

 

 こいつら食事そのものは好きなくせに食うものは何でもいいのかよ、と若干呆れながらミミココを眺めつつ、よし、と呟く。

 

「ならそこへ行こうか。ヴィーラ、案内してくれ」

 

「ええ、了解致しました! お兄様、こちらになります!」

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

「くっそ強ぇ…… バケモンかよこいつら!? もういい、ずらかるぞ!」

 

「くっそぉ! あったりめぇだ、こんなん割に合わねぇよ!」

 

「あっ! てめぇら、逃げてんじゃねぇ!」

 

「最近はどこの島でもお前らみたいなのが出るらしいしな、ここらで少しばかり減らしておこうか…… ヴィーラ、逃げた奴らを頼む」

 

「了解致しました、お兄様。……私はともかくとしてお兄様まで化け物呼ばわりとは、聞き捨てなりませんね。一匹たりとも逃がしはしません!」

 

 店での昼食は一同大変満足なものだった。人気が出るというのも頷けるし、機会があればまた訪れたいと思わされる良店だった。しかし、そんないい気分も長くは続かなかった。

 帰り道の途中で、人通りの多い大通りであるにもかかわらず大量のチンピラが襲い掛かってきたのだ。てめぇが領主か、お前を殺せば大金が云々、みたいな説明をご丁寧にも添えたうえで。いいぞ、雇い主の情報もその調子でぽろってくれ!

 

「馬鹿な真似をしたな。ここに残っていたのはお前で最後だ。後でじっくりと話を聞かせてもらおう」

 

「ちくしょうが! ……へっ、ただ俺らの方が一枚上手だったようだな! こんなこともあろうかと、狙撃手を3人も雇っておいたのさ! もうとっくにロックオン済みだろうよ、引き金を引くだけでお前は終わりだ!」

 

 雇われが雇われを雇うとはなかなか珍しい。それに標的の情報から対策を練る程度の考えは持っていたようだ。確かに、近接戦闘を得意とする俺やヴィーラは、近づけない状況で遠距離タイプと戦うのは好ましくない。

 ただ、それは()()()()()()()()の話だが。

 

「むしろお前らが終わりわん!」

 

「牢獄で許しを請えわん!」

 

「そういうこと♪ アタシのマスターには、傷一つ付けさせないわよ♪」

 

 そう言って現れたのは、ケルベロスだ。彼女は基本的に城におり、表に出て動く俺やヴィーラとは異なり、その存在も広く知られてはいない。

 そんな彼女がロープでぐるぐる巻きにされた三人の狙撃手を俺たちの前に投げ出して見せると、粋がっていたチンピラは白目をむいて気絶した。見事なまでの三下ムーブである。

 

「ケルベロス、助かった。ところで、兵士長を見かけなかったか? あいつらあちこちに逃げ込んだからな…… ヴィーラがいかに優秀とは言っても討ち漏らしは出ただろう、兵士たちが捕まえた人数も含めて状況を確認しておきたい」

 

「どういたしまして♪ あと兵士長ならさっき、中央の広場にいたわよ? 慌ただしくはしてなかったから、もう片付いたんじゃないかしら♪」

 

「それならいいんだが……随分早かったな、あの人数相手だともう少しかかるかと思ったんだが。ところで、ケルベロスはどうする?」

 

「んー。どうしよっかなー♪」

 

「もう城にかえるわん!」

 

「お城でおやつ喰うわん!」

 

「あ、いいわねー♪ マスター、アタシはお先に失礼するわ♪」

 

「分かった。あまり食いすぎるなよ」

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

「あ、領主様! 住民たちの目撃証言と照らし合わせた結果、これで全員です!」

 

「ご苦労だったな、兵士長。にしても、ずいぶん早く片付いたな?」

 

「ありがとうございます! ええ、それがですね…」

 

「兵士長、そこからの説明は私が致しましょう。貴方には捕まえた実行犯の方をお任せしたいのですが…」

 

 いつの間にか背後にいたヴィーラがそう告げた。我が妹ながら、相変わらず見事な気配遮断だ。

 気配探知には自信のある俺ですら、精神の集中なしにヴィーラに気付くことは困難を極める。どのようにしてそこまでの技能を取得できたのかをヴィーラに聞いてみたことがあるが、日々の行動の賜物、としか答えなかった。

 

「ヴィーラ様! 了解しました、それでは説明の方はよろしくお願いします!」

 

「ええ、ご苦労様でした。お兄様、兵舎の方へ一緒に来ていただけますか?」

 

「ああ、分かった。…………ん? 何かいつもより機嫌が良いな、どうかしたのか?」

 

 広場から兵舎へと足を進めながら、そう尋ねる。一見すると普段通りのヴィーラに見えるためほとんどの人は気付かないだろうが、いつもより雰囲気が柔らかい。

 予定よりも執務がはかどった日に、二人でおやつを食べる休憩がとれた時などがこんな感じだ。外でヴィーラがこの雰囲気になることはかなり珍しいと言える。

 

「やはりお兄様には分かってしまいましたか。ふふ……その理由については着いてからのお楽しみ、というやつですお兄様。すぐにお分かりになることですから」

 

「なるほど、ヴィーラが喜ぶようなものか。しかし、そんなものが兵舎にあったか……? ……っと、着いたな」

 

「はい、それでは中へ参りましょうか」

 

 そう言ってヴィーラが扉を開けたことで目に入ったのは、中央の大きな円卓の椅子に座っている、騎空団と思わしき集団だった。そのメンバーの中にいたのは……

 

「なるほど、ヴィーラの機嫌がよかったのは君と会えたからか。久しいな、カタリナ」

 

 そう言って対面に座っている女性に声をかけた。長いブロンド色の髪と凛々しい顔つきが特徴の、彼女の名はカタリナ。かつてのアルビオン士官学校の生徒であり、ヴィーラにとっての先輩にあたり――俺にとっても後輩にあたる人物だ。

 

「ええ、お久しぶりです。ヴィーラもそうでしたが、レン殿もお元気そうでなりよりです」

 

「ああ、カタリナこそ。壮健そうで何よりだ。積もる話もあるが……ヴィーラ、こちらの人物たちは? 恰好を見るに、騎空団のメンバーのように思われるが…」

 

「ええ、ご明察の通りですお兄様。こちらの方たちはお姉様の所属している騎空団のメンバーで、先ほどの騒動ではお手を貸していただきました」

 

「そうだったのか…… ではこの場を借りて、お礼を申し上げたい。騎空団の方々、この度の助力に惜しみない感謝を。貴殿らが望まれるのであれば、労力に見合った報酬をお渡しすることを約束します。また同時に、自己紹介もさせていただきたい。私はこの都市アルビオンの領主を務めているレン・リーリエと申します。こちらは領主補佐を務めている妹のヴィーラです」

 

「ヴィーラ・リーリエと申します。お姉様には士官学校で大変お世話になりました。どうぞよろしくお願い致しますね」

 

 ヴィーラがそう言い終えると、それに応えるような形で、綺麗な金色の髪をショートにしている女の子が机に手をついて勢いよく立ち上がった。

 その表情は何故か感動したかのようなもので、その顔を見た周りの年長者と思われる人物たちはこぞって苦笑いを浮かべていた。

 

「私、騎空団『グランブルー』の団長をしているジータって言います。どうぞよろしくお願いします! あの…もしかして、『剣神』のレンさんですか!?」

 

「えぇ、まぁ。たしかに『剣神』の二つ名で呼ばれることもありますよ、未熟な私には過ぎたる称号だとは思っていますが……」

 

「やっぱり! レンさんのこと、お婆さんからたくさんお話聞きました!」

 

 お婆さん。おばあさん。おばあさんだと……? しかも俺のことをよく知る? ここで思い当たるのは一人しかいない。しかしそれにつられて思い出すのは最悪の記憶。頼む……頼むから勘違いであってくれ!

 

「あら、そのお婆さんというのはお兄様の知り合いの方でしょうか。珍しいこともあるものですね。…………お兄様?」

 

「……………失礼。君の出身地を聞いても?」

 

「……? ザンクティンゼル島です!」

 

 すまん、正直吐きそう。

 





次回は土日のどっちかになる予定です。


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城塞都市アルビオン Ⅴ

 

 忘れるはずもない。あれは俺がまだ士官学校の学生だった頃の話だ。

 

「ふぇふぇふぇ…… まさかこれほどまでの剣気を纏う小僧がいるなんてねぇ…… 長生きはしてみるもんだよ」

 

 ザンクティンゼルという名前の島に住むある人物に対して、配達物を届けに行く任務を受けていた際の帰り道での出来事。突然背後から声をかけられた俺は、それに反応する形で瞬時に剣を抜き後ろを振り返った。

 当時ヴィーラの気配遮断は今ほど卓越したものではなかったが、俺の探知能力は現在のそれと相違ないものだった。要するに、俺は背後をとられた経験というものがまるで無かったのだ。

 その時の衝撃がどれほどのものであったかは言うまでもないだろう。

 

「……俺に何か用でも?」

 

「ふぇふぇふぇ…… 気付いてからの反応速度も及第点だ。この婆の目に狂いはなかったようだねぇ……」

 

「いや、だから要件をだな……」

 

「剣に関してあんたに教えることはなさそうだねぇ…… 一目で分かるさ、あんたは我流でこそ輝く器だと」

 

「…………よし、良く分かった。さては会話する気ないだろ、貴様」

 

 もうこれ最後まで聞かずに帰ってやろうか、と心の底から思った。むしろ、俺も話を聞かないことによって初めて公平性が保たれる気がする。

 

「だからこそ、あんたに教えるのは搦め手の対処法。耐性を付けるのは無理だからねぇ…… ()()()()()()()()()()を学んでいきな!」

 

「…………は?」

 

 突如として戦意を叩きつけてくる老婆の姿がそこにはあった。

 

 さらに叩きつけられたそれによって、この婆が俺がこれまでに戦ってきた()()()()()()()どんな生物よりも底の見えない強さであるということを否応なく理解した。うっそだろ、おい。

 

『ソウルピルファー』

 

『ブラインド』

 

「……! ………そらっ!」

 

 次に起きたこともまた唐突なものだった。

 突然視界が黒く染まったことに驚くが、すぐに精神を切り替えて婆の気配を辿ることで反撃を行う。しかし、ガキンッという音が聞こえたことで防がれたことが分かった。

 

「よしよし。これ位はやってもらわなくっちゃねぇ…… ほら、次いくよ!」

 

『グラビティ』

 

「ぐっ!? ………舐めるな!」

 

 今度は、突如として全身にとてつもない重みが襲い掛かった。未だ経験したことのない種類の攻撃に重心が崩れるが、丹田に力を入れて持ち直す。だからといって楽になったわけではないが、どうすれば良いのかを判断するくらいの余裕は持てた。スマートな解決策とは言えないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふぇふぇふぇ…… やるじゃないか。さて、どこまで耐えきれるかねぇ……」

 

 そこからはまさに地獄のような時間だった。毒、灼熱、麻痺、睡眠、恐怖、混乱……次々にかけられる状態異常。

 しかし、そのタイミングにも決められたルールがある。婆が新たな状態異常を付与してくるのは、決まって二つの条件のどちらかが満たされたときだった。

 一つ目は、解答を見出すこと。麻痺していても体を動かせる方法や、睡眠に陥ったときに瞬時に起きる方法などを会得し、婆に通常時に近い攻撃を行うことに成功した時だ。

 二つ目は、新しい状態異常を喰らってから攻撃できずに3分が経過すること。婆のかけてくる状態異常は、3分で効果が切れた。その3分で答えを得られなかったとき、婆は再び同じ状態異常を付与してくることで、解答を見つけることを促すのだ。そんなサービスは要らん。

 

 そして、婆から一方的な蹂躙を受けること数時間。何度目になるかも分からない解答を示したのちに、婆は俺の状態異常が解除されるのを待ってから告げた。

 

「ふぇふぇふぇ…… あんたの学習能力には、この婆やも恐れ入ったよ。やはりあんたには、英雄の資格がある」

 

 そこで婆の称賛を受けた俺はというと――控えめにいってキレていた。これ以上ないほどに。

 少なくとも、まともな精神状態ではなかったことだけは疑いようがない。そのことはすぐ後の言動を顧みるだけでも一目瞭然だ―――よもや、あの婆を相手に煽ってしまうなど。

 

「何が婆やだふざけるなよ、お前のような婆がいるか! 貴様、どこから湧いて出た星晶獣だ!」

 

「ふぇふぇふぇ…… まだまだ元気そうじゃないかい、続きができそうで安心したよ。元よりたった一日で全てを学ぼうなんて、土台無理な話だが…… ま、付け焼刃でもないよりはましだろうさ。ほら、お次はこいつだよ!」

 

 ―――そして、絶望の時はやってくる。

 

『チャームボイス』

 

 

 ♦ ♦ ♦ ♦

 

 

 あれから俺が顔を真っ青にしたのを見たヴィーラがちょっとした事件を起こしたりしたが、その事件を通して騎空団の各メンバーとの仲が深まったことは不幸中の幸いだったと言えるだろう。

 おかげで少なくとも、多少口調を崩すことが許されるくらいにはお互い関係を深めることができた。

 

「なぁ、領主の兄ちゃん。やっぱり無理しないで休んだ方が良いんじゃねぇか? オイラから見ても、まだかなり顔色悪そうに見えるぜ」

 

「俺たちも聞きたいことはあったんだが、別に急ぎの用事ってわけでもねぇしな。日を改めてからでも問題ねぇぜ」

 

「そうよね。お兄さん、無理しなくて大丈夫よ」

 

 ビィ君を始めとしてオイゲンさんやイオちゃん、言葉にこそせずとも他の団員からも同様に気遣いに満ちた視線が送られているのを感じる。

 良い騎空団だな、と心から思った。ある種のカリスマのようなものを感じさせる、とでも言えばいいのだろうか。前を進む彼女たちの後には、意図せずとも多くの人たちが続きたくなるような道が作られていくのだろう。そんな光景が容易に想像できた。

 

「あの……本当にすみません! まさかしちゃいけない話だなんて思わなくて!」

 

「ふっ…いや、謝るのはむしろこちらの方だ。自身の都合で客人に気を遣わせるなど領主失格だからな。……ただ、そうだな。ジータたちに時間の余裕があるというのならば、明日また改めて話を伺いたい。できる限り早く、先ほどの雇われ者たちについて情報をまとめる必要があるからな」

 

「分かりました。そういうことでしたら、また明日来ます!」

 

 団長である少女の了承を受けて軽く礼を告げた後、未だにこちらを心配そうな表情で見つめるヴィーラに対して頷きを返すことで意図を伝える。

 

「では、そのように。…皆さん、もしよろしければお城の客室に泊まっていかれてはいかがですか? ちょうど空きがありますし……私事になりますが、私もお姉さまと久しぶりにお話ししたいと思っていますので」

 

「それがいいや! なぁ、ジータ。今日はここで世話になろうぜ!」

 

「ああ。そうしてくれると助かる。私としても久しぶりにヴィーラと話がしたかったからな」

 

 ビィ君とカタリナの勧めを受けたジータは、ぐるっと他のメンバーを見渡して全員の肯定を確認すると口を開いた。

 

「ヴィーラさんの提案、ありがたくお受けします!」

 

 『グランブルー』を名乗る騎空団。

 この日こそが、これより先何度も道を交えることになる彼女たちとの記録、その始まりの1ページを埋める記念すべき日になるのであった。

 





続きの話を考えると切りが悪くなるので、少し短くなったため今日投稿しました。


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城塞都市アルビオン Ⅵ

 

 翌日の朝、執務室にて。

 俺はソファーに座って騎空団『グランブルー』のメンバーらと向かい合っており、その代表としてカタリナから話を聞いていた。

 

 ジータが騎空団を結成するに至った経緯について。ルリアという少女とエルステ帝国の因縁について。そして―――彼女が星晶獣の力を取り込むことが可能であるということも。

 

「……つまり、ルリアちゃんは俺がアルビオンから離れられないという()()()()()()()()を書き換えることができる、と?」

 

 望外の知らせに驚きを隠せないものの、何とか言葉を紡ぐ。

 そしてカタリナから視線をずらして他の団員たちを見るが、誰一人として嘘を吐いているという様子は見られない。最終的にぐるっと見回してからジータと目が合うと、彼女は力強く頷いた。

 

「はい。カタリナから、レンさんが島から出れなくて困っているっていう話は聞いてます。私たち、力になれると思うんです!」

 

「……なるほど、そういうことだったのか。…本当にありがとう、カタリナ。君のような人を後輩に持てた俺は幸せ者だな」

 

「…ということは?」

 

「あぁ。その話、ありがたく受けさせてもらおう。……しかし、困ったな。これでは、今持っている帝国の情報を渡す程度のことでは報酬が到底釣り合わないぞ」

 

 提案を承諾したことで笑顔になるカタリナとジータを見て、苦笑しながらも呟く。

 そう、全くもって釣り合わないのだ。ヴィーラはとある用事を任せたためにここにいないが、物事をシビアに見る傾向のある彼女であっても、間違いなく同じことを言っただろう。

 

 ―――それほどの奇跡なのだ。星晶獣との契約を書き換える力というのは。数年にわたって領主の契約を解除する方法を探していた俺たちには、それが痛いほどに理解できている。

 

「そんなことないですよ。私たちも空図の欠片っていう貴重な物をもらえますから!」

 

 ジータはそう言ってくれるが、正直なところあれ(空図の欠片)を有効活用する機会とかまずないんだよなぁ、と思う。

 ファータ・グランデだけでいくつ集めないといけないというのか。せめて単体でも何かしらの使い道があれば良かったんだが。……要するにこれ(空図の欠片)、無用の長物である。さすがにこれで等価交換とは言えない。

 

「いや、そういうわけにもいかないな。空図の欠片はアルビオンにとって重要な物ではないし、第一俺たちのもつ帝国の情報はあまりにも少ない。……そこでだが、一つ提案したいことがある。このアルビオンにおける滞在期間をあと5日、延ばしてはもらえないだろうか。無論、昨日と同じように食事や宿泊場所などはこちらで提供させてもらう」

 

「……? あの、昨日のお食事もとってもおいしかったので嬉しい申し出ではあるんですけど……どうして5日なんですか?」

 

「もちろん、無理にとは言わない。だが、5日といったのにも二つの理由がある。一つ目は、最近になって帝国がこのアルビオン周辺できな臭い動きを見せているからだ。ここ数日は特にな。なので数日あれば、より詳しい情報が入ることもあるだろう。…そして二つ目だが、5日後アルビオンに俺と旧知の間柄であるゼタと言う女性が訪れる予定になっているからだ。彼女は仕事柄多くの島を渡っているからな、帝国についても深いところまで掴んでいる可能性は高いだろう。なので彼女と面会する約束をどうにかして取り付けよう。……どうだろうか?」

 

「えっと……そ、相談タイム、ください!」

 

「あぁ、構わないとも。好きなだけすると良い」

 

 そう告げてから、手持ち無沙汰になったことでテーブルに置かれたカップを手に取り紅茶を口に運んだ。……美味いな、これ。さすがはヴィーラが選んだ茶葉、とでもいうべきか。相変わらず、我が妹ながら実に多才なものだと感心せざるを得ない。

 ……っと、終わったようだな。思ったよりもずっと早かったが。こちらを向いたジータが口を開いた。

 

「決めました、レンさん。あと5日間、お世話になります!」

 

「はは……そうか。提案を受けてくれたこと、感謝する。このことは後でヴィーラにこちらから伝えておこう。君たち側から何か要件があった場合、彼女が請け負うことになるだろうからな。勿論俺でも構わないんだが…… 俺はこの会談が終わり次第、アルビオンの住民たちに領主退任を報告する準備に入るのでな。あちこち移動するだろうし、タイミングが合わずに行き違いになりかねない」

 

 そう言い終えたところで、カタリナ以外のメンバーは呆気にとられたような表情になった。……ああ、うん。そうだ。俺も大分毒されているようで、アルビオンでの常識は外での非常識だということを忘れていた。急ぎ追加の説明を行わなくてはならない。

 

「アルビオンには力あるものを尊重するという風潮がある。そして君たちも知っている通りここの領主というのは、武芸大会にて最も力あるものであることを証明できた者だからな。結果的に、領主の意見はほとんどが通るというわけだ。それに、この件に関しては着任時に既に承諾を得ているからな」

 

 俺の言葉に、騎空団の中で唯一アルビオンの住民に向けた着任時の挨拶を知っているカタリナが頷く。

 

「ああ、レン殿のあの時の挨拶には驚かされたな。彼は『俺はアルビオン領主の契約を解除できた時、後任の着任を確認した後この島を離れる。……しかし! その時を迎えるまで、俺は全力を以ってこのアルビオンの領主の務めを果たすことをここに誓おう!』と仰ってな。……あの宣言に対して大量の拍手が巻き起こっていたのを見た時に、私はここがどれほど変わった都市であるのかということを再認識させられたものだ」

 

「おいおい、マジかよ! 領主が着任早々に条件が揃ったらやめるなんて宣言、普通認められないだろうに」

 

 彼、ことラカムの言うことは全くもって正しい。他の島であればまず許されない行為だろう。だが、ここアルビオンでは許される。

 さらに言えばこのことは民衆に話すよりも以前に、アルビオンで立場の高い人物のみを集めた上層部会議でも承諾を得ていたのだから、アルビオン極まってやがると言わざるを得ない。

 

 アルビオンの住民というのは上から下まで、どいつもこいつも馬鹿ばかりである。誰だよこんなんばっか集めて都市作ろうとした奴。そいつら絶対頭おかしいよ。

 

「まぁ、そういうわけだ。おそらく3日ほどで退任及び次の領主決めのための武芸大会の準備ができるだろう。滞在期間中のことだ、時間があったら観ていくといい。それと参加資格は大会が周知された時にこの島にいる全員に与えられるからな、或いは参加していくというのもありかもしれない」

 

「あれ? でもそれって、領主を決めるための大会なんでしょ? 領主になりたい人しか参加しちゃいけないんじゃないの?」

 

 イオちゃんの疑問に、俺は前回のひどさを思い出して苦笑しながら答える。

 

「以前は、というより俺が知っているのは前回のみだが。前回はある程度強いことが周知されている人物は強制参加、棄権も認めないというあまりにあんまりなものだったからな。今回は完全任意参加かつ途中棄権もありとして、腕試し目的の参加も受け入れるつもりだ。……まぁ、棄権は準決勝戦より前で締め切りにするがな。トップ4に選ばれた人物から棄権者が出るなんて、さすがに興ざめだろう」

 

「ほぅ……色々考えてんだなぁ、おい。まだまだ若ぇってのによ」

 

「ふふふ……そうね。貴方のような人が領主の座に就いたのは、この島の人々にとっては幸運なことだったでしょうね」

 

「はは……そう言って頂けて光栄、で……す……?」

 

 思わず言葉に詰まり、疑問形になってしまった。その理由は、こうしてロゼッタさんと向き合ったことで『彼女の気配、何かおかしくね?』ということに初めて気付いてしまったからであった。

 なんというか、この感じは…………そう、うちのケルベロスに近いぞ。まさかこの人、そういう感じか?

 表情が固まったままロゼッタさんを見ていると、その視線とその意味の両方に気付いたらしい彼女は小さく片目を瞑ってウィンクをしてきた。……内緒にしておいて、ってことか? 誰に対してなのかは分からないが。

 

「おーい… どうかしたのか、領主の兄ちゃん? 突然ぼぉっとしちまってよ」

 

「…あぁ、いや。何でもない。……ただ、そうだな。ここからは現状でこちらが持っている帝国の情報について話させてもらおう。そちらの役に立つものがあればいいのだが……」

 

 まぁ、とりあえず誰にも言わなければいいだろう。即座に判断を下して話題を切り替えると、ロゼッタさんはあ・り・が・と・うという形に小さく口を動かした後、満足そうに微笑んだ。

 





次回は、武芸大会とそれに集う馬鹿共の話をお送りする予定。

また、私事になりますが作者名が決まったので匿名設定を解除しました。
逆にいえば、今まで匿名だったのは名前が決まってないからというアレな理由だったりします。

あと投稿に関してですが今月の古戦場の期間はお休みします。書いてる余裕ないからね、ちかたないね。



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