TS小娘とふた姉の日常 (エルフスキー三世)
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第1話
R18と迷ったけど、エロは難しいのでこっち!!
座り心地の良いソファーでソシャゲをしていたら玄関から音がした。
このマンションの主人、御堂京子が学校から帰ってきたのだ。
「シオンちゃ~ん。ただいまぁ~うふふ~いつ見ても愛らしいわね」
有名学校の制服に作りの良い鞄。
両手を広げ、踊るようにリビングに入って来た京子は、私の隣に座ると抱きついてきた。
「う~ん、いい香り、柔らか~い」
私はそれを無視してスマホを操作しながら口を開く。
「お帰り京子……ちょっと暑苦しいから離れて」
「いやよ! シオン成分が全然足りてないんだから補充させて!!」
頬ずりしながら私の体を抱きあげて、ぬいぐるみのように太ももの上に乗せる京子。
腰に腕を回され抱きしめられる。
小柄な私は彼女のなすがままだ。
ボリューミーな乳の感触を背中に感じた。
「……好きにすれば?」
「そういうシオンのクールに見えて、本当は優しいところが、お姉さんは好きなんだな~」
誰がお姉さんだ?
というか、どうせ私には拒否権はないだろうし。
私の首筋に顔をうずめて犬のようにクンクンしている京子。
止めてほしいかな、非常にくすぐったい。
そうやってしばらくしていると彼女の鼻息が荒くなってきた。
「ね、シオン……その、い、いいかな?」
京子の吐息と余裕のなさそうな問い掛けである。
本当は気がついていた。
先ほどから私のお尻に
「……好きにすれば?」
スマホを置き、ため息をつく。
京子は私の体を軽々と抱きあげると凄い勢いで寝室へと向かう。
流石にリビングで致すほど理性をなくしてはいないらしい。
私は運ばれながら再びため息をついたのだ。
私の今の名前はシオン……つい一年ほど前までは高校に通う普通の男子学生であった。
そんな私の日常が変わったのは両親が事業に失敗してからだ。
二人は方々から借りた多額の借金だけを残し、私を置いて姿をくらました。
彼らにとって、私はその程度の存在であると幼い頃から理解はしていた。
それも仕方ないと割り切れるくらい、冷めきった親子関係だったと思う。
問題は彼らの残した負債である。
私は彼らの子供ではあるが、借金の支払い自体は拒否できるはずだった。
しかしその権利を行使する間もなく、謎の男たちに拉致され、どこぞと分からぬ建物に連れ込まれて監禁された。
薬を飲まされてから注射を打たれ、そして体をいじられた。
それからの記憶は曖昧だが……死ぬほどの激痛を延々と味わったことだけは覚えている。
どうやら私は非合法の薬物、そして手術の実験台にされたらしい。
性転換して完全な女になってしまったのも、その実験のせいだとか。
助けてくれた彼女……御堂京子からはそう聞いている。
私が意識を取り戻したのは彼女の親族が経営する病院の個室であった。
何人もの医師に何度も診察された。
私が発見された時の詳しい話をされ、私が覚えていることを何度も聞かれた。
あるいはその中には警察の人間も混じっていたのかもしれない。
あの頃の私は、それを認識できるほど意識が明瞭ではなく、まだ夢の中にいるような心地であったから。
その後、御堂家といくつかの契約をして、その見返りとして生活の支援をしてもらっている。
借金のかたはともかくとして、私をこんな体にした犯人グループは不明だ。
……捻くれているけど、御堂家が仕組んだ可能性も一応考慮には入れている。
御堂家とは地元でも有名な名士で、国でも有数の製薬会社を経営する古くからある名家だ。
御堂京子はその家の跡取り娘。
そして、私が以前通っていた学校のクラスメイトだった。
同じクラスとはいえ、彼女と私はそれほど親しい仲ではなかった。
しかし御堂京子という人間を語るのはそれほど難しいことではない。
彼女は御堂家の子女という以上に学校では有名人だったから。
艶やかな長い黒髪に切れ長の潤んだ瞳の和美人な顔立ち。
学問にも運動にも優秀な文武両道で、まさしく才媛。
日本人がイメージする大和撫子そのものずばりといったところだ。
しかも才能と資質を誇るでもなく、誰にでも分け隔てなく気さくに接する性格である。
これで人気者にならないはずがなかった。
他人に対して無関心な私でも、初めて彼女の存在を知って、こんな二次元から出てきたような人間が実際にいるんだと驚いたものだ。
正直に言えば好意をもっていた。
異性として、というよりは人間として憧れていたと言ってもいい。
この体になって病院で目を覚まして最初に見たのは京子だった。
意識も朧げで夢でも見ているのかと思った
カーテン越しの日の光を浴びて微笑む彼女はとても清らかで美しく、絵画に描かれた天使のように見えた。
あるいは……地獄のような体験をした私が狂わずに今を生きているのは、そのときの彼女の姿に信仰心にも近い感銘を受けたからなのかもしれない。
そんな彼女が……
「シオン、そごいいっ!? そごっ! お”お”うぅぅぅぅぅ!!」
乙女がだしてはいけない類の声を先ほどからあげてらっしゃる。
彼女の寝室。
京子はキングサイズのベッドで仰向けになって寝ていた。
私はマットレスの上でヨッ、ホッ、ハッとバランスを取りながら、彼女のおっききしたアレをワイン作りをするような丹念さをもって踏みつけていた。
「シオン! もっと、もっと強く踏んでぇぇぇぇ!!」
「………………」
京子の要望に応えて、ぬか漬けつけるような丁重さでギュギュしてあげた。
「あ”ぁぁぁ!! い”い”っ!! シオンのちまっこくて柔らかい足裏たまらないぃぃぃ!!」
「…………変態、死ねばいいのに」
京子の狂乱に思わず心の声がもれてしまった。
「お”お”ぅ!? お”お”お”ぉぅ!? ひ、ひぐぅぅぅぅぅぅ!!」
ふぅ……どうやら引き金を引いてしまったようだ。
私に見下ろされたまま、京子は男のような野太い汚ったねぇ声だして……すまん、これ以上は語りたくはない。
一人暮らしの京子の世話をする。
これが御堂家に支援してもらうための条件の一つであった。
世話と言っても仕事は簡単な家事くらいで養ってもらっているのが現状だと思う。
問題の雇い主である御堂京子。
彼女は股間にナニがついているけど男ではない……正確に言うと女でもなかった。
両性具有――ようするに、ふたなりってやつである。
御堂家は昔からそのような特殊な人間が度々でる家系で、薬物関係に強いのも元々はそれらの奇病を研究をするためだったとか。
まあ、二次元から出てきたかと思われる御堂京子という人間は、その体も二次元じみていたといったところだ。
そのことを京子に打ち明けられたときは驚いたが、いつも自信満々な彼女が見せた心細そうな顔に、力になってやりたいと思ったのも確かである。
自身の転換してしまった体と、通じるものを感じたからかもしれない。
だが少なくとも、こんな方向でのお世話を頼まれるとは思ってもみなかった。
「シオンの無表情な見下し眼って、ゾクゾクして本当に反則ね!」
足踏みプレイ後に本戦を交え、そして存分にぱんぱんして満足した京子が、肩に乗せた私の頭を撫でながらそうピロートークする……ふん、しらんがな。
ふう……書いて満足した
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第2話
京子 ……165㎝のナイスボディ
一部改稿しました
「ああ! もうこんな時間だっ!!」
学生である京子には忙しい朝である。
玄関で靴をはいていた彼女は壁掛けの時計をみて悲鳴じみた声をだす。
私は鞄を手渡しながら、ため息交じりに呟いた。
「だから、朝は止めておいた方がいいって、いつも言っているのに?」
「う……だ、だってそれは、シオンが可愛すぎるからいけないのよ!!」
「意味不明だし……元男として言わせてもらえば、京子は少し節度がなさすぎじゃない?」
「え、そ、そう? そうなのかしら!?」
いつもの言い訳にもならない言い訳にキツメの指摘をしてみた。
私の言葉に衝撃をうける京子。
まあ、ようするにそういうこと。
京子を起こしに行く→起きない→揺する→ベッドに引きずりこまれる→ヘッーイ!→ぱんぱんぱん
最近こんな負のスパイラルが続いている。
私が悪いというので、それでは目覚ましで起きてと言うと京子は断固反対する。
ちなみに夜も大抵致しているのだが……いったい私にどうしろというのだ。
覚えたては猿になるとはよく聞くが、私たちは明らかに度が過ぎているのではないだろうか?
そんなことを考えていたら体に微かな震えがきた。
下腹部にじんわりとした事後の熱がわずかに残っている……。
やはり、強く拒否できない私が悪いのだろうか?
「本当に遅刻するから、早く行ったほうがいいよ?」
「あ、そうね、それじゃシオンちゃん……んー‼」
京子は目をつぶると唇をタコのようにすぼめて顔をつきだしてきた。
いってらしゃいのキスの要求だ。
「んー! んー! んー!!」
「………………」
ちゅ、ちゅ、ちゅと京子は頬を染めて突きだしている。
とても面白顔だけど、それでも見れる美人さんなのは流石です。
というか、毎度思うけど、どこの甘々バカップルだよ……。
……ちゅっ。
「えへへ~、それじゃいってきます!」
「はいはい、いってらしゃい」
京子は子供のような笑顔を見せると、玄関のドアを開けて外に飛び出していく。
小さく手を振って見送っていると何とも言えない気持ちになった。
京子と生活するようになってから、私の中の彼女のイメージはどんどん塗り替えられていく。
幻滅することもあれば、そうでもないこともある。
私しか知らない新鮮な発見というのだろうか……一概に悪いとは言えないのが難しいところだ。
ただ御堂京子という少女は、どんな方向からでも魅力を感じさせる人間だとは思う。
一通りの家事を済ますと十一時半を過ぎていた。
マンションの一室は二人で生活するには広すぎるスペースだけど、二人分の家事はそれほどの労働でもない。
子供のいない専業主婦は暇をもて余すというけど、元男の私がこの年で実感してしまうのはどうなんだろう?
「夕飯の下ごしらえはすんでるし、お昼は素麺にしようかな」
男の時から一人暮らしと変わらない……そんな家庭事情だったので最低限の家事や料理はできた。
この生活を始めてからはレパートリーを増やすのも兼ねて、お昼に色々と手の込んだ料理を作っていたんだけど最近は手軽にできるものが多い。
「よし、今日はツナ素麺にしよう」
そうフィーリングで決め、掃除に抜かりはないかリビングを見渡すと壁にかかっている鏡に意識をもっていかれた……。
映っているのは自分の姿なのに怖いもの見たさに近い感覚であった。
アルビノじみた真っ白な髪と色素のうすい肌。
顔立ちは日本人離れしていて、しかし白人とも微妙に違う。
一番近いのはビスクドールだろうか?
造形が整いすぎて人形じみて、まったく変らない表情が、その印象に拍車をかけていた。
息をつく、最近はため息が癖になっていて我ながら印象が悪い。
私はキッチンに入った。
そこで、テーブルに手提げバッグが置いてあることに気がついた。
「あれ、これは京子のお弁当……忘れていったのかな?」
念のため開いてみたら、やはり今朝作ったお弁当と保冷材が入っていた。
「朝バタバタしてたから」
苦笑して、そして届けようかなとそんな考えが浮かんだ。
「あれ……?」
その自然すぎる思考に自分で驚いてしまう。
この暑い日差しの中、苦労して今から届ける必要はないはずだ。
京子もお弁当がなかったら普通に学校の食堂を利用するはずである。
このお弁当も私が食べれば無駄にはならない。
ならないはずなんだけど……なんだろう、この奥歯にものが引っかかったような感じは?
「私は……もう一度あの場所を……学校を見てみたい?」
思いつき、自身に問いかけるように口に出して気がついた。
私は男のときに通っていた学校を見たくなったのだ。
特に思い出深い場所ではない。
入学して三ヶ月もいなかった学び舎だ。
そう、今の私にはなんのしがらみもない場所である。
しかし、それでも……。
「よし、いこう‼」
決意すると心が高揚していくのを感じた。
私はバッグをつかむと颯爽と玄関に向かう。
玄関の棚に置いてあった日焼け止めを手早く塗り、靴を履いてから日よけ帽子と日傘のどちかを使うか迷い、帽子を被って行くことにした。
御堂京子は驚くだろうか?
なにしろ私は基本的に出不精な人間であるから。
そんな私が学校まで来たら彼女はどんな顔を見せてくれるだろうか?
私は気合いを入れるポーズを作ると、玄関のドアを開けて踊るように外に飛びだしたのだ。
最初は普通に歩いていたのだが、遠くから学校の校舎が見えるといつのまにか駆け足になっていた。
息を切らせながら校門に辿り着いて気がつく。
京子に連絡するための手段……スマホを持ってこなかったことに。
付近に公衆電話はない……最悪なことにサイフもマンションに置いてきてしまった。
この学校にとって、今の私は部外者である。
中に入っていくような勇気は……私にはなかった。
「どうしよう」
校舎の大時計を見つめ、バッグを手に、私は項垂れて途方に暮れた。
◇ある男子学生の場合。
彼はお昼休みを告げるチャイムが鳴ると同時に校門へと急いだ。
比較的自由な校風であるこの学校は、お昼休みに周囲のお店を利用することを許可されていた。
もちろん節度を守ってという注意書きつきだが。
二年生にもなると美味しいお店も発見する。
バイト料が入ったばかりの彼は久しぶりに担々麺を食べようと心が躍っていた。
このために朝は少なめにしたので若い胃袋は激しくすいていた。
大盛に豚の角煮をのせ、海老春巻きも頼もうと彼は走りながら考える。
人気のお店なので急ぐ必要はあるがスタートダッシュがよかったのか、彼以外の学生の姿はまだ見えない。
彼はこの分だと余裕だと思いながら、校門の影に誰かが立っていることに気がついた。
中学生ほどの小柄な女の子のようだ。
まず目についたのは大きな日よけ帽子と手提げバッグ、それから服装。
暑い日中だというのに、黒い長袖のワンピースと白のエプロンを着けていた。
彼は極一般的な男子高校生である。
だからこそ、その服装が何かはすぐに理解できた。
「メイド服!?」
思わずでた彼の大きな声に、女の子はハッとした様子で顔をあげた。
「……うっ!?」
思わず呻いた。
彼は一瞬で目を奪われた。
それも仕方がないことである。
なぜならば、彼が見たのはあまりにも美しい少女だったから。
純白の髪に透き通る肌、そして輝く紫水晶の瞳。
その容姿は可憐で儚げで、そして愛らしかった。
人形のように表情に乏しい……ゆえに恐ろしいくらいの素の美人さが際立った。
まるで二次元から現れた妖精だと彼は思った。
クラスメートの御堂京子が和美人の完成形だとしたら、この少女は西洋美人の完成形だろうか?
彼はサブカルが好きで年に二回は必ず幕張にでかけている。
その彼の目からしても、目の前の少女はコスプレと呼べるレベルを遥かに超越して、普段からメイド服を着ているような自然な落ち着きようだった。
「あの、すいません……今よろしいですか?」
鈴が鳴るような美しい声色だった。
少女のイメージ通りすぎる声質に彼は慄き、首を激しく上下に動かした。
何だこの子は?
何なんだ!?
二次から飛びだして地上に現れた天使なのか!?
「あの、忙しくなかったら、お願いしたいことがあるのですが?」
首をわずかに傾ける仕草も愛らしかった。
彼は何も言葉がだせず、さらに激しくヘッドバンキングした。
そのままロックコンサート会場に突入できるテンションである。
彼のそのありさまをみた少女は少し引いていた。
「あ、ありがとう……二年C組にいる御堂京子に伝えて頂けますか? シオンがお弁当をもって校門でまっていると」
彼はスマホを取りだして少女にサムズアップした。
そして教室で弁当を食べているはずの友達から、御堂京子に伝えてくれるように電話したのだ。
彼は楽しみにしていた担々麺を食べ損ねた。
しかし後悔はない。
なぜなら少女に……シオンにお願いして、スマホのコレクションの中に、メイド写真を収めることを成功したのだからだ。
シオンの普段着は京子の趣味でクラシックメイド服です
外用の服もありますが、シオンは着替えるのを忘れていました
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第3話
京子はすぐに来てくれた。
そして凄く驚いた顔をしている……よしっ‼
私は目標を達成できたことにとりあえずの満足を覚えた。
連絡してくれた男子生徒は小森君といって、メイド服が珍しかったのか写真を撮らせてくれと熱心にお願いされた。
お礼もしたかったので、写真は公開せずに個人使用のみでということで引き受けた。
すると彼は顔を真っ赤に染めながらスマホで写真を撮っていたが、いったいどうしたというのだろうか?
「まさか来るとは思っていなかったから本当に驚いたわ……小森君には変なことされなかった?」
「うん? 京子が来るまで付き合ってくれて、とても親切だったよ」
もし男のまま学校に通えていたら、いい友達になれたかもしれない。
「シオンって女として、ちょっと……ううん、ところでなんでメイド服で来たの?」
「それはその、色々と事情があって……」
初めてのお使いをする子供のようにはしゃいで、スマホやサイフどころか着替えるのも忘れていましたなんて……京子には絶対言えない。
「事情……ハッ!? 私をよろこば興奮させるためにっ!?」
「……………………」
何を妄想したのか、こん小娘がぁ~と、顔をニチャァリ緩めて私の腰に手を回す京子。
才媛が人様に見せていいツラじゃない……周りに誰もいなくてよかった。
そんな話をしながら学校の中庭に向かっていた。
お弁当を渡して帰ろうとしたら、折角だしお昼を一緒に食べようと言われ、そして学校のほうには話を通してあるからと連れてこられたのだ。
ここまでの道のり、すれ違った生徒には「えっ!?」と例外なく驚いた顔で振り返られる。
『ほらほら、あの子』『うわ、本当にメイドさんだ!?』『え、コスプレ? 外人? 何かの撮影か?』
こちらを指さして騒いでいる者もいる始末。
学校内で幽霊のような容姿の少女がメイド服を着て、しかも御堂京子と一緒に歩いているんだから注目されるのも当然か。
中にはスマホで写真を撮る者もいたけど……怪談系サイトなどへの投稿は勘弁してほしい。
同じマンションに住む幼稚園児には、お化け女と呼ばれ泣かれたことがあるんだ。
まあ、顔は日よけ帽子で隠れてるし、いいか。
それに、この雰囲気に懐かしいものを感じていた。
明らかな異物……野良犬が学校に入って来ただけでも大騒ぎできるのが学生というものだから。
「カオルと静子だけど大丈夫よね?」
「うん、その二人なら気兼ねしないですむ」
京子の幼馴染の二人には、私は一緒に生活してる遠い親戚として紹介された。
マンションにも何度か遊びに来ているので顔見知りである。
ちなみに私はロシア人クォータの日本生まれの日本育ちで、体が弱いため最近まで田舎で療養していた薄幸の少女という、よく意味の分からない設定が盛られていた。
やがて、中庭が見えてきた。
洒落たブロックの床と芝生、花壇とベンチ、そして中央には噴水が置かれている。
二つの校舎の間に挟まれる形で位置している場所だが、日当たりは悪くなく広いスペースのため、お昼休みになると休憩する生徒たちで賑わうのだ。
男の頃には縁のある場所ではなかったが……でも、噴水は校舎から眺めることもあったので懐かしさはある。
「おーい! 京~! シオっち~! こっちこっち!!」
声がする方に顔を向けると、日陰になっている芝生にレジャーシートがひかれていた。
その上で飛び跳ねて手を振る褐色肌の女の子と眼鏡の女の子が座っている。
中庭で休憩している他の生徒たちから注目される。
正直……恥ずかしい、です。
「……カオルは相変わらず元気だね?」
「ふふ、そうね、いつも通りよ」
京子は手を振り返しながら二人の元に向かう。
私もその後ろをついていった。
周りの視線はもう気にしないことにした。
先程から大声だしているボーイッシュなスポーツ系少女が尾崎カオル。
落ち着いたお姉さんといった感じのぽっちゃりな文学系少女が津村静子だ。
「おーシオっち、相変わらず、いい感じで表情筋が死んでるな!」
「こらカオルちゃん、失礼でしょう! シオンちゃん、お久しぶりね~」
「こんにちは、お久しぶり」
指をグーパーしながら、笑顔の二人に挨拶。
それと顔が無表情なのはデフォルトですのでお気にせず。
筋肉は生きているんだけど、動かないのは精神的なものらしい。
「京子ちゃん。シオンちゃんのご飯買ってきたけど、惣菜パン二個で足りるかな?」
「二個? 静~。シオっちは
「大丈夫よ静子、私のシオンはカオルほど馬鹿食らいじゃないから」
「なっ!? 花の乙女に対してそれは酷いぞ京っ!! シオっちも何か言ってくれよう?」
京子の突っ込みに文句を言うカオル。
そして泣き真似しながらこちらに振られたので、無難に返答した。
「カオルは運動しているから無問題。むしろ細すぎると思う」
「お……へへっ、流石シオっちは分かってるじゃん。ささっ、意地悪な京は無視して、お姉さんの元にきなさ~い」
引っ張られてカオルの太ももの上に座らされた。
京子とは違う、やや硬い座り心地と微かな制汗剤の匂い。
少しだけドキドキ、無表情だけど。
むうっと、頬を膨らませる京子とそれを苦笑して見守る静子。
いつもは優等生といった雰囲気の御堂京子が、この二人の前では私に接するのと近い無防備な感じだ。
幼馴染……三人の少女の関係は良好なものだと私にも分かる。
「カオル? シオンは私のだから、あまりべたべたしないでちょうだいね?」
「へへっん、やだね! げへへ~シオっちってミルクの良い匂いがするな。あ~癖になる~!!」
私の胸をやわやわと揉みながら、京子に舌をだすカオル。
意外と繊細な指使いがくすぐったくて、おふっと変な声がでてしまう。
うぐぐぐと顔を歪める京子と、もうっといった感じでなだめている静子。
うん……三人はとても良い関係だと思うんだ?
そして、私はなぜか静子の膝の上に座らされていた。
自分でも何しているんだと思うけど、彼女たちにとって私は愛玩するぬいぐるみポジションらしい。
京子の膝の上は遠慮しておいた……突発な野外プレイなんて冗談じゃない。
「ああ、うん……なんかカオルちゃんの言うことも少し分かるかも?」
頭を撫でられ、お姉さん的な微笑みを浮かべる静子にそう言われた。
「静子、私は重くないかな?」
「うんー軽いよー。だからシオンちゃんはもっとご飯食べたほうがイイネ?」
彼女お手製の一口ハンバーグを口にあーんされる……もぐもぐ。
うん、いい感じでタレがきいている。
小さなお弁当箱を覗くと、星型の人参とか彩鮮やかな野菜炒めとかも入っていた。
静子は料理が上手いな、あとで作り方を教えて欲しい。
「へいへい、シオっち。うちのオカンの唐揚げも食べるかい?」
そう言って男子高校生が使うようなサイズの弁当箱を見せるカオル。
彼女の母親がつくるお弁当は唐揚げにホウレン草炒め、卵焼きやヒジキなどのバランスの良いおかずで綺麗な盛り付けがされている。
ふむ……参考になるな。
「欲しいけど、食べてもいいの?」
「いいよーパンを半分も貰ったからな」
私に、唐揚げをあーんしながら言うカオル。
運動部のカオルにはこの量でも多分物足りないと思うんだけど、くれるというなら遠慮なく。
もぐもぐ……うん、下味が効いていてこちらも美味しい。
「くっ!? 二人して私のシオンにあからさまな餌付けして……私もしたいけど、これはシオンが私のためだけに、私に対しての愛情を込めて作ってくれたお弁当!! な、悩ましいわ!?」
京子はそんな感じで一人ハッスルして、うぎぎぎと悔しがっていた。
私たち以外の者には非常に珍しい御堂京子の姿だろう。
でも、ごめんよ京子……そのお弁当は、ほぼ冷凍物で作った手抜きなんだ。
「京は、シオっちを溺愛しているなぁ」
「京子ちゃんは一人っ子だからね、仕方ないよー」
「ふふ、まあね。私とシオンの仲は誰にも引き裂けないラブラブだからね?」
ふふんっと宣言する京子。
ええ、まあ、愛されているね……二人が想像するのとは違う意味で。
「二人とも結婚式には呼ぶから、祝辞を考えておいてね?」
「あーはいはい、もう、この妄想女どうにかしてくれよシオっち」
「うふふ、シオンちゃんのウェディングドレスは素敵だろうなぁ」
呆れ顔のカオルとウットリした表情の静子。
二人とも冗談だと思ってるようだけど、この人は半分くらいは本気だよ?
お弁当も食べ終わり、静子がもってきてくれたお茶を飲みながら、そんな会話をノンビリとしていた。
「いい時間ね。そろそろお開きにしましょうか? と、何だか人が集まってきてる……ごめん二人とも、シオンを校門まで送っていくわね」
「あいよ、シオっち、近いうちにどっかに遊びにいこうなー?」
「シオンちゃん、帰り道には気をつけてね~」
「うん、また今度」
指をグーパーして別れの挨拶。
そして中庭の周りを見ると、確かにきた時より人が増えていた。
視線を辿るに、どうやら私を見にきてるようだ。
「この学校の人間は、私の見た目がそんなに珍しいのかな?」
外人なんて今時珍しくもないが私はメイド服を着ているから……。
すると三人は顔を見合わせて、そして……。
「シオンはもう少し、女としての自覚を持った方がいいと思うわ」
「今まで田舎にいて同世代の子がいなかったんでしょう? 仕方がないよ~」
「まあ、自分の容姿に自覚なしってのが、シオっちらしいと言えばらしいな」
苦笑気味にため息をつかれた……ぬう、解せぬ。
シオンは色々とあって自分の今の容姿を不気味だと思っています
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第4話
「シオンお嬢さま、今宵もお美しゅうございます」
「……」
私の雇い主である御堂京子が、夏のアスファルトの上に落ちて溶けかけたアイスクリームのようにデレデレな顔をしていた。
ファミリー向けマンションの一室。
深夜の寝室である。
私は普段の古風なメイド服ではなく、白いドレスを着けていた。
フンスフンスと鼻の穴を大きくした京子に手渡され、熱量をともなった肉食獣の上目使いというのか……オブラートに包んで言うと子供のような純粋なまなざしで熱く見つめられたのでしぶしぶ着けた。
ゴシック風ドレス。
俗にいうゴスロリというやつでフリフリが沢山ついたひどく女の子、女の子したデザインだ。
アニメやゲームなどで日常的によく見るそれを、まさか自分が着る羽目になるとは思わなんだ。
白い布地にチョーカーの赤リボンのワンポイントが京子のこだわりだろうか?
というかこの前、普段は使わない私専用機になっているゲーミングパソコンで、キーボードを鬼のように叩き検索していたのはこれを通販で買うためか。
京子宛てにきた小包を渡したときのあの狂乱っぷりは凄かったもんな……中身がコレだと知っていたら人知れず闇に葬ったというのに……。
しかし既製品にしては寸法がぴったりで、まるであつらえたような着心地だけど……まさか、オーダーメイドで頼んだわけではないよね?
こんな家で
御堂家の財力を考えると、あながち冗談にならないのが恐ろしい。
「ああ、純白の絹のような髪に雪のような肌。紫陽花色の瞳に気品あふれる美貌……シオンお嬢さま、あなたはこの世の者とは思えぬほどお美しい」
「……」
なんだか、家ではいつもテンションの高い京子だが、今夜はそれに輪をかけて絶好調である。
こういうときは京子に付き合って乗ってあげるのがパートナーとしての礼儀なんだろうけど……生来のノリの悪さはいかんともしがたいのです。
キングサイズベッドの縁に耽美かつアンニュイな感じで腰掛ける私(京子のリクエスト)の前に、燕尾服を着た京子が片膝をついてかしずいている。
長い黒髪を後ろに流して縛った男装の麗人って感じで、コスプレの域を出ていないけどよく似合っていた。
「花の女神のようなあなたの可憐な姿の前では、天上に輝く月すらも自らの敗北を悟り、雲のベールでその身を覆い隠すでしょう」
「……」
なるほど、私の容姿はお月さまを超えるのか……月の地表ってすっごいぼこぼこしてて美しいって感じじゃないと思うんだけどなぁ。
「これほど立派なレディになられましたことを、幼いころからあなたを見守り、そばにお仕えしてきた私は誇りに思います……」
「……」
私がお嬢さま役で、京子が執事役をやっているつもりのようだ。
個人的疑問だけど、こんな爆笑必須なセリフをずらずらと並べていても、そこはかとなくさまになってしまう京子のそれは美形補正と言うものだろうか?
「ああ、しかしシオンお嬢さま……そんな蝶よ花よと大事に大事に育てられてきたあなたも、もうすぐ嫁いでしまう……」
「……」
自分の豊かな胸元に握った拳を当てて何かに耐える仕草をする京子。
眉を八の字にしたその表情は、スマホで撮っておきたいと思うほど色気があった。
ちっ、スマホはリビングに置き忘れてる。
「相手は美形で頭脳明晰で武術にも優れ、物凄く金持ちで仕事もでき人柄も良く女にモテモテで、しかし結婚したら他の女には目もくれずあなただけのことを考えてくれるナイスガイ……そんなあんちくしょう、ドドパンチョ侯爵のもとに行ってしまう‼」
「……」
京子は脳内妄想を舞台俳優のような大げさなジェスチャーで語る。
よくわからないけど設定は中世貴族な世界らしい。
というか、その都合の良い完璧超人な男はいったいなに?
逆バージョンなら……まあ、目の前にいますけど。
しかし、それが女の子の考える世の男のデフォルトとしたら、元男としては苦笑してうなだれるしかないですね。
それとドドパンチョ侯爵って、ネーミングはもう少しなんとか頑張ろうよ京子?
「あなたに仕える召使の一人として、あなたの幸せを願う一人の者として、この思いは秘めているつもりでした……しかし、しかしです、シオンお嬢さま‼」
京子は、私のストッキングに包まれたつま先を恭しく両手のひらに載せた。
そして自分の頬に当てて情熱的にこすりこすりする。
言いたくないけど、頬を染めた京子のその表情と行動は少し変態的だ。
風呂あがりだけど、指と指の間の匂いをスースー嗅ぐのは勘弁してほしいかな……ぺろぺろもやめてください、それは紛れもなくダメな変態さんだから。
「お嬢さま……お嬢さま……私はあなたのことが、うっ⁉」
盛りあがりすぎて感極まったのか、普通にしてると冷たさすら感じる怜悧な和美人な顔を歪め、身をより屈めるとそれ以上はなにも言えなくなる京子。
はぁはぁと息だけが荒い……。
多分、多分なんだけどね。
大事に育ててきたお嬢さまが他の男にとられる前に、貴族ですらない自分が奪ってしまう、決して許されない身分差の略奪愛というシチュに酔ってるんだと思う。
うん、女の子ってシンデレラとかそーいうの好きだからね?
それと京子の場合は、今まで大事に育ててきた無垢な少女を、自分の欲望のままに思う存分チョメチョメしてしまう妄想にも興奮しているんだと思う。
まあ、無垢ってわけでもないんだけど……。
ともかく絶対、間違いないと思うよ。
だって私の足のつま先がいつのまにか当てられている京子の股間は……これ以上、京子のイメージがダウンすることは言いたくない。
いつものプレイの習慣でぎゅぎゅと踏み込むと、おっおっおっ⁉ と汚ねぇ声を漏らす京子。
彼女の後ろに視線をむけると、寝室に置いてある姿見の鏡に西洋人形というか、ビスクドールのように表情の薄い少女が呆れ顔で映ってた。
もう夜も遅いし明日は予定があるし、色々と付き合うのも面倒になって、私は自分の太ももをポンポン叩きながら言った。
「苦しゅうない、ちこうよれ」
なんかセリフが違う気がした。
でも京子がベッド目がけてルパンダイブしてきたので正しかったようだ。
豊かで柔らかい胸に顔を押しつぶされながら、私はため息をついた。
次回は多分来年(
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第5話
エルフスキー三世の自己顕示欲が満たされ、また書きたいシチュが下りてきました
ああ、神よ、あさましいエルフスキーをお許しください
要するに、来年と言ったがあれは嘘だ‼
読みにくかったので、構成を一部変更しました……内容に変わりはありません‼
その人たちが来るのはいつも決まって早朝である。
「おはよう、あの
朝の五時半、人の家を訪ねるには非常識と言える時間。
私が目を覚まして洗顔や着替えなどの支度を済ませたのを、まるで見計らったような時間でもあった。
早朝に鳴る呼び出しベルは初めてのことではないとはいえ、かなり心臓に悪い。
慌ててマンション備え付けの監視カメラを確認し、玄関の扉を開けてみれば、立っていたのは凛とした空気をまとわせる女性であった。
「おはようございます奥さま。京子
古式メイド服姿の私は、不備がないか観察するような視線に対し、姿勢を正して緊張しながら答える。
和美人で、京子との類似点が見られる大人な女性。
三十台前半ほどにしか見えない容姿の彼女は、私の言葉を聞くと右手を額に当て深いため息をつく。
高級な仕立てのスーツを着こなす気品ある美しさをもった彼女には、そんな大げさな仕草もハリウッド映画の女優のように似合っていた。
「お邪魔するわよ」
そう言うと彼女は私の返答を聞く前に、自分の家のようにマンションにあがってリビングの奥へと消えた。
取り残された私は玄関の外に立っていたもう一人の訪問者……知り合いのスーツ姿の男性に顔を向けた。
早朝だというのに、背広を一部の隙もなく着こなすその人は、私の視線に眼鏡ごしの苦笑いを見せる。
私の中に残っている
だって、その人のそれは爽やか系の顔立ちとは真逆の男くさい笑い方で、男でも恰好いいと感じるズルいものであったから。
「やあ、おはよう、シオンちゃん」
「おはようございます、剣持さん」
「いつものジャージ姿もいいけど、その服もよく似合ってるね」
「どうも……」
先ほどとは打って変わって、にこにことした爽やかな笑顔で告げられる。
尊敬のできる本当に良い人なのは分かっているんだけど、やはり私はこの人が苦手だ。
真のイケメンを目のあたりにすると、たいていの男はものおじするものだから。
女なら……どうなんだろうね?
そんな会話をしていたら部屋の扉を開く音が聞こえ、京子を起こそうとしているらしい女性の声も微かに聞こえた。
「う~ん、シオ~ンちゃ~ん? こんなに朝早くからお姉さんの
そして、私にとって非常に不本意で心当たりのまったくない、京子のひどく甘ったるい寝ぼけ声が聞こえてきた。
「いいわよ~、ワンコのように後ろからパンパンしちゃうんだから~、シオンは枕に顔を押しつけて可愛い声を漏らさないようにできる後背位が大好きだものね~? それとも正面からガンガン行こうかしら~、気持ちいいのを必死に我慢しようとしているシオンの無表情なとろけ顔もたまらなく大好きよ~♡」
…………。
「京子さん‼」
「ぎゃっ⁉」
バタンと、何かが床に投げ飛ばされる大きな音が聞こえた。
「あいててて……朝からいったいなによぉ……げ、げぇ⁉ お母さん⁉」
「愚か者‼ なんですかそのていたらくは‼ 家を出てからというもの、あなたはあまりにもだらしなさすぎます‼ そこに正座なさい京子さん‼」
「ひ、ひぇえええええ⁉」
その
「あははは……」
剣持さんの場を取り繕うような笑い声に、私は体を震わせながらうつむく。
頬どころか、顔全体が羞恥で熱くなった。
彼女は私の雇い主である御堂京子の母。
本当の私の雇用主である御堂
日本でも有数の製薬会社、御堂製薬の現社長である。
◇
それから、巴さんと一日付き合うことになったのだけど、非常に疲れたというのが正直な感想。
一時間ほど京子に説教した巴さんが、ご飯も食べてない娘を強制的に学校へ送るよう剣持さんに命じた。
「ちゅう! シオン‼ 行ってきますのチューーー‼」
剣持さんに引きずられていく、タコ顔の京子。
赤面ものの叫び声が聞こえなくなったあたりで私が巴さんに言われたことは……。
「あなたたち、避妊はしているのかしら?」
私はその場で崩れ落ちるように土下座した。
京子から強引に誘われて関係したとはいえ、実の母親からしたら私は、娘(?)に手を出した不逞の輩である。
それは私を雇った巴さんにとって、飼い犬に手をかまれるに等しいことだろう。
今の生活が消えてしまうかもしれないという恐怖で変な汗が出て、ぶるぶると体の震えが止まらなかった。
「あ、ちょっ、ちょっと⁉ シオンちゃんいいのよ? そういう
「は、はい……?」
「しかし、避妊はちゃんとしているのかぁ……そうかそうか」
あっさりとしたお許しの言葉。
というか、腕組みした巴さんが非常に残念そうな顔をしたのは気のせいだろうか?
「まあ、それはそれとして、シオンちゃん朝ごはんまだでしょう? 私もまだなんだけど、よかったら一緒にお食事に行かない? あ、ほら、知ってる? 駅前に新しいドーナツ屋さんができたんだけど、ああいうファンシーな雰囲気のお店におばさんが一人で入るのは敷居が高いのよ?」
おばさんどころか、巴さんは京子の姉といっても通じそうなほど若々しい。
彼女は胸の前で手を合わせ、とても、とても素敵な笑顔を浮かべた。
「……ねえ、シオンちゃんは京子と違って、
肉食獣の笑いにも似たそれに対して、私に拒否権などあるはずがなかった。
戻ってきた剣持さんが運転するセダンに乗せられた。
駅前にできたというドーナツ屋さんとやらで朝食をして、そのあとは映画館で趣味じゃない海外の恋愛映画を見てから、お昼はメニューが読めず値段の書いていない庶民お断りのレストランでとった。
そしてさらに、御堂家御用達の高級洋服店に行った。
なぜか私が、小さい子がピアノ発表会で着そうなシックなお洋服をオーダーメイドで何着も作ってもらい、マンションに戻ってきたのは夕方の五時も過ぎた頃。
私が両手いっぱいに抱えている紙袋の中身は、お洋服に合わせた帽子や靴やバッグなどの大量の小物類……頼んだ服は一週間もしないうちにできるらしい。
去っていく高級車。
私は、後部座席から無邪気な笑顔で手を振る巴さんを見送りながら、嵐のように過ぎ去った一日に人知れずため息をついた。
◇御堂巴の場合
巴は屋敷への帰りの車の中、久しぶりの休暇に満足していた。
やはりあの子は本物だ、非常に良い。
そう改めて巴は認識したのだ。
「社長、シオンちゃんを少々いじめすぎじゃないですか?」
「あら、そうかしら? 私としては可愛がっているつもりなんだけど……?」
「まあ、はた目にはそう見えますが……ね」
運転手の剣持がセダンのハンドルを切りながら、後部座席に座る巴をバックミラー越しに見て苦笑いする。
シオンの事情を知っており、個人的な事柄で付き合いがある彼としては、巴のシオンへの接し方は
「だって、うちの京子は親離れが早かったし、最近は私と一緒にお食事に行こうと言うとものすごく嫌がるのよ? 素直で可愛らしいシオンちゃんを可愛がりたくもなると言うものだわ」
怜悧な美貌をもった巴としては珍しい、子供のようにすねた口調。
この人も一応母親なんだなと、剣持は少しだけ意外に感じた。
そんな彼の思考を読み取ったのか、巴がしんみりとした口調で語りだす。
「それにね剣持、あの子はね、私のおじい様とよく似ているのよ」
「シオンちゃんが、先々代の大旦那様にですか?」
巴はうなずいた。
すでに死去しており剣持は一度も会ったことはないが、その人物のことは当然聞き及んでいた。
御堂
「シオンちゃんに、大旦那様のような商才があるとは思えませんが?」
「そういう資質は京子が受け継いでいるからいいのよ」
巴は目を閉じると、後部座席のクッションに深く腰を沈めた。
「あの子はおじい様と同じ体験を……地獄のような場所から生還してきた人間……。理不尽な出来事のすべてを自分の中に飲み干して、独りで克服した……そういう強い目をしているのよ」
「……」
「どんな状況下でも生きていけるとても強かな子よ……私が今まで出会った色々な人間の中で、本当に恐ろしいと感じたことがあるのは、おじい様とあの子だけだわ」
偉大なる先々代の孫娘で、そして御堂製薬の現社長として海千山千の世界で生きている巴の言葉だ。
剣持が見たことのある写真や映像に映る御堂浩一は好々爺とした優しそうな老人であったが、その笑顔の裏にどれほどの地獄を詰め込んでいたのだろうか?
それをシオンも持っていると?
確かに、彼女にはごくたまに怖さを感じることがあると剣持は思った。
「桐生の兄妹のどちらかを京子の許婚候補として考えて打診していたんだけど、取りやめることにするわ」
「あの二人はお嬢さまを
「けど剣持、あの子を知ってしまったら、あの子たち程度じゃ全然物足りなく感じるのよ。御堂の家には、シオンちゃんのような肝の座った子が適任だわ」
「……さて、シオンちゃんはどう思っているんでしょうね?」
「さあ、私の目からは二人は相思相愛には見えるけど? それにしても京子はちょっとデレデレしすぎよね……」
そういうことではないんだけどな、と、剣持は再びシオンに同情したのであった。
主人公が凄いと言われる展開はベタだけど、ほどほどに好きデス
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第6話
今日は週一の燃えるゴミの日。
私は頬を叩いて気合いを入れる。
いつものメイド服でボブカットな髪を軽く縛ると、中身の詰まったゴミ袋ふたつを両手に持ちエレベータを使って一階に降りた。
軽いストレッチはすでにすませている。
私と京子が共同生活(同棲とは死んでも言わない)をしている住居はファミリー向けというコンセプトで売りだしているマンションだ。
そんなセールスが成功しているのかマンションの部屋のほとんどは 親子な家で埋まっている。
ご家庭が多ければ当然あるのがマンション住人での交流イベント。
日々、暇を持て余しているのもあるけど、日曜日の公園のゴミ拾いから始まり、ソフトボールやBBQなどにも積極的に参加している。
挨拶もきちんとしているし、そつのない京子の社交性と相まって、このマンションでの私たちの評判は悪くはないはずだ。
世の中は何が起きるか本当に分からない。
それを誰よりも実感できる私にとって助け合えるご近所付き合いはとても大事である。
そう、たまたま夜のマンションの渡り廊下で会った幼稚園児にお化け女と大泣きされて以来、近隣のお子さまたちの目の敵にされている私にとって、それは本当に必要なことであった。
そのようにすべて打算で動く私自身……。
「くらえっ! お化け女っ!!」
子供たちの遊び相手になってあげるくらいには……いい人だと思いたい。
「おはようクソガキども、朝から非常に不愉快な気分ですよ」
演技的にはフ〇ーザさま。
私はエレベーター前で待ち構えている、期待に目を輝かすお子さまたちに丁寧に挨拶して、ゴミ袋を上に持ちあげると後ろも見ずに半歩横にずれた。
そしてバレリーナのように片足回転。
「あっ!?」
ロングスカートがふわりと花弁のようにわずかに膨れる。
私の後ろから横を勢いよく通り過ぎる小さな影。
それは十才ほどの日に焼けた肌をした男の子だった。
背後からの必中なはずだった
私が、ふふんっと鼻だけで見くだしたように笑うと、彼はとても悔しそうな表情をした。
……凄くいい気分デスヨ。
しかし甘い、このシオンさまに不意打ちをしようなんて角砂糖を振り掛けたご飯よりもなお甘い。
私は一斉に動きだした彼らをあえてスルーして両手にゴミ袋を抱えたまま、隙のない早歩きでマンション外のゴミステーションを目指した。
「あ!? 逃げるな! 勝負しろお化け女!!」
「嫌だ、お断りします」
「まてお化け女! 追いかけろー!!」
「おやおや、君たちの短い足で追いつけますか?」
「カズ、ブスをこっちにおいつめろ!!」
「小さい頃から女の子をブスと言う人は将来女にモテませんよ?」
「ブス! お化け女のブス!!」
「こら、三馬鹿! シオンさんはブスじゃないし、凄く美人だし、とても迷惑してるでしょ! 毎週馬鹿なことをやるのは止めなさいよ!!」
「お兄ちゃん止めて! シオンお姉ちゃんが可哀想だよー!!」
「知るかよブス!!」
「はい、君たちにはモテない呪いがかかりました」
口撃のジャブの応酬、まったくもって騒がしい。
私は早朝からマンションの住人である、ランドセル姿の生意気そうなお子さまたちとゴミステーションまで競争をしていた。
これも週一回の子供たち主催のマンション交流イベント。
正確に言うと三人の小学生男子にちょっかいをかけられ、彼らと同じ年の女子と私を見て大泣きした幼女の二人が私を助けようとしている。
いったいなんでこんなお付き合いの仕方をしているのか私自身が不思議でならない。
三人は人差し指と親指を合わせて揃え、他の指は組むという『カンチョー』という危険な技で私の進路を妨害しようとしていた。
正当防衛でデコピンを解放するに十分すぎる案件だけど、今日は両手を塞がっているのでは反撃もままならない。
彼らは私の下半身……お尻というかアニャル的なものを狙っているようだ。
ぶっちゃけ言いますと、この年で痔にはなりたくない。
そのため私は先程から小さな猛牛どもをいなすマタドールになって「よっ、はっ、ていっ!」と紙一重で華麗に回避していた。
「当たらないしキモイ!!」
「なに、この動き!?」
「おもにお化け女の腰と足の動きがキモイ!!」
「だから三馬鹿、シオンさんに失礼だって言ってるでしょう!! ……たしかにキモイけど」
「シオンお姉ちゃん、怖い……」
追いかけてくる男の子たちの悲鳴があがる。
カンチョーを避けるために腰を前後左右にフラフープするように振りながら、スカートの裾を引っ掛けないように大股で移動していたんだけど……操り人形のように関節の限界可動範囲を駆使するこの動きはやっぱりキモイのかな?
しかし、これくらいの年頃の男子ってカンチョーが本当に好きだよね。
毎度毎度してこようとするし。
考えている間にマンション横のゴミステーションに到着。
さてゴミ袋をおいたら反撃しよう。
人生の先輩として悪い子は指導しなくてはね。
地域で育てよう未来を担う可愛い子供たち……ふふ、なんてね。
そんな一瞬の気の緩み。
攻撃に転じるときが最も隙ができるとは誰から聞いた言葉だったか?
ゴミステーションの前に先回りした男の子がいた。
朝日の光を背にした彼は私の正面にいるのに組んだ指を自らの頭上に掲げていた。
へぁ…………ナニスル気?
「へへ、前は取った! 俺の黄金の指をぶち込んでやるぜ!!」
「ナイスともやん!! 尻尾は俺が切断する!!」
「部位破壊だ! 僕たちの協力プレイだよ!!」
「……私はモン〇ンのリオ〇イアか?」
思わず漏れたのは新作でたら欠かさずしているゲームのこと。
というか、非常に不味くないだろうか?
このエロガキどもにそのようなエロ知識があるとは思えないけど、女には前のほうに棒的なものを収納できる秘めたる穴があるわけでして……。
ショタ×オネなエロ漫画にお世話になったことが男のときは何度かあったけど、流石に自分で実演しようとはこれっぽっちも思いません。
性的な嗜好以前に間違いなく捕まるからね?
「くらえっ!!」
「くっ!?」
私は防御するために、ゴミ袋を両手から投げるように落とした。
しかし、それよりも男の子の指のほうが早かった。
私の股間に迫る
あれをやるのに……間に合うか!?
「はぁ……!」
自分の呼吸と心臓の鼓動がやけに大きく聞こえた。
ずぼっ!!
メイド服の布地に突き刺さり擦れる音。
勝利の予感に生意気そうな笑顔を浮かべる男の子。
「な、なにっ!?」
だがしかし、次の瞬間膝をついたのは男の子だった。
「ふ、ふふ……甘い、甘いよ少年」
私は悪い顔(を作っているつもり)で呟いた。
誘うように左右に開いた太ももで男の子の手首を挟み込んだ。
ギリギリのタイミングで私の両足が彼の両腕をホールドしたのだ。
カラテで言うところの肘と膝で挟んで受ける挟み受けの変形である……たぶん。
私の太ももに両腕を挟まれ動きを封じられた男の子の顔が絶望に、くっと歪む。
さてどうしてやろうかと腰に手を当て、脅すように彼の目を見ながら顔を近づける。
「うっ……!?」
「ん?」
なぜか男の子は頬を赤く染めて大きな動作で顔を横にそらした。
あれ、どうしたのかな、この程度の運動で疲れた?
しかし流石は男の子、すぐにいつもの憎々しげな表情を浮かべ。
「は、離せよ、このブス!!」
と元気に反抗してくれた。
ほほう、窮地でもなおも吠えるか、その意気やよし!!
「う、うわぁぁぁぁぁ!?」
最近、京子とのプレイで新しく追加したアレの動きを応用し、腰を前かがみにしたままお尻と太ももの筋肉にキュッと力を入れると、手を挟まれている男の子は変声期前の甲高い声で叫んだ。
その慌てふためきようが楽しくなって擦るようにぎゅっぎゅしてみると、さらに悲鳴をあげる。
くふふ、君は京子と違って実に綺麗な声で鳴いてくれるなぁ…………はっ!?
我に返る。
ああ、うん、少しだけ分かりますね
でも京子は両方いけるオールラウンダーぽいし参考にならないかなぁ。
まあ、何はともあれ彼の拘束を解いてあげよう。
と、その前に……。
「勝負ありだけど、君たちはもう少しがんばってみるかな?」
腰から上だけで振り向いて背後から迫る男の子二人に告げた。
表情が動かないので顔を斜めに傾け見下ろすような半眼で、少しでも迫力のでそうな怖そうな声でだ。
私のお尻まであと少しのところまで近づいていた彼らは、カンチョーポーズを慌てて解除すると降参とばかりに手をあげた。
彼らの頬も赤く染まっているけど最近の子は運動不足なのかな?
「ま、参ったから、いい加減俺の手を離してくれよー!!」
さらに真っ赤な顔をした男の子の悲鳴があがる。
ふふ、今週も私の勝利が決まったようだ。
しかし、そこに私の傲慢という名の油断があったのだろうか。
「ん、それじゃ離すよ」
彼を解放した瞬間。
男の子の手が上に大きく動き、バサっと風が吹いて、顔が一瞬で真っ黒いものに覆われた。
……わお。
「きゃああああああああああああぁぁぁ!?」
女の子の悲鳴があがった。
もちろん私のものではない。
その視界を奪った黒いものが自分のスカートだと気がついたのは、下半身がスースーして、いつも使っている柔軟剤の香りがしたから。
私は自分の着けているロングスカートを頭にかぶるという愉快な状況に陥っていた。
「うわっ、とものスカートめくりだ!?」
「すげーパンツ、やるじゃん、ともやん!!」
「へへ、思い知ったか、お化け女のバーカー!! 無表情ブス!! エロブース!!」
「三馬鹿!! あ、あんたたちねぇ!!」
騒がしい叫び声と何かを蹴る音とバタバタとした足音が遠ざかっていく。
うん、みんな元気だねぇ。
君たちくらいの年頃はそれくらいで丁度いい……のかな?
慌てふためくのも負けた気がして、私は下半身を剥きだしにしたまま余裕そうに腕を組んだ。
「シオンお姉ちゃん」
「ん?」
一人残っていた幼女が私の履いているパンツの紐を指でつんつんと突く。
少しだけこそばゆい。
「たまにママが夜に着けるようなパンツだね?」
「そうか、君の家は夫婦仲がいいんだね?」
「そうなの?」
「そうだよ?」
スカートを頭から外しながら、私は重々しくうなずく。
ちなみに誤解のないように言い訳させてもらうと、このラノベかエロゲーなキャラが着ていそうな黒レースの紐パンツは私の趣味ではない。
幼女を幼稚園に送るために迎えにきたお隣の美人なお母さんに朝の挨拶をしながら、私はそういう趣味の同居人を起こすために部屋に戻るのであった。
シオンが自分の容姿を変だと思っている原因かも?
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第7話
私は寝込んでいた。
「ご、ごめんねシオン」
私の部屋。
謝る京子に対し、普段は使われない新品のシングルベッドに寝たままフンっと鼻を鳴らす。
昨夜から今朝まで作戦名『がんがんイこうぜ!!』を選んでしまった京子のせいで体力を消耗し、倦怠感で身体を満足に動かすことができない。
腰がめちゃ痛いです。
「でもシオンも悪いのよ? 夜遅くにあんな格好して寝室にくるんですもの……おふふ、お姉さんを誘惑するなんていけない子兎ちゃんめ♡」
ナニを思い出したのか凛とした和美人な顔をだらしなく崩して腰を左右にクネクネしだす京子。
くせっ毛ひとつない長い黒髪も一緒に踊る。
というかこの人……一晩中「ふんふんふん!!」って腰振ってたのになんでこんなに元気なんだろう?
「いけない子兎ってなにさ? というか、あれは誰かさんに欲しくもない衣装渡されて『一生のお願いです、どうかあなたの哀れな下僕のために、これを着てくださいませシオンさまっ!!』ってうるさかったから着たんですけど?」
京子の要望だった。
明らかにエロ目的なエロコスチュームだったので断ってたんだけど、一ヵ月ほど毎日懇願されて根負けしたのだ。
物はなんだって?
兎耳カチュ-シャ、黒のハイレグレオタードにストッキング……それとピンヒール。
ええ、俗に言うバニーガールです。
私のジト目に、あ~と、視線をさ迷わせ頬をかく京子。
念願かなって夜の狼さんになったんだね。
ストッキングをビリビリ破くほどに興奮しちゃったんだよね?
こっちを見て「てへっ」って誤魔化すように小さく舌をだしたけど、別に可愛いともなんとも思わな……くもない。
「ねえ京子、本当に反省してる?」
「う、うん! それはもう!!」
「じゃ、しばらく夜のお勤めは無しで」
「えっ……?」
「というか、今月は無しにしてほしい」
「えええええっ⁉」
京子がびっくりしたネコのような顔をした。
なんだか可愛い……いやいや、そこまで大げさに驚かなくても。
「ちょっ、ちょっと待ってシオン、今月ってあと二週間もあるじゃない!?」
「たった二週間でしょう? 前々から言おうと思っていたけど京子は度が過ぎてるよ。いい機会だから我慢も覚えてね」
「くぅ! シオンとひとつ屋根の下にいるというのに一分一秒でも我慢できないわ!? 朝起きてから寝る時まで、いえいえ夢の中ですら!! 学校に行っている時、お風呂は勿論お手洗いの時もよ!! 愛らしいシオンのことを考えるだけでご飯三杯はお代わりできるわ!! くふっ、このえっちな小悪魔さんめっ♡」
京子さん、すんごいエロい表情をしてるよ?
つーか、どんだけヤリたいんだよこの人。
「えっちな小悪魔ってなにさ……男としての気持ちも分かるから、今までは求められても仕方ないかなと甘やかしていたけど、度々こんなにハッスルされると体がきつい」
「うっ!?」
「それとも御堂さん家の京子さんからしてみれば、私みたいな中途半端な女の出来損ないなんてエッチさえできればどうでもいいのかな?」
「……シオン」
京子が先ほどまでの態度が嘘のように静かな表情を見せた。
顔にはでてないけど間違いなく怒ってる。
まあ、自分でも自虐のすぎる発言かとは思ったけど。
「馬鹿……あなたは今の私にとって掛け替えのない存在なんだから、そんな自分を卑下するような悲しいことは冗談でも二度と口にしないで?」
普段の優雅で余裕ある雰囲気からは想像もつかない、その怜悧な顔立ちそのものの冷たい迫力をもった御堂京子の姿だった。
怖さはあまり感じない……むしろ、きりっとして少しかっこいいかも。
なんにしても、こんな京子は初めてだ……。
うん?
別に、京子に大切とか言われて喜んでないよ?
というか我ながら意地の悪い聞き方だったかな?
さらに意地の悪いことを言うつもりだけど……だから喜んでないってばっ!!
何故か照れくさくて、咳払いをひとつして京子に告げた。
「そこまで言うなら、私のために二週間くらい我慢できるよね?」
「えっ? ……ええっとそれとこれとは案件が違うと言いますか……」
「あれ、私のことが掛け替えないほど大切じゃないの?」
「う……うう……は、はい」
取った言質を反故にする暴挙は京子でもできないようだ。
彼女は涙目で不承不承うなずいた。
◇
そう約束をして三日目が経過。
朝のキッチンである。
私はお味噌汁の火を止め、ため息をつく。
キッチンにあくびをしながら入って来た京子の姿にため息をついたのだ。
「ふわぁぁ……おはようございます」
「おはよう京子。あのさ、朝はちゃんとしてよ?」
「んー……なにが?」
京子は不思議そうな顔で髪の毛の乱れた頭をかく。
そんなだらしなさもファッションですと言い切れそうな美貌は流石である。
ただ、ワイシャツはいただけない。
正確にはワイシャツの下が全裸なのはいただけない。
数多くいるであろう、御堂京子に恋い焦がれる男子学生なら一生分の運を使っても見たいと思う姿なのかもしれないけど、先ほどからおっ立ているブツがいただけない。
ナニが?
ええ、ナニがですよ?
「朝から元気なのはいいんだけどさ……」
なんと言っていいか分からずに口ごもる。
男の時に自分のモノは飽きるほど見ているけど、他人の……しかも暴れん坊状態のモノを明るい日の下で見るのは本当に変な気持ちだ。
なんだろう、こそばゆいと言うべきか?
知らない
「シオン、ひょっとして発情しちゃったのかしら?」
なんでそうなるのさ?
「ふふんっ」
「…………」
腕組みして得意げに見せつけてくるのが、またイラってくる。
しかし、どうしたものかなぁ……。
痴態をさらす京子をじっと見る。
…………。
うーむ、私が男の時はどれくらいの大きさ(膨張率)だったかな……ハッ!?
そうじゃなくてっ!!
「朝から、それが目障りだからどうにかしてほしい」
「ひどいっ!? 毎回シオンをあんあん喜ばせているご立派さまなのに!!」
……別にあんあん喜んでねーし。
「それに仕方ないでしょう、これは男の子な朝の生理現象なんだから」
「知ってるけどさ……それを私に見せない努力というのか、せめて下着は着けてきてよ」
「あら、私が自分の家でどんな格好をしようと私の自由でしょう? シオンは愛の営みを禁止するだけではなく、私が家でくつろぐ権利すらも奪う気かしら?」
う、うーん……。
まあ、強引だけど言っていることは分からなくもない。
全裸はともかくとして、家の中でパンイチとか気持ちいいよね……私も京子が学校に行っているときはたまにやる。
「じゃあ、トイレでしてきて」
「あらやだ、
「………………」
京子は頬に手の平を当て腰をクネクネ……。
ナニもぶらぶら……。
この人、どうしてこう理解不能なチキンレースをしたがるかな?
ほんと、どうしてくれよう……
ポケットの
ため息ひとつ。
電話したところで、流石に恥ずかしすぎて現状を説明できそうにない。
私はもう京子に構わないことに決め、朝食の支度をすることにした。
焼き鮭と納豆、漬物は食卓の上。
あとはご飯とオーソドックスな豆腐のお味噌汁をだすだけだ。
御堂家(京子)の朝食は微妙に和食である。
お味噌汁の鍋をお玉で軽くかき回しお椀に注ごうとしたら、後ろにいた京子が動く気配がして、そして次の瞬間にはやんわりと抱きしめられていた。
「京子?」
「ん……」
「あのさ、食事の用意するのに邪魔なんだけど?」
「ごめんね、なんか唐突に抱きしめたくなっちゃった」
「……?」
「うん、女の子が自分のために料理してくれる姿っていいよね?」
静かな声。
淡々と告げる言葉には、なんだかよく分からない説得力があった。
京子の腕を振り払おうとした私の動きも思わず止まる。
「本当にいいよね、こういうの」
「……男の時にそんな経験したことないから分かんないや」
「ふふ、そうなんだ」
京子は私の頭にキスしながら、よしよしと優しく髪を梳いてくれた。
背中に当たる豊かな胸の感触……彼女の腕の中は安心できて心地よかった。
朝のキッチン、換気扇が回る静かな音だけが聞こえる。
…………。
なんでだろう、なんでこの程度のことで、懐かしくて切ない気持ちになるんだろう?
小さい頃を思い出して、お母さんと言いかけたことは秘密だ。
まあ、それはともかくとして……。
「ねえ京子……」
「なにかしらシオン?」
「いつまで抱きついているの?」
「シオン成分の補充が百二十パーになるまでかしら?」
まったくもって意味不明です。
「ねえ京子……」
「なにかしらシオン?」
「お尻にあたってんだけど?」
「ふふっ、あててんのよ」
「………………」
「デュフフ、シオンちゃんもお姉さんと
耳たぶを甘噛みされ、ちっぱいを揉まれた。
ええ、いい雰囲気に一瞬飲まれそうになった私がバカでした。
メイド服のエプロンポケットからスマホを取りだし、ぴっぽっぱっ……コール二回で出てくれた。
「もしもし? おはようございます奥さま。今キッチンでですね、京子さんが裸でナニをおっ立てて盛っているのですが、私はどのように対処すればよろしいでしょうか?」
「ちょっ! ちょーーーとシオンちゃん!?」
御堂製薬の社長は十分で来てくれた。
私は増えた二人分の朝食を追加で用意しながら、説教される京子を眺めるのであった。
前後編になる予定ですが、後半も早く書けるといいな……
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第8話
難産でした‼
文量が予想より増えてしまいました‼
もう今年はこれ以上投稿できません‼
ままーん‼
今日はリビングの明るい照明の下、ソファーに腰をかけ読書をしていた。
暇つぶしとはいえ、本を読む行為は嫌いではない。
今の生活に不自由はないけど、さりとて経済的な余裕のない私にとって、一冊百円ほどで手に入る古本はコスパに優れた趣味だと言える。
本のジャンルにはこだわりはなく、日常物から冒険物、ラノベから商業文学、漫画から専門誌まで様々だ。
今読んでるのは海外の有名作家の作品で、映画化もした一冊。
主人公と
「ただいまーシオンちゃ~ん♡」
京子が帰ってきたようだ。
彼女の弾んだ声に、今夜のことを考えため息がでた。
リビングの鏡には老人みたいな白髪を持つ少女が、ハイライトの消えた目で映っている。
再びため息……沈んだ気持ちでソファーから立ちあがると、置いた本の背表紙とタイトルが目にはいった。
ミザリー
◇
えっち禁止令をだしてからというもの御堂家の京子さんは順調におかしくなっていた。
十日過ぎたあたりで、学校から帰って来るや靴も脱がず私の前で三つ指をつき「シオンさん、とても重要な提案があります。お互いに見せあいっこしながら致しませんか?」という申し出を真顔でしてきた。
無駄に和を感じさせる美しい仕草と、無駄に綺麗な姿勢が本当に無駄であった。
私も玄関で正座して向き合い「なにを見せあって、なにを致すのですか?」と質問してみると、京子は勢いよく身を乗り出し「ナニを見せあって、ナニを致すのです」と、返答した。
私は自分の太ももをパンっと叩き、謹んでお断りした。
それとはまったく別件だけど、京子の部屋を掃除中にベッドの下から通販のものとおぼしきダンボール箱を見つけ、その中から衝撃的な物を発見してしまった。
昼間から口に出すのは憚れる文明の利器があったのだ。
具体的にいうと夜のおもちゃ。
棒状とか卵形状とか何種類かあり、スイッチを入れるとクネクネ動いたり微振動したりする大人の
うわって声にでて、うわって気持ちになった。
恐る恐る確認したダンボールの中には、猿轡や鎖付き革バンドやヌメヌメ液体入りボトル、その他などがあった。
まだ封も切っていない新品なそれらの使い道……
その想像に恐怖を覚えて動揺し、クネクネ動いたり微振動したりするそれらを両手ですべて抱き抱えたまま部屋をうろうろと意味もなく歩きまわった。
それからスイッチを入れてチャンバラのように振り回してみたり、魔法少女のように踊ってみたり。
最終的に机の上に綺麗に並べて置いて……いた最中に我に返って、ダンボールの中にクネクネ動いたり微振動したりする文明の利器たちを戻し、そしらぬ顔をすることにした。
エロ本を机の上に並べて置いてしまう母親の心境が分かった気分である。
ほかにもパンツ消失事件やアイス棒事件や宇宙人交信事件などもあったが、ここでは割愛しておく。
そして今日はとうとう迎えてしまった
現在私は晩御飯を作る京子の様子を伺っている。
普段はキッチンに立たない彼女だが料理ができないというわけではなく、それどころか腕前はかなりのものだ。
京子は歌を口ずさみながら手際よく調理している。
包丁がまな板を叩く小気味いい音。
ウナギの蒲焼きだろうか、油のはじける香ばしい匂いがした。
その光景は実に日常的で平和である。
……なのに、なぜか嵐の前の静けさという言葉が浮かんだ。
それにしても京子が前言っていた女の子が自分のために料理してくれる姿が良いというのはこういうことなのだろうか?
確かに少しだけ吐き気にも似た甘酸っぱい気持ちである。
なんだか色々なことでそわそわして、待っているのが落ち着かず京子に声をかけてしまう。
「やっぱり私も手伝おうか?」
「ん、いいわよシオン、たまには私が作るからテレビでもゆっくり見てなさい」
さいばしを手にした京子はにっこりと微笑む。
そうしてると落ち着いた優しいお姉さんみたい。
「……それに今夜はしっかり食べて体力つけてもらわなくちゃ……うひひひ」
ぼそっと呟く
前言撤回だ。
京子がくるりと後ろを向いた。
「ららら~ん♪」
「…………」
うん、ごめん、先ほどまで見て見ぬふりをしていたけど、やっぱり自分を偽れない。
京子の姿は前から見るとニットワンピースを着た家庭的な和美人。
でもね、後ろから見るとダメなんだ。
世間一般的にアウトかセーフかで言うと……セウトかな?
後ろからは半球体のFカップな横乳が見えた。
京子は俗にいう、童貞を殺す類のセーターを着ていた。
袖はなく背中の布地も、首回りを縛る細い紐とお尻部分以外ほとんどないので、ちょっと動くだけでおパンツが見えてしまうかもしれない際どさである。
というか、実際に見えてるし……京子さん、女子高生が履くにはやたらとアダルトチックで、えぐいおパンツを装着してますね。
美しい曲線を描く二つの大きな尻肉に挟まれたそれは、てぃーばっく(白)というものではないだろうか?
「シオンちゃ~ん、ご飯できたわよ~」
両手に料理の乗ったお盆を持ってリビングまでしゃなりしゃなりと歩いてくる京子。
魅惑的なくびれを持つ腰をベリーダンスのように大げさに左右にふっていて、あれがモンロー・ウォークというやつだろうか?
そして、まだ後部よりは安全と思っていた布地のある前部、童貞を殺す類のセーターに包まれた京子の豊満な乳が揺れた。
服の構造上、ブラジャーを着けてないのは分かっている。
そのため、たゆんたゆんと、やたら揺れる母性的な乳に猫じゃらしを見る猫のように目が吸い寄せられてしまう。
正直に言うと、この童貞を殺す類のセーター……清楚さとエロさが混濁一体となった隣のお姉さん的な落ち着いた色合いの衣服は……私の好みだったりする……。
前門の
なんでかそんな言葉が頭に浮かんだ。
くすっという京子の笑い声に慌てて目をそらす。
自らの
京子の思惑は分かっているけど、見透かされているかと思うと、羞恥で頬が熱くなっていく。
今の私の気持ち?
ひとつ同じ部屋にかつてのクラスメイトが、学園でも有名な極上の美少女が全裸よりも扇情的な格好をして、妖艶な仕草で誘惑してくる……不能でない健全な青少年なら容易に想像できると思うんだ?
それに女になった身の私だけど、やっぱり女の子のほうが好きだから……。
料理メニューは予想通りのウナギの蒲焼き。
ニンニク芽のおひたしとすっぽんのお吸い物……ええっと、これはイモリの姿焼き⁉
そのほかにも、小食な私のために幾つもの小皿に入った一品物が並べられている。
うん、『今夜は寝かせないぜ‼』という京子の無言のメッセージをまじまじと感じとれる精がつきそうな数々であった。
「さあ、シオンちゃん、どうぞ召し上がれ~♪」
リビングのローテーブルに並べられた料理に圧倒されていた私は京子の声で我に返る。
そして、動揺を隠すため箸を手に取ろうとしたところで「ぶはっ⁉」と吹いた。
対面に座る京子の格好にさらなる衝撃を受けてしまった。
御堂京子はいつの間にか童貞を殺す類のセーターを前後逆に着けていた。
簡単にいうと首を起点としてセーターを横方向に半回転させたのだ。
そうすると短いセーターの布地は股間しか隠しておらず、当然おっぱいは丸見えになっていて、その薄桃色の先端を首元を縛る紐だけで隠すという、御堂家の京子さんはパンツはいてないのがデフォルトのエロゲーキャラのような完全アウトな姿になっていた。
「んん~? どうしたの? どうしたのかなシオンちゃ~ん?♡」
「………………」
興奮している私のことが分かっているのにニヤニヤと聞いてくる京子。
彼女とは何度も関係していて、その破壊力の高い
しかしでも、このいつもの日常で、リビングの明るい光の下で、その攻撃は……ズルい。
うふふ……ぶひひひひと嘲るように笑う声が聞こえる。
京子のあふれる色気に、普段は意識しないですんでいた彼女の女の部分に……女として本気を出した彼女に私は思うがままに翻弄されていた。
胃がキュウと絞めつけられる。
悔しかった……徐々に近づいてくる敗北の足音を感じて悔しくて仕方なかった……。
そこで、ふいに気がつく。
今までの人生、冷めているふりをして、他人と競い合うなんて面倒だとごまかして生きていた自分の心に気がついた。
実は私は、自分で気がついてなかっただけで負けず嫌いだったようだ。
その認識が立ち向かう勇気をくれた。
絶対負けたくなくて、自らを鼓舞するように歯をかみしめる。
捕食者の視線で、私を見下ろす京子を前にして覚悟を決めた
私、
料理は美味しかった。
それから時間は過ぎていき京子が唐突に告げた。
「シオン、そろそろ日付が変わるわね?」
「…………」
つまりそれは、零時でエロ解禁になるという意味だ。
「ふふ、楽しみだわ~都合のいいことに明日から三連休だし、時間はたっぷりあるわね、まずはナニをしようかしら……やっぱりナニかしらぁ~……でゅふ、でゅふふふふふ」
「…………」
すでに京子は勝ったつもりでいるようだ。
勝利者の余裕で腕を組み、ソファーで女王のように優雅に座っている。
おっぱい丸出しのエロいけど間抜けな姿のくせに。
だけど、私にはとっておきの勝利への秘策がある。
それを使うことにためらいはあった……でも、まあ、自分の身が可愛いし、それを渡してくれた保護者も公認だからいいか。
私は顔をあげた。
京子に挑むように不敵に笑って見せた……つもりだ。
そんな私の微妙な変化に、京子は「おっ⁉」という驚きの表情を見せた。
「京子……あのね、お願いがあるの?」
「うん?」
「京子のために作ったお菓子があるんだけど……食べてほしいな」
「え、お菓子?」
「うん、ものはチョコレートクッキー」
「チョコ……!?」
京子が、はっとする。
知識人な彼女なら、チョコレートには媚薬としての側面もあることを知っているはずだ。
そしてすぐ思いつくだろう……つまりこれは私からの遠回しなセックスアピールであると。
私はキッチンの棚から隠しておいたチョコレートクッキーの入った容器を取りだし、両手で持って恥ずかし気に見せた。
「今夜のために、がんばって作った私のチョコレートクッキー……食べて、ね?」
そして畳みかけるように、今日の日のために、このときのために、嫌悪感に耐え、鏡とにらめっこしながら必死に練習した愛らしいと思える笑顔を浮かべた。
上目遣いで、チョコクッキーをそっと差し出す。
顔が引きつるのが分かる。
自分が女の子のまねごとをしていると思うと泣きそうになる……はっきり言って上手くできている自信がない。
この身に残った男心を守るために、男心がごりごり削られていく。
京子の反応を知るための一瞬の待ち時間と緊張。
しかしだが、御堂京子は、確かに、ごくりと喉を鳴らしたのだ。
「いただくわ‼」
一も二もなかった。
今夜のために、周到な準備をしていただろう京子が、あっさりと引っかかってくれたことに拍子抜けさえした。
京子は差し出されたチョコレートクッキーを鷲づかみにするとむしゃむしゃと豪快に食べだしたのだ。
少し男前だった。
うーん、他の人には見せられない京子の新たな一面である。
「美味しかった?」
「うん、うん‼」
「それじゃ京子……日が変わる前に体を隅々まで洗ってくるね?」
「うん、待ってる‼」
京子は口元にクッキーの食べかすをつけたまま、先ほどまでの余裕はどこにやら、鼻息も荒く、まるで初めての経験を迎える少年のようなテンションになっていた。
流石に、ただのチョコレートにそこまでの興奮効果はないと思うけど……。
しかし、京子の着ている童貞を殺す類のセーターの股間部分は異常に盛り上がっていて……ごめん、聞かなかったことにして。
そして、席を外して二十分後。
巴さんにもらった睡眠薬入りのチョコレートクッキーを食べた御堂京子は見事に眠りこけていた。
「やったぜ‼」
正確にはやってしまっただけど……とりあえず私は勝利宣言をした。
◇御堂京子の場合
御堂京子にとって
初めて会ったとき、その妖精のような美しさに、その可憐さに、その儚さに一瞬で恋に落ちてしまった。
病院のベッドで静かに眠る紫苑に、彼女は気づいたら口づけをしていた。
まるで眠り姫を起こす王子さまのように。
そのとたん信じられないことに、彼女自身が邪魔だと思い、いずれ手術で除去しようと思っていた男の部分が生まれて初めて反応したのだ。
強く勃起し、その場で射精しかねないほどに。
逃げるように自宅に戻った彼女は、抑えきれぬ衝動のまま自らの男を一晩中慰めた。
それから紫苑の経歴を知った。
彼女が元クラスメイトの男子であったことにさらに衝撃を受けた。
御堂京子は自他とも認める秀才である。
彼女自身そのように育てられ、そうなるべく努力してきたから。
帝王学を学び、人の心を読むことにたけた彼女が唯一理解できなかった男子生徒。
話したのはたった一度だけだが、そのときの会話が印象深かったことだけは覚えている。
……あれ、私は
思いだせない。
そして……そこで御堂京子は覚醒した。
「あ、起きた京子?」
見下ろされている。
京子が選んだクラシカルなメイド服を小柄な体にまとい、ビスクドールのように完璧に整った顔立ちは無表情だが、それを差し引いても恐ろしほどに美しかった。
安堵する。
京子は自分がベッドで寝ていることを把握して、それと同時に倦怠感にも似たわずかな体の不自由さを感じた。
シオン……ぼんやりとした面持ちでそう呼びかけようとして、京子は自らの声が、言葉がうまく出せないことに気がついた。
「もぐ、もぐぐぐ⁉(え、なにこれ⁉)」
驚き、手足を動かそうと焦る京子。
しかし自由にはならず、鎖の鳴る音がした。
なんと京子は、口に猿轡をされ、手首と足首に鎖付きの革バンドを装着され、その鎖はベッドのポールに繋がれ大の字で四肢を拘束されていたのだ。
それらのアイテムには心当たりがあった。
この
焦りは恐怖へと変わる。
そんな京子にシオンは微笑む。
京子は状況も忘れ息を飲んだ。
そう、人形の美をもつ少女は確かに微笑みを見せたのだ。
「京子、あなたは病気なの」
決めつける言葉。
しかし、諭すような声は優しかった。
京子に話しかけるシオンの声色はどこまでも優しかった。
「でも大丈夫、私は京子が例え不治の病でも決して見捨てないから」
そう決意を発表するシオンは慈愛にあふれる白衣の天使のようだ。
本当に本当に不安になるくらい優しかった。
京子は自分が震えていることに気がつく。
「だから、今から一生懸命、治療するね?」
古式メイド服を着けた美貌の少女が背後に隠していた両手を静かに掲げる。
「んんぐっ⁉」
京子は呻きながら、シオンの言葉を否定するように、唯一自由になる頭を必死になって左右に振った。
恐怖のあまり体の震えが止まらなかった。
スイッチを入れる音と、ぶぃーんというモーター音。
シオンのほっそりとした白魚のような指には、その手には、京子自身が厳選して選んだ……くねくね振動する大人のマッサージ器があった。
文明の利器があったのだ。
「京子の治療が終わるまで……ふふ、私、がんばるから♡」
京子は一瞬恐怖も忘れ、頬を染める可憐な少女に……見惚れた。
無表情なはずの妖精の顔には、その潤んだ紫色の瞳には、初めて見る類の表情が宿っていたのだ。
「では……京子の性欲を
「ふやあああああああああああああああ⁉(いやあああああああああああああああ⁉)」
それから丸一日たった翌日、御堂京子は解放されて、新たな性癖に目覚めた。
今回の話は内なる欲望をつぎ込みました……色々すいませんでした‼(保険謝罪
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閑話……エッチ禁止中の京子さんの様子
落ちも何もないので、あくまでシオンの京子さん観察記録としてお読みください(
私のパンツが一枚消えた。
京子が私にとお店で選んだ渾身の紐パンツである。
というか私の下着は全部、京子のチョイスだけど……そのうちの洗濯前の一枚が消えたのだ。
そして、京子の部屋で真空パックの袋に綺麗にたたまれた紐パンツを見つけた。
枕の下にあった。
微妙に湿ってた。
元男としてナ二に使ったかはっきりと、克明に、そこはかとなく、理解してしまった。
洗濯してある同じ色形のパンツを袋に入れて、そしらぬ顔をすることした。
夜の文明の利器を発見する前なら保護者に相談していたかもしれない。
キッチンで洗い物をしていた私は手を止め、リビングいる京子の様子を覗った。
メイドゆえに、家政婦は見た状態でのステルスモード観察である。
京子はいつも通りソファーに腰掛けて、しかしいつもとは違いテレビ(もしくは家事をする私の尻)は見ておらず真剣な表情で自分の手元に視線を向けている。
その綺麗な指には平べったい小さな棒。
それはアイススティック……ガリガ〇君とか食べた後に残る当たりくじ付きのアイス棒。
凄く嫌な予感がした。
京子はしばらく葛藤していたようだけど唐突に微笑んだ。
世捨て人のような透き通った笑顔だった。
そして私に観察されているとも知らず、自分の顔の前に薄いアイススティックを持ち上げ、頬を染め鼻の穴をスピスピ広げて、れろれろと舌先を伸ばし……。
「……京子」
それ以上は視るに堪えなく、思わず止めてしまった。
「ひゃっ!? な、なにかしらシオン!?」
「なにしてるの?」
「ナ、ナニもしてないわよ!?」
「その背中に隠した物はなに?」
「シオンが食べてゴミ箱に捨てたガリガ〇君のアイススティックじゃないわ!!」
「……私が食べてゴミ箱に捨てたガ〇ガリ君のアイススティックなんだね?」
京子って、たまに素で阿呆になるよね?
「コンポタ味だった……かも?」
「スデニ ナメテタノ デスカ?」
引き気味で見つめる私に、京子が嫌々でもするかのように頭を左右に振った。
「くっ、駄目よ!! 例え愛しのシオンにでも、この私の大事な
「なに言ってるの京子さん?」
「そんな蔑んだ目でお姉さんを誘惑しても無駄よ!! たとえ万人が今の御堂京子を恥と評しても、億万の金を積まれても、これだけは譲れないのよ!!」
京子はアイススティックをぎゅっと握り、私に取られまいと豊かな胸の谷間に隠した。
その様子は我が子を命がけで守る傷ついた野生動物のようで……でも、彼女が必死に守っているアイススティックはただのゴミです。
砂場の棒倒しか、地面で○×ゲームやる棒代わりにしか使い道のないゴミなんです。
当たりくじ、はずれだったんです。
なんだか、もう、京子の姿があまりにも哀れで情けなくて涙がでそう。
そんな京子の異変は家の中だけではない。
カオルから電話がきて。
『なぁシオっち……最近の京、だいぶおかしいんだけど何かあったのか?』
「あったと言えばあったけど……京子がどんな風に変なの?」
『今日さ、お昼に校舎の屋上に行ったんだけど……空を見あげたと思ったら突然謎の宇宙語を話しながら両手を大きく振り回し、めっちゃ笑顔でポールダンスもどきを始めた』
「……はい?」
『というか、説明するのが危険なほどテクニカルに腰を前後させながらシオっちの名前も叫んでた……』
「そんな卑猥な行動中に叫ばないでほしいな私の名前」
学校でなに発情してるかなあの
『あ、言っておくけど、シオっちに嘘教えて担ごうとしているわけじゃないぞ? 今日だって静と二人で慌てて京に抱き着いて止めたんだから‼ これでもまだ控えめな感じで言っているんだからな‼』
「え、うん、カオルが嘘ついてるとは思わないけど……なんだか京子が迷惑掛けてしまったみたいで申し訳ありません?」
謝罪をしたら、カオルが探るような神妙な声でたずねてきた。
『あ、あのさ……その……前から気になってたんだけど……お前たちマジで
「…………」
カオル、意外と鋭い。
それとも本物の女の子ならそういうことには敏感なものだろうか。
……ほんとのことは言えないのでとぼけておこう。
「そういう関係って? どういう関係?」
『え、恋人同士というか……いや悪い、変なこと聞いた……恥ずかしい忘れて……』
「うん、よく分からないけど忘れる」
『というかさぁ、今日ほどじゃないけど最近の京は毎日おかしなことばかりしてるんだよね……』
「ふーむ」
『まあ、幼稚園からの付き合いの私らにとって、アイツのエキセントリックな行動なんて今更なんだけど……それはそれとして、シオっちはしっかりとあのバカを調教して飼育しといてくれよな?』
変人行動も幼なじみならノーカンというわけか。
あと、スルーしたけれど……調教と飼育ってなにさ?
とまあ、最近の京子はこんな感じです。
それらの奇行も後数日で終わると思えば――はぁ、憂鬱だ。
エロなんて飾りです!
エロイ人にはそれがわからんのですよ!!
(直訳:エロ書こうとすると一人遊びを初めてしてしまう私を殺す気かっ!!)
一応エルフスキー三世の名前でR-18を検索してみると……ナニか出てくるかも?
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