元提督の日記 (遠弥 秋菜)
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俺は提督を辞めた。

確か…一週間前くらいだったかな。最後の作戦を終え、上層部から鎮守府を解体すると通達があった。その時の俺なんか泣いて喜んだ。だって艦娘のみんなが笑って、『普通』の生活ができるから。

今までは意味のわからない艦娘への差別が横行していた…そんな生活から脱することができるんだ、俺はもう心の底から嬉しかったよ。

そして艦娘達へその連絡に行くとみんなも『海を守れた』って、そう笑ってた。泣いて喜ぶ奴もいれば、仲のいい奴と抱き合ったりもして…昔はこんなにも感情を表に出す奴らじゃなかったんだけどな。それもやっぱり自分たちの役目を負えれたからだと思う。そりゃぁ、誰って役目を終えれたら嬉しいもんさ。

 

だけど艦娘の一人、一人だけがそうはならなかった。

 

大和型戦艦の一番艦、『大和』。彼女だけが笑顔を見せなかった。…いや、違うな。

笑顔を知らなかったから…か。

彼女は、大和はとてつもない戦力で、鎮守府の中でも最高の火力を誇っている。それは俺達の勇気であり、要でもあった。でもそんな凄いものを持っている大和には大きすぎる欠点もある。その欠点はあってはならないもので、それを取り戻すのことが何よりも俺の目標だ。

でもそんな時に鎮守府の解体の通達が来るなんて…とんだ不幸にも程がある。

まぁ…その後のことを知らないこのときの俺は苛立ちを隠せなかったな。

それで俺はその後、しばらく執務室に籠もって書類を整理したりしていた。最後だからってクソ多い書類を渡されて…あれはほんとに辛かった…もうやりたくない。それでもあの書類が見つかったからまだいい思い出かもな…。まぁ、その資料は『艦娘の自由』について。それは軍に所属するだったり、学校に通う、働くとかその他諸々。それを決める権利が艦娘達にあるという内容のものだった。それを見た俺は取り敢えず艦娘達へ伝えた。そりゃぁあいつらが普通に暮らせるんだからな、まっさきに伝えるもんさ。…もちろん大和にも言った。最後に、だけどな。そん時の俺はもちろん心配した、大和の性格上一通りの生活はできるのは知ってたけど。それでも感情はないなんて、この腐りきった世の中じゃ危険だ。だから俺はこの時、大和にとある提案をした。

『一緒に暮らさないか』と。

一見これだけを聞くとただの変態な発言だが、俺はそんな事一ミリも考えてなかった。ただ大和が心配だったんだ、こん時の俺は。それで、そんな俺に大和は首を縦に振ったんだ。そしたら俺は何故か泣いたんだっけ、大和はオドオドして…。あの時の大和は今までで一番生き生きとした表情だった、その時の顔は無表情だったけど…。

でもそれは…勘違いとかじゃなくて、何処か笑っていた気がするから。

 

 

 

 

 

少し話しすぎたかな。そんな昔話みたいに語るもんじゃないし。それでその後は滞りなく鎮守府は解体された。と言っても宿舎とかはそのままで、艦娘達がそれぞれの場所へと向かっていっただけ。

言わば巣立ち、使命という名の枷から外された雛鳥たちが旅立っていく…そんな感じ。

例えば駆逐艦たち、あいつらは学校に行くって言ってたな。ランドセル背負って、友達と勉強して、遊んで…。楽しげな妄想ばかりしてた。

例えば巡洋艦たち、あいつらはそれぞれ色んな所に行くって言ってた。でも大半は者は今の人間社会を味わってみたいって働くらしい。若い奴は大学に行くとか行かないとか。

例えば戦艦たち。あいつらは国から支給された資金を使ってダラダラ過ごすだとか。別に俺はいいと思う、今の今まで頑張ってきたんだ。それ相応の対価だと思う。でもあいつらのことだ…酒でも飲み散らかしてるんじゃ!?まぁ…それも一興かもな、『自由』だし。

それで肝心の俺と大和。俺達は提督を辞めた時の退職金と共に旅に出る事にした。旅って言っても自宅から定期的に旅行する感じかな。それを俺達は『旅』って呼ぶことした、楽しげだし。

まぁ、そんなこんなで今に至るんだと思う。疑問形なのはその一週間の中で沢山のことがあったから、気にしないでくれ。ってそんな話をしてるんじゃないな。今、それについては…うん。そうだな…今だけで表すことができないから…、日記?にしようと思う。一日一日、文字だけでその時の言葉とか分からないけど文字ならではの何かがあるかもしれないしな。

それじゃ今日のところはここまでにしようと思う。明日の俺はどうなってるのか分からないけど…。

よし、日記は明日からの新居生活!今は大和を手伝いに行かなきゃな。

 

▲■●■年○月△日

執筆者 佐藤清太

 

 

 

 

 



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リアルが忙しくて投稿ペースが遅いですが許してくださいまし。


「佐藤さん、これが新居というものですか?」

「んー…多分そうなんだろうけどな。正直俺も新居ってのがどういうのかわからなくてな…」

 

○月◇日午前8時30分

 

少し寒い風が辺りに散らかっている中、俺と大和は新居の前に突っ立っていた。といっても寒いのでそんな長く突っ立っていれるわけじゃないけどな。流石にこの綺麗さだと唖然として突っ立ってしまうのも仕方ないと思う。

「綺麗ですね」

「だな」

目の前にはモダンな雰囲気を纏った和風の家が建っている。屋根は瓦、壁はコンクリートだか和風に染まっていて陽の光に照らされていた。

…そう、これが俺達の新居の全貌だ、多分。

「取り敢えず家の中に入りましょう。この寒さですからね、風邪でも引いてしまったらいけません」

そう言って大和はキャリーバッグ片手に玄関へと向かう。俺はそれに続き大和の後ろ姿を追いかけた。おっと、荷物も忘れずにな。

「それでは失礼します」

「失礼しますってここが俺達の家なんだけどな…」

そんなことを呟きながら俺は木製の扉を開けた。

「こっ、これは…佐藤さん、これが本当に私達の家ですか?」

大和が珍しく興奮しながら俺に聞いてくる。それもこの空間じゃ多分必然的なんだろうけど。

まず扉を開けると壁などに使われている木材の良い香りが鼻腔をくすぐる。そして続けざまに室内の無駄のない姿に魅了された。大黒柱の様に聳え立つ巨大な柱、昔のなんとも言えない良さを纏っている屋根裏。これだけのものが扉を開けた途端に目に入るのだから興奮するのもそうだと納得できた。

「多分そうなんだろうけど…俄かには信じられないな」

「全くです。流石に佐藤さんの上司は奮発しすぎです」

「『あいつ』も気が利くこともあるんだろうな」

たわいのない会話をしながら靴を脱ぎ、家の奥へと進む。

「私、正直信じられません」

「そりゃそうだろうよ、こんな綺麗なん——」

「違います」

部屋の中の静寂を切り裂く様な声音で大和は言葉を紡ぐ。

「私はあの鎮守府に来て褒められる様な事はしていませんでした」

「そんなことない。お前は俺の力になってくれたじゃないか」

「提督、貴方は優しいお人です。でも私はそう言ってもらえたとしても信じられないのです。自分が無力だと、何も出来ない弱者だと、そうとしか思えないのです」

黙っておくことしか出来ない…今の俺じゃ。

「だからこそ私はこんなにも良いものを、こんなにも良くしてくれる貴方を…。私の思い込みが心を締め付ける」

身を翻し、俺の目を見つめる大和。

「だからこそ私は貴方に聞きます。今の私は…」

一拍置いて、俺に向き直り大和は最後の言葉を告げる。

 

「どう見えていますか?」

 

———————————————————————

 

「先程は申し訳ありませんでした」

「ん?いや、大丈夫だ。そんな気にするな…それに俺が答えられなかったのも事実だしな」

「……」

「多分、気が緩んでたんだと思う。あの時決意したのにな…」

「てい…とく…?」

「だからさ、大和。お前はお前の思うように生きたらいいんだ。誰かに左右されるわけでもなく、ただひたすらに己の決めた道を進むんだ。お前にはそれができる。時には立ち止まるかもな、でもそんな時に俺はお前の側に居続けるからさ」

 

淡々と語る清太、その顔には笑みが浮かんでいる。まるで幼子を慰めるような、そんな顔だ。

 

 

 

 

 

今日は少し疲れた。流石にあの量の荷物を運び入れるのには苦労したよ。今はリビングに山のように積み上げられてるダンボール、あれが努力の結晶だ…そうでも言ってないとやってられん。…よくよく考えたらあれ大和の荷物じゃないか!?ったく大和はどんだけ荷物を持ってるんだか…。まぁ女性だから仕方ないのかもしれないが。

そうだ、家の方も大きかったんだ。二人で住むには少し大きかもしれないがとても開放感が伝わってきた。窓から見える景色もいい具合になっていて俺的には満足。大和も見入ってたっけな。でもそれぐらいに綺麗だった。これで少しは大和の心境に変化があればいいけどな。

まぁ、そんな簡単に変わるもんじゃない、気長にやるとするよ。俺も大和のために全力を尽くすって誓ったんだ。

…よし、明日は家具を大和と見に行こうと思う。家の中が少し寂しいしな。取り敢えず俺はふかふかのソファを買う、あの感触は堪らない物がある。大和には…何が好きなんだろうか、正直なところを言ってしまうと女性の趣味はわからん。可愛いものが好き、とかシンプルが一番ってのもある。だから大和には店で決めてもらおう。その方が良さそうだ。…そういえば家具といえば長門たちはどうしてるんだろうか…あいつらの家にも家具はないと思うしな。多分買いに行くとは思うんだが。もしかしたら会うかもしれない、その時は声でも掛けてやるとするか。

 

▲■●■年○月◇日

執筆者 佐藤清太

 




実を言うと二日前誕生日でした。


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3ページ目(前編)

皆様明けましておめでとう御座います。今年もどうぞこの作品共々宜しくお願い致します。

久ぶりの投稿…文が変かもです。


「ねぇ、長門。明日出かけるわよね?」

「あぁ、そのつもりでいるがどうかしたか?」

 

◯月◀︎日午前10時30分

 

今日は買い物、そう意気込んで俺は暖かい布団から脱出を見事成功させる。するとドアをノックする音、恐らく大和だろう。俺はそう思いそっとドアノブを引いた。

「佐藤さん、失礼しますね」

「いきなりどうしたんだ?」

「昨日、妹から少しは甘えてみてはどうかとめーる?が来たので」

「武蔵の奴か…ったく。あと何故俺の布団に入っているんですかね」

呆れた口調で首元まで布団に侵食された大和。全く、甘えるって言っても俺の布団はないだろうさ…。

モゾモゾと大和が布団の中で寝返りを打つ。

「それにしても暖かいですね。この湯湯婆、何か特別な細工が?」

「普通の湯湯婆だぞ。細工なんて俺には出来ない」

「そうですかね…前にマフラーを休憩がてらと作られていましたよね?」

「忘れてくれ」

実際のところ、物によるが編み物だと器用な部類に入るらしい。この俺がだ…全く自覚してなかった。所詮嗜む程度でプロの作るものなんて無理だしな。

「私は良いと思いますよ、提督のマフラー。売れます、絶対」

「それはまた嬉しい事言ってくれるじゃないですか大和さん。取り敢えず布団から出て身支度だ」

俺は無慈悲にもそう言い放ち、大和の被っている布団を引き剥がそうとする。だが負けじと大和は布団にしがみ付く。

 

その後この不毛な戦い、15分にわたって繰り広げられ清太の勝利で終わった。大和は寂しそうに布団を眺めていたが少しくらいは四季を感じなければ。外出大事!

「それにしても腹が減ったな。大和、朝は何が良いとかあるか?」

「私は佐藤さんが作るものならなんでも良いですよ…」

「どうし…そうだ、こたつ出したんだった」

「暖かくてとても寝てしまいそうです」

こたつの上に突っ伏して、とても寛いでいらっしゃる。まぁたまにはこたつでゆっくりするのも大事だろう。

「それじゃあ…トーストとベーコンエッグ、コーヒーで良いか」

朝食の内容を決めて俺は作業に取り掛かる。久しぶりの料理、上手くできるだろうか…。取り敢えずやって見なければわからないしな、やるだけやってみよう。

 

———————————————————————

 

「長門、車の用意は出来ているぞ」

「ありがとう。それにしても陸奥は何をしているんだか…今日は出かけると言っていたはずなんだが」

この凛々しい女性方は元艦娘の長門、そして武蔵という。元は大和と同じく戦艦として名を轟かせていた。実力は日本の誇る戦略の一つと謳われていたりする。

「取り敢えず私は陸奥を見てくる、武蔵はもう少し待っててくれ」

「わかった。ゆっくりでも構わないと伝えておいてくれ」

「優しいな、武蔵は」

長門はふっと笑い、家の中へと戻っていった。

 

———————————————————————

 

「提督業務しかしてこなかった俺に料理はしんどいものがあるな…」

「美味しかったです。また作ってくださいね」

「お褒めに頂き光栄でございますお姫様」

俺は大和を茶化してみると優しく微笑む。

「ありがとう執事さん。それではそろそろ出かけませんと」

「よし、それじゃあ行くとするか!」

 

この後、俺達は車に乗り込んでショッピングモールへと向かった。今日は快晴、お出かけ日和だ。大和も不思議そうに窓から外を眺めて、時折あれはなんですかって子供みたいに聞いて来たり。目がキラキラしてたな…。純粋にこのひと時を楽しんでいるようだった。

…俺もガキの頃はこんな風だったんだろうか。物事に対して興味を持って、何事もポジティブに。今となっては権力に物を言わせて、そんな奴らしか居ない世界の中でしか生きてこなかった。正直なところ、艦娘達はこの世に2度目の生を受けている。そんな子たちを社会の荒波へと、闇の中へ向かわせてしまって良かったんだろうか。もしこの世界が嫌になって、それで…これ以上はご法度だ。だけど俺は不安で堪らない。強く居続けると、そう口で言ったとしても不安が消えるわけじゃない。

…でも俺がここで不安に負けるなんて、大和に怒られるよな。大和だって不安な気持ちはあるはずだ。俺より純粋無垢で、優しいから。そんな大和を俺が助けてやらなくてどうするんだ。不安に押しつぶされてしまっては駄目だろ?

 

「佐藤さん、聞いていますか?」

「え?あっ、すまん。もう一度言ってくれないか?」

「わかりました、佐藤さん。私はショッピングモールというものが初めてで…案内を頼んでも宜しいですか?」

大和は少し頬を赤らめて、そう言った。

「それくらい任せてくれ。遠慮はするな、先に頼って構わないからな」

ミラー越しに大和の顔を覗いて見る。すると大和は凄く嬉しそうに笑っていた。

「私、凄く楽しみです。佐藤さんとのお出かけなら尚更」

「俺だって楽しみだ。ショッピングモールなんて久しぶりだけどな…」

苦笑しつつもハンドルを切る。

「そろそろ着くから準備しとけよ」

「はい!」

 

 

アクセルの音が車内に響き渡る。二人はとても楽しげな雰囲気に包まれていた。




ふかふかの布団に侵食されるのは日常茶飯事。

読者の方々はどうですかな?


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