卑怯でも勝ちは勝ち (凧の糸)
しおりを挟む

前日譚

初投稿になります。駄文であろうと読んでやるという方は
ホットミルクのような暖かさで読んでいただければ幸いです。
基本的にマイルドです。(おそらく) あと展開はめちゃくちゃにならないよう気をつけたいですが、頑張っていこうと思います。

今回は軽く説明と前日譚。わりと短いです


それではどうぞ


はぁ…疲れるな

今日もハードな仕事をこなす。

普通なエクソシストの僕は毎日こき使われている。

つか先輩の事故処理と報告なんでしなきゃいけないんだよ…

 

先輩はかなり強い。協会幹部(おえらいさん)が「人間の中で5番以内に入っているだろう」と言っていたのを聞いたことがある。

 

でも戦う度に辺りが荒れまくるのは本当に勘弁だ。僕はお陰で戦闘よりただてさえ苦手な戦闘より事務が得意になってしまった。 いや、よくよく考えると事務が得意だから押し付けられたのだろうか、 はぁ疲れるな。 「また事故処理か」と何度言ったことだろう。

 

 

 

僕が心の中で愚痴を零していると前から面倒な奴らが来た。

「おい、無視すんなよ役立たず。」「ジョージさんのサブについたからって調子に乗りやがって。」 先輩は強い、そして顔も十人中十人が振り向くくらい整っている。「銃の貴公子」という二つ名がつくほどだ。

もちろんのことながらファンも多い。非戦闘時の業務として協会へ行けば通常の3倍の人が来たそうだ。それだけファンがいれば自然とこういう妬み嫉みが僕にくる。特に、「卑怯者のくせに」、「聖水くらいしか使えないおまえがなんで」といった暴言はよく飛ぶ。

いつものことをスルーして自室へ戻った。毎度のことだが当たり前のことなのに搦め手や弱点を突くことが何故こんなに言われているのだろう?

不思議なことだ。悪魔討伐の時、同じチームのメンバーが剣やら何やらで真っ直ぐ突っ込んで行こうとしたが「そんなこんなをせず、油断しているこのタイミングで屋内だから爆弾で」と提案したが殴られて却下され、「お前のような軟弱者は帰れ」と怒りを露わにしていた。その時僕は帰ったが、後で聞いたところによると彼らは焦りからのミスで逃がしてしまったらしい。昔から僕は何故か卑怯と呼ばれる。小学校の時余り物のジャンケンで普通に勝っただけで卑怯を筆頭に数え切れないくらいに言われたが歪まなかったのはシスターのお陰と言える。

 

 

とにかく来週から駒王町とかいうところに単独で行かないといけないらしい。もう先に奪還にいった奴がいるらしいがめちゃくちゃだろこれ。

 

 

堕天使 コカビエルの討伐又は聖剣の奪還もしくは破壊

 

は? なんとかなるにしても面倒なことだ。「よしもう準備は万端だし、寝るか。」「と思っていたのか?まだ書類があるのだよ山本君。」無慈悲な宣告とともに先輩は入って来た。

 

 

ジョージ・バーンスタイン。それが彼の名前だ。こと戦闘に関して他を寄せ付けない強さを持つこの男だが、ただ書類仕事だけがダメなのだ。書けば恐ろしく時間がかかり、出来もあまりいいとは言えない。このことから上は戦闘と事務の補佐を付けたがジョージに振り回され、仕事もきついということであっという間に辞めていく人が続出したため僕が補佐になった。以降はずっと僕だ。

 

3時間後。ようやく出来た。さてと寝るか。凝った肩を軽くほぐし、柔らかでふかふかしたベットへ飛び込んだ。

 

その頃、駒王町では

 

 

「どうやら明後日、新しく討伐の人員が来るそうだ」「どんな人が来るんだ?女の人だといいなグヘヘ」「いや、男だ」「ええーマジかー」「その男の人は強いのですか?」「なんでもあの有名なジョージさんの補佐の方が来られるらしいんだけど…」「どうしたんだよ2人ともそんなスゲー人なのか?」「その男の人卑怯で有名な人らしいんだよ」「だがその強さは目を見張るものがあるそうだ」「だけどよ、卑怯な奴だろそいつ。いいのか?」「仕様がない上からの指示だ。」

 

 

さてさてこの男、山本大輔。どうなることやら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度評価あれば続くかも。




いやー難しい難しい。だれかオラに文才を分けてくれぇ
長文とかきつい((((;゚Д゚)))))))
この作品は基本的亀更新となります。
ここらへん設定と違うとかあれば感想に。
よろしくお願いしますm(__)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

闘いの前日

今回もだいたい日常回だと思います。

楽んでもらえれば幸いです。



それではどうぞ


車で7時間。ようやく着いた。さて、急いで協力者の家へ行かなくてはな。

 

駐車場に車を止めて、歩いていたら近くの家から悲鳴のような声が聞こえた。

まぁこの町は悪魔が管理が念のため近くへ行くか。

 

 

 

中から争っているがこの声フリードだろ。アイツ悪い奴じゃないが相手をするの疲れるんだよな。ついでに悪魔を倒してくれるだろうし放っておくか。 こういう任務は余計なことをしないのが望ましいのだ。 協力者の松田家へ行くか。この家はいわゆる退魔師の分家のさらに分家で今回協力することとなったのだ。息子が一人洋介というそうだが仲良くしておいて損はないだろう。

 

 

松田家はまだ灯が点いていた。ドアフォンを押すた夜中の住宅街にピンポーンと音が響く。「ああ、ようこそ」「しばらくお世話になります」その後軽く説明と話をして寝た。

 

 

 

 

朝 「今日からしばらく居候する山本です。よろしくお願いします」「はぁよろしくお願いします」 「早く行かないと学校遅れるわよ、洋介。」「やばっ行かないと!」学生か、忙しいよな。僕が懐かしさに浸っていると「町を見て回ってはどうかな」「はい、そうします」「ついでに弁当届けてやってくれ。今金欠らしいから」少し迷う。主な戦闘は悪魔が管理している駒王学園だろう。今のうちに入っておくか。「それでは行ってきます」

 

 

しばらく歩いたら大きな学園が見えてきた。おや?結界が張ってあるな。僕は鞄から専用の七つ道具の一つ、簡易結界探査装置を使った。高性能で小さい上に見た目はただのアクセサリーという優れものだ。

えっとこれは……マインドコントロール系か?異常を解りづらくする効果か。使えるなこれは。設定をいじって僕に対して無効にするか。

とりあえず終えて学園へ堂々と入った。

「すみません、弁当を渡してください」事務員室で渡した後、自身の技能である気配遮断と加工した迷彩聖水を掛けて慎重に見て回った。

 

 

 

 

ここの警備はザルといわれたがまさか本当にザルなんて…馬鹿でももう少しマシだぞ?? 僕はひたすらに困惑した。いくら人間を見下している悪魔といえどこれは無いだろ。まあ仕掛けるか。聖水は普通の水の中にある程度入れることで聖水へと置換する作用がある。これを利用してスプリンクラー、放水用の水を後のために聖水に変えておこう。後はいくつか爆弾を仕掛け、校舎に改造を施してここを後にした。

 

 

 

帰ってからは部屋部屋借り、対堕天使装備の整備を始めた。一つ目は前の仕事で手に入れたヒュドラの毒。逃げ出した子であったが充分な危険度がある。特殊毒物処理の資格がいるため取得には随分と苦労したものだ。刀に塗りこんで使おう。2つ目が強化薬だ。5分間筋力・反射強化 を可能にするが、反動が大きい切り札の1つだ。初めて使った時、大失敗したのは苦い思い出だ。3つ目はお下がりの銃だ。対悪魔・堕天使用のライフルで細かい名前は忘れた。だが凄まじい威力で相手を粉砕できる頼れる相棒となっている。あの堕天使(コカビエル)なら一撃で粉微塵だろう。

 

 

夜になり晩御飯の時間だ。焼き魚や煮物を美味しくいただいていると、洋介君が「あの〜何のようで来られたんですか。」と質問をしてくれた。

だが彼は一般人。真実は口にできないので「仕事だよ、仕事。調査とかそんなの。」彼は「はぁそうですか。」と言い黙ってしまった。

この空気をなんとかしようと格ゲーの話題を出すと「あれをやってるんですか!」と喰いついてきた。その後数時間ひたすらに語りだし、止めるのに苦労したものの「今度しませんか?友達と一緒で良ければ」と言ってことから仲は深まったと思う。軽く休憩をとって行くとするか。

 

 

 

SIDE 駒王の悪魔達

 

 

「今日明日辺り討伐の手伝いに来るそうよ」「もうそろそろか」「張り切って行くぜエクスカリバー破壊団」「本当に助っ人大丈夫なんですか?」「というか部長に言わなくていいのか?」「言わなくていいでしょ」などと会話していた。 この時、まさかあんなことになんて彼らには予想ができたのだろうか……

 

 

 

SIDE 紅髮の女悪魔

 

今回の堕天使を眷属達と討伐し、エクスカリバーを破壊すれば悪魔界で一躍有名人よ。私の眷属は他と違うこの私の眷属(モノ)なのだからお兄様になんて頼らずに最強の神器と滅びの力で確実に倒せるわ。

 

 

 

 

SIDE 堕天使

 

 

これでようやく俺の願いが叶う…フハハハハ

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの考えのもとついに決戦が始まる。、

 

 

 

 

続くかも




ありがとうございます。ただこの一言に尽きます。m(_ _)m



次回は戦闘回にする予定。描けるか不安ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦、堕天使


二年ぶりに書きました。書いている途中、コカビエルのしょうもないモノマネをして一人で笑ってました。客観的に見ると恥ずかしくなりました。



それではどうぞ



  

 

 駒王町レポート

 

 

○リアス・グレモリー

 

 種族:悪魔

 

 魔王サーゼクス・ルシファーの妹。年齢は外見年齢とほぼ同じ。

 兄同様に母方である元序列第一位のバアル家特有の能力、破滅の力を所有。あらゆる物を消滅させる事が可能、要注意であるが実力が未熟である為、ある程度対応は可能。

 ややうかつな性格。親から受け継がれたグレモリー家特有の紅い髪を誇りに思っている。異名は紅髪の破滅姫。

 

 

 総合的に判断して脅威度はC〜S

 

 

 

____________________________________

 

 

 

「おーおー、おっぱじめてますねえ。」

 買ってきた安物の双眼鏡をちょこっといじったもので駒王学園を覗く。やはり、結界がある。俺たちにとってはさほど意味のないことであるが。

 

 

 

 真っ赤な籠手を付けた少年や聖剣と魔剣らしい剣を持つすばやい少年が対象:コカビエルと戦闘を繰り広げている。

 しかしそこには明確な"差"が存在する。

 

 

 「全くってわけじゃないけど、あしらわれてるなーこれ」

 

 籠手持ちの人物は兵藤一誠。古より名を轟かす13種の神滅具(ロンギヌス)が一つ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)であると報告を受けている。

 教会に引き込めたら大幅な戦力増強になるが、彼はとっくに悪魔に転生してしまったらしい。非常に惜しいと思うが、遅かったとしか言えない。

 

 

 

 魔剣持ちの少年は木場裕斗。魔剣創造(ソード・バース)という魔剣を造る厄介な神器持ちだ。素早い動き、恐らくリアス・グレモリーの騎士だろう。だが、速いだけ。一応戦えているが、コカビエル相手には見切られて話にならない。

 

 教会の戦士が居ると言っていたが、何故か呆然としているし、首謀者だろうバルパー・ガリレイは死んでいる。

 

 

「聞こえますか、ローチ2から5」

 派遣された部下四人。信頼できるチームで、腕は戦績が保証している。

 

 「ローチ2」 「はい〜」「ローチ3」「へい」「ローチ4」「はい」「ローチ5」「……ん」

 

「俺が煙幕を投下するから全員でコカビエルを狙撃してくれ」

 対異能用ライフルと対堕天使用弾(アンチ・フォール)は既に渡している。

 

 対異能用ライフルは既存のライフルを改造し、文字通り異能に対して絶大な効力を発揮するようにした逸品だ。搭載されている効果は様々あるが、今回は結界を一部無効化して貫通する効力のライフルを合計5丁持ってきた。

 

 一方で、対堕天使弾は強力な堕天使を一方に葬る目的で作られた弾だ。堕天使に対し害のある物質と堕天使の亡骸から出来ていて、対象を内部から破壊して行く効果がある。

 ただ、ネックなのが、干した堕天使の亡骸を必要とするので滅多にお目にかかることは無く、値段もかなり張ると言った所だろう。

 

 

 

「確実に仕留めろ、以上だ。」

 通信を切り、俺はコントローラーを手に持って、ドローンを飛ばす。

 

 

 

「投下」

 ドローンは小さなコンテナをコカビエルの頭上から落とす。

 

 

 空中で開いたそれは、真っ黒な煙を吐き出した。

 

 それに呼応するようにあちこちから黒煙が発生する。

 

 

 

 

_______________________________________________

 

 

 

「リアス・グレモリー様の兵士(ポーン)だあぁぁ!!!」

 兵藤一誠が見栄を切るが、空からは黒い立方体が落下する。

 

 

 

 

「何だあれは!」

 突然現れた危険物らしき物にコカビエルは迎撃しようとするが、それより先に黒い煙を放出する。

 

 

「ぐっ、ジャミングか……」

 

黒い煙は学園のあちこちからも出ているらしく、3分ほどで結界内は黒い煙が殆ど充満してしまった。

 

 

 「ぐ、ぐわあああぁぁぁ!!」

 コカビエルは自身の脇腹を丸ごとえぐられた。傷口からは『死にたくない』『ここから出して』なんて怨念じみた声と気を失うかと思うくらいの激痛が襲い来る。

 

 

 そこから一息すらつかせずに四発の銃弾。

 

 

 

 「こんな所でぇ!! 俺と戦え!この卑怯者があッ!!!」

 その悲鳴は黒い煙の中で響き、頭と胸に大穴を穿つ。

 

 

 ぼとり。羽を失った堕天使は、これ以上言葉を発する事が無かった。

 

 

 

「一体……何が?」

 

「何であれ、警戒するしかないよ、イッセー君」

 イッセーは近くにいた木場とは辛うじて話せて、位置も分かる。だが、魔法や科学問わず通信と音がかなり遮断されている。

 

 その為にコカビエルの呻き声と、何かが落下した音だけが悪魔となって強化された聴力で聞き取れる。

 

 

 

 しばらくすると、黒煙が一気に吸い取られていく。

 

 駒王学園を囲む様に貼られていた結界が薄氷を割るみたいに簡単に崩れ去った。

 

 

 赤龍帝と対になる白龍皇。神滅器(ロンギヌス)の一つでやはりその力も同じく神さえ屠ると言われる。

 

 超絶怒涛の力の主であるヴァーリ・ルシファーがこの地に降り立った。

 

 

「今回は惜しいが、()らないさ。そこのコカビエルをアザゼルから回収するように言われてたんだが……もう死んでるか、ならその遺体を持って帰る」

 

 

「待ちなさい!!」

 一言、部長が叫ぶ。

 

「何だ? 俺と戦うにはまだ早いぞ?」

 

「いいえ、違うわ。この状況は貴方がしたの?」

 

「俺ではない、とだけ言っておこう」

 そのまま、コカビエルをだったモノを抱えてヴァーリは消えた。

 

 

 

 

 

「何だったんだ……」

 皆が早すぎる展開についていけず、唖然としている。

 

 イッセーの虚し気な声は夜に溶けて消えた。

 

 

 

____________________________________________

 

 

「お前、アレの仕掛け人だな?」

 

 後ろに立った暴力の塊。背中から汗が止まらない。

 

 両手をあげつつ、問いかける。

「アンタこそ……誰だ」

 

「俺はヴァーリ・ルシファー、白龍皇だが?」

 

「ルシファー……? まさかハーフかよ、冗談か?」

 

「俺はコカビエルを回収しろと言われていてな、リーダーであるお前と暇だから戦おうとしたんだが……」

 少し含みを入れるヴァーリ。どう言う事だ?

 

「弱すぎだ、本当にただの人間だとは思って無かったよ。歯応えがないのはどちらも虚しいだけだろう?」

 

「戦闘狂め……」

 

「まあ、いい。名前は覚えておくよ、山本大輔」

 魔法陣を展開して、おそらく駒王学園へ行ったのだろう。

 

 

「あー、死ぬかと思った……」

 ビルの上で、ごろりと寝転ぶ。足下は汗で水たまりを形成していた。

 

 

 

 

 





半分くらい減りましたが、改訂しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

はぐれ悪魔狩りをしよう


 アンケートありがとうございます。範囲外から隠れて攻撃し、弱ったところを袋叩きという方針で進めていきますので、よろしくお願いします。


 

 

 

 あの後、俺は本拠地であるイタリアへと帰った、という訳ではない。コカビエルを倒した為、暫くは引きこもっていなさいと教会からお達しが来たのだ。上からの命令には従わなければならず、やってきた神父服を着た二人に目隠しと耳栓、感覚を遮断するものを次々と付けられた上で何かに乗せられた。

 

 どれくらい時間が経ったか分からない。体感では二時間ほどだが、おそらくもっと時間は経っているだろう。

 

 

 目隠しを外された。

 

「降りろ、山本」

 

 真っ黒な車から降りるとそこはどうやら地下にあるようで、空気は淀んでいなくても独特の重苦しさがコンクリートの無骨な壁から感じられた。

 

 

「暫くここに滞在っていってもどれくらいですか?」

 

「次の任務が出れば通知がそちらに行く。 それまではこの先にある部屋を使ってくれ。 必要な物は基本的に揃っている。」

 

 

 少し奥に視線を遣ると通路がある。あの先に部屋があるのだろう。たが、基本的な物は揃っていると言っても清貧を良しとするような連中も一定数いるし、あまり高望みをするべきではないだろうな。

 

 俺は歩を進め、部屋に入ると日本のアパートの様にずらりと部屋が並んでいた。

 

「お邪魔しますっと」

 

 

 107とだけある扉を開ける。

 

 

 ベットに冷蔵庫、机に聖書とパンフレット、おまけにテレビだってあった。

 

 冷蔵庫の中身を確認するとミネラルウォーターが6本入っていた。

 

 テレビもなんだか見る気がしないので、机の上にあるパンフレットをめくると食料は102号室にあるとか、ここの利用方法について書いてあった。

 

 

 万年氷でも置いてるんじゃないかと思う程冷たい102号室から積み上げてあるカロリーメイトを取ってきて、口に放り込む。

 

 

 

 パサパサするな……

 

 

 

 ただ、だらだらと過ごした。

 

 

 

 

 時計を見るともう22時。眠たくなってきたので硬いベットにゴロリと寝っ転がって目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 ドンドンドンと激しくドアが叩かれる。

 

 

 硬いベッドですっかり固まった身体をのそのそと動かしてドアを開ける。

 

 任務ですか?の一言を言う前に目の前の男は「任務だ」と言った。

 

「お前が先の任務で活動した駒王町、その隣町で本来駐在していた戦士が訳あって離れることになってしまった。 お前は代理として白羽の矢が立った。 今からその町へ行ってもらう」

 

 

 有無を言わせず、再び目隠し等をされ、隣町へと連行された。

 

 

「到着だ」

 

 教会の敷地内に車を入れて、目隠しをようやく外された。

 

 古ぼけた教会へ入ると教会の戦士の格好をした二人組が何故かいた。

 

「おい、ちゃんと戦士が居るじゃないか?」

 

 俺は困惑した。戦士が遠出する際は誰も居ない場合や、戦力に不安がある場合に代理が派遣されるのが常だが、ここの地域は駒王町の近くであり、他の地域と比べてはぐれ悪魔が出没する訳ではないのだ。

 

 目の前の教会の戦士が気まずそうに口を開いた。

 

「実は……」

 

 二人はまだ戦士としてはまだ一人前とは言えなくて、今回遠出した戦士に戦闘の指南を受けたりしていたのだそうだ。そして最近、悪名高いはぐれ悪魔、"悪食"が付近までやってきたらしく、三人で対応に当たるはずだったのだが、どうしても外す事の出来ない用事が入ってしまったので、応援を今回要請したのだという。

 

 

 悪食と聞いて驚いた。何故俺だけ?と。しかし、教会の戦士自体もそこまで多くなく、カバーできる範囲は少ない事に加えて、近頃何やら大きなイベントがあるらしく、上はいつも以上にざわざわとしている。その為、今、用事の無い戦士は俺だけしか見つからなかった様だ。コカビエルを倒す事の出来た功績がそれを後押ししてしまったのだろう。

 

 

「悪食はどこら辺に出没していますか?」ここいらの地理には詳しく無いので出現しそうな人気の無い場所なんかを確認してみる。

 

 

「最近、廃工場で子供や大人が数人行方不明になっていて、恐らく食われたのではないかと睨んでいます。」

 

「封鎖は?」

 

「既に」

 

 悪食は相当な巨体で一度居を決めると中々動くことは無く、拠点を中心として人間や他の生物の捕食を行う。とある村が丸々一つ無くなったなんて例もあるくらい凶悪で、捕食を数え切れないくらいに繰り返しているので危険度は言うまでも無く高い。

 

 封鎖が既にされているならこれ以上の被害の拡大や増強はないだろう。

 

 

 

「それでは、作戦を立てようか」

 

 

 悪食は人型の上半身に肥大した異形の多脚をしたはぐれ悪魔。悪食の面倒な点は戦闘時に自分の巨体から小さな分身を生み出し、攻撃をする。それ自体に特質した能力を持たないものの、教会の戦士と同じか上回るくらいに強い。悪食がピンチの際には食べて回復する行動を起こす。本体は口から黒い泥の様な物を撒き散らすが、あらゆる物を溶かす溶液で非常に危険である。だが、自分の分身も当たって仕舞えばダメージを受けるのでよっぽど追い詰められないと使用しないらしい。

 そして一番の特性は悪食の名の通り、何でも食べる点にある。鉄屑やゴミですら食べてエネルギーを得るのだ、あらゆる物が奴のエネルギー源と思った方がいいだろう。

 

 

 

 

 

「最終的に人気無い場所で討伐を第一目標にする」

 

「撃退はしないのですか?」

 

「撃退はこれ以上止めるべきだ。 逃げる際にかなり多くの人間が犠牲になっている。 これ以上の強化をされると手が付けられなくなる」

 

「でも! 俺たちは……」

 

「……それも分かるけどね、まだ今なら三人で勝ち目はある」

 

「「え?」」

 

「話は変わるけど、絶対的な力という物を見たことあるかい?」

 

「い、いえ……」

 

「見れば分かるけどね、アレに対してはどんな小細工だって意味が無いんだ。 だって上から全部纏めて叩き潰して仕舞えばそれでおしまいだからね」

 

「「……」」

 

「でも、そうじゃなかったら? 策を弄して、弱点を突き、恥も外聞も無く相手を貶す。 どんな手をって事では無いけど人間死ぬ気でやればまだ、何とかなるものさ」

 

 

 

「話は逸れたけど、早速負けないための準備をしようか」

 

 

 

________________________________________________

 

 

 

「という事で、朝早いけど、沢山肉を買ってきて」

 

「? 肉……ですか?」

 

「おびき寄せるのに使う、後、毒を混ぜておけばダメージを与えられるからな」

 

「お金はどうしましょう?」

 

「かかった諸経費で何とかなるよ、多分」

 

「「多分!?」」

 

 こうして着々と準備は進み……日は暮れた。暗い夜が此方へと顔を覗かせている。

 

 

「それじゃあ、アダム君はポイントA、永原君はポイントBに」

 

「大丈夫なのでしょうか……」

 

「こういう時は自信を持つべきさ。 三人で立てた作戦を信じよう」

 

 

 

 こうしてはぐれ悪魔狩りは幕を切った。

 

 

 

「ヴオオおおぉぉ!!!」

 

 悪食だ。緩慢な動きで仕掛けた普通の豚肉をむしゃりむしゃりと食べている。

 

「よし、順調だ」

 計画通り第一の肉に食いついている。あっと言う間に食べ終わると少し離れた所に置いてある肉を食べようと再びのっそりと巨体を揺らして動き始めた。

 

 

 次の場所に誘われた悪食は肉を食べた。

 

 その瞬間、巨体の周囲で聖水がパチンと弾けた。

 

「ウゴゴオオ、ウゴオオオオオオ!」

 聖水が身体中にかかってじゅうじゅうと表面を焼いている。

 

 敵がいるのだろうと肉体の一部を分離させ、分身を作るもその分身も少しドロリと溶け出している。

 

 

「それじゃあ、狙撃開始してください」

 

 二人は頭部へと狙撃を開始した。

 

「ウボッ!!!」

 

 弾丸は数発に一度身体に命中し、体力を削っていく。

 

 そうすると身体の正面がベリベリベリと剥がれ出した。

 

「不味い! せっかくの聖水も意味が、」

 

 体表はかさぶたの様に剥がれ、剥がれた所はあっという間に消滅した。

 

「予想外の事は起きたけど、続けて下さい」

 

 

 痛みから解放された悪食は細くなった身体から苦しげに分身を四匹生成する。

 

 住宅街に走り込んでくる4つの分身。

 

 聖水を投げつけ、槍を刺したり、鎖を巻きつけたりして動きを止める。

 

「UGG GGAAA!!!」

 

 時間は思ったよりかかったが、四匹ともしっかりと無力化し、処理していく。

 

「GAAAA……」

 

 しわしわに萎びて、に弱った呻き声を上げて分身は消滅していった。

 

『悪食の活動が停止しました!』

 

「そこでしばらく万が一の為に待機しておいて」

 

『『了解』』

 

 

 近くへ行き、聖水を掛け、持ってきた槍で縫い付ける様に串刺しにしていく。念のため、足と腕も切り落としておこう。

 

「やったか?」

 

 さっきまで暴れていて周りの物を食い荒らしていたのに、今ではピクリとも動かない。

 

 足を切り落とそうと触れた瞬間

 

「!?」上半身がぼとりと落ちた。

 

 少し惚けてしまったのが運の尽き。

 

「グハっ!!」

 

 足に思いっきり吹き飛ばされ、俺の身体は一瞬でボロ雑巾に早変わりした。

 

『『山本さん!』』

 

「……ッ、俺はいい、早く潰せ、暴走した……」

 

 動けない身体を動かしながら命令を出す。

 

 本当に不味い、市街地に向かおうとしている……

 

「永原……、悪食が通るだろうお前の近くに消火栓はあるな……」

 

『はいっ!、いつでもイケます!』

 

「頼んだ……」

 

 俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 悪食は槍で突き刺さった部分を千切り、捻り出した生命力でめちゃくちゃに身体同士をくっつけていく。

 

「UガガアあアいあアァぁAaa!?!」

 

 もはや意思などない。獣は生きたいという本能一つで肉の方向へ進軍する。

 

__________________________________________________

 

 

 まさか山本さんが倒れるなんて……

 

 はぐれ悪魔に吹き飛ばされて、ピンチ。俺には託されたんだ。

 

『リョージ! 僕が援護するッ! 少し待ってろ!!』

 

 アダムが来てくれるのは心強い。

 

「ああ、早めに頼む!」

 

 

 正直、こっちに迫ってくる悪食の気持ち悪い姿にチビりそうになる。

 

「よしっ!、やるぞ、永原亮二!」

 気合で恐怖を押しつぶし、消火栓の準備をする。

 

「手の震えが……止まらん……」

 

 死が、濃厚な死の気配が首をもたげてくる。

 

「しっかりしろ! リョージ!」

 がしっと手を掴まれた。

 

「アダム……」

 

「やるしかねぇだろ、僕だって、僕だってやるときゃやるんだぜ?」

 

 ホースを全て出し、接続する。

 

 

 どくん、どくんと今にも心臓は張り裂けそうだ。

 

「来たぞ!」

 

不気味な足取りでやってくる悪食。

 

「今だッ!!」

 

地面を悪食が踏み締めた瞬間、ズズゥンと深い落とし穴へ落ちた。

 

「Uが??!??」

 

 どくどくと水を吸い上げた消火栓はホースからドバババと勢い良く水を放出する。

 

 

「GがあァああアuうuuうううウゥィィィゥアァぁA」

 

 声にならない悲鳴を上げ、凄まじい勢いで浄化される悪食。それでも穴から這い上がろうと、浄化の痛みから逃れたい一心で叫ぶ。

 

「う、嘘だろ、これだけ受けてまだ、動くのか……」

 

 希薄だが、芯のある気迫に飲まれそうになる。

 

 やがて、動きは鈍くなり、再生した部分が崩れたかと思うと、ずぶずぶずぶと消滅していった。

 

 

 

 

「や、やった、やったあー!」

 

「俺たちで、やれたんだ」

 

 両方の腰が抜けて、格好がつかないが、生きていることへの安堵感でいっぱいだった。

 

 

 

「あっ、そういえば山本さんが!」

 

「頭からすっかり抜けてた……」

 

 俺たちはあの廃工場へと走っていった。

 

 

 

「山本さん、山本さん!」

 肩を揺らすとうぅん、と呻いて目を覚ました。

 

「倒せたか」

 

「はい、俺たちやれました!」

 

「そうか……俺は骨が折れてるからおぶってくれないか、動くと痛くて痛くて」

 

「やったな、リョージ!」

 

「おう、じゃあ、帰りますか、教会に!」

 

 来た時とは違い、二人の足取りはより強く、深くなっていた。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大物へ会いに

今回は戦闘しません。


展開的に今後のインフレにどう対応すれば良いんでしょうね?


 

 山本大輔、任務だ。

 

 

 

 病院の中で渡されたのは次の任務(働け)だった。

 

 

「俺の性分じゃないんだけどなあ」

 ぼやいても仕方ない、やれ、と言われたのだからやるしかない。でも、まずは骨折を治すところからではあるが。

 

 

 

「では、この薬を飲んでください」

 看護師さんから渡されたのは余りにも物体を冒涜しているとしか言えない色をして、天使の様な香りを発する悪魔的な液体。

 

「芳しい香りですけど……本当に大丈夫ですか?」

 目を思わず潰したくなるくらいの色彩に不安感を覚えるも

 

「大丈夫です。 ちゃんと飲んだら治っているのを見てきましたから」

 

「お、親の遺言でカラフルな液体は飲めないんだ」

 

「飲んでください」

 

「……」

 

「……」

 

 看護師さんの視線が気のせいか氷みたいだ。

 

「ええい、ままよ!」

 瓶と紙コップを引ったくって注ぐと一気にごくごくと飲んだ。

 

「……」

 

「……無味だな」

 

 あれだけ怖がっていたのが馬鹿馬鹿しくなるくらいに全くといって味がなかった。

 

「コップと瓶をください」

 

 看護師さんに促されるまま二つを渡す。

 

「それでは失礼します」

 

スタスタと出ていってしまった。

 

 

 

 いや、本当に何だったんだあれ?

 

 

 

 

 

 この二日後には驚くことにすっかり骨折は治っていた。体毛がカラフルに色づく代わりに。

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 俺は今、病院の近くの教会にやってきていた。

 

 

「しかし、上も何がしたいんだ? 俺をここに呼び出して?」

 骨折が治ったとはいえ、さすがに酷使しすぎだ。

 

 

 ギギギ、とドアが開いた。

 

 

「こんにちは、戦士 山本大輔よ」

 

「う、嘘だろ……」

 

「嘘ではありません、さっそくですが、私についてきてください」

 

「ど、どうしてミカエル様が……」

 熾天使の一人、大天使ミカエルがいる。隣に護衛もいるようだ。

 

「どうしたのですか?」

 

 訝しがるミカエル様。どうしたではないだろ……貴方みたいな大物が。と言いたくなる気持ちを抑えて、付いていく。

 

 

「乗りますよ」

 現れたのはさぞお高いだろう高級車。出来るだけ動揺を悟られない様にして、搭乗する。

 

 静かに走り出す車。

 

 俺はミカエル様に聞きたいことがあった。

 

「ミカエル様、いくつか質問をしても宜しいですか?」

 

「はい、答えられる範囲ですが」

 

「まず、一つ目ですが、これから何処に?」

 

「駒王学園です。 これから三大勢力の会議があるので」

 

「!? 中々大きなイベントですね…… どうして俺が呼ばれたのでしょうか?」一番聞きたいことを尋ねる。

 

「実を言うとですね、アザゼルに『コカビエルを倒した奴を連れてこい』と言われましてね、貴方に同行をお願いした訳です。」

 

「俺の身の安全は、大丈夫ですか?」

 

「アザゼルも堕天使と言え、流石にそこの所は弁えているから大丈夫です。 それに私が手出しをさせません」

 

「ありがとうございます。とても心強いです」

 

 

 駒王学園に着いた。

 

「さて、行きますか」

 

 前の二人について行く。

 

 

 

 

 ガチャリ。立派な扉を開けると錚々たる面々がおられる。

 

「お! ミカエルじゃねえか。ひょっとして隣のお前がコカビエルを倒したって言うやつか?」

 堕天使総督、アザゼル様。

 

「どうもこんにちは、ミカエル」

 あちらの方は悪魔の長、サーゼクス・ルシファー様。

 

 なるほど、確かに錚々たる面々がこの場に揃っている。

 

 アザゼル様がこちらに近付いたので、挨拶をしておこう。

 

 

「ども、山本大輔です」

 ペコリと深々挨拶をする。

 

「こう言うのもなんだが……あんまり強くなさそうだな」

 

「まあ、ただの人間ですので……」

 

「ウチのコカビエルを倒すのがただの人間のものかよ」

 

 

____________________________________________

 

 

 

「リアス達はそろそろかな?」

 

 サーゼクス様の言から伺うに、彼らもこの会談に参加するらしい。もっぱらコカビエルと戦ったのは彼らだしな。

 

 

 しばらくすると扉が開く。

 

 

 

 歴史的な会談が始まった。

 

 

「紹介しよう。私の妹とその眷属たちにその友人だ。先日のコカビエルの一件では彼女達が前線で活躍してくれた」

 リアス・グレモリー達の紹介。ここにいる者たちは彼らのことを大体知っている。いつもの流れのようなものだ。

 

 

「悪かったな。うちのもんが迷惑を掛けた」

 頬杖をついて、面倒くさそうにするアザゼル様に悪魔側はむっとする、

 

 

「では、会議を始める前に此処に居る全員は秘匿事項である『神の不在』を認知しているものとする。異論のある者は?」

 

 

 へー、そうなのか。初めて知ったな。自分達の神が居ない事に淡白過ぎて自分でも驚いている。つい顔が面食らった感じになった俺に、お前知らんかったんか?と言う視線が集中して痛い。

 

 

「よろしい。では会議を始めよう」

 スルーしてくれて助かった。

 

 

 

「……以上が私、リアス・グレモリーとその眷属が関与した事件の全容です」

 

「私ソーナ・シトリーも彼女の説明に偽りが無い事を証言いたします」

 

 

「それでは、今の報告を受けて堕天使総督殿の意見を伺いたい」

 

 

 アザゼル様のターンだ。

「意見も何もコカビエルの奴が勝手にやった事だからな。だから白龍皇に頼んで最悪の事態が起こらないように陰で動いて貰ってたのさ……まぁその前にそこの坊主がボロ雑巾にしてくれたけどな」

 

 俺を指差すアザゼル。オカルト部があの時の!と驚いているのも無理はない。

 

「コカビエルが戦争を起こそうとしていた事自体はあずかり知らぬ事だと?」

 

「ああ、俺は今更戦争になんざ興味はねぇんだよ。今の報告にも有ったろ?コカビエルがさんざっぱら俺の事をこき下ろしていたってよ」

 

「不満分子って事ね」

 

「ハッ!不満分子なんざ何処の勢力でも一緒だろ?悪魔も教会も、きな臭え噂なんざ耳を塞いでても聞こえてくるぜ?」

 

「それは今回の一件とは関係の無い事だ」

 

「だろうな……だからもう回りくどい事は無しだ……とっとと和平を結ぼうぜ」

 

 驚愕の一言だ。今までを考えてもあり得ないと思ってしまう一言。

 

 だが、他の長二人は大して気にしたそぶりもない。

 

 

「ええ、和平を否定する気はありません。神も魔王も既に居ないのですから・・・」

 

「『神が居ない』か……昔ならその言葉だけで堕ちてたぜ? さて、サーゼクスたちは和平は賛成か?それとも反対なのかな?」

 

 

「これ以上今の危うい均衡のままでは、遠からず我らは共倒れとなるだろう。我々も和平に賛同しよう」

 

「そいつは結構。問題は三すくみの外側に居ながら世界を動かせる程の存在である二天龍。お前らの意見を聞きたい―――先ずはヴァーリ、お前からだ」

 

「俺は強い奴と戦いたい、それだけだ」

 

「心配するな。戦争が無くても強い奴なんてわんさか居るさ―――次はお前だ兵藤一誠」

 

 

 ここらから正直あんまり真面目に聞いていない。お腹が空いて空いて仕方がなかったのだから。そもそもアザゼル様の要望でここに来ただけで本当は帰ろうとしたが、帰るわけにもいかないらしく、そのまま聞いたのだ。和平か……個人的には平和が一番なので願ったり叶ったりである。

 

 

「山本大輔君? 大丈夫かい?」 サーゼクス様に話しかけられてはっ!となる俺。

 

「申し訳ありません……怪我から回復したばかりなので……」

 

「構わないさ、ところで君にもコカビエルの件で褒賞が出ていてね。 君は何か希望はあるかな?」

 

「……希望ですか。私はお金が欲しいです。清貧を良しとする教会の精神と真逆ですが、何かと金の掛かる仕事なもので……」

強欲なお願いであるが、財布が寂しくなるのはなるべく避けたいのだ。

 

「意外だね、もっと、こう、強い武具なんかを欲しがると思っていたよ」

 

「私はヘタクソなのでね、武器を持っても上手には扱えないですから」

 

「ふむ、では後日君の口座に振り込んでおけばいいかな?」

 

「はい、お願いします」

 

 

 俗物的な答えにアザゼル様は笑い、ミカエル様は苦笑い。駒王学園の面々や隣の護衛もびっくりとしたり、呆れ返っている。

 

 

 

 

 

 

 瞬間、世界は凍りついた。

 

 

 

 

「さて、時代の節目には何時だって反乱が起きるもんだ。この状況もその一環だろう、上位の力を持った俺たちは兎も角、そっちの連中は聖剣が力を防いだみたいが……コカビエル倒した奴は止まってるな。兵藤一誠は赤龍帝の力、リアス・グレモリーは停止の瞬間そいつに触れていたからだな」

 

 俺はピクリとも動けない。俺、時間停止してんの? 時間停止しているのに精神だけが動いている、奇妙だなあ。

 

「停止能力を持ったものは滅多に居ない。ギャスパー君は敵の手に堕ちたと見るべきだろう」

 

「そんな!小猫ちゃんだって居たんですよ!?そんな簡単にギャスパーが利用されるなんて!」

 

「赤龍帝の疑問の答えはアレだろう・・・外を見てみろよ」

 

 イッセーの、と言うより俺たちの疑問に答えたのは窓際に移動していたアザゼルさんだった

 

 言われて外を見てみると学園を薄っすらと霧のようなものが覆っているのが見えた

 

「厄介なモンが敵に回ったみたいだな―――あの霧は神滅器(ロンギヌス)の一つ絶霧(ディメンション・ロスト)の霧で間違いないだろう。あの霧は触れたものを強制的に任意の場所に飛ばせる力がある。あのヴァンパイアを護衛から引き離すくらい訳ないだろうさ―――おっと!言ってるそばから次が来たみたいだぞ」

 

 

 俺、意識だけ動いてるんで、そんな事よりも誰か助けてくれませんか? 結構辛いです……

 

 

 

 それから兵藤一誠とリアス・グレモリーは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の特殊な効果によって転移をした。どんな生物も悪魔に変えることの出来るアイテムとしか思っていなかっただけにチェスの様な使い方が出来るとは驚きである。

 

 

 暫くして、足元に魔法陣。

 

「あの魔法陣は確か・・・レヴィアタンの紋章!!」

 

「レヴィアタン・・・ですか?それは会長さんのお姉さんの?」

 

「いいえ違いますわ。あの紋章は先代魔王の『レヴィアタン』の家系の物ですの」

 

 姫島朱乃の注釈が入った直後、魔法陣から一人の女性が現れる

 

 

「ご機嫌ようサーゼクスにセラフォルー。それと天使と堕天使の長よ―――貴方方には今此処で滅んでいただきます」

 

 

 

 やべえ、逃げてぇ……

 

 レヴィアタンの名を持つ悪魔なんて確実に強いだろう。ミカエル様達がいるからと言って絶対な安心なんて無い。

 

 

 あんな悪魔はそんな事を気にする事なく攻撃を仕掛ける。

 

 

「最大勢力のトップが揃って防御結界とは、何とも見苦しい!」

 

 見苦しくても俺はいいけどな。毒ずくも決して届くことはないのだが。

 

 

 お、アザゼル様がカテレア・レヴィアタンと空中戦だ!

 

 流石、堕天使総督。旧魔王の家系であれど圧倒している。

「私の力をこの程度だと見くびって貰っては困りますね。良いでしょう!まずは貴方に魅せて上げましょう!真なる魔王"レヴィアタン"の力を!!」

 

 劣勢の彼女は"蛇"を出した。

 

 

 その蛇はこれからやってくる新しい時代を飲み込まんとするほんの序章に過ぎなかった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王の血

起きた時、評価ランプが灯っていてめちゃくちゃ嬉しかったです。
皆さんのお陰です。


あと、何か改善点(例:言い回しがつまらない、など)が有れば感想に書いていただけると助かります!


追記:誤字修正ありがとうございます!


 少し前ーーー

 

「!? 動……ける?」

 ようやく動けるようになった。周りの話から原因(ギャスパー・ヴラディ)がなんとかなったみたいだ。

 

「大丈夫ですか?」

 ミカエル様がこちらを心配する。

 

「申し訳ありません、私にも効果の影響が及んでいました。 戦士として恥ずかしい」

 

「気にすることはありません、迎撃を手伝って頂けますか?」

 

「はい。戦士、山本大輔、汚名返上します」

 

 

_______________________

 

 

 黒い蛇はカテレアを飲み込む様に広がり、纏うオーラは暗く、爆発的に増大し、アザゼル様に匹敵する程の量にも見える。

 

「蛇……か。予想通りと言えばそうなんだが、まぁ確信が持てただけでも良しとするか」

 

 アザゼル様はやはりな、と言う顔をした後、懐をゴソゴソ漁ると紫の宝玉が付いた短剣を取り出す。

 

「見たいもんは見れたし、これ以上ちんたら戦う理由も無いからな。コイツでケリを付けさせてもらうぜ」

 

「それは?」

 

「コイツは俺の開発した人工神器の傑作、『堕天龍の閃光槍(フォールダウン・ドラゴンスピア)』。まだまだ完成と言うにはほど遠いがなーーーそしてコイツが……禁手(バランス・ブレイク)!」

 

 均衡を崩す禁じられた手を使うと宝玉からドラゴンのオーラが溢れ出し、アザゼル様を包み込むと黄金の鎧を纏う。

 

禁手(バランス・ブレイカー)、 堕天龍の鎧(ダウンフォールドラゴン・アナザーアーマー)……もっとも、一回ぽっきりの使い捨て方式だがな」

 

 基本的に人間しか持つはずのない神器、しかもドラゴン系統の物を身に纏うアザゼル様は荒々しくオーラを吹き荒れさせ、カテレアは思わずたじろいでしまう。

 

 

「さぁ、来いよ。それとも恐くなったか?」

 

「……ッ!舐めるなぁぁぁ!!」

 

 旧魔王の血縁であり、選ばれし者である自分をコケにされ、溢れ出す怒りのままに突撃する。

 

 だが、怒りに満ちた隙だらけの攻撃はアザゼル様にとって子供の癇癪程度に過ぎない。カウンターに光の槍で深く切り裂いた。

 

 

 

「ぐぅぅぅ!!このままでは終わりません!せめて貴様を道連れに!三大勢力の一角を屠れればこの身が滅びようとも意味がありましょう!!」

 

 狂気に染まった目でアザゼルを睨みその手を無数の触手状に変えてアザゼルの左腕に絡みつく。

 

「なんだ自爆か?ゴメン被りたいね。対価としちゃ安すぎる!」

 躊躇い無く左腕を切り落とし、右手の槍をカテレア目掛けて放り投げる。

 

 

「お前なんざぁ・・・精々が腕一本がいいとこだよ」

 

 カテレアは遺言すら残せず、ただ風に吹かれて撒き散らされた。

 

 

____________________________________________

 

 

 カテレアの後にやってきた魔法使いの集団も皆で葬り、ひと段落済んだと思ったら、突然の魔力弾によりアザゼル様は墜落する。

 

「痛たたたた・・・俺もヤキが回っちまったかな?この状況で反旗かよ?ヴァーリ?」

 

「悪いなアザゼル。和平よりもこっちの方が面白そうなんだ」

 

「まったく、俺はお前に『世界の害になるような存在には為るな』と言ったはずなんだがな―――さてと、なら一つお前に聞いときたい事がある」

 

 白龍皇が裏切っていた。余りにも大きな存在の裏切りにも動ぜず、ヴァーリへと問いかける。

 

 

「ん?」

 

「うちの副総督のシェムハザが裏の世界の不穏分子を束ねている存在を察知してな・・・組織の名前は"禍の団(カオス・ブリゲート)"と言ったか?んで、その纏め役がウロボロス・ドラゴン"オーフィス"」

 

「"オーフィス"! まさか!!」

 

リアス部長が驚愕の声を上げ、それに反応した一誠が聞き覚えの無い名について問いかける

 

「部長、オーフィスってのは?」

 

「無限の龍神。この世が生まれる前から存在していると云われる神も恐れたとされる最強のドラゴンよ」

 

「確かに俺はオーフィスと組んだ・・・だが俺もアイツも世界だの変革だのに興味は無くてね。力を目当てに連中が勝手にくっついて来ただけさ」

 

「成程な、俺はてっきりカテレアと仲良くつるんだのかと思ったぜ―――お互い、魔王の座を奪われた者同士でな」

 

 放たれた言葉に一同は驚愕する。

 

「俺の名はヴァーリ・"ルシファー"。俺は死んだ先代魔王ルシファーの孫である父と人間の母の間に生まれたハーフなんだ」

 

 悪い冗談のように聞こえるが、翻した悪魔の翼とドラゴンの翼はそれが冗談でも何でもない事を嫌でも分からせる。

 

 

「魔王の血縁でありながら、人間の血も混じっている為に偶然にも白龍皇を宿す事が出来たか……全くもって冗談みたいな存在だよ、お前は―――こいつは過去・現在・未来を通じて最強の白龍皇に為るだろうさ」

 

「兵藤一誠、運命とは皮肉だとは思わないか?」

 

「なに!?」

 

「俺は魔王の血筋であり、ドラゴンの力も宿した最強の存在。対してキミはただの人間———キミの先祖も調べたが6代遡っても人外や魔法使いなどの血は全く入っていない・・・つまり、赤龍帝の籠手以外何も無い。悪魔に転生するまでのキミは余りにも普通の高校生だった。加えて、悪魔に転生してなお歴代でも最弱と言われる素質の持ち主だと聞いた時は思わず笑いが出たよ。神器はライバル同士だというのに、宿主たる俺たちには天と地以上の開きがあるのだからね」

 

「それが一体どうしたってんだ!?」

 

 完全に見下されたイッセーが声を荒げ、ヴァ―リはそんな彼に良い事を思いついたばかりに一つの提案をする

 

「だから、こう言う設定はどうだろうか?俺がキミの両親を殺して、キミは復讐者となるんだ。そうすればキミも多少は重厚な運命に身を委ねられるだろう?———そうだ!折角だからキミの目の前で両親は殺そう。強い感情の波が有れば、もしかしたらその場で禁手(バランス・ブレイカー)に至れるかも知れないからね」

 

 余りの暴論に一誠の仲間から「そ……そんな酷いことを……」と声が漏れる。

 

 

「ぶっ殺すぞクソ野郎!何で俺の両親がテメェの訳分かんねぇ理屈で殺されなくちゃならねぇんだよぉぉぉ!!」

 

『Boost!!』

 

 一誠の怒りに呼応してより濃密なドラゴンのオーラを発しながらヴァーリに突っ込んでいくが、敵うはずもなく殴り飛ばされてしまう。

 

「ぐぁああ!!」

 

『無謀だぞ相棒!ただでさえ実力差が在るのだ!禁手(バランス・ブレイカー)に為らなければ相手にもならんぞ!』

 

「ああ、アイツは俺なんかよりずっと強いんだろうけどよ!だからって、そんな理由でココで引ける訳ねぇだろぉが!!」

 

 両親を殺すと言われ、絶対に退かないという意思を込めて一誠が吼える……

 

 

 

 

____________________________________________

 

 この後、兵藤一誠の死て決着。とはいかず、驚くべき事に白龍皇の力を取り込んでパワーアップを果たしてしまった。とはいえヴァーリも力を隠しており、"ハーフ・ディメンション"という次元すらも歪める、もはや意味不明な技を使うが、アザゼル様が一誠を「あの能力は周囲の物を半分にしていく。 つまりだ! リアス・グレモリーのバストも半分になっちまうぞ〜」

 

 一見、戦っているのにアホなんじゃないか、と思われるかも知れない。

普通の赤龍帝なら無視している所だが、今代の赤龍帝、兵藤一誠はおっぱいへの執着が人一倍強い。胸への執着が生み出す強い想い(おっぱい)禁手(バランス・ブレイカー)へ至り、ヴァーリの本気を引き出すと思われた。

 

 だが、結界がパリン!と割れ、そこから孫悟空の末裔、美猴が現れた。

孫悟空の末裔までがテロリストになっている問題をぶつけて、ヴァーリと共に勝負はお預けになって消えていった。

 

 

 

 何はともあれ、今回の会談は平和で纏まったのである。

 

 

 

 

 数日後……

 

 

 近くの教会にやっかいになっている俺に使者が一人。

 

 

「山本大輔殿は居られるかな?」

 

「はい、ちょうど掃除をお願いしているのであちらに居られますよ」

 神父ー加瀬さんが使者を案内して、庭までやってきた。

 

「山本さん! 貴方に用のある方ですよー!」

 

「分かりましたー!」

 

 手早く片付けて来客の所に向かう。

 

「これはこれは、山本殿。少し二人で話しても宜しいか?」

 

「加瀬さん、良いですか?」

 

「はい、心ゆくまで話しても良いですよ」

 

作業をしていた庭に向かうと早速要件を話し始めた。

 

「まず、一つ。 ミカエル様からのお気持ちとして、貴方にタリスマンを差し上げるとの事です」

 懐中から大切に箱を取り出されたのは美しい金色のタリスマンだ。

 

「私はお金だけをお願いしたはずでは?」

 確かに振り込まれているのを確認していたので、なんとも奇妙な話である。

 

「ミカエル様のご慈悲ですよ。 貴方に対する心遣いだそうです」

 

「! ありがとうございます」

 

 なんともありがたい。感謝の念でいっぱいだ。

 

 

 

「それから……大変申し訳ないですが、新しい任務です……」

米神がピクリと動くのを必死に我慢するも、教会の戦士に休みは無い、休むは無いと必死に言い聞かせる。

 

「……分かりました。 内容は?」

 

「……実は」

 

 

 

 

 任務塗れで休む間もなくまた任務。今回は毛色が違うみたいだが……

 

 

 

 




 これから今後のルート分岐です。アンケートにご協力をお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

探索隊は森を征く



ここの章は7〜8月くらいの夏休みくらいの出来事も思って頂ければいいです。



それではどうぞ


 

 

 

 

 強い日差しは容赦なく肌を焼く。セミの声がうるさい中、俺はある用事から孤児園に来ていた。

 

「こんにちは、お久しぶりです。 園長先生」

 

「大輔君じゃないか! いや〜大きくなったねぇ」

 この古臭い臭い、落書き塗れの扉、懐かしいな。

 

「それで、俺に用があるとおっしゃっていましたが……」

 

「あ、すまないな、忘れてた。 少し待ってくれ」

 変わらないドスドスと地面を踏み締める走りで何かを取りに行った。

 

 

「いや〜、久々に会うもんだし、歳だからかすっかり物忘れも増えちゃってね、あ、すまんね、本題に入ろう」

 一転、真面目な顔になった園長先生。

 

「実は数日前に君の父親を名乗る人物から手紙が届いてね……」

 

「父親、ですか」

 俺は5歳くらいで親に預けられたらしい。昔の記憶なんてこれっぽっちも思い出せないが、少なくとも不幸では無かった気がする。

 

「君にこれを渡してくれと言って去って行かれたんだ」

 

「どれどれ」

 しっかりと蝋で封をされていて、それを剥がす。

 

私には時間が無い。だが、すべては予定通り進んでいる。勝利者の証の下で待っている。

 

「? 分かりますか?」

 

「ワシにもさっぱりだが……勝利者の証といえば冠かな?」

 

「はあ……なるほど……」

 

 

 謎が増えながらも俺はその場を後にし、空港へ向かう。イタリアに近い奴を派遣しろよ!と思った。全く上の考える事はよく分からない。

 

 

 

 

 

 飛行機を降り、空港を出た。

 

 

「おーい、山本サン!! こちらですよ!」

 元気に手を振って、俺を待っている人がいる。

 

「こんにちは、貴方が?」

 

「マッシモです。 どーぞよろしく」

 

 固く握手をすると早速車に乗って目的地の近くの教会に向かう。

 

 

「今回は本調査の前の安全確認を含めた準備調査みたいですね。 危険な化物が出るらしいんで、遭遇したら排除もお願いされています」

 

「武器はあるか? 急だったから少し持ってこれていないのもある」

 

「ええ、そこら辺は抜かりなくやっていますよ」

 

 2時間ほど揺られて着いたのはのどかな場所。

 

「風が気持ちいいな、カラッとした風がいい」

 

「日本はジメジメしてるっていいますからね」

 

 何気ない話をしながら教会へ入る。

 

 

「おう、マッシモォ! ようやく連れてきたか!!」

 

「……」

 

 大柄でそっくりな男が二人、腰掛けていた。

 

「山本サン、あちらがアメリア兄弟です。ご存知ですか?」

 

「少しだけ耳にしたことがある、相当な強さって事ぐらいしか知らないな」

 

「日本にも俺たち兄弟の名前が轟いているみたいで何よりだ! 俺はフランチェスコ。こっちはジェラルド。アンタ、あの"コカビエル"を倒したんだろう? 心強いなぁ!!」

 

「……」

 

 

「それでは! 細かい説明をするので、こちらに……」

 

 

 マッシモが他人には聞かれないように部屋に案内する。さっきからちょこちょこ変な音が気になって仕方ないが、気にしないことにした。

 

 

「それでは、今回の概要です。」

 

①: 最近発見された通称、虚の城を探索する。

 

②:付近の森に出没する灰色の獣の討伐。

 

「この2点を重点に置いて探索を行います。」

 

「質問! 虚の城って何だ?」

 

「森の中に存在しており、その実体は確認されているのですが、出現頻度は月の満ち欠けに左右され、そこだけポッカリと何もないことから虚の城と付近の住民は呼んでいるようです」

 

「ふうん、なるほど、なら灰色のってのは何だ」

 

「城が出現するようになった同時期に付近の村に出没するようになった文字通り灰色で、様々な獣が混じったような奇妙な姿をしているようです」

 

 

 

「もう、よろしいですか? 一時間後に出発の予定です」

 

 

 

 

 

 

 

 一時間……

 

 

「よし、それじゃあ向かいますか」

 

「徒歩か?」

 

「はい、そうですね。 そこまで遠いわけでも有りませんし」

 

 一行は森の中の城を目指して歩き始める。

 

 

 

 

 

「にしても森深いな」

 上から日が差している事は分かっているのだが、鬱蒼としげる木々、何も居ない不気味さで迷宮みたいだ。

 

 

「ああ、確かにかなり歩いた筈なんだが」

 

 

「もうすぐ……のはず。 ほらこれ」

 マッシモが位置情報デバイスを見せるとマークされた場所へはもうすぐそこだった。

 

 

「でもここから見えそうなもんだがなあ?」

 フランチェスコの言う通り、いくら薄暗いと言っても多少開けている視界。まして城があるのだからすぐに分かりそうな物であるが。

 

 

「兄貴、入った」

 

 

「ん? なるほどね、そう言うことか」

 

 

 今までずっと口を閉ざしてきたジェラルドが口を開くのに二人で驚いたが、どうやら兄弟は何かを察したらしい。

 

「何か……あるのか?」

 

「デバイス上では入り口の付近の筈……なんですがね?」

 

 

 

 さっぱり分からないでいると「説明してやるからよく聞いとけ、ここにはすげえ特殊な結界があるわけよ。 結界の作用で城自体の存在が世界とズレてんだ。 で、もっと特殊なのが結界そのものに気づかないと絶対に結界内には入れんのだとさ」

 

 

 なるほどな、と思った瞬間、霧が開かれるように目の前に重厚な扉が現れた。

 

「おお! し、城だ……」

 

「……なんだか来たことがあるような気がするな」

 

「気のせいだろ、気のせい。 似た構造の城なんて割とあるだろう?」

 

「そうか……あ、そういえばどうしてジェラルドは気付いたんだ?」

 

 

 一瞬、ジェラルドとフランチェスコの目線が合い、頷く。

「ジェラルドは盲目なんだが、その代わり他の感覚は倍以上に鋭敏。 結界感知なんてお茶の子さいさいよ!」

 どうりで移動時に変な音が鳴っていたわけだ。

 

「へー、頼もしいな」

 

 

 

 

##################

 

 

 

一行はいよいよ不気味な城へと侵入する。

 

 

「探索、しましょうか」

 

 

 

 

 

 

 





インフレに対応する為の強化イベントみたいなもんなので、終わった後はそこそこ強化されますが、戦闘スタイルはそのままです。だって弱いので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

灰色の獣


ハイスクールdd世界の悪魔は四文字さんに貶められた神ではなく、神に造られた悪魔な感じが個人的にするなと。元ネタからも色々やってるから神様自体が人間に優しくないですよね。まあ、神様と人間の価値観を比べるのがそもそも間違いなんですが。


 

 

 

 「んー!!!  よっこいしょ!!」

 

 全員で力一杯に押すと、ギジ……ギジギシと軋んでようやく開いた。見た目は真新しいのにまるで錆び付いたみているみたいだ。

 

「ふぅー、四人がかりでやってようやくか……」

 

「少し、休憩しましょう。 息を整えてからの方が万が一の為にもいいですから」

 

 入り口で皆が息を整え、城へと侵入した。

 

「何か外見より大きいし、やけに綺麗じゃないか、この城」

確かにそうだ。外側はこじんまりとして古めかしい様子をしているが、中身は真逆で大国の宮殿のような広さに床には埃ひとつさえ無い。

 

「空間が歪んでいるのでは無いでしょうか? 恐らくここを作られた方は相当の技量を持っていたのでしょうね」

 

「それには俺も同感だ。 こんなにチグハグな建造物を存在させれるなんてイカれてるとしか言えない」

 

空間を扱う魔法は珍しく訳ではなく、空間自体を歪めてしまう事自体は珍しい部類に入るが、見かけないと言えば嘘になる。

 日本の裏京都やアイルランドの常若の国なんかはまさしくその代表例である。 だが、あれらは神クラスやそれに近い者によって作り出された傑作で、人間レベルでこれを作るとなると考えられないが、可能性自体はあるだろう。

 

 

パシャ、パシャと内部を撮り、平面構造を用紙に書き込む。

 

「いくつかブロックに分かれているみたいだな」

歩いて気づいた事だが、この城の内部はいくつかのブロックをチューブでくっつけたような構造になっている。次のブロックに移るためのチューブ部分は大人数で移動したり、大きな物を動かすのを想定されていないようで、やや圧迫感を感じてしまう。やたらと大きな城の割に全く奇妙である。

 

 

「あのさ……二手に別れてやった方が二倍早く終わるぜ?」

背が高くてイライラが溜まっているフランチェスコが提案する。

 

「やめておきましょう、何が出てくるか分からないのでここで分かれてしまうのは悪手と考えます」

 

 

「俺はマッシモに賛成」

あの報告にあった獣も未知数だからここで分断されるのは良くないだろう。

 

「はいはい、了解です」

 

「……」

ジェラルドは兄に従うといった感じだが、互いに不満そう。

 

 

捜索していると俺たちは"図書館"と子供が書いたようなプレートのかかった部屋を見つけた。

 

「ガキが描いたみてえな字だな、これ」

 

「子供がいた……のでしょうか?」

 

「何にせよ、私たちの任務は変わりませんがね」

 

「……」

 

そこは今まで見てきた部屋で1番の広さを誇っていた。

 

何か良い情報がないかとだだっ広い部屋を探し回っている。

中央には黒いモノリスが建っているみたいだ。

 

 

 

「おい! 皆見てくれ!!」

 

「なんだ? ダイスケ?」

 

俺はある奇妙な事実を発見した。

 

「ここの本、よく見てろよ」

俺はギッチリと詰まっている本を取り出そうとするも……取り出せない。

 

「単純に取り出せないだけじゃ無いのか?」

 

「じゃあ、やって見せてくれよ」

 

「ん、そこまで言うなら」

フランチェスコが必死に引っ張ろうとするも……やはり取り出せない。

 

 

「??? どうなってんだ?」

ボルトで棚と固定されていると思えるくらいに固い。明らかに詰まっているだけのものとは思えない。

 

 

「皆さん、モノリスを操作して見ませんか?」

 

「そりゃあいい、解決しそうなのはそれくらいだろ」

 

 

 

 

モノリスの前に立ち、手をかざすと表面がブレるようにしてキーボードが現れる。

「キーボードだな……」

「ああ、場違いにも程がある」

 

中世的な雰囲気の中で未来を先取りしすぎているが、モノリスの深い黒さがそれを程よく調和していた。

 

 

「アーカイブに数件あるが、気になるタイトルばかりだぞ」

 

・日誌

 

・降霊実験1〜10

 

・降霊実験11〜13

 

・城の見取り図

 

 

 

「まず、見取り図見ようぜ。 探索がグッと楽になる」

城の見取り図をタッチすると空間に全体図が現れる。

 

 

「11のブロックに19本のチューブで繋がってんのか。 何か見たことある形だな」

 

「セフィロトじゃないか? ほら、スマホゲームとかでもたまに見るあれ」

 

「あれか? でも、何の意味で?」

言われてみればそうだ。実験とやらに関係でもあるのだろうか。 

「どうでしょうね、この形をとる事自体はよく有りますからね。 何かしら意味はあると思うのですが……」

 

「とりあえず、日誌でも見るか」

 

 

"日誌"にタッチするとホログラム状の本が現れる。

 

「触れるのか? これ、半透明で向こう側が見えそうだが?」

俺は恐る恐る本のようなものを手に取る。

 

「! よ、読めるぞ!!」

 

本とは思えないホログラフィックの光の塊としか言えないが、実態は確かにそこに有り、表面はざらりとしていた。

 

「そうですか、じゃあここらで少し四人で分担しましょう。恐らくこの部屋は安全ですから。 一時間後にここに集合しましょう」

 

「了解ー」

 

「……」

 

三人は離れていった。さて、読み進めよう。

 

・5月6日

 

 最悪だ。ようやく出会えたと思ったらとんだ期待外れ。おまけに神が死んだなんて馬鹿みたいな事実も知ってしまった。俺は破門かよ……ふざけやがってあの○○!

 

データが欠損しています。次を読み込みますか?

 

  yes. no.

 

 

「yesだな」

 万全に保存されているだろうこの場所でデータの欠損がある事が可笑しなことではあるが、迷わずyesを選ぶ。

 

少し待つと次のページが浮き上がってきた。

 

・4月8日

 

日本の友人と久々の再会。 日本のアニメーションではドラグ・ソボールの大ファンである私と彼の友人たちと仲良くなるのにそう時間はかからなかった。彼らの勧めで読んでみた小説の中に興味深い概念がある。研究に活かせそうだ。

 

 

 

・9月22日

 

第514番目の素体が完成した。実に長かった。おまけにちょうど接続が安定期に入った為、運が良かった。二週間〜三週間以内に必ず行えるはずだ。楽しみで仕方ない。

 

 

・10月9日

 

私の計画は万全を期している。明日ようやく我が悲願を叶え、この世界をきっと救済する。

 

 古きに別れを、新しきに歓迎を

 

 

 

これ以上のデータは存在していません。ドキュメントを閉じますか?

 

 

 

  yes. no.

 

 

 

 

なんなのだろう。読み進めるたびに襲われる奇妙なビジョン。母親の子宮の内部、暖かな水に包まれていた赤ん坊の誕生の後、暗い闇に飲み込まれる。

 

 

 懐かしさと吐き気を同時にもようしてきて、脳味噌をシェイクされたみたいに視界はあやふや。寒気と発熱のサイクルが身体を無視して行われる。

 

 

「なんなんだ、この奇妙な感覚は……」

すこぶる体調の悪さだが、もう時間だ。行かなければ……

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

「なあ、さっきから微かにゴソゴソ鳴ってるってジェラルドが言ってるが、獣じゃねえか?」

 

 

フランチェスコは出逢うといきなりそういった。

 

「獣……の前に、ダイスケ、大丈夫ですか? 視線が定まっていませんが」

 

「め、めまいが酷くてな、薬ないか?」

 

マッシモから薬を貰い、飲み込むと気分はマシになった気がする。

 

 

皆さんは探索どうでしたか?ーーとマッシモが発言する前に灰色の塊が天井を破って出てきた。

 

 

「a.あ、ああNNNNNN gぐぐぐぐググぐ!!」

 

一般人が耳にしたなら凍ってしまいそうになる、絶叫。

 

「ようやく、お出ましみたいだな」

 

灰色の翼を携えたキメラがよだれを垂らし、襲い来る。

 

「ににに二ニni ninnnnげんんん!!!」

 

「はっ、単純なんだよッ」

 

エクスキューショナーズソードを担いでいるが、軽やかなステップで躱すと、罪深き者に刃を振るう。

 

「断罪ッ!!」

 

 

「んんんんんんんん!!!!」

 

 灰色の獣は一刀両断された。切断の痛みは無い。頭部がイカれた化物に痛覚は存在せず、自分が斬られた事に気づくことも無く、綺麗に真っ二つになった。

 

 

「「a?」」 何が起きているんだろう? ボクが二人に増えているなあ。    ……寒いな、毛布が欲しいよ、ママ。

 

 

 

 バタン、と倒れるとその身は急速に劣化して灰へと変わってしまった。

 

 

 

 

「案外、ちょろいな」

余裕綽綽といった感じで、再び剣をしまう。

 

 

 

「獣は死ぬと灰になるのか…… 人語を介しているところを見ると……」

マッシモは集中して、小声でぶつぶつと何かを呟いている。

 

 

 

「兄貴、まずいよ」

ジェラルドが言葉を発したのは、危険の前触れだ。

 

ゴゴゴゴ……奥からひたり、ひたりとやってくる。

 

「にンげn?」「ひひ、ひひひひひひ」 「g_/__jbaimu」

 

 

「おい、マッシモ、マッシモ!!」

 

「へ? な、何ですか」

 

「来るぞ!」

 

 

「猟銃でいけるか……?」

 

こちらに向かってきた上半身は人間、下半身が蜘蛛のアラクネーのようなキメラだ。

 

 

「別の部屋で各個撃破するぞ!」

 

俺は一気に走り、別の部屋に入る。

 

 

 

「ひひひひ、ひ、ひひひ」

 

平坦で不気味な笑い声を上げてこちらに走り込んでくる。

 

 

バンっ、と対魔物用の弾を放つ。大抵の魔物や悪魔なら臓物をぶちまけてくれる優れものだ。

 

 

「ひひひ」

 

一部命中するも糸を縫う様に躱してしまう。

 

「デカい図体のくせして速いッ!」

 

多脚をせわしなく動かして、信じられないくらい素早くこちらに接近する。

 

身体にベタベタ付いている糸、時々こちらを誘う様な動き。近距離に近づけば確実に絡めとられる。脚部強化を行い、距離を取りながら再び放つ。

 

バン、バンッ!!!

 

「き、ひ、」

 

「やったか?」

二連の銃弾が直撃して、後ろにひっくり返ってピクリとも動かない。

 

 

「念のために撃っとくか」

 

 

銃声が響くーー

 

「きひひひひひは」

 

「銃弾を……受け止めているだと?」

 

 

素早く編み込まれた糸の鎧は防弾チョッキの様に銃弾を無効化してしまう。

 

 

「固いあの糸をどうにかしないと……」

残弾数が少ない猟銃をしまい、仕留める為にメイスを取り出して構える。

 

アラクネー型は攻撃されたことによる怒りで唾を吐く様に糸玉を吐き捨てて、べちょり、べちょりと汚らしい音が響く。

 

 

 

「近づけんな……糸が邪魔だ」

 

粘着性の高い糸は接近してメイスによる打撃を喰らわせようとする俺を徹底的に邪魔する。足に纏わりついて鬱陶しいことこの上ない。

 

 

 

「ひッ!」

 

「おわっ!腕が!」

 

 攻めあぐねていると腕に糸が巻き付いて、思いっきり引っ張られる。

 

 

ゴキュリ。

 

 

「ガアッ……」

 

ぶらりと腕がぶら下がる。肩は熱を持ち、ギシギシと脳に痛みを吐き出続け、意識をより鮮明にする。

 

 

「ひ、ひひ」

 

「畜生が、いててて……」

 

無理やり腕を戻すのはやっぱり痛い。気絶しそうだ。

 

 

「こっちにきやがれ、畜生め!!」

 

メイスを力一杯に投擲する。

 

 

「ひ" !!」

 

頭部に手痛い一撃を喰らわされたみたいだ。

 

 

「ひ"ひ"ひ"ひ"!!!! 」

 

無表情の顔が歪み、憤怒の顔でこちらを追いかけてきた。

 

 

「チューブには入りづらいだろ!」

 

あの狭いチューブは撃退ポイントとして優秀。

 

「き”ひ"ひ"ひ"ひ"?!!」

 

「おら、全部食らって死ね!」

 

手持ちの猟銃を撃ち、手投げ弾を投げ、近くの家具をもぶん投げる。

 

 

 

 

 

「死んだな」

あれだけの猛攻を閉鎖空間で、呆れるほど食らわせたのだ。死んでないと割に合わない。

 

 

「き……ひ、ひひ……」

 

「な!」

俺は絶句。まさか生きているなんて、どれだけタフなんだ……

 

「ひ、ひ……」

萎れるように倒れ込むと灰に還るのにそう時間を必要とはしなかった。

 

 

 

「ふぃー、強い……」

ただの化物を超えた防御力には手こずる。最近相手にする敵は普段の任務の化物よりもやたらと強い。歴史の波は新たな風を、運んでこようとしている。

 

 

 

 

 

 

 




謎要素みたいなのを入れようとしましたけど、考えるのが大変な上にそこまで大したものを作れないので諦めました。やっぱり他の人はうまいよなあ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36万5000の目


 サタンは敵対者という意味合いなだけで、本来悪魔で無く、天使らしいです。アバドンも実は天使なんだそう。

追加:重大な誤字をしてました。本当にありがたいです。


「で……最奥に来たわけだが……」

 

「ああ………言いたいことは分かる」

 

「何も」

「ないな……」

 それぞれが灰色の獣を倒したみたいで、全員で揃って豪華な装飾の扉を開けると、一つだけ。玉座があるだけの空っぽの部屋。以前は使われていたのかも知れないが、その部屋は何処か寂しげだった。

 

 

「玉座だけ残されるってのも悲しいな」

 古めかしく、何処か懐かしい肘掛けを撫でると"ドクン"と心臓が跳ねる。

 

「うっ……!」

 身体が内側から破裂するかと思うほど痛む。心臓が暴れまわり、身体は熱い。

 

「お、おい、しっかりしろ!!」

 

「ああ……だいじ」

 大丈夫だ。と言う前に俺の意識は引きずり込まれる。

 

 

____________________________________________

 

 

 

「目覚めるのだ……契約者よ……」

 頭を揺らす威厳に満ちた声だ。誰なんだ、俺は寝ていたいのに……

 

 

「お前には使命があるのだ。 約束を果たしてもらうぞ……」

 

 ビビビと謎の光線を放つ。

 

 

「イダダダダダダダダダダッ!!」

 身体中を抓られるような痛みに襲われて、俺の目は"覚めた"

 

「? ここは……」

 何処だ、ここは。ただ真っ白が永遠に広がっている部屋。ひたすらに白一色である。

 

「ようやく目覚めたか契約者。」

 

「ろ、ロボですか……?」

 ロボが居た。意味がわからない。

 

「あなたの事を教えていただけると助かるのですが」

 とにかく目の前のロボットが誰なのかが知りたい。

 

「我は、☆*……いや、しばし待て」

 こちらの頭に手を向け、「成る程」と言った後、

 

「私はメタトロン。契約の天使、72の名を持つ者。」

 とんだビックネームが出てきたな。

 

「なんで貴方のような天使が?」

 教会の一戦士でしかない俺にこのタイミングで、このような形で接触するなんておかしな事である。

 

「ふむ、お前は何も聞いていないようだな」

 

 煩わしい事だ、と言いながらも説明をしてくれるらしい。

 

 

「お前は世界を救う為に私と言う存在を注ぎ込む為に造られた器だ、本来ならな。」

 

「へー、成る程、それにしては俺弱すぎませんか?」

 

「……意外だな、大体の人間なら発狂しているぞ?」

 

「まあ、そうなら受け入れるしか無いですか?」

 

「……発狂しないでいてくれるのは此方としても助かるね、話を続けよう」

 

「お前を創り出した人間との契約により、お前と言う存在の格を上げる。奴との契約からそのままの計画の概要を説明する。いいな」

 

「はい、お願いします」

 

「奴は絶望していた。人間の悪性は止まる事を知らす、貪る人間、淫蕩にふける人間、強欲な人間、ただ悲しみに暮れる人間、怒りに囚われる人間、怠惰をよしとする人間、自惚れる人間、傲慢な人間。七つの大罪というアレだ。人間が文明を手にし、科学の力を手にしても尚人間の精神は進化をしなかった。」

 

 

「過去の人間にはダーウィンとか言う学者がいるそうだが、『生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである。』人間が早すぎる文明の速度に人間の魂が適応し切れていない事に気づいたんだとさ、じゃあ、どうする?人間の魂をどうにかしようなんて難しいだろ? 奴は人間そのものの魂を改造する事にしたんだ。笑えるよな。 ただの人間が神の領域に手を伸ばすんだ、初めて聞いたときは新手のギャグかと思ったね、私は。」

 

 

 

 

 おっと、すまない。話が逸れてしまったね。

 

 

 「普通に考えて魂の格上げは無理だ。その為にモデルケースを用意して実験する必要があった。で、それがお前たち。天使という高次存在を普通の人間の魂と同調させる事て人間の格上げを狙おうとしたんだな。」

 

 「まずは天使に会おうとしたらしいが、会って相当がっかりしたらしい。それから、ひたすらに悩む日々が続いたんだが、ちょっとしたきっかけから"穴"を開けて私と出会って契約をしたと言うことだ。勿論、私は魂のデータをきっちり渡して、その他諸々の協力もしたよ。じゃんじゃんお前らを作って、514番目の完成体がお前。運良く私との相性も良かったからそこを足掛かりに"魂のアップデート"を行うはずだったんだが……、パプニングでバレて面倒くさい事になったからな〜あれは。それで、完成体のお前が持っていかれるのは困るから、日本の孤児院にお前を預けて奴は離れていたんだよ。今日、あの城に行ったことさえも全てが必然だったのさ。」

 

 

 

 それでだ、ほい。

 

 

 メタトロン?は銀色のリングを渡してきた。装飾も何もない、ただのリング。

 

「それはな、私がお前用に神器(セイクリッド・ギア)を模倣して作ったエセ神器、契約の腕輪(コンタクト・アンゲロス)だ。人間の身でも私の力を引き出せる。確か、教会の戦士として働いてるんだろう? データ集めに協力してくれ。計画がこれでぐっと楽になるんだ。」

 

 

「分かった、付けよう。 どう付ければいい?」

 俺は二つ返事で答えるが、リングの付け方はどうすれば良いのだろう。とても装着できそうに無い見た目だ。

 

「俺のだーって念じたら付けれるぞ、魂と融合して腕輪として使える。」

 

 

 俺の物、俺の物……。目を瞑り、そう念じると手から質量が消える。

 

 

「成功したな、試しに出してみてくれ」

 

「よし、出ろ腕輪」

 シンプルな銀の輝きが腕に纏われている。これが神器の感覚というやつか。力が漲る。

 

 

「じゃあ、私の役割もここまでか、起きたら少しびっくりするかも知れないが、気にしないでくれよ」

 

「そうか、なら早く戻してくれ」

 

 

 

 意識が暗転するーー

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 ピッ、ピッ、ピッ……

 

 

 規則的に心電図がなっている。

 

 

 

 私はマリア、しばらく前に運び込まれ、未だ眠り続ける日本人の担当だ。

 

 

 今日も点滴の付け替えなど、変わらない。あーあ、つまらないなあ。肩は凝るし、最近はお気に入りの写真立てを落としちゃったし……ついてないなあ。

 

 

「あー、あ、もし、そこの看護師さん、今日は何日?」

 

 

 私は卒倒するかと思った。

 

 

 

 

____________________________________

 

 

 

「やあ、ダイスケさん、目覚めたんですね」

 

「目覚めたは良いんだが……どうなってんだ?」

 

「実はあの後……」

 

 俺が倒れた後、城が突然崩壊し始めたらしい。どうにかして逃げ出す事は出来たが、すっかり城は崩れて、後日隊を組んで行くと、残骸の一つも無かったそうだ。そして、俺は目を覚まさず、今日の日までベッドの上でずっと寝ていた。

 

 

「マッシモさん、そろそろ避けて下さい。脳に異常が無いか調べないと」

 

「分かってないなあ、教会の戦士は特別頑丈。そんなの要らないって」

そう言いながらもマッシモは避ける。

 

「それでは始めていきますよー」

 

 

 

 検査は長かった。と言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

「文句の言いようのない健康体ですね、退院して良いですよ」

 一日後、俺は退院した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の任務ですよ、戦士山本」

 俺の仕事はまだまだ続く……

 

 

 

 





アンゲロス:神々と人間との中間の霊的存在としての伝令。そのまま調べると東ローマ皇帝が出てくる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなる門出


 ハイスクールddでメインに出る天使のミカエル達は実は天使のヒエラルキーでは7番目のアークエンジェル。物質界に干渉する為に位が低くなっているそうですが、ハイスクールdd時空ではそうではないみたいですね。ちなみに位か高くなるにつれて人のかたちから離れていくそうです。


 

 

 

「戦士、山本よ……」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「貴様に任務を言い渡す。 駒王学園に赴任せよ」

 

「はい、え? ふ、赴任ですか?」

 

「何だ……戦士、山本よ、不満があるのか?」

 

「いえ、何故駒王学園なのか聞かせて頂けませんか」

 

「……貴様は三大勢力の例の会議に参加していたな?」

 

「はい」

 

「日本の学校では九月に休み明けするらしい。そこに教会側の者を送り込む事になったんだが……やはりいかんせん不安でな。貴様あたりならちょうど良く同じ日本人であるし、サポートとして動ける。此方は貴様の住居、資格等を既に用意している。」

 

「成る程、分かりました。 山本大輔、謹んでお受けします」

 

 

 

 俺は再びあの地を踏んだ。

 

 

 

____________________________________________

 

 

 朝から駒王学園生は講堂へ集められていた。

 

「新しく先生が来るって!」

「へー、急じゃない?」

「男か、女か、気になるなあ〜」

 

 

 ざわ……ざわ……

 

 

 緊張の中、一人壇上に登る。

 

 

「こんにちは、私は山本大輔です。皆さんと一緒に成長していける先生でありたいと思っています。これから宜しくお願いします。」

 

 

 

 

 パチパチパチーー

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

 

「では、山本先生。慣れない事も沢山ありますが、一つ一つを丁寧にこなしていく事が成長への近道なので頑張りましょうね」

 

「ありがとうございます、校長先生」

 やさしく校長先生には本当に頭が下がる。用事があるようで言いたいことを言った校長は足早に何処かへ行った。

 

 

「ふぅー、何とかなったな」

 緊張した。壇上でもっと小粋なことを話そうとしたが、頭が真っ白になってしまったのだ。女子が多い学校だが、受け入れられそうだな。

 

 

 

 ピロリン!

 

 

「メールか……」

 近くに誰も居ない事を確認してメールを開く。

 

 

『旧校舎でオカルト部と会いなさい。』

 

 成る程ね、でも旧校舎って何処だ?

 

 

「すいません、樋笠先生。旧校舎は何処ですか?」

 この短髪に刈り込んだ先生は俺と同じ歴史の教師。ドラマに出てきそうな体育教師のような見た目をしているが、繊細で丁寧な人柄をしている。

 

 

「ああ、旧校舎ね。あっち……だと思うよ」

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

「すまないな、あまり行った事が無いから」

 

「いえいえ、助かりました」

 認識阻害でも使ってるのか、他の一般の先生に聞いてもさっぱりである。

 

 

 

「やっと着いたよ……」

 時間をかけてたどり着いた教室。中では話し声が聞こえる、

 

 

 

 コンコンコン。日本はノックを三回、だっけな。

 

 

「……はい、どうぞ」

 

 姫島朱乃の声だ。俺はリアス・グレモリーの許可が貰えたみたいだな。

 

 

 

 まずは挨拶が肝心だ。

 

 

「こんにちは、皆さん。朝のことで知っておられると思いますが、挨拶を。教会所属の山本です。どうぞ宜しくお願いします」

 

「ええ、貴方が来るのは知っていたわ。リアス・グレモリーよ、宜しく」

 リアス・グレモリーによる簡単な眷属の紹介が行われた。

 

 

 

 

 

「貴方が私のサポートなのよね、紫藤イリナ。よろしくね」

 

 

 そして最後に奥に座った男。

 

「おいおい、紫藤イリナに続いてお前もかーー 山本大輔?」

 

「すいません、紫藤さんに続いてとは?」

堕天使総督アザゼルに思わず聞き返す。

 

「お前ら……ホウレンソウを大事にしろよ……」

 呆れながらも懇切丁寧に説明してくれた。転生天使というのか。三大勢力間の技術交流で為せた事なんだとか。紫藤さんが天使の白い翼と輪っかを見せてくれる。

 

 

「でだ。お前は知らなかったみたいだし、どういう事だ?」

 

「"色々"とあったんですよ……色々と」

 

「色々ね……、後で聞く。 それでお前はイリナのサポートで来たのか?」

 

「そうですね、主な任務はそれですが、駒王学園の教員としても働くように言われたので」

 懐からぴかぴかの教員免許を取り出す。

 

「え! お前、本当か? どうせ偽造だろ?」

 

「教会の戦士がほいほい偽造を使うのは不味いですからね、自分で取った物ですよこれは」

 

 

 

「へぇー、教会の戦士ってそんなのも必要なのか、意外だな」

 横から皆の気持ちを代弁する様に、物珍しそうに教員免許を見つめる兵藤。

 

「兵藤君も意外に思いますか。資格は持っていると結構便利ですよ」

 

「そ、そうですか」

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 兵藤は「イッセーって呼んでくれ!」と要求したが、流石に先生か会ったばかりの生徒を呼び捨てにするのも何だか気が引けるので、「一誠君」と呼ぶことになった。

 

 

「歓迎会をするんですけど、山本先生も参加しませんか?」

 

「ありがとう、一誠君。 ありがたいんだけどもまだこの街に来たばかりでね、家の片付けなんかをしないといけないんだ。 気持ちだけ受け取っておくよ」

 

「あー、そうですか。 また今度何か有ればぜひ参加して下さい!!」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 俺はオカルト部の部室から出た。

 

 

 

 

 

「おい、待ってくれよ」

 学園の裏にアザゼル様がやってきた。

 

「ちょっと準備するか」

 

 パチン!と指を鳴らすと半径2メートル程の簡易結界が作られる。

 

「遮音に特化させた。 これで人目を気にせず話せるぜ?」

 ニヤリ、と愉快そうに笑みを浮かべる。

 

 

「さて、何処から話しましょうか……」

顎に手をやって考えるが、アザゼル様は質問を既に決めているらしい。

 

「お前が天使臭せーところから話せ」

 

「それですか。この腕輪ですよ」

 あのエセ神器を出すと少しだけ目を開かせた。

 

「ほぅ……神器か……」

 

「天使の力を得れるみたいでね、契約の腕輪(コンタクト・アンゲロス)と俺は名付けて呼んでますよ」

 

「珍しいな、天使の力を使える神器なんて」

 裏世界きっての神器オタクで自分で神器を作ってしまうアザゼルがそういうのだから間違い無いだろう。エセ神器である事を疑われないだろうか、心配だ。

 

「そうなんですねぇ、軽く使っただけなんであまりよくわかりませんが、光の槍とか作れますよ」

 

「おっ、是非とも見せてくれ」

 

「分かりました」

 

 身体を流れる光を集中させ、頭の中にある槍のイメージを元に成形して空想を現実へと引きずり出してやる。

 

 

 

「こいつは……すげぇな」

 一本の輝く槍が手に現れる。長さ、硬さが共に十分あり、加減によって伸ばしたり、穂先を弄りまわせる優れものだ。

 

 

「他には何が出来る?」

 

「んー、光を物体に流し込んで威力を上げたり、物の強度も上げられますよ。ただ、相性が悪いと不具合が起きたりするのが弱点ですかね」

 

「……割と汎用性高けーな、おい」

 

「ですよね、本当ラッキーですよ。 まさか俺も今更神器に目覚めるとは思っていなかったですし」(本当は偽物だけどな)

 

「しかし、どうやって目覚めたんだ? 教会の戦士なら神器が目覚めるタイミングがいくらでもありそうな物だし、何よりお前から神器の気配はしなかった。今更、俺が言えた事じゃ無いから咎めはしないが……奪ったのか?」

 

「……まさか。本当に目覚めたんですよ。疑われるのも無理はないですけど一番驚いてるのは俺ですからね」

 なおも訝しがるアザゼル様もこれ以上聞き出せそうに無いと思ったみたいで「……ま、それもそうか。気休めかも知れないが頑張れよ」

と言って去っていかれた。

 

 

 

 

 家に帰宅し、荷物整理をしていると電話だ。

 

 

「もしもし、私だ。私」

 

「オレオレ詐欺みたいな事をしないでください」

 彼方のメタトロンだ。こうしてたまにタイミング良く電話をかけてくることがある。

 

 

「例の計画だが、奴もようやく魂のアーキタイプを完成させれたらしい。しかも、72種類あるときた。こちらの幸先はいいぞ」

 

「良かった良かった。こちらも駒王学園に入れましたよ。アザゼルに直接探りを入れられました。大変でしたよ……」

 

「そりゃあ、災難だ。カラスの羽をお前に送ってやろうか?」

 

「謹んで遠慮させて戴きます」

 

「あっそ、いいや。 そうだ!今度イスタンブールに観光をするつもりなんだけどねえ、見ておいた方がいいのってある?」

 

「イスタンブールですか、そもそも貴方どうやってこっちに来るんですか?」

 

「人形を借りれば、分霊を飛ばしてそれで十分だ!」

 

「……ハメを外して目立たないで下さいよ、くれぐれも」

 

「わかってるさ!わかってるって!!」

 

この1週間後、地元新聞に載るくらいの騒ぎを起こすのだが、たぶん知らない方がきっと幸せだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 以前したルート分岐アンケートで「駒王学園の先生ルート」は選ばれなかったはずでは?という人に説明をすると、先生ルートの場合は前話の強化イベントが発生しなかったルートで、今話は強化ルートに入った上で先生になったルートです。ちなみに上記は教諭ですが、下記は非常勤といった感じです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地の底にて

 闘わない回がしばらく続く。かも


 

 

 

 

 ピーンポーン。閑静な住宅街にドアホンの音が響く。

 

 

「はぁーい」

 

「お久しぶりです。松田さん。」

 コカビエルの事件の際、家に泊めてくれたお礼と引越しの挨拶を込めてこの家にやってきた。元気だろうか?

 

 

「あら、山本君じゃない。久しぶりね。洋介から聞いたわ、先生になったって。ここじゃなんだから家に上がっていって」

 奥さんのご好意は非常にありがたいが、今後のプランを進めていく上で行かなければならない所があるのだ。非常に惜しいが仕方ない事だ。

 

「ありがとうございます。でも、この後用事で東京に行かないといけないので。今日は以前のお礼をと思ってこれを。」

 日本にやってくるときに買ったお高いお菓子。以前食べたことがあるがあの甘味を超えるものを未だ食べたことは無いくらい美味く、是非ともお世話になった松田家に送りたい品だった。

 

「まあ! それ、確か最近東京に進出したって言う……」

 奥さんは絶句しているが、その目は未知の甘味への興味で満ち満ちている。

 

「あっちで買ってきたんですよ。流石にちょっと値が張りましたが、きっと気に入ってくれると思います。皆で食べていただけたら嬉しいです。」

 

「いや〜本当にありがとうね、山本君。あ、そういえば時間大丈夫?急いでるみたいだったけど?」

 

「あ……マズっ」

 もう少しで行かなければ乗り遅れて約束の時間に遅れてしまう。

 

「では、また今度。お二人にも宜しくお願いします」

 

「ええ、お仕事がんばってね〜」

 奥さんはにこやかな笑みを浮かべ、手を振りながら見送ってくれた。

 

 

 

 

 

「急がないとな……」

 あまり褒められた事ではないが、私用で身体強化を使い、駅へと駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 

_________________________________

 

 

 都内某ビル地下XX階ーー

 

 

 グオングオングオン……

 

 鈍い音が反響し、地の底まで堕ちていく。

 

 

 

「山本大輔様、ここで何が作られているかはご存知ですか?」

 案内役の者にそう尋ねられる。

 

 

 そもそも、俺が都内の地下深くに何故いるのかーー数日前に遡る。

 

 

 

 

 きっかけはメタトロンのいつもの電話からだった。

 

 

「もしも〜し、ちょっと東京の**ってビルに行ってくれないか? 計画進める上で必ず見といて欲しいんだわ。神器を使えばわかる気配があるからそいつに"ロバの耳は王様の耳"って言えば案内してくれるって事で頼んだわー」

 

 いつもよりは多少真面目な事を言ったかと思えば勝手に切ってしまった。まったく気まぐれな奴である。

 

 行ってくれと命令され、正直鬱陶しい……と思ったが、それが計画に必要なら行かない訳にはいかない。すぐ支度をし、数日の休暇をとって東京へ行った。学校の教師と言えど、俺は特別な枠なので、こう言った休みを詳しい内容を言わずとも簡単に取れる。ありがたい学校だ。

 

 

 

 

 こうしてビルに到着したはいいのだが、何せ都会のビルは広い。神器を使えば分かると言っていたので、早速俺は神器を使った。

 

 

 

 

 

 あれかーー

 

 

 

 感覚であの暗いサングラスをかけたスーツの者がメタトロンの言っていた"そいつ"なんだろう。

 

 

 後ろに近づいて、"ロバの耳は王様の耳"と言うと、何処かへ歩き出した。着いてこい、と言う事だろうか。

 

 ビルのあまり人のいない区画へ入っていき、それでもなお進み続ける。三階分ほど階段を降りて、扉を開けるとエレベーターがそこにはあった。

 

 

「こちらに……」

 今まで口を固く閉ざしていたスーツの奴がボソリと呟く。

 

 俺はそれに乗り、あの状況に至る訳だ。

 

「聞いていないな、俺は。教えてくれるのか?」

 

「……こちらはV研究所です。我々の完全なる勝利のため、日夜研究が重ねられております。今回案内するのは一番発動する確率が多いだろう方法です」

 

 ピーンポーン。地下<→9階です。

 

 

 バグっている人工音声が到着を知らせる。

 

 

 黄土色の門の先には広い空間が待っている。通路の向こう側が研究区画だろうか。蛍光灯がピカピカと一際主張している。

 

 

 

「大変お待たせしました。区画3です。案内を続けます。」

 そのまま通路に歩いて行った。

 

「ちょっと待って!」

 スタスタと歩き出したので、追いつくように駆け足。

 

 

 

 

「こちらが最重要部です。」

 

 シュュュゥゥゥゥ……と未来的な扉が開くと研究員たちが机にかじりついている。

 

 

「彼らは気にしないでください。研究に没頭している時に話しかけると激昂して襲いかかってきます」

 

「そ、そうか……」

 研究員とは思えないくらい物騒な奴らだが、かなり優秀な人材らしい、ただ性格に難があるみたいだが。

 

 

「そして、こちらがもうじきロールアウトするアークです。」

 

「それは一体どんな物で?」

 船の形をした、奇妙な物体がプレパラートの上を蠢いているのが分かる。

 

 

「名前の通り、箱舟の形をした特殊なファージで、自分の持つデータを対象の細胞に植えつけることができ、自己増殖も可能です。」

 

「つまり?」

 

「楽に魂のアップデートができます」

 

「そりゃあいい」

 計画を楽に進められると聞いて素直に喜べる。にしても"これ"を使って計画を進めるとは……驚きである。

 

 

「これだけか?」

 

「他にも見ますか?」

 

「頼んだ」

 

 

 別の区画に行くと、食物を介して進化を図ったり、気候を変動させることで進化を促したり、ネットワークで無意識的に人間を変化させるなど短期的なものから、長期的なものまで存在している。全てが分かるわけではないが、説明が分かりやすくて多少の面白みはあった。

 

 

 

「もういいかな」

 かなり見てきたので、もう必要ないだろう。さっさとこの息苦しい場所から出たいという気持ちもあった。

 

 

「では、これを」

 一粒薬を出した。

 

「飲んで下さい」

 

 どう言うことだ?

 

「今後の方針を知ることができるそうです。情報の流出は危険なので」

 

「なるほど、飲もう」

 俺は出された錠剤をゴクン、と丸呑みにする。ぴりりと舌先が痺れる様な感覚がする。 バンっ!! 頭の中に今後の方針が刻み込まれる……

 

「ッ……飲んだぞ」

 

「ご協力ありがとうございます」

 

「しかし、どうやってこうなるんだ? 俺にはさっぱり分からない」

 薬を飲んで記憶を植え付けるなんて……これもやはり新技術か?

 

「研究過程で生まれた特定のDNAに対して内部に秘められた記憶を放出し、脳細胞に記憶を刻ませる薬物です。価格も高く、あまり効率が良いとは言えませんがこういった場面では非常に楽なのです」

 

 

 

 

 

 再びエレベーターが上まで上り、軽い話を交わしながらビルの入り口まで戻ってきた。相変わらず人でごった返している。

 

 

 

「それじゃあ、帰るんで」

 俺はそのまま駒王の家へと直行で帰った。

 

 

 

 




 王様の耳はロバの耳、というお話が有りますが、そこらで荷物を引いているロバの耳に国政なんかの話をしても到底理解は出来ないでしょう。しかし、王様はロバの耳であるにも関わらず、話を一応聞いて理解ができるはずです。果たして、王様の耳は本当にロバの耳なのでしょうか?国民がロバの耳と思っているだけで、それは"普通"の耳ではないのでしょうか?もしかしたら、自分の耳が本当はロバの耳であり、気付いていないのは自分なのかも知れません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛のかたち

 嫌われてがちなディオドラ君ですけど、愛のかたちはいろいろとありますからね。世間がどう思うかは別として一人一人への愛は確かにそこにあるのかも知れません。


あと、お気に入り80件ありがとうございます。執筆の励みになってます。


 

 

「た、体育祭ですか!!」

 

「ええ、こないだ外出した時にちょうど先生と私に決まりましてね、割と簡単らしいんで頑張っていきましょう」

 樋笠先生は共に頑張ろうと言ってくれるが、大丈夫だろうか……

 

 

 

 

「ゴミ箱、ゴミ箱は……あ、いっぱいだな」

 職員室のゴミ箱は溢れそうになっていて、俺はゴミ捨てをかって出ることにした。今後も休むことが多いだろうし、このくらいの事をしておかないと少しだけバツが悪い。

 

 

 よっこらせ……かなりの量はあるが持てないほどじゃない。

 

 

 

 ゴミ捨て場についた。俺は運が良かった。ちょうどゴミ収集車も来ているな。

 

「すいません、これいいですか?」

 

「あ、先生ですか。いいですよ、そこに置いておいて下さい」

 

 よっと、重かったな。

「だいぶ涼しくなりましたねー」

 

「そうだなあ、夜中とかけっこう涼しい時もありますし。若い時はこんなに熱くなかったんだがなあ……」

 老齢のゴミ収集員は昨今の熱苦しさを嘆いているよりは、昔を懐かしんでいる気がした。

 

「そういや、お宅の高校だけどね、ドラマでしか見たことないような手紙、なんだっけ、あれ、あれ。手紙を留めるやつ……」

 

「蝋ですか?」

 

「そう、それそれ。 えらい数のが捨てられててさ。大丈夫かね?」

文字通り山のような数が高校のゴミ袋から捨てられていて、ずっと不気味に思っていたらしい。

 

「分からないですね、なんか不安になってきたんで、調べてみますよ」

 

「そりゃ、助かる。高校生が厄介な事件に巻き込まれてるんじゃないかと気がかりでね」

 そういうと、ふと腕時計に目を向ける。

 

 

「おっと、引き止めちゃったね。ごめんな」

 さっさとゴミを放り込んで、彼は颯爽と去っていった。

 

 

 

 

「……戻るか」

 目的はとうに終わった。仕事に戻ろう。

 

 

 

____________________________________________

 

 

ーー放課後、オカルト部

 

「こんにちはー」

 扉を開けるといつものメンバーが居た。

 

「こんにちは、山本」

それぞれが挨拶をしてくれた。どうやらレーティングバトルのVTRを見ているみたいだ。

 

「なあ、見ているところすまないが、最近手紙が山ほど捨てられてるって聞いたけど何か知らないか?」

 

 皆の顔がああ、あれの事ね。と言った顔になる。

 

 

「実はーー」

 一誠君が言うには『僧侶』のアーシアさんが貴族悪魔に粘着されているそうだ。それもただの悪魔ではなく、教会から追放されるきっかけにもなった悪魔の治療、割と前に噂にもなった[聖女のスキャンダル]の治療された側、ディオドラ・アスタロトだという。

 

 ディオドラか……何処かで聞いた事があるような気がする。さて、何処だったか?

 

 

「それで、毎日ですか……こりゃ酷いな」

 アーシアさんが好きらしい彼は"愛の手紙"を山のように毎日欠かさず送ってくるので捨てているのだが、増える一方なんだとか。ストーカーでは?と俺は思った。

 

 

 

 

 魔法陣が突然現れる。

 

「アスタロト……」

 リアス部長がそう呟くと、緑の魔法陣から一人の優男が現れた。

 

「ご機嫌よう皆さん。ディオドラ・アスタロトです。」

 噂をすればなんとやらとはよく言ったものである。やってきたものはしょうがない。

 

 

 

 

 

「単刀直入に言います。『僧侶』のトレードをお願いしたいのです」

 

「えぇ、僕のことですかぁ!?」

 

「な訳ないだろ」

 一誠君は即座にツッコミを入れる。

 

 

 

「僕が望むリアスさんの眷属は――『僧侶』アーシア・アルジェント」

 ちょっとしたコントに目も向けず、そう言い放つディオドラ。笑った顔は何処となく気持ちの悪さを感じる。イケメンだからとかじゃない。邪悪が潜んでいる気がするのだ。

 

 

「こちらが用意するのは……」

 手元からカタログを出そうとするが、リアス部長はそれを静止させ、

 

「だと思ったわ。けれど、ゴメンなさい。その下僕カタログみたいなものを見る前に言っておいた方がいいと思ったから先に言うわ。私はトレードをする気はないの。それはあなたの『僧侶』と釣り合わないとかそういうことではなくて、単純にアーシアを手放したくないから。――私の大事な眷属悪魔だもの」

 

 そう言い切った。

 

 ディオドラの表情は変わらない。

 

 

「一緒に生活している仲だもの。情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら?私は十分だと思うのだけれど。それに求婚したい女性をトレードで手に入れようというのもどうなのかしらね。そういう風に私を介してアーシアを手に入れようとするのは解せないわ、ディオドラ。あなた、求婚の意味を理解しているのかしら?」

 

 誰が見ても怒り出しそうなリアス部長。だが、ディオドラの表情は変わらない。

 

 

「わかりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」

 

 

「アーシア。僕はキミを愛しているよ。大丈夫、運命は僕たちを裏切らない。この世のすべてが僕たちの間を否定しても、僕はそれを乗り越えてみせるよ」

 

 

 

「アーシアに何しやがる!!」

 

 ディオドラが手の甲にキスするのを辞めさせようと掴みかかる。

 

 

「離してくれないか? 薄汚いドラゴン君に触れられるのはちょっとね」強く跳ね除けるディオドラ。怒りで拳を掲げる一誠君。

 

 

 しかし、彼女が一足早かった。

 

 

 パシン!!

 

 

「そんなことを言わないでください!」

 

 

 アーシアさんがディオドラに平手打ちをする。俺はちょっと胸がすいた。

 

 

「なるほど、分かったよ。赤龍帝、兵藤一誠。次のゲームで僕が倒すよ。そうしたらアーシアは僕の愛に応えて欲しい」

 

「負ける訳ねぇだろ! お前が薄汚いと言ったドラゴンの力、存分に見せてやるさ!!」

 

 

 売り言葉に買い言葉。けっこう熱い展開に俺は少しワクワク感を感じてしまうが、仕方ない。

 

 ディオドラはそのまま帰っていったが、オカルト部は間違いなく次の勝負に勝つ。と決意に溢れていた。

 

 

 

 

 

_________________________________

 

ーーとある聖女の末路

 

 

 ガラガラガラ。無機質な部屋に一匹の悪魔が運び込まれた。

 

 

 

 しまった、教会に捕まってしまうなんて……ディオドラ様……

 

 

 

 彼女はディオドラの眷属となった元聖女。今は悪魔となり、ディオドラの愛を受けていた。彼女は満ち足りていた。だからこそディオドラを庇って逃げるための犠牲になることも厭わなかった。

 

 

 ガチャ、と誰がが入ってくる。ようやく逃げれそうだったのに……と元聖女は歯噛みする。

 

 

「こんにちは、悪魔さん、俺は山本って言います」

 教会の人間にしては珍しく、目の前の男はこちらに罵声を吐かなかった。

 

「あなたが言う事を言ってくれたら、きちんと解放してあげるので話してくださいよ。」

 胡散臭い。信じられるか、そんな事。

 

 

「ます、一つ目に貴方の主は誰ですか?」

 

 ふん、ディオドラ様の事を言うもんか。

 

 

「だんまりですか……」

 悲しげな顔をするこいつ。

 

 少し部屋から離れると何かを運んできたみたいだ。

 

 

 大きなビーカーに瓶の液体を注ぐ。あれは……嫌、聖水……

 

 こちらを消そうとしているのかと思ったが、何かがおかしい。消すならいくらでもタイミングはあった訳だし、何より目の前でこいつは聖水の濃度を薄め始めた。

 

 

「知ってました? 聖水と水を1:33で薄めるとちょうどいいんですよ」

 

 何がちょうどいいだ、早くここから出せ!と言おうとしたがーー

 

 

 イギヤャャャャャャャャアアァァァァァァァ!!

 

 

 想像を絶する痛みがお腹に走る。痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。お腹が、魂が、脳に痛みを送り続ける。

 

「話して、くれますか」

 

「話して……やるもんか……」

 残り少ない気力で言い放つ。

 

「じゃあ、追加で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は気絶した。

 

 

 

 

 

「おーい、起きました?」

 

 私は生きていたのか……

 

 

「は、話す、話すから、もう、やめて」

 

「ありがとう。聞き分けがいいのは助かるな」

 悪魔みたいな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

「じゃあ最後、ディオドラの居場所とか、人間界によく行く場所とか無いですか?」

 

こいつ……ディオドラ様をころすきだ。そんな、ことは言えない。

 

「だめ、いえない」

 

「そうですか、痛いの嫌じゃないんですか?」

 

「ディオドラさま、のため……」

 

「!! 愛の力って素晴らしいなあ〜。 よし、ちょっと決めましたよ、俺」

 

 

そういうと、アイツは部屋を出た。

 

 

 

「逃げなきゃ……死んじゃう……」

 

運良く拘束バンドが外れて、転移の魔法陣を展開する。

 

 

「やった! ようやくかえれる!!!」

 

 

 

 

「え? なんで……」

 

転移したのは見たことない部屋。私の身体はさっきよりも一段と拘束されている。

 

 

「やあ、逃げれたと思った?」

 ニコニコと笑みを浮かべたアイツ。

 

「死ねッ」

 

 魔力弾でひ弱な人間を消しとばしてやる!が、ちっとも魔法陣なんかでない。

 

「えいっ、エイッ、出てよ、出ろよ!!!」

 

「いやー、涙でぐちょぐちょじゃないですかー」

 アイツはやさしく涙をタオルで拭き取る。

 

「本当はね、逃してあげようと思ったんですよ。でもね、どこまで愛情が持つのか実験……したくなりましてね。頑張って下さい、そう簡単に死なせないですから」

 

 

 発狂ーー出来ない。 自殺ーー出来ない。 脱出ーー出来ない。

 

 

「まず、これから……」

 そう言って、頭にゴツゴツしたナニカをつける。

 

 

「これは、もともとルドヴィコ療法と言う治療のための器具でしてね……」

 

 

 

 私を無視して話し続ける。

 

 

 テレビがついた。

 

 

 テレビから聖書の字句の映像、聖歌を歌う様子が延々と流れ続ける。

 

 

「それじゃあ、また明日に来るんで、楽しんで」

 

 ドアは閉まった。

 

 

いやだ、いやだ、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや

 

 

 

「ディオドラさまはーーうぐゅえこゆひけそ」

 

 

 

 

 

 元聖女は身体の内側から惨めに爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

ーー次の日

 

「あーあ、だめだこりゃ」

 床に肉塊が落ちている。醜悪な臭いはそこまで出ていない、元といえど聖女だからか?

 

「俺が片付けないといけないのか……」

 

 

 

 結局俺は諦めて清掃係を呼ぶことにした。

 

 

 

 

 

 




ルドヴィコ療法ってのは凶悪な犯罪者に暴力的な映像をひたすら無理やり見せることで、暴力に吐き気や忌避感を覚えさせるという治療です。頭につけたのはそれのための器具。目を閉じられなくなります。元ネタがあるので検索すればよく分かりますよ。

個人的には調べる事をおすすめはしません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終焉への胎動


 真面目に神器を使う。ことにする。


 

ーー旧校舎

 

 

 

 「いってらっしゃい」 「頑張ってね!」 「健闘を祈ってますよ〜」

 

 リアス部長たちオカルト部を見送ると、ようやくアザゼル様が話を切り出す。

 

「さて……俺たちも行くか」

 

「ミカエル様から貴方と冥界へ行くよう命じられたんですけど……」

 イリナさんはミカエル様からの指示らしい。まあ、彼の転生天使のAなのだからそうなのだろう。

 

「どうして皆に秘密何ですか?」

 銀髪の女性はワルキューレのロスヴァイセさん。何故ワルキューレがここに?と思うかもしれないが、彼女は置いていかれたために帰れなくなって泣く泣く日本にいるそうだ。

 

 

 

「何も起こらなかったら、サプライズで応援に来たとでも言っときゃいい……起こった時は……俺が恨まれるだけだ」

 そう言ってアザゼル様は魔法陣に魔力を送り込み、唸りを上げてその機能を果たした。

 

 

 

 

_________________________________

 

 

ゴゴゴゴ……

 

 

 

 冥界へ現れた俺たち。

 

「やはり、禍の団ですかね」

 

「ああ、ディオドラ・アスタロト達にきな臭い動きがあってな。あとはタレコミだ。」

 

「軽口叩いてる場合じゃないですよ!」

 目の前に次々と悪魔が使用するタイプの魔法陣が大量に展開されていく。

 

「直接殴り合いなんて、俺の戦闘スタイルじゃないんですけどね……」

 今日は銃とナイフを持ってきているものの、弾数は少なく、少し心許ない。

 

 

「我ら、旧魔王の力を受け継ぐ者。とくと死グホォッ!!」

 

「はい、さようなら」

 輝く槍が汚らしい悪魔を貫き、塵に還す。

 

「貴様ァ!!!!」

 悪魔は味方を消されて怒り心頭だが、そんなのどうでもいい。悪魔死すべし。

 

「それッ!!!」

 再び腕輪が光り、槍を形成して、ぶん投げる。

 

 

 

「馬鹿めッ、そう単調で我々をーーウワァァァァァ!!」

 真っ直ぐと飛んでいった槍は急旋回して悪魔に突き刺さる。

 

 

「危なかった……一発で当たると思ったんだがな……」

 神器の能力の一つで、光力のコントロールがある。それを応用し、擬似ホーミングを行えるという訳だ。ただ、視界が遮られると追跡できなくなる弱点も併せ持っている。

 

 

「あー、マズイな……」

 

 ぱっと見五十匹程の悪魔が羽根のないこちらに向かい、憎悪に満ちた顔で駆ける。

 

 

「やべやべやべ」

 確実に殺そうと放たれる魔法を紙一重で躱し続ける。

 

「家族の仇ィ!!」

 さっきから来る悪魔は戯言ばかり言い続けている。だが、相手の確実に殺してやろうとする意志が他に比べて明らかに強すぎる。余波によるダメージはこちらを少しずつ蝕んでいく事だけは確かだった。

 

 

「はあッ! セイッ!」

 みんなで次々と沸き続ける悪魔を倒す。

 

「キリがないぞ……どんだけいるんだよ……」

 

「山本さん! 泣き言言わない!!」

 紫藤さんから厳しいお言葉。うーん、みんな飛べるからいいかもしれないけど、俺は飛べんのよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひたすらに戦いまくってかなりの数が減った、訳ではない。むしろ増えている気さえする。

 

「どうなってんだ? あったの戦力」

 槍を投げながらそうぼやいてしまうのも仕方ない。本当に減らないのだ。しつこいのもいい加減にしてほしいものである。

 

 

 

 

「ん? あそこに……」

 アザゼル様の辺に……一つの魔法陣。うっすらと感じる魔力の質は上級悪魔のソレに似ている。

 

 

「一発やるか」

 右腕に左手を添え、自分の腕は砲身のイメージ。光力を弾丸、第一射目を捕獲網のイメージ。

 

 

「定まったな」

 光力を練って形にしてやり、上級悪魔のであろう魔法陣にタイミング良く放つ。

 

 

 ズズズとのこのこ悪魔が現れる。

 

 後ろから音も、害意すらない弾には気付かない。自分の勝利を確信している彼に気付け、というのも酷なことではあるが。

 

 

「わたッ、何だ!コレはッ!!」

 まんまと引っ掛かった。

 

 アザゼル様はこちらにニヤリ、と悪い笑みを浮かべた。

 

 

「待ってくれ……私は、私は、ま」

 無慈悲な堕天使総督の黄金の鎧により、旧魔王派閥の悪魔、グルセレイ・アスモデウスは得たはずの"最強の力"を使う事も無く、遺言すら残さず散っていった。

 

 

 

「助かったぜ、山本」

 

「いえ、ちょうど良かったので」

 

「謙遜するなって、ところで今度その神器の……」

 

「遠慮しまーす……」

 彼の前から全力で立ち去った。研究者の前にえさをぶら下げるもんじゃない。

 

 

 

 赤い魔法陣ーー「アザゼル……」

 

「おっ、サーゼクスか」

 

「先程までアスモデウスの気配がしたのだが……」

 

「ああ、俺がやった」

 

「そうか……すまない」

悲しみに満ちた声だった。

 

 

 

 

 

 

「アザゼル、久しい」

 この後出現したある存在に出会わなかったことが、最近で一番の幸運なのかもしれない……が

 

 

 

 

____________________________________

 

「? !?!?あのオーラ量、どうかしてるぜ……」

 馬鹿みたいなオーラが溢れている。神器がなけりゃ、今頃死んでた。まあ、神器がなかったらここに来なかったが。

 

 

 益々強まるオーラ。おまけにビームを乱射してくる。

 

「おいおい、当たれば即消滅とは……クソゲーかよ」

 アホみたいにデカい威力のビームは今の神器の状態では当たればデッドエンド直行モノ。『当たらなければ、どうと言う事は無い』を文字通り再現しなきゃいけない機会が来るなんて……ツイてない……

 

 

 

 

「今度は大怪獣バトルか? 勘弁してくれ……」

 白い龍。ヴァーリ・ルシファーだ。二匹の龍は神話の戦いのように暴れ回り、原始的な闘いを繰り広げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホント、帰りたいデス……」

 

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 DAY AFTER DAYーー

 

 

 

 万事良い形で治まった。一誠君たちオカルト部は登校せず、休んでいる様だが流石にオカルト部の試合という理由は無理がありますよ、と猛烈に言いたい。そこら辺の融通()が効くのはこの学校特有である。

 

 

 

 

 

「では、68ページを開いてくださいーー」

 

 オカルト部のメンバーがいないだけでそれなりに静かになる学校。校内有名人たちが所属しているだけはある。

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

「あ、もうこんな時間ですか。 体育祭を楽しむもいいですが、テストに向けて準備だけはしておいてくださいね。それでは終わります」

 生徒たちは解放されて、思い思いに動き出す。

 

 

「体育祭か……」

 少し楽しみだ。

 

 ふあ〜あ、少し眠いな……

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

「!」

 

 すっかり微睡んでいたが、爆発音は確かに耳にした。しかも旧校舎。

コンマ1秒で目覚めた俺は教師として、教会の戦士として、現場に向かう。

 

 

 

 

 

 

「爆発事故……?」「でも、旧校舎に爆発物なんて」

 体育祭の練習に励んでいた一般生徒たちはひたすらに困惑の様子。早くしなければ。

 

 

「はーい、皆さん下がって、危ないですよ」

 注意と避難を促していると、生徒会もやってきた。

 

「山本先生」

 

「ああ、シトリーさんか。皆は無事だ」

 会長のソーナ・シトリーとその眷属たち。素早くロープを張ってくれてとても助かる。

 

「よく無事だったな」

 

「ギャスパー君が爆発に巻き込まれる寸前、時間を止めて二人を休出したそうですわ」

 姫島さんがそう説明を入れる。なにあれ、怪我がなくてよかった。

 

 

 

「あッ、リアスは何処に?」

 ソーナ会長がそういうと、搭乗さんとギャスパー君は暗い顔。一体何が起きている?

 

 

 

「お二人は何か知っておられますね?」

 

「ああ、今回の件、ロキの仕業だ」

ロキ。北欧の神話のビッグネーム。悪戯好きな神が一体?

 

 

 

 

 場所を変えて話を聞くに、一誠君のニセモノが現れ、リアス部長をさらったらしい。それはどうやらとある不満を持ったロキの仕業という。

 

 

 

 

 

 悪神による黄昏は、木の下に隠された角笛の音を今か、今かと心待ちにしている……

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 確認の為、アニメを見ているとアザゼルはラグナロクを世界の終わりみたいに言ってましたが、ラグナロクの後は必ず再生が起こります。割とそう言った感じの破壊と再生のサイクルは何処の神話にもある事ですね。シヴァ神なんかがいい例です。神話というモノは不思議なことに結構共通点があるんですよね。人間が考えることは大体同じと考えるべきか……それとも……



 『破壊は終わり、創造が始まるの……』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奪還!部長

 夏も暑くなってきました。コロナだけでなく、熱中症にも気をつけて、水分補給なんかを忘れないように



それではどうぞ


 リアス部長を助けるため、一誠君たちオカルト部は部長の救出の為に次元の狭間へ入って行った。

 

 

「皆さんが無事だといいんですが……」

 ロスヴァイセさんの声は闇にただ、紛れるだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリッッン!!!

 

 

 突然の場違いな騒音。

 

 

 二人からジトッとした視線が向けられ、とてもバツが悪い。少し遠くへ行ってそっと携帯を開いた。

 

 

 

「もしも〜し、あーあー聞こえてますか〜?」

 

「……聞こえてますが」

 こんな時に掛けてきたのはメタトロンだった。相変わらず気の抜けた声だった。

 

「君さ、今ちょっとした問題に巻き込まれてるだろ?」

 

「はい、ご存知でしたか」

 

「そりゃあ、私は暇だからね。"奴"から言付けを頼まれたんだ、『大口スポンサーの邪魔をしてやるなよ』だってさ」

 

「!? わ、分かりました。では切りますね」

 長すぎては彼らに怪しまれそうだ。と思い、切ろうとすると

 

「ああ、少し待って。君、あの神器とうまい具合に馴染んできたみたいだね。暇なときで良いから、出来るだけ早めにあの研究所に行ってやってくれ。それじゃあ」

 プツリと切れた。

 

「今度の休みにでも……行くか」

 ポケットに携帯をねじ込んで戻った。勿論マナーモードを忘れずに。

 

 

 

____________________________________________

 

 数日前ーー

 

「アザゼル先生、ここに呼び出して何の用ですか?」

 ロスヴァイセとイリナは昼休みの突然の呼び出しに少しばかり困惑していた。

 

 簡易結界を張り、防音まで行われている。明らかに過剰だったが、それなりの事なのだろうと覚悟をした。

 

「山本いるだろ、山本」

 

「ええ、彼が一体……?」

 二人は突然出てきた彼の名前にますます困惑する。勤務態度だっていたって真面目であり、生徒からの信頼もそこそこある彼。悪事を働きそうにない彼だからこそ余計に困惑した。

 

「まさか、禍の団に……」

 イリナは一つの予想として発言したが、アザゼルは首を横に振る。

 

「いいや、禍の団じゃあないことは確かだ。俺が確認している。だが、何か、何かが俺の勘にビンビン来る……ちょっとしたボロをださないか見張っておいてくれないか?」

 いつにもなく真剣なアザゼルの表情に二人も察する。

 

「ええ、承りました」

 

「分かったわ、こっちも教会の方から何か調べてみる」

 

 

「おう、頼んだ」

 二人は部屋から出て行った。

 

 

「一応の布石は打ったが……お前は一体何者だ?山本大輔……」

 

 

 そもそも、アザゼルが彼に疑念を抱いたのは授業がなく、ちょうど暇な時間だった。

 

 

 

「うし、終わった終わった」

 授業も終わり、暫くは自由な時間が続くアザゼル。軽く伸びをして、自分専用の部屋に戻ろうとする。

 

「お、アイツ誰と電話してるんだ?」

 教会所属で、現在同僚でもある山本大輔が人目を避けるようにしてこそこそと電話を掛けていた。

 

 あまりの徹底した行動に直感的な怪しさを感じ、アザゼルはこっそりも物陰で様子を伺う。

 

 

 

「rc_a(dv&dl……」

 アザゼルは一瞬、自分の脳がついにボケてしまったのではないか、と思ってしまった。

 

 ここで、皆さんは悪魔の駒の事を思い出していただきたい。あらゆる生物を悪魔に転生させるという特殊なアイテムで、そのもう一つの効果である言語翻訳。勿論、それは純正の悪魔にも備わっている訳で、彼らは父なる"神"によって造られた。

 天使も又、神によって造られた。ならば堕ちた天使である堕天使も言語翻訳機能を備えているというのが自然である。だが、何故聞き取れないのか。あらゆる言語で会話する事を可能にするはずなのに、一人間が電話で会話している内容すら聞き取れない。それは正に異常でしかない。

 

 

 アザゼルは額にダラリと一滴の汗が流れることすら気付くことが出来なかった。かなりの動揺具合だが、隠密だけは完璧で、山本はちっともこちらに気付いていない。ポーン!と次の授業を知らせる鐘が鳴ると、彼は電話を終えて、自分の担当クラスへと急いで駆け出した。

 

 完全に行った事を確認してアザゼルはのそり、と動き出し、山本大輔という人間の過去を洗いざらい調べた。

 

 

名前:山本大輔 年齢:28歳 出身地:日本 所属:教会

 

 シングルファーザーの家庭で、6歳ごろに孤児院へと預けられた。その後、悪魔関連の事件に巻き込まれ、教会所属になる。主にイタリアを中心に活動し、それなりの戦績を納めており、少し前にジョージ・バーンスタインの補佐を務めていたが、今は別任務の為、解任されている。等々……

 経歴については特段おかしい事は書いてない。悪魔などの裏の存在と出会い、教会のエクソシストになる者は決して少なくないからだ。余りにもおかしいところが存在せず、あの意味不明な発音は一体……?と堕天使総督の頭を捻っても捻っても、暗号言語で話したとか、デタラメで、意味のない言葉を話したか、等と考えるもどうも腑に落ちない。取り敢えず、疲れたのでコーヒーを一杯飲んだ。ブラックの苦味は脳内を冴え渡らせるも、ただそれだけ。考えていても仕方がないと後回しにして、別の事をし始めた。

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

 グニャリ、と空間が歪み、そこから人影をいくつか吐き出した。

 

「!! 皆さん!」

 

 

 彼ら、オカルト部は帰って来た。肝心の兵藤一誠とリアス・グレモリーが欠けたままだが。

            ・

          ・

            ・

 

 

「よくご無事で……」

 ロスヴァイセさんがそう声掛けをするが、そこには一誠くんとリアス部長の姿は無い。

 

「いきなり空間から飛び出してきたから、びっくりしたわ!」

 

「だが、リアス部長と一誠が……」

 

 

「やはり、イッセーの覇龍のカケラを、ロキが利用したようだな」

 アザゼル先生だ。にしても覇龍のカケラで擬似的にであるが、赤龍帝の力を得れるとは恐ろしい事である。

 

「自分の分身のようなものか、イッセー君は勝てるんでしょうか?」

 

 

「わからん、だが、信じるしか無いだろうアイツの持つ本当の強さを」

 

 

「今は……祈りましょう」

 ロスヴァイセさんの一言で一誠くんやリアス部長が帰ってこられるように祈る。

 

 

 

 

 

そして夕方ーー

 

 

 再び、空間が歪むとリアス部長をだき抱えた一誠くんが現れた。

 

 皆が歓喜の表情でいっぱいである。

 

 

 

 これでまた、オカルト部にも平穏が戻ったのであった……

 

 

 

 

 

 

 帰宅後ーー

 

 

 ガチャりとドアを開けると、玄関には一枚の手紙が置いてある。

 

 さて、誰からのだろう?

 

 手紙を開くと魔法陣、どことなく北欧的なそれが空中に投射され、頭巾を被った人が映された。

 

 

「私は代理人、ただの代理人です。念のため、貴方に警告をしておきます……決して、決して我が主の邪魔立てはしない事……それを破れば、あなた方との契約を打ち切り、罰を与えるので悪しからず」

 

「熱ッ!!!」

 話が終わったかと思うと手紙は燃焼し、あっと言う間に消炭に変わってしまった。

 

「スポンサー……まさか、いや、本当か?」

 私は急いで財布を持ち、荷物を最低限纏めて東京へ直行した。

 

 

 

 

「こっちに行って、あったぞ」

 例のビルだ。私は最近どういう訳か誰かに監視をされている。しっかりとしたセキュリティを通って完全に撒いた後、あの地下へと潜る。

 

 

 

 長いあのエレベーターから降り、研究室に向かう。

 

 研究者はちょうど暇な時間帯らしかった。

 

「あの、山本ですが少し伺いたい事があってきました。所長は居られませんか?」

 

「ああ、あんたか。所長は後で呼ぶからこっちに来てくれ」

 

「ちょ、ちょっと!!」

 無理やり私を引きずる男は葉村という名前で、研究者なのにそこらの教会の戦士より強い気配をしていた。

 

 

「歩けますから、離してください」

 

「そうか、ならついて来てくれ」

 葉村はパッと離したかと思えばスタスタと歩き始めた。どれだけせっかちなのか、と呆れてしまった。

 

 

 

「さっそくだが、実験機を出してくれ」

 

「実験機?何だそれは?」

 聞きなれぬ言葉に首を傾げると、葉村は机をトントンと叩き、「説明は聞いてないのか?」面倒くさそうにそう言った。

 

「ああ、少なくとも実験機なんて名前は聞いてない」

「なら、説明するからよく聞いてくれ」

 

「お前に渡された腕輪、それは"あるお方"が造った物でな、その方が作成中に亡くなった為に50%の完成度だった物を俺たちが完成させるってのが、俺たちの命題なのよ。」

 

「あるお方って?」

 地下籠りの研究者たちが言う"あるお方"とは一体誰なんだろうか?ちっとも想像が出来ない。

 

「あるお方はな"お山の大将"に名前を奪われたから名無しなんだよ。だから"あるお方"と呼ぶしか無いわけ」

 

「そんなのはどうでもいい事だからさ、じゃあ、実験機を外してくれ。外れろって念じると外れるから」

 言う通りに『外れろ』と念じるとペキッと金具が外れるような音がして、綺麗に外れた。

 

 

 彼は手際よく、怪しげなコードを次々に挿していくと、パソコンに向かった。

 

「こいつは……すごい……想像以上だ」

 余程お気に召したのか、口角が少しだけ上がっている。

 

 

「何をするんだ?」

 

「アップデート。より機能を引き出せるようにしてやる」

 手元が躍ると画面には文字列があっという間に埋まっていく。

 

 

 30分程待つと出来たらしく、此方に腕輪を装着するように言った。

 

 

 装着してみると、確かに能力の上昇を感じられる。初めての装着の時以上だ……

 

「光力の出力上昇と、自動ホーミングを付けておいた。後、赤龍帝の"譲渡"を参考に光力サプライヤーも乗っけたぞ。」

 

「そんなに! ところで光力サプライヤーって光力を他人に渡せるんですか?」 

 

「そうだな。あんた、天使とかがお仲間にいるんだろ?死にかけのやつに自分の光力を送り込んで回復も出来るし、光力が苦手な相手に送り込めたりもする。ただ、接触が条件だからそこは覚えとけよ」

 

 その後は軽い雑談をして家に帰宅する……筈だった。

 

 

 

 

「ぶぐぐぐずぅ。カラスはうまいねええ”ええええ」

 路地裏で堕天使らしき肉塊と黒羽が散乱していた。

 

 

「おいおい、はぐれ悪魔かよ……」

 三大勢力が手を結んでからは更にその数を減らしたはぐれ悪魔。この時期まで生き残っているのを見るに、相当強いだろう。

 

 

 

「うまそうなぁあぁあ人間?天使?」

 バレたみたいだ。

 

 

 右肩らしき所の口から魔力砲を放つ。

 

 

「うおっ、熱ッ!」

 紙一重で躱すが、周りのコンクリートを抉り取り、どろどろに融かす。衝撃や薬物に強く出来ている化学繊維で織られたスーツの一部が溶けて役目を果たせなくなる。

 

 食らえッ、と槍なげをするが、不思議なことに槍を片手で弾き飛ばした。

 

「ホントに悪魔かよアイツっ」

 弱点な筈の光力が少しも効いていない。

 

 にやにやといやらしい笑みを浮かべる悪魔。

 

「ぐはっ……!」

 ストレートを腹にもらって壁に叩きつけられた。肋骨が何本が折れている。ズキズキと痛い。スーツでも構わずゴロゴロと身体を回転させ、離れつつ体制を立て直す。

 

 痛む身体を庇いつつ、相手の殴る蹴るを回避して光力をチャージし、光の槍の雨を降らせる。

 

 何本か腕を生やしたと思えば、高速で腕を動かして槍を跳ね除けてしまった。

 

 

 またニタニタと笑うが、気づいてないようだなッ!

 

 ホーミングで全体の1割ほどが突き刺さると、「あギギギ、ぺ」と苦々しく顔が変わるが、フッ!と気合を入れると全てバラバラと抜けてしまった。

 

 

 どんだけ硬いんだ?

 

 冷徹な表情でこちらに向かって走る悪魔。街に出すわけにいかないと、路地裏を逃げ回るが少しずつ追い詰められていく。

 

 

 背後は壁。もう逃げられない。

 

 

「うまそうなぁあぁあぁあぁあぁあぁにく〜」

 のっし、のっしと少しずつ近づく。

 

 

「やめ、やめてくれ……」

 

 

「やだよおぉぉぉぉぉぉぉぉう」

 右手を大きく振りかぶった瞬間、「今だ!」私は閃光弾を放った。

 

 ピカっと光がそこら一帯を満たす。

「ぐわああうちぁぁぁぁあぁあぁ!!!」

 目に閃光を喰らい、のたうちまわる悪魔。

 

 槍を何本か生成して四肢を全て串刺しにして封じ込め、相手の心臓部に触れる。

 

 

「ありったけの光力でも喰らいやがれっ!」

 右手に練りに練った大量かつ純度の高い光力を心臓部に送り込む。

 

 

 

 バクンッ、と身体が跳ねたかと思うと内側からバラバラと身体が崩れていく。捨て台詞さえ、吐くことが出来ずに消滅した。

 

 

 

 私は地面に倒れた。

 

「あー、服ボロボロじゃねえか……」

なんとか身体を起こすと、最悪な服装を直してとぼとぼと近くの安いホテルで一泊した。

 

 

 

 そして、朝。

 

「そういえば、所長に会うの忘れてた……」

 ちょっとした後悔と共に今日が体育祭の前日準備がある事を思い出した。

 

 

「あ、やば」

 始発で駒王に帰り、家で急いで支度をした。

 

 

 

 自転車で登校しているが、通り過ぎる度、人がチラッとこちらに視線を向ける。何処かおかしいのだろうか?

 

 

「おはようございます、樋笠先生」

 

「おはようございます、山本先生」

 少し、先生の顔がしかめっ面になる。

 

「大丈夫ですか?山本先生、焦げ臭いですよ」

 周りの人に分かるくらいには焦げ臭いらしかった……

 

 

「あはは……周りの人の態度もそこからか……」

 授業に出た時、生徒からも軽く弄られるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久々の戦闘ですけど、難しい。もっと上手く書けたらいいんですが




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

甘くて、苦く、そして酸っぱい



投稿です。次回から戦闘開始といったところでしょうか。


それではどうぞ


 

 

 体育祭はうまくいった。だが、二年生には次の行事が待っている。

 

 そう、修学旅行だ。この駒王学園は今年、京都へ行く事が決まっているのだが、先生側は苦労が絶えない。ホテルや、移動手段の確保、それらを始めとして、スケジュールを組んだり、当番や部活なんかも調整が必要になる。

 

 俺も京都行きのメンバーの一人として入ることとなった。どうやら裏京都と話し合いを行うらしく、それが行われている時の表の生徒も含めての計画立ては中々大変である。

 一応、ヘルプが出るらしいが、頼りすぎるのも良くないだろう。

 

 

 

 

 あっと言う間にその時はやってきた。新幹線に乗って、いざ京都へ。

 

 

「いやー、京都観光は初めてなんで楽しみなんですよ」

 

「へえ、意外。山本先生って忘れがちだけど、海外生活の方が多かったですよね?」

 

「まあ、そうですけど、大した観光地は知りませんけどね」

 隣の平間先生と会話が弾む。

 

「海外って言ってもどこ住みだったんですか?」

 

「イタリアのローマの近くですね、バチカンの切手は割と持ってますし、確か平間先生は切手収集されましたよね?」

 

「ええ、でもバチカンのは現地でちゃんと集めてますよ!」

 

「おお、そうですか。いつ頃観光に?」

 

「大学の頃でね、楽しかったなあ……」

 

 この後も話は続き、切手マニアの血が騒いだのか、暴走気味の先生の話を聞いているうちに京都駅へ着いてしまった。

 

「じゃ、降りて集合させますか」

 

「ええ、頑張って、山本先生!」

 

 俺は先んじて降りた。生徒たちを集合させ、待機していると……

 

 

「ちかーん!!!」

 

「おっぱい、おっぱい……」

 ーーなんだ?痴漢か?

 

 ちょっとした人だかりができている。生徒が珍しいものを見たと遅れていた。

「遅れてますよ〜」

 

「あ、はい、急ぎます」

 注意を促せば進んでくれた。

 

 

最初にホテルのチェックインをするらしい。

 歩いていると見えてきた。サーゼクスホテルという名前だが、ホテルは普段なら泊まるのを躊躇うくらいには、いいホテルであった。なぜか和室もこさえてあるのはよくわからん。悪魔の考える事だし。

 

 

 午前中はここまで、午後から自由時間だ。

 

 

 先生側は何かあった時のために待機するチームと、観光するチームの二チームが交代の運びとなっている。

 

 

 仕事の残りを片付けるために、パソコンと私はにらめっこをしていた。

 

 

「目が……」

 

「大変ですねえ、山本先生も」

 

「ははは、やっておきたい事ですし……」

 今後の学校の課題についても考えていかないとな。

 

 

夜ーー

 

 

 一誠君や松田君、元浜君なんかのいわゆる変態組に対して警戒を、とあったが少し騒がしい。

 

 

「なんか、騒がしくないですか?」

 それとなく聞いてみても

 

「ん?別にそんなことはないが?」

 やっぱり何か仕掛けがあるらしい。

 

「少し見てきます」

 

「心配症だな、君も。あいつらが動けば必ずやかましくなるから」

 

「性分なもので」

 物音がする方へ行ってみる。確か、風呂の方だったか。

 

 

 足を運ぶと一誠君とロスヴァイセさんは激しい戦いをしている。

 

「おーい、そこの二人。ここがどこかわかっていますか?」

 いくらここが表の人に感知されづらいとはいえ、限度というものがある。

 

 

「フラッシュバンでも使うか」

 右手に悪魔にも害がない光を集積していると、「洋服破壊」の呪文が聞こえた。

 

 

「うわ」

 噂で聞いていたが、これは面白い。一誠君がここまで有効な戦術を考えて……いないだろうな。

 

 

 ロスヴァイセさんは全裸になられた。

 

 

 彼女を見ないように、一誠君を掴む。

 

「あまり、褒められた行為ではありませんよ?」

 少しばかり圧をかける。

 

「「や、山本……先生」」

 二人がハモるが、関係ない。

 

 

「それと、ロスヴァイセ先生もです。」

 

「ハイっ!」

 

「もう少し、分別のある行動を。」

 

「はい……」

 アホ毛がしなる音が聞こえてきそうな声だった。

 

 

「後でいいので、ジャージの上は返して下さいね。洗濯して」

 

 「ありがとうございます!」

 来ているジャージ上をあげ、もがく一誠君と去っていく。

 

 先生はおっぱいに興味がないのかーとかほざいているが、無視。

 

 

 軽く話せそうな所に連れてきた。

 

「先生! 邪魔するのは無しだぜ……光力まで使って……」

 

「仕方ないです、暴走する生徒を止めるのも先生ですから」

 不服そうな顔をしているが、言っておかねば。

 

「君の洋服破壊という技は素晴らしい。」

 突然褒められたことを喜んだ一誠君は「やっぱり、先生もおっぱいにーー」

 

「いいえ、そこは後にしましょう。君の技は相手の動きを封じる点で、素晴らしい効力を発揮します」

 

 

「ですが、力の使い方という物を考えましょう。一誠君は公衆の面前で全裸にされたらどう思うかな?」

 

「まあ、嫌な気分になります……」

 

「だろう? 用は使い方さ。君の籠手の力とは雲泥の差どころの話じゃないけど、力を振るえば、誰かが傷つく。その事を覚えておいて欲しい。」

 

 

「……先生は! 後悔した事があるのか?」

 

「……ああ、山のようあるさ。君たち悪魔の寿命は長い。だからこそ、今のうちに教えておくべきだと思ってね」

 互いに無言が続く。

 

 

「まあ、なんだ。引き止めて悪かった。おやすみ、俺はもう寝るから」

 

「お、おやすみなさい」

 

 俺は部屋に戻った。

 

 

 

 

 ガラでもない事、しちまったな。

 

 俺は過去に別れを告げずに去ってしまった、俺のせいで傷ついた、妄想の強い一人の少女を思い出してしまった。

 

 

「マ……、ジャンヌ、元気かな?」

 本名で呼ばれるのを猛烈に嫌がった彼女。元気なんだろうか?

 

 俺はなぜか怒られそうな気がして、あの名前に言い変えた。

 

 

 

 

 黒い夜が空を覆っている。

 

 

 

一誠サイドーー晩飯

 

「あれ、山本先生は?」

 俺が部屋に入った時、彼の姿は見えなかった。

 

「ああ、あいつは昼にフル稼働して眠ってるらしい」

 アザゼル先生がそう言った。

 

 

 その後は、禍の団や昼間の襲撃なんかの話でわんさわんさした。

 

 

 宴会は、楽しく、盛り上がっている。

 

 

 

____________________________________________

 

「おい、山本」

 

「何ですか……」

 アザゼル先生からの電話だ。

 

「裏京都に来てくれ、使者はフロントにいるから」

 

「了解です。直ぐに向かいます」

 服装を整え、フロントに向かうと和装をした方が立っていた。

 

 

「貴方が、山本殿ですか。私は平十、どうぞよろしく」

 

「そうですか、どうも山本です。よろしく」

 握手を交わした後、ホテルから出て案内される。途中で、トラブルに見舞われるも、なんとか裏京都に入る。

 

 裏京都の明るい歓楽街を抜けると、大きな鳥居。

 

「では、これで。この先におられます」

 

「はい、ありがとうございました」

 ドロン!と消えた平十さん。

 

 

 一誠君たちは既に集まっているらしい。

「アザゼル様にレヴィアタン様までおられるのですか」

 

「よろしくね、山本くん!」

 

「よろしくお願いします、レヴィアタン様。」

 

 そして、狐のお方の方を向く。

 

「山本大輔です。今回は、裏京都にお招きいただいてありがとうございます。」

 

「私は京都の表と裏との妖怪を束ねる八坂の娘、九重じゃ」

 挨拶が終わり、アザゼル先生が話す。

 

「お前、結構早めに連絡してなかったか?」

 

「すいません、色々とトラブルで……」

 

「まあいい。本題に入るぞ」

 切替て話始めたのは、八坂様がどうやら禍の団・英雄派に誘拐されたらしく、その奪還を協力してほしい。とのことだった。

 

 

 

「明日は謝罪と交流を兼ねて姫さまが観光案内をしてくださるそうだ」

 アザゼル先生の一言で、お開きとなった。

 

 

 

翌日ーー

 

 

 俺は一人で観光をしていた。

 

 世話になった孤児園に、八ツ橋やお土産でも買って帰ろうとお土産屋をうろうろしていた。

 

 

「どんなのがいいんだろうか……」

 最近の子どもたちが欲しがるのはなんだろうかと迷っていた。学園生いないかな?と探していると、思わぬ人物と出会した。

 

 

 

「ダイスケ!久しぶりね!」

 

「!! マ……じゃなくて、ジャンヌ……」

 どうしてここに?と聞こうとすると辺りを霧が覆う。

 

 

 

「……説明、してくれないか?」

 隣から二人の男が出てきた。

 

「俺たちに協力してくれないか?彼女たってのお願いなんだ」

 リーダー風の男、曹操がそう言う。

 

「いかにジャンヌのお願いでも、俺は今回無理だ。困るんだよそういうのは」

 

「お前がある組織にいる事をバラすぞ」

 

「……?」

 

「あくまで惚ける気だな。禍の団は横に広い組織だから、そういう噂も広まるさ」

 

「……俺のデメリットが大きすぎる」

 

「大丈夫さ、ゲオルグの偽装魔術でお前とは別人に偽装してやるが?」

 

「今回が上手く行けばだ。今後ならいい」

 

「……いいだろう」

 

「いいのか、曹操」

 

「ああ、彼の組織と繋がりを得る為だ。このくらいは安い」

 

「……契約は結ばれた。ここであった事は誰にも口外しない。それでいいな」

 

「それでいい」

 絶霧(ディメンション・ロスト)の解除を待っていると、「ジャンヌと束の間の観光でもしているといい」

 

 霧は晴れ、二人は消えて行った。

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、ジャンヌ」

 

「貴方の付けた傷は残っているわ、ダイスケ?」

 そう、鎖骨にかけてついた、決して消えない傷。あの村の一年、俺の忘れられない罪。

 

 

「貴方からの愛を決して忘れた事はないわ……古傷が痛む度に私と貴方との繋がりを感じるの」

 目を合わせられない。彼女との時間は未だに止まったままだ。

 

 

「……観光でも、しようか」

 喉の奥から捻り出した言葉。

 

「ええ、そうしましょ」

 二人で観光地を回った……

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________________________

 

とあるミーハーな生徒

 

 

 

「ねえねえ、山本先生が美人な外人さんと歩いてたって本当?」

 彼女たちはいわゆる恋愛やゴシップの匂いに敏感だ。猫のような彼女たちはさっそく、送られてきた写真を見てみる。

 

「ホントだ〜あの間抜けそうなのがね〜」

 

「うわ、スキンシップ激しいなあ。やっぱり慣れてるのかね、外国住みは?」

 

 

 

 

 少し後に魔法で記憶が抜け落ちるまで、彼女たちは会話を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 








目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

さらば、京都


 
最近ざる蕎麦を食べたんですが、美味しいですね。ひんやりしてて、何よりうまい。


それではどうぞ


 

 

「あっ、もうこんな時間かしら」

 ジャンヌと観光をしていた。1秒が1分に、1分が1時間に感じるくらいにおそろしく長い、長い時間。つまらないとか、楽しくないという事ではない。彼女が時折見せる笑顔や拗ねたりする表情の魔力に愚かな男が引き寄せられているだけなのだ。

 だが、理性は常にあの傷と焼けた村の匂いを燃料に斥力を起こしている。二律背反の感情は決して口から出ることはない。

 

 

 

 

 

 あの霧だ。現れたのはゲオルクという男だけ。

 

 

「束の間の平和は楽しめたか?」

 

「ええ、十分に」

 

「……本当にあの男はこちらに下る気は無いのか?」

 

「昔から変なとこで頑固なのよね、男ってそういうモノでしょ?」

 

「……確かにな。」

 

 

 そのまま二人は消えていった。

 

 

 

 

「自分を縛るなんて、初めてだからな……」

 適当に見繕った縄で、自分自身をぐるぐる巻きにしてピルから取り出した睡眠薬を一粒飲む。

 

 

 

「これで……いい」

 薄れゆく意識の中、ひんやり冷たい地面が俺がそこにいることを教えてくれた。

 

 

 

 

_________________________________

 

 

「大丈夫ですか! 山本殿!」

 

「あ……へいじゅうさん……」

 

「おお、無事で何よりだ。一体何故?」

 

「……不意を突かれたらしく、ここに放置されたらしい。情けない限りです……」

 

「すまない山本殿、目覚めてそうそうだが今は我々に協力していただけないか?」

 

「勿論、そうさせてもらう」

 

「では、こちらに」

 妖怪たちと英雄派の分隊と戦うため、平十さんに付近まで案内された。

 

 

「俺は遠距離から攻撃させてください。そっちが本職なんで」

 

「ああ、分かった。でも気を付けて」

 

「お互いさまですよ」

 平十さんも参戦し、ますます争いの輪が広がっていく。

 

 

 

「パーツは取られてないな、よかった」

 隠し持っているパーツをせっせと組み立てて一丁の銃を組み立てる。

 

 

バンッ!!

「まずは一人」 

 神器で多少頑丈とは言え、貫通弾仕様の光弾を頭に食らえは人間の強度的に死ぬ。

 

「さて、逃げよ」

 光力を足に溜めて全力で逃げる。英雄派が強いのは分かっているので、おそらくもう通用しない。禁手を使われて、そのまま俺が死ぬだけだからな。

 

「まて!そこの野郎!!」

 バレるの早くない?

 

 

 背後からは数人に追いかけられ、そのどれもが禁手化している。

 

 

「うそだろ?」

 かなりのピンチ。全力を越えて俺は走る。

 

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

「アザゼル殿、赤龍帝殿、グレモリー眷属の皆々。本当に此度の事、礼を言う。これから魔王レヴィアタン殿と闘戦勝仏殿と会談を行うつもりじゃ。二度とあのような輩によってこの京都が恐怖に包まれぬよう、協力体制を敷きたいと思っておる。」

 

 あの後、一誠くんのパワーアップや闘戦勝仏、いわゆる孫悟空の参戦などもあり、英雄派を退けた。囚われて利用された八坂殿も助かり、とりあえずは円満に終わったみたいだ。

 俺もなんとか妖怪たちの力を借りてあいつらの撃退に成功した。まさに妖怪さまさまと言ったところか。

 

 

 

 

 俺たちは一人も欠ける事なく、駒王町への帰還を果たした。

 

 ただ一つの困りごとと言えば、ジャンヌにお土産を持ってかれたままだな……

 

 

 

 

 

 残った仕事も終わり、ようやく家に帰宅する。

 

「ただいま」

 あれ、紙が……

 

 

 お土産、冷蔵庫に入れて置いたよ。ジャンヌ

 

 

 彼女が忘れてなかった事に少しだけ嬉しくなった。

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

ーー休日

 

 

「やあ、大輔君。今日は?って荷物すごいね」

 

「全部お土産です。京都に行ってたんで、八ツ橋もありますよ。」

 

「いやー、ありがたい。冷蔵庫に入れておこうか」

 

「はい!」

 全てのお土産を渡し、帰ろうとすると園長は「お父さんから連絡あったよ」そう言った。

 

 

「……なんて言ってました?」

 

「よくわからないんだけどね、『もう少し、98%だから準備はしとけ』だって。分かるかい?」

 

「あー、あれか。すいません、いつも父が」

 

「いやいや、私の方こそ君ら親子の世話になってるからね。こっちこそ礼を言わなきゃいけないよ」

 

「それじゃあ、また今度」

 

「また今度ね」

 

 

 

____________________________________________

 

あれから一週間後……

 

『あ、キミらは……』

 

「曹操だ。例の話はどうなっている?」

 

『ああ、あれね。取り敢えず二人とも家に上がってくれ、話はそれからにしよう』

 

「邪魔する」

 

「お邪魔させてもらう」

 二人が上がった。

 

 

 

 

「で、どうなんだ」

 和室に二人は座る。時折お茶を飲んでいるが、顔は険しいまま。

『お前らの支援は無理。でも、お前たちが人間だけなら話は別だってよ』

 

「成る程な。そうだ、俺たち英雄派は全員が人間だ。」

 

『つまらない嘘をついたら契約に則って、お前の破滅だぞ?』

 

「嘘ではない、俺たちは人間がどこまで行けるかを試す為にいる。当然一人残らず人間さ」

 

『ならちょうどいい、少し我慢してくれないか?』

 右手に光の針を作る。

 

「どういう……つもりだ?」

 

『頭に挿せば分かる』

 

「頭に刺すのか?曹操、俺がやる」

 

「……頼んだ」

 ゲオルクがずぶりと頭に挿した。

 

「んッッッッ!!!」

 

「ゲオルク!!」

 

『大丈夫だ、お前も挿せば分かるから』

 

「……お前の言葉を信じる」

 曹操は脳に光の針を挿すとピリッとした痛みを感じた。段々と目の前が光に包まれていき、意識が水底へと落ちていく。

 

 

 

「ここは……どこだ」

 先程まで和室に座っていた筈なのに、全く知らない真っ白な広場に座り込んでいた。

 

「曹操、大丈夫か?」

 

「あ、ああ。ゲオルクか」

 

『すまないな、まだ慣れてないから挿す時の刺激が強すぎたみたいで』

 

「それで山本、ここは何処なんだ?絶霧(ディメンション・ロスト)はおろか魔術すら使えないのだが」

 

「! 俺の黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)が……反応すらしないだと……」

 

『ここを俺は白い世界って呼んでる。人間だけが持っている脳波でネットワークを形成して意識上の空間に入り込めるんだよ』

 

「ちょっと待った、意識上なら神器は使えないのか?」

 

『あくまで"人間の意識"だからな。殆どの人間は神器なんで持ってないだろ?』

 

 

 ゲオルクはしばらく考え、ある考えを持つに至った。

「まさか……全人類の意識とでも?」

 

『その通り、殆どの人間は神器なんて物をそもそも知らない。だからこの世界には神器なんて存在しないし、魔術もそれと同じことだな』

 

 

「「……!!」」

 

「まだ信じられないが、お前らは……一体何をするんだ?」

 

『魂をアップデートするんだよ。それで人間をより強く、より賢明にさせる。だけど、最近問題が見つかってね……』

 

「問題とは?」

 研究者肌のゲオルクはすぐさま質問をする。

 

『魔力だよ。最近になってあれが邪魔をしてるのが分かったらしくてね。だから、魔力の量を減少もしくは消滅を目指す。』

 

 

 ゲオルクの表情は突然険しくなる。

「俺たちを手下にでもする気か?」

 

「ゲオルク、一体?」

 曹操はゲオルクの言動に困惑している。

 

『手下ではないよ、協力だよ協力!』

 山本はそう弁明するが、ゲオルクは意を決して話し始めた。

 

 

「神々やそれに連なる者達、それ以外の者も魔力を使用する。それはどこも同じ、共通の事。それが消えれば神器の大幅なパワーダウンは勿論、あらゆる裏の者が等しく弱体化する」

 

「む……」

 

「どうする、曹操?このまま話に乗るのは裏の世界を丸ごと敵に回す事になるぞ?」

 

「……答えは決まっている。上等だ、全員まとめて相手してやるさ」

 

「ならいい。キミがそうなら絶対にみんなはついていく」

 その瞬間、視界が急に開けた。真っ白な世界が色づいて、鮮やかになっていく。

 

 

 

 

『ようこそ、我が組織へ……』

 

「試していたのか?俺たちを」

 

『当然。さあさあ、移動するぜ?』

 山本が指を鳴らすと俺たちは祭壇に居た。

 

「新入りかね」

 

『ええ、グレゴリー司教。当たりも大当たり。きっと面白い』

 腰の伸びた背の高い老人。深淵のような目は吸い込まれそうだ。

 

「いくつか、この組織に入るにあたって守らなければならない秘密と護らなければならない義務がある。……分かったかね?」

 老人がそう言った瞬間、彼らの脳内に事前に情報が流れ込んでくる。

痛みもなく、生まれた時から持っていた知識のようにさえ思えただろう。

 

「分かったかね?」

 

「「はい、理解しました」」

 

「よろしい。アレは慣れれば誰でも出来る。余分な情報を取り除き、純粋な情報だけを清流のように流す。力を加えず、自然のままにだ。さあ、行け若者よ。知恵は力なりだ」

 

 

三人はこじんまりした個室に飛ばされた。

 

『ここは部屋。この部屋を出たら通路があるんだが、自分の部屋はあるはずだ』

 

「なあ、山本」

 

『……なんだ?曹操』

 

「俺たちの身体は……どうなった?」

ゲオルクもハッとなって言う。

 

「そうだ!いくらなんでも現実で無防備過ぎないか?」

 

『大丈夫、ここの時間は現実と比べて格段に遅い。ここで1日過ごしてもあっちじゃ1秒くらい。気にする事はない。』

 

「そうか、ならいいんだが。他の住人はどうなってる?彼らはずっとこの場にいるようだが」

 

『彼ら、特に老年期の者のほとんどは肉体が無い。白い世界で生きるほか道が無い』

 

「では、死にかけの時にこちらに逃げ込めるのか?」

 

『いや、無理だ。肉体が死ねば意識が引きずられて死ぬ。意識ごと持ってくるのはかなり特殊で、一度でもすれば肉体は持てない。過去に実験した奴がいるらしいが、肉体に定着せずにそのまま死んだらしい。』

 

「どうする曹操、俺はとりあえず好奇心が抑えられそうに無い……」

 心なしか右手がプルプル震えていた。

 

「いいぞ、頼んだ」

 

「了解だ」

 ゲオルクはもう仕組みを理解したらしく、どこかに文字通り飛んでいった。

 

 

『曹操、このまま帰ってこなくなるぞ』

 ニタニタした表情でそう言った。

 

「嘘だろ!冗談きついぜ……」

 

『嘘じゃない。昔に聞いた話だが、ゲオルクがいったエリアはその手のやつには宝の山らしい。引きこもるぞ、多分』

 

「それを早く言わんか!!」

 曹操もゲオルクのところへ焦って飛び去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これで良し』

 

 

 

 

_________________________________

 

 

「ただいま」

 

『おかえり、ダイスケ』

 予想してなかった返事に俺は面食らってしまう。

 

「は?ーーメタトロンか! お前……」

 

『いや、客人が来たものでね、ちょっと和室に案内させてもらったよ。ついでにキミのマヌケ面も拝ませてもらった』

 

「は〜〜 ん?こいつら英雄派のやつじゃないか……」

 

『もうじき起きるさ』

 

「だといいんだがな……」

 気にしてもどうしようもないので、俺は服を脱いでハンガーにかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 そろそろ原作から外れてくる……かも


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人形と魂

久々の投稿。

最近本当に暑くないですか?私は汗がドボドボ出てきてびしょ濡れです。

それではどうぞ

追記:お気に入り件数100件ありがとうございます!ハーメルンを使っていて、自分も作品投稿をしたくなって生み出した初作品ですがようやく個人的な一つの区切りまでやってきました。
 拙い文ですが、これからもよろしくお願いします。





 

 

 二人は同時に目覚めた。

 

 

「……ん?ゲオルク、山本が二人に見えるんだが……」

 

「ああ、俺もだ」

 見事に二人は混乱していた。それもこれも全ては隣のやつのせいだ。

 

 

「えー、なんかごめん。俺じゃないんだわこいつ」

 

『どーも。私の事はとりあえずメタトロンって呼んでくれ』

 

「メタトロンか、実物と違うぞ?」

 二人は怪訝げだが、ちゃんと理由はあるのだ。

 

『私はそもそもメタトロンではないが、お前たちの言葉に当てはめていくと"それ"が一番近い。特に気にする事でもないだろう』

 

「気にするんだがなあ……まあいい。あっちは中々面白かった。魔術という学問に手を出したことはなかったが、中々に奥深いものだな」

 

「メタトロン、山本。俺もかなりの数魔術を修めたが、こんなにも啓蒙を得られた日はこれ以上に存在しないだろう。本当に感謝する」

 二人はかなり満足しているみたいだ。隣の『どうだ、いいことをしただろう?』という面には腹が立つものの、こんなに感謝の感情をはっきりと向けられては困惑ものだ。

 

 

「で、今後はどうするんだ?」

 紛らわそうと何となしに一つ言ってみる。彼らは啓蒙されたから、これからが大変だろうなと思ったというのもあるが。

 

 

「俺たちは協力することになったからな……」

 

「曹操」

 

「ああ。俺たちの計画もかなり変える必要がある」

 二人の目は先ほどとは全く異なる光を宿していた。

「なんでもいいけどさ、お前ら以外のメンバーにはこのことについて教えるのは止めろよ。」

 

 

「分かってる。俺たちは理解したからな」

 ゲオルクも同様に肯く。

 

「それならいい。そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」

 

「そうだな。帰らないとみんなが怪しむ」

 

 

 

 

「……さらばだ、暇な時にまた来る」

 霧に包まれると二人は消えていた。相変わらず便利な能力だと思う。神滅器(ロンギヌス)だからという事もあるだろうが、使う本人の技量が凄まじく高い事も一因であることは一目瞭然だ。

 

 

 

 

 で、問題は隣のこいつだ。

 

「結果的には良かったものの……なんてことをしてくれたんだ!」

 

『いいじゃないか。全ては計画通り、安心しろ』

 

「頼むぞ……ほんと」

 全く困った奴だ。どこから持ってきたのか知らないが、俺そっくりの人形を使ってやがる。

 さらに、俺のちょっとした仕草や声帯の使い方もそっくりそのまま真似しているのはコイツ特有の道楽趣味も関係しているのだろうかと邪推してしまう。

 

「俺の弟って設定をその体使うなら忘れるなよ」

 

『いいだろう。あと、監視がお前についてるから気をつけろ』

 

「知ってる。杜撰だからすぐに分かった」

 

『ならいい。この体はここに置いとくから丁重に扱えよ?』

 

 

 

 糸が切れるように、ガクンと人形の身体が崩れ落ちた。メタトロンの意識体はまたフラフラと何処かを飛んでいるのだろう。

 

「仕方ないな……」

 

 

 約五十キロ前後の肉の殻を押し入れにしまおうとするがこれが収納しづらい。足や腕の関節を曲げようとするがかなり固い上に力を入れすぎてはポッキリと折れてしまうような気がして手を出しづらいという事もあるのだ。

 悪戦苦闘して、俺はなんだが腹が立って人形を軽く蹴った。でも自分を蹴ってるような気がして、何とも言えない気分にさせられて。余計に疲れた。

 

 

 結局、しまうのに2時間もかかってしまった。

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

 体育祭、修学旅行。どちらも楽しいイベントである事に代わりはないが、今度は学園祭である。

 

 

 やはり、準備で忙しい。学生もかなりの準備をするが、先生側も、とにかく手一杯で家に帰る。

 

 

「あれ?」

 なんだか騒がしいというか、胸騒ぎがしてきた。

 

 

 玄関ではなく、裏口からそっと入る。やはり、あの人形をしまった押し入れの部屋だろうか。やけに物音が立っている。

 

 

 間違いなくメタトロンはこんなマヌケを晒さないはずだ。

 

 

 では、一体?

 

 

 手持ちの鞄を武器に、静かに忍び寄る。

 

 物音は相変わらずゴソ……ゴソと不安定に発生している。

 

 

 

 

 ガバッと一気に襖を開いた。

 

 

 

「あ……山本か!助けてくれ、身体がこんがらがって操作しづらいんだ」

 

 

 ……誰だ?

 

 

 そんな俺の表情が分かったのか、続けて話す。

 「俺は……いや、俺たちは曹操と、ゲオルクだ。細かい事は後だ、無理やりこっちに飛んできたから安定してない。緊急の話があるから早くここから出してくれ」

 全く奇妙な話である。しかし、彼らの話は予想を超えた妙な話であった。

 

 

「拠点に帰還した俺たちを待ってたのは、偽者の俺たちだった。」

 

「俺たちの物と同じ形をした神滅器(ロンギヌス)のような物を持っていて、俺たち以外のメンバーはヤツらに洗脳されたらしい」

 

 

「何故か神器が使えなくて、俺たちは殺されかけた。だが、ゲオルクの咄嗟の起点でどうにか魂だけは唯一強い縁のあるこの人形にたどり着けたというわけよ」

 

 

「成る程、で、どうしろと?」

 

 

「ここからが本題だ」

 深刻そうな言葉で語り始める。血の気のない人形の顔が、更に白くなる。

 

 

「俺たちの神滅器(ロンギヌス)は脱走時に魂から分離した。仕組みはまだ分からないが、一つだけこれからわかる事がある。」

 

「おい、まさか」

 

「そうだ、恐らくロンギヌスを奪われた」

 それ自体にとてつも無い力を有しているロンギヌスが二個も奪われた。冗談だと思いたい事態だ。唯一の慰めとなるのは奪ったロンギヌスは使用していた本人と比べて、出力がめっきり落ちる事にある事ぐらいだがそんな事がどうでも良くなるくらいにバカみたいな力が神器には秘められているのだ。

 

 

 

 

「俺たちは本来、この後は三大勢力を攻撃するはずだった。恐らく偽者も同じ行動をするだろう」

 

「まあ、一誠くんたちなら何とかなるか?」

 

「それがいい、どう転んでもある程度楽に済む」

 うんうんと二人で肯く。俺は二人に対してある提案をした。

 

 

 

「取り敢えず二人の元の身体から人形作っておくから、窮屈かもしれないがそこに入っていてくれ。それと絶対に向こうの世界に行くなよ?」

 

 

「分かってる。十分に理解しているさ」

 

「少し待ってろ」

 光の針を挿して、白い世界に移動する。

 

 

 

いつもの意識が沈むような感覚の後、視界が暗転する……

 

 

 

 

「ようこそ、人形の部屋へ」

 

「二人分、こんな顔で」

 曹操とゲオルクの顔を想像すると、顔が写された写真が現れる。

 

 

「ふむ、少し掛かる。完成品はどこに届けたらいい?」

 

「俺の家で」

 

「了解、今後ともご贔屓に」

 

「それでは」

 黒い扉を開けて。

 

 

 

 浮上感とともに、俺は戻ってきた。

 

 

 

「早いな、もう終わったのか?」

 

「まあ、時間はかかるらしい。しばらくはここで待機だな」

 

「世話になる」

こうして男三人での生活が始まったが、意外にも一週間後に事態は好転した。

 

 

 

ピンポーンとありふれた音が鳴った。

 

 

「はーい!」

 いそいそと俺が出ると大きな段ボールが二箱。隣には台車があった。

 

「サインをお願いします」

 

「はい」

 山本大輔とボールペンで書く。

 

「それでは」

 帽子を目深に被った配達員はそのまま去った。

 

 

 

「届いたぞ」

 ようやく窮屈から解放される、と顔はとても喜んでいた。

 

 

 段ボールから取り出すと、全裸のマネキンが入っていた。人間程ではないものの中々の重量だ。ご親切にも説明書がついている。

 

 

「顔がないぞ?」

 二人はふとした疑問をぶつけた。

 

「えっと、説明書によると魂が入り込んだら自動的に整形されるそうだぞ」

 

「見せてくれ」

 渡したらじっくりと読んでいた。

 

 説明書を読み終わると、早速儀式を執り行う事にした。

「始めるぞ」

 呪文を恐らくゲオルクが唱え始めると、白目を向いて口から約21グラムの白い煙が二つ、ゆらりゆらりと空中を泳いでいる。

 

「間違えて違う身体に入るんじゃないぞ」

 ご丁寧にも人形には『曹操』『ゲオルク』と油性のネームペンではっきりと書かれていた。説明書曰く、間違えて入ると取り返しのつかないことになるらしい。勿論、試す気はさらさらない。

 

 

 俺そっくりの人形がガクン!と倒れ、遂に沈黙する。

 

 

 二つの魂が、己が器に口から侵入すると、マネキンは徐々に血色を帯びて人間のように変身していく。

 

 

 始めに顔が二人の物になり、そこから段々と人間がマネキンを覆い尽くす。

 

 

 1時間ほどで二人の定着は終了した。

 

「気分はどうだ?」

 

「新品のスニーカーを履いた気分。まだピッタリって訳じゃあない」

 

「それ、同感だゲオルク。身体が広く感じる」

 

「本来一つだけの場所に二人分も突っ込んだから仕方ない。」

 

 

「さて、仕事の話だ」

 二人はこちらを見た。

 

「グレモリー眷属はサイラオーグ・バアルとのレーティングゲームやらしてるらしいが、そこはどうでもいい。上はさっさとロンギヌスを取り返してこいだとさ、三人で」

 

 

「ほ、本気か?」

 

「人数は出せないし、バレたら不味いからな。それにいずれグレモリー眷属にちょっかいかけてくるだろうから、混乱に乗じて奪還するだけでいい」

 

 

「……まあどの道、これしか道はない」

 曹操は苦々しい顔をするも、瞳の奥はゆらゆらと揺れ動いていた。

 

 

 

 

 

 

_________________________________

 

 

学園祭も無事終わり、二人もあっちの世界で色々やってるみたいだ。

 

 俺は学園祭の準備なんかが忙しすぎてヘトヘト。三大勢力の動向を調べたりするが、リアス部長たちがサイラオーグ・バアルを打ち倒し、先の京都でも新しい力を手に入れたのにまた強くなったらしい。毎回毎回強くなっていて正直不気味に感じるが、神器が想いで力を引き出すのを考えれば不思議ではない……のだろうか。

 

 彼らが強くなってくれる分にはロンギヌス奪還が間違いなく楽になるので良いのだが、敵対した場合が恐ろしい。そうならないよう気をつける必要がありそうだ。

 

 

 

 

 

 

____________________________________

 

 数日後ーー

 

 「なあ、ゲオルク」

 

 「なんだ……お前か。忙しいから後にしてくれ」

 

「駒王町にオーフィス来てるらしいぞ」

 

 

「おーふぃす、オーフィス……うん、嘘だな!」

 

「いや、本当らしいんだって!!」

 現実逃避をするゲオルクにアザゼル先生から聞いた話をすると、ウンウン唸ってようやく納得してくれた。

 

 

「本当に厄介だな……サマエルでオーフィスが弱体化するのは間違いない」

 

「……」

 

「まあ、そんな事を言ってもどうにもならない。神器剥離装置(リムーバー)ようやくが完成した」

 

 

「おお、遂にか」

 ゲオルクが取り出したのは約一メートルの幾何学模様が描かれた杭だった。

 

「こいつを偽者に突き立てれば自動的に起動して神器を排出する。既に実験済みだ」

 長さ6分30秒の映像を見せてくれる。椅子に縛りつけられて暴れる男に突き刺すと杭が緑色に光り、幾何学模様に絡めとられるようにして彼の神器、恐らく形状から龍の手(トゥワイス・クリティカル)が引き摺り出される内容だ。

 

「あの男は生きてるのか?」

 神器を抜き取った人間は死ぬ。ごく当たり前の事実であるが、どういう事か彼の胸はかすかに上下していた。

 

「勿論生きているとも。魂を傷つけずに引き剥がせる画期的発明だが、とにかく時間がかかる。その上、突き立てている間は両者が無防備になるのが欠点だ。この欠点は抜き取る上で最重要のファクターになる為、こればかりはどうしても直せない」

 

「十分。何本あるんだ?」

 

「合計5本。これ以上は難しい、曹操に使わせるのが一番だろう。俺もお前も槍術に長けていないし」

 時間がかかるのがネックだが、かなり良いものには違いない。

 

「成果は良かったよ、俺はそろそろ帰る」

 

「良き1日を」

 

「……良き1日を」

 ゲオルクも相当此方の世界に慣れたみたいだ。その事を知れたのも、また一ついい事であった。白い世界にはどうしても慣れることの出来ない者も一定数いるらしく、発狂して消滅してしまう者だっているそうだ。

 

 この世界では肉体的な疲れなどというものはなく、ゲオルクは有り余る情熱と知識欲でずっと研究をしていた。気のせいか、前に会った時よりも少し痩せた印象を受けたが俺の些細な勘違いかも知れない。

 ただ、ゲオルクが此方の時間に換算して四ヶ月程寝ていないという事だけは確かな事実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。