転生天使は視続ける (オルフェイス)
しおりを挟む

転生。慣れるための三日

また作ってしまった……作りたいものが増えていく……以前の宣言はどこにいったのか……



────何も、感じられない。

 

 

熱も

 

 

音も

 

 

匂いも

 

 

そして、音も。

 

 

……何も、感じることが出来ない。

 

 

オレは……オレ?はて、自分は男だったのだろうか……?

 

 

……やはり、何もわからない。自分の性別も、どんな性格だったのかも、思い出せない。

 

 

…虚しかった。何も思い出せない自分の心にあるのは、喪失感と、空虚感のみだ。

 

 

 

『確認しました。ユニークスキル『喪失者(ウシナウモノ)』を獲得……成功しました。続けて、ユニークスキル『忘却者(ワスレシモノ)』を獲得……成功しました』

 

 

 

…あぁ、わかる。

 

 

わかってしまう。

 

 

…自分は、死んだのだ。

 

 

何も思い出せないのも、死んだ時のショックによるものなのだろう。

 

 

…それなら、今の自分に意志があるのはおかしいかもしれないが、『あの世』というものを人類は確認できていないのならば、こんなこともありえるのだろう。

 

 

…ただ、どうせなら、感覚を感じられるようにはしてほしいと思ってしまう。

…死んだ自分には、もったいないことなのかもしれないが。

 

 

 

『確認しました。ユニークスキル『適応者(ナレルモノ)』を獲得……成功しました』

 

 

 

…ところで、先ほどから聞こえてくる、この声…一体なんなのだ?いわゆる、神様という存在なのだろうか?

 

 

…死んだ自分には、もう関係ないのかもしれないが……ふむ…

 

 

……自分は死んでしまった身だ。どうせなら、この神の声に一つくらい、要望を出してみてもいいかもしれない。

 

 

そうだな……来世、というものがあるなら、という前提になるのだが────

 

 

 

 

私は、来世は『天使』になってみたい。

 

 

 

 

『確認しました。『天使』の身体を作成します……成功しました』

 

 

 

……なれちゃったみたいだ。半分冗談だったのだが……まぁ、なれるみたいなので、仕方ない。

 

 

天使、という存在になりたい理由は、実のところない。なぜ天使なのかも、よくわかっていない。

 

 

……強いていうのなら、天使は人を守り、導く存在であるというイメージがあったから、だろうか。

 

 

……本当に転生するのかはわからないが、期待するしかない。所詮、自分は死んでしまった存在に過ぎないのだから。

 

 

────あぁ。そろそろ時間か。意識が薄れてきた。もうすぐ、自分は生まれ変わる。いや、もしかしたら、消滅するのかもしれない。あの神の声が、本当にやってくれるのかは賭けになる。

 

 

──────自分は──────いや、私は(・・)─────

 

 

そして、私の意識は闇に消え去った。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

───突然、目が覚めた。

 

 

いや、目が覚めた、という表現はおかしいかもしれない。この体には目という外見はあれど、正確にはそれは目ではないからだ。

 

 

似たような外装、という感じだろうか。あくまで人間の器官に似た『何か』でしかないのだろう。

 

 

そこまで考えて、自らの状況の確認と周りの確認をし始めた。

 

 

まず、周りは木々で埋め尽くされていた───恐らく森なのだろう───それだけだった。

 

 

周りには、特に不思議に思うようなことは何もなかった。ただ、長い木々が周りにあるだけだ。

 

 

…次は自分の確認といこう。まず、外見から見ていくと……なんというか、あれだ。

 

 

白い。それに尽きた。

 

 

髪も白ければ肌も白い。なにやら後ろに翼も生えているが、それも白かった。

翼の方は、実体があるというわけではないようだ。何らかのエネルギーで構成されている……といったところか。

 

 

そういうエネルギーを感じ取れるようになっていることに、私は生まれ変わったんだと改めて感じられた。

 

 

次は私の中身の方を調べたが、わかったのは翼と同じくこの身体はエネルギーで構成されている、ということだ。

 

 

つまり、今の私は肉体を持たない存在となった、ということ。転生する前に『天使になりたい』と思ったが、それが叶ったのだろう。

 

 

……そういえば、神の声が『喪失者(ウシナウモノ)』とか言っていたが……

 

 

わかるのは、その『喪失者(ウシナウモノ)』と他2つを、私は扱うことができる…ということだけだ。

感覚的なものだが、これを使える、というのはわかった。

 

 

───なら、使ってみるしかないだろう。

 

 

そう考えたのがいけなかったのか───次の瞬間には、

 

 

周りに生えていた木々が、()()()()()()()()

 

 

慌てて能力を使用するのを止め、改めて周りを見渡した。

 

 

生命力に満ち溢れていたであろう木々は、今や枯れ木のように力がなかった。

いや、枯れ木のように、ではなく枯れ木なのだろう。私が、そうしてしまった。

 

 

人にも同じように効くのかは不明だが、滅多に使わないほうがいいだろう。

…それに、『忘却者(ワスレシモノ)』や『適応者(ナレルモノ)』もある。これも、どのようなものかわからない以上、どのようなものか知るべきだ。

 

 

なので、早速検証することにして─────

 

 

 

 

それから、三日が経過した。

 

 

 

 

正直、時間を掛けすぎたか?と思わなくもない。だが、こういう危険なものは、時間を掛けてでも調べるべきだ。それも、自分の力であるのなら、尚更。

 

 

それだけの時間を掛けたお陰で、自分の力───スキルについて理解を深めることができた。

 

 

まず『喪失者(ウシナウモノ)』、『忘却者(ワスレシモノ)』、『適応者(ナレルモノ)』。これらはユニークスキルというものらしく、通常のスキルよりも強力なものであるらしい。

 

 

喪失者(ウシナウモノ)』は相手のエネルギーを減らす……というよりその名の通り喪失させることが出来る。レジストされるとその限りではないが、攻撃よりも防御に優れているスキルだ。

 

 

 

忘却者(ワスレシモノ)』は戦闘には向かないスキルで、相手の思考を読んだり、記憶を忘れさせたり、思考を加速させたりすることが出来る。あと並列演算というものもあった。

 

 

適応者(ナレルモノ)』は……なんというか、他2つのスキルを補助するスキルなのだろう。相手の持つ技術を真似したり、環境そのものに適応するとか、食らった攻撃の耐性が出来るスキルだ。一番応用力が高いのは、これだろう。

 

 

……『適応者(ナレルモノ)』がなければ、私はこの身体を維持出来ずに消滅していただろう。

 

 

何故なら、私のような天使は身体をエネルギーで構成されているため、それを納める器がないとエネルギーは散り散りになり、いずれは無くなってしまうからだ。

 

 

適応者(ナレルモノ)』の環境適応により、肉体を得た状態───擬似受肉状態となり、エネルギーが漏れ出ることもなくなった。

 

 

というか私は生まれた時から受肉状態だったようなので、『適応者(ナレルモノ)』は常に働いていたらしかった。

 

 

適応者(ナレルモノ)』はこれからも重宝することになりそうだ。

 

 

……それはいいのだが、この三日間、同じ所に留まり続けたせいか、なにやら襲撃されることが多くなった。それも人間に。どうやら天使は人間の敵であるようだ。

 

 

まぁ、迎撃して追い返したが。殺すようなことはしていないが、手加減できる程度の相手だったのが幸いだった。スキルの練習台になったことと、魔法というものがあることを知ったことが収穫だろう。

 

 

あと、この世界には魔物という存在がいることもわかった。実際、ムカデやドラゴン(いや、ワイバーンか?)とかと戦ったりした。

 

 

さほど強くはなかった。ムカデは『喪失者(ウシナウモノ)』で即死したし、ドラゴンには効かなかったが、つい最近覚えた魔法で十分に倒すことができた。

 

 

……ただ、魔法の加減がよくわからず、全力で放ってしまったせいで、魔法の直線上にあった木々が焼け野原になってしまった。

 

 

ちゃんと制御出来るようにならなくてはいけない……その時に強く思った。

 

 

そして──────

 

 

私が転生してから、約百年ほどたったある日。

 

 

私は、とある『悪魔』と出会った。

 

 

名前は『ギィ』

 

 

後に『暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)』という異名を持つことになる、最強の悪魔である。

 

 

 




主人公のダイジェストな三日間。どうなるのかは、作者次第。
そしていきなりギィ登場。まだヴェルダナーヴァと出会っていない時のギィです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

百年後。そして悪魔との対決

ギィとの対決。といってもまだギィは究極能力に覚醒していない状態です。


転生してから、約百年もの時が経過した。その間、私はこの世界のことを知っていった。

 

 

魔物、魔人、魔法、スキル───それと、悪魔。

 

 

私という天使がいる以上、悪魔がいるのは不思議でもなんでもなかったが、悪魔は好戦的な存在らしく、出会えばまず殺し合いだった。

 

 

正直、相手にするのは面倒だった。幸いだったのが、悪魔は冥界というところにいるらしいことと、召喚されない限りは出てくることもない、ということだろうか。

 

 

悪魔との戦闘は、良い経験にもなった。魔法とか、スキルとか、その他諸々。

魔法は使うこと自体は出来たのだが、悪魔相手には無効化されたりするのも珍しくない。その時はエネルギーを武器に纏わせて物理で倒したが。

 

 

因みに武器は適当に拾ったものを使っている。悪魔相手に普通の物理攻撃は効かないが、エネルギーを使えばダメージを与えることは可能だ。

 

 

それに、悪魔が放った魔法は『喪失者』(ウシナウモノ)によるエネルギー喪失で無効化できたし、魔法を食らったとしても『適応者』(ナレルモノ)で次からは殆どダメージはなくなった。

 

 

『忘却者』(ワスレシモノ)によって相手の行動をある程度読んで、反撃もしていた。なので、上位悪魔(グレーターデーモン)程度なら、撃退するのは難しくない。

 

 

……まぁ、上位魔将(アークデーモン)ともなれば、死闘となるのは間違いないだろう。私はそこまで強くないのだ。とてもじゃないが、その上位個体である悪魔公(デーモンロード)の相手をするのは難しい。

 

 

『適応者』(ナレルモノ)による『適応』を使えば、なんとか相手をすることは出来る程度にならいけそうだが……実際にどうなるのかはわからない。

 

 

……ところで、なぜ私が今そんな話をしているのかと言えば─────

 

 

「おいおい、そんなもんか!?」

 

 

───今、私が戦っている悪魔が私よりも強いからだ。というか、この悪魔は悪魔公(デーモンロード)に進化しているのだろう。

そうでなければ、ここまで圧倒はされない。魔法も、物理も効いている様子はない。

というより、回避されているのだ。

 

 

私が魔法を放てば、同じ魔法を使って相殺するか、避けるか、そもそも結界による防御で防ぐかされてしまう。

 

 

私も結界を張っているが、悪魔公(デーモンロード)相手にはさほど意味のないものだ。なのであっさりとダメージが入る。

 

 

もちろん、『喪失者』(ウシナウモノ)によるエネルギー喪失を使って魔法を防いではいるが、そうすると今度は物理で向かってくるのだ。

 

 

『忘却者』(ワスレシモノ)によって心を読んでもいるのだが、単純なスペック差により、意味をなしていない。

 

 

勝つのが不可能なのは、すぐにわかった。ならば逃げることも考えたが……その隙がなかった。生存は絶望的だろう。

 

 

───はて、なぜこんなことになったのだろうか?

 

 

それは、一時間前のことだった────

 

 

 

 

▲▲▲▲

 

 

 

私は、かつては人が住んでいたであろう廃墟を拠点として活動していた。

 

 

別に住む場所が必要かと言われればそうでもないのだが、精神的な疲れの回復、それとエネルギーの回復のために拠点が必要だと考えたのだ。

 

 

稀に人が治めている国が悪魔を召喚したりするため、召喚された悪魔が上位悪魔(グレーターデーモン)以上であれば、討伐しにいったりしている。

 

 

あとは……エネルギーをコントロールして、人外であることがバレないように国に入り込んで、本を集めたりしていた。魔法はここから覚えたものが多い。

 

 

因みに本は廃墟を住めるようにして、図書館のようになった場所に保管している。

 

 

人の国に入り込むのはさほど難しくない。エネルギーを出さないようにしていれば、人間だと勘違いされ、バレることがないのだ。

 

 

……まぁ容姿の問題もあって、静かに、とはいかなかったが。それでも、問題はなかったのだ。悪魔を倒すときは姿を幻で欺いたり、もしくは遠距離から攻撃して誘い込んだり……などをしてたし、手段は多かったのだ。

 

 

────だから、なのか。どうやら嗅ぎ付けられたらしかった。

 

 

私は、あの悪魔公(デーモンロード)から襲撃された。

 

 

私の感知範囲を刹那の時間で突破し、元廃墟の周りに張ってあった結界を壊し、魔素を撒ちきらしながら。

 

 

紅い悪魔が、現れた。

 

 

「おう。お前が噂の天使か?」

 

 

傲慢に、そして自信に溢れたもの言いだった。住んでいた家も悪魔が来た衝撃で壊されたのに、意外なことに、私はそれを不快には思わなかった。

 

 

そう在ることが納得できるほどの力を有しているのだと、理解できた。そして、その力は私よりも強いものだということも───

 

 

だから素直に答えた。それに、この悪魔がここに来た理由も理解していた。

 

 

「噂の、というのは知りませんが……そうですね。恐らくそうなのでしょう」

 

 

「そうか。なら───」

 

 

何かを仕掛けてくることはわかった。だから槍───騎乗槍という分類のもの────を取り出し、構えた。

 

 

そして次の瞬間─────

 

 

「まずは小手調べだ」

 

 

目の前の紅い悪魔は右手をかざし、赤い光線を放った─────

 

 

▼▼▼▼

 

 

───以上が、私がこの悪魔公(デーモンロード)と戦っている経由である。

 

 

あの紅い悪魔が放った最初の一撃───悪魔は小手調べと言った────は、核撃魔法:熱収束砲(ニュークリアカノン)というもので、人間が使う魔法の中では対個人用最強魔法であるらしい。

 

 

といっても、時を重ねた上位魔将(アークデーモン)には何の意味も成さないが。あくまで『人間が』使う中でも、に過ぎないのだ。

 

 

なので、『喪失者』(ウシナウモノ)によるエネルギー喪失によって相殺可能だった。

 

 

───だが、それがいけなかったのか……あの紅い悪魔は接近戦をしながら至近距離で魔法攻撃を仕掛けてきたのだ。

そのせいで逃げる暇は失われてしまい、エネルギー喪失を行う前に魔法を食らってしまう事態に陥ってしまった。反射的に『喪失者』(ウシナウモノ)を使ったのは失敗だった。

 

 

だが、それでもかれこれ一時間も戦闘を続けていられるのは、『適応者』(ナレルモノ)のお陰だ。紅い悪魔が使っている技術(アーツ)を取得し、なんとか善戦できるようにしていたのだ。

 

 

ただ、やはりエネルギーの差はどうしようもなく、そろそろ限界が近づいてきた。

 

 

────動くとすれば、そろそろだろう。

 

 

「っ!」

 

 

何度目かの武器の打ち合いの後、私は後ろに下がり魔法を放った。といっても、悪魔であればすぐに無効化……どころか、そもそも効かない程度のものでしかない。

 

 

「はっ!そんなもん効くかよ!」

 

 

故に、その攻撃を無視して突っ込んで来るのは必然なことだった。

 

 

 

だからこそ、わかりやすい。

 

 

 

放った魔法は目前の紅い悪魔に当たり───そして霧を出しながら弾けた。

 

 

「あぁ?」

 

 

もちろん、ただの霧ではない。端的に言うと感知を妨害する霧だ。それも100mにまで広がるほど範囲が広い。

 

 

その霧が広がった瞬間を見計らい、すぐさま悪魔が目視できる範囲から出て、姿を隠した。この霧の中でしか使えない方法だろう。

 

 

「なっ、手前───」

 

紅い悪魔も、逃げ出した私を追いかけるが───今の状態なら、逃げ出すことは可能だった。

 

 

悪魔はすぐに霧を広範囲魔法で払い、私のことを探しているが……もう遅い。その頃には、私はとある場所に隠れていた。

 

 

「チッ。逃げられたか」

 

 

悪魔は私が逃げたことを理解し、そのまま何処かへと飛び去っていった────

 

 

「…はぁー……どうにか、やり過ごせましたね……」

 

 

紅い悪魔が去っていったことを確認すると、私は地中(・・)から土をどかし、姿を現した。

 

 

───そう、私は地中に隠れていたのだ。

 

 

あの紅い悪魔が通常通りの感知能力を持っていたら、バレていただろうが、あの霧のお陰でバレるようなことはなかった。

 

 

確かに一度は紅い悪魔に霧を払われはしたが、あれは粘着性を持っており、目には見えなくとも感知を阻害する性質は消えずに、あの紅い悪魔に張り付いていたのだ。

 

 

だから、土の中に隠れる、という賭けに移れた。まぁもしそれが効かなかったら、そのまま奇襲しただろう。

 

 

『確認しました。ユニークスキル『奇術師(マジシャン)』を獲得…成功しました』

 

 

どうやら、新しいユニークスキルを獲得したらしい。マジシャン……いや、まぁ確かに騙したけど。あの霧のことも含めて、なのだろうか?

 

 

ふむ……どうやら、このスキルはとにかく相手を騙す、自らを隠すなど、妨害や隠密に特化したスキルであるらしい。あの紅い悪魔には、あの霧が有効だったからよかったが……

 

 

次も効くとは限らない。いずれ、また会うことになるだろう。世界というのは、意外と狭いのだから。

 

……この家、どうしようか?今では完全に図書館になってしまい、移住スペースは殆どなかったとはいえ、放置しておくのは駄目な気がする。

 

 

けど、だからといってここに留まり続けることも出来ない。また、あの悪魔がここに来ないとは限らないのだから。せめて私が悪魔公(デーモンロード)級のエネルギーを持っていれば、話は変わったのだが……

 

 

たらればの話をしても仕方ない。とりあえず、ここは置いていくしかない。では、次は何処に行くのかなのだが………

 

 

宛もないし、東にいくか。

 

 

そう考え、今まで仕舞っていた翼を出し、東に向かって飛んでいった。

もちろん、姿を隠してだが。『奇術師(マジシャン)』も使っての移動のため、気づかれることもないだろう。

 

 

その時は、そう考えたのだが……

 

 

まさか、今日を皮切りにあの紅い悪魔と何度も遭遇して、戦うことになるとは────

 

 

今の私には、わからないことなのだった。

 

 

 




主人公は後に最強になります。

因みに主人公の位は上位魔将並みです。なので、まだ悪魔公には叶いません。
転スラでの天使の階級は熾天使(セラフ)と天使しか知らないので、詳しいことは省いています。


というか、転スラに天使の階級ってあるんですかね…?

それと、作中に出てきた霧には、まだ何も名前がありません。主人公オリジナルのものですが、名前を付ける必要性を感じていないからです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進化。そして目覚める究極能力

究極能力に覚醒!


あの紅い悪魔────ギィと名乗っていた────と最初に遭遇してから十年ほど経過した。

 

 

この十年、ギィと遭遇し、何度も戦う羽目になった。

 

 

ある時は森の中。ある時は空に。またある時は────

 

 

遭遇率が半端ではなかった。一年に三十回以上も遭遇していると言えば、わかってくれるだろうか?

どうやらギィは私に執着しているらしく、戦っている最中に本人にその理由を聞いてみたところ、曰く「倒せずに逃げられたから」であるとのこと。

 

 

…私からすれば、知ったことではないので何度も逃げているが、流石に同じ手は通用しないため、逃げるための方法を何度も考える羽目になった。

 

 

特に決まった拠点もなく、東西南北を行ったり来たりしていた。だが、それでもギィと遭遇してしまうのだから、何か仕込まれているのではないかと疑ってしまうくらいだ。

 

 

だが、このままギィと戦い続ければ、いずれ倒されてしまうのは目に見えている。そろそろ限界だろうから、何か打開策を考えなくてはいけない。

 

 

……私がギィに勝てないのは、単純に最大量(マックスエネルギー)で負けていることによるものだ。

なので、エネルギーが互角ならば、逆にギィを倒すことも不可能ではないだろう。

 

 

───と、普通ならそう考えるのだろうが、相手がギィである以上、そう考えるのは難しかった。

 

 

何度も戦った私だからこそわかることだが、ギィは才能の塊と言える存在だ。それに加えて、ギィは原初の赤(ルージュ)とも呼ばれる、最上位の悪魔だ。

 

 

エネルギー総量で互角になったとしても、ギィに勝つことは難しい。それこそ、進化でもしない限り。

 

 

……いや、方法がないわけでは、ない。

 

 

それは『適応者(ナレルモノ)』の能力の一つ───『自己進化(セルフ・エボリューション)』を使用することだ。

 

 

自己進化(セルフ・エボリューション)』とは、その名の通り自らを進化させる能力で、これを使えば自らを進化させることができるのだ。種族はもちろん、スキルも進化するだろう。

 

 

ただし、これは使えば最低でも数日───最高で一年ほど『低位活動状態(スリープモード)』に陥ってしまうため、使うことは避けていたのだが………

 

 

このままの状態を続けても、いずれは倒されてしまう。それがいつになるのかは、わからないが……

 

 

私が悪魔なら、死ぬようなこともなかったのかもしれないが───天使は、悪魔のような不死性を待ち合わせてはいない。

 

 

………使うしか、ないだろう。

 

 

だが、それは私が『危険はない』と判断できる場所に行ってからだ。

 

 

……だが、一体どこに行くべきだ?この大陸は回りきっているので、何処に何があるのかは把握しているが……それでも、絶対に安全と言える場所はないように思えた。

 

 

ふーむ。どこでするべきか……………

 

 

考えてみるが、一向に思い付かない。確実に安全と言えるような場所か────

 

 

……海、それも深海はどうだろうか?海に来る存在は滅多にいないし、意外と良いかもしれない。ただ、海に住む魔物に襲われる危険もあるが………底を掘って、空洞を作ればいけるか?

 

 

感知範囲が広い魔物がいる可能性も考えて、深く掘っておこう。

 

 

……ついでに、そこを拠点とするのも良いかもしれない。今まで拠点と言えるところは作れなかったし。

 

 

そうと決まれば、すぐにでも行動するべきだろう。そう考えた私は翼を広げ、海がある方向に空から移動したのだった。

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

天使には───というか精神生命体には───呼吸は必要ないため、海には簡単に潜ることができた。ただ、岩を削って空洞を作るのには少し手間取った。

 

 

通常の魔法では発動できないため、元素魔法を用いての作業となった。私のスキルには高い威力を持つものがないため、思っていたよりも時間が掛かってしまった。だいたい、3日くらいだろうか?

 

 

だが、それだけ時間が掛かっただけあって、海の底には十年前まで私が住んでいた家が、すっぽりと入るほどの広さになった。

 

 

ここに新しく拠点を作るのも悪くないかもしれない。まぁそれについては、進化を終わらせてからにするべきだろう。

 

 

 

では、さっそく始めるとしよう。

 

 

 

『『自己進化(セルフ・エボリューション)』を使用しますか? YES/NO 』

 

 

世界の声が問いかけてくる。進化するのか、否かを。

もちろん、答えは最初から決まっている。そうせざるを得なくなったから、ではあるものの、私はYESと念じた。

 

 

 

───そして、進化は開始され、私の意識は闇の中に消えていった。

 

 

▼▼▼▼

 

 

『確認しました。『自己進化(セルフ・エボリューション)』の使用により、天使(エンジェル)から智天使(ケルビム)への進化を開始します…成功しました。

 

 

個体:天使(エンジェル)は進化し、智天使(ケルビム)へと進化完了しました。

 

 

続けて、『適応者(ナレルモノ)』『忘却者(ワスレシモノ)』『喪失者(ウシナウモノ)』『奇術師(マジシャン)』の進化を開始します……成功しました。

 

 

ユニークスキル『適応者(ナレルモノ)』は究極能力(アルティメットスキル)変異之王(フェニクス)』に進化しました。

 

 

続けて、『忘却者(ワスレシモノ)』『喪失者(ウシナウモノ)』を統合……成功しました。

 

 

ユニークスキル『忘却者(ワスレシモノ)』『喪失者(ウシナウモノ)』は究極能力(アルティメットスキル)崩壊之王(エア)』に進化しました。

 

 

続けて、『奇術師(マジシャン)』の進化を開始します…成功しました。

 

 

ユニークスキル『奇術師(マジシャン)』は究極能力(アルティメットスキル)智謀之王(ロキ)』に進化しました。

 

 

以上で、進化を完了します』

 

 

 




オリジナルの種族『智天使(ケルビム)』登場。途中経過がないのはおかしいと思っていたので、作りました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覚醒。悪魔との戦闘と決着

色々とオリジナルなのが出ます。ご注意ください。



闇に沈んでいた意識が、どんどん浮上してくる。

 

 

────どのくらいの間、眠っていたのだろうか。多分、1ヶ月位は『低位活動状態(スリープモード)』になっていたとは思うが……

 

 

……時間については考えるだけ無駄か。元々、そうなる覚悟で『自己進化(セルフ・エボリューション)』を行ったのだから。

 

 

それよりも、今は新しく進化した身体、そしてスキルについて調べたほうがいいだろう。

 

 

身体の方は……うん。最大量(マックスエネルギー)が大きく向上しただけで、見た目の方は特に変わっていない。

 

 

──いや、少しだけ変わっていた。私の背中にあった翼が、一対から二対に変化していた。

 

 

これは天使(エンジェル)から智天使(ケルビム)に進化したからなのだろうが……恐らく、今の私はギィと同等のエネルギー量になっているはずだ。

 

 

戦いながらもギィの能力、エネルギー量を調べていたから、あっているはずだが……もしも、スキルによって隠されていた場合、これはあてにならないだろう。

 

 

まぁ、そこは新しく進化した究極能力(アルティメットスキル)に期待しよう。

 

 

さて、私は進化したことによって手に入れた究極能力(アルティメットスキル)は、

 

 

崩壊之王(エア)

 

 

智謀之王(ロキ)

 

 

変異之王(フェニクス)

 

 

の三つ。それぞれの能力を調べると、まず『崩壊之王(エア)』は完全に戦闘特化だ。記憶の忘却や分解能力は残っているが、分解能力は『崩壊』に変化し、そして新しく『再構成』というものまで追加されていた。

 

 

『再構成』はその名の通り、崩壊させたものを直す能力……というだけではない。崩壊したものを、まったく新しいものに組み換えることが出来る能力だ。

 

 

例で言うのなら、柔らかいものを固いものに再構成する、という使い方が出来る。

 

 

他にも色々とパワーアップしているところもあるが……そこは省かせてもらう。

 

 

次に『智謀之王(ロキ)』についてだが、これは解析・妨害と言った知ることと、騙すことに特化した能力だ。なので、能力はパワーアップしているが、変わっているところは少ないので、説明できることがない。

 

 

最後に『変異之王(フェニクス)』は……これは『適応者(ナレルモノ)』の能力の強化版、と言ったところだ。変わったところと言えば、変化するスピードがとてつもなく上がったところだろう。

 

 

戦闘中でも問題なく変異し続けることが出来、エネルギーもさほど消費しない。むしろ『変異之王(フェニクス)』によるエネルギー変換吸収もあるため、増え続けるくらいだ。

 

 

まぁ、変異をし続けた場合、増加速度は普段の三割程度に落ちるのだが…そこで贅沢を言っても仕方ないだろう。

 

 

───これでスキルの確認も済んだ………のは良いのだが、

 

 

「……あ」

 

 

…そう、今更ながら思ったのだ。

ここに隠れて住めば良いのではないか、と。

 

 

「…盲点でした……なんで気付かなかったんでしょう」

 

 

別に、ギィと戦いたい訳ではない。むしろ、ギィをなんとかするために危険な進化に踏み込んだのだ。

 

 

バレるようならともかく、バレないであろう場所を見つけたのなら、別に進化する必要はなかった。

 

 

その点で言えば、海という場所は絶好の場所だ。悪魔、人間、魔物、魔人───その全てが、海に来ることは滅多にない。元々、海に住んでいた存在を除けば、誰にもバレる心配のない最高の場所だ。

 

 

……それを、なんで思い付かなかったのか…………

 

 

「……はぁ」

 

 

思わず嘆息をしてしまうくらいにはショックだった。

 

 

……いや、逆に考えよう。十年間に300回以上ギィと遭遇しているのだから、いずれは出会ってしまう可能性もあるのだから、強くなっておいても別に問題はない。

 

 

というか、進化途中に危険があるだけで、進化自体に損はないのだから、悔いることではないだろう。

 

 

「……そう考えれば、別に気にするようなことでもないですね」

 

 

ギィという問題がいる以上、いずれは強くならなくてはいけなかったのだから。

 

 

「では、ここを住みやすくしましょう」

 

 

うじうじ考えるのはやめて気分を一掃し、新しく私だけの住居及び新図書館を作ることにした。まぁ肝心の本がない状態なので、仮が付くのだが。

 

 

家は、外に出たら木材を集めて作るとして、とりあえずデコボコだった地面や壁を『崩壊之王(エア)』を使って整地して、キレイに平らにした。

 

 

……究極能力(アルティメットスキル)をこんなことに使っていいのか、とは思うが、自分のものなので、別に良いだろう。

 

 

ただ、深く掘りすぎたので整地は近くの場所だけにした。正直、私の元住居どころか、約百年前に悪魔に滅ぼされた国がすっぽり入るくらいまで広げて、深くしたのはやりすぎだった。

 

 

だが、そのお陰で本が沢山入りそうなので、まぁ良しとしよう。

 

 

次は図書館に必要な木材及び本だが……本は、荒らされてたりしなければ、旧図書館にあるとは思うが……木材は一気に取ったら問題が起こるかもしれない。

 

 

海に住むので、問題はないのかもしれないが……一応警戒して、一気に取らないようにしよう。

 

 

そう考え、魔法で塞いでおいた穴から地上に向かっていくのだった。

 

 

▼▼▼▼

 

 

……そして、後悔した。

 

 

「よぉ、久しぶりだな」

 

 

目の前には、紅い悪魔───ギィがいた。

 

 

…なぜ、私が出てきたタイミングで出会ってしまうのか……何らかの因果関係があるとか、そういうことを言われても納得できるくらいだ。

 

 

「ええ。久しぶり…というべきなんてしょうね」

 

 

「一年も会ってなかったら、そりゃ久しぶりになるだろうよ」

 

 

一年……なるほど、それだけの間、眠っていたのか……やはり、自己進化(セルフ・エボリューション)は出来る限り使わないほうがいいだろう。

 

 

それを再確認し、改めてギィを向かい見る。

 

 

目の前のギィは、外見的には一年前と変わったところはない。悪魔なのだから、それも当然だ。

 

 

───だが、その内側は大きく変化している。

 

 

前のギィならば、ある程度の上限は知れたし、今の私の敵ではないと断言……は出来ないまでも、苦戦するようなことはないだろうとは考えていた。

 

 

…だが、今のギィは違う。智謀之王(ロキ)を使用して調べてみても、底が、上限が見えない。それは、つまり───

 

 

「…なるほど?一年も会わなかった間に究極能力(アルティメットスキル)に目覚めましたか」

 

 

「はっ、やっぱりわかるか。そういうお前も、目覚めたみたいだな?」

 

 

「さぁ、それはどうでしょうね?」

 

 

「しらばっくれるか。まぁ、わざわざ手札を教えるわけねぇか」

 

 

───やはり、ギィも究極能力(アルティメットスキル)に目覚めていた。一年前までは目覚めていなかったから、あまり差はないだろう。最大、一年くらいだ。

 

 

その程度の差なら、十分に覆せるのだろう。普通なら。だが、ギィが相手なら、その油断は死を招くことになる。

 

 

 

だから、なのか。言葉が途切れた瞬間

 

 

 

───戦いは、唐突に始まった。

 

 

 

金属と金属がぶつかり合う音。それがした時には、私は槍を、ギィは剣を持って打ち合っていた。

 

 

私たちの戦闘とは、まず言葉から始まり、そして唐突にぶつかり合う。タイミングは自由だ。ギィが先手を取ることもあれば、私が取ることもあった。

 

 

その殆どが、私のパワー負けのせいで防戦になっていたので、まともに戦ったことは───打ち合ったことは、一度もなかった。

 

 

だが、今回は違う。

 

 

幾度も打ち合っているが、未だにパワー負けすることがない。ほぼ互角の戦いを行うことが出来ていた。

魔法も入ればどうなるのかは不明だが、予想では互角の戦いをすることが出来るだろう。

 

 

…しかし、今回は剣を使うとは。もし使わなければ、槍に纏わせた崩壊之王(エア)を使って分解していたのだが……しかも、剣は壊せず、そのままだ。神話級(ゴッズ)の武器なのだろう。

 

 

たまたまなのか、それともわかったからこそ使ったのか……

 

 

いや、これは必然か。ギィは私が究極能力(アルティメットスキル)を獲得していると確信しているようだし、能力を警戒したのだろう。

 

 

「はっ!なんだよ、前よりも力増してるじゃねぇか!進化でもしたか?」

 

 

「しましたよ。だからこそ、私はあなたと拮抗出来てるんじゃないですか」

 

 

「そうだろうなぁ!」

 

 

ギィはさらに攻撃する速度を上げていく。もちろん、私も比例して上げていき、ついには全力で打ち合っていた。

 

 

今のところ、魔法は使っていないが、代わりに究極能力(アルティメットスキル)同士の能力の戦いが始まっていた。

 

 

私が崩壊の槍をギィに向けて振れば、ギィも剣を使って防ぎ、そして崩壊の剣を私に振るう。

 

 

───そう、どうやらギィの能力は能力のコピーであるようだった。早めに気づけたからよかったが、これで能力をむやみに見せることは出来なくなった。

 

 

ここぞ、という時にしか使ってはいけない。能力を見せれば見せるほど、ギィは強くなっていくのだから。

 

 

───だが、強くなる、という点では私も同じだ。

 

 

私は、ギィの崩壊が乗った攻撃を浅く、わざと受け、即座に変異之王(フェニクス)による変異を開始させた。

 

 

「あ?」

 

 

ギィは訝しみ、動きを止めた。ギィにとって、これは避けられるか防がれる攻撃だとわかっていたからだろう。私も、避けようと、防ごうと思えばどうとでも出来るものだった。

 

 

私の崩壊能力は、掠り傷でも致命傷だ。小さな傷から崩壊は侵食し、相手を絶命させるものなのだから、当然だ。これを食らった私も、当然ただではすまない。

 

 

変異之王(フェニクス)がなければ、実際そうなっていただろう。

 

 

掠り傷から侵食していた崩壊は、変異之王(フェニクス)を全力で発動させた途端に崩壊速度がどんどん低下していき、最後には止まり、崩壊していた部分はすぐさま再生した。

 

 

「…それでは、ギィ。続きを始めましょうか」

 

 

「───く、はははは!おいおい、随分と荒っぽい治療じゃねぇか!おもしれぇ、いいぜ、ここからは本気で相手をしてやるよ!」

 

 

…何が面白いのか、ギィは笑いながら今まで抑えていたであろうエネルギーを放出した。本気で、というのは本当らしい……こちらとしては、良い迷惑でしかないのだが。

 

 

だが、そちらがその気なら、私も本気だ。ギィを倒すのなら、全力でいくしかないのだから。

 

 

私も負けじとエネルギーを放出し、ギィと対抗する。この感じだと、ギィと私のエネルギー総量はほぼ互角。今までは全力を出させることが出来なかったが、今はそれが出来る。

 

 

───あとは、私がどれだけ強くなったのかが問題だが……そこは、戦いながら知っていくしかないだろう。

私の得意分野である、奇策、智謀を使い、倒すのみだ。

 

 

そう考えながら、言葉を言い放った瞬間には、もう既に動き出していたギィと打ち合ったのだった。

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

────戦闘は、三日も経ちながら、未だに続いていた。

 

 

魔法、スキル、武器を用いて、目の前の相手を殺そうと動いていた。

 

 

「これならどうだ!"崩壊焔撃(メルト・フレア)"!!」

 

 

「"反転吸収(リバーシブル・アブソープ)"」

 

 

ギィが放った崩壊の焔───抵抗(レジスト)出来ずに触れれば、一瞬で身体を壊し尽くす焔───は、私の吸収に抗えず、無害なものへと反転し、吸収された。

 

 

───戦闘は、膠着状態に陥っていた。

 

 

最初こそ様々な攻撃をして私を追い詰めに来たが、その全てを私は受け、一つ一つの攻撃に対する耐性を生み出し、吸収していった。

 

 

究極能力(アルティメットスキル)を使っての物理では私もダメージを受けるので、出来る限り受けないようにしている。が、先ほど使った"反転吸収(リバーシブル・アブソープ)"は常時使えるようなものではない。放出系なら無敵に近いが、欠点もある。

 

 

必ず、間を置かなくてはならないため、ギィはその隙をつくように魔法を使う。だが、そんなことは折り込み済みであるため、崩壊之王(エア)を使って崩壊させる。

 

 

ただ、同じ崩壊を使ってくるので、崩壊は相殺されても魔法が防げないことが何度かあった。

だが、その魔法も私の結界を越えることは出来ずに消滅した。私の崩壊によって威力が減少したからだろうか。

 

 

崩壊は、他の魔法と混ぜると効果が減少する。だが、威力は上がるので、単純な火力を求めるのなら、相性は抜群だ。

 

 

だが、私に対する攻撃は殆どが無効になっているが、私がギィに放つ攻撃も、効いてはいなかった。

 

 

だからこそ、膠着状態になってしまっているのだ。

 

 

だが────この戦闘の中で一番優位なのは、私だった。

 

 

どうやらギィは変異之王(フェニクス)をコピーできないみたいなので、攻撃すればするほど、ギィはエネルギーを減らしていくのに対して、私は防げば防ぐほどエネルギーが回復していく。間違いなく、この膠着状態で有利なのは私だった。

 

 

だが、ギィは未だに本気の攻撃を行ってはいない。それは私も同じだが、どうであれ警戒していたほうが良いのは確かだ。

 

 

未だにエネルギーは残っている。油断も慢心もできない。

 

 

「はははは!これも防ぐか!」

 

 

「……これでは、埒があきませんね」

 

 

ギィは一撃でこちらを滅ぼしかねない攻撃もしてくるが、殆どが"反転吸収(リバーシブル・アブソープ)"で対応できるものばかりだった。

 

 

だが、それでも厄介だ。"反転吸収(リバーシブル・アブソープ)"を使っていない時に使われれば、変異し続ける必要があり、その隙をつかれて倒されかねなかった。

 

 

私は、そんな綱渡りをそう何度もするつもりはない───だから、次で決める。

 

 

そう決めた時には、二対あった翼の内一対が黒く染まっていた。自らの持つ存在値(エネルギー)の半分を本来の聖のエネルギーではなく、魔のエネルギーに変換したのだ。

 

 

ギィは私の変化に気付き、そして笑みを浮かべた。

 

 

「は───いいぜ、望むところだ」

 

 

私が全力の一撃を繰り出そうとしていることに気づいたのだろう。ギィもまた、自らの持つ最強の攻撃を繰り出してくるつもりなのだろう。

 

 

ギィは、そういう悪魔なのだ。

 

 

「これで、終わりです────"滅ビノ槍(ロンギヌス)"」

 

 

"滅ビノ槍(ロンギヌス)"───つい先ほど思いついたものだ。というか、私の使うチカラは殆どが戦いの最中に思い付いたもので、智謀之王(ロキ)がなければ、とてもではないが使えなかったものばかりだ。

 

 

"滅ビノ槍(ロンギヌス)"とは、聖と魔を混ぜたものに崩壊之王(エア)を合わせて、槍の形状にまとめた混沌の攻撃だ。

 

 

混沌の攻撃、というだけあって全ての属性を含んでおりながらも、その属性は含まれていない、という意味不明な矛盾を孕んだ私の最強の一撃だ。

 

 

あらゆる防御を貫いて相手に滅びを与えられる攻撃でもあり、ギィでも食らえばまず滅びるだろう。

 

 

───ギィがそのまま食らえば、だが。

 

 

「"崩壊獄却砲(ペイル・アポカリプス)"!!」

 

 

ギィも同じく、今放てる中で最強の攻撃をしてきたのだろう。その威力は、"反転吸収(リバーシブル・アブソープ)"の吸収限界を越えて、私を滅ぼすだろう。

 

 

私の"滅ビノ槍(ロンギヌス)"とギィの"崩壊獄却砲(ペイル・アポカリプス)"───それらがぶつかり合い、そして────

 

 

「……ごふ」

 

 

───血だ。私の口から、血が溢れだした。流石に長時間、変異し続けるのは危険過ぎた。

 

 

お陰でエネルギーもすっからかんで、身体もボロボロだ。だが……それだけ無茶をしたお陰か───

 

 

「──あっははは!俺をここまで追い詰めるなんて、お前が二人目だぜ?」

 

 

───目の前のギィも、私と同じかそれ以上にボロボロで、傷だらけだった。今もなんともないように振る舞ってはいるが、間違いなくダメージ量ではギィの方が大きい。無理をしている、ということだろう。

 

 

……なにやら、ギィが不穏なことを言っているが…流石に無視した。

 

 

「…今回は引き分け、ということで良いですね?」

 

 

「あぁ。いいぜ、そういうことにしてやるよ」

 

 

…どうやら、ギィは負けず嫌いでもあるらしい。なにやら不貞腐れた顔をしていた。

 

 

ふと周りが気になり、見てみれば───更地だった。いや、何もなかったのだ。恐らく、戦いの衝撃や余波で吹き飛んでしまったのだろう。木々があったところも、湖があったところも、全て。

 

 

「…………はぁ」

 

 

今度から、ちゃんと周りを気にして戦おう───そう誓った。

 

 

「それでは、私はこれで」

 

 

そう言い残し、私は今度こそ目的の場所である旧図書館に向かうのだった。

 

 

……最後にギィが何が言っていた気がするが────気にしないことにした。

 

 

 

 

 




最後には引き分けという形でおさまった主人公VSギィの対決。

ギィはこんな感じだったと思うのですが…違和感あったらすみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

来訪の悪魔。そして目覚める───

遅くなりました!なんか、進めませんでしたすみません!


ギィとの戦闘から、約一ヶ月ほど経過した。

 

 

この一ヶ月で、元はただの洞窟が完全な図書館に生まれ変わった。具体的に言うと、本がたくさんある。建築するのは難しくなかったが、本を集めるのに苦労した。

 

 

旧拠点に置いてきていた本は、所々虫食いにあっていたが、全て無事だった。虫食いのある箇所は記憶を掘り返して修復したので、実質問題はなかった。

 

 

…まぁ、持ち運ぶのに苦戦することになったのだが。それはともかく、新しい本が欲しかったので、人の国に入り込んで集めれるだけ集めた。

 

 

因みに、盗んだりはしていない。そこまでするつもりもなかったし、本は読んでいれば内容は覚えられるので、紙を使って持っていけなかった分の本を新しく作成すれば事足りた。

 

 

持ってきた本は防水加工をして、濡れないようにした。魔法を使えば十分に可能なことだ。

というか、これをしていないと濡れてしまうので、当然の処置だろう。

 

 

周りが海で囲まれているので、湿ってしまうのは仕方ないことだが、それでもちゃんと本を読めるようにしておきたい。

 

 

…まぁ、本に関する問題は別にいいのだ。それよりも、問題…というほどでもないが、少し面ど───困ったことがあった。

 

 

「よお」

 

 

「…また来たんですか?飽きませんね、あなたも」

 

 

「くくく、まぁそう言うなよ。俺とお前の仲だろ?」

 

 

「仲良くした覚えはありませんね。殺しあったことはありますが」

 

 

───あの日から、ギィは度々私の元に訪れるようになった。あのような危機迫る戦いは、もうしたくないので、あまり来ないでほしいのだが、ギィは頻繁に訪れるものだから、困っているのだ。

 

 

……というか、最初に来られた時の衝撃で図書館が崩壊しかかったので、思わず『殺す』と短く言い放って第二回戦となり殺しあった。多分、あの時が一番怒っていたと思う。

 

 

幸い、思ったよりも被害は少なかったので、今回は許した。だが、ギィが終始面白そうに笑っていたのは非常に気に入らなかった。

 

 

今回もいつも通り一人で来たのかと思えば、今度はメイドの二人を連れてきていた。それも、ギィと同じ原初の悪魔───『緑』と『青』の二柱。

 

 

レインとミザリーというらしい。なんでもギィが名付けたのだとか。召喚された時に、気分が良かったから、と言っていた。そんな簡単に、しかも元は同格だった悪魔に"名付け"はそうそう出来ないのだが……

 

 

あまり気にしないことにした。興味もさほどなかったし、見た感じではギィほど強くもなかった。

 

 

「───それで、どうやら派手に暴れたようですね?北が氷で覆われたと聞きましたが」

 

 

「くく、やっぱり知ってたか」

 

 

少し前にギィは"竜種"と争ったらしく、ギィが根城としている場所が氷で覆われ、悪魔のような精神生命体か、高位の魔物でなければすぐに死ぬような魔境と化しているらしい。

 

 

なぜ、この世界で最強の存在である"竜種"と戦ったのかは不明だが、それで生き残っているギィは、やはり規格外なのだろう。

 

 

───もしくは、相手の"竜種"がまだ未熟なだけなのか……いや、そこは興味がない。どうでもいいことだ。

 

 

「知らないほうがおかしいですよ。なにせ、相手は"竜種"。星王竜ほどではないにしろ、他の"竜種"も強大な存在なんですから」

 

 

「まぁ、ヴェルダナーヴァと比べることは間違ってるがな」

 

 

「それもそうですね───なら、相手は白氷竜ですか」

 

 

「ああ、中々楽しめたぜ?」

 

 

「…そう言えるのは、世界でもあなただけでしょうね」

 

 

白氷竜───その名の通り、白い鱗を持つ氷の"竜種"だ。星王竜の次に生まれた二番目の"竜種"でもある。"竜種"の特徴である圧倒的なエネルギー量は、どのような存在も霞んで見えるほど。

 

 

そんな存在と戦い、それで楽しめた、と言えるのはおかしいのだが、そこはやはりギィだから、だろうか。

 

 

ギィでなければ、そんな言葉は出ないだろう。流石戦闘狂、とでも言えばいいのか……いや、そんなことよりも気になることがあった。

 

 

「一つ聞きますが、なぜ白氷竜と戦ったのですか?」

 

 

「あ?あー…あいつ、どうやら俺を試したらしいぜ」

 

 

「試した?」

 

 

「『兄は認めても私は認めない』だとよ。まぁそれを口実にして俺がどれくらい強いのか、試したんだろうな」

 

 

───今、なにやら聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

 

「………まさか、星王竜とも戦ったんですか?」

 

 

星王竜は正真正銘、世界最強だ。あらゆる存在も、星王竜に勝つことは不可能だ。例え、それが同じ"竜種"だとしても。

 

 

───そんな存在に、戦いを挑んだのか?

 

 

いや、もしかしたら、戦ったわけではないのかもしれない。そういう思いも乗せて、ギィに聞いた。

 

 

「ああ。強かったぜ。負けちまったけどな」

 

 

「──はぁ」

 

 

───ある意味、予想通りだった。思わずため息を吐いてしまうくらいには、わかりきったことだった。いや、聞くだけ無駄だったのだ。

 

 

恐らく、ギィが究極能力(アルティメットスキル)に覚醒したのは、星王竜と戦ったからだろう。ギィでさえも勝てない絶対強者だ。その戦いで得たものは大きかったのだろう。

 

 

そう考えれば、星王竜と戦い成長したギィに、白氷竜では力不足ではなかったのだろうか───だから『面白かった』で済ませられるのだろう。

 

 

……まぁ、そうでなかったとしても、『面白かった』で済ませてしまいそうなのがギィなのだが。

 

 

「負けて当然ですよ。何を思って星王竜に挑んだんですか?」

 

 

「強そうだったからな。戦ってみたくなった。想像以上だったぜ?」

 

 

「『強そうだったから』とか、そういう風に図ろうとすること自体が間違ってるんですよ」

 

 

そう、本当に。意思を持つ生命が図れることではない。なにせ、星王竜はこの世を造り出した創造主なのだから。創造は、この世界に存在する生命体では手に余るものだ。

 

 

だから、星王竜は最強なのだ。全てを知り、あらゆる力を行使し、そして造り出すことをできるが故に。

 

 

…やはり、私では図れない。星王竜ではなく、ギィの在り方を。

 

 

────それが、どうしようもなくイラついた。理由が──意味が───納得が───出来ない。この感情が……わからない。

 

 

ギィと会話を続けていく。他愛ないことを話し、語る。肉体の口は、自然と動き、喋っている。だが、その心は自らの内にある、この意味のわからない感情を『智謀之王(ロキ)』を使って思考し、理解しようとした。

 

 

────それは、ギィが帰っても続けられた。普段は、ギィが帰ったら本を読んでいるのに、今はそんなことをしている余裕がなかった。

 

 

…わからないことだらけだった。この、理解できない感情が、また増えている。これは……一体なんなのか?

 

 

────私の思考は、ギィがもう一度来るまで、そのことだけを考え続けた────

 

 

▼▼▼▼

 

 

────そして、

 

 

『確認しました。究極能力(アルティメットスキル)嫉妬之王(レヴィアタン)』を獲得……成功しました』

 

 

名もなき天使の心は、確かな変化を成し────人知れず覚醒する。本人にも気づかぬ内に────

 

 

 




人知れず、本人にもわからずに覚醒した嫉妬。
さて───どうなるのか?

なんか急展開になった気が……すみません。


因みにもしもリムルのスキルをfate風にしたらどうなるのか考えてみました。


『カリスマ:A+』

『神智核・シエル:EX』

『能力贈与:A』

『大魔王:A』

『虚無崩壊:EX』

こんな感じになりました。なにか間違ってたり足りなかったりするかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自覚。感染する嫉妬

捏造しました。嫉妬之王(レヴィアタン)を。新しく増えてます。

因みに、今回は独白回です。


……そして、遅れてすいません。



 

 

───私の思考は、ギィが来るたびに停止し、そしていなくなればすぐに再開された。

 

 

皮肉にも、いつのまにか獲得していた究極能力(アルティメットスキル)嫉妬之王(レヴィアタン)』によって、私のこの感情が嫉妬であるのだと理解し、この無限ループは終わりを告げた。

 

 

何度も何度も考えて、それでも答えが出なかったのに、あっさりと分かってしまった。

この感情が嫉妬であると理解してからは、それを元に『誰に対して、何を嫉妬したのか』を考えた。

 

 

───考えるまでもなく、嫉妬の対象はギィだというのはわかっていた。だが、何を嫉妬したのかは、今も考えている最中だ。

 

 

そして───どうして、嫉妬したのかも考えている途中だった。

 

 

わからなかった。どうして、私はギィに嫉妬しているのか────幾日もかけて、考え続けた。

 

 

そうした結果、わかったのは────所謂……あれだ。

 

 

 

多分、私はギィに好意を抱いているのだろう。

 

 

 

………ということだった。

 

 

認めたくはないが、好意を抱いてしまっているせいで、最近生き生きとしているギィに対して、よくわからない怒りやら嫉妬やらが生まれてしまい、嫉妬之王(レヴィアタン)を獲得したのではないだろうか。

 

 

ギィとしたことなんて、会話と戦闘だけなのに、それでも好意を抱いてしまっている……だが、それだけでは嫉妬を抱く理由には薄い気がした。

 

 

だが、それを愛と憎しみで例えるのなら、納得できた。それらは裏表の関係であり、度を過ぎれば愛は憎しみへと変わってしまう。

 

 

つまり、私のギィに対する好意は度が過ぎていて、その結果嫉妬しているのだろう。

 

 

そう、恐らくギィに関すること全てに対して─────

 

 

今までは理解していなかったから、この場所から出ようとは思わなかったが……どうせなら、ギィを追いかけてみるのもいいかもしれない。

 

 

まぁ、しないのだが。私が嫉妬之王(レヴィアタン)を獲得したことを、ギィは把握しているかもしれない。だから、私が制御に失敗したと、そう思われるかもしれなかった。

 

 

突然そんなことをすれば疑いをかけられるのも仕方がないが、事を荒立てたりするのは、出来る限り避けたい。

 

 

ならば、どうやって誤魔化す、もしくは隠すのか────それは、獲得した嫉妬之王(レヴィアタン)が解決してくれていた。

 

 

というより、既に私は嫉妬之王(レヴィアタン)を獲得しているのにギィは気づいた様子もなく、何度も来ているのに普通にしていた。

 

 

ギィならば、興味を興味のままで終わらせることはしないはずだから、本当に嫉妬之王(レヴィアタン)に気づいていなかったのだろう。

 

 

どうしてバレなかったのかは嫉妬之王(レヴィアタン)の能力を把握することで理解した。

 

 

嫉妬之王(レヴィアタン)の能力とは、

 

 

"降格吸収"

 

"嫉妬感染"

 

"嫉妬之蝕毒"

 

 

この三つ。今回のことで降格吸収と嫉妬之蝕毒は関係ないので省くが、嫉妬感染によって、私が嫉妬之王(レヴィアタン)を獲得したことをバレずにいた。

 

 

この能力の効果は単純明快。

 

 

その名の通り、嫉妬を感染させること────要するに"嫉妬"を芽生えさせるのが"嫉妬感染"だ。そして、その範囲は"嫉妬"が芽生えるものなら、何処にいようと感染する。既に芽生えていようと、それは同じだ。

 

 

つまり───世界中が、能力の効果範囲なのだ。何処で、何をしていようと、"嫉妬"が芽生えうる素質を持つのなら、誰であろうと感染する。

 

 

その能力のおかげで、私はギィに嫉妬之王(レヴィアタン)の獲得を隠すことが出来たのだ。まぁ、智謀之王(ロキ)による偽装がなければ、バレる可能性があったのだが。

 

 

嫉妬感染は、何も"嫉妬"を芽生えさせることしか出来ないわけではない。むしろ、感染してからが本番だ。

 

 

実は、感染した者は嫉妬之王(レヴィアタン)を獲得できるかもしれないのだ。そう、私が既に獲得している嫉妬之王(レヴィアタン)を───

 

 

といっても、全く同じ能力ではないし、究極能力(アルティメットスキル)を獲得できるほどの精神力がなければ獲得は出来ないのだが、それでも普通より獲得しやすくはなるだろう。

 

 

そして、これで終わりではない。

 

 

"嫉妬"に感染した者に対して、私は支配権を獲得することができるのだ。例え究極能力保持者(アルティメットスキルホルダー)だとしても、感染した時点で抵抗(レジスト)に失敗している。

 

 

外部から干渉されるのならともかく、内部からでは絶対に崩すことはできない。ギィでさえも、感染したらどうすることも出来ないだろう。

 

 

……まぁ、そもそもギィが感染するわけがないので、あくまで例えでしかないのだが。

 

 

話が長くなったが、これが"嫉妬感染"の効果だ。

 

 

つまるところ、ギィは能力が隠され、そして未だに"嫉妬"の芽が残っているから嫉妬之王(レヴィアタン)は現れていないと勘違いしているのだ。

 

 

そして────私は嫉妬之王(レヴィアタン)を獲得したときから、ギィに対する切り札を得たということでもあった。

 

 

未だに嫉妬之王(レヴィアタン)はバレておらず、能力の詳細も不明。もしギィと本当の意味で殺し合うことになったとしても、これならば────

 

 

……まぁ、私はギィと敵対することはしないつもりなのだが。あくまでそう思うだけだ。

 

 

────これで、ある程度私の心の整理はできた。

 

 

少なくとも、今後は私自身の問題で、精神的に不安定になることはなくなるだろう。

 

 

……せっかくだし、今度地上に出たら、ギィのところに行ってみよう。

私だけギィの場所を知らないというのは、なんだか不公平に思えてきたのだ。

 

 

───この積極性も、私が本当の意味で自分を自覚したからだろう─────だがしかし、と。

 

 

私は、ギィをどうしたいのだろうか?

 

 

そんな、先ほどに比べれば随分と軽い疑問を考えながら、私は心の中で呟いたのだった。

 

 

 




多少、おかしくなってるところもあるかもしれませんが、単純に主人公の感情がドロドロになってるだけです。
表面は変わりなくても、内面がかなり変化しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天使と勇者と魔王

遅れました!なんか、色々と…まぁあったんですすみません!


───ガキン

 

 

金属と金属がぶつかり合う音が響いている。

 

 

────あれから、嫉妬之王(レヴィアタン)が目覚めてから数十年の時が経過した。

 

 

未だにギィは嫉妬之王(レヴィアタン)に気づいた様子もなく、上手く隠せている。

 

 

この数十年の間で、私とギィの関係が変わることはなかった。何も変わっていることなどないのだから、当然だろう。

 

 

────ガキン キン

 

 

……少なくとも、表面上はそうなのだ。中身がバレなければ、私にとってはどうでもいい。

 

 

だが、あれから数十年も経過して、それでいて何の変化もなかった───というわけではなく、むしろ私にとっては、かなり大きな変化が起きていた。

 

 

───一応言っておくが、嫉妬之王(レヴィアタン)のことではない。そして、心の変化でも───いや、あるのだろう。

 

 

───ガキン キキン ギャリン

 

 

───先程から鳴り響いている、剣と剣がぶつかり合う音───その音を鳴らしている二人の男を、遠くから見つめた。

 

 

「く──こなくそ!」

 

 

「な、手前卑怯だぞ!?」

 

 

……まぁ、片方は剣と魔法だけでなく、目潰しまでやっているみたいだが。

 

 

片方は、私のよく知る人物───人でなく悪魔か───である、傲慢な、紅い"覚醒魔王"ギィ…いや、ギィ・クリムゾン。

 

 

もう片方は金髪の"覚醒勇者"ルドラ。

 

 

……ルドラに関しては、知っていることは少ない。興味ないからだ。その強さはギィと対等に戦えるだけあるので認めているが、それ以外に関しては、態々知ろうとは思わなかった。

 

 

むしろ、ルドラはギィが認めた好敵手(ライバル)であるため、どうしても嫉妬してしまう。

 

 

───だからこそ、ルドラと私の相性は最高であり、例え『正義之王(ミカエル)』による絶対防御を持っていたとしても、私の敵ではない。

 

 

私の持つ嫉妬之王(レヴィアタン)であれば、ルドラを倒すのは容易いことなのだ。

 

 

……まぁ、今のところ、戦う気はないが………そこはルドラ次第だろう。

 

 

「…で、終わりましたか?」

 

 

「あぁ……くそ!手前、目潰しとか卑怯だぞ!?正々堂々とか言ってたくせによ!やることが汚いんじゃねぇか!?」

 

 

「勝てば正義!いや、勝たなければ正義ではない!正義じゃなくなるんだよ!だから、俺様はなにがなんでも勝たなくてはならないのだ!

というかだな、さっき手前が使ったのは俺がこの前使った技だろうが!汚いのは、お前だ!」

 

 

「……ふぅ」

 

 

───ギィとルドラの戦いは、終わったあとは大抵こういう風に口喧嘩になる。喧嘩するほど仲が良い、とはよく言うが……ルドラとギィの関係は、まさしくそれなのだろう。

 

 

いつもなら、私は"白氷竜"『ヴェルザード』、"灼熱竜"『ヴェルグリンド』と一緒にギィとルドラの戦いを見ているのだが……最近生まれた新しい第四の竜の教育の問題で、二体は険悪な雰囲気になっているため、ギィの住む氷の城の外で喧嘩しているのだ。

 

 

…やってることは、ただの責任の押し付け合いなのだが。ヴェルザードが厳しすぎるだの、ヴェルグリンドが甘やかし過ぎるだのと、言い争っている状態だ。

 

 

……私から言わせてもらえば、どちらにも当てはまる性質である『強者ゆえの傲慢性』こそが、第四の竜を暴れさせる原因なのではないかと考えている。

 

 

もしくは、姉二人への畏怖や恐怖やらのせいで窮屈に感じ、その反動で暴れまわるようになったのか……まぁ、興味ないからどちらでもいい。

 

 

で、今、私が何をやっているかと言えば───ただ単に、ギィとルドラの戦いを見ていただけだ。

 

 

例え、ギィとルドラが会話をしていても、自らそこに加わることはしない。あくまで傍観者なのだ。ただ眺めているだけ────

 

 

それ以外は何もやっていない。まぁ、たまに起こる竜姉妹の喧嘩を無理矢理止めたりはするのだが。

 

 

────そこまで考えたところで、外から大きな破壊音……爆音が響いた。

 

 

「…また、ですか……止めてきます」

 

 

「おう、頼んだ」

 

 

「まったく、あいつら……」

 

 

普段の間柄は悪くないのだが、こういうストレスを溜めやすい状況だと、喧嘩しやすくなるのだろうか。

 

 

喧嘩するのであれば、もっと他の場所でしてほしいものだ。何度も止めることになるこちらの身にもなってほしい。

 

 

竜種の相手を何度もするのは、流石に面倒と言わざるをえない。

 

 

───"名"を名付けられなかったのなら、こんなことしようとは思わなかっただろうな───と、そう思いながら、喧嘩しているであろう姉妹の元に向かったのだった。

 

 

 

 

▲▲▲▲

 

 

 

 

「…ところでよ」

 

 

「あ?どうした」

 

 

『彼女』が去り、残ったのはルドラとギィだけとなったその場で、二人の会話が響く。

 

 

先程までは、ルドラとギィによる長い時を必要とする勝負───未来での理想と現実(ロマン・オア・リアル)の対決になるであろう話をしていたというのに───ルドラにしては唐突な話題の転換だった。

 

 

「あいつのことだ」

 

 

「…アスティか?あいつがどうした?」

 

 

───アスティ・ソロア

 

 

それが、天使である彼女に付けられた名前だった。

 

 

ヴェルダナーヴァの意図せぬところで誕生した偶発的例外(イレギュラー)。本来なら、誕生するはずのない地上で生まれた"天使"。

 

 

そして、ついには"名付け"により、熾天使(セラフィム)にまで到達した存在────それが、アスティ・ソロアだった。

 

 

「あいつは、どっちにつくのか───そう思ってな」

 

 

「あー…どうだろうな?」

 

 

アスティは、人ならざる存在である天使だ。人間と共存することが難しいのは確かだった。

 

 

だが、彼女は人を殺すことを嫌がっていた。どんな状況であろうと、人を殺すことに忌避感を覚えていた。無意識に、アスティはそう思っていた。

 

 

そしてなにより、彼女は自由を好んでいた。魔王による徹底管理された世界を、彼女が好むことはないだろう。そういう意味では、アスティはルドラに付く可能性もある。

 

 

だが、心情的なものを無視することは出来ない。ルドラ───正確に言えばルシア───から見れば、アスティがギィに好意を抱いているということは分かりきっていた。

 

 

そんなアスティが、ギィと敵対する道を選ぶのか───ギィも、自身に向けられたアスティの好意に気付いてはいた。

 

 

いた、が────アスティの行動や言動が分かりにくいせいで、確信できるほどのものではなかった。

 

 

ルドラとギィからすれば、アスティがどちらを選んでも不思議には思わない。むしろ、どちらにも付かない、なんてこともありえるのだ。

 

 

「…いっそのこと、あいつに裁定をまかせるか?」

 

 

「裁定?」

 

 

「あぁ。俺とお前───もしもどちらかが道を外したら、それを裁定するやつがいたほうがよくないか?」

 

 

ルドラは口ではこう言っているが、その本心は「これで五分五分だ。アスティまで入ったら、ギィの方が有利になっちまう」というものだったりする。

 

 

もちろんそのことにギィも気付いていたが───自身の方が有利な状況で勝っても、面白くもなんともない。勝つのなら、相手が万全で自身も万全な状況で勝つ───それがギィだった。

 

 

「あぁ。いいぜ?正々堂々、だよな?」

 

 

「ふん!今回も、俺様が勝つのだ!」

 

 

「あ?違うな、俺が勝つ」

 

 

「いーや、俺様が勝つ!」

 

 

話は決まり、アスティの立ち位置が定まった。

 

 

ギィとルドラ───そしてアスティ。

 

 

争う二人の対決者(プレイヤー)と、それを監視する裁定者(ルーラー)

 

 

この三人によるゲームは、どのような終わりを迎えるのか────

 

 

それは、数千年後に決まることとなる────

 

 

 

 

 




こうして決まる三人の役者。

そして、過去は未来へと繋がる────


そして、名前はアスティ・ソロアに決まりました。コメントをいただいたので、そこからもじらせて頂きました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王。それは破壊の化身…

すみません遅くなりました。

後々、修正入るかもしれません。あと、色々と先駆け過ぎたかなぁ、と考えたり……


ルドラとギィ───彼らは戦いあってこそいたが、それは好敵手として。決して、仲が悪いというわけではなく、険悪になってもいなかった。

 

 

いや、むしろ親友のような────いや、親友であったのだ。ただ、進む道がまったく違った、というだけで。

 

 

ルドラは理想を語り、その理想のために世界を征服せんとし────

 

 

ギィは世界が、人間が増長しすぎないように魔王として───調停者として、人間を殺す。

 

 

進む道が違う以上、その二人がいずれ衝突するのは目に見えていた。

 

 

私は、それをわかっていながらも、その衝突をなんとかしようとはしなかった。いや、する必要性を感じなかった。

 

 

私は、ルドラとギィの戦いをよく見ていたが───それだけだ。当事者ではなく、傍観者として、ルドラとギィの関係を見てきた。

 

 

───だからこそ、ギィとルドラによる勝負の審判役を頼まれた時には、すぐに了承した。ギィからはそれは建前で、本音はどちらか一方に肩入れさせないようにするためだと言われているが、それでも構わない。

 

 

どちらかが負けるまで、私は視続ける───例えそれが、どのような結末になろうとも。

 

 

『確認しました。ユニークスキル『監視者(ミツメルモノ)』を獲得……成功しました』

 

 

 

……いや、まぁ深く考えなくても良いとは思うのだが……ある程度の覚悟は、しておいた方がいいと思うのだ。ギィが負ける可能性も、あるにはあるし。

 

 

新しいユニークスキルを獲得してしまったが、今は気にしない。

 

 

それよりも、もっと重要なことがあるからだ。

 

 

 

 

───ヴェルダナーヴァと、その妻であり、ルドラの妹であるルシアが死んだ。

 

 

二人の間で生まれた子供を、一人残して────

 

 

 

 

▲▲▲▲

 

 

 

 

ヴェルダナーヴァの子供───娘は、ミリム・ナーヴァと名付けられたらしい。

 

 

人と竜の血を引く、今のところはミリムしかいない竜人族(ドラゴノイド)だ。

 

 

初めて生まれた、竜と人の混血───正直、どのように育つのか、興味はあった。

 

 

ただ、ヴェルダナーヴァとは一度しか会ったことはないし、ルシアとは何回か会ったことはあるものの、話す回数自体が少なかった。

 

 

そのため、ヴェルダナーヴァの子を、ルシアが身籠ったことを知ったのはルドラに教えてもらってからだった。

 

 

多分、生まれてから一番驚いたのはこの時だろう。それほど、驚愕したのだ。

 

 

ただ、驚きはしたが、それだけだった。確かに、ヴェルダナーヴァの娘であり、竜人族(ドラゴノイド)という新種族であるミリムに興味を持ちはした。

 

 

だが、ヴェルダナーヴァと接点を持たない私が、ミリムに会うことはないだろうと、そう考えていたのだ。それに、今のミリムはまだ赤子。

 

 

少なくとも、ミリムが一人で生きていけるようになるまで、関わりを持つことはないだろう。

 

 

実際、ミリムがギィと同じ魔王と呼ばれるようになるまで、ミリムと接触することはなかった。

 

 

───まぁ、その魔王と呼ばれるようになる少し前に、接触……いや、戦う羽目になったのだが。

 

 

正直に言わせてもらうと、なぜ眠れる獅子───いや、竜を呼び起こそうとしてしまったのか────それは今でもわからない。

 

 

最初にミリムの暴走を見つけたのは私だが……状況が状況だったので、何が起こったのかわからなかったが───後に知ることになる。

 

 

ミリムの護衛(ペット)であった竜───その殺害。

 

 

それが、ミリムを激昂させ───そして、魔王に覚醒するきっかけとなったのだということを。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

それを見つけることが出来たのは偶然だった。

 

 

数十年前に獲得した監視者(ミツメルモノ)の持つ能力の一つである『遠隔視*1』を使っていた時のことだ。

 

 

監視者(ミツメルモノ)による遠隔視は、今のところ最大5つしか置くことができず、その『眼』を現在に存在する国の上空に置いて、監視していた。

 

 

そう、監視していた………のだが……『眼』が監視していた国の一つに、なにやら変化が起こったのだ。

 

 

───いや、これは変化、とかそういう類いのものではなく、むしろ────

 

 

そう考えた次の瞬間には────その国は、跡形もなく消滅していた。

 

 

何を言っているのかわからないと思うが、私にもよくわかってないので少し整理させてほしい。

 

 

……いや、原因はわかっている。誰がやったのかも、わかっているのだ。

 

 

上空に佇む、小さな影。私の遠隔視を横に向ければ、それはすぐに視認できた。

 

 

────ミリム・ナーヴァ。

 

 

数十年の時が立ち、ミリムは健やかに育っていたのだろう。彼女を守る護衛(ペット)もいて、外敵に危険をさらされることもなく、そして力を振るうこともなく────

 

 

だが、その身に秘める力は本物だ。なにせ、ヴェルダナーヴァの娘なのだ。竜種に匹敵するエネルギーを保有しているのだろう。

 

 

その膨大なエネルギーが振るわれれば、当然、何も残るはずがない。

 

 

その時は、なぜそのようなことになっているのか、状況が分からなかったが……とにかく、止めなくてはいけないことは理解できた。

 

 

すぐさま遠隔視を座標に転移を行使し、ミリムの近くに転移した。

 

 

───今だからこそ思うが、その行動は間違いだった。

 

 

「───っ!?」

 

 

転移し、私が現れた時にはミリムは自らの内に秘めていたエネルギーを放出し、周りを破壊し尽くそうとしていたからだ。

 

 

当然、ミリムの近くに転移した私は巻き込まれた訳だが……幸い、我を失っている状態で、しかも無差別に周りを壊しているおかげで、なんとか私の周りに張ってある結界が放出されたエネルギーを防いでいた。

 

 

まぁ、代わりに遠くに吹き飛ばされてしまったのだが。対策もせずに転移すれば、そうもなる。

 

 

だが……ある程度、今のミリムの状態は理解した。

 

 

今のミリムは我を失い、無差別に全てを破壊し尽くそうとしている。それも、ただエネルギーを放出するだけではなく、それに指向性を持たせて。

 

 

……正直、面倒なことこの上ない。あの国は、余計なことをしたものだ。

 

 

ああいう力技で相手を倒すタイプは、私は苦手だ。なにせ、耐性を創ったとしても、それを強引に突破してダメージを与えてくるのだ。

 

 

これがギィのように多彩な攻撃を行うタイプであったのなら、まだ楽だったのだが………私一人では、手に余る。

 

 

出来れば、ギィに来てほしい。ヴェルザードでも構わないが、規格外には規格外をぶつけるべきだ。

 

 

「まぁ、都合良くすぐに来るはずもないですよね」

 

 

戦闘はすぐに始まった。

 

 

ミリムの攻撃を避け、防ぎ、時に反撃して抑えにかかっているが……ミリムの攻撃が一撃一撃重すぎて、正直防ぐので精一杯だ。

 

 

殺す気でいってもいいのなら、こんなに苦戦はしないのだが、私はミリムを殺す気はない。

 

 

なので、どうにかして殺さずに倒す必要があるのだが……ミリムの放つエネルギーが多過ぎて、放出系の攻撃がまったく通じていない。

 

 

それに、明らかに防げない攻撃も混じっているため、とにかく反撃しづらい。

 

 

幸いだったのは、ミリムが延々とエネルギーを放出しているため、それに乗じて吸収&変異し続けることで、私のエネルギーが尽きることがなくなったことだろう。

 

 

だが、これを続けても、問題の解決にはならない。どうにかして、ミリムを倒すか、正気を取り戻させるしかない。

 

 

……そして、それを私一人でやるのは不可能。

 

 

なので────

 

 

「手伝ってください」

 

 

「それはいいが、お前でも、ミリムの相手は手に余るか?」

 

 

「余ります。こういうパワータイプは苦手なんですよ」

 

 

────ギィを呼ぶことにした。ミリムの異変を見つけた時から、予め、ギィに救援を頼んでいたのだ。

 

 

私が知るなかで、最も強い存在。私とギィの二人でかかれば、止めることは難しくはないだろう。

 

 

そんなことをミリムの攻撃を捌きつつ考えていた。守りに徹すれば、ミリムの相手をすること自体は難しくない。エネルギーは多いが、それだけなのだ。

 

 

パワータイプは苦手だが、我を失って攻撃しているだけなら、十分に戦える。ただ、無力化するのが困難なだけで。

 

 

「ところで、ギィ。ミリムの、あの異常な魔素の多さの原因は知っていますか?」

 

 

「…あれは…『魔素増殖炉』だな。ヴェルダナーヴァの能力を引き継いでやがるな」

 

 

「『魔素増殖炉』……なるほど、あれが……」

 

 

『魔素増殖炉』───それはヴェルダナーヴァが保有していた、魔素を燃料として新たに魔素を増殖させる能力。

 

 

簡単に言うのなら、一の魔素を百や千に増やす能力だ。ミリムの場合、恐らく魔素の他に怒りの感情を燃料にしているのだと思われる。

 

 

「…なにか、案はありませんか?」

 

 

「ないな」

 

 

即答だった。だが、当然だろう。今のミリムは破壊の化身と化している。止めるのは簡単なことではない。

 

 

…ここは、覚悟を決めるしかないだろう。

 

 

「……わかりました。なら、彼女が正気になるまで────」

 

 

こうなれば、手段を選んでいられない。多少、などと先程は言ったが、訂正しよう。

 

 

「───攻撃し続けます(ボコり続けます)

 

 

目が覚めるまで、殴るのをやめない(正気に戻るまでやめない)ことにした。

 

 

「あ?っておい!?今までのイメージはどうした!?」

 

 

「そんなものは幻想です。忘れてください」

 

 

今まで遠慮していた分、今からは全力で叩きのめす。今ならギィがいなくても倒せる気がする。

 

 

「おいおい、こいつの方が暴走してんじゃねぇのか──!?」

 

 

ギィはそんなことを言っているが、そんなことはない。いたって私は正気だ。暴走などしていない。

 

 

───ただ、遠慮がなくなっただけである。

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

───この後、無事にミリムの暴走は収まり、被害を抑えることにも成功したが、ミリムはトラウマを刻まれることになったのだが───

 

 

今の私(暴走した私)には、知り得ないことなのであった────

 

 

 

*1
指定した場所に眼を置き、その眼からその場所を覗き込む能力。指定は直接その場所に行かなくては設置できず、また、その眼は他者には視認できず、また、触れることもできない




うーん、脳筋仕様。
アスティは、面倒過ぎる問題に直面すると、脳筋みたいに力技で解決しようとするのだ!(錯乱

…どうしてこうなった。低評価多くなりそうで怖い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

時刻。時は立ち────

─────二千年。

 

 

あれから、約二千年ほどの時が経過した。

 

 

ミリムの暴走を食い止め、被害を抑えることに成功してから、二千年。

 

 

数千年前とは違い、この世界の勢力図は大きく変化し、国家も多数作られていた。

 

 

武装国家ドワルゴン、神聖法王国ルベリオス、魔導王朝サリオン────大きい所を挙げると、この三つの国家が目立つ。

 

 

他にも国家は存在するし、この三つよりも大きい東の帝国が存在するが───ルベリオス、ドワルゴン、サリオン────この全てが、人間ではない者が支配する国だ。

 

 

東の帝国は人間だけしかいないので、他の三つの国家とは違う。

 

 

───まぁ、ルベリオスはそれ以前の問題として、魔王ヴァレンタインが統治しているのだが。

 

 

他の魔王が統治している国を挙げると、獣王国ユーラザニア、天翼国フルブロジア、傀儡国ジスターヴに───あとは、国とは違うが竜の都も存在する。

 

 

それぞれ、カリオン、フレイ、クレイマン、そしてミリムが統治する国だ。

 

 

……竜の都は、魔王ミリムを崇める者たちが住む場所なので、国家というのは違うのだが───

 

 

まぁ、それは置いておくとして。

 

 

この二千年の間で、勢力図は人間勢力から、魔王勢力へと大きく移り変わっている。

 

 

昔と違い、今では魔王の数も増えている。先ほど挙げた五人の魔王が、その例だ。

 

 

人間たちからは十大魔王として恐れられているが、その中にはもちろんギィも入っている。

 

 

そして、あとの四人は……ディーノ、ダグリュール、ラミリス、レオン────これに六人を合わせて、十大魔王だ。

 

 

といっても、魔王だからといって、全員がギィ並みに強いというわけではない。

 

 

特にラミリスが弱い。いや、大人になれば強いのだが……今のラミリスの姿は子供。とてもではないが、魔王とは言えないレベルに弱いのだ。

 

 

───まぁ、ラミリスの場合だと、戦闘力よりも固有スキルの方が目につくが。あれほど自由度が高いスキルは他にないだろう。

 

 

で、私の『目』で見た限り、この十人の中で究極能力(アルティメットスキル)を持っているのはギィ、ミリム、ディーノ、レオンの四人のみ。

 

 

そして、その中で覚醒魔王になっているのはギィ、ミリムのみだ。

 

 

究極能力を持たない覚醒魔王なら、ヴァレンタインがいるが……究極能力を保有しているのと、していないのとではやはり格差がある。

 

 

二人と比べるのは酷だろう。

 

 

───さて、では大きく変化しているこの世界で、私は一体何をしているのか?

 

 

ギィとルドラの戦いは、未だに続いている。ルドラが東の帝国で戦力を集めているのが、その証拠だ。

 

 

私は、あまり変わったことはない。ただ、ギィとルドラの戦いを見続けているだけだ。

 

 

6人ほど配下が出来たりもしたが、私は配下自身に干渉したりはするが、その配下を使って、なにかをしたことは少ない。全て自由にやらせている。

 

 

半年に一度、実力確認のため模擬戦闘を行ったり、必要ならば精神的な成長を促すために、敢えて追い詰めたりする。

 

 

それ以外の時は、私が作った図書館の中で本を読んで暇を潰している。もちろん、監視もしているが。

 

 

まぁ、たまにギィが来たりするので飽きることはない。それに、ラミリスとは知り合いになれた。交友関係も、少しではあるが増えているのだ。

 

 

ただ、魔王レオンが来たときには戦闘になりかけたが。レオンの方は、求めるものがないと見るや、特に何もせず帰っていった。

 

 

───ただで返すのはどうかと思い、一つだけ、レオンが帰る前に『予言』した。

 

 

『このままいけば、お前の望む者に巡り会えるだろう。いや、もう既に呼び出されているぞ』と。

 

 

レオンもそれが気になったのか、どういうことだと聞いてきたが、生憎言えるのはこれだけだ。

 

 

ただ一つ言えるのは、もうこれ以上召喚を行っても無駄だ、ということ。

 

 

それだけを伝えた。レオンは無理矢理にでも聞き出そうとしていたが───その究極能力では、私を倒すことは出来ない。

 

 

すぐに無力化して、外に放り出した。私を倒したいのならギィ並みに強くなってからにしろ。

 

 

────さて、なぜ私はレオンの求める者を知っていたのか?それは簡単だ。

 

 

この二千年の間に、私のスキルが進化したからだ。

 

 

監視者(ミツメルモノ)から、視界之王(アルゴス)へと────

 

 

これによって、私はとある能力を獲得した。

 

 

それは未来視。私は、視界に映るものなら、どのような未来でも見通すことができるようになったのだ。

 

 

といっても、遠い未来が見れるのは稀で、確実に視れるのは最大一年先の未来のみ。何百年後の未来は、見ることは出来ないのだ。

 

 

それに、このスキルは未来の私が見たものでないと、映すことはない。

 

 

───つまり、私はレオンが求める者を見た、ということだ。それも、レオンと一緒にいる場面を────

 

 

あぁ、因みになんでレオンが召喚を行っているのを知っているのかと言えば、単純に、遠隔視によって見たからに他ならない。

 

 

視界を遮る結界でもないと、私の目を誤魔化す事はできない。しかも究極能力にまで至っているのだから、生半可な妨害は通用しない。

 

 

それに、室内にいたとしても透視も可能なので、中を見ることも出来る。

 

 

まぁつまり、私には筒抜けである、ということだ。

 

 

実際、それでラミリスの棲家を見つけて、その中まで見ることが出来た。

 

 

例え深くしたとしても、そこに空洞がある限り、何処までも深く視ることが出来るだろう。

 

 

───話が脱線したが、ともかく視界之王(アルゴス)によってレオンの望みがわかったのだ。

 

 

レオンが来て以降は、特に変わったことはなかったのだが……それから少しして─────新たな魔王が誕生した。

 

 

その名は、魔王リムル・テンペスト。

 

 

今までに見たことがない、スライムの魔王だった。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

新しい魔王の誕生────別に、それだけなら私は気にしなかった。気にする程のことでもなかったからだ。

 

 

だが、誕生して数日以内に、その魔王が誕生した場所で、消滅したと思われていた四番目の竜────ヴェルドラが復活したのは気にするべきことだろう。

 

 

なにせ竜種だ。ヴェルドラは暴風竜と呼ばれるほど暴れん坊で、様々な場所を破壊し尽くしていたのだから、人間にとってはまさしく天災だろう。

 

 

────だが、ヴェルドラは未だに動きを見せない。ヴェルドラが復活してから、数日が経過しているのに、だ。

 

 

ヴェルドラの性格なら、すぐにでも暴れだしそうなものだが───なにか、変化でもあったのかもしれない。それも、誕生した魔王に関係する変化が────

 

 

ヴェルドラもそうだが、ミリムのことも気になる。今では、どういうわけかクレイマンに操られているフリをしているが……なにか、理由があるのだろう。

 

 

近頃のミリムは、魔王リムルが魔王になる前から、リムルの作った国に遊びにいっていた。

 

 

戦うことや、壊すこと以外に楽しいことを見つけたのかもしれない。それは、良い傾向だ。

 

 

……もしかしたら、ミリムはリムルのために動いているのかもしれない。

 

 

ミリムの行動は、今までのことを考えれば不可解だ。

 

 

だが、今までにないことがミリムの身に起きている場合、それは不可解ではなくなる。

 

 

ミリムは、リムルの何かしらの行動によって変わった、ということだろう。

 

 

ヴェルドラも、リムルによって変わったように見える。未だに暴れだしていないのが、その証拠だ。

 

 

魔王リムル────なるほど、興味深い存在だ。

 

 

数日前にギィから魔王達の宴(ワルプルギス)が行われることを聞いたので、私の配下を一人連れていって貰えるか聞くと、ギィは快諾してくれた。

 

 

魔王リムルのことを知る、良い機会だ。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

「なので、ちゃんと見て、その上で印象を聞かせてください」

 

 

「はい。わかりました、師匠」

 

 

『おいおい、あんな魔窟に放り込むかぁ?普通よぉ?』

 

 

「大丈夫ですよ。ギィの配下というだけで、愚かな輩が襲ってくることはありません。それに、下手な輩は追い返せるでしょう?」

 

 

『まぁ、そうなんだがよぉ?つーか、なんでアッシュを選んだんだよ、他にもいるだろうが。だいた───』

 

 

「レジー、ステイ」

 

 

『ちょ────ギャァァァ!』

 

 

「……ともかく。任せましたよ、アッシュ」

 

 

 

 




最後に出てくるアッシュとレジー……一体何者なのか───?
まぁ、元ネタは『ロードエルメロイⅡ世』を知ってる方なら知ってる、あのコンビです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

配下の勇者。魔王達の宴にて────

前回少しだけ出たアッシュの視点です。


リムル・テンペスト。

 

 

それが、今回の魔王達の宴(ワルプルギス)で調査することになった者の名前。

 

 

師匠曰く「興味深い存在」であるらしい。

 

 

とある情報源から聞いた話によると、人と魔物の共存を掲げる変な魔物───いや、魔王であるらしい。

 

 

確かに、そういう意味では興味深い存在なのだと思う。今まで誰もしようとしてこなかったことをしようとしているのだから、誰だって興味を示す。

 

 

けど、師匠はそこが気になったわけではないらしい。

 

 

師匠は、暴風竜ヴェルドラとミリム・ナーヴァの関係に興味を持った。

 

 

どちらも世界最強クラスの存在で、暴風竜の方はよく暴れることで有名だ。何百年か前に封印されて以降、音沙汰はなかったと聞く。

 

 

そして、暴風竜は勇者の施した封印から解かれたにも関わらず、未だに暴れ出す様子がないらしい。

 

 

ヴェルドラが暴れだしていないのは、新しく誕生した魔王リムルが関係している───というのが、師匠の見解だ。

 

 

魔王ミリムも、魔王リムルが作った町に頻繁に訪れていたらしい。

 

 

そして、魔王ミリムは魔王クレイマンに操られている────フリをしているのだとか。

 

 

なぜそんなことをしているのか、師匠にも理由はわからないらしく「ミリムにはミリムの考えがあるのでしょうね」と言っていた。

 

 

だからこそ、そういった諸々を調べるために、私をギィ・クリムゾンの所に行かせた。

 

 

……レジーは、ギィ・クリムゾンと一緒であるということが不安だから、軽い口調で言いながらも師匠に言及していたのは、わかっている。

 

 

でも、私だっていつまでも弱い訳じゃない。ちゃんと成長して、強くなっている。

 

 

今はまだ、仮面で顔を隠してないと不安だけど……いつか、私は自分に打ち勝てるようになりたい。

 

 

『そろそろ着くみたいだな』

 

 

「……」

 

 

考え事をしているうちに、魔王達の宴(ワルプルギス)の会場にたどり着いた。

 

 

他の魔王の姿は見受けられず、いるのは目の前にいるギィだけだった。ギィは目の前にある椅子に座り、他の魔王が来るのを待つ気らしい。

 

 

目の前にいるのはギィ・クリムゾンであり、今の私は、それに従う従者。

 

 

今回限りの関係であり、喋らずに、魔王リムルの性格と能力を見極める────

 

 

師匠と視界を共有しているので、解析は師匠がやってくれている。だから、私はただ見るだけでいい。

 

 

ついでに、もし戦闘になった場合は見て技を盗み、自分の力に変える。

 

 

下手なことをしなければ、簡単な仕事になる。

 

 

────そう、下手なことはせず、自分より強い存在に絡まれたりしなければ、無事に終われる。

 

 

そう考えていると、他の扉が開き、そこから新たな魔王が出てきた。

 

 

それも、二人か。

 

 

『(アイツは、ラミリスか。で、もう一人が……)』

 

 

「(……魔王リムル)」

 

 

青銀色の髪と黄金の目をした、見た目だけなら私よりも年下である、新しい、スライムの魔王────

 

 

あれが、魔王リムル。見ただけでは、その強さを図ることは出来なかった。そのエネルギー総量も、全くわからない。

 

 

エネルギーが溢れていることはなく、隠蔽は完璧。

 

 

目の前のギィ・クリムゾンとは、全く別のタイプだ。

 

 

魔王リムルがエネルギーを完璧に隠す隠蔽型だとすれば、魔王ギィは敢えてエネルギーを出し、相手を騙す誤認型。

 

 

戦う前から、勝負は始まっている…ということか。

 

 

『(へぇ?なんだ、思った程じゃねぇな)』

 

 

───私には解析出来なかったが、レジーには解析できたらしい。

 

 

『(エネルギーは覚醒魔王並、それに、究極能力を二つ……いや、それ以上持ってやがるな。まぁ、流石に中身まではわからねぇか)』

 

 

「(えっ?)」

 

 

声には出さなかったものの、驚いてしまった。本来なら一つしか獲得できない究極能力を、二つ以上保有している────通常は、ありえないことだ。

 

 

その、はずなのだ。だから、魔王リムルは異常だということ────私には、それだけしかわからなかった。

 

 

師匠は、魔王リムルの特異性に気づいていたのかもしれない。だから、それを確認するために私を送り込んだ────?

 

 

『(いや、流石にそこまでじゃねぇだろ。何か気になったからって理由だと思うぜ?今のアイツは、見ることしか出来ないしな)』

 

 

「(……視ることしか出来ないからこそ、私たちがいる)」

 

 

『(…ま、死なないようにしろよ?)』

 

 

レジーはそう言うと無言になり、静かになった。

 

 

今は、何も考えなくていい。ただ、目の前のことを観察するだけでいい────

 

 

新たに魔王ダグリュールとディーノ(師匠に教えてもらった)が入ってきて、ディーノはラミリスと会話をはじめていた。

 

 

といっても、魔王ラミリスは自分の配下の自慢しかしていない。一応、耳には入れておく。

 

 

次に現れたのは有翼族(ハーピィ)の魔王であるフレイと、その従者……?

 

 

明らかに、一人おかしい人がいた。一見、獅子のマスクを被った有翼族(ハーピィ)のように見えるけど……

 

 

『(あ?あいつ、カリオンじゃねぇか。なんだ、死んでなかったのか)』

 

 

レジーが呟いた一言で、あれが誰なのか把握した。

 

 

魔王カリオン───たしか、今回の魔王達の宴(ワルプルギス)の開催の原因……だと言われている。

 

 

師匠は「間違いなく嘘でしょうね」と断言していた。

 

 

私がジュラの大森林について知ってることは少ないけど、師匠が言うのならそうなのだろう。

 

 

『(つーことは…なんだよ、茶番かよ。つまんねぇなぁ、おい)』

 

 

「(レジー)」

 

 

『(へいへい)』

 

 

レジーは魔王カリオンの生存で全てを把握したみたいで、途端につまらなそうにしていた。

 

 

けど、それはわかりきっていたことだ。これは茶番。魔王クレイマンが踊る、サーカスのようなもの───

 

 

それは、レジーにもわかっていたはずのこと。だから、今こんなふうに不貞腐れているのは────

 

 

「(…ありがとう)」

 

 

『(…気づかねぇフリでもしてくれたら、嬉しかったんだがなぁ)』

 

 

心の何処かで緊張していた私を、和ませてくれたのだろう。

 

 

だから、ちゃんと感謝の言葉を言う。私の相棒には、本当の自分でありたいから────

 

 

────他の扉が開く。

 

 

出てきたのは、魔王ヴァレンタイン───魔王に化けた偽物と、従者に化けた本物。本当のヴァレンタインは、従者の方だ。

 

 

直感だけど、これはすぐに見分けがついた。なんというか、分かりやすいのだ。

 

 

王者の雰囲気を隠しきれていない。多分、他の人にはわからないものなんだろうけど─────私には、わかる。

 

 

『(くくく、王者の雰囲気ねぇ……アッシュ、お前の持つスキルって─────)』

 

 

「(からかわないで)」

 

 

『(ちょ、まだ言ってな────ぎゃぁぁ!)』

 

 

今は()()に入っているレジーにはお仕置きをしておいて、次に入ってきた魔王を観察する。

 

 

新たに入ってきたのは、魔王レオン・クロムウェル────私と同じ覚醒勇者であると、師匠に聞いた。

 

 

そして、元人間である、とも。

 

 

───けど、さほど興味はない。気になることもない。知りたいことは、全て師匠が知っていたから。

 

 

魔王レオンは、魔王リムルと会話をしているのが見えた。内容も聞こえるが、私の知らない人物のことだったので、そこはスルーした。

 

 

そして、しばらくして─────この魔王達の宴(ワルプルギス)の主催者が、訪れた。

 

 

魔王クレイマン。確か、傀儡王だとか言われている魔王……でも、見た限りまだ魔王種のままだ。

 

 

少なくとも、私よりは弱い。

 

 

…それと、魔王ミリムも一緒に来ていた。

 

 

魔王ミリムは無表情で、感情が抜け落ちたような顔をしている。

 

 

魔王ミリムのことを知っている人物なら、それはおかしいと気づくだろう。

 

 

クレイマンに操られている───そう考えるのは、魔王ミリムのことを深く知らない人物のみ。

 

 

例えば魔王カリオン、フレイ、クレイマンなどの新参の魔王は、間違いなくそう誤解していただろう。

 

 

でも、本当に操られていると思っているのはクレイマンのみ。なぜなら、魔王フレイとカリオンは、魔王ミリムが操られていないことを知っている。

 

 

この茶番を行っているのは、他ならぬ魔王ミリムだ。傀儡王クレイマンが、逆に傀儡にされている───なんともおかしな話だ。

 

 

だから、クレイマンがミリムを殴り付けても、愚かなことをしているとしか思わなかった。

 

 

『(くくく、滑稽だなぁ、おい。笑えてくるぜ)』

 

 

本当に操られているのはどちらなのか────

 

 

魔王クレイマンは、死を持って、それを知ることになるだろう。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

────そして、クレイマンは死んだ。

 

 

途中、半端な状態ではあったけど、覚醒魔王になったのにそれはもう、あっさりと。

 

 

魔王リムルによって、滅ぼされた。

 

 

……クレイマンとの戦闘に入る前に、リムルとミリムが戦ったが、それも最後になってミリムがネタバラシをしたせいで、さらっと終わった。

 

 

あと、その戦闘の最中にヴェルドラが出現したり、クレイマンとリムルの配下同士の戦いがあったり、かと思えばラミリスの配下───ベレッタというらしい───が魔人の戦いでリムル側についたり、クレイマンと協力関係であった、フリをしていたフレイが裏切り、カリオンが正体を表したり────あと、私の予想通り、魔王ジル・ヴァレンタインは偽物で、本物の魔王はルミナス・ヴァレンタインだということが判明したり───

 

 

一気に話が進んだ。

 

 

────そして、魔王カリオンと魔王フレイは、魔王ミリム・ナーヴァの軍門に降りた。

 

 

つまり、カリオンとフレイは、もう魔王では無くなったのだ。軍門に降りるというのは、そういうことだ。

 

 

同時に、カリオンとフレイは自力での覚醒魔王に至ることが出来なくなった。

 

 

師匠曰く「理論上、配下になった魔王種でも覚醒は可能」であるらしい。ただ、そのために必要な(ヨウブン)がどれだけ必要なのか、不明なのだとか。

 

 

過去に配下の魔王種を覚醒させた魔王はいないらしいので、所詮は理論上でしかない、とのこと。

 

 

あまり私には関係ない話だったので、たまに思い出す位にしか記憶していない。師匠も、それについては何も言ってこなかったので、そこまで重要なことでもないのだろう。

 

 

予想外ではあったけど、ヴェルドラの姿は確認できた。一目見ただけでは、弱っているようにしか見えないが、実際はエネルギーが外に漏れでないように制御しているのだろう。

 

 

カリオンとフレイが魔王から降りたので、十大魔王から八大魔王になってしまったが、それがあまり良くないらしく、魔王全員で名前を考えることになっていた。

 

 

別に、名称くらい他人が考えたものでも良いのでは?と最初こそ思ったが、思い返してみれば、この世界において、名前とは非常に重要な要因(ファクター)だ。

 

 

魔物が名付けによって進化することを考えれば、それも当然と言える。

 

 

だから魔王たちも、こんなに名前に拘っているのだろう。

 

 

異世界から来た人間である私には、正直分かりづらいことだった。

 

 

そんなことを考えていると、魔王リムルが新たな名称を決めていた。

 

 

八星魔王(オクタグラム)

 

 

新星(ニュービー)であるリムルが付けた名前────これには他の魔王も満足しており、こうして魔王達の名称は決まった。

 

 

そうして、少しの会話の後────魔王たちは解散した。

 

 

これで、私の長いようで短い魔王達の宴(ワルプルギス)が修了したのだった。

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

「ただいま戻りました、師匠」

 

 

「ご苦労様です。それで、どうでしたか?魔王達の宴(ワルプルギス)に行ってみて」

 

 

「…もう、行きたくないと思いました」

 

 

「そうですか。ですが、これで魔王の強さがわかったでしょう?」

 

 

「はい。師匠の言っていた通り、上には上がいました。魔王ギィもそうですが、魔王ダグリュールとディーノ───それに、ミリムは今の私よりも強い」

 

 

「そう、正確に判断できているようですね。では、レオンは?」

 

 

「……苦戦はすると思いますが、そこまで厄介でもないかと」

 

 

「相性の問題もあります。貴女とレオンは、とても相性が良い。だから、そう思える」

 

 

「………」

 

 

「学びなさい、アッシュ。貴女が、強くなりたいと思うのであれば───」

 

 

「愚問です、師匠。私は、皆と共に強くなります」

 

 

「倒せるといいですね?仇を──」

 

 

「─────そのために、強くなっていますから」

 

 

 

 




アッシュには復讐するべき相手がいます。因みに相手はオリキャラです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔国。向かう配下たち

最初はアスティ視点ですが、三人称視点に変わります。


…あと、遅れてすいません!

アスティの出番が少ないです。


 

────迷宮。

 

 

この世界において、本当に迷宮といえる場所はたった一つしかない。

 

 

いや、正確に言えば生み出せる存在は、なのだが、まぁそれは置いといて。

 

 

この世界の迷宮は、魔王ラミリスの持つスキルによってしか創造することはできない。その創造された迷宮を支配することなら可能かもしれないが、一から作り出すことは、それこそヴェルダナーヴァか、ラミリス本人でない限りは不可能だ。

 

 

だが、今まで魔王ラミリスがこの迷宮を活かしきれていたのか、と言われれば、そうではない。

 

 

そのスキルは、配下がいて初めて真価を発揮するものだ。迷宮内において、ラミリスが実現できないことは殆どないと言っても過言ではない。

 

 

例え配下が死んだとしても、それが迷宮内であれば、ラミリスが死ぬことを望まない限り、死ぬことはなく、滅びることは決してない。

 

 

ラミリスは、魔王になってからはその力を持て余していたように見えた。いや、本人はそう思ってはいないのかもしれないが、配下がいない状況で、ラミリスは力を奮うことがなかった。

 

 

配下がいてこそ、ラミリスの迷宮は真の強さを発揮する。だが、逆に言えば、配下がいなければ迷宮は怖くはない。攻略も容易い。

 

 

なので、魔王ラミリスは倒そうと思えば倒せる存在でしかなかった。

 

 

────そう、魔王リムルが誕生するまでは、そうだった。

 

 

だが、魔王ラミリスと魔王リムルの協力関係が結ばれたことで、ラミリスは新たな配下を得た。

 

 

そして、魔王リムルの助言によって、迷宮はさらに進化して───とうとう、難攻不落の迷宮が完成したのだった。

 

 

 

 

▲▼▲▼

 

 

 

 

────というのが、私から見た迷宮の概要だ。

 

 

といっても、迷宮を覗くのは相当集中力が必要で、全貌がわかったわけでもない。

 

 

だが、ラミリスの迷宮に着々と大きな変化が訪れているのは、はっきりと見えた。

 

 

そして、どうやら魔王リムルは、ラミリスの創造した迷宮を使って人を呼び込む気でいるらしい。というか、祭りを開いて迷宮を解放していた。

 

 

何処までも甘い、優しい魔王。だが、それでいて魔王リムルには冷徹さも見えた。

 

 

いざとなったら、敵対者を容赦なく殺すことが出来る冷酷さも持ち合わせている。

 

 

それに、自国に外部の者を入れる危険性も、わかっているはずだ。いや、それ以上の危険性も、わかっているはずなのだ。

それなのに、敢えて内部に侵入される危険を犯すのは、一体どういうことなのか。

 

 

……自信、もあるのだろうが、あれはやりたいからやっている────云わば、我が儘だ。

 

 

自分の欲しいものは手にいれるし、やりたいことはやる───良い意味で、欲深い魔王だ。嫌いではない。

 

 

なら、危険もなさそうなので、折角だし私の配下たちに行ってもらうとしよう。

 

 

魔王リムルの統治する国───ジュラ=テンペスト連邦国に。

 

 

 

「あの、師匠。話が唐突────」

 

 

「おぉ!最近噂の魔国か!いやぁ、行ってみたかったんだよなぁ!楽しみだな!」

 

 

「うっさい。わかるけど、黙って」

 

 

「ディッカ、あれは言って聞くようなやつではないだろう。ああいうのは放っておくしかない」

 

 

「そうは言うけどね。最低一回は言わないとずっとあれよ?」

 

 

「…まぁ、わかるがな……だが、言っても聞かないのも事実だ」

 

 

「………眠ぅ」

 

 

「あの、寝るのは行ってからにしましょう?」

 

 

『くくく、今言っても無駄だろうぜアッシュ。もう寝てやがる』

 

 

「……いつも思いますが、個性豊か過ぎますね、ここは……」

 

 

「そんな貴女に、良い言葉を教えてあげましょう───類は友を呼ぶ、ですよ」

 

 

「知りたくありませんでしたね、そんな言葉」

 

 

 

 

▼▲▼▲

 

 

 

 

─────時と場所は変わって、現在。

 

 

魔王リムルのおさめる国に、彼女らは訪れていた。

 

 

「ここが……賑やか、ですね」

 

 

『くくく、中々楽しめそうじゃねぇか。お?あっちになんか売ってんな。なぁアッシュ、後で────』

 

 

「……わかったから、少し大人しくして」

 

 

一人は仮面を付け、フードを被った少女───といっても、仮面で顔は隠されている───アッシュ・グレイル。

 

 

その手には大きな大鎌を持ち、一目見ただけでは『死神』にしか見えない。

 

 

そして一人でブツブツと何か言っているため、何処となく───いや、完全に不気味だった。

 

 

「ふーん。魔物に、人に……本当に色んな種族がいるんだ」

 

 

そう呟いたのは、見目麗しい顔を持つエルフの少女────ディッカ。

 

 

腰に細剣を携え、軽装だが装備を身に付けているその姿は冒険者のようにも思える。

 

 

そんな彼女は物珍しそうに周りを見渡し、魔物と人が共存している光景を見るたびに、不思議そうに、それでいて楽しそうに微笑んでいる。

 

 

「おおおお!見たことがないものが沢山あるな!早速行って────」

 

 

「おい待て。いきなり行こうとするな」

 

 

そう言って何処かに行こうとしているのは、黒い鎧を身に纏い、大きな槍を背負っている若い少年───園部琢磨(タクマ・ソノベ)

 

 

そして、それを止めているのは全身赤色の服を着た男────メルギリス・アルバーグ。

 

 

明らかに重いのはタクマの方であるはずなのに、赤いメルギリスはまったく引きずられる様子もなく、タクマの首根っこを掴んで留めていた。

 

 

「………ぐぅ」

 

 

「……寝ていないで、さっさと起きてください」

 

 

そう言いながら、未だに背中で眠り続けている幼女を起こそうと体を揺すり、声を掛けている和服の女性────柳春風(ハルカゼ・ヤナギ)

 

 

ハルカゼに背負われ、ぐぅぐぅと安らかに寝ているのは、サイズがまったく合っていない服を着た幼女─────ナルカムイ。

 

 

彼女たち六人が、アスティ・ソロアの配下。そして、全員が最低でも準魔王級の力を持つ強者。

 

 

そんな彼女たちが、魔王リムルの統治する魔国に訪れた、その目的は─────言ってしまえば、ただの観光である。

 

 

アスティは魔国を──正確に言えばリムルのことを危険ではなく、問題もないと判断したから彼女たちを向かわせた。

 

 

勿論、ヴェルドラという危険な存在もいるが、今のヴェルドラはそうそう暴れることはないと判断してのことだった。

 

 

だから、彼女たちを向かわせることを考えた。もしもヴェルドラが未だに暴れるようであれば、向かわせることはなかったであろう。

 

 

それと、どうやら複数の魔王がこの国に来ているようだが────アスティはそれを問題としていなかった。手を出すようなことをしなければ、何の理由もなく襲ってくるような相手ではないからだ。

 

 

ベンチを見つけたハルカゼは、未だに背中で寝ているナルカムイをそこに降ろし、全員がいることを確認して言葉を発した。

 

 

「では各自、問題を起こさないように行動してください」

 

 

ハルカゼがそう言うと、寝ているナルカムイを除いた全員が赴くままに、魔国の奥へと進んでいった。

 

 

ディッカは人と魔の住まう魔国の観光を────

 

 

タクマは面白い物を、楽しい事を見つけに──────

 

 

メルギリスは強い者を探しに─────

 

 

ハルカゼは美味しい物を、美味を探求するために─────

 

 

ナルカムイはただただ眠り─────

 

 

アッシュは情報を得るために─────

 

 

今、アスティの配下六名が、魔国に放たれたのだった──────

 

 

 

 

▲▼▲▼

 

 

 

 

『迷宮深層にて』

 

 

 

 

「ちょ!?し、師匠師匠!なんか迷宮がヤバイことになってるよ!?」

 

 

「む、どうしたラミリス。そんなに慌て────む!?なんだと、もう70階層まで行かれているのか!」

 

 

「こんなにハイスピードなのは予想外なんだけど!?」

 

 

「クアーッハッハッハ!面白い、このペースならあと数時間もすれば最深層に到達するであろう。迷宮の王として、盛大に出迎えてやらねばな!」

 

 

「……うーん?あれ、この人間、何処かで見たことあるような……何処で見たっけ……?」

 

 

 

 

 

 

『武闘大会にて』

 

 

「これでぇ、フィニッシュ、だぁぁぁ!」

 

 

「ぐぼぉ!」

 

 

『おおっと!メズール選手に勝利したゴズール選手、ミスターブラック選手のパンチにノックアウト!自慢の再生能力も役に立たず───!勝者、ミスタァブラァァァクッ!』

 

 

「ふぅむ、楽しくはあったが、あまり強くはなかったな……次に期待するか!」

 

 

 

 

▼▼▼▼

 

 

 

 

「がーはははは!速いだけでは俺には勝てん!出直してこい!」

 

 

『なんと!変身したゴブタ選手、ラリアットで向かい打たれ、一向に起き上がらない!ミスターブラック選手によって一発KOだぁぁ!』

 

 

「ゴブタのやつめ。あっさりとやられおって……リムルよ、ゴブタをワタシに預けてくれ。そうすれば、立派な戦士に育て上げてやるのだ」

 

 

「あれ、案外あっさりとしてるんだな。てっきりもっと怒ると思ってたんだけど」

 

 

「それは仕方あるまい。なにせあれはアスティの配下。生半可なことでは倒せない相手なのだ。だから、次に戦うときにあんな無様な負け方は許さないのだぞ!」

 

 

「ん…?いや、アスティって誰だよ?」

 

 

「む!?い、いや、アスティはまた別の日に話すのだ。それよりもリムル!」

 

 

「あぁうん。ゴブタね。それなら、俺も頼みがあるんだけど─────」

 

 

 

 

 

『とあるベンチにて』

 

 

 

 

 

「……すぴー」

 

 

「あれ、誰か寝てる」

 

 

「ん、どうしたの?あら、この子───っ」

 

 

「…お姉ちゃん?どうかしたの?」

 

 

「…いえ、なんでもないわ。皆と離れちゃってるから、急ぎましょう」

 

 

「……うん!」

 

 

(なんなのかしらね、あれは。あんな場所で寝てていい存在じゃない。私じゃあ間違いなく負ける。そもそも、勝負にすらならないでしょうね────)

 

 

(あれ、なんで私、あの子のこと、怖いって思ったんだろ……?)

 

 

 

 

『とある食事処にて』

 

 

 

 

「ふぅ……おかわりください」

 

 

「じょ、嬢ちゃん。流石にこれ以上は無理だからな?」

 

 

「…仕方ありません。次にいきますか。あ、店主。何処か良い所を知りませんか?」

 

 

「あ、あぁ……ここから北に餃子やラーメンを───」

 

 

「では、そこに行きます。ご馳走さまでした。美味しかったですよ。お代はそこに置いておきますね」

 

 

「ま、毎度あり……

な、なんて嬢ちゃんだ。たった一時間で店の食べ物を全部食いつくしやがった……」

 

 

 

 

『演奏場にて』

 

 

 

「………」

 

 

『どうだアッシュ。良い演奏じゃあねぇか?』

 

 

「そう……ですね。昔を、思い出します」

 

 

『……あー。悪い』

 

「いいよ、別に。昔は昔、だから」

 

 

「────それで、何か良い情報は得られましたか?」

 

 

「っ!?し、ししょ───」

 

 

「そんなに驚かないでください。今回、私も少し気になったので来てみただけですから」

 

 

「……師匠、なぜ突然……?」

 

 

「貴女にとって、良い情報が手に入ったからこうやって直接言いに来たんですよ────戦争屋を、東の帝国で視ました」

 

 

「────」

 

 

「ですが、すぐには行かないこと。最近の帝国はキナ臭い。単独で行くことはないように」

 

 

「それ、は……はい。わかりました、師匠」

 

 

「よろしい。では、レジー。アッシュのことは頼みましたよ」

 

 

『はっ。言われるまでもねぇよ』

 

 

「……ところで、ディッカ?聴こえてますか?」

 

 

「えっと、多分聞き惚れているせいで、他の音が聞こえないんだと思います、けど……」

 

 

「音楽を楽しんでいるようですね。感受性が強いことは、いいことですよ」

 

 

「……ちゃんと、聴いてるから」

 

 

『反応が遅かったけどなぁ────ちょ、振るなぁぁぁ!!』

 

 

「そういうこと言わない」

 

 

「……まぁ、自覚はあるわよ。それでも、こっちを優先してるだけだから」

 

 

「それなら結構。今日は楽しむと良いでしょうね」

 

 

「ふふ、言われるまでもないわよ」

 

 

 

 




ちょっとわかりづらいところもあったと思うので、少しおさらい。

『迷宮深層にて』
行ったのはメルギリス。会話はラミリスとヴェルドラ。
『武闘大会にて』
タクマ、ソーカ、リムル、ミリム、ついでにゴズール。
『とあるベンチにて』
ナルカムイ、クロエ、ヒナタ。
『とある食事処にて』
ハルカゼ
『とある演奏場にて』
アスティ、アッシュ、レジー、ディッカ。

でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勇者。かつての約束

中途半端に終わってしまった……
遅れてすいませんでした。


それは、魔王リムルの催した祭りが終わったあとのこと。

 

 

ふと、唐突に過去のことを思い返した。

 

 

きっかけがあったわけではなく、ただ単純に今まで記憶の奥底に仕舞っていたことが、頭に過ったのだ。

 

 

かつて出会った勇者との約束が。

 

 

……といっても、彼女は私と約束をした数年後に死んでしまった────と、思われる────ので、約束もあってないようなものなのかもしれないが。

 

 

あの勇者が死ぬなど、考えられないことではあったが────どのようなものであろうと、彼女が人間である以上、終わりというのは存在していた、ということなのだろう。

 

 

……まぁ、勇者というのは因果が巡るもの。いずれ復活でもするのかもしれない。魔王ルミナスも現存していることから、それは可能性としてありえる。

 

 

彼女は魔王ルミナスと親しかったから、てっきり彼女の因果はルミナスと関係していると考えていたが────どうやらそれは違っていたらしかった。

 

 

魔王ルミナスと因果関係にあるのは、彼女の元配下であるグランベル───彼もまた、覚醒した真の勇者だった。

 

 

それを考えると、一体誰が彼女の因果に関係するのか────少なくとも、あの時には存在していなかった。

 

 

だとすれば、あの時視えた未来のことも考えると─────彼女の因果が巡っていたのは、魔王リムルなのかもしれない。

 

 

因みにレオンは除く。あれは魔王であり勇者であるから、因果が自己完結しているのだ。

 

 

なので、残っているのは魔王リムルのみ。

 

 

……しかし、それを考えると────彼女の能力が見えてくる。彼女には『絶対切断』に『無限牢獄』という強力なスキルがあったが、それとは別の能力を持っていたのだろう。

 

 

恐らく、それは──────

 

 

「師匠?」

 

 

そこで、アッシュに声を掛けられ思考を元に戻した。

 

 

彼女のことは、あとでいいだろう。今はアッシュのことだ。

 

 

「…あぁ、すみません。少し、昔のことを思い返していました」

 

 

「いえ、それはいいんですが……師匠、戦争屋は」

 

 

「戦争屋は、召喚者を東の帝国に流しています。そういうビジネスを成立させているようですね」

 

 

「っ……」

 

 

『……気持ちはわかるが、今は抑えろ、アッシュ』

 

 

アッシュは、私の言葉を聞いて怒りの感情を現していた。仮面で表情はわからないものの、その雰囲気は読み取れる。

 

 

アッシュは、件の戦争屋を憎悪している。それこそ、この世界に来る以前から。

 

 

アッシュと戦争屋の因縁は、前の世界から続いている。アッシュにとって、復讐対象なのだから、当然だろう。

 

 

前の世界にいた時から、アッシュは戦争屋を追い続けていた。

 

 

そして、偶然なのか、必然なのか────アッシュは、その戦争屋と共にこの世界に来た。

 

 

そして────この世界に来て最初にユニークスキルに目覚めたのは、戦争屋だった。

 

 

アッシュは何の抵抗も出来ずに倒された。そして、その戦争屋に全てを奪われる─────その直前に、偶然私が現れた。

 

 

そうして、戦争屋に復讐する力を与えることを条件に、アッシュを配下に加えたのだった。

 

 

「今の貴女なら、戦争屋を倒すことは難しいことではありません。ですが、東の帝国を相手にするのは分が悪い」

 

 

「それは……はい、わかっています」

 

 

『灼熱竜ヴェルグリンドもいるからな。そうそう相手にすることはねぇと思うが……』

 

 

「その可能性に賭けるのは危険過ぎますね」

 

 

ヴェルグリンドは、東の帝国が誇る───なおルドラは隠しているのだが───最高戦力。そう簡単に出すことはない……と思いたいが……もしもアッシュと遭遇したら、間違いなく倒される。

 

 

私ならヴェルグリンドを倒すことは出来るが、私の立場上、ギィかルドラ、どちらとも敵対するのは禁じられている。

 

 

破ろうと思えば破れることではあるのだが、余程の事情がない限り、私はそれをするつもりはない。

 

 

────そう、私は。

 

 

「今すぐに出来ることはありません」

 

 

「………」

 

 

「────といっても、近頃帝国はキナ臭いですし、そろそろ攻めてくるでしょう。そこに、戦争屋が参加しないとは考えられない────私の言いたいことはわかりますね?」

 

 

「────はい、はい。勿論です」

 

 

アッシュは、なんとも言えない雰囲気を醸し出しながら、理解したと頷いている。

 

 

私自身が動くことは出来ないが、配下にその制約はない。

 

 

アッシュが望んだ復讐は───もう、すぐそばに近づいてきている。

 

 

これでもし。戦争屋を倒すことが出来たなら、アッシュの心に何らかの変化が訪れるだろう。

 

 

それが良いものであれ悪いものであれ、アッシュを成長させるものとなるだろう。

 

 

……あぁ、そういえば、勇者との約束の日も近づいているか。そろそろ、私も向かう準備をするべきだろう。

 

 

「さて、では少し予定を入れてもいいですか?」

 

 

「え?あ、はい」

 

 

『…なんか、嫌な予感が……』

 

 

「数ヶ月後にルベリオスで音楽会があるらしいので、私と一緒に来て下さい」

 

 

「え」

 

 

『はぁ?』

 

 

彼女曰く、もしものことがあった時のために来てほしい、とのことだ。

 

 

その日は魔王が三人も集まるらしいので、どうせならと、アッシュも連れていくことにした。

 

 

「あの、師匠?なぜルベリオスに……」

 

 

「それについては私もよくわかっていないので、行って確かめます。あぁ、その日は魔王が三人いるらしいので、注意しておいてくださいね」

 

 

『は!?いやいや、お前なに考えて───ぎゃぁぁぁ!』

 

 

レジーは文句があるのか、何か言おうとしていたが、鳥籠状態であるレジーを、アッシュは上下に振って黙らせた。

 

 

「わかりました。行きます」

 

 

「では、いつになるのかわからないので、暫く予定を入れないでください。もしも入れていたら、仕方ないので私一人で行きます」

 

 

そう言い終わると、私は勇者のことを考え始めた。

 

 

なぜ、この日を指定したのか。なぜ未だに存在していないルベリオスのことを知っていたのか。

 

 

そもそも、ギィやルドラなどの一部の者しか知らないはずの図書館を、どうやって特定したのか─────

 

 

それも、ルベリオスに行けばわかることだ。その日になるまで待てばいい。

 

 

─────彼女の名前も、そこでわかるかもしれない。

 

 

そう思ったのだった。

 

 

 

 

▼▲▼▲

 

 

 

さて、あれから数ヶ月ほどたったある日。ルベリオスに異変が見えた。正確に言えばルベリオスにある大聖堂で、だが───そこはいいだろう。

 

 

この異変が起きたということは、時が来た、ということだろう。

 

 

だが、見た限りでは戦闘こそ起こっているものの、特に問題に思えることは起きていない。道化の集団が中に侵入し、魔王たちと戦闘になったが、それだけだ。

 

 

あとは、グランベルがヒナタという異世界人と戦っていることぐらいだろう。今は、手を出す必要がないように思える。

 

 

しかし、もしものことがあるので、一応アッシュを呼んで、いつでも介入出来るように準備をしておく。

 

 

「師匠、すぐに行かないんですか?」

 

 

「ええ。必要であれば、介入する必要があるでしょうが────」

 

 

彼女はもしもの時は、と言った。つまり、上手くいけば私が介入する必要がなく、あそこにいる魔王たちだけで事態を終息できるだろう。

 

 

───上手くいけば、だが。上手くいかないかもしれないから、彼女は私にあんなことを頼んだ。

 

 

できれば、私が介入しなくてはいけない状況になるのは避けてもらいたいが……見た感じでは、問題はなさそうに見える。

 

 

彼女が一体なにを危惧していたのかは不明だが、その危惧も、杞憂に終わりそうだった。

 

 

────あるものを見なければ、そう思えた。

 

 

「あれは……」

 

 

大聖堂───その更に奥にある棺に眠っている『それ』

 

 

『それ』は───いや、彼女は────

 

 

「なぜ、彼女が……?」

 

 

「師匠?」

 

 

『おい、どうした?』

 

 

静かに眠っている『それ』───彼女は、私が過去に出会った勇者その人だった。死んだことに疑問を覚え、もしかしたら復活でもするのかもしれないとは思っていたが─────まさか、本当にそうだとは思わなかった。

 

 

だが、これで確信した。なぜ彼女は、本来知るはずのない未来を知っていたのか────

それは、時間に関係するスキルを持ち、そしてそれを使って過去に跳んでいたからだ、と。

 

 

だから、本来は知らないことを知っていたのだ。未来に会っていれば、それは知っているはずだ。

 

 

彼女の秘密を知り、答えを得たところで、棺を守っていたルミナスが道化との戦いのために、場所を移し────そして。

 

 

「───アッシュ、いきなりですが転移します。状況は行ってから説明します」

 

 

「え───」

 

 

侵入者を確認し、すぐさまアッシュを転移させた。場所はもちろん、彼女の眠る棺がある玄室だ。

 

 

人使いが荒いとは、自分でも思う。だが、事情を話すのに時間を使えば、厄介なことになる『未来』が視えた。それなら私がいけばいいのかもしれないが、侵入者のこともあって、彼女を行かせた。

 

 

侵入者の名は、神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)───戦争屋を知る人物の一人であり、その戦争屋の上司と言える存在だった。

 

 

つまり、アッシュにとって敵である。上手くいけば、戦争屋が東の何処にいるのかも掴めるだろう。

 

 

────アッシュが逆撫でられて、暴走しなければいいのだが─────まぁ、そこはレジーがなんとかするだろう。

 

 

そう思いながら、アッシュに神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)の情報を教えるのだった。

 

 

 




次回は戦闘回です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘。理想の誕生 『前』

3/28 サブタイ変えました。


───ルベリオス。大聖堂のさらに奥に位置する玄室。

 

 

そこには2人の人間がいた。

 

 

一人は神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)

 

 

中庸道化連のボスであり、冒険者組合のギルドマスターである男。

元勇者であるグランベルの情報から、曰く究極の決戦兵器である、玄室にて眠る『勇者』を手に入れようとしていた。

 

 

もう一人はアッシュ・グレイル。

 

 

アスティの配下であり、自らの復讐のために動く覚醒した勇者。

 

 

彼女は主であり師であるアスティに突然連れてこられ、混乱する頭に必要な情報を教えられていた。

 

 

(突然現れたけど、なんなのかな、こいつ?)

 

 

ユウキとしては、勇者を手に入れられる絶好のチャンスだったのに、突如現れた乱入者のせいで、そのチャンスを逃すことになった。

 

 

今も仲間が時間を稼いでいるが、いつルミナスが戻ってくるかもわからない状況。一刻も早く、勇者を手に入れる必要があった。

 

 

一方アッシュは、アスティに『思念伝達』で目の前のユウキの情報を与えられていた。

その情報は、アッシュを動かすのには十分なものだった。

 

 

(こいつは、戦争屋を知っている。なら、半殺しにして聞き出す)

 

 

目的は決まり、あとは行動するだけ。アッシュは、懐に潜ませていた鳥籠────相棒のレジーを、大鎌に変形させた。

 

 

「って、いきなりかよ!」

 

 

ユウキは戦う姿勢を見せることなく、勇者が眠る聖櫃に向けて走り出し、聖櫃を解除すると、すぐさま勇者を抱えて逃げ出した。

 

 

正体もわからない敵だが、ユウキはどのような者であろうと勝てる自信があった。だが、それは一対一での話だ。

 

 

(近くにルミナスもいるし、時間は掛けられないからね。さっさと逃げるに限る!)

 

 

流石に、正体もわからない敵に時間をかけ、ルミナスと戦う羽目になるのはごめんだった。故に逃走。場所を変えるために、移動する必要があった。

 

 

「逃がすか───!」

 

 

だが、それを許すアッシュではない。一気にユウキに近づき、大鎌を振りかぶった。

 

 

「うわ、危なっ!」

 

 

ユウキは一瞬早く身を屈み、すぐに背を向けて走り出した。

 

 

あの僅かな一瞬で、ユウキはこの正体不明(アンノウン)と戦うことを放棄した。出来れば攻撃を防ぎながらも移動したかったが、ユウキはそれが無理であることを理解した。

 

 

(能力殺封(アンチスキル)は、あくまで魔法とスキルを封じるだけ。ただ肉体が強いだけなら、能力殺封(アンチスキル)は意味を成さない───)

 

 

ユウキには能力殺封(アンチスキル)という超特異体質があるが、それは魔法とスキルが効かなくなるというもの。

 

 

この体質があるからこそ、ユウキは誰であろうとも勝てるという自信があったのだが……それにも例外がいる。

 

 

例えば、ただただ魔素(エネルギー)量が多すぎる相手。例えば、とてつもない身体能力を持つ相手────

 

 

つまり、力技で戦う相手に、ユウキの体質は無意味なのだ。

 

 

(まったく、面倒だな───)

 

 

だが、だからと言って戦えないわけでも、ましてや勝てないわけでもない。

 

 

ユウキには創造者(ツクルモノ)というスキルに、奪い取った強欲者(グリード)というスキルがある。

 

 

これを使えば勝てる───そうユウキは考えていた。だが、勇者を抱えながらの戦闘は、無理があるとも考えていた。

 

 

(今は逃げに徹してやるよ!)

 

 

絶対に勝てるという自信、それがあるからこそユウキは余裕な態度を崩さずにいられるのだ。

 

 

───普通の相手であれば、それでも問題なかったのだろう。

 

 

アッシュが大鎌を振るう────たったそれだけの動作だ。

 

 

「ぐぁ!?」

 

 

だが、ユウキはその攻撃を避けることが出来ず、肩に喰らう羽目になった。それは何故なのか、ユウキにはすぐにわかった。

 

 

(こいつ、わざと遅くして──!?)

 

 

そう、先ほどの攻撃は、勇者を抱えていても避けられる程度の速さだった。

だからこそ、アッシュを軽く見ていた。この程度でしかない、と。

 

 

だが、アッシュは最初の攻撃を当てるつもりはなかった。

 

 

むしろ、避けてもらい、油断させるためのものだった。確実に次の攻撃を当てるために────

 

 

ユウキは攻撃を喰らい体制を崩すが、すぐに立て直した。だが、その隙を見逃すアッシュではない。

 

 

一気にユウキとの距離を詰め、大鎌を下から掬い上げるようにして振りかぶった。

 

 

(流石にまずいかっ!)

 

 

ユウキは勇者を運ぶことを放棄し、武器を取り出してアッシュの攻撃を防ぐ。しかし───

 

 

「ぐっ」

 

 

アッシュの攻撃を防ぎきることが出来ず、ユウキは大きく吹き飛ばされることになる。

 

 

(これは、僕も本気を出したほうがいいかな───)

 

 

幸い、ある程度離れることは出来たし、とユウキは本気を出すことを決断する。このままでは勝てないと踏んだのだ。

 

 

ユウキは、今まで押さえていた力を全身に駆け巡らせ、自らの肉体を改造し始めた。

 

 

人間から仙人へ、仙人から聖人へと────

 

 

ユウキが変化を終える───その前に、アッシュは行動していた。

 

 

「聖槍、限定解放」

 

 

アッシュの持つ大鎌が、変化を遂げる。黒く染まっていた大鎌は槍へと変わり、純白に染まる。

 

 

その槍は、形だけなら騎乗槍と呼ばれる類いのものだった。だが、その槍の纏う雰囲気は神々しさを感じさせた。

 

 

アッシュが槍を振り抜くと同時に、槍は周りのエネルギーを集め、霊子に変換すると、槍の周囲を回り始めた。

 

 

ユウキは、この段階ではまだ余裕を保っていた。例えどのような攻撃が来ようとも、能力殺封(アンチスキル)を持つ自分に、傷をつけることは出来ない、と。

 

 

ユウキの自己改造は、そう時間が掛かるわけではない。むしろ、数秒で完了できるほどに早く終わるほとだ。

 

 

────だが、今回はその数秒が、ユウキの命運を分けることになる。

 

 

「───第一の牙」

 

 

そう言い、アッシュは槍を振り抜いた。そして発生したのは、白く細い光線────

 

 

(そんなもの、効かないな!)

 

 

ユウキは避けることなく佇む。スキルと魔法を組み合わせたのであればともかく、これはスキルだけのもの。ユウキに効く攻撃ではない────と。

 

 

光線がユウキに命中し、そこから痛みを感じるまではそう思っていた。

 

 

「──っ!?」

 

 

ユウキの能力殺封(アンチスキル)で消滅すると思われたそれは、ユウキの体質を貫通し、肉体にダメージを与えた。

 

 

それどころか、光線は未だにユウキに食らいついている(・・・・・・・・)

まるで、意思を持つ獣が、食らいついた敵に牙を食い込ませるように、さらに深くダメージを与えてきているのだ。

 

 

(そんなのありかよっ!?)

 

 

「くそっ」

 

 

ユウキは理解した。少なくとも、あの乱入者のスキルの正体がわからなければ、自分に勝ち目はない、と。

 

 

(身体能力まで負けているとは思わないけど───不気味だな。まるでリムルさんと戦っているみたいだよ)

 

 

ユウキはすぐさま腕を振り払い光線を消滅させると、勇者を回収しようと目を向け────その勇者が、起き上がろうとしているのが見えた。

 

 

(かなり厳重に封印が施されてたってのに、自力で封印を解いたっていうのか……?)

 

 

そして、次の瞬間、ユウキは理解した。グランベルに化かし合いで負けたことを────そして、ここにいては死ぬことを。

 

 

勇者を黒い粒子が覆い、黒い鎧衣────聖霊武装に変化すると、一振りの細剣を召喚し、それをアッシュに向けて振り抜いた。

 

 

「くっ───」

 

 

アッシュに向けて振り下ろされた黒い閃光。それをアッシュは、槍で打ち払うことで防ぐ。だが、完全には防ぎきれず、ダメージを負うことになった。

 

 

その隙を突き、ユウキはすぐさま逃走した。

 

 

(厄介事は、押し付けるに限るね!)

 

 

あの勇者は、制御がどうとか、そんなことが言える相手ではない。例え聖人にまで進化させたユウキでも、勝てる存在ではないとわからさせた。

 

 

「な、待っ───く、邪魔です──!」

 

 

アッシュは逃すまいとユウキを追おうとするが、再び放たれた閃光に足を止められる。

 

 

「───レジー!」

 

 

『そろそろ出番だとは思ったぜ!』

 

 

そしてアッシュは、ユウキを追うことを諦めた。目の前の存在は、自分が全力を尽くしても勝てるかわからない相手───いや、エネルギー量では負けているので、格上の存在。

 

 

そんな相手に、余所見をする暇などない。幸い、相手が究極能力を持ってなさそうなのが救いだが────やはり、アッシュの手に余るのは違いない。

 

 

「戦いながら、場所を移す」

 

 

こいつ(・・・)の制御は任せろ。アッシュ、お前は好きなように動け!』

 

 

「わかってる───!」

 

 

だから、大聖堂にいる魔王たちの協力が必要だ。アッシュが攻撃される危険性はあるが、それは後になってから考えたらいい。

 

 

アッシュはそう考えていた。ある程度、勇者の攻撃を防ぐことはできるが、それも全てではない。何処かで動かなければいけないことだ。

 

 

(師匠───手助けは、いりません)

 

 

何処かで見ているであろう師に、そう伝える。

 

 

アスティであれば、勇者を押さえ込むことなど容易いことだろう。

 

 

だが、それでは駄目だ。

 

 

今回、アスティがいきなりこの場所に転移させたことに不満はある。だが、未来を視ることが出来る彼女のことだ、急がなければいけない事情でもあったのだろうと、納得している。

 

 

アスティを信頼して、信用して、尊敬しているからこそ、納得している。できるのだ。

 

 

だからこそ、そんな師匠の無茶にも応える。復讐の機会を与えてくれるように計らってもくれて、弱かった自分を、ここまで育ててくれた。

 

 

だから、この恩を返したい。そして、証明したいのだ。

 

 

私は強くなったのだと────もう決して、大切な人を失うことはないのだ、と。

 

 

「だから、これは私が止める」

 

 

『アッシュ、わかってるとは思うが───』

 

 

「うん。今は誘導。なんとか出来るって言うのなら、任かせる」

 

 

魔王たちに、これを止める手段があるのであれば、任せる。出来ないのであれば、倒すのみだ。

 

 

こうして、アッシュの戦いが始まった。全ては、自分が大切な者を守れる力を持つことを証明するために──────

 

 

戦いの場は移り変わる。魔王たちのいる場所へ──────

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘。理想の誕生 『後』

だいぶ、遅くなりました。すみません。

あと、タグにfateを追加しておきました。嫌な方は、すみません。


アッシュと勇者の戦闘は、徐々に苛烈になってきていた。

 

 

「ぐっ、この──!」

 

 

『エネルギー量が半端じゃねぇな!竜種かよ!』

 

 

場所を移動しつつ、戦闘を続行する。それ自体は難しいことではない。

 

 

だが、その相手が勇者となると話が変わってくる。

 

 

アッシュが勇者と攻防すると、まずアッシュが防戦一方になる。勇者のエネルギーが竜種並みに大きいのもあるが、それに加え技量(レベル)の差が影響していた。

 

 

勇者が攻撃をすれば、アッシュは避けるか防ぐかするしかないというのに、アッシュが攻撃すればいとも容易く弾き、それどころか反撃すらしてくる。

 

 

アッシュが全力を出せば、殺すことは可能かもしれない。だが、その全力を出すには、勇者と戦いながらでは到底無理な話だった。

 

 

それそも、アッシュが勇者と戦闘可能なのは、アッシュのスキルが霊子を吸収することが可能であるスキルだからだ。

 

 

だが、そのスキルを持ってしても勇者の攻撃を防ぐことが出来ない。与えてくるエネルギーが多すぎて、吸収しきれないのだ。

 

 

「っ──!」

 

 

何度目か、アッシュの槍と勇者の細剣がぶつかりあう。だが、すぐにアッシュが押され、アッシュは無理矢理に前に進み、槍を振るう。

 

 

「レジー、場所!」

 

 

『近くにいる!後ろに下がっていけ!』

 

 

「わかった!」

 

 

アッシュは、魔王たちがいることは知っていても、具体的に何処にいるのかまでは知らなかった。だから、レジーに感知させ、場所を探らせた。

 

 

霊子の相殺に手間取り、予想以上に時間が掛かったようだが、これで場所は把握した。あとは、そこに移動するだけ────

 

 

そうして、アッシュは勇者を倒すために、近くにいるであろう魔王を巻き込むのだった。

 

 

▲▼▲▼

 

 

 

魔王が集った大聖堂。そこには複数の強者たちがいた。

 

 

魔王ルミナスと、それと対峙する勇者グランベル。

 

 

そのグランベルの友である魔人ラズルと、それと戦う魔王リムルの配下であるシオン、ランガ。

 

 

そして、今は戦いの手を止めている魔王リムルと魔王レオン。

 

 

そして、グランベルに勇者のことを問いただそうとしたユウキと、中庸道化連のフットマンとラプラス。

 

 

強者が集い、膠着状態となっているその場所に、それは訪れた。

 

 

大爆発。大聖堂の壁が吹き飛び、そこから二人の人影が現れた。

 

 

アッシュと、勇者であった。

 

 

「ここ?」

 

 

『そうだろうな』

 

 

アッシュは、目的の場所に移動できたことを確認し、そして再び勇者とぶつかった。

 

 

勇者の剣とアッシュの槍は、数合打ち合うとアッシュが吹き飛ばされた。

地面に足をつけ、その勢いを止めることで大きく離れるのを防ぎ、勇者を見る。

 

 

『エネルギーは、減った気がしねぇな』

 

 

「……キツい」

 

 

あれだけ戦っても、ダメージが深いのはアッシュで、勇者にはダメージらしいダメージがない。キツいとしか言いようがなかった。

 

 

そして、しばらくの間、この状況を維持しなくてはならない。少なくとも、魔王たちが戦闘に加わるまでは抑え込まなくてはならないだろう。

 

 

『第六まで解放出来れば、だいぶ楽になったんだろうがなぁ』

 

 

「そこまでは、無理」

 

 

アッシュのスキルには、十三の拘束がある。それを五つまでしか、アッシュは解放できていなかった。

 

 

どうしてなのかは、アッシュが一番理解している。だが、認めるわけにはいかないのだ。

それを認めてしまえば、アッシュの根幹が崩れる。そうなってしまえば─────

 

 

「───やるよ」

 

 

『御供します、てな』

 

 

アッシュはその考えを消し、目の前の勇者に集中させた。なにせ、戦闘はまだ終わっていないのだから。

 

 

再び、槍と剣がぶつかる。槍は常に回転し、勇者のエネルギーを巻き取ろうとしている。だが、勇者はそんなこともお構いなしにアッシュを吹き飛ばす。

 

 

ある一定のレベルに達した者は、大抵化け物と言われる。目の前の勇者も、間違いなく化け物と言える力を持っている。

 

 

それは、アッシュの師であるアスティと同じ、天災級と言えるだろう。だが、分類としてはヴェルドラと似ている。

ただ自らの持つエネルギーを放出するだけで、敵は死ぬ。そもそも戦闘とは呼べないだろう。

 

 

そんな相手と、アッシュは戦っている。

 

 

(では、一体どうやって天災を倒す?)

 

 

並大抵のことでは不可能だ。抗えない存在だからこそ、天災と呼ばれるのだから────

 

 

そこで、アッシュはとある言葉を思い出す。かつて、アッシュが暴走した仲間を止めるにはどうすればいいか、と聞いたときのことだった。

 

 

(師匠は『そういう時は、考えるのをやめましょう』って言ってたな────)

 

 

とりあえず動けなくしてから、正気に戻しましょう、と。

 

 

あの時は、師匠に似合わない脳筋思考に呆然としたが、今ならなんとなく、わかった気がした。

 

 

(そうか、単純に考えればいいのか)

 

 

今はとにかく倒すこと、止めることが重要なのだ。なら、もっと力がいる。この世界における力とは、純粋な思いと、意思だ。自分を見詰めることが、重要なのだ。

 

 

だから、考える。なぜ自分は、ここで戦っているのかを。

最初は、ただ復讐対象の情報を得るために、ユウキと戦った。だが逃げられ、勇者と戦うことになった。

 

 

ではなぜ逃げないのか?目の前にいる勇者は、アッシュでは敵わない相手だ。このまま戦い続けていたら、戦争屋に復讐する前に、アッシュは殺されてしまうだろう。

 

 

なのに、逃げようとしない。むしろ、積極的に戦おうとしている。それはなぜか─────?

 

 

(守られるだけじゃないって、証明したかったから───?)

 

 

そう、守られるだけの存在でいたくなかったのだ。かつて、アッシュがこの世界に来る前、アッシュは戦争屋が起こした紛争のせいで、肉親を失った。

それも、全てアッシュを庇う形で─────兄も、母も、父も、失った。

 

 

アッシュを守って、みんな死んだのだ。

 

 

それが、アッシュのトラウマとなった。真の勇者となった今も、それは忘れられないトラウマだった。

戦争屋に全てを奪われそうになった時も、アスティに守られた。

 

 

それが、とても嫌だった。守られるだけでは、大切な人が傷つくのを見ていることしか出来ない。いざという時に、守ってあげられない。

 

 

だから────証明したかった。私は強くなったのだと。守られるだけじゃないのだと────

 

 

────そんなわけ、ない。

 

 

(本当は───)

 

 

アッシュが心の奥底で思ったのは『勇者を放っておけば、ルベリオスは災禍に呑まれるかもしれない』ということだった。

 

 

力の証明?守られるだけではないということの証明?

 

 

そんなものは『自分のため』という偽りの理由を付けるためでしかない。

本当は、見知らぬ誰かであろうとも、誰かが不幸になってほしくなかったからだ。

 

 

戦争屋を追ったのも、放っておけばまた紛争を引き起こすと思ったからだ。

戦争屋が紛争を起こせば、悲しむ人や、死んでしまう人が出る。

 

 

それを容認出来なかったのだ。だから本当は、兄を、母を、父を、自分を犠牲にしてでも守りたかった。

だが、それをさせてはくれなかった。アッシュの肉親は、アッシュと似た者同士であり、だからこそアッシュを守ったのだ。

 

 

そこでトラウマが出来て、戦争屋を止めるために追っていくうちに、アッシュは追う理由を他の理由にすり替えるようになった。それが、戦争屋への復讐心だった。

 

 

彼女は、いつからか偽りの心を持って生きるようになっていたのだ。

 

 

『ようやく思い出したみたいだな?』

 

 

(レジー……?)

 

 

そこまで思い出したアッシュに、彼女の相棒であるレジーは声を掛けた。

 

 

『お前と会ったのは、この世界に来てからだけどよ。お前よりもお前のことを把握してるのは俺ぐらいだぜ?』

 

 

レジーはそう言った。実際そうなんだろうなぁ、とアッシュは思っていた。レジーは彼女の相棒であり、半身だ。だからこそ、アッシュ自身も気づけなかった偽りにも気付いていたのだろう。

 

 

気付いていながらそれを言わなかったのは、アッシュに自力で気づかせるため。そんなのはお前らしくないだろうが、と。

 

 

『で、気付いたんだろ?なら、らしくない感情を持つのは、今日でやめだ』

 

 

(うん。ありがとう)

 

 

これで、アッシュの心に偽りの復讐心は消え────そして、それがアッシュに大きな影響を与えた。

 

 

『確認しました。ユニークスキル『復讐者(イツワルモノ)』を統合し、ユニークスキル『理想家(カワルモノ)』は究極能力『理想之王(アヴァロン)』に進化しました』

 

 

『条件を満たしました。『聖槍』の『十三拘束(シールサーティーン)』が一部解放されました。残りの拘束は七です』

 

 

そうして、アッシュは新たな力を得る。天災である勇者を止めることが出来る可能性である理想の力───そして、今まで止まっていたアッシュの時間は、動き出したのだ。

 

 

(あ、究極能力に……聖槍も解放されたね)

 

 

『ようやくか。これで聖槍の解析が進められるな』

 

 

(これで、勇者を止められる、かな?)

 

 

『わかんねぇよ。なんせあれは天災だからなぁ……よし、もういいだろ。思考加速切るぞ』

 

 

え、とアッシュは思った。妙に考えられる時間があると思ったら、いつの間にかレジーは思考加速を使っていたのだ。

 

 

それには驚いたが、アッシュはすぐに思考を戻した。自分探しのおかげか、随分と気分がよく、体が軽かった。

 

 

これなら勇者も倒せるかもしれない、とアッシュは一瞬考えたが、すぐにその考えを消し去った。

 

 

天災は、倒せない、抗えない、どうにもできないの三要素が揃っているから天災なのだ、と考えを改める。師匠を倒す気で行こう、と。

 

 

『間違っちゃいないがなぁ……まぁ、いいか』

 

 

そして、スローモーションだった世界は元の状態に戻り、体も動き始める。

 

 

「───!」

 

 

勇者と再びぶつかり合い、剣と槍が交差する。先ほどとまったく同じ状況でありながらも、異なる点が二つあった。

 

 

一つは理想之王(アヴァロン)という究極能力を得て、アッシュの存在力が増していること。

 

 

そして、もう一つは────弾かれることなく、鍔迫り合いになっていること。

 

 

それこそが、理想之王(アヴァロン)の能力。アッシュの理想────守るための力。

 

 

理想之王(アヴァロン)の主な能力は二つ。一つは自らの肉体を理想通りに変異させること。

もう一つは、体内に異次元────自分だけの世界を作り出すこと。

 

 

アッシュは自分の身体を、勇者に対抗できるように変異させたのだ。

 

 

「これ、なら……!」

 

 

勇者が剣を振るう度に、槍で防ぎ、反撃する。今のアッシュであれば、それを行うことは簡単なことであった。

 

 

だが、だからと言ってそれだけで勝てる相手ではない。

 

 

現に、アッシュのエネルギーが確実に減ってきているのに対し、勇者のエネルギーは殆ど減っていない。

 

 

肉体面で互角に近くなっても、圧倒的なエネルギー量がアッシュに勝ちを拾わせない。

 

 

「───っ」

 

 

技量(レベル)では負け、肉体面ではほぼ互角。

エネルギー量では負け、能力(スキル)では勝っている。

 

 

全体で言えば、アッシュの方が不利であった。だが、それでもアッシュが互角に近いレベルで戦えているのは、勇者に意思がないからだった。

 

 

自由意思がない者が、強くなれるはずがない────それを、アッシュはよく知っていた。

 

 

だからこそ、勇者は脅威ではあっても絶対に倒せない敵ではない。

 

 

あと一手、何かが加われば────そう考えた時であった。

 

 

「クァハハハハ!我、推参!」

 

 

「え」

 

 

『はぁ!?ヴェルドラだと!?こいつどうやって───いや、召喚か?』

 

 

アッシュと勇者が戦っている最中に、"暴風竜"ヴェルドラが乱入してきた。

 

 

ヴェルドラは勇者に向かっていくと、戦闘を始め────

 

 

「ぐ、ぐぉぉぉ!?き、切られた!切られたぞー!?」

 

 

「えぇ……」

 

 

『……』

 

 

あっさりと切られた。それはもう、あっさりと。アッシュとしては、期待を裏切られた気分だった。

 

 

だが、切られた傷はすぐに再生していく。竜種の持つ規格外なエネルギーによるものだろう。

 

 

アッシュは知らないことだが、勇者はかつて、ヴェルドラを封印した強者だ。

勇者の持つ、もう一つのユニークスキルを使っていないとはいえ、その力は絶大だ。

 

 

それに加え、ヴェルドラ並のエネルギー量───前の勇者であれば、ヴェルドラに大きな傷を与えることは出来なかったであろうが、今は違う。

 

 

今の勇者は、ヴェルドラすら倒しうる存在なのだ。

 

 

『───大雑把に言うと、そういうことなんだよ』

 

 

「……つまり、油断してたの?」

 

 

『そういうこった』

 

 

そもそもの話、素手で勇者に挑もうとするのがおかしいのだ。

 

 

技量が互角か、それ以上であるならばともかく、技量で負けているのに素手で戦うのは自殺行為でしかない。

 

 

ヴェルドラだからこそ、今も死なないで済んでいるというだけで。

 

 

『まぁ、とりあえず相手には成ってるな』

 

 

レジーの言った通り、ヴェルドラは勇者と戦闘をしているが、一応相手にはなっていた。

 

 

……ただしヴェルドラの方は回避が殆どで、ワンサイドゲームとなってしまっているが。

そこにリムルの援護が加わっているから、そこまで危険な状況でもないようだった。

 

 

「…聖槍を使う」

 

 

『確かに今なら時間もあるが……制御出来るのかよ』

 

 

「大丈夫。レジーなら出来るでしょ?」

 

 

『人任せ……まぁ、それが俺の役割なんだけどよぉ』

 

 

だからこそ、アッシュは聖槍の準備を始めた。

 

 

───ガキン

 

 

音にならない音が響く。その音は、まるで施錠された鍵が開いたかのようだった。

 

 

───ガキン、ガキン

 

 

さらに二回、音が響く。その音と共に、聖槍は光り輝いている。確かな形を持っていた聖槍は、その物質を霊子へと変換していく。

 

 

───ガキン、ガキン、ガキン────

 

 

そして、拘束が解かれた。

 

 

あらゆる境界を破り貫く、王の聖槍。その一撃は、万物を崩壊させる槍。今回は六つしか解かれなかった拘束は、世界を守るためのもの。

 

 

「聖槍、抜錨」

 

 

そこにあるだけで、その槍は世界を壊しかねない───故の拘束。

 

 

その槍の名は───

 

 

「『最果てに至る界槍(ロンゴミニアド)』────!」

 

 

最果てに至る界槍(ロンゴミニアド)────それこそが、かつて星王竜(ヴェルダナーヴァ)が創造した星の槍。

 

 

全てを最果てに導き、過去と未来を繋ぐ役割を持つ法の槍である。

 

 

その力は、半分程度の力しか出せなかったとしても強大だ。

 

 

聖槍から突き出された巨大な光の奔流は、戦っているヴェルドラごと勇者を飲み込まんと迫っていた。

 

 

「ぬぉぉぉ!?そ、それはヤバい、我でもヤバいぞ!?」

 

 

「ヴェルドラ、戻れ!」

 

 

ヴェルドラの戦いを支援していたリムルは、すぐさまヴェルドラを暴風之王(ヴェルドラ)による能力で自身の中へと戻した。

 

 

そして、残るは勇者のみだが───彼女に、最果てに至る界槍(ロンゴミニアド)を避ける手立てはない。

 

 

例え規格外のスペックを誇っている勇者でも、光を越える速さは持たないのだ。

 

 

それゆえに、勇者は最果てに至る界槍(ロンゴミニアド)の光の奔流に飲み込まれ─────

 

 

 

▼▲▼▲

 

 

 

「──では、ここまでです」

 

 

そう言って、彼女───アスティは先程まで繋げていた『目』を閉じた。

 

 

「あ?ここで止めるのか?」

 

 

それに疑問の声を上げたのは、この世界の誰もが知る最強の魔王ギィ・クリムゾンだった。

 

 

「未来は確定しました。これ以上見ても、何も面白いことは起きませんよ」

 

 

そう、静かにギィへと言い放った。

アスティとしては、ギィにこれ以上見られるのは不味いと判断してのことだった。

 

 

それに、アスティがこれ以上見ていても問題は起こらないと、確信したからでもある。

 

 

「へぇ?まぁ、いい。西側の戦力が増えるのは、俺にとって都合が良いからな。今回は見逃してやるよ」

 

 

「そうですか。それは良かった」

 

 

「棒読みになってるぞおい」

 

 

ギィはすぐに、アスティが見せられない『未来』を視たことを確信したが、敢えて踏み込むことはしなかった。

 

 

何故なら、ギィはアスティを信頼していたからだ。

 

 

少なくとも、こちらに積極的に敵対しようなどとは思わないだろうし、陥れることなどするはずがないと考えていた。

 

 

そもそも、アスティは人の命を奪ったことがない。というより、出来ないのだ。

 

 

ギィには分からないが、どのようなことがあっても、アスティは命を奪わない。それが悪魔であれ、人であれ、同じことだ。

 

 

といっても、命を奪わないだけで、精神生命体である悪魔の肉体を殺したことはあるのだが、別にこれは死んだわけではないのでカウントしない。

 

 

あと、知性無き魔物をアスティは気にせずに殺してるので、意思がある者を殺すのが駄目なのだとギィは考えていた。

 

 

「それじゃあ、俺は行くぜ」

 

 

ギィは席を立ち、アスティの家である『海の図書館(シー・ザ・ライブラリ)』への、地上からの唯一の入り口である魔法陣に乗った。

 

 

「……一応聞きますが、どちらへ?」

 

 

神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)って奴のとこに」

 

 

そう言うと、ギィは図書館の中から姿を消した。魔法陣で外に出たのだ。

 

 

アスティはギィが居なくなったことを確認すると、身体から力を抜いた。

 

 

「……いつもいきなりなんですよ、あなたは……」

 

 

ポツリと、今はいない想い人に対して愚痴をこぼす。

 

 

アスティの視た未来の中には、最悪の未来がいくつも写し出されている。

 

 

すぐにどうこうなることはなくても、問題解決に時間を掛けすぎれば、すぐに最悪の未来は訪れる未来は多い。

それを回避するには、まず前提としてアスティが介入しない必要があった。

 

 

未来を視れる者の起こす行動は、容易く未来を変えてしまう───いや、()()()()()()()()

 

 

最善だったはずの未来が、最悪の未来に変わってしまうことなど、よくある話だった。

 

 

だからアスティは迂闊に動けない。今回、アッシュを送り出した理由の一つはそれだ。

他にも理由はあるが、それは省くとする。

 

 

視界之王(アルゴス)を得る前のアスティなら、態々配下を作り、向かわせることなどしなかっただろう。

だが、アスティは数々の未来を視てしまった。

 

 

────それが、彼女の行動を妨げるようになった。常に視えてしまうが故の苦悩だ。

 

 

それに─────

 

 

「……今は、視続けないと」

 

 

どういうわけなのか、今のアスティの視れる未来の約半数以上が()()()()()()()()()()()()

アスティの経験上、それはあり得ないことだった。

 

 

彼女にとっての最悪とは、そこまで多くはない。世界のことを考えるのならば相当多いが、それでも視れる未来の三割にも達しない。

 

 

なのに、今では半数を越えている───それも、全て()()()()()という形で。

 

 

それはつまり────

 

 

「早く、見つけなければいけない」

 

 

いるのだ。世界を滅ぼそうとしている存在が。それも、下手をしたらギィやアスティ以上の力を持つ、そんな存在が────

 

 

───視てしまった以上、どうにかして最悪の未来を回避しなくてはいけない。そのためには────

 

 

「……まったく、前途多難ですね」

 

 

アスティはそう呟き、視界をアッシュのいる場所に開いたのだった。

 

 

 




最悪が視えてしまうアスティ。因みに、この最悪は誰にも伝えてません。下手したらそれだけで大分変わってしまうので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騒動。預けられる勇者

遅くなりましたすみません。

繋ぎ回です。次回から頑張ります。

…ようやく投稿できたよ……


───過去、というより前世について、少し考えることがある。

 

 

この世界には転生者という存在がいる。そして、転移者と呼ばれる存在もいる。

 

 

それはつまり、この世界以外にも世界は存在し、その世界から転生してくる者もいる可能性がある、ということだ。

 

 

もっとも、異世界からの転生者は今のところ魔王リムルしか確認できてはいない。

本人もそのように公言しているから、間違いないだろう。

 

 

片方だけを満たす者は沢山いる。だが、両方を備えている者はいないのだ。

 

 

そういう点だけでも、やはりリムル・テンペストは異常であるというのがわかる。

 

 

かくいう私も転生者ではあるが、それが異世界から来たのか、それともこの世界の転生者なのかは不明だ。なにせ、過去の記憶など消え去ってしまっているのだから。

 

 

だからこそ、考えることがある。私の前世は一体どのような人物だったのか、と。

 

 

だから調べてみることにした───いや、調べてみたかったのだが、そんなことよりもしなくてはならないことがある。

 

 

これはもしものための保険ではあるが、()()が力を付けるようにするためでもある。

 

 

それに、敵対するようなことがなければ彼女に危害が加わることもない。

彼女自身も、そのようなことをする人間ではない。

 

 

なので、暫く預かってもらうことにした。

 

 

ジュラ=テンペスト連邦国───魔王リムルに。

 

 

 

▲▼▲▼

 

 

 

「あの、暫くお世話になります」

 

 

『よろしく頼むぜ?』

 

 

ジュラ=テンペスト連邦国・首都リムル・迷宮内にて、幾人の人物が集まっていた。

 

 

この国を統治する魔王、リムル・テンペスト。

迷宮の支配者である魔王ラミリス。

そして、その迷宮のラスボスである『暴風竜』ヴェルドラ。

 

 

それらと対峙するようにいるのは、アスティの配下である聖槍使いのアッシュ。そして、その聖槍そのものであるレジー。

 

 

合計五人(正確には四人)が集まっているのは他でもない、アッシュを『どうするのか』ということだった。

 

 

数ヵ月前、リムルは魔王ルミナスに招かれる形でルベリオスに赴き、そこで目覚めてしまった『勇者』と戦うことになってしまった。

 

 

その力は強大で、竜種である並みのエネルギー量を誇っており、なおかつその技量は超一流。

 

 

幸いスキルこそ究極能力(アルティメットスキル)には及んではいなかったが、それでも強大であることには変わりない。

 

 

下手をすれば、その場にいたリムル、レオン、ルミナスの3人の魔王とその配下は殺されていたかとしれないのだ。

 

 

だが、その『勇者』を倒したのはアッシュだった。自身の切り札を使い、『勇者』の動きを止めることに成功した。

 

 

そう、動きを止める───それだけだ。どういう訳なのか、『勇者』を完全に滅ぼすには至っていなかった。

 

 

それは『勇者』が聖なる存在であることと、そのエネルギー量が原因だった。

 

 

エネルギー量の差と同じ聖力による相殺によって、アッシュの一撃は『勇者』の命に届きはしたが、致命傷となることはなかった。

 

 

だが、アッシュが放った全力は確かに『勇者』を行動不能に陥らせた。

 

 

だからこそ、リムルは咄嗟に動き出せ、暴走する『勇者』───いや、クロエを救出することが出来たのだ。

 

 

アッシュの全力は『勇者』を滅ぼさんとする一撃ではあったが、結果的にリムルはクロエを取り戻し、死んだはずのヒナタはルミナスによって蘇生された。

 

 

今回の騒動は、最良の結果となったのだ。

 

 

────といっても、数ヵ月後には問題がやってきたのだが。

そう、その問題こそがアッシュだった。

 

 

勇者騒動が起こってから数ヵ月後に、騒動が起きた時にいた魔王たちは集まることになっていた。

 

 

途中までは順調であったが、そこに魔王ギィが参戦したことでややこしくなってしまった。

 

 

曰く『そいつ(クロエ)はなんなのか』

 

 

ギィにクロエが勇者である、などと素直に言えるわけがないので、集まった3人の魔王で一芝居打つことになった。

その芝居は成功したわけであるが、ギィがただで転ぶはずもなかった。

 

 

『じゃあ監視役にこいつを任せるぞ』

 

 

そう、その監視役というのが、アッシュだった。

 

 

本来なら、敵かどうかもわからない存在を招き入れるなど認められないが、他二人の魔王が賛同してしまったせいで、リムルは受けざるを得なくなったのだ。

 

 

リムルとしても、クロエの安全のためであるので仕方なく監視役───という形になっている───であるアッシュを連れてきたのだ。

 

 

「(なんでこんなことに……?)」

 

 

『(だいたいは、あいつのせいだろうぜ?)』

 

 

一方のアッシュも、かなり混乱していた。

 

 

勇者との戦闘を終え、無事に五体満足で帰ってくることが出来たというのに、その数か月後にはアスティにギィの元に連れていかれ、挙げ句の果てには迷宮に監視役として置いていかれる、などと────

 

 

とてもではないが、急すぎる。一旦、整理する時間が欲しかった。

……のだが、その要望を聞いてくれることはなかった。

 

 

『(あいつ、アッシュのことはよく振り回すんだよなぁ……)』

 

 

レジーは心の中で、そう呟いた。

 

 

「あー、そうだな……アッシュだっけ?お前はクロエの監視役として来てるんだよな?」

 

 

「あ、はい。建前はそうです」

 

 

「……うん?」

 

 

アッシュは考え事をしていたせいか、リムルの問いかけに自然と答えた。一応は監視役として連れてこられたアッシュであるが、その目的は違う。

 

 

アスティがギィに頼んでアッシュを入れたのであって、そこにギィの思惑とか、そういうのはない。

あるとすれば、本当の意味での監視だろう。

 

 

それ以外のことをギィは求めていないし、アスティもそんなことは考えてなかっただろう。

 

 

アスティがアッシュに求める───いや、させようとしているのは、彼女を強くさせることなのだから。

 

 

「…じゃあ本当は?」

 

 

「師匠からは

『ここで学べそうなことは、全部覚えてきなさい。教えることが出来そうなら、教えるのもアリですよ』

と言われました」

 

 

アッシュはアスティに言われた言葉をそのままリムルに伝えた。

彼女としては、教えても問題ないことと考えたからだ。

 

 

「あー、うん。じゃあ、その師匠ってギィのこと……だよな?」

 

 

「いえ違います」

 

 

「え?違うの!?」

 

 

リムルとしては、てっきりギィの配下かなにかだと考えていたのだ。

ギィの配下なら、あれだけ強くてもおかしくはない───そう考えていた。

 

 

「ふーん?なら、あんたってアスティの配下なわけ?」

 

 

「はい、そうです」

 

 

「ん?ラミリス、お前なんか知ってるのか?」

 

 

ラミリスの言葉に疑問の声をあげるリムル。ラミリスは何でもないようにリムルの疑問に答えはじめた。

 

 

「リムルは知らないんだろうけど、アスティはギィと同じくらいヤバいやつなんだよ?」

 

 

「ギィ並みって……そんなに強いのか?」

 

 

「我もその名は知っているぞ。確か、我が姉であるヴェルグリンド、ヴェルザードをまとめて叩きのめしたと聞いたぞ」

 

 

「はっ!?おま、それってギィよりもヤベー奴じゃねぇのか!?」

 

 

「えっと、それは師匠曰く『相性が良かっただけ』だそうで……」

 

 

「相性が良いだけで竜種二体に勝てるわけねぇだろうがっ」

 

 

『そうだろうなぁ。普通はそうなんだろうけどなぁ……あいつだからなぁ?』

 

 

普段はツッコミを入れられる側のリムルにしては珍しく、アスティの話を聞いてツッコミ役になってしまっていた。

 

 

アッシュもかつて聞いた話を思い返し「師匠の理不尽さは昔からだったんですね…」と、遠い目をしていた。

 

 

中々に混沌としてきていた。

 

 

「よぉし、そろそろ話を戻すぞ、うん」

 

 

「あっ、はい」

 

 

リムルは逸れかけた話題を元に戻し、改めてアッシュに問いかけた。

 

 

「しばらくの間、アッシュをうちの迷宮預りにするんだけど、そこは異論ない?」

 

 

「はい、ありません」

 

 

「じゃ、その迷宮の管理をしているのはそこのラミリスだから、ここにいる間は部下兼助手として頑張ってもらうから」

 

 

アッシュに異論はないのか、何も言わずにコクりと傾いて返答を返した。

 

 

「じゃ、あとは任せた」

 

 

「任せときなよっ。このあたしがズバッとやったげるからさ!」

 

 

何を、とは誰も言わなかった。リムルも薮蛇になりたくはなかったのか、アッシュに聞けるだけのことを聞くと、すぐさま部屋から出ていった。

 

 

『あいつのことだから、安全だと考えてここに送ったんだろうが……あいつ、こういう所では過保護だからなぁ』

 

 

一人、いや一つ、誰にも言ったわけでもない言葉を、レジーは吐いたのだった。

 

 

 

▼▲▼▲

 

 

 

「アッシュよ」

 

 

「はい、何でしょうか?」

 

 

「アスティからも聞いてはいると思うが、その『聖槍』は特別なものだ」

 

 

「……」

 

 

「下手をしたら、()()()()()()()()()……それは分かっているな?」

 

 

「…はい。師匠からは慎重に扱い、完全に制御出来るようにしろと言われてきました」

 

 

「うむ。その危険性をわかっているのならばいい。

だが、一つ教えておかなくてはならないことがある。それは、アスティでさえ知りえないことだ」

 

 

「師匠も……?それは、一体……」

 

 

「うむ。心して聞け。その『聖槍』は──我が兄、ヴェルダナーヴァが遺した()()()()だ」

 

 

「記録、媒体…?」

 

 

「うむ。それは、世界の始まりから終わりまでを記録する槍。過去と未来を確定付けるためのものだ。

まぁそれ単体では、ただ記録するだけの槍でしかないのだがな」

 

 

「ヴェルダナーヴァは、なぜそのようなものを……?」

 

 

「知らん」

 

 

「え?」

 

 

「だから、知らんと言ったのだ。我が兄は、その槍のことしか教えてはくれなかったのだ。恐らく、我が姉たちにも教えてはいるのだろうが……この槍のことを伝えたのか、それとも()()()()を伝えたのか……それは我にもわからん」

 

 

「……」

 

 

「我に分かるのは、我が兄が『聖槍』を使って何かをしようとしていたことだけだ」

 

 

「そう、ですか……教えてくれて、ありがとうございました」

 

 

「うむ。我も、我が兄の遺した秘密は気になるからな。何か分かれば、我に言うがいい」

 

 

「えっと……その……その時は、頼らせてもらいます」

 

 

 

 

 

 

『記録媒体……か。『聖槍』は謎が多い究極能力(アルティメットスキル)だったが……なるほど、これで謎は一つ解けたわけだ』

 

 

『……ヴェルダナーヴァ、お前はこれを使って、何を成そうとしたんだ……?』

 

 

 

 

 




謎が増える。アスティでさえ知り得なかった槍の本質。

今ここで言っちゃうと、究極能力には質量がないはずなのに、この槍にはあります。

独自設定、独自解釈なので、原作にはないものと思ってください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間。真実と決意

だいぶ遅れました。そして幕間です。

今回は短く、アスティが聖槍の本質に気付く話です。


「なるほど、聖槍にそのような機能が……」

 

 

アッシュからの報告を、私は念話を通して聞いていた。

 

 

聖槍───それは、謎が多い具現化した究極能力(アルティメットスキル)だった。

 

 

私でさえも解析困難であり、それこそヴェルダナーヴァでもなければ何もわからないものだった。

 

 

その聖槍を、偶然にも、ヴェルドラが知っていた───いや、偶然なわけがない。

 

 

ヴェルダナーヴァがヴェルドラに教えていたということは、もともと隠す気がないということなのだろう。

 

 

つまりは、不特定多数の存在が、聖槍を探ろうとするであろうことを予測していた、ということになる。

 

 

聖槍の本当の機能……それを踏まえた上で考えるとするならば。

 

 

「…やはり、足りませんね」

 

 

聖槍に連なる究極能力(アルティメットスキル)は、他にも存在する。

 

 

恐らく、最低でもあと二つ、最大三つは存在しているはずだ。

 

 

だとして、残りの究極能力(アルティメットスキル)は一体どのようなもので、何処にあるのか……そして。

 

 

その究極能力(アルティメットスキル)を使って、ヴェルダナーヴァは何をしようとしていたのか。

 

 

「……記録媒体、か」

 

 

記録媒体───ヴェルドラはそう言った。

 

 

何を記録している?

記録して、どうするつもりなのか?

なぜ具現化している必要がある?

それに、どうやって神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)の体質を貫通した?

 

 

「……いえ、まさか……?」

 

 

聖槍には、謎が多い。

 

 

その原理はわかっていないことの方が多く、アッシュが扱えているのは、あくまで上辺の力でしかない。

 

 

レジーでさえ、あれを完全に制御するのは不可能なのだ。それは、アスティがやったとしても同じこと。

 

 

いや、そもそも、アスティでは聖槍を扱うことは出来ない。あれはアッシュのスキルであり、そのアッシュ本人も聖槍を詳しくは知らない。

 

 

それに───聖槍は、アッシュに突然宿った力だった。

何の前触れもなく、いつの間にか、突然に。

 

 

「……記録媒体……だとすれば……アッシュが扱えるのは……

……理想之王(アヴァロン)?」

 

 

アスティは、自然とアッシュの獲得した究極能力(アルティメットスキル)の名を口に出していた。

 

 

「あのスキルは……改めて考えてみれば、おかしい」

 

 

自分の体内に、異次元の世界を創る?

明らかにおかしい。いや、できるはずがない。

 

 

ヴェルダナーヴァでさえ、世界を創造するのに膨大なエネルギーを必要としていた。

 

 

真似るだけなら、ある程度エネルギーは削減されるかもしれない。だが、そうであっても創るのに必要なエネルギーは膨大。

 

 

アッシュに聞いたところ、生物はいないが、環境はまったく同じらしく、魔素も漂っていたらしい。

 

 

ならば尚更不可能だ。環境を完璧に再現するなど……一体、何処からそれだけの世界創造に足るエネルギーを持ってきた?

 

 

「……繋がっている、とでも言うのでしょうか?」

 

 

情報は聖槍が。

 

 

創造は理想が。

 

 

そして、エネルギーを残りのスキルから持ってくる。

 

 

「ヴェルダナーヴァ……とんでもないものを遺していきましたね」

 

 

もしも、理想と聖槍が本質を同じとするスキルで、アスティが考えている通りならば………

 

 

()()()()()()()()……といったところでしょうか」

 

 

扱いを間違えれば、今の世界は()()()

 

 

存在していた過去は崩れ、未来の可能性は掻き消され、現在に生きている命は、全てを忘れる。

 

 

────そんな未来が、視えてしまった。

 

 

 

「……最悪ですね。

滅びの原因の大部分はこれだった、というわけですか」

 

 

まさか、滅びの原因そのものを育ててしまっていたなんて────

 

 

「好都合です。今ならば修正も間に合う」

 

 

今の段階で気付けて良かった。もしも気付くのに遅れてしまっていたら、本当に取り返しのつかないことになっていたかもしれない。

 

 

だが、今なら大丈夫だ。

 

 

「最悪の未来───そんなもの、私が否定する」

 

 

そんな未来など、認めない。

 

 

私は、その最悪を回避してみせる。




世界が滅びかねないという。傍迷惑な話ですよね。


……遅れてすみませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。