俺はサイヤ人の王になる (SHV(元MHV))
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取り憑かれた男


とりあえず完全に活動沈黙するのも癪なのでチラシの裏で活動します。


気がついた時、俺は戦場にいた。

 

どうやら頭を打ったらしく、ひどく酔った時に似た感覚が全身を支配していた。

 

「ちくしょう……こんなところで死んでたまるかよ……!」

 

左腕が動かない。感覚が無いが無事なのだろうか。

 

ひとまず右腕で自分の身体を這いずらせ、先ほどから頭上を行き交うエネルギー波から逃れるべく窪地へと転がる。

 

「ぜっ……! はあ、はあ、はあ……!!」

 

呼吸をするのも辛い。喉から肺が出そうなほどに荒い息を繰り返すが、まるで楽にならない。

 

すると、そこへ俺と同じように片腕を怪我したサイヤ人が転がり込んできた。

 

「ちっ……!」

 

つり目がちのひどく好戦的なサイヤ人に、俺は何故か見覚えがあった。

 

「ベジー……タ……?」

 

知るはずのない男の名前。だが不思議としっくり来るそれを、俺は呟いて意識を失った。

 

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

──ビー!──

 

機械音に従いマイクロマシンが含まれた回復液が回収され、俺は目を開けて口に取り付けられたマスクを外す。

 

目を覚ますと、そこには腕を組んだ男──ベジータが立っていた。

 

「おまえは……」

 

「ふん、目を覚ますというから来てみたが……。俺の名前を知っているようだったが、貴様一体誰だ?」

 

「おれ……か? 俺は……」

 

どうしたことか、自分のことを思い出そうとした瞬間俺はひどい喪失感に襲われる。

 

「俺は……だれだ?」

 

自分自身に関する、記憶がない。生まれた場所。両親の顔。何一つ覚えていない。

 

いや、覚えていることもある。俺はサイヤ人と呼ばれる戦闘種族で、他の種族よりも圧倒的に強い存在であること。そして、ツフル人という科学力に長けた連中の下で奴隷として働かされていること。

 

前者はともかく、後者は勘弁願いたいな。

 

「ふん! 奴隷階級でも随分と下級のようだな! 覚えておけ、俺はいずれ“王”となる男だ! サイヤ人の王にな!!」

 

野心をみなぎらせた視線を隠そうともせず、ベジータは嗤う。

 

「はっ、そいつは楽しみだ。……だがそうだな、自分の名前も思い出せないんだ。せっかくだから俺も“王”になることを目指してみよう。そうだ、それがいい。その時はおい、ベジータ。お前俺の部下になれ」

 

「きっ、貴様ぁ……!」

 

俺の突拍子もない言葉に、目の前で王になることを宣言したベジータは顔を真っ赤にしてこちらを睨む。

 

「おいおい落ち着けよ。せっかく治療受けたのにまた怪我したんじゃなぁ?」

 

「ふん! 次は拾ってなどやらんぞ!」

 

そう言ってベジータは怒りをむき出しにしながら去っていく。やれやれ、ああ気が短くて王になどなれるのかね。いや、俺が王になれば済む話か。

 

「俺のマスターは今どこにいらっしゃる?」

 

俺は自分を治療した回復ポッドの前にいた、監視を兼ねたロボットに自分の飼い主の居場所について質問する。

 

「今ハ惑星“フィトサ”へ出掛ケテオリマス」

 

「そうかい……」

 

短い会話だが、また少し自分の立場について思い出してきた。

 

俺の立場は奴隷とは言っても、それほど不自由があるわけではなかった。

 

食事は好きなタイミングで食べることができるし、トレーニング設備もいつだって利用できる。

 

風呂もトイレもある。

 

唯一禁止されているのは“戦うこと”。

 

「はっ! 戦闘民族に“戦うこと”を禁止するたぁ、皮肉な話だぜ……」

 

不思議だ。以前はそのことを考えるだけでイラついていたようだが、今は“戦うこと(それ)”を禁じられてもそれほどストレスには感じていない。

 

「妙な気分だな……」

 

俺はひとまず自分の部屋だとされる場所へロボットに案内させ、クッションくらいしかない簡素な部屋で座り込んだ。

 

あぐらをかき、目を閉じてゆっくりと自分自身へと埋没していく。

 

はて、こんなことを俺は今までしたことがあっただろうか。

 

そんな思考も置き去りに、俺は俺の深い部分へと眠るように落ちていった。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

鼻から出た血が、リノリウムの床を汚す。

 

続けざまに殴られた頭部への衝撃と痛みから、床に叩きつけられ、そこへさらに追撃の蹴りが頭へ、脇腹へと降り注ぐ。

 

(ちっ、なんでこんないいようにやられてやがる。てんで大したことのない蹴りじゃねえか。こんなもん、掴んで足首をへし折ってやればいいものを……)

 

思わずイラつきながら呟く。俺は自分ではない自分を通して感じる()()()()()()痛みに、眉をしかめて耐える。

 

「あのよぉ、お前がナマ言った相手、誰かわかってるぅ?」

 

頭を庇う手を踏みにじりながら、口の臭い男が優越感に浸った声でこちらを挑発する。

 

(けっ、クセえ口開きやがって。俺なら今すぐその顎を引きちぎってやるのによぉ……)

 

まるで理路整然としない、文字通り言いがかりの暴力。

 

やれ態度がなってない。やれ今後は俺の命令に絶対服従だ。

 

俺じゃない俺は、それに徹底的に心を折られたようで、次の日から口がクセえ男の奴隷と化した。

 

稼いだ金は巻き上げられた。親の金を盗んでこさせられた。

 

モノを盗む行為を強制され、それを告げ口されその様を遠くで見ながら笑われた。

 

(こいつは……こいつの知識が流れ込んでるのか……)

 

俺は見知らぬ世界の目まぐるしい情報に驚きながらも、こいつの心を蝕んでいく侮辱と屈辱にイラつきだけを募らせていく。

 

(情けねえ野郎だぜ。弱いからこういうことになる……)

 

サイヤ人にとって、強さは絶対の指標だ。口のクセえ男みたいな奴もいないことはないが、あんな風に奴隷として扱われるのは俺達にとっては屈辱の極みだ。まあ、俺やベジータみたいな例外もいるがな。

 

俺じゃない俺は、クセえ馬鹿になぶられない自宅にいるときは、ひたすらに漫画とやらを読んでいた。

 

その中のひとつに、俺は全身を震わせる思いになる。

 

(サイヤ人だと……!?)

 

俺じゃない俺が読んでいた漫画ドラゴンボール。そこには、俺と同じサイヤ人でありながら地球という星でどんどんと強くなっていく男を主人公とした物語が描かれていた。

 

(最初はてんで大したことのないガキだったが……デカくなりゃ大したもんじゃねえか!)

 

俺は孫悟空というその男の物語を追っていく内、すっかり感情移入してしまっていた。

 

実の兄であるというラディッツとの再会と、サイヤ人であることを知りその日に死ぬ孫悟空。

 

ドラゴンボールという願いを叶える玉によって蘇生し、ベジータそっくりの男と凄まじい激闘を繰り返す孫悟空。

 

宇宙の帝王を自負するフリーザとの戦い。そして──超サイヤ人への覚醒。

 

(なんだこりゃ……スゲエじゃねえか! 超サイヤ人!! こいつにさえなれれば、もう恐いものなんぞねえ!!)

 

フリーザと互角以上の戦いをする超サイヤ人となった孫悟空。

 

自分の生きている世界が漫画という絵に描かれていることを少しだけ気味悪くも感じたが、そんなことを凌駕するほどにこの物語は面白かった。

 

(レッドリボン軍! いたなぁ、そんな奴等!!)

 

かつて少年時代の悟空によって壊滅されたレッドリボン軍の生き残り、科学者ドクターゲロ。

 

その男が仕掛けた人造人間という存在。超サイヤ人となったベジータをも圧倒するそのパワーは実に興味深い。

 

(やっぱ科学者ってのは敵にしちゃダメだな。サイヤ人はその辺思考が短絡的だからな……)

 

いずれは自分を奴隷とするツフル人を滅ぼすつもりなのは、恐らくはベジータも同じはずだ。

 

だが俺は、この物語を見ていて危惧することがあった。サイヤ人より圧倒的に上の科学力を持つツフル人の科学者がひとりでも生き残っていた時、このドクターゲロと同じことをしないとは言い切れない。

 

その上悟空はこのとき心臓病を患った。原因はいくつか考えられたが、少なくともブルマという女が未来から息子を送り込んでいなければ悟空は間違いなく死んでいた。

 

復讐の権化となった科学者を相手にすれば、最悪サイヤ人のみでは滅びる可能性すらある。

 

(地球を支配してサイヤ人とのハーフを大量に作らせ兵隊にするか? ……いや、反乱されればこちらが不利だな。だったらまだ人造人間の方が無難だ)

 

反乱を起こされても確実に止める手段がある人造人間の方が兵隊としては優秀かもしれん。

 

やがて人造人間を相手にする物語は佳境を迎え、悟空はその命と引き換えに自分が犯した過ちを精算した。

 

(悟空のミスは全部ひとりでやろうとしたクセに、一番大事な部分をガキにやらせようとしたところだな。だからいざってときに大混乱になる。俺なら……)

 

自分が悟空の立場ならどうしたか。何ができたのかを考える。セルと呼ばれるキメラを退治するには何がベストか。

 

(死んでも終わりじゃないのか。あの世ねえ……)

 

例え死んでも神に気に入られれば肉体を持つことが許されるらしい。媚を売るのは好かないが、手段のひとつとして覚えておくべきだな。

 

悟空はそれによって一日だけ地上へやってくる権利を行使してかつての仲間とライバルの前へと顔を出した。

 

だがしかし、それは新たな戦いのはじまるきっかけに過ぎなかった。

 

魔人ブウ。悟空の至った超サイヤ人の進化形態である超サイヤ人3と互角に戦う存在。

 

(悟空め、加減しやがったな。相変わらず余計なことを独りよがりで考えるのが得意な野郎だぜ)

 

その思考に嫌悪はしたが気持ちはわからないでもない。悟空は強くなりすぎた。自分以外の人間が理解できなくなるほどに。

 

そうして物語が締め括られたが、悟空とは思わぬ形で再会することができた。

 

アニメ、という文化だ。

 

動く悟空に俺は興奮した。日々なぶられる俺じゃない俺の心はすり減っていったみたいだが、その頃には俺はもうそんなことは気にならなかった。ただドラゴンボールの物語がもっと見たかった。

 

(超サイヤ人4! 大猿を制御した果てにそんな姿があるとはな……)

 

俺の危惧した通り、ツフル人の科学者が残した遺産がサイヤ人を滅ぼすべく動き出していた。

 

ベビー。ツフル人の王の遺伝子をもつというその存在は、他人を乗っ取る能力によってベジータを取り込み地球人全てを支配下に置いて見せた。

 

(すげえ力を手にいれたくせに馬鹿なのかこいつは? 正面から戦おうとするから負けるんだよ)

 

せっかく取り込んだベジータの力も、覚醒した悟空のフルパワーには敵わずベビーは太陽へと葬られた。

 

その後も邪悪龍とかいうドラゴンボールのデメリットそのものが現れたが、まあそいつはどうでもいい。

 

いよいよ俺じゃない俺が、限界を迎えつつあったからだ。

 

奴隷として扱われるこいつは、ある日ちょっとしたきっかけから口がクセえ馬鹿をナイフで襲った。

 

どうやらようやくやり返してやる気になったらしいが、遅すぎだ。

 

半端な体勢で襲ったナイフは馬鹿に刺さったものの、逆にそれを奪われ俺じゃない俺は滅多刺しにされて死んだ。

 

最後にこいつが思ったのは“もっと強くなりたかった”だ。

 

なんて間抜けな話だ。強くなりたいなら、強くなればよかっただけの話だっていうのによ。

 

結局こいつは時間を無駄にして、呆気なく死んだ間抜けだ。

 

で、そんな間抜けが取りついたのがこの俺ってわけなんだが、どうやら間抜けはすっかり弱っていたみたいで、俺に取り込まれて消えちまったみたいだ。

 

自分の記憶を見せてなにかを分かってほしかったみたいだが、俺があの馬鹿を直接殺せるわけでもねえっつうのに何がしたいんだか。

 

だがまあこいつが見せた記憶と知識は俺にとって有効に使わせてもらおう。

 

くくく、ベジータの名前を知っているはずだぜ。あれは本来なら俺達サイヤ人の王になるべき男だ。

 

だが俺は未来を知った。限定的ではるが様々な可能性と一緒に。

 

ひとまずはトレーニングでもさせてもらうとするかな。次の戦場に送り込まれるまでにはまだ時間がありそうだしなぁ。

 

俺は嫌らしく嗤いながら、トレーニングルームで身体を動かすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





色々略した。書きたい場面には遠い。


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サイヤ人の可能性

勘違いさせていたら申し訳ありませんが、ここのところ投稿している作品群は全て自分の没短編だったりします。
なのでプロットはまるで練っていないですし長期連載として書く予定もありません。


強さに拘るのがサイヤ人だ。

 

それは戯れに行われる戦闘力測定における態度でもわかる。

 

なぜなら普段から顔を見合われば対抗意識をむき出しにしている飼われたサイヤ人共が、今日という日は明確な比較があるというのもあってそちらに夢中になるからである。

 

そして、そんな俺達を嘲り、見世物として楽しむ連中らが集まる会合でもあるのだ。

 

いわゆる“富裕層”に類する連中。上位のツフル人らが集まり、自らの保有するサイヤ人の戦闘力や戦歴を自慢する場所でもあるのだ。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

分厚い強化ガラス越しに、数人の男らが真下の様子を眺めていた。

 

「ほほ、どうやら陛下お気に入りのあのベジータとかいう男。また戦闘力を上げたようですな」

 

サイヤ人に比べて半分以下の身長をした種族、ツフル人。そんなツフル人の大臣が豪奢な格好をした男へと媚びへつらい、彼の所有物であるサイヤ人の一人──ベジータを褒め称える。

 

「カカ、どんな戦場に送り込んでも生き残ってくる逸材よ。どうやらワシに隷属するのが気にいらんようだが、猿は少々生意気なくらいな方が活きがよくて丁度よい」

 

ツフル人の王である男──ナバナは自身が飼っているサイヤ人ベジータのことを特に気に入っていた。

 

すでに戦闘力にして5000を超える彼の存在は、他の惑星への抑止力となるほどである。

 

無論ツフル人の誇る科学艦隊の方が遥かに強力だが、極地戦においてはやはり単騎で高い戦闘力を誇るサイヤ人の有用性は高い。

 

一部の突然変異やフリーザ一族にはさすがに敵うまいが、それでも銀河においてトップクラスの戦闘力を誇る種族を手駒とできたのは重畳と言えた。

 

「おお、そういえば陛下! 近頃変わったサイヤ人がいるとのお話、ご存じですかな?」

 

「ああ、王子が飼っている“ロマネス”とか名付けられたサイヤ人か。どうやら私のところのベジータが戦場で拾ってきたようだが、以前の持ち主はどうしたのだ?」

 

「……それが、惑星フィトサで運動を楽しまれていたところを心臓発作で……」

 

「ああ、あの金持ちの豚か」

 

「は。幸い奴隷のサイヤ人は重傷を負った際に記憶をなくしていたようでしたので、権利関係の放棄は恙無く済ませることができました」

 

飼われたサイヤ人は一種の資産である。その為、主人が急死してもその権利はまず血族にあるのだ。それを放棄するためには本人の口から主人を鞍替えする旨を言わせねばならない。飼われたサイヤ人の待遇は基本的に悪いものではないため、義理固い者などは環境が変わることを嫌い新たな主人を断ることもある。

 

「ご苦労。して、何が変わっているのだ?」

 

王は話の本題を求め大臣の方を向く。

 

「は、なんでも異常に礼儀正しいとのことです。粗野で乱暴なあの猿めらと同種族とは思えないとは王子の言葉ですが、なんでも最近は共に食事を楽しまれるほどの気に入られようだとか」

 

「くだらん。ペットを気に入って甘やかしているにすぎんわ。さっさと猿を戦場へ投入するように言付けよ」

 

王は自らの息子の凶行に顔をしかめ、早く死んでしまえばいいとばかりにサイヤ人を飼う者の義務である戦役を課すよう告げる。極地戦が主とはいえ、サイヤ人には最低でも三ヶ月に一度戦場へ送り込まれる義務がある。

 

「いえ、すでに戦役は3度ほどこなしております。その活躍はどれも地味ではありますが、よく記録を見れば何やら自分を試しているようだとか。疑問に思った王子がロボット兵士と戦わせたところ、なんと辛くも勝利して見せたとのことです」

 

「なにぃ……?」

 

ロボット兵士といえば惑星プラントにおける主要防衛戦力である。その数は優に100万を超え、一体一体が戦闘力3000に匹敵する出力を備える。

 

ツフル王はこれらを連携させればフリーザ一族にさえ匹敵すると考え、さらなる改良型であるメタルミュータントを開発させていた。

 

「ですが流石に辛勝だったらしく、回復ポッドが必要な怪我を負われたとか。これを王子が心配したらしく、その平伏する態度もあって今では護衛として連れ歩いているとのことです」

 

「……ふうむ。少々気になる部分もあるが、妙な点があれば報告するよう監視の者にも伝えよ。では、ワシは少し科学塔へと赴いてくる」

 

「は、かしこまりましてございます」

 

ツフル王は奇妙な胸騒ぎを感じていた。自身の所有するベジータには匹敵しないものの、高い戦闘力を有するサイヤ人の誕生。しかも礼儀正しいというのが、所詮は猿と見下していても何故か含んだものを感じてしまう。

 

「ふん、所詮猿に何ができる。反乱なぞできるものならばしてみるといい」

 

ツフル王は笑みを浮かべながら、自らが計画する“全宇宙ツフル化計画”の進捗を確認するべく科学塔へと向かうのであった。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

ここ惑星プラントの重力は高い。平均的な惑星の10倍はあるほどだ。

 

そこで育つことによってサイヤ人は大きな戦闘力を手にいれ始めたのではないかとも言われている。

 

どうやらこの星に来た当初の原始サイヤ人の戦闘力は、高いとはいえ通常時はそれほど頭抜けていたわけではなかったらしい。

 

ベジータに助けられてから一年ほどの時間が過ぎた。あの頃の俺のマスター、ようするに飼い主は既にいない。なんでも心臓発作で死んだらしい。

 

危うく俺も戦役処分とかいう使い捨てにされそうだったが、偶然通りかかった身なりの良さそうなガキに平身低頭することで何とか取り入ることができた。

 

このガキはどうやらツフル王の息子、ようするに王子らしく、名前をモヤリチェといった。

 

俺にロボット兵士をけしかけてくるようなクソガキだが、辛勝に見せかけてわざと怪我を負いながらも忠誠を誓う俺にガキはいたく感動したらしく、戦役は課されたが以前以上の厚待遇を受けている。

 

好奇心から一緒に食事を誘ってきたんで、うろ覚えのテーブルマナーもどきを披露してやったらとんでもなく驚いていやがった。

 

あれから俺の全身には無数の傷が増えた。フリーザに挑んだ馬鹿で勇敢なサイヤ人バーダックを思わせるが、おかげさまで俺の戦闘力はかなり上がった。

 

勘で戦闘力をコントロールする方法も覚えた俺は、多分だが既に戦闘力は6000を超えるくらいだと思う。大猿化して60000。目標にはまだまだ全然足りない。

 

どうやら最近ベジータはロボット兵士に指示を出す科学塔への破壊工作を企んでるみたいで、俺を誘ってきていた。

 

ならばと俺は囮になることを申し出た。ついでに王子を人質にとることも。

 

今現在サイヤ人で有名なのは間違いなくベジータだ。圧倒的な戦闘力は奴隷のサイヤ人らにおいても人気は高く、荒野などの辺境で暮らすサイヤ人もその戦闘力を肌で感じたことはあるだろう。

 

くくく、まあ偉そうな顔ができるのも今のうちだ。すぐに誰が最強のサイヤ人かを知ることになる。

 

とはいえ、今は少しでも強くなるためにトレーニングが必要だが。

 

「しっ……!」

 

俺が今行っているのは、シンプルにパンチを繰り返すトレーニングだ。

 

だがただ繰り返しているわけじゃない。パンチを出す際の体重移動。骨の動き。筋肉の流れまで全てを意識し集中してやっている。

 

一撃、一撃。繰り出す度にその鋭さは増し、重さは倍増する。

 

不思議なことに、荒々しい気分で打つよりも穏やかな気持ちで打ったときの方がパンチは鋭かった。

 

静かに、全てに溶け込むかのようにただひたすらに拳を振るう。

 

最近は戦闘力をコントロールできるようになったついでに、気というものの存在も理解できてきていた。

 

サイヤ人なら無意識でやっていることの多くがこの気と密接に関わっていた。

 

おかげで色々と技のレパートリーも増やすことができた。特に斬撃系の技を身に付けられたのはでかいな。

 

クリリン、て男がやっていた気円斬も、まあ擬きならできないことはない。にしてもやってて思ったが、あの男がやっているのは天才的な気の制御だ。

 

なにせ気を高速で回転さえ、収束し、維持した上でそれを遠くまで放つというのだから。一体一度にどれだけのことを同時にこなしているのか俺には理解できないほどだ。

 

「さて、ベジータの奴はどうするつもりかね」

 

俺達の敵はロボット兵士だけではない。忌々しい尻尾の根本に付けられたリング。これが最も厄介だ。

 

これは飼われる奴隷のサイヤ人全員についているもので、無理に外そうとしたり、飼い主の命令に逆らうと神経に直接電流が流れるようになっている。

 

サイヤ人の尻尾は神経の塊みたいなもんだから、そんなことをされた日にはまず動けなくなるだろう。無理矢理動くことも可能だが、それでも精細にはかける。作動され続ければどうにもならない。まあ、俺は案外簡単にそれを攻略する方法を知っているけどな。恐らくベジータも知ってはいるが、それをすれば最悪反乱がままならなくなるのもわかっているからやらないんだろう。

 

なにせ、こいつの制御もロボット兵士と同じく科学塔だからな。あれを壊せば、ツフル人の支配体制そのものをひっくり返せるかもしれないというのは夢じゃない。

 

「くく、だが王になるのはこの俺だ。精々華々しく戦ってくれよ? ベジータ」

 

俺は高揚する気分を落ち着かせ再び拳を振るう。

 

部屋のなかに、再び風を切る音が繰り返された。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

 

「がっ……! あぐぅ、うぎ、あがぁ、っ……!!」

 

小柄なツフル人の老人が、手足を拘束されたサイヤ人の女──ハナシアを責め立てる。

 

裸にされたハナシアは尻尾に取り付けられた器具によって全身の自由を奪われている。薬物を注射された彼女の手足にはリング状の拘束具が取り付けられ、そこから流れる高圧電流が彼女の自由を奪っていた。

 

「きひひっ! ほらどうした! もっと抵抗してみせろっ!!」

 

「ぐあああああああっ~~!!」

 

つい数時間前までツフル王を前にかしずいていた老人が、女でありながら上位の戦士でもあるハナシアを鞭で叩き拷問していた。

 

皮肉な話だが、こうして週に一度与えられる拷問のダメージが彼女を強くしているのも事実だった。同時に、彼女の中で抗えない恐怖も育てていたが。

 

そうして数時間彼女を散々になぶった老人は、役に立たない自らの下半身を眺め舌打ちすると、乱暴にハナシアへと鞭を叩きつけてその場を後にした。

 

「……」

 

ハナシアは拘束を外され、痛む体を抱えながら静かに震える。

 

必ずあの男を殺してやると。だが、そのことを考えるのと同時にどうしようもない恐怖が彼女を襲うのだ。

 

万が一失敗すれば自分はどれほどの痛みを味合わされるのかと。

 

ゆえに彼女は涙を流し、震えながら耐える以外の選択肢を持たない。それさえも老人の思惑通りだと知りながら。




物語としては5話くらいですかね。どこを終わりにするかは決めてませんが、主人公が王になった時点で目的は果たしてしまうので。
まあ、実験作ですね。


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傲慢なりし王

無数の爆発が惑星プラントを包んでいる。

 

遂に始まったのだ。サイヤ人の反乱が。

 

しかしこの状況下において、俺は俺の飼い主であるモヤリチェと共に牢屋に閉じ込められていた。

 

モヤリチェが、ツフル王のある計画に気づきそれを止めようとした為だ。

 

“全宇宙ツフル化計画”。王が開発させているマシンミュータント、その最高傑作であるベビーと呼ばれる個体に自身を遺伝子レベルでコピーし、ナノ単位の分身を全宇宙にばらまいてありとあらゆる知的生命体を乗っ取ろうという壮大な計画だ。

 

これをモヤリチェから聞いたときは流石に驚いたが、本来の歴史であればベジータによってツフル人は滅ぼされる。これが歴史の修正力とやらかは知らんが、ひょっとしたら俺の知る歴史でも水面下で同じことが起きていたのかもな。

 

ちなみに俺がその計画の詳細を知っているのは、牢屋に閉じ込められた際モヤリチェから全部聞き出したからだ。これまでの忠義立てした態度が役に立ったぜ。

 

「……くく、さあて。お前はどうするんだ? モヤリチェ」

 

俺はこれまでの態度を豹変させるように口を歪ませ、本性を剥き出しにしてモヤリチェを見下ろす。

 

ガキのような身長のモヤリチェはそれを受けて一瞬怯むが、すぐに腹を据えると俺と面と向き合い自身の覚悟を伝えてきた。

 

「……あのような恐ろしい計画を知った今、僕には父を、王を止める義務がある! ロマネス、僕に力を貸してくれ!!」

 

「ふふ……はっはっはっはっは! 俺の本性を前にしてまだそんなことを抜かせるのか! 面白い……勝手に着いてきな!」

 

俺は笑いながら牢屋の一角を仕切る特殊強化ガラスへと近づく。

 

既に試したが、素手でもエネルギー波でもこいつを破ることは難しい。これの素材自体が衝撃に対して瞬時に硬化する層と衝撃を受け止める素材、さらにはエネルギーを拡散する層で作られているからだ。

 

だがまあ、今の俺からしてみればそれだけだ。

 

俺は自身の右手を鉤爪のように曲げ、ガラスをゆっくりと引っ掻いていく。たしかにこのガラスは瞬間的な衝撃に強い。だがモノを切り裂くほどに鋭く尖らせた気でゆっくりと引き裂けば──驚くほどあっさりと崩壊する。

 

「な、なにごとだ!?」

 

物音に慌ててこちらへ向かってきたツフル人の武装警備員を掴まえ、そのまま頭を握りつぶす。

 

「最っ高の気分だぜ! 歯向かう連中は皆殺しだ!!」

 

後ろでモヤリチェが俺を止めようとしている。悪いが、嫌だね。

 

「はーはっはっはっはっ!!!!」

 

俺は笑いながら武装警備員を次々とバラバラに引き裂いていく。今度は両手に鉤爪状の気を展開し、まるでバターのように連中を切り裂いていく。

 

血を浴び調子に乗っていると、連中は俺を驚異と見たのか隔壁を下ろして距離と時間を稼ごうとし始めた。

 

「甘いなぁ……甘い甘い!!」

 

今の俺はこれまで抑えていた加減を止めていた。戦闘力を向上させる訓練として、これまで俺はそれなりの年月を鍛えてきたが、表面的にはその戦闘力も5000で頭打ちのように見せていた。

 

解放した気が溢れ、全身を満たしていく感覚に恍惚となりながら、俺はあえて素手で隔壁を引き裂き顔を覗かせる。

 

「ひ、ひぃぃぃっ!」

 

「化け物だぁっ!?」

 

慌てるツフル人どもが俺に向かって恐慌状態とり、顔面に向かって激しい銃弾を浴びせてくる。

 

並みのサイヤ人ならそれで死んだかもしれないが、俺には虫が飛んできたようにしか感じない。

 

なぜならば、今の俺の戦闘力は──

 

「そ、そんな馬鹿な! 大猿にもならないでこんな戦闘りょぐがっ!」

 

──感覚にして10万を超えるのだから。

 

銃器に似た器具をこちらに向けて戦闘力を計測していた指揮官らしき男へ一足で飛び付き、膝で上半身を爆散させる。

 

「そらそらどうしたぁ!! 自慢のロボット兵士を寄越しやがれ!!」

 

血がどうしようもなく滾る。街へ出れば、そこには溢れるようにツフル人がいた。ツフル王ナバナが全宇宙ツフル化計画の一端として、全宇宙のツフル人を集めたためだ。

 

俺は目の前に降りてきたロボット兵士を殴り壊しながら、統制の取れていないその動きにベジータが科学塔へと突入したことを知る。

 

「けっ、まともに連携もできないんじゃただのガラクタだぜこんな連中」

 

振り向きもせずにモヤリチェの後ろに迫ったロボット兵士の頭をエネルギー波で消し飛ばす。

 

「ロ、ロマネス……君はいったい……」

 

「お前が飼ってたサイヤ人さ。ただし、頭に“最強”のと付くがな」

 

俺はモヤリチェを抱え、道案内しろと指示を出す。恐らくこの混乱の中、ツフル王は逆転の一手を打つため科学塔ではない場所へ向かっているはずだ。

 

モヤリチェによって所在のバレたベビーを、いつまでも同じ場所に隠しておくとは思えない。

 

「おい! ツフル王が使うシェルターはどこだ!!」

 

空中を高速で飛び交いながら、時折現れるロボット兵士を全身に纏った気からエネルギー波を拡散して撃墜していく。

 

「王族専用のシェルターがある! 恐らくはそこに……!!」

 

「“ベビー”もいるってことだな!!」

 

俺はモヤリチェの指示する方向へと飛びながら、さらに自身の潜在能力を引き出していく。

 

勘だが、恐らくこの先にいる相手には全力を出さねばいけない気がする。

 

10分ほど飛んだだろうか。一見すると何もない荒野に、不自然な金属室の建物があった。

 

「あれだ! あれは地下に大半が埋まっているが、宇宙船も兼ねている!!」

 

「野郎逃げる気か!!」

 

ここでツフル王を逃せば最悪ベビーとやらの能力でフリーザ一族を乗っ取って襲ってくるかもしれない。そうなれば、今の俺では勝つことは難しい。

 

ちなみに今、惑星プラントのあちこちでは満月と同じ光を放つ光球が浮いている。あれこそはベジータが開発した切り札、パワーボールだ。

 

満月と同じ量のブルーツ波を放つというあの光。それが惑星中に展開されたことで、全サイヤ人が一斉に大猿化して暴れまわるという事態が発生している。

 

俺が大猿化しないのは単純だ。牢屋に入れられる時に尻尾を切られているからだ。

 

おかげで、尻尾に電流を流されることもなく大暴れできているんだがな。

 

シェルター前に降り立つと、そこにはモニター越しにこちらを見つめるツフル王ナバナの姿があった。

 

『ふん、モヤリチェの飼っていた奴隷の猿か。まさかそれほどの戦闘力を隠ししていたとはな』

 

皮肉ではなく、むしろ称賛するような態度を俺は意外に感じる。こいつにとって、今はそんな余裕がある事態じゃないはずだ。

 

『へ、陛下! お早く奴めを始末してくださいませ!』

 

そんな王の後ろに、俺は二人の姿を見つける。王にいつも付きまといかしずいていた大臣の老人と、そいつに鎖で繋がれた首輪を見せるサイヤ人の女の姿。女は、目を潰されたのか、両の瞳からは血の涙を流していた。

 

その様子に言い様のない苛立ちを感じながら、俺は円形状のスペースから競り上がってきた男を見て嫌な予感が確信したことを悟る。

 

青白い肌に、ツフル製のボディーアーマーとガントレットを身に付けた男。確か、王が買っている宇宙人の戦闘奴隷だったはずだ。

 

「ぎゃっ!」

 

「なにっ!?」

 

一瞬だった。何かが光ったと思った時には、俺の後ろにいたモヤリチェの胸を光線が貫いていた。

 

『リルドよ。不完全な調整で済まないが、その男も始末しろ』

 

「御意」

 

リルドと呼ばれた男はその太い腕をゆっくりと持ち上げると、多少距離があるにも関わらずそれを勢いよく振り下ろした。

 

「うがっ、はっ……!!」

 

たったそれだけ。奴がしたことは腕を振り下ろしただけだというのに、俺は勢いよく吹き飛び岩山を幾つか貫いてようやく止まる。

 

「け、桁がまるで違いやがる……!!」

 

あくまでゆっくりと、こちらへ近づいてくるリルドという男に俺は戦慄する。だが感じた実力差以上にダメージは少ない。奴が遊んでいるのかと思ったが、近づいてくる奴の目には油断も隙もない。

 

「死ね」

 

「ぬおっ!?」

 

動作がゆっくりなのが幸いした。俺はモヤリチェの胸を貫いた光線を間一髪避けると、反撃と言わんばかりに左手首を掴んで立てた二本の指先から連続エネルギー波をお見舞いする。

 

しかし貫通力を優先したそれらはリルドの皮膚をまるで滑るように流れ、周囲の岩山を貫くに留める。

 

「太陽拳!!」

 

「ぐっ……!」

 

奴が攻撃するより先に、俺は次の手を撃った。俺を始末するつもりで放った一撃が空へと飛んでいき、パワーボールのひとつを消し飛ばす。

 

「だぁらっ!!」

 

逃げたところで何も解決なんぞしやしない。俺はリルドへと急接近すると、奴の後ろへ回り込んで太い首へと腕を回す。

 

サイヤ人はどちらかというと殴ることを主体にして戦う場合が多い。だが絞め技、極め技というのも馬鹿にはできないことを俺は“知識”で知っている。

 

こいつの体の構造が人間に近いなら、必ずこの攻撃は通用する。

 

しかしどこかすがるような俺の考えは、リルドの放った肘鉄で否定された。

 

「ごほっ……!」

 

肋がまとめて砕かれた。幾つかは肺に刺さったのか、口からは鮮血が飛び出す。

 

「選択は悪くないが、お前と俺では圧倒的に地力が違いすぎる」

 

悠然と俺の頭を掴んだリルドが、俺の首を掴んで地面へと叩きつける。

 

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 

「あ……ぅ……」

 

もはや力は入らない。全身の骨が、筋肉が、文字通りバラバラになってしまったようだ。

 

それでも死なないサイヤ人の生命力のせいで長引く苦しみに苛まれながら、俺の体は宙を飛びある場所まで投げられる。

 

そこには、胸を貫かれたにも拘わらずまだ絶命していなかったモヤリチェがいた。

 

「ごぼっ……えぶ……」

 

奴は俺を見るなり血を吐きながら、必死にこちらへと向かって這い寄ってくる。

 

「無駄なあがきももう終わりだ。何をしたところで、お前達はこれで死ぬ」

 

リルドの言うとおり、もうどんな手段も通用しないだろう。俺もモヤリチェも死にかけだ。

 

だがモヤリチェはニヤリと笑って、貫かれることのなかった方の胸ポケットから注射器を取り出すと、それを勢いよく俺の首へと突き刺す。

 

「う……」

 

何かが、俺の体に流れ込んでくるのを感じる。血を、骨をまるでひとつひとつ観察するかのように。

 

「無駄かどうか……思い知るが……いい」

 

その言葉を最後に、モヤリチェは俺の上に被さるようにして死んだ。

 

俺は、全身を駆け巡る未知の感覚に震えながらゆっくりと立ち上がる。

 

「……こんな切り札を隠し持ってやがったとはな」

 

先程まで死にかけていた俺が立ち上がったことにリルドは警戒し、距離を詰めずにこちらを観察している。

 

俺は再生した銀色の尻尾を眺めて微妙な表情を浮かべつつ、リルドと向き直った。

 

「モヤリチェ、お前のことは別に好きじゃなかったが……お前の意志は俺が継いでやるよ」

 

常に修行ばかりしていた俺だが、モヤリチェと話す機会がないわけではなかった。

 

奴もまた他のツフル人の例に漏れず科学者であり、ある防衛装置を研究していた。

 

その名も“ビッグゲテスター”。僅かなエネルギーさえあれば、宇宙をさ迷うデブリを材料に惑星規模の拠点を作り出すことが可能な集積回路。

 

完成しているとは思いもよらなかったが、ナノマシン状だったそれが俺の肉体を材料に起動し、俺の意思の元に壊れた体を再構築し、モヤリチェの残した無数の知恵がダウンロードされていく。

 

やがて銀色の尻尾がメタリックシルバーへと変わり、それに応じて俺の髪の色もメタリックシルバーのそれへと変化していく。

 

逆立つ髪の毛は、俺の遺伝子に眠る可能性の力そのものだ。

 

「貴様……何者だ!」

 

驚愕するリルドが俺を見据えて叫ぶ。

 

「俺か? 俺はロマネス。サイヤ人の王になる男だ……!」

 

不敵に嗤う俺の言葉を受けて、叫ぶリルドへと俺は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 




前のやつ(R)とか前の前のやつ(C)で没になった設定がちらほらあります。もちろん本編の内容は大半私の妄想です。没ネタって言ったのは、本来ここで終ってしまったからなんですよこのお話。打ちきりエンド的な(笑)
まあ今回は熱烈な感想や応援メッセージを送ってくれる方に向けて書いている部分もあるのでもうちょっとだけつづくんじゃよ。


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敗北の果てに

久々に書くとえらい疲れました。

ちまちま書いてたから改稿するかも。

とりあえずこれで終わりです。

細かい設定はあったりするのでメッセージででも聞いてくだされ。


あ惑星プラント──後に惑星ベジータと名付けられる星の果てでかつて起きた戦いを知る者はもはや存在しない。

 

王になると誓った俺はあの日──。

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

閃光を伴うエネルギー波が次々とリルドへ襲いかかり、その全身を焼き尽くさんと激しい爆発を起こす。

 

俺はさっきまでの様子が嘘のように全快した体を十全に動かし、肉体の導くままに目の前のメタルミュータントを攻め立てていた。

 

『…………リルドよ! 何をしておる!! 早くソレを始末しろ!!』

 

思った以上に拮抗し始めた俺たちの様子に焦りを覚えたのか、モニター越しにツフル王がこちらへ向かって叫ぶ。

 

馬鹿め。精々こいつを焦らせろ。目の前のこいつさえ始末してしまえば俺は貴様を殺し、王として君臨できる。

 

俺はリルドに急接近し、その無防備な背中へ向けて全身の反動を効かせた肘を落とす。

 

「むぐっ……!」

 

会心の一撃だった。だがそれでもリルドに大したダメージは入っていないように見える。

 

……まずいな。圧倒的な実力差もかなり埋まったと思ったが、それでもなお奴の方がパワーもあるし、相当にタフだ。

 

──負けるつもりはないが。

 

俺は右手に螺旋状にエネルギーを集束させていく。必要なのは奴を貫くだけの出力だ。だがそれには時間が掛かる。

 

「らあッ!!」

 

ひとまず奴よりも勝っているスピードで撹乱する。俺は奴の周囲を滅茶苦茶にかき回しながら跳び回り、一撃入れては離れるを繰り返す。

 

「ぬッ……! ぐぅ……ッ!!」

 

それにしても硬い体だ。ダメージがないとはいえストレスは貯まるのだろう。奴はイラつきながら目眩撃ちにエネルギー弾を乱射する。

 

甘い。サイヤ人にそんな適当な攻撃が当たるものか。

 

「そらそらどうしたぁ! 目を撃った覚えはないぞ!!」

 

「ぬがあぁぁぁぁ!!!」

 

あと少しだ。もう少しでエネルギーが貯まる。

 

俺は再び太陽拳で奴の目を眩ませると、距離を取り全エネルギーを指先へと送り込む。

 

この技は『ドラゴンボール』の中でも特に気に入ってるんだ。タフなサイヤ人を死に追いやった技だからな。

 

「魔貫光殺砲!!!」

 

俺が全力で放った螺旋の光撃がリルド目掛けて突き進み、俺は奴が胸を貫かれ倒れる姿を想像する。

 

──だが。

 

「……ふん、予想していないとでも思ったか?」

 

「……ちぃ!」

 

リルドは片腕を犠牲に俺の魔貫光殺砲を防ぎきってしまった。恐らくは俺と同じようにエネルギーを腕へと集中させて。

 

仕切り直しと俺は距離を取ろうとするが、そんな俺の足を妙な機械が絡めとる。

 

「なんだこれは!?」

 

「ヒャイヒャイヒャイ! ワシが何も出来ぬとでも思うたか!? この程度──げびっ!?」

 

わざわざ出てきて俺を挑発した馬鹿な大臣を高速エネルギー弾でバラバラに吹き飛ばす。だがその時には、すでにリルドが目の前まで来ていた。

 

「……せめて敬意を込めて殺してやる」

 

「諦めんぞ、俺は……!」

 

「カアァァァァァ!!!!!」

 

自身にもダメージがあるであろうほどの威力で、リルドのエネルギー波が放たれる。

 

そのエネルギーは地面を反射し、直上へと向けて恐ろしい勢いで吹き上げる。

 

「ぐぅ……! が、あああああああああっっ!!!」

 

生まれ変わった肉体が焼かれ、崩れていく。

 

(負けたのか……? 俺は……)

 

だが宇宙の彼方へ打ち出されながら、俺は地上で倒れていくリルドを見ていた。

 

そしてリルドの放ったエネルギーサークルは、反射したかに思われた地上へも影響し、地下に埋没していたツフル王の宇宙船をも破壊していく……。

 

そして俺の意識は……。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

「馬鹿な……! こんなことが……!!」

 

リルドの放ったエネルギー波が私の乗る宇宙船を破壊していく。

 

全宇宙ツフル化計画において、惑星プラントのツフル人はそれほど重要ではない。

 

あくまでこの計画の要は“ベビー”なのだ。既に私の遺伝子は組み込んだ。しかしこれほどのダメージを負ってしまっては予定通りベビーを成長させることができない。

 

後は成長したベビーを宇宙に解き放つだけだというのに。

 

そうすればあのフリーザのような凶悪な個体であろうと、ベビーの持つ力の前に必ずやひれ伏させるというのに。

 

「おのれ……! おのれおのれおのれ……! たかがサイヤ人一人に私の計画が邪魔されようとは!!」

 

私は思わず頭を掻きむしりながら、出来ることはないかと考える。

 

間抜けな大臣は死んだが、本来この宇宙船は私ひとりで乗り込むことを想定して造らせたもの。……よし、まだトップエンジンは生きている。

 

「……申し訳ありません、陛下」

 

「リルドか……!」

 

……思わず激しい怒りが込み上げるが、この状況で利用できるものは全て利用するべきだろう。

 

「……ベビーを守るがいい。完全なる成長を遂げるには時間が掛かるだろう」

 

私はそれだけを告げて揺れる宇宙船を歩き、コンソールのあるメインルームまで戻る。

 

「我が野望は潰えぬ……」

 

宇宙船の上部のみが分離し、天空高く舞い上がっていくのをモニター越しに見守る。

 

何年……否、何十年経とうと、必ずやベビーは我が野望を……。

 

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

 

……随分と眠っていたみたいだ。

 

リルドに負けて、俺は一体どうなったんだ。

 

「おめえこそそんな格好で……! どうなるんだ……!! あのピカピカのクウラは、助けに来ちゃくんねえぞ……!!」

 

なんだこの声は。妙に聞き馴染んだ声だな。どこかワクワクとした気持ちが持ち上がってくる。

 

「ふん! 俺自身のパワーはそれほど落ちてはいない。ビッグゲテスターは後程ゆっくり直せばいい。今の貴様を倒すのには、これで十分だ……!!」

 

誰だ。機械を通して放たれたような声。それが外から聞こえてくる。

 

「やっぱ……二度と悪さできねえように、するしかねえようだな……!! クゥ!!!」

 

「ムカつく野郎だぁ!!」

 

強いエネルギーを感じる。間違いない。これはサイヤ人のエネルギーだ。

 

ならばそれと対峙しているコイツは一体。

 

──いや待て。コイツ、俺と一体化していやがるのか。

 

む、どうやら無理矢理肉体を形成したようだな。ケーブルを束ねた巨大な肉体を関知したぞ。

 

それにしても随分と巨大なパワーを持ったサイヤ人だ。あれからどうなったんだ。

 

もし歴史通りに進んだなら、俺がいない以上サイヤ人は滅んでしまったのか。

 

もうひとつエネルギーを感じる。これは……ベジータか? ひどく弱っているが、もうひとつのエネルギーと同じく潜在的には莫大なエネルギーを秘めているのが分かる。

 

ふむ、ここは先人として若いのを助けてやるとするか。

 

「お前にこの俺を倒すことなど! 無理なんだぁ!」

 

体の大きさと相まって、消耗したサイヤ人二人では厳しいようだな。

 

「無理とわかっていても……やんなきゃなんねえ時だって、あるんだぁ!!!」

 

強い気持ちのこもった声だ。自然と応援したくなってくる。

 

「ぬお……!」

 

俺の体を使っている奴の腕がベジータもどきによって腕を切断されたのを感じる。

 

「俺たちに……不可能など、あるものか……!」

 

『その通りだ。サイヤ人に不可能など──ない!!!!!!』

 

「「な……!?」」

 

驚く二人のサイヤ人。

 

ようやく状況を理解できてきたぞ。俺の体を勝手に使っていたのはフリーザ一族のクウラか。なるほど大したパワーだ。死にかけた体をビッグゲテスターに取り込ませてパワーアップを図っていたようだな。

 

──しかし残念だが、この力は俺のものだ!!

 

『おおおらあああああああああああッッ!!!!!!』

 

巨大なパワーを秘めたクウラの核を中心に、俺はビッグゲテスターそのものを奴のエネルギーを利用して取り込んでいく。

 

「な! なんだ! どういうことだ!!」

 

混乱するクウラ。それもそうだろう。今の今まで俺の存在などビッグゲテスターに記録された情報のひとつに過ぎなかったのだから。

 

しかしクウラよ、貴様と俺とでは気力が違う。

 

『おおおおおお!!!!』

 

「こ、今度はいったいなんだってんだ!?」

 

俺の姿が徐々に形を成すに連れて、外の様子が確認できるようになってくる。

 

かつてクウラだった頭の一部は、突如形成された俺の腕によって握りつぶされた。

 

そうか、あの声は悟空か。そして彼が支えているのはベジータの息子だろう。……そうか、サイヤ人は滅びたか。

 

一抹の寂寥さを感じつつ、俺はビッグゲテスターの大部分を宇宙空間へとパージする。

 

無論、中にいた二人は俺が保護した。

 

二人のサイヤ人を抱えた俺は、力尽きた二人が自由落下しないように支えた状態で地上へと降りていく。

 

「え、だ、誰ですか?」

 

「何者だ……」

 

データと照合し、降りた場所にいた連中を解析する。

 

ひとりはナメック星人。周囲にいるナメック星人と比べて遥かに図抜けたパワーを所有している辺り、彼がピッコロか。他には悟空の息子の悟飯。悟空の親友であるクリリン。悟空の師匠である亀仙人にウーロンまでいる。

 

ううむ、かつて物語として見てきた人物らを目前とするのはなんとも感慨深いものがあるな。

 

ピッコロは流石に俺を警戒しているな。無理もない。今の俺の姿はどこかメタルクウラと似かよった全身メタリックのピカピカなのだから。

 

出来れば生身が欲しいのだが、現状では材料が足りん。肉が食いたいところだな。

 

「俺か。ふむ、お前はベジータの息子か?」

 

仙豆を食べて回復したベジータへ尋ねる。警戒心だけを向けていた彼だが、俺の言葉に反応し次いで俺にある銀色の尻尾へと注目する。なんだ、気がついていなかったのか。

 

「まさか……サイヤ人なのか……?」

 

「一応、な」

 

「あれぇ? でもベジータ、前に生き残ったサイヤ人は、俺のにーちゃんとあのつるっぱげの奴しかいねえって言ってなかったか?」

 

ベジータ、俺、悟空の順番である。

 

「……そうだ。そして今では、俺と貴様だけが純粋なサイヤ人だ。貴様は一体何者だ?」

 

父親の存在を出しただけありベジータの警戒心は先程よりも上がっているが、同時に抑えきれない好奇心が顔を覗かせている。

 

「俺の名はロマネス。かつてお前の父親と同じくサイヤ人の王を目指し、夢敗れながらも何故か生き延びた男さ。まあ、まだ諦めちゃいないがな!」

 

「おいおい」

 

「ふん、サイヤ人の王子である俺を差し置いて何を抜かしてやがる……!」

 

仙豆で回復したこともあってか、意気軒昂とばかりに体内エネルギーを高めるベジータ。それを察してか早速悟空が止めにかかってくれているが、俺と彼では水と油だ。絶対に相容れることはないだろう。

 

「今回は特別に見逃してやる。いずれその王位を簒奪してやるから、精々修行して力をつけるんだな」

 

「言わせておけば……!!」

 

「ちょ、ちょっと待てよベジータ!」

 

悟空が止めてくれている間に、俺は空へと飛び上がる。挑発した自覚はあるからな。

 

「また会おう、孫悟空。そしてベジータよ」

 

不敵に笑みだけを残し、俺は宇宙へと飛び出す。普通のサイヤ人ならば死んでしまう環境も、機械で構成された俺の体には何の問題もない。

 

──さて、それじゃ地球へと向かうとするかね。

 

俺はごく近い内に再会して驚くであろう連中の顔を想像しながら、真空の宇宙を地球へ向けて飛び立つのだった。

 

◇▫️◇▫️◇▫️◇▫️◇

 

【おまけ】

 

──数ヵ月後──

 

 

「おいベジータ! なんだあの化け物は!!」

 

「知ったことかぁ!!」

 

次に会った時は命のやり取りをする時。そう思っていた俺だが、俺はベジータと共闘せざるを得ない状況に陥っていた。

 

あれから修行を繰り返し、以前よりも遥かにパワーアップしたベジータだったが、それと同じ程度の強さを持つ俺と悟空の3人がかりでも勝てないほどに目の前の男──伝説のサイヤ人ブロリーは凶悪だった。

 

時折悟空を介して挑発してやったおかげでベジータのプライドを散々くすぐることができたからか、思わず俺も悟空も戦意喪失しそうなほどの強さを誇るブロリーを前にして、ベジータだけが心を折らずに立ち向かっていた。

 

すでに未来から来たというサイヤ人、ベジータの息子であるトランクスや悟空の息子である悟飯は気絶している。二人とも素晴らしい潜在パワーの持ち主だが、少々相手が悪かった。

 

今はメタルロマネスに避難させているが、これは早々にこの星から脱出させてやった方がいいかもしれない。

 

……くそ、この星にはまだ生き残っていたとかいうサイヤ人の確認と、この機会に王位簒奪をしに来たというのに、とんだ災難だ。

 

「だがまあ、腐ってもいられん、な!」

 

超圧縮したエネルギー弾をブロリーへと叩きつけ、さらに連続でエネルギー弾を放ちつつ距離を取る。

 

「言うまでもないことをのたまうな! ファイナルフラーッシュ!!!」

 

爆煙による目眩ましの効果もあったからか、ベジータ最大の必殺技が星を削りながらブロリーへと襲いかかる。

 

──しかし、爆煙の向こうから現れたのは無傷のブロリーだった。

 

「今のはなんだぁ?」

 

「おいおい……!」

 

「ビッグバンアタック!!」

 

思わず引いてしまう俺とは対照的に、ベジータは間髪いれずさらなる必殺技を繰り出す。しかしブロリーはそれをも片手で弾き、ベジータの首を掴んで巨大な壁面へと叩きつけ盛大にクレーターを生み出す。

 

「ぶった切れろぉ!!」

 

ベジータへとどめを刺そうとするブロリーへ、俺は手に形成したクウラの部下の技、サウザーブレードでブロリーに切りかかる。

 

しかし、高速回転するチェーンソーのごときこれならば或いはと思った俺の願いも空しく、ブロリーは俺の腕ごとサウザーブレードをもぎ取る。

 

「がッ……ッ! この、化け物めぇ……!」

 

少しでもダメージになればと蹴りで無防備な首を狙うがブロリーはびくともしない。むしろ俺の言葉に笑っている。

 

「俺が化け物? クックク……違うな、俺は悪魔だあ!」

 

「ごあっ!?」

 

悟飯に言われた言葉が気に入ったのか、自らを悪魔と自称するブロリーは巨大な緑のエネルギー球を俺に叩きつけ、その半身を消し飛ばす。

 

とはいえ散々に追い詰められてなんだが、俺はまだ諦めていなかった。何故ならば、この場には悟空がいるからだ。

 

残った片目から空に見える、グモリー彗星に匹敵するほどの巨大な元気玉が落ちてくるのを見届けながら、俺は瞬間移動を使ってその場から避難した。

 

 




書き殴った。以上


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