ときめきクライシスを渡されたら、あなたはどうする? 彼は覚悟を決めたよ (erif tellab)
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ときめきクライシスを渡されたら、あなたはどうする? 彼は覚悟を決めたよ

ポッピーは俺に任せてくれ……。だから皆……マリカやキバーラたちを……


※キメワザの表記を修正しました。使うのはゲーマドライバー(バグルドライバーは死ぬ)なので、そちらに音声沿います。ただし、レベル2はスキップしてXに。ご指摘ありがとうございました。フィニッシュとストライクがごっちゃになってしまった……


 ある年のクリスマス。その翌日の朝起きてみれば、俺の枕元にはときめきクライシスのガシャットとゲーマドライバー、バグルドライバー(水色)が納められているプレゼントが置いてあった。両親に聞いてみたところ、あくまでも「サンタさんの贈り物だよ!」と誤魔化されたが、これとは別にもう一つのクリスマスプレゼントがあったので、本当に二人に心当たりがないのはほぼ確実だった。なお、二つ目のプレゼントはガンプラだった。

 最初に言っておくが、俺は過労死したらいつの間にか二度目の人生をスタートした系の転生者だ。多分。前世の記憶的なアレがあるだけで、確証はない。

 あえて裏付けを取るなら、この世界に仮面ライダー作品が存在していない事だろうか。それなのにガシャットとドライバーがプレゼントされたという事は、随分と奇妙な話である。ちなみに、今の俺は中学生だ。

 おかしいな。エグゼイド作品が存在していないのに商品展開されてるとか、もうマジでおかしいな。だってこの前バグヴァイザーⅡを外で使ってみれば、ビーム撃てたんだもん。ときめきクライシスも起動させると本編並みに高音質だもん。無性に怖くて変身するのはやめた。

 その上、最近だと上空にケーキやらブリンやらの明らかに人為的な雲が浮いていたから、嫌な予感は拭えなかった。もしかしたら本物のバグスターウイルスにやられるかもしれないので、変身道具一式はベッドの下に置いている。

 

 悪い事が起きませんように。結局、俺にできるのは神頼みくらいのもので、今日も今日とて早起きする。

 

 我が家はパン屋で、特にメロンパンやクリームパンなどの菓子パンが人気の店である。早起きした俺はパン屋を経営する父の手伝いをし、一緒にパン生地をこねて、発酵させて、焼いたりする。

 パン作りにサラリーマンしていた前世とは違った楽しさを見出だした俺は、すっかり趣味と呼べるレベルにまで魅力された。特に菓子パン作りにハマり、現在は独力で美味しいデニッシュ系菓子パンを模索している。店に出ているのはリンゴを使っているので、できれば被らないようにしたかった。

 

 そして早速放課後。まっすぐ自宅まで帰った俺は、生クリームを使ったデニッシュを作るために準備を整える。

 

 その時だった。開けていた自室の窓から、謎のモヒカン生物が飛び込んできたのは。

 

「ぎゃん!?」

 

 モヒカン生物はそのまま向かいのドアに激突。悲鳴を短く上げて床に落ちる。目はすっかりぐるぐる回っており、すぐには起き上がれない様子だった。

 その身体はぬいぐるみのように小さく、肌は闇色。腰には星マークのバックルが着いており、見るからに常識の矛盾を突いてくる怪生物だ。ものすごい勢いで頭をドアにぶつけたはずなのに、意識はある。いや、脳震盪ぐらいは起こしているか? なら放置すれば自然と死ぬかもしれないのか。

 

「……絶版にしないと」

 

 そう呟いた俺はすかさずバグヴァイザーⅡを取り出し、銃口をモヒカン生物にかざす。だが改めて手を下そうと思うと、ゴキブリを素手で倒そうとする以上に迷いが生まれてダメだった。手元が震え、発砲しようがない。そもそも、ここは自室だった。ビームで穴を開けるものなら、親に怒られる。

 

 その後、のこのこ獣医師の元に連れてっても研究サンプル化エンドが関の山だと判断した俺は、苦渋の思いで親に相談。結果、我が家でモヒカン生物を看病する事になった。

 

「あらあら、不思議な動物ね。ぬいぐるみみたい。妖精か何かかしら?」

 

「妖精だとしたらトンだ世紀末から来たんだな。モヒカンだし」

 

 これは母と父の言葉。割りと能天気なのが調子を狂わされる。

 それからしばらくして、ようやくモヒカン生物が目を覚ます。元気はまるでなかったが、ここで人語を解する事が判明。名前もちゃんとあり、ガミーというらしい。かなりジャイアニズムな珍獣だというのが一発でわかった。

 

「頭がガンガンする……腹も空いた……ん? それを俺に寄越せぇ!」

 

 なにせ、開口一番で俺が持っていたクロワッサンに飛び掛かってきたのである。まだ体調が万全でもないのに。

 すれ違い様に掴まれたクロワッサンは半分に引き千切れ、ガミーはきりもみ落下。間髪入れずに浮遊するも、テールローターが故障したヘリの如く安定せず、ふらふらと廊下の壁や床にぶつかっては不様に崩れ落ちる。頭を打ったのが相当響いているようだ。

 

「……この隈ヤロォォォォ!!」

 

 取り敢えず、己の間食のために用意したクロワッサンがやられた俺は、このガミーをシバく事にした。その後は適当なベッドに拘束し、パンではなくお粥を食わせる。クロワッサンの強奪が腹空いていたからとか、暴挙にも程があった。

 良かったな、俺の親が優しくて。「妖精だから」という理由で許してくれたぞ。親の顔に免じても、俺にとってはあまりよろしくないが。

 

「このベルト外せぇ! キラキラル取りに行かせろぉ!」

 

「暴れんな! 大人しくしないといつまで経っても回復しないぞ! キラキラルなんて知らん!」

 

 ギュルル~。

 最初はジタバタしていたガミーだが、腹の虫を鳴かせると急に静かになり、何の抵抗もせずに俺がお粥を掬った匙を受け入れる。口をモグモグと動かし、無言で食べ進めるだけ。その間に起きた変化といえば、目尻に涙が溜まっていた事くらいだ。

 それから数日が経過。獣医師に診せる事もなく、ガミーはあっさり元気になった。ここまで来れば森なり海なりに帰すだけと思った俺は、ガミーを家の外に出す。

 

「じゃあなー。もうダイナミックお邪魔しますなんてするなよー」

 

 そうやって俺が見送るものの、ガミーは特に言葉を返す事もなく遥か空へと消えていく。かくして、ガミーとの日々は終わりを告げた。

 

 ――と、楽観視していた俺がバカだった。

 

 その日の一時間後。出来上がった手作りの生クリーム入りデニッシュを食べようとした俺の元に、ガミーが再び戻ってきたのだった。今度は自室の窓越しでの対面だったが、次の瞬間にはガミーがとんでもない事をやらかしてきた。

 

「なんでパンに? まぁいいや。そのキラキラルもらったぁ!」

 

 突如としてデニッシュから光が現れ、ガミーにそれら全てが吸引される。するとデニッシュは灰色となり、合わせてガミーも二頭身の珍獣から人間サイズの怪人へと変貌した。

 

「おっ、何だぁ? まだ少ししかキラキラル吸ってないのに力が溢れてくるぜ!」

 

 声も低くなり、自身の変化にすこぶる喜ぶガミー。俺は事態の急変に付いていけず、唖然としている内にもガミーはどこかへと飛び去っていった。

 

「イヤッホォー!!」

 

 遠くでガミーの声が木霊し、ようやく我に返った俺は灰色のデニッシュを一口食べてみる。味は案の定、クソマズだった。

 

「……絶版だあぁぁぁぁ!!」

 

 一拍置いて、俺は怒りに満ちた叫びを発する。曲がりなりにも助けてやったのに、恩を仇で返された。せっかくのデニッシュを豚の餌以下の物体Xに貶める形で。

 こればかりは我慢ならない。俺の趣味と食べ物に対する冒涜だ。

 すなわち、思い立ったが吉。灰色デニッシュをラップで包装した上でビニール袋に入れ、変身道具の入ったアタッシュケースも持ってガミーの追跡を開始する。実際に変身できるかどうかは知らんが、念のためだ。万が一はバグヴァイザーⅡでビームをグミ撃ちしよう。

 大急ぎで外に飛び出し、ガミーが消えた方へがむしゃらに走る。ヤツが依然として空を飛んでいるのなら、まだ見つけるチャンスはある。むしろ潜伏するな。面倒だから。

 やがて、俺の住んでいる街にあるイチゴ山という場所の麓まで辿り着く。この追跡の無謀さに徐々に心が折れそうになるのを何とか堪える。

 その時、不思議な事が起こった。息を整えながら辺りをふらついていると、何故か光っている少女を見つけたのだった。しかも、なんか変身している最中だ。

 

「キュアラモード・デコレーション! ショートケーキ!」

 

 そう言って、ショートケーキの小物を左手に持った手鏡に装填。それだけで変身はまだ終わらず、何やら化粧に使うペンを取り出した。

 

「元気と笑顔を! レッツラ・まぜまぜ!」

 

 ペン先からクリームが自在に放出され、少女が自由にペンを振るうとクリームが衣装に変化。ピンクと白のドレスになり、ついでに髪型も大きく変わってウサミミが生える。無論、尻尾も忘れていなかった。

 

「キュアホイップ! 出来上がり!」

 

 また、幻覚なのだろうか。そう名乗った一瞬だけ、少女の背後に巨大なケーキが見えた気がした。てか“キュアホイップ”って……え?

 一先ず、俺はそそくさと適当な木の陰に隠れて様子を窺った。よく確認すれば、ホイップの前にはガミー怪人態が悠然と立っていた。お前、ここにいたんだ。

 

「あなたガミーね! そんな姿になってるって事は、またキラキラルを奪ったの!?」

 

「誰かと思えばお前か。仕返しも兼ねて準備運動にはちょうどいいぜ!」

 

 どうやら両者ともに面識はあるようで、先にガミーが仕掛けてきた。繰り出されるラリアットをホイップはかわし、距離を取ってから反撃に移る。

 

「懲りてないならいいわ! そのキラキラル、皆に返してもらうから!」

 

 そう啖呵を切り、ペンからピンク色のクリームをビームのように出す。だが既存のクリームとは一線を課しているようで、かなりの攻撃力があった。クリームビームを正面から受けたガミーは仰け反り、かといってベトベトになっていない。

 ……プリキュアかな? もしかしなくてもプリキュアかな、あの子? 最近のプリキュアはよく知らないけど、プリキュアなら勝ち確間違いなしかな? 間違いないだろ、絶対。

 なら、俺の出る幕なんてないんじゃないか? このままあの子に丸投げするだけで、ガミーの撃破は約束される。危険を犯す必要はない訳だ。

 だって見ろよ、この戦場。クリームが盾になったり、ビームになったりしている。少なからず怪人として強くなっているであろうガミーと戦えている。これに介入するのは少しキツイものを感じる。

 

 さて、ここまで来て本当にどうしようか。灰色にされたデニッシュの件があっても、見守る一択しかない気がする。バグヴァイザーⅡオンリーでどうしろと。

 だが、予想に反して戦いの雲行きが怪しくなる。クリーム攻撃を浴びせられているガミーの口角が上がるや否や、片手間でクリームを蒸散させたのであった。

 

「ふん!」

 

「ウソッ!? 効いてないの!?」

 

 驚愕するホイップ。対してガミーはニヤニヤと笑う。

 

「ハッハッハッ!! これはいいや!! 思ってたよりも強くなってる!! そぉらあ!!」

 

「キャッ!?」

 

 刹那、ジャンプしたガミーは頭上からホイップを強襲。間一髪でホイップは避けるも、ガミーの踵落としが地面に炸裂。飛び散る多くの小石が彼女にバシバシ当たる。

 

 前言撤回。ガミーが強くてプリキュア負けそう。

 

「……俺は……何やってるんだ?」

 

 そして、ようやく本来の目的を思い出す。気が付けば地面に下ろしていたアタッシュケースとビニール袋を交互に見やり、再度ガミーへと視線を動かす。

 よくよく考えれば、アイツの怪人化には俺も不本意で関わってしまっている。怒りの感情を抜きにしても、やはりケジメはしっかり着けるべきだ。奇しくも、その道理を押し通すだけの代物が身近にある。

 それに、もう知らない振りを貫けそうな場面でもない。最悪、このままホイップがやられる可能性もあり得る。先に立たない後悔は、できる事ならごめんだ。

 腹を括れ、俺。ときめきクライシス以下一式がプレゼントされたのは、きっと運命的な何かだったんだ。だって俺の名前、仮野飛那だし。男なのにアスナだし。読みの強引さが千翼(ちひろ)みたいだし。

 

 何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。覚悟完了。命と心の火を燃やすつもりで、俺はアタッシュケースを開ける。

 

 

 ※

 

 

 前に戦った時--自分が初めてプリキュアに変身した日よりも手強くなっている。キュアホイップがガミーと戦って真っ先に感じたのがそれだった。怪獣サイズにはなっていないのに、目の前のガミーの変貌ぶりが怪獣時と勝るとも劣らなかった。

 キラキラルの力が足りていない。それでも負けじとホイップペンを動かす。だが、それよりも早くガミーが懐へと踏み込んできて、悠長にキラキラルのクリームを放っている場合ではなくなる。回避を優先するキュアホイップを、ガミーは執拗に追い掛ける。

 

「うわっ! ちょっとー!?」

 

 プリキュアの扱うキラキラルは闇を浄化し、光をもたらす。しかし、攻撃する暇を与えられなければ宝の持ち腐れ。ガミーから逃げ回るキュアホイップはどうにか反撃しようと試みる。

 

「あぶっ!?」

 

 すると、うっかり足を滑らせて転んでしまった。一方のガミーは成人男性とほぼ同じ体格になっているので、怪獣時と比べてスピードに優れている。狼のように素早くキュアホイップを追い立てれば、ご覧の通りとなった。

 

「フッフッフ……」

 

 足を止めたガミーの顔に浮かぶのは余裕。転んでいるキュアホイップをまじまじと見下ろし、早急に危害を加えようともしない。半ば、この戦いはガミーにとって遊びと化していた。

 だが次の瞬間、突如として放たれたビームがガミーの側頭部に当たる。ろくにダメージは負っていないが、気分を害されたガミーは咄嗟に発射元へと振り向いた。

 

「誰だ!!」

 

 ドスの利いた声が響き渡り、ギロリと睨む。そこには、バグルドライバーを持った少年--飛那がいた。顔立ちは中性で、腰にはゲーマドライバーが巻かれている。彼の後ろには、アタッシュケースが放置されていた。

 

「っ、ダメ! 危ないから下がって!!」

 

 遅れて彼に気づいたキュアホイップは懸命に制止する。阿須那の異様な点に気づくまでの余裕はなく、むしろガミーを早く倒そうと奮起する。

 そんな風に慌ただしくキュアホイップが立ち上がろうとしたところ、飛那は構わずに左手に持ったガシャットを起動させた。

 

『ときめきクライシス!』

 

 いきなり発せられた可愛らしい女の子の声に、ガミーとキュアホイップは思わずびっくりする。この間にも飛那は淡々と次の段階へ移る。背後にときめきクライシスのタイトル画面を立体化させながら、一言呟く。

 

「変身」

 

『ガッチャーン! レベルアップ!』

 

 同時にガシャットをドライバーに挿し、レバーを開いた。周囲に現れては横方向に回転するパネルの列の内、一枚を手のひらでタッチ。タッチされたパネルは飛那の全身を透過していき、その姿を戦闘形態へと生まれ変わらせる。

 

『ドリーミングガール♪ 恋のシミュレーション♪ 乙女はいつもときめきクライシス♪』

 

 ガシャットから可憐な歌声が流れ、変身が完了する。

 光が収まり、降臨するのは黄色を基調とした動き易いドレスアーマーだ。ドレスの下には黒地のスーツをぴっちり着ていて、素肌を晒さない。

 また、その時不思議な事が起こった。視線を上にすれば、中性的な少年の面影がすっかりなくなっていて、代わりに桃色ショートヘアーにカチューシャを身に付けた美少女の顔が乗っていたのだった。瞳は美しい青に染まり、健康的な柔肌が露出する。

 

 使用したのはゲーマドライバー。されども仮面ライダーにあらず。何の因果か、ここに誕生したのはライダー少女ポッピーであった。

 

「……ええぇぇぇーっ!?」

 

 これにはキュアホイップもとてつもない衝撃を受ける。何せ、明らかな男子が目の前で女子になったのだ。容貌が中性的でも男だと判別できたものが、体格や身体の線も含めて完全に別人になってしまっている。無理もない。

 それからしばらく呆然するキュアホイップとは対照的に、ガミーはポッピーの前に立ち塞がる。先ほどのビームの仕返しついでに、標的を彼女に移す。

 

「へぇ、お前も変身できたんだな。でも俺に敵うと思っ--あぶっ!?」

 

 にへら笑いしながら語るのも束の間、目に留まらぬ速さでガミーはアッパーされた。あっという間に間合いを詰めたポッピーのスカート裏とシューズ裏には、内蔵されているスラスターの火が仄かに揺らめいている。

 それから、アッパーを受けて宙に舞うガミー目掛けて容赦なくバグヴァイザーで発砲。数多のビームが放たれ、無防備になっているガミーに次々当たる。効果的なダメージを与えているかどうか問われると微妙だが、ダメージ蓄積は確実に起きていた。

 

「ぐおおっ!?」

 

 ビームを受けた反動で宙に舞う距離を伸ばされ、ようやく地面に転がるガミー。表情には苛立ちが垣間見え、怒りの咆哮をポッピーにぶつける。

 

「うぐぐ……!! 俺を舐めるなァァァァァァ!!」

 

 そして地面を全力で蹴り、相応に肥大化している剛腕をポッピーに突き出す。

 

『ガッチャーン』

 

 その寸手、ポッピーは僅かに顔を横にずらすだけでガミーのパンチを避けた。並行して右手に持つバグヴァイザーをチェーンソーモードに切り替え、ひたすらガミーの胴体を殴り付ける。打突と斬撃の重たい複合技を何度も食らう羽目になったガミーは、呻き声をくぐもらせながら後ろにどんどん下がっていく。

 

 本来ならガミーも含めて、彼をリーダー格とした悪い妖精の一味にはただの肉弾攻撃は通じない。キラキラルを用いたクリームエネルギーが唯一の有効打であり、浄化技でもある。とはいえ痛覚は確かに存在しているし、あらゆる物理法則を無効にする訳ではない。例えダメージがなくともタンスの角に小指をぶつければ痛く、辛いものを食べればしっかり辛いと痛覚は働く。

 つまり、反動や衝撃などは消されないのだ。また、バグヴァイザーのビームといった高熱エネルギーには、肉弾とは根本が異なっているのでダメージカット率は極めて百パーセントに近いだけ。キラキラルを吸収して強化されている妖精のガミーは、ブラックホールに吸い込まれてもミンチになるどころか無傷でピンピンと生きていられる超生物ではない。生き物である以上、限度はあった。

 

 故に、ケガは負わないのに痛い思いが続くという現象にガミーは襲われる事となった。ポッピーの怪力も相まって。

 

「す……すごい……」

 

 いつの間にか置いてきぼりを受けていたキュアホイップは、ポッピーの戦いぶりをじっと眺めていた。自分とは根底から異なっている戦闘スタイルに少しばかり恐ろしさを覚えつつも、ガミーを圧倒できている点に関しては素直に評価せざるを得ない。

 

「はっ! いけないいけない! 私も戦わないと!」

 

 ようやく傍観から抜け出せたキュアホイップは、首を横にブンブン振って気持ちを切り替える。

 

「いちかちゃーん!」

 

「いちかー!」

 

 加えて、遠くからキュアホイップの本名を呼ぶ声が聞こえてくる。最初に呼んだ方が有栖川ひまり、呼び捨てにした方が立神あおい。最近になって親しい友達になったばかりの女子二人だ。

 スイーツパクトを取り出しながら大急ぎで駆け寄ってくる彼女たちに、キュアホイップの顔色が明るくなる。

 

「あっ、二人とも! 来てくれたんだ? よく場所がわかったね?」

 

「はい! 空の色が変わっていたので」

 

「またスイーツの想いが踏みにじられたら黙ってられないでしょ! ところで、あっちの子は?」

 

 キュアホイップの疑問にひまりは手早く答え、あおいは威勢の良さを見せながらもポッピーの方へ目が動く。

 しかし、キュアホイップが事情を説明しようとした頃には、ポッピーとガミーとの戦いにクライマックスが訪れていた。

 

『キメワザ! ときめきクリティカルストライク!』

 

 思い切りジャンプしたポッピーは、よろよろと足元が覚束ないガミーに向かってライダーキックを繰り出す。キメワザ発動時に足へチャージされたエネルギーが、ガミーの胸部へ炸裂した。

 

「うぎゃああァァッ!?」

 

『会心の一発!』

 

 キックの衝撃でガミーは後ろに大きく吹き飛ばされ、ポッピーは華麗に着地。だが、クリームエネルギーを使っていなければ決め手にならず、一度は地に伏せたガミーも数秒後には立ち上がった。目立った外傷はなく、肩で大きく息をする。

 

「ハァ……ハァ……んだよチクショーッ!!」

 

 より怒りと苛立ちを露にしたガミーは、その場で地団駄を踏む。これを見てポッピーは軽く「チッ」と舌打ちし、二度目のキメワザを発動しようと試みる。

 その瞬間、キュアホイップがポッピーの前に割り込んできた。

 

「はい、ストップ! 後は私たちに任せて!」

 

 突然のキュアホイップの差し水にポッピーは目を白黒させるも、納得のいった様子を見せては無言で下がる。そんな彼女と入れ替わるように、ひまりとあおいが前に出た。

 

「「キュアラモード・デコレーション! カスタード / アイス!」」

 

 それぞれスイーツパクトにアニマルスイーツをセットし、放出されるクリームエネルギーを操って衣装に変換し、自分の姿を変えていく。

 

「勇気と! 知性を! レッツラ・まぜまぜ!」

 

 ひまりの使うクリームエネルギーは黄色。せわしく服装が変わっていき、やがてリスの耳と尻尾も生えてくる。

 

「自由と! 情熱を! レッツラ・まぜまぜ!」

 

 一方であおいは青色のクリームエネルギーを使い、革ジャンとアシンメトリーのドレスに。ライオンの耳と鬣、尻尾、肉球も付け加える。ライオンのメスに鬣はないと突っ込んではいけない。

 

「キュアカスタード! 出来上がり!」

 

「キュアジェラート! 出来上がり!」

 

 かくして決めポーズと名乗りを終えた二人のプリキュアは、改めてキュアホイップの隣に並び立つ。

 

「行くよ! この前みたいに三人の力を合わせて!」

 

「おう!」

 

「わかりました!」

 

 キュアホイップのかけ声に二人は元気よく応じ、開幕早々必殺技の構えへ。各自ホイップペンを手に取り、スイーツパクトから溢れ出す膨大な量のクリームエネルギーを飛ばし、合わせる。ピンク、イエロー、ブルーの三色が混ざり合う。

 

「「「キラキラキラルン、キラキラル!」」」

 

 声も合わせた三人は、練りに練ったクリームエネルギーを一気に放った。その射線上に立っていたガミーは避ける暇もなくクリームエネルギーに飲み込まれ、その中に包まれる。

 こうなってしまえば、今まで吸収したキラキラルは全て体外へと排出され、灰色になったスイーツの元へと戻っていく。クリームエネルギーはガミーを包んだまま一つの球体に凝縮され、勢い良く綺麗に弾け散った。

 

「こんなはずじゃあぁぁぁ!!」

 

 捨て台詞を吐きながら、小さなサイズに戻ったガミーは慣性に従って空の彼方へ消えていく。清々しいまでの短期決着であった。

 排出されたキラキラルは虹色に輝きながら宙をふらふらと漂う。そこにポッピーがラップ包みの灰色デニッシュを持ってくると、吸われるようにしてデニッシュに戻っていった。以前のきつね色を取り戻し、中身の生クリームも甦る。

 その一部始終を間近で見守っていたポッピーは二、三度瞬き、生クリーム入りデニッシュの復活を理解するや否や――

 

「よっしゃ!!」

 

 周囲の目を憚らずに両手を上げて、喜びの声を発した。表情は歓喜に満ちており、身体が小躍りしている。とっくに出来立てホヤホヤではなくなっているが、あのまま灰色クソマズパンとして完結させるよりはマシというもの。しまいには小刻みに跳ねながら、その場をグルグル回る始末だ。

 

「ヤッホ! ヤッホ! ヤッホ! ヤッホ!」

 

 そんなポッピーの姿にプリキュアたちは微笑む。何はともあれ、悪さを企んだガミーは成敗し、不条理に奪われたキラキラルも取り返して人を笑顔にした。特に不満を抱くところなど一つもない。

 そして頃合いを見計らい、キュアホイップが彼女に話し掛ける。

 

「さっきは助けに入ってくれてありがとう。あなたの持ってるそれってデニッシュ? あ、クリームが入ってるね。じゃあ菓子パンか!」

 

「へ? あぁ、うん。何だかガ……さっきのモヒカンに灰色のクソマズパンにされてさ。だからこっちこそ感謝してる。ありがとう、アイツをぶっ飛ばしてくれて」

 

「どういたしまして。困った時はお互い様、だね!」

 

 お互いに感謝を告げて、にこやかに笑うキュアホイップ。そこに水を差すようにして、ふとキュアジェラートが自分の疑問を呟いた。

 

「うん? パンなのにキラキラル入ってるの?」

 

「菓子パンっていうのは日本独自の概念で、他の国ではイーストで膨らませたケーキの一種と言われてます。だから別に不思議じゃないと思いますよ?」

 

「へー、なるほど~」

 

 横からキュアカスタードの説明を聞き、キュアジェラートはポンと手を叩いて得心を覚える。

 そうこうしている内に、ポッピーは自分の荷物をまとめに入った。そこら辺に放置したアタッシュケースを拾い、変身を解除しようとする。

 その一歩手前、何の前触れもなくポッピーの動きが止まった。金縛りの如く微動だにせず、キュアホイップたちは不意に首を傾げてしまう。ポッピーの視線の先には、鏡と言っても謙遜なく周囲の景色を写し出す金具がちょうど存在していた。綺麗に磨かれた金具の中のもう一人の自分から、ポッピーは目を離さない。

 徐々に指先が震え始め、鏡代わりのそれをバッと覗き込む。空いた手で何度も自分の顔を触り、その感触を確かめると膝を落として大きく俯いた。

 

「あ、あれ? 急にどうしたの? どこか具合悪い?」

 

 急変したポッピーの様子を案じたキュアホイップは寄り添い、他の二人もやや不安げな表情で彼女の側に座る。すると――

 

「ピ……」

 

「「「ピ?」」」

 

「……ピプペポパニック」

 

 そこはとない悲しみの色に包まれながら、ポッピーは静かに天を仰ぎ見た。




Q.こら。敵を倒すんじゃなくて、敵を料理しなさい。

A.パン職人なので叩いたりするのはセーフ……だといいな……


Q.キラキラルガシャットを神に作ってもらわなければ。

A.もしくはレペル1になって、キラキラル摘出という名の肥満治療を。


Q.この世界におけるライダーシステムの修正パッチは?

A.総じてプリキュア寄りになります。男だってお姫様になれるなら、仮面ライダーだってプリキュアになれる(白目)


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“仮面ライダー”ポッピーは死んでいない

レベル1→ガシャット

レベル2→ガッチャーン

レベル3、4、5→(ドライバーの外側スロットに挿し、レバーをもう一回閉じ開き)アガッチャ!

レベルX→バグルアップとアガッチャ(ゲンムレベル0とデンジャラスゾンビ)、ダブルガシャット。

ゲーマドライバーのクロノスが成立するなら、ポッピーも問題ないしレベル1形態もあるはず。



ポッピーへの変身について、本当ならレベルアップ時の音声は玩具ゲーマドライバーで「背伸びしたいけど♪ ちょっぴり照れるわ、ときめきクライシス♪」となります。
「ドリーミングガール♪~」はガシャット二個挿し時です。しかし、どう考えてもときめきクライシスはレベル1→2ではなくレベル1→Xな上、現状では二個挿しは無理なので、敢えて音声は馴染みある後者の方にします。マイティブラザーズXXみたいなものだとご了承ください。お騒がせしてすみませんでした。


これも全部、ポッピーレベル2、もしくはレベル0用のベースガシャットがないせいである。神が不正なガシャットを没収したくなる理由がわかります。

玩具に沿うと理論上なら、ガシャットの数だけ仮面ライダーゼビウスとか仮面ライダーパックマンとかいる事に……あっ、エグゼイドとゲンムのマイティアクションX二個挿しもできるや。





「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

『高速化!』

 

「うぇっ!?」

 

 腹の底から絶叫した俺は、ちょうど近くにあった高速化のエナジーアイテムを取得し、猛スピードでこの場を離れる。後ろでウサミミのプリキュアがすっとんきょうな声を出していたが気にしない。むしろ、このパニック状態から脱したいあまりに気が動転していた。

 森を抜け、坂道を下り、息が続く限り住宅街の中を駆け抜ける。

 ゲーマドライバーで仮面ライダーに変身できたかと思えば、ポッピーの皮を被ったときめきクライシスのヒロインだった。皮を被りすぎて、もはや仮面のないただのポッピーだった。ピポパポ付かない方の女子になっていた。直にボディチェックをしなくてもわかる男の象徴の喪失感と、控えめながらも母性の詰まった双丘の誕生が何とも言えない。ゲーマドライバーの音声もポッピーになっていたし、混乱が収まらない。

 

「ママー。あそこに叫びながら走ってる変な女の人がいるよー?」

 

「こらっ、見ちゃいけません!」

 

 ヤベッ、ポッピーに変身したままだった。

 俺は目撃者二人の視界から一気に外れ、人影のない路地裏で変身を解除する。

 

『ガッシューン』

 

 その際に出たゲーマドライバーの音声もやはりポッピーだったが、肝心の性別と容姿は元に戻ってくれた。一時はどうなるかと本当に焦った……。これで両親に「あなたたちの息子が娘になって帰ってきました」と報告せずに済む。

 ぱっぱと変身道具一式をアタッシュケースに仕舞い、家に帰る。頭痛も起きていないし、ゲーム病については問題なさそうだ。発症=治せる医者がいないから死ぬ、の構図なので助かる。てか、ゲーマドライバーで変身できたって事は……深くは考えまい。

 

 それから二週間近くが経過するも、やはりバグスターウイルスに肉体を蝕まれるなんて事はなかった。変身するまでの事態には直面しなかったし、何事もなく万々歳だった。

 その間に変身道具一式を調べてわかった事は、一切原理不明だがゲーマドライバー・バグヴァイザーⅡを四次元ポケットよろしく持ち運べる・ゲーマドライバーをパソコンにケーブル接続する事でときめきクライシスがプレイできる点の二つだ。ドライバー本体はブラックボックスの塊だったので微塵もわからず、ガシャットの解析も一からゲームプログラミングを学ぶ必要があったので大変だった。勝手にガシャットの解析を試みてごめんなさい、檀黎斗神。

 そんなこんなで調べも一段落し、俺は再び趣味の菓子パン創作に戻っていった。ちなみに今ハマっているのはタルトパン。

 近頃、俺の住むいちご坂にてスイーツフェスティバルが開催される。平たく言えば、パリの国内一フランスパン決定戦の親戚みたいなものだ。大会というよりも祭りだが、どのパティシエたちもこの日のために新作スイーツを出したりと、祭りの本気度は窺える。

 

 その影響もあって、今日の多くのスーパーや商店などがスイーツ用の材料を完売するという珍事が発生。供給は追い付いておらず、もはや買い出しは隣街にまで向かわなければならない始末。いちご坂の住民の熱意ヤバすぎだろ。

 

 そんな中、俺は最寄りの店でのほほんとタルトを買っていた。タルトパンの参考にするために、その味を盗むぐらいの意気込みで小遣いを投入した。これで無駄にしてしまったら泣いてしまう。

 すると、路上でキラキラと日光を反射している翡翠の物体を見つけた。それを拾ってみれば、しっかり綺麗にカッティングされたエメラルドだとわかる。指で摘まめるサイズというのが、否応なしに本物感を漂わせる。

 

「オモチャ……? 本物……?」

 

 また、オモチャと断定してポイ捨てしようにも、このまま持ち去ろうにも恐怖を抱いてしまう。もしも本物の貴重品だとしたら、その莫大な価値の重みがのし掛かってきて心苦しい。交番に届けるのがベターだな。

 そう考えながら道の角を曲がると、視界の下に妙な影を発見。思わず立ち止まってみれば、俺の足元で何故か歩道に這いつくばっている人がいた。赤みがかった短い茶髪をしていて、シャツとジーンズを着ている。

 

「えっ」

 

 まさかに不意打ちに俺は敢えなく驚き、その場から二、三歩退いた。一瞬だけ男の不審者かと思ったが、脚が細いので女性だ。多分。

 それに応じて女性も俺に気付き、「あっ」と声を上げて咄嗟に立ち上がる。結構な背丈だ。

 

「ごめん。驚かせた?」

 

「あー、いえ。大丈夫です。それじゃ」

 

 そう謝る女性に俺は差し当たりなく返事し、さっさと横を通り抜けようとする。しかし――

 

「あっ、その前にちょっと一つだけ。この辺りに小さな宝石とか落ちてるの見なかった? 落とし物を探してるんだ」

 

 その言葉で俺の動きはピタリと止まり、先ほど拾ったものを静かに差し出す。

 

「それってコレの事ですか? 本物かどうかわからないんですけど」

 

「えーっと……」

 

 直後、俺の手のひらに乗っかったエメラルドを女性がぐいっと覗く時間が数秒続いた。次第に空気は重くなり、女性はようやく顔を離すと苦笑しながら話し始めた。

 

「実は落とした本人の代わりに探してるんだ。その人に直接見せてもらっていいかな?」

 

 どうやら、目の前の人も宝石の鑑定は無理だったらしい。俺も早くこのエメラルド(仮)の重圧から解放されたいので、二つ返事で了承した。

 その後、彼女の後ろを付いていくと、困り果てた表情でベンチに腰を降ろしているおばあちゃんと出会った。その隣にはもう一人、紫の髪を伸ばした綺麗な女の人が座っている。モデルか?

 そして結果、俺が拾ったエメラルドは奇しくもこのおばあちゃんが落とした物だった。確かに彼女の着けている指輪には謎の窪みがあったし、エメラルドのサイズも合っている。エメラルドが手元に戻ったおばあちゃんは喜びながら、自分の代わりに探しに行ってくれた彼女にお礼を告げた。

 

「ありがとうねぇ。大変だったでしょ?」

 

「いえ、先に彼が拾ってくれていたので」

 

 次におばあちゃんの感謝がこちらにも向けられたので、俺は「どうも。それじゃあ」と軽くお辞儀をしてその場を後にする。とんだ偶然も重なるものだとしみじみに感じた。

 

「「ゆかり様~!!」」

 

「「あきら様~!!」」

 

 その時、十人ほどの女子生徒の集団と擦れ違う。やたらと騒がしかったので何気なく視線をそちらにやれば、今度は二手に別れてさっきの二人をどこかに連れていく。白昼堂々の御輿みたいな強引な連れ方に、俺は呆れて物が言えなかった。

 

「……やっぱり、この街の住人どこかおかしいな」

 

 気が付けばボサッと立ち尽くしていた。やがて二つの集団の背中が見えなくなり、一息ついてから歩き出す。

 瞬間、右手に提げているタルト入りの箱に謎の重みが襲い掛かってきた。嫌な予感しかせず、即座に見下ろすとそこにはガミーと同じような珍獣が箱に取りついていた。頭にはタルト台に似た帽子を被っている。

 

「キラキラルン、いただきタル~♪」

 

 “キラキラルン”。その単語に先日の事件が脳裏に甦り、やられてたまるかと相手を勢いよく振り払う。だが既に遅く、このタルト生物があっさり飛び去っていった後に箱の中身を確認すると、案の定灰色クソマズタルトが納められていた。

 

「……タルト野郎が」

 

 一度ならず二度までも。タルト野郎の消えた先をギロリと睨み付ける俺の胸には、すっかり憤怒の炎が燃え盛っていた。

 上等だ。痛い目を見ないとどれだけの愚行を犯したのかわからないのなら、何の迷いもなくやってやる。灰色クソマズタルトの落とし前をつけさせてもらう。こんな事もあろうかと変身道具を携帯しておいて正解だった。

 早速、タルト野郎の追跡を開始する。明らかに山の方へ向かっていたが、ガミーとの一件を省みてもサイズはぬいぐるみのまま。ある程度の巨大化を果たすまで、灰色クソマズ菓子の製作はやめないだろう。

 周りに人気がちょうどなくなり、森の中に入ったところで俺はゲーマドライバーを腰に巻く。走りながらときめきクライシスを起動させ、内側スロットに装填する。

 

『ときめきクライシス!』

 

「変身」

 

『ガシャット!』

 

『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!? アイム ア 仮面ライダー!』

 

 声の役は変わらずポッピーのまま。しかし、試してみればれっきとした仮面ライダーポッピーレベル1に変身できていた。ずんぐりむっくりとした白い体型に、大きなフルフェイスの仮面。それでいて走るスピードはレベルアップ時と遜色なく、野道をぐんぐん踏破していく。

 良かった……レベル1がちゃんとレベル1で良かった……。おかげで俺の心は幾分か救われる。

 ゲームエリアも展開され、たまたま道先で一個のエナジーアイテムを踏んづける。

 

『ジャンプ強化!』

 

「うおっ!?」

 

 ジャンプ力が格段に上がり、軽く跳ねただけでもかなりの距離を稼げる。若干振り回されがちになるが、数回ジャンプすればコツは掴めた。

 今度は両足で大きく跳躍し、そのまま空へと身を踊らせる。降下しながら辺りを見渡せば、ここから少し進んだ先の広場でタルト野郎の姿を見つけた。

 

 ※

 

「「「できたー!」」」

 

 移動可能なスイーツショップ『キラキラパティスリー』、通称キラパティの調理室にて。いちか、あおい、ひまりの三人は試行錯誤を重ねて、ようやく満足の行くタルト台を完成させていた。近日開催されるスイーツフェスティバルに向けての新作であるので、その込められた熱意と想いは決して安くはない。なお、新作スイーツのテーマはフルーツタルトである。

 残すはタルト台に盛り付けを済ませるだけ。その決め手となるフルーツは現在、ここにはいない他の二人が買い出しに行っている。後は待つだけだが、どうにも待ちきれなかった三人はタルト台を持って外へ。しかし、そこにいるのは一匹の幼い妖精とダンディな老紳士だけだった。

 

「ペコ~。ゆかりとあきら、まだ帰ってこないペコ~?」

 

 幼い妖精――ペコリンが買い出し組の名前を呟きながら、遠くを眺める。わたあめのようなモコモコの髪が特徴の、どこか犬に似ている珍妙な生物だ。ちなみに老紳士はペコリンと同じ妖精で、長老と周りから呼ばれている。今は人間の姿に化けていた。

 すると、空からキラパティに近づいてくる一つの影を目にする。まだ豆粒になっているぐらいに遠く離れているにも関わらず、あろう事かペコリンはのんきにも買い出し組が帰って来たと早とちりした。

 

「あっ、帰ってきたペコ」

 

「いや、あれは……」

 

 すかさず長老がペコリンを制する。徐々に影の正体が判明し、両手にそれぞれ持っている二つのタルトからキラキラルを吸収しながら元気に叫ぶ。

 

「力がみなぎるトーン!」

 

 正体はキラキラルを奪いし悪の妖精、タルトーンであった。やがてタルトーンは空中で巨大化を果たし、ペコリンと長老は凍りつく。

 次にタルトーンは片足で着地。その尖っている足で器用にバランスを取りながら、いちかが持っているプレートに置かれたタルト台に目をつける。先ほど灰色にして捨てたタルトよりも、ずっと興味がそそられている。

 

「タルトーン! タルトの匂いがするトーン。そのキラキラルがあればもっとエレガントに回れるトーン!」

 

 ガミーとは違い、一軒家並みに巨大化したタルトーンは相変わらず語尾を付けている。ただ耳にするだけなら愛嬌を感じられるが、これからやろうとしているのは一種の冒涜。職人たちに限らないスイーツを作る人やそれらを愛する人、食べる人の気持ちを私欲のために踏みにじる事だ。

 いちかは自分の背にタルト台を隠し、あおいとひまりが彼女を庇う。キラキラルを奪われる理不尽を味わってきた身として当然の行動に加えて、今日起きた出来事も相まってタルト台を渡すつもりはさらさらなかった。いちかは一心になって、タルトーンに反抗する。

 

「ダメ! このタルトがなくなったら、ゆかりさんとあきらさんが帰ってこなく――」

 

『マッスル化!』

 

 その時、メタボだと見間違えるような白い巨躯が、一陣の風ならぬ砲丸となってやって来た。足元を狙い、強力なタックルでタルトーンを転ばす。

 

「タルッ!?」

 

 そのまま仰向けに倒れるタルトーン。タックルをした張本人、仮面ライダーポッピーレベル1はタルトーンの足元で佇む。その装甲に覆われた無機質な顔には、どうしてか怒りの色が窺える。

 

「白いドラえもん?」

 

「ゆるキャラ?」

 

「なんか出たぁぁぁ!?」

 

 最初はあんぐりと見ていたいちかたちも、三者三様の反応を示す。知っているポッピーの姿はレベルアップ時なので、ただの着ぐるみにしか見えない以上は全く気付けない。せいぜい、髪型とゲーマドライバーが共通している事だけだ。

 ポッピーの太い腕の中には、タルトが入った箱が大事に抱えられていた。勢いで乱入してしまったため、安全な場所に置いておくというのが後回しにされていた。プルプルと震えるポッピーは息を深く吸い、タルトーンに咆哮する。変身に伴って女の子らしくなったボイスで。

 

「この……タルト野郎ォォォ!!」

 

「なっ、失礼な!? タルトーンっていう立派な名前があるんだトーン!」

 

「トントンうるさい!」

 

 起き上がろうとしたタルトーンの顔面にポッピーはスタンプを決めて、後頭部を地面にぶつけさせる。物理ダメージがなくとも痛いものは痛い。タルトーンは涙目になりながら、顔面の上に立つポッピーを軽く振り落とす。巨大化の賜物だ。

 落とされたポッピーが難なく着地するのも束の間、タルトーンは反撃を開始。手始めに尖った腕を突き出しては、ポッピーに軽々と蹴り捌かれる。

 

「トーン!?」

 

 十分な質量攻撃になっているはずなのに、タルトーンはまるで手応えを感じなかった。焦りの表情が浮かび、相手の観察を怠ってはコマ回転の体勢へ移る。元よりポッピーは自分に対して有効打を持っていないのだが、とにかく回って全てを吹き飛ばそうという短絡的な発想に至った。

 

「ダメペコ! キラキラルを使わないと攻撃が効かないペコ~!」

 

 怒りのままタルトーンに立ち向かっていくポッピーに、ペコリンが叫ぶ。おかげでポッピーの意識がペコリンの方にも割かれ、タルトーンに片足立ちを許してしまう。

 刹那、コマ回転を始めたタルトーンにぶつかったポッピーの身体が宙に舞う。ちょうどキラパティに向けて放物線を描き、くるくる身体を回されても箱だけはしかと掴んで離さない。

 これを見ていちかたちはハッと我に返り、すかさず変身した。

 

「「「キュアラモード・デコレーション!」」」

 

 長い変身シーンは割愛。一足先に変身完了したホイップは、落ちてくるポッピーを受け止めようと試みた。

 

「あぎゅっ!?」

 

 しかし、不様にもポッピーの下敷きになってしまう。それでも懸命に名乗りを上げようとした。

 

「キュ……キュアホイップ……出来上が……り」

 

「あっ、わりぃ! ケガは!?」

 

「ううん、大丈夫」

 

 大慌てでポッピーは立ち退き、ホイップの身を案じる。目立った外傷はなく、ホイップは笑顔で答えた。

 その間にもジェラートが果敢に前へ飛び出し、両手の中で氷塊を精製。遅れてカスタードもホイップが無事とわかるや否や、ジェラートの背中を追い掛ける。

 

「タルトは渡さない!」

 

 そう宣言したジェラートは氷塊を発射する。だが、氷塊は高速回転を続けるタルトーンに弾かれ、弾道を百八十度転換。そのままジェラートに向かって反射された。

 

「あわわっ、危ないですジェラート!」

 

「うわー!?」

 

 注意を飛ばすカスタードだが回避は間に合わず、氷塊を腹にもらったジェラートもろとも吹き飛ばされる。

 次に、気を取り直したホイップが二人と早速入れ替わった。ピンク色のクリームエネルギーを鞭状に形成し、掛け声を発しながら繰り出す。

 

「今度の私の番! いっけー!」

 

 すると、クリームウィップは回転中のタルトーンに絡み取られた。それから両者の引っ張り勝負が始まるものの、膨大な遠心力を生み出しているタルトーンに軍配がすぐ上がった。巻き取られるクリームウィップからホイップは手を放そうとせず、カスタードとジェラートも加わって一緒に踏ん張る。

 無論、それは無駄に終わった。三人まとめて引き寄せられ、クリームのコマと化したタルトーンに囚われる。もはや首から下がクリームに埋まっており、見方を変えればさながら絶叫マシーンだ。

 

「「「キャーっ!!」」」

 

「何やってんだァァァ!?」

 

 ホイップたちは絶叫し、ポッピーが声のあらん限り突っ込む。とても見ていられる状況ではなく、ポッピーは箱を下に置いてからゲーマドライバーのレバーを動かした。

 

『ガッチャーン! レベルアップ!』

 

『ドリーミングガール♪ 恋のシミュレーション♪ 乙女はいつもときめきクライシス♪』

 

 レベルアップを果たし、バグヴァイザーⅡをチェーンソーモードにしてタルトーンに肉薄。相手の攻撃範囲ギリギリまで接近し、擦れ違い様にクリームウィップを縦一閃する。これにより、拘束から解放された三人はきりもみ回転しながら辺りの地面に落ちた。合わせてタルトーンも回転をやめて、得意げに大笑いする。

 

「ハッハッハッハ! どうだトン! もっとキラキラルを手にして、もっとエレガントに回るんだトン!」

 

 対して、ポッピーの眼光は鋭くなるばかりだった。三人のプリキュアたちはまだグロッキー状態のまま、地に伏せている。

 

「ウフッ、とんだエレガントね」

 

 瞬間、その言葉を聞いた全員の視線が一ヶ所に集中する。新たな乱入者にタルトーンは小首を傾げて尋ねた。

 

「ん? 誰だトン?」

 

 タルトーンから離れた木陰の中で、美しい紫の長髪が揺れる。まず現れたのは美少女高校生、琴爪ゆかりだった。その大人びた雰囲気と麗しい姿から、本人の知らないところで親衛隊が結成されるぐらいに人気を博している。

 

「遅れてごめん、みんな!」

 

 次にやって来たのは、ボーイッシュな容貌をしている女子の剣城あきらだ。格好からして男によく間違えられ、高校では女子の制服を着ているのに王子様と呼称されるほどのルックスを持っている。その人気の高さは、隣に立つゆかりと肩を並べられる。

 

「ゆかりさん! あきらさん!」

 

 二人の姿を見つけたホイップは嬉しさ満点の顔で名前を呼んだ。ゆかりとあきらはそれに笑顔で答え、すぐさま気持ちを切り替えてスイーツパクトを構える。ちなみに、ポッピーはまさかの顔見知りの登場に愕然としていた。

 

「「キュアラモード・デコレーション! マカロン / チョコレート!」」

 

 そして、彼女たちも変身した。

 

「美しさと、ときめきを! レッツ・ラ・まぜまぜ!」

 

 ゆかりは白と紫のドレスに身を包み、クリームエネルギーを操って猫マカロンを作る。手のひらに乗せたそれにキスをすれば、猫耳と尻尾が本人に生えた。

 

「強さと、愛を! レッツ・ラ・まぜまぜ!」

 

 一方であきらは、清々しいまでの男装麗人になっていた。赤い服は王子風と呼んでも差し支えなく、チョコレートのクリームがマントと帽子を形作る。それらを身に付けた後、彼女に犬の耳とフサフサの長い尻尾が生えてきた。

 

「キュアマカロン、出来上がり!」

 

「キュアショコラ、出来上がり!」

 

 それぞれ決め台詞とポーズをこなし、タルトーンと本格的に対峙する。当の妖精は残念な事に二人の驚異度を測れず、単純にコマ回転を再開しただけだが。満足な速度を叩き出しては突進していく。

 

「皆、後は……」

 

「私たちに任せて!」

 

 その後、作戦「ガンガン行こうぜ!」を地でやったタルトーンに待ち受けていたのは、マカロンとショコラによる一方的な戦いだった。タルトーンの回転タックルはショコラが作ったクリームの壁で容易く阻まれ、苦し紛れに頭部から放った幾つもの巨大ボールはマカロンに弾かれる始末。しかも、逆にそれを投げ付けられた。

 マカロンはタルトーンの頭を足場に空中へ。地上からショコラが援護としてクリームビームをタルトーンに放ち、その隙にマカロンがホイップペンの筆先に息を吹き掛ける。

 すると、筆先から出た無数のシャボン玉がタルトーン目掛けて飛んでいった。シャボン玉はタルトーンを襲っているクリームに吸着し、尋常ではない浮力を発揮してタルトーンごと上昇する。勝手に宙に浮いてしまった事にタルトーンは狼狽するが、逃れるのはもう遅かった。

 

「キラキラキラルン、キラキラル」

 

 やがてフィニッシュが訪れ、その前段階としてマカロンが唱えた。ホイップペンで作ったのは、人一人を乗せられるぐらいの巨大クリームマカロンだ。

 

「ショコラ!」

 

「ああ!」

 

 マカロンの呼び掛けに応じ、ショコラはクリームマカロンへと飛び乗る。マカロンは自身を中心にその足場を目に留まらぬスピードで振り回し、ショコラの残像を大量に作る。

 

「キラキラキラルン、キラキラル!」

 

 とどめの役はショコラが担った。猛スピードで景色が変わっていく中、彼女の放った幾つものクリームの球が螺旋を描き、網となってタルトーンを包む。それから炸裂するのは秒にも満たない。

 

「あぁァァァァ!?」

 

 こうして、キラキラルが排出されて元のサイズに戻ったタルトーンは空の彼方へと吹っ飛んでいった。

 

「やったー!」

 

「すごいよ、マカロン!ショコラ!」

 

 タルトーンの撃退にジェラートは感嘆し、ホイップはバンザイしながらマカロンたちの元へ駆け寄っていく。

 だが次の瞬間――

 

「ごめん! まだフルーツ買ってないんだ! キラパティで待ってて!」

 

 いきなり謝るショコラにずっこけるホイップたち三人。ショコラは変身解除し、同じく元に戻ったゆかりの手を掴んではこの場を走り去っていった。

 

「カムバーック!!」

 

 突然の事で理解の追い付いていないホイップは、何故か背中を大きく反らせながら二人の後ろ姿に手を伸ばす。当然、その手は届かない。

 

「まぁ、あの調子なら帰ってくるでしょ。多分」

 

「ですね」

 

 一方でジェラートはそう判断し、カスタードも隣のホイップに苦笑しながら頷く。ともあれ、危機は過ぎ去った。

 

 ところ変わってキラパティの前。この間にもタルト入りの箱を取りに行っていたポッピーだったが、今ではぐったりと仰向けに倒れていた。両手で保持する箱は腹の上に乗せて、虚ろな表情で空を見上げる。

 

「ジャバ!? お主、見てない間に何があったんジャバ!? もしもし? もしもーし!」

 

「目が死んだ魚みたいペコ!」

 

 そんな彼女の側に寄ってきたのは長老とペコリンだった。長老は既に妖精態に戻っており、ポッピーの倒れている場所がギリギリキラパティの敷地内であるため、一歩外に出れば消滅確定の霊体でも行けた。

 この騒ぎはホイップたちの耳にも届き、何事かと駆けつけてくる。早々ジェラートとカスタードは絶句し、ホイップは目を見開かせながらポッピーに声を掛ける。

 

「えっ、なになに!? 今度はどうしたの? 久しぶりに会ったけど大丈夫? 顔色がスッゴい幸せじゃなくなってるよ」

 

 挨拶も兼ながらポッピーの容態を確かめていくホイップだが、彼女は何も喋らない。代わりに片手で箱を器用に開けて、中身の様子を表にさらけ出す。

 

「あっ、これは……」

 

「酷い有り様です……」

 

 苦い顔になったジェラートに続き、カスタードのその一言がポッピーの心を鋭く貫いた。徐々にポッピーは静かに涙を流し始め、されど目が虚ろすぎて不気味なオーラを醸し出しているせいで哀観よりも恐怖心を誘う。

 箱に入っていたのはフルーツタルトだった。それは先ほどの戦闘で安全地帯に置かなかったツケが来て、見るも無残な姿になっている。タルト生地は中割れし、盛り付けられていたフルーツは散乱。併せて塗られていた生クリームも滅茶苦茶に箱の中を汚し、タルトの美しさを著しく損なわせている。人によっては、もはや食べる気すら失せる代物と化していた。

 

「……バカだった。箱持ちながら戦った自分がバカだった……」

 

 ようやくポッピーが口を開いたかと思えば、声に抑揚がなくなっている。頬も僅かに上がっており、どこからどう見ても自嘲しているような感じだ。とても目を当てられない姿に全員が困惑する。

 

「えっ、えっと……大丈夫だよ! 食べられなくなった訳じゃないし、フルーツもまた盛り付け直せば平気平気!」

 

「そんなに気を落とさないでください。前もさっきも戦いに来たという事は、スイーツを守るためだったんですよね? なら胸を張って、その想いのために元気を出して。でないとスイーツが報われません」

 

「そうそう! どんなに崩れたって味は変わんないさ! ショックなのはわかるけど……」

 

 ホイップの精一杯なフォローを皮切りに、カスタード、ジェラートの順で傷心のポッピーを励ます。それはポッピーの目に少しの光を取り戻させ、彼女の声の調子も甦っていく。

 

「……そう、だよな。味は変わんないよな? だって、店を持ってるパティシエの作ったタルトだし。どんなにぐちゃぐちゃになっても美味しいはず。だけど……それでも綺麗な状態で食べたいって思うのは、贅沢か? しちゃいけない事か?」

 

 しかし、ポッピーがそう放った疑問に三人は言葉が詰まった。互いに視線を交わすが、なかなかポッピーへの返答が決まらない。

 しばらくするとポッピーは悲しみの涙を流したままで微笑み、大きな声で呟いた。

 

「あぁ、心がピヨるなぁ……」

 

 それも束の間、何やら決心した表情のホイップがバンと立ち上がった。未だに泣き止まないポッピーを見据え、一つの案を彼女に提示する。

 

「わかった! じゃあ、新しくタルトを作ろうよ! 一緒に!」

 

「へ?」

 

 それを聞いたポッピーはきょとんとし、おずおずとホイップに確かめる。

 

「作るって……いいの? てか何で?」

 

「何でって、そうしたらあなたが心の底から笑顔になれると思ったから。やっぱりスイーツ食べるなら、幸せになった方が一番だよ」

 

 そうしてホイップはジェラートたちと顔を見合わせる。他の人もうんうんと頷き、ホイップの意見に同意する。気が付けば、辺りの空気は完全にポッピーを歓迎していた。そこに拒絶の意思は微塵も漂わない。

 その空気に当てられたポッピーは思わずほっこりし、数瞬だけホイップの提案を受け入れるかどうか考える。自身の本当の性別もあって女子たちの輪の中に入るのは迷ったが、相対的にメリットも大きい。そして何より、彼女たちの優しさが身に染みた。

 

「……人の親切を無下にしちゃ悪いよな。うん、わかった。よろしく頼む」

 

 結果、元気になったポッピーは颯爽と立ち上がり、ホイップにそう告げる。遂に心の壁を除けた彼女にホイップは嬉しさ満点で笑い、快くキラパティへと招き入れた。

 

「よし! それじゃ善は急げ、だね! さぁこっちこっち!」

 

 なおこの後、一斉に変身解除してポッピーが少年の飛那になった事にひまりやあおいはともかく、一度ポッピーの変身前を目撃しているはずのいちかも盛大に驚くのであった。




Q.ライダー皮被り被害者の会

A.

ソーサラー「金色の魔法使いかと思ったら金色の魔法少女だし、他のみんなはキュアップ・ラパパとか唱えてた。エクスペクトパトローナムないの? 助けてダンブルドア」

マリカ「変身したらプリキュアみたいな姿になった。騙された」

Rナスカ「おかしいなー。ロストドライバーで変身したのに姿がプリキュアチックだぞー。おかしいなー(白目)」

キバーラ「てっきり女物の鎧を着るだけかと思ったら、女になってた」

天鬼「音撃戦士だからと油断してたら、鬼の少女になった」

ファム「何か妖精がライダーデッキに化けたんだ。騙されたと思って変身してみれば、この通りだよ。ちくしょう」

現状、これだけは思い付いてる。ソーサラーにしたのは使う宝石の差別化。ワイズマンでもいいけど、それだとワイズウーマンになるだけなので微妙。きっちり絶望もさせたいし。


Q.マイティアクションX、タドルクエスト等のレベル2用ベースガシャット以外は内側スロットに挿しても、そんなデータないとかで実際は変身できない説。追加装備扱い。

A.それは神お手製ガシャットに限る……と思いたい。どうか、ときめきクライシスにご慈悲を! いや、待て。曲がりなりにも不正なガシャットだったらワンチャン……

それはそうと、仮面ライダーポッピーも想定されていたらベースガシャットは何にされていたのだろうか……。ドレミファビートは追加装備レベル3として取られてるし。


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