ダンジョンにハグレ王国がいるのは間違っているだろうか (ひまじんホーム)
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プロローグ

 シリアスな話ばかり書いてると筆が進まなくてヤバい。


~迷宮都市オラリオ~

 

 ここは世界の中心とも呼ばれる迷宮都市オラリオ。その代名詞とも言われるダンジョンの上に聳え立つのはバベルの塔。そしてそこから少し離れた郊外に、ひっそり佇む雑木林。その中で一番大きな木の上に、まるで秘密基地の様にそのホーム〈拠点〉は建てられていた。

 

「さあ、お前たち!今日も力一杯稼いでくるのですよ~!」

 

「「「は~い!」」」

 

 〈創造と芸術〉を司る神サルバトール・ジャッコメディ・ポッコが主宰する、ポッコファミリアが所有するホームでは、今日も子供達の元気な声が飛び交う。

 暇潰しに下界に降りてきた神々がもたらすファルナ〈恩恵〉によって、永劫の繁栄を約束されたかのようなこの街では、人も物も金も名誉も、そこに集う人々の夢も欲望でさえも、等しく混じり合う。

 そんなオラリオにあって酷く場違いなその光景に、事情を知らない者ならば自らの目を疑うだろう。

 しかしそんな彼らもまた、この街で一旗揚げようと目論む冒険者達と、何ら変わらぬ野心を胸に秘めた者達であった。

 神ポッコは、自分にこの街でファミリアを運営するよう命じた親神の無茶振りを思い出す。

 

 

 ~ハグレ王国 会議室~

 

「失礼します、福の神様。お話とはなんでしょう?」

 

 神々が住まう神界において、和の国の最大派閥を治める福の神一派。ポッコは若くして神様中納言の地位を与えられ、派閥の中でも将来を期待された優秀な神なのである。

 

「そんなに畏まらなくていいのよ、ポッコちゃん。はい、温かいお茶とお煎餅でもかじりながら聞いてちょうだい。」

 

「はぁ。ありがとうございます。いただきます。」ボリボリ

 

「どう?美味しい?」

 

「はい、美味しいです。」ズズッー

 

 本当は年相応にジュースとチョコのような甘いお菓子が大好きなのだけれど、組織の中で上司にあたる福の神様から、期待のこもったようなニコニコ顔で聞かれたらそう答えるしかない。夏休みに祖母の家に遊びに行った、小学生とおばあちゃんみたいなやり取りに、笑顔がぎこちないものになってしまうのも仕方ないだろう。

 

「今、おばあちゃんみたいとか考えなかった?」

 

「滅相もございませぬ。」

 

 福の神様に対して年齢についての話題は神界においてタブー中のタブーとされている。それに触れたら最期、光輝く黄金の鈍器で、お仕置きという名の粛清が行われる。神様なのに地獄耳なこのお方の洞察力は時として心を読んでくる程だ。気を付けなければならない。

 

「そう?じゃあ本題に移るのだけれど、ポッコちゃんは、神がその位を上げるには相応の功績や栄誉がなくてはならないことは知ってるわね?」

 

「はい勿論。中納言位になるまでも世界樹の繁栄と信仰の獲得に、様々な功績を積み上げた結果と思っています。」

 

 まだまだ修行中とはいえ、神界では新しい世界に分類されるこの世界で世界樹の繁栄とそれにより多くの信仰を集めたことは高く評価されており、更に、絵に描いた物を実体化させる神界でも珍しい特殊能力と相まって、ポッコは中納言という高い地位に就いている。

 

「そう。でもね、その世界樹で起きたあの一件。先日の邪神復活騒動にあのマクスウェルが絡んでいたことで、あの件を問題視する動きが神界で再燃しているのよ。」

 

「それは・・・、ドーラのことは確かに私の責任です。言い逃れはできません。もし、処分ということならば、甘んじて受け入れる所存です。」

 

 かつて、世界樹に入り込んだ魔物を掃討する為に、ポッコの従者ドーラが雇った帝都の騎士団はろくでもなかった。その士気の低さだけではなく、彼らが招き入れた召喚士マクスウェルによって、装備者の命を吸いとる危険なバイオ鎧兵器の実験場と化し、多くの死傷者を出す凄惨な事件となった。

 従者ドーラもこの事件で命に関わる重傷を負ったが、現在では日常生活に支障がない程度には回復している。

 

「あ、責めている訳ではないのよ?そこは誤解しないで頂戴。どうせ敵対派閥が福の神一派に嫌がらせしてきてるだけですし、相手も目星はついてますから潰すのは簡単なのよ。」

 

「は、はあ・・・。」

 

 わりと恐ろしいことを事も無げにさらっと言ってのける上司の開かないその目に、ポッコは背筋にうすら寒いものを感じ、その神が絶対に敵に回してはいけない存在だと改めて認識する。

 

「まぁ、でもね、丁度いい機会かな~って思って。」

 

「丁度いい機会・・・ですか?」

 

 福の神様が何を意図しているのか全く想像つかず、そのまま聞き返してしまう。

 

「ポッコちゃんの、昇進試験。」

 

「!!!」

 

「外野でワイワイ喚いているコバエもポッコちゃんが有無を言わさない功績をあげてしまえば黙るわ。そしてそれは勿論、昇進事由にもなる。でも、それでも現状もう一つ問題があってね。」

 

「問題といいますと?」

 

「世界樹の管理者、というだけでは今以上の功績を上げるのは難しいでしょうし、ハグレ王国内で活動しても、その功績はハグレ王国のモノなのよ。今の環境でポッコちゃんが功績を上げてもあまり評価をされない可能性が高いの。」

 

「え~と、つまり・・・?」

 

「ポッコちゃん、あなた異世界で修行してきなさい。」

 

「はい。って、はぁ~!?」

 

 優しくも厳しい上司によって神ポッコはオラリオに放り込まれることになったのであった。




 メインキャラはポッコちゃんと子供たちとその保護者になります。


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第1話 旅立ち

 まだプロローグだわ。これ。


~次元の塔 エントランス~

 

 ここは次元の塔。一体どういう理屈なのかは一切不明だが、ハグレ王国から直通で繋がった謎の建造物である。一度中に入れば、入る毎に地形が変わったり、アイテムが自動生成されたりなど、罠やモンスター犇めく1,000回遊べるダンジョンが思い出される。

 しかしこの次元の塔の恐ろしい所は、そんな話ではない。なんとこの塔の各階層は、異世界や宇宙、はたまた冥界や天界にまで繋がっている超異常地帯なのである。

 誰が、何の目的で建てたのか、そして何故ハグレ王国の拠点に繋がっているのか、原理も原因も謎のままであるが、ハグレ王国ではもうそんなことを気にすることもなく、体のいいレベル上げスポット程度の認識となっている。ハグレ王国の懐の広さ、恐るべし。

 そして、塔のエントランスで溜め息を吐きながら、自分のこれからを案じずにはいられない幼き女神が一人。

 

「だ~いじょうぶでちよ!ポッコちゃん!デーリッチ達にど~んと任せるでちよ!」

「そうだぜ!心配なんていらねぇよ!だってよ、ヅッチーなんだぜ?」

「まってよ~デーリッチちゃ~ん、ヅッチーちゃ~ん!」

「ほらほら、あなたたち!あまりはしゃぐと転んで怪我をしますわよ!」

「さ~てどんな冒険がみゃ~を待っているのか、た~のしみだぴょん!」

「ワシを楽しませてくれる相手はおるかのう?」

「ふむ、腹が減ったな。」

「あっ、こどらみかん持ってきたんだけど、みんな食べる?」

「「「食べる~!」」」

 

「おめ~らだから心配しちょるけんね!?」

 

 あまりにあんまりなメンバーに普段は意識して使わない素の口調が出てしまう。

 どうしてこうなった。なぜよりによってこのメンツが揃った。神ポッコはこめかみを押さえながら福ちゃんとのやり取りを思い出す。

 

 

 

~ハグレ王国 会議室~

 

「あの、異世界って?」

 

「文字通りよ?実は昨日、次元の塔の第10層が解放されたって、ヘルパーさんがローズマリーさんに伝えに来てくれたのよ。その先は異世界のオラリオという街のバベルの塔という場所に繋がっているらしいの。あなたは昨日お休みしていたけど、会議で皆には伝えてあるわ。」

 

 昨日は世界樹のお祭りが重なり、ポッコは会議を欠席していた。お茶を啜りながらそんな重要な話なら無理にでも会議に顔を出しておくべきだったかと思いつつ、話を返す。

 

「オラリオって、最近天界で話題のあの?」

 

「あら、耳が早いわね。話が早くて助かるわ。そう、そこでは天界から様々な神が暇潰しに下界に降りてきていて、気に入った冒険者にファルナ〈恩恵〉を刻んでは自分の眷族に仕立て上げ、日々派閥争いをしているのよ。」

 

「では、私も福の神一派として派閥争いに参加すると?」

 

「そうだけど、ちょっと違うわね。福の神一派ではなくて、ポッコちゃんが自分の派閥を作るのよ。そうじゃないと試練にならないわ。」

 

「良いのですか?それでは福の神一派にはメリットがないように思えますが?」

 

 てっきりオラリオで派閥の影響力を拡大するのが目的かと思ったポッコは首を傾げる。

 

「組織っていうのはね、大きければ良いってものではないのよ。あなたにもいずれ解るわ。」フフ

 

 自分よりも常に2歩、3歩先を見据えるその上司の底知れなさにうすら寒さを感じる。これが亀の甲より年の功というものか。

 

「今、年がどうとか考えなかった?」

 

「滅相もございませぬ。」

 

 考えてはいけないと思うと余計に考えてしまう。このお方は本当に心が読めるのではないかと疑ってしまう。

 

「そう?で、これからオラリオに行ってもらうんだけど、ローズマリーさんと話をしたら、ハグレ王国としてもオラリオには調査ということで人を出すことになったのよ。そのメンバーと一緒にオラリオに向かってちょうだい。」

 

 ハグレ王国にとって次元の塔はトラブル解決に精鋭を集めて駆け付けることが多い場所だった。が、今回は特段慌てることもないので、取り合えず調査という名目で少し人数を出すだけに留めることになった。

 

「え?でもハグレ王国から人手を借りたら私の功績にならないんじゃ?」

 

「ファミリアとして名を上げればそれはポッコちゃんの功績になるから問題ないわ。それに、オラリオで自由に活動するには冒険者になるのが一番なんだけど、冒険者は神が主宰するファミリアに所属する必要があるのよ。だから、ハグレ王国のみんなにはポッコちゃんのファミリアに所属してもらって活動してもらうことになるわ。勿論、現地で有望な人材がいれば、新しく眷族に迎えることもできるわよ。」

 

 いきなり異世界に放り出されることになり、それなりに不安もあったが、いつものメンバーが一緒なら幾分安心というもの。

 

「なるほど。分かりました。それで、ハグレ王国からは誰が参加するのです?」

 

「・・・まぁ、ハグレ王国の皆って、新しいもの好きでしょう?で、行きたい人募ったら思いの外希望者が多くなっちゃって、くじ引きにしたのよ。」

 

「はあ。」

 

 福の神様にしては珍しく歯切れが悪い話し方をする。

 

「え~と、選抜メンバーとは次元の塔で集合になってるから、行ったら分かるわ。ちょっとだけ大変かもしれないけど、頑張ってね!」

 

 どうにも不安が残るやりとりだが、その後、一旦準備を整え、言われた通り次元の塔に向かうことにした。

 

 そして、冒頭に戻る。

 

~次元の塔 エントランス~

 

 そこに集まったメンバーを一望して、ポッコの心にはもう不安しかなかった。

 デーリッチ、ヅッチー、ベル、ヘルラージュ、ルフレ、マオ、柚葉、こどら。お子様と自由人しかいないメンツを前に一体何をど~んと任せられるというのか。

 

「ちょっとちょっと、ポッコちゃん!ワタクシ!秘密結社リーダー!保護者枠ですのよ!?」

「知力2は黙っちょれ!」

「ひどっ!?」

 

「まぁ、この魔王マオ様が子供たちの面倒を見てやればよかろう?」

「生まれてから1年しか経っちょらんお子様魔王が何をぬかしやがるですか!?」

 

「も~皆こどらみたいに大人になろ?ね?」

「おめ~が一番不安なんですよ!?コタツから出てからモノを言いやがれです!」

 

「こどら、みかんもう1個。」

「は~い。」

「お前はブレないな柚葉!?」

 

「さ~冒険の始まりだぴょん!みゃ~がいっちばんのりだぴょ~ん!」ダッ

「あ!ずるいでち~!」ダダッ

「ヅッチーも負けねえぞ!」ダダダッ

「あっ、ダメだよ~!皆一緒に行動しないと怒られちゃうよ!?」

 

 

「ねぇ・・・きみたち?本来の目的を忘れてはいないかい?」

 

 

 

「!?」ピタッ

 

 この大騒ぎのなか、不思議と全員が聞き取った、静かに発せられたその言葉に時が止まる。

 

「ちょっと心配になって様子を見に来てみれば、出発前からこの有り様とは・・・。」

 

 ハグレ王国で一番怒らせてはいけない人物が、怒りのオーラを纏いながらそこに立っていた。

 

「ロ、ローズマリー・・・さん?」

 

「決めた。私も同行することにするよ。くじ引きの結果は仕方ないとはいえ、きみたちを自由に行動させたらろくなことにならなそうだ。」

「え゛っ!?」

 

 明らかにツッコミ役が不足しているこのメンツをポッコ一人でまとめるのは気の毒だと判断したローズマリー。ともう一人。

 

「やっぱり私も行くわ。ローズマリーだけじゃ面倒見きれないでしょう?」

「お姉ちゃんまで!?」

 

 先日のグルメフェスでは妹の確かな成長に嬉しさを感じていたミアラージュ。この発展途上の妹をまだまだ放ってはおけない親心と、そばでその成長を見守ってやりたい姉としての我が儘。この際、自分の我が儘を通させてもらうことにした。

 

 

「どうしたの?何か問題でもあるかな?ん?」

 

「「「め、滅相もございませぬぅ!」」」

 

 斯くして、一行はようやく旅立つのであった。

 

 

 




 水着イベント2章出だしのカオスっぷりが好きすぎてこんなメンバーに。
 ポッコちゃんと保護者達の胃は大丈夫なのだろうか。


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第2話 運命の出会い

 頭空っぽにしてノリで書いてってます。キャラ崩壊に注意。
 当方、画を描く能力がなく、お絵描きコンテストには参加出来ませんが、このSSで少しでも企画の盛り上げの役に立てたらな~なんて考えてます。


~迷宮都市オラリオ バベルの塔~

 

「ずばっ!」

「ずばばっ!」

「ずばばばばっ!」

 

「そびえ立つ塔!」

「拡がる街並み!」

「やってきました!」

 

「「「迷宮都市!オラリオ!」」」

 

「なんでそんなに息ピッタリなの!?」

 

 やけにハイテンションな王様二人と宇宙ニンジャウサギが謎のポーズを決めていると今回のメンバーで唯一と言っていい常識人枠ベルがツッコミを入れる。

 

「ここがオラリオですか。ここから一望しただけでもメチャクチャ広い都市ですね。帝都よりも更に広いんじゃあないですか。」

 

 ポッコは近くの窓から顔を出す。次元の塔からの転送出口は塔の中層辺りにあったらしく(実はとある神のプライベートルームなのだがここでは置いておく)、ここからは遠く街を一望できる。なるほど、街の端が見えない程に巨大な街並みが拡がるのが分かる。

 

「そうだね。こんな街で迷子にでもなったら大変だ。子供たちがはぐれないようによく見ておかないと。」

 

「ねぇ、ローズマリー。」

 

「ん?なんだいミアちん?」

 

「もう、いないみたいよ?」

 

「は?えぇ!?」

 

 いきなりハグレ者4名。ローズマリーの胃に穴が空く未来もそんなに遠くなさそうだ。

 

 

――――――――――――

 

~バベルの塔 最上階~

 

問:どうして塔を登るのですか?

答:そこに塔があるからさ

 

 かつて偉大なる探検家ジャッジ・マーロウさんはそう答えたそうだ。実にシンプルでありながらどこか真理に通じるものを感じさせる言葉である。

 その言葉を知らずとも、日頃から修験者が修行に籠るような道なき野山を、まるで自宅の庭のように駆け回るわんぱくなお子様達は、自然とその真理に辿り着いていたらしい。

 突入してきた異世界への出口が塔だと解り、ふと横を見やれば階段が。好奇心と行動力の権化たちにはそこで立ち止まるという選択肢は無かった。

 

 

「ここが最上階だぴょんねー!」

 

「ひゅー!すっっげーたかーい!」

 

「ちょっと!マリーさん達とはぐれちゃってるよ!?」

 

「って言いながらベル君も付いてきてるじゃないでちか~。」

 

「ボク、列になって移動してたハズなんだけど!?」

 

 螺旋状に続く階段をただひたすらに登り続けて辿り着いた最上階である50階。先程よりも少しだけ空に近付いたその場所から見える景色には視界を遮るモノは何もなく、このオラリオの街を見下ろし俯瞰していると、まるで自分が神にでもなったかのようにすら思える。

 

「ヅッチー!デーリッチも外見たいでちー!」

 

「いいぜー!よっと!」

 

「ほらほら、ベル君も細かいこと気にしてないで一緒に外の景色を見ようでち。」

 

「もぅ・・・。」

 

 陽を取り込むためだろうか、少し高い位置に空けられた窓の縁にぶら下がって外を見ていたヅッチーがデーリッチと場所を変わり、ベルも並んで顔を覗かせる。

 

「おぉ!空と街と草原がキレイに別れてるでちー!」

 

「凄いキレイ・・・。」

 

 デーリッチとベルは窓の縁に飛び付いて二人並んで外の景色を見る。この高さからは建物一つ一つの境が不明確になり街として一つの黄色い固まりに見える。人が作りしその街並みが、遥かなる空や母なる大地と視界を分け合う程に発展し、それは人という種族の成長を暗示しているかのようで、自分達の王国もいずれはより賑やかにしていきたいと思わせられた。

 ベル君も常識人とはいえ、好奇心旺盛なお子様。遥か彼方を見渡すその風景に心を奪われる。

 

 しかし、あまりのハイテンションで彼女達は油断していた。というか、ここは他人の住居であり、当然そこに住まう者がいて、勝手にあがりこむことは迷惑行為であるという、一般的な社会通念がすっぽり抜け落ちていた。

 

「お前達、何の用だ。」

 

 麗しの女神との憩いのひとときを邪魔され、無表情ながら不機嫌そうに声をかけてきたのは、身長にして2メートルは越える、猪人〈ボアズ〉という獣人族に属する大男。ただそこに存在するだけで圧倒的な威圧感を放つその男は、彼の二つ名を知らずともこう呼ぶだろう。曰く、『猛者〈おうじゃ〉』と。

 

「おじちゃんはここに住んでるんでちか?」

 

 そんな威圧感もどこ吹く風と言わんばかりに放たれた、どこまでも純粋に無邪気な子供らしい言葉の暴力。

 

「お、おじ・・・なんだと!?」

 

(俺はまだ32だ。おじちゃんと呼ばれるような年では・・・、いや呼ばれるかもしれんが。いきなり見も知らずの童女におじちゃん呼ばわりされるいわれはない。訂正させなければなるまい。)

 

「オッタルだ。俺のことはそう呼べ。」

 

 普段人が自分の名を呼ぶときには、愛しき女神を除いて、尊敬や畏怖、或いは嫉妬や敵意の念が込められている。オラリオにおいて自分と並び立つ者が存在しない絶対強者の自分がおじちゃん呼ばわりされるなど、認められない。断じて否である。

 

「じゃあオッタルおじちゃんでちねー!」

「縮めてオッちゃんでいいかな?」

 

「オッタルでいい。」

 

「オッちんでもいいんじゃないでちかね?」

「オッちんは、うっかりちんを重ねると危ないからやめよう、な?」

 

「オッタルだと言っているだろうがぁ!」ゴオッ

 

「「「ひゃ!?」」」

 

 普段は沈着冷静なオッタルがあまりに自由な子供達に苛立ちを隠せず、声を荒げ、殺気を顕にしてしまった。この殺気を浴びた者は例外なくその身を縮こまらせ、絶対的強者へひれ伏すもの。うっかり子供に向けて放ってしまい大人げないことをしたと数秒前の自分の未熟さを反省する。

 しかしこの子供達はあるはずのない例外(、、)であった。

 

「お~なかなかの殺気だぴょん!わくわくするぴょんねぇ!」

「オッちゃん結構つえ~んだなぁ!」

「ほら、怒らせちゃったよ!謝らないと!」

 

 ひれ伏すどころが殺気を受けてなお楽しそうな子供達。殺気を全く感じ取れない程に鈍いのか、それとも・・・。

 

(まさか、この童たち只者ではない・・・?)

 

 小人族〈パルゥム〉という訳ではない。目の前にいるのは正真正銘只のヒューマンと妖精の子供と獣人である。

 オッタルが思案げにしていると、不意に脇の扉が開かれた。

 

「オッタル、何を騒いでいるのかしら?その子供達は・・・はぅっ!?」

 

 扉を開けて姿を現すなり素頓狂な声をあげたのは、ここオラリオでロキファミリアと並ぶ最大派閥、フレイヤファミリアの主神。人も神も魔物ですら魅了する美貌を持つ美の女神フレイヤである。

 

(なんて澄みきった美しい魂の色・・・。紺碧、金糸雀、撫子、そして勿忘草、四者四様の輝きを放っている。性別が女なのが惜しいけど、男の子の方は手元に置いておきたいわね。)

 

「フレイヤ様、申し訳ございません。どこぞの童が紛れ込んだようで。直ぐに排除致します。」

 

「いえ、その必要はないわ。」

 オッタルを制し、神フレイヤは子供たちに語りかける。

 

「ねぇ、あなた達、私の眷族になりなさい。」

 

 それは提案ではない。遥か高みから下された命令である。神力〈アルカナム〉を使わずとも下界の者ならは美の女神の魅力〈チャーム〉に男は勿論、女でも抗うことは敵わない。

 例外(、、)を除いて。

 

「何言ってんだ?このオバサン。」

 

「オ、オバ、オバ・・・?」ピキ

 

――時が止まった

 

 それは美の女神に対する最上級の侮辱の言葉。

 神は下界の子供たちの嘘を見抜く力を持つ。しかしそのせいで、なまじ純粋な子供たちからの、一編の曇りなき心からの言葉の暴力が突き刺さる。

 そう、この子供は美の女神を卑下するわけでも、チャームに抗おうと抵抗するわけでもなく、ただただ純粋に美の女神に対して〈オバさん〉という感想を抱いていたのである。

 

「ヅッチーちゃん!?初対面の人にオバサンなんて言ったら失礼だよ!?」

 

「じゃあオバちゃんでちかね?」

 

「みゃーは敬意を表してオバ様でいいと思うみゃー。」

 

 そして容赦のない追撃。傷口に塩を塗ってグリグリ塗り込む、そのいとも容易く行われたあまりにえげつない行為に、猛者オッタルにして対応を鈍らせた。

 

「おば、おばば、OBA・・・?BBA・・・?」フラッ

「フ、フレイヤ様っ!?」

 

 精神の許容範囲を越えたフレイヤが気を失う。オッタルはそれを支え、ベッドに寝かせる為に部屋に戻る。

 

 事態が混沌とする中、その元凶達にもようやく迎えが来る。

 

「あ~!こんなところにいた!まったくもう、勝手な行動しないでくれ。全員、今日のおやつは抜きだからね!」

 

「「「え~!?」」」

 

「文句は一切聞かないからね。わかったら直ぐに戻るよ!デーリッチ、さっきのところに転送用の魔法陣があっただろう。座標を確認もしたいから、あそこまでキーオブパンドラで転送してくれ!」

 

「わかったでち~。え~んプリンが~。」グスッ

 

 デーリッチが半べそでキーオブパンドラに魔力を込めていると、フレイヤを寝かせたオッタルが扉から出て来た。

 

「おい、貴様らふざけおってもう許さんz・・・。」

「ゲートオープン!」シュン

 

「なっ、消えただと・・・!?」

 

 彼らは一柱の女神にとてつもないダメージを残し、突然消え去った。

 これが後にオラリオ史上最大の派閥戦のきっかけになるとは誰もが予想だにしていなかった。

 




 BBAといえば、EX.BBA強かったなぁ。レベルカンストしててもナメプしてると沈められたり。
 今作のハグレ王国はBBA様含めた超強敵を全て撃破してますので滅茶苦茶強いです。現段階の最強さんと各自がタイマン出来るレベルを想定しています。
 ですが、バトルメインではないのでその辺はあまり期待しないで頂けると有り難いです。


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第3話 女神の陰謀

 だんまちタグの方から来た方には?な話になるのではないかと少々不安・・・。
 今話を読んで意味が分からんという方は2018年フリーゲーム大賞に選ばれたざくざくアクターズをプレイしてみるしかないのではないでしょうか。(宣伝)
 あと、細かい設定は捏造してる部分も多いのであまり深く考えないように。


~バベルの塔 エントランス~

 

 無事にはぐれたデーリッチらを回収したポッコ一行。転位魔法陣のあったバベル地上部の中層から階段を降り、冒険者ギルドがある一階エントランスまでやってきていた。

 

「え~っと、福の神様からは塔の入り口に案内役の神が待っているから落ち合えってことでしたが・・・む?」

 

 ポッコはギルドに集まる屈強な冒険者達の腰程度の高さしかないその身長で、目一杯に背伸びしながら辺りをキョロキョロと見回す。

 すると、白い和装に身を包んだ壮観な顔立ちの男性が此方に近付いてくるのに気付いた。

 

「お~、いたいた!久しいなポッコよ。」

 

「あれ?タケミカヅチ先輩じゃないですか?お久し振りです。」

 

 ポッコに親しげに話かけてきたのは角髪頭の男で和国で信仰される神の一柱、タケミカヅチであった。和国の神々において最大派閥を誇る福の神一派において、かつては中納言位を賜った程の中々優秀な神である。先日福の神一派から独立し、その際に中納言位をポッコに譲っている。その後、ここオラリオにおいて念願のファミリア運営を始めた。脱サラしてコンビニオーナーを始めたようなものである。

 独立したとはいえ、福の神様との関係は概ね良好で何かあればお互いに協力関係をとっている。

 

「おいおい、先輩はやめてくれよ。今はお前の方が役職は上なんだ。恐縮してしまう。あぁ、でも話し方は昔の通りにさせてもらおう。」

 

「そうですか?私としては先輩には違いないのですが。では・・・、タケミカヅチ様、が案内役ということなのですか?」

 

 急に呼び方を変えるのは思いの外難しいなと思いながら、ポッコはタケミカヅチとこの場で会ったことの意味を確認する。

 

「まぁそういうわけだが、別に大した協力が出来るわけじゃない。俺が福の神様から頼まれたのは寝床の確保だけだ。」

 

「寝床?」

 

「いわゆる拠点〈ホーム〉というやつだな。まぁ此方へ来ていきなりコネ無し宿無しではファミリアの運営もクソもないだろうということだ。」

 

「それはとても助かりますね。感謝致します。」

 

「なに、私もこちらに来てからしばらくは苦労したし、古巣のコネで助けられたものだ。かわいい後輩がどこぞの神のようにバイトして日銭を稼ぎながら宿無し暮らしをする姿は見たくないしな。とはいえ、お互いに同じ派閥出身とはいえ、ここからは覇を競う好敵手〈ライバル〉でもある。それは心しておくがいい。」

 

「・・・はい。」

 

 大恩ある先輩神も自分と同じく大望を抱いてオラリオに降り立った身である。ファミリアとは時には同じ目的の為に協力し、時には同じ目的の為に対立もする。仲間とは全く異なる距離感の存在だ。故に、塩を贈るのはこれまで、というタケミカヅチの忠言に改めてポッコは気を引き締める。

 

「さて、こんな所で立ち話なぞしていたら日が暮れてしまう。他の者の紹介も拠点に向かいながらにしようか。」

 

「はい。」

 

 そんなわけでポッコはタケミカヅチが用意した拠点への道すがら、ローズマリー以下、ハグレ王国のメンバーを紹介していった。

 コタツを背負って移動してる奴とか、フラフラキョロキョロと寄り道が絶えないお子様達を紹介され、タケミカヅチが何とも気の毒な者を見る目をしていたのは言うまでもないだろう。

 

――――――――――――――――――――

 

~オラリオの街外れ 雑木林~

 

 バベルがあるオラリオ中心部から少し外れた、この街では珍しい雑木林の中で一番大きな木。そこに彼女たちの新しい拠点〈ホーム〉は建てられていた。

 

「お、お~。天界随一の朴念仁と名高いタケミカヅチ様とは思えない素晴らしいセンスじゃないですか。」キラキラ

 

「そーかそーか。ちょっと引っ掛かる言い方だが、芸術を司るポッコ様に誉められるとは光栄だな。それならば問題はないな?・・・では、費用の話をしようか。」

 

「は?費用?」

 

「言っただろう。私が福の神様から頼まれたのは寝床の確保だけだ。助けてやりたいのも山々だが、あいにくうちのファミリアも私自身がバイトして運営費をやりくりしている零細ファミリアだ。そんな資金も金を借りる信用もない。この費用は福の神様が保証人となりポッコファミリア名義での借入金となっている。」

 

 お、恐ろしい・・・。一体どんな手を使ったのかは知らないが、本人不在で半強制的に借金が増えているとは・・・!

 

「で、では、その金額は・・・?」

 

「ざっと4億ヴァリスだ。」

 

「よ、よよ、よんおく!?」

 

「オラリオでの取り引きに使われる通貨は〈ヴァリス〉という。貨幣単位はそちらのゴールドの1/10程度というところだな。」

 

「1/10・・・って、それでも4千万ゴールド分ですか・・・。」 ハグレ王国の国庫の蓄えはいくらだっただろうか。ポッコ自身が運営する王国美術館の収益何年分だろうか。

 王国会議での収支を基にあまり理数系に明るくない頭での計算結果が間違いであることを願って、何度も何度も計算をし直す。が、その答えは隣で会話を聞いていたローズマリーによって正しいことが裏付けられてしまう。

 

「よ、4千万ゴールドって・・・、ハグレ王国の年間予算と同じじゃないですか!?ポッコちゃんが運営する美術館単体なら80年かかる計算ですよ!?何で勝手にそんなことに!?説明を求めます!」ズズィッ

 

 ハグレ王国の出納を一手に受け持つローズマリーは誰よりもお金の扱いに厳しい。土地付き一軒家という高額な買い物が勝手に行われたことに憤り、相手が神であることを承知で詰め寄る。

 しかし、悪魔族すらたじろぐローズマリーの詰問に対し、神タケミカヅチは冷静に答える。

 

「まぁ、落ち着いて聞くがよい。この一件、恐るべしは福の神様よ。確かに物件を選んだのは私だが、金を用立てたのは福の神様だ。」

 

「福ちゃんが?」

 

「言っただろう。この借金の名義人はポッコファミリアであるが、福の神様が保証人であると。私はこの件において福の神様より4億ヴァリスという予算を用意され、それを使いきるよう言われたまでのこと。」

 

「な、何でそんなこと・・・?」

 

 まさか4億ヴァリスの借金持ちスタートなんて、こないだの秘密結社事件みたいじゃ・・・いや、まさか。

 ポッコは思い出す。数日前、福の神様がこぼしていた愚痴を。

 

「もしかして福の神様、こないだの秘密結社事件で真っ先に誘われなかったのを僻んで・・・。」

 

「「は?」」

 

「確かに呟いてました。『お金が必要なら真っ先に私の所に来なさいよ。』とか、『借金返し終わった後に合流したんじゃ私の出番ないじゃない。』とか、『福の神VS貧乏神の燃える展開がでんでこちゃんに全部持ってかれた』とか。」

 

 女神とは嫉妬深い存在である。秘密結社がお金に困っているという噂を聞いて自分の出番は今か今かと待っていたのに、こちらから依頼を出さないと誘われなかった上に、その時にはもう既に借金は返済済みという事態。

 プライドを傷つけられた福の神様は大層ご立腹であるようだ。

 

「いやいやいや、まさか!?」

 

「ローズマリー、今回のメンバーを見てみてください。秘密結社幹部が勢揃いじゃないですか。」

 

「はっ!?いやでも!?」

 

「この一件、仕組まれていたのですよ。おそらくこの面子が揃ったのも、見かねたローズマリーとミアラージュも参加するように誘導されていたのでしょう。」

 

「なるほど・・・、確かにあの時、心配だから次元の塔まで様子を見に行ってほしいと福ちゃんに頼まれたわね・・・。」

 

 ミアラージュもポッコの仮説を裏付ける証人として話に参加してきた。

 

「でも、メンバーはクジで決まったのに!?」

 

「それはもう、運を司る福の神様ですからね。クジの結果を操作するなんて朝飯前ですよ。」

 

「な、なんということだ・・・。福ちゃんがそんなに怒っていたなんて。」

 

 ローズマリーが両手膝をついて打ちひしがれる。

 

「そして借金の名義人自体はポッコファミリア、つまり今ここにいる私達は逃げることは許されません・・・。」

 

 昇進試験がまるで圧迫採用面接のように超ハードモードになり、絶望的な状況にポッコが肩を落とす。タケミカヅチさえも声をかけれず場に沈黙が走る。

 

 しかし、この程度のことで物事を投げ出すほどハグレ王国がこれまで進んできた道のりはぬるくはなかった。

 

「ポッコちゃん。そんなに落ち込む必要なんかないでちよ?」

 

 話に入って来たのは我らが国王デーリッチ。

 

「デーリッチ・・・。ことの重大さを理解してないんですか?4千万ゴールドですよ!?私が美術館を80年続けてやっと稼げる金額なんですよ!?」

 

「でーっちっち!ポッコちゃんは今一人なんでちか?」

 

「え?」

 

「ポッコちゃんが一人で美術館をやっているならこれは無茶な話なのかもしれん。でもここには仲間がいるでち!」ドン!

 

 デーリッチはその小さな胸をドン!と力強く叩いてポッコに笑顔を向ける。

 

「そうですわポッコちゃん!秘密結社だって最初はたった3人から始めたけど、皆で頑張ったからプリシラさんを見返すことが出来たのですわ!」フキフキ

 

 ヘルラージュがポッコの目に浮かぶ涙を拭う。

 

「妖精王国だってなーんもないところから始めたんだぜ!家があるだけマシってもんだ!」フルイタテ!

 ヅッチーがポッコの心を奮い起たせる。

 

「まったく、泣き虫さんめ。ほれワシが手を貸そう。」テヲトリーノ

 

 マオがポッコの手を取る。

 

「ポッコちゃんなら大丈夫。ボクたちも手伝うからさ。一緒に頑張ろう?」ホラタッテ!

 

 ベルがポッコを立ち上がらせる。

 

「冒険ならミャーに任せるミャ。どんな冒険もミャーと一緒なら楽しいものになるぴょん!」タノシミダピョン!

 

 ルフレがポッコに冒険者の心を説く。

 

「こどら頑張るよ!お店もやるし、借金なんて皆で頑張れば直ぐに返せるよ!」グッ!

 

 こどらがポッコに勇気を与え、そして・・・

 

「こどら、みかんジュースあるか?」

「は~い!」

 

「お前はブレないな!?柚葉!?」ガクッ

 

 そして、柚葉がポッコをズッコケさせる。

 

「何かいい雰囲気だったのに、締まらないわねぇ・・・。」

 

「まぁ・・・でも。こんな状況が私達らしいというか。なんというか・・・。」

 

 ミアラージュとローズマリーがどこか笑みを含んだあきれ顔で呟く。

 

「そんなわけで・・・、ポッコちゃんは一人じゃないんでち!このくらいのハードル楽々越えて皆で福ちゃんを見返してやるんでち!」

 

「デーリッチ・・・。わかったけんね。ポッコは一人じゃないとね・・・。」

 

 絶望的な借金、問題児ばかりのメンバー、状況は最悪だ。でも、皆の力を合わせればきっと乗り越えられる!

 ポッコは力強く立ち上がり胸を張り、誓いの右手を天に掲げ、高らかに宣言する。

 

「これより、サルバトール・ジャッコメディ・ポッコの神名において、今ここにポッコファミリアの設立を宣言する!皆で福の神様を見返してやりましょう!」

 

「「「おお~!!」」」

 

 斯くしてポッコファミリアはここオラリオの地に覇を唱えることとなった。

 彼女達の戦いはここから始まる。

 




 これでやっとプロローグが終わる感じ。水着イベント3章みたいな感じで、ダンジョンに潜るだけではなくて色んな依頼をこなしながらお金を稼いでいく物語になります。


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第4話 ファミリア会議

 だんだんポッコちゃんのキャラがスレてきましたね。良い傾向だと思います。
 次話くらいからダンまち原作開始になりそうです。今話はあっさり進みますが、さっさと進めたいので。


~ポッコファミリア ホーム~

 

「あ~、盛り上がってるところ水を差すようですまないが・・・、私の話はまだ終わっていないのだが。」

 

 いい感じに気合いを入れてこれからというところだったが、タケミカヅチからまだ何かあるらしい。

 

「何ですかタケミカヅチ様?本当に無粋ですね。そういうところですよ。」

 

「ほほーぅ、お前も言うようになりおって。まぁよい、これからの話はお前達の助けになるはずだ。」

 

「助けとは?」

 

「福の神様から仰せつかったのは寝床の手配だけだが、何せ4億ヴァリスという大金だ。一軒家だけでは予算が余ってな、敷地も余っておったから他にも三軒ほど建物を作ってある。少し内装を弄れば商売の拠点にでも出来るであろう。」

 

「なんと!?」

 

 朗報であった。借金生活では大きな投資が難しい。建物だけでもあるならば少しの遣り繰りで商売を始めることができる。

 しかし、何やらここまで色々と条件が整い過ぎていることに、疑問を抱く者が2名。

 

 

「・・・ねぇ、ローズマリー。ちょっといいかしら?」

 

「ミアちん・・・、うん、考えていることは多分同じだと思う。」

 

 そう、整い過ぎている。ハグレ王国としては次元の塔の10階層の解放からわずか数日しか経っていない。福ちゃんからの試験の内容はともかく、このわずかな間に住居を用意するどころか、建てるなんてことは不可能だ。

 つまり、福ちゃんと神タケミカヅチはそれ以上前からこの状況をセッティングしていたことになる。

 

「ところで、タケミカヅチ様は福ちゃん・・・福の神様からこの話はいつ頼まれたのですか?」コソ

 

 ローズマリーはポッコや子供たちに聞こえないよう小声でタケミカヅチに疑問を投げかけた。

 

「妙なことを聞くな?確か3ヶ月程前・・・だったはずだ。この短い期間ではよい仕事が出来たと思うぞ。」

 

「3ヶ月・・・そうですか、ありがとうございます。」

 

 どうやら福ちゃんはハグレ王国に先回りしてこの世界に繋がりを持ち、こうなることを分かった上であらゆるお膳立てをしてきたのだろう。

 

「福ちゃんは一体何を企んでいるんだろう?」

 

「さあね。でも、福ちゃんのことだから何かしら意味があるのでしょうね。」

 

「福ちゃんのことだから悪いことにはならないだろうけど・・・。」

 

「苦労はするでしょうねぇ・・・。」

 

「ですよねー。」

 

 これからの苦難の道のりを想像して保護者達は深いため息をついていた。

 

―――――――――――――――

 

~ポッコファミリア ホーム~

 

 神タケミカヅチと別れ、新生したポッコファミリアはまずはホームにて会議を開いていた。

 

「まずは活動方針を決めましょう。」

 

 ハグレ王国恒例の王国会議。今回はファミリアの主神であるポッコが中心となるためファミリア会議とでも呼ぶのが正しいかもしれない。

 

「はい!」

 

「どうぞ、ヘルラージュさん。」

 

「まずは、ファミリアとして相応しいステキなコスチュームが必要でs「却下。」まだ言い終わってないのに!?」ガーン

 

「はい!」

 

「どうぞ、マオさん。」

 

「この地に新魔王タワーを建てyo「却下。」なんじゃと!?」ガーン

 

「はい!」

 

「どうぞ、柚葉さん。」

 

「私がダイミョーとしてファミリアの長にn「却下。」なぬっ!?」ガーン

 

「どいつもこいつも!真面目に考えてますか!?」

 

「失敬な!私は国取りに対しては真剣そのものだ!」

 

「国取りの話なんて誰もしちょらんわ!」

 

 まともな意見が出て来ない。場がカオスになってきたところで、漸くまともな人物が手を挙げた。

 

「あ、あの~・・・。」

 

「どうぞ、ベルくん。」

 

「借金というからには利子が付きますよね?どの位になるんでしょうか?」

 

「利子ですか?4億ヴァリスの年利5%ですから、月々え~と・・・。」

 

「167万ヴァリスですね。でも利子の問題だけじゃなくて、私達もいつまでもこの世界にいる訳にはいかない。最低でも月に1千万ヴァリス以上の返済が出来るようにしていかなくては。それでも3年以上かかる計算になるから、まとまった返済をすることも考えていこう。」

 

 ローズマリーが既に計算してあったようで、即座に回答する。

 

「さ、3年以上ですか・・・。」

 

 冷静に考えるとやはり4億という金額は途方もなく感じてしまう。

 

「まずはこの金額がこの世界でどの程度の価値なのか、確認する必要があるね。手っ取り早く現金を手に入れるには、冒険者になって取り合えずダンジョンに入ってみるしかないんじゃないかな?」

 

「僕もそう思います。商売をするにしても元手が必要だし、この街の冒険者がどんな道具を必要としているのかも知らないと。」

 

「そうですね・・・では、まず皆に神の恩恵〈ファルナ〉を授けないといけません。」

 

「ファルナってなんでちか?」

 

 聞きなれない単語にデーリッチが横から口を挟む。

 

「この世界では神がその眷族に恩恵を与えることで人は力を得ることができます。神の恩恵を受けていない者は冒険者になることは出来ないんだとか。」

 

「それは、つまりポッコちゃんの力を借りるということでちか?」

 

「ちょっと違いますね。発現する能力はその人本人の可能性の力です。ファルナを刻むことは、力を目覚めさせるきっかけみたいなものにすぎません。」

 

「ふ~ん、面白そうじゃん!さっそくやってみようぜ!ヅッチーが一番な!」

 

「あ~!ヅッチーず~る~い~!」

 

「ん~・・・、多分デーリッチ達の場合は大した能力は発現しませんよ?」

 

「え?なんで~?」

 

「みんな既に人類として限界に片足踏み入れたレベルになってますからね。さっき言った通り神の恩恵なんてきっかけにすぎないのです。もう自力で能力を鍛えている者には恩恵なんて必要ないものなのですよ。」

 

「ちぇ~つまんねぇの!」

 

「え~でも、デーリッチ達でも大おば様やアナンタちゃん達にはまだまだ一対一じゃ敵わないでちよ?」

 

「いや、あの人達はもはや神とか恩恵とかいう次元を超えてますからね。運命とか世界の理すら壊せる者達だって福の神様は言ってましたよ・・・。」

 

「ふ~ん、よくわからないけどそういうものなんでちね。」

 

「まぁ能力には影響なくても、ファルナがないと冒険者登録が出来ませんからね。さっさとやってしまいましょう。じゃあ一人ずつしか出来ないのでヅッチーから順番に。他の皆は会議を続けてください。」

 

「は~い。」

 

―――そんなこんなで―――

 

「ふぅ~・・・、さて、マオで最後ですね。」

 

「うむ、お手柔らかにな。」

 

「おや、この傷痕は・・・?」

「それはな、ワシの勲章じゃ。しましまのストライプがかっこよかろ?」

 

「なんか傷痕からとてつもないマナを感じますね・・・。これが魔王の力ですか。まぁいいでしょう、始めますよ。」

 

 ポッコは半裸でうつ伏せに寝転ぶマオの背に、自らの血を垂らし、浮かび上がった神聖文字を紙に書き出していく。

「どうじゃった?」ワクワク

 

「・・・どいつもこいつもなんなんですかね、このふざけた表記は。」

 

レベル 1

力 EX わんぱん

耐久 EX えふえふ

器用 EX どりる

敏捷 EX おにあし

魔力 EX ぐーごるぷれっくす

 

魔法:魔王技

スキル:宇宙魔王

 

 書き出されたのはレベルと魔法、スキルの表記以外は意味不明な文字列。他の全員が大概こんな表記である。

 

「どういう意味じゃこれは?」

 

「私が聞きたいくらいです。」

 

 ポッコとしても正直意味がわからないが、異世界の人間がこの世界の規格に合わなかったのだろうということで結論づけた。あまり深く考えてはいけない。

 

―――――――――――――――――

 

~翌日 冒険者ギルド~

 

「えぇ!?あなたたちが冒険者になりたいですって!?」

 

 冒険者の間で密かな人気のギルド職員、エイナ・チュールは頭を抱えた。まだ年端もいかない子供をぞろぞろ連れた集団が、只でさえ危険な冒険者家業になろうと言ってきたのだ。

 未来ある子供達をみすみす危険な目に合わせるわけにもいかず、はいどうぞと受け付けるわけにもいかなかった。

 

「アナタたち、本気?」

 

「はい、ちゃんと神様の恩恵も得ています。」スッ

 

 ローズマリーは自分が着用している緑色のローブの襟元を引っ張り、エイナにファルナの刻まれた背中を覗かせる。

 

「ほ、本当のようね・・・。でもポッコファミリアなんて聞いたことないけど・・・?」

 

「新設したばかりですからね。」

 

「子供達も・・・?」チラ

 

「えぇ。」

 

「明らかに動物もいるけど・・・?」チラ

 

「えぇ。」

 

「だぁれが動物だぴょん!失礼なやつだぴょんねぇ!」ムキー

「えぇ・・・。」

 

(ウ、ウサギが喋ってる・・・。まぁ、二本足で歩いてるし、ちょっと遺伝子が偏った獣人族、なのかしら・・・?ウサギといえば、そういえばベル君も何だかんだで冒険者やれているわけだし・・・大丈夫なのかなぁ?何か怒ってるし、あまり逆らわない方がいいかもしれないわ。よし、そうしましょう。)

 

「し、失礼致しました!冒険者登録をさせて頂きます!」

 

 ギルドでは変人処理、通称:ヘンショリと呼ばれる程に手のかかる冒険者の相手をさせられているエイナ。何やら動物扱いされて怒っているウサギを見ていたら、最近冒険者に成り立ての白髪赤目の少年を思い出していた。あの大人しいベル君も冒険者をやれているならば、指導さえちゃんとしてれば何とかなるかも。と、自分自身を納得させることにした。

 半ば無理矢理に全員が冒険者登録を済ませ、さぁ、いざ、いま、冒険を、とダンジョンに向かおうとしたローズマリー達。

しかし、突然ガッチリと肩を掴まれ、行く手を遮られてしまった。

 

「私が担当するからには、絶対に冒険者の皆さんを死なせるわけにはいきません。新人冒険者にはまず、みっちりと、ダンジョンについて勉強して頂きます!」

 

「「「えぇ~!?」」」

 

 そのまま彼女達はギルドの奥に連れていかれ、新人冒険者向けの教習を1日かけて受けることになってしまった。

 

 

ポッコファミリア本日の収支

本日の収入:0ヴァリス

 

借金残り:400,000,000ヴァリス

 

 

 

 




 能力値はあってないようなもんです。多分この後出てくることはあまりないかと。レベル1なのは並行して書いてるこのすばクロスと同じ理由です。でも能力値は本来の能力を表示しようとしてバグってる感じですね。文字列には特に意味はありません。基ネタ判ったらニヤっとしておいて下さい。魔法とかスキルは皆ざくアクの固有技と固有常時強化スキルを持ってます。
 あと、エイナさんのヘンショリは捏造です。ウサギ→宇佐君→河合荘って繋げたかっただけです。エイナさんごめんなさい。多分これからローズマリー特製の胃薬を常用することになると思います。


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第5話 ダンジョンアンドビーフ

 はむすたさんの新作コンテンツざくアク絵日記、美術館が完成間近だそうで楽しみです。
 美術館といえばこのSSもポッコちゃんメインだしそっちに寄せる展開もアリかな~とか思ったり思ってなかったり。


~ダンジョン6階層~

 

「どうして・・・、どうして私たちが戦わなければならない!?」

「こんなことは、もうやめるでち・・・。デーリッチ達は仲間じゃないでちか!」

「ワシはお主とは戦いとうない・・・。その斧を下ろしてはくれぬだろうか?」

 

 かつての友の変わり果てた姿に少女達は戸惑いの色を隠せない。どうして、何故、悲痛に叫ぶその嘆きは彼の者には届きようもなし。

 しかして、きやつが市井の平穏に仇成す者なれば、成敗せしは我らが務め。ならば全力を尽くして葬ることがせめてもの情けというもの。

 国王デーリッチは双眼より滴る涙を拭うこともせず、かつての友の濁った瞳を鋭く見据え、神器にも劣らぬ愛杖の真の力を解き放つ。

 

~2時間程前 バベルエントランス~

 

 昨日は冒険者登録をした後、ギルド職員エイナ・チュール指導の下、初級冒険者講座を受けるだけで一日が終了してしまった。まだロクに現金も持たない中で一日拘束されてしまったため、その日の夕飯は手持ちの携行食をモソモソ食べるという何とも味気ない冒険者生活一日目となってしまった。

 とは言え、一日かけてまで行われた講義はローズマリーをして「極めて有意義だった」と評するものであった。ダンジョンでの収得物の換金方法やクエスト受注制度から、ダンジョン浅層のモンスターへの対策、更には有数の大規模ファミリアや上級冒険者の情報、果てにはオススメの定食屋にファッションショップまで、オラリオで冒険者として生きていくために必要な情報を叩き込まれたのであった。

 

「というわけで、今日こそはダンジョンに潜ります。」

 

 太陽が地平線から顔を覗かせ世界を照らし始めた頃、ハグレ王国の面々はバベルのエントランスに集まっていた。主神ポッコの前にローズマリーを先頭に整列し、本日の行程を確認していた。

 

「エイナさんからは初心者だけでは10階層より下に行ってはいけないと教えられている。また、日帰りできるのも10階層位が限界らしい。なので、今日の目標は10階層までの往復ということにしよう。但し、初めて潜るダンジョンでは何が起きるか分からない。決して無理はしないこと、いいね!」

 

「「「は~い!」」」

 

 バベルにはまだ人もまばらな頃合いだったが、まるで小学校の遠足前のような雰囲気に周りの冒険者達が珍しいモノを見るような目でこちらを伺ってくる。

 それは単純な好奇の視線、新参者を値踏みする視線、様々な思惑が交差する中、ハグレ王国の面々はダンジョンへと向かっていった。

 

「みんななら心配はないと思いますが、どうか気をつけて行くのですよ。」

 

 どんなに強い者達でも残される側は無力である。せめてもの祈りを込めた祝詞を手向けに、ポッコは一人その背を見送った。

 

~ダンジョン1階層~

 

「う~ん・・・取り合えずは問題なさそうでちね。」チギリーノ

「手応えが無さすぎて退屈だぴょん。」ナゲーノ

 

 1階層の探索。デーリッチ達は時折現れるゴブリンやらの低級モンスターを適当にあしらいながら順調に進んでいく。

 そんな中、ローズマリーはモンスターが消滅した後に残る魔石を手に取り、しげしげと観察していた。

 

「ふ~む・・・魔石を核に活動するモンスターか・・・。」

 

 魔石を頭上に掲げて篝火を頼りに透かしてみたり、魔石同士で叩いたり擦ったりしてみる。ただの赤みがかった鉱石のようだが、確かな魔力を感じる。今まで鉄は勿論、ミスリルやオルハリコン等の稀少金属も目にしたことはあるが、そのどれとも一致しない特徴はローズマリーの興味を引いたらしい。

 

「ベル君はどう思う?」

 

 餅のことは餅屋に聞けと言うが、この場には年若いながらも王国で道具屋を営むベルがいる。彼の道具屋は自作アイテムの品揃えがメインだが、素材や不要なアイテムの買い取りもやっており、目利きにおいてはプロの鑑定眼を持っている。

 

「正確な所は僕も解りません。見たところでは、鉱石の特徴としては石英に近く、赤みがかっているのは魔力を含んでいるからではないかと。でもコレを核に魔物が活動しているのがどんな仕組みなのかは想像もつきませんね。鉱石学というよりは魔導分野の現象ではないでしょうか。」

 

「う~ん、魔導分野かぁ。シノブさんならまた違う見解になるのかなぁ?デーリッチ、次元の穴はある?」

 

「ん~・・・、デーリッチが見えるレベルの穴は見つからないでちね。これだけモンスターが涌いているなら蟻の巣みたくなっててもおかしくないんでちが・・・。」

 

 魔物湧きという現象はハグレ王国は何度も経験してきている。それは世界の呼吸ともいえる現象だ。マナの薄い世界は、特殊な訓練を積んだ召喚士にしか見えない次元の穴を通じ、生命の源たるマナを異世界から取り込もうとする。その過程でマナを多くその身に有する魔物をも一緒に取り込んでしまうのだ。マナは濃度が濃い世界から薄い世界へ一方的に流れ込み、次元の穴が大きければ大きいほど流れ込むマナは多くなるが、その大きさに比例して巨大な魔物をも取り込んでしまう。 このダンジョンにおける魔物湧きがどのような理屈で発生しているのかは解らないが、少なくともこの魔石という存在がその鍵を握っているのは間違いないだろう。

 ローズマリーは幾つかの疑問を抱きつつも、今は先に進むことにした。

 

~ダンジョン5階層~

 

「フレイム!」ボウ

 

 5体のキラーアントの群れに向かってローズマリーが範囲炎魔法を唱える。簡単な詠唱による基本魔法だが、かの世界基準では300レベルを超える彼女が放てば上層のモンスターなど物の数ではない。精密に練られた魔力が計り知れない密度の炎の塊となり魔物の群れに襲いかかる。5体いたキラーアントは跡も残さず蒸発し、ダンジョンにはカラーンという魔石が地面を転がる音が5つ響くだけだ。

 1階層から起きた戦闘の全てがこのように瞬殺で終わっており、彼女達の探索行は極めて順調に見えた。

 だが、今回それを成したローズマリーの様子が少しおかしい。

 

「ちょっと待って。」

 

「ローズマリー?どうしたんでちか?なんか妙に汗かいてるでちね?」

 

 魔法の詠唱で前衛に立っていたローズマリーは行軍を止め、後ろを振り替えって皆に声をかける。デーリッチは心なしか顔色の悪い親友の姿に不安を覚える。

 

「上層では気付かなかったけど、魔力の自然回復が遅い・・・。この感じはもしかして・・・。」

 

「そう・・・、ローズマリーもってことは気のせいではなさそうね。」

 

「お、お姉ちゃん?」

 

 ミアラージュも苦い顔で頷く。その妹ヘルラージュは普段は余裕たっぷりな完璧超人(だと思っている)姉が珍しく見せるその表情に、不安を覚える。

 

「魔法を放った後の魔力回復が異様に遅いんだ。どうもこのダンジョンはマナ濃度が薄いらしい。魔物が涌いてくるのも関係あるのかもしれない。」

 

「えっ、でも次元の穴はないでちよ?」

 

「そこがまだ解らないところだね。でも、ここは私達にとっては異世界ということもあるし、魔物湧きの仕組みも異なるのかもしれない。」

 

 ローズマリーはかつて強い力を持つハグレ達と渡り合う為に無茶な魔法習得を行った反動で、魔力欠乏症という持病を患っている。そして、一度命を失い、アンデッドとして蘇った存在のミアラージュは、その仮初めの体を魔力で繋ぎ止めている。彼女達にとって安定したマナの摂取は死活問題であり、空気中のマナが薄い場所では息苦しさを感じる程である。

 

「どうするでちか?今日は引き返した方がいいでちかね?」

 

 かつてマナ枯渇地帯であるトゲチーク山で全滅の危機に瀕した苦い経験のあるハグレ王国にとって、マナ不足の懸念がある中での活動は極力避けたい処ではある。

 

「いや、もう少し進もう。今のところはマナ濃度が少し薄いだけで、魔力を節約していれば普通に行動する分には問題ないよ。いつぞやの経験からマナジャムも多目に持ってきているしね。」

 

「私の方も大丈夫よ。危なくなりそうだったらすぐに言うから安心して。私は魔法使わなくても戦えるし。」

 

 彼女達はかつて事故で異世界に長期間滞在することになったことのある経験から、探索時には不測の事態に備えてマナジャムのストックは充分以上に持つようにしている。また、子供空手トーナメントでは神速の連続蹴りを披露し、「カミソリミア」の異名を得る程に体術にも心得のあるミアラージュは魔法を節約しながらでも戦うことができる。後衛職のローズマリーも上層のモンスターに遅れをとることはないだろう。

 彼女達は体調の異変に注意しながらも奥へ進むことにした。

 

 そして物語は冒頭に戻る。

 

~ダンジョン第6階層~

 

「急がないと・・・。」

「チイッ!何でこんなメンドクセーことを・・・。」

 

 オラリオ最強派閥に数えられるロキファミリアに於いてその幹部に名を連ねる第一級冒険者達、その中でも最速と名高い〈凶狼〉ベート・ローガと〈剣姫〉アイズ・ヴァレンシュタインは全力で走っていた。

 中層に現れたミノタウロスの群れと戦闘になった彼らであったが、あろうことかその一部は戦うことをせずに上層へ向かって逃げ出していったのである。モンスターは本能で人間に襲いかかってくるものと思い、戦闘体勢をとっていた彼らは完全に意表を突かれ、その逃亡を許してしまった。

 もし、初級冒険者が多い上層でミノタウロスが暴れることがあれば、確実に犠牲者が出るだろう。そうなればその原因を作ってしまったロキファミリアの名声にキズをつけてしまう。

 被害が出る前に片をつけるべく彼らは全力で走っていた。そして6階層にて、今まさにミノタウロスに襲われている初級(と思われる)冒険者を発見したのである。

 

「攻撃をやめるでち!お前とは戦いたくはないんでち!」

 

 冒険者にしては妙に幼い容姿の者達であるが、彼らの団長も小人族〈パルゥム〉ということもあり、見た目で能力を判断するような愚は犯さない。が、遠目で見える範囲では真剣な面持ちで必死にミノタウロスの攻撃を凌いでいるように見える。窮地に立たされているのは間違いなく、ベートは追跡速度を更に上げた。

「残念だけど、お前が誰かを傷付けてしまうことをデーリッチは見過ごすわけにはいかんのでち!覚悟するでち!ニワカマッスル!」

 

 ニワカマッスル、ハグレ王国最古参メンバーに数えられる牛男である。筋肉至上主義の彼は筋力と耐久力においてハグレ王国で右に出るものはいない。厳しい戦いにおいては幾度となく窮地を救ってくれた彼の背中は絶対の安心感を与えてくれるものであった。マオちゃんの最強魔王技大魔王烈波を受けて唯一立っていたその姿に、マオちゃんが自身の敗北を予感させられたという話は今でも語り草となっている。

 それほどまでに王国の信頼の熱いニワカマッスルがなぜここに?そしてなぜデーリッチ達に襲いかかる?疑問は尽きないが、このまま奴を地上に解き放ってしまえばどれ程の被害になるか解らない。デーリッチは流した涙を拭うこともせずにシノブに託された愛杖アヴァタールロッドを構えた。

 

「マッスル、いい奴に生まれ変わったらまた一緒に王国を作るでちよ。デーリッチはずっと待ってるでち。」

 

 そして詠唱と共に杖を振る・・・おうとしたところで邪魔が入る。

 

「雑魚は退いてろ!っらああぁぁあ!」ドシュウ!

 

「「「あっ・・・。」」」

 

 雷の如く放たれたベート・ローガの高速の蹴りにニワカマッスル(ミノタウロス)は袈裟懸けに上体を両断され絶命した。

 

「おう、雑魚共。無事だったか?」

 

 振り返りながらぶっきらぼうに語りかけるベート。初級冒険者を見下すような話し方はいつも通りだが、一応相手の様子を気遣っているつもりである。ロキファミリアのおかんことリヴェリアがこの場にいればベートの成長に涙すら流したかもしれない。

 

「な・・・」ワナワナ

 

「あンだよ?」

 

「なんて事をしてくれたんでちか~!?」

 

「ああ゛ン?」

 

 思わぬ返答にベートは眉を吊り上げる。彼からすれば命の危機を救ってやって尚且つ最大級の気遣いまでしてやるという本来有り得ないサービスぶりである。雑魚は雑魚らしく涙を流して感謝するのが道理であろう。

 

「マッスルがぁ~~。」オーイオイオイ

「な、なんということを・・・。」シクシク

「酷いことをするのう。」

「マッスルさん・・・惜しい人を亡くしました・・・。せめて、ラージュ家に伝わる転生の秘術で・・・。」グスッ

 

 何故か感謝されるでもなく、モンスターの死に涙を流す面々。

 

「えっ?なにこれ?俺何か悪いことしたンか?」オレコンワク

 

「ベート、それよりもミノタウロスがあと一体残ってる。急がないと!」

 

 速度でベートに劣るアイズが少し遅れて合流する。彼らが追っているミノタウロスはもう一体残っているらしい。

 

「チッ、テメエらよく分からねぇが、無事ならまぁいい。ミノタウロスはもう一体いただろう、どっちへ行った?」

 

「あっち。5階層に昇る階段がある方。」

 

「クソがっ!やっぱり上に向かってやがる!どうなってンだよ!?」

 

「行こう。」

 

「おう、テメエらも雑魚なら雑魚らしくデカい奴狙わねぇで上層でちまちまやってろや。じゃあな。」

 

 俯いて涙を流していたハグレ王国の面々をよそに、ベート、アイズの両名は急いで上層に駆けていった。

 

「で、いつまでこの小芝居やるのさ?」

 

「え~と、何だか引っ込みつかなくなったというか・・・。」

「いや、なんか楽しそうじゃったからつい・・・。」

「今度のハグレ名画座のネタになるかもって・・・。」

「ほほぅ、次回作は『大江戸捕物帖~裏切りの牛男~』といったところか。楽しみだ。」

 

 ここまでモンスター相手に苦戦することもなく少々退屈していたのは事実である。そんな時に王国で見慣れた人物と同型のモンスターが現れ、悪ふざけをしていたら段々後に引けなくなってしまった。小芝居自体はわりと好きなローズマリーも何となく付き合ってたが、あまり時間を無駄にするようなら立場上止めないといけない。

 

「さあて、ふざけるのもここまでにしてさっさと進もう。予定通り10階層を目指すよ!」

 

「「「お~!」」」

 

 気持ちも新たに再び歩き始めたハグレ王国。

 しかしそんな中、一人青ざめた顔で衝撃の告白をする者がいた。

 

「あ、あの~・・・もしかしてさっきのってマッスルさんじゃなかったんですか・・・?私、転生の秘術かけちゃったんですが・・・。」

 

「「「ヘルちん!?」」」

 

 ミノタウロス転生フラグが立ちました。

 

 

ポッコファミリア本日の収支

本日の収入:450,000ヴァリス

借金残り:399,550,000

 

 

千里の道も一歩から

 




 マスハピは正義。でもマッスルって半裸で脳筋なだけで心はイケ牛だから実は結構モテるんじゃないかなって。
 え?半裸で脳筋は無理?ですよね~。


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第6話 飯は世界、世界は飯

 ちょっと短いけどキリがいいので。あげ癖つけないとね。


~冒険者ギルド~

 

「あいよ、魔石の換金高50万ヴァリスだ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 当初の予定通り10階層までの往復を終え、回収した魔石を交換する。金額にして50万ヴァリス。4億という金額にはまだまだ程遠いが、1日での稼ぎとしてはそれなりの金額であろう。ローズマリーは受け取ったヴァリスを麻袋にまとめ仲間の元に戻る。

 

「みんな、今日はお疲れ様でした。これからポッコちゃんと合流してご飯でも食べに行こうか。」

 

「「「ヒャッホ~い!」」」

 

 新しい町に来たらまずは食事。これは色々な場所を旅する者にとって最大の娯楽である。ハグレ王国も妖精村やケモフサ村、帝都や海底都市リューグー、新しい場所に訪れた際には必ずと言って良いほどその土地の食に触れている。

 それはただ食欲を満たす為だけの行為ではない。元来、産まれた世界も種族もバラバラな私達ハグレにとって、食とは価値観を現地の人と共有出来る貴重なコミュニケーションツールでもあるのだ。グルメフェスという催しは私達ハグレという存在が世界に受け入れられる為に絶対に必要なのです!そして心を通わせる為には衣服なぞ重荷でしかない!今こそ全員水着に着替えて食を通じた異文化交流をすべきではないでしょうか!?

 ・・・というのは、カナヅチ大明神が王国会議でグルメフェスの企画を提案した際に行った演説の抜粋である。

 途中から食とは別の欲望が丸出しになるのがカナちゃんらしい詰めの甘さとも言えるが、前半部分については王国民全員から賛同を得られた程の説得力があった。

 食うことは生きること。生きるとは世界そのもの。すなわち飯とは世界、世界とは飯ということ。

 一度ホームに戻ってポッコと合流した彼女達は、初級冒険者講座でエイナにお勧めされた酒場「豊穣の女主人亭」へと向かった。

 

~豊穣の女主人亭~

 

「今日はファミリア結成パーティーだ。みんな好きなものを注文して構わないよ。」

 

「「「は~い!」」」

 

 ローズマリーが音頭を取ると皆思い思いにメニューを選ぶ。

 

「次、上がったよ!シル、5番テーブルだ!」

「はい!」

「追加注文!5番テーブルだにゃ!」

「また5番テーブル!?」

「よ~し!とことんやってやろうじゃないか!」

 

 急な団体客にてんやわんやの豊穣の女主人。

 荒くれ者が多いこの店で子連れ客というのも珍しく、奇異の目で見られていたのも束の間、女店主ミアだけはそのただ者ではない気配を察知していた。曰く「食うか食われるか」。従業員からは母とも呼ばれている女店主ミアは腕まくりをして注文を捌いていく。

 

「あんた達、その小さいナリでよく食べるねぇ!こっちも作りがいがあるってもんだよ!」

 

 店主ミアは少し手が空いた処で件の団体客へ話しかける。

 

「店長さんですか。料理も美味しいですし、良い雰囲気のお店ですね。育ち盛りな子達が多くて騒がしかったらすみません。あっほらデーリッチ、また溢してる。お行儀よく食べなさい。」フキフキ

「む~む~」

 

 ローズマリーはリスのように頬を膨らませて料理をかき込むデーリッチの口周りとテーブルの食べかすを拭いてやる。子供扱いに抗議をしようにも口に物を入れながら喋ることが出来ず大人しく従うデーリッチ。端から見たら親子にしか見えない二人だが、彼女達は親友同士である。

 

「ハハハッ!ちょっとテーブル汚すくらい気にしないどいてくれ!ところであんた達、冒険者なんだろ?あんまり見ない顔だけど何処の所属だい?」

 

 見た目は子供ばかりだが、何となくただ者ではなさそうな気配を漂わす一行。酒場の主人としては世間話の中からも情報収集に余念はない。

 

「今度新しく立ち上げたポッコファミリアといいます。主神はえ~っと・・・、あちらの神ポッコちゃんです。」

 

「ふぅん、どれ・・。」

 

 女主人ミアはローズマリーが視線を向けた先を見やる。すると皿に盛られた最後の唐揚げを巡ってヅッチーと争う幼き神ポッコの姿。

 

「その唐揚げいっただき~!」ササッ

「甘いですよヅッチー、その程度の動きでこの神ポッコから唐揚げを奪えるとは思わぬことです。」サササッ

「そんなに旨いならみゃーによこすぴょん」ヒョイパク

「「あ゛~!」」

「う~んジューシー!」

 

 様々な神や冒険者を見てきたミアとしても異色な冒険者達だとは思うが、嫌な感じはしない。こんな連中なら贔屓にしてもらえれば店にとってはありがたいものだ。

 

「ハッハッハッ!中々愉快な神様みたいじゃあないか。」

 

「お、お恥ずかしい・・・。」

「まぁあんた達みたいなかわいい客なら大歓迎だ。今後とも贔屓にしとくれ!」

「あ、ありがとうございます。」

 

 その後、ミアが娘と呼ぶウェイトレス達も紹介された。今後とも良い関係を築けそうである。

 

 この日、豊穣の女主人では合計5万ヴァリスの代金を支払い二日目の冒険者生活を終えた。

 

―――――――――――――――――

 

~ホームにてファミリア会議~

 

「ではまず、本日の収支を報告してください。」

 

 豊穣の女主人亭で食事を終え、ホームに戻った面々。明日以降の運営方針を決める会議を開いていた。

 

「はい。ダンジョン探索で回収した魔石の換金額で50万ヴァリス、酒場での支払いが5万ヴァリス。収支では45万ヴァリスのプラスです。」

 

 ローズマリーがいつの間にか付け始めていた出納帳を開いて収支を説明する。

 

「1日ダンジョンを潜って45万ですか。収支的にはパーティーなんかして良かったんですか?」

 

 一人留守番をしていたポッコとしては、皆が稼いでくれている中で自分自身でお金を稼げないもどかしさがある。だからこそ、余計に出費には敏感になってしまう。

 

「先は長いからね、最初から切り詰めても仕方ないよ。皆のモチベーションも大事だし。」

 

「そういうものですかね。」

 

「1日で45万ヴァリスっていうのはペースとしてはどうなのかしら?」

 

 ミアラージュは自身ではそれを理解しているが他のメンバーの為に敢えて収支に対する評価を確認する。

 

「今回みたいに取り合えずダンジョンに潜ってみたって中では上々の収穫だと思う。でも、返済を考えたらやっぱりこれだけでは全然足りないね。あと、ここで暮らす生活費や諸経費も1日5万ヴァリス位かかるだろうからその分も稼ぐことを考えていかないと。」

 

 ローズマリーもミアラージュの意図を汲み、全員が分かりやすいように状況を説明する。

 

「やっぱり何か別の商売をしたほうが効率は良さそうですね。では、どんなお店が良いか、意見のある人はいますか?」

 

 ポッコは向き直り、全員へ意見を求める。

 

「はい!」

 

「はいこどらさん。」

 

「こどらはコタツ喫茶がいいと思うの。」

 

「コタツ喫茶はハグレ王国でも稼ぎ頭の実績があるし、ここでも高い収益が見込めるね。既に2店舗を経営してるこどらなら安心して任せられると思うよ。」

 

「はい!」

 

「はいヘルラージュさん。」

 

「人造人間工房はいかがでしょう?皆さんのぬいぐ・・・クローン人間はハグレ王国でもお土産物として大人気ですわ。」

 

「いいんじゃないかな。ここでは私達は無名だけど、有名な冒険者やファミリアと知り合ってぬいぐ・・・クローン人間の製造許可が貰えたら爆発力のある商品になりそうだ。ヘルさんの裁縫技術なら他所には簡単に真似できないだろうし。」

 

「はい!」

 

「はいベル君。」

 

「僕は道具屋がいいと思います。ローズマリーさんと協力すれば色んな回復薬も自家製造出来るし、収益率は高いと思います。何より冒険者の町なら需要も多いかと。」

 

「そうだね。いずれにしても私は自分達用にも薬を作るわけだし販売用も作るのもわけないよ。ヘルさんのぬ・・・クローン人間も道具屋の方で一緒に販売できたら相乗効果も見込めそうだ。」

 

「はい!」

 

「はい柚葉さん。」

 

「私がファミリアのダイミョーとなり税金をt「却下。」なにぃ!?」

 

 どうやら柚葉はまだファミリアの長の座を諦めてないらしい。

 

「じゃあ、これから始めるお店はコタツ喫茶と道具屋でいいかな?建物はもう一軒あるけれど、使い途はまた次の機会に決めようか?」

 

「あの~、私から良いでしょうか?」

 

 ポッコが話しにくそうにおずおずと手を挙げる。

 

「ポッコちゃん?どうぞ。」

 

「え~と、私がこの地でやらなければならないことは神としての修行であって、お金を稼ぐことはあくまでもその為の手段なのです。なので、収入を得ながらでも私自身の能力を磨くことは怠らないようにしていきたいのです。」

 

「成程、ポッコちゃんの能力というと美術館だね?」

 

「そうです。この世界では神力〈アルカナム〉の行使は禁じられていますが、だからこそ私本来の力を磨くには良い機会だと思っています。皆と違って私はダンジョンに潜って稼ぐことは出来ない身です。しかし我が儘ということは承知の上で、通させて頂きたいです。」

 

 本来ポッコは〈芸術と創造〉を司る神である。ここオラリオに来たのも神としての昇進試験という大前提がある。皆に迷惑とは承知でもこれは譲るわけにはいかなかった。

「我が儘なんてとんでもない。私達こそ本来ここにお金稼ぎにきたわけではないことを思い出しました。目的を見失っては本末転倒だ。」

 

「じゃあ、商売として始めるのはコタツ喫茶と道具屋、そして美術館ということで決まりだね。ベル君、こどら、ポッコちゃんは三日以内に、それぞれの開業に必要な資金の見積りと事業計画を揃えて下さい。他の皆はその間にダンジョン探索やクエストで資金を集めたり、情報収集をしていこう。それでいいかな?」

 

「「「はい!」」」

 

 冒険者生活二日目、終了。

 

 




評価、感想はお気軽にどうぞ。


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第7話 冒険者心得

 色々絡ませたいキャラが多くてネタは尽きないのに手は進まないジレンマ。そして短くても上げる勇気。


~ダンジョン3階層~

 

「ハァァ!」ザシュ!

「てやっ!」ドシュ!

 

 白兎がダンジョンを駆ける。その体躯はまだ幼い少年のそれ。装備も貧弱な上、振るわれる短剣捌きも素人の域を出ない。いわゆる上層においてはよく見かける初級冒険者に分類される少年は、しかしパーティを組むことはせず今日も今日とて単身ダンジョン探索に明け暮れていた。

 倒した3匹のコボルトの死体が霞と消え、魔石に変わったことを確認すると、緊張が解けたのかふぅっと息を吐く。

 

「上層のモンスターなら複数出て来ても対処できるようになったな。昨日のステータス更新のおかげなのかな?」

 

 神様、ありがとうございます。と落ちている魔石を回収しながらホームで待つ主神へ心の中でお礼を伝える。

 

「でもこんなことで、いつになったらアイズさんに追い付けるんだろう・・・。積み重ねが大事ってエイナさんも言うけど・・・、ん?ドロップアイテムか。」ヒョイ

 

 自身の多少の成長を実感しつつも、その道程に僅かな疑問も芽生える。自分が目指す地平はまだまだこんなものではない。彼が目指すのはオラリオの冒険者の頂、憧れの女性に相応しい男子になることなのだから。

 

「むっ?」

 

 僅かな成長に満身せず気を引き締めようとしたのも束の間、後ろを振り返れば10匹を越えるコボルトの群れ。

 

「うっ、この数は・・・。」

 

 「冒険者は冒険してはいけない」。エイナからは口を酸っぱくして言われていることだ。懸命な冒険者であれば、リスクとリターンを秤にかけてリスクに傾くならば大人しく撤退を選ぶだろう。

 しかし恋に燃える彼の心の天秤は重量無限大のリターン(アイズさんラブ)へと傾いてしまうのであった。

 

『お願いベル、戦って(はあと)』

 

 そのどこまでも一途な欲望に満ちた妄想に生み出された脳内アイズ某の声は、思春期の少年の情動を突き動かすには充分なものであった。

 

「アイズさ~ん!やってやります~!」

 

 自身の妄想に対して忠実に、赤目の少年、ベル・クラネルはコボルト群れに自ら突っ込んでいった。

 

――――――――――――――――

 

~バベル エントランス~

 

 お店の事業計画を作らなければならない3人(ベル、こどら、ポッコ)はホームに残し、残りのメンバーは今日も今日とてダンジョン攻略に勤しむことになった。

 

「ローズマリー、今日はどうするんでち?」

 

「基本的には昨日と同じように、モンスターを倒して魔石を拾いながら進んでいこう。でも今日は15階層を目指すつもり。」

 

「15階層?モンスターに苦戦することもないし進む分には良いけど、今日中に戻ってこれるんでちか?」

 

「うん。今日はキーオブパンドラを使うつもりだから戻りはデーリッチにお願いするよ。私達がこの世界に来たときの魔法陣を転送先に設定しておいたでしょ?」

 

 キーオブパンドラ。ハグレ王国の歴史はデーリッチがそれを手にした時から始まった。使いこなせば次元の扉をも抉じ開ける、古代人が作り出した大きな鍵型の結界装置。使いようによっては世界を揺るがす神器級の道具だが、転送に鈍器に高い所の物を取ったりなど、デーリッチももはや体の一部の如く使いこなしている。

 

「あれ?じゃあ昨日は何で歩いて戻ったの?」

 

「あまり目立つと動きにくくなると思ったんだけど、昨日の感じなら今後は他の冒険者に見られないように気を付けていれば大丈夫かなと。それ以上に下層攻略には収支面でのメリットの方が大きいんだ。」

 

 基本的に強いモンスター程、大きな魔石を残す。限られた時間で効率良く稼ぐのならば、より下の階層を目指すのが手っ取り早いのは間違いない。

 昨日の会議では美術館、道具屋、こたつ喫茶を始めることが決まったが、開店資金が貯まらなければ何も始まらない。何かを為すにはどんな世界でも、金、金、金、なのだ。そして彼女達は誰よりも、金の大事さもその増やし方も心得ている。

 斯くして、彼女達の天秤はより大きなリターン(金)へと傾くのであった。

 

「わかったでち。」

 

 そうして彼女達はダンジョンへと向かった。

 

―――――――――――――――

 

~ダンジョン 5階層~

 

「ほい」ドーン

「あらよっと」ビリビリー

「せいっ」ズバーン

 

 例の如く順調に進んで行く一行。慣れた分、昨日よりも早いペースで行軍をしていた。

 

「う~ん。こうも手応えがないとみゃーとしてはあまり冒険してる感じがしなくて物足りないぴょんねぇ・・・。」

 

「まだ上層だしねぇ。まぁ、下に行くほどモンスターも強くなるんだから楽しみにしていたらいいじゃないの。」

 不満を漏らすルフレをミアラージュがたしなめる。

 

「そう言われても、せっかく冒険者の街だと期待して来てみゃーればザコ相手ばかりでみゃーは退屈ぴょん。ねぇローズマリー、もっと一気に下まで降りないのかぴょん?」

 

「う~ん。ルフレの気持ちもわかるけど、階層ごとのマッピングはしておかないとだし、情報もなしに進みすぎるのもそれはそれでリスクが大きいよ。魔石も回収しながら進みたいしね。」

 

「ちぇ~・・・わかったぴょん。でもちょっと先の様子を見るくらいはいいみゃね?」ダダダット!

 

「あっこら!」チョマテヨ!

 

「ただの偵察だぴょん!」

 

 ルフレもまた、愛機ビッグパパイヤ号にまたがり、大宇宙を舞台に大冒険を繰り広げた伝説の宇宙冒険者である。上層の雑魚モンスターに手こずるような初級冒険者とは年季も格も違う。

 参謀ローズマリーの言うことは聞きつつも少しでも進みたい気持ちが先走り、ルフレはパーティを先行して駆け出す。

 

「まったく、ローズマリーは口煩くて困るみゃ~ね。ん?あれは、人かぴょん?」テクテク

 

 独断専行とはいえルフレも一流の冒険者。警戒を怠らずに進んで行くと、視界の端にうっすと人影を捉える。岩影に気配なく身を隠すように佇んでいるが、ルフレの超感覚からは逃れることは出来ない。

 

「おい!そこにいるやつ!隠れてないで出てくるぴょん!」

 

「・・・」

 

 返事がない。

 

「おーい!」

 

「・・・」

 

 返事がない。

 

「?黙ってみゃ~でさっさと・・・!?これは・・・、ひどい怪我ぴょん!」

 

 ルフレはその白髪頭の少年を見つける。どうやら返事をしなかったのではなく怪我に依って出来なかったのだと気付く。

 

「え~と緊急用のポーション・・・。ほいっと!」ゴソゴソキュッポン!パシャ!

 

「ん・・・。」

 

「おっ、目を覚ましたぴょんね。ローズマリー達を呼んでくるからちょっと待ってるみゃー。」

 

 ルフレは来た道を駆け戻っていった。

 

――――――――――――――――

 

「いや~危ないところを助けて頂きありがとうございました。」

 

 目を覚ました少年はルフレが連れてきたデーリッチのヒールで完全に回復した。瀕死の怪我をあっという間に治してしまう程の魔法はこの世界では極めて異質なものだが、魔法そのものに疎い彼にそれを知る術はない。

 

「困ったときはお互い様だしね。気にしないで。」

 

「そ、そんな訳にはいきませんよ!貴重なポーションも使わせてしまって、あっ僕はヘスティアファミリアのベル・クラネルといいます。今は持ち合わせがありませんが、上に戻ったら是非お礼をさせてください!」ペコペコペッコリン

 

 岩影でモンスターに見つからないように身を潜ませていた、ベル・クラネルと名乗る少年は振り子人形のように何度も頭を下げる。

 

「いやいや、応急処置に使ったポーションは私の自作したのを皆に持たせてただけだし、大してお金かかってるわけじゃないよ。デーリッチの魔法も別に減るものでもないしね。」

 

 本業が薬師のローズマリーは自作のポーションをパーティに持たせている。ハグレ王国の道具屋ベルとの共同開発により効能を増したポーションは、その効能に比例して苦くなることを除けば最高の品質を誇る。

 

「しっかし、みゃーが見つけなかったら死んでたかもしれなかったぴょん。おみゃーさんはいつも一人で潜ってるのかみゃ?」

 

「ええ、まあ。うちは零細ファミリアで団員も僕しかいませんし。」

 

 その回答に聞き捨てならないのがローズマリー。

 

「キミはいつも一人でこんな無茶をしているのか!?いくらなんでも無謀すぎる!」

 

 ローズマリーがベルを叱る。今でこそ大陸に存在感を示すハグレ王国ですら最初は仲間集めから始めたものである。一人だったハグレ達が集まって一人では辿り着けない場所に辿り着いたのがハグレ王国だ。ベル少年が一人で無茶をする姿を見過ごすことができなかった。

 

「いや~いつもは程々にしてるんですけどね。でも僕、強くなりたいって思ったら止まらなくなっちゃって。」

 

「ほ~おみゃ~さん強くなりたいってだけで命をかけたみゃ?ふ~ん、他の冒険者よりも中々見処がありそうぴょんねぇ。」

 

「ちょっ、ルフレ!?」

 

 冒険者は冒険をしてはいけない。しかして冒険者は冒険をするから冒険者なのだ。ルフレは誰よりも冒険を愛し、楽しんできた本当の冒険者なのだ。

 

「ローズマリー、冒険者は死滅回遊魚。追い求めることを止めたら生きていくことは出来ないぴょん。こいつはきっとみゃーと同じ本物の冒険者に成れるやつだみゃ。」

 

「いや~照れるな~。」ポリポリ

 ベル君は頬を染めニヤケ顔で答える。

 

「・・・このまぬけな惚け面はみゃーの見込み違いかもしれないぴょん。」

 

「ええっ~?」アセアセ

 

(かわいい)

(かわいいなぁ)

(抱き締めたい)

(初々しいのお)

(お腹すいたな)

 

 上げて落とされて、赤目を白黒させるベルを見て各々妙な庇護欲を掻き立てられる。

 

「・・・まぁ、何はともあれベル君は怪我を治したばかりだし、できれば安静にした方がいい。今日はもう帰った方がいいよ。あと、これ。この辺に落ちてた魔石はキミが倒したモンスターが落とした物だろう?話の間に仲間が拾ってくれたから持っていくといいよ」ハイコレ!

 

 

「あ、ありがとうございます!」ペコリンコ

 

「気を付けて帰るんだよ!」

 

「はーい!」

 

 ベル君は元気良く返事をすると上層へ向かって駆けていった。

 

(冒険者は追い求めることを止めたら生きていけない、か。僕はもっともっと強い冒険者にならなきゃ!)

 

 その赤目にまだ小さな焔を灯して。そしてベルは出口まで来たところで重要なことを思い出す。

 

「あぁ~っ!あの人達の名前聞いてなかったぁ!」

 

 ベル君、恩人の名前を聞き忘れる痛恨のミス!

 

 

 

ポッコファミリア本日の収支

本日の収入:700,000ヴァリス

本日の出費:50,000ヴァリス

借金残り:398,900,000

 

金金金、騎士として恥ずかしくないのか

 

 




 あんまり物語は進まない会話回ですが、ウサギコンビは今後も絡むことは多くなるかと。
 今回短い分次回は早いです。


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第8話 商売人心得

 はむすたさんの新コンテンツ「ざくアク美術館」体験版(
無料)が公開されましたね(宣伝)。
 あまりのクオリティの高さと遊び心に感動して涙を流してしまうまでが仕様です。
 そして、美術館に作品投稿されてる絵師さんの名前の中に私のSSにお気に入り登録して頂いている方がちらほら。
 ざくアクって皆を繋げる作品なんだなぁって。


~ポッコファミリア ホーム~

 

 ローズマリー達がダンジョンへ向かうのを見送り、ホームに残ったのはポッコ、ベル、こどらの3人。彼女達は会議の通り、これから始めるお店の開店資金の見積りと事業計画を作成しなければならない。

 

「さて、まずは開店資金の見積りは立てた方が良いでしょうね。必要な予算が分かっていないと他の皆が稼いだ資金もどの程度プールすれば良いかも判りませんし。」

 

「僕もそう思います。というかこの街の物価や物の相場が判らないと事業計画も立てられませんから。まずは開店に必要な物資をリストアップして、それらに必要な金額を調べながら一緒に色々な商品の相場を調べていくのが第一ですね。」

 

「こどらもまずこの世界にこたつがあるのかから調べないとね!」

 

 ハグレ王国でお店を始める為の本来の手順は、会議で企画書を基にプレゼンを行い、内容が良ければ採用となり、国庫から出資を得られるという流れだ。

 今回はそれとは違い、やることを先に決めてからそれに合わせた計画と資金集めを後から行う形を取っている。これは資金的な問題もあるが、それ以上にこと商売においては3人とも高い実績と信頼を有しているが故の特別措置である。

 ポッコの国民参加型美術館、ベルの道具屋、こどらのこたつ喫茶、ハグレ王国においてはどれもが安定した収入を得ている優良企業であり、今回も開店にさえこぎつけられれば収支の心配はないとローズマリーも判断していた。

 

「じゃあまず必要な物をリストアップしていきましょう。椅子やテーブルなんかは同じもので揃えた方が安くあがるかもしれません。」

 

「成るほど。それはよい考えです。」

 

 椅子やテーブルの他、調理器具や食器、材料、調合器材、木材、エプロンやクロス、額縁や装飾、金庫など、3人で今までお店をやっていた経験から其々の店で必要な物を書き出していく。

 その作業がまとまったところで、ベルがそれを均等に振り分ける。

 

「それじゃあ、これらがどのくらいの金額で調達出来るか、手分けして街の相場を調べましょう。ついでに僕は薬屋さん、ポッコちゃんは文化施設、こたつドラゴンさんは食べ物屋さんの品揃えや価格も一緒に調べておきましょう。」

 

「「はーい。」」

 

 斯くして3人はそれぞれ別れて街に出掛けていった。

 

――――――――――――――――――

 

~オラリオの街 商業街~

 

 開店に必要な物資の価格相場を調べ終わったベルは、今度は道具屋の主力商品になる薬の市場調査の為に商業街を訪れていた。

 また、ベルは市場調査と同時に、手持ちの薬を売却することも考えていた。道具屋を開店する前でも商品さえあれば卸売りによって収入を得ることが出来るし、ノーブランドの自家製品をいきなり売り出すよりは、商品だけでも認知を拡げておきたいという目論見もあった。

 そんなわけでベルは道行く人に声をかける。

 

「あの~すみません、この辺りの薬屋さんてご存知ないですか?」

 

「薬屋かい?薬屋ならミアハファミリアが薬専門の道具屋をやってるな。」

 

「ミアハファミリア・・・ですか、お店の場所ってわかりますか?」

 

「それならそこの角曲がって3軒目の店だよ。瓶の模様の看板が出ているから直ぐにわかるよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「どういたしまして。まだ小さいのに礼儀正しいボウズだなぁ。ウチの息子にも見習わせたい位だな。」

 

「あはは。親切なおじさんの息子さんならきっと優しい人なんでしょうね。」

 

「ガハハ!ウチの息子に限ってそんな甲斐性はないな!まぁまた困ったことがあればまた聞いてくれや!」

 

「ありがとうございました。」

 

 ベルは子供ながらに道具屋を経営しているだけあって礼儀を重んじる真面目な性格であり、大人相手にも気後れしない強かさも持っている。

 ベルは聞いた通り、ミアハファミリアの経営する道具屋へと向かった。

 

―――――――――――――――――

 

~ミアハファミリア~

 

「こんにちわ~。」

「いらっしゃいませ。あら、かわいいお客様ね。」

 

 ベルを出迎えたのはミアハファミリア唯一の団員にして団長のナアーザ・エリスイス。とある事件から冒険者を廃業した彼女は、薬師としてポーション精製と販売を生業としている。

 心から他人を思いやる神ミアハには、神人問わず想いを寄せる者も多く、オラリオにおいては珍しい程の善神である。しかし、ミアハファミリアは主神ミアハが道行く冒険者にポーションを無償で配ったりしているせいで、常に経営が火の車となっており生活すら困窮している。そんなファミリア脱退してしまえばいい?恋する乙女は貧乏よりも大事なことがあるんです。

「あの~こちらで販売している薬を見せてほしいんですけど。」

 

「ボウヤはお使いかしら?今うちで取り扱っているポーションはこの3種類よ。」

 

 店番をしていたナアーザが3本の瓶に入った薬品を取り出して机に並べる。

 

「効果が低いポーションから順番に500ヴァリス、2,000ヴァリス、5,000ヴァリスよ。値段と効果は大体比例するわ。ある程度の切り傷くらいなら安いポーションでも治せるけど、大きな怪我だったらそれこそ質の高いポーションを使わないと効果は薄いの。」

 

 ベルは提示されたポーションを道具屋特有の眼で鑑定にかける。判明した効果についてはハッキリ言ってベルが自作して拠点で販売しているポーションの方が遥かに高い。しかし、貨幣相場が10ヴァリス=1ゴールドと考えると500ヴァリスというのはかなり安い。拠点では一番安い特製携帯薬Ⅰを480ゴールドで販売しており、これはつまり4,800ヴァリス程度の価格設定ということになる。

 とはいえ、ハグレ王国の拠点では一番安く売っている特製携帯薬Ⅰと、ナアーザから提示された5,000ヴァリスのポーションとではそれでも特製携帯薬Ⅰの方が効能は高い。

 

「これよりも効能が高いポーションは売っていないんですか?」

 

「そうねぇ。他所ならそれこそ何でも治せるエリクシールなんて薬を何千万ヴァリスて値段で置いてるところもあるわね。それほどじゃなくても瀕死状態から回復出来るようなレベルの薬だと何十万ヴァリス位が相場かしら。」

 

「このお店ではそういう薬は品揃えしないんですか?」

 

 遠回しにウチにはないと言ったつもりだが、ベルはそこにズバリと食い込んでくる。

 

「・・・あなた、中々痛い所を突くわね。ウチも単価の高いポーションを品揃えはしたいのは山々だけど、それを仕入れる資金がないのよ。零細ファミリアの弱いところね。自作しようにも素材も中々揃わないし。」

 

 つまり、ここオラリオでは量産品の安くて低い効能のポーションから、何でも治せるような超高級ポーションまで幅広い需要はあるということらしい。また、ベルとローズマリーが共同開発しているポーションは安さには劣るが、高い効能に対して割安な価格で販売が可能ということだ。

 

「あ、あのすみません。実はボク、薬を買いに来たわけじゃないんです。」

 

「あら、そうなの?でもウチは薬しか置いてないわよ?薬屋だし。それじゃあ何のご用なのかしら?」

 

 ナアーザは薬屋に薬を買いに来たわけではないという言葉に怪訝そうな表情で問いかける。

 

「ボクが作っているこれらのポーションをこちらで販売しては頂けないかと思いまして。」

 

「はあ?」

 

 どう見ても年の頃は10才程度の獣人の子供が薬を買いに来たのではなく、売りに来たと言う。しかも自分が作ったなどとあり得ないことを言っている。

 

「あのねボウヤ、冷やかしに来たのなら怒らないから帰って頂戴。こう見えてもそんなに暇じゃないのよ。」

 

 実際は閑古鳥が鳴いている位には暇だけど悔しいから黙っておく。

 

「ごめんなさい。でもボクは本気なんです。せめて、この商品を見てからご判断頂けないでしょうか?」ゴトゴトゴト

 

 急に冷たくなったナアーザの口調を余所に、ベルは10本の瓶を取り出す。特製携帯薬のⅠ・Ⅲ・Ⅵ、特製リカバー薬のⅠ・Ⅵ、特製リレイズ、メンタルナイス、メンタルパパ、メンタルグランマ、万能治療薬である。

 

「ん~自家製ポーションねぇ・・・ん?」ガタッ

 

 ナアーザは出された瓶を鑑定し始めるとみるみるうちに顔を青くして冷や汗を垂らす。

 

「え?なにこれ?このポーションをあなたが?いやいやいや・・・そんなわけが・・・え?本当に?どぅわえぇえええ!?」ドンガラガッシャーン!

 

 ナアーザは余りの驚愕に仰け反り、そのままひっくり返ってしまった。勢いが勢いだけに派手な音がしたが、特に壊れた物などはないようだ。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「いたた・・・。え、えぇ大丈夫よ。」

 

 ナアーザは後頭部押さえながらもスックと立ち上がる。

 

 そして、そうこうしているうちに新たな人物がこの場に現れる。

 

「おいおい、何やら凄い音がしたが何が起きたのだ!?」ガチャ

「あ、お帰りなさいませ。ミアハ様。」パンパン

 

 店のドアを開けて入ってきたのはこのミアハファミリアの主神、ミアハであった。ナアーザは衣服の埃を払い、乱れた髪を直しながら主神を出迎える。

 

「ナアーザ?一体どうしたのだ?何が起きたのだ?」

 

「え~っと、この子がウチで自作のポーションを売って欲しいと言って来たのですが・・・。」

 

「ふむ、自作のポーションかどれ・・・む?」ガタッ

 

 神ミアハはナアーザから渡された瓶を鑑定し始めるとみるみるうちに顔を青くして冷や汗を垂らす。

 

 

「は?なんだ?このポーションをそなたが?いやいやいや・・・そんなわけが・・・え?本当に?どぅわえぇえええ!?」ドンガラガッシャーン!

 

 ミアハは余りの驚愕に仰け反り、そのままひっくり返ってしまった。先程のナアーザと全く同じ反応にベルもつい苦笑いしてしまう。ちなみに特に壊れた物はない。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「いたた・・・。あ、あぁ大丈夫だ。」

 

 ミアハは後頭部押さえながらもスックと立ち上がる。

 

「それで、どうでしょう?こちらで販売をしては頂けないでしょうか?」

 

「どうでしょうてあなた、こんな代物どこで拾ってきたのよ!?」

 

「自家製ですけど?」

 

「そんなバカな!?」

 

「いや、この子は嘘をついていない。これらのポーションは本当にこの子が作ったらしい。」

 

「ミアハ様!?」

 

「信じて頂けましたか?」

 

「私も神の端くれだ。子供達が嘘をついていれば分かるさ。だが、なればこそだが、君の提案は受け入れるわけにはいかない。」

 

「何故ですか?」

 

「これらのポーション、効能を相場に照らし合わせて値を付ければ数十万ヴァリスで取引されるような代物だ。大変お恥ずかしく、残念なことではあるが、ウチのファミリアにはこれ程の品を仕入れられる程の資金はないのだよ。他をあたるといい。」

 

 神ミアハは先程とはうって変わって真面目な表情で語る。日々の生活すら困窮することもある零細ファミリアには何十万ヴァリスもの商品を仕入れる資金がない。やはりどこの世界でも、何かを成す為には金金金なのである。

 しかし、そこでベルは商売人としての目を光らせる。

 

「資金の心配は必要ありません。定価委託販売という契約形態では如何でしょうか?」

 

「定価、委託販売・・・とは?」

 

「はい。ここで言う定価とは、売価を此方で決めさせて頂くこと、委託販売とは卸し時に仕入代金は必要とせず、一定期間商品を陳列して頂いて、売れた分だけ仕入代金を支払って頂くという形式です。売れ残った分は此方で引き取るか、継続で販売して頂いて構いません。」

 

「成るほど、君は凄いことを考えるな。此方には仕入、売れ残りのリスクがなく、そちらは広い売り場面積を確保できる、という訳か。」

 

「はい、此方の事情を申し上げると、商品は今でも作れるのですが、肝心のお店をボク達はまだ持っていません。商品を並べて頂く場所があるだけでも有難いんです。」

 

「ふむ、言葉に嘘はないようだな。わかった。その条件で契約させて貰おう。商品は直ぐに持ってきてくれるのだな?」

 

「勿論です。では取り合えず先程の商品を5本ずつ用意しますね。」

 

「うむ。ではその際に正式に契約をさせて貰おう。」

 

「わかりました!有り難うございます!では一度、ボク達のホームに戻って商品をお持ちしますね!」

 

「ホーム?そなたは冒険者なのか?」

 

「はい。ボクはポッコファミリア所属のベルといいます。」

 

「ポッコファミリアか、商業系でもあまり聞かない名だな?」

 

「ええ、一昨日立ち上げたばかりですから!」

 

「なっ!?一昨日だと!?」

 

「あっ日が傾いて来ましたね、急いで商品持ってきますね!では!」ダッシュ

 

「あ、おい!」

 

 そう言ってベルはミアハファミリアの店を後にした。

 

 

「ミアハ様・・・、彼は一体・・・?」

 

「ふ~む。もしかしたらオラリオに新しい風を持ち込む者かも知れんな。」フフッ

 

「はあ。」ジトー

 

「ん?何だ?」フイ

 

「何でもありません。」プイッ

 

 優しく微笑む神ミアハの横顔を見ていたナアーザは匙を向けられては頬を染めて顔を背ける。

 まったく、もう、まったく、この御方は。

 夕日のような顔で俯くナアーザをミアハは心配するようにその顔を除き込む。

 

「どうしたのだ?急に?」

 

「知りません!」

 

 そういうところだぞ!この朴念神!

 




 商売人モードのベル君はけっこう切れ者キャラのイメージあります。
 そしてこの幸薄そうなミアハ様に祝福を!


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第9話 割れ炬燵に綴じ布団

 ついに夏休み絵日記発売!そして2月22日といえばニャニャーニャさんの日!ざくアク熱が止まらない!見よ!世界は祝福に満ちている!
 短いけど勢いに任せてあげたれ!


~オラリオの街~

 

「ふぅ、物資の価格調べてたらもうお昼過ぎだよ~。こどらお腹すいちゃったなぁ。」

 

 ポッコ、ベルと別れて価格調査をしていたこどらこと、こたつドラゴン。筋金入りの横着者である彼女は、何時でも何処でもコタツに入って、みかんを食べながら漫画を読みながらみかんが食べられるように、その背にコタツを背負っている。何を言っているか解らないかも知れないが、そのままの意味である。こたつドラゴンは横着をする為ならコタツを背負ったまま山も登るし、空も飛ぶし、魔王とも戦う。真夏の帝都で毎年二日にかけて開催されるコミックワールドマーケット(通称:夏コミ)会場にコタツを持ち込んで厳重注意されたりもした。もう一度言う、何を言っているか解らないかも知れないが、そのままの意味である。

 

「どこかでお昼ご飯にしようかなぁ?でもこんな時間に食べるとお夕飯食べれなくなっちゃうし・・・。」

 

ざわ・・・ざわ・・・ナンデショウアレ?ティオネサン

ひそ・・・ひそ・・・バツゲームカシラ?

ざわ・・・ざわ・・・エッナニソレカワイソウ

ひそ・・・ひそ・・・レフィーヤカカワッチャダメヨ!

 

 

「ん?」

 

 どうしたことだろう?何だか街が騒がしい。そして何故だか視線を感じる。いくら私が異世界人(よそもの)だからと言っても見た目でそれが判る訳でもないし。変だなぁ。

 

「なんだか見られてる気がするじゃん。照れちゃうなぁ。」

 

 もしかして・・・コレがモテ期というやつかもしれない。いや、そうに違いない。ほら今すれ違った人も此方を振り返って見ている。

 ククク、我は竜人、アーマードドラゴン。人間どもよ、見惚れるがいい。これがリュージンの技術を詰め込んだCotaⅡエンジン搭載の最新型コタツ(街歩き仕様)だ。どうだ、お洒落だろう?フフン

 なんて、ちょっぴり誇らしい気持ちで通りを歩きながら、食べ物屋さんを探す。なにか軽く食べれる物売ってないかな?

 

「さ~さ~揚げたてサクサクじゃが丸君はいかがかね~!」ヤスイヨーウマイヨー

 

「じゃが丸君・・・?」ナニソレ

 

 こどらは威勢の良いかけ声に引かれてフラフラ~とじゃが丸君とやらを売っている屋台に足を向けた。

 黒髪ツインテールで身長のわりにおっきな胸の女の子がお店番をしていた。

 

「へい!らっしゃい!揚げたてのじゃが丸君はいかg・・・て、はわわわわわぁ!キ、キミキミキミわわあっ!?」

 

「え?な、なに?」ドキリンコ

 

「キ、キキミ!その背中のモノはなんだい!?一体全体なんなんだぁい!?」フルフル

 

「え?え?え?」オロオロ

 

 何だかハチャメチャなテンションで押し寄せてくる屋台の店員さん。何が何だかわからず、こどら困惑。

 

「キミが!背中に背負ってるソレだよ!」

 

「ソレ?あ、コタツのこと?」ハッ

 

「コタツと言うのかいソレは!嗚呼!何て完璧なフォルム!愛情すら内包した温もり!炉の神たるボクの魂が叫んでいるよ!これは運☆命の出会いだと!」ディスティニー!

 

 理由は解らないけど、こどらのコタツがこの神様(?)の琴線に触れたらしい。まぁでも仕方ないよね。なんせ最新型(以下略)コタツだもんね。見る人が見たら解っちゃうよね。

 

「コタツ!こたつ!炬燵!嗚呼!なんて甘美な響きなんだろう!キミのそのコタツとやらはどうやって手に入れたんだい!?」ズィッ

 

 近い近い、顔近いしテンション高すぎてなんだか怖いよこの人。ただでさえこどらは知らない人と話すの苦手なのに困っちゃうよぉ・・・。

 

「あわ、あわわ・・・。」ビクビク

 

ざわ・・・ざわ・・・アノヘンナコカラマレテル?

ひそ・・・ひそ・・・タスケタホウガイインジャ?

ざわ・・・ざわ・・・シッカカワッチャダメヨレフィーヤ!

ひそ・・・ひそ・・・ジャガマルクンタベタイ

 

 そうこうしているうちに遠巻きに衆目を集め始める。端から見れば店員からの強引な押し売りに合っている気弱な客といった絵面であろうか。しかし周りの人達は様子を伺うばかりで特に介入はしない。

 そしてそんな中で、一仕事を終えて通りかかる神が一柱。

 

「ふぅ、やっと用事が終わりました。そろそろ二人と合流して夕飯の算段でも・・・おや?人だかりが・・・ん?コタツとは?」

 

 ポッコはコタツコタツと喚いている大きな声を聞いて、まさかと思い、ざわざわ言ってる人だかりをかき分け渦中に割り込む。そして自分にとっては旧知の二人(、、)がなにやら揉めているのを見つけた。

 

「こどら?何かあったんですか?って、あなたはヘスティアじゃないですか!」

 

「「ポッコ!」ちゃん!」パァ!

「「えっ?」」ハッ!?

 

 二人同時に名前を呼びお互い共通の知り合いと悟る。

 

 

「ポッコちゃん、この怖い人知ってるの?」

 

「ええ、まあ。一応。」ハァ

 

「怖い人!?一応!?」ガーンΣ( ̄□ ̄;)

 

 ヘスティアと呼ばれたその人は、ここに至って初めて人だかりが出来ていることに気付き、自分がしでかしたことを理解する。

 ポッコはそれを見てヤレヤレといった様子で、二人の仲介をすることにした。

 

「えっと、どういう情況なんです?ウチの子を苛めてるようならヘスティアとはいえただじゃおきませんよ?」ジロッ

 

「いやいや!苛めてなんていないよ!ボクはただ、そのコタツとやらについて知りたかっただけなんだ!」アワワ

 

「だ、そうですよ?こどら。」クルーリ

 

「えっと、こどらのコタツ、気に入ってくれたの?」オズオズ

 

「そうそう!とっても素敵だよ!そのコタツとやらは!」

 

「そ、そう・・・。嬉しいな。えへへ。」ポッ

 

「そのコタツは何処で手に入れられるんだい!?」ズゥィッ

 

「コタツが欲しいの・・・?いいよ。こどらが前に使ってたお古で良かったらあげるよ。」

 

「ほ、本当かい!?キミはなんていいやつなんだ!」ギュゥゥ

 

 ヘスティアはこどらからの提案に、力一杯の抱擁でその喜びを表現して返事とする。

 

「そ、それでね!嫌じゃなかったらでいいんだけど、こどらとお友達になってほしいな~って・・・。」

 

「友達?ふふん。ボク達はもうコタツによって結ばれた親友!否、コタ友だよっ!ボクの名はヘスティア。これでもファミリアを運営する神様なのさ!」

 

「こ、こどらはね、ポッコちゃんファミリアのこたつドラゴン。皆はこどらって呼んでくれるんだ。よろしくね!」

 

 二人はガシッと力強く握手を交わす。

 

「今日からボク達はコタツ同盟だ!一緒にコタツの素晴らしさを世に伝えていこうじゃあないか!」

 

「「お~!」」

 

 今ここに、コタツ同盟なる謎の組織が爆誕した。このオラリオに住まう全ての冒険者をコタツの虜にするまで彼女達の戦いは終わらない。

 

「まぁ、確かにあなたたち気が合いそうですよね・・・。」ヒモ&ニート

 

 それからというもの、コタツを背負いながらじゃが丸君を売る店員が話題となり、ダンジョンに向かう冒険者の中にもコタツを背負う猛者がチラホラ現れるようになったとか、ならなかったとか。

 




 コタツを装着した状態でレベルアップを果たすとレアスキル『こたつカウンター』が習得出来るとか出来ないとか。それは迷宮都市伝説として、まことしやかに冒険者の間で語られて広まっていくのであった。
 何やら前回投稿から見たことない勢いでUAお気に入り増えててびっくり。拙い作品ですが楽しんでくれる方が少しでもいてくれると幸いです。感想評価もお気軽にどうぞ。
 ついでにこのすばクロスの方も見てくれてる人増えてて感謝。もう2~3話こっち上げたらこのすばの方も続き書いていきます。


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第10話 狼と犬

 ざくアク絵日記楽しすぎて筆が進む進む。アイコンのデーリッチとかヅッチーがぴょんぴょん跳ねてそれだけで癒されてず~っと見ていたくなる。
 ダンまちタグからこのSSに流れ着いて、ざくアクを知らない方には、せめてキャラ絵だけでも覗いて頂くと当作品も読みやすいかと思いますのでオススメです。
 まぁあんま宣伝みたいになると怒られそうなのでこれ以上は差し控えます。


~ポッコファミリア ホーム~

 

 神ヘスティアとこドラによってコタツ同盟なる組織が爆誕した後、3人で1つのじゃが丸くんを分け合い、芋園の誓いとした。なぜかポッコもどさくさに紛れて巻き込まれていたのは不幸としか言い様がない。

 それから日が傾き始める頃合いになり、ポッコとこドラはヘスティアと別れて一旦ホームに戻った。予定ではもうじき帰ってくるダンジョン探索組の為に食事の用意をしようかという所であったが、ここでちょっとした問題が起きていた。

 

「コンクリ定時連絡でローズマリーから遅くなりそうという連絡がありました。」

 

「え?何かあったの?」

 

 ハグレ王国では遠征時の連絡手段としてコンタクトクリスタル(通称:コンクリ)という魔道具を使用している。特殊な鉱石を二つに割って一対とすることで、片方の欠片からもう一方の欠片へ『振動』を送る機能が生まれる。あまり複雑な情報を送ることは出来ないが、鉱石を叩いた回数に応じて状況を伝える連絡手段としている。

 

「先程の定時連絡はノック3回でした。これは『予定変更するが危険はなし』という意味です。危険な状況ではありませんが、何か予定外のことがあって帰りが遅くなるということだと推測されます。」

 

「予定変更ってことなら、早く戻ることはないの?」

 

「予定通りならもうじき帰ってくる時間ですからね。ここから予定変更ということは遅くなるということしかありません。」

 

「ふ~ん。まぁ、ちょっと心配だけど危険な目に会ってる訳じゃなければいいかぁ。あ、でも、ご飯の用意はどうするの?今作っても冷たくなっちゃうじゃんか。」

 

「そうですね。出来るだけご飯は皆で食べたかったのですが、いつ帰ってくるかわかりませんし。遅くなるようならローズマリー達も携帯食料は持っていってますからそれを食べているでしょう。そうなると用意しても無駄になっちゃいますから、私達はベル君が戻ったら一緒に食べてしまいましょう。」

 

「そっか~何作る?」

 

「う~ん、私達だけでご飯というのも寂しいですし、中途半端に食材使うと調整が面倒なんですよね。いっそ外に食べに行きましょうか。」

 

「やったね!」イエイ

 

 それから少しして薬の配達を終えて帰ってきたベルと合流し、3人で昨日行った『豊穣の女主人亭』へと向かった。

 

 

―――――――――――――――――

 

~豊穣の女主人亭~

 

「いらっしゃいませ~!あら?あなた方は昨日の冒険者さん達ですね。」ニコッ

 

 入口で3人を出迎えてくれたのは昨日店主のミアさんが紹介してくれた、たしかシルさんという名前の店員さんだった。綺麗な銀髪と人好きのする笑顔が特徴的だ。

 

「今晩は。今日は3人なんですけど大丈夫ですか?」

 

「今日は団体さんの予約が入っているので、お席がカウンターになってしまいますがよろしいですか?」

 

「大丈夫です。お願いします。」

 

「ありがとうございます!3名様カウンター席にご案内しま~す!」

 

 3人がカウンター席に案内されると、端の席には既に他のお客さんが座っていた。シルにとってはその白髪赤目の少年は既に知り合いらしく、気安げにその少年に話しかける。

 

「ベルさん、お隣へお客様ご案内してもよろしいですか?」

 

「あっ、ははいっ!」

「はい?」

 

「「ん?」」

 

「え?」

 

 ベルと呼ばれて反応したのが2名。シルは話しかけたベルと後ろから返事をしたベルの顔を交互に見て、頭に?を浮かべている。当のベル同士もお互いに顔を見合せている。

 

「えっと、もしかして、あなたもベルという名前なんですか?ボクはポッコファミリアのベルっていいます。」

 

 いち早く状況を理解した青髪のベルが白髪のベルに自己紹介をした。

 

「あ、はは、なるほど。僕はヘスティアファミリアのベル。ベル・クラネルです。偶然だね。」

 

「お二人ともベルさんなんですね。どうりで両方からお返事が返ってくるわけですねぇ。」ナルホドナルホドニヤリ

 

 成る程合点がいったと、ポンを手を叩いて各々状況を理解する。

 

「ヘスティアファミリア?貴方はあのヘスティアの子なんですか?」

 

 丁度さっき街で変なことに巻き込んでくれた女神の名前が出てきてポッコも話に参加してきた。

 

「そうなんです。僕、ヘスティアファミリアの唯一の団員でして。」

 

「へぇ、あの引きこもりのヘスティアにもついに家族ができたんですねぇ。」シミジミ

 

 ポッコは天界にいた頃のヘスティアのことは多少の縁があってそれなりに知っている。それがこれから語られるかどうかは分からない。

「お~いシル!いつまでお客さんを立たせてるんだい!早く座ってもらいな!」ゴルァ!

 

「あ、そうでした!ごめんなさい、どうぞこちらの席に座ってください!ご注文はこちらからどうぞ!」テヘペロ

 

「こちらこそ、話に夢中ですみません。」ペッコリン

 

 ポッコ達はベル・クラネル少年の隣に座って注文をしていった。ポッコが注文したのは当然、大好きなオムライスである。

 

―――――――――――――――――

 

 ベル・クラネル少年は年上のお姉さんタイプには弱いが、年下の子には特に意識しないで普通に話すことができる。お互いに自己紹介もして気が合ったのもあるだろう。4人はすっかり打ち解けてお話に花を咲かせていた。

 

「で、僕は助けてくれたその人に言われたんです。冒険者は追い求めることを止めたら生きていけないって!」グッ

 

 クラネル君(ややこしいのでベル君とクラネル君で呼び方を分けることにした)は今日ダンジョンであった出来事を話し、冒険者としての自分の目標を語る。

 

「へぇ~さすがは冒険者の街。そんなヒーローみたいなカッコいいこと言う人って本当にいるんですね。ボク達の仲間にも似たようなこと言いそうな冒険大好きな人?がいるんですけど、冒険者って皆そうなんでしょうか。」

 

「ところで、クラネル君は何でそんなに強くなりたいの?冒険者の欲しがる物って大抵お金とか名誉とかじゃん?」

 

「いや~僕、昨日ミノタウロスに追いかけられてもうダメだってところを助けてくれた人がいまして。その人と一緒に戦えるように強くなるのが僕の目標なんです。」

 

「あれれ~?も・し・か・し・て、クラネル君はその人のことが気になっちゃったの?」

 

「あ、あわわ、アイズさんのことはそんなんじゃないんですぅ!」マッカッカ

 

「誰もその人が女の人だなんて言ってないんだよね~?ん~?どうしたのクラネル君、顔真っ赤だよ?で、アイズさんてどんな子なの?」ホラホライッチャイナヨ!

 

「ポッコちゃ~ん、それ以上はやめてあげてよ~。」マッカッカ

 

 クラネル君が真っ赤になって照れている。コイバナに免疫のないウチのベル君も顔を赤くしてアワアワしてる。なんか似てるな、この2人。

 

 なんて話をしていたら、猫人〈キャットピープル〉の店員、アーニャがお店の入口を開け広げた。

 

「にゃ~ぅ!ご予約のお客様、ご来店にゃ~!」バーン!

 

シーン・・・

 

 先程までの喧騒が嘘のように静まりかえる酒場。けしてドアが開く音に驚いたなんてことはない。冒険者達からすれば明らかに格が違う存在の気配を感じとったが故の反応だ。そしてその気配の持ち主達は店員に案内され、店内の中央に用意された予約テーブルに通される。

 

「おい、えれ~上玉だな。」ヒソヒソ

「馬鹿、エムブレムを見ろ、ロキファミリアだぞ」ヒソヒソ

「てことはあれが剣姫?」ヒソヒソ

 

 こうも静まりかえると、周りの冒険者達のヒソヒソ声も聞こえてくる。ロキファミリアといえば、エイナからの初級冒険者講座でも名前が挙がるほどの有名なファミリアだ。冒険者講座を受けたベルとこドラは勿論、ポッコですらちょっと街を歩いていたら噂が聞こえてきた程度にはその名を記憶している。

 

「あれがロキファミリアかぁ。けっこう強そうじゃん。」ヒソヒソ

「こドラさんその言い方は何か嫌味みたいですよ。」ヒソヒソ

「あれクラネル君どしたの?」ヒソヒソ

 

「う・・・あ・・・。」アイズサンダ

「アイズさん・・・?あ~成る程。あの人が。」フムフム

 

 ポッコは先程の話から、ロキファミリアの金髪の女性がクラネル君の想い人だと悟る。成る程、綺麗な人だ。これでこの街有数の実力者と言うからには憧れる気持ちもよくわかる。

 

「ロキファミリアさんはウチのお得意様なんです。彼らの主神ロキ様がここをいたく気に入られたそうで。」

 

「そうなんですか・・・。」ジャアココニクレバ・・・

 

「ク・ラ・ネ・ル・く~ん。」ニヤニヤ

 

「えぇっ、ポッコちゃ~ん!?」アセアセ

 

「や、やめてあげてよ~。」ブンブン

 

 顔を真っ赤にしたまま俯いているクラネル君を庇うように、手をブンブンしながらポッコの追求を遮るベル君。

 いや~やっぱりこの2人はよく似てるな~。

 

―――――――――――――――――

 

「よっしゃ、アイズぅ!昨日のあの話、皆に披露してやろうぜェ!」

「あの話・・・?」

 

「アレだって!帰る途中に何匹か逃したミノタウロス最後の一匹。お前が5階層で始末したろ?そんときのトマト野郎の話だよォ!」

 

「えっ」ビクッ!

「ん?どったの、クラネル君?」

「ミノタウロスといえば、あの人昨日デーリッチちゃんのこと助けてた人じゃない?」

「あっ、そういわれたらそうじゃん。こドラも気付かなかったよ。」

 

イカニモカケダシノヒョロクセーガキガ・・・

 

「うっ、くっ・・・。」プルプル「ク、クラネル君・・・?」

 

アイズガコマギリニシタクッセーウシノチアビテー・・・

 

「・・・。」ガクガク

「あの話・・・?もしかしてクラネル君の?」

「何だかあの人雰囲気悪いね・・・。」

「こドラもああいうの嫌だな・・・。」

 

マッカナトマトミタイニナッチマッタンダヨ・・・!

ウチノオヒメサマタスケタアイテニニゲラレテヤンノ!ギャハハ!

クスクス

 

「・・・。」ギュウゥ!

「もう出よう、クラネル君?あんなの気にしちゃダメだよ?」

アノジョウキョウデハシカタナカッタトオモイマス

アア゙!?オマエハアンナゴミノカタモツノカ!?

ワレワレノフテギワダハジヲシレ

ゴミヲゴミトイッテナニガワルイ!?

 

「店長さ~ん!お会計お願いしま~す!」ホライコウ!

「あいよ、毎度あり~!」

 

ベートキミヨッテルネ

ジブンヨリヨワクテナンジャクナザコヤロウニ・・・お前の隣に立つ資格なんかありゃしねェ。雑魚じゃ釣り合わないんだ、アイズ・ヴァレンシュタインにはなァ!」

 

「!」ガタン!タダッ!

「あっ!クラネル君!」

 

ナニクイニゲ?

ダイソレタヤッチャナァゲラゲラ

 

「食い逃げじゃありません!代金は私が払います!こドラ!クラネル君追っかけて!」

「わかったじゃん!」

 

 強き者が弱きを笑う。この程度の事は弱肉強食の冒険者としては日常茶飯事なのかもしれない。しかし、出会って間もないとはいえ友達を馬鹿にされ、傷付けられた。何よりも友を大事にするハグレ王国において、友達を傷付けた罪は重い。

 ポッコが会計を済ませている間に、ベルがざわつく店内をよそにベートと呼ばれた狼男に詰め寄る。

 

「ちょっとおじさん!」オイ

「あン?だぁれがおじさんだゴルァ!?」

 

ププッオジサンダッテ

ウwwwケwwwルwww

 

「人を笑い者にするなんてそれでも第一級冒険者ですか!恥ずかしくないんですか!」

「ンだとぉ?クソ生意気言ってっとガキでも容赦しねぇぞ?」

 

アノチビマジカヨ

オイオイオイシヌワアイツ

ホゥタンサンヌキコーラデスカ

ギャハハナンダソレ!

 

「ベートがちっちゃい子に絡まれとる~!ウwwwケwwwるwww。」

「なにこの子か~わ~い~!」

「女の子?男の子?連れて帰ろうよ!」

「あれ、この子昨日の・・・?」

 

 ベルが怒りを顕に先程の言動に抗議するも、まさかこんな子供が第一級冒険者に喧嘩を売ってるなんて思う者はいない。店内での揉め事には厳しいミアですら、様子を見てるだけだ。

 

(ん?親指が・・・疼く?)

「どうした?フィン?」

 

「(いや、まさかな。)何でもないよ。まぁ店で揉め事をおこすわけにはいかない。本気だとは思わないがそろそろ止めておこうか。おいベートやめないか、相手は子供だ。」

 

 しかし、ロキファミリアの面々も酒が入り判断力が鈍っていたのもあるだろう。ベートが直情で動いてしまうほど泥酔してしまっていたことに気付いていなかった。

 

「うっるせェガキだなぁ。どうやらぶっ飛ばされねぇとわかんねぇみたいだなあ!オラァ!」ガバッ

 

「いかん!よせ!ベート!」ダッ

 

 まさかベートがフィンの制止も聞かず、子供相手に本気で殴りかかるとは誰も思っていなかったが、泥酔していたベートはその拳を振り上げる。振り上げてしまう。フィンがそれを止めに入るも、間に合わない!

 そして・・・。

 

「オラァ・・・お、おぇっぷ・・・。」ウプッ

 

「ちょ、ベート!?まさか!?」ヒキー

 

「オエエエ~・・・」ダバダバ

 

「「「ベェートォー!?」」」

 

 そして、ベートは盛大に吐いた。ベルの頭の上で。右手を振り上げた姿勢でゲロゲロなベートとゲロゲロを頭から浴びせられたベル。

 渦中の二人を中心に全員が一歩後ずさる。フィンすらドン引きしている。

 

「何やってんだい!こんのバカタレどもがあ!!!」ガオー

 

 そして、固まった空気を切り裂くミア母さんの怒声。

 

「「す、すんませんでしたぁ~!」」ドゲザァ そして、一応は監督者に当たるロキとポッコ二人によるスライディング土下座。この場には勇者はいても、ブチキレたミア・グランドを止められる猛者はいなかった。

 

――――――――――――――――

 

「まったく、ロキの顔に免じて今回は不問にするけど、今度やったら承知しないよ!」フンス

 

「迷惑かけてえろうすんませんでした。ミア母さん。」

 

 ゲロったまま気を失ったベートはロキファミリアのメンバーによりグルグルの簀巻きにされ、現在はティオネに引き摺られている。

 

「では、私達もこれで失礼しますね。ベル君、行きましょう。」

 

 クラネル君の件(勿論アイズへの恋慕は抜きに)も含めて事情を話した結果、全面的にベートが悪いという結論にまとまった。被害者であるベル君は店の水道で体を洗わせてもらい、会計も済ませて今に至る。

 

「まぁ、今回の件はウチのベートに非があったみたいやし、ゲロぶっかけられた被害者もそっちの子供や。ホンマすまんかった。ウチからよ~く言い聞かせたるさかい、今回の件はウチの顔に免じて堪忍してやってくれへんか。」ゲシゲシ

 

 ロキは簀巻きになったまま気を失っているベートを足蹴にしながら、改めてポッコとベルに頭を下げる。

 

「いえ、こちらも非はありますし。お互い様(、、、、)です。そんなにあらたまらないでください。」

「ボクも少しカッとなってしまいました。ごめんなさい。」

 

「そうか?そう言ってもらえると助かるわ。」

 

 ロキ目線としては自分の子のやらかしで相手が被害を被った形である。それなりの賠償も請求される覚悟もあったが、それもなさそうで一安心である。

 そう言って、この場は解散となったわけだが、ロキは先程のポッコの言い方に妙な引っ掛かりを覚えていた。「お互い様」。そう、ポッコはお互い様(、、、、)と言った。どう見ても加害者と被害者の間柄でこんな言い方をするだろうか。

 

「フィンも、何か感じとるやろ?」

 

「察しがいいね、ロキ。僕もさっきから親指の疼きが止まらないよ。」

 

 ロキは後ろに控えていたフィンに向き直ると、フィンも冷や汗を流しながら応える。

 

「ふぅむ。な~んかありそうやな。ポッコファミリア、名前、覚えたで。」

 

 フレイヤに続きロキ、何やらよく分からない内に色々なところから目をつけられるポッコファミリア。彼女達の今後はいかに。

 

―――――――――――――――――

 

「あ、いたいた!落ち合う場所決めなかったとはいえ、お店戻ったらもう帰ったって言われるし。探しちゃったじゃんか。」

 

 豊穣の女主人亭からホームへの帰り道、クラネル君を追いかけていたこドラが後ろから駆けてきた。

 

「あ。こドラ、クラネル君は見つかりましたか?」

 

「ダメだったよ、見失っちゃったみたい。あの子スゴく足速いんだ。自分のホームに戻っていたらいいんだけど・・・。」

 

「ホームですか、ヘスティアから場所を聞いておけばよかったですね。」

 

「どうする?」

 

「まぁ彼も冒険者ですから、あまり心配するのも過保護というものだと思います。今度会ったときに顛末を伝えることにして私達は帰りましょう。」

 

「ん~そうだね。」

 

「ときにベル君。あれはちょっとやり過ぎですよ?」

 

「はい・・・、ごめんなさい。」

 

「ん?どしたのベル君?」

 

「周りに気付く人がいなかったから良かったものの、先に手を出す(、、、、、、)なんていけないことですよ。」

 

「反省してます・・・。」

 

 ベルはベートが拳を振り上げた瞬間、周りの冒険者には見えない程の速度でベートの鳩尾に正拳突きを繰り出していた。つまり、ベートが吐いて気を失ったのは泥酔のせいではなく、鳩尾への衝撃により胃が圧迫されたことによるものである。

 ニワカマッスル直伝のベルの正拳突きは、ベルの素直で勤勉な性格により磨かれ続け、今や音速に至る域である。ハグレ王国で開催された子供空手トーナメントでは、そのとてつもなく速い正拳突きが最後までデーリッチを苦しめた。

 レベル5以上の第一級冒険者が犇めくあの場において、それが見えたのは唯一同じ領域に立つポッコしかいなかった。だからポッコはその後ろめたさから、ロキへ過度な賠償も求めなかったし、お互い様と言ったわけだ。

 

「まぁでも、友達を思う気持ちは大事ですからね。個人的には拍手してあげたいです。花丸をあげましょう。」

 

「ありがとう、ポッコちゃん。」

 

 そんなやりとりを経て3人はホームへと向かった。

 

 

 

 

 

「・・・。」

 

 

 

 

 闇に紛れてその会話を聞いていた者の存在に気付かずに。

 




 ベート君にはちょっとばかりひどい目にあってもらいましたが仕方ないよね。別に作者はベート君のことが嫌いなわけではないです。
 ラストに不穏な気配を出してますが、別に鬱とか胸くそにはならないと思うのでご安心を。


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第11話 冒険者心得その2

 にゃにゃーにゃの日に間に合わなかったよ・・・。
 あっ、今更ですがダンまちのストーリーは基本アニメ沿いです。


~ダンジョン 5階層~

 

「ふぃ~やっとここまで戻ってこれたでち~。もう少しで地上に出れるでちね。」

 

「まさかダンジョン内ではキーオブパンドラが使えないとはね~。」

 

 さて一方、ダンジョン探索組はと言うと、ようやく5階層まで戻って来ていた。

 予定通り15階層まで進んだまでは良かった。マッピングも終えて、ここでさあ帰ろうかとデーリッチがキーオブパンドラを構えたところで事は起きた。なぜかキーオブパンドラが反応しなかったのだ。

 

「いやはや、面目ない。マナが薄いのに気付いた時点でその可能性に至るべきだったのに、皆、すまない。」

 

「何言ってるの、ローズマリー。そんなの皆お互い様じゃないの。」

 

 実はこの事態は初めてではない。トゲチーク山や水晶洞窟、時計塔、わりと危機的な状況でキーオブパンドラが使用不可能になる状況は何度か経験している。そしてその原因は共通しており、大気中のマナ不足である。

 昨日の探索時にダンジョン内のマナが薄いことは解っていたのにこうした事態を招いてしまったのは、ひとえに油断というものだろう。あまり敵が強くないからと、金を稼ぐことを急いてしまい、安全確認を疎かにしてしまっていた。

 

「責任はともかく、危機感が薄くなっていたことには違いない。結果的には早い段階でキーオブパンドラが使えないことに気付けてよかったけどね。今後は安全確保を怠らないようにしないとね。ん?」

 

「っくしょうっ!」ズバッ

 

 ローズマリーが気を引き締めていると、7体ものウォーシャドウに囲まれて短剣を振るう冒険者が目にはいった。

 

「ちくしょうっ!くそっ!う゛わぁぁあ!」ズバッバシュ

 

「おや、あの白髪の冒険者は・・・?」

 

 特徴的な白髪から思い起こされるのは、今朝、瀕死のところを助けた少年、ベル。何やら鬼気迫る気迫でモンスターを葬っている。

 

「お~い!キミは、ベル君?だよね?帰っていなかったの?」

 

「僕はぁ!ちっくしょおお!」バシュザシュ

 

「おーい?」

 

 どうも尋常でない様子でモンスターを葬っているが、周りが見えていないのか、ローズマリーの呼び掛けにも応えがない。

 

「なんだか取り込み中みたいでちね?」

 

「う~ん、私達に気付かない程魔物に集中してるみたいだね。下手に近づくと私達にも攻撃が飛んできそうだ。今のところはなんとか対処は出来てるみたいだけど、消耗も激しそうだし。このままだと不味いね。」

 

「どうするでち?」

 

「ほっとくわけにはいかないだろう。ルフレ、お願い。」

 

「わかったぴょん。」

ヽ( ´ー‘)ノ⌒▼ポイッ

 

パッコーン!

 

「!?」ドサッ

 

 ルフレはローズマリーに軽く応えると、鞄から愛用の人参手裏剣を取り出し、適当に加減して白髪頭めがけて投げつけた。人参手裏剣はベル君の後頭部に軽い音を立てて命中し、不意打ちを食らったベル君はそのまま倒れ込む。

 

「容赦ないのぅ。」ヒソヒソ

「あの人が悪魔すら恐怖するという王国の鬼畜参謀さん?」ヒソヒソ

「えっ!?殺した敵兵の首を投石機に詰めて!?」ヒソヒソ

 

「お~いキミたち?聞こえてるからね~?」ニコー

「「「ごめんなさ~い!」」」

 

 半分本当で半分冗談。ローズマリーは敵対する相手にはあまり容赦しない。悪魔族の間ではブラッディマリーの通名で評され、絶対に敵に回してはならない相手だと冥王姫イリスからのお達しも下っている程だ。

 

「デーリッチ、回復をお願い。マオちゃんと柚葉はモンスターを片付けちゃって。」

 

「おうでち。ヒール!」パァッ

「まかされたわい。」シュババ!

「おかのした」キキン!

 

 デーリッチのヒールで淡い緑色の光がベル君を包み込み、ケガを癒していく。4体残っていたウォーシャドウはマオちゃんの上段蹴りと柚葉の一刀で切り捨てられた。

 

―――――――――――――――――

 

「う~ん・・・。む?」コウトウブガイタイ

 

「お、起きたみたいでちね?」

「あ・・・れ?皆さんは朝助けてくれた・・・?」

 

 時間にして10数秒、ベル少年は鈍い痛みが走る後頭部を押さえながら目を覚ます。

 

「キミは、また随分な無茶をしたようだね?」

 

「・・・はい。」シュン

 

 ベルは悪事がバレてしまった子供のように小さくうずくまってしおらしく答える。先程までの気迫も我に戻って霧散してしまったようだ。

 

「何だか様子がおかしかったから、お節介は承知で強引に止めさせてもらったよ。お節介ついでに差し支えなければでいいけど、何があったかくらいは聞いてもいいかな?」

 

 ローズマリーはベルの無茶な行動に憤りを覚えながらも、なるべく落ち着いた口調で問いかける。

 

「僕のことは、放っておいてください・・・。」

 

 しかし、ベルの言葉はそれを拒絶する。情けない自分を見られるのが堪らなく嫌だった。酒場でせっかく知り合った友人と、何よりも憧れの人に蔑まれてしまう事が嫌で逃げ出した。嫌な場所から逃げて逃げて、嫌いな自分から逃げて逃げて、ここに来てしまった。でもどんなに逃げても自分は自分。所詮は上層で死にかけてるレベル1の初級冒険者だと思い知らされて。このままじゃダメだと思っているのに、でもそんな力も根性なくて。なんとかなるなんて思ってた自分をいっそ壊してしまいたくて。

 本当は全て吐き出して楽になりたいのに。なんだか一度言葉にしてしまうと止まらなくなりそうで。ベルはその差し出された手からも逃げる。

 

「そう・・・話したくない事情もあるんだろうね。今助けたのはただのお節介だから気にしなくていいよ。」

 

「・・・。」

 

「まぁでも、このままだと朝助けたときの薬代と治療費の請求くらいはすることになるかもしれないなぁ?私達も死にかけの全く見ず知らずの冒険者を助けて何のお礼もないのは癪だし。」

 

「・・・え゛?」

 

「まぁ?私達が助けたのが悩みを打ち明けてくれる友人だったなら、お金を請求することなんてしないけどね?」

 

「えぇ・・・。」

 

「容赦ないのぅ。」ヒソヒソ

「逃げ道を塞ぐ巧妙な交渉術。悪魔にすら恐れられるわけだ。」ヒソヒソ

「えっ!?捕虜を一人ずつ拷問に!?」ヒソヒソ

 

「お~いキミたち?聞こえてるからね~?」ニッコリー

「「「ごめんなさ~い!」」」

 

 大魔王からは逃げられない。悪魔すら恐れるハグレ王国の参謀からは逃げることなど許されないのだ。

 治療費なんてチラつかされては、日々の食費にすら気を回さないといけないベルにはもう逃げ道は残されていなかった。

 

「はぁ、本当に、お節介・・・なんですねぇ。」

 

 なんとか溜め息混じりに吐き出した言葉。ベルは相手の善意を汲み取れない程の無神経でもないし、助けてくれた相手を無視するほど恩知らずでもない。ベルは逃げ出した自分に差し出された手を掴むことにした。

 

「ん?そうだね。私達はお節介でお人好しなのがモットーなんだ。だから偶々出会った少年の悩み相談を聞くくらいならワケないよ?でもちょっぴり意地悪でもあるからね、キミが放っておいてほしくても、キミの言う通りになんかしてあげないんだ。」ニコッ

 

「アハハ・・・。それは、凄く意地悪ですねぇ。」

 

 妙に迫力のあるローズマリーの笑顔には逆らえないと察したベルは観念して胸の内を語ることにした。

 

「あの・・・どうしたら強くなれるんでしょうか?」

 

「強く?キミは朝もそう言っていたね。それはキミにとって命よりも優先される事なのかい?」

 

「憧れている人がいるんです・・・。でもその人と並ぶ為にはその人と同じくらい強くならないとダメなんです。」

 

「その為にキミの周りの人達を悲しませるようなことがあっても?」

 

「う・・・。」

 

 思い浮かぶのはダメダメな自分を拾って家族にしてくれた神様の顔。きっと自分に何かあれば悲しませてきっと泣かせてしまうだろう。神様がそれほど優しいのは誰よりも自分が知っている。

 

「なーんみゃ?おみゃーさん、誰かの為に冒険してるのかみゃ?これはみゃーの見込み違いだったかもしれないぴょんねぇ。」

 

 そこへルフレが口を挟む。

 

「ルフレ、キミはまた・・・。」

 

「まぁまぁローズマリー、ここはみゃーが先輩冒険者としてビシッと言ってやるぴょん。」

 

「もうしょうがないなぁ・・・。」

 

 多少勢い任せで無茶苦茶なところがあるルフレだが、冒険者としては確かな一家言を持っている。ローズマリーも同じ冒険者からの言葉の方が響くこともあるか、とこの場は引き下がる。

 

「おい少年!冒険は楽しいかみゃ?」

 

「えっ?楽しい・・・のかな。よく、わかりません。」

 

「それじゃあダメダメ。冒険は楽しいんだぴょん。未知の世界を己の力で切り開く。冒険てのはいつだってドキドキワクワクの連続なんだぴょん。」

 

「はあ・・・?」

 

「だ・か・ら、さっきのおみゃーさんは冒険者としてダメダメだみゃ。最低の最悪の味噌っかすのゴミくずもいいとこだぴょん。あんなのが冒険者なんて言われたらヘドが出るね!」ペッ

 

「ゴ・・・えぇ。」ソコマデイワンデモ・・・

 

「何かに追われるように、逃げるように冒険して何が楽しいみゃ?追い求めることを止めたら冒険者は生きてはいけない。でも、それは誰かに強制されるものじゃダメ。それじゃ楽しくない。」

「!」

 

「強くなりたかったら、何よりも冒険を楽しむの。あんな怖い顔しないで笑うの。そしたら、きっといつまでもいつまでも冒険を続けたいって思うようになる。死ぬなんて勿体ないって思えて簡単には死ねないぴょん。」

 

「冒険を楽しむ・・・!」

 

 俯いていたベルの顔に色が戻り、その瞳には光が宿る。そして、迷いが晴れたその心からは自然と笑顔がこぼれていた。

 

「そう、その顔みゃ。もう、大丈夫みたいみゃね。」ウンウン

 

 その様子を見たルフレは満足げに頷く。

 

「はい!ありがとうございます!僕、何だか悩んでいたのが嘘みたいにスッキリしました!」

 

「おみゃーの冒険はおみゃーのもの!さあ!行ってくるんだぴょん!」ビシィッ!

 

「はいっ!!!」 ダダッ!

 

「「「頑張るんだよ~ベル君!」」」

 

 ルフレが指を差し、合図とともに駆け出す冒険者ベル。向かう先は6階層へ続く階段。

 まるで演説のようなルフレの冒険者講座に聞き入っていたハグレ王国のメンバーもそのアツい冒険者魂にあてられて、声援とともにそれを見送った。

 

「ふむ、また一人で行かせてもよいものか?」

 

 柚葉が冷静に率直な疑問を告げ、ローズマリーもそこでふと我に返る。

 

「あれ!?行かせちゃダメじゃん!?」

 

 その後、慌ててベルを追いかけ引き留めようとするも、「せっかくだからちょっと鍛えてから帰ります。無茶はしないので安心してください。」と、言うので手持ちのポーションを渡してハグレ王国のメンバーは先に出口へ向かった。

 

――――――――――――――――

 

~バベル エントランス~

 

「魔石の交換とドロップアイテムの引き取り合わせて70万ヴァリスだ。」

 

 真の冒険者となったベル君を見送ったハグレ王国。ようやく長い探索行を終えバベルのエントランスまで戻って来れた。

 ローズマリーは換金を済ませ、皆に合流するとふぅ、と息をつく。

 

「すっかり深夜になってしまったね。」フゥ

 

「ポッコちゃん達には心配かけちゃったでちね~。」

 

「今日はだいぶ遅くなっちゃったからね。ホームに戻ったらみんなゆっくり休んでくれ。明日は一日お休みで自由行動にしよう。ハメ外さないようにね。」

 

「「「イヤッホーイ!!」」」

 

 明日はお休み。各々自由行動の許可に歓声が上がる。

 そうして、ハイテンションでホームに帰ったら、心配して帰りを待っていたポッコちゃんにめっちゃ怒られてダンジョン探索の制限を言い渡された。仕方ない。

 

 

―その頃、ダンジョン7階層にて―

 

「あー!!またあの人達の名前聞き忘れたー!」

 

 ベル君、またもや恩人の名前を聞き忘れる痛恨のミス。

 




 この後ベル君は結局それなりにボロボロになった上、朝帰りして神様に介抱されてます。コタツで。


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第12話 そして世界は氷に包まれた

 取り合えず怪物祭まで書いたら一区切りかな。このすばクロスの方も放置しちゃってたしね。
 女の子がキャッキャウフフしてる場面て難しい。


~ポッコファミリア ホーム~

 

「昨夜の話の通り、探索チームは今日はオフだ。観光なり買い物なり自由にしていいよ。但し、ハメを外し過ぎないこと、ダンジョンには一人で入らないこと、夕飯はホームで皆で食べるからそれまでには帰ってくること。いいね?」

 

「「「は~い!」」」

 

「あと、身の回りの物を揃えるにもお金は必要だろうから1人1万ヴァリスずつ渡しておこう。」ハイ

 

「「「ヤッホ~ぃ!」」」

 

 ダンジョン探索チームは昨日は遅くまでダンジョンに潜っていた為、今日はお休みである。オラリオに来てからロクに身の回りを整えることも出来ていなかったこともある。お小遣いを手にした彼女達は観光がてら主に日用品の買い物へと出かけていった。

 

「ふむ、私達の方も今日は早めに切り上げて自由行動にしますか。」

 

「いいの?」

 

「調べるものは昨日調べ終わってますし、あとは見積りと計画を書面に落とすだけですからね。明日には余裕で間に合いますよ。」

 

「やりぃ!」

 

 一方でお店提案チームの方も事業計画の作成には3日間の期間を与えられているが、さすがに手慣れたもので3人とも仕事が早い。お小遣いは全員に渡されており、お店提案チームも午前中で切り上げて買い物に出かけることになった。

 

コン!コン!

 

 ・・・のだが、ここで空気の読めない来客が。

 

「おや?来客でしょうか?」

 

「たのも~!」

 

「この声はタケミカヅチ様ですか?は~い!今伺いま~す!」ガチャ

 

 ポッコがドアを開けると、相変わらずの幸薄そうな人相をした和国の神タケミカヅチが立っていた。

 

「お邪魔させて頂く。ポッコよ、元気そうで何よりだ。」

 

「ありがとうございます。あ、立ち話も何なので、どうぞ中へ。」

 

「うむ、失礼させて頂く。」

 

 そう言って、ポッコは神タケミカヅチを中へ通した。

 

――――――――――――――――――

 

「突然どうしたのですか?あ、粗茶ですが。」ドウゾ

 

「一つ連絡があってな。うむ美味いお茶だ。」ズズー

 

「ありがとうございます。私の管理している世界樹の若葉で作ったお茶です。煎るとほんのり甘味が出るのが自慢なんです。」

 

 ポッコが管理している世界樹は、かの世界に3本存在する世界樹の中でも最も栄えており、連日訪れる観光客向けのお土産も販売している。特に世界樹の葉っぱはマナがたっぷり詰まっていて健康食品としても人気の一品だ。

 

「ほう、世界樹の葉でお茶とは風情のある。で、連絡というのはだな、明日、民衆の神ガネーシャ主宰の神の宴〈デナトゥス〉が開かれるのだ。お主はまだこちらに来たばかりで案内が無かったのではないかと思ってな。参加を誘いに来た。」

 

「神の宴〈デナトゥス〉とはなんですか?」

 

「3ヶ月に1度開かれる、会議というか、まぁパーティーみたいなものだな。ランクアップした冒険者の二つ名を協議したりもするな。」

 

「え?そんな場に新参者が案内状も無しに参加して大丈夫なんですか?」

 

「参加に案内状はいらんぞ。神ならばフリーで入れる。寧ろ新参者としては顔を売るチャンスだろう?」

 

「はあ、成程。」フム

 

 今後、オラリオで行動していくのであれば他の神々との交流は必須になるだろう。メンバーの能力がどんなに優れていようと、他の組織から村八分にされては活動が制限されてしまう。組織とは、派閥とは、孤立しては敗けなのだ。ポッコは福の神派閥の一員としてそれを身をもって経験している。

 ならば、答えは決まっている。

 

「わかりました。そういうことならば、私も参加します。」

 

「うむ。よい返事だ。会場への地図を渡しておく。明日は現地で落ち合うとしよう。」

 

「ありがとうございます。」ペッコリン

 

「なに、こちらも美味いお茶を馳走になった。では、これで失礼させてもらおう。」

 

 そう言ってタケミカヅチは満足げに帰っていった。

 

「さて、お仕事は今日中に終わらせなければならなそうですね・・・。」ハァー

 

 別にタケミカヅチが悪いわけではない。むしろわざわざ大事なことを伝えにきてくれたことには感謝しかない。敢えて言えば、そう、間が悪い。せっかく今日は観光に出ようかと、期待に胸を膨らませていたのに出鼻を挫かれてしまった。

 タケミカヅチ様は本当に持ってないなぁ、と、ポッコは複雑な気持ちでペンを取った。

 

 

―――――――――――――――

 

~オラリオ商業街~

 

「おっ買いっもの♪おっ買いっもの♪おっ姉ちゃ~んとおっ買いっもの♪」ウッキウキ

「ヘル、あなたももう子供じゃないのだから、そういうはしゃぎ方はどうかと思うわよ?」

 

「あら?お姉ちゃんは楽しくないの?」

 

「それはまあ、楽しいわよ?そうじゃなくて・・・。」

 

「な~んだ。楽しいんじゃない。楽しいときはしっかり楽しむ。長い人生を退屈させないコツだってアリウープ様も仰っていたわよ?あっほら、お洋服屋さんがあるわ。入ってみましょ?」グイグイ

 

「まったく、逞しくなったわねぇ。私なんてアリウープ様みたいにそんな長生き出来るかも分からないのに・・・。」シンミリ

 

「でたー!イッツア、ゾンビジョーク!」イェー

 

「イエース!ゾンビジョーク!」オーイェー

 

 グルメフェスでの秘密結社事件を通じてちょっぴりお互いの距離感が変わったこの姉妹。姉に頼ってばかりだった妹は自分の中に確かにある勇気の欠片を見つけ、二度目の人生を妹への贖罪に捧げようとしていた姉はそれが自分の驕りだったと悟った。

 人と人との絆はお互いに引っ張り合うからバランスが取れる。いつもミアに手を引かれてばかりだったヘルも、時にはミアの手を引きその先の道を示すようになった。それがミアには嬉しくもあり寂しくもある。けれどそれは悪いことではない。ミアは甘えんぼな妹の成長を見守り、また愛すべき者達と共に自分自身も「生きる」ことをあの日、決めたのだ。

 腹さえ括ってしまえば時の流れに置いていかれる定めを背負ったその半不死の身も、人生を彩るちょっとしたスパイスみたいなものと吹っ切れることができた。

 

 

―――――――――――――――――

 

~やけに布の少ない服ばっかりのお店~

 

「いらっしゃいませ~!」カラン

 

「ヘル・・・あなたそれ悪の女幹部の衣装とか言ってたけど、やっぱりそういう趣味が・・・?」ジトー

 

「ち、違うの!偶々入っただけなの!だからその目で私を見ないで!?」カナシクナルカラ!

 

 ヘルラージュがミアの手を引いて入ったのは、アマゾネス御用達の布面積を減らし、動き易さを重視した服(?)を専門に扱う店だった。

 

「でもまぁ、露出はともかく、機能性はあるみたいねぇ。せっかくだから試してみなさいよヘル?」

 

「え゙っ、何で私に!?」

 

「だってこの店のデザインじゃ私の身体じゃ着れるものないじゃないの。ほら、あなたに似合いそうなの選んであげるから着てみなさいって。」ホラホラ

 

「も~・・・でもお姉ちゃんが選んでくれたならいいかな・・・。」エヘヘ

 

「ゆっくり着替えていいわよ♪」

 

 

―ヘルラージュお着替え中―

 

 

「お、お姉ちゃん!?さすがになんかこれちょっと恥ずかしいんだけど!?」

 

 ミアラージュが選んだのは黒革のいわゆるキャットスーツ。しかもヘソ出しで胸元を強調するデザインのとびきりセクシーなやつだった。

 

「そお?あなたが普段来てる服とそんなに違わないし、動きやすそうよ?」

 

「いやいやいや!?なんかぴっちりしてるし!テカテカしてるし!なにより明らかに布が少ないんだけど!?」

 

「もうほら、照れてないで、カーテン開けるわよ!」シャー

 

「ちょっ、待っ、開けないで!あぁっ!?えっ!?」

 

「・・・。」(・_・)ジー

「・・・。」(@_@)ジー

「・・・。」(-_-)ジー

「・・・。」(>_<)ジー

「・・・。」(^_^)ジー

「・・・。」(゙_゙)ジー

 

 

 ミアがカーテンを開くと、試着室を取り囲む仲間達の視線、そして生暖かい笑顔。

 

「なんでデーリッチちゃん達がいるのー!?」ガビーン!

 

 いつまにか合流していた愉快な仲間たちに恥ずかしい格好を見られ、真っ赤になってうずくまるヘルラージュ。

 

「いや、その、ちょうど二人がこのお店に入っていくのが見えたからついてきたんでちけど・・・。」

 

「ヘルちんが試着室に入っちゃって声をかけ損ねちゃってさ。出てくるの待ってたんだ。」

 

「ヘルちん?今さら服の趣味をとやかく言いたくはないんだけど、子供達の情操教育に良くないから拠点ではそういう格好は控えてね?」

 

「趣味じゃないですぅ!?」ガーン

 

「おみゃ~さん変態だったみゃ?中途半端な服着るならいっそ何も着なくていいんみゃない?」

 

「全裸の人に変態呼ばわりされたぁ!?」ウワーン

 

「まあまあ、ヘル。ちょっと恥ずかしかったかも知れないけどよく似合っていたわよ?」

 

「・・・本当に?」グスッ

 

「本当よ。私がヘルの為に選んだんだもの。似合わないわけないじゃない。」

「お姉ちゃん・・・エヘヘ。ありがとう。」ズビー

 

(ちょろいでち)

(ちょろいな)

(ちょろい)

(ちょろいのぅ)

(ちょろいみゃ)

(おなかすいた)

 

「うん、せっかくお姉ちゃんが選んでくれたんだもの!私、この服買うわ!」コレクダサーイ!

 

「ムダ遣いさせていいの?ミアちん?」

 

「大丈夫よ。」

 

「大丈夫って?」

 

「ありがとうございます。こちらの服は8万ヴァリスになります。」

 

「たっか!?」オカネタリナイ・・・

 

「ほらね?」

 

「えぇ・・・。」

 

「んもう!他のお店行きましょう!」

 

―――――――――――――――――

 

~フリルやレースの可愛いらしい服のお店~

 

 ローズマリー達は日用品の買い物の途中だったため先程の店で別れ、ヘルとミアは改めて二人で別の服屋へと向かった。

 

 

「これこれ!こういう可愛いお洋服を探していたのよ!はい、お姉ちゃん!これ着てみて!」

 

「ちょっとヘル、そんなフリフリな服なんて私には・・・。」ニアワナイ

 

「お姉ちゃん・・・私の選んだ服、着てくれないの・・・?」ウルッ

 

「う゛っ・・・。」

 

 何だかんだでミアは妹に甘く、ヘルからのおねだり攻撃に抗う術を持たない。ヘルの差し出したフリフリピンクな服を試着させられることになった。

 

―ミアラージュお着替え中―

 

「どう、かしら?」

 

「・・・・・。」

 

「ねぇ?」

 

「か・・・。」

 

「か?」

 

「かわいい!」ガバッ

 

「ちょ、ちょっとヘル!苦しいわよ!離れなさい!」

 

 あまりの愛らしさに辛抱たまらなくなったヘルは思わずミアを抱き締める。

 

「お姉ちゃんかぁいいよ~。」オモチカエリ-!

 

「うぅ~。」ウゴケナイ

 

アレ・・・ジアンデハ?

シッレフィーヤカカワッチャダメヨ!

アレ?アノコ・・・モシカシテ・・・

ン?ドッタノアイズ?アイズゥ?

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

「はい?」クルリ

 

 突然声をかけられたミアはまとわりついてくるヘルを何とか引き剥がして振り向いた。

 

「あなた達、一昨日ミノタウロスと戦っていた人・・・?」

 

「ミノタウロス?確かにそんなこともあったけど、それが?」

 

 何でそんなことを?と思ってミアは相手をまじまじと見つめる。そうして、その相手があのとき走り去った、美しい金髪が印象的だった女性冒険者だと気が付いた。

 

「あなた達の仲間に白髪の男の子っていませんか?」

 

「白髪の男の子?うーん、ウチには白髪の仲間はいないわねぇ。」

 

「そう・・・。」ションボリ

 

「何か事情があるのかしら?こちらに分かることなら聞いてもらっても構わないわよ?」

 

「実は・・・。」

 

 アイズは今朝から悩んでいたことを打ち明けた。

 

―――――――――――――――――

 

「成程ねぇ。間接的にとはいえその子を傷つけてしまったから謝りたい、と。」フムフム

 

「・・・はい、昨日あなたの仲間がその子と一緒にいたので、何か知らないかなと。」

 

「残念だけど私達には分からないわね。とはいえ一緒にいたのがポッコちゃん達なのは間違いないみたいだし事情を聞いてくるくらいなら構わないわよ?」

 

「いいんですか?」

 

「いいわよ別に。何か分かったら連絡するようにするわ。私はポッコファミリアのミアラージュ、こっちは妹のヘルラージュよ。ウチのホームはオラリオ西外れの雑木林にあるわ。気軽に遊びに来てもいいわよ。そちらは?」

 

「ありがとう。私はロキファミリアのアイズ。こっちは仲間のティオネとティオナとレフィーヤ。ロキファミリアのホームはここからすぐ近くにある黄昏の館。門番に私の名前を言って貰えたら通してくれると思うから。」

 

「わかったわ。よろしくね。」ガシッ

「うん。」ガシッ

 

 こうして、ミアとアイズは握手を交わし、お互いに連絡を取り合うことを約束した。

 

「ありゃ~アイズに友達が出来たよ!」

 

「珍しいこともあるものねぇ。」

 

「アイズさんと握手羨ましいアイズさんと握手妬ましいアイズさんと握手狡いアイズさんと友達アイズさんと恋人・・・。」ブツブツブツ

 

「レ、レフィーヤぁ?」

 

 一人闇落ちしそうなエルフをよそに、彼女達は別れた。

―――――――――――――――――

 

~夕食後ポッコファミリアホーム~

 

「さて、会議を始めよう。」

 

 今日は各々買い物や観光で過ごした後、夕食には全員集合しホームで食べた。そしてその後には、恒例のファミリア会議が開かれた。

 

「期間収支は、昨日のダンジョン探索での収入が70万ヴァリスと支出が5万ヴァリス。今日は皆への1万ヴァリスのお小遣いを渡して、生活費で5万ヴァリス。合計50万ヴァリスの収益となっています。」

 

 まずは会計収支をローズマリーから報告する。

 

「お疲れさまでした。ではまず、お店提案チームから状況報告をお願いします。」

 

「はい、手分けしてこの街の物価も確認できましたし、見積りと計画書については明日中には完成できます。あと、昨日薬の卸し先を見つけたので、今後はお店を始める前でもそこの売上に応じていくらかの収入を得られると思います。」

 

 お店提案チームからはベル君が状況をまとめて報告をした。

 

「さすがベル君。仕事が早いね。ちなみに初期費用はどのくらいになりそう?」

 

「まだ概算ですが、それぞれ500万ヴァリス前後になると思います。」

 

「成る程、もう少し資金を貯める必要がありそうだね。」

 

「では続いて、ダンジョン探索チームから状況報告をお願いします。」

 

「はい、ダンジョン探索についてですが、ダンジョン内ではキーオブパンドラが使用不可ということが判明しました。今後は15階層まではマッピングなしなら日帰り出来そうだけど、もっと深く潜るならばちゃんとした遠征仕度が必要になりそうです。」

 

 ダンジョンチームからはローズマリーが報告をした。

 

「ふ~む。ダンジョンで降りられるだけ降りてサクッと帰ってくるわけにはいかないって事ですね。」

 

「あと、私やミアちん、ヅッチーにとってはやはりマナが薄い環境はそれだけで高いリスクになりそうなんだ。マナ濃度は下層に行くほど薄くなるみたいだし、15階層ならまだ自由に動けたけどそれより下に行くとなるとどうなるか分からない。短期間なら備えも出来るけど、遠征となれば私達が足手まといになってしまう可能性は否めない。今後のダンジョン探索は目標到達階層に応じてメンバーを替えていったほうがいいだろう。」

 

「えっ?てことは、ローズマリーとミアラージュが探索に参加できない・・・?」チラ

 

 ポッコは他のメンバーを見渡す。

 

ヘルラージュ・・・ポンコツ。知力2。

ルフレ・・・自ら危険に飛び込むタイプ。知力3。

こドラ・・・明日から本気出す。知力3。

柚葉・・・自由人。知力3。

 

 あかん。大人組の力が圧倒的に不足している。具体的には知力が。この四人だけで探索するなら戦力バランスもいいし、力業でなんとでもなるので行かせても構わないが、デーリッチ達はどんなに強くても子供だ。保護者抜きで安全措置もなしにダンジョン探索などさせるわけにはいなかい。

 

「え~と、残念ですが参謀抜きで子供達をダンジョンに潜らせることは許可出来ません。今後15階層より下に行く場合は大人組だけで行くか、他に信頼できる冒険者が同行する場合に限ることとします。」

 

「え~!つ~ま~んな~い!」ブーブー!

 

「せからしか!おめ~ら到着早々に迷子になっちょったの忘れとうと!?」ギャース

 

「う゛・・・。」コトバモアリマセン

 

 ポッコは子供達からのブーイングを一蹴する。

 

「ちょっと、ちょっと!私!秘密結社リーダー!保護者枠ですのよ!」

 

「知力2は黙っちょれ!」

 

「ひどっ!?」ナンカデシャヴ

 

 何処かで見たことのあるやりとりに一人傷付くヘルラージュ。

 

「でも、ダンジョン探索を制限したら収入にも影響出るのでは?」

 

「そうかもしれません。でもこれは許可するわけにはいきませんよ。」

 

「う~ん、ダンジョンに行けないのなら、クエストでも請けてみる?」

 

「あぁ、それは良い考えです。」

 

 冒険者の収入源はダンジョンでの魔石やアイテム回収だけではない。クエストならば難易度を確認して請ければ比較的安全に収入を得られる。また、他のパーティや街の人との交流は今後の活動においてもプラスに働くだろう。

 

「それじゃあ、明日はダンジョン探索とクエスト攻略の二手に別れてみようか。戦力的には余裕もあるし、色々試してみよう。」

 

「「「了解でーす!」」」

 

 次の活動方針が決まる。が、ここでポッコは自身の予定を思い出す。

 

「あっ、そうそう、私は明日ガネーシャファミリアで開かれる神の宴〈デナトゥス〉に出ることになったので、明日の午後からは外出します。留守の間は宜しくお願いしますね。」

 

「へぇ~、ポッコちゃんがデナトゥスに出ようとしてる、か。」フフッ

 

「ん?何かありますか?ローズマリー?」

 

「ポッコちゃんが、デナトゥスに出んとす。なんちゃって。」ドヤァ

 

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

 

「あれ?ちょっと寒かったかな?どうしたの皆?」

 

 

「・・・神様、ローズマリーのダジャレが寒い件ですが・・・。」

 

 

「またこのパターンかよちくしょー!」

 

 ダイヤモンドアース。それは冬の神セドナ様をも凍てつかせた恐るべき魔法。ローズマリーのダジャレ寒い寒い病は神様でも治せないのだ。

 

 

 

ポッコファミリア本日の収支

 

本日の収入:0ヴァリス

本日の出費:150,000ヴァリス

借金残り:399,050,000ヴァリス

 

寒いダジャレは愛によってのみ救われる

 

 

 

 




 ローズマリーのダジャレが寒いのはローズマリーのせいじゃない。笑ってもらえないのは世界が悪い(アクシズ脳)。
 ダンまちもこのすばも映画見に行きたいけど地味に忙しいやら遠いやらなんだよなぁ。あ、円盤は出たら買います。


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第13話 デナトゥスに出んとす。

 特に笑い処もないお話の繋ぎ回です。伏線ぽいのだけ撒き散らしてますがちゃんと回収できるのかしら。
 段々キャラが壊れていくなぁ。


~豊穣の女主人亭~

 

「すみませんでした!先日はお金も払わず飛び出していってしまって!これ、お勘定です!」ペコペコペッコリン

 

 昨日は明け方に帰宅し、倒れ込むように眠りについたベル。怪我の回復もしなければならず、そのまま一日絶対安静を主神より言い渡され、神様が何処からか貰ってきたというコタツとやらに入ってじゃが丸君をかじりながらその日を過ごした。

 それからまた一夜明け、すっかり体も回復し、目覚めた頭で冷静に一昨日の出来事を思い出していたベル・クラネル。そこで一昨日のいざこざで酒場の代金を払わずに飛び出してしまっていたことに気が付いて真っ青になった。

 何はともあれやるべきことは謝罪と支払い。昼間、開店前の豊穣の女主人亭を訪れ、店主ミア・グランドに向かってキツツキのように何度も何度も頭を下げる。

 

「ん~?あぁ、あんた一昨日の坊やかい。その金は要らないよ。」

 

「えっ?」

 

「アンタと一緒にいた子達がいただろう?その子がアンタの分も払ってくれたんだよ。よ~く感謝しておくことだね!この店で食い逃げなんかしてたらこっちからケジメをつけに行く所だったよ?」ジロリ

 

「えぇ!?」

 

 金は要らないと言われて驚き、それをポッコちゃん達が支払ってくれたと聞いて二度驚く。ベルは自分の情けなさにその小さな肩を更に縮こまらせておずおずと聞く。

 

「あの・・・ポッコちゃん達のホームの場所なんてご存知ないですよねぇ・・・?」

 

 居たたまれなくなったベルは直ぐにでも謝罪とお礼をしに行こう、と思ったのだが彼女達の住まいを知らないことを思い出す。手がかりは何もなく、ダメ元でミアにも聞いてみる。

 

「ほう、受けた恩はきっちり返そうってのかい!その心意気は嫌いじゃあないね。しかし、残念だ。私にゃあそんなことは分からないよ。シルも昨日一緒に話してただろう?何か聞いてないかい?」

 

「ん~・・・ホームの場所までは私も・・・あっ、でもたしかあの子、神ヘスティア様とお知り合いのような事を言っていたような?」

 

「えっ?あっ、そういえば!」

 

「なんだい。自分とこの神様の知り合いなんじゃないか。そっちに聞いた方が早いんじゃないか?」

 

「そうで・・・あっ、でも今朝神様ホーム出るときに数日帰らないって言ってたな・・・。どうしよう。」

 

「まあ、分からないなら仕方ないんじゃないですか?またウチのお店に来てくれるかもしれませんし、お互い冒険者していればダンジョンで会うこともあるでかもしれません。私も知り合いに聞いてみますよ。そんなことよりも、今日もダンジョンに行かれるんでしょう?コレ、お弁当です。」ハイ

 

「えっ、いやぁ、そんな。」アセ

 

「貰ってください。ダメ・・・ですか?」ウワメヅカイ

 

「すみません。頂きます。」デレッ

 

「ありがとうございます!」フフッ

 

「ボウズ、冒険者なんてかっこつけるだけ無駄な職業さ。最初のうちは生きることに必死になっていればいい。惨めだろうが生きて帰ってきたヤツが勝ち組なのさ。」

 

「はい!冒険を続ける為には死ぬわけにはいきませんからね!」

 

「ほう、わかってるみたいじゃないか。さて、アタシにここまで言わせたんだ。簡単にくたばったら許さないからね!さあ、行った行った!店の邪魔になるよ!」パシィ

 

「ぁ、はいっ!行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい。ベルさん。」

 

 ミア母さんとシルからの声援を背にベルは今日もダンジョンへ向かった。

 

―――――――――――――――――

 

~冒険者ギルド~

 

「はあぁ?15階層まで踏破したですってぇ!?」

 

 最近新しく担当になったポッコファミリアの冒険者ローズマリーからの報告にエイナは思わず声をあげた。

 立ち上げたばかりだというポッコファミリアの冒険者達は女子供ばかりで、一見すると冒険者に見えすらしない。しかし、いざダンジョンに潜らせてみれば、初日にいきなり10階層を踏破し、その翌日には15階層まで降りたという。外の世界でそれなりに鍛えていたと言うが、それでも登録上はレベル1の初級冒険者ばかりのパーティが中層に足を踏み入れているのである。

 そんな無茶をやらかす冒険者を諌めるのもギルド職員の仕事だ。エイナは眉を吊り上げて厳重注意を言い放つ。

 

「いいですか!?偶々生きて帰れたことを実力と勘違いして命を落とした冒険者は数えきれないんですよ!最低でもどなたかがレベル2になるまで中層への進出は厳禁です!」

 

「えぇ~そんなぁ~。」

 

「いいですね!」

 

「はい・・・。」

 

 

 エイナの迫力に押され、ローズマリーもそれを了解する。まぁいずれにしろポッコからも階層制限を言い渡されているのだが、さすがに主神とギルドから二重に縛られると今後動きにくくなるのは確かだろう。さっさとレベルを上げるか、同行してくれる高レベルの冒険者と知り合うかする必要があるなぁとローズマリーは思案する。

 

 そして怒られながらも報告を済ませたローズマリーは今日ギルドを訪ねた目的を切り出す。

「ところでエイナさん。」

 

「なんですか?」

 

「私達、今日はクエストを請けてみようと思って来たんですけど、ダンジョンに入らなくても実入りの良いクエストなんてないですか?」

 

「クエスト・・・ですか?どうしてまた?」ハテ

 

 エイナは首を傾げる。クエストといえば、商業系のファミリアからの採集依頼、人員不足のパーティによるサポーター募集、あとは要人警備やら城塞の建設要員など、色々とあるにはある。しかし、彼女達のようにダンジョンで活動できる戦力があるならば、たとえ上層でも半端な依頼を請けるよりは稼ぎは良いはずなのである。

 

「ええ、収入を得る手段は多い方がいいと思いまして。その為にも今のうちに簡単な依頼でも色々とこなして経験しておこうかと。」

 

「ふむ、皆さん真面目なんですね。まぁ比較的安全なクエストをこなして確実に経験を積んで頂ければ私も安心です。丁度、今は4日後の怪物祭〈モンスターフィリア〉に向けた準備と当日の警備スタッフの募集がわりと厚待遇でありますのでオススメですよ。」

 

「?怪物祭〈モンスターフィリア〉とは何ですか?」

 

「ご存知ないんですか?ガネーシャファミリアが主催するお祭りで、ダンジョンでテイムしたモンスターを闘技場で調教するイベントですよ。」

 

「モンスターを街に入れるんですか!?それって危なくないんですか?」

 

「勿論、モンスターの扱いはそれはもう厳重にされていますよ?それだけでなく、更に念を押してこうして警備スタッフを厚待遇で雇って配置するわけですし。」

 

「成る程・・・。まぁ確かにそれでもダンジョンに潜るよりは安全な仕事ではありそうですね。ちなみにお給金はいくらになるんですか?」

 

「準備の方では日給で5万ヴァリス、当日の警備は10万ヴァリスですね。ダンジョンで上層のモンスターを倒すよりは安全で割りがいい仕事だと思いますよ。」

 

「ふむ・・・。」

 

 10階層までの探索で集めた魔石の交換額が40万ヴァリス。一人頭の日給が5万ヴァリスならば効率はあまり変わらない。ダンジョン探索の戦力には余裕があるから、当然手数が多い方が稼ぎは良いだろう。何より依頼元がギルドならば信用もある。

 ローズマリーは少し思案したが、すぐに結論を出した。

 

「ふむ、確かに割りは良さそうですね。その仕事請けさせてください。」

 

「かしこまりました。ただ、募集枠はあと4名なので、皆さんの中から請ける方を4名選んでください。」

 

「わかりました。それじゃあ私と、え~と・・・。」

 

 ローズマリーはメンバーを見回す。参謀が出来るのがローズマリーとミアラージュしかいないので、まず二人は別れる。また、仕事の内容から警備隊長の資質を持っているメンバーが向いているだろう。となれば後の3人は決まる。

 

「デーリッチ、ルフレ、柚葉でこの依頼を請けよう。ミアちん、ヘルちん、ヅッチー、マオちゃんは通常通りダンジョン探索に向かってくれ。」

 

「「「はーい。」」」

 

 そうして、その日のうちにクエストを請けるチームとダンジョン探索のチームに別れて行動することになった。

 

―――――――――――――――――

 

~ガネーシャファミリアホーム 大広間~

 

 今宵、ガネーシャファミリアのホーム『アイアム・ガネーシャ』の大広間では神の宴〈デナトゥス〉が開かれている。年に一回の祭典、怪物祭〈モンスターフィリア〉を直前に控え、ガネーシャファミリアも今回の開催には特に力を入れている。酒も食事も豪華なものが用意され、暇潰しと情報収拾を目的に参列した神々も、その料理の出来に舌鼓を打つ。

 

 そんな中、ポッコはタケミカヅチに連れられて知神への挨拶廻りをしていた。

 

「こやつはヘルメス。女たらしのロクデナシだ。」

 

「おいこら。」

 

 見た目からしてチャラい感じの神ヘルメスは雑な紹介にツッコミは入れるが本気で怒っているわけではないようだ。二人が気の置けない関係なのと察せられる。

 

「初めまして、ポッコです。」

「ん?もしかして、ポッコちゃんて福の神様のところの?」

 

「えぇ、福の神様のことをご存知なんですか?」

「ふ~ん、君がねぇ・・・。」フムフム

 

「あの、福の神様が何か?」

 

 ヘルメスはポッコの名を聞いて、なにか含みのある反応を見せる。ポッコも意図が解らず聞き返すことしか出来ない。

 

「いやなに、色々と(、、、)大変なこともあるだろうけど頑張ってくれたまえ。」ポンッ

 

 ヘルメスはポッコの頭に手を置いてその場を離れていった。

――――――――――――――――

 それから宴も中盤に差し掛かり、酒に酔う神、意中の女神を口説く神、ドンチャン騒ぎに興ずる神、会場は一層の喧騒に包まれていた。

 何人かの神をタケミカヅチから紹介され、やや気疲れをしたポッコは、オレンジジュースを啜りながらふと会場に目を送った。送ってしまった。

 

「げっ、あれは・・・。」

 

 そして、それはいた。明らかに場違いな物体が会場内を闊歩している。布団と一体になったテーブルに、そこから手足が生えた、一見すると亀のようにも見えるその物体。場内を這いずり回りながら目当てのテーブルに近づくと、ヌゥッと頭を出して狙いを定めては、素早く料理を回収してタッパーに詰めていく。

 

ヒソヒソ

ナニアレ?カメ?

 

 さすがにその目立ちすぎる出で立ちは周辺の神達の目にも留まり、次第に注目を集めていく。

 

「ふっふっふ。」

 

 視線を感じる。まぁそれも仕方ないだろう。コタツと一体化した今のボクはまさに完・全・体。パーフェクトヘスティアとでも呼んでくれたまえ。しかし、同志こドラから譲り受けた彼女が愛用していたというこのコタツのなんと素晴らしいことか。強度を落とさずに極限までの軽量化が図られ、脚周りにも改造が施され、高い小回り性をも実現している。なるほど、これならば1日中こたつを背負う生活でも不自由は少ないだろう。

 と、ヘスティアがコタツに身を潜めてドヤッていると、後ろから声がかかる。

 

「ヘスティア・・・だよな?お主は一体何をしてるんだ?」

 

「あなたは一体何を考えてやがるんですか?」

 

 本当はあまり関わり合いになりたくなかったが、根が善神のタケミカヅチもポッコも神友のその哀しい後ろ姿に声をかけずにはいられなかった。

 

「やぁタケ・・・とポッコじゃないか!キミたちも来ていたのかい!」

 

「やあじゃないですよ。その格好は何なんですか?」

 

「こドラ君から譲り受けたコタツを早速着てみたんだ。これさえあれば何時でも何処でもコタツでみかんが食べられる。これは良いものだよ!」

 

 コタツは着るもの。コタツ同盟の副席パーフェクトヘスティアは、まるでカレーは飲み物と言わんばかりに斯くのたまう。

 

「おなごの趣味に疎い私でもそれは何か違うとわかるぞ?悩みがあるなら聞いてやろう。申してみよ。」

 

 変わり果てた神友の姿に本気で心配を口にするタケミカヅチ。

 

「失敬だな。タケにはコタツの魅力が分からないのかい?」

 

「いや、コタツくらいならウチのホームにもあるぞ?」

 

「え?そうなのかい?」

 

「あぁ、そういえばコタツはそもそも和の国の文化でしたね。」

 

「じゃあタケもコタツ同盟に入らないといけないな。」

 

「おいやめろ。」

 

 と、コタツ談義に花を咲かせていると別方向から会場がザワついてきた。

 

ザワザワ

ゲカイデモウツクシイ・・・

ザワザワ

フレイヤサマァ

 

 そしてそのざわめきの中心はヘスティア達の方へ向かって行った。

 

「こんばんは。ヘスティア、タケミカヅチ。・・・と、そちらの子は初めましてかしら?」

 

「フレイヤ・・・。」

 

「あら、お邪魔だったかしら?」

 

「ボクはキミのことが苦手なんだ・・・。」

 

「貴女のそういうところ、私は好きよ?」クスッ

 

 無遠慮に軽口を言い合い、微笑みながらも決して隙は見せない。ポッコには神フレイヤに福の神様が重なって見え、彼女が一筋縄ではいかない相手だと悟る。

 

「此方のお方は?」

 

「神フレイヤだ。ここオラリオでも有数の勢力を誇るファミリアを運営している。」

 

「左様でしたか。私はポッコ。此方に来て日も浅い新参者ですが、どうかお見知り置きを。」

 

「あらあら、ご丁寧に。私はフレイヤよ。よろしくね。」

 

 ポッコは経験上、この手合いに敵対するのは得策ではないと知っている。特別丁寧に挨拶を交わした。

 

「ところでヘスティア?」

 

「・・・なんだい?」

 

「その格好は何なの?」

 

「む?これかい?これはコタツと言うんだ。オシャレだろう?」

 

「う~ん・・・、前衛的過ぎて私の美的感覚が許容できる範囲を越えているわねぇ。」

 

「前衛的だなんて照れるなぁ。」

 

「決して褒めているわけではないのだけれど。」

 

 おっとりとした口調ながら中々に強烈な毒を吐くフレイヤ。しかし、コタツに盲目なヘスティアには毒を毒と感じることもなく、コタツを褒めてくれたフレイヤへの好感度がちょっぴり上がってしまうのであった。

 

ドドドドドド

 

 そんな雑談を交わしていると階段を駆け降りてくる笑いの神の姿が。

 

「お~い!フレイヤ~・・・と、ドチビ~!」

 

 喧嘩を売る気満々に、悪意たっぷりでヘスティアに絡んできたのはロキ。

 

「何をしに来たんだい?キミは?」

 

「ドレスも買えない貧乏神を笑たろ思て来てみたんや。何や珍妙な格好しとるな~。正直反応に困るわ。その格好は何やねん?」

 

「キミも気になるのかい?」フフン(´ー`)

 

 先程から、出会う神出会う神がコタツのことを聞いてくる。やはり気になってしまうらしい。まぁ仕方ないよね。コタツは素晴らしいからね。

 

「いや別に。」

 

「ガーン。」

 

「それはそうと、そっちはポッコやないか。こないだはすまんかったなぁ!あの青髪の獣人の男の子、ベルやっけ?も元気にしとるか?」

 

「!」

 

 青髪の獣人の男の子、と聞いてフレイヤの目の色が変わった。しかし、それに気付いた者はこの場にはいない。

 

「ん?キミ達は知り合いなのかい?」

 

「えぇ、まぁ。あ、そうそう。そのことでヘスティアに聞きたいことがあったんです。一昨日の夜、貴女の所のベル・クラネル君はちゃんと帰ってきましたか?」

 

「ん?ベル君が?その日はダンジョンで無茶したらしくて早朝にボロボロになって帰ってきたよ。何か知ってるのかい?」

 

「あぁよかった。帰っていたんですね。ええとですね―――。」

 

 ポッコはあの夜のあらましを話す。

 

「――というわけなんです。こドラがクラネル君を追っかけたんですが見つからなくて心配していたんです。」

 

「ベル・クラネルってよう見えへんかったけど、白髪に赤目のあの子のことやろ?なんや、ドチビのとこの子やったんか。」

 

「!」

 

 再び、フレイヤの表情が変わる。

 

「おい、ロキ。今回はコタツ同盟同志のポッコに免じて許してやるけど、今度ウチのベル君にちょっかい出したら例えキミでも許さないからな?」

 

「誰がコタツ同盟ですか、誰が。」

 

「おお~怖いなぁ。って、イタタタやめんかい!このドチビ!」

 

 ヘスティアはロキの反省を感じさせない態度に怒り、ロキの頬をつねる。

 そうこうしていると、フレイヤのお付きの黒服がフレイヤに耳打ちをする。

 

「盛り上がっているところ悪いけど、私はおいとまさせてもらうわ。調べたいこともあったのだけれど、その必要も無くなったみたいだし。」

 

 そう言ってフレイヤは白銀の髪を優雅にたなびかせて去っていった。

 

「それじゃあ私も、門限がありますのでそろそろホームに戻らないと。タケミカヅチ様はどうしますか?」

 

「ん?もう帰るのか?まぁ子供に夜更かしはさせられんからな。私はもう少し宴を楽しんでゆくよ。」

 

「あ、もう帰るのかい?またね、ポッコ!」

 

「そっちの子らにもよろしくな~。」

 

 一通り挨拶もし終えて用事は済んだ。あまり帰りが遅いとローズマリーに叱られてしまう。ポッコもキリがいいところでこの場を辞した。

 

 

コノムネナシ!

ウッサイワドチビ!

サワルナヒンニュウガウツル!

ウツランワ!

 

 

 背後から聞こえてくる低次元な言い争いに振り返ることはしなかった。

 

 

 




 酒場のシーンでベル君の正拳突きがレベル6でも見えないってこいつらどんだけ強いんだよ!と思われた方も多いかと。
 今さらですが、このSSの強さ基準はおよそ下記のイメージで書いてます。あくまでもおおよそなので、都合に合わせてコロコロ変わります。

アナンタさん、アリウープ様:孫悟空(神様修行後)
マオちゃん:ピッコロ大魔王(若)
マリオンちゃん:孫悟空(超神水飲んだ後)
ハグレ王国戦闘タイプ:ピッコロ大魔王(老)
オッタル:天津飯
ハグレ王国非戦闘タイプ:孫悟空(超神水飲む前)
レベル6:桃白白
レベル5:クリリン
レベル4:ミイラ君
レベル3:ボラ
レベル2:チャパ王

 天下一武闘会では悟空の超高速の動きにクリリンがその姿を見失う場面がありましたが、酒場のシーンはあんな感じをイメージしてもらえたらいいんじゃないかな。


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第14話 モンスター大祭り(前編)

 別に前後編分ける必要はなかったんですけどね。せっかくのお祭り回なんでちょっと特別感出したかったとかそれだけの話で分割です。


~ポッコファミリア ホーム~

 

 どんどこ、どんどこ、どどんご・・・。どんどこどんどこ!どっどっ!

 どんどこ、どんどこ、どどんご・・・。どんどこどんどこ!どっどっ!

 

 奇怪な音楽がポッコファミリアに響き渡る。そして、その音楽を聴いた子供達が一人、また一人とその音楽に合わせて奇妙な踊りを踊り出す。いつもは子供組の奇行を諌める役割のベル君ですらそれに抗うことは出来ない。

 

「まずい、これは・・・踊り時空か!」

 

 踊り時空とは、子供達の祭り熱が一定値を越えると発生する特殊な力場である。既に踊り時空はホームの大部分を侵食しており、唯一、朝食の用意をしていたローズマリーだけが難を逃れた。

 ローズマリーは朝食の仕度を一旦中断して会議室に急ぐ。しかし、事態は既に最悪の段階に至っていた。

 

「「「お祭りだぁあああ!」」」

「「「踊らせろぉおおお!」」」

「「「屋台!たこ焼き!じゃが丸君!」」」

 

 既にお祭りギャングと化したお子様達から抗議の声が上がる。

 そう、今日は怪物祭〈モンスターフィリア〉当日。なまじ祭りの準備作業員として仕事をしていたが不味かったのだろう。日に日に高まっていたお祭り熱は、今日、ついにここに至って爆発したのだ。

 

「まったく、何時までも子供なんだからどんどこ。お祭り程度ではしゃいじゃってみっともないわどっど。」ドンドコドドンコ

 

「ミアさ~ん!?語尾!語尾!本音駄々漏れ!」

 

 頼れる大人組のミアラージュですらしっかりと踊り時空に毒されていた。

 

「キミ達ねぇ、今日の仕事はギルドから請けた正式なものなんだ。今さらクエストを断ったりしたらファミリアの信用に関わるよ?わかっているのかい?」

「でもぉ・・・。」ジワァ

「お祭りぃ・・・。」グスッ

 

「う゛ぅっ・・・。」タジッ

 

 悪魔公爵すらビビらせる鬼畜参謀ローズマリーにも弱点がある。それは子供の、とりわけデーリッチの涙である。

 しかし、ここで負けては子供達の教育の為にならない。ローズマリーは意を決して説得にかかる。

 

「・・・まぁ、警備の仕事もシフト制みたいだし、1日中張り付くわけではないだろう。むしろ運が良ければ客席よりも近くで催しが観られるんだから役得じゃないか。仕事が終わったら屋台巡りでもしようよ。他の皆も今日は自由行動にするからお祭りを楽しんで来たら?」

 

「「「いいの!?」」」

 

「それなら・・・、いやいやいや!それじゃあデーリッチは結局お仕事じゃないでちかぁ!?」

 

 これがローズマリーの悪魔的交渉術。たった一言でクエストチーム以外の全員を取り込んでしまった。元よりクエストチームの中でも、ルフレと柚葉は流石に一応大人だけあって仕事優先やむ無しという立場である。

 事ここに至り、デーリッチの味方はいなくなる。団結していないお子様軍団ではローズマリーに勝利することなど不可能なのだ。

 

「相棒、諦めなどんどこ。その代わり相棒の分までヅッチーが屋台グルメを堪能してきてやるぜどっど!」ドンドコドドンコ

 

「それ自分が思いっきり楽しんでるだけじゃないでちかー!?」ガーン

 

「ごめんね、デーリッチちゃんどんどこ。僕もお仕事をほったらかしにするのは良くないと思うんだ。終わったら一緒に遊ぼう?どっど。」ドンドコドドンコ

 

「なんかもう、語尾のせいで慰めにもなってないでち!?」ウワーン

 

「まぁまぁ、デーリッチ。観客席よりも近くで観戦出来るのは本当だし、お仕事を頑張った後は屋台で好きなモノを買ってあげるから。ね?」

 

「うぅ~わかったでち・・・。」グスッ

 

 渋々ながらもデーリッチはローズマリーの提案を受け入れた。

 

――――――――――――――――――

 

~オラリオ東区 とある喫茶店~

 

 怪物祭〈モンスターフィリア〉の開催を目前に控え、いつにも増して観光客でごった返す闘技場近辺。そんな町の華やかな喧騒を他所に、厳しい険相の神ロキと献奏に靡く神フレイヤ。向き合う二柱の神はその態度も、大きさも対称的であった。

 ロキはその細い目尻を吊り上げて更に細くしながら問う。

 

「今度は何企んどる?またどこぞのファミリアの子供を気に入って、ちょっかい出そうとしてるんか?ったく、いさかいの種ばっかり蒔きおって。この色ぼけ女神が。」

 

「あらぁ?分別はあるつもりよ?」

 

「抜かせ!」ガシャ

 

 最近、妙な動きをしてると思って問い詰めてみれば、悪びれる様子もなくそれを肯定する。昔っからそうだ。こんの色ぼけ女神は周りの迷惑も考えんと好き勝手しくさる。まぁオラリオにいる神なんて大抵ロクデナシなのだが、フレイヤについてはそれを実行する行動力と、実現する組織力があるからなおタチが悪い。

 

 

「・・・責任は取れるんやろなぁ?」

 

「当然よぉ。少しつきあってもらうことになるかもしれないけど。」

 

 まるでこれから騒動を起こすことを宣言するように、そしてそれにロキを巻き込むことすら当然のようにフレイヤは告げる。

 

「けっ相変わらずやな。で、どんな奴やぁ?自分の狙てる子供っちゅうのは?」

 

「綺麗だった。透き通った魂の色をしていた。私が今まで見たことのない色をしていた・・・。一人は頼りない、少しの事でも泣いてしまいそうな、そんな子。後の四人は色とりどりの優しさと情熱を兼ね揃えた煌めきを映し出す、そんな子。」ウットリ

 

「何や五人もおるんかい。えろう豊作やないか。ハーレムでも作るんか?」オン?

 

「ロキ、貴女良いこと言うじゃない。そうね、そうしようかしら。」ハッ

 

「茶化すなや!」ゴルァ

 

「あら、私はいつだって本気よ?貴女のおかげで迷いがなくなったわ。有難う、ロキ。」ニッコリ

 

「コイツは・・・。」ウヌヌ

 

 一々相手をおちょくるような言い回しをしてくるが、この色ぼけ女神はいつだって本気だ。自分の発言が何やら悪い方向に後押しをしてしまったらしいことにロキは額に手を当てて唸る。

 

「見つけたのは本当に偶然よ。たまたま視界に入っただけ・・・、!」ガタッ

 

 語りながら何かを思い出したかのようにフレイヤは突然席を立つ。

 

「御免なさい。急用が出来たわ。」

 

「はぁ?お前いきなり・・・。」

 

「また会いましょう?」

 

「何やあいつ・・・って、勘定もこっちかいな!?」

 

 言いたいことを言うだけ言ったフレイヤはちゃっかり食い逃げをしていく。

 それを見送ったロキは何か最近食い逃げに縁があるなぁとおかしな方向に思考が逸れていった。

 

―――――――――――――――――

 

 

~闘技場~

 

「では皆さんの持ち場はこちらの闘技場になります。基本的には観客の誘導が皆さんの担当です。もしも、万が一、億が一でも、モンスターが観客席に入り込むことがあったら、周辺の観客だけ逃がして、無理に倒そうとせずに救援が来るまで時間を稼いでください。レベル1の皆さんでは絶対に勝てませんので。まぁそんなことにはならないでしょうけど。」

 

「それフラグじゃあ・・・。」

「シッ、デーリッチ口にしたら本当になる。」

 

 安全性には自信があるのだろうが、やけにもしもを強調されては逆に不安にもなってしまうのは仕方ない。どんな物語においても絶対なんて言葉はひっくり返される為にある言葉だ。

 そんなモヤッとした不安を胸にガネーシャファミリアの現場担当者から仕事の説明を受ける。臨時で採用された冒険者にはレベルに応じて仕事が振り分けられるようなのだが、全員レベル1の彼女達は冒険者といえどもせいぜい一般人よりは強い程度の認識なので、比較的危険度の低い仕事が割り振られた。

 

「観客の誘導なんて楽勝じゃないでちか。これで祭り見物も出来るなんて、大儲けでちー!」デーチッチ!

 

「とても朝グズッてた子の発言とは思えないね。まぁやる気を出してくれるのは良いことだけど・・・。」マッタクモウ

 

 そうして怪物祭〈モンスターフィリア〉は幕を開けた。

 

 

―――――――――――――――――

 

~闘技場~

 

『お待たせしました!これよりモンスターフィリアの花形、ガネーシャファミリア所属のテイマーによる、モンスターテイムを開催致します!』

 

 場内にアナウンスが響き渡ると、闘技場の中央から大型の猪型のモンスターが入れられた檻がせり上がる。それに相対するのは仮面を装着し右手に鞭、左手に轡を構えた一人の男性テイマー。

 そして檻が開かれると同時に突進を仕掛けるモンスター。一方、テイマーの男性はそのモンスターの額に手を当て、まるで跳び箱を跳ぶようにヒラリと宙に舞い、そのままモンスターの背に取りついた。そうなればもうテイマーの思うまま。轡を嵌められ、進む方向も自分で決めることを封じられたモンスターは何とか背に取りついた邪魔物を振り落とそうと暴れる。しかし、その度にテイマーから鞭を浴びせられ、次第に抵抗が無駄と悟ったモンスターは暴れるのを止めて大人しくなっていった。

 

「う~んお見事!鮮やかなお手前でちねー!」

 

「デーリッチ、私達はあくまでも仕事でここに来ていることを忘れちゃダメだよ?ちゃんと客席の方も気にしないと・・・。」

 

 客席の誘導の仕事はいざ催しが始まってしまえば暇なものである。それならば少しくらい祭り気分に浸るのも悪いことではないだろう。デーリッチを諌めるローズマリーも注意はするが、それを止めることはしない。

 フゥッと溜め息を吐きながらも、ローズマリーは自分の持ち場に戻る。

 せっかくだから私も少しくらいは楽しんでおこうか、と思った矢先にローズマリーの背後から声がかかる。

 

「ローズマリー。」

 

「あれ、柚葉?キミは反対側のブロック担当じゃなかった?何かあったの?」

 

「檻からモンスターが逃げ出したらしい。結構な数のモンスターが街に出てしまった。とにかく人手が足りず、戦える者は一人でも多く協力して事態の収拾を優先しろ、とのことだ。」

 

「えぇ・・・。」

 

 絵に描いたようなフラグ回収ぶりに言葉を無くすローズマリー。

 とはいえ、街中でモンスターが暴れることがあれば大変なことになる。この街に暮らすのはなにも戦う力を持つ者だけではないのだから。

 

「私とルフレは伝令役として各担当箇所を廻っている。お前はデーリッチを連れて先に行け。」

 

「了解。えーと、デーリッチは・・・と、あれ?」

 

 ローズマリーはデーリッチが先程いた場所に目を向けるがその場所からはいなくなっていた。何処に行ったのか周りを見渡すとこの大喚声のなかでも聞き分けできる程度には聞き慣れた声が観客席の中から聞こえてきた。

 

「イエーイ!」パシーン

 

 どうやらデーリッチはいつの間にか観客と仲良くなって一緒になって盛り上がっていたらしい。アマゾネスの姉妹らしい女性達と何故かハイタッチを交わしていたデーリッチに声をかける。

 

「デーリッチ!観戦はここまでだ。仕事だよ!」

 

「えぇ~もうちょっとだけ~・・・。」

 

「そうは言ってられないんだ。」ヒソヒソ

 

「何でちって!?」

 

 またもグズるデーリッチだが、ローズマリーから現状を耳打ちされると真剣な目に変わった。

 

「お姉さんたち、ごめんなさいでち。デーリッチ、行かないといけないみたい。」スタッ

 

「えー、デーリッチもう行っちゃうのー?」

 

「もしかして何かあったの?」

「ちょっとお仕事が入っただけでちよ。チョチョイと片付けたらまた戻ってくるでち。皆はお祭りを楽しんでてね!」

 

「そお?せっかく仲良くなったのに残念ね~。」

 

「またね~デーリッチ~。ほらレフィーヤも照れてないでさ~。」

 

「べ、別に照れてなんていません!」

 

「ごめんね~この子、ホントに初対面の相手に慣れてないのよ。」

 

「あはは。ティオナちゃん、ティオネちゃん、レフィーヤちゃん、またね~でち。」

 

 人と仲良くなる天才は何処へ行っても変わらない。デーリッチはいつだってこうして人の輪を拡げていく。きっとそれに救われる者もいるだろう。それはデーリッチが歩いてきた道で、これからも歩いていく道だ。

 ローズマリーは優しく微笑みながらもデーリッチを連れて外へ向かった。

 

――――――――――――――――

 

~オラリオ東区 中央通り~

 

「まったく、せっかく祭り見物に来てみれば。」ビリビリ

 

「何で街でもモンスター退治せねばならぬのかの。」シュバ

 

 お子様四人組でお祭り見物に来ていたが、その途中で犬型や猪型やニワカマッスル型のモンスターが街の人を襲っているのを見つけて直ぐ様救援に入った。

 

「二人とも文句は後!怪我した人に薬配るから怪我人をこっちへ連れてきて!ポッコちゃんも手伝って!」

 

「「「は~い。」」」

 

 モンスター一体一体は大したことないものの、それなりに数が多い。戦う力のない市民の中には救助が間に合わず、死者はないものの怪我をする人はそれなりに出ていた。ベル君の指示に従って集められた怪我人は手持ちの回復薬で片っ端から治療されていく。

 ヅッチー達も街中でしかも人とモンスターが入り乱れている状況では範囲攻撃は使えない。街の人の危険度の高いところを優先して救助し、避難路を確保しながら一体ずつモンスターを仕留めていく。

 

「でやぁ!プラズマクロー!!」ズババッ

「こやつで最後じゃな。ちょい。」フツウノパンチ!

 

 ヅッチーとマオが最後のニワカマッスル型モンスターを片付けると、辺りからモンスターの気配が消える。離れた場所からその様子を見ていた住民たちからも安堵の息が漏れる。

 

「デーリッチちゃん達が心配だ。闘技場の方に行ってみよう。」

 

 そうやって十数匹のモンスターを倒し、同じくらいの怪我人を治療し終えた彼女達は仲間と合流すべく闘技場へ向かった。

 余談だが、後にギルドがこの事件を調査した際、小さな子供がモンスターを倒したとか、大怪我が一瞬で治ったなどという信に足らない証言が飛び交い、それらは損害賠償を不当に請求するための妄言だと判断された。

 結果、このエリアの被害者はゼロと記録されている。

 

 

 

――――後編へ続く




 後半はバトルメインになるかな~。
 ちなみにフレイヤ様はクラネル君を鍛える為にちょっかいをかけてきますが、ハグレ王国には同じやり方はあまりしません。ハグレ王国のキャラを最も輝かせる方法が闘いではないと知っているからです。まぁ大抵は面倒なことになるのには変わりないですけどね。
 あと、前話の後、ヘスティアはコタツ着たままヘファイストスに土下座して、一発ぶん殴られながらもちゃんとナイフは作ってもらってます。現在はお猿さんと鬼ごっこ中。
 当初はベル君にナイフの代わりにコタツを託して、覚醒したベル君がこたつカウンターを編み出す展開を考えてたんだけど、さすがに話が壊れすぎちゃうので断念しました。しかしまぁ、いずれはきっと・・・。


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第15話 モンスター大祭り(後編)

 スプリングハズカム!
 やっぱバトルシーンはダメだわ~。みんな見せ場作ろうとすると大味になっちゃうし文字数ばっか増えちゃう。
 はむすたさんのブログで追加イベント制作日記が始まりましたね。この尽きることのない制作熱、尊敬します。ってかスライミーズ参戦てマジですか!?


~商店街前広場~

 

「ふぃ~この辺は片付きまちたね。」

 

「お疲れさま。デーリッチ。」

 

 闘技場から飛び出したデーリッチとローズマリーは、なるべく人が多く被害が出やすそうな場所の守りに向かった。

 特に屋台が建ち並ぶ商店街前広場は土地勘がなく避難が遅れた観光客も多い場所だ。パニックになった人々が我先にと逃げ惑い、モンスターだけではなく人同士で衝突したり転んだり踏まれたりして怪我をしているひともチラホラ見られた。

 あらかたモンスターを倒し終えたデーリッチは怪我人にヒールをかけて廻り、魔法を初めて目にした観光客は魔法すげぇ!と感動の声を上げていた。

 

「ここはこれで大丈夫でちね。他の場所の救援に向かうでちよ。」

 

「そうだね・・・ん?」

 

――ごごごごご

 

「地震・・・でちかね?」

 

「地面が・・・危ない!デーリッチ!」

 

ビキビキィッ!

 

「わわ!よっと!」ヒョイ

 

 地面にヒビが入りデーリッチの足下に筋状に伸びてくる。ローズマリーの合図でデーリッチは慌てて横跳びで難を避ける。

 

―――どーん!

 

 地面を割って現れたのは蔦を蛇の様にうねらす全長20メートルはあろうかという巨大な植物系モンスターだった。

 

「これは・・・中々でかい、でちねぇ?」

 

「おかしいな?闘技場にこんなモンスターいたかなぁ?」

 

 心配性なローズマリーは、前日の段階で捕らえているモンスターの種類や入れられていた牢の強度を確認している。テイマーの見世物の為に集められたモンスターは獣タイプばかりで植物タイプのモンスターはいなかったとローズマリーは記憶している。

 

「なんか、ものすごい見られてる気がするんでちけど・・・。」

 

「分析してる余裕は無さそうだね。やるよ、デーリッチ!」

 

「おうでち!」

 

シュルルルル!

 

 デーリッチはモンスターから伸びてきた触手の1本を避けようとせず、タイミングを合わせて杖をフルスイングして上方へと打ち上げる。

 

「とりゃ!」ブン!

 

ゴイ~~ン!

 

「硬っ!?めっちゃめちゃ硬いんでちけど!?」ナニコレ

 

 なまじ植物タイプは防御が弱いモンスターが多く油断していたのもある。デーリッチは銅鐘を叩いた様な思わぬ手応えに、腕をしびらせて硬直状態に陥ってしまった。

 

「ファイア!」ボゥ

 

 その間に、ローズマリーは落ちついて周りに被害が出ないように威力を絞った魔法でデーリッチが打ち上げた触手を焼き払う。

 しかしそれがここでは悪手となった。

 

ギュルルル!

 

 デーリッチが硬直しているスキに2本目の触手がデーリッチへと伸びてくる。学習能力があるのか、先程より鋭い一撃がデーリッチへ襲いかかる。

 

「しまった!援護が間に合わない!デーリッチ!」

 

 援護が間に合わないと判断したローズマリーは鞄の回復薬を取り出し、回復に備えた。

 

 しかし、その瞬間、デーリッチの前に青い風が立ち塞がる。

 

「過剰防衛の陣!」パシュン!

 

 この周辺は新たなモンスターが現れたことで、一般人は既に逃げだしており、それを目にしたのは極僅かな者しかいないだろう。いや、目にはしても何が起きたのかまで目で見えた者は皆無とも言える。

 それはポッコファミリアのデーリッチ達でも、斬られたモンスター自身すらも目では見ることが出来てはいないだろう。瞬きをする時間にも満たないその瞬間に繰り出された一撃は、時を圧縮し、まるで停止した世界でただ一人だけが活動しているかのようだった。

 そして一瞬とも、永遠とも表現できる切り取られた絵画の世界は、それを為した者の合図によって終演を迎える。

 

――パチン

 

 納刀。世界の再開を告げるにはあまりにも軽い音が静寂を切り裂く。

 

――ドシャア!

 

 崩壊。自身が斬られたことを思い出したかのようにその巨体は重たい音と共に沈んだ。

 

「柚葉!」

 

「ふむ、礼ならば私にダンチョーの座を譲るだけでよいぞ?」

 

「そいつは無理でち~!」

 

「ぬぅ。」

 

「でも、助かったでち。ありがとう、柚葉!」

 

 リュージン族に伝わる伝説の秘宝の一つ『統べるもの如来』。竜眼石で創られたその刀は重さを要せず、ただ刀の反りと鋭さのみであらゆる物を切ると伝えられる。凡人が手にすれば只の折れやすい刀でしかないが、達人が手にするならば次元すらも切り裂くことを可能にするという。なんとなく気に入ったというだけの理由で、この刀を自在に操れる者は柚葉以外にはいないだろう。

 

「・・・ふむ、しかしデーリッチよ、気を抜くのはまだ早い様だぞ?」

「はふ?」

 

「デーリッチ!足下だ!」

 

――ごごごごご

 

「お?お?」

 

――ズ、ズズン!

 

「地面が、抜け・・・のわぁ!?」

 

「一旦下がって!モンスターが荒らしてない所までは落ちないハズだ!」

 

 先程のモンスターが地面で暴れていたせいだろう。脆くなった地面は底が抜け地下水道まで崩落してしまったらしい。

 

「へぇ~この下は地下水道になってるんでちね。」

 

「呑気なこと言っている場合じゃないよ?さっきのモンスターが闘技場から逃げ出したのではなく、元々地下を根城にしていたということだ。街の地下でモンスターがウヨウヨしてるなんてたまったもんじゃない。」

 

「ハグレ王国の地下と同じだな。」

 

「それは言いっこなしでちよ。」

 

 ハグレ王国の拠点ははるか昔に古代人に造られた遺跡をそのまま使っている。その地下部分は水道というわけではないが、水を大量に溜め込み水没している。これは古の時代、マナが薄い地上では生活出来なかった古代人が地底に居住空間を作る為に、マナを含む水を蓄えることでマナ不足を補っていた為である。

 

「拠点の地下と同じ、・・・か。いや、拠点というよりもこれはむしろ・・・世界樹?だとしたらこの街、いやこの世界は・・・?」ブツブツ

 

「どうしたでちローズマリー?」

 

 オラリオの地下水道は当然、生活用水なのでハグレ王国の拠点とは事情は違うのだが、唯一、マナの環境という点においては似通っていると言える。

 ローズマリーはそれがダンジョンの魔物湧きに影響していると考えた。また、ダンジョンから半永久的に持ち出され、様々なエネルギー源として使われる魔石の存在。これはマナを異世界から取り込み、その葉から世界に拡散する世界樹の仕組みと根本的には同じ構図だ。

 

「ボサッとしている時間はないのではないか?」

 

「ん?あぁ、ごめんごめん。そうだね。これ以上さっきのモンスターが湧いてくるのも困る。こちらから調査に行こうか。」

 

 ブツブツと思考の迷路に落ちていたローズマリー。二人に指摘され今はそれを考えるときではないと頭を切り換える。

 

「お~い!デーリッチ~!」

 

「あっ、ヅッチー!みんなも!」

 

「あら、もう片付いちゃったみたいね。」

 

「この様子だと結構な大物がいたようだのう?」

 

 そうやっている間に別行動していた仲間達が集まって来た。ポッカリ開いた大穴を覗きながらこの場所に現れたモンスターの大きさを各々で予想していた。

 

「ありゃりゃ?みんな集まっちゃったんでちね?」

 

「あんだけでかい音してたら真っ先に駆け付けるわよ。で、どうするの?じきに他の冒険者も集まってくるわよ?」

 

 ポッコファミリアのメンバーはたまたま近場にいたのと、素早さにおいても他の冒険者の追随を許さないレベルである。必然的に先行して集合となった。

 

「う~ん・・・。さっきのモンスターを他の冒険者に戦わせるのはちょっと不安でちね・・・。デーリッチ達だけで先行する方が良さそうでち。」

 

「そうだね。急ごう。」

 

 ポッコも合わせて11人。全員揃っての行動はオラリオに来たとき以来となる。間違いなく過剰戦力と言える人数を引き連れて地下水道へ歩を進める。

 

――「待って。私も行く。」

 

 ・・・のだが、その背から声をかける者がもう一人。

 

「あら、アイズじゃない。貴女も来ていたのね。」

 

「ミアラージュ・・・?この穴・・・食人花のモンスターが暴れた跡だよね?モンスターは貴女たちが?」

 

 先日、服屋で出会ってから交流が出来た二人。ベル・クラネル君の件について連絡を取り合ったことがきっかけでお互いに友人と呼べる関係になっていた。

 アイズは先程まで戦闘していたらしく、着ている衣服があちこち破れている。固有の風魔法エアリアルを駆使して街を飛び回っていたアイズは他の冒険者よりも早くこの場に到着できたらしい。地上部の掃討はあらかた終わったが、懸念が残るのは先程の食人花のモンスターの存在だ。上からでは見つからない脅威に対し、都合良く開いた穴から地下に降りようとした次第である。

 

「私達は来たばっかりよ。モンスター倒したのはこっち。」

 

「貴女たちだけで、あのモンスターを・・・?」

 

「そうでちよ。デーリッチたちは強いでちからね!」エッヘン

 

「わりと危ないところだったけどね。」

 

「それは言いっこなしでちよ~。」

 

 鼻高々に語るデーリッチ。油断してピンチに陥ったことはナイショである。

 

「そう、宜しく。」

 

「まぁ共闘してくれる仲間が増えるのはこちらとしても心強い。いいよ、一緒に行こう。」

 

 今、ここにポッコファミリア全戦力にプラス一人を伴って地下道へ降りていった。

 

―――――――――――――――――

 

~オラリオ地下水道~

 

 薄暗い地下水道をぞろぞろと歩いていく。彼女たちを知らない人がみれば立入禁止区域を探検する子供達の集団にしか見えないだろう。

 アイズ自身もその集団に溶け込んではいるが、これはピクニックではなく、モンスター討伐である。おそらくこの場においては唯一の第1級冒険者として、いざ戦闘となれば彼女達も守らなくてはならない。普段は最前線で敵を葬ることしか考えないアイズも、同行者のことを慮る必要が出てくる。

 

「貴女たち、レベルは?」

 

「レベル?みんな1でちよ?」

「え?」

 

 アイズはその話に首を傾げる。先程ヒュリテ姉妹とレフィーヤと一緒に、装備が不足していたとはいえ、4人がかりでなんとか討伐したモンスターをレベル1の冒険者だけで対処したと言う。

 

「みんな、強いんだね。」

 

「まぁ私達は見た目以上には強いから安心していいよ。」

 

「頼もしいね。」

 

 何が何だか分からないが、まぁ付いていけば分かるだろうと、アイズは持ち前のおおらかさであっさりと順応していた。

 

 それから、少し進むと前方に開けた空間が見える。そしてその先から感じ取れる邪悪な気配。

 

「ストップみゃ。」

 

 警戒をしながら先頭を歩いていたルフレが歩を止める。巨大な物が蠢く気配に勘づき、近付いて先の様子を窺う。

 すると、先程倒したモンスターと同種のモンスターが見える範囲でも5体以上が蠢いていた。そして、その内に1体、明らかに他の個体より一回り大きく姿も異なる魔物が混じっている。なにやらその大きな個体は他の個体を取り込み、更に大きさを増していっているように見える。

 

「あれ、何か見たことある大型魔物が混じってるんでちけど・・・?」

 

「あれは・・・プラントヒュドラ!?何でここに!?」

 

 プラントヒュドラ。かつて帝都決戦に投入された植物タイプの大型魔物だ。ヒュドラの首のように伸びた触手を自在に操り、周囲のマナを吸収して半無限の自己再生を繰り返す厄介な能力を持つ。更に周囲に食人花アサルトフラワーの種を撒き散らして増殖し続ける恐るべきモンスターである。

 

「で、あれは何をしているんでしょうか?」

 

「共食い・・・に見えるみゃね。」

 

「このパターンはアレね。」

 

「アレでちね。」

 

「「「ボス戦。」」」

 

 声が揃う。同時に警戒度は最大に引き上げられる。なぜプラントヒュドラがいるのかは分からないが、かつて苦戦させられたモンスターがそこにいる。しかも他のモンスターを喰らうことで明らかに強化されているようだ。

 

「さすがに武器なしでは厳しそうな相手だ。今のうちに装備を整えておこう。」

 

 そう言ってローズマリーはポーチを取り出す。大概のモンスターなら無手で何とでも出来るが、見たところ今回はそうもいかなそうだ。

 

「何?それ?」

 

「?あぁ、四次元ポーチは初めて見るかい?」

 

「四次元・・・?」

 

「まぁ、見た目以上に物が入るカバンだと思ってくれたらいいよ。そんなに珍しいものではないし気にしないで。」

 

「そう・・・かな?」

 

 アイズはロキファミリアでは見たことのないアイテムに目を丸くする。珍しいものではない?いや、そんなことがあるわけ・・・、いやどうだろう。わからない。ダンジョンはいつだって未知に満ちているのだから。

 

「あっ、そういえば私も武器・・・。」

 

 各々が武器を用意する中でアイズは先程の戦闘で鍛冶屋から借りたレイピア(4,000万ヴァリス)を折ってしまったことを思い出す。折れた刀身を見つめながら、これから予想される叱責と弁償につい深いため息がこぼれる。

 

「その剣、折れちゃったんでちか?さっきのモンスターめっちゃ硬かったでちからね~。ローズマリー、アイズちゃんにも何か剣を貸してあげるでち。」

 

「いいの?」

 

「かまわんかまわん。一緒に戦う仲間でちからね。良いものを使ってね。」

 

「う~ん・・・、アイズさんは女剣士だから・・・、これなんてどうかな?」

 

「ありがとう。」

 

 ローズマリーが取り出したのはデルフィナレイピア。死して尚も人々の為に戦い続けた伝説の女勇者デルフィナが使っていたというレイピアを、ハグレ王国の鍛冶屋ジーナが持てる技術の粋を凝らして打ち出し再現した名剣。2本打って出来が良かった方はジーナの弟のアルフレッドに贈り、残った方はハグレ王国に寄贈された。しかし、せっかく最高品質の武器が寄贈されても、王国には西洋式の剣を好んで扱う人物があまりおらず、実戦で使われることはなかった。そんな経緯があった為か、〈剣姫〉アイズ・ヴァレンシュタインという使い手を得たことで、レイピアも心なしかほんのりと輝いて見える。

「さてと、もう準備はいいかなみんな?戦闘開始といこうか!」

 

「「「おう!!!」」」

 

 

 そして決戦の幕が上がった。

―――――――――――――――――

 

「ノーフューチャー!」オマエハモウシンデイル!

「トアミサンダー!」バッサァ!

 

 急所一点、ルフレの手裏剣が刺さりプラントヒュドラをその場に縫い止める。その上から網状に投じられたヅッチーの雷魔法が覆い二重に行動を制限する。

 

パシュパシュパシュパシュ!

パシュパシュパシュパシュ!

 

「なにっ!?」

 

 プラントヒュドラは周囲に1度に8個ものアサルトフラワーの種を撒き散らす。先程まで食人花を喰らっておりマナも栄養もたっぷりあるのだろう。それらは着弾と同時に芽吹き襲いかかってくる。

 

「フレイム!」ボウ

「マオちゃんトンネル!」シュワッチ!

 

ガアアアアア!ガブッ

シャアアアアア!ガブッ

 

「いった!?メチャクチャ痛ぇですわ!?」

 

 ローズマリーとマオちゃんがアサルトフラワーを焼却していくが数が多く全てを処理するには至らない。4体のアサルトフラワーが火の海を潜り抜けてヘルラージュに噛み付く。

 デーリッチが慌ててひっぺがすが、ヘルラージュの腕やら腿からはドクドクと血が流れている。

 

「ヘル、あなたふざけて死んでも黄泉返りはしてあげれないわよ?」

 

「それ今はシャレにならないからやめて!?」

 

「やあねぇ。ゾンビジョークよ、ゾンビジョーク!」遺ェ~影ィ!

 

「うぅ・・・お姉ちゃんが優しくない・・・。」グスン

 

「ヘルさん、はい回復薬。」ニッコリ

 

「ありがとうベル君。やっぱりベル君は優しいわ~。ゴクゴk・・・ぶっはあ!?何コレ!?」ニガー!

 

「何っていつものポーションですよ?」

 

「そう、そういえば死ぬほど苦いんでしたわね・・・。あの、デーリッチちゃん?ヒールをお願いできます?」

 

「も~しょうがないでちね~。ほい、ヒール!」

 

「ありがと~。デーリッチちゃん良い子良い子。」

 

「余裕あるね、みんな。」

 

 ロキファミリアも大概に賑やかだと思っていたけどこの人たちは一体なんなんだろう?さっきの攻撃一つとっても強いと自称するだけのことはある。致命的に隙だらけだがそれも余裕の現れにも見える。

 こんなんでモンスターを倒せるんだろうか、ほら、さっき噛みついてた花がまた仕掛けてきた。

 

「私が行く!」

 

 アイズはデーリッチに飛びかかろうとするアサルトフラワーに側面から斬りかかる。

 

スパパ!

 

「え?」マップタツ!

 

 想像以上に軽い手応えでアサルトフラワーを両断できてしまい逆に困惑してしまう。斬ったモンスターが柔らかいわけではない。借りた武器の性能が良すぎるのだ。1振りで1体、その返し刃で1体、まるで胡瓜を切るかのように2体のアサルトフラワーをあっさりと倒してしまった。

 

「お見事でち!アイズちゃん!」パチパチ

 

「これは、武器のおかげ。」

 

 

「さて、私もかわいい妹をキズ物にされて黙ってはいられないわねぇ。〈パパ〉もそう思うでしょ?」

 

――オオオオオ!

 

 ミアラージュの背負うランドセルが奇妙なうめき声と共にガタガタと暴れだす。狂人となり死して尚も娘を想う父親の怨念が、末娘をキズつけられたことに怒り猛る。

 

「殺っちゃって、パパ!パパズダイナミック!」

 

 首だけの怨霊と成り果てたラージュ家の旧当主は、娘を守る為に火の玉となりアサルトフラワーへ頭突きをかます。2体残っていたアサルトフラワーを瞬殺したパパの怨霊は再びランドセルに戻っていった。そして、ミアラージュは小さな声で「パパ、ありがとう。」と呟きながらランドセルのホックを留める。

 どんな形であれ家族一緒に在りたいとう、歪んだ愛が生んだ歪んだ家族。この父親の怨霊には既に自我などないハズだが、それでもただ本能で娘の敵を刈る。ただ其れだけが心残りだと言わんばかりに。やれやれ、成仏にはまだ時間がかかりそうだとミアラージュはランドセルをさする。

 

「キャー!お姉ちゃんステキ!お姉ちゃんカッコイイ!」パチパチ

 

 現当主である妹はそんな姉の気持ちを知ってか知らずか呑気なモノで、まだまだ危なっかしいわね。とミアラージュは溜め息を吐く。でも、まぁそれで良いのかもしれないと最近は思う。ラージュ家の暗部は自分が冥土まで持っていくと決めたのだから。

 

「本体が来るぞ!」

 

シャアアアアア!

 

 プラントヒュドラが2本の触手を使ったダブルウィップを放つ。かつて戦った時よりも遥かに強靭で鋭い一撃が迫る。

 

 しかし、パーティーの最前衛に立つ二人は悠然と構えるのみ。

 

「こドラ、合わせろ。」スラッ

 

「お~け~。」ジャン

 

「「過剰防衛カウンター!」」ゴッ

 

ズバババ!

 

 こドラがこたつのカドで1本目の触手を弾き、柚葉が2本目の触手を両断する。対物理最終兵器コンビは今日も健在だ!

 

ヒュウウウウ・・・

 

「急速にマナを吸い込んでいる!魔法が来るぞ!マオちゃん、押さえ込むよ!」

 

「おかのした!」ゴオオオオ

 

――ブリザード

 

 プラントヒュドラが周辺のマナを冷気に変えて放つ。

 

「フレイム!」

「イフリートブレード!」

 

 ローズマリーとマオちゃんの炎魔法で冷気を相殺する。触手攻撃、魔法攻撃両方を封じられたプラントヒュドラは隙だらけになる。

 

「アイズ!今よ!」

 

「目覚めよ、〈テンペスト〉!」

 

「援護するみゃ、ニンジンシュリケン!」シュババババ

 

 ルフレの4連手裏剣が枝葉を払いのけ、アイズの前に1本の道を作る。

 

「リル・ラファーガ!」

 

――ザシュウ

 

 一閃。アイズは眼前に開かれた道を一直線に駆け抜ける。風の属性付与〈エンチャント〉を得たアイズの刺突はプラントヒュドラの茎を文字通り刈り取る。

 

「やったわね!?」グッ

 

「ヘル、あんたわざと言ってるでしょ!?」

 

 冷蔵庫のプリンが残らないのと同じように、建てたフラグは必ず回収される。

 

ブクブクブクブク

 

 プラントヒュドラは斬られた所から泡が吹き出しそれと共に再生を始める。

 

パシュパシュパシュパシュ

パシュパシュパシュパシュ

 

「自己再生か・・・厄介だね。種の方も健在のようだ。やはり一気に倒しきらないとダメだな。マオちゃん、大魔王球を準備して。」

 

「良いのか!?久し振りに本気で暴れられるのう!ゆくぞ!大魔王球吸収!」ゴゴゴゴゴ

 

「何・・・コレ?」スゴイパワー・・・

 

 ローズマリーがマオちゃんにレベル4魔王技の解放を指示する。レベル3以上の魔王技は威力が有りすぎて環境破壊を引き起こす為、普段は使用を制限されている。マオちゃんはまるで給食で残ったプリンを手に入れたお子様のような満面の笑みで魔力を練る。

 アイズはリヴェリアの長文詠唱すらも圧倒するであろうその魔力の奔流に冷や汗を垂らすしかできない。

 

「さあ、カウントダウンだ!マオちゃんの魔力チャージが終わるまで持ちこたえるよ!」

 

「「「おう!」」」

 

「落花落葉の刃!」ヒュヒュヒュヒュン

 

 

「目覚めよ、〈テンペスト〉!」シュババババ

 

「プラズマクロー!」

 

 2刀と1爪が戦場を蹂躙する。芽吹いたばかりのアサルトフラワーが成熟する前に刈り取られていく。

 

「もいっちょ!ノーフューチャー!」

 

 ルフレがニンジンシュリケンを投擲し、アサルトフラワーを失い再生途中で隙だらけのプラントヒュドラ本体をその場に縫い付ける。

 

「ほらヘル、あんたもいいとこ見せなさい。行くわよ合体技!」

 

「お姉ちゃん・・・。はい!」

 

「「魔王降ろし!」」

 

 ラージュ家に伝わる古神降霊術の奥義継承者が二人揃って始めて行使できる、いわば絶義。異世界の魔王の力を降ろし味方の特技魔法の威力を倍加させる。

 

――スゴゴゴゴゴ・・・

 

「ほう・・・血が、マナが、煮えたぎるようじゃ。ワシの方の準備はよいぞ!」

 

「大技いくよ!みんな下がって!」

 

 ローズマリーの合図でマオちゃんを残して全員が通路へ避難する。

 

「とお!」ゴオオオオ

 

 マオちゃんの極限まで圧縮された全開魔力が直径2メートル程の火球という形で解放される。炎耐性を持たない者ならばこの時点でその熱量に焼かれてしまうことだろう。

 しかし、マオちゃんはそれをプラントヒュドラに直接当てるわけではなく上方に打ち出し、自らも一緒に飛び上がる。そして空中で体を反らし、宙返りをしながらそれを蹴りあげる。

 

「雪乃に教わった特別仕様じゃ!オーバーヘッド・大・魔・王・烈・波ぁ!」

 

ドッゴオオオオオオオ!!!

 

 くす玉を叩き割るように空中で破裂させた大魔王球は圧縮された魔力を解放し、プラントヒュドラの体組織をバラバラに破裂させ焼き付くす。地下広間を充満する熱量は通路に避難したポッコファミリアにも届く程だ。

「アッチッチ!」

 

「さすがにマオちゃんの大魔王烈波は強烈だね。」

 

 ジョーカーを出した以上はこの戦闘はこれで終わり。いまだに燃え盛る広間の惨状を他人事のように眺める面々。

 一方で、アイズは深層の階層主並みのモンスターを相手に、あっさり勝利をしてしまったポッコファミリアという存在に対し、ようやく先程から溜まっていた疑問を提す。

 

「貴女たちは、どうしてそんなに強いの?」

 

「ん?まあこう見えて色々と修羅場は潜ってきてるしね。」

 

「レベルは・・・?」

 

「レベル?あぁ、私達は神の恩恵とは関係なく強くなってきたからレベルは上がってないんだ。」

 

「恩恵なしに・・・?」

 

 アイズはその意味を理解出来ない。人間は神の恩恵なしにはどんなに鍛えてもモンスターと戦う力を持たない、それが常識だからだ。そして、相手が理解の範疇を越えた存在と確信する。

 

「あ、炎も収まってきたみたいだね。マオちゃんを迎えに行こう。」

 

「あ。」

 

 アイズはまだ話をしたがっていたようだが、ローズマリーは話を切り上げてマオちゃんを迎えに行った。

 

 

 

「・・・あちきの遊び道具をああも容易く・・・。福の神一派め、いずれ必ず・・・。」

 

 そしてオラリオ史上最悪の闇派閥〈イヴィルス〉が蠢きだす。

 




「レフィーヤ。残りは飲んで。」

「えっいいんですか!?」カンセツホニャララ~

「ゴクゴk・・・ぶふぉ!?な、ナンですかコレ!?」ニガー

「ミアハファミリアで売ってた新製品。ベル印の回復薬だって。」

 なんかヤバい神様の存在を匂わせといてナンですが、次話で整理回やったら暫くはこのすばクロスの方に集中します。映画も始まるし、いい加減完結させないとね。
 今後は2~3ずつ交互に上げていくような形にする予定。


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第16話 3人目

 会議回。閑話とも言う。笑いどころもないし長い次回予告みたいな感じです。


~オラリオ東区 とあるレストラン~

 

 すっかり日も傾き、道に溢れるほどいた観光客もまばらとなった闘技場近辺。その一角に佇むレストランにて、神ロキと神フレイヤは今朝と同じように向き合っていた。

 

「ったく、気に入った子にちょっかい出すんにあんな大掛かりにやるかぁ?」

 

 今朝の話でこの色ぼけ女神がやらんとしていることは予想出来ていたとはいえ、いざ付き合わされる身としては恨み言の一つも二つも言いたくなるものだ。

 

「あらぁ?付き合って、ってお願いしたハズよ?それに被害は出なかったでしょ?」

 

 今年の怪物祭〈モンスターフィリア〉はモンスターが街へ逃げ出すという大きなトラブルがあったものの、幸いにして死者ゼロ、負傷者若干名という、奇跡的とも言える小さな被害で事態は終息した。その背景にはガネーシャファミリアの迅速な対応とギルドが雇った警備員、偶々居合わせたロキファミリアの協力によるものと記録されていた。尚、そこにはポッコファミリアの名前は何故か(、、、)記載されてはいなかった。

 

「あぁ、あんなけのモンスターが町中で暴れたっちゅうんに、死人も怪我人もほぼゼロ。ウチのレフィーヤがちぃっとやられたぐらいや。」

 

「怪我を?」ハテ?

 

 嫌味ったらしくのたまうロキに対して、フレイヤは、はて?ときょとんとした顔を見せる。〈千の妖精〉こと、レフィーヤ・ウィリディスの名はフレイヤも知るところである。闘技場のモンスターは強いモノでもレベル2相当。後衛タイプとはいえレベル3の冒険者を苦戦させる程のモンスターがいたとは思えなかった。

 

「せや、あの気色悪い蛇みたいな花みたいなデカブツ。ティオネ達は新種言うとったが、自分、あんなんにも色目使ったんかぁ?趣味悪すぎるで。」オオン?

 

 ロキはフレイヤがしらばっくれようとしてると思ったのか、問い詰める様に語気を強めた。

 

「何を言ってるの?私が逃がした中にそんなモンスターはいなかったわ。」

 

 悪びれることもなく、あっさりとモンスターを逃がしたと口にするフレイヤ。それでもあの植物タイプのモンスターは知らないという。モンスターを逃がしたことを罪とすら認識していないフレイヤがここで嘘を吐く必要もなく、ロキも虚を突かれたように言葉を失う。

 

「じゃあ、あれはなんや!?」

 

「さあ?知らないわ。」

 

 ロキは長い付き合いの中でよく知っている。この色ぼけ女神は我が儘で傲慢で他人の都合を考えないはた迷惑な奴ではあるが、嘘を吐くことはない。はぐらかされることはあるが。だからフレイヤがはっきり知らないと言うならば本当に知らないのだろう。

 となれば、この件は終わり、ロキはもう一つの要件に移る。

 

「どうやらホンマに別件ちゅうことかい。それじゃ、もう一つ。自分、ポッコファミリアについて何か知らんか?」

 

「・・・何かって?」

 

「はん、こっちは図星みたいやな。今日の一件でアイズと共闘したらしいんやが、分からんことが多すぎてな。」

 

 ロキは長い付き合いの中でよく知っている。この色ぼけ女神は嘘を吐くことはないが、はぐらかそうとするときはとても分かりやすい。どうしても都合の悪いことには沈黙するが。だからフレイヤがはぐらかそうとしているときは何かを知っているときだ。

 

「ロキ、あの子達には手を出さない方がいいわよ?」

 

「何や、自分のお気に入りてあの子らのことやったん。まぁ自分と対立するつもりはないし、手ぇ出すな言うならそれは構へんけど・・・。」

 

「それもあるけれど、あの子達、強いわよ?多分ウチのファミリアを総動員しても勝てないわ。」

 

「はあっ!?んなアホな!?どういうこっちゃ!?」

 

「どうもこうも、そのままの意味よ。理由は知らないわ。」

 

「ホンマかいな・・・。」

 

 ロキ、フレイヤ、どちらもオラリオ有数のファミリアであり、その自負もある。フレイヤファミリアが勝てないと言うのならロキファミリアも同じだ。レベル1の冒険者達がアイズと肩を並べて戦ったという報告を受けてまさかと思っていたがフレイヤがこの様子ならば誇張でもないのだろう。

 

 

「まさか、噂の超越者〈オーバーロード〉でもあるまいし・・・。神界からの差し金とでも言うんか?」

 

 

 ロキの頭によぎるのは、自らも因縁のある神オーディンを一騎討ちで下したという異界の冒険者の噂。下界における神界の情報は新参の神から最近の事情が語られる程度にしか得ることは出来ないが、その中でも最近は専ら、『神ならぬ身にて神を超越せし者〈オーバーロード〉』と呼ばれた冒険者についての噂が後を絶たない。そして、神々が天界から降りてくることが出来るならば、神を超越した者ならば世界を渡ることが可能であることも道理と、知識としては知っている。

 

「は~・・・。まぁええわ。自分が惚れるゆうことは悪人ではないやろうし、そっちは後回しやな。」

 

 さて、彼女達への推測は尽きないが、今重要なのは神フレイヤがその子達に好意を示しているという事実だ。フレイヤは色ぼけだが基本的には善神だ。魔や邪な存在に好意を向けることは有り得ない。その点において、ポッコファミリア自体は危険視すべき相手ではないとは思われる。勿論、数々の疑念は残したままであるが。

 

 ロキはフレイヤから取れる情報は得て、まずはモンスターについての調査に動くことにした。

 

――――――――――――――――――

 

~ポッコファミリアホーム~

 

 

「じゃあ、会議を始めます・・・が、その前に。」チラ

 

 ポッコは会議に参加している面々に視線を送る。大体皆が考えていたことは同じな様で、当人を除いた全員の視線が一点に集中する。

 

「何で部外者の方がウチのホームにいてこたつでみかん食べながら戦国Jリーグを読んどるんですかね?」

 

 こたつの主であるこドラは会議のときにもこたつに入ったままだ。それはいつものことなのだが、それと向き合った形でこたつに足を伸ばしている金髪の少女が一人。

 

「誰のこと?」モグモグチラ

 

「アナタですよ、ア・ナ・タ。〈剣姫〉アイズ・ヴァレンシュタイン!」

 

 他人事のように周りをキョロキョロ見てるアイズに名指しでツッコミを入れる。

 

「私?私のことは気にしないで。」コタツスキ

 

「そういう訳にはいかんでしょう・・・。」

 

 どうしてこうなった。その経緯を説明しよう。

 モンスター騒動が収まった後、街の混乱の収拾や物的な損害については神ガネーシャがファミリアのプライドに賭けて、ガネーシャファミリア総員で対応することになった。そのお陰でポッコ達は後片付けについてはお役御免となり、その後は一度解散して各々で普通に屋台を巡りお祭りを楽しんだ。

 のだが、一度報告に戻ったアイズはポッコ達の強さの理由を知りたいと言い、ポッコファミリアのホームを訪ねることとなった。ロキとしても、偶然とはいえポッコファミリアと繋がりがあるアイズを通して情報は得ておきたく、これは主神公認での行動であったりもある。

 しかし、ロキの目論見を知ってか知らずか、当のアイズは現在こたつの魔力の虜となり、2個目のミカンに手を伸ばしているところだった。

 

「で、貴女は結局何をしに来たんです?」

 

「私は、貴女達の強さの理由を知りたい。」

 

「それについては何度も言っているでしょう?私達はこの街の外で鍛えて来たんだって。」

 

「それは嘘。人間が神の恩恵〈ファルナ〉無しに強くなることは出来ない。」

 

「う~ん、どうしたものかなぁ・・・?」

 

 実はハグレ王国としては異世界からの来訪者であることをいつまでも秘密にするつもりはない。此処は超常を司る神々がゴロゴロいる場所なのだから、いずれ勘づく者も出るだろうという程度の認識だ。

 ハグレ王国がオラリオに来た本来の目的は、交易や技術交流の販路としての価値がどれだけのモノか調査し、それを行う下地として現在進めているのが、拠点や人脈、資金や信用を作ることである。いきなり借金からスタートしたのは予定外ではあったが。

 そこへ来て、目の前の相手は有力ファミリアの幹部の一人。将来のビジネスパートナーとなり得るファミリアの交渉チャネルとしては申し分の無い相手だろう。だが、正直ここで身分を明かしてしまうのはリスクが大きい。神にも様々なタイプがいるのは過去の経験からも既知であり、ロキファミリアの事情をまだ把握出来ていない中では見切り発車と言える。時期尚早だ。交渉には自分達が信用される必要があるが、相手も信用出切る相手か見定めなくてはならない。

 ローズマリーは少し思案した結果、此方の手札を残しつつ交渉のステップを踏む方向に舵を切る。

 

「分かりました、ではこうしましょう。私達の情報はおいそれと話す事は出来ませんが、それはお互いに信用が無いからです。なので、まずは小さな取引から信用を積み上げていきませんか?」

 

「具体的には?」

 

「私達はこれから方針を決める会議をします。これにアイズさんにも参加してもらって、得られた情報は持ち帰って頂いて構いません。代わりに私達のダンジョン探索に同行しては貰えないでしょうか?」

 

「貴女達のダンジョン探索に同行?其れだけでいいの?」

 

「ええ、実は色々と事情があって私達だけではダンジョンの中層から下に行くことが出来ないんです。第1級冒険者のアイズさんに同行して頂けるならばそれが出来るようになります。」

 

「・・・分かった。他のファミリアとの行動はロキの許可が必要だけど、遠征予定がないうちは大丈夫だと思う。他の仲間も付いてくるかもしれないけど大丈夫?」

 

「構いませんよ。その方が信用を得るという意味では効率的ですし。」

 

「交渉、成立だね。」スッ

 

「ええ、宜しくお願いします。」アクシュ

 

 アイズが手を差し出し、ローズマリーがその手を両手で包み込むように握手を交わす。

 

「ええと、それじゃあ会議を始めますよ。」

 

 ポッコは既に疲れた様子で会議の開始を宣言した。

 

―――――――――――――――――

 

「まずは、収支報告をお願いします。」

 

 ポッコが司会進行を務め、いつも通り会計収支についてローズマリーから報告がされる。

 

「はい。期間収支は、ダンジョン探索での収入が200万ヴァリス、ギルドからのクエスト報酬が100万ヴァリス、ベルくんの薬販売の利益が10万ヴァリス、支出は生活費合計で20万ヴァリス。合計290万ヴァリスの収益となっています。」

 

「お疲れさまでした。では、今日一つ目の議題について、ベル君から説明をお願いします。」

 

「はい。僕からは、開店予定のお店の見積もりについて説明します。」

 

 先日作成したお店提案について、ベル君が説明をしていく。

「お店・・・?」

 

「お金稼ぐのにダンジョン探索だけだと時間かかるからお店を作るじゃんか。」ヒソヒソ

 

 お店と聞いて何のことやら解らないアイズにはこドラがフォローを入れる。

 

「開店資金が安い順から、こたつ喫茶が350万ヴァリス、美術館が500万ヴァリス、道具屋が600万ヴァリスです。」

 

「こたつ喫茶が一番安いの?テーブルとかの設備にお金かかりそうだけど。」

 

「こたつ喫茶・・・!」

 

「アイズ、こたつ気に入ったの?」ヒソヒソ

 

「ロキには重大な情報を伝えなくてはいけない。こたつは良いものだ。」ヒソヒソ

 

「じゃあ、アイズにもこドラが前に使っていたこたつを1台あげるよ。これでアイズもこたつ同盟の一員だね。」ヒソヒソ

 

「いいの?」ヒソヒソ

 

「いいよ。」ヒソヒソ

 

 着々と加盟人数が増えていくこたつ同盟。アイズは目を輝かせてその提案を受けた。

 

「こたつ喫茶が安いというより、他施設が高いとも言えますね。美術館はどうしても内装が特注になってしまうのと、道具屋については調合機材に加えて開店に最低限必要な在庫確保が出来ないとお店を始めても棚が空になってしまいますから。人造人間についても販売が見込める高レベル冒険者さんからの許可を得ないと始められませんし。」

 

「成程ね。」

 

「じ、人造人間の販売・・・?」ナンテコトヲ

 

「ぬいぐるみのことだよ?」

 

「現在、手元にある現金は385万ヴァリスだから、こたつ喫茶がギリギリ始められるね。収益率は道具屋の方が高そうだし、ポッコちゃんとしては美術館も早めに始めたいところだろうけれど。どうしようか?」

 

「はい。」

「アイズさん?どうぞ。」

 

 

「こたつはいいものです。」キリッ

 

「はあ・・・、貴重なご意見ありがとうございます。」

 

 この人も大概天然だなと思いつつ、ローズマリーはゲストにお礼を言う。一応、一人のユーザーの意見としては参考には出来るだろう。

 

「今は少しでも早く資金を稼ぐことを優先すべきでしょう。こたつ喫茶の開店に向けて動くべきだと思います。」

 

 ポッコもこたつ喫茶の開店に賛成する。

 

「了解した。じゃあ、こたつ喫茶を開店する方向で決めよう。今手持ちの現金の多くを使うことになる。資金の残額に注意するようにしてください。」

 

「では、二つ目の議題です。資金稼ぎについてです。ローズマリーさんからお願いします。」

 

「はい。今回、こたつ喫茶の開店にも人員が必要なので、またパーティを二手に分けて行動します。ダンジョン探索についてはアイズさんの協力が前提になるけど、中層の探索が中心になると思う。そうなると、必然的に私とミアちん、ヅッチー、あと店長になるこドラはお店開店準備担当になるね。ダンジョン探索についてはルフレとヘルちんが中心になって子供達の面倒を見てあげてほしい。」

 

「了解だぴょん。」

「了解致しましたわ。」

 

 二つ目の議題についてはほぼ確定事項なので、内容共有だけとなった。

 

「それでは、これにて会議を終了します。解散!」

 

「「「は~い。」」」

 

 

 

 

ポッコファミリア会議期間の収支

 

収入:3,100,000ヴァリス

支出:3,700,000ヴァリス

借金残り:399,650,000ヴァリス

 

3歩進んで2歩下がる

 




「ア、アイズたん・・・その格好は!?」

「こたつは良いものだ。」キリッ

「ウチのアイズたんがおかしくなってもうた!ポッコファミリアで一体何があったんや!?」

「彼女達は強い冒険者の人造人間を量産して売り出すらしい。」

「な、何やてーー!?」


 予告通り、本作は今回でちょっとお休みしてこのすばの方に集中します。
 とか言いつつ、新作も書きたくなってしまうという浮気症。

魔法少女リリカルでち子
嵐を呼ぶハグレ魔王大決戦
秘密結社劇団タンタラス
ざくざくスレイヤーズ
住めば都のざくアク荘
エストポリス伝記ルーインアクターズ


どれにしようかな~。


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第17話 戦いの始まり―前編―

 お久しぶりでございます。涼しくなって筆がのってきた今日この頃。勢いで書き出したものの今日中に書ききれなそうだな、でも今日投稿しなかったらまた間が開きそうだな、と思っての前後編。もしかしたら前中後編になるかも?
 というわけで、事実上の第二章の始まりです。


~ゴブニュ・ファミリア~

 

「4000万ヴァリス。」

 

「ほぁ~・・・。」

 

 モンスターフィリアから一夜明け、アイズ・ヴァレンシュタインは修理の為に預けていた愛剣デスペレートの引き取りと、修理中に借りていたレイピアの破損を報告する為に、鍛冶ファミリアであるゴブニュ・ファミリアを訪れていた。

 修理中に貸し出していたレイピアを破損してしまったアイズが弁償を申し出ると、返ってきたのが4000万ヴァリスという高額請求だった。

 壊したのは自分だし、その弁償を申し出たのも自分だが、思っていたより遥かに高額な請求にさしもの剣姫も顔を曇らせる。

 

「全く、本当にお前は鍛冶屋泣かせだな・・・む?剣姫よ、その剣は何だ?」

 

 ゴブニュは小言を挟みながら、アイズの腰に下げられた三本目の剣に目を向けた。

 

「これは借り物です。借りていたレイピアを壊してしまって、モンスターと戦うのに別の知り合いが貸してくれました。」

 

 モンスターフィリアの一件で仲良くなったポッコファミリアの自称国王?のデーリッチの厚意で、デルフィナレイピアは修理中の剣が戻るまで貸して貰えることになっていた。

 アイズ自身この剣を使用してその性能は実感している。鍛冶士としてひとかどのゴブニュが興味を持つのも頷けた。

 

「ちょっと見せてはもらえないか?」

 

「別に構いませんが・・・。」

 

 借り物を他人に見せるのは少々気が引けるが、本職の鍛冶屋ならば悪い扱いはしないだろうとデルフィナレイピアを手渡す。

 

「これは・・・一体・・・?」

 

「あの、何か・・・?」

 

 剣を鞘から抜いてまじまじと観察するゴブニュ。目を見開いてその刀身を見ていたが、やがて納得したように目を閉じ、ゆっくりと鞘に納めアイズに手渡した。

 

「借り物・・・と言ったな?こんな代物をおいそれと他人に貸すとは何者だ?まさかヘファイストスではあるまいな?」

 

「それは違う、けど・・・。」

 

 アイズは言い淀む。昨日、ポッコファミリアのことは口外しないようロキとフィンから言われている。現段階であまり事を大きくしたくないのがファミリアとしての方針である。

 

「いや、よそう。詮索は道義に反する。しかし、人の技術でこれ程のモノを鍛えるとは、な。」

 

 言いにくそうなアイズの様子を見てゴブニュも追及はするつもりはなく、口をついたのはただ剣の出来を賞賛する言葉だった。

 

「この剣、それほどに?」

 

「ワシも下界で神力〈アルカナム〉を使わず、技術のみで鍛冶の業を研鑽してきたが、これ程の剣が打てるのはワシとヘファイストスを除いては何人いるか・・・。」

 

「そう・・・ですか。」

 

 あれ?じゃあこの剣をポッコから譲って貰う交渉するのもアリじゃね?と一瞬考えたアイズであったが、流石にそれは不義理だと思い、その考えは消した。

 

「良いモノを見せてもらった。さて、少し熱くなって語り過ぎたようだな。剣について何かあればまた来るがよい。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

「4000万ヴァリスは分割でもいいぞ。」

 

「はい・・・。」

 

 思いがけず大きな借金を背負うことになったアイズは頭を抱える。まぁ、ダンジョンに籠るくらいしか策はないのだが。

 アイズは昨日ポッコファミリアとのダンジョン探索の約束を早速果たすことになりそうだ、と昨日も訪れた雑木林に足を向けた。

 

―――――――――――――――

 

~翌日ロキファミリアホーム 黄昏の舘~

 

「アイズぅ、今日何か予定ある??」

 

 ロキファミリアでは、食事は基本的にホームに備え付けられた食堂で摂ることになっている。ファミリアの中でも個人的な親交はそれぞれであり、大抵は特別気の合う者同士で食事を摂ることが多い。中でも高レベルの者同士は役割上、会議や遠征で一緒になることも多く、必然的に親交もある。

 そんな中で、アイズは食堂の片隅でロキファミリア名物凸凹ヒリュテ姉妹、期待の若手レフィーヤ・ウィリディスと共に四人で向かい合って(、、、、、、)朝食の席に着いていた。

 気安げにアイズに今日の予定を聞いたのはヒリュテ姉妹の凹の方である、ティオナだ。

 

「二、三日ダンジョンに、籠ろうと思ってる。」

 

「お一人でですか?」

 

「お金を、用意しなくてはいけなくて。知り合いと一緒に、潜る約束をしてる。」

 

 アイズは昨日ゴブニュファミリアからの帰りにポッコファミリアに寄り、今日からダンジョン探索に同行する約束をしていた。

 

「あぁ、だったら私も一緒に行くよ!作り直してもらった大双刃〈ウルガ〉のお金稼がなきゃだし。知り合いってこないだの子達でしょ?私も混ぜてよ!いいでしょ?」

 

「でしたら、私もご一緒させてくださいっ!」

 

 敬愛するアイズの予定を聞いて、あわよくばオフ日の行動を共にしようと声をかけるのはレフィーヤ。

 

「あれ?レフィーヤも何か壊したっけ?」

 

「いや、あの・・・、アイズさんのお手伝いがしたくって。」

 

「本音は?」

 

「あの人達と一緒にいるとアイズさんがおかしくなるからっ!」

 

「「レフィーヤぇ・・・。」」

 

「何言ってんのよ、レフィーヤ。あんただって初めてコタツに足突っ込んだ時には『あへ~』てだらしない顔しながらヨダレ垂らして寝てたじゃない。」

 

「ヨダレなんて、た、垂らしていません!・・・多分。」

 

 レフィーヤが憤慨する理由。

 先日のモンスターフィリアで、アイズが共闘したというポッコファミリアのホームに行ってからというものの、帰ってきたアイズの背中にはコタツなる物体が乗り、口から出たのは彼らのダンジョン探索に同行するという言葉。そして、今まさに朝食を摂るのに使っているのがアイズが背負っていたコタツなのである。

 あの美しくて強くて素敵で美しくて素敵なアイズの背中に、不格好なコタツなる物体が乗っているという現実。しかしながら本当に許せないのは、今その魔力の虜になりつつある自分自身でもあった。

「ていうか!なんでティオナさんもっ!ティオネさんもっ!この状況にあっさり順応してるんですかっ!?」

 

「え~?だってめっちゃ楽じゃん。アイズのコタツ。」

 

「そうよねぇ。私にはレフィーヤが何に憤慨してるのかが分からないわぁ?」

 

「むぅ~!?」バンバン

 

 何も言い返せないレフィーヤには頬を膨らませながらコタツのテーブルを叩いて遺憾の意を表すことしかできなかった。

 

「まぁ、レフィーヤも参加でいいね。じゃあさ、ティオネも行く?」

 

「私はやめとくわ。団長のお側を離れるなんて嫌だもの。」

 

 世界平和よりも団長フィンを優先する団長至上主義のティオネは参加を拒否する。が――、

 

「あっ!フィン!リヴェリア!今からダンジョン行くんだけど、一緒にどう?」

 

「ふむ・・・アイズと、てことは例の彼らとの探索か・・・。いいよ。付き合おう。たまには他のファミリアとの親交も必要だろう。リヴェリアもいいかい?」

 

「構わない。」

 

「私もそう思ってたところなんですだんちょ~(はあと)。」

 

 結局、アイズ、ヒリュテ姉妹、レフィーヤ、フィン、リヴェリアの6人が同行することになった。

 

「あ~、ところでアイズ?」

 

「何?リヴェリア?」

 

「ダンジョンに行くときにはそのコタツは置いていけよ?」

 

「え?」ナニイッテンノ?

 

「え?じゃない。いや、お前は本気でコタツを背負ってダンジョンに潜ろうとしてたのか?」

 

「コタツがあればキャンプ道具いらないし・・・。」

 

「リヴェラで泊まればいいだろう?」

 

「それに見た目より軽いから平気。」

 

「そういう問題では・・・。」

 

「コタツを着たままレベル上げするとコタツ神拳が会得できるらしい。」

 

「え?なにそれ?」

 

「私は、強く、なりたい。」

 

「アイズ・・・、本気なのか?」

 

 アイズが強さに執着し、特に最近はステイタスが上がらないことに悩んでいることは、リヴェリアやフィンも承知している。見た目はふざけているようにしか見えないが、アイズなりに現状を打開しようと足掻いているのかもしれない。

 

「・・・分かった。アンクルウェイトトレーニングの一種と思えば、効果もなきにしもあらずだろう。但し戦闘に差し支えることがあれば何と言おうと没収するからな。」

 

「分かってる。ありがとう、リヴェリア。」

 

 結局、アイズの熱意に押されて、リヴェリアはコタツ着用の許可を出してしまった。

 

 

――――――――――――――――

 

~ポッコファミリアホーム~

 

「今日はアイズさんと約束したダンジョン探索に行きますわよ。」

 

 こちらはポッコファミリアのホーム。普段は参謀のローズマリーが立つ位置に今日はラージュ家の凸凹姉妹の凸の方、ヘルラージュが立っている。ダンジョン中層以降での活動にはマナ不足の不安があるローズマリー、凹ラージュ、ヅッチーの3名と、開店予定のコタツ喫茶の店長になるこたつドラゴンの計4名は開店準備の為に街でお仕事の予定である。

 

「ヘルちん、皆を頼んだよ。」

 

「ヘル、気を付けてね。」

 

「も~、お姉ちゃんもマリーさんも心配性なんですから~。この秘密結社リーダーのヘルラージュにお任せあれ!」

 

「「ルフレさん、ヘル(さん)を頼みます。」」

 

「任されたみゃー。」

 

「何か私の信用低くない!?」

 お決まりのやり取りで役割を確認する。一応凸ラージュにも、秘密結社を率いて愛する姉を妖精の羽が生えた悪魔の手から救いだしたという実績もあるのだが、イマイチ頼りなく思えてしまうのはやはり知力値の低さの故だろうか。

 

「デーリッチ達も付いてるから安心するでちよ。ローズマリー、ミアちん。」

 

「デーリッチちゃん?ワタクシどちらかというとアナタの保護者ですのよ?」

 

「そうだね。ヘルちんを頼むよ、デーリッチ。」

 

「解せぬ。」

 

 まぁ、組織とはトップが引っ張ることでまとまる場合と、トップを支えることでまとまる場合と其々あるものだ。ハグレ王国の気性としては皆でトップを支える形の方が向いているのかもしれない。そして、ヘルラージュ自身も仲間の想いを力に変えることが出来るタイプの人間なのだ。平時はへっぽこヘタレラージュと呼ばれているが。

 

「で、今日はどうする?」ズズー

 

 柚葉が味噌汁を啜りながら話を戻す。

 

「アイズさんのお話では中層以降での稼ぎになると日帰りは難しいそうです。今日は18階層の中継地点で宿泊して、明日は様子を見ながら30階層まで行って折り返して18階層に宿泊。帰着は明後日の予定です。」

 

「えっ、泊まり掛けで準備は大丈夫なのか?私は何もしてないぞ?」

 

「ローズマリーさんが必要な物は鞄に入れておいてくれましたので。」

 

「さすマリー。抜かりないな。」

 

「アイズさんも仲間を連れてくるかも、と仰っておりました。基本的にはあちらの皆さんとお互いの親交を兼ねてのお金稼ぎですので、皆仲良くね?」

 

「「「はーい!」」」

 

 斯くして、ポッコファミリアとロキファミリアの第一回合同探索行と相成ったのである。

 

 

――――――――――――――――

 

~ダンジョン第8階層~

 

「正直、驚いた・・・。」

 

 そう溢すのはロキファミリアの団長、〈勇者(ブレイバー)〉こと、フィン・ディムナ。

 探索に同行するという名目で付いてきているが、フィンとリヴェリアの今回の役割は『監視』である。不可思議な力を持つ新勢力の実力と善性を見極め、結果如何では友好か警戒か敵対かを判断する立場にある。実際同道し、モンスターと戦闘になっても最低限にしか手を出さず、極力見に廻っていた。

 確かにまだ浅層。レベル1の冒険者でも対処出来るモンスターしか出てきていない。しかし、気配察知に長けたウサギの獣人?ルフレと、マオ、柚葉の前衛が先行し、支援としてのヘルラージュ、デーリッチ、ベルが後衛に控える。戦闘時の役割も明確になっており、連携には熟練冒険者のそれが見てとれる。個人の能力も高く、後衛のデーリッチですら近付いてきたウォーシャドウの攻撃を危なげ無く往なしている。何より、前衛は既にアイズやヒリュテ姉妹との連携もそつなくこなすようになってきている。

 レベル5の冒険者と肩を並べて戦える。それはつまり・・・

 

――推定レベル5以上か

 

 フィンは外見に惑わされず、油断なくその実力に評価を下す。

 

「疼くか?フィン?」

 

「いや、全く。」

 

 そして、その善性にも評価が下される。直感とはいえ、彼女達からは悪意を欠片も感じない。まぁ少々お金にはがめつい様ではあるが、冒険者としては当たり前の感情だろう。

 

「少なくとも、無意味に敵対する必要は無さそうだよ。」

 

 リヴェリアからの問いにそう結論付ける。それは当然、理由があれば(、、、、、、)敵対することもある、という意味でもあるが。

 

「分かった。しかし、その時(、、、)にアイズ達を説得するのは骨が折れるだろうな。」

 

「ふふ、その時は頼むよ。リヴェリア母さん。」

 

「お前までその呼び方をするな。シバくぞ。」

 

「あはは、ごめんごめん。」

 

 リヴェリアはドスの効いた口調でフィンを睨む。一方で、今まで見せたことない表情でモンスターと戦うアイズに視線を移し、その時が来ないことを祈るばかりであった。

 

――――――――――――――――

 

 

~ダンジョン第14階層~

 

「お~!また出たよ!?ドロップアイテム!」

 

 ティオナが嬉々としてヘルハウンドが落とした『ヘルハウンドの毛皮』を拾う。

 まだ中層の入口ながら彼女がテンションを上げているのは異常な程のアイテムドロップ率の高さに依るものだ。

 

「いや~!この分だと中層でもいい稼ぎになるんじゃないかな!?」

「うひょ~!大儲けでち~!」

 

 点々と落ちているドロップアイテムを挙って拾うのはティオナと体格のわりに大きなリュックを背負ったデーリッチ。闘技場で出会ったときから意気投合していた二人は、ゲームで競うように魔石とドロップアイテムを取り合っている。

 

「しかし、このドロップアイテムの出方は異常じゃないかしら?」

 

 能天気にアイテムを貪る妹を眺めながらティオネが当然の疑問を呈する。

 

「あ~、それは多分、ルフレさんとデーリッチちゃんのお陰ですわね。」

 

「は?」

 

「あの二人、幸運値が桁外れに高いんですのよ。お金稼ぎには持ってこいの人材ですわ。」

 

「運が良いって、程度があるでしょうに・・・。まぁ現にこれだけドロップが発生してるわけだけど。」

 

 そんなやり取りがあったり。

 

「レフィーヤとやら、見せてやろう!我が魔王技を!」

 

「へ、並行詠唱どころか体術と同時に魔法詠唱!?私も負けていられません!」

 

 期待の若手エルフが魔王相手にライバル意識を燃やしていたり。

 

 

 当初の目的のお金稼ぎも親交を深めるという名目も順調にこなしながら、一行は第18階層のリヴィラの街に到着したのであった。

 

 

―――中編へ続く―――

 




「そういえば、今日はこドラ師匠は一緒じゃないの?」

「師匠!?」

「コタツ神拳の極意を教わりたかったんだけど・・・。」

「・・・ねぇ、アイズちゃんはコタツ背負うことに疑問はないでちか?」

「えっ?」

「えっ?」


 アイズさんはずっとコタツを背負ったまま戦ってます。
 言わずもがなですが、ポッコファミリアが浅層でしか活動していない割にダンジョンでの稼ぎが妙に多いのは、この異常なドロップ率といくらでもアイテムが持てる四次元ポーチに依るものです。デーリッチが背負っているのも、ドロップ率上昇効果のある魔道具『王国旅行カバン』です。こいつら本気で稼ぎに来てます。


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第18話 戦いの始まり~中編~

 後編に続くと思いきやまさかの中編。2ヶ月も空いてコレかよ!なんて言わないでね。
 この辺から物語はダンまち原作から離れてざくアク&らんダン要素が強くなっていきます。


~第18階層~

 

「ほぇ~ここがダンジョンのセーフティーポイントでちか。」

 

「そして、階層の中心に聳える大木の足下に見えるのがリヴィラの街だよ~。」

 

 やけに気が合うのか、道中も一緒にダンジョンを駆け回ってたデーリッチとティオナは、我先にと18階層への階段を抜けた。

 それを見守るように続くのはティオネ、ヘルラージュ。他のメンバーも少し遅れて階段を下り、最後尾には引率者の様にフィン、リヴェリアが続く。

 

「全くはしゃいじゃってまぁ…。でもあの子がファミリア以外で特定の誰かとあんなに親しくするなんて珍しいわね。」

 

「そうなんですか?デーリッチちゃんは誰とでもあんな感じですけど、ティオナさんもとても明るくて溌剌とした方とお見受け致しますが。」

 

「ティオナはね、ああ見えて人をよく見てるのよ。デーリッチに何か惹かれるものでも感じたんじゃないかしら?若しくは…」

 

「若しくは?」

 

「…いえ、何でもないわ」

 

「??」

 

――若しくは、闇を感じたか…。

 ティオナはいつもニコニコして天真爛漫としているが、それは彼女の一側面に過ぎない。彼女は誰よりも人の心の闇に敏感で、悩み苦しむ者がいればその側に寄り添おうとする。

 ティオナがアイズと行動を供にするのもそれが理由だ。力を求め、しかし行き詰まり、思い悩むアイズに寄り添い支えんとしている。

 それはアマゾネス故の愛の深さの現れか、ティオナ個人の特性かは解らない。しかし、そのティオナが最も近くに寄り添っているのがティオネ自身だという事実が、ティオネには何よりも気に食わないのであるが。

 ティオネはいずれ向き合うことになるであろう自身の闇を、心のどこか片隅に蠢くことを感じつつも、今はそれに蓋をしておく。ティオネはそんな自分と重ね合わせるように、ティオナとはしゃぎ回るデーリッチの姿を眺めていた。

 

「あの小さな背中にどんな大きなモノを背負ってるのかしらねぇ…。」

 

 ポツリと溢す。

 

「あぁ、大きいですよね。王国旅行カバン。あれ、デーリッチちゃんくらいな子供ならすっぽり入っちゃうんですよ。」

 

「あ~うん、そうね。…あなた天然ていわれない?」

 

「う゛、そ、そんなこと…ございませんわよ?」

 

 ヘルちんはやっぱりヘルちんである。

 

―――――――――――――――――

 

~リヴィラの街~

 

「妙だな。街の雰囲気が少々おかしい。」

 

「そういえば人が少ないような…?」

 

 今日はここまでの戦利品を換金しつつ、リヴィラの街で宿を取ろうかと話をしていた矢先、リヴェリアが街の異変を察知する。そう言われたレフィーヤも周りをキョロキョロ見回すといつもは呼んでもいないのに押し売りをしてくるゴロツキもいないことに気付く。

 ロキ・ファミリアとしては、かつて幾度となく訪れたならず者の街。普段は地上に渦巻く欲望や野望を濃縮させた灰色の緊張感を醸し出すのっぴきならないこのリヴィラの街。

 ダンジョン内に本来あり得ない平時平常平穏という「環境」に値を付け商売をする者たち。経済学などという概念を持たずとも、形なきモノの価値を正しく査定してみせる彼らは、ならず者などと揶揄されるが、その実体は野心旺盛な真の商売人に他ならない。

 しかしながら、商売人達も今日に限っては彼らの商品価値たる「環境」を押し売り出来ない状況にあるようだ。

 

「ボールス!」

 

 フィンがそんな商売人達の頭目ボールス・エルダーを見つけ、気安げに、しかしその目線は鋭く、声をかける。

 

「ちぃ、ロキファミリアかよ。なんだってこんな時に!」

 

「何か…あったのかい?ボールス?」

 

 ただならぬ様子に警戒感を顕にするフィン。

 

「殺しだよ。ビリーの宿でな。」

 

 ボールスは左目の眼帯を覆うように掌を顔に当て、首を振りながらぶっきらぼうに語る。

 

「まぁ、お前らには関係ない話だがな。」

 

「そうでもないさ。今日はここで宿を取るつもりだったんだ。そんな状況のまま、おちおち寝てもいられないだろう?事件解決には協力を惜しまないさ。差し支えなければ現場に案内して貰えないかな?」

 

「相変わらず物好きな連中だな。まぁ別に構いやしねぇが・・・、そっちの嬢ちゃん達は外れた方がいいぞ?女子供が見て楽しいもんじゃねえからな。」

 

「ワタクシ達もご一緒で構いませんわ。フィンさん達と別れてもこの街の勝手も分かりませんし。」

 

 代表してヘルラージュが答える。街中とはいえ、治安にも不安のある街で事件も起きている最中だという。ならばロキファミリアと行動を供にしていた方が安全だろうという判断だ。

 

「ほぉ、肝っ玉が据わってるじゃねぇか。いいだろう、ついてこい。案内してやる。」

 

 ボールスはフィン達に先立ってビリーの宿への道を進んだ。

 その道中、ヘルラージュがおずおずとボールスに話しかける。

 

「ところで、あの、ボールス…さん?」

 

「あん?」

 

「もしかして、お酒を呑むと胃の中で爆弾を作れたりなんてことは…?」

 

 ボールスという名に、つい最近死闘を演じた始祖竜の姿を思い出す。世を嘆きながら次々と吐き出される強烈な爆弾に何度吹き飛ばされ、何度キーオブパンドラのお世話になったか数えきれない。ヘルラージュにとって、お酒と爆弾はもはやトラウマの対象となっている。

 

「はあ?何おかしなこと言ってんだねえちゃん?んなわけねぇだろ…ほう、あんた見ねえツラだが、よく見りゃ別嬪じゃねぇか。へっへ。」

 

「ヒィッ!?」

 

 ならず者はならず者らしく、ボールスはヘルラージュへ下卑た視線を送る。この程度のことは冒険者なんぞやっていれば挨拶代わりみたいなモノなのだが、元来お嬢様のうえ、超絶ビビリストなヘルラージュはそれだけで萎縮してしまうようだ。

 

「ナンだよ。つれねぇ態度だな、おい。ちょいと後でお酌でもしてくr…「おっと手が」ヒュンおわっ!?何しやがる!」

 

 ヘルラージュの肩に手を廻そうとするボールスの顔面スレスレを柚葉の刀が通過した。驚いたボールスは大きく仰け反る。

 

「すまない、手が滑った。」チャキン

 

「あぁっ?んなわけぁ…「あまり下卑た態度を続けるならば、今度はうっかり貴様の上半身と下半身がその眼帯の様になってしまうかも知れないな。」

 

「あん?眼帯だと…?」

 

――ピシィ!

 

 柚葉に詰め寄っていたボールスが怪訝な顔を見せるが、その刹那、装着していた眼帯が額の真ん中で切れる。

 

「ひえ!?」

 

「宜しいか?」

 

「あ、あぁ…、言動には気を付けよう…。」ブルブル

 

 そのただならぬ迫力に身の危険を感じて、冷や汗を垂らしながらボールスが謝罪する。

 その一方で何故か怒っているヘルラージュ。

 

「もう!柚葉さん!街中で刀を振り回したら危ないですわよ!?気を付けてくださいまし!」プンスカ

 

「すまない。気を付けよう。」

 

「「「いやそれはおかしい。」」」

 

 どうやら本気で柚葉が手を滑らせたと思っているらしいヘルラージュが柚葉にお説教を始める。更にそれに素直に謝罪している柚葉。周りのメンバーもツッコまずにはいられなかった。

 

「天然・・・で済ませていいのかしら・・・?」

 

「ヘルちんでちからね~。」

 

「ヘルさんだから・・・。」

 

「仕方ないみゃ~。」

 

「あっ、いいんだ、それで。」

 

 ヘルちんはやっぱりヘルちんである。

 

 

―――――――――――――――

 

~ビリーの宿~

 

 ボールスに案内されたのは、丘の壁面をくりぬいた洞窟を改造して作った宿だった。一同は入口の人だかりを掻き分け、立入禁止の封鎖を開けて中に入っていく。

 宿の中は元が洞窟な為か、ひんやりとした湿気を帯びた空気が肌につく。廊下を進んだ先、一番奥の部屋、扉の代わりに簡易的に部屋の仕切りとして設置されていたカーテンを開ける。

 途端に立ち込めるのは、死臭。

 

「「ヒッ!?」」

 

 現場に到着し、その凄惨な状況に短く悲鳴を上げたのがレフィーヤとヘルラージュ。

 

「レイズ!」

 

「リヴァイヴポーション!」

 

 手遅れと察しつつも蘇生を試みるのはデーリッチとベル。

 

「やっぱり効かないみたいでちね・・・。」

 

 へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 事件現場を保存する為なのだろう。その遺体はおそらく発見時そのままの状態で部屋の真ん中に伏せた体制で寝かせられていた。薄く漂う腐臭と、斬られた首筋から流れ出た夥しい量の血も乾きつつあることから、少し時間も経っていることが伺える。

 

「犯人の目星は?」

 

 フィンが遺体の状態を検分しながら問う。

 

「恐らく、夕べコイツと一緒にいた女だ。今朝ビリーが戻ってきた時にはとっくに消えていたがな。」

 

「どんな女だったの?」

 

「それがさっぱり判らねぇんだ。フードで顔が隠れてたし、この男も全身鎧姿だったからどこのファミリアかすら見当つかねぇ・・・。」

 

 宿の主人である、獣人のビリーは狼狽した様子で答える。彼が言うには、昨晩は被害者の男がフードの女とやってきて、大金を出して宿を貸し切りにしたらしい。ビリー自身も外に出ており、夜が明けて男女が出ていったであろう時間を見計らって宿に戻ると、部屋で男が血塗れで倒れていたという。

 

「う~む・・・彼の身元も不明ってことか・・・。」

 

「あぁ、見ての通りハデにヤられて顔も判らねぇ。んで、コイツを取りに行ってたってワケよ。」

 

 そう言いながらボールスが取り出したのは薬品を保存する為の小瓶。

 それを見たリヴェリアが渋い表情を見せる。

 

「ステータスシーフ・・・!ロックされたステータスを強制的に表示させようというのか?死者を冒涜するようなマネは褒められたものではないが・・・。」

 

 生命の神秘性を信仰するエルフにとって、どんな事情であれ死んだ人間に対して辱しめを与えることは宗教的に好ましいことではない。

 しかし、ここはエルフの里ではなく、エルフの法が考慮される場所でもないことも理解している。不快感はあれど、リヴェリアには他の手立てを提案できない以上、それを止めることはできない。

 

「んなこと言ってる場合じゃねえだろ?他に手掛かりを得る方法でもあるってぇのか?」

 

 そう言いながら、ボールスは持って来た小瓶を開けて、中の液体を垂らそうとする。

 

「ちょっと待つでち!」

 

 が、すんでの所でデーリッチがその手を止める。

 

「何しやがるんでぇ、嬢ちゃん?ガキがいつまでもこんな所でウロチョロするんじゃねえ。」

 

 ボールスはイラついた様子でデーリッチを見るが、デーリッチはその年の丈に合わず、強面なボールスに正面に向き合う。

 

「それ、本人に聞いてみることは出来ないでちかね?」

 

「はあ?死んだ人間にどうやって聞くってんだよ?」

 

「デーリッチちゃん?」

 

「ヘルちん、ヘルちんの降霊術なら死んだ人ともお話出来るんじゃないでちか?」

 

「ん~・・・。お姉ちゃんほどうまくは出来ませんが、お話する程度なら、なんとか。」

 

「「「!?」」」

 

 一同、唖然。

 

 魔法が飛び交い不思議技術が闊歩する、どれほどファンタジーな世界においても、「死」という概念が絶対的な事象であることは変わらない。

 「死」が在るからそれをもたらす悪が嫌悪され、「死」が在るから勇者は悪を滅ぼすことが出来る。それが世界を構成する絶対の理である。

 其れ故に、「死」の超越、それは神々が最も危惧し、最も忌む技術なのである。神という職務に忠実な神ほど、悪魔やアンデッドといった存在を嫌悪する。そう、まさに普段は物腰穏やかなのにアンデッドを見つけると殺戮マシーンに早変わりしてしまう、某世界で死者を導く幸運の女神様がまさにそれである。

 そして、ここは多くの神々が闊歩する世界。長い年月の中で無数の冒険者が無数の固有スキルを発現しても、「死」の概念を揺るがすようなスキルや技術が産み出されることはないだろう。冒険者達が神々からの恩恵を捨て去らない限りは。

 

「はあ!?んな夢みたいなことあるわけねえだろうが!」

 

「いや、待ってくれボールス。ヘルラージュさん・・・、もしかして本当に出来るのか?」

 

「ええ、まあ。」

 

「にわかには信じがたいが・・・。本当に可能ならばステータスシーフを使わずに済むか・・・。やってみる価値はあるだろう。」

 

「わかった。ヘルラージュさん。その降霊術とやらをやってみせてくれ。ステータスシーフを使うのは其れからでも遅くはないだろう。」

 

「おいおいおい!?本気かよロキファミリアよ!?こんなお嬢ちゃん達の突飛な話を信じるってのかよ!?」

 

「なに、彼女達の実力は底知れない。やれると言うのなら、きっとやれてしまうのだろう。」

 

「マジかよ・・・。どうせ無駄な時間だろうが、ここはお前らの顔を立ててやる。もしダメだったなら、お前ら全員この件にはもう関わるなよ。」

 

「了解した。ヘルラージュさん、頼んだよ。」

 

「お安いご用ですわ!」

 

「頼りにしてるでちよ、ヘルちん。」

 

「まっかせなさい!」ドンッ

 

 普段、あまり人に頼られることがないヘルラージュはここぞとばかりに張り切っていた。そんな様子に幾ばくかの不安を覚えたデーリッチだが、ヘルラージュは性格がヘタレだが、スペックは高いことはよく知っている。

 しかし、まぁ思いもよらない事態というものは得てして、起こるべくして起こるものなのかもしれない。

 

 

――――――――――――――――――

 

 ヘルラージュの3分クッキング。

 

 用意するモノは3つ。祭壇(蝋燭の灯りで雰囲気を出すとなおよし)、依代(生前の姿に近い物が好ましい)、そして喚び出したい者の体の一部(血を数滴でOK)。

 まずは材料の確認から。

 

「祭壇はベッドを代用するとして、蝋燭は・・・あるわね。あとは依代となるモノを用意しましょう。出来れば人型のモノがあると成功しやすくなりますわ。」

「人型・・・人形なら僕持ってますよ。これでいいでしょうか?」

 

 ベルくんが、おもむろに長い金髪の少女を模した人形を差し出した。

 

「なんでベルくんは人形なんて持ち歩いているんでちか?そういう趣味?」

 

「ちがうよ!?この人形はただの人形じゃなくて、以前ミアさんが作った魔物除けの人形に少し手を加えたものなんだよ。ほら、デーリッチちゃんも見たことあるでしょう?」

 

「ほう、言われてみればたしかに見たことあるでちね。あの時はこの人形のおかげで不意打ちを防げて助かったでち。」

 

 かつてアクセルの街を訪れた際に、とある依頼の調査中にミアラージュが御守りとして渡してくれた人形だ。魔王セレネの襲撃をいち早く探知し、危険を知らせてくれた。効果は確かなのだが、魔物の接近を知らせる時の人形の顔が不気味で、ドリントルに投げ棄てられてしまったという不憫な代物だ。

 

「その人形にスイッチを付けて、機能のオン/オフを切り替え出来るようにしたんだ。これで寝る時も静かでぐっすりだよ。」

 

 道具の本来の機能からすれば寝ている時ほど重要なハズなのだが、この際、それは置いておく。

 

「ほえ~、さすがベルくん。器用でちね。で、怖い顔にはならなくなったんでちか?」

 

「え?なるよ?なんで?」

 

「そういうとこ!」

 

 効能が上がるほど苦くなるポーションとか、ベルくんの作る道具には変なとこに拘りがあるのが特徴だ。それは決して特長ではない。

 

「コホン。では、その人形を依代に使いましょう。お姉ちゃんが作った人形ならばこれ以上ない素材になるでしょう。」

 

 ヘルラージュはベルくんから人形を受け取り、祭壇に寝かせた。

 

「ごめんなさい。お借りします。」グッ

 

 遺体から流れていた血を指で拭い、その血で人形の胸に紅い十字を刻む。

 

「あとは・・・ッ!」

 

 自分の指に針を刺し、人形の周りに五芒星を刻む形に血を垂らす。神々の理に背きし、呪われた一族ラージュ家の血を。

 

「では、準備が整いましたので降霊の儀を始めます。この儀式は現世と黄泉の間に橋をかけ、一時的に世界の境界に穴を開けて霊の召喚を行うものです。精細な詠唱を要する儀式の為、儀式の間、私は詠唱の他に一切の発言が許されません。よって・・・」

 

「すまん、ヘルちん。何を言ってるのか意味が解らんでち。」

 

「集中が必要だから、話しかけないでってこと!」

 

「OK。」

 

「よろしい。」

 

 ヘルラージュはデーリッチを黙らせ、祭祀の杖を右手に構えていつになく真剣な面持ちで祭壇(ベッド)に向き合う。

 

 そして、厳かに呪文を紡ぎはじめた。

 

―――『我、遥か遠き空へ光の道を開きたもう。我、遥か深き海へ闇の道を開きたもう。』―――

 

「ほぇ~ドキドキするでちねぇ~」

 

「みゃ~みゃ~、デーリッチ。」ヒソヒソ

 

「ん?なんでちかルフレちん?静かにしないと怒られるでちよ?」ヒソヒソ

 

「死んだのは男なのに人形は女でもいいのかみゃ?」ヒソヒソ

 

―――『汝、禁断の扉を開き道を示したまへ。汝、禁断の橋をかけ未知の彼岸に我を渡したまへ(もう、静かにしてって言ったのにぃ~!)』イライラ

 

「ん~?どうでちかね?ヘルちんが大丈夫って言うなら大丈夫なんじゃないでちか?」ヒソヒソ

 

「女の体に男が入ったら色々不便じゃないかみゃ?」ヒソヒソ

 

「色々って?」ヒソヒソ

 

―――『我、彼岸よりか、彼の者、を見出だしたり。(問題ないわよ!別に!)』イライラ

―――

 

「それはおみゃ~、不便だけに、便の時とか。」ヒソヒソ

 

「なるほど。確かに。」ヒソヒソ

 

―――『汝、我がし、召喚、んにぃ、応えよ。(人形はトイレに行かないの!)』イライラ―――

 

「急にんんが無くなったら大変みゃ。ヘルちんはちちのことまで考えていたのかみゃ?」

 

「ヘルちんだけに、ちちが減るちん。なんちゃって。」

 

「コラ、君たち、静かにするように言われただろう?」

 

「いいんじゃないでちか?話し掛けてるワケじゃないし。」

 

―プチッ

 

『いいわけないでしょおお!?ちちんんってバカなんですか!?バカなんですね!?」ウガー!

 

 ヘルちんがキレた。

 普段からは考えられない速さと力でデーリッチにアッパーカットを決め、反す拳をルフレの頭に降り下ろす。寸分の狂いなく放たれた連続技はクリティカルヒットとなり、天井に突き刺さる人型の現代アートと地面にめり込む獣型の現代オブジェを完成させた。

 後に怒蛇<ヨルムンガルド>ことティオネ・ヒリュテは斯く語る。「あれはまさに禍神の化身であった」と。

 

 

―シーン

 

 

 静寂が場を包む。

 恐らく、この場にローズマリーかミアラージュ、どちらかが居ればこの悲劇は起きる前に防がれていたのだろう。しかし、頼れる保護者はここにはいない。

 そして、ふと我に返ったヘルラージュは今自分が何をしていたのかを思い出す。

 

「あっ!いけない!儀式が!?」サーッ

 

 顔を真っ青にして祭壇へと振り返る。

 

「ん~?ここは・・・?俺は、どうして?」キョロキョロ

 

 そこには、やけに眉毛が凛々しい、少女型の人形が立っていた。

 

―――後編へ続く―――




 ヘルちんは純情ムッツリスケベ。

「天井に突き刺さったのは2回目でち…。」ガタガタ

「宇宙よりも怖い場所(地面)みゃ。」ビクビク

「お姉ちゃんに怒られる…」ブルブル

 ちなみにギャグ時空での出来事はノーダメです。


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第19話 戦いの始まり…後編…

 前話投稿からおよそ一年…。
 待ってくれていた方がどれだけいるか分からないけど、大変お待たせしました。ちょこちょこ書いてたんですが、なんか考えがまとまらないでいるうちに気付いたら月日だけが経っておりました。
 今回から天界も絡めたオリジナル展開に転回していく予定です。特に今話はちょっとふざけ過ぎたかもしれませんが、生温かく見守って頂けると幸いです。


~18階層某所~

 

 18階層、リヴィラの街はずれの森。灰色のローブを身に纏った3人の冒険者が集う。

 

「例の男の荷物からは『卵』は見つからなかった。すでに持ち去られた後だろう。」

 

 その内の一人、赤髪の女が苦虫を噛み潰した様な表情で口を開く。

 

「既に次の運び屋に渡ったのでは、と推測致します。」

「昨日の酒場にいた冒険者が怪しいなって思ってみたり?」

 

 あとの二人は特に感情を見せることなく冷静に状況を分析する。

 

「幸い、と言って良いか分からないが、騒ぎになったことで広場に冒険者が集められている。そこで動きがあるハズだ。」

 

「結果オーライでしたね、と貴女の悪運を皮肉混じりに誉め称えます。」

「酒場にいた冒険者を見張ればいいんだよね?」

 

「昨夜から上層に上がった奴はいないのは確認してある。冒険者共の行動が制限されている今がチャンスだ。直ぐに動くぞ。」

 

「了解しました。」アイアイサー

「りょ~か~い。」ラジャー

 

 赤髪の女の合図でサッと茂みに消え去った。ふざけた話し方をしているが、完全に気配を消して動いているあたり能力の高さを窺わせる。

 

「妹達【シスターズ】か…。なぜエニュオはこんな連中と手を組んだのか…。」

 

 赤髪の女も一人ごちると、フードを被り直して歩みを進めた。

 

 

~処変わらずビリーの宿~

 

「どうなってやがる…」

 

 目を覚ましてみれば自分を取り囲む人、人、人。知らねぇ顔も多いが、何人かはわかる。リヴィラの頭目のボールスと宿の店主…あとは…っ!コイツは勇者【ブレイバー】か!更に九魔姫【ナイン・ヘル】に剣姫【けんき】がいるってことはコイツらロキファミリアの連中か?一体どうしてこんな状況になってんだ?いや待てよ…一度落ち着いて思い出そう…。

 確かリヴィラに来たのは怪しい男から承けたあるクエストの為だ。ダンジョンで荷物を運び、リヴィラの酒場にいる奴に渡すだけの簡単なクエスト。難易度のわりにえらい高額な報酬を得て、そのままその酒場で飲んでいた。

 ツキは続くもんで羽振りよく呑んでいたら、えらい別嬪から声をかけられた。よくある花売りの女だろうが、自分の価値をよく理解しているらしく、それなりの高値と併せて宿の借りきりまで要求してきやがった。まぁそれでも今回の報酬から充分払える額なのと酒も入って気が大きくなっていたこともある。何より…へっへっへ、何よりこれ程の女とヤれる機会はそうはない。

 しかし宿を借りきり個室のベッドで服を脱いでさあこれからって時に…そうだ!赤髪の女にいきなり首を絞められた!女のわりにトンでもねぇ力で絞められて…そのまま絞められて…?ゴキッという嫌な音が耳に残っているが、今こうして意識があるって事は何とか生きてはいるってことか。

 ちょっと首を軽く回してみるがどうも動きにくいのは意識を失っていたせいだろうが、動くには動く。畜生…あの赤髪の女め、騙しやがったな…。ぜってぇ許さねぇ…が、何はともあれ周りにいる奴らは異常を察して宿に乗り込んで来たってところだろう。痛みも残ってないってことはコイツらが治療をしてくれたのかもしれん。

 挨拶と礼くらいは言わねぇとな。

 

「俺はガネーシャファミリアのハシャーナ・ドルリアだ。どうやらアンタたちに助けられたようだな。礼を言っておこう。」

 

 俺が上体を起こした体制でそう言うと目の前の連中が引きつった顔で一歩後ろに下がる。

 

「あん?なんだってんだよ?」

 

 一応助けられた相手とはいえ、訳も分からず怪訝な態度をされれば口調も強くなる。立ち上がって詰め寄ろうと…?あれ?立ち上がってるよな?妙に視界が低いのはどういうことだ?

 

「あ、あの~…ハシャーナ…さん?」

 

「なんだよ?ねえちゃん?」

 

 ロキファミリアの一人?と思われる栗色の髪に妙に露出の高い女がおずおずと話しかけてきた。

 

「え~と…、此方からは状況のご説明と、そちらからも昨晩の出来事についてお聞かせ願いたいのですが…。」

 

「あぁ、その方がこっちも助かる。」

 

「取り合えず、この鏡でご自分のお姿を確認しては頂けないでしょうか?」ハイ

 

 と言って、手のひらサイズの鏡を取り出して此方に向けてきた。

 

「は?鏡?」

 

 そこに写っていたのは赤い靴にピンク色のフリルスカート。パッと見、お伽噺にでも登場するようなかわいらしい格好の人形。しかし、視線を上げていくと、顔面に貼り付いた一つの特徴が全てを台無しにしてしまっている。

 その野太くキリッとした眉毛と鋭い眼光はまさに歴戦の狙撃手【スナイパー】が有するそれ。たなびく長い金髪が妙にマッチしてそのブサイクなツ…ツラを、引き立たせている。

 こ…これは…。ぶっ…

 

「ぶっひゃひゃひゃ!なんじゃこのブッサイクなツラはぁ!?笑わせんじゃねぇよ!ぎゃははははは!」

 

「…!ほっ。喜んで頂けたみたいでよかったですわ~。」

 

 何だよいきなり笑わせてきやがって。

 いやしかし、ブッサイクな人形だな~これは。どういうセンスでこんな人形作ったんだっつーの!俺がもしこんなツラで生まれてきたら一生人前には出れねぇわ。なんつうか、人生が罰ゲームっつうの?

 とかなんとか言いながら鏡を指差して笑ってたらブッサイク人形もこっちを指差して笑ってきやがった。お?やんのかコラ?上等だよ。鏡ん中だからって安全だとか思ってんじゃねえぞ?………ん?鏡?

 ふと嫌な予感がよぎり、右手を上げる。同時に鏡の中のブッサイクは左手を上げる。次に左手を上げる。同時に鏡の中のブッサイクは右手を上げる。

 

…いや、まさかな………。

 

 今度は右手の指を鼻の穴に入れて左手でボクシングをしながら『いのちをだいじに!』と叫ぶ。同時にブッサイクも全く同じ動きをする。

 

 オイオイオイ、これって…まさか…。

 

「あの~どうです?体が動きにくいとかあります?」

 

「お…」プルプル

「お?」

 

「俺じゃねぇかっ!?」バキーン

 

「きゃーっ!?」

 

「ななな、なんじゃこりゃあああ!!!!」ガオー

 

 肉体という監獄の支配からの卒業【グラディエイション】を理解した俺は鏡を叩き割り、夜の戸張【フィフティンナイト】の中を走り回る。俺が俺である事を信じて、心の慟哭【クラクション】が響き渡った。

 俺の人生が罰ゲームに変わった瞬間だった。

 

 

―――――――――――

 

「ゼェゼェ…。取り合えず、じ、事情は分かった。俺は、あの女に殺されたんだな…。」

 

 ハシャーナは自分の死以上にブッサイクな人形に憑依させられたという現実が受け入れられず、半狂乱で部屋の家具や食器に当たり暴れまわる。

 しかし、ここにおはすはオラリオ随一の戦力を誇る天下のロキファミリア。

 ティオナに「うるさい」ベチン!とハエの様に叩き落とされた挙げ句に縄で簀巻きにされて、それでもギャーギャーうるさいので今度はティオネから「あんまうるせぇと二度目の死を体験すんぞ?」とか言われて自分の死体をマジマジ見せつけられて、ようやく大人しくなった次第である。

 

「しかし、これはもはや擬似的にとはいえ紛れもない死者蘇生ではないか…。こんなスキルが広まってしまえば大騒ぎに…。」ブツブツ

 

「リヴェリア、色々気にはなるだろうが考察は後だ。今は事件の解決が先だ。ハシャーナからの話を聞こう。」

 

「ああ、ロキの判断も聞かなくてはな。」

 

 リヴェリアが何やらブツブツ言っているが、フィンが諌める。

 かつて闇派閥【イヴィルス】との戦いを経験しているフィン達には、『死者との交信手段』が技術として実在しているということは由々しき情報である。ましてやソレが神力【アルカナム】に依るものでもないとなれば一層の懸案だ。

 何せ闇派閥の構成員には『死者との邂逅』という神の奇蹟をエサに悪神の元に降った者も多かった。それがまさか神力なくしてこうもあっさり成されてしまうとは嘗ての抗争で死んでいった連中も浮かばれないだろう。

 それだけに、この技術の存在が無闇に拡まってしまえばどれだけの混乱を引き起こすか見当もつかない。いずれロキも交えて慎重に動くべき案件だろう。ポッコファミリアの者にも今後は無闇にこの技術を見せびらかすことはしないように釘を刺しておく必要もある。

 ともあれ、この場は事件の話を片付けてしまうことが優先である。

 

「では、僕が代表して話を聞こう。ハシャーナ、言い辛いこともあるかも知れないが君が殺されるに至った経緯を教えてはもらえないか?」

 

「ああ、こうなりゃヤケだ。あの赤髪の女ブッ飛ばすまでは死んでも死にきれねぇ。何でも答えてやらあ。あれは昨日請けたクエストで―――――。」

 

 ハシャーナが自身が死に至る物語を紡いでるうちにデーリッチが天井から抜け出して復帰してきた。

 

「そういえば、さっきヘルちんすっごく慌ててた様子でちたけど、ハシャーナちゃんは普通に喋れてるでちよね?何か問題があるんでちか?何もないならデーリッチ、殴られ損なんでちけど。」

 

「う゛っ…。」ギクッ

 

「?」

 

「まぁ…その、魂寄せの儀式は霊界から魂を召喚して、一時的に仮の器に魂を降ろして言葉を聞くものなのですが…。」

 

「ふむ。」

 

「本来なら霊の召喚をする際には、同時に送元の設定をするんですの…。用が済んだらさっさと還って頂くように、ですわね。魂が現世をいつまでもフラフラしていると悪霊になってしまいますから。」

 

「ふむふむ。」

 

「で、ハシャーナさんなんですが…、儀式が途中で切れてしまったので送元の設定をしないまま召喚してしまいまして、送元する術がありません。」

 

「え?じゃあ、どうするんでち?」

 

「先程言った通り、魂の状態で現世に長時間いると悪霊化して人に害を及ぼすようになります。かつてお姉ちゃんがそうなりかけたように…。そうなると…、強制的に魂を消滅させなくてはならなくなってしまいます…。」

 

「えぇ!?それって殺すってことでちよね!?マズくないでちか!?」

 

「マズいです…。魂の死は輪廻転生の輪を断ち切る行為。その存在そのものを完全な無に帰すことになります。一応、本人が心残りを清算して成仏してくれれば良いのですが、そもそも古神降霊術は現世に強い未練のある霊魂を呼び出す術。成仏するにも簡単にはいかないでしょうね…。あぁ…お姉ちゃんに怒られる…。」ブルブル

 

 そう、怯えた小動物の様に震える彼女の瞳には、普段は妹にゲロ甘な姉が古神降霊術の訓練の時だけ見せるスパルタ教官の姿がフラッシュバックしており…。

 

「いや、ミアちゃんに怒られるのはぶっちゃけどうでもいいんでちが…。要はハシャーナちゃんの未練を晴らせば殺す必要は無いんでちよね?」

 

 そんなヘルラージュの懸念をデーリッチはバッサリ切り捨てる。

 

「ええ、まぁ。」

 

「じゃあデーリッチ達でそれをやるでちよ。こっちの都合で来てもらってるわけでちからね、最期まで面倒見るのがスジってもんでち。」

 

「…デーリッチちゃんならそう言うと思っていました。勿論、私もそのつもりです。」

 

「みゃぁ、言い出したのはデーリッチだし当然だみゃ。」

 

「「………。」」

 

 一瞬の沈黙。ヘルラージュとデーリッチは目線だけでお互いの意思を伝えると、音もなくルフレの両脇に鎮座した。

 

「ん?どうしたみゃ?二人でみゃーを挟んで?イタッ!?イタタタッ!?耳は、耳はやめふみゃ!んみゃぁぁぁぁあ!!!すまんみゃ!謝るからっ!やめっ!ごめんみゃざ~い!」

 

「まったくもう!誰のせいで儀式に失敗したと思ってらっしゃるのか!少しは反省してくださいまし!」プンスカ

 

 

――――――――――――――――

 

「さて、状況を整理しよう。ハシャーナを殺したのは赤髪の女。正体は不明だが油断していたとはいえレベル4の冒険者を殺せる程の強さ。荷物が漁られていたことから、ハシャーナの持っていた何かが目的で、それはハシャーナが請けていたクエストの荷物である可能性が高い。更にその荷物は昨晩酒場にいた顔も名前も知らない冒険者に渡っていた、と。」

 フィンは一同を見渡しながら紐の結び目をほどく様に順を追って話す。

 

「そして…、目的の物を手に入れられなかった犯人はまだこの階層に潜んでいる可能性が高い…か。今度はその荷物を持っていったその冒険者の身が危険だな。」

 

 フィンの話をリヴェリアが補足する。

 

「リヴィラに滞在していた冒険者は広場に集めさせている。一人ずつ調べていくのが確実だろうな。」

 

「うむ。逃走の可能性を潰す為にも事は急いだ方が良さそうだ。目標は運び屋の保護と犯人の確保だ。」

 

 と、方針が決まった所で、フィンはここまで敢えて触れなかった存在に声をかける。

 

「………で、ハシャーナ、キミはどうする?」

 

 匙を向けられたハシャーナはサラサラの金髪をくしゃりと掻きむしり、眉間にシワを寄せて太い眉を更にキリッとながら答える。

 

「こんなナリになっちゃあ自由に行動はできねぇし戦闘になれば足手まといだ…が、赤髪の女の顔くれぇは判る。誰か持って歩いちゃくれないか?」

 

「じゃあハシャーナちゃんはデーリッチの頭の上にでも乗ってるといいでち。王冠に掴まってれば手で持ち歩くよりは安全でち。」

 

「そうかい嬢ちゃん。それじゃあそうさせてもらうぜ。あと、ハシャーナちゃんはやめろ。」

 

 デーリッチはハシャーナちゃんを持ち上げ王冠の中にポスッと乗せる。王冠はピンで髪に留めてあり簡単には落ちないようになっていた。ハシャーナはクイクイと軽く引っ張り王冠がずり落ちないことを確認すると、王冠の中にそのまますっぽり収まった。

 案外に収まりが良いらしく、ハシャーナは程なくしてあぐらをかいて寛ぎ始めた。

 

「おう、中々悪くない乗り心地だな。助かるぜ嬢ちゃん。」

 

「それは良かったでちけど、頭の上で寛がれるのもなんだか複雑な気分でちね。」

 

 そんなこんなで一行は広場へと向かった。

 

―――――――――――――――――

 

~リヴィラの街 広場~

 

マダマタセンノカヨー!

ハヤクオワラセロー!

 

 広場に集められた冒険者達は不満の声を露にしている。朝早くから集められ予定を狂わされた上、殺人の嫌疑がかけられている。不満が出るのは当然だろう。

 

「犯人の特徴は判っている!赤い髪の女!しかも推定レベル4以上の強者だ!」

 

ザワザワ…レベル4ダッテ!

 

 ボールスが犯人の特徴を告げると先程の不満の声とは別の意味でざわめきが起きる。

 

「とはいえ、パッと見では判らねぇように変装している可能性もある!今から男も女も一人ずつ身体検査をする!全員列に並びやがれ!」

 

ブーブー!ヒッコメー!

 

「はいはーい!女性はこちらで確認しまーす!」

 

レフィーヤチャンカワヨ!

ケンキハナニセオッテンノ?

 

 レフィーヤが中心に女性冒険者を誘導する。ボールスの呼び掛けにはブーイングの嵐だったが、ロキファミリアのメンバーが協力しているのが分かると非難の声はたちどころに減っていった。

 

「男性冒険者は僕たちが検査するよ。」

 

ワタシモフィンニシラベテモライタイー!

 

 フィンが男性冒険者の誘導を始めるがナゼか女性冒険者もそちらに集まろうとする。

 

「こんのアバズレ共がぁ!こっちに並びやがれ!」

 

 そんな状況にティオネがブチ切れしていると―――、

 

――キョロキョロ コソコソ

 

 そんな広場の喧騒をよそにその場から離れようとする者の影が目に入る。

 

「デーリッチ、あやつ怪しい動きをしておるぞ。」

 

「マオちゃん?確かに何だか妙に周りを気にしているでちね。あっ、広場から出ようとしてる。」

 

「追いかけてみるかの。」

 

「一人じゃ何があるかわからんでち。デーリッチも行くでちよ。」

 

 マオちゃんとデーリッチがそれを追おうとしたところで更に声がかかる。

 

「私も行く。」

「私も行きます!」

 

 アイズとレフィーヤが名乗り出る。

 

「人数がいるなら二手に別れた方がいいでちね。素早さの高いマオちゃんとアイズちゃんで先回りを頼むでち。デーリッチとレフィーヤちゃんで追いかけるから挟むようにして捕まえるでちよ。」

 

「わかった。」

「わかりました。」

 

 なぜかデーリッチが仕切る形だが、二人もそれを受け入れる。逃げる相手を追うのに時間をかけるわけにはいかない。追跡には何より速度が重要だからだ。些事に一々問答などしている余裕はない。

 しかし、いや、だからこそデーリッチはタイムロスを承知で厳しい表情を作り、言葉を重ねる。

 

「……アイズちゃんはそのコタツ降ろして行くでちよ?」

 

「断る。」

 

「アイズさんっ!?」

「なにゆえ!?」

 

 アイズはこの状況で尚、コタツアーマーをその背に背負う。その様は当に彼女が師と仰ぐこどらを彷彿とさせる。

 

「それじゃあスピード出せないじゃないでちか?」

 

「その懸念は尤も。でも大丈夫、私には秘策があるから。そんなことより時間が惜しい、急ごう。」

 

「う~ん、秘策があるならまぁいいか。」

「いいんですか!?いや、秘策って!?」

 

「おぬしらいつまで話をしている!急ぐぞ!」

 

「おう!」ダッ

 

 レフィーヤは納得していないようだが、マオちゃんの合図でアイズたちは駆け出した。

 マオちゃんの合図(、、)でアイズ(、、、)たちは駆け出した。

 

 

―――――――――――――――――

 

「ハァッ、ハァッ…何で、何でこんなことに…。」

 

 褐色の肌の犬人の少女は走っていた。

 

コラー!マチナサーイ!

 

 後方から静止を命じる声が聞こえる。しかし自分は止まるわけにはいかない。

 全身鎧を着た冒険者が殺された。その男は昨夜、自分に荷物を受け渡した男に違いない。そして犯人はその荷物を狙っていた。ならば、次に狙われるのは自分。 ロキファミリアの人達も頼れない。あんな状況で、どう考えても自分が犯人だと疑われるだけだ。 なんとかしてこの18階層から逃げなきゃ。逃げなきゃ…、殺される…っ!!

 

 しかし、そんな健気な少女の覚悟を嘲笑うかのように絶望の声【コールオブデス】は天から舞い降りた。

 

 

「…知らぬのか?大魔王からは逃げられない。」

 

 

「まお…う…?」

 

 魔王、伝説にのみ語られる人類の仇敵。何を理由にそんな名乗りをしたのか、仮に相手が魔王だろうと何だろうと関係ない。自分はここから逃げなければならない。

 だが、その圧倒的な存在感を無視することが出来るほどの経験を少女は積んでいない。

 少女は恐る恐る声が聞こえてた上方に視線を移す。そこに、佇んでいたのは…。

 

 

「!?!?!?」(゚Д゚)

 

 少女は言葉を失う。

 

「まちなさー…い…!!?!?!??」(゚Д゚)

「やっっと追い付いたでちよ!話を聞きたいだけだか…ら…?!?!!??!?」(゚Д゚)

 

 追ってきた二人も同じ顔で言葉を失う。

 

「なんだあれは!」

 

「あれは…メラ!?」

 

「違う…ガラじゃない!!」

 

「「コタツアーマーだ!」」

 

「なにそれーーー!?」

 

 なぜか息ぴったりなデーリッチとレフィーヤ。視線の先には空を飛ぶコタツとその天板に仁王立ちで佇むまごうことなき大魔王の御姿。

 風魔法を推進力に宙に浮かぶコタツは、さながらガメ…まるで空飛ぶカメのようであった。

 

「なに?なに?なんなの?どういうことなの??」

 

ポロッ

 

「あっ…」

 

「ほいっと。」キャッチ!

 

 あまりの情報量にパニックになった少女は腕に抱えていた小包を取り落としてしまう。すかさずデーリッチはそれをキャッチする。ふざけているようで案外スキがない。

 

 

「ハシャーナちゃん、運んでいた荷物はこれで間違いないでちか?」

 

「よっと…、うぅ゛…揺さぶられて気持ち悪い…。」フラフラ

 

「!!??」ギョッ

 

「大丈夫でちか?」

 

「おめぇ…途中から俺の存在忘れてただろ…?」

 

「人形が…喋って…!?!?」

 

「すまんでち…。つい…。」

 

「まったく…、ちょっと戻しちまったぜ…。どれ…、包みは同じ物だな。後は中に卵みたいな石が入ってるハズだ。」

 

「ねぇ、今なんか凄いこと言わなかったでちか!?」

 

「人形が喋ってる!?」

 

「ねぇ、今…。」

 

「おし、箱の中も大丈夫みたいだな。」

 

 ハシャーナが箱を空けて中身を確認していると…。

 

「どうじゃ?探し物は見つかったかの?」

 

 混沌が混沌を呼ぶ場に、大魔王が降臨する。

 

「あ、マオちゃん。アイズちゃんも凄かったでちね。まさか空を飛んでくるとは思いもよらなかったでちよ。」

 

「いや、スカイツリーからのバンジージャンプは何度もやったが、空を飛ぶのは全く格別じゃなあ!爽快じゃ!」

 

「うん。なんだか私も新しい可能性を感じた。」

 

「あぁ…アイズさんが壊れてく…。」

 

「興奮しすぎてちょっと汗をかいてしまったわい。どれ、エネルギー補給をしておこうか。」ズズッ

 

 膝をついて顔を覆っているレフィーヤをよそに、マオちゃんは携帯用のおかゆミルクを飲み始めた。何とも自由な魔王様である。

 

 

「これが箱の中身でちか…。どれどれ、さっそく鑑定してみるでちよ。何か温かいでちね、これ。」

 

「何だお前、鑑定なんて出来るのか?」

 

「色んなアイテム拾うでちからね。ベル君程じゃないけど簡単な物なら出来るでちよ。えっ~と…、おおっ!これは★レアアイテムでち。名前は……、」

 

「『★アジ・ダハーカの温かい卵』。」

 

「うおばぶぅ!?」ブビュゥッ

 

「んぎゃ!?汚いでちよ!マオちゃん!」

 

 伝説の六魔、その頂点に君臨する邪龍アジ・ダハーカ。同じ六魔の一角にして、馴染み深くも因縁深い忌み名を不意に聞いてしまったマオちゃんは、口に含んでいだおかゆミルクを吹き出した。

 




「はっ!?」
「どうしたんだローズマリー?」
「ダジャレの波動を感じる…」
「ダジャレの波動!?」

 妹達【シスターズ】…一体何ルヴァなんだ…。
 口調と見た目はとあるのミサカ妹でイメージしといてください。


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