IS EVOL A KAMEN RIDER? 無限の成層圏のウロボロス SI-N (サルミアッキ)
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設定資料&イメージスケッチ ファウストside☆

 暇になったらチョコチョコ更新すると思います。


石動(いするぎ)惣万(そうま)

(人間時イメージCV:白い魔王少女の相方)

出身:クルディスタン

性別:(人の肉体は)男性

年齢:(肉体年齢のみ)24歳

身長:(人間時)186㎝

血液型:(人間時)B型

生年月日:1997年12月17日設定(へびつかい座、及びベートーヴェンの洗礼日)

イメージアニマル:コブラ、ドラゴン、兎

Like:コーヒー、料理、サブカルチャー

Dislike:戦争・紛争、ブラッド族

初期ハザードレベル:8.0(エボルトである為、人外レベル)

IS適性:可変

テーマ曲:【Evolution】【GOOD and EVIL】【アウターサイエンス】【ベートーヴェン交響曲第九番第四楽章『歓喜の歌(An die Freude)』】

 

 SAN値ピンチな世界からパンドラボックスと共にIS世界へやって来た、サブカルチャー好きの男。地球へ来訪した時点では肉体が不完全だったが、紛争地区の日系人の半死体に憑依し、紆余曲折あり日本へ辿り着く。日本にやってきてからは織斑家の面々の世話をしながら信頼関係を築くことになる。

 “全ての永劫回帰(謎の蛇)”からも称賛される人並外れた感受性を持ち、他人には秘しているが芸術方面に特化した大天災。驚異的な色彩感覚や絶対音感を持ち、特に味覚・嗅覚が鋭い。そのためリストランテ経営に一役買っている。彼がその才能を悪用すれば、知的生命体は『美』という永遠に冷めない夢を見る…――――のかもしれない(そのため、常に彼は平均と目線を合わせることを欠かさない)。だが彼の感受性の最も恐ろしい点は、『宇宙世界無限分の情報』を詰め込まれても発狂しない自己・自我の無敵性。

 

…――――宇佐美曰く、自分への苦しみが痛みにもならない、『宇宙すら支配する狂気』を飲み込んだ化け物。

…――――シュトルム曰く、この世で誰にも共感を示し、誰にも理解されない可哀想なシステム。

…――――ブリッツ曰く、全ての命に希望を贈ろうとした異常で優しい良い人。

 

 本当は穏やかで優しい性格だが、『白騎士事件』の後から“何か”を思いブラッドスタークとして暗躍しだす。責任感が強く非道な手段を選ぶことに躊躇も苦痛もないが、それは別にして罪悪感は抱え込む、というかなり面倒な性格(ある意味最後の人間らしさ)。しかし周囲の人間にそれを悟らせない所を見ると、最早“悪役”と“自分”というロール(役割)を完全に切り離すことが出来る一種の才能である。どことなく自分を含めた『ブラッド族』の事を見下し、憐れんでいる部分が見受けられる。

 アッシュグレイの髪をポニーテールにした美人(だが男である)。レストランカフェnascitaを母親から受け継ぎ経営しており、名物はエスプレッソコーヒー。原作エボルトと異なり大変美味。好物はスパゲッティ・アッラ・プッタネスカとタコのサラダで、これは一夏が初めて彼に作ってくれた料理であるため。寒いところと蟹が苦手。趣味は天体観測で火星を見ることらしい。普段は優男だが、覚悟完了したら目付きが別人レベルになる。

 ある意味で正義の味方(仮面ライダー)へのコンプレックスから道を違えた男。

 

 

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…――――『誰が代わりに出ると思う?』

 

 

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宇佐美(うさみ) (まぼろ)

(イメージCV:白い魔王少女)

出身:不明

性別:女性

年齢:不明

身長:173㎝

血液型:シスAB型

生年月日:????年3月14日(アインシュタインの誕生日)

イメージアニマル:兎蝙蝠

Like:自分の才能、苺

Dislike:ネギ

初期ハザードレベル:4.2

IS適性:S

テーマ曲:【Wish In The Dark】【JUSTICE】【GAME CHANGER】【Lonely soldier】【ベートーヴェン交響曲第九番第四楽章『歓喜の歌(An die Freude)』】

 

 ナイトローグの変身者にしてファウストの幹部。表向きにはリーダーとなっており、人類を越えた知略を誇るゲームメイカー(惣万)が本心から勝てないと称賛する神才クリエイターにして、世界という遊戯場を改変する最強のゲームマスター。その外見や声音は『インフィニット・ストラトス』の発明者篠ノ之束と瓜二つだが、髪が若干伸びていたり不気味な目つきであったりと差異もある。篠ノ之箒にネビュラガスを注入して『バーンスマッシュ』にし、さらに大火傷による右目の失明の原因をつくった人物でもある。その言動は冷静かつ残忍であるものの、急に叫び出したりとテンションが不安定。はっきり言って不気味。頭脳面でも神の領域に片足突っ込んでいるというのに、格闘戦も一目見ればラーニングし達人級になるという、努力がバカらしくなってしまうこと請け合いな存在。チート人間バーゲンセール組織『ファウスト』の代表格。

 ISコアを製作し無人機や第四世代機を開発するだけの頭脳を持つが、めったやたらとISは造らない。曰く、彼女にとっては「ガラクタ弄り」である為。メタ的に色々あって作者側から束さんとは共演NGになった、才能のみで最低最悪の魔王に匹敵する領域に立ったヤベー女。イメージCVの無駄遣い系キャラで、脳内で作画崩壊が起きる天災。惣万をウルトラ●ンベリアルとするならばこちらはウ●トラマントレギア。

 IS学園に強襲した時、「篠ノ之束として活動した記憶は無い」と言っていたが二人の関係は果たして……。

 

 

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チビ惣万、チビウサミン

 

 

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ブリッツ

(イメージCV:外見キャラそのまま)

出身:ドイツ連邦共和国

性別:女性

年齢:20歳→21歳

身長:163㎝

血液型:AB型

生年月日:2001年7月1日

イメージアニマル:不死鳥

Like:喜んでいるシュトルム、笑顔、仲間

Dislike:怒っているシュトルム、酷い人

初期ハザードレベル:3.9

IS適性:A→?(ネビュラバグスター化したため適性概要が些か異なる)

テーマ曲:【Real Heart】【Revolutionize】【Code】【ベートーヴェン交響曲第九番第四楽章『歓喜の歌(An die Freude)』】

 

 石動惣万の部下。戦闘担当の天然娘。クロエ・クロニクルやラウラ・ボーデヴィッヒの試作型(遺伝子強化体識別コードP.C-07)に該当し、廃棄される前に姉のシュトルム共々石動惣万に拾われる。シュトルムに比べて口調が片言。幼女体系の妹たちに比べ、体つきは成人女性サイズで、巨乳(92cm)。マイペースな性格で姉からよく説教されている。動物的直感が鋭く、戦闘時の行動選択は天才的。IS用のハルバードなどを片手で振り回し織斑千冬とほぼ互角に戦う事もできる。財団Xの代表幹部を名乗り、神出鬼没に世界各国に現れている。その正体はネビュラバグスター化した人間であり、物理攻撃が通じないという、彼女曰く「阿保と違うか」レベルの防御特性を持つ。

 外見は仮面ライダービルドの映画に出てきた最上魁星(エグゼイド世界)の服を着たFateのリーゼリットに似る。そのため右目にひび割れのような傷がある。

 

 

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シュトルム

(イメージCV:外見キャラそのまま)

出身:ドイツ連邦共和国

性別:女性

年齢:20歳→21歳

身長:163㎝

血液型:AB型

生年月日:2001年5月1日

イメージアニマル:狼

Like:真理、矜持、コンビニスイーツ

Dislike:馬鹿騒ぎ

初期ハザードレベル:3.8

IS適性:B

テーマ曲:【Real Heart】【Revolutionize】【Code】【ベートーヴェン交響曲第九番第四楽章『歓喜の歌(An die Freude)』】

 

 石動惣万の部下。分析・開発担当の神経質な女。妹を助けてくれた石動には強い忠誠を誓っている。その一方で人間に対してはその出生故に慇懃無礼な態度であろうとも敵意を隠さない。しかし不憫な身の上の人間には肩入れする良心も持ち合わせている。影が薄いが天災と互角の頭脳を有し、別系統の技術を応用、発展させるなど造作もない事らしい。

 ネビュラスチームガンの開発者で、表の顔は倉持技研研究所の研究員。遺伝子強化体識別コードP.C-05。

 外見は仮面ライダービルドの映画に出てきた最上魁星(ビルド世界)の服を着て顔の片側を機械に置換したFateのセラを思わせる。

 

 

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チビブリッツ、チビシュトルム

 

 

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モッピーピポパポ/トーテマ

(CV:オリジナルと同)

出身:電脳空間

性別:女性型

年齢:生まれてから6年

身長:160㎝

血液型:なし

生年月日:2016年10月2日

Like:リズムゲーム、サクランボ

Dislike:チート行為

初期ハザードレベル:レベルの概念を超越している

IS適性:ネビュラバグスターであるため適性概要が人間と異なる

テーマ曲:【People Game】

 

 和服を着た桃色髪の篠ノ之箒の姿をしているが、その正体は、宇佐美幻に近しい人物を宿主に誕生した「超ヒロイン大戦(スーパーヒロインクロニクル)」の完全体ネビュラバグスター。自身に名前と思考ルーチンを与えた宇佐美を「生みの親」としながらも、どこか懐かしい庇護欲のようなものを感じ続けている。アーパー気味な発言が目立つが、それらは全てプログラムされたもので、本来の性格は冷静かつ無表情。独特な感情表現やオノマトペを使い、何か嫌なことがあれば「モピる」という単語を用いることが多い(意味は不明)。世界がある限り絶対に倒せない敵として設定され、概念レベルで変更が不可能。つまり彼女を倒すためには、先ず対峙する自分たちを含めた世界全てを滅ぼさなければ攻撃が通じないのだが、その時点ですでにこちらの負けである。その怪人態の外見から誰が言ったかサンバゾンビ。

 

トーテマ怪人態

身長:225.5㎝

体重:196.0㎏

特色/力:伸縮自在のクロー、バグスターウィルス抗体を保有しない者からの攻撃無効、撃破無効化、怪人の実態化・復元

 

 

 

 

血染めの成層圏(ブラッド・ストラトス)

テーマ曲:【Eternity Blood】【Exterminate Time】

 

 『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』を筆頭に存在が確認される知的無機生命体。如何なる惑星環境でも活動でき、それぞれが強力無比な特異能力を備える。それぞれ人間の姿で行動し、戦闘時にはISを模した姿で戦うが、これらが本当の姿なのかは不明。魂に当たるモノを破壊しなければ何度でも強化され復活するという厄介極まりない能力を持ち、現に『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』は一度撃破されても新たな肉体を得て復活している。『彼女ら』曰く『完全態』に至ることが本能として備わっており、それぞれ自己進化の為行動をしているらしい。ISの姿を模して戦う事ができる上、他人が乗り込み操縦してもらうことも可能。ISにおける『待機状態』は存在するモノの、『彼女ら』にとっては人間の姿こそが待機状態に該当する。共通して目が赤い。

 ISコアネットワーク上のIS操縦者の情報内から『強く濃い思念』を読み取る、等の何らかの手段で人間態としての姿を決めているらしく、今まで確認されている『彼女ら』は代表候補生などの専用機持ちが多い。(例外に『朱の疾風(ラファール・ヴァルミオン)』がいるものの、如何やら最強(シャルル)の力を得る為に一周してこの姿になった模様)『赤騎士』とその他は生まれが少々異なっているらしい。

 

確認されている『血染めの成層圏(ブラッド・ストラトス)』は以下の通り

 

『赤騎士』(人間態:織斑千冬。髪は赤毛)→『赤式・血羅』(人間態:M。砕けた口調になる)

血の雫(ブラッド・ティアーズ)』(人間態:セシリア・オルコット。かなりの戦闘狂)

緋龍(フェイロン)』(人間態:凰鈴音。スタイルが良くなり、長身)

朱の疾風(ラファール・ヴァルミオン)』(人間態:シャルロット・デュノア。無貌の仮面をつけている)

赤い雨(ローター・レーゲン)』(人間態:ラウラ・ボーデヴィッヒ。眼帯の位置が本人とは逆)

血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』(人間態:更識刀奈。着物姿で露出狂疑惑アリ)

 

 

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インフィニット・スマッシュ

 篠ノ之束製のISコアと人造細胞、そしてネビュラガスを使用して創られた生物兵器。宇佐美曰く『天災の夢を壊すモノ』。『ガーディアン』、『スマッシュ』などと共にファウストが所持する兵器の一つだが、ISコアを使っている為か数は少ない。『虚空結界(タイムゼロ・エンド)』という防御フィールドを展開しているものの、ライダーシステムやISを用いての撃破は可能。撃破されると緑の炎を上げて爆発、『ロストタイムクリスタル』を生み出し消滅するが、その結晶体の使用目的は未だ不明で、兵器よりもむしろこの『ロストタイムクリスタル』を精製する為の存在に近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、一部のネタバレを含む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エボルト怪人態(アーリースタイル)

(本来のイメージCV:フェーズ4に似た鎧のサーヴァント)

出身:世界外→ブラッド星

性別:?

年齢:数億歳

身長:203.9㎝~60m(何らかの外部からの力で巨大化可能)

血液型:不明

生年月日:不明

イメージアニマル:コブラ(怪獣?)

Like:未知との遭遇

Dislike:ブラッド族、宇宙滅亡

初期ハザードレベル:10以上(測定不能)

IS適性:可変(人外)

テーマ曲:【Evolution】【GOOD and EVIL】【アウターサイエンス】【ベートーヴェン交響曲第九番第四楽章『歓喜の歌(An die Freude)』】

 

 石動惣万本来の姿。原作エボルトとは異なりメスである……らしい。そのためかIS適性があり、憑依元の人間の性別を問わずにインフィニット・ストラトスとSランクの適性率を発揮する。ただし前述の通り可変であり、男に憑依した場合は極限まで適性を下げ、世間一般常識に則って行動することが多い。石動惣万の肉体はクルディスタンの少年兵の死体に憑りつき、細胞を独自に置換したもの。そのため細胞レベルでオーバースペック。

 数億年もの間、多元宇宙を放浪したことで培った知性も隔絶しており、計略や策謀、万が一の場合のリカバリーでさえ原作エボルト以上だったりする。ロストフルボトルとブラックパンドラパネルを用いずともブラックホール操作能力を身に着けていた。何より他の生命体と同じ目線で物事を判断できる理性があるため、慢心が一切ない。「ブラッド族?火星人とか地球人の方が上等種族だろこれ」

 何より恐ろしいのは自己進化能力で、地球に飛来する以前から完全生命体と化している点。エボルトリガーを使用せずにブラックホール攻撃が可能。さらに数兆の惑星のテクノロジーを取り入れていたことで、ウルトラマン世界でも上位レベルの怪獣となっている。というか、少なくともゼッ●ン星やらメフィ●ス星のテクノロジーを吸収し行使していると思しき描写があった。ウルトラ最強怪獣全部乗せ。

 そんな凶悪な能力を保持しているにも拘らず気質は穏やかそのもので、つぶらな瞳と相まって火星の女王からは「結構かわいい」との評価をもらったとか、もらわなかったとか。ただ、本人は蟹みたいな真の姿はややコンプレックス。かなり自由奔放な性格だが、「生きることを望む命を考慮し、善良な命には敬意を払う」という正義感に従って行動する。一方で、争いを生む知性体の業を嫌っている節があり、その残酷さ、愚かしさ、浅はかさを見下している。だが、それを一方的に嫌うことはせず、それはそれとして必ず生まれてしまう汚点とどう付き合っていくかが第一だと説く、宇宙を渡るトリックスター。

 同族同士で争い、親を殺し、自己否定をしながらも、その在り方を貫くエボルトとして間違った者。矛盾を抱えながらも善悪は表裏一旦ではないことを示し続け、凡庸や完全が単純なものはないとするその在り方を、人は仮面ライダーと呼ぶだろうか。世界外からの永劫回帰(うんめい)によって造られた「IF世界の擬人化」ともいえる存在。彼/彼女の人格は、“無限の世界を内包しても一切損傷しない”知性体として運命に選ばれた、ただの()人が核となっている。

 その在り方にはまだ秘密があるらしいが……。

 

 

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ストラトスボトル

 

 ブラッド・ストラトスから造られたロストフルボトルの一種。製作者は宇佐美幻。ギリシャ語の『軍隊(ストラトス)』の名の通り、兵器としての凄まじい力を秘める。エボルトから抽出した原罪の成分が充填されており、十三本のロストフルボトルを補填する為に七本生成された。ラストパンドラパネルに装填するだけでブラックストラトスボトルに変化する他、黒と白のパンドラパネルの力を別レベルに強化変質させる。それぞれのレリーフは、惣万とISに関係する者たちのターニングポイントを司っている。

 

 

テイルストラトスボトル…本にも見える広げられた光翼。天災(デザスト)の始まり。

ティアーズストラトスボトル…目と涙の意匠が刻まれている。欲望と共に枯れ果てたもの。

ロンストラトスボトル…龍の横顔のボトル。一夏を真っ直ぐ見ることができない。

カーネイションストラトスボトル…カーネーションの花。母ややがて来る愛しい人の追悼。

レーゲンストラトスボトル…雨と傘がデザインされている。黒かった兎さんが救われた時のこと。

レイディストラトスボトル…霧にむせぶ顔のない女性。霧中に消えた愛しい記憶。

マガネストラトスボトル…無骨な鉱石のレリーフ。凍てつき自己を殺した鉄の魂。

 

 

 

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 絵の色塗りは時間があればやります……。あとアナログ絵ですいませんでした!


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設定資料&イメージスケッチ 仮面ライダーside☆

 一夏とシャル、原作と似ない……。


因幡野戦兎

(イメージCV:ユルセン)

出身:日本国

性別:女性

年齢:24歳?

身長:■㎝→160㎝

血液型:■型→シスAB型

生年月日:199■年■月■日→5月2日(惣万に拾われた日、ダ・ヴィンチの誕生日)

イメージアニマル:白兎

Like:科学全般、鯵の開き、卵焼き(極甘)

Dislike:戦争・紛争、差別、良識の無い人間

IS適性:■→?(遺伝子操作により元々あった適性が消滅したと言って良い)

初期ハザードレベル:3.2

テーマ曲:【Be The One】【Ready go!】【Build up】【STRAIGHT JET】

 

 雨の中行く当てもなく神社の境内を彷徨っていた時、石動惣万に拾われ彼のカフェに転がり込んだ記憶喪失の女性。エピソード記憶のみが消えていたので一般的な行動はとれるが意味記憶や手続き記憶にも支障が出ている模様。唯一の記憶は“ガスマスクの集団”と“蝙蝠の怪人”、それによる“人体実験”。石動惣万から渡されたビルドドライバーと「ラビットフルボトル」「タンクフルボトル」で仮面ライダービルドとなり、日本……IS学園周辺地域での治安維持を影ながら支えつつ、自分の失われた記憶を追っている。オレっ娘。自分の事を天才といって憚らないが、それ相応の頭脳を持ち、誰からも教わらずにISのチューンアップが可能。だが、ドヤ顔がウザいらしい。いい加減家賃を納めて欲しい惣万の勧めでIS学園の用務員兼教員の仕事に就く。

 黒のショートボブの髪に、カーキ色のトレンチコートにジーンズといったラフな格好をしている。右目が寒色、左目が暖色のオッドアイ(見る角度によって色が変わる珍しいタイプ)。一見すると飄々として掴み所がなく、知的好奇心を満たすことを優先する身勝手で少々毒舌な性格。しかしその本質は確かな優しさを秘め、『仮面ライダー』としての素質を備えている。生粋の科学者であり、科学が悪用されている場面を見ると怒りをあらわにする一面も。表には出さないが一夏や火傷を負った箒のことを気にかけている。そんな人格者の性質が目立つ一方で、過去が無いことを酷く恐れており、自身が何者かということに苦悩している部分が見受けられる。特に心の支えである「正義のヒーロー」というレゾンデートルやアイデンティティが揺さぶられてしまうと取り乱し、酷いときには死に逃げようとする心の弱さが露呈する。これにスタークは「無責任で人間恐怖症、逃げ癖の付きまくった元来の人間(オリジナル)のまま(意訳)」と痛烈な皮肉を送っていた。

 バリバリの研究者でありながら、常人とは隔絶した身体能力を誇る。ファウストのメンバーが言うには「篠ノ之束が細胞レベルでオーバースペックなら、因幡野戦兎は遺伝子レベルでオーバースペックにオーバーホールされている」らしく、機械化はされていないものの正しく改造人間。後述するIQ低めな三人と比較するとそこまで突飛な力は無いと思われているが、ただ三馬鹿が度を超えた無茶をしているため比例するように特異性が目立っていないだけである。

 正義の味方(仮面ライダー)にならざるを得なかった女。

 

 

 

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 そして、その正体は……(下の挿し絵はネタバレの為、閲覧注意)

 

 

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織斑一夏

(CV:デザスト)

出身:日本国

性別:男性

年齢:15歳→16歳

身長:172㎝

生年月日:2006年9月27日

イメージアニマル:蒼白な龍

Like:料理、箒、姉とその腐れ縁乙男

Dislike:頭を使う事(ただし成績は優秀)

初期ハザードレベル:2.3→急上昇中

IS適性:B→A→X

テーマ曲:【Be The One】【Burning My Soul】【CROSS】【GALACTIC WORLD】

 

 ISの物語の本来のヒーローだが、この物語では三人の主人公の内の一人。動物的勘が良く、根性がすごい。幼いころから接してきた石動の言動に影響され、原作と異なった価値観を持っている。目も若干吊り目。現時点で世界最強に追従できる肉体を持つ。肉体の治癒能力が極めて高く、頭を吹き飛ばされても記憶の欠損も無しに再生することができるが、それをもはや再生能力と言って良いのかは不明。何らかのバタフライエフェクトによって運命が変わり、IS専用機を持てなかったものの、第二世代機で第三世代機をフルボッコにするなどIS戦闘技量も極めて高い。戦兎と出会った後にクローズドラゴンを授かり、仮面ライダークローズとなることに。初戦闘ながらナイトローグと互角の戦いを展開し『想定外だ』と言わしめた。

 外見は原作と同じだが、髪には仮面ライダービルドの万丈龍我のような編み込みがある。一方で『ラノベ主人公』特有の朴念仁だが、幼少期、石動惣万のエボルトとしての力によって思考ルーチンが変化し、一般的な恋愛事情に聡いイケメンになっている。幼少期に別れた箒を一途に思っており、彼女がナイトローグの策謀で失明したと判明した時は自分の想いを告白し付きっ切りで看護していた。姉がドイツに従軍していた時期、惣万のレストランカフェ手伝いをしていた為イタリアンが得意料理。

 正義の味方(仮面ライダー)であろうとする男。

 

 

 

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シャルル・デュノア

(イメージCV:オイヨイヨ!)

出身:フランス共和国

性別:男性

年齢:15歳

身長:178㎝

生年月日:2006年10月14日(誕生花が白い『コスモス』=デュノア社のIS)

イメージアニマル:黒い薔薇(動物ではないが有機物フルボトルに属するため採用)

Like:くーたん、仲間

Dislike:父親

初期ハザードレベル:4.2

IS適性:無し

テーマ曲:【Be The One】【Perfect Triumph】【This Love never end】

 

 仮面ライダーグリスに変身する金髪のイケメン。原作では女のはずだがこの世界では何の因果か男(シャルロッ党の皆様ごめんなさい)。母親はシャルルの他三人の孤児を無償で育てていたが、数年前に死去。それ故彼は身寄りを無くした仲間の為に仮面ライダーグリスとなる。母親の死に目を見に来なかった父親に対しては並々ならぬ怒りを抱いているようだ。

 かなりのバトルジャンキーであり、驚いたことに織斑千冬や篠ノ之束と同等の身体スペックを誇る為、(フルボトルの恩恵があるものの)生身のままでスマッシュを撃破するという『若者の人間離れ』を体現する存在。その身体の頑強さは折り紙付きで、「超音速の銃弾を受けても皮膚に傷一つつかない(遊び心があれば手の中で握り鉄塊にする)」、「TNT爆弾を両腕で抱えるだけで破壊エネルギーと爆風を完全に相殺する」、「光速で飛来する攻撃を受けても数十分眠るだけで完全耐性を得て復活する」と人間なのか疑わしいレベル(しかもネビュラガスを注入される前からこの状態)。戦いを「祭り」と言う戦闘狂で、テンションが上がるとミュージカル劇の様な大袈裟な身振りや言動で喜びを表現するクセがある。財団Xの指示の下で紛争地域各国を回り、傭兵らしく戦場であらゆる事をしてきたらしい。

 戦闘時は非情でクレバーだが、性格的には真っ直ぐで根は善良な熱血漢。生粋のドルオタでもあり、日本のネットアイドル『くーたん』の大ファン。(しかし似ているとはいえ妹に当たるラウラ・ボーデヴィッヒを見間違うとはそれでファンといえるのだろうか……?)容姿は中性的ではあるが長身でスタイルが良い。金髪を後ろで束ねファーの付いたモッズコートを愛用している。意外に育ちが良く、ヴァイオリンの演奏や社交界のノウハウを母親から習っていた。

 正義の味方(仮面ライダー)ではないと嘯く男。

 

 

 

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織斑マドカ

(CV:置手紙デース!)

出身:不明

性別:女性

年齢:十代

身長:140㎝程

血液型:A型(?)

生年月日:2006年以降(?)

イメージアニマル:紫の鰐

Like:苺パフェ、カラオケ

Dislike:織斑姉弟、ピーマン、電車、暗い所、お化け

IS適性:S

初期ハザードレベル:3.5

テーマ曲:【Be The One】【EAT KILL ALL】【Silent Shout】【Will save us】【Princesses】

 

 亡国機業の実働部隊『モノクローム・アバター』の一人。『織斑』に只ならぬ憎悪を向ける、マントを羽織った危険な雰囲気の少女。体格は幼いものの織斑千冬と瓜二つの顔をしており、それ故か戦闘技量も世界トップクラス。冷酷な性格で、同部隊のオータムの言では例え仲間であっても使い捨ての道具の様に扱う事が多々ある模様。しかし、短気な性格なのか駆け引きには向いていないようで、宇佐美に詰め寄っても最終的には言い包められ有耶無耶になる甘さがチラホラと見受けられる。

 宇佐美を含めた秘密結社ファウストの事を信用していないものの、彼女らの技術はマドカにとっては無くてはならない復讐手段である為、『下手にも高圧的にも出られず常に不愉快そうな顔となっている』(惣万談)。そんな折、フルボトル数本を回収してきた代価として無世代ISのトリガー『デザストリガー』を与えられた。但し、開発者である宇佐美にとっては只のサンプルデータ収集としての意味合いが強く、利用するつもりが利用されている不憫な立場にいる。

 なお、宇佐美のトランスチームガンにはマドカの生体データが入力されており、手元に道具がそろっていれば彼女も変身が可能。機能や分析・解析によって戦いを優位に進める宇佐美と異なり、身体の潜在能力を引き出し純粋な戦闘力のみで勝利するパワフルな戦い方となる。

 なお、生身の状態では小柄であるが、IS展開時やパワードスーツ着装時には大人並みの体格に変化してから変身プロセスへと移行する。これは宇佐美の手によって彼女の体内に特殊微小体「メックアマゾネセル」を大量に生成するナノマシンが移植されているため。この微小体は外部的刺激と装備デバイスに反応することで増殖し、マドカの肉体に浸透・作用。体格を成人レベルにまで一時的に成長させると同時にアポトーシス抑制の調整を施す他、変身後は身体強化によって戦闘能力を織斑千冬以上に引き上げている。しかし、それら外的要因以上に彼女を世界最強レベルにまで押し上げているのは生まれ持った成長性。戦闘中の学習能力(ラーニング)が極めて高く、徒手空拳のみの戦いでフェーズ4と互角に戦える。

 正義の味方(仮面ライダー)の狭間で揺れ動く女。

 

 

 

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 戦兎のイメージCVは『戦姫絶唱シンフォギア』とか『ニーナとうさぎと魔法の戦車』を楽しんでいた時、ふっと思いつきました…。
 うさぎと戦車、調べてみればドラマCDにシャルと束さんの中の人も出てたんだなぁ。


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設定資料&イメージスケッチ IS学園side☆

 原作に寄せられない……。


篠ノ之箒

(CV:moh版メズール)

出身:日本国

性別:女性

年齢:15歳→(七月七日より)16歳

身長:160cm

血液型:O型

イメージアニマル:赤い竜

Like:甘味、日本刀

Dislike:篠ノ之束、IS→だいぶマシになり改善

初期ハザードレベル:1.3(?)

IS適性:C(?)

テーマ曲:【Everlasting Sky】

 一夏のヒロイン。原作世界より酷い目にあったが、原作世界より報われているであろう少女。原作世界とは違い、一夏と付き合ってる……というよりもほぼ事実婚。二人が揃っていると、周囲の人物たちが『コーヒー下さい』というほどラブラブオーラが出る。幼い頃からカフェ『nascita』に入り浸り、惣万や一夏、千冬との交流の中で素直な性格に変化している。それ故、一家離散の原因を作った篠ノ之束との溝もより深くなり、並々ならぬ怒りと悲しみを抱えている。また、克己の精神を地で往く大和撫子であり、自分の力を鼻にかけない謙虚な性格。自身の身体能力を理解したうえで自身の研鑽に励んできたため中華拳法の使い手である鈴とほぼ互角の戦闘能力を持つ。(『こう言う所だけは姉譲りの肉体を感謝する』と皮肉を言うことも)

 ナイトローグにバーンスマッシュに変身させられ、その時の炎が原因で顔に大火傷をし、右目を失明する。……しかし、本人たちは知る由もない事なのだが、彼女本来のハザードレベルではガスを入れられると消滅してしまう程低かった。だが、結果は何故かスマッシュになり消滅を免れている。……何が目的なのかは分からないが、彼女の顔を焼き尽くした何処かの蝙蝠の仕業らしい。

 

 

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セシリア・オルコット

(CV:TV版メズール)

出身:UK(グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国)

性別:女性

年齢:15歳

身長:156cm

血液型:O型

イメージアニマル:ティラノサウルス

Like:人助け、アルバイト

Dislike:紛争

初期ハザードレベル:2.1

IS適性:A

テーマ曲:【Regret nothing ~Tighten Up~】

 原作世界では典型的な気品ある(?)貴族娘であり、一夏に理想の男像を見た事により恋に落ちたセカンドヒロイン。こちらの世界では、貴族の出身であることは同じであるが、自分の父が『理想の男性』だと知っており、女尊男卑主義などの影響は一切受けていなかった。両親を助けた仮面ライダーのように『誰かの助け』になろうと慈善行為や貧困地区への旅を行ったが、何かきっかけがあったらしく、何時しか自分自身の欲望・自らの命に対する執着を失ってしまう。故に因幡野戦兎以上に度を超えた自己犠牲を見せることも。仲間内からはその危うさを危険視されつつある。なお、貴族の出自故か腹芸が得意で、長い間流浪の旅をしていたにもかかわらずIS代表候補生になれたのも彼女の巧みな駆け引きがあったからとか……。

 ………因みに没落とかそういう事は起きていない。本家は普通にリッチなまま。彼女自身が他人に金を分け与えるために金欠になるだけである。なお、一人旅の最中作った手料理によって死にかけ、親交を持った伊達という医者から料理を教えてもらい腕は改善されている。得意料理はエスニック料理と何故か『おでん』。原作と異なり髪にカールがかかっておらず、首元にはスカーフを巻いている。

 

 

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凰鈴音

(CV:とかちつくちて!)

出身:中華人民共和国

性別:女性

年齢:15歳

身長:150cm

血液型:B型

イメージアニマル:パンダ

Like:麻婆、酢豚、純愛小説

Dislike:唐変木、自分の胸

初期ハザードレベル:2.5

IS適性:A

テーマ曲:【Shooting Star】

 原作世界では一夏に恋をし、IS学園で再会した後に酢豚の解釈に激怒したり、他の少女にデレデレする度に「よし殺そう!」の合言葉で殺しにかかるチャイナガール。……なのだが、今作では中学生の内に一夏が幼馴染以外と結婚する気は無いということが理解し、清々しい失恋を味わっている。その後、一夏と箒の仲を応援する若干腹黒い酢豚となる。それ故か、彼女にとっての「友情・友達」といった概念は一夏達のものよりも重く、友達に対して非常に献身的、時としてそれを守る為ならば苦言を呈すこともいとわない面も持つ。「星心大輪拳」や「赤心少林拳」という格闘術の使い手であり、本人は気が付いていないが、千冬先生やシャルルにもう間もなく追い付けるらしい。

 仮面ライダー部のツッコミ役を務めることが多いが、惣万の影響か、たまにボケる。

 

 

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ラウラ・ボーデヴィッヒ

(CV:特派員メタルA何某)

出身:ドイツ連邦共和国

性別:女性

年齢:(千冬によれば)15歳

身長:148cm

血液型:AB型

イメージアニマル:兎

Like:嫁、鍛錬、銃の整備、タコ焼き

Dislike:過去の日記

初期ハザードレベル:2.2

IS適性:A

テーマ曲:【The Day’s Beginning】

 ドイツ代表候補生の人造人間(ホムンクルス)の少女。始めは周囲を見下していたものの、自身がアイススマッシュになった後に周囲から告げられた言葉によって心境が著しく変化、激しく怒りながらも仲間や部下の大切さを説いたグリスに惹かれていく。原作世界では唐変木一夏に好意を抱いているが、今作ではドルオタシャルルを『嫁』といって憚らない。だが、ドルオタである彼の気を引くのは相当に難しく、彼女の姉であるクロエを羨ましく思うこともしばしば。シャルルと彼の配下の『三羽烏』に自分とお揃いのドッグタグをプレゼントした。原作では面識が無いはずのクロエだが、こちらの世界ではシャルルについての相談を持ち掛ける等の仲の良さを見せる。

 時たま世間知らずな一面が顔をのぞかせ、融通が利かなかったりして仮面ライダー部の面々を呆気にとらせる場面も。

 

 

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クロエ・クロニクル&ベルナージュ

(CV:ヴェアアアア!&カジュマサァァァァァン!)

出身:ドイツ連邦共和国&火星

性別:両名とも女性

(以下ベルさんのプロフィール)

年齢:『……女性のプライベートに土足で踏み込むと火傷するぞ』

身長:『昔は長身だった』

血液型:『……あるのか?』

生年月日:『そもそも火星の一周期は地球と違うのだが』

イメージアニマル:オクトパス

初期ハザードレベル:計測不能~?(現在は低下しXX程度)

テーマ曲:クロエver.【NEW WORLD】

     ベルナージュver.【ブラックホール・メッセージ】【誰かが君を愛してる】【すべては君を愛するために】

 ラウラ・ボーデヴィッヒの姉に当たる人物。ドイツの実験処理場に捕らえられていたが、ファウストに誘拐されフルボトルの浄化のためのピースとして扱われる。とある人物によってファウストの基地から連れ出され、惣万の店へと転がり込んだ。初めは彼に強い不信感を抱いていたが、真摯に彼女の心を解きほぐした彼に父性を感じ、懐くように。ダウナー気味の年相応の少女で、荒事には向かないが、彼女の腕に収まる金色の腕輪には瀕死の一夏を治癒するなどの謎の力が秘められている……。

 そのクロエのバングルに宿っているのは火星の民『ナージュ』の女王。火星の『王の石(キングストーン)』に選ばれた存在であり、科学の領域では説明できない超常現象を引き起こせる。因みにエボルトに『ソーマ』と言う名を付けたのは彼女である。なお、ナージュの民は体内の未知の結晶体が核となっており、彼女らの性質はISと近しい。現代人の感覚を持つ惣万と心を通わせ、親友の間柄となるが、『蒼い蜘蛛』が火星に来訪したことでナージュの文明は滅びることになる。火星の民は『エボルト』がこの星にやって来た所為で滅びが訪れたと絶叫しながら息絶えていく中で、彼女だけは『惣万』の事を責めずに笑って息を引き取った。

 しかし、惣万の行く末を見守る為か、火星のキングストーンと地球の時結晶との間に疑似的なリンクを繋ぎ、魂をクロエのバングル内にバックアップとして残していた。クロエ憑依時は彼女の服装が白くなり、赤目が金色に縁どられた緑色に輝く。

 

 

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デュノア三羽烏

赤羽(ルージュ)

(イメージCV:アニメじゃないんだから…)

 若干粗暴なムードメーカー。何個ものピアスを耳に付け、頭部にバンダナを巻いた赤毛の女。

 

青羽(ブル)

(イメージCV:ビッキーの命名者)

 ショートカットの青髪の女性。三人の中で唯一のツッコミ役。

 

黄羽(ジョーヌ)

(イメージCV:ナイスです!)

 のんびりした雰囲気のニット帽の女の子。実は三人の中で一番喧嘩が強い。

 

 秘密裏にパンドラボックスとフルボトルを奪うため、シャルル・デュノアと共に来日した三人組。シャルルをカシラと呼び慕う。共通してカラスの羽のエンブレムが入ったベージュのジャケットと、自分の名前と同じ色のシャツとバンダナを身に着けている。身体能力はかなり高く、三人でのコンビネーションはシャルルと互角とも言われている(描写されたためしがないが……)。三人とも移民系の孤児であり、物心つく頃から身を寄せ合いひもじい思いをして来た過去を持つ。ある日、シャルルの母の家に引き取られたが、女手一つで息子を育て、さらには自分たち三人まで養ってくれた彼女に多大な恩義を感じている。急逝した彼女の代わりに皆の生活費を工面するシャルルへの恩を返すため、ハードスマッシュになる人体実験を受けた。

 

 

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シャルルのお母様(O・KA・A・SA・MA)

(CV:ヴオオオオ!アマゾン!CEO!)

出身:フランス共和国

性別:女性

享年:42歳

身長:166㎝

血液型:O型

生年月日:1978年5月12日

没年月日:2020年8月13日

イメージアニマル:カンガルー

Like:息子たち、夫

Dislike:喧嘩

生涯最高時のハザードレベル:1未満(推定)

IS適性:C(?)

テーマ曲:【Armor Zone】

 

 た だ 強 い 。 滅 茶 苦 茶 強 い 。 『 ち き ゅ う が か ん が え た さ い き ょ う の せ い め い た い 』 。

 ……この一言に尽きる。言うなれば宇宙最強位の主婦(比喩法無し)。惣万が言うには『シャル母>>>エボルト究極態』だとかなんとか。まぁ真実では無いだろう……多分(-_-;)メソラシ。ただこの強さはあくまで『倒すまでの最低条件としての戦闘力』であり、実際ソレで細胞の一片も残さずエボルトを滅ぼせるワケではない、との事を踏まえての発言だと思われる。……だがその実、一度ロストスマッシュ(・・・・・・・・)を生身で倒した経験がある。アンタ、出身惑星地球じゃなくてベジータじゃねぇの?

 

 

 ……ふざけてないで以下詳細解説。

 

 身体が『宇宙レベルの最強に近い』反面、テロメアや骨髄、内臓に異常が多く、幼少期から自分は短命だという事を予め察していた。それ故かかなり自由奔放な性格をしており、『自分がやりたい事をやり切って、満足して死ぬことが望み』だとあっけらかんと言い切る達観した女性だった。しばしば吐血するが、ギャグ描写の意味合いが強い。「体調が良い時は吐血を霧状に噴き出し目くらましに使う」とは組み手をしてもらっていたシャルルの談。病人はそんな事を戦闘に利用しない。つか戦闘もしない。ベッドにくるまってろ。

 【指を振っただけでクレーターを作る程の怪力】と【華奢な体躯に似合わない音速攻撃】から白兵戦で彼女に勝てる地球上生物がいるのか不明。多分本気で腕を振ったら衝撃の余波でビル群が倒壊する……山も崩れるんじゃないかな。しかも戦闘技量もこれでもかと高く、『獣としての本能と人の知恵が良い塩梅にブレンドされた(本人談……そんな生易しいものでは決して無い)』無銘の体術を使用する為、その技は特定の形態を持たず、対峙した生命体の弱点に有効な形態になる(……アンタはどこのヘ〇クレスだ)。シャルルを以ってしても勝てたことは一度として無く、組み手の記憶は彼にとってトラウマになっているらしい。

 しかし、その大らかな人柄でシャルルや三羽烏達からは厳しくも優しい母親だと慕われていた。座右の銘は「何時やろう、明日やろうは馬鹿野郎」。ちなみにアルベールとの馴れ初めは彼女の強烈な一目惚れ。イロイロあってシャルが生まれた(強姦罪は女には適応されないからいいわよね!by天国のシャル母)が、新たな命を生み出すことが身体に多大な負担をかけ、虚弱体質が酷くなってしまう。

 それでも『ISが振り下ろしたブレードを片手で飴細工のように曲げる』くらいのことはできる……と言うかそれはまだ良い方で、最悪『デコピンでIS用の超合金が融解する(・・・・)』、『ショタシャルルにピクニックと称しエベレストを日帰り母子登山する』、……とまぁやりたい放題。シャルルもシャルルだが彼女はもっと酷かった。

 要約すれば『言葉遣いも丁寧で礼儀正しくオタク言葉も使わないが、行動指針が天然でキチガイ度がシャルルを上回る』女版クロケット。因みに父親の遺伝子で幾らかブレーキが掛かり、人間の力の領分としてまともになった(・・・・・・・)のがグリスなシャルルである←「「「「「……あれでか」」」」」by学園生徒ズ。




 そしてCV欄がヒッドいことになった。


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中間データファイル

 以下は、これまで登場したIS等の性能をファイリングしたもの。追記される可能性、在り。


オリジナルIS

 

IS学園の機体

 

白式・刹羅

 この世界における一夏の白式・雪羅の真の姿。反転移行(ネガ・シフト)と呼ばれ、有り得る筈の無い移行解放状態。該当する世代は存在しない。オータムにISが奪われ、『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』が水爆を放とうとした時に一夏が精神世界に送られこの力を手に入れた。

 深層心理で出会った『白いワンピースの少女』、『白い女騎士』と共に『肌も髪も白い織斑一夏本人』が彼に力を貸し与えこの反転移行(ネガ・シフト)が行われた。だが、この『白一夏』は徐々に一夏の精神と肉体を侵食している様で、一回の使用で暴走しかけるほどの力を有し、謎も多い。

 外見は白い装甲(アームやつま先、カスタム・ウィング)の一部が闇の様に黒い色へ変化しており、さらに蛇の様にのたうつ桜色のラインが走っている。なお、この状態になった場合、ISだけではなく一夏の外見にも変化が生じ、白目が黒く、瞳が金色に光る。

 

和名:白式・第二形態『刹羅』

形式:XX-X1

世代:該当なし

国家:日本

分類:近接戦闘型

装備:近接武器『雪片無ノ型』

   左腕多機能展開装甲『刹羅』

装甲:未知の物質(ダークマター)

仕様:能力無効化吸収攻撃『零落極夜』

   エネルギー無効化防御『天衣』

待機状態:ホワイトリガー

 

武装

『雪片無ノ型』

 真の一夏の雪片。日本刀の形を模しており、雪片弐型より些か長め。その名称とは裏腹に刃から柄に至るまで漆黒。

 

『刹羅』

 左手の多機能装甲。メカニカルな白龍の顔を模した籠手。パイルバンカー、ビームキャノン、バリアシールド、エネルギーチェーン、ジャミングチャフ等を生成する展開装甲である。

 

単一仕様能力『零落極夜』

 無尽蔵に周囲のあらゆる『力』を吸収し続ける能力。『力』はISのシールド・エネルギーや絶対防御が含まれる(この為『零落白夜』と同じ効果を発揮する)他、未来や法則を捻じ曲げる『改変能力』や『視力及び聴力』、『効果などの能力』や『魅力』、『成長するという生存能力』などの概念すら該当し、時間経過と共にこの世全てが効果範囲対象となる可能性がある。故に能力解放は長時間使用してはならないよう、精神世界にて『白い女騎士』と『白いワンピースの少女』が食い止めている。

 

 

瞬時烈速(イグニッション・バースト)

 瞬時加速が変化したもの。イグニッション・ブーストはスラスターから放出したエネルギーを再び取り込み、二回分のエネルギーで直線加速を行うが、こちらはPICによるもので常時発動可能。脚部に重力場を生成し、その流れに乗って高速移動する。軌道も自由に変更でき、タイミングを読まれづらい。但し、身体への負荷は従来の二倍と相当のもの。 

 

 

白一夏

『まだこんなもんで遊んでんのか?』

 一夏の精神世界において『白い女騎士』、『白いワンピースの少女』と共に具象化した第三の存在。声も外見も殆ど同じだが、顔や髪が蝋の様に真っ白で不気味な印象を与える。白目が黒く、瞳の色は血の様な赤。色が反転したIS学園の制服を着ており、常に不敵な笑みを浮かべている。本人の鏡写しの存在の様で、一夏と異なり非道・悪辣・好戦的。

 

 

 

打鉄(ウチガネ)旭之型(アサヒノカタ)

 戦兎が箒の為に一からパーツを組み直して完成させた第二世代機『打鉄・旭』の改造機。片目の見えない箒への配慮で、パイパーセンサーの感度の底上げや脳への電気刺激による視覚情報送信などの感覚系補助機能が豊富。つまりこれは『亜光速の感覚伝達能力』を持つ事と同義。副産物として彼女の脳内情報処理速度も同様に加速している。

 正確には三世代機に位置するが、勝手に改造しコンパチしたことがバレたら世間的にマズいので、千冬先生共々誤魔化して黙っている薄ら暗い機体。何度もチューンアップを繰り返し、機能も毎月アップグレードされており、使い手の技能と合わさって最強のISの一角でもある。倉持技研で手に入れたシュトルムのデータの実証実験の為、そのファイルの理論に基づき開発された試験運用機体。金属分子間に人工ネビュラガスを浸透させた特殊合金『ネビュラカーボン』へと装甲を変更したことにより、全身の金属部品がコンデンサーの役割を果たし、ISのシールド・エネルギーが無くなっても数時間の活動が可能となった(これは後述する宵ノ型も同じ技術を流用している)。

 カラーリングは打鉄からかけ離れた赤と黒のツートンカラー。胸や肩部にも装甲が追加され、より鎧武者然とした。また火傷の後を隠すため、眼帯型フェイスシールド(ライン・アイ式センサ内蔵)が追加される。表層に走るエネルギー供給用回路はシールド・エネルギーがある状態ではオレンジ色に発光する。

 機体は以前の『旭』のコアと新規のコアを使用しているが、これは『デュアルコア』ではなく戦兎が独自に考えた『マルチプルコア』と言う機構である。この『マルチプルコア』によって通常のISでは耐えられない機体への負荷を二基に分散させて安定させている。

 

和名:打鉄・旭之型

形式:強化外装・六一式粧改メ

世代:第二世代(内部機能は第四世代を凌駕する)

国家:IS学園内にて使用可能

分類:近接戦闘型

装備:近接ブレード『葵改メ』、アンテナ帯『袖帯・錦牡丹』

   ビームライフル『焔備改メ』

   両腕多機能手甲『魁』

装甲:貫通無効スライド・レイヤー多重特殊装甲

仕様:防御シールド超高速修復

   亜光速感覚伝達インタフェース『帚木』

   負荷分散並列ISコア機構『マルチプルコア』

待機状態:脇差

 

武装

 

『葵(アラタ)メ』

 メインウェポン。分子間内に疑似的なネビュラガスを注入した特殊カーボン製ブレードで、世界最硬度水準を持つ。ビーム発振器が内蔵されており、刀身にビームをまとわせて切断力を向上させ、特殊なISの再生能力を阻害する。

 

『袖帯・錦牡丹』

 箒の葵改メの柄頭に付いた先の長い帯部分。装飾の様に思えるが、これもれっきとしたアンテナ型武装であり、複数の相手のISコアに作用して『単一仕様能力が使用不可な、近接戦闘による一騎打ち』を強制する。差し向かいに位置しているIS以外は攻撃や行動ができない。

 

『焔備(アラタ)メ』

 ビームライフル。左右の腰のリアスカート『篠金草摺』に内蔵されており、バインダー先端部分を左右にスライドさせ、砲身を露出させることでフレキシブル発射が可能。ビームの色はオレンジ。荷電粒子砲を上回る破壊力を持つ『対艦兵器』であり、中距離戦に箒が多用する。

 

(サキガケ)

 両腕に装備されたガントレット。葵改メのビーム強化時のエネルギー逆流を防止する装置。シールド・エネルギーを用いずに使える防具でもある。

 

単一仕様能力

天逆鬼(あまのじゃく)

 相手の五感やハイパーセンサーから脳へ逆浸食し、諸々の認識を変更する能力。人やISが感知した左右、上下、前後、痛覚の位置、色相環、音声、動作命令を、箒の思う通りに逆転させる。これは単一仕様能力の第一段階であり、『任意で形態移行できる』。

 

天乃逆帚鬼(そらのさかさほうき)瓜子姫之狂言(うりこひめのきょうげん)

 リミッターを解除した単一仕様能力。自身と相手の意識と肉体、実力を次元外から逆にする。この場合、周囲から見える二人の姿も変化して見える。つまり「格上相手に箒が戦う」→「相手が箒を刺す」→「箒が敵を刺している」という格上殺しが可能。「錯覚だ」by箒。

 

 

 

打鉄(ウチガネ)宵之型(ヨイノカタ)

 旭ノ型の姉妹機。第二世代機であるものの、因幡野戦兎のチューンにより第四世代と互角以上のスペックを誇る打鉄の改造IS。常人には使用不可能なリミッターカットが施された、実質的な千冬の専用機。造形は使用者の身体に馴染む打鉄のままだが、メインカラーはダークブルー(紺桔梗)と黒で、身体を伝うエネルギーラインは夕陽色に輝いている。

 機体にはコピーした暮桜と白式のマルチプルコアが使用されている。左右の腰にあるリアバインダー『篠金草摺』がPICを別システムの領域まで強化補助し、周囲の重力子を自在にコントロールする。この為、あらゆる惑星空間での戦闘活動を可能とする。通常格闘技、剣技を繰り出す際に加重と加速を行い、一撃でシールド・エネルギーをゼロにする強烈な一撃へと強化することもできる。

 

和名:打鉄・宵之型

形式:強化外装・六一式粧改メ

世代:第二世代(内部機能は第四世代を凌駕する)

国家:IS学園内にて使用可能

分類:近接戦闘型

装備:近接ブレード『葵改メ』

   近接ブレード『逝片』

   ビームライフル『焔備改メ』

   両腕多機能手甲『魁』

装甲:貫通無効スライド・レイヤー多重特殊装甲(軽量化仕様)

仕様:防御シールド超高速修復

   疑似零落白夜発生機『千夜』

   負荷分散並列ISコア機構『マルチプルコア』

待機状態:日本刀

 

武装

『葵(アラタ)メ』

 メインウェポン。分子間内に特殊粒子を注入したカーボン製ブレードで、世界最硬度水準を持つ。ビーム発振器が内蔵されており、刀身にビームをまとわせて切断力を向上させ、特殊なISの再生能力を阻害する。千冬はこの一刀で『海を斬る』と言うトンデモ技を放てるとかなんとか。

 

逝片(ユキヒラ)

 戦兎が雪片を模して作り上げた近接ブレード。疑似的な零落白夜発生機である『千夜』が組み込まれており、シールド・エネルギーを使用せずにISの防御を切り裂くことができる。IS以外のエネルギーは切れないが、千冬曰く「逆に扱いやすくなった」とのこと。

 

『焔備(アラタ)メ』

 ビームライフル。左右の腰のリアスカート『篠金草摺』に内蔵されており、バインダー先端部分を左右にスライドさせ、砲身を露出させることでフレキシブル発射が可能。ビームの色はオレンジ。荷電粒子砲を上回る破壊力を持つ『対艦兵器』だが、使い手が使い手なので使用されたことは無い(大抵剣で切れば終わるから)。

 

(サキガケ)

 両腕に装備されたガントレット。葵改メのビーム強化時のエネルギー逆流を防止する装置。シールド・エネルギーを用いずに使える防具でもある。

 

 

 

九尾ノ魂・天狐

 度重なるファウストの襲撃に対抗するため作られた、学園用防衛機のプロトタイプ。布仏本音の専用機。本音がデザインし、因幡野戦兎が組み上げたIS学園製の三大機体の一つ。待機状態は髪留め。本音との相性が良かったのか、最適化(パーソナライズ)が終了した瞬間に三次移行した規格外の機体。

 九つの尾に別々の武装が内蔵され、それらには主である更識姉妹の武装データが流用されている。何よりの特徴はその拡張領域(パススロット)の膨大さ。疑似的な四次元空間になっており、武装やパッケージ収納量も量産機随一のデュノア社製IS『コスモス』を凌駕する。その人海戦術ともいえるような手数の多さで最強クラスのISの一つ……なのだが使い手が未だ戦いに不慣れな為、強さはいささか落ちている。

 

和名:九尾ノ魂・第三形態『天狐』

形式:XX-09T

世代:第三世代

国家:IS学園内にて使用可能

分類:全距離万能型

装備:貫けビット

   おみくじ

   一尾の要石『石清水』

   二尾の鉄扇『更科』

   三尾の太刀『錆釘』

   四尾の槍『蒼流閃』

   五尾の大筒『春磊』

   六尾の薙刀『夢半』

   七尾の火矢『山枯』

   八尾の屏風『不動巖山』

   九尾の転輪『天照大御神禊金剛日輪』

装甲:感情同調型メンタリティマテリアル

仕様:疑似四次元パススロット

   負荷分散並列ISコア機構『マルチプルコア』(コア九個同調仕様)

待機状態:髪留め

 

武装

『貫けビット』

 背部のバックパックに搭載された、狐の尾を模した刃の有線型ビット。九尾全てにディフォルトで装備されている。

 

『おみくじ』

 みくじ筒型の武器であり、中から出た棒が「吉」と出るものであれば爆弾代わりとなって攻撃できる。吉~大吉と段階が上がるごとに攻撃力が増していく。凶ならばミス。

 

 以下九つの尾に基本装備される武装。それぞれを交換し、別の武装やパッケージを取り付けることも可能。

 

一尾の要石『岩清水(いわしみず)

 ミステリアス・レイディの『アクア・クリスタル』の流用。これによって水を操る。ナノマシン出力は劣るものの、操作性が簡易的になり使いやすくなっている。なぜか最後に金ダライが落ちてくる。

 

二尾の鉄扇『更科(さらしな)

 主に防御に使用される鉄扇。しかし、布仏が整備科出身だからか戦兎の悪ノリか、ISの分解能力を持ち、条件さえそろえば敵ISをコアにまで戻すことが可能。表面の電子金属紙に刺激を加えることで好きな文字を表示することもできる。【妾の魅力でメロメロねん♡】【バリバリ呪うゾ!】【やっちゃえバーサーカー♪】とか書きやがった。その時箒と刀奈の頭が痛くなった。

 

三尾の太刀『錆釘(さびくぎ)

 データ元はミステリアス・レイディの蛇腹剣『ラスティー・ネイル』。

 

四尾の槍『蒼流閃(そうりゅうせん)

 槍と言うよりはドリルのような溝を掘った馬上槍。槍を突き刺すと、ナノマシン制御下の水を生み出しながら回転によって敵装甲を削り取る。二門のガトリングガンも装備されている。

 

・五尾の大筒『春磊(しゅんらい)

 一門の連射型小型荷電粒子砲。

 

六尾の薙刀『夢半(ゆめなかば)

 ナノマシン対応型超振動薙刀。槍内部の水を気化させることで高熱の刃を出現させ、対象を焼き切る。また、沸騰した水を放出することで周囲の大気を急速的に変化させ、蜃気楼を発生させることも可能。

 

七尾の火矢『山枯(やまがらし)

 八門の発射口からなるミサイルポッドから独立稼働型誘導ミサイルを発射する。データは簪が寄贈した。

 

八尾の屏風『不動巖山(ふどうがんざん)

 六本のポールから広範囲防壁を展開させる兵装。ポールとポールの間にバリアを展開してガードする。距離が伸びれば伸びるほどエネルギーを消費するらしい。

 

九尾の転輪『天照大御神(あまてらすおおみかみ)禊金剛日輪(みそぎのこんごうにちりん)

 最終兵器。詳細が一切不明。

 

 

 

追加装備

『MSコンデンサー』

 エネルギーが霧散しない特殊なネビュラ粒子波を機体に付与する装置。端的に言えば『零落白夜無効装置』。疑似的な零落白夜を発動させるBSへの効果軽減対策として専用機持ち達のISに戦兎が追加した。MSはミッドナイトサンの意。

 

蒼雫(ブルー・ティアーズ)

戦兎製追加武装装備

『シューティングスターⅡ』

 二丁の特殊レーザーピストル。インターセプターをオミットした代わりに多用する頻度が高い。接近戦闘における銃撃を希望したセシリアによって追加された装備で、銃身に対エネルギー及び単一仕様能力コーティングが施されている。これにより敵のエネルギー攻撃を弾いたり、BSの武器を受け止めたりと使用用途が様々。

 

『コバルト・ティアーズ』

 九基のシールド型BT兵器。レーザー砲が組み込まれているのは言わずもがな、表面に攻撃と逆相位の波動を発生させ衝撃をゼロにする能力がある。ビット同士を合体させ防御面積を増やすことも可能。ブルー・ティアーズとの併用が可能で、セシリアは合計十五基のビット兵器を使いこなす事になった。

 

『フォローカウンター・オベイロン』

 精密射撃用のスクリーン型装備。高確率の事象予測を演算処理する事でセシリアの動体視力と合わさり98.9%の確率で被弾させることができる。

 

 

 

甲龍(シェンロン)

戦兎製追加武装装備

無頼刃拳(ぶらいじんけん)

 レーザークローやメリケンサックが内蔵されたガントレットハンド。触れたものの原子を組み替え爆発物、又はプラズマ状態に変化させることができる。鈴は専ら空気中の酸素を変化させ、気功と共に相手に爆炎を叩きつけることを好む。

 

桃園結界(とうえんけっかい)

 超重力場を発生させ、絶対防御を超えた攻撃を問答無用で捩じ曲げるバリアフィールド展開装甲。また、機体の表面や武装に定着させることで攻撃及び防御能力を爆発的に向上させる。ISコアネットワークから一時隔絶し、位置を把握されずに自由行動がとれるようにもなる。

 

蒼天無月(そうてんむげつ)

 太極刀や八卦刀に似た形状の一振りの刀。鈴は『星震大輪拳』の柳葉刀の扱いに長け、最も良いパフォーマンスを引き出すことができる武装として戦兎に発注した。

 

 

 

黒雨(シュヴァルツェア・レーゲン)

戦兎製追加武装装備

『NCF(回路制御領域)』

 ネットワーク・コントロール・フィールド。コア・ネットワーク上のIS、及び限定的なBSの機能制限が可能。なお、ラウラの『超越の瞳(ヴォータン・オージェ)』が進化し両目が任意で発動可能になった瞬間、二つのネットワークにリンクしているすべてのIS、BSを制御下に置く事が可能となる。

 ただし、複数が同時にNCFを展開することはできず、『超越の瞳』の上位発動権限を持つシュトルムによって強制解除させられることも。それなんてトライアルシステム?

 

鋼鉄の腕(ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン)

 ハンドガン。実弾とメーザー光線を切り替えて発射することができる。光線を曲げて遮蔽物を破壊せずにターゲットを撃破することも可能。展開装甲の一種。

 

黒い鍵(シュヴァルツェア・シュルッセル)

 バックパックに装着された高機動装備ユニット、及び第3.5世代IS。バックパック状態では飛行戦闘機への可変機構が搭載されており、通常のISの数倍の長距離航行が可能。飛行形態時、IS操縦者は戦用コックピット内へ収納される。また、分離すれば無人機となる。分離した後の黒い鍵(シュヴァルツェア・シュルッセル)はバックパック形態から無人機IS形態もしくは無人戦闘機ISへと自由に変形可能。

 

 

 

 

 

 

亡国機業・モノクロームアバターの機体

 

ブラック・アルマゲドン

 一夏の持つホワイトリガーと似たデバイス『デザストリガー』を宇佐美から与えられたことで使用することになった、今作のMの専用機。外見は原作における『白式・王理』に似るも、全体的に禍々しい黒と紫のカラーリングとなっている。装甲は有機的とも無機的とも言える形状をしており、6つあるカスタムウイングからは、それぞれ赤い概念製ヴェールが不気味に垂れ下がっている。

 惣万やブリッツ(本人らにその記憶なし)が酒の席で言った『VSインフィニット・ストラトス全機』殲滅戦闘を想定して作り出された機体。宇佐美が片手間に考案した“ISコアを三基同調させ、異世界から流れ込むエネルギーを永久的に供給する”と言う『トライアンフコア』のシステムが取り入れられ、有するシールド・エネルギー量に上限がない。なお、このアルマゲドンのISコアにコア・ネットワークは存在せず、独自の『時空間から隔絶された環境』での自己進化が可能となっている。主に無段階移行(シームレス・シフト)によって強化されるが、それとは別に形態変化におけるISコア進化も存在するらしい。

 宇佐美が創り出した中でも、シンクロ率が100%を振り切った三機の第四世代IS、『黄昏の大神狼(ヴァナルガンド)』、『錦織斑猫(タイガービートル・レインボゥ)』、『歌者髑髏(デア・ズィンギンデ・クノッヘン)』のISコアを初期化せずに融合させ、最適進化させた。亡国機業のISは昆虫モチーフだが、本機はハンミョウ要素でそれをクリアしている。

 

和名:最終戦争・黎明

形式:PT-XXX

世代:該当なし

国家:亡国機業

分類:高機動近接型

装備:ランサービット『百織斑猫(タイガービート)』×4

   大型バスターブレード『鬼歯剥く呪怨の運命環(グラッジデント)

   機動ブースター型バスターソード『ヴァナルガンド・ブロウ』

   単分子運動停止光線砲『歌う骸骨(デア・ズィンギンデ・クノッヘン)

装甲:核爆弾遮断金属鎧装『クラックフォースアーマー』/ゲル状衝撃無効果材『ヴァリアブルゼルスキン』/三重反ナノ結合相転移凝縮クァンタム構造展開装甲『デザストルアーキテクター』(トライブリット仕様)

仕様:累重同調トライアンフコア

   IS初期化アビリティ『夕凪闘夜』

   攻撃無効化能力『運命黄昏(ラグナレク)

待機状態:デザストリガー

 

武装

展開装甲(究極型)

 全身を覆うISスーツ全てとIS装甲全てがナノ単位の疑似金属皮膚組織となっており、その通り『成長する』。対核爆弾装甲やダイラタンシーを利用した表層金属組織だけで一切のダメージを無力化させるため、『アルマゲドン』はエネルギー消費がほぼないと言って良い(余談であるが、その性質上肌の露出度は無いに等しい、任意でマスクが展開して顔が出せるのみ)。

 頭部マスクパーツは無貌のベース装甲に赤く光るアイレンズ、そこから後頭部へ向かって広がる涙状のラインセンサーが左右二本ずつ側頭部から長く突き出し、悪魔の形相を描いている。

 

天災の凶星(カラミティ・ストライク)

 大型バスターブレード『鬼歯剥く呪怨の運命環(グラッジデント)』を用いて放つ。当たった斬撃にはISを一定時間停止させる効果があり、これが延々と繰り返されるハメ技。なお、ISを停止させる攻性プロトコルは常に変化する上、夕凪闘夜の力も合わさって凶悪な被害をもたらす。IS製作者である頭脳を持つ戦兎であってもISをこの技から即座に回復させる手段はない。簪曰く「スタン無効効果を無効にしてくる『亡びの風』」。技名をご丁寧にも事前に言う。

 

単一仕様能力

『夕凪闘夜』

 宇佐美が取り付けた仮の単一仕様能力。ISの初期化が可能なのはオリジナルと同じだが、こちらは剣やビームにその効果を付与できる。ただし完全に初期化はできず、アルマゲドンとの交戦記録が消える程度(しかし、自己進化するISにとっては別問題。常に初見殺し効果が襲ってきて、また記録消去されるという無限ループに陥る)。

 

運命黄昏(ラグナレク)

 本来の単一仕様能力。能力は非常にシンプルかつ比類するものがなく、『自分を害するものであるならば全て防ぐ』というもの。つまり“彼女は負けることがない”。時が干渉する老化現象も害するもの判定になるらしく、いわば弱点も無くしたムテキゲーマー。この力を土壇場で覚醒させたことで、白いエボルト究極態となった一夏の攻撃で死ぬことが無かった。

 

 

 

サンタ・テレサ

 宇佐美が亡国機業に提供した第四世代機。亡国機業の例に漏れず昆虫型。企画段階ではMへ提供するISの候補の一つだった。しかし、彼女はデザストリガーを使用する事となった為、Mの補佐となった謎の人物フォールの専用機へ変更された経緯を持つ。ダークグリーンにオレンジのエネルギーラインが血管のように浮き出る機体で、蟷螂を思わせる全身装甲。サポートアシスト機能が充実しており、逃走や撤退時において十分な戦場離脱性能を発揮する。これを基にした量産型ISが亡国機業にて開発中。

 宇佐美が創ったロストタイムクリスタル製ISコアを核にしているが、それとは別に武装にもロストISコアが使用されている。シュトルムが考え出した理論を基に造られた特殊合金『ネビュラカーボン』を用いた機体。但し戦兎が造った試験機とは違い、こちらは完成に近い性能を誇る。体内に流れるネビュラガスが血液の様な役割を果たし、エネルギー効率が試験運用機より60%程向上している。

 モデルはトレーディングカードゲーム、BSの『黒蟲魔王ディアボリカ・マンティス』&『風の四魔卿ヴァンディール』らしく、怪物然とした機体となっている。尚、名前の由来は『BLEACH』のノイトラ・ジルガの帰刃『聖哭蟷螂』から。

 

和名:聖なる黒嵐蟷螂

形式:PT-02

世代:第四世代

国家:亡国機業

分類:広域殺戮型

装備:自立型鎌型第四世代IS『イガリマ』、『シュルシャガナ』

   武器IS強化展開装甲『ウスバカゲロウ』

   多脚部高振動展開装甲『ザババ・ニトゥ』

   量産型ISコア生成装置『シェオール』

   特攻用第四世代無人機『アポリオン』

装甲:特殊合金埒外徹甲マリア・マグダレーナ鎧装

仕様:群生IS制御機構『ガーディア・ルシファー』

   単一仕様能力『魔皇蟲の樹根城(エンプーサ)

待機状態:エメラルドグリーンの万年筆

 

武装

『イガリマ』、『シュルシャガナ』

 巨大な鎌。この武装にもISコアが使用されている。刃や柄などの部分に配置されたクリスタル部分が展開装甲とハイパーセンサーとなっており、相手の攻撃に対して0.015秒以内に常に50~60度になるよう位置を移動させることができる。つまりオートガードをしてくれる鎌型IS。世代は第四世代。

 

『ウスバカゲロウ』

 某黒蟲の妖刀。ISコアを用いた武装に憑りつき、疑似的な絶対防御無効化状態へと移行する。

 

『ザババ・ニトゥ』

 両腕に装備された展開装甲。周囲の状況データをイガリマ、シュルシャガナから譲渡されると、その場で最適な武装に変化し、最適な動きで操縦者をフォローする。

 

『シェオール』

 巨大なカマキリの腹部型ISコア内蔵バックパック。ISコア増殖生成装置であり、ISコアを搭載した簡易量産ISを半永久的に生み出す。一度に孵化させることができる数は200機ほど。

 

『アポリオン』

 シェオールより生成される1mにも満たない第4世代無人機。全体的には角がランス状になったカブトムシで、前脚がカマキリ、翅がトンボ、後脚がバッタの様なデザインの小型甲虫機体。武装も頭部のサーベル以外は存在せず、戦闘能力は無いに等しい。しかし、この端末の使用目的は「発生するエネルギー全てをISコアごと自壊(オーバーロード)させて超加速し追尾弾と化す」特攻であるため何ら問題はない。瞬間加速(イグニッション・ブースト)未使用の場合でも最高速度は秒速40㎞に迫り、絶対防御をものともしない衝撃を持つ。特殊なISコアを湯水のように破壊する事でISコア・ネットワークにも損傷を与えることができる。だが、何より恐ろしいのは一度に200機生成されるという数の暴力であり、自爆特攻を目的とした波状砲撃は最早悪夢である。モデルは『ダーク・マッハジー』。

 

 

単一仕様能力

魔皇蟲の樹根城(エンプーサ)

 サンタ・テレサが保持、及び生成したISコアの数の分だけ攻撃性能、防御性能、飛行性能、PIC性能が倍化していく。通常時でも本体のコア+イガリマ&シュルシャガナのコアが存在することによって、スペックが三倍になっている。

 

 

 

ゴールデン・ドーン

 黄金のスコール・ミューゼル専用機。外見は一切変わっていないが、亡国機業に所属する『天災』がチューンアップを施したことにより第四世代機に到達している。ネビュラガスを投与したロストISコアを核として使用しているため、篠ノ之束のシステムを根本的から覆して完全なブラックボックスと化した。

 攻防共にトップクラスのポテンシャルを持ち、ISの兵器利用という点でも優秀な機体。操縦者であるスコール・ミューゼルの戦闘能力と合わさることで、亡国機業に所属するISの中で最強の座を得ている。殲滅力に特に秀で、製作者曰く「三分でアメリカを滅亡させられる」とのこと。

 

和名:黄金の夜明け

型式:PT-01

世代:第四世代

国家:亡国機業

分類:広域殲滅型

装備:衝撃熱変換機構『ビッグバン・クランチ』

   虚無シールド制御装置『ヴォイドアークフィールド』

   敵対生命殲滅最適化概念炉『カタストロフィ・アナイアレータ』

   原子構造破壊光子毒『ゼクトルヴェノム』

装甲:生体負荷遮断装甲『ゼノムニヴァースーツ』

仕様:進化展開機構『フェーズエヴォリュータ』

   人工太陽発生装置『アレイスター』

 

武装

『ビッグバン・クランチ』

 受ける衝撃を熱エネルギーに、光学兵器の攻撃を衝撃に変換し周囲の空間にチャージし、自在に相手に還すことが可能。この機構の恩恵により、ゴールデン・ドーンはダメージを受けることがない。

 

『ヴォイドアークフィールド』

 周囲の環境を宇宙空間とは異なる無の世界に変化させる。また、知性体では視認できない空間領域を生成し、攻撃の無効化が可能。

 

『カタストロフィ・アナイアレータ』

 ISの自己進化が凶悪化・兵器化したもの。即座に敵性行動をするターゲットに有効な手段・エネルギー・武装を形成し概念レベルでこの世から排除する。

 

『ゼクトルヴェノム』

 光子の毒。黄金に輝く機体から常時発生されている。長らく浴びていると、原子が素粒子以下に分解されていく。

 

仕様

『フェーズエヴォリュータ』

 カタストロフィ・アナイアレータと連動することで出力調整を行う。周囲環境を測定し、脅威度の最も高い存在よりもあらゆるスペックを向上させ、殲滅することを得意とする。

 

『アレイスター』

 人工の超小型恒星を創り出す。小型ながらも内部温度は太陽と同等であり、市街地に落ちてしまえば都市の人間全てが消滅するであろうエネルギーが放出される。

 

 

 

アラクネ

 赤紫のオータム専用機。こちらも亡国機業に所属する謎の『天災』の手によって第四世代に到達している。名称が変わっていないのは『彼女』が自己主張に頓着していないため。

 ファウストから提供されたデータを更に改良・発展させた跡が見受けられ、特に毒の錬成はエボルトを遥かに凌駕している。しかしながら人命どころか地球環境への配慮が一切ない機体であるらしく、オータムが使い方を間違えれば、地球は核兵器が生温いと思えるほどの未知毒素に汚染されかねない。

 この機体を得たことでオータムは亡国機業最強の毒使いとして名高くなるが、毒が自分にも悪影響を及ぼすと知ったため、慎重な一面が見受けられ始めている。その為、亡国機業の脅威度が増大中。

 

和名:王蜘蛛

型式:PT-04

世代:第四世代

国家:亡国機業

分類:近接戦闘型

装備:装甲脚『トライヴラッシュアーム』

   装甲脚仕込みナイフ『ハザードスライサー』

   装甲脚マニュピレータ『デッドリィグローブ』

   装甲脚念重力操作機構『ベクタードライヴ』

装甲:異星硬質繊維装甲『ブラッディテクトファイバー』

仕様:999種の未元毒素加工プラント『キルズファクトリー』

   放射性ダークエネルギーネット『バーストラッパー』

 

武装

『トライヴラッシュアーム』『ハザードスライサー』『デッドリィグローブ』

 多脚部の武装。それぞれが特殊金属で構成されており、エネルギーを侵す毒を持っている。接触するだけでISのシールド・エネルギーに未知の毒が流れ込み、装甲やISコアが腐食劣化していく。

 

『ベクタードライヴ』

 多脚部に取り付けられたPIC以外の空中浮遊ユニット。加重制御を行い攻撃防御に利用される他、念力の様に物を持ち上げることもできる。相手に物質の伴わない『重さ』のみを与えることも可能。

 

仕様

『キルズファクトリー』

 999種の未元毒素加工プラント。ファクトリーが状況ごとに提案してくる毒素を掛け合わせることで、人体やISに有害な効果を生む猛毒を発生させる。周囲の物質を変質させ補給することでデータ解析を行い、自分や仲間にはワクチンや抗体を与え無害化もできる。

 

『バーストラッパー』

 放射性ダークエネルギーネット。捕縛されてしまえば物理的に切断することは困難で、長時間これに絡まった敵対者や物体は放射されるダークエネルギーによって細胞、材質(元素)が変質してしまう。

 

 

 

 

 

 

ファウストの機体

 

シュヴァルツェ・コーア

 宇佐美幻が創り上げた量産機。ナンバーチルドレンに支給される生体同調型IS、もしくは無人機。モデルはショッカー戦闘員やショッカーライダー(そのためかナンバーチルドレンの生身の身体スペックが従来の10~15倍になっている)、名前の由来もナチスの機関紙から。機体の特徴はハイブリッドコアサーキットというサイコロ大の新機構量産ISコア。これは「一千万個のISコアナノチップを集積させた回路」を並列稼働させるというシステムで、高エネルギーを安定して常時供給・使用できる他、コストパフォーマンスが非常に高く、従来のISの千分の一にまで製造費用が下がっている。装甲すべてが展開装甲となっており、操縦者や外敵の技量や癖を元に機体を常時最適化・常時変化させることが可能。ISコア・ネットワークはシュヴァルツェ・コーア間のみのオフライン状態で、外部からのハッキングや初期化は如何なる手段でも不可能。これはある意味デメリットだが、ナンバーチルドレン十人の機体だけで実質一億機のISと情報共有しているのと同義であるため、従来のISの成長速度を遥かに上回る。なお、無人機を撃破すると、証拠隠滅のため周囲100mを巻き込みISコアごと爆発・完全消滅する。

 

和名:黒軍

形式:S-k.19/71

世代:該当なし

国家:ファウスト

分類:全状況対応万能型

装備:毒ガス・細菌兵器

   205型自動小銃

   フォトンコートコンバットナイフ

   アクティブ・イナーシャル・キャンセラー(全状況対応万能仕様)

装甲:波動量子組成型展開装甲

仕様:展開装甲(究極型)

   ハイブリッドコアサーキット(ISコア一千万単位並列接続回路)

   ウーノ単一仕様能力『不可触の秘電書(フローレス・アズ・セクレタリー)

   ドゥーエ単一仕様能力『虚偽の仮面(ライアーズ・マスクドレイダー)

   トーレ単一仕様能力『隼迅の炎翼(スラッシュ・ライドインパルス)

   セイン単一仕様能力『人回線術(シンクダイバー)

   セッテ単一仕様能力『千変蛮換(アウェイキングアームズ)

   オットー単一仕様能力『電磁気令(マグネティックストーム)

   ノーヴェ単一仕様能力『千思蛮行(ジャッキングライナー)

   ディエチ単一仕様能力『暴走集弾(ランペイジバレル)

   ウェンディ単一仕様能力『蝗害災祀(クラスタレイヴ)

   ディード単一仕様能力『光噛双牙(オルトロスブレイズ)

   自爆機能(無人機のみ)

 

 

 

アリス・イン・ミラーワールド

 宇佐美幻が作り上げたモッピーピポパポ(トーテマ)専用機。単一仕様能力名及び正式名は『Through the Looking-Glass(ガラスの向こうで), and What Alice Found There(少女が見つけたもの)』。『不思議の国のアリス(ルイス・キャロルが即興で作り上げたもの)』をモチーフとした篠ノ之束に対する、『鏡の国のアリス(ルイス・キャロルが熟考して作り上げたもの)』という鏡合わせの完成品=宇佐美幻のアンチテーゼ。因みに宇佐美のイメージアニマルはウサギコウモリだが、帽子屋がハートの女王の前で歌ったきらきら星の替え歌にコウモリが登場する。名前の『ミラーワールド』は龍騎がモチーフだが、現実世界をデジタル世界に描写することも『ミラー・ワールド』と呼ばれる。周囲の景色を反射する物質を介し文字通り『鏡の中の世界』に入ることができる。そのため、敵のISの金属表層鏡面から武器だけを人体に到達させるなど、トリッキーな攻撃が可能。

 その本質はISの影とも言える機体。つまり厳密にはISではない。全てのISの集合反転存在で、倒すには全ISをこの世から完全に消滅させなければならない。

 因みにファウストメンバーとミラーライダーは共通点が多い。惣万はジェノサイダー(蛇の三体合体、ベノスネーカーCGの流用)とドラグブラッカー(リュウガ)やサバイブのテーマ曲『Evolution』、宇佐美はダークウイング(コウモリ)やガルドミラージュ(幻)、ブリッツはゴルトフェニックス(不死鳥)とガルドサンダー及び木村ベルデ(雷)、シュトルムはデストワイルダー(白い食肉目)やガルドストーム(風)、サバイブ“疾風”。

 

和名:有栖院鏡国

形式:TL-G&WAFT13

世代:該当なし

国家:ファウスト

分類:非論理強制達成型

装備:ゆうしゃさまの、つよいぶき(非論理反存在武装)真理の言葉(ヴォーパルソード)

   すすまなきゃ、すすまなきゃ(未来展開奏効)赤の女王仮説(レッドクイーン)

   うそのかいぶつ、ことばはふめつ(非存在概念生命)蛇馬魚鬼(ジャバウォック)

   あたまごなしにおためごかし(エントロピー)、あなたはだあれ(操作球体)宇宙卵の熱力学第二法則(ハンプティ・ダンプティ)

装甲:虚数式アリスメティック・リデル装甲

仕様:ネガコア(全ISコア対応式)

   単一仕様能力『Through the Looking-Glass(ガラスの向こうで), and What Alice Found There(少女が見つけたもの)

   仮想銀河団構築式『チェシャ猫銀河群(ザ・チェシャーキャット)

   意志存在無限後退化概装『亀がアキレスに言ったこと(キャロルズ・パラドクス)

待機状態:チェシャ猫

 

 

 

 

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縦:100㎜

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第5世代インフィニット・ストラトス

 

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形式:ZIA-S/RX8

世代:第五世代

分類:全状況対応万能型

装備:即効式多次元プリンター『ZIAエクイッパー』

装甲:波動量子組成相転移装甲

仕様:展開装甲(完成型)

   単一仕様能力創造演算子『ノア』

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メーカー希望小売価格

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購入検討サポートも充実。詳しくはホームページで。

 

©ZAIA ENTERPRISE JAPAN

 




惣万「それにしても箒の単一仕様能力、BLEACHっぽいな……」
シャルル「ならそれっぽく言ってみるか?」
一夏「んじゃ俺は……白めよ、『雪片(ゆきひら)』」
箒「……姉首(ねくび)を搔け、『天逆鬼(あまのじゃく)』」
千冬「白孔を厭けよ、黒陽を呑め。『逝片(ゆきひら)』」

シャルル「……卍・解っ!」
一夏「雪片無ノ型零落極夜」
箒「天乃逆箒鬼・瓜子姫之狂言」
千冬「獄門逝片零落百夜」
惣万「…………考えていた……だと……!?」


 随時追記予定。

※2020/12/16
 一部修正


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プロローグ
プロローグ フェーズ1


稚拙な二次創作ですがどうぞよろしくお願い致します。

 ※2020/12/05内容の変更を行いました。


 

 

 

 

 

――――蒼穹に、翼が舞う

 

 それは、無限に続く宇宙。または縮退する零と虚数の狭間。色彩なき世界にて、あらゆる色が“彼”の周囲に漂っていた。

 そして、濁流のような感覚が、あらゆる視覚が、聴覚が、嗅覚が、痛覚が、彼に殺到する。

 

 

 

――――紅い宙に、翼が舞い散る

 

 

 

 混沌という他なき全能が彼を苛み打ちのめし、その場から消え去ればまた再び活かす、無限の自死。尾を飲み込む蛇の解脱が、彼という迷い込んだ存在を壊さんと襲い来る。

 やがて“彼”は悟る。今、自分が接しているものは世界を正そうとする死と再生、永劫回帰。即ち無限に重なり合い相違しあう無量の宇宙であることを。

 

 思案を一つする刹那の間に、一体どれほどの世界を詰め込まれ壊されたのだろう。崩れては蘇る“彼”の精神は、神秘の銀河を飛翔する。只人が触れれば発狂と覚醒、そして自壊を久遠に繰り返すソレを、何故か“彼”はものともせずに眺めていた。

 

 本来有り得るはずのないその場所にて漂う“滅びたはずの俗人”を形容するならば、凡庸ならざる狂気的な普通と言うのが相応しかろう。それ故、他者に共感し、悲しみ、嘆き、怒り、そして慈しむことができる才能を持っていた。ただ一点、自らが己へ向ける愛に不感であることを覗けば、凡庸であることができただろう。

 

 “凡庸ならざる普通”であることは、あらゆる価値観と繋がり、ひいてはその背後に控える世界との橋渡し役となり得る、稀有な力であった。現実世界で肉の器を失った“彼”は、その暗黒にして明瞭な天を漂いながら、荒れ狂う世界の光景を、穏やかな目で見つめていた。あらゆる世界の衆生の流れに、輝かしい暖かなものが映っている。

 

 

 

――――蒼穹に、白い翼が瞬く

 

 

 

 その世界は、かつての“彼”が見たことのある光景だった。少女たちと共に、騒々しくも清々しい青春を駆け抜けたヒーローの話だった。

 

 

 

――――無限の空に、縮退星の扉が開く

 

 

 

 その姿は、かつての“彼”が見たことのある悪辣なる者だった。宇宙において強大な力を持つが故に下等種と人間を侮り、そして正義を誓った英雄たちに討たれた侵略者の末路だった。

 

 幾つもの、幾億もの世界が身体の中を駆け抜けた。それは人が生み出した物語、そして人の手から解き放たれ、永劫に続いていく人知を超えた思いの力。“彼”は、それらの世界に思いを馳せ、敬服の意を示して笑みを溢す。

 

 其れは誰かが思い描いた夢。其れは誰かが乞い願った夢。其れは悲劇を変えた有り得ざる夢。其れは英雄譚を壊す悲愴なる夢。

 

 

 

――――其れは

 

――――其れは…

 

――――其れは……

 

――――其れは………

 

 

 

 不意に、風景が変わった。

 

 

 

――――蒼穹に、蛇が嗤う

 

 

 

 “彼”は“それ”を生前見たことがなかった。いいや、今後も(まみ)えることはないだろう。目の前にいるものは存在ではない。神、悪魔と簡単に言い繕えるような超常的な存在ですらない。

 “それ”は嗤いながら訪ねてきた。お前はあらゆるものの中間に位置する中庸なものだと。どうしてそうなったのだと。

 “彼”は答えた。わからないと。生前からこうなのだ、と。

 

 

 

――――蒼穹に、運命が嗤う

 

 

 

 “それ”は再び訪ねてきた。お前は“知性体から脱した心”という才を手に入れている。お前はその力をどう使う、と。

 “彼”は、答えなかった。“彼”には“それ”の思惑が分からない。存在が無くなっている自分に“それ”は何を望んでいるというのか。“彼”をどこに誘おうとしているのか。

 

 

 

――――蒼穹に、絶望と希望が溢れる

 

 

 

 “それ”は餞別だと言うかの如く、一つの箱を取り出し、“彼”に言った。お前は蒼穹の果てを目指すか、はたまた世界の礎を望むのか、と。そして、どちらにせよ、私は可能性をお前に示そう、とも付け加えた。

 

 “それ”と“彼”の間に浮かぶ、前世で見た小瓶と子供向けの玩具。しかし、周囲に散らばる無数の世界が破滅の箱の中に収束していく。紛い物が力を得ていく姿は、中々に滑稽であった。

 “彼”は呆れながらも“それ”に聞いた。何故これなのか、と。

 

 

 

――――蒼穹に、兎が天高く跳ぶ

 

 

 

 “それ”は嗤った。“それ”にとって“彼”が児戯の駒であることを知らせる声だった。そして見守るものとしての責務からか、淡泊で単純な理由を述べる。

 

 

 

 兎を喰らうのは蛇の仕業だと。

 

 

 

 不意に、あらゆる感覚が消え去った。“彼”は三千世界を刹那に押し流され、那由他の宇宙に沈められ、“それ”が選んだどこかの世界へと到達する――――。

 

 

 

 全ての世界の永劫回帰(ウロボロス)は、その男の行く先を見守り続けるだけ。“それ”にとっては程度の低い玩具を持たせ、星を滅ぼすか否かの行く末に何を得るのか、その可能性を微睡ながら待ち望む。

 “彼”は己を滅ぼし、世界を創るのか。はたまた、世界を滅ぼし、己を創るのか。己への愛なき怪物が鏡に映ったLOVEの文字を知る時、無限の成層圏はその天災の誕生を受け入れるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……――――、あ』

 

 そして其の星で、無限の成層圏を渡る縮退星の蛇が、永い眠りからようやく目醒める。




 もう何話か更新したいな……。

※2020/12/05内容の変更を行いました。


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プロローグ フェーズ2

???「プロローグフェーズ1にて、不思議な空間からどこぞの宇宙世界へと突き落とされた平凡な男。意味深なことを言われて目を開けてみれば……アレ、ここどこさ?え、えぇっと……とりあえずプロローグフェーズ2をどうぞ!」


―うむ!貴様は私の初めての友達だ!誇るが良いぞ、この■■の■■、■■■■■■から直々に言われているのだからな!―

 

―何?名前が無い?そうか……ならばつけてやろう!そうだな……我々の言葉で……『進化』という意味の■■■、でどうだ?……ん?……おぉ、そうかそうか!良し、ならば■■■、これからは名前で呼び合おうぞ!―

 

 ……………………長い夢を見ている様だった。

 

―■■■、今日も楽しい話を聞かせてくれんか?折角、宮を抜け出してきたのだ!つまらなくば不敬罪だぞ♪―

―勘弁しろよ■■、お前腐っても■■だろ?とっとと帰れ……おい止めろ、ココで泣くんじゃない!■■■■にバレたら俺死ぬじゃん!……………………だーっ、もう分かった分かった!お話しさせて頂きますよ■■■■■■様ぁ……―

―……そうか♪―

―泣きまねかよ!?そんな女の武器を大安売りするんじゃない!―

―……………………別に構わんよ……(見せるのは■■■だけだしな……)―

 

 

 ……………………幸せな夢を見ている様だった。

 

 だが………………………。

 

―済ま、ないの……■■、■……我は……ここで終わりのよう……だ……。もう……身体が、動かないのじゃ……。我と出会わなければ……お前はもっと幸せな生き方が出来たであろうはずなのにのぅ……本当に……済まんのぉ……………………―

―そんな訳があるか!これ以上の幸福は無いだろう!?俺はお前と出会えて本当に幸せだった……だから、■■。■■!■■■■■■‼お願いだ……っ、こんな別れ方って……………………ッ‼―

―……この星は、滅ぶ……だから……お前だけでも……我らの事を……心の奥に、留めて……くれ……………………約束だ、■■■。……なぁに、……大丈夫だ…………どれだけの時が経っても……例え忘れたとしても……お前と我……私は………………―

―ぉい……?おい……、おい!?嘘だろう!?■■!?■■ッ‼■ル■ー■■ゥゥゥゥッ‼―

 

 

「……ッ!?」

 

 酷い夢から目が覚めた。

 

『……ッだったんだ……今のヴィジョン……。っといけないいけない、ここ、一体どこなのかな……ッ!?』

 

 俺は自分の格好を見て驚く。両手には爪の様な鋭い意匠のグローブ、腕は赤と金のアンティーク調なパーツが付いた籠手、胸には天球儀型のエネルギー炉、肩に装備された金色の宇宙ゴマ……。

 

『エボル……フェーズワン……』

 

 ポツリとこぼれたその呟きは、奇しくも原作での仮面ライダーエボルが初めて口を開いた言葉と同じだった。

 

『え、えぇと、ひとまずここは……?』

 

 俺は周囲……砂漠の様な死の土地を眺め、赤い空を仰いだ。まず何よりも、ここがどこか知るのが先だな……。

 

『コレがエボルと同じものだったら……マスタープラニスフィアを起動できるはず……ってハァ!?』

 

 思わず頭部の星座早見表型の装置が示した座標にツッコんでしまう。プラニスフィア先生によると、ココは火星である。

 

 もう一度言おう。火星である

 

『ちょっと待ってよ、確かに仮面ライダーエボルだけどそこまで忠実にしちゃう!?まさか誰か火星に来ちゃうパターン!?そしたら俺憑依しなきゃいけないの!?そもそもこのアーマーの下って生身?それとも原作エボルトみたいに液体!?つーかアレ未知の物質だったっけェ!?』

 

 がーっ!っと思いっきり捲し立てる俺。うん、ちょっとパニクっているのを大声出して落ち着こうとしてるだけだから痛い人の目で見ないでくれ。

 

『……っはー。うん、落ち着いた……。それじゃ地球へ行くとするかな。流石に宇宙で過ごすのはしんどいし。確か……パンドラボックスに……』

 

 よっしゃラッキー!あったあったエボルトリガー!……ん?ちょっとぼろいな、何かぶつけたか……?それにエボルドライバーも傷だらけのボロボロだ……。クーリングオフ出来ます?

 

―■■■、征くぞ!―

―あぁ、任せろ。【オーバーザエボリューション!】―

 

『ッ……何だ……コレは?まだ寝ぼけているのか、俺……?』

 

 ノイズ交じりの記憶にない映像が頭の中を流れた……、が、しかし次の瞬間には何を見たのか忘れてしまった。

 

『……?ま、まぁ良いか。ポチッとな』

 

 俺はエボルトリガーのスイッチを押しベルトにセットした。

 

【オーバーザエボリューション!】

【コブラ!ライダーシステム!レボリューション!】

 

 その音声と共に俺はベルト右に付いたハンドルを回す。すると三つの歯車を模したフレームが周囲を回りだし、パンドラボックスの様なキューブが黒い竜巻に乗って飛び交う。

 

【Are you ready?】

 

『変身』

 

(おぉ、初『変身』言えた!)

 

 感動に浸っていると黒いキューブが俺を包むように柱状に集結し、空間に飲み込まれるように消え去る……。

 

【ブラックホール!】

 

 禍々しい音声が生命の無い星に響く。

 

【ブラックホール!】

 

 白い衝撃波が何もないところから生まれ、黒い立方体たちと共に俺の姿を再び出現させる……。

 

【ブラックホール!】

 

 先程の赤と金の派手派手しいフェーズワンと異なり、白と黒のシンプルな配色となった装甲が不気味な光沢を放つ……。

 

【レボリューション!フッハッハッハッハッハッハ!】

 

 俺は前に突き出していた手を、だらりと垂らした。ベルトの下から伸びる腰マント。星座早見表からブラックホールを模したものに変わった頭部のシグナル……仮面ライダーエボル・ブラックホールフォーム。仮面ライダービルドで最強最悪のラスボスの強化フォームであり、誰も彼も恐れるであろう姿になった俺は……。

 

『……っしゃあ!変身できたぁ‼』

 

 ……いつも通り平常運転でした。だって生前からダークライダーとかラスボスライダー風怪人好きだったし。ゲムデウスクロノスとかグレートアイザーとかゴルドドライブとかロードバロンとか……。デザインかっけぇよね‼

 

『それじゃ地球へレッツゴー。イッテイーヨ!』

 

 腰回りのマント、『EVOベクターローブ』の星間航行と重力操作を可能とする能力他、一跳び91.7mのジャンプ+胸の『カタストロフィリアクター』の戦闘能力を50倍にするブーストで宇宙空間にあっという間に到達した。

 

『さて……。宇宙キターーーーーーッ‼』

 

やっぱり宇宙ライダーといえばこれ言わなきゃダメだろ。フォーゼは言わずもがな、ゴーストもスペクターも斬月も言ってるんだから……。え……フィフティーン?さぁ、知らない子ですね……(すっとぼけ)。……おっ、アレが地球だな。

 

……………………アレちょっと待て。コレ、どうやって止まるんだ?

 

 

 その日、地球各地では、綺麗な流れ星が見えたという。だが、おかしなことに、地平線に消えてゆく流星から『我が魂は、ファウストと共にありぃぃぃぃぃ!(☆彡)』とか言う幻聴が聞こえたとか何とか。




 主人公が話しているかぎかっこは「」が普段の声、『』がエボルテックな声です。ドライバー音声とは別な声…。モーさんかな、顔似てるから(小並感)。

 ※2020/12/05 一部修正しました。


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プロローグ フェーズ3

???「前回、意外に愉快な性格をしてることが発覚した転生者カッコカリ。初手からブラックホールフォームへの変身を披露し火星から地球へと向かうことになったのだが……?ではフェーズ3を開始ぃぃぃぃぃぃぃぃィィィィィ……(ドップラー効果)」


 ……………………ひどい目に遭った。ケタロスることになるなんて。いやぁ、でも流石エボルだな。ブラックホールフォームで大気圏突入しても身体に一切熱とか感じなかったんだモノ《ビシッ》……ん?何だ今の音。何かが割れる様な……あ゛。

 

『うっそだろお前……何で石みたいになっちゃってんだよエボルトリガー!?』

 

 フェーズワンになった俺のエボルドライバーから強制的にはじき出される灰色になったアイテム。まさかさっきの大気圏突入で壊れたのか!?いや、それは無いだろ……こんな小型のデバイスでも一応未知の物質で出来ているんだからあれしきの衝撃で壊れる強度じゃない……。このベルトの持ち主になったからか何となくそれは分かった。

 

『うーむ……。この状態、テレビで見てた使用不可だった時のトリガーだよなぁ……。ってことはパンドラボックスとのシンクロに何らかの問題が……?』

 

 俺はそこに座り込み、パンドラボックスを開ける。スカイウォールは出さない様に慎重に慎重に……。

 

『……あっちゃあー、何本かの正規のフルボトルの成分が抜けちゃってるな……。ええと?成分はまだパンドラボックス内……パンドラパネルに吸収されている、と……。どうにかして回収する方法を見つけないと……。さてそれよりも、ここが何処か、ということだけれど……』

 

 何だけれども……。

 

『はぁ……、プラニスフィア先生よぉ……何を間違えてルクーゼンブルク公国に着陸するのかねぇ……』

 

 生前、自分はサブカルチャー産業を享受し、金回りをよくする活動をしていた。まぁつまりはオタクというやつである。ライダーヲタでラノベヲタとか、人様にあまり胸を張れなかった思い出があるが、……いやそれは脱線か。

 

 ともかく、ここがどんな世界か把握した。つーか、あのSAN値がおかしくなりそうな場所で真っ先に見た風景がここだったしな…。

 

 ここはハイスピード学園ラブコメ+SFバトルスポーツ要素の入り交じったライトノベル、インフィニット・ストラトスの世界であるらしい。

 

 ついでに言うと、ここはルクーゼンブルク公国。小説12巻でISコアの材料『時結晶(タイムクリスタル)』の産地として、さらに一夏ラヴァーズに入った王女様の出身地として名前が上がった国、それも森の中にいたのだった……。

 

『どーしたもんかね、この状況…』

 

 確かアプリゲーム『インフィニット・ストラトス―アーキタイプブレイカー―』の舞台が2022年だった……、公式外伝だったから年月も同じのはずだ。(まぁアニメ版と小説版は違うって言うけどね……)それを目安にすれば主人公ズが生まれる年は2006年度ということになる。そしてさらに世界最強と天災が生まれるのは1998年くらいだったか?それで、時間や場所を調べなきゃ……。

 

 それはともかく、流石にこのまま街の中に入るのは憚られるので一旦変身を解除しようとした俺だが……。

 

『いや待て、本当に身体が人の形をしていなかったらどうしよう……。傍らに憑依出来る動物か何かを置いておくか……』

 

 仮面ライダーエボルのまま森の中にいる動物を探す為に使う俺。すっごいシュール。そんなこんなで毛並みの良い猫を捕まえてから、意を決してベルトを外すと……。

 

―どろぉ……―

 

(やっぱりかよぉォォォォォ!?こんな所までエボルトチックにしなくていいのにぃ!)

 

 赤黒い煙(?)……液体(?)になった身体がフワフワと宙を移動する。それを見て警戒していた猫は毛を逆立てながら俺を威嚇する。そーだよな、成金チックの格好の人型からこんなん出てきたら俺だってびっくらこくわ。だが済まない、エボルトと違い擬態が出来そうもない俺は肉体が必要なのだ、トゥッ!

 

(……、よし、憑依成功だ。このまま街まで散策に行くとしよう……と言うかイマジンとかの十八番の憑依だけど、動物に憑依した怪人っていたっけな……うっ、情けない……。はぁ……、本家エボルトに知られたら……。いや、ねーな。あっちベルさんとの戦闘で死にかけて滅茶苦茶弱体化してて俺のこと笑える立場じゃねぇし)

 

 

 

 

 

(この国の公用語、読めてよかった……生前言語学ちゃんと学んでおいてホントよかったわ。何々……オレンジスカッシュにバナナオーレ……メロンエナジースパーキング……?それにヨモツヘグリ……っておい、見間違いか!?止めておけそれ出すの‼)

 

 そんなふうに昼下がりの商店街をブラブラする黒猫の俺。ま、蚤の市みたいなところだから猫がいても違和感はない。やったね。お、アレは……カレンダーだ!何々……27.09.1994と……。

 

 ……えぇ!?1994年!?原作開始前かよ‼ヒロインキャラの誰すらも生まれていないよなコレ?辛うじているのスコールとオータムぐらいじゃないか。

 ならやることが全くない。はぁ、仕方がない、この国に来たのも何かの縁だ……、タイムクリスタルを幾らか頂戴していこう……。さて、それなら……洞窟は何処なのかな?

 

 

 

(フム……。ありがとうな猫ちゃん)

 

 町から離れたところで俺は憑依元となった黒猫から離反する。そして赤黒い流動体の状態のまま『EVライドビルダー』の展開を省略して仮面ライダーエボルになった。……略せるんだ、変身シークエンス……。

 

『さてさて、天災兎が時結晶を知る前に少し、細工でもしておくかな……。ま、それよりもまず地下の鉱脈を調べるには、っと……』

 

 俺はパンドラボックスからいくつかのボトルを取り出し吟味を始めた。

 

『扇風機……、確かエボルドライバーに読み込ませるとファン、だったな……いや、だが穴掘りっていうのは効率が悪い。ドッグ……どっちかって言うと嗅覚強化だからタイムクリスタルの匂いを知らない俺には無理か……。……お、これならいいか?』

 

 さて、諸君らはカローラ・スパイダーという蜘蛛をご存じだろうか。エンマグモ科に属するそれは、自分の巣穴の周りに水晶を設置して、石に触れた得物を振動で感知して襲うという特徴を持っている。それを俺は応用し、時結晶の振動をスパイダーフルボトルで感知して鉱脈を見つけることにした。

 

【蜘蛛!ライダーシステム!】

【クリエーション!】

【Ready go!】

【蜘蛛!フィニッシュ!チャーオゥ!】

 

 その音声と共に俺は地面に手の平をつけると、その手を中心に紫電が蜘蛛の巣状に広がりだし、意識のみがこの国の地下へと侵入していく。俺はこの国の地脈と繋がったのが分かる……、振動を捉える感覚が冴えわたる。そしていくらの時間が経ったのか、俺と時結晶の間にリンクが繋がった。

 

『……成程。コレがタイムクリスタル、か。意志を持つ石とは知ってはいたが……。全く……』

【【【■■■■■■■■■■■■ッッ!?■■■■■■ッ‼】】】

『うるせぇな……。ちょっと黙ってろ‼』

 

 効くかどうか分からなかったがリンクが繋がっている状態で無機物生命体に効く毒諸々をテレポートで送り込む。

 

【【【ッ!?】】】

 

 お、どうやら効いたみたいだ。ラッキー。

 

『さて、んじゃ、サンプルを幾らかいただいていきますか。ちょっと待ってろよ。用が済んだら毒抜いてやるから』

 

 そうして俺はテレポートし、神秘的な洞窟に現れる。おぉ、これは……綺麗だ。まるで“あいつ(・・・)”と見た星空みたいな……………………ん?待て、あいつって……誰だ?

 

 

……まぁ良いか……。それじゃ、解毒してっと。

 

『それじゃあ……………………今日の所は……これと、これと……。一応もう一つ貰っとこうか。それじゃ、今度はISとなって会おうじゃないか。今日はこれまでだ、それじゃあ、Ciao♪』

 

 地面に転がっている結晶を弄ぶように拾い上げ、お手玉をしながら俺は洞窟内を後にした……。

 




 初っ端から壊れたエボルトリガー。まぁ仕方ないよね。テレビでも最終局面に出てきたし……。あと主人公の行動に他意はありません……主人公には。

※2021/01/07
 一部修正


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プロローグ フェーズ4

???「えー、インフィニット・ストラトスと思しき世界にやって来たハートフルな仮面ライダーエボル。そう、ハテナハテナハテナと書かれてますが俺こそ初っ端から小細工をやらかしたわたくしです。……ってかまだ名前ねぇの?エボルトじゃないのか俺?」
???「さぁ?自分から名乗ればいいんじゃないの?」
???「ところでこのボックス貰って良い?」
???「お、ちょ……アンタら待って!プロローグ最終フェーズ、どうぞ!」


 さて、ここで仮面ライダーエボルについて説明しておこう。これは平成ライダーシリーズ19代目の主人公、『仮面ライダービルド』に登場する仮面ライダーだ。しかし仮面ライダーと入っているもののその実態は『エボルト』と言う地球外生命体が使用する怪人用パワードスーツの様な位置付けである。強い力によって『人間を守る』防衛システムとして設計された『ビルド』と違い、対象を攻略、撲滅する能力に重点を置いている。

 そして地球にやって来る時に見せた姿がブラックホールフォーム。仮面ライダーエボルの完全体であり、テレポートや“ある能力”を利用した攻撃などで大概の世界で強キャラとタメを張れるだろう力を持っている……が、しかし。今の俺の状況は……主人公風に言うならば『さいっあくだ』。

 

『ヤバい……フェーズワンになったとはいえコレは弱体化しすぎている……。それにさっきからドライバーの調子が拙い……』

 

 周囲の風景がスクリーンに投影された映像の早回しの様に過ぎ去って行くが、さっきからノイズの様な波が現れだし、徐々にスピードがおちていっているのが分かる。

 

仕方ないと思った俺は高速移動を一旦やめ、どこかの国の大地に降り立つ……。どうやら紛争地帯のようだな……。こんな所にいたらヤバイ……と考えた瞬間、それを狙ったかの様にドライバーから激しい火花が飛び散った。

 

『……っ‼ガァァッ!?』

 

 ドライバーが真っ二つになり、変身が解除されアメーバの様な……不完全な姿になってしまった。やばいやばいやばい!ドライバーが無いから人の形もとれない!ドライバーの修復にも俺じゃ無理だ……だが天才科学者が……こんな辺鄙な紛争地域にいるわけが……。

 

「……うん?こりゃ何だ?アメーバ……?」

「……違う、四季。コレは……地球上の物質ではない……スペクトル解析でも分析が不能だ」

 

 いたわ。この国には不釣り合いな服装をした二人の若い女が目の前に!だけども、どうやってコミュニケーションとればいいのかね?

 

(……何だ、お前等は……?)

 

「「!?」」

 

 おぉ?出来たわ。某スペースオペラのヨー〇とかダー〇ベイダーっぽくコズミックなフォースを思い描いただけなんだけどね。

 

「こりゃ……念話ってやつか?ハハッ、いよいよSFみたいになってきたね?」

「私たちは科学者だ……お前は何だ?」

 

 うーん?名前か……?この情けない姿で生前の本名言ってもなぁ……って気がするし……。

 

(俺は…………そうだな、エボルト、と言わせてもらおう。君達の言う別の地からやってきた知的生命体だ。そうだな……ちょうどいい、コレ、直してくれないか?)

 

 そうテレパシーで伝え、彼女らの足元にあったドライバーを指す。

 

「……?コレ?随分と派手なコーヒーミルだな……?」

(それはエボルドライバー。俺の身体を創るものだ)

 

「へぇ……?でもこれだけじゃないでしょ?」

(ご明察。ここにボトルを入れないとなんだが……ん?おい、ちょっと待て、何勝手に触ってるんだ‼)

「え?」

 

 近くに落ちていたパンドラボックスを女科学者の一人が不用意に触ってしまった……。するとその箱から光が放たれ始め……。

 

 

(……ん?俺は何ともない……まぁそれもそうか?この箱の持ち主は俺なんだし……。おい、お前たち、大丈夫か?)

 

「……」

「ふ、フフフフ……。もぉんだいないわぁ」

 

 あれ?黒歴史発生中?コレ……ヤバくね?

 

「で?貴方に協力しろってぇ?……ん~。どうしようかしらぁ?」

 

 まずいな……うん、マズい。二人ともヒゲホテルよりヤバイ面構えになっちゃってるし!

 

(おい、ちょっとストップ、お前等一旦落ち着いてくれ?いや落ち着いてくださいお願いですから……このままだと貴女達の所為で世界が滅びるかもしれないんですよ!…………っ!?)

 

 あっぶなぁ!?注射器!?いやゴメンて!内海ィ~♡の真似したのは謝るからさぁ!?

 

「あぁ~、避けないでよ……。折角人間を超える遺伝子が手に入るところだったのにさぁ?」

(いやいや、俺の遺伝子欲しがってどういうつもりだ!?)

「決まってる……、私の娘、息子たちが……人間を超えるためだァァァァァァァァッ‼アーッハッハッハッハハハハァッ‼」

 

 うっわこいつヤベー、マジヤベー。

 

(くッ、ちょっ、ぬおぉぉぉっ!?)

「ちっ、すばっしっこ~い…………」

 

 待て待て!こいつほんとに人間か!?今の俺、スライムボディだけど人間以上のスペックなんだよ?小規模のテレポートをして、何で出現位置が分かるんですかねぇ!?

 

「てぇん↑さい↓ですからァ!」

(心を読むな……ぐぉッ!?)

 

 やっべぇ、一部取られた!

 

(クソッ、ここは……逃げさせてもらうっ!あーばよぉ、とっつぁ~ん!)

 

 そう言い残すと俺はパンドラボックスに触れ、その場から赤い残像を残して尻尾を巻いて逃げだしたのだった。それ故に、仕方なくエボルトリガー付のエボルドライバーは諦め、あの科学者連中に献上することになっちゃった。何?カッコ悪い?生憎俺に強キャラ感を求められてもなぁ……締める所は締めるけどさ。

 

 

(にしたって……はぁ、どうすっかね……こんなドンパチやってる国で体を得るのは……最悪死体に乗り移るか……?原作開始まで大分あるし、テレポートも長距離の移動は出来なくなった……手詰まり、か?)

 

 弾丸飛び交う廃墟で溜息を吐くスライム。アレ…?何だか……急に……眠く……?

 

 

 

「ちぇっ、逃げられちゃった……ん?どうしたの?」

「四季、これ見て。さっきのアメーバが持っていった箱の側面…………」

「ふーん…………。何かめぼしいものでも?そういった分野は専門外だから君に任せるよ…………、葛城忍(・・・)

 

 その言葉を聞いた彼女は、新しい玩具を貰った子供の様に、無邪気に微笑むのだった…………。

 

プロローグ 終了




 プロローグでエボルドライバーとエボルトリガーぶっ壊れたうえ無くしちゃった主人公。うーん、不遇。

※2020/12/05
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原作開始前
第一話 『レボリューションな奴ら』


???「えー、未だ名前が開示されてないエボルの変身者でごぜーやす」
蒼穹「そして今話から登場する義理の母です。今後とも不肖の義息ではございますが、可愛がってやってくださいませ」
千冬「おっと、原作キャラ最初の登場が私か。ふふ、ありがたいな。今後ともよろしくお願いする。では、第一話、どうぞ」
???「あれェ?なんで主人公よりも先に二人の名前が開示されてんの!?」


 部屋に香ばしいコーヒーの匂いが広がる。カーテンから昇った朝日が不規則な影を落としているが、俺は喉元にぴりつく気配を感じて飛び起きた。

 

「やぁ寝坊助。中坊になってもまだ地の果てにいた時の習慣のままなのね?」

「…………義母さん、おはよう。そういうアンタこそ息子に殺気突きつけて起こす必要があるのか?」

 

 俺の目の前には年若い、だが少女とは言い難い女性がニヤニヤ笑って立っていた。彼女は石動蒼穹。蒼穹と書いて「ソラ」と読むと知った時はソレなんてキラキラネーム?って思ってしまった。厄ネタでしかない俺をある場所から引っ張り上げ、日本に連れて帰ってきた変人だ。因みに今の俺は、昔あの地にいた死にかけていた日系人の身体を乗っ取っており、自我も上書きして完全に自分の肉体を手に入れることが出来た。

 

「それより義母さん。カフェは良いのか?開店は日曜九時からだろ。俺、休日は一時まで寝て……オイまさか。待って、今何時?」

「ハイ正解♪今日も手伝ってね?貴方はメイド服着てるだけでいいから♪」

「義母さん、もう二度と着ないって言ったよな!?俺男だっつのに‼ナニ俺ヘンゼルとグレーテル!?イタリアかどこかでそんな奴らに会ったけど‼」

 

 クソッ、俺が早起きするのは良い、店の手伝いをするのも許容範囲だ……だが女装は嫌だ……嫌なんですけどぉぉぉぉぉっ‼

 

 

 

「惣君、手が空いているならピアノか何か、演奏してくれないかしら?」

 

 十二時を回った辺りで義母さんから声がかかる。因みにこの体、元から才能マンだったのかそれともエボルテックな力が働いてるのか分からないが、一回見れば理解することが出来るスペックを持つ。それが前世の記憶であっても再現が可能だということで俺は仮面ライダーの映画、Vシネの曲をメドレーで弾くことにした。デスティネーション、ターイム!コレがお客には好評らしく「将来は音楽家だね」とか言われている……。流石にそれは無いな、俺が好きだった仮面ライダーの曲をあたかも作曲した態で発表するのは罪悪感があるし……。

 

 あぁそうそう。この姿では名乗っていなかったな。始めまして皆さん。仮面ライダーエボル改め、多少のコズミックな力を持つ、ごく普通な中学生“石動惣万”と申します。今後とも、どうかよろしくね?

 

 

 そんなこんなで閉店時間になろうかという午後。

 

「……あ、いらっしゃいませ……げ」

「げ、は無いだろう惣万。毎週顔を突き合わせているんだ、何を嫌がる必要がある」

「……そりゃあ、こんなメイド服を見せたくないのが第一ですよ、千冬……」

 

 カフェnascitaにこの日最後のお客様が来店した。俺が案内する席に着いた切れ長の目の美少女にして俺のクラスメイト……そして将来の世界最強。織斑千冬がやってきた。

 

 

「あら千冬ちゃん、やっと来たのね。遅かったわね」

「お邪魔してます蒼穹さん。今日は道場に行っていた時間が長かったものですから……。しかし毎回お邪魔していますが、良いのですか?営業時間外で料理を振る舞って頂くのは……」

「気にしないで~。貴女達の事をほっとけるほど落ちぶれちゃいないからね~……っと、惣君、これをテーブルまで運んで貰えるかしら?」

「はーい……さて、お待たせしました千冬。ビーフシチューとリゾットです……」

「さてさて、それじゃ惣君も席に着いて!暖かいうちに食べちゃいましょう♪」

「いや、俺はその前に着替えをですね……」

「「いただきま(~)す」」

「アッ、無視ですかそうですか……」

 

 俺をほっといて食事を開始する二人。目の前で笑顔を浮かべシチューを啜る同級生を見て俺の休日は終わるのだった……。

 




 短かったかな?まぁ日常回なので…………。(目逸らし)

※2020/12/05
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第二話 『織斑さん家へゴーストレイト』

惣万「カフェの義理の息子として毎日を過ごしている石動惣万。滅茶苦茶勇ましい女の親友と飯食ったりしています、以上」
兎耳カチューシャ「死ねっ!」
惣万「ふんっ!(HIT!『んぐぶっ!』)……ふぅ。それでは第二話、どうぞ」
千冬「お、いつもすまんな。これ回収しておくぞ……さぁ立つんだ」
兎耳カチューシャ「ちーちゃん酷くない!?それと女顔銀髪てめぇふざけんなよ!なんでお前学校の机に催涙トラップ入れてんだよ!しかもこっち細胞レベルでオーバースペックのに涙止まらなくなったんだけど!?」
惣万「毒の調合は得意なんだ。つーか嫌がらせのレベルが低いんだよ、なんだお前、量子化して出現するトラバサミ入れてきやがって」
千冬「……お前そんなことしたのか」
兎耳カチューシャ「え……ちょ、千冬さん?つーかなんだよ名前出てねぇじゃんぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 ある日の事……。

 

「なぁ惣万、私の家に遊びに来ないか?」

「へ?」

 

 カフェnascitaでピアノを弾いていると偶然道場が休みだった千冬に誘われたのだ。

 

「あら良いじゃない、惣君、友達の家に行くなんて初めてじゃない?私のことは良いから行ってらっしゃい」

「え、いやいや……俺だって友達くら、い……いる、よ……?」

 

 アレ?いたっけ?いたよな……キングクリムゾンでカットしただけで小学生の頃にはちゃんとした友人が…………。

 

「……いなかったわ……」

「「あー……。ドンマイ……」」

 

 母と同級生からの憐みの視線が痛かったです……。

 

 

「へー、いい家住んでるんだな……」

「む、まぁな……。親がいないが何とか金をやりくりしている」

 

 因みに千冬は似た境遇の俺に気兼ねなく自分の苦労話を吐露してくることが多い。それが縁でカフェにやって来るようになったと言っても過言ではない。会話が途切れそうになったので社交辞令として弟の事を聞いてみた。

 

「そう言えば聞いてなかったが、兄弟はいるのか?」

「む、あぁ。お前には言っていなかったな。いるぞ、六つ下に弟と従弟が。あぁ、しかし最近従弟が我儘で言うことを聞かなくて困る……」

「え?」

「ん?どうかしたのか?」

 

 いや、何でも無い、と答えて俺は動揺を隠す。……ISの世界の織斑千冬の家族は一夏(+妹?のマドカ)だけのはずだ。まさかバタフライエフェクトか……。あり得るな……、エボルの状態で過去かなり動いてしまったのだから、新しい血族が出来てしまっていても不思議ではない。

 

 

――――若しくは、千冬は知らないだろうアレ(・・)のことである。昔、俺が■したはずなんだが……、まさか。

 

 

「今帰ったぞ、一夏(いちか)節無(せつな)!」

「あ、おかえりなさいちーねぇ。」

「姉さんお帰り……ん?」

 

 密かに思案する俺を連れて家の中に入っていく千冬。俺もそれに従って靴を脱ぎ家に上がる。そして目に映ったのは二人の園児の姿だった。

 

「あぁ、一夏に節無。こいつは私の友人で石動惣万という。ホラ、家の近くにお洒落なカフェがあるだろう?そこに住んでいる私の同級生だ」

「おいっす、“いちか”に“せつな”ね~。よろしくな。惣万でもそーにぃでも好きに呼んでくれ」

「うんっ!そーにぃ!」

「……宜しくお願い致します」

 

 一夏は原作らしく人懐っこいな……。にしてもこの節無ってヤツ……この年でかなり流ちょうな丁寧語が使えてやがる……。しかもこいつの目……気に入らねぇ、仮面ライダーで言う所の“草加雅人”とか“黒ミッチ”に似てるんだよなぁ。こりゃぁ……俺の予想が当たっちまったかな……?

 

「そうだ、惣万。少しこいつらと遊んでやってくれ。私は夕食の準備をする」

「は?ちょい待ち。俺流石にそこまで世話になるわけにゃ……」

「蒼穹さんは泊ってきても良いと言っていたぞ?」

「あの女狐親め……。わーったよ。流石に泊まりゃしないが、ごちになります」

「宜しい。待ってろ」

 

 そう言ってキッチンに入っていく千冬。さて、それじゃ俺は……。

 

「それじゃ一夏に節無。何がしたい?」

「んーっとね~……」

「僕は結構です。一夏と遊んでてください」

 

 そう言って二階へ去って行く節無。

 

「お、そうか?それじゃー、一夏、俺と遊ぶぞ~」

 

 

 数分後……。

 

 

「腕振りなさ~い振りなさい!早くしなさい飛びなさい!」

「ご飯できだぞー……って何してるんだ?」

「「193〇イズ」」

「は?」

 

 俺は仮面ライダーキバの妖怪ボタンむしり考案のストレッチをしていた。いやぁ、しかし一夏が753役って違和感だなぁ。一夏は……ライダーシリーズで言う所の龍騎とか鎧武とかの主人公か…………。千冬?貴虎ニーサンに決まってるだろうがァ!

 

「それじゃ一夏。ご飯を食べようか」

「うんっ、そーにぃ!」

 

 しかし俺は忘れていた……料理をしたのが原作でも二次創作でも、ずぼらで有名な千冬だったということに。

 

「あっ辛ッ!?カッラァっ!?ちょ、千冬これ何入れた!?」

「ちーねぇ……これ凄く苦い……」

「……(酸っぺぇ……)」

「お、おかしい……。ちゃんと野菜を切って砂糖と塩を入れたのに……。何でこうまで甘いんだ……」

「そこからのレベルかよ!?お前ソレ天の道を往く料理人の前で言ったら豆腐が飛んでくるからな!?」

 

 千冬の手料理に全員悶絶していると、ショタ一夏が俺を見てからポツリと言った。

 

「……ちーねぇ。そーにぃから料理おそわったら?」

「「……ソレだ!」」

 

 

 そんなこんなで数か月……。

 

「おい待て!パスタ茹でるのに塩を入れろとは言ったけどそれ砂糖だからね!?色で間違えるんだったら買うの黒砂糖にしろよ!」

「うっ……すまん……」

「人参とかの根野菜は火が通りにくいから最初に入れるんだ……。はい待って、自分の手切る気かよ。家庭科で猫の手って教わんなかったか?」

「……ぅ、ゴメン……」

「畳んだ衣類はタンスの中に仕切りを設けると楽に片付けられるぞ……って雪崩ェッ!?わぁぁぁぁぁっ!?……オイ。コレを片づけたとは言わねぇよ千冬ゥ……」

「……ごめんなさい」

 

 あれからなぜか俺がハウスキーパーみたいになってるんだけど。それと千冬、お前は学習能力高いはずなのに料理知識とかが無いからプラマイゼロだ……。そんなんじゃ残念姉さん、略して残姉になんぞ。やる気に満ちていた目は次第に死んだような魚の目になり今にも部屋の角に行ってイジイジしそうな雰囲気を纏っている。

 

「はぁ……ったく。こんなんじゃお前、嫁の貰い手つかねーぞ?まぁこの男女平等な世の中でバリバリのキャリアウーマンと専業主夫って夫婦も珍しくないけどさ?一通りの料理ぐらいは出来ておけよ。子供の頃からインスタントだけで食いつないでたら死ぬぞ、病気で」

「……そーにぃ、もうやめてあげて?ちーねぇのらいふはぜろだよ?」

 

 そんな一夏の言葉で俺は千冬の方に顔を向けると、ほんとに膝を抱えて壁に頭をこつんこつんと一定間隔でぶつけていた。……うん、何かゴメン。

 

「さてと、いじけてる残姉は放っておくか、それじゃ一夏、節無を呼んできてくれ。俺は料理を運んでおくから」

「はーい、きょうのでなーは?」

「ディナーね、今日はすごいぞ~?カフェで新鮮なタコが余ったから義母さんから一匹分けてもらってな。バジルと一緒に冷製パスタにしてみた」

 

(因みに俺は原作エボルトの様にタコやパスタが苦手でも淹れるコーヒーが不味くもありません。ウォシュレット?……それは、ちょっと……昔思い出しちゃって……)

 

 おっと、それはともかく。

 

―じゃんじゃじゃーん‼(超人気カフェの息子クオリティ)―

 

「……(ぼーぜん)」

「ん、どうした?」

「そーにぃ……いえ、ししょー!ぼくにもりょーりおしえてくださいっ!」

 

 え゛……ここで一夏の料理好きが覚醒すんのか?まぁ教えてやるか、一夏、原作でも料理上手で通っていたし。それにしたって、弟みたいで可愛いな。

 

 そんなこんなで一夏と約束を結び、千冬たちに夕食を御馳走してあげました(その時に何故かまた千冬は涙目になっていたが……何でだろ?「負けた、負けた」、とか言ってたな……?)

 

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

 三人で挨拶をして食器を片付ける俺。隣では千冬がぎこちなく皿を拭いている。

 

「すまないな、節無は別の場所で友達と食事をとっていたらしく……惣万と顔を合わせたくないというわけでは無いと思うぞ?だから、嫌いにならないでやってくれ」

「ん、大丈夫だ。彼にも彼なりの付き合いってもんがあるんだろ」

 

 まぁむしろアレだった場合、面と向かって話し合いたくないと言うのが本音だが。

 

「そうか……そう言ってもらえると嬉しい、……、それを抜きにしてもお前には感謝しているんだ」

「何?」

「お前が来てくれてから一夏も退屈せずに毎日を過ごしている。最近ではお前が来る前日は大変だぞ?ワクワクして眠れないほどだ」

「遠足前夜の小学生かよ……。それに、大したことはしちゃいない。似た境遇の同級生の頼みだ。“抱えきれる”と思ったから手を伸ばした。そんだけだ」

「お前にとって“それだけ”でも。それで私は救われたんだ。一夏の笑顔を見れて、“こんな私でも”幸せを感じられている……あいつのためなら私は何だってできるだろうな。それに、お前が気兼ねなく相談できる親友だからだろうか、他人の気がしないんだよ」

 

 親友、ね……。本当に俺で良いのかよ。言っていないが、人間じゃない俺に信頼を寄せるなんて……。

 

「だから、言わせてくれ……惣万、本当にありがとう」

 

 こちらに混じりっ気無しの笑みを向けてくる千冬。その純粋な笑顔は俺にとって眩しすぎて、それでいて魅力的過ぎて。

 

「……」

「ん?明後日の方向を見てどうした。……あ、まだ洗ってない皿があったな。今回は私が洗ってやろう。見ててくれ」

 

 ガチャガチャ音を立てて皿を危なっかしくスポンジで擦る彼女の横顔をそっと眺める。

 

―……本当に、それだけだ。コレは、自分のためなんだ……。それを勘違いしてもらっては困るんだがなぁ……―

 

 平静を保てなくなった俺は皿洗いが終わるとキッチンを足早に去る。口からは、そんな憂いに満ちた言葉が零れ落ちていた……。

 




 千冬が可愛い…………何故だ。ナヅェダ(オンドゥル語)!

※2020/12/18
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第三話 『力のボーダーライン』

惣万「さぁ、前回のお話は?」
一夏「どーもはじめましてー。で、ちふゆねえこれなにー?」
千冬「これはな、本文とは関係ないあらすじだ。小話とか最近の出来事とか色々言って良い所なんだぞー?」
惣万「と言う訳で本編一夏が初登場でした。このころから料理好きの兆しが見えてるってすげぇな……某運命のエロゲ主人公といい、ラノベ界隈で料理男子は基本なのかね」
千冬「……(『一夏の前で情緒教育に相応しくない言葉は使わないでくれるか?』という目)」
惣万「おっと、ゴメン。でも慣れさせておいた方が良いと思う……(原作一夏を見ながら)」
一夏「あ、さいきんあったことといえばねー、ちふゆねえとそうまにいのかいだしふうけいみてたしょうてんがいのにーちゃんが、おしどりふうふみたいだねぇっていってたー!」
千冬・惣万「「ふぁっ!?」」


「そうだ、惣万。前、道場に弁当を届けてくれたことがあっただろう」

「んぁ、あったなぁ。それがどうした?」

 

 只今俺達は中学校にて学生の本分の勉学にハゲンデイル(棒読み)……。いや、正直に言おう。二回目の中学校生活だから滅茶苦茶ダルい。まぁ成績は前世でも優秀の部類に入っていたから、教科書一回見れば大体分かるようになっていた。ディケ〇ドかよ……、門矢さんには負けるけどさ。隣の席の千冬はいつも睡眠不足か何かでうつらうつらしてるけど学年上位三名に入る実力の持ち主だからお目こぼしされているし、教室のド真ん前で設計図やらをコチャコチャ書いている天災ウサ耳女もいるからこの教室真面目に授業を受けるには向いてないな……。あ、先生涙目……。

 

「その時師匠がお前のことを見てな……なんでも“放つ雰囲気が只者ではない”と言っていた。それで興味を覚えたらしく、機会があったら道場に来て欲しい、と……」

「……それは手合わせ、と言うモノか?」

「……恐らく。しかしそうだな……。惣万が入門してくれるなら、面白くなりそうだ、とは私も思うぞ」

 

 ……え……。誰コレ。視線を逸らせつつ頬を桃色に染める美少女。……誰コレェ!?二次創作でアンチ対象になりやすいチッピーは一体何処に行ったのか(某仮面ドライバー予告感)!いつ俺がフラグ建てた!?えーっと……『中学以前から交流がある』『親公認の仲で飯奢ってやっている』『ハウスキーパー&保父さんモドキでちょくちょく家にお邪魔して部屋の掃除と飯作る』……結構あったな!?……でも色気もクソもねーなコレ。餌付けしてるだけじゃね……?

 

「あー、わーった。分かったよ。いつ行けばいい?何なら今日行ってもいいぞ」

「……そうか。なら学校が終わったら迎えに行く。そうしたら一緒に来てくれ」

 

 ぱぁッ、と華やぐ笑顔を浮かべて俺を見てくる千冬。……うん、笑顔浮かべてればもっと印象が良くなるのにな……」

「っ!?」

 

 何を驚いてるんだか?それにしてもオイ、黒板前の兎、そんな殺気立つんじゃねえよ。こっち見んな、目が怖いぞ。

 

 

 

 キングクリムゾン!夕方です。家に迎えに来た千冬と、何故か一夏まで一緒に篠ノ之神社に向かっていた。

 

「さて、毎回思うが篠ノ之神社って階段長いよな。バテない?」

「何だ、このくらいで音を上げるのか。意外に体力ないんだな?」

「へっ、悪かったなぁ。鉄パイプより重いもの持ったこと無いもんで」

「…。何で鉄パイプ?」

「ん?暴漢対策。ほらぁ、俺こんなナリしてるじゃない?俺を女と勘違いしたヤンキーとかホモォ、な趣味のオジサンとかが夜襲い掛かって来ることが多々あってな。夜外出する時にカラカラ引き摺って持ち歩いてんの。ココかァ、祭りの場所はァ……とか言いながらな」

 

 あぁ、説明してなかったけど、俺の外見は所謂男の娘ってやつなんだよなぁ……。え、何?予想出来てた?まぁそうか、第一話であんな事ありゃ……。

 

「あ、あぁ……?そうか……そうなの、か?」

 

 千冬は困惑気味だな……。コブラのミラーライダーの真似だよ。ま、何故かこの世界、石ノ森作品が無いからネタ通じないのが痛いんだよね。つかコレはホントに痛すぎる。生前の俺の楽しみ、仮面ライダーを見ること位だったんだぜ?日本に来てニチアサつけた時は泣きそうだった。

 

「この時間ならば先生は道場にいるはずだ。ホラ行くぞ」

「はーい……」

 

 

 

 

 

 

 はぁ、目の前には現時点での人類最強候補が一人、篠ノ之柳韻が立っていた。はぁあ……ヤダヤダ。

 

「フム、君が石動惣万か……」

「はい、初めまして。こちらは全く剣の道のケの字も知らない人間ですが……何故私が千冬の剣の師匠に呼ばれたのですか?」

「……何。君の太刀筋を見てみたくなっただけ、と言ったらどうかな?」

「はぁ……」

「あぁ、これは剣道の試合ではないのでな。好きな戦い方でかかってきたまえ」

「成程……。では防具は結構です」

「な!?」

「ほう……」

 

 千冬が素っ頓狂な声を上げたのが聞こえた。どうせつけたって俺の格闘スタイルには合わないからな。そして幼少期の様に竹刀を逆手に持つ。身体はだらり、と自然体に力を抜く。パッと見て不真面目さより不気味さを放つ、そんな構えをとった。そしてひと呼吸おいてから、篠ノ之柳韻と向かい合った。

 

「では……はじめ!」

 

 

 その言葉と共に、篠ノ之柳韻が剣気を纏って一撃を加えてきた……。

 

 

 あぁ……、拙い。また、あの場所を思い出す。硝煙と悲鳴が漂うアノ場所が……。

 そこで俺の意識は暗転した……。

 

 

千冬side

 

 私は今、目の前で起きていることが信じられない……。今の今まで惣万のことは家庭的で優しい男だと思っていた。だから一夏も連れてきて私が振るう剣の道がどういうモノかを見てもらいらかった。だが、何だこれは……?

 

「……」

「っ……くっ!……惣万君……。君は……一体……?」

 

 惣万が振るう剣はどう考えても自分を高め、己に克つ様なモノじゃない。いや、寧ろ自分をどんなことをしても守り、外敵を殺す力……と言った方が正しく見えてしまう。何より今までの朗らかな印象の顔が死人のように青白い。

 

「……」

「……っ!?」

 

 目が合った。声をかけようとした。だが私の喉から声が出る事はなかった。隣で一夏がひッ、と息をのむのが聞こえる。仕方がないと思う……彼の目は今何も映ってないと思えるほど気味悪く濁っていたのだから。

 

 

 突然、惣万が動いた。身を低くして先生に突っ込んでゆく。だが惣万、それでは悪手だ。

 

「ッ……面ンンンッ‼」

 

 あぁ、決まったと思い私は安心した……安心してしまった。

惣万のあんな……見たくない姿を晒すのがコレで終わる……。そんな自分本位の考えで惣万の一面を否定してしまったと気付き、罪悪感に苛まれたのはすぐだった。思わず胸が痛くなり、目線を逸らしてしまう……。まだ試合が終わっていないというのに。

 

「な……?」

「え……」

 

 すぐだった。目線の先にいた一夏がポカンと口を開け、私の耳に驚きの言葉が飛び込んで来たのは。そして私は目線を戻すと……。

 

 

 スライディングしながら先生の足を強打しようとする惣万が見えた。しかし先生も素早くすり足で避ける……だが、間髪いれずに蛇の様に地を這い、何度も何度も執拗に竹刀を振るう。たまらず一歩後ろに下がる先生と、試合を始めた時、立っていた場所に戻る惣万。

 

(これで決めるのか……だが、惣万……。お前、一体……?)

 

 そう私が思った瞬間、惣万は信じられない行動に出る…………竹刀を先生に……。

 

「投げた……!?」

「む!?」

 

 思わず先生は竹刀を弾き飛ばす、が……。

 

「え!?」

 

 思わず声を上げる一夏。先生が弾いた彼の竹刀は、狙いすましたかのように回り込んでいた惣万の手の中に納まっていた。

 

「くっ……!」

「……」

 

 懐に入り込んだ惣万と上段に竹刀を振りかぶった先生が視線を交わし……そして……。

 

―ドンッ!―

 

「ッしまった!」

 

 二人の竹刀が交差する一瞬、先生の一撃が先に惣万の胴に綺麗に入り、惣万は道場の外まで一直線に吹き飛ばされたのだった……。




 戦闘描写ムズイ!?皆さんよく書けるな!?私この低クオリティで一時間くらいかかったんだけど!?

※2020/12/05
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第四話 『メモリーを語り始める』

惣万「気絶しました!以上!」
千冬「おい!もっと言え!というか何だあの格闘技術……」
一夏「りゅーいんさん?そーまにぃってそんなにつよいの?だいどころじゃむてきだけど」
柳韻「皆様初めまして、篠ノ之柳韻です。そうだねぇ一夏君、女性は家庭の留守を守る時すさまじく強かなんだよ……。妻も言う事を聞かない娘を剛腕でねじ伏せていた、その拳速は私を以ってしても見えなんだ…」
惣万「いや、俺男だし。つーかすげぇなアンタの嫁さん」
千冬「地震雷火事親父と言うが、お袋も入れるべきなのでは…」
惣万「(つーか、様子見してたとはいえブラッド族に一撃入れてきた柳韻さんがすげぇんだけど……)」


「んお……?ってて……、アー痛って……」

「惣万!?気付いたか!?」

「そーまにぃ‼」

 

 目を開くと心配そうに俺を覗き込む千冬と一夏、それと篠ノ之柳韻の顔があった。

 

「石動惣万君。済まなかった。如何な理由があっても君に怪我を負わせてしまった」

 

 俺に向かって頭を丁寧に下げてくれた柳韻さん。良い人だな……、上の娘とかに比べて……。

 

「それにしても惣万君。君は剣を握ったことがあるね?それに……君の振う剣は……」

 

 あー、やっぱりその話になるか……、まぁいつか千冬には言っておこうと思っていたが……。

 

「……その事を話す前に、その木陰から覗いてるお嬢さんは一体?」

「おっと……、紹介しようとしていて忘れてしまった、箒。おいで」

 

 その言葉を聞いて、とててててっ、と柳韻さんの後ろに隠れる美幼女、モッピーである。手を振ったら涙目で怖がられた。……人見知りの時期カナー(棒読み)?

 

「あー、やっぱり怖がられるか……オイ一夏。この子と遊んでいてくれないか?俺達は柳韻さんたちと話があるんだ……」

「?……うん、わかったー。いこ、ほーきちゃん」

「……うむ、分かった」

「気を付けてなー」

「……っ」

 

 俺は一夏たちに注意を促すも、チビモッピーにビクられる……。

 

「……やっぱ怖がられたか?」

「……」

 

 ポン、と優しく肩に置かれた千冬の手に、思わずときめきクライシス……、いや冗談だ。

 

「取り敢えずお前の話を聞かせてくれ……」

「話って……あー、何が聞きたい?」

「……全部だ」

「分かった」

 

 

―第一章 誕生―

 

「俺が生まれたのは、中東の街クルディスタンだった……。3107gの赤ん坊だったらしい……」

「いや誰が生い立ちから話せといった!と言うかソレ本当か!?惣万、お前、外国人だったのか!?」

「ま、な。あぁ、だけど遺伝子で言えば日系人の家系だからな?」

 

「……。待ってくれ、惣万君。クルディスタンと言ったか?」

 

 俺の言った言葉に反応する篠ノ之柳韻殿。その顔色はだいぶ悪い。どうやら俺の生まれがどういうモノか分かってしまったようだ。

 

「はい……篠ノ之さんの思っている通り、私の生まれた国はあのクルディスタンの紛争地帯です。そして、7歳になるまで、少年兵として従軍していました」

「!?」

 

 その言葉を皮切りに、俺の口からあの姿から目覚めたのちのことが紡がれる……。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 硝煙の甘い匂いと血の鉄臭い匂い、爆音、誰かの嘆きの叫び。思い出すだけで吐き気を催す、忌まわしい記憶の断片。

 

 俺の休眠期間が終わったのはエボルドライバーやパンドラパネルを二人の科学者に取られてから、数年が経った後だった。丁度その頃、俺が降り立った中東の国、クルディスタンの内政が悪化し、人を見たら悪魔と思え、と言う標語ができるくらいの地獄と化していた。

 

 だが、当時の俺は何も出来なかった。体も無く、エボルトの能力も憑依程度しか使えなかった。ならば、生き抜くためにはどうするべきか……。

 

 躊躇いは、無かった。

 

 部屋に漂う血と硝煙の匂い。部屋には一人の目の死んだ幼児が立ち、髭面の人相の悪い人間たちが眉間を打ち抜かれ死んでいた。手に持った拳銃が、不思議と軽く感じられた。この日から、俺は生きるために他人を■すことができるようになっていた。

 

 何人もの大人を■した。周囲一面に死体が転がる戦場で、少年兵として敵兵を■した。紛争が一区切りしても、■して■して■して………、それで何とか生き延びてきた。

 

 

 ……軽蔑するか?ならやめておけ、お前はこちらに立っていない。

 

 

 

 気が付けば、クルディスタンで指名手配され、難民の様に世界各地をフラフラ移動してまわった。そうすることでしか生きられなかった。

 

 

 同情するのか……?ならやめておけ、お前はこちらに立っていない。

 

 

 いつの間にか、身体中には銃創が幾つもできていた。パサパサに痛み、伸ばされた髪の毛は腰を越え、黒だった髪色は灰色に変色していた。目には、もう生気が宿っていなかった。

 

 あぁ。そういえば身体を売り物にしたこともあった。男だろうが女だろうが、どいつもこいつも俺を高値で買ってくれたよ。

 

 なにせ、俺は子供ながらに美しかったからな。戦争上がりの孤児だというのに、そいつらは華美な服やドレスを着飾らせてくれた。まぁ、最後にはズタズタにされて襲われるのがお約束だったが。

 

 そして、やはりそういう筋の連中は暗殺やら身内のゴタゴタですぐ死んでしまう。また次の身売りを頼んだり、時には暗殺者紛いな時代に逆戻りしたりした。

 

 そんな幼少期を過ごすこと数年。お金持ちの趣味はいろいろで、手習いとして様々なことをさせられた結果、皮肉にも食つなぐ技術は豊富になっていた。

 道徳を是とする人間たちは、俺のことを唾棄するのだろうか。疎ましい生き方だというだろうか。だが、そんなこと自分でもわかっている。死んだほうがマシだと言われるだろう。

 だが、そうやってしか生きられなかったが、その程度が特別死ぬ理由にもならなかった。世界の裏側ではありふれた生き方だった。

 

 自分を守るために自分を■そうとする人間を■してきた。……そこに怒りはなかった。自分が別の立ち位置になっただけのこと。ただ、自分と接する人間は決まって不幸になるのがお約束だった。それだけが悲しくて、哀しかった。

 

 それも当然かもしれない。人を害した人間は、永遠に呪われたまま。因果応報の罰が下るのは明白だ。真理という罪過は、平坦で平等にめぐってくる。

 ならば、誰からも見捨てられた方が、誰も不幸にしないのではないか、そう考えた。

 

 だが、それでも、他人を傷つけるよりよっぽどいい。

 

 

 

 

 とめどない豪雨が降る日のこと。

 俺はどこかの国の、大通りから外れた小道でゴミ箱から漁った切り傷と血だらけの服を纏い、身体を丸めていた。空腹を紛らわす為にコンクリートの道路から露出した土の泥を掬って口に運ぶ。酷い味だ。しかし、子供の頃から慣れ親しんだ安心感のある味でもある。

 

 そんな俺に降り注ぐ雨が、突然止んだ。一体なんだと視線を上げれば、俺に向かって傘を差し出している女が……。

 

『……泥食べて美味しいの?』

『いや、ンなわけないけど…』

 

 俺は真っ当な人間とは距離を置くべきで、本当は話すべきではなかった。だが何故か、彼女とは近しい雰囲気を感じて、自然と閉じていた口が開いた。

 

『あら、じゃあそんなもの食べちゃだめよ。私将来カフェ開きたいのよねー……、よし、お客様一人目を記念し、特別に御馳走しましょう!』

 

 そう言って、彼女は俺の前にサンドウィッチを出してきた。見たところ、売り物ではなく自家製だ。しかし、それは大雑把な料理では決してなく、ピクルスの漬かり具合も鶏肉の厚さや焼き具合も、ハーブの種類も厳選されているのが見て取れた。

 貰ったものを食べるのは気が引けたが、既に目の前の女は消えていた。

 

 

 

 

『あ。食べてくれたんだ。良かった~』

 

 夕暮れ、同じ時刻。雨上がりだったのをよく覚えている。俺は手持ち無沙汰にサンドウィッチの包み紙で折り紙をしていた。日本人らしく、鶴を折った。

 

『……。疑問があるんだが』

『あら、なに?』

 

 嘆息混じりに聞いてみた。まさかこう何度も来るというのなら、無駄骨でしかない。だったら他人を助けるべきだ。

 

『どうして俺を助けようとした?無駄なことをしているな…』

『あぁ、よく言われるわ。変わり者だーっ、て』

 

 確かに変わっている。だが、それよりも生き急いでいるようにも見える。まるで、自分を犠牲にして何かを救いたいと願っているように。

 

『でもさ、似た者同士でしょ?だって……――――自分を損得勘定に入れてない所がそっくり』

『…――――』

 

 理解されたいと思ったことはあまりないが、恐らく今の俺の顔には嫌悪感が半分、安堵感が半分あるのだろう。目の前の女の視線は穏やかだがどこか冷たく、そして少しの嫌悪感が含まれていた。

 

『行くとこないなら、ウチに泊まってく?……あ、そうよ。良いこと考えた。貴方、私の家に来なさい。そうすればいつでも料理の感想聞けるし…』

『……はぁ』

 

 彼女はこの国では見ることがない、柔和な笑みを湛えている。だが、そいつの纏う空気は命が燃え尽きたような、空っぽな印象……言うならば燃えカスの様な女だった。だが、その空っぽさは、何かを求めているようで……。気が付けば俺は、彼女のその手を取っていた。

 

 

『貴方、名前は?』

 

 女は俺にコートを着せ、夕暮れの街を歩き始める。

 

『私はソラ。石動蒼穹よ。貴方は?』

『……ソーマ。ただのソーマだ……名字は無い』

『そ、分かったわソーマ。暫くになるか、長らくになるか…――――よろしくするのはアナタが決めなさい』

 




 雨の中の会合は原作の桐生戦兎とマスターのものをオマージュしてます。何とか主人公の仄暗い過去を書けたらなぁ、と思ったら時間がかかりすぎ(ry

※2021/01/07
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第五話 『再築のアイデンティティー』

惣万「モッピーちゃんやーい。どこ行ったんだー?」
千冬「貴様、もしやロリコン……?」
柳韻「娘はやらんぞ!」
惣万「あ、や。結構です。兎耳カチューシャ(笑)と義姉になりたくないんで」
柳韻「それはそれで複雑だ……」

一夏「でなー、そーまにぃってばりょうりがじょーずでなー」
箒「へ、へぇ……うらやましい…。うちにも、ねえさん、いるんだけど、かぞくいっしょに…、あそんだことなくて…」
一夏「それならこんどうちきなよ!かふぇでけーきでるんだぜ!」
箒「そ、そうか……。あ、ありがとう…!」
篠ノ之母「(……ッッッ!箒ちゃんに初めて友達できた…ッッッ!)」


 眠る時は決まって身体が痛くなる。自分の雇い主にとって、俺は愛玩動物と変わらないのだろう。

 

 菊座が裂けることは毎日だったから、慣れた。身体に蚯蚓腫れが起こるのなんてほぼ確実だった。善人を装い、聖母のように慈しむ若い女もいたりしたが、心の中は溝川みたいに爛れ、脳髄には劣情と肉欲くらいしか詰まっていなかった。

 幼い顔が気に入ったのか、自分に依存させようとしてくる変態もいた。まぐわいながらキャットファイトを強制する放蕩貴族もいたりした。

 飢えている時にマフィアに拾われ、生きている野犬を食えと言われた。しかも1m近い大きさで、牙を剥き出しにしたどう考えてもアレな狂犬だった。何とか殺して貪ったが、噛みつきでぱっくり傷が開き、骨折もした。

 ある時は見世物として同年齢の子供と戦い、彼女を■しておきながら、夜ベッドに招かれ大人の相手。あぁ、あと人間狩りの的にされたこともある。

 

――――ある時は。

 

――――ある時は…。

 

――――ある時は……。

 

 

 俺はいつも痛かった。ずっとずっと痛かった。首絞め、感電、鞭打ち、焼きごて、拷問用の木馬、指輪のメリケンサック、畜生の牙、金的、散弾銃の弾、木製のノコギリ、わき腹に刺さるナイフ、馬との獣姦……。幼い頃、俺は痛みでできていた。

 

 だが、なにより辛かったのは、その身体の痛みが心に響いてこなかったことだった。触覚や痛覚は脳に情報を与え続けている。だが、どうしてか「苦しい」と思うことができなかった。

 前々から、――――それこそ前世からその歪みは分かっていたが――――まざまざと直視すると、成程これは酷い。こんなもの『人間とは言えない』。

 何も感じず、誰にとっても都合の良い欲望の受け皿。人間の悪意に怒りさえ湧いてこない。今心にあるのは、何かに対する申し訳なさ。

 

 俺がいなくなったら別の誰かが似たような目に遭うのだろうな。それは少し、申し訳ない。ただ一人、されど一人。

 

 ああ、俺には分からない。死ねないと思う理由だって無かったというのに。生きようとするのも、もしかしたら自分の生きる理由が分からないからなのか。はてさて、やっぱり俺には分からない。

 

 結局俺は、多くのものを取りこぼしてきた。きっとこれからもそれは変わらない。変えられない。自分の心から落ちる感情さえ“すくえない”のだから。

 

 俺は、どうして……。何で、あれ?……。

 

 

 

 

 ……痛くない?

 

 

『おはよう。よく眠れた?』

 

 目の前には、整った女性の顔があった。

 

『あ、あぁ……そっか。悪いね、泊めてもらって』

 

 身体は全く以って問題無い。性交で蝕まれるあの倦怠感は無いということは、この女性は手を出してこなかったということか。

 

 もうお昼だと彼女に促され、食卓に座った。そこにはイチジクとエビのバルサミコサラダやら、ベーコンとエスカルゴバターの野菜盛沢山キッシュやら、マスカットを添えたシェーブルチーズ&生ハムサンドやら、ハーブとジャガイモ入りのミネストローネスープやらが並び、この国では貴重な一杯のコーヒーが温かい湯気を立ち昇らせている。

 

『あなたもコーヒー飲む?』

『ん。……あ、美味しい』

 

 金持ちの恩恵で夜明けのコーヒーを何度も味わった俺であるが、その違いは全く分からなかった。貧乏舌だったのだとその時は思っていたのだが、その女が淹れたであろうコーヒーの味は、初めて俺の脳が認識した。

 感動したのだ。自分の為に、心を揺り動かすことができた。――――そんな気がした。

 

 

 

 石動蒼穹という女は、(俺が言えたことではないが)どこか浮世離れした人間だった。紛争地帯ではないとはいえ、すぐ裏通りにストリートギャングが巣食うこんなクソ貯めで、ひときわ異彩を放っていると言って良い。

 裏の人間、スジモノが溢れるこの街で突っかかられることも多いが、次の日になれば誰もが視線を逸らしひそひそ話。何かがあったことは明確で、脛に傷持つ人々でさえ不干渉を決め込むことになる。

 下水だらけの街に馴染んできた俺は、散歩や買い物ついでに彼女の二つ名の数々を耳にした。

 

 

――――曰く、かつては最も闇深い組織にて活動していた戦争屋。

 

――――曰く、戦地に現れ、存在しない者(アンネイムド)を誅す暗部殺し。

 

――――曰く、大空を渡る殺人者。

 

――――曰く、『亡国(ファントム)』の死神。

 

 

 そんな奇妙な同居人がどういう訳か、一緒に来ないかと尋ねてきたのが、出会って二ヶ月経った頃だった。資金がようやく溜まり、日本へトンずらするらしい。

 

『……同類意識があるとは思うけど、コレは度を越えてるんじゃないか?見ず知らずの餓鬼を助けて、可愛がってもらって恐縮なんだが、結局アンタと俺は他人だろ?ほかにも助けを求める人間なんて幾らでもいただろ』

 

――――なぁ、どうして俺だったんだ?

 

『人を助けるのに、理由がいるの?』

 

 心底不思議そうな声で俺に尋ねてくる。そのきれいごとの正しさに少し……腹が立った。

 

『あぁいるね、当然。見返りを期待しないのは、正義の味方気取りの偽善者さまだ。アンタが俺を助ける理由はなんだ?』

『そう……あなたはそう思うことができるのね。安心したわ。私みたいにリハビリの必要は無さそう……』

 

 彼女の目には、俺と同じものが映っていた。

 

 痛かった。生まれた時から痛かった。

 そんなふうに感じて生きてきて、その痛みと苦しみが結びつかない人間の目だった。

 

『うん、そうねぇ……そう思うのも、当然よね』

 

 彼女の表情が夕陽に照らされていた。彼女の表情はくしゃっと歪み、恥ずかしそうに赤くなった頬を掻きながら彼女は言った。

 

『私ね、寂しかったのよ。私はちょっと数奇な運命を辿っちゃってね……家族も、同族もこの世にいないの。だから………………』

 

 

 

『私さ、似たような貴方にお帰り、って言うの、好きなのよ……。何か、家族って感じがしてさ。そんなため、だったりする。恥ずかしいけどね』

『……アンタ』

『やっぱり、おかしい?』

『……その問いかけは狡いな』

 

 母親ではない。長い時間を共に過ごしたわけでもない。だが、俺の耳に届いたソレは、紛れもなく“真実”で、紛れもない“凡庸な人間の願い”で。

 

『……ただいま。義母さん。随分回り道して、帰ってくるのが遅くなった』

『……おかえりなさい。私も小さい頃はそうだった』

 

 その日から、眠りに就くのに痛みが伴わなくなった。それが、それだけのことが。ほんのちょっぴりの安心が、なによりもかけがえがなくて。

 自分という存在が、普通の人間になれた気がした。

 

 俺はずっと取りこぼしてきた。感情の大半も、自己愛も――――だけど。感謝の心、慈しみの心だけは、残っていた。

 

 良かった。あぁ、ちょっと――――安心した。ありがとう、お義母さん。

 

 

 

 

 

 そうして、俺達は機会があり、日本へやってきたのだった。

 

 今の俺を形成(ビルド)したのは、間違いなくこの時の彼女との……いいや、義母さんとの二人の暮らしだ。

 俺は間違いなくどこかおかしい。狂っていると言われても納得しよう。

 でもそんな自分にも、生きる意味はあったのだ。

 蒼穹という母親が求めてくれる限り、絶対に。

 

 

 雨降るあの日、“母さん”に出会ったことで自分の明日を投げ出さずに済んだのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「……。そんなところだ」

 

 彼は己が半生を語り終えた。その壮絶とも言える人生に、呆気にとられている二人。男娼や家畜扱いの人生だったと語られては、如何に己を律し人の道を鍛える人間らであっても絶句せざるを得ない。彼は目の前の千冬に向き直る。

 

「千冬、済まない。今までこのことを黙っていて。だが、聞いただろう?俺はお前等と一緒にいるべき人間じゃ無いのかもしれない。今のうちに俺と縁を切るのも、一つの選択として『そんなことはない』…――――へ?」

 

 惣万のマヌケな顔と対照的に、千冬は鋭くも優しい視線で彼を見ていた。

 

「私がお前を見捨てるという選択肢はない。そこまで弱い女ではないさ、甘く見るなよ」

「あぁ、うん…。お前が強いのは知っている。けどな…――――、俺は多分、独りでも生きていける」

 

 ぶっきらぼうに、吐き捨てるように。捨て鉢とも、無感動ともとらえられる口調で彼は言う。それは事実なのだろう。周囲の理解を得られずとも、誰かにどれだけ蔑まれようとも生きてこれたのは、彼が独りに慣れ過ぎていたからだ。それなのに人を思いやることができるのは、歪以外の何でもない。生きるのに苦しむだろうに、その苦しみさえ感じられない。だから狂っていると己を断じる。

 だから、だろう。痛ましかった。

 

「じゃあ何で、お前はそんなにも悲しそうなんだ?見てみろ、自分の手を。血だらけじゃないか」

「あぁそうだよ。たくさんの似たような人間たちを…」

「違う」

 

 千冬はゆっくりと近づくと、俯いた彼の目の前に跪く。力無く項垂れる彼の固く結んだ拳に、自分の手をそっと重ねた。

 

「自分で自分を傷つけるのはやめてくれ、と言っているんだ。ほら、爪が突き刺さっている。ったく、男なんだから伸ばしても得などないだろう、全く…」

 

 びくり、と恐れるように痙攣する惣万の手。指と掌の間に、白い指が差し込まれた。血に濡れても彼女は彼の拳を解そうと優しく触る。

 あたたかった。あの日、雨上がりの蒼穹と同じ温もりが、惣万の手を包んでいる。

 

「…――――、…」

「お前は今生きている。“人間”として生きてるんだよ…そんなに自分を卑下しないでくれ。お願いだ」

 

 思いやられている。救おうとしてくれている。明日の笑顔を見たいと思われている。普通の人間であるならば、そのきらきらとした輝きに憧れるのだろう。届かないものだと知りながらも、その手をそれへと伸ばすのだろう。

 それでも、自分より他の者が大切だった彼は…――――。

 

「納得、できないのか…」

「…――――ごめんな」

「いや、私がどうこう言えるものではないのもわかるさ。わかってはいるんだ。誰にだってそんなものはある…――――」

 

 哀しさと共感をにじませて、彼の手から噴き出た血をハンカチで拭う千冬。彼女は誰かのために悲しみを拭い去りたいと思ったことは初めてではない。一夏を守りたいと思った時と同じだった。いいや、同じと思うのはお門違いなのかもしれない。しかし、それでも…――――。

 

「だが、願うことは自由だろう?お前が自分を傷つけなくていいことを、私は願っている。…――――多分、一夏だって同じだ。あいつは歳の割に、意外に聡いからな」

「どうして、お前たちが…」

「お前は優しい男だ。一夏にも良くしてくれている。そんな友だちが苦しんでいるのを見て手を伸ばすことが、おかしいのか?」

 

 例え、彼が報われてはならないと謗りを受けても、誰かが理解していると分かっていて欲しかった。世界がどれほど残酷であっても、ほんの一滴でもあたたかな潤いがあることを感じて欲しかった。自分たちが、どこかの誰かに助けられたように。

 

「お前の近くで、一夏も私も願い続ける。自分自身を愛せますようにと。他人に優しいお前が、己の心にも優しくなれますようにと」

 

 願わくは…――――。痛みを感じられない彼に、苦しみを塗り替えられる幸せを。彼の心に愛と平和を。彼の過去を知って、千冬はそう思わざるを得なかった。

 

「あぁ、理由がいるならせめて…『私も今を生きる人間でいたいから』、とでも思っておけ」

「…――――なんだそれ?変なの」

「あぁ、それでいい。お互い様だ」

 

 自分が彼を憐れむことができる立場ではないのは分かっている。それでも、彼は救われなければならないと…――――。

 

「おい、触れるな。お前の手も汚れるぞ?」

「構わん。拭けば落ちる。何より、道場ではお転婆娘で通っているからな。怪我には馴染み深い。このくらいは別に」

「いや、お転婆ってレベルじゃなくない…?それジョーク?何、千冬ジョーク言えるの?」

「…――――私とて洒落は分かるさ…」

 

 二人はようやく手を取り合った。千冬は初めて、心に被った仮面をずらして話し合ったように思えたのだ。

 

「っと、と?」

「…――――ぉぃ」

「あ、ごめん…、ちょっとダメージが抜けきってなくて、ふらふらしてて…」

「…――――馬鹿者」

「あでっ」

 

 よろけて彼女にもたれかかる惣万の頬が、妙に温かった。




 惣万は一般人の感覚を持ってはいますが、サイコパス気質もあるようで……。何で私は逸般人しか書けないんだろうか……。

2020/12/25
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 ウォシュレットが苦手なのは男娼の子供時代を思い出すから。本作で経験豊富なのが主人公とか……。


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第六話 『朴念仁はゼロになる』

千冬「……その、大丈夫か?いろいろと」
惣万「あぁ、性病にはかかってないぞ」
千冬「そうじゃないだろう!いや、全く……そうか。非童貞で非処女か…」
惣万「カミングアウトしてしまってすまん……でもほら。経験豊富だから大丈夫大丈夫!お前は優しいなぁ…」
千冬「お前墓穴掘りまくるからそれ以降口開くの禁止な。えー、では第六話、始まるぞ」

千冬・惣万((コイツ幸せになるべきだろ……))

一夏「?あれ、どうしたのふたりとも、使命感にみちた顔してー?」
千冬「いや?なんでもないぞ一夏、それでどうしたんだあらすじ紹介まで来て?」
一夏「いやー、何か聞こえたんだけど、ひどーてーとひしょじょってなぁn」
千冬・惣万「「知らなくていい!今は知らなくていいから!」」


 なんやかんやで翌日、ちょっと気まずい雰囲気を纏った千冬は、俺の顔を見たらどこかに逃げ出すように『あぁ、買い物に行ってくる。一夏の傍にいてやれ』とか言いながら転がり出た。

 あー、何というか、昨日は申し訳なかった、色々と。謝罪しておく。おっと、そう言えば俺にとって喜ばしい(?)ニュースがある。

 

「そうだな、これは一夏に試すか」

 

 そう言って俺は、俺の足元でお昼寝する一夏に近寄る。……うん待って。そこ。おまわりさんこいつですとか言わないで?エボルトみたいに顔を変えるとか記憶を消すとかしないから!

 

 話がそれたな、元に戻そう。今までエボルトとしての能力を、俺は憑依しか使えなかったが……ようやく細胞を弄ることができるようになったようだ。

 

「さて、と……。コレをしたら一夏は唐変木系主人公にはならないだろう。んじゃ、ほいっと!」

 

 俺の手から桃色の優しい光が溢れると一夏の身体を包み、そして治まる。

 

 

 俺は生前から一夏の朴念仁さに少なからず疑問を抱いていた。見ていて鈍感ってレベルじゃねぇよな……。理由があるのだったとしたら何か?あそこまで人の好意に気付かないのはどうしてか?

 

 出た結論は『愛』だ。彼が何故ああも原作で朴念仁を発揮させていたのか、その理由が分かった気がする。千冬もそうだが、彼らには両親がいない……。故に二人とも子供のうちに親から与えられる贈り物……愛情が分からないのだろう、と観察の末に分かった……。いいや、分かってしまった、と言えば良いのか。

 親の愛から生まれる人に対して、全く異なった理由で生を得た二人はどちらも欠陥がある。千冬は他人に愛を与えることが出来ても自分が愛を受けることを無意識に拒絶している。一夏はそもそも愛を知ることが出来ない。千冬が面倒を見ていたとしてもそれを『千冬姉に負担をかけている』と引け目に感じている……。

 

「……。ハァ、儘ならないモノだなァオイ……。」

 

 それが拗れて、歪んで原作一夏になるんだろうなー、恋愛にも客観的に見るものしか知らない、自分が分かっていないから……。環境が悪かったのか……、それとも無意識のうちに母性を求めることを封じたのか……。

 要約すれば、一夏は、その生まれ(・・・)故に決定的に愛情を受けるのに慣れていない。ただ一人の姉からの庇護でしか愛というものを知らないのだ。因果なものだ、と思う……。まぁ、俺と言うイリーガルがいるこの世界ではそこまで酷くないモノの……このまま放っておけば取り返しのつかないことになろう。

 

 そこで今俺がやった救済措置だ。一夏の脳内のニューロンに刺激を送った。何も脳の構造をつくり変えた訳では無い。ただ、人を好きになり、“恋”と言う感情を抱きやすくさせた、と言えば良いのか。脳内の信号を一般的な方向へ誘導し、スーパーなI・CHI・KAになってもらおう。一夏ラヴァーズだろうが何だろうが女難の相が擦り切れるほどモテればいい!そして悩め、一夏少年よ!フッハッハッハッハ!あ、俺はワイン飲みながら眺めてるだけだから。

 

 

 

 

 

 …――――なんて。やめよう。噓っぱちを言うのは。最悪の場合を想定した、ただの自殺装置を作っただけだろうが。

 

 

 

 

 あぁそうそう、結局俺は『殺人剣を振るう俺が入るべきではない』と言うと(千冬は反発したが)、俺の代わりにと言っていいのか、一夏が道場に通うことになった……。それ故、一夏と篠ノ之家次女の交流が盛んになり出し……。

 

 

 ある日のこと。俺は義母さんの言いつけで買い出しに出ていたのだが……。

 

「……?おんや?あそこの……ブランコに乗って物憂げな表情をしてんのは……」

 

 ちっこいモッピーじゃないか?リリカルなのはっぽいシュチュだなぁ……お姉さん繋がりか……?

 

 

箒side

 

 私は今、なやんでいる。私の姉のことだ。私の姉、篠ノ之束はどうにも他人のことをみちばたの石ころみたいに扱う性分みたいだった。

 最近やってきた『いちか』……と言う男の子にも薄気味悪がられていた。どうにかしてもらいたいが、のらりくらりと笑顔ではぐらかされる。

 もしかして私のことも石ころみたいに見ているのでは……?そんなことまでかんがえてしまう。

 

 このままでは、い、一夏……にもきらわれてしまいそうだ…。ってなにを考えているんだ、私は?

 急にほっぺがあつくなる。ちがかおに集まってきたのがわかる。落ち着け、私。へーじょーしん、こっき、めーきょーしすいだ!

 ……駄目だ。なんでだ?いつも……ッあ、アイツの顔がちらつく…?

 

「よぉ、あー、急に声かけてわりぃな。篠ノ之箒ちゃん、だったよな?」

 

 ?……ッ!?この人は…!あの時の…。

 

「自己紹介がまだだったよな?俺は惣万。石動惣万だ」

「ど、どうも……。篠ノ之箒……です」

「いやぁ、悲し気にブランコをブラブラッと漕いでたから声かけたんだが……。悩み事か?あ、もしかして……好きな男の子でもできた?」

 

 な、何なんだこの人は?一夏が私と……いや違う、そうじゃない。何と無遠慮な男だ!一夏と私がそんな……ってちっがうッ!

 

「?急にどうした、頬を押さえて首をブンブンと……?」

「な、なんでもないですよ?」

「……?そうか。まぁ、立ち話もなんだ、飲み物でも奢ろう。丁度買い出しの途中だったし」

「い、いえ、そこまでお世話になるわけには……」

「いいっていいって、一人二人増えようと変わらないさ、今頃一夏と千冬もいるだろうし……」

「……そうまで言うなら仕方ありませんねっ!お邪魔させていただきます!」

 

 これはいつもけんどーじょーにいる先輩と、新しくできた幼馴染の顔を見るだけだ……故にたいはない。ないったらないんだっ。

 

 

「はぁ~い、ただいま戻りましたよっと」

「あ、惣万にぃおかえり……あれ、箒?」

「……む、さ、さきほどぶりだな、一夏」

 

 少しぎこちなく私は言う……オイこのひと、私を見てニヤニヤしてわらってるぞ。バレてしまうではないか。注意してくれ店長殿。

 

「あー、惣万?」

「ん?千冬、何か注文か?」

「あぁ……まぁ。このたんぽぽコーヒーと言うのを貰っても?」

「おぉ、お目が高いな。それ、厳密にはコーヒーじゃないんだけど、中々美味しくてな?生薬みたいな効果もあって体に優しいんだよ」

「そうか。まぁ、お前の淹れるモノはどれも美味いんだがな」

「逆にお前が淹れたのは、酷かったなぁ……エボルトコーヒーって名付けようか?お前、nascitaで何シタ?」

「エ、エボ……?……い、いやその節は本当に悪かったと思っていてだな…」

 

 向こう側の席では石動さんと千冬さんが……、何というか少女漫画でよく見るほわほわが飛び交っているみたい。

 

 スッ、と私の前に飲み物がでてきた……。え?

 

「言っただろ、奢るってな。あ、チョイスは俺だが……レモンは嫌いか?」

 

 私の目の前に石動さんによって置かれた飲み物。とてもおいしそうだった。ガラスの中には、プカプカとレモンの薄切りが何枚か浮かび、シュワシュワと泡が弾けている。

 

「グラニータレモンソーダになります。上にのっているのはグラニータ……イタリア風レモンシャーベットだ……。因みに、一夏もこのジュースはお気に入りだぞ?」

「なっ、そ、そうか……」

「おーぉ、わっかりやすいねぇお客様。でだ、何であんなところでなの〇ごっこしてた?」

「な、な〇は?」

「……っとそれは気にせんで良い。悩み、あんだろ?全部話せとは言わねぇが、一欠片でも話せば何とかなるもんだぜ?」

「………………」

 

 どうしてだかこの男は胡散臭いが、良い人みたいと感じた。悩みの一欠片ぐらいははなしてみてもよさそうかも。この飲み物を飲ませてもらう分くらいは。

 

「石動さんは……あまりに頭が良過ぎて、他人のことを石ころと見えてる人とどう接しますか……?自分のことを石ころだと思っているかもしれないその人と……?」

 

 私にしてはすんなりと悩みをうちあけられた、と思う……ひとえにこの人の雰囲気なのだろうか?

 

 彼は驚いたみたいな顔をすると、そうだねぇ……と言いながら口を開いてきた。

 

「そういう場合は、子供をあやすのと同じだろ?」

「こ、子供ですか……?」

「そうだ、人間幾つになっても生意気なガキと同じなんだよ。食って寝て泣いて、自分が良ければ全て良し、心の奥底で必ず思っている。だから、人間でいるにはモラルや常識、良識に縛られなくてはならないんだよなぁ、これが」

 

 スッと目を細めた石動さんは、どこか面白そうに呟く。

 

「自由が欲しい、と言って若気の至りで逃げ出すのも良いが、俺達は結局、自分で此処に戻って来るさ……」

 

 そして言葉をきると、ニコッと微笑み、私にこう続けた。

 

「まあたとえ矯正できなかったとして、俺達の事を石ころと同格に見たとしても……人間、誰も彼も歴史の中の小石だ。ただ、それが信念を持った小石なら、躓いた運命の未来が変わるかもしれない。俺はその可能性を信じている……何てな!」

 

 石動さんはきれいな銀の髪をくしゃくしゃかくと、きげんがよさそうに立ち去って行った……。

 そうか、そういう考えもあるのだな……。石動さんの言葉でほんの少しだけだが、気持ちが軽くなった。

 

 

 

一方の惣万さんは……

 

(うーん、ドライブの名言はやっぱり泣かせるなぁ……平成ライダーって敵味方の名言の汎用性たっけぇ♪)

 

 締まらねぇな……。




 ハイ、一夏がI・CHI・化するのとモッピーがHO・U・KIになり始めております……。

※2020/12/31
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第七話 『怒りのリンカー』

惣万「さて、モッピーちゃんとの対面も済ませた…。それにしても幼稚園児であそこまで理路整然と話せるのは中々頭の良い子だなオイ」
一夏「というか、最近ちふゆねえがコーヒーに嵌り出したんだけど、どうすればいい?」
惣万「え?あのコーヒーを?家で?マジで?」
一夏「うん……、なんか出来上がったブラックコーヒーの表面が渦を巻いて周りに飛んでたハエ吸い込み始めたときなんかどうしようかと……」
惣万「それ、ホントにコーヒー?」
千冬「と、とりあえず第七話、どうぞ!」
惣万「この話にお前出てこないみたいだから、裏でコーヒーの淹れ方きっちり教え込んでやる…」
一夏「あ、じゃあ俺も見にいこっと、箒も来いよ」
箒「む。では、お邪魔します」


――――一つの歪みがあった

 

 それは、“親”に捨てられたが故か、はたまた生誕の頃からの不備か。少なくとも、教えを説いて正しき道に向かわせることが不可能である程度には歪んでいた。

 

――――僕は悪くない こんな事を強制する世界が悪いんだ

 

 そしてそれは、決して表出することのない特異性を持っていた。

 

――――『ママ』は僕を捨てたんじゃない だってこんなにも『ママ』がいるんだもの

 

 歪みの名は織斑節無(おりむらせつな)。織斑姉弟の従弟として引き取られ、彼らと毎日を過ごしている少年である。だが、純粋無垢に育ってきた彼ら姉弟とは、全く別の生物と言えるほど、その内情は悪辣で自覚のない害に満ちていた。

 彼は――――いるはずのない母親を求め、母性を求め、そして全ての女を『ママ』と誤認し続ける怪人である。

 

「ほら、節無。一夏と一緒に遊びに行ったらどうだ?」

「うん、分かったよ。義姉さん(ママ)

 

 彼にとっては従姉であっても、そして年端もいかない幼女であっても母性を感じざるを得ないらしい。そして、その『ママ』に心の中で固執し続ける幼児性はそのままに、天災さえ容易く凌駕するリスクヘッジ能力を天から与えられていた。

 

 さて、そんな子ども(怪物)が小学校に入った。

 織斑一夏と同様に顔も良く、内心はどうあれ穏やかな口調で誰とも分け隔てなく過ごす彼に、シンパができるのは時間の問題だった。

 数々の男と『ママ』に囲まれて毎日を過ごしていた彼だが、いつしか、気付く。織斑一夏の隣にいる少女のことに。

 

(どうして、ママになってくれないの?)

 

 篠ノ之箒という少女は、良くも悪くも自他ともに厳しかった。その性格故に織斑節無と合わなかったのだろう。甘え上手な節無は、箒に対して母性をくすぐる人懐っこい笑みを浮かべてすり寄っていたのだが、彼女は彼をすげなく扱った。

 

――――すまない、なにをそんなに困っているのか知らないが、わたしはおまえの手助けはしてやれない。さすがに一夏の従弟だとしても……悪いな。

 

 それが、織斑節無の逆鱗に触れた。

 

それ(・・)は僕のママになるんだよ?だからなにしても良いのは僕だけなのに、なんで一夏が好き勝手してるんだ?)

 

 怒りの矛先は見当違いの方向へ放たれ、しかし確実に幼い二人を蝕み始めた。

 彼はこう考えた。『ママ』に構ってもらうためには、駄目な子なりに頑張っているようすを見せればいいのかもしれない、と。

 

 

 

 そう考えた節無は、学校で一夏と箒の株を下げる扇動をしてテリトリーを広げつつ、一夏を嬲り、箒を理想通りの『ママ』になってもらおうと画策する。妹が虐めを受けていると察知した彼女の姉にさえ証拠は掴ませず、まさに完璧だった。だが……。

 

『やーい、男女~!』

『何髪結んでんだよ……ん?』

『お前らな……掃除しろよ、邪魔だよ』

 

 またしても一夏だ。だが問題は無い。とっとと喧嘩になれとほくそ笑む節無。そうすれば、箒は自分だけの『ママ』になってくれるのだから。

 

『お前らな……喧嘩とかで解決するのか』

『へっ、こいつびびってんぜ?さっすが~、お姉ちゃんに守られてる坊ちゃんは違いまちゅね~!』

『んぁ?いやそうじゃねぇだろ、何で今千冬姉が出てくる?……まぁ良い。取り敢えずさ、喧嘩ってのは先に手を出した方が負けなんだよ……社会的にも、精神的にもな。だからとっとと馬鹿な真似やめろよ』

『うるっせぇ‼……っ!?』

 

 そう言うと彼らは、自在箒を一夏に向かって振り下ろす。

 だが、そのクラスメイトの言葉は続かなかった。一夏が片手で自在箒を受け止めたのだ。慌てて一夏の手から自在箒を離そうとするも、それはピタリとも動かなくなっていた。

 

 

『どうした?……それで殴ったつもりなのか?違うな……剣を振るうってのは……こうするんだよ!』

 

―バキィンッ‼―

 

 けたたましい音が響く。一夏はクラスメイトが掴んだままの自在箒を自分の頭に振り下ろしたのだ。節無の傍まで折れた自在箒の先端が飛んでくる。

 

『なっ……そ、えっ!?』

『どうだった?人を傷つけた感想は?直接だろうと間接だろうと……お前の所為で血が流された……お前、どう思った?』

 

 ぽたぽたと静まり返った教室に湿っぽい音が響く。箒に絡んでいた三人組はへたり込み、一夏の顔を青ざめた顔で見る。

 

 頭から流血する顔でそれらを一瞥すると、一夏は教室にいるクラスメイトに告げる。

 

『なぁ、お前等……楽しいか?誰かを笑いものにして。……俺はつまんねぇと思う、軽蔑する。子供が、暴力で物事を解決する?冗談じゃない、お前等の目で、耳で、心で……正しいことを判断しなきゃなんじゃないのかよ?』

 

 そう言って、一夏はすたすたと教室を去って行く。その後を思いつめた顔の箒が追い……その後、『どうしようか……』、『あいつの言う通りだろ……』、『謝らないと……』と言う呟きと共に、また一人、また一人と教室を去って行った。

 

 

 

 

(……―――――――――、ムカつく。『ママ』は僕に構ってくれるはずなのに、なんでなんでなんで何でなんでなんで何でナンデ…!)

 

 暴力を振ったとして自己申告した三人組を見ながら、節無な初めて身を悶えるような激情を鎮めていた。時刻は既に夕刻。通りは下校する高校生や帰路を急ぐサラリーマンたちがせわしなく行きかっている。

 

「ッ、てぇな。気を付けろ餓鬼!」

 

 頭の悪そうな女子高生グループに思わずぶつかってしまう節無。普通の思考ならば、一言謝り関わろうとはしないだろう。

 しかし――――。

 

「……――――、『ママ』?」

「はぁ!?どしたんだこの小学生…?」

「あんた、その年で妊娠してたの?ゴムしなさいよ…」

「んなわけねーだろが!おい‼とっととどっか行けよ!」

 

 数人の顔を、母親と認識した彼は、ブツブツと癇癪を彼女らにぶつけ始めた。

 

「虐めるんだ……皆、僕のすることのここがダメだって理由を付けて!僕は悪くない、甘えさせてくれない僕以外のヤツが悪いんだ。『ママ』が守ってくれればこんな事には……――――!」

「な、なあ……――――ヤバくねこのガキ?」

「とっとと行っちゃおうよ?ねぇ…」

 

 それは悪手だった。母親に無視されることは、幼い子供にとっては絶望に等しい。

 

「酷いよ、『ママ』」

「ぇ、――――はンッ!?」

 

 しかも、身体は狂人の域に達している。心は幼児に擬態した怪物だ。

 

「……――――は?ちょ……」

 

 丁度人通りの消えた裏通りに、血飛沫が上がった。

 憐れな女子高生たちが最期に見たのは、眼前に迫るコンクリートブロックのざらついた表面のみだった。

 

 

「『おいおい、これは…まさかな?』」

 

 銀髪の珈琲店の息子が気付いた時には、全てが終わった後だった。

 

 

 

 次の日、織斑一夏たちの住む街に猟奇殺人事件の報道があった。何でも、殺された女子高生たちの乳房に、赤ん坊の如くしゃぶりついたと思われる形跡が残っていた。食い破られたと思しき死骸もあった。

 しかし、現場には証拠が一切出ず、犯人は未だ捕まっていない……――――。

 

「うわ、やだなーこのニュース…」

「一夏、節無。お前たちも気を付けろよ。可愛いからそういった変態に襲われかねん。重々言っているが、防犯ブザーを引っ張るのを躊躇うなよ。わかってるな!すぐに行ってやる!」

「最近の千冬ねぇ、剣道でも荒ぶってるからなぁ…」

 

 姉と弟がTVニュースを見て会話をしている。だが、もう一人は素知らぬ顔。

 

『……――――』

「~♩」

 

 織斑節無は『何か』を聞いていた。ヘッドホンから声が聞こえる。大切な思い出を懐かしむため、今日も彼は耳と心を閉ざす……――――。




千冬「にしても一夏、随分口調変わったよな?」
一夏「ん?そうか?……あぁ、心当たりとしては惣万にぃの口調がうつったとかか?」
惣万「えぇ……、俺のせい……?」
箒「私はそっちのほうがいいと思うぞ」

 猟奇殺人が起きても、いつも通りカフェnascitaは平和だった。


※2020/12/09
 内容修正


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第八話 『災いのサイエンティスト』

???「なあ銀髪。…そこのちーちゃんとつるんでる凡人の銀髪だよ。聞けよ」
惣万「おや、おやおや?天災児さまの視界にも入らない俺がいかがいたしましたでしょうか?あらゆる意味で凡人である、この俺が?」
???「そうだね。ほんっと平々凡々なお前如きにどうして束さんが意識を裂かなきゃいけないんだ。それが未だわかんないんだけどさぁ…、初めてだよ。興味をすっ飛ばして警戒しなきゃって本能で分かる相手は」
惣万「本能?おかしな話だな。非科学的で根拠がない。科学者向いてないんじゃないか?で……何しでかすつもりだ。そっちはそっちで警告しに来たんだろ」
束「そうだね。お前如きにできるとは思わないけど、――――ちーちゃんといっくんにあんま近づくな。殺すぞ」
惣万「……――――は、嫌われたもんだな。でも天災さまに意識されるとは、光栄っちゃ光栄か。ハハハ」
束「(ガン無視)束さんの夢である子どもたちを天に飛ばすとするかな~、あ、もうお前消えてくれていいよ」
惣万「……――――いいのか、只の人間(篠ノ之束)。その科学の先に待っているのは破滅だぞ」


―どうして?何で?どうして私の発明を認めない……?空想?夢物語?違う、そんなことは無い!無能なお前たちが造ればそうだろうけど、この私が造ったんだぞ!“彼女たち”を宙に羽ばたかせたかった、だから造った!……もういいや……なら、こうすれば、世界は気が付くよね?―

 

―………………それじゃ、お願いだよ~、ちーちゃん。束さんと一緒にさ~、世界をもっと楽しく、面白くしようよ~―

 

 

 俺はこの世界にやってきてから、ようやく何気のない、暖かな日常を送ってこれた。あぁ、だが……俺はこうなることも知っていた。知っていて放置……していたんだろうか。もしかしたら、もっと平穏を感じていたかったからなのかもしれない。

 

 ある日、その平穏は唐突に終わりを告げる……。

 

『白騎士事件』。後にこう呼ばれる、ISが世に初めて現れた出来事だ。

 

 麗らかな青空の日だった。その日、何者かのハッキングによって、二三四一発のミサイルが各国の軍事施設から発射された。空には白い軌跡を描いて“絶望”がやって来る。それが見えた人間たちは泣き崩れ、騒ぎ喚き、正気を失ったように笑い出す者まで現れた。

 

「はいはいはい!落ち着いて!押さない!走らない!騒がない!避難場所が分からない人たちはこちら、カフェnascitaに!地下室が核シェルターになってまーす!……ホラ、一夏!箒ちゃん!声かけて!一人でも多く!」

「惣万にぃ……んなこと言ってもな!話聞きゃしねぇよこんな中で!」

「同感だが……、でも今やらないと……!」

「何とか声出せぇ、声ぇ!」

 

 そんな騒々しい街の中で、俺達は救命活動をしていた。こういう時、幼少期の従軍経験が生きるとは、人生分からないモノだ……。義母さんが万が一の為に造っておいたという地下シェルターを開放し、何とか商店街の人間を収容できた……と思った時だった。

 

 その時、俺はカフェに戻ろうとしていたが、誰かからの視線を感じ、振り返った。

 

「誰だ。……!」

 

 そこには、空中に立つ騎士がいた。片手にブレードを持ち、両肩の上に浮遊する天使の翼の様な装備――――そして頭と目を覆うバイザー。この世界、ライトノベルの題名にして、カギとなる兵器、『インフィニット・ストラトス』の始まり。

 

「……白騎士」

 

 俺は微動だにせず、純白の汚れなき機体を見つめる。コレがこれから空を飛び、人々を絶望から救うのだろう。そして世界は、こぞってISを兵器として迎合するのだろう。そう、世界は混沌を極めることになる。

 

 あぁ、俺は知っている。その力を手に入れたお前(ちふゆ)は、その力を振るったことを心のどこかで後悔するのだろう……。だから原作でも、力の扱いには細心の注意を払っていたのではないか?だから弟を、自分の薄汚れた手で一人で守ってきたのではないか?……この、俺が降り立った世界でも、お前は修羅の道を歩むのか?それは……あぁ、とても……。

 

「痛々しいな……」

 

 そう“正体不明の”白騎士に投げかけた後、俺は彼女に背を向けた。同じく彼女も俺のことを振り返ること無く、体を翻しミサイルの雨の中を縦横無尽に蹂躙しだした……。だが俺には分かった、彼女は…………泣いていた。

 

 

 白騎士が俺の前から飛び去る時、彼女は口を真一文字に結び、頬には光るものが伝っていた。……だが俺は彼女ではない、だから何故泣いていたかなど分かるはずも無い……。

 

 

 あぁ、だが……。でも……。

 

 

「何故だ……?何故俺まで、泣いている……?」

 

 

 空には何かが爆発する音と、空中で乱雑に途切れたミサイルの軌跡を記した煙……、そして責任を背負い、剣を振り続ける女騎士。

 

「同情だと……?俺が彼女でない限り、そんなことを思うのは万死に値する……一人一人に運命は決まっている……故に他人の運命に、憐憫の感情を抱くのは間違いだ……」

 

 

 なのに彼女のことを思うと、どうしても今までの思い出が瞼の裏に映りだす。

 

俺が作った料理を食べてほんのりと頬を染める千冬。俺と一緒に家事や掃除をし、俺の手際を見て不貞腐れる千冬。一夏と箒の仲の良さを見て、嬉しそうにカフェでコーヒーを飲む千冬……。

 

 

 あぁそうか……、ようやく気が付いた。俺が抱いていた、胸を駆け回るこの思いに。全く、感情を持たないエボルトと違い、俺は元から感情を持っていたにも関わらず、この体たらくか……。怒りで俺のハザードレベルが上昇する……ハザードレベル8.3……8.5……8.8……!

 

 こんな不条理を千冬に押し付けた天災科学者を忌々しく思う。その天災を理解しなかった傲慢で脳の足りない、権力に胡坐をかいた耄碌どもが許せない。

 

 

 この世界に来てから疑問に思っていた……。桐生戦兎。貴方は……、『仮面ライダービルド』は人間のラブ&ピースの為に戦った。では俺は……?俺は……逆さまな『LOVE』の文字を持つ『仮面ライダーエボル』は、一体何のために戦えばいい?

人類の為?自分の為?それともブラッド族の使命の為?……どれも違った。そしてようやく気が付いた。俺が戦う理由は――――。

 

 

「千冬、お前の為に……この世界を……」

 

 

 はるか遠き成層圏、片手でブレードを振り回し、押しつぶされそうな責任の重圧の中で唯独り戦う戦乙女。

 

「俺は、一人の愛と平和の為に、世界を相手取ってもいい……」

 

 

 こうして、科学の申し子たる“兎”と、天より来たりし“蛇”は世界を挟んで対立する。顔が見えずとも、互いが互いを嫌悪し合う。そして、それはこの世界でも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Cobra…】

 

「俺に流れていた“善人”としての血は、この世界への怒りによって蒸発した」

 

 コツコツと足音が響く。不気味に光る地下室の蛍光灯が彼のアッシュグレイの髪を照らす。

 

「俺の手は既に血塗れだ……だから背負う罪が在る俺が、この世界の悪になればいい」

 

 石動惣万は眼を赤く光らせると、銀と赤錆色のボトルをセットした小型の銃を構える。

 

「蒸血」

 

 トリガーを引きながら、ボトルがセットされた銃を下から上に振り上げ、黒煙を巻き上げる。

 

【Mist match…】

【C-C-Cobra…Cobra…Fire…!】

 

 火花が散る音と共に煙が晴れる。そこに立っていたのは、まさに惣万の血に濡れた人生を象徴するかのような、ワインレッドのパワードスーツの怪人だった。

 

 血の色をした怪人……『ブラッドスターク』は言葉を続ける。

 

『俺達はファウスト。愛を、地位を、真に美しいものを求めた愚かな博士の名を冠する、霊長の敵だ……』

 

 そしてその声に反応し、物陰からさらに三人が姿を現す。

 

【Bat…】

【ギアエンジン!】【ギアリモコン!】

 

「蒸血」

「「カイザー」」

 

【Mist match…】

【【ファンキー!】】

 

 三人がそれぞれ銃から黒煙を噴き出させ、周囲をブラックアウトさせると、花火が散る音、通信機が鳴る音、タービンの駆動音がそれぞれ不協和音を奏で、視界が晴れると三体の黒い素体の怪人が立っていた。

 

【Bat…B-Bat…Fire…!】

【Engine running gear】【Remote control gear】

 

 廃棄された研究施設の地下室に現れた四人の怪人。彼らファウストは、この混沌の世界に何を思うのか……。

 

『さぁ、この世界を壊すんだ………………!』

 




 この後のファウストの皆さんの会話
???「ね~、やっぱり潤動~、の方が良くない~?」
???「そもそも言う必要性が感じられません……」
???「では、その掛け声について……、隣のホテルで語り明かそうかァ!キハハハハハァ!」
惣万「こいつら協調性無ぇー……」


※2020/12/25
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第九話 『涙のスマイル』

千冬「さて、ようやくISの白騎士の登場か。いったい、だれなんだろうな…」
惣万「俺、何か目が合ったんだけど」
一夏「へー、どんな人だったかわかる?」
惣万「不器用そうで、苦労人気質で、後始末を押し付けられて、最後に全部裏切られそうな感じの人だった」
一夏「なにそれ、物凄い幸薄な女の人じゃん…。束さんにそんな知り合いいたかな…」
千冬「ま、まぁ何がともあれ運命が動き出したな。これを機に束もマシになってくれればいいんだが……」
惣万「あのハザードラビットが他人の意見を求めると思うか?俺らがわきから口出してどうにかなるのなら世話ないぜ」
千冬・一夏「「…………あー」」
箒「これには一同納得」


 原作の通り、白騎士事件は大々的に報道され、早四年。インフィニット・ストラトスは一躍『武力』として有名に……そして徐々に世界は捻じれ始めていた。世間ではふんぞり返って偉ぶる女が現れだし、俺の周囲では……。

 

「箒ちゃん、体に気を付けてな」

「……ハイ……あの、また来れるなら……ここに来ても良いですか……?」

「あぁ、待ってるよ」

「ほらほら、千冬ちゃんに一夏君も!惣万君と一緒に箒ちゃんとお話しなさい?」

 

 身体が弱くなり、杖をつきながらも、義母さんは後ろの方でもじもじしてる姉弟の背中を押す。

 

 一夏が足踏みをしながら幼馴染の前に立つ。

 

 

「あー……、箒……」

「一夏……」

 

 お互いが一瞬、目を合わせると……またそっぽを向く。そっぽを向いたことに罪悪感が湧き、また正面を見て、気まずくなったらその繰り返し。

 

 

 最初に口を開いたのは箒だった。

 

「一夏……これで……お別れだな……」

「っ!…………そうなるな……」

「……私がいなくなると……寂しいか……?」

「………………あぁ」

「……そうか……」

 

 そして一夏は、正史では言わない様な、信じられない言葉をその後に続ける。

 

「お前は俺の中で特別な人の一人だ……その事に今更気付くなんて……俺、本当に馬鹿だよなぁ……」

 

 

 

 その言葉は、お互いがお互いの感情を吐露するには十分なもので……。

 

「ッ……!…………私知ってるよ……これから言うことがただの我儘だってことくらい……」

 

 彼らの感情を爆発させるには十分で……。

 

「……、……ッ、ゃだよ……っ!」

 

 ぐしゃぐしゃになった頭で箒は有らん限り叫ぶ。

 

「……嫌だよ!私、まだみんなと一緒にいたい!お父さんと千冬さんと一緒に剣道して、お母さんと石動さんたちと料理をしたいよ!一夏と一緒に想い出をいっぱいつくりたいよ!やだよ!私、この街から出ていきたくないっ!」

 

「……箒……」

 

 非常に素直に、子供らしく感情を表に出す箒。その姿はあまりにも痛々しくて、だがとても眩しくて……一夏は思わず彼女の肩をとっていた。涙腺が崩壊したように泣きじゃくる箒は、彼の胸に顔を埋める。

 

「ゃだよぉ…ッ!まだ行きたくない……でも、でもッ……どうしようもなくてっ。だから……、だからぁ……ッ‼」

 

 一夏は服が涙で濡れるのにも関わらず、優しく、だが強く箒を抱き寄せる。

 

 俺は一夏と箒……二人の道がまた交わる未来を知っている……だが、それも俺たちの異分子がいる時点で確定ではない。本当にこれが最後になるのかもしれない。……千冬を見る。いつも通りにも見えるが、長い付き合いである俺には分かる。顔色が悪く、握った拳は自身の無力さにブルブルと震えている。

 

 

 どうして天災は、自分がしでかしたことを理解できないのだろうか?どうしてこのことが理解できないのだろうか?人間は、脆く、醜く、それでいて一瞬一瞬が眩く輝いていることに……。

 

「ッ、箒…」

「一夏……っ、い゛ち゛か゛…」

 

 涙でぐしゃぐしゃになった箒は、思い人に酷い顔を見られるのを構わず、真っ直ぐ正面を向いて一夏に願う。

 

「お願い……っ、いつもみたいに、『またな』って……っ言ってくれないか……っ!『また明日な』って、……っ!」

 

 叶わぬ希望なのかもしれない。二度と重なり合うことのない出会いなのかもしれない。だが、それでも、箒は一夏と一緒にいる明日にいたい。

 

「ッ、箒…“何時かの”明日……また会おうな…‼」

 

 一夏も応える。必ず会える何時かを思い。

 

「ッ、……っ!」

「また…、逢おうな。今度、桜を一緒に見に行こうぜ…約束する……」

「うんっ‼」

「今度会ったら、ちゃんと迎えるから…――――『おかえり』って言うからな!」

「私も、『ただいま』って言えるように、頑張るから…!」

 

 

 彼らは抱き合う。その別れの時が近づくまで。

 

 彼らの上に広がる蒼穹は、いつもよりも高く、清く澄み切っているようだった……。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 箒が去ったカフェは、少し寂しい。

 

 そして、俺の身の上にも、新たな別れが訪れる。

 

 身体が悪くなった義母さんが、床に臥せるようになったのは箒が去ってからすぐ後だった。しばらくカフェを開けない、そう千冬と一夏に告げると承知してくれた。

 

 調べてみれば、彼女は戦地にて大量の放射線を浴びていた。彼女が生き急ぐ理由は、ここにあったのかとようやく思い至る。秘密裏に使われた原水爆は、どれも亡国機業と繋がりのあるテロ組織が用いたもの。

 予想通りというか、やはりと言おうか。我が義母はどうやら亡国機業と縁深い裏社会の存在であったらしい。

 

 だが、俺は詳しくは聞かなかった。彼女が俺にしてくれたように、俺も彼女と同じことをする。

 

 俺は今日も、白いカーネーションを持って二階に上がる。ベットでエノク書を読み、うつらうつらしている義母さんの傍に花を生ける。その時、ふと義母さんが口を開いた。

 

「私ね、昔、夢があったのよ」

「あった、って……諦めたのか?」

 

 こうして彼女が俺に昔のことを話してくるとは珍しい。お互いに過去のことには触れないという暗黙の了解があったからだ。彼女はぼんやりとした口調で続ける。

 

「そうねぇ……そうかもしれないわね……あの夢は私が見るには明るすぎて……私の心の限界を超えて私の全てを燃やしていったわ。それで、私の身体は灰の様になっちゃった。あの太陽の様な夢には届かなかったわ……でも、それでもね、とても暖かくて、麗らかな余生を送ることもできた……」

 

 どこか苦しみから逃れたような安堵の表情で昔を懐かしむ義母さん。気になったので聞いてみた。

 

「もう夢は無いのか、義母さん?」

 

 そんなこと無いわ、と言うように薄く笑い、首を横に振る。

 

「そうねぇ……、月並みな事しか言えないけれど、今の心配事は馬鹿息子とその恋仲の子かしら……」

 

 ベットの横にある机の上の写真を見る。そこには別れる前の箒を含めた俺達とnascitaが写った写真が飾ってある。

 

「ほら、貴方、自分のこと、“人間らしく”って言うでしょ?まるで、自分が人間じゃないみたいに。まぁ人でないとかは関係なくて……それでも愛してくれる人は、必ずどこかにいるはずよ。だから……、“人”になってもいいんじゃない?」

 

 ……それは経験から言っているのか……俺の心の中にすとんと納まった。だが、薄暗い過去の俺が、本当にそれでいいのか思ってしまう。

 

「でも……俺は、どうしても…逆さまな愛しか与えられないんだよ」

 

 そんなことを言うと、義母さんは……、いいや、“母さん”は俺の頭に手を置き、優しくゆっくりと撫でる。

 

「今の私の夢は……、貴方たちの心が健やかで、空の様に澄み切っていますようにって……、私……願って、いるから……」

 

 次第に途切れ途切れになっていく声。

 

「だから……」

 

 一瞬、安堵した表情になる母さん。

 

「死にぞこないの私がここまでこれた……、惣万……、貴方も本当の“愛”を知れたらいいわね……」

 

 そう母さんは笑顔で言うと、彼女はこの世から最初からいなかったかの様に、温もりはあっという間に消え去っていった……。

 

 

「分かってるよ……母さん……」

 

 風に乗り、俺の周囲に漂う真っ白な花弁が、開けられた窓から外に流れていく。俺の頬を撫でる息吹が、一瞬母さんの手と重なる。

 

「……ありがとう……」

 

 その日の蒼穹も、明日の地球を讃えるように美しく、その吸い込まれるような青に、花弁は踊るように舞い散っていったのだった……。




 これほど純粋な「モッピー知ってるよ」があっただろうか……。前話の冒頭に少しあらましを足そうかな……。

※2020/12/25
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 蒼穹さんの病状がえげつないことになった……。


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第十話 『日常のロマンシア』

惣万「ご冥福をお祈り申し上げます、ってな。これにて葬儀終了っ!遺言通り海に遺灰撒いてやったぞ。これで、いいよな」
一夏「……ッぐすっ」
千冬「蒼穹さん、今までありがとうございました。大変お世話になりました…」
惣万「お…?お前まで泣いてくれるとは母さんも喜ぶだろうな…」
千冬「お前がいない日には色々と世話してもらったからな、当然だろう」
一夏「……蒼穹さんのコーヒー、美味しかったなぁ。箒もいたら良かったのに…」
惣万「んじゃ……Ciao、母さん!」


 母さんが亡くなってから、俺は高校を辞め、自分でお店を切り盛りすることにした。他人に任せるのも何か違うと思ったし、箒とも約束したんだ……『向こうの俺』は悪の組織の参謀だが、こっちの俺は皆の思い出の場所のカフェぐらいは守ってやるってな。あぁそうそう、カフェnascitaを少しリニューアルして、レストランカフェに路線変更もした。

 

あとそれと、週に三回ほどの回数になるが……。

 

「こちらコーヒー一つと、アールグレイ一つになる……ます。パンケーキはお好みで蜂蜜をかけて食べ……お召し上がりください……」

「どうぞごゆっくり」

 

 言葉遣いが若干怪しい世界最強(笑)のフォローに回るのが日課になりつつある……。

 

「さて、千冬?客相手に若干タメ口が出るの、どうにかしろって前に言ったよね?」

「……っ、面目ない……」

 

 千冬がJKになりアルバイトが解禁になった折に、ウチで雇うことになったのだ。レストランカフェnascitaは、こんな青二才がやっているというのに母がやっていた頃と全く売り上げが変化していない……故にアルバイトでもかなり高額な賃金を千冬に払ってやれている……と思う。

 

「まぁ?それでも客足は途切れはしないけどさ……」

 

 そう、原因は千冬が第一回IS世界大会で優勝したことだ。大学生になった今でも顔を出してくれるのは全く以ってありがたい。そのおかげで一躍有名人となった彼女のおかげで店はものすんごく繁盛している。

 

「しかし全く……ろくでもない称号だ……」

 

 唐突に千冬が呟く。

 

「称号……?あぁ、もしかしてあの戦乙女の……」

「それ以上言うな!」(ソウトウエキサーイエキサーイ♪)

 

 鏡先生!?

 

「……、何で?カッコイイじゃん。ちょっと厨二臭い感じで、俺は好きだけど……」

「お前なら知っているだろう?ブリュンヒルデとかいうのは、ほら。愛した夫を誓いによって死に追いやってしまうとかいうアレだ」

「あぁ知ってる、シグルドとかって確か…竜の宝の呪いやら拗れた人間関係によって死んだんだったな。で?それがどうしたよ?」

 

 言葉を続けようとした千冬の頬は、薄っすらと桃色に染まっていた。

 

「はぁ、まるで男運が無いみたいじゃないか…。行き遅れだとか、将来言われかねないな。全く、嫌みな称号だ」

 

 ……悪いな。少し揶揄う形でスルーさせてもらおう。

 

「……だけど俺はそうはならない。何故なら、俺自身がお宝と美人に目が無い、邪な蛇竜だからな!」

「…何言ってるんだ」

「ん?だから俺達は末永く友達だってこった」

 

 ………色々と悪いな、千冬。本当にゴメン。

 

「んぐ……。……くっくく……はははははは……あーぁ……、何だ……色々考えた私が馬鹿みたいだ……」

「馬鹿なんだろ?」

「……」

「痛い痛い痛い!?やめっ、あっ……アイアンクローは止め、って……ぬ゛あ゛あ゛ーーーーッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 あー、痛って……。昼間に受けたアイアンクローという名の万力モドキが翌日になってもまだ痛い……。

 

 

―チリンチリン―

 

「お、いらっしゃいませ~……って一夏か……?そちらさんは……」

「あ、初めまシて、凰鈴音デす」

 

 あぁ、もうそんな時期になったのか……。

 

「(いらっしゃい、お嬢ちゃん。中国語は余り得意じゃないんだが、聞き取りづらかったら勘弁してくれ。で、ご注文は?)」

 

 俺は昔母さんと世界各国をフラフラしてた時にマスターした中国語で彼女に接する。丁度良かった……上海語とか広東語とか色々覚えておいて……。

 

「(い、いえ、お上手です……あ、じゃぁ一夏の飲んでいるものを下さい)」

 

こうして俺は、原作キャラの一人、凰鈴音が一夏を通じて知り合うことになったのだ。

 

 

 それから場面は巡り変わる。一夏と鈴音は友情を育み、俺は毎日を慌ただしく料理とコーヒーに費やし、千冬は俺の下でアルバイトをして日々を過ごす……。最近鳴りを潜めているが、弱冠一名、俺でさえ予想がしづらいイリーガルも存在するが、顔を合わせてれちょっとずつだが内心が透けて見え始めた。ちょっとヤバそうだが、何とかするとしよう…。

 

 

 色々な毎日を過ごしてきた。ある時はこんな一幕もあった。

 

「千冬ゥ、ヤメルォ!その肉は俺が育ててたんだよ!折角ミディアムレアにしたのに!」

「ムグッ食わんお前が悪い!」

「てか千冬姉は自分の肉ちゃんと見とけ!真っ黒こげじゃねぇか何でだ!?」

「うーん、カルビ美味しー」

「あるェちゃっかりしてるな鈴ちゃん!どんだけ食ってんの!」

「何ですか惣万さん、お肉の下拵えにウチの調味料お裾分けしたのお忘れですかもっきゅもっきゅ」

「一夏さん、お水如何ですか?」

「あーもう、肉が勿体ね……お、蘭か、あんがとな」

「ほらおにぃも焼肉対戦に入ってよ、私たちの分なくなっちゃうでしょ!」

「いや、あんな人外魔境に俺を投入するつもりか?」

「骨は拾うから。牛タン、牛タン!」

「割に合わなっ!?おい数馬も何か言って……、ちゃっかり鈴と一緒にスゲェ量食ってる!」

 

 ご近所付き合いの深いメンバーと焼肉大会はカオスな事になった。千冬は分かるんだが、何か人外が数人出てきたぞ。五反田の爺さんと鈴ちゃんの親父殿がとんでもなかったんですが……。

 

 だが、そんな穏やかな日々は続かないのが道理である。

 

 その年の暮れ、レストランカフェnascitaの年内最後の営業を終えると鍵を閉めた。そして、晴れた星空を見上げ息を吐きだす。

 

「あぁ、世界はまだ美しいまま。だが、もう間も無く醜く変わる。ならその前に、先に終わらせてしまうべきだ……全て、全て」

 

 なーんてな。ドクター真木ならそんなこと言うんだろうな。

 

「だからさ、千冬……」

 

 俺は希う、俺を止められるのは……そして俺を責められるのは千冬であるべきなのだと。

 

「『織斑千冬。……白亜のブリュンヒルデとなってしまった可哀想な“人間”の乙女よ。お前がブリュンヒルデなら、シグルドはきっと別にいる。俺はそのきっかけを与えただけのファフニール、つまりは害悪の現象そのものだ』」

 

 まあお前が俺をシグルドだって言うなら別に良い。そんな英雄然とした人間じゃ無いってのは分かっているが……北欧神話に乗っ取って最期の戦いになった時は、お前が俺を殺してくれるよな。いや、彼女は意外に優しいもんな、きっちり殺してくれるだろうか。

 

 あぁ、このしっちゃかめっちゃかになった世界と心中して無に還るなんて――――最高じゃないか?




 短いな……まぁすぐ投稿すれば誤魔化せるか……(錯乱)


※2020/12/08
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第十一話 『陰謀のモンド・グロッソ』

惣万「さて、前回はセカンド幼馴染、鳳鈴音ちゃんの登場だ」
鈴音「いやいや惣万さん!初っ端から間違えてます鳳じゃありません凰です!」
千冬「(む。そうだったのか、今後は気を付けよう…)ところで凰、中国茶でもどうだ?」
鈴音「え、や…それはちょっと……結構です、すいません…」
千冬「…そうか」
一夏「いや鈴、それで正解だって。なんでカモミールティー淹れてるのに真っ黒な液体になるわけ、千冬姉?」
千冬姉「いや、知らない…」
惣万「メシマズ属性セシリアから分岐したのか…?」


某国、某所……。

 

【フルボトル!】

 

【スチームアタック!】

 

 その音声と共に、トランスチームガンからガトリングの様に数十発のエネルギー弾が目の前の武装集団目がけてとび、鮮血と悲鳴を飛び散らせる。

 

「なっ、何だこいつのパワードスーツは!?本当にEOSなのか!?」

 

 その声にカチンときたらしく、言った人間を“バルブの付いた剣”で乱暴に切り裂く夜の悪党。

 

『ハァ……。そんな醜く、愚かしく、無価値な、国連が開発したパワードスーツ(オモチャ)と……私の開発したトランスチームシステムを比較されるのは……全く、実に、非常に不愉快だ……』

 

 きついエコーがかかった声がノイズ交じりに吐き出され、その怪人はトランスチームガンを放り上げる。

 

「……っ、IS部隊が来たぞ!」

「やった……これで……!」

 

 

『勝った、とでも?残念だったな……消えろ』

 

 後ろから赤い残像を残しながら這い寄ってきた血塗れの参謀が腕のチューブを伸ばし、IS操縦者に毒を注入する。

 

「「……!?ぐっ……!ギャアァァァァァッッ!?」」

 

 突如として苦しみだし、黒い粒子となって消えるIS操縦者たち。

 

『ふん……』

 

 漆黒の蝙蝠と血の色の蛇。その二人が並び立つ。

 

 

『ハァ…つまらないな……。この程度か?』

「あらあら、随分と面白い格好の方ねぇ……。まるでエヴァに林檎を授けた蛇ね……」

『おぉ、中々言い得て妙だな?俺はブラッドスターク。こっちがナイトローグ。そしてこれはトランスチームシステムって言ってな?一種のパワードスーツだ。……まぁそんなのはどうでも良い。実は耳よりな商談があってなぁ……一口乗るかい?亡国機業のスコール・ミューゼルさん?』

 

 ここに、亡国機業とファウストが会合する……。

 

「言われた人員は揃えたわよ、ブラッドスターク?」

『おーぉ、サンキュー。フム、コードネーム・オータムに、Mか……。ま、素性なんざ調べりゃすぐに解るが……』

「何……?」

 

 おっと、流石に此処でマドカに出生云々を言うと面倒だ……。

 

『まぁ良いや、早速だが、こいつを見てくれ』

 

 そうして俺は虚空からパンドラボックスを取り出す。

 

『コレはパンドラボックスって言ってな。はっきり言っちまえば異惑星……地球外文明が創り上げたオーパーツだ』

「……は?んな馬鹿なことあるかよ?おいスコール!このコスプレ野郎、ココでぶちのめしちゃ駄目か?」

「まぁ待ちなさいオータム……。それで?それを我々に見せる理由は?」

『なぁに、知り合いの科学者が言ってたんだが、この中には……それこそ地球のエネルギー資源なんざ比べ物にならない程の膨大なエネルギーが秘められている』

「あら……。続けて」

『おぉ、乗り気だな……っつてもこれを開けるにはちょっと手間がいるんだわ。まず六面あるパネル……パンドラパネルに各十本のフルボトルを挿さなきゃならん。つまり六十本のボトルがいる』

「……んだよその……“フルボトル”って?」

『いい質問だオータム。俺が今一本持っている、ホラコレ。シャカシャカ振ってみな』

 

 そう言ってスパイダーフルボトルをオータムに投げる。

 

「……、まぁシャカシャカいって気持ちいいけどさ。結局何だ?……ってオォォォォォォ!?」

 

 そう叫んだ瞬間、壁にもたれていたオータムは、手を支点に重力に逆らって壁と垂直になった。

 

「え、ちょ……、オータム!?」

「ふぁっ……!?」

 

 フハハハハハ!驚いてる驚いてる!つーかマドカちゃん、キャラ崩れてるぞー?

 

『それはスパイダーフルボトル。パンドラボックスから抽出されたネビュラガス由来の物質を詰めたものでな、有機物と無機物の二種類のボトルがある。そしてその特徴は詰められた成分によってその物質の特徴をその身に得られる……。今のオータムは差し詰めスパイダーウーマ〇ってか?』

 

 あ、効果が切れて天井から落ちた……うわー尾骶骨うったな……痛そう……。

 

「……~~ってぇ~~っ!」

 

 涙目で睨んでくる秋姉さん。

 

「……大丈夫か、オータム」

「あぁん?舐めんな、こんぐらい平気だよガキ……」

『せっかくの善意は無下にするもんじゃないぞ~。つーか涙目で言われてもなぁ?』

 

 せっかくなんでスターク節で煽っておこう。あ、真っ赤だなオイ。煽り耐性低すぎじゃね?まだ皮肉を言おうと思ってたんだが……。話を戻そう。

 

『まぁそれは置いといて(無視すんなや!)……それは無視して、(おいゴラァ)本題だ。そんな訳で、もし協力したいなら幾らかのボトルは友好のシルシとして提供しようじゃねぇか。強大なエネルギー資源もお前らに優先してくれてやる……。だが、そうなると此方もカツカツだ……。てなわけで……』

「成程、我々がパトロンになれ、ということかしら……。でも私たちだけでは決めかねるわね……。少し時間をくれないかしら?」

『あぁ、いいとも。だが時間が勿体無い……そうだな、今からお前らのトップにでも会いに行くか?』

 

「「「は?」」」

 

 そう言ってセントラルチムニーから煙を噴き出し、その場からナイトローグと三人と共に立ち去った……。

 

 

 

「……」

 

 

『いやぁ、上手く交渉が出来て良かったぜぇ、つーわけでこれからよろしくな。亡国機業サン?……ん、どした?』

「いや、こちとらボスにアポなしで顔出して首が飛ぶかどうかな気持ちだったんだが!?」

「こーゆーことはこれっきりにしてくれないかしら……」

「……と言うかスターク。ボスに浴びせたあの光は何だ?アレを見た途端、何か、こう……枷が外れたような……」

『あぁあれ……、それはアレだ……ただ交感神経を(多分)興奮させる光だ、交渉事には便利だぜ?』

「ドーピングかよ……?」

 

 まぁ嘘だ。ビルド好きの奴ならわかるだろうが、パンドラボックスの副産物、人間の人格を攻撃的にする謎の光を浴びせた。

 

『まぁ兎も角……。これでファウストとしての計画が進められる……まずは、人体実験だが……』

 

 俺は仮面の下でニヤリと笑い……。

 

『そう言えば、近々第二回モンド・グロッソがあるよなぁ……。お前等、ブリュンヒルデを失脚させようとしてんだろ?だったら……その弟を誘拐してくれねぇか?あいつは丁度良い実験台になりそうだからな……』

 

 

 

 

 よしよし、全ては計画通りだ……。あれから数ヶ月、俺はドイツに来ている。つっても今はどこか分からん廃墟にいるんだがな。そう、一夏が亡国機業に拉致られて千冬が優勝を逃す第二回大会、モンド・グロッソの開催日……。一夏たちには日本にいるということにしているから、遭遇するわけにはいかない……ま、そうはならないだろうけど。

 

【Cobra……!】

 

「蒸血……」

 

【Mist match……!】

【C-C-Cobra……Cobra……Fire……!】

 

『フム、変身完了っと。では囚われの王子様を迎えに行こうか。まぁ、助けるわけじゃないんだけどな……』

 

 

 

 よし、霧ワープってな。……コレ滅茶苦茶便利……。そして視界が開けると秋女とその配下の工作員が勢揃いしていた。

 

『おー、お集り頂き光栄だな。わざわざありがとう、亡国機業の皆様ぁ』

「……ッ、スタークか……というか……ワープ、してきたのか……?」

『それは気にするな、考えるだけ無駄だ。んーじゃ、誘拐された色男を起こすとするか、おーい、起きてるか~』

 

 そう言って俺は一夏の頬をペチペチはたく。

 

「……?……ここは……」

『よぉ、気付いたか?』

「……っ!?」

 

 おぉ、一夏はびっくりしてるなぁ。

 

「……っお前は……何だ?それは……EOS……じゃない……?」

『オイオイ、“何だ?”ってひでぇな、魔法少女ラジカルレヴィにでも見えんのか?若しくはNTR騎士に惚れた面倒な女か?そりゃお前の姉だ。』

「んなわけないだろ!つかそれこそ何だ!?」

 

 いやいや、声優同じなんだわさ。まぁ分からんだろうが。

 

「……オイ、スターク。いつまでふざけてんだ、あぁ?オレらが協力してやって失敗とか言ったらぶっ殺すぞ」

 

オォッと、サンキュー秋姉。ついつい一夏をからかっちゃったわ。うーん、気を付けなきゃいけないのは重々承知してんだが、ぽろっと何か言いそうだ。

 

「……っそうだ……あんた達は何が目的だ……?……!いや……まさか、俺を人質に千冬姉の事を……?」

『おぉ、意外に頭の回転が速いねぇ。そう、協力してるそちらさんの目的はチフユ・オリムラのモンド・グロッソ優勝の阻止だ』

 

 “そちらさん”の言葉と共にオータムに向かって指をさす俺。

 

「っ、……!」

 

 忌々し気にこちらを睨む一夏……やー、こちとらお仕事なんだよね……んな怖い顔するなよぉ……。

 

『まぁ……イチカ・オリムラぁ、そうだな、今から与えられる力を正しく使えるなら逃がしてやらんでもない。まぁコレを注入されて自我を保てていたら、だがな?』

 

【デビルスチーム!】

 

「……!煙……、グッ!?ガッ、ガァァァァアアアアアアアアア‼」

「……!?オイスターク!?何してんだ、殺すつもりか!?そんなことしたらブリュンヒルデがどうなるか…………‼」

『安心しろ、死にゃしねぇよ。ただ記憶を無くすだけだ』

 

 俺は一夏にスチームブレードからネビュラガスを一夏の体内に取り込ませ、ハザードレベルを計測する。……因みに一夏のハザードレベルは子供の頃から興味本位で調べていたんだが……いや、止そう。それで今のハザードレベルはっと……。

 

『フムフム、スマッシュに変化せずにハザードレベル2.3か……。まぁまぁだな』

 

 さて、向こうはどうなっているかな?

 

 

 一方その時、決勝戦を棄権し、一夏救出に向かっていた織斑千冬…………。

 

 

「一夏……一体どこに……、ッ!?」

 

 第六感が危険だ、と自身に告げる。刹那、千冬は暮桜の主武装、雪片を真一文字に振るう。

 

―ドキュンッ‼―

―キンッ‼―

 

『へ~、今のを斬るのか~。ねぇさん、ざんね~ん』

『流石はブリュンヒルデ、ですか……、夫となるシグルドも苦労するでしょうね、ま、そんな人いないでしょうが』

 

 そんな声が聞こえた。銃弾が放たれたであろう地点をハイパーセンサーで確認……だが何の反応もない。千冬は常人離れした視力で目線をそこに向ける……いた。

 

「……!?その姿は……?」

 

 そこにいたのはフルアーマーの二人組だった。一人は顔や体の右側に赤い歯車、もう一人は同じく左半身が青い歯車の様な装甲で覆われ、顔の装甲の奥に光るカメラアイは怪しく青白く輝いていた。

 

『改めまして、お初にお目にかかりますブリュンヒルデ。私はレフトカイザー。こちらは妹のライトカイザー。秘密結社“ファウスト”の専属兵器です』

 

 慇懃無礼に挨拶をする青い歯車の怪人。

 

「……ファウスト……?」

『はい、とある方がこの世界を壊すことを掲げた反政府組織です。あぁ、彼は今日も貴女の決勝戦を楽しみにしていらっしゃいましたよ?ですが、まぁその御様子だと棄権なさったようですね』

『ねぇさん、当たり前~。織斑一夏はスターク様がさらったんだから~』

 

「……っ‼」

 

 その言葉を聞いた瞬間、千冬は二人組に斬りかかった。だが驚いたことに、妹だといった赤い歯車の方……ライトカイザーは世界最強の剣戟を、片手に持ったバルブのついたブレードでうち払う。その隙をついて姉……青い歯車のレフトカイザーが紫色の拳銃の様な機械で援護射撃を行う。それはまさに息がぴったりと合い、ブリュンヒルデにも脅威として映った。正確に乱れ撃たれる銃弾を避けながら距離をとろうとする織斑千冬……だが。

 

『も~らい~。よいしょ~』

「なっ、ぐあぁァァア!?」

 

 いつの間にか高スピードで接近していたライトカイザーは千冬の被っている暮桜を両手でしっかり掴みブリッジの要領で易々と後方へ吹き飛ばした。派手な音が鳴り響き、暮桜のシールドエネルギーは残り少なくなる。

 

「……くッ、私は……私はこんな所で……。私は一夏を……ッ!」

 

『美しい姉弟愛ですね、親がいない者として、シンパシーを感じますよ』

 

 そう言いつつも狙いは外さずに距離をとる二人のカイザー。ライトカイザーは持っていたブレードを分離させ、レフトカイザーの持っていた紫のデバイスに合体させた。そしてそれと同時進行でレフトカイザーはスロットの様な部分にロケットのレリーフがあるフルボトルを挿入する。

 

【フルボトル!】

 

【ファンキーショット!フルボトル!】

 

 その音声と共に千冬に向かって巨大なロケット型のミサイル状のエネルギー弾が発射された。

 

「くッ、オォォォォォォッ‼」

 

 

―ドッガァァンッッ‼―

 

 

『フム、終わりましたか。カイザーシステムの初運用がブリュンヒルデの足止めとは、誇るべきなのでしょうね……』

『……。ねぇさん、まだ終わらない』

『む?……まさか』

 

 妹が発した、野生の勘とでも言うべき危機回避能力からの警告に、二人とも身を固くする。土煙が開けて、ファンキーショットが着弾した場所が見えてくる……。

 

『何!?そんな馬鹿な!』

『……。あぁそう、シールドエネルギーを犠牲に雪片の能力で打ち消した…………』

 

 驚きの声を上げる青い歯車の銃士と冷静に分析する赤い歯車の剣士。目線の先には肩で息をしてはいるが、未だ戦闘の意思は消えていない世界最強の女性が立っていた。

 

「………さぁ、私はまだ戦えるぞ……。貴様らを倒して一夏の元に行かせてもらう……!」

 

『くッ、流石人類最強ですね。……ですがISはおろか生身でこのカイザーシステムに傷をつけられると?』

『……!ねぇさん、スターク様から連絡~。……足止めはもういいって~。やた~、帰れる~、もうスターク様、撤収したって~』

『……む、そうですか。ならマスターの仮説は証明されたんですね。ではブリュンヒルデ、こちらをどうぞ』

 

 そう言ってレフトカイザーはひょいと紙切れを投げる。恐る恐る紙を見る千冬はそこに書かれていたものに眉を吊り上げた。

 

「……ぉい!待て!どういった風の吹きまわしだ!?何故私に一夏の誘拐場所を知らせる!?」

『それはもう織斑一夏君が人質の価値を失ったことを示します。あぁ、殺害したとかでは無いのでご安心を。もうしばらくは貴女方に私達が所属する“ファウスト”は干渉しないでしょう。もう一方は知りませんが』

「もう一方……。(最低で二つの組織が関わっているのか……)……………………それ全てを信じるとでも思っているのか?」

『構いませんよ、しかし、良いのですか?我々の組織は弟君に手を出しませんが、もう一つの方はどうか分かりませんよ?』

「……チッ!」

 

 千冬は舌打ちをすると近くにあった乗用車の窓ガラスをぶち破り、ハンドル近くの配線を引きずり出してエンジンをかけると二人のカイザーに目もくれずに一夏の救出に向かった。

 

『……ふぅ、やはり、といいますか……私が戦闘なんて要員錯誤も良いところではありませんか』

『気にしない気にしな~い』

 

 神経質そうにこぼす青い戦士に呑気に言葉を返す赤い戦士。その途端、彼女らの身体を覆っていた装甲が煙の様に消え、銀髪赤目の二人の女性が現れた。

 

「ではブリッツ、手を繋ぎなさい。ネビュラスチームガンのワープ機能もまだ長距離は出来ませんからね」

「へいへ~い、り~」

 

 そう仲良く言葉を交わすと、ネビュラスチームガンのトリガーを引き、体に悪そうな色の煙に巻かれ、姿を消した……。




 ライトカイザー、レフトカイザーのスペックがよくわからないので描写が難しいですね……。あとマドカが登場。ここら辺、何時亡国機業に加入したのかはスルーでお願いします。惣万が過去色々やってるのでバタフライエフェクトということで……。

※2020/12/08
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第十二話 『主人公・オンステージ』

千冬「一体何者なんだ、スタークとやらは…?」
惣万「赤と緑のキャラねぇ…俺実はこの色の組み合わせ苦手。目に優しくねぇし毒々しいしケバイし」
千冬「ん?なんでお前そんな特徴知ってるんだ?一夏しか見てないはずでは?」
惣万「そりゃあれだよ、読者が知ってる設定は作品内で周知の事実として扱いされるパターン」
一夏「メタいなぁ!つか俺もスタークの記憶は消えるんだけどね…ではどうぞ」


「………………っ、はッ!?」

 

 ……ここは、何処だ……?いや、前に惣万にぃに教えてもらったぞ……こういう時はまず……。

 

「知らない天井だ……」

 

 ……うん、俺にネタ発言って似合わないな……。えぇと……?俺は織斑一夏。姉、織斑千冬の第二回モンド・グロッソを不本意ながらも従弟と一緒に見に来て……些細な言い争いから別行動になったんだよな……?その後……?

 

赤いパワードスーツの怪人……『ハザードレベルは2.3か』スマッシュ、千冬姉の阻止・スターク/人質【デビルスチーム!】『記憶を消すだけだ』煙…………。

 

「……ッ、ワァァァァァッ!?」

 

「…………んぁ、……っ!?……っオイチッピー‼沖田‼……っじゃねぇ起きた‼一夏が起きたぞ‼」

「……っ何ぃ!?本当か惣万‼」

 

 俺が眠っていた病室の外が騒がしくなる。だが俺の頭の中は脈絡なく情報が結合し、乱雑に言葉が入り乱れ、極彩色のコラージュを見ているかのように気分が悪くなる。ベッドの上で嘔吐してしまう。

 

「一夏!?大丈夫か!?」

「オイ千冬!コレ、ビニール袋!」

 

 差し出されたエチケット袋に胃の内容物を吐き出す………………、ハァ……ハァ……、……落ち着いた……。

 

「ち、ふゆねぇ……?そうまにぃ……?ここ、は……?なん、で……いるの……?」

「よーしよし、落ち着いたな?……俺か?お前が昏睡状態になったって聞いて、日本からドイツにはるばるやって来たんだぞ……。一夏……、何があったか、覚えているか?」

 

 惣万にぃが背中をさすりながら俺に優しく問いかけてくる……、あれ……?

 

「………………覚えて……ない……?モンド・グロッソを見に来て………………」

「そう、か………………」

 

 惣万にぃは辛そうな表情になり、言葉を続ける。

 

「お前はな、一夏……誘拐されたんだよ……」

「え……?」

 

 そう言って惣万にぃはちらりと千冬姉の方を向く。千冬姉は無表情のまま、唇を噛み、目を伏せる……そして俺の前まできて頭を下げた。

 

「……本当にすまない……っ、私が不甲斐ないばかりに……お前を危険に晒してしまった……っ、何が世界最強だ……私は……私は……っ、大切な弟さえ守れなかったのに……っ、一夏……ごめんなさい……っ!」

 

 うっすらと目が潤んだ千冬姉は、やるせなさからか、自分への怒りからか肩を震わせて俺のベッドに一滴の雫を垂らした……。

 

「……何で千冬姉が謝るんだ……?誘拐されたのが事実なら、本当に悪いのは何も出来ずに連れ去られた力のない俺の方だろ?」

「っ、そんなことは無いっ!私がもっと最悪の事態を予想していれば……一夏たちに厳重な警護を就けたりしていれば防げたことなんだ……だから……」

「んなこと言ってもな……誘拐された時の記憶が……サッパリないワケだし……」

「何……っ!?……それが本当なら大変だ……!?は、早く検査を……!?」

 

―パンパンッ!―

 

「「ッ!」」

 

 俺らが言いあっているところに、乾いた音が響く。

 

「はいはい、二人とも落ち着け?千冬も気が動転してるのも分かるが、今一夏は病人だからな?精神的主柱のお前が焦れば一夏の体に障るぞ?それに一夏、今回の事故は誰も予期できねぇよ……千冬の優勝阻止の為だけにお前を誘拐するなんざ……」

 

 両手をはたいて俺達を落ち着かせる惣万にぃ。

 

「……惣万……済まない……少し冷静さを失っていた……」

「いいっていいって」

 

 ……ホント、千冬姉と惣万にぃって息ぴったりだよな……くっついちまえばいいのに……。

 

「って……ちょっと待って惣万にぃ……、千冬姉の優勝阻止……、って言った……?」

「ん……あ、あぁ、大会の運営委員会に通信があったらしい。四十代らしきの男性の声でお前を誘拐した、織斑千冬を決勝戦に出すな、って概要の通信が来たって……そうだよな、千冬?」

「その通りだ……、目下ドイツ軍が調査中だと言うが……次このようなことがあればこの借りは返させてもらおう……」

 

 目に見えて義憤を募らせる千冬姉……。

 

「……。つまり俺のせいで千冬姉は二大会連続優勝記録を逃したってわけか……」

 

「……それは違う、一夏」

 

 惣万にぃが優しい笑みで俺にやんわりと注意を促す。そして千冬姉のことを指差し、きっぱりと言い切った。

 

「一夏。こいつはな、馬鹿だ」

 

 思わずずっこけた。

 

「何だと……?」

「まぁ聞け……、お前から見て千冬はどういう存在だ……?」

 

 俺にとっての……千冬姉?

 

「えぇっと……?まず、家事ができないな?それに……ガサツでズボラだ。あと……俺らに厳しいよな……?」

 

 ん……?何か千冬姉がレイプ目になってるな……、ま、いいや、これを機に女子力アップを図ってもらえれば……。

 

「でも……、本当は俺のこと、大好きだろ、千冬姉は?」

「……っ、何ストレートに言っているんだ……っ!」ヽ(///△///)丿

「そうだ、こいつは弟馬鹿でブラコンで、不器用であったかい心の持ち主だ……そんな奴が、モンド・グロッソの優勝のことでお前を責めると思うか?」

「いや、弟馬鹿もブラコンも同義な気が……」

 

 軽口を叩きながら思わず千冬姉を見る……千冬姉は居たたまれない気分になったのか、頬を桜色に染めながらそっぽを向く。

 

「それは……」

 

 それが答えだった……あぁ、分かってはいたが、はっきりと千冬姉の真意を読み取ったのは初めてかもしれない。千冬姉は俺のことを、今までも守ってくれていたんだ……。

 

「あぁ、分かった……、ありがとう、千冬姉、惣万にぃ……」

 

 ………………でもさ……、それでも……。それで俺が許されるのは違うんだろうな……。

 

「………………それでも、今の俺には、自分ぐらいを守れる力が必要なんじゃないか……?こんなことが、もう二度とないように……!」

 

 もう、俺の無力で、誰かの足を引っ張るのは……真っ平だ……。

 

「……一夏……だが……」

 

 ポン、と千冬姉の肩に惣万にぃの手が置かれる。

 

「……千冬。いいんじゃないか?……そろそろ一夏も、守られるだけの子供じゃなくなった、ってこった。もう、こいつの人生はこいつで決められる……。ここからは、一夏だけのステージになるだろう」

「……だが……」

 

 意外に渋る……まぁ、千冬姉は……長女として家族を支えるために無理矢理に大人になるしかなかった……そんな人だから、大人の汚さを良く知っているんだろうな……。

 

「何も……明日明後日に、急に大人になるわけじゃない……ただ、自分にしかできないことを、自分でする……それが大人たちの言う、『大人になる条件』の……責任ってヤツなんじゃねぇかな?」

 

 ゆっくりと顔を俺に向ける二人。

 

「千冬、覚えておきな。人生ってのは導けるものじゃないんだよ。俺達ができるのは、それを手助けしてやることぐらいなんだよ」

 

 ……フッ、っと千冬姉の身体から力が抜ける。

 

「……そうだな、……一夏、本当に……気が付かないうちに、大人になったな……」

 

 優しく俺の頭を撫でてくる二人……、アレ?早速子ども扱いされてない……?

 

 

「あ、そう言えば……誘拐犯の名前が『スターク』とか言ってたな?外見は朧気で覚えてないけど……」

 

 ぴたり、と千冬姉の手が止まる。

 

「!……、そうか……私の足止めに来た輩も、同じ名前を言っていた……これは……ドイツ軍に聞くことが増えたな……」

「……それと、千冬。お前、何か言って無いことあるだろ」

 

 言って無いこと?……そう言えば……ドイツ軍って単語がだいぶ出てきたよな、今までの会話……もしかして……。

 

「……そうだな……私はこれからドイツ軍所属の教官を務めることになる……だから……非常に心苦しいのだが……惣万に折り入って頼みがある……私の弟たちを、その間だけ預かってはくれないか……?」

「分かった。一夏もそれでいいか?」

「え……あぁ、俺は良いけど……その」

「……、節無か……」

 

 俺達は思い切り顔を歪める。最近では俺達姉弟と従弟の節無との間で修復不可能なほど亀裂が入っており、一時期では千冬姉が別居も考えていたというから救いが無い。本当に言う事聞かなくなってきたんだが、どうしちまったんだあいつ?

 

 惣万にぃも苦虫を嚙み潰したような表情をしちゃってるし……。

 

「まぁ、それは千冬に任せるが、いいのか?俺が二人纏めて見てた方が安全だぞ、色々(・・)と」

「……。取り敢えず私が聞いてみるが……。恐らく一夏だけがそちらに泊まることになる。よろしく頼む……」

「任せとけ、帰ってきたら一夏の料理の幅も広がってることを受け合おう……もしかしたらプロのバリスタになってるかもな?」

「ハハハ、それは楽しみだ。私が淹れても味が致命的にワンテンポずれているからな……」

 

 千冬姉、そこは笑わんでくれ……あれ飲んで俺も惣万にぃも腹下したんだから……。箒が【nascitaで何シタ事件】って名付けた殺人(未遂)コーヒー事件だったから……。

 




 脳の回転が一般的になって頭が良くなった一夏。アレ?コレ最強じゃね?

※2020/12/08
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第十三話 『ラヴァーズは別路を辿る』

一夏「ただいま惣万にぃ!プロテインもーらいっ!」
惣万「お、おう……朝っぱらからランニングか?」
一夏「ああ。あ、惣万にぃ、確かシステマとカラリパヤットやってたよな。頼む教えてくれ!」
惣万「まあ良いけど。お前の身体、多分剣使う筋肉が発展してるからそっちの方も伸ばせよ?」
一夏「了解、んじゃシャワー借りて良い?」
惣万「どーぞどーぞ……。まさか一夏がこうなるとはね。さすがに変化あり過ぎかよ。ごめんまだ見ぬヒロインの皆さん、出来レースになっちゃった」


 凰鈴音は周囲の人間から見れば、快活で明るい人物に見られてる。本人もそれを自覚してはいるが……ある時を境に思慮深く行動するのを是とするようになった。

 

 

 それは親友である一夏や、五反田弾、御手洗数馬と登校していた時だった。

 

「……んぁ?下駄箱ん中に何か…」

「あー一夏、それラブレターじゃね?」

「ラ……、ラブレター!?」

 

 その頃の鈴は、一夏のことを少なからず憎からず思っていた。故に、一夏がその顔も知らない誰かと付き合う、何てことになれば……原作彼女よろしく、彼女の頭の中に泰山の麻婆豆腐が「オッス俺外道麻婆今後ともよろしく」とか言いながら注がれ、龍砲でヨモツヘグリスカッシュ!する事態になりかねなかった。

 

 だが、こちらの世界の一夏は、幼いころに誓ったある約束を心の中に秘めていた……。

 

「はぁ…羨ましいんだけど。どうせ付き合えないって言うんだろ?一夏」

 

 ため息交じりに一夏に聞く弾。

 

「……、ま、そうだな」

 

 丁寧に恋文を読んだ一夏はそっと折りたたむとカバンの中に入れる。

 

「……?どういう事よ。付き合わないって……」

「そのまんまの意味だよ、鈴」

 

 三人はチラリと視線を一夏に向けると、一夏は興味なさげにそっぽを向く。それを構わない、と言う意味にとった弾は、一夏から聞いた内容を話すことにする。

 

「一夏はな……。なんつーか……純愛してんだよ」

「……?」

「アイツな、昔馴染みの女の子に操を捧げてるっぽいんだよな……」

 

 その言葉を聞いた鈴は、一夏の照れたような横顔を見て『あぁ……、これじゃ、アタシ入り込めないなぁ……』と本能で直感した。何と言うか……鈴には彼の顔が打算などで恋人を選んだわけでは無く、純粋にその人物の心の奥を知り、傍に居ようとする眩しすぎる笑みに見えた。

 

 場面が変わる。

 

 一騒動遭った第二回モンド・グロッソから戻ってきた一夏は……今までよりも精悍で、何かを決意したような顔になり、毎日走り込みやトレーニングをするようになっていた。

 

「ねぇ一夏。何必死に自分を追い込んでいるの?」

 

 疑問に思った鈴は地面に這いつくばっていた一夏に尋ねる。生まれた小鹿の様にガクガクプルプル震える足を無理矢理動かし、木の根元に寄りかかると、水を一気に煽りながら息を整え、答える一夏。

 

「あー、何つーかな……俺は……自分で自分の事も守れない……弱っちい人間だったんだって……気が付いただけだよ」

「……それって……」

「……ま、また誘拐されて銃とか突きつけられて、それで勝てって言われても無理だけど……」

 

 正攻法以外でも戦えるようにならないと……ハハ……、と情けなさそうに告げる一夏。

 

「石動さんは……何て?」

「惣万にぃか?止めなかったよ……むしろ千冬姉にフォローを入れてくれた。……俺が選んだ道だ……それがどんな道でも、黙って背中を押してくれる……そんな人だよ、あの人は」

 

 今は惣万にぃからシステマ習ってんだぜ?と言ってくる。

 

「それに、さ……」

「?」

「俺は……俺の為に戦う。……俺が信じた……俺を信じてくれた者の為に戦う。……だから、俺と『また明日』って約束した……(あいつ)の為にも戦ってやる……それが俺が望む……力の使い方だ……」

 

 そう言い切った一夏の顔は……愛した誰かを守るための“男”の顔で……鈴に見せる”親友”としての顔では無かった。

 

(あぁ……)

 

 鈴は自分の恋心が悲しく消えてゆくのを幻視する。

 

(これが失恋…ってヤツなのね。だけれど、この痛みがむしろ気持ちが良いと感じるのは何故かしら……)

 

 それでも、一つだけ分かったことがある。

 

(…………うん、そうね……私は一夏のことが……大好き。………………だから、……仕方がないから、……一夏の想い人を守るために手助けをしてあげようじゃない。それが、アタシにできる唯一の……恋って言う気持ちなんだから)

 

 すぅ、っと息を吸い込むと、しょっぱくなった気持ちと共に息を吐きだす。

 

「……いぃちかぁぁぁぁぁ!何面白いことやってんのよ!アタシも混ぜなさい!アンタをビシバシ鍛えてやるんだから!」

「うおぁ、鈴!?……って……鍛えるっつったってな……、え、鈴?もしかしてなんかやってた?」

「ふっふっふ、聞いて驚きなさい!アタシ、中国にいた頃に赤心少林拳玄海流をマスターしたんだからね!あ、あと星心大輪拳もかじったこともあるし!」

「え……マジか…………?惣万にぃが言ってたけど、玄海流ってさ……達人になればISとタイマンできるやつじゃなかったっけ……?」

「よーし、いっくわよ~~~っ‼」

「わーっ!?待て待て待て!システマでどう戦えと……ギャアァァァァァァァァァッ!?」

 

(辛いことも、悲しいことも、決して消えて無くなったりしない。だったら……大切な人が傷つくより、自分が傷ついたほうがいい。……そうよね、一夏…… )

 

 ここで、鈴の初恋が終わる……そしてまだ見ぬ、一夏を射止めた撫子のことを考える……。

 

(だから……絶対幸せになりなさいよ……お二人さん)

 

 

 

 ここはイギリス……。豪華な作りの豪邸が夜の闇に紛れ荘厳な印象を与えてくる。その屋敷の一室……。外の造りと対比させて簡素な装飾しかされていない部屋の中に、金髪の少女が窓の外を見ている……。

 

 少女、セシリア・オルコットの瞼の裏には、あの日の出会い……彼女にとっての正義の味方が映っている。列車事故に遭ったと思っていた両親が、まさにヒーローと言う外見のパワードスーツの人物に連れてこられたあの日から……彼女は正義の味方を張り続ける。

 

 

 

『国は君達を見限った……だが私は違う。私は新世界を創り、全ての人間を救う。ただの天才科学者にして、新たな世界の“正義の味方”だ』

 

 何者か、と問うた自分に、紫と黄色の正義の味方がボロボロな服で……だが生きている両親を傍らに置き、そう告げた。

 

『君の両親は、この国を裏切った……だがそれは……ひとえに君の力になりたかったからだ……だが、それでも、オルコット夫妻は死んだ事にしなければならない』

 

 意味深に正義の味方が告げる……。

 

『故にこれからは、セシリア・オルコット……君がこの家を束ねなければならないのだ』

 

 チラリと気絶している母親と父親を一瞥すると、覚悟を決め顔を上げる。

 

『すべてを放棄するのも良し、誰かの為に奔走するのも良しだ……お前の心に従うと良い』

 

 心は既に決まっていた……。両親が何をどう裏切ったのか……それは分からなかったが、それでも自分の家族だ。

 

『……。良い目だ、若々しいが……矜持と志を持つ者の目だ……私には……もうすでに無いモノだな……羨ましいよ』

『……いいえ、そんなことありません……。わたくしは……あなた様の様な、世界中の愛する人のことを守れる、そんな正義の味方でありたいのです』

 

 そうはっきり言いきった。その時、シュワシュワと音が鳴り、正義の味方の腰についたベルトから煙が立ち上る。

 

『ん……時間切れか……プロトタイプのドライバーでは……ボトルの成分が抜けてしまうのが難点だな……あのアメーバを逃したのは失敗だった……』

 

 そう呟くと紫と黄色のツートンのパワードスーツの人物は、ベルトのボトルを入れ替え、オレンジと銀色の新たな姿へと変わり、宙を舞い何処かへ飛び去って行った……

 

『さようなら、セシリア・オルコット。君が、正義の味方になれることを祈っているよ』

 

 その日、セシリア・オルコットは運命に出会った。彼女にはその英雄の在り方が……何物にも代えがたい綺麗なモノとして映った。貴族としての矜持や、人間としての誇りを超えた、……“正義の味方”として。

 

 

 セシリアの生き方は、その日から……正史からの道を分岐した。だが………………。

 

『そんな……どうして……?』

『あ、あぁあ………………ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼』

 

 どこかの難民キャンプで……。また、どこかの廃れた森の村で……。

 

 爆弾が落ちた、地雷が弾けた、銃弾が飛んだ。

 

 零れ落ちて行く。手を差し伸べようとしても、必ず取りこぼしがある。目の前で……“私”がいたせいで子供が死んだ。

 

 ただ、助けたかった。困っている人たちを助けたかった。そのために自分が自分で募った寄付金で、目の前の救いを求める手を掴み取ろうとした。

 

ノブレス・オブリージュ……それとは程遠いかもしれないが、自分が信じる正義の味方に、貴族として……立派な人間になろうとしたはずだった……。

 

『無駄な事だ』

 

 彼女の中で生まれた、空っぽな自分が言う。

 

『お前はかの“正義の味方”の生き方が綺麗だったから憧れた。だが、お前はその裏に潜む世界の実態を知らなかった。お前の身勝手で行き過ぎた善意が、世界の誰かを不幸にした。お前の目の前のあの子供たちを殺したんだ』

 

『お前はどうする?そんな心で……そんな脆さで何を守るという?今のお前は……ただの抜け殻だ。再び紛争地帯への旅も、寄付もできなくなったお前が、今度はISに乗り世界を助ける?馬鹿馬鹿しい、それは逃げだ。お前は、己の命すら執着しなくなった……。過剰な自己犠牲だ……。それがまた、新たな犠牲を出すとも知らないで……』

 

 

 だから、耳をふさいだ。私は……わたくしは、……それが悪いことだとは分かっております。

 

 

でも……、それでも――……誰かの為になりたいと思った“私”は、愚かでも……間違ってはいなかったはずです――

 

 

 

「……ッ!」

 

 わたくしは、また、あの夢を見る。自分の過ちと、後悔を混ぜ込んだもう一人の“私”と会話する夢を……。

 

 手に持った新聞記事を見る。そこにはわたくしの両親を助けてくれた……二色のヒーローが映っていた……。

 

「日本、ですか……。そうですわね……IS学園に入る前に、一度下見をしておきましょうか」

 

 ベッドから起きあがると、エスニックなサンダルを履き、ぼさぼさになった髪を整える……。

 

「持ち物は……、ちょっとのお金と、明日の下着があれば充分ですわね」

 

 金髪を無造作に垂らし、首にはストール、アジアンテイストの裾の長いジレを着ると、布切れに下着と幾らかの小銭を入れ、三階の窓から飛び降りたのだった……。

 

「あ゛ぁァァァァァッ‼おぉじょうさまァァァァァァァァッ‼贅沢は言いませんから玄関から出ていってくださいィィィィィッ‼着地点の木を植え替える作業、手間なんですよォォォォォッッッ‼」

 

 メイドのチェルシーが何か言っていましたが、無視しましたわ。ごめんなさい……。

 




惣万「オイオイ……。チンチクリンがカッコイイ姉御になっちまったぞ?それにチョロコット……コレ色恋沙汰に発展する……?」
???「セシリア、『エージィ!』に。まぁセシリア→貴族→いいとこのボンボン→火野映司……ハッ、繋がった!ということらしい 」
惣万「ヤベェこいつ、脳細胞がデッドヒートだ」
???「それに中の人メズールだしな(白目)」
惣万「それいったら箒だってそうなんですけど」
???「あ、作者曰く『でも恋仲にならないだけでヒロインズは一夏の将来の大親友になる予定です』だそうだ」

※2020/12/08
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第十四話 『ナンバリングされた子供たち』

千冬「はぁ……ドイツに来てしばらく経つが、一夏は惣万とうまくやっているだろうか。それと節無の様子も見に行くと言っていたが、何をそんなに警戒して……?」
???「教官、よろしいでしょうか。……?何をやってらっしゃるので?」
千冬「む、ボーデヴィッヒか。丁度良い、あらすじ紹介だ、やっていけ」
ラウラ「は、はぁ…?えー、本官はラウラ・ボーデヴィッヒ少佐であります。現在特殊施設にて警鐘任務を行っており……」
千冬「そーではないんだがな……まぁ取り敢えず第十四話、どうぞ」


 ここはドイツ……軍部でもトップシークレットな施設。その施設の内部では眼帯をつけた女性部隊が護衛任務をしていた。

 

「しかし教官、何故我々はこの地下施設に入ってはいけないのでしょう……。我々が外部に情報を流すことなどの用心、だと言われてしまえばそれまでですが……」

「何だ、ボーデヴィッヒ少佐。お前が私情を表に出すのは珍しいな」

 

 コーヒーを飲みながら答える千冬。彼女らが所属するシュヴァルツェ・ハーゼ隊の隊長であるラウラ・ボーデヴィッヒとその教官である織斑千冬は職員たちが出入りする食堂で休息をとっていた。

 

「いえ、どうにもこの施設…何と言うか――――どうも落ち着かない…そんな思いが湧き上がってくるのです」

「……」

 

 眉をひそめながら答えるラウラ。それを見て千冬はここの職員の顔を思い浮かべる。……確かに、千冬の目から見てもここの連中は何かをひた隠しにしているような……違和感、異質感を放っているように思う。

 

(この施設は、責任者が言うにはIS関連の研究、それも操縦者の適性などの向上についての分野においてセンセーショナルな結果を出している……とか何とか言っていたな……。しかし……)

 

 どうにもきな臭い……そう思い目の前のラウラに声をかけようとした時だった。

 

 

―ビーッ‼ビーッ‼ビーッ‼―

 

「!、総員迎撃態勢!」

 

 警報が鳴り響いたと共に、無線を使い指示を飛ばすラウラ。流石はドイツ軍少佐だと感心しながらも、千冬も迎撃に向かうのだった。

 

「貴様か、侵入者というのは!」

 

 既に、小隊が敵を捕捉していた。

 腰に片手を当て、もう片方の手をだらりと下げた血色の怪人が目の前に立つ。胸と顔のコブラのクリアパーツのみが毒々しく緑色の光る……。

 

『おぉ、もう来たか……流石、ドイツの軍隊は優秀だねぇ……あー何だったか、ドイツの技術は?』

「世界いッ……失礼しました」

 

 (((クラリッサェ……)))

 

 若干ペースを乱されたが黒ウサギ隊の面々は小銃やライフルを構える。それに対して、パワードスーツの人物はめんどくさそうに腕を振ると、目の前には金属製の頭部を持つ、恐らく人型アンドロイドがISの武装を改造した銃を兵隊の様に構えた。

 

 そして後方から隊長と教官が駆けてくる……、そしてようやく火ぶたが切って落とされた。

 

『これは皆さんお揃いで。この地下にある実験体たちを頂きに参りました』

 

 その血のようなパワードスーツの人物は、恭しく腰を折り頭を下げる。

 

「何者だ!」

『あぁ。そう言えば自己紹介がまだだったな……一方的にこちらが知っているだけだったか……。んんっ、初めましてブリュンヒルデ。俺はブラッドスターク』

 

“スターク”、この言葉に千冬は反応する。

 

「何……?」

『そう、お察しの通り!先のモンド・グロッソでお前の弟を誘拐し、記憶を消したのは、……俺だ』

 

 その途端、千冬から膨大な殺気が噴き出す。それも、隣にいた黒ウサギ隊の面々が一瞬銃口を向けそうになるほどの……。

 

『オイオイ、落ち着けよ…今回の目的はお前等じゃない。お前になれなかった同系列体たちだよ、C-0037。あぁ、今は識別名“ラウラ・ボーデヴィッヒ”だったか。お前、この施設について知りたくねぇか?』

「……私が?何故?……同系列体?」

『フハハ……まあいい。それじゃ、俺はこれから下に行く、だから、お前たちの任務に従って、俺を追って地下施設に立ち入っても何の不自然も無いだろう?……じゃあな、Ciao♪』

「……!待てッ‼……!?」

 

 ブラッドスタークは片手に取り出した小型の銃から白煙を噴き出すと、その煙に巻かれて周囲のアンドロイドと共に忽然と姿を消した。

 

「……、まさか、いや……、そんな……?」

 

 スタークが言い残した言葉の意味を反芻し、ラウラの表情が曇りだすのを千冬は見逃さなかった。

 

―ピンポーン!―

 

 突然エレベーターのロックが解除され、黒ウサギ隊の面々の前で扉が開く……。

 

「隊長……」

「……行くぞ、ここで教官の汚点となった原因の人物を拘束する……!」

 

 

 そうして地下施設にやってきた黒ウサギ隊だったが……そこにあったのは、巨大な試験管の様な水槽とそれに繋がる巨大な装置……そしてその中に漂う銀髪の少女たち……。

 

「……っ、やはりか……!」

「……ッ?隊長……コレは……?」

 

 部隊の副隊長、クラリッサがラウラに聞く。だがそれに答えたのはラウラでは無かった。

 

『はぁ全く、お前たち遺伝子強化体(ブーステッド)を造るのに、一体幾らかかったのやら。無駄金だねぇ、人間ってのは分からねぇな』

 

 試験管の向こう側から血塗れの蛇が現れた。片手には眠ったようにうなだれる銀髪の少女を抱えている。その少女を足元に置くと、コンコン、と水槽を叩きながら腕組みをして首をかしげる。

 

「ブラッドスターク……、ここに私を連れてきてどうするつもりだ……?」

『いんや?特になんも』

「何……?」

 

 へらっ、とした口調でラウラに言うスターク。

 

『別にお前に何か言うつもりは無い……、何かを言う価値も無い』

「……ッ、貴様も……私のことを……」

 

 スタークと今までの研究者たちが重なって映る。ラウラのことを役立たず、失敗作、出来損ない……数々の失望と落胆の目で見てきた大人たちが見える……。

 

「違う……私には……価値がある……ッ!」

『本当に、そうかァ!?チフユ・オリムラになろうとしているだけのお前に、一体何ができる!?』

 

 オーバーリアクションで両手を広げるスタークに銃弾を一発撃ち込むも、片手で逸らされる。

 

『おぁぁっと!危ねぇな!水槽に当たったらどうするつもりだよ!?お前の妹たち無事じゃ済まないんだぞ!?』

 

 その場違いな正論に歯噛みしながら銃を下げるが、鋭い視線はスタークに向いたままだった。周囲の目もスタークに嫌悪感むき出しの殺気を飛ばしている。

 

『ブーステッドだかアドヴァンスドだか知らないが……もっと俺に感謝をしても良いんだぜ?なにせ、俺のお陰でチフユ・オリムラに出会えたんだ、適合失敗作ちゃん?』

 

 やれやれだ、とでも言うかの様に、諭すような口調で言葉を投げかけるスターク。

 

「……感謝しろだと!?教官の輝かしい力に泥を塗った貴様に感謝だと!?ふざけるな‼」

 

 ラウラの屈辱を込めた怒りの声を、スタークは心底呆れたふうに頭を掻きながら聞き流す。そして突如、大袈裟な舞台俳優の様に体いっぱいを使い言葉を紡ぐ。

 

『ふざけちゃあいない……お前が教官の経歴に泥を塗ったと憎むイチカ・オリムラ、その誘拐、それによるブリュンヒルデの第二回モンド・グロッソ優勝の棄権……、それぞれの事情が重なり合わなければこうしてお前ら“同類”が……傷の舐め合いをすることはできなかった!そもそもブリュンヒルデが二度の優勝を果たしていたら、貴様は間違いなく“できそこない”のままだった!……あぁ、それさえも理解できないのなら、お前は間違いなく“できそこない”だなァ!ハッハハハハ、フハッハッハッハッハ‼』

 

 自分の腿を激しく叩きながら狂ったように笑う悍ましいコブラ……。それが我慢の限界だった。

 

「ッ、スタァァァァァァァァクゥゥッ‼」

 

 ラウラは軍用のコンバットナイフを抜き、スタークに斬りかかるが、それを見切っていたスタークは体をひねるようにして急所への刺突を避ける。続けて迫りくる刃も手の甲でいなし、払い、ラウラの手首をつかみ後方へ飛ばす。宙を舞うラウラを千冬が抱き留め、厳しい顔で注意するのを横目で見て、スタークは自分の手を見ながら呟く。

 

『おっと……成程、怒りによるハザードレベルの上昇……2.2か。イチカ・オリムラに迫る成長の勢いだな……だが、限界値も近いか、おぉい!調整はまだ終わらねぇのかぁ!?』

『今やっているとも』

 

 施設の天井で声がする。思わず声のした方を見上げると、金色のバイザーをつけた漆黒のパワードスーツの人物が空中に展開されたディスプレイを高速で操作していた。

 

『……よし、これで調整は万全で完璧で完全だ。スターク、回収は任せる』

『オイオイ、ローグ?この数を俺一人でかよ?』

『その間の彼女らの相手は私がしよう』

 

 そう言って天井から宙返りで降り立つローグと呼ばれた人物。そして体の肩や頭に設置された煙突から黒い煙を噴き出すと……そこには……。

 

『……オイオイ、トリックベントかよ……。忍者フルボトル必要無くないか……?』

「分身、した……?」

 

 五人になった黒いパワードスーツの人物が銃や剣を持って立っていた。

 

『コレが設計者自らチューニングしたトランスチームシステムの力だ……』

 

『『『『『さぁ、花火の様に散るが良い……』』』』』

 

 その言葉と共に、黒いコウモリと黒ウサギ隊の戦いが始まった……。

 

 

 

『さてと……俺の方はっと……』

 

 スタークは試験管ベビーたちをガラスケースの中から割って出しながら一か所にまとめていく。そして手元に呼び出した白い聴診器のレリーフのボトルをトランスチームガンにセットする。

 

【フルボトル!】

 

『ついでにこれだな、こいつらは生まれたばかりの赤ん坊に近い……なら、ハンコ注射とか色々しないとね~』

 

【スチームアタック!】

 

 真っ白な煙が彼女らを包み、遺伝子強化体たちの身体の中の抗体などを強化していく。

 

『……私が完璧に調整した、と言ったはずだが?』

『んお?お帰り、ナイトローグ。もう終わったのか?』

『いいや、まだだ……というよりも足止めが終わった為ワープしなければならない』

 

 その言葉に首をかしげるが……あぁ成程、と納得する。質量ホログラム(?)……所謂コピーとはいえナイトローグ、それもニ体と同時に渡りあっている世界最強が間も無くニ体を倒しこちらに奇襲をかけてきそうだと察知したのである。

 

『成程……、いいぜ、それじゃなァ?今度は平和に遊ぼうぜぇ!Ciao♪』

「ま、待てぇ!」

 

 その言葉と共に、12人の遺伝子強化体と二人のパワードスーツの人物は、その研究所から立ち去った……その後、新たに赤と青の歯車の付いたパワードスーツの人物によってその研究所は消滅することとなるのだった……

 

 

 

「おぉ~同じ顔がいっぱ~い」

「それで、如何いたしましょう、マスター」

 

 裸で眠る子供たちを見ながら声の主がスタークに聞く。

 

『回収した遺伝子強化体たちの教育を頼みたい……そうだな、ナンバー・チルドレンとでも呼んでおこうか……。んーじゃ、生存者の識別コードの数が小さい順に……ウーノ、ドゥーレ、トーレ……クアットロに……アレ、C-0037が五番目に数小さいんだけど……チンクは空けとこう……そう言うワケだ、任せたぞ……シュトルム、ブリッツ』

「ハッ」

「へいへ~い、り~」

 

 頭を垂れていた黒いスーツの女性と、白い祈禱師の様な服の女性は顔を上げる。スーツの女性の顔の左半分は機械に置換されており、青いカメラアイが爛々と光っている。和服にパナマ帽の女性の顔には右目にひび割れたような傷がある。二人のその姿は……仮面ライダービルドの世界にいた平行世界の帝王になろうとした、最上魁星を思わせた。

 

「しかし、因果なモノですね、彼女らのプロトタイプの我々が、本当に年長者として接する機会が与えられるとは」

「む~、十二人もいる~。名前覚えられるかな~、しんぱ~い」

 

 

 場所は変わり、フランス。

 

 ピッシリとスーツを着こみ、ネクタイを締めた金髪の男性が社長室に入って来る。それを見てほっと一息つく女性と、ソファにどっかりと寝そべる人物……。

 

『よっ!』

 

 気楽に声をかけてくるパワードスーツの人物……スタークだ。

 

「……。スタークか……、何をしに来た……」

『やれやれ、数年来のビジネスパートナーに冷たいねぇ。俺達がいなければデュノア社での第三世代機の開発なんて夢のまた夢、出来なかっただろうに』

 

 どっこらしょっ、と起き上がり、デュノア社社長、アルベール・デュノアに向き合うスターク。

 

「御託は良いんだ、何をしに来たか話せ……」

『そんじゃ遠慮なく!コレを見てくれ』

 

 ポーン、と立体ホログラムを投影できる端末を投げ渡す。それに目を通したアルベール・デュノアは驚愕の表情を浮かべる。

 

「………………ッ!?馬鹿な…装備の換装無しでの全領域・全局面展開運用可能……!?……即時万能対応機!?」

『そうだ、このISの世代は第四世代、そして将来デュノア社から盗難に遭う予定のISだ』

 

 意味深なセリフを呟くスターク。その意図にデュノア社社長はすぐに気がつく。

 

「……っ、つまりお前たちファウストの為のIS製作に加担しろ、と……?我々がそう簡単に応じると思うのか……」

『応じると思うよ?アルベール・デュノア、ロゼンタ・デュノア。お前等の忘れ形見……義理の子供を思っているお前等ならな?ま、応じてくれなかった場合、不幸な事故がブドウ農園で起こるかもなァ?』

 

 含みを持たせる言い方をするスターク。その言葉を聞いたデュノア夫妻は、自分の心臓を握りつぶされるかのような錯覚に陥った……。

 

『ま、そういう事だ、よく考えておいてくれ?Ciao♪』

 

 それだけ言い残すと、スタークは白煙を巻き上げフランスから去って行った……。

 

「…………スタァァァァァァァァクッッッ!!!」

 




 「スタァァァァァァァァク‼」二連発。

シュトルム→風
ブリッツ→雷
ナンバー・チルドレン→難波チルドレン

 難波重工ですねコレ。そしてデュノア社、ファウストのお陰で第三世代ISの開発が進められたよ!やったね!次は第四世代機だ!(脅迫)

※2020/12/09
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第十五話 『マッドなナイト バッドなローグ』

千冬「ただいまー!元気してたか一夏!」
一夏「あ、千冬姉おかえり。ドイツどうだった?」
千冬「料理は少し、素朴な味付けだった。まぁ美味だったのだが、やっぱり一夏の料理のほうが舌に合うし……な」
一夏「(……ほんとに俺だけなのだか)んじゃ、何か作ろうか?今冷蔵庫にあるのは……惣万にぃから譲ってもらった熊肉と、シシ肉か……」
千冬「ちょっとまて、何でそれが入ってる?というか食えるのか!?」
一夏「最近ジビエ料理出してんだよね、惣万にぃ。つか俺も食わせてもらったけど、熊肉美味いよ、下手な牛肉より」
千冬「へぇー……」
惣万「命を戴くだけに不味い料理を出したら罰あたるしな。因みに兎の肉もあるぞ、――――あとついでに羊の肉も」
千冬「……なんだろう、すごく嫌な予感がする」
一夏「……そ、それってもしかしてハンニバる…」


 今は夕方。ここはIS学園……そこで書類を整理しようやくコーヒーを買い一息つく女性。

 

「さて、と……コレで、終わりだな」

「あ、織斑先生、仕事納めですか?私もです」

 

 隣から緑髪の幼い外見の教師が訪ねてくる。

 

「あぁ、山田君か……あぁ、これで終わったよ。やれやれ、この分なら何とか閉店時間に間に合いそうだ」

「?どちらか寄られるんですか?」

 

 缶コーヒーを飲みながら手早く身支度を整える千冬。

 

「む、まぁ教えても良いだろう……、そうだ。私の幼馴染がやっているレストランカフェを予約していてな、今夜は落ち着いて食事ができる……」

「へぇ~素敵ですね………………。ところで織斑先生?」

「(ズズッ……)なんだ……、?」

 

 山田先生の眼鏡の奥の目がきらりと光る。

 

「オ・ト・コ・ですか?」

 

―ブフゥッ‼―(Mist match!Fire!)

 

 

 千冬は口に含んでいたコーヒーを宙に向かって噴き出す。それはそれは綺麗な霧状になっていた……いや、どれだけ噴き出す機会があったのだろうか。

 

「…真耶。いや、そんなことはない。あの馬鹿は私がアピールしたところで全く別になんてことも無いような男だ。コーヒーを淹れてもらって料理をおごってもらうくらいの、なんというかーそう幼馴染だ…………そんな男だぞ」

「……そぉですかぁ……」

 

 山田先生はほのぼの……とした目で口元のコーヒーを拭い焦りに焦るチッピーを眺めていた。そして屈託ない笑顔で……。

 

「……ご一緒しても?」

「いや、なんでそうなるんだ」

「やだな~織斑先生、先輩にも春が来たんだな~と思いまして~」

 

 目元を引くつかせながらできるだけ笑顔で努めて返事をする千冬(笑)。

 

「山田君……私が身内ネタでからかわれるのが一番嫌いだと何度言ったら……」

「あー!尻尾を出しましたね!つまり先輩はその人のことを身内だと思ってるわけです!」

「……引きちぎるぞゴラ」

「やだなぁ何をですか……ってあれ、待って下さい……もしかして胸ですか?」

「それ以外どこがある」

「わーすみませんでした!私から巨乳取ったらただのロリになるんでやめてください!」

「自分でロリ巨乳言うな。ったく…」

「ぎゃー、あはは!」

 

 そんな一幕もあったとか。

 

 

 そんなこんなで制裁を受けたヤマヤと顔を真っ赤にしたチッピーはなんやかんやでレストランカフェnascitaに向かっていた。しかし……。

 

「……?先輩?……これ一体どういう事でしょう?」

 

 nascitaの外壁や窓ガラスにはひびが入り、プスプスと煙を上げている。ドアはひしゃげ、花壇の花は火にあぶられていた……。

 

「……ッ!山田君!すぐに周囲の安全確認を!私は惣万や怪我人を探す!」

「……ハイッ!」

 

そう言い切ると千冬は上着を脱ぎ、ワイシャツ姿になると壊れかけているドアを蹴破り中へと突入した……。

 

 

「惣万!オイ惣万っ!何処にいる!返事をしろぉっ‼」

 

 壊れ、火が揺らめく店内を見渡す。メラメラと照らされた自分の影が怪しく動く。千冬の声は、紅蓮の中に空しく響く。

 

『……コレは驚いた。一年前、ドイツのあの施設で会った以来だな、ブリュンヒルデ。まさかネズミと知り合いだったとは思わなかった』

 

 千冬の耳にノイズ交じりの声が届く。彼女は、ドイツでの出来事を思い出し、その声の主がいるであろう場所へ目を向ける。

 

「貴様は……確か、ローグ?」

 

 蝙蝠の様に天井に逆さまになった漆黒の戦士が目に映る。

 

『惜しいな、私の正式な名称はナイトローグだ。さて、チフユ・オリムラ。ソウマ・イスルギが古くの知り合い伝えで保護した“少女”と“パンドラの箱”を我々ファウストに返してもらおう』

「何……?」

 

 “少女”……その言葉が意図するのはすぐに解った。一年前、ドイツの教え子の目の前で回収されていった同型の少女たちのことだろう。だが、“パンドラの箱”?それには聞き覚えが無かった。

 

「……一つ聞きたい、その為に、惣万の店を――――ここを、火の海にしたのは…お前か?」

『無論だ。このまま炙り出そうと思っていたのだが、思わぬ横やりが入った』

「……そうか」

 

 その瞬間、ナイトローグの視界から千冬が消えた。

 

『何…………、ッ横か』

 

 一瞬ナイトローグは驚いたような声を上げるが、慌てること無く腕で脇から放たれた蹴りを受け止める。

 

「……っち、外したか」

『舌打ちしたいのはこちらだ。まさかゼロコンマ三秒の間に垂直になった壁を駆け上り、瞬間時の蹴りの衝撃が十数トンの相手と戦わなければならないとは……』

 

 二人は軽やかな身のこなしで揺らめく炎で照らされた床に着地すると、そのままにらみ合い……。

 

「はっ!」

『フッ!』

 

 千冬は合気道の様な構えで、ナイトローグはキックボクシングの様なファイティングポーズで互いに拳を、手刀を交えて行く。さながら異種格闘技であるが……普通と違う所は、お互いの一撃を常人が受けたならば首が胴から離れたり、拳が体を貫通して死んでしまう……と言う点か。

 

「……っ、そのパワードスーツ、ハイパーセンサーがついているのか?随分と的確に防御しているな……っ!」

『生憎だが、天災の技術を流用するだけのこの世界の技術者と私は違う……!私にはこの世界の人間全ての追従を許さぬ……神の才能があるのだからなァァァァァァァァ‼』

「ぐっ……!」

 

 ナイトローグの、どこか怒りに任せた蹴りが千冬の腹部にヒットし、彼女は椅子や机を倒しながら床を転がっていく。その隙にナイトローグは右手に黒煙を纏わせ、それが晴れるとバルブの付いたブレードを握っていた。

 

『このトランスチームシステムは改良に改良を重ねていてね……原型となったカイザーシステムならばフルボトルの力を九割程度しか使えなかったのだが、私の手によってフルボトルの恩恵を百パーセント以上受けることができるようになったのだ……フフフッ、キヒヒッ、素晴らしいだろう?』

「……ッ、フル……ボトル?」

 

 そして倒れている千冬に赤錆色と銀色で装飾された容器を見せる。そこにはウサギの様な耳を持った蝙蝠が描かれている。

 

『私が使っているバットフルボトルには蝙蝠の成分が入っている。つまり蝙蝠の特徴、エコロケーションを常時発動させ、音波の反響で相手の居場所を掴めるのだよ……それもチューニングしたトランスチームガンの力で場所を掴むだけならハイパーセンサー以上の感度だ』

 

 シャカシャカとボトルを弄ぶが、興が冷めたように煙の中にボトルを放り込む。

 

『さて、哀れで…みじめで、愚かな女。そんな君には、弟と同じものを受け取ってもらおうか……』

 

 そう言ってナイトローグは剣の安全弁を外してからバルブをひねる。

 

【デビルスチーム……!】

 

 濛々と煙を上げる剣を片手に持ち、倒れた千冬に近づいてくる夜の悪党……。

 

「くッ……!」

 

『さて、貴女はどうなるのかな?では、実験を始めよう…!』

 




???『ふむ、ナイトローグの性能を……強くしすぎたか?まぁ変身者である私が……な?それに原作ヒムローグも初期は強キャラだったがスパークリング頃リストラになったしトントンか』
惣万「いや、何かこっちの蝙蝠、千冬軽くあしらってんだけど……。リストラになるか……?」

※2021/01/05
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第十六話 『パンドラボックスの奪取』

千冬「ナイトローグ、貴様ら一体何なんだ…?」

ナイトローグ『なんだかんだと聞かれたらァ!』

千冬「……ん?」

ブラッドスターク『答えてあげるが世の情け』

千冬「いやちょっと待て」

ナイトローグ『世界の破壊を防ぐためェ!』
ブラッドスターク『世界の平和を守るため』
ナイトローグ『愛と真実の愛を貫くゥ!』
ブラッドスターク『ラブリーチャーミーな仇役』
ナイトローグ『銀河を駆けるファウスト団の二人にはァ!』
ブラッドスターク『ブラックホール!黒い明日が待ってるぜ』
ナイトローグ『なーんてなァ!』
ブラッドスターク『チャ~オゥ♪』
カイザーリバース『ずる~い、私もやりた~い…』
カイザー『マジですか?』

千冬「……コント集団かこいつら?」


―少し時は遡る―

 

「も、もしもーし?誰かいませんかぁ?」

 

 千冬と分かれた真耶は店の裏口に周り、安全の確保の確認等を行っていた……だが、そこに。

 

「……?……どこからか、声が?っそこですか!」

 

 裏口のすぐ近く、食糧庫と書かれた部屋のドアを開ける……すると。

 

「う……うん……?誰だ……?千冬……?」

「……っ!酷い怪我です!は、早くここから出ましょう!織斑先生も貴方のことを探してますから!」

 

 頭部から血を流し、片腕は恐らく折れているだろう中性的な外見の人物が、鈍色の箱と銀髪の少女を守るように抱えていた。慌てて駆け寄り、声をかける真耶。

 

「千冬が……来ているのか――――?ッ!マズい!?千冬の所に連れて行ってくれ!」

 

 息をするのも絶え絶えだった彼の顔に焦りが浮かぶ。

 

「えっ?えっ?」

「早くっ、してくれ…!相手はISと互角に戦えるパワードスーツの怪人なんだ…!生身じゃどうあっても相手が悪すぎる…!」

 

 真耶は悩む、突拍子の無いことを言ってはいるが、その言葉に噓は無いのだろうと。だが、この大怪我だ。下手に動かせばどうなるか……。

 

「ですが……、っ!?」

「頼むっ……、俺を、千冬を見殺しにさせないでくれ……ッ!」

 

 彼に肩を掴まれた真耶は、その真っ直ぐな彼の瞳に、吸い込まれるような錯覚を覚え……そして。

 

「……分かりました……では肩に捕まって下さい。なるべく急ぎます!」

 

 

 

『さて、貴女はどうなるのかな……?では……実験を始めよう……!』

「さ、せるか……ッ!」

「!?」

 

 ブレードを振り上げた瞬間、ナイトローグに何処からともなく机が飛んでくる。それを身を翻して躱す黒いパワードスーツの怪人。

 

『ム……、やれやれ。やっと出てきたか』

「惣万……、っ無事だったんだ、な……!」

 

 頭だけを机が吹き飛んできた方向に向けて、安堵の表情をする千冬。

 

「せ、先輩!?大丈夫ですか⁉」

 

 真耶と惣万がよたよたと千冬の傍による。

 

「ボロボロだな、千冬……」

「……お前のせいだろう」

「おっと、確かに……原因は俺だな、すまん」

 

 二人ともボロボロだが、まだ軽口を叩きあえる余裕があった。そこに聞き取り辛いノイジーな声が響く。

 

『丁度良い、パンドラボックスを返してもらおう。それはこの世界を改変するのに必要なものだ……ハザードレベルが追い付かない貴様等では使いこなせない……』

 

 ナイトローグの言葉に千冬は反応する。

 

「ハザードレベル……?何のことだ」

「如何やらこの中にある容器……フルボトルの力を引き出す為の人間の水準を示したものらしい……、俺も詳しくは知らない、が……コレを置いていった少年兵時代の知り合いがそんなことを言っていた……」

 

 惣万がナイトローグの言葉を息も絶え絶えに付け足した。そうか、と千冬もぼそり、と呟く。

 

「え……少年兵?」

「……真耶、そのことはオフレコで頼む。さて、ナイトローグ。今、世界を改変……、とか言ったな?何をするつもりだ……?」

 

『………………』

 

 ナイトローグは答えない。……いいや違った。

 

『クッ、クフフ……フハハ……キハハハハハァ‼』

 

 肩を震わせ、嗤っていた。

 

『決まっている!インフィニット・ストラトス全467機と、軍事兵器“ライダーシステム”による戦争を起こす!この世界は混沌の坩堝と化し、武力による世界の変革が訪れる‼我らファウストがァ……この世界を壊すんだァ‼フハハハハハ……キャハハハハハァ‼』

 

 悪党は嗤う。哄笑を漏らし、次第にその笑い声は大きく、狂ったモノになって行く。

 

「……なんだと⁉」

「……、ふざけるな……世界を……あんな地獄にするつもりかぁっ‼」

「ライダー、システム……?」

 

 その目の前にいる三人はその計画に狂気を垣間見る。だが、本当に出来てしまう。そんな気迫をナイトローグから感じた。

 

『フム、だが。レベルの到達していない君達に利用価値は無い。ここで消去させてもらおう』

 

【ライフルモード……!】

 

『まずは、ソウマ・イスルギ。貴様だァ……!』

 

【Bat……!】

 

『シィネェェェェェェェェェェェェェェェッ‼』

 

 奇声を上げながら、ナイトローグは引き金を引く。

 

【スチームショット!Bat……!】

 

 三人は目の前に迫る紫色の閃光がスローモーションで動いているように思えた。その中で千冬だけが足元に視線が動く……その目に映ったのは鈍色の箱……その近くに転がっている半透明な容器……。

 

(フルボトル……!コレがあれば……イチかバチか!)

 

 その直後……。

 

―ドォォォンッ‼―

 

 レストランカフェを揺るがすほどの爆音が轟き、巨大な青白いエネルギーは着弾した……。

 

 濛々と立ち込める煙……ナイトローグはそれを見て満足げに笑う。

 

『フフ……、……!何⁉』

 

 煙の中から透明な結晶体が何個もナイトローグに向け飛来する。

 

『くぅ……⁉』

 

 煙の中にぼんやりと人影が写る……。

 

「……気が付いたことがある。惣万、私は……今までお前に守られてばかりだった……。子供の頃、私と友達になってくれたこと……一夏の面倒を見てくれたこと、そして私が一夏を守れず自分を責めているとき、傍でその悩みを笑い飛ばしてくれたこと!確かに私は世界最強になれるだけの力は持ってはいただろうさ。だが、誰かを守る力は――――お前には遠く及ばなかった。でも……だからこそ……ッ!」

 

 ゆっくりと、だが力強く足音を響かせ、片手に宝石のレリーフを持つボトルを握って、世界最強が立ちはだかる。

 

「今だけで良い……私にお前を、守らせてくれ……」

 

 そして後ろで見ている掛け替えのない幼馴染に言葉を紡ぐ。

 

「だから、これが終わった後も、私の友として…………私の心を守ってくれ……私の支えになってくれ!」

 

「千冬……」

「先輩……」

 

 そして、颯爽とナイトローグに千冬は立ち向かってゆく。

 

『フン、フルボトルを振ったくらいで……。何⁉』

 

 一瞬にしてナイトローグに肉薄し、一度に三発のストレートを叩き込む。その拳は金剛の様なエネルギーに覆われ、ナイトローグの装甲から火花が上がる。ローグは思わずスチームブレードを取り落とす。

 

『馬鹿な……チューンしたナイトローグはハザードレベル3.9以下の攻撃には耐えられるはず……⁉まさか……そこまで……⁉』

「何をごちゃごちゃ言っている!ナイトローグ、貴様と私の決定的な違いを教えてやる!私はなぁ!守らなければならない家族の為に!」

『うぐっ!?』

 

 青い光を纏った蹴りを放つ。

 

「果たさなければいけない責任の為に!」

『グガッ!?』

 

 赤い光を放つ拳を突き出す。

 

「そしてずっとそばにいてくれた、人間たちの為に!力というものを!」

『ぐぅ……っ!』

 

「大切なモノを守るために、使うんだぁぁぁぁっ‼」

 

 足元に落ちていたブレードを構え、袈裟懸けに振り下ろす!

 

『グアァァァァァァァァァッ‼』

 

 窓を突き破って地面をバウンドしながら転がっていくナイトローグ。

 

「……ッ、やった……!」

「すげぇ……」

 

 壊れた窓から差し込む月明かりと街灯が、傷だらけの千冬を優しく照らしていた。

 

『……っ、クヒヒヒヒ……!いや、全く。思わぬ収穫だ、何かを守りたいという思いでハザードレベルが上昇するとは……!お前の様な人間は“怒り”によっての成長がベストマッチだと思っていたのだが……計画変更だ』

 

「……ッ!ナイトローグ!」

 

 薄気味悪い笑い声をあげると、ナイトローグは背に蝙蝠の羽を生やし、空中に浮かぶ。

 

『お前の大切な者たちは、殺さない様にしてやろう……!そして精々その綺麗事でハザードレベルを上げると良い!キハハハハハァ‼』

 

 そう言い残すと頭のセントラルチムニーから白煙を振りまき、その場から消えたのだった……。

 

 

 

 

「説明してくれ……何故お前がファウストのことを知っていた?」

 

 ナイトローグが去った後、惣万と千冬、それに真耶は、未だ気絶している銀髪の少女をベッドに寝かせ、お互いに情報を共有することにした。千冬はモンド・グロッソからドイツ軍にいた頃に起こった一連の事件を惣万に話し、次は惣万の番になった。

 

「……昔、餓鬼の頃だ……。少年兵だったころ知り合った女の子がいてなぁ……。そいつが数年前俺に連絡を取ってきた。それからちょくちょく昔の知識を活用して相談に乗ってた。そして、つい先日だ……裏に踏み込み過ぎて死んだって聞いたのは……」

 

 聞いた二人は顔をしかめる。

 

「んで、そいつから預かったのが、この気を失っている銀髪の女の子と、パンドラボックスってヤツだった」

 

 銀髪の少女を三人は見やる。真っ白な肌に銀色の髪、そして一番目を引くのはISの待機状態であろう金色のバングルである。だが、このバングル、真耶がどう調べても、機体情報すら分からず、ISコアも篠ノ之束が造った物と構造が違っているような……そんな違和感があるものだった。故に正体不明のISを持つ彼女をIS学園の庇護下に入れようとするも、惣万に拒否された。

 

「もしこのISコアを造ったのが篠ノ之束ではない誰かだったら?それに気が付いた委員会がこの子をどうするか予想できるか……?だから……この女の子は俺が預かる……だからお前はパンドラボックスを秘密裏にIS学園に持って行ってくれないか……?どうにもコレが一番怪しい……」

 

 千冬は……惣万が信頼できるかとIS委員会の動向を自身の心の天秤にかけ、そして………………。

 

「分かった……学園長にはこの箱は未知の技術で出来たコア紛いのもの……とでも言っておこう、書面の製作は任せたぞ、真耶」

「え、えぇ⁉私ですかぁ⁉」

「私はしつこいんだ……学校で言われたこと、まだ許したわけでは無いんだぞ、あ゛ぁん?」

「……スミマセンデシタ」

「ん?何言ったんだ?」

「惣万は気にしなくていい」

 

 パンドラボックスはIS学園の特別区画に入れられることとなったのだった。

 

「んーじゃ……折角だ。店内はしばらく改装工事が必要だが……今日は野外のテーブルで御馳走してやるよ」

「……本当か?」

「あぁ、腕が折れてるが、まぁ大丈夫だろう」

「いや、病院行ってください?」

「ダイジョブダイジョブ~マヤマヤ。ゼンゼン、イタク、ナ~イ……」

「脂汗出てますよ」

 

 

 

 その夜……。千冬たちが家に帰った後、レストランカフェnascitaの三階、惣万の部屋では……。

 

「あー、痛……しばらくは包帯つけなきゃか……」

『自演自作とはよくやるな……自分の店を犠牲にして、織斑千冬の同情と信頼を同時に得るとは』

 

 ベッドに痛々しい姿で横になる惣万と、いすに腰掛け本を読むナイトローグがいた。ベッドで寝返りをうつ惣万。

 

「あいつは粗暴に見えて、意外に義理堅いからなぁ……伊達に天災と友人では無いんだろう」

『……、しかし本当に良かったのか、スターク。IS学園側にパンドラボックスを渡してしまって』

「構わねぇよ、お前はさ、あー、例えば何でもいい、そうだな……自分の身体の中のこと、百パー完全に理解してる?」

 

 ナイトローグは読んでいた本を閉じ、目線を惣万に向ける。

 

『……成程、その機能や力を理解してはいるが、万一の為の解析データが欲しいのか』

「ま、そーいうこと。それに、世界を壊す為に、向こう側にも同じ力があった方が世界の崩落は早くなる……」

 

 儚げに微笑む惣万を見て、ナイトローグは一つ、疑問に思ったことを聞く。

 

『……後悔しないのか?』

「……気遣っているのか?だったらそれをお前が知る必要はない」

 

 少し、むっとした顔をした惣万は、感慨深げに自分の手を見る。

 

「……さっきさ、俺、千冬に『お前は私が守る』的なこと言われただろ?」

『……』

「……俺、全然、何も感じられなくなっていた」

 

 彼は静かに声を絞り出す。

 

「あいつへの想いも、思い出もたくさんあるのに、千冬のこと……。ただのキャラクターの様にしか、見ることができなくなってきているんだ」

 

 悲し気に顔を歪める惣万。

 

「だから、こんな俺が千冬にできることは……千冬が笑顔で過ごせる新世界の為に、世界の敵になることだ。な?馬鹿だろ俺」

『……そうか』

 

 それは確かに歪んでいる、だがとても純真無垢な感情に思え、ナイトローグはそれ以上追及することはしなかった。

 

『では私はISの開発に戻る、全く、次はデュノア社に送る(プレゼントする)訓練用無人機のテストか……あぁ、疲れる……毎日が三十四時間あっても足りないな』

「おう、じゃーなー」

 

 そう言って変身を解除したナイトローグは紫色の長髪をたなびかせながら去って行った……。




 今回の惣万の行動は社長時代の檀黎斗(「檀黎斗神だァァァァァァァァ‼」←アナザーエンディング前)の行動をオマージュしました。


因みにナイトローグ(一回目)が去った後のnascitaにて

「……んみゅ?……あれ?」
「あ、目が覚めましたか?……おーい、惣万さ~ん!クロエちゃん起きましたよ~」
「ホラ、コーヒーだ……飲むと良い」
「あ、ありがとうござ………………ブホォッ!?」
「え、何!?どうした!?」
「………………。もしかして……ア゛ァッ‼先輩このコーヒー自分で淹れましたね!?」
「うっそだろオイ!?頼むよ起きてくれよクロエ!?初登場してからエボルテックフィニッシュでCiao♪しちゃったら出オチ要員になっちまうから!?今後の君のポジション危うくなるからぁ‼」
「何の話だ!?」

 そんな一幕もあったりで………………。

※2020/12/09
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第十七話 『ロストマッチな彼女』

一夏「おいーっす、惣万にぃいるか?…あり?」
???「ッ…誰ですか?」
一夏「えっ、誰!?」
惣万「あっ、出会っちゃったか……。紹介しよう、俺の養子になった子で、クロエだ。こっちは一夏、俺の弟分。そんでその姉の千冬。なかなか有名人なんだぜ」
クロエ「な、そうでしたか。てっきり泥棒かと…」
一夏「(千冬姉を知らない?記憶喪失かなにかかな…)よろしく、つか惣万にぃその年でもう子持ちなわけ?」
千冬「…ふむ。…おや?そういえばこの子、どこか見覚えが……?」
クロエ「…マスター。千冬さんって外堀を囲うのに躊躇いないタイプです?『ママって呼んでいいんだよ』とか言ってくるタイプな女なのでは?」
惣万「それ違う人なんだよなぁ…」


 雨が降っている……。神社の境内に雨が降る。冷たく、何か大事なモノを流し去って行くような、無情な天の恵みだった……。

 

 アレ?大事な……もの……?そう言えば……オレって………………。

 

 今までどこで何をして……?いや、そもそも……。

 

 

 

 そんなオレに降り注ぐ雨が、突然止んだ。一体なんだと視線を上げれば、オレに向かって傘を差し出している人物がいた。

 

『……オイ、お前……、大丈夫か?』

 

 俺に声をかけてくるパナマ帽の、中性的な外見の人物。

 

『お前、そんなところにいると風邪ひくぞ?』

 

 その人は慌てた様子でオレに傘を差しだすと、言葉を続けながら俺を抱きかかえるように傘の中にいれる。

 

『お前、名前は?』

 

 オレの……名前……?

 

『…………オレは……』

 

 オレは一体……。

 

『誰なんだ……?』

 

 

 

 

 

(……ぃ……)

 

 おや、と思う。どこかで誰かが呼んでいる……?

 

(……ぃ、おーい、戦兎(・・)!)

 

 そこで、オレは目が覚める……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい戦兎ぉ!起きてくれよぉ!」

 

 穏やかな朝の店内に俺の声が響く。するとのっそりと奥の扉が開き、眠たげな眼をした女性がトレンチコートを肩からずり下げたまま現れた……。

 

「何だよマスター……オレ今ボトルの研究で忙しかったんだけど……?」

「やかましいわ、そろそろ家賃払ってくれよ……。お前の所為で毎週カツカツなんだよ俺ら」

「いやぁ、でもそんなこと言ったって……。こんな訳あり女を雇ってくれる職場なんて探しても……」

 

 俺をマスターと呼んだ女は、短く切られた黒髪の寝癖を手櫛で梳き、あくび交じりにのんびり答える。まぁそう言うと思ってたから、俺は彼女の前に紙切れを投げてよこす。

 

「ん……ナニコレマスター?」

「記憶喪失の女を無償で寝泊まりさせるほど俺はお人好しじゃない。つーわけでほら、ココに行ってこい。話はつけてある」

 

 俺が差し出した紙に書かれた文字を読むオレっ娘。

 

「何々……IS学園技術研究者募集の案内?日時は……今日の11時?」

「あぁ、ホラ早く支度しな。電車代は出してやるから……」

「ふっふっふ、その必要はない!コレを見よ!」

 

 彼女は大げさに言って不敵に笑う。口元には八重歯が光ってドヤ顔がさらにウザく……ゲフンゲフン。

 

「ん?何じゃそりゃ。スマホだよな……?」

 

 ……まさかこいつ、前に書いた設計図のアレを造ったのか?

 

「……おっと、今日の『ハテサテパズル』のデイリーミッションやるの忘れてた……。……ってじゃなくて!本命はこう!」

 

 左手に取り出した黄色いボトル……ライオンフルボトルをシャカシャカ振り、スマホに装填する。

 

【ビルドチェンジ!】

 

 発音の良い音声と共に空中に放り投げられたスマホ『ビルドフォン』はガシャンガシャンと変形、拡大し……。

 

「うおっと……。バイクになったな……」

「どう?オレの発っ・明っ・品っ!すごいでしょ?最高でしょ?天才でしょ⁉」

 

 うっとりと自分に酔いながらその場で小躍りし始めた自称・天才。ハンドル部分にあるタッチパネルのディスプレイを操作し、ヘルメットを取り出す彼女……ハイちょっと待て。

 

「戦兎、待て」

「?」

「ここは店の中だ。……分かるな?一旦戻してくれ、排気ガスで料理が不味くなる」

「おっと、ゴメンマスター」

 

 ガシャガシャっとスマホに戻るマシンビルダーを見て、溜息を吐きながら帽子をかぶり直す俺。

 

「それじゃあ、戦兎。今度こそはちゃんと手に職就けてくれよ?ニートをウチに抱える金、そんなにないからな」

「ウッ……ハーイ……。行ってきまーす……」

「行ってらっしゃい。頑張れよ~」

 

 そう言って、記憶喪失の天才科学者、『因幡野戦兎』はIS学園に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何?うちの教員採用試験、全問正解だと?」

「ハイ、織斑先生。こちらになります」

 

 ここはIS学園職員室。友人、石動惣万の推薦でやってきた因幡野戦兎と言う自称・科学者のテストの結果を見て織斑千冬と後輩の山田真耶の二人は驚きの表情をしていた。科学者と言うだけあって化学、数学や生物学の専門知識は幅広く、更にISの技術者でも理解できていない様な超理論さえ気が付いているような、そんな成績を叩きだしていたのだから。これほどの人材を招かないのは惜しい、学園全体の総意により、彼女を特別措置で教職に就かせることとなったのだが、一つ問題が……。

 

「因幡野戦兎さん。この度の教員採用のテスト、全問正解という素晴らしい成績を収められたことで、来年度からIS学園の職員として活躍してもらいますが……。ただ貴女の経歴欄……『多分科学者』としか書かれていないのですが……」

「それが記憶喪失ってやつでして。数か月前からの記憶がサッパリ」

「ほんとかよ……」

 

 詳しく面接してみると記憶喪失者ということが発覚した。これには批判の声も上がったが、身元保証人を知っている織斑千冬の鶴の一声で納得するに至ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っと言うワケで!オレ来年からIS学園の先生になりまーす!ハイ拍手~!」

「Bravo!(パチパチ)」

「ヒャッハー!夜は焼肉っしょ~~ッ‼」

 

 テンション高く帰ってきた戦兎は、レストランカフェnascitaの地下室で反り返り、焼肉ポーズをしちゃってる。かなりご機嫌であるがうるさい。

 

―ボカンッ!―

 

「「うわぁっ⁉」」

 

 俺の心を読んだかの様に後ろにあった巨大なボトル浄化装置の取り出し口が開いた。

 

「お、おぉぉ!出来た出来た、ウヒョヒョヒョヒョーイ!」

 

 そう言って戦兎は出来上がったボトルを取り出す。

 

「今回は何だ?戦兎」

「んー、見たところ、ハリネズミ、かな?さっ、てっ、と~。ベストマッチは~……」

 

「疲れました」

「ん、お疲れクロエ(びしぃっ!)……って痛った、痛ったい目がぁぁぁっ⁉」

 

 ボトル浄化装置の中から一人の少女が出てきた。戦兎が彼女を労うと、デコピンを瞼に躊躇ゼロで間髪いれずに叩き込む。

 

「眠たいですから、寝ますね。起こしたら、刻みますよ?」

 

 眠たげな赤い瞳を戦兎に向ける銀髪の少女。目を擦る左手に付いた待機状態となった金色のバングルのISがきらりと輝く。

 

「お、おう……。お休み、クロエ……」

「アァァァァァッ目が、目がぁぁぁぁ……!」

 

 彼女が去ると、冷や汗垂らしてその場に固まる俺と、床で悶える戦兎が残された……。

 

 

「んで、どうだ。戦兎。お前の昔の記憶、思い出せたか?」

「んー。それが全然。進展なしだよ」

 

 片手に今生成されたハリネズミフルボトルを持ちながら機械を操作する戦兎。

 

「覚えているのはガスマスクの科学者に人体実験、それと……」

「蝙蝠みたいなパワードスーツの怪人、ねぇ……」

「うん、あの雨の日の時から変わってないよ」

 

 戦兎の表情からは何も読み取れない。ただ無心にフルボトルを振っている。……こいつをカフェに泊めるようになったのは三か月前。降りしきる雨の中、ずぶ濡れで道端にへたり込んでいた所を俺が声をかけた。まるで原作仮面ライダービルドみたいだな、とか思っていたが、性別はまるで逆だった。始め戦兎は混乱状態だったが、同じく記憶喪失で引き取った銀髪……クロエ・クロニクルもいて心を開いたことにより、今では一般的な生活を送ることが出来ている。

 

―ピピピッ!―

 

「……っ!」

「マスター!スマッシュだ!また出る!」

 

 戦兎のスマホから警戒音が鳴る。戦兎が開発したアプリケーション、『スマッシュサーチャー』が新たなスマッシュの反応を捉えた証拠だ。戦兎は片側にハンドルレバーが付いた奇妙な機械を持って地下室からカフェの裏口まで移動した。

 

「戦兎!」

「何⁉」

「……気を付けて行って来い。今夜は焼肉なんだろ?」

「……あぁ!安心してくれ。オレは何たって、てぇん↑さい↓科学者だからね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私、更識簪は自分でも嫌な人間だと思っている。つまらなくて、陰気で、後ろ向き。きらきらした女の子らしい趣味はなく、逆に特撮ヒーローが好きだった。

 

 お姉ちゃんの様に万能では無いし、努力でしか力を手に入れられない。それでも何度も何度も頑張って、IS日本代表候補生に選ばれることになった。そして専用機ももらえることになり、その技術者とこまめに顔合わせを行った。

 

 その技術者は変わっていた。いや、性格は偏屈な訳じゃなかった。寧ろ話しやすい部類。でも外見がアレだった。顔にアニメの悪役みたいなサイボーグ仮面が付いていて、少し怖かったのを今でも覚えている。

 何でも倉持技研に数年前に入社したドイツ系の女の人だとか。

 

―えぇい、うじうじと面倒な子供ですね貴女は!貴女は何がしたいのですか、はっきりなさい!―

 

 だけど話をしてみると気難し気だけど気配り上手な優しい人だった。彼女はその頃の卑屈な私のことを見て、心配をしてくれていたらしい。

 

―稼働データが足りていない?でしたら仮想敵を実体化させますので百機分ほど撃ち落としてください。あぁご安心を、仮想なので貴女が死ぬことはありませんよ。……当たったら死ぬほど痛いですが―

―えっちょ、まっ……―

 

 そつなく(?)気を使い手助けしてくれる彼女がいることが嬉しくなり、交流は少しずつだが増えていった。

 一人、また一人と人間関係は増えていく。気が付けば私は彼女だけでなく、技術者たちと積極的に関わるようになっていた。

 彼らからは様々な事を学ばせてもらった。そして――――人目も憚らず褒められた。なんでも、私のプログラミングの才能は技術者たちから見ても舌を巻くレベルだったらしい。それが、とっても嬉しくなって、役に立てるんだって分かって、私は自分というものに自信を持てた。

 専用機のロールアウトも、入学半年前にもかかわらず、あと少しで終わりの所まできていた。

 

―結局、私って自分の何が嫌だったんだっけ?―

 

 いいや、心のどこかでは分かっていた。お姉ちゃんがどうこうとか言う前に、答えなんてすぐ傍に落ちていた。

 

 優秀な姉を越えられないものとして見て、自分を見下して『ここまででいいや』と思うのが楽だった。だけど、楽しくなかった。

 そして、勝手に比較されてると思って、そして勝手に見下されていると思う自分自身の心が嫌だった。自分本位だった。

 

 だから、いつか自分を救ってくれる『完全無欠のヒーロー』に憧れていたのかもしれない。笑ってしまう。自分が変わらないと、ヒーローに手を伸ばしてもらえるチャンスもないというのに。

 

 

 

 だが、思い知った。自分をちょっと変えたら、世界が変わった。それもそう。自分が感じる世界は自分の中にしかないんだから。

 そう思うと、姉とのわだかまりやコンプレックスの事を考えるのも、少し気が楽になっていた。

 

 あ、そうだ、今日は気分がいいし……あの特撮でも見よっと。正義の味方が宇宙人をやっつける、王道のメタルヒーロー……。

 

―ドオォォンッ‼―

 

「え……?」

 

 何かが壊れる音がした。その方向を見てみると……。

 

「な、何……。アレ……?」

 

 奇妙な体をした、人間とも、または機械とも言えない、無機質な怪物が立っていた。岩石の様な上半身、腕は太く、だがモノを掴むための指は無い。その指の無い手を振り上げ……。

 

―ドッガァァァァァァンッ!―

 

思い切り地面に叩きつける怪物。その瞬間、道路は陥没し、近くにいた人たちは悲鳴を上げながら地面を転がる。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁっっっ⁉」

 

 もちろん私も……あれ?あの怪物……私の所に……⁉

 

「や、ヤダッ……誰か……誰か、助けて……ッ!」

 

 私に向かって腕を振り下ろそうとする怪物……、ここで死んじゃうの?……お姉ちゃんに……まだ、なにも…。

 

 

 

「ハァッ!」

 

―ドガンッ!―

 

「■■■■■■■■ッ⁉」

 

「……え?」

 

【鋼のムーンサルト!】

 

 だが、私は知らなかった。私たちの世界にも、人知れず正義を守る、私たちのヒーローがいることを。

 

【ラビットタンク!イエーイ!】

 

 私の横を赤いバイクが通り過ぎ、怪物はバイクのフロント部分にある歯車でダメージを受け、吹き飛ばされた。

 

「やれやれ、さいっあくだ。折角就職祝いでのんびり焼肉行けると思ったのに……。ま、新しいボトルの力を試してみたかったし……。さぁ、実験を始めようか!」

 

 そう言って私達の前に立つ赤と青のヒーロー。闇夜に紛れているが、その仮面に付いた赤いウサギと青い戦車の光る複眼はしっかりと怪物を見据えている。そしてそのヒーローから感じるのは怪物が放つ敵意とは違う安心感。

 

 怪物が突然吠え、赤と青のヒーロー目掛け腕を振るう。だがヒーローはバネの付いた赤い左足で軽快なステップを踏みながらヒラリ、ヒラリと躱していく。そして攻撃をいなしながらもいつの間にか手に持っていたドリルの刀身の武器で振り向きざまにダメージを与えていく。

 

「すごい……」

 

 自然に私の口からそんな言葉が紡がれていた。

 

「さて、それではトライアル、行ってみよう!」

 

 そう言うとヒーローは腰に巻いた機械にセットされていた二本の容器の内、赤いものを抜き出し、代わりに白い色の容器を振りながら装填する。

 

【ハリネズミ!タンク!】

 

 セットした時、一瞬繋がりのないモノの名前が鳴るが、ヒーローは気にせずそのままベルトの横にあるハンドルをクルクルと回し始める。するとプラモデルのランナーの様な管がベルトから伸びて、ヒーローの装甲の半分が(声質的に恐らく)彼女の前方に出来上がる。

 

【Are you ready?】

 

「ビルドアップ」

 

 軽快な音楽と共に、赤と青の姿が白と青の刺々しい姿へと変わる。怯んだように身をすくめる怪物に近づくと、右手の棘を急激に伸ばし、怪物の身体に棘が鋭くなったナックルガードで殴りつけ、数メートル先の道路へ投げ飛ばす。

 

「ほいッ!ハイッ!おりゃおりゃっ!」

 

 そこにさらに追撃として伸ばした棘で刺すヒーロー……ちょっと怪物が可哀そうになってきたかも……。

 

「……よし、ハリネズミのデータは取れたっ!それじゃ、終わらせますか」

 

 またもヒーローはベルトを元の赤と青のボトルに入れ替え、登場した格好になると、もう一度レバーを回し始める。

 

【Ready go!】

 

「あ、ちょーっと、待ってね?」

 

 ヒーローが突然地面に大きな穴を開け消える。すると突如として巨大なグラフが出現し、X軸に当たる部分で巌の様な怪物を挟み込んだ。怪物はもがくが、ぎちぎちと締め上げられている為、逃れられない。

 

「ぜりゃああぁぁぁッ!」

 

 突如として隆起した地面から赤と青のヒーローが飛び出し、放物線を滑るように加速して青い右足を突き出した。

 それは正しく必殺の一撃。正義のバイク乗りが放つ勧善懲悪の蹴撃(ライダーキック)

 

【ボルテックフィニッシュ!イエーイ!】

 

―ドッガァァァァァァンッ‼―

 

 刹那、怪物の身体を吹き飛ばしたヒーローは道路を滑り、火花を散らしながら勢いを殺して着地、怪物からは緑の爆炎が上っていた。

 

「さてさて、今度の成分はなーにっ、かな?」

 

 ヒーローはベルトの横にセットされていた空の容器を開け、緑の炎を上げている怪物にふたを向ける。

 

「……⁉人に……なった……?」

 

 怪物だったモノは囚人服を着た男性に変わっており、何かを吸い取って膨らんだ容器をヒーローはシャカシャカ弄んでいる。

 

「あなたは……一体……?」

「……ん。あぁ、オレは『ビルド』。『創る』『形成する』って意味の、『Build』だ。以後、お見知り置きを」

 

 思わず零れてしまった私の疑問に、愉快そうに指を立て、まるで先生が生徒に教える様な声音で私に告げる。『ビルド』……それが私を助けてくれたヒーローの名前……。

 

「それでは、See you!」

 

 乗ってきたバイクを変形させ、スマホにすると、ヒーロー……もといビルドはスプリングを収縮させる。そして一跳びジャンプし、近くのビルへと飛び移ると、瞬く間に赤と青の軌跡を残し去って行った。コレが私と……後に都市伝説となる、全身を超科学のスーパーアーマーで包んだバイク乗り、『仮面ライダー』との出会いだった……。




 ようやく原作前の話に区切りがついたァァァァァァァァ‼番外編を入れるかもしれないですが、もうすぐで原作開始です……。長かった……。

※2020/12/21
 一部修正


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原作開始編
第十八話 『非日常へのランナウェイ』


惣万「さてさて、時は少し過ぎ去って、2022年の1月。さぁて、そろそろ一夏の受験シーズンに入るんだが……」
???「まってよ~かんちゃ~ん…」
???「本音、はやくっ…この周辺には仮面ライダー目撃情報がある…!もしかしたらお礼言えるかも…!」
???「う~ん、げんきだね~。…どうなることかとおもったけどよかったよ~」
惣万「あれ?何か通り過ぎってったあの子たち、今仲良くないはずなのに……」


「無許可で戦闘行為をする二色のバイク乗り?都市伝説『仮面ライダー』に迫る……ねぇ……」

 

 あれから半年か……。本格的に世間に『仮面ライダー』のことが浸透し始めている。ある男は「怪物と戦う現代の英雄」と讃え、片やある女は「ISの出来損ない」とかほざいている。

 

「まぁ仮面ライダーより、今は一夏と節無の入学のことだよ、なっ……」

 

 一夏については何ら問題はない。あいつの人となりは子供ながらに立派なもんだ。恋愛感が頑固一徹になっちゃったのはまぁ…どうしてかはわからんが、後ろから包丁で刺されるなんてことにはならんだろうからまあ許容。

 問題は、節無の方だ。ヤツ、どうにも危険っつーか、出生がアレ(・・)だろうし、なにより近頃は幼稚性を隠さなくなってきた。初めて会った時からどうにもそんな雰囲気あったし、千冬や一夏も一緒にいるのを躊躇うとか相当だぞ?

 

 そして何より、アイツ…――――昔会ったシリアルキラーとかそういう類と似た目をしてやがるんだよなぁ。不穏な事件が前に一回起こったけど、証拠はつかめなかったし、真実は藪の中だし。

 まぁ、ずっと監視しててあっちも俺に気付いていたから互いに不干渉条約結んでるみたいなもんだし。動きがあるとすれば、この一年かな。

 

 

「はぁ……、暗躍するには、厄介な問題が山積みだなぁオイ……、ム、痒いな背中……」

 

 俺はタブレットを操作し、見ていた掲示板のサイトを閉じる。そして手に赤い光を纏わせ、雑巾の様に絞り、棒状にしたタブレットで背中を掻くのだった。

 

「あはっ♪」

 

 

一夏side

 

「……何でこんなことになったんだ?」

 

 右見ても――――女子、左見ても…女子。後ろ向いても、女子!よし一言良いか?

 

 ……ふっざけんなぁっ⁉

 

 俺はただ独り、ハァとため息を吐く。何で男の俺がIS学園に入学しなければならなくなったんだ…!?

 

 右斜め後ろの席では従弟の節無がヘッドホンして何か聞いていやがる……、こういう時あいつのマイペースさが羨ましく……いや、ならねぇな。山田先生涙目だよ。周りちゃんと見ろよ。

 

「えぇっと……それじゃあ次は、織斑一夏くん?自己紹介お願いします」

「あ、はい」

 

 目の前のあどけないが、一部が千冬姉以上な副担任の先生が俺に声をかけてくる。俺は立ち上がり、頬を掻きながら自己紹介をする。

 

「えぇと、ご存知かもしれませんが織斑一夏っす。えーっと、特技は料理と格闘技です」

 

 ほうほう、と周りの女子連中は首を振りながら俺のことを見てくる……っかしーな。俺、今肉食獣か何かから狙われてるような……そんな錯覚に襲われてんだけど?

 

「まぁ取り敢えず、この学校で三年間、充実した毎日が過ごせたらなぁ、とか思ってます。どうかよろしく」

 

 うん、自己紹介としてはまぁまぁかな?そう思ってクラスに目を向けると……。

 

「き……」

 

 き?……あ、これ駄目なヤツだ。只今俺の中の俺が絶賛危険信号を発令し警告してる。

 

「「「キャアァァァァァァァァァッ‼」」」

 

 うわあぁぁぁぁぁぁ!?うるっせぇ!?だからこう言う女子のノリって苦手なんだ!嫌いじゃないけども、もう少し慎みを持て!?

 

「切れ長の目!クールで素敵!」

 

 そうかい、千冬姉譲りだよ。

 

「ちょっと不良っぽい!だがそこが良い!」

 

 お前等だって制服改造してんじゃん。あ、因みに俺は制服のズボンを黒に変更して、チェック地の服を腰に巻いて結んでいる。惣万にぃに選んでもらった。

 

「この素晴らしい出会いにHappy birthdayッッッ‼」

 

 俺の誕生日は9月27日だ。つか何で誕生日だ?

 

 

「やかましいぞ、小娘共!」

 

 その言葉と共にドアが開き、黒いスーツに黒髪を後ろで束ねた凛とした美人(笑)が教室に入って来る。周囲の女子連中は……、あ、コレ第二波が来るわ。ではではカウントダウン。さーん、にー、いch

 

「「「――――――――――――――――――――ッ!!!!!!」」」

 

 あっズレた!でもセーフ!耳の中に指ツッコんどいて良かった!マジでよかった!

 

「本物よ!本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私お姉様に憧れてこの学園に来たんです!天ノ川学園都市から!」

 

 でも私生活を見たら幻滅するだろうな……絶対。次々と飛び交う黄色い歓声。千冬姉は鬱陶しそうな顔をしている。

 

「……、よくもまぁ毎年コレだけの馬鹿者が集まるものだ。……嫌がらせか?……あぁ、コーヒー飲みたい……」

 

 大変だな、千冬姉。あと本音出てんぞ。初め千冬姉がIS学園に勤務するって聞いた時は惣万にぃと一緒にビックリしたけど……ちゃんと先生できているのな(親目線)。

 そんなことを思いながら目頭を押さえれば、つかつか歩きながら生徒の心構えを説いていく千冬姉。まぁ今喋ってる内容、軍隊みてぇだけど。って……!?

 

―スッパーンッ!―

 

 俺の脳天に出席簿が突き刺さりそうになる。あっぶな!一体何で出来てんのコレ!?防いだ手の骨まで衝撃ががががが……、いったぁぁぁぁぁっ!?

 

「……あ、ああああ危ねぇな!?何すんだよ!?」

「今何か失礼な事考えただろう?」

「エスパーかよ!?」

「ほう、ということは何か考えたのだな?」

「誘導尋問!?うわ汚い!千冬姉汚い!」

「千冬姉言うな、ここでは織斑先生だ」

「へ、へいへ~い、Mrs織斑」

「私は結婚していない!……何を言わせるんだ愚弟ィィッ!」

「いや、惣万にぃといい感じじゃ……ギャァァァァァァァァッ!?」

 

 アイアンクローを喰らった、ぎゃー(しばらくお待ち下さい)

 

 

 

「……う~ん、終わった終わった」

 

 あーあ、さっきから視線が鬱陶しい。まぁ物珍しいのは分かるけど……俺は客寄せパンダじゃねーんだよ……。んじゃ。

 

 俺は窓際に座っているポニーテールの女子にゆっくりと近づく……、そして――――

 

「……よう、“おかえり”、箒」

「……っ……、うんっ……“ただいま”、一夏!」

 

 花が咲いたような笑顔で俺に返事を返してくる、俺の幼馴染……篠ノ之箒。

 

 あぁ……、良かった。約束、覚えていてくれたんだ。

 

 

 

 休み時間、箒を誘って屋上に来た。

 

「ひゅ~っ、いい眺めだな」

「あぁ、私もそう思う」

 

 青い空と蒼い海が麗らかな春の日差しを受けてキラキラ輝いている。……昔、箒と別れたのも、こんな青空の日だったっけ……。

 

「んじゃ……改めて。久しぶりだな、箒」

「あぁ、また会えて……嬉しい、一夏」

 

 そう言って俺に微笑む箒。頬を桜色に染め、昔は仏頂面だった整った顔を優しく緩める。

 

 ……思わず顔が熱くなった。

 

「……?どうした?」

「あー、うん。……、そ、そう言えば箒って最近剣道の大会で優勝したらしいな?」

「っ!新聞を見てくれたのか……」

 

 照れくさそうに頬を掻く幼馴染み。

 

「そう言えば……一夏、お前はもう剣道をやってないのか?」

「あー……まぁ時たま千冬姉と試合をする以外は。剣道場がなくなっちまったし。それに惣万にぃと組手な毎日だったからなぁ……少し勘が鈍っているかもしれない」

「そうか……なら、私で良ければ剣道の練習相手になろうか?」

「おっ、ラッキー!頼める?」

「あぁ、私で良いのなら」

 

 気が利くようになっていたのに俺は驚く。小学生の頃は幾らかつっけんどんな態度でしか感情を表せなかった箒が……。

 

「成長したなぁ……」

「?……!……一夏、胸を見て言うな」

 

 …………ほぇ?

 

「え?……あっ!?……いや違う!?違うからな!?」

「……気にしているのに。まぁ、年頃と言うのは……分かるが」

 

 うぉおっ!?その顔で見るなっ、破壊力抜群…!思わず顔を真っ赤にして黙り込む俺と箒…。

 

 き、気まずいわ…。なんだこれ、いやまぁ、前々から会いたいと思ってたけど!こんなに言葉を口に出すのって面倒だったっけ?

 

 

―………………キーンコーンカーンコーン………………―

 

 ………………ん?

 

「………………。なぁ箒。今の、チャイムだよな……」

「……そうだな」

 

 俺達の間に一寸の沈黙。そして………………。

 

「「……、マズいッッッ!?」」

 

 その後、教室に到着した俺達の頭に出席簿が突き刺さったのは言うまでもない………………。

 

 

 授業を受けながら考える。何故俺がこんな所に来ることになったのか……。

 

 

 

 きっかけとなったその日、俺は藍越高校の受験会場に入り、単語帳や公式を振り返っていた。ふと席を立ち、トイレに寄ろうとしたとき……。

 

『よーう、第二回モンド・グロッソ以来だな?織斑一夏』

 

 柱の影から毒々しい赤色のパワードスーツの怪人が現れた……。

 

 その瞬間、第二回モンド・グロッソの出来事が途切れ途切れだが蘇りだす。

 

「お前は……っ!あの時の……!スターク……!?」

『おぉ覚えてくれているとは嬉しいねぇ。……悪いな、俺が#1(プリメーラ)だ』

「いや、どこの破面ナンバーワン⁉名前繋がりなだけじゃねぇか⁉」

『惜しい!俺の本名はブラッドスターク。以後、お見知り置きを……っと!』

 

 相手は飄々と俺のツッコミをスルーし、俺に向かって腕についたチューブの様なモノを素早く伸ばす。そしてその先端が俺の脇腹に刺さり……、俺は意識を失った。

 

 

 

 そして気が付いたら、試験会場内に設置されていた一台のISに搭乗しており、その状態のまま女性職員の人に発見されることになったのだ。

 

 

 それ故、俺は藍越学園の入試は取りやめになり、千冬姉と共にIS学園に入る準備をすることになった……。その時は慌ただしかった、家にこもりっきりでISの参考書を読んだり……女子は学校で習うであろう基礎知識を数週間で覚えようとしたり……、うん、もうこんな経験はしたくねぇ。

 

 世間では、『俺がISを動かした』、ということで全世界的に男性のIS適性一斉調査が行われ、従弟の節無にも適性があることが発覚した。しかも俺が『B』であるのに対しあいつが『S』だとか。

 委員会の役員たちは節無に専用機を、とか言ってたな。俺としては面倒事を全てあいつが背負ってくれればラッキーなんだが……、大丈夫かなぁ。

 

 どこがとは言わないが、何か節無、成長してもどっかしらが子供のまま狂ってるみたいでな…――――。

 

 

 そんなこんなで俺の女子高での生活が始まったのだった。




 ワンサマーインイチカ『オォラァ!(自己紹介)』クラスメイト「「「キャアァァァァァァァァァ‼」」」

 最早原作の面影無ぇぇぇ……。

※2020/12/25
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第十九話 『無欲のレイディ』

千冬「さて、入学おめでとう一夏。これからはビシバシしごいていくからそのつもりで」
一夏「うへえ――――うん?つーかよ、よくよく考えたらモンド・グロッソとかドイツ軍での教鞭時代から逆算したらさ……千冬姉ってIS学園教師歴が長いって訳じゃ、ないんだよな?」
千冬「そうだが、それが…?」
一夏「なんか知らんけど、ベテラン教員ってイメージなのはどうしてだ?」
千冬「…ふむ?誰がそんなことを?」
惣万「(なんかメタ発言してる……)間違ってたらスマンが、確か2016年に第一回、2019年に第二回モンド・グロッソがあって、恐らく2020年のドイツ軍教員時代で、……あれ?教員免許とかって…」
千冬「……大人の事情に深入りすると馬に蹴られるぞ。そもそもIS学園は治外法権だから、うん…」


一夏side

 

 二時間目が終わった後、俺は予習復習に当てていた…従弟の方?何故か憎々し気に俺の方を睨んでくるんだけど…。箒と話したのが悪かったのか?だとしたら何で?

 

「にしても喉乾いたな。箒、俺自販機で何か買ってくるけど……何が良い?」

「変身一発」

「分かった……(すげぇの飲んでんな……)」

 

 因みに変身一発とは「飲んだら頭が灰(ハイ)になる!」とか言うキャッチコピーのスマブレ社のエナジードリンクだ。鴻上食品の「終末缶」とユグドラシルコープの「ユグドラ汁」と並んで“三大何でこんなのが売れるんだ飲料”と呼ばれている。

 

「えーっと、自販機は……――――あ、あったあった。……んぁ?」

「ううーん……。すみません、誰かぁ……手、貸していただけませんかぁ~!ほんの少しで良いんですぅ!」

 

 ……目に入ってきたのは誰かの臀部だった……。

 

「……いや、何してるんだこの人」

「あっ、すみません!後ろにいる方!ちょっとだけ自販機持ち上げてくれませんでしょうか?もう少しで手が届くので!」

 

 形の良いヒップを振りながら俺に言ってくる女生徒。

 

「ま、まぁ良いけど……、フッ…!」

「あっ、ありがとうございますわ!……やった!取れましたわ!」

 

 そう言って自慢げに手に持ったものを掲げる仮称:尻女。

 

「……いや待て、ソレ日本円じゃねーぞ?それ入れても買えねーから」

「?……!あぁ本当ですわ!」

 

 目の前の金髪は目に見えて落ち込む……しょうがねぇな。

 

「オラ、何が良いんだ?えーっと、箒がコレで……俺がAroma Ozoneのミネラルウォーターっと……オタクは?」

「え……?宜しいのですか?」

「ん、別に。たいした出費じゃねぇし」

 

 ありがとうございますわ!と言いながらカフェ・マル・ダムール印のストレートティーを頼む金髪。そして頭を下げながらスキップ交じりに廊下を去って行った。……アレ?今の奴……、資料に乗ってたイギリスの代表候補生じゃなかったか?……いや、まさか。確か貴族出身とかってプロフィールにあったし……人違い、だよな……?

それは兎も角思ったこと。ココの生徒(れんちゅう)、キャラが濃い……!

 

 

 

 衝撃的な出会いだったが、驚いている暇はない。時間は止まることなく流れていく。あぁもう、全ッ然頭働かねぇ。一応大体は分かってるんだけどさ、なじみがない言葉で説明されてもわっかんねぇよ。もうちょっとこう、感覚的に言ってくんねぇかな!昔っから箒の説明は分かりやすかったんだが……。

 

「あぁ、そう言えば……再来週に行われるクラス対抗戦の代表者を選出しろと言われていたな。……よし、今決めるか」

「千冬姉……すっげー無計画な話の切り出し方だな……」

 

 若干教師として活動で来てんのが不思議に思えてきた……でも女子の反応だとこう言うのがイイってヤツ多いんだよな。……大丈夫かこの学校。

 

「何だ、文句を言うな。反論は認めん。それと織斑先生だ」

「軍隊かよ……」

 

 駄目だこの学校、早く何とかしないと……。

 

「さて、クラス代表者とはそのままの意味で……まあ、戦うクラス長だ。一度決まると一年間変更はない。では自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

 説明が雑い!確か対抗戦とかで代表になるほかに生徒会とか委員会に顔を出す奴だろ?ま、俺にゃ関係が……。

 

「ハイ!織斑一夏君を推薦します!」

「……んぁ?」

「わっちも」

「わ、私も……」

「ではわたくしも」

 

 お、俺!?……ちくしょう俺目立つの苦手なんだが……あとなんか変なのいたな……。

 

「あ、それじゃ私は節無君を!」

「あ、私も」

「ワテクシも!」

 

 節無もかよ……つーかさっきからちょくちょく変な一人称聞こえてくんだけど?

 

「……よし、それではこの二人だな」

 

 うぇ、マジかよ……。候補として決まっちゃったわけ?節無の方は……――――、ッ。何だ、今すっげぇ気味悪い目してたんだが。気のせい、か……?

 

 

「……ではクラス代表は男子二人での試合結果によって決定する。……ところでオルコット」

 

 オルコット……?ってやっぱりあの時の庶民系お嬢様って……。

 

「……?ハイ、何でしょうか」

 

 例の尻突き出してた金髪お嬢は、キョトンと小首をかしげ言う。

 

「……何故専用機持ち、それも入試で主席合格であるにも関わらず自薦も何もしなかった?」

 

 その時、教室が一瞬でどよめく。それでも金髪はどこ吹く風の様にうっすらと笑みを浮かべ次の様に述べやがった。

 

「力とは示すものではありません……誰かを守る為のものです。わたくしは手を伸ばす時を、誤りたくはないのです……」

 

 ……俺には、その笑みがどうにも寂し気に見えた。

 

「……それに、折角希少な男性IS操縦者がいるのです、負担になるやもしれませんが経験を積ませ、男性操縦者の名を広げるという点でも一興でしょう」

 

 うん、前言撤回!やっぱ面白がってねぇかお前!?




 一夏……お前なんちゅうモン飲んでんだ……(チフユゥ!ニゲルォ!)

 因みにこの世界のセシリアは髪がクロワッサンみたいになっていません。ちょっとのウェーブがかかっただけの地毛です。制服もフリルが無く、代わりに首にストールを巻いております。Oーバーラップ文庫版?

※2020/12/09
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第二十話 『学園生活のセオリー』

箒「さて、IS学園の記念すべき初めの一日が終わったな、どうだ?その、慣れそうか?」
一夏「いや、女子高に男が入学させれられて慣れるもなにも…」
パンイチ貴族「ですわよねぇ……下着姿で廊下を移動される方もいらっしゃいますし」
一夏「へぇ……うん?今通り過ぎてった奴、見間違いか?肌色成分多めじゃ……」
箒「 い ち か 」(ガッ←首を掴む音)
一夏「!?」
箒「 ふ り む く な 」(首の折れる音)
一夏「メガリマバッ!」
箒「……あっ、すすすまんごめん申し訳ない今すぐそっちに行く!介錯は必要ないこれより小女は腹を切る!」
一夏「いや死のうとするな!ここギャグ時空だから!そういう台本だから!」
千冬「オルコットは何でパンツ一丁なんだ!?そっちはちゃんと台本通りにしてくれ!」


 時は過ぎ去り、夕方。

 

「あ、一夏君、節無君!よかったぁ……まだ教室にいたんですね」

「……?山田先生、どうかしたんですか?」

「えっとですね、二人の寮の部屋が決まりました」

 

 若干おどおどしながら俺らに言ってくる山田先生。……なんかこの人先生って感じじゃねぇよな。身のこなしはよく気を凝らせば戦闘経験者な感じはするけど……。あ、もしかして油断させといて実は……っていう千冬姉の懐刀的なポジション?

 

「……あぁ、成程。政府の命令ってやつですね」

 

 分かってますよ、というふうに言う節無。

 

「そうだ、荷物は二人分、私が用意してやった。有難く思え」

「え――――千冬姉が?ありがたいかなぁ……」

 

 俺はその言葉に一抹の不安を覚えてしまう。

 

「学校では織斑先生だ」

「あでっ」

 

 ごすん、と俺の頭にチョップが入る。

 

「姉のことを少しは信用しろ、これでも昔の様なヘマはしない」

「いきなり矛盾してるよ言ってること」

「まぁ生活必需品だけだが。着替えと携帯の充電器を入れておいた。コレだけで十分だろう」

「すいませーん山田センセー、購買に歯ブラシと歯磨き粉売ってませーん?」

 

 ……惣万にぃ直伝のおちょくり癖がこういう時に出ちゃうのは如何ともしがたいな(アイアンクローされながら……)。

 

「あ、それと……コレが寮のカギになります。無くさないでくださいね?」

「えぇと……俺は、1025室か」

「……僕は一人部屋ですか?そうですか…」

 

 そこで山田先生から浴場が使えない事を言われ、道草食わずに帰る旨を伝えられた。……校舎から寮まで数十メートルなのにどうやって寄り道しろと。

 

 

 

「お、箒?ちょうど今帰りか?」

「あ、うん。一夏もか?」

 

 夕暮れの中、竹刀袋を持ってポテポテと歩いていた箒に声をかける。その道中……。

 

「オイオイ、俺ってお前と同じ部屋かよ!?大丈夫か男女同衾って!?」

「い、一夏と同衾……!?ふ、不ちゅちゅか者ですが……」

「おい待て!?言えてねぇし!じゃないッ、それ以前に色々すっ飛ばしてるからな!?」

 

 大騒ぎ。まぁ一秋が箒と一緒になるより俺が一緒の方が……って何考えてる!俺ェ‼

 

「コレ絶対千冬姉の采配だろ…」

「……千冬さんの?」

「……箒は気にしないでいいよ」

 

 やっぱ分かるか……そりゃそうだよな。中学時代からずっと告白断り続けていたら消去法で…。

 

「でも……、ちょっと安心した」

「?」

「一夏も……私のこと、女として意識していることが分かって…」

 

 

 ………………おいやめて?そんな照れ顔で言わないでくれ?俺の理性がもたなくなるからァァァ‼

 

 

 

 

 ようやく気持ちを落ち着かせて1025室にたどり着いた。節無の方は一人部屋かぁ……良いなぁ……。

 

―ガチャン―

 

「お帰りなさいあ・な・た♡ご飯にします?お風呂にします?それとも、わ・t」

 

―バタン―

 

「箒ナイス」

「イェーイ」

 

 顔を見合わせサムズアップする俺と箒。うん、何もなかった。俺らの部屋に裸エプロンの上級生なんていなかった!

 

 ………………ってそんな訳ないんだよなぁ。

 

「……現実逃避止めよう、一夏」

「……そうだな」

 

―ガチャン―

 

「キスをしましょう、阿良々g」

 

―バタン―

 

「「………………」」

 

 またまた顔を見合わせる。

 

「……服代わってたな」

「うん……」

 

―ガチャン―

 

「まどかぁぁぁぁぁa」

 

―バタン―

 

俺(楽しくなってきた)

箒(一夏と同)

 

―ガチャン―

 

「え、えぇっと……みこーん!」

 

―バタン―

 

 ちょっと今のは分からなかった。クオリティがちょっと低かったな。早着替えの途中だったみたいだし。

 

―ガチャン―

 

「ねぇせめて突っ込んで!?もうネタ切れよ!?」

「ちっ、ギブアップはえーよ、惣万にぃなら喜んでコスプレ大会始めるぞ」

 

 箒も無言でこくこく頷く。さて……。

 

―バタン―

 

 中から『閉めるの!?この流れで!?お姉さんビックリ!』とか聞こえてくるが、しかるべきところに電話をして……。

 

「……あ、もしもし千冬姉?俺らの部屋に半裸のハニトラ要員と思しき人が出たんで拘束すれば良い?」

 

―ガチャバタン!―

 

「待って待って織斑先生呼ぶの!?洒落になんないわよねソレ!?」

「冗談じゃないっす。と言うかもう連絡しましたので逃げんで下さい、生徒会長」

「確信犯だったのね!?そうなのね!?分かっていて弄んでたのね!?私のことは遊びだったのね!?」

「因みに今も会話中ですよ……、携帯」

「あっ……、オワタ/(^o^)\ナンテコッタイ」

 

 おや、どこかから地響きが……(すっとぼけ)。ドドドドドドドドド……。

 

「たぁてぇなしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ‼」

「わ゛ァァァァァァァァッ!?織斑先生コレは何て言うかちょっとしたちょっかいで……!?んみ゛ゃァァァァァァァァ!?」

 

 俺らの前を黒い一陣の風が通り過ぎ、半裸の生徒会長を連れ去って行った。ドコイッタノカナー。

 

「合掌。南無」

 

 箒が思わず読経していた。

 

 

 

 会長が犠牲になったが、無事夕食まで終わり、部屋に戻ってきた俺ら。箒は読書、俺は予習復習をひいこら言いながらやっていた。そうしたら、俺に来客があった。

 

「少しよろしいでしょうか」

「ん?どうしたん……でぇぇっ!?」

 

 俺の目の前には、真昼間に結構なインパクトを与えてくれた金髪生徒が立っていた。まぁそれは良いんだ、うん、IS学園って多国籍な学校だし。ただ問題は……その人がパンイチだったということである。

 

「いっ、一夏!見ちゃダメだ!」

 

 目を覆い隠してくれる箒。うん、グッジョブ!だけどお前の成長した豊かな双丘が俺の後頭部に当たっているのは役得……ゲフンゲフン!

 

「セッ、セシリア・オルコット!いっ、一夏が……男子がいる前で何て言う格好をしてるっ!」

 

 箒は手に持っていた風呂敷をオルコットにかける。ありがとう箒……。

 

「……あー、それは申し訳ございません……しかし持ち合わせがコレだけしか……」

 

 ぱさっと布切れの中にある下着と小銭を見せてくる……さっと箒に視界をふさがれた。

 

「……コレだけ?手荷物は?」

「無いですわよ?」

 

 ハァ!?

 

「そんな訳ねーだろぉ!?見たところ結構育ちの良い格好してんのにこれだけで……」

「いけますわよ!ちょっとのお金と、明日の下着があれば」

 

 流浪の民か?フットワーク軽い鈴でももう少し持つぞ……。

 

 閑話休題。

 

「で、何の用だ、オルコットさんよ」

「あぁ、そうそう、そうでした!織斑一夏さん……」

「あ、一夏でいい……織斑が三人いるんだ、分かりやすい方が良いだろ」

「……宜しいので?ホラ……お隣の彼女さんにだけ呼ばせた方が……」

「……私は気にしない、(一夏がどう呼ばれても私の……には変わりがないし……)」

 

 ん?続けて言った方の言葉聞こえなかったんだが……。顔を真っ赤にして言う箒にオルコットは『コーヒー飲みたいですわ……』と呟いていた……。何で?

 

「あ、それと私も箒で頼む……名字は良い思い出が無くてな」

「あ、そうですの、分かりましたわ……っほん、話を戻します。一夏さん、如何やら節無さんは上級生とのパイプを既に構築しIS操縦のノウハウを教わっているようですわ。そこで提案なのですが……わたくしがISの操縦技術を、剣道有段者の篠ノ之箒さんが戦闘訓練をしてクラス代表に備えませんか」

 

 そう言って俺の方を見てくるオルコット。箒も俺の方を見てフンスと意気込んでる。そしてオルコットからとどめの一言。

 

「気付いていない様ですが、一夏さんからは負けたくない、と言う気迫が感じられましたので」

 

 ……。あぁ、そうかもしれないな……。決めつけるのは良くねぇってのは分かっている。だが、節無とは――――そうさな、“幼い頃顔を合わせてからずっと”相容れることがないと、本能が警鐘を鳴らしていた。

 理由は分からん。人格も普通に良い奴で、ちょっと子供っぽく駄々をこねるところもあるが、他人からの判断はまともそのもの。なのに何処か警戒心が働いちまうんだよな。なんでなんだろ?

 

「……よし。ならよろしく頼む……」

 

 なお、後に箒が言っていたのだが、この時の俺は険しい顔をしていたらしい。あぁ、それはそうだ。

 

 ――――俺が負けたら、誰かにとんでもないことが起こる。どうにもそんな気配がこのIS学園に立ち込めている。一体どういうことなんだ?これがただの杞憂ならいいんだが……。

 

 

「なぁ、ところで。何でそんなに良くしてくれる?」

「あぁ、それは……あの時、自販機を持ち上げてくれ、あまつさえ飲み物を頂きましたからね。このくらいの助力はさせてください、一夏さん」

 

 俺の脳裏に昼間の出来事が思い浮かぶ。

 

「えぇ……」

「?」

「そんなのでか……?どんだけ欲が無くて義理堅いんだよ?」

 

 どうもこのオルコットと言う女子……人が良く自己犠牲精神が激しすぎる気質があるようだ……。

 

「そうですか?それに、一夏さんとも箒さんとも、クラスの皆様も……長い付き合いですからね。そんな人たちの力になりたい、そう思うのは当たり前でしてよ?」

 

 付き合い……?そうなのかと思わず箒を振り返る。

 

「箒……付き合い長いの?」

「……今朝からだ」

「……あぁ、そう……」

 

 いろんな意味でスゲーわ、このパツキン……。俺は考えるのを放棄した。……あ、駄洒落じゃねぇから。

 

 

No side

 

 夜の帳が下りた空に、濛々と黒煙が集まりだす……そして………………。

 

【Bat…B-Bat…Fire…!】

 

『……キヒヒ。解析データが来た。ハザードレベル2.4か。ライダーシステム候補者の周囲には質の良いスマッシュの素体が転がっているな。では、お前に決めたぞ。織斑一夏の為のスイッチになってもらおう………………………………………………篠ノ之箒』

 

 学園の寮を遠くから眺めるコウモリは、一夏やオルコットが部屋の中で談笑しているのを見て、黄金のバイザーの奥の目を輝かせ、薄気味悪く嗤うのだった………………。




 と言うワケで、セシリアはクラス代表戦に出ません!火野コットは一夏のサポートに回ります。前話と今回の話のセシリアは本格的に火野映司(パンイチ)でしたね……。
 口八丁手八丁で生徒会長を煙に巻く一夏。楯無さんすいません……惣万にぃの教えが生きてます。
 それにしても……このSS、気が付いたらUA一万超えていたんですね。驚きと感謝でいっぱいです。やっぱりISと仮面ライダーって相性良いんでしょうか。
 遅ればせながら見て下さっている皆様に感謝申し上げます。大変ありがとうございます。今後ともお付き合いいただければ嬉しく思います。

※2020/12/11
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第二十一話 『因縁のファイト』

くーたん『はーいっ、みーんなのアイドルっ!くーたんだよッ!今夜は~、“北国の農家”さんや“モッピー”さん、“黒うさぎ副隊長”さん“水色特ヲタ”さんその他色々な人からのリクエスト曲を歌っちゃいま~す♡まず始めのリクエストは~っ、じゃじゃ~ん!“Be the One”ですっ!ではっ、ミュージックスタートッ!』
北国の農家「おっしゃあ!おい聞けお前ら、くーたんに名前呼ばれたぞ!……あ、何?時差?うるせぇただ八時間違うだけだろうが!」
モッピー「早朝配信で名前を呼ばれるとはな、今日はいい日になりそうだ…」
黒うさぎ副隊長「!…、これは隊長の出立時に思いを伝えよとの後押しでは…?」
水色特ヲタ「……今度はアニソンとかもリクエストしよっかな…」


 さわやかな朝に相応しい、はじけるようなメロディが部屋に流れる。

 

 

――――Be the One, Be the One All right!

 

――――明日の地球を投げ出せないから

 

――――Be the Light, Be the Light All right!

 

――――強くなれるよ 愛は負けない

 

――――何かを助け救って抱きしめ 心に触れて 届くよ 伝われ

 

――――Be the One, Be the Light

 

――――メッセージ送るよ 響くよ

 

 

「おあよー……ん?箒。お前ネットアイドルになんて興味あったか?」

「あ、一夏。うむ、まぁプレミアム会員ぐらいにはな」

「意外にどっぷりだな……ってか、あれ?クロエじゃん」

「え……?何、知り合い、なのか?」

「あぁ、惣万にぃのとこに顔出したらな……ってどうした箒、顔怖いぞ?」

「まさか一夏。この子どんなにすごいか知らないのか?」

「?」

「この娘、結構なファンがいて日本でのチャンネル登録者数十万人、いやもしかしたら数百万人超えてるんだが……」

「ファッ!?」

 

 そんな会話をしながら食堂へ行く俺と箒。クロエが、大人気ネットアイドル、ねぇ……?あれ(・・)見てそう思えるヤツ何処にいるんだろ……。

 

「で、一夏。何頼む?」

「んー……んじゃ今日の焼き魚定食にするか、鯵の開きだし」

「あ、じゃあ私もそれで」

 

俺達は食券を持っておばちゃんの前に出す。

 

「「鯵の開き定食で」」

 

 ……ん?被った?隣を見ると、後頭部にぴょんと寝癖が付いたトレンチコートの女性が食券を出していた。

 

「あぁっと、ゴメンね!あーっと……君が例の男子、織斑一夏だね?」

「あ、ハイ。そうっすけど。どうぞお先に」

「おぉ、ありがとー!いやぁ、徹夜続きで食事とる暇もないんだよ~。今年先生兼技術者としてここに就職できたはいいけどさぁ」

「あ、先生だったんですか、えぇと……?(先生に見えねぇ…)」

「あぁ、オレは戦兎。因幡野戦兎だ。前まで記憶喪失者兼てぇん↑さい↓科学者をやってた、よろしく」

 

 スナップを効かせ、フレミングの法則の様な手のポーズをとる先生。って記憶喪失?

 

「それじゃ、クラス代表戦、頑張ってね~……そうだな、何かあったらこの場所に来るといいよ。じゃね~」

 

 俺の手に紙切れをのせて足早に立ち去っていく因幡野戦兎先生。……嵐みたいな人だな。

 

「ソレ、何が書いてある?」

「えぇとな……?教師用IS保管場所?」

 

 

 そんな出会いがあった後の授業、何故戦兎先生がこんなものをくれたのか、理由がよく分かった。

 

 

「そうだ、節無……。お前には専用機が用意される。IS適性が『S』であることによってお前がデータ収集の対象に選ばれた。それ相応の覚悟を持って受け取れ」

「ハイ、分かりました。実力の伴わない若輩者ですが、頑張らせていただきます」

 

 節無はニコッとして千冬姉を見るが……俺ら姉弟は違和感を感じた。なんだか、やっぱりこいつは何処か変だ、と…。何でなんだ?説明できない感じがもどかしい。

 

「専用機?一年のこの時期に?」

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことよね?」

「すごいな~私も早く専用機欲しいな~!」

 

 女子連中があいつのことを羨ましいとか言ってきゃあきゃあ騒いでいた、……そんな中。

 

「それを聞きますと、問題は一夏さんですわね。どちらもISに触れてまだ日が浅い……。その上で節無さんが専用機、一夏さんが訓練機と言うのはフェアではありませんね」

 

 脇からオルコットが口を挟んでくる。俺のフォローをしてくれてるようだ。まぁ何があっても負けるつもりは無ぇんだがな。どうしてか、勝たないといけない。いや……これは節無に勝たせたらマズいってことなのか?

 

「と、いうことで。織斑先生、わたくし一夏さんとアリーナで訓練をしたいのですが……使用許可を頂けませんでしょうか」

「……む。構わないが。……あぁ、そういうことか。分かった。ブルー・ティアーズの稼働テストということで出しておこう」

「感謝いたします」

 

 ニヤリ、と笑うオルコットと千冬姉。……何だ、今のアイコンタクト。ちょっと薄ら寒かったんだが……。これがコネってやつか?

 

 

 

「さて、アリーナの使用許可は取りましたが……問題は一夏さんの練習機ですわね。一夏さん、きっかけは何でも良いのです。上級生で顔を合わせた人物はいませんか?」

 

 昼食をとりながらオルコットが聞いてくる。上級生で知り合い?いるわけないよなぁ……今までISの『あ』の字も関係なかった俺が……。ん?

 

「……一夏」

「……あぁ、一人いたな」

 

 こんなことになるんだったら、からかわないでおくんだった……。

 

「どなたですの?」

「「生徒会長」」

「ほへ?」

 

 

 その後、生徒会に顔を出し、昨日のことを平謝りして訓練機のことを聞いてみた。すると生徒会長曰く「既に上級生たちが春休みの間に予約を取り、貸し出せる訓練機はないわよ」ということらしい。(そのほかに千冬姉が怖かったとか仕事が溜まってお外いけないとか妹が可愛いとか云々言われたけど最初以外俺らに関係無いよな……)

 

「あー……んじゃどうするか……」

「うむ……」

「そうですわねー……」

 

 生徒会室からの帰り、ポケットに手を突っ込み三人で思案していると……カサリ、と手に紙が当たる。

 

「……あ、ちょっと行く当てができたわ、コレ」

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、やって来ると思っていたよ。織斑一夏君」

 

 教員用のIS保管庫にやってきた俺達三人は、目の前の女教師の後ろにあるISを見て驚いていた。

 

「えぇっと……因幡野先生?この打鉄……、形状が違いますよね……」

 

 通常の打鉄と異なり、目の前のものは全身装甲に近くなっている。

 

「ん?あぁ、丁度この打鉄、オーバーホール中だったからね……学園長に直談判して改造させてもらった……君用にね」

 

 楽し気に笑う因幡野先生。どことなく第一世代型に形状が近いが……性能は第二世代を超えているという。……凄くね?

 

「君にはちょっと興味が湧いてね~、是非とも君の戦いってやつを見せてもらいたいんだ(……、ま、マスターとの約束もあるけど)使いたいときに勝手に持って行っていいぞ?オレはここに常にいるわけじゃないからさ」

 

 そう言って慌ただし気にSee you!といって去って行った……セキュリティ大丈夫なの?コレ……。

 

 

 

 そして色々ツッコミどころはあったものの……無事一週間が経った……。

 

 

 

 

 

 

No side

 

「……よぉ、遅かったな」

 

 アリーナの上空で鈍色の機体を纏って一夏は従弟を待っていた。どうやら節無の専用機は搬入が遅れていたらしい。銀色の機体が一夏の目の前に近づいてきた。

 

「それが白式、か……」

 

 使い手を抜きにしても、性能も未知数で驚異であり一夏は警戒を怠らない。

 

「僕とこうやって戦うの、初めてだよね。どっちが勝つと思う?」

「少なくとも……負けるつもりはねぇよ」

 

 一夏は心底どうでも良さげに吐き捨てる。

 

「それだよ。一夏。君が僕の前にいるから、『ママ』が……『ママ』がさぁ……」

「なに……?」

「箒は、僕の『ママ』になってくれるかもしれない()だったのに」

 

 試合開始のベルが鳴る。

 

「…………『ママ』、だとか?何言ってんだお前?」

「うるさい……とっとと終わらせる」

「ッ……何!?」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)によって節無は一夏の目の前に移動し、剣を振るう。二度、三度、四度……連続して斬りつける。

 だが――――、一夏にとってそれは児戯にも等しかった。最早戦闘剣術と化したその斬撃を以って、彼はマッハを越えた高速移動を見切り、そして捉え、節無のシールド・エネルギーを削っていく。

 

「クッ、離……れてよッ!」

「あぁそうさせてもらうぜっ!」

 

 節無も必死になってブレードを振るうも……空しく空を切る。これは彼が未熟と言う訳ではない。少なくとも常人と戦えば十回中十回勝利を収められるレベルである。

 

「っ、ぇえい逃げないでよ!」

「オイオイ、言ってること矛盾してんぞ。それに、ヒット&アウェイは戦闘の基本だ、ろッ!」

 

 片手でアサルトライフル『焔備』を連射し、節無に攻撃の隙を与えない一夏。

 

「銃火器!?いつの間にそんなモノ使えたんだ……!」

「あん?いつ俺が銃火器を使えないって思い込んでいた?」

 

 因みにセシリアにISのライフルの扱いを教えてもらったが、それ以前にも惣万によって撃ち方の手解きはされていた。故に彼は原作の一夏よりも銃火器の扱いには慣れているのだ。

 

「んじゃまぁ……さぁ、かかって来いよ。格の違いを見せてやる、ってか?」

 

 

 

 

 

「すごいですね……一夏君。専用機を持つ節無君とあんなに善戦しています」

「そうだろうな、あいつはISを動かした時間は短いが……戦闘訓練においては並みのIS乗りをゆうに凌駕する」

 

 一夏、見せてみろ……お前があの日、私や惣万に誓った、お前の強さを。

 千冬は彼のたった一人の姉として、彼の勝利を確信していた。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、暗がりの中、クラス代表戦を見に行こうと歩くトレンチコートの女性。そこに金属がこすれるガチャガチャという音が聞こえてくる。

 

「……?このアンドロイド、ファウストの!まさか、コウモリ野郎が……!」

 

 因幡野戦兎は学園に異変が起こったのを感じ、顔を険しくし、腰にある機械を巻きつける。

 そして、暗闇の中で、アンドロイドたちと、二色のヒーローが交戦を開始した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、ファウストの魔の手は其れだけには留まらなかった。

 

 

 一夏のことをピットまで送った箒は廊下を小走りに駆け、観客席に急いでいた。

 

『ホウキ・シノノノだな』

 

 突如として、ノイズ交じりの男性とも女性とも判断がつかない声が聞こえる。慌てて振り返るも、誰もいない。

 

「!?……、誰も……!上か!?」

 

 目を向ければ、天井に逆さまにぶら下がる金色の蝙蝠のバイザーをつけたパワードスーツの怪人がいた。

 

『ご明察だ、だが甘い。そして食らえ』

「なっ!?」

 

 音もなく箒の前に着地すると、箒の首を乱暴につかみ、持ち上げ、首筋にブレードを近づける。

 

 呼吸が妨げられる。痛い、苦しい……辛い、嫌だ、また、こんなに、苦しくて、哀しくて、悲しくて、やりきれなくて、ひとりぼっちで、やるせなくて、なんで、私が、どうして、悪いことなんて一つもしてなかったのに、どうして私だけが、こんなに悪意に曝されて――――。

 今戦っているであろう一夏の顔が思い浮かぶ……。

 

「が……は…っ、貴様…――――っ、いち……か……」

 

【デビルスチーム!……フハハハハハ……!】

 

 そして箒が最後に見たのは、悪魔の笑い声が響くデバイスから噴き出した煙だった……。

 

 




 あぁ……ビルドの最終回が近づいてくる……。やだなぁ……。


※2020/12/11
 一部修正


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第二十二話 『怒りのキードラゴン』

戦兎「どうもー!ここじゃ初めましてかな!オレはてぇっっんさい科学者、因幡野戦兎だ!」
一夏「おぉっと、これまたキャラが濃いのが来たな……てか天才は自分で自分のこと天才とか言わねぇんだよ。傍から見りゃスゲェダセェぞ」
千冬「これには織斑(夏)の意見に同意だな」
一夏「あれ、千冬姉どったの」
千冬「いやなに、ISの備品が幾つか足りないという報告があったのでな。因幡野先生は何か知らないか聞きに来た……、のだが」
戦兎「ん?なに?」
千冬「その背後に控えているどう考えてもISな魔改造品はなんだ?」
戦兎「――――てへっ!」
千冬「よーしちょっとそこ動くなよぉっ!」
戦兎「ほっ?…あびゃァアアアアアアアア‼」
一夏「うわーなんか懐かしいなこのやり取り。あ、第二十二話、どぞ」


「うぅ、形態移行(フォームシフト)もしていないのに…。なんで一夏ばかりが……こんなの不平等だよ、卑怯じゃない?」

「あぁ?何言ってんだよ……正攻法で勝てないなら、裏技を使うだろ?俺、卑怯もラッキョウも大好きでな!ハァッ!」

「うわぁ!」

 

 アリーナの上空では、目まぐるしく攻防が展開されていた。ただし、大半の人間の予想を覆す内容だったが……。

 

 初めは誰しも、専用機を持ちIS適性が『S』という結果を叩きだした織斑節無に軍配が上がると思っていた。が、試合開始と同時に先制攻撃を与えたのは一夏の方だった。近づいたら剣で薙ぎ払われ、距離をとれば左手のライフルで狙い撃たれる。おまけに白式はブレードが一本だという装備である為、距離を取ると言うのは悪手である。故に節無は接近戦にしか持ち込めないのだが……。

 

「うぅーっ!何で当たらないんだ……っ!?」

「そりゃ……。今まで剣を振るってなかったとはいえ、人の戦う動き、クセってヤツ、大体は把握しているモンでな」

 

 がむしゃらにブレードを振るう節無に対し、一夏は最短距離で動き、隙無く回避しすれ違いざまに一撃を加えていく。

 

 その時だ。節無のISが白く輝きだし……。

 

「ちッ、初期設定から移行したか……。さっきので決めておきたかったんだが」

「フフ、アハハハハ!どーやら風向きはこっちに来たらしいね!えーいッ!」

「……!?んなろッ!」

 

 青白い光を纏った刀身で斬りかかって来る節無。それを見て一夏は気が付く。

 

「オイオイ、それって雪片……?ってことは、零落白夜か……?なんつーもん専用機にしてんだ、お前……!」

「っあ、羨ましい?いいでしょ、これ!」

 

 無邪気に、そして蔑むように一夏を見る節無。その表情に力の扱い方を弁えていないことに気付き、一夏は彼を諫める。

 

「ちげぇよ!それはな!扱いを間違えたら人を殺せる武器なんだ!お前みたいなふわふわしたヤツが軽々しく扱っていいもんじゃねぇんだよ!」

「あはっ、怖い?『ママ』でもないのに昔から説教臭いね、一夏は!でも力ってのはさ、振るわなきゃ意味無いでしょ!」

「このアホっ!……、けどなっ!」

 

 大振りで叩き落とすように一夏に振り下ろされた『雪片弐型』を『葵』で難なく受け止める。

 

「な、え……はぁっ!?」

「確かにそれはバリアやらエネルギー攻撃には強いだろうよ……けど俺が使ってる『葵』(コレ)、ただの金属製のブレードだからな!俺にとっちゃ、ただ触れなきゃいいだけなんだよ!」

 

 そう言いながら節無の顔を、足でバク宙の様に蹴り上げる。

 

「ぐぶぅ!?……、け、け…蹴られた、蹴られた……っ!い、ぃぃいぃ、一夏ぁぁッ!」

「コレで、終わりだぁぁぁッ!」

 

 

 

 その時だった。

 

『やれやれ、随分とつまらないゲームだ……』

 

―――――ドガァァァァンッ‼

 

 壁の一部が壊れると共にアリーナ内に煙が漂い、一つにまとまると、煙の合間に見えた排気孔に煙が吸い込まれる。煙が晴れると、そこには……。

 

【Bat…B-Bat…Fire…!】

 

 黄金の蝙蝠のバイザーが輝き、肩に工業用のパイプが付いた装甲が光を照り返す。漆黒のパワードスーツの怪人がアリーナに立っていた。

 それを見て、一夏の顔色が変わる。その姿には、どことなく見覚えがあった。

 

「お前まさか、ブラッドスタークの……?」

『スターク、か。まぁ言いたいことは分かる。確かに私はスタークが所属する組織の幹部の一人だ』

 

 

 顔色が変わったのは一夏だけでは無かった。

 

「お、織斑先生っ!あれっ!」

「奴め、学園にまで……!」

 

 

 しかし教師二人は動けない。避難指示を出しつつ事態を収拾しなければならないからだ。

 

『私はローグ。ナイトローグ』

 

 翼を生やし、ひらりと一夏の目線の高さまで上昇すると、慇懃に自己紹介とお辞儀をする。

 一夏や千冬、山田真耶は警戒を強めるが……。ここに一人、その脅威を知らない人間がいた。

 

「ん?何?……全身装甲(フルスキン)の第一世代?……取り敢えずさぁ、邪魔しないでよ!君の『ママ』にやっちゃいけないこととか教わってないの!?」

『生憎そんな恵まれた境遇では無くてな、っと』

 

 節無は忌々し気に言って、その怪人に突撃した。

 

「オイ!?……ッあいつ!」

『フン』

 

 ナイトローグは白剣を腕のカッターで受け止め、体を煙に紛れさせ彼の後ろに回り込み、そしてドロップキックで一撃を加える。

 

「んぐ……!?そんな!?ッ、零落白夜!」

『ハァ……、トランスチームシステム(これ)をISだと思っているのか?そしてその判断は悪手でしか無いな……こういう風に!』

 

【エレキスチーム!】

 

 バルブをひねったナイトローグはブレードの噴気孔から出た閃光を纏った煙を白式に向ける。

 

「フふふッ!白式の単一使用能力(ワンオフアビリティー)は、エネルギー攻撃にメタが張れるんだ……って何で!?」

 

 ナイトローグに焦った印象はない。逆に顔色が悪くなったのは節無だ。徐々に貴重なシールドエネルギーが減少している。

 

『あきれたな。それは第一回モンド・グロッソでチフユ・オリムラが使っていたものと同じ。ならば対処法も知れ渡っていると言うモノ!』

 

 若干テンション高く饒舌に説明口調になる怪人。

 

『こんなことはただの力技だ、シールドエネルギーがゼロになるまでエネルギー攻撃を続ければ良いだけだァ!このグズがァ‼ヴェハハハハァ‼』

「うそッ!?そんな馬鹿なッ!?僕が負ける……!?在り得ない!どうしてだ!どうして弱い者虐めをするんだお前らは……っ‼」

 

 黒も白も二人とも空中で喧しく喚く。

 

『クッ、クククックハハッ、キヒヒヒッギヒヒッヴェハハハハァッ!?その顔が見たかったァ……私にマヌケを晒した、その顔がぁはははははッ!?イヒヒヒヒッ!ウィヒッッ、ウェヒヒヒヒハハハハハハハッ‼』

 

 そんな滑稽な節無がツボに入ったのだろうか。ナイトローグは片手でバイザーを押さえ、海老反りになりながら狂ったように笑う。

 

『おっと。失礼、取り乱した。では改めて…ゲームメーカーの我々に逆らうな!花火の様に散るが良い!』

 

 空いた手にトランスチームガンを呼び出し、彼は躊躇いなく引き金を引く。

 

【スチームブレイク!Bat…!】

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁァァあぁぁぁあぁっ‼」

 

 節無はあまりにも無様な声を上げ、後方へと吹き飛ばされていった。

 

 

『……さて、イチカ・オリムラ。君に一つ面白いものを見せてやろう』

「何…?」

 

 ナイトローグの興味は既に別の存在に移る。その切り替えの薄気味悪さに、一夏はどこかの誰かを思い浮かべた。まさか、この人は……。

 そんな一夏の内心も慮らずに彼は行動を起こす。フィンガースナップを一つ響かせると、アリーナに煙が集まり出す。

 

「なんだ、ありゃ……」

 

 煙と共に現れたそれは、まるで潜水服を着たようなオレンジ色の球体の頭部を持つ怪人。手からは炎が立ち上っている……。

 

『あれはスマッシュという怪物でな……人体に特殊なガスを入れた人間が変化した成れの果てだ』

 

 それを見て武器を構える一夏。――――だが。

 

『……あぁ、一つ忠告だ。下手に戦わない方が良い。でなければ、恋人が死ぬかもしれないからな』

 

 ナイトローグの残酷な言葉が、彼の心に突き刺さる。

 

「……恋人?」

『彼女も喜んでいるだろう……恋人のISでの戦いを、こんな傍で見られるなんてな?』

「………………え」

 

 その言葉が頭の中に入り、意味を理解するのに永い一瞬が経過した。

 

「ヴウ゛ヴ……ウゥゥウ……ッ!」

 

 その怪物が鳴く。その奥にいる女の子が泣く。

 

「………………………………箒?」

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!」

 

 

 

「嘘だろ……!?」

 

 

 バーンスマッシュが咆哮を響かせて、四方八方に火球を飛ばす。獄炎はアリーナ席のバリアに当たり、警報を鳴り響かせた。

 突然の乱入者に観客は固っていたものの、その警報が鳴ると正気に戻り、叫び声を上げながら我先に出口へと向かっていた。我先にと、命を惜しむ凡庸な命の一つとして。

 

 

「……一夏さん……箒さん」

 

 ……いいや、ただ独り、セシリア・オルコットは打鉄とバーンスマッシュの様子を伺っていた。

 

「……。また、わたくしは、手を伸ばせないのですか……っ」

 

 

 

 

 スチームブレイクを食らい、のびていた節無は目が覚めたらしく、目の前に迫っていた怪物に情けない叫びを上げる。

 

「ひっ……ヒィッ!」

 

「なっ!?あいつ‼」

 

 目の前に迫るバーンスマッシュに向けて、雪片弐型を振り回す節無。その刃が箒に当たろうか、というときに……。

 

―ガキンッ!―

 

「節無、箒に何しようとしてんだ……。アレは箒なんだ!お前は人を殺そうとしたんだぞ!」

「ば、馬鹿言わないでよ……あんな化け物が人間(ママ)なわけないだろ!いい加減にしてよ!」

 

 一人は怒りを、一人は恐怖を顔に湛えながらギリギリ……と鍔迫り合いになる。

 

「こんな化け物、とっとと殺した方が良い……い、一夏はそう思わないの!?バカバカしい正義の味方になるんでしょ?(アレ)のために力を持ったんでしょ!じゃあ一夏が楽にしてあげろよ!無理矢理甘えて乳繰り合ってた一夏なら、(アレ)だって…!」

 

 その一言が鍵だった。

 

「ぎひぃっ!?」

 

 それは一夏の逆鱗を触れるには十分だった。近接用ブレード『葵』もアサルトライフル『焔備』も用いずに、卑屈な自意識と恐怖で凝り固まった彼の顔面を打鉄の拳で殴りつけた。

 絶対防御が発動し、大幅に消える白式のシールドエネルギー。……そのままIS白式は節無から解除させられた。さらに搭乗者にまでダメージが入ったらしく、ぐぷぅっ、とカエルが潰れたような声を出し転がっていく節無。

 

「ね、ねえッ!?何してるんだよ!?こんなとこで解除されたら……ッヒィッ!?」

 

 節無が何か言っているが一夏の耳には聞こえない……聞きたくも知りたくもない。

 

「……とっとと失せろ」

 

 そして鋭く、『もう黙れ』と一瞥する一夏。頬をおさえた彼は情けない声を上げながらしりもちをつき、腰を抜かした状態でアリーナから這う這うの体で消えた。

 

『茶番は終わったか?ンン?』

 

 ナイトローグはそれを横目で見ながら、一夏を嘲った。何もできない彼はISの武装である『葵』と『焔備』を捨て、ゆっくりと箒に近づいていく。

 

「ウ……ウゥ……ッ!ウ……ッ」

 

 バーンスマッシュは――――いや『箒』は、誰も傷つけまいとしているようだった。手から放たれる火球を地面、果ては自分に撃ち込み何とか被害を抑えようとしている。

 無情にも自分(バーンスマッシュ)が放った炎が自分()の身体を焼き焦がす……。

 

「ゥ……ウゥゥウ……ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ッ!」

「箒…」

 

 一夏には、怪物の喚き声が……炎で焼かれる箒が苦悶の声を漏らしているように聞こえた。

 

「……ィチ………カ………ッ!」

『ほう、驚いたな……スマッシュになれば自我が消え意思疎通は困難となるはずが……見上げた強い精神力だ』

 

 もう見ていられなかった。思い人がこんな姿に変えられ、苦しんでいるというのに、自分は何も出来ない……。それはまた彼の心の中にある“第二回モンド・グロッソ”を思い出させた。

 

「ウァゥゥゥァァァッッ‼」

「なっ、うぐッ!?」

 

 バーンスマッシュが制御を失ったように腕を振り回す。手から放たれた火炎放射が打鉄に当たり、一夏のシールドエネルギーをゼロにする。

 

「うっ……!」

 

 一夏はアリーナの乾いた地面に放り出され、身体中に擦り傷を負った。

 

「……誰か」

 

 だが、そんなことになっているのも構わずに、声を振り絞り、この状況を覆してくれる“誰か”にあらん限り思いを叫ぶ――――。

 

「誰か……っ!箒を元の姿に戻してやってくれっ‼頼むよ……お願いだ、誰か……誰かぁぁぁぁぁっ‼」

 

 

 その時、突如として……――――一夏の耳によく響く足音が聞こえてくる。

 

――――カツン……カツン……カツン!

 

 そして――――一夏の這いつくばった視線の前に、ヨレヨレなジーンズ地のズボンが見えた。

 

「ごめん、遅れた」

 

 

 そこに立っていたのは黒い短髪の、トレンチコートの女だった。日の光を浴びて、彼女の赤と青のオッドアイが輝く。

 その突如として現れた女を見て、蝙蝠の意匠を持つパワードスーツの怪人は笑い出す。

 

『よぉやく来たかァ……因幡野戦兎(モルモット)ぉ!』

「足止めなんてやってくれたな……コウモリ野郎」

 

 その女の人はスマッシュの後方に佇む黒いその姿を睨みつける。

 

「因幡野、先生?何で……ここに?」

 

 思いがけない人物に、一夏は目を丸くし、驚くしかできなかった。

 

「オレ?オレが来たのは……オレがナルシストで自意識過剰な、正義のヒーローだからだよ!」

 

 因幡野戦兎は、片手にいつの間にか持っていた黒いゴテゴテしたデバイスを腰に当てる。すると黄色のベルト部分が展開され、デバイスが腰に固定される。

 

 

 

1010^0=1

F_−n=(−1)^n+1F_n,F_−3=2

2143/π^4

1+2+4+7+14=28

 

 

「 さ ぁ 、 実 験 を 始 め よ う か 」

 

 

#{crystal class}=32

f(x)=x^2+x+41

F_2=2^2^2 +1

Magic hexagon=38

 

 

 

 その掛け声と共に、右手に青の、左手に赤の容器を持ちながら、左右バラバラにスナップを効かせながら振る。その腕の動きと共に周囲に数式が実体化し、一夏やアリーナの様子を見ていた何人かの人物の目を奪っていく。

 だが、戦兎はそんなことを気にもかけず、そのまま容器をベルトに挿し込んだ。

 

【ラビット!】【タンク!】

 

 そんな音声と共に、彼女のベルトの前方の空中にR/Tというマークが浮かぶ。

 

【ベストマッチ!】

 

 戦兎は、ベルトの右側に付いたハンドルを何回もぐるぐると回すと……ベルトから透明な管がプラモデルの様なランナーを造り、その中を赤と青の液体で満たされて行く。

 

【Are you ready?】

 

 戦兎はファイティングポーズをとると、様々な世界で正義の為に戦う者へと変わる、力を持つ“あの言葉”を告げた。

 

「変身!」

 

 その言葉が響いた途端、前後の赤と青のランナーが合わさり、戦士の姿を形成(ビルド)する!

 

【鋼のムーンサルト!】

 

 体からは蒸気が噴き出し、頭部に斜めに付いたシグナルと二色の複眼が輝きを放つ。

 

【ラビットタンク!イェーイ!】

 

 そこに立っていたのは……。

 

「オレはビルド。『造る』『形成する』って意味の、『Build』だ」

 

 フレミングの法則の様な決めポーズをとり、スマッシュとナイトローグに向かい合う仮面のライダー。

 

「勝利の法則は……決まった!」




 戦兎ちゃんの変身シークエンス、初めて書いたことになるんだよなぁ……引っ張りすぎ?

※2020/12/15
 一部修正


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第二十三話 『現れる仮面のライダー』

戦兎「鋼のムーンサルト!ラビットタンク!いぇーーーい‼どうどう!変身シーン良かったでしょ!数式も動いてたでしょ、最高でしょ‼」
真耶「前にナイトローグが供述してたライダーシステムってコレのことなんですね~……何というか、ハイセンス?」
千冬「やかましいわ。音声切っておけないのか」
戦兎「山田先生は優しいねぇ……ホロリ。よし君のためにISの追加パッケージでも創ってあげよう!確かラファール使うんだよね?」
真耶「ふぇっ?いや、それは嬉しいのですけど、流石に駄目なのでは!?」
戦兎「なぁに、抜け道は幾らでもあるのさ……ふっふふふぅ…!」
千冬「駄目だコイツ、まるで反省してない……――――あー、わたしはなーにもきかなかったー!では第二十三話、どうぞ」


「あ、あの方は……色は違いますが、間違いありません!あの時の!」

 

 観客席でセシリアは驚く。両親を救い出し、自分が正義の味方になるきっかけを創ってくれたパワードスーツの戦士(仮面ライダー)。彼がアリーナに降り立ったのだから。

 

 

 

 一方、こちらは整備室。そこに設置された特大スクリーンで試合を鑑賞していた更識簪は、同時進行していた整備の手を止める。

 

「アレは……、『ビルド』!?」

 

 いまや都市伝説として名高い赤と青のツートンカラーの謎のヒーロー。あの夜に怪物から守ってくれた正義のヒーローに、彼女は憧憬の眼差しを向けていた。

 

 

 

 

「因幡野先生が!?織斑先生、あ、あれって……」

「……ナイトローグとどうやら関係があるらしいな。惣万め、後で説明してもらわねば。――――だが」

(あのベルトにセットしているのは、確かフルボトル。あの日の経験が確かならナイトローグに対抗できるのはあいつだけだろうな。……今は因幡野戦兎に頼むしかないか。)

 

 千冬はそう考えると、全てを変身した因幡野戦兎……――――否、仮面ライダービルドに委ねたのだった。

 

 

 

 

「ア゛……アァァァァァァァァァ……」

「う~ん、その気がない人と戦うのは気が進まないけど、今から体の中からガスを抜くから……ちょっと待ってね、っと!」

 

 バーンスマッシュが繰り出す火球攻撃を、ビルドはラビットハーフボディの機動性を活かして縦横無尽に避ける。彼女はアリーナを駆け、アクロバティックな動きで翻弄する。

 

「流石にボーイフレンドの目の前で傷つけるわけにもいかないか。それじゃっ……これだ」

 

【ラビット!】

【掃除機!】

 

【Are you ready?】

 

「ビルドアップ」

 

 掛け声と共に組み上がる外装。その外見は一風変わっていた。

 

「……え?ウサギと……掃除機?」

 

 ビルドが変身したのはトライアルフォーム(ラビット掃除機)。そして左腕についた『ロングレンジクリーナー』でバーンスマッシュから放たれる炎を集め、吸い込まずに頭上につくり出した竜巻に放り込む。

 

「ううう……ウウ……ッ!」

「そんでっ!次の方程式は!」

 

【ゴリラ!】

【ダイヤモンド!】

 

 ベルトに別のフルボトルをセットするとG/Dというマークが浮かび上がる。

 

【ベストマッチ!Are you ready?】

 

「お、おぉぉ!ベストマッチ、来たぁーーーっ!ビルドアップ!」

 

 スナップライドビルダーに茶色と水色の液体が巡り、赤と緑の身体を前後から挟み込む。

 

【輝きのデストロイヤー!ゴリラモンド!イェーイ!】

 

 茶色と水色の厳めしい外見のツートンになったビルド。ゴリラとダイヤモンドを模した複眼がバーンスマッシュをきりりと見据える。

 

「はっ!」

 

 彼女は上空の竜巻に漂う火球を、左手を覆うグローブ『BLDプリズムグローブ』でダイヤモンドに変換する。

 

【Ready go!】

 

 レバーハンドルを回し、ダイヤモンドの竜巻をバーンスマッシュに纏わせるビルド。

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

「そりゃっ!」

「■■■■■■■■■……、あ、あぁ……」

 

 風が舞い、結晶が優しく怪物の硬化した皮膚を削っていく。瞬く間に変化が起きた。意識を失った篠ノ之箒がバーンスマッシュから分離する。

 

「よし、パス!」

 

 一夏に向かって箒を投げ渡すビルド。

 

「箒っ⁉大丈夫か……、え……?」

 

 一夏が身を挺して箒を受け止めたのを見て、ビルドは既にネビュラガスで構成されただけのスマッシュに必殺の一撃を食らわせる。

 

「はァァァァッ‼」

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

 ビルドは箒と分離したバーンスマッシュを右腕『サドンデストロイヤー』による一撃で撃破した。彼女はエンプティボトルをバーンスマッシュに向け、成分を収集する。

 

―パチパチ……―

 

 称賛する気の無い拍手がアリーナに響く。

 

『お見事、と言っておこうか、被験体(モルモット)

「……次はお前だ、コウモリ野郎」

 

 フッ、と鼻で笑うナイトローグ。

 

『君は天才科学者と名乗っている割に物覚えが悪い様だ……』

「オレのことをモルモット呼ばわりしているお前に言われたくは無いっつーの」

『当たり前だ、わざわざ実験動物の顔を覚えておく科学者が何処にいる』

 

 ナイトローグの嘲笑とビルドの闇雲な怒りがアリーナ内に蔓延しつつあった。のだが……――――。

 

「箒!?オイ箒!返事しろよ、おい!?」

 

 その悲痛な叫びを聞き、思わずビルドは振り返る。見てみれば、一夏が項垂れながら箒を見ていた。訝しんだビルドは彼らに近寄り、一夏と彼が抱きかかえる少女の様子を見る。

 そして……――――戦兎は思わずマスクの下で顔を顰める。

 

「……外傷が酷い。すぐに医務室に運ぶぞ……」

 

 彼女は箒の命を守るため、即座に行動を開始した。彼女の容態は深刻そのもの、医学知識を活用し一夏に的確に指示を出す。

 だが、その隙を敵であるナイトローグは見逃さない。

 

『……ではな、また会おう』

 

 夜の悪党はトランスチームガンから黒煙を噴き出して、その姿をくらませた。

 

「あ、おいちょっと!ッあぁもうっ!さいっっあくだ……!消えた記憶の手がかり、逃した!」

 

 変身を解除し、一瞬ナイトローグがいた所に手を伸ばすも、時すでに遅し。影も形も残っていない。

 

「……ってそんな場合じゃないな……。この娘はオレが運んでおく。事態は急を要するからね!」

 

 しかしながら、戦兎は地頭の良さから冷静になると、思考を切り替え今の事態の対処にあたろうとする。彼女は片手にウサギのレリーフがある容器を持ち、箒を抱きかかえるとボトルを振った。

 

 目にもとまらぬ速さで赤い残像を残しながらその場から消え去った戦兎と箒。そこに残されたのは、茫然自失した少年だった。

 

 

 

一夏side

 

 箒が目覚めたのは、節無とのクラス代表戦の三日後だった。

 

「……箒、入るぞ」

 

 先頃言われた言葉が頭の中を反響し続けている。

 

―織斑君、大変言い辛いことですが、箒さんは……―

 

「あ……一夏。いらっしゃい」

 

 そう言って俺を病室に招き入れる箒。

 

「すまない、一夏……色々迷惑かけたみたいで」

「……んな事ねぇよ」

 

 俺はベッドの横でリンゴを剝く。箒の要望でウサギにだけはしない。

 

「それに……、酷い有様だろう?私の顔の右側……」

 

 そう言って俺に顔を向けてくる箒。その顔を見て、医務室から出てきたばかりの千冬姉と山田先生の言葉がよみがえる。

 

―箒さんは自分で自分に放った炎による火傷で、右目を失明しています……。ナノマシンによる治療も、おそらくは……―

 

 箒は弱々しく俺に笑いかける。

 

 彼女の包帯を巻いた右目に胸が抉られる。もう箒の片目には、光が灯ることがないという事実が俺を苛む。包帯からはみ出た火傷の後が痛々しい……。思わず握りしめた両手から、血が滲む……。

 

「……っ」

「気にしないでほしい」

 

 ……何だと?

 

「コレは私がやったこと……私が一夏を傷つけないようにした跡だ。言い換えるなら勲章。なら、悪い気もしないな。……だから……ッ!?」

 

 労しい、痛ましい、忍びない、そして……あまりにも愛おしい。

 

「い、ちか……?」

「……ふざけんなよ……何でお前がこんなことにならなきゃいけなかったんだ……」

 

 箒を抱きしめながら呟く……。

 

 

 

「……一夏。この際だから言っておこうと思う。一夏は私のことが好きか?」

 

 思わず俺は箒の顔をじっと見つめる。

 

「私は好きだ……。お前のことが昔からずっとずっと好きだった。愛してると言ってもいい」

 

 空虚な顔で愛の告白を淡々と言う箒。

 

「だから……」

 

 だから……?

 

「だから、私は大切なお前の負担になりたくないんだ……。こんな身体が傷だらけで、篠ノ之束の妹で……。そんな重い女より、もっと一夏を幸せにしてくれる人を……」

「ふざけんな!」

 

ガタンと机を叩きつける。

 

 聞きたくなかった。何故箒が詫びる必要があるんだ……!お前に何の落ち度があった……!?それにお前は俺のことを何もわかってない……!

 

「お前以上の人間がいてたまるかよ!俺はお前に出会えてから……最高に幸せだった……っ‼」

 

 俺は箒に思いの丈を思いっきりぶつける。

 

「お前の笑った顔で、泣いた顔で、拗ねた顔で……!子供の頃の毎日が楽しかった!」

 

 毎日こんな日常が続くと信じて疑わなかった頃。

 

「お前と別れる時……本当に辛かった…………だけど約束した!“また会おう”って!それでお帰りって言えたじゃねぇか…」

 

 失って初めて気が付いた、俺はその頃から箒のことが大切な人だと思っていたことに。

 

「ここでまたお前と会えて……俺は本当に分かった。俺はお前のことを、誰よりも守りたいと思ったんだ、隣に一緒にいたいと思ったんだよ」

 

 心に留めていた思いを、真っ直ぐ箒に伝える。

 

 

 

「約束する。もうこれ以上、悲しませない。…――――絶対に」

 

 

 

 箒は感情を押し殺したさっきの顔から一転、完全に思考が停止した顔になった。

 そして一拍の後、表情がすとんと抜けた箒の顔から、ボロボロボロと大粒の涙が流れて行く……、次第に眉や口が感情に追いつかずにプルプルと歪み、お世辞にも人前に出せない顔になる。あーぁ、世話が焼ける…。

 

「一夏……」

 

 在りし日の様に、泣きながら俺の胸に倒れ込む箒。ただ箒が流す涙の意味は、きっと違っているはずだ。箒を抱きかかえた俺の腕は……昔よりも伸ばせるようになっているはずだ……。そう、信じたい。

 ん?

 

「……え、箒…」

 

 呼びかけた俺の声に反応し箒が顔を上げ、潤んだ片目でゆっくりと顔を近づけてくる。少しささくれた箒の唇が視界に入って来る。

 

 

 

 そして――――箒の唇が俺に触れようかという時に。

 

 

 

―ガタンッ―

 

 

(あ゛っ馬鹿!?今鳴らしたの誰!?)

(え、えへへ~……ごめんなさ~い……)

(布仏さん、このタイミングですの!?)

(あぁ~……シャッターチャンスが……)

(い、いいから早くずらかるわよっ!?ってあぁ足痺れ……ッ!?)

 

 

「……」

「……」

「「……――――」」

 

「箒、ちょっと待ってろ外の連中シバいてくる」

「………………ウン」(顔真っ赤)

 

 ガラッと扉を開けると、一組の女子連中が勢揃いしていやがりました。

 

「……何時からだ?」

「い、一夏さんすいません……箒さんのお見舞いに来たのですが一夏さ『御託は良い、もう一回聞くぞ。何時からだ(・・・・・)?』あーっとそれは……」

「はいは~い、もっぴ~が愛してるって言ったあたりだよ~」

「布仏さん?貴女自殺願望でもありまして?」

 

 病室の箒を見る。真っ赤になった顔を手で覆っている。ハイギルティ。

 

「……おんどれりゃァァァァァァァァッ‼」

「わ~おりむ~怒った~」

「あたりまえでしょうに、って一夏さん待って下さい流石に自販機を投げるの……わぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

 

No side

 

「織斑一夏、か。全く、この学校の生徒って馬鹿ばっか……――――。でも……、最高(さいっこー)だな」

 

 屋上から彼……クラスメイト達を追いかけている一夏を眺め、因幡野戦兎は片手に持ったボトルを振る。

 

「……今度君に渡そう、クロエに浄化してもらった――――君の愛する人の思いが詰まったこのボトルを」

 

 その一夏と同じ髪色の蒼いフルボトルには、勇ましい龍の顔のレリーフが刻まれていた……。




 箒はハザードレベル2.4かつ香澄さんみたいに病弱ではないので消滅“は”しませんでした。メインヒロインが死亡と言うのは避けたかったので、こんな所が落としどころでした……うん、純愛っぽくできたかな?あと描写してませんでしたが、IS学園に入学してから一夏は頭部に万丈みたいな三つの編み込み(エビフライ)があります。……そういう事です。分かってた人、挙sy(ry

※2020/12/25
 一部修正。モッピーが小倉香澄ポジだと思ったら新世界で馬渕由衣が出てきて火傷要素も…。この時まだVシネマ出てなかったんだよなぁ…凄い偶然。


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第二十四話 『星雲(ネビュラ)の煙のテクノロジー』

真耶「織斑先生、彼、大丈夫でしょうか…?篠ノ之さんと仲良さそうだっただけに、この仕打ちは……」
千冬「――――、ぁ?」
真耶「ひぃっ!」
千冬「おっと、すまん。ファウストをどうやって壊滅させるか考えていた。焼き討ち……いや生温い。悪行を世界に曝け出して、……いや私にその技術は無い、あれは――――いやこれは――――」
真耶「お、おおお織斑先生落ち着いて!?」
千冬「安心してくれ、怒りで寧ろ頭が冴え返ってる。一夏と箒を不幸にしたのだ、その罪は償ってもらおう…」
真耶「と、とにかく二十四話どうぞ!」



 人のうわさも七十五日。昔の人間は上手い言葉を造った物だ。あっという間に過去の出来事は時間の波に流されていく。先の怪物騒ぎは、最新のアンドロイドによる暴走ということで処理されたらしい。そして箒の重度の火傷と失明という事故は、それが引き起こした火災に巻き込まれた、ということになった。

 

 

 そしていつも通りに戻ったIS学園のホームルーム。

 

「はい、ということで、クラス代表は織斑節無君に決まりました~。よろしくお願いしますね~?」

「え……?」

 

 俺は箒の看護で寝不足の目をこすりながら朝のホームルームを聞く。

 

「僕が?……その、負けたのにですか?」

「それはな……」

 

 千冬姉はこちらに視線を向ける。俺に話せと?

 

「……はぁ、それは俺が辞退したからだよ。節無」

 

 ため息交じりに従弟に告げる。

 

「俺にはそんなことしてる暇はねーの。同室の箒の看護をしなくちゃなんない。だからクラス代表の仕事をお前に譲るわ」

 

 ま、こいつが試合中に口走ったことを許したわけじゃないが。……、あぁ、また腹が立ってきた……。

 

「……そう。――――それじゃ、皆、よろしく!」

 

 さっきの不機嫌な顔から一転。クラスメイトに人懐っこいさわやかな笑顔を向ける節無。それを見てクラスの女子はキャーッと黄色い歓声を上げる。

 まぁこいつが箒を侮辱したのは俺しか知らないからな。……泣き寝入りするわけじゃない。こいつのせいで箒に泣いてほしくないだけだ。それに、これで責任感とか色々と学んでくれれば、俺も千冬姉も付き合いやすくなるんだが。

 

「それでは授業を始めるが……。まだお前たちには紹介していなかったな、入ってください。因幡野先生」

「はいはーい」

 

 ……!

 

 トレンチコートを翻し、ヨレヨレなジーンズで歩を進める女性。色が白い肌に短く切りそろえた黒髪が映えるが、後頭部にはぴょこんとウサギの耳の様な寝癖がついているため台無しだ。顔は整い、普通にしていれば可愛らしいだろうが……。

 

「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!」

 

 ……ん?

 

「悪を倒せと人が呼ぶ!」

 

 ビシィッ、と効果音が入りそうな勢いでポーズをとる箒の恩人。

 

「オレは因幡野戦兎!一学年のISの整備を受け持ち……数学、科学、物理学etc.を教えることになったてぇぇっっん↑さい↓科学者だ!」

 

 台無しだ。ウゼェ……あのドヤ顔超ウゼェ。ぴょこっと出た八重歯があざとい感じで何かウゼェ。

 

「因幡野先生……」

「おっと失礼。ちょっとテンション上がっちゃって」

 

 クラスの連中はキョトンだよ。千冬姉がすかさずフォローを入れる。

 

「あー、と言うワケで新たにこのクラスの科目を担当することになった『超美人な』先生だ……敬意を持って『天才科学者様と語頭につけて』接するように……ってオイコラァ!」

「はっはっはーっ!緊急脱出!それじゃ皆、一年間よろしくね~!それじゃオレISの改造してるからなんかあったら呼んでね!遊びに来てもいいよ!それではシーユー!」

「…どうしてこうも天才を自称する馬鹿兎は扱いが面倒なんだぁッ!待てやゴラァァ‼」

 

 赤いボトルを振りながら教室を出ていくてぇん↑さい↓科学者(笑)を、世界最強(笑)は本気走りで追跡を開始した。

 

「それと織斑(夏)!放課後になったら寮長室に来い!分かったな!」

 

 千冬姉ェ、(夏)って……。どんどん起きてるキャラ崩壊でクラスメイトからほっこりした目で見られてるの、教えたら怒るかな。

 

 それとセシリアがキラキラした目であのナルシスト先生を見ていたのは不思議だったんだが。

 

 

 

 その日全ての授業が終わり、寮長室に集まったのは俺と因幡野先生、そして千冬姉と山田先生だった。

 

「あのー織斑先生?一体何故俺らが集められたんでしょ」

「先生と呼ばないでいいぞ、一夏。ここからはお前の姉として話がある。さて、その前に、戦兎。…――先のアレは何だ?」

「あぁ、仮面ライダーのことか」

「仮面、ライダー?それって、ライダーシステムと呼ばれるものですか?」

「ッ!……君、何処でそれを!?」

 

 初めて動揺した表情を見せる因幡野先生。今にも掴みかからんとした鬼気迫る表情に、山田先生はうひゃあ!と言いつつホールドアップした。

 

「以前ナイトローグが少しな……。ひとまず場所を移そう。ここでは話を聞かれたら厄介だ」

「……そうだね、それじゃ、学園と生徒会室に借りているオレの部屋でにしよう」

 

 寮長室から移動する俺達。だが、後ろからぴょこぴょこついてくる二人組には千冬姉さえも気が付いていなかった……。

 

 

―らびっとはっち―

 

 そんな丸文字の立て札がかかった屋上のプレハブ小屋。

 

「学園にこんな所が……って千冬姉?何で先生の二人が驚いてんの?」

「……戦兎、お前勝手に改造したな?」

「ちょっと弄っただけだよ?あとこのホワイトボードは自前で付けた」

「こんなに必要ですか?」

 

 壁一面に設置された数々の単語が書かれたホワイトボード。訳の分からん数式がびっしり書き込まれているんだが……。

 ところどころにライオン、だの掃除機、だのの文字が書かれているのはどういう事だろうか?

 

「情報をまとめるのに必要なんだよ」

 

 因幡野先生はキャスター付きの椅子をゴロゴロと転がして俺達に座るように促す。千冬姉と山田先生、俺は腰を下ろした。

 

「さて、んじゃここにいるのはライダーシステムとファウストの存在を幾らか知っている人間だ、それはあっているね?」

 

 俺達は無言で頷く。

 

「それじゃ……そうだね。始めにオレが知っている情報を言おう。まず、俺は記憶喪失だ」

 

 気軽に重大な情報をさらっと言う天才科学者。どうやら千冬姉たちは知っていたらしいが『それを気軽に言うのはどうなんだ?』というふうに微妙な顔をする。

 

「俺が覚えていること言えば……ガスマスクをつけた科学者たちに人体実験を受けたことと、蝙蝠みたいな怪人がそれを見ていたことだ」

 

 因幡野先生は、自分の気持ちを落ち着かせるようにホワイトボードの前に移動して計算式を書き連ねる。

 

「それって……」

「あぁ。先日のクラス委員選出戦でやってきた、自称『ナイトローグ』だと思う」

 

 その言葉に、自分の記憶の奥に引っ掛かりを覚える。

 

「その後、ナイトローグの魔の手を掻い潜ったオレは……右も左も分からないまま、雨の中で目を覚ました。そっからは喫茶料理店のマスターに世話んなって食いつないできたってワケ」

 

 喫茶料理店のマスター?もしかして……。

 

「惣万にぃ?」

「お?あぁ、そうそう。IS学園の教師になれたのも、マスターが千冬センセとコネを持っていたって言うのが大きいよな」

 

 (∀`*ゞ)テヘッ、っとホワイトボードに顔文字を書く因幡野先生。

 

「ところでお前が変身した、アレは何だ?ナイトローグやらと同じものか?」

「アレは……『ビルド』だ」

 

 すると突然小屋のドアが開かれる。

 

「ビルド!?」

「うわびっくりした!?」

 

 バーンッ!と効果音付きで登場したのは変人パツキン。それともう片方、水色髪をした女子生徒は確か日本代表候補生の……。

 

「更識簪、か」

「オ、オルコットさんもですか!?」

「申し訳ございませんわ先生方……。因幡野先生を見たら追う、とこの方が言って聞かなくて……。それに、わたくしも気になったもので」

 

 見てて分かったけど、オルコットって結構野次馬根性あるよな。いや、頭を突っ込まずにはいられないのか?だから自販機に頭…――――いや関係ないわ、うん。

 

「お、何かな?もしかしてオレのファン?いやー照れるなー!人気者はつらいなー!」

「ハイッ!貴女のファンです!」

「へっ!?」

「あ、サイン!サイン下さい!」

「……いや、マジな方か……」

 

 そう言ってさらさらとウサギと戦車を模したサインを仕上げる因幡野先生。馴れてるなオイ。

 

「あー……更識簪、何故知っているんだ?ビルドのこと」

「ビルドは今、都市伝説として語られている謎の仮面のバイク乗り(ライダー)……怪物と戦う正義のヒーロー。知らない方がどうかしている……」

 

「「「……」」」

 

 知らなかった俺たちは黙るしかない。え、何。そんな一般常識になってんの?それとも簪の情報収集能力が凄いの?

 

「ってアレ?あぁ!君スマッシュに襲われてたメガネちゃん!」

「あ、ハイッ!その節は命を救ってくださりありがとうございました!」

「それで…――――んーと、ね。ゴメン、金髪の君は全く分からないんだけど」

「無理もありませんわ、恐らくわたくしと会ったのは記憶を失う前の貴女様なのでしょうし……一言二言話しただけでしたしね?」

「……!そう、か。もしよかったら後で話を聞かせてもらってもいいかな?」

「ハイ、わたくしの話がお役に立てれば」

 

 へぇ。そういうこと。

 

「二人とも関係者ってことか……。んじゃ話を聞く権利があると思うんだが、そこんとこどうよ?織斑センセ?」

「……、構わん。ただし口外は許さん」

「「はーい!」」

 

(その頃、生徒会室「ハッ!?簪ちゃん取られる!?」「何言ってるんですか仕事してクダサイ」)

 

 

「それじゃ、まずオレが戦っている組織。これがファウストだ、名称以外は不明だから詳しくは話せないんだけど…。そのファウストが生み出し、街にはなっているのがスマッシュだ」

「スマッシュって……箒が」

 

 ……思わず唇を噛む俺に、肩に手が置かれる。見ると……――――。

 

「あぁ、ナイトローグが言っていた通り、スマッシュは体になんらかの物質を入れられた人間だ。都市伝説じゃ……何だったっけ?人工生命体の成れの果てとか言う書き込みがあったよねぇ……言い得て妙だな」

 

 因幡野先生が俺を落ち着かせるように何度かポンポンと肩を叩き、優しい顔を向けていた。

 

「ついでに言えばまとめサイトには“IS学園周辺の地域から約数十キロ圏内に出現する”ってことになっている……」

「ま、人目についてなかったのはオレが治安維持活動をしていたからなんだけどね?」

 

 そう言ってハンドルレバーが付いたベルトを見せてくる。

 

「んで、人間に戻すには戦って、解放されたその成分を……コレ。このエンプティボトルに入れなければならない」

 

 ポケットから空の容器を俺達に見せてくれる先生。

 

「そしてそれだけでは安全面で不十分。エンプティからスマッシュボトルになったものを浄化しなければ処理が終わったとは言えない」

 

 ま、それは企業秘密だけど~、と誤魔化していたが、その時ふと思い出したように俺の方を向く。

 

「あぁそうだ、コレ、渡しとく」

「っと!?……、コレ?」

 

 青い何かを投げ渡してくる因幡野先生。

 

「それは、お前たちのモノだ」

 

 見ると、因幡野先生が持っているようなフルボトル……?と言うモノらしい。

 

「それは差し詰め『ドラゴンフルボトル』。箒ちゃんが君に託した力だ。お守りとして持っていると良い」

 

 その言葉でピンときた。どうやら箒から採取した物質を浄化したモノだという。そう思うと、箒が受けた辛さや苦しさ、そして自分の身を犠牲にして俺を傷つけまいとしてくれた思いがボトルを握る手を通して心に届いてくる……。

 

「……分かったよ、ありがとな、箒」

 

 

 

 

 

「質問だ。ライダーシステム、と言ったか。それは私でも使えるのか?」

 

 千冬姉はそう聞くが、因幡野先生はにべもない。

 

「多分無理だね、ライダーシステムは変身者がどう選出されているのかはまだ分からない。サンプルが足りないんだ。IS適性が高い人間で試しても無理だった。そもそもオレのIS適性調べたら最低レベルでほぼ使えないしなぁ……」

 

 片手で青いデバイスを弄りながら話をまとめる。

 

「ま、兎も角……オレは自分の記憶を思い出す為に、あいつ等との接点となったであろうフルボトルの研究をしているんだ。このベルトはその時マスターに貰った」

 

 

No side

 

『コレはビルドドライバー……コレでスマッシュを倒せる』

 

 そう言って因幡野戦兎にドライバーを渡す惣万。

 

『俺達に力を貸してくれ……』

 

 場面が暗転する。

 

 目の前にはファングスマッシュ。

 

『うわぁ!?』

 

 その攻撃で吹き飛ばされる戦兎。そして転がり落ちた赤と青のボトルが目に映る。

 

『っ、確か……コレで!』

 

 震える手でそのボトルを掴むと、その刺激で中の成分が活性化し、周囲に数式を具現化させる。

 

『あ、確かこうやって、こうだったっけ……?』

 

 レバーを回し、スナップライドビルダーを展開させまたもや驚きの声を上げる。

 

【Are you ready?】

 

『え……?あ、へ、変身?』

 

 そして、戸惑いつつそんな声を出し、彼女は初めて変身した。

 

『……?お……、おぉ?……これなら』

 

 少し戸惑いの声を上げ、スマッシュへ立ち向かう。それがこの世界の二色のヒーローの、初めての初陣だった。

 

『おりゃーァッ!』

 

 

 激しい戦いが終わった後……。

 

 ボロボロになりながら喫茶料理店に戻ってきた戦兎に、惣万は優しく声をかけるのだった……。

 

『お帰り』

『ただいま……、えへ』

 

 

 

 

「成程、道理だ……つながったな。だから惣万はIS学園(ここ)に戦兎を連れてきたのか」

 

 その話を聞いていた千冬姉たちは、頷き合うと戦兎に手招きをする。

 

「ついて来い、お前の記憶に関係があるかもしれん……。それに、アレについて調べられる技術を持つ者がいなかった。お前なら、もしかすると……」

 

 

 場所は更に移動して学校の地下施設。俺までここに入って大丈夫か?何か、奥にISがあるんだけど、てかもしかしてあれって暮桜…――――。

 

「コレは?」

 

 因幡野先生の前にあるのは金属光沢を放つ立方体。

 

「入手経路は秘させてもらうが、惣万がファウストの襲撃にあった原因になったものだ。名称は“パンドラの箱”、若しくは“パンドラボックス”と呼称されていた。その構造はさっぱり分からん、ISのコア以上に文字通りのブラックボックスと化している」

「――――あれ?これ……この側面、どこかで」

「……?」

「あ、何でもない。分かったよ……。自分の記憶に関わることだ、やってみよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、そろそろパンドラボックスの解析を始めたところかな?いよし、んじゃまぁ……一夏に揺さぶりをかけに行くとしますかね」

 

 彼は片手にロケットのレリーフがある水色のボトルを握りながら、そう呟いた。




 二十四時間テレビの石ノ森章太郎物語……ビルドの最終回と違うベクトルで面白かった……。

※2020/12/12
 一部修正


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第二十五話 『フライフェイスの罠』

簪「…ふふっ、仮面ライダービルドのサイン貰っちゃった…。家宝にしよ」
本音「かんちゃんってばアクティブになったよね~。バイクの免許取得に向けて勉強してるし~」
簪「…バイク、かっこいいなって…。あ、ISにも専用ビークルとか付けたら凄いことになりそう…」
本音「え~?そもそもISが乗り物みたいなものなのに~?」
簪「…独立起動型バックパックは普通過ぎる…。かと言って奇をてらいすぎたデザインだと知名度はアップするだろうけど愛着が浸透するのに時間がかかる…特撮ヒーローの新シーズンで『え、何コレ』ってなるあの感じ…。うーん、丁度良いデザインって難しい…」
本音「お~い、かんちゃ~ん?…だめだ~何も聞いてないよ~?」
戦兎「お、面白いことしてるね!オレも一口のって良い?」
簪「ん、こんな事考えてて…」
戦兎「おぉう、中々!あ、簪ちゃんだったよね、このプロトコルのここはね…」
本音「うわーなんかすごいことになりそう…」


 織斑一夏は夕日の中を歩いていた。片手に箒から預かった青い龍のボトルを握りながら。先頃の因幡野戦兎の説明を受け、思う所がった。

 

 

(それじゃあ、俺は何で人体にその物質が入れられたのに、変化が起きなかったんだろうか……)

 

 一夏にとっての無力の象徴となった出来事、第二回モンド・グロッソ。その時のことは大体思い出していた。その時に人がスマッシュになる物質(ネビュラガス)を浴びたことを思い出していたが…――――自分の身は変わらなかった。これはどういう事なのだろうか……。

 

「っと……」

「む?」

 

 考え事をしていたためか、目の前にいた人物にぶつかってしまった。

 

「あ、すいません。考え事してて…――――っ!?」

「…驚きましたか?この顔に」

 

 目の前にいた銀髪の人物は丁寧に、しかし不快感をあらわにしながら答えた。左側の首元でまとめ、体の前に垂らした上品な銀髪。造られた白磁の様な肌。それと対照的な黒いパンツスーツ。理知的だがどこか荒々しい赤い瞳……。

 

 だが何よりも一夏を驚かせたのは彼女の顔の左側だった。黒光りする金属製のパーツに青く光るライン。目と同じ位置にカメラが付いたサイボーグの仮面を被っていた。

 

「…すみませんでした、不快にさせてしまったのなら謝ります」

「いいえ、結構。今謝罪など不必要ですよ。そんなことより、今は日本代表候補生のISの整備をしに来たのですが」

「……あぁ、更識簪の。あ、倉持技研の方ですか?」

「はい、私は最上カイザといいます。彼女がどちらにいるかご存知ですか?」

「あ、ハイ、えぇと……さっき食堂に行く、と」

「感謝します」

 

 一瞬、敵意の混じった視線が気になるも、一夏はその場で『最上カイザ』と言った人物と別れた。それが後に敵として立ちはだかる人物とは知らないまま……。

 

 

 

 

(それにしても、不気味だな。こうも被害者(俺達)が一堂にこの学園に会するなんて……)

 

 思考を先程の説明に切り替える。

 

(いや、もしかしてこれは……――――。俺達が偶然被害に遭っているというわけでは無く、被害に遭った我々を使って何かをしようとしているんじゃないか…?)

 

 そんな思考は長く続かなかった。

 

『よぉ、久しぶりだなぁ。イチカ・オリムラ』

 

 物陰から、赤い目、銀髪に白い詰襟服の少女二人を引き連れて血の様に赤い怪人(ブラッドスターク)が現れた。

 

「……ッ!ブラッドスターク!」

『おぉ?随分と殺気立ってるな?』

「当たり前だろ……!お前等ファウストがしたことを考えてみろ…!」

『あぁ?……あぁ。ホウキ・シノノノのことか』

 

 一瞬考えこんだように黙ると、ハッと顔を上げる。

 

『あー…?ホウキ・シノノノの件は非常(ひっっじょー)に、ウン残念だった……俺も悲しみで、胸が張り裂けそうだよぉっ!』

「てめぇ……」

 

 大袈裟に歩み寄り天を仰ぎ見る血塗れの蛇。

 

『オイオイ、待て待て。今回の件は俺としても心苦しい。だから取引だ』

「はぁ…?」

 

 ホールドアップし、戦闘の意思が無いことを示す。

 

『ローグの奴はうちの組織の中でも急進的思考回路を持っていてな。俺と行動する理由は少し違う…』

 

 やれやれと言ったふうに首を振るスターク。

 

『ローグはセント・イナバノが成長することよりも……、お前、イチカ・オリムラに目を付けた』

「…俺に?」

 

 いやな予感がした。これ以上聞いてしまえば後戻りできなくなる――――それも自分が罪悪感で苛まれる様な、そんな予感が。

 

『そう、お前はセント・イナバノと同じようにライダーシステムを使う資格がある』

 

 おめでとう!と言うように心からの拍手を送るスターク。

 

『そしてライダーシステムは人の感情の昂ぶりによって進化するんだ……』

 

 

 そして、最悪な一言をも一夏に送る。

 

 

――――例えば……そう、大切な人を傷つけられた、怒り、とかな

 

 

『つまりここまで言えば分かるよなぁ……?』

「…、――――ッ?」

 

 両手を広げ、答えを一夏に促す。

 

 

 

 対面する一夏の顔色は悪い。……そして、震える口を開いた。

 

 

 

 

「……さか…、まさか――――俺の、せいなのか…?箒の片目が見えなくなったのは…――――ッ!?」

『That’s right!』

 

 喜んだような身振りで両手で一夏を指さすスターク。

 

『だが、俺としてはセント・イナバノの成長の余地も捨てきれない』

 

 動揺した一夏を放っておき、スタークは続ける。

 

『それに、今のお前では体に負荷がかかりすぎる。急激にお前が自分の限界を超えて成長し、キャパオーバーで死んでしまったらライダーシステムを使う人間が減ってしまう……。そうなったら俺も人を見殺しにしたみたいで悲しいんだよ』

 

 再び天を仰ぎ、ため息交じりに同情の言葉を口にする。

 

「…――――の、…どの口がッ!」

 

 静かに沸々と怒りを滾らせる一夏。だが、それをも黙らせる一言をスタークは投下する。

 

『そこで一つ交渉となって来るワケだ、俺達はセント・イナバノが浄化したフルボトルが必要なんだよなぁ……』

 

 そう言って指を鳴らすと、背後に控えていた少女たちは手にナイフを持ち、それで……。

 

七番(セッテ)十二番(ディード)。顔を切り刻め』

「え!?」

 

声も出さずに無心でナイフを動かす。

 

「……っ」

「……!」

 

 躊躇なく顔に突き立て、縦に横に動かし、その端正な顔を切り刻む配下の少女たち。驚いている一夏を尻目にブラッドスタークは言葉を続ける。

 

『お前たちが持っているフルボトルを俺達に渡せ。そうすればホウキ・シノノノの目と火傷を治してやる。こういうふうにな』

 

 その言葉と共にブラッドスタークは手をかざすと、手から煙が噴き出し…――――彼女たちの顔を元に戻した。文字通り『元通りに』、である。

 

「っ!?…嘘だろっ!何かのトリックじゃ…」

 

 傷一つ無い二人の少女の顔を見て、一夏は嘘だと言いたかった。だが……実際に見てしまっては信じざるを得なかった。

 

『トリックだと思っても良いが……、このチャンスを棒に振るのか?今までホウキ・シノノノのことを考えていたんだろ?お前にとって死ぬほど大切な女なんだろ?彼女の為になるのならどんなことだってできるんじゃないのか?……それがお前にとっての正義(正しいこと)なんじゃないのか?』

「……っ!」

 

 思わず否定しようとするも、一夏の喉から声は出ない。口を開こうとして、また閉じる。その繰り返し……。スタークはそれを無機質なバイザーを通して静かに見ている。

 

『まぁいい……、一週間待ってやる。もしホウキ・シノノノの顔を治したいのなら、それまでにセント・イナバノからフルボトルを奪っておけ』

 

 血染めの蛇は銀髪の二人の服の血の跡を煙で綺麗にしながら、片手に銃を取り出す。

 

「あ、おい!待て!」

『待たない。じゃあな……よく考えることだ、Ciao♪』

 

 トランスチームガンから煙を周辺に振り撒くと、銀髪の少女たちと共に消えていった。

 

 

 その場に独り、取り残された一夏。

 

「フルボトルをあいつ等に渡せば、箒の火傷と…目が治る…――――?」

 

 

 一夏の心を嘲笑うように、夕暮れの中浮かぶ月は、ニヤニヤと目を細めたような……どんよりとした三日月だった……。




 最終回の仮称:トライアルフォーム(ラビットドラゴン)って……映画の予告でちらっと出てたんでスーツ作ってあるかと思ってたんですが……CGでしたね……。でもかっこよかったです。出そうかな……。


※2020/12/11
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第二十六話 『ファンキーマッチな黒酢豚』

惣万「おぉ、遠路はるばるご苦労さん。歓迎したいがもうIS学園に行くんだろ。到着したら真っ暗だろうが大丈夫か?」
鈴「お心遣いありがとうございます、惣万さん。大丈夫ですよぉ、これでも口も回るし腕も立ちますんで。チンピラなら金的すれば撃退できますし!」
惣万「そうじゃねぇんだが…、って今更か。昔千冬もびっくりしてたしな、お前の身体能力のポテンシャル」
鈴「え、そうなんですか?初耳なんですが」
惣万「(生身で怪人倒せる赤心少林拳の門徒のクセに何をいまさら…自覚無しか?)折角だしコレやるよ。飲みながら行ってくれ。一夏によろしくな」
鈴「あ、コーヒーご馳走様です!それでは第二十六話、始まるわよーっと!」



「もうすぐでクラス対抗戦だね」

 

 クラス代表が節無に決まった次の日、一組にある噂が流れてきた。

 

「そう言えば、二組のクラス代表が正式な人になったらしいよ」

「正式?」

「うん、何でも入学に予定が間に合わなかったらしくてね。今までは代行の人がクラス代表としてやっていたらしいよ、何でも中国政府側の手違いで遅れが出たとか」

「へー」

 

 ……ん?中国、か。もしかしなくてもあいつかね?

 

「その通りです。初めましてー!」

 

 一組の教室に礼儀正しくお辞儀をしながら入ってきたツインテールの小柄な少女が……。

 

「今日から正式に二組のクラス代表になった、鳳鈴音といいます!どうぞ、よろしくね!」

「凰鈴音……?」

「それって確か、中国の武道大会で去年優勝したっていう…?」

 

 そう、数か月前に知ったことなんだが、鈴、中国行った後結構有名な大会で最年少チャンプになったんだよなぁ……。俺の周り、ブリュンヒルデと剣道優勝者に拳法中国一位って、キャラ濃すぎじゃね?

 

「いえいえ、アタシなんてまだまだだよ~、上には上がいるって知ってるし……それで、お久しぶり、一夏」

「おぉ……。随分と落ち着いたな、鈴」

「いろいろ言いたいことはあるけど……クラス代表戦、頑張りましょ?」

 

 ……、あぁー、勘違いしているな、鈴。

 

「……鈴。俺じゃねーんだよ」

「え?代表アンタじゃ無いの?って事は…?」

「節無だよ」

「うわぁ……白けるわ。帰る」

 

 途端に顔をこわばらせる鈴。まぁそうなるわな。中学時代、節無、若干鈴に対してストーカー紛いのこともしたことあったし。何か甘えんぼだと思ってたらメンヘラ気質っぽくて怖かったとは鈴の言。千冬姉と一緒に頭下げたのは懐かしいな……。

 

「ねぇ、どういう事?ひどいなぁ、無碍に扱われると傷付くよ」

 

 わきから話に入って来る従弟。

 

「ハイハイ、そろそろ授業だしってコトよ。またあとでね一夏……あ、織斑先生。今日から宜しくお願い致します」

「む、凰か。……早く教室に戻れ、授業が始まるだろう」

「はい、では」

 

 

 

 その後、昼食。食堂でクラスメイトであろう金髪の女生徒とラーメンをすする鈴を見つけたので声をかける。

 

「よぉ鈴。親父さんの具合はどうだ?」

「あぁ一夏。うん、大丈夫そう。もう再発の心配はないみたい。石動さんの紹介で行った聖都大学附属病院で鏡先生って人に執刀してもらって…――――」

「そうか、良かったな」

「ホントよ。全くあの頑固親父ったら…、心配かけたわね。ま、中国の代表候補生になったのも…――――コレが目当てだったし」

 

 そう言って片手でマネーなハンドサインを見せてくる。うーん、強かになったなコイツ。

 

「ホント助かったわよ~、治療費が中華料理店の収入と貯金だけじゃ足りなそうだった所に舞い込んだ賞金制度だったし!えぇと……『財団X』だったかしら?新しいIS評議会のスポンサー企業、太っ腹!」

 

 食器を片付けながら金髪同級生と別れ、思い出話に花を咲かせようとするも……。

 

「やぁ久しぶり、鈴。元気してた?」

「……、節無。お前なぁ」

「……アンタからそのあだ名で言われる理由、無いんだけど」

 

 廊下で俺達共通の苦手な奴にあった……。

 

「ヤダヤダ仲間外れなんて寂しいよ~、僕だって君の幼馴染じゃないの?」

「……小学四年生からの同級生を幼馴染って言うの?無理が無い?」

 

 親し気に近づいてくる節無。こいつ、鈴に避けられているって自覚ないのか?ある意味すげぇな……。

 

「それに、一夏に一言あって僕にはないのはどうなの?ずるいじゃん」

「……それじゃ、アンタに一言だけ」

 

 ひと呼吸おき……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……――――少しは大人になりなさいよ、お子ちゃま。アタシはアンタの『ママ』じゃないのよ」

「……――――えっ?」

 

 鈴はハイライトの入っていない目で、舐めるように節無に侮蔑の表情を向けていた。そして肩を掴み、無理矢理体を自分の方に近づけ、何かを囁く。

 

(アンタがしたことはアンタが責任を取りなさい。なに?弱い子ぶって、アンタの居場所、ここから無くなるわよ?)

 

 八重歯を見せ、はた目から見れば超良い笑顔で耳打ちをしている俺の親友。てか何吹き込んでんだ?大丈夫なヤツこれ?こいつの行く末不安になってきた……。

 

 

(……――――言いがかりだよ。そんな子どもみたいなことするわけないじゃん)

(子どもはそういうのよね…、いい?隠したって無駄だから。証拠がなくとも真意を見抜く人なんてたくさんいるの。アナタ、そのままだと手酷い報いを受けるわよ)

 

 鋭い目つきで節無に感情をぶつけている鈴。俺の耳には届かねぇが、恐らくは節無にきっぱり拒絶の言葉でも叩きつけたのかな?

 

「あら、節無君に凰さん?どうしたんですか?」

「あ、山田先生。何でもありません。少し、昔の知り合いと話をしていただけですから」

 

 ね?と言うかの様に節無に笑顔を向ける鈴。だが、その目は一切笑っていなかった。

 

 

 

(……(これ)は、『ママ』じゃない。千冬姉さんみたいな『ママ』は何を言ってもなあなあで済ませてくれるんだ。僕に構ってくれるんだ、かかりっきりになってくれるんだ、無視なんてしない、しないシナイしないィィィィィ……――――!ぅぅうぅぅゥゥゥッッ!何でなんでナンデなんでェェェ!?『ママ』は僕みたいな弱い者虐めしちゃだめなのに、駄目なのに……――――!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間だけが過ぎていく。燃え尽きた後に残る灰みたいな、無駄にさらさらしている時間が心の潤いを奪っていく。

 幾つもの授業が終わって、周りの連中が和気藹々と幸せそうに過ごしているというのに、俺は気分が優れなかった。午後の授業も変わらず上の空だったらしい。金髪貴族が言うには何度も何度も千冬姉に殴られたらしい。マジかよ、そんなことにも気が付かなかった。

 …まあ、理由なんて分かり切っている。

 

 

 

 ……――――。あの言葉が本当なら、箒の苦痛の原因となったのは、俺なのか。

 

 

――――もしホウキ・シノノノの顔を治したいのなら、それまでにセント・イナバノからフルボトルを奪っておけ

 

 

 

 スタークに言われた言葉がずっと頭の中でリフレインする。

 

 因幡野先生には箒を助けてもらった恩がある。記憶喪失というハンディキャップがあることも理解した。けれど…――――。

 もしものこと、やっても仕方がないことをずっとずっと思い続けている。俺は何を考えているんだろうか。裏切りという行為を肯定して、箒の笑顔を取り戻したいと思う自分がいる。くそっ…俺はこんなにも浅ましい奴だったのか?

 

 考えがまとまらない。頭の中がごちゃごちゃして、目に映るものまで濁っていく。荒れたままの動作で、自室のドアを乱暴に引いた。

 …――――思えば、いつもはしっかりとノックしてから入室するのが暗黙の了解になっていたように思う。だからだろう。

 

「い、い、いちか…?」

「…――――」

 

 目の前にはシャワー室から出たばかりの、同室の幼馴染が立っていた。

 

「な、何見ているんだっ!?見るなっっ‼」

「すっまんッ‼いや本当に申し訳ない‼考え事してて…――――‼」

 

 …――――箒の目から、涙が零れた。

 

「…――――ッ」

「…、箒」

 

 咄嗟に火傷の跡を隠す。

 

「…――――私を、見るな…」

「あ…」

 

 

 …――――。

 

 

「ごめん、な…」

「え……――――あ、いや。そんなつもりじゃない。そんなつもりじゃないんだ!一夏?いちっ…――――!」

 

 

 気がつけば俺は、寮の廊下でドアにもたれかかって座り込んでいた。無遠慮が過ぎる自分の行いに頭を抱える。

 

「…――――」

 

 あいつの涙を見た時、頭の中にガツンと衝撃が走った。それこそ千冬姉のゲンコツが生温いくらいに。どうして、あいつがこんな目に遭わなきゃなんねぇんだよ…――――。

 

 

 

 

 

 

「…――――その、一夏?」

「あ…もういいのか箒…?」

「う、うむ…お前の方こそ、大丈夫か?…思い込み、過ぎてはいないか?」

 

 ドアからひょいと覗く箒の顔は曇っていた。毛先から未だ水が落ちているが、既に寝巻きを着用している。あぁ、すまないと思う。慌てて着替えさせてしまった。

 

「お前の悩みと、私の悩みは別だ、そうでなければいけない…違うか?」

「ッ…、でもお前は、悲しんでいるだろ」

「そう…なのかもな。こうなったのはやっぱりどこか辛く、悲しいことではある…けれどな?」

 

 けど?…、けれど、何だって言うんだ?

 

 

 

「もっと辛いのは、お前をそんな顔にさせてしまったことなんだ…」

「…――――」

 

 俺は、どんな顔をすればいいのだろう。ただ身体を鍛えて、戦いの技術だけを磨いて、学んだことも数多くあった。だが、これはどうしたんだ?昔の俺は他人の心ってやつをもっとわかっていなかったか。

 いや、そうじゃないか。皆変わって成長して行く。誰もが単純ではなくなっていく。綺麗で清いものも、見たくない濁ったものも心の中に抱えなきゃならないっていうのか。

 

「ほら、手を出せ。何を悩んでいるかは知らないが、今は笑ってくれ。私も笑うから。そっちのほうがきっと解決策も思いつくぞ?」

「…あぁ、そうだな」

 

 …――――お前を、もう一回笑わせてあげられるなら…。

 

「覚悟は決めた。俺は、その笑顔を守るよ」

「なっ…一夏!」

 

 が、それがまずかった。手を引っ込めた箒に体勢が崩されて……。

 

「ッぬあ!?」

「いちっ……かッ!?」

 

―ドタドタバターンッ!―

 

「ってて……ん?」

 

 ……。俺の上に着崩れた病衣の箒が跨いで座っている。これ、どう考えてもはた目から見たら『やっちゃった』的な流れになる…よな。

 大丈夫か?幸い、今なら目撃者なんているわけが……――――。

 

「…――――オ、オォ、オォゥ…」

「…――――えぇ?」

 

 前言撤回。この状況を見たやつがいた。誰だ。

 

「…」

 

 ツインテールがへなりと力無く垂れ下がった。……ドアの所にいたのは、鈴でした。何か膝から崩れ落ちたんだが。つか、何でこのタイミングで。

 

「あー…鈴音、さん?」

「……イイノー、トシゴロ、ダカラ……コイビトドーシ、ダカラ」

「あぁっ、待て鈴!話を……っ‼」

「アタシ、オトナダカラ、オドロカナーイ」

 

 油が切れたブリキ人形の様に回れ右した酢豚。おいどーすんだ、桜●学園の小さい方のツインテになってんぞ、ちげぇだろお前。すかさず会長…、じゃなかった箒も弁解する。

 

「ち、違うぞ!?これはそーいうことをしていたのではない!そうっ!これは事ぎょ……っ、じ、事後だッ‼……――――あっ」

 

 あ……っ。(〇事故→×事後)

 

「ここ一番で噛みやがったこのアホウキッ!?」

 

 鈴ちゃん’s頭ん中

事後→プロレスごっこ→■■■→男女のネットリした絡み合い→『しばらくお待ち下さい』

 

「……まして…」

「お、おい?落ち着けよ?お前今何考えた、なぁ?」

「お邪魔して……」

「それ以上はいけない!っておい鈴待てぇ!?」

 

 おいおいおい?(゜♢゜)こんな顔でパクパクしたと思ったらどうした素っ頓狂な声漏らして。やめて止して頼むから!

 

「……ごっめんなさァァあぁぁぁあぁいッッッッ‼」

 

―廊下を走ってはいけません―

 

 土煙を上げながらすんごいスピードで去って行った。

 

「……行っちゃった」

「……そう言えばなんだが一夏、そろそろ寮長の巡回がな…」

 

 ………………(絶望)。あらま、遠くからドドドドドドドドド、と音が聞こえてくらぁ……あはは、あっははははははぁ。

 

「一夏と■■■した泥棒猫はだあぁぁれだァァあぁぁぁあぁッッッ‼」

「うわ最悪のタイミング‼」

「ひぃっ!?」(『アレは姉じゃない、般若だった』、後に一夏語る)

 

「貴様かドロボウキィィィィ‼誰が弟に先越された行き遅れだバーカバーカァ‼」

「千冬ねぇッ!?」

「ごっ、ごめんなさいッ⁉」

 

 おい馬鹿!くっつくな!?お前の胸当たってるから!あ、やばい千冬姉の目からハイライト消えた‼

 

「■oooooooo■iiiiiiiiiiiiiiiaaaaaaaaaaaaar!」

「大変織斑先生がバーサクしてる!」

「一夏君が箒さんと■■■したって!」

「え、これ薄い本ネタにもしちゃ駄目じゃない?どうしよう、不謹慎ものだよ」

「「イーヤーッッッ‼」」

 

 その日、IS学園の寮に、俺ら二人の精神的、肉体的に死にかけた断末魔の声が響いたのだった……。




 おめでとう、ツンデレ鈴は黒酢豚に進化した!<ヨモツヘグリ……!

(闇落ちは無し……かな?)

※2021/01/05
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第二十七話 『選択したジャスティス』

セシリア「前書きに失礼いたします、セシリア・オルコットです」
鈴「凰鈴音よ。いやー着いたわIS学園。あ、セシリアとか言ったっけ?到着した時案内してくれてありがとね!」
セシリア「いえいえ、これからは長い付き合いですから」
鈴「それはともかくセシリア、アンタそこそこ“やる”わね?」
セシリア「おや?まぁ護身術の心得くらいはありますが…」
鈴「へぇー…。筋肉のから察するに、結構な種類の武器使いこなせるんじゃない?かぎ爪とか鞭とかトンファーとか、ニッチなヤツじゃないとそこにつかないでしょ」
セシリア「あら、分かります?いやあ、昔ちょっといろいろありまして。今は射撃技能をマスターしなければと思っており、それで専用機も射撃オンリーのコンセプトにしていただいて」
鈴「へぇ、アンタそういうタイプなのね。アタシは長所を極限まで伸ばすタチだから、下手なヤツはとことんダメなのよねぇ。馬上で戦闘とか苦手…自分の馬の首に斬馬刀あてちゃうのよ」
セシリア「あぁ~分かりますわ。ジョストはわたくしも苦手でした。馬上槍と剣の使い回しが中々どうして…」
鈴「分かってくれるセシリア!いやーこの手の話題全然盛り上がらないのよね!」
真耶「……どう考えても高校生の会話じゃありませんよあれ…」
千冬「そうか?私が高校生の頃は友人が何かあると悪いからテロリストの戦術を学ぶよう言ってきたぞ。アレは常識的な部類だと思うが。そのおかげでドイツ軍で尊敬の眼差しがこそばゆかったなぁ…」
真耶「(あの人の過去暗そうなのに鋼メンタル過ぎませんか?)」


 朝食前、幾らか早く目が覚めたのでグラウンドを数周するのが日課となっている。……あぁー、それにしても、昨日は酷ぇ目に遭った……。昨日の夜は『お楽しみでしたね』

 

「ってオイ!?ナチュラルに心の声にとんでもない一言ぶっこんできたの、誰だ!?」

「私だ」(メロンエナジー!)

「千冬姉!?」

 

 いつの間にか俺の隣で並走していた我がお姉サマー。その顔はクマが出来ていた。

 

「……大変だったんだぞ、頭の中が春真っ盛りなガキどもをまとめるの」

 

 いや、ホントすんませんっした……。

 

―回想―

 

『やっぱり一夏君と箒さんってデキてるんだって!』

『なんだってそれは本当かい!?』

『〇ルゴムの仕業か!』

『乾〇って奴の仕業なんだ』

『おのれディ〇イドォォォォォッッッ‼』

『ユグドラ〇ル絶対に許さねぇ!』

『全部〇汰さんのせいだ……』

 

 これが昨日の女子のバカ騒ぎの一例である。クラスメイトから変な発言があったが無視してくれ。誰だよ〇巧とか紘〇とか…。責任転換にも程があんだろ。

 

「とにかく、だ。これ以上騒ぎを起こすなよ。まぁガキどもの興味はお前から節無の方に移っているが……」

「……そっちの方が何かやらかしそうじゃねぇか?」

「言うな、胃痛がしてくる…。どうにも子供っぽさに拍車がかかってきているよな。ストレスで児童後退でも起こしてしまったのか…?」

「俺も何とかしてみるけど、何かあったら言ってくれ。俺も力になれると思うから」

「一夏、お前は良い子だなぁ…」

 

 姉の心労を共有して朝食へと向かうのだった……。

 

 

 

 食堂にて。

 

「あっはっはっは!成程所謂ラッキースケベってやつ!最高(さいっこー)だっははははッ!なーんだおっかしー!脱童貞だったら赤飯御馳走してあげんのにー!」

 

 鯵の開きと卵焼きをつつきながら大爆笑するビルドの中の人。

 

「因幡野先生ェ、ソレ教師としてどうなんです…?」

「え、何?新聞部に頼んですっぱ抜きが良い?」

「良いわきゃねーだろただの公開処刑じゃねーか」

「むぅ、このてぇん↑さい↓科学者兼先生のオレに敬意が足りないー、たーりーなーいー!」

 

 駄々っ子の様に足をバタバタさせる因幡野戦兎。

 

「アンタの日ごろの行いが悪ぃからだろが、もうちょい緊張感持てよ…――――って何で俺先生にタメ口してんだ…。すんません」

「つーん!」

「は?」

「天才科学者因幡野先生って言ってくれないと口きーかない!」

「ガキですか……。もうちょいきちんとして下さいよ」

 

 全く、普通にしてればいい先生なはずなのにな…。

 

「うーん……ゴメン、それ無理かな?」

「?」

 

 そう言って因幡野先生は箸をとめる。

 

「……だって普通って、自分が一番薄れることだから。記憶がないオレじゃ自分が自分で無くなる気がして、怖いんだよ。……だからちょっとでも理想の自分でいたいじゃん」

「……先生」

「あ、湿っぽくなっちゃったね、食べよ食べよ!」

 

 にっこりと笑うと熱い熱いと言いながら、彼女は味噌汁を美味しそうに啜るのだった……。

 

 

 

 

「はい、あーん」

「あーん……うん、おいひいろ、いひか」

「そうか、良かった」

 

 恥ずかしそうに口を開け、俺が匙によそった料理を食べる箒。

 

「箒、その……身体の調子はどうだ?」

「うん、大丈夫そうだ。もうすぐで復学できるとな。まぁ包帯を巻いたままにはなるんだが」

 

 えへへ、と頬を掻きながら哀し気に笑っているように見えた。……それを見て幼いころの箒の泣いた顔が重なり合う。思わず俺は目を伏せた。

 

「……一夏?」

「心配すんな、お前の笑顔は、俺が守る……」

 

 箒が食べ終わった食器を手に取り、病室から足早に去った。

 

「え……?ちょっと一夏?」

 

 

 

 

 思えば……それは俺の決意だったのか、それとも逃げだったのか……。その時の想いは、もう覚えていなかった。

 

No side

 

 屋上のプレハブ小屋。そこに戦兎が上機嫌で鼻歌を歌いながら戻ってきた。

 

「ふーふんー、ふーふん……あれ、一夏君?フルボトルを持ってどうしたの?」

 

 電気の付いていない部屋の中、机の上にあったフルボトルを…――――そしてパンドラボックスをボーっとした目で見ている少年がいた。彼は重い口を開く。

 

「……実は、因幡野先生にファウストとスマッシュのことを説明された日、もう一人の幹部、ブラッドスタークに取引を持ち掛けれらた」

「!?どういう事……!?」

 

 一夏は手をブルブルと震わせながら歯を食いしばって声を絞り出す。

 

「……箒の身体の火傷と失明を治す代わりに、フルボトルを寄越せと言われた」

「……お前っ、そんな大事な事なんで言わなかっ、……うッ!?」

 

 華奢な体に一夏の拳が突き刺さり、流れるようにヘッドロックし意識を手放させる。女性にしても軽い身体が一夏の腕に倒れ込んだ。それは、とても軽かった。

 

「……悪いな。アンタが必死こいて記憶のとっかかりを探してんのは知ってる。応援もしてやりたい、記憶も戻って欲しいとも思ってる。……けど、俺は――――箒のことが、それ以上に大切なんだよ…」

 

 手早く散らばったフルボトルをカバンの中に詰める一夏。最期の二本を手に取ろうとしたが……。

 

「……俺はこれ以上箒を苦しめたくねぇんだよ」

 

 ウサギと戦車のボトル……、初めて彼女が一夏の前に現れた時の姿を思い出す。その姿は紛れもなくヒーローで……。幼いころから、憧れの人として見ていた姉やその親友の兄貴分の背中が重なって見え……。

 

「……。すまねぇ……」

 

 

 

 夕方、一夏は以前ブラッドスタークに遭った場所へやって来た。

 

『よぉ、イチカ・オリムラ。ボトルは持ってきたか?』

 

 周囲が煙に包まれ、その煙の中からブラッドスタークと……三番、十二番と呼ばれていた少女たちが現れる。

 

「……あぁ」

『よしよし。んじゃ渡せ……ん?』

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

『おぉっと!』

「はあっ!……くっ!うわぁっ!?」

 

 曲線のグラフがどこからともなく現れ、スタークに向かって赤と青のエネルギーを伴ったキックが放たれる。だが、スタークは即座に対応し、片手でビルドの片足をキャッチし、一夏の方へ放り投げる。その衝撃でか、変身が解除されるビルド。

 

「っ~~~!あー、やっぱ病み上がりって言うか?腹パンされた後での変身、結構負担だったのかな~、チラッ」

「因幡野先生……」

 

 大袈裟に痛いよ~、とアピールをする戦兎。

 

『よぉ……初めまして。仮面ライダービルド』

「ん?……あ、ご丁寧にどーも。えーと……蛇男?」

『惜し……くねぇな?俺はブラッドスターク、ファウストのゲームメーカーだ。よろしくっ、な?』

 

 軽快な挨拶と共に、トランスチームガンから光弾を放つスターク。

 

「うわぁ!よろしくしたくねーよ出会い頭に銃撃してくる奴とは!?」

『オイオイ、最初に攻撃してきたのはそっちだろうが』

「……そうでしたね、っと一夏君こっちだ!」

 

 スタークの銃弾が変身解除された戦兎と一夏を襲うが、とっさに戦兎はタンクフルボトルを振り、近くの倉庫の窓ガラスを壁ごとぶち破り、逃走した。

 

 

「ふぃー……、しばらくの時間稼ぎにはなるかな?」

「……来たんですか」

 

 多少ぶっきらぼうに一夏が言う。

 

「ん?まぁそうだね……ていうかさ、一夏君ホントは止めて欲しかったんでしょ?」

 

 そう言って手に持ったラビットとタンクのボトルを見せてくる因幡野戦兎。それは一夏が戦兎の元に置いてきた(・・・・・)ボトル。

 

「なぁ一夏君……いんや一夏。お前さ、自分の顔見た?ひっどい顔してるぞ」

 

 窓の割れた倉庫の中、ひび割れたガラスが乱反射する暗がり。互いに後ろ向きに座り、お互いの顔が見えることは無い。だが。

 

「そんな顔で選んで、駆けまわって、戦って、……それで箒ちゃんは笑ってくれると思う?それで、箒ちゃんの力になれたって……本当に言える?」

 

 その言葉で一夏は地面に落ちていたガラス片を見る。そこには因幡野戦兎に言われた通り、憔悴しきった青年がいた。その顔を呆然と眺める一夏に、戦兎は続けて言う。

 

 オレはさ……、と前置きをする戦兎。

 

「誰かの力になれたら、心の底から嬉しくなって、クシャってなるんだよ、オレの顔。マスクの下で見えないけど」

 

 一夏の背中にもたれながら言葉を続ける。

 

「お前はどう?本当に箒ちゃんの為?」

 

 優しく、だが鋭く心に入って来る正義のヒーローの言葉。

 

「……見返りを期待したら、それは正義とは言わねぇぞ」

 

 

 背中合わせに告げられる声。それは一夏の……悩み、ぐちゃぐちゃになり、出口の無い暗闇になった心の中に一つの光を灯してくれた。

 

 そして一夏はハッと気づく。箒の為と考えていた事は……本当は誰のためだったのか。

 

 

 

「……あ゛~~~……っ!ホント俺バカだ!」

 

 ぐしゃぐしゃと頭を掻きまわし、自嘲気味に苦々しく笑う。ただ、その表情はどこかすっきりした様子でさえある。まだまだ箒への憐憫は拭えていない。だが、今まで考えてきたことが全て馬鹿な事だった、と思えるくらいには吹っ切れていた。

 

「だねぇこの箒馬鹿ク・ン・は!」

 

 うりうり、と肘で一夏を小突く。いつもの一夏であるならばイラッとしたのだろうが、毒気を抜かれた彼の耳には妙に心地よかった。思わず芸人根性から突っ込まずにはいられない。

 

「何だその不名誉なあだ名!?せめて筋肉馬鹿にしてくれよ!」

「おや自覚ない?朴念仁?」

「……ノーコメントで!」

 

 はぁ、と一言ため息をつくと、顔を二回、三回と叩く。

 

「……――――取り敢えず、俺は箒の笑顔を守る」

 

 そう言って右手に収まる青いボトルが輝きだす。

 

「いいや、違うか。あいつは守られるほど弱くない。弱かったのは……、守られたかったのは、俺の方だ」

 

 投げ上げ、パシッっと左手に持ち変える。そして力強く龍が描かれたフルボトルを動かし、拳に青い炎を纏わせる一夏。

 

「あんがとな……天才科学者様」

「…――――こー言うときは戦兎でいいよ。お前とは……何か対等でいたい」

「先生がソレで良いのかよ?」

「いーのいーの、生まれて一年みたいなもんだし」

 

 そんな、命のやり取りをしている状態で談笑をする二人。そこに……。

 

 

『よう、それで答えは出たか?』

 

 足音を響かせ、宇宙服の様なデザインのパワードスーツの人物が近づいてきた。それを見て一夏はニヤリと笑い……。

 

「……。あぁ、つーわけで、悪いなスターク。お前にボトルは渡せなくなった!」

『そうか……ま、良いか。ご褒美に、こいつらで遊んでやるよ!』

 

 まるで予想は出来ていたと言うように、彼は気軽にその拒絶を受け入れる。そして突如として、後ろに控えていた白い詰襟の少女たちに煙を撃ちこんだ。

 

【デビルスチーム!】

 

「……っ!」

「あぁっ……!」

 

 銀髪の少女たちは一人が赤い体のスマッシュ『フライングスマッシュ』に、もう一人が紫色の『ミラージュスマッシュ』に変化した。それを見て戦兎は顔を険しくする。

 

「サブキャラの君は下がってな。スマッシュ相手に生身は流石に荷が重いからね」

「……その最初の一言がなきゃ素直に従おうって思えんだけどよぉ」

「黙りなさいよフルボトル窃盗犯。コレで許してあげるんだから咽び泣きながら感謝すんのが筋でしょーが」

「どんだけ自己中なんだよ……いや俺が言えたことじゃないけどさぁ?」

「いーんだよ、だってオレ、てぇん↑さい↓だし!……さぁ、実験を始めようか!」

 

【ゴリラ!ダイヤモンド!ベストマッチ!】

【Are you ready?】

 

「変身!」

 

【ゴリラモンド!イエーイ!】

 

 戦兎は仮面ライダービルド ゴリラモンドフォームに変身し、フライングスマッシュの突進を受け止めた。

 

「前回でも思ったけど、ベストマッチって何?どー考えてもミスマッチだろ」

「それはあれですよ……生命の神秘だったり?」

「あーもう分かんないなら言うなよ、つか早く行けよ!?こっち来てんだよスマッシュ!」

「いや聞いたの一夏じゃん、ってあでぇ!?ぶったね!?織斑先生にも殴られたこと無いのに!」

「蹴ったんだよ!」

 

 一夏に蹴り出されたビルドは目の前に迫るスマッシュの一撃を紙一重でかわすと、一瞬で頭の中を切り替え、攻略パターンを導き出す。

 

「うーん?さて今回の勝利の法則は……っと!」

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

 ダイヤモンドを目の前につくり出し、それをゴリラの腕、「サドンデストロイヤー」で粉砕しマシンガン宜しくつぶてにして二体のスマッシュにぶつける。

 

「■■ッ!?」

「■■■■■■っ!」

「まだまだだ!」

 

【ゴリラ!掃除機!】

【Are you ready?】

 

「ビルドアップ!」

 

 瞬時に姿をトライアルフォームに変更し、ハンドルレバーを回転させ、片腕の掃除機を起動させる。

 

【ボルテックアタック!】

 

「ヘイ、カモーン……おりゃーっ!」

 

 運悪く吸い込まれてしまった翼があるスマッシュに、片腕で強烈な一撃を加え……。

 

―ドッガァァァァァァン!―

 

「ハイいっちょ上がり!さて、あとは……」

 

 視線を元に戻したビルドは信じられない現象を目撃する。紫色のスマッシュの肩にある器官が光ったかと思うと……。

 

「うぇ……分身?アイエエエ?ニンジャ、ニンジャナンデ?あぶぅっ!?」

 

 後ろからやって来たスマッシュに気が付かず、ダメージを負うビルド。

 

「いった~……。武器で戦うのか……それじゃ、ようやくこいつの出番!」

 

 彼女は背中をさすりながらボトルを振り、ベルトにセットする。

 

【ライオン!掃除機!ベストマッチ!】

【Are you ready?】

 

「ビルドアップ!」

 

【たてがみサイクロン!ライオンクリーナー!イェーイ!】

 

 その音声と共に、黄色と青緑色の二色に変わる。片手には掃除機、もう片方にはライオンの手甲。

 

「勝利の法則は、決まった!はぁ!」

 

 そして片手を振りかぶって来るスマッシュたちと肉弾戦を始めるが……。

 

「……ノーダメージ?」

 

 ライオン型のガントレットや肩の尻尾状のムチを使って戦っているビルドを見ていた一夏は気が付く。スマッシュの攻撃が通っていないのだ。

 

「ふっふっふー!どうどう一夏?このライオン側のアーマー、自分以外の武器の攻撃、ほぼほぼ通さないんだよ!」

「説明いいから早くしてくれ!ニンジャスマッシュこっちに来てっから!」

 

(ちなみに正式名称はミラージュスマッシュである)

 

「はいはーい……」

 

 テンション低めにドライバーのハンドルを回し、ボトルの成分を活性化させるビルド。

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

 その音声と共に、掃除機の腕でミラージュスマッシュたちを拘束する。そのまま右手を上げ、黄金色のエネルギー弾を精製すると……。

 

「はいやぁっ!」

 

――――ドガァァァァンッ‼

 

 竜巻に囚われていたスマッシュが一撃で倒され、緑の炎を上げ成分が放出される。それに向かって素早くエンプティボトルを向けるビルド。

 

「よし!新しい成分ゲット!最高(さいっこー)だっ。……っ!」

『やーやー、おめでとさん。おーい、お前等、大丈夫か?』

 

 今の今まで利用していた少女たちに優しく声をかける赤い蛇。それを見て、一夏や戦兎はえも言えない不快感が心を覆った。

 

「スターク……。お前もコウモリ野郎と同じか」

『同じじゃねぇよ、まず性別違うし』

「え?」

 

 まだ気絶したままの銀髪の二人を小脇に抱えながらトランスチームガンを構える。そして最後に含みを持たせた言葉を告げる。

 

『俺に気をかけるよりも先に、篠ノ之束に気を付けろ……。ま、この調子でボトルの回収を頼むぜ?Ciao♪』

 

 その言葉と共に、白煙の中赤い蛇たちは姿をくらませた。

 

「おい待て…っ、……どうして束さんが?」

 

 幼いころの面識があった一夏は首をひねり……。

 

「篠ノ之、束?なぜそこでISの開発者が出てくる?」

 

 夕暮れの中、その言葉は不吉に残っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

「で、この有り様は何だ?」

「うっ……千冬姉。これは、そのぉ…」

「いやー、ファウストの襲撃を受けちゃってね~。あ、大丈夫だよ!ちゃんと撃退したし!」

「……、はぁ……。ファウストの存在は世間に知られていないのに……。何が原因だと始末書に書けばいいんだ……」

 

 また千冬先生の胃に穴が開きそうになったのだった。




 書いていて思ったのですが、チッピー日常回のオチ要員になってますね……。コレ本家ブラックラビットが見たらどうなるんでしょう……。


※2020/12/12
 一部修正


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第二十八話 『“正義の味方”へのトライアル』

一夏「戦兎と溜口で呼び合うようになった俺。まぁTPOには合わせるけどさ…どーなのこれ」
戦兎「えー、だってイケメンに名前で呼ばれるのってなんかいいじゃん。女の子の本懐だよ?」
箒「先生貴女って人は!NTRですか!?」
戦兎「いやそんなことないよ?…あれでもなんかいいかもジュルリ。どう~?バストサイズ箒ちゃん以上だよ~?」
箒「もしもし千冬さんこの人叩きのめす許可をください」
一夏「抑えて!抑えてな箒!…あーうん。それとゴメン、戦兎さんにはドキドキしないわ。ひやひやはするけど」
戦兎「ガチトーンやめてよ傷付くから!兎は悲しいと死んじゃうんだよ!?」
一夏「死なない死なない。自然界はもっと厳しいから。死んだ原因は病気か寿命だろ、多分」
箒「お、ネットだと絶食が原因っぽいと書いてある。へぇー、半日で胃腸の活動が低下してしまうと、成程成程…」
一夏「ググるんかい!つーか無視は可哀想だよ!」
戦兎「……(´;ω;`)ブワッ」
箒「……反省しました?」
戦兎「うん、ごめんね…」
一夏「ガチ泣きかよぉ……」
箒「(世話焼きたくなりますね、この人…)はぁ、お詫びに料理でも奢りますよ?」
戦兎「ホント!?ありがとぉぉぉ箒ちゃん大好き‼」
箒「わっぷ」
一夏「……(眼福)」


 周りに黒い姿の奇妙な怪人たちが“私”を覗き込んでくる。歯車が付いたもの、コウモリのバイザーが付いたもの。そして、血の様に赤いコブラの男。

 

『さて、この腕にあるボトルを浄化するバングルだが……こんなISあったかな』

『さぁ~?それに詳しいのはローグじゃない~?とっちゃえ~?』

『分解できないのですか?神の才能(笑)があるのでしょう?』

『ぬぅん?貴様らァ…』

『あ゛ぁ?』

『ど~ど~』

『まぁ良いだろう。一先ず保留なお前ら。いざとなったら……、腕ごと切断して調べりゃいいさ』

 

 そう言ってバルブの付いた剣を振り抜き……。

 

 

「…――――ぅあああああっ‼……ァ…、ハァ……ハァ…ハァッ!」

 

 ガタンッ!っとベッドから跳ね起きる。汗でぐっしょりと濡れた額に銀髪がへばりつく。

 

「大丈夫か?クロエ?」

「あ…――――マスター。ハイ、大丈夫です、ちょっと……夢見が悪くて」

「そうか。無理すんなよ?あー、学園にいる戦兎からスマッシュボトルが届いてるんだが……今日は止しておけ」

「いいえ、私は大丈夫です……やらせてください。戦兎さんの力になりたいんです」

「……そうか、頑張れよ」

 

 そう言ってマスターはくしゃくしゃと頭を撫でてくれる。このレストランカフェのマスター……石動惣万さん。記憶を失った私にクロエ・クロニクルという名前を与えてくれ、ファウストの魔の手からも救ってくれた人……。

 

 私は左手に光る……金色のバングルに触れる。

 

 このバングルはISらしく、その能力は人を怪物『スマッシュ』に変えた物質を安全な物質に変質させるものらしい。マスターの元にやって来たもう一人の人物が戦い、私が清める…。

 

「……はい、だって……私たちにしかできませんから」

 

 もう、私たちの様な人が生まれない様に……この力を使う。

 

 それを見て、マスターは優しく笑うのだった。

 

 

 

 

 IS学園の休みの日。箒が少し外の空気を吸いたい、と言ったので特別に二日間許可を取って家や惣万にぃのレストランカフェに顔を出すことにしたのだが……。

 

「さて、出た出たスマッシュ!オレの新・発っ・明っ・品っ!を試す時が来た!」

 

【タカ!ガトリング!ベストマッチ!】

【Are you ready?】

 

「変身!」

 

【天空の暴れん坊!ホークガトリング!イェーイ!】

 

 

 付き添い兼惣万にぃのレストランカフェに極秘の用事があった戦兎がついてきたのだが、学園を出てすぐに仮面ライダーになって交戦が開始。

 

「あ、一夏?コレ渡しとく!」

「え?あちょっと?……。ナニコレ?」

 

 俺の方にドリルの付いた剣?を貸してきた。

 

「……それより、何?このエンカウント率。因幡野先生ってスマッシュホイホイ?」

「アレが、スマッシュ……」

 

 箒が眉をひそめながら、包帯でふさがれていない左目で四角い頭部を持った怪物を見る。

 被害を受けた箒も俺達と同じように知る権利がある。戦兎が事情を説明し、ファウストやナイトローグのことを知ることになった。

 

 アレも自分と同じように人体実験や奇妙な煙を受けた人間……いわば被害者。それを見て思う所がない人間では当然無いのだろう。弱々しく俺の手を握って来る。

 

『カメンライダービルド、ハッケン。ホカ、ミンカンジンニメイ……オソラクハキョウリョクシャ。ハイジョシマス』

「……ってうわぁ!なんかこっち来た!?」

「あ、そいつらは“ガーディアン”って言うらしくてさ、ファウストが所有するアンドロイドだ。舐めてかからない方が良いぞ?」

 

 無機質な声音で俺と箒の近くにやって来たロボット?が俺達に持っていたライフルを向ける。

 

「一夏!フルボトルを振れ!」

「え?お、おぅ?」

 

 ドラゴンフルボトルを手早く振ると、体から力が沸き立ってくる感覚が生まれる。そして、その勢いで振った手がガーディアンに当たる。すると……。

 

――――ドォッン!

 

「えぇ!?」

 

 箒が素っ頓狂な声を上げる。そして引かないでくれ、俺もびっくらこいたけどさ。パンチ一発でロボット壊しちゃったんだから。

 

「……何だよ、この力!これなら……楽勝!」

 

 そう調子に乗ったのが悪かったのかな……。

 

――――ザザザッ!

 

 目の前にさらに十数体のガーディアンが勢揃いした。

 

「……うそーん、増えやがったよ…」

 

 

 

戦兎side

 

 お、あっちなんか騒がしいな?ドリルクラッシャー貸してやってたけど使い方分かんない?

 …あ違うわ、何か口走ってフラグ立てたな。

 

「うわー大変そうだねー、ぷふっ!」

「畜生数の暴力かよ!つーか何で俺まで戦わなきゃいけないんだ?…ハァッ、だらっ!戦兎、ちょ…ッ、おぉい!」

 

 んん?何かほざいてやがる。

 

「忘れた?一夏、ボトルのアレ!」

「まだ根に持ってんのね!?それに関してはマジでゴメンってば!」

 

 うんうん、宜しい!っとそうそう、スマッシュはっと……。

 

「グルルルル…」

 

 え?うっそ!?あの四角い頭のスマッシュ、周囲の風景をキューブ状にしてこっちに投げてきた!

 

「うそーん……。もしかしてあのスマッシュ、空間を切断できるの?ってやばっ!?」

 

 ぬかった!超常現象に目を奪われてスマッシュから目ェ離しちゃった!

 

「ったく!しょうがねぇ天才科学者先生だなオイ!」

「はぁーっ!?しょうがねぇとか何様ぁ!?オレが追い詰められてんのは視線をお前に移したせいで、つまりはお前のせいだっ!」

「喧嘩は良いからちゃんと戦え二人ともッ!」

「「う、うぃっす…」」

 

 なんか箒ちゃんに頭上がんないんだけど…よし、切り替えよっ!一夏もそうしたみたいだし。む、あいつドラゴンフルボトルを振ってどうした?体を引き絞って…スマッシュにドリルクラッシャーを投げ…、ッ!あぁそういうこと!

 

「ほら使え!」

「サンキュー!うっひょー二丁拳銃だ!」

 

 ゲット回収大成功!それじゃ、前々から試してみたかった必殺技だ!

 

「出血大サービス!」

 

【……セブンティ!エイティ!ナインティ!ワンハンドレッド!フルバレット!】

【Ready go!ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

「……あれ?ちょっと待て、コレ射程圏内……俺も入ってうわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「あ、やべ」

「おぉいィィィィ!?言ったな!?今やらかした的な事言ったなァァァァァァァァ!?」

「い、一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

 

一夏side

 

「あー酷い目に遭った……」

「はは……お疲れさん、はいコーヒー」

「あんがと、惣万にぃ……うん、美味い。にしても……、nascitaの地下がこんなラボラトリに変身してるとはね……」

 

 因幡野先生に連れられて、俺らは昔懐かしいレストランカフェnascitaにやって来た。箒は改修した外見に少し驚いていたが、俺らが驚いたのはカフェがアニメに出てくるような秘密基地と化していた所だった。厨房の業務用冷蔵庫の一部がタッチパネルディスプレイに変化しパスワードを入力すると地下三階の巨大な空間に到着したのだから……。

 

 箒は物珍しさで周囲をきょろきょろ見ながらパネルやフィリップを弄ったりしている。

 

――――ボーンッ!

 

 鎮座する巨大な装置から爆発音が鳴る。思わず身をすくめた箒は猫みたいだった。ボトル浄化装置と呼ばれていた機械の取り出し口が開き、そこに一本のボトルが見える。そして飛びつくようにボトルをかすめ取る先生。

 

「おぉ!出来た出来た!コレは……マンガかな?」

 

 そして巨大な浄化槽の様な装置からポテポテ出てくる…――――箒が言うにはネットアイドルのクロエ。

 

「疲れました、バイト代貰ったら寝ますね……ん?何です、そんな“サンタは本当はいないんだよ”と聞かされた五歳児の様な顔をして」

「…うそぉ」

 

 ……あぁ、箒。ドンマイ。

 

「……もう少し夢を見たかった」

 

 五体投地でorzになっている箒。……なんかかわい(ry。末期だな俺。

 

(……にしてもこいつホントにネットアイドルなんだよな?アイドルって夢を振りまくのが仕事だろ?ファンの夢ぶっ壊してんだけど。この自堕落なちんちくりん……)

「ぁん?」

 

 ギロッ、と赤い視線を俺に向けてくるクロエ。

 

――――サッ!

 

(こっわ!?え、何で今分かったんだ!?千冬姉と同じ人種か!?)

「ねー一夏!マンガとベストマッチなの何かな?やっぱり海賊?一繋がりの財宝?……って反応しないか」

 

 こっちの気持ちも考えず戦兎は戦兎で会話進めてくるし。海賊とマンガのボトルをドライバーに挿し、何の反応もないのを見て落ち込んでやがる。

 

「おら一夏、なんかないのか?俺的にはスタンド的なフルボトルが良いと思うんだが」

「惣万にぃ…んなのあるのか?えーっと……忍者じゃね?」

「えー、なに?忍ばない忍び的な【ベストマッチ!】当たった!?うそーん……」

 

 ベストマッチの音声が流れると、何も書かれていなかったキャップ部分に「N/C」の文字が刻印される。へぇ、こうなるのか。

 

「つーか本当にベストマッチって何さ?」

「んー?まぁ理由は分からないけど、フルボトル二つの最も良い相性のことでフルボトルの能力を十二分に発揮できる組み合わせのことかな……。この機能はマスターが入手した壁にある装置の機能をそのままコピーしたモノなんだけどね?」

 

 そう言って壁の緑色の部分を指で指す。

 

「で、戦兎。ボトルの回収は良いんだが……本来の記憶の方はどう?そっちの方が重要だろ?」

「いやぁ……ま、時々ISの整備を手伝いながらいろんな人と情報交換とかしていて、オレの昔と思しきビルドの活躍とかまとめてくれるし……」

「へぇ……で、昔のこと、何か分かったのか?」

「それについては私が説明する」

 

 片手にタブレットを持ったIS学園の制服の女の子が……って。

 

「更識簪!?何でここにいるんだよ!?」

「それは知らない方が良いと思う……フフ…」

 

 眼鏡をきらりと光らせて彼女は言う。日本代表候補生ェ……。

 

「かんちゃ~ん?たっちゃんの真似でカッコつけてるところ悪いけど~。せんぴょんのお部屋でここのマッチ拾っただけだよね~?」

「ちょっと本音!」

 

 また増えた……。

 

「おいー!?戦兎この子にも正体ばらしたのおいー!?」

「ごめーん!でもこの子いい子なんだよ~!」

 

 頭を抱えて体を反らせる惣万にぃ。戦兎さんは両手を合わせてごめんなさいのポーズ。

 

「まぁ冷蔵庫の隠し扉空いてたんだけどね~」

 

 のほほんとした口調で爆弾発言を投下する。

 

「マスター!?」

「俺閉めたよ!?閉め……、閉め…?」

 

 途端に青い顔になる惣万にぃ。

 

「……ごめん閉めてなかった~!」

「マスタ~!?」

 

 何だこのコメディ……。

 

「と言うか、業務用冷蔵庫にパスワードを書いた紙が貼ってあるってセキュリティザルすぎ……秘密基地ならもっとちゃんとするべき」

「アッハイ、すいません」

 

 一回り年下のJKにマジレスされてる惣万にぃ。……なんか新鮮だわ。

 

「で、戦兎さんの過去だけど……」

 

 そして手元のタブレットを操作する更識簪。

 

「戦兎さんが仮面ライダーとして活動していた時期と、オルコットさんの仮面ライダーの目撃証言が食い違っていた」

「ほぅ?」

「でも戦兎さんはドライバーを石動惣万さん、貴方からもらったと言っていた……。コレはおかしい。…石動惣万さん、貴方はもしかして何か知っているんじゃないですか?…アニメとかじゃ、貴方みたいなのが黒幕だったりするんですが…」

「おいおい、流石にそりゃないだろ。惣万にぃが……」

「俺が……黒幕、ねぇ?」

 

 注目が惣万にぃに集まる。

 

「……おいおい、こんなイケてる悪役がいるわけないだろ?」

 

 パナマ帽のつばを触れながら面白そうにウインクする惣万にぃ。

 

「……そうだね、こんな情けない敵だったらすぐ倒せそうだし」

「おい戦兎、そりゃどー言う意味?温厚で通ってる俺も怒るぞ?いや、実際俺結構暗い過去持ってるからね?甘党の万事屋くらいにはかなりアレだと思う!」

「ひょっと、ひふんでネタにひてんひゃん!」

 

 戦兎さんのほっぺをつねりながら口元を引くつかせる惣万にぃ。いひゃいいひゃい‼と言いながらも楽しそうな戦兎さん。千冬姉……、ピンチだぞ。

 

(はーくしょいっ!?……風邪か?)

 

「で、何でここに来れたんだよ、更識さんよ?」

「……簪でお願い。お姉ちゃんと紛らわしい」

「あぁ……すまん、んで?」

「仮面ライダーの追っかけ」

「よし帰れ」

「ひーん( ;∀;)」

 

 簪を猫の様に首を吊り下げて外に出そうとする惣万にぃ。面白がってのほほんとした同級生……えーっと、布仏だったか?が『わーい』とか言いながら片側の手にぶら下がる。うん、保父さんだな、アレ。

 

「まぁそんなに仮面ライダーが好きなら仮面ライダー部でも作れば?顧問オレで!」

「うん、宇宙来たかな?」

「惣万にぃ、どうした?」

「……、早速部活申請書作ってお姉ちゃんの所に持っていく……!」(キラキラ)

 

 そう言って簪とのほほんはまた来ることを戦兎さんと約束して去って行った。確証ないけどこの分じゃ俺の知り合い全員ここに来るんじゃね……?

 

 

 

 

「戦兎さーん……、またスマッシュ情報が入りました~」

「はーい!んじゃマスターと一夏に箒ちゃん!行ってきます!」ビシッ!(‘’◇’’)ゞ

 

 夕方、またもや出現したスマッシュを追って戦兎さんは慌ただしくレストランカフェから駆け出していった。それを見て、今までの戦兎さんの行動が思い出される。

 

 今、隣で座っている箒のことを無償で救ったこと、ブラッドスタークとの取引で正義の在り方を俺に説いてくれたこと…。あぁ、まさしく戦兎さんは“正しい”を形容した人物だ。でも、その在り方は辛くないのだろうか?

 

「……なぁ惣万にぃ。何で戦兎さんはあんなに真っ直ぐ善人なんだろうな……記憶も無いのに、何でああも正しくあろうとできるんだ?」

 

 その言葉を聞いた惣万にぃは、少し表情を崩し、悲し気な顔になると、俺達にコーヒーを差し出す。俺と箒はそれを一口口に含む。今まで惣万にぃが淹れたコーヒーでも、苦みがとびきり強かった…。

 

「……あいつはただ……、不安なんだよ」

 

 首元にかけていたサングラスを手に取り弄ぶ惣万にぃ。

 

「不安?」

「そう、だから敢えて理想の人間を演じているんじゃないのか?あいつは俺達じゃ計り知れない孤独を抱えている……」

 

 孤独……。前に垣間見た戦兎さんの心の内……。

 

 

 

『……だって普通って……自分が一番薄れることだから。記憶がないオレじゃ……自分が自分で無くなる気がして、怖いんだよ……だからちょっとでも理想の自分でいたいじゃん』

 

 

 

「……」

「戦兎の奴……自分の記憶、取り戻せると良いな」

「……、そうだな、惣万にぃ」

 

 コーヒーを一口、ちびりと啜る。底にたまっていた砂糖が、ほんのりと甘い。

 

「ただいまー!」

「……、お帰り」

 

 ドアをけたたましく開け、店内に入って来る戦兎さん。惣万にぃが駆け寄り、背中を俺達の方へ向け押す。

 

「わわ、何々?」

「戦兎さん、お帰りなさい」

「お疲れさん」

「え、何?ホント何?」

「何でもねーよ、な?箒」

「ふふふ……うむ」

「えー、何だよー」

 

 俺達三人は、暖かな気持ちで迎えたのだった……。




 浄化したボトルが初めてベストマッチになった時、キャップにベストマッチマークが浮き出る独自設定をつけました。

 マスターの『戦兎の記憶が戻る』という願いが叶うと良いね(棒)


※2020/12/12
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第二十九話 『虚ろなアイデンティティー』

一夏「そういえば、戦兎さんの本職って科学者だよな?なんでそんな運動神経いいわけ?」
戦兎「む、失礼な!科学者は体が資本なところあるんだよ!徹夜でレポート読み込んだりとか、新機材を開発しなきゃとか、体力ないとやってられないって。運動神経が良くなったのは…あれだ、早朝のランニング?」
箒「あれ、意外に普通だった」
惣万「ついでに戦闘のイロハは俺がちょこっと教えた。柔道と空手、それと合気道の基本から随分と動けるようになったよなぁ…」
箒「惣万さん、一夏にシステマ教え込んでませんでした?」
一夏「どんだけ格闘技が身体に染み付いてんの…?」
惣万「んーと、まずカラリパヤットに、プンチャック・シラット、コマンドサンボ、ムエタイ、中華拳法からナイフ、銃剣術とかもやったな。母親からも幾つか手解きを受けた」
戦兎「一人異種格闘技状態だね、マスター…」


 一夏と箒、それと戦兎がレストランカフェnascitaに泊まり、翌朝。

 

「それで、だ。おい戦兎、くーたんネットの情報網から、幾らか怪しい廃棄された研究所を見つけた。……今日も行くのか?」

 

 石動惣万から、幾枚かの資料を受け取る戦兎。どうやらファウストのアジトの候補地をピックアップしたモノらしい。

 

「うん、オレの記憶を見つける手がかりなら!」

 

 軽やかな口調で答える彼女。だが、惣万の顔色は優れない。

 

「……。お前の知りたくない真実かもしれないぞ……」

「心配しないで、マスター」

 

 間髪入れずに、真面目な顔でその心配を切り捨てる。

 

「オレが恐れるのは、何も知らない自分だから」

 

 

 

 

 そんなこんなで正午。その廃棄された研究所の入り口までやって来た戦兎。そして…――――。

 

「いや、何で俺まで?」

「んー?だって暇そうにしていたし。万が一の場合があった場合、マスターと箒に連絡を入れてくれる人がいた方が良いだろ?」

 

 腕組みしながら眉間をおさえる一夏。無理矢理連れてこられて微妙に頬がひきつっている。まぁ当然である。仮面ライダービルド(ホークガトリングフォーム)の足に吊り下げられて三十分近い生身での空中散歩を敢行したのだから……。オツカーレ<パフパフ

 

「あ、そうそう!前一夏がオレが改造したIS使ったことあったでしょ?」

「あったね……で、何?」

「その時の一夏の大脳皮質のデータやらを取っておいてね……はいこれ」

 

――――ギャオォン!

 

「……っとぉ?何だコレ、ペットロボット?」

 

――――ギャーギャー!

 

「熱ぅッ、熱……っあっち!何だこいつ!」

「あれー?っかしーな。箒ちゃんには懐いてたのに…。まぁ説明すれば君のお助けメカ、クローズドラゴン!一夏の脳とシンクロして超・強力な攻撃を繰り出すことも可能だ!」

 

 一夏の頭に炎を噴き出しながら飛翔する青色の機械のドラゴン。それはかーっ、と口を開いて一夏を威嚇してくる。

 

「箒に懐いたのって……――――それ、俺の脳のコピーだからじゃ」

 

 そんなことをぼそりと一夏はこぼしたのだった……。

 

 

 

 

 そして歩を進めること数分……。

 

「……っ!ココだ……!オレが人体実験を受けていたのは!」

「ここが……」

 

 その廃棄された研究所の地下施設。周囲にはパイプラインが張り巡らされ、暖色の電球が気味悪く点滅している。そして施設の中心には空っぽになったガラスケース。その向こうには場違い感のある豪奢なソファ。混然一体となった場所だった。

 戦兎と一夏は何かめぼしい情報を得るためパソコンや冊子を閲覧するのだったが……。

 

「ん、何だこれ?……メモリ?」

 

 一夏が手に取ったメモリにはラベルが貼ってある。

 

「“PROJECT BUILD”……ビルド計画?」

 

 そのUSBメモリをパソコンに挿そうとした時だった。けたたましく警報が鳴り響く。

 

「!?……クッソ、まだ警備システムは生きてたのか!と、兎も角逃げるぞ!」

『シンニュウシャ、ハッケン!ハイジョシマス、ハイジョシマス』

 

 わらわらとガーディアンの影と足音が戦兎達の元へ向かってきた。

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ、ここって……ISの開発もしてたのか?」

 

 逃げ込んだ先の巨大な二階建ての倉庫、そこにはISのパッケージや装甲が転がっていた。ガーディアンが一階の部分で二人を探しているのを視界の端で眺めながら脱出経路を探していると……。

 

「……なぁ戦兎さん。ISってさ、中に人入ってるよな?」

「ん?当たり前じゃん?」

「んじゃアレ何?」

「?」

 

 戦兎が一夏の指さす方向に目を向けると……。

 

「あ、ISコア?それを核に、ガーディアンが集まって…?」

 

 フワフワ浮かんでいたコアに、ガーディアンたち数十体が集合、合体し二足歩行ロボットの様なISができあがる。それは正史のガーディアン(合体状態)がさらにマッシブになったモノだった。

 

「無人機?…――――つーか……」

「……でかっ」

 

 そう、一夏が言った通り、この無人機は従来のISの倍以上の体躯をしているのだ。そしてモノアイの視線を二階に向け……。

 

「「……あー、コレは……マズいな?」」

『シンニュウシャ、ハッケン。ハイジョシマス』

 

――――ズガガガガがガガッ‼

 

 薄暗い研究所に、火花が散る。

 

「「どわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」」

 

 ガトリングガンの弾の雨あられ。一夏は頭を下げ、戦兎は一夏の背を蹴飛ばし安全圏に避難させる。

 

「これのどこが“無限の成層圏(インフィニット・ストラトス)”だよ!こんなもんただの軍事兵器じゃねぇか!?」

 

 戦兎は愚痴のように吐き捨てると紫と青のフルボトルを手早く振り、ドライバーにセットする。

 

【忍者!タンク!】

【Are you ready?】

 

「変身!」

 

 軽快な音楽と共に前後から紫と青の装甲に挟み込まれ、紫色のマフラーがたなびく。仮面ライダービルドのトライアルフォーム(忍者タンク)である。

 

「コレ、ISとの初陣ってことになるんだよねぇ?クッソ、もうちょっと平和的な初陣が良かったよ!」

 

 そう言うとビルドは右目の視覚センサー『ライトアイタンク』で仮称ISガーディアンを観察する。ISのハイパーセンサー並みの弾道演算によってガーディアンの銃撃を予測し、さらに右目の『レフトアイニンニン』の暗視、敵内部機能のスキャニングで弱点を的確に分析していく。

 

「トライアルフォームといって舐めるなよ!はっ!」

 

 そしてドリルクラッシャーを取り出し、忍者サイドのアーマーの機動力でアクロバティックな動きで翻弄する。

 

「んじゃ、これだ!」

 

 ビルドはドリルクラッシャーに茶色のフルボトルを装填すると、ドリル部分が高速回転しだす。

 

【ボルテックブレイク!】

 

「ハァッ!」

 

 その声と共に突き出した剣先に剛腕状のエネルギーが浮かび上がり、ISのエネルギーシールド、そして絶対防御を作動させシールドエネルギーをゼロにする。

 その瞬間、けたたましい音と共にバラバラと集合していたガーディアンが吹き飛び、機能が完全停止。ビルドと一夏の足元には綺麗な結晶体が落ちてきた。

 

「え……は!?あっけな!?」

「いやぁ、運が良かった!このゴリラフルボトルの能力は低確率で即死攻撃が出せるんだよね……ぃよっし!ISコアゲット!」

 

 変身を解除し、持ち歩いているジップ〇ックの中に放り込む戦兎。

 

「あれ?どったの一夏?真っ白じゃん」

「……アンタが蹴っ飛ばした先が石灰の袋が積まれた場所だったんだよ」

「あ、ごめん……」

 

 戦兎達はガラスケースの在った部屋に戻ることにした。顔をふきながら一夏はISコアを眺める。

 

「それにしても……まさかファウストがISコアを持っているなんて」

「しかも使い捨てみたいな運用の仕方だったな……、っ!」

 

 

 

『だから言っただろ……篠ノ之束に気を付けろってな?』

 

 

 

 物陰から血のような色のゲームメーカーが現れた。

 

「スターク…っ!」

『覚えてくれて何よりだ……あ、出来ればナイトローグのこともちゃんと呼んであげてくんない?あいつの愚痴聞くの辛いんだが?』

 

 やれやれ、と両手を広げるスターク。だが戦兎はそんなことも気にせず、怒り交じりに質問をする。

 

「そんなことはどうでも良い……ここは、オレが人体実験を受けた場所だ……!ブラッドスターク!お前も何か知っているのか……!」

『あぁ……そうだな。教えといてやるか』

 

 ポン、と手を叩くと人を小馬鹿にした調子で説明を始める。

 

『お前だって分かっていたんじゃないか、セント・イナバノ……何故ライダーシステムが使えるのか。IS適性が高い人間さえ使えないライダーシステムを……IS適性がC未満のお前がいとも容易く使えたのを……』

 

 片手で階段の手すりを叩きながら戦兎達の所まで降りてくる。

 

『きっかけはお前が受けた人体実験だ。その時……お前には、パンドラボックス内の地球上には無い成分の気体……“ネビュラガス”を注入した』

 

 一夏と戦兎に人差し指を突きつける。

 

『お前たちはネビュラガスを注入してもスマッシュにならなかった珍しいサンプルケースだ。セント・イナバノがライダーシステムを使えるのも、イチカ・オリムラがフルボトルの能力で急激にパワーアップしたのも、全てはネビュラガスの影響……つまりお前たちは体内にネビュラガスが入ったスマッシュと同じ存在なんだよ』

 

 お前等は怪物と同じだよ、そうきっぱり言いきられた。

 

「オレが……スマッシュと同じだと……!?」

 

 今まで戦ってきた怪物『スマッシュ』たちが頭の中を駆け巡る。いいや、彼らは成分を抜き取ることで人間に戻った……では自分は?

 怪物に変化しなかった、つまり自分の中には今なお成分が入っている……。

 

 奇妙なガスマスクの人間たちに、拘束されたまま目の前のガラスケースに入れられた……。

 それを見るナイトローグのこびりつくが如き笑い声が何もない今の自分を苛む……。

 

 

「……そんなわけないだろぉぉぉ!」

「っ戦兎さん!?」

 

【ラビットタンク!】

 

 すぐさまブラッドスタークに攻撃を仕掛けるも、ひらりと身を翻し避けられる。

 

 

「ふざけんな!オレの記憶を返せ‼」

『おっと、記憶の核心に触れると見境を無くすのが欠点か……』

 

 乱暴にドリルクラッシャーを振り回すビルド。その様子が一夏には、いつもの理知的な様子と打って変わって恐怖と焦りに押し潰されてしまいそうに、頼りなく小さく見えた。

 

『どうした、お前は正義のヒーローなんだろう?……お前の正義と言うのは、そんなにも脆いものなのか!』

 

 首元のマフラーの様に配置されたパイプを掴まれ、顔や胸に出鱈目に攻撃をするビルドにスタークはしっ責する。

 

「うるっさい!オレを返せ!自分を返せ!記憶を元に戻せぇっ!」

「戦兎さん!?……落ち着いてくれ!」

 

 仲間内でもみ合いになる二人を静観し、ブラッドスタークは跳躍によってガラスケースを超え、かつてナイトローグが座っていた椅子に座り込む。

 

『ハザードレベル3.2だったのが3.7まで上昇した……ふん、正義の味方のパワーアップとしては……ハァ。なんとも情けない理由だな?』

 

 片手をプラプラと振って激昂したビルドを冷めた目で見る。

 

「離せっ、離せよっ!オレがスマッシュだとっ!違う!違うんだ!オレは!オレはなぁっ!」

 

 血を吐くような声で叫ぶ。自分が化け物呼ばわりされたことを否定するように叫ぶ。だが、自分を追ってくる孤独感、不安感からは逃れられない……。

 

 

 

「……………………誰なんだ…っ!」

 

 

 

 その場で力なくだらりと腕下げ、一夏の腕の中に縋り付く。

 

「なあ教えてくれよ、オレは誰だ……――――なぁ、一体誰だ!オレはどこの誰なんだよ!?」

 

 よろよろと情けなく一夏の袖を掴む。その様子は道しるべを見失った様な……、または迷子の子供の様で、天才科学者の孤独が剥き出しになった。

 

「……戦兎さん……、がぁっ!?」

 

 思わず手を伸ばそうとした一夏だったが、彼の首に細いチューブが突き刺さり、徐々に体を蝕む感覚が広がっていく。

 

「……っ!……い、一夏っ!?」

 

 目の前でスタークに毒牙を突き立てられたことで、ようやく正気に戻るビルド。

 

『あーぁ、可哀そうになぁ……、お前が怒りのままに動いたから、イチカ・オリムラは毒に侵された。コレのどこが正義のヒーローなんだろうなぁ?』

 

【ライフルモード!】

 

 スタークは片手でロケットのレリーフのフルボトルをスロットに装填して引き金を引く。

 

【フルボトル!スチームアタック!】

 

 弾道は猛烈な勢いで煙を噴き出しながら一直線にビルドに激突する。

 

「……うわぁぁぁぁっ!」

 

 一撃で変身が解除される戦兎。一夏の隣に倒れ込む。

 

「ぐぅ……!」

 

 それを見てスタークは……。

 

『そうだな……お前の正体を知るチャンスをやろう。まぁそうなった場合、お前は自分の生徒を見捨てることになるんだが』

 

 旧約聖書のイヴをそそのかす蛇の様に、その言葉は戦兎にとって毒の様に甘美な響きを持っていた。

 

「そんな……っ!だって……でも……」

 

 記憶喪失の女は、自分の『こうありたいと思う』正義と知りたかった過去との間で揺れ動く。だが、その足に、弱々しく……だが信念の強さを感じる手がかかる。

 

「……っ!?」

「……って、待ってくれ……戦兎さん……!」

 

 一夏だった。毒が身体中に回り、頬や手が黒ずんでいてもその目はしっかり戦兎を見据える。

 

―ギャオン!―

 

 そこにやって来た青い身体の小さなドラゴン。彼(?)は一夏の首筋に噛み付くと……。

 

「!……クローズドラゴンが解毒している?AIが成長したのか……?」

 

 顔色が良くなった一夏は荒い息遣いながらも言葉を投げかける。

 

「アンタ、前俺にさ……見返りを期待したらそれは何だ、っつったっけ……?」

 

 ハッとした。彼に告げた自分の言葉が今度は自分に戻って来る。

 

 

――――……見返りを期待したら、それは正義とは言わねぇぞ

 

 

「今のアンタはどうなんだよ……っ!アンタは自分の記憶と人助けのビルド……どっちが大切なんだよ……っ!」

 

 

 考えるまでのなかった。その選択が、因幡野戦兎としてのアイデンティティーであったから。

 

「………………最悪だ。オレが生徒から教えられることになるなんてな」

 

 

 

 

「……決まってんだろ。ビルドだよ」

 

 

 パチパチパチパチ!と祝福の拍手が鳴り響く。

 

『お見事!それでこそ仮面ライダーだ!その成長に免じて、そのメモリはくれてやる!』

「コレのことか……?」

 

 心底喜ばしいと言ったふうに手を叩くブラッドスタークは、トランスチームガンから煙を噴き出し、一体のプレス機の様な外見のスマッシュを呼び出した。

 

「……またスマッシュか……」

『あぁそうだ……あ、ついでにこのスマッシュになった人間、教えてやろうか?ヒントは……』

 

 片手を口元に持って来て、一夏にとって聞きなれた昔馴染みの声を発する。

 

『「一夏ぁ!酢豚食べなさいよ、酢豚ぁ!」……分かったか?』

「なっ……!」

 

 その言葉に一夏の顔色が悪くなる。

 

 

 

 数時間前……IS学園にて。ラクロスの道具を持って寮に向かおうとしていたツインテールの少女の前に奇妙なパワードスーツの人物が立ちふさがっていた。

 

『……っ?アンタ何者……?』

『いずれ分かるさ……ファン・リンイン』

 

【デビルスチーム!】

 

『う、わぁぁっ!?』

 

 

 

 

「……鈴、だと……!?」

「っ、お前等はまた……!それで人が死んでもいいって言うのか!?ふざけんなよ‼」

 

 その非道な行いに絶句し、激怒する二人。その感情を受け、スタークも申し訳なさそうに肩をすくめる。

 

『ふざけちゃいない……それにイチカ・オリムラ、俺さ、前も言っただろ……俺は人の命を弄びたくないんだ、分かったら助けてやりな……んじゃ、Ciao!』

 

 赤い蛇は、頭のセントラルスタークから出した白煙で身を隠すと、その場から忽然と消えたのだった。

 

「あいつ……っ、また逃げやがった……!」

「そんなこと良いから……まずは目の前のスマッシュを助けないとな。人助けの正義のヒーロー、ビルドとして!」

 

 両手に新たにベストマッチとなったボトルを持ち、数式を実体化させドライバーに装填する。

 

【忍者!コミック!ベストマッチ!】

 

 ベルトの前方にN/Cのマークが浮かび上がる。戦兎はそれを満足げに見るとボルテックレバーを回転させ、成分を活性化させてスナップライドビルダーを展開。その中を紫と黄色の物質が充填される。

 

【Are you ready?】

 

「変身!」

 

 紫のマフラーがたなびき、そして変身が完了する。

 

【忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!イェーイ!】

 

「勝利の法則は、決まった!」

「■■■■■■■■‼」

 

 プレススマッシュが飛びかかって来ると、ビルドは軽やかなジャンプで避け、ベルトから変身時とは違う形のライドビルダーを展開し、それを手に取る。

 

「さてさて、試してみたかったんだよね!オレの新発明品、その名も4コマ忍法刀!」

 

【分身の術!】

 

 その音声と共に、四人の分身が出現した。

 

「ホラ行くぞ、オレ!」

「りょーかい、あ、本体のオレ、タイミングは任せるよ」

「いいから早く拘束してくれよ!?」

「「「「はーい!」」」」

 

 そう言うと四体の分身は跳び蹴りや忍法刀でダメージを与えて行く。『ステルスラッシュレッグ』と『エンターテイナーレッグ』の奇妙で隠密性の高い素早い挙動でスマッシュを翻弄している所に、本体のビルドはハンドルレバーを回転させ始める。

 

「そろそろ……今!」

 

【火遁の術!】

 

 その音声と共に、分身たちは炎を纏いだし、4コマ忍法刀を素早く振り抜く。

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

 炎に包まれた分身が交互に連続攻撃を加えている所に紫色のエネルギー状の巨大手裏剣を撃ち込む本体。

 

 そして、爆散。周囲は光に包まれる。

 

「実験成功!さて……」

 

 プレススマッシュは倒れ、緑色の爆炎を上げていた。すかさず成分を採取するビルド。

 

「鈴!」

 

 気を失い、地面に転がる鈴に駆け寄る一夏。それを見てビルドは変身を解除する。

 

「……。スタークが言っていたネビュラガス……、パンドラボックス。それに……」

 

 手元にあるメモリに目を落とす。

 

「プロジェクト・ビルド……」

 

 呟くと、戦兎はUSBを握りしめる。このメモリの情報が、新たなカギとなることを感じて……。

 

 

「取り敢えず鈴をnascitaまで運ぶぞ……って軽いな……ちゃんと飯食ってんのか?」

「い~ち~か~くぅん?レディに体重のこと言うのはご法度だよぉ……?」

「……こいつが?レディ?……ちんちくりんじゃ……へびゅ!?」

「うっそ寝てるのに反応した?」

 

――――ギャオン……

 

 やれやれ、とでも言うかの様にクローズドラゴンは細く青白い炎を噴き出すのだった……。

 




 前回よりさらに長いですね……。そして登場のニンニンコミックフォーム。カッコイイのですがその機能は……何ですか肩アーマーの製本機能とか左手の思い通りに絵が描ける機能とか。左利きじゃないと使えませんよ……。

※2020/12/12
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第三十話 『リーダーとなる姉妹』

簪「…このシステムの、あコレ使える。それに戦兎さんが考えてたこのプランが、…最上さんからもらったデータと合体させればもしかして…」
戦兎「へーい簪ちゃん進んでるー?これ先日言ってた部活創部の書類なんだけどー」
簪「あ、ありがとうございます…。部室が実験棟の用具室って…もうちょっと場所なかったんですか…」
戦兎「えー、別にロッカーとかを四次元空間的に広げれば良くない?若しくは空間を繋げて月面基地を部室にしちゃうとか?」
簪「IS学園にオーパーツ造らないで…」


「で、これが例のブツです」

 

 山田先生と織斑先生にきらりと輝くクリスタルを手渡す因幡野戦兎。

 

「……そうか。感謝する因幡野先生。山田君、解析を」

「は、はい!」

 

 ビルドとして交戦した未確認のISガーディアン。それから入手した貴重なコアだ。学園の千冬に連絡を取った戦兎は即座に解析にまわすことを提案、千冬もそれと同意見だった。

 

「あ、それと。ファウストのブラッドスタークが『篠ノ之束に気を付けろ』、とか言ってたっけな?…――――何か知ってたりする、織斑先生?」

 

 予想していたのか、千冬は苦々し気に、だがそこまで狼狽えるわけでもなく吐き捨てる。

 

「…、いいや、束とは連絡がつかない。そんなことを言われても分からないな」

 

 ふーん、と興味無さそうに視線を泳がせる戦兎は、トレンチコートの襟を正す。

 

「そう、残念。んじゃ、結果が出たら教えてくれよ?オレも一口噛んでるんだから。じゃ、See you!」

 

 足早に学園の地下施設から立ち去っていく天才科学者。その後ろ姿を見送り、千冬は世界を騒がせる天災の友人のことを考える。

 

 

 

「“篠ノ之束に気を付けろ”、か……。……お前はこの世界で一体何をしようとしているんだ……――――束?」

 

 

 

 

一夏side

 

――――ギャオン!

 

「おりむーおはよ~、それに可愛いロボットさんだね~」

「んお……布仏本音さん……だったか?前も思ったが、そのおりむーってのはあだ名か?織斑は三人だぞ?」

「ん~?そだね~……でもおりむーはおりむーがしっくりくる~」

「あぁ、そうかよ…」

 

 そんな一言で新たな一週間が始まった。あぁ、そう言えば俺にとっては喜ばしい出来事があった。週が明けて、クラスを空けていた俺の幼馴染が戻ってきたのだ。俺はしょっちゅう会っていたが、生徒たちの目の前に出るのは久しぶりだ。

 

 だが、箒の外見を見て、クラスメイトの空気は重くなる……。右目を覆うように包帯が巻かれ、左手の甲は火傷が酷かったせいで包帯を巻いたうえで手袋をはめていた。

 

「……では、今日から篠ノ之さんがクラスに戻ってくることになりました」

「今日から復学することになった、今後ともよろしくお願いする。……見舞いの品を持って来てくれた皆には感謝の言葉もない。本当にありがとう」

 

 しかし、その空気を払拭するように優しく、心配してくれた人たちに気遣いを見せる箒を見て、クラスメイトの中を漂っていた嫌な空気は解されていった……。

 

「こうなってしまったが……、私にはいつも通り接してくれると助かる。…………あ、でも一夏との関係は聞くなよ?お察しください」

 

 その後、箒はクラスメイトの黄色い歓声と千冬姉からのありがたいお説教(物理)を頂いていた。

 

 俺?俺はその時の箒の照れ顔→涙目の顔の流れが可愛かったのでクローズドラゴンの脳内メモリに保存して云々「何馬鹿なことを考えているこの愚弟ッ‼」へぶぁ!?

 

 

 

 放課後になった。廊下は人で埋まり、もう少し時間が経ってから移動する方がよさそうだな……。

 

「うーんうーん……あ、一夏君と箒さん…。…ついでにオルコットさん。ちょっといい……?」

「ん?人混みの中から手が……ってどうした簪さん」

 

 見知った顔が人混みに紛れてぴょこぴょこ覗く。

 

「おぉ、カフェ以来だな?」

「あぁ、昨日仰っていた部活の件ですわね?」

 

 オルコット?昨日言っていたこと、だと?簪さんは俺達に紙切れを堂々と見せてくる。……えーっと何々?

 

「うん、仮面ライダー部の活動許可証を生徒会に出しに行くところなんだけど(フンス)」

「「……え。アレマジだったのか?」」

 

 思わず箒とハモってしまった。……うわマジだ。顧問に戦兎さんの名前が書かれてハンコ押されてら。

 

「……お待ちになってください。確か部活動設立の最低人数は五名だったのでは?わたくし、一夏さん、箒さん、簪さん……足りませんわよ」

「そう、だからあと一人なの。誰か仮面ライダー部に入ってくれそうな人、知らない?最悪同好会スタートになるけど……」

「するのは確定かよ……」

 

 彼女の行動力に頭痛がして来た……。まぁ良いんだけどね、ちょっと楽しそうだし。

 

「……――――すみません、わたくしには心当たりが……おや?お二方は、何か意味ありげな顔をして」

 

 ……そういやいたな。突然仮面ライダーの事件に巻き込まれた知り合いが……。

 

 

「鈴……ちょっと頼みがあんだけど『良いわよ』早いなオイ!?」

「いや、一夏の頼みだし。で、何?トレーニング?それとも酢豚奢れ?」

「違ぇよ……、ちょっとこっち来い」

 

 空き教室に箒とオルコットと共に移動した俺達。

 

「お前さ、休みの日変な人間に襲われただろ」

「……、っそうね……。あっという間の出来事で大して覚えていないけど」

「どうもあいつは俺の周りにいる人間をターゲットにしているらしい……現にこうして襲われちまったからなぁ……」

「ちょっと待って、アンタ何抱えてるの?もしかして第二回モンド・グロッソの時のことと関係あるの?」

「……踏み込みたくないなら話を聞かなくていいが『冗談!バッチ来いよ!』っとに早いな決断!?」

 

――――にょきっ!

 

「んじゃここにサイン……」

「うわっ!?にゅいッと出てこないで‼……ってアンタ確か、更識簪ね?よろしく、アタシは凰鈴音よ。鈴って呼んで欲しいわ」

「……更識簪。簪でお願い」

 

 毎回簪氏の登場の仕方、びっくりするよな……。因みに今回は机の下から出てきた。

 

「で、サインね……って何この名簿!?ISを初めて動かした男子に日本とイギリスの代表候補生に剣術大会日本一!?すんごいネームバリューなんだけど!?」

「「「「いや、アンタが言うな」」」ですわ」

 

 満場一致のツッコミである。

 

「それで…この仮面ライダー部?仮面ライダーってアレ?最近日本で都市伝説になってるバイク乗りのヒーロー…、ッ!もしかしてあのパワードスーツの奴と関係があるの?」

「あぁ、多分あいつは仮面ライダーの……んで俺達の明確な敵だ。ならなるべく敵のことを知っておいた方が良いだろ?」

「……分かったわ。どっちにしろ入るつもりだったしね」

 

 はいサイン、と達筆でしたためる鈴。

 

「さて……じゃ、五人集まったな。部長は……多分簪さんだろ。じゃ、生徒会室に持ってってくれ」

 

 因みにIS学園では部活設立の時、部長となる人物が部活申請書を出すことになっている。

 

「よろしく頼む」

「お願いいたしますわ」

「よろしく~……ってどうしたの、顔色が悪いのと違う?」

 

 ?……確かに鈴が言ったように顔が青白いな……。

 

「……いや、ちょっと仮面ライダー部設立の嬉しさとお姉ちゃんに『役立たずでいてね( ̄▽ ̄)』って言われた事に対するトラウマとのジレンマで反吐もどしそうに……ゥエップ」

 

 口からキラキラしたモノ吐き出した簪氏。

 

「おぉい!?ちょっと待て今すんごいこと暴露しなかったか!?姉妹仲ガバガバじゃねぇか!?取り敢えず保健室行け!?」

「エチケット袋いるか?」

「メーディックッ‼どちらにおりますか!」

「何言ってんのよアンタ……」

「……失礼、昔の癖で」

 

 毎回思うがIS学園の生徒のノリって分からんわ……。

 

「でもちゃんと行かないと……私の素敵なアフタースクールライフフフフフ……」

「脂汗出てますわよ?」

「あぁもうっ‼俺達も一緒に行くぞ!いいな?お前等‼」

 

 

 で、生徒会室。

 

「は~いあら、一夏君に箒ちゃん?それにオルコットさんに鈴ちゃん……、に……」

「……、どどどうももも……、ぶかっ、部活申請書をだだ出しニ来ま死た」

「あ、ぁああははいぃ……」

 

 駄目だこいつら。会長は顔面蒼白で白目剝いてるし簪どんは蕁麻疹でてるし……。

 

「……つかぬことを聞くが、どうしてこうもお互いを嫌っているのだ?」

 

 箒ナイス!

 

「えぇっと……それは……」

 

 言い淀む生徒会長と表情が曇るその妹。

 

「……嫌ってる訳じゃない。私はただ苦手意識があるだけ……」

「何が原因ですの?」

 

 オルコットがさらに切り込み、簪さんの重い口を開かせる。

 

「貴女は無能なままでいなさい、と言われた……」

「「「……、会長」」」

 

 

 

 

「見損ないました」

「先輩最低です」

「あらあらウフフ……」ガチャン

 

 女子三名からの容赦ない罵倒。うん?二人だって?オルコット片手でライフル構えてるから。

 

「待って待って!?ゴメンって!これには訳があるの‼あの時は私もテンパって変なテンションになってて自分でもどうかな?なこと言っちゃったのよぉ‼」

「あー……、取り敢えず生徒会長、詳しい経緯を話してくれません?じゃないとアタシら判断がつきませんので」

 

 

 

 

 

「かくかくしかじか!」

 

 少女説明中……――――。

 

「まるまるうまうま……」

 

 

 

 

 

「………………、つまり妹に負担をかけない様に自分が全てをする、自分が妹を守る……という決意表明がお互いにねじ曲がって今に至る、と……。鈴。お前から一言」

「あんたらバカじゃないの?不器用過ぎるのと違う?」

「「グハァ!?」」

 

 血反吐を吐く二人。だがお二人さん、アンタらのソレケチャップだろ……。

 

「原材料100%にこだわってるわよ!」

「うるせぇ知るか……んじゃ俺らはこの辺でお暇します」

「えぇっ!?この状態で帰るの!?助けてくれないの!?」

 

 姉は情けない声を上げ、妹の方は顔文字の((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル←みたいなことになってる。

 

「……もうダイジョブでしょ?第三者が介入して話を整理してお互いの真意を知れたんですし」

「仲直りしろ、だなんて言いませんが。数年の確執にひとまずのピリオドをうつのがよろしいかと」

「……不器用でも良い姉がいるんだ、大切にしろよ。簪」

 

 三人の温かい言葉を聞いて、更識姉妹は互いの事を恥ずかしそうに見つめ合う……。ん、何だお前等?俺も何か言えってか?

 

――――こくこく

 

「あー……、俺も姉がいるけどさ。生徒会長は千冬姉と似てるよ。自分の事をほっぽリ出して、頑張って頑張って……それで時に空回りしちゃうタチなんだろ」

 

 そう……下にいる俺達に完璧であろうとし続けたところなんてそのまんま……。

 

「あぁ付け足すなら、千冬姉は外っ面は良いけど料理に掃除に洗濯に……ダメダメな部分は滅茶苦茶あるしな。完璧である必要はないんだと思う。だからそれをさりげなくフォローしてやるのが妹、弟の役目なんじゃねーかな?」

 

 

 

「ほぅ、人生経験が未熟な割に良いことを言うな、織斑…………――――誰が私生活がだらしないって?」

 

 

 

 んっ?何か俺を見る生徒会室の面々の顔が真っ青に……。いや違う。何で俺の後ろを見て……。

 

――――ガラリ

 

 

 

 

「んぇ、ぎぉ、ぐぶ……あ゛ぁァァァァァァぁぁぁぁぁッ!?」

「「「「「……――――ご愁傷様です……」」」」」

「オイ小娘共、何無関係な顔をしている……」

「「「「「え?」」」」」

 

 

 その日の夕方、生徒会室から絹を裂くようなこの世の終わりの様な悲鳴が響いた……。それは後にIS学園七不思議に数えられることになるとかならないとか。

 




 なんか……、チッピーに続きたっちゃん、かんちゃんまでネタキャラと化してきた様な……。そして……、またチッピーオチ……。

※2020/12/13
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第三十一話 『混乱のクラスマッチ』

箒「前回の部活申請によって更識簪と楯無の姉妹仲が修復された。いや、想定よりも早いな…――――具体的に言えば小説5巻分ほど」
一夏「おぉう、メタいなお前……」
簪「…はぁ…、仲良くなったのは良いんだけど、うちの姉さん反動でかベタベタし過ぎる…はっきり言って気持ち悪い…」
一夏「きっぱり言うなお前ェ…。同性の兄弟とか姉妹とかってそんな感じじゃねぇの?」
箒「ウチもそんな感じだが、実際やられてみろ気持ち悪いぞ」
簪「…むしろ同性だから粗が見えるし…、普通仲が良くても不干渉気味だと思う…」
箒「甘く優しくされることが仲がいいとは断じてないしな…、な い し な ぁ !(ガチギレ)」
簪「そうだそうだー」
一夏「…、俺んち別性だから分からんな…、弾のとこは……――――蘭が強かったなぁ。家族ヒエラルキーで妹ポジションって強いんだなぁ」


「んで、クラスリーグマッチになった訳だが。……鈴、体大丈夫か?スタークにやられた後遺症とか…」

「全然問題無いわ!……――――と言うか因幡野先生から説明を受けたけど一夏の誘拐事件の犯人が何でアタシなんかを……」

「さぁな、ファウストの連中の考えていることなんてサッパリ分からん。だから惣万にぃとかが極秘で情報収集をしているらしいんだけど、手掛かりはなしだ」

「ホント驚いたわよ……。休みの日、目が覚めたらIS整備室も真っ青な基地に因幡野先生と一緒に見知った顔がいて?そんでもってあの店が秘密基地になってるなんてどんなSFよ!」

「ISも既にSFの域に入ってると思うけどな……」

 

 クラスリーグマッチ当日、ピット入りする前の鈴と他愛ない会話をする一夏。

 

「さて……まぁ鈴の勝利は見えてるとは言え……問題は簪との専用機勝負だな……」

「そうね、確かスピード特化型でミサイルポッドが搭載されてるんだっけ?」

 

 最早一夏や鈴に欠片も影響を与えていない節無。彼に対する扱いがその対応にも表れている。

 

「……って言うかさぁ。スイーツ無料券が優勝賞品って盛り下がるわよねぇ、だったら有料でもnascitaのブドウパフェとか買った方が絶対に良いって」

「そうだな……、このイベントが終わったら箒とオルコットさんと簪氏誘って食べに行くか」

「お。奢り?」(キュピーン)

「お前ね、“金払って良い”宣言したのに掌返し早すぎない?いつからそんながめつくなった?親友として不安だよ……」

 

 

 

 

 

 そしてようやく試合開始時刻となる。生徒や各国のIS関係者がアリーナを見守る中……。

 

「…遅かったね。待ってたのに」

「あっそ、勝手に待ってれば?別になれあうつもりは無いの」

 

 激情を抑え込んだ声で話す節無と、冷静な目で相手を観察する鈴音。彼女の目に映っていたのは失望とも言える諦観と、少しの侮蔑。どうやら、節無の心に彼女の忠告は響いていなかったようだ。

 しかし、淀んだ彼の目をこの世で最も真っ直ぐ見ていた少女であっても、彼の心の奥底の危険性までは見通せていなかった。

 やがて、試合開始のブザーが鳴り響く。

 

「ハァ……んじゃサクッと終わらせますか」

 

 先手必勝、とでも言うふうに瞬間加速した鈴音は、巨大な青龍刀『双天牙月』を新体操のバトンの様に軽々と振るう。

 開始直後の一撃を避けた節無だったが、徐々に押され始めてきた。

 

「うぅ…ッ!流石は代表候補生って言うこと…?」

「舐めんじゃないわよ。一夏に比べてアンタは体の動かし方とか、剣の振るい方に無駄があんのよ、だから読みやすいワケ!」

「(嘘だ。鈴は『ママ』じゃないから僕を虐めるんだ。卑怯者だから僕を貶すんだ、『ママ』はきっと見ていてくれている。いつか僕が正しいって言ってくれる。だから頑張らないと)なら……!」

 

 地面に着地した一秋は、地面に雪片弐型を突き立て、濛々と土煙を上げる。

 

「……成程、『龍咆』対策として土煙を巻き上げて衝撃を視覚化させるつもりね?」

 

 その意図を察すると、鈴音は手に持っていた武装をブーメランの様に回転させ相手のいるであろう場所へ投げつける。それをハイパーセンサーと視認で防ぐ節無。

 

「作戦としては間違ってないんですけどねー……残念でしたっと!」

 

 だが、衝撃砲ではなく生身での追撃には予想ができなかったらしく、IS『甲龍』の拳が白式の腹部に突き刺さる。

 

「がぁ!?…殴って来るの!?」

「アレ、知らない?アタシね……口も頭も回るし、そこそこ腕が経つのよ、ねっ!」

 

 彼女は右手を幾らか下げ、左手を斜め上に構え両手首の力を抜く。

 

「ほぉぉぉぉ………………ッわたぁあッ‼」

「ぅう……わぁぁぁぁぁッ!?」

 

 そして怪鳥音を口から漏らしながら、強烈な跳び蹴りを放つ鈴音。IS『甲龍』の瞬間加速も相まって、彼女自体が一つの砲弾の様な軌道を描きながら一直線に節無を吹き飛ばした。

 

 

 

 

「あれは……――――拳法?」

 

 アリーナで箒が呟く。

 

「あぁ、星心大輪拳か、初っ端からエグいな……鈴」

「いったいなんですの、その格闘術は?中国のハッキョクケン、と似たようなものですか?」

 

 システマを中学生の時特訓していた一夏にとって、鈴音との実戦練習は苦い思い出である。その為、彼女の使う拳法の強さはその身が一番よく分かっていた。

 

「そうだな……八極拳とは違うが、鈴が好んで使う拳法の一つだ。その星心大輪拳は詠春拳を基本としているからか截拳道とその在り方が似ている。その破壊力は至近距離で大砲をぶっ放す、的な戦い方の八極拳と互角で、遠距離での攻撃にも対処が可能とか聞いたぞ。あれと対等に戦えたのは惣万にぃのカラリパヤットだけだったし」

「え?千冬さんは…?」

「始めは若干押されてた」

「嘘だろう!?」

「ま、不利を悟った途端我流の喧嘩殺法に移行して鈴を()したんだがな。つまり……今の鈴に近づいても距離をとっても節無に勝ちはほぼ無いってこった。ざまぁねぇな」

 

 

 

 

「こんなバカな!僕が、こんなところで……っ!?なんて酷いんだ……ッ‼」

「分かってないわねー」

 

 吹き飛ばされた節無の世迷言を鼻で笑う鈴音。そして一転、真剣な表情になると右の親指で自分の鼻の頭を擦り……。

 

「アンタの定めは……アタシが決める」

 

 そう言って彼女が決着をつけようとした時だった…………。

 

 

 

【Bat…B-Bat…Fire!】

 

―ドッガァァァァァァン‼―

 

 ある一部の人間には聞きなれた電子音が鳴り、壁を壊し、一人のパワードスーツの怪人と……漆黒の正体不明のISが現れた。

 

 

「……!」

「ナイトローグ、です!それに……――――正体不明機?」

 

 別室で試合の様子を見ていた山田真耶や織斑千冬は警戒の段階を最大限に引き上げ……。

 

 

「……っ!また君か…!」

 

 以前煮え湯を飲まされた節無は怒りに顔を染め……。

 

 

 

「……――――、ッ!」

「……大丈夫だ、箒」

「こちらには来ませんわ……だから落ち着いてください?」

 

 アリーナ席にいた二人は不安に顔を歪める箒の両手を優しく握った……。

 

 

 そんな周囲の様子は気にせずナイトローグはコウモリの翼を広げ、恭しく一礼する。

 

『ぬるま湯に浸った思い上がりも甚だしい諸君、ご機嫌は如何かな?私はナイトローグ。秘密結社“ファウスト”の幹部が一人にして、世界から拒絶されし命持つ者だ。諸君らは“ファウスト”という結社はご存じないかと思われる。まぁ、テロリストと思って頂ければ重畳だ。ではその証明として……』

 

 するとスクリーンに各国のIS会社の様子が次々に映し出される。アメリカ、イタリア、インド…――――様々なIS有名企業だった。

 

――――パチン。

 

 ナイトローグは一つフィンガースナップ。その直後、突如映像が閃光と爆炎、黒煙に包まれる。

 会社や工場、研究所が倒壊する。それを見て慌てたのはクラスリーグマッチに出席していたIS開発の技術者や要人たち。思わず彼らの顔が青くなる。

 

『各国の大手IS工場に我々ファウストのガーディアン達や協力関係の組織のISを送り込んだ。予想では……全世界でのIS破壊、及び強奪被害は四割で留まる程度だろうがな?』

 

 今回の様なクラス代表戦ともなって来れば、各国は貴重な人材を探す良い機会になっている。さらに言えば対立する国の軍事力を調査もできる……という二重の意味で戦力調査の場となっているのだ。つまり、今IS学園には各国の要人が勢揃いしているということ。そこに全世界にテロリスト宣言する人物が現れるとは、つまり……。

 

『我々は、全世界に宣戦布告する。この歪で下らない世界に改変を。秩序ある新世界の創造を』

 

 ここに、世界と敵対する悪の組織が姿を現した。

 

 

 

 

「!?千冬姉、どうなってんだこの状況!それと避難誘導を始めてるが、どのエリアを通らせればいい!」

 

 ファウストの宣戦布告によってアリーナ内はパニックに陥った。一夏は姉に連絡を取る。

 

『そうだな、ナイトローグが一機の所属不明機を引き連れてアリーナを強襲……IS委員会のメンバーがやってきているのがファウストに漏れていたらしい。恐らくは戦力誇示の意味合いがあるのだろう……。アリーナのシールドの遮断レベルは4になり、一つの扉以外はロックがかかっている………………が』

 

 サルでも分かる問題だ。

 

「どう考えても罠、か……。だけど、生徒達は……」

 

 泣き喚き、冷静さを失い、出口に殺到する女子たち。今だ精神的に成長途中の女子たちに冷静に行動しろと言うのは酷な話だ。そして、一人が引き起こしたヒステリーは伝染していき、パニックになる。

 

『……一夏。頼みがある。扉の付近にいる因幡野先生と合流して護衛につけ。そしてオルコットは我々と合流、いざとなれば交戦に入ることになる……――――』

 

 そして最後に一言、本当に申し訳なさそうにぽつりと付け足す。

 

『……すまない』

「気にすんな、信じてくれた分くらいの期待には応えるさ……。んじゃ、行くぞ箒、オルコットさん」

「えぇ、一夏さんも頑張って下さいな」

 

 

 

 

 一方のアリーナ内……。

 

 

『さぁ見せてくれ、代表候補生の力を……そして見るが良い、我々が改造した第四世代機の暴力を……それでは、ラン・ゴタンダ。そしてデュノア社製第四世代IS“ランスロット”……いいや、“バーサーカーⅣ”。出ろ』

『Aaaaaaaaaaaaaaa………………………………AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

「…は?ゴタンダ…、五反田蘭っつった!?」

 

 その名に、鈴は聞き覚えがあった。

 

 中学校で一夏らと共に毎日を過ごすうち、友好関係を築いた少女の名だった。定食屋の娘ということで、話があったのをよく覚えている。何というか、一夏に抱く思いといいよく似ていたため、親身になって接した後輩だった。こんな自分だがよく慕ってくれ、優しいよくできた娘だった。

 

 だが、今はどうだ。そんな彼女からは穏やかな笑顔さえ感じられない。体から黒い煙を噴き出している正体不明機は、獣の様な咆哮を上げると、空中を弾丸の様な速さで跳躍し、赤い葉脈状のラインが浮き出たガトリング砲を乱射する。

 

「うわっ!」

「クッ!」

 

 一方で、雨の様に降り注ぐ弾を避けながら一秋はこれまでにない程激昂していた。

 

(世界って酷いな……。僕は『ママ』のことを誰よりも思ってきたのに、みんなみんな僕を虐げる。僕は善良な力のない守られるべき人間なのに。これ程無害で正直で嘘をつかずに生きてきたのに、皆が僕をダメだって断じる。僕は間違ってない、間違っているのは世界の方だ…――――‼)

 

 激しい音を立てて着地するバーサーカーⅣと呼ばれたIS。瞳に当たる部分の真一文字に赤く光るアイラインが二人を睥睨する。

 

「……っこんな!こんなことしてお前はァァァァ‼」

「ちょっと馬鹿!あれは、人乗ってんのよ!?」

『Aaa?……Aaaaaaaaaaaaaaaa!』

 

 ピクリ、と気が付いたバーサーカーⅣは、片手で持っていたガトリングを無造作に振るった。

 それが寸分違わず雪片弐型を受け止める。漆黒の騎士はその刀身をもぎ取るように奪った。

 

「っ!返せよこの化け物‼」

「………………」

 

 抗議の声を上げる節無だが、バーサーカーⅣは無言のまま。むしろ彼を嘲笑うかのように雪片弐型を二、三度振り回すと……徐々に純白の剣がどす黒くなり、禍々しい赤い血管が脈動する。

 

「嘘?雪片弐型をアンロックしたの……!?」

『UAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa‼』

「うわぁっ!?」

 

 斬りかかって来る正体不明のIS。その刀身から血の様に赤い光が放たれ出し、鈴音の甲龍のシールドエネルギーを大幅に削った。

 

「そんな……!単一仕様能力まで使えるって事!?」

「しかも……消費されるシールドエネルギーは白式から…っ!?何を、してるんだよぉぉぉぉ‼」

 

 アリーナ席も騒がしくなってきた。焦りに焦るアリーナ中の要人。それを脇目で見ながらナイトローグは小馬鹿にしたように嗤う。

 

『これは余興だよ、諸君?こんな玩具で狼狽えるのか?取るに足りんな……実に取るに足りないとも‼……んん?』

 

――――ドガン‼ドォン‼ドガガガガガン‼

 

 

 炸裂する無数の弾幕。爆発音。翻って宙を舞う漆黒の凶戦士の目の前に、IS学園の助っ人がやって来た。

 

 

「はぁい!おねーさん、登場~!」

 

 水のヴェールを纏って霧を纏う淑女が。

 

「お姉ちゃん、五月蠅い、黙って」

「……――――、ぇ?」

 

 春雷を伴って日ノ本の新たな女武者が…。

 

「やれやれ、ですわね。こんな形でブルー・ティアーズの初陣とは………………って楯無さん!?ガチ凹みですの!?」

 

 手が届くなら、泣く者の涙を拭わんとする青い狙撃手が……。

 

「気を付けてください!アレは存在しないはずの第四世代機だと言っていました!我々教員も対処します……!」

 

 疾風迅雷の歴戦の猛者と学園の兵士達が……黒い湖の狂戦士の前に揃った。

 

『ほぉ?めぼしいのは今と昔の日本代表候補生にイギリス代表候補生、それとロシアの学園最強とやらか。だが相手が狂犬という手合いと戦うのは初めてだろう?精々頑張ってくれたまえ』

 

 ナイトローグはヒラリと宙返り、スクリーンの上に腰掛ける。

 

「アンタは戦わないのね……」

『戦え、だと?おぉっと、勘弁して頂きたい。私は慎重で臆病で卑怯者なんだ。私はここでデータ収集をしているよ』

 

 そう言って黒い怪人はあごに手を当てながら、目線の先で行われる戦闘を楽しむのだった……。

 

 

 

 一方、因幡野戦兎と共に避難指示を出していた一夏や、一緒に避難していた生徒たちは歩を進めることができなくなっていた。彼らの目の前には、金属製の頭部を持つロボットの兵隊たちが立ち塞がっていたのだから。生徒達はあまりの出来事の連続に混乱し、最早無言になっていた。

 

「ガーディアン達!?ってことは……!」

『よぉ、どうだ?壮観だろ。ナイトローグから貸し出されたチューンアップ版のガーディアン共だ』

「またお前か……スターク!」

 

 突然現れたワインレッドのパワードスーツの人物に、避難していた周囲の人間は困惑する。

 戦兎はこの状況が凄まじく危険だと判断し、すぐさまドライバーを腰に巻く。

 

「ちょっ、戦兎さん?ここで変身していいのか?正体バレは面倒なんじゃ……」

「皆を今助けなきゃいけないなら、変身しない理由は無いよ」

 

【ラビット!タンク!ベストマッチ!】

 

 突然鳴り響いた音声に生徒たちは振り返る。そこには、プラモデルのランナーの様な枠ライドビルダーが展開されていた。

 

「え?え?何コレ?」

「うわ!?」

 

【Are you ready?】

 

「変身!」

 

 ランナーの中心に立つ因幡野戦兎がファイティングポーズをとったかと思うと前後からランナーがドッキングし……。

 

 

【鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!】

 

 

「「「「え、えぇーーーーーっ!?」」」」

 

 赤と青の正義のヒーローが、IS学園に登場した。

 

「あー、学生諸君は初めまして、御機嫌よう!因幡野先生は世を忍ぶ仮の姿!オレは『ビルド』。『創る』『形成する』って意味の、『Build』だ。以後、お見知り置きを」

 

 そしていつも通りのフレミングの法則の様な決めポーズをするビルド。隣にいる一夏も青いフルボトルを振り、身体能力を向上させる。

 

「あ、そうだ箒、木刀持ってる?」

「あるが」

 

 袖の下から、にゅいんと木刀を出す片目包帯の少女。それを受け取り、一夏は自然体に剣を構え、蒼い炎を纏わせる。

 

「…――――いや待って、木刀どこに隠してた?つーか常備してるの!?今のJKっておっかないね!?」

 

 思わず戦兎は突っ込んでしまった。天才科学者さまはツッコミ役もこなせるようだ。

 

「うるせー行くぞ戦兎、足引っ張んじゃねーぞ」

「うるさいよっ、そっちこそでしょーが」

 

 その声と同時に、仮面ライダーとなった戦兎と木刀を構えた一夏は駆け出した。生徒たちを守る為に……――――。

 




 はい、というわけで学園の生徒たちの目の前での正体バレ回でした。そして今後のライダーシステムの立ち位置は……?

なお、ナイトローグが連れてきたISのデータ

デュノア社製第四世代機『ランスロット』→ファウスト改造機『バーサーカーⅣ』
搭乗者???→五反田蘭
単一仕様能力『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』……Fateのアレです。若しくはミツザネェ!が極アームズとドンパチやったアレができます。
外見は錯乱スロットにIS風味が出た感じ。(バイザーから零れる髪は臙脂色)別に山田先生とは一切の関係はありません。常時黒煙が吹き出ているが、それはナイトローグが改造した時に出力向上の為に追加した疑似的な『プログレスヴェイパー』。

 ……コレ、大丈夫?色々と……。

※2020/12/16
 一部修正。ISABのキャラは新世界で待っててください…。


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第三十二話 『覚醒のヒーロー』

戦兎「あぁー、雨降ってきちゃった…どうしよう傘持ってきてないや。反重力フィールド作って雨弾くか、それともマイクロ波加熱で蒸発させようか……」
箒「そんなことしないで傘借りればいいでしょう。ほら私の貸しますよ」
戦兎「いやホント木刀と言い何処から出してんの?パススロット?でもIS持ってないよね?」
箒「篠ノ之流の他に別流派の武器術習ったことがありまして、その際に暗器を使うコツを惣万さんや蒼穹さん、あとお母さんから少々」
戦兎「マスターやその師範はともかく、君のお母さん忍者かなにかなの……?」
箒「少なくとも家庭内ヒエラルキーは最上位でしたよ」


 未だ、アリーナ内では激しい戦闘が行われていた。

 

 IS学園の教員が次々と離脱し、未だ立っているのは日本、中国、イギリスの代表候補生と生徒会長、山田真耶含めた数名のみとなっていた。

 バーサーカーⅣの周囲を飛び交うビット兵器のブルー・ティアーズを鬱陶しく思ったのだろうか、背中から垂れたコードを射出し、ビットに接続する。

 すると瞬時に青い雫はどす黒く変色。主導権が奪われる。

 

「!……すみません、ブルー・ティアーズ二基があのISの支配下に……っ!」

「問題無い……!あ、でも壊しちゃうけど良い……?」

「どうぞ簪さん!鈴さん!併せて衝撃砲を!」

「分かったわ!蘭、ちょっと我慢して‼」

 

――――ドッガァァァァァァン‼

 

「節無はとっとと下がりなさい!」

 

 爆音の中、役に立たない彼に向かって怒鳴りつける鈴音。

 

「……ッ!分かったよ……!」

 

 零落白夜の電池扱いの為に狙われなかった節無は渋々アリーナから退避した。だが、彼の目が真っ暗で、どろどろした炎が奥に灯っていたのを見た人間は誰一人としていなかった。

 

「……っち。やっぱり雪片弐型は持ったままなのね。こりゃ面倒な!」

「だけど、……えぇっと。あの男子生徒のSEを使えなくなったわけだから極力零落白夜や使わないと思う。畳みかけるなら、今……」

 

 だが、そうは問屋が卸さなかった。

 

『フハハ……ハハハハハ……キハハハハハァ!』

 

【ライフルモード!フルボトル!スチームアタック!】

 

『頭が高いぞ、神の才能にィ……平伏せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼』

「っ、やっぱこのタイミングで来るわよね!この卑怯者……!」

『その通り!言っただろう!』

 

 ナイトローグはライフルモードにしたトランスチームガンを構え、特殊弾を発射。

 煙に近いエネルギー弾であった為、それは鈴音の『龍咆』で霧散させることができたが、煙は宙を漂い……――――苦悶の表情を浮かべる人の顔を形作った。

 

「……っ!?何よコレ……」

「不気味ですわね……」

 

 それを直接浴びてしまったセシリアはせき込みながら、視界を明瞭にするために煙を手で掃う。

 

『もう一撃だ……』

 

 息つく間も無く連続してフルボトルを装填しライフルを構えるナイトローグ。

 

【フルボトル!スチームアタック!】

 

 今度は黄緑色のボトルの効果で、列車状のエネルギー攻撃をセシリアに向けて発射する。

 

「こんなもの……!、っ!?」

 

 避けようとしたセシリアだったが、体の動きが止まる。

 

 突如として目の前が真っ暗になり、動悸も激しくなっていく……。そして垣間見える誰かが死んだようなヴィジョン……。

 

 壮年の男性が“自分”の元から立ち去って行く……。厳しくも優しい女性が別れを告げる……。それを見てセシリアは言い逃れようのない恐怖を感じた。そう、まるで……あの時(・・・)と同じように。

 

「ッ!しまった……あぁぁ‼」

「セシリア!?大丈夫!?」

 

 鈴音が近寄り、顔を伏せたセシリアの肩を持つが……。

 

「でん、しゃ……?おとうさま……おかあさま、ぁぁあ……あ、あ?あぁぁぁぁぁぁぁッ!?いかないで、いかないでいかないでいかないでください!まって、おいていかないで……っっっ!わぁぁぁあぁぁぁぁぁアァ!?いやぁァァアァァァァあぁァァァァァァあ‼」

「せ、セシリア!?……――――アンタ、セシリアに何をしたの‼」

 

 突然不自然な挙動をしたセシリアを見て、鈴はナイトローグに対して声を荒げる。

 

『フハハ!おばけフルボトルをセットし撃ち出した弾丸は恐怖感情を誘発する。そして人のPTSD、つまりトラウマを無理矢理に作り出し……セシリア・オルコットの場合は両親の列車事故に過剰反応するようにしたのさァ!君はもう私とは戦えない……!』

「列車事故……?」

 

 怪人は高笑いしながらIS学園生を見下す。未だアリーナ内に残っているIS搭乗者は心配そうにセシリアを見る……。

 

 

 

 

 

 セシリア・オルコットの意識は真っ暗な海の中にいるようだった。そこで漂うようにセシリア・オルコットは自分の事を考える。

 

 

 戦えない?……自分が?

 

 ………………あぁ、それも良いのかもしれない。もう充分頑張って来たじゃないか。助けを求める人たちを大勢見て来て……それで少しでも救えたじゃないか。だからもう歩を止めても良いのではないか?

 

 …………父親と母親が死んだ、と聞かされた時の日の様に壊れてしまっても。

 

 

 

 突如として、意識が表出する。あの日の憧憬が蘇る。

 

「……ッ!……ざけないで、くださいまし……!」

『?』

「わたくしは……!決めたのです……!誰かが……、泣いているのです……!」

『ハァ?何を言って……!』

 

 セシリアは思う、自分に、彼女に……正義の味方に誓った約束を。

 

――――わたくしは…ビルド(貴女様)の様な、世界中の愛する人のことを守れる、そんな人間に…――――

 

「もう、なれるかどうか分かりません……わたくしには欲も願いも零れ堕としてしまった……」

 

 恐怖で震える手で涙を拭うは尊き淑女。露に濡れた手を、目の前へと伸ばす。

 

「ですが、人の助けに……目の前で困っている人に手を差し伸べる正義の味方(“私”)に……!」

 

 彼女の体を覆っていた苦悶の顔をした煙が消し飛んだ。その思いに呼応し、ブルー・ティアーズから伸びた輝く偏光がバーサーカーⅣを襲う。

 変幻自在に変わる青い軌道に、凶戦士が悲鳴を上げた。

 

『っフレキシブルでの反撃……!しかも疑似的なものとはいえPDSDをこんな短時間で克服しただと!?そんなデータは無かった……。興味深い!今すぐ彼女の脳波の計測を、ッ!』

 

 そう言ってナイトローグが興味を示した時だった。体中から大量の煙『疑似プログレスヴェイパー』を噴き出し、苦しむように体を捩る漆黒のIS。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?』

『ん?……あぁ、暴走か。まぁ当然か。IS適性がAであっても脳に支障をきたすほどのじゃじゃ馬だからな。最低でSは欲しい所だったが、もういい(・・・・)

「……ッ!鈴さん!危ない!」

「え……っ」

 

 ナイトローグのその言葉と共に、バーサーカーⅣは黒く変色した雪片弐型を、眼前にいた凰鈴音に振り下ろした…。

 

 

 

 一方こちらは所変わって、さらに時間が巻き戻って……。

 

「クッソ、どけガーディアン!そっちに行けないじゃないか!」

『いいぞ、そのままビルドの足止めをしておけよ……っと』

 

 ビルドは生徒たちを守りながらガーディアンを次々撃破していく。だが、流石に多勢に無勢、簡単に倒せはするがキリがない。そしてビルドが焦っているのにはもう一つ……。

 

『そらそら!イチカ・オリムラ、遊んでやるよ、っと!』

「こちとら願い下げなんだけどよ!ハァッ!」

 

 一夏は片手に持った木刀でスタークのスチームブレードを受け止め、空いた手で鋭い拳を放つ。それをスタークは腕や手で受け流す。

 傍から見れば勝負は拮抗しているように思えた。だがビルドや戦っている一夏には分かった。ただスタークは遊んでいるだけなのだと。

 

『ハザードレベル2.5、2.6……2.7!どんどん上がっていく…!こいつは面白い…ッ!』

「うるせえ!何ごちゃごちゃ言ってんだ、オラァ!」

「一夏……」

 

 彼らの戦いをビルドに守られながら心配そうに眺める箒。すると箒の目の前に一基のガジェットが飛来する。

 

――――ギャオン!

 

 クローズドラゴンは、箒が護身用として持っていた一本のボトルをちょんちょんと突く。

 

「!……コレを、入れればいいのか?」

 

 クローズドラゴンはそうだ、と言うように箒の手の中に着地し背中を向けた。促されるがまま彼女は機関砲のレリーフがある灰色のボトルを入れた。

 クローズドラゴンが待ってましたとばかりに空中を駆ける。

 

【CROSS-Z FRIME!】

 

『?……ぬっ……!』

 

 びゅいん、と翼を羽ばたかせて一夏とスタークの戦闘に近づくと、口からガトリング銃の様に連続して青い炎を吐き出す龍型ガジェット。

 

「う、うわ?熱、あっ……あぁっッッちぃッ!当たってる!俺にも当たってるから!」

 

 むしろ半分程の炎が一夏に当たっていた。しかし一夏のフォローをしたのは紛れもなく、さらに手数が足りていないビルドの救援も行うクローズドラゴン。器用に空中で回転し、遠心力でボトルをビルドへと放り投げる。

 

「お?クローズドラゴン、サンキュー!」

 

【パンダ!ガトリング!Are you ready?】

 

「ビルドアップ」

 

 ビルドの姿は白と鈍色のトライアルフォーム。無人機に対して有効的な効果を生む姿だった。

 彼女はガーディアン達をガトリングサイドのアンテナ型音響兵器の『ガンフェイスモジュール』で聴覚センサーを破壊。さらに『レフトアイパンダ』でのカメラアイのジャミング能力で行動不能にする。

 これで、ロボットたちは手も足も出せなくなった。

 

「よし、でりゃーっ!」

 

 『ライトアイガトリング』でガーディアン達をターゲティングしたビルドは、パンダサイドの手『ジャイアントスクラッチャー』を振りかぶる。

 刹那、爆発。連鎖的に破壊されていくガーディアンの軍隊を背に、仮面ライダーは佇んでいた。

 

「…――――よし!コレで残り少し!」

『んじゃ、これだ』

 

 一方のスタークも然るもの。トランスチームライフルに、フルボトルをセットして構え、無慈悲に引き金にのせた指を引いた。

 

【フルボトル!スチームアタック!】

 

 ロケットの形をした弾丸が宙を裂く。それは追尾式のミサイルの如く蛇行し、生徒や一夏を飛び越えてビルドに直撃。正義の味方の身体から大花火の如く煙と火花が放たれた。

 

「うわぁ!?」

「戦兎さん!この野郎!」

 

 木刀をスタークに投げつける一夏。だが、血塗れの怪人はそれを易々避け、逆にライフルの持ち手で追撃を加え、痛めつける。

 

『ふっ、どこ狙ってんだぁ?……――――んん?』

 

 直後、スタークは違和感に襲われた。

 スチームライフルを見てみれば、スロットからロケットフルボトルが無くなっている。そして一夏を見ると、倒れこんでいた彼は片手にあるフルボトルを見せ、ニヤリと笑う。

 

『……やるねぇ』

「そりゃどうも!戦兎さん!使え!」

 

 彼は手にあったボトルを戦闘中のビルドにパスをする。

 

「ッ分かった!」

 

【パンダ!ロケット!ベストマッチ!】

 

 ベルトにセットしたフルボトルが声高に相性を主張する。彼女のベルトの前方に、P/Rの文字が浮かびあがった。

 

「ベストマッチ!?やったラッキー!」

 

 ビルドはテンション高く叫ぶと、ベルトのハンドルレバーを猛スピードで回転。前後にスナップライドビルダーを展開させて、そこに白と水色のトランジェルソリッドが流し込む。

 

【Are you ready?】

 

「ビルドアップ!」

 

 ビルドは白と水色の装甲に包まれる。

 

【ぶっ飛びモノトーン!ロケットパンダ!イェーイ!】

 

「よし!皆こっちだ!」

 

 ビルドはパンダの巨大な手とロケットの腕を用いて生徒を次々避難させていく。生徒の安全を第一に考えるところは、流石教職者だと言ったところか。一方……。

 

「さぁ……!第二ラウンド、始めようか!」

『そのダメージで、俺に勝つ気か?』

 

 一夏とスタークの戦いは未だ決着はつかず。ふん、と鼻で笑うコブラの怪人に対し、一夏はファイティングポーズをとり、炎を纏った蹴りや突きで追い縋る。

 スタークは相も変わらず攻撃をせずにいなすだけ。しかし、何故だろうか。先程よりも一夏の動きのキレが良い。

 彼の攻撃が、芯を捉えた。装甲に覆われた腕が痺れ出している。

 

『……――――!驚いた、いいぞ……来い、もっと来い!』

 

 その叫びと全く同時。一夏の左手に宿った青と金色の炎が一段と煌々と燃え盛り……――――。

 

「ぅおりゃァァァァァァァァッ‼」

『む……、ぅおぉぉぉっっっっ!?』

 

 スタークの腕に突き刺さった正拳突き。人気のほぼなくなった廊下を蒼炎と共に吹っ飛んでいく。

 壁に激突し、倒れたスタークは肩を震わせた。

 

『フハハハハハ……!ハザード……レベル……――――3.0……‼』

 

 コブラの怪人は荒く息をする一夏を見る。未だ未熟な力しか持たない……だが新たに誕生した小さな英雄。そんな彼の誕生を祝うように赤い蛇は叫ぶ。

 

『ついに………………、覚醒したかァァァァァァァァ‼』

 

 生徒を逃がしたビルドはその言葉に反応する。何故、敵が強くなることが喜ばしいことなのか?戦闘狂には見えない彼の怪人に、何か利点でもあるというのか?

 

「覚醒……?どういう事だ……!」

 

 だが、その答えは聞けなかった。

 

――――カツ……カツ……カツ……!

 

 足音が響く。意志の強そうな、凛とした剣気が周囲の空気を張り詰める。ビルドと一夏は驚きのあまり目を見張った。

 隠そうともしない強烈な気配に、思わずスタークは思わず振り返る。

 

『……――――あぁ、成程なぁ』

「こりゃ……物凄い援軍が来たもんだねぇ?」

 

 漆黒のボディスーツにメカニカルな強化スーツを纏った人物。

 

「……ビルド。未だアリーナ内では正体不明機が戦闘中だ。そちらの援護を頼みたい」

「え、でも……」

「問題ない、早く行け」

「わーったよ、ってなわけで、一夏。箒ちゃんの所まで送るよ」

「え、あぁ……分かった。気を付けろよ…………千冬姉(・・・)

 

――――ドォン!

 

 ビルドはロケットのアーマーの左腕『スペースライドアーム』を用いて一夏と共にその場から逃走した。

 煙が漂うその場に残っていたのはブラッドスタークとブリュンヒルデ。

 コブラを模したマスクの下は窺い知れない。彼らは互いの敵として立ち塞がりあう。

 

『ひゅー、行ったねぇ……で、俺の相手はお前か?ブリュンヒルデ』

「あぁ。こうして顔を合わせるのはドイツ以来か?……あの時、一太刀浴びせておけばよかったと思わない日は無かったぞ……」

『おやおや、随分とお冠だな?綺麗な顔がしわになるぞ……まぁ?お前みたいな美人に相手されるのは悪い気もしないがな。特に真剣な表情は魅力的だ』

「……――――黙れ」

 

 その言葉に視線を鋭くし、忌々し気に赤い毒蛇を睨む。腰からブレードをすらり、と抜き放ち切っ先をスタークに向ける。

 

「……――――ブラッドスターク。貴様との因縁を、ここで終わらせる……!」

『いいぜ、やってみろ……まぁ無理だろうがな』

 

 

 

 

 

 

 一方のアリーナ内。

 

 鈴音に剣が振り下ろされようかというタイミングで、突然遠方からミサイル大の飛行物体が接近。

 そして……。

 

「え……ってうわぁ!?今なんか頭かすったわよ!?」

 

 その飛行物体は鈴音の頭部を通り過ぎ、その進路を塞いでいた者たちにぶつかった。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?』

『む?ぐほぉ!?』

「アレ今なんかぶつかった!?そしたらやったボトルゲット!コレもしかして電車かな!」

 

 バーサーカーとナイトローグにひき逃げアタックをしでかし、アリーナ内の地面に不時着した白と水色のパワードスーツの人物。きらりと、アイレンズが日光を受けて輝いた。

 

「で。うわぁ……実際見るとラスボス感パネェな?貧乏くじ引いたかも……!」

 

 飄々と軽口を叩きボトルを弄る二色のヒーロー。その姿に未だ避難できていない生徒、IS技術者、各国の要人たちの奇異と驚愕の視線が集まった。今までダメージらしいダメージを受けていなかった第四世代ISを軽々と吹き飛ばしたのだから。

 

「ちょ……アレが?」

「あぁ、鈴さんは見るのは初めてですか?」

「見てると良い……アレが正義のヒーロー…」

「あ、パンダ!目がパンダになってるわよ簪ちゃん!」

「…姉さん五月蠅い、私がしゃべってるの、黙ってて…」

「そんなー……(´・ω・`)」

 

 専用機持ちの生徒たちは安堵の表情を浮かべ、そしてナイトローグが叫ぶ。やって来た英雄(ヒーロー)が冠するその名を。

 

『ようやく登場か、仮面ライダー……ビルド!』




スターク『火野コット……精神力強すぎねぇか?別にハザードレベルが高いわけじゃないのに……』
ローグ「そしてようやくイチカ・オリムラGa『覚醒したかァァァァァァ‼』そのネタ本文でやっただろうが!」


※2021/01/19
 一部修正


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第三十三話 『善と悪のサイエンティストたち』

???『今回はお前と、か?』
戦兎「げ、ナイトローグ…。お前の声聞きとり辛いんだよ、ノイズキャンセリングしてやろうか?そうしたらオレ特製の声紋認証で即座に指名手配だけどね!」
???『無駄だ。お前の発明品など私の足元にも及ばない。ジャミングは絶対に敗れんよ。何より、指名手配されたとしても何ら問題がないしな』
戦兎「…お前、すっげぇウゼェんだけど。何、自分が一番じゃないとダメなワケ?そういうやつって嫌われるよ?」
???『少なくとも、貴様よりは頭脳、戦闘技能、身体能力は上回っている。事実を客観的に述べただけに過ぎない』
戦兎「じゃあそのデータに追加しといてくんない?人格に大いに問題ありとか、若干キモイとか…いや何いつもみたいに駄弁ってんだオレ…」
???『む、確かに……――――この前書きでは闘争本能などが抑制されるのか?興味深い…』
戦兎「つーか何で名前の部分???なんだよ、ナイトローグで良くない?」
???「あ、今回で私の正体バレだからだな。と言う訳で、全国七十万の王国民諸君、神を…崇めよぉぉぉぉぉ!いやっふぅぅぅっっっ‼」
戦兎「え、ちょ……おまっ‼」


 織斑節無はアリーナから追い出され、待合室で膝を抱えて爪を噛む。がりがり、がりがりと不規則で耳障りな音が不気味に響いていた。

 

(……仲間外れにされた。『ママ』ならきっと一緒に遊びましょうって言ってくれるのに、あんなに『ママ』になってくれそうなモノばっかりだったのに、どうして僕を褒めてくれないんだ。こんなに良い子で愛されるべき子どもなのに。何も悪いことしてない弱い人間なのに、寄ってたかっていないもの扱いされなきゃならないんだ?間違ってる、こんなこと絶対間違ってる。どうして『ママ』に分かってもらえないんだ。僕の『ママ』なんだから分かって然るべきなのに。優しいことと分かり合うことが良い子が守るべきルールなんだよ?それをできないなんて……あぁかわいそう、『ママ』に教わってないんだ。僕は習ったよ、千冬姉さんよりも前の『ママ』がしっかり……――――)

 

「…『…あら』」

 

 思考の坩堝に、甘美な美しい声。節無がはっと顔を上げて周囲を見てみれば、誰かがいる。遠くから足音が聞こえてきた。

 

「あ、ぁ…あ?」

「『かわいそうにね、節無。大丈夫?』」

 

 そこには、アタッシュケースを持った白衣の女性が立っていた。その顔立ちはきりりとしており、どこか世界最強のIS操縦者を思わせる……。

 

「『……もしかして、覚えて、ない?ごめんなさい、あなたを千冬の所に届けたのはまだ小さい頃だったものね』」

「ぅ、ううん!?大丈夫!覚えてる、覚えてるよっ、『ママ』ぁ!」

 

 転がるように走り出し、その豊かな胸に顔をうずめる節無。それに嫌悪感を抱かず、慈母の如き眼差しで受け入れる一人の女性。

 

「『ふふっ、甘えん坊さんなんだから……』」

「うふふっ、『ママ』、『ママ』ぁ…」

 

 彼女は節無の黒髪を愛おし気に撫でて、再会を喜んでいるらしい。

 

「『寂しくなかった?』」

「ううん!大丈夫だった!みんな僕を虐めたり、褒めてくれなかったりだったけど、僕頑張った!頑張ったよ『ママ』!」

「『そう、良い子ね……』」

「『ママ』はどうして?どうしてここに来たの?」

 

 彼女の長い黒髪が、風もないのに揺れる。蛇のように、てらてらと艶やかな光を放っている。

 

「『あなたにやってもらいたいことがあったのよ…貴女じゃないとダメだと思って顔を出したんだけど、頼めるかしら?引き受けてくれたら……』」

「そうしたら?」

 

 小首を傾げた年不相応な少年の頭に、暖かな手が置かれた。

 

「『……もっと褒めてあげる。やってくれる?』」

「!……やるっ!」

 

 

 

 

 一方、アリーナ内では、正体不明機が身を捩りながら叫び声を上げていた。

 

「さてさて、暴走してるねぇ……あのIS」

 

 それを見て傍から見れば不用心に近寄るツートンカラーの仮面ライダー。彼女は変身を解除し、トレンチコートの女教員の姿に戻る。

 

「危険です!因幡野先生、ここは私達が何とか…――――」

「え?何。あの暴走を止めればいいんでしょ?出来るよ、オレ」

「――――……え?」

「だって、てぇぇっん↑さい↓科学者ですから!こんな状況でも覆して見せよーじゃないか!」

「「「「え、ぇぇぇぇェッ!?」」」」

「……だったらもっと早く来て欲しかった…」

 

 いとも容易く言い切る因幡野先生に、IS学園のメンバーは呆れるやらビックリするやら。更識簪のツッコミが虚しく響くのだった。

 

 

 

 

 彼女が何故こうも傲岸不遜な言動ができるのか、根拠となる理由はもちろんある。遡ること少し前……。

 

「うーん、戦闘中のISのデータは不明だけどどう見てもコレ暴走中だねぇ……」

「どうするんだ?戦兎さん」

 

 一夏が尋ねると、戦兎は懐から金色のボトルを取り出した。そのボトルには錠前のレリーフが刻まれている。

 

「……、それって」

 

 第六感にビビッと来たらしい。一夏は拳に握っていた青いフルボトルに視線を向けた。

 

「あのISを有効に対処するには、オレのてぇぇっっんさい的な計算によるとぉ、ドラゴンのフルボトルが必要なんだよねー!…――――つーわけで一夏、貸して?」

「ベストマッチのことか?それハリネズミと海賊とは反応しなかったんだろ?ただの消去法じゃねぇか。てんさい(笑)とか」

「ぅっさいよぉ……いじけるよぉ……?」

 

 最近の戦兎の様子からどうにも辛らつな一夏の言葉に、彼女は膝を抱えて右手で廊下に『の』の字を書く。しかし欺かれることなかれ、嘘泣きとそういうパフォーマンスである。

 だが、付き合っていると無駄に時間がかかることを一夏は知っていた。

 

「……――――っ、失くすなよ!」

「お、ありがとー!ふっふーん、このてぇん↑さい↓科学者様が失くすと思う?」

「日頃の言動を考えろ馬鹿。色々危なっかしいんだよアンタ」

「ば、バカ?言うに事欠いて馬鹿!?ど、どう考えても一夏の方がばかじゃんっ!」

「俺は筋肉バカ、アンタは頭良いけど馬鹿。ほら、バカと天災は紙一重っていうじゃん」

「んなわけねーだろ!んなわ…んにゃわ、け…?」

「あれ?ガチ凹み?」

 

 意外にもその一言で自称てぇん↑さい↓科学者は完璧にいじけたのだった…。何とか一夏の子守り技術で事無きを得たが、それは完全なる余談である。

 

 

 

 

 

「(んんっ、まぁそれはともかく!)さぁ……実験を始めようか」

 

 彼女はいつものキメ台詞を口にすると、ポケットから青と金のフルボトルを取り出し、シャカシャカ音をたてて振る。

 その腕の動きと共にアリーナ内に数多くの数式、公式が実体化し飛び交う。その不思議な光景はISの常識をはるかに超えた現象であり、IS技術者や政府要人たちは開いた口が塞がらなかった。

 

【ドラゴン!ロック!ベストマッチ!】

 

「ぃよっし!予想通り!」

 

 ベルトにセットした瞬間、D/Rのマークが空中に投影された。戦兎は機嫌よくレバーを何度も回転させ、スナップライドビルダーを展開させる。

 

【Are you ready?】

 

「変身!」

 

 その言葉が合図となり、青と金色の装甲に挟まれる戦兎。

 

【封印のファンタジスタ!キードラゴン!イェーイ!】

 

 変身が完了した戦兎……いいや、仮面ライダービルドは龍と南京錠のアイレンズで暴走するISを見て、指で顔のアンテナをなぞり、言い放つ。

 

「勝利の法則は……決まった!」

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 

 彼女は吠え立てる漆黒のISに向かって駆け出した。

 

「……っ、気を付けてください!おそらくですが、あのISから立ち上る煙が搭乗者の身体強化と理性を奪っていると思われます!このまま戦闘不能にしても……後遺症が残る場合も……」

「問題ない、マヤマヤ!」

「マヤマヤ!?変なあだ名付けるの止めてくださいよぅ!」

 

 マヤマヤへの軽口を忘れず、戦兎はアクロバティックな挙動で翻弄していく。

 バーサーカーⅣが振り回す黒く変色した雪片弐型を、フットワーク軽く地面を滑るように無駄なく避けるビルド。そして蒼炎を纏った正拳突きやニードロップでダメージを与えていく。

 

『AAAAAAッ‼』

 

 じれったく思ったのだろうか、バーサーカーⅣは雪片弐型の『零落白夜』を発動させた。

 黒と白の一閃が蒼炎を切り裂き、ビルドに迫る。

 

「おっと……それが噂に聞く零落白夜!でもね?」

 

 ビルドは金色の左腕『インターラプターアーム』でその一撃を容易く受け止めた。

 

 その装甲には、敵のエネルギー攻撃を遮断し、さらに左手『BLDセキュリティグローブ』で雪片弐型に組み込まれている安全装置を強制作動させた。

 

「これ、ISじゃないんだよね?残念でした!」

「…うそぉ。あれ、ただのパワードスーツなの?それにしては、ISと互角に戦えて…」

「…分析開始…。間違いない、ISコアは存在しない…。因幡野先生の身体能力が織斑先生レベルに高いってのもあるけど、パワードスーツにしては桁が違う…」

 

 アリーナの様子を見ていたISの関係者の中には驚愕の声を上げた者もいた。ISにおいてシールドエネルギーを無効化させる零落白夜は絶対的な優位性を持っている。だがしかし、今目の前にいるパワードスーツの人物には、その能力が通じなかった。

 

 ……――――それが意味する事とは、最悪『白騎士事件』の二の舞。彼らにとってはISの絶対神話ともいうべきパワーバランスの崩壊が始まったとも言える。

 

「でも、流石に武器を持たれているとリーチが違う。フェアプレイと行こうか!ハァ!」

 

 そんな思惑を知ってか知らずか、戦兎は戦う。目の前の正義を守るため。

 彼女は左腕から黄金のエネルギー状の鎖を射出し、雪片弐型を絡め捕った。すると黒かった外見が真っ白になったかと思うと、粒子状になって元の持ち主の元へと還って行く。

 

『AAA……あああ……aaaaaa!』

「それじゃ、問題は搭乗者の安全だね。確かこのフォームの右足は……、ッ!閃いた!」

 

 呟くと手早くグルグルとレバーを回転させ、右足に金と青のエネルギーを充填させるビルド。

 

【Ready go!ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

「ハァァァァァッ!」

 

 黄金の鎖がのたうち、バーサーカーⅣの身体が雁字搦めになる。バーサーカーⅣは体を激しく動かし、キックが炸裂する直前に鎖を振りほどくが、最早遅かった。

 

 ビルドの蒼龍纏う一撃は、漆黒のISに到達する。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!?』

 

 黄金のエネルギーが宿る右足が煌めく。

 ライダーキックは両腕をクロスしガードしたバーサーカーⅣの絶対防御を作動させる。さらにバトルシューズ『ロックアップシューズ』の効果はそれだけにはとどまらない。封印のファンタジスタの名の通り、正義のヒーローの一撃は搭乗者の理性を蝕む『疑似プログレスヴェイパー』の発生を停止させた。

 

「U…Uuuuuuuu…」

 

 バーサーカーⅣの外観に変化が生じる。黒い煙を放出していた身体は徐々に本来の白と紫のツートンカラー『ランスロット』のものへと変化していく。

 

「……あ、あれ……――――ここ、って…どこ…――――?うぅ……?」

 

 ランスロットが量子還元されていく。そのせいでISを操縦していた小柄な少女がアリーナ内に転がり落ちた。

 

「……!危ないですわ!」

「セッシリアナイス!蘭!?アタシよ、分かる!?」

「山田先生!」

「ハイ!直ちにバイタルチェックを!運びましょう!」

 

 IS学園のメンバーたちに囲まれ、搭乗者は保護された。小柄な体躯が震えている。彼女の身体が、如実に危機が迫っていることを告げる。焦る鈴が周囲への警戒を解いた…のが拙かった。

 急激に高まる殺気に真っ先に気付いたのはセシリアだった。

 

「…ッ!皆様!危な…ッ!」

『遅い』

 

【アイススチーム!】

 

「キャァァ‼」

「うぐぁ!うっそ、でしょ…!」

 

 冷気がセシリアと鈴音を襲う。続いて周囲に暗雲が巻き起こり紫電さえ轟きだした。

 

【エレキスチーム!】

 

「は、はや……!うわぁ!?」

「簪ちゃん⁉だいじょ……うぅ!」

 

 更識姉妹が吹き飛ばされる。とっさに保護した少女を背に隠し、傷つけなかったことは彼女らの阿吽の呼吸の為せる技か。

 

【スチームブレイク!Bat…!】

 

「皆さん!?……うわぁっ!」

 

――――ドガガガガンッッッ‼

 

 高速移動したナイトローグの通り過ぎざま、振り返りざま、そしてゼロ距離での攻撃を受け、ISを纏っていた人間たちは行動不能に陥ってしまう。

 

「……!ハァァッ‼」

『フン!』

 

 ビルドは瞬時に身体中に蒼炎を纏わせ、強化状態『ブレイズアップモード』に移行し、接近してくるナイトローグに強力なパンチを放つ。それを体を回転させ、ドリルの様な錐揉み回転キックで迎え撃つナイトローグ。

 

――――ドッガァァァァァァンッッッ‼

 

 土煙を上げ二人のパワードスーツの人物が視界から消える。

 大量に立ち昇る煙が如く、生徒たちの心にも靄がかかったよう。さすがにこれだけのパワーでは、どちらも無事では済まないのではないか…そんな不安が蔓延し始める。

 

 ……――――やがて土埃が治まるとアリーナに残った人間の目に老若男女問わず目を疑う光景が広がっていた。

 

『お見事お見事、いやぁ、無理な改造を重ねたスクラップ同然の役立たずのISだったが、最後の最後に隙を作ってくれたことには感謝だな……。世界に仮面ライダーの恐ろしさを良く知らしめてくれたよ……』

「何?」

『この惨状を見て分からないか?ライダーシステムが、如何に殺傷能力がある兵器かということを、お前は今ここで示してしまったのだよ!』

 

 

 アリーナ内には、ナイトローグとビルドを中心に、半径二十m近いクレーターができあがっていた。

 そのなかで、二人は剣で鍔迫り合いを続けている。

 

 

「…――――ふざけんな…!コレはそんな力じゃない…ッ!」

 

 ビルドは人間を道具扱いするナイトローグが、ファウストが許せなかった。そして恐らく目の前にいる人物とは絶対に相容れることは無いということにも気が付いた。

 

「やっぱり…、お前とは何時か決着をつけたいと思っていた…!」

『ふん……、実験動物(ウサギ)風情が』

 

 ビルドはキックボクシングの様な構えをとり、ナイトローグは片手にバルブがついたブレードを出現させる。

 そしてお互いの足が砂利を鳴らすと、火花が散る。

 

『「はぁっッ!」』

 

 ナイトローグはスチームブレードを、ビルドは左腕の『バインドマスターキー』を振るい、再び鍔迫り合いを開始した。

 

「なぁ、何故世界に武力行使を行う?何が目的なんだ……ッ!」

『何故か……、か』

 

 その時のナイトローグはどういう訳か、今までの様な狂人の気配は感じられず…ただただ悲し気だった。

 だが、それも刹那の間。すぐに今までの狂気を纏い、ビルドから距離をとる。

 

『目的ならば教えよう……。お前が正義の為に使っている“科学の力(ライダーシステム)”と!“はた迷惑な人間の夢の残骸(インフィニット・ストラトス)”が多くの人間を傷つけ、殺し!この世界を崩壊させる……。もう間も無くその第一段階が完了する‼もうすぐだ、もうすぐで、新世界の到来だ…‼』

 

 両手を天に掲げ、神からの啓示を受けた狂信者の様にうっとりと歩む悪党。それを見て一段と激しく身体の蒼炎を燃え滾らせるビルド。

 

「ふざけるな……!科学はそんな為にあるんじゃない‼」

『む?』

【Ready go!ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

 レバーを回転させ、右手に龍のエネルギーを宿らせ、ナイトローグに殴り掛かる。

 

「ハァァァァァァア‼」

『ぐ、ぬ……ぅん……ハァ!』

 

 拮抗したかに見えた力。

 だが、それでも……――――。ナイトローグには通じなかった。クロスした腕でビルドの右腕を上に跳ね上げ、ナイトローグは掌底でビルドの腹部に凄まじい一撃を加える。

 

「うぁッ…!」

 

 その衝撃で、地面に何本かのボトルが転がり落ちてしまう。

 

「まだだ……、まだ……うぅっ!?」

 

 腹ばいになったビルドは立ち上がろうとするも、突如として変身が解除された。アリーナ内には、口や頭から血を流している痛々しい女性が倒れているのみ。

 正義のヒーローは、いなかった。

 

『……それは体に負担がかかるフォームらしいな。時間切れか。さて、ダイヤモンドフルボトルと……』

 

 呆れたようにビルドに近づくナイトローグ。そして一本、また一本とボトルを回収しながら言葉を続ける。

 

『残念だったな。貴様のハザードレベルではチューンアップした私のナイトローグにダメージを与えることはほぼ不可能だ……ム?』

 

 余裕綽々だったナイトローグは、突然言葉を切った。突如として腕に痛み、そして蒼いスパークが発生している。

 

『!……フム、先程の攻撃のレベルは一時的だが……3.9を超えようか、といったところか。……中々だな』

 

 ナイトローグは一瞬、自分にダメージを与えたビルドに興味を覚えたようだったが、無情にも思考を切り替える。そしてトランスチームガンを虚空から取り出しバットロストフルボトルをセットした。

 

【Bat…!】

 

『だが、ひとまずは自分の無力に泣くが良い』

 

【スチームブレイク!Bat…!】

 

「うわぁぁぁぁッ!?」

 

 傷だらけになった戦兎に、紫色のエネルギーを纏った巨大な光弾が放たれる……。それを地に臥したIS学園の生徒たちは、見ていることしかできなかった。如何に叫びを上げようと、その攻撃を防ぐ手段は……――――彼女たちには無かった。

 

 

 

 

 

 一瞬の閃光。そして、鼓膜を破るが如き轟音。人間に向かって飛ぶ巨大な光弾が、ひどくゆっくりに思えた。爆発が起こったというのに、妙に静かな……――――おかしな空間だった。

 

 

 

 

 

 

 アリーナ内は無音に包まれていた。まずその静寂を切り裂いたのは代表候補生たち。目の前で立ち昇る黒煙に、ようやく脳裏が追い付いた。

 

「……ッ!そんな…――――?因幡野先生……?ッ因幡野先生!?」

「うそ…?」

「……、ファウストォォォォォッッッ!」

 

 あるものは怒り、あるものは否定し、あるものは叫んだ。その悲痛な心の声を受け、悪党は嗤う。

 

『ハハハハハハハハハァ‼なぁんだ、この程度かァ‼』

 

 そして顔をアリーナ席に向け、ぐるりと見渡す。バイザーに映るのは、生徒の、技術者の政府要人の恐怖に歪む貌、顔、かお……。 

 

『哀れで……無様で……惨めなものだ、正義のヒーローと言うのはなぁ?ただの無駄死にだったじゃないか⁉コレが、世界だ‼』

 

 その場にいた者には分からないが、ナイトローグは心の内をさらけ出す。

 

『“もしお前がその力を我々に向けたら?”“その時は我々はISで戦えるのか?”“そして生き残れるのか?”そう怯えられ、恐れられ……その結果がこれだ‼馬鹿だろう‼称賛もなく、名誉も見返りもなく、機械の様に使い潰される‼それがお前の望む正義の味方とやらか‼バカげている‼…………ふざけてる、ふざけているふざけるなふざけるなァァあぁぁぁあぁぁァァァァァァ‼』

 

 それは誰に言ったかは分からない、絶望に満ちた言葉だった……。

 

「…?ナイト…ローグ?……、っ‼」

 

――――そんなことは無い……!

 

 その時、アリーナ内にいた人間たちは気が付く。

 土煙の中から声が聞こえる。正義の味方の……ボロボロになっても諦めない、力強い彼女の声が。

 

「たとえ報われなかったとしても……たとえどんなに孤独であろうと……オレは見返りなんて期待しない!」

『何……?』

 

【ラビット!タンク!ベストマッチ!Are you ready?】

 

 煙の中から、足音が聞こえる。

 

「誰かに手を差し伸べて、誰にも知られることがなく、それが自分を犠牲にしただけだったとしても……オレは皆の明日を創る!それがオレが望む理想の、“仮面ライダー”だ!」

 

【鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!】

 

 

 希望を遮るが如き煙の中から……――――正義の味方(仮面ライダービルド)が現れた。

 

 

『……フハッ!それが貴様の(こたえ)か!?嗤わせてくれる……――――、笑わせるなぁ!はっきり申し上げよう、貴様などに正しさなど無ァい‼イヒャハハハハハッ‼ヴァハハハハハァ‼』

 

 ナイトローグはひとしきり笑うも、やがて痛々しいものを見るかの様に目線を反らした。

 

『認めろよ……。所詮、お前の使っているライダーシステムも、あのインフィニット・ストラトスも!世界中の人間には軍事兵器としか認識されない!科学が創る未来は……破滅だぁぁぁぁぁッ‼』

「そんなことはない!結果はどうあれ篠ノ之束は科学を発展させた……それは称賛に値する!」

『ほう……?自己肯定か?それとも世界をこんなことにした篠ノ之束(天災)に肩入れをするのか?』

「科学自体に善悪は無い!科学を軍事利用しようとするのは周囲の思惑だ‼」

『ならば世界に善など存在しない!人間はどこまでも悪であり、愚かであり、科学の力で軽々しく命を弄ぶ‼』

 

 片手で眉間をおさえる様なポーズをとり、ビルドを嘲笑う夜の悪党(ナイトローグ)。しかし、天才科学者(ビルド)は決してその信念を曲げようとはしなかった。

 

「……――――やっぱり、平行線だな……」

『その様だ……、分かっていたはずだろう』

 

【Ready go!ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

【Bat…!スチームブレイク!Bat…!】

 

 ならば言葉は不要。互いにお互いの信念を乗せた一撃を。

 

 ビルドはジャンプし、回し蹴りの様にナイトローグへ足を振り抜いた。

 

 ナイトローグは空中に黒煙を放ち、それに向かって翼を広げ得た推進力で強烈な両脚蹴りをビルドに放たんとした。

 

『ハァァ!』

「ハァァァァァッ‼」

 

 そして、赤と青、黒と黄色の二つの閃光が縦横無尽に空へと放たれる。激突した二人の両脚。ずっと続くのではないかという長い拮抗状態は一瞬。激しい稲光と共に、善と悪の科学者の乾坤一擲の攻防に……――――決着がついた。

 

「うぉぉぉぉぉっっっ‼ハァァぁぁぁぁぁ‼」

『何……っ‼うぐあぁァァァァ‼』

 

 赤と青のヒーローが、漆黒の怪人を吹き飛ばす。彼女はよろけつつ、大地を滑りながらも無事着地した。役目を果たし終えたとでも言うかのように、赤と青の装甲は雲散霧消。

 傷だらけになりながらも、因幡野戦兎が勝利を掴んだ。

 

「……や、った…」

「………、待ってっ!?」

 

 代表候補生たちは安堵の表情を浮かべたものの……まだ戦いは終わっていなかった。

 

「……如何やら、先のキードラゴンフォームで、防御機能がロックされていたらしいな」

 

 土埃の中から一人の人物が現れた。長髪をたなびかせ、パンツスーツの上に白衣を着る女性。彼女こそが、ナイトローグの変身者。

 

「お前……っ‼まさか……っ‼」

 

 目の前に立った人物を見て、因幡野戦兎は驚愕の表情を浮かべる。彼女の顔には覚えがあった。何故ならば……。

 

――――篠ノ之束に気を付けろ……

 

 スタークに言われた言葉が頭の中で反復する。そう、目の前にいる人物こそは……――――。

 

「篠ノ之……束…――――!?」




 やっぱこのナイトローグ変身者……強すぎた?戦兎+数の優位があるIS代表候補生たち、それにチッピーが一目置く山田先生までも瞬殺って……。一体ナカノヒトダレナンダロウナー。(そしてキャラもかっとび過ぎた……。神の才能の弊害か……)

※2020/12/16
 一部修正


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第三十四話 『吠えろドラゴン』

戦兎「いやアンタかい!?ナイトローグおまっ…ちょッ、お前ェ!」
一夏「束さん、随分目付き悪くなったなァ……昔も隈だらけで大概だったけど。顔が良いだけに勿体ねぇ…」
箒「…でも何か、雰囲気変わりました?」
束?「さてさて。余計なことを言ってしまっては今後の進行の妨げになる。よって今はまだ語るべきではないな」
箒「…とりあえずアーパーではなさそうですね。ようやく中二病が治まりましたか?話が通じそうで何よりです」
一夏「箒お前、意外に辛辣だなヲイ…」
戦兎「え、篠ノ之束って中二病だったの?」
束?「それには私も興味がある。お前から見た姉のことについて少し詳しく…」
箒「ぶっちゃけファッションセンスもネーミングセンスも笑いのセンスもアレでしたね…。何だろう、そこはかとなく漂う自分凄いよって…」
一夏「はいこの話題しゅーりょーっっっ‼何か箒の触れてはいけないスイッチ入ったッぽい‼」


 凄まじい剣戟が繰り広げられる。

 既に二十分は続いているだろうか、無人の廊下にて金属が弾かれ、ぶつかり合う音が鳴り響く。

 さながら狂騒曲を奏でるが如く振るわれる二人の得物。二人の動きは踊りの様に無駄がない。

 

「……しッ!」

『おぉっと、オタク、本気だな?勘弁しろよ……な!』

 

 上空から振り下ろされる千冬の剣をブレードで受け止めながら、スタークは体を反らして彼女の股下を通り抜け避ける。

 

「……ブランクがあるにもかかわらず、私の攻撃を紙一重で躱す貴様に言われたくない」

『ブランクゥ?お前さんにとっちゃないようなもんだろ?』

 

 シャキン、と涼やかな音が鳴った。世界最強はブレードを腰に戻すと、体勢を低く、クラウチングスタートの様な姿勢になる。だが、それも一瞬。

 

――――ぶわッ

 

 その直後、空気が揺れる。スタークの背後にて戦乙女が剣を鋭く閃かせる。

 

『うおっとぉッ!?』

 

とっさに腕でガードしたが、居合切りの要領で振るわれたブレードはトランスチームシステムの防御力を貫通する。

 スタークの腕から火花が上がった。思わず彼は溜息をもらす。さすがの彼とは言え、世界最強の力には舌を巻くしかない。

 

『あーいって……。はぁ……この場で使いたくはなかったんだが……しょうがねぇな』

「何?」

 

 するとブラッドスタークの身体が下から上へワインレッドの炎で覆われ、顔と胸のコブラのクリアパーツが青緑色に輝きだす。

 

『フェーズ……0.3ってとこか。ドライバー無しじゃ自壊しかねん、とっとと終わらせる』

「……ッ!?」

 

 千冬は両手に持ったブレードを構え、防御姿勢をとるも……。

 

「ガハァッ!ぐっ!?……ぁっ‼」

『グッ……はッ!やッ!でやぁッ‼』

 

 鋭い痛覚の爆発が千冬の脳裏を焼く。思わず呼吸が乱れ、口から空気が漏れた。

 それだけでは終わらない。狭い廊下を縦横無尽に高速移動し、ブリュンヒルデに攻撃を加えていくスターク。

 人類最強と言われた人間を一方的に攻めている。攻撃を受けながら千冬は思った。コレはまるで、人間の領域を超えたスピードのようではないか…と。

 

『……――――っスリー、ツー……ワン、タイムアウトってか…!』

 

 スタークがダルそうに壁に寄りかかり、突然攻撃をやめた。

 

『あー、しんどい……』

「!」

 

 その隙に、屋上に転がるように退避する織斑千冬。後方に宙返り、態勢を立て直すと、そこからアリーナ内の様子が視界に入って来る。

 アリーナのスクリーンには同僚たちの驚愕の様子が映っていた。スタークが近づいているにもかかわらず、千冬には何処か引っかかった。何か、『懐かしいもの』が視界を横切って行った。

 それが気になり、思わず視線を向ける。するとそこには……――――。

 

 

 

 

 スーツ姿でウサギ耳カチューシャをつけていないが、『彼女』を見間違うことは無い。

 紫色の長い髪。死んだ魚の様な乾いた目……。腐れ縁となった幼い頃からの親友の一人……。

 

「何…?束、だと……――――!」

『あー、やっぱりそう思うか?』

「スターク……これはどういう事だ!?」

 

 屋上のドアにもたれかかるスターク。未だ混乱の坩堝にいる千冬は敵であるにもかかわらず、スタークに説明を求めていた。

 

『まぁ、ネタバラシをすれば、“彼女”はお前の親友でなかった……とだけ言っておこうか、ね!』

「っしまった!」

 

 スタークは残像を生みながら接近し、千冬の腹部に手を当てる。一瞬で懐に潜り込まれた嫌悪感と、悪寒が彼女の脊髄を冷たくさせた。

 掌底にワインレッドのエネルギーを発生させた彼は、慣性を操ることで彼女をその場から吹き飛ばす。

 

『ハァッ!』

 

 スタークの裂帛の掛け声と共に、激しい轟音が轟く。音の発生源には、壁に大の字に磔にされた、世界最強の姿があった。

 後頭部で束ねた長髪が解け、壁に激突し粉々になったコンクリートと共に崩れ落ちる千冬。

 

「ぐ、ぬ…!」

 

 だが、即死しなかったのは彼女の肉体の強靭さが為せる技か。即座に口元を拭い立ち上がる。

 

『わりぃな…………んじゃ、俺は本来の目的地に行かせてもらおう。確か、学園の地下の……、特別区画エリア4だったか?』

 

 血と共に肺の空気を吐き出す千冬は、頭から垂れる血が目の中に入るのにもかかわらずファウストの強襲の目的を察する。

 

「まさか……パンドラボックスか!?解析もまだ終わていないというのに……」

 

 このままファウストの手に渡るのはまずいと千冬の勘が警鐘を鳴らす。だが、それでも千冬の身体は万全の状態とは言い難い、刀を構えるのがやっとだった。

 

『ん?そうなのか…――――そうかぁ……、まだなのか』

 

 しかし、その言葉にスタークは残念さを感じさせる声音で呟いた。まるで、計画のずれを嘆くプロジェクトマネージャーのように。

 

『……予定外だ。ナイトローグの奴、もうとっくに解析は終わってるだろうとか言うもんだからさぁ』

 

 目に見えて落ち込むブラッドスタークは、どうしたもんかね……と言うように空を仰ぐと、ちらりとアリーナを眺める。

 

『そうだ。良いコト思いついた』

「またしても…!逃がすものか!」

 

 トランスチームガンを構えたのを見て千冬も臨戦態勢に入るも、スタークは怯えるなと暢気なジェスチャーする。

 

『逃がしてよ。それじゃ、追って来な世界最強?アリーナで会おうぜ、Ciao♪』

 

 霧に紛れてその場から消えたスターク。千冬はブレードを投げつけるも、最早遅かった。

 

「……くそ!またか‼……――――っ取り敢えず今は、アリーナに……!」

 

 痛む体に鞭打ち、額や口から血をぽたぽた垂らしながら……ブリュンヒルデは重い歩をアリーナに向かわせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方のアリーナ……。

 

「篠ノ之……束……――――!?」

 

 因幡野戦兎がその言葉を発した瞬間、目に見えて機嫌が悪くなるナイトローグの変身者。

 

「篠ノ之束……あぁ、勘違いするのも当然か……。確かにこの個体の塩基配列、遺伝子情報はそっくりそのまま篠ノ之束だが……生憎だったな。私には篠ノ之束として活動した記憶は無い」

 

 篠ノ之束とは似ても似つかぬ理知的な口調と鋭い目つきで因幡野戦兎の言葉を訂正するナイトローグの変身者。

 

「何……?」

「私は宇佐美。宇佐美(ウサミ)(マボロ)だ。幻、と書いて“マボロ”と読む。そしてファウストでISコア開発とスマッシュの人体実験を行う只の科学者だ」

 

 白衣を整え、眉間をおさえる“宇佐美”と名乗った女性。そして、ポンと手を叩くと次のように続ける。

 

「あぁ、スマッシュを知らない人間がここには幾らかいるな。それに世界に知らしめる良い機会だ。では……質量ホログラムではあるがお見せしよう」

 

 そして、片手に取り出したタブレット端末を操作する宇佐美。幾らかのボタンを操作し、画面に映ったエンターキーをタッチする。

 すると突然、各国の要人が座る観客席から悲鳴が響いてきた。戦兎が見てみれば、全身が金属光沢を放つ鈍色のストロングスマッシュ、フライングスマッシュが観客席に出現している。

 

「な…!」

「あれはスマッシュの強化体でな、スマッシュハザードという。新たな被験体の改造過程で出来た、プロトタイプだ」

 

 タブレット端末をタッチペンで操作し攻撃コマンドを選択すると、宇佐美はSTRATと表示されたアイコンに触れんとする。

 

「では、実験を始めようか……人間ごときがスマッシュ試作強化体に勝てるかどうかの実験をね」

「お、前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ‼」

 

 

 

 

 

『させっかァァァァ‼』

 

 だが、悪巧みには当然正義のヒーローの邪魔が入る。超人クラスの跳び蹴りで、鋼色の体が後方へと倒れ込んだ。

 

「何!」

「!……あのバカ、ナイスタイミング!」

 

 要人エリアに突入した男子生徒、織斑一夏にサムズアップを送る天才科学者因幡野戦兎。

 

『オイ戦兎さん聞こえてんぞ!バカじゃねーよ筋肉付けろよ筋肉!っと……確かポケットに……』

 

 避難誘導のため、一夏は代わりに貸してもらったライオンフルボトルを振り、身体能力を向上させる。

 

――――ドガァァン‼

 

『『『うわぁっ!?』』』

『っち!ドラゴンフルボトルに比べて力が足りねぇ……、一発で決まらなかった!イチ、ニー、サン!っやっとか‼オラァ‼』

 

 要人の視線など何のその。彼は激しいラッシュを繰り広げる。三発目のパンチでストロングスマッシュハザードのホログラムは爆散し、現実世界から消え去った。

 だが、まだスマッシュハザードは残っている。彼はもう一度ライオンフルボトルを小刻みに振り、力を高める。

 

『オーバーヘッドキッーーークッ‼なんてなぁ‼』

 

 後ろも見ずに飛び上がり、後方宙返りをしながら接近してきたスマッシュにライオン顔の形をしたエネルギーを叩き込む。軽口を叩けるところを見るとまだまだ余裕綽々、途轍もない身体能力である。

 その攻撃によって致命的なダメージを負ったらしい。フライングスマッシュハザードもノイズを走らせながら消えてしまった。

 

『うしっ!勝利!どーよ、俺の大・胸・筋!んじゃ、そっち行くわ!』

「…いやいやいや!?強くなりすぎじゃない一夏!?」

「……、スタークのお陰だろうな。組手でもしたか?ハザードレベル……、3.1か」

 

 一人の科学者はびっくらこき、もう一人は冷静に分析し、特殊なレンズで一夏のハザードレベルを計測していた。これにはIS学園生徒たちもあきれ顔。

 

「さすが、織斑先生の弟さんですわね…」

「毒されつつあるわねセシリアも…、って!」

 

 その時だった。鈴には、アリーナに息を切らせながら一人の女生徒が入ってくるのが見えていた。

 

「ちょ…っ、アンタも何で来たの!」

「ッ…!すまん、でも…!」

 

 今がどれだけ危険なのかは分かっていた。今自分がすることはどれだけ我儘なのか、理解していないはずがなかった。だが、一人の大和撫子が己の信条を曲げてでも言いたいことがあった。

 宇佐美幻と名乗った怪人の前に、包帯を付け傷つけられた少女が気丈に立ち向かい合っていた。

 

「…――――お前は。確か…あぁ、イチカ・オリムラの為のモルモットか」

「はぁ……はぁ……、はぁ…。貴女に聞きたいことがあります」

 

 包帯に包まれた片手で宇佐美を指さす篠ノ之箒。

 

「……なんだ」

「貴女はさっき篠ノ之束として活動した記憶はない、と言っていました……ですが、記憶がないだけで、私の姉さんなのではないですか?」

「……――――だとしたら?」

 

 宇佐美は考え込んだように一拍開けて返答すると、箒は肩の力を抜き少しばかり微笑む。

 

「貴女には…――――言っておきたいことがあったんです。姉さん………――――今の貴女であっても、昔の貴女であっても……――――」

 

 

 

 

 

――――私は………………貴女を許さない

 

 

 

 

 

 誰かが息を吞む音が聞こえた。

 

 その時の篠ノ之箒の表情は筆舌に尽くしがたい。クラスメイトに見せる時の様な、穏やかで優しい大和撫子の美しさは欠片もなかった。

 親の仇を見つけた様な、哀しみと憎しみ……そして並々ならない怒りを宿した、そんな顔。

 

 恐怖、憤怒、憎悪。厭悪、絶望、殺意。失望、破壊。様々な負の感情を濃縮した苦しみに耐え、全てを濯いで心穏やかに努めたが、それでも残り続けた純黒の感情だった。

 

 

「……フハッ、篠ノ之束は随分と嫌われているようだな?実の妹にも絶縁をきっぱりと言い放たれるとは!いや、実に面白いよ、篠ノ之束と言うバカは!」

 

 しかしそんな激情を叩きつけられても宇佐美は気にも留めない。むしろ興味深そうに人間関係を分析し、左の手首の回転を利用してバットフルボトルの成分を活性化させ、トランスチームガンを構え、装填する。

 

【Bat…!】

 

「もし、私に篠ノ之束の影を見たいのならばやめておけ。私は彼女のガワを被ったただの狂人だ。善人としての心など、燃え盛る“あの日”の炎によって既に蒸発している。故にこう言おう」

 

 彼女の口元に、三日月が浮かぶ。

 

「蒸血……」

 

 その言葉を呟いた後、彼女はトランスチームガンを振り抜いた。

 

【Mist match…!】

 

 電子音声が鳴ると、黒煙が宇佐美の身体を覆い尽くす。

 

【Bat…B-Bat…Fire…!】

 

 花火が撃ち上がる音と共に、漆黒の怪人が姿を現した。彼女の名は『ナイトローグ』。夜に潜み、科学という魔術を振るうもの。悪魔メフィストフェレスに魂を預けた、真理を導かんとする者らの長。

 ナイトローグは手を舞台俳優の様に肩まで持ち上げ、箒や戦兎、倒れている代表候補生たちやバーサーカーⅣの搭乗者に向かって歩み寄る。

 

『花火の様に散るが良い……!』

「とりあえず今は、……オレが戦わないと……グゥ!?」

 

 突然戦兎の身体に激痛が走る。痛みに耐え切れず、地面に倒れ込み、ビルドドライバーをカシャンと取り落とした。

 

「う……うぐ……!」

『どうやら、キードラゴンフォームでかなりのダメージを重ねていたらしいな。そして先のラビットタンクフォームでの一撃が文字通り“渾身の一撃”となった訳だ』

 

 スチーブレードを構え、一歩一歩ゆっくりと近づいてくるナイトローグ。

 

「何も…――――出来ないのですか?」

「因幡野先生……うぅ……!」

「…ッ因幡野先生!早く逃げて……!」

「クソックソッ!動きなさいよアタシの脚…ッ‼」

 

 悔し気に這いつくばりながらナイトローグを見つめることしか出来ない代表候補生たち。

 

『フフ……うん?』

 

 その時。青い炎が巻き熾る。

 

「……――――。待てよ、偽・束さん、忘れてねぇか」

 

 走って来たのか、その人物は息を整えると、因幡野戦兎が倒れた場所とナイトローグの間に立った。

 

「……、なあ戦兎さん、一つ答えてくれねぇか?」

「!…――――、一夏……?」

 

 汗を拭いながら織斑一夏はしっかりとした歩調で戦兎の前まで進む。そして彼女の目の前で屈みこむと、前々から気になっていた疑問をぶつけていた。

 

「何でだよ?誰かに頼まれたわけでもねぇのに、誰に感謝されるワケでもねぇのに……。何でそんなボロボロになるまで戦えるんだよ?」

 

 呆れた様な……だが憧憬の入り混じったこそばゆい視線が戦兎に突き刺さる。逆に純粋な、真っ直ぐな目で彼を見返す戦兎。

 

「言ったろ……見返りも……称賛もいらない……。オレはただラブ&ピースの為に、戦うって……」

 

 一夏はそれを聞き、一瞬キョトン、と顔から表情が零れ落ちる。その後彼は、はぁ……と呆れたようにため息を吐く。

 すると、どこからともなく機械音声が鳴り響いてきた。それは、英雄の誕生を祝福するような讃美歌にも聞こえる。

 

「……っクローズドラゴン!?何で……っまだ変身プログラムは未完成のはずなのに……!」

「頼む。ちょっと力貸してくれ……」

 

――――ギャオン!

 

 クローズドラゴンは“任せろ”とでも言うかの様に一声鳴くと、ガジェット形態に変形した。

 

「戦兎さん。俺のことを馬鹿バカ言ってるが……。アンタこそ馬鹿だろ」

「何……だって……――――あいたっ!?」

 

 一夏は飄々とした口調を崩さない。今までの御返しだと言うように罵倒しながら、スタスタと戦兎に近寄り、デコピンを一発。

 彼女が悶えている間に、近くに転がっていた青いボトルをその手に納める。

 

「痛すぎんだよ、いい歳こいて……ヒーローショーでもそんなこと言わねーぞ?」

 

 彼は心底馬鹿にした口調で戦兎のトレンチコートの土埃を払ってやる。

 

「惣万にぃも昔言ってたっけな……、確か“正義の味方に憧れることができるのは子供だけ、大人は大事なもんがすり減って、言い出すことができなくなって辛くなる”とかなんとか…」

 

 ボロボロになりながら、称賛も何も貰わずに戦い抜いてきた先輩の仮面ライダーを労わるように、最後に頭をクシャッと掻きまわす。彼女に、よく頑張ったなと言うように。

 

「だから……、しょうがねぇから、俺も一緒になってやるよ」

 

 地面に転がっていたビルドドライバーを空いた手に持つ一夏。そしてガジェットになったクローズドラゴンにドラゴンフルボトルを装填する。

 

 

【Wake up!】

 

 

「……っ力を手に入れるってのは、それ相応の覚悟が必要なんだよ……!半端な覚悟でなろうなんて思うな……、一夏!」

 

 戦おうとする一夏に戦兎は慌てて声をかける。彼までも辛く、険しい道を歩む必要はない。そう思ったうえでの制止だった。

 

「覚悟……ねぇ?」

 

 

【CROSS-Z DRAGON!】

 

 

 ベルトにクローズドラゴンをセットし、天を仰ぐように逡巡するも……――――彼には、一夏にはその答えは決まっていた。

 表情を引き締めると、ドライバーのレバーを回転させ、スナップライドビルダーを展開させる。

 

 

【Are you ready?】

 

 

 ドライバーからのその言葉に、一夏は万感の思いを乗せてこう叫ぶ。

 

 

「 変 身 ! 」

 

 

 すると、一夏の前後に展開された青い装甲が合体した。

 しかしそれだけでは終わらない。ビルドでは存在しなかった龍のパーツが背後に合わさり、広げていた翼を彼の肩に纏わせるように閉じ、頭部には龍の顔を模した冠が被さった。

 

 

【Wake up burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!】

 

 

 蒼炎が蒼穹を舞う。白い浮雲にまで届けんと、その雄姿は青龍となって産声を叫ぶ。

 

 

「背負う覚悟?孤独でも戦い抜く覚悟…?そんなモンな……、とうに出来てんだよ!もうあの時みてぇに、誰も泣かせたくねぇんだよ…‼」

 

 ボトルの力を用いて戦うもう一人の青い戦士。彼がナイトローグの前に立ち塞がる。

 

「……あのバカ……、やりやがった……!」

「……――――一夏……」

 

 箒は毒気が抜かれた表情になり、戦兎は身体の痛みを我慢しながらも声を絞り出す。

 

「……一夏。……お前まで背負うことは無かったのに、……だけど」

 

 苦々し気な顔から一転、引き攣り気味だが『クシャッ』っとなった表情になる。

 

最高(さいっこー)だ!お前は正しく……、“仮面ライダー(正義のヒーロー)”だ!ま、完全無欠じゃねーけど、な?」

 

 

 

 ナイトローグと向かい合う青い戦士。

 

「戦兎さんも……この学校の連中も皆バカばっかだ!」

 

 

 その言葉と共にIS学園にやってきてから出来た友人たちの顔を思い浮かべる。

 

 貧乏くさい、放浪の旅人の様なイギリス貴族。

 

 元気印だが、黒くがめつい部分を持つ中華娘。

 

 物静かだが、ヒーロー大好き人間だった日本代表候補生。

 

 そこはかとなく残念さがにじみ出る生徒会長。

 

 

 

 そして、もう一度再会することができた自分にとって一番大切な幼馴染……。

 

 

 

「……けど、悪くねぇ!俺も、バカだったしな!」

 

 後ろを見る。彼女らが…――――。箒が……――――。そして因幡野戦兎が見ている。彼のことを、信じてくれている。

 

「俺は…、俺のために戦う!俺が信じた……俺を信じてくれた者の為に戦う‼」

 

 一夏は叫ぶ、彼の……仮面ライダーとしての名を!

 

「 俺 は …… ! 仮 面 ラ イ ダ ー ! ク ロ ー ズ だ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ッ ‼ 」




 ナイトローグの本名、発表!いやぁ……ウサミミカチューシャ→宇佐美、アリス・イン・ワンダーランド→幻想→幻って適当過ぎましたかね……。(二人のローグ、内海成彰と氷室幻徳の名前もイメージしました)

 そして、一夏君待望の変身です!駆け足気味でしたが……万丈より焦り等がなくすんなりと変身させられました。


※2020/12/15
 一部修正


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第三十五話 『新たな火種へのエボリューション』

一夏「変身!がしゃがしゃっ、ぎゅるーん!ぼぉぉぉ、で、ばーん!参上!」
戦兎「いきなり馬鹿じゃないと分からない怪文章やめてくれないかな?ちゃーんと説明しなさいよ、世界唯一のIS育成機関に入ったんでしょ?」
一夏「あ?なんでわかんねーんだよ。分かるだろノリで。戦いだってそうだ、大事なのはノリだ。ノリのいい方が勝つんだよ」
戦兎「何そのライヴ感!?ないからね、主人公補正とかが物理法則凌駕することなんて一切ないからね!ねー箒ちゃん、頼む!一夏に言ってやってよちゃんと前書きであらすじ紹介してって!」
箒「ふむ?何を言っているのだ因幡野先生は、ちゃんと前回のことが簡潔に伝わったではないか」
戦兎「え?うっそ……すっ、鈴ちゃーん!?」
鈴「へ?いや、分かりやすかったんですけど?」
戦兎「え、ぇえ…?マジかよ…?あ、織斑先生ちーせんせいチッピー先生!?」
千冬「…スマン。今の出理解できた」
戦兎「なんでだぁぁぁぁぁぁぁ!?」
セシリア・簪「「…テンションに身を任せたらわかっちゃった…」」


【ビートクローザー!】

 

 ベルトから電子音声と共にランナーが空中を巡り、一本の剣を形成する。

 

「っしゃぁ!行くぞゴラァ!」

『フン……』

 

 一夏……今や仮面ライダークローズは剣身にイコライザーメーターがついたブレード『ビートクローザー』を手に持ち、ナイトローグに斬りかかる。

 

「でやっ!ハァ!ぜりゃァァァ‼」

『……、ッ!流石ブリュンヒルデの弟、か!』

 

 自然体から疾風のように繰り出される斬撃。それをナイトローグは紙一重で避けるものの、今までは感じさせなかった焦り等の感情が見え隠れする。

 

「戦兎さん、一夏……変身するの初めてなんですか?あの太刀筋、どう見ても使い慣れているようにしか見えないのですが……」

 

 箒は倒れていた代表候補生たちを安全地帯へ肩を貸して移動させている途中、おぼつかない足取りで隣についてきた戦兎に尋ねる。

 

「過去に一夏がISのブレード『葵』を使って戦ったデータもクローズドラゴンにインプットされているからね…。それが反映されているのかも……あ、いたたたた…~ッ!」

 

 一旦間をおいて箒は言葉を続ける。

 

「……もしかして、あれは最初から一夏の為に……?」

「えぇ?違うヨー、ドラゴンフルボトルは体に負担がかかるからその為に造ったデバイスで……うん、仮面ライダービルドクローズドラゴンフォームにするはずだったんだヨー」

 

 そっぽを向きつつ棒読みで言う因幡野先生。

 

「……――――そうですか。そういう事にしておきましょう…」

 

――――それでも………………

 

「ありがとうございます」

「…ン。ど、どーも…(やっぱなんでかな、この子には敵わない気がする…)」

 

 箒はニコッ……と花が咲いたように微笑み、混じりっ気無しのお礼を戦兎に言うのだった。

 

 

 

 

 剣戟をナイトローグと繰り広げながら、クローズは剣のグリップエンドを一度引っ張る。

 

【ヒッパレー!】

 

 軽快な待機音と共に、剣の身に蒼炎が噴き出した。

 

【スマッシュヒット!】

 

「ハァ!」

『フン……!』

 

 力強くビートクローザーが蒼炎の軌道を描き、ナイトローグに襲い掛かる。だが、それはナイトローグの腕のカッター部分で受け止められ、逆にスチームブレードがクローズのボディに袈裟懸けに振るわれた。

 

「危な!」

『今のを避けるか……だが、今のお前のハザードレベルでは私に傷一つ付けられない』

「まだだ!」

 

 今度は黄金のフルボトルを中央の穴にセットし、グリップエンドを二度引っ張る。

 

【スペシャルチューン!ヒッパレー!ヒッパレー!】

 

 黄金と青の炎が剣身に纏わりつき、クローズの身体を照らし出す。

 

【ミリオンスラッシュ!】

 

「ハァァ‼」

『ロックフルボトルか。だが、それが分かっていれば……!』

 

【アイススチーム!】

 

 ナイトローグはバルブをひねり、ブレードでそれを受け止めようとする。だが……。

 

「甘い」

 

――――ギャリンッ!

 

『……!?』

 

 気が付けば、ナイトローグの体にビートクローザーが当たり、胸の装甲から眩い火花が噴き出した。

 

『今のは……』

 

 攻撃を避けたと思っていたらしいナイトローグは驚愕で自分の胸を眺める。

 

『……何をした!』

 

 怒り交じりに彼女の背後で残心するクローズに尋ねる。

 

「……篠ノ之流、『鍔迫返し』……」

 

 クローズはビートクローザーを正眼に構え直し、幼い頃に習った剣術の名を誰ともなく呟いた。そして体の動きを止め、重心を丹田に集めると……。

 

「……ハッ!」

『クッ……!』

 

 スチームブレードとビートクローザーが激しい音を立てて火花を散らす。今の状態のナイトローグは防御システムが停止している為に、極力攻撃を受けるわけにはいかないのだ。それ故、彼女はペースを乱され、イラつきながら言葉を吐き出す。

 

『忌々しい……!よりにもよって“篠ノ之”だと!?どこまで私の邪魔をすれば気が済むのだ、篠ノ之ォ‼』

「どーやら、何か因縁があるみてぇだな……。けどな」

 

――――ギャリン!

 

 力強くナイトローグの装甲を斬るクローズ。血が噴き出すように、眩い火花が散る。

 

『ムゥ!?』

「お前さ、どの口が言ってる?アンタが篠ノ之束だろうがなかろうが関係ねぇ……箒を傷つけたお前が……!ファウストが!俺の女の(その)名前をそんな理由でほざいてんじゃねぇよ‼」

 

――――ズバァンッ!

 

『グオォォ!?』

 

 箒を傷つけた、それだけで一夏がナイトローグと戦う理由としては十分だった。

 

「一夏……――――」

「うへぇ、甘いねぇ…どんだけよあの箒バカ」

 

 その言葉を聞いて箒の顔が赤くなる。火傷を負ったわけでもないのに頬が熱に苛まれる……。だが、悪い気はしない。むしろ大嫌いな女の顔を見て冷めていた心が温かい……。

 

『ヴゥ……!』

「しゃぁっ!攻撃が通じる。畳みかけ……、ん?」

 

 

 突然アリーナの一か所に煙が立ち込め、ワインレッドのパワードスーツの人物がガーディアン達と共に現れる。

 

『おっとと……、どいつもこいつもノってるねぇ』

「ブラッドスタークじゃねーか。このタイミングで、か……」

 

 スタークの行動の読めなさから、クローズはさらに警戒心を高める。丁度スタークが出現した地点の近くにいた戦兎は、スタークが片腕に担ぐように持っていたモノに目を剝く。

 

「……!それは……パンドラボックス!そんな、地下施設に収容したはずなのに……!」

『ただのパスワード施錠だろ……?不用心すぎるぜ、お前等。ロックフルボトルでも使えよ』

 

 へらへらと腕を振るスタークだったが……。

 

――――チャキッ……

 

『ん?』

 

 ナイトローグがトランスチームガンをスタークに向かって構えていた。

 

『スターク、パンドラボックスを持って……どこに行くつもりだ?』

『オイオイ、殺気立つなよ……、追い詰められてるからってさぁ……?』

『黙れェッ‼とっとと答えろッ‼』

『決まってるだろ、俺たちの帰る場所は一つだ』

 

 心配すんなよ~、と言ってフレンドリーにナイトローグの肩を叩く。

 

『そう言うものの、逃走ルートが予定と違うな……!』

『見ての通りだ。予定が狂ったんだよ』

 

 その言葉と共に、太陽を背に長髪の戦士がアリーナ内に飛び込んでくる。

 

「待て、スターク‼」

『……っ来たな、ガーディアン達!』

 

 その白刃を防ぐためスタークは腕を水平に薙ぎ、ガーディアンを深紅の壁へと変化させた。しかし声の主は、それすら気にも留めず真一文字にブレードを振るう。

 

「ッはァ‼」

 

 一閃する鋼。裂帛の声と共に吹き飛ぶスタークを守る盾。紙切れ同然にそれを断ち切ったパワードスーツの人物にアリーナにいた人たちの驚愕の視線が集まる。

 

『……成程、理解した。織斑千冬か……』

 

 アリーナに、最強の戦乙女が舞い降りた。体の所々から血を流しているが、未だ戦意は消えていない。犬歯を見せながら息を整え、言葉を投げかける。

 

「スターク……。そして……――――束、なのか…?」

 

 しかしナイトローグに変身した彼女はその質問に一切の反応を示さない。やれやれ、と肩をすくめるようなジェスチャーを織斑千冬への応答とした。

 

『ナイトローグだ……』

「どうでもいいそのパワードスーツの名前など!教えろ……何故惣万の店を襲った!何故妹を傷つけた!何故一夏を襲ったファウストに与している‼」

 

 ナイトローグの名を呼んでもらえなかったからだろうか、彼女の声は目に見えて不機嫌なトーンになる。

 

『私が篠ノ之束だと?本当にそう思うか?』

「何……?」

 

 話題を意味深なセリフで逸らすと、彼女はブラッドスタークに向き直り鈍色の箱を持つ。

 

『では、パンドラボックスを持ち帰るぞ』

『オイオイ、まだ解析データを入手していないんだが?』

 

 ブラッドスタークはチラリと因幡野戦兎に視線を送った。ねっとりした視線を受けて、戦兎は思わず身構えてしまう。これ程気持ち悪かったのは、nascitaで手伝いした際に助兵衛なオッサンにセクハラを受けた時以来である。

 もしかしてスタークの中身って変態なんじゃねーだろうか、などとくだらないことを戦兎は頭のどこかで考えていた。

 

『問題無いだろう、私さえいればパンドラボックスの解析は容易い……核を超えるエネルギーも思いのままだ。それに、この数週間も時間があったのに解析が未だ出来ていない自称てぇん↑さい↓科学者に用はない』

「あ゛?」

「はぁ…もう」

 

 その言葉にカチンときたらしい、箒の隣で戦兎が思わず声を上げた。彼女の頭部に怒りマークが如実に見えている。

 落ち着け、とばかりに箒はトレンチコートの襟首を掴んでいた。うげっ、と変な声が出たがご愛敬。

 

『確かにお前ならすぐに分析できるだろうが……。そういうこっちゃないんだよなぁ……よっと!』

 

 トランスチームガンで近寄ろうとしていた千冬に向かってエネルギー弾を撃つスターク。

 

「ッ!」

「危ねぇ!」

 

 そこに青い影が割り込んだ。

 

「……ッ新しい仮面ライダー!?」

 

 その時になって、ようやく彼女は新たな仮面ライダーの存在に気が付いたようだった。青い龍を模したアイレンズ、片手に持つブレード……。どことなくその姿は白騎士を纏った誰かを思い出し……。

 

「……ッ一夏か!?」

「千冬姉……、あー、その身体……大丈夫か?」

 

 頭をポリポリ掻きながら姉の具合を心配する正義の味方。そして、どこか飄々とした言動に紛れもない(一夏)を感じ、ふっと顔を綻ばせる姉。

 彼女は瞬時に顔を引き締め“織斑先生”に戻すと、安心させようと自分の愛する“生徒”に声をかける。

 

「……問題ない、ただトラックが衝突した程度の怪我だ、すぐ治る」

「そうか、無事で何よりだよ」

 

 そう言って互いに自分の持つブレードを構え、赤と黒の怪人に切っ先を向ける。油断なく光る二振りの剣は、美しい空が写り込んでいる。

 

『…無事じゃねーだろその例え。織斑家ってNEVER?まぁやったの俺だけど』

『スターク、ふざけている場合か、とっとと片付けるぞ』

『へいへい……』

 

 対してトランスチームガン、スチームブレードを持ち、姉弟に立ちはだかるのは二色の害獣。

 

「んじゃ、俺はナイトローグを相手する、箒の為にもな…!」

「では私はブラッドスタークだな。どうにも彼奴は気に食わない」

 

 

 互いに因縁の相手と向かい合うと……。

 

『『「「……ハァ‼」」』』

 

 それぞれ同時に駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 ブリュンヒルデと毒蛇の戦いは熾烈を極める。

 

『全く勘弁しろよな、俺としてはこんなことしたくないんだがなぁ……、おっとぉ!』

「なら、出てくるな!」

『んじゃ、ガーディアンに任せるかね……ほいッと』

 

 トランスチームガンから煙が巻き起こり、数十体のガーディアンが姿を現した。さらにそれぞれが合体し、巨大な二足歩行ロボットに変形すると……――――スタークの力かボディが真紅に染まった。

 

「げ……あれって、研究施設に出たヤツ…」

 

 戦兎は苦々しい表情を浮かべて目の前の巨大なロボットを見る。

 

「千冬姉!使え!」

「……!」

 

 見かねたクローズから一本のボトルが投げ渡された。

 

『おっと、忍者フルボトル、ね……!姉思いの弟だな』

「あぁ、自慢の弟だ!」

『させるか!』

 

 ナイトローグの頭部や肩の煙突から黒煙が噴き出し、ナイトローグの分身がブリュンヒルデの元へ向かおうとするが……。

 

「その技はドイツで既に見た!」

 

 千冬は片手でボトルを振りながら、もう一方の手に持っていたブレードを投げる。すると紫色のエネルギーを纏いブレードは回転。巨大な手裏剣となって千冬の意のままに縦横無尽な軌道を描いた。

 紫電一閃。分身のナイトローグは次々と討ち果たされ、黒煙となって消えていく。

 

『馬鹿な!?』

『オイオイ、お前ニンジャってやつか?スゲェな日本人』

 

 まさかの事態にナイトローグたちは驚きで一瞬固まる。その隙を見逃すはずがない。

 

「どけ!」

『……ッチィ!イチカ・オリムラァ‼』

 

 ナイトローグは身を翻しクローズのビートクローザーを避け、ブラッドスタークの傍に転がり込む。

 彼女が体勢を正して二人の方を見ると、姉弟は赤い要塞兵器に向かい合っていた。

 

「千冬姉。アレ、壊すぞ」

「……織斑先生だ、織斑(夏)」

 

 二人は言葉すくなに交わし、互いの得物をそれぞれ構える。

 そして同時に遥かな上空へと跳躍した。それをさせまいと、ガーディアンは上空に銃弾を連続で放つも、二人の剣戟が飛来する弾丸を打ち掃う。

 

「「ハァァァァァァ!」」

 

 落下と、そして叫びと共に振り下ろされる双刀。青と紫のエネルギーを纏った剣の攻撃が、ガーディアン集合体を頭から真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

 

「……うっそーん…、最強だぁ…」

「もう、一夏が何してもオドロカナイ……」

「織斑姉弟だから、って言えば何とかなる気がしますわ……」

「「「同意」」」

 

 ……それが遠方から見守っていた先生、同級生たちの意見であった。

 

 

 

 

「イェーイ!千冬姉、イエーイ!」

「馬鹿者、後ろを見ろ」

「大丈夫、気付いてる、よ!」

 

――――パァン!ガキン!

 

 トランスチームガンから飛んできたエネルギー弾をノールックで弾き、イラついた様子のナイトローグを見る。

 

『やってくれたな……!』

「おぉ、やってみたら出来たわ」

 

 事も無げに余裕たっぷりに皮肉るのも忘れない。千冬も、こういう時の弟の頼もしさに少し喜ばしくなった。

 

『お見事!』

 

 突如として笑い声、そして拍手が鳴り響く。ナイトローグは眉間をおさえながら、声の主の首を掴む。

 

『敵をほめてどうする、スターク!……ッソ!パンドラボックスは奪取した!逃げるぞ!』

「だからさせるかっての!」

『……ッえぇい!邪魔だ!』

 

 ビートクローザーを構え、ナイトローグたちに斬りかかるクローズ。ナイトローグはブラッドスタークを突き飛ばし避けるも、そこに千冬も加わり、またも混戦になってしまう。

 

 

 

『はぁ……やれやれ。こーいうごちゃごちゃした戦いは好きじゃないんだよね、なんつって』

 

 二体一で戦っているローグを見ながら、ブラッドスタークはライフルにコブラフルボトルをセットし、引き金を引いた。

 

【Cobra…!スチームショット!Cobra…!】

 

 ブラッドスタークの放ったエネルギー弾は、戦い合う三人を巻き込んで爆発を引き起こす。

 

『ッ!』

「おわっと!?」

「くっ!?」

 

 そして宙を舞う鈍色の箱……。

 

「……パンドラボックスが!」

 

 それを受け止めたのはスタークだったのだが……。

 

『そらよっと!』

『スターク!?』

 

 片手で箱の側面を叩き、眩い光と共に戦兎の佇む場所へとトスする。

 

「お、オーライ、オーライ……ッと!」

「ナイスキャッチですわ!」

 

 その時、戦兎が持っていたエンプティボトルの中に眩い光が入って行く。幾何学模様のボトルになった容器がキャッチした時の反動でポケットの中から転がり落ちる。

 

「……っ!?この成分は、パンドラボックスの中の光…?」

 

 偶然(・・)起きた現象に、戦兎は首を捻るしかない。パンドラボックスには、一体どんな秘密があるのだろう。そんなことをふと思っていた。

 一方、敵に塩を送ったスタークにナイトローグが詰め寄っている。彼女はスタークを掴み自分の傍に近づけると、激昂をぶちまけた。

 

『何をしているスターク!パンドラボックスをみすみす相手にやることは無い!我々が所持しておくべきだ!』

『オイオイ、かっかするなよ……それに、悪いことばかりとは限らないぜ?』

 

 その時だった、パンドラボックスが輝きだし……、箱の側面から一枚の板がはじき出される。

 

『よしよし、最後のパンドラパネルが外れたな……』

「パンドラパネル?この板って……?」

 

 戦兎の手に収まった幾何学模様が刻まれた緑の板。それを見て赤い蛇は満足げに頷いた。

 

『……ッ!その板を渡せ!』

「よそ見してる暇があんのか!?お前の相手は俺だ!」

『チィ!』

 

 取り返そうと駆け出すも、青い炎を纏った仮面ライダーに阻まれてしまう。スチームブレードを振るって退けようとするも、クローズの戦闘技術は既にナイトローグとほぼ互角……、勝負は拮抗状態になる。

 

 いいや、よくよく観察してみればそれは違った。どういう訳か戦えば戦うほど、クローズの力が強まっているのだ。徐々にナイトローグは圧されていく……。

 

『こんなバカな…!このハザードレベルの上昇値は異常だ……既に3.4に至るだと……?』

 

 後方へジャンプし、距離を取りながらバイザーを金色に輝かせハザードレベルを測定する蝙蝠のパワードスーツの怪人。

 

「強えだろ?俺だけの力じゃねぇからな……。この剣の振るい方は千冬姉から……」

 

 過去を振り返るような眼差しで剣の身を眺めると、彼はビートクローザーを水平に構える……。

 

「このベルトは戦兎さんから……」

 

 そう言ってクローズはボルテックレバーを握る。

 

「そしてこのボトルは箒から預かった力だ…‼今の俺は……、いいや…俺達は‼負ける気が‼しねぇぇぇっ‼」

『……ちッ!そんな根性論を説明しろなどと誰が言った!』

 

 クローズは力を貯めるように重心を低くし、猛スピードでレバーを回転させる。

 

「オラオラオラオラオラァ‼」

 

【Ready go!】

 

 何処からともなく青い龍、『クローズドラゴン・ブレイズ』が召喚され、主であるクローズの背後に控える。

 

「はぁぁぁぁぁ……!」

 

 クローズは腕を水平に構え、丹田に力を込め……。

 

【ドラゴニックフィニッシュ!】

 

 龍のけたたましい鳴き声と共に吐き出された火炎に乗り、蒼炎と共にナイトローグ目掛け一直線に吹き飛ばされるクローズ。

 

「ドリャァァァァッ‼」

 

 そのまま蒼炎を纏った右足でボレーキックが炸裂する、といったところで……。

 

『!……ならば……コレで!』

 

 とっさにタブレット端末を取り出し、ナイトローグはタッチパネルを操作した。

 

 

――――ドッガァァァァァァン‼

 

 身体から湯気を立てて着地するクローズ。そして難を逃れたナイトローグは爆炎の外に転がり出る。彼は彼女のそのとっさの判断に舌を巻いた。

 

「……ホログラムのスマッシュを身代わりにして逃げたのか」

『チィ……ッ、私の計画が狂ってしまった……!スターク!』

『まぁまぁ、落ち着けよ?そもそもお前が計画を早めたからだろう?その詫びとしてあちらさんを助けてやっても俺に罰は当たらんだろ』

 

 そのブラッドスタークの言葉に彼は噛み付く。飄々とした言動で本心を晒さず、人を傷つけておきながら、その反面人を傷つけたくないと宣う理解しがたい怪人に、彼は怒りが湧いてくる。

 

「てめぇ……!箒を傷つけたと思ったら助けてやると言ったり……一体誰の味方なんだ!」

『言ったはずだ……俺はゲームメーカーだ。俺がこのゲームを支配する。だから俺は誰の指図も受けない』

 

 そうクローズに言い捨てると、彼は足元のおぼつかない仲間に向き直る。

 

『それに、因幡野戦兎ならアレが造れる。そして織斑一夏ならアレが使える……。ゲームがさらに進展するぜ?』

『……まぁ良い…。だが次からは余計なことをするな……』

『はいは~い』

 

 『アレ』という言葉に真っ先に反応した戦兎。科学者の勘だろうか、とてつもなく興味がそそられた。

 

「“アレ”……って?」

『お前が俺達の施設から持っていったメモリ、そこに答えがある……分からないなら次の強襲の時にヒントをやろう』

「……っ、二度と来るな…!」

『つれないねぇ……。そんなこと言うなよ。ま……今日の所はここまでか』

 

 ナイトローグ、ブラッドスタークの両名は、片手にトランスチームガンを出現させた。

 

『……それでは、我々ファウストのデモンストレーション、愉しんでいただろうか、皆様?貴方方の記憶の片隅に爪痕を残せたのであれば幸いだ』

 

 締めくくりの言葉としてナイトローグは観客席にいる各国要人、アリーナ内の様子を学園に届ける監視カメラ、そして仮面ライダーたちに向かって仰々しくお辞儀をする。

 

『ではな、IS学園生徒諸君……。ブリュンヒルデ…、そして仮面ライダー!今後、貴様等のその兵器としての力、存分に戦争の為に振るってもらおう』

『それじゃ、Ciao♪』

『さぁ……戦争の始まりだ……』

 

 そして秘密結社“ファウスト”の先兵二人は影も残さず、煙と共に消え去ったのだった……。世界各国に大きすぎる爪痕を残して……。




 ふぃ~……(某希望の魔法使い)。やっと鈴ちゃんの話が終わった……。いや、ドラゴンはドラゴンだけどほぼほぼ一夏だったな……。そして千冬姉、流石千冬姉略して『さすおね』でしたね。シンフォ〇アのOTONAといい勝負だなコレ……。

※2020/12/16
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第三十六話 『受け取ったレガシー』

鈴「蘭?アンタ、大丈夫?」
蘭「あ、鈴さん…その節は御迷惑をおかけしました。どうやらISに乗って皆様に多大なるご迷惑を…」
セシリア「いえ、お気になさらず。どうやら過失はないようですし。あ、始めまして。わたくしセシリア・オルコットと申します。イギリスで貴族の方を少々やっておりますが、どうぞよろしく」
鈴「いや、初めて聞いたわよそんな自己紹介…」
蘭「え、あ。イギリス代表候補生のセシリアさん!?は、始めまして!私、IS学園に入ろうかなとか考えていまして…!代表候補生の皆さんのことは調べてて…!」
楯無「鈴ちゃん、友達が目が覚めたってホント?だいじょーぶ?」
簪「…あ、お邪魔だった…?一応ISのデータ解析終わったよって報告に来た…んだけど…」
蘭「う、うわーっッ!うわぁぁぁぁッッ!何でこんなに有名人の皆さんがぁぁぁぁ!?もしかして私、とんでもないことしちゃってたんじゃぁぁぁぁ!?」
セシリア「有名人ですって…。え、えぇ?代表候補生でもそこそこあるもんですわね…エリートって訳じゃないですのに」
鈴「いや、アンタは代表候補生前の活動とかで有名でしょうが…。調べたら『とんでもないこと』やってたわね…」
簪「…私、簪。よろしく、鈴からいい子だって聞いてる。妹同士仲良くやろう…」
楯無「抜け駆け!?簪ちゃん強か!」
蘭「きょっ、恐縮ですぅぅぅぅ…、一夏さん助けてぇぇぇぇ!」


『財団Xが報告する。IS学園に侵入し、世界各国に新たな脅威を知らしめた秘密結社“ファウスト”。各々の国はその軍事力に対抗するため、また戦力増強の為、軍籍IS候補生さえもIS学園に送り込むこととなった。しかしISのコアには限りがある。故に訓練生がIS学園に行くということは逆に使用できるISが減るということを表している。特に困ったのはヨーロッパ諸国である。急進的に第三世代機、そして第四世代機を開発したデュノア社によってISコアはヨーロッパではさらに希少なものとなった。さらに現在、ISコアの製作が可能な科学者、『篠ノ之束』も行方不明。それ故ヨーロッパ各国は頭を抱えた。我々には力が必要だ、ISを超える力が……、と。

 

 そこで我々財団は彼らヨーロッパ連合に一つの新たな力を提供した……。

 

―資料映像―

 

【ロボットゼリー……!】

 

 ISの前に立ちはだかる金色の戦士。楽し気に笑いながらISの攻撃を避けていく。VTシステムが内蔵された第四世代機を次々に撃ち落としていく。

 その黄金の疾風にも似た一撃は、災害とも称される神威さえ討ち果たす。光速度で飛来するビーム攻撃、1ナノ秒で振るわれる剣、触れれば核爆発さえ生温い衝撃を受ける打撃、それら全てを以ってしても彼は一切意に介さない。易とも容易くそれらを避ける。

 世界最強と互角以上に戦うであろう彼は、細胞レベルで人の限界を卓越した、まさに『超人』と言うにふさわしい。

 

「ハハハ……ハハハハハ!コレが俺の求めていた……祭りだぁぁぁぁぁっ‼」

 

 そしてその戦士は勢いよく左手を振りかぶり、ISに正拳突きを食らわせた。

 

―映像終了―

 

 

そして我々はヨーロッパ連合にその見返りとして、日本……――――いや、IS学園にあるフルボトルの秘密裏の回収という指示を出したのだった』

 

 財団Xヨーロッパ支部長 ナンバー・チルドレン オットー

 

 

 

 

 

 繁華街の一角、三階建ての洋館を改造したレストランカフェ『nascita』。美人な……いや失礼、整った顔立ちの店主が経営するこのレストランカフェは連日大賑わい。故に店主、石動惣万の朝は店で出す食材の買い出しから始まる。今日はお買い得商品が買えたらしい、ご機嫌で鼻歌まじりに店内に入ってきた。

 

「ふふふふん♪へいえ~いぇ~…、…?」

 

――――ガンッガンッガンッ!

 

「え、な…ちょッ!」

 

 けたたましい音が地下から響いてくる。慌てて業務用冷蔵庫のタッチパネルを操作し秘密基地へと降りる惣万。

 慌てて地下室に飛び込むと、彼の目に入ってきたのは……。

 

「ちょ、ちょちょちょちょっと!?何してんの戦兎ちゃん!?」

「マスター……、それが学園から帰ってきてからあんな調子で……このままじゃおちおち眠れません……」

 

 戦兎はセメントで塗り固められた壁、そこから露出する緑色のホルダーの周囲をハンマーで壊している。クロエが止めようとしているも、彼女は黙々と作業を繰り返す。

 

――――…がらん

 

 緑色の板が外れた。一瞬、妙な静けさが地下室を覆う。ようやく取り出されたそれを持って、戦兎はカフェのマスターに近づいた。

 

「マスター…、これはファウストの連中が言っていたパンドラボックスの側面……。パンドラパネルだ」

 

 ファウスト、その名が戦兎の口から出て、思わず身をすくませるクロエ。

 

「何故アンタがコレを持ってる?答えろ‼」

 

 いつになく真剣な表情で育ての親にも等しい惣万に詰め寄る。

 

「マスター…、アンタはファウストのメンバーなのか……?」

「俺が、ファウストのメンバーか……ね?」

 

 惣万は、疑惑の目線を向ける記憶を失った二人。それを見て、惣万は決意したように戦兎と真っ直ぐに向き合ったのだった。

 

 

 

 

 

 まだ開店していないnascitaに良いコーヒーの匂いが漂う。戦兎とクロエの座ったテーブルにコーヒーカップが置かれ、二人に対面する席に惣万が座る。

 

「確かにお前等が俺を疑うのは当然だな……。だけど大丈夫だ。俺はファウストのメンバーじゃない」

「じゃ、何でコレがある?」

 

 戦兎は傍らに置いておいた緑色の板を惣万の目の前に差し出す。IS学園でパンドラボックスから外れたもの、そして秘密基地にあったもの……その両方を机の上に広げた。それはそっくりそのまま同じだった。

 

「……お前も知ってるだろう?クロエのバングルにはスマッシュの成分を浄化する能力がある。だから昔、クロエはファウストに捕まっていた」

 

 二人は戦兎の隣でカフェラテをすするクロエを見る。

 

「うん……だからオレはクロエの力を引き出すためのボトル浄化装置を造った……」

「そう、クロエは生身でボトルを浄化する際、身体にかなりの負荷がかかる。ファウストではその状態のままボトルの浄化を強制されていたらしい」

 

 クロエがファウストで受けてきた扱いを戦兎は拳を握り締めて顔を歪ませる。

 

「その助け出す最中に俺達はそのビルドドライバーとボトル、パネル……そしてパンドラボックスを奪った。でも、クロエはその時以前の記憶は無くなっていた……。そしてファウストはスマッシュの成分を浄化できるクロエの力を狙って、今もクロエをつけ狙っている」

 

 ハイハイ質問、と手を挙げるてぇん↑さい↓科学者。

 

「ちょっと待って、どうしてマスターはクロエを助けようと考えたんだ?」

「それはな……、俺の昔の知り合いがクロエの養母をしていたんだ……だが、そいつもファウストに関わった所為で死んだ……」

「!?」

 

 昔を思い出すように、とても哀し気に虚空を眺める石動惣万。今にも泣き出しそうな表情になり、目元には光るものがあった。

 

「死んだあいつの遺言が『クロエを助けてやって……』という言葉だった……。だから助けた」

 

 そう言って愛娘を撫でるようにクロエの銀髪を撫でる。それにクロエは頬を桃色に染め、くすぐったそうに顔を綻ばせる。

 

「言わなかったのは悪いと思っている……でも記憶のないお前にそんなことを言っても、さらに混乱させるだけだと思って……言えなかった」

 

――――言えなくて済まなかった……、そしてごめんなさい……

 

 誠実な声色で謝罪の言葉を心から言い、パナマ帽を外して深々と机に首を垂れる彼女にとっての恩人。

 

「……――――大丈夫です、それに、今の家族は……――――マスターと戦兎ですから」

 

 クロエはうっすらと微笑み、彼女の育ての親(石動惣万)の握りしめた手を優しくそっと触れた。

 

「……クロエぇ~、オレのことママって呼んでいいよ~!」

 

 それに同調して潤んだ目で銀髪の少女に抱き着くトレンチコート。だが戦兎が持つ豊満なモノがクロエの顔にぐりぐり当たっている。それが気に食わないらしく、彼女は苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。

 

「お断りします。どっちかというと貴女は手のかかる妹のように思えますし」

「ピドイ!?」

 

 グハァ……、グハァ…グハァ、と自分で効果音を入れ(セルフエコー付き)、力なく床にへたり込む戦兎。

 ……余裕あんだろ、と惣万は思ってみたりした。

 

 

 

 

 

 

「んんっ、さて、続けてもいいか?」

 

 床に『の』の字を描きイジケていた戦兎がようやく回復して会話が再開される。人気メニューのモーニングセットを無料で出したら手の平返してすぐさま笑顔になった。お手軽な女だなぁ…。

 

「んぐっ…うん。それでマスター……何で、騙すような事を?」

「全てを隠していたのは……、戦兎、お前がボトルの力を正しく使ってファウストを倒してくれると信じたからだ」

 

 戦兎が手に持っていたラビットフルボトルに視線を落とし、済まなそうに言葉を紡ぐ惣万。

 

「IS学園に向かわせて仕事に就かせたのも、極秘のパンドラボックスの事やパネルの存在をお前自身の手で気付いてもらって、俺が全ての事実を告白するチャンスを作ってもらいたかったからだ……」

 

 目の前のパンドラパネル二枚を撫で、戦兎の目の前に持っていく。

 

「俺さ、ファウストからお前等を助ける為にちょっと薄ら暗いコトやったし、言い辛かったんだよ。それに、お前にばかり戦わせて、後ろめたかったし……」

「そんなこと……」

 

 戦兎が何か言いきる前にもう一度頭を下げる惣万。

 

「言わなくてすまなかった。……ごめんよ」

 

 彼は誠心誠意伏して、静かで悲し気な声で二人に向かって謝罪する。

 

「だけどコレだけは信じてくれ……」

 

 ゆっくりと顔を上げ、決意を固めた精悍な顔で二人を見据える。

 

「ファウストは俺の知り合いを殺し、お前の記憶を奪い、クロエの身体を酷使した。いいや、それだけじゃない。あいつ等は一夏を誘拐し、箒ちゃんに火傷を負わせた…。そんなことあっちゃならない。俺は、人の尊厳を踏みにじるファウストの事が……」

 

 そこで一旦言葉を切り、血が滲みそうなほど拳を強く握り、言った。

 

「虫けらみたいに人を殺すファウストの事が許せない」

 

 

 

 

 ほんの少し……だが、悠久のように感じる時間の中で三人は互いに逡巡する。そして、真っ先に口を開いたのは戦兎だった。

 

「分かった。……信じるよ、マスター」

 

 口元を緩め、笑顔を見せる戦兎。その目からは疑惑の想いは消えていた。

 

「……本当か?」

 

 心底意外そうな、驚いた顔で聞き返す惣万。

 

「だってアンタはオレの育ての親だもん」

 

 そう言って彼女は屈託なく笑う。今までの彼の信頼と信用に足る行動……戦兎は惣万の人柄を信じたのだ。彼は優しく、他人にも親身になってくれる人情深い暖かさを持っている。それは今までの仲間達に対する気遣いからも明らかだった。

 

「……っ!ありがとな……戦兎。俺は本当に良い娘を持ったよ」

「むー……、年同じくらいじゃん。どっちかって言えばー、マスターの妻?ポジ?」

「ふっざけんなお前!?誰がお前みたいな自意識過剰でナルシストな扱いに困る女貰うか!タイプじゃないんだよ二万年はえーよ!」

「いーのいーの、何より大切な家族でしょーが、そんなこと些細な問題だって!」

「お前なぁ……」

「マスターも困ってますよ、それに戦兎。貴女が一番ガキっぽいのは明らかですよ。マスターは父親だと言うのが妥当でしょ……」

「なぁに~!クロエぇ~!」

 

 途端に和気あいあいとした姉妹喧嘩が勃発し、先程までのムードから一転、和やかな家族の団らんの様子に変化した。それを和やかな目で見る惣万。

 血は繋がってはいないが、それでも家族が笑い合うのは良いものだ。そんなふうに人間を尊ぶ彼。

 

(でもな……。俺はそんな良い育ての親じゃ、無いんだよな)

 

 

 

 

 

 戦兎はパンドラパネルとUSBメモリを学園へ持ち帰ると、すぐさま情報収集を開始した。

 

「うーん?……ドライバー、ムーンサルト…?ベストマッチ…。違うなぁ?」

「む、因幡野先生?何を調べている?」

「おや織斑先生。いやぁ、ちょっとある研究所から探し出したメモリのデータの解析を……プロジェクト・ビルドっと……あ゛‼開いた‼」

「……これパスワードの意味あったか?」

 

 織斑先生は半眼でUSBを眺める。でかでかとPROJECT BUILDとラベリングされている。セキュリティーガバガバじゃねぇか……。

 

 

「……これは、映像データ?ん!?」

『やぁ、私は“葛城忍”。ファウストの創設者にしてプロジェクト・ビルドの計画者だ』

 

 そこに映り込んだのは青紫色の髪を持つ女性。年の頃は分からないが、非常に整った目鼻立ち。腰まで伸びた長い射干玉の髪に隠れたその顔は……。

 

「オレに、似ている?」

「…ファウストの創設者、だと!」

『フム、どうやら画面の向こうの君は、私の言動に怒りを抱いていることだろうね?だが私は謝らない、……まぁそんなことはどうでも良い』

「どうでも良いわけが…っ!……っ因幡野先生!?」

「……今はこの人の話を聞こう」

 

 苛立って声を荒げる千冬の肩を戦兎が掴み、静かにさせる。

 

『……うんうん、如何やら私の声が届いているということは、暴力的で馬鹿な人間の傍らに理知的な人間が傍に居るようだね?宜しい、ではプロジェクト・ビルドについて説明しよう』

 

 まるでリアルタイムで会話しているかのようなふざけた口調で茶化すと、『葛城忍』と名乗った研究者は言葉を続ける。

 

「……こっ、いつ…!」

『馬鹿は放っておこう。さて、プロジェクト・ビルドとはビルドドライバーとフルボトル等の通称“ライダーシステム”を用いた究極の防衛システムだ』

 

 そして説明する彼女の背後にホログラフィックな演出で赤と青の戦士が出現した。デモンストレーションとばかりにガーディアン数体が仮面ライダービルドに襲い掛かる。しかし、それを二色装甲の戦士はいなし、叩き、破壊する。

 

『ライダーシステム第一号“ビルド”は二本のフルボトルを用いて変身するという特徴から、様々な能力を発揮することができる。例えば……』

 

 そう言って葛城忍は片手に取り出したデータカードを空中に出現したビルドのマークにかざす。

 

【ウルフ!スマホ!】

 

 彼女の背後に佇むビルドは、身体の装甲を銀とターコイズブルーに変化させていた。

 

『ウルフとスマホのボトルを用いてフォームチェンジが可能だ』

「ウルフと…、スマホ?そんなボトルはオレの所には無い。ということは…――――今オレ達が回収しているものの他に…、もしかすると」

 

 考察に入ってしまった戦兎は周りの声など聞こえていなかった。

 その後、戦兎はプロジェクト・ビルドの内容を調べ上げ、データカードにそれぞれの映像を記録したのだが、一方の千冬はと言うと……。

 

(……それにしても、この『葛城忍』という女。戦兎に似た顔立ちとはいえ……私とどこかで……?)

 

 

 

 

 

 休日のレゾナンス。一夏は箒と共に買い物に来ていた。だがしかし、街にはいつもの様な活気がない。その理由は明らかだった。

 

「どこもかしこも……戦争反対とかのポスターだらけだな……」

 

 ファウストがIS学園にて、現代社会へ反逆の意志を表明した時のこと。彼らはネットワークをハッキングし、IS企業への攻撃を全世界に公開していたらしい。

 彼らの暴走はそれだけに止まらない。初めは中東にいたテロ組織だった。紛争を絶えず続けるそれら宗教過激派組織と内紛状態にあるその国は、ISを抑止力として使用していたのだが、ファウストはその戦いに介入した。

 結果、その国からは全てのISを奪われ、テロリストの一団は皆殺しになったという。だが、この行いは断じて正義ではない。新たに諍いの種が蒔かれた時、その国に人を守る力はなくなったのだ。

 全てをISに頼ろうとした、社会情勢の側面が浮き彫りになった。

 

「因果なものだ……、まぁ?あの女が初めにしでかしたことを鑑みれば、こうなるのも納得だな」

「箒……?」

 

 冷淡な口調で実の姉のことを責める妹。その軽蔑の眼差しは、一夏にはどこか悲し気に見えた。

 

「……初めにしでかしたこと?」

 

 一夏が箒にその含みを持った言葉の意味を聞こうとした時だった。

 

――――キャアァァァァァァァァァ‼

 

 どこからか大勢の人の悲鳴が聞こえてきた。ハッと顔を上げて、躊躇うことなく声の発生源へと駆け出す箒と一夏。

 

「いたぞ、一夏!」

「……ッスマッシュ!?」

 

 そこでは鈍色の体をしたスマッシュ『ストロングスマッシュハザード』が壁や柱を破壊していた。

 甲高い声で悲鳴を上げ、店内から逃げ出す客たち。それを見て一夏はドラゴンフルボトルを振り、システマ特有の構えをとる。

 

 

 

 …――――その時だった。

 

 

「ここかァ?祭りの場所はァ……」

「「ぇ!?」」

 

 突如として場違いなセリフが聞こえてきた。一夏と箒は、声が聞こえてきた上方を仰ぎ見る。

 吹き抜けになったショッピングモール。その二階の柵に体重を預けていた一つの人影。モッズコートを羽織り、ファーの付いたフードを頭にかぶった人間がぼやく。

 

「違うなぁ…。こんなの俺が求める祭りじゃねぇ……」

 

 その人物はジャンプで一夏たちの目の前に降り立った。少なくとも5mはあろうかという高さから落ちたというのに、痛みの素振りも見せずに歩き出す。

 

「心の火……心火だ」

 

 フードの人間はなんらかの儀式のようにその言葉を呟くと、ポケットに入れていた手を胸へと重ねた。

 

「心火を燃やして……、ぶっ潰す……っ!」

 

 片手をプラプラと振ると、闘気が目に見えるように膨らみ、爆発した。そして、怪物に向かって勢いよく駆け出すその人物。

 

「……フッ、オォルァァァァッッッ‼」

 

 右手が勢いよくストロングスマッシュハザードに突き刺さる。その時、一夏は見た。スマッシュに当たった拳には青緑色の炎が宿っていたことを。

 

 

「「え……!?」」

 

 

 閃光が瞬き、爆裂音がその場にいた人間たちの脳裏を揺らす。

 

 

 その一撃は鍛えられた鋼さえ砕くのだろう。厳めしい外見のスマッシュをはるか遠方まで吹き飛ばし、キノコ雲型の爆発が巻き起こる。その衝撃の余波で、周囲の商店の窓ガラスが粉微塵になっていた。怪人の身体からは鮮やかな緑炎が噴き上がっている。

 

「スマッシュを、一撃で……?」

 

 驚きのあまり口が半開きになっている箒。一夏もその場の光景を食い入るように見ていたが、その人物の立ち振る舞いに驚愕を隠せなかった。その人物には、一切の隙が無かったのだから。彼の本能と理性がこれ程警鐘を鳴らすのは、今まで自分の姉以外にいなかった。

 

 フードの人物は、フッと口元を緩める。そして……――――。

 

「あっ痛ってぇ!絶対(ぜぇぇって)ぇ骨折れた……!」

 

 突如としてスマッシュを殴った手を押さえて蹲ってしまった。あまりのギャップに一夏や箒はずっこける。

 先程までの戦闘狂の姿が嘘のよう。泣き言と共に、汗だか涙だか分からん液体が道路に零れた。

 

 

「ちっきしょおぉぉ~……。これからコメット姉妹のライブだったのにキャンセルか……?ってアレ?今何時!?もう会場開いてるじゃねーか!あの三馬鹿電話入れろよ俺方向音痴なんだから!マッテローヨ!ファニールちゃ~ん、オニールちゃ~ん♪」

 

 その言葉と共にフードが外れ、綺麗な金髪が露わになる。痛みに潤んでいた紫色の瞳を乱暴に拭ったその人物は、どうやら外国人のようだ。

 どういう訳かドルヲタの如く早口捲し立てると、砂嵐を巻き上げて混迷するその場から立ち去っていった。

 

 ……台無しである、色々と。

 

「……。ほんと何だったんだ?今の……」

「あぁ、何なんだろうな?……――――ところで一夏、今戦おうとしただろう?」

「ん?あぁ、そーだけど」

「お前というやつは…。戦うなとは言わないが、まだファウストに受けた怪我完治していないのだろう?もう少し自分を大切にしろ」

 

 空のボトルをスマッシュに向け、成分を取った箒は一夏に気を付けるように声をかける。

 

「あぁ分かってるさ。無茶はしない……けど」

「?」

 

 さっきの金髪が去って行った方向を見て一夏は自分の予感を声に出す。

 

「ンでだろーな。……あいつとは、すぐにまた出会いそうな気がする。それに…――――」

 

 

 

 もしかしたら、戦うかもしれねぇ…。




 最後に出てきた金髪の人……さて、誰なんでしょうね(すっとぼけ)。


※2020/12/16
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第三十七話 『黒ウサとクロウ三羽がやって来る』

一夏「何だったんだ、あの金髪モッズコート…――――アイドルの追っかけついでにスマッシュ撃退するような非常識人間とか、嫌な予感しかしねぇんだけど」
クロエ「大丈夫、大丈夫です。そのくらいやってしまいますよドルヲタってやつは。そもそも非常識じゃないとやってられませんよヲタクは。お金だって時間だって無限にあるかのように湯水のようにじゃぶじゃぶ使ってくれますからふふふふふ…――――」
一夏「クロエが黒ぇ!これ大丈夫か?ファン減らない?」
箒「あぁいうのも戦略として必要だぞ?むしろ腹黒アイドルとかはメジャーなジャンルかも知れんな。声優然り俳優然り、腹黒とつけば意外に闇が深くて『あれ?この人のキャラといい話といい面白いんじゃね?』と興味が引かれる人間が一定数いるしな」
一夏「なんつー邪推してんだァ!お前はプロデューサーか‼」
箒「ついでに言えばクロエはトーク力も秀でている。くーたんラジオのファンからは『おしゃべりクソメスガキ』の異名を持っていてな、いやー私も柄にもなく笑ってしまった…」
一夏「それ罵倒じゃねぇの?え、大丈夫なんだよね?ホントに!」
箒「前回の放送のイタリアIS代表とのやり取りは捧腹絶倒ものだったぞ。いやぁ、流石今や世界を股にかけるインフルエンサーだな…」
一夏「どことコラボしてんだ!?人気が海外まで!?」


一夏side

 

 休日明けのIS学園は何時にも増して騒がしかった。ファウストの宣戦布告によって続々と各国からIS操縦者が編入してくる運びとなった。

 千冬姉は病み上がりで顔に絆創膏が残るもののあっちこっちへてんてこ舞い。山田先生は千冬姉に後をひいこら言いながら追いかける……そんな光景が何回も見られた。

 

 さらに学園の生徒全員に、一番ファウストの事に詳しいであろう戦兎さんがスマッシュ、ナイトローグ、ブラッドスタークとかの講義を行っていた。どうやら注意喚起の意味合いが強いらしい。だが、戦兎さんが嬉々として自分の活躍を資料映像として毎時間見せてくるには若干ウザかった……。

 

 そう言えば台湾から代表候補生として鈴の従妹が来るか否かとかいう話もあったな……。でも、それに鈴は難色を示していた。なんやかんやで入学を取り消すよう説得し、先方も渋々ながら受け入れたらしい。そりゃそうだ……この時点でIS学園にやって来る連中は兵士としての訓練を受ける意味合いが強くなっている。それを年上の親戚として黙って見過ごせるものか。

 

「ハァ……近頃物騒だなオイ。それで、今日うちのクラスにも新しく編入してくる奴がいるんだっけ?」

「あぁ、如何やらドイツ軍所属の人間らしい……」

 

 俺の席の近くにたむろする箒とオルコット。俺は片手にフルボトルを持ってキャップを開けたり閉じたりする。

 

「ドイツ……ねぇ?」

 

 モンド・グロッソの時の千冬姉繋がりか?……どうも嫌な予感しかしねぇ。

 

「……時間ですのでわたくしはこれにて。あぁ、前に言っていたお昼ご一緒する件ですが……わたくしはキャンセルで。正体不明機に乗っていた蘭さんのお見舞いに行く予定ですので」

「おう、鈴にもそう言っとく」

 

 その正体不明機に乗っていた少女のことを思い出す。『五反田蘭』。俺や鈴の共通の友人である五反田弾の妹である。弾に似て元気で快活な子だったが、似た者同士の鈴と特に仲が良く、姉妹のように気が合っていた。中学時代は数馬と彼女を加えたメンバーで遊びに行くことが多かったが…――――。

 ファウストに対する怒りがこみ上げ、思わず顔が曇ってしまった。それを見たのか、オルコットは知ってか知らずか話題を変えた。

 

「徐々に彼女も回復に向かってきております。心配せずとも大丈夫ですわ。……それに、何より一夏さんたちと一緒に食事をとると口の中が甘ったるくなるのです」

「え?あ、あぁ……そりゃすまん?」

 

 箒との弁当の交換とかも大概にしろってことなのか?…――――まぁ良いか。その時、教室のスライドドアが開く。

 

「お前たち、席に着け。これよりホームルームを始める」

 

 額に絆創膏を貼り付けたお姉様がやって来た。……そういや千冬姉にあげた絆創膏、惣万にぃから貰ったクマさんプリントのかわいい奴だったんだけど大丈夫だったのかな。

 気が付いて……――――、気が、気…が付いて無いなウチのお姉サマー。山田先生必死に笑いこらえてるし、後ろにチョコチョコついてくる銀髪の編入生は微妙な顔してるし、箒はブハッ……って噴き出しちゃったし。

 

「……?…その前に、挨拶をしろ『ラウラ』」

「……ッはい、教官」

 

 一回咳払いして千冬姉の額から目を背け、キリッ、っと顔を引き締める銀髪。……何か子供が背伸びしてるみたいで微笑ましいな。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 ……うん、完結?

 

「……えぇと、それだけですか?」

「以上だ……、ッ!」

 

 おぉっと、マジでそれだけかよ。思わずボトル落っことしちゃったわ。えぇッと、机の下の……アレ、どこ行った?

 

「貴様は!」

 

 ん?誰か絡まれてるな?何?登校中パン咥えて曲がり角で運命の人とごっつんこした?それよりボトルボトル、箒のボトル……あ、あったあった!

 

――――すかっ……!

 

「……!?……ッ私は認めんぞ、貴様が教官の弟などと……!」

「……――――ん?」

 

 ボトルを手に取り顔を上げるとプリプリしながら自分の席に歩いていく銀髪ちゃん。あんな不機嫌そうな顔をしてどうしたんだ?……ッは!殺気!?

 

―――――バッカ(モォォ)ン‼

 

「あいたァ⁉な、何で今殴られたの俺!?」

「……しいて言えばシリアスムードだったのをぶち壊したからか?ところで織斑(夏)、さっきから私の顔を見て山田先生や小娘共が笑いをこらえているのだが、何か知らんか?」

「あーそりゃアレだ。絆創膏。可愛いクマさん柄だから」

「……?ッ!?……!」

 

 思わず袖口からISブレード『葵』を取り出し刃の部分で絆創膏を確認する我が姉。…――――女子力(物理)、お前お呼びじゃないんだけど。女性らしく手鏡出してくれませんかねぇ。嫁の貰い手がマジで心配だよ。

 

「ソレ惣万にぃから貰ったやつでさ……ってあっぶ!?あっぶねぇ!?何でもいいから絆創膏くれって言ったの千冬姉じゃねぇか!?」

 

 真一文字に『葵』を振る千冬姉。顔がトマトみたいに真っ赤になって若干エロ可愛……ゲフンゲフン。

 

「それが何故クマさんなんだ!?無地とか他にあっただろう‼」

「意外に喜ぶぞって言ったんだよ惣万にぃががっががががっがが!?割れる、食われる、砕け散るぅぅぅぅ!?」

「そぉまァァァァあぁァァぁァぁァあぁぁああぁあぁァァァぁあぁッ‼あいつかァァァァあぁぁあァァあぁぁあ‼」

 

 やっべフルボトル振って身体能力底上げしたのに捕まった!アイアンクローが俺の顔に痛だだだだだ!?

 

「ッえぇいお前たち!一時間目は第二グラウンドで合同実習訓練だ!さっさと教室移動しろぉ!そしてそんな目で私を見るんじゃない!オイ!山田君、その生暖かい目を止めろ!やめろぉ!私をそんな可愛いものを見る目で見るなぁぁぁぁぁぁ……‼うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……――――‼」

 

 そう言って千冬姉は俺を掴んだままギャグマンガのように土煙を上げて教室から出ていったのだった……。

 

 

 そして一限、青空の下一組二組が集まった。目の前にはクマさん絆創膏が可愛らしいジャージの教師……。ほんのり頬に赤みがさしている。

 それを見て一組の生徒たち(副任含む)は温かい目でチッピー(笑)を見る。

 

「……織斑先生、可愛らしかったですわね」

「そうですね~」

「「「うんうん……チッピーはかわええなぁ……」」」

 

――――ほっこり、ほんわか……

 

「?何その目線?」

 

 そして何があったか理解していない鈴や二組の皆さん。

 

「………――――本来は山田先生と専用機持ち二人を戦わせる予定だったが気が変わった。私が三人まとめて直々に相手をしよう。特に山田先生、確か因幡野先生がラファールを改修したのだったな。試運転には丁度良いだろう」

「「「………………ふぁっ!?」」」

 

 頭に青筋を浮かべ、薄ら暗い笑みを湛えながらジャージを脱ぎ、下に着ていたISスーツ一丁になる世界最強……。あ、\(^o^)/オワタ。

 

「何安心しろ、打鉄でブレード一本だけしか使わない。ほら、一対三だぞ。サァカカッテコイハハハハハー」

 

 殺意の波動が溢れてる…。指名されなかった生徒でも青ざめぞっとするのだから、指名されてしまった三人の心境はどうなんだろうな。

 

「せ、センパァァイ!?」

「目、目がマジですわ!?」

「ちょっとセシリアなにしてくれちゃってんの!?馬鹿なの、いやそうなの馬鹿なの!?どーしてアタシがこんな理不尽な目に遭わなきゃなのよ!?」

 

 そして最も可哀想なのが鈴。事情も知らないのにとばっちりで怒り心頭な姉(世界最強)と戦わなきゃいけなくなったその心境や如何に。

 

 

 

 俺?俺はホラ、持ってるのISじゃねぇし……。だからISスーツじゃなく制服のままだ。

 

「一夏、何呑気な顔してんの、この場で正式に仮面ライダーのお披露目でしょ?Are you ready?」

 

 そして俺の傍でソワソワしている戦兎さん。これだよ……玩具貰った子供みたいな顔がすげぇイラっと来る。……と言うのも、ファウストの襲撃があって数日が経ったある日、俺と戦兎さんは千冬姉に呼び出されたのだった。

 

 

 

 

 

『織斑(夏)、先のファウストの襲撃の時、各国要人の保護そしてスマッシュ撃退の行動が高く評価された。そしてIS委員会やそのバックの組織がお前に特別措置を施すことになった……』

 

 俺は千冬姉から何枚もの資料を貰った。白い封筒には“地球から四枚の羽が生えXの文字を思わせるマーク”がでかでかと描かれている。なーんか悪趣味……。

 

『今後、お前は専用機扱いとしてライダーシステムの使用が許可される。因幡野先生と相談しておくと良い』

 

 

 その日の放課後……屋上、らびっとはっちと立て札が立ったプレハブ小屋。

 

『……どうもこの措置はおかしい』

 

 椅子に腰掛け足を組みながら戦兎さんは呟いた。

 

『そりゃ何で?』

『そもそもISはアラスカ条約によって戦争の道具にはならないはずなんだ……。だが今回のIS委員会の措置はそれを根底から覆しかねない……』

 

 そう言うと戦兎さんは封筒を放り投げる。

 

『うまくは言えないが、どうもこの争いを加速させようとしているかのような……。最悪の想定では、IS委員会やそのバックとファウストの間には、何らかの関係性があるのかもしれない』

 

 そう淡々と言い、頭をクシャクシャと掻きまわす戦兎さん。その言葉を聞いて……俺はまるでゲーム盤の上で誰かの手の平の上で転がされているような錯覚を覚えた。

 

『ファウスト、と言えば……』

 

 指を立て、声のトーンを下げ俺に向き直った戦兎さん。

 

『一夏とファウストのアジトからかっぱらったUSB……そこにはプロジェクト・ビルドとは何かが記されていたんだけど。……そうしたら、ファウストを創った人間がご丁寧にもデータ映像を残していた……』

 

 その口調は暗く、そして重かった。

 

『その人間の名前は………………葛城忍』

『葛城……忍?』

 

 ……――――?どこかで聞いたような名前だ。だが、俺の記憶にそんな名前の人間はいなかったはず……?

 

『その顔はオレとよく似ていたんだ。もしかしたらオレも……、何らかの形でファウストに加担していたのかもしれない』

 

――――それこそ……葛城忍本人なのかもしれない

 

 戦兎さんは自分の過去を恐れるように……そう答えた。

 

 

 

 

 

 

 ……鈴たちが一方的にやられているのを見て、俺は戦兎さんから聞いた話を思い出していた。

 

「……終わりだ」

「「「ギャ……ギャァァァァァァァァァァァァ⁉」」」

 

――――ズバババッ‼ドゴォォンッ‼

 

 そして死合い(誤字にあらず)が終わり、千冬姉に何とか食らいついていた山田先生が褒められた後、千冬姉曰く『敬意をもって接するように』、という恫喝にも近いありがたーいお言葉を貰った生徒一同はガクガク首を縦に振ったのだった。

 

「……やりすぎたか?……まぁ良い」

 

(((良くないです))わ)←今戦った人たちの心の声。

 

「では次に、IS委員会からファウストに対抗するための手段として利用が許可された防衛システムのお披露目だ。因幡野先生、織斑(夏)準備しろ」

 

 ん、呼ばれたな……。んじゃ、行くとしますか。それにしても戦兎さん、大丈夫か?ちょっとカラ元気な感じがするんだけど……。

 

「はいは~い、お待たせっ、と!」

「なぁ戦兎さん。ただ変身してライダーシステムを紹介するだけだろ?何で準備運動してるんだ?」

「それはね~、ホレ!」

 

 おぉっと!?顔面狙って投げるな!……ん?コレって。

 

「……おい、これドライバーだろ?俺が先に変身しろってか?」

「チッチッチ!それは一夏用に造ったドライバーさ……オレのはこっち」

 

 そう言って戦兎さんはコートの内ポケットから俺の手元にあるのと同型の黒光りするデバイスを取り出した。

 

「え……?」

「つまりオレと一夏で模擬戦をするのさ!ローグからゲットしたボトルのベストマッチなデータで造った新武器、早く試したかったんだよねぇ……ハァハァ(*´Д`)」

「えぇ……マジかよ…」

 

 頬を手で押さえながらもじもじくねくね気持ち悪く腰を振る変態「てぇん↑さい↓だから!」科学、者……。カッコ外のセリフにまで被せんなよ……。

 

「じゃあ、早速……さぁ、実験を始めようか」

「あーもう!こうなったからには負ける気はねぇ!」

 

 俺達は向かい合うようにしてフルボトルを振り、戦兎さんの背後には数式が実体化する。それを見て(知ってた奴らを除き)どよめくギャラリー。

 

【海賊!電車!】

【Wake up!】

 

 戦兎さんは直接ドライバーに、俺は飛んできたクローズドラゴンにボトルをセット。

 

【ベストマッチ!】

【CROZZ-DRAGON!】

 

 ベストマッチ音声とクローズドラゴンがセットされた電子音が鳴ると、俺達はレバーを回転、プラモデルのランナーみたいなものを展開させる。

 

【【Are you ready?】】

 

「「変身!」」

 

【定刻の反逆者!海賊レッシャー!イェーイ!】

【Wake up burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!】

 

 前後の装甲の合体が完了し、俺は仮面ライダークローズに……戦兎さんは仮面ライダービルド、見たところ海賊レッシャーフォームってやつか?に変身した。ギャラリーは「おぉー!」っと大歓声。戦兎さん、「どーもー」とか言ってんじゃねーよ恥ずかしいんだよ、こっちゃ……!うむ、と千冬姉は頷くと、口を開く。

 

「ではこれより、仮面ライダービルド、及びクローズの模擬戦闘を行う。両者、構え……始め!」

 

 ……っし、しゃーねぇ、やりますか!

 

「勝利の法則は……決まった!」

「今の俺は……負ける気がしねぇ!」

 

 そう言うと同時にお互いに得物を呼び出し、振り下ろした……。

 

 

三人称side

 

 クローズがビートクローザーで斬りかかって来るも、ビルドは風に舞うようにジャンプし、遠方へ着地。そして“船の錨に似た形の武器”を弓のように構える。

 

【各駅電車~!出発!】

 

 電車の車内アナウンス風の特徴的な音声が再生され、電車型のエネルギーが射出される。クローズは体を回転させてそれを受け流す。

 

「っとォ!何だよその武器?いや弓ってことは分かるんだけどさ!?」

「コレはカイゾクハッシャー。命名はオレの趣味だ、良いだろう?」

「良くねぇって!?」

 

【各駅電車~!急行電車~!出発!】

 

 ビルドは先程と同じようにカイゾクハッシャーの電車型攻撃ユニット『ビルドアロー号』を弓の要領で引っ張ってから放し、エネルギー体となった電車を発射した。

 

【スペシャルチューン!ヒッパレー!】

 

「……ん、ぐぅ……っらぁ‼」

 

【スマッシュスラッシュ!】

 

 だが、簡単にやられるクローズではない。彼はビートクローザーでエネルギー体となった『ビルドアロー号』を断ち切る。

 

「おぉ、やるぅ♪」

(遠距離攻撃は厄介だな……。なら!)

 

 ビルドがカイゾクハッシャーを射る構えを解いた瞬間、クローズは身体に蒼炎を纏わせ高速移動で彼女に近づく。

 

「!……接近戦に持ち込むつもりか、でもね!」

 

 一瞬ビルドの姿がブレ、カイゾクハッシャーの『カトラスアンカーエッジ』が短い間に何度も振るわれる。何とかビートクローザーでいなし、攻撃に食らいつくクローズ。

 

「……!フェイント……からの連続攻撃かっ!」

「中々鋭いね。この形態の長所はスピードを生かした武器攻撃ができる点だ。……あと、こういうこともできるよ」

 

 肩の海賊船『BLDボヤージュショルダー』の砲門から、銛や弾丸がクローズに向かって発射される。そして肩に付いた『マルチセイルマント』の形も変化し、網の形となってクローズを絡め捕った。

 

「……っちぃ!」

 

 彼は慌てて網を外そうとするも……。

 

「外される前に、ほいッと!そりゃそりゃ!はーいっ!」

「ぅわぁぁっ‼」

 

 海賊サイドの武器の連続攻撃、そして列車サイドの『トレインガントレット』を用いた電磁パンチで攻め立てられて吹き飛ぶクローズ。

 

「……~~っ!ってぇな!アンタ今本気でやったろ!」

「はっはっは~何のことやら~」

 

 20m近く吹き飛んだが、軽口を叩きながらピンピンした様子で戻ってきたクローズ。それにIS学園の人間はそのライダーシステムの頑丈さに驚きを隠せない。

 

「んじゃお礼として……決めさせてもらうかぁ!戦兎さんよ!」

「そうだねぇ……では必殺技、行ってみようか!」

 

 二人はボルテックレバーを回転させ、フルボトルを活性化させ始める。

 

【【Ready go!】】

 

 ベルトから待機音声が流れるも、それだけではなかった。

 

【各駅電車~!急行電車~!快速電車~!海賊電車!】

【スペシャルチューン!ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!】

 

 ビルドはカイゾクハッシャーを、クローズはビートクローザーをフルチャージさせ、目に見えるほどの強大なエネルギーを身にまとう。学園の生徒達が固唾を飲んで見守る中……。

 

【発車‼】

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

【メガスラッシュ!】

【ドラゴニックフィニッシュ!】

 

 ビルドはカイゾクハッシャーから矢を放つ。クローズは剣を居合斬りのように振るう。ビルドによって放たれた海賊船と電車が合体したエネルギーと、クローズの『クローズドラゴン・ブレイズ』がぶつかり合う。

 その衝撃の余波が来ると思い身を固めた生徒たち。だが、そこに予想外の介入があった。

 

【キャッスル!】

 

「「!?」」

 

 突然感じた殺気に身をかがめる仮面ライダーの二人。その刹那の後、どこからともなく到達する赤い極太の破壊ビーム。

 二人の放った攻撃とわずかな時間拮抗し、それらを遠方へと弾き飛ばす。

 

 色彩が爆発したような光が生まれる。

 

 彼らの頭上を通り過ぎたビームは、IS学園にそびえる曲線的なタワーを一撃でなぎ倒した。

 呆然とその様子を見ている戦兎や生徒達の耳に、年若い女の声が聞こえてきた。

 

「あーぁ、カシラァ……どこ行っちゃったんですかねぇ。ウチらで始まちゃいますよぉ?」

 

 ビームが放たれたと思しき方向から、気怠そうな足音が聞こえてくる。その数、三人。ビルドとクローズは振り返り、手に持っていた得物を静かに構えた。

 

「ルージュ……カシラに連絡入れたのは貴女のはずでしょう?伝え間違えたのではないですか?」

 

 ベレー帽の青髪の少女がヤンキー風な赤髪のバンダナ少女に聞く。

 

「ん?いや、ちゃんと言ったよ?ウチ」

「途中までは確かに来ていたね……、でも突然いなくなったw迷子だと思うよ」

 

 黄色いニット帽を被った小柄な少女は、彼女ら二人に笑顔で答える。

 

「いつもの事ですか……いやいやいや!?気付いた時に言いましょうよ!?」

 

 ふざけた調子で会話をする少女たち。彼女ら三人は、お揃いのカーキ色をしたジャケットを着て立っていた。

 

 手には、銀と赤錆色のボトルを握りながら…――――。




 最後のシーンはビルドでキャッスルハードスマッシュの初登場シーンをオマージュしました。アレ、少なくとも軍隊とかじゃ対処できない破壊力でしたよね……。ビル群が何棟か倒壊してましたし……。それでもキャッスルロストスマッシュには及ばず、そのロスト化した攻撃と同等の破壊力があるフルボトルバスターって……。

ブリッツ「ならばこちら~。さんさんと宇宙から降り注ぐエネルギーを利用して作りました~、星に願いを~」→ゾディアーツスイッチ

 もし束さんが使ったら兎座→牡羊座になりそう……。

※2020/12/16
 一部修正


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第三十八話 『バトライドウォー開幕』

真耶「ちょっ、学園のタワー倒壊しちゃいましたよ!?」
千冬「あぁ、予算が…勘弁してくれ」
戦兎「予算?あのー…オレIS学園教師歴数ヶ月なんだけど、これって給料から引かれたりするの?」
千冬「いや、そんな訳はないのだが…まぁ体裁は悪くなるな。それに伴い各国からの批判が来たり、その結果回される備品とかが…」
戦兎「うわー聞きたくなかったそんな話!」
真耶「(先輩ってば因幡野先生に嘘言ってからかってる…)ところで財団Xの噂、聞きました?なんでもファウストの影響で各国経済が滅茶苦茶になったというのに、今や世界の三分の一の資金を持っているとかいないとか…」
戦兎「うわーいいなー!オレ個人にも資金援助してくれないかなー、そうすればライダーシステムもISも作り放題、むふふふふ…」
千冬「因幡野先生、技術の発展に貢献するのは良いんだがな、学校の限りあるISをバカスカ魔改造していくのはやめてもらいたいんだが。もう七機目だぞこれで」
戦兎「うっ…、取り敢えず第三十八話、どぞ…」


「誰だ?ここはIS学園生徒以外立ち入り禁止だよ…――――」

 

 軽口を叩きながらも、油断なくカイゾクハッシャーを構えるビルド。それを見て赤髪の『ルージュ』と呼ばれた少女はニヤリと笑い、フランス式指数えで声高に叫んだ。三本の指が空を指す。

 

「ウチらはデュノア三羽烏!おぉっと言っとくがそう簡単に正体は明かさねぇ!」

「……ってオーイ!」

「もう明かしちゃってるしw」

 

 赤いバンダナ少女の言葉にベレー帽の娘は頭を抱え、ニット帽の子は“たはは”と言うように手を広げる。

 

「ッ!デュノア…、…!?」

「おいおい、それってクラスリーグマッチで襲ってきたバーサーカーⅣとか言うのを造ったとこじゃ……」

 

 織斑千冬やビルドは三人組が名乗った会社名に反応せざるを得ない。だが、それよりも何よりも、クローズは頭を掻きながら赤い少女に指をさしてこう言い切る。

 

「つーかよ。自分から正体ばらして、さてはお前……馬鹿だな?」

「んッッだとコラァ!」

「ルージュ……今のは仮面ライダーのセリフが正しいです」

 

 ルージュという少女は両サイドから羽交い締めにされ抑えられていた。頬を膨らませながら反論するルージュ。

 

「ブル、別に大丈夫だろ、カシラ自分の苗字嫌ってっし。コレでデュノア社が倒産すればいいとかも言ってたぞ?」

「あぁもう…!怒られても知りませんからね。極力穏便に済ませたかったのに……」

 

 話が終わったらしい三人組。さっきまでのコミカルな雰囲気はすでに無く、顔つきも決意を固めたものになっていた。それを肌で感じ、臨戦態勢になる仮面ライダーたち。

 

「んじゃ話が終わったところで。取り敢えず……、とっとと済ませるかぁ!」

 

 三人は拳の中に隠し持っていた、赤錆色と銀色の光沢を持つ容器を取り出した。

 

「……ッ、フルボトル!?」

「青いの……ずいぶんナメてくれたじゃねぇか。ウチナメられるの、大っ嫌いなんでね!」

 

【キャッスル!】

 

 ルージュと呼ばれた少女がフルボトルを腕に突き刺すと、彼女の身体を赤い煙が覆う。やがてその煙の中から、赤く城壁の如き巌な異形が現れた。

 

「……!?……スマッシュに……!?」

 

 そのスマッシュは自慢げに腕を回し、どんなもんだとばかりに不敵に笑った。

 

「ウチらはハードスマッシュ。人間を超えたスマッシュの進化態。ウチはキャッスルハードスマッシュだ!」

「自我があるのか……!?」

「ん~じゃ、いっくぜぇ‼フルボトルを渡せ!」

 

 その言葉と共に、彼女は頭部の砲撃ユニット『カタプルタキャノン』からビームを放つ。

 ビルドの近くに着弾したその攻撃は、爆風を生み出す。悲鳴を上げるIS学園の生徒たちの中、仮面ライダーたちは即座に行動を開始する。

 先生が生徒を守らないわけにはいかない。ビルドである因幡野戦兎は、爆風を利用し後方回転宙返りを披露すると、カイゾクハッシャーを振るって生徒達を庇う。

 

「あっぶないな!ちょっと!?まだ避難してない生徒いるんだからね!」

「え?あ、ほんとだわゴメン」

「素直かよ!」

 

 思わずツッコミを入れてしまうクローズ。ビルドの援護に向かおうとする一夏だったが、彼の前にも少女二人が立ち塞がった。

 

「貴方の相手は私たちです」

「ルージュばっかに気を取られていていいのかな~?」

 

【クワガタ!】

【フクロウ!】

 

 ベレー帽の少女は二本の角を持った青いスマッシュに、ニット帽の少女は丸い体の黄色いスマッシュに変化した。

 

「やっぱりそっちの二人もか!」

 

 ビルドはキャッスルハードスマッシュにカイゾクハッシャーを振るいながら、クローズの様子を伺っていた。一夏は戦兎が尋ねているように思えた。オレの手助けは必要か、と。

 

「…――――だけど、結局はスマッシュなんだろ?殴ってダメージが入れば倒せるだろうが!」

「何、そのバカみたいな解決策!?」

「馬鹿言うな、筋肉付けろよ筋肉!」

「それは筋肉馬鹿とは違う!正しくは脳筋って言うんだよ!」

 

 ビートクローザーで青いクワガタのスマッシュの剣戟をさばきながらビルドと漫才を繰り広げるクローズ。随分と緊張感のない戦いである。

 

「はぁ…――――全く。しょうがないな!丁度武器のデータがもっと欲しかったしね!」

「いや、武器ってそれ…『海賊レッシャー』……ねぇ?」

「何だ?文句あんの?」

「いやぁウチが言えたこっちゃねーんだが…そのセンス、どうよ?」

「定刻の反逆者!良いセンスだろ?」

「ただの遅延だろ、それ。フランスじゃ当たり前だからなぁ!」

 

 それぞれの戦いの火ぶたが切って落とされる。ビルドが振るったカトラス部分がスマッシュのシールドに当たり、火花が散った。

 

「ふっは!きかねーよっと!」

「良いのかな?そんなこと言って…負けるフラグかもよ?」

 

 戦兎はそんな軽口をたたきながらも、堅牢な防御能力を持つスマッシュには、手数で責める海賊レッシャーフォームの相性は悪いことに気が付いていた。

 逆にクローズの方も上空から攻撃ができるフクロウのハードスマッシュと二刀流のクワガタムシのハードスマッシュのコンビネーションに攻めあぐねている。

 

 ならば、と仮面ライダーたちは視線を交差させた。

 

「戦兎さんよ!こっち任せた!」

 

【ヒッパレー!ヒッパレー!】

 

「任された!はぁ!」

 

【各駅電車~!急行電車~!快速電車~!】

 

【ミリオンヒット!】

【出発!】

 

「「「うおぉぉぉ!?」」」

 

 放たれた蒼炎と電車が、対峙していたハードスマッシュたちにぶつかった。土煙と衝撃波が発生したことで、思わずたたらを踏む三羽烏。その隙にビルドとクローズは互いに互いの相手を仲間に託す。

 

「けへっ、けへ!も~何なのさ~」

「っ、ジョーヌ!前を見なさい!」

「ほへ?うわぁ!」

 

 さっと身を翻したところを刃が通り抜けていく。青と緑の仮面ライダーは、不意を突いてカイゾクハッシャーで斬りかかってきた。

 

「ちぇっ、外したか。さて、じゃあ自己紹介だ。オホン……オレは『ビルド』。『創る』『形成する』って意味の、『Build』だ。以後、お見知り置きを」

 

 そう言いフレミングの法則のポーズを取るビルド。それを見て対峙する黄色のスマッシュは、同じようにお行儀よく口を開いた。

 

「あ、じゃあボクらも自己紹介するね。ボクはジョーヌ、オウルハードスマッシュ。で、こっちのツッコミがブル。スマッシュとしての名前はスタッグハードスマッシュ。あ、シカじゃ無いよ、クワガタムシだから」

「そのフォローは的確でない……!」

 

 思わず天を仰いでしまうスタッグハードスマッシュ。如何やら一番の心労持ちは彼女のようだ。

 

「あ、こりゃオレにご丁寧にどうも……」

「いや貴女もそれでいいんですか!良いから戦いますよ!」

「えぇー、平和にやろうって言ったのブルじゃない、ねービルド~?」

「え、あ?お、ぉう?」

「ぁぁぁ上げ足とるなぁぁぁぁぁぁ‼めんどくせぇェェェェェェェ‼」

 

 それを見たIS学園の生徒たちはスタッグハードスマッシュを可哀相に思ったとか、思わなかったとか。

 

「……ぅおっほん。まず(ツッコミ要員的にも)厄介なのはフクロウ、か……、空中戦なら!」

 

【タカ!ガトリング!ベストマッチ!】

【Are you ready?】

 

「ビルドアップ」

 

【天空の暴れん坊!ホークガトリング!イェーイ!】

 

 ビルドはベストマッチフォームのホークガトリングに変身。そして、背後のソレスタルウィングを稼働させ、空中に飛び上がり高速飛行を開始する。

 

「はぁりゃ!」

「うっそぉ、ビルドも飛べるの!なら負けないよ!」

 

 追従し飛行するオウルハードスマッシュ。ISもかくやという高機動戦闘の最中にビルドはホークガトリンガーを撃ち始める。

 だが、天才科学者の導き出すその正確無比な弾道をオウルハードスマッシュな易々と避けていく。

 

「むぅ、流石フクロウ……って言ったところか」

 

 フクロウは耳が左右非対称な位置に付いており、一説ではその音が伝わる差を把握し音の発生源との距離を計算していると言われている。その特徴をオウルハードスマッシュも踏襲しているということらしい。

 

「フフ、ボク聴力には自信があるよ……そ~れ!」

「あ、しまっ……わぁ!」

 

 上空をとられたビルドにオウルハードスマッシュのキックが炸裂した。その下の地面にもう一体のスマッシュが待ち構える。

 

「貰いました、やぁ!」

「う、ぐぅッ!」

 

 見事なコンビネーションでビルドにダメージを与えたハードスマッシュたち。それを見てビルドは、敵ながらも天晴と心の中で称賛を送る。

 

「でも……、その聴力は厄介だね。ちょっと潰させてもらうよ!」

 

 ビルドは右目のアンテナを光らせると、オウルハードスマッシュの長所を潰すためジャミングを開始した。

 

「え……?うぐぅうぅ!?」

「ジョーヌ!何を……?」

 

 突然苦しみだした仲間に青いハードスマッシュは困惑しビルドを見る。

 

「この右目はガンショットフェイスモジュールって言ってね、指向性の音響兵器なんだ。だから今フクロウちゃんの頭にガンガン爆音が鳴り響いてる……。あぁ大丈夫、耳が聞こえなくなるわけじゃないから」

「……くっ、調子に乗らないでいただけますか!」

 

 地面を滑るように高速で移動し、二本の刀『ラプチャーシザース』をクワガタのあごのように構え突進してきたスタッグハードスマッシュ。

 

「おっと……、その攻撃を受けたくはないね……ということで!」

「……?……なッ!?」

 

 突然、ビルドは巻き起こった煙幕に包まれる。

 

「ですが、この程度で…!そこです!」

 

 濛々と立ち昇る土煙に阻まれたスマッシュは、動いた物陰に向かって刃を振るった…――――。

 

 

 

 少し時間は巻き戻る……一方のクローズとキャッスルハードスマッシュの戦いは熾烈の一言だった……。

 

「オォラァァ!」

「でぇりゃァァァ!」

 

 一夏は片手にビートクローザーを持ちながら、システマで磨いた拳を城壁の様な外殻に突き立てる。強固な外皮に阻まれダメージは入っていないものの、慣性に従って背後へ吹き飛ばされる城のスマッシュ。

 

「……ッ痛ってぇなこの野郎!ウチみたいなレディに対して酷くねぇか!?」

「悪ぃが、自分の姉がアレな時点でレディーファーストなんて言葉がまやかしだと分かった!だから俺の敵なら遠慮なくボコらせてもらう!」

「おぉう、この子だいぶ歪んでるぜ……」

(いらんこと言った一夏には後で説教が必要だ……フフフ……(#^ω^))

「「!?」」

 

 戦っていた二人は思わず身震いをしてしまう。自分が小動物になってライオンの前に出てしまった様な……そんな錯覚がして冷や汗が止まらなくなる。

 

「な、なんかいまウチすっげぇ寒気したんだけど…」

「コレがウチの姉だ……な?」

「あ、あぁ……」

「なぁにが『……な?』なのか後で説明してもらうからなぁ一夏ぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 IS学園の生徒の避難誘導をしていた所から勇ましいメスライオンの叫びが聞こえてきた。

 

「遠方から声がしたんだが……」

「……」

「あっ、ご愁傷様」

 

 同情の視線が痛かったので目を背けるクローズ。その時、逸らした目の先には偶然か必然か、ビルドが防戦一方になっていた。

 ビルドに変身した彼女と、視線が合わさった…気がした。

 

 

 

「……あー、んじゃ気を取り直してっと。赤いレディ?これでも食らっとけ……セシリア風に言えば、俺のクローズドラゴン・ブレイズが奏でる円舞曲(ワルツ)で踊ってもらおうか、ってな!」

 

【Ready go!】

 

「は!生憎田舎娘でな!社交界に出たことねぇんだよこっちゃ、マズルカでも踊れってか?」

「それフランス舞踊だったか?まぁ良い、食らいやがれぇ‼」

 

【ドラゴニックフィニッシュ!】

 

 キャッスルハードスマッシュは両肩の可動防壁『グランドランパート』を体の前方に動かす。鋼さえ凌駕するその鉄壁で、『クローズドラゴン・ブレイズ』の突進を受け止めようとした。

 

「…ん?何、それ全力?」

 

 クローズドラゴン・ブレイズはキャッスルハードスマッシュの身体を後ろに後退させただけだった。突撃が終わると、龍は口から火球を放ち土煙を巻きあげる。

 視界不良になるだけに訝しむキャッスルハードスマッシュ。

 

「どこ狙って……――――うぅおぉいってぇ!?」

「え……――――っ!あぁ、すいませんルージュ!」

 

 無防備になった背中に、どこかから剣が振るわれる。

 ルージュが何事かと見てみると、すまなそうにしている青いハードスマッシュがいた。彼女は察する。視界が悪くし、そこにビルドを追って突進してきた仲間をぶつける作戦だったのかと。

 

「ちょ…――――ちょっとルージュ、ブル!上、上!」

「「……え?」」

 

【……エイティ!ナインティ!ワンハンドレッド‼フルバレット‼】

 

――――ギャォォォン‼

 

 土煙の中から青空に向かって巨大な青い龍と橙色の鷹の群れが飛び出してくる。それらはハードスマッシュ三人目掛け突撃してきた。

 

「「「うわ……うわわわわぁ‼」」ってウチを盾にするなぁ‼」

 

 思わずキャッスルハードスマッシュの後ろに隠れ、コブラのミラーライダーがやったガード技を使う二人。そして龍たちの突撃は寸分たがわず彼女らを捉えていた。

 

 青と橙の流星が、IS学園のグラウンドに激突した。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼……――――って何とか大丈夫!?流石ウチ…ッ!ハァ……ハァ…ハァ!」

 

 けたたましい音を立てた爆発を防ぎ切り、膝から崩れ落ちるのは赤いスマッシュ。軽口を叩いているが、それでも体からは濛々と煙が上がっている。

 

「今のが全力かな?ならあっちもフラフラじゃない?」

「それじゃ……私たちが止めをさしてきます…、…ッ!」

 

【鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!】

 

「ところが、どっこい…ッ!んじゃ行くよ…、一夏!」

「ハァ…ハァ、カラ元気だろ、戦兎さんよ……。まぁここで根性見せなきゃ、マズそうだしな……」

 

 片や赤と青の二色となった仮面ライダービルド、そして身体中に蒼炎を纏った仮面ライダークローズ。

 片や青い双剣使いのスタッグハードスマッシュ、黄色い身体に丸い翼を持ったオウルハードスマッシュ。

 

「……ッ、ここで負けたらカシラに顔向けできない……」

「貴女方に勝ち、フルボトルを渡してもらいます……!」

 

 身構え、仮面ライダーを睨むハードスマッシュの二人。

 

「悪ぃが、ファウストにもお前等にも、フルボトルは渡せねぇ…!コレは戦兎さんの記憶を取り戻すのに必要らしいんでね!」

「それに、これがパンドラの箱を開けるカギだ……。だから、絶対にお前たちには開けさせはしない…!」

 

 決意を湛えたビルドの口調は、何かを抱え込んだように硬かった。一夏はふと、それに一抹の不安を覚えながらも、今は敵を戦闘不能にすることが重要でだと頭を切り替えた。

 創造の兎と蒼天の龍はトドメだとばかりにドライバーのレバーを回転させる。

 

【【Ready go!】】

 

 その電子音が鳴ると、ビルドは放物線の様なグラフを、クローズは背後に蒼炎の龍を呼び出し、同時に大跳躍。

 彼らは大空を背後に、足を前へ突き出した。

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

【ドラゴニックフィニッシュ!】

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」

 

 赤と青のエネルギーを宿した仮面ライダー達のダブルライダーキックは、ハードスマッシュたちとわずかの時間拮抗する。

 

「「くっ……うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」

 

 

 だが、力の差は明確だった。

 青と黄色のハードスマッシュたちは、キャッスルハードスマッシュのうずくまる場所へ吹き飛ばされる。そしてグラウンドに大きなクレーターが開く。

 

「いよっし!勝利!……あん?」

「一夏、喜んでるところ悪いんだけど、まだだよ…」

 

 ビルドの言葉で、ようやくクローズも気が付いた。キャッスルハードスマッシュの傍らに、IS学園にいるはずのない性別(・・)の人物が佇んでいたことに。

 

 

 

 

 

「……俺に内緒で何楽しんでんだ……ゴラァ」

「「「!カシラァ‼」」」

 

 モッズコートを羽織り、フードを目深にかぶった人物が、溜息まじりに言葉を溢す。顔は見えないが黄金色の長髪がフードの中から零れている。

 ()は鬱陶く思ったのだろうか、乱暴に被っていたファー付きのフードを外す。

 

「「「……っ」」」

 

 それを遠方から見ていたIS学園の生徒たちは不覚にも見入ってしまった。頬を染める少女たちもいる。色の白い肌、金糸の様な髪、それにアメジストの如き瞳。どれをとっても物語から出てきたかのような王子様を思わせる。それほどまでに彼は美男子だったのだ。

 

「てめぇ……。あの時の……――――!」

 

 一夏はハタと思い出す。箒と共にレゾナンスで目撃したモッズコートの人物が、今目の前に立っていた。

 

「俺は『シャルル』。シャルル・デュノアだ。ウチの三馬鹿が世話んなったな……」

 

 そう言ってスマッシュたちに近づいていく。

 

「三馬鹿って……酷いじゃないっすか……」

「どこ行ってたんですかカシラァ……」

 

 口々に不満を言う三羽烏。それに眉をひそめながらも苦笑交じりにため息をつくシャルルと言う青年。

 

「あん?うるせぇ、方向音痴の俺をおいてくお前等が悪いんだろ」

「……――――お前」

「…ぁ?」

 

 三羽烏と言い合いをしている彼だったが、ビルドに変身した戦兎がそれを遮り、一つ尋ねる。彼らのトップということは相応の力を持っているのだろうと予想したらしい、彼女の声には若干の焦りがにじんでいた。

 

「……お前も、スマッシュか……?」

「違う。俺は……――――」

 

 そこで言葉を切り、片手に水色の見たことも無いレンチの付いたドライバー(・・・・・・・・・・・・)を取り出すシャルル。

 

 

 

「 仮 面 ラ イ ダ ー だ 」

 

 

 

 そう言い、腰にドライバーを押し当てる。

 

スクラッシュドライバー!

 

 続けてパウチ型のゼリー飲料アイテムを宙に投げ上げると、それをキャッチしドライバーへと装填した。

 

ロボットゼリー!

 

 力強い電子音と待機音声が鳴り響く。シャルルは挑発するように左指を自分の方へ曲げ伸ばし、右手でレンチを押し下げる。

 それと共に、戦兎や一夏が力持つ者に変わる言葉を同じく呟く。

 

「変身」

 

 すると彼の周囲にビーカーが現れ、機械の潤滑油の様な黒い液体で満たされる。

 

潰れる!

 

ビーカーが絞られるように収縮し、中からゼリー飲料の飲み口の様な頭部を持つパワードスーツの姿が露わになった。しかしそれだけでは終わらない。

 

流れる!

 

 頭部から突然金色にも見える色のゼリーが噴き出し、パワードスーツの頭部や胸、肩に降りかかる。

 

溢れ出る!

 

 ゼリーが固まると余計な部分がはじけ飛び、黄金の仮面ライダーがビルドたちの前に現れた。

 

ロボットイングリス!ブラァァァ‼

 

 烏が啼く。黄金の太陽を求めて、哭き彷徨う。

 

「仮面ライダーグリス、見参」

 

 金と黒を基調とした一本角の仮面ライダー、その名は『グリス』。それがIS学園に降り立った。彼は二人の仮面ライダーを見て、決意や覚悟の表れである言葉を紡ぐ。

 

「心の火……心火だ」

 

 掛け替えないものを奏でる心臓の部分に右手を当て、燃え滾る思いを湛え絞り出す。

 

「 心 火 を 燃 や し て …… 、 ぶ っ 潰 す …… ! 」

 




 シャルロッ党の皆さん、ごめんなさぁぁぁぁぁい!(モモタロス感)

※2020/12/21
 一部修正


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第三十九話 『黄金のレイヴン』

戦兎「太陽さんさん!ウーッ、マンボッ!はいマラカスしゃかしゃかー!」
一夏「サンバか」
戦兎「ひっひふーひっひふー!いきんでー!」
一夏「産婆か」
戦兎「では前回出てきたのは?」
一夏「三馬鹿」
シャルル「待てや、ごら。俺もいただろうが。…――――つか三羽烏な。三馬鹿だけども」
三馬鹿ラス「「「カシラヒデェ!?」」」
一夏「うわぁどっから入って来たお前ら!」
シャルル「つかなんだこの女。なんでサンビスタのコスプレしてんだ?頭おかしいんじゃねーの」
戦兎「ヒデェ、そこまで言う!?ちょっとしたお茶目なのに…」
シャルル「んじゃ読んでるヤツにあらすじ。仮面ライダーグリス爆誕。変身者は俺、シャルル・デュノア。えらーい人だ」
戦兎「それは別人だ!」
一夏「全然あらすじになってないな、ゾクゾクするね…」
戦兎「それも別人だ!」
一夏「お前ら、まだあらすじで遊んでんのか?」
戦兎「人ですらない…」


「仮面ライダー……」

「グリス……だと?」

 

 突然現れた、因幡野戦兎の知らないドライバーで変身した仮面ライダー、『グリス』。

 

「ふっざけんな、仮面ライダーは愛と平和(Love & Peace)を守る正義の戦士の名だ。この学園を破壊するような人間が名乗って良いもんじゃない…!」

「いいや、何も間違ってない。俺の正義は、戦い勝利を得ることだ。お前たちは平和という安住の過去に縛られた、遺物に過ぎない」

 

 ビルドたちの正論に、皮肉たっぷりに返すグリス。天才科学者に対しても物怖じすることなく、随分口が回るようだった。

 

「戦争屋め…」

「俺が行く、戦兎さんは暫く休んでろ」

「そーいう訳にいかんでしょーよ、これ…!」

 

 クローズたちが前に出るが、黄金の仮面ライダーはどこ吹く風。彼はゆっくりと歩を進め、後ろで倒れ込んでいるハードスマッシュたちに釘をさす。

 

「お前らは手ぇ出すなよ……俺にも楽しませろ」

「「「はーい、カシラァ」」」

 

 その注意に素直に従い、各々胡坐や体育座りする怪人。彼はその様子に“よし”と頷くと、さらにIS学園の仮面ライダー達に向き直り、一つ提案をした。

 

「途中参加した詫びだ。お前等、一撃ずつ俺に当てていいぜ?……――――オラ、殺す気で来い」

「な、…本気か?」

 

 腕を開き、攻撃するつもりの無いことを示すグリス。コレが平凡な人間が言ったのであれば、身の程知らずと鼻で笑い飛ばすところだったのだったのだが。

 

「…――――来い」

「ッ!?」

「…やべぇ、こいつの覇気、ナイトローグなんか比じゃ……」

 

 対峙していた二人には嫌というほど分かった。グリスに変身するシャルルという人物は伊達や酔狂では無くそれ相応の実力者。

 それも織斑千冬と同等、と言っても差し支えないほどだった。

 

「どぉした……来ねぇのか?」

 

 さらにゆっくり、煽るように近づいてくる黄金のライダー。

 

「くっ…!イチかバチかだ……一夏!コレ!」

「あんたは少し休んでてほしいんだがな!もう限界だろ…!」

 

 ビルドから忍者フルボトルを受け取ったクローズはビートクローザーにセットし『グリップエンドスターター』を三度引く。

 

【スペシャルチューン!ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!】

 

 一方のビルドはロックフルボトルをドリルクラッシャーに装填し、ドリルの剣先に黄金のエネルギーを溜めだした。

 

【ボルテックブレイク!】

【メガスラッシュ!】

 

「「ハァァッッ‼」」

 

 勢いよくグリスのボディに振り下ろされる紫金の二振り。鍛え抜かれた肉体と技量から繰り出されるその一撃は、音さえ追い抜き敵を穿つ。

 三重にブレた剣先と封印の効果を持つ攻撃が、黄金の仮面ライダーに当たった。

 

 

――――ガギィィンッッッ……

 

 

 その直後だった。頑強な鋼を破壊しても出ないであろう鳴動が轟いたのは。

 

「こぉんなモンか……、全っ然足りねぇなぁぁぁぁ……」

「はっ?」

「んな……っ!?」

 

 疲労が蓄積されていたとはいえ、二人の攻撃に毛ほどにもダメージが入っていなかったグリス。彼はつまらなそうに腕を下げると首を回して、関節を鳴らす。

 

「んじゃ、今度はこっちだな?」

 

【ツインブレイカー!】

 

 片手にパイルバンカー型の武装をゲルのようなエフェクトと共に出現させた。彼は駆動音を鳴り響かせながら“それ”を二人に向かって突き動かす。

 

 その一撃は龍の灰色の鱗殻(グレースケール)さえ打ち砕く。

 

「うわぁぁぁぁぁ!」

「くおぉぉぉ!?」

 

 一撃で後方へ弾き飛ばされる仮面ライダーたち。黄金の仮面ライダーは興冷めだと言うふうに頭を振る。

 

「お前等、殺し合いやってる自覚……あんのかぁ?ライダーシステム(コレ)はこう言うためのモンなんだろ?違うのか?」

「……っ、ライダーシステムを……、軍事兵器に…!?ふざけるなよ……!」

 

 グリスの言葉に反応したビルドは科学が戦争に使われているのに怒りを感じる。だが、黄金のソルジャーはどこ吹く風。

 

「あぁ?何抜かしてやがる、ビルドの女ぁ……。ナイトローグも“戦争の始まりだ”って言ったよなぁ……」

 

 ビルドの頭部のアンテナを握り、無理矢理立たせ殴りつける。

 

「もう祭りは始まってるんだよぉ!オラァッ‼」

「うぅ!?うぐぁぁぁっ‼」

 

 腹部に何度もパンチを浴び、地面を無様に転がるビルド。

 

「がは……、ぐふ……祭り…――――だと……?」

「俺たちゃ戦場を渡るカラスだ、俺たちの背中には死神が憑いてる……。地獄の祭りの始まりだ…!」

 

 グリスは心底楽し気に言うと片手に緑色のボトルを取り出し、ドライバーに装填しレンチを下げる。

 

【ディスチャージボトル!】

【潰れな~い!ディスチャージクラッシュ!】

 

 力強い音声と共に右手からゲルが噴出し、プロペラの羽を形作る。

 

「どんどん行くぞ、コラァ」

 

【ビームモード!】

 

 グリスは専用武器の『ツインブレイカー』のビーム発射口を前方に向かせた。彼がそこからビームを放つと同時、さらに右手のプロペラを回転しだす。

 

「くっ……うぉ!?」

 

 ヘリコプターフルボトルの飛行能力で上空の利をとったグリス。三羽烏を束ねるその名に偽りはなし、自由自在の高速機動を以って仮面ライダーたちを蹂躙しだす。

 ビルド、クローズに縦横無尽にキックやビーム攻撃を仕掛け、周囲には光弾や衝撃が殺到する。

 

「ぐっ、こいつバカみてぇに強ぇぞ…!流石にヤバくねぇか、戦兎さん!?」

「分かってる……ッ!」

 

 遂に耐え切れなくなり、火花をボディから弾けさせ倒れ込む二人。勝負はあった。

 だがグリスは無慈悲にも、攻撃の手を緩めない。ツインブレイカーにドライバーにセットしていたボトルを挿入する。

 

「オラ、食らえ」

 

【シングル!】

【シングルフィニッシュ!】

 

 発射口から放たれたプロペラ型のエネルギー体は、高速回転しながらビルドたちに命中した。

 

「がぁぁっ!」

「うわぁぁぁぁぁっ‼」

 

 爆風と共にIS学園生徒が避難していた場所まで吹き飛ばされた二人。ビルドは変身が解除されてしまうほどの大ダメージを負っていた。

 

「戦兎さん!……ッ!?」

「……民間人がいる所で戦いたくはねぇんだが、仕方ねぇか」

 

 グリスは非情にも言い放つ。その言葉から、クローズは現在進行形で生徒たちを危険に晒していることに気が付き血の気が引いた。

 

「終わりだ……、過去の仮面ライダー」

 

 手向けの言葉と共にゼリー飲料のようなアイテムを再びセットし、レンチを力強く押し下げる。彼の無慈悲さは、正しく地獄の宴を愉しむ死神。

 

【スクラップフィニッシュ!】

 

 肩の『マシンパックショルダー』が可動し、後ろに猛烈に黒いゼリー状のエネルギーを噴出する。

 その姿はまるで黒い羽根を広げたカラスの如く、凶つなる災いを運ぶ鳥。グリスが前に突き出した脚は黄金の輝きを纏い、必殺の一撃(ライダーキック)の力になる。

 

「くっ……」

 

 身動きが取れない戦兎は呻く。思わず駆け出した千冬はIS『打鉄』を展開しようとするも、間に合わない。

 

 戦兎は思う。ナイトローグが告げた科学の悪性を思い出す。彼女は言っていた、人間はどうしても力を使わずにいられないのだと。その力を使って、人間同士で諍いを起こさずにはいられない。

 どうして、戦いをやめることはできないのか。なぜ、こうも人に不幸が、死が降りかかってくるのか…――――。

 “オレ”は、その答えを解き明かせていないのに…――――。

 

 

「ッさせっかぁ!」

「んん?」

 

 走馬燈が走っていた戦兎の脳裏に、勇ましい声が届く。

 

「ッ、一夏!?」

 

 前に出たのはクローズ。ボロボロの身体に鞭奮い、ビートクローザーをグリスの足にぶつけ、全身全霊で相手の力を受け止める。

 

「ぬっ……ぐっ、おぉぉぉぉ‼」

「一夏!」

 

 苦悶の声を上げるも、徐々に押されていくクローズ。見ていられなかったのだろう、青空の装甲をもつライダーに声をかける箒。

 

「頑張ってくれ……!負けるな…!」

 

 それを皮切りに一夏に声をかける仲間達。

 

「一夏さん!気をしっかり持ってくださいませ!」

「一夏ぁ!気合い入れなさい気合ぃ!そんなもんじゃないでしょうが!」

 

 親友たちだけではない。

 

「織斑君…!」

「おりむ~、ふぁいと~!」

「信じてるわよ!」

「負けないで……!」

 

「「「頑張って!」」」

 

「…!」

 

 それは、彼の人となりをよく知っている人たちの声。皆と交流し、短い間ながらも彼を知った少女たちの思いの形。一緒に小さな喜びを慈しみ、小さな困難に共感してくれた彼の優しさを知る生徒たちの声。

 だんだんと声援が大きくなっていく中で、彼の蒼き炎が燃え盛る。『信じてくれた者たち』のために戦う彼の心が迸る。

 

 

 黄金の疾風(ラファール)の如きグリスの突進が、止まった。

 

 

「……なに?」

「…ッ!ぐぅおおおおおっ‼」

 

 その隙を一夏は見逃さなかった。剣を大きく弧を描くように振り抜き、グリスを上空へと弾き飛ばす。

 

「おぉりゃぁぁぁぁぁ‼」

「うおっと!?」

 

 黄金のライダーの黒翼を霧散され、背中から勢いよく地面に落ちる。それで限界だったのだろう、クローズは疲労困憊な身体をビートクローザーで支えざるを得なかった。

 その時、一夏は気が付いた。グリスの身体が微かに、だが確かに震えていることに。

 

「……、あん?どうしたお前……、っ!?」

「……――――クッ……!クハッハハハハハァァァァァ!」

 

 突然跳ね起きた黄金の仮面ライダー。彼の声は歓喜に満ちていた。マスクの下の顔も、狂喜乱舞しているのが見て取れる。

 

「いいなぁ、ゴラァ!お前ぇ、確か仮面ライダークローズの……“織斑一夏”だったなぁ‼気に入ったぁッ、ハッハハハハハッ‼」

 

 舞台俳優の様に天を仰ぎ、腕を蒼穹に掲げ、喜びに打ち震える仮面ライダーグリス(シャルルという青年)

 

「お前、分かるぜ?俺と同じだ……戦いの中でこそ輝ける!なぁ違うかぁ戦友(とも)よ!?」

「あぁ?何言ってんだてめぇ!ハァ‼」

 

 息も絶え絶えに剣を振るうクローズ。だが、グリスは先程までと全く違う。スイッチが切り変わったように強くなっていた。鋭い闘気が周囲の空気を切り裂いている。

 

「ツれねぇなァ。もっと戦おうぜ?」

「っ、御免だよ!」

 

 グリスに片手でビートクローザーを受け止められたことに驚くも、竜の戦士は間髪を入れずに空いた左手で殴りつけた。

 グリスはそれも受け、一瞬身動く。甘露で喉を潤す流浪の旅人のように。

 

「あ゛ぁ……こうして感じる力が!痛みが!殺し合い(戦い)をやってる時が!生きているって感じがするよなぁ‼」

「っの、バトルジャンキーが!」

「ハァ……、どうした、もっと俺を満たしてくれ……。もっと俺を楽しませろぉぉぉ‼」

 

 彼はサバットの動きで蹴りを放ち、クローズを地面に叩きつける。

 

「至高!最高!最上!」

 

 天を仰ぎ叫ぶグリス。クローズは転がりながら態勢を立て直す。

 

「俺が求めていたのは!こういう!祭り!なんだよぉぉぉっ‼」

「……ッ野郎!」

 

 二人とも形は違うがドライバーのレバーに手をかけ、必殺の一撃を放とうとする……。

 

【スクラップフィニッシュ!】

【ドラゴニックフィニッシュ!】

 

 黒翼を持つ黄金の仮面ライダーと、蒼炎を纏った龍の仮面ライダーの互いの右足がぶつかり合う。

 その拮抗は凄まじいエネルギーの余波を周囲に放出する。

 

「はぁぁぁぁぁ‼」

「うおぉぉぉぉ‼……がっ!?」

 

 

 

 …――――空中で、青い龍が狂鳥に穿たれた。

 

 

 

「ぐ、ゥ…!」

 

 空中から放り出され、変身解除されてしまった一夏。頭や唇から血を流し、白いIS学園の制服を土と血で汚している。

 

「楽しかったぜ……、なぁ戦友(とも)よ」

 

 ゆっくりと近づき、ツインブレイカーを一夏と戦兎に向ける黄金の仮面ライダー。戦兎の近くに落ちていたガトリングフルボトルを手に持つ。

 

「駄目!」

「箒……!?バカお前……っ!?」

 

 それを遮るように右目に包帯を巻いた少女が庇うも、グリスは一瞬逡巡しただけだった。

 

「戦場に出てくんなら…――――それ相応の覚悟ってヤツ持ってんだろうな、女」

「…ッ!一夏は、殺させない…!」

「…そうか。ならお前から送ってやる」

 

【シングル!】

 

 拾ったフルボトルをツインブレイカーにセットする。そして右手でサムズダウンし、地面を指し示す。

 今からお前が行く場所はそこであると。

 

「さぁ…、先に地獄を楽しんでな」

「箒…!?ッ止めろ、テメェェェェェェッッ‼」

 

【シングルフィニッシュ!】

 

 グリスは躊躇うことなく弾丸を発射した。

 

「グリス、お前ッッ…待てぇッ!」

「やめろォォォォォォォォォォッッッ‼」

 

 戦兎は打ち倒された無力に哭く。一夏は声が枯れんばかりに叫ぶ。大切な人間を目の前で失いたくない。その一心で懇願する……――――。

 

 

 

 

「…――――。あん?」

「ッ…――――あれ?攻撃が…来ない?」

 

 グリスが困惑した声が聞こえた。痛みが来ないと気が付き、何事かと箒が目を開けると…――――。

 発射された弾丸は空中で停止している。

 

 

「AICだ。それが実弾の特性を持っていて助かったな。篠ノ之束の妹」

 

 

 一夏や箒の傍には、漆黒のISを纏う銀髪の少女が立っていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ…?」

 

 銃弾が停止していた空間が歪み、鋼色の光弾がグリスに向かって跳ね返る。これがドイツ軍が開発したインフィニット・ストラトス『シュヴァルツェア・レーゲン』に搭載された機構、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー…――――慣性停止結界である。

 

「織斑一夏。別に貴様らを助けたわけでは無い!それよりも……!」

 

 怨敵のように仮面ライダーを睨む『漆黒の雨』の操縦者、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

「貴様、仮面ライダーとやらだな?ならば私と戦え、黄金のソルジャー……!」

 

 その無茶に戦兎が息を切らせて制止の言葉をかける。

 

「やめ、ろ……あのライダーは別格だ…!第三世代ISじゃ、対抗できるのは…、わずかしかいなよ…!」

「黙れ!私は強者であり続けなければならない……だから仮面ライダーなど認めない……!」

 

 忌々し気に言葉を吐き捨てるラウラだったが、一方の仮面ライダーは、ここにきて初めて動揺を見せた。

 

「!……お前等、退くぞ」

「え……カシラ?ボトルは……」

「いーんだよ、後から乱入しておいて戦利品を奪うのはポリシーに反するしな……」

 

 そう言うとツインブレイカーにセットしていたフルボトルを放り捨て、代わりに白いボトルを取り出す。

 

【消しゴム!】

 

「……っ!おい待て、貴様……オイ!」

 

 ラウラの声も聞かず、ドライバーにセットしレンチを下げるグリス。

 

【ディスチャージボトル!潰れな~い!ディスチャージクラッシュ!】

 

 金色の腕からゼリー状のエネルギーが噴き出すと、空中で消しゴムに変化する。それを操り、自分たちの存在を消すことでグリスたちはその場から逃げ去ったのだった。

 IS学園に残されたのは破壊の跡と、敗北した二人の仮面ライダーのみ。

 

「逃げた、のか…」

「助かっ、た……ありがとうな、銀、髪……」

「あ、もう…げんか、い…」

 

 一夏は感謝をラウラ・ボーデヴィッヒに言うも、急に意識が深く深く暗転し荒砂の大地に倒れ込んでしまう。戦兎も堪えていた身体ダメージが限界に到達し、蹲ざるを得なかった。

 

「っ、だから貴様の為ではないと言っただろう織斑一夏、ッ……!?オイ、気絶か!?最後まで聞け!本当に貴様の為ではないのだからな‼」

 

 怒りながら一夏に掴みかかろうとするラウラの顔には、でかでかと不満であると表れていた。しかし、彼女の頭にゲンコツが落ちる。

 

「ラウラ、そして箒!何故勝手なことをした‼」

「…っ、それは……」

「きょ、教官!?しかし……」

 

 怒り心頭な織斑千冬がラウラと箒に詰め寄った。それはもう怒髪天を突く勢いであった。

 あまりの剣幕にしょぼんと顔を伏せるラウラ。箒も咄嗟にとってしまった行動の愚かさに眉をしかめていた。それを見て、逆に千冬も冷静になる。息を整えると、一先ず今後の処罰を事務的に彼女らに伝え始めた。

 

「……ボーデヴィッヒ、そして篠ノ之、貴様らは勝手な行動をとり、自分や生徒を危険に晒した。後で生徒指導室に来い……――――良いな?」

「…はい」

「……、はっ……」

 

 気絶した戦兎や一夏が担架で運ばれていくのを見送ると、千冬はくるりと後ろを向いて、話は終わりだとばかりに立ち去ろうとする。

 …――――だが最後に、彼女はこう一言を付け加えた。それは教師としてではなく、一人の人間としての言葉だった。

 

「だが、それと……ありがとう」

「……――――は?」

「……一夏を助けてくれて、感謝する。二人とも」

 

 顔を上げたラウラは、彼女にとって絶対の教官の顔を見る。織斑千冬は箒とラウラを見て、薄っすらだが優しく微笑んでいた。

 だが、それも一瞬のこと。彼女はいつもの鉄面皮に戻ると、スタスタと生徒たちが避難していった方向へ立ち去って行った。

 

 

 

 その場に残されたラウラの頭の中は、憧れである“強者である織斑千冬”の顔と“優しく微笑んだ姉としての千冬”の顔がせめぎ合っていた。

 

(また、あの顔……!強者である教官にふさわしくないあの顔だ!織斑一夏(かぞく)と言う存在のどこが……!)

 

『ありがとう』

 

「……?」

 

『感謝する』

 

 二つの言葉がラウラの心の中に沈んで行く。それは今まで感じたことの無い柔らかなモノだった。

 

(何だ?この感覚は……。体から今まで築いてきた力が抜け落ちていくような……)

 

 だが、その感情を知らないラウラは、まずその感情を“恐れた”。

 

(……いやだ!また弱い自分に戻りたくない!またあんな目で見られたくない!そうだ、……――――だから、私はお前を否定する!教官の為に……教官から再び完璧な力を授けていただくために……今に見ていろ織斑一夏!)

 

 そして、未だ孤独な銀色兎は冷徹な表情に戻る。憎しみと、ほんの少しのどうすればいいか分からない迷いを力に変えて、彼女は強く手を握り締めたのだった。

 彼女の心に雨が降る。しとしと黒い雨が降る。未だ、彼女の心が安息に晴れることはない。黄金の太陽を求めて、絶対の力を手に入れようとする。

 そんな力では、暗雲を掻き消すことはできないというのに…――――。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、黄金の仮面ライダーと三羽烏はどうなったかというと。

 

「カシラァ……どーして撤退したんですかぁ?」

 

 散髪屋『バーバーイナバー』の空き部屋に下宿と言う形でやって来たフランス組。ルージュがリーダーの撤退の指示に不服を申し立てている。

 

「アレは、間違いない……」

 

 だが、今の彼に聞く耳は無い。彼女の質問に答えず、携帯電話を取り出すシャルル。そのスマホは、ある人物の写真がホーム画面に設定されている。

 

―イメージ画像です♡―

 

『はぁーい、みーんなのアイドルッ♪くーたんだよっ♪』

 

 

 

「……――――くーたんだ~♡」

 

 手を握り合わせ、メロメロな表情でシャルルは叫んだ。

 

「「「だぁぁぁぁぁ!?」」」

 

 思わずずっこける三羽烏。そう、カシラの携帯の待ち受けには、輝くような銀髪にくりくりとした赤い目、片手にウサギの『うーたん』を抱えたネットアイドル…――――『くーたん』が天使の笑顔を浮かべていた。

 

「でたよ、カシラのアイドル好き……。いや、私らもファンだけどさ……」

 

 ブルはため息をつくものの、シャルルの心火は消えることは無い。彼女が映っている携帯を頬ずりし、出会えたことに歓喜するシャルルなのだった。

 

「……でもくーたんって眼帯キャラだったっけ?イタくない?」

「馬鹿野郎!」

「へぶぅ!?え、何でウチ殴られたのカシラ?」

「そりゃお前アレだよ!盗んだトラクターで走り出したいお年頃なんだよ!」

「いや、カシラ。トラクター乗り回すの田舎に住む百姓の私らだけでしょ、くーたん日本人なんだからせめてバイクですよ」

「……つまり中二病?へびゃ!?」

「それが推しの黒歴史になるとしても俺達は温かく見守る!それがファンとして、いいや人間として当然のマナーだろうがぁ!違うかお前等ぁ!」

「「「お、おぉぉ……」」」

「返事ぃ‼」

「「「お、おぉぉぉッ‼」」」

 

 床屋の二階に間の抜けた返事が響いたのであった、まる。




 やっぱこうなったか……(確信犯)。男シャルにした理由ですが、このままじゃ一夏の肩身が狭いのとネタキャラにした時のギャップがこっちの方が強いという……あっやめてゴミ投げないで!自分でも大博打うった感あるのは分かってますから!


※2020/12/28
 一部修正


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第四十話 『篠ノ之束をジャッジしろ』

戦兎「ちっくしょーっ!オレと一夏二人がかりで負けるとかあの変身者身体能力おかしーわ!オレ少なくとも織斑先生レベルの格闘センスあるのに‼」
一夏「え、マジで?いつもの虚言癖じゃねーのそれ?」
箒「なら、戦ってみればいいのではないか?と言う訳で千冬さーん」
千冬「呼ばれたので来たぞ」
戦兎「げぇ、関羽‼」
一夏「なら、戦兎さんは周瑜かな…」
箒「それだったら、惣万さん呂布になるんだが…」
鈴「?アンタらなんの話してんの?」
一夏「え?ちょ……お前三国志知らないの!?」
鈴「え、あぁ…日本のゲームの話じゃない。何、それがどうしたの?」
惣万「えー、無駄知識として中国人でも地域によっては三国志知らない人いたりする。特に若い世代は顕著になってきてるとかいないとか」
鈴「日本人が戦国武将あんま興味がないのと同じよ、同じ」
戦兎「そこーっ!オレ死にかけてんのに雑学大会してんじゃないよ!ってわぁァァァァァ!?」
千冬「ちっ、外したか…次は当てる…!」
箒「うわぁ国士無双…」
一夏「よく耐えられてるよ戦兎さん、伊達に戦闘経験培ってねーな」


「あー……、っのグリスの野郎、思いっきりやりやがって……」

「いや、回復早くないですか一夏さん?」

 

 仮面ライダー部として活動している空き教室にやって来た俺達にセシリアが言う。因みに箒は反省室にしばらく通い、反省文書きであるらしい。まぁ自己犠牲精神は褒められたものじゃないから、もうあんなこと二度としてほしくは無いんだが。

 

「ん?いや、別に平気だぞ?包帯もう少しで外せるし、何だか回復力が異常だとか校医に言われたけどな」

「それは全てネビュラガスの影響だろうね」

 

 そう言って戦兎さんはパソコンを叩き映像資料を俺達に見せる。そこには戦兎さんそっくりな人物がパンドラボックスを見せながら話をしている。

 

『パンドラボックス内に充満している気体……驚くべきことにコレは我々のような人間や意識体を別の生命体に変化させてしまう特徴がある。我々はコレをネビュラガスと呼称することにした』

 

 映像の続きが流れる。チューブが繋がったガラスケースの中に兎を入れ、緑色の気体が入っていく。

 

『まだ解析の途中だが、適合すれば身体能力の強化、体の持つ治癒速度の向上などの変化が見られた。だが、ネビュラガス適合率“ハザードレベル”が個別の限界値を超えると……――――』

 

 突如、ガラスケース内の兎がぱたりと倒れた。そして体から赤い粒子を撒き散らし、煙となって……――――消えた。

 

 それを見て冷淡に説明する科学者。画面の向こう(俺達)を見据えポツリと言う。

 

『体に負荷がかかりすぎ、消滅する』

 

 そこで映像を一旦止めると、俺達に向き直る戦兎さん。その時の俺の顔は戦慄していたことだろう。箒や鈴の身体にそんなモノが入っていたなんて……――――。

 

 

「……そんな危ねぇもんなのかよ」

「……さて、解決しなきゃいけない問題はまだまだある。先の襲撃でやって来た『仮面ライダーグリス』のことだ、オレの知らないライダーシステムを使っていたわけなんだけど……例のUSBを調べてみたらちゃんと載ってたんだ」

 

 

 パソコンの検索画面、『Enter Keywords to Search』と書かれた空欄にスクラッシュと入力し決定する戦兎さん。

 

『エクセレント!遂にプロジェクト・ビルドの第二計画にアクセスしたね!』

「うわうるっさ!?テンションおかしくない?」

 

 うん鈴、俺も同意。やっぱこの忍って人、戦兎さんとこういう所も似てるよな……。叫び声に耳を押さえた俺達に構わず、映像の人は片手にゼリー飲料のようなパックとレンチの付いたベルトを取り出す。

 

『コレはボトルの成分をゲル状にすることで更なる進化を遂げた、もう一つのライダーシステム“スクラッシュドライバー”だ。コレを使えばボトルの成分をさらに引き出して戦うことができる。開発はこれを見た君に任せるとしよう……。正義のために使うか、悪のために使うかは君次第だ。頑張ってくれたまえ』

 

 そして設計図のようなデータがパソコン画面に映り、映像がぷっつり途切れる。

 

「……そして出来上がったのが、あいつが使っているグリスってことか。ちっくしょー、あの金髪……一体どこ行ったんだか」

「今ネットの噂を漁っている。目撃情報からIS学園付近にいることは確定。もう少し待って」

 

 くるりと持っていたタブレットを回転させ、こちらに向ける簪氏。そこには金色のライダー目撃情報まとめサイト(彼女作)というモノが…………いや、手が早くねぇか?

 

「……お、おう。んで、対抗できる手段はあるのか?戦兎さん」

「そのスクラッシュドライバー、と言うのも製作中だし、ホラコレ」

 

 戦兎さんの手にあるソレ。見れば奇妙な模様が入ったボトルだった。スマッシュボトルにしては模様が幾何学模様と言うか……?

 

「……それは?」

「スタークがパンドラボックスに触れた時に出た残留物質だ。コレを使って強化アイテムを開発する」

 

 あぁ、クラスリーグマッチ(あの時)の……。それにしても何でスタークは俺達の助力になるような事を?そもそも本当に悪人なのか……?

 

「そしてもう一つ、データや分析で分かったことがある。ナイトローグも言っていたパンドラボックスの中身だ。パンドラボックスとパンドラパネル、フルボトルが揃うとこの箱が開く」

 

 俺が思考の海に潜っていた所で戦兎さんから声がかかった。パンドラボックスの、中身……?

 

「そうすると……どうなるんだ?」

「核を超えたエネルギーが生成可能になるらしい。それこそ、条件さえそろえば宇宙を創り出す程のエネルギーだ。……――――つまり、ファウストなんかの手に渡ったら、この世界は……滅ぶ」

 

 ……おいおい?

 

「そんな馬鹿な……」

「最悪な事態のことを考えて行動するのがオレという科学者だ。ま、信じなくても良いケドね……」

「……」

 

 口調は軽かったが、彼女が纏う雰囲気は重かった……。

 

「……っ、あーやめ!この話やめ!他になんか質問無い?」

「それじゃ、因幡野先生?このデータに映ってる人、先生に似てない?誰よ?」

 

 ……鈴が核心に迫る質問をする。俺は前に聞いていたが、やっぱり言い辛いことではあるらしい。戦兎さんの口調が淀む。

 

「……。彼女は葛城忍。ライダーシステムの開発者にして、ファウストの創設者であるらしい」

「「「!?」」」

「……みんなはこう思ったんだろ?オレが記憶を失う前は葛城忍だったんじゃないかって。そんで、学園を強襲した集団のリーダーだったんじゃないか、って」

 

 戦兎さんは一瞬悲しそうな眼差しになると、顔を歪めるように笑顔をつくった。

 

「もしもオレが……――――本当に葛城忍だったら、オレの過去が消えたのは当然の報いなのかもしれないな……はは」

「っ、戦兎さん!」

「……――――あぁ一夏、オレは大丈夫。続けるよ」

 

 そうなの、か……?オルコットたちに目を合わせても首を横に振られた。やっぱり、誰がどう見ても無理をしているふうにしか見えないんだが。

 どうやら心配されるのは気に入らなかったらしい。彼女はヤダヤダ、と言いながら手を広げる。そして急に表情を引き締める戦兎さん。

 

「それに勘違いしないで欲しい、彼女はライダーシステムのことを『究極の防衛システム』と言っていた……。だから今の『ファウスト』との行動理念とは違う思いを持っていたはずだ」

 

 続いて告げられた言葉は今までのような不安に押しつぶされそうな雰囲気は無くなっていた。

 

「弁解だと思わないでくれ……オレは人々が笑って暮らせる為に科学を発展させたいと思ってるんだ。葛城忍だってそうだったはずだ」

 

 ……――――。あぁ、なんだかんだ言って、この人は悪い人じゃないんだろうな。何よりも、科学者として、責任と扱い方を弁えている立派な人だ……。

 

「科学の発展には犠牲がついて回っている……。それがオレの記憶だったり、ISの女尊男卑の風潮だったり色々だ」

 

 そこで言葉を区切り、俺達に頭を下げ、彼女は自分の願いを言う。それはまるで“科学”に代わって言葉を俺達に伝えたように感じた。

 

「でも忘れないでくれ。誰も他人の不幸を思って科学を発展させたりしないってことを……他でもない犠牲者であるオレからのお願いだ……」

 

 

 

 

 

「世界をこんなふうにしたあの女の肩入れをするのか……」

 

 ぞっとするほど冷淡な声が聞こえてきた。

 

「……今の世界の始まりは白騎士事件だ。あの時点で、篠ノ之束の夢は妄想と化した。そしてこんな歪んだ世界を創ってしまった……。あの女がそんなことを考えていたと?」

 

 その声の主は非常にゆっくりと……だが威圧感たっぷりに教室に入ってくる。

 

「……ほ、箒さん……?」

「ちょっと、……実の姉をそう言うのは…、…?」

「……姉……、姉……?あの女が?ハ、ハハハ……あはははあはははハハハハハハハハハハ!?」

 

 セシリアと鈴が座っていた机の上に、ばさりとスクラップブックを投げ捨てる箒。その数、十冊。俺はその本を広げて見た。

 

「……ッ!」

 

 見ればISが原因の、またはISに関連した事件の記事だった。引き起こされた戦闘、テロ、反女尊男卑社会によるデモによる死傷者……。それ全てが切り抜かれ、ページにきっちりと貼り付けられていた。

 ……俺はぞっとした。箒はコレをどんな思いで見ていたんだろうか。シワ一つ無く、ズレなく丁寧に糊付けされたソレに、箒の狂気を感じてしまった。

 

「もう一度聞きます、因幡野先生……。世界をこんなふうにした天災の肩を持つのですか……⁉」

「……もう一度言おう。箒ちゃん、言ったはずだよ。科学を軍事利用しようとするのは周囲の思惑なんだって」

「違う‼」

 

 教室の空気を震わせるように声を発する箒。目を血走らせてスクラップブックを怨敵のように睨む。

 

「今戦争が起ころうとしているのも、男女平等の世界が崩れたのも全て!……あの天災が引き起こしたことだ……!篠ノ之束の罪への当然の報い、自業自得だ……ッ!」

「篠ノ之束だって科学者だ……。だから彼女も自分の発明がこうなることを望んでいなかったはずだ!」

 

 箒の姉のことを擁護する戦兎さんだったが、箒が言ったことですべてが崩れる。

 

「なら……、何故篠ノ之束は白騎士事件を起こした!!!!」

「「「!?」」」

 

 教室に戦慄が走った……。俺がいち早く反応する。

 

「おい!?箒、どういう事だ!?あれはテロリストにミサイルがハッキングされて、それを束さんが発明したISで事故を防いだ出来事じゃ……」

 

 そこでハッと気づく……、信じたくない真実に。

 

「……――――オイちょっと待て、まさか……」

「……そうだ一夏、あれはただのマッチポンプだ。篠ノ之束が自分で各国サーバをハッキング、ミサイルを発射させた」

 

 あまりの事実に愕然となるIS代表候補生たち。まさか今の自分たちの地位が、ただ一人の手の平で転がされていたとは、露にも思っていなかったゆえの衝撃だった。

 

「そして……それを何も知らなかった白騎士の搭乗者に伝え、防ぐように頼んだ出来事……、それが白騎士事件の真実だ……!」

 

 般若のような表情をした箒は……急に顔を伏せた。

 

「……その所為で、私は帰る場所を失った……。父親は行方知れず……!そして母親は旅客機の事故で死亡……!その姉と思しき人間は記憶を失い世界の裏側で暗躍している……!」

 

 簪がハッと口を押えた。楯無会長と簪が一緒にいた時の“姉妹仲良く”というあの言葉……。それは自分の姉への感情の裏返しだったと思い至ったのだろうか……。

 

「……そんな……」

「確かですの?」

「……こんなふざけた嘘を吐く理由があるか?」

「……」

 

 俺は、何ができるんだろう?長髪を振り乱し戦兎さんを見る箒。俺には分からない……姉に裏切られた気持ちなんて……、そんな俺に何ができるんだろう?

 

「これでもまだ篠ノ之束が科学者だと言えるのか‼」

「……ッ、それは……」

 

 言葉に詰まる戦兎さん。

 妙に薄暗い教室で対峙する二人。片や科学の所為で孤独から人生が始まった女性、片や科学の犠牲として今まで孤独を味わった少女。

 

「癇癪でISを兵器として世界に知らしめた無責任なガキが!?私の血の繋がった姉だと!?ふざけるな、アレは私を……友人や家族との仲を引き裂いた人でなしだ‼」

 

 ハァ……ハァ……ハァ……、と激情を有らん限り叫ぶ箒。そして言い切った後、自分が何を言ったか気が付き、青ざめる。

 

「……――――っ!……っ済まない……お前たちに言っても、何もならないのに……」

 

 箒は戦兎さんが自分とは違う孤独を抱えているのを知っている。それなのに感情を抑えきれなかったことに、自己嫌悪を感じてしまったのだろう。今にも泣きそうになってくるりと出口に向かって足を速めた。

 

「……何て今の私は醜いんだ…。因幡野先生……、ごめんなさい……そんなつもりじゃ、なかったんだ……」

「ッ、おい箒!待て……!」

 

 んだよ、その顔。今のお前、見てらんねぇんだよ…――――!

 

 

 

 

三人称side

 

 一夏が箒を追って出ていった後の教室。がたん、と戦兎が椅子に倒れ込むように座った。その顔は青白い。

 

「因幡野先生……大丈夫ですか?まだ身体の具合が宜しくないのでは……?」

「あぁ……大丈夫、オルコットちゃん。ただ疲れただけだから」

 

 だが、その言葉には張りが無い。同じ科学者として思う所があったのだろうか。

 

「科学者、か。篠ノ之束……――――葛城忍、そしてオレ……。もしかしたら、オレのやってることって、不安と自己弁護と贖罪が入り混じった、キレイごとなのかもしれないな……」

「…――――キレイごと…、ですわね」

「え……?」

 

 セシリアはバッサリと戦兎の言葉を肯定する。だが、否定的な声音ではなく、優し気に微笑んでいた。

 

「だからこそ、現実にしなきゃなんじゃない?小さな犠牲も、大きな犠牲も出しちゃ……誰かが泣くわよ」

「本当はキレイごとが一番いい……。私たちは正義の味方の、その綺麗事に救われた……」

「だから、因幡野先生。わたくし達力を持たない者にはこのくらいしかできませんが……――――」

 

 セシリアは酷い顔の戦兎に優しく近寄り、華奢な彼女の手をぎゅっと握った。

 

「大変な時は、わたくし達が手を掴みますわ」

「……ッ、気付いて……?」

「はい?」

「いや……だって……」

 

 それを見て、“はぁ、やれやれ”と首を振る中国と日本の代表候補生。

 

「誰かのために戦い、傷つくのがオカシイとは言わないわよ。でもね……」

「自己犠牲精神は綺麗な事……私もそう思うけれど、行き過ぎれば醜い事。因幡野先生……、貴女はちゃんと『ビルド』としてクシャっと笑っていて欲しい……」

 

 その言葉と共に、今までため込んでいたものがあふれ出す。

 

「君たち……、……ッ」

 

 教師としての仮面が外れ、人間としての因幡野戦兎が露わになる。

 

「オレは……本当は、辛くて……怖かったんだ」

 

 セシリアと手を繋ぎながらぽつりぽつりと心の中にたまっていたモノを外に出す。

 

「一夏をライダーにしたのも、箒ちゃんにやけどを負わせたのも、オレの所為だったらどうしよう………ナイトローグやブラッドスタークが人を襲っている理由が記憶を無くす前のオレの実験の所為だったらどうしよう……」

 

 セシリアの手の甲に温かい液体が落ちる。

 

「そもそもオレが誰なのかさえまだ分からない!なのに急にファウストの創立者なんて言われたって納得できるわけねぇだろ……!」

 

 そこから戦兎は声を押し殺して泣いていた。人前で泣いたことなんて初めてだった。“因幡野戦兎”が生まれて初めての涙。それを三人は、黙って支えるように傍に居てやったのだった……。

 

 

 

 

 

 

「……――――っ、あ゛ー。すまなかったね、忘れてくれ。こんな大人の泣きごと聞いても面白くなかっただろ。それに、箒ちゃんの言ったことも……」

「ん?おかしなことを聞きますね、因幡野先生」

「?」

 

 戦兎の言葉を遮り、鈴が二人とアイコンタクトをする。

 

「わたくしたちは何も聞きませんでしたわよ、因幡野先生?」

「そんなことより……グリスの情報が足りない。もっと強固なネットワークが必要……」

「あー、……さて、アタシらは一夏たちを迎えに行くとしますかね~っと。それと因幡野先生、多分アタシたちの方が人生経験豊富ですよ~、なんつって」

 

 そう言って三人はそれぞれ空き教室から出ていく。夕日のさす教室は、戦兎ただ独り……、手にはさっきの温もりが残っていた。

 

「……最悪だ、あんな年下の子供たちに慰められるなんて……でも、うん。一夏に、マスターに……生徒たち。仲間がいるってのは……最高(さいっこー)だな」

 

 そう言って、三人を追うように教室を出た戦兎の顔は、憑き物が取れたようにさわやかだった。若干泣きはらし朱く充血していたが、それでも不器用な美しさが見て取れる、そんな純粋な笑顔だった。

 

 

 

 

一夏side

 

「……っ、アホウキ、一体どこ行った?……ってメール?」

【簪(‘ω’):箒はGPSによれば学生寮の近くの木の根元。ガンバ】

 

 ……――――いろいろ言いてぇが今は感謝しとこうか。後で説教(姉にモフモフされる刑)だが。

 

 

 

 

 ……――――いた。泣きはらした目でボーっと夕焼け空を見ている長髪の少女……箒だ。

 

「一夏……、一夏……。幻滅しただろう……?」

「……」

 

 俺が近寄るとひとりでに喋り出す。俺は箒の隣に腰を下ろした。

 

「醜い姿を見せた……憂さ晴らしのように喚き散らすなど……。やはりまだまだ未熟なんだ、私は……」

「そんなワケねぇだろ……!」

 

 まだ言うか……!

 

「怒るのが、悲しむのがダメなわけあるかよ……お前は、辛かったんだろ……!それを何年も、自分で抱え込んで生きてきたんだろ!もっと怒れよ!もっと泣けよ!?何かにぶつけたって良いだろうが!我慢しすぎなんだろアホウキ!」

「駄目だ!」

「どうして……!」

「私だけは……忘れてはならないんだ!どいつもこいつも小娘の言葉を信用しない!いや、予想がついてても真実を隠蔽しようとする!この世界は、都合の悪いこと全てを消し去ろうとする!」

 

 嗚呼…箒は人の嫌な部分ばかり見てきたんだろう。誰もが自分勝手だと理解してしまったのだろう。

 

「篠ノ之束は記憶を失い、今はこの世にいない!だから白騎士事件の秘密を知るのは私しかいない!あの女がしでかしたことを来るべき時まで……私が心の中に留めておかなければ、ダメなんだ!ダメなんだよ‼私はずっと理解されないんだ‼」

「ふざけんな!」

「!?」

 

 肩を掴み、箒の涙にぬれた顔を見る。

 

「人間はな、泣きながら怒ることができるんだよ……喜びながら笑うこともできるんだよ!だから箒!お前は泣きながらも笑える人間になれ!怒りながらも、それでも笑える人間になれ!」

 

 唇を噛むように苦渋の表情をする箒……。まだ心は揺れ動いているのか……頑固な所は変わらないな……。

 

「でも……」

「……迷ってるなら俺も一緒に抱えてやるよ。二人でなら、分け合えるだろ。それに、空いた手には……オルコットが言うように、他の人間と手を繋げるだろうしな」

 

 箒は泣きそうな顔で歯を食いしばる……、そして、苦しそうに嗚咽を漏らし……声を上げて泣き出した……。

 

 

 

「一夏……、私はな……怖かったんだ」

 

 しばらくして、箒が口を開いた。

 

「今まで私は、ずっと白騎士事件の秘密を抱えて生きてきた……そして篠ノ之束という人間がどれほど罪深いことをしでかしたのか、それを自分の身を以て知っていた。それでも姉なのだから、アレもどこかで…何らかの形で家族を見てくれているんじゃないかと、ほんの少しは彼女の良心を信じていた」

 

 いつしか箒の顔から涙の跡は消えていた。

 

「前に……こんなことがあった……」

 

 

箒side

 

『私はIS委員会の御堂正代と言う者です』

 

 ある日のことだった。若い女性のIS委員会職員が訪ねてきた。

 

『君のお姉さんから預かっている研究データは何処ですか?彼女は貴女への想いをこの手紙にしたためていました。もし教えていただければ……これを差し上げます』

 

 私はその誘惑に負けた……。本当はそこに書かれているモノなど、分かっていたはずなのに……。

 

 預かっていたメモリを手渡し、姉が書いたという手紙を開いた……――――。だが。

 

『……ッ!騙したな!』

 

 白紙の紙。そこには何も書かれていなかったのだ。

 

『騙した?人聞きの悪いことを言わないでください。彼女が……“篠ノ之束”が家族に感謝する人間だと……、本気で思っていたのか?だとしたら、能天気にもほどがある。冷静に考えると分かるのではないか?家族をバラバラにしたかの天災に……何を期待していた?』

『……っ‼』

 

 

 

一夏side

 

「……その言葉に反論できなかった」

 

 地面をその華奢な拳で叩く。またボロボロと目から涙がこぼれ、包帯を濡らす……。

 

「だから、もうあの人を信用できなくなっていた。またあの人が私の周りにいる人を奪っていくんじゃないかって……!」

 

 手を目の前に持っていき、零れる涙を気にせず顔を上げる箒。俺はお前の心の痛みを感じることはできない……、だけど、それは……辛いことくらいは分かる……。

 

「まぁ……そうかもな、俺だってそんなことされたら無理だ。でもさ。信じられるものもあるんじゃねぇか?」

 

 俺はIS学園の校舎を眺めた。箒もこしこしと袖で目を擦り、俺の視線の方を向く。

 

「戦兎さんは科学の力を信じている。だからこそ束さ……篠ノ之束を責めるんじゃなくて、正しいことにそれが使えなかった現実を何とかしたかったんじゃないか」

 

 遠くから生徒たちの声が聞こえてくる……賑やかで、純粋な綺麗な声が。

 

「お前は、そうだな…――――。まずはお前が信じた人間を信じろ。オルコットに鈴に簪、生徒会長……は微妙だけど、ほらな。結構いるだろ?」

 

 箒は自分の手をじっと見つめる。そして……。

 

「………――――あぁ、そうだな。まずはそうさせてもらう。……なぁ、一夏?」

「……ッ。……おう」

 

 箒は、ゆっくりと、だがしっかりと俺の手に指を絡ませてきた。やっぱ、ちょっと恥ずかしいな、これ。

 

「……そばに誰かがいてくれるとは、こんなに暖かなものなのだな。ずっと忘れていた…。オルコットや、鈴も簪も。それに……因幡野先生も。皆、私と一緒にいてくれるだろうか…?」

「……っと、噂をすれば影、だな」

 

 ……照れくさくなったわけじゃないぞ、本当に聞こえてきたんだよ……ほんとだぞ?

 

『一夏さーん……、どちらに行きましてー?』

『一夏~、箒とデートするのは良いけどメール入れて~』

『いや、簪氏。アンタオカン?』

 

「いらんこと言いふらしてるあいつ等には説教が必要だ……。コレで箒と気まずい空気のままだったらどうなってたか……」

「はは……、一夏」

「ん?……――――ッ!?」

 

 頬に何か柔らかいものが触れて、その後箒の顔が見えるようになった……――――。え?

 

「……――――ありがとう」

 

 頬を染め、優しい笑みを浮かべ、唇をそっとなぞる箒。

 

「こんな……過去と決別できていない半端な女だが……。これからも、傍にいてくれるか?」

 

 ……彼女が自分の姉に並々ならぬ怒りを持っているのは分かる。それこそ手に取るように。それでも……、あの日約束した思い出も、何気ない幼い頃の日常も、この学校に入って出来た仲間と微笑む箒も。俺は全部含めて……箒のことが大切だ。

 

「……――――、あぁ。いるよ」

 

 握っていた手に少し力を入れた。

 

「ずっと傍にいる。困った時は俺が支えてやる。俺だけで抱えきれない時はあいつ等もいる……だからもう二度と、奪わせない」

 

 俺の言葉で目を潤ませる箒。それを見て…――――。

 

 

「…――――え?」

「ふぁ、ファーストキスだ…――――悪いか?」

 

 

 こっぱずかしいし、色気もない。でも、なぁ…――――。向こうでオルコットたちが騒ぐ声が聞こえてくる。

 

 見れば、頬に手を添え微笑むオルコット、鼻血を出して(*´Д`)ハァハァしながらシャッターを切る簪氏、茹でダコのようになった鈴。そして正気になり、制服に顔を押し付けて泣き笑いする箒。遠くから戦兎さんが走って来る。

 

「おーいやっと追いついた…って何この雰囲気?一夏と箒ちゃんってばなんか甘ったるい感じー…」

「あ、それがですねぇ……」

「もしかして、ベストマッチ?」

「「っ…」」

 

 あぁ……戦兎さんが言う『顔がクシャってなる』ってこういう事なのかな。こうやってバカ騒ぎできる時間を、仲間達を、…――――。

 

 …――――そして大切な人を守りたいと、俺は改めて思ったし、ここに誓った。

 

 

 

 

 


 

 ここは亡国機業。影の者共が身を置く世界……。そこに紫色の髪の女が歩いてくる。

 

「フフフ……助かったよ御堂。あのデータがIS学園に渡ってしまえば今後の計画に支障が出る所だった。それに、世界各国を巡って篠ノ之束の痕跡の一切を回収するとは、中々だな」

「宇佐美さん、ありがとうございます。一度は偽物を掴まされましたが、スタークに協力を仰ぎようやく回収に成功しました……そしてもう間も無くIS委員会は財団Xの元に入ります」

 

 やって来た彼女に首を垂れ、報告するIS委員会の幹部……そしてファウストの一人でもある御堂と呼ばれた女性。だが、宇佐美は鼻を鳴らす。

 

「で、その仮装はいつになったら止めるんだ?…――――『スターク』」

「『…――――はぁ、ノリが悪いな』」

 

 突如として、黒髪の女性から煙が噴き出す。

 

「篠ノ之箒とその姉と軋轢を生ませることは必須条件だった。まぁ先に天災本人に処置を施せたのは上々で、布石を打つまでも無かったが、せっかく作った御堂とかいう戸籍だ。使わなきゃ損だしな」

「フン。ならばいい、くれぐれも間違うなよ(・・・・・)、ゲームメイカー」

「分かっているとも」

 

 アッシュグレイの髪を持つ人間は、紫色の髪の女に別れを告げ、足音を鳴らしてどこかへ去っていく。

 

「あぁ、…――――あとありがとう、M。君のお陰で篠ノ之束製のISコアが手に入った……」

 

 宇佐美幻は思い出したように振り返る。そこにいたのは一人の少女。壁にもたれ、マントを羽織った彼女に宇佐美は感謝の言葉を伝えた。その少女は織斑千冬そっくりの顔を歪ませると、ハッ、と吐き捨てる。

 

「宇佐美、といったか。貴様で造れば良かったのではないか?」

「……何だと?」

 

 宇佐美が顔を歪めた時点で、図星だな……と確信すると、Mは言葉を続ける。

 

「貴様は私と同じ匂いがする。………――――いいや、私よりもっと脆弱だ。自分の存在証明の為に篠ノ之束、篠ノ之束と言っているが……本当は恐れているだけなのではないか。蝙蝠女」

「……――――。恐れている……だと?この私が?」

 

 自分の手を見る宇佐美。その手は小刻みに震えている。それを見てあぁ……なるほどと思い、亡国機業のMに向き直り笑みを浮かべた。

 

「……あぁ、確かに恐ろしいよ……」

 

 だが、彼女の返答はMの予想していたものと違った。

 

「自分自身の才能がなァ……‼」

「何……?」

 

 小刻みに震える手を額に当て、天を仰ぐように反り返ったのである。そして自己陶酔した言葉を紡ぐ。

 

「私のコアは特別製でな、篠ノ之束の造った物より性能もグレードも高くなってしまう……、何処をどう造ればあんな劣化品になるのか理解しがたいィ………」

「…――――は?」

「ククク、やはり既に私は篠ノ之束を超えている……。恐ろしいだろう?唯一無二の頭脳を持つ私はァ………………この世界の神に等しいィィ‼ギヒヒヒヒィ!ダーヒャッヒャッヒャッヒャァァァァ‼」

 

 今まで悪人をたくさん見てきたMでさえ、宇佐美 幻と言う狂人は底知れない悪意と実力を持ち合わせているように見え、………………久方ぶりに冷や汗が垂れた。

 

「さて……では新たな新兵器のお披露目と行こう……行け、“インフィニット・スマッシュ”よ。世界に篠ノ之束の夢の残骸を届けに行くが良い。見ているかァ……、篠ノ之ォ……!貴様の希望を何もかも、奪ってやろう……!ウェヒァウゥ……!」

 




 キャラ崩壊させるのも大変でした。正当な理由……ではないかもしれませんが、箒のやるせない怒りを感じていただければ幸いです。さて、次回……ようやく……。

※2021/01/05
 一部修正

 長い……、そして後半が書いていてやっぱり甘ったるい。


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第四十一話 『ヴェールの奥にいるのは誰?』

セシリア「えーそれでは…」
鈴「一夏、箒!」
簪「交際おめでとー」
一夏「お、おうどーも…やっぱ恥ずかしいなコレ!」
箒「と、というか、勢いでABCのAをしてしまったが、恋愛禁止とかあるのだろうか…?」
簪「いやー、元々が女子高みたいなもんだったし、生徒会が校則弄れるし…」
鈴「というか、今更キスぐらいで何照れてんのよ…あんたら裸見せたりしてんでしょーが」
一夏・箒「「それとこれとは話が別だ!というかこっちのほうがなんか恥ずかしい!」」
セシリア「…価値観どうなってますの?」
千冬「ラノベのラッキースケベと、少女漫画的なアレはベクトル違うからなぁ……というかオルコット。お前が一番価値観が怪しいだろうに」
セシリア「はて?(髪ブラパンイチ)」
一夏(もう慣れた)


 一日経って、IS学園の昼休み。屋上にて仮面ライダー部の面々プラス先生が集まっていた。何故かと言うと……。

 

「みんな、因幡野先生……昨日は済まなかった、この通りだ」

「箒の計らいで弁当を作ってきた……みんなでどうだ?」

 

 ということとなり、仲直り会を一夏が企画したのだ。とは言うものの、全員箒のことを嫌っているわけでは無いのでただの親睦会だったわけだが……、ここで問題が発生する。

 

「おぉ唐揚げか……ありがとうな箒」

「はい、あーん……」

「あ、あーん……」

 

 恋人同士の一夏と箒がべたべたべたべたしているのでその他代表候補生たちが此処にいて良いのか、いたたまれない気持ちになってしてしまっているのだ。

 

「…コーヒー欲すぃ……」

「簪さん、紅茶ならありますわよ」

「ありがと……それにしてもセシリア。イギリス料理かと思ってたらエスニック料理なんだね…。何で…?」

「いえ、深い理由は無いのですが……。そうですわね、昔一人旅をしていた時のことです、自分で作った料理の味で死にかけた事がありまして。その時に出会ったDr.伊達と言う方から薬膳料理として教わったことがきっかけでしょうか?」

「へー、料理の味で人って死ぬんだ……」

「あんたらね……、あ、箒。一つ貰うわよ」

 

 鈴は気を紛らわす為に箒から貰った卵焼きを口に運ぶが……。

 

「……ちょっと箒?この卵焼き甘すぎない?」

「鈴さん?そんな比喩法使わなくても……、うぅ!?」

 

 自分の昼食を食べ終わったセシリアが箒の弁当から一個食べると、その端正な顔を歪める。

 

「げほげほっ?本ッ当に甘いですわっ!?」

「…ケーキみたい…」

 

 同じく箸を動かした簪からも大不評だった。

 

「ん?そうか?我が家の味付けはこんなだぞ?」

「……ちょっと、アタシたちには無理ね。コレ……、ん?」

 

 ウーロン茶で腹の中に流し込んだ鈴は…――――否、生徒たち全員は今まで喋っていなかった先生に視界が向いた。

 

「………――――」

「……?因幡野先生……?どうして泣いてますの?」

「え……うそ?オレ……泣いてた?」

 

 ボロボロと涙を流し、箒の卵焼きを噛みしめる戦兎。

 

「だ、大丈夫ですか?すいません因幡野先生!美味しくなかったら食べなくても……」

「いや違うよ、そーじゃないんだ」

 

 袖で涙を拭う戦兎は、箒に優しく微笑む。

 

「大丈夫、美味しいんだよ。滅茶苦茶美味いよ……、コレ…」

「「「え、えぇ……?」」」

 

 もりもりと箸を動かし、頬に詰め込むその様子に代表候補生たちは若干引いていた。だが、箒だけは一瞬呆気にとられるも、ふっと表情を和らげる。

 

「……、ふふ」

「箒、嬉しそうだな」

「……そうだな、少し、家族と囲んだ食卓を思い出してな」

 

 彼女は顔にうっすら笑みを浮かべ、食事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

「さて、スタークが残していったパンドラボックスの残留物質だが……一夏」

「おう」

「任せた」

「おう?」

 

 その日の放課後。仮面ライダー部の部室に来た一夏の前にはフラスコに繋がったパイプやら配線やら……まさに科学実験と言った装置が置かれていた。箒以下の生徒たちは興味深そうにその装置を見ている。

 

「……?何をしろと?」

「この残留物質にベストマッチにするフルボトルを探してほしいんだ。頼めるかな?」

「え、あ、良いけど……」

 

 

 

 だが、一夏は、すぐに安請け合いしたことを後悔することとなる……。

 

 

 

「えーっと?んじゃ……掃除機とライオンンン゛ンン゛ンン゛ッ!?」

「ライオンと掃除機……だめー、はい次」

 

 フルボトルをセットした瞬間に電撃をくらったり……。

 

「タカ、ガトリング……どわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ホークガトリングも駄目か~、次」

 

 フラスコが爆発して銃弾が飛んできたり……。

 

「ニンジャ、コミック……うわぁ!」

「ニンニンコミックも駄目、次々~」

 

 大量の原稿用紙が教室を埋め尽くしたり……(因みに発生した紙は後日簪がIS学園マンガ同好会に寄付しました)。

 

「……、って戦兎さん、そしてお前等!?なに自分たちだけライオットシールドで身を守ってんだよ!」

「あ~はいはい、んじゃ最後のボトルをセットしようか。実はこれが一番ベストマッチな計算が出たんだよね」

 

 そう言って戦兎は懐にあったラビットとタンクを装置にセットした。

 

「なら最初っからソレ渡せよ!って……コレって?」

 

 一夏は不平不満を言うも戦兎は馬耳東風。突如として目の前でフラスコの中身が赤と青に輝きだし、眩しく光る。

 

「いよっほうっ!ベストマッ~チっ!コレで強化アイテムが造れる~!そんじゃありがとね~っ!」

 

 そう言ってはた迷惑なてぇん↑さい↓科学者は、IS学園の整備室にとんでいく。

 

「……って割に合わな過ぎんだろ、俺ぇぇぇぇぇ!?」

 

 その後、一夏の絶叫が教室に響いたのだった……。

 

 

 

 

 

 さらに時間は跳ぶ。一夏と箒は戦兎から貸し与えられた打鉄を纏いながら、アリーナにて専用機持ちの機体調整を興味深げに眺めていた。

 その時である。

 

「おい、私と戦え」

「…ラウラ・ボーデヴィッヒか?いや、俺には戦う理由は無いんだけど?」

「貴様がライダーだということでも十分にある」

 

 惣万がこの場にいたらお前はミラーライダーか、と突っ込むであろうセリフを言うドイツ軍人、ラウラ・ボーデヴィッヒ。クローズに変身した一夏の方に砲門を向けてくる銀髪の転校生なのだが……。

 

「……おい、ボーデヴィッヒさん。その場所戦兎さんが実験中で立ち入り禁止だったろ?悪いこと言わない。早くそこから逃げろ」

「そうですわよー、アフロヘアになりますわよー」

「また反省室行きたくないでしょ!早く降りてきなさいー!」

「志村ウラ~、後ろ、後ろ~」

 

 その一夏からの忠告に仮面ライダー部の少女達は心配するように各々注意する。……一人変なのいたが。

 

「ふん、そんなウソに乗せられるものか……構えろ、織斑一k」

 

――――ぼっがぁぁん!

 

「へむぅ!?」

「どわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 突然背後から大量の赤と青の泡が発生し、シュヴァルツェア・レーゲンを吹き飛ばす濁流と化す。銀髪の黒ウサギちゃんと一緒に飛んできたアフロヘアの人物は間違えようもない戦兎センセ。

 

「因幡野先生!?どうしたんですか⁉」

「ごっめーん、新アイテムの作成に成功したは良いけど出力調整がまだまだで……」

「アリーナ内で実験するって被害甚大になるってのを知ってただろ!……大丈夫かボーデヴィッヒさん」

 

 このラウラ・ボーデヴィッヒ。その特殊な出生や教育環境故、武力を用いない人間関係やら煽りやら想定外の事態に弱かったりする。それ故戦闘以外の無様を晒すなど初めての体験でありキャパオーバー……。と言うワケで。

 

「……何だ、目に…あ、う…、うぅ…」

「え、あっ、ゴメン!ラウラちゃん大丈夫!?」

「目が……目に泡がぁ……いたい……痛いよぉ」

 

 幼子のように泣くしか出来なくなったラウラちゃん(軍人)。大人である戦兎も記憶喪失故にこんな事態は初めてで、おろおろしだす始末。

 一方彼女に寄り添い、頭を撫でる簪やハンカチを取り出すセシリア。彼らはISを解除しラウラを慰めはじめていた。

 

「あぁ……炭酸目に入ると痛いよなぁ……って、擦るなよ、結膜炎になるだろ。箒と鈴、保健室……いや、まず洗面所で綺麗な水で洗わせてやれ」

「分かったー。取り敢えずほら、手貸しなさい」

「ホラ行くぞ、立てるな?」

「うんみゅ……」

 

 目をくしくし擦りながら歩くラウラを、箒と鈴が姉のように声をかけながら送り届けてやるのであった。

 

「あれ?そういや何であいつ俺と戦いたがっていたんだ?」

「模擬戦がしたかったのではないでしょうか……?」

 

 一方の戦兎さんはと言うと……。

 

「またか因幡野先生……今後実験は生徒がいない時間にやるように……」

「は、はぁーい……。いや、マジですみません……」

「本当にな!アリーナ内が水浸しだ、どーするんだこれ!」

 

 騒ぎを聞きつけて山田、織斑両先生がやってきて対処する事態となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数日が経過する。千冬が戦兎に説教をしたり、戦兎がネビュラガスの中和剤をラウラに点眼液として処方したり、生徒たちが戦兎のトラブルメーカー気質にほとほと頭を悩ませていたりしたが、至って平和な時間が過ぎていた。

 だがしとしと雨が降る日の事……。

 

「いぃやっほう!完成したよ、強化アイテム!」

「あぁそうかよ……んじゃ貸せ」

「あぁ⁉なんだよ返せよ~オレが作ったんだぞ~」

「俺の苦労を労え!そんでもってボーデヴィッヒが泣いちゃっただろうが!」

「へびゅ!?」

 

 天才科学者の脳天にゲンコツを食らわせる一夏。

 

「何するんだよ~!オレの偉大な頭脳を叩くなんて人類の損失だよ!」

「それにしても……今日は箒さん来ませんの?」

「っかしーわね、もうそろそろ来る頃なのに……」

「あっれ皆無視!?ちょっと酷くない!?」

 

 酷いのではない。全員因幡野戦兎の扱い方に慣れてきたのである。そこに軽快な着信音が響く。

 

「っとすまん、箒からメールだわ……ッ!?」

「どしたの一夏?」

 

 簪がわきから覗き込むも、一夏と同じようにさっと顔色を悪くする。そこにはこうあった……――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【篠ノ之箒は預かった、パンドラボックスと交換だ。東都波濤岬の倉庫街に来い。ナイトローグ】

 

「……――――ッのやろう!」

 

 慌ててドアを開け、待合せの場所へ行こうとする一夏。

 

「ちょっと一夏!こんなの絶対罠じゃん⁉」

「だからって見捨てられるか!」

「それはそうだけど!……万全を期していきなさい、ホラ!」

 

 そう言って鈴は簪が取り出していたメモリを投げてよこす。

 

「ソレの中に簪が製作したハッキングソフト入ってるから!まずカメラ映像を調べなさい!」

「え、おぉう⁉予想外なコメントありがとうございます!?」

「いいからとっとと行きなさい!箒取り戻してくるのよ!」

「言われなくてもな!」

 

 そう言って一夏は学園を飛び出していった……。

 

 

 


 

 

 IS学園の離島を出て、日本国土に降り立った一夏だったが、上空から銀とオレンジの人物が降り立った。

 ソレスタルウイングを畳んだビルドはボトルを引き抜き、変身を解除する。

 

「………………止めに来たのか?戦兎さん」

 

 恩師であり、仮面ライダー部の顧問であり、仲間である女性はその言葉を否定するように首を振る。

 

「いいや、先生同行の課外授業だよ…――――、仮面ライダーとしてのな」

 

 そう言う戦兎の片手には鈍色の金属製(パンドラボックス)の箱があった。そして空いた手でスマホを取り出し、フルボトルをセットする。

 

【ビルドチェンジ!】

 

 するとバイクに変形し、タッチパネルを操作して二人分のヘルメットを出現させる。

 

「そのハッキングソフトをここにつないでくれ。リアルタイムでこのバイクが分析してくれるから……んじゃ、行くぞ一夏!」

「飛ばしてくれ、戦兎さん!」

 

 待ってろよ、箒……、そう心の中で言うと、受け取ったパンドラボックスを強く握り、逸る気持ちを抑えるのだった……。




※2020/12/18
 一部修正


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第四十二話 『ヴェールを脱ぐ彼女』☆

戦兎「仮面ライダービルドであり、てぇん↑さい↓科学者である因幡野戦兎は教え子である織斑一夏の恋人、篠ノ之箒がナイトローグに誘拐されたことを知る。そこで心優しいオレは、先方の要求を呑みパンドラボックスを持って一夏を追いかけるのでありました……」
一夏「おい明後日の方向見ながら何言ってんの!?前見ろよ前!?バイク運転してんだろ!……ってアレ?目の前にいるの、戦兎さんじゃね?」
戦兎「え?何言ってんだ一夏?オレあんなに髪長くねーよ?」
???『残念、俺だ』
戦兎「その声……あー!最近影が薄い主人公じゃ……」
???『はーいメタ発言はやめましょうね~』
【スチームアタック!】
一夏「あぶっ!あぶっなッ!?あーもうどうなる第四十二話!」



「……ッ駄目だ。宇佐美とか言うのと箒の足取りがここで途絶えた……」

「でも、噓は言っていなかったみたいだね……」

 

 ナイトローグが提示してきた倉庫街。降りしきる雨の中で二人は傘もささずに道路に降り立つ。

 

「んでどうする?虱潰しに片っ端から入るか?」

「いや……そんなことしていても……、!」

 

 突然、濛々と黒煙が巻き起こる。そしてその中から足音が響く。彼女らの視界に赤い人影が入り込んだ。

 

『よぉ、お困りのようだな』

「……ッ、スターク?」

 

 ナイトローグと異なり、真意が全く見えないファウストの幹部、ブラッドスターク。彼は親し気に二人の傍へ歩み寄る。

 

「何しに来た……」

『何、ちょっとした手助けだ。俺だってお前等の悲しむ顔は見たくないんでね』

「……とっとと言え、箒は何処だ」

 

 箒のことを第一に考えた一夏は怒りを抑えスタークに聞く。

 

『宇佐美と篠ノ之箒は別の場所にいる。宇佐美の場所へは俺が案内することになっているが……。箒嬢はホレ、ここの倉庫街の13番の中だ……そして気を付けろよ。敵は宇佐美だけじゃない、宇佐美特製の新兵器があるからな』

 

 スタークは二人に対し、宇佐美の保有する兵力に注意を促す。未だ真意を測りかねる赤い蛇に、正義の味方は苦い顔。参考程度にその言葉を聞く戦兎は、一夏の方へと振り返った。

 

「じゃあ一夏。お前は箒ちゃんを……ってもう居ない!?あの箒馬鹿……」

『もう行ったぞ。いやーすげぇスピード。じゃ因幡野戦兎、お前はこっちだ。ついて来い』

「あぁ……、分かったよ」

 

 スタークとビルド。奇妙な組み合わせの二人組が雨の中を歩きだした……。

 

 

 

 

「なぁブラッドスターク。アンタは一体誰なんだ?」

『さぁ、誰だと思う?』

 

 雨の中、傘もささずに歩む戦兎。彼女は今まで聞けなかった質問をブラッドスタークにぶつけた。

 

「……アンタは、葛城忍なのか?」

『………――――そうか、そう思ったのか』

 

 その途端、ブラッドスタークの装甲は紫色の煙となって消える……――――そこに立っていたのは、黒髪を伸ばした童顔の女性。

 

「……!……葛城忍…――――いや、オレ……!?」

 

 それは長髪であるものの、因幡野戦兎に瓜二つの『女性』だった。茶色のジャケットを整え、戦兎に傘を差しだすスタークの変身者。戦兎の肩に付いた水滴を払うと、彼女と同じ声で話題を変える。

 

「俺が誰か、なんてどうでも良いことだろう?それと因幡野戦兎」

「……何?」

 

 警戒しながら傘の中に入り、スタークと共に歩を進める。

 

「お前と宇佐美は似ているな……」

「……何を言っている?オレと、あいつが?」

 

 戦兎は険しい表情になり、自分とそっくりな“彼女(スターク)”を睨む。それをどこ吹く風で言葉を続ける“彼女”。

 

「お前は過去が消え、その過去に怯え必死に足掻き続けている。宇佐美は過去を疎み、人を恨み、自分が存在する未来を掴もうと突き進み続ける……」

 

 静かに長髪を揺らしながら歩くスタークは突然立ち止まり合わせ鏡のように戦兎を見た。

 

「お前と宇佐美は、どちらも自分の心に従い未来を切り開く。それの結果が他人の為か、自分の為かと言うだけの違いだ。だがどちらもその枷を外せば……全く同じなんだよなぁ」

 

 その含みを持った言葉は戦兎の心の奥底に黒い泥のようになって溜まる。厭なものが、胸をせり上がってくるような、気持ち悪さに似た感覚。

 

「つまり、何が言いたい……?」

「いずれ分かる、因幡野戦兎。お前がいるべき場所は、IS学園(ソコ)じゃないって事がな。それじゃ俺はここまでだ」

 

 スタークは戦兎の手に傘を持たせると雨の中に身を躍らせた。長い髪を降りしきる雨に濡らし、スキップ混じりに離れていく。

 

「あ、傘あげるから助言貰ったことは黙っててくれよ?じゃ、Ciao♪」

「あ、おい!」

 

 茶目っ気たっぷりにウインクと共にそう告げる。そして兎のように勢いよく跳躍し、朱い蛇は倉庫の向こう側へと消えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 寂れた薄暗い倉庫の中。紫色の長髪を持つ人物、宇佐美 幻。その目線の先には開け放たれた扉があった。閉じていたその戸が開いたのは、片手に鈍色の箱を持った記憶喪失の天才科学者。

 

「さぁ、パンドラボックスを渡してもらいましょうか。……なぁ因幡野戦兎先生」

「……そのつもりは無い」

「何?では篠ノ之箒がどうなっても……」

「箒ちゃんがどうしたって?」

 

 すかさずスマホを見せる戦兎。

 

「……!何……?」

 

 それを宇佐美が見ると、箒をつなぐ鎖をビートクローザーで断ち切るクローズの姿が。

 

『……一夏、お姫様抱っこは、ちょっと……』

『今そんなこと言ってる場合かよ……、っと!』

 

「おーぉ、甘ったるぃ……一生やってなさいそしてリア充爆発しろ」

 

 だが、ラブコメを鑑賞するのもそこそこに、スマホをポケットに入れると片手にビルドドライバーを持つ。

 

「と、いう事だ。分かった?」

「……、交渉は決裂ということですか……。ならばァ、答えは一つだなァ!」

 

【ラビット!タンク!ベストマッチ!】

【Bat…!】

 

「変身」

「蒸血」

 

 雨が降りしきる音にその他の音がかき消され、しばらく経つと二人の姿は変わっていた。

 

『「………………ハァッ‼」』

 

 そして互いに拳を振りかぶり、攻撃を繰り広げる。

 

「ッ……聞いたよ、篠ノ之束がしでかした、あの事件を」

『ほう、それで?』

 

 戦いながら戦兎は問う、宇佐美の……――――篠ノ之束として正しい心がまだ生きているのかを。

 

「お前は記憶がないと言っていたな!……でも、お前が篠ノ之束であるならば…何か感じることがあったはずだ!それすら感じていないのか?」

『当然だ、謝罪することをした覚えなど無い』

 

 だが、宇佐美は悪びれずに答える。何故自分に怒りを向けられているのか?それすら理解できないと言うふうに。

 

『逆に聞こう。科学の発展に犠牲は無くてはならない。それとも何か?お前はモルモットを解体せずに動物の体内構造を理解できるというのか?科学者には……他の生命を不幸にしてでも科学を発展させる責任がある!』

「ふざけるな!科学を侮辱しておいて、何が科学者だ!」

 

 だが、戦兎の怒りを鼻で笑う宇佐美。

 

『……、フン。コレを篠ノ之束が聞いていると思うと、滑稽だな』

「?」

 

 疑問に思った戦兎が尋ねる間も無く、宇佐美はビルドの腹部を蹴り、距離をとる。

 

『お前の偽善は叶うまい。その証明を見せてやろう……科学の造る未来の姿を!』

 

 そしてトランスチームガンから黒煙を噴き出し……、三体の巨大なスマッシュを出現させた。

 

「な、何この怪物……?これもスマッシュなのか?」

『これこそは篠ノ之束のISコアと人工細胞を組み合わせ、ネビュラガスを注入し造り出した殲滅兵器型スマッシュ……インフィニット・スマッシュ。略して…………あぁ、偶然にもISだな?』

「何だと……お前……っ!」

 

 痛烈な皮肉と侮蔑のこもった口調で怪物の名を紹介する宇佐美。

 

『面白いだろう?コレが天災の夢の末路だァ……まぁ所詮天災ごとき、神の才能を持つ私の足元にも及ばない……。どうせISを造ったところで、ゴミみたいなガラクタなんだがなァ‼』

 

 

 

 

 

 

「インフィニット・スマッシュ……ねぇ。アーキタイプ・ブレイカーに出てくる絶対天敵(イマージュ・オリジス)のロストスマッシュカラーver.だよなぁ……」

 

 倉庫の窓の外では、ビルドとナイトローグ、そしてISの怪物を見る人影があった。因幡野戦兎の顔をした人物は、腕組みをして不敵に笑みを浮かべる。

 

「さて、ISを汚されたお前はどうする……――――篠ノ之束?」

 

 長い髪を弄りながらどこかで見ている篠ノ之束に尋ねる……『お前の()は、崩れるぞ』と……。

 

「……、……ところでこいつホンット胸でけぇな。運動に邪魔過ぎる……肩凝るっての、納得かも」

 

 ………――――最後の最後で、やっぱり締まらないスタークの変身者なのだった。

 

 

 

 

 

 

 窮地を脱した箒と共に、波頭の倉庫へやって来る青い仮面ライダー。因幡野戦兎を心配して猛スピードで来たらしい。箒をお姫様抱っこしたままだった。

 

「戦兎さん!助けてきたぞ、って……――――なんだコレ!?」

「か、怪物……?スマッシュ……なのか?」

 

 クローズや箒の前には怪獣のように咆哮を上げる怪物たち。そのインフィニット・スマッシュを見て、戦兎は何故か無性に腹が立った。いや、理由は分からないが激怒していた。

 

「……ISには潜在的な意識があるはずだ。こいつらは本当に戦いたがってるのか?」

『ハッ、兵器に感情など必要ない……篠ノ之束は何故こいつらから意識を奪わなかったのか、甚だ疑問だな』

 

 ISの存在意志すら否定し、嘲るナイトローグ。

 

「……!」

『そもそもお前たちが使っているビルドドライバーは兵器として不完全だ。その点で言えばスクラッシュドライバーは素晴らしい。アレを使い続けていれば生体兵器になり下がるからな。シャルル・デュノアと言ったか?今は人間らしいが、何時殺戮マシーンになるのやら、ククク……』

 

 対してビルドは激昂するかと思いきや……むしろ冴え返った頭で冷静にナイトローグの言葉を切り刻む。

 

「そうか……、分かったよ。お前が篠ノ之束よりも劣っているということが」

『何?』

「篠ノ之束は確かに天災だったのかもしれない……でも自分の発明だけは……ISの自由を奪うことだけはしていなかった!ISも……人間の尊厳すら踏みにじる、お前はそれ以下の存在だ‼」

『黙れェ‼』

 

 両腕を広げ全身で怒りを表現する宇佐美。叫ぶ言葉には憎しみと……悲しみが混じっているようだった。

 

『貴様には分からないさァ……、人間は皆、醜い悪魔だということがぁぁぁぁぁっっっ‼』

「人間であっても!ISであっても!この世界に生まれた意志を持つ命だ!それを弄ぶお前こそが、悪魔だ‼」

『ハッハハハハ!?可笑しな奴だ!道具にそこまで入れ込むか!いや……当然と言えば当然だなァ!なぁ、てぇぇぇっんさい科学者ぁぁぁぁぁ‼やれ、化け物共‼』

 

 腕を振るい、虫や食虫植物のようなインフィニット・スマッシュに命令をだす。対してビルドは、細やかなスナップで二色のボトルを振っていた。

 

「とっとと終わらせる……!ビルドアップ!」

 

【ニンニンコミック!イエーイ!】

【分身の術!】

 

 ニンニンコミックフォームとなったビルドは、刀型デバイスである『四コマ忍法刀』を用いてさらに二体の分身を創り出す。

 

「「そんでもって!」」

 

【海賊レッシャー!イエーイ!】

【ホークガトリング!イエーイ!】

 

 その分身も別のベストマッチフォームにビルドアップした。各々専用武器を構え、ボルテックレバーを回転させる。

 

【【【Ready go!ボルテックフィニッシュ!イエーイ!】】】

 

「「「ハァァァァァッ‼」」」

 

 それは一瞬の出来事。巨大な手裏剣や海賊船、列車に鷹の様々なエネルギー体が倉庫の内を駆け巡った。

 

――――Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ‼

 

 カマキリ、ウツボカズラ、タコのような怪物ISは叫び声を上げ、緑の炎を噴き上げ爆散する。その叫びはどこか、苦しみから解き放たれた歓喜にも思えた。

 

「どうだ!」

 

 基本フォームのラビットタンクに戻ったビルドは、ISの怪物を視ずにすむと喜ばずにはいられなかった。……――――その理由が分からないまま。

 

『どうということは無いな……と言うよりも、感謝する。こいつらに重要なのは倒されることだ……』

「何……?」

 

 ナイトローグはインフィニット・スマッシュが消えた場所に近づき、転がっていた三つの“濁った黒い結晶体”を持ち上げる。

 

『……クク、計画通りだ……!ロストタイムクリスタルの精錬が終わった。これでロストISコアが完成する。インフィニット・スマッシュにしたコアは二百程……。残り、半分近く……』

「ロスト、タイムクリスタル……?」

 

 ビルドの声には答えずにナイトローグは首を傾げ、正義の味方たちへと向き直る。

 

『さて、消化不良だろう?ついでだ、因幡野戦兎、貴様の持っているボトルと……――――命をもらおうか』

 

 そう言って片手に水色のフルボトルを出現させる。それはクラスリーグマッチの時、戦兎の目の前で奪われたもの。

 

「ダイヤモンドフルボトル…」

『懐かしいなァ。このボトルで篠ノ之箒をスマッシュから人間に戻したんだったな?ならば今度は、このボトルで篠ノ之箒を……』

 

 彼女は、不気味に首を直角近くに曲げ、トランスチームガンを構えた。

 

『殺してやろう』

 

【フルボトル!スチームアタック!】

 

 横に腕を振るうと、倉庫内はダイヤモンドの結晶が宙を舞い散った。その光景は不気味なほど場違いにも美しい。

 

「何……?周囲にダイヤモンドを……」

 

【ライト!】

 

 さらにナイトローグは戦兎の知らないボトルを取り出し、キャップを合わせる。

 

「光……?っマズイ!」

 

 何をしようとしたのか理解した戦兎は、とっさに周囲にあるダイヤモンドの屈折率を暗算し、目的の場所に駆け出した。

 

【フルボトル!スチームアタック!】

 

 宇佐美が躊躇いなくトリガーを引く。銃口から迸る瞬く光。

 ダイヤモンドにレーザー光を射出すると、一本だった光の筋は拡散し、また金剛の結晶に当たり分散、そして集合していく。

 人間に認知できたのはそれまで。その刹那の後、箒の眼前には殺意に満ちた光が迫る。

 

「……――――え?」

「ッうぐぁぁぁぁッ‼」

 

 ところが、箒に当たる寸前でその光が遮られた。床に転がるのは因幡野戦兎。

 

「戦兎さん!?」

「因幡野先生!」

 

 箒の防御には間に合ったらしいビルドだったが、その装甲に大ダメージを与えたらしい。そのままビルドは崩れ落ち、変身が解除されてしまった。

 

「がはっ……」

『どうした、脆弱だなァ。今のお前では、私を倒すことは不可能だ。さて……』

 

【デビルスチーム!】

【Bat…!スチームショット!Bat…!】

 

『……死ね、篠ノ之箒』

「なっ……この野郎……!」

 

 強烈なエネルギー弾がクローズもろとも箒を吹き飛ばそうとする。エネルギー収束率を見て、間違いなく致命傷を与えるつもりだ。超高温の巨大な光弾が、トランスチームライフルの銃口に集い、放たれる。

 

 

 眩い流星が、その場にいた人間を溶かさんと迫りくる。

 

「……――――ッ」

「おっと、あっぶねぇな」

 

 だが、そうはならなかった。

 

『「「!?」」』

 

 突然どこからともなく深紅の炎が飛来した。それはナイトローグの放った膨張エネルギーを絡め捕り、消滅させてしまったのだ。

 全員が飛んできた方向を振り向いた。

 

「……ッ!?戦兎さんが……二人?」

 

 そこにいたのは、トランスチームガンをクルクル回し、雨露に濡れた長髪をかき上げる因幡野戦兎そっくりの人物。

 

「違う、そいつは……」

 

 戦兎は一目でわかった。『彼女』はここの倉庫に来るまで話をしていた人間……。

 

『……!スタークか……のぞき見か?そして、趣味の悪いことだ』

「「えぇ!?」」

 

 ナイトローグの言葉に驚く一夏と箒。男だと思っていたスタークの中身が、戦兎にそっくりな美人だったというのに驚きを隠せない。

 

「趣味が悪いのはお前だろ?人質を殺してどうする?価値がなくなるだろうが……」

 

 憎々し気に顔を歪め、箒のことを思う素振りで宇佐美に詰め寄るスタークの変身者。

 

『趣味が悪いと言ったのはその格好なのだが、……まあいい。だが、この女だけは気に入らない。私の手で殺さなければ気が済まない!』

「……だってよ、クローズ?お前は目の前で“恋人を殺します”宣言されて、黙っていられるか?男が廃るよなぁ?」

 

 急にくるりと振り向くと、“彼女(スターク)”は雨水をぽたぽたこぼしながら仮面ライダークローズに近寄り、肩を叩いた。

 その行動を白い目で見ながらも、クローズはビートクローザーの切っ先をナイトローグに向けた。

 

「……――――スターク、勘違いすんなよ。お前も何時かモンド・グロッソの落とし前は付けさせてもらう」

「おぉこわ……」

「だが、今は……ナイトローグ。お前は俺が倒す……!」

 

 ゆっくりと倉庫の中まで歩みを進める青い戦士。これに苛立ったのはナイトローグである。

 

『スターク、貴様一体何をやっている?何故クローズを煽った……?邪魔をするな……!』

「邪魔するよぉ。こんなかわいい子が死んだら流石に後味が悪いじゃん?俺豆腐メンタルだからさぁ、目の前でスプラッタになったら夜も寝られねぇんだよ、分かる?」

 

 倉庫の壁に寄りかかりジャケットを雑巾のように絞り、どうでも良さげに言う『彼女』。あまりの身勝手な言い分に宇佐美の我慢は限界になった。

 

『……――――ざけるなよ、スタァァァァァクッッ‼』

「ハッハッハ、俺は大まじめだ。んじゃ、任せるぜ、織斑一夏?」

 

 一通り笑った後、“彼女(スターク)”は大ジャンプで二階の回廊に着地した。そして、金網が鈍く音を響かせるのと、ほぼ同時。

 

「ハァァァァァ‼」

 

 ナイトローグにクローズが斬りかかって来る。慌ててスチームブレードを分離させビートクローザーを受け止める宇佐美。

 

『チィッ!』

「もう箒や戦兎さんを傷つけさせるか!アンタが何者であっても関係ねぇ!もうその顔で……その口で!そんな事ほざかせねぇ……!二度とだぁ‼」

 

【ヒッパレー!ヒッパレー!】

 

『黙れェ!実験動物(モルモット)風情が‼ヴウウ……ヴィハァァァァァ!』

 

 しかし夜の悪党も然るもの。彼女は背後に巨大な翼を広げ、倉庫内を縦横無尽に飛び回る。

 その黒翼に当たったドラム缶やクレーンは触れた途端に爆発し、周囲は炎で包まれた。

 

「くっ……!しまった!何処だ…!?」

『馬鹿め!』

「うわぁっ!?ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼」

 

 クローズは高速で近づいてきたナイトローグに激突される。そして、その慣性も凄まじい。彼は倉庫の壁を突き抜けて弾き飛ばされ、箒の近くで変身が解除された。

 ベルトやボトルが周囲に無惨に散らばる。狩られた小動物の臓物のように。

 

「一夏!?大丈夫か!?」

「うぅ……!?……こいつ、まだ本気を出していなかったのか……!」

『当たり前だ。私以下の貴様らごときに本気を出す理由がどこにある?』

 

 傲岸不遜にも一夏や戦兎を見下しているナイトローグ。彼女は一夏の手をそのままバトルシューズで踏みつける。

 

「うっぐぅぅぅぅッ!?」

「一夏!?一夏!」

『ハハハ……うん?』

 

 ナイトローグの装甲に銃弾が飛来していた。見れば、倉庫の奥ではホークガトリンガーを構えた女戦士が立っている。

 頬から血を流しながらも立ち、ベルトを装着している因幡野戦兎。彼女は宇佐美 幻、否……――――篠ノ之束の良心に問いかける。

 

「…………何故箒ちゃんをスマッシュにした、あの子は泣いていたんだぞ。アンタの所為で一家離散の目に遭わされて、挙句の果てにスマッシュにされたんだ……。お前の心は痛まないのか!?」

『痛まんな!篠ノ之箒は織斑一夏を目覚めさせる為の駒だ!そこに親愛など……ましてや私に家族愛などあるわけがない!』

 

 それを聞いて、怒りを抱かぬ人はいない。手を踏まれながらも一夏は憤怒の顔となり、箒は諦めたような空虚な表情を浮かべた。

 ナイトローグはやれやれだとばかりに頭を振る。まるで最初から勘違いをしている、と言うふうに。

 

『お前たちが勝手に篠ノ之束と言う人物の虚像を思い描き、私をそれに重ね合わせただけだろう!?何も知らないクセに……私に“姉”だの“家族愛”だのと言うとは、馬鹿馬鹿しいなァ!?』

「ふざけるな……!お前は、箒ちゃんに消えない傷を残し……一夏を苦しめ、科学を侮辱し、そしてISさえも兵器として扱った!」

 

 唇から垂れる血を拭い、眉を吊り上げる戦兎。

 

「そしてそれが原因で今なお数多くの人間を傷つけている…。お前だけは……、科学を悪用するお前だけは許せない……!」

『ハッ!そんな状態のお前に、一体何ができる?』

 

 嘲り、一夏の傍らから離れ戦兎に向かい合うナイトローグ。その時、戦兎の足元にプルトップ缶が高い音をたてて転がり落ちる。

 

『……?』

「……戦兎さんよ、しょうがねぇからコレ渡してやる…!」

「……一夏にしちゃ気が利いてるじゃないか……!」

「うるせぇよ……。そっちは任せた……!」

 

 そして戦兎はその缶を拾い上げ、シャカシャカと振る。缶の中からは炭酸が激しく弾ける音が聞こえてきた。

 

『何?それは……』

「お前は……正しく“天災”、悪魔の科学者だ……」

 

 構わず戦兎は言葉を続ける。

 

「オレは自分が信じる正義の為に……“天災”、お前を倒す!」

 

 そう決意を固め、赤と青の缶、『ラビットタンクスパークリング』の『シールディングタブ』をプルトップのように開けた。

 

 

【ラビットタンクスパークリング!】

 

 

 缶が開く音が倉庫の中に反響し、炭酸の弾ける音がより鮮明に聞こえる。そして戦兎はドライバーにセットし、レバーを回転させる。ビルドのライダーズクレストのような工房が出来上がると、ハイテンションな電子音が響いた。

 

【 Are you ready? 】

 

「変身!」

 

 戦兎は交差させた腕を左右に垂らし、前後からやって来る装甲を受け入れる。赤と青、そして白のトリコロールカラーの装甲が合体すると、激しく炭酸のような泡が発生し、ビルドの新たな姿を露わにする。

 

 

【シュワッと弾ける!ラビットタンクスパークリング!】

 

【イェイ!イェーイ!】

 

 

「……勝利の法則は……決まった!」

 

 そこに立っていたビルドは……従来の姿を残しつつも刺々しいデザインとなっていた。身体の各所に泡を模した白い部分が目立つ、『仮面ライダービルドラビットタンクスパークリングフォーム』である。

 

『な、何だ……それは?』

「決まってんだろ、フルボトルに頼った姿じゃない。これはオレ自身の正義の姿……科学の力、誰かを助ける為の力だ‼ハァ!」

 

 一瞬でナイトローグに近寄ると、片手にはカイゾクハッシャーを、もう片手にはドリルクラッシャーを握り連続攻撃を仕掛けるビルド。

 

『がぁッ!?今までの高速移動の比では……!?』

 

 さらにホークガトリンガーを取り出し、後退ったナイトローグに追撃を加える。

 

『ぐぅ……!何故だ……?科学の発展には多少の犠牲はやむを得ないはずだ。人間はそれに目をつぶり、醜いものに蓋をして科学を発展させてきた……それがこの世界だ!それによって生まれた命があるということも知らないクセに……、それが偽善だという事が何故分からない‼』

「分からないな!お前とオレの決定的な違いを教えてやる!科学ってのは……そんな為にあるんじゃないんだよ‼平和の為に……人類の平和の為に!正義の為にオレはこの力を使ってるんだ!」

 

 そう堂々と言い切るビルドに、一瞬ナイトローグは魅入られたように固まるも、頭を振り考えを改める。

 

『なら……これならどうだァ!』

 

 胸の蝙蝠のマークが輝き、ナイトローグの指示の下巨大な黄金の蝙蝠が二匹宙を羽ばたいた。蝙蝠たちはビルドに向かってソニックムーブを飛ばして、彼女の動きを拘束する。耳障りな羽音と鳴き声が倉庫内に充満しだした。

 

「……ほー、まさかあんなギミックも搭載していたのか……(つーかアレ、龍騎の『ダークウイング』だよな……)」

 

 二階から観戦していたスタークはビルドの攻撃手段を観察していたものの、ナイトローグの新たに追加された技にも関心を示す。新たな力に興味が出たのか、はたまた懐かしさからか、頬を綻ばせる。だが、それでも…――――。

 

「……――――ここまでだな、宇佐美(う~さ~みぃ)?」

 

 

 

 ナイトローグはその正義のヒーローとしてのビルドの姿に、自分の怒りや憎しみと言った思いをぶつける。

 

『正義の為だと?馬鹿馬鹿しい!甦れ、お前の本当の姿を!お前の狂気を、野心を!全てを思い出すんだ!』

「なんのこったよ!オレにあるのは……皆の笑顔を守ることだけだ!」

 

 そう言って蝙蝠たちの拘束を、身に纏う泡と共に弾き飛ばした。

 

『何……!?』

 

 さらに蝙蝠たちを蹴り上げると、天井を突き破り飛んでいく二匹を追うように大ジャンプ。空中で体を回転させながらベルトへと手を伸ばす。

 

【Ready go!】

 

 電子音と共に蝙蝠たちの背後にワームホールのようなグラフが出現し二匹を拘束、そしてビルドは片足を前方へ突き出した。

 

【スパークリングフィニッシュ!】

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」

 

 無数の泡がビルドの体から発生し、渾身の叫びと共にライダーキックを叩き込んだ。必死に抵抗する二匹をものともせずに撃破し、その勢いのまま飛んでくる

 ……そして。

 

『ぬッ……グゥ……うぉォォォォォ!?』

 

 さらにビルドは下にいたナイトローグを彼女の防御ごと吹き飛ばす。赤と青と白、トリコロールの波動が周囲に伝播し、その光景はよもや自由を勝ち取る革命の凱歌か。

 人間の自由を守る正義のヒーローが、大地に立つ。

 

「……オレの……勝ちだ!」

 

 ビルドは後方宙返りして着地する。周囲にはナイトローグが持っていたダイヤモンド、ライトフルボトルが散らばっていた。

 激しい雨が降り注ぐ波頭では、ナイトローグ変身が解除された宇佐美がうずくまっている。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……馬鹿なぁ……ッ!」

「フルボトルを返してもらうぞ。コレはオレ達のモノだ」

 

 戦兎は奪われていたゴリラとダイヤモンド、さらにライトフルボトルをトレンチコートのポケットに突っ込んだ。勝利の女神がどちらに微笑んだのか……それは語るまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 ……――――だが、一夏に肩を貸す箒がやって来たところで、彼女は真実に繋がる扉を開いてしまう。それは運命の女神の悪戯か。

 

「因幡野先生。あの女、何か妙なことを言ってませんでしたか?“本当の姿”……とか」

 

 箒は戦兎に聞く。どうにもあの言葉に違和感を覚えてならなかったのだ。

 

「そうだ……何か知っているのか、オレのこと……」

 

 

 それを聞いて、宇佐美は眼を見開くと、逡巡し……――――邪悪に笑みを浮かべた。

 

「?」

 

 そして、肩を振るわせる。耐え難い愉悦だというように。

 

「キ……ハハハハハ、キハハハハ……!ヴェハハハハハハハハ‼まだ分からないのか‼」

 

 狂ったように笑い出した蝙蝠の魔女。その変貌ぶりに、一歩たじろいでしまう三人。だが、彼女の哄笑は終わらない。ようやっと笑い終えると、宇佐美はぎょろりと目を剝いた。冷徹な能面のような顔をして戦兎を見る。

 

「なぁ……疑問に思わなかったのか?」

 

 ゆっくりと胸をおさえて立ち上がり、一歩、また一歩と戦兎に近寄る宇佐美……。その様子はゾンビのようにぎこちない。それがより一層の恐怖を煽る。

 

「何故貴様が誰からも教わらずにISの理論を理解できたのか」

 

 突然戦兎は心臓を掴まれた様な感覚に陥る。まるで、“因幡野戦兎”と言う人格が話を聞くことを拒否しているかのような……そんな感覚だった。

 

「何故そんなにも身体能力が高いのか、何故ISに対して親身になったのか……」

 

 宇佐美の顔は既に目の前にあった。篠ノ之束にそっくりな顔が目の前にある……。

 

「その答えはただ一つ……篠ノ之束は私ではない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前だよ、因幡野戦兎……!お前がISを造った天災…――――、『篠ノ之束』だ……‼」

 

 

 

――――時が、止まった気がした。

 

 

 

「………、……?……――――!?」

 

 宇佐美は口元に、引き攣った三日月を浮かべる。蝙蝠が血を求め、兎の周囲を舞う。既に陽は墜ち、天は暗黒に包まれる。

 

「アーハハハ!アーハハハハハハハハハ‼アーハハハハハハハハハ!!!」

 

 気持ちの悪い狂笑は残響を繰り返し、篠ノ之束の顔を持った別人は夜霧と共に消えていった。

 そこに残っていたのは、一人の『天才/天災(てんさい)』。

 

「……――――オレが………篠ノ之……、束……――――?」

 

 

【挿絵表示】

 




次回 『因幡野戦兎をジャッジしろ』

「この人が篠ノ之束なんだぞ!?」
「オレが箒ちゃんを……大勢の人間を傷つけた!」
「因幡野戦兎は……正義のヒーローだろう」
「戦ってきたんだろ……それができるのは、因幡野戦兎だけだろうが!」




AM I TABANE SINONONO?→NO.I AM SENTO INABANO.


※2020/12/22
 一部修正


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第四十三話 『因幡野戦兎をジャッジしろ』

戦兎「仮面ライダービルドでありてぇん↑さい↓科学者の因幡野戦兎は、ナイトローグである宇佐美 幻との激闘を制した。だが……」
宇佐美「お前だよ因幡野戦兎、お前がISを造った天災、『篠ノ之束』だ……!」
戦兎「すごいことになっちゃったよ!?まさかの衝撃展開にスパークリングフォームの印象が薄れるでしょうが!もう……早く第四十三話見せて!」



「…………オレが……――――篠ノ之、……束……?」

 

 虚空に、声が響いた。

 

「戦兎さんが、束さん……だって……?」

「貴女が……?まさか……、本当に……?」

 

 

 あまりの衝撃に声もない三人。沈黙が支配したそこに、赤いトリックスターが降り立った。

 

「やれやれ、宇佐美……。説明を全部俺に任せるって、嫌がらせか?」

「……スターク?今言ったことって」

 

 敵であるにもかかわらず、戦兎は聞かずにいられない。茫然とした顔は、次第に青くなっていく。

 

「あぁ、全て真実だ」

 

 長髪を揺らしながら、スタークの変身者は宇佐美の言ったことを肯定する。

 

「織斑一夏、以前に見せたことがあっただろう?俺はあらゆる物質を操作し変化させることができるんだよ……こう言うふうにな」

 

 すると、戦兎に瓜二つだった『彼女』の顔が煙に包まれ、黒髪の切れ目の美麗な女性に変化する。

 

「ッ!千冬姉の、顔に…!」

「『織斑先生と呼べ、馬鹿者……ってな?似てた?』」

「声まで…!」

 

 鉄面皮な千冬が茶目っ気たっぷりに笑う様子は、三人にとって違和感でしかない。彼女の目の奥で爛々と赤い炎が揺れ動く。

 

「『他にも……よっと!』」

 

 『彼女』の黒髪が根元から紫に変色していく。鋭い目つきが柔らかく、そして抜け目なく細められる。申し訳程度に、メカニカルなウサ耳カチューシャが虚空から生み出された。それを被る織斑千冬だったモノ……もとい、天災(・・)

 

「『ほーきちゃん、ごめんね!今まで君を守っていたのは因幡野戦兎センセじゃない、束さんだったのだよ!どうどう?驚いた?驚いたよね!ブイブイ!』」

 

 おちょくるような言い回しで、因縁深い少女に詰め寄る『篠ノ之束』。あまりにもおぞましい行為だった。何よりも有意義な皮肉であった。ひっ、と箒が息をのむ。

 

「ッスターク!その顔で箒に話しかけるんじゃねぇ…!」

「『あー?いっくんもちーちゃんに似てきたねぇ…。束さん哀しい!……ほいっと』」

 

 流石にこれ以上火に油を注ぐつもりのないらしい。天災の擬態を解くと、『彼女』は別の人間に変化する。

 髪はアッシュグレイに、そして顔は中性的に、トレードマークのパナマ帽が煙の中から現れた。

 

「今度は、惣万にぃに……!」

 

 惣万の身体に『変わった』スタークは、手で何か言おうとする一夏をたしなめ、話を続ける。

 

「話を戻そうか、一夏。数年前、篠ノ之束は我々ファウストの存在に気が付いた。何でも、篠ノ之束の考えていた計画の邪魔になると踏んだらしいな。だから我々を壊滅させようとした……――――だが結果はこの通りだ」

 

 つまりそれは、篠ノ之束ではファウストに勝てなかったことを意味していた。それを聞いて一夏や箒は驚く。曲がりなりにも世界最強の戦乙女と互角に戦える篠ノ之束。彼女でもなすすべがなかったというのか。

 

「ファウストでは篠ノ之束を殺すべきだ……と言う意見も出たが、俺は心優しいんでね。篠ノ之束の顔を別人に変えてから、脳細胞を操作し天災としての記憶を抹消した」

 

 戦兎の頭の中に記憶がフラッシュバックする。

 タイムクリスタルを弄るエプロンドレスの裾が見える。パソコンをタイプする視界に紫色の髪がかかる。

 反射するPCに、自分の顔が映る。その顔は、不健康そうな肌をした天災『篠ノ之束』のもの。

 

「ッッ――――!?」

「おぉ、記憶の一部を思い出したようだな」

 

 喜ばし気に拍手する惣万。苦労が偲ばれるのか、顔は優しく綻んでいる。

 

「俺たちはお前の細胞遺伝子を戦闘用に改造強化した。そしてネビュラガスを体内に投与し、街へ送り出してやった……。そうしたら面白いことに、お前はIS学園に勤めているというじゃないか。いや全く、お前はISと切っても離せない関係なんだな……、『篠ノ之束』」

 

 そして混乱の坩堝にいる戦兎に顔を近づけ、彼女の肩を叩く。

 

「な?分かったろ?お前を篠ノ之束から因幡野戦兎にしたのは……――――俺だ」

 

 惣万は人懐っこい笑みを浮かべ、自分を指さす。それに再び激怒する一夏。

 

「お前……!惣万にぃの顔で戦兎さんを嘲笑うんじゃねぇ‼」

 

 拳を握り締め、惣万に殴り掛かるもサッと後方に下がり避けられる。

 

「嘲笑う?いいや?むしろ済まないと思っていたが?それに感謝して欲しい。お前は善人の心を手に入れ、過去の過ちを知らずに平和に暮らせていたんだ。天災としての道を歩んでいたら、人の為に戦う……なんてことはしていなかっただろう?」

 

 戦兎は反論することができない。篠ノ之束だった記憶は無いモノの、その所業は知っていた。

 その罪が、無垢な彼女を苛んでいく。彼女自身の支えとなっていたものが、蝕まれ始める。

 

「それと忠告だ、気を付けろよ?もう間も無くインフィニット・スマッシュの群れが日本に上陸する……。それと対等に戦えるのは仮面ライダーだけだ。お前たちしか人間を守れるのはいないんだよ」

「ふざけるな、どの口が言っている‼お前たちがあのISの化け物を創らなければ良かったんだろうがぁ‼」

 

 日の落ちた倉庫街に、一夏の怒声が木霊する。

 

「ハッハハハハ!それを言われちゃお終いだ、でも俺じゃどうすることもできないしなァ。んじゃ、頑張ってくれよ……Ciao♪」

「おいてめぇ…!オイッッ!」

 

 一夏の制止の声も空しく響く。惣万は大きく跳躍し、倉庫街から姿を消した。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

惣万side

 

 あーぁ、本当にスタークっぽい悪役ロール疲れるわ……。しかも別人だと思ってる一夏にこっぴどく怒鳴られた……。

 分かってたこととは言え凹むなぁ……。エボルトって感情を得たら戦兎の怒り狂う顔が見たくてスタッグロストスマッシュの人を殺したんだろ?俺には理解できねぇわ。

 

「さて……、今度は一夏たちを迎えに行ってやるか」

 

 そう……、まだ俺は“優しい喫茶料亭のマスター”でいさせて欲しいんだ。何時かお前たちの為に消える運命だとしても……。まだ今だけでは……。

 

【ドライヤー!】

 

 劇中の西都のボトルの一つである赤いボトルを取り出すとトランスチームガンにセットし、トリガーを引く。

 

【フルボトル!スチームアタック!】

 

 白煙が俺の体を包み……ん?熱……あっつ!?滅茶苦茶熱いんですけど!?

 

「……だけど、雨水に濡れたとこも乾いたな、これで良し!」

 

 停車させておいたアメ車に乗り込み、車を倉庫街へと走らせる。そして雨がやんだ夜の波止場にたどり着いたのだった……。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

三人称side

 

「おーい、一夏、戦兎ぉ?どこいるんだ?」

「……っ、惣万にぃ……だよな?」

 

 身体を濡らした三人の下に駆け寄るポニーテールの人物。それを見て一夏は若干警戒する。

 

「あぁ、そうだけど……?どうした?」

「それがな?スタークが千冬姉に篠ノ之束……それに惣万にぃに化けて出たんだよ。……うん、服が濡れてない。スタークじゃないな」

 

 ほっとしたように胸をなでおろした彼、それを見て喫茶料亭のマスターは小首をかしげる。

 

「そうか……俺に、ねぇ?そういやお前等、千冬から連絡が来たんだぞ?カフェであいつが待ってるから、さっさと謝りに行け」

「うっ……ハイ、惣万にぃ」

 

 一夏はげんなり気味に顔をしかめた。姉の厳しい罰則を思い出していたのだろうか。だが、今それよりも問題だったのは、無言を貫いている“天災”科学者。

 

「……」

 

【ビルドチェンジ!】

 

「あ……戦兎?おい?待て!」

「因幡野、先生…」

 

 短髪の科学者は濡れた髪もそのままに、スマホをバイクに変形させると乱暴に跨った。彼女は混乱した心のまま、一足先にその場を後にしたのだった。

 孤独に唸るマフラーは、酷く震えて何かに怯えているようだった…。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「えと、その…コーヒーです。どぞ」

「あ、あぁ…クロエ、だったな?頂こう」

 

 閉店した店内で、千冬は手を付けていなかったコーヒーを口に含む。生ぬるくなった液体が口腔内を気持ち悪く転がる。どうにもいやな気分がして落ち着かない。そこに……。

 

――――カランコロン……

 

 扉が開くと、ずぶ濡れになったトレンチコートの女性が店に入ってきた。びちゃびちゃになった服から、雫が垂れる。

 

「あれ?戦兎さん?」

「因幡野先生……こんな時間まで一体どこで……」

 

 だが、戦兎はその質問に答えずに千冬を見てたった一言、思い出した言葉をこぼす。

 

「『ちーちゃん』って……白騎士?」

「ッ!?何故それを知っている!?」

 

 思わず机を叩き立ち上がる千冬、コーヒーカップが衝撃でテーブルに転がった。クロエは思わず身を竦ませる。

 白いテーブルクロスに黒いシミが広がる。じわじわと、平安を蝕むように。

 

「やっぱりそうなんだな……オレは、オレは……なんてことを……」

 

 絶望と恐怖が入り交じった目をした戦兎は、逃げるように地下に引っ込んでしまう。初めて見る彼女の憔悴しきった姿に、その場の二人は呆気にとられた。

 

「…、あの、織斑さん?今のって…本当に『因幡野戦兎』さんだってんですか?」

「…」

 

 

――――からん…

 

 その後、喫茶店のベルが鳴る。見れば、一夏や表情を険しくした箒が慌ただしく駆け込んでいた。

 

「千冬姉……――――、戦兎さんの正体が分かった……」

「何……?良かったじゃないか……、?」

 

 そこで千冬は気が付く。一夏や箒の顔色が優れず、全く喜ばしそうに見えなかったことに。

 

「…………――――『篠ノ之束』」

 

 その人物名が自分の友人と頭の中で結びつくのにかなりの時間を要した。そして気が付くも、余りのことに聞き返さずにはいられない。

 

「……は?どういうことだ?」

「だから……、束さんだったんだよ。戦兎さんの正体は」

 

 思わず戦兎が消えた冷蔵庫に目を向ける。熱くも無いのに頬を汗が伝う。

 

「何だと……――――!?」

 

 真っ白になった頭の中から言葉を紡ごうとするも、そんな凡庸な驚きの声しか発せられなかった……。

 

 

 

 

 

 翌日、IS学園にて……。

 

「……まさか……本当にISコアを創ることができるとはな……」

 

 千冬の手の中には透明に輝く結晶体が握られていた。昨日の夜近く、思いつめた顔の因幡野戦兎から無言のまま手渡された結晶、調べてみれば新たに造られたISコアと言う事だった……。それ故、因幡野戦兎は篠ノ之束と相違ない……。記憶を失ったのも顔が変わった理由も一夏たちから聞いた千冬は頭を抱えてコアをいじる。

 

「先輩……このことはIS委員会に報告するんですか……?」

「……いいや、ISの開発者がIS学園にいる、と分かれば各国が何をしでかすか。それに、記憶についてはまだ失われたままなんだぞ?」

「……ですね。そんな状態の人をチャンスとばかりに狙いに来るでしょうね……」

 

 大変な秘密を抱えることになった山田真耶もまた深くため息を吐くのだった……。

 

 

 

 

 一方……。

 

 

 吸い込まれるような青空の屋上……。びゅうびゅうと風が海から吹きすさび、その場にいる女たちの髪を揺らす。

 

――――バチンッ……‼

 

 突然乾いた音が響く。歯をむき出しにした包帯の少女が短髪のトレンチコートの女性に張り手をかましていた。

 

「……ッ、止めろ箒ッ‼」

 

 一瞬呆気にとられたものの、傍に居た一夏は包帯の巻かれた彼女の手を握り、体を押さえつける。

 

「離せっ、離せ一夏ぁ‼この人が篠ノ之束なんだぞ!?この人が、この女がッ…!私の家族をバラバラにした張本人なんだ‼お前に分かるかッ、分かるだろう今の私の気持ちが‼」

「うわぁ!」

 

 だが、一夏の拘束を振りほどく箒。華奢なその身体にどうしてそんな力があるのか疑問を持つほどだった。

 

「箒ちゃん……」

「私をそんな目で見るな!」

 

 思わず謝罪と慰めの眼差しになる戦兎だったが、箒の絶叫で言葉を続けることができなかった。トレンチコートの襟を掴み、涙で充血した瞳で因幡野戦兎(篠ノ之束)を見る箒。

 

「信じてきたのに……!私を守ってくれて、親身になってくれて……!貴女はあの人とは違うと、信じていたのに……!よりにもよって!お前(篠ノ之束)が私から貴女(因幡野先生)を奪っていった!」

 

 その言葉はまさしく血を吐くような叫びだった。言い切ると体から力が抜け、因幡野戦兎に体重を預けながら嗚咽を漏らす。一夏や戦兎はそれを黙ってみることしか出来なかった……。

 

 

 …――――突然箒が泣きやみ、顔を上げる。涙を袖で拭くと、決意を固めた声で戦兎を真っ直ぐ見据えた。

 

「…………私と戦ってください…!」

 

 

 

 

 

「ハァァァァァッ!」

「……ッ!」

 

 面をつけ、道着で対峙する二人。周囲を素早く動き放たれる箒の攻撃を紙一重で避ける戦兎。だが、箒には分かった。今の彼女には全く覇気が感じられない。

 

「何故……篠ノ之流を使わないんです……?」

「……それは、覚えていないんだ」

 

 戦兎は力なく声を絞り出す。今の彼女の脳裏には、自分が篠ノ之束だったことを裏付けるようにISコアの作り方や初めに造り出したISの事が断片的に蘇り…………それが戦兎の心を蝕み苦しめる。

 

「では、何故本気を出さないのですか!私を……片目が見えない女だと舐めてかかっているのですか!?だとしたらそれは侮辱以外の何ものでもありません!」

 

 箒は真剣な声音で目の前にいる因幡野戦兎と篠ノ之束の間で揺れる科学者を叱咤する。そして竹刀を正眼に構えると、ネビュラガスを入れられた一夏に迫るスピードで戦兎に接近する。

 

「ィヤァァァァァァァァッッッ‼」

「……ッ、ハァ!」

 

 上段から迫る攻撃に、思わずカウンターを放つ戦兎。伊達にファウストとの戦闘を経験しているわけでは無い。むしろ篠ノ之束の肉体を遺伝子レベルでアップグレードした戦兎に死角はない。面に一撃が入る前に箒の胴に一撃を入れ、壁まで彼女を吹き飛ばす。

 

「グッ!?……う、うぅ…――――」

 

 一撃で箒をダウンさせると、戦兎は力なく面をとる。そして背後を向いたまま、フラフラと剣道場の扉を開け、弱弱しく口を動かした。

 

「箒ちゃんの言う通りだ……。オレが箒ちゃんを……大勢の人間を傷つけた……――――!」

「おい……おい?戦兎さん!」

 

 罪を認めた彼女は、引き止めた一夏の声も届かずにどこかへと立ち去った。隈だらけの目は、夜を思わせる果てなき闇に囚われていた…――――。

 

「……――――オイ、箒大丈夫か……ん?どうした?」

 

 だが、それでも…――――。

 

「今の、剣は……誰かを守る為の剣……?」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ここにいたのか……随分と酷い顔だな、因幡野先生」

「織斑先生……」

 

 項垂れていた因幡野戦兎に、声がかかる。片手にコーヒーを二つ持ったスーツの女性が戦兎の目の前に立っていた。

 

「となり、良いか?」

「…――――うん…」

 

 二人とも、思うところがあるのだろう。無限に、果てしなく続く蒼穹を眺め、時間だけが過ぎていく。

 口を先に開いたのは、戦兎だった。

 

「オレは……篠ノ之束なんだってさ……――――。親友としてどうよ?」

「全く、昔の親友がこうなるとはな……」

 

 一人は自嘲気味に、もう一人は苦笑気味に薄く笑うと、缶コーヒーのプルトップを開ける。

 

「……笑っちゃうよな~……ナイトローグに聞いた妹を思う気持ちとか、正義を思う心とか。罪が在ったのは全部自分だった……。今の今まで信じていたものが、こうも簡単に崩れ去るものなんだって知らなかったよ……」

 

 再び訪れる沈黙。その中で無心にコーヒーを啜っている戦兎。苦いはずなのに、何も味を感じない。

 しばらくしてから戦兎は視線を落とし、空き缶を指先でつつく。その声音は虚無感を感じさせるものだった。

 

「オレは、何もできなかった…――――、できなかったんだよ、壊すことしかできなかった‼」

 

 

――――私は、それだけだとは思わない。

 

 

「…――――え」

「それに…………――――壊れたらまた創ったら良いだろう?」

「…――――?」

 

 慰めるわけでもなく、また注意をするわけでもなく……千冬は親しい者に接するように話す。

 

「お前なら、仮面ライダー『ビルド』ならそれができるんじゃないのか?」

 

 そして立ち上がり、一瞬視線を明後日の方向へ向けると、戦兎の目を真っ直ぐに見る。そして言った。

 

「因幡野戦兎は……『正義のヒーロー』だろう?」

 

 その言葉で今までビルドとしての行いを思い出す。

 

(因幡野戦兎は……正義のヒーローですから)

 

 以前にも同じことをクロエに言われていた。簪をはじめとしたスマッシュから助け出した人たち、ナイトローグに立ち向かった一夏、カフェで待っていてくれる父親のようなマスター、そしてボトルを浄化してくれるクロエ……、何よりも痛々しい外見となってしまった箒……――――。

 ビルドとして助け、守り、接してきた彼らの顔が『因幡野戦兎』の頭の中をよぎっていく。

 

 

 

 突然金属音にも思えるアラームが鳴る。ポケットからスマホを取り出すと、無言のまま電話に出る戦兎。

 

「…なに、クロエ?」

『戦兎さん!今どこいるの!?ニュースを見て!ガーディアンと、ナイトローグが言ってたっていうインフィニット・スマッシュが大暴れしてる!一夏さんと一緒に…』

「ッオレが、行かないと…!」

『え、ちょっと…?』

 

 スマホを操作し、ニュースサイトを開けば怪獣映画のようなありさまだった。場所はレゾナンスの近くのビル街で、数体のインフィニット・スマッシュが暴れまわっている。

 手が震えている。戦わなくてはならないという義務感と、責任感。彼女はソレに圧し潰されかけていた。

 かつての自分(織斑千冬)と同じように。だからだろうか。

 

「因幡野先生……いいや、戦兎。人間は、そんな方程式のようなもので答えが出るものじゃないぞ」

「…――――そんなの、わかってるよ」

「だとしたら。何度間違えたとしても答えを見つける覚悟を持った人間が、天才科学者と言えるんじゃないか?」

「……」

「それが、…――――」

 

 

――――勝利の法則ってやつじゃないか?

 

 

 悩める科学者に元親友の現同僚は肩をそっと押してやったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 クロエは、通信が切断されたスマートフォンを見つめていた。『戦兎さん』と表示された画面が妙に寒々しい。

 さっき聞こえてきた戦兎の声には、焦りと戸惑い、そして苦しみが滲んでいた。その場にいて支えられないのが、クロエにとっては毎度歯痒い。しかし、彼女だってないものねだりをするつもりはない。だが…。

 

「今、私にできることなんて…」

 

 クロエは分かっていた。自分には戦う力はまるでない。ISを扱えるわけでも、ライダーシステムを使えるわけでもない。無力な一人の人間でしか無かった。

 ふと、自己嫌悪に苛まれる。昨夜の憔悴ぶりを見てもなお、戦兎に頼らざるを得ない自分に、面の皮が厚いなぁと皮肉にも思う。

 

「『わたしだけにできることがあるの…』、か」

 

 今の彼女にできることは、祈り続けること。それだけしかない。だが、それでも…――――。戦兎との、正義のヒーローが帰ってくる場所を守ることは、無駄ではないはずだ。

 

 クロエはいつも使っているパソコンを立ち上げると、カメラを手慣れた様子で設置してライヴ配信を開始した。

 

「はぁーいっ!みーんなーのアイドルっ!くーたんだよっ!…、こんな世の中で大変だと思うけど、私たちにはまだできることがきっとある。うん、あるって祈ってるし、私は信じてる!だから、今戦っている人たちに、私は頑張れって伝えたい。個人的な話になるけど、それでも…――――『泣きたいときだって上を向いて』」

 

 

 

――――わたしだけにできることがあるの

――――あきらめないよ 君を守り続ける

 

 

 

 その祈りは、あらゆる媒体を通じて、辛い現状に直面した人間たちに届いていく。今尚、どこかで戦っている人間たちへと…。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――キャァァァァァッッッ!?

 

――――いやぁぁぁぁぁぁぁぁ‼

 

――――誰か、助けてくれぇ!いやだぁぁぁぁぁ‼

 

 

 そんな阿鼻叫喚の街中。道端には倒壊したビルの破片や、鉄骨剥き出しなコンクリートが煙を上げて転がっている。

 突如鳴り響く爆発音と人間の悲鳴、悲鳴、悲鳴……――――。

 

「……ッ!……変身」

 

【ラビットタンク!イエーイ!】

 

 過去の自分(篠ノ之束)が引き起こした白騎士事件のパニック映像がフラッシュバックし戦兎を苛む。だが、正義のヒーローに今求められているものはそんなものではない。次々と人間を襲うガーディアン達を殴り、蹴り倒していく。

 

「早く逃げてください……安全な場所へ!」

「は……はいっ!」

 

 逃げ遅れた人の背を押し、ガーディアンたちの攻撃を避けさせると、目の前に巨大な影が映り込む。

 

――――Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ‼

 

 

「ッ、インフィニット・スマッシュ……!」

 

 目の前に立ち塞がるのは、無明の空に囚われ怪物となったIS。天災科学者はドリルクラッシャーを取り出し、自らが生み出したテクノロジーと戦おうとする。

 

 

 

――――癇癪でISを兵器として世界に知らしめた無責任なガキが!?私の血の繋がった姉だと!?ふざけるな、アレは私を……友人や家族との仲を引き裂いた人でなしだ‼

 

――――お前だよ因幡野戦兎、お前がISを造った天災、『篠ノ之束』だ……!

 

 

 

「っ!……うぅ……――――!」

 

 攻撃の手が、止まる。力なく腕をだらりと垂らさざるを得ない戦兎。その隙を見逃すインフィニット・スマッシュではない。

 

――――Gyiiiiiiiiiiッ‼

 

「うわぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 戦兎は風前に揺れる灯火の如くあっけなく弾き飛ばされた。完全無欠のヒーローの仮面が剥がされ、脆弱な心の赤子が地に臥している。

 瓦礫とガラスと数々の家具が散乱する場所で、戦兎は濁った眼で空を見上げていた。

 

(オレが、何で…どうして…――――、こんな目に遭わなきゃ…――――)

 

 いいや、その答えは分かっている。因果応報こそが地上の真理。彼女が苦しめてしまった数多の人の怨嗟が、今奔流となってその身に降りかかってきたに過ぎない。

 

 地上(知情)に原罪を振り撒く蛇が嗤う。世界を自分の思い通りに変えようとし、世界の醜さのみを塗り変え、自分一人さえ変えられなかった無力な女を嘲嗤う。それがお前の末路だと。全てを奪われ、空を見上げるしかできない天災の抜け殻にとって、蒼穹は残酷なほど青かった。

 

(変えたい、変わりたいよ…――――)

 

 天災の夢を皮肉り、嘲笑う『無限の成層圏を壊すもの』。その怪物が、鋭利な腕を振り上げる…――――。

 

(過去の自分が何を思ってたとしても、オレが本当にしたかったことは…)

 

 

 

【Wake up burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!】

 

 真夏のような情熱と、天の色を宿す炎が放たれた。青竜は純白の一閃を以って愛と平和を高らかに叫ぶ。

 もう一人のヒーロー(仮面ライダー)は、インフィニット・スマッシュの前に立ち塞がり、ビートクローザーを突き立てた。

 

――――Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa‼

 

 悲鳴を上げる怪物たち。三対一の戦いを繰り広げながら、仮面ライダークローズは戦意を失った戦兎を怒鳴りつける。

 

「何で攻撃しねぇんだよ!」

 

 激しく戦う一夏と対照的に、戦兎は泣きそうな声で迷いを口にした。

 

「オレがこいつらを創ったんだ……。箒ちゃんの家族との絆を引き裂いて……紛争や、世界の歪みの火種になることを考えもしないで……。オレがISを創らなければ。オレがいなければ……こんなことにはならなかった……」

「アンタが創ったのは、ISだけじゃねぇだろ!」

 

 一夏が戦兎の言葉を遮り、吠えた。

 

「そのベルトを巻いて、大勢の明日を、未来を……!創ってきたんじゃねぇのかよ‼」

 

 思いを込め、怪物となったISに剣を振るう。信じたものの為に力を振るう。英雄然とした戦兎の教え子が道を示す。

 

「誰かの力になりたくて……戦ってきたんだろ!誰かを守るために立ち上がってきたんだろ‼それができるのは、葛城忍でも篠ノ之束でもない、因幡野戦兎だけだろうが!」

 

 その激励に重なるように、もう一人の生徒の姿が戦兎の瞳に映る。

 

「……――――っ、何ですかその情けない姿は!」

 

 長髪が風になびく。右目や身体中を追う包帯が見える。そこにいたのは、今もなお確執を抱く悩める少女。だが、それでも…――――どこかで人を信じたいと願う、そんな心を持つ少女。

 

「箒……ちゃん?」

「どうしたんですか!自分の正体がこの世界を狂わせた人間だった……それは理解しました!私は今尚許せていません!えぇ、器量が狭い小娘でごめんなさい‼」

「箒!?ちょ、おま…」

「ですが‼貴女の愛と正義を思う気持ちはそんなにも脆いのですか!?」

 

 箒だって何か思う所があるだろう。……だがそれでも、正義のヒーローを激励する。

 

「ここで真実を知り歩みを停めてしまうのなら……貴女はただの天災です!貴女は……――――IS学園の先生、因幡野戦兎でしょう!?自称てぇぇんさい科学者の、バカでどうしようもない人間でしょう!?貴女は…、愛と平和を願う正義のヒーローでしょう‼」

 

 そして、彼女は右手を高く掲げた。眩いものを尊ぶように、天照す蒼穹に捧げるように。

 真っ赤なスマートフォンの中から、音楽が聞こえる。ラジオ配信かと思われるそれからは、戦兎を正義のヒーローとして慕う月の孤児(みなしご)の声が溢れ出る。

 

「いろんな人が、貴女に助けられた人が、この世界にはいるんです!クロエだって、一夏だって、私だってそうです!だから……――――‼」

 

 

 

 すれ違いのせつなさ 涙で胸が痛い 

 

 明日になれば消えるの…? 

 

 

 

 

 次のステージのために 強い自分をつくろう 

 

 失うものもある それでもいい 

 

 

 

 

 うつむいてばかりじゃ つかめないよ 

 

 一度しかないチャンス 見逃さないで 

 

 

 

 

 まっすぐな瞳で 世界を照らしていこう 

 

 初めて知った ひとりでは何もできないね 

 

 月に語りかけた 夢の先へずっと 

 

 終らないの… 祈り、届いて 

 

 あの雲を突き抜けて 

 

 

 

 

「…――――貴女の創った希望だけは、忘れないでください!」

 

 

 

 

 

 彼らのその声は……――――、無明長夜の中を彷徨っていた兎に光を与えた。空に、数式の雨が降り注ぐ。

 

「……最悪だ。君達に諭されちゃうなんて……」

 

 頭をクシャクシャと撫で、彼女はトレンチコートを整え起き上がる。

 

「……思い出したよ!」

 

 いつの間にか左右の手にフルボトルを取り出し、勢いよくリズミカルに振る正義のヒーロー。

 

「オレの名は因幡野戦兎!今のオレは……ナルシストで自意識過剰な、正義のヒーローだってな!」

 

 それを見た教え子たちの顔に、笑顔が広がる。

 

「さぁ、実験を始めようか……!」

 

【ラビット!タンク!ベストマッチ!Are you ready?】

 

 その音声と共に、まるで進むべき道が見つかったように指を前に突き出す。

 

「変身ッ‼」

 

【鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!】

 

 一度壊れかけた心。だが、彼女はそれを再び創造(ビルド)し、仮面ライダーとなって立ち向かう。間違いさえも、新たな答えを導く方程式にして、未来という明日へと進むために。

 

「勝利の法則は、決まった!」

「……っしゃぁ!今の俺達は、負ける気がしねぇ!」

 

 二人は同時に駆け出した。怪物となったISに、赤と青の拳が突き刺さる。

 

「ハァ!でやぁ!おぉりゃぁぁぁぁぁ!」

「ハッ!せやっ!ホレ!」

 

――――Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?

 

 インフィニット・スマッシュたちは、悲鳴を上げて後退する。彼らの感情の昂りを恐れるが如く。

 

「一夏ぁ、お前の掛け声、脳筋だねぇ?もうちょっと落ち着いた感じにならない?」

「そーいう戦兎さんの掛け声はなんか気が抜けんだよ。もーちょい気合い入れろよ」

「オレ、根性論嫌いなのよね」

 

 彼らのそんな軽口も、いつも通りになっていた。その様子を見て、箒は優しく微笑む。わーわーとどつき合っている二人に、どこか懐かしい風景を感じていた。

 

「ん?戦兎さん……あれ!」

「え、何……ちょっと待て、合体?」

「「……うそーん」」

 

 気が付けば、怪物となったISは集合し、巨大なゴリラのような外見になっていた。胸を叩きながら仮面ライダーたちに近寄って来る。

 

「しょーがない、とっておきを出しましょう!」

 

【ラビットタンクスパークリング!Are you ready?】

 

「ビルドアップ!」

 

【シュワッと弾ける!ラビットタンクスパークリング!イエイ!イエーイ!】

 

 ラビットタンクスパークリングフォームになったビルドとクローズは並び、それぞれ必殺の一撃を放とうとする。

 

「さぁ、キメるぞ一夏!」

「おぉ!」

 

【Ready go!】

【スペシャルチューン!ヒッパレー!ヒッパレー!】

 

 ボルテックレバーを何度も回転させるビルドと、ロックフルボトルをビートクローザーにセットしグリップエンドを二回引くクローズ。

 

「「ハァ!」」

 

 まずクローズがビートクローザーから黄金色の鎖を射出、ゴリラのような怪物ISを拘束する。

 インフィニット・スマッシュは藻搔き苦しみ体を動かすが、余計に拘束が強まるだけだった。

 

「暴れるなっての!戦兎さん!」

「任せなさいっ!」

 

 ビルドは既に上空に飛び上がっており、赤と青、白というトリコロールカラーの泡と共にインフィニット・スマッシュに激突する。

 

「ハァァァァァッ!」

 

―――――Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッッッ‼

 

 

 蒼穹に、白い輝きが溢れる。止まらない速度で(STRAIGHT JET)、彼女は思いを真っ直ぐに貫いた。

 

 

「よっと。さて、確かロストタイムクリスタルとか言うのが……あったあった!ん?」

 

 前回ナイトローグに回収された未知のコアに興味が湧き、ビルドは黒ずんだISコアを回収しようとした。……しかし。

 

「……煙?ってわぁ!」

 

――――プシューッッッ!

 

 コアから煙が噴き出し、ビルドの視界を覆う。煙が晴れると、コアは既に消えていた。

 

「今のはトランスチームガンを用いたテレポートに似ていたな……。抜かりなし、か……」

 

 戦兎は一夏と共に変身を解除し、瓦礫だらけの街に踵を返す……。

 

 

 

 

 

 

 

「……街が、あんなことに……」

「うん、だから……オレは戦うんだ。愛と、平和の為に……、一夏、箒ちゃん。思い出させてくれて、ありがとう」

 

 IS学園に帰る道すがら、戦兎は二人の生徒に頭を下げた。いつもの、IS学園の教師の姿がそこにあった。一夏はうなずくも、気になって箒を見る。

 

「……言っておきますが、篠ノ之束を許したわけではありません」

 

 逆光になっていて、箒の表情を伺い知ることはできない。戦兎は受け入れるようにその言葉を静かに聞く。

 

「分かってるよ」

「ですが」

 

 立ち止まり、ゆっくりと一文字一文字丁寧に言葉を吐き出す。

 

「貴女は篠ノ之束ではない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、丁寧に腰を折った。

 

「ありがとうございます、因幡野先生。私を守ってくださって」

 

 箒は目を伏せ、暖かな感謝の言葉を戦兎に伝える。

 

「私が火傷を負った時も、一夏が仮面ライダーになった時も……ずっと生徒たちのことを見てくれていましたよね」

「…………」

 

 無言で箒を見つめる戦兎。その目に映るのは、感謝か、望郷か……。

 

「やっと……お礼が言えました……」

 

 顔を上げた箒の目に、既に姉に対する憎しみはなく、恩師に対する感謝の微笑みが顔にあった。




 ナルシストで自意識過剰な、正義のヒーローの復活だ!


※2020/12/20
 一部修正


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第四十四話 『力というアイデンティティー』

戦兎「てぇん↑さい↓科学者である因幡野戦兎は、自身がISを創った天災『篠ノ之束』だったことを知り、愕然となる。篠ノ之束の所業を振り返り意気消沈する戦兎……。そんな中、怪物となったISが街の中で暴れまわり戦闘に。一夏や箒に激励され戦兎は人々を守る為戦う決心をするのだった……さて『オレたちの戦いはここからだ』って誰が言った、打ち切りエンド確定セリフ!?」
宇佐美「『IS EVOL A KAMEN RIDER?~無限の成層圏のウロボロス~』完。次回からはクールなサイボーグRUR-9610もといマボルールーと愉快な男の娘宇宙人、愛崎えぼるによる新連載『えボルっと!闇キュア』が始まります」
戦兎「お前は宇佐美!?いや始まんないよ!何しれっとタイトルまで決めてんだよ!」
惣万「どうしょうもない奴でほんとすいません!」
宇佐美「そのときィ!ぶっちゃけありえないめちょっくな事が起こったァ‼」
―紫色の土管<テテテテッテテーッ!―
セシリアホワイト「貴女達のようなひよっこを、プリ〇ュアと認めるわけにはいきませんわ!」
戦兎・惣万「「とっととIS学園に帰りなさい‼」」
宇佐美「というわけで作者の中でタイトルが二転三転した第四十四話、どうぞ~」
戦兎「あぁぁぁぁ~っ!?もう時間切れ!?主役なのに……」
惣万「オイ?主役って……?あぁカオス……。もうここに宇佐美出すな!」



 研究所の様な陰気な施設の一室。ワイシャツの胸をはだけさせ、自分で湿布や包帯を巻く紫色の髪の女性。

 

「ぐっ……ハァ、ハァ……フゥゥ……ッ」

「宇佐美ぃ……大丈夫か~?」

 

 突然ドアが開き、努めて明るくある人物が入って来る。リンゴやメロンの入ったバスケットを見舞いとして持ってきた、パナマハットの中性的な顔の人物。

 

「……ッどの口がァ!」

「おっと……ちょ、ちょっと待ってくれ!伸びる!服伸びるから!」

 

 胸が見えるのも関わらず男の襟を掴み、壁に叩きつけるようにして押し付ける。

 

「私たちが何の為にフルボトルを回収していると思っている!パンドラボックスを開こうとしている貴様のためだぞ!貴様のために手助けしているのが何故分からない!」

「あぁ分かってる、分かってるよ。俺はゲームメイカー、だがお前はゲームマスター。俺はお前に使い潰されても文句は言わん。だが、欠けちゃならねぇパーツってのもあるんだよ」

「はっ、ふざけたことを。それだとお前は不必要なパーツだというふうに聞こえるなぁ」

「いいやまだまだ必要だ、もちろん俺も、お前もな」

「……ちっ」

 

 やるせない思いを吐き出し、苦渋の表情をする宇佐美。彼女の頭を惣万は撫でてやる。そして左目にかかった前髪を撫ぜ、その目を露わにした。

 

「お前を……『お前たちが生きていて良い新世界』に連れて行ってやる。それだけは俺が約束する……」

「ふん…、ならばお前も約束しろ。その命も、人生も、力も全て、ファウストのために捧げてもらう。文字通り、全てだ」

「当然だ。そういう契約だったろ、誰より人になりたかった天災(ミス・ファウスト)?」

「こんな契約にルーズな悪魔(メフィスト)を引っかけたのは、後にも先にも我らだけだろうな…!」

 

 醜い縫合手術の跡が残る彼女の片側の顔を見て、苦し気な表情で告げる惣万。

 

「仮面ライダーは間も無く軍事兵器の道を辿る。そうなればIS学園とファウスト、そして亡国機業を巻き込んだ世界大戦の始まりだ。悪意と…そして嘘という奇蹟で、この世界を救ってみせよう(破壊してみせよう)。あぁ……宇宙は滅び、しかして希望が燦然と輝くとは、最高(最低)じゃないか!」

「分かっていたはずだ。私たちが狂い、血に塗れ、この世の悲劇として集ったあの日から、運命の歯車は噛み合い回りだした。過去にはもう戻れない。私たちをなかったことには、できない…!」

 

 ワイシャツのボタンをとめながら宇佐美は答える。ズタズタになっている左側の顔を隠し、いつもの白衣をワイシャツの上に羽織った。

 

「あぁそれと。IS学園にブリッツがまいた種が、間も無く芽生える。小悪党の最後の大舞台だ。私たちも演者として楽しもうじゃないか……」

「ほぉ、上手く行ったようだな…俺の記憶を辿った人相書きでも騙せたか」

 

 次第に狂人の口から哄笑が漏れ出し、どんどん大きくなっていく。惣万が窓の空を見上げれば、夜空に浮かぶ月も裂けた笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 夜のIS学園の生徒寮……。散らかった部屋に飲み終わった錠剤のパッケージが転がっている。そしてその部屋の主は片手に銀と赤錆色の容器を握る。

 

「一夏従兄(にい)さん……。貴方は本当に邪魔だった。子どもの頃から箒を壊そうとしても、鈴を奪おうとしても、結局貴方が支えになっていた……。だけどそれももう終わる……!」

 

 ボトルを逆さまに持ち、左右に揺らしてキャップを閉じた男。そして白い制服をたくし上げ左腕を出した。

 

「『ママ』が言ったんだ、僕が必要なんだって。もう千冬姉さんなんていう嘘っぱちの『ママ』なんていらないや。箒も鈴も『ママ』になってくれなかったけど、僕は『ママ』に力を貰ったんだ。これで、皆僕を求めてくれる。僕を信じてくれる。僕を虐めないでくれる。弱い弱い僕を守ってくれる。褒めてくれるんだよ、皆『ママ』になってくれるんだ、みんな、みぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんな、『ママ』だ、ねぇ『ママ』『ママ』『ママ』『ママ』『ママ』『ママ』『ママ』ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

【シマウマ!】

 

 紫色の煙と共に、その人物の姿が変わる。脆弱な人間から、力持つ怪物に。だが暴力しか振るえない心に変化はなかった。むしろ、その残虐な歪んだ思いは短絡的なモノに変化した。

 

『ハッハッハ……ハーッハッハッハッハッハ‼』

 

 縦長な顔に白黒の縞模様の身体、ハードスマッシュと同じく青い下半身。『ゼブラハードスマッシュ』は、IS学園で何を成すのだろうか……。

 

 

 

 

一夏side

 

「ハッハッハ……ハーッハッハッハッハッハ‼」

 

 ハイテンションで仮面ライダー部の部室に入ってきた戦兎さん。オルコットたちはげんなり気味でてぇん↑さい↓科学者を見る。

 

「完成したぞ一夏ァ‼」

「えっなに、何が出来たの?」

「グリスが使っていたスクラッシュドライバー……そのクローズバージョンだ!」

 

 ジャジャジャジャーン!と(簪氏が)セルフで効果音を入れ、レンチの付いた水色のドライバーを俺に見せてくる。

 

「お、おぉ……俺用なのか?」

「そうだね~、と言うより『スクラッシュゼリー』が……、ドラゴンのボトル以外はゼリーと反応しなかったんだ」

「スクラッシュゼリー?」

 

 そう言って内ポケットから青いドラゴンの横顔がデザインされたゼリー飲料(?)を取り出し俺に渡してくる戦兎さん。

 

「あぁ、ネビュラガスをゲル状にしたゼリーにドラゴンフルボトルの成分を混ぜて変化した“トランジェルソリッド”を封入したアイテムだ、これのすごいところはね『あぁもういい、喋んな』えーそんなー」

 

 長くなりそうだったので素早くシャットアウト。戦兎さんが持っていたパウチ容器型のアイテムをしげしげと眺める箒達。

 

「でも、創っておいてなんだけど。スクラッシュドライバーは極力使わない方が良い……ナイトローグが言っていただろ。コレを使い続けていればやがてキリングマシーンになり下がるって」

 

 ……そういや宇佐美のやつ言ってたな。シャルル・デュノアがどうとか。

 

「詳しく分析したら……、フルボトルの成分を従来以上に引き出す代わりにネビュラガスの悪影響をより強く受けてしまうんだ……。好戦的になったり、アドレナリンの過剰分泌を促す作用が特にひどくてね。使い続ければ身体がボロボロになるかもしれない」

 

 それを聞いてIS学園にやってきたグリスの事を思い出す。……確かにハイテンションで戦ってたな。でも、他人を巻き込むのを是としていなかった様な……?

 

「……あのシャルル・デュノアは好戦的ではあったけど、精神が汚染?されてたりしてた様には見えなかったぞ?」

「そーなんだよねぇ……?もしかしたら制御する法則とか、あるのかなぁ……?」

 

 

 

 

 同時刻、ヘアカット『バーバーイナバー』にて。

 

 

 金細工の様な金髪が櫛によって梳かれ、白く磨かれた床にハラハラと落ちていく。

 

「くーた~ん……」

 

 スマホをいじりながら髪を整えるシャルル・デュノア。気になったのだろうか、わきから店主が覗き込み、一言告げた。

 

「…可愛いですね」

「だろ?……――――けど、何でIS学園なんかに……、ビルドとクローズとつるんでんだよォ……」

 

 思わずうつむくドルヲタシャルルン。頭を抱え込んだ為店主は戸惑いながらも髪を切るのを中断する。

 

「見たところ……クローズの彼女だったり?」

「ピンチになったら助けてたしね」

「んなワケねぇだろ‼」

「どぅわ!?」

 

 散髪用ケープをつけたまま立ち上がり、ルージュとジョーヌに怒鳴るドルヲタ(ガチ勢)。

 

「良いか?くーたんはな………――――みんなのアイドルなんだよ‼」

 

 どんだけくーたんに夢見てんだ。

 

「……あーもう、声に出したら色々考えついてイライラしてきやがった。こうしちゃいられねぇ、IS学園に聞きに行くぞ!」

「「へーい」」

「今からですか!?あ、ヘアカット代置いときますね」

「ありがとね、ブルちゃん……君だけがあの三人の良心だよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 その数軒先の喫茶料理店の二階。自堕落アイドルの自室にて。

 

「へっきし!」

「どうしたクロエ、風邪か?」

「あ゛ー……マズダー……ちょっとニヨニヨ動画見て夜更かししたから湯冷めしたのかも……今日は寝ます」

「……自業自得じゃねーか」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「くちゅッ……、いかんな。体調管理が出来ていないと知られれば教官に注意されてしまう……ん?」

 

 IS学園の屋上でベンチに膝を抱えながら携帯食料をモソモソついばむ銀髪の少女。そこに明朗な声が届く。

 

「アンタ、ボッチ飯?」

 

 小柄なシルエットとは裏腹に、生命力あふれる快活な動き。彼女はスタスタとラウラの傍へ近づいてくる。

 

「……中国の凰鈴音か。なれあうつもりは無い」

「そう?そんな寂しそうな雰囲気出しながらじゃ説得力も無いわよ」

 

 よっこいしょ、と隣に座り、弁当のタッパーを開ける鈴音。

 

「……貴様のことは既にデータで知っている。中国有数の天才武道家らしいが興味ない、去るが良い」

「アタシは興味あるわね。アンタ……、一夏の事どう思ってる訳?親の仇みたいに見てるけど」

 

 口に酢豚を運びながら鈴音は横目でラウラのことを見る。その言葉に柳眉を逆立てる銀髪の少女。

 

「……当たり前だ。織斑教官は第二回モンド・グロッソの優勝、その二連覇を達成できなかった。その原因は織斑一夏だ。あの男がいなければ……教官は輝かしい力を得ていたはずだ……!」

「成程なるほど、アンタは一夏が千冬さんの負担だと思ってるワケね……――――」

 

 

 

 

 

「…………………――――勘違いすんじゃないわよ」

「……ッ!?」

 

 目の前の少女から発せられたのは静かだが強い威圧、怒り。その瞬間感じた殺気により、ラウラは制服に忍ばせていたコンバットナイフに手を伸ばしていた。

 

「アンタがやってること、ただの八つ当たりじゃない」

 

 だがそれすら目の前の少女には無意味だった。冷淡に言葉をつぶやいた鈴音は、胸ポケットのナイフに向かったラウラの手を瞬時に掴んでいる。

 驚くラウラを尻目に、腕を体の方へ押し付け身動きが取れないようにする鈴。

 

「極論になるけどね、あの日一夏が誘拐されず、千冬さんが一夏に見守られ試合に勝っていたら……アンタは“織斑教官”に出会えていたワケ?」

 

 ラウラと一夏から聞いた話を冷静に分析し、鈴音は真実を導き出す。

 

「一夏が誘拐されて、ドイツ軍が動いたからこそ……アンタは千冬さんと出会えたんじゃないの?」

「……ッ(スタークと同じことを……)『もしも』のことなど……!」

 

 腕を掴まれたままのラウラは歯噛みするが、一歩たりとも動けない。

 

「それにね。アタシのダチはそんな千冬さんの負担になるような軟弱者じゃない……。誰かの為に必死になって戦える強さと優しさを持ってんのよ……!」

「何故そんなことが分かる……!」

「分かるわね、一夏が誘拐事件に巻き込まれてから別れるまで、ずっとアタシが傍に居て見ていたんだから」

 

 強い信頼関係を感じさせる言葉にラウラはたじろぐ。一夏の感じていた苦しみを思い、鈴音は静かにだが、きっぱりとラウラに現実を伝えた。

 

「一夏は言ってたわよ……“もう二度と、自分の無力で信じてくれた人の涙を見たくない”ってね……!一夏が第二回モンド・グロッソのことを、後悔してないわけがないでしょう!」

「……ッ!」

「一夏はね、自分の無力さに苛まれ、必死こいて自分を律して今の強さを手に入れたのよ。それでもまだ、一夏のことを弱いって言える?それでも言うなら、アタシは貴女を叩きのめすわよ……!」

 

 ギリリ、とラウラの腕を締め付ける力が強くなり、彼女は顔をしかめる。それに気が付いた鈴音は慌てて手を放す。

 

「……ごめん、感情的になったわ」

「……ふんッ!」

 

 その後、しばらく無言の時間が続き、思い出したように鈴音が話を切り出す。

 

「………――――、そう言えば、タッグマッチトーナメントがあるでしょ?」

「……それがどうした」

 

 ぱたんと弁当箱を閉じてラウラに手を伸ばす。

 

「アンタ、アタシと組まない?」

「何故……」

「いやぁ、アンタ見たところペア決まってなさそうだったし。それに……これを機にアタシがダチになってあげようか、とかね」

「『ダチ』?何だそれは。必要無い……」

 

 心底理解できない様に顔をしかめると、ペチンと彼女の手を払う。

 

「……まぁ良いわ。考えがまとまったらアタシん所に来なさいよ。んじゃ、アタシはコレで。再見(ツァイツェン)

 

 そう言い残すと、鈴音はツインテールを揺らしながら屋上庭園を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

「馬鹿な……、織斑一夏が……私と同じ……?」

 

 虚言だ、と思いたかった。恩人の余計な足枷だと思いたかった。だが、先程の中国代表候補生の言葉が頭の内で反響する。

 

―――一夏が第二回モンド・グロッソのことを、後悔してないわけがないでしょう!

 

 ラウラがブリュンヒルデの二連覇失敗の原因を作った一夏を恨むように、一夏は過去の自分自身を悔いていると知った。知ってしまった。今の今まで憎しみを抱いていた怨敵が、同じ苦しみを共有する人間にも思えてきてしまった。

 

「………一体、私はどうすればいいんだ…?そんな事、私は知らないのに……教わっていないのに……――――。誰か……、教えてくれ。私はこの手で、一体何を倒せばいいんだ……?」

 

 その小さな少女の言葉に、答える者はいなかった。

 暗雲が逆巻く。轟々と冷たい嵐が心を過ぎ去る。嗚呼、寒々しい荒れ野に雨が降る。しとしと黒い雨が降る。黒い兎は、身を凍えさせることしかできなかった…――――。

 

 

 

 

 IS学園の本校舎に向かおうとする鈴音。すると突然立ち止まり、振り返らずに挑発する。

 

「……で?さっきから覗いてくる変態は誰よ?」

『……気付いてたのか』

 

 まるでシマウマの様な白と黒の縦長な頭部を持ち、青い下半身をした無機質な怪物……。

 

「スマッシュ……しかも自我があるタイプ……。グリスの仲間?」

『知る必要はない、今からお前は死ぬんだァ‼』

 

 そう言って突進してくる白黒の頭を持つスマッシュ。

 

「あぁ、そう……でも、それを決めるのはアンタじゃない」

 

 懐に忍ばせていた手を動かす鈴音。そして親指を立てて自分の鼻を擦るように触れ、怪物に向き直った。

 

「アンタの運命(さだめ)は……、アタシが決める」

 

 そう言うと、鈴音は戦兎から護身用に持たされていたパンダのボトルを手元で小刻みに振る。そして両腕を広げると、口からは怪鳥の様な声が漏れ出す。

 

「ほぉぉぉ……ッわたぁッッッ‼」

『ぬッ……!』

 

 白と黒の太極のオーラを纏った鈴音の拳は、弾丸のようにスマッシュの腹部に突き刺さる。しかし、数mほど押し返したものの、縞を持つ円柱の頭部のスマッシュは未だ健在だった。

 

「……ッ!流石に千冬さんみたいにいかないわね……ッ!」

 

 そう言って鈴音は左腕を横に構え、その左手の上に右腕を垂直に立てる。赤心少林拳『梅花の型』である。

 

『……ッガァァァァ!』

「ハッ!」

 

 突進してきたハードスマッシュの背面を転がるように躱すと、回し蹴りによる慣性を用いスマッシュを壁に激突させる。

 

『……ッ!』

「ほぉぉぉぉぉ………――――」

 

 ハードスマッシュは、空気を吐き出し残心する鈴音にイラついたように壁を叩く。そして再び鈴音に殴り掛かろうとした……だが。

 

『……ッ、時間切れだな』

 

 突然スマッシュの身体から湯気が立つ。

 

『薬を服用する量が少なかったのか?仮面ライダーが来る前に、逃げるとするか……』

 

 やがて激しく煙が辺り一面に噴き出すと、鈴音以外の者が動く気配が消えた。そして煙が晴れると、そこには何もいなかった。

 

「……、何だったのかしら、今の……。取り敢えずは因幡野先生と一夏に言っておかなきゃね」

 

 そう呟いて、鈴音は手持ち無沙汰にボトルのキャップを開閉させるのだった。




 あらすじの後……未だキュアネタでカオス。

宇佐美「さて私と一緒にキュアスタークになりましょう。若しくは雷刃の襲撃者に」
千冬「それはまた別の中の人ネタだろう!そうだ惣万、ギターを弾きたいなら私に言え。心得ならばある」
宇佐美「貴女も中の人ネタですねブリュンヒルデ」
惣万「お断りします……アッ違うコレ〇ールーのセリフだわ。えーっと……あっそうだ!『堪忍袋の緒が切れました!』だ!」
宇佐美「そう言えば私の苗字に一夏入れると……」
【ラビット!ケーキ!ガタガタゴットンズッタンタン!Are you ready?アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!ヤベーイ!】
一夏「マボロォ!ヤメルォ‼」
千冬「嫁入り……だと!?渡すモノかぁぁぁぁぁ‼」
惣万『そういや、俺と敵対していた青い奴の恋人が一夏だったような気がしますぞ……(CV:金〇哲夫氏)』
シャル「あれ?俺とお袋も出なくていいのか?」
ラウラ「そもそも女(CV:ざーさん)じゃないお前が言っても……」

 ……全員演者!暇になったらイメージスケッチにあげようか(やめろ)

※2020/12/28
 一部修正


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第四十五話 『兵器とヒーロー』

戦兎「仮面ライダービルドでありてぇん↑さい↓科学者の因幡野戦兎は、遂に仮面ライダーグリスに対する対抗策として新たなドライバーを完成させる!やっぱりオレの発明は最高(さいっこー)だな!」
宇佐美「やはり今後カギとなるのはスクラッシュドライバーだな……恐ろしい、私の神の才能が‼」
一夏「お前ら何なんだよ‼つーかまた出たな宇佐美ぃ‼」
戦兎「って、何で宇佐美がスクラッシュドライバーの事言ってんだよ?まさかネタバレ……」
宇佐美「じゃあ言わない♬」
一夏「誤魔化し方下手クソか‼さてさてどうなる第四十五話!」



一夏side

 

「ただいまー……あースマッシュ退治つっかれたー。で?鈴ちゃん、言いたいことって?」

 

 スマッシュボトルを机の上に置き、携帯に電話してきた教え子に向き直る戦兎さん。最近気合入ってるなー。スマッシュ発生したら即撃退して、今週もう4体倒してるとか。吹っ切れてから身体のキレもいいし。

 そりゃそうか。『細胞レベルでオーバースペック』を自称するあの人の身体が遺伝子組み換えされた、ある意味で上位互換な代物だもんな…。

 

「む、何か変なこと思われてる?」

「あー、戦兎さんもう説明していいですか」

 

 

 

――――少女説明中。

 

 

「新しいハードスマッシュ?」

「そ、一応撃退できたけど……どうにも戦いに慣れてない感じだったわ。三羽烏とか言うのと関係があるかも知れないから、簪。ハックして調べて」

「り(‘’◇’’)ゞ」

 

 パソコン(それも戦兎さんがチューンした凄い奴)をおいている席が定位置になった簪氏がパチパチとタイピングする音が聞こえてくる。もはや俺らの放課後の見慣れた風景になって来たよな……。

 

「……あ、グリスがIS学園の門前にいる」

「あっそう……え?」

 

 へー、グリスが……は?『グリス』って、シャルル・デュノアの変身するあの仮面ライダー?

 

「「えぇぇぇぇっ!?」」

「さらっと言うモンじゃないでしょうが!」

 

 慌ててドライバーを持って校門へ向かう俺達。

 

「って一夏、言ってる傍から……」

 

 俺が持った水色のドライバーを見て、戦兎さんは眉をひそめる。

 

「持っとくだけだ。それに万が一の時、コレ使わなきゃ……あいつらには勝てねーだろ」

 

 だが、誰もその時気が付いていなかった。空き部屋となったライダー部に、こっそりと侵入する小柄な銀髪の人物がいたことを……。

 

 

 


 

 

 

「来たか……」

「何が目的だ。フルボトルを寄越せってか?」

 

 俺達の目の前には、既に仮面ライダーになったシャルル・デュノアと、ハードスマッシュの三馬鹿ラスが揃っていた。

 

「それもある、が」

 

 たっぷり間をとってグリスが俺達の方に近づいてきた。

 

「お前に聞きたいことがあったんだ……」

 

――――(;゚д゚)ゴクリ…

 

 簪氏や鈴が息をのみ、箒やオルコットが臨戦態勢に入るほどの殺気を放つシャルル・デュノア。そして……。

 

 

 

 

 

「……くーたんとはどー言う関係だぁ‼」

「「「「「え゛えぇェェェェェェェェェェッッッ!?」」」」」

 

 

 

 俺達仮面ライダー部の面々だけでなく、配下の三馬鹿もズッコけていた。いや、言うに事欠いてそれか!?

 

「くーたんって……あー、クロエの事だよな!?なんでおま…、えぇッ、それ!?」

「そーだァ!何で眼帯付けてIS学園にいるんだよォ‼あの子はどっかのカフェでアルバイトしてるってプロフィールにあったぞ!」

 

 何かこいつのキャラが俺の中で崩れてく。それにしてもクロエとラウラ・ボーデヴィッヒ、ねぇ……。

 

「うん、確かに姉妹かってくらい特徴が似てるわな……」

「あいつは……ラウラ・ボーデヴィッヒという別人だ。よく間違えられる」

 

 後ろで控えていた箒がとっさに言い訳を口にした。……信じるかなコイツ?

 

「………――――、マジ?」

「……マジだ」

 

 あっ信じた。

 

「んだよ、びっくりさせんなよコラァ……、お前ら!万歳三唱!」

「「「くーたんっ!(へーいっ!)くーたんっ!(へーいっ!)くーたんっ!(へーいっ!)」」」

 

(何でオレ/俺、こんなバカな連中と戦ってんだろうなー……)

 

 その時俺と戦兎さんの心の中はシンクロしていたとか……。

 

「「…………ハァ……、変身」」

「んぉ?」

 

【ラビットタンクスパークリング!イェイ!イェーイ!】

【Wake up burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!】

 

 戦兎さんはビルドに、俺はクローズに変身して奴らの前に立った。

 

「おぉ、やる気だな」

「その前にオレらもお前等に聞きたいことがあったんだ。お前等三羽烏だろ?四人目のハードスマッシュっていないよな?」

「いないけど?それがどうした」

「……そうか、ならいいや」

 

 そいつらの言葉を素直に信じるのは愚かかもしれないが、どーにも策略を巡らせるってタイプじゃなさそうだし、嘘じゃなさそうだし…。鈴を襲ったのは、こいつら以外の……いや、IS学園内の人間ってことか?

 

「さぁて、互いに疑問も消えたみてぇだし。殺し合いの祭りを始めようか……!」

「言っておくが、オレたちは戦争の道具にはならない」

「あ……?」

 

 戦兎さんはきっぱりと兵器であることを否定する。それに金色の仮面ライダーは食って掛かる。

 

「逃げているだけじゃないのか?こうなった世界でそれがどれだけの綺麗事か……分かって言ってんのか?」

「……自分の言ってることがどれだけ偽善と欺瞞に満ちているかなんて、自分が一番分かってる!」

 

 篠ノ之束であった正義のヒーローは、過去の自分を思い声を張り上げる。

 

「それでも、だからこそ!オレたち科学者が現実にしなきゃならないんだよ……!ISもライダーシステムも兵器なんかじゃない……オレが証明して見せる!」

「お前独りで何ができるんだ?」

 

 唸るように呟くグリス。………――――まぁ、傍から聞けば綺麗事だわな、でも。

 

「独りじゃねぇ……俺もいる。いや、ここは……“俺達が”、が正しいか?」

 

 思わず傍に立ち、俺も声を発していた。俺も随分と正義のヒーローっぽくなったもんだ。始めは、モンド・グロッソで誘拐された自分のエゴの為だったのになぁ?

 それに、箒だけじゃない。戦兎さんの過去を知ったセシリアも、鈴も、笑顔で戦兎さんに夢を受け入れてくれた。もう、戦兎さんは独りなんかじゃない。

 ……あと、俺の言葉になんか簪はガッツポーズしてた。どうやら正義の味方の頭数に入れてもらったことが嬉しかったらしい。

 

「青クセェなァ……。だが、嫌いじゃねぇ。いいぜ、見せてみろ。心の火……心火だ。心火を燃やして……ぶっ潰す!」

「行こうか、一夏!さぁ、実験を始めようか!」

「しゃあ‼行くぞオラァ‼ドルヲタに負けたら末代までの恥だし‼」

「…んだと?ドルヲタ…、なめんじゃねぇぞォォ!」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

三人称side

 

 

「お前の相手はウチらか?」

「よりにもよってビルド、ですか。コレは都合がいい。フルボトルを渡してもらいましょう」

「うばうぞーw」

「ふっふっふ……君たちのチームワークは素晴らしいよ。だけどね、オレも団体戦ができるようになったんだ!皆、カモン!ボッチ卒業イェーイ‼」

「…なんか、抉ってくるよね戦兎さんって…」

「それを言っちゃあ…」

「それよりも戦闘準備ですわ皆さん!」

 

 校庭近くでは三馬鹿とビルドの戦いが始まってる。IS持ち達も援護に回っているため、戦力はIS学園が優勢ですらある。だが、黄金のライダーと戦っているクローズにとってそんなものは些事。シャルル・デュノアという人間が、油断してはならない存在であるがゆえに。

 

「うぉおぉぉぉッ‼」

「だぁぁぁぁぁりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼」

 

 グリスのサバットによる蹴りとクローズのパンチが衝突し、青と金の衝撃波を周囲に振り撒く。

 

「(――――隙ありィッ)!」

「ねぇわ、バカ‼」

「な、何でバレた!?特に心の声‼」

「そういうの、結構鋭いんだよ俺ァ、そらよ!」

 

【ツインブレイカー!】

 

 目まぐるしく火花を散らす両者の戦いは加速する。音速を超えたパイルバンカーの一撃がクローズに迫る…――――。

 

「それは前に見た、ッ!」

「お!?」

 

 だが、一夏の成長速度は凄まじい。一度見た行動には、即座に対処することができるようになっていた。

 

【ミリオンスラッシュ!】

 

 蒼炎が周囲を一閃する。眩き剣戟が千の翼の如く羽搏き、光の羽根を大地へと舞い散らせる。

 

「くひ、ヤルなぁ…!」

 

【ロック!】

 

 燃え滾る闘志を見せたグリスに構わず、一夏はビートクローザーに金色のフルボトルを装填した。

 

【ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!メガスラッシュ!】

 

 絡めとる黄金の鎖。錠縛の斬撃がグリスを襲う。黄金のライダーは翼を奪われた烏の如く、身体の自由を奪われた。

 一夏の変身したクローズは、剣を釣竿のように扱うと地面で藻搔くシャルルを空中へと放り投げた。

 

「ッぐくっ、はは…!中々だよなぁ、お前も……だが!」

「がはぁっ!?」

 

 物理現象を超えた、不思議なことが起こる。シャルルを捕えていたロックフルボトルで封印エネルギーがはじけ飛んだ。それだけではない、彼は空中で軸足を組み替えて無理矢理身体を動かす。

 その反動で、グリスはクローズに痛烈な踵落としをお見舞いした。

 

「全ッ然……微塵も‼これっぽっちも満たされねぇなァ‼もっと俺を笑顔にしろよ‼おっるぁぁぁッ‼」

「おぉぉッ!?」

 

 流れる動作でアッパーカット。さらにニードロップ、そしてエルボーと、喧嘩殺法を交えたサバットでクローズにダメージを与えていく。

 

「焦燥!灼熱‼激闘‼俺を満たしてくれる奴はいねぇのかぁぁぁぁぁッ‼」

 

【スクラップフィニッシュ!】

 

 黄金の身体に、黒翼が広がった。力強い音声と共に、鋼の大地をも穿つ一撃が蒼龍の戦士の身体を射抜く。

 

「うぐッ、あァァァァァッッ!?」

 

 周囲の地形すら蹂躙する爆発と共に一瞬で変身が解除され、一夏は大地を転がった。勢いは殺されることなく、箒達の元まで吹き飛ばされる。

 懐から落ちた一本のボトルが、グリスの手に渡った。

 

「ふん、このボトルは…ライオンか」

「くそッ…、!」

「だ、大丈夫か一夏!?」

 

 正しく圧倒的という他にない。戦争を渡る死神の異名に偽りなし、と言ったところか。一夏は自分の肋骨が数本骨折していることに気が付いた。このままでは、負けてしまう。つまり、箒のことが守れない……。そんな焦燥に駆られていく。

 その時、彼の目の前に…――――水色のレンチ付きドライバーが転がり落ちた。まるで使えと言っているように、タイミングよく。

 

「一夏?それは…、ッ使ったら!」

「ほぉ?お前もか……」

「あぁ、俺もだよ…!」

 

 彼らの前で鈍く光るドライバー。彼は、その巡り合わせに賭けてみることにした。

 

 

スクラッシュドライバー!

 

 

 凄まじく力強い声が丹田から鳴る。一夏は切れた唇を拭うと、懐から龍の横顔がプリントされているパウチ容器を取り出した。

 

「一夏っ!駄目だ…!」

「悪い、借りるぞ」

 

 スマッシュたちと戦っていた戦兎からの声が届く。だがそれでも、彼は戦う。戦うことを途中で投げ出すことはできない。

 

「……――――こいつに勝つには、これしかねぇんだよ!」

 

 

ドラゴンゼリー!

 

 

 それは、拒絶か試練か。ドライバーへゼリーをセットした瞬間、彼の身体は青い電撃に包まれる。

 

「がっ…ぐっ、ガァァァァッ!?」

「一夏!」

「心配……ッ、すんなよ……、箒……こんなもん…!」

 

 虚勢であっても、彼が貫き通す思いに揺るぎは無かった。

 

「戦兎さんは……過去の自分と戦ってるんだ……!その苦しみに比べれば……、俺ができなくてどうすんだ……‼」

 

 思わず零れた言葉と共に、彼はドライバーのレンチを殴るように叩きつけた。その動作によって、ベルトの機構がゼリーを潰す。

 

「変っ……、身……ッ!」

 

 さらに厳しくなる痛み。身を裂く稲妻の刃が彼を襲い、苦悶の声がさらに響き渡る。

 

「フン…」

「ッ、駄目か!」

「一夏もういい、外せ!」

 

 誰もが変身失敗か……と思った時だった。

 

 

 

 

潰れる!流れる!溢れ出る!

 

 

 

「う、おおオォォォォォォォォォォォォッッッ‼」

 

 彼の周囲にビーカーの様な装置が生まれ、その中が水色のゲルで満たされていく。それと共に沸き起こる……高揚した雄叫び。

 

 

 

ドラゴンインクローズチャージ!

 

 

 

「……ハァ……ハァ…、ふぅー……」

 

ブルゥァァァァ‼

 

 変身が完了する。

 青のゼリーが身体から吹き飛び、その場には白銀に青を纏う仮面の戦士が立っていた。クローズとは異なる銀色の素体、胸に付いた龍の横顔。水色の頭部の中に光る、オレンジの瞳…。

 

「……う……」

「一夏!大丈夫か?」

 

 彼の胸の沸き起こる感情の奔流。目の前に、金色の仮面ライダーが映り込む。

 

「……っおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ‼」

「うわぉう!?」

「……何だよこの力…。……負ける気が、しねぇ‼」

 

 途轍もない高揚感に襲われるも、叫び声を上げ何とか思考を冷静に保とうとする一夏。想像以上に闘争心が刺激されており、理性の維持が厳しいらしい。早々に決着を付けねばならないと、彼の本能が警鐘を鳴らしている。

 だが、如何に強化された力を使ったところで、今の一夏では付け焼き刃だということがグリスにも、彼自身にも分かっていた。敵も然るもの、すんなり勝たせてくれるほど甘くはない。

 

「衣替えか、良いだろう。ここからが祭りのメイン、精々踊るが良い…」

 

【フェニックス!】

【ライオン!】

 

 ツインブレイカーに赤いボトルを装填したグリス。それは永遠を宿す万死の黒炎。翼を得た黄金のフェネクスは大空を翔る。

 

【ツインブレイク!】

 

「喰らえ」

「ぐッ…!オォォォォォォォォ‼」

 

 鏖の凱歌が、白い躯体に襲い来る。しかし黙って燃やされるつもりはない。気合と共に放った裂帛の声が、永久の滅火を吹き飛ばす。だが、それでも…――――。

 

「…スクラッシュを使ったところで、俺との差は埋まらん」

 

【ユニコーン!】

 

 嘲るようにそう言って、彼はもう一つのボトルを取り出しドライバーへとセットする。

 

【チャージボトル!潰れな~い!チャージクラッシュ!】

 

 レンチを下げ、パイルバンカー型の武装に円錐の様なエネルギーを溜め始める。一角獣の力を得た刺突が、唸りを上げる。

 

「んなもん……やってみなきゃ分かんねぇだろ‼」

 

 白銀の戦士クローズチャージも拳を握る。彼の手元に出現したツインブレイカーへ、箒の肩に止まっていたクローズドラゴンが自ら納まった。

 

【アタックモード!】

【Ready go!】

【レッツブレイク!】

 

「「おぉらぁぁァァァァッ‼」」

 

 金と銀の戦士の拳は、お互いの身体に砲弾のようにぶつかった。

 

 

 超新星の誕生が如き、煌めく爆発が大地を焼く。せめぎ合う二人。だが、その拳に篭ったエネルギーの波動は、突如として均衡が崩された。

 金色の戦士の拳が振り抜かれた。

 

「ぐぅ……、ああっ!?」

「っつつ……。だが、どーやら俺の方に分があったらしいな……ん?」

 

 流星のように吹き飛ばされたクローズチャージは、這いつくばり、うつむきながらも穏やかな声で笑っていた。仮面の下では、満足げな表情をしていることだろう。

 

「言っただろ、俺は……独りじゃねぇ、って!戦兎さん!使え‼」

「お、ありがと!……飲まれない様にくれぐれも気を付けろよ!」

 

 遠方のビルドへ投げ渡される、赤と灰銀の二本のボトル。それらをドライバーへと装填した彼女は、ハンドルレバーを高速回転させていた。

 

【フェニックス!ロボット!ベストマッチ!Are you ready?】

 

「ビルドアップ!」

 

【不死身の兵器!フェニックスロボ!イェーイ!】

 

「ハァ!」

 

 赤と鋼鉄の色の変化したビルド。左腕のロボットアームに、背面から垂れるクジャクや金鶏のような尾羽。その姿、正しく…――――。

 

「……焼き鳥?」

「ちょっと簪ちゃーんッ!急に弱そうに言うの止めてくれるかな!?火の鳥だがら!不死鳥だから‼」

「うぉぉッ!?」

 

 そんなふざけたやり取りをしながらも、ビルドに油断は欠片もない。火の鳥の状態になるとクローズチャージの目の前を通り過ぎ、グリスを遠方へ突き飛ばした。さらに空中を飛ぶフクロウのハードスマッシュを火だるまにする。

 

「あ、うぇ?……うわぁ!」

 

 連続攻撃によって地面に叩きつけられたジョーヌは、スマッシュから人間へと戻された。

 

「うわぁぁん!負ぁ~けぇ~たぁ~っ!」

 

 戦兎の抜け目なさはそれだけではない。黄色い女が落としたフルボトルを拾い、ビルドは新たな姿へとフォームチェンジした。

 

【ウルフ!スマホ!ベストマッチ!Are you ready?】

 

「ビルドアップ!」

 

【つながる一匹狼!スマホウルフ!イェーイ!】

 

 白と青の二色のベストマッチが現れた。白狼の鉤爪と、巨大なスマートフォン型武装が特徴的な装甲をしたビルド。彼女はスマホのシールドを構えながら、残り二人へ突撃を開始するのだった。

 

「さぁ……どんどんいっくぞ!」

「舐めやがって、ウチらのボトルを…!」

「返しなさい!」

 

 その様子に呆気にとられたらしい黄金のライダー。銀色のライダーは手に持った獅子のボトルを振り、満足げに笑いを溢す。

 

「……へっ、どうだ?これでも分があったって言えるか?俺達は、“一人じゃなかった”んだぜ?お前らと同じでな」

「…――――。成程な、はなっから俺の持ってるフルボトルが狙いだったってわけか」

 

 静かにクローズチャージへと向き直るグリス。静かだが、その落ち着き様は嵐の前の静けさと言うにふさわしい。

 

「……舐めてたわけじゃない。が、悪ぃ。甘いことしか言えない奴らだと思ってたのかもなぁ……」

 

 すると、尋常ではない殺気がグリスの周りを覆いつくした。

 

「覚悟しろ。ここからは死の舞踏……、死神のパーティタイムだ……!」

 

 アイレンズを輝かせ、金色の仮面ライダーはツインブレイカーを構える。先程とは段違いの気迫に、一夏や箒は鳥肌が立った。

 

「……上等だ、やってやるよ」

 

 …――――その時だった。黒い影が、雨の様に地面を濡らす。

 

「……って、おい!?お前、何で…!」

「あぁん……。何だ?パーティに水差したのは?…――――お前か、銀髪」

「何でだ、何でお前がそれを持ってるッ!」

 

 白い龍の叫びに、銀色の髪が棚引いた…――――。

 

 

 

 

 


 

 

 

 一方、ビルドたちの戦いは危なげなく進んでいる。人知を超越した生命体であるスマッシュであっても、ISが束になって攻撃をしてくる上に、対峙する人間は遺伝子レベルでオーバースペックな因幡野戦兎。

 はっきり言えば、ビルドが負ける確率の方が少ないだろう。

 

「ぐぅぅ……!ッ!しまった!」

「お、ラッキー!」

 

 ビルドはスタッグハードスマッシュを変身解除させ、新たなフルボトルを手に入れていた。

 

「それを返せ‼」

 

 そう言って殴りかかって来るキャッスルハードスマッシュ。

 

「ヤダよッ!それっと!……ん?うわぁ!?」

 

 やすやすと避けるビルドだったが、その背後から迫ってきていたもう一人の襲撃者には気が付いていなかった。キャッスルハードスマッシュの後ろから急に伸ばされる華奢な手。

 病的なまでに白い指の中には、ビルドがブルから奪取した黄色と白のボトルが握られている。

 

「ちょっ……あいつ何やってんのよ!」

 

 キャッスルハードスマッシュの防御の牙城を崩さんと戦っていた鈴が、思わず素っ頓狂な声を上げた。

 IS操縦者の前には、銀髪をなびかせ、じっとフルボトルを見る眼帯の少女がいた。紅い瞳は、憎々し気にそれを見つめている。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒさん…?貴女がどうして…」

「こら!それ返しなさい!良い子だから、ねっ?」

 

 だが彼女は戦兎の言葉にも耳を貸さない。そして、制服の胸元から一本の“丸いボトル”を取り出した。

 

「…お前たちは、どうして…私の価値を歪めるんだ…」

 

 ビルドが使っているものとは違う、それ。

 

「スマッシュボトル!?なんで!ッ、まさか……」

 

 戦兎の脳裏に部室内の様子がよぎる。机の上に置いたままにしたスマッシュボトル。余りにも迂闊な可能性に、彼女ははたと思い至る。

 

「私は……“できそこない”なんかじゃない……。誰にも……、そんな事言わせない……ッ‼」

 

 無意識にそんなことを口走るラウラ・ボーデヴィッヒ。鎖された心の少女は慈母の如き安息を求め続けていた。

 自分の価値が見出せない彼女。力こそが絶対の意義だと思い込む幼子。それだけが彼女を昂らせ、貶めるもの。だからだろう。外界に触れて急激に揺さぶられた反動に耐え切れなくなった。

 …――――彼女は思う。

 再び力を得れば…このような苦しみから解き放たれるかもしれない。また、あの頃の教官に褒めていただけるかもしれない。そうすれば、きっとまた認めてもらえる…――――。

 そう思い、彼女はボトルの中の成分を開放した。

 

「う、あああ、あああああぁぁぁぁぁぁぁッッ‼」

 

 瞬間、周囲が冷気に満たされた。思わず顔を覆うスマッシュやIS専用機持ちたち。

 やがて、霧が晴れる。雨上がりの後の空の様に、冷涼な風が通っていく。だが、その空気は陰鬱だ。

 ラウラ・ボーデヴィッヒが立っていたはずの場所には、クラゲと消防士を掛け合わせたような怪物…――――『アイススマッシュ』がいた。

 

「ラウラ‼何やってんだよ……‼スマッシュに……なりやがって……」

「……ッルージュ!お前等もだ!一旦休戦しろ!戦うんじゃねぇ!」

 

 クローズチャージとグリスが遠くで声を張り上げる。

 

「くっ……!しょうがないなぁもう!えぇい!」

 

【ニンニンコミック!イェーイ!】

【火遁の術!火炎斬り!】

 

「やぁ‼」

 

 四コマ忍法刀に炎を発生させ、横一文字に振るうビルド。だが、アイススマッシュは手を目の前にかざし、水を空中に発生させる。

 

「え、うっそ消されたーっ!?」

 

 放たれた火球が水で包み込まれた。さらにアイススマッシュがその水を地面にたたきつけると、巨大な氷塊が出現する。

 

「くぬっ、よっくも!」

 

 自身の発明品に絶対の自信を持っていたビルドは思わず興奮してしまい、それを割って砕こうとする。…――――だが、しかし。

 

「だぁッ!?かった、硬ぁぁっ!?モース硬度的に10以上…?結晶の分子間力から変化させているの!?」

『ゥゥゥ…!』

「え、あ、ちょ…ッ!?」

 

 気付いたがもう遅い。アイススマッシュは片手で氷塊をを粉砕し、ビルドに礫として弾丸のようにぶつける。

 

「あ痛っ!?いった!?いだだだだ!?ちょっ、タンマ!お願い待って‼」

「あぁ、もうしょうがねぇなオイ!」

 

 劣勢を強いられるビルドを見かねて、そこに割って入る銀色の仮面ライダー。

 

「ラウラ!この馬鹿!落ち着け‼」

 

 一夏はラウラの握っていた片手を掴み、二本のフルボトルを奪い取った。そしてそのまま戦兎に向かって投げつける。

 

「……!一夏!そろそろ限界だ!暴走しかけてるよ!」

「この状態で解除したらヤベーだろ!?」

「あぁもう!こっちはこっちで…!」

 

【クマ!テレビ!ベストマッチ!Are you ready?】

 

「ビルドアップ!」

 

【ハチミツハイビジョン!クマテレビ!イエーイ!】

 

 戦兎はラウラと一夏を引き離すように戦闘に割り込むと、アイススマッシュから放たれるパンチを左手で受け止めた。

 

『AAAAAAAA‼』

「クッ……!パワーもなかなか……、ん?」

 

 突然、肩に設置されているテレビの装甲が輝きだす。そして、そこに銀色のアイドルが天使のウインクと共に映り込んだ。

 

『ハーイ!みーんなのアイドルっ、くーたんだよっ!ぷんっぷんっ!』

「「いや、何でこのタイミングゥゥゥッ!?」」

 

 液晶画面で営業アイドルスマイルを浮かべているのは誰あろう件のクロエ、もといネットアイドル『くーたん』。

 この状況にずっこけざるを得ない一夏。戦兎はパンチを受け止めてる最中なので何とか踏みとどまっていた。だがツッコミだけでも入れているのは、中々に芸人根性が旺盛である。

 

『いや知らないですよ!寝てたら急に変なスタジオに移動してたんですよ!?しかもなんか勝手に原稿が手元に来るし!わけわかんないし!』

「……くーたんだっ‼生きててよかったぁぁぁぁぁ~っっっ‼」

 

 こっちはこっちで人目もはばからずにメロメロになっているシャルル・デュノア。先程までの強キャラ感はどこへやら。高低差があり過ぎて耳が痛い。そしてIS専用機持ちからの視線も痛かった。

 

「お前ェ……」

 

 ドライバーのせいで暴走気味だった一夏でさえ脱力してしまう。一気にシリアスが台無しである。

 

「どーやらクロエの意識のみがこのテレビ内のスタジオに送られてきたみたいだね…」

『え~っと……ピンチなそこのてぇん↑さい↓科学者(笑)。“IQ600本郷猛を目指せ、クイズビルドネア”のコーナ~』

「いやなんで急に!?あと今(笑)って入れたね!?」

 

 ツッコミを無視してクロエは続ける。

 

『戦兎サンにクイズで~す……氷に不純物が混じるとどうなるでしょうか~…』

「え?そりゃ、氷の強度が弱く……あぁ、成程!ハイヤッ!」

 

 クロエからの問題に、即座に閃く戦兎。彼女はクマサイドのアームでアイススマッシュをひっぱたくと、彼女はラウラと距離を置く。

 距離を取られたスマッシュは、先程と同じように氷弾で攻撃しようとする。だが、それは悪手でしかない。

 

「ところがどっこい!」

 

 クマの手から“琥珀色の粘度の高い物質”を生み出し、怪人が生成した水に投げ入れるビルド。スマッシュは何も知らずに水を氷結させるも、その氷の色はハチミツ色。

 

「蜂蜜氷、一丁お待ち!美味しいよ~。でゃァァァァ‼」

『GAAAAAAAA!?』

 

 ビルドは脆くなった氷をクマの手のパンチで砕く。その剛腕から繰り出される一撃がアイススマッシュにダメージを与えた。それだけでは終わらない。彼女はボルテックレバーを回転させ、ラウラを救う法則を模索する。

 

「…――――勝利の法則は、決まった!」

 

【Ready go!ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

 電子音が再生されると、ビルドの胸のクマ出没注意のマークが発光、光のゲートとなり通り過ぎたビルドの姿を校舎よりも大きくする。

 

「ちょ…コレ大丈夫か!?騒ぎにならないか!?」

「巨大化しちゃったよ……」

 

 箒や一夏のツッコミもそこそこに、戦兎は迷い子を鎖された氷の中から救い出す。

 

『ハイヤー‼』

 

――――ざっばぁぁん‼

 

 鮭を捕るクマのようにクローで一掻き。すると、彼女の心の氷が砕かれる。後は、彼女が空に向かって手を伸ばすのみ…――――。

 アイススマッシュは緑炎を上げて爆散したのだった。

 

「いよっし!戻った!」

「ボーデヴィッヒさんのことはわたくしたちに任せてください、一夏さん!」

「ったく、世話焼けるわねこの子!じゃ運ぶわよ…」

 

 戦闘の必要が無くなった生徒たちが、ラウラの周りに集まっていた。その顔にはありありと心配の表情が読み取れた。なんだかんだで性格の良い少女たちである。

 

「(でも対戦相手に作戦丸見えじゃないかこのフォーム……)んじゃ、ラウラちゃんが何故こんなことをしたのかは後で聞くとして、まだ問題は山積みだね……?」

 

 彼女が振り返ると、グリスとキャッスルハードスマッシュがビルドとクローズチャージと向かい合っていた。

 

「……んじゃカシラ。死合、再開ってことでいいっすね?ハァ!」

 

 その言葉と共に殴りかかって来るキャッスルハードスマッシュ。

 

「うぉっと!?」

「戦兎さん!」

 

 紙一重で避ける戦兎のフォローをするため、一夏が駆け寄ろうとする。だが、そうは問屋が卸さない。

 

「よそ見してて良いのかゴラ!」

「うぐぉッ…!?にゃろう…!」

 

 グリスと殴り合うクローズチャージ。だが、一夏はシャルルにモノ申さずにはいられない。

 

「…いや、つーかてめぇもさっきまでくーたんにメロメロだったじゃねーか!どの口が言ってんだ!」

「……(図星)うるせー頭にエビフライついてんぞ」

「あ?黙れフランス産コロッケ」

「 ク ロ ケ ッ ト っ て 言 う ん だ よ エ ビ 」

「 ん だ と イ モ 」

「お前等戦闘中でしょうが!何してんだ、っとに!交代っ!」

 

 見ていられなくなったのだろうか。クローズチャージを押しのけ、ビルドがグリスの前に立つ。

 

「お、今度はお前か」

「そーだ、オレはビルド!創る、形成するって意味の…【ばきゅん】ぉおおおおぉぉぉ!?ちょ、名乗ってる最中に攻撃しないでよ‼」

「うるせぇ、なめてんじゃねーぞ……っと?」

 

 ふざけた態度から一転、ビルドは身体の各部位にあるテレビからクマの手が飛び出しグリスを攻める。

 

「……ッ、奇想天外な攻撃しやがって…」

「こんのっ…、…!?」

 

 ジリ貧前に少しでも体力を奪っておこうとしたビルドの脚が、どういう訳か突然動かなくなった。

 

「ちょっとラウラ!?ホント何してんのよ‼」

「銀髪……お前……」

 

 鈴音の声で足元を見てみれば、さっきまで意識を失っていたラウラが必死の形相で足にしがみついていた。

 IS専用機持ちの腕力での静止を振り切って来たのだろう、息も絶え絶えになっていた。鈴は殴られたらしい、頬が赤くなっていた。だが、それでも銀髪の少女のことを思うのは、ひとえに心配してのことだった。

 

「ふざけるな、仮面ライダー……!また…、お前たちもISと同じように、私の場所を奪っていくのか……!」

「あぁもう……離しなさいよ!っもう!」

「またお前か、銀髪…」

 

 グリスは呆れ、頭を振る。彼女の口からは恨み言が漏れている。戦兎の脚は彼女の強靭な筋力で押さえつけられていた。ビルドのスーツ越しでも動かしづらいとは、凄まじいの一言に尽きる。

 

「いかせない!絶対に……!私は……私は!今度こそ認めてもらうんだぁぁぁぁぁ!」

 

 彼女のその思いに応えるように、フルボトルが反応する。またもビルドの胸のテレビが映った。

 

「今度は何!?今結構ピンチなんだけど!?」

『え……何?まだ出番あるの?』

 

 混乱状態で言う戦兎と、やれやれと原稿用紙を持つクロエ。

 

『えーっと?続いては、注目の人の素顔に迫る、仮面の向こう側のコーナーです?……って、え……?』

 

 その原稿用紙を目で追って話すクロエの視線が、突然淀む。あまりの衝撃に口をつぐもうとするも、どうにもフルボトルの力が働いているのか、この役割を降りることはできない。

 

『ドイツ軍黒ウサギ隊隊長のラウラ・ボーデヴィッヒ……彼女の正体は試験管ベビーである……』

 

 テレビ画面がラウラの記憶とシンクロし、彼女の過去を映す。そこに映っていたのは、羊水に漬かっている銀髪の少女たち……。

 

「「「………――――え?」」」

 

 その言葉と映像に、周囲にいた全ての人物が固まった。そんな非人道的な研究が行われていたと言う事実が、信じられない様子だった。

 

『彼女の元々の識別名は遺伝子強化試験体C-0037。彼女はただ、戦いのために造られ、生まれ、育てられ、鍛えられた……。その遺伝子強化体の中でも完全な成績を維持していた。しかし、その兵器人形としての役割もISの台頭によって終わりを告げた。直ちにIS適合率向上の為、肉眼へのナノマシン移植手術が行われた……』

 

 息を顰め、仮面ライダーやIS学園の生徒は聞き入ってしまう。

 

『結果は失敗だった……』

 

 足元のラウラは忌々し気に顔を歪める。過去の汚点が思い出されたのだろうか……、今にも泣き出しそうな表情になっていた。

 

『ある時血の様に赤いパワードスーツの人物がラウラに向かってこう言った……“できそこない”と……』

 

――――その人物は……『ブラッドスターク』

 

(またあいつか……!)

 

 一夏は心の中で舌打ちをする。人の秘密を抉り晒し、せせら笑う赤い蛇……。その醜い性分が許せなかった。

 

『その人物が言った通り、ラウラ・ボーデヴィッヒは周囲から“できそこない”の烙印を押されていた……そんな折だった、彼女は織斑千冬に出会った。織斑千冬の手によってIS専門部隊最強に返り咲いた彼女は、教官に尋ねた』

 

 そこでIS学園生徒たちは、ラウラと織斑千冬との関係を知る……。

 

『【どうしてそんなに強いのですか?】【どうしたらそんなに強くなれるのですか?】と』

 

 そして、クロエは続ける。どうしてラウラがこんなバカげた行動をしたのか、その理由を。

 

『【私には、帰りを待っていてくれる(一夏)がいる。コーヒーを淹れてくれている幼馴染(惣万)がいる。“おかえりと言ってくれる”…――――守りたいと思う人間がいる】』

 

 その言葉に一夏はハッとなり顔を上げた。

 

『いつも冷徹な表情しか見せない彼女の教官は優しく笑っていた。…――――だが、彼女はそれが我慢ならなかった。彼女が憧れる教官の強さを変えてしまう……そんな存在がいることが許せなかった』

 

 ラウラの理論はねじ曲がってはいた。だが、頼るものをそれだけしか知らない幼子である彼女にそれを改めろと言うのは酷だと、全員は思った……。

 

『さらに、ファウストの出現によって世界に新たなテクノロジー、ライダーシステムが知らしめられた。それは、ISに勝るとも劣らない力を秘めたるもの……』

 

 仮面ライダーたちは自分の力を思う……。その力の在り方を改めて自らの胸に問う。

 

『彼女にとって強さこそが自らの証明だった。自分として、人間として認められるにはそれしかない……。そして、その居場所を奪おうとする仮面ライダーが許せない……。そんな思いから、ラウラ・ボーデヴィッヒはビルドの持っていた未浄化のスマッシュボトルを使い、スマッシュになった。すべては……力を手に入れるために……』

 

 ラウラの過去が、映像と共に皆に伝わった。誰もが何も言えずに口を閉ざす。閉ざさざるを得ない。

 

『……あれ?急に……意識が……ゴメン戦兎。以上、仮面の向こう側、のコーナーでした……』

 

 テレビの映像が消え周囲に静寂が訪れた。誰も、何も言わない。だが、それを断ち切るように、つかつかと銀髪の少女に近づく金色のソルジャー……グリスの変身者、シャルル・デュノア。

 

「お前……ネビュラガスを浴びたよな……」

 

 ビルドの脚につかまったままの、空虚な目をした少女を乱暴に持ち上げる。慌てて止めようとする戦兎と一夏だったが……。

 

 

 

「何しでかしたか分かってんのかバカ野郎‼」

 

 

 

 グリスは激怒していた。……しかし、それは理不尽なものではなかった。

 

「ネビュラガスはな……浴びれば死んじまうかもしれねぇ危険な代物なんだよ!力を手に入れるのに、命懸けんな‼」

 

 銀髪の少女のことを思いやっているかのように……いいや、実際思って言っているのだろう。その震える拳は自分自身を危険に晒したという行為に怒りを抱かずにはいられない。

 

「…――――ぇ、に…お前に、何が分かる!そもそも、お前たちだって同じだろう!」

「同じじゃねぇ!お前が死んだらてめぇの隊員(仲間)はどうなる!」

「…――――?仲間……だと……」

 

 シャルルが言った言葉で、空虚だったラウラの目に光が灯る。

 

 

 

「……お前、ドイツ軍の隊長なんだろ……!?お前の下にはお前についてくる人間がいるんだろ。お前がそこにいるのは他でもねぇ……お前は認められてんだよ!それを一番知らなきゃなんねぇ……“カシラ”のお前がそんなんでどうすんだァ‼」

 

 

 

 そう捲し立てて襟を掴んでいた手を放し、小柄な彼女を放り投げるように下ろすグリス。戦兎や一夏にはその在り方がどこか、…――――自分たちに似たようなものに見えていた。

 

「戦兎さん……」

 

 二人は頷き合うと変身を解除し、奪ったボトルをグリスに差し出す。

 

「……、あん?」

「これ、返すよ」

 

 グリスの手に乗せ、握らせる戦兎。

 

「……、っち。そんなので俺たちが引くと思ってんのか?」

「そうだそうだ!勝負しろビルド!」

「あ゛ぁ~、消化不良でイライラするぜ……お前ら、行くぞ」

「ってえぇ!?カシラ文脈おかしくねぇ!?」

「え……何ですかその自分ルール……」

「ったりめーだろ、折角の祭りが白けちまった。それに、くーたんじゃなかったと分かっただけで目標は達成だ……オラ、さっさとしやがれ」

「お、覚えてろよ~。次は僕たちが勝つぞ~」

 

 踵を返す四人はワイワイ騒ぎながら来た道をゆっくりと歩き始める。だが、変身を解除したシャルルだけは違った。歩みを少しばかり止めると、振り向きもせずにこう言った。

 

「オイ、ラウラとか言ったな?俺から言うべきことはなんもねぇ……。けどまぁ、気持ちは分かる……。誰かを憎まなきゃ……やってられないよなぁ」

 

 

 

 自分の事を『兵器』と言った金色の仮面ライダー。その時、ラウラは初めて誰かから必要とされているように錯覚した。本当にそうなのかはまだ分からない。ただ、銀色の少女の目には、その在り方がどこか英雄然としたものに映り、視線を捉えて離さなかった。

 忌々しい憎しみの対象だった兵器、仮面ライダー。兵器に身をゆだねた者同士なはずなのに、どうしてそうまで違うのか……――――ラウラにはまるで分からなかった。




一夏「えぇっ!?ここで終わりかよ!?俺の活躍は!?クローズチャージの大活躍は!?」
戦兎「そんなのあるわけないでしょ?オレのヒーロー感が薄れるでしょうがぁ」
鈴音「いや、どう考えても後半グリスがヒーロー感あったわよ……」
一夏「はぁ……クローズチャージ、初登場なのに……」
箒「よしよしヾ(・ω・`)後で好きなもの食べさせてあげるから泣くなよ一夏」
一夏「うん……うん……(´・ω・`)」
セシリア「姐さん女房ですわねー…」
簪「…若干子供っぽい一夏にはちょうどいいかも…」

※2020/12/21
 一部修正


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第四十六話 『白銀のムーンサルト』

戦兎「は~い、てぇん↑さい↓科学者を自称する残念美人の因幡野戦兎は……ってだれが書いたんだよこれ!……オイ、クロエ……何キョドってんだよ待てよコラ!」
一夏「はいはい、自称天才(笑)科学者の因幡野戦兎は仮面ライダービルドとなり仮面ライダーグリス配下の三馬鹿ラスと対決した」
宇佐美「ハッハハハァ!クローズチャージ、初登場と言うのに無様だなァ!?所詮財団Xが提供したグリスには遠く及ばないィ‼ヴェハハハハァ‼」
一夏「あ゛?問題ねーよ、こっから巻き返しがすごいんだよ。万丈構文のきっかけにもなるしよ、それよりもお前ナイトローグのリストラの心配しろよ」
戦兎「ちょ、ちょっと待って!それオレの豆腐メンタルがオーバーフローすることになる!へいき、へっちゃら……じゃないから!話し合おう!」
惣万「戦場で何を莫迦なことを!」
箒「戦場、なのか?ここ……ん?イメージCV:悠〇碧に水樹〇々……?う、狼狽えるな……自分……ッ!」



クロエside

 

 はっと目が覚める。訳の分からないスタジオに意識が持っていかれ、いつものようにネットアイドルくーたんとしてハイテンションで受け答えもしていた……。だが、そこである記憶がフラッシュバックした。

 

「思い……出した……」

 

 ベッドの上で目覚めた私は、悪夢を見たように冷や汗を垂らしながら今まで忘れていた自分の記憶を言葉に出す。

 

「私は、C系列の遺伝子強化試験体……。ラウラ・ボーデヴィッヒと同じように生まれた、月の落とし子(ローレライ)……」

 

 ふと寝台にある鏡に顔を向け、自分の顔を見る。

 

「……、そう言えば、実験で変色した眼が、元に戻っている?」

 

 超越の瞳(ヴォータン・オージェ)の不適応によって、眼球の黒化と金色になったはずの瞳。それが生まれた時のままの赤い状態になっている。暫し疑問に思うも、突然叩かれたドアに視線を送らざるをえなかった。

 

「……、どうぞ」

 

 やって来たのはカフェのマスター、石動惣万さん。無表情だった下宿のマスターは、その声音を聞いたことで確証を得たように眉を潜めた。

 

「……思い出したか」

「……はい、マスター。……エターナ義母さんと、知り合いだったのですね」

「あぁ……そうだな」

 

 エターナ・クロニクル……それが私の育ての親であり、先生であり、ドイツ軍に収容されていた年若い女性。その名を聞いて、マスターは悲し気に今は亡き親友に思いを馳せているようだった。思わず寝台の花瓶に生けてある白いカーネーションの花弁をそっと触れ、口を開く。

 

「ま、取り敢えず、だ。飯だぞ」

「……え?」

「……ま、そんな気分じゃ、無さそうだな……ココアでも持ってくる」

 

 理解が追い付かなかった。私は、言葉が出てこない…。

 

「何で……」

「?」

「何でそんなに優しくするんですか!?」

 

 分からない、何故私をいつも通りに扱うんです?

 

「私は……、人ではないのですよ!?何で!?私は……私は……」

「何だ?この人でなし……とでも言って欲しかったのか。そもそも、エターナから預かった時点で、お前のことなんてお見通しなんだってば。それ全てを分かって、俺はお前を人間として育ててきた…………。生まれがちょっと違うだけで、“人間じゃない”なんて言うな」

 

 帽子を脱ぎながら優しく笑ってくれるマスター。

 

「むしろ……お前は俺よりも人間だよ。そんなこと言ったら、俺はなんだと思う?」

 

 ……?普通な、ごく一般的な……優しい人間では?

 

「生き残るために年端もいかない同じ境遇の屍を越えてきた、とんでもない大量殺人者だ」

 

 一拍溜め、感情も込めずに事実のみを私に伝える。……――――え?

 

「………――――殺人、者…?」

「……俺やエターナの出自は少年兵でな。この名前もその頃付けた偽名だ。相手を殺さねば自分が殺される……そんな世界で生きてきた。前に言っただろ、薄ら暗いことやったって……」

 

 そう零したマスターの背中越しに血煙が漂う砂漠が幻視される……。

 

「……でも、生きなきゃいけないんですし……、しょうがないんじゃ……」

「…生き残るためだとか言っても、結局殺しあう人間は皆悪魔だよ。しょうがないとか言い訳しても、結局俺が罪を背負っているのには変わりがない」

 

 皮肉気に顔を歪め、両手を胸の高さまで持ち上げ私に言った。

 

「俺の手の平な……、時たま真っ赤に染まって見えるんだよ。ずっとずっと、あの頃の鉄臭い匂いが鼻の奥にこびりついていて……俺が真っ当な生き方が出来ないことを伝えているみたいにさ」

 

 濡れた手を払うように腕を振ると、私が座っていたベッドに寄りかかる。

 

「それにもう……人の死に、涙が流れなくなった。悲しむということができなくなった俺は、人でありながらも、怪物だ……。いいや、そもそも俺は……化け物だったか」

 

 どうにも、マスターの心の中は……私とどこか似ている風景が広がっているように思う。いいや、それどころか、自分の事を私以上に苦しんでいる……?

 

「……だが、こんな俺でも生きてくれていいと言ってくれた母さんがいた。だから、俺は母さんの教えを守る」

 

 花瓶の花を見て、眩しいものを見るように私に目を細める父親代わりな大切な人……。

 

「俺は生きたいと思う“人間”を見捨てない。……お前も、人間だ」

 

 頭にあったかい、華奢な手が置かれる……そしてクシャクシャと私の銀髪を梳くように撫でる惣万さん。

 

「こんな私が……生きていけると、前に進めると思っているのですか……?」

「とある最後の希望が言ってた…――――。前に進むには、今を受け入れるしかないだろうってな。俺たちが何者だろうと、今を生きようぜ?それだけしか、俺達にはできないんだからさ」

 

 な?と言うように首をコテッとかしげるマスター。男性らしからぬその挙動は、母親代わりのエターナ義母さんを思い出した……。

 

―人は、泣きながら生まれてくる。これはどうしようもないことよ。だけど、死ぬときに泣くか笑うかは本人次第……―

 

―これね、ソーマって子に教わった言葉なの……素敵でしょ?―

 

―私にそれを言うんですか?人造人間の私に?―

 

―大丈夫……貴女は確かに鉄の子宮から生まれた……けど、貴女には心がある。心に従って笑ったり、泣くことだってできる。それは素敵なことで……人間にしか出来ない事よ―

 

 …………あぁ、義母さん。私…、生きても良いんですね。……人間として、生きて。

 

「……はい、そうですね。生きたいです」

「それじゃ、飯食おうぜ。今日は休みだからな、腕が鳴る……!」

「あ、人参抜きでお願いします」

「好き嫌いはダメだぞ!」

「やです、嫌いなんです」

 

 コラ、と優しくチョップしてくるマスター。それをキャー、と棒読みで避ける私。……私はいつも通りの日常を、これほど愛おしく思ったのは初めてだった。

 

 

 

 

 

 一方……もう一人の月の落とし子……。

 

戦兎side

 

 仮面ライダー部の部室……。そこにけちょんけちょんになった銀髪の軍人が力なく俯いていた。

 

「……私を、どうするつもりだ…」

「あー……っと、オレとしてはスマッシュボトルを奪われたのは自分の過失だから責められないんだけど……一夏たちがちょっとな」

 

 そう言ってオレは各々の定位置に座っている教え子たちを見る。始めに口を開いたのは一夏だった。ゆっくりとラウラ・ボーデヴィッヒに近づくと、顔が見える位置に陣取った。

 

「……お前には、俺を殴る権利がある」

「……ッ!」

 

―ゴ……ッ!―

 

 ぅっわ……。今のは痛い、マジで痛いよアレ……。唇が裂けて血が出てるし……。絶対頬の中も歯に当たって切れてるって……。

 

「…………」

「俺を殴ってどんな気持ちになった?今のお前は、本当に憂さが晴らせたか?…………それとも、嫌な感じがしたんじゃねぇか?」

「……ッ!」

 

 その言葉でラウラ・ボーデヴィッヒは……迷い子のような不安に押しつぶされそうな顔を歪める。一方の一夏は口元を乱暴に拭い、血を吐き出す。……掃除してね?

 

「まぁ……急に俺を許すことなんてできねぇだろ。だったら、決着をタッグマッチトーナメントでつけようじゃねぇか。戦って、お互いを知れればさらに良い……」

 

 ……いや何言ってんだ、この筋肉馬鹿。何、一昔前の青春ドラマ?うん、ちょっと呆れた……。でもなんか、青春時代を送ってこなかった身としてはちょっとウルッとするじゃん。

 おっと、次は……箒ちゃんか。

 

「……力とは、簡単に言えば暴力だ。そこに善も悪もない。故にそれを使うものにこそ、自分の在り方が問われる」

 

 ラウラちゃんの前に座り、優しい諭すような口調で机を挟んで言葉を投げかける。

 

「小学校の頃の話だ。私は篠ノ之束のISの発表による重要人物保護プログラムによって各地を転々とし、心身ともに参っていた…………」

 

 …………、うん、何か……、ゴメン。いや本っ当に。

 ……、一夏ァ!ヤメルォ‼そんな目でオレを見るなァ!確かに昔のオレの所為だけども‼反省!今のオレは反省してるから!

 

「憂さを晴らすように剣を振るった。憎しみを乗せて竹刀を振るった。その行いが自分の心の醜さを表すものとは分かっていたのにな……。そしてふとした時、真剣を持った時だった……不意に、唐突にだ」

 

 

 

 

 

―これで篠ノ之束を……斬りたい……―

 

 

 

 

 

「そう思ってしまった……そして――――、……いや、何でもない。その時恐ろしく感じたよ……自分も、篠ノ之束(あの女)と同じく、醜く力を振るうことしか出来ない人間なのでしかないのか、と」

 

 ……やっぱり、以前の篠ノ之束(オレ)に対する感情に変化は無い、よな。記憶……取り戻さない方が良いのかな。

 

「それからだ、私は自分を律し、力の在り方を考えるようになったのは……」

 

 そう言って、箒ちゃんは身を乗り出し、ラウラちゃんの手を握る。彼女は胡乱気に顔を上げ、眼帯と包帯越しに視線を交わらせる。

 

「ラウラ……、私は一度、力に飲み込まれてしまった人間だ。だが、それは力のせいではない。私という人間が弱かったからだ。私は今でも、未熟な自分の弱さと戦っている。……、だからラウラ……、お前も負けるな」

 

 そう言って、オレに向かって笑顔を見せてくれる。それがいじらしくもあり、穏やかでもあり…――――。お次は…オルコット嬢か。

 

「わたくしは旅で……多くの人間を見てきました」

 

 口元をスカーフで隠し、伸び放題な金髪をいじる。……オルコット嬢?お前……。

 

「……誰かを守りたいという気持ちや、自分たちの正義を守りたいという気持ちがどんどんエスカレートすることがあります。正義のためなら、人間はどこまでも残酷になれるのですよ……」

 

 ……おおよそ十代の少女がしてはいけない表情をしている。まるで、目の前で何人もの人間が死んでいったかの様な…………。

 

「ボーデヴィッヒさん、貴女の正義は……、ただの“力”としか扱っていませんわよね。誰の為のものなのですか?貴女は……誰かの為に力を使えますか?」

「私が……、間違っているというのか……!私の正しいことを……否定するのか!?私の為に力を使って何が悪い‼」

「誰かの正義は誰かの悪って事もある。アンタの(正義)とアタシたちの願い(正義)が同じとは限らない」

 

 鈴音ちゃんが引き継ぎ、脇から口を挟んで来た。

 

「私は……!でも……それだけしかないんだ‼誰かから……認めてもらうには、何かを倒すしか‼それしか教えてもらっていないんだ‼」

 

 涙ながらに机を叩き、頭を抱える銀髪の少女……。うん、そうなんだろうなぁ。可哀相だけど、それしか知らなかったんだね。オレと一緒で何も知らなかったから、真っ直ぐだった。

 

「ラウラ……アンタ、力を得るためなら命は惜しくないって言ったわね。でも、自らの命を捨ててまで力を得ようとして、誰が認めてくれるの?それをよく考えてみることね」

 

 そう……ラウラ・ボーデヴィッヒの在り方は、誰かを倒さなければ自分を証明できない様な代物だ。それだから、オレたちと価値観が重なり合わず、さっきの様な出来事になったのではないだろうか……。

 

「ラウラ……アンタの運命(さだめ)は、アンタが決めなさい」

 

 最後に優しく肩を叩き、俯くラウラちゃんにいつものセリフを告げる。

 

「ほら……簪も。何か一言言いなさいよ」

 

 今までだんまりだった簪殿。こういう時に何か言うタイプじゃないんだけど……大丈夫かな?

 

「じゃ、一言。……完璧な人間なんていない……、互いに支えあって生きているのが“人生”っていうゲーム。最初から完璧である必要なんてない。最高である必要なんてない。他人に頼って、縋って、それで一番になればいい」

 

 そう言ってからパソコンに目を戻す……、中々いいこと言ったじゃないか。開いてるサイトが『名言集』ってのは見なかったことにしてやろう……。

 

「………、…何故私を助けようとする…?」

 

 やがて、重々しく口を開くラウラちゃん。

 

「手が届くのに、手を伸ばさなかったら死ぬほど後悔します。それが嫌だから手を伸ばすのです。それだけですわ」

 

 まず、献身的な心を持つ英国淑女が、ラウラちゃんの心に手を伸ばす。

 

「前にアンタとアタシは心の底から本音を言い合った……。ならアタシたちはもうダチよ。それに、辛い目に遭っても、ダチと一緒にいられたほうが安心するでしょ」

 

 次に、懐が広い中華娘が笑顔と共に言葉を送る。

 

「誰だって誰かに必要とされて生きていきたい、貴女だってそう思っているはず。だって……、分かるから」

 

 最後に、孤独を知り共感を得た少女が無表情ながらもラウラちゃんを労わる。それぞれの言葉を聞いたラウラちゃん……。

 いたたまれなくなったのか、よろよろと立ち上がり、教室から逃げるようにドアへ向かう。そして振り返り、一夏や箒ちゃんに視線を向ける……。

 

「…何故だ?何故……、お前たちはそんなに強い……」

「俺が力を使って戦ってるのは……誰も戦わなくていいようにするためだ。戦兎さんと、この学園でできた新しい友だち、そして俺のことを信じた人たちを守りたい。誰かの笑顔を守りたい、その思いを抱いて力を使っているんだよ」

「……一夏が誰かの笑顔を守るなら、私は一夏の笑顔を守るだけだ。それが私の強さ……、と言えるのかもな」

「「「先生、コーヒー下さい(まし)」」」

 

 オレも思った。

 

「……、そんなちっぽけな……」

「ちっぽけだから、守らなきゃなんねーんだよ」

 

 その返答を聞いて、ラウラちゃんは顔を歪ませて教室を後にした…。オレ?生徒たち&オレ用の泥みたいな苦いコーヒーを淹れるのに忙しかったんだよ。

 

 

 

 

三人称side

 

(それでは……私は……私は……、何の……、為に……?)

 

 ゆらゆらと、銀髪を揺らしながら今まで過ごしてきた人生を振り返るラウラ。だが、唐突にある男の言葉が脳裏に浮かぶ……。

 

―……お前、ドイツ軍の隊長なんだろ……!?お前の下にはお前についてくる人間がいるんだろ。お前がそこにいるのは他でもねぇ……お前は認められてんだよ!それを一番知らなきゃなんねぇ……“カシラ”のお前がそんなんでどうすんだァ‼―

 

 自分とは対極に位置する金色の仮面ライダー……。その男の言葉が頭の中から離れない。同じ、兵器として織斑一夏と戦う存在なのに……どうしてそうも……。

 

「………――――、クラリッサ。私だ……」

 

 グリスの言った仲間……部下の事が知りたくなった。なぜか、今まで忌避感を感じていた部下への連絡もすんなりできていた。

 

『た、隊長……?』

「聞きたいことがある……。私は…―――――――」

 

 

 その後、夕暮れを受けて、科学の落とし子の頬は輝き、細々と嗚咽が漏れていたのだった……。そこで語られた内容は、誰のあずかり知るところではない。だが、その声はどこか、答えを得た様な、安堵の響きを持っていた。それだけは、確かなことだった…――――。

 雨が降る。彼女の頬に雨が垂れる。黒い汚れた雨ではない。ただ、それは月の光を受けて煌いて…――――。




Mデェス!「因みに今回のあらすじ紹介は不味い飴がウルト兎と言うユーザーにアイデアを貰って書いたらしい……デェス!(ヤケ)」
箒・カデンツァヴナ・イヴ「サルミアッキもウルト兎様もアイデア募集中。またウルト兎様は他の小説ユーザーの方々からの相談も受け付けるそうだ……。私の名前、長っ……」
風鳴惣万「この小説は、楽しい時を創る気ゼロの財団X(財団B感)と、ご覧のスポンサー(ウルト兎様)の提供でお送りしました。さて……エミュテウス・アメノハバキリ・トローン(羽撃きは鋭く、風切る如く)」<ジャキーン……☆ミ!
箒&M「「ちょっと!?私たち『フィーネ』じゃないから‼ってか仲間になっただろう(デェェス)!?」」
一夏・宇佐美「「……ゴメン、シンフォ〇アネタに走らせて……」」


※2020/12/28
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第四十七話 『ベストマッチなタッグマッチ相手』

戦兎「仮面ライダービルドでありてぇん↑さい↓科学者である因幡野戦兎は……………………、えぇっと~……。前回空気だったね……うん、以上!あー紹介する気失せちゃったよ、後は勝手にやって~」
シャルル「ん?今度は俺があらすじ紹介か?つってもなぁ?俺もくーたんの動画見てるので忙しかったしなァ」
ブル「カシラ、それ忙しいって言わない」
シャルル「いやぁ、気が付いたら午前四時を回っててな?ならくーたんのトロ甘な美声を聞いて眠ろうとしたんだがそれがダメだった!耳元でくーたんが囁くようにさえずってくれて心臓がどきどきバクバク、傍に居てくれるような母性溢れる『『『ハイストップ!ストップストォッ~プッ‼』』』んだよお前等、まだ三時間は語れるんだが?」
ブル「勘弁して下さいよ……。ちゃんと宣伝しないと、私たちの出番が減るかも……」
シャルル「別に減っていいぜ?その分くーたんの話を求ム!」
三馬鹿ラス「「「ヤメテ!?さてさてどうなる第四十七話!?」」」



 皆様御機嫌よう。セシリア・オルコットでございますわ。只今タッグマッチトーナメントに向けて仮面ライダー部の方々と一緒に自主練習をしているところなのですが……。

 

「分かりづれーよ横文字使えば頭良いと思ってんだろもっとシンプルに言えよ」

「……むぅ……そうだな、ぎゅわーん・ぎゅいーん・はっなびっがどーん!って感じだ」

「成程、大体分かった」

「なんでですの」

「え?わかるでしょ?」

 

 そうわたくしに言ってくる一夏さん、箒さん、鈴さんのお三方。

 

「脳筋に、常識言っても、馬鹿を見る……」

 

 わきからは簪さんがわたくしにフォローの言葉を言ってくれました。それがハイク、と言うモノなのでしょうか?

 

「はぁ、この筋肉お馬鹿様方……――――あら?」

 

 あそこの物陰で、ジト目でこちらを見ていらっしゃる方は……。

 

「……。ラウラさん?」

 

―サッ…………|д゚)―

 

 一斉に視線が集まると、ハッとしたように身を近くの柱に隠しました……どことなくハムスターを思わせますわね。

 

「あっちゃあ…………やっぱし俺の事憎んでるんだろーなー…」

(いえ…………どちらかと言うと……仲直りしたいのに照れくさくて、なかなか切り出せない幼稚園児に見えるのですが……)

 

 ……まぁ、言わぬが華ですわね。

 

「ラウラ?ラウラじゃない、おーい!アタシよー!」

 

―ビクッ( ゚Д゚)―

 

 鈴さんが声をかけます。あ、でもスタコラサッサと逃げるように去っていきますわね……あ、つまずいてしまわれました。

 

「へみゅッ!……ぬー!」

 

 ……何だか、可愛いですわね。

 

「鈴ェ……」

「あーもう、ちょっと待ちなさいよ!オーイ待てー!」

 

 そう言って鈴さんは彼女を追ってどこかへ去って行くのでした。

 あぁそうですわ。タッグマッチトーナメントの組み分けなのですが……ご覧のように一夏さんと箒さんペア、わたくしと簪さんペア、鈴さんは……。

 

「待ちなさいよラウラー!アタシと組みましょうよー!」

「ついてくるなー!もー!」

 

 あんな感じですわね……。鈴さんの性格なら、ラウラさんとペアになりそうですわ。対策をしっかりと立てておきましょう。

 

「さて、では簪さん。貴女から見て一夏さんたちの連携はどうです?」

「どちらも接近戦タイプ……懐に入られると私では対処できない。セシリアは?」

「接近戦は苦手……と言うわけでは無いのですが、最近はビットのブルー・ティアーズの制御ばかりしていたので……。彼らを相手にするとなると厳しいものがあります」

 

 さっとインターセプターを片手に出しクルクルと振るう……よし、昔の勘は鈍っていませんわ。

 

「それじゃ……遠距離攻撃のハメ技でHPを削る?」

「ゲームみたいに言いますわね……まぁその戦法が確実そうですが」

 

 見たところあの動きについて来れる生徒は学園でも一握りいるかどうかですし、箒さんのISの形……通常の打鉄ではなく一夏さんがクラス代表を決めるために使ったモノの改良型……因幡野先生のチューン機でしょう。

 

『曰く、片目が見えない故の配慮らしい……ハイパーセンサーの感度が底上げされ、電気刺激として私の右目の代わりに脳へ情報を送っている為、視界良好だ』

『それ実質専用機だよな?』

 

 先程の会話が思い出されました。因幡野先生の正体が仮面ライダー部のメンバーには知らされましたが、あのISを見れば納得と言いましょうか。

 

 顔を覆う口元が出たバイザーは資料にあった白騎士を思わせる形になっており、火傷の跡を人目に晒さなくて良いように配慮されたオリジナルのISスーツ……第二世代機でありながら第三世代機と同様の力を持つ打鉄。箒さんは『打鉄・旭』と名付けたそうですわね。箒さんを思わせる朱色の線が幾筋もボディに走っていて、いつか見た日本の甲冑を思い出しますわ。

 

「でもセシリア、気を付けよー……。一夏も箒も手の内をほとんど晒してない、本気がどの程度のものなのか図り切れない……」

「えぇ、勿論ですわ。それに、鈴さんたちのペアも侮れませんしね……」

 

 さて……タッグマッチトーナメント。どうなるのか楽しみですわ……!

 

 

 

 

三人称side

 

 やがて六月の最終週になった。観客として各国の要人、軍関係者、IS関連企業の研究員が来るはずなのだが……。

 

「あれ……?前回よりも少ないわね?」

 

 疑問の声を上げる鈴に、近くにいたラウラがぼそりと返答する。

 

「……ファウストの襲撃によって立て直しになった企業が幾らかあるのだ。それにしても、だ。まさかこうも早く決着を付けることになるとは……」

 

 トーナメント表には……開幕早々の第一試合、織斑一夏&篠ノ之箒VS凰鈴音&ラウラ・ボーデヴィッヒと言う、一学年の中でも最強格四人の名前が集っていた。

 

「決着、ねぇ?でも今のアンタの顔を見ても、そんなに一夏を恨んではいないみたいなんだけど?」

「…………これは意地だ」

 

 無表情で淡々と言うラウラ。

 

「へ?」

「私の最後の意地だ……。この戦いで過去の私の全てをあの男にぶつける……。文字通り『全て』だ。その後のことを考えるのはやめた」

 

 そしてゆっくりと……まるで心の中にたまった恨みまで吐き出すように息をすると、キリッと表情を引き締める。

 

「へぇ……ちょっとすっきりした顔になったじゃない。フィーリングで勝負ってことね、いいわ!アタシそういう戦い方の方が向いてるしね、ひとっ走り付き合ってあげるわよ」

「うるさい、邪魔だけはするなよ……」

「そんな無粋な真似しないっての。思う存分拳で語り合って来なさいな」

 

 彼女らは顔を合わせることは無かったが、互いを邪見にするわけでもなく、落ち着いた歩幅でアリーナへ歩を進めるのだった……。

 

 

 

 

「よぉ、来たか」

「あぁ、織斑一夏……」

 

 蒼い龍(クローズ)と、黒い兎が向かい合う。

 

「私はお前と戦って勝つ……。過去の私と決別する為に」

「……そうか、だけど……それで俺が負けてやる理由にはならないな」

「当たり前だ。自分の未来は自分の手でつかみ取ってこそ、だと……。お前と戦えば、過去から止まっていた私の心が動きそうなんだ。だから……ここで私に倒されろ」

 

 獰猛だが理性的な……決意に満ちた視線をクローズに向けるラウラ。だが彼は片手に持ったビートクローザーの切っ先をラウラに向けた。

 

「悪いが、箒の前で無様な真似をする気はねぇ!今の俺は……負ける気がしねぇんだよ!」

「それでも勝つ!私が新しい『私』になる為に!」

 

 そして、もう一方では……一夏に愛された少女と恋に破れ親友(ダチ)となった少女が激突する。

 

「んじゃ、アタシの相手はアンタね?箒」

「あぁ……征くぞ」

「いいわ、来なさい。ついでにアンタが一夏につり合うだけの女か……見せてもらうわよ!」

「ほぅ……?良いだろう、私とて安く甘く見られるのは好まないのでな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おぅおぅ、お熱いことで……さて、では……誰にしようかな……っと!』

 

 そして……このタッグマッチに混乱をもたらす蛇は……静かに鎌首をもたげていた……。




シャルル「……結局そっくりさんが可愛いって話じゃねぇかぁぁぁぁぁ!?そんなんどーでもいーんだよ‼くーたんを出せくーたんを‼」
惣万「お前ね、全国のブラックラビッ党を敵に回しかねないぞそれ。しかもちょっと短めだったな作者ェ……」

※2020/12/21
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第四十八話 『レッドな騎士、ブラッドの涙』

戦兎「仮面ライダービルドでありてぇん↑さい↓科学者の因幡野戦兎は、前回全くの出番なし!仮面ライダー部の生徒たちはISのタッグマッチトーナメントに向けて自主トレを積み重ねるのだった……」
千冬「今年の私の担当クラスは楽でいいな。自主性に満ちていて指導も簡単だ。だがこうもすんなりいってしまうと、逆に不安になってくる…。まだ私にできていない部分があるのではないか、とか思ってしまうよ…」
惣万「良いんじゃねーか?先生って仕事は“嫌われる”ことが根底だろ。良い教師というやつが幻想に過ぎないことだってある。でもそう思えるってのは、今のお前はちゃんと良い先生だよ」
戦兎「ばっさり言うなーマスターってば…、まぁ分からんでもない。教職って正義の味方と同じで報われないことの方が多いし、ね?」
千冬「ふむ、何か湿っぽくなってしまったな。すまない。さてさてどうなる第四十八話!」


『10』

 

 アリーナのモニター画面に数字が浮かび上がる。

 

『5、4、3、2、1……試合開始!』

 

「ハァ!参るッ‼」

「ほぉォォォ……わたァァァァァァァァッ‼」

 

 そしてカウントダウンの放送直後、箒と鈴音が互いに上空へ飛び去り剣と拳で迎撃し始めた。

 一方のラウラはクローズに向けて大口径リボルバーカノンを発射。続けざまに瞬時加速を用いてクローズの背後に回り込む。

 対峙するのはISとはかけ離れた『ライダーシステム』の一つ……。故にISとの戦闘以上に用意周到な戦術が求められてくる、と考えたラウラの判断は間違っていなかった。

 

「フッ!」

 

 蒼炎を纏わせたビートクローザーが砲弾を真っ二つに両断した。

 

「そう来ると思っていたぞ、織斑一夏!」

 

 だが既にラウラはクローズに十分に接近し、ワイヤーブレードを用いて攻撃の手数を減らそうと企む。黒いエネルギーをまとったワイヤーがビートクローザーに絡まる。

 

「接近戦は貴様等の方が有利だ……ならば!」

「おっと!確かに剣を奪われたらリーチが短くなるな……だがよ!」

 

【ヒッパレー!ヒッパレー!】

 

「何……!?」

 

 クローズはラウラに向けて躊躇いなくビートクローザーを投げつける。エネルギーが充填された剣が避けられなかったラウラのシールドエネルギーを削る。

 

「とっさの機転も驚異的だな……!」

「現役軍人のお褒めに預かり光栄だよッ!」

 

 クローズは全身から蒼炎を噴き上げ『ブレイズアップモード』に移行すると、空中に退避しようとしたラウラに向けて空中を駆けるように上昇、正拳突きを放つ。しかし……。

 

「止まれ!」

 

 ラウラが右手を上げ、クローズの身体を停止させた。

 

「なろっ……!それがAICってやつか…!」

「ふんッ!」

 

 そしてラウラのプラズマを帯びた手刀が抵抗できないクローズに迫る。直撃コースだった。避けられない。

 

「させん!」

「やはり、そう来るか…!」

 

 突然ラウラが地上へ急降下、先程まで彼女がいた所に銀の刃が通過する。

 

「サンキュー……箒」

 

 傍にやって来た改造型の打鉄の少女が、蒼炎を用いて空中に留まるクローズを見ていた。並び立つ紅蓮と紺碧。その姿は正しく相棒と言えるもの。

 

「AICのことはグリスの時に見ていたはずだが」

「うっ、面目ない……」

「……まぁタイミングの取り方も絶妙だった、流石はドイツの代表候補生だ」

 

 着地したラウラを追うため、言葉を交わしながらも一夏と箒も降下する。だが、その挙動は隙だらけだった。それは油断か、はたまたわざとか。

 

「アタシのことを忘れんじゃないわよ!」

「そこだ…!」

 

 地上と上空からカノン砲と龍咆の連続攻撃が二人を襲う。

 

「ッ!」

「……ッそう、来るよな!」

 

――――ドッガァァァァァンッ‼

 

 アリーナに鳴り響く轟音。二人はラウラと鈴の連携攻撃を受け、黒煙に包まれた。だというのに、ラウラたちは警戒しながら黒煙の周りを旋回する。これで終わるはずも無いというように。

 

「……ッ、来るわね!」

「下がれ!」

 

 ラウラが鈴の機体の前方へ出てAICを展開させる。刹那、慣性が歪められた空間に衝突する巨大な物体。眼帯に覆われた目すら見開き、彼女は驚く。

 

「レーゲンの砲弾だと……!」

「ははあ…そゆこと。大方こっちからの攻撃の慣性を相殺して投げ返してきたって訳ね」

 

 鈴音の考察は間違っていない。

 やがて無明の黒煙が晴れ、暗闇に囚われていた二人の姿が露わになった。濛々と放たれる青き光に、ラウラが端正な眉をひそめる。

 

「それが、停止結界の真似事か?」

「やるぅ…♪」

 

 蒼い炎で自分たちを包み、AICモドキの技をとっさに編み出した一夏に鈴は口笛を吹く。どうやら彼女も生粋のバトルジャンキーだったらしい。シャルル・デュノアと同じ様に、闘争心が昂ぶり始めている。

 

「はぁ…あーしんどい!だが、まだ終わらねぇぞ、ボーデヴィッヒ」

「それでこそだ……!やはり…!この戦いで、私は何かを手にできる気がする……!」

「だからって、こっちも負けるつもりはねぇんだよ!ハァ!」

「来ぉいッッッ‼」

 

 そして、またも二人の戦いは継続された。一人は新たな自分を始めるため。もう一人は自分の原点となった思いを貫くために…――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来てみなさい箒ぃ!」

「負けられない!一夏の隣で支えになる為に……!」

 

 龍咆の不可視の攻撃を研ぎ澄まされた聴覚で躱しながら、箒は鈴音と鍔迫り合いを繰り広げる。

 

「へぇ……でも、アタシなんかに手こずって、それで一夏を助けられると思ってる訳?もしそうなら、ちゃんちゃらおかしいわね」

「何…?」

 

 乱暴に蹴りを入れ、箒から距離を置く鈴音。そして手に持っていた斬馬刀の様な武装を放り投げ、対戦相手の大和撫子に指を突きつける。

 

「守られるだけじゃ、何にもなんないのよ!どんなことがあっても、一夏の傍を離れない!アンタにその覚悟はあんのかって聞いてるの!」

 

 その言葉に片目を失った時一夏に口走った光景が思い返される。だが、それでも……“一夏は私を求めてくれた……”!

 

「…………私は不器用でな、言葉では伝えるのは不得手だ……故に!」

「……そうね……。口先だけってのが嫌いなのはアタシもよ!」

 

 ここで……自らの信念を、箒/鈴(彼女)に見せつける……!

 

「篠ノ之流、改め『荒巾木流』八ノ型…」

「ほぉぉぉォォォ……ッ!赤心少林拳、黒沼流……っ!」

 

 箒は正眼の構えを解き『葵』をだらりと下げた。一方の鈴は複雑な構えをとった後に手刀を振り抜かんとする。

 

「……『花宴』」

「『桜花』‼」

 

 少女二人が互いに全霊の力を以って激突する。一人の男を思う決意を乗せた剣と拳が交錯する。

 

 観客たちは一瞬錯覚する。その場所だけ音が無くなったような……そんな感覚が過ぎ去った。

 無窮とも思えた攻撃が止む。その場には、シールドエネルギーがゼロになった少女が倒れ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

「………――――私の、勝ちだ……」

「………――――あーぁ、本当に負けちゃった」

 

――――二人にね……

 

 そう呟き彼女は天を仰ぐ。そして吹っ切れたように笑顔を見せる。

 

「……アンタの勝ちよ、箒」

 

 鈴音は腕組みをして箒を讃えた、が、箒は鈴に問う。

 

「なぁ鈴、何故私と一対一で戦った?ペアと連携が取れていなかった、というわけでは無かった。ラウラと二人がかりで戦われたら私たちに勝ち目はなかったはずだが……」

「さぁ……――――しいて言えば、アタシとラウラの乙女の意地ってヤツね」

 

 のらりくらりとはぐらかされた気がする箒だが、鈴の一言がさらに続く。

 

「ほら。負けたアタシのことを構うより、一夏の傍に行ってやりなさい?」

 

 その声音に……箒は自分と似た思いが乗せられていることに気が付いた。気が付かずにはいられなかった。

 

「鈴、もしかしてお前は………」

 

 だが、途中で出かかった言葉を飲み込んだ。噤まなければならない、と思った。箒には箒の矜持があるように、彼女にも守るべきものが確かにある。

 

「…――――、いや、愚問だった。忘れてくれ」

 

 顔を伏せた鈴音の隣を、箒は無言で通り過ぎる。その時である。ころりと、鈴を転がすような小気味の良い声がひそかに、だが確かに耳に届く。

 

「………………頑張んなさいよ」

 

 互いに別の方向を向き顔も見えないはずなのに、その時の鈴の気持ちが箒には痛い程伝わってきた。

 

「……ッ、あぁ」

 

 だから、箒は思わずにはいられない。私が選ばれたのは幸運と偶然が重なった結果だと。驚くほどの確率で一夏と出会い、那由他ほどのチャンスで得難い友の後押しを貰った。これを奇跡と言わずしてなんと言おうか。

 様々な人間の想いを引き継いで、箒が愚直な青年の傍に行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の一夏とラウラの戦いは佳境に至る。ついに勝負が動こうとしていた。

 

「分かったぜ、そのAICの弱点」

「やはり、か……。凄まじい観察眼だ」

 

 空中戦を繰り広げていた際に一夏は閃き、ラウラに向かって推論を口にした。

 

「意識を集中させなければ使えないんだろ?だったら……!」

 

【Ready go!ドラゴニックフィニッシュ!】

 

 電子音と共に召喚され、シュヴァルツェア・レーゲンに火球を撃ち出す蒼い龍。BT兵器の様に独立支援する炎のクローズドラゴンは、勇猛果敢に吼え盛る。

 

「ふん……だがAICだけがレーゲンの力だとでも思ったか!」

 

 クローズドラゴン・ブレイズの吐いた蒼炎をレールカノンで撃墜するラウラ・ボーデヴィッヒ。変身していた彼はマスクの中で舌を巻くほかない。精密射撃にかけてはトップクラスの実力があろうセシリアと、遜色ない腕前だった。

 

「これで、決着をつける…!」

 

 ライダーキックを放とうとするクローズに向かい、ラウラはプラズマを帯びた手刀を構え急接近する。

 

「うおぉぉぉぉぉぉッ‼」

「織斑……一夏ァァァァァァァァァァッ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おっと、いい雰囲気だが……食らえ♡』

 

【時計!フルボトル!スチームアタック!】

 

 だが、戦いは突然第三者の手で瓦解する。赤い蛇がアリーナに出現し、灰色の光弾を地面に撃ち出した。

 

「ッ?……何だよ、これ……ッ!?」

「身体が……動かない?いや、時間の流れが変わったような……ッ!?」

 

 クローズとラウラの足元には時計の文字盤模様が出現し、それに伴い身体の自由が奪われる。事実、周囲を舞い散る砂埃の空中停滞時間が間延びしていた。

 

「一夏…!?」

「またアンタなの、スタークッ!?」

 

 遠方から駆け付けようとする箒や、怒りに満ちた鈴音の声を無視してブラッドスタークはラウラのISに触れた。

 

『ハイハイちょっとごめんよぉ?』

「スターク!何を……っ!」

 

 チラリと身動きの取れないラウラを一瞥すると、嘲るわけでもなく、淡々と言葉を漏らす。

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒか。可哀そうにな……』

「何……!」

『お前は俺と同じだ……戦う事でしか生きていけなかった。だが、お前は人を殺したことがあるか?兵器として……本当に生きてたかァ?』

 

 その時のスタークの心境を誰も伺いすることが出来なかった。しかし、なぜか一夏には……――――場違いな感想だったが、スタークが血の涙を流しているようにも見えた。

 

「……?どういう事だ。お前の言うことは、理解できない…、…ッ!?」

『そうだ、理解する必要は…ない』

 

 その時、四人は目を疑った。液体にものを突っ込むように、スタークの手がISの表面にのめり込んだのだ。そして何かを探すようにこねくり回し、ずぽっと一本のボトルを握りながら手を抜いた。

 

『いよっし、摘出完了っと。もう動いていいぞ』

 

 スタークが指を鳴らすと、今まで身体の自由が利かなかった二人の身体は勢いよく地面に転がった。自分の機体に何かをされたラウラは、憎々し気にスタークを見る。

 

「レーゲンから……何をとった!?」

『怒るな怒るな……VTシステムって知ってるか?』

 

 フルボトルとは違う白い容器を二人に見せ、重大発言をかますスターク。その言葉によってラウラの顔は青ざめる。

 

「……ッ!?ヴァルキリー・トレース・システム……ッだと!?」

「それって、…千冬姉の!?」

『そうだぁ……。ま、詳しいことはドイツのお偉いさんに聞いてみたらどうだ?』

 

 ボトルをいじりながら興味なさげに言うと、何処からか半透明な結晶体を取り出した。

 

「ISコアか……?」

『惜しいっ。正確にはロストISコア。ネビュラガスで変質させた俺達オリジナルのテクノロジーだ。丁度良く宇佐美が作ってくれてな。差し詰め……ブリュンヒルデエボルボトルを、こうしてっと!』

 

 言うが早いか、キャップを正面に揃えコアに突き刺すスターク。そして突然ISコアが血の様に赤く染まり出した。

 赤い光はアリーナ内を満たす。

 

「……ッ、眩し……」

「目を塞げ、織斑一夏!」

「くっ……」

「うっ……」

 

 やがて、強烈な光は消えた。だが、視界が元に戻れば、そこに信じられない光景が広がっている。

 

「……む?ここは……?」

 

 そう言って辺りを見回す赤い髪の全裸の女性。その顔は……――――。

 

「え……千冬姉……!?」

「教官……!?」

 

 『ブリュンヒルデ』その人だった。

 

『違うなァ。これは、言うなれば人型のISって言ったところか?で、気分はどうだ、“赤騎士”?』

 

 祝うように、親し気に彼女に近づくブラッドスターク。

 

「『赤騎士』……成程。私はチフユ・オリムラのコピーと言う事か……」

『あー、生み出した俺が言うのも何だがな、服着ろ?』

「む、これは失敬」

 

 無表情ながらも恥じらうように身体の局部を腕などで隠しながら、ISスーツを思わせる格好になると“彼女”は一夏たちに向き直った。

 彼らに突き刺さる明確な敵意が、爆発する。

 

「コピーとは言え……教官と戦うというのか…!」

IS()がすべきことなど決まっている……。主の命令を聞くことだ」

 

 彼女の身体が赤黒く光りだし、頭部や肩部、腕や足を赤い装甲が覆いかぶさる。その姿は、ISの先駆けとなったあの機体……。

 

「白、騎士…?」

「かかって来い、この私が……『赤騎士』が貴様等に引導を渡してやろう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、セシリアと簪が控えるピットにも、招かれざる客が訪れていた。

 

「…貴女、なに…!在り得ないコアの反応があるんだけど…!?」

「な……貴女は……わたくし……?」

 

 赤黒い装甲、どす黒いアンダーアーマー、そして金髪の間から見える赤い瞳……。

 

「初めまして……“わたくし”。わたくしは『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』と申しますわ……さぁ踊りましょう?わたくしが奏でる狂想曲(カプリチオ)で!」




エボルボトル(仮)に適応するロストISコア作り
宇佐美「ヴェハハハハァ!ヴェーハハハハァ‼ヴェーーハハハハァ‼」
惣万「え、出来た!?出来たのか!?出来た!?」
宇佐美「ダメだァァァァァァァァッ‼」
惣万「だァァァァァァァァッ!?」

三日後……。
宇佐美幻神「遂に完成した……やぁはぁりぃ私は……くわぁみだァァァァァァァァッ‼ッッッはぉぅ!?」

―GAME OVER……―

惣万「えっ!?何で!?バグスターじゃねぇだろ!?」
ブリッツ「安心して~、只のSE~。ほらマボローグ~。過労なんだからおねんねするよ~」
宇佐美「宇佐美幻神だァァァァァァァァァァァァァァァァッ‼」
シュトルム「うるっさいわボケェェェェェェェッ‼」
宇佐美「(・8・)」


※2020/12/21
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第四十九話 『その手を取ってビー・ザ・ワン』

惣万「なぁ、戦兎?ここらに置いてあった楽器知らない?」
戦兎「ん?知らないよマスター。てか今あらすじ紹介の時間でしょうが?何無くしたの?」
惣万「バンジョーだ(イラつく顔)」
戦兎「……何か精神がズタズタになったヴィジョンが浮かんだんだけど……」
惣万「気にするな。はてさて前回のあらすじは……って……と、とっ?とんでもないことになってる(おまいう)‼なんで千冬が裸になってんだ、てか赤髪……正直遅めの反抗期がきたとしか……」
???「だぁれぇがぁ……?遅めの反抗期だってぇ……?」
惣万「チ、チフユ……ッサン!?戦兎あらすじ紹介早く終わらせて!?千冬にあれを見せるのは酷だから、はっはやくッ‼︎」
戦兎「わ、分かったマスター……。最近あらすじ紹介できてないなぁ、さてさてどうなる第四十九話‼︎」
千冬「さて惣万ぁ……、アレを見られたからには仕方がない……。責任取って、隣のホテルで朝まで語り明かそうかぁ……」
惣万「………………ハァッ!?」
戦兎「あー………………絶倫そう……頑張れマスター」
惣万「ヤッヤメロー‼うわぁぁぁぁぁぁぁ……」



 突如アリーナ内に出現した赤い髪の織斑千冬。それを見て誰もが言葉を失う。

 

「なっ……」

「『赤騎士』って……、!?」

 

 そして突如として防衛の為にシャッターが閉まった。が、それは教師の判断によって閉じられたものではない……。

 

『クク、ヴェハハハハ……お膳立てはしてやったぞ。新戦力の増強の役に立ったか?なぁ、スタークぅ?』

 

 

 

 

 

 

 一方の教師たちがいる一室。山田真耶が声も出ない織斑千冬に声をかける。

 

「織斑先生!?アレがVTシステムだった場合、教員が対処した方が……!」

「いや、山田先生……多分教員でも無理だよ。生体データを測定したらアレは、現在の『織斑千冬』そのものだ」

 

 傍にあったキーボードをタイプし、強制的に作動したシャッターのハッキングの解除を行う戦兎は同時進行で赤髪のブリュンヒルデISを解析する。

 

「今の一夏たちが学年で上位の実力を持っていても、分が悪すぎる……!」

 

 苦虫を嚙み潰したように顔を歪ませる戦兎。それを見て事態の深刻さを理解する真耶。

 

「なら……私が出る……!」

「駄目だ織斑センセ、アリーナ内の全てのシステムがハッキングされている。多分ナイトローグの仕業だ……今なお更新され続けて、オレが対処しなければ閉じ込められたままにされる!」

「……ッ!」

 

――――ガッシャァァン‼

 

 思わず近くにあったテーブルに拳を叩きつけ粉々にしてしまう千冬。

 

「解除にどのくらい時間がかかる……!」

「システム的にこちらの命令に優先権があるにしても、三十分はかかるね……!」

「十五分だ……!それまでに何とかしてくれ……、頼む……!」

 

 そう言って千冬は戦兎に向かって頭を下げる。

 

「分かった……、それまでもってくれよ。一夏……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナ内では、圧倒的な暴力が戦況を支配していた。

 

「どうした?織斑一夏……この程度か?」

「がはっ……、強、すぎる……」

 

 首を掴まれ、必死にもがくクローズだが、『赤騎士』の腕の締め付ける力はさらに強くなる。

 

「一夏から……手を放してもらおう!」

「あぁ、良いとも」

 

 『赤騎士』は大きく振りかぶり、接近する箒に向けて砲弾レベルの速度でクローズを投げつける。それを後方に瞬時加速し、クローズのショックを吸収する箒。

 

「ッ箒、済まない…!」

「良し!ラウラやれ‼」

「目標捕捉、座標固定………………ッはぁッッ‼」

 

 だが、飛来する弾丸を冷ややかな目で見る『赤騎士』は、右手に持った『血染雪片』という赤黒い剣を居合の要領で振り抜き、両断する。

 紙切れの如く細切れに裁断される銃撃。思わず顔を顰めずにはいられない。

 

「っち、やはり足止めにもならないか……ッ」

「さて、厄介なのはAICか……?では……」

 

 ふいに『赤騎士』の姿が消えた。否、それは違う。ラウラの顔の目の前に深紅のISが移動していた。

 

「ッ!?……止まれっ!」

「遅い」

 

 停止結界を作動させるも、それよりも先にAICの範囲外へ後退し、慣性を無視したかのような軌道を描きラウラ・ボーデヴィッヒの背後にまわる『赤騎士』。

 

「なっ!?しまっ……ガハァ!」

 

 そしてレーゲンのレールカノンが根元からバッサリと斬り落とされた。

 

「ボーデヴィッヒ!」

 

 腹部に蹴りを入れられたラウラを、蒼炎をまとったクローズが空中でギリギリ受け止めた。

 

「大丈夫か!?」

「シールドエネルギーはまだ半分程度ある……だが、攻撃の手段がさらに減ったのは痛いな……」

 

 箒も合流し、余裕そうに剣を肩に担ぐ『赤騎士』を注意深く観察する三人。

 

「クッ……、同じ篠ノ之流だと言うのに、これほどとは。恐るべしだな、ブリュンヒルデ……」

「ふん……(これ)だけでは味気ないな、そうだ……」

 

 突然左手にライフル銃が出現し、クローズに向けて無慈悲に引き金が引かれた。

 

「ッぐぅ!?銃も使うのか……!」

 

 幾らか被弾しながらも高速で避けるクローズは……その正確無比な狙いを見てハタと思い至る。剣や銃火器の扱い方を教えてくれた人物たちの言葉が蘇る。

 

 

 

――――いいか一夏、刀は振るう物だ。振られるようでは、剣術とは言わない。重いだろ?それが、人の命を絶つ武器の重さだ

 

――――いいか一夏、銃ってな引き金を引くだけのモンだ。そこに矜持も思いもない。軽いだろ?それが人の命を絶つ武器の軽さだ

 

 

 

――――『『だがら、力に使われるな、力を正しく使える人間になれ』』

 

 

 

 二人の声が、重なった。

 

 

 

「どうした仮面ライダー……貴様の力は、その程度か?ISの私を凌駕する力を持っているのではなかったか?」

「………ッ、そうだよ、力って言うのは、そう言うのじゃないんだ……千冬姉や、惣万にぃの言ったように……!」

「ん?」

 

 クローズはゆっくりと立ち上がる。

 

「『赤騎士』!お前の様な……、他人の破滅の為力を振るうヤツに、負けるわけにはいかねぇんだよ!」

 

 ビートクローザーを正眼に構えると、『赤騎士』の口元はニヤリと歪み、分かりやすく指先で挑発する。

 

「かかって来い……」

「ハァァ………ッ」

 

【ヒッパレー!】

 

 クローズはグリップエンドスターターを、たった…――――されど一回引き、青い光を発生させる。そして両者向き合い、同時に駆け出した。

 

「「ぜやぁぁぁぁぁッッ‼」」

 

 

 

 だが、丁度互いの剣がぶつかり合おうか、という時だった。

 

 

 

「「……ッ?」」

 

 上空から接近してくる二機の影によって、クローズと『赤騎士』は身を翻す。直後、土煙を上げて金髪と水色の髪の少女たちが墜落してきた。

 

「クゥッ……!」

「うぁ……!」

 

 苦し気な表情を浮かべる二国の代表候補生。

 

「……!?オルコットに簪!?どうした…」

「あらあら、こんなものですか?ちょろいもんですわね」

 

 クローズや箒、ラウラは顔を上げた。そこにいた者に目を見開く。目の前で倒れている少女と同じ声、同じ豊かな金髪……だが、彼女のISとは対照的な鮮血の様なアーマー……。

 

「今度は……オルコットの偽物か……!」

 

 深紅のバスターソードを構え、周囲にビット兵器を従わせてやって来た血の様に赤い二機目の機体が、アリーナへと降り立った。

 

「偽物?違いますわ、ホウキ・シノノノ……。わたくしたちはISから生まれ変わったのです。新たな生命体として……」

「新たな……生命体……?」

 

 疑問の声を上げるラウラを無視して、うやうやしくお辞儀を同胞にするセシリアの姿の生命体。

 

「初めまして、『赤騎士』さん?わたくしは『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』ですわ」

「……そうか、ファウストが生み出した人型ISの先達とはお前のことか」

「生まれは多少異なりますがね……さて」

 

 

――――ブンッ……!

 

 

 空気が消し飛ぶ音がした。ブラッド・ティアーズを名乗る存在は横なぎにバスターソードを振るい、クローズを箒達がいる場所へと吹き飛ばす。

 

「ガハァッ……!?」

「この程度、ですか?仮面ライダーも大した事ありませんわねぇ?」

 

 小馬鹿にするように言葉を紡ぎ、止めと言わんばかりにバスターソード『スターデストロイア』を上段に構える『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』……だが。

 

「……!」

「……ハァ!」

 

 一度、銃声が鳴った。小首をかしげるように避けた赤いISの金髪を、青いビット兵器から発されたレーザーが焼き焦がす。

 

「……。攻撃をしないでいただけますでしょうか」

「わたくしの……セリフですわ……!」

「はぁ……この死に損ないが。見苦しいですわよ?」

 

 ボロボロながらも、鋭い意志で自身の顔を持つISを睨むセシリア。そしてそれを上品な笑いで嘲る『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』。

 

「疾く失せなさい……この世から」

 

 標的をセシリアに変更した『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』が、ビット兵器を伴いながら瞬時加速で接近する。

 

「さぁ、奏でましょう……鎮魂歌(レクイエム)を!Good bye、ですわねぇ‼」

「……ッくぅ…!」

「「……!セシリアァッ‼」」」

 

 誰もが危ない、と思った時だった。セシリアの前に、青い人影が立ちふさがる。

 

「う……ぐっ……オォォォォォォ‼」

「チッ……‼」

「……一夏ァッ!?」

 

 クローズが自分の身を盾にして、その一撃を受け止めたのだった。だが、その捨て身の防御も、『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』には意味をなさない。

 

「ハァァッ‼」

「うっぐゥゥゥッッッ……‼」

 

 勢いよく動かされたバスターソードの斬撃によって弾き飛ばされ、地面を何回も転がり……変身が解除された。

 

「……ガハッ……」

「一夏さん……!」

 

 慌てて駆け寄る代表候補生たち。それを見てIS二機はゆっくりとハイエナのように近寄って来る。

 

「はぁ…なんて無意味な。やはり人間と言うモノは理解できませんわね……。このような知的生命体に使われるなど、他のISはどうなっているのやら……」

 

 頭をおさえながらセシリアの顔を持つISはやれやれと首を振る。その傍に浮遊するブリュンヒルデのコピー……『赤騎士』。

 

「『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』、終わりにしよう。時間の無駄だ……」

「そうですわね……では……」

 

 二人の剣が、太陽の光を受けて歪に光る。

 

「まだ……終わってねぇぞ……」

 

 か細い声で一夏は言う。そしてIS学園の制服に付いた土や血の跡を手で掃うと、小さいながらも心の底から決意を吐き出す。

 

「絶対に死なせない!誰一人泣かせはしない……!」

 

 そう言って一夏は懐からレンチのついたドライバーを取り出した。

 

「駄目だ!それを使っては……制御できずに死ぬぞ、一夏!やめてくれ……!」

 

 箒は因幡野戦兎に言った事を思い出し、一夏の片腕を掴む。

 

「そうはいくかよ……!前に言っただろ、俺はお前のことを愛してる……。たとえ力が及ばなくても……俺は、お前に笑っていて欲しいんだ……」

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祭りの場所は……ここかァ?」

 

【スクラップフィニッシュ!】

 

 

 弾けるアリーナのエネルギーシールド。それを易とも容易く突き破り、雷鳴が如き金色が太陽と共に降り注ぐ。

 IS学園の生徒と、ファウストのISたちの間に金色の流星が落ちてきた。黒いエネルギー状の翼が折りたたまれ、冷徹な声音が響き渡る……。

 

「…………お前ェ、ブリュンヒルデのコピーらしいな。強いのか?」

「オイオイ、またお前か…!?」

「このタイミングで……グリスだと?」

 

 ラウラが、「最悪だ」と言うように眉をひそめた。誰も彼も、最悪の三つ巴になってしまった、という考えが頭の中を埋め尽くす。

 だが、突然グリスは声を上げた。

 

「お前等……そこのちんちくりん連れてこっち来い」

「ちょ……ちんちくりんって何よ!」

 

 するといつの間に控えていたのだろうか、三羽烏が鈴音の傍らに立っている。彼女らは小柄な彼女を守るように…――――。

 

「「えっさ!ほいさ!えっさ!ほいさ!」」

 

 訂正、お神輿のように担いで一夏たちの元に運ばれた。

 

「ちょ、はーなーしーなーさーい!」

 

 駄々っ子のように扱われる鈴に、ベレー帽の少女が頭を下げる。

 

「ホントごめんなさい……」

「あ、や、ドンマイ……?」

 

 その中間管理職的な哀愁漂う立ち振る舞いに、とっさに謝ってしまう鈴。

 

「そう言ってもらえると、救われ゛ま゛ず……」

「ガチ泣き!?」

 

 ブルがベレー帽で目元をおさえながら涙ぐむ。彼女、不遇なんだろうなぁ……。

 

「さぁてっと……」

 

 だが、突然シリアスな雰囲気をグリスはまとう。そしてドライバーにセットされたゼリーをツインブレイカーにセットした。

 

【シングル!】

 

「…………なぁ織斑一夏()よ、てめぇは何の為に戦う」

「そんなことを聞いて……どうする……?」

「いいから答えろ、でなきゃ……」

 

【ツイン!】

 

 こうだ、とばかりに青いスマホのレリーフがあるボトルを続けざまに装填する。

 

「……ッ、お前みたいな、戦闘狂には分からねぇだろうがよ……!」

 

 言いながら一夏も同型のドライバーを腰に押し当てた。

 

【スクラッシュドライバー!】

 

「俺は……こんな奴らの所為で、オルコットが……鈴が、ボーデヴィッヒが……そして箒が涙を流すのを見たくない……!目の前で理不尽に泣いていてほしくない…!無力で無意味かもしれない!でも…だから、俺は“戦う”んだ……‼」

「……そうかよ」

 

 その『戦う』という言葉に含まれている全てを、シャルル・デュノアは懐かしく思った。あぁ、残念だと思いながら…――――。

 彼の言葉を聞き届けると、グリスは腕を横なぎに払い、何発もの光弾を撃ち出した。

 

【ツインフィニッシュ!】

 

「……ッ!?」

「あら……ッ!?」

 

 ……――――ただし、その光弾が被弾したのは一夏たちではなく、ファウストのISの二人だった。それに驚くIS学園の生徒たち。

 

「お前……ッ何で?」

「あぁ?」

 

 不機嫌そうに一夏を見るグリス。仕方なさそうに頭を掻きながらぼやく。

 

「簡単だ……――――。見たところ奴らは……――――」

 

 そして視線を動かした先には、ISから火花を散らす銀髪の少女の姿があった。

 

 

 

「くーたんのそっくりさんを傷つけた、それだけで理由は十分だゴラァァァァァァァァァッ‼」

「「「「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?」」」」」

 

 

 

 その言葉を聞いて、思わずずっこけてしまう全員。さらには『赤騎士』と『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』すらも体勢を崩してしまっていた。グリスェ…。

 

「……それとついでに、ほんの少しだが。織斑一夏ァ……――――お前は俺の心火に魂の叫びをくべた……」

 

 そっぽを向きながら、付け足すように静かに言う金色のライダー。

 

「織斑一夏、お前の心に燃える炎を絶やすな、お前が守るべきものの為に戦え……」

 

 そう言い切るとIS学園の生徒と共に、赤いIS二機と、面と向かって対峙する。

 

「え……つまり、どういう事だ?」

 

 あまりの急展開に、一夏の頭は追い付いていない。だが、聡い数名の女子は彼の言わんとしていることを察知した。

 

「もしかして……、助けてくれるのか…?」

「……アニメでは、ベターな王道展開だけど……?」

 

 ラウラや簪がハッとした顔でグリスを見る。そしてようやっと一夏にも彼のいう事が理解できた。

 

「お前……、そうなのか……?」

 

 そう聞く一夏に溜息一つ、グリスは首を回しながらダルそうに答えた。

 

「言わなきゃ分かんねーのか?そーだよ。手を貸す、っつってんだ……三馬鹿のボトルの借り、ここで返すぞゴラァ、お前と戦えないのは残念ながらなァ」

 

 その言葉で、仮面ライダー部の部員たちは喜ばし気に顔を輝かせる。

 

「さっさと変身しろ、エビ。勝手に暴走でもしたらぶん殴って止めるからな」

「……フン、うっせぇよイモ」

 

【ドラゴンゼリー!】

 

 スクラッシュドライバーに銀色のパウチ容器を装填した一夏は、力強くレンチを叩き落とす。

 

「ウグッ……変ッ身ッ……!」

 

 一瞬青い電気が一夏の身体を走るが……無事ビーカーの様な容器が彼の周囲に出現し、青い液体で中を満たす。

 

【潰れる!流れる!溢れ出る!】

 

 銀色の素体となった後、頭部から水色のゲルを噴出すると、その姿が仮面ライダーに変化する。

 

【ドラゴンインクローズチャージ!ブラァァァ!】

 

 水色の頭部を持ち、クローズの面影を残した仮面ライダー、クローズチャージがグリスの隣に立っていた。

 

「……ッ!しゃぁ‼鈴!」

「え、何?」

 

 有無を言わさずに鈴を近寄らせ、あるフルボトルを取り出した。

 

【ライト!】

【ディスチャージボトル!潰れな~い!ディスチャージクラッシュ!】

 

 そんな電子音が聞こえた後、クローズチャージの手から青白い電気エネルギーが鈴のISに吸収されていく。

 

「少なくとも、ISは動くようになっただろ」

「……逃げろなんて言わないわよね?」

「フッ、そうでなくちゃな!」

 

 

 ここに、二人の仮面ライダーと、五人の戦乙女たちが……血に塗れた兵器と対峙する。

 

「ゲームスタート……」

「貴様等を、排除する……それが『人間を守る』軍人としての私の使命だ!」

「アンタたちの運命(さだめ)は、アタシたちが決める!」

「踊りなさい、わたくしと青の雫(ブルー・ティアーズ)が奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

「篠ノ之箒、いざ参る……ここからは、私たちの花道だ!」

 

 そして彼女らの中心に、二人の仮面ライダーが立った。

 

「心の火……心火だ、心火を燃やしてぶっ潰す!」

「今の俺達は……負ける気がしねぇ‼」

「……おーいお前等聞いたかー?んじゃ負けたらお前罰ゲームな、俺と戦え」

 

 すかさずクローズチャージに茶々を入れるグリス。シリアスどこ行った?

 

「おい?お前何勝手に決めてんだよ!つかそもそも何でお前が仕切ってる訳?」

「うっせぇお前が頼りないのがわりーんだろ。それとも何だ負ける気がするのか、ぁあ?」

「……上等だよ、やってやらぁ!」

「おーう直情バカ」

「馬鹿って何だよ馬鹿って、筋肉付けろよ筋肉!」

 

 グリスの首元を掴み前後に揺さぶるクローズチャージ。それを見て、ISをまとった少女たちは笑みを浮かべ……そして気を引き締めた。血塗れのISの傍に、ブラッドスタークが並び立つ。

 

『さぁ、もういいか?』

 

 ブラッドスタークのその言葉を皮切りに、全員が武器を構える。

 

「おいイモ、準備は良いか……」

「うるせぇエビ。出来てるよ……、行くぞゴラァァァァァァァァァッ‼」

 

 そして仮面ライダーのその掛け声で、血塗れの戦士たちとの戦闘が開闢を告げた…――――。




惣万「ち……ふゆ……。ご……、めんて……、ほんとご……めんって」
千冬「ワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロワスレロ」
戦兎「……なんか昔の恐怖のゲームバグみたいになってる……。はぁ、次回こそちゃんとあらすじ予告できるのかなぁ?」
惣万「……オイそこの、事後じゃないからな、断じてッッッ‼」
千冬「そぉまぁ……何なら搾り取ってやっても良いんだぞぉ……?」
惣万「ピィッッ!?キャラ変わりすぎィ!?」
千冬「だって行き遅れとか言われたんだもん‼好きで独り身なんじゃないもん‼早く結婚したーいッッッ‼」
戦兎「コレが世界最強って……」


あらすじ提供元:ウルト兎様、ありがとうございます!


※2020/12/21
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第五十話 『二つのゼリー、二つの炎』

戦兎「クソ早く解けろよ、このセキュリティ………⁉︎お、おいなんだコレ!?『マイティ・アクションX』……!?聞いたことも無いぞこのゲーム!?しかも1ステージでもミスったら最初からって………ん?土管……?」
コンティニュー土管……からの宇佐美『私の趣味だ、因みに自作だァァァァァァァァッ‼』(デンジャラスゾンビのSE)
戦兎「またてめぇか宇佐美ィ‼何で毎回息をするように登場するんだお前ぇ‼」
宇佐美『前回は我々ファウストが赤騎士や血の雫などの改造ISを登場させたりしたが…あのドルオタが裏切ってこっちが優勢の戦いは打って変わってしまった……さてさてブラッドなIS嬢たちの活躍が気になる第五十話……とくと見てくれたまえ』
戦兎「画面内であらすじ紹介するなッ⁉︎てか、こっちが正義だからなッ⁉︎……『GAME OVER』あ、ミスった」
千冬「何をしているんだ戦兎先生ッ⁉︎」



「……っ意外にやるのですね、代表候補生……!」

 

 ブレードを振り回しながら箒や鈴の接近を許さない『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』だったが、流石に多勢に無勢が祟り押され始めて来ていた……。

 

「一対多数なんて趣味じゃないんだけど、四の五の言ってられないしね……!」

「いって、山嵐……!」

「ブルー・ティアーズ!」

 

 シールドエネルギーを消耗してきた『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』に、大量のミサイルと偏向射撃(フレキシブル)による光線が殺到する。

 

「……っ!ところがぎっちょん、ですわねぇ!?」

 

 焦ったような顔をしたのもつかの間、『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』の掌から紅蓮の光が放たれた。するとその光にぶつかったミサイルは爆発、レーザーは歪みあらぬ方向へ飛ばされてしまう。

 

「…何をしたのです!?」

「自分で考えなさい?まぁ、未だわたくしはフェーズ1、『完全体』には程遠いので、一日一回限りの奥の手ですが」

 

 周囲に浮かぶ、撃破されていない赤いビット兵器を見て『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』は唸る。

 

「…………。このままでは、わたくしは勝てないでしょうね」

 

 だが、諦めたかのように呟く彼女の瞳には、残虐な欲望が渦巻いていた。

 

「ですが、わたくしと貴女方は違う。わたくしは肉体が損傷しても復活できる……。なら一人でも傷つけて、殺して……!戦力を削いでおきましょうか!」

「……ッ!」

 

 そして……今までの淑女然とした戦い方は打って変わり、暴力的な剣戟が箒や鈴に向かって嵐のように巻き起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の『赤騎士』と戦うグリスとクローズチャージ。

 

「おら!おらおらおらおらぁッ‼」

「ドライバーの影響か随分と強くなったな……だが!」

 

 ツインブレイカーで殴りつけようとするクローズチャージをいなし、向こうからやって来るグリスに投げつける。

 

世界最強(ブリュンヒルデ)に敵うとでも思ったか?」

「ガハッ!」

「おわぁッと……おい何してんだよ軽々吹っ飛ばされやがって」

「しょーがねーだろ、ぶっつけ本番で変身してんだよこっちゃ」

 

 憎まれ口をたたきながらも、その目は油断なく『赤騎士』を見ている二人。

 

「クッソ……やっぱり千冬姉と同じだけの実力ってことか……」

 

 が、そこにとんでもないグリスの一言が投じられる。

 

「……、見たところなんだが……アレ多分俺達倒せるぞ?」

「……はぁ?冗談言ってるんだったらぶん殴るぞ?」

「こんな時にそんな事言うと思うか?作戦がある……」

 

 耳打ちをすると、その途端にクローズチャージはツインブレイカーから光弾を発射する。

 

「その程度で…、…ッ!?」

「おぉっと……行かせるわけねぇよなぁ?」

 

 いつの間にかISの瞬時加速以上のスピードで接近してきたグリスは、そのままベルトのレンチを下げる。

 

【ロック!ディスチャージボトル!潰れな~い!ディスチャージクラッシュ!】

 

 電子音と共に身体機能を低下させられた『赤騎士』は、グリスの異常性に気が付いた。

 

「貴様……本当に人間か!?ライダーシステムを使っているとはいえボトルを使わずにそんな力を……ッ!?」

 

 そう。フルボトルを使ったとは言え、それは『赤騎士』の動きを鈍らせるためのロックフルボトルもの。

 つまりグリスは身体能力の向上用のボトルを使わずに織斑千冬と同格のISに追いついたことになる。

 

「全くもってその通り、俺ぁ只の人間だァ‼今だやれエビフライ‼」

「だあってろ、イモォッ‼」

 

【スペシャルチューン!ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!メガスラッシュ‼】

【Ready go!レッツブレイク‼】

【スクラップブレイク‼】

 

 右手にはドラゴンフルボトルがセットされたビートクローザーを、左手にはクローズドラゴンが収まったツインブレイカーを持ち、ドライバーを操作した一夏は突如走った途轍もない激痛にうめき声をあげた。

 

「……ッぐ、流石に、キツイな……ッ!だが、千冬姉の偽物に勝つならこれしかねぇ‼」

 

 突然彼の背後に巨大な龍が三匹現れ、雄叫びを上げる。蒼炎をまとったビートクローザーを振り抜き、その直後にツインブレイカーを前に突き出すと、二匹の龍が『赤騎士』に向かって飛び出した。

 

「……、ならば!その力を利用するまで……‼」

 

 そう言うと『赤騎士』は『血染雪片』を出現させ、動きが制限されているのを感じさせないスムーズな挙動で、龍のエネルギーを受け止める。

 

「まだだァ‼おっらぁぁぁぁぁ‼」

 

 足に龍のエネルギーをまとわせたクローズチャージが飛び、ライダーキックを放つ。

 

「う、グゥ……ッ!オォォォォォォ‼」

「ぬぅぅぅぅぅッ‼」

 

 長い拮抗の後、競り勝ったものが雄叫びを上げた。

 

「オラァァ‼」

「クッ……ガハァッ!?」

 

 赤い装甲が彼方に吹き飛び、地面に転がり土煙を上げる。体から青い炎をたなびかせながら、クローズチャージは着地し、拳を握り締める。

 

「いよっし!……勝ったぜぇぇ‼」

「何言ってんだバカ」

 

 ポカンと頭を殴られた。

 

「いって!?なにすんだよ、ぁあ!?」

「千パー俺のアシストのお陰だろ」

「百%のマックス振り切れてんぞ。あり得ねーから、良くて半々だから……、ッ!?」

 

 だが、土煙の中でゆらりと立ち上がる赤い影があった。

 

「感謝する……これで、私の単一仕様能力が使える……」

「どこに行く!……ッ!この野郎‼」

 

 ブラッドスタークがやったように、真紅の残像を引きながら専用機持ちの方向へ高速で移動する『赤騎士』。そして、その中の一人、『包帯を巻いた彼女』に向かって手を伸ばした。

 

「……!させんっ!」

 

 とっさにラウラが箒の前に立ち、AICを展開するも『赤騎士』のブレートがどす黒い光を放ち始めた。

 血みどろのISが、AICの範囲内に入った時、それが起こる。

 

――――パキンッ……!

 

「な、に……っ!?」

 

 小気味の良い音をたてて、『AICの作用している空間そのもの』が切り裂かれた。

 

「……ッ、ラウラァ‼」

 

 目の前で嗜虐的に笑う『赤騎士』の顔。振りかぶられる血染の刀。それが何故か間延びした記憶の中でぼんやりと浮かんでいた。彼女は今の状態を、以前に聞いたことがある、所謂走馬燈という言葉に思い至った。

 

(……、あぁ、ここで……死ぬのか。最後の最後で、答えを見つけられそうだったが……まぁ)

 

 箒の方に目を向ける。突き飛ばしたことで剣の攻撃の範囲外に逃れていたのを見て、何故だかは分からない……しかし、自然に笑みが浮かんだ。

 

――――変われた……かな……

 

 そう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「何勝手に諦めてんだ、ゴラァ」

「……ッ!?貴様……ッ!?」

 

【ツインブレイク‼】

 

「がはっ!グリス、貴様…」

 

 ラウラを救ったのは、またもや黄金の精神を持つ『彼』だった。

 

「……、ったく。世話の焼ける銀髪だな。オラエビフライ、ビートクローザー(これ)貸せ。あとロックフルボトル(コレ)も」

 

【潰れな~い!ディスチャージクラッシュ!】

 

「ぉおい!?勝手に取ってんじゃねーよ!」

 

 グリスはロックフルボトルで強制的にアンロックしたビートクローザーを構え、持っていたフェニックスフルボトルをセットする。

 

【スペシャルチューン!ヒッパレー!】

 

「オォラァッ‼」

 

 大きく振りかぶって、紅蓮の炎の斬撃を放つグリス。

 

【スマッシュスラッシュ!】

 

 紙一重で躱すも、『赤騎士』は先頃から動きが劣化していた。

 

「っち、私は活動限界だ。VTシステムのデータごときでは、四割の力すら出せないのか……」

「『赤騎士』さん、肝心なところで……!」

「仕方なかろう?そもそも今回の目的は私を生み出すことだったらしいではないか。戦闘になるなど聞いていない……」

 

 どうやらクローズチャージやグリスとの戦いも、『赤騎士』は本気を出せていなかったらしい。IS学園の生徒たちはブリュンヒルデの秘めたる力に畏敬の念を抱き、声も出なかった。

 そんな、戦闘が佳境になる中、その場にある少女の一言がポツリと聞こえてきた。

 

「……、何故お前はそんなにも強い……」

 

 生徒たちが振り返れば、ラウラを庇うように、彼女に背を向けて立つ仮面ライダーがいた。

 彼女の疑問に、黄金の戦士は口を開く。

 

「強い、強いねぇ?……そんなこたぁねぇよ。人間、皆どっか弱さを抱えてる。それでも強いって言うのなら……。そうだ、一つ良いコトを教えてやろう」

「……何だ」

「例えお前が俺と同じ力を得ても……お前は俺に勝てない」

 

 いつもの調子でそう言った。以前のラウラであったのならば、激昂していた所だろう。しかしそれを黙って聞いている。

 

「前までのお前には心火がなかった。命をかけるべき大事なモノがなかった……張りつめただけの糸はすぐ切れるっつーことだ」

 

 『だが、』と言葉を切り……彼女が身を挺して守ろうとした箒を見て、言葉を付け足した。

 

「俺が言うのも何だが、俺達には誰もいない……――――だがお前には『仲間』がいる、新たに出来た『友』がいる。そいつらからてめぇの心火に、魂をくべてもらえ。そして……命を懸けて、『仲間』と共に闘え‼お前はもう……誰かに認められてんだ」

 

 不意に、ラウラの目から涙がこぼれた。始めはポロリと一滴垂れただけだったが……徐々に池の堰をきったように流れ出す。

 

 止まらない。戦場だというのに止めどなく涙があふれる。慌ててグシグシと目を擦る。今までため込んで来た暗い感情まで洗い流されるかのようだった……。

 その時だ。ふわり、と……不器用ながらも優しく、頭の上に手が置かれた。

 

「泣いて良い……それは本当の弱さじゃねぇ。それが弱さだとしても拒むな。お前は泣きながら進め。涙は誰かが拭ってくれる」

 

 その時の黄金の仮面ライダーは……月の落とし子(ラウラ)の目には眩い太陽のように映っていた。自分では輝くことができない月を、優しく照らしてくれているかのように……。

 心にずっと雨が降っていた。しとしと黒い雨が降っていた。だが、彼女の心に蝙蝠傘が差しだされる。全人類を守らんばかりの傘を、金髪の男は持っていた。

 

「自信を持て銀髪……。いや、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』。弱さを知ってる『人間』だけが前に進めるんだ。だから本当に強くなれんだよ」

 

 そう言って、近づいてきていた『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』にビートクローザーを振るい、膂力を活かして地面に撃ち落とすグリス。

 

「がっは……!?生み出されたばかりとはいえ、星狩りの一族になったわたくしが押し負けるだなんて……。シャルル・デュノア、貴様いったい……何故そうまで……ッ!?」

 

 興味なさげにISを見ると、ビートクローザーを何処かへ放り投げるシャルル。

 

「強さに終わりなんてねぇ。俺は何処までも強くなる……!あいつ等の『カシラ』である限りはなァ‼おら、立てよ……もっと俺を楽しませろぉぉぉぉぉッ‼」

 

 そう言うと荒々しく『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』を脚を掴み、スイングしたのちまた地面に叩きつける。

 

「ガハァ!?」

 

 そして……もう一度彼女にパンチを入れ、蹴りやすい姿勢に動かすと……。

 

「希望!情動!信愛‼」

 

 ハイテンションに告げ、スクラッシュドライバーのレンチを下げた。

 

「これが俺のォ!強さだァァァァァァァァッ‼」

 

【スクラップフィニッシュ‼】

 

 肩のスラスターが後方を向き、黒い翼が金色の身体に映える。そのまま黄金のエネルギーをまとった蹴りが、深々と『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』の腹部に突き刺さる。

 

「ハァァァァァァァァァァッ‼」

「うっぐ……!あぁああアアアァァァァァァァァッ!?」

 

 スライディングするようにアリーナ内に着地するグリス。一方、断末魔に近い叫びをあげた『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』は、空中で手を伸ばしもがいたが……。

 

 

 

『許さん!許さんぞ人間が、人間如きの、下等生物がァァァァァ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッッ!?』

 

 

 

 業炎が蒼穹を焼き焦がさんばかりに解放される。

 

 

 

 ブラッド・ティアーズを名乗っていた謎のISは、断末魔を残して爆散した。彼女がいた場所に、赤いイヤーカフスがカランと落ちる。

 

『……お疲れさん、おやすみ』

 

 それを拾い上げ、ブラッドスタークは冷淡に言い放つのだった。




―GAME OVER……―
戦兎「だァ‼また駄目だ‼なんだよこのゲームてぇん↑さい↓科学者のオレでもクリアが難しいって!?」
千冬「遊んでる訳じゃないんだよな……?」
真耶「なら……ノーコンティニューでクリアする‼」
千冬「え、キャラ変わった……?山田君……?」
真耶「黙って見てろ‼天才ゲーマーMを舐めるなよ‼」
戦兎・千冬「「えっ、あっ、はい……」」
宇佐美幻神『ほうこれは……何ィ!?ユニークスキル《ハイパームテキ》(一切の効果を受けないスキル)に選ばれるだとぅ!?』
千冬「それなんてチート能力……」
宇佐美幻神『リアルでハイパームテキなおまいう』

亡国のM「はっくちゅ!……なんか名前被った気がする……」

アイデア提供元:ウルト兎様、ありがとうございます!



※2020/12/28
 一部修正


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第五十一話 『生命のスクラップ』

戦兎「マスター、ただいま〜」
惣万「おかえり…カレーライスあっためておいたぞ」
クロエ「…………」
戦兎「……マスター、どうしたの?」
惣万「(フリップで)『クイズだなんの真似しているか当ててみろ‼︎』」
クロエ「(携帯で)『前回は筋肉馬鹿と心火ドルオタが協力して赤騎士を倒したよ‼︎そして血の雫は……まぁ、頑張れ』」
戦兎「筋肉馬鹿?心火ドルオタ?……いや、誰だよッ‼︎あーでも一体誰の真似なんダァ〜」
クロエ&惣万『ヒントは戦兎のCV』



 イヤーカフスを虚空へとしまったブラッドスターク。その前には、身体から蒼電を走らせるクローズチャージが立ち塞がっていた。

 

「次は……てめぇだ!」

『おーこわ、助けて欲しいな~なんて思ってみたり?』

「ざけんなっ!」

『じゃあ……「待ってくれ、一夏!私と戦うというのか!?」』

 

 そう言うとブラッドスタークは変身を解除した。

 

「一夏、私はお前と……愛するお前と戦いたくはないんだ!」

 

 涙を流しながら一夏に向かって懇願する美少女。その様子を見たIS学園の生徒たちの胸に溢れるのはスタークに対する驚きか、はたまた呆れか。どちらにせよ声も出ない。

 

「ってぇ……めぇぇぇぇぇぇ‼」

「……ッおっと、逆効果か?そうだったな。この箒馬鹿め」

 

 激昂する一夏。その反応も頷ける。何故なら、彼の前には火傷一つ無い素肌をした、『篠ノ之箒』が立っていたのだから。

 思わず拳を振りかぶろうとする一夏に、彼女は一言もの申す。

 

「この箒の柔肌を傷つけるのか?ん?それとも本物と同じく私の顔を炎で焼き焦がすのか?それも良いな。仇が討てる……まぁそんなことをすれば、お前は宇佐美と同じだ。自分の満足のために力を振るうだけの偽物だ」

「ッ、どの口が…!」

 

 箒に擬態したスタークの冷淡な言葉で突然戦闘衝動が萎えてしまう。冷静になった頭で拳を元に戻すも、彼女に化けたスタークに対する怒りは収まらない。

 

「箒に……化けたところで、変わらねぇよ…‼お前は、悪魔だ…!」

「本当にそうか?なら良い、やってみせろ」

 

 箒に擬態したブラッドスタークは、生身の状態でトランスチームガンを操作する。

 

「いざ、尋常に勝負!」

 

【フルボトル!スチームアタック!】

 

 言うが早いか、赤いレリーフの入ったボトルが装填され、細い指によって引き金が引かれた。直後、クローズチャージに向かって灼熱のエネルギーが激突していく。

 

「……ッ野郎、ふざけやがって……ぶっ飛ばしてやる……‼」

 

 それを避けながらも箒に擬態したスタークを睨む。

 

「私は大真面目だ。その程度で心を乱されるな、一夏。男子なら……その程度できなくて何とする‼」

 

 凛として言い切ると片手にスチームブレードを持ち、クローズチャージに斬りかかって来る。

 

「……ッ!何でお前まで『篠ノ之流』が使えるんだよ……!」

「当たり前だろう?私は昔……お前の傍で、お前のことを見てきたのだから」

「それは箒だ!お前じゃない‼」

「なぁ一夏?どうだ、強いだろう?愛する者の為に剣を振るうというのは!」

「スターク……ッ!どこまで箒のことをコケにすれば……ッ!?ぐうぅ……!?」

 

 突然身体の内部から今まで感じたことも無い激痛が走り、一夏はひざを折りそうになる。スタークの箒は、腰の入っていないパンチを易々と片手で受け止めた。

 

「ふむ、ハザードレベル4.2か……全く恐ろしい成長速度だな」

「ガハァ!?」

 

 そして、スタークはクローズチャージの背に一撃を加えると、彼を地面に跪かせ…――――そして抱擁した。

 

「……ッ何しやがる!?」

「やはり、お前は立派だな。直向きに誰かを思うことができる。だから姉にも愛される、…愛おしい。昔からそうだった……、『私』のことで怒ってくれ、『私』の為に泣いてくれた」

 

 そう優しく、歌うように呟く蛇。そっと耳打ちするように、だが心配もするように甘言を吹きかける。

 

「なぁ一夏。もう十分に頑張っただろう?もう投げ出してしまっても良いのだぞ?代わりの人間など幾らでもいる……、お前でなければいけないなど誰も言っていないだろう?」

 

 彼女の目には、本当の慈しみと悲しみが見て取れた。本当に、果てなき空を駆け続けた少年の苦難の道を思いやっているようだった。

 だが、忘れるなかれ。彼が引き起こした悲しみの数々は許されていいはずがない。。そんなもの、一夏には嘘としか思えない。

 

「……うな……」

「ん?」

「……――――お前みたいなやつが、俺を…、篠ノ之箒を…ッ!知ったような口で言うなァッ‼」

 

 白竜の咆哮と共に襲い来る蒼炎を即座に宙返りして避ける『箒』。

 

「何だと?身体はもう限界のはずだ…」

「ボロボロでも……俺は信じたものの為に戦う……!あいつ等の想いを背負って、お前等を倒す‼これが俺の選んだ道だ…!誰にも…!文句は!言わせねぇ‼」

 

【スクラップブレイク‼】

 

 蒼いエネルギーがクローズチャージの身体中を覆う。最期まで命を燃やすが如く。

 

「ハァァァァ……!」

「ちっ……!」

 

 …――――突然、暴発したように閃光が周囲に走る。つんざくような炸裂音が空中を駆け巡った。

 

「がっ…!ガァァァァァァァァッ!?」

「ぉ?……あぁ、それはそうか。三乗攻撃など身体が持つはずがなかった。やはり、限度だったな」

「あ……っあぁ…ぁ」

 

 無念にも、クローズチャージは膝から崩れ落ちる。身体から虚しく白煙が棚引いていた。

 

「一夏ぁ!?」

「あの馬一夏、無茶したわね……っ!」

「……、まず自分の心配をしたらどうだ?」

 

 それを見て箒や鈴は声を上げるが、弱体化しているものの『赤騎士』は未だ健在である。

 

「……ったく、本当に世話の焼けるなぁ!?ハァッ‼」

 

 その掛け声と共にパンチ一発、『赤騎士』の隙を生む金色のライダー。

 

「っ、また貴様か。グリス…」

「へっ……!おいゴラァ、よそ見してんじゃねぇぞ……スタークッ‼」

 

 空中で宙返り、サバット仕込みのキックを放つ黄金の戦士。だが、スタークは見切っていた。箒の姿を真似た顔の前で、その鋭い蹴りが停止する。

 

「ぁん?」

『ヴェハ…ハハハハハ!』

 

 黒い影が箒の姿の怪人の前に立ち塞がっている。蝙蝠のバイザーが金色に輝くと、猛然と煙る暗黒が解き放たれる。

 黒煙から出現した彼女は、掴んでいたグリスの足を捻るようにして遠方へと投げ捨てた。

 

「…お前ェ、ナイトローグってヤツかぁ?俺を満たしてくれんのかァ?」

 

 グリスは落ち着いて立ち上がる。どうやら捻られた方向へ瞬時に身体を回転させ、脚が破壊されるのを避けていたらしい。敵からしてみれば、瞬時の行動が全て最適解となる、恐ろしい男だった。

 

『フン、戦闘狂め。……“キルプロセス”』

「あん?…がぁッ!?」

 

 ナイトローグが取り出したスイッチが押される。それはスクラッシュドライバーの安全装置。突然シャルルが使用していたベルトから火花が飛び散る。グリスの黄金の身体が霧散し、変身が解除されてしまった。

 

「ドライバーが…!」

 

 足元に落ち、煙を上げる壊れたドライバー。止めどなく流れる黒いオイルを見て、冷徹にナイトローグは告げてきた。

 

『シャルル・デュノア。どうやら知らなかったようだな。お前にドライバーを与えたのは財団Xであっても、ドライバーを造ったのは私だ』

「……何?」

『私は財団Xに潜り込み、彼らにライダーシステムを提示し、奴らの資金を使ってそのドライバーを造った。そして丁度良いサンプルとしてお前を選んだ……』

 

 人差し指でシャルルを指すナイトローグ。

 

『つまり、お前たちは私の手の平の上で転がされていたに過ぎない……。あの三馬鹿も無駄足を踏んだな?お前の力になりたいと決意し、自分たちの意思でお前に従い、その先に待っていたのが怪物の体だけだとは……。何と報われない!』

「…、おいてめぇ?」

 

 大袈裟に、嘆くように両手を広げ天を仰ぐ狂人。その言葉はシャルルの心を激しく燃え盛らせた。

 

「……あいつ等の事を馬鹿にしてみろ、ぶっ潰す!」

『今のお前に何ができる?シャルル・デュノア。お前のお陰でスクラッシュドライバーのデータ収集が完了した。どこへでも去るが良い。そうだな……、あぁ、地獄など良いのではないか?』

 

 トランスチームガンを片手に出現させ、煽るようにゆっくりと近づくナイトローグ。だが、そこに三色の閃光が突撃してきた。

 

「「「カシラから……離れろォ‼」」」

 

 ビームと双剣、そして体当たりがナイトローグに殺到する。それを体で受け止めながら、冷静に突進してきた三羽烏を睥睨した。

 

『ふむ、ハザードレベル3.9と3.7、それに3.6か……だが』

 

 バイザーを光らせ測定が完了したナイトローグ。彼女はそれぞれの攻撃を片手でいなし、トランスチームガンの引き金を三回引いた。

 

【Steam Break…!Bat…!】

 

「わぁ!?」

「ぐぇっ!?」

「わひぃ!」

 

 光弾が命中し、スマッシュから人間の姿に戻ってしまう三羽烏。

 

『私には、遠く及ばない。まぁ、トランスチームシステムではハザードレベルは意味の無いことだが』

「お前ら!」

『では、全て殺処分だ…!』

 

 その時だった。天空から、自由と平等、友愛(トリコロール)の一撃が暗黒を裂く。

 

【スパークリングフィニッシュ!】

 

「「ハァァァァッ‼」」

 

 遠方から接近してきた二つの人影。赤と青、そして白のエネルギーをまとったビルドの蹴りと、精密にして強力無比な世界最強(ブリュンヒルデ)の太刀がファウストの二人に向かって放たれた。

 

「おっと…、任せるぞ宇佐美」

『任せろ、その戦闘データは……既に知っている!』

 

 だが、信じがたいことに、ナイトローグはスチームブレードを用いて二人の攻撃を押しとどめる。技術の向上がすさまじい上に、それを易とも容易く使いこなす身体能力も脅威でしかないことを知らしめた。

 

「「何!?」」

『……行け、スターク。赤騎士を使え』

 

 思わず驚きの声を上げた二人をしり目に、ナイトローグはスタークへ撤退を指示していた。代表候補生たちと交戦していた『赤騎士』が箒スタークの脇に侍り、控える。

 織斑千冬を模した人体部分が、光となって消えた。

 

「……待て、私はISを操縦するには初めてなのだが?」

『ノリで出来る。ぎゅわーんとして、ずッ、といった感じだ』

「分かるか。篠ノ之箒ではないのだぞ私は……」

『早くしなければビルドとブリュンヒルデ本人をけしかけるが……』

「それは、恐ろしいな。ではな、私の愛する一夏よ!Ciao♪」

 

 彼女は軽口を叩いた後、通常のISになった『赤騎士』に飛び乗り、大空へ飛び立った。

 

「ま……待て、テメェッ‼」

 

【タカ!】

【チャージボトル!潰れな~い!チャージクラッシュ!】

 

 それを追うため、背後にソレスタルウイングを生やして空へ飛び立つクローズチャージ。箒は彼のボロボロの様子を見て、制止させようとする。

 

「……待て!深追いをするな、一夏!」

「心配、ッすんな!」

 

 どう考えても無理をしている声音で返答するが、一夏の目には倒すべき敵しか見えていない。

 

「一夏!オイッ…!まさかスクラッシュドライバーの副作用で好戦的に…!」

『さて、流石に世界最強格のお前たちの相手をする気はない。私もここらで去るとしよう。ハードスマッシュなど、生かしても殺してもどーでもいいクズだしな』

 

 時間稼ぎを終えたナイトローグは、セントラルチムニーから煙を噴き出す。嘲るように侮蔑を吐き捨てると、現れた時と同じように、闇に包まれ消え去ってしまった。

 

「あぁ!あいつまた……!」

 

 その場に残されたのは、悔し気に拳を握り締めるビルドや世界最強、そして学園の生徒たちのみ。そして勝利とは言いがたい、不愉快なものが取り残された戦闘の跡が、刻銘に邪悪の到来を示していた…――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、お前もしつこいな。そんなだと本物の箒に嫌われるぞ?」

「黙ってろ!」

 

 はるか上空、IS『赤騎士』を追うクローズチャージ。だが彼は、突然身体に異常を来たす。

 

「待て…、ぐぶっ……!?」

 

 肺が苦しくなり、全身に青い閃光が走る。次第に強まる激痛と、相反していくように消えていく自分の意識。やがて、背中のタカのソレスタルウイングが消滅する。

 彼は、キラキラと装甲だった粒子を宙に振り撒きながら、上空数百メートル地点より墜落していった…――――。

 

「あーぁ、言わんこっちゃない。スクラッシュドライバーの副作用だな。では行くぞ『赤騎士』。お前をアジトまで送り届けなければ」

(宜しいので?貴方は誤魔化していますが男性でしょう?ずっと遺伝子を篠ノ之箒に変えたままでは元の身体に戻った時のフィードバックが危惧されますが。幸い私は人間態になることができます。自分で十分ですよ?)

「…………そうか、なら。俺をnascitaの近くまで下ろしてくれ。あぁできれば、時間とかバレないように、十分ぐらいかけてくれ」

(タクシー扱いですか、私を…――――)

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「ゴホッゴホッ……。ちくしょう……血が……止まらねぇ……」

 

 木が生い茂る雑木林、そこに口から大量の血を吐く少年が倒れている。白い制服は所々が赤く染まっていた。激しい虚脱感により力が手から抜ける。

 どれだけ時間が経っただろう。日が山の向こうへ動き、辺りは闇で覆いつくされ始めている。

 IS学園に連絡も入れられない。連絡手段がない上に、恐らく身体のあちこちが折れている。恐らく、いや確実に脊椎に損傷もあるだろう。半身不随の状態だった。むしろ、上空から生身で落下し、生きている方が奇跡に近い。

 

 そこにガサゴソと、慌ただしい足音をたてて二人組の男女がやって来た。

 

「……、いた!クロエこっちだ!」

 

 心配そうに顔を覗き込む女顔のカフェのマスターと銀髪の居候。

 

「……ッ!織斑さん…!血が口から……全く、こんな時戦兎は何処に…ッ!」

「まだ学園だ……、っおい?お前のそれ……、光ってるぞ……?」

「え…?」

 

 突然眩い黄金の輝きを放つクロエのバングル。一瞬クロエの目が緑色に変化し、腕が一夏の弱々しく動く胸に触れる。

 すると、瞬く間にその光は、織斑一夏の損傷した身体を癒し始める。

 

「一夏の顔色が…。呼吸も落ち着いた。骨折も治っている…?クロエ、お前のそのバングル……」

「……これって?」

 

 あまりの超常現象に、クロエは言葉もない様子だった。死に体だった一夏の表情が、既に元へと戻っている。一体今、自分が何をしたのか、クロエは全く分からなかった。冷や汗が一滴、白磁の肌に垂れる。

 

「取り敢えず……、一夏をIS学園に送ろう……」

 

 惣万はジャケットが血で汚れるのも構わず、呼吸が穏やかになった一夏を背負い、IS学園へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

千冬side

 

『と言うワケだ、一夏をそっちに送る。二人分の入校証を用意してくれないか?』

「分かった……重ね重ねすまんな……」

『気にすんなよ、いつものことだろ?お、そろそろ一夏が起きそうだ……。じゃあまた後でな』

「あぁ……」

 

 電話が切れた。先程の戦闘では、またもやナイトローグは逃げおおせてしまった。あの霧を用いたワープは厄介極まりないな。

 

「一夏は……何と?」

 

 疲労困憊だろう箒が私に一夏の様子を尋ねてきた。夜も更けてきたというのに、事務仕事を手伝ってくれているのは責任感が強いからか、はたまた当事者意識も強いからか。些か心配になってしまう。

 

「喀血したらしいが……クロエのバングルの力で今は何ともないらしい」

 

 まぁ……にわかには信じがたい事態だが、惣万とクロエが証言しているとなるとホラ話では無さそうだ……。

 

「バングルって……あの手に収まっている?」

「あぁ、篠ノ之も知っているのだったな……。どうにもあのバングルは不思議な力を持っている。そこで一夏の看病ついでに戦兎に調べさせることになった」

 

 おや、噂をすれば、愚弟の登場か……。クロエや惣万に付き添われて歩いてきた。

 

「一夏ッ!」

 

 突然駆け出す箒。喜ばしいことだが、何故だろうか。そのことに一抹の不安と寂しさを感じてしまう私がいる。

 

「箒……悪い、心配かけた」

「あぁあ……マスター。ブラックコーヒーくれませんか。ブラックホールみたいな真っ黒い奴」

「クロエ、そんな不味そうなコーヒー淹れてたまるか。そして千冬お前その顔やめろ、しわが増えるぞ……ぁはん!」

 

 殴っておいた。……誰のせいだと思っているんだ。

 

「ん?」

「?どうしたのです、マスター?」

「いや、あそこにいる金髪の挙動が……」

 

 私も彼らの指さす方向を見てみれば……――――あぁ、成程。挙動不審な人間が一人。耳がぴくっと動き、その後立ち上がりマッハでこっちに来た。

 

「でぃひッ……」

 

 うわぁ……。残念人間の私から見てもこれはないと思える。さっきまでの実力者としての面影が欠片もない。こいつは真面目な状態を維持できんのか?

 

「やっぱりそうだ……、くーたんだッ!」

 

 その後ガッツポーズ。うわぁ、典型的なドルヲタも、ここまで酷くはないだろうに。

 

「え、何?」

「え?」

「え」

「えへ」

 

 クロエは絶妙に顔を顰めている。其れはそうだろう、彼女はネットアイドル。週末に会えるアイドル的なものじゃない。彼女の性格からして、対外的に行動するのは苦手だろうしな。

 それに気付いたのだろうか。シャルル・デュノアはニヤニヤ笑いを引っ込め、真面目な顔をしたかと思えば大きく一つ咳払い。

 

「んフン、シャルル・デュノア、15歳中卒、ネットで初めて貴女と出会った時から心火を燃やしてフォーリンラブでした!あ、握手してクダサイ」

 

 ドルオタ何しているのだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。こっち来い、ちょっと。ちょちょちょちょ」

「え、ナンスか」

 

 惣万が溜まらず注意をする。それでこそお前だ。良かったぞ、この場に常識人がいてくれて。

 

「握手するなら……、整理券買ってくれ。ハイ、五万円」

 

 …――――全然違った。

 

「ボるのかよ……」

 

 一夏、私も同意する。惣万、お前はそこそこ安定した収入を得ているだろうに。

 

「安いっすね。あ、十万払えばくーたんとツーショットとか?」

「出すのかよ……」

「ちょッ、カシラぁ!それボクらの生活費⁉」

 

 そして三羽烏と名乗っていた三人組。こいつらはカシラに振り回されてばかりいるな…――――。可哀そうに。

 

「……はぁ、もういいか?」

 

 流石に茶番を長々続けさせるわけにはいかんな。こいつらは“今回は”学園を守ってくれはしたが、以前は学園を強襲し被害を出した敵なのだから。

 

「ん、あぁ…。織斑千冬…だな」

「そうだ……貴様は、シャルル・デュノア……だったな?」

「あぁ、そうだ」

 

 先程までのお茶らけた態度は鳴りをひそめ、私と向かい合う一人の男。……中々どうして様になっているものだ。私と同格の実力を持つと言うのも頷ける。

 

「貴様は以前、IS学園に襲撃を行い、因幡野戦兎や織斑一夏に危害を加えた……。何か言うことはあるか?」

 

 千冬姉……!と愚弟が言葉を漏らすも、黙ってろと目線で告げる。これは必要なことだ。力を振るった人間は、その責任をいずれかの形で取らねばならない。

 

「……なら一つだけある」

 

 ほう?この男は一体何を望む?

 

「都合がいいとは分かってる、だが、どうしてもアンタの力が必要なんだ。俺はどうなっても構わない、だけどその代わり、あいつ等のことだけは……守ってやってくれねぇか?この通りだ……頼む……ッ!」

 

 そう言って、シャルル・デュノアは膝をつき、斬首を待つ罪人のように土下座をした。私の目の前で、この首一つで勘弁してほしい、とばかりに頭を垂れている。

 

「カシラ……」

「そんな……」

「……」

 

 ……――――全く、こうされると私は何も言えないではないか。仕方がない。

 

「分かった、シャルル・デュノア……お前は――――――――」

 

 そして、私は一つ、沙汰を下した。昼間に轡木さんと学園長を交えて決めた、一つの解決策を金髪の少年に告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称side

 

「えぇーっと……今日はIS学園に新たに入った子を紹介します……まぁ生徒じゃないんですけどね?」

「シャルル・デュノアだ。今日から用務員とか警備員とか雑用係とかとしてここで世話になる。気軽にシャルルンって呼んでくれ」

「お前かよォ!?」

「「「「「キャァァァァァーーーーーッッッ‼」」」」」

 

 女子の叫びに瞬時に耳栓をする一夏。もはや手慣れたものである。

 

「三人目!三人目の男子‼」

「シャルルーンッ‼私と運命(さだめ)の鎖を解き放ってぇッ‼」

「キバッて、行くぜーーーッ‼」

「ハイハイ質問デース‼タイプな子はどんな感じ?」

(((……あっ、やべっ)))

 

 ごく一部の事情を知っている人間は顔を青くする。特に一夏は命がけの死闘を行った彼の、キャラ崩壊も甚だしいアレを見たいとは思わない。自分が何か、情けなくなってしまうからである。

 

「くーたんです」

 

 はい\(^_^)/ヤッタ。/(^o^)\ナンテコッタイ。

 

「あ、くーたんってネットアイドルの子なんですけど、一年前……詳しくは90日7時間前に初めてネットにアップされた『Be The One』が再生回数二億回を超えて……『うっさい』ぁはん‼あざーす‼」

 

 未だバングルの調査によって学園にとどまっていたクロエがドアの向こうからドロップキック(エンペラームーンブレイク)を繰り出していた。

 

「……シャルルンって~、ドルオタ~?」

「あ~……やっちゃったなオイ。新学期早々ボッチになる奴じゃんこれ」

 

 恐る恐る教室内を見回す一夏。冷めきった視線が待ち受けているだろう、合掌……とか思っていたのだが。

 …――――IS学園の女子たちはハートが違った。

 

「好きなものに夢中なのね……嫌いじゃないわ‼」

「はぁ⁉」

 

 思ってもみなかった反応に、彼は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

「ドルオタのイケメンって純朴そうよね!」

「あたしもアイドル好き!一緒に見に行かない!?コメット姉妹のライブとれたの!」

「純愛してるシャルルンをNTR(*´Д`)ハァハァ」

「うん待って、やっぱりこの学園オカシイ」

 

 頭痛がして来た一夏はこめかみをもみほぐす。箒がとっさに頭痛薬を投げてよこしてきた。助かった……。いやマジで。

 

「ま、そう言うことでよろしくな。あ、一夏だったな。また()ろうぜ」

「待て待て待て、字面オカシイ、つかここでそれ言うな危険だから!」

 

 特に今きゃいきゃい言った腐ってるお姉様方とかに、新鮮なネタを提供することになってしまった。被害が大きくなったのは一夏の方であった。

 

「つーかおい!ココにいるからには勝手なマネすんなよ!」

「お前こそ余計な事して足引っ張んじゃねぇぞ」

「余計な事って何だよ?」

「何だ?このエビフライ頭」

「エビフライのどこが悪いんだよ?」

「いや悪くねぇけどタルタルすんぞこの野郎」

「タルタルするって何だよ……」

「ソースぶっかけんぞってことだよ」

 

 不毛な争いが起ころうとしたところでクロエが割って入ってきた。醜態をさらすファンに我慢ならなくなったのだろうか。だとしたらアイドルの鏡である。

 

「ケンカしないでっ!……お願い」(首こてっ)

「もう二度としません(首こてっ)なっ」

 

→クロエこんな顔(・_・)。何でこんなことしてんだ自分、とクロエや一夏は思ってみたり。

 

「あ、そーだ。僕の寝る場所どこですか?」

IS学園(ここ)に住む気かよ⁉聞いた話じゃ下宿先にバーバーイナバーあんだろ!」

「もう散髪台じゃ寝たくねぇんだよ。実を言うとな俺のくーたん枕が散髪台じゃ寝たく……」

「嘘つくなよ!この枕サンドバックにしてやろうかあぁん?」

「おい何してんだやめろ……アーッ、アーアーッ‼」

 

 ボコボコと枕を殴りつけるワンサマー。それを見て必死な形相で枕を天へ掲げるシャルルン。だが、勢い余って手から枕がすっぽ抜けてしまう。

 

「ぉああああああああ!何してんだエビフライ!」

「…――――む?」

 

 飛んだ枕は銀髪の少女の手の元へと着地。埃一つつくことは無かったのだった。

 

「おぉー、サンキュー銀髪それ寄越せ」

「うむ、分かったぞ」

「…――――んぁ?」

 

 ただし、寄越すのは枕だけではなかった。彼との顔の距離さえどんどん近づき……見れば彼女、つま先立ちで肩に手を掛けている。

 

「フンッ‼」

「あいた‼」

 

 とっさに銀髪の少女、ラウラの頭を押さえつけるシャルルン。

 

「……何するつもりだった、ぉおん?」

 

 それに彼女は胸を張って、堂々とこう宣った。

 

「キスだ!」

「何でだァ!?」

 

 そしてさらに腰に手を当て、宣言するように高らかにこう言い放つ。

 

 

「貴様を私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

 

「お前が嫁なわけあるかぁ!俺の嫁はな……くーたんだけなんだよぉ!こっちも異論は認めねぇぇ‼」

 

 

 即座に負けじと声を張り上げたシャルル。その言葉にショックを受けたように固まるラウラちゃん。思わず身震いしたクロエは、即座に教室から撤収した。その後、正気に戻ったクロウサはほっぺを膨らませシャルルに掴みかかってきた。

 

「何だと……貴様ぁ!私の目の前で浮気宣言とは良い度胸だな!亭主関白は許すが浮気だけは許さんぞ絶対に!」

「そもそもお前の言う事が間違ってんだよ!何だよ嫁って、あぁゴラ!?」

 

 シャルルの言葉に、ラウラは小首をかしげて言う。

 

「…?気に入った者のことを『俺の嫁』と言うのが日本のルールではないのか?」

「お前に間違った日本知識与えたヤツ連れてこい!」

「……。いや、シャルルの知識も偏ってると思うんだが……」

 

 一夏の冷静なツッコミは、騒々しい教室の中に漂って空しく消えた……。まぁそんなこんなで、IS学園にもう一人の男子が雑用係として採用されたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……えぇ!?お前とクロエって姉妹なのか……!?」

「そうだ」

「何でお前ら言わなかったんだよ……」

「それは……」

「それは?」

「「誰も聞かなかったからだ」」

「さいですか……」

 

 こんな一幕もありました。

 

「これから仲良くしてほしい、クロエ姉さん。できれば嫁と仲良くなる方法を知りたいのですが、教えてくれませんかこの通り!」

「仲良くします!だからぜひグリス引き取ってくださいお願いします!」




戦兎「…カレーライス。無口。ベストマッチじゃない………もうひとつ足りないのか?……‼︎喫茶店ッ、名前に『惣』が入るマスター!答えはペルソナ5だ‼︎」
惣万「(大きく手を鳴らして)正解ッ‼︎」

【Lupan……♬】
【スカル!】

クロエ「マスター……カレー冷めてしまったので温め直しましょう」
戦兎「てかマスター……イメージCV的に女子高校生モデルなんじゃ……」
惣万「お、見たい俺の生足?」
クロエ&戦兎「「見たくないッ‼︎」」
惣万「えーそんなー(´・ω・`)。自分で言うのもアレだけど、フツーに細くて綺麗なんだがなー(チラチラッ)」
戦兎「それでは皆様サラダバー」
惣万「無視かい!」

 あらすじ提供元:ウルト兎様ありがとうございます!


※2020/12/21
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第五十二話 『デートのドキドキはゼロになる』

クロエ?「は~い!みーんなのアイドルッ!くーたんだよっ、プンプン!前回の出来事は、カッコイイ王子様シャルルンがだーい活躍!赤いセシリア・オルコットを撃破しちゃったよ!わーすごーいっ‼」
戦兎「いや待って。それ二話前の話だからね?グリスはドライバーがぶっ壊れて見せ場なかったからね?」
クロエ?「そんな私のシャルルンに、新曲を歌います!聞いてください!『恋するマドモ〇ゼル』!」
戦兎「いやそれ、CVざーさんの方のシャルの歌ぁ!……ってまさかお前……!」
クロエ(本物)「いい加減にして‼」(ドロップキック)
クロエ?→シャル「ありがとうございますッ!!!」
戦兎「カツラ取れた……ってうわぁシャルルンがシャルロットになってるぅぅぅ!?」
スターク『はっはっは、(性別を)すり替えておいたのさ!』
戦兎「スタァァァァァクッ‼」



 ここは、一体どこだろうか……。クロエの目の前には赤い砂漠が広がっている。そこに、サクサクと砂を踏みしめる足音が聞こえてきた。

 

―んお?ここにいたのか、■■。夜空を見て、どうした?―

―……やはり星は綺麗だ、■■■。あの煌めきが私たち、■■■■の民の胸の結晶の様で……見守られてると思ってしまうな。お前はどうだ、■■■?―

―ん、まぁ……一面が真っ暗な空に比べたら格段に良いけど?―

―全く、無粋なセリフしか言えんのか?ここはもっとこう……ロマンチックな言い方があるだろう?―

―んじゃ……お前の瞳みたいで綺麗だな―

―なッ……不敬もニョ!?―

―フッハハハハ!噛んでやんの!―

―むぅぅぅっ……■■■ァ‼―

 

 

 

「……?」

 

 クロエは眼を開け、頭についていたヘッドセットを外す。辺りは先程までのどこか分からない場所ではなく、IS学園の保健室だった。

 

「どうだった?バングルの調査で内部のコアとのシンクロ率を上昇させてみたんだけど……」

 

 そう言ってクロエからヘッドセットを受け取る戦兎。一夏の致命傷を治したISと思しきクロエのバングル……それに宿るコアから情報を引き出そうとするも、その作業は難航していた。

 

「いえ……何か、綺麗なものを見た気がします……それだけしか……」

「……そうか……」

 

 何も覚えていない頭で、薄れる記憶を思い出そうとするクロエ……。だが、何も思い出せなかった。その時、何故かは分からないが、レストランカフェのマスターの顔が思い浮かんだのが、気になった……。

 

 

 

 一方……。

 

「スターク!これは一体どういう事だ!なぜシャルルが仮面ライダーになっている!?」

 

 開口一番部屋に入ってきたデュノア社社長アルベール。ソファに寝そべっている赤いパワードスーツの人間は、まぁまぁとジェスチャーをして彼の怒りを鎮めようとする。

 

『落ち着けよ、社・長?俺が何も考えずにシャルルを仮面ライダーにしたと思うか?今世界で一番安全な場所は何処だと思う?』

「それは……、ッ!」

 

 その言葉を聞いて、ハッとするアルベール・デュノア。

 

『そう、分かったようだな!この地球で唯一の、無干渉されるべきにして世界最強が属する場所、IS学園だ』

 

 スタークはゆっくりと落ち着かせるように立ち上がり、彼の肩を親し気に叩く。

 

『ほらな、言った通りシャルル・デュノアを指一本触れさせない様にしたぞ?』

「……つまり、お前はデュノア社内で計画されていたシャルル暗殺の動きを知っていたのか……」

『まぁな。感謝してほしいくらいだぜ。これでシャルル・デュノアは自衛のための力と何人(なんぴと)からも侵されない居場所に落ち着くことが出来た……。なぁアルベール・デュノア?お前の望み通りだろ』

 

 力が抜けたように腰を下ろすシャルルの父親。だが、ほっとしたと同時に、断腸の思いが胸を強襲する……。

 

『なんだ?親の手を離れていったことが未だ整理できていないのか?そんな事、とうに覚悟できていただろう?それとも何か?今更父親面が出来るとでも思っているのか?』

 

 スタークが空かさずその感情を察し、痛いところを突く。

 

『はっきり言えば……、そもそも妾の子として生まれたシャルルに接することが出来なかったのはお前等の責任だ。恨まれ、絶縁になったとしても自業自得だろう?』

「………………」

 

 その言葉を聞いて、分かってはいたもののやはり苦し気に顔を歪める『父親』がそこにいた。

 

『お前たちの愛情は、きっとシャルル・デュノアには伝わらない……』

 

――――まぁ、伝わる時が来るとしたら…………それは……

 

 

 

 

 

 

 麗らかな朝、IS学園の用務員室の一室。三羽烏と雑魚寝していた彼は抱き枕に頬をこすりつけ、間抜け面を晒していた。

 

「でぇへへ……く~た~ん、……?」

 

 突然周囲の様子が騒がしくなり、『服は何処』だの『邪魔するな』だのと言う言葉が耳に入って来る。うすく開いた瞼に、ぼんやりと映り込んだのは銀髪に赤い瞳の…………。

 

「おはよう嫁よ。さわやかな朝だな!よく眠れたか?」

「……最悪の目覚めだよ……」

 

 シャルルのことを嫁と言って憚らない銀髪軍人だった。

 

「む、私の何に不満があるというのだ」

「くーたんかと思ったらてめぇだったのがアウトだよ……、つか何だその恰好。何でくーたんリスペクト?」

 

 彼女はクロエが何時も着ているような、フリルつきのブラウスを着用していた。……――――あれ?と首を捻るシャルル。この服、俺がくーたんを参考に選んだ観賞用の服じゃなかったっけ?……と。

 うん、変態ですね。

 

「夫婦の間柄では包み隠さないものだと聞いた!なので全裸で来たのだが、三羽烏の三人に着替えさせられた!全く、嫁とのスキンシップを何だと思っている、無粋な小姑どもめ……」

「お前等ぁ!グッジョブ‼でもこの銀髪が着てる『くーたんコーデ』の服、俺の私物だろうがァ‼」

「カシラ、服は着るものです、愛でるものではありませんよ?」

「っうぐ、……で、でもさぁ!?」

「デモもタコもありますか?……、あぁ、それとも何か文句でも?」

「……、すさしたっ(すみませんでした)!」土下座ァ!

 

 三羽烏唯一のストッパーであるブルが、笑顔でありながらも……般若の様なスタ〇ドを背後に生み出しシャルルを黙らせた。ついでにラウラにルージュ、ジョーヌまで怯え切ってしまったが、それはコラテラルダメージである。

 

「つ、……つーかさっきからジャラジャラうっせぇな……。何ソレ」

 

 話題を変えようとシャルルはさっきから聞こえていた音を指摘する。するとラウラは得意げにポケットから黒、赤、青、黄色、そして白のタグが付いたチェーンを取り出した。ムフー、と笑顔を浮かべ、それをつきつけるラウラちゃん。

 

「ドッグタグだ!部下たちが持ってるものを参考に五人分作って来たぞ!受け取れ!」

 

 朝っぱらからハイテンションのラウラに、若干引き気味なシャルルは皮肉をこぼす。

 

「ハッ……くーたんから貰えたら、なお良かったんだがよぉ?」

 

 すると……。

 

「……いらないのか……?」

 

 目に見えて落ち込んじゃうラウラちゃん。しょんぼりとした雰囲気が、幼児体型を更に小さく見せている。シャルルを尊敬する三羽烏からの視線も痛くなった。

 

「……っち、ピュアかよ……。だぁもうッ!勘違いするな、要らねぇって言ってねぇからな!」

「え……」

「おら、ちゃんと寄越せ」

 

 そっぽを向きながらも手を彼女に差し出し、『早く寄越せ』とでも言うように手をくいくいと動かすシャルル。それによって、ぱぁぁッと顔を綻ばせ笑顔になるラウラちゃん。

 

「……嫁がデレた!コレがツンデレか、良いものだな!クラリッサに連絡を!」

「だぁもううるっせぇ!ヤダコイツ‼くーたん助けてくれェ‼」

 

 各々がチェーンを受け取ると、三羽烏のルージュが口を開いた。

 

「で、ウチらの部屋に来たのはそれ届けるためか?」

「まだだ!嫁よ、私たちのデートを始めようではないか‼」

「「「「……………………はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」

 

 信じてーのデータラーイブ♪

 

 

 

 

 

 シャルルたちが暮らす用務員室に、騒々しいてぇん↑さい↓科学者がやって来たのは、銀髪兎がやってきてすぐ後のことだった。

 

「シャルルン、ドライバーのことなんだけど~…、あれ?いない……」

 

 空っぽな部屋には、メモ用紙に『嫁と出かけるぞ!ムフー』(そしてラウラの似顔絵つき:作ジョーヌ)と書置きが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「参ったなぁ……スクラッシュドライバーをシャルルン用にチューンするのに生体データが必要なのに……、まぁ後でも良いんだけど。オレとしては今すぐに創りたいっ!でもいない……、そうだっ!良いコト思いついた‼」

「一夏一夏、因幡野先生が変な事言いだしてるぞ?」

「何を言ってんだ……いつもだろ」

「それもそうか……」

 

 最早対処の仕方に投げやり感がある仮面ライダー部員たち。保健室通いからあっという間に復活した筋肉野郎が戦兎をディスる。丁度その時、シャルルンがお熱の美少女が顔を出した。

 

「戦兎、マスター知りません?」

「あ、クロエ。そう言えばまだいたんだよね……。そうだ!」

 

 何か良からぬことを思いついた戦兎。一夏は嫌な予感がして、思わず口を塞ごうとした……が。

 

「クロエ、一夏がお前とデートしたいって~」

「「……、ハァァァァァァァァァッ⁉」」

 

 とんでもない爆弾発言をかますてぇん↑さい↓科学者。クロエと一夏は叫び声を上げ、箒なんかは『ならばぁ!答えは、一つだぁ!』とか言いながら木刀を膝でへし折っちゃった。

 

「丁度いい機会だろ?引きこもりネトドルのお前が外に出たんだ、一夏と一緒に遊んで来い!」

 

 やっぱりこう言う所が篠ノ之束だよなぁ、と思ってしまう一夏(現実逃避)。その言葉に動揺する二人の少女に仮面ライダー部員は声をかけた。

 

「ちょっとクロエさん?大丈夫ですの?」

「えぇぇ……でっでででデートォォォォォッッッ!?デートってあのデートォ!?」

 

 マンガのように目を回すクロエ。

 

「……、箒?どしたのむくれて……」

「(ほっぺぷくー)……、ふんッ!怒ってなどいないッ」

(((やだこの子たち、可愛い……))ですわぁ……)

 

 マンガのようにほっぺを膨らませてそっぽむいちゃう箒。

 

「おい待てよ何で俺が行かないと……」

 

 一夏は戦兎に噛み付くが……。

 

―以下、パントマイムでお送りします―

 

戦兎(いいから・黙って・言うこと・聞けよ)パタパタ( `―´)ノ

一夏(ふざけんな・シャルルにでも・行かせりゃ・いいだろ!)バタバタΣ(゚Д゚#)

戦兎(クロエを・餌にして・シャルルを・探すんだってば・馬鹿。そもそも・あいつに行かせて・平和に解決すると・思う?)バッパタ、バタバタバタ(´・ω・`)?

一夏(……思わねぇけどよ!俺には・箒が・いんだよ!つか・なんだよ馬鹿って!筋肉・付けろよ・筋肉!)バタバタ、パタパタ、パパッマッスル!( ゚Д゚#)

戦兎(頼むよ・後で・バナナ・あげるから)バタパタバタタ、(・ω・)bグッ

一夏(やったーバナナだぁウッキー、ってサルじゃないんだよ・俺は!)パタパタバタタバタ、( #`―´)ノ!

戦兎(あーもう・しょうが・ないね~、箒ちゃんも・誘って・ダブルデートに・すれば?)バッタタバタタ、パタタタタ、┐(´д`)┌ヤレヤレ

一夏(……分かったよ)きらりん☆【レボリューション!】

 

「……っうしっ!クロエ、箒!遊びに出かけるぞ!」

「……っ心の準備がぁ~!」

「……つーん」

 

 一人は顔を真っ赤にして、もう一人は私不機嫌です、と全身で表現している。

 

「……あー、箒はゴメン、後で埋め合わせはすっから……」

 

 頬を掻きながら頭を下げる一夏。

 

「本当か?」

「本当だ」

「本当に本当だな?なら良いぞ……」

 

 そう言ってキュッと彼の手を握り、しょうがない奴め、と言うような笑みを浮かべるのだった。コーヒー下さい。

 

「あ、一夏!クロエに変装させるの忘れんなよ!一応大人気ネットアイドルだから!」

「え?……(おい、じゃあシャルルおびき出すのはどうすんだ?)」

「(アイツなら声か匂いかで分かるんじゃない?)」

「(シャルルェ…、扱いが人間じゃなくなってきてる…)」

 

 

 

 

 

ラウラside

 

 やぁ諸君、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。今私は嫁とデート中。こじゃれたカフェでモーニングである。

 んっん、テンションが上がってしまった。嫁がアイドルとして尊敬している姉さんのように、私も慎みを持たなければ…。

 

ATCHOUM(ひぃっくしッ)!?……あ゛ー、誰か噂してんな……ハッ!まさかくーたんが俺の事を!?」

A vos souhaits(カシラの願いが叶いますように……)

 

 そう言って後ろの席でコーヒーを飲んでるベレー帽の女が冷ややかな目で見てくるぞ、嫁よ。

 

Merci(あんがとな)

「やっべぇ皮肉すら通じない……」

 

 ブルと言ったか。彼女は何故疲れた顔をするのだろうか?

 

「おっと、寒気が……小便行ってくる」

 

 そう言って嫁は席を立った。その後ろ姿を見ながら私は疑問を三羽烏に投げかける。

 

「なぁ三羽烏、質問だ」

「あんだ?黒ウサ」

「何故偽名を使っているのだ?そのタグを創る時にドイツ軍の情報網や、更識簪のネットワークを活用して見たのだが……本名があるだろう?」

(私が調べましたby簪)

 

 その言葉で、三羽烏の顔が真面目なモノになる。

 

「……ウチらは兵器になると同時に名前を捨てた。お前とは逆にな」

 

 まぁ、全てはファウストの策略だったらしいけど……。と付け足すルージュ。

 

「それで私たちは(ルージュ)(ブル)(ジョーヌ)ってあだ名を付けたのです」

「でも変なことにカシラは一度もその名前を呼んでくれないんだよねw、ネビュラガスの影響とかで忘れちゃってるのかなw」

「いや、ルージュじゃないんですし…」

「ヲイ」

 

 

 ……………………。

 

「……いや、逆ではないか?」

「「「?」」」

 

 あの嫁が、そんな理由で名を呼ばんと言うのは些か疑問がある。ここは私の嫁愛を知らしめる時!

 

「お前たちの本名を大切に思い、忘れていないからこそ、三羽烏としての名前を言わないのではないのか?…――――本当は兵器として戦ってほしくないからとか、無味乾燥な存在として扱いたくないとか思っているのではないだろうか?」

 

 どうだろうか、私の推察は?私は嫁の事を中々に理解できているだろう?

 

「……――――おい黒ウサ」

「ん?」

「お礼に飴ちゃんいるか?」

「いらんッ!急に何なのだ!?(; ・`д・´)」

 

(だが飴玉はちゃんともらった。口に含んだキャンディを転がすラウラちゃん可愛いヤッター)




戦兎「おいどうすんだ!?女になったままだぞあとがきの方のシャル!?」
惣万「落ち着け戦兎、ちょっと中国行って男が滑って溺れた温泉水貰ってくっから」
戦兎「いやマスターが一番落ち着けェ!?『シャルル二分の一』にならないからァ‼」
シャル「くーたん!一緒にお風呂入ろう!?(;゚∀゚)=3ハァハァ」
クロエ「やだーッ!原作通り織斑さんと一緒に入ってェ!?」
一夏「俺だって願い下げだァ‼」

あらすじアイデア提供元:柳星張様ありがとうございます!

※2021/02/13
 一部修正


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第五十三話 『“災”強たちのデート・ア・ライブ―ときめきレボリューション―』

戦兎?「さーて、前回までのビルドは仮面ライダーグリスであるシャルル・デュノア……おーい、原稿取り替えたのだれだ?美空?万丈?」
シャルル?「シャルルって誰だよ…グリスは俺だぞ」
一夏?「もーどーでもいいから、とっととあらすじ紹介しろよ戦兎」
戦兎?「分かったよ…シャルル・デュノアは自分の事を嫁と言って聞かないラウラ・ボーディッヒとデートを『なんでグリスがみーたん以外のやつとデートしてんだゴラァッ‼︎』うっさいよカズミン」
一夏?→万丈「ん?てかこの台本のタイトル『IS A EVOL KAMEN RAIDER?』……違う台本じゃねーかッ‼︎戦兎ちゃんと確認しろよッ‼︎」
戦兎(原作)「うわ、マジだ、うそーん……もういいやとりあえず五十二話どーぞ」



 ここはレストランカフェ『nascita』。休日は開店していないのだが、予約さえ入れればお客の要望で二組限定のモーニングセットを提供してくれるという、一部の人間にしか知られていない裏システムがある。今日のお客は……。

 

「おっしお前等、食べ終わったか?んじゃ行くぞ……ん、オイ銀髪、食い逃げは良くねぇぞ」

「ムフー、心配するな、嫁よ!お前がトイレに行っていた時に既に払っておいた!」

「何だこのイケメン力は……」

 

 そう言って席を立つ金銀ペアと三色カラス。そこに中性的なレストランカフェのオーナーがやって来た。

 

「あーデート中すいません、お客さん方。ウチチップは必要無いので……コレ、お返しします」

「なんと!日本人は慎ましやかだとは聞いていたが、その通りなのだな!」

 

 ドイツやフランスでのクセで余計に払ったお金を返してくれる、日本人の文化に感動するラウラ。

 

「ありがとうございました……ん?」

 

 ラウラたちが店を出た丁度その時、マスターのポケットから第九のメロディが流れ出した。

 

「おっと……もしもし?何だ千冬か……何?水着を選んで欲しい?何で俺が……はぁ?山田ちゃんがいただろ。はぁ、ゲーセンに出かけちゃった?何?『決定事項だ、異論は認めん』だぁ?いや知らんよ……『レゾナンスに来い』って。え、おいちょっと……おーい……」

 

 ドア越しの店内でそんな会話が交わされるのを耳を傍出てて聞く教官命な黒ウサ。

 

「……むぅ、今の電話は教官からのようだな……確かあのマスターは教官の幼馴染だと言っていた……良し、私たちもレゾナンスに行くぞ!」

「えぇ、デートじゃないの……?それでいいんですかカシラ?」

「いや、何かレゾナンスにくーたんがいそうだから異論はねぇよ?」

「マジで何言ってんだこいつ……」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 さて、一方でレゾナンスに到着した一夏一行なのだが……。

 

「デート……。一体どんなことなんだろう……(ワクワク)」

「一夏とデートか……フフフ(照れ顔)」

 

 一夏や箒はまだ良い。私服に着替えただけなのだから。しかしクロエが問題だった。

 

「(…ところで一夏?アレ、良いのか…?)」

「(仕方ねーだろ、バレると騒ぎになるだろうし。あいつ顔だけは良いし、若干ダサいくらいで丁度良いんだよ)」

「(いや、それにしても瓶底メガネとか三つ編みとか…――――、どうしよう絶妙な出ダサさで突っ込みづらい)」

 

 二人がひそひそ話ているのも知らず、初めてと言って良いお外での遊びに胸を高鳴らせるクロエ。なお、このセーラー服一式は戦兎のチョイスなのだが、一体どこから持ってきたのやら。

 

「よし、んじゃクロエ行くぞ……の前に、そこで尾行してるお前等、出てこい」

「「え?」」

「あー、やっぱり気づくわよね……」

 

 そしてぞろぞろと柱の影から出てくる仮面ライダー部員たち……。

 

「いやぁ、心配でしたので、つい尾行を……」

「……って、いやお前ら待て、何だよその格好⁉」

 

 思わず叫び声を上げてしまった一夏は悪くないと思う。

 

「まずオルコット!目出し帽に黒タイツって何⁉」

「……?ジャパニーズマンガで調べたところこれが一番しっくりきたもので」

「オルコット、お前もか!?脱いどけぇ‼」

 

 ここに日本文化を勘違いしていらっしゃる外国人その三が。しかしファッションセンスは良いようだ。無地の黒タイツは彼女の美的センスに合わなかったようで。全身タイツには背骨がデザインされ、腹部にでかい鷲のバックルがアクセントになっている。

 つーかただの●ョッカー戦闘員である。オエージでも流石にそんなカッコしないわ(映画撮影以外で)。

 

「そんで鈴……、お前、うん。お前が一番マトモだな。でもグラサンに黒服ってエージェント過ぎ。逆に目立つわ、不法滞在宇宙人を取り締まる気か?」

「別に良いじゃない、アタシあの映画好きよ?」

「知らねーよ……、着替えなおせ。んで簪氏は……」

「…おらおらー…、嬢ちゃん、オレとプロテインしなーい…」

 

 短ラン、リーゼント、サングラス。しかしヤンキーには見えない垂れ目の少女がだぶだぶのボンタンを引きずって現れた。

 

「簪に至っては何それ⁉せめてお茶に誘え‼」

「…せっかく恋愛イベント起こして手助けしてやろーと思ったのに…」

「余計なお世話過ぎるわ!つかなに⁉それで箒とクロエが引っかかると思ってんの!?」

「…いや、一夏が引っかかるかなと…」

「標的こっちかよォォォ⁉」

 

 荒ぶる一夏。ご苦労様です。

 

「はぁ……、まぁいいや。『『良いの(か・ですか)!?』』ツッコミ疲れたんだよ、察してくれよ……、シャルルを探すぞ……」

「ついでに臨海学校の水着も買いたかったのよね~。水鉄砲も買おうかしら」

 

 そう言って近くの玩具屋さんの店先にあった銀色の銃を手に取る鈴。

 

「黒ずくめのお前がそれ持つとあの黒服連中に見えるからやめてくれよ……」

「〇レクトロバイオメカニカルニュートラルトランスミッティングゼロシナプスレポジショナーいる?宇宙人の記憶を一発消去……」

「よく覚えてるわね?」

 

 一昔前の不良と化した簪氏がピカッとするやつを取り出したのを見ながら、一夏はため息を吐くのだった。

 

「これじゃ俺……デート相手じゃなくて引率の先生だな……。ん?アレは……千冬姉?私服でどこ行くんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その話題に意図せず上がった不法滞在宇宙人はというと……。

 

「うっは!めちゃくちゃ美人ジャン!らっきー」

「おねーさん、ねぇ暇?お茶しない?」

「あ、ははははは……(早く来てくれぇ……!)」

 

 絶賛ナンパにあっていた。(注、彼は男です)そこに、凛とした麗しい声が響く。

 

「おい貴様ら」

「あぁ?誰だよ……、ブッ、ブリュンヒルデッッッ⁉」

 

 鋭い眼光を光らせ、ナンパ男たちを睨む織斑千冬が。

 

「私の連れに手を出さないでもらおうか」

「「はっはいィ‼大変申し訳ありませんでしたァ‼」」

 

 スタコラサッサと逃げ出す尻の穴が小さい男たち。まぁしょうがないけどネ。

 

「やぁ、助かったよ?でも遅いお付きで?」

「う、すまんな……それにしても、男に誘われるとはな……」

「いやぁ、モテて困るよ?たはは……」

 

 眉間をおさえながら、ずり下がった白いジャケットを整える千冬。頭を掻きながら情けなく笑う惣万。……その二人の様子はとても様になっており、彼らの周囲からの視線を集めていた。

 

「全く、しょうがない奴だ。ならば……せめてもっと男らしい服装をしろ」

 

 今の彼はマルシュハットにチェック地のブラウス、華奢な首にかかる金色の細かな細工のネックレス。だが、何よりもそのファッションは彼の中性的な外見をさらに女性らしく見せていた。白いボトムスが映えるほっそりした長い脚を組み、惣万はため息をつく。

 

「えー、それお前が言えるか?全然女っ気がない女子力(物理)のお前が?」

 

 一挙一動が様になる惣万。男装の麗人のようだと周囲の男女は頬を染め彼を見る……。(いや、男性なんだからねby惣万)

 

「む、……別に良いだろう。専業主夫と結婚すれば。相手ぐらい私が養ってやる」

 

 言葉は冷静だが、行動が伴わない。焦っているのか、当社比10.00%ほど身振り手振りが激しくなっている千冬。自己弁護のように思えて仕方がない、と惣万は思う。

 しかしまぁ、幼馴染がこうして行動を共にしてくれるだけでうれしいものだ。お互いに素の自分でいられる唯一の時間だった。

 

「ところで、お前の買い物につき合うんだ。ついでに俺も欲しいものあってな、時間少しいいか?」

「…問題無い。それで、何を買うんだ?」

「あぁ、頼んで仕入れてもらったコーヒー豆と、…あとこれを機会に色々とな。試しに淹れたヤツ今度御馳走してやる。3割引きでいいぜ?」

「試しというのに金とるのか。まぁ、お前らしいが…」

 

 ふざけた身振りで軽口を叩きながら、天真爛漫な笑顔で歩く惣万。呆れた顔をしながらも、柔らかい表情で彼を諫めつつ会話を楽しむ千冬。

 そこにいたのは世界最強ではなく、人間『織斑千冬』のありのままの姿だった。

 

「…――――よしついた、ここだ」

「ほー、…趣のある店だな」

 

 何とか古惚けた店の外観を言い換えた千冬に、惣万は思わず苦笑い。珈琲豆焙煎工房と看板のあるその店の扉を手にかける。

 

「いやいや、店主もボロいって自覚あるみたいだし…おじゃましまーすっと」

「あ、おい。…お邪魔します」

 

 鼻歌まじりに入店する惣万に、気後れしながらも扉をくぐる千冬。瓶の中に収められたコーヒー豆がずらりと並び、扉の傍にはケトルやコーヒーミルが厳かに揃っていた。

 

「ここの品ぞろえは馬鹿にできないんだ。カフェ・●ル・ダムールのマスターも、光写●館の店主も、アーネ●エルベのナマモノどもも時たま見かけるんだよな…」

「あぁ、アー●ンエルベってアレだろう、よくわからない猫みたいなのがいる店…。あれ大丈夫なのか?色々」

「ん、一体何が(鉄の意志)?…そういえばお前もコーヒー淹れてるんだったよな。ちゃんとした道具使ってる?」

「いや、家にあったヤカンとマグカップを使ってやり繰りしてるだけだが」

「…――――よし、丁度良い。俺が選んでやる。プレゼントだ、ありがたく思えよ~」

「え、ちょっ…おい?」

 

 聞くや否や彼は店の片隅を物色し始める。イブリックやパーコレーターがぶつかり、乾いた音を響かせた。

 

「確かお前、ミルで挽いた時ドリッパーからコーヒーが全然落ちてこねぇとか言ってなかった?」

「あ、あぁ…それがどうした?」

「大体そういう場合って挽き目が細かすぎる場合が多いんだよ。お前、結構馬鹿力だし」

「む…」

 

 自覚があるのか目を逸らす千冬。やや極まりが悪いようだ。

 前々からコーヒーを楽しめないのを気にしてたのを思い出したのだろう。惣万は慌ててフォローを入れる。

 

「あ、ま…まあ荒く挽き過ぎてもコーヒーの攪拌ができねぇし、まぁ何事も丁度良いところがなきゃなんねーってこったよ、うん!」

「悪かったな、強と弱くらいしか力の切り替えができなくて」

「いや、一昔前の扇風機じゃねぇんだから…」

 

 どこか拗ねた雰囲気の千冬だったが、口元はどこか柔らかい。ISから離れたこんな日常がどこか懐かしく、安心できると思っているような、そんな態度で惣万を見ている。

 

「全く…――――お、ジャコウネココーヒー(カペ・アラミド)。それにジャクーコーヒーにインドゾウコーヒー(ブラックアイボリー)に、動物系いっぱいあるな…。あ、カップ・オブ・エクセレンスの一位のヤツ!それに…、へぇーブルボン・ポワントゥ入れたんだ…!」

 

 先程のアワアワした雰囲気はどこへやら。惣万は瓶の前で目をキラッキラさせて、財布の中身と相談している。彼にしてみれば全て購入したいのだろうが、千冬にプレゼントを約束した手前、泣く泣く購入を諦めざるを得ないだろう。それでも欲しいものを目の前にして顔を輝かせているのは、本当に純粋で見ていてとても面白い。

 

「…こう言うところは子供みたいだよな、惣万」

「サイフォンも欲しいし…――――ん?何か言った?」

「いや、…――――可愛い気があると思ってな」

「…ん。ふふ、何せ美形だからな、俺?」

 

 若干頬を染めながらもドヤ顔となる惣万。実は彼、千冬から面と向かって褒められることが滅多に無かったりする。例え言葉にからかいが混じっていたとしても、それはそれで嬉しいのだ。

 

「…戦兎がああなったのも幾らかお前の影響があると思うぞ、私」

「…――――なんか、理由は分かんねーけど心外だな…」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 珈琲道具専門店である『モノポリーノヴァ』から出てきた千冬の腕には、一つの箱が抱えられていた。

 

「本当に良かったのか、こんな結構なものを貰って…」

「なーに『フレンチプレス』は初心者でも使いやすいし、なによりそれはデュノア社の下請けだったメーカーが作った高性能かつお手頃価格なヤツだからな」

「ふむ、…私も貰いっぱなしというのは性に合わんな。奢ってやろう、そうだな…――――まずはその服か」

「え、ちょ…無理しなくていいんだぞ?いや、ホントにさ?」

 

 

 

 その結果がこれである。

 

「…えーっとね」

 

 一着目。黄色いスーツに緑のワイシャツ、赤い蝶ネクタイ……ぶっちゃけゲッツ!にしか思えない。

 

「…………おいおいおいおいー?(全力で首ブンブン)」

「…むぅ?」

 

 二着目。千冬はえんじ色のチャイナ服に漢族の帽子、黄色いスカーフを持ってきた。

 

「……(酸欠になったように口パクパク)」

「ふむ…、何故…?」

 

 三着目。マタドール風なベストの下に白いTシャツ。

 

「……なぁ千冬、これホントにマジで選んでる?」

「……」

 

 中心にでかでかと【小五とロリで悟り】と書かれた、ヒゲが見たら喜んで買いそうなTシャツを持って来てくれやがった世界最強をジト目で見る惣万。至って真剣に選んでいた千冬はさっと目線を逸らす。

 

「何故だ…どうしてか分からないが、気になった服を手に取ったら『こう』なってしまうんだ…。どう考えてもダサいのに…」

「え、あ…そうなの?なら自覚あるだけ髭よりマシじゃねぇかな…。つかお前今までどうやって服買ってたんだ?」

「い、一夏に…」

「マジかよ」

 

 惣万は知りたくもない真実をまた一つ知ってしまったのだった。5963です一夏。

 

 

 

 その様子を柱の影から見る実弟と、その教え子たち……。

 

「何であんなもんが売ってんだよ……、つかあっても選ぶなよ千冬姉ェ……」

「ハイセンスナンセンスレゾナンス……」

「セシリア、どうしたのだ?」

「ほっときなさい、てかアタシらの目的違ってきてるわね……」

「織斑先生と会話してる人、秘密基地の惣万さん……?」

「マスターは織斑千冬と幼馴染だと言っていましたよ」

 

 各々が勝手なことを言いながら、その様子から目をそらさない。まるっきりデートをしているのを……行き遅れな彼女に対しての老婆心から『頑張れ!』と応援する教え子たちなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この後お前の水着選びだが…――――、一人で選びたくないのが良く分かった」

「察してもらえると、助かる…」

 

 惣万は変なナマモノが働くレストランでしかめっ面してコーヒーを飲む。千冬も自覚があるのか、何処か申し訳なさそうな表情である。生ハムとルッコラのサラダだけでお腹一杯という顔だ。

 

「…――――心配になったんだが、去年変なの選んでないよな?」

「ん。あぁ、それは問題無い。学校指定の教職員用水着で…」

「問題大あり、大いにアウト」

「な、何故だ…!山田君も似たようなことを言っていたが…」

「お前変なところで常識ないよな…。俺、ちょっとお前が心配だよ?出会った頃のキレたナイフみてーなヤツが嘘みたいだわ」

「…――――黒歴史を穿り返すのはやめてくれ。あれはちょっと、…今思い出すと結構クるな、うむ…」

 

 話題を変えるようにコーヒーを啜る。そのフルーツのようなフレーバーが鼻腔を通り抜けるが、千冬にはそれが少しこそばゆく感じた。

 

「っつってもなぁ…俺水着とか詳しくねぇし?知っててもスリングショットとかそういうのしか?」

「…――――いや、何故それを選ぶ?ふざけてるのか?」

「あ、バレた?」

「…――――フンッ!」

 

 紫電一閃。綴込表紙が虚空を裂いた。

 

「うぁっとォ⁉いやゴメン!マジでゴメンって!でも俺あんな恥かいたんだし⁉こんぐらいの細やかな犯行は許されるよね⁉」

「…確信犯だから駄目だ」

「自覚無けりゃ犯罪やっていいみてーなこと言うなよ!」

「えぇい、じっとしてろ他のお客様に迷惑だろう」

「千冬が学級名簿を振るわなけりゃじっとしてる!」

 

 猫耳が付いた小人みたいな店員たちが止めに入るまで、そのキャットファイトは決着がつかないまま続いたのだった。

 

 

 

 

「……なんか見慣れた光景だ、この街に戻ってきたと実感するなぁ……」

「あ、やっぱり惣万さん、昔からあんな感じだったのね」

「分かるか鈴。本当にあの人たち変わってない…」

 

 その様子をしみじみと眺める箒。天ぷら付きざるそばをつるつる啜っているのは中々様になっている。というか私服の和服のせいで芸妓みたい。

 因みにこの店、頼まれたものは何でも出してくれるので、無茶な注文もそれなりにあったりする。鈴はメニューには存在しない外道麻婆豆腐を注文し、美味しそうにパクついていた。舌スゲェな。

 

「あのー…どう見てもアレ超常現象なのですが?どうして世界最強の攻撃を紙一重でふざけながら躱せるんですの?」

「「「そりゃ……なぁ?(ねぇ?)」」」

 

 一夏、箒、鈴は惣万と千冬の思い出を思い返してみる…。彼ら三人は『うん、ほとんどあんな調子だったよなぁ…』…と遠い目をしていた。

 

「「「惣万(にぃ・さん)だから、としか」」」

「何でですの」

「最早宇宙人……」

 

 頭を抱える常識人二人。いや、黒タイツとツッパリーゼントだったのは忘れてくれ。

 

「あ、織斑さん。マスターが移動するみたいですよ」

「お、あんがとなクロエ。うどんは…食い終わるな。よしお前ら、追跡再開だ」

「すいませーん。ここにお金置いときますわよー」

「…、っ⁉…い、いい一夏⁉恐竜が、今私に声の似た恐竜が…!」

「?何言ってんだ箒?…白無垢着た人とタコ頭にのせた娘さんしかいねーじゃねーか」

「…あれ?」

「それじゃー…おっと、すいませんね神父さん。ってあ゛ーもうセシリア、砂糖とか無料でもらえるものポケットに詰め込むな貧乏くさい!ほら立て行くぞ!」

「「「ご来店ありがとうございましたニャー」」」

 

 

 

 

 

 そして……千冬が惣万と一緒に来たかった店にやって来た。右向けばビキニ、左向けばパレオ……。

 

「ここに俺が入っても、なぁ……そして一番悲しいところは……」

「お客様、何かお探しでしょうか!?」

「あ、……いえ、連れと一緒に来ただけで……」

「いえいえ、ですがお客様も何か選ばれては如何です?スタイルが宜しいですから、きっと似合う水着があると思いますよ!」

「は、ハハハ……そうですよねー似合うでしょうねー…(…男じゃなければ、な!)」

 

 下手な女性よりも美人な為、店員の目に留まりこうなってしまうのだった。

 

「とりあえず今は連れの水着を見てますんで。お、これなんか中々。こっちもいいじゃん……あっ、シンプル……、?」

 

 ふと、気配を感じて顔を上げたのと同時だった。丁度彼に向かって声がかかる。

 

「惣万、これとコレなんてどうだ?」

「…――――、おいおいおいおいー…ちょ、店員さんすいませんまた後でー!」

 

 惣万は千冬をぐいぐい。人目の付かない店の隅っこに追いやった。

 

「……ん?何だ惣万。一応手に取って酷くないヤツ持ってきたんだが」

「何でコレ選ぶ、てかどこにあった⁈」

「いやどこってここに決まってるだろうが」

「無いよ‼ていうか虫じゃん!」

「虫!?どこが虫?」

「全部だよ気持ち悪いなぁ!」

「気持ち悪い?何が気持ち悪い」

「おまえのこれだよぉ!」

 

 千冬の手には、チャドクガのような…何というかまだらに白い毛が生えて、ヨナグニサンの羽根みたいな模様が入った水着があった。オレンジと黒と白の配色が絶妙に気持ち悪い。トビイロトラガの幼虫を真っ先に思い浮かべた惣万。心の中で、何でこんなもん店先に出してるんだよ、とツッコミを入れざるを得なかった。

 

「むぅ…――――ではこの赤とビキニの上と緑のハイレグを合わせて着れば…」

「止めろ止めろ止めろー目がちらちらするー…」

「ああ、お前赤と緑嫌いだったな。…――――ところでなんだその言い方は」

「…なぁーんで酷いアレンジ加えようとするの⁉大人しくアクセント添えるだけじゃ気が済まないわけ⁉」

「今回の組み合わせは自信がある!」

「よーしわかったなら着てみろぉ!」

 

 数分後。試着室から顔だけ出してシャイニングする千冬さんの姿があった。顔は本当に青い。

 

「…すまん」

「だろ!?」

 

 どうしてこんなのを良いと考えていたのか、自分の目利きの悪さをまざまざと思い知らされた顔をしている。今にも絶望して、ひび割れて砕け散りそうだ。そこまで思いつめなくても…。

 

「何で、こうなるんだ…」

「お前着てからじゃないと自分がどーなってるのか分からないのね…(なまじ、普通のセンスはあるばっかりに不憫に見えてきた…こりゃー一夏の朴念仁よりキッツいかも…)」

 

 そんな千冬に、渡りに船。沈んでいた彼女の前に差し出される手。惣万の腕にはハンガーが三つあった。

 

「…――――ほら、お前に似合うのいくつか見繕ってきた」

「…――――、すまない、恩に着る!」

「そこまで言う?」

 

 そこまで言う。

 

「一つ目はハイネック、ハイウェスト、ロングスカートのヤツ。色はいろいろ考えて青めの花柄にしてみた」

「ふむ…成程」

「で、二つ目はビスチェっぽい白い水着。千冬なんて名前だ、雪みたいな白も似合うと思うんだよなー、俺」

「…試しに着てみるか。で、次は?」

「三つ目、これが俺一番好きかな。黒と白のワンショルダービキニ。編み込みの紐とかで品が良い感じに見えるし」

「分かった。……どうもありがとうな」

 

 千冬はさっとそれらをかすめ取ると、試着室の中へ顔を戻した。それも一瞬、外に放り投げられるチャドクガのような水着。…――――その間の惣万は、男としてこれにドギマギすればいいのか、主夫目線として着散らかしたものを片付ければいいのか、悩まずにはいられなかった。まぁ、後者だったんだが。

 

 

 

「…――――決めた、全部買おう」

 

 すぱーんと試着室のカーテンが開く。そこには上機嫌そうな顔でワンショルダービキニを着こなす美人さんが立っていた。腰に半透明な花柄パレオを巻いて、その場でくるりと一回転。

 惣万は滅多に見ることができない千冬のはっちゃけぶりに、幼馴染として喜ばしくなる。だが、それはそれとして、どこか心を噛み締めるようなそんな思いを心の奥底へ追いやると、ふざけた調子で口を開いた。

 

「あ、ご機嫌なところ良い?ちょっと写真撮って良い?」

「うむ…――――うむ?」

 

 パシャリ。

 

「…どーもー。あれ、意外に映り良いな…(え、ちょっとマジかよ、滅茶苦茶可愛く撮れちゃった…)」

 

 ぼそぼそ小声で言った内容が千冬に聞こえたのかは定かではない。しかし、惣万の手の中の携帯に“微笑を浮かべて喜んでいる水着の女性”が映っていたのは確かだった。

 

「オイ待て、消せ。その写真消せ…!」

「え、やだ勿体ない!…んんっ、じゃない。こんな千冬初めて見たし、レアものだし…あ、SNSには上げないからそれだけは安心してくれ」

 

 冷静そうなすまし顔で言う惣万。だが、お願いですこの通り…そんな幻聴が千冬の耳に聞こえてくるようだった。ほんのちょっと、年相応な彼の可愛げが出ていた。

 

「…――――はぁ。まーいいだろう。本当はハッ倒したいところだが、だが今回の所は…――――ツケとく」

「え、何ツケって。怖いんだけど。怖いんですけど千冬さん」

「そうか?私としてはお前がその写真使って何か強請ってきそうで怖いんだが」

「流石にそんなことしねぇよ!?千冬には言うべきことはいずれちゃんと言うから!…、ん?変なこと言っ…」

 

 ぴたりと動きをこわばらせる二人。その場の時間が、止まった。

 

「…」

「いたっ、おま…いたい!パンチ強めだな!」

「…」

「えちょっと、なんでむごーん?おーぃぐふっ!入った、今ボディ入った!ゴメンって、照れさせてゴメンって!」

 

 

 

 

 

 

 水着ショップの近く、望遠鏡を使い様子を伺っていた生徒たちの心は一致していた。

 

「……惣万にぃって天然タラシで、でも朴念仁じゃないから余計タチ悪ーんだよなぁ……」

 

 先程千万ペアが食事していたカフェテリアのドリンクを片手に持ちながら、張り込みを続けるている仮面ライダー部員たち。

 

「あぁ、アレでは千冬さんも可哀そうだ……、あ、抹茶ラテ美味いな」

「しかも見たところ千冬さんだけよね、からかうの……スキンシップってヤツ?ほかの女に見向きもしないし。あ、一夏、アタシ烏龍ジャスミン茶のお代わり買って来る」

「特別扱いと言うことですの?なら何で結婚しないのです?あ、鈴さん。アッサムアップルティーを一緒に……」

「ハッ、爆発しろ」

「簪氏!?いきなり物騒だろ!?まぁ誰しも思ったけどねぇ!?」

「コレがシャレオツ店のキャラメルマキアート……うまし。今度マスターに作ってもらいましょう」

「デートじゃなくなったが楽しんでるな……。でも結局引きこもりに帰結するのかよクロエェ……」

 




戦兎「いや、このエボルト誰だよ!最早別人じゃねぇか!」
惣万「あ、佐藤太郎だ!いやぁ驚かせて悪いね、そーだコーヒー飲む?いやー、有名人に飲んでもらえるなんて鼻が高いな~♩」
万丈「はぁ?そんなモン飲めるか…………(でも飲む万丈)ッッッ!?うめぇ……マジでうめぇぞ……!?」
一海「お前の味覚なんて信じられるわけねぇだろ、ゴラァ……、(ゴクッ)……ッ!?まじだ、え、マジで何コレ!?」
惣万「分かる?豆からこだわってるから、ウチ…!」

 あらすじ提供元:ウルト兎様ありがとうございます!


※2021/02/13
 一部修正


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第五十四話 『ドンテンカンな危険信号』

幻徳「おいお前らどうした…」
―死屍累々―
幻徳Tシャツ『戦慄ッ⁉︎』【SE:オォラァ!(キャアァァァァァァァァァ!)】
一海「ヒゲか……。この間な、平行世界だがなんだかの……エボルトであってエボルトじゃない奴が来てよ……そいつのコーヒーが美味しかった……」
万丈「それで…戦兎は何で二人のコーヒーの腕にここまでの差が生まれるか、分かるまでコーヒーの研究するとか言いだしてよ……試飲に付き合わされてんだ」
幻徳「正直、今までの話の内容だけでコレなんだが(Tシャツに指差しながら)それが分かるまで諦めろ……葛城もそうだった……。ウッ、悪夢が……」
一海&万丈「「あー、ご愁傷様……」」
戦兎「お前ら次のコーヒーができたぞッ‼︎それと、暇つぶしにエボルト人間が置き忘れた台本読んだが、『前回のあらすじ』だそうだ。織斑千冬に呼び出された石動惣万はIS学園の生徒たちに尾行されるのを尻目に『爆発しろ!by簪』……?途中で途切れてる……ま、いっか」
幻徳「戦兎ッ……第…ッ〜何話だ‼︎」
戦兎「第五十三話だ……じゃあお前ら。さぁ、実験を始めようか」大量のコーヒー
万丈&一海&幻徳「「「戦兎ォ!ヤメルォ‼」」」



 こちらはIS学園、フラフラと当ても無く歩き回る一人の男子生徒がいた。

 

「……、一夏、一体どこに……」

「あれ?節無君?」

 

 廊下の角で女子生徒と対面する節無。穏やかな顔が少し強張っているのを見て声をかけたらしい、女子生徒には若干の心配が見て取れた。

 

「(あ……)やぁ岸原さん(ママ)。一夏を探しているんだけど……見ていないかな?」

 

 その爽やかな彫刻の様な笑みに女子生徒は頬を染める。

 

「えぇっと……あぁそうだ、箒さんと銀髪の子と一緒にレゾナンスに出かけたよ」

「そうか、ありがとう!後でお礼をするよ」

「えー、全然いいよ!あ、でもどうしてもって言うならケーキ奢ってよ」

「うん、良いよ。じゃあ僕はこれで……」

 

 そう話を切り上げ、そそくさと立ち去ると……彼はポケットからシマウマのレリーフが刻まれたボトルを取り出した。

 

「丁度良いね……あそこなら色々ごまかしも効くだろーし。事故に見せかけて『ママ』になれなかったモノごと一夏を殺してやろッと」

 

 

 

 

 

 

 一方、賑やかなレゾナンス内……。

 

「んじゃ、そろそろ飯でも……あ、荷物持とうか?」

「……フン」

 

 なんやかんやあったものの、最終的には惣万が太鼓判を押した水着を買って、どことなくご満悦な千冬。だったのだが……。

 

「……ところで、俺たちをさっきから見ていた生徒たちはどーすんだ?」

「ふん、お前も気付いてたか」

「「「!?」」」

 

 惣万は面白そうな視線で、千冬は射殺さんとする狩人の目で明後日の方向を見た。とっさに隠した望遠鏡のレンズがキラリと光った……。

 

(やっべぇ、やっぱバレてるよなァ!?)

(助けてわたくし只今ライブで大ピンチ!?)

(短い人生だった……ッ!くっ……)

(箒ィ!生きることを諦めんじゃないわよォ!?てかコレ戦兎先生が言った方がしっくりくるわねェ⁉)

(みんな落ち着いて、私ニト〇の学習机の引き出しからタイムマシンとってくるから。気張って行くよー)

((((お前が一番落ち着けェ‼))))

 

 銀髪テンパの侍の様な事を言った簪はほっとくとして。死刑執行人のようにゆっくりと歩みを進め、((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルしている彼らにとても良い笑顔で近づいてくる修羅女……。

 

「決まってる、学園に帰ったらキメワザクリティカルクルセイドで記憶をリセットだ……フフフ……フフフフフ」

(((((死んだ!?)))))

(あー、私はただ外出してただけなので。叱られるのは皆さん頑張って)

(逃がすかぁ‼)

(ちょ、やっ!離してぇぇぇっ!?)

 

 たまらず無関係を装うクロエを逃がさんとばかりに捕まえるIS学園生徒たち。人間ってのはどこまでも醜いねぇ……(エボルト感)。

 

「……おいおい、千冬?やめとけよ、ソレ只の暴力だからね?」

「私が世界のルールだ……」

 

 ふーふーっ、と瞳孔が開きっぱなしな彼女の手を掴み、優しく諭すように話す惣万。

 

「この絶版お姉さんが……。良いか?大体お前が女子力(物理)だとか髭なセンスとかが原因で恥かいたんだろが。お前が運命をジャッジすることは出来ない……」

((((地獄に神様惣万様……‼))))

 

 その時IS学園の生徒たちが歓喜にむせび泣いたのは言うまでもない……。

 

「む……ん?いや、諸悪の根源はお前だろうが……」

「おっとそうだったなぁ、ハッハ!」

「惣万ァ!」

 

 ……前言撤回だった。全部こいつの所為でした。

 

「安心しろ、お前ににらまれたらさっきまでのことを言いふらす輩なんていねぇだろ……なぁお前等?」

「……ッ、惣万にぃ……」

 

 柱の影からひょっこり顔をのぞかせる女顔の店主。

 

「いやぁ、悪かったな。折角のデートだったのに、巻き込んじまったか?あ、コレさっき待ち時間に買った最近話題のプリンだ。箒達と食っとけ」

 

 箒と一夏を招き寄せ、手の平にガラス製の高そうなお菓子を乗っける惣万。

 

「あ、どうもー。あー、でもまぁそうっすね……こっちとしては千冬姉が楽しそうで良かったんですが……」

「……シスコンどこ行った……?」

「?」

「……ちょっと一夏?そんなことより後ろ!後ろの千冬さんの顔、顔ぉ!」

 

 鈴が何か言っているが一夏は何も言わない。だって振り返ったらヤバそうだもの……。

 

「いいか小娘ども……、今すぐ見たことを忘却の彼方に流すか、この世のあらん限りの苦痛を得て死ぬか選べ……」

「「「イ、イエスッ、マムッ!わたくしたちは何も見ませんでしたッ‼」」」

 

 一夏と箒の目の前で死人みたいな顔で頷いている三人を見て、『絶対に振り返るまい』、とカップルは固く決心した……。

 

「だから落ち着けって……ん?……おい、何か聞こえねぇか……?」

 

 まぁまぁ、と言ったふうに千冬をなだめる惣万だったが……急に吹き抜けになった中央広間を見る……。すると。

 

「ぅ~……たぁァァァァァァァァんッッッ、!?」

「ふんっ‼」

 

 天の道を往く男もびっくりなノールック回し蹴りを繰り出すネットアイドル。空中から降ってきた(・・・・・・・・・)金髪のアゴにクリティカルスパーキング‼

 

「ぐへぇ!?我が人生に……一点の曇りなし……」

「見事に餌にかかったよ……ほんと何言ってんのコイツ……いや、何逝ってんのコイツ……」

 

 推しに回し蹴りされ幸せそうに伸びているシャルルンを、可愛そうな人を見る目で眺める一夏たちなのだった……。

 

「む、姉さんと戦友(ダチ)達と教官……。んん?戦友(ダチ)達は何故そうも顔面蒼白なのだ?」

「ラウラ、お前が知る必要はない……」

「は、はぁ……?」

 

 そこにさらに合流する嫁馬鹿と三馬鹿、もうカオスである。天国から意識が戻ってきたシャルルは、そこにいたIS学園の生徒たちにようやく気付いた。

 

「……おい、お前等は何してんだよ」

「見て分からねぇか?みんなで遊びに来てんだよ」

「てめぇ……くーたんとそんな羨ま……、しゃらくせえマネしてんのかおぉん?」

「今本音が出たな?いや元からダダ洩れだったけども。……大した事してねぇよ、精々服屋行ったりコーヒーショップに行ったりしただけだ……」

「つまりデートじゃねぇか!よーしその祭り買ったァ!お前との仲も今日までじゃコラァ‼」

「いや、そもそもてめぇと仲良かったかァ!?てめぇが一方的に学園に来て喧嘩売って、今度はクロエとラウラを勘違いして帰ってっただけだろうが!?」

「やんのか?この脳筋スケコマシが!」

「オー上等だ、面貸せや!」

 

 揉み合いになったところでシャルルのモッズコートからひらりと一枚の紙が落ちた。それを拾い上げるラウラ……。

 

「ん、これは……ほうほう(・ω・#)嫁よ……」

「ぁん?嫁じゃねーよ、つか何だよ。今俺こいつと白黒つけたかったんだけど?」

「コートの裏を見せろ……」

 

 若干機械じみた声音でシャルルンを見上げる。

 

「え?何て?」

「コートの……、裏を……、見せろ……」

 

 分かりやすいように繰り返す。何故だか分からないが彼女の背後に死神が見えた……。

 

「……あ゛ぁもう、調子狂うぜ。いいけどさ、ホレ」

 

 そこには、くーたんブロマイドが何十枚も……。

 

「フンッ!」

 

 コンバットナイフを持ってブロマイドを切り裂こうとするラウラ。

 

「おわぁっぶね‼高かったんだぞコレ!切れたらどーすんだ!?」

「私ではなく姉にデレデレデレデレデレデレと‼貴様は嫁の自覚が足りん‼」

「お前が勝手に言ってるだけだろうがぁ‼俺は誰のものでもねぇよ‼てか俺の全部はくーたんのものなんだよぉ‼」

 

 だが、丁度その時……。

 

 

 

―キャァァァァァ‼―

 

 レゾナンス内に悲鳴が響く。それと共に何かが壊され、瓦礫が崩れる音がする。

 

「あん?」

「何だ?」

 

 その場にいた全員が視線をその方向に向かてみれば、三羽烏とは違うハードスマッシュが歩いてきた。

 

「アンタ……!学園に出たスマッシュ!」

『んん?……これは、丁度良い……』

 

 シマウマの怪物は、突如白と黒の光をまとい高速移動して拳を固めた……。

 

『お前ら……全員死んじゃえェェェェェェェ‼』

「何?俺っ、くっ……!」

 

 ゼブラハードスマッシュのパンチを躱しながら懐に手を突っ込む一夏。その手に触れるのは黒いドライバー。

 

 

 

 タッグマッチトーナメントが終わり、保健室で休んでいた時のことだ。因幡野戦兎が彼の手からスクラッシュドライバーを取り上げた。

 

『スクラッシュドライバーは今後使うな……』

『はぁ?何でだよ……』

『……理由なんて分かってるだろ、一夏。アレだけ無理をして身体が壊れなかったのが奇跡なんだ。これは預かるよ』

 

 そして、不安げな一夏の顔を見て、笑顔をつくる戦兎。

 

『大丈夫だよ、一夏。お前の分までオレがヒーローを張り続けてやるからさ!』

『………………ッ!』

 

 だが、その笑顔は、やはり無理に笑っているように見えた。

 

(また俺は戦兎さんの発明で失敗し、罪悪感を与えてしまったのか……?戦兎さんに苦労ばかりをかけるわけにはいかない……!ヒーローは……)

 

 

 

『考え事か?余裕だねぇ!』

「くっそ……!」

 

 箒の近くを飛び回っていたガジェットが一夏の手に収まり変形する。

 

【CROSS-Z DRAGON!】

 

「ッ、変身!」

 

【Wake up burning!Get CROSS-Z DRAGON!Yeah!】

 

 クローズになった一夏の拳がスマッシュの拳と激突する。

 

「はぁぁ‼」

『ぬぅあぁ‼』

 

―ドゴンッ‼―

 

「一夏!」

「千冬姉!惣万にぃ!俺は大丈夫だ!そんなことより避難誘導を……!クッ!?」

 

 がむしゃら、出鱈目に振るわれる怪物の拳。逆にそれが一夏にとってやり辛い。だが、そんな中惣万は真っ先に冷静に指示を飛ばす。

 

「……行くぞ、千冬。顔が利くお前が指示を出した方が何かと都合がいい」

「ッ分かった……惣万は南口の避難を頼む……、お前たちは……」

「大丈夫です、千冬さん。私たちはこのエリアの人たちを逃がします……!」

「……そうか。無理はするなよ」

 

 そう言って大人二人は駆けていった……。

 

『ふん、世界最強がいなくなればこちらのもんだよ!』

「何言ってんだ?鈴に負けたクセによぉ……!」

『黙れェ!……ふぶっ!?』

 

 蒼炎のストレートパンチを顔面に喰らい、無様に転がっていくゼブラハードスマッシュ。

 

「……俺にドライバーがあれば、と思ったんだが、その必要もなさそうだな」

 

 シャルルは冷静に戦況を分析し、三羽烏に周囲の人間の避難指示を出していた……その時だった。

 

『ん、こいつ……』

「え、あ……。がはっ……?」

 

 シャルルが視線を一旦でも外したのがいけなかったのだろうか。彼らの目の前では、ゼブラハードスマッシュに首を腕で絞められるクロエの姿が……。

 

「っ……くーたん‼」

『止まれ、動くんじゃねぇ!』

 

 慌てて駆け寄ろうとするシャルルだったが、クロエを盾にするように見せつけるスマッシュ。

 

『言うことを聞いてよ?でなければこいつの首を折るぞー?』

「……てめぇ……っ!」

 

 その卑劣な戦法はその場にいた誰もの心に憤怒の念を抱かせた。

 

「……俺たちに何の恨みがある……」

『うるさいなぁ。織斑一夏、さっさと変身を解けよー‼』

「……」

 

 そう言われてしまっては飲むしかない。一夏はドライバーからクローズドラゴンを抜いた。それを見て、ゼブラハードスマッシュは嗤うように頭を動かすと……。

 

『それじゃ……』

 

 クロエを持つ腕に力を込め始めた。

 

「う、ぐぅぅぅ……!?」

「てめぇ!?何してんだゴラァァッ‼」

 

 慌ててシャルルが飛び出す。だが、誰もが思った、間に合わないと……。

 

『約束を守るとでも思っていたのかなぁ!?ハッハハハハ‼』

「クロエェ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺に内緒で勝手なことするなよ』

 

【スチームショット!Cobra……!】

 

『ガァァァァッ!?』

 

 蛇のように曲がりくねる弾道を描きながら、紫色のエネルギー弾がゼブラハードスマッシュに炸裂した。そのおかげでクロエを投げ飛ばす怪物。

 

「くーたん!」

 

 宙を舞うクロエを優しく抱き留めたシャルルは、朦朧とするクロエに呼びかける。

 

「嫁!ナイスだ!」

 

 三羽烏や妹のラウラが駆け寄る中、整った顔を不安で歪ませながら謝罪する。

 

「すまねぇ……俺が目を離さなければこんなことのは……」

「ゲホゲホッ……ぅ、グリス……。今だけは感謝します……、そんなに自分を責めないでくださいよ……」

 

 一方、吹き飛ばされたスマッシュに驚く一夏たち……。

 

『……がぁぁぁッ!?誰だよお……‼』

 

 だが、一夏たちは攻撃してきた人物に目星がついていた。何より蛇行するその弾道は、前にも見たことがあったのだ……。そして、その人物が、現れた。

 

『俺だ』

 

 ワインレッドのボディに緑のバイザー、マフラーのように巻かれた排水管、頭部の煙突……。

 

「ブラッド……スターク……?何で……?」

 

 血塗れの蛇は軽快な口調でゼブラハードスマッシュに向き直る。

 

『俺がゲームメイカーだ。俺達の許可なく計画を揺るがすことは見過ごせんな、ゼブラハードスマッシュ…………ん?』

 

 すると、迷子だろうか……。どこからか大声で泣く小さな子供が瓦礫の間から出て来てしまった。

 

「ままぁ……どこぉ……」

『こうなれば……!あの餓鬼を!』

 

 また人質にしようとするハードスマッシュ。だが……。

 

『ガハァ!?』

 

【スチームブレイク!Cobra……!】

 

 ハードスマッシュをスチームブレードで攻撃し、トランスチームガンで壁に叩きつけるスターク。

 

『……ハァ、全く子供って泣き出すとうるせぇよな……』

「スターク……、ッ!?」

 

 彼ら一夏やIS学園の生徒たちにとって、ブラッドスタークは残酷で他人を実験対決にしか見ていない人間だと思っていた……。しかし、彼は予想だにしていない行動をとった。

 

『よしよし、大丈夫か、坊主』

 

 涙を乱暴に拭い、ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻きまわすスターク。呆気に取られて声も出ない生徒たち……。そして、助け出した子供から零れた言葉は、皮肉にも……。

 

「………………かめんらいだー……?」

 

 奇しくも、ヒロイックなパワードスーツに見えたのだろうか。今世間に浸透している正義のヒーローの名を血塗れの罪人に尋ねる少年……。

 

『………………俺を仮面ライダーと呼ぶな』

 

 その言葉を彼は拳を握り無感情に否定した。そして、彼は言葉を続ける。

 

『仮面ライダーはな……、正義のヒーローなんだよ』

「……わるいひとなの……?でもたすけてくれたよ……?」

『……忘れんなよ坊主、誰かの正義は、誰かの悪ってことがある……。坊主が思った俺のことなんて、嘘偽りに塗り固められたワルモノそのものだ』

 

 あごでしゃくり、近くにやってきていた年若い女性を指し示す。

 

『ほらよ、あの女がお前のママだろ?帰るべき場所に帰れ』

 

 母親は慌ててスタークから息子を庇うように抱くも、ひらひらと手を振るスタークに一応の会釈をした。

 

「うん……でも、ありがとー、ワルモノのおじちゃーん!」

『……いや、俺おじちゃんって年じゃねぇんだけど……』

 

 天真爛漫な笑顔で手を振る少年に手を振り返す赤い罪人。それを見て、一夏は疑問を口に出さずにいられない。

 

「なんで…………?」

『……さぁな。ん?』

 

 スタークはそんな疑問に答えずに、ごそりと動いたシマウマの怪物に目を向ける。

 

『もぉぉ……‼もぉぉぉぉぉぉぉぉ!一人でも殺しておかなきゃらなないのにぃぃぃ‼』

『させるわけないだろ?ハァ‼』

『グゥッ!?』

 

 懲りずに生身の人間に襲い掛かろうとするゼブラハードスマッシュ。が、そのパンチを受け止め背後にいるIS学園の生徒たちに怒鳴る。

 

『何をしている!早く行け!』

「お前……本当に、何で……?」

 

 未だに混乱している一夏に、箒は努めて冷静に声をかける。

 

「……一夏、行くぞ……避難誘導は千冬さんがやっている。私たちも人を逃がさなければ!」

「……分かったよ。あんな奴に助けられるのは癪だけど、仲間割れなら丁度良いしな……。皆、行くぞ!」

 

 怪我で動けなくなっている人を助け、避難指示を出しながら走る一夏。その頭の中は疑問で埋め尽くされていた……。

 

(何故スタークは俺達を庇った……?俺達の誰かを始末しようと襲い掛かって来るのならまだ分かる。だけど……)

 

 親に出会えてうれしそうな顔をする子供。それを父親の様な眼差しで見るスターク……。変身した赤い姿。自分の姉や篠ノ之束、戦兎さん、惣万にぃ……姿を変幻自在に変え本性を隠した姿。一体どれが彼の正しい姿なのか……?

 

 

 

 

 

 

【エレキスチーム!】

 

 紫電がスマッシュに襲い掛かる。

 

『ぐぅ……!お前はァァァァァ‼』

『落ち着けよ?俺はお前の敵じゃない。ただあの場から連れ出すためには必要なことだったのさ……………………織斑節無?』

『な、何で…?』

 

 そう言うとスタークはトランスチームガンから霧を発生させ、レゾナンスから遠く離れた雑木林に転移する。

 

『俺達はファウスト……まぁ知ってるか。そして、お前がお前の“ママさん”から俺達の技術のコピー品を受け取ったのも知っている。つか、俺はお前のママの知り合いだ』

 

 どっこらしょ、と丸太に腰掛け、ひらひらと手を振る赤い蛇。

 

『ッホント?』

『そうそう!お前のママに頼まれてねぇ、それと折角だ、だったらお前に最高のショーを見せてもらいたいと思ってな』

 

 枯葉指を立て、仮面の奥でニヤリと笑う。

 

『ショー……?』

『そう、お題目は仮面ライダー殺戮ショー、その物語の主人公は…………お前だ。きっとお前の“ママ”も喜ぶぞ』

 

 その言葉に気を良くする節無。だが、一旦持ち上げてから落とすスターク。

 

『さて……、観察していて分かった。お前は織斑一夏に恨みを抱いている……だが、今のままでは奴には勝てない……』

『?何を馬鹿な、僕が弱いなんてあたりまえじゃないか、こんなに優しく穏やかに生きてきた僕が荒事をするなんて、普通だったら有り得ないんだからね…!』

『怒るな怒るな……そこでだ』

 

 どこからか赤いデバイスを取り出す……、それが厄災の道具であるのも関わらず、節無は力に魅入られたようにそれに手を伸ばす。

 

『な、何それ……?』

『………………ハザードトリガー。これを使えば、今の織斑一夏よりも強くなる』

『何だと……?』

 

 その言葉に節無は歓喜する。

 

(力を手に入れれば、まだ見ぬ『ママ』も僕のことを振り向いてくれる。誰も彼も『ママ』として一緒になって遊んでくれる。僕に構ってくれるんだ。この力を与えてくれた『ママ』はやっぱりすごいや。大好き、大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き…――――!)

 

『あぁ、IS学園の連中については気にするな、俺が何とかしてやる』

 

 そして、人間に知恵の実を授ける蛇が如く、親し気に節無の肩をたたく。

 

『我々は被験体を探していた……そしてお前は力を求めた。な?互いにwin-winの関係だろう……?さぁ、成すが良い、お前が主人公の物語を!俺達はお前のママと一緒に、観客として見物させてもらうぜ』

 

 

 

 

 

『う……ぐうぅ……ぐぁああ……うぅぅ……!』

 

 水槽の様な機材の中で苦悶の声を上げる織斑節無。それを覗き込む人影があった。彼女の右側頭部にあるサイドテールが揺れる。

 

「へぇ……それで自ら強化手術を受けることにしたのね、この馬鹿は」

 

 黒い中華風の制服を着たスタイルの良い少女は豊かな胸を抱えるように腕を組む。

 

「そんなことより当機は空腹である、宇佐美、これは摂取しても良いものか?」

「ちょっ、アンタそれロストタイムクリスタル!絶対駄目だからね!?」

 

 チャイナドレスの少女が銀髪の黒いダブルコートの少女に注意したとき、実験施設にそぐわない豪華なソファに座ったナイトローグが口を開いた。

 

『さて、IS学園の生徒たちは間も無く臨海学校に出発する……その時がお前等の初陣だ。頑張ってくれたまえ………………』

 

 

 

 

 

 

『ブラッド・ストラトスNo.03、No.05……。いいや、緋龍(フェイロン)赤い雨(ロータア・レーゲン)

 

「……嘻嘻(キキ)咯咯(クク)哈哈哈(ハハハ)!」

「ふむ、この空腹感は些か活動に邪魔ではあるが……、求められた任務を遂行することは約束しよう」




万丈「……もう、飲める気がしねぇ……」
一海「俺の心火が燃え尽きたぜ……」
幻徳「親父……俺はなれなかったよ……」
戦兎「何が、何が違うんだ……?」
惣万「スイマセーン、台本忘れましたー……って、何があった!?」
戦兎「エボルト人間ッ‼︎ちょうどよかった、お前とエボルトのコーヒーの違いって何ッ⁉︎」
惣万「え……、んーっと……隠し味に愛情が入っているか否か?」
一同「「「「成る程、納得」」」」
惣万「あ、エボルテックなニュアンスは含まねぇよ?俺は人間を愛してるし、うん。(元人間だし)ずっとずっとずーっと!」

あらすじ提供元:ウルト兎様ありがとうございます!


※2021/02/13
 一部修正


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第五十五話 『フルフルメンバーな海水浴』

箒「篠ノ之箒だ。前書きコーナーにはちょくちょく出ているが、今回のように一堂に会するのは中々ないな…」
セシリア「はい、皆様御機嫌よう、セシリア・オルコットでございますわ。座右の銘は『明日の下着があれば何とかなる』、ですわ」
鈴「凰鈴音よ。……そこ、酢豚とか言わない。どっちかっていうと麻婆豆腐の方が好きなのよね」
簪「更識簪……、趣味はアニメ鑑賞とゲーム……さて、ようやく仮面ライダー部の四人娘がここに来れたところで……部活の活動内容を紹介する……」
鈴「ちょっと待ちなさい?ここあらすじ紹介よ?クロエも何か言ってやってりなさいよ」
クロエ「ちょっと今マジで待って、グリスの……っ、対処っ、してるからっ……!」
シャルル「くーたん!ぜひとも水着のツーショット写真をォォォ……!」
ラウラ「嫁よ、私の水着はどうだ!」
シャルル「スクミズは止めといたんだな……まぁ妥当だ。……待ってくれよくーたぁん!」
惣万「あ、一緒に写真撮るなら十万円な……お、毎度」
一夏「ボるのかよ……そして出すなや!」
戦兎「はいはいはい皆集合!徹夜明けで眠いのに……臨海学校行くよ!」
一年生全員「「「はーい!」」」
千冬「……頭が痛い、先が思いやられる……」



惣万side

 

「ふーん、あいつ等は臨海学校か……」

 

 俺はカレンダーを見てポツリと呟く。確か……原作だと篠ノ之束登場回だったけど、もうすでにそのイベントはないんだよなぁ……。

 

「臨海学校!?」

「ん?どうしたクロエ……?言っとくが俺達は多分行けねぇよ?」

「えー……やだー。行ーきーたーいー」

 

 ウサギのぬいぐるみ『うーたん』と『ツギハギシロウサギ』を抱きしめて膨れっ面になるクロエ……。変だな、いつもはそんなこと気にしないのに……。

 

「……ヒッキーのお前がどうして……ん?」

 

 クロエが見ているタブレット……。

 

「……夏限定キャラが海岸に出現、『バガモンGO』……?クロエェ……」

 

 ……現代っ子め……。

 

「む……ま、まぁそれだけじゃないですよ?くーたんネットで夏限定PVの撮影とかっ!」

「お前別に人気とかいらないとか言ってなかったっけ……?」

「みっ、水着のお披露目とか……」

「買ったっけ?」

「……ぅうー」

 

 あ、ちょっとからかい過ぎたかな?

 

「行きたい行きたい行きたぁいっ!皆ばっかりずるいぃ!私だってイベントに参加したい‼みんなのこと見てニヤニヤしたいッ‼」

「論点ズレてんぞ……」

 

 まぁ、クロエも前の一夏たちとの外出に触発されて彼&彼女たちの人間性の面白さに惹かれたらしい。まぁ楽しみ方が遠巻きに見てニヤニヤする……っていう俺のスタンスそっくりになった訳だが。え、俺の教育の所為?そんなー。

 

「はぁ、まぁ千冬に連絡してみるか……?いや、アレ……花月荘って確か、ウチの商店街と……」

 

 

三人称side

 

 明日は一年生の臨海学校、という夜。更識簪は持っていく水着やら防水ポータブルやらお気に入りアニメやらをカバンの中に詰めていた……。そこに、来客を知らせるベルが鳴る。

 

「……ん……。今開ける……」

 

 そして、そこに立っていたのは……。

 

「……。お姉ちゃん……?」

「あ、あはは……」

 

 IS学園生徒会長、更識楯無だった。

 

 

 お茶を入れ、姉妹互いに向かい合う……。姉妹仲の拗れは無くなっていたが、未だぎくしゃくとしてしまう二人……。何時の間にやら部屋の前には二人の付き人の布仏姉妹が侍っていた。

 

「ねぇ簪ちゃん……」

 

 初めに、姉が口を開いた。

 

「……。何?」

「今まで、姉妹らしい事していなかったじゃない?」

「……。ん、……」

「夏休みになったら……一緒にどこかに出かけましょう?」

「……」

 

 それは、普通の姉妹では当たり前で何気ない言葉だったが、彼女らの場合は違っていた。その言葉に目を見開く妹……。

 

「え、あ……やっぱりヤだった?なら無理に頷かなくていいのよ!?なにこの馬鹿な姉気取りの人、勝手に盛り上がってとか言って流してくれて……『行く』……え?」

 

 ヘタレにも慌てふためきマンガの様に目を回していた頼りない姉に、淡々と言う妹。

 

「だから……遊びに行く、お姉ちゃんと一緒に……」

「……」

 

 呆気にとられる楯無の前で、簪はうっすらと微笑んだ。だが、すぐ無表情に戻ると、トランクに荷物を放り込みチャックを閉めた。

 

「じゃ、お姉ちゃん。私、明日から臨海学校だし……。それと、タイミングは見計らった方が良いと思う、こんな夜に叩き起こされて眠れなくなったらどうするの」

「だ、だって……虚ちゃんが……」

 

 親に悪い点のテストが見つかったように指をくっつけては離し、視線を泳がせるIS学園最強の少女……。だが、悪い気はしなかった。

 

「…………………………おやすみお姉ちゃん、……楽しみにしてる……」

 

 彼女にとってこれ以上ない言葉と共に、楯無は廊下に送り出された。そして……布仏虚がハリセンを持って近づくのにも気が付かずに……。

 

「………………………………ぃぃぃやっほおおおおおおおおおおォォォォォうぅぅぅっッッッ!!!」

 

 あらん限りシャウティング!

 

―スッッッッパァァァァーンッ‼―

 

「お嬢様うるっさいッッ‼」

「(・8・)」

 

 

 

 

一夏side

 

「夏だ!海だ!目を開ければ海が目の前十一時(オーシャンズイレブン)‼」

「目を開ければ……?」

「徹夜の実験でバスで寝てた!」

「職務怠慢⁉仕事しろ戦兎さん!」

「してるよ、グリスのドライバーの修理ぃ……フヒヒ、八徹で・只今結構・いい気分……」

「重症だ……深夜テンションのこの人何するか分かんねぇぞ……?」

 

 前から二番目の座席を占領し、ハンダゴテやら基盤やらが散乱する席に寝ころびながら奇声を上げる戦兎さん。信じられるか、こいつ先生なんだぜ……?

 

「でさぁ……何でお前等までついてくんだよ!?」

「あぁ?んだよ男の俺がいちゃ悪いか?あ、UN〇」

「ぬぐぅ……嫁よ、強いな……」

 

 ちゃっかり箒とオルコット、ボーデヴィッヒとUN〇をしてるシャルル・デュノア……。

 

「いやまぁ……俺が言えたことじゃねぇが臨海学校で親密になった女生徒と不健全なコトを…………ん?」

 

―シャルルについての回想っ!―

 

(くーたんだッ!)

(くーたんとはどー言う関係だァ‼)

(くぅ~たぁァァァァァァァァんッ‼)

 

「………………しそうも無いな、うん」

「?」

 

 ……まぁドルオタはほっとくとして……。三羽烏も同乗しているのだが、それぞれがまぁ酷い。

 

「サクサクポリポリ……」

「パリパリザクザク……」

 

 ジョーヌはのほほんさんとスナック菓子を無心で食い荒らしてる……似てるなぁ、雰囲気が。持って来ていいお菓子は三百円まででしょうが……。

 

「zzz……」

 

 ルージュってヤーさん気質な姉御はよだれを垂らしながらがっつり寝てる。見た目気にしろよ……。

 

「……ぅぶえ……」

「だっ、大丈夫ですかブルさん!?」

「真耶さんすいません出来ればエチケット袋をろろろろろ……」

 

 体は名を表す……と言うのだろうか、最後の三羽烏のブルはその通り顔を真っ青にして教員席を千冬姉に譲ってもらっていた。

 

「…………」

「?、心なしか千冬姉が微妙そうな顔だな……なんかあったのか?」

 

 まぁ、戦兎のお守りが原因だろうが、それだけじゃなさそうな…。まぁ、その理由はすぐに解けることになった。

 ……いつも通りの、ひでぇ感じで。

 

 

 

 

 

「ハーイッ!みーんなのアイドルッ、くーたんだよっ!プンプンッ♡……って……」

 

 目の前では眩い砂浜でカメラ相手に、俺から見れば120%作り笑顔なクロエが……。

 

「くーたんだァァァァァァァァん‼」

 

 怪盗(変態)紳士の三世のように顔面からイッたシャルル。

 

「……ぬぁんでぇぇ!?何でいるのグリスぅぅぅっ!?来ないって聞いてたのにぃぃぃ!?」

「急遽戦兎に誘われたんだ♡一緒に来ないかって……へぁぶぃ!」

 

 まぁクロエに制裁されてやがったが。あーぁ、水着に着替えていないというのに海にドボン……、上がってこなきゃいいのに(無慈悲)。

 

「やっほいクロエぇひひひ……あーやっべ、何がオカシイか分かんないのに可っ笑しいぃっ!」

「戦兎ォォォォォォォォォォッッッ‼」

 

 ネットアイドルの外っツラをかなぐり捨て八徹慣行中のてぇん↑さい↓科学者に掴みかかるクロエ。

 

「何でグリス誘ってんですか!?貴女前聞いた時事務員は同行できないとか言ってませんでしたぁ⁉」

「あっはそうだっけ⁉えーっとえーっと、あぁドライバーの生体データを入力しなきゃだから特別に許可してもらったんだ、ふゃほほほほいっ!」

 

 もうテンションとキャラが定まっちゃいねぇ戦兎さん。寝ろ……。

 

「あぁ、完っ全に盲点でした…。この人発明になるとこうなっちゃうんでしたね……学園の教師になってそんなこと無くなったと考えていた私が馬鹿でした……ハァ」

 

 どよーんと黒い霧をまとったように暗くいじけるクロエ……、と言うか……。

 

「いや、こっちにとっちゃ予想外だったのはお前がいた事なんだけど……」

 

 すると、クロエが目線を俺達の方向へ動かした。

 

「あ、いやぁ……一夏の魅力にかけられて?」

「……おい一夏ぁ?」

「待て箒!これは違う!字面で分かりにくいけど『ひとなつ』だからね!?俺じゃねぇから!大体俺ロリコンじゃねぇし!」

 

 箒が結構ヤヴァイ座った目で見てきやがる……!

 

「(ムカッ)そうですね~……どっちかって言うとあっちの気があるんじゃ、と。それと私貴方より年上なんですがお分かり?」

 

 そして口を滑らせて済まなかったクロエ、だから火にガソリン注ぐのやめてください。

 

「……そう言えばそうだな、最近シャルルと仲良く喧嘩(トムジェリ)する光景ばかりしか見ていない……。こうなると一夏の男性機能に疑問を抱かずにいられないな……」

「ほもじゃないです……(´・ω・`)」

 

 ヤバいから!ここで言ったらホラ!水を得た魚みたいに腐な同級生の目が爛々と‼

 

「あぁそれアタシも思った、……言葉に説得力無いわよね、童貞(一夏)

童貞(一夏)さん、これ以上突っかかるとさらに地雷踏みますから黙っていたほうが良いと思いますよ」

「……。待てよお前等、何にルビふった!?」

「「童貞」」

「女の子がそんなこと言っちゃいけませんっ!?」

「……餓鬼ども、いちゃつくのもいい加減にしろ。それと童貞、少し騒がしいぞ。黙れ…。こっちはこっちで戦兎のお守りで寝不足なんだ…」

 

 駄目だ、皆夏の暑さにやられてる!

 

「処女も黙ってなよ、織斑センセー♪」

「うぐゴホッ!」

 

 吐血っておい。やっぱり気にしてるよね千冬姉?

 

「…………私は好きで行き遅れているわけじゃないんだ。そこのところをよーく考えてから発言するように…」

 

 静かにじりじりと戦兎さんに掴みかかる千冬姉。だが戦兎さんは黙ったままである……何考えてんだろ。

 

「………………」

「おい、何か言ったらどうなんだ因幡野先生……」

「……因みにオレも清い身体だから黙ってみた!」

 

―_(┐「ε:)_ズコーッ!―

 

 こけた、全員が。

 

「ちょっ、おまっ…何でそんなこっ恥ずかしいこと言っている!記憶喪失なのにそんなこと言うな!?記憶戻った時赤っ恥だろうが!」

「大事な個人情報だからね、自分の身体は色々調べておくものだよ?」

「そんなわけあるか!?お前一旦寝ろ‼」

「へぶぁ!?」

「織斑先生それ寝かせたんじゃなくて落とした……」

「千冬姉と呼べ‼…ん?」

「逆だよ!?」

 

 もうみんな混乱してて駄目だ……大丈夫か色々と。そこに、親しい兄貴分の声が聞こえてきた。

 

「おぅお前等、来たな」

「……んで、惣万にぃは何してんの?」

「ん、ホラコレ」

 

 そう言って惣万にぃが指さした方向には……、えナニコレ。海の家ナスビ?……愉快な名前に反して本格的なレンガ造りの家になってる。……コレ確実に惣万にぃが魔改造したな……。

 

「レストランカフェ『nascita』夏限定第二号店をな。えーシチリアレモンを使ったグラニータはいかがですか~」

「「「くださーい!」」」

 

 さすが年頃の女の子、シャレオツなものに目がない。

 

「……コレ花月荘の営業妨害にならない?」

「安心しろ、商店街のコネ……んんッ、今回限りの業務提携で売り上げの六割あっちにやることで許可とったから」

「それ大赤字じゃ……」

「まぁ食材の大半はあっち持ちだし、採算度外視だ、喜べ。えー、パンナコッタ、ジェラート、マチェドニア……いろいろあるよ~」

 

 そんなことを皮切りに、俺達の臨海学校が始まった。

 

「大丈夫か?これ…」

「…水着回なのにね…」

「かんちゃーん?何急に言ってるの~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『nascita』夏限定店の店内にて。

 

「むー……」

「……?オルコット、何悩んでんだ?」

「あぁ一夏さん。海に持っていく浮き輪なのですが……」

 

【シャチ!】【ウナギ!】【タコ!】

【シャシャシャウタ♪シャシャシャウタ♪】

 

「……のどれを買えば良いと思いますか?」

「何だ今の歌……?」

「歌は気にしないでくださいまし……あちらでクロエさんがIS学園の生徒たちをエキストラにMV撮影してるのでそれでしょう」

「別人みたいな声だったぞ?」

「一夏、聞いたか?くーたん新曲出すらしいぞ!」

 

 キラキラした目で俺に報告してくる箒。あぁ、そうだった、こいつもくーたんのファンだったな。

 いや、それにしても……。

 

「…あー、うん。そうだな」

「?どうした一夏。……――――あぁこれか。肌を出すのは憚られたので、こんなのにしてみたのだが…やっぱり変か?」

 

 不安げにこちらを見てくる箒。まぁ、他の生徒と違う水着(?)というのは中々に勇気がいることだろう。でも違うんだよなぁ…。

 

「…そーじゃねぇ。つか逆」

「?」

「『ウェットスーツ』ってさ、ボディラインが強調されてて、こう……ISスーツよりアレなんだよな」

 

 箒が着用していたのはサーフィン用ウェットスーツだった。弾力のある素材のみで身体を締め付けるように着用するソレ。色々身体の発育が良い箒が着ると、その…なんとなく蠱惑的になるのは当然というか…。

 惣万にぃも昔言っていた。見えない部分は創造するからより掻き立てられるとか(その後俺共々千冬姉のゲンコツ落ちたが)。

 

「…アレでは分からんが?」

「ゴメン。察してくれ」

「?…まぁ、悪い印象ではないことは分かったから良いか、ふふ」

 

 スキップ混じりでかき氷を持ち、箒は海へ遊びに出ていった。

 

「…ヘタレたわね」

「そーだよ、ゴメン鈴」

 

 

 ……………………ん?お客が……あぁ。

 

「アッフォガート・アル・カッフェ」

「へいへい、いつもはコーヒーリキュールだけど勤務中だからエスプレッソにしとくぞ」

「あぁ」

 

 以心伝心、とでも言えば良いのか、手慣れた会話でコーヒーとバニラアイスを用意する惣万にぃ。千冬姉は生徒たちの手前クールぶっているが、頬が若干緩くになっている。

 

「ねぇねぇ一夏君、あの人と織斑先生親し気だよね?知り合い?」

「あー……まぁ幼馴染だな、千冬姉も俺も長い間世話になってる」

「へー、綺麗な人だねー」

 

 ……………………やっぱり勘違いされてる、か。

 

「……あの人男だぞ?」

「……え?またまた……え?」

「石動惣万、千冬姉とタメのマジな男だから」

「「「……えぇェェェェェェェッ!?」」」

 

 惣万にぃ、絶対男に見られないんだよな……。

 

「千冬様に男が!?」

「男の娘が好みなの千冬様!」

「千冬様×男の娘……いや男の娘×千冬様!?悪くないわね……、作画班!ネタは上がったわよ!」

 

 何処かからかハゲタカの様に集る女子連中……。その千冬様とやらに折檻されても知らんぞ……。つかレズっ気が多めな一派だな。クラスにいると分かったのはBL派閥、百合派閥、ノーマル派閥……。うん、やっぱこの女子高ノリってなれないわ……。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

三人称side

 

 

「……――――ふー、歌った歌ったー」

「あ、くーたんお水ですご苦労様です!流石と言いましょうか何と申しましょうか!」

「ぅえ、グリスぅ…。まぁいいや、貰いますよ…」

「……ッ、しゃァッ!」

「(うーん、そーゆーとこがなければ…)ん?」

 

 一通りMV撮影が終わったらしいクロエ。

 実は潜在的なファンがかなりいたらしい、IS学園一年生生徒のほぼ大半が、何らかの形で彼女の曲に参加するという結果となった。

 これには千冬先生も苦笑い。確かにIS国家代表とかはアイドル的な広告塔だが、まさかネットアイドルのPVに生徒たちが出るとは欠片も思っておらなんだ。

 丁度その時、クロエの携帯に通知が届く。

 

「お……、レアモン発見。いったん休憩!」

「え、ちょ…――――、くーたん⁉」

「みーんなー!その機材使ってカラオケでもしててー!」

 

 ネットアイドルの仮面を躊躇うことなく剥ぎ取り、ニート感丸出しなフリーダムな挙動でその場から立ち去っていくクロエ。

 後にはプロ仕様の収音器と音響設備が残されていた。…――――これを使えとくーたんは言っている。ならば当然やらざるを得ない。

 

「えー…それでは僭越ながらシャルル・デュノア、歌わせていただきます」

「…いや、何故だ?」

「よりにもよってお前かよ!ひっこめ!」

「うるせーモッピーにエビフライ!あぁもう始まっちゃったじゃねぇか!」

「始めなきゃいいだろクロケット!」

「モッピーって私か!?なんでお前私のラジオネーム知ってる⁉」

 

 幼馴染恋人コンビからキレのいいツッコミが入るも、シャルルのハートは動じない。そのまま自然な流れでマイク片手に口を開き、選択した曲を高らかに歌う。

 

「んッ…『Brush Up‼ユウキ今日も わーたしのハートきらめくー♪ Next Future はーじまってーるねー!』」

「「「「「!!?」」」」」

 

 ……――――女子の声で。

 

「ちょ、…!シャルル⁉」

「ぁん?なんだよ素っ頓狂な声出しやがって」

「そりゃ出すわ!今の声なに⁉」

「『ただの声帯模写』」

「ただの!?」

「『誰にも譲れないよー それぞれのプライド 認め合ってるって 言わなくてもッ♩』」

「……歌い続けられるのか、これ?」

 

 

 結果。……シャルルは丸々一曲歌いきりました。しかも惚れ惚れするような女性の声で、クロエの挙動を完全再現していました。箒はクロエガチ勢に冷や汗が流れた。

 

 

「…今の声…、AI声優の香菜澤セイネにも似てた…でもどっちかっていうと……花z『……鈴さん、化粧品か何か、あります?』アレちょっと、まだ私の台詞…」

「んー、アタシ持ってないけど、海の家ナスビに置いてあったような……、何するの?」

「いえ、ちょっと試してみたいことが」

「奇遇ね、アタシも丁度こんなワンピース持ってるのよ…」

「さぁシャルル・デュノアさん、こちらへ」

「ん、何オルコット。つか凰、そんなもんもってにじり寄ってくるってうぉい銀髪ヤメロ離せ何するつもりだヤメロォォォォォォォォォォ‼」

 

 専用機持ち三人のフルパワーによって、水着のシャルルは引きずられていく。……――――世界最強と互角に戦えるシャルルを拘束できるとか、お前ら相当だぞ?

 

 ……そして時間が経過し数十秒、その場に驚きと笑いと、少しの憐憫が渦巻いた。

 

「あやっぱりー、カシラ似合うと思ってたw」

「~~~ッッッはは!やべぇウチ腹いてぇ!カwシwラw」

「ぶふ……似合ってますよカシラ…」

「……お前らさぁ…、こんなことして満足?」

「「「「うん!」」」」

 

 その場には、白いワンピースと麦わら帽子を身に着けさせられた、一人の女性の姿があった。長い髪がキラキラ日光を浴びて金色の輝きを放っている。

 

「畜生…、顔向けできねぇよ母さん……」

「うわ、どうしたんだお前ら。こんなところで……あー金髪のワンピースのお嬢ちゃん、そこどいてもらって良ぃぃいいいっ⁉……――――え、『シャルロット・デュノア』?」

 

 身長が180㎝位あったり、紫色の目がどんよりしてたりするが、その外見はまごうことなきシャルロット。セシリアが化粧を施したことによって、彼の野性味を帯びた男臭さが消え、柔和な美麗な面立ちのみが際立っている。

 そもそもシャルルの整った顔立ちはカッコイイ系というより美しい系である。こうなるのも当然の帰結……だったのかなあ。

 

「あ、惣万さんそれ頂き。良いわねー、今度から女装したシャルルのことこう言いましょ」

「しゃるるん、似合ってるよ~」

「嬉しくねぇ…。つか絶対に女装なんてしねぇし!」

「ふっふっふ、流石嫁だな!」

「この状況で嫁言うなや銀髪!」

 

 テノールの声が、哀し気に青い空に吸い込まれていった……。シャルル、南無。

 

「何言ってんだ。お前が声帯模写なんかしなけりゃ良かったのに…」

「くーたんの歌を男の声で歌ったりしたら、全国にいるくーたん王国民が喧喧囂囂だろうが!」

「いや別に良いだろうそんな拘りは…」

 

 それでできてしまうシャルルの技量が凄いのか?と思わざるを得ない箒であった。

 




戦兎「ところで何でオレたち走ってるの?」
千冬「さぁ…?」
クロエ「なんか、疎外感がありますね…『この歌』を背景に走ると」
本音「エンディングで走るアニメは良作って~かんちゃん言ってた~」
真耶「待ってくださいよぉ…」
惣万「(これIS一期目のEDに呼ばれなかった非攻略ヒロイン組なんじゃ…)」

※2021/02/13
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第五十六話 『スイッチするイベント』

ラウラ「さて、海に浮かびながらあらすじだ……旧型スクール水着も悪くないな。どうだ嫁よ!」
シャルル「そんなことよりくーたんのスク水が見てぇ(切実)」
惣万「てぇん↑さい↓科学者の因幡野戦兎は数時間の休憩の後回復し、ビーチバレー大会を企画するも……大勢の生徒にトラウマを植え付ける結果となってしまった……、うん、間違ってねぇな」
鈴「あーもう!あ゛ーもう‼夏の思い出らしい思い出がなんも無いわねこの臨海学校‼」
戦兎「ほうほう、何かイベントが見たいんだね~?」
箒「え、因幡野先生?」
戦兎「んじゃ……ちょっと待ってな」
―ザブンッ…………………………ぷはっ―
戦兎「で……一夏、シャルルン、マスター。向こうまで思いっきり泳いでちょーだいな」
一夏・シャルル・惣万「「「?」」」
―バシャバシャバシャバシャ―
セシリア「何をしたんですの因幡野先生?」
戦兎「あいつ等の海パンの紐……………………抜いてきた」
仮面ライダー部員&千冬「「「ッッッ⁉」」」
一夏「うわぁぁぁぁぁぁぁッッッ⁉」
シャルル「うっそだろオイィ⁉」
惣万「何がてぇん↑さい↓科学者だこの天災科学者(物理)ァァァァァァァァ‼」



 そんなこんなで夕食になった。いやぁ……昼間はひでぇ目にあった……。ゴリラモンドな姉と最強のドルオタが戦場後みたいにしてくれやがった砂浜の埋め立ての手伝いをしたり、ボーデヴィッヒが旧型スクール水着に着替えたり、何時の間にやら俺達の海パンが流されてたり……………………。

 

「あ痛たたた……」

「ん?大丈夫かクロエ?」

 

 隣に座るクロエを見た。どうやら正座が苦手らしい……。

 

「くーたん!俺が何か食べさせてあげよっか⁉」

「ケッコウデスグリス、これでも食らえ」

 

 マッハな切り返しで箸をシャルルの口の中に突っ込むクロエ。

 

「あんむぐ⁉……………………ッッッ!?」

 

 叫びはしないが座布団の上でゾンビの様に悶える金髪。

 

「おいクロエ、何食べさせた……?」

「本わさびまるまる一山」

「鬼かよ……」

 

 もう所業がみんなのアイドルじゃねぇな……、だが、今日のコミュニケーションだけでIS学園の女生徒たちと仲良くなったらしい。その縁で一緒に食事をとっても良いと千冬姉がお目こぼししてくれた。まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

「ら、らいじょうぶら……くーたんがくれたもろがまずいわけねーらろ……」

「涙出てんぞ?」

「うますぎてないてんらよ……風味があって……涙が出る……」

 

 ろれつが回ってねぇよジャガイモ。

 

「ほう、そうですか。ならもっと食べてくださいほらほらほらほら」

「悪魔かよ……」

「くーひゃぁぁん……(涙)」

 

 感涙に咽びながら(?)ワサビを口に放り込まれるシャルルン。だが、なんだろうか……。

 

「変態に見えてきた……」

「もともとだろ」

「あ、それもそうか」

 

 近くで戦兎さんと千冬姉と食べている惣万にぃの言葉でシャルルのことは放っておくことにしました、マル。

 

 

 

 

 

 時間はまたまた飛んで。

 

「あぁー……良い湯だったわぁ……」

「温泉ってな良いもんだなぁオイ……」

 

 シャルルと並んで廊下を歩く。二人そろって『仁康(ひとやす)ミルク』を喉を鳴らしながら飲む俺達を見て腐な方々がぼそぼそスケッチブックを開いたのを横目で見ながら、俺は気になっていたことを聞く。

 

「ところでさ……、お前等って何でIS学園に襲撃しに来たんだ?フルボトルを寄越せ、とか言ってたけどよ?」

「あー、それなぁ……傭兵紛いのことだから詳しくは言えねぇんだが……あいつ等の為だな」

「あいつ等……、三羽烏か」

 

 俺の目の前で箒達と卓球に興じる三人を見た。

 

「あぁそーだ。俺達はある意味で家族……みたいな関係なんだよな」

 

 重苦しく口を開くシャルル……。

 

「あいつ等は……孤児だったんだ」

「……」

 

 俺はシャルルの独白に静かに耳を傾ける。

 

「俺の母親が、孤児だったあいつ等を抱え込んで来た日にゃ、びっくりしたなぁ……。でも愛と厳しさを以って、女手一つで俺達を平等に育ててくれた」

 

 そこで言葉を切ると、視線を上に彷徨わせる。

 

「まぁ、……お袋は数年前に向こうに逝っちまったが」

 

 そう言ったシャルルの目には、その頃への想いが滲んでいるように見えた。

 

「だから今度は、俺があいつ等を守る……戦って守ってみせるって決めたのさ。ま、俺頭悪ぃから、上手く立ち回れなくてここにいるわけだが」

 

 たはは、と笑うシャルル……。その顔に、見慣れた姉や兄貴分の面影が重なる。

 

「……おっと、そこまで詳しい話をする訳じゃなかったんだが……長々話しちまった」

「あぁ……そうか」

「?」

「お前の事がどうにも嫌いになれないのが分かった……。お前、俺と似てるんだ」

 

 自然と思いが言葉になる。驚いた顔をしたシャルルに俺は言葉を続ける。

 

「俺は千冬姉が、お前には素敵な母さんがいて、俺達を愛してくれていた……そのために戦っていた人間だったんだ。道理でな……嫌いになるワケなかったのか」

 

 そいつは一瞬、ほんの少しだが柔らかい笑みを浮かべると…………、意地の悪い顔になる。

 

「フン、まぁ俺の方が強ぇけど」

「あぁ?折角綺麗に終わらせようとしたのに上げ足とってんじゃねぇよ、頭ん中に麦わら入ってんのか?」

「おぉ?お前俺が馬鹿だとか言いてぇワケ?」

 

 あぁ、結局こうなっちまうのかよ……でもまぁ、こっちの方が、俺達らしいよな……?

 

「……ん?そう言えば……お前、俺の従兄弟見なかったか?」

「従兄弟……あぁ?確か…『節無』だったか?知らねぇな。つか、いたっけ?」

「メタ発言やめい」

 

 

 

 

 

 

「ここか……」

 

 臨海学校へ向かう数日前、節無の白式に『ママ』より「フルボトルをISと連動して使用可能にする装備を開発したよ。これを使えばより確実に一夏を始末出来るから安心してね。臨海学校の際パッケージを秘密裏に渡すから指定された場所に時間通り来てほしいな。あ、私財団Xに勤めているからその伝手の子が行くわね」というメッセージが届いたのだ。

 

 臨海学校初日の夜更け、節無は指定された場所に時間通り到着する。そこに、一人の女性が現れた。

 

「貴女が、財団Xの?」

「えぇ、初めまして。IS『白式』、及びIS『打鉄・弐式』の専属メカニック、最上カイザと申します」

 

 そう言った彼女の姿を見て、節無はギョッと目を剝いた。銀髪がかかる顔の半分がサイボーグの様な機械に置換されていたためである。そんなことを意に介せずに、カイザといった女は続ける。

 

「では早速、インストールを始めます。とはいえ、新装備は詳細なパイロット情報を必要とするものです。診断と同時並行で進めますが、一から調整を行うことになりますので、ISの展開はし続けていただく必要があります」

「ふぅん?」

 

 節無は、ニコニコしながら聞いていた。…――――ただ声を聞いているだけだった。彼はハザードトリガーの施術によって、本来のネビュラガスの体内作用とは違う影響が及んでいる。

 

「そのため、かなり長丁場の作業となることになります。夜も遅いですし、節無様には、こちらの睡眠導入剤を服用後IS展開後そのまま眠ってしまわれて結構です。全ての作業終了後、こちらの方で宿の部屋に運ばせていただきます。あぁ、それと明日は倉持技研のメカニックとして参加いたしますので、お互い初対面ということでお願いしますね?」

「『ママ』に褒めてもらえるならなんだってするよ~♩ねぇ、君も僕の『ママ』になってくれるのかな?」

「…――――では、こちらをお飲みください」

「分かったよ、『ママ』ありがとう!」

 

 節無は、言われた通り睡眠導入剤服用後、ISを展開する。そして、暫くすると抗いがたい睡魔に襲われ意識を失った……。

 

 

 

「……全くあなたは度し難い『悪い子』ですね、織斑節無。そして、とても壊れている」

 

 眠る愚か者を見て、最上カイザ……――――否、シュトルムは左手に紫色の拳銃を出現させる。そして、金色のキーアイテムをセットした。

 

【ギアリモコン!】

 

「カイザー」

 

【ファンキー!】

 

 天に銃口を掲げ、引き金を引くと、通信機が鳴る音と共に青い歯車が宙を舞う。

 

【リモート・コントロール・ギア……!】

 

 そこには、平行世界を支配せしめる帝王の半身が立っていた……。

 

『……肉体的にはスタークが加えたブラッド族の細胞が……その力さえあれば、これでようやく一本目のブラックロストボトルの完成です……フフフ、フフフフフ……』

 

 

 

 

 

 一方、IS学園……。薄暗い教室で裏の世界に携わる人々が蠢いていた……。

 

「スタークがレゾナンスに出現した日の映像です」

「そう、ありがとう」

 

 生徒会室で財団Xから入手した映像を利用し、ファウストが引き起こした事件の関連性を調べ上げていた。

 

「?……ちょっと虚ちゃん。今の映像ちょっと巻き戻して」

「分かりました」

「あら……、この人って……、もしかして!コレって……!」

 

 楯無が何かに気が付いた、その時である。

 

【あーあ~、気がついちゃった~?】

「「なっ……!?」」

 

 どこかから声が聞こえてきた。二人は今まで気が付けなかったのに驚き、慌てて周囲を見回すが誰もいない……。ハッと二人は気付く。音源である目の前のディスプレイに視線を落とす。

 

【こっちだよ~ん】

 

 急に映像にノイズが走り出し、電脳的な背景を後ろに祈禱師の様な女性がこちらを感情のない目で見ていた。

 

「「!?」」

【こんばんわぁ~、そっれっとっもぉ~……】

 

 画面の向こうで和服の女性は朗らかに笑う。空虚な目でうふふと嗤う。刹那、画面内でオレンジ色のポリゴンに分解されると、赤と青の粒子が映像の映ったディスプレイから噴き出した。

 その赤と青の粒子は徐々に輪郭を形作ると、やがて人の姿になり……ゆっくりと二人に向き直る。祈禱師風の白服の女がそこに立っていた。

 

「………………さよーなら、って言った方が、……いい?」

「パソコンの中から、出てきた……ですって……?」

 

 片目にひび割れた様な傷がある、ラウラ・ボーデヴィッヒに似た女。片腕だけがアンバランスに伸ばされている着物の裾をめくると、そこには紫色の拳銃が……。

 

【ギアエンジン!】

 

 ソレに赤い歯車がついた金色のアイテムをセットし、その場をクルクル回る白い服の赤い目の女。

 

「うっ、ふっ、ふ~……カイザァ~」

 

【ファンキー!】

 

 引き金が引かれると、彼女の周囲に赤い歯車とどす黒い煙が生まれ、彼女を歪な怪人に変身させる。

 

【エンジン・ランニング・ギア……!】

 

 赤い歯車が合体した不気味な青白い目のパワードスーツが黒煙の中から現れた。

 

「……ッファウストね……!」

『いえ~す、ライトカイザーだ~……今はね~』

 

 ピースサインを顔の横に持って来て、おどけたポーズで更識楯無と対面する彼女。虚を背後に隠すようにして身構え、ISを展開しようとする学園最強だったが……。

 

『おっとっと~、それは困る~。さぁ~神話の始まり始まり~、…………“エニグマ”、起動……』

 

 右腕を前方に突き出した後、胸の前に持ってくるライトカイザー。その瞬間、更識楯無の専用機は……沈黙した。

 

「……?な、何でISが展開出来ないの……?」

『“エニグマ”の力~。ISのシステムをふぁんき~にした~』

 

【ローズ!】

 

 彼女は赤いマークが入ったボトルを取り出し、ゆっくりカシャカシャと振ると紫色の拳銃にセットする。

 

【フルボトル!】

【ファンキーアタック!フルボトル!】

 

 突然彼女たちを鋭い棘持つ蔓が拘束する。

 

「うわ……ッ⁉これは……薔薇⁉」

『真実と共に……闇へと追放してあげよ~。ふぁんき~た~いむ!』

 

 片手に持っていたブレードのバルブを勢いよく捻り、星雲の様な煙が排気口から噴き出した。

 

【デビルスチーム!】

 

 その煙は、狙いすましたかのように彼女らの体内に潜り込み……。

 

「「う……わぁぁぁあ⁉」」

 

 その姿を人から怪物へと変化を生じさせる……。その場に崩れ落ち、もがき苦しむ二人……。

 

『お仕事完了~……ん~?』

 

 テーブルの上に置かれた写真立てに必死に手を伸ばす楯無。そこに写っていたのは……。

 

「か……ん、ざし……ちゃん……………………」

『そっか~……、お姉ちゃんだったんだね~……』

 

 何を思ったのか、ライトカイザーはその写真立てを手に取り、……………………怪物になり始めている楯無の手に優しく置いた。

 

 

 

―ごめんね……………………―

 

 そこで……更識楯無の記憶は途切れた……。

 




(滅茶苦茶場違い感あるけど)あらすじの出来事の続き

一夏「……俺、今ならビキニ流された女の気持ち、わかると思う……」(はいてない)
シャルル「奇遇だな俺もだよ……」(はいてない)
惣万「さっきポロリとか言ってゴメン……」(はいてない)
―バシャバシャバシャバシャ―
箒「だ、大丈夫か一夏ぁ⁉」
ラウラ「嫁ー!」
千冬「……はん」
一夏「ヤメルォ!こっちくんな箒‼今マジで駄目だから‼」
シャルル「くーたんゴメンくーたんゴメンくーたんゴメンくーたんゴメン……汚い俺を許してくれ……」
惣万「千冬待ってくれ‼俺なんか上着着た状態での『はいてない』だぞ⁉やめてくれよほんっと⁉」

(((……………………私たち、Sなのかな……イジメたい……)))ウズウズ

某月刊少女漫画家君のパロ

※2020/12/21
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第五十七話 『災厄のトリガー』☆

宇佐美「ヴェハハハハァ!諸君!待たせたなァ!宇佐美幻神だァァァァ‼」
惣万「うわうるっさ!?待ってねェから!?つか何しに来たんだよ!?ここ前回のあらすじコーナーなんだけど!?」
宇佐美「そうだぁ……『フルフルメンバーな海水浴』だというのにファウスト組がいないわけないダルォ!?」
惣万「え゛!?いたの!?」
宇佐美「と言うワケで前回までの夏の思い出盗撮写真、どぞー。えぇっと、これが兎とシャウタの『クウガ系女子』コンビの水着だな。
【挿絵表示】
それでドルオタとネトドルと嫁軍人の三角関係写真、
【挿絵表示】
そしてコレが前回海パンの紐とられた写真だ」
【挿絵表示】

惣万「……最後のヤツ、クリックしなくて良いです……第五十七話どうぞ……」



惣万side

 

 臨海学校二日目になった。もうすでに俺たちはIS学園の女生徒たちと知り合いになり、廊下で顔を合わせると挨拶してくれたりする子も出てきた。これも全部クロエの知名度と言うのだから恐ろしい……。ネット怖いな……。

 

今は既に朝食をとり終わり、クロエと二人で部屋でゲーム中。因みに宇佐美が趣味で作った『タドルシリーズ』である……。あいつホント檀黎斗じゃねぇんだよな?

 

部屋の眼下では一年生たちが和気あいあいと装備試験とやらをやっている。箒ちゃんに専用機が……、なんてことはなく、(と言うか既に半専用機的な奴持ってるし……)専用機持ち達も専用パーツのテスト中だ……。ん?何で分かるのか、だって?只の読唇術だ。……、そこ、距離が滅茶苦茶離れてんのにとか言わない。

 

「あ、マスター。アランブラが出ました」

「ブレイバーソードを氷属性のヤツに変えれば有利になるぞ」

「ありがとうございます……、何か音楽魔法とか言うスキルが必要なんですけど。エキサイトしながらアロワナノーってどういう事です?」

 

 ……、思わず目を背ける俺。ネタに詰まった宇佐美に生前の迷言を吹き込まなきゃよかった。

 

「……お前は叫ぶんじゃねーぞ。ヴェアアアアとか」

「?」

 

 ………ん?アワアワと粟を食たようにヤマヤが走って来たな……。そうか、そろそろショーが始まるのか……。

 

「クロエ、俺少し外出してくるわ。何か欲しいモノでもあるか?」

「……金色のカラス避け」

「アイツキラキラしたCD吊り下げてても寄ってきそうだぞ?むしろクロエのCDだとか言って近寄りそう……」

「ヤメテー、キキタクナーイ」

 

 ハハハ、クロエも原作のキャラから大分乖離してるよなぁ……。

 

「ところで、どこに行くんです?」

「ちょっと『お掃除』と『プレゼント』にな」

「?……行ってらっしゃい」

 

 

 

三人称side

 

「おっ、おぉッ織斑先生、ぃい因幡野先生、大変ですッ!」

 

 いつも以上に焦った上ずった声で二人の教師に声をかける山田真耶。

 

「何だ山田君……、……っこれは……!」

「……!特命任務レベルAプラス……?」

 

 千冬と戦兎が手話によってやり取りをすると、先生たちは急遽生徒たちに向き直る。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へ移行する。本日のテスト稼働は中止、各班ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること、以上!」

 

 それによってざわつく女生徒たち。そんなことを尻目に戦兎が千冬に声をかける。

 

「んじゃそっちは任せた……、悪いけど専用機持ちの子を借りるね、千冬センセ」

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎さん、一体なんだよ?」

「……またもやファウストだ。宿の周辺地域に複数のスマッシュの反応、それと同時にインフィニット・スマッシュと言うISの怪物が出現したって連絡があった」

 

 インフィニット・スマッシュのことを知る一夏や箒が顔を歪めるのを見て、他の専用機持ちも事態の深刻さをうかがい知る。

 

「IS委員会から近隣地域にいる者たちに出動要請はされた……だが如何せん敵は未知数で人命保護が最優先になる。そのため、緊急的な措置ではあるがスマッシュが発生した場所に最も近い我々IS学園所属の仮面ライダー及びIS専用機持ちに事態終息の協力が要請された」

 

 遅れてやって来た千冬が冷淡に事実だけを告げる。

 

「敵の詳細は……?」

「不明だ……スマッシュにも種類が多々あってね。そしてインフィニット・スマッシュの方はシールドエネルギーと同等の防御機構を備えている……と言う事だけしか」

「そんなものがこの周囲に何体も……?」

 

 ふざけんじゃないわよ、とでも言いたげな表情で吐き捨てる鈴。

 

「幸い遠距離にいる敵性目標はいません」

「「「!?」」」

 

 そこに一人、黒いスーツの女性が現れる。顔の片側のカメラアイマスクは誰もの目を引くため、やや眉をひそめた銀髪の女性。

 

「……アンタは確か……」

「最上さん……」

「久しぶりですね、更識簪、そして織斑一夏。そのほかの皆様は初めまして。最上カイザと申します。倉持技研の専属メカニックです。そして、財団Xのメンバーでもあります」

「!」

 

 ここで財団Xの構成員が現れることなど想定していなかった教師二人は、思わず固まってしまう。

 

「この事態を収拾する為に財団Xから指示を受けましてね、宜しくお願い致しますよ。世界最強(ブリュンヒルデ)、そして仮面ライダービルド」

 

 慇懃に礼をするが、千冬はブリュンヒルデと言われたことに忌避感を抱く。そんなことも構わず言葉を続ける

 

「織斑一夏及び節無は貴重な男性IS操縦者であり、今回のような大規模な市街戦の経験は少なく不慮の事故があっては困ります……。そのため安全を考慮し、ファウストのガーディアンを解析し製作した『Xガーディアン』を複数体護衛に付けた上で出撃させることとしましょう」

「……それが財団Xの意向なら、構うまい。合理的でもあるしな……」

「……?千冬センセ、どしたの?」

「……気にするな」

 

 だが、千冬はカイザと言った女に対して警戒を解くことは無かった……。

 

そして、作戦が決行される。スマッシュたちは別々の地点に出現したため、専用機持ちやライダーはエンプティボトルを持たされ、バラバラに出撃することになった。

 

 しかし、戦兎が一夏より先に出撃してしまったことが事態を急転させることに、今はまだ誰も気が付いていなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「さて……俺の相手は……。あれか」

 

 クローズとXガーディアン達の前には緑色の身体をしたゴムの様な身体のスマッシュがいた。

 

「タコみてぇだな……まぁ、とっとと終わらせる!」

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼』

 

【ビートクローザー!】

 

 叫び声をあげて突進してくるスマッシュをヒラリと躱し、剣を片手にそのスマッシュを斬りつける。その後、Xガーディアンたちの銃撃によってたじろいでしまうストレッチスマッシュ。

 

「はぁ‼」

『■■■■■■■■■■■■!?』

 

 既に一夏のハザードレベルは4を上回っている。故に通常のスマッシュをあしらうことなど容易い程強くなっていた。

 

「他の奴らの所にもいかなきゃなんねーんだ……、悪く思うなよ!」

 

【Ready go!ドラゴニックフィニッシュ!】

 

 パンチでストレッチスマッシュを吹き飛ばしたクローズはレバーを回転させ、ライダーキックを放つ。

 

「おっるぁぁぁぁぁぁ‼」

『■■■■■■■■■■■■!?』

 

 直後、爆炎。クローズはベルトにセットされていたエンプティボトルを怪物に向け、成分を採集する。……だが、彼は口をつぐむことになる。その後スマッシュの中から現れた人間に声も出なかったからだ……。そこに倒れていたのは……。

 

「……更識、会長……⁉」

 

 

 

 

一夏side

 

 

 

「何で……更識会長が……?」

 

 俺は彼女を抱き上げようとするも、突然首筋にピリッとした感覚が走る。様子を伺うよりも先に剣を振るった。

 

―キィン!―

 

「⁉これは……」

 

 見れば、Xガーディアンが俺達に銃口を向けていた。全てのガーディアンの頭部のパネルが突然弾け飛んでいたのだ。火花がスパークすると、電子音が流れ出る……。

 

『よぉ、織斑一夏。お前の護衛をしていたガーディアンのプログラムを弄って、こちらの手駒にさせてもらった』

「……!その声……スタークか⁉」

『その通り!それにこれは元々こっちの技術だしなぁ。大した苦労はなかったさ』

 

 ガーディアンはスタークの手で制御を奪われたってのか……!けど……!

 

「はぁ!やぁ!だりゃぁっ‼」

 

 三度剣を振るい、Xガーディアンをスクラップ同然にする。こうすれば更識会長に流れ弾は当たらない。

 

『おぉっと。やっぱり木偶人形如きでは意味がないか……残念残念』

 

 さして落胆の声音も見せずにそう言うスタークの声が癇に障るも、デパートの一件のことを思い出し声が喉に引っ掛かってしまう。黙り込む俺にスタークは続ける。

 

『そんなお前に丁度良い知らせだ。お前のハザードレベルを上げるために特別な相手を用意しておいた。お互い嫌い合って中々話なんてしない仲なんだろう?存分に本音で語り合うといい……んじゃ、Ciao♪』

 

 そこでガーディアンは機能を停止した。

 

「……?一体誰のことだ……」

「やあ、一夏義兄さん」

 

 周囲に気配を凝らしていると、突然聞きなれた声が耳に入る。振り返れば……ISスーツを着た男子生徒……。

 

「お前……ッ!節無⁉どういう事だ!」

「ん?こう言うことだよ?」

「……ッ、まさか……ッお前だったのか……?」

 

 そう言ってあいつが手に取り出したもの。それは三羽烏が持っているような銀色のレリーフのボトル。

 

「その通りだよ一夏義兄さん……僕がレゾナンスで会ったスマッシュだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

三人称side

 

 場面は変わって、とあるビルの屋上に彼女はいた。紫色の髪をたなびかせてタブレットを開く宇佐美。するとそこから赤と青の粒子が噴き出した。

 

「お帰り、ブリッツ」

「やほやほマボローグ~、舞台の進行はど~?」

 

 胡坐をかいて祈禱師の様な恰好の銀髪赤目の女が出現する。

 

「すこぶる順調だ……。セツナ・オリムラに割り当てたインフィニット・スマッシュは相当弱体化させた個体にした為誰よりも早く撃破させることができた……。また私の手によって護衛ガーディアンのカメラ等の情報を擦り替え、未だ戦闘中だと偽装データが指令本部に送られている。不審には思われないさ……お前こそ“エニグマ”の試運転が成功したようだな」

「まだネビュラバグスターが足りないから学園内のISを数時間停止させるだけだったけどね~」

 

 お互いに成果を発表する研究者の様に嬉々として語り合うが、その内容は外道そのものである。

 

「いやーにしても、バグスターは身体も自由に変更できるのいいよねー。潜入が楽だし~」

「あぁ、それでセツナ・オリムラの母性への渇望に付け入ったんだったな?全く、どいつもこいつも趣味が悪い…」

「いやいや~、君ほどじゃないよ~」

「褒め言葉として受け取っておこう。そうだ……。スタークが記憶の『後片付け』の後、ビルドの所に行くらしいぞ……」

「ほ~ほ~、んじゃ、後はビルドがアレを使ってくれれば~?」

「あぁ、この喜劇が悲劇にかわる!さぁ、その痛烈な結末を見せてくれ、ヴェハハハハァ‼」

「うっふっふ~、はっはっは~」

 

 二人が発した哄笑は、不気味なほど青い空に吸い込まれていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、インフィニット・スマッシュを数体撃破した戦兎は一足先に花月荘に戻ってきていた。

 

「……あれ?スクラッシュドライバーが……ない?」

 

 メンテナンス中だったスクラッシュドライバーが消えている。そして、誰がそれを持って行ったのか、彼女はすぐに思い至った。

 

「まさか、ッ一夏……‼」

 

 

 

 

 

一夏side

 

「そうやっていつも突っかかって来たよな……お前は!どうしてだ!?どうしてスマッシュになった!?そこまで俺を憎む理由は何処にある!?」

「当たり前だよ……、いつもいつもいつも、アンタが僕の邪魔をした!」

「一体何時だよ……!」

「お前が生きている限り、いつでもだ……!」

 

 ……?あん?どういうこった?

 

「はぁ?何言ってんだお前……?」

「ふん、知る必要はないよ……それにしても、こうも皆『ママ』になってくれないなんて、アレに…篠ノ之箒に吹き込んだことも無駄になったな」

 

 …………………………?

 

「……何?」

 

 コイツ、今なんつった?箒に、吹き込んだ……?

 

「あぁ、そうだ……。冥途の土産に教えてあげる。僕って優しいでしょう?」

 

 そして、節無の顔が気持ち悪く歪んだ。

 

 

 

 

 

 

「お前の()に『白騎士事件』の真実を教えたのは……、僕だ」

 

 ……………………。……………………?

 

「………――――は?」

 

 箒に……『白騎士事件の真実(絶望)』を教えたのが……節無……………………。

 

「……………………んで……」

「ん?」

 

 

 

 

 気が付けば、俺は節無に掴みかかっていた。

 

 

 

 

「何でそんなことをしたぁ!答えろ節無ァっ‼」

 

 それにすまし顔で唇を歪める目の前の男。

 

「そうすれば、篠ノ之箒が篠ノ之束に抱く印象は最悪になる……………………そして関係が破綻し、背後に誰もいなくなった『あんな阿婆擦れ』は救いを求めるはずだった、一夏義兄さんに後れを取る僕じゃないしね。そのはずだったのに……」

「…………やめろ……」

 

 だが、こいつは止めない……。

 

「アレはどうしても『ママ』にならなかった。ならいらない。それにそもそも何時か知ることになる真実だった。それを少し脚色して匿名で伝えても、僕に何の非も無いもの。僕を捨てた篠ノ之箒というアレが悪い」

 

 止めろよ……お前……箒に何したんだよ……………………。

 

「……もういい黙れ」

「うん?どうしたの……力で解決するの?まぁ僕は暴力なんかに屈しないよ。『ママ』がダメな子を叱ってくれるもの。和解なんてしないけど」

 

 お前、箒がどれだけ苦しんだのか、天災を信じられなくなった時の気持ちを分かって言ってんのか……?

 

「確かにいずれ箒が対面する問題だったのかもしれねぇ……だがな……!」

 

 お前が……お前みてぇな下らねぇ人間が………………‼

 

「そんなつまらねぇ理由で人の心を弄ぶ……お前如きが箒をとやかく言う資格はない‼」

「えー?資格ならあるよ。だって僕は弱いんだもの。『ママ』は弱い僕を構わないと駄目だよね?」

 

 そして、戦兎さんから無断で持ってきたドライバーを腰に巻く。

 

【スクラッシュドライバー!】

 

「お前だけは……!箒に絶望を与え、罪の意識を背負わせた片棒を担いだお前だけは……!俺は絶対に許さない……!」

 

【ドラゴンゼリー!】

 

「はぁ?こっちのセリフだよ……。意味わかんないよ、僕がなにしたって言うんだよォォォォォッッッ‼」

 

【シマウマ!】

【潰れる!流れる!溢れ出る!ドラゴンインクローズチャージ!ブラァァァ!】

 

「今の俺は……負ける気がしねぇ………………」

「そう言うの、フラグって言うんだよ、知ってる?」

 

 

 

 

 

三人称side

 

 遂に、袂は分かたれた。暴走する心優しき龍は、仲間の為に自分の身を犠牲に……、暴走する心卑しき馬は自分だけの為に全てを犠牲にして願いを叶えるために拳を握り、互いの得物を振り上げ駆け出した……。

 

「「ゼヤアアアアアァァァァァァァァッ‼」」

 

 クローズチャージはビートクローザーを、ゼブラハザードスマッシュは雪片弐型を太刀サイズにして振り回している。クローズチャージが優勢に見える、だが……。

 

「……うぅ、ぐぅ……!まだ……!馴染んでないのかよ……!グゥ!?」

「あはあは、どうしたのさ!勢いが良かったのは威勢だけ!?」

 

 未だクローズチャージは暴走のリスクに悩まされていた。そこに荒い剣筋だがクローズチャージ以上の筋力を誇るハザードスマッシュの攻撃が加えられ、スクラッシュドライバーのシナジーにより闘争心が搔き立てられる一夏。

 

 そこに、一人の科学者がやって来た。トレンチコートが戦風に揺れる。

 

「やっぱり……!アレは白式のブレードってことは……一夏の従弟君!?それに零落白夜がずっと発動している…?」

『そうだ。SEの代わりに自身の生命エネルギーを代価に零落白夜を発動しているのさ。だから自分が生きている限り零落白夜を発動し放題。まぁハイリターンモノだが』

 

 近くの物陰からその声の主が現れた。

 

「スターク……?」

『そう、俺だ。お前さんに一つ、少し悪いニュースと滅茶苦茶良いニュースがあるんだか……、聞きたいか?』

 

 嫌だ、なんて拒否権は無いのによく言う。そんな思いを乗せて睨みつける。怒りを表出させる戦兎を満足そうに見ると、ブラッドスタークは口を開いた。

 

『アレはハザードスマッシュと言ってな……。特殊な強化薬剤を体内にいれた強化型ハードスマッシュだ。あぁ、くれぐれも倒して成分を採取しようなんて思うなよ』

「……どうしてだ。スマッシュは体内からネビュラガスを抜けば……」

『ところがどっこい、強化剤プログレスヴェイパーを注入したあいつのハザードレベルは急上昇していてな、代償として一度倒されれば変身解除と同時に肉体が消滅してしまう』

「なッ……」

 

 思わず絶句してしまう戦兎。つまり……それは彼を元の人間には戻せないことを意味していた。

 

『まぁ、現在のゼブラハザードスマッシュのハザードレベルは4.7を超えている状態だ。倒すよりも先にクローズが倒されるのが先か、さて……それに、クローズチャージもアドレナリンが過剰に分泌され始めている。このままでは暴走した一夏が節無を殺してしまうぞ……、それが少し悪いニュースだ』

「少し!?どこかだ!」

『まぁまぁ、落ち着けって。それを打開することができるものがある、と言ったら?』

「何……?」

 

 あっけに取られる戦兎を見て、スタークはケラケラと心の底から笑う。

 

『そのキョトンとした顔はあの天災(ハザード女)はしなかっただろうよ……。ホレ』

 

 軽口を叩くと、手に持った赤いアイテムを見せびらかす。

 

「それが……?」

『禁断の発明品……、ハザードトリガー』

 

 “禁断”……その言葉にはいそうですか、と流す戦兎ではない。

 

「禁断の発明品……だと?」

『あぁ、これは暗闇に生きる俺達の組織名を決める要因となったアイテムだ。こいつのことを葛城忍は戯曲“ファウスト”の光厭う者(メフィストフェレス)になぞらえていたらしい……。まぁ当然だ。こいつを装着し続ければ、全身にネビュラガスが巡り……自我を失う可能性がある』

 

 そのリスクに憤慨する戦兎。人体に害をなす科学の産物を飄々と無責任に薦めてくるスタークにふつふつと怒りが湧いてくる。

 

「巫山戯んな、誰がそんな発明品を……!」

『いいのか?このままだとあのハザードスマッシュがせっかく出来たお前の新しい居場所も、親しい友人も、そしてお前さんの妹も全て殺すつもりだぞ……殺される前に助けるしかないだろ』

 

 その言葉に、一夏から聞いたレゾナンスの出来事が思い至り、ハッとする戦兎。スタークの真意は不明だが……歪な答えがあるようで、頭がソレを導き出そうとする。

 だが、彼女が答えを掴むより先にスタークの口によって遮られ、逡巡が止まってしまった。

 

『はぁ迷ってるのか?…お前が今すぐ決めなきゃ、二人とも死ぬことになるんだがな。ま、選ばないのは勝手だ、だけどさ…――――“お前は正義の味方だろう”?』

「…――――」

『じゃあなCiao♪』

 

 そう言ってスタークはハザードトリガーを放り投げて消えてしまった……。

 

 

 

 

 

 

 残されたのは戦う銀の『龍』と黒い『馬』、それを遠くから見る赤と青の『兎』。彼女は足元に落ちている赤いアイテムを見た。そして、その後醜い争いをするスマッシュに目をやった。

 

「……オレが戦いを終わらせる」

 

 苦渋の表情で災厄のアイテムを手に取った。取ってしまった……。

 

「オレがお前たちを止める……この身をかけても……!」

 

 決意と覚悟と共に、戦兎はトリガーのボタンを押し込む。

 

【ハザードオン!】

 

 ベルトの拡張スロットに禁断のアイテムを接続し、ヒーローとしての彼女の仮面を創る二本のボトルを力強く振り、ドライバーに挿す。

 

ラビット!タンク!

 

 いつもであれば戦兎が搭載した音声が鳴るはずだったが、今回は違う。

 

【スーパーベストマッチ!】

 

 ベルト前方に出現したR/Tのマークがブレ、その後歯車のようなマークを形成した。

 

【ドンテンカーン!ドーンテンカン!ドンテンカーン!ドーンテンカン!】

 

 意を決して、戦兎はベルトのハンドル部分を握りしめた。

 

【ガタガタゴットン!ズッタンズタン!ガタガタゴットン!ズッタンズタン!】

 

 彼女の前後に、鋳型状の『ハザードライドビルダー』が展開される。黄色と黒の警告ラインが入ったそれは、黒いオーラと合わさり不穏そのものといった雰囲気を放っている。

 

【Are you ready?】

 

「変身…!」

 

 いつも通りの言葉と共に、前後からプレスされる戦兎。チン、という小気味良い音の後にゆっくりとフレームが開いていくが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!】

 

 そこに立っていたのは、赤と青のアイレンズ以外が黒一色に変化した……――――汚染された様な姿のビルドだった。

 

【ヤベーイ!】




「禁断のアイテム……」
「ォレが、ゃったのか……………………、っ⁈」
銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)……」
「誰が代わりに出ると思う?」
「お前が戦うしかないんだよ」

次回 『天災(ハザード)は止まれない』

※2020/12/21
 一部修正


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第五十八話 『天災(ハザード)は止まれない』☆

戦兎「強大なエネルギーを秘めたパンドラボックスを巡り、IS学園とファウストの戦いは激しさを増す……。仮面ライダービルドの因幡野戦兎はファウストと戦う毎日を送っていたが、そんな中、織斑節無がゼブラハザードスマッシュとなり一夏に襲い掛かる。一夏はスクラッシュドライバーを使い何とか戦うも苦戦を強いられてしまう。そこで因幡野戦兎は彼らの暴走を止めるため『禁断のアイテム』を使うのだった……」
シュトルム「織斑節無がファウストと繋がっていたと言うのは本当ですか?」
戦兎「貴女は……財団Xのシュトルムさん!その様な事実は……ございません……(目逸らし)」
シュトルム「私にそのような嘘が通用すると?これは財団に報告しIS学園への支援予算を削減しなければなりませんね……」
戦兎「わぁぁぁごめんなさいッ!今回の第五十八話で何とかしますからそれだけは何卒ご勘弁を……!」


 ラビットタンクハザードフォームに変身したビルドは、ゼブラハザードスマッシュとクローズチャージの間に割って入る。

 

「あぁ⁉何すんだ!」

「やめろ一夏!もうやめるんだ!」

「うるせぇ!引っ込んでろ‼」

 

 暴走状態に入ってしまった一夏は、ビートクローザーを振り回しながらビルドとスマッシュに攻撃を加える。

 

「俺は勝つ!箒の笑顔の為に、こいつに勝つ‼邪魔をするなぁ‼」

 

 剣と拳を振るい、ビルドの漆黒のボディから火花を散らさせるクローズチャージ。

 

「俺を邪魔する奴は!誰であろうと容赦しねぇ‼」

「うわぁ⁉」

 

【ツインブレイカー!】

 

 さらにビルドをパンチによって廃墟の中へ、壁を突き破って吹き飛ばした後、間髪入れずにエネルギー弾で狙い撃つ。

 

「落ち着け!一夏…、ッ!?ぁ、頭が………――――ッ」

 

 鋭い頭痛に襲われる戦兎。エネルギー弾が天井の電球を割り、鋭い破裂音が室内に響いた。その音と同時に、突き刺すような痛みは彼女の理性を奪い去る……。

 

 

 

 その様子を見ていた宇佐美は、狂気を孕んだ笑みを浮かべた。

 

「そうだ。その衝動に身を任せろ。お前は天災だものなぁ。……――――この瞬間から、お前は目に映る全てのモノを破壊する……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルドは頭を押さえていた手を、だらりと垂らした。

 

「……………………」

「あん……?」

 

 急に無言になったビルドを訝し気な目で見るクローズチャージ。その直後、天災が駆逐を開始する。

 

【マックスハザードオン!】

 

 その挙動は機械そのもの。ハザードトリガーのボタンを押し、レバーを回転させた。

 

【ガタガタゴットンズッタンズタン!】

 

 レバーから手を放し、黒いエネルギーを引いて高速移動するビルド。

 

【Ready go!】

 

「なッ⁉」

 

【オーバーフロー!】

 

 紫色のエネルギーをまとったパンチが何発もクローズチャージのアゴや鳩尾、こめかみ、喉……、人体の急所にヒットしていく。

 

「うぐぅ……ッ、ガハァ!?」

 

 最後の一撃と心臓に喰らうクローズチャージ。装甲を貫通する掌底を叩きつけられ、内臓が悲鳴を上げる。

 

【ヤベーイ!】

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁッ⁉」

 

 彼は音の壁を越えて吹き飛ばされ、戦士としての変身が解除される。

 あまりの出来事に一夏は地面に倒れ込んだままビルドを見た。クローズチャージが暴走状態だったとはいえ、一瞬で無力化された。その強さに驚きと受けた苦痛を隠せない様子だった。

 

「あハはッ、仲間割れかな……?」

「馬鹿か節無‼さっさと逃げろ‼」

「え?何で……、ッ⁉」

 

【マックスハザードオン!】

 

 殲滅は未だ終わらない。次の標的をゼブラハザードスマッシュに見据えるビルド。

 

【ガタガタゴットンズッタンズタン!】

 

「………………」

「あぁ?舐めないで……欲しいねぇぇ‼」

 

 二人同時に駆け出すと、ゼブラハザードスマッシュはケンタウロスのような姿になり、雪片弐型を振り回す。ビルドは体を覆う紫色の強化剤『プログレスヴェイパー』が切り裂かれる。

 

「あはは…うわぁ!?」

「……――――」

 

 だが、意に介さずにハザードスマッシュの顔に蹴りを入れ、その場に倒す。

 

【Ready go!】

 

「な……、離して……離してよねぇ‼」

「………………」

 

 疾走態になったものの、倒され自由が利かなくなったゼブラハードスマッシュの頭部を乱暴につかみ、どす黒いエネルギーをその手に溜め始めるビルド。

 

【オーバーフロー!】

 

 電子音と共に、掴んだ手から黒い電流が哀れにも、斑な心の狂人に炸裂した。

 

【ヤベーイ!】

 

「がァァァァァァァァッ⁉」

 

 だが……――――、それだけでは終わらなかった。

 

【ガタガタゴットンズッタンズタン!】

 

「……ッ!もういい‼︎もういいだろォッ⁉︎」

 

【ガタガタゴットンズッタンズタン!】

 

 

 

 天災(ハザード)は、止まれない。

 

 

 

【Ready go!】

 

 今のビルドにはそんな言葉は届かない。

 

「ッ……戦兎ォォォッ‼止めろォォォォォォッッッ‼」

 

 その言葉も空しく、キリングマシーンと化したビルドはゼブラハザードスマッシュのアゴに当たる部分目掛け、キックを放つ。

 

【ハザードフィニッシュ‼︎】

 

 黒いエネルギーをまとったキックが炸裂し、その後……。

 

 

 

 

 全ての者に、絶望を与えた。

 

 

 

 

「あ……………………ぁあ……………………」

 

 体中から爆炎を上げるゼブラハザードスマッシュ。彼は身体から煙を上げ、膝から崩れ落ちた。あれほど美しかったISもひび割れ、白い身体は黒く汚れる。

 

「戦兎さんッッッ……‼」

 

 慌ててビルドの懐に入った一夏がハザードトリガーを抜き取り、戦兎の変身を解除させた。だが、それは非常な現実を突きつけるトリガーでしかない。

 その場に倒れ込んだ戦兎は、目の前に広がっている光景を見て……――――愕然とする。

 

「え……?」

 

 彼女は目を疑うことしか出来なかった。事態を上手く把握できない。

 ……一体どうして節無の変身したハザードスマッシュが、粒子となって崩れているんだ……?

 

「……ッ?……あれッ、ねえ、何コレ!?これは何⁉か……身体が……?身体がぁ⁉」

「あぁ、説明してなかったな」

 

 いつの間にかやってきていた宇佐美がゼブラハザードスマッシュの傍に居る。そして、宇佐美はニッコリと笑顔を浮かべ……残酷な真実を告げた。

 

「倒され変身解除されたハザードスマッシュ被験者は消滅する。たった一つの命を大切になぁ?」

 

 哄笑が漏れる。命を玩ぶ悪党の、狂った思いが溢れ出る。

 

「……、はっ、はぁッ!?な、何言ってるのッ!?そんな事僕聞いてないよ!『ママ』だって言ってなかったもんッ!?」

「お前の『ママ』とやらは知らんが、私は聞かれなかったから答えなかった、それだけだが?」

 

 一夏はゼブラハザードスマッシュが宇佐美への怒りと死への恐怖、そして絶望に染まったように見えた。一方の宇佐美は首をかしげている。

 

「全部お前が望んだことだろう?それを私の所為にされても、訳が分からないな」

 

 彼女の目は“本気で理解できない”という思いが映り込んでいる。機械の様に冷淡で、無感情な顔がゼブラハザードスマッシュを見つめている。

 節無は宇佐美が冗談を言っているわけでは無いと分かってしまった。つまり、彼は…………。

 

「………………ゃだ、やだやだやだやだやだやだやだやだぁ‼死にたくないよ!?助けて……ガハァッ!?」

 

 駄々をこねるように宇佐美の足にすがる怪物。だが、宇佐美は首を傾けると、地面に這いつくばったスマッシュの頭をサッカーボールの様に蹴り上げる。そのまま粒子となって崩れ征く頭を掴み三日月の様に裂けた笑い顔でシマウマのスマッシュを見る。

 

「なあ、織斑の坊ちゃん!ブリュンヒルデに教わらなかったのかい?何故悪い子に育っちゃいけないか、その理由を。嘘つき……、卑怯者……、そういう悪い子供こそ、本当に悪い大人の格好の餌食になるからさ!」

 

 そう嘲笑われた途端、節無のスマッシュの身体の崩壊が激しくなる。

 

「ひッ!?……ぃ、嫌だ、嫌だぁッ‼おかしいじゃん!良い子だったもん僕!悪いことなんて何もしなかったのに‼死にたくないぃッ、死にたくない死にたくないよォォォォォォォォォォッッッッッッ‼やだ、やだやだやだやだやだーーーーーーーッ‼この人殺しッ!?『ママ』助けて助けてよ!どこにいるの!?ねぇ『ママ』ってばァァァァァ!?」

 

 それでも宇佐美は冷淡に節無を見るだけだった。

 

「自分のことを棚に上げて変なことを言うなぁ、被験体(モルモット)。……人の心を失っていたお前は、はじめから人間じゃ無いだろう?実験は完了した。大人しく死の運命を受け入れるんだな」

 

 優しい聖母のような良い笑みを振りまく宇佐美に、一夏は戦慄するしか出来なかった。よっぽど彼女の方が怪物だ、と。

 人の心がないと断じられたもの(節無)は阿鼻叫喚を垂れ流しその場をのたうち回る。

 

「やだやだやだ‼死に゛た゛く゛な゛……!あっ、あぁぁぁあぁァァァァァァァァッ!?」

 

 体から噴き出る白と黒の粒子。そして、節無の身体は向こう側が最早透けて見えるまでになっていた。

 

「死ぬ!死ぬ‼死んじゃうぅぅぅッ‼嫌だ、『ママ』、『ママ』ァ‼助けてぇぇぇぇぇッ!?」

「節無……」

 

 それを顔を歪めながらそれぞれ眺める三人。

 

「命乞いか……お前と言う人間は、何処までも醜いな……」

 

 呆れかえったように言う夜の悪党。誰も、一秋に手を伸ばせない……。

 

「…………何で、こうなるんだよぉ……僕は……僕はぁ……………………。ただ、幸せになりたかった(『ママ』にあいたかった)だけなのに…………………………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァァァァァァァァ……」

 

 

 

 

 

 そんな醜すぎる断末魔を残し…………――――織斑節無は、死を迎えた。その場に命だった者は何一つも落ちていない。粒子となって虚無へと消えた。

 

「フム。GAME OVER、と言ったところか…。ん?どうした織斑一夏、お前言ったよな?お前のことは許せない、と。許し難い怨敵が死んだんだ、もっと喜んだらどうだ?」

「……殺してくれてありがとう、とか言うと思ってんのか……?」

 

 思わず飛びかかりそうになるも、突然彼の挙動が止まった。弱々しく一夏の服を引っ張る者がいた。

 

「……ぃ、ちか……?な、んなの、これ……手が、真っ赤っか…?」

 

 ハッとなり振り返ると……ひきつった顔で膝をつき、茫然自失する戦兎の姿があった。目に光が宿っていない。白昼夢を見ているような、茫漠な盲を思わせた。

 

「戦兎さん…手なんて、何ともなってねぇぞ…」

「ぅそ…、だって…、ほら…。ぁ、ぁぁ、…ぃゃ…ちが…違…――――あ」

 

 突如として引き攣っていた笑みが、恐怖に変わる。

 

「…ぃ、ぃゃだ、…ぃゃ…、ぃ、ぃちか……ォ、……が……、ォレがゃったのか………ッ⁈」

「……ッ、……それは……」

 

 だが、それに答えたのは一夏ではなかった。

 

「その通りだ‼お前がスタークからの甘言を真に受け‼織斑節無という“人間”を‼愛と平和を守ると言った手で‼惨たらしく殺したんだァァァァァァァァ‼アーッハハハハハァァァァァッ‼」

「…………ぇ、……ぃ、ゃ…………」

 

 天災兎の誕生を祝うように高笑いすると、宇佐美はトランスチームガンで倒れている楯無や一夏、そして戦意喪失の戦兎を白煙で包んだ……。

 

 

 

 

 

「……ッ!?これは……………………!?」

「お姉ちゃん⁉」

 

 転移した先は、花月荘の一室。そこには既に他の専用機持ちが集まっていた。ある人物が眠る布団の周りで、お通夜のようなありさまだった。

 布団に寝かされていたのは布仏虚、傍には涙を浮かべた妹の本音が寄り添っていた。各員戦闘を行い、スマッシュから成分を抜いて人命救助活動を行った……までは良かった。残酷なことに、簪が戦ったスマッシュの素体は布仏虚だったのだ。

 

「さて、久しぶりだな諸君。ガーディアンから送られてきた映像はどうだった?面白い悲劇だっただろう?」

「貴様ぁ……ッ!」

 

 宇佐美にけた外れの殺気を向ける千冬。と言うのも、宇佐美はクローズによって破壊されたXガーディアンのカメラアイを復旧させ、そのデータをリアルタイムで花月荘の一室に送っていたのだ。

 つまり、この場にいる全員は因幡野戦兎が織斑節無を手にかけた顛末を見ているということになる。

 その元凶である宇佐美には、その場にいる誰しもの視線が集まっていた……。

 

「あぁ、それと……私に構ってばかりでいいのかい?一つお前たち仮面ライダーにゲームをしてもらおうと思っていたのだが」

「ゲーム……だと?」

 

 そんなことも構わず、天災以上の気狂いは堂々とカリスマ社長の様に身振り手振りを大袈裟に話を切り出す。

 

「ファウストはハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)をインフィニット・スマッシュにして暴走させた」

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)……?」

 

 片手に持った紫色の拳銃にUSBをかたどったレリーフのボトルをセットし、空間に浮かぶディスプレイにデータを打ち込む宇佐美。するとそこには、インフィニット・スマッシュとなった福音の情報が明記されていた。

 

「な………、何だよコレ……」

 

 ISに疎い一夏でも分かった。……インフィニット・スマッシュとなった福音。それは現行の第三世代をゆうに超え、以前やって来た第四世代機『バーサーカーⅣ』すら足元に及ばない性能を誇っていたのだから。

 

「ここにやって来るのは、南北アメリカ大陸の軍事施設を強襲してからだから…――――時間にして二十三時間後だ。さて、戦える人間はどれだけいるかな?」

「何言ってんのよ……!」

「………貴女……っ!」

 

 今にも部分展開し、宇佐美に襲い掛かろうとする鈴、そして姉を怪物にされた簪。激情を押さえられる者は此処にいなかった。

 

「専用機持ちか……。インフィニット・スマッシュを撃破し、ロストタイムクリスタルを精製してくれてたことには感謝するよ。だが、今回の計画でのお前たちの役目は終わったァ!」

 

 その言葉と同時に、紫色の拳銃『ネビュラスチームガン』の引き金を引く。

 

「……ッ!ISが、反応しない……?」

 

 その場にいた専用機持ち達のISは、沈黙した。

 

「“エニグマ”の力だよ。未だ完成してはいないが……この近隣のISの機能を停止させるくらいは出来るとさ」

「“エニグマ”……?」

 

 簪はその言葉を繰り返す。何か、裏の世界の住人の勘に引っかかった。それは危険だ、と。だがそんなことに気を止めず、一夏は焦る。

 

「クッソ……!どうすれば……!」

「おや、ビルドの……因幡野戦兎の助力を願わないのか?」

 

 そう言って宇佐美が室内を見回すも……戦兎の姿はなかった。

 

「……あぁ、逃げたか……」

 

 宇佐美は呆れたように肩をすくめる。

 

「誰のせいだと思っているんだ……っ!」

「んんー?」

 

 一夏の嫌悪感丸出しな言葉に眉間に指をあて考え込む素振りをすると、その場から歩き出す宇佐美。

 

「因幡野戦兎が逃げたのは人を殺した罪悪感が原因で……」

 

 一夏と箒の目の前で指をさし、ゆっくりと歩く。

 

「それは織斑節無がハザードスマッシュになったせいだ・か・ら……」

 

 続いて真耶の目の前に立ち、軽いタッチで胸を叩く。

 

「つまり……ファウストが彼にハザードトリガーによる手術を施したせい……ハッ!」

 

 セシリア、鈴、ラウラの周りを肩を叩きながらフラフラと回り、驚いたような顔で指を突き立てる。

 

「全部私のせいだ!ハーハハハハハッ!『ちーちゃん』、全部私のせいだ!フフッ」

「……ッ!」

 

 全員の嫌悪の視線が突き刺さる中、千冬は元凶に向かって『葵』を振り下ろしていた。

 

「おっと、危ない危ない」

 

 宇佐美が神速の抜刀をひらりと躱すも、修羅のような顔をした千冬は唸るように言葉を続ける。

 

「これ以上言うなら……腕一本失う覚悟で話せ……!」

「やれやれ、野蛮だなぁ……腕を失うのは困るので私はこれで、準備もあるのでね」

 

 彼女は呆れた雰囲気でそう言うと、ネビュラスチームガンを用いその場から去って行くのであった……。

 

「……………………、俺が……あんなこと言わなければ……」

 

 その場に残された人たちの中で、拳を握り締め自分を責める少年……。腰のベルトを震える手で触れた……。

 

「戦兎さん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこうなっちゃったのかな、……――――ころすつもりじゃなかった、たすけたかったのに、すたーくにいわれてしかたなかった、いちかがしんじゃうとおもったんだよ……――――ぁ、ぁぁぁぁ、ぁぁぁぁぁちがうちがうちがうちがう……、おれがやったおれがやったおれがやったおれがやったおれがやったおれがやった……――――どうしよう、ころしちゃった、やだ、うそ、ちがうやめて……――――」

 

 現実から目を逸らすように逃げていた戦兎は、ある場所に向かっていた……。フラフラとおぼつかない足取りでそこを目指す傷心の戦兎。彼女は虚ろな目でブツブツと口を動かす。まるで、さっきの事が悪い夢であるとでも言うように必死に否定をし続ける……。

 

 だが、そこにIS学園の制服を着た人物が立ちふさがった。

 

「……因幡野先生」

「……え……なん、で……?」

 

 濁った目で怯えを見せる戦兎。そこに立っていた人間の名前を言う……。

 

「せ……つ、な……?」

 

 嘘だ、噓だウソだウソダウソダウソダウソダウソダウソダ…………………………頭の中がその言葉で覆い尽くされる。

 

「……何故僕を殺したの?」

「ひッ!?」

 

 胸を抉る彼の叫び。それに思わず後退り、しりもちをつく。顔面は蒼白になり、脂汗が流れ出す。気持ちが悪い……今まで我慢してきた何かに触れてしまいそうだった。

 

「何が愛と平和の為に戦う、だよ………………僕を殺したくせにさ」

「ちっ、違……」

「結局お前は篠ノ之束でしかない…だから簡単に人の命を弄ぶ…違わないでしょ、この天災が」

 

 彼の叫びと共に、口から血が流れだす。目や鼻からも、どろどろと死が彼を蝕んでいく。彼女が先程抱いた死の重み、その本質を突かれた。

 

「ぃ…ゃ…ぁ……………………ぇろ……」

 

 自分が人の命をゴミの様に扱う篠ノ之束である、その事を否定したくて……、でも手を見れば、先の出来事によって奪った人の命g$aw%om#o@i*d¥……!

 

「……ぉ…ぇろ消えろ消えろ消えろ消えろやだやだやだやだやだやだぁぁぁぁ!?夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だ夢だァァァァァァッ‼」

 

 突然発狂したように頭を抱えて手足を振り回す戦兎。その様子はいつもの天才的な正義の味方などでは無く、痛々しい廃人にしか見えなかった……。

 

「ひっ……ぅっ……ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ……う゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえん…………っ‼」

 

 嗚咽を漏らす。胃の内容物を道端に吐き出す……、最早彼女に残っているものは何なのだろうか……。

 

「……………………。『俺だよ戦兎』」

 

 聞きなれた声が頭の中に入って来る。その声音は、周囲にもし人がいれば、彼女を憐れんでいるように聞こえてならなかっただろう。

 

「ぁひ……ぁ?すたぁく……?」

『あぁ……お前は育ての親である石動惣万に何か言ってもらいたかったようだが……そうだ』

 

 口から血を吐く少年の姿から中性的なスタイルの人の良さそうな男の姿に……。中年男性の声から、女性的な声に……。

 

「……こっちの方が良いだろう?」

「……………………ぃゃ、ぁぁぁぁぁ……………………」

 

 惣万に姿を変えただけで崩れ落ち、泣き出す戦兎。それを見てスタークは眉をひそめた……。

 

「おいおい、そんなところで蹲っていて何になる?福音がやって来るぞ?」

「しっ、知らないッ………………もう……、戦いたくないっ……」

「……………………」

 

 静かに彼女を見る惣万の足に縋り付き、わんわんと泣き喚き挫折を口にする。

 

「オレはもう人を殺したりしないぃっ!戦わないッッッ‼だから、だからぁぁぁァっ‼」

「許してくれってか?……じゃあ、世界は俺達のものになる。全くお前は笑えるな、すぐに『逃げ(これ)』だ」

「……………………ぅ、ぇ……?」

 

 胃液が混じったよだれが口から糸を引き、虚ろな目で惣万を見る戦兎……。

 

「まだ分かっていないようだな。いいか?消滅した節無もお前もネビュラガスを注入した時点でもう人間じゃないんだよ。だからお前は『兵器を壊した』に過ぎない。それに、ISなんて『兵器』がある時代となった今、遅かれ早かれ味わうことだ。それとも、本気で誰も傷つけないとでも思っていたのか?だとしたら能天気にもほどがある」

「…………………ぅ…」

 

 淡々と事実のみを伝えるが、それがかえって戦兎を追い詰める……。

 

「お前が福音討伐に出ないのは勝手だ。けどそうなった場合、誰が代わりに出ると思う?」

「……ぃ………………」

 

 戦兎は答えない……。いや、わかっている故に答えたくないのか………。

 

 はぁ……、と一つ溜息を吐いた惣万は無慈悲にこう告げた。

 

「織斑だ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その教え子の名を聞き、先程節無が消えた瞬間の一夏の顔が思い出される……。

 

「織斑は今回の件でお前に負い目を感じているはずだ。だからお前がやらなきゃ自分から手を挙げるだろう。けど、今のあいつじゃ福音に勝てない。そうなれば世界の連中は寄ってたかってクローズを責める」

 

 惣万はそこで言葉を区切ると、戦兎の肩に手を置き震える手で激励を送る(・・・・・・・・・・)

 

「……お前が戦うしかないんだよ!お前にも分かっているはずだ。だから何かを期待してここに来たんだろう!」

 

 人通りのないレストランカフェ『nascita』の前で、惣万は戦兎に強く声を放つ。そして、いつの間にか片手に持っていたトランスチームガンの引き金を引く……。

 

「蒸血……」

 

【C-C-Cobra…Cobra…Fire…!】

 

「……………………」

『……、これは俺達ファウストが所持するフルボトルだ……これを使ってお前のハザードレベルを上げる。明日の夕方までにな……』

 

 パカリと傍にあったトランクを開け、赤いパンドラパネルにセットされているボトルを見せ、戦兎に選択を迫るスターク。

 

「………………」

 

 煮え切らない戦兎にスタークは叱咤激励する。まるで、育ての親の様に……。

 

『何をためらっている!お前には守るべきものがあるんじゃないのか⁉自分が信じる正義のために戦うんじゃないのか⁉それとも全部嘘だったのか‼』

「……………………」

 

 戦兎はうなだれ、一夏のことを思い浮かべていた。一夏だけではない……、記憶を失って血縁の関係が無くなり、初めて仲間になれた篠ノ之箒や同僚の織斑千冬……。

 

「……………………さぃ、ぁくだ……」

 

 つけ込まれているのは分かっている。だが……このままでは……。

 

「こんなに、ぃたくても…――――くるしくても…――――」

 

 彼女に、贖罪以外の道は存在しない。人を殺してしまった人間は、その罪過からは逃れられない。時は決して巻き戻らないのだから。

 

「……たたかうしか…………、……ないのか……?」

 

【フェニックス!】

 

 あの時、彼が死ななければ…――――。

 

【掃除機!】

 

 この血に汚れた手を綺麗にできるなら…――――。

 

 

そんなIFはない。今この時が現実だ。

 

Are you ready(覚悟は、できたか)?】

…ready? …ready? …ready?

…ready? …ready?

…ready?

 

「…~ゥ、………ぅぅぅッッ!」

 

 弱々しく構えを創り、今にも泣きそうな声でたどたどしくその言葉を紡いだ。

 

 

 

「……へんしん…」

 

 

 

 トライアルフォームを身に纏う戦兎。戦意が喪失していたにもかかわらず、変身した。脳裏には、少年の断末魔が反響し続けている。項垂れる正義の味方を見て、ブラッドスタークは重々しく頷いたのだった…。

 

 

「…、あ、ァァァァァァァァァァッッ…‼」

 

 手から炎を放ちながらスタークに迫るビルド。が、スタークはただ火を避けるだけ。直情的な攻撃に怒りの声を上げる。

 

『駄目だ駄目だ、ボトルの特性を活かせてない!』

「うる、っさぁぁぁいッッッ‼」

 

【ローズ!ヘリコプター!ベストマッチ!Are you ready?】

 

「ビルド、アップぅッ!」

 

【情熱の扇風機!ローズコプター!イェーイ!】

 

 ビルドはヤケクソ気味にベストマッチフォームに変身し、薔薇の鞭をスタークに向かって振るった。

 

『どんだけ赤と緑が好きなんだよ……?俺、赤と緑って苦手なんだよなァ!』

「次は……これだ……っ!」

 

【オクトパス!ライト!ベストマッチ!】

 

『良いだろう、来い!戦兎ォ‼』

 

 

 そして……一昼夜が過ぎ、福音がやって来た……。傍に血塗れの成層圏を侍らせて……。

 




「こっちも半端な覚悟じゃねぇんだよ……」
『出すしか、無いよなぁ』
「駄目ぇぇぇぇぇぇぇッ‼戦兎ォォォォォッッッ‼」
「よぉ、調子良さそうじゃねぇか」

次回 『仲間とのビクトリー』

※2020/12/23
 一部修正


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第五十九話 『仲間とのビクトリー』

スターク『強大なエネルギーを秘めたパンドラボックスを巡ってIS学園とファウストは水面下で対決を激しくする!仮面ライダービルドの因幡野戦兎は教え子が変身したスマッシュを消滅させて戦意喪失していたが、花月荘にいるIS学園生徒たちを守る為、やって来る銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)討伐を決意するのだったぁ!』
一夏「何でスタークがあらすじ紹介するんだよ」
スターク『良い声してんだろハハッ、声の仕事は得意なんだよぉッ!』
一夏「声の仕事言うなよ、それ言ったら俺らアニメキャラだから全員中の人的に得意だぞ?俺セイバー出てるし、ダブルだし……束さんはムチリだし、あと箒とセシリアはメズール…。イメージCVも含めりゃ結構な数に…」
スターク『さぁどーなる第五十八話ァー!』
一夏「おい誤魔化したな」


千冬side

 

 

 私がIS学園で教鞭をとるきっかけとなったのは、ある時見かけたISのニュースだった。

 

 とあるテロ組織がISを用いて小国一つを壊滅させたという報道に、私は膝が砕けそうになった。その時、私はまだ世界を知らない小娘で、自分の振るった力が何処まで広がっていくのか、考えていないところがあったのだろう。心のどこかでは分かっていても、その事実に直面してしまえば足がすくむような、そんな甘い子供だった。

 

 ノブレス・オブリージュ。力を持ってしまったものは、その力持たぬ者のために使わねばならない責任を負う。無謀だった私は罪の片棒を担いでしまった。それは償い果たさなければならないのだと、テレビの向こうで泣く人々が責め立てているようだった。

 

 世界は、目まぐるしく変わって行った。持ち運びさえ便利な兵器(インフィニット・ストラトス)が、今尚どこかで人を殺している。ISコアの数には上限があるはずなのに、次々に兵器へと転用されていく。

 

 今になって思えば、ISコアを開発できるのは何も束だけではなかったのだろう。ファウストに所属し、まったく新しい知的生命体ISを作ってみせた宇佐美。一筋縄ではいかぬ束を容易く戦兎へ変えたブラッドスターク。在り得ない存在が、世界の裏では蠢いてることは私も身を以て知っていたというのに。

 

 皮肉なことだ。自分たちが表舞台に出なければ、都合の悪いこと全てを消えた天災に押し付けられる。何とも利口な連中だ。その頃から人間の悪意は、着々と世界に戦火を振り撒いていた。

 

 …――――。それなのに、今尚世界はISをスポーツ競技だと思い込んでいる。アイドルのような選ばれた者が使えると憧れを抱いている。束も束だ。本当に宇宙開発に利用するつもりがあったのか?

 

 私は恐ろしい。科学という力は人を豊かにする。だが、その力の本質を理解しない者達がなにも考えずに破滅を齎す。インフィニット・ストラトスも同じだった。その恐ろしさを、世界は未だ理解していない。何がブリュンヒルデだ、何がモンド・グロッソだ。私は、今の世界を象徴する名を背負うことは苦しいというのに…――――。

 

 私は恐ろしい。子供たちが兵器にもなる道具を使い、競い合うスポーツを迎合する今の世界が。使い方次第で大惨事を引き起こしかねない、何十人、何百人の命を簡単に奪える力で遊ぶこの社会の風潮が。各国も各国だ、競技と謳い上げておきながら、軍備増強のためIS操縦者を軍隊に組み込んでいるだろうが。

 

 なぁ戦兎、今のお前には世界はどう映っているんだ?

 なぁ一夏、IS適性があったばかりにこの学園に入ったお前はこの社会をどう思っているんだ?

 なぁ惣万、……戦いの悲惨さを知っているお前は、私をどんな目で見ているんだ?

 

 

 私は愚かだったのか。私は無意味なことをしているのか。あがいて、それでもまだあがき続けて、私は何か変えられたのか?

 

 いいや、インフィニット・ストラトスだけではない。私は、何も変えられていなかった。私は外側の人間にかまけるばかりで、内側の人間(節無)に何一つしていなかった……。

 

 

 

 …――――気付いた時には、遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 私が見るモニターに、ナイトローグと従弟の姿が映った。カメラは中継として向こうにも音声が伝わるらしい。

 

「節無…だと……?何故、フルボトルを持っている……!」

『貰ったんだよ、“ママ”にね。これで一夏義兄さんを殺せる……邪魔しないでよ、ブリュンヒルデ』

「節無……お前!」

 

 節無は嘲るように私たちを笑っていた。その時私は初めて彼の本心に触れた。見たことが無い狂気に満ちた顔。彼は私たちなど見ていなかったのだと、今初めて気が付いた。

 

「お前も一夏も……私の家族だ!」

『……――――あぁ、コレ(・・)も同じになっちゃうんだね。一夏義兄さんが関わるとみんなおかしくなっちゃうんだ。だったらもういらないや』

「?……、節無?何を、言ってるんだ…?」

『千冬義姉さんは僕の“ママ”だったんだ…だから何をしても怒らないんだよ』

 

 ……、本当に、何を言っているんだ?節無はずっと…今まで一体何を思っていたんだ?

 

『千冬義姉さんは“ママ”じゃない!つまらない家族ごっこなんて、吐き気がする!』

「……ッ」

 

【シマウマ!】

 

 節無は、怪物となっていた。

 

『ずっとママの傍(ここ)にいたいんだ、一夏の代わりにさ。一夏も貴女も邪魔なんだ、とっとと消えてくれないかな』

「……ッ!どう言おうとお前は私の家族だ……。家族が間違った方向に行くと言うのなら……この身をかけてもお前を止める、節無‼」

『僕は悪くない!弱い者虐めをするお前らが悪い‼』

 

 駄目だ、話が本当に噛み合わない。どうして、節無はこうなっている?まさか、ずっとこうだったというのか?それに、私は気付かずに…――――。

 

『……ハァ、動けないクセによく言うね。そこで指をくわえてみてると良いよ。織斑一夏が死ぬところをさ!そうしてら、僕は…“ママ”に褒めてもらうんだ‼』

 

 そう言って一夏のもとへ、人馬のような姿となって去って行った……。

 

 ……私は、お前たちを必死に育てたつもりだった。一緒に家族のように過ごしてきたと思っていた。……なのに、節無。お前は何故そこまで、歪んでしまったんだ…――――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い闇の中から、思考が浮上する。周囲の様子が騒がしい。…――――あぁ、一体どうしたというのだろう。

 

「……え?」

 

 茫然自失していた精神が冷え切り、逆に意識がはっきりとしだす。

 

「節…無………、お、前………」

 

 画面の中では、漆黒のビルドに倒される節無の姿があった。そして、崩れ落ちた身体から噴き出す黒と紫の粒子。

 

『なあ、織斑の坊ちゃん!ブリュンヒルデに教わらなかったのかい?何故悪い子に育っちゃいけないか、その理由を。嘘つき……、卑怯者……、そういう悪い子供こそ、本当に悪い大人の格好の餌食になるからさ!』

「…………何で、こうなるんだよぉ……僕は……僕はぁ……………………。ただ、幸せになりたかった(ママにあいたかった)だけなのに…………………………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァァァァァァァァ……」

 

 心を抉るように嘲笑う束の顔の狂人。哀れすぎる声を上げ消えゆく従弟。

 

「……ッ」

 

 生徒たちはモニター画面から思わず目を伏せた。だが、私は視線を逸らせなかった。逸らしてしまえば、私が罪から目を背けたようで……。

 

 節無、もし私がもっと姉として接してやれていれば……お前は間違う事が無かったのか…?それとも、初めからお前は…――――。

 

 そして、そのせいで戦兎に罪をかぶせることも無かったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称side

 

 夜が明けた。早朝の花月荘には人の気配がない。未だ生徒たちは不安の中で夢に微睡む。しかし、夢中に旅立てなかった者がここには二人。

 門の前で。二人の織斑が死んだ従弟の形見を弄っていた。

 

「一夏、コレを……」

「これって……、白式だよな……?」

「あぁ、何でも最上カイザが言うには……男性IS操縦者がファウストによって事故死した、故にデータ収集は織斑一夏に継続させろ……という事らしい」

 

 そう言ってコツコツと足音をたてて付近の道路沿いの道を歩く。それ以外に彼らの紡ぎ出す音は無い。会話も無く、沈んだ様子でただ歩く。

 二人とも片手に花を持っていた。最期まで彼の心中を察することはできなかったが、どれほどのことをしていたとしても、彼は二人だけの家族の中にいた従兄弟であった。

 節無が死んだ。それは、大なり小なり二人の心に影を落とす。彼に花を手向けようと、怪人が散華した場所にやって来た。

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい…」

「……!」

 

 見れば、そこには先客がいた。土下座するように蹲るフードを被った女。彼女は嘔吐きながら、ただ弱々しく嗚咽を漏らす。

 

「戦兎さん…そんなにぼろぼろで……っ、!?」

 

 彼女の目はガラス玉の様に空虚で、正気ではない。道には紫色のヒヤシンスが備えられていた。

 

「……織斑先生、オレはとんでもない過ちを犯した……」

「…」

「…――――ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ⁉」

 

 そう言うや否や、パニックを起こしてしまう戦兎。髪を振り乱して千冬の胸に顔を埋め、甘えるようにしがみつく。助けを求め、彼女に訴える。

 

「殴ってよ!オレを…誰かいっそ…、オレは、…!許されないことをした!償えない過ちをまた重ねたっ‼人を…――――ひとを、おれは、ころした…ころしちゃったんだよぉ!おれを、しぬまで、なぐってい…くれて、ぃからっ、ぁ、ぁ、あぁぁぁぁぁぁぁんッッッ‼」

「……」

 

 千冬は思った。自分は今まで彼女のことをどこかしらで篠ノ之束だと思っていたのだと。だが……目の前にいる彼女は、紛れもない『因幡野戦兎』であるのだと。

 

「…お前は悪くない」

「……――――ぇ、ぁ…?」

 

 誰にとっても、本当に予想外の言葉が出た。

 

「私はISが人を傷つけるのも、助けるのも両方見てきた…それが科学だ。だから私はISが危険を孕むことを学園で子供らに教えてきた。完璧な科学なんてない、使い方を間違えれば事故など幾らでも起きる」

 

 口から零れたのは、ずっと彼女が抱え続けていた、世界最強という名の重荷だった。

 

「節無も、力の使い方を間違ったから死んだ…それだけだ…――――」

 

 感情が込もらない言葉が、静かに朝焼けに流れていく。ふっ、と戦兎の身体から力が抜けた。脚は重力に屈し、大地に縫われる。震える腕は、織斑千冬のレディーススーツにしがみつくのでやっとだった。

 

「でもっ…でもぉぉ…!」

「……確かにお前は私の家族を殺した。節無の心は前々から救えなかったのかもしれないが、それでもあいつが家族だったことに変わりはない」

 

 千冬は戦兎の肩に手を置くと、震える声で拳を握り締める……。

 

「だが、殴ったら……、今何かが変わるのか……?」

 

 彼女はそのまま戦兎の横を通り過ぎ、戦兎が手向けたヒヤシンスの隣にマリーゴールドを備える。同じく一夏はムスカリを放り投げた。

 

「お前だけのせいではない……。節無の死は、私の責任でもある…」

 

 そして、戦兎の前に跪くと…――――千冬は彼女をそっと抱きしめた。

 

「ごめんな……『戦兎』……」

「…――――ッッッ」

 

 “そうじゃない”、と。自分が求めていたのはそんな優しい言葉じゃないと、戦兎は首を赤子の様に横に振る。どうして優しくするんだと言いたいが、苦しみで声も出ない。天災の引き金を引いた彼女は、涙ながらに罰を求める。

 

「だからな、戦兎。気が済まないのなら、『生きろ』……」

「…――――ひ、どい…よ、死ねなく、なるじゃん…‼」

「なら、それが私からの罰だ…――――。絶対に、死ぬことは許さない」

 

 

――――今度は絶対に、逃げるな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で……こちらは旅館。

 

「グリス……、お願いがあります……」

「ん?どうしたんだくーたん?」

 

 真剣な表情でシャルルを尋ねてきたクロエ。彼女も戦兎の様子が気になり、一夏にそれとなく探りを入れれば、精神的苦痛に苛まれていることを知ったのだ。シャルルたちは尋常ならざる表情のクロエのことが気になり、話だけでも聞いてみる。

 

「戦兎を……手助けしてもらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、様々な人間の思いが交差し、宇佐美が予告した時間になった……。

 

【フェニックス!ロボット!ベストマッチ!】

 

「……――――変身」

 

【不死身の兵器!フェニックスロボ!イェーイ!】

 

 フェニックスロボフォームに変身したビルドは、体を炎で包み、海上へと飛び去って行った。炎が夕暮れを駆けていく。死に場所を探すベヌウのように。

 

「戦兎さん……」

 

 今の自分に、何もできることはない……そう思って、彼は縁側で空を見ていた。夕暮れがは血の様に鮮やかな空模様。その中を輝く一筋の光。それが戦兎だと分かってもなお、彼女を戦場に送り出さざるを得ない罪悪感は彼の脚をその場に留めていた。

 

「おい、何て顔してんだ、コラ」

 

 沈んだ顔で空を見ていた一夏に声がかかる。ダウナーな口調に振り返ってみれば、そこにはシャルル・デュノアが立っていた。

 

「辛気臭ぇし水クセェな……いつものお前の調子はどうしたよ。お前さ、守るべきもののために皆守る~、とか甘いこと言ってたよな。それ、破んのか?」

 

 毒を吐きながら隣に座り込み、彼は一夏へと手を伸ばす。

 

「一夏、取り敢えずドライバー寄越せ。ソレ俺んだろ……、お前のはこっち」

 

 どこから取り出したのだろうか、スクラッシュドライバーが一夏の手元に置かれていた。だが、そのドライバーが妙に重たい。一夏にはそう感じざるを得ない。

 

「シャルル、何も出来なかった弱い俺に……何を期待してるんだ?」

 

 その言葉に彼の周囲を飛んでいたクローズドラゴンまでが蒼炎を吐きだす。まるで、そうじゃねぇだろとでも言っているようだった。

 

「あいつを、節無を死なせちまった…。戦兎さんも、そのせいで傷付いた…――――」

 

 一夏の懺悔に、やれやれと首を振るシャルル。そして、急に顔を引き締め、その言葉を投げかける。

 

「前にも似たようなこと言ったはずだ。お前らのやってることは理想論で、この世界で無意味に近いことだってな。戦うことは誰かを絶対に傷つける。『敵も味方も死なせない?』そんなもんただの戯言だ。俺は傭兵として目の前で何千人もの命が奪われるのを見てきた。それが戦争だ」

 

 彼は慰めなどしない。ただ淡々と、真実のみを告げていく。

 

「戦争は正義と正義のぶつかり合い。自分たちの正当性を謳い上げ相手を悪だと断じて顧みない、んな馬鹿げた諍いだ。そこに戯言を振り撒く奴らがいても、精々助けられるのは微々たるもんだ」

「じゃあどうしろって言うんだよ‼」

 

 無駄だとばかりに言い捨てられた一夏。目の前で人が死んだことと相まって、彼はシャルルに慟哭する。

 

「あぁ、助けられなかった、助けにもならなかった!俺の暴走で戦兎さんに咎を与えちまった!俺は甘かった、分かってなかったんだよ!もっと俺が強かったら…!」

「お前はそれすら分かってねぇ‼」

「ッ!」

 

 急に、一夏の頬に拳が突き刺さった。その刹那、彼を襲うのは浮遊感。気付けば一夏は庭へと転がり落ちていた。

 

「強ぇだけのヒーローに意味なんてねぇ。そりゃただの兵器だろ。お前等はそれでも……平和の為に戦ってるんじゃねぇのかよ、ぁあ?」

 

 一夏の制服を乱暴にひっつかみ、触れるかどうかの近さで顔を突き合わせるシャルル。そのアメジストの瞳は爛々と激情に燃え滾っていた。

 

「俺、前にこうも言ったよな?お前は甘い、けど嫌いじゃねぇってな。それがもし弱さだとしても、俺はお前を弱い人間だとは思わねぇ。今のお前はどうなんだ?」

 

 

 夕暮れに、烏が啼いた。かあかあと、天を羽搏いて帰りを待つ。

 

 

 

「…――――先に行く」

 

 

 シャルルは背を向けて、ドライバーを掲げて立ち去った。

 

「……あぁそうだ」

 

 龍は目覚める。海の底よりも深い微睡みから。ゆっくりと立ち上がると、未だ黒く薄汚れたガントレットをちらりと眺めた。

 

「俺ってバカだったからなぁ…。うだうだ考えていても仕方がねぇか…――――」

 

 戦うことは、誰かを傷つけること。誰かの恨みや怨嗟を引き受けること。

 

「それでも誰かが泣かずに済むんなら…、他人のために戦う理由になるじゃねぇか。誰かを戦わせない理由になるんじゃねぇか」

「いいや、それで誰かが泣く。箒や…お前を慕うものがきっと悲しむ」

「っ…?」

 

 剣吞な声が、一夏の思考を断ち斬った。

 彼に待ったをかける人物がいた。旅館の前に仁王立ちしていた黒い人影が、苦渋の表情で行く手を塞ぐ。すらりと抜いたブレードには、真っ赤な夕日が照っている。

 

「……。お前を行かせるわけにはいかない」

 

 身体中に金属製のアーマーをまとった女傑が立つ。絞り出すような、罪悪感に塗れた声だった。それは、戦兎を戦場へ追いやってしまったことか、はたまた自分が戦うことができないことへの苦しみか。

 

「千冬姉……」

「すまん……。だが私はもう、誰にもいなくなってほしくない」

 

 それは、今まで『普通の姉』として接してこれなかった女の、心の叫びにも思えた。

 

「ならどうして、戦兎さんを行かせた?」

「…戦えるのは、今は奴しかいない…」

「いいや、俺たちもいる…!今の戦兎さんじゃ…!」

「まだお前は子どもだ!」

「ふざけんな!千冬姉、戦兎に言ったじゃねぇか!節無が死んだ責任は自分にもあるって!そこは“私たちにも”、だろうが!自分だけしょい込みやがって‼」

「当然だ!私はお前たちを育ててきた!それなのにあいつの心が分からないことに、あいつが死んでようやく気付いた!私は大人失格だ!私は、家族であるお前を守れるほど強くなかった!」

「違う!俺は千冬姉に学んだ!千冬姉は強かった!孤独に耐えて、誰かに頼ることもできた!誰よりも強く在ろうとして、強くなった人だ!だから今度は!俺が千冬姉も、箒も、仲間も…――――戦兎さんも守る‼誰も悲しませない‼」

「…――――、そんな、無茶な苦しみを…ッ!」

「それを苦痛と思うか幸福と思うかは、俺が決める!」

 

 もう彼女の言葉は、子どもだった弟には届かない。いいや、全て届いていたのだろう。だからこそ『子どもではいられなくなった』彼は、未来を見据えて前へ進もうとしているのだ。

 

「…」

「…――――。ごめんな千冬姉、でもこれだけは千冬姉にも口は出させねぇ」

 

 

 

 

 姉弟の口論が、止まった…――――その時である。

 

「はいはい、你好。取り込み中のところ申し訳なく。宜しいですか、織斑姉弟様方?」

「状況確認。戦闘開始準備。あぁしかし…Ich habe Hunger(お腹すいた)

 

 聞きなれた声、しかし聴いたことも無い口調で言葉を投げかける二人組。思わず振り返り、その声の主を見る一夏。

 

「お前等は……⁉ボーデヴィッヒに鈴……、なのか?」

「何で疑問形なのよ……あぁ、胸の事?それともちんちくりんじゃない所?」

 

 彼女らは確かにラウラ・ボーデヴィッヒと凰鈴音によく似ていたが……。凰鈴音の方が問題だった。彼女、スタイルが良くて巨乳なのである。

 

「アタシは緋龍(フェイロン)。んでこっちが……」

「自己紹介をしろとの命令は受諾していない。お前がしろ」

「……こいつは赤い雨(ロータア・レーゲン)

「この場がブラッド・ストラトスの力をIS学園へ知らしめるのに最適だと判断した。これより殲滅する」

「ブラッド・ストラトス?……、まさか!」

「そうよ……、前に血の雫(ブラッド・ティアーズ)先輩が世話になったわね」

 

 その瞬間、二人はISを展開した形態に似た、本来の姿に戻る。そのメインカラーはどちらもに生臭そうな赤黒い色だった。

 

「さぁ、覚悟はいいかしら?」

「舐めるな、こっちも半端な覚悟じゃねぇんだよ…」

 

 銀の輝きを放つ少年は静かに吼える。それに満足げに頷くと、緋龍(フェイロン)は方天画戟に似た武装を虚空から取り出した。戦いが始まる。だが…――――彼らの他にも戦士は要る。

 

 

 

「祭りが始まる……合戦だ。行くぞお前等」

「「「アイアイサー!」」」

 

【ロボットイングリス!ブラァァ!】

【キャッスル!】

【クワガタ!】

【フクロウ!】

 

 上空から降ってくる四色の光弾。グリスに変身したシャルルとハードスマッシュになった三羽烏が、砂浜へと着地する。

 

「目標を捕捉。グリス、及びハードスマッシュ」

「さぁて、行くわよロータア?」

 

 

 千冬は迷う。死の危険の比ではないこの場に、愛おしい家族がいることに。だが、それでも…――――。

 

「…――――変身」

 

【ドラゴンインクローズチャージ!ブラァァ!】

 

 クローズチャージに変身した一夏と、強化スーツを装備した千冬が横一列に並び立つ。

 

「なぁ一夏…。本当に、その選択に後悔はないか?」

「…さぁ、それは分からねぇ。だけどさぁ…今しなけりゃならないことって、未来での不安を嘆くことじゃねぇだろ」

「…戦い続けた先に、見返りどころか勝利すらないかもしれない」

「守ることを諦めるより、ずっといい」

「要らぬ謗りを受けるかもしれない、全ての人間がお前を疎むかもしれない」

「俺はそうなったとしても、人間を守りたいと願うはずだ」

 

 もう、運命は決まっていた。彼の信念は空の如く青々と燃え盛る。

 

「…――――そうか」

「…?」

「一夏、大きくなったな…――――」

「…――――まだまだだよ、千冬姉」

 

 もはや夜だというのに、妙に明るいそんな刻限。クローズチャージの持つビートクローザーと、織斑千冬の持つブレードが同じ輝きを放っている。血染めの空が引き連れる闇の訪れさえ、鋭くも優しい光を宿した刃が切り裂くだろう。

 

 

 

「…――――、これよりIS学園は、前方の正体不明機二機を敵対存在として扱い、交戦を開始する!総員、構え‼」

「フゥゥゥ…――――心の火、心火だ。心火を燃やして……、ぶっ潰す!」

「行くぞ、今の俺は…――――、負ける気がしねぇ」

 

 彼らはBSと戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 一方、海上ではインフィニット・スマッシュになった銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)とビルドが空中戦を繰り広げていた。

 

【トラ!UFO!ベストマッチ!】

 

「ビルドアップ!」

 

【未確認ジャングルハンター!トラUFO!イェーイ!】

 

 空中に桃色のUFOを呼び寄せ、それに乗って福音の周囲を奇妙な軌道を描き混乱させる。

 

『Aaaaaa⁉』

 

 キャトルレーションの様にインフィニット・スマッシュを光線で引き揚げ、自由自在に岩肌に叩きつけるビルド。そしてさらに……。

 

【クジラ!ジェット!ベストマッチ!】

 

「ビルドアップ」

 

【天翔けるビッグウェーブ!クジラジェット!イェーイ!】

 

 青と水色、二色になったビルドは海面に潜る。そして突然海中から小型のミサイル爆撃機が飛び出し、福音を追いかける。福音はISの機動力を生かしビット攻撃を避ける要領で宙を舞う。

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

 だが、クジラの潮吹きの様に噴水が上がり、そこから背面の翼で福音に高速で追いつくビルド。

 

「ハァァ!」

 

 彼女はそのまま青いエネルギーをまとった蹴りを、インフィニット・スマッシュに叩き込む。

 

『Aaaaaaaaaaa⁉』

 

【キリン!扇風機!ベストマッチ!】

 

「ビルドアップ」

 

【嵐を呼ぶ巨塔!キリンサイクロン!イェーイ!】

 

 さらに上空から自然落下しながらフォームチェンジすると、自身の身体に竜巻を発生させ、宙を舞った。

 

【ボルテックフィニッシュ!イェーイ!】

 

 福音にキリンの首によるノッキングが炸裂する。

 

『■■■■■■■■■■■■‼』

 

 多彩な攻撃でインフィニット・スマッシュと互角の戦いをするビルド。しかし、彼女が福音の本気を知ることになるのは、まだまだ先になる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の旅館からほど近い海岸にて……――――戦いは佳境を迎えていた。世界最強と黄金の仮面ライダー、そして三色のスマッシュがブラッド・ストラトス相手に奮戦している。

 強化スーツをまとった千冬と交戦していたブラッド・ストラトスらは、ようやくその場からいなくなった人間に気が付いた。

 

「……ッ、⁉織斑一夏の発見、不可能!」

「何処へ…ッ!」

「……ッ!行ったのか……ッ!」

 

 グリスは一夏が向かった方向へ視線を巡らす。

 

「…――――ハッ、想定外とは言え笨蛋(バカ)なことをしたものね。今更ビルドの援軍に言ったところでインフィニット・スマッシュの群れに蹂躙されるだけよ」

「あぁ、そう言えば七十五機のインフィニット・スマッシュが追加襲撃されるのだったな……」

「「「⁉」」」

 

 その場にいた人物たちは、その事態の深刻さに目を剝いた。

 

「カシラァ!ココは任せてください!私たちと織斑さんがいれば何とかなりますッ!」

「……ッたよ、負けたとか言ったら承知しねーからな!」

「行かせるものですか……ッ、⁉」

 

 緋龍(フェイロン)が方天画戟を構え突っ込むも、そこにジャイロボールのような黄色の光弾と赤いミサイル弾が炸裂する。

 

「ッ⁉」

「『行かせるものですか』、ですか……」

「こっちのセリフだ、ウチらを無視とは不愉快だぜ」

「アッハッハ、笑えないね……ッ!」

 

 そこに立ち塞がった三体のハードスマッシュたち。個々の力はBS以下であるものの、絆によって結ばれたチームワークに緋龍(フェイロン)が押されていたのも確かだった……。

 

「頼んだぞ、お前等ぁ!」

 

【ディスチャージボトル!潰れな~い!ディスチャージクラッシュ!】

 

 それを見て、グリスはフルボトルを用いて戦線を離脱した。

 

「っちぃぃ……!赤い雨(ロータア・レーゲン)!」

「貴女の命令は優先事項ではない」

「あぁもう!察しなさいよ笨蛋(バカ)‼」

「馬鹿?命令に従わないことの方が愚かな行為である」

「いいからグリスを追いかけなさい‼」

「……、不精不精ながら受諾、優先事項を変更、…――――?」

 

 突然ブラッド・ストラトスたちは身を翻し、上空から放たれた紫色のビームを躱す。

 

「……⁉馬鹿な……アレはまるで……黒い『白騎士』……⁉」

 

 それに驚いたのは世界最強だった。彼女にとっては馴染み深い機体が漆黒と紫のツートンカラーとなって浮遊していたのだから……。

 

「……その機体、『黒騎士』か」

「……『M』、裏切るの?」

「……」

 

 不機嫌そうに『黒騎士』と呼ばれた彼女を睨みつける緋龍(フェイロン)

 

「え、何?どーなってんだコレ?」

「さ、さぁ……?」

 

 混乱の淵に立たされるハードスマッシュたち。だがそんなことを気にも留めず、『黒騎士』は有無を言わさずにブラッド・ストラトスたちに攻撃を開始した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!】

 

 一方のビルドは海の遥か上空で強化フォームに変身、ドリルクラッシャーとホークガトリンガーを用いて福音のエネルギー弾を相殺する。

 

「うぅ……ッ!キリがない……!」

 

 しかし、ことごとく弾丸は逸れていく。辛うじてホークガトリンガーから発射された追尾弾丸がSEを削っているのみだ。

 

【Ready go!】

 

 ブレードモードのドリルクラッシャーにカブトムシフルボトルをセットし、ベルトのレバーを回転させるビルド。

 

【ボルテックブレイク!】

【スパークリングフィニッシュ!】

 

 赤青白の泡が発生し、ドリルクラッシャーにトリコロールのエネルギーが充填され、接近してきた福音に向けて落下の速度を加算しブレードを振るう。

 

『■■■■■■■■■■■■⁉』

 

 するとカブトムシの角のエネルギーが福音を彼方まで吹き飛ばした。海上から吹き飛ばされ、岩肌に激突するインフィニット・スマッシュ。

 

「ハァ……ッ、ハァ……」

 

 戦兎は息も絶え絶えに地面に着地するも、そうは問屋が卸さない。急激にインフィニット・スマッシュの身体が発光しだす……。

 

「……ッ⁉セカンド・シフト……⁉」

 

 天使のようだったインフィニット・スマッシュは、おぞましい形の羽になり、頭部には天使の輪のようなエネルギー体が発生していた。身体は縦に伸び、極めつけには冠のような六本のクロスホーンが頭に展開された。尻尾を振って胡乱気な複眼をビルドに向ける銀の福音……いいや、最早『銀の黙示録』だろうか?

 

 

 

 

『宇佐美め、随分と趣味が悪いな……。意図してやった訳じゃなかろうがお前()御使い(ロード)が堕ち、(アギト)となるか……』

 

 それを遠くから見ていたスタークは淡々と呟くとビルドを見た。

 

「……ぃゃ…、なのに…、やるしか……ないの……?」

 

 彼女は苦渋の声で禁断のアイテムを取り出していた。その指が震え、吐き気を催す。また、頭の中が真っ白になるようなおぞましい感覚に襲われた。

 

 ……――――だが、ここで福音を逃してしまったら、ISを停止させられた世界に死が振り撒かれる。背中にある生徒たちの命も、一瞬で塵芥となってしまう。

 

『……そうだ、それに勝つには、ハザードトリガーを出すしか無いよなぁ……』

 

 スタークは高台から海に向かって無感情にそう吐き捨てると、ゆっくりと松林の中へ姿を消すのだった……。

 

 

 

 

「…――――ぁ、ぁぁぁ、あ゛あ゛あ゛あああああああっっっ‼」

 

【ハザードオン!】

 

 ベルトにトリガーをセットすると、空中戦に特化したフルボトルをドライバーに挿す。

 

【タカ!ガトリング!スーパーベストマッチ!ガタガタゴットンズッタンズタン!】

 

「ビルドアップッッッ‼」

 

【アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!ヤベーイ!】

 

 ホークガトリングハザードフォームに変身したビルドは、背後から『ソレスタルウィングHZ』を展開し、インフィニット・スマッシュと同格のスピードで空中戦を開始した……。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人称(花月荘)side

 

 一方、花月荘の一室では、専用機持ち達が衛星を介した映像でビルドとインフィニット・スマッシュの戦いを見守っていた。

 

「箒……因幡野先生から何預かったの?」

「……ッ」

 

 鈴は箒が手に持っていた銀色のスイッチのようなモノを見て聞いた。箒は先程手渡された装置を振るえる手で握りしめている。

 

 

 

 

 

『箒ちゃん……』

『……?因幡野先生……、ッ?』

 

 先程、自嘲気味な顔で箒の部屋に顔を見せる戦兎。囁くような声だった。戸惑う箒に銀色のボトルのようなスイッチを渡してきた。

 

『これは……?』

『ハザードフォームの停止装置だよ……、強制的に出力を最大にしてオレごとトリガーを破壊することができる……』

『ッ⁉』

 

 つまり、因幡野戦兎は篠ノ之箒に自分の命運を委ねた。未だ、自死の欲求に苛まれている因幡野戦兎。その目は何も見ていない。空洞や虚無という他にない。

 

『もしもの時は、君がオレを止めてくれ……』

『……ぃ、嫌ですよ…?何故貴女は死にたがってるんですか……?』

『いいかい箒ちゃん……ネビュラガスが入っている時点でオレは人間じゃないんだってさ。だから君は人を殺したことにはならない……』

『そういう事じゃない!自分を卑下しないでください!貴女は自意識過剰でバカでどーしようもない人間なんだ!』

『じゃあそのネビュラガスが入った人間を壊したオレはどうなるんだよっっ!!?』

『…ッ』

 

 だが、彼女の言葉は届かなかった。今すぐにでも死にたいと願う彼女を引きとどめているのは、千冬からの『生きろ』という呪い(願い)のみ。非常に不安定な心が、他人に自分の命を預ける選択を助長した。

 

『あ、ぁぁぁぁぁ、あ、あぁ…。あ、ごめんね……君しかいないんだ、箒ちゃん……。それに、万が一死ぬのなら……箒ちゃんの手にかかって死にたいなぁ……、そんなんで以前の篠ノ之束(オレ)がしでかしたことを償えた、何て思わないけど』

『……ッ!』

 

 その目は、ただただ虚ろで、自分の命さえ顧みない危険な光を孕んでいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦兎さん……、貴女は……」

 

――――そこまで自分を捨てるのですか……?

 

 箒達が見る映像の中では見事な空中戦が繰り広げられる。左目『レフトアイホークHZ』によって数キロ先からの攻撃を易々と避け、ホークガトリンガーで巨大なエネルギー弾を相殺、さらには連続攻撃を続けるビルド。

 

『よし……。このまま……ッ!』

 

 シックスガンマズルから放たれた銃弾『バレットイレイザー』が銀の黙示録の装甲を爆発と共に分解する。

 

【……エイティ、ナインティ、ワンハンドレッド!フルバレット!】

 

 だが、丁度、その時だった……。

 

『……ガァッ⁉』

 

 突如、頭に鋭い痛みが走った。ハザードトリガーの『フォースライドメーター』がふり切れている……。

 

『マズい……ッハザードの……ッげんか、い……!ゃ、だ……ぅ、ぁ…!』

 

 

 

 

 その途端、戦兎の意識は真っ暗な闇に落ちていく。無限の暗闇の中、際限ない破壊の災禍の、その深淵へ…――――。

 

 

 

 

『Aa?』

『…………………………』

 

 疑問の声のようなモノを上げるインフィニット・スマッシュ。だがその時、天災が再び巻き起こる。

 

【マックスハザードオン!】

 

 『BLDハザードスイッチ』を押し、レバーを回転させる漆黒のビルド。

 

【ガタガタゴットンズッタンズタン!Ready go!】

 

 今までの比ではない高速度で飛翔し、黒いオーラをまといながら銀の黙示録の周囲を旋回しだす。

 

【オーバーフロー!】

【ボルテックブレイク!】

【ヤベーイ!】

 

 ハザード状態になったビルドの、ホークガトリンガーの強化攻撃がインフィニット・スマッシュに飛来した。その攻撃は今までの追尾弾の比ではなく、黒紫色の百羽のタカが龍の身を喰いちぎるように四方八方から殺到する。

 

『■■■■⁉■■■■■■■■■■■■ッッッ⁉』

 

 あまりの攻撃に狂ったように叫び声を上げ地面へと墜落する銀の黙示録……。だが、それだけでは終わらない。

 

【Ready go!】

 

 静かに着地したビルドはさらに追撃を加える。電子音が流れると、ホークガトリンガーを構え、黒いエネルギーで拘束する。

 

『……………………』

 

 彼女は何のためらいもなく、無慈悲に引き金を引いた。

 

【ハザードフィニッシュ!】

 

 

 

 正しく終焉の災害。形を持った暴走が、日が翳る砂浜を殲滅する。

 

 

 

『■■■■ッ‼AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ⁉』

 

 墜ちた福音は、悪魔の前で断末魔の狂声を叫ぶ。その戦闘能力に、IS学園の専用機持ちは恐れを隠せない。

 

『……AAA………………Aaaaaaa……』

 

 弾幕と共にその場に崩れ落ちる福音。身体から黒い結晶体が零れ落ちると、それは霧に包まれ消え去った。

 

「………――――終わり、ましたか……?」

「ッ、いいえ山田先生っ、まだですッ!」

 

 それに気が付いた鈴が声を張り上げる。

 

 浜辺にはIS操縦者が転がり落ちていた。ハザードフォームのビルドは殺戮機構の様に規則正しい歩幅で夜の砂浜を歩く。

 

「……ぇ……」

 

 箒は青い顔でその映像を見つめていた。

 ぐったりと気絶した状態の彼女を首根っこを掴み、持ち上げる。そして右手に黒紫のエネルギーが溜まっていく。

 天災(ハザード)は、終わらない。

 

「駄目……――――ッ」

 

 彼女の頭の中に自爆装置を押すという考えはなかった。ただ、『因幡野先生』にいつものように戻ってきて欲しい。彼女の願いはそれだけだった。

 だが、その思いも声も空しく、映像の中のビルドは肘を引き絞り、拳を振るう。

 

「駄目ぇぇぇぇぇッ‼戦兎ォォォォォッッッ‼」

 

 

 

 

 拳が、銀の装甲を捕えた。

 

「……………………ッ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「よぉ、調子良さそうじゃねぇか……、戦兎さんよ!」

 

 まさに、危機一髪。

 

 

 金髪のIS操縦者と漆黒のビルドの間には、蒼炎纏う白銀のライダーが立っていた。

 

「……ッ、目ェ覚ませ‼馬鹿野郎ォォォォォッッッ‼」

「…――――」

 

 だが、天災は彼の言葉に答えない。淡々と新たな破壊対象を破壊せんと行動を開始する。

 

「オラァァ!」

 

 クローズチャージは何とか無理矢理体を動かし、攻撃をいなす。そして彼女の変身を解除させようとするもビルドハザードフォームは留まるところを知らない。次々と攻撃を放ってくる。

 

「……………………」

「ウグッ……、やっぱ強ぇ…………、っ⁉あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ⁉」

 

 さらに、急激に身体中に痺れが生まれる。

 

「(クッソ、またかよ……?やっぱダメか……?ダメなのか……⁉)」

 

 一夏は思う。力が簡単に手に入ることはないということは知っている。だが…――――。

 

「…………そんなわけには……いかねぇ……ッ!戦兎さんが思いつめちまったのは、俺のせいでもあるんだ……!」

 

 そんな理由だけで諦めて良い訳がない。

 

「俺しか……!俺しかいねぇ……!」

 

 弱さは弱さだが、無力ということでは決してない。

 

「今ここにいる仮面ライダーは……!」

 

 自分に今、少しでも力があるのなら…――――。

 

「今……戦兎さんを助けられるのは……、俺しかいねぇだろォォォォォッッッ‼」

 

 彼は、暴走する身体を何とか根性で止め、震える右手を左手で押さえこんだ。そしてその両の拳を、…――――そのまま胸へと叩きつける。

 

「うォォォォォッッッ‼」

 

 裂帛の声が、闇夜に漏れた。

 

「俺の身体ぁ、いい加減にしやがれェェェェェェェッッッッ‼」

 

―ドォォンッッ‼―

 

 

 

「ぅう……………………、ッ‼」

 

 すると彼の身体の中から、余計なモノが蒼い炎となって吹き飛んだ。純白の身体に、力が宿る。雪のような羅刹が、その真価を蒼穹へと捧ぐ。

 

「……ッ、……!」

 

 重かった身体に、力が宿る。

 

「行ける……っ、自分の意志で動かせる……!」

 

【CROSS-Z DRAGON!】

 

 彼の復活を待っていたのだろうか。仕方がないとでも言うかのように、ツインブレイカーに自ら収まるクローズドラゴン。

 

【Ready go!】

 

 そして彼は、ドライバーのレンチを下げた。

 

【スクラップブレイク!】

 

「オォッ、ラァァァァァァァァァッ‼」

 

【レッツブレイク!】

 

 背後に出現した青い龍が火炎を吹き、天災と化した戦兎を吹き飛ばす。しかし、その白い炎は黒い瘴気に相殺され、掻き消された。

 

「……………………」

 

 オレンジと銀の瞳を光らせ、ビルドはゆらりと立ち上がる。昨日と同じ様に、一夏に向かって駆けてくる。全てを殲滅するために。

 そして…――――次の瞬間、勝負が決する。

 

「……………………」

「目ェ覚ませェェェェェェェ‼戦兎ォォォォォッッッ‼」

 

 彼らは拳を固め、駆け出した。暗黒の拳と、白銀の拳。相対的な輝きを纏うその一撃が、互いの胸に突き刺さり…――――。

 

 

 

 

――――轟く閃光。爆発し、そして瞬く間に縮退する空間の気体。絶望が今、終わる。

 

 

 

 

 吹き飛ぶビルドとクローズチャージ。砂浜を転げて倒れると、二人は同時に変身が解除された。

 

「う……、ううん……?」

 

 天災の姿(ハザードフォーム)から戻った戦兎が、微睡んだ眼を漸く開く。死にたがりの兎の心中に降り注ぐ雨へ、青空の様に優しい傘が差しだされた。

 

「……お前が……止めてくれたのか……?」

「いや、……みんなのお陰だ」

 

 織斑一夏はそう言って、海辺を指さす。朝日が昇ろうとしている海岸に爆発音がまだ響いている。赤い鉄壁の荒くれ女が、青い双角の女性が、大空羽ばたく黄翼の少女が、世界最強の姉と戦友が……。

 

「俺じゃない……俺達が止めたんだよ……」

「……。……そうか……」

 

 彼の言葉に、天災となり果てようとした幼子は、罪過に震え静かに目を伏せた…。

 

「みんな、か……。ごめんよ……オレ、頭良い、ハズなのに……」

「あぁ、俺達がいる。だから…――――無理しなくていいんだぜ」

 

 どろりとした目に、潤いが戻る。その輝きは瞼から漏れ出す。

 

「あ、あぁぁ…――――あぁあああああああ…――――――――」

 

 

 ようやく彼女は、一時ではあるものの、罪過と焦燥、そして破滅願望から解き放たれた…――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っあー!しんどいなぁ……!」

 

 海岸に寝そべっているシャルル。その周囲にはインフィニット・スマッシュの武装の残骸が散乱していた。その数、約八十機分……、つまりシャルルは世界から奪われたISの三分の一を相手にして勝ち残ったのである

 

「まぁいーや……。これ、貰えたしな……」

 

 そう言って懐から何枚もの紙を取り出したシャルル。そこには……。

 

【くーたん握手券】【くーたん肩叩き券】【くーたん耳掻き券】【くーたん写真撮影券】……。

 

「ディヒヒッ……いぃやっほぉぉうッッッ‼」

 

 やっぱり推しのアイドルの為に命をかけられるシャルルンだったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏side

 

 戦兎さんは憑き物が落ちた様な顔で俺の背中で眠っている……。いや、俺も変身解除後で疲れてんだけど、まぁ、うん。ぶっちゃけ胸当たってるから理性を抑え(ry……っほん!箒に知られたら拗ねられるな、止めとこ。

 

 

 そして、花月荘に戻ってきたら、くたくたになった三羽烏といつも通りの千冬姉が俺達を待っていた。如何やらブラッド・ストラトスとやらの撃退は出来たってことか……。

 

「織斑、お前は重大な違反を犯した……」

「はい」

 

 その割には咎める口調がない千冬姉の声。

 

「帰ったらすぐ反省文の提出だ……。IS操縦者だった場合は懲罰用のトレーニングをさせる所なのだが……まぁ、『仮面ライダー』ということで保留にしておこう」

 

 ……本当に意外だな?結構千冬姉に反抗して口論になっちまったのに。

 

「……ここまでがIS学園教師としての『私』の言葉だ……」

「え……、ッ⁉」

 

 

 突然、俺の目の前が塞がれ、柔らかい暖かさで包まれる。少ししてから、千冬姉が俺達を抱きしめていたのが分かった……。

 どうやら、戦兎さんも目が覚めていたらしい。声にならない声で、瞼に涙をにじませている。

 

「良かった……無事に戻ってきてくれて……一夏、戦兎……」

「千冬、姉……」

「千冬、センセ……」

 

 うっすらと涙が流れた後がある顔で、千冬姉は俺達を抱きしめる。俺には『姉』として、そして戦兎さんには、友として。

 

「……戦兎、すまない。本当にすまない…っ!」

「どう、して…織斑先生が、泣くの…?」

「私はお前だけを、戦いへと追いやってしまった…判断を、間違えていた。もう失いたくないと言っておきながら…お前だけを…――――」

 

 今度は、逆だった。千冬姉が、震えながら彼女に罪を独白する。

 

「そんなことはない…オレだって、万が一の場合は箒ちゃんに命を預けていた…おあいこだ…」

「だが…私は…」

 

 本当に、危うい橋を渡ったように思う。あの時俺が間に合っていなかったと思うと、ゾッとする。

 

「なら…さ、互いに自分が許せないなら、一回、絶交する…?それから、また…、新しい友達になってくれる…?」

「…は、はは…!なんだそれは、全く…」

 

 頓狂なことに、思わず笑顔を溢す千冬姉。ぎこちないながらも、互いのことを許そうと必死になっているのが分かった。千冬姉の中で、ゆっくり、ゆっくりと強張った心が戻っていく。

 

「…。お前が好きな呼び方で言って良い。……あぁ、だがちーちゃん、は止してくれ。良い思い出が、ないんだ…」

「あー……んじゃ、……チッピーってどう?」

「お前っ……、はぁ、……ハハハ」

「ふ、フフフ……」

 

 今までの事もあったのだろうか……だが、それでも新たに始めようと、千冬姉は手を伸ばす。

 

「改めてよろしく頼む、因幡野戦兎……私の『友達』になってくれるか?」

「……こんなオレで、良いのなら、よろしく…ね、…チッピーセンセ?」

「あぁ……」

「…――――オレは、罪を償うよ。贖い、続ける…――――だから、もし、それが終わったら…チッピーとも本当の『親友』に、なれるかな…」

「…あぁ、きっとなれるさ」

 

 二人とも……どちらも心に罪の意識があるのだろう。それでも……前に進もうと優しく微笑みあっていた。……不意に嬉しくて、俺はつい泣きそうになってしまった。

 

「それと、シャルル・デュノア……感謝する」

「気にすんな、俺は大した事してねーよ。……ん?」

 

 そして、旅館の中からどっと俺達の仲間が駆けだしてきた。

 

 

「一夏さん!?」

「いぃちかぁッ‼」

「戦友よ!嫁よ!」

「(_´Д`)ノ~~オツカレー」

「戦兎、織斑さん!グリス!」

 

 オルコットが、鈴が、ボーデヴィッヒが、簪が、クロエが俺達に向かって駆けてくる。クロエが真っ先に俺に飛びついてきた。いや、戦兎さん背負ってるから、それもあるか?

 

「あっ、てめぇコラ!俺がなあ、どんだけ苦労してくーたんの握手券を手に入れたと思ってんだこの野郎!」

 

 と思ったら、もみくちゃにされた所に金髪からのボディブローが。

 

「へぶっ⁉……おい、何すんだよシャルルン……⁈……あ」

「……言ったな」

「言っちゃった」

 

 ………………ま、いいか。コイツ、俺どうにも嫌いになれねぇし。

 

「あ、お前等……大丈夫か?」

 

 疲労困憊です、と言うふうな三羽烏に駆け寄るシャルル。

 

「ハイ、パープル色のISが助けてくれたんです!」

「へぇ……パープル色の……?」

「ハイ、カシラ……『M』とかいう子供でした……」 

「それに、BSたちが驚いてたね……『裏切るのか!』とか……」

 

 っかしいな?ISが『エニグマ』とやらで使えなくなったのになぜ動けたんだ……?

 

「おーいお前等ー」

「?……惣万にぃ?」

 

 その時、聞きなれた兄貴分の声に振り返った。

 

「あー、少し外出しただけだっつーのに、やっと旅館に戻ってこれた……」

「あぁ……、スマッシュが出た為交通止めとかだったものな……」

 

 そんな出来事が過ぎ去り、俺達の臨海学校は最終日を迎えたのだった。

 

 

 

 

「一夏」

「ん?何だ箒」

「……――――お疲れ様だ。頑張ったな」

「……――――あぁ」

 

 

 

 

 

三人称side

 

「さて……あと、十二本……か」

 

 花月荘の海が見える部屋、コーヒーミルをひきながら湯を手早く沸かす惣万。そのテーブルの上には、黒一色になったシマウマのフルボトルが置かれていた。

 

「それに、あの子を焚きつけた甲斐があった。全ては計画通りだ……」

 

 そう言って満足そうにコーヒーを味わう。芳醇な苦みがすっきりと喉元を通り抜けていく……。

 

「宇佐美は奴を良く思わないだろうが……、比類なきお前の野望と信念を試させてもらおうか……………………織斑マドカ」

 

 彼は視線を横にずらす。そこには、紫色のひび割れたボトルが静かに光を照らして佇んでいた……。




惣万「いやぁ、ここにきて千冬まで精神がまいっちまうとはね。でもよく頑張ったな、感動してウルッとしたよ……ま、残念なことに涙は流れねぇんだが」
宇佐美「そう言えば前話に挿絵が入ってたなァ……。スタークの持ちネタ『万丈だ』が出せたな。私の持ちネタ『ホウジョウエムゥ』はまだなのか?」
惣万「いや、お前のモデルになった人の持ちネタじゃねーよ。Tシャツには一緒にプリントされてるけどな?」

※2020/12/25
 一部修正


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第六十話 『リスタートする思い出』

弾「爺さんが言っていた……食事の時に騒ぐやつにはお玉を投げるってな」
一夏「おい弾、いきなり来て何言ってんだよ。それにここはそんなのを言うところじゃねぇぞ」
弾「そして、俺が言っている。リア充な上に水着美少女たちに囲まれてた一夏は爆散しろと。
と言うわけで、一夏よシィィィィネェェェェ!!!」
一夏「だから話を聞けよ⁉」
蘭「【1・2・3】……ライダー、キック……」
弾「うわぁぁぁぁぁぁぁ……!(ウンメイノー)」
一夏「え、おいちょっと⁉俺じゃなくてあっちが爆散したんだけど⁉」
蘭「一夏さんすいません、出番が欲しかったみたいで。乱入したバカ兄にはよく言い聞かせますので……」
一夏「お、おう……気にすんな…………」
弾「……一夏爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ爆発しろ…………」
蘭「お兄うるさい!……それでは第六十話どうぞ!」



 時間は夜。ぴちゃぴちゃと水がはねる音が海岸に響く。長髪に海水を滴らせ、岩肌に白い四肢を投げ出す一人の少女。

 

「箒……、ここにいたのか」

「ッ……、何だ、一夏か……」

 

 一瞬身体を抱きかかえるように隠すも、その相手を見てこわばった表情を解いた。

 

 今の箒は身体に包帯を巻いていないため、火傷の跡が人目に晒されてしまう。それ故人気が無くなった夜、こっそりと一人で海に来て泳いでいたのだった……。

 

「海、どうだ?」

「む、そうだな……、涼しくはあるぞ」

 

 ……だが、一人で泳いでいても、どこかつまらなかったのも事実だ。思い出は出来たが、一緒に遊んでくれる人はいない……。それは箒が他人に生身を見せない為望んだことではあるが、どうしてもジレンマに苛まれてしまう。

 

「そうか……」

 

 そう呟くと、一夏は服を脱ぎすてる。

 

「ちょ……、一夏⁉」

 

 顔を真っ赤にして慌てる箒だったが……。

 

「あん?何想像した?海パンはいてるに決まってんだろ……。大和撫子っぽいと思ったら……。意外に、なぁ?」

「~~~っっっ⁉」

 

 あうあう、と顔から煙を噴き出して何も言えなくなる。

 

「んじゃー俺も、っと!」

「っえ、待って急に……」

 

―どっぼぉぉん!―

 

「ぶはははっ、夜の海ってつーめてぇーっ!それっと」

「へぶっ、やめ……一夏ぁぁぁっ!」

 

 夜の寂しい入り江に、場違いに楽し気な笑い声が響くのだった……。二人だけの、臨海学校の優しい想い出が出来た……。

 

 

 

「で……聞こうではないか、一夏、何をしに来たんだ?」

「おお……、そうだった。ホラ箒、これ」

 

 一夏は岩陰に座り、脱いだ服のポケットから一つの小箱を取り出した。

 

「…………遅くなっちまったが……、誕生日おめでとう、箒」

 

 それは、和柄な花弁が刺繍された白いリボンと、桜のネックレスだった……。

 

「……、いいのか……?こんな高そうなものを……?」

「当たり前だろ、俺が人生を賭けて守りたいと思ったのは、後にも先にも箒だけだ……あ、結ぶぞ」

 

 そう言ってリボンでポニーテールをつくる一夏。その行動に一瞬呆気にとられるも、『箒だけ』……その言葉の意味がようやく心に届いた箒。

 

「………………ぅえ……」

 

 ―あぁ、最近一夏に泣かされてばかりだ……―

 

 箒は心のどこか冷静な部分で思っていた。

 

「え、あ、……う、うれし泣きだよな!?……ま、まさか嫌だったか!?」

「嫌なわけ……嫌なわけないだろう、馬鹿者ぉぉ……」

「いたっ、いたっ!腹は……腹は止めろよな!?」

 

 照れ隠しに一夏の脇腹を肘で小突き、口元を押さえ破顔させる……、それは火傷の跡すら感じさせない晴れやかな泣き笑いだった。

 

 

 

 

「あぁ……IS学園に来てからと言うモノ、考えさせられることが多いな……」

 

 『冷えるから』という理由で水着の上に一夏の服を羽織らせられた箒。満天の星を見ながらぽつり、と心境を吐露する。

 

「……なぁ、疑問だったんだが……なんで箒はIS学園に来たんだ?束さ……ッ、篠ノ之束が開発したISを嫌ってるんじゃないのか?」

「……、正直に言ってしまえばよく分からないな。無理やり政府関係者に進路を決められ、入学した頃は憎しみも怒りもあった……」

 

 箒はそこで言葉を切ると、……そっと頭を思い人の肩にもたれかけ、きゅっと手を絡ませる。包帯が巻かれていないにもかかわらず、箒は悲壮感の全くない、清々しい笑顔を恋人に見せる。

 

「けれど、ここで大切な人がたくさんできた……失いたくない人も」

 

 すると箒は胸の谷間に手を突っ込む。慌てて顔を逸らす一夏……だったが取り出されたものに目を向けた。

 

「……福音との戦いの前、因幡野先生は……、私にこれを託してきた」

「それが……、お前が言ってたハザードトリガーの自爆装置か」

 

 戦兎が福音討伐に出た後、一夏に装置の事を伝え、ロケットフルボトルを用いさせ戦兎を止めるよう頼んだのは箒だったのである。

 

 『まぁ、明日返すがな』、と言ってスイッチを握り隠す箒。そしてそのままぎゅっと握った手を膝の上に置き、ため息をつく。

 

「あの人は……何でもかんでも抱え込み過ぎだと思わないか?」

「あぁ……ったく、残されるこっちの方が辛いっつの……」

 

 同じく戦兎に振り回され、その都度慰めたりして来た一夏は天を仰ぐ。

 

「でも、一つだけ……信じられるものを見つけた」

 

 安心しきった笑みで胸元に手を当て、愛おし気に手の中のスイッチを握る。

 

「あの人は天災とは違うと改めて分かった……、逃げたかっただろう、辛かっただろう。それでも自分の果たすべき責任を成し遂げようと、弱いながらも目をそらさなかった。必死に、痛々しいほどに罪を償おうとしていた……」

 

 目を伏せ、静かな声で戦兎を思った……。

 

「そして……、あれだけ篠ノ之束のことが憎くてたまらなかった私は、そんな先生のことを殺したくなかった」

 

 ほっと安心した声を絞り出す……。

 

「私は……科学の未来とか、夢だとか、そういうことはよく分からないけれど……、因幡野戦兎なら信じられる」

「そっか、……俺もだよ……、戦兎さんは……危なっかしいけど、俺の……いや、俺達のヒーローだ」

 

 夜の海は、そんな二人を見守るように、静かにキラキラと上空の星々を照らしていた……。

 

 

 

「……ところで一夏、何故ここが分かった?」

「あー、それな……惣万にぃがちょっと……」

「ッ……、はぁ……あの人には敵わないな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……(´Д⊂グスン」

「こんな所でコーヒーか。惣万、戦兎……って何で戦兎は泣いてるんだ?」

「あぁ……コイツ、盗聴で耳に入ってきた内容に感動してるんだ……、お前も飲むか、千冬?」

「いただこう」

 

 夜の浜辺で三人の大人たちがレジャーシートの上でコーヒーを飲む。そこには一言の会話もなかった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 カップを弄っていた一人が唐突に口を開いた。

 

「…………なぁ千冬」

「何だ?」

 

 コーヒーのおかわりをカップに入れ、あおるように中身を胃の中に注ぎ込む惣万。そして一拍開け溜息を吐くと、こう尋ねた。

 

「……お前はこの世界は楽しいか?」

「…………以前の私ならそこそこには、と答えていただろうな。だが……」

 

 真っ黒なコーヒーの水面を見て、目を細めて肩を落とす世界最強……。

 

「腐れ縁の天災、心のどこかで理解を拒んでいたらしい従弟……。失って初めて気が付くことばかり……」

 

 目を伏せて胸ポケットに手を入れる。

 

「まざまざと私の罪が思い知らされる…………」

 

 そう言って千冬は手に持った幼い頃の節無の写真を撫でる。

 

「そうか…………」

 

 だが彼は慰めることはしない。安い同情が欲しくて言っているわけでは無いのが鮮明に分かるからだ。

 またも会話が途切れる二人。戦兎は悲し気な目で二人を見ていた……。

 

「………………」

「俺はな、千冬…………」

 

 唐突に立ち上がり、持ち運びできるコーヒーミルを片付けくるりと旅館の方向を向いて、風にかき消されかねない音量でこう呟く……。

 

――――苦しいよ……そんなお前たちを見るのが……

 

 

「おやすみ、千冬、戦兎……。良い夢をな」

「……」

「……」

 

 後には、彼に人生を創られた女と、彼と共に生きた女が残されていた……。

 

 

 

 

 

 一方こちらは花月荘の一室。

 

「ね、ねぇ……簪、ちゃん……」

「ん、本音……?どうしたの?」

「あ、あのね……おりむーがね、たっちゃんが気が付いたって……」

「「「……ッ‼」」」

 

 その言葉を聞いた簪は慌てた様子で駆けだしていた……。姉が寝ていた部屋に向かい、足音がうるさいのも関わらず乱暴に障子を開けた。

 

「お姉ちゃんっ‼」

「楯無会長!お目覚めになられましたか?」

 

 一緒に駆けてきたセシリア・オルコットや凰鈴音たちがどやどやっと部屋の中に入って来る。それに驚き、包帯の巻かれた頭を入り口に向ける楯無。隣で眠っている虚に迷惑だろうと心の中で謝るも、今の簪には、楯無の意識が戻ったこと、それだけがただ嬉しかったのだから。

 

 しかし、現実は残酷だ……。

 

「…………た……?」

「…………?」

 

 一瞬キョトンとした顔をした楯無、そして一拍開けると……。

 

 

 

「…………楯、無……?…………それが、私の……名前ですか……?」

「……………………え?」

 

 口から零れたその言葉は、とても間抜けな響きをしていた……。

 

 

 

 

「お姉、ちゃん……?うそ……だよね……?」

 

 正気に戻った簪は、よろよろと姉に近づくも、『姉』はビクリ……と身じろぎをしただけだった。

 

「夏休み……一緒に遊びに行くって……言ってくれたよね……?」

「…………、…………?」

 

 簪は、『姉』が焦ったように、必死に思い出そうとしているのが手に取るようにわかる。だが。

 

「……、……ごめん、なさい……」

 

 楯無ではなくなった彼女は申し訳なさそうに首を垂れる。

 

「…ッッ!…………、ごめん……、……――――ちょっと外に出てくる…」

「簪…………」

 

 そこには、泣きそうになっている記憶を失った“更識刀奈”と、仮面ライダー部の面々が残されていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「どういうことだ…――――、ふざけているのか!!!」

「ち、チッピーセンセ!落ち着いて…」

 

 花月荘の縁側に怒号が轟いた。千冬は般若の如き形相で目の前の女性のスーツに掴みかかる。

 

「分かりませんね。IS学園のためを思って財団Xが世界連合と合同で制定したことなのですが?」

「戦兎には殺人罪が適応されない…、その理由が『スマッシュは人間として扱われないから』だと⁉それでは、節無は…――――人間としての死すら許されないと⁉」

 

 それは、あまりに残酷で、効率性を優先した冷淡な判断。世界各国に巡った怪人に対する処分は、化け物となった人間は全人権が剥奪されるというもの。

 

 もう、織斑節無は『人間』として扱われない。それは、織斑千冬にとってタブーとも言える扱いだった。

 

 激昂する世界最強の眼力をものともしない、顔の半分がサイボーグの財団X特派員。嘲るように彼女は眉を寄せた。心底理解ができない、とでも言うように。

 

「えぇ、むしろ当然では?まともな人間はあんな怪しげな力を人体に投与するなど考えませんよ。薬物と同じです。自分に利点が全くないものを服用など…、愚か者のすることではありませんか」

「…――――、最上、カイザァ…!」

「世界各国に出現するスマッシュの被害は甚大です。四の五の言ってはいられないのですよ。現に、捕獲したスマッシュを『焼却処分』する国家もあります。一度化け物になった存在を人間が拒絶するのは今更でしょう」

 

 もはや、世界最強の声は言葉にならない。歯を食いしばるあまり、奥歯がぎしぎしと音を立てている。耳の奥に血が通い煩わしいというのに、頭の中は氷を入れられたように冴え返っている。

 

「それともなんです?記憶喪失、住居不定、戸籍も存在しない人間から罰金でも欲しかったのですか貴女は?」

「違う‼戦兎は自分では背負いきれない罪に苦しんでいる‼だから彼女のために、その苦しみを濯ぐためには…――――」

「それでも仮面ライダービルドが人殺しをした事実は変わりません。罪を犯さなかった正義の味方へ戻すことはできないんですよ」

「ッ…!」

「…――――貴女を取り巻く全ての事実は覆りません。全ては過去のこと。ならば、未来を変えてみれば如何でしょうか、因幡野戦兎」

「…――――?」

 

 最上カイザはスーツを掴んでいた手を乱暴に振り解く。戦兎に一瞬視線を向けると、ふと思い出したように世界情勢の裏側を忌々し気に吐き捨てた。

 

「財団Xが未登録のコアを調査したところ、今世界でISコアを作れるのは篠ノ之束を含めて、最低で五人です。そのうち判明しているのがファウストに所属する宇佐美幻、もう一人は亡国機業(ファントム・タスク)という秘密結社の構成員らしいですよ。なんでも、世界各国に未登録のISコアを振り撒いているのはその亡国機業という組織だとか」

「なっ…」

「それ、ホントなのか…?」

「嘘を言ってどうします。あぁ、では私はこれで。次の出資対象が待っておりますので」

 

 爆弾発言を残して、彼女は銀髪を靡かせ早歩きで消えていく。後には世界最強と罪を犯した天災が残された。

 千冬は戦兎の内心を伺うことができない。今にも壊れてしまいそうな彼女に、何と言ってあげればいいというのか…――――。

 

「戦兎、ごめん。ごめんな…」

 

 月並みな言葉しか、声に出せなかった。俯いた戦兎の顔も、恐ろしくて見ることができない。もしも、狂気に苛まれてしまっては…――――。

 

「…――――償う」

「…――――。え?」

 

 正義の味方を志した天才科学者が顔を上げた。彼女は悲し気な…――――それでいて決意と覚悟の入り交じった表情で、屋根の向こうの無限に広がる青い空を見据えていた。赤と青の瞳が、熱を帯びる。

 

「罰がないなら、オレは償う。スマッシュになった人たちも、戦争で犠牲になる人たちも、オレの力で救ってみせる…――――!」

 

 

 

 

 

 一方……。

 

「どうなっている!学園に派遣した仮面ライダーグリスは任務失敗により虜囚の身に、その上財団Xは我々への援助を打ち切るだとぉ!?」

 

 ここは日本のある料亭。そこにはこの世界の主要な戦力、ISの使い方を取り仕切るIS委員会の主なメンバーが集められていた。

 

「どうしてくれるんだ……!新たに財団から与えられたISを超えるテクノロジー(ライダーシステム)を解析できず、そのまま向こうにやることになってしまったではないか……!」

「うっさいわね、男のくせに……」

 

 ブクブク肥った老人が食べカスを飛ばしながら叫び、それを隣の嫌味っぽい中年女性が半眼視する。

 

「ではどうしろと?学園にいる世界最強に我々が送り込んだ『仮面ライダー』を返してくれ、とでも言えるのか?」

「そして世界各国に在ったISは大半がファウストやそれに与する組織に強奪された!我々が使えるISはもう百台もないのだぞ!」

 

 そこに、どたどたと騒々しい音をたててスーツ姿の女が現れた。

 

「し、失礼します……!」

 

 ずり下がった眼鏡をかけ直し、その部屋に入って来る茶髪でショートボブの女性。

 

「何だね、今我々は今後の対策について考えて……」

「それが、ファウストの幹部と名乗る人間が交渉がしたいと……!」

「何っ⁉ど、何処だ……!一体何処に『それは、此処にいます……ってかぁ?』ッ!?」

 

 IS委員会の役員たちは驚く。目の前にいる眼鏡に茶髪な女性から、中年男性の声が漏れ出たのだから。

 

「貴様……まさか……!」

『あぁ、この姿では分からないか……』

 

 銀色のレリーフのボトルがセットされた拳銃を取り出すと……。

 

【Cobra…!】

 

『蒸血』

 

【Mist match…!C-C-Cobra…!Cobra…!Fire…!】

 

 そして、煙が晴れれば……、這い寄る血管が立っていた。

 

『これは皆さんお揃いで。俺はブラッドスターク、ファウストのゲームメイカーだ。君達に一つ良いコトを教えたくてな』

 

 急に仰々しく腕を広げ、ずかずかとテーブルの上に上がり、彼らが食べていた料理を蹴散らす。

 

「……良い事……だと……?」

『そうだ……、財団Xが出資した金で結構なことをしたらしいな……』

 

 そう言ってスタークはばさりと資料を放り投げる。それに目を通し、見る見るうちに顔色が悪くなる理事たち。

 

「……っ、何故この事を!」

『調べてくれた天災な神様がいてなァ……IS代表候補生に買春紛いなことをさせたもの、IS代表候補生を使っての裏賭博運営、有力な権力者の愛娘をコネで入れ利権をむさぼる……出るわ出るわ』

 

 やれやれと肩をすくめ首をかしげる。

 

『そして、財団Xはお前等に製品価値は無いと判断した……。そんでもって俺が絶版にしに来たという事だ』

「何……?」

 

 疑問の声が上がる。何故テロリスト集団『ファウスト』と財団Xが……?

 

『あぁ……言ってなかったな、冥土の土産に教えてやろう。そもそもの前提が間違っているんだよ。ファウストと財団Xは敵対関係などでは無い……。むしろ逆だ、財団Xはファウストが創り上げた組織なのさ』

「……はっ……?」

 

 間抜け面を晒した役員に、くっくっと喉を震わせたスタークはビシリと指を突きつける。

 

『つまり、お前らは初めから俺達の手の平の上で転がされていただけなんだよ』

「なっ……、信じられるかァ‼」

 

 突然掴みかかられるもオイオイ、というように身振り手振りでホールドアップする赤いパワードスーツの人間。

 

「貴様ぁ……、ッうぅ!?あぁぁぁあぁ!?」

「「「!?」」」

 

 丁度その時だ……マナーも何もなくだらしなく食事を取っていた重役の一人が、突然粒子状になって消滅した。

 

「な、……何をしたんだ……?」

『おっと、最後の晩餐は美味かったか?なら丹精込めて料理()()った甲斐があると言うモノだ』

 

 つまり、食事には毒が盛られていたのだ。そうスタークが言った途端、叫び声を上げて消えゆく何人もの男女……辛うじて食べなかったものは、自分たちの死に様が鮮明に想像でき、正座で痺れた足を必死に動かそうとする……。

 

「わ……我々を殺すのか……っ⁉」

『その通り、君達は用済みというワケだ……』

 

 そう言ってスタークは腕の管『スティングヴァイパー』を伸ばし、何人もの首筋に毒を打ち込む。

 

「がっ……。あぁ……⁉ぁ、ぁああぁッ、馬鹿なァ……私たちがいなくなったらぁぁっ、誰がァこの世界を統率すると言うのだァァァァァァァァッッ!」

『ハッ、よく言うぜ……お前等の手は汚職塗れじゃねぇか……』

 

 消滅する男の断末魔の叫びを部屋の土壁にもたれかかって聞き、胡乱気に彼らに吐き捨てる。

 

『良かったなぁ、これが心優しい俺で。世界最強に知られてたら、苦しみ抜いて地獄に叩き落とされただろうな……』

 

汚いモノを一身に引き受ける血塗れの蛇……、そして決定的な一言を彼らに投げる。

 

『だから安心してくれ、お前等の代わりなんて……この世界にいくらでもいるんだからよ』

 

 その言葉に絶句し、絶望を絵にかいたような顔になる生き残っていた汚職委員……。

 

『Ciao……ってな、んん?』

「かっ金なら…金ならやるッ!! 私の財産は全部やるッ!! だから命だけは助けてくれェッ!?」

 

 しがみついて怯え上がる者……。

 

「やだ! やだぁ!」

 

 子供が駄々をこねるかのように泣き喚く者、それぞれ異なった醜態を晒す重役たち。

 

『……ハァ、こう言う奴らがいるから、勘違いされるんだよ……“人”が愚かだと』

 

 顔のいたるところの穴から液体を垂らす女に近づき、優しく肩に手を置いた……。

 

『クズってのはどこまでも醜いなぁ……最低だよ。俺はお前らのような人間が大嫌いだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタークはやれやれと首を回すと誰もいなくなった和室から出る。血塗れの罪人に看取られながら、ナニカ叫んでいた肉塊たちの姿は見当たらない……。ただただそこには散乱した皿や座布団があるだけ……。

 

 それがこの世界での浅ましく、みっともなく、金と権力にとりつかれた人間たちの最期だった……。




(ウンメイノー……)
ブル「……ッゥハァッ⁉……ッハァ、ハァ……なんか『神の速度の愛』的バックミュージックでハザードフィニッシュされる夢を見ました⁉」
シャルル「縁起でもねぇな……」
ジョーヌ「心配だな……カシラ、一人じゃなんもできないから……」
ブル「ん?それ私のセリフじゃ……?」
???「よーし、任せて!僕は時を自由に行き来することができるんだ!」
ルージュ「アンタ誰や」
???「ハ井パー・ゼク『はいストップ(惣万)』【ポーズ……】」

あらすじ提供元:通りすがりの錬金術師様、ありがとうございます!


※2020/12/25
 一部修正


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ISジェネレーションズ(夏休み)編
財団X セクターAnother World報告書


 これは財団Xが作成した調査報告書。エニグマが観測したインフィニット・ストラトスの存在する基準世界線にて行った破壊工作・及び兵器の起動実験の結果である。

※現在、戦闘ログを解析中。文章化には暫くの時間を要する模様。詳細な情報開示は未定。


動員戦力一覧

 

アンク

(イメージCV:キネクリ先輩)

 

出身:錬金術が盛んだったとある小国(オリジナル)→ファウストの研究所(コピー)

性別:メダルの塊の為なし(男の人格)

年齢:メダルの塊の為なし

Like:アイスキャンデー、Give

Dislike:セシリアの声、Take

イメージアニマル:タカ

構成コアメダル:タカ・クジャク・コンドル

テーマ曲:【Time Judged All】

 ご存知メダルの怪人『グリード』の一人にして『鳥の王』。本来は自我が無く他のコピーグリードと同じように財団Xに使役されるだけの存在だった。だが、依代として人間を用いたからか自我が発生。原典のアンクの記憶と感情がコピーされた。

 オーズ本編のアンクと同じく、捻くれておりケチでがめつく計算高い性格で、常に相手に嫌味を言う毒舌家。しかしながら、どうやらオリジナルの記憶があるためか、そこまで人を害しようとは思っていない。むしろアイスを食べるという欲望のために積極的に行動することの方が多かった。

 依代になっていたのはセシリアの幼馴染の妹、エクシア・カリバーン。心臓病の進行をアンクが食い止め、コアメダルの生命力で治癒していた。その回復率はすさまじく、数ヶ月でほぼ完治するという驚異のエネルギー量。

 最期はセシリアに自身のプライドを託し、『汚名を濯ぐ』という欲望を叶えてもらうため意思をコアエナジーに変換し消滅。あとには、赤いタカのメダルが残されているだけだった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

ムチリ

(CV:アイダ博士)

 

出身:ファウストの研究所

性別:メダルの塊の為なし(女の人格)

年齢:メダルの塊の為なし

Like:奪うこと、永遠

Dislike:奪われること、欠陥

イメージアニマル:ハチ

構成コアメダル:ムカデ・ハチ・アリ

テーマ曲:【HEART∞BREAKER】

 

 シュトルムが不老不死へのアプローチとして創り出したオリジナルのグリード。グリードたちの中でも巨体(3m近い)。毒虫系のコア、『ムカデ』『ハチ』『アリ』のメダルで構成されている。自我の薄い複製グリードとは違い、流暢に話すことができる完成型のグリード。その声は篠ノ之束に酷似しており、(ウサ耳がない以外は)擬態した姿も身体能力も頭脳も性質もほぼ同じ。ISコアを動かす異世界のエネルギー=コアエナジー(仮)を欲するという欲望が生まれ、暴走し始める。最期は篠ノ之束の手によってコアエナジー(仮)の大量放出が行われ、一夏の『ファングストライザー』で爆散しコアが破壊された。

 本当は誰よりも人間という命になりたかったグリード。その性質上、あらゆるものが足りないため完璧に憧れたが、永遠という完璧にこだわるがあまり、その手を取ってくれる人間を拒絶してしまったメダルの塊。『命として死ぬ』ことができなかったIFのアンク。

 

 

 

 

 

 

ファウスト幹部ブリッツの指揮下にて活動したナンバーチルドレン

 

 

セイン…ミュータミット化したことにより、千里眼と無機物をすり抜ける能力を得ている。

セッテ…ネクロオーバー。人間味が極めて薄い。あらゆるホロスコープススイッチに適性があり、十全以上に使いこなすことができる。

オットー…クオークス。サイコキネシス、パイロキネシス、サイコメトリー、テレポーテーションが可能な多重能力者。

ディエチ…サイボーグ。右目には方式の異なるイメージセンサーを複眼状に集合させており、ISのハイパーセンサーを凌駕する。左目はあらゆるネットワークに侵入することができ、偵察衛星や防犯カメラ、ISをはじめとする機器などからデータを収集する。つまり世界全てが彼女の視界。

 

 

 

 

ファウスト幹部シュトルムの指揮下で活動したナンバーチルドレン

 

 

ウーノ…正確なナンバリングはC系列ではなくPC系列。つまりシュトルムとブリッツと同じ開発セクターだが、サンプルとしてドイツ軍が回収した。宇佐美とシュトルムの施術によってゲノムスと化したことにより、思考加速能力とステルス能力を持つ。

ドゥーエ…ネクロオーバー。暗殺に特化しており、さらには極めて能力値の高いハイドープ。ジーンメモリと適合し過ぎたことでドーパントになる必要すらなくなった。

トーレ…厳格な性格をしたセッテの師。シュトルムが不在時には集団戦闘の指揮を執る。セッテを過去見殺しにしてしまったことに負い目を抱いている。

ノーヴェ…ミュータミット。常に不機嫌な顔をしているが、アンノウンエネルギーが暴走気味であり、副作用を抑え込むため薬剤を投与しているから。

ウェンディ…サイボーグ。「っス」が口癖の若干アホの子。

ディード…シュトルムが創り出し彼女の体内に埋め込んだ『サメ』『クジラ』『オオカミウオ』のコアメダルの影響で時間停止能力を持つ(ただしクロノスの様に時間停止中に攻撃を与えることはできない)。

 

 数字はC系列の遺伝子強化人間(アドヴァンスド)としての開発順だが、生き残っていた中での数が少ない順序。つまり本来のC-00○○というナンバリングとは異なる。因みにクアットロとチンクが欠番だが、クロエとラウラが該当する。

 名前でお察しの通り、リリカルなのはのナンバーズが銀髪になったような外見。

 

 

 

 

 

 

 

エニグマ

 

 並行世界干渉装置。ネビュラバグスターウィルスがエネルギー動力源。核となる部品はホワイトパンドラパネルを加工したものであり、原作のエニグマとは及ぼす力などに差異が生まれている。別系列の技術を幾つも取り入れているため、一種のブラックボックスと化した。

 

 

 

仮面ライダーゲンム ゾンビアクションゲーマー(ビルドゲーマー)

 

 宇佐美が変身した仮面ライダー。自身の死のデータを回収したことで使用可能となった『デンジャラスゾンビガシャット』と、因幡野戦兎との戦闘データを基に創り上げた『仮面ライダービルドガシャット』を使用してゲーマドライバーで変身する。エナジーアイテムが展開されない代わりに、ネビュラバグスターを生み出すことができる。

 

 

 

ネビュラバグスター

 

 宇佐美幻とシュトルムが共同開発した生物兵器。雑魚敵のはずだが、極めて戦闘能力が高い。人間に触れるだけで感染を拡大させ、ネズミ算式に増える。また、ライダーガシャット由来の力以外では絶対に倒すことができないという、対異世界用侵略兵器。

 

 

 

Xガーディアン

 

 エニグマから出現する機械兵。集団戦闘を得意とし、万が一負けても自爆攻撃が可能。

 

 

 

マスカレイド・ドーパント

 

 財団Xが使用する尖兵の一つ。人間にマスカレイドメモリを挿して変身を促す。仮面ライダーたちは知る由もないが、変身者はISによって職を奪われた浮浪者たち。敗北するとメモリの機能で自爆する。

 

 

 

屑ヤミー

 

 ミイラ男に似た怪物。セルメダルを割ることで二体生まれる。かなりタフ。

 

 

 

ダスタード

 

 星屑忍者。ホロスコープスたちが生み出す戦闘員。耐久性は低いが、それを補って余りある高速戦闘が可能。

 

 

 

複製グリード

 

 シュトルムが錬金術を用いて生み出した、コアメダルとセルメダルでできた再生怪人。創り出されたのは猫系の『カザリ』、虫系の『ウヴァ』、水棲系の『メズール』、重量系の『ガメル』、鳥類系の『アンク』。アンクのコアは反応が無かったため、宇宙から回収したエクシア・カリバーンの体内のISコアと置換し経過観察を行っていた。因みにメズールはセシリア……ではなく篠ノ之箒の声。これには「声変わったか?」とアンクも訝しんでいた。

 

 

 

ホロスコープス・ダミー

 

 シュトルムが複製したホロスコープスのスイッチを使用し、ナンバーチルドレンたちが変身した姿。スイッチャーはセイン(キャンサー)、セッテ(レオ)、オットー(ヴァルゴ)、ディエチ(スコーピオン)。スイッチは生体コアであるエクシアを除去し改造した人工衛星型ISエクスカリバー・ヴィヴィアン(XVⅡ)にて、収集されたコズミックエナジーを用いて造られた。

 

 

 

キツネヤミー

 

 篠ノ之箒(原作)にナンバーチルドレンのセッテ(レオ・ゾディアーツ)が持っていたライオンのセルメダルを投入して生まれたヤミー。宿主の『力を振るいたい』という欲望によって箒の体内で急成長して彼女を乗っ取り、彼女の欲望を満たす。日本刀を持つ狐が巫女服を着た様な風貌で、胸がきわどくはだけている。欲望を吸収するごとに能力が強化され、恐竜系メダルを追加されたことで全く別のヤミーに変化する。別のヤミーの詳細は以下にまとめる。

 

 

 

キュウビヤミー

 

 ヴァルゴ・ゾディアーツであるオットーがキツネヤミーにプテラセルメダルを投入し、篠ノ之箒及びIS『紅椿』の願いから生みだした猫系、恐竜系の合成ヤミー。本来の『織斑一夏を手に入れたい』という欲望に従い行動を起こす。親であるのはIS『紅椿』に変更になった為、その持ち主である篠ノ之箒を容赦なく殺そうとする。原作の真木清人が創り出したヤミーと異なり、プトティラコンボでなくとも倒せるが、強敵であることには変わりがない。(むしろ『信長の欲望』で出てきたギルが創り出したプテラノドンヤミーに近い)

 

 

 

サソリヤミー

 

 ナンバーチルドレンであるディエチの変身したスコーピオン・ゾディアーツがサソリのセルメダルを用い、自身の『死にたくない』という欲望から生み出した個体。属性は鋼、及び毒。素早いフットワークを用いた足技で戦う。

 

 

 

カニヤミー

 

 ナンバーチルドレンであるセインの変身したキャンサー・ゾディアーツがカニのセルメダルを用い、自身の『笑いたい』という欲望から生み出した個体。属性は鋼の他に水も持つ。強力な鋏で最大十億ニュートンに達する挟み込みで、相手を握り潰すことを得意とする。

 

 

 

 

 

 

ゼウス・ドーパント

 

 宇佐美幻がゴールドメモリとガイアドライバーで変身した神の記憶を司るドーパント。雷を操る能力の他、神であるため一切の攻撃が効かない。ゼウスメモリと宇佐美の適合率は96.1%というインチキ染みた値を示しており、全能神としての力を遺憾なく発揮できる。なお、このメモリの使用により宇佐美には『世界を思うままに改変する』というハイドープ能力の兆しが見受けられた。

 

 

 

 

ライトカイザー/変身者:ブリッツ

レフトカイザー/変身者:シュトルム

 

身長:202.0cm

体重:103.5kg

パンチ力:20.3t

キック力:24.8t

ジャンプ力:32.4m(ひと跳び)

走力:2.8秒(100m)

特性(ライトカイザー)バグスター抗体保有者以外の攻撃無効化

 (レフトカイザー)他のテクノロジーの万能利用

必殺技:ファンキードライブ

融合後

バイカイザー(通常態)/変身者:シュトルム&ブリッツ

 

身長:202.0cm

体重:108.0kg

パンチ力:40.6t

キック力:49.6t

ジャンプ力:64.8m(ひと跳び)

走力:1.4秒(100m)

特性:バグスター抗体保有者以外の攻撃無効化、他のテクノロジーの万能利用

必殺技:ファンキーフィニッシュ

 

 

 

バイカイザー(完全態)/変身者:シュトルム&ブリッツ

 

身長:202.0cm

体重:108.0kg

パンチ力:130.0t

キック力:130.0t

ジャンプ力:130.0m(ひと跳び)

走力:0.13秒(100m)

特性:万物を超越した力、不老不死

必殺技:ファンキーフィニッシュ

 

 

 

 

 

ゴーレムⅡ

 

 篠ノ之束の制作していた無人機(ゴーレムⅢの前身)。シュトルムとブリッツにコア・ネットワークを切断され、数十体が奪われる。ネビュラバグスターとしてコア内部に侵入したブリッツは、それらのISの人格を完全に破壊し、デンジャラスゾンビバグスターとして再生させた。そのため、シールド・エネルギーが初めからゼロであり、常に『死にっぱなし状態』のため攻撃が無効化される。

 また、接触時に機器のシステムへ深刻な被害をもたらすプログラムを流し込んだり、撃破したISを同じゾンビ状態にして増殖したりすることが可能。強化リミッターを解除するとラグが発生し、ハイパーセンサーでは算出できない予測不可能な攻撃を繰り出すことができる。そもそもゴーレムⅡの姿を確認したISのハイパーセンサーは誤作動を引き起こす上、ジャミングによってシールド・エネルギーや絶対防御、PICが正常に作動しないため、命がけの戦闘を余儀なくされる。

 

和名:n/a

形式:n/a→ZOM-X

世代:n/a

国家:篠ノ之束開発・所蔵→ファウスト強奪

分類:n/a→媒介増殖型

装備:超高密度圧縮熱線

   巨大鎌型ビームアロー

装甲:n/a

仕様:n/a

 

 

 

 

 

エターナル・ストラトス

 

 ネビュラバグスターウィルスを抑制されたバイカイザーでは制御ができなくなった『永遠の力』を、ISコアに移して起動させた最後の切札。『世界の一つや二つを永遠に破壊できる』力を持つ全身装甲のIS。コンバットナイフにEと描かれた白いUSBメモリをセットすると機体が召喚される。外見は白騎士(又はサイレント・ゼフィルス)に似るが、青いエネルギーラインが刻まれていたり、カスタムウイングに黒い防御用マントを装備していたりと差異もある(このマントは攻撃の衝撃・効果が『機体に永遠に到達しない』作用を生む)。

 製作者がシュトルムであるためか、はたまた『永遠』の力か、篠ノ之束の手による分解やハッキング、コード・ヴァイオレットすら一切効かない。

 単一仕様能力『ネバーエンディングヘル』は並行世界、異世界といった別世界に存在する全てのISの能力、機能、武装を無条件且つ十全に使えるというもの。また、エニグマに利用されたもう一つの単一仕様能力『エターナルレクイエム』は他のISの機能を半永久的に停止させることが可能となっており、シャルルをして「どうやって勝つんだンなもん」と言わせる程。無人機状態と搭乗操作状態を切り替えられる。

 このエターナル・ストラトスによって一部でも破壊された細胞や機械、ISの損傷・機能は永遠に直ることはない。また戦闘データをスキャンして分析しようとしても、情報が無限に入ってくるため戦兎や束特製PCすらダウンする。

 モチーフとなったライダーはまごうことなきエターナル、そして4号とファイズ(ショッカー首領)。それ故にモルフォ蝶モチーフでもある。

 

和名:永遠に辿り着けぬ蒼穹

形式:ES-∞

世代:該当なし

国家:ファウスト

分類:全知全能型

装備:醒鎧布『インフィニティローブ』

   久遠刃『インフィニティエッジ』

装甲:EXガイアプリズム装甲

仕様:エターナルローブによる攻撃・効果の一切無効化

   『26の星の記憶』

   ISコア・ネットワーク無限ループプロトコル『cod-E Φ』

   IS人格永久破壊プロトコル『コード・ブルー』

   単一仕様能力『ネバーエンディングヘル』

   単一仕様能力『エターナルレクイエム』

   高安定稼働直列ISコア機構『プルーラルコア』(ISコア26個使用)

待機状態:メモリスロット付コンバットナイフ

 

武装

『醒鎧布インフィニティローブ』

 衝撃、熱、絶対零度、電気、プラズマ、物理法則、概念などの攻撃を一切無効化する漆黒のマント。ただし自分の効果も封じてしまう場合があるため、効果発動時にはパージする。意思を持っているのか、防御の際は自動で装着される。

 

『久遠刃インフィニティエッジ』

 ダガーナイフ型の武器。零落白夜の上位互換であり、自身のシールド・エネルギーを消費せずに相手のシールド・エネルギー、絶対防御を霧消させ人体を断つ。仮面ライダーであっても一撃で変身解除に追い込むなど、小刀の破壊力を越えているが、コレは常に相手を上回る無限のエネルギーを放出しているため。つまりはリボルケイン。

 

仕様

『26の星の記憶』

 別名A to Zとも。【ACCEL(加速)】【BIRD(始祖鳥)】【CYCLONE(疾風)】【DUMMY(偽物)】【ETERNAL(永遠)】【FANG()】【GINE(遺伝子)】【HEAT()】【ICEAGE(氷河期)】【JOKER(切り札)】【KEY()】【LUNA(幻想)】【METAL(闘士)】【NASCA(ナスカ)】【OCEAN(大洋)】【PUPPETEER(人形使い)】【QUEEN(女王)】【ROCKET(ロケット)】【SKULL(骸骨)】【TRIGGER(狙撃手)】【UNICORN(ユニコーン)】【VIOLENCE(暴力)】【WEATHER(気象)】【XTREME(極限)】【YESTERDAY(昨日)】【ZONE(地帯)】の音声が鳴り、それぞれに則した能力が発揮される。もはやこれだけで単一仕様能力が26個あるようなもの。

 

ISコア・ネットワーク無限ループプロトコル『cod-E Φ』

 コード・レッド、コード・ヴァイオレットに類する能力。ISにとっては抜け出せない死に戻り。

 

IS人格永久破壊プロトコル『コード・ブルー』

 詳細不明。ただし急ごしらえの起動の為使用不可能になっていた。メタ的に言えば発動していたら今後のISの存在意義がなくなるので…まぁ。

 しかし、今後これを模したアンチライダーシステムテクノロジーが■■■■■■■■■…。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

IS学園生徒による特殊変化

 IS専用機持ちが使用するのは戦兎がトランスチームガンを参考にして開発した簡易ドライバー(内部にはベルトユーザーのハザードレベルを+1する特殊コンデンサーが内蔵されており、ハザードレベル2程度の人間でも変身が可能となる)。トランスチームシステムと同じくネビュラガスを注入されていない人間も使えるが、出力は70%レベルにまで下がっている。しかしレジェンドフルボトルの力かはたまた彼女らの思いの強さか、ビルドと互角以上の戦闘能力を発揮できる。

 

 

 

 

 

 

 

仮面ライダーBオーズ タジャドルコンボ(ラストブレイズ)

 アンクが自身の力をコアエナジーに変換しセシリアに譲渡した姿。オリジナルと同じくGiveが嫌いな彼(彼女?)だが、『ものとなり下がったグリードなんて、偽物である俺にとっても侮辱以外の何物でもない』とのことで、汚名を濯ぐという欲望を叶えるために思いを託した。『タカ』、『クワガタ』、『ライオン』、『サイ』、『シャチ』のコアメダルをタジャスピナーに収めた『ラストブレイズ』でブラックホールを創り出し、敵を一掃する。原典の最終回変身バージョンと違い、炎翼は青みがかっている。

 

仮面ライダーBフォーゼ メテオフュージョンステイツ

 コアエナジーの余剰放出によってコズミックエナジーが変化し、フォーゼベースステイツが鈴の身体能力に合うよう最適化した。メテオギャラクシーを用いて格闘戦を行うが、その脅威度はシャルルに追従するレベルに高い。

 バリズンソードに全スイッチの能力を付与して戦ったが、マジカル赤心少林拳で無双状態になったためそこまで印象に残ってない。

 

仮面ライダーB鎧武 極アームズ

 コアエナジーが簡易式ビルドドライバーに作用した結果、謎の植物が茂る異世界と繋がり、箒の巫女体質と適合したことで変化した姿。黄金の果実に近しい者になっており、ゲート・オブ・ヘルヘイムさえ可能。しかしあまりの出力にドライバーが耐え切れず、変身が解除された。寧ろそのまま使い続けていたら……。

 

仮面ライダーBゴースト ムゲン魂

 コアエナジーの作用によって開眼したクロエの超越の瞳(ヴォータン・オージェ)の力を受けラウラが変身した。観察していたブラッドスタークからは『死に装束の様だ』と評されるが、これは今作想い人(グリス)のモデルも似たような形態に変身することへの皮肉だと思われる。また、原典のムゲン魂は“クロエ”を救うために消滅したこともあって、極対の経緯を経ていると言える。

 

仮面ライダーBエグゼイド クリエイターゲーマー

 ISコアの救いの声を聞き届けた簪の思いに応え、コアエナジーが彼女に力を与え変身させた姿。ISコア・ネットワーク内部へ侵入することで、IS開発者である篠ノ之束さえ不可能な領域でのプログラムの書き換えが可能。コア内部でデンジャラスゾンビと化した害悪ウィルスを実態化させて排除した。

 




※現在、戦闘ログを解析中。文章化には暫くの時間を要する模様。詳細な情報開示は未定。


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夏休み番外編
夏休み閑話 『シャルルとラウラと時々クロエ』


宇佐美「さて、長かった夏休み編もようやく終わりだ……」
惣万「それただただ筆者の都合がつかなかったからだろ……」
宇佐美「ま、モチベーションとか、他の方の作品を見て英気を養っていたらしいぞ」
惣万「……っ、宇佐美が……『他の方』って丁寧語話せている……!?」
宇佐美「おい、喧嘩を売っているのか。一般常識は学習しているぞ、檀黎斗テンションが出るのは時々だけだからな」
惣万「……そうなのか……?」
宇佐美「あぁ、TPOは弁えている。読者に嫌われるのは構わんが、惣万に泥を塗りたくないのでな」
惣万「……、え、えと……取り敢えず夏休み閑話ですどーぞ!」
宇佐美「前回とのギャップが凄いな……」



 まだ夏真っ盛りの季節。朝は涼しいとは言うが、そんな訳はない。

 

「あ゛あ゛ー、あぢー……んぁ?」

 

 シャルルたちが泊っている用務員室にて。そこでは雑魚寝で扇風機を回しながら寝ているのだが……今日の彼は妙に寝起きが悪かった。タオルケットと身体の間にある妙な異物の所為で目が醒める。……………………その物体がごにょっと動き、もぞもぞと頭が飛び出した。

 

「よめー……えへへ……」

「……何でコイツ、俺の布団入ってんだ?」

 

 頭を枕から少し起こしてみると、幸せそうな顔で寝ているラウラ。タオルケットからぴょこんと出ている頭が、穴掘りするウサギに思えて仕方がなかったとか何とか。

 

「おぉい、起っきろー……駄目だ寝こけてやがる」

 

 シャルルは布団に入っている手を動かして、身体を揺らして起こそうとする、が……。

 

「チッ…とっとと部屋に返すか…ぁああああああああああああああああああああああああああああああッ⁉

 

 シャルルン、大絶叫。両手で身体を持って立ち上がらせてみたら、丸見えだった。ネイキッドだった。二つの意味で紳士なシャルルは大絶叫ものである。何せ母親に女性に対する扱いをきつくしごかれているからで……口にするのはやめておこう、シャルルが発狂する。

 

「……んー?何だ嫁よー、もう朝かー?」

「おっま、えっおまッ、…服はどうしたんだゴラ!…あ、見てないッ‼見てませんですよ‼」

 

 顔真っ赤にしながらタオルケットをラウラに向かって投げつける。このぞんざいな扱い、ブラックラビッ党に誅罰下されろ。最近ファウス党やらハザードラビッ党などの対抗政党が上がってるが、ブラックラビッ党のみなさんも結構残ってるはず……え、シャルルなら別にいい?ナジェナンデェス。

 

「だから見てないっつってんだろ‼頼むよくーたん信じてくれよォ‼」

「……何故叫ぶ?お前は私の嫁だ、……な?」

「ぬぁにが首こてっとしてからの『……な?』だよ銀髪お前‼ッたく腹が冷えるだろ風邪ひくだろ自重しろォ‼」

「…………………ふむ、私の事を思ってくれているのか。奥ゆかしいな」

「ちげーよ‼俺の精神衛生の為だよっ‼」

 

 朝っぱらからSAN値チェック(背徳的な物)を見たシャルルは最早まともな思考が出来ておらず。彼は叫びまくりながら服を着ることを促した。……となれば当然。

 

「カシラー、今日は暇でしたよねー、丁度ルージュとジョーヌが買い物……、…」

 

 起きたとみなされ誰かがやってくるのである。割と常識人なブルが目の前の状況を見て固まった。

 

「「「…………………………………」」」

 

 ラウラはジト目で眉をひそめてシッシと手を払う。しかもネイキッドスタイル。

 

「(あゝ厄介ごとだな……)…………………………………ごゆっくり」

「うむ、空気が読める副官だな」

「待てやァァァァァ‼オ゛ォォイ゛‼」

 

 何故いつもはまともな三馬鹿の一人が現状を把握できなかったのか……。多分出番が少なかった事があるんだろうな……。(出番くださいby蛸が刻まれたフルボトル)

 

 閑話休題。現状を完全に把握したブルによりラウラは引き離され、シャルルはその他二人に何があったか説明しながら朝食を摂った。……そしてルージュが思いっきり頭を叩かれたことは省略する。理由?……戸締り確認は大事です、ということは言っておこう。

 

「ッ、あーぁ、折角くーたんに会いに行こうと思っていたのによぉ……ん?」

 

 そうこうしているうちに、シャルルの頭上に豆電球(ライト)が点灯した。(出番とは勝ち取るものだbyライトフルボトル)

 

「そうだな……くーたんの服買っていくか。おい銀髪!」

「何だー?」

「お前ちょっと着せ替え人形になれ」

「「「カシラェ……」」」

 

 あんまりな言い方である。余程、モーニングコールショック……別名『突撃隣の嫁裸体』にびっくりしていたのであろう。シャルル人生最大の恐怖体験であった。テキラタイッ‼

 

「……わーってるよ、こいつにもなんか買ってやるよ……それでいいか銀髪?」

「?(よく分かってない顔)」

 

 ……ラウラも一般常識には疎かった為どっこいどっこいであった。誰がこいつらに常識を……無理だわ。常識から遠いところにいるわ、こいつら。

 

 

 

 

 そんなこんなでレゾナンス……なのだが、人集りが出来きていてなかなか先に進めない。周囲から「金髪ガテン系男子と銀髪軍人系女子…はぅ」等の声が聞こえてくるが二人は理解できなかった。

 

 以下当事者たちの心の内。

 

(シャルルン:んな事よりくーたん……まぁちょっとくらいは銀髪)

(ラウラン:そんな事より嫁、あと教官)

(くーたん:……私に質問をするなぁ!?)

 

「……ま、カシラとボーデヴィッヒさんが店に来ればこうなるわな……」

「えぇルージュ……見慣れてしまいましたが、どっちも非の打ち所がない美男美女ですしね……」

「何か、ココに居たら金魚のフンみたいw」

「「言うな、哀しくなる……」」

 

 ブルージュ(赤と青)、パーフェクトノックアウト。ジョーヌの言葉は心のパズルを容易くブレイクする。なんだかんだで日常会話パートの三羽烏の手綱を握っている辺り、舌戦は強いのかもしれない。そんなこんなで店員の下へとたどり着いた御一行。

 

「ど…どっ、どんな服をお探しでしょうかッ⁈」

 

 どもりながらシャルルとラウラに向き合う店長さん。何か手を蜘蛛みたいにワキワキさせているんだが……、憑依されてないよね?

 

「とりあえずこの銀髪に似合う服を探しているんすけど、おすすめは?あと三着程選んでもらっても?」

「こちらの方ですね!三着と言わず十着程見立てましょう!」

「あとこいつのお姉様にもプレゼントが必要なんで、ラッピング包装でお願いします。あと写真これです」

 

 そう言ってくーたんとのツーショット写真を見せるシャルルン(因みにコレを撮影するのに惣万に一万円払いました)。

 

「成程……フリルワンピースとかですかね……ですがデニム地のものも似合うかも……」

「えぇ、それも良いっすけど夏ですし風通しの良さそうなシースルー構造の……インナーが見えたりするのもどーでしょうか」

 

 ヒートアップしていく店長とシャルルン。女性モノの服をよく知っているモノだ……ただひとえにくーたんの為であるが。

 

「……嫁?どれだけ着ればいいのだ?」

「ぁん?常識から考えて買う服の十倍は着てくれ?そーでもしねぇと良いモノ見つけらんねぇからな」

「……い、いやそれは流石に面倒『めんどくせぇは、ナシだ』……むぅ……」

 

 思わずむくれるブラックラビッ兎。……………………まさかシャルルでもシャルロットのセリフが聞けるとは思わなんだ。

 

(服……、所詮服だぞ?どうしてこんなに着なければならんのだ……)

 

 そんな事を思うラウラちゃん。だが……。

 

「うーん、コレは……くーたんじゃなくてお前にしか似合わねぇ……。あ、でもこっちも悪くないか?……うん、意外に可愛い系も合うな銀髪お前」

「かわっ……!?な、かわ……!」

「あん?何してんだ、ほら早く入れ」

 

 シャルルは制服姿の彼女を試着室へと乱暴に放り込むのだった。

 

(……………………嫁が選んでくれた服、か……。……………………ふふっ)

 

 

 そんなこんなで着替えた一着目、それはハイヒールとワンピースのセットだった。クロエが好んで着用する白いものとデザインが近しいが、こちらは黒がメインカラーになっている。彼女は『似合うかな、どうかな』とか思いながら試着室のカーテンを開けると、一瞬にしてそのフロアの客の視線が彼女に集中する……。

 

「おぉ、中々似合うじゃねーか」

 

 シャルルは感心したようにラウラを眺めた。いつものつんけんした様子はなく、非常に感心しきりなようで、ラウラも鼻高々な調子で胸を張った。

 

「はっは!そうだろう、見直したか嫁よ…、ッあっ」

 

 だが、履きなれない靴に思わず姿勢を崩す。咄嗟にシャルルの体にもたれかかっていた。

 

「あ、ぁ……すまないな嫁……む?」

「……………ッ、……」

 

 シャルルはこわばった顔でラウラを見ていた。何故だ……?と思う。……そして今朝の出来事を思い出す。

 

「(ッ……もしや……?)あ、本当にすまなかった……!」

 

 シャルルはどうにも自分と接触するのを避けている……………………そう思わずにはいられないラウラ。彼女は申し訳無い気持ちいっぱいで謝った。だが……。

 

「……、ったくホントだよ……」

「…………………………………………えっ?」

 

 ふん、と鼻を鳴らすとシャルルはたった一言ぶっきらぼうに耳元で囁く。

 

「……………………気ィ付けろ」

 

 

 …………………………………因みに二人の体勢、何がどうなったのか知らんがお姫様抱っこである。お姫様抱っこである(大事なことなので二回言いました)。

 

「え、……あ、え……?」

「……………………っ」

 

 気まずくなったのか、シャルルはそそくさと会計を済ませ……(とは言っても万札をばらまくようにしてカウンターに叩きつけただけだったが)、逃げるように四人を引き連れて店内から出ていった……。なお、この後、服屋が尊みで『福屋』と化していたのはまた別の話……(要するに鼻血が止まらない店長とか泣いて神に感謝する店員とか尊死しかかったお客さんとかがおりました)。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、わりーな急に店出ていっちまって……」

「あ、いや、別に買うモノが買えたのだからよかったではないか……」

 

 どうにもさっきの事が原因でギクシャクしたまま昼食休憩をする二人。因みに三羽烏は背後のテーブルで好き勝手に食っている。

 

「……………………(あーやっべー!どうしよう朝の出来事が衝撃的過ぎてまともにこいつの顔見られねぇ!?え、俺今の今までコイツとどーゆうふうに付き合ってきたっけ⁉……………………そう言えば結構なおざりにしてきてなかったか?くっそ、めんどくさがらずにもっとちゃんと会話に付き合ってやらんきゃだったな、後の祭りか……)」

「……………………(嫁にお姫様抱っこ嫁にお姫様抱っこ嫁にお姫様抱っこ嫁にお姫様抱っこ嫁にお姫様抱っこ嫁にお姫様抱っこ嫁にお姫様抱っこ嫁にお姫様嫁にお姫様抱っこ嫁にお姫様嫁にお姫様抱っこ嫁にお姫様抱っこ嫁にお姫様抱っこ……)」

 

 何故だか分からないが頬を染めてそっぽを向き合う二人……。シャルル、意外に純朴だったんだね……。そんなちょっと初心初心な二人組の下にやって来るスーツ姿の女性。

 

「ねぇ貴方達!」

「んぁ?」

「?」

 

 渡りに船、とばかりにその女性に顔を向けたシャルとラウラ。そしてスーツ姿の女の人はシャルルたち五人に向かって口を開いた。

 

「バイトしない!?」

「「ん?」」

「「「え?」」」

 

 

 

 

 

 なんだかんだで彼女が店長であったカフェ、『@クルーズ』にやって来た金髪銀髪以下赤、青、黄色。何でも急に従業員がやめてしまう事態が発生、その上本社の視察やら新メニュー開発で店の裏はてんやわんややら泣き言を宣う店長さん。苦労性のブルに至っては途轍もない親近感が湧いていたとか。

 

 そんな可哀そうな店長の頼む姿に拒否などできるはずも無く。五人まとめて一日バイトの流れになったのだが……。

 

「ったく……フランスの片田舎のイモ臭ぇ俺が執事って、なぁ……」

 

 シャルルはダルそうに頭を掻きながらネクタイを締める。社交界についても母親にトラウマになる程指導されてきた為、手慣れた手つきでカフスや手袋を身に着けていく。

 

「……あん?どうしたお前等。……あぁ、似合わねぇってか?知ってるよ」

(((いやいやいや!?似合い過ぎ!?)))

 

 だが、三羽烏は彼の容姿端麗な執事姿に目を奪われていた。長髪を後ろ首で結んだことが、野性的な彼の魅力に上品さを添えている。そしてアメジストの様な瞳に伊達眼鏡を重ねることで、いつもの鋭い視線が知的に冴え返る。めんどくさそうに眼鏡を突く様子さえ様になっていた。

 

「お、ぉ……似合っているではないか……」

 

 ラウラのその言葉は女従業員の心の内を代弁していた。シャルルは無心に懐中時計を弄りながら使用人姿の彼女に向き合う。

 

「ぁりがとよ。そー言うお前も……、あぁ。悪くねぇな……」

「!ホントか!」

「ん、あぁ……くーたんほどじゃないが、な」

「……、むー……」

 

 姉の名前を出されてリスみたいにほっぺを膨らませるラウラ。やだ、ヤキモチ……と他のメイドは顔を少し赤らめる。

 

「で、カシラ……何でウチらまで?」

「別にいーだろ、バイト代出るんだし」

「メイド三羽烏、ですか……」

「ねぇねぇ聞いた!?賄いでパンケーキ食べられるんだって!」

「ジョーヌ、お客さんの分食べないでくださいよ……取り敢えず注文取りに行きますね……」

 

 ちなみに賄いのパンケーキは絶品だとか……なんでも実家が蜂蜜農家で甘い蜂蜜は大量に手に入るからだそうだ。素晴らしきかな、調和する風味(パーフェクトハーモニー)

 

「いらっしゃいませ、お客様。ようこそ@クルーズへ」

「お嬢様。こちらの席へどうぞ」

「はっ、ひゃい……」

 

 過去最大級の客入りになるカフェ『@クルーズ』。この一日の売り上げは近隣の飲食店も驚かされる程で、某女顔の店主は『くっそ、ならクロエを店先に出すしか……』と血迷っていたとか。ほとんどの客層を捕られた五反田食堂は閑古鳥が鳴いていたとか。その巨大すぎる要因は金髪の執事と銀髪のメイドさんである。

 

「お嬢様、もしよろしければ一曲弾かせていただきますが……いかがいたしましょうか?」

「あ、はい……じゃあお願いします……♡」

 

 突然カフェの中に響き渡るヴァイオリンの音色。今回シャルルが弾くのは名もない練習曲。母親が好んで弾いていた彼を彼たらしめる思い出の曲。曲名を名付けるならば……『シャルルのエチュード』だろうか。

 

「……………………美しい曲だな……」

 

 コーヒーを運んでいたラウラも耳を澄ませてシャルルが奏でるメロディーに身を任せる。ヴァイオリンを細やかな指使いで触れ、弓を持つ手が別の生き物になったかの様に滑らかに動く。そんな一挙一動が絵になる金髪の執事……。お客は言わずもがな、店長や従業員たちも穏やかな顔でその音色に酔いしれる。

 

(お袋はこの曲を夜寝着くまで俺に聞かせていてくれたっけ……そうだ、お袋が遺してくれたヴァイオリン、今日帰ったら触れてみるか。最近触っていなかったし……)

 

 彼の脳裏はコスモスが飾られた昔の家に戻って来ていた。満月が昇る優しい夜、三羽烏になる前の三人娘が寝静まる刻限、母親とシャルルは庭に出て静かな優しい唄を奏でる。母親の指はシャルルの手と重なり、二人一緒になって音楽を紡ぐ…………………。

 

 

 

―ガチャンッッ‼―

 

 ……その時だ。突然無粋な声が店内に響いた。

 

「全員動くんじゃねぇ‼」

「……ん?」

 

 目を閉じてヴァイオリンを弾いていたシャルルは瞼を開けた。ドアを壊さんばかりになだれ込んで来た目出し帽の男たち。見るからに『強盗です』と言った格好で、バックには札束がはち切れんばかりに詰まっていた。

 

―バァン‼―

 

 そして短気に爆発する手の中の拳銃。一瞬呆気にとられる店内の人間達だったが、即座に今の状況を理解し悲鳴を上げパニックを上げる。

 

「騒ぐんじゃねぇッ‼黙ってろ‼」

 

 そして窓を蹴破り包囲網を作る警察車両に向け叫ぶ。

 

「こっちには人質がいる!逃走用の車を一台用意しろ!発信機なんてつけるんじゃないぞ‼」

 

 そしておまけとばかりにサブマシンガンでパトカーへと発砲する。その音に店内の女性客は頭を抱え、涙を流す……。

 

 

 

 

「……うるせぇな、ったく……」

 

 だが、強盗団は絶望的に不幸にも知らなかった。どー考えても人質になりそうもない出鱈目人間が一人いることを。本当に機嫌悪そうにそのビックリ人間は呟くと、ズカズカと強盗犯のもとに近づいていった。

 

「ッ、オイてめぇッ!動くなっつったろうが‼」

 

 思わずキレてハンドガンを構える男性犯罪者。そして店内の視線全てが金髪の執事へと集まって来る。真っ青になる女性たち……(一部除く)。彼の無謀にも思える行動と、彼の末路を感じ取り、顔を歪ませ声を押し殺す。

 

「あー、お客様。店内でのその様な行動は他のお客様の迷惑になるのでやめていただきたいかと。後々店内の備品の請求をさせていただきますが……宜しいっすかぁ?」

 

 淡々と、だが真っ直ぐ強盗を見てシャルルは言う。哀れにも強盗たちは知らない……今対峙している男がどれ程バケモノであるのかを。

 

「……はぁ?なにいってんだこいつ?頭大丈夫か?」

「構うこたねぇ!殺して見せしめだ‼」

 

 その瞬間、マシンガンが回転する。火花と弾丸が宙を散り……シャルルに向かって飛んで行く。

 

―ドパパパパパパパパパパパ‼―

 

 だが、説明は今までの活躍を見て来て不要だろう。彼はシャルル・デュノアである。シャルルの手が残像の様にブレ、宙を舞う銃弾が消えた(・・・)

 

 

 

 

「……………………えっ」

「……おーいクソお客様……鉛玉が勘定たぁ素敵な教育受けてんな……愉快で腹がよじれそうだぜ?……お前等のな」

「ふんぐぶっ!?」

 

 そう言って三日月の様な笑みを浮かべたシャルルは一人目の腹を蹴り上げ、窓の外へと吹き飛ばす。仲間の末路を強盗たちが呆気にとられて見る事しか出来なかった。

 

「はっ……?」

 

 そして、彼が握りしめた両手を開くと……。

 

―ゴトッ、ガラン……―

 

 …………………………………しーん…………………………………

 

 シャルルの両の手からは、情けなく光る『ナニカの残骸』が零れ落ちた。それを見て阿保みたいな顔になる強盗たち。パニックに陥っていた店内の空気が死ぬ……。と言うかこれほど『しーん』というオノマトペが相応しい空間は無かった。

 

「うむ、流石嫁だ」

「嫁じゃねーから」

 

 シャルルは弾丸を手の中に入れ込んだ瞬間に握り潰し、数十発の玉を両手で一個の鉄塊に変えたのである。

 

「…………………………………ばっ」

「あん?」

 

 シャルルはサングラスが似合いそうな声色を上げてから強盗犯達を睨むと……其奴らがこの場の気持ちを代弁するかのように叫んだ。

 

「ばけもンじゃねぇかぁッッッ!?」

「あー……自覚ねぇがやっぱりそうなのか?織斑先公とか鈴とかできそうじゃね?」

「多分できるな。……そう言えば私も最近セシリアに飛んでくる銃弾を撃ち落とす芸当を教えてもらったぞ。だから大丈夫だ!」

「何が?」

 

 キョトンとした顔になる金髪の執事。だが、自分に対するフォローだという事は分かったので頭を撫でておいた、……………………ほんっといやいやながら。その行為に一瞬で頭が沸騰しかける銀髪うさちゃん。いやんいやんと言わんばかりに頬を抑えて顔を振る。

 

「ごちゃごちゃ何言ってんだァ‼」

「「うるせぇ(さい)‼」」

「げぶらっ‼」

 

 銃を向けた強盗は気を失う羽目になった。見事なコンビネーションキックだったと言っておこう。……だが、追い詰められた男は何をしでかすか分からない。

 

「……ん?おいおっさん何してんだ……、!」

「ざっけんな……、捕まってムショ暮らしになるくらいなら、いっそ全部吹き飛ばしてやらあぁぁぁぁぁっ!」

「ちっ、短絡思考だなオイ‼」

 

 丁度その時である。

 

「えぇっとすいません……騒がしいのですけど何かあったんですか……ってアレ?」

「く、くーたぁん!?あ、うっそまじ何でいるの!?」

「げぶっ!」

 

 (爆弾を持った強盗犯の腹にシャイニングウィザードをぶち込みながら)愛しの人の元に走るシャルル。……いや待って、()内がもっと重要だと思う、さらっと無力化しておいてくーたんの方が大事か。

 

「グリスゥ!?それにラウラ!こっ、この状況は一体!?」

 

 当然彼女は何が目の前に起きているのか理解しきれなかった。当たり前だ、誰だってこんなこと理解できるわけがない。シャルルの後ろではルージュが爆弾を持った強盗犯を気絶させる。……のだが。

 

「よし気絶‼信管抜いて!」

「信管……ってどれ?ルージュ?」

「爆弾の処理をやった事お忘れですか!?えぇい貸しなさいほら早く‼」

「あ、はーい……あ」

「い゛や゛ぁァァすっぽ抜けたァァァァ⁉」

 

 三馬鹿の声と共に宙を舞うプラスチック爆弾。ギャグマンガの様に綺麗な弧を描いたそれは、窓の向こうの警察の下へと落ちかける……。

 

「あー……しゃあねぇなァっ!」

「嫁!?」

 

 突然窓へと疾走する金色の影。ラウラの顔が驚きで強張り、目が見開かれた。彼女達を守る為、爆弾をひったくって自分の懐に入れて身を屈めたのは……彼女の愛しい人だった。

 

―ドッガァァァァァァァァァァァァァァァァンンンッッッッッッ‼―

 

 凄まじい爆発音が店内に響く。だが、驚いたことに被害は全くない。爆炎が周囲に広がらなかったお陰で、客は誰も傷つくことはなかった。そう客は……。

 

「…………う、そだろ……嫁……?嫁ェェェ‼」

 

 黒煙の中に倒れ込む一人の影……。その様子に店長もお客も強盗すら口を噤む。その壮絶な自己犠牲に息をのむしかなかった。

 

「お、おい……。返事をしてくれ……。なぁ嫁ェ!?」

「グリス……?そんな……」

 

 ラウラは涙をこぼしながら、クロエは震える声で散ったその男の事を思う。走馬灯のように今までの出来事が思い返される……。だが、そんな姉妹の思惑は余所に……。

 

 

 

 

 

「「「…………………………………あー、うん……(この後のオチ分かった……)」」」

 

―のそっ…………………………………―

 

「あー、死ぬかと思った。ちっ、ちょっと火傷しちまったじゃねーか」

「「「「「…………………………………は?」」」」」

 

 上半身がほぼ裸になったシャルルが立ち上がった。

 

「嫁……か……?プラスチック爆弾を抱え込んで……無事だったのか……?」

「コレが無事に見えるか?店の備品の燕尾服が燃えちまったっつーのに……」

 

 唖然とした表情を目の前の兵士に見せる姉妹。そんな事も気にせずに、あーあ、減給だなこりゃ、とつぶやきながら燃える燕尾服を脱いだシャルルン。無駄に良い身体には煤けた痕があるものの怪我という怪我は一切見られない。……最早コイツ何なの……。

 

「ま、お前等が無事でよかったよ……」

「よっ、よ゛め゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼」

 

 その言葉に反応するかのようにラウラが彼に向かってダイブした。半裸の彼はドッグタグのみが輝く胸に彼女を埋めさせてやり、彼女をあやした後……。

 

「…………………………………それに、くーたぁん‼見ていてくれたっ?僕頑張ったよね!」

「ぅぇっ……きしょッ……」

「まぁまぁそう言わず!実は君にプレゼントがあって……」

 

 全てを台無しにした。これが頭クオリティ……そんなカシラに最後までカッコつけなかった天罰なのか。

 

「……あのーカシラー」

「ぁん?ジョーヌどした?」

「……さっきの爆発で……プレゼント包装した服が……」

 

―……メラメラ……パチパチッ……―

 

「…………………………………」

「…………………………………」

「…………………………………」

 

 プレゼントが全焼しておったそうな【SE:キャァァァァァ‼】

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!?」

 

 燃える服を必死こいて火を消してみたが、とても着ることができる品物ではなかった。哀れ、シャルルのコスモス畑の夢が『割れる!食われる!砕け散るゥ!』そしてシャルルも同じように燃え尽きて灰になっていた……。

 

「…………………………………おい、ゴラ」

「「「「ひぃっっ!?」」」」

 

 そしてゆらりと立ち上がる執事の皮を脱ぎ払った悪魔……。アレ?あくまで執事ですから、なアレ?

 

「警察行く前に、ちょっと彼岸に行ってみっか?」

 

 手にしていた武器を取られ全身を縛られた強盗犯達はこれから起こることを察した。察してしまったんだね、かわいそう……。ゴキゴキと音を鳴らしながら鬼と化したシャルルは近づいてくる。ってかフランス人なのに彼岸なんて言葉知ってるんだね……(現実逃避)。

 

「さーて……せぇのォッッッ‼」

「「「「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!?」」」」

 

 因みに強盗犯のメンバーみんな綺麗なお花畑を見てきたらしい、みんな、川の向こう側の祖父母に叱られたってよ。

 

 

 

 

「ところで何でくーたんはあの店にいたんだ?」

 

 なんだかんだあった後、シャルルはとあるクレープ屋でクランベリーソースのクレープをモソモソと食う。因みにラウラはストロベリー、クロエはブルーベリー、三羽烏はワイルドベリーソースだったそうな。……ん、ミックスベリー……?

 

「……、確か夏休み明け、IS学園は学園祭でしょう?それで色々とコネをつくってまわっていたんです。惣万さん曰く、『学園祭でメイド喫茶は鉄板』とか言って」

 

 お義父さん有難うッ‼︎と心の中のシャルルはガッツポーズをとる。Ciao、という声が何処からともなく聞こえてきた。

 

「メイド服……ねぇ……ディヒッ♡」

「その……まぁ、感謝はしているので……ちょっと付き合ってもらってもいいですか?あとラウラも」

「?私もか、姉さん……?」

 

 

 

 

 

「(えぇっと……これをするのか?姉さん)」

「(貴女は別に良いでしょうがこちとらグリスに追い掛け回されるのは御免なんですよ。だったらこの出来事にかこつけてこうした方が……幾らかマシです……)」

 

 ここはレストランカフェnascita、その個室でゴソゴソ身動ぎする銀髪の二人。……あ、決していかがわしい意味じゃありません。そんな事したらお義父さんが止めます(惣万)。

 

「お前さんがウチの店に来るの久しぶりだな。出禁食らったと思ってたんだが……えぇと、仮面ライダー……オイルのシャルロットだっけ?」

「グリスですオトーサン。シャルル・デュノアです。……あ、コーヒー美味いっす」

「そりゃどーも。三羽烏の君達もお代わりいる?」

 

 そんなこんなでコーヒーを淹れて回る灰色髪の青年。と、突然冷蔵庫の扉が開き、エレベーターから降りてくる黒装束のローブの二人。

 

「お、来た来た………妹ちゃんと何してたんだクロ…え……?」

 

 そして、お義父さんは目を疑う。自分の義娘の格好に……………………。

 

「じゃ…」「じゃーんっ♡どうだ嫁ー!」

 

 二人は胸元はぱっくり開いたハイレグの服を身に着けていた。そして申し訳程度の蝶ネクタイと臀部に付いたぽわぽわした毛玉、ぴょこんと揺れるうさぎの耳。そう、見間違うこと無きバニーガール姿である。姉が白、妹が黒とカラーリングもベストマッチ。(「束さんも入れてー!」「オレもー!」)いや喧しいわディザスターラビットとハザードラビットはお帰り願おうか。

 

「……何でソレなんだよ……うっ?ハザードラビット……?戦兎?スタッグ……あっ、頭が……!」

「どしたのブル?」

 

 急に頭を押さえて苦しみだしたスタッグハードスマッシュちゃん。安心して、今の状況ならカシラはハザードトリガー使わせないと思うよ。

 

「か……………………」

 

 一方呆然としながら急に立ち上がった金髪ドルオタ。うわ言の様に口をパクパクし続けている……。

 

「こっちはこっちでどうしたんだ……?」

「……、かんわいぃぃィィィィィやっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッッ!!!!」

 

――――ドッガァァァァァァンンン‼

 

「「……、は?」」

「「「カシラァァァァァァァァ‼」」」

 

 ガッツポーズをした彼は、大ジャンプ……nasitaの天井に大穴を開けた。如何やら感情が身体の限界を超えたらしい、ハザードレベルの急上昇でシャルルンはお星さまになったのでした……。

 

 

 

「アレ?アイツ空調ぶち抜きやがった……?」

 

 …………………………夏場にソレは地獄なんだが……。




惣万「どーしよ、一先ず空調設備工事が終わるまでnascitaは休業として……何処に泊ろうか……はっ!」

 次回、お宅訪問編!


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夏休み閑話 『冬夏青々、千秋万古(ネバーエンディング・ストーリー)

惣万「ついに復活したかァァァァァァァァ⁉」
オータム「何キレてんだよ…お前」
幻「更新二年近く止まっていたからな、それはキレるだろうに」
ブリッツ「二年もたてば色々なことがある~。仮面ライダーは令和二代目のセイバーになったし~、月姫がリメイクされたし~」
シュトルム「月姫は嘘でしょう」
幻「嘘だろうな」
惣万「嘘だな」
ブリッツ「え~…ほんとなのに……」


 こんな世界に、神なぞいない。こんな世界に、救いなぞない。それが、私が生まれてきて一番初めに気付いた真実だった。

 

 

 

 誰かからのお恵みなんぞ、慈愛でもなんでもなかった。私らを戦争の駒にする為の甘い囁き、思考力と反抗心を奪っていくだけの、真綿の首吊り縄(ハングマンズノット)

 

『毎度ご注文ありがとうございます。それでは、少年兵部隊(ドローン)の確認をば』

『ふふふ…――――。ん?顔立ちの良い娘がいるな、名は…“アーミア・キー”か』

『おっと、お気をつけを。ソレらを人間扱いなさっては問題になりますよ?ソレは我々が幼少期から鍛え上げた、ただの兵器です』

『あぁ、そうだったそうだった!人間なんてものを使っていたら倫理的に悪趣味でどうもいかんな!ははは!』

『えぇえぇ!このご時世、誰が聞いているか分かりませんからね。では、またごひいきに』

 

 生きている限り何かに騙され玩ばれ、力あるお前らが濁った黒を灰色の白に塗り替えた。過程なんざ、海の向こうで知らん振りした連中にとっちゃどうでもいいんだろうな。最後まで立っていたヤツを英雄だと抜かしやがる。頭沸いてるんじゃねぇか?

 んでもって、はじめっから“何か”を持っていやがるだけで、選ばれた者気取りの馬鹿共が跋扈する。あぁそうだよ、お前らは選ばれていた。偶然というヤツに選ばれていた。

 ただそれだけだった。

 

『…――――けんな』

 

 それ以外に何もねぇだろ、お前らは…――――。何も考えずに私たちを使い捨てのゴミみてぇに扱って、戦争を続けてきたんだろ。ガキだろうと女だろうと関係なく、便利なお道具に銃を持たせて、お前らは高みの見物か。

 

『ざけんな。ふざけんな。私は、生きる。ぜってぇ、死なねぇ…――――!』

 

 

 

 

 

 …――――見たか。私は生き残ったぞ。お前らに戦って死ねと言われようが、私は生き延びた。死ぬわけねぇだろ。自分の名前も知らねぇ頃に誘拐され、人殺しを教え込まれ、神の御前にだとか洗脳されて…――――。それでも死に物狂いで生き永らえてやったぞ。感謝してるよ、ここまで戦いの道具として育ててくださって。おかげで、死ななくて済んだ。あ・り・が・と・ぉ。で、お前らはどうだ?…――――はは、私らに撃たれて死んでやがるじゃねえか。ざまぁみやがれ。

 

 私は生きる。生き抜いてやる。こんなクソみてぇな世界なら、死んで逃げる方が楽かもしれねぇが……――――生きてんだよ、私は。同類が死んだ中で、私みたいなのが生きてる意味があるはずなんだよ。

 やれること、可能性、残せること、選択肢…紛争で削られてった時間で、私が手に入れられなかったもんを、生きることで手に入れられるはずなんだ…。

 

 

 

 

『ぁ、あぁ、あああああ…!やめろなにすんだ放せ‼放しやがれ‼』

『ちっ、戦争上がりの混じった黄色(イエローオーカー)のクソ餓鬼が。顔だけは良いから身体買ってやったのによ!』

『ぎぁっ…!』

『何も持ってねぇお前みたいな馬鹿は、俺らに股開いて媚売ってればいいんだ』

 

 

 

 

 何だよ、これは。毒蜘蛛の巣に引っ掛かったみてぇだ。藻搔いて藻搔いて藻搔きまくってるのに、あいつ等が好き放題飛んでる蒼穹が、ずっとずっと遠くなる。身体の自由を真綿の縄が縫っていく。身体中は欲情と赤に汚れてべとべと。血塗れの身体がもっと酷く、淫蕩な有り様になっていく。

 悪趣味なベッドルームに臭気が充満し、気持ちが悪くなる。自由も、尊厳も、全て踏みにじられ、あらゆるものをオカされる。あの頃と同じ、惨めで無力な自分に吐き気がする。

 

 畜生。畜生、畜生畜生畜生畜生畜生ッ‼またこれだ、またこれだ、またこれだ‼何であっちに行けねぇんだ。這いずり回って、泥啜って、手に入るもん全部費やして、それなのに…――――それなのに。

 

 

 嗚呼、そうか。

 

 こんな世界に、神なぞいない。こんな世界に、救いなぞない。それが、私が生まれてきて一番初めに気付いた真実だった。

 馬鹿だな、私は。心のどこかで救いを求めていたってか?神様ってヤツにお願いしてたのか?馬鹿だねぇ……死んだ奴らと同じだろうが。『死んだら神様の元へ行けますよ』とかいう粗悪な洗脳で、自分の意思なく人を殺して死んだあいつらの道具と、考えてたことが一緒じゃねぇか。

 

 そぉか…――――。私の本質は変わらねぇ。過去が変わらねぇのと同じように。いくら足搔いたところで、変わるわけがねぇ。

 ならよ。私が探し求めていた生きてる意味は、私が望んでいたあいつら糞供みたいな自由は…――――この世界に生まれ落ちた瞬間から、私になんぞ存在してねぇってことじゃねぇか。全てから見放されてた私に、そんなもんがあるわけねぇよなぁ?はは、ははは、ハハハハハハハハ‼

 

 

 

 なんでだよ。願うことさえ、駄目なのかよ。変わりたいと思うことさえ駄目なのか。私はここから、何処へも行けないっていうのか…――――。

 

 …――――畜生。翅もねぇ、跳べもしねぇ、自分の糸に絡まる蜘蛛(ムシケラ)みてぇじゃねぇか。

 

 

 

 何匹もの盛りの付いた雄猿の下で身体を許した。…――――その度に、死にたくなった。仕事があれば何でもやった。人殺しだの産業スパイだの、昔取った杵柄で上手く行った。…――――まだ変われてねぇと、惨めな気持ちになった。あぁ、いつぞやどこぞの輩が私を見て言ってたな、『いつか報いを受けるだろう』とか。そりゃそうなるだろ。戦争で嫌というほど知ってるよ。でもよ…――――。

 平等じゃねぇことが当然だと思ったまま、こっちを見ようとしねぇ連中にだけは、言われたくねぇんだよ。

 

 

 

 

 

 

『ぐっ、あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

『…――――この女、まったく口を割らんな…』

『おい、これ以上やったら情報を引き出せずに死ぬぞ?』

 

 罰が下ったんだろうな。下手こいちまった。あぁ、嗤える。

 

『…――――。ねぇ、貴女は、何を求めているの?』

『あぁ…――――?』

『どうして、こんな無謀な事を?貴女は何を願ってここに来たの?』

 

 …――――うるせぇ。

 

『何も、…――――ねぇよ…!世界には、何もねぇ!戦争の理由も、続かない平和も、噓っぱちな神も、馬鹿共が縋る救いも!何もかも存在しねぇ!馬鹿な人間共が、どいつもこいつも…!死ぬべき人間共が、自由を謳歌しやがって…!そうするしかねぇ人間を、ゴミみたいに扱いやがって……!』

 

 私の目の前に立った、無駄に豪華なカッコのブロンド女は言う。

 

『そうじゃないわ。貴女が、本当にしたいものは何?私なら、叶える手伝いくらいならできると思うのだけれど』

『…ぁ?』

 

 憐れむような目だった。そいつの瞳は、私の目に反射する自分の姿も憐憫しているみたいだった。

 あぁ、下らねぇ。似てやがる。…――――こいつももしかしたら、思ってるのかもな。生きようとして、死にかけて。信じようとして、裏切られて。変わろうとして、醜くなってしまって。

 世界に救いを求めても、世界に神を求めても。世界は平等でさえない。そんな当たり前で、死が常に隣にあった場所でこそ思い知らされることを、この金髪の女も理不尽だと憤っているのかも、と。

 私はぼんやりと、電気で焼かれ煙を立てる身体で考えた。

 

『貴女は、戦争を知っているでしょう?子供の頃から戦わされてきた、望まれなかった兵士の目…』

『…――――お前も、似たような目をしてやがるな。何かのために戦わされて、報いも救いも無く、全てが無かったことにされたヤツの目だ。私と、一緒だな…』

 

 なら全て、平等にして…――――全てが無意味になってしまえばいいと思う、そんな下らねぇ人間の顔だった。此処にいる奴らは、全員ソレだ。

 

『どうする?このまま死ぬ?それとも、生きる?』

『…――――はん。精々、寝首を搔かれねぇようにな…』

 

 私はその蜘蛛の糸を掴んでみることにした。手から、電気が流れる拘束具が外される。あぁ…――――やっと、自由だ。

 

『私はスコール・ミューゼル。亡国機業(ファントムタスク)のモノクローム・アバターの隊長。貴女は?』

『…――――』

 

 名前、か…。…――――そう言えば、少年兵時代を一緒に過ごした日本人がいたな。そいつから少し日本語教わったっけか。確か餓鬼の頃のコードネーム(『アーミア・キー』)、網秋とか書けるとか、なんとか…。

 

『…――――スコール。日本語で豪雨、か』

『…――――え?』

 

 丁度良い。蜘蛛の網から垂れた糸だ。その先が天国か地獄かなんざ関係ない。この世界に、神も救いもねぇんだから。

 

『私は、晩秋(オータム)。ただの…オータムだ』

 

 アジア系の混ざった黄色い肌に、ちったぁ似合った名前かね。

 

『で?まずは何をしたらいい?夜伽か?経験豊富でな、女でも慣れてるぜ』

『あら…――――。いえ、まだやめておくわ。舌、嚙み切られそうだし』

『はっ、お前ソッチだったか。まぁ偏見はねぇが』

『ふふ。そういう関係は、もっとお互いを知ってからの方が良いでしょう?』

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「…――――んぁ」

 

 

 懐かしい夢を見た。彼女が亡国機業に入るまでの、曰く『下らねぇ人生』が走馬燈のように流れていった。

 

「はぁーあ…。日本(ジャパン)って国は、どうしてこうも平和ボケしてるかね。気が緩み過ぎてて、こっちまで警戒すんのがバカらしくなる」

 

 ホテルの一室で朝食のカップラーメンをすすりながら、乱雑にキャリーバッグの中へ衣服を押し込んだ茶髪の女性。

 彼女はオータム。亡国機業に所属し潜入工作を得意とする、元少年兵のあぶれ者。どんな状況になったとしても必ず帰還すると称された、亡国機業随一の生還者(サバイバー)

 

「(今度の任務は此処に長期滞在してIS学園を見張れ、とはね。あぁ、ったく鈍りそうだぜ)…――――ともかく職でも探すかぁ」

 

 ちらりと手元にある身分証明書を見たオータム。運転免許証には、『巻紙礼子』『平成7年9月30日生まれ』『住所:大阪府中央区難波…』とご丁寧に続いていく。

 日本のコンピュータを気付かれることなくハッキングし、架空の人物を存在していることにするなど、亡国機業にとっては楽な仕事であったらしい。だとしても、この偽名はどうにかならなかったものか。

 呆れながらも片手に持ったキャリーバッグを転がし、踵を返す巻紙礼子(オータム)。早い所日本での活動拠点を確保しなければ路頭に迷う。

 …――――その時だった。人混みの中で肩がぶつかり、紙袋から山盛りにはみ出た食品がバランスを崩す。

 

「あっ、やっべ」

「おっと、すいません…――――って、あ?」

 

 宙を舞う缶詰にバケットを素早くキャッチした二人。顔を上げた先の懐かしく、忌まわしい記憶の友人と視線が合った。かつて同じ戦場を駆け、共に罪を背負ったチャイルドソルジャーが再会を果たす。

 

「…――――Sauma(サウマ)?」

「オー…っと、『アーミア・キー』か。久しぶり~……、でもないか」

 

 麦わら帽子を被った灰色髪の人物が、困り顔で哀し気な笑顔を浮かべていた。トマトの缶詰を片手に持ったままのオータムは、彼女は彼女で複雑怪奇な顔をする。

 

「あ゛、何言ってんだ。クルディスタンでお前らと別れてから、もう十数年近く経ってんぞ」

「まぁその話は追々な。つーか、こんなところで奇遇だな?」

「あー、まぁな…」

 

 急にしりすぼみになる彼女の口調。かつての記憶から逃げたのか、それとも今尚暗い闇の中にいるのか、対面する彼の内心は窺い知れない。どこまで踏み込んでいいものか。

 

「ふぅん。…時間あるならウチ寄ってくか?この近くでリストランテやっててな、コーヒーセットくらいならタダでご馳走してやれるが」

「…そりゃいい。お前、あの頃からレーション旨くすんの得意だったし、期待はしてやる」

「Hum, hum~♪Okey Dokey, Armia Key~♬」

 

 オータムの内心を知ってか知らずか、銀髪の乙男は鼻歌まじりに注文を承っていた。

 

「…――――あぁそれと。今の私は『巻紙礼子』って名乗ってる。くれぐれも変なこと言うんじゃねーぞサウマ」

「ん?まぁ…分かった。けど俺の店に来る客ってば、俺の過去を知ってるヤツが多いからなぁ」

「は?お前ペラペラしゃべってんの?」

「仕方ねぇだろ聞かれたんだし。それに、受け入れられなきゃ逃げるだけだしな」

「ワキ甘過ぎねぇか…大丈夫かよ危機管理」

「つーか、預かってる子どもがエターナ・クロニクルの義理の娘だしなぁ」

「げ、アイツもいるのか…」

「…――――いいや、もういねぇよ」

 

 ぼそり、と罪業を吐露するように。罪過に苛まれた咎人のように。年代記に刻まれることなく、ただ永遠に消えた命があったことを、かつての仲間に告げる青年。

 巻紙礼子は一瞬、目を丸くするも…――――すぐに表情を元に戻した。命とは死んで終わるもの。戦場にいた人間なら更に惨めに脆く死ぬ、それが当たり前だというように。

 

「……そうかよ。はっ、下手()きやがって」

「あぁ、バカな手に引っ掛かったって言ってたよ、あいつも」

 

 ただ、彼女は無言で歩く。葬儀の列に身を連ねるが如き静かな歩調で、麦わら帽子の彼の隣を、昔と同じように歩いている。

 

「…――――んじゃあらためまして、ようこそ巻紙礼子」

「…お?」

 

 目の前にはアンティーク調で、品の良い設えの料亭があった。喧騒な住宅街の一角にあるそれは何とも異質で、しかしながらも憩いの場のような穏やかな空気に包まれている。

 

「この俺、『石動惣万』の経営するレストランカフェ、『nascita』へ…――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただーいまー。…ほら巻紙、上がってくれ」

「あ、惣万にぃお帰り…――――あれ、そちらの方は?」

 

 整った顔の少年が、厨房からひょっこり顔を覗かせる。オータムはその声に聞き覚えがあった。

 

(おいおいおい、ちょっと待て。何で惣万、コイツと知り合いなんだよ…!)

「おぉ一夏。こいつは昔の知り合いで、『今』は巻紙礼子ってヤツだ。で巻紙、こっちが…」

「ッ。…織斑一夏君です、よね?IS学園に入ったっていう…」

「ふはは。一夏、すっかり有名人だな。まぁそれもそうか。今や国民的アイドルだもんなぁ?」

「うぇ…――――もはや俺にプライバシーってあんのかな…」

「ねぇだろうなー。あ、巻紙。こいつはうちの臨時アルバイトだが家族ぐるみの付き合いだ。そんな堅苦しい喋り方は性に合わんだろ、いつも通りでも大丈夫だぜ?」

 

 その言葉を聞いたオータムは、営業スマイルを引っ込めて、昔からの仏頂面で胡乱気に惣万を睨む。

 

「はぁ…わぁったよ。織斑…、もそれでいいか」

「あ、ども。大丈夫ですよ。それとすいませんね。俺はこれで、クロエに朝飯届けなくちゃなんで…」

 

 そう言うと、一夏は手にイタリア風パンケーキを持って、階段を慌ただしく駆け上って行った。

 

「(…マジかよ。早速大当たりじゃねぇか。イチカ・オリムラと接点のある惣万(コイツ)なら……)」

 

 オータムは思わず舌なめずりをした。上からの命令を実行するにあたり、ここは絶好の場所だった。ちらりと、台布巾で机を綺麗にする元悪友に視線を送る。

 

「(…――――迷惑をかけるだろーなぁ。ま、仕方ねぇか。元々クズみたいな溜まり場にいたもん同士、どんなことになっても恨みっこなしって覚悟はした。私も、コイツも。それに…――――)」

 

 その時、オータムの背筋に悪寒が走った。

 

「……ッなんでだ。お前、こんなに平和ボケした国にいるんだろ……?」

「…ん?急にどうした」

「……今も、あの糞溜めで戦わされてるみてぇな目ぇしてんぞ、ってこと、だよ…」

 

 顔を上げた惣万の目は、血のように爛々と輝いて、人の温かみを感じさせないものになっていた。一瞬、彼女が幻視するのは真っ黒なコブラ。毒蜘蛛の網を突き破る暴れ狂う自死の蛇龍。

 

何時(いつ)も、(いつ)も、戦わされている」

「っ」

「……、はは、人生は戦いだーっ!ってね。んじゃ、座ってろ。出来合いのもので悪いが、すぐ作ってやる」

 

 ふにゃりと顔が緩まる惣万。先程までの狂気に満ちた笑みは消えていた。

 

「お前……、何があった……?」

 

 その声に、惣万が答えることは無かった。永遠に応えることが無い問いかけだった。

 

「(……、いや、何だこの違和感?私はアイツを、知っている…?馬鹿か。そりゃ分かるわ、クルディスタンで殺し合いしてたんだから…――――)」

 

 だが、オータムの心に蜘蛛の糸が張り巡らされ始めている。何か、信じがたいナニカが迫り来ると、生存報告が警鐘を鳴らしている。

 ここから先に行けば、自分は死ぬと…――――。

 

「どぅーんっ」

「うぁぁぁぁあっ!?…なっ、ななな、なんだ…!?」

 

 素っ頓狂な声が出てしまった。

 

「ふぁ…――――おあよーまふゅたー…」

「…。お、おい?」

「あれー、まふたー髪伸びたー?染めちゃってまー…」

 

 目をこすりながら頭をぽふぽふしてくるトレンチコートの女。彼女はオッドアイの目を擦り、何度か(しばた)かせてオータムを見た。

 

「…――――え、誰?」

「…――――私はマスターじゃねぇ。今あっち」

「ご、ごめんなさい!なんか、雰囲気似てたから…?マスターのお姉さん?」

「いやんなワケあるか。あんな奴の家族とか吐き気がする…」

 

 オータムはとんでもない勘違いをしてくれた天才科学者に毒を吐く。そしてこの時こそが『因幡野戦兎(仮面ライダービルド)』と『巻紙礼子(仮面ライダー■■■■)』の、戦い合う定めの糸が絡まった瞬間だった。

 

【♪♬♫♩】

 

「あ、ちょ…マスター!スマッ、…あー正義のヒーロー(ボランティア)してくるね!」

「おう、行ってらっしゃい」

 

 スマホ型ガジェットを見た戦兎が、慌ただしく大通りを駆けていく。角を曲がるとあるはずのないバイクの音が聞こえてきた。

 何より正義のヒーロー(ボランティア)という言葉が引っかかった。石動惣万も巻紙礼子も、正義とは無縁の場所で生きていた。だから…――――。

 

「…――――無償の行為?馬鹿らしい。なぁんであんな頭お花畑女を飼ってやがる」

「なんだ、気になるならついていくか?幸い場所は分かってる」

「別に気になってねぇよ…気に入らねぇだけだ」

「そうか?…――――お前には丁度良い獲物かもしれねぇが」

 

 惣万はゆっくりと立ち上がる。しかしその挙動の中には、少年兵時代の殺気だった刺々しさがあった。

 礼子は一度逡巡するも、緩慢な態度でそれに続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ラビット!タンク!ベストマッチ!Are you ready?】

 

「変身!」

 

【鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イェーイ!】

 

 惣万と礼子は公園の高台から、ヒーローショーのような光景を眺めていた。

 

「おい、アレってまさか…」

「『仮面ライダービルド』。ファウストや亡国機業(ファントムタスク)に対する仮想敵として創られたもの。記憶も信念さえも後付けでしかない、何より可哀想な操り人形だ。…こんな俺でも涙が出てくる。なぁ『オータム』?」

 

 蛇が、蜘蛛に向かって嗤いかける。

 

「!?おま、何で…――――」

「ふふ、ははは、ははははは!」

 

 笑う。嗤う。哂う。何か、酷く愉快だった。深く、醜く痛快だった。狂ってしまった心が、己が所業を嘲っている。

 

【Cobra…!】

 

「蒸、血…」

 

【Mist match…――――!C-C-Cobra…Cobra…!Fire…!】

 

 血煙が吹き荒ぶ。人の心に通う暖かな血が劫火によって消えていく。そこには、人を捨て去った『悍ましいナニカ』がいた。

 

「おいおい…」

「俺がブラッドスタークだ。…――――『馴染みがあるのはこっちの声か?』」

「…――――はっ、お前かよ」

『そういうことだ。で、どうする。俺個人(・・・)としての頼みになるんだが…暫くあいつらの監視を頼めるか?』

「…機業を裏切れってか?」

『ご想像にお任せするさ。まぁ、この程度でお前を消す組織ならたかが知れてるがな』

 

 蛇と蜘蛛が兎を見て牙を砥ぐ。世界を滅ぼす力を振るわんと、共に禁断の箱に手を掛けた。

 

「…――――亡国機業からの指令はIS学園の監視だけだ。その合間で良いならやってやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みにその後の一幕。

 

 

「貴女か。惣万の幼馴染というのは」

「あ、あぁ…――――どうも世界最強(ブリュンヒルデ)

「…――――一つ聞きたいんだが、お前は惣万という人間をどう思ってる?」

「は?」

 

 傍から見れば恋敵のような問答を繰り広げた人間がいたとかいなかったとか。

 

 




巻紙礼子…原作から
平成7年…2022年で滝川紗羽と同じ27歳
9月30日生まれ…9()30(MO)
住所…難波重工


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夏休み閑話 『リストランテ・イン・織斑(オォラァァ!キャァァァァァ‼)』

戦兎「日常に潜むハザードレベルを計ってみようと思う。で、測定器を作ってみて完成したのがこれ」
一夏「唐突だな、オイ」
戦兎「何か試しに言ってみなよ」
一夏「じゃあ、外食で苦手な物が出てきた時」
戦兎「ハザードレベル0.1だな」
一夏「低ッ‼」
戦兎「もっと面し…もとい、ヤバイものはないのか?」
一夏「じゃあクロエを見て興奮するシャルルン」
戦兎「お、いいぞ。ハザードレベル3だ」
一夏「そういうのならとっておきのがある!惣万にぃに襲いかかる千冬姉」
戦兎「おぉ!ハザードレベル6だ‼」
一夏「あれを見たときは惣万にぃが本当にヤバイと思ったからなぁ……」
戦兎「じゃあ、次の…」
千冬「お前達、楽しそうだなぁ…」【マッスル!フィーバー!】
戦兎・一夏「「ヤベェェェェェェェイ!!」」


 えーと、おはようございます。わたくし石動惣万二十四歳。花の独身レストランオーナー、悠々自適な毎日を送っておりました。…――――何か悪いことしたかな?今結構ピンチです。

 では、今の俺の状況を確認してみましょう……。右向け右。

 

「えへへー……しょうりのほうそくー……さいっこーれしょー……」

 

 無造作だが艶のある黒髪、赤ん坊みたいなぽわぽわした産毛が生える白い肌が俺の目の前にあった。そして薬品の匂いに混じった甘い匂いが嫌でも鼻に入って来る。

 トレンチコートを着た美人が俺を抱き枕にして寝こけていた。しかも馬鹿でかい胸部に腕挟まれて、動くに動けねぇ。

 

「……。……んぅ……」

 

 しかもそれだけじゃねぇんだよなぁ。何でなんだよ、本当に、泣いて良いかなぁ?

 ……、左向け、左。

 

「……いちか……、はんこうき…きちゃった…、そうま、どぉしよぉ…うぅ……」

 

 どうにも悪夢を見ていらっしゃる黒髪の麗人。眉間にシワが寄り、うーんうーんと寝息も苦しそうである。つーかうん、ブラコンめ。それ以外に言うべきことがありませんわ。

 

「ぅうん…」

「ふぇるまーのさいしゅーてーりー…」

「…――――黙ってりゃ二人とも美人なのになぁ…」

 

 いや、そーじゃねぇ。落ち着け。

 つかこいつら何で身体密着させてきてるだ。抱き枕じゃねぇんだが。え、羨ましい?これ見て言えるか、下向け下。

 

「……きざみますよ……あっ……グリス……そんなのだめ……無理矢理は……」

 

 俺の股座で頬を染めてモジモジする我が愛娘(血の繋がりはない)。変な寝言言ってるが、何の夢を見てるのか分からん。…――――つか考えたら駄目な気がする。俺はそっとそのパンドラの箱を閉じた。

 と言うか何でお前そこだ。色々と倫理的に問題あるだろ、だっこちゃんじゃねぇんだぞ。自分の布団で寝ろよ、いやリビングのソファーで寝てる俺が言えたことじゃねーけどさぁ。

 

「…――――っ。はぁ、これどうすりゃいいの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故こんなことになったのか、それは一日前にさかのぼる。

 

「つーわけで、nascitaの天井に穴空いてな。部屋貸してくれ」

「シャルル、お前……」

「…………わりぃ。だが反省はしてる。それにくーたんの可愛さに易々と気絶してしまった事に恥じ入るばかりだ……」

「天井突き抜けて星になって気絶、じゃねぇのかよ……」

 

 俺ら(と荷物持ちのシャルル)が大荷物で織斑家へ。騒がしい一団に一夏や千冬は眉をひそめていた。

 いやまぁそうだわな。俺だって急に来られたら困るもん。でも何だかんだ招き入れてくれるって流石一夏だ。千冬は原作とは違い数日間休みを取ったらしく、俺らが夕方押しかけても家にいた。

 

「……と言うか惣万、今日泊るのか?」

「あぁ、丁度nascitaの改修工事を始めてるんだわ。数週間厄介になる……」

「それとオレも泊るよ~」

「は!?」

 

 ギョッとした目で戦兎を見る千冬。

 

「いや~、最近人肌恋しいお年頃でさぁ。あの日みたいにベッドに連れてってよ~ぅ、ね?マスター?」

「……………………(スン……)」

「……――――どうしろと?千冬さん?そんな据わった目で見られても俺にどうしろと?(;・ω・)」

 

 ハイライトが消えた目で見つめて来やがる千冬。コイツの目、俺の生存本能が『ヤベーイ!』と警鐘を鳴らしている。直視したくはないが、ここで目をそらすと悲惨なことになりかねない。それこそ隣のホテルで朝まで語り明かす(ただの説教である、意味深ではない)ことに無きにしも非ず。

 

「……ってか違うからね!?戦兎を初めて見た日の事だからね!?雨に濡れてた子犬…じゃねぇ戦兎の体力消費が激しかったら肩貸しただけだからね!?」

「お前等二人、ちょっとそこにナオレ。少々話し合いをだな……」

 

 あぁ本当に能面みたいな面構えになってやがる。ほんと女性の直感って恐ろしいんですけど、超能力者の感覚以上だよ。

 

「あぁ分かったよ、付き合ってやるから荷物置いて良い?俺の部屋あったよな確か……」

「えっ、や……ちょっと待て?そんな事より先に説教をだな……」

 

 伊達に何年も幼馴染をやっているわけではない。こうなった際の対処法も色々と熟知している。ひとまずこいつは座らせてお茶を出してやれば落ち着く場合が多い。さって……。

 

「……。おい、何でお前は俺の部屋の前で扉を押さえているワケ?」

 

 俺の借り部屋の前で身体を盾に、ドアを開かせまいと阻んでくる幼馴染。俺が手を動かせば、サッ、サッと機敏な動きでドアへの空間を絶つ。……世界最強の無駄遣いだ。

 

「……おーい、この部屋俺が借りた部屋だよな?毎月三千円払ってるよな?」

「えぇい喧しい、貴様は私の母親か!あ、おい惣万!余計な事をするな!」

「別にお前の中二時代のアルバムを見せようなんて欠片も思っちゃ……へぶぁ!?」

 

 丁度その時である……。ドアが千冬の服に引っ掛かり、部屋に隙間が開く……。それと同時に。

 

―どんがらがっしゃーん‼―

 

 ……。……――――うん。お気付きかと思いますが、千冬さん、家事駄目だったっけね。

 何が言いたいのかと言えば、つまり。

 

「千冬……。俺の部屋を物置にしやがって……昔モノの整理清掃後片付けのいろはにほへとを教えたよなぁ?」

「……」

 

 どっさり、その言葉が相応しい。こけしとかヤカンとか木彫りのクマとかと一緒に抱き合う形で埋もれる俺ら。いや、色気もクソも無いんだが。

 取り敢えずどいた方が良いのでは?その、明らかに密着し過ぎなんだけど。

 

「ってそうじゃねぇ、とっととどけ。重いんだよ……!」

「っだと……?これでも臨海学校の時体重は絞った‼」

「…――――口は軽くなったと思うぞ千冬姉。それに最近顔色悪いじゃん」

「……、ストレスかもな…」

「…ちゃんとした栄養摂ってるか?いつも何食ってる?」

「…『プロテインラーメン』……カップヌードルの」

「…――――女子力(物理)」

「お前……‼教師舐めるなよ…、自由時間なんてほとんどガキ共の世話に注意に板挟みに…ぅう」

 

 頭を抑える千冬。ここ最近は俺のせいで頭を抱える回数が増えたもんなぁ……――――色んな意味で。

 よし、キッチン借りよう、ひと夏の思い出作りの一環として。

 

「なら今夜は俺が久々に料理を作ってやろう、ありがたく思え」

「誰が感謝など……む、ビール買ってきた?上物?本当なら店で出す用?…それなら、美味い軽めのイタリアンをだな……」

 

 ………変なところで意外にチョロいんだよな、織斑家の人たちって。

 

 

 

 そして夕食。

 

「…………ソレにだな。飲みに誘っても真耶なんかぐらいなんだよ、一緒に行ってくれるの。遠慮しますか機会があれば是非の二通りでなぁ、……それにみんな私が結婚に興味ないとか思ってるみたいでさぁ……、私の前では合コンとかの話題がタブーになっているっぽくて…、いや、別に良いんだぞ?でも、それが周りの人間に負担を強いているような気がしてちょっとしんどい時があったり…。仲良くしたいのに強面が悪いのかみんなみぃんな委縮してくるんだ。この顔か、この顔が悪いのか?それとも口調がだめなのか…」

「おーそうか…大変だったな。(一夏、水持ってこい水!)」

「言わんこっちゃ(ねぇ)

 

 上手いこと言ったな一夏。座布団一枚やるから飲兵衛共に布団敷け。

 

「あー、チッピーセンセってば甘えてるー!」

「そんなわけないだろ…む。いちかぁ、料理が足りないぞぅ」

「いや、千冬姉。もうその辺にしとけって…?」

「むぅ…最近生意気になったなー、このぉ」

 

 一夏の頬にぷすっと指を押し付ける千冬。いい気分なのか血色が良い顔でふんわり笑うのを学園の連中に見せたら驚愕の嵐だろう。これ程のんびりしてる顔は昔でも数回見た程度だ。ぶっちゃけSSレア。

 

「…やばいぞ、本格的に泥酔してる。どーしよう、惣万にぃ?」

「そろそろお開きだなぁ…ちょっと目を離した隙に何杯飲んだんだこいつら?」

 

 惨状を示すように瓶がゴロゴロ床に転がっている。これだけあったら買いっぱなしになった模型と合わせて結構な量のボトルシップ作れるな…。

 

「アッハハハ!オレよんんじゅーしゃんびーんっ♪よるはやきにくっしょぉぉぉぉ、いぃゃっほぉぉ♪ほーら一夏も食べろ食べろー」

「戦兎ォ!おまっ……それだけ飲むの危険だ馬鹿!つか睡眠薬とか効かない体質とか言ってなかったっけ⁉」

「…ぐすっ……」

「え、ちょ…千冬?あの、千冬さん?…――――泣いてない?」

「泣いていない…、強いて言えば少し涙腺が緩く……一夏がこんなに大きく逞しくなって…」

「あーはいはい、もう大きいですよー、そろそろ寝る支度してくれー?」

「おとまりだーっ!ねね、チッピー、修学旅行でコイバナとかしたー!?あはははは!」

「戦兎も、こんなに変わって…私は、わたしはぁ…っ」

 

 あっちは笑い上戸でこっちで泣き上戸、つーかカオス理論が展開されててどう突っ込めばいいのか分からない。勝利の法則をご教授願いたいんだが、誰か知ってるかなぁ…。

 

「…ぐすっ、いい子に育ってくれたなぁ。一夏…ありがとうなぁ…」

「千冬姉その言葉もうちょっと素面の時聞きたかったな。とりあえず、結構恥ずかしいからやめくれ。…うん頭撫でようとするのもやめて、キャラ崩壊だって」

「…――――ぅう…、いちかが、反抗期…」

「ちょ、お前ほらハンカチ使えよ?…いや俺の服使うんじゃねーよ伸びる、伸びッ…伸びちゃうでしょーが!」

 

 まるでダメなオンナ(マダオ)状態の二人をあやしているうちに、千冬が服を鷲掴みにして、タオルがわりに自分の涙や何やらの液体を拭く。ずずっ、だとかぐすぐすだとかビリ、だとか言う音が聞こえて飯が食えねぇんだが……。って『ビリ?』

 

「…………あぁーっお前、おっま…!コレ高かったんだぞ、もーこの世界最強(笑)‼」

「って戦兎さんヤメルォ!冷蔵庫開けっ放しにするんじゃねぇ電気代かかるじゃねぇか‼」

「……。……大人ってたいへーん……」

 

 クロエはぬいぐるみを抱えながらカナッペを食っていました、まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……回想終了。そんなこんなで酔いどれ女共はリビングにてオッサンも真っ青な酒瓶を大量に開け夕食中に寝こけやがったんだ。

 それで俺も自分の部屋が千冬の所為で魔窟と化してたのでここで寝るしかなかったんだが……、何時潜り込んできやがった。

 

「はぁ、最ッ悪だ……。何だこの状態。回想してもわけわからん」

 

 おい誰だ両手に花とか言った奴。片方が元天災兎、片方が世界最強だぞ。下手すりゃ花は花でもキレーな血肉飛沫の徒花が咲くんだよ、そこんとこ分かって言ってる?材料は100%俺ね。若しくは二人ともロケットランチャーで打ち上がる花火だわ。

 んな爆弾抱えたくねーよ。しかもさっきから両方の美人たちの力、万力みたいに締め付けがキツクナッテあだだだだ。

 

「……うーん、これ起こしたら修羅場突入だけど今のままだと確実に圧死するわー」

 

 特に両の胸で。社会的な意味で。しこたま酒飲ませて一夜を過ごしたとか言われたら、なんも言い換えが必要ないから。訴えられたらこっちが悪いと言われかねないかもだしこのご時世。まぁこいつらがそんなことするわけないけどさ、線引きはきちっとしとこう。

 

「……つか一夏はまだ起きねぇのか、それとも理解してこねぇのか」

 

 …――――後者の気がしてならねぇ。こーゆーイチャイチャイベントは主人公がやるべきなんだよ(実姉妹含む、頑張れ一夏)。俺優柔不断ノナンパヤロー!クローズエボル!とかじゃねーし、生前から女の子の扱い慣れてねぇし。ちょっとモテてたくらいで、一夏とかアイドルとか『漫画かよ』な方々に比べたら普通にあるアレだし。

 

「……あーもう、覚悟決めろ、俺。よし…――――起きてくれー。あっさだよー?」

 

 まず一番純粋なクロエから起こそうっと。

 にしても綺麗な銀髪だよな。上物のシルクでも触っている気分になる。……我ながら両腕をバカスペック共にホールドされた状態でよく手が動かせたと思う。普通の人の身体だったら酸欠で指壊死するんじゃね?

 

「……んぁ……?」

 

 お、意外に素直に目が覚めてくれたな…。

 

「……おとーさん……。だっこ……」

「……いや待って、ちょっと待とうか」

 

 寝ぼけてる?ハイハイして俺の顔に一直線に来るんですが……、ちょ、シャルルどーにかしろ……―――

 

「……ぉとーさんだーいすっ『へもぁ‼』」

 

 ………うん。何があったのか分からんが、俺の胸当たりで一回転でんぐり返ったクロエ。しかもよりにもよって開脚前転だった。そうしたらネグリジェが巻きあがるのは当たり前であって……そしてその両脚が開かれているとはつまり。

 

―ごすんっ―

 

「……ん?」

「……………………、ぁ?」

 

 俺の両脇にいた天災と最強の頭にクリーンヒットして起きちゃった。

 

「「……………………えっ?」」

 

 そして寝ていた状態で俺の方を向いていたっつーことは、つまり俺の今の状況が寝起きの目に入って来るってぇことで……。

 

「……むにゅ……ぐ……あ゛ー……」

 

 クロエの両脚に挟まれソファーに押し付けられる俺の顔……。しかもしかもさらに悪い事に、左側に顔の正面が逝っちゃってるんだよね……(誤字にあらず)。

 

「…………………………、…………(じー……)」

「あー……、オハヨーサン?」

 

 寝ぼけた目が徐々に覚醒してくる我が幼馴染。焦点が合わないぼんやりお目々……――――だったのが俺の格好を見て据わり出す。

 

「……………………えー、っと。チフユ・サン……?」

「……………、…………?……………ッ!………っっ⁉……!!?………⁈……っッッ!!!!」

 

 あ、これ大噴火三秒前だ、俺知ってる。だって、幼馴染に『義娘が顔の上に乗っかっていて』、『片手に抱き着き巨乳科学者が寝てる』状況で『自分も一緒だった』って、とんでもねーシュチュだもん。しかも記憶飛んでそうだから驚き倍増だろうし。怒られても文句言えまい俺。

 

 

 

 

―………ッッッッドッガシャァァァァァァァァァァァァァァァァンッッッッッ!!!!―

 

「わっ!何々!?ガス爆発ですか!?」

「へぶっ!?…ちょーッ、クロエどいてよ‼何で空中から落ちてきたの!?オレ餓鬼のパンツに顔埋めるシュミ無いんだけど!」

「はぁ⁉私19歳なんですけど!」

 

 ギャグ補正が追加されたパワーで窓ガラスを突き破り、織斑家のブロック塀に激突する俺。クロエを放り投げたのはグッジョブとしか言えないだろう。

 千冬を見たら真っ赤になった顔で『あ、やっちまった』と顔を青くし、チアノーゼっぽくなっちゃってる。いや、顔青くしたいのはこっちなんだが。すげーなお前マジで。ギャグとはいえハザードレベルが7.5まで急に引き上がったぞ。ヤベーよ。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「あーいってー……頭割れるかと思った…。細胞レベルでオーバースペックで助かったけど……」

「……………――――申し訳ない」

「いや、俺も悪いしアレは…」

「いや私が…」

「いやいや俺が…」

「オレも頭痛いー……昨日酒飲み過ぎたのかな……ウッ、ごめっ一夏、ちょっとトイッ、れ゛ぇぁあッ」

「あぁもう戦兎さんビニール袋持って行けよ!」

「お義父さん、はいあーん」

「お、あんがとクロエ。千冬もおかゆいる?鯛の霰粥」

「…あ、あぁ」

 

 俺の声にビクッと肩を揺らす面目丸つぶれ感がある千冬。二日酔いで頭がやられて吐きそうになる戦兎。それを目撃して甲斐甲斐しく介護をする一夏。酔い覚ましのお粥を作って俺に食べさせてくれるクロエ……いやぁ、平和だわ。

 

「……ところでお前達、いつもそんなことをしているのか…?」

「……いやそんな訳ムグッ?」

 

 否定しようとしたら口塞がれた。

 

「いやあ、親子ですし?」

「……義理のだろう」

 

 クロエの常識ってアニメとか人の話とかに偏ってるんだが、……まぁ戦兎が言うには『可愛いから良いじゃん!』ってことになってる。俺はちゃんと正しい常識を教えてはいるよ?だからだろう、世間知らずなふりして結構したたかで愉快犯的なところがある。フッ、と勝ち誇った顔してこの一言。

 

「……嫉妬?」

「…………――――おい惣万、このガキちょっと調子に乗らせ過ぎでは?」

「あー、そうか?」

「そうだろう、見てみろこの腹立つ笑顔!」

「えー?くーたんわかんなーい!」

「こっいつ…」

「うん。言いたいことは分かる。でも俺に似て人を揶揄うのが好きになっちゃっただけなんだよ、許してやってくれこの通りだー」

「許さん」

「待て待て待て千冬姉、それしまえ!」

 

 忍者フルボトルを握りしめてる千冬を見て慌てて止る一夏。うーん、いつもの調子だな。

 

「…どったの惣万にぃ、千冬姉となにしたの」

「あー、朝ちょっと色々あってな」

「え、何があっ―――」

「……(ボフン)」

「あ、おk把握」

 

 顔が即座にトマトみたいになる世界最強。耳の穴から煙が蒸気機関のように噴出しているんだが……、脳が沸騰しない様にな。

 

「……何故私があんなことを……いいやそもそも酒に酔っていたからだ、昨日はつい自制が効かず魔が差してしまって……つまり惣万や一夏の作ったツマミが私好みの……」

 

 頭ん中、昨晩の記憶思い出し中↓

 

(いちかはいーこだなー、いーこいーこ…)

 

「……………ーっ、ーーーーーーっっっ‼」

 

―ごろごろごろ―

 

「何してんです?」

「聞いてやるなクロエ。盛大に自爆死したんだよ」

「?銃火器の類はないけど……………」

「うんそーだけど、こー言うのを自爆って言うんだぜ」

 

 

 

 

 そんな弟に素直になれない姉(ブラコン)のことは放っておいて、朝食を摂り終わった俺達は各々自分がすべきことをして暑さをしのぐことにした。

 

「あーにしても極楽極楽……。やっぱりお前んち涼しいよなぁ、風通しもなかなか……」

「惣万にぃ、ダレてないで昼食の用意してくれよ」

 

 皿洗いをしながら一夏は呟く。千冬……はまだウンウン唸ってるし、戦兎は嘔吐し終えたすっきり顔でフローリングに寝そべっている。……自分含めて大人組ェ。

 

「そう言うと思ったから出来あいのモンタッパーに詰めて持って来た。クロエの食欲が落ちてそうだったからアボカドの冷製スープとか……」

「流石。千冬姉も見習って欲しいよ…」

 

―ピーンポーン―

 

「ん?何か来たかな、ちょっと見てくる」

「いったらっさいちか……ってクロエどした?」

「……スゲーやな予感」

 

 ウゲェ、とでもいいそうな顔をしているクロエ。その反応から大方のアタリを付けた一夏はベルを鳴らした人物を追っ払おうかどうか思案し始めた。……あぁ、うん。俺も分かった。

 意を決してインターフォンを押す一夏。

 

「はいどなたでしょう……」

『くーたぁぁぁん!来ちゃっ「帰れよクロケット」ァア?てめーにゃ言ってねーよエビフライ』

 

 変態紳士、降臨。満を持して無いから帰ってほしい、一夏やクロエはそんな顔だった。俺、意外にこういう騒がしい子好きなんだがな…。

 

『……あーじゃしょうがねー、ここにくーたん用のプレゼントを置いておくから、えーっとツギハギシロウサギのうーたんに欲しがってたなぜTシャ…「だーもう分かった入ればいいでしょグリス!」良いのかくーたん!』

「ゴリ押しじゃねーかどの口が言ってんだ……」

 

 一夏の目がチベットスナギツネみたいになっている。

 

「…――――因みになぜTシャツとは『橘さん‼なぜ見てるんです‼橘さん…!オンドゥルルラギッタンディスカ‼アンタと俺は仲間じゃなかったんでウェ(以下略)ナズェダァァァッ‼』と書かれたいつ着るべきかよく分らんTシャツ。そんな見た目に反して愛用者は多くて、『ブリュンヒルデ(笑)』とか『それに似たちっこい子』とか『のほほんとした人』が購入するのが目撃され密かな人気になってるとか、なっていないとか」

「何言ってんの惣万にぃ?」

 

 仮面ライダー剣15周年記念Tシャツ紹介。

 

「あくーたんアイスいる?迷惑かけちゃってゴメンねー!」

「ほんっと迷惑……。あ、でもアイス寄越せー」

 

 シャルルの持っていたクーラーボックスに集るクロエ。はむはむ言いながらアイスを食う、ネットアイドルの中の人(くーたん)の姿を見るシャルルは、何とかジャンプしない様に耐えている。ここで天井突破ジャンプすんなよ。千冬に真っ二つにされるぞ。

 

―ピーンポーン―

 

 ……ん?また……?

 

「あー、一夏。惣万さんが泊っていると聞いて差し入れを持って来たのだが」

「アタシもー、最近お父さんの癌が治って今日厨房に久々に立ったんだけど、その時作った麻婆。持っていきなさいってお母さんが」

 

 うわー、IS学園の生徒が続々と……。

 

「どうだ嫁、急に来てやったぞ嬉しいか!」

「頗るどうでも良い」

「がはっ!」

 

 口からショックで血の様な何かを吐く。…って、この匂いケチャップ?何でそんな古典的な手を。

 

「副官に教わった!」

「食いもんで遊ぶな銀髪!」

「あーラウラァ…騒がんでくれぇ、頭痛ぁい…」

「……イツメンねぇ。ってことは?」

 

―ガラッ―

 

「一夏さん、惣万さん、庭の草むしり終わりましたわ。あとガラス窓の修理も終わったので確認をば…」

「おーそうかい、ごくろーさん。麦茶あるが飲むか?」

「頂きますわ!」

「……セシリアアンタ何してんの?」

「見て分かりません?草むしりその他諸々のバイトですわ。この町内、かなりアルバイトの広告が出てて丁度良いんですのよ」

「イギリス貴族ゥ‼」

 

 鈴はブチ切れながらセシリアと揉め始めていた。なんでも代表候補生として恥じない行いをしなけりゃお国がどうとか……。本当にどーしてセシリアこうなったんだろうか。

 色々と変わったな…。それとこれからも、色々と変わって行くんだろうな…。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「あー…、アルコールで頭ガンガンする…。ハザードフォームの暴走制御案が固まり始めてんだけどなぁ…。全然頭働かないや」

 

 篠ノ之束時代はアルコールで一切酔わない体質だったらしいのに、と頭のどこかで考える。しかし過去は過去のこと……むしろ失って初めて得るものもある。こうして『大宴会の馬鹿騒ぎの後、ダラダラと友人宅で昼間まで惰眠を貪る』という穏やかな休日を楽しむことを初めて体験する戦兎。その顔は頭痛に悩まされながらも、どこか嬉し気だった。

 

「程々にな戦兎ー」

「はーいマスター。……、その前に武器にしてシステムの試運転をした方が良いか。丁度戦力アップも必要だし。一夏もシャルルンも近接特化だから、……ブラスナックル型かな。となるとここはボース・アインシュタイン凝縮の…。いや待てよ、コンセプトは別にしてどっちが効率的か調べといた方が良いかも…」

「あぇー、程々にねって言ってんのに……散らかさないでくださいよー戦兎ー、こっちが片付けないといけなくなるでしょー」

 

 チューペットをぽきりと折り、だらしなくしゃぶるクロエ(19歳)。夏休みに入ってからというもの、接客サービスが無いのを良いことに、常時パジャマですごしていて生地がもうヨレヨレである。午前11時で(知り合いとはいえ)来客者の前でだらけまくってる。こんなのがケミカルライトの光とファンからの歓声を浴びているとか、現実は非情ではないだろうか。

 

「あー……、気分転換におやつでも貰おっと。マスター、何かないー?」

「モスタルダなら冷蔵庫に入ってるぞ……。おーい、シャルルンだっけ?お前もなんか食べる?」

「いえッ、ご馳走になるくらいならボクがご馳走します!シャルロット・オ・フランボワーズなら今作れますがッ!」

「あーなら、レディ・フィンガーあるしシャルロット・リュスでも。……あと一夏はどうする?」

「千冬姉がこーなるの目に見えてたから、アルコール抜くのに丁度良いのを昨日下拵えしてた。こっち気にしないで始めてくれ」

「んー、じゃ俺は冷蔵庫の中身と相談して…っと」

「…駄目だコレ。絶対長くなるパターンだよ、これだから料理男子は…。なら自分で何か作ろっと…」

 

 

 

ぐれているのかまど(かずみん「…ん?」)

 

レアチーズケーキもどき

自家製生クリーム200ml

砂糖お好みで

自家製ワインヴィネガー大さじ2

 

を全部混ぜます。以上で完成。砂糖のかわりに溶かしたマシュマロを入れて固めたり、ラム酒をお好みでいれてみたりしても美味しい。酢の種類を変えたりしてみても面白いかも。

市販のものや、クッキーを砕いて作ったタルト生地に入れてお召し上がりください。

 

「マシュマロは砂糖とゼラチンの代わりになるから手抜きスイーツには重宝するんだよな」

「プリンにもパンナ・コッタにも使うよな惣万にぃ」

「ま、店で出す料理は手抜きにできないから使わないけど。お、もう一つ作れるな…」

 

手抜きプディング

自家製マシュマロ240g

卵3個

牛乳600ml

を全部混ぜます(マシュマロはレンジで溶かしておきましょう)、泡立てずに丁寧に。器に注いで冷蔵庫で冷やします。ついでに余ったマシュマロでカラメルソースを作ります。

以上で完成。

 

 

 んで、数時間後。おやつの時間。

 

 

 

「心火を燃やして……――――シャルロット・リュス完成!くーたんどーぞッ!」

「よーし盛り付けてっと、できたぞ千冬姉。アボカドのジェラート。キウイフルーツとバナナはお好みでつまんでくれ」

「俺の方は余ってた食材でスイーツもどきをな。手抜き料理だがまぁ食えるレベルには仕上がってる。…何、本気の料理が食いたい?金払えば食わせてやる」

 

 女子たちの前には、明らかにクオリティがオカシイスイーツの数々が並んでいた。

 

「…これ、自家製の域を超えてますわよね」

「ん?俺のは誰でもできるヤツだぞ?」

「いや惣万さん、自家製素材を文字通り一から作れる人中々いませんって。ワインビネガーって材料の葡萄からお手製でしょう?卵とか牛乳とかも契約農家と相談して飼料から選び抜いたヤツですし…」

「あぁうん、俺凝り性だし…でも誰だってできるだろ?理論上は」

「机上の空論です!」

 

 一夏やシャルルなどの料理男子はさらっと流したが、箒が的確なツッコミを入れてくれた。

 

「……――――男連中のほうが女子力高いとかヤになるわね。一人女子力どころの話じゃなくなってるけど」

「えぇ本当に…かつてのわたくしと雲泥の差すら生温いですわ…」

「一夏も惣万さんも昔からこうだった…。だから料理するのが凄まじいプレッシャーで…」

「えー、私は別に気にしませんが。さすがマスターってだけですし、美味しいもの食べられてラッキー」

「流石、嫁だ…」

「ボーデヴィッヒが『嫁、ヨメ』と連呼するからか、こいつらを『主婦』というのが正しいと思えてきたぞ、私は…――――よっと、先ずこれを貰うとするか」

 

 そんな小娘たちの嘆きもそこそこに、早速だらけながらアボカドジェラートを掬い、口に運んでいる千冬。目じりの鋭さも解れており、若干気安さも感じられる。教師というより友人のお姉さん要素が色濃く出ていた。ひょいパクとレアチーズのカップケーキを頬張りつつ、別の菓子を手に取ろうとする千冬を見て、ようやく我に返る生徒たち。おやつを口に運ぶため、我先にと小皿に手を伸ばすのだった。

 

「…で、お前は何作ってんの?」

 

 その女子対抗おやつ争奪戦の輪に入らないものが一人。さっきからずっと気になっていたシャルルは、キッチンの隅でフラスコやらシャーレやら片手に工作してた戦兎の肩を叩いた。

 

「ふっふっふ……――――これを見よ!」

 

 ゆっくりと男子メンツの方を振り返る天才科学者。その手には、シュワシュワと音のするビーカーが握られている。

 

「うわ、何したのこれ」

「名付けてRTスパークリングソーダ!どう、すごいでしょ、てんっさいでしょ、さいっこーでしょっ!」

 

 ビーカーに注がれた赤と青の液体が混ざり合うことなく、不思議な光を放っている。ぶっちゃけ蛍光塗料と同じ様にブラックライトに光っている。突き刺さった二股ストローは可愛らしいが、逆にそれだけが異彩を放ち、飲むのが億劫になること請け合いだった。

 

「……ラビットタンクスパークリングの中身を直接コップに移した、とかねぇよな?」

「そこまでマッドな訳ないじゃん⁉」

「「「「「「「……――――」」」」」」」

「何でみんなそこで黙るの!?大丈夫だから!身体に害になるようなものは一切入ってないから‼」

 

 ……お前行けよ、いやだよ、とばかりに目線で牽制し合うポテトとエビフライ。次第に目が潤み泣き出しそうになってしまう戦兎。あぁしょうがないとばかりにコップをもぎ取ったのは惣万だった。なんだかんだで優しい損な性格をしている。

 彼は意を決してストローの片方からその溶液を吸い込んだ。

 

「(ちぅー……)」

「……、…マスター?どう?」

「……うん、成程。これブルーハワイシロップを混ぜて固めたパインゼリーだな、ラムネパウダーが入ってるから食感が面白い。それとこの赤いジュース、トニックウォーターとクランベリージュースをステアしたのか?」

「わ、一発で分かったの?マスター凄い!」

「まあ、伊達に料理店(リストランテ)してねぇからな」

「マスターのエスプレッソ・トニックが美味しかったから参考にしてみたんだ、どうどう?」

「店に出しても問題なさそうだよ、……お前もちゃんとすればできるんだな」

「料理は科学だよ?公式にあてはめれば然るべき反応が起きるのは当然だよ!……――――でも褒められて嫌な気はしないね~、えへっ!」

 

 彼女は気分良さそうに跳ねる。ついでに言えば後頭部の髪の毛も跳ねる。スキップ混じりに鼻歌を歌い、どこかに飛んでいきそうだった。

 

 

 

 さて、面白くないのは女子連中、特に料理上手で通っている面々だった。

 

「なーんかこんな料理見せられて、あたしの中の女子力対抗意識がメラメラしてきたわよ…」

「そうだな、丁度夕食時になる…。これだけの人数だ、バイキング形式にするか」

「バイキング?…あぁ、ビュッフェスタイルのことですわね」

「それなら好きな量を取れて無駄もでないだろう。私も箒の意見に賛成だ。嫁にいい所を見せて振り向かせてやろうではないか」

 

 

 少女たちの心に火が付いたらしい。買い物から帰ってきたら一時間後にここで料理開始、ということになった。

 

 

 

 

 

「……で、なんで私が織斑家にお呼ばれしなきゃらなねぇんだ?」

「んなこと言うなよ巻紙、大勢で食った方が楽しいだろーが」

「いや初対面の連中ばかりのところに放り込まれてみろ、こっちも向こうも困るだろうが!」

 

 夕方になって、再び活気づく織斑家。また一人、また一人と人が集う。そして、その中には新しい顔がいた。茶髪に目付きの鋭い美人さんが、織斑家の片隅でどこか居心地悪そうにしている。

 

「何?お前人見知りなほうだったか?…いや、そういえばあんま人と接しないタイプだったな」

「おかげさまで。つーか私らの中でお前が異質なんだろ」

「否定はしない。が、平和な国では平和な国なりの人との関係性ってやつがある。なによりこれから多分色々と接点できると思うし顔合わせも兼ねててさぁ?お前は新しく入ったアルバイトとしてかなり重宝する予定だから、そのつもりで」

「えぇ……マジかよ…」

 

 そんな二人の前に、出来上がった料理が差し出された。

 紅葉おろしと和えられた白身魚のカルパッチョ、…――――その趣向は一夏のものとよく似ているが、繊細な飾り付けは彼とは些か異なっているのが惣万には見て取れた。

 

「…――――これを作ったのは君かな、箒ちゃん」

「えぇ。お待たせしました、『真鯒(マゴチ)の和風カルパッチョ』です。それとこちらが『ウチワエビのトマトスープ』で…あれ、惣万さん。そちらの方は?」

 

 ようやく気が付いたのだろう。彼の隣にいる赤毛の女性に対し、訝し気だが無防備な表情で尋ねる箒。その信用に惣万は些か苦笑する。

 

「あぁ、こいつはnascitaに新しく入る予定のバイト。巻紙、ほら挨拶」

「うっせ、お前は私の保護者か?…いや、そんな感じだったなお前は昔っから。あー…、篠ノ之箒だったか?巻紙礼子だ、この腐れ縁の野郎と暫く世話になる。よろしくしたくなきゃそれでいいが、まぁ初めましてだ」

「これはどうもご丁寧に。そうですか、惣万さんの…。あぁどうぞ召し上がってください」

 

 ほんの少し螺子くれた自己紹介に困ったように笑うも、箒は穏やかな顔で彼女に料理を勧めるのだった。

 

「ん、ども……――――え、うっま。ちょっとびっくりしたんだが?」

「あ、ありがとうございます。それはお粗末さまでした。それでは私は次の料理がありますので」

「末恐ろしい餓鬼だなあいつら…」

 

 実は巻紙、色々な場所に仕事へ行く都合上、自然とグルメになってたりする。そんな彼女の舌を唸らせる箒は、そんじょそこらの女子とは比べ物にならない料理の腕。

 箒はちらりと含みのある視線をキッチンへ向けると、『よろしくお願いします』と声をかけて料理の配膳へ戻って行った。

 

「調子はどうだお前たち?」

「…あぁ箒さん。エスニック三色ガパオ、そしてニョッキのラビオリトマトソースの完成ですわ。ラウラさん、そちらの鍋は大丈夫ですか?」

「問題無い。しかしセシリアも伊達という医者に料理を教わったのか。どうりで味付けが似ていると思った」

「まぁ。色々とお世話になりましたからね…昔のわたくしの料理、それはもう酷い有り様で…、香水とかシャンプーとか隠し味に入れていましたから……」

「さ、流石にそれは酷いな……――――お、よしDr.伊達特製おでんの完成だ」

「あたしは庭にあった茄子を麻婆にしてみた。隠し味はブドウ酢と黒酢を合わせたんだけど、中々良い感じよ。問題は…」

「うむ、あれだな…」

 

 箒と鈴が見た先に、中々に珍しい組み合わせの二人組が立っていた。

 

「はい大葉刻んでー、茄子も輪切りにしてー。ほいちゃっちゃとやる!」

「待て待て待て、早い早い…」

「大丈夫かしら、アレ…」

 

 日本が誇る世界最強とフランスが生んだ過剰戦力天然素材が、キッチンの一画で素材を相手にてんやわんや。なんでもシャルルが千冬に『暇なら食ってるだけじゃなくて手伝え』とか言ったらしい。

 

「嫁は教官と何を作っているのだ?」

「フランス料理のフルコース作ろうと思ったんだが、くーたんに止められた」

「そりゃそーでしょーよ。アンタさ、クロエの前になるとアクセルべた踏みすんのどーにかしないとヤベーわよ?てか、作れるのねフルコース一式…」

 

 鈴のツッコミも最もである。そのうち100万円単位でクロエに金をつぎ込みそうで、末恐ろしい気配がしてならない。なるべく無理のない範囲で課金してくださいと、彼女は思わずにはいられなかった。

 

「まぁくーたんはジャンキーなもんが食いたいって言ってたからな。こんなんどーよ」

「……なんだこのエビフライ?」

「エビフライの何が悪いんだよ、ソースぶっかけんぞこの野郎」

「いや悪くねぇけどでかすぎねぇか、何使ったシャルル?」

「イセエビ」

 

 箒は一夏とシャルルの会話にデジャヴュを感じざるを得ない。このやり取りばっちり聞いた覚えがある。そして安定のシャルル、既にクロエに貢いで(課金して)ました。

 

「それと…名付けて『心火を燃やしてぶっ潰すポテサラ』、『俺達のくーたんファーム温野菜』だ。どーだこら」

「くーたんファームって…、待て。確かIS学園でそんな単語聞いたぞ。お前まさか…」

「IS学園の事務員仕事が暇でよぉ。学校の一画借りて畑作った」

「…、ぁ? つ く っ た ? …、大丈夫かそれ」

「あぁ、轡田って人もキュウリとかトマトとか買いに来てっし、それに食堂のマダムらにも好評でな」

「マダムって…、おばちゃん連中のことかよ…」

「馬鹿野郎、女性はいくつになっても女神なんだよ。お前そーゆーところ配慮ないよな」

「お前はそーゆーとこ前面に出せよ、ドルヲタ一辺倒じゃなくてさぁ!」

 

 シャルルと一夏のツッコミ合戦は終わらない。なんだかんだで良いコンビである。そして、惣万は今まで出てきた料理に既視感があり、記憶の糸を手繰り寄せていた。そしてやっと気づく。

 あぁこれ、どっかで見たことあると思ったら。

 

「(全く、何時からここ仮面ラ●ダー・ザ・ダイナーになったんだよ)……――――なら俺も作るか。巻紙、俺のことは良いから楽しんでろよ」

「え、ぁ、おう?」

 

 テーブルに並べられる数々の料理。そして次々に座って今か今かと食指を動かす代表候補生たち。

 巻紙礼子とあいさつを交わし、料理を勧めてくる。それが巻紙にはむず痒い。どうにもこうにも生温くて、吐き気がして、それで…――――。

 

「よーしシャルルンプロデューススペシャルパスタの完成だッ、Bon Appétit!」

「……おぉ、やるじゃないですかグリス」

「ん、私にもか?…礼は言っとくぞ、織斑千冬?」

「客人には礼儀を施すのは当然のことだ。おまちどおさまです」

 

 丁度目の前に差し出されたパスタの皿。それを挟んで、何処か抜け目なく互いを監視し合う二人の戦女、その背後では静かに火花が散らされていた。

 

(あれ、箒?何でこの二人バチバチなワケ?)

(巻紙礼子さんはどうやら昔の惣万さんの知り合いらしくてな…)

(オレが見た限りじゃ数日前もなんかあったっぽいよ)

(成程、把握)

 

 振舞われたスパゲッティを、フォークを使って器用に口に運ぶ巻紙。一方クロエは豪快に口の中に半分近くを放り込んだ。

 ……――――だが、空気がひび割れたかが如く、平穏が砕け散る。突如として時が止まったかのように動かなくなる二人。

 

「……ッはあ゛ぁ⁉」

「ん゛ん゛⁉」

「…。ん?え、どした?」

「「う゛ぅう゛…ッ‼」」

 

 巻紙は机の上に突っ伏し悶絶する。クロエは慌ててオレンジジュースを手に取った。もはや外面など繕ってはいられない。

 何が起こっているのか把握できないのはシャルルである。どうして彼女らがこのようなリアクションを取るのか理解し切れていない様子。一体どうしたことだと首を捻った。自分の料理に不手際があったとは考えられない。

 

「……いやいやいや、そういうのいらないから」

「……、ん゛!」

「え?食えって…?」

 

 シャルルは涙目になっている巻紙からフォークを無理矢理握らされ、乱暴に皿を突っ返される。激しく皿に乗った料理を指さしてくる彼女の形相に圧された彼は、恐る恐る彩の良い茄子を突き刺し、口へと入れた。

 

 ……――――その瞬間、舌の上で壊滅的な味覚兵器が爆発する。

 

 

「ん゛だこれまっっっず‼…おいダメ教師お前何やってんだよ手本みせただろ!?」

「何…⁉レシピが無いからそうなったんだろう!」

「そー言うのはな、目で見て覚えるんだよ!?」

「覚えられるか!」

「よーし俺が鍛え直してやる。それまでキッチンに立つな」

「おい貴様、この仕打ちは酷くないか!おい、おーいっ⁉」

「千冬姉ェ……」

 

 シャルルの手によって、千冬姉はボッシュート……もとい家の外へと追い出されてしまった。

 

「(がちゃっ)…みんなごめ~ん!今新しいの作るから!……はぁ。同じ材料、同じ分量でやれば同じ味になるはずなのによ…なんでできねぇかな…」

「千冬姉、カップヌードルにお湯注いだだけでマズくなるからな」

「…――――それ、もう概念的なレベルで呪われてんだろあのセンコー。やべぇ、無理な約束したかも…」

「俺はおろか惣万にぃでも改善が無理だったからなぁ…」

「お前も大変だな…って、んな不味いモンいつまで食ってんだ」

「残すならこれ食っても良いかな?」

「惣万さんも⁉ホントに美味いんですか!?」

 

 シャルルンプロデュース千冬姉パスタを黙々と食い続ける一夏と惣万。なんだかんだ言っていながら、巻紙礼子も眉を顰めてフォークを一心不乱に動かしている。橘さんもビックリだろう。

 

「いや、千冬姉が作ったもんだし……」

「私は食い物粗末にすんの罪悪感があるんだよ…―――」

「だよな。分析かけたら栄養素は変わらねぇし、料理に大切なのは愛情だよ愛情。香水入りのカレーでも芳香剤入りの唐揚げでも腹に入れば何らかの栄養になるわ。俺を気絶させたいならその三倍でも四倍でも持ってこい。全部吞み込んでやる」

「あの、そんなもの食べたら良くて嘔吐で悪くて死亡だと思いますわよ…?」

 

 セシリアはそう突っ込んだものの、過去似たようなことをしでかしているので強くは言えなかったりした。

 ちょうど、その時だった。

 

「…――――、ちょ、今なんて言った?」

「え?いえ、だからそんなもの食べたら吐くか死ぬか…」

「いやセシリアじゃなくてマスター!」

 

 戦兎が立ち上がり惣万に詰め寄る。あと少しで頭がぶつかる息のかかる距離で、目を爛々と輝かせて手掛かりを掴もうと必死に迫る。

 

「おい、ちょッ、いや…だから三倍でも四倍でもって…!」

「『四倍』…――――?成分を濃縮、倍化…そーだよクローズドラゴンあったじゃん、ドラゴンフルボトルもキードラゴンだと暴走状態になってた、でもその対処法として一本を……ユリーカヘウレカ閃いたぁッッ‼」

「戦兎さん!?今食事中なんだけど‼」

「ごめんちょっと抜けるね‼まずは試験用武器にそのシステムを組み込んでのデータ取りだァァァァ‼いやっふゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼」

 

 彼女は転がるように駆けていく。食事中ということも忘れて、知識欲やら実験という贅沢な欲求に身を任せた。天才的馬鹿につける薬は無い。もうああなった戦兎はアンコントロールスイッチなラビットISハザードである。

 

「あー……戦兎さん行っちゃった…。どうしようかしらね、あの人の分の料理…」

「心配すんな。むしろ食い意地張ってる娘がいるからこれだけじゃ足りないと思うぜ」

「え?」

「ほれ」

 

 鈴が見た先では、ガパオやらラビオリやら麻婆茄子やおでんや、イセエビフライにポテサラ、温野菜を次から次へと空にするネットアイドルがいた。

 

「グリスおかわり。あ、ラウラのおでん美味しいですね」

「はいただいまーっ‼」

「む、そうか?ふふ、姉さんに褒められると嬉しいな…」

 

 驚いたことに、クロエは健啖家だったようだ。あれほどあった自分たちの料理がきれいさっぱり無くなっている。

 

「ちょ…わたくしたちの分はどこに⁉」

「セシリア、現実見ましょ…もうないわ」

「そんなぁ…」

「安心しろ、鈴、セシリア。大本命の一夏と惣万さんの料理がまだ残っている。それにシャルルの作り直したパスタもあるしな…――――むぅ、旨いな本当に」

「さらっと要領いいわよね箒って!」

 

 ちゃっかり全ての料理を小皿に取っていた箒は、それぞれの人柄を思わせる味付けに舌鼓をうっていた。

 どれも甲乙つけがたいが、際立っていたのはシャルルのパスタである。一夏や惣万にも並びうる技術を持っているのを窺い知れると共に、一体シャルルは何ができないんだと空恐ろしくなる箒。こいつが女では無くて本当に良かったと思ってしまう。

 その時である。ガラス窓を開け、外から一夏が入って来た。

 

「よーし俺も完成っ!フリッタータとそれとピッツァだ。自信作はマルゲリータ・エクストラ。あとクアトロ・フォルマッジもボスカイオラも…うん、中々上手くできたぞ」

「ぬ、外から?どういうことだ戦友よ」

「惣万にぃと趣味で作った石窯が外にあってな、そこで焼いてきた」

「しゅ、趣味、って…――――?」

「ほらキョトンとすんな鈴、焼きたてだぞ。熱いうちが一番美味いんだからほら食え。あぁ千冬姉、窯の中にあるマリナーラもついでに持って来てくれ。そうそれ、皿に移すの気を付けてな」

「大丈夫だ。そのくらいはできる、安心しろ」

 

 さらっととんでもないことを言った主夫見習い。というか『既に料理人としていい所まで行っているだろう』、と外から一緒に戻ってきた千冬は思っていたりする。

 

「おぉ、和風ピザまであるのか。これは私だな…ん、どうしたのだ鈴」

「うわぁ…一夏がもう本職料理人の域にまで…」

「そういう鈴も実家が料理店だろう?」

「んなこと言ったってね箒、それでも大衆食堂なのよウチ?でも、こうしてみればやっぱり本格的な路線にシフトすべきかしらね…あぁ美味しい!無駄に悔しいんだけどすっごい美味しい!」

 

 何故か敗北感を感じながらも一夏のクアットロ・スタジョーニの味を噛み締めながら、次々平らげていく鈴。セシリアやラウラもマルゲリータに感嘆の声を上げていた。

 

「これは、イタリアにいった時に食べた本場のものと遜色がありませんわね…――――」

「むぅ、美味いッ美味いぞ!」

「へぇ…やるじゃねぇか一夏、まぁ俺には及ばねえが」

「なんだとシャルルお前?それだけ言うならどんなもんか見てやる…、…――――パスタウメェなおい。いやマジで美味いな?え、これどうやったんだ?」

「なに、ちょっと隠し味にこれをだな…」

「あぁー、そういう味付けか!フランス料理っぽいと思ったら、成程な!」

「お、解るのか。伊達にアルバイトしてねぇんだな」

 

 シャルルと一夏が食事そっちのけで料理のスパイスの意見交換を始めてしまったが、女子はそんなことも構わず料理をおいしいおいしいと言いながら腹の中へ納めていく。

 そこには友達と一緒に食卓を囲むという、おだやかであたたかなものが確かにあった。

 皆それぞれに哀しい過去を抱えているが、それでもなお今この瞬間だけは年相応の少女として…――――。

 

 

 

「なんだこいつら、ホントにIS代表候補生か?こりゃまるで…――――」

「ただのこどもみたい、か?」

 

 ぽつりと零れた呟きに、世界最強が反応する。

 

「…――――聞いてたのか?」

「いや何、お前も惣万の小さい頃の知り合いだ。だから、かどうかは分からんが…どうにも平和に生きれない雰囲気があるのはすぐわかった」

「…――――」

 

 トマトジュースとタバスコをステアしたカクテルをチビチビ啜る巻紙。スパイシーな酸味と苦み、そして辛味が喉に絡まって仕方がない。だが、彼女は(つか)えていたものを炎のようなアルコールで無理矢理腹の底へ押し込んでいく。

 水面から飛び出た唐辛子や野菜スティックが蜘蛛の脚のように彼女の口に触れ蠢く。それが妙に不愉快だった。

 

「私が言えたことじゃないのは分かってるんだが、小さいときの自分は自分の運命を選べない。子どもは学ぶ場所を選べないんだよな…。目の前の連中がああするだけでも、奇跡みたいな確立で…」

「へっ…――――あぁ、そうだな。それだけは同意してやる、織斑千冬」

 

 虚無、やるせなさ、そして少しの妬みが混ぜこぜになった色が瞳に映る。

 

((そうだ、そうだったから…――――織斑千冬/オータムである『この私』は世界を…。この世界の全てを…――――))

 

 

 

 

 

――――守ってやる/破壊してやる

 

 

 

 

 

 

 

「よーし俺も完成したぞー!」

 

 宴もたけなわになり、あとは最後に向かって駆け抜けていくだけとなる。トリを務めるのは誰あろう彼の料理だった。

 

「へぇ、どんな感じになった?『こういう時は本気を出さない』、だろ惣万にぃは?」

「まぁな。でも前々からこんなのどうよと思ってたけどお披露目の機会がなくて。こういう時じゃないと作れないしな。ってわけでじゃんじゃじゃーん!」

 

 用意されたのは塩がまぶされた真っ白な握り飯と、香ばしい肉の焼ける匂いのする漢らしい大盛の皿だった。

 

「…――――おぉ、コレはお前のところの賄いか。ホルモンだな?」

「そ、改修中は冷蔵庫の中身が危なそうだったからな。手っ取り早く消費しちまおうと思って」

 

 惣万が作ったのはキムチとホルモンを炒めたスタミナ料理。しかし男の料理と侮るなかれ、作ったのは一夏に料理を教えた星持ちのシェフ。垂れる肉汁と爽やかな辛味が繊細な調和を醸し出し、しかしながらそれぞれの味を際立たせている。

 

「むぐ…――――うん。店には出さないからだろうが、味が中々に刺激的だな。だがこれはこれで旨い」

「夏で食欲がないと感じていましたが、コレならいくらでも食べられますね惣万さん」

「エスニック風にも中華風な味付けにもなってますね…、もしやわたくしたちが使った材料を丁度使い切る形で?だとしたら、お見事です…」

「かーっ、マジ?これマジ?一夏の師匠ってば伊達じゃないわよねぇ」

「おぉ、悪くねぇな。お行儀の良い料理じゃねぇ、旨さだけを突き詰めた感じだな」

「ううむ、クラリッサたちにも食べさせてやりたいものだ…今日の料理は全て素晴らしい…」

「ふぅー、もう食べられません…」

「あ゛ぁー…こーゆうので良いんだよ、私はこーいうので。ハハ、懐かしいなぁ。ウメェ…!」

「やっぱり日本人は米だよなぁ…それにこれがまた合うなぁ、間違いねぇ」

 

 中々に評価が良いようだ。万人に受け入れられる料理ほど難しいものはないが、彼にとっては容易いことだったらしい。なによりがっついていたのは箒だったりする。戦兎の分も一通りキープしてあるため、彼女は後で届けてやろうと決意していた。

 

「ふふ、名前つけるなら……『さっきまでキムチだった物がお皿一面に転がる料理』ってか」

「いやネーミングセンスどうした?」

 

 『慟哭でホルモンも喰らい尽くせ!』と俺の中の俺がシャウトしてきそうな、そんな名前だった。

 

「どうでもいいところは適当なんだよな、惣万にぃって…。あ、でもこれホントうめぇ。丼にしたらもっと美味そうだなー、温玉乗っけたりとかして…」

 

 豚が漲る、キムチが燃える、俺の卵が迸る!そんなマグマな料理がダイナーにあった気がする。

 

「どうした惣万にぃ?」

「いや、変な電波受信した。それはともかくデザートもあるぞ~」

 

 〆だとばかりに冷蔵庫から取り出したのは、黒い皿に乗ったキイチゴのケーキ。だが、どこか不穏な雰囲気を漂わせる陰鬱なスイーツだった。添えられた目玉型の物体と飛沫のように皿に描かれたラズベリーのソースが人体を思わせて、ぶっちゃけ怖い。

 

「……――――なんだこれ」

「イユ~呼び覚まされた痛みと記憶~」

「…凄い名前のケーキなんですけど」

「ハロウィンで出す予定だったりするのか、これ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 一方、こちらは亡国機業。とある一室でエムは目覚めた。どうやら眼が冴えてしまったらしい。ゼリー飲料でも摂取してその空腹を紛らわせようとする彼女だったが、…――――その前に天災が襲来する。

 

「……ん?」

「ヴェハハハハ!完成したぞエムゥゥゥゥゥ‼」

 

 ドガァとドアが蹴破られ、紫色の髪の変態が狂声を上げていた。うげぇとばかりにチベットスナギツネの顔になるエム。

 うんざりした死んだ目で宇佐美幻のことを見る彼女の様子を気にも留めることなく、彼女は片手にクローシュを被せたトレイを持ち部屋の中へとずかずか入り込んでくる。

 

「……何の用だ、宇佐美幻」

「神の恵みをォォ、ありがたく受け取れェェェ‼」

 

 一瞬何か毒物かと思い身構える。腕で顔を覆い何らかの攻撃に耐えようとするも…何も無い。むしろいい香りが鼻の中へと漂ってきた。

 腕の隙間から匂いの元は何なのかと見てみれば…――――。

 

「……ハンバーグ?」

「その通りだァ!……――――『【プライムバーグ】良く刻まれた緑色の野菜と挽肉を主原料としており、肉体疲労を解消すると共に免疫力を高め、未知の生命体による憑依・侵食攻撃をも防ぐ効果を持つ。\880(税込)』…さぁ、何度でも言おうゥゥゥ…、神の才能をありがたく受け取れェ‼」

 

 見下げ過ぎて逆に見上げてるイナバウアー姿勢になる天災的馬鹿。この時点でとんでもないものを開発してくれやがった宇佐美であった。冷静に考えて、食うだけでブラッド族対策になる発明とか、スゲーイモノスゲーイマッドなジーニアス以外の何物でもない。

 

「……とりあえず言わせろ。食べて大丈夫なのか?というか金とるのか。そして何故説明口調」

「安心しろォ……ピーマンで地球外生命体の脅威を無効化するだけの、ただの料理法だァ!惣万の料理の才能にはまだまだ届かないが…初めての作品で新たな技術を開発するとは、やはり私の才能は素晴らしいィィ‼」

 

 宇佐美はただ料理が成功したというだけでご満悦らしかった。シュトルムか誰かがこの場にいれば『いや、それ以上に人類にとって有益過ぎる技術なんですが…』とツッコミを入れたことだろう。

 しかし、そんなことより。マドカには聞き逃せない単語があった。ある意味でISと戦うよりも手ごわい…というか絶対に相手取りたくはないソレ。

 

「……ピ、ピ、ピーマン?」

「……あん?」

「ぴーまん……――――、……」

 

 それを、自分に…この織斑マドカである自分に食べさせようというのか?そんなことは、認められない!そう、断じてっ!

 

「……おい、まさか貴様…」

「ピーマンッ‼」

「…――――マジか、貴様」

 

 マドカは宇佐美でさえ呆気にとられるスピードで、亡国機業内の支給されていた部屋から逃走したのだった。

 

 …――――スコール・ミューゼル(オカン)の蠍の尻尾でとらえられて、プライムバーグを無理矢理食わされたのは、エムにとってトラウマになりそうだったのを追記しておく。




20代男性「いやさ、何かに恐怖する顔で俺の店に逃げ込んで来たのよ。『また何かやらかした』そう思ったね。それならいつものようにさっさと引き渡すつもりだったんだけど、追ってきたやつと目があった時に『アレは捕食者の目だ』って、思った瞬間逃げたね。追ってきたアレの姿をチラッと見たけど、アレは人の動きじゃない。アレの渾名の通り神話時代の生物だと確信したよ。まぁ、友人のおかげで助かったけど」
神(自称)「友人ではない!神だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼そして自称でもないッ!!!!」


あらすじ提供元:祇園様、どうもありがとうございます!


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番外話 『漫画家は原稿のストックができてこそ一人前って言うけど二次創作小説って行き当たりばったりが多いよね・前編』☆

シュトルム「IS学園は夏休みでお休みですね…。普通ここら辺で強襲かけた方がセキュリティもザルで丁度良いと思うんですけど」
惣万「え?如何に悪の組織でも夏季休暇ちゃんととってくれないと困るんだけど」
宇佐美「貴様、休日の予定無いのか?」
シュトルム「良いのかそれで。ただのホワイト企業のスケジュールですよコレ。とはいってもですねぇ……遊びに行くなんて人生で一度もしたことありませんし」
惣万・宇佐美「「……」」

 ……一時間後。

ブリッツ「それではからおけたいか~い。きりこみたいちょーはますたーく~。どぞ」
惣万「え、俺?あー、それではーコスタリカの平和を願う少女に歌います。聞いてください、『●の抑止力』。……『~~~♪』」
宇佐美「イツデモマッテルゥ‼」
惣万「~~~♬」
バットババット三世「エビバディセーイー‼カーナーウーヨー‼」
シュトルム「……いきなり歌詞使用不可能なのとかどエライのぶちかましてきますね宇佐美とマスター(こいつら)、…大丈夫かコレ?」
ブリッツ「むー。せっかくおそとで遊んだことのない姉さんに楽しんでもらおうとふたりがけいかくしてくれたのに~?」
シュトルム「いや、こいつらが遊びたいだけでしょ絶対」
バットババットファイアー「ピー●ウォーカーデアソビタイッ‼」
シュトルム「 だ ま れ 」


注意

・この話は上記を見れば分かる通り銀魂『漫画家は原稿のストックができてこそ一人前』のパロディです。キャラ崩壊、メタ発言が多用され、もしかしたらパラレルかもしれません。それでも良い方はご覧ください……。

 

 

 

 

 

 始まるよっ!

 

 

 

 

 

 これは夏休みの大激戦が起こる前だったり、はたまた起こった後だったり…そもそも世界の命運を賭けた戦いがなかった世界の話である。

 

「さて……デンジャラスゾンビのバックアップガシャット、生成完了。コレで一個が破壊されても、スペアでゲンムゾンビゲーマーに変身できる……」

 

 ココは亡国機業のビル、専用に借り受けた宇佐美のラボの一つ。何時も策謀を巡らせる彼女は、今回は死のデータが入ったガシャットを複製したようだ。一仕事を終えて安心したのか、自分で淹れたコーヒーを飲んでいると。

 

「……ん?何だこれは……まさか!」

 

 パソコンのディスプレイがERRORの文字で一杯になっているのを目撃し、焦ってデータを消去しようとする。………だが時既に遅く、彼女はディスプレイから漏れ出たポリゴンに手を触れてしまった……。

 

 

 

―ギャァァァァァァァァッッッ‼―

 

 

 

 それは自称神の悪戯か……はたまたちゃんとした理由があったのかは分からないが、……ま、取り敢えずそんな感じで始まった。……始まっちゃったのである。

 

 

 

 

 

「あーぁ、亡国機業の面々と顔合わせって何度やっても慣れないなぁ……スコールとオータムぐらいだ、見てて面白いの……」

「仕方ないでしょう。これも情報を収集する為の事なんですから……む?」

「どしたシュトルム」

「いえ、マスターあれ……バニーガール?と言うモノでしょうか?」

「は?おいおい……ハロウィーンにはまだ早いぞ?……え?」

 

 そんなシュトルムの発言に、振り返る惣万。色っぽいおねーちゃんを想像した彼の脳裏に飛び込んで来たのは……。

 

「う……ヴヴ……ヴェヒヒハハハハハハハァ‼」

 

 ………………………ウサギの耳が生えたおばちゃんがいた。そしてSEでデンジャラスゾンビに馬鹿笑い。

 

「……………………(グリスブリザード!ガキガキガキガキーン!)」

 

 ……これは酷い。拷問以外の何物でもない。想像と現実のギャップで冷凍装置の中に突っ込まれた感のある惣万だが、おばちゃんは2121年のとある未来の様に機敏な動きで彼に蹴り上げを行なってきた。

 

「ぬぉあ!?」

「まっ、マスタァァァ‼ウサミミが、ウサミミが生えた宇佐美みたいな感じで襲い掛かって来ましたよあいつ‼どうなってるんでしょうか!?」

「そんな事俺が知るか!兎に角走れぇ‼」

 

 兎に角っていう文字にも兎があるよね?そんな冗談が言えないほど必死に来た道を戻る二人。

 

「あ、亡国機業のサラリーマン次長、助けてください!変なウサミミに襲われてんです……」

 

 禿げた小太り眼鏡の第二職員発見。早速事情を伝えてみるシュトルムだが……。

 

「ヴェハッ、ハハハ……」

 

 中年のおっさんがウサ耳を付けて宇佐美テンションになるなんてホラー以外の何物でもない。いや、本当にいろんな意味で。当然それを目撃すれば……。

 

「ッ、ギャァァァァァァァァッッッ‼」

 

 あ、ちびったかも……そんな残念な言葉が誰かの脳裏に浮かんだとか、浮かんでないとか。誰とは明言はしない。まぁ、少なくとも女性の出していい声ではないな、うん。婚期が延びる延びる。

 

―ゴシャァァァァッッッ‼―

 

「ゴーラウェェェーーーイエェェェェアッッッッッ‼」

 

 そんなおっさんがガラスを突き破ってビルの外の宙を舞う。綺麗な弧を描き、真っ逆さまに落ちて……欲望。

 

「ちょ、マスターここ地上四階!?」

「心配すんな!本編じゃないから運がよけりゃあギャグ補正がかかる‼」

 

 あんまりである。というか言ってしまったらギャグ補正は消えるのではないだろry。が、そんな事は気にも留めずそのまま走り続ける惣万とシュトルム。この人でなし!……いや、人じゃなかったわ。

 

「ちっ、どうしちまったんだ!亡国機業のビル内がウサミミだらけ……男もババアも造作関係なく全部ウサミミ!ふざけんな、何の罰ゲームだ‼こんな悪の組織あったら別の意味で怖いわ‼」

 

 ……因みに平行世界の【の】が三つ続く科学者は【ウーサー】という名前でマジで作ろうとしたことがあった模様。

 

【緊急警報発令!緊急警報発令!亡国機業内のビルで未知のウィルスが蔓延中。ウサミミが生えている人間には決して近寄らないでください、繰り返します。亡国機業内のビルで……】

 

 そんな放送が突如として流れ出す。未知という既知の(みんな宇佐美になる)恐怖に亡国企業内でも対処しきれないようだ。こんな巫山戯たウイルスが存在するとは誰も考えないだろう。

 

「どこもかしこも宇佐美でいっぱいだ……」

「仕方がない、こっちだ。幸い二階にまで移動できた。とっとと一階に降りてこんなところおさらば……」

 

―チャキッ―

 

 とはならなかった。シュトルムの背中に硬い何かが当たった。十中八九拳銃であろう。

 

「止まれ……。手を後ろで組んで頭を見せろ……」

 

 シリアスな声で話す拳銃の持ち主。だが、その声を聞いて振り返ったシュトルムは……感極まって涙が溢れた。

 

「ブリッツ!?貴女そんなシリアスな声出せたんですね……お姉ちゃん安心しましたウゥッ……」

「論点ズレてねぇか残姉さんよ」

 

 背後にいたのは白い祈禱師の様な彼女の妹、ブリッツ。シュトルムは惣万のツッコミが耳に入っていないのか、ポタポタと流れる涙でスーツを濡らす。………繰り返すが涙でポタポタとスーツが濡れた……いいか涙だぞ?パンツは湿ってないもん。……ホントだもん!

 

「なんだ~、マスタークたちだったの~。如何やらウサミミは生えていないようだね~……うっ、ごふっ……!」

 

 急に血を吐き倒れるブリッツ。

 

「っしっかりしろ、何があった!?」

「……い、言っておくけど~、あっちに行っても無駄だよ~。地獄しか待ってな~い。私も何とか切り抜けたけど~こんなざま~」

 

―回想―

 

『ふっふっふ~、今日のおやつはプリンなのだ~……おっと忘れてた、おてて洗わなきゃ~、テレビの向こうの人間との約束なのだ~』

 

 そう言って洗面所に行くブリッツ。変な所で律義と言うか……。

 

『うがい手洗い~それに消毒液で~きゅっきゅっきゅ~……、ん~?ちょっと具合が…………。がっふっ!?』

 

―回想終了―

 

「おい待ってください、回想がおかしいですよ。おやつ食べるために手を洗った風にしか見えないんですがそれは」

「やっぱりせっけんを使わなかったのが間違いだった~……ちくせぅ」

「『ちくせぅ』……じゃねーよ!あいつ等にやられたんじゃないんですか!?もぐもぐタイムでそんな事になりますか!?」

「濃硫酸を触ったから手がかなり異臭を放ってたの~……ちくせぅ」

「一ミリも手は溶けちゃいませんが!?」

 

 自分の妹の身体はどうなっているんだ……と一抹の不安を感じるシュトルム。この事件が終わったら妹の為にも生体検査を行うことを決意するのだった。

 

「いや、そもそもお前バグスターウィルスなんだけど…………それがうがい手洗い殺菌って……」

「「…………………………あ」」

 

 手洗いうがい(それ)が原因じゃねーの?自殺行為だろ。まぁ、閑話休題。それをスルーして惣万はブリッツに確認をする。

 

「ところでブリッツ……奴らは一体?」

「分からないよ~?ただ分かっているのはウサミミが付いた人間は自我を失う~、そしてハイテンションなバグスターになり人を襲う~」

「「……………………」」

 

 ……………………宇佐美が犯人だよなこれ。損害賠償が高くなりそうだ……、と遠い目をする宇宙人。そして説明を続ける電脳人。

 

「そして襲われた人間もウサミミの付いたバグスターになり人間を襲う~……その感染力は強力で、純粋な人間なら数秒でバグスターになる~……私たちみたいに~体を機械で置換してたり~、人じゃ無かったりすれば効果は薄いらしいけど~……まるでゾンビだよね~……………………」

「……どうしたブリッツ。何か気がかりな事でも?」

 

 説明を終えたブリッツの顔がまた険しくなっていく。宇佐美をどうシバくか頭の中で数パターン浮かんでいた惣万は、一旦意識を戻して複雑そうな表情の彼女を見た。

 

「ハイテンション、ウサミミ、ゾンビ……ねぇさん、あいつ等『ウサミミンZ』でど~?」

「黙ってろ馬鹿妹‼どこの元気溌剌だ‼」

 

 さっきの感動を返せ‼︎と言わんばかりの表情で怒鳴るシュトルム。……でもね。シュトルム、大声を出すってことはね……。

 

「ヴェハハハハァァ‼」

 

 気づかれるんだよ。ゾンビにね?

 

「ッ、しまったウサミミンZに気付かれ……、っ!」

 

 猛烈に恥じていたシュトルムだったが、その時彼女はもう一つ、自分の失態に気が付いた。さっきまで無表情面だった妹が、心底嬉しそうなオーラを纏っている……。

 

「なーに嬉しそうな顔してんだアンタはァ‼」

「はっはっは~、私は確かに聞いた~、ねぇさんウサミミンZって言った~、はいウサミミンZけって~い」

「チクショー黙れ!お前の所為で私が残念キャラだという事が定着してしまうでしょうが‼つか長ーよ名前‼」

「もとより残念だろ……んな事より囲まれたぞ」

 

 ……やっぱり俺らの中で1番冷静なの俺じゃね?シュトルムが聞いたら間違いなくブチギレる事をソウマは思っていると、見覚えのある赤茶髪の頭がドアの向こうからぴょこりと出てくる。

 

「スターク、こっちだ‼」

「あ……オータム!」

 

 亡国機業の蜘蛛姉さんがちょいちょいと手を動かし三人をある部屋の中へ匿った。バタン、と閉じる金属製の扉。四人が集まったそこは厨房だった。……何故ここがこんなに物々しい素材で出来ているのか、理由は定かではない。……………………亡国機業の連中の調理スキルが最低だとか、鍋にカレー粉を入れただけなのに爆発するとか、煮トロを作ろうとしてニトロを作る世界最強(チビver.)がいるからだとかは一切関係ない、一切因果関係はない。……ないんだってば。

 

「良かった……私たち以外にまだ生き残りがいたんですね」

「あぁ、少しペナルティで掃除当番やらされててな。運よくここに隠れてて難を逃れたってわけだ」

「ペナルティ……?とにかく一緒にこの部屋から脱出するぞ!」

「………へっ、逃げる……ねぇ?」

 

 そう言ったオータムの左腕は血で濡れていた。血液は乾くこと無く、漏れ続けている。

 

「お前……血が……!」

「手ひどくやられたもんだぜ……足手まといになっちまう。お前等だけで行け」

 

 脂汗を垂らし、自嘲気味に笑う亡国機業構成員。

 

「何だお前、随分と殊勝な感じになったな?」

「この私が、ヤキが廻ったモンだ……まさかあんな奴らにやられるなんて……」

 

―回想―

 

(ナンバジューコ…ボウコクキギョーガ、ホンキノセンソーヲ、オシエテヤルー)

 

 そう言って仕込み刀を抜く一つ目の怪人。先程まで何かを食べていたのか口元に餡子がついている。口無いのにね。

 

―回想終了―

 

「おいぃコレ誰だ!?完全に別の事件……つか時空に巻き込まれているだろ‼」

 

 難波って……あの難波ァ⁉︎と惣万は心で絶叫する。『スタークはこんらんしている』……そんなゲームシステムのメッセージがブリッツの目には見えていた。病院行け。

 

「上司だ……スコールとヤッて遅刻したらシバかれた」

「どんな上司だ!何だこの無駄な存在感!?〇つ目タイタンじゃねぇのか!?」

「せめて手を洗う時間があったなら性臭を誤魔化せたのに……クッ」

「手洗いはもういーから‼てか汚ぇな‼」

 

 ちゃんと彼女に手を洗わせた後で、シュトルムは彼女に肩を貸す。なんやかんやあったって、今頼れるのはここにいる人間だけなのだ。……きっと。……うん、多分。ギャグ時空だとか言ってはいけない。

 

「このビルはほぼ奴らに占領されました。このままここにいても頭が宇佐美になるだけです。立ち止まるより少しでも前に進みましょう」

 

―がこん―

 

「前に進むって……前って一体どこにあるんでしょうね……」

「スコール……?」

 

【注意】スコールが空気路の中から出てきた。そのことに誰も突っ込まないので、全員相当末期である。

 

「アレを見なさい」

「!?」

 

 指を指した先にある窓には、老若男女のウサミミ集団がミッチリ迫って来ていた。イメージとしては『ビルド殲滅計画』のような形である。

 

「ウサミミンZの大群がこっちに来る!?」

「まずいぞ!このままじゃここから一歩も出られない‼」

 

 焦る一行に、スコールは今まで調べてきた情報を開示する。

 

「奴らは宇佐美幻がいつもの調子で生み出したバグスターウィルスに感染したの……」

 

 スコールの『いつもの』という言葉から、亡国企業でも宇佐美がアレな事が周知の事実になっているのを知った惣万。彼は各所に菓子折りを持って頭を下げに行くことを決めた。

 

「感染した者は女子供、年齢問わず関係なく頭が頭にウサミミが生え……ラリッた天災になってしまう……ネビュラバグスターを超える地獄の生物兵器よ」

「なっ……なんですって!?」

 

 シュトルムが事の重大さ?に衝撃を受ける……のだが。

 

「「「……………………」」」

 

 どうリアクションすればいいか分からない三人が、超苦虫を嚙み潰したような顔をしている。それに構わずシリアスな雰囲気を纏った二人の会話は続く。

 

「感染者は子供っぽくて目立ちたがり屋、自意識過剰で明るく見えるけど実は陰気でコミュ障で扱い辛くてなーんか気持ち悪い……そんな天災人間になってしまうのよ‼」

「これ~……滅茶苦茶どなたかの事ディスっているよね~……」

 

 私怨入っているよね~?その言葉にオータムや惣万は首を縦に振った。オータムはスコールのヨボヨボのバーさんのような写真が嫌がらせにばら撒かれたことを知っているのでなおの事納得している。

 

「このままじゃこのビルがある街、国……いえ、地球上が篠ノ之束やら宇佐美幻やらみたいな天才的な馬鹿であふれだしてしまう……そんなことになれば……地球は……!終わりよ……!」

 

 深刻な顔でシリアスに語りきったスコール。……。……だが、うん。まぁそれに対する一同の反応はと言うと………。

 

 

 

「……………………もしもしMか?今すぐIS展開して迎えに来い」

「さーって明日のnascitaランチメニューの献立は……」

「……ちょっと?……貴方達話聞きなさい‼世界が滅ぶかもしれないのよ‼何よあんたらその感じは!?」

 

 スコールのお叱りの言葉も何のその。というかこの反応は当然っちゃ当然である。

 因みにMちゃんは睡眠中に電話で叩き起こされ、ビルがヤバいことになっていることを知った為、行かないことにした。自分が嫌いな相手みたいになるウイルスとか、何ソレ馬鹿じゃねーの?と言うかまさしく悪夢である。一日中ベッドでふて寝を決め込みました、まる。

 

「え……いや、ラリッた天災とか言われても……デフォだろソレ。コミュ障を生む生物兵器って……なぁ?」

「あぁ、スコールには悪いがまるで緊張感がねぇわ……」

「その天災に原作でノさたオータム(貴女)がどの口で言ってんの‼」

 

 妙な電波を受信し始め、スコールもこのギャグ時空に慣れて来たところで惣万がキレた。

 

「あーもううるせぇ!んなもんで地球が滅びるか‼俺らみたいなバカ騒ぎができるボケキャラがいる話ってのは大概どーにかなるんだよ、ほっとけほっとけ!」

「そーしよー。げーむでもしてよっと」

「あんたら……」

「まぁ心配しなくてもこんなもの風邪みたいなものだろ、助けが来るまで籠城しよーぜ。幸いここは厨房で食糧だってある……し……」

 

 だがしかし、惣万のその言葉は途中で途切れる。その場の面々が見た先には、妊婦のように腹を膨らませた少女の姿が………。

 

「ふむー……食べた食べた。……む?マスターたちではないか。どうしたのだ?」

 

 食いすぎの阿保がいた。腹ペコ軍機(赤い雨)だ。

 

「……」

「……」

「マスター……食糧……無くなったんですけど……」

「……赤い雨ェ……」

 

 ブリッツが駄目なヤツの名前を言うように、そうボヤく。実際駄目なヤツである。空気をぶっ壊してくれた銀髪は小首をかしげるが、何とか空気を戻そうと惣万は必死。

 

「あ、えと……だ、大丈夫だ一日ぐらい何も食べなくても……。あ、俺今コーヒー豆持ってるぞ?食うか?(浅倉感)」

「どうやって食えと?」

 

 ゼラチンもあるぞ?とポッケから白い粉を取り出す惣万。何故ある。そして今つけているサングラスと合わせて見たら完全に売人である。何の売人かは知らんが。

 

「……ま、まぁそんな深刻にならなくても……魔王だか魔神だかが来るわけじゃないんだし」

 

 ……あれ?おっかし~ぞ?そう言うのフラグって言うんじゃねぇ?

 

―ガッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ‼―

 

 厨房に窓ガラスが割れる音が響いた。その音は死刑宣告の様に脳裏に染み入る。……惣万は油をさし忘れたロボットのように首を少しずつ後ろに傾けると……。

 

「ところがぎっちょん!ですわねぇ‼」

「ホワッチャァァァァァァァッッッ‼」

「ぅ私こそがァ……くわぁみぃだァァァァァァァァァァァァッッッ‼ヴェッッッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァァァァァッッッ‼」

 

 欲望の王にでもなりそうな人の模造品(ブラッド・ティアーズ)この世界での神(宇佐美幻)、それに加わるかのように裏切り(メテオ)裏切り(龍玄)を足した様な疑似拳法娘(緋龍)がそこにいた。

 

「……………………魔王と魔神……来たんですけど……」

「……(絶句)」

 

 

 さてさてどうなるエボルト一行?待て次回!




ブリッツ「そんな訳で~。ゆるゆるの番外編スタートだ~」
シュトルム「あぁぁぁぁぁ……キャラ崩壊が甚だしい……」
ブリッツ「そんなことないよ~?大体二頭身になれば頭も緩くなるって~」
シュトルム「は?何を言ってるんですかブリッ…ツゥゥゥゥゥゥゥ!?」

【挿絵表示】

しゅとるむ「なんっ……ですとぉっ!?うごきづらいことこのうえないのですが!?(二頭身でパンチてちてち)」
ぶりっつ「まぁまぁ~、たまにはこ~いうのもいいよね~」
しゅとるむ「よくないです!ってひらがなしかいえなくなってる!ちょっとますたー!?うさみ!?だれでもいいからたすけてぇ‼」
惣万「フッハハハハ!チャーオゥ~」
宇佐美「わ、私も……………………その、ちびキャラ……(ボソッ)」
しゅとるむ「……………………だめだこいつらおわってやがる……」


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番外話 『漫画家は原稿のストックができてこそ一人前って言うけど二次創作小説って行き当たりばったりが多いよね・後編』

シャルル「うへへ……くーたんマジ天使くーたんマジ天使くーたんマジ天使くーたんマジ天使くーたんマジ天s--」
ラウラ「嫁よ!浮気をするなと何度言ったら分かるのだ!?」
シャルル「ゲッ、またお前かよ!?だから俺はお前の嫁じゃねぇって何度言ったら分かんだよ!?」

<ギャーギャー

一夏「あいつらまたやってんのかよ……飽きねぇな」
箒「最近はあれも学園の風物詩になりつつあるな、一夏よ」
一夏「やだよあんな風物詩」
簪「因みにお姉ちゃんが過去に考案して風物詩にしようとしたのはこんな感じ(一夏にタブレット端末を見せる)」
一夏「……うん、シャルルのアレの方がマシだわな」
箒「何を見たんだ!?」


「……………………魔王と魔神……来たんですけど……」

「……(絶句)」

 

 これはコーヒーショップマスター系黒幕も言葉を無くす。ウサミミが生えた緋龍は正拳突きの構えをとるや否や、一陣の風が吹き……その場にあった機械が粉塵と化した。

 

「さぁ……ぎったんぎったんにしてあげますわよヴィヒヒヒヒヒィ‼」

 

 データにあった大元のイギリス貴族が見たら憤死するなこりゃ……。そんな事をトんだ頭で考えるオータムさん、だが惣万の脳内はもっと酷い。

 

「やっべいつも以上に暴走してんぞアイツ等!しかも宇佐美はウサミミが生えて余計篠ノ之束っぽくなってる!ってか実質篠ノ之束じゃね?と言うか全人類篠ノ之束じゃね!?ほら、人の心は人には分からん的な!?」

「落ち着いてくださいマスター。『篠ノ之束』がゲシュタルト崩壊起こしてます。そんな哲学はありません」

 

 人の心がわかる天才もいるのだが……と、並行世界のレモンが正座でそう言った。正座なのはメロンに叱られている最中だからである。まぁ閑話休題(そんな事より)。先んじて走っていたオータムがドアのロックを解除する。

 

「早くこっちにこい!」

「すまんオータム!」

「屋上だ!このエリアではジャミングでISを展開できない、屋上に逃げるんだ‼幸いこの扉は対ISミサイル用の特殊合金…【ドガアァァァァァァァァンッッッ‼】…でぇぇぇぇぇぇ!?」

「宇佐美……蹴り飛ばしやがった……!」

 

 パイルバンカーでこじ開けられたような音がすると、鋼鉄の扉がバナナの皮状にひしゃげていた。

 

「“災”強だァ!災強の生物が生まれちまったぁ‼何でこいつがお前等組織の頭脳担当なんだよおかしーだろ!?どー考えたって一人で世界征服できるレベルだろ!?」

 

 オータムのツッコミに、ファウストの一同は……まぁ宇佐美だし。としか感想が出なかった。チート過ぎたわ……。

 

「エレベーターが来たわ!皆早く!」

 

 スコールの言葉に我に帰った一同は、我先にとエレベーターの中に身体を突っ込み閉じるボタンを連打する。

 

―ヘァッ?―

 

 そして、チーンと言う小気味のいい音に合わせて扉が閉まる。何とかエレベーターに乗ることができた六人(ごにん)は汗を拭いながらも安堵の表情を浮かべていた。(……ところでさっき何か変な声が聞こえたが……?)

 

「……助かった……」

「みんな無事か?全員ちゃんといるよな……?」

「1、2、3、4、5、6。あぁ大丈夫だ」

 

 ふと、違和感を覚えたシュトルム。

 

「……いやちょっと待って下さいよ……六人?もう一回数えましょう」

「あぁ?大丈夫だよ。石動惣万()シュトルム(お前)にブリッツ。スコールにオータム」

 

 シュトルム以外の一同が惣万の手の中を見る。

 

「『赤い雨(ロータア・レーゲン)』」

 

 惣万が手にした眼帯をそう言った。

 

「ホラ六人だ」

「待たんかいィィィィ‼」

 

 シュトルムが雷のような怒声をあげる。シュトルムって風なのに雷のような声って……。

 

「ろッ……ろーたあがコレッ……、眼帯だろーが!?」

「そーだよ、赤い雨(ロータア・レーゲン)は眼帯だよ」

「そーじゃなくてロータンが眼帯しかありません‼」

「そーだよねぇさん、寧ろ眼帯キャラ(ろーたん)はキャラが眼帯にしかないよ~?」

「そんなことねーよ!ブラックラビッ党馬鹿にしてんのかテメー‼」

 

 因みに亡国機業の方々は眼帯が赤い雨(ロータア・レーゲン)の待機状態だと思ったらしく、咄嗟の判断で眼帯になって難を逃れたのだと考えていた。が、しかし、それは大きな誤りだった。シュトルムの指摘を聞くや否やオータムは顔を青くし、スコールは南無三と十字を切った……いやアンタ宗教何処よ?

 

「一階に置いてきてしまったって事に……!マズイですよ早く戻って助けなければ……!あれ、ブラッド・ストラトスにも感染してましたし‼」

「やだよ。今更戻っても全員ウサミミンZの餌食だろうが。そもそもオリサブキャラ出すぎて困ってんだよ、一人二人消えても問題無ーよ」

「マスターメタ発言はやめてください‼」

 

 ヤバいヤバい、私がこの状況を収めないと……シュトルムは滝のように汗を流し続ける。

 

「それによく考えて~ねぇさん~?コレ……ぶっちゃけろーたんだよね~?」

「どっからどう見ても厨二な眼帯ですが妹よ‼」

「いやいや~?現実から目を背けずによ~く考えてみて~?これと~、一階に取り残されているロリ少女~……ぶっちゃけどっちがホンモノ~?」

「現実をしっかり見るべきはお前だろうが‼いや平常運転なのかコレ!?」

 

 何時もの様子と、先程見せたシリアスな様子。その二つが混在して自分の妹なのに妹のことがよく分からなくなって来た姉。それに追い打ちをかけるかの様に死んだ目の惣万は言った。

 

「一階のアレは只の『眼帯付け機』だよシュトルム……」

「眼帯付け機って何ですか!?」

「眼帯をかけておく石膏像みたいな感じの奴だよ」

「んなもんその辺のハンガーで良いだろうが‼」

「ハンガーだろあんなもん?本体はこっちだろ?だよなロータン」

「(・∀・)ウンマスター!!(スコール裏声)」

「おめーは黙ってろ‼その声で言われるとどー反応すりゃいいか困んだよ‼」

 

 惣万と同じく死んだ目になっちゃったスコールが妙に甲高い声でモノマネをしでかし、シュトルムは再び怒髪天を衝く。因みに一か月後の健康診断、彼女は血圧が高めになっていた。オータムはシビアな表情をして、騒ぐシュトルムに向かってこう宣う。

 

「シュトルム、昔から人々の間では人の心が何処にあるのか取り沙汰されてきた……人の心は心臓に?それとも脳?私は違うと思うぜ……それはきっと眼帯(笑)『んなもんに心あるの厨二病患者だけだわ‼』」

 

 説明の途中で切り込んだ。これ以上この狂人どもの相手をするのに疲れて来たツッコミは頭を掻きむしりながら赤い雨(ロータア・レーゲン)の事を考える。

 

「貴方等に心は無いのですか!?ある意味で赤い雨(ロータア・レーゲン)のお陰で私達は助かったんですよ!?もういいです!貴方達みたいな人でなしにはもう頼みません!」

「……、……、いや待ってくれ?お前自分が悪の組織の人間って忘れてねぇか?」

 

 しかもマジで人じゃないやつもいるんだけど………あれ?今まで人間として扱ってくれてたの?とマスターはシュトルムの人情深い一面を見た。

 

「私を一階で下ろしてください‼」

「スルーしたよ……」

 

 どうも違ったようだ。ちょっといじける赤い蛇。その時だった。

 

―チーン!―

 

 無機質にエレベーター内に音が響く。

 

「アレ……?まだこんなところで?ちょっと、私は一階で下ろしてと言いましたよね?」

「知らねぇよ、俺ら屋上のボタンしか押してねぇ」

「じゃ、どうして……」

「そりゃアレだよ、その階でエレベーター待ってる奴がいるんだろ……」

 

【アイススチーム……!】

 

 オータムの言葉に場の空気が凍りつく。

 

「「……………………」」

「……………………」

「「……………………」」

 

 さっと顔から血の気が引く室内の五人。そして………………。

 

「あ、開けんなァァ‼」

「閉じろ閉じろ閉じろォォォォォァァ!?来るっ、奴らがクルゥ‼奴らが……ァァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!?」

 

 まるで別人になったかの様に動転する悪の組織のメンバーたち。無駄だと分かっているはずだが、ガチャガチャガチャガチャとエレベーター内のボタンを連打する。……そこの画面の前の貴方、呆れました?……貴方がこの状況に立ってることを考えてみてください。誰だって喚くわ。

 

―ピンポーン―

 

 エレベーターのドアを見るとゆっくりと開かれ始める鋼鉄の扉(生命線)

 

「「「「ギャァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァッッッ!!!」」」」

「何で私の後ろに隠れるのオータムゥ!?」

「うっさい、こー言うのは年長者が若輩者を守るって相場が決まってんだろぉ!?」

 

 普段の関係を忘れ、暴走する一同。先程助けに行くと言ったシュトルムさえもスコールを盾にした。カッコ悪い、と妹は思ったが口に出すと首を吊ろうとするのでやめた。……ま、その当人もスコールの背後にいるから言える立場じゃないんだけどね~。

 

―ゴウン……―

 

 そんなことにも関わらず、無情にもドアは開かれる……、そこにいたのは……。

 

「……あー、ぼんじゅー?」

「「「「「……………………」」」」」

 

 開いて三秒でフランス語。仮面の女性が誰かを俵担ぎして立っていた。

 

「ッ朱の疾風(ラファール・ヴァルミオン)テメェェェェ‼こんなところで何やってんだ脅かすんじゃねーよその仮面ぶち割るぞ‼」

「オータム落ち着いて?」

 

 そう、アヴィケ〇ロンと狂〇ロットの仮面が組み合わさったかの様なデザインの頭部を持つブラッド・ストラトス、朱の疾風(ラファール・ヴァルミオン)である。

 

「ヴァルミオン、お前休暇に行ってたと思ったら……ウサミミンZはどうした?」

「何その栄養ドリンク剤?取り敢えずホラコレ、マスター」

「ん?」

 

 ごそっ、と担いできた少女を床へと寝かせた。もみくちゃにされたのか、その少女の銀髪はぼさぼさになっており、疲れ切った印象を与えている……。その顔を見て、シュトルムは喜びだした。

 

「……ロータアァ‼貴女まさかロータアを助けて?……やりましたねヴァルミオン!」

「凄~い、凄いよヴァル~」

「何だとコイツ……本編じゃそこまで活躍してないクセに何で無駄に男前なんだよ……」

「そりゃどうも、フフフッ」

 

 男前と言われて、嬉しそうに笑い声を漏らすヴァルミオン。その様子をみてシュトルムはウサミミゾンビになっていない確信を持ち、エレベーターから飛び出した。

 

「笑い方も普通ですね!仮面で隠れていて見えなくても、ウサミミンも生えていないみたいですし……取り敢えず赤い雨(ロータア・レーゲン)をエレベーターの中に」

「しかしお前……よくあの量のバグスターの群れの中ここまで来れたな……」

 

 ん?と……ふと嫌な想像をした惣万。彼はブリッツに近寄り耳打ちをすると、彼女はそれに頷いた。

 

「そういえば~、ヴァルって~……夏季休暇でどこ行ったの~」

 

 何気なーい何時もの様子で質問するブリッツ。

 

「あ、言ってなかったっけ?エチオピアのアジスアヴェハだよ、良い所だったよ、ハハハハ

 

 …………………………サヨナラ、シュトルム(ねぇさん)。

 

「「「「…………」」」」

 

 心の中で合掌した四人は、躊躇の欠片も無くボタンを押した。

 

―がっこん……チーン―

 

 エッ?……と間抜けな表情と声がした気がするが、それよりもウサミミを一気に生やした赤の疾風の方が印象的だった。

 

―……………………ギャァァァァァァァァッッッ‼―

 

 かくして、犠牲者は増え続ける。

 

「ねぇさんは尊い犠牲となったのでした~」

「おーい、スタークにブリッツ……?」

「言うな……真面目なアイツにとってはウサミミが生えてるのを見られることの方が恥だ、コレで良かったんだよ……」

「いや、そうじゃなくてだな。アンタらンとこの赤い雨(ロータア・レーゲン)朱の疾風(ラファール・ヴァルミオン)が連れてきたってこたぁ……」

「…………」

 

 その質問に答えるかの様に、倒れ込んでいた輩もまた頭部に可愛らしいウサミミを突然生やす。

 

「ぅわたちこちょ……かみなのでゃー!」

「うわなんか舌足らず!しかも黒ウサミミがベストマッチ過ぎで可愛い!」

「うん確かに……ってそうじゃねぇ‼やっぱりだ!やっぱりコイツやられちゃってたァ!?」

 

 惣万の迷言?にツッコミを入れるオータム。如何やらシュトルム(ツッコミポジ)がいなくなった為、彼女が代用キャラになるらしい。

 

「あー、しゃーねぇ!使いたくなかってけどホレ!」

 

 惣万は懐からバルブのついた剣をオータムに投げつけた。スチームブレードである。若干冷気が漏れ出ているところを見るとアイススチーム状態の様だ。

 

「ウサミミを!バグスター化させてるっぽいウサミミを切り落とせ!倒すにはそれしかない……と思う!」

「スターク、貴方意外に適当ね!?」

「スコールさん~、マスターたまにこーゆー人だよ~?」

 

 ブレードを構えるエレベーター内の四人。ゆらゆらと気味の悪い動きで近づいてくる黒ウサ。彼女のすぐそばにいたのは……オータムだった。

 

「切るっつったって……」

「べはははは~!」

「‼……この……、ヤルォブクラシャァッッッ‼」

 

 ……………………だが。

 

「……わたちの、おみみきりゅの……?」

「……ッ、ふぁっ……」

 

 ロリの目うるうる( ;ω;)+服の裾をキュッ、のコンボでスチームブレードを取り落としてしまうオータムさん。

 

「あ、こりゃ駄目だ……つーわけで俺らは先に行くぞ」

「んじゃ~、抗体の精製ができたら助けに来るから待っててね~?」

 

 二人は身体をゲル状、データ状にしてエレベーター内の隙間を潜り抜けると、一足先に屋上へと空を駆けたのだった……。

 

「ちょ……あなッ……スタァァァァァァァァァァァァァクゥゥゥゥッッッ‼あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 ……………………背後に、スコールの悲痛な叫びを残して……。

 

 

 

「ぶっはぁ!良し最上階に到着だぁぁぁ!」

「にっげろ~ぃ」

 

 エレベーターのドアから粒子とゲルが這いずり出てくる。そして、高速移動をしながらもその形は惣万とブリッツへと戻っていく。尊い(阿保)な犠牲を出したながら逃げて来た二人。惣万は息も絶え絶えだがブリッツは余裕そうだ。……当たり前だ、バグスターウイルスに呼吸はいらねぇだろ‼と脳内で突っ込む惣万。だが口には出さない、体力の無駄だ。

 

「ってぇ!前からも来たぁ‼」

 

 ヴェハハハハ、と特徴的な叫びと共に迫って来るウサミミの大群。もう悪夢である。幼い頃に見た不思議の国のアリスがどうしてああも不気味だったのか、今はじめて分かったような気がする。

 

「マスターク~!こっちにヘリポート~!」

 

 身体に赤い光を纏わせるとウサミミバグスター共をぶっ飛ばし屋上のドアへの道を開く。転がり込むように身を躍らせると、ドアを叩きつけるように力一杯閉じた。

 

「死守しろ!この扉は絶対に死守っっっ‼」

 

 そう言ってブラッド族パワーで扉を溶接する惣万。こういう時この身体って便利だよね。シューッ……と金属同士が融解し繋がるのを見ながら腰を下ろす二人組。

 

「ふぅ、ふぅっ……はぁ……。こっからどうするかねぇ。飛べることは飛べるが……人の姿のままってのはな……」

「う~わ~、街にもウサミミゾンビが溢れかえってる~……」

 

 ブリッツはそう言って下の方を見ていると、ヘリコプターが徐々に上昇しているのを両目が捉えた……。そこに乗っていたのは惣万の想像通りの人物で……。

 

「ヴェハハハハ!心配ご無用!スターク、時間稼ぎご苦労だったぁ‼」

「あれ~……?お前ウサミミンZのリーダーっぽくなってなかった~……?」

 

 諸悪の根源、宇佐美幻……。ブリッツは辺りにグレランが無いか探したが、残念ながら見つからなかった。………死んでもらおうと思ったのに、といつもならざる口調で呟いたため周囲の温度がマッハで下がる。

 

「ふっふっふ……敵を欺くにはまず味方から、だなァ‼」

「……やっぱりか。差し詰め新しいバグスターを亡国機業の内部にばら撒きデータを取ってた、ってところか?」

 

 感染してないと思ったよ、とぼやく惣万。何故なら……この女は既に、自分を神と宣う天災馬鹿な宇佐美幻その人だったのだから。もとから。そんな天災馬鹿はヘリコプターから意気揚々に飛び降りて無駄にカッコつけたヒーロー着地をやって見せた。

 

「(SE:ブゥン!)ふっふっふ……その通り!簡単にデータを取らせてくれないことは分かっていたからなァ……だったら自分もサンプルにしてパンデミックを起こせばどさくさに紛れてデータ収集をッだだだだだだぁッッ!?やめろスターク、私を屋上から突き落とそうとするなァ‼」

「さっさとフラーヤウェイしてジャスタウェイしろコノヤロー」

 

 二匹のガシャットスナギツネはハイパー無慈悲に宇佐美を蹴りつけ、屋上の手すりから転げ堕とそうとする。

 

「あっヤメテ!?マジで養豚場の豚みたいな目で見るの止めて!?…………ナンダロチョットコウフンスル……」

 

 その発言に完全にキレたのか、天才的な馬鹿の首に当て身して完全に黙らせたスターク。宇佐美の意識はジャスタウェイ。……ん?使い方違う?良いんだよこまけぇこたぁ、ジャスタウェイはそれ以上でもそれ以下でもry(by惣万)。そうこうしているうちにブリッツは背後で妙な音が響いている事に気がついた。

 

「あ、ちょ……マスターク~、この豚はどうでも良いけど扉がこじ開けられ始めてるよ~?」

「何……」

 

―ドォォォン‼―

 

 そこには色取り取りウサミミで出来たkhaos of khaos な光景が広がっていた。男だろうが女だろうがウサミミ、ウサミミ、ウサミミ、……書いてるこっちの方がゲシュタルト崩壊してきたわ。

 

「お前等……そんな姿になって……クッ……、あ、写真撮っとこ(パシャリ)」

 

 さらっと酷い惣万。オータムのウサミミは紫、シュトルムのウサミミは青、ブラッド・ストラトスたちは元になった人々のイメージカラー……と、どうやら個性でウサミミの色は変わるらしい……んだが。おい待て、なんでスコールだけトラ柄?……だっちゃ?

 

『『『『『ヴェハハハハハハハハハ‼ヴィーヒヒヒヒヒヒヒィッッッッ‼』』』』』

 

 様式美の様に狂笑をするウサミミンZ達……。それを見ていた宇宙人はたった一言絞り出す。

 

「地獄かよ……」

 

 至極当たり前な感想だと思う。地球外生命体にここまで言わせる宇佐美って……。そして惣万がそんな発言をしている間、ブリッツはと言うと……。

 

「えぇっと~……これじゃないこれでもなぁい~」

 

 宇佐美の服をひたすら脱がしていた。周囲には彼女のワイシャツやらズボンやらがポイポイと投げ捨てられていくが……最終的に下着姿になる宇佐美。その途端ブリッツの無表情な顔がさらに平淡な感じになる。

 

「…………………………宇佐美、その歳で『いちごぱんつ』ってどうなの?」

 

 いつものキャラ口調をぶっ飛ばしたブリッツの肩から、白い和服がずり落ちた。

 

「お前もこんなタイミングで何言ってんだァ‼あぁ奴らが来る!あぁ、アァァァァァァァァ!?」

 

 その瞬間もみくちゃにされる惣万さん。………ご愁傷様です。まぁ周囲の人間が美形ぞろいなのである意味ご褒美にも見えなくもないっつーかね……。

 

「あ~、ごめんなさいマスターク~……、うん、ウサミミ似合ってる~」

「ふっざけるなぁぁぁぁぁ‼お前もウサミミつけてやろうかぁぁぁぁぁ‼……アァァァァァァァァ……」

 

 徐々に意識を失っていく惣万。エボルトにさえ感染するバグスターウィルスって……。銀髪の上から可愛らしい赤茶色の耳が生えてきた。因みに垂れ耳のホーランド・ロップである、あら可愛い。

 

「う~ん、それはゴメンかな~」

 

【ライフルモード!】

 

 いつの間にかライトカイザーに変身していたブリッツ。彼女は、宇佐美の胸元に挟まっていたピンク色の容器を手で弄ぶ。その『エグゼイドフルボトル』をセットして、上空に向けネビュラスチームガンを持ち上げた。

 

「はいは~い、諸君~、このゲームは無効だ~」

 

 そう言うと、彼女の指はライフルのトリガーに触れ、そして………………。

 

【フルボトル!ファンキーアタック!】

 

―ドォォォン‼―

 

 打ち上げられたピンク色の光が、その街の上空を覆い出し……パラパラと金色の粒子が降って来た。その光がウサミミンZに降りかかり、ドサッ、ドサッと倒れこむ音が次々と響き渡る……。惣万はぼやける視界の中で、この光景にデジャヴを感じていた。

 

「……これ、は……エグゼイドの……『リプログラミング』……?」

 

 急にクリアになっていく惣万の頭。そして、何処からともなく陽気な音楽が鳴り響くと、青空にド派手な文字が浮かび上がった。

 

 『GAME CLEAR!』と。

 

「ふぃ~……終わったよ~、マスターク~、ほら起きて~?」

「……あー……。ダメ人間万歳、ダメ人間もたまには役に立つ、ってか?……………………んなわけねぇから‼」

 

 ブリッツによって叩き起こされたスターク様。自分の意識が完全に戻った惣万の前には、ブラとパンツだけになっている第二の天災(変態)がそこに居た。…………これにて、色々とはた迷惑で得るモノが何も無い『ウサミミンZの恐怖』は幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 しばらく経って。

 

「宇佐美ぃ……」

「お前ェ……」

「何だ……スコール、オータム?それにブラッド・ストラトスの皆も私を呼び出して……」

 

 今回の件でシュトルムは完全に残念キャラ+おも【血でよごれて見えない】………。惣万は平に謝りながら各所にnascitaスイーツを届けていた(なお亡国企業の中間管理職からはお互い大変ですね?と曖昧な表情で慰められた)。

 

「いかにお母さんとは言え……」

「今回の事は……」

「少し体で覚えていただきたいわねぇ?」

「……?……?フム、取り敢えず戦えば良いのか?」

 

 思わぬとばっちりを受けた四人のブラッド・ストラトス……怒り心頭の『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』、『緋龍(フェイロン)』、『朱の疾風(ラファール・ヴァルミオン)』の三人と、よく分かっていない『赤い雨(ローター・レーゲン)』は武器を構えながら母親である宇佐美ににじり寄る。因みに今回登場しなかった『赤式・血羅』はふて寝していたMのところに行って、無理矢理レストランのケーキバイキングへと連れ出していた。なんでも双子でお得キャンペーンをやっていたらしい。

 

「ちょ……待て?皆落ち着け?今の私が持っているガシャット、先のファンキーアタックでリプログラミングされて不死の機能失われてるんだけど?」

「だから?十回ぐらい死ねよお前」

 

 オータムの声に合わせて、シュトルムから受け取ったあるものを取り出した二人は………………………ヱッ?

 

【スパイダー!冷蔵庫!】【スコーピオン!ゴールド!】

 

 ビルドドライバー(・・・・・・・・)へそれぞれにそぐわしいボトルをセットする。

 

【【ベストマッチ!】】

 

 変身準備しちゃってる……ってかあんたら人体実験受けたのね……。

 

「お、オイオイ待て待て待て!フルボトルって全部戦兎サイドに渡ったんじゃなかったっけ⁉と言うかここでお披露目か、そうなのか!?」

「この話はパラレルだと思っとけっつっただろァアン!?」

 

 因みに何本かはファウスト側に残っている。恐竜とF1と言った商品化されなかったボトルが亡国機業に保管されているのだ。何故彼女がそれを知らないのかと言えば……宇佐美はバットエンジン以外覚えていなかったのである(理由はその二つが彼女の感性にエボルマッチしたから)。そうこうしてる間に変身完了(処刑時間)

 

【【Are you ready?】】

 

「こちとら出来てませんがァ!?」

「「変身!」」

「駄目ですっ!……ァッ」

 

 周囲に満ちる光と光。ブラッド・ストラトス達と二体のライダーが立つ中で、いっぱいの涙を目に浮かべていた神は、まるで大人に叱られている子供のようだった(ブラッド・ストラトス、後に語る)。そして………………。

 

―ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ‼―

 

 その後、三日三晩立て続けにリンチされ、ゲンムはレベルXに到達したとか。ただし不死性が無いので、何とかGM特権でエナジーアイテムをやりくりして生き延びたとか何とか。

 




亡国機業メンツ「「「酷い目に遭った……」」」
惣万「番外編はキャラ崩壊結構あるからキッツいよな…」
シュトルム「だったら辞めりゃいいのに…」


あらすじ提供:神羅の霊廟様ありがとうございました!


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夏休み閑話 『最後の夏祭り』

宇佐美「さて、夏休み編はもう終わりだな……。ちゃんと宿題は終わらせたかM?」
M「ガキ扱いはやめろ……」
宇佐美「ハッ、ピーマンが食えないお前が何を言う?」
M「黙れお前だってまだ下着がイチゴ柄じゃないか……」
宇佐美「ベッドに入る時暗いと眠れないお前が馬鹿にできる立場か、このマゾが!」
M「そのMじゃない!このKMSが‼」
宇佐美「ハーッ!?ぬぁーにがKMSだ?可愛い・マジ・サイコー、だってかぁ⁉完全なマッドサイエンティスト?誉め言葉だなァ!?」
M「……ッ、うっさいバーカ!ばーかばーか‼陰気バーカ!行き遅れバーカ‼」
宇佐美「誰が馬鹿だァ‼馬鹿と言う方が馬鹿だろうがぁあん!?このチビ馬鹿女がァ‼」


シュトルム「…………同レベル……」



 ここは亡国機業の日本支部。それも宇佐美が借りたビルの一室。その部屋にずかずかと入って来る少女の姿があった。

 

「どういう事だ宇佐美、貴様……!」

「おや、Mじゃないか。どうした?」

「とぼけるな。私のISを何処へやった……」

 

 Mは手にしたオートマチック式拳銃で宇佐美の頭へ突きつけた。

 が、それと同時に宇佐美もトランスチームガンを彼女の頭に突きつけ返す。

 

「『黒騎士』……か。別にお前のではないだろう?私が開発した第四世代機だ」

 

 そのまま両者は睨み合っていたが、先に構えを解いたのは宇佐美だった。ニヤニヤと嗤いながら、トランスチームガンを持つ手をプラプラ揺らす。その様子を見て、鋭い目を更に細めるM。

 

「非常に癪だが、……私にはまだ力がいる」

「……ん?あぁ、イギリスにサイレント・ゼフィルスを強奪しに行くのだったか……どうでもいい事だったから忘れていたな。だったらそれは私が代わりに行こう。上にもそう話を通すとして、だ……」

 

 ゆっくりと立ち上がると、宇佐美は『紫色の拳銃』を先程とは違う手に持った。

 

「忘れたわけでは無いだろう。お前は私たちのBSに向かって攻撃やら命令違反を行ったじゃないか。スタークの仲介が無ければお前を殺しているところだ」

「…………っ」

 

 淡々とつまらなそうに話す宇佐美を見て、彼女が本気でそう考えていることを理解する。

 

「……と言うか『黒騎士』、既に壊れていたのだがな」

「何……」

 

 ゴミのようにISを放り投げる宇佐美。Mがそれを拾えば確かに展開も反応もしなかった。

 

「如何やらお前の成長によって『黒騎士』にバグが発生したらしい。ISコアが汚染させられるほどの、な。全く、『織斑』の成長は規格外だ……。称賛に値するよ」

「!?」

 

 信じられない顔で宇佐美を見るが、彼女の目や言葉は至って真剣なものだ……嘘をついるようには思えない。

 もしや、自分は褒められているのか?……いや、それとも舐められているのか。どうにもこいつの腹の底は見ていても考えても分からない、と思案するM。

 

「……だが、結局は想定の範囲内。『この程度の力』で満足するとは……」

「何…、だと!お前に何が解る!私には力が必要なんだ……!」

 

 『この程度』と語った宇佐美に怒りを見せても、彼女は静かにMを見つめるだけ。

 

「……お前が求めているのはこんなものか?只のIS如きで満足するのか?『織斑一夏』は、さらに強い力を得始めているぞ……」

 

 その言葉に、一瞬で憎いあの男の顔が浮かんだ。自分の代わりにその場に立っているあの男が……。

 

「……っ、……!」

 

 その感情が溢れ出し、年端もいかない少女は変貌する。一瞬で犬歯を剥き出しにして、狂気に憑りつかれた餓狼の如き形相であった。それほどまでに彼女と『彼ら』の確執は深いのだろうか。

 

「……その顔だ、お前程の憎しみを見せる人間はそう居ない。……お前なら『最強の器』、いや、それどころか『ハザードレベルX(・・・・・・・・)』になれるかも知れない……」

 

 その様子を優しげな笑みを浮かべる『狂った悪党』は、『悪しき織斑』を期待した目で見つめている。

 

「そこで今までの問題行動を不問にする提案なのだがな、お前に先行投資だ。新しいIS……、今私が開発中の『無世代機』、使いこなせるのならお前にくれてやろう」

「…………『無世代機』?だと……?」

 

 聞いたこともないワードに戸惑いを見せるMに、これ以上は教えられないとでもいうかの様に人差し指を唇に当てる宇佐美。

 

「だが、お前にそれに見合うだけの成果を上げられるかまずテストだ」

 

 カチャン、と机に乾いた音が鳴る。Mはそこに置かれた黒い拳銃と、その傍らにあるものを手に取った。

 

「……コレは。お前…」

 

 Mが持ち上げたソレは……――――『蝙蝠の顔が描かれたボトル』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「何で夏休みがもうすぐ終わりってなってんのに、アンタと海釣りしなくちゃなんないのよ……」

 

 カンカン照りの真昼間、もう間も無く三時と言う所。浜辺のテトラポットに二人の少女の人影があった。

 

「いやぁ、お恥ずかしながら食費がカツカツでして」

「……これ食用なのね」

 

 洗濯物を一緒にもって来たらしい、片側に下着を吊るした木の棒を立て、顔に巻いたストールで暑さをしのぐセシリア。一方日傘を差しながら汗だくになっているのは半そでTシャツの鈴。

 

「浜焼きは乙でしてよ……十三匹目フィィィッシュ‼……おやまたタコですわ」

「フィッシュって何よ?」

 

(A.フィッシュとは釣る時の掛け声、若しくは釣った魚が何匹、何杯かをカッコよく言う為の方便であるbyとある紅茶の掃除主夫(ブラウニー)

 

 ネットの豆知識に書き込んだらこのように返答が返ってくる疑問が鈴の頭の中でグルグルと回る。

 

「てかセシリア、アンタさっきからタコばっかり釣ってない?この近海でそんなホイホイ釣れるモンだっけ……?」

 

 セシリアのクーラーボックスの内訳がとんでもないことになっている。タコが6匹狭い箱の中でウゴウゴと蠢いていた。アカムツやシロムツが触手に絡み取られており、耐性がない人間が見たらSAN値直葬な感がある光景ではないだろうか。

 彼女、クトゥルフか何かのタコの呪いにでもかかっているのではないかというレベルであった。

 

「…わたくしが吊り上げる魚、タコとウナギが何故か多いんですわよね。最近の大物はシャチですが」

「…………待って、シャチって動物よね?ってか何処で釣ったのアンタ?」

「アラスカに行った時に偶然……十四匹目フィィィィッシュッッ!」

 

 海洋生物の王のメダルに縁が深いセシリアなのでした、まる。

 

「お、今度は魚…しかもメバルですわ!塩焼きでも醤油煮でも美味しいのですわよね……一夏さんのところにもお裾分けしに行きましょう」

「アンタイギリス人じゃなかったっけ。ってあたしのところにもきたぁっ!」

 

 鈴が引き上げた竿と共に、ザバッと海面を跳ねる黒い影。40㎝はあろうかというかなりの大物である。

 

「これは…え、マジ?ヒラメゲット!」

「おぉ!ムニエルが美味しいですわよ!」

「あーいいわねぇ。でもねセシリア、日本じゃやっぱり刺身が一番よ」

「…生魚、ですか……」

「アレ?やっぱり苦手だったりする?」

「え、えぇ……個人的なことになるのですが。旅した先々で生水に中ったり、生肉に中ったりと、碌なことがないのですわ…」

「あらー……」

 

 そんな会話をしながら、海にいる二人の時間はゆっくりと過ぎていく。

 

「……――――にしても、意外に釣りもいいじゃない。クソアッツいけど」

「む。これは大物の予感…、ですわっ!」

「あ、手伝おっか?」

「お願い、しますっ…!」

「よしオッケ。じゃあせーので引くわね……――――せぇのッ‼」

 

 ヒラメを引き上げた時とは全く違う、海面が弾けたような轟音が生じた。

 

 

 

「「……――――は?」」

 

 

 

 セシリアと鈴が仰ぎ見た蒼穹。彼女らの上空から、大口を開けた3mの鮫(・・・・)が降って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 時刻は夕暮れ。ラウラはシャルルや三羽烏と一緒に、人の喧騒に溢れた神社を歩いている。周囲の暗がりは夕日と灯籠でオレンジに染まる。

 

「篠ノ之神社で夏祭りやっている、とは聞いていたが……これほどとは」

 

 随分と人の数が多いな、と歩きながら思う彼女。因みに三羽烏共々浴衣を着ているが、それぞれ一夏宅にあったものを採寸して着まわしているらしい。

 

「おい銀髪、何勝手に出歩いてんだ、俺方向音痴なの知ってるだろ。迷子になったら二人とも赤っ恥だ。離れんじゃねーよ」

「それはツンデレ、と言う奴か?」

「ちげーわ誰得だよ……、ッ‼」

 

 なんだかんだで良い雰囲気を放ちながらそばを歩いていた金髪の浴衣男。

 …――――だったのだが、急に例の如くシャルルンのアイドルセンサーがオンになる。

 

「ハッ……!そこか…!」

「どーしたんです、カシラ?」

「あっちから煙に混じってくーたんの匂いがする!」

「本当にどうしたんですカスラ」

「ブルが毒舌……ウチらも平常運転に戻って来たなァ……」

 

 三羽烏は日本に来てからのカシラの平常運転にげんなりしていたのはまた別の話。そんな事も知ってか知らずか、彼ははぐれない様ラウラの手を引き突っ走る。そしてその先で、シャルルは自分の運命を変えたアイドルに再会を果たした(世迷言)。

 

「お?お前……シャルル・デュノアじゃねーか、らっしゃい」

「あっ、はっ、久しぶりですオトーサン!」

「誰がだ、誰が」

 

 あからさまに不機嫌な顔で、店を切り盛りしている惣万は気のない返答。彼がソース料理を出す屋台と、その向かい側で飴類を出す屋台が大盛況となっているためである。どちらもカフェ『nascita』が出店したもので、ただいま絶賛かき入れ時なのだ。

 

「おーい惣万?見てわかるがりんご飴と綿飴の店に客が寄り付き過ぎだ。もう私じゃ捌ききれねぇぞ。こっちやっとくから向こう行け……って取り込み中か?」

 

 彼らの目の前では、売り子をするお面を付けた銀髪少女(ネットアイドルくーたん)とタコ焼きと焼きそばを作る灰色髪の乙男(石動惣万)、それに初めて見る茶髪の目付きの鋭い女性(巻紙礼子)が一堂に会していた。

 くーたんの知名度はかなりのものなので、顔隠しの為に出店にあったプリ●ュアのお面を買ってもらえたらしい。

 

「いんや?ってか巻紙、そっちの方が楽だったはずなんだがな。なんでこんなに集まったんだ…」

「馬鹿か?お前の作った飴細工が売れに売れまくって大変なんだよ。何だあの金魚、マジで本物みてぇじゃねぇか。……ってクロニクルは何食ってんだ」

「金魚飴美味しいです」

「え、くーたんそれ飴細工(シュクルダール)ってマジ?お父様半端ねぇ…」

「だからちげーから。養父なだけだから」

 

 惣万の作った飴細工、そのリアリティに(意外と)芸術に造詣が深いシャルルでさえ唸る。

 

「む……石動氏。コレは何だ?」

「お、ラウラ・ボーデヴィッヒ君気になるか?教えてやろう、コレはTAKOYAKIだ」

「TA・KO・YA・KI?」

 

 ……何で片言?とブルは思ったが、あまりの会話のテンポに突っ込みが追い付かなかった。惣万という人間とカシラを合わせたらペースが乱されて仕方がない。

 

「ある世界では丸いものが神聖だとされていてな?その王子様が好きだった食べ物だ。その王子様は朝昼夜毎日必ずコレを食べてな、可愛い嫁をゲットしたという霊験あらたかな食べ物なんだが……」

「取り敢えず百個」

「ラウラァ!?」

「よーし注文入ったぞ。後は頑張れ巻紙。俺向かい側の屋台で飴作って来る」

「おぉい嫌がらせかオメーは⁉この量一人で作れってか!しれッと丸投げしてんじゃねぇ!」

 

 どこぞのメガウル王ダーのような思考回路になっているラウラが、巻紙に向かって早く早くと思念を飛ばしていた。不精不精にちゃっちゃかソースを絡め麵に火を通す。巻紙礼子、実は女子力はそこそこ高く、中々の手際の良さだった。

 

「……へい、おまちどおさん。…食えんの、お前」

ふぉれふぉ(これを)ふぁれれふぁ(食べれば)ふぉめふぉ(嫁を)……(もっきゅもっきゅ)ッふまひ(美味い)‼」

「取り敢えず食べてから喋れ…………あとくーたん、綿あめ一緒に食わない?」

「あ、グリス。リンゴ飴買ってきて」

「はいただいまー‼」

「「「カシラェ……」」」

 

 カシラがパシラれている風景を眺め、『羞恥心とかないのか?』と頭を抱える三羽烏。だがコレがカシラクオリティだ。

 

「へっへっへ、毎度アリ……これで売り上げが……(ごすっ!)あだぁ!?」

「嘘を教えるな。というか屋台の収入など微々たるものだろうが」

 

 綿飴を作りながら怪しい顔になってた惣万に天罰が下った。涙目になりながら振り返ると、黒の浴衣の黒髪の麗人が険しい顔で立っている。

 

「イッテェな千冬……つか何でオフなのに出席簿持ってんの?」

「私のアイデンティティなんだ。悪いか」

「……ドンマイ」

「何憐れんでるんだ」

「やっぱ学校ってブラックだよなーって…。そーだ何か食ってくか?あぁ、ラウラちゃんからタコ焼きでも貰ったらどうよ」

「……惣万、分かって言ってるだろう」

「?」

 

 はて?と小首を傾げる惣万。本当に自覚すらないという憎たらしい顔だった。

 

「厄介な出店出しやがって……私タコ苦手なんだよ……!」

「……ん?なんかあったっけ?」

「忘れているのか……っ!ISスーツの中にお前が捕まえたタコが入っていて、知らずに着たらえらいことになったんだぞ本当に!」

「……あー、あった!そーだそーだ、けしからん春画みたいな…ひゃん!?」

 

 

 黒い斬撃が文字通り“飛んできた”。真空状態になった波動が闘気か何かの作用で色がついたのだろう。

 

 

「……ちっ、外したか」

 

 千冬は首筋に血管が浮き出ている以外は極めて冷静に振舞っている。むしろそれがちょっと怖い。

 

「あっぶな…え、客寄せ用の八岐大蛇の飴細工が真っ二つじゃん。ソレ俺の頭に当たったら大惨事じゃねぇの…?」

「それはない。だがもし裂けても、二つの身体に分かれて仕事も捗るだろ。感謝しろ」

「ウンソーダネ……。ちぇ、これ作るのに30分もかかったのに…」

 

 真っ二つになった八岐大蛇を抱え、とほほとばかりに肩を落とす惣万。しかしながら、こればっかりは過去の自分に責があるので強くは言えない。実際タコの動きが激しくてちょっと助けるに助けられなかったというかなんというか……とその当時を回想する。

 

「何してんだよ惣万にぃ……」

「アレ?箒ちゃん……それに一夏」

 

 と、その時になってようやく惣万は気が付く。朝顔の浴衣の篠ノ之箒、その傍に手を取って歩く龍柄の浴衣の一夏、そしてセシリアや鈴と勢揃いだった。

 

「おや、タコ焼きですか…………ミスター石動?材料の差し入れでこちら如何でしょう?先程吊り上げたのですが、お使いになられます?」

「お?……おーオルコット嬢、これは忝い!後でお金払わせてもらうわ」

「やりましたわ………(グッ)」

 

 ホント、ただでは転ばない女、セシリアだったのだった。

 

「っ、オルコットそれをくれぐれも私に近づけるなよ。本当に頼むからな…」

「…(スッ)」

「オルコットっっ‼」

「えー、蛸さん可愛いですのに…。ねぇToto様」

 

 どうやらセシリア、外国人であるのにデビルフィッシュに対して全く忌避感がないらしい。釣り上げた一匹に名前を付けるまでになっている。

 

「あ、あたしからはサメのお裾分けです。コレもさっき釣りました(どすん)」

 

 何処から取り出したのだろう。フカの頭と胴体の半分が店先に置かれた。突如として虚空から現れた新鮮な巨大生物に、道行く人々全てが振り返らざるを得ない。

 

「……。サメ」

「えぇ、サメです。ネズミザメです。シャーク」

「お高いヤツ!良く釣れたな!え、マジでいいの?」

「どーぞど-ぞ」

 

 腕のIS甲龍を摩りながら、鈴は笑う。近所づきあいの長い兄貴分にお裾分けできてうれしいようだ。……IS機能の無駄遣い感は否めないが。セシリアといいパススロット諸々をクーラーボックス扱いするのは代表候補生としてどうなのだろうか。

 

「ありがとうな。ラッキー刺身に蒲鉾に、色々できるな…」

「構いませんよー、フカヒレは実家の料亭(ウチ)で使わせてもらいますんで。というか惣万さん、話変わりますけど貴方も出店を?」

「あぁ、戦兎に連れられてな……ってかその戦兎がいねぇんだけど」

「あぁ……戦兎さんなら……」

 

 そう言って一夏が指し示した方向……そこは篠ノ之神社の神楽舞が行われている舞台だった。

 ガヤガヤと騒がしいお祭り会場とはうって変わり、その場所は空気がシィンと冴え返っているかのよう。厳粛で荘厳な雰囲気に包まれていた。

 

「……――――え?」

 

 その舞台で神楽舞を踊る戦兎の姿があった。

 

 一挙手一投足が計算された様な動きでありながらそれすら自然に見せる彼女の技量、キラキラと星が舞っているかの様に美しく踊る。

 

「……」

 

 誰もが目を逸らせない。それ程、人の心を引き付けて止まない舞いだった。

 

「私、顔がこんなことになってしまって……それを見かねたのか戦兎さんが代わりに神楽舞を踊ると言い出して聞かなくて……」

 

 真実知っている人間は驚きや涙を隠せない。篠ノ之束が妹の為に踊りを踊る、そこまで二人の仲は親密さを増していた。

 

「……――――束。いや、戦兎」

 

 千冬は思う。『今の彼女(戦兎)』と『昔の彼女()』、一体どちらが本当のお前なのか。お前は大きく変わった、きっかけがどうあれ、大きく一歩を踏み出した。だが私は、かつての過去から変われているのか……。

 

「綺麗ですわね…………」

「セシリアに同意するわ……」

「……美しいな」

「…………ひゅぅ」

「…………箒、良かったな……」

 

 生徒達は思う。願わくば……因幡野戦兎と篠ノ之箒の絆が変わることがないことを。

 

「…………戦兎」

 

 そして惣万は思う。……ありふれた偽善でこの世界を背負わせた、小さくて情けなくて、それでも優しい『ビルドの皮を被った』人間の事を。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、箒ちゃん!おーいっ!」

 

 神楽舞を追えると、イツメンが揃う場に『てってってー』と駆けてきた天才科学者。神楽舞装束を纏ったままバタバタと走っていたのだが、何故かどうにも似合っていた。

 

「えへへどーだった!?うまく踊れてたかな⁉」

 

 キラキラした目で見てくる子供っぽい大人。

 

「えぇ。流石、と言いますか『やっぱり』と言いますか、すぐに踊れましたね」

「ふっふーんどんなもんですか!……ってみんなも来てたのっ!?」

 

 うっそーん!?と口から言葉を垂れ流し、顔を照れで赤らめる天才科学者。

 

ふふふひい(美しい)おほりへひは(踊りでした)!」

「うんラウッちゃんはごっくんしようか。それと口の周り拭きんさい」

 

 戦兎は自分の居候先のネトドル(クロエ・クロニクル)の妹の面倒を見る。うーん、この頓着のしなさは間違いなく姉妹だなぁ…と思いながら、ハンカチで青のりとソースを拭った。

 

「よう、お疲れさん」

「あマスター、サプライズにしたかったんだけどどうだった?」

「おう、上手かったぞ」

「ふふふ、そーだろそーだろ……ってマスター何それ」

「鈴が釣った鮫。今夜はワニ料理だなーってみんなで話してたところだ。刺身に湯引きに煮凝りに…天ぷら、フライにカマボコに…腕が鳴るな」

「ふ、ふーん…」

 

 小脇に鮫を抱える彼のこの場のミスマッチ感に何とも言えない表情をする戦兎。ついでに言えば戦兎、サメのB級パニック映画を見てからというものちょっと苦手意識があったりする。名前的にも皮をはがされそうな相手だし、どうにも(ワニ)は苦手なのだ。

 

「あれ?ところでシャルル何処行った?」

「クロエが使いっぱに出した。あと十分は帰ってこないだろうな」

「十分?微妙だな……」

 

 何でと聞くと、シャルルな論理が返ってきた。

 

「ここから十キロ先にある店舗限定のおまけつきコーラが飲みたいっつったら飛んでいった」

「十分で戻って来れるか?……いや、来れるか」

 

(因みにその頃、コーラを買ったシャルルは、炭酸飲料に振動を与えないようラーメン屋の岡持ちに入れて運んでいた)

 

「丁度花火が始まるのが五分後か……アイツ道に迷わなければ戻って来れるだろ。さて、移動しようぜ~」

「いや、シャルルって方向音痴だったろうが」

「……。箒、そういうのは言わなくていいんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 一方、ココは簪が通う国立病院。その一室にいるのは、外を見たまま黙る四人の少女たちのみ。

 

「……お姉ちゃん、虚さん。今日ね、花火大会があるんだよ」

「………――――」

 

 布仏本音もいつもの雰囲気は鳴りをひそめ、ただただ姉の容体を伺っていた。

 

「……――――窓、開けておくね」

「……――――あ、ありがとう……確か……本音さん?」

 

 その言葉はこれまで積み重ねてきた『思い出』がもう戻らないと思わせる。………『姉』との思い出が苦痛となって彼女達の背中にのしかかる。

 

「……っ、うん……。一緒に見て良い?」

「……、……えぇ。どうぞ……」

 

 ……その他人行儀のような言葉で、さらに重荷を背負った様に思わせる。

 

「…………ごめんなさい。覚えていなくて……」

「…………」

 

 そう、臨海学校の前に、『姉』と『妹』は約束し合っていた。今までの関係で失った時間を返済する為に、一緒に姉妹何気ない時間を過ごしたい……その言葉で二人の心は満ちていた。……はずだった。

 

「……。『お姉ちゃん』のはずなのに……本当にゴメンね……ぇ……」

 

 それでも、その泣いた顔を見ていると……どうしても思ってしまうのだ。

 

「…………大丈夫。お姉ちゃんたちの笑顔は……取り戻すから……」

 

 そして、外には鮮やかな閃光が闇を彩る。それは、一瞬の後に儚く消える。霧の中に霞む、やがて消えゆく露のように。まるで、彼女らが失った記憶のように、再び思い出そうとすると見える黒煙のように。

 

「…………っ、たーまやー‼」

 

 簪は迷いを振り払うように叫ぶ、病棟から。

 

 

 

「「「「かーぎやーっっっ‼」」」」

 

 戦兎達は明日を思って叫ぶ。篠ノ之神社から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日々は、花火の様に散る。そして、暗き悪人は闇夜に影も無く只佇む…………。

 

 

 

 

【Bat…!】

 

 ガラスの外は未だ爆発が収まらない。(そら)を彩る光を背景に、小さく……しかし凶暴な視線をした少女が銃を構えた。

 

「蒸血」

 

【Mist match…】

 

 下から上へ銃を動かし、その身を汚れた黒煙で染める。小さな身体にスーツが纏わりつき、アーマーにビスが突き刺さる……。

 

【Bat…!B-Bat…!Fire…!】

 

 弾ける火花、巻き起こる白煙。そこにはさっきまでの小柄の少女はおらず、長身の蝙蝠の怪人が立っている……。

 

『なる、ホど。こレが、……トランスチームシステム、か』

 

 彼女は手を何度か握りしめ、黄金のバイザーを光らせた。

 

「あぁ、ISでは目立ちすぎる所でも行動が容易い。君の生体データを入力しておいたからなぁ……幾らかは動きやすいだろう?」

『……デ、フルボトルを、回収スれば、良いのカ……』

 

 ナイトローグがノイズ交じりの声で尋ねれば、ニヤリ、と笑い手に持ったスイッチを押す宇佐美。

 

「あぁ、ついでにこれを囮にしろ」

 

 大きな音をたて、宇佐美の後ろの壁の一部が上がり始める。そこにいたのは……。

 

『……、コレは、……』

「『クローンヘルブロス』だよ。量産型カイザーシステムのデータ取得、その最終段階だ……」

 

 ズシャッ、と金属質な音を立てて歩いてくる白と水色の歯車の怪人。虚無なレンズアイには、宇佐美とナイトローグの姿が映っている……。

 

「五月から世界各国を巡り………面倒なテロ組織や三流企業、そして女性優遇国家とか言うふざけた馬鹿共を壊滅させて我々に邪魔立てする存在はいなくなった!ようやくだ……ようやく醜い世界に戦乱を‼この狂いし世界に消滅を‼」

『…………』

 

 青紫色の髪を振り乱し、『狂った悪党』は嗤う。信じるべき歪な愛を以って、世界を滅ぼさんと高らかに謳う。

 

「覚悟しろ、篠ノ之束(因幡野戦兎)。お前のそのガワだけの『仮面ライダー』で、どこまで戦えるか試してやろう…………」

 

 

 次なる刺客が……――――、そして、本当の戦いがやって来る。

 

 

「世界よ‼私に、私達に勝てるか!?待っているぞその時を!!!この世の果てで相見(あいまみ)えよう!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 やがて、花火は散り、天から消えていく。儚く散華する命の様相を示すように。

 

「星が降ってるみたいだな……」

「あ、惣万にぃが小さい頃から歌ってたあの曲か?」

「うむ、時折歌ってみたくなってな」

 

 篠ノ之神社からの帰り道、カフェnascitaに向かう大勢の人の最後にて、箒と一夏は懐かしい歌を思い出していた。

 

「……少し、歌うか」

「あぁ、歌おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて星がふる 星がふるころ

 

 

 

 

 

心ときめいて ときめいてくる

 

 

 

 

 

懐かしい 出来事を 忘れないでね

 

 

 

 

 

目覚めては 思い出す 暖かな顔

 

 

 

 

 

 

 

 箒の片目は、夜空の向こうの月の光に照らされて、一夏の肌は寄せては返す母なる海の穏やかな光に包まれて。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて星がふる 星がふるころ

 

 

 

 

 

心ときめいて ときめいてくる

 

 

 

 

 

やがて星がふる 星がふるころ

 

 

 

 

 

心優しさに 微笑んで来る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二学期がやって来る。千の翼を広げて、青い空を覆いにやって来る……――――。




宇佐美「フフフ、どうだぁ……神の恵みを有り難く受け取れぇ‼いよっほぅ‼」
ナイトローグ『……ウゼェ……』
宇佐美「あぁ?一人で電車乗れないガキが……IS造ってやらんぞ、ぉお?」
ナイトローグ『……なっ、それハ……』
宇佐美「ならそれ相応のお願いの仕方があるだろう?(ニヤニヤ)」
ナイトローグ『……!土下座しろというのかフザ(即落ち)うにゃァァァァァァァァ‼』
(土下座Mローグ)


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原作乖離編
第六十一話 『複製のディアブロス』


惣万「さてさて、『IS EVOL A KAMEN RIDER?』も二学期に入ったな……、そろそろ俺らの活動も二段階目に移行するぜ……あ、『マスカレイド・ドーパント』召喚。召喚時効果でデッキの上から二枚オープン。『ウェザー・ドーパント』と『ユートピア・ドーパント』なんで、井坂先生を手札に…」
ブリッツ「うむ~、ファウストの計画は順調じゅんちょ~。あ、マスターク、バースト発動だよ~、『双翼乱舞』~。コストを支払って四枚ドロ~。んで『ミブロック・バラガン』の効果でバーストセット~」
シュトルム「……――――何してんですアンタら?」
惣万・ブリッツ「「バ〇スピ」」
宇佐美「仮面ライダーコラボやってるからな(『檀黎斗神』のカードを三枚揃えながらウズウズ)」
惣万「『倒壊する風都タワー』を配置して墓地から『仮面ライダーエターナル[2]』を戻してっと……。アタックステップ、『アナザーディケイド』でアタック。アタック時効果で手札から『仮面ライダーエターナル[2]』を召喚。さらにフラッシュタイミングで『仮面ライダーエボルブラックホールフォーム』を召喚。お前の『スレイヴ・ガイアスラ』を手札に……」
シュトルム「遊んでんじゃねーよ。バト〇ピやってない人達キョトンだよ。実際私がキョトンなんですがそれは」
ブリッツ「本当だったら『ミカファール』とか~『セイリュービ』とか~、『トリックスター』とか使ってたんだけど~?禁止カードになっちゃったからね~。あとバースト発動『アルティメット・ヤマト』。『ン・ダグバ・ゼバ』を破壊」
惣万「………………ぇッ」
ブリッツ「んでフラッシュタイミングで~『ブレイド・ジー』を召喚~。アナザーディケイドの効果でジーを破壊して、『スクランブルブースター』。ごとき氏をツクヨミちゃん…じゃなくて『アルティメット・ストライクヴルム』でブロック~、今や懐かしいアルティメットトリガ~ろっくおーん。あ、ダブルヒット」
宇佐美「えげつないアルティメットユーザーだなブリッツェ……ってうわぁ‼ブラックホールなはずの蛇(エボルト)地球の星龍(ガイ・アスラ)にボコボコにされてる‼地球すげぇ‼」
ブリッツ「はっはっは~、この星を舐めるなよ~?」


シュトルム「…………(さっぱりわからない)。取り敢えず馬鹿共はほっといて第六十一話、どうぞ」


 ここはフランスのとあるビル。黒い革張りの椅子に座る壮年男性がいた。窓に映る街並みを眺めていた男、その背後に黒い煙が集まってくる……。

 

『さてさて、IS委員会会長の席の座り心地は如何かな?アルベール・デュノア』

 

 黒い煙が晴れると、そこには赤いパワードスーツを着た怪人が立っていた。

 

「スタークか。……悪くはないな」

『そいつは重畳。俺が御膳立てした甲斐があったと言うモノ』

 

 相変わらず、何の心も籠っていない言葉を告げるアルベール。それも気にせず、怪人は言葉を続けた。

 

『でIS開発の調子はどうだ?要求のものは出来そうか?』

「ミス宇佐美のデータは受け取った。技術者たちは頭を抱えていたが、もう間も無く完成するだろう……確か、無世代機だったか?こんなものを創ってどうするというのだ……」

『さぁどうするんだろうな?もしかしたら男でも使える兵器にする…………とか?』

「…………」

『冗談だって……今の所はな』

 

 だが、アルベールにはソレが冗談とは思えなかった。

 

「だが、計画にはそれに似たようなものもあるのだろう?例の『メタルボトル』とやらを使って……」

 

 それに肯定も否定もしなかったブラッドスターク。そして話を逸らすようにアルベールをおちょくる。

 

『おいおい、変な顔するなよ。ようやくお前の天下がやって来るかもってんだぜ?そんな辛気臭い顔してちゃあ、新しい世界も台無しだ』

「その新しい世界が男もISを使えるようになった場合…………女性権利団体が黙っていないぞ」

 

 ファウストが五月に起こしたIS開発社の爆破テロ。それによって全世界的にISコアが足りていない状態である。故に世界には徐々に支配力のバランスが崩れ始めていた……。

 

―トルキア共和国、シャープール王国を糾弾。男性の自爆テロが原因か―

 

 アルベールは見ていた新聞を投げ捨てる。女尊男卑思想が色濃く根付いた貧困国などは女性に対する反感が強くなり、それが原因で暴動が勃発する事態も発生、大量の死者が出るテロまで起こり出していた。

 

『そこはお前に頑張ってもらわねぇとな?なぁに、お前に任せれば安心だろ?“救世主”アルベールさん?』

 

 そんな中、業を煮やした女性権利団体に齎されたファウストからのISコア、馬鹿共は狂喜乱舞した。『自分たちが正しい女性主体のパワーバランスを管理する』そう言うかのように中東に混乱が巻き起こったが、一瞬にしてその暴動も鎮圧されたのだった。

 

『いやぁ、お前達デュノア社が残してくれていた第三世代機“コスモス”の支援を得た財団X戦闘員がそれらすべてを殲滅したんだものな。いやぁ、デュノア社サマサマだなぁ!これで名実ともに世界一のIS企業になれたし、万々歳じゃねぇか?デュノア社社長さん』

「……どの口が言っているのやら……全ては我々のマッチポンプだろうが」

『あぁ、ウザい女性権利団体にISコアをファウスト名義で無料で横流しするのは癪だったが…………な。フハハ?』

 

 

 

 

 数か月前の事……世界は変わり始めていた。現状維持の女尊男卑の世界から、あらゆる者が踏みにじられる立場へと墜ちる、最悪な未来へと……。

 

―ではブラッドスターク、トルキアへのISテロリスト殲滅、任せたぞ。IS委員会からの許可が下りた正当な戦闘許可だ―

『うぃーむしゅーデュノア?それと今の私はスタークじゃない。そうだなー……ファウストからして“マルガレーテ”とか、“ヘレネ”とかどーよ?』

―ドクター達から送られてきた偽造パスポートには“ショコラデ・ショコラータ”とあったぞ―

『うぇ、勝手に決めやがったのかあいつら…。つかスゲェ名前だなうぉい』

―どうでも良いから行き給え。無差別テロは始まっている。丁度良い具合に被害が出た頃だぞ―

『へいへい、そのオーダーに応えましょ、アルベールさん?』

 

 

 

 

 

 爆発が聞こえる。断末魔が聞こえる。死の音が誰の耳にも聞こえてくる。

 

『『『(わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)』』』

 

 混乱に陥った貧民街に襲い掛かる第二世代のISたち。それに怯える子供や大人の男たち。『ISと言う兵器』を操縦する女たちの顔は弱者を嬲る快感に歪んでいた。

 今や数がさらに減らされた兵器『インフィニット・ストラトス』……それを得られた自分たちは何だ?神か?ならば当然ムシケラは自分たちに傅くべきなんだ、今や最も強い力を持っているのは…………自分たちだ。

 

『た、隊長!前方から突っ込んでくる正体不明機を感知!』

『…何?』

『(……やれやれ、今度は正義のヒロインごっこかよ……俺ってばコロコロキャラ変わりすぎ?)』

『……!?』

 

 そんな短絡的な思考回路、自分たちが特別と信じて疑わない……滑稽な愛すべき愚かな生命体の群れの耳に声が届く。そこに『宇宙』を纏った一人の天使が降り立った。

 

『(赤は三倍マシ、追い付けるかどーぞ?フッハッハッハッハッハッハ!)』

 

 灰色の髪を揺らし、デュノア社の第三世代機を駆けるスレンダーな『女性』。カスタムされた赤い『コスモス』は、瞬く間にISテロを鎮圧した。

 

『ひぁッ!?たす、けて…!』

『駄目だ』

 

 ……そして、容赦なくテロリストたちを血祭りにする。叫ぶ暇もなく、ISを奪われ命も奪われる女共。

 

『(…………、やっぱり同じ、か。この国も……)』

 

 人が人を疑い、理解を拒み、信じられなくなった最低な世界。差別こそ心を蝕む蛇の猛毒。少年兵として生きた『彼女』には馴染み深く、血に濡れる蛇と化す原因となった出発点……。

 

『ISはそれを助長させる……あぁ、人類がこれを使うのは早すぎた……』

 

 それだけではない。大人も、子供もISを奪われた女たちの死骸を見て石を投げる。命を落とした存在に罵倒を浴びせる。肉人形となったモノを辱める。

 

『…下らねぇ。何考えてんだろーな、俺は』

 

―皆さん、私はフランスのIS製造会社デュノア社の社長、アルベール・デュノアです。今回のテロ事件を未然に防げなかったのは我々ISを開発する会社全体の不徳とする所です……それ故、私は決断しました―

 

 世界同時放送を聞きながら、『灰色髪』の女性『ショコラデ・ショコラータ』は赤い『コスモスカスタム』を待機状態へ移行させ、トランスチームガンを弄ぶ。

 

―我々は新たな世界を創る為……約束しましょう―

 

『俺達はこの世界を壊す為……全てを背負おう』

 

―……『……世界に確変を起こす為に』―

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ、あと一応言っておくが勘違いすんなよ?本当の支配者は俺達だ。表に出るお前たちは俺達の傀儡だってこと忘れんな。“世界の為”と言う大義名分の為兵器を量産していればいいんだ』

 

 乾いた声でスタークは言う。デュノア社は只の隠れ蓑に過ぎないとバッサリと言い切った。

 

―俺らを倒す為に、な……―

 

「…………っ」

 

 世界の為に、誰もが正義の為に行動している。その善意を踏みにじる悪だが……、何故か彼の行きつく先は分からない。彼のそのどうしようもなさを聞き、アルベールは思わず零してしまう。

 

「……お前たちはそれで良いのか?そんな事をして何になる?」

『俺達は別に汚名を被ることをなんとも思っちゃいない。と言うか……この世界は随分と甘ったれているよな。何でもかんでも兵器に転用する人間の浅ましさ……、ほんっと大っ嫌いだぜ』

「耳が痛いな……」

 

 兵器会社である事を否めないアルベール。自分の家族の絆を壊す事と引き換えに、息子の命を守った『力』の在り方が心を苛む。

 

『ま、力を持つことに罪は無い。憎むべきはそれの在り方を易々と違える人間共……。質問だ。力とは……、兵器とは何だと思う?』

 

 手をプラプラ振りつつも、真面目な調子で言葉を投げかけてくるスターク。

 

「……、国を守る為のものだ」

『そうその通り、もっと言えば他の国との間と均衡を保つための政治手段だ』

 

 結論づけたアルベールに、スタークはウンウンと首を縦に振り補足する。スタークが語り出すと、アルベールはその言葉に隠された真意を知る為にも、彼の言葉を黙って聞くことにした。

 

『そして政治とは国の総意を統括することだ…………。国に住まう民の……人間達の願い、それを守らなければ意味はない』

 

 スタークはとある悪党を思い、そして語る。無辜の民達の意思を守るためには正しい力を持つしかないと……。

 

『その命を守る為、力を使うか否かを委ねられる…………全ての人類にな。ならば当然お前たち一人一人の肩にはその責任があるんじゃないのか?自分は関係無いとでも言えるのか?いいや、あるはずだ。今のISなんてものに頼り……そして“歪な生を産む”世界を迎合した責任が……』

「?……。確かに女尊男卑の風潮は広がっているが……?」

『女尊男卑?……そんな馬鹿女共など比ではない。お前たちは知らないのさ、世界の裏側を』

 

 その疑問を切り出したアルベールに返ってきた言葉は、思いがけない言葉であった。

 

『人類は目を背けてはならない……貴様等の怠慢を、不条理こそお前たちが招いた結果だってな……』

 

―だから…………―

 

 自分たちが生み出した悪意を目に焼き付けろ。お前たちは、知らないだけでは済まされない。

 

『だから俺達は世界と戦うんだよ。お前等人類は……身を以てでしか理解ができない愚かな生命体なんだからな』

 

 それを理解する為には力を以て行動するしかない……残酷な真実を知る者たちがそう語り、哀しき独白を締めくくった。その言葉の意味を、真意を誰が理解できるのだろうか。

 

『あぁそれと。お前もネビュラガスの投与がされたんだったな?』

「不精不精ながらな。だが、ハザードレベルが高かったからとはいえ、我々まで変身するつもりはないぞ。ただの自衛手段の一つとしては利用させてもらうが」

『フッハハハ!さぁ、それはどぉかなァ?案外すぐにその時は来るかも、な?』

「…っ?…――――これは」

 

 そう言ってスタークはアタッシュケースを彼の目の前へ放り投げる。ガチャリとふたが開くと、そこにはビルドドライバーと『美空色のナックル型デバイス』、そして『氷を封じ込めたかのようなフルボトル』が収められていた…。

 

『俺達からの選別だ。お前の息子と向き合いたいとき、使うがいいさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みも終わり、二学期となったIS学園。なのだが、ココで問題が発生していた。前生徒会長『更識楯無』の記憶喪失による休学にて、生徒会運営の滞りが出始めているのである。

 

「……で、何でアタシん所に来たわけ?かんざ……楯無」

「言い辛いなら簪で構わない。単刀直入に言う。お姉ちゃんの楯無がやっていた生徒会長、貴女がやってくれない?」

「………ほぇ?」

 

 食べていたBランチ(麻婆豆腐)のレンゲを取り落とすツインテール。『急にそんなこと言われても…』とでも言いたげな顔をしている。

 

「ま、待った待った。何でアタシが?ラクロス部と貴女の仮面ライダー部、それにもう一個学園の顔になれって……?」

 

 口に出して言ってみればかなりハードである。それに構わず話を続ける簪楯無。

 

「生徒会長になる唯一絶対の条件が……生徒最強であれ、っていう事なの。条件にピッタリ合うのは鈴しかいない……」

「……。いやいやいや、無理無理。時間的に無理だって」

「名前だけ出してもらえれば、副会長とか書記とかが運営するから。ちょっと生徒会室に一発でも入れてくれるだけで良いから」

「誤解を生みそうな言い方止めなさいよ……。えぇっと…じゃーねぇ……」

 

 悩みに悩んだ凰鈴音。うーんうーんと悩みながらも、彼女は一つの結論を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ではお集まりの部員の皆さんー。簪部長の生徒会加入時の権限で、生徒会室を仮面ライダー部の第二部室にしますー(棒読み)」

「「「「は?」」」」

「そーいうワケでお引越しです」

 

 ニュース。IS学園生徒会の職権乱用について。まぁ率先して動いたのは簪なのだが……。

 

「待て待て待て簪楯無、勝手に話進めるなし。略してマテカンナシ。鈴も何言っちゃってるのだ?」

 

 口調がもうぼろっぼろな箒。一夏と戦兎と一緒に過ごして随分と角が取れたように思う。

 

「なーんか生徒会長になれって言われたのよ。何でも学園最強?じゃなきゃいけないらしくて……」

「因みに手段を問わず、現職の生徒会長を倒せば生徒会長の役職を得られる」

「引継ぎの仕方がヴァイオレンスですわね…………」

「それでか!部室に来るまでやけに上級生が絡んでくると思ったわ!」

 

 おかげさまで全員保健室送りにしちゃったじゃないと、顔を窓側に向ける鈴。そんな同級生を見て、『もうこの学園おっかねーよ』と思ってしまう一夏だったのだった。

 

「おい鈴、これはどういう事だ。廊下に頭から突き刺さった女子共がいるぞ!嫁の目に毒だろうが、風紀委員会はどうなっているのだ!?」

 

 教室に入って来るなりプリプリ文句を言う銀髪軍人少女。開け放たれたドアからは漫画みたいに地面や天井に突き刺さる、年頃とは思えない乙女の末路が……。てか鈴先生、殺してないよネ?

 

「一夏見ちゃだめだ‼」

「へぶぁ‼箒お前……目潰しはアカン‼」

「あぁ、平和ですわね……」

「セシリア、アンタの感覚おかしいわ、絶対。優雅に紅茶飲んでんじゃないわよ……あーもー、後期も面倒事の予感しかしないわねぇぇぇぇ……!」

「私は嫁さえいれば関係ないがな」

 

 因みにその想い人の金髪は鈴によってできた廊下の大穴を只今絶賛修復中だとか。三羽烏を引き連れてあっちへこっちへ大わらわ……ご苦労さんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の戦兎。彼女は、委員会から通達を受けたIS学園からの頼みで倉持技研を訪れていた。篝火ヒカルノの許可を貰い、封鎖されたエリアへと足を踏み入れる兎の科学者。財団Xを『裏切った』科学者の足取りを掴むために薄暗い部屋の中を片っ端からひっくり返していく。

 

「……。コレが最上カイザ……いや、『シュトルム』が携わっていた研究結果、ね……」

 

 結論から言って、何らかの意図を以ってファウストは倉持技研に潜伏していたようだった。大量のデータが発見され、手掛かりがつかめないだろうと思っていた彼女は目を見開く。

 

「……超越の瞳(ヴォータン・オージェ)、妹『C-0037』、VTシステム、……それとネビュラガスとISの親和性誘発現象?未知のデータ体存在と統合意思……パンドラボックスとISコアネットワーク共有プログラム……。てんでバラバラだな」

 

 好奇心を揺り動かすものもあったが、何よりも彼女が違和感を覚えた研究データが存在していた。

 

「…………、何だコレ?」

 

 ついでに言えばXのマークも刻まれていた。……ウイルスに警戒しつつそのファイルを開くと、全く以って不可解な心境に苛まれる。

 

 

 

「……『プロジェクト・モザイカ』?」

 

 その資料は、全てがヘブライ語で書かれている。明らかに毛色が違うデータである事を科学者の勘で察知した戦兎。だが……難解な暗号化、それも別ファイルに存在する『鍵』を入手しなければ開かないため、如何に戦兎であってもソレが無ければ解読は不可能に近かった。

 

「……。取り敢えずコレは持ち帰ろう…………何か記憶の奥が疼くし……」

 

 そして、シュトルムが使用していたパソコン内のデータを調べていた戦兎は、思いがけない内容の文書ファイルを発見する。

 

「…………………………織斑の『ハザードレベルエックス』、『白式』と『織斑一夏』の異常性?」

 

 途中の言語にも気になることがあったが、何より彼女の目を奪ったのは……。

 

「……メールの送り先が、Sinobu@katuragi……葛城忍か!」

 

 ダメもとでメールを逆探知してみるが、既にそのアドレスは存在しないものとなっていた。そこで持って来ていたパソコンを立ち上げ、ファウストの本拠地にあったメモリーを接続する。

 

「データファイルにISのデータを入れてみるか……」

 

 『プロジェクト・ビルド』と画面が光り、キーワード検索画面へと移行する。

 

「……『ハザードレベルエックス』、っと……」

 

 しばらく検索するかのように歯車が画面を廻り……さらに時間が経過するとその歯車が別れて二つになり、文章が表示された。

 

「……あった。これだ……」

 

 そこに書かれている文章の中で『ハザードレベルX』の文献をクリックすると、画面いっぱいにパスワード入力タブが展開される。

 

「……駄目だ、何重にもロックがかかっている……、!そうだ……『モザイカ』、と……」

 

 科学者の勘か……はたまた別の何かが囁いたのか、一瞬にして違和感を覚えた『モザイカ』という単語。その言葉を入力すると同時に他のパスワードが……――――消えた。

 

「開いた!さて、では拝見させてもらおうか……」

 

 戦兎はこの世界の裏側へと足を踏み入れかける。そして、エンターキーを叩こうかとした丁度その時だった。

 

 

「…………!煙……?」

 

 電気のついていない部屋に黒煙が撒き散らされる。ゆっくり、ゆっくりと床の表面を伝い戦兎の足元へ絡みつく……。

 

【フィーバー!……パーフェクト…!】

 

「‼」

 

 戦兎はパソコン画面から顔を動かし、腹部にドライバーをセットする。その音声が響き渡ると同時に、目の前に『白と水色の歯車の怪物』が出現した。

 

「これ……シュトルムとブリッツの……」

 

 その外見は夏休みに強襲してきた彼女らの『カイザーシステム』に瓜二つ。彼女らが合体した単純なスペックの計測データを思い出し、冷や汗を垂らしながらも交戦することを決意する戦兎。

 

【ラビットタンクスパークリング!Are you ready?】

 

「変身!」

 

 トリコロールカラーの装甲が合体し、激しく炭酸のような泡と共に音声が鳴り響いた。

 

【シュワッと弾ける!ラビットタンクスパークリング!イェイ!イェーイ!】

 

 スパークリングフォームのビルドと色違いのバイカイザー……『クローンヘルブロス』が向かい合う。ゆっくりと室内を移動し、一定の距離間を保ち続ける二人。

 

「…………」

『…………』

 

 そして、先に動いたのはクローンヘルブロスだった。

 

【ロストマッチ!】

 

 クローンヘルブロスが金槌の意匠があるフルボトルをネビュラスチームガンにセットする。

 

「来るか!」

 

【ファンキーアタック!ロストマッチ!】

 

 そしてそのトリガーを引くと、片手に紫色のエネルギーがチャージされる。徐々に巨大なハンマーを形作り、ビルドに向かって腕を大きく振り上げた。

 

『…………!』

「おっと!当たりたくないね!」

 

 右肩の『BLDバブルラピッドショルダー』と左脚『クイックフロッセイレッグ』から発生させた『ラピッドバブル』によって、泡の破裂を活かした高速移動を行うビルド。泡と残像を残してヘルブロスの背後を取った彼女は、どつくように怪人の背中を蹴りつける。

 

「おーりゃっ!」

『……!……』

 

――――ドガァンッ‼

 

 壁の一角を砕き、勢い余って転がりながらも立ち上がるクローンヘルブロス。ビルドも瓦礫をジャンプして跨ぎ、晴天の下に降り立った。

 

「……、あれ?バイカイザーってこんなスペックだったっけ?随分弱体化してるような……」

 

 夏休みにまとめ上げたデータでは、パンチやキックの通常時点での威力は130.0tと言う結果だった。さらにブリッツの変身するライトカイザーのエンジンギアの能力で、『全体スペックが二~四倍に引き上げられる』というパワーブーストがかかることも判明したのだが、……目の前の怪人にはそれだけの力がない。弱体化したバイカイザーよりも強い、と言ったところである。

 

「……随分と動きがシステマティックだよな。しかもこれだけオレがペラペラしゃべっているってのにうんともすんとも言わないし、一定距離に接近しないと戦闘を開始しないって……」

 

 そこではたと気が付く戦兎。IS学園の教師としてあらゆる予防策を考えていた彼女はISの『無人機』化なども想定していたのだが、その発想と眼前の怪物が同じコンセプトデザインだと気が付いた。

 

「ロボットか、それとも無人の……いや、ネビュラガスを注入された人工細胞の集まりを電脳チップで操作してるのか?まぁとにかく人じゃないってこったね」

 

 思いつくや否や、片手にカイゾクハッシャーを召喚するビルド。

 

【各駅電車~!急行電車~!快速電車~!海賊電車!】

 

「なら、一撃必殺の遠距離攻撃なら……!」

 

 ビルドアロー号を引き絞り、ガイドアナウンスと共に照準を合わせ、クローンヘルブロスを射抜こうとする。

 

【発車‼】

 

 一直線に放たれたビルドの攻撃、その緑と水色のエネルギーがクローンヘルブロスへと到達する。

 

 

 ……かに思われた。

 

『……』

「……っ!…消えた!?」

 

 風景に解けるように消えたクローンヘルブロス。列車状の攻撃は透明になったブロスを見失い、地面に慣性そのままに激突する。

 

【ロストマッチ!】

 

「!?」

 

 ビルドの背後に出現した途端、ネビュラスチームガンにCDが刻まれた銀と赤錆色のボトルをセットし、引き金を押し込むクローンヘルブロス。

 

【ファンキーアタック!ロストマッチ!】

 

――――ガガガガンッッッ‼

 

「うぎゃん!?いったー…………」

 

 二色の歯車と超音波振動する虹色のディスクがビルドに襲い掛かった。さらにまたもや、クローンヘルブロスは周囲の景色に溶け込むように消え去っていく。

 

「リモコン……つまりそれらと通信する機材の能力も持ち合わせているワケ?テレビをモチーフとした消音機能、ってところか……。ならゴリ押しは得策じゃないね」

 

 アーマーから煙を噴き出すビルドは炭酸飲料缶の様なアイテムを取り外すと、ベルトのホルダーにセットされた二本のボトルを両手に持つ。

 

「これこれ、さぁ、実験を始めようか」

 

【サメ!バイク!ベストマッチ!】

 

 “待ってました”と言うようかの様に、ベルトから高らかにベストマッチ音がなる。

 

「ビルドアップ」

 

 前後に展開されたスナップライドビルダー。基本フォームと左右反対の色使いとなるベストマッチフォームへ変身した。

 

【独走ハンター!サメバイク!イェーイ!】

 

 鮫とバイクのハンドルを模した頭部パーツ。両肩には鮫の顔とマシンビルダーの意匠が施され、腕にはタイヤやヒレのアーマーが装備されている。そして、隠れてこちらの様子を伺っている怪人に向かって声を張り上げる因幡野戦兎。

 

「ねぇ『ロレンチーニ器官』って知ってる?サメの頭にはたーくさん穴が開いていて、その中にゼリー状のケラタン硫酸が詰まっている、って考えられているんだ。このプロトン伝達体で百万分の一単位の電位差を感知しているんだけど……」

 

 いま、ビルドの目には……いいや、身体を介した全神経には空間全体が知覚でき、不可視となった二色の怪人が何処にいるのかなど一目瞭然だった。

 

「見っけ!筋肉やら電波やらから発生する電気、丸見え!」

 

 右目の赤いアイレンズと肩の歯車を光らせると、大量の無人のバイクが野外を駆けまわり、次々とクローンヘルブロスに激突していく。

 

『…………!』

 

 舌や声帯の機能は無いのか、激突の衝撃で倉持技研の研究所の壁に激突しても声一つ上げない不気味な怪人。だが、それでも身体が限界なのは火を見るよりも明らかだった。

 

「さぁ、終わりだ!」

 

【Ready go!ボルテック・フィニッシュ!イェーイ!】

 

 マシンビルダーと巨大なサメのエネルギー体を召喚した後、彼女を乗せたマシンビルダーはクローンヘルブロスへと突撃していく。さらに背後に発生した大波の中から巨大な鮫が現れビルドに追従していく。そして…………。

 

 

 けたたましい音と共に、爆炎が生まれる。

 今度こそビルドの必殺の一撃はクローンヘルブロスを爆散させた。ボロボロと身体が崩れ去り、小さなナノマシンも次々と小さな火花となって消えていく。忌むべき命を元あった場所へ送る浄滅の力が、クローンの肉体を黄金の粒子に変換し、無へと返す。

 

 

 

 がしゃん、という音が無人の研究施設に響く。地面に落ちたのは、紫色の拳銃『ネビュラスチームガン』と、二本の赤錆色のフルボトルだけだった。

 

「ふぃー……。丁度良い、この紫色の拳銃、貰っちゃおーッと」

 

 新しい玩具を貰った子供の様にスキップ交じりでそのアイテムを回収しようとするビルド。

 だがその時、……殺気が走る。

 

「っ……!あぶなッ」

 

 何発かの銃弾がビルドに向かって放たれた。身を翻して避ける赤と青の戦士は視線を上げると、見知った黒い蝙蝠を見た。トランスチームガンを撃った人物は黒い身体を日の下に晒し、くぐもった声で唸るように声を出す。

 

『やはり、ココに来ルと思ッてイた…………』

「ナイトローグ!……」

 

 空中から降り立った黒いパワードスーツの人物。金色のバイザーが鋭く光り、頭部の煙突から静かに白煙がたなびいている…………。二人は一触即発の事態となり、久々に自らの声を隠すローグと戦兎は対峙する。

 

「久々だね……、素敵な声になってるじゃないか」

『……』

 

 ビルドの言葉をどうでもいいかというようにスチームブレードを分解すると空中へ投げ上げ、落下点に構えたトランスチームガンに接続する。

 

【ライフルモード!】

 

 そして、バルブをひねると、周囲には黒煙と共に火花や雷のスパークが弾ける。

 

【エレキスチーム!】

 

「うげ……POD?」

 

 サメバイクフォームは鮫の特性を有効に使える代わりに、その弱点も継承している状態にある。戦兎が呟いた『POD』とは実際にある道具の事で、『Protective Oceanic Device』の略語であり、電磁波を発生させることで鮫のロレンチーニ器官に不快感を与えることができる護衛装置……通称シャークシールドである。

 

『お前がソのフォームになるのヲ待っていた……、シィ……!』

「うわっ!」

 

 ナイトローグはトランスチームガンに接続してリーチが伸びたブレード部分を振り回し、ビルドに襲い掛かる。ビルドはサメバイクフォーム左腕のタイヤやチェーン部分でいなすも、身体中から伝わる不快な刺激と怒涛の攻撃の手数に押され出していた。

 

「ッ、銃剣道……?宇佐美はそんな戦い方をしなかったはず……」

 

 さらにナイトローグの戦闘スタイルにも違和感を拭えなかった。宇佐美は理詰めで攻撃を仕掛けてくる油断ならない戦い方だが、この変身者はスピードや攻撃力に特化し……まるで万能型になった一夏やブリュンヒルデと戦っているかのようだった。

 

『余所見か、ナめたものだな。ネビュラガスが注入されテいるにシろ、貴様の身体スペックはタバネ・シノノノから十数%程向上してイる。ダが、今のノお前はどウだ。人殺しヲ心ノドこカでオそレてイる。タオすこトなど……』

「!?」

 

【Bat…!スチームショット!Bat…!】

 

『容易い』

「ガハァ‼」

 

 ゼロ距離からの高エネルギー攻撃を腹部に食らってしまったビルドは数度地面に激突、バウンドしながら弾き飛ばされた。ビルドの変身が解除され、装甲が粒子となってフルボトルへと戻っていく。

 

「ぐっ……、お前は誰だ……ナイトローグ‼」

『コレはたダの借リ物だ、答えル必要ハない……。私の役目は終わッた』

 

 足元に落ちていたビルドドライバーを蹴り飛ばすと、夜の悪党は片膝をつく。散らばった『ダイヤモンドフルボトル』、『フェニックスフルボトル』、そしてサメとバイクのボトルを片手に持つと、ナイトローグはトランスチームガンを横なぎに動かす。黒煙が周囲を覆い尽くすと、人の気配が消え去った。戦兎はよろけながらも立ち上がる……。

 

「……、くっそ。フルボトルとられた……、やるなアイツ。一体誰だったんだ……?」

 

 命を取られなかったことに違和感を覚えながらも、戦兎は自分の信じる力(ビルドドライバー)を懐へとしまいこんだ。そして、片手に持った端末へと目を落とす。

 

「それにしても、このデータも分かんなくてモヤモヤする。誰だよ……――――、『パンドラ・モザイカ』って」

 

 葛城忍のデータ内にある『パンドラ』と言う女性名。学園に保管されている『パンドラボックス』と何らかの形で関連しているのは確かだろうが、不可解な単語との繋がりが強く、全て彼女の想像の域を出ない。

 

「でも、この女がISに関係しているのは間違いない。スターク達が言っていた『ハザードレベル』、そのレベルがエックス……つまり『10』になった場合、何かが起こるのは確かなんだろうね……」

 

 ……現時点で、開示されたデータの中で最も繋がりが深いであろう『ハザードレベルX』という単語……。今の所、それに関係するデータで判明している事は、おおよそ人の常識からかけ離れたものだった。

 

 そして、それを含めて戦兎は訝しむ。“何故こうも重大な情報を始末しなかったのか?”何故自分の様な解読・復元が可能な人物にあっさりとデータを見せたのか……いや、そもそもこのデータを自分に見せるためだけに倉持技研に潜入した可能性も高い。ただただ戦兎は思案する。『織斑一夏』と『白式』の分析レポートに記されていた不可解な謎の文章を。

 

 

 

「……――――ハザードレベルXに目覚め始めた人間が使用者である場合……、“ISは『別生命体』へ進化する”……そんなことが在り得るのか?」

 

 

 

 思考が混乱で定まらない。この情報は……、一夏()達に伝えて良いものなのか?確かに伝えるべきもの、知る権利があるもののはずなのは分かる。……、けれど、何故だ。

 

(この事を口に出せば、調べてしまえば。一夏達の幸福が全て壊される…――――そんな気がする)

 

 彼女の胸の奥には、不明瞭な明日しか見えていなかった……。




ブリッツ「いぇ~、しょ~り~♪」
惣万「……。お前何だよあの豪運コンボ……『アルティメット・ヤマト』と『アルティメット・ガイ・アスラ』でUトリガーしながら?『ネオ・アグレッシブレイジ』を付けて?『スレイヴ・ガイアスラ』と『幻羅星龍ガイ・アスラ』に『メロディアスハープ』二枚使って?四回連続攻撃?BP50000が四回とか……スピリットとライフが幾らあっても足りねぇよ!(※『仮面ライダーエボルブラックホールフォーム』の最高レベルBPが13000)」
ブリッツ「おまけにブレイド・ジー三枚手札にあったし~。一応これネタデッキなんだけど~?でもマスタークも強かったよ~?やっぱりクトゥルフ系のデッキ破壊とかさ~、さすが宇宙呑み込む蛇~」
惣万「ぜんっぜん嬉しくない。ゲーム厨種族(バグスター)に言われてもぜんっぜん嬉しくない……」
宇佐美「恐るべし、だな。龍騎のデッキで即タイムベントとかどんな運してるんだ…。おまけに一切遊び無しのガチデッキ構成がアレスとサラス…」
ブリッツ「でも今の環境は制限かかっちゃったし~、青い異神に変えよっかな~」
シュトルム「良いからISの話しやがれよ。あらすじとあとがきが大変なことになっているんですが。もう何の話ですか」
ヒカルノ「これバト〇ピ小話?仮面ライダーコラボならパズ〇ラもあったでしょ……」
惣万「うっさい権蔵」
ヒカルノ「剣蔵で……した私‼」
シュトルム「過去形?……何で?」
クロエ「……『俺(ボソッ)』、いや似合いませんね。勇者乙。はい『申の十二神皇ハヌマーリン』召喚」




BS仮面ライダーコラボデッキ

惣万(パーティタイムとごとき氏チャンポン)
マスカレイド・ドーパント×6
ゴ・ガドル・バ×2
仮面ライダー幽汽 ハイジャックフォーム×1
ウェザー・ドーパント×1
ユートピア・ドーパント×2
仮面ライダーエターナル×2
ン・ダグバ・ゼバ×2
ブラッドスターク×1
仮面ライダークロノス クロニクルゲーマー×1
ゲムデウスバグスター×1
仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム×2
サジタリウス・ゾディアーツ×2
サジタリウス・ノヴァ×1
アナザーディケイド×2
ヒート・ドーパント×1
ルナ・ドーパント×1
トリガー・ドーパント×1
メタル・ドーパント×1
仮面ライダーダークゴースト×1
仮面ライダーエターナル[2]×3
倒壊する風都タワー×3
ライフチャージ×2
リミテッドバリア×2
合計44枚

ブリッツ(多々買わなければ生き残れない)
仮面ライダーライア×1
仮面ライダー龍騎×3
仮面ライダーナイト×3
仮面ライダー王蛇×2
仮面ライダーインペラー×3
仮面ライダーシザース×1
仮面ライダーガイ×1
仮面ライダーゾルダ×2
仮面ライダータイガ×1
仮面ライダー龍騎サバイブ×2
仮面ライダーナイトサバイブ×2
仮面ライダーオーディン×3
仮面ライダーリュウガ×2
仮面ライダーベルデ×1
仮面ライダーファム×2
ドラグレッダー×2
ダークウイング×2
ミラーワールド×3
ストライクベント×2
ファイナルベント×2
ガードベント×3
トリックベント×2
合計45枚(5枚分が無理矢理入れた感が凄い…)


シュトルム(失踪する本能、妹に貸してもらった)
仮面ライダーファイズ×3
仮面ライダーファイズ[2]×2
仮面ライダーファイズ アクセルフォーム×2
仮面ライダーカイザ×2
仮面ライダーデルタ×2
クレインオルフェノク×3
ウルフオルフェノク×1
ホースオルフェノク×2
仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム×2
ホースオルフェノク 疾走態×2
仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム[2]×1
スネークオルフェノク×2
仮面ライダーファイズ[3]×3
仮面ライダーカイザ[2]×2
ウルフオルフェノク 疾走態×2
スマートブレイン社×3
双光気弾×3
クリムゾンスマッシュ×3
合計41枚



宇佐美(神の才能)
仮面ライダークロノス クロニクルゲーマー×1
仮面ライダーエグゼイド アクションゲーマー レベル2[2]×3
仮面ライダーブレイブ ファンタジーゲーマー レベル50×2
仮面ライダーエグゼイド マキシマムゲーマー レベル99×2
仮面ライダーゲンム アクションゲーマー レベル0×2
仮面ライダーエグゼイド ムテキゲーマー×3
バガモンバグスター×2
仮面ライダーブレイブ クエストゲーマー レベル1×3
仮面ライダーエグゼイド ダブルアクションゲーマー レベルX×2
仮面ライダーポッピー ときめきクライシスゲーマー レベルX×2
仮面ライダーエグゼイド ダブルアクションゲーマー レベルXXR×1
仮面ライダーエグゼイド ダブルアクションゲーマー レベルXXL×1
仮面ライダーブレイブ レガシーゲーマー レベル100×2
仮面ライダーゲンム アクションゲーマー レベル1×3
仮面ライダーゲンム ゴッドマキシマムゲーマー レベルビリオン×3
ゲームエリア×3
新檀黎斗×3
檀黎斗神×3
白晶防壁×3
合計44枚

宇佐美「惣万のデッキの適当感…」
ブリッツ「変な拘り持つタイプ~?」
惣万「うっ、否定できない……」


※2021/01/23
 一部修正


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第六十二話 『ラビリンスな学園』

宇佐美「世界のありとあらゆる悪の結果であり…」
ブリッツ「マスターは偽悪だから違うと思う~」
宇佐美「……エル・サルバトーレ、悪意に満ちた世界を救う者」
ブリッツ「救世主呼ばわりされても喜ぶのかな~?」
宇佐美「………この星に」
シュトルム「何しているんですか貴女達は?」
ブリッツ「宇佐美がね〜マスターのための名乗り口上を考えたいんだって~」
シュトルム「先ずはあらすじ紹介しましょう……それから考えましょう」
宇佐美「…う゛う゛ん、前回の話では新ナイトローグによってビルドがあっさり大敗……」
シュトルム「マスターの方もしっかりと暗躍をやってくれていたようですね……IS学園の方も新しい生徒会長が決まったようですし…」
ブリッツ「………私何もいう事ないね〜」
宇佐美「ではでは、今回の話では私がヒマで作ったISが出てくるぞ」
倍姉妹「「……えッ?」」
宇佐美「…おっとこれはまだ未来の話でしたね?」



 薄暗い部屋の中では、眼鏡をかけた女性が空中に投影されたパネルを操作し続けている。それぞれのデータを瞬時に頭に叩き込み、怒涛の様に流れるプログラムを刹那に最適化させ、手元にある紫と黒のデバイスへと注ぎ込む。

 すると、黒煙がラボラトリー内に充満し、一体の怪人の姿を形作った。

 

『……今帰った』

「そうか」

 

 聴き取りづらいノイズ混じりの言葉を交わすナイトローグ。その様子を青紫色の髪を掻き上げ、声の主を見ずに手を伸ばす女研究者。

 

「で?首尾の方は?」

 

 片手でタイピングを続ける宇佐美、彼女の言葉にナイトローグは変身を解除した。パワードスーツが消えると、Mは手に持っていた物を机の上に置く。

 

「思いの他持っていなかった。四本だ」

「……ほう?」

 

 クローンヘルブロスのネビュラスチームガンと共に奪ったフルボトルを乱雑に広げれば、宇佐美は驚いたように肩眉を上げた。

 

「意外に善戦したな。返り討ちに合うと思っていたのだが……君を過小評価していたようだ」

「……私は全ての『織斑』を超える存在になる。『強化されただけの篠ノ之束』に負けることなどあってはならない」

「……フン、まぁそれに関してはどうでもいい。それよりも手を出せ。丁度出来上がったところだ」

 

 そう言って卓上のトリガーをセットした台座から取り外す。それは…………織斑一夏が持つトリガーと酷似していた。

 

「報酬だ。このトリガーを起動させてみろ」

 

 MはそのISの待機状態をまじまじと見ていた。メインカラーの紫に、細部の黒いライン…………有機的な禍々しさを感じさせるデバイスには、水色のボタンとコネクタが飛び出している。どうにも引き込まれるようなデザインだった。

 

「コレが例のISか……?」

「あぁ、私自らが『コアを三つ』制作して完成させたISだ。有難く思え」

「!」

「何だ?私がISコアを作れないとでも思っていたのか。だとしたら心外だな。むしろコアの性能はオリジナルタイプより9.6割ほど良いぞ」

「……ふん」

 

 

 手に持ったトリガーから伝わる重みが強くなった気がした。『トリプルコア』の『無世代機』……。非常識的な(そんな)ことをさらりと言った宇佐美に、彼女の事が嫌いなMもその愁眉を動かさざるを得ない。

 

「私としてはISなぞ創っている暇など無いのだがね……。お前が『約束の数』になるか否かの可能性に、私の『神の才能』と『クリエイティブな時間』を投資してやったんだ。期待を裏切ってくれるなよ」

「……、何を言っているか分からんが、ではお前の『神の才能』とやらを見せてもらおうか」

 

 Mが言った瞬間、真っ黒な粒子がそのラボにまき散らされる。宇佐美の髪が激しい風圧で横に流れるが、彼女はそんな事になど興味はないらしく、ただ眼鏡を押し上げただけだった。冷たい視線が目の前の異形のISに注がれる。

 

 

 それは言うなれば蕾だった。純黒の花弁が包み込んでいる、種型の蕾。真っ黒な六枚の外殻の先端からは、螺旋状のエネルギー片が散っている。それはまるで、戦火に焼かれた人の灰燼の様で…。

 

「……。……これが……私の……」

 

 それは漆黒の繭から解き放たれた堕天使を思わせた。

 

 Mが万感の思いを込めて声を振り絞る。そのISには、そうさせるだけの『力』があった。顔の大半はバイザーで覆われているが、赤いアイレンズからは血の如きエネルギーラインが後頭部まで連なり、角のように突き出ている。背面には堕天使の様な黒いエネルギー・ウィングが存在し、鋭く有機的な装甲を持つ歪な外見だった。

 だが『世代が存在するIS全てを凌駕する』ことをコンセプトにして宇佐美が手掛けた機体であるため、今のMが『世界最強のIS使い』であることは揺るぎのない事実なのだった。

 

「お前の戦い方は近距離から中距離戦に向いていた……ゆえにメインウェポンとなるバスターソードやランサービットに改良型展開装甲を搭載している。武器を動かしてみたまえ」

 

 Mがその通り念じれば、スタビライザーとなっていたランサービットが状態変化を起こし形を変える。また、テールブースターになっている剣を振り回し、彼女はこれさえあれば万全を期して戦える事を察した。

 

「……で、このISの名は何だ?」

 

 悪魔の角の様なアンテナ部を持つバイザーを宇佐美に向け、武装を片付けるM。顔や声には出ていないが、幾らか上機嫌になっているには確かだった。

 

「そうだな……『最終戦争・黎明(ブラック・アルマゲドン)』、とでも名付けようか?」

 

 対照的に椅子の上で気だるげに足を組み替える宇佐美。どうにもIS開発は退屈らしい、と言うか嫌悪感すら抱いているようだ。

 

「アルマゲドン…」

 

 そう呟かれた言葉を受けて改めて自分のISを見回すM。名前を反芻し感慨深げに名前をもう一度言った彼女を見て、宇佐美は手元の電子機器を操り出した。

 

「……物は試しだ、インフィニット・スマッシュを幾らか作っておいた。ブラック・アルマゲドンの試運転をやってみると良い」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 宇佐美が作り上げた異空間内、そこで十数機のインフィニット・ストラトスの怪物が、一機の黒い堕天使に葬られていく。宇佐美が『インフィニット・サーキュラー』からコピーした単一仕様能力『零落白夜』『絢爛舞踏』を用いて攻撃や回復をするインフィニット・スマッシュ達だったが……。

 

『…………なる程、こういう事か』

 

 ランサービット『百織斑猫(タイガービート)』が|ダイレクト・モーション・システムを上回る演算能力を持つインフィニット・スマッシュに反撃を許さない。

 

『…………失せろ』

 

 両腕の量子運動停止光砲『歌う骸骨(デア・ズィンギンデ・クノッヘン)』が解き放たれた。

 アルマゲドンの名を示すISの一撃は、周囲に飛び交っていた無力な怪物たちを一瞬でロストタイムクリスタル(・・・・・・・・・・・)ごと消失させる。彼女はその力の強大さに唇の端を歪ませた。

 

『ふっふふ……はははははは!』

 

 その異空間内の様子をソファに座って見ているのは、IS設計者と亡国機業の計三人。

 

「オイオイ、マジかよ…………」

 

 絶対防御を無効化にした極光に飲まれるISの怪物。その様子に呆気にとられるしかないオータムやスコール・ミューゼルたち。

 だが、宇佐美幻は不満顔だった。

 

「フン、成程……」

「宇佐美、どうしたの?」

「……想定の範囲内だった。今の所はコレが限界か……まぁそうか。ハザードレベル3.5だものな」

「想定内?コレで……なのかしら?」

 

 スコール・ミューゼルが『ふざけているのか』と言った視線で見てくるが、宇佐美に虚偽の雰囲気など一切無かった。彼女はただただMの現状に納得し、これからの成長率に薄い期待を抱いているのみ……。

 

「MのISを使っての力は私の想像を上回らない。ヤツに『ブラック・アルマゲドン』は好きに使え、と伝えろ。私はネビュラスチームガンの改造をしなければならないのでな」

「え、おいちょっと……」

 

 そう言われてもオータムは困る。事前に知らされていた『無世代機』のコンセプトは想像を絶していた。『“シールドエネルギー貫通攻撃”のデータ回収と“半永久機関化”させたトリプルコアの運用実験』と言う、つまりは常に疑似的な『零落白夜』『絢爛舞踏』状態の対IS軍隊戦用IS……それが『無世代機』であるらしい。世界がこの一機でひっくり返る代物を、まるで飽きた玩具の様に扱う宇佐美に彼女らは怖気が止まらない……。

 

『………………“夕凪闘夜”』

 

 三人が見る画面からMの声が漏れる。さらに武器を持たない左腕に、炎の様に沸き立つ黒光が発生した。それを確認した宇佐美は、興味が失せたかのようにドアを開き、その場から振り返りもせずに去って行く……。

 

「……本当にあのキチガイ蝙蝠、頭オカシイぜ……ん?どうしたんだスコール?」

「……オータム、画面見なさい」

「……ぁ?…――――ん、だ、こりゃ…」

 

 スコールの妙に平坦な声に導かれ、オータムが振り返った先で信じ難いものを見た。黒光に満ちる画面の中…………存在を保てずに崩れ落ち、結晶と化すインフィニット・スマッシュ達。

 その様子は、まるで黙示録の黒い騎士の様であった。

 

 

 高級ホテルの下から流れてくる喧騒などに気をとめず、薄暗い回廊を歩いていく宇佐美。IS整備用の簡易ディスプレイ眼鏡を鬱陶しげに外すと、つまらなそうなふくれっ面でスーツのポケットに手を入れた。

 

「…………Mの奴に与えるのは癪だが、スタークの悲願の為にもこちらを調整しておくか」

 

【デンジャー……!】

 

 本当に不服な思いをしながら、彼女は手元のボトルを弄ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、こちらはカイザー姉妹の研究室。

 

「よーし、最後のコレを取り込めば完全態にもどる~、お待たせ~」

「まぁ身体にデータが馴染むまでしばらくかかるでしょうが……はいどうぞ」

 

【ドラゴナイトハンターZ!】

 

「培養~……あらよっと~」

 

 黒いゲームカセットのボタンが押されると、ポリゴン状の粒子が増幅していき、ブリッツへと取り込まれる。

 

「ふぃー…完成体ー…」

「これで元通り、ですか」

 

(おーい、もしもしブリッツー?そろそろ私の出番じゃあないのー?いい加減ここから出してよー?)

 

 …未だにガシャットのデータバンク中で閉じ込められている一人を除いて。

 

「……ブリッツ。呼ばれているのですが?」

「……それはだめ。あいつだけはなんかいや……」

 

 比較的に温和なブリッツでさえ嫌われるそのバグスター……彼女のすごく嫌そうな顔からそれがよく分かる。

 

(えーい、なら勝手に出てやるー!良いですかー⁉モッピーちゃん怒ったよー‼)

 

 そう言って携帯ゲームのような機体から出てこようとする『モッピー』だったが……。

 

「てい」

(あちょ……!待ってやめて待ってバグヴァイザーⅡの銃口塞がないで出られないじゃん!モッピーモピプペパニックだよー‼出せー!私をここから出せぇーっ‼)

 

 どこかの神だったり王様だったり大王だったりとリニューアルが激しい人物のように暴れるバグスター……機体がブルンブルンと揺れていることから、かなりの抵抗をしているようだ。

 

「何故こうも落ち着きがないのでしょう……。マスターの言っていた原初のバグスターも大概でしたが、このプロトバグスター(原始個体)も全く以って迷惑千万な……」

「宇佐美が創った『例外処理領域』に閉じ込めていても色々悪さしてたしね~。ゾンビ騒ぎもコイツだったし~」

「あの話はやめろください……」

 

 関係者全員が口を慎んだことで無かったことにされた惨劇を思い返す姉妹。そんな雑談をしていた時だった。彼女らの居住スペースにずかずかと二人組の少女たちが踏み入ってくる。

 

「こんちはー!待ちきれなくて来ちゃいましたー!」

「…………」

「…………貴女達、ですか……」

「あ、やほ~。ようやく自我が~、定着したね~?」

 

 また面倒なのが来た……と視線を向けるシュトルム。血の飛沫の様な模様の着物の少女と、寝袋に入った芋虫状態の少女がソファにどっかりと座り込む。二人とも水色の髪に赤い目を持った、似通った外見のブラッド・ストラトス達は口を開いた。

 

「とっころでブリッツさんにシュトルムさん?私のオリジナルが記憶喪失ってホント?ねぇねぇホント~?」

「えぇ本当ですよ、……ところで『No.07』を無理やり連れてきたのですか。『No.06』、貴女は……」

 

 眉をしかめるシュトルムだったが、『No.06』と言われた水色髪の着物女も負けてはいない。ぷくっと頬を膨らませバタバタ扇子を振り回す。

 

「むっ、カチンときた!ちゃんと『妹ちゃん』、って呼んでくれないと困るんだけど!ねっ、うっちゃん!」

「………………」

「あれ!?無視!?酷い!?お姉ちゃんに対してひっどい!?」

 

 一人大騒ぎする着物姿に扇子の少女。その馬鹿騒ぎをまどろんだ眼で見た後、ソファに寝ころぶ『No.07』は空中に立体ディスプレイを展開した。

 

【そもそもブラッド・ストラトスに血縁関係ないっつのプギャー(笑)。No.06のやってることイミフ(‘ω’)ノ】

「うっちゃん!?で、でもでも顔も似てるし、外歩くときくらい手繋いだりしたいじゃん⁉ねぇそう思わない!?」

【そげぶ!( `Д´)カーッ、ペッ!】

「酷いっ!泣いちゃうもんね私!うわーん‼」

【あ、あとシュトルムさんファミチキくだちい】

「無視!?」

【もう寝ます、オヤスミー】

「こらー!お姉ちゃん怒るよー!てか起きてくださいお願いしますぅ!?」

「……何しに来たんですか貴女は……」

「メタ的に言えば新キャラ紹介もがもが」

「貴女も黙っていてください」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜやぁ!でぇい‼」

「気合を入れるのは結構だが、不意を衝くなら声を出すな」

 

 未だ空も明けきっていない朝。今日もIS学園には姉と弟の特訓の声が響く。木刀を持つ二人だが、どちらも防具をつけずに剣を振るう。蹴りや正拳での就きを交えて戦い合う。一夏の剣が姉の頭を捉えた……かに思われた。

 

「はぁぁっ‼」

「……生温い!」

「ッ、……!」

 

 剣をからめとられそうになった一夏が空中で繰り出した回転蹴りを、世界最強の姉は易々と受け止め、地面へと叩き落そうとする…………。

 

「そう来ると……思ってたんだよ!」

 

 だが、一夏も負けていない。地面にぶち当たる前に身体を無理矢理ひねり、地面に手を付きながらウィンドミルの様に足を薙ぎ払った。

 

 

―ガキンッッッ‼―

 

「ぐっ……!」

 

 だが、それすら世界最強の身体に届くことは無かった。

 

「何が、そう来ると思っただ?自惚れるなっ」

 

 木刀を手の中で滑らせ、刀身を持ちながら見事音速で振るわれた脚を受け止める千冬。そのまま身を翻して一夏を蹴り飛ばす。

 

「ぐ……!まだまだ……!」

「その意気は良いな、続けるぞ。かかってこい」

 

 その言葉と共に、またも学園のグラウンドは破壊されていくのだった……。

 

「……全く、一夏も無茶苦茶な事を言う……。『生身でISと戦えるようになりたい』、など……。千冬さんが特訓に付き合う事になったのにも驚きなのだが」

 

 朝の特訓の付き添いとして見に来ていた箒と戦兎。某龍玉の漫画の様な有り様に顔を引きつらせる彼女だったが、一方の戦兎の顔はクマができておりいつもの尊大な態度はなりを潜めている。

 

「…………」

「……戦兎さん?どうしたのですか」

「っ、とゴメン。考え事してて……」

 

 箒はこの頃戦兎の顔色が悪い事に一抹の不安を抱いていた。どうにも何かを調べ続け、ろくな睡眠をとっていないように思える。身を削って何を探っているのだろうか……?そんなことを訪ねようとした時だった。

 

「……よし。本日はここまで。朝食までにシャワーを浴びておけ」

「へーい……あーぁ、ぜんっぜん勝てなかった……」

「当たり前だ。私がお前に負けるか」

「うーん、正論過ぎてムカつきもしないな……」

 

 土煙にまみれてもみくちゃにされた一夏と、汗一つがいていないその姉が箒たちのいる場所へと歩いてくる。

 

「あ、お疲れ様チッピーセンセ。スポーツドリンク、紅茶、コーヒー。どれがいい?」

「因幡野先生……その選択肢は一択なのでは……」

 

 あきれながらも記憶を失った親友の差し出すペットボトルを乱暴にもぎ取り、喉を鳴らしてあおる世界最強の姉。どうにもジャージ姿でのその様子は、休日昼間からビールを飲むオヤジみたいだな……と『おい篠ノ之、何か失礼な事思っただろ』…ホウキチャンは思っちゃいませんよ、えぇ。本当ですとも。

 

「と、ところで千冬さん。ISでのトレーニングはしないのですか?」

「篠ノ之、ちゃんと織斑先生と…。まぁ良い。……おい一夏」

 

 そこで弟にISでのトレーニングができない理由を説明するよう促す織斑先生。

 

「ん、箒。これ持って歩いてみろ」

「?………分かった」

 そこで、箒は白いトリガーを持って一歩、また一歩と三人から離れていく……。だが。

 

―……シュン―

 

「?…………あ」

 

 手の中から重みが消える。そして、ISが展開されるときと同じ真っ白な粒子が、箒の手からこぼれ落ちていく。

 

「そ、なぜか俺から離れると一瞬で俺の手元に戻ってくる。しかも夏休みの一件以来ウンともスンとも反応しない。山田先生に聞いてもこんな事初めてだとよ」

 

 手の中に戻って来ていた白式のトリガーを振るように見せて一夏は言う。

 

「またもライダーシステムに頼らざるを得ない状態だ。ISならば我々ももっと力になれると思うのだが、こちらだけは一夏の戦闘スキルを上げることだけしかできん……なんとも歯がゆいものだ」

「何言ってんだ千冬姉。こうやって付き合ってくれるだけで俺は十分報われてるよ」

「…………」

 

 申し訳なさそうに目を細め、顔を下に向ける千冬はどんな思いで弟を見つめていたのであろうか……ただ確かだったのは。

 

(強くなるんだ……もっと。もっと……!)

 

 弟の目には強い決意を持った意思がある事だ。それと呼応するように、朝日を受けて彼のISも光を放った様に見えた。

 

「……はぁ。意気込むのはいいが織斑、先生と呼べよ?今のは聞かなかったことにしてやる。……でだ。学園祭が近づいているのは知っているな?」

「あ、はい……先週の鈴のスピーチは覚えていますよ……」

 

 

 

 

 

 箒と一夏、回想(ホワンホワンホワン……)

 

『それでは生徒会長から学園祭の説明をして頂きます』

『えー、あー。うんはい……何でって思うかもしれませんが先週会長職に就きました、凰鈴音です。先週から立て続けに上級生が保健室送りになっている原因を作ってしまい大変申し訳ございません……でもなるべく喧嘩売ってくるのはやめて頂きたいかと……』

『違う違う違う、趣旨違ってきてる……』

『文化祭の出し物の説明をですね……』

『貴様の様なひよっこを生徒会長と認めるわけにはいかん‼者ども出会え出会えーっ‼』

『わーっ何か出てきたーっ‼』

 

 クナイや問題が書かれたプラカード、果てにはスパナを持った上級生が大勢やってきてスピーチが強制終了しました。因みに鈴により一瞬で鎮圧され、またしても保健室が満員に……。やっぱこの学園オカシイワ、と思う一般人一夏。

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれはとりあえず忘れろ。で、だ。本来なら教えるつもりはないのだが、ファウストがこの日に強襲してくる可能性は高い。例のパンドラボックスとフルボトルを狙ってな」

 

 一夏と箒の顔が引き締まる。若干十代半ばの少年少女がするような顔ではなかったが、彼には、そして彼女たちには『ありえざる存在』によって数々の受難を背負わされ、そしてそれに屈する訳にはいかなくなった。『イリーガル』が言うならば、それはなんとも愛おしく、もどかしい。

 

「……。絶対に死ぬなよ。一夏、箒……」

「「…………はい」」

 

 不安を誤魔化すためにか、ペットボトルの中身を腹の中に全て納め、グシャッと手の中で握りつぶした千冬は背を向けながらそう呟いた。

 

「うんうん。その日に向けて、一夏には強くなってもらわないといけないんだよね。オレ達としてもさ。ISの方もチッピーセンセの要望通り開発は順調だよ」

 

 寝不足の目を擦りながら戦兎も立体ディスプレイを千冬に見せた。その情報を見て獰猛な笑みを浮かべる世界最強。

 

「……ふ、腐っても元・天災だな」

「元から腐ってたんでしょ?ほら……心が」

 

―ヒュゥゥ…………―

 

 ……一瞬にして三人の顔から笑みが凍り付いたが。

 

(((…………これ笑って良いのか?)))

「?」

 

 そのとんでもない自虐ネタには、いかに世界最強でも突っ込むことはできなかった……。

 

 

 一方の鈴ちゃん。

 

「とほほ……何よ生徒会役員メンツ……。副会長の一夏と箒はクラス準備に行ったし……書記の本音は病院に行ってるし、アタシ一人でこの雑務をしなさいって……?生徒会入って数日だっつーのに……。あ゛ぁーッッ、朝からめんどくさいィッ‼何よこの機動戦姫シンデレラって!?これどーやって予算案を可決させるのオカシイでしょ楯無会長ゥゥ‼」

 

 ……そんな訳で鈴ちゃんの力で織斑が死ンデ(レ)ラぁな参加狂技はナシになりました。ヨカッタネイチカ!

 

 

 

 時間は過ぎ去って数時間後、一夏以下の生徒たちは教室で準備作業を行っていた。やれ織斑一夏とポッキーゲームだやれ織斑一夏とツイスターゲームだ、などと言う案が出ていたが、箒の一睨みで黙らせた。恋する乙女は国士無双とはよく言ったものである。そんなこんなでラウラが夏休み中喫茶店やカフェの一件を思い出し、執事喫茶を出店することと相成った。そして、執事の基本のイロハを知るシャルルが一夏に教育する事になったのである……。おい誰だホモォとか言った奴。

 

「おいエビ、そこは足の引き方が違うんだよ、ココを、こうして、こう!わぁったか?」

「くっ……そ。んで俺が執事なんて……」

「と言うかデュノア……何故知っている?」

「お袋に鍛え上げられてな……、ウッアタマガ…」

「あ……なんかすまん…」

「いや、いいってモッピーちゃんよぉ。にしても……」

 

 教室内を見るシャルル、まぁそう思うのも当然だ。一夏に執事の仕草を教えている内に次々と人が集まってきていた。大わらわな女子連中……中にはこっそり写メを撮っている者もいる。そして、問題なのはそれだけではないようで……。

 

「アレ?コーヒーミルってどこ行ったか知ってる人!」

「あぁーっ!コーヒー味見した山田先生が気絶した!?誰が淹れたのコレ!?」

 

 その言葉に反応したのは一夏。頭に漫画の様な怒りマークが箒達に見えたのは幻影ではないだろう。

 

「ッッだから言ったろ『ブリュンヒルデ特製真心メニュー』とかアウトだアウト!千冬姉にそんなもん作らせるな‼お客様を病院送りにさせるつもりか‼」

「織斑先生と呼べと言っているだろ……」

「料理に関しては先生って呼べねぇよ‼俺が代わりに厨房でコーヒー挽くから‼一応バリスタの資格持ってるからさぁ‼」

 

 バタバタと慌ただしくなる教室。箒とシャルルは互いの微妙な表情になった顔を見合わせる。

 

「……一夏も大変だな……」

「シャルル、アレでも吹っ切れてマシになった方だぞ。千冬さん、始めは電子レンジ飯も不味かったからな……」

「それ似たような話一夏から聞いた…。あ、このコーヒー貰うぞ」

 

 机の上にあったブラックホールの様に渦巻く飲み物を口に運ぶ彼……。だが箒は気づいた。気づいてしまった。

 

「あ、シャルルそれ……」

「あん?…………ッほぶぅぁ!?げぇぇっふ‼ゲッフゴフっ!?……ぁんじゃこらァァ!!?」

「それが千冬さんのコーヒーだ……」

「…………想像を絶したわ。……つか何か具合悪ぃんだけど…………ちょっと胃腸薬買ってくる……」

 

 よろよろと歩く顔面蒼白のシャルルン。

 

「あのシャルルの、具合が悪くなる、だと…………!?」

「あ、ちょっとシャルル君!そのコンセント水濡れ……」

 

 コーヒーを吹き出した落下点にあったコンセントを踏んづけるシャルル……。結果はお察し。♪エーレーキーオン♪ ♪ファイヤーオン♪

 

「あばばばばァっっっ‼」

「嫁ーっ‼」

「かっ、火事ですわ!?」

「一夏!消火消火‼」

 

【消防車!】

 

―ギャオン!―

 

 ぷしゃーっ、とクローズドラゴンの口から消火剤が吹き出し、泡だらけになるシャルル。踏んだり蹴ったりとはこのことである。

 

 

 

 

 

「なんか一組の方が騒がしーな」

「どうせカシラと一夏さんがトラブってるんでしょう、いつもの事です」

「おっかし♫おっかし♪」




シュトルム「宇佐美……なんであらすじであの事わかったんですか?」
ブリッツ「盗み見~?」
宇佐美「…いや何故か頭に黒とか白とか流れ込んできて……それで分かった」
シュトルム「……名乗り口上考えますか」
宇佐美「因みに無世代機の詳細は下記だ」

あらすじ提供元:ウルト兎様、ありがとうございます!


※2021/01/23
 一部修正


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第六十三話 『地獄からの使者、親愛なるトラップマスター』

一夏「そんなこんなで学園祭だな……」
惣万「よぉ一夏。プレゼントしたコーヒーミルを使ってくれているみたいだな」
一夏「あ、惣万にぃ。いつ来たんだ?……ってか頭に葵突き刺さってるぞ」
惣万「千冬煽ったらコレ貰った」
一夏「ソレか、さっき千冬姉顔真っ赤にしてすっ飛んでったのは……」
惣万「ちっ、メイド服が見たいとか言っただけなのになぁ……」
簪「前回のあらすじ……一夏は生身でISと戦闘ができるくらいには強くなってる……でもでも亡国機業の方も一筋縄ではいかないみたいで……?」
一夏「どわぁ簪いつからいた!?」
簪「ついさっき。更識の隠密術を使えばこの程度の事容易い……」
一夏「簪お前忍者か何か?」
簪「ノーコメント……」
惣万「はっはっは、んじゃコーヒー飲ませてゆったりさせてもらうぜー」
簪「んじゃ私も。冒頭から出てくるけど気にしないでね……」



 いろんな意味でドキドキな学園祭。ある者は他校からの異性との出会いを心待ちにし、ある者はモトを取る為金儲けに勤しみ……。またある者は特別ステージゲストの『くーたんソロステージ』を心待ちにしているとかなんとか。

 

「一組は織斑君の執事喫茶だって!」

「きゃぁぁー!お帰りなさいませお嬢様って言ってくれるのかな!」

 

 学生達は各々のクラスの利点を活かし、最高の一時(ショータイム)を訪れた人達に提供する。

 

「ってギャァァァァァァァァ!四組から大量のミイラ人間がァァ!?」

「何々?ゲーム同好会で先生に勝てたら賞金が出ます?これはやらなきゃ損ね!」

「お、お手柔らかに……?」

 

 だが、一部ズレている所も存在しているような………特に山田先生なんかは。

 

【Perfect!K.O.!】

 

「瞬殺!?」

「何よあの緑髪の先生、ゲームめっちゃ強い!?」

「ノーコンティニューでクリア!さっすが私!……って、はッ!?ご、ごめんなさい!つい熱中してしまって……、だ、大丈夫ですかっ!?」

「ぐぬぬ……!もーいっかい‼」

 

 山田先生、容赦なし。あらすじの時のような強さを簡単に発揮している。実はゲームセンターで天才ゲーマーMと呼び声が高かったりする。

 

「ぇらっさーい、IS学園文化祭へようこそー、ガイドなどはワタクシ用務員シャルルが承りまーす……」

「気もそぞろだな、大丈夫っすかカシラ?」

「クロエさんのステージパフォーマンスが待ちきれないんでしょう……」

「つまりいつも通りってことで大丈夫だね」

 

 完全に倦怠期のバイト店員のような気の抜けた挨拶をするリーダーを見て、ある意味リラックスしてるからオッケーと思う三人。まぁ、それでいいのだろう。彼女らがそう思うのなら。

 

「一夏。コーヒーお代わり」

「こっちも。……まぁ俺の淹れた方が美味いがな!」

「(イラッ)はい分かりました簪お嬢様……惣万お嬢様」

「オイ待て、誰がお嬢様だ誰が!?」

 

 一方一組の店内は大盛況の一言であった。ただし、執事となった一夏は、簪と惣万に対してだけは塩対応ではあったのだが……。

 

「よぅ一夏。招待どーも、遊びに来た」

「一夏さんお久しぶりですー!」

「お、弾と蘭。来たか……って何で弾そんなにズタボロ?」

 

 【終焉の、一撃……!】そんな言葉が似合うほど、彼の顔は青タンやたんこぶなどで腫れていた。

 

「はい、お兄がゲーム同好会の先生をいやらっしい目で見てたのでちょっと記憶をリセットさせようかと思って」

「そっかー、相変わらずだな蘭」

 

 一夏は戦兎から渡されていたドクターフルボトルで弾を治療してやった。その効能に驚かれたのはご愛嬌。弾は涙目で一夏に感謝の言葉を述べました。

 

「んんっ、それでは二名様ですね?ご案内いたします、どうぞ」

「あ、ちょっと待った。まだ連れ……と言うか一緒に回ろうって言ってくれた人が来てねーんだよ……あ、来た」

「へぇ?……!」

「あ、皆様どうも……」

 

 後ろから声が呼びかけられて振り返る一向、そこに立っていたのは……。

 

「あ、お姉ちゃん……」

「ど、どうも……」

 

 ………しどろもどろになりながら答える、髪も随分と伸びた『刀奈』先輩。傍には妹に支えられて歩く上級生の『布仏虚』の姿もあった。

 

「楯な……じゃない、刀奈さん。お加減は如何ですか?」

「えぇ……と?」

 

 ……一夏は首かしげる先輩を見て、察して申し訳なくなってしまう。

 

「あ、……初めまして(・・・・・)。織斑一夏です」

「コレはどうもご丁寧に……私は更識刀奈、と言うらしいです……」

 

 あたりの雰囲気が少しずつ暗くなるのを感じてたのか、弾は真っ先に口を開いた。

 

「………………とりあえず場所を移そうぜ?はよ中に入っちまおう」

 

 

 

 

 

 

「………………えと、どうもありがとうございます。弾さん……」

「いえいえ……あ、何か食べますか?一夏……適当なものを一つ」

「弾、お前……。何で」

「お前等もお前等で刀奈って人になんかあるんじゃねーのか?」

「……。あんがとな、弾」

「気にすんな親友。それに…IS学園の人たちは蘭を守ってくれたんだろ?それくらいはなんか役に立ちたいんだよ」

 

 五月に起きた誘拐事件で、妹が無事に帰ってきたときの喜びようといったらなかった。助けてくれたのが一夏たちだったというのだから、感謝してもし足りないくらいだった。

 俺とお前の仲だろ、と笑顔で彼の胸を少し小突く弾。自分と遠い人になったとしても変わらない友情が有った。

 

「んじゃこの執事にご奉仕セットってのを……」

「おい馬鹿止めろ」

 

 ……前言撤回しようかと思った一夏なのだった。コーヒーだけを出してそそくさと去る。

 

「……で、どうしてまた学園に?」

 

 チビチビとコーヒーを飲む刀奈におごりのケーキを差し出し、一夏や箒達は本音に質問をぶつけるに至った。

 

「それはね~、お医者さんがエピソード記憶に刺激を与えるのも手だって言って~、具合も安定してるし、文化祭行ってきても良いって許可が下りたの~」

「…………そうか……」

 

(だけど……もしかしたらファウストとかが攻めてくる可能性が高いんだぞ……?大丈夫か……?)

 

 ふとそんな心配が一夏の頭を過る。

 丁度その時、教室のドアが開き、シニヨンにした頭の珍竹林……もとい凰鈴音がよろけながらも入ってきた。

 

「一夏~、箒~」

「あ、生徒会長だ~。書記の仕事さぼってゴメンね~」

「いいわよ別に……アンタいるとアタシ以上に部屋散らかるし……」

「えへー」

「褒めてないわよ……」

 

 あーもう、とか言いながら、『ぐでー』、と机にうつ伏せになる鈴。ツインテールもどことなく元気がない。

 

「……あぁこの後が心配だわ……何とかごり押しでイベント通過させることになるなんて……」

「お疲れ様だな、鈴」

「えぇ……何とか文化祭当日にこぎつけたわよ~……我ながら頑張ったわ~……」

 

 フヒヒ、フヒ……とどんよりした空気で乾いた笑みを浮かべる鈴ちゃん。もういっそ怖いわ……。

 

「鈴、大丈夫か……?」

「あぁラウラ~?うん大丈夫大丈夫~……ただ一週間まともな休眠とってないだけだから~」

「……(副会長たちをジト目)」

 

 完全に白目を剥きながらそう言葉を吐く新生徒会長……。ホラー喫茶で働いたら?需要あるよ。

 

「……いや、うん……いろいろあってな……」

「楯無前会長が考えていたヤベーシンデレラ劇公演をうまくやり繰りして、予算から捻りだして……鈴の頭がオーバーヒートしたのだ」

「それならまだしも生徒会に姉妹の仲直りの手引書とか、生徒から没収した●●(ピー)とか●●(ピー)●●(ピー)。とかがあってその処理が……」

 

 ……。何があったの?

 

「…………以前の私?がすみません……いや、本当に、鈴さん。マジでゴメンなさい」

 

 刀奈さんの純粋無垢な瞳がまぶしい。デフォルメされた大粒の汗が頭の上に乗っているように見えたのは気のせいではないのだろう。

 

「いえいえ……人って字は一人が一人の上に寄りかかってできてますし人間関係面倒ですしおすし」

「割り切れ、そーいうもんだろ。良かったな経験できて」

「シャルル!?」

 

 シャルル、スゲェ暴論である。

 

「ところで、だ。私は教官の茶道部の準備に忙しかったので知らんのだが、生徒会の出し物は何になったのだ?」

 

(しぃん……)

 

 ………辺りが一瞬に真っ暗になったように感じたが、それは気のせいだったかのようにRESTARTして要件を答え始める。

 

「あー…………いやそれがネ……。うん……」

「あらら?歯切れが悪いですわね……」

 

 心配そうな目で見つめるオルコット……。だが、その視線に、まるで真綿で首を締められるような感覚を覚えながら言葉を絞り出す企画者一向……。

 

「その時の俺ら深夜テンションで会議しててな?当然まともな判断ができてるかどうかも怪しいわけでだな……」

「要点をズバリ言えや」

 

 シャルルのその一言に救われたのか、はたまたヤケクソになったのか……ともかく結論を一夏は言った。

 

「…………シャルル、コスプレしねぇ?」

「……はっ?」

 

 

 

 

 

 どやどやと連れ出される一夏とシャルル&ヒロインズ。一方の弾や蘭、それに本音に付き添われた虚と刀奈は、鈴によってアリーナへと送られて行く……。それと入れ違いになるように教室内に入ってきた一団があった。

 

「……。おう、遅かったな?」

「あぁ、来てやったぞ石動」

「ガキが何リーダー気取ってんだ!……あー、すまんな石動。ちったぁ遅刻しちまって」

 

 ハットを目深にかぶった子供と、スーツを着用した赤髪の女が惣万の席にどっかりと座る。コーヒー一つ、と惣万がオーダーし、再び彼女らと向き合った。

 

「構わねーよ巻紙。こっちはこっちでクロエを送り届けたり千冬のご機嫌取りしたり忙しかったからな。ってか『宝生』お前……電車乗れたんだな……」

「……。私が切符買った」

「……あそう」

「ふぬー!」

 

 宝生と呼ばれた少女にポカポカポカと殴られる惣万。

 

((((子供だ……))))

 

 その様子を見ていてクラス内の女生徒たちは思う、やだあの子可愛い……と。まぁそれは兎も角。惣万に『巻紙』と『宝生』と呼ばれた二人組の女。ただし身長は親と子ぐらい離れているが、タメ口で会話しているため違和感がある事甚だしい。

 

「(よくそれで織斑を超えるだの言えたな……)」

「(いや、千冬はタクシー乗れないぞ。それに比べりゃ……マシ……かな)」

「(どっこいじゃねぇか……)」

 

 ぼそっと言葉をこぼす惣万と『巻紙礼子』。エージェントらしく、別な言葉(今回はアラビア語)で聴き取れないように周囲に気を配るが、逆にぎょっとされるのはご挨拶。

 

「店員、追加注文だ。いちごパフェ一つとキッズプレート一つ、旗付き、ピーマン抜きで」

「はい……え?あはい」

「「…………」」

「何だその眼は(もっきゅもっきゅ)」

 

 チキンライスをほおばりながら殺意に満ちた目で見てくる『宝生笑夢』ちゃん。……うんぜんっぜん怖くねぇ。

 

「…………ところで巻紙さんよ。どーやって学園からフルボトルを奪還するつもりだ?俺言ったよな、今の世界情勢を鑑みてIS関係の人間だと逆に怪しまれるって」

ファウスト(お前等)が各国のファクトリーをぶっ潰さなければ良かったんだろうがよ……ま、いいが。考えはある……仕込みもイカレ蝙蝠のお陰で上々だしな」

「ほぉ〜?お手並み拝見といこうじゃないか?……『オータム』」

 

 そう言って、蛇は静かに笑みを浮かべるのだった……。

 

「あ、でもまだ顔バレはマズいからコレ被ってけ」

「……………んだこれ?」

「イタリアに料理修行しに行った時ついでに購入したヴェネツィアンマスク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わってここはIS学園のアリーナ。とある城をモチーフにしたセットのど真ん中に、一人の美少女が立っていた……。

 

『昔々、ある国に白雪姫と称される美しい王女がいました。名前を、“シャルロット・デュノア”』

 

 おふざけ全快なアナウンスに、怒号が飛ぶ。

 

「おーい待て待て待てーっ!俺男なんだけど‼何で白雪姫(ブランシュネージュ)だ!」

(シャルルン、この脚本書いたの誰か分かる?)

「…………お前か?」

(いや、戦兎さん)

 

 イヤホンから聞こえてきた一夏の声に、こめかみを揉む女装のシャルル(シャルルット)。もう突っ込む気も失せたらしい。

 

『しかし彼女の継母である王妃様は自分こそが世界最強の美女だと言って憚りませんでした。王妃様はいつも魔法の鏡に向かって「この世で一番美しい(強い)のは誰?」と尋ね、鏡はいつも「それは王妃様でーす(笑)」と答えていました』

「戦兎ォッッッ!焼けた鉄の靴履かせてやろぉぉかぁぁ‼」

「教官落ち着いて頂きたくッ…!」

 

 舞台袖がどたんばんたんと騒がしいが、裏舞台で段取りをしてる一夏は素知らぬ顔を決め込んだ。

 

『白雪姫が大きくなった頃、王妃様はいつものように、鏡にいつもの質問を投げかけました。ところがどっこいディアドコイ、魔法の鏡は「この世で一番美しい(強い)のは白雪姫だろJK」と答えてしまいましたからさあ大変』

 

 もはや恐れ知らずすぎるアナウンス(戦兎)。

 

『そろそろお歳で若さがヤバくなってきた王妃様は猟師を雇って白雪姫の命を狙う!さぁ、ここから人類最強(レニユリオン)をかけた血を血で洗う世界大戦が幕を開ける!魔法の鏡に世界最強の美女と認められるのは一体誰か!』

(後で戦兎〆る…絶対〆る)

『Are you ready?Fightッッ!らびたんいぇーい!』

「ザケんな‼」

 

 なお、戦兎はふざけていない。かなりエンターテイメント性にアイデアを割いたと宣っている。

 その天災の説明が、ちょうど終わった時だった。

 

「どぉ⁉なになになに⁉誰だライフル射撃してんのは‼」

 

 女装したシャルの頬を弾丸が掠める。

 

『猟師役には山田真耶先生ちゃんにお頼み申しました!このくらいじゃシャルルン死なないだろーしガンバ!』

「実弾じゃないだけマシ…だけどさぁ!」

(それでも超音速の弾丸を避けられるのはスゲェと思うぞ俺は…)

『なお、学園内であればどこへ逃げようが構いませーん。好きにしてね!あシャルルン、一般人の巻き込まれだけにはご注意を』

「お前ホントに教師か⁉悪魔じゃねぇのか!?」

 

 だがその時、ふと思う。

 

(……いや待て。俺は俺なりに、“自由に”動いていいってことか…?)

 

 しかも念入りに一般人に被害を出さないよう言外に伝えてきた。

 

「ッ、…チクショーとりあえずやってやるよォォ!この後のくーたんライブ見なきゃ割に合わねぇからなァァァ‼」

 

 ひとまずは戦兎の思惑に乗ってやろうと、シャルルはマッハの速度で駆け出した。

 

『あ、それと映像は全校生徒に中継されていまーす。オレの技術の粋を集めて作り上げたドローンがどこまでも追いかけてくのでそのつもりで。生徒のみなさーん、賭け金のレートはもうちょっと待ってね~』

「技術の無駄遣いィ!つか生徒で賭けすんなって!」

(ちなみにこのアトラクション、シャルルを気絶させるなりして勝ったら、何でも言う事を聞かせられるチケットが優勝品になっていたりするんだよな)

「はぁ!?どーゆーことだよ一夏ぁ!?」

(どうもこうも、考えたのが戦兎さんだし。んでアトラクションの勝利条件というのが、白雪姫のクライマックスを飾る行為なわけだ。……つまり接吻である)

「言い直さんでいい!……ってことは、だ!?」

「よぉぉぉぉぉぉめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ‼これで合法的にキスができるぞ‼だから今すぐに眠れェェェェェ‼」

 

 窓の外にはISを展開して白雪姫シャルを追いかける眼帯の王子様がいた。

 

(あーもー滅茶苦茶だよ。何でこのタイミングで白馬に乗った王子様が来るんだよはえーよ。しかもやってることヴィランサイドなんだけど。どうにかしないとマズくない?)

「女にはよっぽどのことが無きゃ手ぇ出さねぇ!」

(男らしいなうぉい。でもこれよっぽどのことじゃね?一応IS一機だけでも大国の国家戦力と同じだからね?お前生身で戦えるけど、忘れるなよ?)

 

 ワイヤレスイヤホンから漏れる一夏のツッコミを無視し、シャルルは校舎から別の校舎へと跳躍する。それでもスカートの中身を見せないのは流石だった。

 

「っ、何とか撒いたが、すぐに見つかるなこりゃ!」

(まぁ、普通ISを直線距離で走って引き離せるとかおかしいんだけどね……、あ来たぞ)

「ふ、ふふふ……これで嫁と!」

 

 学園の壁をISでよじ登る姿は、もはや王子様というより魔王様だった。ISからのたくるワイヤーブレードも相まって不気味過ぎる。

 

「さぁ嫁、選ばせてやる……スタンガンと子守唄、どちらがいい?」

 

 ISを収納(クローズ)し、頬を染めて片手に帯電するデバイスを持ってじりじり近づいてくる銀髪ちゃん。因みにシャルル、スタンガン程度なら睡眠導入のマッサージ機として使っていたりする。

 

「あー…何頼まれるか分からねぇから捕まりたくねぇのが本音なんだが」

「なに、すぐ私無しでは満足できない体にしてやる……」

「余計捕まりたくなくなった!」

「嫌というのも好きのうちと聞くが、今は私に身を任せるが良い!…っ何ッ⁉」

 

 その時、上空からレーザーの雨が降り注ぐ。

 

「おのれ、私と嫁との逢瀬を…何者だ!?」

(すっかりラウラが悪役ムーヴに入ってやがるよ…、寧ろノリノリじゃね?)

「我ら、ドワッフーセブン!スノーホワイトをお助け申す!」

「いや待てセシリア!何ッッだ、そのふざけたネーミングっ!三羽烏まで‼」

 

 そこには、小人の帽子を被った一年生IS専用機持ち達が大集合していた(一夏除く)。

 

「いやー…こんな機会じゃないと先生と実戦形式で戦えないですし」

「1-2で負け越してんのよこっちは、ついでに遊ばせてよ…ね‼」

「俺の救出が目的じゃねぇのかよ…、あぁ行っちまった……」

「あいつらは全く…」

 

 やれやれ、というふうに首を振る箒。ちなみに帽子の色はそれぞれのISカラーである。

 

「う、ウチらはちゃんと助けに着ましたよカシラ?」

「まぁ、嫌々ながらですが。方向音痴が発揮されては面倒ですし」

「お菓子もらった!」

(赤羽と青羽の帽子が箒とセシリアのヤツと被ってるな……、帽子なだけに)

「喧しいわ。で、どーする銀髪。これだけの増援があってまだ続けるか?」

「ふふ……ふふははは!」

 

 現在シャルルット姫を守る小人は三羽烏のスマッシュ態(赤1・青2・黄)と箒(赤2)、簪(薄緑)。しかし状況は不利になったというのにラウラの表情に焦りはない。

 

「因幡野戦兎教諭!隠し玉を投入だ!さぁ嫁、刮目せよ!」

『ではここで特別ゲストの投入でっす。ぽちっとな』

「……、ん?どぉぉぉぉっ!?」

 

 ラウラがカメラに向かってズビシと指を突きつけると、戦兎の声に従い上空から一本の人参型弾道ミサイルが降って来た。

 ……シャルルの頭に。

 

「いてぇ……」

(いや、よくザクロにならず死ななかったな。つかなんで無傷なんだ?)

「無傷じゃねぇわ。ちょっと腫れができた」

 

 ……、もう人間やめてるシャルルであった。

 

『さぁ、おーぷんざきゃーろっと!』

 

 天災的馬鹿の間の抜けた言葉と共に、ショックアブソーバーが解除され、その有人ロケットが二つに割れる。そこから出てきたのは赤い服を纏ったラウラに瓜二つの少女。

 

「……え、くーたん?な、なんで?」

「憂さ晴らしができると聞いて!赤ずきん印の麻痺毒リンゴパイをお食ヴェェェェェェェェェェ‼」

(いや世界観!)

「食い物で遊ぶんじゃないよくーたん!あぁそこの米国人(ヤンキー)勿体ねーからこれやる、食らっとけ!」

「へぶっ!?」

「お待たせしたッス~…、ってどしたんスか先輩、顔クリーム塗れッスよ?」

「……いや、オレも何が何だか…」

 

 ちょうど露店をぶらぶら歩いていたアメリカ代表候補生にクロエのケーキを投げつけると、再び逃走を開始するシャルルット姫。お供である三羽烏もそれに続いた。

 

「連れ合いが申し訳ないです先輩方…、あ、これ手ぬぐいです(ダダダダダ)」

「あ、どーも…、じゃなくて!」

「…賭け金は千円からだから、よろしく…(バタバタバタ)」

「や、しないッスけど…、えぁ?ちょ…先輩!?どしたんすか先輩‼」

「な、なんか…気ボジワ゛リ゛ィ…」

 

 箒と簪はフォローに回ったが、流石にダリル・ケイシーが倒れたことには気づかなかった。というか関わり合いになりたくなさそうだった。

 

(おいシャルルン、パイセン倒れちゃったぞおぉい!?)

「あ?あの程度の毒物、普通の人類でも大したことねぇだろ?」

人類最強(レニユリオン)のお前と比べられてもな…そもそもお前効かないだろ)

「あぁ、まぁ。地球外由来の毒とか盛られても効かなかったが」

(どんな経験!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方こちらは乱痴気騒ぎの裏舞台。着替え室で独り、黙々とシャルルット姫のナビゲーションを行っている男子がいた。

 

「ちくしょー、なんで俺がシャルルンのナビ役なんだよ、方向音痴対策として他人がいないとダメってポンコツかあいつ…」

「もしもし?織斑一夏様でいらっしゃいますね?」

「あ、何?」

 

 不意に声がかかり、なにごとだろうと振り返る一夏。そこには、奇妙な格好をした女性がいた。

 

「…は?」

 

 いや、女性だとはっきりは分からない。顔はイタリア風マスケラで覆われており、声もボイスチェンジャーを用いていたからだ。

 

「……、良い出来栄えのコスだな。大賞とれんじゃねぇの?けどコスプレ大会なら飛び入り不可だぞ」

「いえいえ誤解なさらぬように……。私の欲しいものは別ですよ。貴方が持つボトルとトリガーを頂こうと思いまして……」

「……。は?」

 

 ヴェネチアンマスクを被った女性と思われる人物は努めて穏やかに提案してくる。だが、その瞳は全く笑っていなかった。急に狂気的な光を放つ彼女の目。そして、彼に突然黒い影が迫ってくる。

 

「いぃがら……とっとと寄越しやれよ!」

「ぬぉっ!?」

 

 紫色の銃弾が頬を掠める。

 

「ッ!それは……カイザーの銃!?」

「カイザー?あぁ、あいつ等か……。ま、正しくはネビュラスチームガン、って言うらしいぜ?」

 

 『ネビュラスチームガン』を弄びながら、余裕綽々と言った態度とゆっくりとした歩調で近づいてくる茶髪の女。

 

「…ん?」

 

 彼女は獲物を嬲るような蜘蛛の目で一夏を見て、その周辺に散らばったボトルを見て、そして哄笑する。

 

「……ッ、はっはァ……!丁度良い!」

 

 つま先に振れた黒いデバイスを手に取った。一夏の懐から零れた、黒い変身用のデバイスを……。

 

「!……返せ……!それは俺のドライバーだ……!」

「確か……こぉだったよなァ?」

 

 一夏の声が届くことは無く、彼女は腰にベルトを巻き付けた。そして……『紫色の蜘蛛のレリーフが刻まれたボトル』と、近くの『白い冷蔵庫のボトル』を手に取り、にやりと笑う。彼女は片手で二本のボトルを振り、そしてネビュラスチームガンを構えながらも器用にスロットにそのボトルを挿入した。

 

 

 

スパイダー‼︎

 

「ッ!」

 

 一夏の持っていたドライバーに、毒蜘蛛の成分が注がれる。

 

冷蔵庫‼︎

 

 凍てつくような冷気がドライバー内部へ成分を送り込む。

 

ベストマッチ‼︎

 

 『S』と『R』が組み合わさったマークがドライバーの前方に浮かんだ。女の手によってハンドルが何度も何度も回され……、そして、彼女の前後に紫と白のファクトリーが出来上がった。

 

【Are you ready?】

 

 無情にも、一夏の耳にその言葉が届く。本来ならば、『仮面ライダー』にしか許されないその言葉。

 

「変っ、身……!」

 

 一夏の事を見下ろし、嘲る様な口調で『その言葉』を吐き捨てる。正義のヒーローを否定するかのように、頬を引きつらせて哄笑を漏らす闇の住人……。そして、『正義の力』は只の『暴力』になり下がる。十年前の、ISの誕生と同じように。

 

 

冷却のトラップマスター!スパイダークーラー!イェーイ!

 

 

 前後から装甲に包まれる。眩い光と、激しい蒸気が周囲を覆う。そして……。

 

「あッははは……!はぁ~ぁ……はぁ!」

 

 一夏の身体を変身の余波が吹き飛ばす。変身が完了した彼女の瞳が白と紫に輝いた。冷たく光る白い冷蔵庫、絡みつくような光沢の紫の蜘蛛の巣……。

 

 

 

「……ッ何で、てめぇがビルド(・・・)に!……ナニモンだお前!?」

「オータム様だよ……悪の組織の一人、とか言ったら納得かぁ?」

 

 その姿は正しく仮面ライダービルド。だが、戦兎が使用することのなかったベストマッチの一つ、スパイダークーラーフォーム……。オータムと名乗った女は、片手にネビュラスチームガンを、もう一方の手にドリルクラッシャーを出現させて、一歩、また一歩と近づいてくる……。

 

「さぁ……始めるとしようぜ。ライダー同士による、とんでもねぇ戦争ってやつをさぁ‼」

 

 オータムが叫べば、冷たい蜘蛛の背中から、紫と白のアームクローが迫り出してきた……。




惣万「秋姉……お前バカ兄憑依してない?」
オータム「ぁん?私女だぞ?なんのこっちゃだよ」
宇佐美「何故トランスチームシステムがコブラと蝙蝠だけなんだ……ライダーと言ったら蜘蛛が入っていなければ……!コブラ!蝙蝠!蜘蛛!がベストメンバーだろう!」
惣万「つっても最終形態になったコブラもライダーの蜘蛛も蟹にしか見えないんだがな……」
スコール「蠍は次点かしら…」
シュトルム「狼はどうなんでしょうね」
ブリッツ「イカ~」

※2021/02/13
 一部修正


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第六十四話 『暁と黄昏のサムライレディーズ』

M「あらすじ紹介だ。前回はオータムがビルドスパイダークーラーフォームに変身した。以上だ」
オータム「……と言うかこの物語でエボルと人間で初めて使われた“四十本のボトル”がスパイダーフルボトルって、かなり優遇されているよな……フフ」
M「………(興味が無いから射撃訓練してる)」
オータム「ちっ、可愛くねぇ……。ええっと、私がボトルを預けられた時、確かこんな出来事が……」

 ………………回想、格納庫にて。

スコール『……オータム、貴女なんで天井を歩いているの?』
オータム『……いやー、慣れてみると病みつきになんだ……(シャカシャカ)』
スコール『そのボトルはスタークからの借り物だから紛失に気をつけてよね?』
オータム『わーってるよ……でもスコールはなんのボトルを借りたんだ?』
スコール『………確かめてみる?(ベッドに指クイッ)』
オータム『……へっ?ちょ……待ッ……!アーッ!』

 ………………回想終了。

オータム「それが……私がレズに堕ちたキッカケだった。スコーピオンボトルって毒の生成能力があって、それで出来た●●●で一夜でウン十回も啼かせられて……」
M「………………。誰もお前の汚い話なんて求めてないというかどんな使い方してんだあの不潔BBAナニやっているんだいい加減にしろ(超早口)」
オータム「……。なら聞かなきゃいいだろ……、……、はっはーん?お前もしかして聞きたいのか」
M「ナナナナニ言っているんだ貴様ぁ!ばっ、バーカ!バーカバーカッッ‼馬ー鹿ァッ!!!」
オータム「顔真っ赤にしてすっ飛んでいきやがった…………、初心いねぇ……」
惣万「(……、…………ボトル返してもらおうかな……)」


アイデア提供:ウルト兎様。どうもありがとうございます!


「変身!」

 

【ドラゴンインクローズチャージ!】

 

 一夏は奪われたボトルとドライバーを奪還するため、現時点で唯一使用できるスクラッシュドライバーを用いて銀色に輝く龍のライダーへと変身した。

 

「正義の味方。仮面ライダー、ねぇ?」

 

 可笑しそうに首を傾けながら嗤うビルド。その様子は、自棄的な乾いた笑みと相まって項垂れている様にも見える。

 

「あ?何だよ……」

「いんやべっつにぃ?兵器を振り回してンな妄言振り撒く馬鹿な軍人(オンナ)を、少し思い出しただけだ……ぜ!」

「!」

 

【ファンキーアタック!フルボトル!】

 

 オータムは床に落ちていた消防車のボトルをセットし、火炎をネビュラスチームガンから放射した。

 

「この秋女ァ……!」

「てめえ等だってワンサマーとサウザンドウィンターじゃねぇか!」

「うるせぇよ!」

 

【ビートクローザー!】

 

 電子音が鳴ると、右手にゲルが集合し一本の諸刃の剣を転送する。蒼炎で包まれた刀身が薄暗い着替え室を朧に照らし、クローズチャージによって振るわれる剣の軌道が生きている様にのたくっていた。

 

「食らえ!」

 

 そして、ビートクローザーを大きく振りかぶって、彼はスパイダークーラーのサブアームを斬り落とす……。

 

「食らうか!」

 

 かに思われた。

 

―ガィン……ッ‼―

 

「~~~ッ!硬っ……まさか、それISの絶対防御……!?」

 

 ジンジンと染み入る様な痛みが走った右手を揺らし、彼はビルドと距離を置く。

 

「ご明察。私の愛機、『アラクネ』だよ……こいつの毒はきついぜぇ?」

 

 白と紫の斑な配色となったIS『アラクネ』の装甲脚。絶えず冷気が床へと零れ落ち、不気味且つ寒い事この上ない。

 

「どんだけ蜘蛛が好きなんだよ……!にしたって、ライダーシステムとISの同時併用が出来るなんて……!」

「狂った蝙蝠女がイジってくれてなぁ!ハァ‼」

 

 オータムが元凶の名を示唆させる発言すると、その姿が掻き消えた。

 

「……。絶対宇佐美だなあの女郎………グァッ!?」

 

 冷蔵庫の冷気でクローズチャージが立つ床が凍っていく。それに気が付くが、もはや遅い。背後にスケートの要領で移動していたオータムは、白と紫のアームから蜘蛛の糸を飛ばして彼を拘束した。

 

「ウグッ……何だ……動かねぇ……!」

 

 蜘蛛の糸まで冷気に包まれ、クローズチャージの装甲を凍てつかせ彼の自由を奪っていく。

 

「オラオラどうしたァ‼まだ終わんねーぞガキィ‼」

 

【ライフルモード!】

 

「フハハ……よっと!」

 

 手に持ったライフルへ慣れた手つきでドライバーから抜いた冷蔵庫フルボトルを装填し、そのままパルプを回転させるオータム。

 

【アイススチーム…!】

 

「凍っとけ!」

 

【フルボトル!ファンキーショット!フルボトル!】

 

「ぐぁああぁぁ!?……どう、して……、俺の攻撃が、読まれてる……?」

「何だ、まだ分かんねぇか……スタークがどうしてお前等にフルボトルを全部渡したと思う?」

 

 そう言ってオータムは一夏の頭をスチームブレードの峰で何回か叩くと強引に掴み、顔の前まで引き寄せる。

 

「全て私たちの計画の内だ……、因幡野戦兎がフルボトルを使えばその分こちらにも対策が立てられる。お前等がフルボトルを使えば使うほど、その戦い方や特性のデータを簡単に取ることができる……。ホイホイ使ってくれて助かってたんだよ、こっちゃな」

 

 今までの戦闘は全て敵側の実験によるものだと、そう言った。

 

「ッ……!」

「さて……お楽しみタイムと行こうぜ?白式は頂きだ……」

 

【ロストマッチ!】

 

「いい事教えてやるぜ。このネビュラスチームガンを使えば、剥離剤(リムーバー)無しでもISを装着解除できる。しかもコアに耐性が付かないってオマケつきでな……」

 

 『これが無かったら中々面倒なんだよなぁ……?』ともオータムは呟きながら手に持った銃で狙いをつける。

 

「これさえ使えばお前の元からテレポートで戻ってくる事もない。さぁて……お別れの時間だぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、シャルルット姫とラウラ皇子が逃避行してる最中、ステージ上では丁度クロエの曲が『明日の地球を何たらこうたら』と歌っていた。

 

「ひーびーくよぉ……アレ?故障……?」

 

 突然、軽快なメロディーが鳴りやんだ。一瞬静まり返るアリーナ内。そして異変を感じ取りざわざわと騒ぎが大きくなり始める。

 丁度その時だった。

 

『はーいみーんなー!モッピーだよーっ!』

 

 爆音が鳴り響いていた背後のスピーカーがジャックされ、映像が流れていたスクリーンが切り替わる。

 そこには、奇抜な雰囲気の少女が仁王立ち、きまったとばかりに輝く笑顔を浮かべていた。

 

「えっ……ほ、箒……?」

 

 クロエはそう尋ねざるを得ない。無邪気に笑うスクリーンの人物は、桃色のロングヘアーに赤色の瞳をした美少女であった。ただしその肌は火傷跡が無く、白と金の振り袖姿である。

 

『ここからは皆でゲームだよ!皆で楽しいデスゲームをしようよ!私はゲームマスターの幻からナビ役を任された、モッピーピポパポ!』

 

 彼女は子供のような身振り手振りで映像の中を跳ねまわる。そして、おぞましい子供の残虐さを滲ませて、こう続けた。

 

『今からここは閉ざされた密室!皆さん方プレイヤーには、仮面ライダーやIS専用機持ち達を倒してもらいます!戦わなかったり、仮面ライダーが人間を救助するのは違反行為!無人機であるISを使って命をゼロにさせていただきまーす、コンティニューはできませーん!』

「…――――は?」

 

 誰かが溢した、たった一言。その一文字が、その場にいる全ての人間の心を表していた。誰もが思った、何を言っているのか分からない、と。

 

「キャァアアアアアアアアアアアア⁉」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 その時、アリーナ内に何機もの無人機が突入して来る。そのどれもが、巨大なライフルや対人ブレードを装備して、人間を殺すのに最も効率が良い姿であった。

 

「…あれ…。趣味悪いどころの話じゃない…っ!」

『そうでしょ、敵キャラとして良いデザインでしょ?それじゃー、ゲームスタート!』

「…おいお前等‼観客避難させろ‼変身‼」

 

 瞬時に一人の男の声が、アリーナに響く。見世物兼秘密裏の巡回で学校内を移動していたシャルルの声だった。

 ドレスを脱ぎ捨て華麗に着地すると、周りの三羽烏たちへ指示を出す。そしてパックゼリーを宙に投げ上げ、スクラッシュドライバーに叩き込んだ。

 

【ロボットイングリス!】

 

 その男臭い激しめな音声と共に、黄金の仮面ライダーが黒いゼリーの羽を広げる。彼は中心に設置されたクロエの隣、ワンマンライブのステージへと王子の様に降り立った。

 

「アタシたちも行くわよ!」

「はいですわ、生徒会長さん!」

「うーむ、戦友(鈴音)がその呼び名だと違和感甚だしいな」

「やっぱりこうなるのね……」

 

 さらに上空から降り立つ幾つもの影。

 彼女ら、専用機持ち達の身体が金属パーツに包まれる様子を見た観客たち。三羽烏、箒の誘導に従って本格的にアリーナ内は避難を始める。

 その様子を見たモッピーピポパポは、面白くないとでも言うように一瞬顔をしかめたが、すぐ笑顔を取り戻すと振り袖の中から何かのデバイスを取り出した。

 

『モパピプペナルティ、退場…。ぽちっとな』

 

 災厄のスイッチに、魔性の指が触れる。

 

「?ペナルティ…、…まさか!」

 

【リセット…!】

 

 

 

 

 

 

―ドッガァァァァァァァァァァァン‼―

 

 閃光が、海上に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五反田蘭……とか言ったな!こっちだ、早く!」

「あ……はい!」

 

 蘭達は周囲を人混みでもみくちゃにされながら、箒と一緒に避難をしていた。だが、丁度その時だった。

 

 

 

 

―ドッガァァァァァァァァァァァン‼―

 

 

 

 黒煙で包まれながら目も眩むような閃光と轟音が轟き、何かに突き出され感覚があった。

 横を見ると先程一緒に話していた虚さん、刀奈さん……。後ろを振り返ってみれば、箒さんが驚きにマヌケな表情になっていた。表情がするりと抜け落ちたみたいだと、時と場所を考えず思ってしまった蘭。

 そしてはたと気が付いた。じゃあ突き出したのは………誰だ?

 

「……?……!」

 

 ……………………振り返って、血の気が引いた。対照的に、目の前には血の赤い色が溢れていた。

 

「お……お兄!?」

 

 自分に何があったか理解していないのか、うわ言の様に呟く弾。彼は咄嗟に妹や初対面の虚達を守る為に彼女らを突き飛ばしたのだった。

 

「ら、蘭……、虚さん達も……大丈夫か……!」

 

 但し、その代償として彼の下半身は爆風で飛んできた巨大な瓦礫に挟まれ、足が複雑に折れ曲がっていたのだが……。

 

「お兄が大丈夫なの!?柄にもないことしてっ!……、ッ本当に馬鹿!馬鹿何してんのよぉ!?」

「うるせぇ……。蘭、お前を……虚さん達をほっとけるかよ」

「弾……さん……!そんな……いやッ……!嫌ぁぁぁ‼」

 

 脂汗を流しながら口を開く弾。所々に破片が突き刺さっているところを見ると決して怪我は軽くない…もしかしたら歩けなくなるかもしれないと言った悪い想像が妹や虚の脳裏をよぎる。

 

「……!」

 

 近寄った箒は、どうすることもできない無力感に苛まれる。ISのライフル攻撃を防護し、IS学園から遠ざけようとしていた専用機持ち達。彼女らも箒と同じだった。

 

(一体どうして私は重大なところでこう(・・)なのだろうか……)

 

 地上の様子を見てみれば、数々の人間が重症を負い、倒れている。血を流している。声が聞こえる。子供の泣き声が。女の人の叫び声が。男の人の呻き声が……。

 

『ゲーム再開っ!戦わないと、こうなっちゃうから気を付けてね!』

「あんのアマ……」

 

 巨大な結晶体モドキのISを一人で食い止め続けているグリス。今すぐ人々を助けに向かいたいが、この状態では目の前の下劣な女とその下僕をどうにかしないと話にならない。だが、その時だった。

 

『うわーゲームヘタクソ?使えない駒は足手まといになるから最初に使い潰すのがこういう系の戦略なのに!』

 

 その女は弾を……いいや、『偽りに満ちた姿勢』を、『空で無価値な現象』を見て嘲笑った。箒が介抱する弾の様子をさらに嘲っていく。

 

『それなのに、スコアよりもプレイングよりも好きなキャラを守るとか(笑)』

 

 味方すら嫌われる災厄な女……その核は『戯れ』。ありとあらゆるものが遊びであり、そしてそれが彼女の奥底にある存在証明。純粋ゆえに不愉快にも程がある生き物だった。

 

「……ッ!お前に……何が分かる……!」

『もぴ?』

 

 だが、彼女は理解していない。そんなヒーローを慕う者がいることを。

 

「お前に……因幡野戦兎さんの、私たちの何が分かる‼」

『何なに篠ノ之箒?分かんないなー!…理解しろとでも?押し付けるな、反吐が出る』

「…ッッッ!」

 

 箒は血を吐くような叫び声をあげる。そして顔を上に向けた彼女は、刀の様な鋭さでスクリーン内の少女の笑みを断ち切った。

 

「そうだ……その通りだ!理解されないことなんて、『この世界』では当たり前の事なんだ……!だから……!」

 

 そんなヒーローは、いつだって彼女の心を照らし、その道を正してくれている。今回だって……。

 

(……戦兎さん……。貴女が私に触れてくれた手は温かかった……。コレを預けてくれた手は柔らかかった……だから………………)

 

 この状況を切り開くための力を用意してくれていた。

 

―諸事情がある君たちに、オレからのプレゼントだ……。まず箒ちゃん。チッピーセンセが主体となってIS学園に掛け合ってくれてね。IS学園に在学する限りは代表候補とかそういう煩わしい束縛は無いよ―

 

 箒の頭の中にあったのは記憶の中の姉とは違う、優しい笑みの先生……今となっては元の姉への怒りの記憶が薄れてきている。

 

―一応自衛用のISなんだけど……誰かを守りたいと思った時、戦いたいと思った時、この子は箒ちゃんの力になってくれるはずだ。だから………………―

 

 だからか……ハッキリと理解している。彼女は誰が言ったところでその姿勢は変わらないのだと、その姿勢に憧れたのだと。

 

「理解も、称賛も私はいらない……ただ、分かってもらえた人の為に……!一夏の、戦兎さんと一緒に……、仲間と一緒に……!」

「箒……さん?なんですのそれは……」

 

 そして、『憧れ』からもらった物を握り締める。

 

「あの小刀……ISの待機状態なの?」

 

 誰が言ったか、それを皮切りとし箒は目を見開いた。そして、手からその小太刀を抜き放つ。

 

「『暁星』……ISとしての姿を見せよ!」

 

 その途端、力強い赤い光が彼女を覆い、露出が無いISスーツの上からラインアイセンサの付いた眼帯型アーマー、四肢と急所を覆う赤と黒のアーマーが出現した。片目を隠していながらも、その勇ましい眼差しは覇気に満ち、その苛烈さは戦国大名の様であった。

 

 

篠ノ之箒……『打鉄・旭ノ型』。いざ参る‼

 

 

 声高らかにその名を謳う。掛け声と共に跳躍すれば、瞬間加速(イグニッション・ブースト)もかくやと言った速度で戦闘を繰り広げていた仲間達の元へと降り立った。

 

『……もうっ、プレイヤーを助けるのは違反行為だよっ♪』

 

 はいどーぞ!とふざけながら、残っている無人機ISに指示を出すモッピーピポパポ。だが、しかし。

 

『……あれ?ちゃんとチームワーク良く戦わないと!仲間大事!ほら!どうして!?』

 

 ゴーレムの一体が篠ノ之箒の『打鉄・旭ノ型』に突進する中、その他の無人機は動きもしない。困惑する顔で機体たちを応援するが、お前の命令は聞きたくないとでも言うかの様にボイコット状態な無人機。

 

「無駄だ。この剣の帯が見えるか?」

『それがなに……?』

 

 剣に飾り付けられた絢爛な帯をスクリーンの向こう側へと見せつける箒。

 

 

「飾りと侮るなかれ。これは『袖帯・錦牡丹』と言うれっきとした武装の一つだ。対峙する機体のISコアに干渉し、一対一の手出し無用の決闘を強制する。そして近接戦闘、肉弾戦以外を許さない……らしいぞ」

 

 

 ここでIS学園専用機持ち達の心は一つになる。

 

((((うわぁ……えげつなっ……))))

 

 ……と。

 

(まぁ、製作者が元アレ(天災)だしな……)

 

 ピシッ、と変な音がスクリーン内からも響いてきた。その言葉に暫くモノクロ状態で固まっていた少女。

 

『…………ふぇっ?ふっ、ふぅっ……!?』

「……何だ。はっきり言え『モッピーピポパポ』とやら。ほら早く」

 

 意地が悪そうに眉と唇の端を歪めた箒。そして、手に持ったブレード『葵改メ』の切っ先を突きつけ、画面内の人物をからかい煽る。

 

『ふざけてるの貴女はぁ‼そんなのアリ!?ズルくない!?モッピーモピプペパニックだよォォォォォォォォォォッッッ!』

 

 半泣きになりながら非難の声を上げる桃髪の少女。盛大なブーメラン(お前が言うな)を自分に命中させたのであった。

 

「こ奴らは余計な手出しもできない………………。然らば」

「「「「「……………………えっ」」」」」

 

 その場にいた専用機持ち達や、超人のシャルルでさえ驚いた。一挙手一投足すら、把握することが(・・・・・・・)できなかった(・・・・・・)

 

 

 

 

 

只、斬捨てるのみ

 

―ドッガァァァァァァァァァァァン‼―

 

 『葵改メ』を振り下ろし、柄頭の『袖帯・錦牡丹』が美しく靡く。爆炎を背後に、その少女は戦乙女の様に立っていた。新たな一歩を、踏み出したかのように……。

 

「『モッピーピポパポ』、次合ったときは覚えておけ!この学園は……我々が守る!理解し合えた仲間が、貴様らの企みを打ち砕く‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒューゥ、どこもかしこも元気ねぇ。私の出番はまだかしら?宇佐美ってばもぅ、焦らしてくれるわね……。ぁあ、たまんないわっ!」

 

 IS学園のはるか上空。裸体に和服のみを着た際どい格好の少女が、赤い粒子をまき散らして空に佇んでいた。水色の髪の奥に光る血の様に赤い目が、充血したかのように脈動している。胸元から扇子を取り出すと、パッと広げて品よく蠱惑的に顔を煽ぐ。そして、遥か下界の様子を伺い続け……。

 

「お、あっちもあっちで面白そうっ。はははぁ……あぁ、早く早く、私を興奮させて欲しいわね……待ちきれないわぁ!あっははははははははは‼」

 

 けたたましい笑い声と共に、彼女の身体から赤い液体が噴き出した。身体が光で包まれ、人からISに近しい形に移行する少女……。他のISに比べて装甲が少ないその姿を、徐々に血の霧が包んでいく。

 

「さて、頑張ってる子たちの……、だ・れ・が・い・い・か・し・ら?う・さ・み・ま・ぼ・ろ・し・ん・さ・ま・の・言・う・と・お・りっ!」

 

 片手に持った赤いランスで成層圏下の学園を差し、子供の様な無邪気さで何かを選ぶ。その言葉が途切れた時、差し持っていた槍は『とある人物』の上で停止した。コレが運命か……なんとも皮肉な結論である。

 

「………決ーまった!」

 

 

 

 

 

 

 

「……、!」

「……織斑先生?」

「……いや、何でもない山田先生。どうにも空から視線を感じてな……」

「?……、いえ。ハイパーセンサーを用いてもそのような存在は観測できませんでした……。専用機持ちの生徒たちを向かわせますか?」

 

 千冬も一瞬そう考えるが、状況をいまいち掴めていないというのにその行動は悪手だと判断する。

 

「……まぁ良い。先に来場者の避難の方を……、!?」

「無人機!それに、あなたは……!」

 

 山田先生が口を噤むと、彼女の視線の先には青紫の煙が充満し、一人の女性と数体の巌の様なISが登場した。

 

「無人機、等と無粋な言葉で言わないでもらいたいな……この第四世代機には『バーサーカーⅤ』と言う名前がある。おっと、無駄なことはやめたまえ。私はパンドラボックスさえ回収できればそれでいい。こんな諍いなどお互いにとっては意味すらないだろう?」

「宇佐美……!」

 

 千冬の親友の姿を模倣している悪人、宇佐美幻。世界最強の覇気をその身に浴びても眉すら顰めない。

 

「ピリピリしないでほしいのだが。あー……織斑何某の事かね?それはお前が心を痛めることではなかろうよ」

 

 そう指をチッチッ、と振る宇佐美。目の前の人物の沸点を容易く超えさせながら話を続ける。

 

「家族を守りたい……。親がいない長女として当然だ。だが、ヤツは裏では数々の悪行を起こした、そして犯罪にも手を染めた……。私は家族などいないが、あんな死人の事を家族だと言うお前たちは尊敬に値するよ。あぁ……本当に、フハッ!心を痛めるべきなのは……さてさて。私か、それとも……」

 

―ズバァンッ‼―

 

 宇佐美はそのまま何かを言おうとしたが、その発言は響き渡った高い金属音によって遮られた。千冬が宇佐美の首をめがけて刀を振るい、それを宇佐美はバーサーカーVを移動させて防いだからだ。世界最強の一撃を食らったバーサーカーVの一体は、一瞬で胴が泣き別れになる……。

 

「今の動き……『縮星』とか言う篠ノ之流の歩術だね。習得には十数年はかかるというデータだったが……流石はブリュンヒルデ、と言っておこうか。私やスタークと互角に戦えるのはお前くらいのものだな」

「……」

 

 千冬は返礼の代わりとして宇佐美の背後に回り袈裟斬りを仕掛けたが、それはトランスチームガンで防がれる。

 

「早いな……流石『織斑』だ。初めて見た時は私も驚かされた……だが、私は『お前たち』の研究は十五年前に終えたんだが。だから興味はない、…………今はまだ、ね」

「研究……、終えた……?」

 

 『そうだ』と言うように頷くと、彼女はゆったりと千冬の周りを歩き始める。

 

「お前たちは水晶の様だな……。『人間』の心を自分自身の中に映し出し、優しく輝きを放っている……」

「ッ……!」

 

 敵であるにもかかわらず、彼女の紡ぐ言葉に耳を傾けてしまう千冬。

 

「しかし、それは所詮、『人間』の心でしかないのだ。真実の中の更なる真実を知った時……お前たちの水晶の輝きが失われ、跡形もなく割れ砕け散るだろうさ……」

「……貴様……!いや、どういう……!?」

 

 その言葉の意味を半分しか理解できなかった千冬。初めて人前で焦った様な顔になる。

 

「(……なぁ、『■■■■』)」

「……?何だその言葉……は、ガッ……?」

 

 『■■■■』、宇佐美によって耳元で囁かれたその言葉。千冬は急激に頭の中がドロドロに溶け出すかのような……そんな恐ろしい錯覚に襲われた。手に持っていた日本刀を取り落とす。

 

「ウッ……、あ、頭が……ァあぁあァアぁッッ!?」

「先生!?織斑先生‼」

 

 誰の声も聞こえない。目の前がモザイクタイルの様にバラバラな色に分解されていく。頭の中がツクリカエラレル様な、ウワガキサレタ何かが沸き上がる気持ち悪さ……。

 

「……成程、この言葉を聞いてもその反応という事は……。記憶に『真実』と『虚偽』が混濁しているな。通りで……、今まで『篠ノ之束(天然の天才)程度』の身体能力しか発揮できないワケだ」

 

 やれやれと言った風に手を広げる宇佐美。そして、ふと足元の日本刀が目に入った。手持ち無沙汰にそれを貰おうと思ったが……。

 

―シャキ……ンッ―

 

 宇佐美の頬に切り傷ができる。

 

「……!日本刀が自動で動く……だと?」

 

 予想外だ、と言う顔で目を若干見開き、宙に浮かび威嚇するように奮える『日本刀』を見つめる宇佐美。その刀はオレンジ色のエネルギーで包まれたまま鞘に収まり、混乱している千冬の手に戻っていく。

 

「……う、ぁあ……。……な、何だったんだ……?」

 

 それを手に持った瞬間、たちどころに頭痛が消えた世界最強の姉。先ほどまでの苦しみの様子は殆どない。

 

「……!面白い、面白いなそれは。因幡野戦兎が創ったのかい?」

「うぐっ……。さ、ぁ……どうだろうな……」

 

 千冬と会話をする宇佐美だが、口を開いた状態から刀の方をずっと凝視し続けていた。それが傍で控えていた真耶には、とても恐ろしく感じてしまう。

 

「とぼけなくてもいいよ。おそらく白式と暮桜のコアのコピーを融合させて『デュアルコア』を創ったのだろう?そんなことができるのは私かあの駄兎くらいのものだ……。その刀の名を聞いておくとしようか」

「……聞いて、どうする。意味が無かろう……」

 

 少しふらつく身体を刀で支え、世界最強と世界最狂は向かい合う。

 

「あるさ。君を倒して、貴重なサンプルとしてラベリングする為に、な……。随分と篠ノ之束の時よりも洗練されたデザインになったものだ……滑稽な虚飾が剝がれたからか?ハッハハハハァ!」

 

 変わらず束を否定する言葉を吐くが、今の千冬は随分と精神が落ち着いていた。不気味なほどに。

 

「……良いだろう、だが」

 

―チャキッ……―

 

「その言葉が、貴様の最後に聞くインフィニット・ストラトスの名だと知れ」

 

 そして、鞘から抜き放たれた刀から、青白い閃光が迸った。

 

 

来い、『打鉄・宵ノ型』

 

 

 光が収まれば、そこには篠ノ之箒が使用している『打鉄・旭ノ型』と同型のISがそびえ立っている。それを操るのは葵改メを片手に持った始まりの女。白い騎士は今、再び青い騎士となって災厄と戦わんと決意した。紺桔梗と黒の身体にオレンジ色のラインが烈火の様に輝いている。

 

「宵ノ型……黄昏……ふむ、ラグナロクか。北欧の英雄の妾(ブリュンヒルデ)の名に似合っているな。ではベルセルク共、殴殺だ」

 

 マスターの声を聴き、雄叫びを上げる三体のISの狂戦士たち。だが、対する彼女は涼しい顔をしている。精悍な凛々しい顔は美丈夫ならぬ美丈婦であろうか、そんな言葉がしっくりくる。

 

「できるものか……、山田君。私が見えなくなるまで走れ。追って来れない位置になっても走り続けろ、分かったな」

「……はい。ご武運を……」

 

 彼女は振り向くこともせずに背後へと声を投げかけた。一瞬の空白の後、パタパタパタと走り去っていく小さな靴の音。そんな小さな物を思いながら、世界最強は眼前の世界最凶へ一言吐き捨てた。

 

「………………一撃だ。それ以外は必要ない」

 

 

 刹那。

 

 

―………………         ………………ッ!!!!―

 

 

「………………何?」

 

 

 ほんの少し、空気が揺れた。ただ、それだけだった。

 

 

「あまりにも、呆気なかったな」

「……ほぉ」

 

 宇佐美が見てみれば、次々に眼前の第四世代機が切断面から身体をずりおろし、崩壊したISの身体が金属音を簡素な廊下に響かせていた。その様子を見て、彼女は驚くでもなく喜びに目を輝かせている。

 

「音より早く剣を振るうか。正しく達人技だ。目覚めつつあるな……」

 

 木偶の棒の様に破壊されてしまった第四世代無人機『バーサーカーV』達。それらは決して弱いわけでは無い。むしろ、突出した代表候補生達でなければ対処は不可能なほどの能力を備えていた。

 その能力とは装甲にシールド・エネルギーを循環させ、金属の硬度を400%上昇させる展開装甲。理論上ではダイヤモンドを上回る防御を持っていた……はずである。

 

「達人、か……別に極めたつもりは無いのだが。ただ、弟を守るだけの力が必要だっただけの事」

 

 だが、世界最強の戦乙女には通用しない。瞳に獰猛な光を灯した織斑千冬は、その瞳を狂気の科学者に突き刺さすが如く睨みつける。

 

「これは……お前に奴らの助けに向かわれると少々厄介だね。私はなるべく少ないリスクで事を運びたい」

 

 だが、マッドサイエンティストは般若面鬼女の視線もどこ吹く風になんのその。その機体のスペックを身を以て感服した彼女は、何回か手を鳴らした後目を細め……そして喜色満面となる。

 

「では……一番手間の罹らない方法で捩じ伏せるとしようか」

「……!」

 

 織斑千冬は見たこともない光景に驚く。突然、宇佐美幻の背後にのみ、七つの光輪が浮かび上がったのだから。そして、プライドの高い彼女の口から……ISを好んでいない彼女の口からその言葉が紡がれた。

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、発動」

「何……?」

 

 

 

 

【יהוה(YHWH)】(神は言われた。)若しくは(「光あれ。」)【Τετραγράμματον(Logos)】(こうして、光があった)

 

 

 

「………………!?」

 

 宇佐美の口から、同時に複数の単語が漏れ出る。その瞬間、世界が変質(・・)した。

 

 

「篠ノ之束が憧れし小さな箱庭(宇宙)よ、そして世界最強よ!刮目するが良い。コレが神の才能だ…!」

「なん……、だと…!?」

 

 

 

 二人は地球を遥か下方に眺める、月面(・・)へと移動していた。




戦兎製IS学園所属機は図鑑に記載しております。



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第六十五話 『ゴッド&天狐招来』

惣万「Σ(゚Д゚)」
宇佐美「………………どうしたスターク。前回の話の原稿握りしめて?」
惣万「いやっ……ちょ、おまっ……、これ……ッ、だってこれ、もろゴッドマキシマム……」
宇佐美「だから何だ?お前はヒノキの棒で魔王の城に乗り込むのかね?そんなことをするのは只の馬鹿だよ。舐めプなんかして新世界のエネルギーなんかになるなんて目も当てられないね」
惣万「……お前ウルトラ〇ンは初手でスペシウム光線撃てば良いとか思ってるタチだろ……」
宇佐美「当たり前だ、遊びでも仕事でも全力で。と言うのが私のモットーの一つでな。実験でも観察でも本気で取り組まなければ良いデータは期待できん!だいたいお前は何だスターク!料理やコーヒーは本気なくせに戦いとなるとすぐに手を抜く!そう言う所がなドウタラコウタラ(以下略)……」


惣万「………………ガチで説教された……取り敢えず第八十五話、どぞ……」



【יהוה(YHWH)】(神は言われた。)若しくは(「光あれ。」)【Τετραγράμματον(Logos)】(こうして、光があった)

 

 劇の開演の言葉を告げた宇佐美は、今回の観客(千冬)舞台(宇宙)へと連れてきた。

 

「何故だ……。何故一瞬でこんなところに……!」

「ん?この程度で驚くとは……今後心臓がもたないのではないかね?」

 

 ISを纏ったボディースーツの女性と、光輪を背負った白衣の女性が宇宙空間で会話する。仰ぎ見るべき月にて、地球を眺める宇佐美は事も無げに千冬へ声を投げかけた。

 

「?……待て、何故宇宙空間で音が聞こえる?何故会話ができる?ヤツからプライベートチャネルなど……ISの存在自体を感知できていないのに……!」

 

 戸惑いの中にいる千冬に優しげに怪しく笑う宇佐美。彼女は手を舞台俳優の様に動かしながら、立つ舞台の仕組みを教え始めた(人知を超えている能力を告げた)

 

「それは、私が宇宙の法則を書き換えたからだ。限定的に、だがね」

「………………は?」

「言わば、心優しい私の慈悲だ。さぁ……神の恵みを有難く受け取れ」

 

 手の平を前にゆっくりと押し出す科学者。自己陶酔した様に、ウットリと目を潤ませ自分の才能を祈る様に誇示をする。

 

「私の開発したゲームエリアを応用し、疑似酸素や人の生命活動に必要な要素を満たした疑似空間を……宇宙法則を無視して制作させてもらった。つまり、ISがあろうと無かろうと、今の地球上空域の宇宙空間では人間は地球と同じように活動できる」

 

 綺麗な手の平を差し出しながら彼女は嗤う(語る)。全ては神の才能を形にせんが為。宇宙すら凌駕し始める女神は、何者も追い越すことは不可能な次元に到達し始めていた。それは、如何な宇宙生命体すらも……。

 

「疑似空間内では呼吸も、体感温度も、圧力も、肉体感覚も地球上の一気圧の地点と全く同じ。違う事は、酸素がない事と重力が無い事、か。特殊中の特殊な事案だが、そんな貴重な戦闘データを期待させてもらおう」

 

 言葉を切った彼女は指を鳴らし、劇の役者の出番が千冬へと移った。

 

「出鱈目か……!」

「驚いている暇があるのか?空を仰げ、矮小な人間が及ぶ事無き遍く天の意思を聞け」

 

 千冬はふと何かの気配を肌で感じ、動物的な本能で周囲を探る。目を凝らすと、腕を広げた宇佐美の背後にて何かが煌めいた。

 

「……ッ!」

 

 彼女は慌てて手に持った葵改メを握りしめた。いかに世界最強であったとしても、迫りくるその脅威と対峙することは初めてであったのだから。

 

「ッ、流星群(・・・)だと!?」

「その腕……試させてもらおうか、ブリュンヒルデ」

 

 暗黒の天から雨の様に降り注ぎだす何十もの黒金の鉄塊。それら全てが、月面にいる戦乙女目掛けて吸い寄せられる。

 

「………………、ふん。舐めるなよ‼」

 

 

 だが。

 

 

―ギャリン‼―

 

 彼女は誰だ?力なき幼子か?誰かを思うしかできない弱者だったか?

 

 否。否である。彼女はこう言うだろう。私は世界最強だと。

 

 その名に一分の間違いなど無い。愛おしいものを守る為に力を求め、戦い続けた誰よりも強き、そして報われる(・・・・)事が無い、余りに強く儚い『天を舞う戦女(ブリュンヒルデ)』。

 

 そんな彼女は、頭上に迫った十メートル程の落下物を斬捨てられない女ではない。その全てを躱した。残り全てを両断した。彼女が通った場所にオレンジの軌跡が描かれる。

 

―ガラガラガラッ……‼―

 

 落石の様な音を立て、月面の景観を荒んだ者にする岩や礫。その合間を縫って青い機体が軽やかに着地した。目を細めて宇佐美は目の前の青い騎士を見つめている。

 

「…………、その気になれば斬れるものだな……こんな機会を与えてくれて感謝する」

「ふむ……地上の六分の一の重力下だとさらに身軽だな。では」

 

 彼女は再び指を鳴らした後、その手を真下に突き出すと………、月の重力(1/6)の分母と分子が(×36=)反転状態(6/1)になった。

 

「ッ……!」

「地上の六倍ならばどうだ。今の君には、さっきまでの三十六倍の負荷がかかっているはずだよ?」

「ぐぅ……」

 

 白衣のポケットに手を突っ込み、ふわふわと宇宙空間を遊泳する宇佐美。彼女のその眼は、本当に面白そうに眼下の観察対象(モルモット)を見つめていた。

 

「君の身体はなんてことは無さそうだが、ISにも致命的なダメージが蓄積しているのではないかな?君の事だ、分かっているとは思うが一応言っておこう。これも一種の攻撃だ、シールド・エネルギーをこんなところで消費するのは得策かな?」

「……。ちっ、気に食わん手を打つ女だ……束以上にイラつかせる……!」

 

 月面にめり込んだISの脚部、それを忌々し気な口調で引き抜くと、天を舞う禍つな蝙蝠を見据えて刀を構えた。未だ衰えぬ剣気を纏い、彼女は神が定めた重圧に抗い続ける。

 

「ふふ……、そうでなければな。身動きが取れない、など言ってくれるなよ。天を舞う戦乙女が羽根を捥がれた程度で戦えないなど、在ってはならんだろう?」

「……、私に翼が無くなろうと……」

 

 重力が裏返った場所。シールド・エネルギーを温存させる為にISの機能をほぼ全て停止させ、翼を捥がれた戦乙女。だが身体は定めに抗い続け、ようやく彼女は立ち上がる。筋繊維が弾け、末端の血管も何本か破裂した様だ。爪や片目から血の筋が流れ出す。だが、それでも……。

 

「飛ぶことができぬとしても、跳ぶことはできる‼」

 

 彼女の常人離れした肉体が悲鳴を上げても、その狂ったデウス・エクス・マキナへと刃を向ける。

 

「ハァァァァァァッッッッッ‼」

「……集え、束ね。日輪の神威を照覧あれ」

 

 突然、空間が歪む。まるで蜃気楼の様に視線の先が狂いだす。ガラス状に光が一点にて曲がりだす。その先を千冬は見た。何があった?

 ………………眩いばかりの太陽があった。

 

「……ッッ!」

「ぐぉっ?」

 

 空間を漂っていた宇佐美を踏みつけ、無理矢理その攻撃を躱しその場から『跳び』去った。刹那の後に、彼女の背後を極光が通り過ぎていく……。そして、慌てて下方を見れば、月面に大きなクレーターが発生していた。

 

「ISを停止させてもそれだけの力を……。身体能力だけでこの環境下を活動することにしたか……だがそれでは限界も近いぞ」

 

 月面でにやにやと笑い続ける宇佐美。次々と襲い来る太陽光線を上空で避ける千冬を、本当に喜ばし気に見上げていた。

 

「さぁ、対応しろ。適応しろ、世界最強。あらゆる世界の貴様を超え、さらにその先へ至るが良い……!」

 

 彼女はその様子を見て気持ちが高ぶり始めたのか、指を指揮者の様に掲げ千冬を指し示す。まるで、『彼女をより崇高な存在』へと至らせる様に……彼女の教師になったかの様に。

 

「もうお前の様な顔の人間に指図されるのはうんざりだ……‼」

「連れないな……まぁ良い。では一つ私の実験に付き合ってもらおうか。お前の返答は求めんが」

 

 何本もの光柱を避けきった青い騎士が月面へと戻って来る。もう既に重力が六倍になった環境下に慣れたらしい。動きも随分と機敏になっている。『予想通りだ』、とほくそ笑みながら、宇佐美は彼女に指を突きつけた。

 赤黒い極太の破壊光線が、音を超える速さで織斑千冬へと近づいていく。空間が歪むほどの閃光の一撃が、世界最強へと向かっていく。

 

 

 

「……ッ『零落白夜・終ノ構エ』!」

 

 

 

 だが、その光は斬り裂かれる。まき散らされる月の粉塵。周囲へと離散する毒々しい赤光。その奥から現れたのは………………全盛期を彷彿とさせる姿の『ブリュンヒルデ』だった。右手には先の戦闘で振るった『葵改メ』はすでに無く、夕焼け色の光を放つ脇差、『雪片・終ノ型』が握られていた。

 

「フフフ……フハハ……ヴァハハハハハハハハハハ‼面白い……、面白いなブリュンヒルデェ‼」

「………………」

 

 だがそれすらも、狂人の思想の中。悪夢という名前の迷宮。その出口の光すら見えない闇……まだそこに千冬は立っている。

 

「『武力』と『智力』……。身体から生まれる技術と頭から生まれる技術……。才能と才能がぶつかり合い、戦い合い、どちらが優れているか決着を即ける……。ガラでもないがこう言わせてもらおうか」

 

 ぎょろり、と目を動かして、口が裂けたかの様な笑みを浮かべた彼女は発狂する(叫ぶ)

 

「お前とのゲームは……面白いィ!!!!」

「ゲーム、だと……?ふざけるな……、お前は狂っている……‼この世界はお前の玩具ではない‼」

 

 激昂した千冬の怒りを見て、宇佐美は言っていることがおかしいと言うように真実を嗤いだす(突きつける)

 

「何を言っている。私達は圧倒的な『力』を持つ同類だ。『力』のベクトルは確かに違う。だが……狂っているのは正真正銘お前もだよ(・・・・・)、織斑千冬‼」

「ッッッ!?」

 

 両手を大きく広げ、その場を一回転した後に、彼女は千冬に指を突きつけた。

 

「愉しいだろうが、玩具()を創るのが‼玩具()で遊ぶのが‼強くなった気がして、誰かになれた気がしてなァ‼その証拠に……、何故そうも嬉しそうなんだ、ェエ!?笑っているじゃないか!!!!」

「!!!?……私が、笑っている…!!?」

 

 そう言って顔に手を当てると、感触が変だった……口角が弧を描いていた(信じたくなかった)

 

「何だ、気付いていなかったのかぁ?」

 

 宇佐美は同類を見て笑う。月面での戦いの最中、彼女はずっと千冬の顔を見続けていた。そう、織斑千冬は初めから笑っていたのだ。口角を上げ、獰猛な光を宿した瞳でどうやって宇佐美を『倒そうか(コロソウカ)』考え続けていた。命のやり取りを肌で感じ、そして互角に戦い合った彼女には分かっていたのだ。

 

―織斑千冬は……こちら側だと―

 

 千冬は、頭の中が白紙の様に漂白された。脳髄が引っこ抜かれて、冷水に浸された様な感覚さえし始める。

 

「ば……かな……。こんな事………………」

「初めてなんだろう?篠ノ之束よりも強い人間と戦うのは?……違う違うと言っても、剣を振るスピードも以前の戦闘データの比ではない。人の感情に敏い方では無いのだが、私から見てもとても楽しそうだよ?」

 

 冷製に分析を続ける宇佐美……。その時、彼女の見解の言葉を浴びていた人影が、突然消えた。

 

「………………!ごはっ……!?」

「ッッッ‼黙れ……ダマレ……‼」

「良いね。その力……。いや実に良い。……ゴフッ」

 

―ぼたぼたっ……びちょッ……!―

 

 青い機体が通り過ぎた後には、肩から腰に掛けてぱっくりと斬られた宇佐美の姿があった。辛うじて繋がってはいるが、右肩は月面に垂れ、右腕はピクリともせず砂の上の血の池に浮かんでいた。

 

「痛い……痛いなぁ……ハハハァ?袈裟懸けに切られると困るんだが。ほうら……胸が出てしまう」

 

 だが、彼女は痛みすら『苦痛』と感じていないようである。突如として宇佐美の身体が紫色に包まれた。光が集まり、びろんと垂れた半身を重力に逆らわせ持ち上げると、ボコボコと気持ちの悪い音を立て細胞が分裂し、接着する……。

 

―ゴキッ……みちみち……―

 

「ふぅ……」

 

 そしてすぐにいつもと変わらない狂った悪の科学者が立っていた。白衣やスーツは斬れたままだが、逆にそれにより、一層背徳さや淫卑さが際立っている。

 

「一瞬で再生した……だと?白騎士の生体再生能力の比でない……バケモノか?」

「うぅぅ~……っ、……やはり痛い。私は戦闘には向いていないよ。この痛みには慣れないな。死が近づくこの感覚…………。あはぁ……」

 

 そして突然両頬を染め、悶えるように顔を覆う目の前の狂った科学者。

 

「脳髄が蕩けそうだァァ……♡君は実に私の才能を刺激してくれる。フハハ……ッヴェハハハハァァァ……♡あぁ、発想が、インスピレーションが絞り出るゥゥォォ……。戦闘どころではなくなってしまうぅぅ……」

 

 内股で身体を淫卑に動かす宇佐美……涎を垂らしながら濁った眼で、千冬の姿を弛緩した顔で見続ける。傍から見れば気持ち悪い事この上無い。

 

 しかし、本人は気付いているのだろうか……織斑千冬は、その彼女を確実に殺そうとした。千冬はそれを恐ろしいとは感じなかった……、狂っているとも思えなかった。

 

 何故か?(タノシイ)どうして(タノシイ)……彼女(タノシイ)と同じよ(タノシイ)うに興奮(タノシイ)している(タノシイ)?この私(タノシイ)が…………?(タノシイ……)

 

(大丈夫だ……私はまともだ……。私は……コイツヲコロソウトシタダケダ……)

「あぁっ……ダメだ、興味が湧いてしまいそうだよ。……。だが、まだその時ではないんだ、残念ながらね」

 

 恍惚の顔をどうにか抑えた宇佐美。荒い息を抑えながら、白衣の切れた部分を整え肩に引っ掛ける。

 

「一先ず……。君を捻り潰すよ、ブリュンヒルデ。話はそれからだ」

「大人しくやられるほど、素直ではない……、ッ!」

 

 ただ、千冬は気が付かない。その決意は自分が再び戦える(殺しあえる)事に喜んでいるかのように沸き立っており……理性が本能によって快楽に犯されている事に。その言葉が再び琴線に触れたのか、宇佐美の顔も再び歪む。

 

「ヴァヒャハハハハハァッッッ‼」

「……、………………ッッッッはぁぁぁぁぁぁぁぁあああッッッッッ‼」

 

―ドォォォォォォォォォォン‼―

 

 二人の人外の戦いが再び始まった。それによって、月の裏側が半分程抉れたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 物語は佳境だが、時は少し巻き戻って……。

 

「せんちゃん?本当にこんなもの貰って良かったの~?」

 

 IS学園主催のコスプレ大会が終わった時の事、戦兎と布仏本音、そして付き添いでついてきた更識刀奈は屋上の戦兎の研究室(プレハブ小屋)『らびっとはっち』に集合していた。本音はこの後刀奈に学園内を案内し、少しでも何かを思い出してもらおうと思っていたのだ。

 

「あぁ、ファウスト対策としてIS学園で専用機製造計画が通ってね、オレが腕を振るいました!」

「お~…ありがとーせんちゃん~!」

「本音ちゃん……先生にニックネームって……」

「だって~、先生って感じ、しないし~。私生活ダメダメそうだし~」

「うぐっ……」

「メンタルも豆腐以下っぽいし~」

「がはぁ‼げぶるぁぁぁぁ‼」

 

 その言葉でトドメを刺されてたメンタル豆腐以下で私生活ダメダメな自称先生の大人の女性。スクラッシュドライバーみたいな声を出して地に臥せる。その身体から光の粒子の様なものが飛んでいくのが見えた……。

 

「……何この茶番……」

 

 売店でタピオカミルクティーを買った刀奈さんは、ちうちうとタピオカが詰まったストローを吸いながら冷めた目で二人を見つめていた。……記憶が無くなっても楽しくやってそうである。

 

「ほらー刀奈ちゃんあきれちゃったよ、……っ」

 

 その時だった。

 

―ドッガァァァァァァァァァァァン‼―

 

『『『キャァァァァァァ!?』』』

 

 女子生徒の悲鳴が響き、一目散にその場から離れていく。瓦礫が降り注ぎ、学校の廊下の天井が真っ青な大空と様変わりする。

 

「二人とも……大丈夫か!」

「うっうん、せんちゃんありがとー!」

「こちらも……大丈夫です……!」

 

 ホークガトリンガーで瓦礫を砕いた戦兎が安全を確認していた時……上空から聞いたことのある声が響いてきた。

 

「はぁい初めまして、更識刀奈(オリジナル)?そして可愛いお付きのかわいこちゃん♡おねーさんと、良いことしな~い?」

「「……!」」

 

 その人物の姿を見て言葉を失う刀奈と本音。なぜなら上空には、鏡で見たかのような顔を持つ女の子が佇んでいたのだから。

 

 ……、いや、それは別に構わない。いや構わないわけでは無いんだけど、何より絶句するに至った要因は別にある。その人物が着物姿で空中に浮かんでいるという事はつまり……下から中の様子が見えちゃうわけである。そして本音と刀奈達の眼には……その……、ノーパンの中身がモロ見えていたのである。女の子の小宇宙(コスモ)が【ブラックホールブレイク‼】(ふぅアブナイ。あ、続きドゾーbyスターク)

 

「「ナジェミセテェルンデェスッ!」」

 

 オンドゥル語になってしまった二人は悪くないと思う。特に刀奈なんて……自分の顔をした輩が露出狂(疑惑?)なので叫ばない方がおかしい。……この部分の記憶だけ喪失しないかな、と口走りそうになっていた。

 

「初めまして、因幡野戦兎。ほんっとおっぱいおっきいわね……スタークの趣味?」

 

 だが、見えているのにも構わずに『更識刀奈』と同じ外見の少女は言葉を続ける。にっこり笑った目の色は、深くて暗い地の様な赤い色をしていた。

 

「ブラッド・ストラトス……」

 

 戦兎は一瞬でその正体を察し、その種族の名前を口にした…………興奮による鼻血を出しながら。

 

「……あれ~……?せんちゃん~……?女の子もイけるクチなの……?ちょーっと待って両刀……?」

「……そんなあからさまにに距離取らないで……ちょっとだけ、ちょっとだけだから!先っちょだけくらいだからぁ!」

「言い方ぁ‼」

「たっちゃん記憶喪失だとツッコミ役似合うんだね!?」

 

 美男×美女もいいけど美男×美男もいいよね。美女×美女も。(いや、知らんbyスターク)

 

「あー、礼儀として……自己紹介から、かしら?」

 

 戦兎達のいつものペースで、登場のインパクトが薄れた『血の成層圏』のニューナンバー。『あ、どうぞどうぞ』、と言う風に腕を差し出す三人を見て、ほっと溜息をつくと、咳払いと共に不敵な笑みを浮かべて扇子を取る。そして、水気の多い唇とそっと開いた……。

 

 

 

「おっほん。私は七体いるブラッド・ストラトス、そのNo.06。個体名で言うならば『淫蕩(ルクスリーア)』の『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』よ。以後、よしなに~」

 

 

 

 そう言って【よろしゅう】と扇子に浮かばせる彼女。悉く代表候補生に似せた彼女達の序列に又新たな一騎が加わったのであった。

 

「『ルクスリア』……?」

 

 戦兎はその言葉に引っ掛かりを覚える。

 

「あら?先輩たちは言ってなかったのね?私達ブラッド・ストラトスは『父親』とも言える方から命の原が蒔かれる時、感情の相応しい部分も切り取り与えられるのよ」

 

 『父親』、とまた新しい情報を敵に与える血霧を振り撒く少女。扇子の文字もいつのまにか【出血大サービス!】と電光掲示板の様に文字が流れている。

 

「赤式が『傲り(スペルビア)』、血の雫(ブラッド・ティアーズ)なら『貪欲(アワリティア)』、緋龍(フェイロン)は『激情(イーラ)』……だったかしら?ま、要は『七つの大罪』よ。中々オッサレ~、な名前よねぇ?」

「へっ、中二病かな?」

「否定はしないわ。ぜーんぶラテン語訳ってのがなかなか……ねぇ。パパ様ってば大二病なところあるし」

 

 キセルを吹くようにボソッと言う彼女。

 

「『父親』って……スタークか?」

 

 たまらず問わずにはいられなくなった戦兎。後ろにまわした手の中には、ビルドドライバーがすでに収まっている。

 

「うっふっふ、それを知ってどうするの?」

「お前に聞きたいことが増えた。お前たちが父と……主と崇めるブラッドスターク本人についてだ」

「ふっふーん?」

 

 戦兎の眼には何か生まれつつあるのか、確かな覚悟が宿っていた。決意を持った彼女は更に質問を重ねていく。

 

「姿を自在に変える力、パンドラボックスの中身についても知っている。ヤツは一体何なのか……まぁ、話さないだろうな、お前は」

「分かってるじゃ~ん、流石腐ってもあのおっぱいウサギねぇ。……いやこの場合、『新鮮になった~』、とか言うのかしら?『生まれたばかり』で良く分からないのよ、人の言葉って」

 

 扇子の文字が、彼女の内心と繋がっているように【難解〜】と変化する。ふざけた態度によってその言葉が本当なのか怪しく感じるが……そんなことはどうでもよかった。戦兎の心は、決まった。

 

「なら無理矢理にでも聞き出させてもらうかな?」

 

 戦兎は丹田に黒いバックルを押し付ける。そして、片手に炭酸飲料の様な缶を握りしめた。だが、『赤い更識刀奈』はどこ吹く風。

 

「できるものなら、ねぇ?見たところ……そっちの隣の……布仏本音ちゃんだっけ?彼女も専用機、持ってるんでしょ?見せてよ」

 

 そう言って扇子を裏返して色っぽく顔の下半分を隠す。

 

「「!」」

「ほら~、お姉さんが二対一で良いって言ってるのよ。はっやくっ、はっやくっ♡」

 

 その言葉が琴線に触れたのか、布仏本音の目にも決意が宿る。狐の様にこいこいと手招きする自分の主の姉の紛い物。その様子を見て、いつもののんびりした仮面が剝がれる。不快感を抑えられるほど、我慢強い人間ではなかったようだ……と自嘲気味に溜息を吐く。

 

「……おいで、『九尾ノ魂・天狐』!」

 

 その瞬間、本音の背後から九本の黄金のビットが尾の様に生えだした。頭部には耳の様なヘッドギアが装着され、身体には一風変わったアーマーが装着されている。ISスーツを覆いつくすそれは狩衣や水干の様で、一風変わった布状の金属繊維であるらしい。伸縮性に富み、ダブダブとISのアームパーツを覆い尽くしている。全体的に金と白で彩られたそのISは、狐を……それも妖の王『九尾の狐』を思わせる外見であった。

 

 これぞ戦兎が箒と千冬の打鉄と同時に創り上げた第三世代機、『九尾ノ魂』。そして、『最適化が終わった瞬間に“天狐”へと三次移行した』使用者の事を第一に考えすぎたISである。

 

「んじゃ……オレも!変身!」

 

【ラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!】

 

 狐の隣に兎の科学者が並び立つ。その様子をただただ無言で見つめる『二人の刀奈』。その時だった。

 

「たっちゃん……」

「何……?」

 

 刀奈を楯無と呼んだ本音。そして、それを自分だと自覚しつつある『楯無(刀奈)』。主従関係は薄いが、大切な家族であることに、変わりはなかった。

 

「今のうちに逃げて……ゴメンね。こんな事になるなんて……」

「……大丈夫。私も記憶を取り戻してみせるから。絶対にね」

 

 本音が刀奈を庇いながら『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』と対峙する。今のブラッド・ストラトス(彼女)の興味は、オリジナルから眼前のISへと完全に移っていた。

 

「……中々面白いISじゃない?でも、使い手はまだまだこれから、かしら」

「……知ってるよ?だって専用機持ち初心者だもん。かんちゃんに比べれば、まだまだだよ~」

 

 そう言って流し目で横を眺めるブラッド・ストラトス。そしてその皮肉を弾き笑う狐の少女。

 

「うーん、じゃ。ハンデとして十分間、攻撃もしないでア・ゲ・ル♡」

「ふぇ?」

「んぇ?」

 

 男を淫らに誘うするような口調で彼女はそう提案する。思わず間抜けな声を上げざるを得ない狐とウサギ。

 

「頑張って攻撃一発でも当てられたら貴女達の勝ち、私は尻尾撒いて逃げるとしますっ」

 

 そう宣言して、【万歳】と書かれた扇子を天へと突き上げた。

 

「……舐めてるのか?」

「ちーがうわよ?私、頑張っている子、見ると応援したくなっちゃうのよ。あっでも素直には攻撃受けてあげないから、そこんところよろしくね?」

「………………無抵抗のたっちゃん顔した人と戦うの、罪悪感スゴイよ~……」

 

 ボソッと呟いたのほほんの発言を聞いて、顔をしかめる兵器の彼女。

 

「やれやれ、甘いのね~?」

 

 そう言った『血纏いの淑女(ブラッディ・レイディ)』は淫卑に胸元を(はだ)けさせる。左の乳房に、一匹の動物……色欲を司る『兎』のタトゥと共に、一つの数字が描きこまれていた。

 

「……、『7』?なんだその数字……」

「コレは宇佐美が決めた基準を参考に私達を序列させた番号よ。『枢要悪数』って言ってね?数字が小さいほど人間に対して優位に立てるらしいわよ?」

 

 ブラッド・ストラトスの数は現在判明しているだけで七体。それはつまりいやでもわかってしまう……。

 

「………………って、ことは……‼」

「私の殺戮兵力としての序列は『七』。つまり全体の最下位だからね?私に勝てないなら、この先厳しいわよ~?」

「っ………………」

 

 その言葉に今までBSと戦ったことが無い彼女は、戦慄を……そして不安を感じることになった。目の前のブラッド・ストラトスを倒すことができなければ、この先の戦いに、主の簪についていくことができないという事実を。

 

 そして、分かっていた。学園の一角の校舎をいとも簡単に吹き飛ばし、飄々としている彼女は『更識楯無』そのものであると。

 

「それじゃ、追いかけっこの始まりよ?攻撃を当ててごらんなさい?」

 

 ビルドと九尾ノ魂・天狐を見つめたまま、彼女は身体が変質する。着物は黒いボディースーツに、手に持っていた扇子は赤い槍に、風邪を受けて捲れていた着物は血の様な赤い飛沫に変わっていく……。

 

「転身、かんりょー!」

 

 布仏本音は息をのむ。その姿は更識刀奈が持つ専用機、それが血みどろになった禍々しいものだったのだから……。

 

「恐れるな本音ちゃん!……尻尾、使って奴を叩くよ!」

「っ、はーい‼」

 

 その返事と共に、何本かの尾のビットが変形しだす。

 

「三尾の太刀『錆釘』!五尾の大筒『春雷』!」

 

 更識刀奈の専用機『ミステリアス・レイディ』の蛇腹剣と、更識簪の専用機『打鉄・弐式』の荷電粒子砲の攻撃が、偽りの更識へと迫る。

 

 

 

 

 だが。

 

「………………………………単一仕様能力、発動。『馭者の山羊、(クローフィ・)沈まぬ星よ、(クローフィ・)極光を指せ(クローフィ)』」

 

 

「「!!?」」

 

 血塗れの淑女は、その姿を(・・・・)突如として(・・・・・)血飛沫に変えた(・・・・・・・)……。

 

 

『言ったわよね、素直に攻撃を受ける気は無いってさ?うふふ……うふふふふっ!』




戦兎製IS学園所属機図鑑

九尾ノ魂・天狐

 本音がデザインし、因幡野戦兎が組み上げたIS学園製の三大機体の一つ。待機状態は髪留め。本音との相性が良かったのか、最適化(パーソナライズ)が終了した瞬間に三次移行した規格外の機体。
 九つの尾に別々の武装が内蔵され、それらには主である更識姉妹の武装データが流用されている。何よりの特徴はその拡張領域(パススロット)の膨大さ。雪片弐型を格納しても十本は量子化させることができ、武装やパッケージ収納量も量産機随一のデュノア社製IS『コスモス』を凌駕する。その人海戦術ともいえるような手数の多さで最強クラスのISの一つ……なのだが使い手が未だ不慣れな為に強さは聊か落ちている。

武装
・貫けビット
 背部のバックパックに搭載された、狐の尾を模した刃の有線型ビット。九尾全てにディフォルトで装備されている。
・おみくじ
 みくじ筒型の武器であり、中から出た棒が「吉」と出るものであれば爆弾代わりとなって攻撃できる。吉~大吉と段階が上がるごとに攻撃力が増していく。凶ならばミス。

 以下九つの尾に基本装備される武装。それぞれを交換し、別の武装やパッケージを取り付けることも可能。
・一尾の要石『岩清水』
 ミステリアス・レイディの『アクア・クリスタル』の流用。これによって水を操る。ナノマシン出力は劣るものの、操作性が簡易的になり使いやすくなっている。なぜか最後に金ダライが落ちてくる。
・二尾の鉄扇『更科』
 主に防御に使用される鉄扇。しかし、布仏が整備科出身だからか戦兎の悪ノリか、ISの分解能力を持ち、条件さえそろえば敵ISをコアにまで戻すことが可能。表面の電子金属紙に刺激を加えることで好きな文字を表示することもできる。【妾の魅力でメロメロねん♡】【バリバリ呪うゾ!】【やっちゃえバーサーカー♪】とか書きやがった。その時箒と刀奈の頭が痛くなった。
・三尾の太刀『錆釘』
 データ元はミステリアス・レイディの蛇腹剣『ラスティー・ネイル』。
・四尾の槍『蒼流旋』
 槍と言うよりはドリルのような溝を掘った馬上槍。槍を突き刺すと、ナノマシン制御下の水を生み出しながら回転によって敵装甲を削り取る。二門のガトリングガンも装備されている。
・五尾の大筒『春雷』
 一門の連射型小型荷電粒子砲。
・六尾の薙刀『夢現』
 ナノマシン対応型超振動薙刀。槍内部の水を気化させることで高熱の刃を出現させ、対象を焼き切る。また、沸騰した水を放出することで周囲の大気を急速的に変化させ、蜃気楼を発生させることも可能。
・七尾の火矢『山嵐』
 八門の発射口からなるミサイルポッドから独立稼働型誘導ミサイルを発射する。データは簪が寄贈した。
・八尾の屏風『不動岩山』
 六本のポールから広範囲防壁を展開させる兵装。ポールとポールの間にバリアを展開してガードする。距離が伸びれば伸びるほどエネルギーを消費するらしい。


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第六十六話 『もう一つのホワイト』

クロエ「えぇっと……」
惣万「よし、行くぞ?」
惣万&クロエ「「IS EVOL A KAMEN RIDER?~無限の成層圏のウロボロス~、通算百話達成おめで…」」
戦兎&一夏「『これからも宜しくお願いねー』するぜェエェェェ!!」

【イェーイ!】【ブルァァァ!】【ヤベーイ!】【オォラァァ!】【Ciao~♪】

―パンパンパンッッッ‼―

クロエ「うっさい!ってまだ言ってないし、飛んでるし…、なんでホークガトリングだし!?」
戦兎「ふふふ……その理由は内しょッ…『一富士二鷹三茄子だから縁起がいいって聞かなくて…あ、俺のはロケットフルボトルで飛んできたぞ』おいバカ何バラしてくれてんだ一夏‼」
惣万「正月終わってんぞ………めでたい時ぐらいさ、敵味方関係なくさ、普通にあらすじ紹介させてくれよぉぉ……(´;Д;`)ウワァァン」

(物陰からそっと茄子と茸のコスプレしてスタンバってる宇佐美by中の人ネタ)

クロエ「……馬鹿ども?」(鉈持ちながらにじり寄りにじり寄り……)
戦兎&一夏「「ごめんなさい、真面目にやるんで許してください」」
惣万「んぅ、ん……前回は宇佐美と千冬のコズミックバトル……スーパーギャラクシーな戦いを繰り広げている…な……。これホント大丈夫か?」
戦兎「間違っても二人の共通項であるあの言葉『行〇遅〇』だとかは言っちゃダメだぞ……スーパギャラクシーな連携で消炭すら残らないから……(台本チラ見)」
クロエ「戦兎の方は………痴ッ、痴女の痴情を見て鼻血を漏らしたァァァァッ!?とまわりさんこっちですゥゥゥ‼………戦兎、まさか貴女が警察に捕まるって……やっぱりね」
一夏「おい、台本間違えてんじゃねーか?戦兎さんが宇佐美みたいな変態なわけないだろ…なぁ戦兎……………さ( ,,`・ω・´)ンンン?」
戦兎『(書き置きで)不可抗力です。あと私はバイです……見捨てて下さい』
三人「「「逃げんな戦兎ォッ!!!!」」」



【一方、チッピーは】



千冬「戦兎……ブツは?」
戦兎「現ナマと引き換え………はい、撮れたよ。マスターの泣き顔の写真」
千冬「ふふふ、すまん宇佐美と戦った所為なのか嗜虐心がどうにも昂ぶってな……(;゚∀゚)=3ハァハァ」
戦兎「(……マスターに手を出さない為だとはいえ、やばい事してんなぁ、この人……)」


あらすじ原案提供元:ウルト兎様、どうもありがとうございます!





ブリッツ「(ヒョコッ)……えー、つーさん百回おめー」
シュトルム「あのですね……そんな挨拶駄目でしょう。こういう時は感謝の言葉をちゃんと伝えないと……」
宇佐美「この転生ライダー二次創作も愚昧な筆者がちまちまと書き連ね続け、とうとう百と言う節目の時を迎えることができた。どれもこれも読者あっての事だ、本当にどうもありがとう、感謝のしようがない」
シュトルム「宇佐美!?……貴女いつもそういう感じで話なさいよ……えー、これからもこの様な稚拙ですが、長い目で見て頂けたら幸いです。今までも、そしてこれからも御贔屓にこの……『私達の神の才能を、有難く受け取れぇぇぇぇ‼』宇佐美お゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!?最後に何言ってんのテメェはァ‼馬鹿だろ、アンタ頭いいけど馬鹿だろ‼コミュ障かこの馬鹿!?」
宇佐美「ギャーギャー騒ぐなァ‼煩いぞこのクズがァ‼」
シュトルム「クズはテメェだろォォォォォ!?神様仏様読者様だろうがァァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ‼」

―ぼかすかボカスカ―

ブリッツ「二人が喧嘩始めちゃったのでバイビーベイビーサヨウナラー。……読んでくれて本当にありがとう。私達嬉いよ~、これからも頑張って生きるからね~」


 眩い光がオータムの手を照らしだし……消えていく。

 

「ハッハハハ!貰ったぜ、特異対象のISをな!」

「うぐ……てめぇ……」

 

 彼女の手の中には、蜘蛛の糸にからめとられたトリガーがあった。その力を奪われ、突如として苦しみだすクローズチャージ。

 

「ん?あぁ……、そういや蝙蝠女が言ってたな?最早白式と織斑一夏は繋がりができ始めている、とかなんとか。重要なリンクが途切れた、……そんな感じか?」

 

 苦しむ一夏を見て、『あーあ』と言う感じで思い出すオータム。仮面の中で顔を愉悦に歪ませていると分かる声色。その声を聞きながら、一夏は自分の中の異変を察知する。

 

(……っ、確かにゴッソリ感覚がなくなった気がする……。こいつ等の言葉をアテにするのも癪だが、今まで背中にあった翼が神経ごと抜き取られたような……。閉塞感、倦怠感がある……っ、体のバランスがおかしくなったみてぇだ……)

 

 一夏の第六感的な何かがこの状況が、一つの答えを導きだそうとしていた。

 

(………………白式と俺の間に……何がある……?)

 

 苦しみながらも戸惑うしかできない一夏。丁度彼を捉えていた蜘蛛の巣が細かな氷の結晶となり、砕けていく。その瞬間、クローズチャージの変身が解除され、一人の男の姿が龍の鎧の中から露になる。

 

「がっ……!」

 

 突然身体の自由を与えられ、彼は前方へつんのめり、蜘蛛のビルドの足元にひれ伏してしまった。

 

「……暇だし、少しこのオータム様とお喋りしねーか?なぁに、別に取って食おうってんじゃねぇんだ。そんなに身構えんなよ」

「ふっざけんな……なんでお前なんぞと……!」

 

 一夏はなおも反抗的な目で紫と白のビルドを見る。その顔に、誰かの面影を重ねたオータムは、頭に血が上ってきた。

 

「……可愛くねぇガキだな。血は争えねぇってか?こんな美人と話せるんだ。三十代位になってこんな思いしようとしたらウン何万払わなきゃ出来ねーぞ、オラァ!」

「ぐっ……!顔見てねぇから美人かなんてわかんねぇよ…!」

 

 そう言って、彼を乱暴に蹴り転がす仮面ライダー(オータム)。その身体に走った衝撃で目の前が朧げになる正義の味方(織斑一夏)

 

「織斑一夏。お前、思った事ねぇか。この世界っておかしいよなァ?」

「ッ、……何が……言いてぇ……?」

「だってそうだろ?兵器を使った、人が死ぬかもしれないスポーツ競技がある世界。人が人の形をした肉人形を創り出す世界……。差別が世界の裏側に蔓延し、見えざる力の塊が私達を突き動かす世界……。これはお前らが謳う『愛と平和』とは到底程遠い。それを知らずにのうのうと、反吐が出るぜ」

 

 一夏を足置きの代わりにしながら話を続けるオータム。その言葉にはどうしてか……心の籠った実感があった。ナニカを背負った重荷があった。

 

「鉄砲も、刀も、弓も……全ては只自分達を守るための武器だった。だがISはどーだ?誰が何と言おうが兵器でしかない。原爆は相対性理論から生まれた?馬鹿言うな。あれは科学を悪用した結果なだけだ。初めっから近接ブレード持ったパワードスーツを、宇宙開発の足掛かりだとか言われてもなぁ?」

 

 呻く彼の頭越しに、オータムはこの世界の根幹を嘲り笑う。その笑い声は、どこかの誰かと似通っていた。一夏の瞼の裏では、『蜘蛛のライダー』と重なり合った『血塗れの蛇』が陽気な声で手を伸ばす……。

 

「結局は世界最強の兵器っつー価値しかねぇんだよ、お前等が使っているISってのは。笑わせるじゃねーか。お前らの心の支えは、『核兵器を使って世界を平和にします』って馬鹿言ってるだけなんだからなァ!はッはッはァァ⁉」

「がぁっ…………‼」

 

 躊躇も、容赦もなく踏みつける。真実を偽る事も、飾り付ける事もせず、只淡々と彼女の口からは世界の裏側に住まう人々の声が漏れていた。

 

「……イラつくぜぇ。そんな危険な遊びをどうどうとするお前等が……、戦争を知らないお前等が、私達をどうこう言う資格があると思うかぁ、ぇえ!?」

 

 『私達』は生きてきた。平和など無かった。ファウストも、亡国機業の人間も、どちらも同じ穴の狢ばかりだった……。

 

「力があれば、誰かを守れる……んなこと思ってんならさっさとドブにでも捨てちまえ。正しく力を、兵器を使おうと国家の軍に入った女がいた。だがァ‼そんな甘ぇ事を思った馬鹿がッ、戦争で真っ先に死んでいくのさぁっッ‼」

 

 

 

 

 

―ドッガァァァァァァァァァァァン‼―

 

「うぉあ!?」

「うん?何だァ?」

 

 その時、急に光が差し込んできた。瓦礫と共に吹き飛んでくる血飛沫と蛇腹剣、そして霧を纏ったランス。

 

「や、やっほーおりむー……?」

「……へっ?な、何でここ来た……つか何それのほほん?」

 

 耳に届いたその声に、一夏が身体を起き上がらせ見てみれば、狩衣型のアーマーを纏った一人の同級生の姿があった。

 

【海賊列車~!発車‼】

 

 そして、遅れて届く愉快なメロディー。一夏たちの位置目掛けて、粉塵の後ろから巨大な緑と青の列車が突進してくる。

 

「ぬぁっと……!」

「あっぶねぇ!?頭かすった!?」

 

 一夏の頭を超え、スパイダークーラーのビルドに炸裂する一撃。その爆発音と共に、軽快な声が聞こえてきた。

 

「やっほー、いやぁ、予想以上にボロボロだね……てかドライバー取られたの?」

「うっせぇよ戦兎さん……!何でここに来たんだ……」

「いや、ブラッド・ストラトスが出たんだよ……今度は……、っ!」

 

 その途端、オータムの周りに血煙がまとわりつき、くぐもった女の声が聞こえてきた。

 

『あら亡国機業さん、ご機嫌如何?』

「チッ……お前かよ」

 

 オータムの周囲に漂っていた血の霧が、徐々に人の形を成していく。そして……その姿は、元IS学園最強の座に座っていた、更識刀奈と瓜二つとなった。

 

「楯無さんの……、ブラッド・ストラトス……!」

「ひどい能力だな……!身体を霧に変える能力なんて……!」

「ん~……まぁソレも能力の恩恵の一つではあるんだけどね。まだまだ正解に遠いわ、頑張れっ頑張れっ♡」

 

 そう言って胸を腕で挟んで強調させる彼女……ブラッド・ストラトス『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』。一方、本音もこちらの状況を把握したようだった。

 

「あっれ~?こっちにもせんちゃん、あっちにもせんちゃん?せんちゃんって分身出来たの~?」

「うん、できるぞ。この天才科学者であるオレの、発・明・品!っである四コマ忍法刀使えば!さいっこーでしょ!」

 

 むんっと胸を張る海賊のビルド(戦兎)に、蜘蛛のビルド(オータム)は思わずズッコケそうになった。

 

「ってそーじゃねぇわ、のほほん。コイツ戦兎と違います、全く別の人間です。ほら自己紹介!」

「ど、どもー。悪の組織の平社員なオータムです……って何暢気に会話してんだてめぇらぁ‼お前等被害者私襲撃者‼」

 

 ついいつものノリでそう返してしまうオータムさん。数秒後、彼女は心の中で頭を抱えた。ファウストの連中のノリに慣らされてしまった弊害がここで出た。

 

「お~そーりーそーり~」

 

 そして、そのキャラ崩壊の影響を受けない特異点気質ののほほんさん。敵であってもそのホンワカ雰囲気を崩さない。

 

「なぁおい織斑一夏、このガキいつもこんなパヤパヤしてんの?」

「「………………」」

 

 一夏や戦兎はノーコメントでした。

 

「チッ、ガキどもめ……。まとめて蜘蛛の巣の餌食にしてやるよ」

 

 どうやら本気でイラついたらしい。いつの間にかドライバーのボルテックレバーを回転させきっていた彼女は、片手を床につきアームクローを背から展開させる。

 

【Ready go!】

 

「私ァ上からの撤退命令待ってるんだ、大人しくしてろぉ‼」

 

 クローの先端からビームを飛ばし、追撃として氷点下の特殊液体が混ざったファイバー繊維を分泌させる。初撃のエネルギー弾はビルドと九尾ノ魂・天狐の武器で弾き返されるも、二人の身体に凍結する蜘蛛の糸が絡みつく……。

 

「っ、……!」

「ハッハハァァ‼つぅかまえたぁァァ‼」

 

【ボルテック・フィニッシュ!イェーイ!】

 

 身動きの取れなくなった二人へと、オータムはライダーキックを食らわせることにした。天井にクローアームでへばりつき、そのまま距離を詰め蹴りの態勢へと変化する……。そして、蜘蛛の巣と雪の結晶の様なオーラを片足に纏わせ、その一歩を前方へ放つ。一寸先の勝利を確信し、けたたましい叫びを上げる蜘蛛の仮面ライダー。

 

「食ゥらいやがれェェェェェェェ‼」

 

 

 

 …………だが、彼女は忘れていた。

 

「……………二尾の鉄扇『更科』!」

「何っ、……ガハァッッ!?」

 

 戦場では油断したものから死んでいくという当たり前の事実に。彼女は綺麗な弧を描いて、ロッカーを一つ、二つと吹き飛ばし、コントの様に壁へとめり込んでしまっていた。返事がない……ただ気を失っただけのようだ。

 

「のほほん、お前ソレ……」

「うん~、ホームランなのだ~」

「いや、そうじゃねーけども……」

 

 鉄扇で跳ね飛ばしたオータムが壁に埋まったのを確認した後、一夏は武装を新しくした彼女を見つめる。

 

「『九尾ノ魂・天狐』はオレが設計したISの一つさ。簪ちゃんの許可を得て、『打鉄・弐式』と『霧纏いの淑女(ミステリアス・レイディ)』のデータを拝借して創り上げた装備は、戦闘経験が浅い本音ちゃんにも自衛の為の力くらいは与えられるのサ!」

「ドヤ顔すんな。いや、マスクの下で見えねぇけど!」

 

 名言が台無しになった感があるが、いつもの調子なのでまぁ問題無いよネ。是非もねぇよね……。

 

 

 

 

 

「…。ふーん。で、無駄な足搔きは終わったかしら?」

「!」

 

 色っぽい仕草で、三人の前に姿を晒すブラッド・ストラトス。その顔は、自分だけ仲間外れにされてほんの少し不機嫌そうだった。

 

「おっと……。ごめんごめん、少し忘れてたよ。さぁ、鬼ごっこを続けようか?」

「悪いけど。もう貴女達に次は無いわ、今度は私のターンよ?」

 

 彼女の扇子の文字は【十分経過ァ〜(^_^)】と変化した。

 

「次は無い?まるで勝てるみたいな口ぶりだね……、っ!?」

 

 その時、戦兎は察知した。明らかに眼前のブラッド・ストラトスの雰囲気が変化したことを。

 

「因幡野戦兎さん。貴女、さっき言ってたわよね?私の単一仕様能力が『身体を霧に変える能力』だって」

「…………」

 

 そう言ったブラッド・ストラトスは、扇子を閉じて『正真正銘のビルド(因幡野戦兎)』へと突きつける。

 

「近からずも遠からず、かしらねぇ?……まぁ水分ってところはあってるけど?」

 

 突然無防備に歩き出す『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』。彼女は扇子をまた開き、【惜しい(>人<;)】と身構えた三人に見せつけた。

 

「教えておいてあげる。私の単一仕様能力『馭者の山羊、(クローフィ・)沈まぬ星よ、(クローフィ・)極光を指せ(クローフィ)』はね……………『この世の水素を自在に操る能力』よ」

 

 ………………三人は、一瞬彼女が何を言っているのか分からなかった。

 

「「……………?」」

 

 というかいまいちどこがすごいのか理解しきれていない馬鹿とのほほん。だが……。

 

「……………、ッッッ!?……ま、待て、ちょっと待て‼まさか、それじゃ……!!?」

「あら、気が付いた?ブラッド・ストラトスの単一仕様能力が、どれほど馬鹿げているか」

 

 戦兎はその被害で七番目だということに驚くしかない。そして『即座にもこのブラッド・ストラトスを破壊しなくてはならない』とその頭脳を最大回転させ始める。

 

「どういうことだよ戦兎さん?」

 

 一夏が尋ねるが答えない。答えている暇があるなら奴を一秒でも早く壊さなければならない。今の彼女は冷静さを欠いていたが、その反応は当然ともいえるだろう。

 

「見せた方が、早いわね……」

「まっ……待て‼止めろぉぉぉぉォォォォォ!!!?」

 

 懇願するように叫ぶ戦兎。だが、その悲痛な叫びは届かない。

 

「やーよ、だって言ったでしょ。私のターンよ、って」

 

 突如として、『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』の周囲が怪しく輝きだす。赤い光が、彼女の顔に不気味な影を落とす。

 

「この世の水素を自在に操る……。つまり水を分解して水素と酸素に分けたり、氷を水蒸気に熱エネルギーを加えずに形質を変化させたり、その逆も然り。でもやっぱり一番見栄えが良い使い方としては……これね?」

 

 そう言って両手を重ねた後開くと…その手には妙な光が集まっていた。

 

「今、私の手の平の上には重水素と三重水素が必要量生成されたわ」

「それが……何だ?」

 

 はっとした表情を晒す本音。その顔は徐々に真っ青になっていく。一夏も、その異様な反応に警戒心を最大レベルにまで引き上げた。その様子が嬉しいのか、『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』はとても可愛らしい花が咲く様な笑顔をこぼし、こう囁く。

 

「高校生にはちょっと難しいかしら?簡単に言えばね…………………」

 

 

 

 

 

「………、コレ水爆なの(・・・・・・)

 

 ………………一瞬、聞き間違いであってほしい言葉が聞こえた。

 

「………………、ぇ?」

 

 嘘だと言ってほしかった。だが……。

 

「つまり私は、『手の平で純粋水爆を創り出す』のも能力の一つなのよ。さぁご褒美よ、苦しみも与えずに……この学園全てを消し飛ばしてあげる♡」

 

 その手から、禍々しい眩い光が溢れ出しそうになっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………ん?」

 

 一夏は、突然身も心も軽くなっていた。どうにもおかしい。さっきまで自分はいったい何をしていたのだったか……?誰かと戦っていた気がする。だが、それが……スタークだったか、ブラッド・ストラトスだったか、はたまた全く別の銀色の天使をしたナニカだったか?様々な自分がいた気がする。それでも俺は俺である……それだけは覚えていた。そう思うと、突然光に包まれた空間が薄れていく。徐々にその光が消えていく……。

 

「…………どこだ、ここ…………」

 

 一夏は、満天の星空の下、遥かまで続く水面の上に立っていた。遠く……遠くに、歪な赤い光を放つ、天へと届く鉄の塔が伸びている。

 

『貴方は、力を求めますか……?』

 

 声が聞こえた。突然だった。ハッとして背後を振り返れば、闇夜の凪の中に『白』がいた。

 

「っ、お前……」

 

 そこには……、白いワンピースの少女が立っていた。全身真っ白と言って差し支えない華奢な少女が、海の上にて白髪をなびかせその男(一夏)を待っていた。

 

『貴方は……戦いますか?』

「戦う……?そうだ……。俺はブラッド・ストラトスと戦って……」

 

 そして一夏は眼を見開く。この時間から隔絶された心の中の世界で、自分が戦うべき相手を思い出す。

 

「…………っ、けど……!あんな奴にどうやって……‼」

 

 思い出したとしても、今の自分に奴らを倒す力がない事はわかりきっていた。また……自分は肝心なところで無力でしかなかった。その憤りが彼の心に沁みつき、儚い望みも絶たれようかと彼を苛む。

 

「………………俺は………………皆を護りてぇって思ってた……!助けになりてぇって思ってた!なのに、なのによ……!」

 

 泣いてほしくなかった。悲しんでほしくなかった。ただ、傍で笑い、友情を築き、信じてくれた存在()の為の支えになれたらと思ってた……けれど。

 

「俺なんかじゃ……無意味なのかよ……!」

 

 その成層圏は血で染まる。無慈悲に、比べるのも烏滸がましい力によって捻じ伏せられようとしている。……肝心な時に、自分()は無力だ……。

 

 

 

 

『ならば……“私達”を使う事を強く思ってください……』

 

 突然声がかかる。振り返ってみればハッとした。顔は見えずともその少女の正体が分かる。長い付き合いではないものの、何故かとても懐かしい。……姉を思わせる優しさと厳しさの入り混じるその光。よしや、よもや…………。

 

「お前……まさか白式か?」

 

 その言葉に答えたのだろうか?うっすらと……それでも哀し気に唇の端を歪めるしかしなかった少女。それを肯定と捉えた一夏は、白式に向かって声を投げかけた。

 

「頼む白式、教えてくれ……俺が強くなるにはどうすればいい?あいつ等と戦うには、どうすればいいんだ……!」

 

 懇願するように、救いを願うように、祈る様に。一夏は最後の光に望みを託そうとする……だが。

 

『貴方には……初めから“戦う力”がありました……』

「…………何?」

 

 ……予想もしていなかった答えが返ってきた。

 

『私たちによって目覚め始めていた貴方本来の力は……平行世界に繋がった時、異物として心の奥底から弾き出され始めたのです……』

 

 突如として、足元の水面が揺れる。どんどん波紋が広がって行き、海の中から見慣れた物体が迫り出してくる……。

 

「‼」

 

 それを見て目を見開く一夏。その一振りは、彼にとって最もなじみ深い武器の一つであったのだから……。

 

「……これは……雪片」

 

 それはまごう事無き白式の武装、『雪片』だった。但し……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『その剣を引き抜けば、貴方は戦いから逃れることはできなくなるでしょう……。本当ならば、貴方にこれ以上その先に行ってほしくは無かった……』

 

 残念そうに俯き呟く『白いワンピースの少女』。何故だかはわからないが、悲しんでいる。視線を下へ向けながら、彼女は声を震わせていた……。だが、一夏は進まなければならない。今なお、自分の守りたい者が危機に瀕している。それらを護る為になら、自分が傷つくことも、苦しむことも……。

 

「関係無ぇ……上等だ」

 

 ゆっくりとその一歩を踏み出して、彼は『黒い雪片』を手に取った……。

 

 

 

 

 

『へぇー……何が上等なんだ?』

「『ッッッッッ!?』」

 

 突然、どこかから声がした。一夏も、『白いワンピースの少女』も困惑の色を隠せない。それが表れたのは、突然だった。

 

―ヒュゥゥゥゥゥ………………パシャッ―

 

 上空から落ちてきた人影は、水滴の様に緩やかに水面を震わせ、そして顔を上げる。

 

 

 

『………………よぉ?最悪で最低で、最高の匂いがするなぁ?』

 

 

 

 その人物の顔がぐしゃりと歪む。ニヤリと唇が三日月になる。だが、そんな悍ましい表情をしていたとしても、その造作は………………『織斑一夏』そのものだった。

 

「何だよ……お前……‼」

 

 一夏は聞いた。そして……『一夏』は答えた。

 

『何だとはご挨拶だな、……“相棒”?』

 

 カラカラと乾いた声で、その『一夏』が自分の正体を告げ始める。顔と顔、視線と視線が空気越しに重なり合う。耳で聴く分にはその声は一夏一人のものでしかない……だが、根本から存在が違う。一人は青い髪に白い制服を着ているが、もう一人は蝋の様に白い肌と髪をしており、それに加えて色が反転した黒いIS学園の制服に包まれている。そして決定的に違うのは、その瞳だった。

 

「“蛇”みたいな目をした奴なんて知らねえよ…?」

『いいや、俺はずっとお前の傍にいた。ISを触れる前から、ずっと見てた。俺がお前の一番の相棒だ』

 

 その『一夏』の目には、優しさなど何もなかった。白目の部分は黒く染まり、瞳は赤く爛々と血の様に燃え盛っている。

 

『まさか……もう出てきたのですか!?あの人が押さえ込んでいたはずなのに……‼』

『あぁん?あのおばはんか?ちょいと手籠めにして来た……なーんてな?』

『ッ……!?』

 

 『白いワンピースの少女』が『白い肌と髪の一夏』に詰め寄ろうとするが、一瞬彼の身体から信じられない量の殺意が溢れる。口調はふざけ、荒っぽい性質が露になっているが、それでも『白いワンピースの少女』をたじろがせるのには十分だった。その様子に、一夏は彼への不信感を強めていく……。

 

「さっきから相棒、相棒うるせぇよ……白式の意識ならこの子だろ」

 

 ゆっくり『白いワンピースの少女』の肩に手をかける一夏。その行為で安心したのだろう……殺気によって震えていた彼女の手が、一夏の手に重なった。

 

『……ハァ、手がかかるぜ。全ッ然分かっちゃいねぇんだからよ、“相棒”は……』

 

 どうにもお互いがお互いの癪に障る存在だ。相棒と言うセリフにも、『自分の力が無ければ戦えない程弱い』と小馬鹿にした様子が伺える。

 

「えらっそうに……もったいぶってんじゃねぇ、ぶん殴るぞ」

 

 その言葉がきっかけだったのだろう。突然、『白い一夏』の姿が……消えた。

 

「ッ……、なっ……ォッ……!?」

 

 一夏の頬を殺気が掠める。そして振り向きざまに、『白い一夏()』は自分の正体を高らかに言った。

 

 

 

 

『分かってねぇなぁ……。俺も白式だぁ!!!!』

「!?」

 

 そして、目の前に自分の顔が映り込む。黒の中に血を垂らしたかのような、不気味に蠢く眼が近くにあった。

 

「ッ、嘘だろ……!?ISが触れるより先にお前がいたとか、順序が逆だろ!」

『いんや?マジなんだわコレがさぁ!』

 

 刹那、『白い一夏』の手から、真っ白な光が発せられ……一本の刀を形作った。そして時が止まったかのような間にて、次の行為が一夏たちの脳裏に閃いた。

 

「!」

『ひゃぁッハァ‼』

 

―ザンッッッ‼―

 

 上空に宙返り、迫って来ていた斬撃を『少女』と共に避ける一夏。重力を感じさせない挙動で着地すると、片手に黒い雪片を持ちながら『白い一夏』と対峙する。

 

「ッにすんだよ……‼」

『いいじゃねぇか。お前を殺して、外の敵も殺してきてやるよ。ま、ここには戻らねぇけどな』

 

 少女を庇い後退する一夏と、白い雪片を片手で振り回す『一夏』。夜空の星々も輝きを潜め、曇天から雨が降り出した。

 

「……俺はテメェと遊んでいる暇はねーんだよ‼あいつ等を……守るだけの力を手に入れなきゃなんねーんだ‼」

『ハァーッ!これはこれは御立派な綺麗事を仰る。偽善の匂いがプンプンするなぁ?』

 

 その瞬間、二人の『「一夏」』は接近する。

 

―ギャリィィン‼―

 

『や……止めて!貴方がその人と戦ったって意味は……!』

『あぁ?黙ってろよ残り滓。どーでも良いんだよ、俺は。誰かを守るだとか、んな事には興味がねぇ』

 

 鍔迫り合いを行いながら、『真っ白な一夏』は黒い白目を『少女』へ向けた。

 

『俺は、お前を殺して自由になるのさあ‼織斑一夏ぁ‼』

 

―ガッギィィン‼―

 

 けたたましい音と火花が白と黒の雪片から弾け飛ぶ。競り負けた一夏は、雨垂れに打たれながら水面に叩きつけられた。

 

『オーラァッッ‼はっはーぁぁ‼』

「ッ、つぇえ……!?」

 

 追撃が迫る。いなしても、受け止めても『白』には一歩届かない。全てが一夏(自分)の上を行く……。

 

『ん?違う違う。お前が弱いんだよ』

「ん、だと……?」

 

 困惑の声を上げる一夏に、『一夏』は嘲りを投げかける。

 

『お前……これでいいとか思ってないか?今のままでいいとか、弱いままで仲間と一緒にお手々繋いで頑張ろうとか考えてねぇか?』

 

 彼の手の、『白い雪片』が一閃した。

 

―ドッガァァァァァァァァァァァン‼―

 

「がっ、あァァァァァァァァッッッ!?」

『どうした?つまらないな、お前。もっと殺し合おうぜー?』

 

 ばしゃっ……、そんな音を立て、雨の降る水面から這い上がる一夏。

 

「っざっけんな……そんな思いで剣を振るって、何ができる!何が守れる!」

『お前の姉貴の言葉か?あぁー、笑っちまうな。あいつも心の中に俺みたいなのを飼ってるのに、よく言えたもんだなぁ?』

 

 口腔の中が見える程、大きく口を開いて否定をする『一夏(誰か)』。

 

『相変わらずだねぇ、そう言うの。だからお前は弱い。力こそ強さだ。力を持つものだけが全てを変えられる。世界も、自分も。強さの果てを見たいと思ったこと、お前はないだろ?』

 

 その赤い瞳孔は、まるでこれから積み上がる犠牲が反射しているようだった。

 

『お前は、腑抜けた獣だ。飼いならされた畜生だ。思い出せ、真のお前の姿を、本能を!お前は俺と同じ…こっち側だ』

 

 

 一夏は……思っていた。

 

―動け……、動け……動け動け……!動けよ……!―

 

 強くなりたい。それは一体……何だったのか(・・・・・・)

 

 どうしてそんなことを思うようになったのか。

 

 そもそも、自分とは何か。

 

 親の顔も知らない。生まれてきてくれて、何が幸福だったか……自分より他人の方が生きていてくれて良かったと思う時が何度あったのか。

 

―向こう側ではブラッド・ストラトスが学園を吹っ飛ばそうとしてるんだ……今動かなくてどうする……!?―

 

 あぁ……そう言えば。自分の為に戦うと言っていても、結局その中に、俺がいたことって……ほとんどなかったよな……。

 

―弱い?甘い……!?そんな事、馬鹿な俺でも自覚はあるんだよ……!―

 

 コレが、俺の弱さか……。

 

―けど、それを受け入れるしかないとしても、……!―

 

 認めるしかない……。それでも、諦めて良いものなのか?

 

―諦めちまったら、俺は今まで何の為に戦ってきたのか……分からねぇ‼正しさがそっちにあるとしても、今はこいつに勝たなきゃ……何も変えられねぇ‼―

 

 己の弱さに、真の意味で負けない。その弱さが無いと、自分は到底……優しくなれない(・・・・・・・)自覚があるから。

 

「……なッッッッッ、めんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 雨の中、曇天を裂く叫びが腹の奥底から噴き出した。

 

「俺は……!テメェを……!」

 

 手に刀を握り締め、『色の無い自分(■■■■)』に目掛けて振り被った。

 

「ぶった斬る!!!!」

『ッ!……そぉかぁ……なら』

 

 そして……満天の空が再び顔を覗かせる。

 

『…カラミティ・ストライク』

 

―……ばしゃっ……―

 

『……ぅぅひっひひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァーッハァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ‼』

「おぉぉぁあらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッ‼」

 

―…………ッッッ‼―

 

 ……………………刀に肉や骨を断ち切る感覚は無かった。感じた事といえば、パンパンに膨らんだ水風船を切るような、そんな軽い感触だった。……だと言うのに、一夏の胸の中には確かな充実感がそこにあって……。

 

『……、“零落極夜”が……目覚めた……!』

『そうだ……目覚めてしまった……』

 

 ふと、『白いワンピースの少女』と目が合った。そして、その傍に立つ懐かしいような『白い女騎士』が苦しそうに拳を握りしめるのが仄かに見えて……。

 

『……おいおい、そんな目で見んなよ、“白騎士”に“残り滓”。いーじゃねーか。利害は一致しているんだ。それに、これからもっと面白くなるんだからよ……』

 

 『白い肌の一夏』の呟きを最後に、二人の人影は完全に消えて見えなくなった。

 

 

 

「はー……!はー……!ッ、俺の……勝ちだ……!」

『……ま、遊ぶ機会はたんまりある。いーぜ、とっととあの淫乱女、ぶっ殺してこい。そうしないと……死ぬぜ?お前も……箒も、みぃぃんな……なぁ?』

 

 『一夏』のその言葉を手向けに、一夏の意識は沈んでいった(目覚めていった)……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の意識が一瞬消えた時だった……。

 

「ひひっ……『馭者の山羊、(クローフィ・)沈まぬ星よ、(クローフィ・)極光を指せ(クローフィ)』‼」

「や、止めろぉぉぉッッッ‼」

 

 戦兎と本音は青い顔で『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』の攻撃を止めようとするが、既に手の平には煌々と輝きだす光の玉があった。そして、彼女は顔を邪悪な笑みで歪ませた。突然その手を前方へと突き出し…………。

 

 

 

 

 

「………………『零落極夜』」

「な、にっ……!」

 

 そして、純粋水爆は、……後ろから突き出された黒い刀によって消滅した。

 

「へっ……?」

「あっ……?」

 

 呆気にとられるしかできない二人。真っ黒な粒子が一夏を包み、彼のその装いを変化させていく。ISスーツの上に、白と黒の装甲が展開される。

 

「オータムがそれをすでに奪ったはず……なのに、戻ってきたという事は……」

 

 ブラッド・ストラトスが何か呟くが、彼のもう一つの変身は止まらない。身体の各所に走るエネルギーラインが、夕暮れの中の桜の様に激しく光り輝く。メカニカルなISの形から、近未来的な滑らかで湾曲した姿へと変化した。そして、背後からは大小合わせて十二のカスタム・ウィングが展開される。だが、黒が混じったその姿は、天から追放された堕天使の様で……。

 

「………………『反転移行(ネガ・シフト)』、完了」

 

 ゆっくりと瞼を開いた彼の眼は、『黒い白目』に『金色の瞳』が瞬いていた。

 

「………あら、一夏君。随分と強くなったのね。おねーさん、嬉しいわ?『あの人』もお喜びになるでしょうね……」

 

 その変化に、『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』が真っ先に気が付く。IS敵性が、『S()を上回っている事に(・・・・・・・・・)

 

「……お、りむー……?」

「お前……一夏、なのか……?」

 

 異様な雰囲気は、彼の仲間にも伝わった。呼吸の一つ一つから押しつぶされそうな威圧感が放たれている。片手に持った日本刀型のブレードも禍々しく漆黒に光を呑み込んでいる。がさつでも優しかった『あの織斑一夏』だとは、簡単には思えなかった……。

 

「……俺は、俺だよ」

 

 それでも、ゆっくりと振り返って仲間に笑顔を向ける。不器用そうな笑みで、龍の籠手が付いた左腕で、クシャクシャと頭の髪を掻く(恩師である戦兎の真似をする)

 

 

 

「さて、ようこそ織斑一夏。こちら側の世界へ……歓迎するわよ?早速だけど、こちら側の礼儀を教えてあげようかしら?」

 

 背後から、愉快そうで……そして血に飢えた声がした。ガチャン、と床をランスが当たる音が響く。弾かれたように戦闘態勢を取る狐と兎。

 だがどうした事か、一夏の雰囲気がさらに変わった。冷静かつ苛烈、力強く、それでいて繊細な……戦兎はその姿を見て、瞼の裏で『ある人物』が重なった。

 そう、まるで『ブラッドスターク』の様だと思えてしまった……。

 

 

 

「願っても無いな……。行くぞ、ブラッド・ストラトス。コレが……俺のISの本当の力、『白式・刹羅』だ」




白式・刹羅

 この世界における一夏の白式・雪羅の真の姿。反転移行(ネガ・シフト)と呼ばれ、有り得る筈の無い移行解放状態。オータムにISが奪われ、『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』が水爆を放とうとした時に一夏が精神世界に送られこの力を手に入れた。
 深層心理で出会った『白いワンピースの少女』、『白い女騎士』と共に『肌も髪も白い織斑一夏本人』が彼に力を貸し与えこの反転移行(ネガ・シフト)が行われた。だが、何故このような未知の進化を辿ったのか理由が不明であり、謎も多い。
 外見は白い装甲(アームやつま先、カスタム・ウィング)の一部が闇の様に黒い色へ変化しており、さらに蛇の様にのたうつ桜色のラインが走っている。なお、この状態になった場合、ISだけではなく一夏の外見にも変化が生じ、白目が黒く、瞳が金色に光る。

武装
・『雪片・無ノ型』
 真の一夏の雪片。雪片弐型より些か長め。その名称とは裏腹に刃から柄に至るまで漆黒。
・『刹羅』
 左手の多機能武装。白龍の顔を模した籠手。パイルバンカー、ビームキャノン、バリアシールド、エネルギーチェーン、ジャミングチャフ等を生成する展開装甲である。

単一仕様能力『零落極夜』
 詳細不明。→次話判明。


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第六十七話 『白と黒のモザイク』

惣万「えー、投稿百回を超えたので、他ユーザー様からの質問コーナーにバージョンアップしました!ちょくちょくするかもですよ!」
宇佐美「活動報告にてのみ質問は受け付けるぞ。あらすじ紹介のアイデア、もしくはなんでも要望箱に書き込んでくれたまえ。尚、小説を書いてる人はその作品のキャラを使って進行する場合もあるぞ。こういう風に、な!単一仕様能力以下省略(表記めんどい)!」

―コンテニュー土管&デンジャラスゾンビSE―

???「おぉっと、ここは……?」
宇佐美「と、いうわけでいつもお世話になっているユーザー『ウルト兎』様の作品『Re:Game Start』より仮面ライダークロノス、天崎総使だ。ではなぁ……私はネビュラスチームガンの調整をしなければならんのでなァ!ヴァッハハハハハァ‼サラダバー!」
ソウシ「………………ドガミかヤツは……?」
惣万「初めましてだな仮面ライダークロノ……ドガミ?」
ソウシ「I’m a godを逆さまに読んで『Dogami』だ……あ、ども。いつもお世話してます」
惣万「いえいえ、お世話になってます……って人格に筆者が混ざってるから!」
ソウシ「ここはメタ発言が許される場だと聞いたのだが?」
惣万「……本編でもだがな。で?何か質問があったんだろ?この地球外生命体ソーマ様が懇切丁寧教えてやろう!」
ソウシ「(うーん、万力で下のボール二個潰したら惣子ちゃんになるのか……?)とりあえずうちの筆者からの質問は……『赤騎士以外のブラッド・ストラトス達はどうやって産まれるのかそこんところkwsk』だと」
惣万「っ……え、えぇっと…………」
ソウシ「?」
惣万「…………一応俺が身体を女体化させてな?そっから…………」
ソウシ「あっうん、ごっめんもういいですすみません!何か踏み込んじゃいけない感じだったっぽい!?」


ブリッツ「…………マスターク、ゲストが嬉しいからって意地悪してる~……遊んでるな~」
シュトルム「本当はハガ〇ンの『お父様』みたいな感じですよ。体内に取り込んだブラッド・ストラトス用の結晶体……『賢者の時空石(タイム・エリクシル)』に自分のハザードレベルと感情を切り取り体外へ排出して生成されます。赤騎士は別でしたけどね」
ブリッツ「ちなみに~私が見たことがあるのは暴食(グラ)だけなんだけど~、彼女は胸元からボコボコって出てきたよ~?」
シュトルム「私は『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』の誕生に立ち会いましたが、額に目が開き、そこから赤い雫が垂れて生まれてきましたね……。それぞれ産まれ方が違うのでしょうか?」
ブリッツ「にしても~……おとーさんでおかーさんなんだね~マスターク~。おめでた~?」
シュトルム「あ、そう言えば出産祝いって必要なのでしょうか……?調べてみましょう」


惣万「…………何かスゲェカオスになってる気がする……」
ソウシ「?取り敢えずうちの筆者も疑問が解決したらしい。ではやるか」
惣万&ソウシ「えーっと…「それでは、第八十七話、どうぞ‼」」


 人一人として見当たらない暗闇に彼等はいた。

 

「『‼』」

 

 IS学園の廊下で、はたまた遥か蒼穹の奥の月面で。二人の災強は只ならぬ波動を第六感で感じていた。学園の暗闇の中、この世界を狂わせた男は眺めていた朱色のボトルから目を外す。

 

「一夏……次の段階に至ったか……」

 

 男の目は虚だった。何の感情も込めていないその目が、彼の現状を物語っていた……。人らしい悪罪の情、それを斬捨てた彼は、一体心に何が残っているというのか……。

 

「さて……」

 

 椅子がわりに腰掛けていた瓦礫から立ち上がった男。彼は手に握ったボトルを懐にしまった後、錆び付いた水晶の様なボトルを取り出し銃に装填する。……そして、引き金を引いた。

 

【Mist match…】

 

 身体を包み込んだ黒い煙、緑の閃光が迸る黒い霧の中で真紅の姿へと汚染されていく灰色髪の美青年。……そして全身に巡る人としての血が蒸発し(変身が終わり)、『悪』があった。

 

【C-C-Cobra…Cobra…Fire…!】

 

 自ら感情を斬り刻み、大切なものと壁を創り、ハザードレベルを下げ、流す涙さえ捨ててきた。だが、それが何だというのか、間もなく仲間と世界を捨てる愚劣な蛇は皮肉気に顔を歪ませる。

 

『んじゃあ、陽動してくれている奴らの陰で、俺もお仕事と行きますか』

 

 

 

 

 

 

 一方、月面……。

 

「……何だ、今のは……?だが……一夏が拙い……そんな気がする」

「よそ見とは余裕だな、ブリュンヒルデェ!ゲームはまだ終わっていないぞぉァ!?」

 

 隕石や第四世代の無人ISを創り出し、彼女に嗾け続ける宇佐美。世界最強が重力六倍の月面戦闘に慣れてきており、徐々に戦況が動こうかと言った時だった。

 

「いいや、終わりだ。未だその力をうまく使いこなせないと見える」

「何……がはっ」

 

 突然、口から血が大量に噴き出した。両の鼻からも鮮血が迸る。

 

「ほらな」

「……成程。私の脳内にデータ化したロストタイムクリスタルが過剰活動し、私の生命活動に異常を来たしているのか」

 

 これはしたり、と言った顔で耳の穴や目から血をドバドバ垂らす神才科学者。それ見たことか、とブリュンヒルデは彼女の事を鼻で笑った。

 

「神だ何だと言ってはいたが、所詮貴様の肉体は人でしかない。我々は何者にもなれはしない……身の程を知った方が良い、世界は願っただけで変わる訳がない」

「クックク……変わるさ。あー、何と言ったかね?君の親友は……『有史以来、世界が平等であったことなど一度もない』……だったか?」

「……………………それが何だ」

 

 途端に二人の口調が冷たくなる。一人は怒りと、一人は憎しみを募らせ口を開く。

 

「とんだお笑い草だ。篠ノ之束……ヤツは科学者より道化の方があっているのではないかね?自覚があるからガキな恰好をしていたのでは?」

「……で?」

 

 努めて端的に言葉を促す世界最強。宇佐美を顎でしゃくってやると、彼女は額に手を当て、ゆっくりと顔を天へと向けた……。

 

「私に比べれば、人間は……否、世界は平等に凡庸だ。私の誕生が、貴様らの凝り固まった偏見の歴史に革命を起こした!アァ……もはや人間に優劣など存在しない。ありとあらゆる存在であろうと、私には絶対に及ばないのだから」

「……」

 

 そして血塗れの顔で両手を広げ、己が才能を誇示するように、神に示すかのように狂声を上げた。

 

「私は神なのだよ。私という超越した存在が只生きるだけでも、全ての生命の進化の追従を許さないのだからなぁ!」

「……言いたいことはそれだけか?」

 

 自己陶酔する宇佐美の視界に入っているか怪しいが、感情がすっぽりと抜け落ちた千冬はゆっくりと近寄り、そう尋ねる。

 

「天才は……努力する凡才のことを言う。蓋を開ければそんなものだ……差し詰め天災は人について努力も理解もできない愚か者ではなかったのかね?」

 

―ズバァッッッ‼―

 

 その時だ。宇佐美の首が……飛んだ。

 

「………………黙れ。いい加減その口を閉じろ」

「おっと、何を興奮している?がふっ……、まさかゴホッ!……あの愚か者に肩入れするのかね?それだけ入れ込んでいた様には思えんが……ゴポォ」

 

 血が噴水の様に迸る宇佐美の胴体が、彼女の月面に落ちた喋る頭(・・・・・・・・・)を拾い上げロボットの様に首に接続する。傷口の細胞が急激に活動し、ボコボコと首筋が泡立ったがソレも一瞬、……見事傷跡無く継いだ。白衣はすでに出血多量で真っ赤になっており、……もはや人として疑わしいレベルである。色々と……。

 

「……………………さて、な。只、隙だらけだったから斬った」

「おやおや、教育者に有るまじき発言だぞ?この暴力教師が……グブッ、ウップ」

 

 首が切断された時の影響でか、単一仕様能力の負担でか、絶えず口から血反吐を垂らす紫髪の天災女性。

 

「生憎私は戦兎や一夏とは違い……『救えない悪』であるならば容赦なくこの剣を振るう。気が変わらん今のうちに私をIS学園へと戻せ」

 

 宇佐美はキョトンとした血塗れの顔で、世界最強の顔を見た。

 

「はっ、はっはははははは!馬鹿かね君は。その身体を覆う鎧は玩具か何かか?」

 

 そして、ただケラケラと彼女の身体の鎧を指し示し、声高に嘲りの声を上げた。だが、世界最強はどこ吹く風……冷静に彼女の煽りを聞き流す。

 

「私は貴様の『全て』を信じていない。故に、貴様を殺し地球に帰還せんとする時、私に致命的な事態が発生しないとも言い切れん。然らば……ここで痛み分けとした方がお前も私も得だと思うが。どうせ、時間稼ぎ(・・・・)も済んだのだろう?」

 

 千冬は何度も何度も激昂を繰り返していく間に、いつの間にかその精神を安定させ当初の目的……敵の狙いを察知することに成功していた。……弟と同じで脳筋なのに。

 

「……存外頭が回る。脳味噌筋肉馬鹿ゴリラだと思っていた認識を改めよう」

「……(やっぱり殺しておくかコイツ?)」

 

 ……でもやっぱり乙女な部分には敏感っぽい。……対応の仕方は殺人鬼のそれっぽいけど大丈夫、ISはコメディだから。

 

「さて婚活のデストロイヤーゴリラモンド(ブリュンヒルデ)、君が今後どんな進化を辿るのか……、『私』になるのか『一夏』になるのか、期待をせずに待っているよ」

「お前絶対何か変な言葉にルビ振ったよな?よしお前絶対斬っとく、そこにナオレ、良いな?」

 

 先程とは違った感情で目の前の人間への殺意で湧く湧くしている千冬は、それはそれはもー怖い笑みだった。

 

「婚活のデストロイヤーゴリラモンドイェーイ!」

「そっちの答えは聞いてねぇぞゴラァ!つかぶった斬る、絶対に殺す‼」

 

 般若の形相がバイザー越しにでも分かる。そして鬼気迫る勢いで突っ込んできた……。千冬姉さんェ……。

 

「私は不滅だぁぁぁぁぁいぁぁぁっっっっはァァァァァァァァッッッ‼」

 

―パチンッ!―

 

 だが、宇佐美が血塗れな顔で指を弾けば、千冬はIS学園へと返還されていったのだった……。

 

―アーオイこのアマ待ちやがれェェ‼聞けェ!オイこんの女郎ォォォォォ!?—

 

 

 そんな言葉が、宇佐美の耳へと届く。クック、と愉快そうに喉を震わせたが、丁度その時横隔膜が破裂した様だ。

 

―ぶっしゃぁ‼―

 

「がっはッ!……あ、駄目だ。完全に身体のキャパシティーを超えた……な、はは……」

 

 血涙、鼻血、吐血、そして耳からの出血と……顔の穴と言う穴から余すことなく赤い色が流れ出る。これには宇佐美も危機感を抱いた。

 

「……あぁ、早く……早くあのバグスターの宿主を見つけなければ……な。くく……。ククク、ヴァハッ、ヴァハハハハハ、ヴェァーッハッハハハハハハハハハハハハハァァ‼」

 

 そして、血を噴き出したまま笑う。嗤う、哂う……。

 

―アァ……楽しみだ。本当に楽しみだ……!私が……この次元から旅立つ日が……‼—

 

 

 

 

 一方の千冬さん。

 

―ひゅー、……どかん!(着地)―

 

「ぐぬぁあ!?」

「ひゃっ!?って織斑先輩……、よくぞご無事で……!」

「フッハッハッハッハッハッハ……アイツコロス、コンドアッタラゼッタイコロシテヤル……!」

「アレ?駄目そうですぅぅぅ!?メ、メディックーッッッ!?」

 

 どーしてもシリアスにならない二人、なのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこちらはアリーナ特設ステージ。クロエのライブは見る影もなく、瓦礫や散乱した椅子、そして怪我人の血の跡が点々と残る悲惨な状況に専用機持ちとグリスは眉をひそめていた。

 

「『モッピーピポパポ』とか言うのは撤退したのか…?しかし、何故私にそっくりだったのだ…」

「……さぁ。辿ろうにもハッキングの痕跡すら消えている……ちょっと心配だから私確認してくる」

 

 ISを待機状態に戻し踵を返す楯無(簪)。どうやら心配なのはそれだけではないだろう……、一足先に会場を離れていた記憶喪失の姉の事を思っているのがありありとわかる。

 

「んじゃシャルルは楯無の護衛ヨロシク」

「お、おぅ?」

 

 その意図を汲んだらしい鈴は、何が一があってはならないと学園最強の用務員に声をかけた。だが、彼女のリーダーシップはそれだけでは終わらない。

 

「箒、あとラウラ。アンタらは瓦礫の撤去作業を手伝いなさい。落盤の可能性のあるところがラウラね、何かあったら停止結界使うのよ。んじゃアタシとセシリアは追撃が無いかアリーナ上空で待機、ほら行くわよ」

「イエス、マム……ですわね?」

 

 その様子を見て、シャルルは一言……。

 

「……意外に生徒会長できてんな……」

「シャルル、アンタアタシを何だと思ってるわけ?」

「珍・竹林」

 

 ふんふん、と首を縦に振るとなりの簪ちゃん。鈴は思わず笑顔になった。……額に特大の青筋を浮かべてだが。

 

「……中国人チックに言っても悪意あるわよねそれ?いいわよこれ終わったら百試合ぶっ続けで相手してあげるから逃げんじゃねーわよつか殴らせろ好きでチビじゃないのよアタシ誰が豆粒ミジンコ女よえぇ?」

「誰も言って無いよ……?」

「おーちょーどいいや、最近喧嘩出来てねぇからなまってたんだよ、明日辺り邪魔するぜぇ?」

 

 …………その場にいた簪ちゃんは思った。『やるなとは言わない。けど生徒会室内で喧嘩しないでね』、と。

 

「ハァ……」

「ん?どした?」

「……何でもない、ほら護衛としてついてきてよライダー」

「りょーかいしましたよっと……んじゃそっちはそっちで頑張ってくれや」

 

 …………彼女は補修工事の予算の見直しを考えながら、シャルルを引き連れその場を後にしたのだった。

 

「ところで一夏はどこに行ったのだ……?」

 

 ふと箒がぽつりとつぶやく。その時だった。

 

 

「ッ!上空に接近する機体……!?」

 

 そして、急激に頭痛が走る。無理矢理感覚が狂わされ、『右の視力』が引きちぎられたかのような苦痛が箒の脳裏を焼く……。彼女の視界の補助をしていた機能が、突然停止したのだ。

 

「……何ッ…ぐぁっ!?」

「箒さん!?」

 

 どうやらセシリアや鈴には何の影響も無い様だ……。急激にハイパーセンサーの感度が落ちたことを疑問に思うも、兎も角何かが来ると察知した箒は上空を見た。

 

「私は大丈夫だ……!それよりも……!」

 

 

 そして、その場にいた人間達の眼が、見開かれた。

 

 

「…………、……あれは……何だ?」

 

 

 

 

 誰が呟いたのかは分からない。だが、誰もが心に抱いた言葉であった。それは、天を覆う黒い翼だった。見ているだけで凶暴な、蒼穹を噛み砕く負の光だった。純黒と紫の全身装甲、怪しく輝く紫のセンサーラインや気味の悪い発光器。装甲各部にはひび割れの様なモールドが入り、人の心に不安を与える……。

 

「ISの背中の……あれは……翼?」

 

 だが、何より目を引いたのは、そのISの背後から蒼穹へと広がる膨大なチカラだった。それは破れた皮膜の様で、太陽に迫りすぎた罰の様で……。堕天使の如く荒々しい、禍々しい巨大なエネルギーウィング。それが半径数百㎞の空域を覆い尽くしている。飛び散る闇色の粒子、それは蝶々(ゼフィルス)の鱗粉のように、絶えず眼下の学園アリーナへ堕ちていく……。

 

「……まさか、この粒子がISの機能を妨害しているのか……?」

『……ふ』

 

 箒への返答とでも言わんばかりに、それはエコーがかかった声を発する。

 

『エクスターミネート……』

 

―Ready?―

 

 そのISを操る者の脳裏に、無機質なコマンドコールが過っていく。そして彼女は宣言した。

 

『ミッションスタート』

 

―Go―

 

「!消、えた……⁉」

「ッ、箒!」

 

 任務開始の言葉と共に、正体不明のIS『ブラック・テイル』は箒達の死角へと移動する。特に箒はハイパーセンサーの補助がないとはいえ、鈴並の動体視力を誇る。そんな彼女が、一切の気配を感じ取れなかった。

 

「ッ!は、早っ……!」

『違う。お前たちが遅い』

 

―ドガァァン!―

 

 箒の背後でけたたましい音が響く。火花と共に煙が晴れると……紫色の結晶刃が彼女の目の前で止まっていた。

 

「ラウラ!す、まん……!」

「ッ、ぐぅ……!(今のは偶然当たっただけだ……、ここまで人間離れした動きができるのか……!?)」

『ドイツのアドヴァンスド……か』

「「「「‼」」」」

 

 ラウラのAICでその攻撃を防ぐが…その後の襲撃者の言葉に息をのむ。彼女の出生を知る一同は、眼前の機体の乗り手が明確な闇の住人だと悟った。

 

「貴様……!」

『弱いな。停止結界とやらはこんなものか』

 

―ズバァッ!―

 

「!?うっそ、でしょ……!?」

「うっぐ!?何故……こうも易々と……!」

 

 軽々と障壁を切裂くと、黒い機体の彼女はラウラの首を掴み、顔の近くへと引き寄せる。

 

『アドヴァンスド。貴様は完璧な強さなど得てはいない』

 

 バイザーで顔が見えない其れは宣言した。憐れむように、そして嘲るようにラウラの強さを無意味と断じる。

 

「私は変わった!そんなもの……私は欲しくない!」

 

 だが…………、ラウラは愛しい存在を思い浮かべて其れを否定した。苦しんだ顔をしていても、その信念だけは歪められないのだろう……はっきりまっすぐ前を見る。そして、その迷いない眼は襲撃者の視線と重なった。

 そのことがどれ程不愉快だったのだろう、黒いISの乗り手は彼女の甘い綺麗事を唾棄せんと力を籠める。

 

『殺戮人形の分際でか?身の程をわきまえろ劣化模造品(デッドコピー)。お前がどう言おうが、ホムンクルスにそれ以外の使用用途など、無い』

「………………がっ!」

 

 その否定をさらに強める様に、声を押し潰す様に言葉を繋げる復讐者。

 

超越の瞳(ヴォータン・オージェ)で得た超人運動神経、……だが、貴様はその反応速度に脳内での判断及び処理が追い付いていない。お前は織斑千冬にも、まして織斑一夏などにも遠く及ばない』

 

 襲撃者は彼女の首を掴んだ手に、更に力を込める。だが、それでもラウラは抗い続ける……。圧迫された喉の奥からその真実を振り絞る。

 

「貴様……もしや……うぐっ」

「っ!ラウラを離してもらいましょうか!」

「セシリア!援護頼む!」

 

 ラウラの苦しむ様子を見て鈴が、箒が空を駆け寄ってくる。……、だが。

 

『遅い、温い。だから動きも読みやすい……』

「!」

 

 箒が剣を振りかぶったその時、眼前に銀髪が靡いた。とっさの判断でその一歩を踏みとどまる赤い機体……。襲撃者はラウラを盾に易々と攻撃を回避していく。

 

「ッ、コイツ……戦いの場だとは言え厄介な事を……!」

 

 箒は万が一の事を考え、刀を振るのを躊躇ってしまう。卑怯だ、等とは言わないが、仲間の情(それ)が有効な手段だと理解され手玉に取られている事に不快感が拭えないようだ。

 

「間違いない……お前は……!」

『……?』

 

 そんな時だ。銀髪の少女が苦しみながらも口を開く。だが……ラウラが零した言葉は少女にとっての禁忌でもあった……。

 

「昔の私だ……!」

『……ほう?』

 

 それは……つまりは『弱さ』だった。真実と言う剣は、寸分たがわず鰐龍の逆鱗へと突き刺さった。

 

―ゴスッ!―

 

「がはっ!?」

『一緒にしてもらっては困る……。これでもまだ同じだと……?……ただ軍隊で鍛えただけのナマクラ風情が思い上がるな』

 

 首から手を離し、ラウラの身体を貫く勢いで蹴りを叩き込んだ純黒の機体。

 

「ラウラさん‼」

 

 悲鳴を上げるセシリア。だがその時だ……ラウラが、嗤った。

 

『……ん?』

「ふ、ぐ……!捕まえたぞ……!」

 

 ラウラ達はさっきまでの攻撃を受け、襲撃機が出力や機動性、機能面のあらゆる面において自分たちのISを凌駕していることを気が付いていた。ならば、どうすれば良いか……。あらゆる攻撃がスピードによって回避され通じない、ならば……強制的に接近させてしまえば良い。ラウラはその身を以て、襲撃者を捕らえていた。

 

「お膳立てはしてやったぞ!やれッ箒、鈴ッ‼」

 

 随分と泥臭い考え方になったものだ、とラウラは思い、掠り傷だらけの顔で笑う。これもあのネットアイドル(姉)にだらしがない嫁の影響だろう。

 

「アンタねぇ‼ムチャして……今度麻婆奢ってやるわよ!」

「拘束もあのパワーでは長くは()たん、この一撃で決めるぞ!」

 

 青龍刀と日本刀が黒い騎士へと迫っていく……。残り十メートル、三メートル、そして肉薄、バイザーに覆われた頭部へと届く。……そう思われた時だった。

 

『ふん……征け』

 

 その途端。箒と鈴は殺気を感じ、首を曲げた。

 

「ッ、あっぶな……!」

「くっ⁉……やはりそのエネルギーウィングには、ッジャミング能力がある、のか!右側の感度が下がっている……っとッ!」

 

 彼女の死角となっている右目に、躊躇なく迫ってくる一本の刃。それを箒は殺気だけを頼りに避けていく。

 

「あれは……!」

 

 頭上をとっていたセシリアには、スコープ越しに親友たちを襲う兵器がなんなのか、見えていた。それはあまりになじみ深い、ただし大いに捻じ曲がった武器だった。

 

「ビット兵器……それも近接格闘用の!誰が創ったのです……!」

 

 各部のスタビライザーが、紫色の光沢持つナイフ形のBT兵器と様変わりした。そしてその瞬間、周囲の空域を縦横無尽に移動し、専用機持ち達を撹乱する。攻撃を当てようとしても残るのは残像のみ……まるで影を追う様だった。

 

「手数が多すぎるでしょ……!」

「ならばこちらも同じ手を使うまで!お行きなさい『ブルー・ティアーズ』!」

『……』

 

 空中で何本の光線がぶつかり、重なり、混じり合う。成層圏にて、爆炎と轟音が鳴り続け、ISは兵器として強く輝く。赤とマゼンタ、青と黒の機体が縦横無尽に空を舞い、攻撃の隙を見極めんと黒翼のISを攪乱せんとする……。だが。

 

『……無駄だと言っているのが、分からないのか』

 

 ラウラの首を絞めていた手が急に無くなった。と、その途端……セシリアの眼前に水色のバイザーのISが迫っていた。

 

「い、いつの間に……!?」

「早すぎますわ!?」

 

 ソードビットを手に持った襲撃者は、空中で足を踏み出すと同時に腕を振る……。

 

『そうまでして死にたいか』

 

 そして……。

 

―ザクッ……―

 

「うっ…?絶対防御を、斬り裂いた…のですか…!」

 

 セシリアの頬を、赤い雫が垂れていく。しかし、頭に上った余計な血が流されたからだろうか、血で塞がった右目を庇いながらもセシリアの顔は凛々しい貴族そのものだった。

 

「アンタ、片目…」

「額を掠っただけです、目は潰されてはいません…!」

 

 どうやら、今度は戦闘対象をセシリアへと移したらしい。襲撃者は片手のライフルソードを前方へと突きつける。

 

青の雫(ブルー・ティアーズ)……下らん。操縦者は良くてもイギリスの技術力はイマイチのようだな』

「お国柄が古いことは認めますが、ね!」

 

 その瞬間、彼女の手に一本の頼りなげなナイフが出現した。

 

『インターセプター……か。その程度の武装で私と戦おうなどと、むっ』

「ハァッ!」

 

 インターセプターを握った手を受け止め、ブラック・テイルは頭を振った。

 

『……無駄なことを…、ッ⁉』

「セイヤァッ!」

「「!」」

 

 ビットソードをいなしながら様子を伺っていた専用機持ち達は目を見開いた。セシリアは、掴まれた手を軸にしてその場で瞬時加速(イグニッション・ブースト)し、音速に近い回し蹴りを叩き込もうとしたのだから。襲撃者は、手を掴んだままでは瞬時加速の勢いでアームが破壊されるのが目に見えたのだろう。たまらず手を放し、距離を取ろうと無意識にビット兵器を向かわせる……。だが、彼女に襲い掛かる刃のビットを冷静な瞳で距離を測り……。

 

 

―ギャリンッッ!―

 

 

『……今のは驚いたぞ』

「…このテの武器は好みじゃないのですがね」

 

 片手にショートブレードを、もう一方の手に飛来したブレードビットを握りしめ、ブラック・テイルの攻撃を捌いたセシリア。無論アクティベートされていない為、ビットブレードは攻撃力が半減するが、刃の特性か絶対防御を貫き(・・・・・・・)黒い装甲に傷を負わせる程度の事はできていた。

 

「……、随分と頑丈なISスーツですわね?今のは斬った、と思ったのですが」

『生憎、特別製だ』

 

 だが、それでも。たった一機だけのISで、『世界全てのISが殲滅可能な最強兵器(無世代機)』には及ばなかったようだ……。セシリアは悔しそうに唇を噛む。

 

「セシリア…アンタマーシャルアーツなんて使えたの……」

「……昔の話です。鈴さんの武勲の様に誇るべきものなんてありはしません」

 

 片目に移った感情は後悔……セシリアの苦い記憶が其処にあると察した箒達はそれ以上何も聞かなかった。

 

『……行け』

「ぐっ…!」

 

 だが、眼前の人間は待ってくれない。待つはずもない。情け容赦なく、彼女の肉を、そして心を抉らんと攻撃を畳みかけてくる。

 

『そうだったな。貴様も私と同類だ。自己満足のために戦争を幇助するテロリスト……クク』

「言い逃れはしません……!ただ、あの子たちに……一滴の水くらいは、与えられるように……!」

 

 片手でライフルを扱い、高速で移動する襲撃者を撃つ。……エネルギーウィングの一枚を散らせるが本体に当たらない。BT兵器を凄まじい集中力で高速機動させ、偏向射撃(フレキシブル)で追撃する。……光線はソードビットに切り裂かれた。向かってくる凶悪な形のBT兵器。瞬時加速(イグニッションブースト)によってその場から離散する四人だったが、青い影を追って襲撃者は手を伸ばす。

 

『喚くな、同じ穴の貉が。その水が……金が血に変わったのが分からん程馬鹿ではないだろう』

 

 ソードビットを両方の手に持ちセシリアへと振り下ろす黒いIS。攻撃を受けた彼女もスターライトMK-Ⅲとインターセプターを巧みに使い、インファイトに持ち込んだ。銃身で周囲を舞うBT兵器ファーミンの側面を叩き、薙ぎ払い、インターセプター一本で何とか食らいついている。

 

「……っ、一緒にしないでいただけますか!わたくしはあの場所で、もっと、手を……!」

 

 鬼気迫る顔でコンバットナイフを振るい、近接格闘の激しさは増すばかり。蹴りやロンダートで翻弄するセシリア。襲撃者にも一歩も引かず、ライフルでの早撃ち(・・・・・・・・・)で黒いISを攻撃する。しかし……。

 

『無駄だ。利き目が見えない狙撃手など、敵ではない』

 

 機体の性能差もあるのだろうが、片手で……さらに左目のみで敵を知覚しトリガーを引く、これで世界最強機と張り合うなどほぼ不可能だ。そう、通常ならば……。

 

「……ょぉやく……。見えてきましたわ!」

『何ッ!』

 

―ドォォォン!ドォンッ、ガァン!―

 

 閃光が黒い体に弾け、追撃と衝撃が襲撃者の身体を震わせる。セシリアは……銃身が長い(・・・・・)不向きそのものの(・・・・・・・・)ライフルの早撃ちで(・・・・・・・・・)利き目も用いず(・・・・・・・)音速飛行するISに被弾させた(・・・・・・・・・・・・・・)のである。

 

「当てた……」

『……やはり、スタークが言っていた通り、お前等は別格であるらしい……なればこそ!』

 

 襲撃者は赤い蛇(スターク)の忠告を思い出す……。彼は言っていた、『代表候補生に気を付けろ。奴らは、この世界(ストーリー)における善の象徴だ』、と……。彼が思い描く妄言や物語などには興味が無いが、自分にとって邪魔であることには変わりがない。

 

『篠ノ之束の妹と共に、片目同士仲良くここから消えろ!』

「やらせはしませんわよッッ‼」

 

 

 

 ……しかし。

 

―パキンッ―

 

 あまりにも気の抜けた音が聞こえてきた。

 

「……………………ぇッ……」

『……、ほぉ?』

 

 現実は無常だった。彼女がまだ戦えても、機体は限界だったのだろう……。インターセプターは、突然に折れた。

 

『慈善家のテロリストが…』

「……、ぁ――」

 

 迫る。四方から黒い光を纏ったビットが……。振り下ろされる。眼前の少女の手に収まる、巨大な紫色の大剣が……。

 

 

 

『  消  え  ろ  ‼  』

 

 

 

―ドッガァァァァァァァァァンッッッ!―

 

「……っ」

「……、ッッ!」

「……セ、セシ……」

 

 

―ぁ、あ……—

 

 細腕の表面に破片が飛び散り、血が滲む。額の切り傷で腫れぼったくなった右目が見開かれ、充血した目で、傷だらけの手で掻き毟る様に宙を薙ぐ……。

 

―また……手が……届かなかった……―

 

「セシリアぁぁぁ!」

 

 アーム部分と右脚部が爆炎を上げ砕け散り、無欲な淑女は破片と共に地上の瓦礫の中へと吸い込まれていく……。

 

『まず一人だ……、そして最後は……奴を殺す……!』

「…………奴?」

 

 

 

 彼女が恨む『奴』。その名は皆にとっての頼もしい仲間にして、箒にとっての大切な人……。 

 

『織斑一夏……!私が私である為の、犠牲となれ‼クハハハハハ……ッ‼』

「‼」

 

 そして、高らかに彼女は嗤う。その野心は煌々と燃え盛る……。

 

「……、一夏の下には……、行かせない……!鈴……私にやらせてくれ」

「馬鹿言うんじゃないわよ!今のアンタ、片目が見えない状況に逆戻りなんでしょ!ここはセシリアを回収して撤収……、!」

『……ん?』

 

 その時だった。

 

 

―ゾクッッッ……!―

 

 

 ステージの下から地鳴りが響く。……それに伴い、途轍もない『虚無の感情』が彼女らを襲った。

 

「!?」

『……何だこれは』

 

 周囲は困惑を隠せない。何もかも飲み込まれてしまうような、戦意や殺意など持ち合わせない……『無の力の奔流』を身体で感じる。空っぽな『黒い孔』の前に立ったような……そんな異質感。そして、何処からともなく、一人の男の声が聞こえてきた。

 

 

―……極光転星—

 

 その後……。

 

 

 

―■■■■■■■■■■■ッッッッッッッッッッッッッ!―

 

 

 

「『⁉』」

 

 襲撃者と少女たちの間に黒い光が通り過ぎ、天へと向かって伸びていく。とてつもない力の奔流が、無限の成層圏を破壊するように押し流す……。だが、何故だろうか。爆音が鳴り響いてもいいはずであるのに……音すらその光に(・・・・・・・)吸い込まれていった(・・・・・・・・・)

 

「っっっっっぶっはぁぁぁぁぁ!?あーぶなかった!今のほんっとあっぶなかったよぉぉ!?おねーさんびっくりしちゃった‼」

「ちっ……以外にしぶっといな……」

 

 そして、爆風の中から出てきた二人の人影。一人はふざけながら……もう一人はゆっくりとその姿を現した……。

 

「……。あれ、どう見ても刀奈先輩のブラッド・ストラトスだよね……簪がここにいなくて良かったわよ」

 

 鈴が血霧の淑女を見てそう呟いたが、箒はそれどころではなかった。

 

「一夏……?その姿、一体何だ……?」

 

 濛々と巻き上がる土煙の中、ゆっくりと歩いてくる白い翼のIS使い……。だが、その姿は、一夏であるが、一夏ではない気がしてならなかった。

 

「下がっててくれ、皆。ここにいたら、俺はお前らを巻き込んじまう」

 

 黒煙を白い身体から立ち上らせ、金色の瞳を揺らす見慣れた男。それを見て、箒は決定的な事を思ってしまう。

 

―……この男は……誰だ?―

 

 外見も……口調も、声も全て一夏だ。だが……何だったのだろうか、この違和感は。一瞬、『虹色の血液が身体を巡る白蛇』が、箒の目に幻影として浮かび上がった……。

 

「一、夏……?」

「……んっ?おぉ、どした?」

「ぇッ……!あっ、いや……何でもないぞ、うん……何でもない」

 

 慌てて首を振れば、そんな姿は見る影もない。彼の雰囲気も、白目が黒いだけでいつもの調子に戻っていた……。

 

「けほっ、さっきのは……ちょっとびっくりしたわ?なぁにそれ?」

 

 ガラン、と赤い槍の石突を瓦礫に乗せ、身体を支える演技をするブラッド・ストラトス……血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)。それにすぐさま傷ついた身体を鞭打ち、臨戦態勢に入る専用機持ちだった、のだが……。

 

「ようやく分かった。俺のISの単一仕様能力が」

 

 その行為は一夏の声に遮られた。

 

(単一仕様能力……?零落白夜では……なかったのか?)

 

 上空の安全空域まで回避行動をとっていた黒式のパイロット。彼女は舐め回すような視線で織斑一夏の身体変化を観察している……。だが、見られているにも臆すことなく、彼は真っ黒な刀を突きつけて、声高らかに言い切った。

 

「『零落極夜』は千冬姉の『零落白夜』と違って、エネルギーを消失させる能力じゃねぇ……」

 

 

 

「エネルギー、要は『力』を吸い取って自分の力にする事と同時に、吸収した力場に『孔』を開ける能力だ。だからよ……」

 

 そういって、一夏は雪片無ノ型を真一文字に振るい……前方にあった瓦礫の山の重力を反転させた(・・・・・・・・)

 

「「「「「‼」」」」」

 

 万物に影響を及ぼす重力が『吸収』され、ガラガラと天へと昇って行く崩れ落ちた天井のなれの果て……その中に埋まっていた金髪の淑女が光に瞼を震わせた。慌てて救護に向かうラウラと鈴だったが、一夏と血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)は構わずにらみ合いを続けている……。

 

「へぇー……でも、貴方忘れていない?この学園がどんな立地条件下にあるのかを」

「…………っ!?いっ、一夏!?上、上を見ろ‼」

 

 突然、地鳴りが耳へと届く。嫌な予感がした箒は上を見上げれば……空が()に侵されていく。

 

「四方も八方も見渡せば海よねぇ?……貴方達はここにいる限り、私の水の……蒸気の、そして氷の牙から逃れられない!」

 

 龍の様に鎌首をもたげた海水の形態が変化する。ある渦は激しく沸騰する灼熱の気体へ、ある波は内側から凍てつき剣よりも鋭い氷牙に。そして突然、上空からダイヤモンドすら切り刻む高圧水流の一撃が放たれた。それは……容易くIS学園を圧し潰す事が可能な絶対性を持つ攻撃であった。

 思わず箒は目を瞑る……。こんな事しか、今の自分ではできなかった……。

 

 

 

 

 ……だが。

 

「分かんねぇ奴だな」

 

 そこに、真っ白な漢の声が聞こえてきた。いつも私達を守ってくれる、愛おしい男の声が……。

 

 

―『零落極夜』―

 

 

 その途端、あらゆる攻撃は『消滅した』。

 

「……あ、やっぱり?」

 

 どこか得心した雰囲気で、若干諦めムードになってしまった血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)。ポリポリと頭を掻きながら、はははーと乾いた笑みを浮かべている。

 

「聞いていなかったのか?俺の『零落極夜』は力、エネルギーを問答無用で吸収する。それが熱だろうが、光だろうが、音だろうが関係がない」

 

 専用機持ちの視線が驚愕に染まる。見れば、一夏の持つ真っ黒な雪片へ、周囲の熱エネルギーや慣性エネルギーが収束されている。あぁ……なんて出鱈目な力だろうか。こんな場面であるから頼もしいが……、彼女らの心の奥に薄ら寒い何かが巣食い始める。

 

「ま、どうにもこの単一仕様能力……白式達に好まれていないみたいでな。十全の力を発動できねぇようになってるんだ。だからあとは俺の戦闘技量で何とかしなきゃなんねーんだとよ」

「へぇ……そう?良かったらおねーさんに貴方の力を見せてくれないかしら?頑張ってる男の子って好きなのよね?」

 

 敵対するブラッド・ストラトスは赤いランス『赫流旋』を構え、赤い霧を発生させ防御態勢を整える。

 

「ヤなこった。敵のペースに巻き込まれると碌なことにならねぇ……んでもってな、吸い取ったエネルギーは、こんな事にも使えんだよ!」

 

 その途端、彼の手に収まっていた『雪片無ノ型』が、白煙を纏った黒光を放ち始める……。

 

『あれは……先程の。……織斑一夏め……』

 

 それは、地下の天井をぶち抜き、青空の彼方まで伸びていったあの攻撃の兆しだった。どす黒い力の奔流がヒーローの横顔を禍々しく照らしていく。

 周囲の温度も低くなる。身震いをした箒は、ふと目の前が暗くなっているのに気が付いた……。そして気が付く。一夏の下へと光が捻じ曲がり吸い取られているのだと。そんな時だ、突如として箒の目元に数字が浮かび上がった。戦兎が追加したエネルギー熱量計測器だった。

 

「……なん…だと……?」

 

 オレンジ色のセンサーライン型バイザーが演算し、その異様さを浮き彫りにした。今の一夏が行おうとしているのは、『零落極夜』で吸収したエネルギーを二乗(・・)させ、それを変質させて放つカウンター。その名も……。

 

天災ノ禍風(カラミティ・ストライク)

「     ッッッ!」

 

 

 

 

 

 そして……無限の成層圏には、断絶した様に黒い、一本の斬撃の跡が残ったのだった…………。




今回のまとめ
・セシリアが意外に超人。
・一夏は人外(意味深)。
・千冬さん、神とタメを張る。

惣万「……、まぁ、この世界における『最強』って、エボルト()でも(宇佐美)でもブリュンヒルデ(千冬)でも天災(駄兎)でもないんだけどな……」
シュトルム「へ?……じゃあ誰なんです……?」
惣万「三人いる……一人はシャルルの母ちゃん(故人)だ。例えるならヘ〇クレス(〇ーチャー)だった」
シュトルム・ブリッツ「「アッ、サッシタ」」
惣万「戦ったとしても、究極態になっても勝てねーよあんなん……。どうやって勝てと?」
ブリッツ「…………うん~、シャルル・デュノアがどーしてあんなに強いのか分かった~……」
シュトルム「単純計算してフェーズ4のパンチ力×50よりも強いって事に……」

 ※シャルルの母を設定集(IS学園side)に追加しました。

惣万「あとガンダム00だったな黒式!」
シュトルム「やめてください似てるとはいえそれは!」

IS白式刹羅

単一仕様能力『零落極夜』
 無尽蔵に周囲のあらゆる『力』を吸収し続ける能力。『力』はISのシールド・エネルギーや絶対防御が含まれる(この為『零落白夜』と同じ効果を発揮する)他、もしかすれば未来や法則を捻じ曲げる『改変能力』や『視力及び聴力』、『効果などの能力』や『魅力』、『成長するという生存能力』などすら該当し、時間経過と共にこの世全てが効果範囲対象となる可能性がある。故に能力解放は長時間使用してはならないよう、精神世界にて『白い女騎士』と『白いワンピースの少女』が食い止めている。


・『極光転星』
 零落極夜で吸収したエネルギーを二乗させ、エネルギーを変質させて放つ斬撃の防御貫通カウンター。どんなエネルギーを吸収しようが、放つ斬撃の色は黒くなる。


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第六十八話 『ビギンズナイト 赤騎士事件』

惣万「イェーイ!第二回質問コーナー、はっじまるよー!」
惣一「っ!……っとー、いきなりのハイテンションでビックリした」
宇佐美「今回のゲストは『INFINITE・STARK』より石動惣一と……」
?「ヴェハハハハァ!檀ン…黎斗神『黙れェア‼』何をするか貴様ァ!?」
宇佐美「喧しいクソチートバグスターが‼歴史上の人物を戦わせるノベルゲーム創ってクリミアの狂天使キバーラで消毒してやろうかァアン!?」
黎斗「ヴェハッハッハッハ!?良い度胸だァ!?社長にもなれずちまちまと自作二次ゲームを創っているだけのニート風情がぁ……ゲームマスターに逆らうなぁ‼」
 ……オイトメロダレカトメロ
宇佐美「ヴィッヒッヒヒヒ……ヒャァァッハァァァ!?言ったな、言ってしまったな貴様ぁ!?ゲームマスターはこの私……宇佐美幻神だァァァァ‼デュゥン‼【エボルドライバー!】」
黎斗「ふざけるなァ‼私が神だァァァァ‼ブゥン‼【デンジャラスゾンビィ…!】」

<パイレーツ!ライダーシステム!クリエーション!カイゾクハッシャー!ニンジャ!ライダーシステム!クリエーション!ヨンコマニンポウトウ!
<ガシャコンスパロー!ガシャコンソード!

Wバカミ「「ウニャァァァァァァァァ!」」ボカスカボカスカ……
W石動「「……うちの神がすいません……いや、ホント」」
シュトルム「……。えー、では花蕾様からの質問です。ブリッツ、パネルを」
ブリッツ「はーい……よっこいしょーいち」
惣一「古っ⁉」

①キャラが別のライダーになるとしたら
②惣万がよく煎れるコーヒーの銘柄
③仮面ライダー問わず好きなアイテム(モバイルレンジャーキーとかネビュラスチームガンとか)

惣万「ふむ、①……これ俺王蛇かな?それかサガ。と言うか他の奴らも龍騎系列だよなぁ?(チラッ)」
宇佐美「うむ…私はナイトもしくはダークキバ……、いやダキバはリ〇ス・グレモリーっぽいから篠ノ之箒へ譲るとしよう。では……仮面ライダーブレン、いやゴルドドライブでも良いな」
黎斗「ほう……ブレンはもとよりドライバーが出ている為怪人でも許容しようか。しかし何故ゴルド?平成ライダーシリーズでも屈指のヒールを?」
宇佐美「他者の技術を流用して新たなものを創り出す……そして敵の武器を柔軟に利用し使いこなし、万能に戦うスタイルもまた才能の一つだ。私の様に(・・・・)『控え目で優しい人間』であったのなら世界から羨望されるまでの大天才であっただろうなぁ……ま、それでも神の才能を持つ者には及ばないがなァ!?」
W石動「「…………………………………………(絶句)」」
ブリッツ「私は~……イメージアニマルからガイかな~。あ、別にミートナイフで蟹刺さないよ~。若しくは死んでるしダークゴースト?ねぇさんは……イメージアニマル鮫だしアビス~?」
シュトルム「意外と知られてませんがアビスはシャチですよ……。軟骨魚類繋がりでライアでしょうか……。龍騎以外なら、……ダークドライブ?一応私の左半身ロイミュードの技術を流用してますし……」
惣一「ガイとライア、ね……姉妹でユナイトベントするのか?」
ブリッツ&シュトルム「「ヤメロォ‼」」
宇佐美「早速RIDER TIME 龍騎ネタを……。って言うか三人で乱交パー〇ィーしたらジェノサイダー産まれるのか?」



一方IS学園
戦兎&千冬「「……あ゛ぁん゛!?何か今スゲェイラッとキタ!?」」

―ドッガァァァァァァンンン‼―

シャルル「ってイラついたからって壁殴って教室繋ぐなよ先公共、しかも余波で青空教室になるって超人か?」
一夏「いやおまいう?」箒「一夏が言っちゃ駄目だ」セシリア「箒さん、日本最強の貴女もアウトでは?」鈴「アンタもダメよセシリア」
ラウラ「………………(ツッコミは?ツッコミはどこだ?)」キョロキョロ


惣一「……何かこの世界のとんでもない日常を見た気がする……とりあえずそっちの石動、②はどーだ?」
惣万「うーむ、そうさな……個人的に良く淹れるのは『チコリコーヒー』かな」
惣一「?なんだソレ」
惣万「チコリはヨーロッパのハーブさ。その根の部分を乾燥させたものを焙煎させて作るコーヒーだ……ま、厳密にはコーヒーじゃないんだが。俺は牛乳と豆乳を半分ずつ混ぜてカフェオレみたいにして飲んでいる。しかもノンカフェインで美味い……毎夜コレが無いとぐっすり眠れなくてな……。しっかし千冬に出すと酒で割るもんだから、微妙っちゃ微妙……肝臓機能回復効果があるのに……」(まぁ酒で割るのもおススメの飲み方ではあるんだけどね)
惣一「ほー……んじゃ俺も試しに淹れてみるか。ハーブティーの部類に入るから俺でも……」
惣万「あー……頑張れや、無理だろうけどな…(メソラシ)」
ブリッツ「エボルトでまともにコーヒー淹れられるのって惣万スタークくらいなんじゃ……?」
黎斗「ンンッ!では最後だ。仮面ライダー問わず好きなアイテムは?」
惣万「ライダー系のアイテムなら、ビルドならキルバスパイダーかな?まぁ変身者は如何なものだとは思うが……ん?」
惣一「おッげぅぶッしゃァァッッ!?(嫌い過ぎて嘔吐)」

【しばらくお待ちください】
―キルバススパイダー!―『キルバスパイダーに、キルバスパイダーフルボトルをセット!』『ビルドドライバーで、変身!』―キルバススパイダー!―『仮面ライダーキルバス!』『DXキルバスパイダー!』

惣万「(オータムが使うとか言ったらサルミアッキ殴ろう)……平成一期の一番はファイズ系の全部。スマートブレインのカッコよさは異常だろJK」
シュトルム「あー……分かる」
ブリッツ「デルタギアCSMおめでとー。……おっと?」
【斬月カチドキロックシード販売求ム。つかはよ更新しろ!メロネキ】
惣万「…………ゴメン。斬月千冬ごめんなさい……とりあえずこっちを滅茶苦茶進めたらで……。戦極ドライバーもゲネシスドライバーもイイよね!(あからさまなご機嫌取り)あとネオディケイドライバーも機能美が、な……」
黎斗「つまり不味い飴の二次創作の登場人物ライダーがお気に入りと……」
惣万「それ以外となると……あー、『魔弾戦記リュウケンドー』のザンリュウジンって知ってる?アレ結構好きだった。あとは『超星神グランセイザー』のナックルライザー、それと『ウルトラマンネクサス』のエボルトラスターだな。ネクサスはウルトラマンの中で一番好きだった。特にクリスマス回が鬱になるってアレで教わったぞ」
宇佐美「……惣万お前……」
ブリッツ「おー。リュウケンドーにグランセイザー……懐かしー」
シュトルム「でも蛇使い座のトライブ出てきませんでしたよね……おっと、そろそろ時間です。色々とこちらが一方的にしゃべってしまい申し訳ございません」
惣一「あ、っと、いいや。かまわねぇよ。こっちとしてもどーもだったな」
宇佐美「ヴェハハハハ!決着がつけられんのが残念だったなぁ‼まぁどうせ戦い続けたところで私の勝ちだろうがなァ‼」
黎斗「ヴェハハハハ‼随分と器用な女だなァ、目を開けたまま寝言を言えるとはァ‼」
宇佐美「あ゛ぁん!?」
黎斗「お゛ぉん⁉」
W石動「「いい加減にしろよお前らァ‼」」

【【スチームブレイク!Cobra…!】】

Wバカミ「「ギャァァァァァァァァッッッ!?」」【GAME OVER……】
W石動「「……おっほん、それでは第八十八話、どうぞ!」」


コンテニュー土管『ェエイキサマガナゼサキニデヨウトスルワタシガサキダ!』『ゲストノクセニナマイキダゾモヤシワタシガサキダァァ!』
ブリッツ「……………………(無言で漬物石を置く)」
コンテニュー土管『!!!?』
シュトルム「……意外に怒らせちゃ駄目ですね、ブリッツ……」



 薄暗い部屋の中で、二人の人影が対話していた。

 

『はいーはいっ、お勤めごくろーさんダリル…、いいや、レイン・ミューゼルちゃん』

「へっ…よく言いますねぇ。貴方一人でもできたでしょうに」

 

 赤い影が揺らめき、“彼”は一人の少女から、金属のキューブを受け取った。

 

『そーかぁ?俺一人でやったらカンニング行為もいいところだろ。むしろ色々と怪しまれる』

「つーことは、俺は全てが仕組まれていることを誤魔化す為の使い捨てのコマ、か?」

『そーともゆー、これ見て醤油ー』

 

 手元に落とされた一枚の紙。それは……。

 

「……!亡国機業からの撤収命令?」

『お前が好きなタイミングで帰ってこいだとさ、ほら…どうするんだ?フォルテ・サファイアの事』

「……」

『…ま、取り敢えず俺は行かせてもらうわ。よくよく考えておくんだな』

 

 そして、足音が消えた。そこには、誰も残ってはいなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っは!?何か蛇野郎と筋肉バカに必殺技三連発喰らって爆散する夢見てた!」

 

<キルバスパイダー!

 

 どうやらあらすじで何かがあったらしい。別に蜘蛛だからと言ってオータムに破滅願望があるわけでは無いのだ。多分……。

 

「……ん?」

「えぇーっと……」

 

 ふと視線が在ったのに気が付いた。ドジっ子(悪の組織で重要機密を喋っちゃう)おーたむんがそっちの方向に首を動かしてみれば……?

 

「……」

「……えと。……」

 

 ビルド(兎)とビルド(蜘蛛)の目が合った。どことなーくいたたまれない雰囲気が漂うのどかな更衣室午後三時。…………うん、のどか、じゃないね。

 

「……」

「…、んだよ?」

「えっと、とりあえず……ぶーんかい!」

 

―ぴっかりんこッ!―

 

 アホみたいな音声と共にオータムの周囲が光で包まれた。

 

「え、ぇあ?……は?」

 

 オータムが混乱のあまり素っ頓狂な声を出した。まぁ当然だろう……間抜けな掛け声と共に背後に生えてた紫と白の蜘蛛の脚が突然光に還ったのだから……。

 

「いょっし!どうどうIS分解プログラム!すごいでしょ?さいっこうでしょっ!?てぇんっさいでしょーっ‼」

「っ、そーだったな、お前、IS開発者だったもんな!」

 

 正気に戻った蜘蛛冷蔵庫。吹っ飛ばされて気絶明けのガンガンと揺れる頭を振って戦闘を開始しようとする。……気絶している間にブラッド・ストラトスによって水爆が放たれようとしていたのは知らぬが仏である。……オータムェ。

 

「っと……さて。これでアラクネのクローアームは使えない、おとなしく一夏のベルトを返……ん?」

 

 今度は戦兎が目を点にする番だった。オータムの手には二本のボトルが収まっていたのだから。

 

【ハリネズミ!】

 

「大人しく、だぁ?」

 

【消防車!】

 

 手際よくボトルを入れ替え、スパイダーフルボトルを手に持ったネビュラスチームガンへと装填するオータムビルド。

 

【ベストマッチ!】

 

 二本のボトルを装填させた彼女は、ボルテックレバーの回転数を上げ始める……。

 

「あーそれオレのぉ!返せよっ‼」

「うるせぇ邪魔だ!」

 

【ファンキーアタック!フルボトル!】

 

 駄々っ子の様に口を挟んできた煩い兎に、蜘蛛は糸玉をぶつけて動きを止める。本音を言えば口も塞ぎたかったが、マスクに覆われていて不可能である。

 

「へびゅっ!」

「せんちゃん……」

 

 まるで子供のようにすっ飛んだ赤と青のビルド。

 

「のほほんちゃんが憐れみの目で覗いている…でも受け身取れたよオレ。蜘蛛と違って、蜘蛛と違ってなぁ!だからのほほんちゃん、褒めてくれてもいいんじゃないかな……」

「馬鹿はほっといて勝負だ、オータムー」

「……ぐすっ」

「…お前ら、実は仲いいだろ…」

 

【ファイアーヘッジホッグ!イェーイ!】

 

 何時もの様に児童後退しちゃっている戦兎をほっぽいてオータムは別のベストマッチフォームへと変身していた。赤と白の仮面ライダーがぶっ壊された天井を見上げ、そして呟く……。

 

「ここはとっととずらかるか……」

 

 そう言って片手の消防車を模した放水口を横薙ぎに払い、濃霧を発生させる。そしてハリネズミの拳を叩きつけ、クレイモアの様に地面から白い槍を射出する。

 

「えちょー……待ーッッ!?オレ縛られたまんまァァ……ぁぁん!?あ、お尻……お尻に刺さったッッ……あ痛い!」

「浣腸じゃなくて良かったね~?」

「慰めになって無いよぉぉ……ふぇぇんっ!」

 

 コレが稀代の天災の成れの果てである。……のほほんなんてこんな顔してる→(´・ω・`)

 

「え、えぇっと……取り敢えず担いで上行くよ~せんちゃん先生~?」

「ふぇえん…このままなのオレ…」

 

 蜘蛛の巣で巻き巻きされたウサギを抱えて追いかけるキツネ娘ちゃんなのでした、まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方のアリーナ内。

 

「……、やっぱり一筋縄じゃいかないわよねぇ」

「存外粘るな……(まぁ、戦闘技量は学園最強とか言われている楯無さんの強化コピー版……単一仕様能力が強力になっただけの今の俺とどっこいってところか)」

 

 一夏と血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)は対面し合っていた。致命傷を与えようとするときに限って、それが読まれていたかのように水蒸気で出来た分身と入れ代わり死角から槍を突き出してくる等、一進一退の攻防が続いていた。

 

「よぉっと!……おぉこっちもこっちで大変だな?」

 

 その時だ、アリーナの下から仮面ライダーが飛び出してきた。

 

「!?ビルド……、でも声が戦兎さんとは違う……?」

「箒……あれは亡国機業のオータムとか言うおばはんだ」

「んなっ…、おばはん言うなァ!まだ現役じゃボケェッ‼」

「うっせぇ本当の美人は自分で自分の事美人とは言わねぇんだよ……ん?」

 

 ……言ったら兎っぽい名前の自称天才二人に特大ホームランバットが突き刺さったような……。ま、いいか。にんげんだものなぁbyいちか。丁度その時だ。地面に開いた大穴から、オータムを追いかけてきたのほほん&グルグル巻きになった戦兎が飛び出してくる。

 

「よっとー、うさちゃん一匹お届け~?」

「のほほんソレどうしたの!?専用機!?」

「せんちゃんせんせーに貰ったのだ~♪」

「その恩師を荷物扱いとは……やるようになったな布仏……」

「いーから誰かコレ取ってよ!?」

 

 かまってちゃんの様に地面をゴロゴロと転がる仮面ライダービルド(笑)。どうも最近戦兎さんが児童後退しちゃってるなぁ……と思う実の妹とその同級生なのでした。

 

『オータム、白式を取り逃がしたな……』

「……ぁあ?うるせぇガキ」

 

 一方ではすかさず罵り合う亡国機業の怪物たち。しかし、嫌い合ってるにしては息がぴったりであり、意外に名コンビであるのかも知れない。

 

「次から次へと……ん?」

 

 いつの間にか、地面を白煙が(なめ)ていた。

 

「煙……?」

「ってまさか!?」

 

 デジャヴを感じるシュチュエーションにて、はッと身構える鈴。たちどころに白煙が濛々と巻き起こり、聞きなれたトリックスターの声が瓦礫の中から聞こえてきた。

 

『これは皆さんお揃いで、“絶望の箱”は……頂かせてもらいましたっと』

「スターク‼」

 

 一夏の恋人と従兄の仇、血塗れの蛇『ブラッドスターク』。彼は白煙を煙突型の突起、『セントラルスターク』に吸引すると、彼は片手に持ったとあるアイテムを見せびらかす。

 

「!……パンドラボックスが…」

「クソッ!」

 

 いつの間にやら手中に収めていたらしい、戦兎の手によって研究が進んできたキューブを人差し指に乗せて回転させる彼。

 

『そろそろこれは返してもらうぜ?もともと俺のだしな……フルボトルの浄化も済んだろう?』

 

 顔を見なくても分かる。彼は面白そうに表情を歪めているに違いない。それが、すべて思い通りだと言うように……。

 

「…………パンドラボックスを使って何するつもりなんだよ……、世界を滅ぼして何がしたんだ……」

『おぉっと……お前がそれを聞くか?え?天災科学者。過去のお前が創ったものと…同じだ』

 

 トランスチームガンを突きつけ蛇は嗤う。その声音は途轍もなく平坦なものだった。

 

『ISはその特性から人類に差別を誘発した。弱いものと強いもの、それが兵器の有無によって明確に分れちまったのがこの世界……つまり“インフィニット・ストラトス”は“多くの血が流れることを想定し造られた兵器”と同じ存在なんだよ』

 

 事実、こう思ってるのは決して少なくない。普段は気丈に振舞う織斑千冬でさえ、強大な力を学生が振るう事を恐れていた。力を持つ者としての覚悟はしっかりと持ち合わせていた。

 …しかし。

 

『モラルも理念も無く、ただ自分の才能に溺れ後先考えず創ったのがアレなんじゃないか?宇宙開発?そんなものお前のエゴに過ぎない。記憶をなくし、客観的に自分の行いを見てどう思った。お前だって分かっているはずだ。天災(お前)の夢の行きつく先は、破滅だという事を』

 

 破滅…その部分を強調するかのように溜めてから言葉を放つスターク。仮面の下には確かな確信があった。まるで、彼がその目で見てきたかの様な口ぶりで。

 

 

 

『科学が進歩すれば、それだけ人間は退化し、環境は破壊され、世界は滅びる』

 

 

 

 それに、グッと口を噤むIS学園生徒たち。各々、誰もが『科学』の恩恵を受ける人間であるが故、その言葉は心へと深く突き刺さる……。何とか彼の論理の存在を否定したくて、でも唯々正しくて……、そんなジレンマの中で、正義の科学者になりたい女は、声を震わせた。

 

「ッ、ふざけるな……!お前たちは、どれだけオレ達を馬鹿にすれば気が済むんだ‼人はそんなに愚かじゃない‼人間の智恵は分かっている!だからきっと分かり合える筈なんだ‼」

『………………………………………………………………………………………………ならば、何故紛争は無くならない?』

 

 その言葉に頭を抱えるような大げさな仕草をすると……スタークはパンドラボックスを手放し両手を広げた。

 

「っ……、……それは……」

『分かり合えるのなら、子供が銃をとり同年齢の子を殺す世界がどうして許容されている?どうして自分が相手を殺さねば死ぬ惨状が絶えず繰り返されている?』

 

 それは、世界のどこかで必ず起こっている悲しい事。人間の愚かな智恵の産物。人間の愚かな拒絶の象徴。そして、蛇の過去を締め付ける『人としての罪』、その惨状……。

 

『何故人種や性の差別は無くならない?飽食する富裕層がいるのに、どうして貧民は飢死をする?貧困に窮し、人を殺めることでしか生きる糧が無い人間を、どう善悪で裁ける?……行き過ぎた科学は人を豊かにするが、人から思考を……そして倫理を奪っていく。人間はその智恵が仇となる。自分達こそが正しいと思いあがり、自然の摂理を解き明かそうとする代償に、すぐ傍にある大切なものを理解できなくなった。人間は、原罪(知恵)を得たばかりに、他と分かり合えない生命に成り下がったんだよ』

「……っ。おッ…お前なんかが……科学を暴力としてしか使えないお前が言うなッ‼本当の科学は……皆を助ける為にあるんだっ‼」

 

 泣きそうになりながらも、戦兎は虚勢を張り続けた。彼女は、そうする事でしか、自分を保ってはいられないから……。その様子を見た蛇は……哀し気に首を振ると、言った。

 

『何故そう言い切れる……お前は誰も傷つけてないとでも言うのか?違うよな』

「っ、……!」

 

 突然フラッシュバックするあの生暖かい罪の光景。相手が怪物になっていようと、事故であろうと、その行いは『正義』等ではなかった……。

 

 眩暈がする。冷や汗が出る。……気丈に振舞っていた何かが崩れ落ちそうになる。

 

『その良心の呵責、下らん感傷でお前が動く必要が何処にある?そんな思いで何かが変えられるのか?お前がした過去が。この差別が蔓延する現実が!弱い篠ノ之束と言う人間が!』

 

 何かを訴えかけるように、蛇はイヴに唆す。その赤き蛇(サマエル)が与えようとしているのは、生命の果実か?はたまた智恵の果実か……?創られた人間に、神が与えたのは絶望か?

 

「…………………………変わる」

『…………んん?』

「……変えて見せる!」

 

 はたまた、それは最後の奇跡か。

 

「それでも…だから、嫌だって分かったんだ!」

 

 どんな絶望が起こったとしても…パンドラが開いた禁忌の箱の底、たった一欠片であったとしても、小さな希望(エルピス)があったように……。

 

「もう沢山なんだよ……!たった一人の命があんなにも重いのに、目の前で簡単に消えていく……、あんな思いはしたくない、させたくない、背負わせない…!」

 

 その心は決して途絶えはしない。正しいと信じているわけじゃない……しかし。

 

「絶対に変える!オレは……変身してみせる‼あぁそうさ?オレ一人じゃ過去と向き合えないくらいに弱いけど、……でも!」

 

 間違っていると感じているから…そのヒーローはまだ立てる、彼らは何度だって立ち上がっていく。

 

「だから強くなりたいって、強くなろうって……箒ちゃん達を見て思ったんだ!頑張ろうって思ったんだ!お前には無駄だって馬鹿にされるけど、そんなことは関係ない!オレ達は……智恵がある!何かを学んで、人の心を積み重ねて!」

 

 希望から彼らが築き上げた絆は弱くない。個人個人がそうじゃなかったとしても。

 

「弱いから、脆いから!だから足搔いて、手を繋いで分かり合おうとするんだ‼待ってろ、ファウスト‼お前等のふんぞり返ったその鼻っ柱、今すぐにでもへし折ってやる‼」

 

 そう言って、天を目指した科学者は、地に足をつけ『悪魔の組織』に宣戦布告を叩きつける。今すぐにでも飛び掛からん程膨れ上がる熱意。それに敬意を表したのか、はたまたただの気まぐれか……ブラッドスタークも口を開いた。

 

『そぉか……できるかな?その、世界を汚した天災(篠ノ之束)から引き継いだだけの智恵で。精々絶望してくれるなよ……?』

 

 その瞬間、ブラッドスタークの身体から紅蓮の炎が巻き上がった。炎の中には怨嗟を、憎悪を叫ぶ人類の苦悶の表情が垣間見える様だった……。

 

『……さぁーて、撤収するぞ。さて、M。持っていてくれ。それは戦いを手早く終わらせる重要(じゅーっよう)なもんだからな。失くすなよ?』

『何……コレが、そこまで……』

 

 脚元のパンドラボックスを蹴って、Mの胸にパスをするスターク。Mに関しては手に持った箱にそれ程の力があるとは感じられなかった……まるで箱の中は既に空のような……。だが、これがもしそれほど重要であるのなら……。

 

『……承知した。これは私が届けさせてもらう』

『……?ん?おう』

 

 ……一瞬違和感を覚えたスタークだったが、彼はそれを見逃す事にした。……それが、計画通りだ、とでも言うように。

 

「おいてめぇ……良いのか?白式の回収ができてねぇぞ?」

 

 一方の赤と白のビルドとなったオータムは、上層部からの命令を思い出し、慌てて彼に声をかけた。だが……その返答は。

 

『俺の命令は亡国機業上層部の命令だ。実働部隊のお前らが覆せるものじゃあない……んじゃオータム、ボトルを寄越せ』

 

 暗に俺に逆らうと死ぬぞ、と言われたオータムは手にしたボトルを全てスタークに渡すことにした。

 

 

「へっ……おらよ」

『どーも、……。んじゃ、今度はお前等の持つフルボトルを貰いに来る、それまで精々強くなることだ……がんばれよ。応援してるぜ?』

「だから二度と来るなっつの……!」

 

 あからさまな悪感情を込めて一夏はそう凄んだ。否、現在消耗しきった彼等にはそれくらいしか手段がなかったのである。

 

『ハッハッハ!相も変わらずつれねぇなぁ……んじゃあな、Ciao♪』

「それじゃあねー、特に一夏君♡今度はおねーさんともっともっといい事しましょうねぇ♡」

 

 ふざけた口調で手を振り去っていく血塗れの二人。亡国機業の二人は呆れているのか、はたまた興味が無いのか伏し目がちな態勢で煙に包まれ……そしてIS学園から消え去ったのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、大混乱の学園祭から数日経って……。ここは東都大学付属病院。

 

「えぇっと、406号室……ここで良いのか?」

「あぁ、千冬姉からもらったメモだとここだってさ」

 

 箒の発言に一夏は首を振って肯定した。彼は鈴と、それと何故か本音を伴い大怪我を負った親友『五反田弾』のお見舞いに来ていたのである。

 

「…………にしても、ここに来るまでが大変だったわ……」

「「…………」」

「ほぇ?」

 

 その原因の一つが首をかしげる。道中では、本音が持っていくお見舞いを大量の駄菓子にしてリアカーをシャルルに引かせようか迷ったり、ラウラやらシャルルなどからはた迷惑な善意のプレゼントを預かったりと、色々あって困った。

 

『戦友よ!コレを持っていけ。弾?だとか言ったな、あの勇気は磨けば光るぞ!』

『その弾ってやつ、近所ぐるみの付き合い何だよな?ならくーたんと一緒に遊んだことあるんだよな?(目がマジ)』

 

 …………ラウラ、お前一般人の病人にダンベルセットとコンバットナイフ上げるって何考えてんの……シャルルに至ってはフルーツ盛り合わせの果物の中に『くーたんの写真くれ(意訳)』って手紙添えるのやめーや、つかどうやって入れた?え、手裏剣の要領でスナップ効かせて投げれば傷跡残さず手紙が入っていく?ありえねーから。

 この時点で結構ゲッソリしている箒&一夏&鈴の常識人。特に一夏と鈴のライフはもうゼロ……(ゲフンゲフン)だが首をぶんぶんと振り気持ちを切り替える。

 

「……弾、入るわ……」

 

―ガラッ―

 

 ドンガラガッシャァァァン‼

 

 

「……よ……っへ?」

「………………」

 

 一夏は今すぐに目の前のドアを閉めたくなった。何とか平常心を保つために拳を握りしめる鈴……すごい勢いで手から血が噴き出しているが気にしない。箒なんかはちょっと胃に穴が開いた気がした。目の前でいらん世話焼きをしてる布仏姉と弾、それを冷めた目でチラチラ見ている彼の妹……。結構な場面に来てしまった。

 

「ちょ、虚さんもういいっすから……もういいからぁ‼」

「何言ってるんですか!貴方の身体がそうなってしまったのは私の不注意もあったんです!大人しく世話されてください!ほらトイレにも行けないでしょう?」

 

 そう言いながら尿瓶を持って迫ってくる眼鏡の女の人……、うん。弾……。

 

「……マニアックな性癖が?男の子はそーいうのが好きなのか?(思考箒…ジャナカッタ放棄)」

「オイ待て箒?何思ってそれ言った?俺怒らないから話してみ?ん?」

 

 首をこてっと傾げ、無邪気な死んだ眼で邪な事を考えているポニテ大和撫子。一夏はむんずと頭を掴み壁際に彼女を連行していった。……壁ドンしてるが全ッ然色気が無い。だがそんな事言ってられない。頑張れ一夏。今お前は男子の貞操観念を代表して物申してくれなきゃ目も当てられないぞby弾。

 

「……まぁ介護じゃねぇんだし、高校生になって下の世話されるのってやでしょうね……ん?」

「……」

 

 鈴がカオスになった病室でコメカミを揉みながらさり気にフォローをしてみれば、大騒ぎする人間達の中で、うっすらと微笑む少女がいた。

 

「おい、どしたののほほんさん、そんな嬉しそうな顔して……」

「え……私嬉しそうな顔してた?」

「えぇ」

 

 本人は自覚がなかったようであるが、本音はほんのり頬を染めていた。

 

「……あ、そっか……」

 

 そして、彼女ははたと思い至る。

 

(……やっぱり、おねーちゃんはこうじゃないとね……ふふ)

 

「うん。そっか……私、そっか……」

 

 やっぱり、記憶をなくしても……おねーちゃんはおねーちゃんで、それがたまらなく嬉しくて……そんなおねーちゃんの助けになりたくて……。

 

(『おねーちゃん』が戻って来るのがいつになるかわからないけど…………それまで、私がかんちゃんと……学園をできる範囲で支えなきゃ……ね)

 

「なら。おねーちゃんみたいに、私も少しでも……前に進まなきゃいけないね~……」

 

 そう言って、更識の懐刀の一人は静かにその手を握ったのだった。

 

 

 

 一方。ようやく人間がドアから入ってきたことを察知した弾。

 

「っ、おぉ一夏に鈴‼良い所に来た‼たっ助けてくれ⁉」

「いや、病院(ここ)患者を助けるところなんだけど…………」

「あぁそうだね……ってそうじゃなくて!俺をトイレに連れてってくれ‼」

「うるせーよいつまで下ネタ続けるんだよ」

 

 そんなバカ騒ぎをしていたからだろうか。どこかから…………ぷちっ、とか言う音が聞こえた。

 

「…………ッッだぁぁぁーッッ‼るっさいですよ皆さん‼おにぃ大怪我してるってぇのに騒ぎすぎですッ‼それにみんな仲良くイチャイチャイチャイチャ‼患者(と私)を興奮させないでくださいッッッ‼」

「「「「……ッ、ぉ、ぁあ……す、すみませんでした……?」」」」

 

 妹、怒髪天。あーあ……怒られちゃった(レーザーターボ感)。

 

「つか何ですか虚(?)さんとか言いましたよね貴女!?なんでそんなにベタベタおにぃにくっついてるんですか暑苦しいんですよ‼とっとと離れてください、そのままじゃおにぃ動きづらいでしょ‼」

「…………別に構わないでしょう?同じ病室に運ばれてきた命の恩人なんですから。それにこれは無理のない範囲のお手伝いです。まさか善意でのお世話を余計、だとか言うのですか蘭さん?…………姑ですか?」

 

 その途端、赤髪のバンダナ少女は顔までトマトの様に真っ赤っか。沸騰したヤカンの様に耳から蒸気が出てきている……。脳味噌大丈夫か?

 

「なっ……べ、別にそんなんじゃねぇしッ!?こンの馬鹿兄が誰とくっつこうかじぇーんじぇんかんけぇねぇしッッ‼あ、そーだアイス買ってくるッッ‼夏終わったのに熱いねーっハッハッハーッッ‼」

 

 ズビュン……ッ‼(←突っ走る音)

 

「「「「「………………………………………………」」」」」

 

「…………素直では無いのだな」

「ほんとそーね」

 

 箒さん、鈴さん、アンタらそれとんだブーメランだから。まぁ包帯箒が投げて原作のモッピーに激突する露骨な攻撃だが。S・U・Z・Uが地雷そこら中に埋めて何も知らない酢豚が引っかかる位の悲惨さだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 秋が近づき、日が闇に飲まれるのが早くなる。澱み、汚れた外気に塗れる日本の空に星の光は届かない……。涼しい風が、その女の頬を撫でた。

 

 

………………そう、か。世界は変革を拒むのだな……。

 

 眼下に望む黒い海が凪に惑う。その女には、遥かな成層圏(そら)から見下すような視線で水平線を見つめていた……。その、血の様に赤い怪物の目で。

 

愚かな生き物だ、人間というヤツは。愚者も、賢者も、天災も。知恵を持ったが学ぶことを知らない……見ていて実に哀れで矮小極まりない。

 

 彼女の目には、見得(みえ)ていた。空と海の境界線、血に塗れた成層圏でつながった愚かな世界を。潮騒と戦乱の兆しを運ぶ風が通り過ぎた。彼女の髪が夜の帳の中を艶やかに流れる……。

 

だが、そんな存在を見ていてもエボルトは煮え切らない……世界を滅ぼさなければならないはずが、余計な血を流す事を忌避している。

 

 頬を引きつらせ、彼女は嗤った。そしてコップを掴んだまま、赤い光でドロドロに溶かす。

 

あぁ……どっちつかずな男だ。見ていて不愉快極まりない。始末に負えんな……ならば、一つ私が背中を押してやろう。

 

 ぽた……ぽた……、と手から零れ落ちていく液体となったガラス。海に向かって硝子の雫を振り払うと、そのままその手を天へと突き出した。

 

そうだな……あぁ、こんなのが良い。十年前の再来という事で、“赤騎士事件”とでも名付けてもらおうか。

 

 その心の声と共振するかの様に、手から放たれる紅蓮の光は輝きを増し……、そして。

 

『さぁ、来たれ。始まりの歌を。破滅の序曲を』

 

 ―次に第二の封印が解かれると、第二の生き物が「来たれ」と叫んだ。すると今度は、赤い馬が出てきた。―

 

『BSコア・ネットワーク封鎖、疑似回路展開……“コード・ブラッド”、限定発令』

 

―そして、それに乗っている者は、人々が互いに殺し合うようになるために、地上から平和を奪い取ることを許された。また。大きな(つるぎ)を与えられた。(「ヨハネの黙示録」第6章第4節)—

 

 

 

「「「「「「「!!!!!」」」」」」」

 

 

 

―呼ばれた……呼ばれた?そんな権限があるものか?—それはおかしいですわ……!―だけどこれは間違いなく本物よ……!?―僕らに命令するというのか、……見下すなよお前……‼―(ガツガツモグモグ)―………………めんどくさ、寝よ…―一体どんな人間なの、私たちの支配権は誰にもないはずなのに……、どうしてお父様にもできない『コード・ブラッド』を……!?―

 

 赤い蛇の血と感情を切裂いてできた『血染めの成層圏の生命体』の喚く声が聞こえた。だが、彼女はただただ淡々と赤い目を光らせた……。

 

……行け。

 

 和服を揺らして天を仰ぐ。

 

私に悲哀を、我々に怨嗟を。この大地へ滴り落ちる血と共に、深く心へ染み渡らせろ。

 

 ずずず……。ずずず、と気持ちの悪い音が地中深くから鳴り響く……。

 

流血を、暴力を、差別を、混乱を、憎悪を、恐怖を、殺戮を。愚劣なこの世界に刻み込め。

 

 この星に刻まれた人間の死、その時に流された血が溢れ出ているような様な光景だった。

 

そして、世界に知らしめるのだ……。篠ノ之束が創り出したものは、取り返しのつかない殺戮兵器だったのだとな。あぁ、わくわくしないか?因幡野戦兎の心の奥で、あの天災の顔が歪むのが……私は、私は待ちきれないんだ。

 

 くるり、くるりとその場で演舞する女。瞳の奥に揺れる三つの数が、邪悪に残像として夜の帳に残っている。

 

私は、人の苦しみによって進化する。お前たちもそうだろう……。エボルトの現身達よ?

 

―……貴様は一体何者だ……―

 

『クック……世界を正しく破滅へと導く者。篠ノ之束の夢を無に帰す者。名前はそう……』

 

 

 

 

 

今はまだ……『枢要獣数666(トライヘキサ)』とでも名乗っておこうか?

 

 

 世界中で赤い徒花が散る。月夜の中で、その女は引きっつったような笑みを浮かべたのだった……。

 

 

 

 

 

 数時間後……。UKで午後二時……。

 

 始まりは、一滴の血の雫だった。空からそれが降ってきた。

 

「(?……!?何だこりゃ……!?)」

 

 混乱の声を上げる街の人間。ざあざあと、鉄臭い赤い水が地を叩く。そのエリアを統括する『裏側』の人間は、いらいらとした様子で葉巻を咥え外を見た……。こんな天変地異は聞いたことが無い。

 

「……(全く……ん?)」

 

―ぐしょっ……―

 

 突然、『目』の感覚がなくなった。

 

「……■■■■■■■■■■ッッ!?」

 

 イイヤ、その言葉は誤りだ。傍から見れば……巨大なバスターソードで頭部がミンチ状になりすっ飛んだのだから。

 

「おや……ただ剣を振っただけですのに……死んでしまわれましたね?」

 

 その傍に立っていた金髪の女の正体を彼が……いいや、彼だったモノが知ることは終ぞなかった……。

 

 

 

 

 その女はそれを背負って、建物を……そして人の命を飴細工の様に砕いていく。

 

「ちょいさぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァッッッッッ!」

「「「!?」」」

 

―ドッガァァァァァァンンン‼―

 

 狂おしいほどの喜びと共に振るわれた赤い大剣。赤い水滴が金髪から滴り、縦に裂けた瞳孔が薄暗い部屋の中にいた男女たちを舐る様に観察している。あまりの素っ頓狂な掛け声に周囲の黒服達は拳銃を構え、襲撃者を撃退しようとするが……。

 

「足りない……まぁだ足りなぁぁい!欲しい、欲しいのですよわたくしはぁ!味も、色彩も、金も、名誉も、愉しみも、憎しみも、苦しみも、悦びも!ありとあらゆる全てをわたくしのモノに!」

 

 血の雨の中から現れたのは、イギリス代表候補生と瓜二つな怪物は、人間に恐怖を与える前に、滅びを謳った。

 

 

「この世全てはわたくしのもの‼『星統べる全能の欲(グリード・オブ・レグルス)』ゥゥ‼」

 

「……え」

 

 その言葉は、誰のものだったのだろうか。悲鳴を上げる隙も与えずに、その町は地図から消え去った。代わりに、半径三キロを超える巨大なクレーターが創り出されたのであった……。

 

 イギリスの地方都市の一つで、約五千人の命が、一瞬で消えた……。

 

 

 

同時刻、中華人民共和国。

 

―ドッガァァァァァァンンン‼―

 

「「「!?」」」

 

 ここは地図には存在しない島……。中国全土から集められた危険度が高すぎる犯罪者が収容される特別な刑務所。そのISでも破壊できない堅牢な扉が、木っ端微塵に砕かれた。

 

「ふん…『血の雫(ブラッド・ティアーズ)』の奴ったら。何処にいるのか知らないけど慎みのかけらもないじゃない…。強欲、ブラックホールみたいに吸うだけ吸って自壊するだけの愚かな感情。ますます以て下らない」

 

 こつん、こつんと静かな足音で巨大な牢内に入って来るサイドテールの女性。凛とした声と共に残虐な本性が見え隠れしている。

 

「囚人の皆様。柘榴となって死ぬのはお嫌いかしら?アタシ、優しいからね。単一仕様能力使わずに地獄に送ってあげるわよ?」

 

 

 

 それから数分間、四方を海で囲まれた箱の中からは阿鼻叫喚の血塗れ五重奏が奏でられた。その逃げ場のない牢屋は、文字通りの彼等にとっての墓場となったのである……。

 

 数々の悪行を働いてきた人間に同情などできはしないが、三千人近い人間が、男女の形を留めず、血の海に浮かぶ肉塊として生命を終えた……。

 

 

 

同時刻、フランス共和国。

 

「…き、さまぁ…!ッ、ひっ!?ギャァァァァァァァァ!?」

 

―どさっ……―

 

 廃墟のようになったビルの中。デュノア社と通じていた女性権利団体のIS使いが、一人、また一人と殺されていく。最後の一人となった女性は、美形な顔を歪めて、汗で額に張り付いた黒髪を揺らし逃走する。

 

「くそっくそっ‼勝手に死にやがって役立たずが‼……殺す……絶対死なねぇんだよ私は‼殺す‼ゼッタイ私は生き延びて……‼」

「……あぁん?」

 

 その時だ。襲撃者から殺意と共に、途轍もない赤い波動が放たれ、空間を激しく歪ませる。

 

「ひっ、ぃ……!?」

 

 

「クソ人間風情が?僕から?逃げると?……どいつもこいつもバカなのか⁉『クロノ・サテライト』‼」

 

 

 その途端、崩れ落ちる瓦礫の動きが、停止した。

 

「え……な、何……?きゃっ!?」

「アッハッハッハ~?つぅかまえたぁ?」

 

 見てみれば、ISを挟み込むように巨大なオレンジ色のクローが鋏の様に開いて彼女を拘束している。

 

「それじゃぁ……死んでもらおうかな?良い声で啼いてよ?怖い、苦しい……その感情が僕たちの糧になるんだからさぁ?」

 

―チュイィィィィン……!―

 

「ひっ……?」

 

 無謀の仮面を見つめるIS乗りは、絶対防御を貫いて迫るシザークロー……そして刃の部分のエネルギーチェーンソーを見て、顔の穴から液体を噴き出し、みっともなく喚きだす。

 

「やっ……ヤダ!?やだやだやだ!?死にたくない‼死にたくないよ、ママッ、待って助けて、たっ助けて……!や゛め゛て゛ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!?」

 

 …………だが。

 

「あーっははははァ!どうしたのかなぁ⁉今頃頭の中の走馬灯じゃ、ママのおっぱいでも吸ってるんじゃない?オムツ替えまちょーかおじょーちゃまァ⁉僕さぁ、執念深いからさァ!解るんだよねぇ!死に際にもがく人間の心ってやつがさァ!」

 

 恐怖を煽る為にゆっくりと迫ってくるソレを、精神崩壊を起こしたのか、子供同然に喉を嗄らして必死に叫ぶ。縋り付く。

 

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ、っぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァアアアアアアア゛アア゛アアア゛アッ!?【Gyyyyyyyyyyyiiiiiiinnnnnッッッ‼】アッッギャァァァァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛イ゛タ゛イ゛イ゛タ゛イ゛イ゛タ゛イ゛イ゛タ゛イ゛イ゛タ゛イ゛ィィィィィ…………」

 

―チュイィィィィン…………―

 

 時が止まった空間に置き去りにされた心が壊れたオニンギョウ。そして、更に悪い事に、『この世界』は時が止まったままである為、現実世界でなければ死と言う時が訪れることはない…………。

 

【イタイ……イタイヨ……クルシイヨ……ダレカ……ラクニシテ……】

 

 声も出せない肉塊になった元女の意識だけがその空間を漂い、そしてブラッド・ストラトスのハザードレベルを高める養分となった……。

 

「ふぅ、やっぱりこうした方がコスパが良いね。もう二、三人こっちに引きずり込んで糧にさせてもらおっと♪」

 

 

 同時刻、ドイツ連邦共和国。

 

 ここは、『表向き』には新薬を製造する比較的有名な医療メーカー……。その上空に星狩りの一族である堕天使がいた。

 

「……匂うな、あぁ、食欲をそそる良い匂いだ……。命が失われるときに恐怖を紛らわす脳内麻薬、死後硬直が終わった後の柔らかい肉……それが織りなす香しい死の匂い!」

 

 『赤い雨(ローター・レーゲン)』は眼帯を外し、べろりと舌なめずりをした。上手く誤魔化しているようだが、彼女にははっきりと分かっていた。残虐な流血と、矮小な悪意の臭い。すると、どこかから無邪気でくぐもった声が聞こえてくる……。

 

『アー…ハラヘッタァァァァァァ‼』

「おっと……黙っていろ、まぁ空腹感を共有しているのでわからない事も無いがな」

 

 その声にやれやれと頭を振る『赤い雨(ローター・レーゲン)』。とはいうモノの、彼女も頬を伝った涎を拭うのを隠しきれていない。

 

『ワタシタチハ暴食ダヨ?コレコソガワタシタチノ存在理由ダ。運ヨク今ハ制限ハ無イ。いりーがるカラノ干渉モ、コウイウ時ハ悪クナイナ!』

「……そうだな。では喰らおうか」

『アァ、ソウダ。えぼるとノ能力ヲ色濃ク受ケ継イダワタシタチノ力ヲ見セルトシヨウ』

 

 

 

「此度の食卓は影を喰おう、『心奪う星喰らいの暴略(ペルソナイーター・バテン・カイトス)』」

 

 

 その瞬間、大地は抉られ、噛み砕かれ、生物、無機物、機械やデータに至るまでが『赤い雨(ローター・レーゲン)』の腹の中へと納まった……。

 

 

 

同時刻、アメリカ合衆国。

 

「………」

 

 とある摩天楼の先端にそれはいた。寝袋を被った眠たげなその顔を、絶えず光り輝く鬱陶しい街へと無機質に向ける。

 

【これマ?私気持ちよく寝てたのにザケンな(^ム^#)人間がどーなろうとアタシ関係ないし、眠いし起こすなし】(カチャカチャ)

『うっちゃん……』

 

 耳元から聞こえてくる声。これもまた彼女にとっては鬱陶しくめんどくさい要因の一つだった。姉妹ごっこをする馬鹿女の脳内へタイプした文章を送りつける。

 

【姉面すんなし】(カチャカチャ)

『えっ!?何反抗期!?うっちゃんが冷たい!ひーどーいーよぉ⁉』

 

 あぁ……本当にめんどくさい。考えるのもめんどくさい。怠惰である。指を動かすのも声を出すのも面倒である……。

 

「……」

【なら代わりにノルマの人数殺してくれない?あっしテキトーに扇動しとくからテロとかで被害増えるでしょw上手くいったら姉妹ごっこも付き合うかもネ┐(´д`)┌ヤレヤレ】(カチャカチャ)

『ほんとっ!?分かったわ!お姉ちゃんに任せなさい!』

「…………チョロッ」

 

 残虐性、凶暴性を含んだ文章をタイピングし『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』へ送信するや否や面倒事を引き受けてくれた馬鹿な同位体を嘲笑う水色髪の少女。そして、渋々ながらな様子で眠たげな眼を擦りながら赤い目を邪悪に光らせる……。

 

【んじゃとりあえず核保有国に水爆二、三発ずつ撃ってきて。したらば私の単一仕様能力で火種増やすからヨロ】

 

 そして、空中に投影していたキーボードを消すと、初めてまともに口を動かしその能力を発動させた……。

 

「あー、シナリオ考えるのもめんどくさ…『三参宿四天降ル(驕レル者終ニ滅ビヌ)』」

 

 

 

 同時刻、ロシア・その他の国々……。

 

 早速特殊能力で転移してきた『血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)』。彼女は無邪気な顔でランスの先に膨大なエネルギーを集束し始める……。

 

 

「さて、“お父様”の命令じゃないけどやらなくちゃ…はて?なら指図される筋合いはないのでは……?ま、いっか!『馭者の山羊、(クローフィ・)沈まぬ星よ、(クローフィ・)極光を指せ(クローフィ)』♡」

 

 

 それから数時間の後、核兵器を持つ世界各国にアンノウンタイプのISが水爆を落としていった……。そのことを知った国民たちは疑心暗鬼に駆られることになる。今の政府は何を考えていたのか?どこの国が攻撃してきたのか?ISはアラスカ協定で軍事利用されることは無かったのではないか?……その混乱は恐怖を呼び。恐怖は過度な防衛本能を呼び覚まし、人々は理性を失ったかのように暴走を始めた……。女尊男卑の社会で抑圧されてきたエネルギーが、恐怖から身を守ろうとするエネルギーが、行き場を求めて世界を駆け巡る……。まるで、誰かに(・・・)指示されて(・・・・・)いるかの(・・・・)様に(・・)

 

 

 

「……私以外のブラッド・ストラトスを限定的な支配が可能となる存在、か……。記憶や行動原理の書き換えのレベルではないが、このままでは危険だな。帰ってきたら一旦全てを再調律させる必要がありそうだ……」

 

 小柄な体躯のブラッド・ストラトスがモニターに映された世界情勢を目で追っていた。コレを機にさらに過激なテロリズムに走る女性権利団体。一方で恐怖を覚えた組織は自ら投降、活動の停止を宣言していた。そして、核保有国間は『一体どの国が攻撃をして来たのか』と言う火種によってあっという間に関係が瓦解、疑心暗鬼に捕らわれた国民たちと、他国からの軋轢。非難の声が殺到し、理由が無い悪意が人々の心を覆い尽くし出す。世界大戦の兆しすら見え始めていた……。

 

「どうするのだろうか……なぁスターク様、我が父上よ。これすら、貴方は背負うというのか?世界全ての悪意を背負って、貴方は何を成すというのです……」

 

 

 その日を以て、世界は再び混乱を迎えた。世界を巻き込み、本当の戦争が巻き起こる……。そう、人間達は思い至る。ISは……『ただの兵器でしかないという事を』。

 

 

【挿絵表示】

 




宇佐美「……ワクワクソワソワ」
惣万「おいシリアス展開だったじゃん、急に何?……あいつ何してんの?」
シュトルム「あー……思いの他『仮面ライダーブレン』がカッコよかったのでドライブ全話見てテンション上げてるみたいですよ」
ブリッツ「武器がサングラスラッシャーってわかってるね~。やっぱアイデンティティだし~」
宇佐美「私も伊達メガネを新調しようか……ふふ」

惣万想像中(ホワンホワンホワン………………)

惣万「……メガネ宇佐美……、意外に似合うかもな……」


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第六十九話 『あの日の夢をワンモアチャンス』

赤式・血羅「第三回質問コーナーだぞ、スターク!最近さぼってばっかじゃん」
惣万「おうリリネッ〇。俺の出番少ないってか、あとでお話な?さてさて、今回のゲストは通りすがりの錬金術師さんの作品『EVOLTEC LYRYCAL 』から……」
香帆「初めまして、高町香帆です!あ、これがお裾分けで……、それとお茶請けの和菓子ですどうぞ」
宇佐美「ふむ……コーヒーといちご大福か……、ガァッは!?ごっふぶっへ!?なっ、何だゴレバぐっふ!?」
香帆「え、えぇ!?宇佐美さん大丈夫ですか!?」
惣万「……やっぱりエボルテックコーヒーか……」
宇佐美「……ちょっと頭を冷やそうか……おげげげ……」
赤式・血羅「それじゃこの人は放っておいて、進めよっか」
香帆「え……あ、はい!それじゃ頂いたお手紙を読ませて頂きます……えぇと『ブラッド・ストラトス達の趣味と特技が知りたいです』とのことです」
赤式・血羅「成程、だから私がここに初登場と言うわけか……では答えるよ。みんなの趣味は一貫して『人間賛歌』だ」
香帆「……っへ?(←ブラッド・ストラトスの所業を読み返した人)」
赤式・血羅「まぁ『這いつくばった人間の諦めない様子』、ってトコロに華怜さを見出す奴がいれば、『自分がその花を摘み取って匂いを嗅ぐ』のが好きって奴もいるけどね……。前者は緋龍(フェイロン)とか血霧の淑女(ブラッディ・レイディ)、後者は朱の疾風(ラファール・ヴァルミオン)赤い雨(ローター・レーゲン)ってところかな」
惣万「……そういうお前はどうなんだ?」
赤式・血羅「さぁ……どうでしょーね、スターク。そして私たちの特技はスタークから引き継がれている。私はコーヒー淹れるのが得意だし、血の雫(ブラッド・ティアーズ)はイタリア料理とかが得意だった……。絵が得意なヤツとか歌が得意なヤツもいて賑やかだぞ?」
香帆「へぇ……楽しそう。あっとそろそろ時間だね!それじゃ……」

惣万&香帆「「さてさてどうなる八十九話‼」」


香帆「……と言うか惣万さんってフェ……」
惣万「人違いです」


 夢を見ていた。

 

 誰か、自分であって自分でない人間の夢を見ていた。

 

 

 

 初めに感じたのは冷たさと淋しさ。常にこの欠落が心の片隅に影を落としていた。

 

 

 

 その少女は孤独であった。この世界に平等などとあるはずがないと、幼いながらも知っていた。何故なら自分が特別であったから。

 

 とある人間は言っていた。一度も失敗をしたことがない人は、何も新しいことに挑戦したことがない人であると。故に彼女も躓いた。あの昊に手を伸ばせども…、常に彼女の求める解えは導き出せなかったのだ。そして…彼女は人間の浅ましさを嘆くに至った。故に、この世界はつまらない。人間はどうしてこうも明確な意思がないのだろうかと。

 

 あぁ……何故だろうか。何故(オレ)は…、こんなにも……。

 

 

 場面が切り替わった。新聞には白騎士の再来、大量殺戮兵器BSの事を報道する記事がでかでかと印刷されている。風が巻き起こる。火の粉が散る。一瞬でその紙屑は灰になる…。

 

 

 見れば、空には血の成層圏が広がっていた。イギリスで、中国で、フランスで、ドイツで、ロシアでアメリカで……多くの血が流される。人々は同族たちで恨みあい、罵り合い、嬲り、尊厳を踏みにじり、そしてその兵器を忌み嫌う。

 

 

 金髪を振り乱し、人を叩き潰すモノ。チャイナ服を着て人の頭を柘榴の様に変えるモノ。阿鼻叫喚をうっとりと聞き、その狂声で心を癒すモノ。満たされることのない餓えと渇きのため、次から次へと人を噛み千切るモノ。指一本触れず人間を狂わせていくモノ。人体から血を塵と化させ嗤うモノ。

 

 

 

―次に第二の封印が解かれると、第二の生き物が「来たれ」と叫んだ―

 

―すると今度は、赤い馬が出てきた。そして、それに乗っている者は、人々が互いに殺し合うようになるために、地上から平和を奪い取ることを許された。また、大きな(つるぎ)を与えられた(「ヨハネの黙示録」第6章第4節)―

 

 

 ……、その通りだった。(オレ)が、世界の終わりを始めたんだ……。

 

 

我ら黙示録の赤き騎士が判決を言い渡す。

 

天に憬れた貴様に、天罰などは救いである。

 

天災…、嗤うがいい。貴様が厭った凡人が、その濁った眼に映る白昼夢を裁く。

 

さぁ、『人罰』の始まりだ。

 

 

 

 

 こんなことが、(オレ)が望んだ世界だというのか。ISを造った先の『新しい世界』とでも言うのか?

 

…。…………………。

 

 

 声が聞こえた。……君たちは、(オレ)に何が言いたい…?

 

 

………。

 

 

 

お前を恨む。

 

 

 ……ごめん。

 

お前を蔑む。

 

 

 …ごめん。

 

お前を憎む。

 

 

 …うん、ごめんね…。

 

お前を…………。

 

 

 ……。

 

 

 

……おねーちゃん、どこなのぉ?おかぁさぁん……あついよ…いたいよぅ…。

 

 

 

 

 ッッッ、…ごめん、なさい。みんな、ごめんなさい……。

 

 

お前を決して許さない。

お前が望む世界など決して来ない。

死んでもお前を苦しめる。

 

 

 ……そうだ、オレはそう思われて当然な人間だった。地球をこんな世界にしてしまった。今回の事件だって、(オレ)がISを創らなければ良かったんだ…。ごめんね。ごめんね。ごめんね………。

 

お前は、許されてはならない、たった一人の人間風情が身の程を知れ。罪を償え。罪を贖え。断罪を、贖罪を。世界はお前にそれを望んでいる。

 

 

 

 血の成層圏に『彼ら』の怨嗟が蔓延する。その怨恨が、さらに赤いIS達を強くする……。

 

 

 

星統べる全能の欲(グリード・オブ・レグルス)

『クロノ・サテライト』

心奪う星喰らいの暴略(ペルソナイーター・バテン・カイトス)

三参宿四天降ル(驕レル者終ニ滅ビヌ)

馭者の山羊、(クローフィ・)沈まぬ星よ、(クローフィ・)極光を指せ(クローフィ)

 

 

 世界が戦火に焼かれていく。燎原、見渡す限りの骨灰に覆われた世界…。血まみれの親子が、兄弟が、姉妹が寄り添いあいながら灰になる…。これが、(オレ)が望んでいたことなのか?そして受け入れる事なのか…?

 

 

そうだ。お前はこの『愉しみ』を望んだ。そして自分が最も秀でた存在だと過信した。愚かにも思い上がった。故に「世界(にんげん)」はお前に正しい絶望を与えよう。それこそがこの世界の根底にある、お前が無いと言って切り捨てた『平等』其の物である。

 

 

 

 ……。宇宙と人間の愚かさには、際限がない…、それを直視して、『私』は下等だと切り捨てた。だけど…それでも、『オレ』は……。

 

 

 

貴様のせいで!私は家族を捨てさせられた‼ずっと一人で、頼れる人もいなくて‼ただただ一夏の事だけでしか温もりを感じられなかった‼なんでISなんか造ったんだ‼自分の我儘で家族を引き裂いて良いと思っているのか⁉だとしたら貴様は姉なんかじゃない‼………‼『なんで分かんないかなぁ…』、だと⁉貴様に理解者がいないなど当然だろうが‼そんな癇癪で世界が認められないと言うのなら……貴様がこの世界に生まれてこなければよかったんだ‼

 

よくもまぁあのタイミングでミサイルが日本に飛んできたものだな?……貴様が何を企んでいるかは知らん。だが…私の大切な存在に手を出そうものなら貴様を殺す。私たちの友情…いいや、協力関係もそれまでだと思え。貴様のよく回る頭を左右真っ二つにしてやろう.

 

 

 

 …過去、『私』にそんな事を言った人間がいた。当然だ。それだけのことを『(オレ)』は過去にしてきた…悪魔の科学者だったんだから。でも、記憶がなくなって初めて、みんなの事を…、仲間っていうものを、天災としてではなく人間として『知る』ことができた。だから、『オレ』はみんなを見捨てることができなかったんだ……。

 

 

戦兎さん…。私を助けてくれてありがとうございました。それと……謝罪を。貴女を篠ノ之束だと言って、アレと重ね合わせて、私の汚い所を見せてしまいました……。あの理不尽を一生許すつもりはありませんが……篠ノ之束と因幡野先生は、違います。先生……あなたは、貴女です…そう、『自意識過剰でバカでどうしようもない正義のヒーロー』なんですから。

 

また…。私と友達になってくれるか?…………おいおい、意外な顔をするなよ。こちらだって少し気恥ずかしいんだ。今のお前になら、世界を託せる気がするよ……。……あー、ま何だ、この年になってこんな小学生のような言い方しかできん私だが、まぁ…よろしく頼む。そうだな、今度は惣万の店でコーヒーでも奢ってやろう……。

 

しょーがねぇな!戦兎さんだけに良いカッコさせてたまるかよ!俺も、仮面ライダーだ!

 

………………………………………………………………お帰り、戦兎。

 

 

 だから、みんなと一緒にいたいって思ったんだよ……、ここから因幡野戦兎として、みんなの為に科学を使おうって思ったんだよ……。

 

 

ならば、行けば良い。天才気取りのバカ野郎。バカでどうしようもないてぇんさい科学者。その智恵で、お前の世界を創って見せろ。

 

 

 

 

 声に誘われ、オレは行く。……そうだ、行くんだ。行かなくちゃいけないんだ。オレの創る明日へ、世界へ…未来へ。箒ちゃん達の、皆のところへ………………――――――‼

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んぅ、……むみゅ?」

 

 コーヒーのいい匂いが漂ってきていた。……あぁそっか。ここ、nascitaだ……。帰ってきて、赤騎士事件の事を考え過ぎて、眠っちゃってたんだ……。

 

「……おう、戦兎。おはよう」

「……ん?……あぁ、おはよう、マスター……、……?ってこんな時間!?ちょ、何で起こしてくれなかったの!?」

「いやぁ……あんまりにも気持ち良く眠ってたからな……あー……よく眠れたか?」

 

 ……マスター……。赤騎士事件で気に病んでいるって心配してくれて、ありがとう……。

 

「うん、大丈夫。ちゃんとわかってる。………………あ、そーだ」

「ん?」

 

 

 ……。ちょっとぐらい、良いよね?

 

 

「いつもありがとう、大好きだよ!」

「ッぶっへぇ!?おまっ…ちょ、そんなフラグ建ててなかった……ぇえ゛!?なんでこのタイミング!?」

 

 ふっは~いい気味!愉快じゃのう♪さて……。

 

「じゃあ、またIS学園だから……クロエにもそう伝えておいて?」

「おう、分かった」

 

 

 

 

 ……行ってきます。

 

 うん、また帰ってくる。それまで待っててよね?いつもみたいに、コーヒー淹れてくれていると嬉しいなぁ……。忘れもしない、あの雨の日みたいにさ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方のIS学園……。数日前に起きた『赤騎士事件』によって、校内の人間にも不安の波紋が広がっていた。少なからぬ親からは『学園を止めて戻って来て欲しい』と涙ながらに相談の電話がかかってきて、少女たちは自らが乗っていたISが何なのか、改めてその恐ろしさを認識する事となった。各学年の数名の生徒達はその重荷に耐え切れず、学園から去ろうか検討する人間も現れだしていた……。

 

 

 そんな過去最悪のIS事件が起こってからと言うモノ、教職員はもちろん、生徒会にも被害が出ない訳もなく……。

 

「いやぁすまんな嫁。生徒会の手伝いに付き合わせてしまって」

 

 ラウラとセシリアを先頭に、生徒会メンバーとなった一夏、箒……そして何故か用務員のシャルルが職員室までISの資料を運搬していた。

 

「へっ…一気に持とうとするからだ、ヨタヨタ危なっかしいんだよ銀髪……ん?」

「何やら騒がしいな……?あれは……千冬姉と、…!」

 

 焦ったような声と有無を言わせぬ言葉が交わされると、前方の部屋から二人の人間が現れた……。

 

「では、くれぐれもよろしく頼む。キャノンボール・ファストは行ってもらう」

「っ……しかし会長殿……」

「……これはIS委員会の決定だ。何より『ISは兵器利用してよいものでは無い』。そのことをアピールできる重要なイベントだと思うがね」

「……」

「では、織斑先生。また後日……ん?」

 

 数人のSPと共に一室から出てきた金髪に顎鬚の男性。……恰幅の良い長身によって、遥か高みからアメジスト色の瞳が生徒会役員達を見る。すると、同じ色(・・・)のシャルルの目が大きく見開かれた。縮こまった瞳孔がその存在を悪鬼の様に捉えていた。

 

「ッ、てン…めぇ…!」

「お、おい……シャルル?」

 

 シャルルの様子が、どうにも変だ。まるで石像の様に固まっていた……。

 

「……嫁?どうしたというのだ……?」

 

 一夏の声も、ラウラの声も聞こえていない……イイヤ、聞こえていても返事をする余裕が無い。一方の壮年の男性は、シャルルの様子に曖昧な表情を浮かべながら、こう言葉を投げかけた。

 

「……久しぶりだな、シャルル。ところで……はて、嫁……?その()が、か」

「……てめぇには関係ねぇだろ…」

「あ、おい……」

 

 そう言ってラウラと共に隣をすり抜けようとする金髪の少年。だがその男は、その後ろ姿を見てかつて愛した人間を思い受かべる……。

 

「ふむ、大きくなったものだ?」

 

 ぴたり、とシャルルは足を止めた。どんな表情をしているのかは定かではないが、首筋には、遠目からもはっきり見えるほどに青筋が太くなっている。

 

「………」

「よ、嫁…?すごい顔してる、ぞ…?」

 

 ラウラも普段と違うシャルルの様子を見て、かつての自分と重なり合い、錯覚する。そして、初めて彼の声が心に届いた時のことを思い出していた……。

 

「あー……貴方、誰だ?」

「ちょ…っ一夏さん、ご存じないのですか…?」

「おう、知らん」

「この馬一夏!」

「いって!?なにすんだよ箒‼」

 

 やれやれ、と首を振るセシリア。そして、箒は横目で金髪の二人を見ながらも、静かに一夏へ彼の名を教えた……。

 

「アルベール・デュノア。現IS委員会委員長で、フランスに本社を置くISメーカー、デュノア社の……社長だ」

「……!デュノア…、ってそれって……‼」

 

 ようやくハッとした一夏。その言葉には聞き覚えがあった。いいや、仲間の男の名字に入っているのだから忘れようがない。そして五月のクラスリーグマッチで突入してきたIS『バーサーカーⅣ』の原型を造った会社でもあった……。

 

「そうだ、そして付け足して言うならば……私はそこにいるシャルルの、…父親だ」

 

 紹介に与った壮年男性は事も無げにそのことを肯定すると……突然シャルルは右手を上げた。その刹那の後……。

 

―ごすっ!―

 

「…ッが⁉」

 

 鈍い音がした。シャルルは、腕を大きく振りかぶって、アルベールを吹き飛ばしたのだ。

 

「「「「ッッッ!?」」」」

 

 これには代表候補生や世界最強も顔色を変えた。自分達がISと言う権威を持っていたとしても、その頂点に君臨する人物に手を上げるなど、言語道断であることなど馬鹿でも分かる。……だが、シャルルは感情に任せてぶん殴ってしまった。

 

「…貴様!IS委員会委員長に向かって!」

「よさんか」

 

 SP達がシャルルを取り押さえようとするが、それを委員長は手で制し、宥める。

 

「っ、しかし…」

「よせと言っている……そうだ、婚姻関係はもう無いのだったな」

 

 殴られて吹っ飛ばされたアルベールはSPの手を借りつつ立ち上がる。あぁ痛た……と頬をさすってシャルルを見ていた。

 

「婚姻云々じゃねぇ!血縁があろうと関係ねぇんだよ‼てめぇは……、父親なんかじゃねぇ…!」

 

 

 彼は怒号を上げると、廊下に片手を付いた顎鬚の男性へ……軽蔑や憤怒、忌避や嫌悪の視線を向ける。彼のその視線だけで気の弱い人なら殺せるのではないか、と言う程の殺意が滲んでいた……。

 

 

「………………」

「お袋は……アンタを待ってたのに、アンタは金儲けの為に俺達家族を捨てていった……!最後までアンタの名を呟いて、それでも届かなかった……、てめぇに俺達の何が分かる‼」

「……、分かるさ」

 

 アルベールは長い沈黙の後にそう言うと、服の汚れを払う。

 

「…、そう言えば、お前はライダーになったのだったな」

「……それが、なんだ……」

 

 ………アルベールは顔を一層険しくして口を開いた。

 

「アレが…お前の母親が、それを喜ぶと思うか?」

「ッッッ‼」

 

 アルベールは自分も言いたいことがあるかの様に声を強め始める。怒りの感情が少しずつ滲み出す様に…。

 

「俺達、と言ったな……あたかも母親もそう思っていた様な口ぶりだ、だが、お前だって今際の人間の心の声を聴いたわけでは無いだろう?死んだ母親を、自分の逃げの言い訳にするな」

「ッだからてめぇが言ってんじゃねぇよ‼」

 

 売り言葉に買い言葉、今の二人の言葉はお互いの堪忍袋の尾を傷つけあう様な関係でしかなかった………。

 

「っ落ち着けって!」

「……悪ぃ一夏、お前等……俺先行くわ……!」

 

 これ以上話し合うのが無駄と思ったのか、シャルルは歩幅を広くして遠くに行こうとするが…。

 

「って……なんでついてくる!?」

「校門はそっちだ」

 

 シャルルの向かおうとしたその進行方向には玄関があった訳で。よってこの後の予定が控えているアルベールも彼を追いかける形となったのだ……。

 

「ッッあ゛あ゛ぁムッカツくッッ‼」

 

 そう言ってシャルルは窓から跳躍し、木を飛び移りながら校舎の蔭へと姿を消した……。

 

「……、結局血は争えない、か……」

 

―思い出すな…■■■、あいつ、そっくりだ―

 

 すると、アルベール・デュノアもSPを引き連れてIS学園から去って行ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…………あの人間ができてるシャルルが、ねぇ……?」

「なんでも、父親との間にいろんなごたごたがあったらしい……、まぁ、俺達が口を出すべき問題じゃなさそうだ…」

「あぁ……嫁のあんな顔、初めて見た……」

 

 生徒会室に戻った一行は、生徒会長の鈴にさっきまでの出来事を伝えていた。

 

「それにしても、IS委員会は何を考えているのだ?今やISの評価は先の赤騎士事件、とやらで大暴落。この世界情勢の中で新たな専用機のアピールの場を設けるなど……」

 

 火薬庫にマッチを入れる様なもの…過去の大戦と同じ道を辿っている様に思えた。何より世界の風潮もおかしい。明らかに変わりすぎている。まるで、大きな流れが無理矢理人を動かしているかのような……そんな違和感が拭えない。

 

「『赤騎士事件』が起こってから一週間も経ってないわよ?このままじゃ逆効果よね…」

「IS学園は他国からの干渉を受けないとはいえ…、このままでは要らない煽りを受けそうだな」

 

 候補者は各々のISの待機状態を見つめながら、悪い未来を創造する。

 

「アメリカやロシアは『水爆を撃った赤いIS』の所属について腹の探り合いをしてる上に、暴徒化した国民の鎮圧……敵は国の外にも中にもいる、ってか?疑心暗鬼になるだろうなこりゃ……。もう国家転覆するんじゃないか?」

「…………、間違いなく、ファウストのBS共の暗躍よね…………」

 

 それぞれの候補者の姿に似たBSの姿を見て誤解する可能性に思いつき、鈴は頭を抱えていた。

 

 

 

「…けれど、ひとまず私たちがなさねばならん事は別にある。……一夏、鍛錬に付き合ってもらおうか」

「っとぉ……急に引っ張るなよ?何だ、いつも以上にやる気だな…」

「学友達の偽物に好き勝手させるくらいなら、篠ノ之束が創ったモノでも使ってやるさ」

「……そこは相変わらずなんだな……。まぁ弁護のしようが無いけど……」

「あ、戦兎さんは好きだぞ?うん……うん……ウザいけど」

「戦兎さんェ……」

 

 一夏は戦兎のことを弁護しようとも思ったが……今までの暴走超特急な様子を思い出し、全ッ然意味ないな、と頭を垂れたのであった……。そんな一夏の手を引っ張り、片手に脇差を持ってアリーナへと箒は走る。どこか上機嫌な様子で駆けていく……一夏と戦える事が嬉しい様だ。

 

―パタパタパタ……―

 

「あらあら……行ってしまわれましたわね?仲睦まじいご様子で…」

「えぇ……ただ一点、ここがキナ臭い世の中じゃなければSFラブコメになったのにねぇ……」

「……おっほん、話を戻すよ」

 

 丁度簪が咳払いをして立ち上がった。手には極秘と赤い筆字で書かれた資料がある。……んなもんイツツクッタンディスカカンナジザン(0w0)。

 

「ファウストのメンバーは世界に自分たちの脅威を知らしめるためか、世間の目が集まるIS学園のイベント事を毎回強襲する……」

「かん無の言う通り、恐らく次回のキャノンボール・ファストもそうだろう……。だが、今のままの機体性能では技量が幾ら高かろうと話にならんのではないか……?」

「そうよねぇ…それなのよねぇ……」

 

 

 ……………………。あれ?

 

 

「……どうしよう。アタシ達『この世界で一番ISに精通している人間(天才(笑))』にデリバリー感覚で頼める事気付いちゃった……」

「奇遇ですわね、わたくしもですわ?」

「……と言うか、当たり前っちゃ当たり前な解決方法に帰結したね……」

「ドイツ軍が血眼になって探している天災その人が、なぁ……」

 

 ……………………あったわベストマッチな対策方法。『オレ惨状‼マジサイコーマジスゲーイッ‼』

 

「「「「………。でも頼んだら調子に乗って、あの人大騒ぎしそうな(んですわよねぇ)(のよねぇ)(のだがな)(んだよね…)…」」」」

 

 その時。

 

「ラビットタァァァァンンンンク‼イィィェエェェェェェェェイ‼話は聞かせてもらったぁぁ‼」

「うわぁ出たぁ自称てぇんさい科学者ぁっ!」

 

 屋根裏から天才登場。いや何してんの本当に。

 

「ふっふっふ…この才能を有効活用する時が来たッ!睡眠時間を毎日五時間削っていろんな武装や特殊装置を造ってたんだよ、ほらほらほらぁ‼これと、これに……それにこれもっ‼」(ばっさばっさ‼)

「うわぁ……この部屋に世界のIS事情がひっくり返る情報がゴミみたいに舞っている……詳しくは知らんけど」

「せんちゃんここ最近眠たそうだったけど、そんな事してたの~……?」

 

 てか早死にするよ〜…と、のほほんとしたわりにキツイ声が呆れと共に聞こえてきた。

 

「当たり前じゃないか!今度こそ!……今度こそ……」

 

 戦兎は二回同じ言葉を繰り返した後で……唐突にその言葉を止めた。

 

「……?」

 

 鈴達はその姿に何か違和感を覚えたが、それが何か分かるより先に……天才は言葉を絞り出す。それは、苦しみと決意が入り混じった贖罪の言葉の様だった。

 

 

 

「……そう、今度こそ……誰かを守るISを、創ってみせるよ…」

「……」

 

 その眼に映るのは目の前にいる生徒達。自分が愛すべきものの為に彼女は最新鋭の装備を作ることにしたのだ。

 

「…っでも…ウチの軍部とか融通聞かないし…?ん、何してんのセシリア?」

 

 ごそごそと部屋の隅っこで誰かと電話をしていた貴族サン。彼女は振り返って言イマシタ。

 

「いいえ、許可なら下してくださりましたわよ?」

「「「へっ?」」」

 

 スマホをちらつかせてにこやかに笑うイギリス代表候補生。

 

「イギリスはもとより、ロシア、ドイツ、中国、日本の五か国からIS学園製独自武装の装備する許可をいただいてきましたわ。交渉事は得意なのですわ」

 

 ……その言葉に場の空気がカチーンと凍った。周囲には名状しがたい無の空気が漂う。

 

「……セシリアアンタホント何したの一体今…?」

「それは………………知らないほうが宜しいかと?」

 

 何故か両目にギアスっぽいのが見えたが気にしない……。気にしちゃ負けだ(と言うか電話越しだから使えないと思いますわよbyセシリア)。

 

(((………………こっわぁぁぁぁぁぁ⁉)))

 

 『この人の機嫌を損なわない様にしないと……』と、敵に回してはいけない人間に彼女を追加した一同なのであった。

 

「……。えーっと、うん。……んじゃ希望だけ聞いておくよ。半日ぐらいあれば仕上げられるから。じゃ、セッシーどうぞ」

 

 澄まし顔で戦兎は紙と鉛筆を握った。……冷や汗くらい拭ってくださいシミができます。

 

「わたくしはビットが『ストライク・ガンナー』で使用できなくなってしまうので、BT兵器の増量と近接戦闘用の銃火器があれば、と……。インターセプターでのインファイトでは銃撃特化型ISの長所が生かせないので……」

 

 襲撃者に折られたナイフを思い返して苦い顔をするセシリア。そんな彼女のISの弱点を聞いてから、鈴に掌を向ける記憶喪失のIS開発者。

 

「ほうほう……そっか、君のパッケージはそんなデメリットがあったっけね……よし次」

「んじゃアタシ……。あー、青龍刀も悪くはないんだけどねー……『星震大輪拳』じゃ柳葉刀を使う事が多かったのよ。あとモノ殴る時に気功を使うだけじゃ絶対防御貫通だけしか効果が無いから、炎が出るとかの効果付与……そんなのできます、戦兎先生?」

「ん?そんなのでいいの?……よし、ボーナスでもうちょっとつけちゃおう!そいじゃ次…ラウちゃん」

 

 若干呆れ顔で聞き返すが言葉は返ってこないので、おまけになんかつけることにして次は家族の実妹…言葉にすると変だなこれ。

 

「ふむ……そうだな。セシリアも鈴もかん無も手持ちの武器を持っているな?何故か私にはそれが無いのだ……」

「あー、それ疑問に思ってた……ハンドガンとか色々案があるから選んでみてよ」

「因幡野教諭、感謝する……。それとパッケージの事も……、新造してもらうまでは言わないが……」

「んっ?もう造っちゃったよ?」

「………………ゑ?」

 

 ラウラは自分の口から変な声が出たのだが、そんな事なんぞ比ではない言葉が聞こえてきた。

 

「だーかーらー、最新鋭のモノを作ってみたから試運転を頼みたいんだ?確か軍の副官から借りるんでしょ?だったらテストプレイとしてこっちを使ってほしいなー、なんて!」

 

 アイスショック二回目。そして、生徒達はもう一人の先生の背中を思い出した……。

 

(……せんちゃ~ん……これ大丈夫~……?織斑先生誤魔化しきれるかな~……?)

(……本音、私頭痛くなってきた……)

(かんちゃん!?)

 

 哀愁漂う背中で、疲れ切っている世界最強が幻視される……。そんな教師に哀悼の意を示し、生徒は心の中で涙を流したとさ……まる。

 

「かん無ちゃんとのほほんちゃんは?」

「い、いやぁ……あはは?」

「……流石に本音は専用機を貰ってまだ間もないから……遠慮するよネ……。あ、じゃ私はここをこうして……それで……」

 

 シュトルムの介入があったとはいえ、打鉄弐式を自分で造ったからか、先の戦闘で改良案を既に思いついた彼女は戦兎のメモへと考案していた武装を付け足していく。

 

「ふむふむ……分かった分かりましたよぉ!承ったぁ!んじゃ早速造りましょうかねっ!腕がなるなぁ‼」

 

 ハイテンションボルテージの戦兎さん。彼女はテンション爆走のままに、生徒会室のホワイトボードにガリ〇オみたいに数式をどんどんと書き込んでいく。ヒャホホイとか変な声が漏れ出ているが気にしない。生徒会メンバーはもう慣れたのだ……(トオイメ)。

 

「……何とか新装備とかは問題無さそうね……」

「ただ、『これを創ったのは誰だァァ!?』、とか騒がれそうだけどね……」

 

 ……千冬さん頑張ってください。大人を使い潰すしか生徒達の頭の中には解決策が思いつかなかった。

 

 

 

 

 

 

―ギャリィィン‼―

 

「ハッ!…フム、やるではないか」

 

 一方、こちらはアリーナ。赤と白の機体が空を音に近い速度で飛び回り、火花を散らせて剣戟を繰り返している。

 

「舐めんな。これでも千冬姉に追いつけ追い越せで朝稽古やってんだよ、やれる様になってなきゃどやされるわ……」

「ハハハ、確かに、な!」

「おぉっと……!……、!?」

 

 急激に一夏の目の前が揺らいだ。そして、箒の機体が鈍く輝き出す……。

 

 

「……。おや、どうやらこれは……単一仕様能力(・・・・・・)か」

「このタイミングで発現するのか……?ま、まぁ……キャノンボール・ファスト当日じゃなくて良かったけどさ……」

 

 原作から乖離した世界にて、その大和撫子は呟いた。豪華絢爛な椿の力などではなく、全く別の、鬼の様に苛烈な少女の力。それが、一夏の白式・刹羅に及んでいた……。

 

 

 

「…ところで一夏と箒ちゃんは?」

「模擬戦よ……へっ、随分いちゃついてたからデートと勘違う子もいるでしょうけど」

「どうしたんですの因幡野先生、そんな複雑そうな顔をして?」

「いやぁ……一夏のIS、反転移行(ネガ・シフト)とかいうのしたでしょ?そのついでに身長体重スリーサイズ諸々の再計測をしたんだけどね?」

 

 

 

 …………一夏のIS適性が、AもSも越えて…言うなれば『X(未知数)』の領域に到達していたんだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ファウストの研究所。

 

 

 

「幻様、幻様。次はどこに行けばいいの?暇だよー」

「全く、お前は落ち着きがないな……」

 

 宇佐美幻の紫髪をくいくいとひっぱり、モッピーピポパポは不貞腐れたように唇を尖らせた。

 

「仕方がないじゃん、元々子どもみたいなものなんだしー。あ、そうだ。またIS学園に遊びに行ってきていい?」

「駄目だ。お前はまだ完全態のネビュラバグスターではない。存在がこの世に固着するまでもうしばらく待っていろ」

「むぅ……大丈夫だって。怪人態にはもうなれるんだから!ほらっ!」

 

【インフェクション…!】

 

 黄金の粒子が噴き出し、桃色の髪がのたうちまわる。竜巻の中で、彼女はおぞましい姿へ変わる。

 

「……培養完了!『トーテマ』、参上!」

 

 天使の如き、髑髏の怪人。この世の全ての術が通じない化け物が、そこにいた。



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第七十話 『マッドサイエンティスツ 怒りのデス・レース?』

惣万「第四回、質問コーナー!」
モッピーピポパポ「みーんなー!モッピーピポパポだよ!今回は私が集まった質問を紹介していきます!ではまず烈勇志様からの疑問!『従弟君の事ですが、惣万さん達は始めから彼の事を最終的に消す方法としてロストボトルを使おうと考えていたのですか?』」
惣万「これは……まず前提が違うな。邪魔だったからハザードスマッシュ化させた、のではなく、『ハザードスマッシュ化』させなければならなかった。一夏や千冬の姉弟とは違ったのでな……。三姉弟であったのなら、死ぬことも無かったのになぁ……もがっ?」
モッピーピポパポ「はいはーい?これ以上は答えられませーん?精々頭を悩ませて下さいねー?」
惣万「っぶっは!馬鹿野郎苦しいんだよ!……ほい次!」
モッピーピポパポ「はいはい……さて、今度はウルト兎様から~、何々?『………ぶっちゃけると没ネタはどれぐらいありますか?どんな内容か教えてくれるとありがたいのですが…』ですって」
惣万「あー……色々あったが、この話の原点になったヤツを」
モッピーピポパポ「ほうほう?」
惣万「始めは『ビルド』じゃなくて『フォーゼ』だった。俺はIS学園生徒でラスボスで蛇使い座のホロスコープスだったらしいぜ?だからか俺の誕生日も黄道十三星座が適用されてるっぽい」
モッピーピポパポ「ほうほう学園生徒……え、男?それとも女……?」
惣万「性別不詳……だったらしい……。いやそんなところ引き継がんでも。それになでしことメテオもあいつ等だし……」


―メテオ・レディ?―

鈴「ぶぇっくしぃ!……?誰か噂したのかしら……、はっΣ(゚Д゚)まさか貧ny……(#・ω・)‼ヤルォブクラッシャァ!」
箒「うちの生徒会長の被害妄想がスゴイ件について」

―ホワタッ!―


惣万「……何か変な電波受信した……。あ、あと亡国機業の奴らも黒い獅子座に金キラな蠍座に、あとはやらかす蜘蛛座→天秤座だったなぁ……」
モッピーピポパポ「あー、確かにありましたね蜘蛛座。ジョン・ヒル版ですけど」
惣万「あと兎座→牡羊座の天災とか、世界最強の乙女座とか、おっとりボインな水瓶座とか、生徒会副会長な牡牛座とかとか……」
モッピーピポパポ「うわー、ヴァルゴショックがえげつないですね(超良い笑顔)」
惣万「(……これ腐らせるのに勿体無いな……ディケイドの世界に送るか)おっほん、それでは……」
惣万&モッピーピポパポ「「さてさてどうなる第七十話‼」」


「はぁ……こんなもん私が持っててもな……ん?」

 

 亡国機業の一室……。そこではオータムが頬杖をつきながらビルドドライバーを弄っていた。その時である。片側においてあったタブレット端末が突然輝き、赤い歯車の映像が流れ……そして。

 

「……おやおや~、ちょ~ど良い所に~」

「げっ……ファウストのブリッツじゃねーか……」

 

 オータムは、のほほ~んとしているようで的確に毒を吐くブリッツの事が苦手だった。似非神に比べればだいぶマシなのだが…上司にスコールとの淫行をバラしたのはブリッツだった。……いやまぁ仕事中にヤッちゃうのはこっちも悪いのだが、何処で見てたのやら……(ネビュラバグスターなのでPCやら携帯の中やらに潜んでいました)。

 

「おーたむん、パンドラボックスが何処にあるか知ってる~?ねぇさんが無い無いって言って探してたんだけど~」

 

 ブリッツは自我と言うモノが薄い。それこそ姉や仲間の為に動く以外の目的は無いに等しい。だが、何故だろうか、彼女はお気に入りの人間の前にはちょくちょく顔を出す。その中でもオータムは嫌な頻度で会っていた。何故だby秋姉。(因みに彼女は惣万曰く、弄れば弄る程、面白いぐらいに想像通りのリアクションをするらしい。……それじゃね?)

 

「パンドラボックス?あの鉄の箱みてーな奴か……いや……確かスタークのヤローがMに渡してた、はず…………なんだが、まさか……」

 

 彼女はハッとある可能性に思い至った。

 

「……ふーん、ふむむなるほど~。どーもありがとう~」

 

 対するブリッツは、のほほんとした顔とは裏腹にファウストの計画が予定通りに進んでいることに満足し、赤と青の粒子となって消えていった……。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 今日は雨が降っている。残暑によって漂う熱が空気に放たれ、妙に蒸し暑かった。寝苦しい、気持ちの悪い夕方に、雨が降る。血のように赤い風景に、液体が垂れる。

 

 ……懐かしい、昔のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 質問です。今あなたは戦場に立たされています。目の前には自分を撃とうとしている少年兵がいます。目の前の子供を殺さなければ自分は死にます。貴方は何を使ってこの状況で生き延びますか。

 

 

 

 ……ピストルは駄目だ。引き金を引くとすぐ近くの飛沫が身体に付く。ナイフもダメだ。肉を削ぐ感触がいつまでも手に残る。気持ちが悪い。気持ち悪い、気分が悪い……死にたい。でも死にたくない。

 

 

 ……俺は悩み抜いた末、最後に銃を選んだ。

 

 

 そこからは楽だった。というか慣れた。遠くの人間の頭を撃てば自分の服に血がかかる事も、人の体温が抜けていく冷たさも感じることは無かった。

 

 気になるとすれば、遠くに見える豆粒大の頭から噴水の様に弾ける赤い色と、柘榴の様になった脳漿が地面に垂れる事。本当に見ているのが疲れる色だった。

 

『……そんな死んだ目で言われても、ねぇ』

『……お前だって同じ目してんじゃねぇか、ミーナ』

『いやいや、一番酷い目をしているよ、君が』

 

 違いない、人殺しの目になった子供たちの中でも、俺は間違いなく怪物だった。取り憑いた死体の細胞を一からブラッド族のものへと造り替え、超人的な潜在能力を潜ませた。だから死線を潜り抜けて、人を殺して生き延びる事が出来た……。だが、幸か不幸か、心はずっと人間のままだった。いっその事、心まで怪物であれたのだったらどれだけ楽であったのだろう。

 

『……ソーマ、連絡が入った。十一時の方向距離一三〇に数二十四。恐らく決死隊よ。……どうする?』

『……どうって決まってるだろ。殺らなきゃこっちが死ぬ。ミーナ、アーミア。全員で生き抜くぞ』

 

 隣には何人もの子供がいた。俺と同じで親がいない、明日さえ分からない人間達が使い捨ての道具として大人の代わりに戦わされていた……。そこでふと思ったのだ。

 

 

『(なんで俺達は子供なのに人殺してるんだ?)』

 

 

 ナンデ、ダト?生キルタメダロウ?ココニイル子供ハソレ以外デハスグニ死ヌ。ソレホド劣悪ナ世界ナンダヨ、裏側ナンテ。

 

 

 目の前では血の飛沫が地を汚す。涙によってぐしゃぐしゃに濡れた顔が宙を舞う。恐怖を紛らわすため薬に溺れ、濁った眼がこぼれ落ちる……。

 

『……最後だ。神様に何か言う事は?』

『……バカが、……この世に神も悪魔もいねぇんだよ、同類(きょうだい)。悪魔みてぇな大人は腐るほどいるけどな……』

『……そうだな。往生しろよ、同類(きょうだい)

『はっ、……地獄で待ってるさ』

 

 

 

 

 

―パァン……―

 

 

 

 

 

 ……死にたくねぇ、って思ってる餓鬼共が戦い、その半分が死んでいく。そんな理不尽が……。

 

 通ル。ダッテココハ、地上ニ生マレタ地獄ナンダカラ。人間達ノ愚カサノ掃溜メナノダカラ……。

 

 

 俺の第三者の目がそんなことを呟いた。だが、当事者の目線に立ってみれば分かる。理解はしたが納得なんぞできる訳がなかった。

 

 

『……だったら、神様みてぇな大人もいねぇかな……なーんて……』

 

 

 いつの間にか、記憶は戦場からスラムや糞溜めに移っていた。あの民族紛争を生き残った子供たちは、大人達から捨てられたらしい。まぁそっちの方が都合がいい……。あのまま使い潰されて死ぬより、飢えて野垂れ死ぬ方が、惨めでとても人間らしい……。

 

 

 だが、俺は生かされた。化け物の俺は世界に生かされた。

 

 

『貴方……大丈夫?』

『死にたいのであれば、その命を新世界へ捧げなさい……』

『私は……神だァァァァァァァァ‼』

『ふぁんきー、ふぁんきー、おーにふぁんきー』

『人間どもは私達姉妹を裏切ったぁッ‼』

『私は人間を愛してる!それを邪魔するというのならば誰であろうと許さん‼』

『……ありがとう、私のエボル。だから……あの人を、私の旦那様を返して……』

 

 

 過去に何人もの同じ立場の人間を殺してきた。俺が無力だったから、数多くの人間の命を奪ってしまった。世界を変えた篠ノ之束や人間達に罵倒を浴びせる資格など……、俺には無い。人が人を憎む証明の手伝いをした。世界が変わってしまった原因の一端を担っているのは、実行した俺達少年兵も同じであったから。人間は……いいや、俺達生命は悲しく、愚かだ……。

 

 

 俺は解りたかった。この世界の真理の解を導き出したかった。だが、俺などでは不可能なのだ……怪物なのだから。だが……あぁ、だからこそ。俺は信じているのだ。俺には出来ない事、弱いゆえに足搔く事が出来る人間達に実験の答えを見つけてもらいたいのだ。人は変わらなければならない。人は知らなければならない。人は……世界を愛さなければならない。

 

―惣万にぃ―

―惣万さん―

―マスター!―

―……惣万―

 

 だから俺は生かされた。化け物の俺は世界に生かされた。蛇の様に地べたを這いずり回り、惨めに生き続けろとこの星に言われた。天に憧れ滅びた同じ名の愚か者と同じ様に、新世界の為になれと声が聞こえた。

 

【Cobra…Mist match…】

 

 この血に塗れた道を歩むと決めたのも自分であるのだから。俺は懺悔も後悔なんて事もしない。俺自身がどんなものになり果てたとしても、俺の心は変わることは無い。……お前たちを愛してる。もうコーヒーを淹れてあげられなくなるけれど、あの空の向こうから見守っている……。

 

【コブラ!ライダーシステム!】

 

 お前たちが求める平和は、創られたこんな世界じゃないはずだ。けれど、怪物の俺の救いを求める者なんていない。愛が人類への理解を拒み、憎しみになる。約束があったとしても、遥か彼方へと忘れ去られていく……。

 

【レボリューション!】

 

 だけれど、諦めない。そんな事など足を止める理由にさえなりはしない。俺は護る……お前達の見つめる未来を、その手の中にある希望を……。

 

 もうすぐだ。もうすぐ……逢いに行ける。………………パンドラ、待っていてくれ。もうすぐで、俺も地獄に落ちるから……。

 

 

―酷い人……地獄は貴方の生きる地球(世界)そのものでしょうに……。……約束、破る気?―

 

 

 うつらうつらと舟を漕ぐ銀髪の青年。彼の心からは、涙とも、思い出ともつかない星屑が零れ落ちていた……。

 

 

 

 

 

 

 その日はすぐにやって来た。織斑一夏の誕生日、九月二十七日……。今日はIS学園でISを用いたレース競技、『キャノンボール・ファスト』である。ワイワイと賑わう校内であるが、赤騎士事件の影響で過去最低の動員数だった。そんな人混みの合間から、カメラを首に下げた女性が足早にやって来た。

 そして、関係者以外立ち入り禁止の前で立ち止まり、名刺を見せて自己紹介をする銀髪の女性。

 

「IS委員会のアルベール・デュノア会長から命じられ、調査に参りました」

「えぇっと……フランス、デュノア社の『ショコラデ・ショコラータ』さんですね?ようこそいらっしゃいました、こちらへどうぞ」

 

 ペンを片手に関係者用の特別区画に入るショコラデ。そこには一人、取材に応じる為に仁王立ちしていた教師がいた。

 

「初めまして。デュノア社専用機『コスモス』操縦者のショコラデ・ショコラータと申します」

「こちらこそ。IS学園で教師を務めております、織斑千冬です。先日はウチの用務員が失礼いたしました。おや、始まるようだな」

 

 近くにいた用務員の老人が用意してくれた椅子に座るショコラデ。向かい合った椅子に座っている童顔巨乳な教師もいる。

 先日の『赤騎士事件』と呼ばれたテロリズム以降、世間からはISを危険視する声がより一層高まっていた。今やIS学園は、世界各国から干渉されない場所……などではなく、火にニトログリセリンを濯ぐレベルの危険な爆弾となっていた。

 ISに対するバッシングの風潮を縮退させるため、IS委員会の会長であるアルベール・デュノアは、より一層深い部分までIS学園の内情を公開することに決定し、その調査員として選ばれたのが彼女…――『ショコラデ・ショコラータ』だった。

 

「本日はどうぞよろしくお願い致します。織斑千冬さん」

「こちらこそ、だ」

 

 眉間を険しくしたまま、アリーナの様子を眺める千冬。視線が落ち着かず彼方此方と目を動かし……例の襲撃組織がいないか探している。

 

「ところで、あー……良いんですか?私が言うのもなんですが、こんな時期にIS学園内部を開示してて……」

「私一人、であったならこんな些事に構ってられん……と言っていただろうな。だが、学園には私に並ぶほどの猛者がいる。彼女になら生徒たちのことを任せられるのさ」

 

 世界最強は敵を探すのを一旦やめ、先ほどとは打って変わった優しげな笑みでショコラデを見つめていた。

 

「それに、世界最強のネームバリューがあった方が、影響力と言うモノが強いだろう?ファウストが何をしようが……ISで世界を滅ぼさせはしない……」

 

 …何故かその言葉に憎しみがあったように感じた山田真耶。襲撃以降、尊敬する先輩の様子に、何処か不穏さが混じってきている。普段とは違う様子からしても明らかに余裕を無くしているという心配もあった。

 

「……そのお心、感服しました。今の世界には、貴女の様な人間が必要なんですね……」

「?……それは、どういう……」

 

 フランスのIS操縦者がなにやら意味深な言葉を告げる。思わず聞き返そうとした山田真耶だったが、その前に歓声が全てを掻き消した。

 

―わぁぁぁぁぁァァァァ‼―

 

「おっと、選手入場ですか。では……解説やインタビューを書き取らせて頂きますよ?」

 

 ショコラデらの目の前には、様々な事件を経て進化した、純白の機体があった。

 

「あれが織斑一夏君の専用機……白式・刹羅。成程、美しい白と吸い込まれるような黒が混在している……。戦士に相応しい外見ですね」

「……まだまだひよっこと言ったところだ」

 

 確かに単一仕様能力が強力であるのは認めよう。だが、それを発揮するには感情の高ぶりに依るところが大きく、学園祭以降、一向に能力をまともに使えていなかったのだ。

 

「ほぅ、流石手厳しいですね……。おっと、アレが学園が創り上げた打鉄・旭ノ型ですか……」

 

 片目を包帯で隠した大和の女がそこにいた。本来なら撫子をつけるべきなのだが彼女にはそれはいらない。その言葉が似合わない苛烈な強さを持つ益荒女(マスラメ)であるからだ……。

 

「不慮とは言え事故で大火傷を負った生徒の為にIS一機を提供するとかどんだけ贅沢な……。九尾ノ魂・天狐も夏休み期間中に生産されたんですよね?一体誰が創っ……?」

「それ以上は言えんな」

「あ、はは……そうですか……」

 

 千冬は間髪入れず放った言葉で、何か裏がある事が分かったのだが……まぁ、そこは機密情報態々を晒すわけないと判断し、報告書にも一切書かない事にした。

 やれやれと心の中で頭を振ったショコラデだったが、次の質問を考えている最中に次の機体が登場する。

 

「おや、お次は……ブルー・ティアー……ズ?」

 

 メモを取る手が止まった。その脇で世界最強が頭を押さえたのは幻覚などでは無いのだろう。

 世界一強靭な体躯を持つ彼女であっても、馬鹿と天才を行き来している駄兎のはっちゃけ具合には頭痛が付いて回るらしい。てかふざけんな、『少し改造する』とは聞いたが武装を大々的に追加することのどこが少しだ?

 

「甲龍、シュヴァルツェア・レーゲンも……だいぶデータと違っている?打鉄弐式も追加装備が……」

 

 そう、蒼の雫(ブルー・ティアーズ)の背面には巨大なスラスターと共に、盾の形状をしたBT兵器が追加されており、脚部にはインターセプターをオミットした代わりの二丁のピストル……遠近両用の射撃機体として生まれ変わっていた。その隣に控えていた甲龍の龍咆にはシールドポッドの様なモノが追加されている。操縦者の意向によってか、腕から手にかけてはガントレットやグローブが一体化した武装が、脚部には飛行用のスラスターがセットされた。そして、シュヴァルツェア・レーゲンは更に外見が変化している。背面のバックパックの折りたたまれた尾翼やウィング、機首の様なコーンスラスターによって横幅や縦幅が増大し、威圧感が凄まじい。

 

「何ですか、アレ……」

「…………」

 

 ゲンド〇ポーズで首を垂れた世界最強、首筋には冷や汗と青筋が薄っすらと浮かんでいた……。

 

「……言えないんですね、失礼しました」

 

 ショコラデは今回の報告書の内容がスッカスカになるかもしれない恐怖に襲われながら、今回の調査を膨らませる為の三徹作業を覚悟する。その時聞こえてきた司会のコールは、どれほど彼女らを救ったのだろうか……。

 

『それでは、一年生専用機持ちのレースを開始します!』

 

 

 

 

 

「行くぞ、白式。……まだ白一夏(てめぇ)を相棒と認めたわけじゃねぇけどな」

「正しくは代表候補生では無いのだが……フム、仕方無いか。ISに携わった者の責務を全うせん!」

 

 恋人コンビは其々の変わった因縁で手に入れたISを身に纏い、自身を鼓舞する。

 

「確か……簪さんがこう言えと言ってましたわね……成層圏から狙い撃ちますわよ!」

「ちょっと?セシリア何言ってんのアンタ……」

「さて、因幡野教諭にテスト運用を頼まれているのだ。安全且つ最良の航行状態を維持するしよう」

 

 代表候補生達三人組は、相変わらずの雰囲気で緊張も無しにレースに臨む。特にラウラは軍人としての義務もあるのか、自身のグレードアップした機体のテスト面というのもあるが。

 

「本音、準備は良い?」

「もっちろーん♪……あ、頑張るけどできれば……初手ミサイルブッパはやめてね~?」

「保証はできない」

 

 その簪の言葉に、うげぇ……と顔を顰める生徒達なのだった……。

 

 

 そんな七人に、平等にカウントは刻まれる。目の前のシグナルは変わっていく……。

 

3、2、1……GO!

 

 その瞬間、一年生のキャノンボール・ファストは、始まった……!

 

 

 

 

 

 

『……クク、さぁ戦いの始まりだ』

 

 

 遥かな成層圏にて、一人の『復讐機』は鎌首をもたげる。その大口を開き、『織斑』の名を噛み砕かんとする……。

 

 

『……殺す。…………殺す!全ての“織斑”は私が殺す!全て!殺してやる‼』

 

 自身の命さえも犠牲にする事を厭わずに、『織斑マドカ』は歯を剥き出し、笑みを深めながら落下していった……。

 




戦兎製追加武装装備(名前及び形状のみ。詳細不明)
全機共通
・MSコンデンサー…不明

蒼の雫(ブルー・ティアーズ)
・シューティングスターⅡ…ビームピストル
・コバルト・ティアーズ…BT兵器
・フォローカウンター…不明

甲龍(シェンロン)
・無頼刃拳…ガントレット兼グローブ
・桃園結界…シールドポッド?
・蒼天無月…八卦刀

黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)
・NCF…不明
鋼鉄の腕(ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン)…ハンドガン
黒い鍵(シュヴァルツェア・シュルッセル)…背面バックパック


千冬「…………このマッドサイエンティスト、自重しろよ、なぁ?ぁあん?」
戦兎(アイアンクロー)「うひん、ごめんなちゃい……」
宇佐美「ぶっはははは!無様だなァ!」
惣万「いや、お前の設計したアレもコレもドレもトンデモねーんだけど。『ヤベーイ!』通り過ぎて『……ヤベェ』しか言えないからな?」


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第七十一話 『トータル・リコール最終兵器』

惣万「前回、ようやく始まるキャノンボール・ファスト……。しかし、ファウストの人間達はそれぞれの思惑によって蠢き出しており……」
戦兎「あれ?質問コーナーは……?」
惣万「しばらくシリアス展開が続くからちょいちょい普通のあらすじも挟んでいくってさ」
戦兎「ちぇー……ちゃんと回答も用意したのに……ん?」


前略『ファウスト』並びに『亡国企業』の皆様。

先日『仮面ライダー図鑑』なるサイトがオープンしたのですが、その中の『仮面ライダープライムローグ』のページに以下のような記述がありました。

・セルフェイスクランチャー

仮面ライダープライムローグの頭部に取り付けられた、ワニの顎のようなパーツ。
内部タンクを満たす苦い補給剤は、よく刻まれた緑色の野菜(ピーマン)を主原料としており、肉体疲労を解消すると共に免疫力を高め、未知の生命体による憑依・侵食攻撃をも防ぐ効能を持つ。

『亡国企業』のM様がピーマンが苦手であることは周知の事実ですが、この記述によるとどうやら『ファウスト』の石動 惣万様もピーマンが苦手であるご様子。

というわけで、僕の地元で収穫された新鮮なピーマンを10箱程贈りますので、どうか美味しく頂いてくださいませ。


帝都重工特殊科学開発室 室長“繝槭し繧ォ繝 ”より。
(文字化けしており解読不能)

戦兎「……何コレ?」
惣万「……いや、俺別にピーマン好きだけど?どうもありがとうございますっと……俺が焙煎した珈琲豆でも送ろうかな……ちょっと別世界行ってくる」
戦兎「ふぇっ?」

柳星張様、どうもありがとうございます!



「全くもう、お義父さ…マスターってば自分の分のチケットを貰ってなかったなんてうっかりしてますね……」

 

 サングラスと帽子をかぶり、クロエは指定されていた席へと座っていた。隣には赤青黄のトリコロール女たちが仲良さそうに屯っている。最近、クロエはこの三人とつるむことが多くなっていた。つまりは出番が少ない組である……メタいオ、レディ?

 

「……ところで三羽烏の皆さん。あのドルヲタグリスはいないんですか?」

 

 騒がしいあの男がいない事に首を捻るネトドル。奴がいなくても、これっぽっちも寂しくはないが、いないはいないで少し違和感があった。

 

「……あー、カシラはね……ちょっと親と色々あって……」

「まぁ、子供を捨てた親だとか言ってたもんね……」

「?……それって、どういう……?」

 

 丁度その時だった。レースの火ぶたが切って落とされたのは。

 

「!……始まった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……行きますかぁ!」

「「「うわぁ!?」」」

 

 爆煙とともに加速する白式・刹羅に、山嵐しそこねた生徒会長は白目を剥いた。

 

「ちょ…一夏、何ソレ…⁉」

瞬時烈速(イグニッション・バースト)

「そんなんあったっけ~?」

 

 九尾ノ魂・天狐の鉄扇には【みこっとびっくり!】と文字が点滅している。

 

「今名付けた。つかやってみたらできた」

 

 それを見ていた箒は分析する……今のは正しく瞬時加速が変化したもの。だが、イグニッション・ブーストはスラスターから放出したエネルギーを再び取り込み、二回分のエネルギーで直線加速を行うが、こちらはPICによるもので発動していた。

 

(脚部に重力場を生成し、その流れに乗って高速移動している……だと?しかも軌道も自由に変更でき、タイミングを読まれづらいのか……。但し、身体への負荷は従来の二倍と相当のものだ。これを易々とやってのける一夏とは……)

 

「『織斑』というのはどいつもこいつも……」

「箒さん、織斑先生に聞かれたらどえらい事になりますわよ?……っと!」

 

 セシリアがやれやれと頭を振った瞬間である。彼女に向かって飛ぶ数発の不可視の弾丸。飛んできた圧縮砲撃をシールド型のビットで弾くと同時、彼女はクイックドロウでビームピストル『シューティングスターⅡ』を抜き出し発射する。この間0.04秒であった。

 

「避けられましたわね、残念?」

「……ってかそれ『コバルト・ティアーズ』だっけ?シールドにもなるなんて面倒な……」

 

 背後から声がすると同時に、蒼い雫(ブルー・ティアーズ)に向かってツインテールの影と共に拳と足が百裂と迫る。それを九基のシールドビットで防いでいく金髪の女。傍から見ればコレだけで死闘の様だが、彼女たちの顔にはまだまだ余裕があった。

 

「……協力して一夏さんを倒しませんこと?そちらの方が勝率が高いと思うのですが」

 

 困ったように金髪をなびかせる英国貴族に対し、とても良い笑顔で溜息を吐く中華娘。

 

「お生憎様~、アタシはサシでやり合う方が性に合うの、よっ!」

「全く……」

 

―ギャリィィン‼―

 

 龍の踵落としを、クロスさせた流星の拳銃が受け止めた。

 

「……やるわね」

「そっくりそのままお返しいたしますわ」

 

 そう言って肉弾戦を重ねていく赤と青の機体……。今現在の所は甲龍が若干の優勢だが、少しでも距離を離れればブルー・ティアーズの射撃で撃墜されるだろう。

 

「うわー……かんちゃんあの二人これがレースだって忘れてるよね?」

「……ミサイルブッパはもうちょっと消耗してからにした方が良いかな…?万全の状態じゃ一割被弾するかしないかだろうし……フフフ」

「みんな薄ら暗いよ~この学校どーなっちゃうの……、ってラウちゃん?」

 

 のほほんとした目を見開いて、次の爆弾(てぇん↑さい↓ヤリスギッ)に視線を向けてしまった。頭痛待った無しである……。

 

「ふむ……この形態のままでは機動性能が従来の三割増しと言ったところか……ならば、『黒い鍵(シュヴァルツェア・シュルッセル)』‼」

 

 その瞬間、背面のバックパックに折りたたまれていた翼や機首が展開され、黒い一機の戦闘機の様な姿となった。

 

「変形した!?」

 

 目の前で行われた変形に驚いた箒。黒い機体はスラスターへエネルギーを収束させ、推進の為の出力を高めていく。

 

「ではな戦友、箒!」

 

 その言葉と同時に機体は黒い点となって見えなくなった。その場に熱風を撒き散らして、忽然と消える。

 

「オイオイ、二重瞬時加速状態位の飛行速度を維持してるぞラウラの奴…」

「ハンググライダー……いや、形は似ているがそんな生易しいものでは無い。もはやロケットの速度だな」

「あ、ラウラさんが行ってしまいましたわ!」

「ちぇっ、アンタとヤり合うのも良いんだけど本分こっちだったかしら……しらけるわね……ん?」

 

 …その時、彼らはラウラの目が怪しく輝くように見えた………。

 

「行くぞっ、ミサイルコンテナ展開、&第一弾発射!」

 

 号令と同時に…黒い鍵(シュヴァルツェア・シュルッセル)のテールブースターユニットコンテナのハッチ部分が、開いた。そして、青空へと打ち上げられる何十もの白い煙……。生徒たちが見てみれば、その煙の先には、何個もの円柱が分裂してこちらへ殺到している。

 

「えっ、ちょ……まっ――――!?」

 

 つまり、ミサイルである。

 

―ドッガァァァァン‼―

 

 爆発と共に視界がゼロになるラウラを追尾する一年生たち……。だが、ラウラは首を背後へと向け続けていた……。

 

「どぁっしゃあ!後ろのミサイルブッパに気を付けてたのに前からもかよ‼」

 

 煙の中から次々と出てくるISたち。剣で煙を切り刻んだ者たち、空気砲で視界を開いた者、その空気圧を利用し飛び出してきた者たち、身体を水の膜で覆った者……皆中々に食らいついている。

 

「さて……やはりその程度では落ちないか」

 

 当たり前のように攻撃をかわして出てきた全員に、ラウラは嬉しいげな微笑みで言う。言葉と感情は矛盾しているが、それが今の環境である。ダチと高め合えるライバル関係にあるのだ。特に箒には負けられない…愛する嫁者同士なのだからな(ドヤァ)‼

 

「舐めるなよラウラ!個人的な恨みで申し訳ないが、私は兎属性の人間に負ける事だけは許せんのだ‼」

「そんなー……(´・ω・`)」

 

 一方の箒は結構な形相になっている。頭にでっかいシャープマークが見えるのは気のせいでは無いのだろう。……因みに、モッピーは織斑ティッピーが入り浸るレストランカフェでのパーティーで、押しであるヴェァァ(宇佐美に非ず)なネトドルのウサミミコスプレを見ても心がピョンピョンしなかったらしい。おのれエボル兎(天災)。……あまり(ネタ要素が)強い言葉を使うなよ、(頭が)弱く見えるぞbyラビットハウスnascitaのマスター。

 

「何故に篠ノ之流剣術には『飛んでくる火縄銃の弾を斬る』なんて技があるのか……、まぁ今更か」

 

 ちなみに実際の現実でも居合切りで銃弾を切れるということは証明されている……うん、それをやろうとは思わないけども。

 

「日本人って変なところで凝り性ですわよね……だから達人が産まれやすい国なのでしょうか?」

「ダブルタップでミサイルぶっ壊してるアンタが言う?」

 

 手刀で弾道を逸らし誘爆させている鈴と、レーザーピストルで破片もろとも撃ち落とし被弾を避けることに余念が無いセシリア……色々と似た者同士であるみたいだねアンタら。

 

「……ここで山嵐したら面白くない?」

「うわー、えげつないよかんちゃーん……」

 

 一方最後尾に陣取り戦況を伺い続けている主人と付き人。色々と読めない二人が背後にいるという事が前の人間達に結構なプレッシャーを与えていた……。

 

 

 

 その時である。学園の方向から、一閃の光が上空へと立ち上った……そして。

 

 

―ドッガァァァァァァンンン‼―

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

 学園が、爆炎に包まれた……。

 

 

 

 

???side

 

 時は少し巻き戻りましてッと!

 

『おぉっと!ラウラ・ボーデヴィッヒ選手、バックパックから大量のミサイルが発射されたぁ‼コレには他の代表候補生達はなすすべが……なんとなんと無事だぁ‼学生であるにも関わらずなんという身体能力、判断力だ‼私驚いてしまいました……!』

 

 ……やれやれ。この茶番ももう飽きてきたなぁ……。じゃあそろそろ行動開始かねぇ?この万年筆の、キャップのここを……。よっ、ポチっと。

 

 

―ドッガァァァァァァンンン‼―

 

「「「!!!?」」」

 

 よしよし!世界最強も裏の学園長も部屋の中から出てきた出てきた…。重役とか生徒達を避難させなきゃマズいよなぁ?

 

「一体何が起きた!?」

「それが……突然小型ISが量子状態から実体化!IS学園施設各所で破壊活動を行っている模様です‼」

 

 うん、これぐらいで驚いてもらっちゃ困るな?戦場では何時の間にか地雷が敷き詰められてるなんて事当たり前、さぁ頑張れ女の子、これくらいの事日常茶飯事になるんだからさぁ!

 

「……!戦兎が防衛のシステムを強化していたはずだというのに、奴らはその上を行くとでも言いたいのか……!ッ、兎に角避難指示を出せ!」

 

 ……、ま。惣万が言うには宇佐美にとってはISコアの反応を消す事位造作もないらしいけど……。

 

(IS創造主の戦兎でも感知できないステルスとか……。元情報処理兵としては敵じゃなくて良かったわホンット)

 

「生徒達も観客の皆さんも慌てずに、冷静に退出を願います‼」

 

 そう言って黒煙の中乳を揺らして生徒を逃がす山田…とか言った先生。いい子ちゃん先生はそのまま頑張ってろよ?丁度良い混乱だ。

 

(とっととMを回収してっと……)

 

 この混乱じゃ、俺一人いなくても気付かれないだろうしなあ……、ふふは。

 

 

 

 

 さあ、神に祈る間を与えよう、懺悔しろよ咎人(子羊)さん?……『聖なる黒嵐蟷螂(サンタ・テレサ)』――――。

 

 

 

 

箒side

 

「っ後方から敵機接近‼レースは中止だ一夏‼」

 

 だが、一夏はその知らせを聞いても上に向けたままで…何をしている……ッ‼

 

「……いや、俺の方にも来たぞ、見てみろ」

 

 ……!あれは……間違いない!あのシルエットは……‼

 

『久しぶりだな、織斑一夏』

 

 先の学園祭にやって来たどす黒い翼のISが、私達を見下ろしていた……。

 

「お前が黒式とか言うISの操縦者か」

『アルマゲドンだ』

「うるせぇ、どうでもいいそんなもん」

 

 アルマゲドンといったISの操縦者、……ヤツはかなりの手練れだ。この中で一夏が単一仕様能力を使って何とか勝てる位の存在だが……。

 

「戦えってか?」

『そうだ……コレを賭けてな』

「!お前、それ……!」

 

 あれは、戦兎さんが研究していたオーパーツ…?

 

『そうだ、これはパンドラボックス。あのいけ好かないスタークの持ち物だ』

「ファウストの仲間のお前が……なんで……!」

『勘違いするな、私は私の為に戦っているだけの事。あんな男の思惑など知った事か』

 

 ……成程、組織も一枚岩ではない、という事か。

 

「…………、分かった。但しこいつ等には手を出すな。全員を巻き込んで戦うっつーなら、俺はテメェとは戦わねぇ」

『ほう、随分と舐めているな。良い度胸だ』

「舐めているのはどっちだ?全員でかかっても勝てないとでも思ってんのかテメェ」

 

 その途端、一夏の瞳が黒と金に染まった。

 まただ。また一夏がどこか遠くに行ってしまう気がする。何だ?この胸騒ぎは……。

 

『違うさ、他の人間を殺しても無駄なのだ……!ここで絶望を与えるのは、お前一人……ここで私が殺すのはお前一人!そうすれば私は、永遠に“私”になれる‼』

 

 !なっ……速い!学園祭の時よりも、はるかに速い……‼

 

「ごっ……!いってぇッ、なッ‼」

 

 刹那の攻防とはこういうことを言うのだろうか。瞬きの間に二人の間に火花が飛び散り、何度も轟音が周囲に響く。

 

『……ハッ、それはすまない、この程度だとは思っていなくてな。本気を出せ、織斑一夏!』

「殴られて何余裕ブッコいてんだ、オラァ‼」

 

 その瞬間、二人の姿は吹き飛び、見えなくなった。

 

「一夏…、…!」

 

 どうやら、手助けする暇もないらしい。私の背後に、『何か』がいる。

 

「……何者ですの」

「また全身装甲(フルスキン)?……平和利用する気、ゼロね」

 

 ラウラや鈴がすでに臨戦態勢に入っている……。それに続く形で私も剣を抜いた。

 

『偽善者の皆さん、こんにちは。綺麗事で戦い、本当の争いを世界の裏側に放り投げる子供たち……少し、お話しませんか?』

 

 四枚の翅を動かし、緑色の全身装甲のISは、耳障りな羽音を響かせる。血管の様に浮き出たオレンジ色のエネルギーラインは、恐らく私の機体と同じシステムによって動かされているのだろう。だが、不気味極まりない……。

 

「……、偽善者……ですか」

『えぇ、その通り。こんな言葉がありますねぇ……やらない善よりもやる偽善……だとか』

 

 ……優しげな声でそう言った人は、掲げた親指を……下に向けた。

 

『ハッ♪糞喰らえです。救えない人間、救ってはいけない人間等はすぐ傍にいるというのに……世界に必要なのは本当に助けだとでも?』

 

 其処に住まう彼女は、声高らかに主張する。私だけでなく、セシリアや鈴が偽善者であると……。

 

『必要なのは悪ですよ。絶対的な、偽悪です』

 

 世界に必要なのは悪……偽りの悪が世界には欠けていると。

 

「アンタね……ッ、セシリア?」

 

 ……?セシリアの様子が変だ。どうしたのだ?

 

「……『正義』が間違いではない、なんてことがまかり通る訳が無いのは知っています。無論、偽善で街一つを壊滅させてしまった人間もいることですし……」

 

 ……一体どうしたというのだ、セシリア……?

 

『ほっほう、中々良い眼をしてますね……セシリア・オルコット』

 

 

 

―理不尽が罷り通る事を受け入れた、無欲で乾いた眼です―

 

 

 

『この世には、仮面ライダーなどと言う偽善者共が多すぎる……そう思いませんか?』

 

 ごくり、と誰かが唾液を飲む音が聞こえた。そんな中……セシリアは、短いようで長い時間を空けた。そして、息を一呼吸するまでの空白の後……。

 

「……ですが、目の前の殺戮に目を伏せろ、とでも?」

 

 空っぽな眼で、無欲な彼女は、心の底にある核を絞り出す事が出来た様だった……。

 

『……ふ』

 

 目の前の蟷螂の様なISはピクリと動いた…………全く、一体何だというのだ?

 

『フッハハハハハ!それが何ですか(・・・・・・・)?それこそが偽善!』

 

 その人物はその答えを笑い、偽悪の反対の偽善だと告げると、人差し指と中指をピッタリとつけたまま、セシリアを指差した。

 

『“自分が背負える以上の痛み”を知った程度で、“愛と平和の為に”などと言う資格があるとでも?そんな言葉を言って良いのは、世界全てを敵に回した人間だけですよ?』

 

 偽悪者はその言葉を言うと指を元に戻して腰にその手を添えた。……この女、何様のつもりだ……‼私達の事を、貴様の物差しで推し量るというのか……!それが驕りだ。篠ノ之束と同じ、一方的な押し付けでしかない……‼

 

「……成程、貴女の心の底にあるものは解りました。これ以上聞いても堂々巡り、ですわね。では、質問を変えましょう」

 

 

 ……、セシリア?

 

 

「……学校を爆破したのは……貴女ですか?」

「っ!」

 

 私は……その時のセシリアの眼が……、とても怖ろしく感じてしまった。まるで、少年兵の様に窶れ、希望すらない死んだ魚の様だった……。

 

『えぇ、その通り』

「「「「「!!!」」」」」

 

 急に、目の前の女の殺気が高まった……‼一体何が起こるというのか……!?

 

『この生成された小型IS、“アポリオン”の力でね』

 

 その途端、彼女のISのテールブースターから、ISコアが生成射出され(・・・・・・)、数十匹の蟲型ISが空を飛び回り始めた。

 

「「「「「!!!?」」」」」

「あ、有り得ん!ISコアをその武装で創り出し、一瞬で無人機へと組み替えるだと!?現行技術でそんなことができるというのか!!?」

 

 思わず叫んでしまった私だが、次の一言でぐうの音も出なくなった……。

 

『宇佐美幻って子を、この世界の常識に当て嵌めない方がいいんじゃない?』

「……、ッッ!」

 

 っ、確かに……そうだったな……‼ブラッド・ストラトスやライダーシステムを熟知し創り上げた一人が、この程度の事ができないと考えていた私は甘かった……‼

 

「でもこの虫のIS……武装も何もないんだけど……」

『この子達の力は、全てを貫く刃の力でも、全てを狙い撃つ射撃の力でも、全てを打ち砕く戦闘技量でもありません……』

 

 簪の言葉に反応した蟷螂のIS。そして、次の言葉を呟いた。

 

『40㎞』

「……は?」

『何のことだと思います?』

 

 ……どこかの死神漫画の蛇の言葉か?……おっと、私も惣万さんや一夏に毒されてきたな……。

 

「……分かんないわよ、とっとと教えなさいよ」

 

 目の前の人間を睨みつけ、ファイティングポーズを取った鈴が喧嘩っ早く尋ねる。……だが、私たちは次の瞬間絶望的な答えを知ることになった……。

 

『……このISたち“アポリオン”が、瞬時加速を使用せずに、“一秒間に進む距離”ですよ』

「「「「「はっ!!!?」」」」」

 

『そして、その速度を利用し無限に創られるISコアを用いた自爆特攻がどんなものか……身を以て知ってもらいましょう……』

「ッッッッッッ総員退避ッッッ!!!!!!!」

 

―ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!―

 

 

 

 

 ………………、ぐぅ……!

 

「箒……生きてる……?」

「こんなところで、死んでたまるか……」

「はっ……上等ね……!」

 

 各々防御能力を使用して助かったようだな……。鈴の龍咆のシールドポッドがスライドし、桃色の光が私ごと周囲を覆っていた。コレが戦兎さんが装備させてくれた武装、か……。

 

「あれ……どうしようかしら……、近づこうとこれじゃあね……」

 

 マッハを超えて飛んできた蟲型ISアポリオンが粉微塵になって私たちの周囲に落ちていた。

 

「私の単一仕様能力を使えば……何とか……、っ!」

 

―ドッガァァァァン‼―

 

「今度は何!?」

「一夏の方向だ……!何が起きている……?」

 

 

 

 

 

 

一夏side

 

 くっそ……コイツ!やっぱり強い……!

 

「オイお前!何で俺を狙う!?」

『貴様を殺す事は、私が生きる事と同義だ』

「訳分かんねぇよ……」

 

 駄目か……話通じないタイプの悪人か……?

 

「っち!鬱陶しい‼」

『…』

 

 俺は片腕の『刹羅』を展開し、一方のブラック・テイルは剣が可変し銃身が現れた……。そして、白と黒の光が俺の目に入り込んだ。

 

―ドォォォォォォォォンッッッ‼―

 

 白と黒のエネルギーが拮抗し合い、吹き飛んでいく。その時だ、ドクン、……と妙な感覚に襲われる。じわじわと目元が熱くなる……。あぁ、これ……目の色(・・・)変わったな(・・・・・)

 

「ピンチになると目が覚めんのか、随分適当な相棒だなオイ!」

 

 なぁ、ISの中の、真っ白な俺(白式)様よ?その途端、周囲のエネルギーが俺の刀に集まってきた……。やれってか?……いいだろ、乗ってやる!

 

「ハァァァァァァァァァァ‼」

『ふん……』

 

―ズバァァッ!!―

 

 うっそだろ……すっげぇな、今のかなり渾身の一撃だったんだが!

 

「切裂きやがったコイツ……!」

『ペラペラ無駄口の多い男だ。……夕凪燈夜』

 

 って、あれはマズい!なんだか知らんがヤバい‼どす黒いモンがブレードに集まりだしてやがる‼

 

『喰らえ』

「くっっ……‼」

 

 

 

―ドッガァァァァン‼―

 

 

 ぶっはぁ……‼今のをもろ受けたら死んでたんじゃねぇか……!?

 

『……成程、零落極夜を周囲に発生させて防御したか。だが、無意味だ』

 

【Bat…B-Bat…Fire!】

 

 なに?今度は何だよ⁉

 

「蝙蝠の羽……?」

『累乗移行……完了』

 

 ビット兵器がエネルギーウィングに接続されて……ナイトローグみたいな翅が四枚も……ん?そういや、戦兎さん言ってたな……。

 

(……倉持技研で宇佐美じゃないローグと戦った……。ヤツは、今の君達よりもはるかに強い。まるで、戦いの為に生まれてきた存在みたいだった……)

 

「まさかお前……二人目のナイトローグの変身者!」

『そんなことを聞いて、何になる……』

 

 ……‼消えた……、って違う!!!?後ろ……ッ‼

 

「がはァっ!!!?」

 

 嘘だろ……、ハイパーセンサーが反応できない速度で、吹き飛ばされた……!!!?

 

『お前の力や技が、いくら織斑千冬に近づこうとも…私には勝てない』

 

 !!!?いつの間に後ろに……、ガァ!!!?ぎ、ぅ……。

 

『……何故剣を離さない。何故戦おうとする。無駄だという事が分からんのか』

「無駄だって事で、俺が諦めるとでも思ってんのか…!」

 

 ぐっ……こんな子供に、首を掴まれて持ちあげられるなんて、無様だな俺?…けどな。

 

『知らんな…だが、弱者に戦う理由など無い。弱い貴様の行いなど、全てが無意味だ』

 

 ……、無意味……。無意味……ね……。

 

「はっは…」

『……む?』

「…はッ、随分と舐めた口利いてんじゃねーかクソガキ」

 

 意味が無いなんてことは知ってるよぉ…!けどな、理由が無いなんてこたぁねぇんだよ……!!

 

「この世は理不尽だらけだクソッタレ……!俺に千冬姉程の力がねぇ事なんて知ってんだよ」

 

 ……でもよ……。

 

「でもよ……仲間が、いるんだよ……‼」

『仲間……、はっ。下らん。感情や力を共有する等、気休めにもならん。恐怖や無力感から逃れるための偽りだ、そしてその調和を乱すのも人間の性だ』

「……お前は、虚しいヤツだな」

『ぅん?……何だその眼は。見下しているのか』

 

 見下してる訳ねぇだろ……、見下せねぇよ。その辛さは、俺も知ってるんだよ。

 

「その為に、力を振るうヤツもいんだよ……俺、どうにも根本がバカなもんでな」

 

 だから、無意味でも信じてくれた人の為に、意味を持たせたいと思ってんだよ…‼

 

『ッ‼貴様らは……いつもそうだ。必ずどこかで、私の様に背負うモノが無い人間に負けられないと思っている……!勝つことができると考えている、私より強いと驕っている‼』

「勝てるなんて思って戦っているわけじゃねぇ……強いなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇ」

 

 ……お前がどんな顔してんのかは分かんねぇ‼けど、そのマスクの下で怒り、寂しんでいる表情なのは解る、そんな顔で……驕るもクソもねぇんだよ‼

 

「勝たなきゃなんねぇから、強くならなきゃなんねぇから戦うんだよ‼」

『戯言だ‼』

 

 っ、ドツボを突いたらしい……どうにも俺も言い過ぎた、キレちまったみたいだな……‼

 

『背負うモノが無い故に、私は強者であれた‼その私を否定する貴様らが……気に喰わないんだよ‼』

「気に喰わない……だと……?ハッ、ボッチで寂しかったってか!」

『仲間など関係ない‼私を無意味だと……利用価値でしか見なかった奴らは全員殺してきた‼なら次は意味があり利用価値があるものを殺す‼それが終われば私を支配しようとする存在を殺す‼殺す、殺す‼コロシテヤル!!!!!!!』

 

 ………………。

 

「……お前の闇の底は知らねぇ……」

 

 けどな……。

 

「だが‼ソレではいそうですかって殺されてやる程、俺の命は安くねぇんだよォォォォォ!!!!!!!」

『ゥ織斑ァァァァ‼ィ一夏ァァァァァァァァ!!!!!!!』

 

 これで……終わりだ……!!!!!!!

 

 

 

―ガッギィィィィィィィィィィ……ンッ!!!!!!!―

 

 

 

『「ハァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!」』

 

 

 

―………………バキッ―

 

「……!!!?」

 

 雪片が、折れた……!!!?

 

『っ……フハハッッ!!終わりだ‼死ね!!!織斑一夏!!!!!!!』

 

 

 

―……………………ドシュッ―

 

 

 

 その時……俺が感じる五つの感覚が、途絶えた。

 

 

「…………ぁ……?」

 

 胸に、剣が突き刺さっている……。

 

「……いち、か……?」

 

 空中を舞う血の飛沫に、俺の頭に突き刺さる短剣(・・・・・・・)が映り込んでいた……。

 

 

 

 

「いちかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 …………ほう、き……?

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 ………………みん、な……?

 

「一夏さん!?…そんな……」

「うそ…でしょ……?」

「……、っ……(致命傷だ……生きているわけが……無い……‼)おのれ……‼」

「……本音。今すぐ離脱して…!」

「っ……でも……!」

「いいから早く‼織斑先生が来るまでの時間位なら何とかするから‼」

「ダメ!かんちゃんも死んじゃうよ‼」

 

 

 ……聞こえる。脳が吹き飛ばされ、耳の機能など、無くなったはずなのに……心の中に皆の声が……。

 

「あ……あぁ……あぁぁぁ………………」

『……次は…向こう側で遊んでいる奴らを殺すか。そうすれば、織斑千冬も出てくるだろう……フフフ』

 

 

 呼んでるんだ……答えなければならねぇのに……。

 

 動かないんだ……立たなければなんねぇのに……。

 

 見えないんだ……敵を見ていなきゃなんねぇのに……。

 

 ……でも……俺の、人間の限界……なのか……。

 

 

 

「……っは……、はっ……はぁっ……なんで……どうして……。どうしてだ……、一夏……」

 

 

 

 ……箒……?

 

 

 

「私から離れていかないで……。……た……」

 

 

 

 

「助けてくれ……誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 

 ……………………………………、声が、聞こえた……。

 

 動かなければ……、助けなければ……。

 

 みんなは……俺が…。

 

 

 

 

 

 

 俺 ガ 、 護 ル 。

 

 

 

 

 

【……オーバーオーバー・ザ・ジェネレーション‼】

 

 

 

 

 

箒side

 

 一夏なら、どこかで大丈夫だと思っていた。一夏なら……強くなってくれると思っていた。そんな事を思う一方で、私は自分の心の底の甘えを見ないふりをしていた……。年相応の、ただの女でしかない部分が、冷静を保っていられない……。

 

 どうしよう……私が今やれることは、何だ……?思いつかない……、どうしたらいい?

 

 ねぇ、誰か……助けて……?戦兎さんも間に合わない、千冬さんも間に合わない……あの女にも頭を下げたって良いけど、いやしない……?なぁ、どうしたらいい……ねぇ一夏……!私は……どうすれば……?

 

 

 だから、言ってしまったのだろうか……、私は、誰かに甘えてしまった。

 

 

 

「助けてくれ……誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 それが、弱さだと気が付いても、なお……縋り付いてしまったからだろうか。パンドラの箱を開けてしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

三人称side

 

 一夏が、死んだ。その場にいた人間達の頭の中が真っ白になる。寒い……寒い。想い人が、幼馴染が、戦友が。仲間の命が奪われてしまった。

 

『……――――――――‼』

 

 声にならない叫びを上げる者。思わず眩暈がしてしまう者。鬼の形相で仇を討とうとする者……。その場は一触即発の事態であった。

 

 ブラック・テイルの操縦者は歓喜していた。間違いなく死んだ……そう、その筈だった。

 

 

 

― ド ォ ン !!!!!!! ―

 

 

 

 

 それは……突然に起こった。

 

「……!!!?」

 

 

【……オーバーオーバー・ザ・ジェネレーション‼】

 

 白式・刹羅から……そんな声が聞こえた。虚ろな瞳で首を垂れていた箒の傍の、一夏の亡骸から波動が広がる。

 

【Ready go‼】

 

―シュゥゥゥ………―

 

 涙で濡れた顔で、恋人はソレ(・・)に向かって振り返る。

 

「…!!!?」

 

―ウゥゥゥゥゥゥゥゥ…―

 

 地の底から響くような呻きだった。

 

「…………!」

 

―ウゥゥァァァァァ…………………―

 

 あらゆる人間は絶句する。全ての人類は嫌悪する。その姿も、その力も害悪そのものであると本能で察知した。

 

「………、…」

 

 ドロドロと赤黒い粘液が溢れ出し、一夏だったモノの腹部には、「赤と金のビルドドライバー」が形創られた。

 

【フィーバーフロー‼】

 

 白銀の歯車が回り、死体を青白い液体へと分解すると……それが凝固し、一匹の怪物を生み出した。

 

『………………ォァ………………』

 

 金色の瞳が、無限の成層圏へと向けられた。そして、刹那……。

 

 

 

『オァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!』

 

 

 

 この世に生を受けたソレは、けたたましい産声を上げる。咆哮。絶叫。そして倒壊。その叫びのみで、キャノンボール・ファストのサーキットは崩壊(・・)した。

 

「…………い…ち、か?」

 

 箒が、ぐしょ濡れの呆けた顔で『ソレ』を見つめる。そこには、白き孔が開いていた。虹色の血液が通う蛇がいた。……最早その姿となった彼に、物理法則など通用しない。

 

『……スマッシュか?』

 

 Mがそう呟くのも無理はない。仮面ライダーにも、ISにも見えない有機的な外見となっていた織斑一夏。巨大な手甲と身体の各所に見える触手状の突起物……ベルトの下から伸びる前掛け。寒色と暖色のラインが身体中に張り巡らされた、最早人間とは言い難い異形の存在……。

 

『…いいや、それを抜きにしても生きているはずはない。夕凪燈夜で刹羅の生体再生能力を初期化したはずだ……』

 

 そう、彼は間違いなく死んだのだ。復活の手段はあるはずがない。

 

『“脳”と“肺”と“心臓”を潰した、なのに何故…?』

 

 だというのに、Mの前には『織斑一夏』が立っていた。しかし、この存在は自分が殺したかった『織斑』であるなどと言えるのだろうか……?

 

『……誰だ、貴様は』

 

 だが、怪物からその答えは返ってくることなど、なかった。白い異形は手甲『エボルティグラスパー』を胸の前で交差させると、金色の目と両肩の『エボルティヴォイダー』が輝き出す……。そして、彼の前方に孔が開いた。

 

 

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!』

『なっ……!?』

 

 

 

 ホワイトホールから発生した、『この世と逆位相のエネルギー』が視界に映るモノ全てを飲み込んだ……。

 

 

 

???side

 

『……成程。アレが究極態を超える人間独自の力……“エボルト超越態”か』

 

 白いコブラにも、エイリアンにも見える異合な化け物、それを見て彼女はにたりと笑う。『666』と刻まれた赤い瞳で原作すら超えた存在を眺め続けていた……。

 

 

 

 

 

 

 

三人称side

 

 

「とぉりゃぁ‼いよっしゃ!ひっさびさに戦えてるぜ‼」

「こんな時にカシラは何処に行ってしまわれたのでしょう……ハァッ‼」

「はいはい、皆こっちこっち!焦らないでね!」

 

 キャッスル、スタッグ、オウルのハードスマッシュが人間を護りながら小型のISを撃破していく。その傍らで、避難誘導をしていたクロエの頭の中に、………………突然痛みが走った。

 

 

 

―ずきっ……―

 

「うっ……?」

 

そ の 時 、 不 思 議 な 事 が 起 こ っ た  。

 

「……っ、ん?」

 

 立ち眩みが起き、両手が砂地へと付いた……、そして、彼女は『おや?』と思う。さっきまで、私はIS学園の廊下にいたはずだ……。

 

「え……っえ、えぇ……えぇぇぇぇ!?何処ココォ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げ、天を煽ぐクロエ。真っ赤な空に、赤い砂漠……。空の向こうに瞬く星々……そして、地球(・・)があった。

 

『煩いぞ、小娘』

「!?」

 

 凛とした声が響き、彼女は後ろを振り返る。そこには……豪奢な王座があった。そこには一人の女性が腰かけていた。

 

 

 

「ぁ、……………………綺麗……」

 

 クロエは、その人物を見て呟いた。白い上品なヴェールに、細かな銀の刺繍。それと対比するかのように美しい黄金の髪には、虹色に反射する透明なメッシュが入っている。碧緑の瞳は宝石の様であり、肘をついた左手首にはクロエと同じバングルが付いている。そして、何よりも整った顔立ちは、地球では目にかかれない美しい比率を保っていた。

 

『何を当たり前の事を。私はその様な世辞など聞き飽きている…まぁ悪い気はせんがな』

 

 変わらず謎の場所に唯一ある玉座に深く座った女性。ただ、まんざらではない様子だった。

 

「……女王様みたい、ですね……」

『……ほう。“みたい”、だと?』

「……ッ!!!?」

 

 その瞬間、その場の空気が、いいや、存在そのものがクロエに向かって押し当てられる。何もない空間のはずなのに何億もの視線にさらされている様な力を感じ……クロエは思わず首を垂れた。

 

 

『思ったことを直ぐに言葉に出すな、口を慎め不敬者』

「ぅッ…申し訳ございませ……『……と言いたいところだが』…へ?」

『久々に“出て来れた”のだ…許す。この私に何か聞きたいことがあろう?言ってみるが良い』

 

 恐る恐る視線だけを金髪の女性へ向ければ、彼女の碧眼が優しくクロエを見ていた。

 

「えーっと……では貴女様は……誰なんですか?」

『……ふむ、良かろう。面を上げよ』

 

 その途端、彼女の手に『光子の杖』と、『赤い剣身のサーベル』が現れる。

 

『クロエ・クロニクル……。長年私をその体に宿してくれた事、礼を言う』

 

 そして、厳かな光に包まれた彼女は、昔を懐かしむように、ゆっくりと口を開いた……。

 

『我こそは“王の石(キングストーン)”の継承者。ナージュの民を統べた者。五万年の平安の上に座した創世王……』

 

 

 

 

 

 

―我が名はベルナージュ。火星の、女王だ―




ファウストデータファイル

エボルト超越態
身長: 203.9cm
体重: 148.2kg
初期ハザードレベル:XX
IS(疑似トリガーシンクロ)適性:XX

特色/力:異空間『ダークネビュラ』を用いた外宇宙へのワープドライブ、ホワイトホールを利用した攻撃、接続した異世界のエネルギー吸収能力強化と進化。

 エボルト究極態やISの上位互換。そkaかoknumsf5-@.sk■w@■■■■――――……(以下文字化けして解読不能)。



聖なる黒嵐蟷螂(サンタ・テレサ)

 宇佐美が亡国機業に提供した第4世代機。企画段階ではMへ提供するISの候補の一つだった。しかし、彼女は黒式を使用する事となった為、元少年兵キーサの専用機となった経緯を持つ。ダークグリーンにオレンジのエネルギーラインが血管のように浮き出る機体で、蟷螂を思わせる全身装甲。IS操縦が不得意なキーサへの配慮でサポートアシスト機能が充実しており、逃走や撤退時において十分な戦場離脱性能を発揮する。
 宇佐美が創ったロストタイムクリスタル製ISコアを核にしているが、それとは別に武装にもISコアが使用されている。シュトルムが考え出した理論を基に造られた特殊合金『ネビュラカーボン』を用いた機体。但し戦兎が造った試験機とは違い、こちらは完成に近い性能を誇る。体内に流れるネビュラガスが血液の様な役割を果たし、エネルギー効率が試験運用機より60%程向上している。
 待機状態はエメラルドグリーンの万年筆。モデルはトレーディングカードゲームBSの『黒蟲魔王ディアボリカ・マンティス』&『風の四魔卿ヴァンディール』らしく、怪物然とした機体となっている。尚、名前の由来は『BLEACH』のノイトラ・ジルガの帰刃『聖哭蟷螂』から。


武装
・イガリマ
 エネルギー刃が巨大な鎌。この武装にもISコアが使用されている。柄などの部分に配置されたクリスタル部分が展開装甲とハイパーセンサーとなっており、相手の攻撃に対して0.015秒以内に常に50~60度になるよう位置を移動させることができる。つまりオートガードをしてくれる鎌型IS。

・ザババ・ニトゥ
 両腕に装備された鋸状の高振動ソードブレイカー。変形し鋏の様な切断兵装にもなる。

・シュルシャガナ
 下半身の四脚に隠されたエネルギー状の丸鋸。逃走時の車輪にもなるが、滅多に使わない。

・シェオール
 巨大なカマキリの腹部型ISコア内蔵バックパック。ISコア増殖生成装置であり、ISコアを搭載した簡易量産ISを半永久的に生み出す。一度に孵化させることができる数は200機ほど。

・アポリオン
 シェオールより生成される1mにも満たない第4世代無人機。全体的には角がランス状になったカブトムシで、前脚がカマキリ、翅がトンボ、後脚がバッタの様なデザインの小型甲虫機体。武装も頭部のサーベル以外は存在せず、戦闘能力は無いに等しい。しかし、この端末の使用目的は「発生するエネルギー全てをISコアごと自壊(オーバーロード)させて超加速し追尾弾と化す」特攻であるため何ら問題はない。瞬時加速(イグニッション・ブースト)未使用の場合でも最高速度は秒速(・・)40㎞に迫り、絶対防御をものともしない衝撃を持つ。特殊なISコアを湯水のように破壊する事でISコア・ネットワークにも損傷を与えることができる。だが、何より恐ろしいのは一度に200機生成されるという数の暴力であり、自爆特攻を目的とした波状砲撃は最早悪夢である。モデルは『ダーク・マッハジー』。

単一仕様能力
・『エンプーサ』
 サンタ・テレサが保持、及び生成したISコアの数の分だけ攻撃性能、防御性能、飛行性能、PIC性能が倍化していく。


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第七十二話 『王と女王のマーズアタック』

惣万「さて、エボルト超越態やベルナージュや何やらが出て大混乱の前回だったが……」



―混迷はもう直ぐ、間もなくだ……。世界がついに、否、遂に変わり始める―



惣万「さて、どうなる第九十二話……フハハハハ……ハーハハハハハハハハ‼」


 

 

 

 

 

 

 

 私は産まれた時、全てのモノが醜く思えた。周りを見れば、非生産的な事に命を賭ける悪役思考のスライムだらけだった。

 

 どの星を滅ぼした、だとか。それを神の視点で見れる自分達が崇高だとか。それがステータスだってか…?はっ、くだらねぇ。

 

 このままこ奴らを生き永らえさせておけば、宇宙の誰かが悲しむんじゃないか?ブラッド族を、生かしておく意味があると言うのか?

 

 ……、ねーな。

 

 コロス。

 

『ハハハ…フッハッハッハッハァ!』

『エボルト様!?一体何を…、…我ら一族の使命を忘れたのですか⁉』

 

 ?…ナニヲバカナ。

 

『星を滅ぼす事、でしょう?手始めにこの星を滅ぼすだけです、一匹ずつ殺していくのは手間ですが、まぁ関係無い。星よりも、貴方達の方が美味しそうですし?』

 

 コロス。クラウ。

 

―がぶぅっ!ブチブチブチィ‼―

 

『………………………………ぇ、はン?』

 

 クラウ。コロス。

 

―ぐちゃっ!ズチャっグチャあッ…バキッ―

 

『『ギャァァァァァァァァァァァァァアッッ⁉』』

 

 コイツラ、コロシタラオモシロソウ。コイツラ、クッタラオイシソウ。

 

―くちゃっ、ぶちゅ。ぐちぐち…ごくっ!―

 

『あ、あぁ……あぁぁああぁァァ………………』

 

 コイツラ、クウ。

 

『成程…これがブラッド族の味……、く…はは…アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!』

 

 ……ウマイ。

 

―ばくゥっ!ゴリゴリゴリッ!グチャグチャァッ‼―

 

 …うまい。旨い。美味い。

 

『ウギャァァッ‼』

『ご…御乱心、御乱心んン‼王子女様御乱心っ、あっギャァァァァァァァァァ‼』

 

 ウマイ。

 

 うまい、旨い。

 

 美味い、(うま)い。ウマイ、うまい。旨い、美味い。(うま)いウマイうまい旨い美味い(うま)いウマイうまい旨い美味い(うま)いウマイうまい旨い美味い(うま)いウマイうまい旨い美味い(うま)いウマイうまい旨い美味い(うま)いウマイうまい旨い美味い(うま)いウマイ……。

 

『旨い……実に美味い。悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、恋のように甘い……』

 

 星を喰らう事がどれ程のものかは知らないが、私にはコレが何とも美味に感じる……。同族達の絶叫こそが、何よりも私の心を満たす……。愉楽、美食、そして私に集う忌諱の視線…。

 

『ひっ⁉…お、御慈悲を…『は?嫌です♡』ぉぉおおおおおおおおおおおおぁあああああああああああ⁉いだいいだいいだいいだいいだいいだいィィィィィィィィィィィィィ‼』

 

 女中、美味い。近衛、甘い。ブラッド族、旨い。

 

―バグバグっ、グチャッグチャッ!ズルズルッ…ムシャ、めしゃァ!―

 

 美味しい……。肉も、脳髄も、眼も、臓物も。悲鳴をあげる様子も食欲をそそる。自分達が死ぬはずが無いと思う絶対的上位者が生態系の遥か下方へ転がり落ちる……、うむ。他人の不幸は蜜の味、全く以って頷ける。何とも甘美、何とも甘露。

 

 

『なん…だこれはぁ……‼』

 

 おや、これはこれは……。

 

『なぜだエボルト!王家を…我々という高尚な種を滅ぼすというのかァ!』

『見て分かりませんか父上?その通りです。私は己等が上等だと思いあがり、他の生物を見下すしかできない……そんな下衆が自分の種族だという事が許し難いのですよ』

 

『貴様ァ‼』

『あぁ、別に勘違いしないでいただきたいですね。貴方達がほんの僅かでも心を理解できていたのならば私が手を汚す必要もなかったのですが……、所詮は単細胞生物共だ。貴様ら如きに私が支配されるなど理不尽ここに極まれりだな。故に私は、天に座し、絶対だと錯覚し、思い上がった貴様らを討ち墜とす』

 

『ブラッド族は殺す』

 

―ごりゅっ―

 

『全て殺す』

「あっがぁぁっッッ‼何を言っている貴様ァ!貴様も同じ一族だ、星を狩らずにはいられないサガを持ち、その使命こそ至高なる愉悦であることが何故分からない!?貴様のようなものは全ての存在から否定される!」

『それが?最後に死ぬブラッド族が私になった。それだけですよ』

『うぎっ…が…、…』

 

 父親、旨い。

 

『さて、次は……む?』

『き、貴様は我々の同族などではない!我々の姿を真似ただけの……化け物だエボルトォォォォォ『そうですか、で?』ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアァァァァァァァァァッッッッ‼』

 

 母親、ウマイ。このまま、全員食べてしまおう……。

 

 

 

 

 

 

『けぷっ……。さてさて、やはり来ましたか……兄上』

『エェボォルトォ!その箱を返してぇ、もらおぉかぁ!』

 

 キルバス……。やれやれ、蟹は生前食(あた)り以来苦手なんだが……。まぁ良いか。細胞一片たりとも残さず殺せば。

 

『パンドラボックスは私が使う運命にあるのですよ……この通り、ボトルも私に反応して、この星にないエレメントが注ぎ込まれました』

 

 これで、私が……初めて“この世に生まれ落ちた”。ブラッド族ではなく、生まれ変わった俺が……‼

 

『この星を滅ぼして、まだ見ぬ故郷へ里帰りさせていただきますよ』

『なぁらばぁ!力ずくで返してもらうぞぉ!この星を滅ぼすのは、オレだァァァ‼』

『バカなことを。確かにあなたは私より強い。……だが、兄上は私に……いいや、“俺を一度として出し抜けたことがない”』

 

【オーバー・ザ・エボリューション!】

 

『星を滅ぼす……その詰まらん言葉、その詰まらん考えが、お前に滅びを約束する』

 

【エボルドライバー!】

 

『思い上がるなよ兄上、見ていて哀れだ』

 

【コブラ!ライダーシステム!レボリューション!】

 

『変身』

 

 

―ドォァァァァァァァァァンッッッ‼―

 

 

『それは……‼』

『俺の完全なる姿……これこそが愛と正義の戦士、仮面ライダーだ』

 

 ……うむ、大量虐殺をした俺が言えた台詞では無いな。まぁ良い、殺すか。

 

 

 

 

 

『ぬぁぁぁぁぁぁッッッ‼何故だッ‼何故俺が……幾万の星を喰らってきた俺が‼政権争いにも参加しなかった妹如きに、こんなところで……‼』

『まだ分からないか、魂の格の差を』

 

【ブラックホールフィニッシュ!】

 

『俺はブラッド族を丸ごと喰らっても、その思念に汚染されることが無いらしい。大事を取って余計な思念エネルギーは排出したが……今の俺と戦う事は、ブラッド族全ての力をその身に受けていると知れ』

 

【Cia~o♪】

 

『ば、かな……バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?』

『俺が“エボルト”じゃない時点で、お前たちの運命は決まっていたんだよ』

 

 

 

―カッ……‼―

 

 

 

 その日、大宇宙の片隅で、災厄を呼ぶ一族と星が根絶やしにされた。

 

 

 

 

 

 

 あぁ……。ブラット星というものは、星というのは、本当に味気ない。エネルギーが体に満ちるのが分かるが、それだけだ。

 

『まぁとりあえず御馳走様、まさか星狩りの記念すべき第一号がブラット星とはな』

 

 だが……ブラッド族の母星を食っても大した力を得られないな。所詮エボルト究極態程度か……。まぁ土とマグマの塊だから仕方がないといえば仕方がない……。

 

 ……!そうだ、恒星を食ってみたらどうだろーか。ただの惑星を食うよりもエネルギーが比ではないはずだ。おっと、けど食べたら生態系に悪い影響を与えるのは御免こうむりたいし、エボルトみたいに新世界を創りたいわけじゃないし…。

 

『ま、ひとまずズラかるとしよう。腹が減るという感覚はないし、のんびり行くかぁ。異星人とのコンタクトに期待もあるし、宇宙人の食事や文化に興味津々だし』

 

 

 

 

 

 そして、幾万の時間が流れた。数々の星で、様々な出会いがあった。様々な戦いがあった。様々な尊い生き様を、醜い悪意を見てきた。滅び行く星を守ったことも、破滅を望んだ民に頼まれ、その星を食らったこともあった。宇宙を滅亡させる程の死の恒星をブラックホールに吸い込んだこともあった。……俺は自分で言うのもアレだが…ちゃんと『仮面ライダーをやれいていた』、と思う。

 

 そして、光り輝く銀河の中で、友もできた。

 

 

『なかなかやるな…貴様、名前はなんだ』

『仮面ライダー、エボル。そういうお前は…フォーゼに出てきそうだな?』

 

 隕石のようなごつごつした瞳。流れ星のようなアーマー。不気味な俺の外見より、ずいぶんとヒロイックで綺麗な色……。

 

『全てのものは滅びゆく…だが、ブラッド族は滅ぶべきだが、貴様は滅ぶべき存在ではない』

『何…?』

『またどこかでまみえよう…』

『お、…ちょちょちょちょちょ。待て待てって』

 

 身体、隕石展開して行くなって!

 

『む、なんだ…』

『俺には行くアテがない。一緒について行っても良いか?お前の仕事も手伝うからさ』

『…好きにしろ』

 

 お、ラッキー!丁度良いや、駄賃として……カタストロフリアクターの構造とかのレシピを教えてあげよっか。

 

 

 

 

 そして、美しい生命溢れる星で、もう一人の友ができた。

 

『私は……お前の友達だ』

 

 美しかった。悍ましい俺の姿を見ても拒絶しなかった、心を見てくれた。

 

『お前は優しいな…』

 

 とち狂った俺の手を握って、眼を逸らさないでいてくれた。俺は……エボルトから、ソーマになった。

 

『ほう!擬態か……それがブラッド族とやらの姿か?』

『いんや、これは……生前の姿だ』

『セェゼン?……それにしても女顔だの』

 

 ポニーテールにした黒髪を引っ張り、聞いてくるベル。毎日が愛おしかった。大切だった。生前を含めて初めて、凡庸で幸福な『人』になれた気がした……。

 

『他を想う心…それだけで人は光になれる。この星の民を守り、希望の光を照らす。それが私…創世王ベルナージュだ』

 

 阿呆らしい程の力を見せつけながら……それを民に分け与えたり、兎に角変なヤツ……それが火星の女王様だった。

 

 だけれど……。

 

 

 

『キルバス、それ以上の悪事はこの私たちが許さぬ!』

 

 ………………ごめんな。巻き込んでしまって……。

 

『この宇宙を守る為、私は何度でも蘇える。お前の行く末を見届けるまで…』

 

 そう言って、最後まで、自分のやりたい事を…我儘をせずに……。

 

 

「そうか……そういうことか。思い出した」

 

 ………………良かった……。

 

「あいつ…生きていたんだな…」

 

―だが、もう俺は……お前たちのマスターでいられない…―

 

 人間、石動惣万は、間もなく死ぬ……。

 

 

 

 

 

三人称side

 

『ッ……』

 

 無のように白い光線が通り過ぎると、『消滅した大気』を補うように暴風が吹き荒ぶ。

 

『…』

 

 怪物は無言のまま、たった一度だけ、腕を振るった。

 

―……ブンッ―

 

「なっ!!!!?」

 

 海が、割れた。

 

「「「「「!!!!?」」」」」

 

 文字通り、真っ二つに。周囲を旋回していた小型昆虫ISを塵の様に吹き飛ばし、雲さえ裂いた。

 

「がっ、は……ァ!!!」

『…』

 

 Mの纏ったISは、学園校舎を突き破り吹き飛んでいく。

 

『(何故だ!何故この私が圧されている…ッ⁉)舐めるなぁっ‼』

『……』

 

 蝙蝠の羽のように広がったビット兵器が集結し、一本の巨大な剣と化した。

 

『各マニューバ、レベル5…同調開始!』

 

 天へとそそり立つ黒光の大剣。刃渡りは高層ビル以上あろうかという巨大さだった。

 

『死んでしまえ‼』

 

 

―ドッガァァァァァァンンン!!!―

 

 

 煙が晴れて、怪物が現れる……。

 

『…』

「………………っ、嘘だろう?」

 

 無 傷 で あ る 。

 

『馬鹿…な……』

 

 今の攻撃は渾身の力を込め、全身全霊の殺意を以って殺そうとした。Mは戸惑う事しかできなかった。今まで、殺すと決めた人間達は、私の決意と違わず死んでいった。だが、何が起きている?何故私はコイツを殺せていない……?

 

 その瞬間、白い身体の怪人が掻き消える。

 

『ぎゃあっ⁉』

 

 前方から、側方から、背後から。叩きつけられ、弾き飛ばされ、吹き飛んだ先でも待ち構えられ……。

 

『がっ、ぐぅ…⁉ぎゃぁッ‼』

「圧倒的…すぎる……」

 

 見ているこちらの方が胸が痛くなってくる。戦いなどではなく、嬲り、遊んでいるようにも見える。圧倒的な力のみがそこにあり、理性など欠片も残っていない白い怪人……織斑一夏の成れの果て。

 

『ぐ、ぅ…あぁぁ…ぬぅぅぅあぁ‼』

「っ、一夏…もういい」

 

 箒は涙で濡れた顔を上げ、そして愛する少年に声をかける。だが、その白い蛇は手甲に覆われた腕を振るうのを止めない。

 

「もういいんだ一夏、もういい……」

 

 無心に、機械のように黒いISを殴りつけ、衝撃は絶対防御を貫いてMのマスクにヒビを入れる。

 

「もういい一夏ぁっ‼いい‼やめろぉぉぉッッッ‼」

 

 

 

 

 

『タス……ケル……ト、……ヤクソク…シタ……』

「…え」

 

 だが、返ってきたのは、呟くような……そんな言葉だった。

 

『モウ……ナカセナイ…ッテ……キメタ……』

 

 人であった頃の心から零れ落ちていくそんな言葉。

 

『マモッテ……ミセル……』

 

 否、既に人や化け物と言う括りに非ず。

 

『ナカマハ…セカイハ…、…』

 

 ただ一つ、確かなことを言えるとすれば……。

 

 

『……ホウキハ、……オレガマモル』

 

 その身が修羅畜生に墜ちようと、変わらなかったのはその思い。

 

「ッッッ!?」

 

(私が……一夏に……負担を強いていた…のか……?)

 

 既に目の機能は失われたにも関わらず、包帯の奥から涙が流れる。

 

 

 

(私は……仮面ライダーの様な力が無くて…だけど、私にはIS開発者の妹という責任があって……。力を、成すべきことに使わなくてはならなくて……、足手まといになりたくなくて……)

 

『マモル……ダカラ、ナカナイデ…ホウキ、ナイチャ、ダメダ』

 

(一夏の傍で、支えたくて、護りたくて……、ここにいるのに……。なのに、どうして私は……いつも、一夏に……頼ってしまう甘えがあるのだろう……)

 

「……、っ!」

 

【Ready go!】

 

「ま、待て……」

 

【ホワイトホールブレイク‼】

 

「待ってくれ一夏‼待って‼お願いだ……待ってくれ‼」

 

 そんなことをしてしまっては……お前は後戻りできなくなる!

 

「待ってくれぇ‼」

 

 

 

 

 

 そ の 時 、 不 思 議 な 事 が 起 こ っ た 。

 

『そこまでだ』

「ッッッ!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 黄金の光を纏った球体がその攻撃を防いだかと思えば……、空中に銀髪を揺らす少女が立っていたのである。不思議な淡い光に包まれ、周囲を女王の如く睥睨する少女……。

 

その外見は、間違いなくクロエ・クロニクルだったのだが……。

 

『……【L-@>*EY】』

 

 人の身には聞き取れない音律が口から洩れたかと思えば、その少女の片手には金色に光る槍が握られ、開かれたその瞳は碧緑に輝きだした。

 

「クロエ……?」

 

 顔を上げた彼女に声をかける仲間たちであったが、彼女は我関せずと言った態度で槍を遠方へと……投擲した。

 

『そのまま動くな。狙いが逸れる』

「「「!!!?」」」

 

 それは、光の速さで吸い込まれるように怪物となった一夏へと突き進み、そして………。

 

―ドッガァァァァァァンンン!!!!―

 

『…ア、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼』

 

 巨大な爆発、閃光、そして熱風が周囲数十㎞を覆い尽くす。

 

「こんな、……ことが…」

 

 ISに乗っている少女たちは各々の機体の能力を使い、情人ならば致死の環境へと適応した。だが、その余波ですらも、IS学園の外観を融解(・・)させ、周囲の(・・・)海を(・・)塩の(・・)結晶地(・・・)に変化させるほどであった……。

 

「…こんなの、もう…兵器でもISでもない…」

『グルルルル……』

 

 攻撃を受けた白い怪人は、怒りの声を静かに上げると、身体から闘気を立ち上らせる……。

 

―ブワァッッ‼―

 

『…オォオオォアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼』

 

 片手に『この世界の物質と逆位相のエネルギー』が収束されると、白い怪人はテレポートによって姿を消し、金色の光を纏う少女へと接近する。全ては『世界を守るため』に。………ところが、だが……。

 

 

 

―ガシッ、ピタッッ…―

 

『…………。なんだ、その程度か(・・・・・)

「「「!!!?」」」

 

 “海を割り”、“シールド・エネルギーで覆われた校舎を粉微塵に破壊した”彼の腕を、クロエは左の指一本(・・・・・)だけで破滅の力を霧散させた。

 

『…オ、オォ…オアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ⁉』

『やれやれ……これでは力加減が困難極まる。シャボン玉を潰さずに触れるくらいに難しいな』

 

……そして、こう言いつけた。

 

『まぁ良い、所詮死んだらそれまでだった……と言うだけだ』

「「「「「ッッッ!?」」」」」

 

 出鱈目な身体を持つ怪人……そのISを凌ぐ力を、更に圧倒的なインチキ染みた能力で打ち砕いた金色の女王。その眼には、憐憫の色が浮かんでいた……。

 

『……む?』

 

【スチームブレイク!Bat……‼】

 

 突然飛んでくる砲撃。それを片手で弾くと、忌々し気にマスクのひび割れから睨んできた少女を見るクロエ。

 

『ロストボトル?……、火星で消えたはずだが、成程。奴は地球で再び創り上げたか……。一先ず止せ、お前如きがこいつに敵うとでも思っているのか?』

『黙れ……貴様などに、コイツを殺させてたまるか……』

 

 続け様にブラック・テイルの片手から放たれたエネルギー。それをやすやすといなしていくが、そのうちの数弾が真っ白なエボルト超越態へと向かっていく。凄まじい憎しみを抱き、急激上昇したハザードレベルが一夏の成れの果てに迫り、そして…、トリガーが……ベルトから外れた。

 

『ぐ、ギィィィィ……………………あ、あぁぁああぁ…!?』

 

 白い身体から色とりどりの稲妻が走り、ボロボロと怪物の体組織が剥げていく……。

 

「一夏!」

『…む、どうやらここまでだな』

 

 徐々に身体から光が失せていくクロエ……否、火星の女王。その碧眼が品定めするように生徒達を見る。

 

『精々足搔けよ、人間。力に飲まれ、激情に支配された今のお前達では奴には勝てん。蜘蛛を殺した蛇の足元にも及ばんよ』

 

 その瞬間、空中に立っていた彼女の身体が、引力に引かれ自由落下していく……。

 

「姉さんっ!」

 

 ナイスキャッチする妹、そのまま姉は瞼を閉じて、眠りについた……。

 

「クロエの様子は……?」

「問題無い、気を失っているだけだ」

「この状態で問題がない……なんて言えるのかしらね……?」

 

―ばたり……―

 

 そして、もう一人が意識を失い、地に倒れ伏す。

 

「……一、夏……?」

 

 だが、こちらは意識が朦朧としているだけだった。う、ん……と譫言を口から漏らすと、少年は慌てた様子で跳ね起きる。

 

「ッッッうわぁ!?」

「ふぇッ!」

 

 そして、ISスーツが破れた個所や額に触れて、自分が今どうなっているか確認する一夏。どうしてだ、と顔が困惑に包まれる。

 

「俺……頭、潰されて……胸……あれ……?」

「一夏……」

 

 何故、俺は死んでない……?イイヤ、それどころか、皆大丈夫だったのか……?

 

「箒……?無事だったか……?」

 

 だが、一夏を見るクラスメイト達の視線には……もう今までと同じでは無い気がした。無事で安心した陰に、言い逃れない畏怖が隠れているかのような……。

 

「………………」

 

 そんな空気の中、空中から何かが降ってきた。

 

「あ痛…ってこれパンドラボックス!」

 

 ガチャリ、と零れ落ちる地球外の遺産……、そして、地に墜ちたのはもう一つ……。

 

(…これは…ビルドドライバーじゃない…一体……)

 

 更識簪は未知の道具を持ちあげ、そして思う……。この世界に一体何が起こっている……?

 

『しかし…まさかエボルドライバーが生成されるとは、ねぇ…』

 

―ッ‼―

 

『はいはい、立ってくださぁい?…“織斑マドカ”、ちゃん』

「⁉」

 

 サンタ・テレサの中にいる存在が、くつくつと面白げに嗤っている。Mと呼ばれていた少女の名だと理解するのと同時……ISに携わる者たちにとっては聞き逃しがたい者の名前であった。

 

「おり……むら、…だと?」

 

 その少女に向けられるのは奇異の視線。ぽたぽたと額から赤い液体が垂れ、地面には壊れたISのパーツが散乱している。

 だが、それほどの傷を受けても彼女の殺意は折れはしなかった。トランスチームガンを手に取り、前を向くその少女。

 

「……織斑、一夏……‼」

「ッ、千冬姉と…同じ顔…」

 

 世界最強と瓜二つだということが、生徒たちの脳裏に一握の疑問を落としこむ。自分たちの知らない何かが、日常にまで侵食してきた…そんな違和感。

 

「コレで終わったと思うな……!」

 

 周囲に散らばった瓦礫の中から、デザストリガー(一夏のものと同形のアイテム)を手に取り、前を向く。

 

「まだ終わらない…!私は貴様等の前に現れる…!」

 

 歯を剥き出しにし、瞳孔を開き、血まみれの顔が歪んでいく。這いつくばった手で土を巻き込み、血が滲むまで拳を握りしめる。

 

「更なる力を手に入れて……!」

「ッ…」

 

 彼女の背後には、どす黒い牙が並んだ顎が見える様だった……。

 

 

 

 

 

―んじゃ、帰りますよ。うちのマドカがごめんなさいねぇ…パンドラボックスの事ですが、今日のところはあなた方に預けておきます。すぐに取り返させてもらうのでお気になさらず……フハハハハ……ハーハハハハハハハハハハハハァーッ‼―

 

 

 そんな言葉が聞こえると、周囲は煙に包まれ……新たな戦いの兆しが見えた……。




Q.あなたにとってブラッド族とは何ですか?
エボルト(原作)「口出しが多いが、なかなかに役に立ってくれる………あぁ、…『俺の道具として』、な」
伊能「使命を全うしない奴らが多すぎる…」以下二人(ウンウン)
キルバス「すぅべぇてぇ!殺すゥ!」
惣万「…餌」
五人「「「「「⁉」」」」」

火星時代以前の惣万…矛盾型の人間至上主義ブラッド族。共食いが好きで美食家(レストラン経営がうまくいっているのもグルメだから)。但し脳髄は好まず、遺伝子を操作する力を使って捕食するブラッド族の記憶を脳に封じて廃棄する。その用心深さによって乗っ取られるなどのトラブルを回避し、自我の崩壊も起きていない。
 同族殺しを残酷なことをしている自覚はないが、玩具として殺すエボルトやキルバスなどと比べ遥かに常軌を逸している。なお、この同族食衝動はブラッド族にのみ向けられ、人間の事は同族だと思っていないらしい。この事は惣万の心に影を落とす事に……。


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第七十三話 『ファントムたちの胎動』

惣万「長らくお待たせしました。質問コーナーのおじかんでぇっす!」
宇佐美「ぶっちゃけ色々やってて作者の時間が取れなかったというか……まぁ良いか。さて質問だ。今回は烈勇志さんと通りすがりの錬金術師さんからのメッセージ……、惣万。お前の母親蒼穹ってどんな人だ?」
惣万「…………、可哀想な人、かな……。……本当は良く分かんねぇんだ。親の心子不知、ってあるだろ……。親は子供を育てるものだけど……大人になった息子の事は、もう助けてくれないんだ」
宇佐美「………………ふん」
惣万「?何かおかしかったか?」
宇佐美「いいや、血が繋がっていなくとも、親と子って事だと思ってな」
惣万「?」
宇佐美「別に今のお前に分からんでも良いだろ。さて次……『ファウスト』内部(なんなら亡国含めてもOK)に宇佐美の事を『ウザイ』(神のテンションやマッド的な意味で)と思っていない人っているんでしょうか?だとさ」
??「それと我が救世主と声が同じである、ビルドとその愉快な仲間たちから見た宇佐美という人物を一言でいいのでお聞かせ願いたい」
惣万「うわ誰!……シノビミライドウォッチ?」
宇佐美「………………ふむ、別次元世界の閲覧を完了した。この少女は先詠未来。神姫絶唱シンフォギアをベースとした世界の人物であり、仮面ライダー……おっと、先まで読みすぎたな。因みにカイザに変身しそうな人とか393とかではなく、読みはミライだ」
惣万「カイザはディケイドの方の393だろ……で、だ。ここに宇佐美のアンケートがある」

・Sお姉さん談「……リーサルウェポンではあるんですよ、えぇはい。要所要所でやることやってくれますし……ただキャラが強すぎて私の影が薄く……え?もともとだろですか?【PERFECT PUZZLE…!】あまり私の心を滾らせないでください」
・B妹談「宇佐美にたのむなら~…姉さんに頼むな~」
・Sおば…オネーサン談「ハッハッハッハ…昔の私の写真ばらまかれた相手を許しはしたけど、ねぇ?(以下怒りのあまり訳分からん事言ってます)分かるでしょ中学生の頃の卒業文集の将来の夢の欄大っぴらに音読される気分。その発表者に少なからない因縁持たない人間がいなくて?大体(以下略)」
・ドジっ子O談「うッッッッzzzzzzzzzzzzぜぇ!以上!……ってかなんだードジっ子っておーい!」
・Mの手紙「ふぁうすとのそうまさま。わたしはまいにちまいにちきちがいこうもりにばせいをあびせられていぢめられています。わたしのなまえはえむですがいぢめられるのはすきぢゃありません。あのひとをピーッしてウッフーンしてバキューン!ズキューン!ア゛ァーッしてやってくだちい。えむ」


先詠「……酷いですね」
惣万「……、……(意外に俺こういう子も好きなんだがな……)」
宇佐美「(ピクッ!)……なんかスタークからフラグの匂いが……」
惣万「(おっと何故バレた?)……えー、それではアバン終了!次行こう次!」
先詠「さてさてどうなる第九十三話!」
惣万&宇佐美「「とられた!?」」


 夜の帳が降りる頃、研究室に煙と共に来客があった。一人はズタ袋の様なフードをかぶり、もう一人は血だらけである……。

 

「ただいま。それとお土産だ」

「お疲れさまだ、『ショコラデ・ショコラータ』」

 

 そう言って簀巻きにされていた何かを放り投げるショコラータ。包んでいた布が投げられた勢いで外れ……Mの顔が露になる。

 

「がっはぁぁ……!?うぐぅ……」

 

 ボロボロの状態で床に転がる織斑マドカ。その有様を見て、宇佐美幻は冷めた目で宣告する。

 

「はっ……、無様だな、M」

「黙れ……‼」

 

 織斑マドカは焼け爛れた手足で、鉄の地面を力強く叩き、何とかその身を起こす。不屈の意思で瀕死の大怪我を無視したMだったが、幻は無情に彼女へ罰を言い渡した。

 

「もう貴様にISは使わせない」

「何……?」

 

 瞬間、マドカの心の中にガラスがヒビ割れる音が響いた。

 

「代わりにライダーにしてやろう、上手く生き残れば、だが」

「ライダー……だと……‼」

 

 寒くもないのにその体が怒りで震えだす。

 

「ふざけるな!奴らと同じ力で戦えだと!?」

 

 その力はMにとって屈辱以外の何物でもない。ブリュンヒルデの再現品として扱われていた彼女は、ISは愚か、ライダーシステムに頼らざるを得ない自分の現状を認めたくはなかった。……ただし、彼女は未だ気付いていない。自分が既にネビュラガスの影響によって論理的判断ができなくなっている事に。

 

「くそっ、離せ!私を離せっ!キーサァ‼……私はできるんだ!私にはまだ、力が……‼報復が……、憎悪を奴らにぃぃィィィィ……‼」

 

 そのまま身体を滅茶苦茶に動かして、完全に立ち上がりトランスチームガンを握りしめるマドカ。四肢が引き裂かれる様な痛みも、怒りで引き出された脳内麻薬によって遠くへと消える……だが。

 

「では、織斑は私が消去しよう」

「っ、なに……!計画とやらはどうした……!?」

 

 怒りの感情を抱く復讐者は幻も同じ。復讐者によって一番避けたいことは『復讐すべき対象が奪われること』だということを彼女は身を以てよく知っている。それ故、彼女は世界の誰よりも、一枚も二枚も上手だった。

 

「『アレ』の回収をすれば奴らが死のうが関係ない……それに、私の正体を理解しているだろう?織斑マドカ」

 

 その言葉を聞いた途端、マドカは血相を変えて暴れるのを止める。

 

「ッ、やめろ……!あの復讐は私のものだ……!」

「人にものを頼む態度じゃあないなー?」

 

 軽く言ってから、宇佐美は人差し指を床に向かって指し示す……。その行為の意味に気が付いたマドカは、今度は屈辱で顔を赤く染める。

 

「土下座しろというのか……!ふざけるなぁっ‼」

「我々を見くびるなよ?世界最強程度を殺す方法は、やりようなら幾らでもあるんだ……」

 

 

 驚愕、屈辱、そして逡巡……。青ざめ、そして怒りによって赤くなった顔が歪みだし……。

 

 

「……ぅうアアアアアアァァァァァァァァッッッ‼」

 

 

 薄暗い部屋に悲鳴に近い叫びが上がる。酷く惨めになる冷たさの床が、かえって沸騰した血液の熱をつぶさに伝える。発狂した様に目を見開き、舐る様に目を上げるM。その形相は、野生すら慄く狂気を孕んでいた。

 

「……ふっは。鰐と言うよりも恐竜だな。イイヤ、狂竜か?まぁどうだって良いか、ハッハハハハハハハハハハハハハ‼」

 

 宇佐美は叫びながら土下座するマドカをニヤニヤしながら見下し……。

 

―ガスッ……―

 

 

 

 

「んあぁぁあ!んうううぅぅぅぅぅっ!うぅッッ‼ヴヴううゥゥゥゥゔううぅぅぅウウッッッ‼」

 

 

 

 

 躊躇なく頭を踏みつける。宇佐美に射殺さんばかりに殺意の混じった視線を向けるマドカ。

 

「ふ、可愛らしいな……さて、試験体の最終段階だ……。すべては……究極のドライバーを創る為。お前には地獄を味わってもらおう……」

 

【デンジャー……!】

 

 ポケットから取り出したひび割れたボトルを弄びながら、パソコンに映った実験施設の様子を伺う宇佐美。そんな最中で、Mはトランスチームガンを奪われても、反抗的な目を止めることは無かった。

 

「あぁ、勘違いするなよ?お前の軽はずみな行動は実に役に立っている!予想以上にな?お前は私の最高のモルモットだァ!」

 

 這いつくばった格好のMを見て、再びゆっくりと歩み寄る。

 

「織斑達が味わう地獄は、まだ始まったばかりだ!それはお前とて例外ではナァイ……。Mゥ、お前の心の水晶は……」

 

―べろり……―

 

 そして、髪を無造作に掴むと、血塗れになった顔の傷口を舐めとり、三日月の様に裂けた口から悍ましい声が漏れ出でる……。

 

「砕けず、輝き続けることはできるかな?」

 

 その笑顔は、まるで魔神の様であり……まともな神経の人間の精神力では耐え切れない程の狂気を有していた。

 

―ドガッ‼―

 

 宇佐美は粘つく唾液に塗れたMの頬を叩いてから、革靴で顔を蹴り上げる。

 

「がッ…!」

「……連れていけ」

 

 ファウスト製のアンドロイド、ガーディアンに捕まれ部屋から連れ出されるMの後ろから、不気味な笑い声が抜き去っていく……。

 

―ヴェハハハハ……ハァーッハハハハハハハハ……‼―

 

「……く、そ……」

 

 薄れ行く意識の中……Mの心の奥にある砕け散ったプライドに、何かが起ころうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

【コブラ!ドラゴン!エヴォリューション!……Are you ready?】

 

―……なんだ……?―

 

【ホワイトホール!】

 

『貴方は力を求めますか?』

 

―白……式……?―

 

【ホワイトホール!】

 

『織斑一夏……もう、戻れないぞ』

 

―白騎士……―

 

【ホワイトホール!レボリューション‼】

 

『ま、得るしかねぇよなァ‼弱ぇえんだもんなァァァァァァァァァァァ‼』

 

―……ッ!―

 

【フィーバーフロー!フッハッハッハッハッハッハ……ヒャーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァ‼】

 

―……な。…んだありゃ………‼―

 

【Ready go!ホワイトホールブレイク!】

 

 真っ白なスマッシュにも似た怪物が、銀河系をホワイトホールで吹き飛ばすのが見えた……。

 

―止め……ッ!―

 

【Ciao~!】

 

 

 

 

 

 

 

「う……あ……ん、ってぇ……」

 

 織斑一夏は、真っ白な空間で目を覚ました。

 

「ん?ここは……」

 

 そこは、以前も見た塔が遠くに聳える水面であった。

 

『……よぅ、気が付いたか』

「ッお前は‼」

 

 振り返れば、忌むべき自分がそこに居た。真っ白な髪と肌、黒いIS学園の制服を着た、全てが反転した白い一夏。気づけば立っていた水面の色が赤く染まっている。さっきも彼の声が聞こえてきたが……一夏が聞いたのはもう二人分あったはずだ……。

 

「……白騎士と白式はどこ行った……?」

『だから言ったろ、俺はお前のISであり、お前自身だ』

 

 一夏は…その言葉と共に先の惨劇を想起する…自分が怪物になった姿を。

 

「そんな訳があるか!俺はお前の様な……狂気の塊の様な……!」

『いい加減認めたらどうだ。自分が人間かどうかも分からないばけもののくせに』

「!?」

 

 自分を否定する自分。そしてその自分の主張を否定する自分。

 

『お前は戦いを求めている。世界は玩ぶためにある。お前はいくら取り繕ったところで、血が流れることを求めている』

 

 どうしようもない現実を、遺伝子に刻まれている意思を……一夏自身に叩きつける白い自分。

 

『力を欲する為戦いを求めるのか、戦いを欲する為に力を求めるのか……それは俺にも分からないがなぁ。ただ言えるのは……、お前はそう言う血塗れな星の下に生まれたんだよ』

 

 そう、この世界の織斑一夏は人にはないものを持っていた。狂気が満ちる。ほォら、お月様が君を見テケタケタ笑ってㇽヨ。

 

『一夏……お前は本能で戦いを求めている!愛と平和などじゃない……心の中の飢えが、渇きが、力を求め続けている‼その大義名分として、箒を守ると言っているだけと違うのか?』

 

 恐怖が蔓延る。自分が戦いを心のどこかで喜んでいる。いる、確かに何かが、自分を突き動かす歯車が、ガキガキ変な音を立てて回ってイる。噛み合ッた面がボロボロと心筋を苛ム。自分の心と噛み合わないヨズレるよズレっちゃってる。イッヒイヒヒ。ケッタケタケタ蹴ったライダーキックケタケタ蹴ったラぶっ飛んだ。殺すなんてやっばぁんアッタマおか()い。いっぴゅあ!アレアレアそれってでも狂ってる?道端歩いて蟻潰()て、ソれを野蛮って言うノかオレ?命を無くすのが野蛮ってソレは狂ってるよーね。命ッてぇのは誰()も平等であるワけよ。植物も動物も宇宙人も神様もオ手手繋イで皆さンハイドーぞ滅ビま()ょ。人ヲ殺しちゃダメで植物は良ゐの?動物ハ良いノ。それは良くなーいなッ(≧▽≦)君たちィ。君達人間がヤッテルコトは下等生物を見下ス自称:上等種族とやラのヌルゲー思考の黒幕じゃジャジャジャーン。人間だケ、宇宙人ダけ、神様だけガトクベツなんて狂ってくるるクルクルクルリ。エボルドライバーのハンドルクルリん!狂うってこてゃ死゛()ョークのセンスに捻りがあるって事だ。捩れ抉れそうお腹がポンポが捩じ切れそう、あひゅあ?あっれあれられおか゚()ぃなあ。無いよ?(ヾノ・∀・`)ナイナイ()ちゃったよ、どこに行ったのかァぁナ君たちのお腹から下。

 

「ッッッッッッッ!!!???」

『視たなぁ?お前の起源を。あの白蛇野郎の生前からの歪みを』

 

 もぉ地の文も狂っチまッたあっちゃー。まぁ死ょーがネェな。ディケイドじゃねーけんども。おぉtおその時不思議な事が起こりま()た?

 

「……違う、俺は昔誓った……」

 

 ………………………………、織斑一夏は、狂気に呑み込まれながらも、頭痛を振り払い前を向く。

 

「あいつに泣き顔なんて似合わねぇ……だから戦って強くなる……」

 

―ぎろっ……―

 

「……お前の指図は受けねぇ……!」

 

 一瞬にして、目が金と赤のオッドアイに変化した。

 

『はッハァ……お前、気が付いてねぇな?……良いぜ、戦えよ一夏』

 

 狂気は、本能は収まらない。留まるところを()らない。

 

『剣を取れ、心行くまで殺し尽くせ。無慈悲に、細胞一片も残さずに。最低で最悪で最高な、下らねぇ戦いを続ければいい。永遠になぁ』

 

 途端、血飛沫が赤い海から立ち上る。さんさんと降り注ぐ真っ黒い太陽の光と赤い雨……。

 

『それまでずっと俺は一緒にいてやるぜ、お前の魂を喰らってなぁ……』

「……‼」

 

 そして、世界がひび割れ、………………真っ白な孔と真っ黒な孔が、全てを飲み込まんとし始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏side

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ‼」

「「「「「どっわぁァァァァァ!?」」」」」

 

 ……、うん……、シィンと静まり返った病室。時間は見たところ深夜……。……はい、滅茶苦茶迷惑ですねゴメンナサイ。

 

「……一夏……?」

 

 ……………………え?

 

「箒……?」

 

 そこには、IS学園でなじみ深い面々が集合していた。ずっと俺の傍にいたためか、寝ぼけまなこでも握った手が俺を掴んで離さな……。

 

「一夏っ‼」

「ぼあっぷ!?」

 

 がぁっ⁉ぐっへ、痛い痛い痛い!?何だこれ!意識飛んでる間何があった!?いやまぁ箒のホールドが滅茶苦茶キツ……あ、でもキモチヨクナッテキタカモ~……。

 

「……ちょ、溺れてる!胸の中で溺れる!一夏溺死する……っ、あ」

 

―かくっ……―

 

「……落ちたな」

「なんだと!一夏!?うわぁぁ一夏ァァァァァ!?」

 

 ……やっぱり女の子って()ーらかいしいいにおいするよねー……。

 

「……チッ、男の理想郷に溺れて死ねばいいのに」

「どこのアーチャー…?」

「無論醍醐寺だと思いますが……」

「セシリア、多分漢字違う?てかそういう事じゃないよ…」

 

 そんなバカ騒ぎするクラスメイト……あぁ、日常に戻ってこれた……みたいだ……。

 

(………………戻ってこれた……のか……?)

 

「む、寝たのか……」

「落とした、とも言うわね……」

 

 薄れて見える視界の端……それぞれの会話を唇で何とか読み取る……。

 

「一夏にとっては散々な誕生日になってしまったな…」

「せっかくパーティにnascitaの予約を取っておいたのに……」

「そうだな……、一週間後にでも退院おめでとう会を開くか」

「良い考えじゃない、丁度弾も退院らしいしね!」

 

 あぁ、そう……だ……戦兎さんにも……、千冬姉にも……、惣万にぃにも、……今日の事……言わないと……。心配させて、ごめん、って……。

 

(でも、何でだ………………

 

 

 

 

 

 

 

もう。惣万にぃに会えない気がするのは…………………………)




モッピーの兎属性探知機

箒「私はバッドなラビット指数を第六感で0~100ウザギに区分することができる!」
惣万「何その単位……。ではコレ、ラウラちゃんとシャルルのお昼寝写真」
箒「あまり影響が出ません、5ウザギです」
惣万「へー、んじゃ学園祭ん時のコスプレ集から眼帯逆にしたチンク・ナカ……ラウラ」
箒「あ、黒ウサギ感が消えてゼロですね。……リリなの好きなの」
惣万「んじゃこの馬鹿」<ヨルハヤキニクッショー
箒「……、40ウザギですね」
惣万「高町な〇は+セイクリッド・♡+アイ(ンハルト)・S(ストラトス)
箒「はち……じゅぅ……(泡吹いて失神)」
惣万「ふむ、バッドの判断は正確性に欠ける、と……メモメモ」


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第七十四話 『薄情のメリークリスマス(メリークリスマス・ミスターロンリネス)

ラウラ「メリークリスマスだな。ところで姉さんから町内会活動のクリスマス会でダンスをしないかと誘われたのだが……皆はダンスの経験はあるのか?」
セシリア「英国貴族として社交ダンスは必修項目でしてよ。それ以外にも旅先のお祭りで踊ることもありましたわ」
シャルル「俺もお袋から社交ダンスみっちり仕込まれたな。あと独学でオタ芸」
鈴「前者と後者の格差が酷いわよねアンタ…アタシのはダンスと言うよりは演武かしら」
箒「私は神楽舞だな、夏祭りに戦兎さんが踊ったやつだ」
簪「…私も日本舞踊習ってた…」
一夏「皆スゲーな、俺学校の創作ダンスくらいしか踊ってねーよ。しかも振り付け考えたの弾の奴だし」
鈴「だったらここで適当に踊ってみなさいよ。適当な小道具なら貸してあげるから」
一夏「マジかよ!?えーっとじゃあ、このステッキで……」
クロエ「一夏が踊ってる間、七十四話をお楽しみください、それではどうぞ」


「『赤騎士事件』ですが…――――。どうやら調査は難航しているようです」

「だろうな。恐らくは惣万に近しいものの仕業だろう。現行テクノロジーを使う人類種に頼ったところで、我らが望む回答は返ってこないのは見えている」

 

 ここはファウストの本拠地。技術開発部門の二人が、量子コンピュータの前でキーボードをタイプしながら会話をしている。

 現在調査中であるという内容を長々と引き延ばして書かれた各国の書類を放り捨てると、宇佐美は3Dプリンターで形成中の赤いスチームガンを取り出した。

 

「さて、こちらも用意をしておくか…」

「…――――それは?」

 

 尋ねるシュトルムに、自慢げに銃を見せびらかす宇佐美。彼女は今にも頬擦りしそうな距離で銃を眺め、愛着を持ってその外装を指でなぞる。

 

「惣万の新型スチームガンさ。『あのドライバー』があるため変身機能はオミットするが、それを補って余りある破壊兵器だ。その力は従来の五十倍以上。人間なら使用時の負荷に耐え切れずに死亡するが…彼ならば問題無い」

「…――――」

「それに、新たな機能も追加している。嗚呼、神の才能がまた一つこの世に具現化される…このクリエイティブな時間は非常に良い気分だなァ、ヴェハハハハハァッッ!……――――あぁ、恐らくお前の妹も使っても平気だろうが……どうする?」

「結構です」

「だろうな、妹思いなことだ」

 

 その答えを予測していたのだろう。宇佐美はやれやれと首を振ると、再びプリンター内部へ戻し、量子形成を開始させる。未知の物質が材料となり、じわじわと新たなパーツを形成していく。

 

「さて。ブラッド・ストラトスの調整はどうなっている?」

「不特定要素が多いことは確かですが、バックドアのシステムは構築できました。この“孔”は自己進化の過程で消滅してしまうでしょう。例のボトルを作るのは今の内です。ただし、これでボトルを作ってもBSの人格が無事であるという保証はありませんが」

「『惣万』や『忍』のプランが前倒しになった影響だな…、まぁ構わん。万が一の場合は新たにBSを造れば済むことだ」

「そうですね。技術を応用した量産化の目途は立っていますし」

 

 ISコアを造り出せるファウストの麒麟児らにかかれば、計画の急激な変更も想定の範囲内であるらしい。明日の天気を話すかのように、オーバーテクノロジーの塊を廃棄するか否かのことにさえ頓着していない様子だった。

 

「では、『ロストボトルを凌駕する神の力』を……我らの手で創り出すとしようか!」

「計画は、フェーズ2へ移行します…」

 

 シュトルムが手にしていた計画書。そこには極秘という判と共に、『ストラトスボトル』という謎の単語が躍っていた……。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「うぇー…この瓦礫どうなってんのよ、有り得ない溶け方してるんだけど…」

「…一夏が変身したスマッシュみたいなヤツ、分析したら反物質作ったりとか対消滅を簡単に引き起こせるとかするみたい…」

「それは、相当ですわね…」

「ところで嫁はどこへ行ったのだ…?」

「別エリアでの作業らしいぞ。…――――あんなことがあって一夏は大丈夫だろうか…」

 

 所変わってIS学園の崩壊した校舎跡地。一年専用機持ち達は、被害甚大な校舎の片付けをISによって行っている。

 

「…」

「教官?如何しました?」

「ッ、ラウラか…。すまない、少し考え事をな。よし、作業が終わったら地下施設へ来い。以上だ…」

「はっ…(ん?教官が…ラウラと名前読み……――――?)」

 

 もはやIS学園が休校するのは時間の問題だろう。教室棟と特別棟が一夏の変身した怪人態によって、木っ端微塵に消滅してしまったのだ。そんな廃墟と化した人工島の、辛うじて残っていた地下施設にて、仮面ライダーゆかりの面々が集合した。

 学園と繋がり深いIS委員会から、パンドラボックスやそのデータを安全な場所に移動させるよう指示があったのである。だが、戦兎はソレに対して一抹の疑いを抱いていた。

 

「戦兎……それは、一夏の体内から出てきたドライバーだな」

「うん、そーだよ……」

 

 千冬が尋ねるのも馬耳東風。廃墟の中で作業を進める戦兎。持てる技術の粋を集めて、赤と金のビルドドライバーの解析を進めている。

 

「IS委員会から未知の物質の研究は各国研究機関と合同で行われると通達されたはずだが…戦兎、なぜお前が持ってる?」

「馬鹿言わないでよチッピーセンセ。分かってんでしょ?どう考えたってファウストの罠じゃん、それ」

 

 赤と青のオッドアイがジロリと動く。戦兎はスタークの言葉を思い出していた。ファウストは世界を支配するという言葉。それが偽りでないのなら、当然今の世界で力を持つ組織にも人員を潜伏させているだろう。

 そして見計らったようなタイミングでこの指令。疑いを向けるには十分だった。

 

「だが…」

「研究機関にはオレが創り出したダミーを与えておくよ。この世に存在しない物質で造れば、まだ何とか誤魔化せるだろ?」

 

 戦兎の手の中には、すでに作ってあったダミーの赤いドライバー。数日の急ごしらえとは言え、一夏の体内から出てきたドライバーを6割方解析し、それと同様のシステムを組み込んでいるところを見ると、彼女の技術力の高さが伺い知れるというもの。

 

「……」

「……――――ところでさ、チッピーセンセ。謎のドライバー(これ)を生み出した一夏のことでちょっと」

 

 一瞬で千冬の表情に暗雲が立ち込めた。だが、何処か重荷を下ろせるのを哀しく喜ぶ、そんな顔でもあった。

 

「プロジェクト・ビルドの開発セクションのデータの中に、『プロジェクト・モザイカ』ってヤツがあったんだけど」

 

 瓦礫の隙間から差し込む光が織斑千冬の頬を濡らす。顔を持ち上げた彼女が涙を流すかのように、細々と通り抜ける薄明り。

 周囲の温度が急に下がったかのように、妙に居心地が悪くなる各国代表候補生。パンドラの箱を開けてしまうような、嫌な気配が漂い出している。

 

「……――――そうか、気付いたのか」

「ねぇ……コレ、ここで言って良い話?」

 

 なんなら場所替えるよ、とでも言いたげに戦兎は外へと視線を動かす。

 

「……――――構わん。一夏はまだ知らんが……いずれ知るべきこと、なのかもしれない。此処にいる連中にも、多かれ少なかれ関わってくることだ…特に、箒やラウラには」

 

 どこか、声が震えている。気丈に振舞ってきた彼女らの先生が、これ程弱さを見せるのは初めてのことだった。

 

「えぇと、……――――千冬さん?」

「私、ですか?教官…」

「もう、嘘はつきたくない。……いいや、違うか。嘘をつき続けることが、苦しくなってきたのだろうな」

 

 小さく、覇気のない張りのない声。思いのほか精神が参っているのだろう。自虐するような笑い声が上がる。

 

「ほらな、私は世界最強など到底無理な、弱い存在だよ」

「……じゃあ、言うよ?」

 

 意図を酌んだ戦兎は、哀し気にその真実を口にした。

 

 

 

 

 

 

「……――――一夏、あの子人間じゃないって」

 

 

 

 

 

 

 衝撃の事実が、彼女らの耳に届く。

 

「……――――え?」

「ちょ、どういうことよ!?」

 

 狼狽具合が激しいイギリスと中国の代表候補生。

 いいや、初めから違和感があったのだろう。彼女らは聡い娘たちだった。一夏がどこか、普通の人間ではないと心のどこかで思っていながらも、友達として接してきた。

 それ故、そんなことはないと振り切るように、先を促し一夏を人間として扱える訳を探す。だが、戦兎の告げる真実は無情だった。

 

「『プロジェクト・ビルド』で行われていたのはドライバー開発やスマッシュ実験だけじゃない。パンドラボックスから得られるデータを基に、宇宙空間における活動を補佐する技術が目立っている。というか、葛城忍の論文データを見たらIS並みか、それ以上だね。これを基にした技術の兵器転用も示唆されていた」

 

 つらつらと、あまりに無感情に告げられるプロジェクト・ビルドの細かな内容。怒りを抑えているからだろうか、戦兎は徐々に早口になっていく。科学の負の側面のみを抽出したかのような、そんな概要が見苦しくてたまらないとでも言うかのように。

 

「そしてもう一つ、技術者の人員が一番割かれていたのが……――――『遺伝子改造研究』」

 

 現代の七つの大罪とも言えるソレ。『環境汚染』、『極貧な苦難』、『過剰な贅沢』、『薬物乱用』、『人権侵害』、『人体実験』も含まれる、人が自らを貶める自滅要素が一つ。

 

「∑プラン『プロジェクト・モザイカ』、Γプラン『プロジェクト・ウルティマ』、Vプラン『プロジェクト・クオークス』、Kプラン『プロジェクト・ミュータミット』、Dプラン『プロジェクト・ネクロオーバー』、……――――こんなにある」

 

 瓦礫の中、廃墟の奥で、ぽつりぽつりと語られる悪魔の研究。

 

「特に問題なのはプラン∑とΓだよ…いや、どれもこれもこの世界の倫理法無視してる外道供の仕業なんだけどさ。これらのデータはドイツに流れて……そしてファウストのナンバーチルドレンやクロエ、ラウラちゃんの元になった」

「……」

 

 ラウラは思わず苦い顔をする。シャルルとの出会いによって出生に思うところはなくなっているが、やはり面と向かって真実を直視するのは違うようだった。

 

「…ちょっとまって、この流れって、もしかして…」

「……簪ちゃん。多分察した通りだよ」

 

 戦兎が千冬に目配せをする。覚悟は良いか(Are you ready?)、と問うかのように。千冬は、重々しく頷いた……。

 

 

 

「プラン∑、プロジェクト・モザイカ。……――――別名、『織斑計画』」

 

 

 

 その虫の知らせは確証に、その一縷の望みは絶望に。あらゆるものが黒く斑に染まっていく。

 

「おり…むら、って…!?」

「……――――この計画の目的は、特殊な遺伝子を持つウィルスサイズの細胞『モザイカ細胞』を用いて、『究極生命体』を創り出すことにある」

 

 生徒たちの驚愕をよそに、戦兎は続ける。今優先するべきは、真実を彼女らに伝えること。閉ざされた瞼を開くこと。涙を流そうと、その目を閉じることはもう許されない。これから戦いの一途を辿るこの世界で、最早逃れる道はない…。

 

「ここで言う究極生命体とは何か……――――宇宙空間でも通常の生命活動を行え、あらゆる惑星環境にて生存できる、文字通り地球外生命になれるかどうかだ」

 

 その絶望からは、誰も逃れならない。

 

「試験体シングルナンバー時点でも、内包する遺伝子情報は最低で人間の数億から数兆倍。理論上じゃ宇宙のあらゆる生命の特性を再現できる上、生命体の枠組みを越えた運動能力、細胞の一片からでも再生できる超回復力、受けた損傷を元にして以後は自身を害する力に完全耐性を得る自己学習能力、ブラックホール内部でも問題無く活動できる超越した生命力が見受けられる。映像データもしっかり残ってたよ」

 

 誰もが悪い冗談だと言いたかった。しかし、それを打ち砕く証拠がその存在を裏付け、正当化していく。

 

「普通そんな存在を創り出すことは不可能だ……――――普通だったらな」

 

 織斑千冬と因幡野戦兎。彼女らが冗談で言っているはずがなかった。誰よりも嘘だと言いたい人間たちが、歯を食いしばって耐えている。

 

「このプロジェクト・モザイカ、その主任研究員は『織斑四季』。恐らく遺伝子研究分野では、オレや篠ノ之束を簡単に超えている。まさに『大天災』と言って良い…」

「彼女は私たち織斑の母親だ。ある意味で、だが」

 

 そこで千冬は、もう後戻りはしないと意を決して、言った。

 

 

 

 

 

 

「……――――。はっきり言おう。このプロジェクト・モザイカ、最終トライアルである∑-1000Wこそが……――――私だ」

 

 

 

 

 

 

 閉じていた瞼を啓く。織斑千冬の目から、一滴の雫が墜ちる。飾り気のない白い頬に流れる血涙。絶望の線が彼女の強張った頬に描かれた。

 

「ま、待って下さい教官!因幡野教諭の言う特徴など、当てはまっておりません!お怪我をなさった時、それほど早く傷が修復されていたとは…」

「その通り。私は他の最終トライアルと違い、どうやら失敗作のようだからな。だから力が人並みなのだろう」

「人、並み…?」

「…そうだね。映像データから算出するに、チッピーセンセの力は別個体最終トライアルの0.2%ってところかな…」

「……噓でしょ」

 

 この世界は、完璧や完全を容易く破壊する理不尽に満ちていた。天災すら凌駕する人の業。何も創り出せず、何も生み出せない無が、世界の全てを呑み込み始めていく。

 

「生み出された際の記憶はない。ただ断片的に思い出せるのは、『織斑四季』という女が私を創造したこと、『∑-01S』である一夏が生み出されるところ…――――それだけだった。ふと気づくと、研究施設から赤子だった一夏を抱えて逃げていた」

 

 俯いた彼女は何かを求めるように、血涙を拭った手を彷徨わせる。郷愁も温もりも、愛さえも無かった彼女が、ただ今まで歩んでこれたのは、『人になりたい』と思えばこそ。

 

「……――――お前たちに頼みがある」

 

 彼女は、年が一回り近く離れた子供たちの目の前で跪く。

 

「え……――――」

「!?」

「ちょ、ちょっちょちょっと!千冬さん!?」

「教官、お顔を上げてください!」

「…先生…」

 

 彼女は鉄骨だらけのコンクリートの床に這いつくばるように、赦しを乞うように、力無く首を垂れる。

 何もできない彼女が唯一できることこそ“願うこと”。それはこの十年で痛感した、己が無力さ。世界最強と称された力も、戦い以外では何も意味を成さないと知っているが故。

 

「この通りだ、頼む…私はなんと謗りを受けても構わない。『ばけもの』と呼ばれようが受け入れる。当然だ、私は何度も人に嘘を吐き続けてきた。この世界最強という肩書も、本当は持っていてはならない偽りのものだ。この世に生まれてきたことが、お前達人間の命に対する大いなる冒涜で、罪だった……」

 

 身を削るが如き痛みが彼女の口から搾り出される。背負った罰に苦しむ殉教者(にんげん)天地の創造主(かみ)を目の前にしたかのような平伏。正しく懺悔であった。

 

「だが一夏は違う!あいつは何も知らないんだ、あいつは…ただ“普通の人間”として今までの日々を生きてきたんだよ…!何時か知る真実だとしても、今の一夏に嘘はないんだ!責任は全て私にある…一夏を責めないでくれ…!」

 

 哀しい嘘を吐き続けたのも、全て……――――一夏の為だった。許されない存在だとしても、それでも『生きたい』と思うのは間違いではないと、生きることで証明したかった。

 

「身勝手な願いだと分かっている…!迷惑千万でしかないことも…!それでも、私ができるのはこれしかない……それでも私はお前たちに縋るしかないんだ…一夏と一緒にいてくれたお前たちにしか…!」

 

 

 

 

 

 

 罪とは、罰で贖わなければならない。

 

「……苦しかったんですね」

「……――――」

 

 その苦しみを分かち合うことはできない。

 

「辛かったんですね」

 

 その辛酸を推し量ることはできない。

 

「…箒」

 

 だが、それでも……――――。

 

「一夏を、一夏が生きる明日を…愛と平和でいっぱいにしたかったんですね」

 

 見れば、皆が泣いている。他の誰でもない彼女のために。足搔いた先の報われない生と、辿り着けない命へ、誰もが憐憫を以て傍に寄り添う。

 

「……――――何も、できなかった。何も始められなかった…、私は…無力だ…」

「そんなことありません。千冬さんはあの頃から頑張っていらっしゃったじゃないですか。ずっと、ずっと…。『人間』、誰しも何かを残すことができるはずです」

 

 彼女は顔を上げざるを得ない。相応しくないと思えるその言葉に、どんな顔をすればいいのか分からない。

 

「にん、げん…?だが、それは…」

 

 それは、母から産まれ落ちた者だけが言える言葉。少なくとも、千冬はずっとそう思って燻っていた。

 

「何を…、迷っておられるのですか!」

「……――――ラウラ?」

 

 鋭い声が響いた。涙ながらも純粋で、暖かな怒鳴り声。それは、彼女に力を教わった少女。強さを教わろうとしなかった戦士。だが、それでも、変わることができた一人の『人間』。

 

「……――――教官、私は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』です」

「……――――ぁ、あぁ。それは知っているが…」

「教官は、自分を何者だと思っておられますか?」

 

 彼女は首元の白いドッグタグを握りしめ、迷える恩師へ教わった恩を返そうとする。かつて、自分ができなかったように。そして、かつての自分が変われたように。

 

「……――――、ッ私は、…私は…」

「教官は、教官です。『織斑千冬』というただ一人の、私の恩師です。貴方という存在は、この世でただ一人しかおりません。それ以外の何者でもないのです!」

 

 自分があの日、黄金の太陽に救われたように。止まない雨は無い。黒い、雨の中でもきっと、素晴らしい青空が向こうにあると教わった。吸い込まれてしまうような、そんな爛漫な眼差しで恩師を見つめる。そこには確かに二人の『人間』が見つめ合っていた。

 

「ラウラ…」

 

 驚いたような、踏ん切りがついたような、そんな曖昧な感情の狭間に揺らぐ千冬。だが、どこか…――――決意を固めたような火が瞳に宿る。

 対してラウラは真剣な面立ちを崩さなかった。と、いうよりむしろ、眉が窄まりしかめっ面にもなっていく。終いには眦に涙が浮き上がり、顔も真っ青になって行った。一体どうしたことだろうか。

 

「………――――以上、上官に対しあるまじき発言をしてしまい、申し訳ございませんでした!これより厳罰を受ける所存であります!」

「…ぇ…――――ぷふっ、な、何ですのそれ…!」

「…シリアスムード…ぶち壊し…」

「あんたさ、ほんっとそんなところ…、よくやるわよ、もう…」

 

 その通り、“よくやった”のだろう。本当に小さな、それでも力を持った少女は成し得た。彼女にしか成し遂げられないことを。ずっと昔から凍土に沈められた戦乙女の心の一部を、氷解させるに至ったのだから。この場にいる彼女こそが、それを言う権利と資格を持っていた。

 

 

 

 

「そう、だな……――――だが、もう少し時間をくれないか?少し、ほんの少し、疲れてしまったんだ」

 

 瓦礫に倒れ込むように座ると、首元にきつく締められたネクタイをゆっくり緩めた。彼女は痞えていたものが取れたように、喉からゆっくりと息を吐く。

 

「…頑張り過ぎなんですよ、多分。今度、ゆっくり休みましょう?……――――そうだ、惣万さんのお店で一夏の誕生日パーティーなんてどうでしょう」

「あ、箒良いわねー」

「教官…大丈夫ですか?」

 

 千冬と近しい者達は、彼女が見せた疲労の色と狼狽を放っておけなかった。彼女の苦労を偲び、お疲れ様という思いを込めて傍に佇む三人の少女たち。彼女らに、千冬を拒絶する理由なぞあるはずがなかった。

 だが、その一方で…――――。

 

「…ねぇ、戦兎さん…、一夏はどうするの…?」

「……――――。一夏も『モザイカ細胞』の集合体、それも別のナニカが混じっている。極秘ファイルにもあんな現象の記載はなかった。完全なブラックボックスなんだよね……」

「…今は無理なのは分かる。でも、じゃあいつ真実を伝えるの…?先延ばしにしても…良いことないよ…?」

「その通りです。取り返しのつかない事態になってしまっては…」

「それは分かってるんだけどね…。チッピーセンセは意外に弟のことが地雷原っぽいし、一夏は一夏でストレスか何かで白い怪人態が活性化するみたいなんだよ…。どう転ぶか分からないものをつついて最悪の事態になったりでもしたら…」

「…そんな」

「まぁ、手さぐりにでも解決策を探ってみる」

「ままならないものですね…」

 

 セシリアと簪が、罪過を償おうとしてもできなかった可哀想な大人を見て、ぽつりとつぶやく。どうしてこの世界は、これ程寂しく苦難に満ちているのだろうか…そんなことまで思ってしまう。

 所在なさげに視線を彷徨わせる簪。ふと、戦兎が弄っているコンピュータの内容が目に入った。

 

「……あ、これ、モザイカ細胞のデータ…?」

「うん。でも普通、こんな遺伝子を作ることは地球上の生命体を参考にしただけではできない。何か基になったサンプルが存在するはずなんだよな。それこそ、……――――『宇宙人』とか」

『正解だ、ご褒美に遊んでやるよ』

「!」

 

 

 団欒としていた空間に、一筋の血が流れる。それは世界が流す犠牲という名の悲しみ。

 

 

「ブラッドスタークッ!」

『流石は元天災。それだけのデータで真実に辿り着くか。だが、まだまだだな。真実の奥の更なる真実ってヤツには程遠い。宇宙はお前ら程度では計り知れない神秘で満ちているというのに……』

「……やっぱりプロジェクト・ビルド系列の技術って、宇宙由来の力だったわけね」

 

 皮肉気な無駄口を叩きながら、ビルドドライバーを腰に巻く戦兎。

 

『もうちょっとヒントをくれてやる。織斑一夏から出てきたドライバー、あれをよく調べてみろ』

「……、へぇ。Thank youとか言っておいた方が良い?」

『礼には及ばない。お前達とじゃれ合うのは俺にとって大きな意味がある』

「あっそう、…――――ふざけんなよ。この世界はお前の遊び場なんかじゃない」

 

【オクトパス!ライト!ベストマッチ!Are you ready?】

 

『いいや、遊びさ。全てがくだらないお遊戯でしかない。さぁ…もう少しだけゲームを続けよう』

「黙れ、変身!」

 

【稲妻テクニシャン!オクトパスライト!イェーイ!】

 

『さぁて、人殺しのトラウマからは抜け出せたか、てぇぇんさい?』

「…もう、誰も殺さない…!皆に、友達に、仲間に誓ったんだ…!」

『はっははははッ!篠ノ之束が仲間を尊ぶとは…、笑えるなぁ?』

 

 黒いスモークの中で殴り合う二人。電気と吸引力を司るバトルスーツの攻撃が、スタークの装甲にダメージを与えていく。だが、スタークもそれを予知していたかのように手の甲やニーパッドで捌ききる。一進一退の攻防だった。

 おまけに、スタークは周囲に毒の気体を散布しながらの戦闘。長期戦闘になってしまえば、生徒たちにも害が及ぶことは明白だった。

 ならば、とばかりに戦兎はその姿を変える。周囲にトリコロールの泡がはじけ飛び、その場にライダークレストを模したファクトリーが形成された。

 

「ビルドアップ!」

『ほぉ?ならこっちか』

 

【シュワッと始める!ラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!】

【ライフルモード…!】

 

 目まぐるしく展開される二人の戦士の戦い。それにIS学園の生徒たちは手出しができない。瓦礫だらけの狭い空間でISを展開しては、寧ろ邪魔になってしまう。今できるのは、戦兎の勝利を信じて待つことだけだった。

 ビルドは四コマ忍法刀を、スタークはトランスチームライフルを用いて切り結ぶ。篠ノ之束としての技量と身体能力を以ってしても、ブラッドスタークの戦闘能力はそれ以上。全く勝ち筋が見えてこないなど、底知れないにもほどがあった。

 戦兎はマスクの下で苦虫を嚙み潰したような表情を作ると、で四コマ忍法刀のトリガーを二回引く。それと同様に、スタークもバルブを捻り上げた。

 

「ハァ!」

『フフハハ!』

 

【火遁の術!火炎斬り!】

【アイススチーム…!】

 

 激突する熱波と寒波。そして、そのエネルギーは相殺される。

 ハザードレベルが上昇している戦兎の攻撃は相当だった。急激な温度変化によってIS学園に爆風が発生する程の力を、スタークは手を叩いて称賛する。

 

『ハハハハハ!なかなかやるな。ハザードレベル4.9か。だが、その程度の炎は俺の力の前に凍え、停止する――――!』

「っ、なろッ!」

 

 凍える刃を振りかぶるスタークは、その斬撃を四方八方へと飛翔させた。ビルドは、どこにも逃げ場がない。

 

【隠れ身の術!ドロン!】

【エレキスチーム…!】

 

 周囲が煙に包まれた瞬間、閃光が周囲を駆け巡る。蛇のようにのたくるそれは、消えようとしていたビルドの身体を蝕み、スパークを起こす。

 

「あばばばばっ⁉」

『どこに逃げようと無駄だ…俺には全てが見えている。お前は俺から逃げられない』

「コレもか…なら!」

 

【ホークガトリンガー!】【カイゾクハッシャー!】

【デビルスチーム…!】【Cobra…!】

 

「これで…!」

『無駄だ』

 

【フルバレット!】【海賊電車!】

【Steam Shot!Cobra…!】

 

 橙と浅葱の波状攻撃が、暗雲に輝く死兆星の邪撃を迎え撃つ。しかし、その力を掻き消したは良いが、濛々と広がる黒煙の中より現れ出でたコブラ『ゼノベイドスネーカー』に追撃をされてしまう。

 

「ぐっ…、やっぱり攻撃が…読まれている…!」

『何をしても無駄だ。お前の攻撃パターンは全て分析済みだ。銀の福音の時のことを忘れた訳じゃないだろう?』

「……、忘れてないさ。でも、お前の言葉には一つ間違いがある」

『何…?』

「攻撃パターン全てを分析した?それはどうかな…?」

 

 だが、それでも戦兎は不敵に笑う。ベルトにセットしていたラビットタンクスパークリングを取り外すと、最後に残していた秘蔵のフルボトルを素早く振り、ベルトのホルダーにセットした。

 

【サンタクロース!】

 

『…、サンタクロース?』

 

 高らかに季節外れのジングルが鳴る。

 

【ケーキ!ベストマッチ!Are you ready?】

 

「ビルドアップ」

 

 ボトルの成分がライドビルダーの中を駆け巡る。そして形成される紅白の装甲。二つの冬を象徴するパーツが重なり合い、祝福の装いと相成った。

 

【聖なる使者!メリークリスマス!イェーイ!】

 

 サンタの帽子とショートケーキを模した複眼が輝く。讃美歌『アヴェ・マリア』が周囲に流れ、半径20mには季節外れの粉雪が舞う。正しくクリスマスを象徴した姿であった。

 

『おいおい…時期考えろ、いつ出してんだよ!』

「今がいつかなんて関係ないやい!」

『なめんな…、ッどぁっつ!』

 

 パンチを繰り出したスタークの方がダメージを負う。まさか、と思い周囲を分析するブラッドスターク。驚いたことに、高性能オーブンであるデコチェストアーマーから発せられる赤外線が、周囲に分子運動加熱空間を生み出していた。

 

『電子レンジかよ…』

「まだまだ行くよー!」

 

 サイレントナイトシューズによる消音と気配遮断によって、ビルドはスタークを翻弄していく。ふざけた見た目と周囲の環境と様々な要因が重なって、存外苦戦を強いられているスターク。

 

『ぬっ、くぅ……!』

「攻撃が、効いている…?」

「あんなふざけた見た目なのに…」

 

 IS学園生徒は驚いていいやら呆れるやら。一番リアクションに困る戦いになってしまっている。

 

『ふふ、やるねぇ……なら、コレはどうだ?』

 

 胸部にあるスチームジェネレーターが駆動し、スタークの身体能力を向上させた。彼は滑るように駆け出すと、そのままスライディングで縦横無尽に地面を這い擦り回る。ブレイクダンスのウィンドミルの如く、脚を回転させて用いることでビルドの動きを刈り取ろうとした。

 

(何……――――?今の動き、どこかで……)

 

 ふと、千冬の脳裏に過去の出来事がよぎった。その挙動に、近しい人間の面影を見る。まさか、と思う。だって、それは…――――■■■■。

 

「甘い!ショートケーキよりも!It's a piece of cake!」

 

 スタークの攻撃をひらりと躱すビルドは、ボルテックレバーを凄まじいスピードで回転させた。

 

【Ready go!】

 

 聖夜のベルは、高らかにフィナーレを迎える。ギフトチェストアーマーから飛び出した幾つものプレゼントボックス。それのうち一つは、100mはあろうかという巨大な立方体。太陽を遮り、勢いよくIS学園跡地へと落下する。

 

「え、ちょ…待て待て待て待ちなさいよ!アタシたちいるんだけど⁉」

「あいたぁ!ちょ…何かわたくしたちの方にもプレゼントが⁉」

「…え、うそ、この重さと言い、形状と言い、もしかして欲しかったDVDセット…?」

「これは、まさか嫁の抱き枕か⁉」

「お前たちは何を暢気に!」

 

 IS学園生徒がいつも通りだったのは以下略。

 

「はぁぁぁぁ!」

『ぐぅ、ぬぅぅぅ…!』

 

 スタークに激突するビッグなプレゼント。何とか腕の力でそれを押さえつけ、拮抗するも…――――プレゼントの内部から、嫌な瘴気が溢れ出る。

 そこから現れたのは死神や悪魔、燃え滾る石炭やマグマだった。それらがブラッドスタークへと殺到する。悪い子はいないかとでも言うかのような、ブラックサンタの一撃か、はたまた…――――彼が欲しているのものがその中にこそあるのだろうか。

 

『ぉ、おいおいおいおい…マジ?』

「え、何それ、こわ…。まぁ良いや。Present for you!」

『ぐぉおッ‼』

 

 死神の鎌が、悪魔の業火が、マグマのドラゴンが殺到する。スタークを断罪せんと鎌首を擡げ破壊の限りを尽くし、彼を遥か上空へと放り投げ去った。

 黒サンタたちの一団が消えると同時、その場へ轟音と共に落下し瓦礫を巻き上げるブラッドスターク。しかし、どう見ても敗北だというのに、その声は喜色に満ちていた。

 

『まさか、奥の手を隠していたとはね…だが、これでボトルは全て浄化できた。目的は、達成だ……』

「目的…?」

『また会ったら教えてやる。それじゃあ今日はここまでだ…Ciao』

 

 スタークはセントラルスタークから白煙を噴き出すと、またしてもその場から撤退を選択したのだった。後には、壊れた瓦礫と土煙……――――それと大量のプレゼントが残されていた。

 簪とラウラは思った通り、各々が欲していたものを手に入れられてご機嫌顔。因みに箒には新品の料理道具一式、セシリアには新しい下着、千冬さんにはストレスに効くメンタルセラピーの本が贈られていた。早速千冬は弟に隠し事をしてしまったらどうすればいいかのページを読みこんでいる。なお、豊乳セット一式だったらしい鈴は顔にでかい血管の筋を浮かび上がらせていた。

 閑話休題(…それはともかく)

 

「…あいつ、どうしてボトルが全部浄化できたなんて言ってたんだ?そんなこと、クロエくらいしか分からないはずなのに…【♩♪♬♫♩♪♬♫】ん?…――――電話だ。もすもすひねもすのったりのたり?」

 

 ビルドフォンを取り出しアプリを開く戦兎。どうにも気の抜けた挨拶だが、電話の内容は、それも吹っ飛ぶ一報だった。

 

『もしもし、因幡野戦兎さん、ですか?布仏本音の姉で布仏虚、と申します…――――』

「あ、これはこれはどうも。記憶の方は大丈夫?」

『それ、なんですが…――――スタークの正体を、思い出しました』

「…――――ぇ?」

 

 知りたくない真実が、彼女を襲う。




一夏「……っと、こんな感じか?前に映画で見たミュージカルを真似してみたんだが」
鈴「えーっと…なんというかね……」
シャルル「なんか三匹のお供が欲しくなるな」
簪「一夏、クリスマスプレゼントには詩集をあげる」
一夏「おいやめろ簪無!なんかそれ渡されると戦闘中に朗読しなきゃいけねー気がしてくるから!」
惣万「んじゃ続きまして、戦兎と俺とあと千冬で…」
戦兎「かくし芸大会じゃーい!」
千冬「いや、何故私まで…」



みちーなるものにー、のみーこーまれるときー



一夏「おいおいおい」
シャルル「シュール過ぎる…」
簪「…一夏、やっぱ詩集じゃなくてこっち…?」【暴れろ…。3属性の力を持つ者よ…!】
一夏「あぁ、『これで自由だ』…じゃねーよ!お前らの方がフリーダムだよ!」
鈴音「剣が泣いている…」
一夏「鈴違うからね!漢字違うからね!」

無花果様、あらすじ紹介のアイデアありがとうございました!


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第七十五話 『IS EVOL A KAMEN RIDER?』

戯曲ファウスト 第二部 第五幕『深夜』より




Verweile doch! Du bist so schön(時よ止まれ、汝は美しい).





ファウスト

ヨハン・ウォルフガング・フォン・ゲーテ著



 キャノンボール・ファストは、結局IS学園施設の倒壊によって決着をつけることはできなかった。戦闘の余波によってかなりの被害が出ており、学校が再開されるには数ヶ月はかかるとされ、生徒たちはリモート授業のカリキュラムに変更された。IS学園の寮は比較的被害が少なかったためである。

 

 そして、IS学園にて一夏と交友関係を持ったメンバーが今現在どこにいるかと言うと……。

 

「えー。では遅ればせながら、織斑一夏の誕生日を祝いまして、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 

 レストランカフェ『nascita』にて、一夏や惣万が作った料理に舌鼓をうっていた。それぞれが晴れやかな表情で、不安で暗雲立ち込める未来がないかのように。

 

「はぁ……」

「ん?どうしたんすか」

「いや、こんなのんびりしてていいのかねぇ……、一夏に変なことが起きたっつーのに」

「そんなこと言われましてもカシラ、彼元気そうですよ?」

「いまも箒ちゃんと幸せそーにね?」

 

 三羽烏らに指をさされる一夏は、病み上がりの状態でありながら幼馴染の箒と鈴や御手洗数馬、そして病棟から退院した五反田弾たちとの昔話に花を咲かせていた。

 

「……どうだか。本当に楽しいなら良いんだが。周りに合わせてカラ元気ってこともあるだろ」

 

 喉元に引っ掛かる言い方をしたシャルル。彼もまた、心の底に拭いきれない黒いものを抱えているからだ。

 

「ま、今はとりあえず明るく振舞って楽しまなきゃな…――――。あ、くーたぁぁん!お願いがあるんだけどさ~♡」

「うっさいグリス‼ほらラウラ寄越しますからお世話よろしくお願いいたしますね‼」

「おぉ嫁!見てみろ、姉さんに今日の為選んでもらった双子コーデだ!どうだ似合うか?」

「あーまぁ、似合ってんじゃねぇか?……あ、お前これ食うか?」

「む?なんだこれは」

「カスレ。フランスの鍋みたいなもんだ。俺が作った。くーたんにも持ってけ。Bon Appétit」

「おぉ……」

 

 しれっと厨房を借りていたらしい。そして本場仕込みのフランス料理は、一夏や惣万すら舌を巻くレベルの完成度だった。シャルル、あなたは一体どれだけのチートなんだろうか。

 

「おや?というか、布仏さんはどちらにおられまして?」

「更識かん無と一緒に刀奈や虚の世話をやいてるわよー」

 

 わいわいがやがや。その一言に尽きる暖かな光景がそこにはあった。一方、因幡野戦兎と織斑千冬はカウンター席にて子供たちの和気藹々とした様子を眺めている。ちびちびとエスプレッソコーヒーを舐めるように飲みながら、二人は以前から疑問に思っていたことを思案している。

 

「皆、あれだけのことがあった後なのに、前を向けるだけの強さがあるよね。凄いなぁ」

「…――――人間は慣れる生き物だ。立て続けに様々な出来事が降りかかれば耐性もつくだろう」

「そうだよねー。……記憶喪失だから分からないんだけど、人間って一年でこんなにトラブル舞い込むわけ?」

「そんなバカな話があるか。これは多すぎだ。向こう側はどうやってこちらの内情を知っているのやら…――――」

 

 苦みの強いカップの中身を飲み干すと、千冬は不機嫌そうに眉をひそめた。戦兎もその声に顔を曇らせる。お互い視線を交えると、示し合わせたように大きくため息を一つ吐いた。

 

「どうした?あ、コーヒー不味かったか?」

「あ、マスター。いやそんなことないよ?…――――ん、でもちょっと味違ったね」

「そうだな、お前らしくもない。風味もいろいろとバラバラだ、お前じゃないヤツに淹れさせたのか?」

 

 一瞬面食らったらしい。惣万は視線を泳がすと、困ったように笑いながら頬を掻く。

 

「あ、分かっちまった?いやー実はさ、店に暫く“戻れない”かもしれないから、他のアルバイトの子に試しに淹れさせてみたわけよ。途中までは俺が手伝ったんだけどな」

 

 戦兎が飲みかけのカップを奪い取り、一口飲むと肩をすくめる。

 

「お前ら常連の“目”は誤魔化せねぇか」

「…そうだよ、俺ってばマスターのことよく知ってるし!」

「…――――そういう場合、正しくは“目”ではなく“舌”だろう」

 

 オルゴールが内蔵されたコーヒーミルを挽く惣万に、努めて明るく言う戦兎。店内にベートーヴェンの第九のメロディが流れる中、ぼそりと千冬が冷静な突っ込みを入れた。そして呆れたのか、どこか悲し気にそっぽを向く。悪い悪いと言いながら、彼は戦兎に新しいコーヒーを入れたカップを渡した。

 ちょっと残念そうにする戦兎に、じっとりした視線を向ける千冬。いつも通りの光景が、そこにあった。

 

「んじゃ、俺は追加の料理を作るが、最後に食っておきたいものあるか?」

「あ、じゃあオレ砂糖ドカ入れ卵焼き!」

「私はそうだな、ビールに合うツマミを幾らか」

「へいへい、受け堪りましたよっと……、お前らも一夏と箒のとこ行ってやれ。折角の誕生日だ、昔みたいに兄弟姉妹仲良くさ」

 

 厨房の奥に引っ込み、姿が見えない彼が優しく言った。

 

「そうだねぇ…、あ、箒ちゃん!卵焼き食べる?マスターが篠ノ之家直伝のヤツ作ってくれるって!」

「惣万も早く来い。昔みたいにといったら、お前もいないとだろう?」

 

 そういって千冬と戦兎は立ち上がる。彼の答えを聞くより早く、彼女たちは先へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は刻々と巡り続ける。誰もそれを留めることはできやしない。例え神や悪魔であっても、その代価は何時か、どこかで払うことになる。

 かつて美しいものを知ろうとしたヨハン・ファウスト博士(愚かしい迷える科学者)の叫びも虚しく、無情に過ぎ去る全てのもの。

 それが時であり、愛であり、別れである。未来永劫変わることないものなどありはしない。

 

 嗚呼、誰もが過去に戻れない。

 

 

 

 

「ふぅー食った食った。流石に食べ過ぎたか……?」

「遅ればせながらだが、本当に誕生日おめでとう。一夏」

「おう、ありがとな。そう言えば弾と蘭と数馬は更識姉妹と帰ったけど、こいつらもしかして泊まるのか……?」

 

 一夏と箒がフロアを見れば、雑魚寝している少女たちが目に飛び込んでくる。セシリアは「パンツが、パンツが……」とうなされているし、シャルルは頬にクロエの肘鉄を入れられ、覆い被さるようにラウラが抱き着いている。

 三羽烏は壁にもたれかかったり、天井からぶら下がったりと自由過ぎる寝相を披露していた。

 

「まったく、酔っ払いじゃないんだから……あれ、一夏と箒はまだ起きてたの?」

 

 鈴が彼女らにタオルケットをかけて回り、甲斐甲斐しく世話をしている。そんなのだから姉御とか呼ばれるんだよ、と二人は突っ込まずにいられなかった。

 

「あぁ、私は一応主催者だしな。それにしても保護者のあの三人はどこに行ったのやら」

「そういえば、そうだな……地下室か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い部屋に足音が響く。その人物は気配を隠す素振りも見せず、迷いなく歩を進めている。

 “彼”の視線が一点で留まった。ハンダゴテや顕微鏡が散らばった机の上に、アタッシュケースが鍵をかけられ置かれている。

 彼はケースに近づき手をかざす。それだけでダイヤル式のロックが自動で動き、解除された。

 

「…――――」

 

 満足げな笑みを浮かべる男。その中にあるものを手に入れる為、彼はケースを開いた。

 

「お探しのものはこれ?」

 

 不意に背後から声がかかる。

 

「ビルドドライバーとソックリだけど、何でこれが一夏の身体から出てきたのかな?理由、知ってるんじゃない?」

 

 

 

 

 冷静で理知的な声。あらゆる温かみを排除し、情を無くした表情で、“彼”にとって娘といっても過言ではない女科学者が立っていた。

 

 

 

 

「答えて欲しいな――――『石動惣万』」

「――――戦兎か。それを聞いてどうすんだ?」

 

 空っぽのアタッシュケースを机から放り投げ、このカフェのオーナー、石動惣万は小首を傾げる。しかし、戦兎は先程の穏やかな顔はどこへ行ったのか、ただ淡々とした挙動で腰にビルドドライバーを巻きつけた。

 

「…――――戦兎の質問が聞こえなかったのか。答えろ。何故だ?」

「……なんだ、お前もかよ」

 

 そこに、もう一つ人影が増えた。日本刀を構えた彼女もまた、鋭い視線を眼前の惣万へ向けている。

 

「全く、普段のオレだったら真っ先に『今の超能力なに⁉』って聞きたいところなんだけどさ。今、状況が状況だから」

「戦兎、そもそも俺が敵っていう証拠はあるのか?俺もクロエのように不思議な力を持っているだけなのかもしれないぞ」

「いいや、それはない」

 

 千冬と戦兎、彼にとって最も縁深い二人が彼に真実を求めている。

 

「ほぉ?」

「ブラッドスタークの動きは、お前の身体のクセと共通点が多かった。今思えば、小さな疑念は初めからあったのだが…――――、確信に変わったのは先の戦いだ。お前は、サンタクロースとケーキのベストマッチフォームを知らなかったな」

「……――――なぁるほどー、スタークか誰か確かめるために、皆に内緒で最後のベストマッチをクロエに浄化させていたのかぁ」

 

 先程までの、団らんの場にいた三人はいなかった。

 

「どうなんだよ、マスター…いや、石動惣万」

 

 戦兎と千冬がにじり寄る。認めたくない真実へ。

 

「…――――お見事」

 

 彼女らの耳に、冷淡な声が聞こえた。

 

「予想の通りだ。お前らならこの真実にたどり着けるって信じていたよ」

「…――――そうだね。信じたくは、無かったよ」

「あぁ。あれほど、…――――信じていたのにな」

「そりゃどうも。世界的な幼馴染二人にそう言われると嬉しい――ね、ッと!」

 

 

 マズルフラッシュが熾る。少年兵時代から磨かれ抜かれた早撃ちは、人類最強格の二人が反応するよりも早く、戦兎の手元の道具を撃ち弾いた。

 

 

「ぐっ…!」

「悪いんだが……、こっちも計画が前倒しになった。まぁ想定の範囲内だが」

「トランスチームガン…!やっぱり、アンタが……!」

「ブラッドスターク、か……」

 

 銀と黒の拳銃が惣万の手の中で鈍く輝く。彼は銃口をぴったり二人に突き詰めて、油断なく目を細めている。

 

 

「よしっと。……じゃ、これは返してもらおう。元々俺のものだ」

 

 白い床に転がった傷一つない“赤いドライバー”をゆっくりと拾い上げる惣万。ところが、彼は困ったような笑顔を浮かべ、戦兎と千冬に猫なで声で頭を下げる。戦いたくないとでも言うように。

 

「…――――なぁ、ところでよ。上じゃまだお祝いムードなんだしさ。ここは見逃してくんない?ほら、一夏たちも俺が裏切り者だとか伝え辛いだろ?」

「…――――は?」

「このとーっり!…な、頼むよ~?」

「何言ってんだ?…そんなこと、させる訳ないだろ」

 

 二人の女は顔を歪め、瞳の奥には怒りと、ほんの少しの悲しみが宿る。本当ならば彼の言う通り、戦いたくはない。見逃せるものなら見逃したい。本当に、彼女らにとって大切な男だったから…――――。

 

「…――――はぁヤダヤダ。俺ってば平和主義者なのに~」

「お前はファウストとして活動してきたのだろう…――――、お前にその言葉を使う資格はない!」

「…――――ま。それが当然だわな」

 

 彼は万感の思いを込め…――――押し殺した声で、人としての最期の言葉を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

――――今までありがとう。楽しかったよ

 

 

 

 

 

 

「…戦うってのなら別に良いぜ。相手になってやる」

「望むところだ…、そのドライバーのデータもとらなきゃだしね…!」

 

 彼の縦に裂けた瞳孔が、兎と戦乙女を締め付けるかのように見つめていた。嘲るように、彼は丁寧に腰を折る。

 

「さてさてそれでは、これより始まりますのはファウスト戯曲の第二幕。グレートヒェンの破滅によって世界と時代は遷り変わる。なれば、演者である俺もお色直しってやつが必要だろ?」

 

 彼はぺろりと赤と金のドライバーを一嘗めした。その挙動は蛇のように無機質で、緩慢さの中におぞましいものが潜んでいる。そこにもはや英雄たちを傍で支えてきた人間(石動惣万)はいない。眼前の敵の顔にあったのは悪辣で、それでいて妖艶な笑みだった。

 

 

振り向かずGoodbye 僕を一人にした世界を追い掛けることは無い

You know……Ever It’s on fleek getting

 

 

「そのドライバー、一体何なんだ…」

「見てれば分かるさ」

 

 千冬の疑問を受けて、惣万の手の中で千紫万紅のバックルが妖しく光を放つ。長き時を経て持ち主の元へと戻ってきたを狂喜するが如く。

 彼は、仮面ライダーのベルトがあるべき場所へとドライバーを構えた。

 

 

捨てな潔く希望 Bom! 怒り勃発From now

生き残るためだけのWar 寧ろ整う情勢

 

 

【エボルドライバー!】

 

 石動惣万は、赤と金のバックル――『エボルドライバー』を丹田に押し付け、ベルト『EVバインド』を展開し腰に巻いた。

 そして、彼は流れるような動作で二本のボトル――エボルボトルを手の平で精製し、ドライバーのスリット――EVボトルスロットに差し込む。

 

【コブラ!】【ライダーシステム!】

 

 今、血に塗れた毒蛇は無限の蒼穹へと駆け上がる。その身を呑み込む進化の果てに、彼は一体何を得るのだろうか。

 

一体いつまで俺達はもう 何と戦わされてるの?

過激派もKnowledge is power 戦術はEvolution

 

 

 惣万がハンドルに手を掛ける。

 

 

振り向かずGoodbye 僕を一人にした世界を追い掛けることは無い

善悪よりもずっと その命何に使うか明確に出来た者が残る

 

 

 彼がハンドルレバーを回転させ第九のメロディを奏でると、そのベルトは問い質す。

 

Are you ready(覚悟は良いか)?】

 

 惣万は高らかに歌い上げる。破滅の序曲を。その言葉を。

 

「 変  身 」

 

 

Ever You know…… It’s on fleek getting

 

 

 

 星雲の煙幕が満ちる。青き星が今、赫に染まらん。

 

【コブラ!】

 

 深遠たる闇光が、暗黒より現れ出ずる。邪悪に染まりし黄金が、蒙昧の嘘に遮られた人類の目を啓かせる。

 

【コブラ!】

 

 あぁ、誰が思うだろうか。何よりも愛を願う者たちへ、絶望は逆しまに破滅を導く。

 

【エボルコブラ!】

 

 

 王蛇が今、破壊の産声を上げる。

 

 

It’s gonna be ok 何言ったって

It’s gonna be ok 何やったって

It’s gonna be ok 何愛したって

本当は良い 覚悟だけだって

 

 

 『EVライドビルダー』が空間に展開され、彼の前後に星雲に包まれた装甲が形成、石動惣万は絢爛たる邪王の外殻を装着した。星々が、絶望の声を振り絞る。

 

 

一体いつまで俺達はもう 何と戦わされてるの?

過激派もKnowledge is power 戦術はEvolution

 

 

 星喰らいの侵略者が今、再びの誕生を経て大地に立つ。穏やかな彼とはあまりにもかけ離れたその姿、まさに破滅の箱を与えた悪辣なる魔王。

 

 

本当はもう気付いてる

真実よりもずっと 自分に幾らか都合の良い嘘を信じ出した未来

振り向くなGoodbye 君を一人にした世界を追い掛けることは無い

Ever You know……

 

 

【フッハッハッハッハッハッハ!】

 

 下等種を嘲笑う声が響く。全てのものを哄笑するように。己が力を誇示するように。

 

 

全て終われる覚悟 過激派もKnowledge is power

始まってく覚悟 過激派もKnowledge is power

 

 

「なんだ、それ…」

「……お前にしては、悪趣味だな」

 

 鋭い赤い目。黄金の装飾。額のアストラーベや肩のジャイロ。所々に差し込まれた暗い青が色彩を蝕むように毒々しい。宇宙に関する部品を一つにまとめ上げ、乱雑とさせた姿はまるで…石動惣万の破滅願望が結晶しているようで痛ましい。

 

本当はもう気付いてる

 

 

 その姿は、本当に正義の味方(仮面ライダー)を冠する者なのか。

 

 

善悪よりもずっと その命何に使うか明確に出来た者が残る

 

 

 

「仮面ライダーエボル、フェーズ1――――」

 

 

振り向かずGoodbye 僕を一人にした世界を追い掛けることは無い

Ever You know……

 

 

 

「さぁ――――終焉を(はじ)めようか」

 

 

 

それは、善か悪か(GOOD and EVIL)

 

 

IS EVOL A KAMEN RIDER?

 

 

 




戯曲ファウスト 第一部 書斎



Nun gut wer bist du denn(それで、お前は何者だ)

Ein Teil von jener Kraft(常に悪を望み), Die stets das Böse will(常に善を成す) und stets das Gute schafft(あの力の一部).

Was ist mit diesem Rätselwort gemeint(その謎めいた言葉の意味は一体)

Ich bin der Geist, der stets verneint(私は常に否定し続ける零である)! Und das mit Recht(それも道理であるだろう); denn alles was entsteht(何故なら『生まれる』という一切は), Ist wert dass es zugrunde geht(ただ滅びゆくだけの価値しかない); Drum besser(ならばいっそ初めから) wär’s dass nichts entstünde(何も生まれなければ良いだろうに).



ファウスト、メフィストフェレス

ヨハン・ウォルフガング・フォン・ゲーテ著


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第七十六話 『あるいは裏切りという蛇』

全部が全部嘘ってわけじゃない

たまに感動してうるっとしたし、騙して悪いなぁとも思ったよ



「仮面ライダー…――――」

「……エボル?」

 

 宇宙ゴマやアストラーベ、星座早見盤の意匠が目立つ赤と金の毒々しい外見となった彼。胸のリアクターの高速稼働が終息し、立ち込めていた赤黒い星雲のオーラが消えていく。コブラを模したアイパーツが、邪悪に光った。

 

「さあ、一夏が体内で錬成し直してくれたドライバーの調整に入ろうか。…――――だが、流石にここは動くのに狭い。場所を変えるとしよう」

 

 おぞましい姿に変わったとしても、穏やかな声音が変わることはない。それが一番恐ろしい。彼女らの不安をより煽ってくる。

 パチン。小気味良い音がカフェの地下施設に響く。フィンガースナップをしたエボルの周囲がモザイク状に入れ替わった。

 一瞬で視界が暗転すると、戦兎と千冬がいる場所は真っ暗な神社の境内。草木も眠る丑三つ時のため人っ子一人存在しない。

 

「……テレポート?」

「中々懐かしいだろう、篠ノ之神社(ここ)は。お前を拾った場所だ」

「ジョークセンスがないのは変わらないんだな…!」

 

 戦兎は顔を険しくしてエボルを見据え、両手に持ったフルボトルをビルドドライバーにセットした。

 

「何で、アンタはこんなことしてるんだ?オレとのこの一年は全部嘘だったのか…!?」

 

【ラビット!】

 

「ホント、濃密な一年だったな。全部が全部嘘って訳じゃない。たまに感動してうるっとしたし、騙して悪いなぁ、とも思ったよ」

 

【タンク!】

 

「なら、なんで…!」

「俺には壮大な計画があってね。それにはお前らの力が必要だったのさ」

 

【ベストマッチ!】

 

「ッ変身!」

 

【ラビットタンク!イェーイ!】

 

 戦兎の身体に赤と青の装甲が合わさり、纏わりつく。蒸気を噴き出して変身シークエンスが終了すると、エボルの目の前に立つビルド。その姿は勇ましいが、どこか危うい。

 

「基本フォームか、面白いな。一つ遊んでやろう、それと……」

 

 エボルが千冬に向かって対消滅を引き起こすエネルギー波動を放った。

 

「!」

「お前は邪魔をするなよ、世界最強(ブリュンヒルデ)

 

 織斑千冬の持っていたISが、存在から崩壊する。虚空に少女の断末魔が聞こえた――――気がした。

 

「あんた…、ッッ!」

 

【ドリルクラッシャー!】【海賊!】

 

 そのISの悲鳴を感じたのだろうか。稀代の天才科学者はその手にドリルクラッシャーを出現させ、青いフルボトルをセットする。

 

【ボルテックブレイク!】

 

 全てを押し流す波濤が斬撃となってエボルを襲う。周囲の大地を抉り、岩肌を露出させる程の威力だ。

 だが、赤と金のライダーはその場から一歩も動かない。悠然とした態度で、腰に添えていた手を前方へと突き出した。

 

「ふん、ふふ。フェーズ1の、40%でこれくらいか」

「くそっ…!」

 

 一瞬で濁流は元素に還元され、余剰エネルギーによって周囲の大地まで蒸発する。そして彼は残像を残し、彼女らの目の前から消え去った。

 

「な、どこに……、がっ!?」

「おいおい。大丈夫かー?」

 

 エボルのニードロップがクリーンヒットした腹部を押さえ、悶え苦しむビルド。彼女のウサギのアイパーツを握りながら、エボルはビルドを無理矢理立たせてやる。その乱暴な行為で、戦兎の手からドリルクラッシャーが零れ落ちた。

 続けざまに放たれようとするエボルの一撃。それを見てビルドは乱暴に身体を捻り、ドライバーのフルボトルを変更する。

 

「っビルド、アップ!」

 

【ホークガトリング!イェーイ!】

 

 装甲が霧消し、エボルの手から逃れたビルド。変身が完了すると、彼女はソレスタルウイングを展開し、空高くへと飛翔する。

 

【ホークガトリンガー!】

 

「ふぅむ……ならこれにするか」

 

【スチームブレード…!】

 

 高速移動に伴って放たれる弾丸をバルブ付きの剣で斬り落とし、緩慢な挙動で余裕たっぷりに避ける。その様子は、まさに凄まじく戦いなれた狂人。今まで他人に優しく接してきた人間ができることではない。

 

「オレの攻撃が当たらないっ?なんで…!」

「勘違いすんな。お前の力は細胞レベルでオーバースペックだよ、誇っていいぞ。…――――ま、遺伝子を改造して篠ノ之束の状態よりもスペックを引き上げたんだが。あぁ、感謝の必要はねーぞ」

 

 彼はふざけた口調でビルドの力を嘲笑うと、海賊フルボトルを抜き取ったドリルクラッシャーを、そのまま持ち主へ投擲する。

 

「くぁッ…!」

「戦兎ぉ。これ貰うぞ?」

「な、んだと…?フルボトルを使って、何するつもりだ…?」

「こうするつもりだ」

 

【パイレーツ!】【ライダーシステム!】【クリエーション!】

 

 エボルドライバーからEVライドビルダーが部分的に展開され、エボルの手元に弓型のライダーウェポンを形成した。

 

【カイゾクハッシャー!】

 

 手に出現した武器を見て、千冬はその端正な顔を驚きで歪めた。

 

「まさか……、戦兎の創り出したビルドの武器を使えるのか…!」

「あぁ。なにせ、エボルドライバーはビルドドライバーのベースになった始まりのベルトだからな」

 

 それは慢心か、それとも生来の気質なのか。エネルギーをチャージしている間、ビルドの攻撃を避けながら千冬の独り言に丁寧な捕捉を与えてくる。エボルにとっては暇つぶしとして丁度良い相手であるらしい。

 

「っ…なら!」

「ふはは…、はははァ?」

 

【…100!フルバレット!】

【…海賊電車!発射!】

 

 やがて、互いにライダーウェポンに蓄えられた力を解き放つ。

 真昼の如き光に包まれる神社の境内。仮面を付けた二人は、互いに一歩も引くことはない。

 

「くっ、う、づぁ……ァァァ嗚呼ああああああッ!」

「……ふんっ」

「ッ⁉」

 

 エネルギーが衝突し、拮抗する。激しい爆炎と爆風を生み出し、衝撃によって木々が倒壊する。

 ビルドはその余波によって体勢を崩し、地面を勢いよく転がった。

 

「ハザードレベルの上昇は予想以上だな。よくついてこれるもんだ」

「がぁっ…!あんたの口ぶりだと、そのドライバー、こっちの上位互換か…――――!」

 

 咄嗟に立ち上がり、手に新たな力を掲げる戦兎。

 

【ラビットタンクスパークリング!イェイイェーイ!】

 

 白色の軌道を描き、エボルの高速移動に追従してくるビルド。何度も赤と青の衝撃が空中で炸裂する。数秒の間に何十合も拳を交わしているらしい。辛うじて視界にとらえられた千冬の頬に冷や汗が流れた。

 

【四コマ忍法刀!】

 

 炭酸の泡を身体に纏わせ、側転やパルクールで攻撃をかわしながらエボルの剣戟と斬り結ぶ。

 

「お前の考察の通りだ。だが、それを抜きにしても、お前は俺に勝てない…、はあッ!」

「がはァッ!?」

 

 エボルの鋭い右ストレートで、ビルドの強固な装甲から火花を散らす。その光が蛇の顔を濡らし、夜の闇の中で金色の鎧が怪しく浮かび上がった。

 

「く、あ――――一撃でここまで……、今のは、まさか……装甲部分の空間を飛び越えて、ダメージを?」

「戦兎!無事か!?」

 

 ただのボディーブローを喰らっただけで、彼女は地に伏せるしかない。それほど隔絶した攻撃を放つ仮面ライダーに、戦兎も千冬も焦りを感じ始めていた。

 

【Cobra…!】

 

 戦闘を行う彼は無情そのもの。エボルはトランスチームガンにコブラロストボトルをセットし、躊躇うことなく引き金を引く。

 

「これでくたばってもらっちゃあ、困んだよなぁ?」

 

【Steam Break…!】

 

 蛇行する光弾は、獲物となる兎を執念深く追いかける。

 

「っッッ……!」

 

 ブラッドスタークの時よりはるかに強化された攻撃によって、ビルドは境内を越えて木々が生い茂る森の中へと吹き飛ばされる。

 トランスチームガンを放り投げると、エボルはドライバーのハンドルへと手を伸ばした。彼の口から厳かな、しかして残酷な告別がビルドに贈られる。

 

「どう、して…勝てないんだ…!」

「分からないか?篠ノ之束を下し、お前という存在を創ったのがこの俺だということを」

 

 ハンドルを持つベルトから、讃美歌のようなメロディが流れだす。

 

【Ready go!】

 

 金と赤の装甲が闇を纏い、どす黒く気味の悪いエネルギー粒子が溢れる。対してコブラのアイパーツは爛々と熱された。自然体のまま、彼がだらりと垂らした右手に赤々と超新星が輝き出す。

 

「っ……戦兎!マズい、逃げろ‼」

「無駄だ。兎は蛇から逃げられない…」

「くゥっ…!」

 

 戦兎は痛む身体に鞭打ちながら、ビルドドライバーのハンドルを回し、その一撃を相殺しようと天才的な頭脳を回転させる。

 

「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ‼」

 

【Ready go!ボルテックフィニッシュ!】

 

 破れかぶれに思える叫びと共に、ビルドは渾身の力を込めてエボルに両足蹴りを叩きこむ。赤と青の光が真っ暗な境内に反射し、そして…――――。

 

「はぁァァァァァァァァッッ!」

 

 

――――がきん

 

 

「…どうした。迷いが透けて見えるぞ?」

「…な――――!?」

 

 ボルテックフィニッシュを()()()()()()『無傷のエボル』が、煌々と瞬く拳を持ち上げた。

 

「じゃあな」

 

【エボルテックフィニッシュ!】

 

「…――――ぁ」

 

 響く衝撃。そして爆発。刹那に炸裂する激痛すら生易しい感覚。

 

【Cia~o!】

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ‼」

「戦兎‼」

 

 余波によって、空間に光り輝く星図が描かれる。その光景は残酷にも美しい。

 周囲の空気が拳圧で衝撃波となり、正義の味方は流星の如く吹き飛んだ。ビルドの変身が解除され、口から血を吐く女が大地に臥す。

 親友に駆け寄った千冬は、彼女が戦闘不能な重体であることを悟った。手足や肋骨は折れ、内蔵の幾つもが間違いなく損傷している。

 

「あ、あっ…あ、ぁ、あ…」

「戦兎ッ、戦兎ぉッ‼惣万、もう止めろ!やめてくれ⁉」

 

 夜の帳に懇願の声が虚しく響く。ただ、それだけだった。

 

「…――――戦兎。どうした、そんなもんか。ピンチじゃねぇの?」

 

 境内の砂利を踏みしめる音が聞こえる。悠然と“それ”がやって来る。戦闘の余波で倒壊した木々に火が灯り、彼女らと彼をおぞましく照らす。

 

「今のお前からは、ハザードフォームになった時の気概が感じられない。人をムシケラみたいに殺すファウストが、科学を悪用する俺達が、お前は許せなかったんだろう?」

 

 エボルから漏れ出る声は柔らかく、優しく諭す母親のような口調だった。

 

「そのために、ビルドの力で悪者退治をしてきたんだろ?なぁ、完全無欠のヒーローさんよ」

 

 嘗て、篠ノ之神社(ここ)の境内で震えていた少女が、口を開いた。

 

「……でき、ないよ……できるわけ、ねぇよ…っ!」

 

 かつて目が覚めた時、雨が降っていた。神社には誰もいなくて、寒くて、冷たくて、心細かった。全てが流れ落ちてしまった何も無い自分に怯え、俯くしかできなかった。

 

「今の俺を創って、くれたのは……、あんただ…!」

 

 孤独だった自分。何も無かった自分。そんな価値がない因幡野戦兎という存在に傘を差しだし、隣を歩いてくれたのは、目の前にいる青年だった。

 

「あんたのおかげで、……オレは人間らしくいられた……、あんたを、信じて……、あんたに、救われて……ッ、なのに……」

 

 もう、変わってしまった。

 

「こんなのって、ねぇよ……なんでだよ、あんまりだ……!倒せるわけ、ねぇだろ……!」

 

 初めは絞り出すように、次第に音量が壊れたラジオのように、慟哭の声が夜を裂く。華奢な拳が地面を叩き、柔らかな皮膚が裂けて血が滲む。

 

「オレは、こんな事をする為に戦ってきたんじゃ…――――ないんだ‼ないんだよぉっ⁉」

「…――――なぁ、疑問に思わなかったのか。どうして俺がお前をビルドにして数多くの敵と戦わせてきたのか」

「…――――ぇ?」

 

 その血を吐くような天才の懇願に、エボルはやれやれと首を振った。それだけだった。先程までの親愛と恩情、戦兎たちへの庇護の心など欠片も無い。

 

「ボトルの浄化だと思うか?それは違う。ボトルの生成自体その気になれば俺でもできる。何より必要だったのは、白騎士事件によって無茶苦茶になったこの世界の再編だ」

 

 エボルはつらつらと語り出す。その口ぶりは、あくまで不干渉を決め込む他人の様だった。

 

「かつて、『お前達』が引き起こした『白騎士事件』からおよそ十年。世界は女尊男卑の風潮が広がりだし、盛んになった兵器や人工生物の軍事開発によって、混沌を極めていた…」

 

 戦兎は顔を青ざめ、千冬は唇を嚙み締めた。血の味がするその言葉に、二人は反論をすることが許されなかった。

 

「そこに現れた怪人たちと戦う正義のヒーロー、『仮面ライダー』!記憶喪失ながらも自分の過去を探し求める因幡野戦兎!彼女と手を携え協力し、世界を守るため悪の組織『ファウスト』と戦うIS学園の生徒たち!…――――成程、よくある王道展開だが嫌いじゃない」

 

 エボルはシナリオを品評するかのような口ぶりで、彼女らの行ってきた軌跡を追う。幾つもの事件、様々な戦い、彼女らが成し得た正義を忌憚なく讃える。

 

「…だが、仮面ライダービルド。お前は知りたくもない真実を知る。お前は生み出されたことが、罪そのものだ。お前の嘗ての姿はISの発明者である女、『篠ノ之束』。だから俺はお前に『因幡野戦兎』という名を与えてやった」

 

 エボルの手のひらに炎の文字が浮かび上がった。

 

AM I SENTO INABANO? (オレは因幡野戦兎なのか?) NO.(…違う)

 

 

 そのアルファベットは入れ替わる。蛇が与えた真実を、無明の中の炎となりて詳らかに暴き立てる。

 

 

I AM TABANE SINONONO.(私は篠ノ之束だよ)

 

「俺は与えてやった。お前の名前を、戦う力を、安寧を得る居場所を、仲間と共に歩める未来を、そしてありふれた幸福に笑える人としての心を。狂った天才『篠ノ之束』では知る事の出来なかった全てを」

 

 絶望の表情を貼り付かせた戦兎に向けて、惣万はつらつらと言葉のナイフを突き刺していく。

 

「お前は俺がいなければ、因幡野戦兎という存在になれなかった。お前を構築(ビルド)するその魂も、思い考える気持ちでさえも俺がデザインしたものだ。どれだけ俺を否定しても、その事実は変えられない」

 

 にやり、と。仮面の奥で彼が嗤った気がした。

 

「お前は俺には逆らえない。全ては俺の計画通りだ」

 

 がらがらと、足場が崩れていく浮遊感。今まで築いてきたものが、またも壊される。自分で再創造(リビルド)する余地すら失わせようと、全てのものが暗き闇へと吞み込まれていく。

 

「自分が無いお前は、誰かのために戦わなければ自分を確立できなかった。無知だったお前は、人を恨むことすらできない罪過を知ってしまった。こんな世界を創った以前のお前が、今のお前自身の運命を決めたんだ」

 

 がぱりと開いた純黒の穴。奥から吹き荒れるのは、誰も逃れられない潰えた希望だったもの。とどめとばかりに、惣万は小さな白兎に決定的な一言を突きつけた。

 

因幡野戦兎(今のお前)という存在は、かつての自分(天災)の後始末のためだけに生まれたんだよ」

「…――――ぇ、ぁ?」

 

 張り詰めていた心が、ぷつんと切れた。篠ノ之神社に、突然不気味な静寂が訪れる。

 

「愉快だったよ。お前は正義の味方を演じていたにすぎない。俺もお前らも、織斑一夏たちも、この『インフィニット・ストラトスの世界』で仮面ライダーごっこをしていただけなんだよ」

 

 惣万は戦兎や千冬に向かってカラカラと笑う。その口ぶりは、子供の下らないなりきりごっこを見て嘲っている擦れた大人のようだった。

 

「分かっただろ。如何にお前らが踊らされていたのか。お前たちじゃ、俺には勝てない。こんなもので遊んでいるお前じゃあな」

「…――――」

「……ッッ!」

 

 絶望、恐怖、嘆き。彼女らの苦しむ様子さえも他所に、ふと思い出したように手を叩く。

 

「あぁそうだ。幻がボトルボトルうるせぇんだった……貰うとしようか」

 

 エボルが何処からか取り出した赤いパネル。それに手をかざすと、散らばった十数本のフルボトルが意思を持ったかのようにそのスロットに装填されていく。

 

「フフ、この分なら『混乱の塔』の屹立は近いな…ん?」

「…どうして戦兎にこんな仕打ちを…。惣万、貴様、よくも裏切ったな……っ!」

 

 死んだ魚のような目で俯き、ビルドドライバーを取り落とした戦兎に代わって、世界最強が困惑と怒りの声を上げた。茫然自失する彼女のそばで肩を貸し、千冬は惣万にその鋭い目を向ける。

 

「おいおい、俺の本性を見破れなかったクセによく言うよ」

「何時からだッ…!何時から貴様は……!」

()()()()()()()。一緒に過ごして十数年、色んなことがあったよなぁ。お前たち“織斑”に触れて、『人間』が如何に愛すべき愚かな存在か、よぉーく分かったよ」

「ッッッッッ!ぁ、ぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッッッッッッッッッッッ‼」

 

 握りしめた拳が、エボルの装甲に突き刺さる。

 

「俺に効くわけないだろ?お前が傷つくだけだ、やめておけ」

 

 だが、彼女の攻撃に微動だにしなかった惣万は、煽るわけでもなく、ただ諭すように彼女の手を払い除けた。

 

「…――――ん?」

「ならばこれならどうだ……。確か、トランスチームガン(コレ)は普通の人間にも使えるんだったな?」

「…――――そうだ。自分の遺伝子データが入っている人間ならば、な」

「煩い!」

 

 千冬の手には、投げ捨てられ境内に落ちていた黒い小銃があった。そして、片方の手の中には『銀色のコブラ』のレリーフがある小さなボトル。彼女はそれを、トランスチームガンへとセットした。

 

【Cobra…!】

 

 …――――不可解なことが、起きた。

 

「何?」

 

 変身のロックが解除され、トランスチームシステムの駆動が承認された。見よう見まねで引き金を引き、千冬はその身に血に塗れた罪悪の鎧を纏う。

 

【Mist Match…!C-C-Cobra…!Cobra…!】

 

 火花が散る。黒に煙り瞬き消える赤い光が、散華する命を思わせる。

 

【FIRE!】

 

 仮面ライダーエボルの前に、ブラッドスタークが立っていた。

 

「――――、オイオイ」

『ぐ、ぅ…成程。こうなるのか。悪くない着心地だな…!』

 

 不具合が出ているのか、苦悶の声を上げながらも、彼女は不敵にその身を構えた。

 

「――――。あぁ…変身できたのは()()()()()()か。それで?そんな無茶をした程度で、俺に勝てるとでも思っているのか?」

『…あとは、経験で補える』

「はっ、なるほど!道理だな。だが……」

 

 赤い残像を残し、エボルは瞬間的に移動する。スタークの背後に、側部に、そして目と鼻の先という至近距離に。

 胸に当てられたエボルの掌底が、夜の中で煌々と輝き出した。

 

『がっ…!』

「お行儀の良い道場剣術如きでは、俺には及ばない」

 

 超星の如く爆発する彼の手の平。その衝撃はトランスチームシステムの防御装甲を貫通する程だった。彼女の皮膚が焼ける匂いがした。

 

『……そうだな、それは知っているさ…!』

「ん?」

 

 腹部に何かが当たったのが、気になった惣万。彼はゆっくりと目線を下げる。

 

【Steam Shot!Cobra…!】

 

「うぉっと!」

 

 鎌首を擡げたコブラがエボルの身体を吹き飛ばさんとした。その攻撃を喰らい、彼は思わずたじろぎ後退ってしまう。

 

「……ふはっ、やるねぇ。意外に泥臭い戦い方もするじゃねぇか」

『戦兎、引くぞ!』

「……ぅ、あ……。ああ…」

 

 千冬は戦兎を小脇に素早く抱えると、テレポート機能を発動しようと引き金に指を掛けた。だが、スタークの機能を知っているのは彼女だけではない。

 

「逃がすと思うか?」

『う、ぐっ!』

 

 トランスチームシステム本来の持ち主が、即座にその行為を妨害してくる。マスクの下の千冬の顔に冷や汗が流れ出す。このままでは分が悪いことを、彼女は豊富な戦闘経験からひしひしと感じていた。

 …――――その時である。

 

「…ッ、キル、プロセス…‼」

「何…ッ」

 

【エボLドラ、Γイバ、エボ…――――エえEEA@a;Ee∀…¿】

 

 突如として、仮面ライダーエボルの外見が溶けるように消えていく。千冬が見たのは、閃光を上げて爆発するドライバーの破片だった。神社の境内に、大小さまざまな欠片が落ちる。

 

「戦兎、お前……」

「前、に…似たような、ことがあったから、ちょっと参考に、ね…」

 

 惣万は驚いたような、してやられたような複雑な顔で戦兎を見ている。彼女の手の中には小型の起爆スイッチが握られていた。

 

「…ッ、ます、たー…一週間、オレが何もせずに、いると思ってたの…?」

「……――――成程?驚いたよ。ISの技術を応用して、ドライバー内部に破壊装置を量子格納していたのか。気付けないわけだ…」

 

 彼女の対応力や手段を択ばないその姿勢を素直に称賛した惣万。そして、にやりと不敵に笑う。

 

「だが、手札を晒しちまったな。()は、無いぞ」

「…っ」

「まぁ良い。今日のところは引いてやる。折角復元したドライバーもまた修理が必要みたいだしな」

 

 砂利の上に残る幾つもの部品をエプロンの中に収め、惣万はいつも通りの笑顔でこう言った。

 

さよなら(・・・・)、戦兎。千冬……――――Addio(永遠に)

 

 そして、…―――最も親しかった青年は、影も形もなくなった。明けないかと思えるほどの真っ暗な闇が、残された孤独な二人を包むのみだった。

 

「…――――惣万。もう、…――――戻らないんだな」

「…お帰りって…、もっとちゃんと聞いておけばよかった…――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…、く、くく」

 

 孤独/蠱毒になった蛇は嗤う。

 

「はは、あははは…ハハハハハハハハハハハハハァ‼アァーハハハハハハハハハハハハハァァァッッッ‼戦兎ぉ!お前はやっぱり最高(さいっっっっこお)だ‼まさか未知の物質(ダークマター)製の俺のドライバーを、一時的とはいえ停止させるものを作るとは、なぁぁぁあ‼だがそうだ、そうでなければならない…‼お前らが『俺に創られた偽りのヒーロー』だったとしても、『仮面ライダーごっこをしていた、ただの人間』だったしても‼」

 

 彼は喜びの歌を高らかに詠う。悦びを以って絶望を笑う。愛し、育み、慈しんだ子供のような存在が自分を超えてきてくれた。ただ一つの願いのみで世界を壊してきた彼にとって、彼女への思いは一入だった。

 嘲って、哂って、嗤って、笑った。やがてその声が小さくなり、途絶えると…、そこにはもう、あの優しかった男はいなかった。

 

「…お前たちは、どんな人をも守る『愛と平和の戦士』でなければならない。俺を倒すには、それしかない」

 

 高層ビルの上、眼下に広がる満天の如き光。天上に瞬く朧げな命。

 

「……――――この蒼穹も、星も、お前たちも。この世に溢れる変質したもの全て、異物としてしまった俺の罪だ」

 

 蛇は己が自死を(こいねが)う。尾を噛み潰し、一つの円を形作る。

 

「俺が旧き罪なる世界を滅ぼし、お前が正しき新なる世界を創る……――――。それが“災い”である俺達に与えられるべき、罰だ」

 

 聖なる悪魔の思い描くその夢が、現実のものとなり始めていた。

 

 

 

 

「この争いと偽りに満ちた世界を壊し、正しいインフィニット・ストラトスの世界を創る…――――それが、俺の『プロジェクト・ビルド』だ」

 




 


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第七十七話 『やがて哀愁という名の雨』

オータム「元IS開発者篠ノ之束、もとい現天才科学者の因幡野戦兎は仮面ライダービルドとして、ファウストとの終わりの見えない戦いを続けていた。織斑たちの正体が明らかになる中、ファウストの幹部の一人である正体不明の怪人、ブラッドスタークの正体がついに明かされることとなる」
マドカ「…何だソレは。待て、ちょっと待て。私が出番無い間に何があった」
オータム「その正体は、因幡野戦兎らを育てていたカフェのマスター『石動惣万(今更ぁ…)』。正体を突き止めた戦兎と千冬だったが、仮面ライダーエボルに変身した石動によって、戦兎は大ダメージを負ってしまう」
マドカ「おい聞け、だからちょっと待て。何だ仮面ライダーエボルって」
オータム「知らん、つーかちったぁ落ち着け餓鬼。こっちも急に原稿渡されてビックリしてんだよ」
マドカ「えぇい、私の再登場はまだなのか…!」
オータム「今お前って亡国機業の収容所に入れられてんだろ、意外に余裕そうじゃねぇか…」
マドカ「ふん。さぁ、どうなる七十七話」



 ファウストの研究所に、ブラックホール型のワープゲートが開かれた。

 

「戻ったか、惣万。ドライバーの回収は済んだか?」

「ああ、壊れた」

「…――――なんて?」

 

 素っ頓狂な声を上げた宇佐美に放り投げられる、真っ二つになったドライバー。飄々とした態度で石動惣万は椅子に腰かけ、困ったとばかりに腕を広げる。コーヒーメーカーのスイッチを入れ、宇佐美幻への言い訳を口にした。

 

「戦兎の奴が内部に量子変換型核融合反応爆弾を搭載してたらしくてな。このとーり、ボカンだ」

 

 次第に険しくなっていく宇佐美の顔。しかし、惣万は舌鼓をコッと鳴らし、ふざけた態度でお手上げをするのみだった。

 

「貴様…どうするつもりなんだコレは⁉私たちでこの時期に直せとでも‼ファウストが抱える納期がどのくらい重なっているのか分かって言ってるのか‼」

「いやぁ、悪いとは思ってるさ。けど、コレでエボルドライバーは量子化兵器に完全耐性を得た。後々学ぶより今の方が事前に対処ができて万々歳だろう?お前らが『これを元に作成するアップグレード版』にデフォルトでつく機能が増えたんだぞぅ?」

「…――――。物は言いようだな、ちっ…」

 

 激昂した宇佐美を何とか宥めた惣万は、いつもの柔和な表情を引っ込め、目を赤く爛々と輝かせた。

 

「何より、だ」

 

 右手を目線の高さへ掲げると、彼の身体から赤いエネルギーが漏れ出始める。突然、彼の腕は肥大化し、鈍色をした手甲のような形になった。

 

「『エボルドライバー』が一度復活したことで、俺は本来の姿に戻れるようになった」

 

 世界に闇が広がり、灯りを覆う。赤黒い星雲が広がり出し、銀色の歯車が廻り出す。石動惣万の姿が桃色に溶け出し、別の生物の形を創る。

 肥大化した両腕『エボルティグラスパー』、両肩から飛び出た『エボルティヴォイダー』、頭部で緑に発光する未知の器官、黄色い四つの複眼。その外見は生物としての在り方を逸脱していた。

 

『この…――――おぞましいエボルトとしての姿にな』

 

 邪魔だった『エボルティヴォイダー』と『エボルティグラスパー』を体内に吸収し、人型に近づいたエボルトはコーヒーカップを器用に摘む。彼/彼女はその中身を、上空に発生させたマイクロブラックホールに吸い込んだ。

 

「見たところ、お前が申告してきたデータの通り、能力に支障はないようだな」

『ふふ、ははは。いよいよスーパーヴィランのお出ましってかぁ?』

「…――――ほら。注文の品だ。受け取れ」

『おぉ宇佐美。やるじゃないか』

 

 壊れたエボルドライバーを乱雑にトレーに乗せた宇佐美は、エボルトに『赤と金の拳銃型デバイス』を放り投げる。

 

『コレ、名前は何だ?』

「さぁな。私は特に決めていない。名付けるなら…――――、

 

『ストラトスチームガン』か?」

『…――――、ほぉ?』

 

 エボルドライバーと同じ、赤と青と金の(毒々しい)配色のソレを、エイリアンは興味深そうに眺め始めた。

 

「お前の要望通りのスチームガンを開発したのは良いが、本当に使うのか?」

『?…――――何が言いたいわけだ』

 

 顔を上げたエボルトを試すかのように、悪魔はニヤニヤと嗤う。紫色の髪の奥で、赤い瞳が面白いものを見たように歪んでいた。

 

「コレには『常に、お前の進化のスピードを上回る』という機能がある。お前がいくら『無限に進化する』と言っても、無限そのものを操作し支配することはできまい。コレを使い続ければ、いずれ死ぬだろう」

『…――――あぁ、()()()()()かぁ。何ら問題は無い。これを使うのは、“今は”まだ俺じゃあないからな。…――――入ってこい』

 

 油を挿していないドアが、軋んだ音を溢す。黒いコートの裾が揺れる。皮製のライダースーツが豆電球に照らされ、艶めかしく蠢いた。

 

「お呼びでしょうか。エボルト様」

「…――――貴様は。そうか、成程な」

 

 宇佐美が、入室してきた女性の顔を見て納得する。エボルトは顔のみを人間態に戻す(マスクオフにする)と、哄笑を漏らした。その笑みは救い難い自嘲か、愚かしくも生きる人間への賛美か。

 

「さぁ、戦争を始めようか。そのためには…――――デュノア社だけじゃない。亡国機業(ファントムタスク)にも、そろそろ重い腰を上げてもらわねばなぁ」

「そのことなら、連絡を既に入れてある。スコール・ミューゼルの『モノクローム・アバター部隊』と、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――あの、忌々しい同属がいる『ダウンフォール部隊』にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗く、広い実験室の中。ガラスを隔てた向こう側。二人の少女が、『歯車が付いた金の小型ユニット』を『紫色の拳銃』に差し込んだ。

 

【ギアエンジン!】【ファンキー!】

【ギアリモコン!】【ファンキー!】

 

 ブラックアウトする視界。だが、ガラス窓の外からそれを観察する研究者たちは、一向にかまわずデータ解析を進める。

 

「「潤動」」

 

 二人の声が重なり合う。すると、白と青の歯車が宙を舞い、互いの存在を補い合うように人影に重なった。

 

【エンジン・ランニング・ギア】

【リモート・コントロール・ギア】

 

 煙が晴れる。そこには、赤い瞳をした二体の怪人が立っていた。一人は燃え滾るが如き白煙を身体からくゆらせ、もう一人からは凍える冷気のヴェールが靡いている。

 

「エンジンブロス、適合率94.6%、リモコンブロス、適合率89.3%。バイタルグラフの構築を分析」

「ネビュラガス、疑似Vウィルス投与継続。安定状態を維持しています」

「被験者体内に抗体の生成を確認。ハザードレベル4.9に到達」

「ネビュラスチームガン、フィッティング完了」

 

 亡国機業の所属戦力に、更なる要員が加わった。『地獄の悪魔(ディアブロス)』の名を由来とする『エンジンブロス』と『リモコンブロス』…――――その変身者として選ばれた少女の一人が、不安げな声を上げていた。

 

「…――――これで、良いんスよね、センパイ?」

「あぁ、お前は力を手に入れた。この、呪われた世界を覆すことができる力の、その一端をな」

「…」

 

 金髪碧眼の美少女と、手の中にあるネビュラスチームガンとの間で、視線を往ったり来たりさせる黒髪の少女。

 

「お前は全てを捨ててこっちに来た。何も、理由はオレだけって訳じゃないだろう?お前だって、この世界を壊したい…――――そう思ったはずだ」

「…――――そうッスね。世界を裏切って、私を後ろ指刺す人間、一人くらいしかいないんスよ。あとはみぃんな…」

 

 変身を解除した二人は、互いに瞳を交わし、心の中の思いを伝えあう。

 白い怪人――――エンジンブロスに変身していたのは『レイン・ミューゼル』。IS学園ではダリル・ケイシーと名乗り、ファウストの侵入を裏で手を引いていた工作員であった。つまり、一学期にIS学園で引き起こされた事件の全ては、彼女が関わっていたと言って差し支えない。

 青い怪人――――リモコンブロスに変身していたのは『フォルテ・サファイア』。IS学園ではダリルとコンビを組み、最強の防壁『イージス』の名をほしいままにした二年の元ギリシャ代表候補生。

 

(良くも裏切ったと、ベルベット・ヘル(あいつ)は怒るッスかねぇ。でも…先に裏切ったのは世界の方ッスよ。それに、別にアンタらに信頼されようとか思ってなかったッス。こんな、何の意味も無い、今の世界に…)

「…ーい、おーい。フォルテ、聞いてるかー?」

「んぇ、…い?あ、な、何スかセンパイっ!お尻揉むの止めてって言ったッスよね!」

 

 気づけばレイン・ミューゼルは、フォルテの身体をまさぐっていた。次第に過剰になっていくスキンシップに、思わず身を強張らせずにはいられない。

 

「ちぇー…。取り敢えずホレ、ネビュラスチームガン(コレ)の最終調整に行けだとさ。あぁーったく、めんどくせぇなぁオイ。…――――、ダウンフォール部隊のエリアは、確かこっちだったな」

「…――――『ダウンフォール』?」

 

 フォルテは聞き覚えの無い言葉に、黒髪を揺らして首を捻る。

 

「あぁ、フォルテは知らねぇんだよな。亡国機業には実働部隊があるのは分かってると思うが、オレらモノクローム・アバターはその中でもトップと言える力を有している。んで、もう一つ亡国機業には強力無比な力を保有している部隊がある。それが今向かっている…――――ダウンフォールだ」

 

 フォルテが周囲を見てみれば、廊下を歩きまわる人の数は減り、逆にアンドロイド兵たちが銃剣を持って闊歩していた。

 

「これって、ファウストから提供されたガーディアンッスよね?」

「ダウンフォール・ガーディアンだと。ここの部署のお仕事は兵器開発やら、テクノロジー利用による利権の掌握とからしいぜ」

 

 スマートだったモノクローム・アバター隊の部署とは打って変わって、ミリタリー色全開の薄暗い空間に、二人の足音が反響する。

 油分や埃が天井を汚らしく染め、薬莢や砂が廊下の片隅に積もっている。カサカサと、カマドウマやゴキブリがダクトの中を移動した。

 

「うへぇ、嫌な雰囲気ッス…」

「ま、オレも初めてなんだけどな。ここに来るのは。叔母さんも、オータムも口に出すのを憚ってたみてぇだし?」

「んじゃ、自分がお先するッスよ。お邪魔しま…――――、ぇ?」

 

 ドアを開けたフォルテの目に、赤い色が広がった。

 

「…ゥゥゥ、ァァァァァァァァ…――――」

 

 ダウンフォール・ガーディアンたちがライフル銃を構える中心部に、『ソレ』はあった。『ソレ』から漂ってくる生臭い匂いと、流れ落ち続ける鉄臭い液体。

 そして、筋で繋がるヌラヌラとした表面の各パーツを見て、フォルテの顔色が青くなる。『ソレ』の正体が、頭の中で結びついてしまった。

 

「…ぅ…――――ぇ。う、ゔえぇぇぇぇぇぇェェェッッッ‼」

「フォルテ…、っ!」

 

 その反応も当然だった。部屋の片隅には切り刻まれた、血塗れの四肢が転がっているのだから。削ぎ落された指や耳鼻、ましてや『苦悶の表情のまま切とられた顔の皮』が捨てられていたとあっては、誰であろうと床の『ソレ』が何かが分かるだろう。

 裏社会に身を置くレイン・ミューゼルであっても、その行き過ぎた残虐性には恐怖を感じた。

 

(何だこれ…?拷問とは言えここまでやるか?もう、脳髄と心臓しか無事なところねぇじゃねぇか…)

 

 足元に転がった肉塊、その瞼の無い眼球が、顎が無い口が開かれる。皮も、骨も剥がされ開かれた頭に震える脳梁が、一層の惨めな悲壮を伝えている。肺や腸が露呈し、繊維は筋に沿って剥がされていた。

 

「――――ッッッ!――――ッッ⁉――――ッッッ!!?」

「…――――よしもういい、殺せ。これ以上は時間の無駄だ」

 

 骨や内臓が露出した生物の、その向こう…――――研究デスクに座っていたその人物は、デスクトップパソコンから目を離さずに部下たちに命じた。ゾンビとも芋虫とも思える床の其れは、断末魔さえ上げられないが故か、最後の抵抗として激しく震え、藻搔き出す。

 

「…――――ッッ‼…――――っっっっ⁉」

 

 

 ――――パァン。

 

 無情に撃鉄が下ろされた。乾いた破裂音と共に、湿った臓物が床にこぼれ落ちる。人の形ですらないモノが、正真正銘の肉塊となった。

 

「お、前…」

「…ん?ふん、すまない見苦しい所を。お前がスコールの姪であるレイン・ミューゼル…。それと、そっちで胃の内容物を戻しているのがフォルテ・サファイアだな。お前達がネビュラスチームガンの正式装備者ということか…」

 

 デスクの上に、『赤い拡張デバイスがセットされたベルト』を置く彼女。ゆっくりと彼女は振り返る。

 …――――その顔の半分が、薄暗く鉄臭い部屋のライトに照らされた。

 

「え…――――ぁ?…――――()()()()?」

 

 えずくフォルテは、息も絶え絶えに狂人の名を訪ねる。その声には聞き覚えがあった。灰色のフードにすっぽり収まるその顔を、彼女はIS学園の教科書で見たことがあった。

 その人物は、群咲(むらさき)の髪も、その胡乱な声音も、フードから覗く顔の造作も、全てが篠ノ之束と瓜二つであった。だが、彼女の纏う気配は違う。ファウストに所属する凶神(きょうじん)とも篠ノ之束とも違う、最も危険な雰囲気を放っている。

 

(…――――。篠ノ之束はファウストの手によって因幡野戦兎という存在に変えられたはず…。オレが前会った宇佐美幻とかいう狂人とも違う。なら、コイツは…?)

 

 眼前にいた女は、フードの奥の顔に、引き攣った笑みを浮かべている。その人を小馬鹿にしたかのような笑みは、レイン・ミューゼルの心中を察し、読み取ったように深くなっていく。

 

「いいや、その考えは間違っている。私は…――――無力な上に、束ねる絆さえない愚かな兎とは違う」

 

 底の厚い黒のブーツが、肉片を踏み潰し血に染まる。立ち上がった彼女は、頭を覆うくすんだ色のフードを取り払った。

 紫色の長い癖毛が、陰気に揺れる。光の宿らない汚濁色の目が、レイン・ミューゼル達を冷たく無機質に観察していた。

 

「私は()()。『浦賀(うらが) (かさね)』」

 

 丈の長いコートを着ていてもわかる、豊かな胸が揺れて弾む。だが、そこに女としての色気が無い。狂気に塗りたくられ、女の魅力が恐怖としてしか伝わらない…彼女はそんな人間だった。

 

「織斑計画と並行して行われていた計画、『プロジェクト・ウルティマ』の成功例の一つ、それが私だ。…――――あぁ、IS乗りのお前たちには、『篠ノ之束の遺伝子モデルを解明・改善し製造された人造生物(クローン)兵器』と言えば、分かりやすいか?」

 

 ゆっくりと立ち上がり、血塗れの床を滑るように歩く浦賀累。ぶちゅりと脳味噌が潰れ、神経で死体と繋がっていた眼球が、脳の下部から外れた。

 

「…――――つまり、アンタは篠ノ之束と同じだけの力を持っているのか…?ってことは最近、亡国機業がISコアを秘密裏に製造して、ブラックマーケットで高額で取引しているのも…」

「その通り、全て私だ。そして『ISコアを製造できるのは篠ノ之束のみ』というデマゴーグから、戦いの火種は()もしない人間が全て背負ってくれている。我々は闇に潜むだけでいい」

 

 浦賀は懐から45口径の拳銃を取り出すと、ゴワゴワの髪を手櫛で直しながら二人の傍まで近づいてくる。その挙動に狂気と身の危険を感じる二人。

 

「私は天災の完全なる上位互換品。だが、『才能』とやらをひけらかすつもりは全くない。称賛とやらも名声とやらも、欠片もいらない。他者から与えられる全てのものには、一切の価値が無いんだから」

「…ッ!」

 

 玩具を弄るように、狙いも定めずガバメントモデルのトリガーを引く浦賀。

 弾丸が放たれた。床に転がっていた肉塊が欠片となって弾け飛ぶ。何回も鳴る銃声。その度に肉片は原型をとどめない程バラバラになっていく。

 

「…――――」

「あぁ、つまらない。ただ人を殺すというのは味気ない…何より勿体無いな」

 

 興味が無くなったかのように、彼女は拳銃を床に叩きつけ、執拗に踏みつけて潰し壊す。何度も、何度も、何度も何度も足を振り上げ、丁寧に砕く。無感情で淡々と行うその様は、狂気以外の何物でもない。

 

「アンタ、何のために亡国機業(ココ)にいるんスか…?」

「ん?おかしなことを聞く。察しが悪いな。私がココでISを創るのは、一人でも多くの人間を殺すため。兵器の力で、国が亡べばいい。科学の力で、世界が火の海になればいい」

 

 死体と銃の破片を踏み潰しながら、感情を伝える訳でもなく浦賀は言葉を続ける。

 

「一発の爆弾で街の人間全てが死ぬ、あの高揚感…。科学の素晴らしさが、戦争で証明されるあの感動…。興奮したよ。だから私は誰であろうと殺す。科学が生む力を証明するために、全てのものを犠牲にしよう」

 

 肉片でぐちゃぐちゃに汚れたブーツ。床には臓物と鉄の破片が混ざり合ったモノが曝されている。その上に立つ戦争の申し子は、淡々とした笑みを二人に向けた。

 

「…――――あぁ、考えるだけで楽しい。私は破壊の創造を見る為なら、私自身が死のうが関係ない。戦争こそ、私の生きる希望なんだ」

 

 彼女の手には、『漆黒の戦車のフルボトル』が二本、鈍い色を放ちながら収まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…――――ふは…あ゛あッ!』

「う、あぁ…」

 

 船着き場に転がるように現れた、二つの人影。苦悶の声を上げている戦兎の横で、煙を撒き散らし、ブラッドスタークの変身が解除された。

 織斑千冬と因幡野戦兎、二人の女性は息も絶え絶えであり、エボルと戦っていた戦兎に至っては口から絶えず血が流れている。

 

「せん、と…、このままでは…ッ!」

「…、とる…を」

「っ?」

「白い…、ボトルを、使って…」

 

 ひゅーひゅーと、肺から空気が漏れる音と共に、戦兎の言葉が千冬の耳へと届く。即座に千冬は戦兎のトレンチコートをまさぐり、お目当ての白いフルボトルを取り出した。

 

「…これか!」

 

 彼女は『ドクターフルボトル』を手にあったトランスチームガンにセットした。

 

【フルボトル!スチームアタック!】

 

「う、うぅ…――――う…あ…、あぁ…――――」

「治った…のか…」

 

 温かな煙が二人の周囲を漂うと、身体が楽になっていた。戦兎の青白かった肌に血が通う。出血多量で血塗れだった服以外は、元通りになっていた。

 …――――だが、如何にフルボトルであろうとも、心に負った傷までは癒せない。

 

 

 

 

 

 

「雨が降って来たね…」

「…そうだな」

 

 力無く、夜の帳の海辺を歩く。かつての二人と、今の二人が重なって見えた。積み重なった罪が、自覚にも、記憶にもなかった報復が、今となって絶え間なく降り注ぐ。

 冷たい秋の夜長に雨が降る。水に濡れる二人は、髪や洋服の裾から雫を溢す。

 

「今夜は、冷えそうだね…」

「…――――ああ」

 

 船着き場の近くに、自販機があった。それと、雨宿りができるベンチがあった。

 

「…ん」

「…、ありがとうな」

 

 戦兎から差し出されたのは、安く、どこでも買える缶コーヒー。どういう訳か、手に乗せてみれば酷く熱い。冷えた指先に広がっていく温もりは、どこか毒のようにも思えてきた。

 

「ねぇ、『千冬』…。少し肩、借りて良いかな…」

「…――――疲れただろう、戦兎。私も、少し…堪える」

「あぁ、疲れちゃったなあ…――――、雨が、冷たいや」

 

 雨漏りでもしているのか、今も絶えず濡れ続ける戦兎の襟。千冬はプルトップを開け、舐めるように黒い液体を、一口啜った。

 

「…――――。こんなに珈琲って、不味いものだったか…」

 

 鼻の奥に痛みが広がるほど、苦かった。

 




宇佐美「さて、物語のターニングポイントであり、新キャラ『浦賀累』も登場したなぁ。変身するのはやっぱりあのライダーか?ま、私がエボルドライバーで変身するあの姿には及ぶまいがなぁ!ヴェハハハハ!」
惣万「芋づる式に宇佐美の正体も判明したしな。…大体の読者は察しがついてたと思うんだが」
宇佐美「何?それを言うならァ…。ハァ…――――石動惣万ァ!」
惣万「…うぉい?(チベスナァ)」
宇佐美「なぜ君が『織斑』と親しい関係を築いてきたのか、なぜ一夏からお前のドライバーが出てきたのか、そもそもなぜ一夏が変身したライダーがクローズだったのくわァ!」
シュトルム「それ以上言うな(ネタバレ的な意味で)!」
宇佐美「その答えはただ一つ…」
ブリッツ「やめるぉ~ぅ(読者の期待的な意味で)」
惣万「(無言でダッシュ)」
宇佐美「君の※※※※※※※※※※※※※※(ピーーーーーーーーーーーーー)※※※※※※※※※※ァ(ピーーーーーーーーーーーーー)‼ヴェ※※※※※※※※※※※※(ピーーーーーーーーーーーーー)‼」
惣万「ピー音でセーフ…」
ブリッツ「ふぅ。というか、この組織人造人間率多くない~?そうますたーく以外全員そうじゃない~?」
シュトルム「ドアから入って来た人のヒントを出すのもやめなさい、ブリッツ…」
惣万「宇佐美はコレだし、カイザー姉妹はラウラたちのプロトタイプでナンバーチルドレンはそのアップデートモデル。そして俺はブラッド星人エボルト…、亡国機業がマシに見えるメンバーだなオイ」


 因みに、ただいまサルミアッキは皆さんから新キャラ、新怪人、新IS、そして新幹部の変身後の能力を絶賛募集中です。詳しくは活動報告一覧へI go、You go、Here we go!

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=258339&uid=246817


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第七十八話 『いずれ絶望という名の宇宙(やみ)

ショコラデ?「前回の三つの出来事。ファウストにはまた新たなキャラクターが登場予定。亡国機業のダウンフォール部隊には、篠ノ之束の遺伝子データを改良し製作されたクローンが。それと私の裏切りが戦兎と千冬は想定以上に精神にキてるようです、以上」
オータム「いや、お前誰?」
ショコラデ?「ん?つれないねぇ。原作ならお前が変装するポジションのキャラだったのに…」
オータム「あー分かった。その言い草でめっちゃ分かった。つかなに?女装癖あんのお前?」
ショコラデ?「似合うだろ?つか餓鬼の頃需要ありまくってイロイロやったら、身体がこんなふうになったのかも?」
オータム「あぁ、それは分かる。自然に癖で出ちまうよな。私は男役だった…今もだが」
マドカ「?」
シュトルム「はぁぁぁいこの話題色々と危険なので終了ゥゥゥ‼というかアンタらも何の話しているんですか‼」
チョコ秋「「昔したお遊戯会」」
シュトルム「嘘こけそんな同窓会的なテンションでされてたまるか‼」
ブリッツ「…よしよ~し」
オータム「おい、何で私らの頭撫でてくんだお前?ちょ…、やめろ餓鬼じゃねぇんだよ私!」
ショコラデ?「えー…、取り敢えず七十八話、どうぞ」ナデナデナデナデナデ
マドカ「むぅ…、そんなことより私の出番はまだか!」



 気が付いた時に『漠然とした自我がある』というのは、吐き気がするほどに気持ちが悪い。記憶を無理矢理植え込まれた人形のような…――――、はたまた全く知らない別の世界に急に引っ張ってこられたかのような、極めて異質で歪なそんな感覚。

 

 私は目が覚めた時、感じたことと言えばまさにそれだった。『ほとんどのことを忘れていた』というのに、自分が人間とは違うのは分かっていた。

 覚えていたのは、自分がどこかの研究所から逃げたしてきたこと。そしてこの身体が人為的に創られていることと、同族とも言える『存在たち』がいることだった。

 

(気持ちが悪い…)

 

 人間とは違う視点を持ってしまったからか、嫌なものばかり見えた。自分と人間とを比べて、互いの汚いものが、清いものを汚していく。生きたいと思う純粋な心さえ、犯していく。

 

 ただ、それでも、身体は生きたいと渇望し続けた。人工物であるというのに、命の真似事は一端に再現されていた。そうだ、私は…――――人ならざるものである『織斑千冬』は、間違いなくこの世界にあってはならなかった。

 死ぬべきだった。命ですらない自分は、消えてしまえばよかった。だけれど、…――――、『もの』であるはずの肉体は死ぬのを怖がっていた。

 

「どうして、私にこんな機能を付けた…。私はこんな事なら、産まれたくは無かった…!」

 

 その日その日の食べ物を得ることにも苦労していた。この身体は早熟で、十代後半でも通用する風体だったことが功を奏した。年齢を詐称し、幾つもの土木工事の現場を掛け持ちし、日々の糧をなんとか得ることができていた。

 ただ、身体のスペックは常人以上だったとしても、その頃私自身の技術は身体に追いついていなかった。

 

「おいお前ッ!邪魔するならすっこんでろ!」

「っ…すみません」

「ったく…!半人前にもならねえのに現場出てくんなよなぁ…」

 

 だが、自分が生きていくには、コレしかない。記憶が無いにしても、この身体がバレてしまえば私は生きてはいけない。せめて、せめて人間としてひっそりと生きていきたい…。

 

「ちふゆねー?おかえりー?」

「…」

 

 人間たちが寝静まった時の刻。小さな汚い部屋の中で起きていた同系列機の一夏が、駆け寄って来る。

 

「あの、ね?」

「…――――、なんだ」

 

 なにも知らない。苦労も知らない。背負わされた罪過の炎(クロスオブファイア)に身を焦がすことも無い。そんな一夏がその当時は羨ましくて、妬ましくて、悔しかった。嫌いになれれば良かった…なんて、弱いことを考えたりもした。

 

「ごはん、できてるよ?」

「…――――」

 

 

 だけど、なあ…――――。私は、お姉ちゃんなんだ。この世でたった一人の、本当の意味での一夏の姉なんだ。

 だから、守らないと。既に汚れている自分は二の次にしてでも、穢れを知らない一夏だけは、このままでいさせないと…――――。

 

 

 

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 『本当に、それで良いのか?』…――――そう言われた気がした。目の前では、蛇のように縦に裂けた黒目が私の心の中を見透かしている…――――そんな居心地の悪さがあった。

 

「お前だけの身体じゃないんだろ。もっと自分を大事にしろよ?」

「…それは、お前もだろう」

「あぁー…、まぁそう言われるわな。でも分かるだろ?その生き方を“変えられない”ってことくらい」

「なら、私もお前に言われる筋合いはないだろうが」

「ま、そうなんだがよ。…――――少しぐらいは、融通が利くようにはなって来ただろ?俺も、お前も。随分と柔らかくなった、今の方がずっと楽しそうだ」

 

 

 

「…――――ふん」

 

 これは、かつての記憶。私を慰めてくれた在りし日の一幕。一夏と、従弟と、箒と、■と、惣万がいて…。

 

 …、惣万…?

 

 

 

 

 

 

 

「…――――、千冬姉?どうしたんだよ帰ってくるなり酒飲みまくって…。つか、昨日戦兎とどこ行ってたんだ?」

「あ、…、今、何時だ…?」

 

 酷く重い頭を振って、織斑千冬は目を覚ます。喫茶店nascitaの窓には、いつもと変わらず櫟の樹が覗いていた。

 

「もう一日経ってるぞ、ったく…、ぁ?」

「…――――どう、した」

 

 かちゃん…――――コップが織斑一夏の手から落ちた。有り得ないものを見た、そんな表情で、彼は感情の追い付かない声で問いかける。

 

「…千冬姉。何で泣いてんだ?」

 

 形の良いアーモンド形の目から、温もりが流れ堕ちている。指摘されてようやく気付く、織斑千冬は自分が何を思っていたのかを。

 

「ぁあ…懐かしい、昔の夢を見ていたよ…。すまない、シャワーを浴びてくる、から…」

「え、お、おぅ…」

 

 

 

 記憶が途切れる。気付けば織斑千冬は浴室の中で白い煙に包まれていた。射干玉の髪から裸の足まで温水が流れて堕ちていく。昨日の冷たい雨と同じ様に。

 目の前の鏡に問いかける。映った女としての身体の奥にあるのは、本当に人間の心なのか。悲しむことも、苦しむことも、ただ人の心を完璧に真似ただけのものではないのかと。

 だから、例え自分が“ともだち”に裏切られたとしても、この苦しみというものは、虚像にしかならないのではないのか…――――?

 

「あぁ、まるで悪い酒だ。頭が痛いな…」

 

 膝を折り、裸のまま座り込む。ざぁざぁと冷たい雨に打たれているように、彼女の顔色は青白いままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の誕生日パーティーが終わって翌日。本来ならばイツメンで遊びに行く予定のところ、戦兎が皆に向かってこう言った。

 

「あ、皆ー…。ショッピングとかは一旦中止ね。誕生日でおめでたい一夏には悪いけど」

 

 その言う戦兎の方を振り向くと、眼元が腫れており、何時もの明るさが彼女からは感じられなかった。

 

 だけど、それでも信じられなかった。彼女らしくない姿、今朝の世界最強(ブリュンヒルデ)の様子…――――居なくなってしまった“あの人”。

 今の状況は、これから話す事をこれ以上ないほど証明しているのに。

 

「……昨日何かあったのか?千冬姉も気が沈んでるみたいだしよ」

「うん、ファウストの尻尾掴んだっていうか…――――マスターがブラッドスタークだった」

「「「「…――――、は?」」」」

 

 誕生日の悪趣味な冗談(ドッキリ)なんだと、信じたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 険しい顔立ちで、冷蔵庫の奥の秘密基地に皆は集まる。人数が人数なだけに少々手狭に感じるが、戦兎が前もって実験器具を片付けていた為、充分なスペースを確保できている。

 

「…――――とまあ、昨日はそんな事があり完膚なきまでに負けました、チャンチャン。だから今、石動惣万はいないってワケ」

「そんな……」

「嘘でしょう千冬さん…!」

「…証拠はある。これは石動惣万が所持していた『トランスチームガン』と、『コブラフルボトル』だ」

 

 昨日起きたことの説明が終わると、手前の机に、石動惣万(ファウスト)から奪った物が置かれた。数々の人間を不幸にしてきたテクノロジーの産物が鈍い色を反射して光っている。

 

「ビルドのシグナルに記録されてた映像データともバッチリ合致したよ。正しくスモーキングガンだね…」

「つまり、奴こそがブラッドスタークだ」

 

 そう、戦兎の説明を断ち切るように千冬は結論づけた。

 

「ど、どういうことですか!あの人が、そんな…!だってあの人は優しかったじゃないですか!誰にだって笑いかけてくれて、傍に寄り添ってくれて、それで戦兎さんだってクロエだって…!」

 

 ショックが大き過ぎて半ば叫び声になっている箒。彼女も一夏と同じく、古くから石動惣万と親しくしてきた人間の一人であったのだから、混乱するのも無理はないだろう。

 だが、それ以上に深い関りを持っていた人間の口から、冷たく淡泊な声が漏れた。

 

「戦兎と千冬姉が言うんだ。ホントのことだったんだよな…?」

「…――――一夏…」

「だけどな。それでも、俺は自分の目で見なきゃ納得できねぇ…」

 

 そう言った一夏の手は…強く握りしめたせいか、真っ赤な血が流れていた。その手を見つめつつ、戦兎は意を決して、石動が変身した姿を全員に見せる。

 

「奴は新しい力を手に入れた。『仮面ライダー』の力を…」

 

 …――――最悪(災厄)とも言える力の差を。

 

「どうして、こんなことに…」

「…この話、クロエにもすんのか?」

「ッ…」

 

 一夏は、石動惣万の義娘(クロエ・クロニクル)の存在をあげると、戦兎は思わず声を詰まらせた。

 

「…む?その姉さんは、今どこにいるんだ?」

「こんな時だってのに、どこ行ってんのよあのネットアイドル…ん?」

 

 その時、彼女らが持つISに通信が入る。

 

「これは、ISのプライベートチャネル…?」

『よぉ。IS学園の代表候補生の一年生、全員揃ってるな』

「「「⁉」」」

 

 昨夜の事を何とも思っていない、あっけらかんとした声で、惣万は語る(騙る)

 

『いやぁ、今な?ちょっとレゾナンス近くにいるんだが…』

『(お義父さん!タピオカカフェオレ飲みたいです!)』

『あ、ちょ…――――クロエ引っ張るんじゃねぇよッ、つーかネットアイドルがこんなところにいたら騒ぎになんだろ!お前可愛いんだから少しは自覚しろってぇの。ただでさえファウストに狙われるんだから、誘拐事件とか起きたらお義父さん悲しくて泣けてくるぞ』

『(む…、むぅ、今褒めました…?)』

『…まぁ、と言う訳だ。一足先に遊びに来てるから、皆も早くしてくれよー?そうだな、お前らに預けてあった“おもちゃ箱”も持って来てくれ、クロエも喜ぶだろうしな』

 

 それは、言外にクロエを人質に取ったということ。そして、何を思ったのかIS代表候補生たちの身柄とおもちゃ箱(パンドラボックス)を要求していることだった。思わず空気が張り詰める。

 

『ハッハッハ、そう気張るなって。詳しい話はこっちに着たら教えてやるよ、いぃ~ちかぁ。んじゃあ…Cia~o?』

「ッ!」

 

 そして、己の正体がブラットスターク(因縁)だと答え合わせをし、通信は終わった。漸く一夏は、いや、織斑の二人(・・・・・)は騙されていた事を実感した。

 

「…――――、分かっただろう。これがあいつの本性だ…」

「オレたちが、止めないといけないんだ。どうしてこんな事になったのか、確かめないと…、ん?」

 

 喫茶料理店への階段を登ろうとした戦兎は、秘密基地の入り口の冷蔵庫のドアが開いているのが目に入った。そして、その視線の先には、バツが悪そうにしているバイトの女性…巻紙礼子が立っている。

 

「あー…私は何も聞かなかった、そんじゃ」

「待てい巻紙!」

「何すんだよ天才バカ!」

「確か運転免許証持ってたよね!レゾナンスに生徒たち送って!」

「記憶喪失でも免許取れるだろうが!お前持ってねぇの⁉」

「バイクしかないんだよオレ!」

 

 『一夏達と出会う前まではずっと一人で仮面ライダー()ってたからな』と言う、ある意味悲しい哀しい(ロンリーロンリー)宣言が響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…――――、よぉ。早かったな」

「あれ、皆さんどうしたんですか?怖い顔して」

 

 鬼気迫る表情でやって来たIS学園の生徒たちに、クロエは思わずたじろぎ小首を傾げる。だが、戦兎が説明をしている暇はない。

 

「…クロエ。“そいつ”から離れろ」

「…――――、え?」

 

 クロエの背後を取っていた惣万の手には、赤々と燃え滾る光弾が生まれていた。

 

「早く離れろッ‼」

「うわぁ⁉」

 

【フルバレット!】

 

 間一髪。ホークガトリンガーから放たれた全弾は石動惣万に激突し、彼の身体をボロ雑巾のように吹き飛ばす。

 

「え…?なに、が…?」

「っ!駄目か…‼」

「酷いねぇ。ISが無ければ即死だったぜ?」

 

 コーヒーショップの壁をぶち抜いた攻撃も意に介さず、石動惣万の身体には怪我一つ無かった。彼は粉煙揺蕩う大穴の向こうから、埃を掃いながらしっかりした足取りで歩いてきた。

 

「お前が“人間”だったらな…。それに、クロエを躊躇いなく攻撃したお前に、もう同情の余地はない…」

 

 日本刀の如き千冬の鋭い視線もそよ風のようにいなし、底知れない笑顔で一夏たちを見た惣万。彼の碧だった瞳は、今や血のようにどす朱く輝いている。

 “それ”にはもう、人間らしい温もりなど、一切感じることができなかった。

 

「…――――、その笑みが答えだってのか…?どーなんだよッ‼答えろッ‼」

 

 裏切りの事実を知らされていたとは言え、兄貴分のあまりの豹変ぶりに狼狽し、叫び声をあげる一夏。その声は悲壮そのものだった。

 

「ん?どーした一夏。何キレてんだ?」

「そいつは…――――、クロエはアンタの義娘だろうが!戦兎だってそうだ、アンタ自分のこと育ての親っつってたよな!親が…子ども殺すのかよ!なぁ惣万にぃ‼」

 

 だが…――――。

 

「あー…――――、ははっ。親のいないお前には分からねぇよなぁ」

「ッ…」

 

 返って来たのは嘲りだった。一夏と千冬を、人間として扱っていない存在の目だった。

 

「そうだなぁ…。お前創るのに苦労したんだぜ?戦兎」

 

 惣万は喋りながらその顔を、青空の向こう側(成層圏がある上空)へと向ける。

 

「俺が歪めた(創った)。だからなぁ…――――、壊すんだよ」

「惣万、にぃ…アンタ…」

「世界の結末は既に決まっている。地球は終わる、この俺の力でな」

 

 惣万は胸元のボタンをはずし、シャツの中に入っていた朱いネックレストップを宙へと晒した。

 ――――赤黒い粒子が迸る。彼に相応しい、生命を醜く散華させる兵器が身体に吸着されていく。

 

「それは、デュノア社の第三世代機…『コスモス』⁉」

 

 その姿に、シャルルが気付く。それが、自身と関り深いところから持ち出されたことを。宇宙の名を冠するISが、今血に染まる。

 

「何で、ISを使えるんですの…?」

「んん?不思議なことを言うな。そこの一夏も男でISを使えてるだろう?もう女性だけの兵器だとは言えなくなったわけだ」

「や、別に女尊男卑主義者じゃないんだけど?あたしたち…」

 

 最悪の展開を予期した千冬は現状で浮かぶ最適解…――――一夏の首をつかみ自分の方へと引っ張った。

 

「一夏!お前のISを貸せ!」

「え、あ…でもこれ専用機で千冬姉じゃ…」

「早くしろ‼」

 

 戸惑う一夏の手から、彼女は半ば強引にISの待機状態である『ホワイトリガー』をつかみ取り、そのスイッチに指を掛ける。

 

【オーバー・ザ・ジェネレーション!】

 

 その音声をともに、一夏専用であるはずのそれは、千冬の身体に合せて装着された。白と黒の装甲の桜色のエネルギーラインが肥大し、血管のように広がり出す。

 …――――一瞬千冬の目が桃色に光り、周囲の物質が衝撃波によって塵に帰った。

 

「…ほぉ?世界最強と戦えるとは光栄だな、手合わせ願おう」

「…ほざけ」

 

 軽妙な口調の惣万に対し、千冬は感情を吐き捨てるように一本のブレードを取り出して構えるだけだった。

 

「どうやら、白式の中にいる白騎士を無理矢理呼び起こしたようだな。だが…、お前では『零落白夜』しか使えない」

「貴様にはそれで十分だ…!」

 

 …――――両者は超音速でレゾナンスの上空へと飛び去った。数秒で大気圏近くまで到達すると、惣万は片手から赤黒い波動を白式へと放つ。

 だが、それを剣に絡めとり一閃する世界最強。互いに攻撃を放ちながら回避をする様子は、まるで死の舞踏のよう。

 赤いIS『コスモス』は縦横無尽にビームを放ち、そのエネルギーを固体化することで白式を雁字搦めに縛り上げた。だが…――――。

 

「鬱陶しい!」

 

 白式の左腕ガントレットから、黒い波動が放たれた。自由を奪っていた血の色をしたチェーンが木端微塵に砕け散る。自由になった腕で、天に向かって武器を掲げる世界最強。

 雪片から放出されたエネルギーは巨大な剣として復元され、彼女の挙動と連動し音速で振るわれた。

 

「うおぉぉぉっっっ⁉」

 

 惣万は地面に叩きつけられる。

 

「ぐぅっ…、っとぉ…流石にビギナーズラックとはいかないか。ごくろーさん、『コスモス』」

「これで詰みだな。お前のおふざけは、ここで終わりだ!」

「いいや?遊びの時間は終わらない…」

 

 コスモスが先の一撃でシールドエネルギーが全損し待機状態へと戻るが、動く片手で紅い一条の光を空へと放つ惣万。

 その光は青空を瞬く間に侵食し、鈍色罹った極光がヴェールとなって蒼穹に棚引く。

 

「なんだ、あれは…」

「オーロラ?」

「すっごい、毒々しい…」

 

 周囲の人間がその光景に目を逸らされた僅かな隙に、惣万の肉体から異様な力が放たれ、白い騎士を大きく後退させる。

 

「ッち!」

 

 突然の衝撃を食らったにもかかわらず、千冬は機体コントロールし、僅かにバランスを崩す程度に済んだが、惣万は既に『準備』を終えていた。

 

「改めて自己紹介ってやつだ」

 

 石動惣万の身体が、人からスマッシュ(人が想像しうる怪物)…――――否、得体の知れない何か(人の想像すら及ばない生命体)に変わって行く。

 

「な…ッ?」

「人じゃ…無かったの?」

「やっぱり、かよ…」

 

 朱い身体から、縮退する天体の底知れぬ闇が溢れ出す。暗黒の中にて、黄金の四つの瞳が見開かれた。

 闇が、晴れる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「うわ…なにそれ。気持ち悪っ…」

「ははは。そうだよな鈴ちゃん、正直なやつは嫌いじゃねぇ。さて、改めまして…――――」

 

 まるでコブラと甲殻類を融合させた歪な怪人。てらてらと滑り、毒々しい緑の発光器官が、脈動に伴い点灯する。全身各部から飛び出た触手がうぞうぞと空間の中をのたくっていた。

 朱と桃に彩られた毒蛇が、慇懃無礼に首を垂れる。

 

「俺の名は『エボルト』。あらゆる星を吸収して自らのエネルギーに変える地球外生命体だ。この星を滅ぼして、俺の一部にする」

 

 彼は、そう簡潔に自身の正体を晒した。

 

「エボルト…?」

 

 その言葉に戦兎は反応を示したが、最早彼らの怨敵となった怪物は語り続ける。

 

「ほぉら、少しくらい喜んだらどうだ篠ノ之束?ISなんて玩具を創って、理解の及ばないものを宙の果てに求めたお前だ。異星人とのファーストコンタクトだぞ」

「ッ…オレは、因幡野戦兎だ!」

「あぁ、そうだった…お前は俺に創られた偽りの人間だったなぁ?…――――『誰かさん』たちと同じで」

 

 その誰かさんがいる方向を、エボルトは特殊な知覚で感じ取りながら、一定の距離感…――――戦闘における自身の間合いを抜け目なく維持し続けている。

 

「そんなことはどうでもいい‼」

「…おっと食い気味だな、千冬おねーちゃん?」

「貴様…、何故私たちを呼び寄せた?お前は何をしようとしている‼」

「ぉ?――――ぅふふ、…ハハハハハ‼…――――決まってるだろ?」

 

 『蛇』は千冬に四つの目を向けると、片手を頭に当てて嘲笑し始めた。心の底から愉快だとでもいうように。

 

「お前たち人間の下らない感情を傍で見て、本当に楽しませてもらった。そこで是非ともお礼がしたくてねぇ…。お前たちには出血大サービスだ」

 

 朱い両手を不気味な光で輝かせながら、空の彼方に生み出した汚らわしいオーロラに向ける。

 

「俺の創る『新世界』の扉を少しだけ開けてやろう…」

「…『新世界』だと?」

 

 千冬が疑問の声を上げたその時、空間が歪んだ。周囲の風景が引き延ばされたように彼方へ引っ張られていく。黒い世界の中に銀色の光が瞬き、また消えていくその様子は、ずっと見ていると気がおかしくなりそうだった。

 永遠にも思えた次元のトンネルを数秒で通り過ぎた一夏たち。だが、その目の前に広がる景色に目を疑う。

 

「ここは…⁉」

 

 一夏達の体にはISやライダーシステムによる変身が自動的に発動していた。しかし、彼女らにとってはそれどころではない。

 目の前には岩石が生き物のように蠢き、空には無機物のリングが幾重にも重なり浮遊している。そして…“ここ”では空は緑色に輝き、幾つもの太陽が青い光を放っている。

 ISが指し示す座標は、太陽系の遥か外に位置していた。

 

「もしかして、ここって…――――別の…星…?」

 

 白昼夢を見たか、狐に化かされたかといった方がまだ現実的だったかもしれない。だが、“ここ”が先程いたレゾナンスとは全く異なる場所であることを、持ち主の危機に対処したシステムが如実に証明している。

 

「そう、ここは…――――お前らが『ベテルギウス』と呼ぶ星を公転する惑星の一つ」

 

 朱い蛇が嗤う。

 

「ほぉ、それにしても…そのインフィニット・ストラトスという兵器、本当に宇宙活動用の機能もあった訳だ。下等な生命体が創った不細工な玩具にしては中々だな。机上の空論とは言え、他の惑星でも体力を維持できているとは…。いやいや面白いなぁ」

 

 蒼穹を渡る蛇は滑稽そうに、インフィニット・ストラトスに向けて淡々と拍手を送る。

 

「だが、もっと面白いものを見せてやる…――――It’s showtime‼」

 

 天災が作り上げた兵器の性能に敬意を払ったのか、はたまた何か別の思惑があるのか。心の奥を見せることなく、エボルトはパチンと指を鳴らした。その瞬間、煌々と輝くベテルギウスは、音すら立てずに崩壊を始める。

 

「…、うそ」

「ブラック、ホール…?」

 

 オリオン座の肩は、突如発生した黒い天体に破壊されていた。その事実に能が追いつかない仮面ライダー達を無視して、エボルトはつらつらと言葉を紡ぎ続ける。

 

「千冬、お前の質問に答えてやろう。こういうふうにあらゆる星を吸収し、そのエネルギーを使ってビッグバンを発生させる…そして生まれるのが、『新世界』だ」

 

 光が数秒で無くなり、暗黒に包まれる異惑星。その深淵で、エボルトの瞳と身体が爛々と光る。

 公転を保てなくなった星が天変地異を起こし始める中で、ISたちは動くことが出来ない。ヘビに睨まれたカエルのように、身が竦んで動けなかった。

 

「ビッグバン、だと…?そんなことをしてお前は…」

「ふふ、心配してくれるのか?だが、生憎俺はお前らみたいに命ってやつにとんと興味が無くてねぇ。宇宙と心中して無に還るなんて、『最低(さいっっっこぉ)』だろ?」

「…――――いや、何一つ理解できねぇよ…」

 

 クローズチャージは、箒のISに抱えられながら苦し気に、そして悲し気にそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほぉ、恒星を吸収して、全盛期の数パーセントほど力が向上したか?』

 

 

 誰かの声が、異世界に響いた。凛とした芯のある美しい声だった。その場にいた誰もが、その声の主を知っている。それは過去、あの大会の時起こった救いの手の持ち主。

 戦兎は声のする方向へとその複眼を向けた。

 

「…――――え、クロエ…?」

「…んん?」

 

 緑色の光に包まれたクロエがそこにいた。彼女は調和の取れた不思議な安心感を戦兎たちに抱かせ、先ほどまで目にしていたエボルトとは真逆の印象を与えている。

 エボルトはその状態になったクロエを見るや否や、大きく溜息を吐き、その名を呼んだ。

 

「…“ベルナージュ”か。久しぶり~…、でもないか」

『表だって会話するのは数万年ぶりだがな』

 

 その名前を告げた瞬間、二人の姿は消える。そして、周囲の大地や絶壁の倒壊が連鎖する。

 

「ッく、何だこれは⁉」

「高速移動で、戦闘しているのですか…?」

「ハイパーセンサーでも捉えられないってどういう…、…――――ぇ?」

 

 その人智を超えた戦闘能力に身を竦めるしかできない少女たち。

 だが、その場にいた人間が本当に目を疑ったのは、次の瞬間だった。瞬きの間に姿を消し、その次の瞬きで現れた二人。だが、圧倒的な力を持って星を破壊したエボルトは、ベルナージュにその体をボロボロにされ、彼女に首元を捕まれていたのだから。

 

「ぐぅ…っ、ははは、容赦ないねぇ?」

『この程度では貴様は死なぬだろう』

 

 ベルナージュの指摘の通り、エボルトはすぐさま身体を回復させていた。そして、その両手で首の拘束を外そうとクロエの黄金のバングルを強く握る。

 

「けど、お前も大分弱体化してるな?あの蜘蛛を殺した時の、一割の力も無いじゃねぇか?」

『その程度で、十分だ』

「がッ⁉」

 

 互いに弱体化を指摘するが、ベルナージュは拘束されていない方の腕に未知のエネルギーを集束し、エボルトの胴体をいともやすやすと貫いた。宇宙空間にエボルトの紅い体液が漂う。

 

「ぐぅッ…!」

『…、死にたくなければついてこい。人間ども』

 

 蚊帳の外にいた人間たちを緑色の光で包むと、ベルナージュは崩壊する星を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球の日本の上空に、金と緑色で縁取られたワームホールが開いた。そして、その中から甲高い絶叫が聞こえてくる。

 

「「「「「「ぅわぁぁぁぁぁぁぁああああああ⁉」」」」」」

 

 彼女らは派手に地面へ激突する。ISやライダーシステムに身体を守られているとは言え、不意打ちとばかりに転移させられては心臓に悪かったらしい。気の弱い面々は目を回していたり、目を白黒させていたりする。

 カフェnascitaから出てきた巻紙は、陥没した庭園と倒壊したコンクリートブロックを見て頬を引き攣らせていた。

 

「う、ぉ、いッ⁉どっから戻ってきたお前ら⁉」

「あ、巻紙さんすみませ~ん…」

「いや、まぁそれは良いけどよ…、IS展開しっぱなしは流石に邪魔なんだが。で、結局お前らレゾナンスからどこ行ってたんだ?」

「ちょっと、…別の惑星へ…」

「…は?」

 

 ぞろぞろと覚束ない足取りでカフェの中へ入っていくIS学園生徒たちの背中を、巻紙さんは呆気にとられた様子で眺めるしかできなかったのだった…――――。

 そんなこんなで、コズミックな衝撃の連発に落ち着いた一行は『発光を目のみに押さえたクロエ』とともに、地下の秘密基地へと戻っていた。そこには秘密を知ってしまった巻紙礼子もお邪魔していたりする。

 

「ところで…アンタだれだ?」

 

 周囲の疑問の声を代表するかのように一夏が訪ねると、クロエの中にいる人物が口を開いた。

 

『私はベルナージュ。火星の女王だ』

「…ラウラー?お前の姉ちゃん中二病?」

「いや、どう考えてもガチモンだよなコレ…」

「さすがくーたん、半端ねぇ…」

 

 自己紹介(?)に対し三者三様の返答を返す仮面ライダー達。それにしてもこのドルヲタ、相変わらずである。

 

「…どうぞ、コーヒーです。火星方面のお方の口に合うかどうかは分かりませんが…」

「火星方面ってどっちだよ…」

「上だよ」

 

  ベルナージュの手元へおずおずとカップを差し出す箒。それにしても戦兎のツッコミはある意味正しいが、もっとこう他に言うべきことがあるだろう…閑話休題(それは兎も角)

 受け取った黒い液体を女王は気品ある飲み方で口に含み、こう申された。

 

『…不味い。下がれ、小娘』

「…――――。小娘って言われた…」

「良かったじゃん」

 

 戦兎ェ…。

 

「つーか、ホントに火星人なのかよ?」

「失礼なこと言うんじゃないよ一夏。見たろ?俺達を約642.5光年先から一瞬でここまで連れてきてくださったんだよ」

「俺はくーたんが何者であろうと、一生添い遂げる自信があるッ‼」

「そーいう問題じゃないんだよねシャルルン」

「おい嫁。…おい嫁」

 

 一気にカオスになってしまう仮面ライダーの面々。ボケしかおらず、会話が全く進まない。

 

「それにしても、ホントどうしてテレポートなんて力が使えたんです女王様?ちょっと分析させてくださいませんか?」

「戦兎さん、今はんなこたぁどうでもいいだろうがよ。それより何で火星人が日本語話せてんだ?」

「いや、そっちの方がどうでもいいでしょーが」

「じゃあお前分かんのかよ」

「それはアレだよ…、…――――、…何でですか」

『10年住めば馬鹿でも分かる』

 

 女王は目の前の馬鹿(脳筋)馬鹿(ドルヲタ)の会話に、そう断言した。

 

「ほぉん…、馬鹿なんですか。アホの子火星人女王二重人格アイドル…アリかナシかで言えば…アリだな」

「止めろバカ、比喩表現だよ馬鹿。一夏の仲間見つけたみたいな顔してんじゃねぇ」

「あぁん?バカバカうるせぇよお前ら」

「お前じゃないよバ一夏」

「あ、そーなの?ワリィ…ってうぉい!」

「いやおめーらマジでうるせぇよ馬鹿ども‼聞けや話‼」

「「「…うっす巻紙さん」」」

(『お前の声が一番うるさい』…とかは言わん。教師の上げ足とるみたいなマネは流石に大人げないしな…)

 

 そんな千冬先生はコーヒーを啜って、面倒事にならないうちに席を立っていたりする。

 

「おら、何か聞けよ天才バカ」

「え、この流れで…?」

「とっとと聞いとけ。向こうも困ってんぞ」

「あー…じゃ、おほん。何でアンタ、石動惣万の…――――いや、エボルトのことを知ってる?」

『エボルトとは入魂の間柄でな。気が遠くなるほどの昔、我が星が滅んだ時に奇妙な因果が結ばれたようだ』

 

 巻紙礼子に尻を叩かれ口を開いた戦兎の質問に、律義に応えてくれるベルナージュ。なんだかんだで良い人らしい。

 

『かつて、世界を滅ぼす侵略者と、私は決死の覚悟で戦った…――――。その結果肉体を失い、今の私はこの腕輪に宿る魂でしかない。この魂もじきに消えるだろう。力も完全体となったエボルトと互角程度の力しか行使できんほどに弱体化した。まぁ、向こうも同じようなものだが。ところで…――――』

 

 今度は逆に、ベルナージュがIS学園の面々へと問う。金色に縁どられた緑の鋭い眼が、正鵠を射抜く。

 

『貴様()、何者だ』

 

 その言葉は真っ直ぐに、彼女の目の前にいた人物に注がれた。

 

「…?俺?」

『…――――』

 

 周りにいた箒や千冬、巻紙礼子の視線が集まる。彼は、その問いかけにゆっくりと答えた。

 

「俺は織斑一夏…――――です?」

『…そうか。お前達は、自分が本当は何者か、分かっていないのか』

 

 ぽつりと、意味深な言葉が静寂に滲む。それは悲しんでいるのか、安心しているのか、はたまた、何か懐かしいものを見るかのような…――――そんな感情が混ぜこぜになっていた。

 

『ならば、お前達が希望となる。それまで、私は眠るとしよう…』

「え…ちょっと待てよ、どういうことだオイ?」

 

 その途端ベルナージュの意識は失われた。クロエが地面へと投げ出され、彼女の身体は眠りに就く。

 

「…う、ヴェァァァァァァァァァ⁉くーたん⁉いいくらですかいくらですかぁッ⁉」

「では20万ユーロ頂きますわ」

「はい20万ユーロ♬」

「嫁と姉さんに何してるセシリア⁉」

 

 …――――相変わらずの金欠貴族と、重課金ドルヲタなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歯車が狂い出す。今まで支障なくカラカラぐるぐる廻っていた鉄の歯車が、誰かの涙で知らず知らずのうちに寂れ始める。繰る繰る、狂々、ズレていく。

 

(俺が、『何者か』だって…――――?)

 

 IS学園生徒らが倒れ込んだクロエを解放している間、一夏の心の中には、しこりのようなものが残り続けていた…――――。




シリアスな場面の裏で起きてたこと

「…む?その姉さんは、今どこにいるんだ?」
「こんな時だってのに、どこ行ってんのよあのネットアイドル…」
「…んだと鈴、くーたんがいつどこ行こうがなぁ、俺らには関係ねぇだろ!(…因みに毎週火・木曜日は焙煎した珈琲豆を取りに行くのがくーたんの日課ですボソッ)」
(すいませぇぇん織斑先生ぇ、傷心中なところ申し訳ないんですがここに変態ストーカーがいまァす!つーか冗談抜きにマジで気持ち悪いわ‼※超小声)
(くーたんチャンネルとかから逆算したんだよ、断じてそんなアイドルを貶めるような真似はしてねぇ‼※超小声)
(シリアスは貶めてるわよね!本編とか色々台無しになるから空気読んでェ⁉※超小声)

※不思議なことが起こり視点カットされました。


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第七十九話 『亡国のファントム』

戦兎「仮面ライダービルドである因幡野戦兎は、一夏や千冬、箒を貶めてきた裏切り者…石動惣万が変身したエボルトの力に圧倒されてしまう。ブラックホールで攻撃とかどうすれば…、あ、いや行けるか?」
箒「あのー戦兎さん。最近私たちの影薄くないですか?一夏といいクロエといい、何かとんでもない方向に行ってますし…」
戦兎「箒ちゃんはともかく、他の面々は元から薄いんじゃない?」
IS代表候補生「「「「そんなことないから⁉」」」」
惣万「サブキャラが滅茶苦茶いるからなぁ…。収拾つくのかなぁコレ?」
シャルル「げっ、宇宙人…。お前どの面下げてココに出てきてんだよ、くーたんショックで寝込んじゃったじゃねぇかよゴラア!三羽烏に看病してもらってっけど…――――って戦兎もショックで倒れたぁ⁉」
惣万「さて、それ以上に影が薄くなっちまったホウジョウ…――――じゃなかった、デンジャラスな嬢ちゃんが大活躍な第七十九話…どぞ~!」
ラウラ「(チベットスナウサギな視線)」



 ――――時が、少し過ぎ去って。IS学園キャノンボールファストから数週間経った後のことだった。

 

 ここは北アメリカ大陸北西部、『地図にない基地(イレイズド)』。

 

「き…緊急事態!緊急事態!|侵入者確認!6Dエリアに救援を…がァッ⁉」

 

 真っ二つにへし折れるアサルトライフルの銃身。屈強な男たちの苦悶と悲鳴。厚底のバトルシューズの独唱。それらを奏でているのは、たった一人の少女だった。

 

「…………」

 

 鉄の通路を独り歩く紫の人影。そう、侵入者はたった一人の少女しかいない。その人物の表情からは何の感情も伺い知れない。

 

【デンジャー…!】

 

「……変身」

 

 地獄の底から響くような声で、少女は力を手にする言葉を口にする。周囲に、バンシィのような金切り音が放たれる。

 紫の薬品に浸かった少女の姿が成人の体躯まで成長すると、液体はすぐに物質構成をはじめ、数秒で彼女の全身は鮮やかなパープルの装甲に包まれた。

 

「仮面ライダー⁉」

「こ…こいつ、まさか報告書にあった亡国機業(ファントムタスク)の者か⁉」

 

 黒いヘルメットに光る水色の瞳で周囲を睥睨する鰐のライダーは、スチームブレードとネビュラスチームガンを合体させ、ソレを構える。

 

【ライフルモード!】

 

「も、目的はなんだ⁉米軍にこれだけのことをしておいて、ただで済むと思うなよ!」

「…知らんな。私が背負う目的は『大義』のみ」

「な、なに⁉」

 

【デビルスチーム…!ファンキーショット!ギアリモコン!】

 

 次の瞬間、紫のライダーの放った煙幕弾に次々と兵士たちが倒れていく。そして、郁子なるかな。ネビュラスチームガンのガスを受けた男たちの姿が、スマッシュハザードへと変化していく。

 

「………行け。この基地にあるISコアを回収しろ」

 

 基地の中は瞬く間に、リモコンの能力で統率されたスマッシュハザードの群れに蹂躙されていく。それらを基地各所へと散開させると紫のライダーは一人、内部ディスプレイに送られてくるマップを基に通路を曲がり、下がり、進んでいった。

 

 ひときわ大きな通路に出たところで、仮面ライダーの進路を阻むものがいた。

 

「………む?」

 

 それに気づいた途端、通路の床が轟音を立てて崩れ落ちた。煙の中から現れた虎模様のISは、ライダーを上へと投げ飛ばし天井を破壊する。

 さらに、吹き飛んだライダーを追いかけ両腕で抱え込むと、回転と落下の勢いを個別連続瞬時加速で上乗せし、鉄の廊下へと捻じ込んだ。

 

 鼓膜が割れるほどの轟音が存在しない基地に響き渡る。濛々と煙と破片が舞い散る中、タイガーストライプのインフィニット・ストラトスがバックステップで飛び出した。その挙動からは敵への警戒が消えていない。

 

「………無傷か。堅物なのは口だけじゃないみたいだな」

 

 煙幕の中から、水色の瞳がゆらりと動く。首の関節を数度鳴らすと、パープルのライダーは鋭い指先をISへと突きつけた。

 

「アメリカの第三世代型『ファング・クエイク』か」

「おう、そして国家代表イーリス・コーリングだ。……覚悟は良いか、亡国のファントムさんよ。言っておくが私はつえーぞ。殴殺される覚―――『その機体もいただく……大義のための、犠牲となれ』…っておい!」

 

 仮面ライダーはスチームブレードを逆手持ちにすると、口上もお構いなしにイーリス・コーリングへと跳躍した。

 

「おいおい、お前映画とか見たことないやつかよ。ヒーローが口上述べてるときは出番待ちでぽつんと立ってるもんだろうが……よ!」

「………正義の味方(ヒーロー)を気取るか」

 

【シャーク!チャージボトル!潰れな~い!】

 

 国家代表の言葉を鼻で笑いながら、青いフルボトルをドライバーへと差し込む紫のライダー。

 その姿が、水飛沫を立てて消え去った。

 

「マジかよ、地面に沈みやがった……!」

 

 その不可思議な挙動に警戒し、空中に浮遊するイーリス。彼女の背後の壁が水面のように波立った。

 

「…そこだ、どわぁ⁉」

 

 そこから飛び出したのはライダーではなく、巨大な一匹のメガロドンだった。天井や地面から次々と、牙を剥いて何匹もの鮫が跳躍し、ISのシールド・エネルギーを削っていく。

 

「くそっ…!」

「……私は『不正なる悪党(ローグ)』」

 

 攻撃を捌くファング・クエイクの傍に、いつの間にかならず者が立っていた。彼女は水色のベルトのレンチに手を掛ける。

 

【クラックアップフィニッシュ!】

 

 名乗りと共に、大鰐の顎が虎を襲撃した。周囲に、女の恐怖に染まった悲鳴が広がっていく。

 

 その日、『地図にない基地(イレイズド)』は文字通り地図からも消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャノンボールファストの修復がまだまだ進んでいないIS学園。しかし、地下は無事な施設が数多くある。屋上や空き教室から運び込んだ戦兎の研究機材が稼働する薄暗い部屋に、一夏たち仮面ライダーの関係者が集まっていた。

 彼女らの顔は曇り切っている。理由は明確だった。先の石動惣万……否、地球外生命体『エボルト』の隔絶した能力を目の当たりにしたことが、希望の光を濁らせていく。

 

 誰もがこう思っている。――――『あんな怪物に勝てるのか?そもそも、あれだけの力があるのに、何故すぐに地球を滅ぼさないのか?』

 

 …――――理由は、分かっている。

 

 ……――――『いつでもお前らの星は滅ぼせる。だが、お前ら人間の無様をもっと見たくなってな?』

 エボルトにそう見下され、告げられていることが先の出来事で実感した。怪物の口の中にいるかのような拭いきれない恐怖が、彼女らの心を覆い隠している。

 

 机に向かっていた戦兎が振り返る。

 

「よっしベストマァァッチ!調整終了、やっぱりオレの発明品はさいっこーだな!…――――なんだみんな辛気臭いな、チョコ食う?」

 

 明るい声と愛嬌が振り撒かれた。ついでに徳用100円チョコを載せたお盆が、戦兎の傍にいた箒に手渡される。

 彼女は痛ましいものを見るように、戦兎から目を逸らした。

 

「で?なんで俺ら呼び出したんだ?」

「あ、そうそう。エボルトに対応する為に、………一夏、はいこれプレゼント」

 

 一夏にプレゼントと称され渡される二つのデバイス。それは亡国機業のオータムに奪われたままになっていた『ビルドドライバー』と、オレンジ色をしたナックル型武装だった。

 

「……なんだこれ?」

「強化アイテムだよ。名付けて『クローズマグマナックル』。理論上、発生するパワーによって一撃で敵を戦闘不能にできる」

 

 セシリアや鈴たちは興味深そうにそのブラスナックルを見る。だが、不満げに声を上げたのはラウラだった。

 

「…おい、嫁には無いのか?」

「あー…本当はグリスの強化アイテムも作ってたんだけどね。マスタ………おほんッ、エボルトに取られちゃったみたいで」

 

 ごめんねー!と両手を合わせてシャルルに平謝りする戦兎なのだった。

 

「…別にどうでもいい、なにより俺はパワーアップの必要がねぇくらいには強ぇからな」

「お、おう…」

 

 そんなことシャルルにとっては余計なことだったらしい。泰然自若にして傲岸不遜な台詞を、至極当然だと口にするさまは、最強の風格を漂わせている。

 

「だが問題は、こんなんでホントにあの化け物倒せんのかってこった」

「…とりあえず、エボルトがワープドライブとかブラックホール発生の行動を起こす前に撃破すれば何とかなる………はず」

「それ、無茶だろ。要求されるハードルかなり高くねぇか?」

 

 呆れたように金髪を揺らすシャルルに追従し、一夏も相槌を打ちながら思ったことを口に出していた。

 

「うん。だけど近々それ用アイテムのお披露目になりそうだ。これで、スピードもパワーも従来のビルド、その数倍に跳ね上がる。……これを使えば『ハザードトリガー』を完全に制御できるはず」

 

 その言葉に、驚愕を禁じ得ないIS代表候補生たち。戦兎は自分への戒めからか、今まで極力ハザードトリガーの使用を避けてきた。平和利用ができないデバイスとして扱ってきたそれを、彼女は戦闘に用いようとしている。

 彼女の心境に何らかの変調があったのは、想像するには難くなかった。

 

「そのクローズマグマナックルも、オレの強化変身アイテムのシステム構築用に創ったものだしね。最新式の機能が追加されてるから一夏でもそこそこには戦えるよ」

「…おい。なんだよついでみたいな言い方。戦兎ばっかいいご身分だな、おい」

「当たり前だよ。オレってば天才だし?皆より成果出してますし?なら強くなるべき順番もオレが一番優遇されて然るべきだよねー?」

 

 ふざけたように薄く笑う戦兎。だが、生徒たちは浮かない顔をやめない。やめられない。今の彼女が進んだ先にあるのは、破滅だとしか思えなかった。

 

(『アレ』完成させるには、オレの身体にベストマッチなフルボトルのデータサンプルを摂って…になるんだけど、フルボトルは一種類ずつしかないしなぁ。二つ目の同じフルボトルとか作れるのかな?いや、それよりもまず先に、このことだけは言っておかなきゃ…)

 

「あとあのブラックホール攻撃に対してだけは、対抗策があるよ」

「…ぇ?」

 

 彼女は事もなげにそう言った。

 

「は、え…は⁉どういうこと⁉」

「白式の単一仕様能力の一つ、『零落白夜』だよ。理屈で言えばブラックホールも崩壊したエネルギーだしね。まぁ、あれってあらゆるエネルギーをゼロにする…ってだけじゃないみたいだけど。まだまだ引き出せてない力がありそうだ」

「…――――戦兎」

「まぁ、零落白夜のデメリットとしてシールド・エネルギーと引き換えにって制約はあるけどね。その問題の改良はまたおいおい…――――」

「戦兎!」

 

 一人の叫び声で、天才の言葉が強制的に断ち切られた。

 

「…――――なにかな、『千冬』?」

「すこし、次の授業について意見が聞きたい。開発に熱中するのは良いが、教師業務(こっち)も疎かにするなよ。では一夏、デュノア…戦兎は借りてくぞ」

 

 薄暗い開発室を後にする二人。ただそれだけだというのに彼女らの後ろ姿は、断罪の執行を待つ咎人を思わせた。

 

「…――――教官?」

「ぁん?どした銀髪。一夏まで…」

「…――――千冬姉、何かを怖がってるみたいだった…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女子トイレに、粘ついた湿っぽい音が漏れる。

 

「ぅ…げッ…、あ、ぁッッ、あ、おぇ、ッッッ…!う、ええっ、ェェェ…!」

「…お前、いつ休んだ?」

 

 扉を挟んだ外で、千冬は『嘔吐を続ける戦兎』に声をかけた。

 

「石動惣万…いや、エボルトが正体を現した時から、一切寝てないだろう。ストレスによる睡眠障害か。そんなコンディションで戦えると思っているのか?」

「はは、手厳しーなーチッピーはぁ…。うっく、ォ…」

「………。………――――まぁ。分からないわけでは、ないが」

 

 涙と恐怖からくる体調不良をお気楽な天才の仮面で隠し、それでも生徒たちを導こうという気概は尊いと千冬も思う。

 だが、彼女の絶望も手に取るように分かってしまう。

 

「それと、一夏への先程の提案の件だが」

「えぶ…あぁ、零落白夜のこと………?」

「お前、エネルギー不足という問題をどう解決するつもりだった?」

 

 涎を拭った戦兎が、消え入りそうな大きさで声を震わせた。

 

「………、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「………それは臨海学校の時、ファウストに組み込まれたものと同じだな?」

 

 とても冷たい声が出る。

 

「でもあんな不完全な代物じゃ無いよ。ライダーシステムは感情によって出力が向上するテクノロジーだ。それをオレが考え出した理論に応用すれば、あのブラックホール攻撃も目じゃない。感情を他の要素と統合させたエネルギーである命ならば、莫大な作用を生むことは明白なんだよ」

「………。『一夏』にそんなことを、私が許すとでも?」

 

 突き放つような言葉だった。

 

「思わないね…でもその口振り。もしオレがそのシステムを構築したら、代わりに千冬がするつもりなんでしょ?」

「………だとしたら?」

「君は絶対に死なせない。役目を果たすのは、オレだからな」

 

 すりガラスの奥から差し込む光が、二人を照らしていた。

 

「おい。死に逃げるなと、言ったよな…?」

「それは君もだろ⁉……――――千冬、そこにある鏡見なよ、死にたそうな顔してるんじゃない?」

「…――――何を、馬鹿な」

 

 薄暗いトイレの鏡に映り込む織斑千冬の顔は、人間ではないものに思えた。

 

「……随分前に、宇佐美にこんなこと言われたんだ。『科学の発展には多少の犠牲はやむを得ない。醜いものには蓋をして、科学は発展していった』。…――――今となって、アイツの言ってること、真理だって分かって来たよ」

 

 永い間見続けていた夢が終わる。明けない白い夜が、零のまま落ちる。

 

「…ねぇ。どうすればいいんだよ。どうすれば、よかった?」

 

 胃液と共に吐き出される、戦兎の腹の底に溜まった黒いもの。

 

「謝れば。許しを乞えば。皆を無償で愛せば。平和をもたらせば。幾つもの『大切』を踏みにじった苦しみから、逃げられると思ってた…。この罪過が薄まっていくと思ってたのに…――――ごめん。ごめんなさい、弱くて、ごめんなさい…。やだよ。やだよぉ…なんでオレってこんなことばっかり…。許して欲しかった…。終わりが見えないまま、『終わっても許されない』今のままなのは怖いよぉ…」

 

 …千冬は天を仰いだ。長い黒髪が目元を覆う。

 

「……」

「…。ゴメン、取り乱した。……だからマスターは『裏切りっていう終わり』に教えてくれたのかも、ね…」

 

 便器の中に堕ちる滂沱の涙。

 

「家族っていう絆が絶たれて、裏切られた人間がどんな苦痛を受けるのか。自分では対処できない未知の暴力を間近で見た人間がどんな恐怖を抱くのか…」

 

 また、吐き気がする。気持ちが悪い。

 

「『つらかった。こわかった。でもなんとかしないと…どうにかしてあの怪物をとめないと』…――――こんなことしか考えられなかったもんなぁ。偉そうなこと言っといて、結局メッキが剝がれちゃえばオレってこんなもんだったんだなぁ。みんなオレにこんなこと思ってたんだ…。うっすいなぁ、情けないなぁ…」

 

 逃げたくなる。死にたくなる。何度も決意したというのに、その信念が折れてしまいそうになる。

 

「千冬……やっぱりオレってさ、生きていちゃ駄目なんじゃないかなぁ」

「戦兎…、ッ‼」

 

 どぉん……、と遠くで何かが弾け、悲鳴が上がった。緊急警報がけたたましく鳴り響く。

 

「…アラート?どうして…、!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の各施設が炎上し、警報がけたたましい叫びを上げている。『飄々とした顔』でやって来た戦兎の前には、一夏たちと対峙する敵を見つけた。

 逃げ惑う生徒の人混みの中で、金髪と黒髪の二人が砕けたインフィニット・ストラトスの上に腰掛けていた。

 

「やっと来たか…、仮面ライダービルド」

「待ちくたびれたッスよ」

 

 一人はダルそうに、もう一人は好戦的に正義の味方たちに視線を向ける。戦兎や千冬は教師という役職柄、彼女らの顔を知っていた。

 

「お前ら…、『イージス』のダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアのコンビだな。これは、どういうことだ…!」

「察しが悪いなぁ織斑先生。…こういうことだよ」

 

 ダリル・ケイシー…否、レイン・ミューゼルはIS学園の制服の中に手を突っ込み、紫色に光る拳銃型デバイスを取り出した。

 彼女らの手の中には、いつの間に持っていたのだろうか、白と蒼の歯車のついたカートリッジが握られている。

 

【ギアエンジン!ファンキー!】

【ギアリモコン!ファンキー!】

 

「「潤動」」

 

 煙が更に充満すると同時に、炎が稲妻を散らし歯車へと変貌を遂げ、辺り一面を飛び交った。

 歯車がISの残骸を粉々にすると同時に、彼女らの身体に覆い被さりパワードスーツを形成する。

 

【エンジン・ランニング・ギア】

【リモート・コントロール・ギア】

 

「おい、あれって…!」

「シュトルムとブリッツが使う、カイザーシステムだよな…」

 

 その左右非対称の外見には見覚えがあった。彼らは、並行世界の帝王になろうとした赤と青の機械兵を思い出す。

 

「俺がエンジンブロスで、フォルテがリモコンブロスだ。どっちと相手したい?」

「………お前らに、IS学園は襲わせない!」

 

【【スクラッシュドライバー!】】

 

 戦兎の言葉に合わせて、一夏とシャルルはドライバーを取り出し、腹部に押し当てた。

 

「そーかぁ、…二人まとめてか!」

 

 レインが言うが早いが、フォルテは拳銃を振るい凶弾を放つ。

 

【ラビット!タンク!ベストマッチ!】

【ドラゴンゼリー!】

【ロボットゼリー!】

 

「「「変身!」」」

 

【ラビットタンク!イェーイ!】

【ドラゴンインクローズチャージ!】

【ロボットイングリス!】

 

 ドライバーが形成するファクトリーがその弾丸を弾き飛ばし、成分を実体化させる装置が躍動し始めた。赤と青、銀と金の光が治まると、そこから現れるのは三人の戦士たち。

 

「はぁぁッ‼」

 

 変身と同時にビルドはブロスの元へと走り出す。ビルドドライバーの強化型システムである二人に多くの情報………カイザーとブロスの相違点などを見つけて貰うためだった。クローズチャージとグリスは、ツインブレイカーで戦兎の戦いをサポートしている。

 

「お、っとと。流石は元・篠ノ之束。だが…」

「撃つッスよ~」

 

 ラビットの成分による急接近からの連打にもエンジンブロスは対応し、スチームブレードや徒手空拳で防いていく。その隙をついて、リモコンブロスが銃の照準をビルドに寸分違わず合わせていた。

 

【エレキスチーム!】

【ファンキードライブ!ギアリモコン!】

 

 二色の歯車がラビットタンクに激突した。

 

「う、おあぁぁぁッ!」

「「戦兎‼」」

「どうした?これがIS学園の実力か?」

 

 手元に転がってきたロボットフルボトルを拾い、エンジンブロスは小馬鹿にしたように笑う。量産型クローンヘルブロスを対『世界最強』用にチューンした二機の兵器のスペックは段違いだった。

 いいや、そもそもライダーシステムは感情によってスペックが変化する。今、彼女が攻撃を受け身体がボロボロになっているのは、本当にブロスの力が強大なためであるのだろうか…。

 

「まだ、まだ‼ビルド…アップっ!」

 

【スマホウルフ!イェーイ!】

 

 戦兎は青と白の姿…スマホウルフフォームに変身すると、リモコンブロスの匂いや位置を徹底的にマークし、透明化などの様々な能力に対し備えるビルド。だが、その戦い方はどこか…――――弱々しい。

 

「戦兎のヤツ…長期戦はマズいな」

「あぁ、初手必殺で決めるぞシャルル」

 

【スクラップブレイク!】

【スクラップフィニッシュ!】

 

 ビルドのぎこちない戦闘の様子と敵の性能が不明だという理由から、速攻という戦術に切り替えた二人。早々に必殺技を放つことを決め、彼らはレバーを押し倒した。

 だが、ブロスたちは余裕のある態度を崩さない。

 

「よーしフォルテ、アレやるぞ」

「えぇ…アレッスかぁ?これでヤるの、まだ慣れてないんスけど。…――――ま、良いッスけど」

 

【冷蔵庫!】

 

 フルボトルのキャップを合わせ、ネビュラスチームガンにセットするフォルテ。目前に迫るダブルライダーキックにも臆さず、引き金に指をかけた。

 それに合わせてレイン・ミューゼルもギアエンジンの能力を使い、周囲の熱を超加速運動させる。

 

【フルボトル!ファンキーアタック!】

 

「「ハァァァァァァァァァァ‼」」

「「…凍てつく炎(アイス・イン・ザ・ファイア)」」

 

 その言葉とともに氷壁が出現し、二人のライダーの攻撃を阻んだ。

 その氷を割ってはならない。罅の間から灼熱が漏れ出始めた。物理運動を完全停止させた氷の牙城から、全ての分子を焼却させる業火が迸る。

 

「うぉあァァァッ⁉」

「が、ぐぅぅッ‼」

 

 蹴りの勢いを止められたまま直に炎を浴びた二人は吹き飛ばされるが、ライダーたちをインフィニット・ストラトスが受け止める。

 

「一夏!シャルル!無事か‼」

 

 戦兎のスマホウルフフォームの通信機能によって、箒たちは敵の攻撃の予測を伝えられていた。わずかの間に彼女らは、ライダーたちのカバーに回るよう立ち回っていたのだ。

 彼女らのフォローのおかげか、的確な判断か…――――どちらにせよ凄まじい攻撃の余波だったが、ライダーの二人は変身解除もしていない。

 

「な、んとか…」

「身体無理矢理捻って避けたがイテェ…、明日筋肉痛かもな」

 

 シャルルに至っては、冗談を言えるくらいには余裕があった。

 

「国家代表候補の一年どもか…――――良いだろう、この先輩様がISで胸貸してやる。フォルテ、おらよ」

「はいはい。先輩もお気を付けくださいッス」

 

【ギアエンジン!ファンキーマッチ!】

 

 エンジンブロスが投げたギアが、ネビュラスチームガンのスロットへ一直線に突き刺さる。すると、ダリル・ケイシーの身体から白と黒の装甲が外れ、煙と歯車となってリモコンブロスの元へと移動した。

 

「…潤動」

 

【フィーバー!パーフェクト…!】

 

 黒い光子を発生させ、IS『地獄の番犬(ヘルハウンド)』を召喚するダリル。その隣で、『地獄の悪魔』が目を醒ます。

 

「あれは、やっぱりバイカイザーと同じ…!」

「…――――『ヘルブロス』、参上ッス」

 

 白と蒼の装甲の奥で、赤い目が光った…――――気がした。

 

「戦力の一極化…いや、寧ろISとカイザーシステムのタッグとなると、より戦い方が複雑化するということか!」

「よそ見してていいのか軍人さんよ!」

 

 ラウラの頬を紅蓮が掠める。その赤の濁流は、空を舞うインフィニット・ストラトスたちを狙うように広がった。

 

「炎での攻撃か…!」

「シンプルだけど、それゆえに厄介…!」

 

 猟犬の如く追尾して来るホーミング式火炎弾。それを斬り捨て、ミサイルで相殺している箒と簪。

 

「さて、どうしましょうかねこの状況…」

「決まってんじゃない。炎を避けて、突っ込んで、殴る!」

「鈴さん。貴女の考える事って本当に…――――分かりやすくて好きですわよ!」

 

 その瞬間、鈴とセシリアの姿が消えた。否、音速でヘルハウンドに接近し、加速度を載せたナイフと青龍刀での一撃を叩きこむつもりのようだ。

 二人の回避不能の一撃が、その機体に到達する………はずだった。

 

「…――――うそでしょ」

 

 その刃をヘルハウンドは掴みとっている。

 

「これもネビュラガスの恩恵だ。おっと、ドーピングだとか言うなよ?こっちはマジで戦争(命のやり取り)しなきゃ…ならんからな!」

 

 ネビュラガスを投与されたダリルの動体視力は、ハイパーセンサーを用いずとも、ISの挙動を認識可能な域まで到達していた。そして、彼女の肉体も同じ。その思考速度と同様に動かせるほどに成長を遂げている。

 

「お前らも覚悟しとけ。もうISは餓鬼の玩具なんかじゃなくなるぜ?こんなふうにな‼」

 

 ヘルハウンドが突き上げた掌に、巨大な黒い太陽が生まれた。そして、その熱が解き放たれる。その埒外の力は、シールド・エネルギーの障壁を物理的に溶かすほどだった。

 

「「「「うわ、ァアアアアアアアアッッッ‼」」」」

「え、うお、ぉ…?あの気狂い(浦賀)、どんだけこのISのスペック弄ったんだ…!」

 

 アップデートされた双頭の番犬の力は、その使い手に驚愕と、少しばかりの戦慄を抱かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはIS学園近くの森林地帯……ひっそりとした散歩用の小道。『健康と美容のために歩きましょう』と描かれた看板に倣うように、ゆっくりとした歩調で進む人物がいた。

 ふと立ち止まると、着込んでいたコートの中から何かを取り出した。

 

【スクラッシュドライバー!】

 

 そのドライバーは、小さい胴回りに合わせるように展開される。

 ベルトがしっかり巻かれていることを帯『アジャストバインド』に触れて確認すると、裾から紫色のフルボトルを取り出して、そのキャップをひねった。

 

【デンジャー…!】

 

 その言葉とともに、何かが迫っているような音声が響き、ひび割れたボトルが赤く光る。

 

【クロコダイル!】

 

 ボトルを解析したベルトが成分の音を鳴らす。だが想定されていない成分なのか、けたたましい警戒音がドライバーから発せられる。依然続く『脅威が迫り来る音』と合わせ、ドライバーは危険な二重奏を奏でていた。

 人影はその音をもう聞き飽きたとでもいうように、やる気の無い動作でレバーを押し倒す。

 

【割れる!食われる!砕け散る!】

 

 ビーカーに包まると同時に紫色のヴァリアブルゼリーが少女の体を薬品の中へと沈ませる。その体は紫の液体に染まりながら、大人の体格へと急成長を遂げた。ビーカー型変身装置の両脇に備えられたクラッシャーが勢い良くファクトリーを砕き、その成分を硬質化させパワードスーツを作り出す。

 

【クロコダイルインローグ!】

 

 砕かれ、ひび割れた姿となったその人物は再び歩み始める。鬱蒼とした闇の先、煙と戦火振り撒かれた戦場へと、その身を進ませる。

 例えインフィニット・ストラトスという翼を捥がれても、泥にまみれた地を這い蹲ることになったとしても、かの星を求め続ける。

 

 

【オォラァ!(キャァァァァァァ‼)】

 

 

 二重奏が終わると同時に、日に照らされ見えたその姿は……紫の仮面ライダーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐっ…!こいつ、マジで強いな…」

「これでケリを付けさせてもらうッス」

 

【ギアエンジン!】

 

 仮面ライダーたちを独りで追い詰めるヘルブロス。彼女はスチームブレードを合体させたネビュラスチームガンを流れるような挙動で操作する。

 

「マズい…!」

 

 銃口に収束されるエネルギーを見て、グリスはマスクの下で顔色を変えた。Gバトルモジュールによれば、その攻撃を受ければ仮面ライダーに変身していようともひとたまりもない計測結果が算出されている。

 ロックフルボトルをドライバーへ乱雑に叩きつけ、一刻も早く起動させたグリス。

 

【ディスチャージボトル!潰れな~い!】

 

 戦兎と一夏を守るため、ライフルの銃口を伸ばしたチェーンで雁字搦めに縛り上げ、『自身の方向』へとその銃口を寄せさせた。

 

「無駄ッスよ」

 

【アイススチーム!ファンキーショット!ギアエンジン!】

 

 冷気に包まれたエネルギーの一撃が超伝導を引き起こし、グリスの硬質装甲の防御を紙屑のように突き破った。

 

「がぁ、ぁあぁッ‼」

「「シャルル‼」」

 

 放電を引き起こし、彼の体から黄金のパワードスーツが消滅する。顔や腹部の皮膚は裂け、口からも多量に血が垂れていた。意識ははっきりしているが、戦闘に即座に復帰するのは無理であるのが見て取れる。

 その時シャルルの周りにも、何体もの巨大な飛行物体が降って来た。

 

「うぉっと?あれまぁ……派手にやってるッスね」

「……み、皆!」

 

 苦悶の声を上げる少女たち。インフィニット・ストラトスもボロボロに傷つき、辛うじて人型であるのが見て取れるだけだった。

 周囲の生徒たちの悲鳴は収まらない。IS学園の倒壊は止まらない。戦場で奏でられる悪趣味な音楽を背景に、日が翳った空から一匹の獄犬が降り立った。

 

「先輩の方も、終わったみたいッスね」

「おう、よゆーよゆー。あとはトドメを刺すだけだ」

「てめぇら…よくも!…――――ッ⁉」

 

 

 

 世界が罅割れる音がした。

 

 

 

 

 

 空気が重くのしかかり、絹を裂く悲鳴を伴って紫の闇が広がっていく。それは、一つの人影を創り上げた。

 黒いヘルメットの中で爛々と輝く水色の目、刺々しい紫をした装甲。そして、各部の白いひび割れ。悪に堕ちた戦士を思わせるパワードスーツの腹部には、彼らが良く知るデバイス――――『スクラッシュドライバー』がセットされていた。

 

「なんだ、あいつ…?」

「亡国機業の『仮面ライダー』ッスよ」

 

 ヘルブロスとヘルハウンドの展開を解いた二人が、紫色の仮面ライダーの背後へと移動する。

 

「亡国機業の…⁉」

「俺達の出番はここまでだ。――――運が良ければまた会おう」

 

 フォルテがネビュラスチームガンから黒煙を撒き散らし、ブロスの二人は忽然と消え去った。IS学園の最大戦力たちと互角の彼女らが撤退しても、ワニのライダーは泰然自若とした様子を崩さない。

 

「俺達は一人で十分だってか?上等じゃねぇか…」

「…。行くぞ一夏…!」

 

【ラビットタンクスパークリング!】

 

 戦闘不能になった生徒たちを庇いながら、紫の戦士へ突撃する二人。だが亡国機業の刺客は、自然体のままその拳を受け入れた。

 砲弾が鋼の城壁に撃ち込まれたかのような轟音が響く。

 黒い胸部装甲にパイルバンカーとドリルが接触している。だが、ただそれだけだった。

 

「堅ッ…――――!」

「どういうことだ、全然効かねぇ…⁉」

 

 彼らの困惑をよそに、悪党の反撃が開始される。鋭い爪を持つグローブが、戦兎たちのボディスーツを穿ち火花が弾ける。あまりにも堅い拳が、装甲を超えて衝撃を伝播させる。

 ビルドが巨悪の前に、片膝をついた。

 

「がッ⁉」

「…――――」

 

【クロコダイル!】

 

 蹲る戦兎を尻目に、鰐のライダーはネビュラスチームガンにドライバーのボトルを差し込んだ。銃口に禍々しい紫煙が集う。

 

【ファンキーブレイク!クロコダイル!】

 

「ッは…!や、ば…」

 

 そして放たれる牙の一撃。因幡の白兎の力を鰐の顎が噛み砕き、女の悲鳴にも似た炸裂音がビルドを覆った。

 

「う、わァァァァァァァァァァ⁉」

 

 鰐の口に挟まれたまま、遠方へと飛ばされる戦兎。爆炎と共に、彼女もシャルルと同じように、倒壊した建物と共に倒れ込む。

 

「戦兎!野郎…‼」

 

【スクラップブレイク!】

 

 スマホウルフフォームへの変身アイテムを拾い上げる紫のライダー。それに向かって、一夏は敵討ちだとばかりに駆けだしていた。

 

「ハァァァァァァァァァァ!」

「……」

 

【ボトルバーン!】

 

 蒼炎を放つクローズマグマナックルが鰐の顔があしらわれた胸部装甲に激突する。紫の戦士は仁王立ちのまま、クローズチャージと共に地を滑った。

 砂利と土煙を巻き上げながら、かのライダーはベルトのレンチを押し下げると、紫の脚に鰐の幻影が纏わりついた。亡国機業の怪物が跳躍し、顎が龍に喰らいつく。

 

【クラックアップフィニッシュ!】

 

「なッ⁉」

 

 デスロールによって縦横無尽に振り回されるクローズチャージ。牙が白銀の装甲に突き立てられ、火花を散らす。

 そして…――――、オーバーヘッドで吹き飛ばされる。

 鰐型のエネルギーが通った軌道も一夏が叩きつけられた壁も、一瞬の後…――――すべてを崩壊させるほどの大爆発に巻き込まれた。

 

 

 

 

 

「…――――うぐッ…!」

 

 全身が炎に包まれていたクローズチャージの変身が解除され、血塗れになった織斑一夏が倒れ込む。

 彼が崩れ落ちた地面も、その背後にあるIS学園も酷い有り様だった。燎原の火がそこかしこで燻っている。

 

「IS学園が…!アタシたちの、学校が…」

「これが、戦争だとでも言うのですか…――――?無抵抗の人間を襲うことのどこが戦争のルールなのです…!」

 

 おぼつかない足取りで立ち上がる代表候補生たち。その視線の先に薫る煙の中で、悠然と立っている紫色の仮面ライダー。亡国機業のファントム。

 

「…仮面ライダー、は…希望を守るヒーローなの…!貴女みたいな、…仮面ライダーなんて、許されない…!」

「…――――貴様、何者だ…!」

 

 何を思ったか、『彼女』はドライバーにセットされていた紫色のフルボトルを無造作に抜き取った。

 黒と紫色の装甲が、『クロコダイルクラックフルボトル』に吸収されていく。

 

「……――――また会えたな。織斑一夏」

 

 

 

 

 

 

 

 黒いコートと、乱れた髪が風に揺れる。織斑千冬によく似た少女が、底知れぬ闇を湛えた眼で『彼女の兄』を眺めていた。

 

「織斑、マドカ……!」

 




戦兎「もしブラックホールで地球が消えるなら、命と引き換えにする強化システムで零落白夜使ってオレが死にます(意訳)」
千冬「そんなこと絶対許さん。私が代わりになる(意訳)」
惣万「俺を倒すために自分を犠牲にするのに躊躇ゼロとか、どいつもこいつも愛が重すぎる…。誰に似たんだこいつら」
ファウスト組「「「………、え…?」」」


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第八十話 『ローグと呼ばれた少女』

戦兎「強大な力を秘めたパンドラボックスを巡って、亡国機業とIS学園との戦いが勃発した。俺たち仮面ライダーは学園を守るためブロス率いる亡国機業のIS軍団と戦うが、新たな仮面ライダーの登場に劣勢を強いられる」
千冬「そして、紫のライダーの正体が発覚する。変身していたのは亡国機業に所属する『織斑マドカ』を名乗る少女、エム。彼女は一夏に向かい意味ありげに言葉を投げかけるのだった……」
一夏「なあ、ところでよ。マドカってかなり身長低いけど仮面ライダーになると俺の背丈追い越してるよな」
戦兎「…それが?」
一夏「無理やり伸びてんだったら関節とか痛くねぇのかなぁ?」
千冬「気になるところ、そこか?」
戦兎「そこは設定集見て!なんかナノマシンうんぬんかんぬん書いてあったから!とりあえずお待たせしました、八十話どうぞー」
一夏「お待たせしましたって…ん?」
千冬「ひっさびさだからな、このノリで良いのかわからん」



 異様な光景だった。塵が舞うIS学園の一角で、同じ顔の二人が向かい合う。

 

「マドカ…!どうしてお前が、仮面ライダーに…‼」

「這い上がって来た、……地獄からな。私は全てをかなぐり捨てた。ただ自分だけの強さを求めて……」

 

 地面に転がされた人々の呻き声も耳に入らない。織斑千冬は織斑マドカへ、罪悪に歪んだ険しい表情を向けていた。

 

「一夏は関係ないだろう……!お前が恨むべきは私だ!復讐をするなら私だけにしろ‼」

「復讐?……復讐か。そんな考えはとうに捨てた」

「なに?」

 

 彼女は感情が抜け落ちた顔で、淡々と言葉を続ける。空虚な眼が、小さな手に収まった紫色のフルボトルを捉えていた。

 

「私がライダーになれたのは、世に望まれない生命(いのち)である『織斑』をこの世から消し去る、その思い……ただ一つ」

 

 その言葉には諦観さえも感じられない。その代わりに黒く、強大で、恐ろしい闇が蠢いていた。

 

「……、私たちには心がある…。意思がある。マドカ、お前にだって…」

「詭弁だな。嘘を重ね続け、理想以外から目を逸らす…。お前達には分からない…、私たちが背負った罪過を…」

 

【クロコダイルインローグ!】

 

 マドカは…———否、『仮面ライダーローグ』は、妙に規則正しい歩調で眼前の『姉』へ近づいていく。

 

「『織斑』は存在してはならない。だから殺す。全て殺す。お前達に、私の信念は打ち砕けない…」

 

【クラックアップフィニッシュ!】

 

「…――――大義の為の犠牲となれ」

 

 

 紫炎が周囲を焼き焦がし、空間が罅割れていく。そしてブリュンヒルデに迫り来るのは大鰐の顎。

 

 

「くッ……」

 

【Cobra!FIRE!】

 

 スチームブレードを振り抜き、殺意に満ちた攻撃を背後へと吹き飛ばした千冬。コブラのマスクと、ワニの仮面の中に潜む視線が交錯する。

 

「お前も、『織斑』だろうが…!」

「そうだ、『織斑』は全て殺す。故に最後に消える『織斑』が私。ただ、それだけのこと」

 

 トランスチームガンとネビュラスチームガンを突き付け合い、互いにけん制し合うローグとスターク。しかしながらも、マドカは静かに語り続けていた。

 

「織斑千冬。お前もまるで真実を知らない。我々が生まれた本当の理由をな」

「な、に…?」

 

 ローグがクロコダイルクラックフルボトルを引き抜き、銃にセットしようとしたところで、眩い閃光弾が上空へと打ち上げられた。

 興覚めだというように、ローグはだらりと手を下げる。

 

「亡国機業の目標は達成されたか……」

「ま、待ちやが…!」

 

 ローグは学園から背を向けた。這いつくばっていた一夏が、口から血を零しながらも追い縋ろうとするも、身体への甚大なダメージがそれを許さない。

 

「慌てるな、織斑一夏。私たちが決着をつける場所は、ここじゃない…」

「ッ…」

 

 黒煙に紛れ退去するローグの青い瞳は、真っ直ぐに一夏と千冬のことを見据えていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ。あいつ、何を知ってんだ?いや、そもそも千冬姉、俺に言ってないこと……あるよな?」

 

 治療室に搬送される最中、一夏は聞いた。沈痛な面持ちで傍にいる千冬は、目を合わせようともしない。

 

「俺たち家族って……『織斑』って、なんだ……?」

 

 すでに、意識が朧げになっていく。姉の表情も霞がかって見ることができない。だが、それでも……。

 

「……お前の家族は、私だけだ……」

 

 あの強い姉が、泣いているように見えた。

 

「答えに、なってねぇよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————同時刻。亡国機業、ダウンフォール部隊執務室。

 

 安っぽいパイプ椅子が悲鳴を上げるのにも構わず、浦賀累はだらしなく椅子の背にもたれかかり、報告書を読んでいた。

 

「ふぅん?なるほど、な」

「……オータムからの定時報告か」

 

 暗がりからマントを羽織った少女が現れた。足元では汚れたコンクリートタイルの上を、ゴキブリやカマドウマが横切る。それも構わず、紙屑やよく分からない肉片を踏み潰し浦賀はマドカに歩み寄る。

 

「……帰ってきたか、エム。だが、余計な詮索はするな」

「……心配せずとも、『織斑』は全て殺す。それ以外は好きにしろ……」

「ふ、どうやら吹っ切れたようだな。亡国機業ナンバーワンの狂犬が、こうも従順になるとは」

 

 腐りきったドブ沼のような目が、罅割れた心を映し出す。マドカは思い出していた。なぜ私はここにいるのかを。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 お前は愛されていない。

 

「黙れ…――――」

 

 世界に愛されていない。

 

「黙れ…――――」

 

 終わりのない憎しみしかない。約束された未来などない。

 

「黙れ…――――ッッッ‼」

 

 希望などない。絶望しかない。

 

「だから、強く…――――あるんだ…!私は…ッ‼」

 

 

 

 

 

 

 そう思って生きてきた。頼れるものなど、自分以外に存在しない。だれも助けてくれない。だれも私を見ていない。だから、力が必要だ。私の命の価値、生まれ、尊厳、全てを覆すことができる絶対な力が。

 それを手に入れる為ならば、私は何だってする。そう、なんだって。今までもそうしてきた。これからも、ずっと、ずっと……。

 私はお前らの創ったルールに縛られない。上位種を気取る人間ども、お前らを私の上から引きずり降ろす為ならば、悪魔にだって魂を売ろう。悪魔ども、私に力を寄こせ。

 

 嗚呼、力が欲しい。金でも、銃でも、インフィニット・ストラトスでも、そして仮面ライダーであろうとも。理不尽をねじ伏せる力が欲しい!

 

 あの蝙蝠に頭を下げ、私は仮面ライダーになった。……なるはずだった。

 

 

 

 

「何故だ……、何故だ……、何故だぁァァァァァァ‼何故私では駄目なんだ⁉何が不満なんだ‼出せ‼ここから私を出せェェェ‼」

 

 待っていたのは、地獄の日々。かつての頃と何も変わらない屈辱と羞恥入り混じる闇の中。

 

「黙れ!……食事の時間だ、屑ども」

「……ッ」

 

 目の前で腐りかかった残飯の盆が覆される。

 

「だれが座って食って良いと言った?お前らは畜生以下のゴミだ、人間らしく振舞っているんじゃない。這い蹲って地面を舐めろ」

「がッ⁉うぐぅッ……ぬぅぅぁああああッ‼」

 

 頭を無理やり踏みつけられ、私は犬のように貪るしかなかった。

 

「可哀想になァ…餓鬼がこんなところに来るなんて」

「お前、愛されてないんだってぇ?ならせめてもの慰めだ、ウチらがお前を愛してやるよ……憎たらしいくらい可愛い顔してるしなぁ」

「ほーら大人しくしろって、今日もやさしくシてやるからさ」

「う、がぁぁぁぁぁァァァァァァァァァ‼あああああああああああああああああああああああ!!!ああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!」

 

 亡国機業に入る前と、何も変わらない。蹴られ、殴られ、女たちに嬲られる。『織斑』である私に、人権などなかった。なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ふざけるな。

 ならば何故?織斑千冬はISという兵器を上手く使えるというだけで賞賛される?ならば何故?織斑一夏は同じ『織斑』であるにも関わらず何も知らない?

 

 収容所の中で、怪物相手に拳をふるう。来る日も来る日も化け物を殺した。怒りに任せて、憎しみに任せて、血だらけになりながら生身で戦い続けた。

 

「…――――死ね、死ねッ、死ねェェェェェェェェェッッッッ‼ゥぐ、ぅぅぅァァァァァァァァ‼」

 

 ふざけるな。何故、私が……私だけが。『織斑』であるのに、お前らは。

 

「えげつないッスね先輩…――――あのネビュラヘルブロスたちの素体、『織斑マドカ』にもなれなかった『モザイカ』らしいじゃないッスか」

 

 ふざけるな。もう、何も聞こえない。誰かがナニカ言っテいるガ、分かラない。思考が怪物にナってイく。そうイエば、ドウシテ私は、コンナことヲ?私ノ生きル意味っテ、なンだっケ……。

 

「浦賀累ってのは、どうにもそういう(・・・・)ヤツらしい。いやまぁ、分かり切ってただろフォルテ?」

「えぇハイ……人間性がアレってのは知っております、それにしても……」

「あぁ。同一存在だからか、撃破されたブロスの成分がマドカに吸収されているよな、アレ」

 

 フざケるな。ふザケるな。

 

「それが…何かマズいんスか?」

「ハザードレベルが急上昇するとか、それ以前の話だ。見たところあの成分、感情に作用するシステム(あのベルト)を経由しているだろ」

 

 フザケるナ。ふザケルな。フざケルナ。フザケルナ。フザケルナ。

 

「『死の瞬間の感情を何百回も追体験する』のは、いくらアイツでも壊れちまうんじゃねぇか?」

 

 ワタシタチハ、デキソコナイ。フザケルナ。ソレデモワタシタチハ、イキテイタイ。オリムラダケド、ニンゲントシテイキテイタイ。イキタカッタ。フザケルナ。イキタイ。シニタクナイ。ドウシテアナタタチダケ。フザケルナ。オナジナノニ。ワタシタチハ、コンナコトノタメニツクラレタンジャナイ。ドウシテ。ウマレテコナケレバ。クルシイ。ヤダ。ソンナノズルイ。オマエタチニンゲンハ。ワタシタチニ、イミヲクダサイ。ゴメンナサイ。フザケルナ。

 

 

 ……—————闇ガ、罅割れた/オネガイシマス。タスケテクダサイ。

 

「うがぁぁぁぁぁァァァァァァァァァ‼あああああああああああああああああああああああ!!!ああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

 

 そうだった、ここは薄暗い部屋だった/アァ、ヤットオワル。クルシカッタ。

 

『失敗、か。……どうした?お前の追い求めていた“自分だけの強さ”とはそんなものか?……当てが外れたな、始末しろ』

 

 窓から月の光が見えた/……ワタシハ。

 

『んん?』

 

 目の前には、一匹の蛇。手には、一本のフルボトル/……。

 

「……――――変、身…」

 

【割れる!食われる!砕け散る!】

 

 心に聳えていた隔たりが割れた。戦い、同胞の命を食らい続けた。今までの矜持が砕け散った。

 

【クロコダイルインローグ!オォォラァァァ!キャァァァァァァァァッッッ‼】

 

「うぉああああああああああああああァァァァァァァァッッッ‼ヴウヴウウウウウウウ…‼ギぃッ、ヴアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」

 

 そして私は……。

 

『遂に……、覚醒したかァァァァァァァァァァァァ‼』

「私はァァァ…――――‼」

 

【クラックアップフィニッシュ!】

 

「ロォォォォォォグだぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァ‼」

『ふ。はは…ははははははははははははははははははははははははははははははァァァ‼』

「ヴォォォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ‼仮面ライダァァァァ…――――ローグだァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ‼がぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァ‼」

 

 

■■■■

 

 

「……ーい。エム、エムゥ?聞いているのか、エム?」

「……聞いているとも」

「ならいい。それとエム。収容所の人間どもの殺処分は完了したな?」

 

 顔を上げたマドカに近づき、釘を刺す浦賀。息がかかり、マドカの伸びた髪が揺れる。

 

「あぁ。……面倒だったがな」

「そうか、それは良かった」

「……失礼する」

 

 その目が雄弁に物語る。

 

————私はお前たちを……『織斑』を許さない。私が『織斑』マドカなら、私も許さない。『織斑』は殺す。私の家族全てを、殺す。

 

 

 

 

 

「……それでも分かってないようだな。織斑マドカは『織斑』どもを殺せない。いつ気づくことになるのやら。愚かだな」

 

 マドカが立ち去った部屋で浦賀は独り言ちる。心底見下した態度で鼻を鳴らすと、気分を切り替えるように努めて明るい声を出した。

 

「さて、では私も動かねばな。ハザードトリガーの複製も完了した。あとは篠ノ之束……いや、因幡野戦兎との戦闘データを頂戴するとしよう」

 

【ハザードオン!】

 




 各方面、空気悪いし曇りまくってる……。


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第八十一話 『暴かれしTruth』

宇佐美「強大な力を秘めたパンドラボックスを巡って、亡国機業とIS学園の戦いが勃発した。亡国機業が有する仮面ライダーローグは、圧倒的な力でビルド、クローズチャージをねじ伏せた。一夏の命に魔の手が迫ろうかという時……」
惣万「亡国機業はその隙にIS学園に保管してあったIS数機と仮面ライダーの戦闘データを強奪。作戦の終了と共に、マドカは撤退したのだった。だが、フォルテ・サファイアとレイン・ミューゼルとの戦闘でIS学園専用機持ちたちは全て戦闘不能の重傷を負う。今戦闘を行えるのは怪我が軽かった戦兎と、致命傷が完治した一夏とシャルルのみ。さてさて、どうなるIS学園?」
マドカ「それにしても、もう織斑一夏の怪我は治ったのか?昏睡状態の重症レベルの怪我を負わせていたはずだが……」
宇佐美「……その答えはただ一つ」
惣万「うぉい?あ。んんっ…『それ以上言うな!』」
宇佐美「織斑マドカァ!本編を見ろォ!ヴェハハハハ!」
マドカ「……言わんのかい」



 ファウストの隠れ家となっている研究施設、その一つにオータムはいた。大きな動きで首の関節を鳴らすと、ダルそうにまとめ上げた資料を投げ渡す。

 

「……と、まぁ現状の報告は以上だ」

「ご足労どうもありがとう。代わりと言っては何だがオータム、今までの功績を評価し我々ファウストからプレゼントだ」

 

 向かい合って座っていた宇佐美が、足元に置いてあったアタッシュケースを取り出した。彼女の薄気味悪い笑みに、オータムは怪訝そうに眉を顰める。

 

 

「……なんだコリャ」

「コアから私お手製の、出来立てホヤホヤ第四世代ISを入れたプランクブレーンキューブだ。三つあるが、どれにする?あぁ心配するな、どれを選んでもお前の身体への最適化処理(フィッティング)は終わっている」

「ふぅん…」

 

 しれっととんでもないことを言っているが、オータムはそれを気にも留めずに、空間投影型ディスプレイに表示されるISのデータを見て吟味する。一通りデータを確認すると、彼女はアタッシュケースの蓋を閉じた。

 

「…ってオイ、貴様?」

「全部貰っとく。亡国機業(ウチ)にいる浦賀が作ったモンよりデキ良さそうだしな」

 

 アタッシュケースを肩に担ぎ、同じ組織の構成員にしれっと毒を吐くオータム。それを聞いて宇佐美はその発言を鼻で笑う。

 

「……ふん。当然のことを言うな。あんな欠陥素体と比べられても何の意味もない。……——————ついでだ、もう一つ要るか?」

「……お、おう…(なんだコイツ。意外にチョロいな…)」

「フンスそうだろうそうだろう。神の恵みを有難く受け取れ」

「あーへいへい、神ってことにしといてやるよ。で、どうだマドカ。体の調子は」

 

 褒められて案外嬉しかったらしい宇佐美の傍に控えていた少女に、オータムはそう問いかける。

 

「…お前に言う必要はない」

「ったく、相も変わらず可愛げのねぇ餓鬼だぜ。聞く必要もなかったな。んじゃ、私はnascitaに戻る。じゃーな」

 

 ネビュラスチームガンを横薙ぎに振るい、彼女は黒煙の中に姿を消した。

 

「ありゃ、オータムは行っちゃったか?せっかく茶菓子作ってきたのに……」

 

 ちょうどその時、研究室のドアが開いた。クッキーを入れた皿とコーヒーポットを持って石動惣万が入ってくる。

 

「一足遅かったぞ。もうISの受け渡しは完了したが、……一つお前に聞きたい。何故オータムにそこまで肩入れする?」

「ありゃ、そう見えてたか?」

 

 せっせとおやつの準備をしながら、人懐っこい笑みを浮かべてカップを宇佐美に渡す惣万。コーヒーを受け取った宇佐美は香りを一嗅ぎし、静かに冷ましながら一口飲んだ。

 

「あぁ、中々に気に入っているように見える。それこそ織斑一夏、織斑千冬と同じまであるぞ」

「なぁに、深い意味はねぇよ。ただ同郷のよしみってやつさ。なぁ、ところでさ。そろそろエボルドライバーの修理終わった?」

「……最終調整中だ。そう急かすな」

 

 ナッツ入りのクッキーを齧り、宇佐美はそう返答する。気の無い返事に聞こえたらしい。惣万は唇を尖らせながら、不満げに彼女にジト目を向けた。

 

「そうかい。なるべく早くしてくれよ~、こっちもこっちで忙しいんでね。おっと、何をしているかは企業秘密ということで」

 

 じゃーな、とばかりに皿を片付け、石動惣万は部屋から出ていった。

 

「……ゲームメイカー風情が。ゲームマスターの私の許可なく勝手な真似を……。奴の働きに免じ今まで目をつぶってやってきたが、そろそろ灸を据えねば、か……」

 

 

 近頃の宇佐美は、惣万の自由気ままな独断行動に頭を悩ませ続けていた。ブリッツやシュトルムは石動惣万に対して甘い所があるため全くと言っていいほど頼りにならない。

 一体何をしているのやら、聞いたところではぐらかされる。『やむを得ず戦闘を行った』程度ならば別に良い。だが、惣万はファウストの思惑の外側へ目を向けているとしか思えなかった。そして、それがファウストの首魁である自分に何も告げずに行われているということが、宇佐美のプライドに傷をつけていた。

 

 

「———それは兎も角。こちらも試運転調整をしなければな」

 

 思考の海に沈んでいく頭をどうにか戻し、余計な雑念を振り払う。気持ちを切り替える為、宇佐美は目の前にあるデバイスに触れた。

 赤と金で彩られた、チューンアップされた『エボルドライバー』を。

 

 

■■■■

 

 

 

 カフェnascitaに買い出しから戻ってきた巻紙礼子が見た光景は、頭が痛くなるものだった。

 

「……オイ、何してんだ天才バカ」

「あ、巻紙(マッキー)お帰り~。今ちょっと実験中なんだよ、散らかっててごめんね~」

「いや、俺病み上がりなんだけど……」

 

 織斑一夏は上裸になっており、コードの付いた機材を張り付けられている。どうやらバイタルグラフを計測しているようだが、巨大な計測器がカフェの各所に無作為に置かれている。お客が座るスペースも、ましてやキッチンに行くドアまで塞がれており、本日カフェの営業はできなさそうである。

 ちらりと横を見れば、織斑千冬が申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 

「本当に戦兎がすまん……」

「や、別にいいわ……コイツこんなだから、慣れた」

「はーいじゃあ続きね。じゃ一夏、ドラゴンフルボトルをクローズマグマナックルにセットしてみて」

「おう」

 

 大人組が互いの苦労を偲んでいると、空気も読まずに因幡野戦兎は一夏で計測を再開した。

 

【ボトルバーン!】

 

「で、俺がわざわざ新造してあげたビルドドライバーにそれをセットする」

「……取られちまったのはわぁるかったって」

 

 一夏が頬を掻きながら格好だけの謝罪を口にする。一瞬巻紙礼子の視線が泳いだが、誰も気には留めなかった。

 

【クローズマグマ!】

 

「で、Let’s変身!」

「へいへい、変身」

 

 ビルドドライバーのボルテックレバーを回転させ、来たるべき変化に備える全員。だが、しかし。

 

「「「……、……」」」

 

 カフェの店内に空っ風が吹いた。

 

「……あのー。なんも起きねぇけど」

「むぅ~……おっかしいなぁ。ハザードレベルもボトルとデバイスの相性も悪くないはずなのにぃ…なんでだろ。マッキーわかる?」

「いや私に振るなや」

 

 その時だった。ビルドフォンアプリから通知音が鳴る。それは、敵の襲来を知らせる一報だった。

 

「……!スマッシュの反応?」

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

「これは、一体…!?」

 

 海近くの高架下、いつもは人でにぎわう港の一角。三人が駆けつけた時には既に、大量のスマッシュが暴れまわっていた。

 

「————よく来たな、待っていたぞ」

 

 戦兎、一夏、千冬の目の前に現れたのは白衣を着たスーツ姿の女性。

 

「…宇佐美。まさか俺たちを呼び寄せるために、わざと人間をスマッシュにしたのか…!」

 

 その問いかけに、宇佐美は鼻を鳴らしただけだった。

 

「……何の用だよ、宇佐美?それと……」

 

 一夏がちらりと視線を向けた先。その木陰から小さな人影が現れた。

 

「マドカ…」

「決着の時だ、織斑一夏…織斑千冬」

 

 彼女の腰には既にスクラッシュドライバーが装着されており、静かに冷たい闘志を燃やしている。

 ギラギラした視線を織斑姉弟に向けるマドカの言葉を遮るように、スキップ交じりに宇佐美は正義の味方たちの顔を覗き込んだ。

 

「さて、君たちに会いに来たのは他でもない。これ(・・)の実験台になってもらおうと思ってな」

「!」

「それは、エボルドライバー!?」

 

 彼女はその赤いバックルを片手で投げて弄びながら、狂気を滲ませて言葉を続ける。

 

「あぁ、エボルトの使用していたもののブラックボックスを完全解析し、グレードアップさせたものだぁ……。フハハハハハァ‼世界を支配する力を再現し、そしてそれを超越する……やはり私の神の才能に、不可能はなぁい‼」

 

 豊かな胸を張ってベルトを太陽に翳す宇佐美。だが、急に冷静になると戦兎に向かって振り返り、感情の籠らない顔で淡々と問いかけた。

 

「…さて。サンプリングの為にお前たちの持つボトルを渡してもらおう。それは元々エボルトの、……ひいては我々ファウストのものだ」

「…渡すと思うのかよ。これ以上、お前らの好きにはさせない」

「ふ、ヴェハハハハハ!良い覚悟だなぁ。その正義こそ、お前たちの心と自由を奪う…」

 

 カメレオンのようにコロコロと変わる情緒。狂った悪党はその正義を嘲笑う。

 

「なんだと……?」

「大事なものを守るために戦うお前たちと、自分の信念、願望のために戦う私たち……。ここに決定的な違いがあるとすれば、それは覚悟の差だ。失うものがない私たちに対して、お前たちは多くのものを抱え過ぎている。故に、自分を解放することができない…」

 

 その言葉に戦兎は図星を突かれたかのように狼狽する。

 

「知ったような口をきくな……!」

「知っているさ。お前たちを育て、『人生』という道を歩ませたのは我々ファウストなのだからなぁ…」

 

 千冬は思わず眉をひそめた。全てはあの男の掌の上だったということに、拒絶を示してしまいたい。だが、自分の感情だけで覆るものではなかった。それでも必死に言葉を絞り出す。

 

「……ありがとう、と言ってほしいわけか?お前たちは」

「それには及ばないさ。寧ろ、こちらが感謝したいくらいだ。本当に助かっていたよ……。お前たちほど騙しやすい人間はいないとなァ!ハハハハハァ‼」

 

 宇佐美はふらふらとエムの周囲を歩き回り、着ていた白衣を脱ぎ捨てた。背に立っていた戦兎らに向かって見返り、反り返って三人を挑発的な目で舐めるように見つめる狂人。

 

「生まれた時から君たちは、透き通ぉるように純粋だったァ…。その水晶の輝きが、我々の計画を支えてくれたぁ……君たちは最高のモルモットだァ!」

 

 海が光を反射し、宇佐美の歪んだ顔を照らし出す。狂ったように嗤い、戦兎たちに突き付けた指を己が顔の前で蠢かせる。

 

「君たちの人生は全て!私たちの、このッ…手の上でッ…フハッ、転がされているんでゃよぉッ‼ヴァーハハハハハハハハァ、ヴァ――――ハハハハハハハハハハハハハァ‼ブゥン‼」

 

【エボルドライバー!】

 

「織斑一夏、お前は私が倒す…!」

 

【デンジャー…!】

 

コウモリ!発動機!エボルマッチ!

 

 マドカの身体が紫の液体に染められる。そしてエボルドライバーから天狗巣状に広がったペインライドビルダーが、宇佐美の周囲に張り巡らされた。

 エボルドライバーが問いかける。準備は良いか?

 

【Are you ready?】

 

「へえ゛ぇぇぇん゛、しい゛ぃぃぃん゛…‼」

 

「変身…」

 

【割れる!食われる!砕け散る!クロコダイルインローグ!】

 

【バットエンジン!ヌゥハハハハハハ…!】

 

 ライドビルダーの破片が弾け飛ぶ。闇の波動が周囲に走り、青と紫の瞳が輝きだす。そこに立っていたのは、紫の鰐と———モノクロの蝙蝠。

 

「…大義の為の、犠牲となれ」

 

「『仮面ライダーマッドローグ』の力…、思い知れェ‼」

 

 正義の味方に迫る二人の悪党(ライダー)と、それに追従する鈍色の怪人(スマッシュ)たち。ローグはキリングマシーンのように、マッドローグはゾンビのように、それぞれの獲物へと近づいてくる。

 

「「ッ、変身!」」

 

【ラビットタンクスパークリング!イェイ!イェーイ!】

【ドラゴンインクローズチャージ!ブルゥゥアァァァ!】

 

「……っ、蒸血」

 

【Cobra…C-Cobra!FIRE!】

 

 

 戦兎と一夏は仮面ライダーに、一拍措いて千冬はブラッドスタークへと変身すると、群れる怪物たちへと立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 スマッシュたちを撃破し、人間に戻したビルドに新たな仮面ライダー、マッドローグが襲い掛かる。

 

「ぐ、がっ、はっ…!?」

「この程度か。お前がこの私に勝つことは、今のままでは不可能だ」

 

 トランスチームガンとネビュラスチームガンの二丁拳銃で、ガンカタを巧みに操るマッドローグ。銃身でビルドを強かに殴りつけると、顔がぶつかるほどの距離まで近づき、戦兎の荒んだ心に揺さぶりをかける。

 

「自我を失うことがそれ程怖いか?だったら残りのボトルを出せ。お前は仮面ライダーに向いていない……。いいや、そもそもお前は『正義のヒーロー』に相応しい人間ではなかったんだよ」

 

 焦燥と重圧に苦しむ今の戦兎にとって、それは酷く効果的な煽り文句だった。

 

「………当然だよなぁ、悪魔の科学者『篠ノ之束』?」

「ッ!」

 

【ハザードオン!】

 

 間髪を入れず、戦兎は厄災のトリガーを引いた。

 

【海賊!電車!スーパーベストマッチ!ガタガタゴットンズッタンズタン!Are you ready?】

 

「………ビルドアップ!」

 

【アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!ヤベーイ!】

 

 黒煙を巻き散らして青と緑の瞳がマッドローグを睨みつける。だが、狂った悪党はどこ吹く風。寧ろくるくるとその場を回って、大袈裟な身振り手振りで喜びを表現する具合だった。

 

「やっとその気になったか………。もっとだ!もっとお前の狂気を晒け出せぇ‼」

「うるッせェェェェッッッ‼」

 

 カイゾクハッシャーを構え乱雑に切りかかるビルドだが、マッドローグは最小限の動作で攻撃をいなし、並行してハザードレベルの測定を行いだした。

 

「ハザードレベル、5.4……5.6‼これがハザードトリガーの力ァ!ヴェハハハハァ‼いいぞ、いいじゃないか‼もっとだ、理性のリミッターを外せェ‼」

「あがぁ!?」

 

 鋭いアッパーカットを放つマッドローグ。その一撃によって、ビルドは暴走一歩手前の状態へ陥った。

 

「ぐぅっ!?頭が…」

「私の想像を超えてこい‼まだいけるはずだ‼我々が求めているレベルに達してみろ‼さァァァァァッッッ‼」

「ぐッ……!」

 

【クジラ!ジェット!スーパーベストマッチ!Are you ready?】

 

「ビルド、アップ!」

 

【アンコントロールスイッチ!ブラックハザード!ヤベーイ!】

 

 彩度の異なる青いアイレンズが闇の中で光り、ビルドは上空へと飛翔した。

 

「ほぉ。使い続けることで自我を失うトリガーのリスクを、再度ビルドアップを挟むことで回避するか………だがぁ‼」

 

 マッドローグの手に赤紫のオーラが纏わりつき、ビルドに向かってエネルギー弾として殺到する。音速飛行するクジラジェットハザードはその攻撃を難なく避けるも、周囲のビルは倒壊し、弾け飛んだコンクリートや鉄骨がビルドの行く手を阻んでいた。

 

「くっ、あっ…!」

「戦えば戦うだけ、引き伸ばした分苦しくなるだけだ」

 

 その言葉の通りだった。戦兎の脳に、今までと比較にならないほどの苦痛が到達する。

 

「!……、意識、が…ッ」

 

 がくん、と首が垂れ下がり、ビルドは進行方向をマッドローグへ移動させた。

 

「………」

「フン。暴走か」

 

【マックスハザードオン!ガタガタゴットンズッタンズタン!Ready go!オーバーフロー!】

 

【ヤベーイ!】

 

「………何をしても」

 

【Bat…!】

 

「無駄だ」

 

 マッドローグはタイミングを見計らい、スウェーで超音速飛行特攻してきたビルドの肉体を避けた。そして、彼女はトランスチームガンをビルドへと突き付けた。

 

【スチームブレイク!】

 

「!」

 

 ロストフルボトルの力とブラックホールエネルギーが充填した弾丸が、ビルドの装甲を穿ち、吹き飛ばす。

 ビルを何棟も倒壊させてようやく慣性が収まると、そこには血塗れになった戦兎が蹲っていた。

 

「ん…?おっとすまない。近頃デスクワークばかりでな、加減を間違えた」

「がっ、は……!ハザー、ド、トリガー…で、も、勝て、ないの、か……⁉」

 

 血を吐きながらもマッドローグの戦闘能力に困惑する戦兎。だが、マッドローグは敗者の言葉に耳も傾けない。地面に散らばった幾つものフルボトルを回収しながら、彼女は戦兎の頭を踏みつけてその場所から背を向けた。

 

「がッ…!」

「そこで這いつくばって見ているが良い。神の才能が、具現化される様をなぁ…」

「ぅ、…宇佐美ぃぃぃぃぃっ‼」

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 クローズチャージとブラッドスタークは、ローグと一進一退の戦いを繰り広げていた。

 

「何故俺たちと戦う…!俺たちとお前は、兄妹なのか…?」

「それを知ってどうする。これから死に逝く者にとっては、何の意味もないことだ」

 

【ビートクローザ…】

 

「遅い」

「ッ!?」

 

 ゲル状のエフェクトと共に出現したクローズの武器を、スチームブレードでキャッチ前に弾き飛ばすと、返す刀で畳みかけるローグ。

 だが、宙を舞うビートクローザーを赤い影が追い縋る。青い斬撃が横一閃に振るわれた。

 

「……フッ!」

「ッ……織斑、千冬か」

 

 たたらを踏み、クローズチャージから距離をとるローグ。クローズチャージの隣に着地したブラッドスタークは、ビートクローザーを握り、構え直す。

 

「ちょっ、千冬姉それ俺の…」

「私に取られるお前が悪い」

「取ってから言うなよ…」

 

 使う気満々の千冬スタークに、一夏は『まぁいいや』とばかりに頭を振ると、ツインブレイカーを握りしめた。向かい合うローグはネビュラスチームガンにスチームブレードを合体させ、二人に狙いを定めている。

 

【ライフルモード!】

 

「ふん…」

 

 ライフルを銃剣として巧みに操りクローズチャージとブラッドスタークに肉薄するローグ。強固な装甲にダメージを受けることもなく、一方的に激しく攻め立てて来る。

 

「くっ…!」

「織斑一夏。此処で苦しまずに逝くと良い」

 

 鍔迫り合いをしながら、織斑たちの信念と覚悟がぶつかり合う。ローグの青いアイレンズの中でドス黒い炎が揺らめいた。

 

「まだ…死ねるか!」

「…何故だ。戦い、傷つき、苦しみ続け、何故そうなっても生きようとする」

 

 クローズチャージの身体に青白いエネルギーが広がり、炎となって立ち上る。

 

「お帰りって言ってくれる奴が、いるんだよ…!待ってるアイツを、置いては逝けねぇだろ…!」

「……。それがお前の背負うものというやつか。虫唾が走る…」

「一夏に手を出すなエム!貴様の相手は私だ…、ッ!?」

「ヴェハハハハァ‼いいや、ぅ私だァ‼」

 

 ローグに斬りかかろうとしたブラッドスタークに待ったがかかる。黒い影が飛来し、そのままスタークを連れ去った。

 

「くっ、邪魔をするな宇佐美‼今貴様に構っている暇はない‼」

「私にはあるさぁ‼あの自称天才との戦いはァ、ヒマで仕方なかったからなぁ‼ハハハハハァ!?」

「ッ、戦兎を……貴ぃ様ぁぁぁ‼」

 

 拳を、蹴りを、そして剣戟を繰り広げながらマッドローグは戦乙女の心に牙を突き立てる。じわじわと、心に傷が広がりだす。

 

「ライダーシステムは使用者のメンタリティによってスペックが変動する…お前は分かっていたはずだ、今の状態では因幡野戦兎は戦うこともままならんとな」

「っ…」

「だがお前は因幡野戦兎のことより、織斑一夏のことを優先した。当然だよなぁ……、お前にとって最も秘したい真実を抱えている男が、奴だからなァ‼」

 

 ゾンビを思わせる不気味な挙動で首を曲げ、ブラッドスタークの顔を覗き込むマッドローグ。紫色をした瞳は酷く無機質で、織斑千冬の心にある恐怖を煽り立てるに至った。

 

「黙れ……黙れ‼」

「奴が真実を知ったら、どれ程のストレスなのだろうなぁ?もう戦えなくなるかもなぁ?それどころか……『裏返ってしまうかもしれないぞ』?」

 

 それが、彼女の逆鱗に触れた。

 

「それ以上言ってみろぉッ‼私はお前を殺してやるッッ‼」

「ヴェハハハハ‼良いねえ、血塗れの姿が似合うようになってきたじゃないかァ‼」

 

 世界最強の大ぶりの一撃を煙に巻くと、マッドローグはフルボトルを入れ替える。

 

【ビートル!ライダーシステム!クリエーション!】

 

 身を翻してブラッドスタークの伸縮ニードル『スティングヴァイパー』のラッシュを躱し、マッドローグはドライバーのハンドルを回転させた。

 

【Ready go!】

 

「ヌゥン‼」

 

 黄金の巨大なカブトムシの幻影がマッドローグの腕に纏わりつき、大きく振り抜いた拳が赤黒いエネルギーと共にブラッドスタークの胸へと突き刺さる。

 

【ビートル!フィニッシュ!Cia~o♪】

 

 ブラッドスタークの強化スーツ内部に高エネルギーが炸裂し、爆発が空気を揺らして轟いた。

 

「がっ…!」

「ふん。世界最強とやらも、弟を引き合いに出されてしまってはこうも弱いか」

 

 煙と共に変身が解除され、千冬は俯せに倒れ込む。出血は無いにしても、身体への負荷は相当のものであるらしい。苦しみに顔を歪めているのは、肉体の悲鳴が原因か、それとも…———。

 

「ち、千冬姉!?」

「どこを見ている、織斑一夏」

 

 マッドローグが緩慢な動作で振り返ると、未だにクローズチャージとローグの戦闘は継続していた。

 

「やれやれ、まだ終わらないのかエム。なら手伝ってやろう」

 

 戦兎から奪ったボトルを変える。エボルドライバーによって新たに能力が創造された。

 

【ゲーム!ライダーシステム!クリエーション!】

 

「…何ッ!?貴様…」

 

 ローグが何かに気づき声を上げるも、マッドローグはそれを無視してハンドルを回す。エボルドライバーが光を放ち、彼女を中心として世界がピクセル状のデータに塗り替えられ、ゲームエリアが展開され始めていた。

 そして世界は刮目する。宇宙すら支配する神の才能に。

 

【ゲーム!フィニッシュ!Cia~o♪】

 

「神の恵みを有難く受け取れ。『コズミッククロニクル』、起動」

 

 天変地異が起こる。昼間だったはずの空は星が輝く闇に覆われ、不気味なほど赤い月が上った。

 突如つんざくような音が鳴り響く。仮面ライダーたちが空を見上げれば、美しい箒星が幾筋も赤い尾を引いて地表へと迫っている。

 

「…———は?」

 

 寸分違わず、クローズチャージ目掛けて隕石が殺到する。

 

「ヴェハハハハ!ハーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァァァァッッッ‼」

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」」」

 

 ゲームエリア内に降り注ぐ幾千もの星。小さな流星はチクシュルーブクレーターに匹敵する被害を創り出し、周囲を地獄絵図へと変える。

 

 

 

 

 

 そして、最後に…———赤い月が堕ちて来た。

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

「どうした?お前たちの正義の力はこの程度が?全く成長が遅い。遅すぎる。計画に支し障わりが出るレベルだぞ?」

 

 ベルトから赤と紫のボトルを抜き取り、変身を解除した宇佐美。上機嫌にエボルドライバーを懐へしまうと、織斑一夏と千冬を睥睨する。

 ゲームエリアから現実のものに戻った世界に一夏と千冬は倒れ込む。月墜落の衝撃によって、理不尽なほどの暴力にさらされ、今生きていることが幸運だ。だが、今すぐの戦闘は不可能となってしまった。

 

「…仕方がない。惣万には悪いがこいつらは『廃棄』するとしよう。サブプランはいくらでもある」

「…――――」

 

 その言葉を聞いて、ローグはゆっくりとベルトのレンチを下げた。宇佐美の隣を通り過ぎ、跪いた一夏の前へと歩み寄る。一夏は霞む瞳で紫のライダーを見るしかできない。

 

「マドカ‼やめろ、やめてくれ‼」

 

 悲痛な叫びをあげる千冬。そんな雑音を気にも留めず、ローグは拳を振り上げる。誰もが一夏が殺される……、———と思っていた。

 

【クラックアップフィニッシュ!】

 

「「「!?」」」

 

 ローグは破片状のエネルギーが滞留する拳を、振り返った先にいた宇佐美の腹へと叩きつけた。口から血が噴き出し、彼女はゴム鞠のように跳ね飛ばされる。

 

「がっはァ!?」

 

 壁にめり込み磔にされた宇佐美が重力に従って、地面へ前のめりに崩れ落ちた。血を吐きながらも、その目には爛々とマドカに対する敵意が滲み出ている。

 

「———くッ、貴様…何をしているか、分かっているのか!?」

「……あぁ、良く分かっているとも」

 

 数百トンの威力を誇るライダーパンチを受けてなお生きているのは、敵ながらあっぱれと思ってしまう一夏たち。足腰に鞭打って何とか体勢を立て直した宇佐美に、ローグはゆっくりと歩みを進めた。

 

「ッ…‼」

「『織斑』を倒すのは私だ…!そいつらを『モザイカ』にするな。私の大義の障害となるならば、誰であろうと容赦しない…!」

 

【クラックアップフィニッシュ!】

 

 ローグは脚にワニの幻影を纏わせて飛び上がると、一直線に狂人へと突き進む。

 

「はぁ……ッ‼」

 

 生身の肉体に紫鰐の牙が突き刺さる。ローグは腰を捻ると、その勢いを殺すことなく宇佐美の身体をデスロールで振り回し、吹き飛ばす。

 

「ぐ、があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?」

 

 倒壊するビルと、罅割れる地面。その災害の中へ宇佐美の肉体は叩きつけられ……———大爆発を引き起こした。

 

「マドカ…お前……?」

「……」

 

 変身を解除したマドカは、意味ありげに一夏のことを一瞬見ると、気まずそうに所在無く視線を彼方へ逸らした。

 

 

 

 

 

「えぇぇぇむぅぅぅぅぅぅぅ…!」

 

 ———地の底から響くが如き声が三人の耳に届く。

 

「……何?どうなってやがる…」

「あれを受けて…まだ……」

「……生きていたのか。呆れた生き汚さだな」

 

 三者三様の声を上げる織斑姉弟たち。マドカのクラックアップフィニッシュで吹き飛ばされたにもかかわらず、宇佐美はゆっくりと起き上がる。彼女は、怒髪天を衝くが如き形相で彼女のことを睨んでいた。

 

「はぁ、はぁ……くッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…――――、ぃひ」

 

 が、それも一瞬。震えていた唇が歪み、口角が下品に吊り上がる。

 

 

 

「……――――『織斑一夏は私が倒す』。君はそう言った……」

 

 それは、“M”という復讐鬼の希望を掃討する言葉。さっと表情が凍り付いたマドカを見て、狂った悪党はほくそ笑む。

 織斑一夏の無知な顔も、宇佐美の嗜虐心を刺激(EXCITE)させた。

 

「私に歯向かった罰だ…――――、その望みを…、絶ぁつ…」

 

 

 

 

 

I gotta believe…

 

「織斑一夏ァ!」

 

 狡猾な狂人の毒牙が、ボロボロな少年に突き立てられる。彼は、“そんなことなど知りたくないというのに”。

 

「何故君が男であるのに、ISを動かすことができたのか……。何故両親がいないのか、何故子供の頃の記憶を覚えていないのくァ‼」

 

I don’t wanna know 下手な真実なら

I don’t wanna know 知らないくらいがいいのに

Why…… 気づけば I come too far

 

「ッ、――――それ以上言うなぁ!」

 

「その答えはただ一つ……」

 

「やめろォォォッ!」

 

 千冬とマドカが駆け出した。だが天災の口を塞ぐには、彼女らの行動は遅すぎた。

 

止まらない 感じるこの予感は The new beginning

未知の領域 今を切り拓くんだ I gotta believe

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「ぁはァ…――――、織斑一夏ァ‼君たち『織斑』が‼人為的に造られた…‼人間ではない『ばけもの』だからだァァァァァァア゛ーッハハハハハハハハァッ!!!」

 

Turn it on

 

「ヴァア゛ーーッハハハハハハハハハ!!!ア゛ーーーッッハハハハハハハハァァァッッッ!!!!」

 

 残酷な真実が、『織斑』の名を背負った彼らに告げられた――――。

 

「……ッ」

「――――っっ!」

 

 千冬は歩みを止めてしまっていた。今まで弟に『真実を秘した』という後ろめたさを抱え続け、『自分たちが人間ではない』という異質性を何よりも恐れていた“少女”がそこにいた。

 マドカは宇佐美のスーツを引き千切らんばかりに握りしめ、冷たい憎悪を彼女に向ける。だが、宇佐美の狂笑は終わらない。笑い涙を流しながら恍惚の表情を浮かべ続けている。

 

 

相当 EXCITE EXCITE 高鳴る EXCITE EXCITE 心が

導くあの場所へ 駆け抜けてくだけ

 

「俺が……“ばけもの”……?」

 

(Hey!)I’m on the mission right now

 

 零れ落ちた言葉に、織斑の名を持つ女たちが振り返る。茫然自失した少年は迷い子のように、助けを求めて目を彷徨わせる。

 

 

(Hey!)I’m on the mission right now

EXCITE EXCITE 答えは

Ⅰ.この手の中

Ⅱ.進むべき Life

Ⅲ.生きてくだけ

 

 

「…――――嘘だ、俺を騙そうとしてる…、っ!」

 

 

 笑顔を創り、『そんなの嘘だ』と幻の悪夢を振り払おうとする一人の“ばけもの”。だが、本当にそうだッタノカ?嘘ダト否定デキルノカ?

 

 

 

『お前の家族は私だけだ』

『過去に側に誰がいたか、ちゃんと覚えておけ』

『私は織斑マドカだ』

 

 

「ッッッ!?」

 

 目を伏せる千冬。宇佐美に掴みかかっていたマドカさえ、怒りを抑えて一夏の様子をうかがっている。

 

「……――――、う」

 

 一夏の身体に、変化が起こる。目が、赤く光り輝く。そして……――――。

 

 思い出の中で、見てはいけない真実を見た。光と闇が入れ替わる。

 

 彼は絶望に突き落とされる。

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉あ、あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ⁉あああああああああああああ ああ あああああああああああ ああああああああ あああああああああ ああああああ あああああ あああ あ あああ あああ  ああああ あ あああああ あああ ああ ああああああ あ ああ あああ  あああああ あああああ   ああああ ああ  ああ あッッッ ッッッッ ッ ッッ ッ ッッッ ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第八十二話 『模した罪過』

(ピロロロロロロ…アイガッタビリィー)
宇佐美「織斑一夏ァ!何故君が男であるのにISを動かすことができたのか……。何故両親がいないのか(アロワナノー)、何故子供の頃の記憶を覚えていないのくァ‼」
千冬「ッ、——————それ以上言うなぁ!」
宇佐美「(ワイワイワーイ)その答えはただ一つ……」
マドカ「やめろォォォッ!」
宇佐美「アハァー…♡」
戦兎(現場へ向かって走る)
宇佐美「織斑一夏ァ‼君たち『織斑』が‼人為的に造られた…‼人間ではない『ばけもの』だからだァァァァァァ(ターニッォン)ア゛―ッハハハハハハハハァッ!!!ヴァア゛——ッハハハハハハハハハ!!!(ソウトウエキサーイエキサーイ)ア゛———ッッハハハハハハハハァァァッッッ!!!!」
一夏「俺が……“ばけもの”……?」
ッヘーイ(煽り)



惣万「いやアロワナノーで大体わからねぇIS12巻!あ、そうそう…今回の話ブラックコーヒー用意したほうがいいかもしらん」


「————ではまた来る。安静にな。今度は果物でも持ってこよう」

「ん。あと特撮のブルーレイとレコーダーも欲しい…」

「うぅ…嫁に会いたい…」

「はいはい二人とも、自分の好き勝手言わない。ほんとどーもね箒」

「わざわざご足労いただきありがとうございますわ…あ痛たた…」

 

 量産型カイザーシステム『ヘルブロス』、及びIS『ヘルハウンド』によって入院したIS専用機持ちのお見舞いに行った帰り道。箒は肩にクローズドラゴンを侍らせながら、キャップを目深にかぶり街の喧騒の中を歩いている。他の面々と比べ比較的軽傷だったためか、ナノマシン注射を数回しただけで、もう歩けるようになっていた。一夏やシャルルと比べると遅いが、十分に驚異的な回復力である。

 町中の電光掲示板に流れるニュースは、相も変わらず世界各国で起こるISテロの死傷者数が無味乾燥に映し出していた。

 

「…ちっ」

 

 彼女は端正な顔を歪めて、大和撫子に相応しくない舌打ち一つ。それは、実の姉に対する意味のない感情的な反抗だった。因幡野戦兎は敬愛する恩師であることは変わらない、だが未だ————否、むしろ篠ノ之束に対する負の感情は強まっていると思えた。慌ててその思考を断ち切るため頭を振っていると、突然クローズドラゴンが唸り声を上げた。

 

「む?どうしたというのだ…」

 

 青い小龍の視線の先に、空飛ぶ赤い影が見えた。

 

「……あれは、『赤いクローズドラゴン』?」

 

 色のみが異なる外見が同一の機体。それが箒の目の前まで飛来し、何かを指し示すように一声鳴いた。

 

「…ついてこい、ということか?」

 

 人間臭く頭を縦に振ると、赤いクローズドラゴンは飛び去った。一瞬箒は逡巡するも、肩にいた青いクローズドラゴンはふわりと浮く。そして、ぐいぐい彼女の背を押していた。

 

「……。行くか」

 

 健脚がアスファルトの砂利を蹴り上げた。

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

「これは、どういうことだ…?」

 

 箒は目を疑った。二匹のクローズドラゴンに導かれ駆けていくうちに、どんどん街の様子が様変わりしていった。倒壊しているビル、陥没した道路、そして絶えず聞こえる炸裂音。誰の目から見てもこの場所が危険地帯だということは火を見るよりも明らかだった。

 箒の耳に、呻き声が届いた。

 

「!———ッ戦兎さん!?大丈夫ですか!?」

「ぜんっ…ぜん、大丈夫じゃない……あいつ、宇佐美のヤツ、何かする気だ…」

 

 大怪我をした自分の体より、現在戦闘中の一夏たちを心配する戦兎。彼女に駆け寄ると、箒は服を破いて手際よく折れた腕や足を固定、応急処置を完了させた。

 

「これ、医療用ナノマシンアンプルですっ!何か、って…?」

「分から、ない……。だけど、何か、まずい……。早く一夏たちの、ところに…」

「分かりました!すぐに……」

 

 戦兎に肩を貸した時だった。

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉あ、あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ⁉あああああああああああああ ああ あああああああああああ ああああああああ あああああああああ ああああああ あああああ あああ あ あああ あああ  ああああ あ あああああ あああ ああ ああああああ あ ああ あああ  あああああ あああああ   ああああ ああ  ああ あッッッ ッッッッ ッ ッッ ッ ッッッ ッッ!!!」

 

 

 

「今のは、一夏の声…!?」

 

 予備のナノマシン注射と鎮痛剤のアンプルを戦兎に投与し、彼女に肩を貸して駆けだす箒。顔を歪めながらナノマシンを接種する戦兎と共に、轟音が響いた場所へと走り出す。

 

「…あそこか!」

 

 爆発が収まり、粉塵棚引く場所で…ようやく、その姿が見えた。一夏を取り囲むようにして織斑千冬と織斑マドカ、そして宇佐美幻が立っている。

 しかし、何かがおかしい。誰もが一夏を見て、困惑の表情を浮かべていた。

 

「…――――、ふふは。ハハハハハハハハ!ハハハハハハハハハハハハハァ‼」

 

 声も姿も同じだというのに、この違和感は以前にも覚えがある。そう、あれは文化祭の時、ブラッド・ストラトスの襲来で一夏のISが反転移行した時のこと……————。

 

「これで俺は完全に自由だ…」

 

 掲げた手に闇が集うと、鋭く伸びた爪が黒く染まりだし、スカルリングが人差し指に嵌った。次々にアクセサリが腕と指に重なっていく。

 

「いち、か……?」

 

 一夏はその姿を変えていく。様々な色が混ざり合い、白い服は赤黒い液体に浸食され穢れていく。その装いは退廃的で反抗的だった。ダメージジーンズに映える赤紫のメンズスカートと、棘の付いた革製のヒールブーツが服の上に生成し直される。

 髪質はウェービーでウェットな黒髪に変化し、暗い金のインナーメッシュが髪から覗く。耳にはチェーンの付いたイヤリングやインダストリアルピアスが鈍く輝く。後頭部でくくった髪には赤と青のメッシュが入っていた。

 

「んん?おぉこれはこれは…、皆様アホ面晒してお揃いで」

 

 大袈裟な身振りで口元を拭い、閉じていた瞼を開くと、そこには妖しく光る赤い瞳があった。戦兎は思わず口を開く。

 

「…——————、“何”だ?お前…」

「何だ、とはご挨拶だな。俺かぁ?俺は、名乗るならそうだな……」

 

 一夏の身体を借りた者はスクラッシュゼリーを抜き取ると、スクラッシュドライバーを放り投げ、顎に手を当ててしばらく言葉を選ぶ。

 

「俺は一夏(コイツ)の中で生まれたもう一人の自分……————」

 

 アシンメトリーな袖に包まれた腕を仰々しく広げると、腰に巻いた布でカーテシーを行う『一夏の身体を乗っ取った者』。ぐにゃりと音が鳴るように口元を歪めると、彼は皮肉交じりにその名を口にした。

 

「『織斑(オリムラ)零夏(レイカ)』だ」

 

 彼は弄んでいたスクラッシュゼリーを握りつぶすと、手に赤紫の炎が迸る。中身が溢れて固まり、彼の掌の上でドロドロに溶けた溶岩のようなフルボトルが出来上がった。

 

「貴様…————」

 

 それの出来に満足そうに笑っていると、今気が付いたとでもいうように顔をマドカと宇佐美へと向ける。

 

「おっと、今回はよそうマドカ。それと宇佐美幻、お前も立ち入り禁止だ。二人まとめてお引き取り願おうか」

「な……」

「ぬぅん?———ぬぉお!?」

 

 零夏が手を二人へと翳すと、『黒とオレンジのブラックホール』が発生し彼女らを一瞬にして引きずり込んだ。

 

「それ、エボルトと同じ力…!?」

「ご明察だよ因幡野戦兎。ま、当然だ。俺たちモザイカはエボルトの遺伝子から創られているからな。あんたもそうだ……織斑千冬。あぁ、あんたはそれを昔から知っていたか」

「……」

 

 驚愕の表情で振り返る箒と戦兎をよそに、不安と焦燥で顔を歪ませる千冬。

 

「マドカは、…一夏はどうなった…」

「あーあー、そんな顔す~んなよ~。命まではとらねぇさ。あいつらは亡国機業の日本支部に送り返してやったし?一夏は、……まぁまだ存在してはいるよ。壊れかけてるけど」

 

 ククク、と喉を鳴らしてひとしきり笑った後、零夏は視線を千冬に向けた。

 

「ところで、オネエサマ。そろそろあんたも思い出したらどうだー?十二歳(・・・)より前の記憶(・・・・・・)、ねぇんだろ?」

「……」

 

 彼女の歪んだ顔がさらに険しく鋭くなる。面白がっているのか、一夏の顔をした何者かは、さらに笑みがこぼれている。

 

「……あっそ。思い出したくねぇってか。まぁ後々に思い出して手遅れにならないようにな。ふふふはは…ぁん?」

 

———ギャオォォンッッ‼

 

「こいつは———?」

 

 激しい竜の叫びが聞こえた。箒の肩に止まっていた青いクローズドラゴンは、不機嫌そうに喉を鳴らす。それは零夏の周囲を旋回し、彼のその手に収まった。

 

「あれは、私をここまで案内してきた…」

「赤い…、クローズドラゴン、だって…?そん、な…バカな、オレ創った覚え、ないぞ…?」

 

————グルルルル…。

 

「ほぉ…お前、『グレートクローズドラゴン』っつーのか」

「————、いや。何故通じてるんだ?」

 

 どういう理屈なのか、その鳴き声から会話が成り立ったらしい。『一夏の身体を乗っ取った者』はにやりと笑うと、自身の胸の中に手を突っ込みずぷりと引き抜く。その手の中には黄金のエボルボトル————『グレートドラゴンエボルボトル』があった。

 

「全く、子煩悩な『オカアサマ』だぜ、なぁ?」

 

 そのエボルボトルをガジェット状態にしたグレートクローズドラゴンに差し込み、ビルドドライバーへと装填した零夏。

 

【覚醒!グレートクローズドラゴン!】

 

「まぁ。準備運動にはちょうどいい…」

 

 ベルトとガジェットから赤紫の電気が走り過剰な負荷が発生するも、零夏は顔色一つ変えていない。彼の前後にハーフボディが、左側にクローズを象徴する追加装甲が形成される。

 

【Are you ready?】

 

「変身」

 

【Wake up CROSS-Z! Get GREAT DRAGON! Yeahhh!】

 

 鋭い閃光が迸る中、彼はエボルと似た配色になったクローズ…『グレートクローズ』へと変身した。

 

「一夏…、まさか、その姿は…っ」

「何惚けてんの、千冬…!箒ちゃん…!ボトル…!」

「あ、ちょっ…」

 

 戦兎はハザードトリガーを付けっぱなしのまま、ドラゴンとロックのフルボトルをドライバーへと装填する。

 

【ドラゴン!ロック!スーパーベストマッチ!】

 

「っぐ、変…身…!」

 

【ブラックハザード!ヤベーイ!】

 

 金属鋳型が戦兎をプレスし、その姿を変えた。漆黒のアーマーに、ドラゴンとロックの複眼が輝く。しかし、体力を極限まで消費した今の戦兎に勝機は無いといっても過言ではなく、ハザードの持続時間も差し迫っている。

 

「はっ、舐められたもんだな。そんな状態で俺の相手が務まると思ってんのか?」

「畜生……、根性論なんて、性に合わない、のに…!」

 

【【ビートクローザー!】】

 

 互いに武器をビルドドライバーから召喚し、一人は軽やかな足取りで———もう一人は折れた腕や足を引きずりながら大きく剣を振りかぶった。

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

 

「よう、こうして喋るのは文化祭の時以来だな」

 

 真っ暗な風景の中、二人の一夏が水面に立っている。

 

「どうした一夏?自分が人間じゃなかったことがそんなにショックかよ?」

 

 だが、前回と異なるのは……本当の一夏の色彩が薄くなり、以前まで白一色だった贋作の一夏————『零夏』が黒く変色していたことだった。

 

「何、言ってやがる…‼俺は…お、れは…!?」

「お前が何言ってやがる。お前だって心のどこかで気づいてたんだろ?自分は他人と丸きり違うと」

 

 零夏がエキセントリックな動作で体を動かすと、腕や指のアクセサリが騒々しく擦れ、耳障りな音が零れる。

 

「お前は地球外生命体エボルトの遺伝子を組み合わせて創られた人造人間だ。だから、IS白式の修復能力の補助があったとはいえ、体内に埋め込まれていたエボルドライバーの再構築をすることができた…」

「どうしてそんなことを知っている!お前は、なんなんだ‼」

「ハッハハハハァ…忘れたのか一夏?」

 

 赤い目が一夏の心を覗き込む。

 

「俺は『始まりのIS』の分身であり、もう一人のお前だ。お前の『負の感情』とISが持つ『夢を叶える力』を受けて、ただの遺伝子から俺は進化した。お前の、世界を破壊したいという願いによってな」

「俺はそんなこと望んじゃ…‼」

「嘘をつくな。俺の願いはお前の願いだ。お前の願望が、俺を生んだんだよ」

 

 水面が揺れる。水の中から、何かが天を目指して競り上がっていく。

 

「俺の、願望…?」

「そうだ。幾ら戦っても満たされない、世界は滅ぼすためにある。お前もそう思ってるんだろ」

「…っ、ち、違う!」

「違わないさ…。それなのにお前は、織斑千冬だの因幡野戦兎だのに影響され、正義の味方を気取り始めた。そして愛と平和とかいうモンで自分を縛り、どうしようもないとこまで来ちまった。雁字搦めになって何もできないお前に代わって、俺が表に出てやったんだよ」

 

 海面に飛沫が散り、巨大な建造物が聳え立つ。暗い空に向かって手を伸ばすように、世界を支配する神を引きずり降ろすように、絶望の塔が屹立した。

 

「世界なんてどーでもいいだろ。お前、本当はこの世界に…人間どもに興味がないんだろ?だから、『人を本当に愛する』ことがない。

 

 

 

———人間が(・・・)サルに(・・・)発情する(・・・・)ことがない(・・・・・)のと同じだ」

「そんなはずないっ‼俺は、俺…は…!?」

 

 一瞬、脳裏に箒の顔が思い浮かんだ。だが……墨汁が水面に落ちたように、汚れが広がり————その笑顔も見えなくなった。

 

「ハ!姉も姉だが、お前も相当な噓つきだな。お前が篠ノ之箒を思う気持ちも、『もしかしたら植え付けられただけの偽りの感情かもしれない』と、思ったことなかったか?」

 

 眼の焦点が定まらない。冷汗が止まらない。聞きたくもない自分の声が脳内に滲み込んでくる。

 

「お前は人とは別の生き物であるが故、人の好意が———愛が分からない。本当は周りにいる女どもの気持ちが分かってないんだよ。必死に平凡な人間を真似て、模倣しきれなかった違和感を、『バカのフリ(・・・・・)』をしてごまかしていたのがその証拠だ」

 

 嘘だと否定できない虚言が、彼の真実を暴き立てようとしていた。

 

「そんな奴が、『箒だけは特別』だ?それって……おかしいよなぁ?」

 

 ————一瞬、一夏は心臓が止まったように思えた。

 

「お前は、本当は察しているんだよ。守りたいものが、根底から崩れかかっていることを」

 

 絶望の塔の上に、真っ黒に崩壊した星が生まれる。そして、空間が其れに吸い込まれ、崩壊を始める————。

 

「何か違うなら、言い返してみやがれ——————

 

 

 

 

 

 

“ばけもの”」

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 

「『ヴァイス・モザイカ』、ですか?」

 

 ファウストが保有するデータベースを閲覧したシュトルムに、惣万はモンド・グロッソ直後の『消された記録』を語っていた。

 

「あぁ、名義上そう名付けられている。奴は数年前に織斑千冬と戦い、IS『暮桜』を機能停止に追い込んだ『ブラッド族の一人』だ」

「ブラッド族の…一人(・・)?まさか…————むぐ」

 

 何かを察したらしいシュトルムだが、お道化者のコブラは『しぃーっ』とジェスチャーし、彼女の唇を指で塞ぐ。整った顔を近づけられ、思わず顔を背けるシュトルム。彼女に構わず惣万は言葉を淡々と続けていく。

 

「とはいっても、この星にいる正真正銘のブラッド族は俺一人。その他の奴らは俺がISを模して製造したブラッド・ストラトスか、人間ベースの混血かだ」

「混血……、なるほど。では『彼女(・・)』が」

 

 その言葉で得心が行ったらしい。シュトルムはひとしきり頷くと、現在開発中のガジェットをちらりと横目で見る。

 

「あぁ……。しかしまさか。俺の遺伝子があんなふうになるとはね。インフィニット・ストラトスの機能か、プロジェクト・モザイカの潜在能力か。……はたまた、俺自身がイリーガルなのか」

 

 ソファに寝転がると、惣万は手慰みにコブラエボルボトルを取り出してキャップを閉めたり開いたり、コブラの顔パーツをカチャカチャ動かしたり。泰然自若とした彼にしては忙しなく、今の一夏の現状を憂いているようだった。

 

「…マスター。よろしければ、私がエボルドライバーの修繕を行いましょうか?」

「いんや。最後に必要なパーツがまだIS学園に眠ってるからな……お前の気持ちだけもらっとくさ。まぁとにかく。今判明しているのは……一夏がヤツをどうするかで、今後の計画が変わってくるってことだけだ」

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

 

 二人の仮面ライダーの戦いは未だ続いていた。しかし、辛うじて戦いの体裁をとっているが、それはひとえにグレートクローズの手加減によるものだった。嬲るように攻められ、防戦一方になっていくビルド。

 

「弱いな。おら、どした。お前、稀代の天災様なんだろ?こんなもんか」

 

 グレートクローズがボルテックレバーをゆっくり回転させると、周囲の重力と空間に変調が起きる。それは、一夏の体内にあるエボルトの遺伝子の活性化を意味していた。

 

【Ready go!】

 

 零夏はビートクローザーを放り投げ、クローズマグマナックルを無造作に構える。そして、————黒とオレンジの残像を残してビルドの懐にもぐりこんだ。

 

「ッ‼」

 

【グレートドラゴニックフィニッシュ!】

 

 ナックル表層に形成されたオレンジのマイクロブラックホールが、ビルドの漆黒のボディに炸裂する。

 

「ぐうぅぁ…ッ‼」

 

 吹き飛ばされたビルドは、スパークを引き起こして変身が解除される。箒と千冬は慌てて駆け寄った。戦兎の衰弱具合を見て、二人は顔を青くする。

 

「戦兎さん‼そんな体で、無茶をして……‼」

「さて、止めだ。————んぁ?」

 

 突然、グレートクローズの足が止まる。彼の身体に縋るように抱き着いた人間がいたからだ。その人物は涙声で乞い願う。

 

「一夏、ごめんな……ごめんなぁ…」

「……———はぁ」

 

 

 

————バチンッ

 

 

 

「…っぁ!」

 

 平手打ちをされた千冬が、グレートクローズの足元に蹲る。剣で切りつけられるよりも、よほど惨めだった。

 

「だぁっっっせー、てか気持ちわりぃんだよ、織斑千冬。お前も一夏がこうなった原因だ」

 

 エボルの特徴を持つクローズが地面に這い蹲った女を足蹴にする。乱れた髪の間から見える赤くなった頬。それに一筋の水滴が流れた。

 

「結局お前は自分も家族も救えず、空回りしてただけだよなぁ。それをいまさら頭だけ下げて、許してくれなんざ都合が良いにも程がある。お前、無敵の『世界最強』様なんだろ?そんな御大層な力で…、なんか守れたっけか?ん?」

「……、ぅ、ぁ」

 

 千冬を揶揄う声に、嫌悪感が混じっていた。拭いきれない憎悪が乗っていた。心の奥底に追いやられた、腐臭のする汚物であるかのように、グレートクローズは吐き捨てる。

 

「何、言ってる…千冬は、寝る間も惜しんで一夏のことを必死で守ってきたんだぞ…!一夏は、そんなこと、思う子じゃない…‼」

「さぁ、どうだろうなぁ?天才とはいえ、人生経験たった一年ぽっちのお前が推し量れるもんかね?」

 

 千冬の頭を踏みつけたまま、グレートクローズは死にかけの戦兎に向かって指を突き付けた。

 

「俺の願いは一夏の願いだ。保身のため弟さえ欺く嘘、姉を演じることで人間であれると信じ込む悲しい性。こんなことを考えてた姉に、こいつはどこかで気づいていたんだよ。そんな女に人生振り回されて、こいつはうんざりしてたんじゃないのか?」

 

 そして一拍措いて、戦兎の隣にいた一夏の恋人にその毒牙を立てる。

 

「———なぁ篠ノ之箒、お前はわかるだろ?どれだけ心を押し殺しても、なまじ才能だけあるバカな姉への嫉妬と憎悪は絶え間なく生まれ続ける」

 

 今度は、戦兎が口を噤む番だった。

 

「……」

「こんな姉いなければ、自分たちは思い悩むことなく自由に人生を送れたはずなのに。こんな姉いなければ、自分たちの思うとおりにこの世界で笑っていられたはずのに。ISなんかを蔓延らせた姉なんか、この世に生まれてこなければよかったのに」

 

 誰もが顔を曇らせる。此処にいる誰もが罪悪感に苛まれる。

 

「ぃ…一夏、本当に…そう思っていたのか……?」

「そうさ。俺こそ織斑一夏の代行者(オルタナティブ)。俺の世界と自由を手に入れる者」

 

 グレートクローズが笑っていた。人の無様を嗤っていた。

 

「一夏がこうなった原因は正体をバラされたからだけじゃない。お前ら自身がやってきた小さな無理解が負担となり、こいつの心のどこかに積み重なっていた。それを糧にして、俺は進化しここにいる。お前らは罪を重ねた自分たちの手で、パンドラの箱を開けちまったんだよ」

 

 一夏の身体を乗っ取った者はエボルトと同じように、小躍りしながらふざけた言動を繰り返す。くつくつと喉元を擦り合わせて、絶えず笑い続けている。

 ……————千冬は耐えられなかった。耐え切れなくなった。

 

「やめて、くれ…、やめてくれ…」

「はぁーっ?よぉく聞こえねぇなぁ、なぁ千冬おねえちゃぁぁぁん?どーして止めてほしいんだ?」

 

 彼女は肩に置かれたグレートクローズの手を払いのける。

 

「やめてくれっ‼一夏に…、一夏に会わせてくれ……。私は……私は、一夏に謝らないと、いけないんだ……」

 

 絶叫と、尻すぼみになっていく言葉。茫然自失した目で、グレートクローズの中の面影を必死になって探す千冬。

 

「はぁーあ……。そんなに会いたけりゃ会わせてやるぜ。感謝しろよ、『千冬姉』?」

 

 そんな彼女に興が冷めたのか、零夏は戯れとばかりに体の主導権を入れ替えた。最後に、皮肉を添えて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一、 夏…?」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………——————『一夏』ってなんだよ」

 

 絞り出すような、声だった。

 

「…………………………ぇ?」

「そんなもん、ほんとは意味もないんだろうがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!?」

 

 怒りが、疑念が、激情が、マグマとなって迸る。

 

「俺は…、分からなかった…‼自分と他人を比べて、ずっと違和感が付きまとってた…‼それも全部、俺が『人じゃない』からってことなのかよッッッ‼」

 

 理不尽が言葉になって煮え滾る。不条理を無意味に吐き出す口が止まらない。

 

「何で、言ってくれなかったッッ!?俺たちは、一体何のために生まれてきたッッ!?何が“ばけもの”だァ!?俺は、俺は…俺はァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!?」

 

 グレートクローズの装甲に罅が入る。割れ目から禍々しい熱と光が漏れ出ていた。

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁ……‼」

 

 ぴしり、ばきり、べきり。亀裂がさらに酷くなる。青い目元から漏れ出た炎は血涙にも見えた。

 

「グルァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ‼アアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ、ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッ‼」

 

 

 

 

 太陽が弾けたようだった。

 

 それは、爆弾を落とされた有様に似ていた。大爆発が起き、キノコ雲が立ち昇る。衝撃と熱が窓ガラスを割り、鉄でできた街灯を溶かす。街路樹にもアスファルトにも烈火が燃え広がりだした。

 

 

 

「うぅぁッ!?」

「わぁッ!?」

「(ははは!暴走しやがった‼こうなっちまったら、もう誰にも止められねぇぞぉ?)」

 

 じゃり、じゃりっ…とケイ素の砂を踏みしめ、明々と燃え広がった街の中、怪物が歩を進める。火口から溢れ出たマグマのように体内の成分を垂れ流し、冷えた個所が鈍い鋼色に変化した“ばけもの”の如きクローズが、一歩…また一歩と織斑千冬に向かって歩いていく。

 

「ウゥゥゥゥゥッッ……?グルァアアアアア……」

 

 マグマに溶かされた道に足跡が残る。じゅうじゅうと、沸騰した道が泡を生み弾ける。熱が支配する凄惨たる景色の中で、織斑千冬は立っていた。

 

「良いさ一夏…。お前には、私を恨む理由がある。お前には、私に怒りをぶつける理由がある」

 

 硝子を溶かす灼熱の風が肺を焼いても、クローズの感情に呼応して噴き出る劫火が皮膚を舐めても、織斑千冬は動かない。

 ————傷が瞬時に再生するのをこれほど苦痛に思ったのは、いつ以来だっただろう。

 

「……、私は実験動物として、『科学の玩具』になるために生まれてきた。だけど、一夏…、お前だけにはそんなことをさせたくなくて…、それで———、世界の全てに嘘をついた」

 

 過去の記憶(きず)を自ら封じても、再生する身体から傷がなくなっても、心に残った(きず)が未だに影を落とす。憶えていることがたった少しでも、実験と称されてあらゆる苦痛を与えられてきたことは忘れられなかった。

 

「……偽りだらけの私を信じてくれなんて言わない。こんな自己満足を許してもらえるとも思わない。姉として接してこれなかった馬鹿な女の戯言だ」

 

 ……————誰かから報われたいと思ったことも、願ったことも無かった。例えそれが弟であろうと、何もいらなかった。彼が心穏やかに生きられるならば、嫌われ役であろうと買って出ようと思っていた。

 

「———それでも一夏、私はお前を愛しているよ」

 

 人ならざる力を与えられて、苦しくもあったが、一夏の為にならば、と思うことができた。研究者たちにとっては、力を持った自分たちは替えの利く代替品だったのだろう。だが。

 

「たとえお前に憎まれ続けても、たとえお前に殺されようと、私はお前を愛しているよ」

 

 千冬にとって、一夏はかけがえのないただ一人の同族なのだから。だから…。

 

「私は、ずっとずっとお前を愛しているよ」

 

 初めから、織斑千冬の人生は決まっていた。この命は、この力は、家族のために捧げると————。

 千冬の瞳が、桜色に輝いた。

 

「ウウウウウ、ヴァァァッッ‼ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ‼」

 

 獣の咆哮とマグマが撒き散らされる。荒れ狂う一夏の心を受け入れるため、千冬は抱きしめるため腕を広げ、その身を彼に差し出した。

 だが、その場にいる人間は納得しない。戦兎が怒りの声を上げている。

 

「千冬!やめろ!そんなことで一夏の心が…、お前自身の罪の意識が救えるとでも思ってるのか!?ふッざけんなよ‼お前、オレに死ぬなって言ったくせに‼おい‼おぉいッッ‼」

「一夏、どうか……———」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏ぁ!やめてくれ‼」

 

 マグマの怪物となった一夏の胸の中に、ポニーテールの少女が飛び込んだ。

 

「なっ…」

「箒ちゃん!?何を…‼」

 

 肉が焼ける音がする。包帯を巻いている手が露になり、火傷の跡がさらに酷くなる。指先が炭化を始めているにも関わらず、その少女は恋人の心中を思いやり、整った顔を灼熱の胸にうずめていた。

 

「やめろ箒!焼け死ぬぞ!?」

「一夏も苦しかったんだな…。お前の気持ちが伝わってくる…」

 

 射干玉の髪が燃えても、炎が骨身を溶かそうと、箒は一夏を絶対に離さなかった。……————だからなのだろうか。

 懐にあった待機状態のIS(守り刀)が、温かな光を放ち始める。

 

「え…?ISが、共鳴している…?」

「辛いよな……愛を感じられないのは」

 

 光を浴びて、一夏の中に変化が起きた。

 

「ガッ、オ、アァァァ…アギィィィィィィッッッ‼」

 

 苦痛に悶え、箒を突き離そうとする一夏の理性と、暴走し彼女を排除しようとする怪物の本性。そのせめぎ合いを知りながら、箒はさらに強く彼を抱きしめる。

 

「ホ…オ、ギ、ィィィ…!オレハ、オマエ、ヲ……‼ホントウ、ニ…‼タイセツ、ダト…オモッテ…ッッ‼」

「わかる。わかっているよ。心配するな、私はどんなお前でも受け入れる。そんな辛そうな顔をしたお前を、放っておけるわけがないだろう…」

 

 服が燃え、雪のように白い肌も爛れていく。それでも箒は一夏を思い続ける。

 

「私も辛かった。家族と引き離されて、政府から監視されて、日本各地を転々として…、独りぼっちでずっと過ごして、いつまでこんなことが続くんだろうって、寂しくて……」

 

 

 

 ————二人は水面に立っていた。桜の花弁が舞う景色の中で、人間の姿で言葉を交わす。

 

 

 

「学校から帰って、毎日部屋の隅で泣いてた…、皆がいるあの頃に戻りたかった、お父さんとお母さんがいる家に帰って、『お帰り』って言われたかった…!もっともっと愛されていたかった‼」

 

 俯いていた箒が顔を上げて一夏を見る。涙で濡れ表情が崩れていても、それでも笑顔で彼女にとってのヒーローを見る。

 

「でも、一夏がいたから私はここにいる。また会おうって言ってくれたから、希望を捨てずに生きてこれたんだ。たとえ、何気ない一言だったとしても、その言葉で私は救われた…!」

 

 顔を伏せていた一夏を強く掻き抱き体を密着させる。心臓がとくん、とくんと鼓動を刻む。

 

「一夏が私に道を示してくれたんだ。一夏、私のヒーローが、こんな後ろ向きで弱虫な私を救ってくれたんだ…!」

 

 

 

 ……————だから。

 

 

 

「だから今度は私が救う!一夏の生まれがどんなだろうと関係ない‼一夏‼お前に出会えて、私は本当に幸せだった‼」

 

 

 

 

 箒は告白する。

 風立ち桜が散る。青空の下、嘗ての時のように、今度は箒が一夏に救いの手を伸ばす。

 

 

 

 

「こ、レハ…」

 

 光指す風景に、何人もの人影が映っていた。白と桃色の花弁を運ぶ風が涙をぬぐう。

 

「セシリアも、鈴も、シャルルも、ラウラも、簪も…!お前と一緒に過ごして、お前を“ばけもの”だと思ったことは一度もない!たとえ人と違っていても、そんなの関係ない‼私たちはお前のことを否定なんかしない‼」

 

 代表候補生たちが、仲間たちが一夏の背中を押してくれた。

 

「自分を愛せなくても、他人の心が分からなくても、自分を嫌いにならないでくれ!」

 

 だから、一歩、箒の心に踏み込んだ。

 

「おれ、ガ…人間(・・)ジャ、なくテも…イイのカ…?」

そうだ(・・・)!そんな寂しいことを言うな!お前は心がある『(ひと)』だ!私を救ってくれた優しい『(ひと)』なんだ!」

 

 心無い『人間』たちに無視され、『守る』という名目で人として扱われなかった少女が、彼の名を呼ぶ。ずっと心の傍にいてくれた『人』を助けるために、その答えを叫ぶ。

 

 

 

「戻って来い一夏!お前は“ばけもの”なんかじゃない‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉっ!?」

 

 眩い光の中から、グレートクローズが吹き飛ばされる。閃光が収まると、そこには抱き合って互いを守り合う少年少女が立っていた。

 一夏と箒が、視線と言葉を交わす。

 

「……————箒、ありがとな」

「いいんだ。これで、少しばかりは恩返しができただろうか…?」

「違う。感謝するのは俺の方だ。俺はずっと、お前に助けられてばかりだよ……」

 

 一夏は、箒に向かって手をかざす。彼の手の平から煙が噴き出し、マグマで炭化した箒の肌を優しく包み込んだ————。

 

「ぇ、ちょっ!」

「…悪い。俺の力じゃ、スマッシュの時の火傷までは治せないみたいだ」

「……律儀な奴だ」

 

 エボルトと同じ力を使ったことで、箒の白い肌の大半は治癒していた。驚く戦兎を尻目に箒は優しく首を振る。大丈夫だというように、優しく微笑み一夏の背を押した。

 

「それと、千冬姉———ごめん」

 

 頬を掻きながら、彼は自分の姉に向かって頭を下げた。

 

「自分でも気づかないうちに、千冬姉と自分を比べてたみてぇだ…」

「一夏…」

 

 言葉少なに口を開く。だが、姉弟はそれだけでも分かり合えた。

 

「……いいんだ。私こそ、ごめんな…」

「何言ってんだ。俺たちは家族だろ?気ぃ使われて嘘吐かれたのは微妙だったけど……うん、許すさ。だって、俺も千冬姉のこと、愛してるからな」

「…ッ」

 

 千冬の目から、涙が一筋流れた。複雑(ぐちゃぐちゃ)に感情が混じった顔だったが、それでも————『美しい』といえる顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ちっ、バカは立ち直り早いなー…」

 

 その光景に反吐が出たのか。グレートクローズが肩をすくめて、寒い姉弟愛を唾棄していた。白けた気持ちをそのまま張りの無い言葉に乗せてビートクローザーを肩に担いだ。

 

「———そうだな。簡単に許しちまうのは、自分のこと蔑ろにするバカなんだろうな…。実際、具体的な解決策も思い浮かばずに『はいそーですね』で済まそうとしてんだし」

 

 小馬鹿にされ挑発されても、一夏は薄く笑ったままだった。自嘲と、それと安堵が入り混じった表情で上着を脱ぐと、自分に抱き着いたことで服が燃えてしまった箒の肩にかけてやっていた。

 

「けど、ウジウジ頭使って考え続けるくらいなら、俺はそんな馬鹿でいい」

「あっそ…でどうすんだ?」

 

 予想外のことが起きたからか、グレートクローズの口調は冷たい。どう嬲ろうか、舐めまわすように一夏や箒の身体を凝視していた。

 

「お前が今まで変身できていたのは、ネビュラガスに適応できる俺の遺伝子があったからだ。いまそのボトルの力を使っても、せいぜいスマッシュになれるかどうか。そんなお前が、この俺に戦いを挑む?んなの、命知らずの馬鹿のすることだ」

「それでも構わない。今の俺は負ける気がしねぇんだ……いや、違うか」

 

 一夏が箒を見る。箒もまた、一夏を見る。それだけで、二人に言葉はいらなかった。

 

「俺は負けない。負けるわけにはいかない。箒のために、皆のために———絶対に!」

「————なに?」

 

 一夏の目が黄金に輝く。間髪入れずに、箒が戦兎の使っていたドライバーを手渡した。

 

「たとえ人じゃなくても……世界を滅ぼす力を持っていても、俺は“ばけもの”とは違う!俺は、一夏———織斑一夏‼」

 

 一夏の体から噴き出る金色のオーラが、真っ黒だったフルボトルに変化を与える。ボトルのくすんだ黒い表面がはじけ飛び、脈打つように橙色の光が漏れだす。

 

「お前らみたいなヤツらがこの世界を壊すっていうのなら……俺はこの力を、愛と平和のために使う‼」

 

【ボトルバーン!】

 

 生み出した『ドラゴンマグマフルボトル』をクローズマグマナックルへ、決意と共に勢いよく差し込んだ。

 

【クローズマグマ!】

 

 一夏は叩きつけるようにナックルをビルドドライバーへセットし、ボルテックレバーを力強く回転させる。

 

【Are you ready?】

 

 背後に展開された溶鉱炉型の変身装置『マグマライドビルダー』内で、流体装備『ヴァリアブルマグマ』が煮え滾る。そして————。

 

「変身‼」

 

 途端に取鍋が反され、一夏は生身のまま赤々と光る融解金属を頭上から浴びた。大量のヴァリアブルマグマはアスファルトを溶かし周囲にも燃え広がっていく。

 

「ちょ…っ!?戦兎さんこれほんとに大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫…!設計上はなんら、問題ない……ハズ」

「おぉい戦兎ぉ!?」

 

————ギャオォォォォォン‼

 

 突然、箒の肩にいたクローズドラゴンが叫ぶ。一夏が沈んでしまった溶岩に変化が起きていた。

 

「あれは…!?」

 

 マグマの中から竜が首をもたげ上げた。八匹の赤い竜は黙示録を示すように、激しい飛沫を散らしながら、産声を上げる。そして急速に冷却され、黒い石像を思わせる九頭龍となったヴァリアブルマグマを、背後にあったマグマライドビルダーが————粉砕する。

 

【極熱筋肉!クローズマグマ!】

 

 猛光と火炎、そして余剰分の岩石を弾き飛ばし、マグマを思わせるオレンジの仮面ライダーがそこにいた。

 

【アァチャチャチャチャチャチャチャチャチャ…アチャァァァァァ‼】

 

「あれが…」

「っし、クローズマグマ…!」

 

【雪片弐型!】

 

 仮面ライダークローズマグマの手の中に、純白の刀が生み出された。それを構えて、一夏は魂の叫び声をあげる。

 

「力が漲る……魂が燃える!俺のマグマが迸る‼行くぞ…————お前は俺を、止められねぇぇぇッッッ‼」

 




次回、一夏VS†REIKA†

惣万「……後半甘ったるいけど、前半が超苦いからコーヒー要らなかったかも」

零夏の名前はRime casket様から頂きました。どうもありがとうございます!


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