Fate/Grand Order 幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義 (ヨツバ)
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1:朝廷の悪龍 編
いつもの始まり


こんにちは。
FGOと恋姫のクロスです。
いろいろと難しいクロスかもしれませんが、頑張って物語を書いていこうと思います。
オリジナル設定や、各恋姫シリーズ、Fateシリーズの設定を使っていきます。


1

 

 

いつだって事件やイベント、特異点の発生はいきなりだ。カルデアにいた時はそうだった。

そして、シャドウボーダー内にいる時も、その限りではないのだ。

 

「すやぁ…」

「あ、先輩がまたレムレム睡眠に!?」

「またかね」

「もうソレは彼の一種の能力だね」

 

ダ・ヴィンチとホームズはマスターである藤丸立香の『夢を介した転移能力』に関してもう冷静だ。最初は驚いたが、この能力にはもう慣れたものだ。

「今度は何処に転移したのかね?」

「冷静ですねホームズさん」

「ハハハハ。この状態になった時はパニックになっても解決しないからね」

「そうそう。私らに出来ることはまず冷静になること。今までもそうだっただろうマシュ?」

 

特異点だろうとも亜種平行世界でも通信が繋がらないなんてことは多々あった。だけど、そんな時は冷静になってカルデア側で出来ることをし、待ってきたのだ。

 

「先輩…」

 

 

2

 

 

広がるは荒野だけだ。またいつもの事だろう。このいつもの事は前にも何度もあった。下総国や虚月館、ジークと出会った世界などなど。

「いつものことか」

「はっはっは。流石はマスター、こんな状況でも冷静だな」

「藤太」

 

そして、こんな時は誰かしらいた。今回は俵藤太のようだ。

 

「吾だけじゃないぞ」

 

そう言うと、他にも声を掛けられる。

 

「起きたかマスター」

「寝坊助さんだなぁ」

「無事そうだな」

「全く、今回も妙な所に飛ばされたな」

「今回は妾がおるのじゃから大丈夫!!」

「□□□□」

「大丈夫よ。なんたって御仏の加護があるのだもの」

「ますたー 護衛 任せて」

 

今回は初めてかもしれない。こんなに最初から英霊たちと一緒にいるのは。

それにしても英霊に偏りがあるかもしれない。

 

「なんか中華英霊ばかりだな」

 

俵藤太以外全員が中華と言う分類なのだ。

 

「ふむ、もしかしたらここは中国大陸かもしれないな」

「分かるの孔明先生?」

「仮定に過ぎないさ。だが、これだけ中国に縁のある英霊が揃ってたらな。まあ、なら何で俵藤太がいるのかと聞かれれば分からんが」

 

俵藤太以外の英霊。

荊軻、李書文、燕青、諸葛孔明、武則天、呂布奉先、玄奘三蔵、哪吒。

中国関係の英霊が物凄い勢揃いだ。

「ここが中国大陸だとして、時代はいつだろう?」

「そんなのは人が住んでいる村や町に行かないと分からねぇなぁ」

「俺が転移した理由も見つけなきゃ……また聖杯か微小特異点が発生したか。それとも…他に何かあるのか」

 

何故転移したか。それは分からない。でも何かを成し遂げないと戻ることは出来ない。

ならば仲間たちとともに、この世界で新たな旅路の始まりだ。

 

「みんな力を貸してほしい」

 

この言葉に英霊たちは笑いながら了承。それでこそ我らのマスターだと言わんばかりに。

辺り一面はただの荒野しか見えなく、村や集落などは見えない。千里眼持ちがいればどうにかなったかもしれないがいないものは仕方ない。

どうするかと言えば分からない。だからこそ、ここ一番は勘に頼るのだ。

 

「西だね!!」

「お、分かってるじゃないマスター。流石はあたしの一番弟子ね。GO WEST GO!!」

 

まずは西へ。彼らの旅は始まったばかりである。

 

「ぬー、こんな荒野を妾に歩かせるのか?」

「ちょっと台無しにしないでよふーやーちゃん」

 

ぐだぐだするかもしれないが、この先何が待っているかなんて分からない。

 

「白竜馬に乗る?」

「乗る」

「白竜馬じゃなくて呂布だからね」

「□□□」

「いや、マスターに乗るのも良いかもしれん」

 

気が重いまま荒野を歩くよりかはマシかもしれない。

諸葛孔明はヤレヤレっといきなり疲れた顔をし、俵藤太が笑い、哪吒もヤレヤレ。全員が全員別々の反応だが悪い顔をしていない。

もう一度言葉にしよう。『西』へ。

 

 

4

 

 

この時代には英雄が存在する。正確にはこれから英雄になっていく人たちが存在するのだ。

彼女たちには彼女たちの物語が存在する。その彼女たちの物語が交差したことで三国時代というものが生まれたのだ。

平和を望む者たち。

 

「力のない人を苛める世の中を、私がぜーったいに変えてみせるんだから!!」

「長き戦乱に苦しむ民草のため、この関雲長、非情の刀と相成りて賊を打ち倒す!!」

「なのだ!!」

 

天下の覇権を望む者たち。

 

「我は天道を歩むものーー。天命は我にあり。さぁ、英雄諸侯よ。この戦乱の世で共に舞おうではないか」

「我が大剣は魏武の剣なり!!」

「我らの身命。ただ曹孟徳に捧げるのみーー」

「たくさんイジメてください…」

 

宿願を望む者たち。

 

「母様…孫呉の宿願、必ず果たしてみせるからね」

「呉を守るため…素晴らしき呉の民草を守るためにわたしは戦う!!」

「このシャオ様がとっちめてやるんだから!!」

 

覇権に巻き込まれた者たち。

 

「戦うことは嫌い…でも戦わなくちゃ生き残れないのなら頑張るしか無いと思う」

「歯向かうなら、殺す」

 

デコボコの運命を歩く者。

 

「おーっほっほっほ!!」

「蜂蜜じゃ!!」

 

たぶんこの世界である意味最強な人。

 

「私ってば、また漢女っぷりがあがっちゃったわね!!」

 

熱血過ぎてアレな人。

 

「五斗米道おおおおおおおおおおおおお!!」

 

そして、この世界でカルデアと同じイレギュラーな人。

 

「俺ってタイムリープしたのか?」

 

この時代では本当に多くの人たちの物語が交差され、紡がれる。

 

 

 

 

カルデア御一行がこの世界に転移してきたが、まだ何かが起きるわけではない。でも忘れてはいけない。

この時代は国同士が覇権を争う戦争の時代。そしてまだ彼らは分からないがこの世界は基本軸世界とズレている。いや、ズレというよりかはまるで想像されて創造された世界。

彼らの知っている三国時代の世界ではないのだ。

 

こんな世界…外史なんてうんざりだ!!

こんな偽物の世界なんてある必要なんて無い。こんな世界は正史に対する冒涜だ。本物に対する侮辱だ。

だからこの偽物の世界は俺が終わらせてやる!!

 

幻想創造大陸 『外史』 三国次元演義




プロローグです。
まあ、いきなりの始まりですけど、藤丸立香のレムレム睡眠での転移はいきなりなので違和感はないかと。

あと、英霊たちは中華鯖たちが登場です。
その中で何で俵藤太がいるかというと、ある設定(伏線)のために使いたいからです。
まあ、それが活用されるか分かりませんがね。

この物語では恋姫の主人公である彼も登場します、どの陣営につくかは物語を進んでいけば分かります。→(頑張って更新しよう私)



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荒野にて

早速2話目です。
そして主要キャラのも出てきますよ。
あるルートの最初に出てくる人たちですね。


6

 

 

荒野にて早速野宿をしていたカルデア御一行。

いきなりの野宿に武則天は文句を言っていたが、そこは藤丸立香が頭を撫でて機嫌を宥める。

西へ向かって旅をしていたが結局のところ1日では町はおろか集落すら見つからなかった。流石は中国大陸だ。

 

「マスターのために我慢するかのう」

「ありがと。ふーやーちゃん」

「くっふっふっふー。ならば高貴なる妾が野宿で我慢したことをもっと褒めれ」

「偉いです聖神皇帝サマ」

「くっふふふふ~」

 

大陸を旅するのは第五特異点でアメリカ横断した彼にとって慣れている。自分の足で大陸横断した実績は伊達ではない。

1日で町が見つからないなんて特異点攻略時ではいくらでもあったし、野宿なんてザラだ。もう慣れてしまって1人でサバイバル生活くらいできるレベルに達している。

それに今の彼は多くの技術を持っている。特異点で身に着けたモノや英霊に教えてもらったモノなど、その多くが生き残る為のモノだ。

それはそれで助かっている。自分自身は才能なんてないが技術を得ることは出来るのだから。

 

「できたぞマスター!!」

「藤太のご飯!!」

 

野宿になってしまったが美味しい食事は用意できる。俵藤太が居てくれて本当に助かった。

彼さえいれば特異点での食料問題は解決できる。これは我儘でもう過ぎた事ではあるが、もっと早くに契約したかった英霊の1人である。

 

「ほれ、そこの御仁たちも」

「これは美味そうだ」

「美味しそうですねー」

「ありがとうございます」

 

だが大陸横断中に何も成果が無かったというわけではない。実は現地人と出会えたのだ。しかも現段階では一緒に行動をしている。

その現地人に出会えたことで多くの情報を得ることができた。おかげで今の時代の状況をすぐに理解することができ、どう注意すれば良いのかも分かるものである。

更には特有の風習のようなモノさえあることが分かったのだ。知らなかったで済まされないなんてことがあるかもしれないから知ることができて本当に良かった。

 

「むむ、美味い」

「酒も飲むか?」

「ああ、もらおう。酒は好きだ」

 

荊軻が現地人の1人に酒を酌む。

 

「飲み過ぎんなよ姐さん。アンタ酔っぱらったら大変なんだからな」

「そうじゃそうじゃ。もし酔っぱらったら妾に近づかせるな」

 

酔っぱらった彼女はもう別人かという程だ。ギャップがあって良いと思う藤丸立香ではあるが対処が大変である。

謎のスキル『へべれけパワー』は強かった。あのスキルは彼女に酒を飲ませれば発動できるスキルなのだろうか。

でもきっとあとが大変だ。マルタも宥めるのに大変そうだったイメージもある。

さて、現地人である人たちだが最初は出会ってビックリ。まさかの人物たちであったからだ。

彼女たちの名前は趙雲に程昱、戯志才と言うらしい。特に趙雲という名前は三国志の中で有名な名前ではないだろうか。

だから名前を聞いた時は「あの趙雲!?」と言ってしまったくらいである。

そんな彼女たちとの出会いは数時間前に遡る。

 

 

7

 

 

西へ向けて歩き続けるがいつまでたっても見える景色は変わらず荒野である。

 

「全く変わり映えしない景色じゃな」

「だね。歩きっぱなしだし、そろそろ休憩しようか」

 

ずっと歩きっぱなしは流石に疲れる。特にマスターである彼は英霊のようにスタミナがあるわけではない。

こんな所で倒れたら困る以外のなにものでもない。だから休憩は大切だ。

 

「ますたあ まだ、平気?」

「うん。心配してくれてありがとう哪吒」

「うん」

 

近くの岩場に座って一息つく。水を貰って渇いた喉を潤すことで、疲れた身体が少しはマシになった。

 

「でも現地人くらいは会えるかと思ったんだけどな」

「人に会えないのは痛いな。会えさえすれば今の時代がどんなものか分かるというのに」

 

時代は多くの変化がある。それが分かればどう動くかが分かる。

カルデアとの通信が繋がっていれば分かったかもしれないが今だに繋がらない。

 

「この世界の歪みってやっぱ聖杯かな。どう思う孔明先生?」

「それは分からんさ。現段階じゃ圧倒的に情報不足だ…だから今必要なのは情報だ」

「だよね。やっぱ町や集落に行かないとダメか」

 

こんな何も無い荒野で情報収集なんてできるはずもない。今の目標は町を見つけることだろう。

 

「………ちょっとトイレ」

 

どうでもいいことだが今まで挙げたことも無かったけどトイレ問題もあった。その点、新宿では助かった。近代文明ってやっぱり大事。

離れた岩場の裏で済ませたあと、自陣に戻ろうとした時、目の前に黄色い服装をした男たちがいた。

 

「いつの間に…てか、誰」

「アニキ。こんなところにカモがいますぜ」

「だな。身ぐるみひんむいてしまえ」

「わ、わかったんだな」

 

急遽いきなり出会った現地人だが賊紛いなことをしようとしてくる件について。

出会った3人の見た目だがチビ、オッサン、デブであった。ピンチであるのだが何故かそこまで恐怖は無かった。

彼らは今まで出会ってきた各特異点の盗賊たちよりも怖くはない。だけど彼一人だけでどうにかできるかと言われれば難しい。

相手が1人ならば魔術礼装で対処できる。だが3人だともうキツイ。ガンドならいつでも撃てる。

 

他の魔術礼装のスキルを頭に並べる。強化をかけても良いし、回避もある。この状況では回避が得策かもしれない。

何も倒すことが目的ではないのだ。回避して声でもあげれば英霊たちが気付く。距離はそこまで離れていないのだから大丈夫だ。

幸いにも彼らは此方の英霊たちに気付いていない様子だ。作戦は決まった。

 

「何ぼーっとしてんだ!!」

 

だけど藤丸立香が動くまでも無かったようだ。彼の仲間がマスターの危険を察知しないわけがない。

特に義理堅い忠義の人物である燕青がマスターから目を離すはずがないだろう。

 

「よぉ、うちの主に何か用か?」

 

軽快そうな声で賊たちに後ろから声をかけるが、その声の内側には若干の怒りが含まれている。

大切なマスターを狙う不貞な輩に容赦はしないという表れだ。

 

「な、何だこいつ!?」

「い、いつのまに!?」

 

音もなく現れた燕青に怯える賊たち。だが燕青だけでなく、李書文もいつの間にか合流。

 

「マスターよ、いつの間にか現地人と出会っていたようだな。まあ尤も賊のようだが」

「お、お前仲間がいたのか!?」

「ア、アニキ、あいつら強そうですぜ」

「だ、だな」

 

燕青と李書文の圧によって完全にたじろぐ賊たち。それでも襲い掛かろうとする気ではあるらしい。

 

「あ、あんなの見掛け倒しだ。ぶっ殺すぞ!!」

 

3人同時で襲い掛かってくるが彼ら如きでは2人に敵うはずもなく、一瞬で決着がつく。

 

「すいやせんでした」

「命だけはお助けください」

「だ、だな」

 

本当に手首がねじ切れんばかりの対応である。頭も地面に埋まる勢いで下げていた。

 

「で、どーするマスター?」

「儂はお主の判断に任せるぞ」

「うーん」

 

2人は彼らをしばいたが、どうするかはマスターの判断だ。燕青としては大切なマスターに手を出そうとしたのだからもっと罪を償わせようと思っているのだが。

最近、燕青の忠義が重くなってきた気がしなくもない。だけど主限定で優しいので気にしないことにしている周りである。絆レベル突破は伊達ではない。

 

「おーい皇帝サマの出番だぜ」

「何じゃ無頼漢?」

「マスターに手を出そうとした不届き者だ」

「なら情報収集の尋問も兼ねて拷問じゃな!!」

 

いつの間にか来ていた凄い良い笑顔の武則天。いつの間にか手に持っている道具が何か分からないし、使用方法も分からないが絶対に拷問道具だ。

 

「む、現地人を捕まえたか…でかしたな」

 

そんでもってまた気が付いたら諸葛孔明も来ていた。そしてこれから早速、武則天が拷問をしようとしたところを急いで止める。

 

「ストップ、ストップ!?」

「何じゃマスター許すのか?」

「うん。襲われたけどケガも何もしてないしね」

「やっぱ甘いなマスターは」

「呵呵、それがマスターの良いところだろう」

「違いねえ」

 

『許す』という言葉を聞いて賊は希望を持ち始めた。

 

「ゆ、許してくれるのか?」

「うん。そのかわり聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「も、もちろんです大アニキ!!」

 

何故アニキ呼ばわりなのだろうか。

これで一件落着かと思えばまだ終わりではない。まだ続きがあるのだ。

 

「んで、そこの岩陰に隠れてる奴ら。出て来いよ」

 

燕青が岩陰の方に声を掛ける。もしかして賊の仲間がまだいるかと思ったが否定する。

もし、仲間がいるのならばすぐに賊らを助けにくるか、見捨てるかだ。だが捕まえた賊の反応からするとそうではなさそうだ。

 

「おやおや、まさか感づかれておったか」

「バレちゃいましたねー」

「ふう…」

 

岩陰から出てきたのは3人の女性であった。

 

「そこのお主が賊に襲われていたから助けようとしたのだが…どうやら必要なかったようだ」

「ですねー」

「それにしても…そこにいる2人は相当腕が立つであろう?」

「呵呵。そういうお主も中々ではないか」

 

李書文が認めるなら彼女は強いのだろう。彼が認める程なのならば、もしかしたら。

 

(マスターよ。彼女ははぐれサーヴァントではないぞ)

(そうなの孔明先生?)

(ああ)

 

白を基調とした服に槍を持った女性は英霊ではない。彼女は人間として強さの壁を超えた人なのかもしれない。

第二特異点で出会ったネロのような存在なのだろう。あのネロは英霊ではなくて人間であった。

さて、ここで藤丸立香が当たり前の疑問を投げかける。

 

「あなた方は誰ですか?」

 

彼の言う通りで、誰なのか。

 

「ふむ…趙雲だ」

「程昱ですー」

「今は戯志才と名乗っています」

 

この名前を聞いて一番反応したのは『趙雲』であった。

すぐさま諸葛孔明を見たが首を振る。どうやら彼の中にいる英霊の反応から自分の知っている『趙雲』ではないらしい。

それだと目の前にいる趙雲は同姓同名なのだろうか。残念ながら今の段階では分からないのであった。

 

「おーい。どうした?」

「あ、藤太」

「燕青たちが向かったから大丈夫と思っていたが…何か人が増えてないか?」

「うん。増えた」

「なら飯にするか!!」

 

 

8

 

 

趙雲たちや賊たちに出会えたことは藤丸立香たちにとって幸運であった。

ここ三国時代で、情報をいくらか手に入れたのだから。そしてその情報の中では、いくらか気になる情報もあったのだ。

まず時代であるがまだ三国が覇権を争っている時代ではないらしい。情報から、ちょうど黄巾の乱が始まるちょっと前あたりだろうと断定。

まさに三国時代が始まりを迎えようとしているくらいなのだろう。予想としては三国が覇権を争っている真っ只中にレイシフトしたと思っていたのだが。

 

(黄巾の乱か…)

 

そして、気になったのが『真名』という風習だ。本当の名前という意味ならば理解している。ただ、普通に名乗っている名前とは別に持っているのが真名。

ただ、その真名という風習が藤丸立香が知っているソレと違った。何でも親しい仲や家族や、認めた者以外に真名を他人に呼ばれると殺されても文句はないというものだ。

なんて理不尽な風習なのだろうか。そんな風習を知らない者が、真名をつい呼んでしまったら初見殺しもいいところである。

だけど、これが知らなかったでは済まされないという理不尽の1つである。

 

「ふむ。大体、この大陸の情勢が分かった」

 

全てを納得する諸葛孔明。黄巾の乱の前あたりということは、この大陸はいろいろ問題が起き始めているころだ。

それは官僚が権力争いを繰返して政治が乱れたり、地方では天災飢饉が続発して農民の反乱が絶えなくなったりとだ。

その凝縮された結果が張角という人物が首領となって起こした農民たちの反乱である。

 

「そうか。食えなくなったために人を殺してまで生きようとするか…」

 

俵藤太が悲しそうな顔をした。なんせ彼の聖杯への願いが『人間・動物・植物・機械に至るまで、分け隔てなくこの世全てに食を与える事』であるからだ。

食べるということは生きること。それが出来なくなった賊たちに俵藤太は大盛り飯を出す。

 

「お前らもっと食え。食うというのは生きることだ!!」

「い、いただきます藤太の旦那」

「うまい…美味い…旨過ぎるよ」

「うまいんだな」

「でしょ。トータのご飯は美味しいんだから!!」

 

賊たちが涙を流しながら俵藤太の美味しいご飯を口に掻っ込む。それは本当に心の底から泣いており、心の底から食事に感謝している。

それを感じ取った俵藤太はおかわり上等と言わんばかりに昼飯を追加で作り始めた。

 

「ほれ、お主たちも食え!!」

「有りがたくいただく」

「いただきますー」

「ありがとうございます」

 

趙雲たちもご相伴に預かっていた。

 

「ところでお主たちは一体何者なのだ?」

 

いきなり趙雲が質問を投げかけた。それもそのはず。

平全を装っているが彼女は藤丸立香たちを正直なところ測りかねていた。最初に彼らを見た印象だが『化け物揃い』だからだ。

まず李書文と燕青に哪吒、俵藤太、呂布奉先という彼らだがまさに『化け物』だ。彼らを見ただけでも自分では敵わないと思ってしまったほど。

一瞬気になったのが呂布奉先。彼があの『呂布』かと思った。でも噂では女と聞いているから同姓同名と判断。

そんな彼らだが洛陽にいるという最強とうたわれる武人である呂布並みか、もしかしたらもっと化け物かもしれない。

次に荊軻という趙雲と同じように白い服を着た冷静な女。彼女は物凄く静かというイメージを感じられる。歩く時も音すら感じない。

あの体捌きは普通の武人ではできない。諜報に特化した人物だと予想した。もし彼女が暗殺者というのなら恐怖だ。

 

(何だこいつら?)

 

程昱と戯志才が気になったのは諸葛孔明という長髪の男だ。会話しただけでも彼がとんでもないキレ者と理解してしまった。

実は彼女たちは軍師としての能力があり、国に仕えたのならば絶対に軍師になれる。だから軍師としての目が彼が軍師としてとんでもないレベルだと感じ取ったのだ。

 

(うー…驚きました)

(ですね。なんですかこの人。文官としても軍師としても引っ張りだこになりますよ)

 

次に玄奘三蔵。彼女はまだ測りきれない。

彼女が何か偉業を成し遂げるようなモノを感じ取らせてくれるのは分かる。それが何か分からないが、なんというか彼女なら何とかなりそうというのが感じ取れるのだ。

漠然としているが、そう感じ取ってしまったのだから仕方無い。

 

(うーむ、何だろうかこのお方は…良い人なんだが。ちょっと私と相性が良くなさそうな)

 

次に武則天という女性だが、王の資質がある。彼女からは幼さも感じるが裏に国をまとめ上げる才能が感じられる。

趙雲にも程昱にも戯志才にも無い王の才能。この大陸で極わずかしかいないであろう王の才能がある人物。それが彼女である。

 

(こんなところで王としての才覚がある者に会うとはな…今までに目にした中でも上位に入るぞ)

 

最後に一番気になる者。その存在こそが藤丸立香である。

こう言ってしまっては彼に悪いかもしれないが平凡な一般人というのが趙雲たちの感想だ。どこからどう見ても普通で、武術でも頭脳でも抜き出ているというわけでもない。普通だ。

だというのに李書文たちは彼を主と呼んでいる。仕えているのだ。それがとても不思議だ。

何故、平凡な彼に化け物や超天才揃いの者たちが主と慕っているのか。それが趙雲たちにとって想像できなかった。

 

「何者って言われても…カルデアの者です」

「かるであ?」

 

趙雲たちの首が傾く。

現地人の人に亜種特異点や亜種並行世界のことを話したところで分からないだろう。そもそも信じてくれるかも分からない。

だからいつもの返答をするしかない。

 

「俺たちの目的は聖杯の探索です」

「セイハイ?」

「黄金の杯。なんでも願いが叶うって言われてるんです」

「なんでも願いが叶う杯か。聞いたことも無いぞ。眉唾ではないか?」

「かもしれない。でもそれが目的で旅してるんだ」

 

そんな眉唾な話は普通では信じられない。でも何故か彼が嘘を言っているようにも見えないのだ。何故か信じたくなる。

彼は平凡であるが嘘つきや悪人には見えない。はっきり言って善人だろう。

 

「そうなんですねー」

(藤丸立香…不思議な男だな)

「逆に君たちはどうして旅してるんですか?」

 

今度はこちら側の質問だ。

 

「我々は仕える王を探す為に旅をしておるのだ」

「仕える王?」

「ああ。それは私だけでなく…風や凜もだ」

「私たちもですよー。星ちゃんと同じですー」

「はい」

 

星、風、稟という名前が出てきたがこれが真名である。趙雲の本当の名前が『星』なんて聞いたことが無い。

 

(こういう時代だ。自分の武や頭脳の売り込みなんていくらでもあるのだろう)

(なるほど)

 

彼女たちには彼女たちの目的がある。それだけだ。

 

「おかわりください藤太の旦那」

「おう。いくらでも食え」

「いいこと。今後悪さはダメなんだからね」

「へい。三蔵の姐さん」

「だな」

 

一方、俵藤太と玄奘三蔵は賊たちをいつのまにか更生させていた。

 

 

9

 

 

その後、更生させた賊たちと別れた。何でも心を入れ替えて生きていくとのこと。

流石は玄奘三蔵である。

次に趙雲たちだが途中まで一緒に同行することになった。彼女たちも西に向かってるからだ。

 

「じゃあ途中まで一緒だね」

「うむ。よろしく頼む立香殿」

「よろしくですーお兄さん」

「よろしくお願いします」

 

程昱と戯志才が趙雲と一緒にいるのは護衛も兼ねて貰って居るからである。なんせ2人には武力が無いからだ。そんな中で藤丸立香と同行できたのは儲けものだ。

彼らの実力は見ただけで分かる。彼らの力が加わればそこらの賊如きなんて一捻りだ。もし襲ってくるならば、言い過ぎかもしれないがそれは大軍単位が必要と思っている。

今、彼女たちはとても安全圏にいるのだ。

 

「じゃあ行こうか」

 

また西へ西へと向かうカルデア御一行。

現地人に出会えたことはとても素晴らしいことだが、やはり人の集落に向かいたいものだ。

町や集落は人が多い。そして情報も多く入り込む。彼女たちの知らない情報もあるだろう。

 

「なあ立香殿」

「何ですか趙雲さん?」

「お主はセイハイとやらを探しておるが…見つかった後はどうするのだ?」

「見つかった後?」

「ああ。お主達程の人物ならば覇権を取ることができる勢力を創れるはずだ。天下を取ろうと思わんのか?」

 

趙雲はやはり気になった。聖杯という何でも願いを叶えるなんて杯などやっぱり信じられない。

そんなモノを頼るよりも、彼らの力を集結させて振るった方が天下を取れるかもしれない勢力になるだろう。

 

「んー…あんま興味ないかな」

「興味ない?」

「うん。俺たちの目的は大陸の天下取りじゃないんです」

 

藤丸立香たちの目的はこの世界の異変の解決だ。大陸の覇権を手に入れることではない。

もしも彼らがこの時代の人間ならば大陸の覇権を掴もうとしていたかもしれない。でも彼らは時代が違う。世界が違うのだ。考えが違うのだ。

この時代の人間の思想と全く以て違うのだ。だから趙雲は彼の言葉に耳を疑ってしまった。

 

「本当にか?」

「うん」

「本当に本当か?」

「本当です」

 

キッパリと答える藤丸立香。その目には嘘偽りはない。

 

「本当なのだな」

「うん」

「……この大陸は荒れている。さっきの賊もそうだったが食べられなくなった農民が賊になったりするのだ」

 

今の大陸の惨状はあまりにも酷い。無事に生活できている人もいるが、食べられずに死ぬ人もいる。

 

「お主たちの力はきっと大陸を良くするために役立つだろう。力を持っているのに何もしないと?」

「力を持っている人が絶対に国を良くしなければならないなんて決まりは無いと思う。もしそんな決まりがあったら今頃世界は平和だよ」

「むう」

「俺だってこの大陸の惨状を聞いて良くないって思ったよ。でも力があってもすぐにどうにかできるわけじゃない…でしょ?」

「確かに…悪い質問をしてしまったかな」

「気にしないよ。それにもし、俺にできる事があるんなら出来ることはするよ。この手で救える命があるなら救う…平凡な俺には言い過ぎた言葉かもしれませんけど」

 

この大陸を良くできる人は藤丸立香より居るのだ。平凡な自分より才能のある存在が。その役目はその才能のある人達だ。

彼ができるのは少しだけ。困っている人が居たら無視できないのが彼だ。助けられる人が居るのなら助けるだろう。

 

「本当に不思議な奴だな」

「そうかな?」

「ははは。それが主だからな」

 

全く持って不思議だと思う趙雲。でも彼は冷酷な人には見えず、好ましく思う。

 

「それにしても自分より国を良くできる人が他に居るはず…か」

「うん。趙雲さんもきっとそんな人に仕えるんじゃないかな?」

「…これだけの人材がお主に仕えて居るのだから私も試しに仕えてみたい気もするがな」

 

燕青たちがどんな気持ちで彼に仕えているのか知りたいものだ。

平凡であり、才能がない。力がある者たちが揃っていながら覇権を狙う欲もなし。大陸を憂いているのに建国して変えようとは思っていない。

でも助けられる命は助けようとする。生きるために全力を出す。どうしようもなく善人である男。

全く以て不思議な男である。

だけどこの趙雲たちの評価は彼らの真実を知らないから仕方がない。なんせ彼らはこの時代の人間でないのだから。

 

「それにしても建国か。妾は興味あるのう」

「ふーやーちゃん」

「まあ、今の妾はマスターに仕える身じゃからマスターに任せるのじゃ」

 

中には建国を考えている人もいるが、やはり藤丸立香に従うようだ。ますます不思議である。

 

(本当に今まで出会った人の中で一番不思議な男だ)

 

 

10

 

 

この外史は1つだけでない。並行世界という概念が存在するのだから何通りの外史はいくらでもある。数えるのが馬鹿らしくなるほどだ。

だけど1まとめにした時、この外史を1つにすることが出来る。

 

例えるのならば1つの作品と考えた方が良いだろう。様々な物語の作品があるとして、その1つの作品には何通りもの並行世界があるという考えだ。

 

だけど別の作品の物語に違う世界の作品の物語が一緒になることは絶対に無い。繋がりが無いからだ。もし繋がりがあるとしたら、それは誰かが繋げたことになるだろう。

全く法則の違う世界を繋げるなんて普通の人ができるはずもない。もし、できる人がいるのならば特別な存在なのだろう。

 

そもそも全く法則の違う世界。それは異世界とも言うべきか。それとも並行世界はいくつもある隣同士の世界だ。『もしも』でも離れすぎた『もしも』もあるのだから、それを異世界と呼ばれるかもしれない。

 

本当に運よく見つけた世界線だ。正史に出向いて、更に正史から派生する並行世界を渡り歩いていたら本当に運よく見つけた。

この発見は本当に『幸運』だった。他の五月蠅い奴らに見つからないように時間をかけて正史側の並行世界を渡り歩いて良かった。

 

この世界線からは多くのことが学べた。そして恐怖もした。そしてそして凄いと思った。

学ぶことはできたが、この世界と同じことは絶対にできないだろう。だから学んで、できる事を考えた。

 

あの方法なら何とか真似できるだろう。ならば準備をしないといけない。

器が必要だ。器に入れる存在たちが必要だ。7つの陣営が必要だ。戦争が必要だ。

だがこちらの外史にあちら側の概念が存在しない。だから全てこちら側で代用するしかない。上手くいくか分からない。でもやる価値はある。

 




読んでくれてありがとうございました。
登場したのは魏ルートで最初に出てくるあの3人でした。

まずは彼女たちと同行していきます。
次回もゆっくりとお待ちくださいね。


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貧しい村

こんにちは。
今回はオリジナルの話です!!
といっても似たような話は他の作品でもあるかもしれませんね


11

 

 

旅を続けてやっとこさ村に到着。その村を見た感想だが『貧しい』だ。

やはり話に聞いた通り、今のご時世は貧しさが村を蝕んでいる。それは都を離れれば離れる程、貧困が強く滲み出てしまう。

この村は見て貧しいと分かるから都から離れているのだろう。それでも村人の顔を見るとまだ絶望はしていない。

どんなに貧しくても生きようと必死になっているのだ。どんなに貧しくても生きていればきっと良いことがあるという考えなのかもしれない。

 

「みんな生きようと頑張っているんだね」

「そのようだ。ま、我らができる事は限られているがな」

「藤太?」

「任せよマスター…っと言いたいがちと待っておれ。アレを使うにはまだだ」

「そっか。なら仕方ないね」

 

アレと何か。趙雲は頭にハテナマークを浮かべる。

 

「ふいー。やっと屋根のある所で休めるようじゃの」

「足がクタクタよ…」

「駄目僧侶 歩いてない 何寝ぼけたこと言ってる」

 

取り合えず今夜泊まれる宿屋に行く。それからが情報収集である。

女性たちは疲れたと言って部屋で休むらしい。確かにずっと歩きっぱなしなのだから仕方ないと言えば仕方ない。

残りの男性陣が村で情報収集だ。呂布奉先は意思疎通ができないから情報収集ができないけど。

 

「なのでお留守番で」

「□□」

 

陳宮先生の翻訳書があれば何とかなるが、これはマスターしか持っていない。絶対に無くすわけにはいかない。

そもそも自分でも思うけど、どうやって翻訳書を手に入れたかあまり記憶に無い。でも陳宮先生がサディストってのだけはハッキリと記憶に残っている。

何があったか本当に覚えていないけど。

 

「じゃあ手当たり次第、情報収集だ。マスターの護衛は…」

「ボクがやる。任せて」

「哪吒。休憩はいいの?」

「疲れてない 疲れてるの駄目僧侶」

 

哪吒が大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。

 

「じゃあ、私と燕青、李書文は各自で動く。マスターは哪吒と動け」

「はい孔明先生」

 

情報収集開始。

藤丸立香達が聞く事は簡単だ。最近何か変わったことが無いかという事だ。

その変わった事とは『あり得ない』と思えるようなことだ。

第一特異点では死んだと思っていた復讐の竜の魔女がいた、第二特異点では歴代のローマ皇帝が復活して連合を創った、等々と『あり得ない』ことがあった。

この時代でも『そういう』ことがあれば分かりやすいのだが、やはり『そういう』のが情報で出てこなかった。

 

「聞いても聞いても官僚の悪口ばかりだね」

「うん この大陸 末期を迎えてる」

「そんでもって盗賊が増えてきたってのかな」

 

この2つが変わった事というか、最近の大きな出来事であるらしい。

ならば考え方を変えよう。その2つのどちらかに異変があるのかもしれない。今までも似たような事があったからだ。

第五特異点の独立戦争時代の北米が舞台。その戦争でアメリカ側にまさかの大統王という英霊がいたのだ。

ならば盗賊側を指揮する中に英霊が居たり、官僚側に英霊が居たりするのかもしれない。なんせこの時代は三国時代。

そうなると三国志の英霊の誰かが成り代わって大陸を動かしている可能性だってあるだろう。もしくは全く別の英霊もいるかもしれない。

 

「その可能性 大いにあるかも」

「できれば外れててほしいけどね」

 

この考えを諸葛孔明に相談しておこう。

 

「あ、旅の御方だー」

「お姉ちゃんだー」

「お兄ちゃんだー」

 

いきなり村の子供たちに囲まれる。こんな貧しくても子供たちは笑顔のようだ。

 

「こんにちは。えいえいえい!」

「えいえいー!!」

「えいー!!」

 

本当に元気なものだ。この子たちを見る哪吒の顔は優しい。

そういえば哪吒は子供たちを守りたい善神になりたいなんて言っていた。それは素晴らしいことだと思う。

 

「みんな 元気 良いこと」

「ぼくらはまだ子供だけど、はやく大きくなって父ちゃんや母ちゃんを楽させたいんだー」

「お母さんの手伝いをしたいのー」

「うん 君達なら できる」

 

何とも微笑ましい光景だ。哪吒はきっとこういう子供たちを守りたいんだろう。

 

「お姉さんきれー」

「え、かわいいお兄ちゃんじゃないの?」

「なにいってんの。お姉ちゃんだよー」

「あ、あの」

 

ここで前にはぐらかされた事が子供たちに話され始めた。

 

「ねえ、哪吒。このマテリアルだけど」

「ま、ますたぁー 駄目だから!!」

 

情報収集を終えて、戻ってきたら趙雲と李書文が打ち合いをしていた。その様子を見るのは燕青と酒盛りしていた荊軻であった。

 

「何してんのさ」

「ぬ、マスターか。いや何、武人であるならお互いに力を試したくなるのが武人というものだろう」

「李書文殿の言う通りだ。武人とはそういうものだ立香殿」

「情報収集は?」

「いや、何…趙雲殿が試合をしたいと言ったからな」

「酒盛り?荊軻はともかく…燕青まで」

「い、いやあ…やっぱこういうのは無頼漢としてはねえ」

 

サボリをしていた決定。

 

「孔明先生に怒られるよ」

 

全く彼ら武術家というのはこういう人たちが多いのだろうか。武術家というか戦士というか。

それでも彼らという英霊を知っているから理解している。藤丸立香は彼等が好きなのだから。

 

「まあ、いっか。俺も見学する」

「おお、流石は我が主。話が分かる」

「よしよし、私の横に来い。酌をしてくれ」

「荊軻はもう酔ってるの?」

「まだ傍若無人になってないぞ?」

「もう酔ってるでしょ」

 

クリスマスイベントの時ほどではないが少し酔っているようだ。

そこからは李書文たちの打ち合いに村人が気になって、見学者が増えた。もうお祭り気分のようになったのは言うまでもない。

そして帰ってきた諸葛孔明に怒られたのも言うまでもないだろう。

 

 

12

 

 

「星ちゃん。打ち合いはどうだったんですかー?」

「ふむ、やはり化け物揃いよ。李書文殿の槍捌きは神槍だな。燕青殿はとんでもない拳法家だ」

 

呂布奉先や哪吒とは戦えなかったのが残念だが、きっと彼らも強いだろう。

 

「しかし、哪吒さんに荊軻さんですかー」

「二人がどうかしたのか?」

「いや、2人は昔の有名人と同じ名前だなーって」

「始皇帝の暗殺を実行した荊軻に、古代中国の王朝時代に出てくる哪吒ですね。哪吒に関しては神話のようなものですが」

「そうです凜ちゃん」

 

まさかの名前に趙雲は虚を突かれた。

 

「だから最初聞いた時は心の中でびっくりしましたー」

「でも同姓同名でしょう」

 

流石に本人ではないと断定。普通だったら信じられないのだから。

 

「ところで2人はどうする?」

「どうするとは?」

「これから何処に行くかだ」

「んー…もう少しお兄さんたちと一緒にいるのも良いかもしれませんが最近、曹操という人が有名になってきたみたいなので。いずれは行ってみたいですね」

「はい。曹操という太守がいる都に行こうかと思ってます」

「なるほど。私も行ってみるかな」

 

自分が仕えるに値する主君を探す旅はまだ終わらない。これは自分の人生を賭けての旅なのだから。

でも藤丸立香たちとの旅というのは中々面白い。まだ一緒にいたくなる気持ちが出てくる。

 

「もし、彼が覇権を取るというのなら仕えてみるのも面白いかもしれぬな」

「ですねー」

 

数日しか一緒に行動していないが、藤丸立香はやはり人柄が良く、彼を信じてみたくなる気持ちが出てくるのだ。

たまに遭遇する賊たちとの戦いにも彼は指揮を的確に行い、堂々としていた。全くもって戦えないという人でもない。

最初は不思議な奴と思っていたし、好ましい人物だとも思っていた。そして数日一緒にいただけで彼が善人だと確信できたのだ。

数日前は他人だったのに今では真名を預けても良いかなって思うくらいは信頼してしまっている。

 

「本当に不思議な男だ」

 

 

13

 

 

「趙雲さんとの打ち合いはどうだった?」

「ふむ、やはり英雄となる資質を持った者よ。才能があるし、強さもある」

「だな。だけどまだまだ荒いかねえ」

 

英霊である彼らに認められたということはやはり彼女は強いのだろう。賊たちと戦う姿を見たが圧倒的だった。

やはり彼女はあの『趙雲』ということだ。だけどまだ確定できない。もしかしたら宮本武蔵のような存在に似ているのかもしれない。

 

「で、情報収集した結果は?」

「む、済まぬ」

「いや~」

「ったく、これだから…」

 

顔に手を当てる諸葛孔明。でもこういうのはいつも通りだと思う。

 

「一応、俺も情報収集してきたけど…仮定の話をしていい?」

「構わん。話せ」

 

仮定の話。それは情報収集で出てきた2つ。その2つとは官僚の衰退と賊たちの活発化。

もしかしたらその2つに実は異変が混じっている可能性がある。例えば賊の棟梁や官僚の腹心とかに英霊が混じっていたりという可能性。

 

「…考えられなくはないな」

「でしょ」

 

今の三国時代の大きな流れはこの2つが主流である。ならば次の目的が決定した。

活発になっている賊。いずれは黄巾党になるであろう賊達の主要人物達の調査。

それと政治腐敗の原因も本当に官僚達だけなのか。その裏にこの時代にない何かがあるかどうかの調査だ。

 

「そうなると都に行くのが一番か。賊たちの行動は流石に読めないからな」

 

荒野を歩き回っても何処に在るか分からない賊達の本拠地を探すよりも、場所が分かっている都に行くのが手っ取り早い。

この時代の一番の都となると洛陽という場所らしい。霊帝という長く続いた漢王朝時代の皇帝がいる場所だ。

まさに今の時代の政治的中心地だろう。何かしら聞けば悪いモノも何か出てくるだろう。

 

「じゃあ次の目的地は洛陽で決定で」

 

今日のカルデア会議終了。

 

「あ、終わったのー?」

「立香殿、みなさん食事ができました」

「立香はん、また絡繰り見てってなー」

 

会議が終わって外の空気を吸いに来たら3人組の女性が待っていた。

彼女たちは楽進、李典、于禁という名前だ。彼女たちも三国時代に活躍する武将たちの名前である。でも本当に彼女たちがそうかは分からないが。

 

「また新しい絡繰り持ってきたの?」

「そうや。これはな…ここをこう」

「おおー」

 

何故か絡繰りが回転してる。何でもこれを己の武器に組み込めたら面白いのではという発想をしている。

確かに面白いだろう。回転という力は馬鹿にできないのだから。

そもそもこの時代に絡繰りという概念があったのに驚きだ。

 

(ドリルは男の浪漫だよなあ)

 

まず彼女たちだが、実は情報収集の時に出会った人物たちだ。何でも仲良し3人組であり、いつも基本的に一緒にいるらしい。

出会った経緯は子供たちに面白い人たちが居ると聞いて出会ったのが彼女たちだったという事だ。そこで藤丸立香のいつものコミュニケーション力で仲良くなったと言う他ない。

特に絡繰りを造る彼女とは大いに話が盛り上がった。1時間弱は話し込んでいたかもしれない。

その間は残りの面々は置いてけぼりである。でもしょうがない。分かる人には分かる。分からない人には分からないのだから。

 

「凄いやろ!!」

「回転は浪漫だね!!」

 

ガッシリと握手する。

 

「回転は!?」

「浪漫!!」

「作るという事は!?」

「技術の発達!!」

「ウチの腕前は!?」

「大陸イチィィィィ!!」

 

再度ガッチリと両手を使って握手。

 

「いやあ、本当に話の分かる兄ちゃんやで!!」

「真桜、少し落ち着け」

「そうなのー。落ち着けなのー。私も立香さんとお話がしたいのー」

 

本当に気が付けば仲良くなっているのが藤丸立香である。

彼はどんな時でも豪胆でノリがあるので多くの人と仲良くなれる。そうでなければ多くの英霊と契約なんてできない。

 

「じゃあ…」

「おーーーい。みんな大変だああああぁぁ!?」

 

村人の1人が血相を変えて走ってきた。いきなりなんだって言うのだろうか。

顔を見ると相当焦っているようだ。一体何が起きたというのか。

 

「どうしたの?」

「た、大変だ。盗賊の大軍が…大軍が攻めてくる!?」

「…え」

 

 

14

 

 

緊急事態発生。村に盗賊の大軍が攻めてくる。

その数は約500人ほどで、あと数刻もあれば村を蹂躙し尽くすだろう。この凶報を聞いて村人たちは冷静でいられるはずもない。

そもそも今の時代的に村が賊たちに襲われるなんて当たり前。奪い殺し合いの世の中だ。

それが藤丸立香の居る村が狙われたというだけ。こんなのが当たり前にまかり通る時代なのである。

この緊急事態に村人たちはどうするか考える。考えると言ってもやることは限られている。

村を捨てて逃げるか、命を張って戦うかのみである。

だが現実的に考えて逃げるのが最善だろう。この村に戦える兵士はいないのだから。

戦えそうな男たちは居るが結局は農民で素人だ。殺しを経験している盗賊たちからしてみれば恰好の餌食だろう。

だがそれでも自分たちの生まれ育った故郷を捨てられないという気持ちが大きい。そんな気持ちなんて捨ててしまえと言いたいが感情の問題である。

死ねば終わりだ。一時の感情に左右されて村に残って盗賊たちに蹂躙される未来は選ぶべきではない。

 

「…でも村人たちは残るんだね」

 

故郷を捨てられないというものだろう。これはまるで呪いのようだ。死んでしまうと分かっているのに故郷を捨てられない。

 

「………」

「マスター?」

 

考え込むマスター。何を考えているかすぐに分かる諸葛孔明。

 

「まさか余計な事を考えていないかマスター?。この村を救おうという無茶な事を」

「うん」

 

肯定の言葉に溜息を吐く諸葛孔明。だが他のメンバーは笑っていた。

やっぱりマスターはマスターだと。

目の前の惨状をどうにかできるというのならば、どうにかしたい。解決できるならば解決する。今までしてきたことだ。

 

「どうにかできそうかな孔明先生?」

「…そうだな」

 

何度も言うが藤丸立香は解決できる問題は解決してきた。どうしようもなく解決できないときは歯を食いしばって我慢した。

今回もそのどちらかだ。でも本心としては助けたいという気持ちが大きい。彼は悪人にはなれない善人なのだから。

 

「はっきり言えば解決することは可能だ」

「本当、孔明先生!?」

「ああ簡単だ。話を聞く限りだと賊たちは一直線にこの村に来ているのだろう。いくらでも策は考えられる」

「流石先生!!」

 

賊たちは魔物や英霊という存在ではないただの悪漢。そして英霊の力は普通の人間では太刀打ちできないほど強大なものなのだ。

ならばただの賊如きに英霊が負けるはずがないのだ。だけど油断することはできない。弱点は普通の人間と同じように心臓だ。正確には霊核といって、首を切られたり、心臓を潰されれば終わりである。

英霊の力でカバーできるとはいえ、戦の基本は数なのだから。

 

「500人か…呵々、滾るな」

「□□□□□□□□□!!」

「マスターのため頑張るとするかぁ」

「おうとも。やってやるさ!!」

「気合十分 勇往邁進」

 

戦闘特化に関した英霊たちは十分やる気のようだ。

 

「マスターが決めたのなら従うさ」

「くっふっふー、妾は前線には出んぞ。妾はそいつらのような脳筋ではないからのう。そのかわり他は高貴な妾がしてやる」

「困ってる人を見過ごせない…流石はアタシの弟子ね!!」

 

戦闘特化ではないみんなもなんだかんだでヤル気はある。

 

「みんなの気合いも十分みたいだ」

「…そのようだな。では決行するぞ。マスターにも働いてもらうからな」

「もちろん」

 

 

15

 

 

戦が始まる。この世界に来てから初めての戦だ。

戦うという言葉を聞いて村人も同じ気持ちになったらしい。だがどう戦うというのかと聞かれれば難しいものだ。

彼ら村人に英霊の力を説明したところで理解はできないかもしれない。なんせたった数人で500を相手にするなんて考えられない。

だがレオニダスの例があるのだから絶対的に不可能とは言い切れない。人間火事場の馬鹿力というものがあるのだから。

 

「ねえ、この村で戦えそうな人達は?」

「あ、ああ。居るぞ」

「じゃあ、その人達は孔明先生について行って」

「はい」

「戦えない人達…女性や子供達は避難しよう。もしもの場合を考えて逃げれるようにしないとね」

「はい」

「次は…」

 

藤丸立香はテキパキと村人に指示していく。今までの経験が活かされているのだ。

自分でもまさかここまでテキパキできるとは思わなかったが。

 

「ふむ、やはり彼は…」

 

彼の動きを見ていて関心する趙雲。

彼の動きは才能というものでなく、経験則のようなものだ。そうなると彼は今までこういう戦を経験してきたのだろうか。

『こういう』とは『絶望的な戦い』というものだ。何故、彼はこんな戦いに挑むのか。

「何も考えれぬ阿呆ではない。彼は勝つために動いておる」

彼はどれほど過酷で絶望的な状況を前にしても諦めずに足掻き続けているように見える。

だからこそ趙雲はこの絶望的な戦いに自分も力になりたいと思ってしまう。

 

「立香殿よ。私もできる事はないか?」

「私も」

「そや、ウチらも戦えるで」

「そうなのー。沙和も戦えるのー」

 

趙雲だけでなく楽進たちも戦うと言ってくれる。

 

「ありがとう。じゃあ孔明先生の処に行って指示を聞いて。先生が戦いの策を考えてるからさ」

「承った」

 

趙雲達だけでない、程昱と戯志才も力になるために諸葛孔明と共に策を考える。

 

「孔明さんはどのような作戦をー?」

「この人数で賊と真正面から戦う馬鹿な事はしない。はっきり言ってしまえば籠城のようなものになるだろうな」

「でも籠城もこの村では悪手ですが…」

「普通はそうだろうな。普通はな」

 

普通は負ける。だがここにいる諸葛孔明を含めて李書文たちは破格の強さを誇る。それこそ1人で大軍を相手にできる程にだ。

 

「此方にはとっておきが有るのさ。とっておきが」

「とっておきですかー」

「ああ。それは此方に任せてもらう。だからまずはこの村の防衛をする策を考える」

 

この村には武器というものがあまりないが、運が良く弓矢があった。弓矢を扱える村人に持たせるべきだろう。

今、諸葛孔明の頭には英霊である彼等に賊達をぶつける。もしも漏れ残りがいれば弓矢で掃討していくという簡単なものだ。

こんな英霊任せな作戦だが一応は作戦は作戦だ。勝つためには、生きるためには使えるものは作戦に組み込むものだ。

 

「あとは罠もできれば仕掛けておきたいな」

「罠ですか?」

「罠でなくとも足止めできるような柵でも構わない」

 

戦いとはできるだけ相手の嫌がることをすることだ。

 

「さてと賊たちが来るまで急いで準備するぞ」

 

準備開始。




読んでくださってありがとうございました。
今回であの3人組も追加登場しときました。ひょっこりと。

次回はさっそく盗賊たちとの戦いになります。
まあ、どんな戦いになるかは想像できるかもしれません。
だって、英霊は無双できますからね。既に李書文と呂布奉先は別の世界線で無双してますし。


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掃討

盗賊たちとの戦いです。
まあ、無双になります。


16

 

 

戦の準備は出来た。あとは賊達を掃討するだけである。

 

「みんな、俺達は逃げなかった。だから戦うしか道は無い。でも負けるなんて考えちゃ駄目だーー」

 

藤丸立香は村人達を鼓舞していた。こういうのは村の長がするものなのだが気が付いたら村人達の前に立たされて居た。

 

「勝ち負けを決める為に戦うんじゃない。生きる為に戦うんだ!!」

 

こんな絶望的な戦いでも諦めず足掻き続ける藤丸立香の意思が村人に伝わったのか、村人たちも足掻こうと決めたのだ。

カエサルのように扇動(EX)スキルは無いが、こんな絶望的な状況だからこそ村人達を扇動してくれる人が必要なのだ。

 

「中々様になってるぜマスター」

「だな。よく言ったものだマスター」

「よしてよ。俺の柄じゃないよ」

 

流石に柄でもない事をしたので村人たちの前から降りるとドッと疲れた顔した。前に少しだけカエサルから教えてもらった扇動の仕方が役にたったものだ。

こんな扇動をカエサルに見られたら鼻で笑われそうだけど。

 

「いやいや、立香殿。本当に様になっておったぞ」

「趙雲さんまで」

「いえ、本当に良かったです」

 

楽進達まで褒めてくれる。彼女達に褒められると嬉しいものだが、少し恐れ多くもある。

 

「哪吒」

「何 ますたぁ?」

「もしもの場合を考えて宝具の使用を許可する」

 

令呪を一画使用した。彼女の宝具は対軍宝具であるから今回の戦で切り札になる。

尤も威力が威力なので奥の手だ。

 

「了解」

「さあ、生き抜くよ!!」

 

 

17

 

 

戦が始まった。この絶望的な戦は苛烈を極めると趙雲や村人達は思っていたがその予想は大きく外れた。

なんせ、盗賊達がもう既に瓦解しているのだから。しかも瓦解させたのはたった数人でだ。

李書文が、燕青が、呂布奉先が、哪吒が、俵藤太が盗賊の大軍を相手取っている。

そもそも呂布奉先が一番槍を決めた時点で盗賊側の士気が下がったのだが。一番槍で盗賊達をゆうに数十人殴り飛ばしたのだから。そのまま中心にまで突撃して本隊を瓦解させた。

盗賊達もまさか自分達が成す術も無く空中に殴り飛ばされる未来を想像する事等できなかっただろう。今も戦場の色んな所で盗賊たちが空を舞っている。

 

「呵々々々!! こんなものか!!」

「おーおー。武闘家さんは張り切ってるな。ま、俺も我が主の為に粉骨砕身で頑張りますかね。あらよっと!!」

「□□□□□□□□□□□□!!」

「お主達も飢餓に苦しんでいるのだろうが…こちらも負けるわけにはいかんのでな!!」

「一騎当千!!」

 

この光景を見ていた趙雲や村人達は唖然。

 

「何だあれは…」

「わー。いや、本当にわーですよ」

「何ですかあの人達は!?」

 

現状を理解するのに少し時間を要したほど。

堀やら弓矢やら用意したが意味は無さそうだ。趙雲や楽進達も待機していたが、このままでは本当に出番は無いだろう。

 

「孔明先生。このままなら勝てるね」

「ああ。特に策を考えるまでも無かったな。それに全員倒す必要もなくなったぞ。もう彼奴らは戦意を喪失している」

 

よく見ると盗賊の大軍は後退し始めている。そもそも後退する前に全滅しそうであるが。

 

「宝具使用を哪吒に託したけど…意味無かったかな」

「いや、そうでもないさ。二度と此方に来ないように恐怖を植え付ける」

 

既に戦意を喪失し恐怖しながら後退しているのに、これに更に恐怖を植え付けるって何をするのだろうか。

盗賊とはいえ戦う意思の無い人を攻撃するのはちょっとって思う甘い考えかもしれないが、そうではないらしい。

それに李書文は特に戦わない腑抜けを相手なんてしないだろう。逃げる相手に振るう拳は無いとか言いそうである。

 

「無駄な殺しはしないさ。疲れるだけだからな…哪吒の宝具を使う。攻撃地点は盗賊達の眼前だ」

 

指示を受けた哪吒は空高く飛び上がった。その光景に趙雲や村人達は驚いている。

「飛んだのか!?」とか「妖術士!?」とか「そもそも槍から火が!?」とか後ろから聞こえてくる。

この時代にも『妖術』という概念はあるようだ。驚きはしているけど哪吒の能力はこの時代でも理解されるらしい。

ならば藤丸立香たちカルデアの行動もある程度隠さなくてもよいのかもしれない。

高く飛び上がった哪吒は燃えながら急落下する。そして盗賊の軍団の手前で落下して巨大な火柱が発生した。

彼女の宝具である『地飛爽霊・火尖槍』。風火輪の超加速で空に駆け上がり、文字通り槍と一体となって突撃降下する灼熱攻撃である。

 

「流石は哪吒だ。封神演義の花形」

「いつ見ても派手だな」

「お、荊軻の姐さんいつの間に?」

「敵将の首はこの混乱に紛れて討ち取ってきた。もう盗賊達は纏められないだろう」

「流石だねぇ」

 

盗賊達の眼前はクレーターが出来ており、周りはメラメラと燃えている。そして中心には哪吒。

盗賊の軍の前方で恐ろしいことが起きて、後方では頭が討たれた。

 

「お前達 二度とこの村に近づくな このように燃やされたく無くば 消えろ!!」

 

哪吒の声は大きく響く。

英霊達により大軍は壊滅され、荊軻によって気が付いたら賊の頭を討たれ、更には哪吒の宝具の力を見せつけられた。

特に哪吒の宝具がもし直撃していたらというのは考えたくもないだろう。もう盗賊の大軍は、もう大軍と言ってもいいか分からないけど戦意喪失し恐怖しかない。

これで二度と盗賊たちはこの村に近づかないだろう。そして生き残った盗賊たちは今回の出来事を話していくだろう。

世には想像を絶する存在がいるという事を。

戦とは言えず、一方的であったがもうこれで終わりである。絶望から一転、村は救われた。

 

 

18

 

 

盗賊との戦が終わって村では村人達が勝鬨を上げていた。何もしていないけど勝鬨を上げたのだ。

その勝鬨は全て藤丸立香達に向けている。帰ってきた李書文達には感謝しかない。村人達にとって彼等は救世主だ。

 

「ありがとう。ありがとう!!」

「貴方がたのおかげで村は救われました」

「この御恩は一生忘れません」

 

もう本当に感謝の言葉しか耳に聞こえないほどだ。

 

「困ってる人たちを見捨てるなんて御仏としてできるはずないわ!!」

「まあ、妾は特に何もしなかったがのう。ていうか出番がなかったわ」

「それを言うなら私もだな。この趙雲、武を滾らせて満を持していたのだがな」

 

趙雲や楽進達もいつでも戦えるように待機していたのだが結局は出番が無かった。だけど出番が無かったとはいえ、彼女たちは村人達を守るという役割があった。

それだけでも村人達の精神を落ち着かせる為に十分だったのだ。弱い者は強い者に率いてもらう、守ってもらう事で安心するものだ。

玄奘三蔵はどんな状況でも村人達に声を掛け続けた。彼女の性質である隠さないほど揺るぎない自信が村人たちに伝達していったのも大きかった。

武則天も出番は無かったがもしも盗賊達が流れ込んで来たら酷吏を召喚して迎え撃つつもりであった。

 

「みんなお疲れさま。おかげで助かったよ!!」

「なあにマスター、苦戦するかと思ったけど案外なんとかなったぜ」

 

そう、案外なんとかなるものだった。

 

「さて、勝鬨を上げたのなら宴だな!!」

 

俵藤太はニカリと笑う。戦の終わった後の飯は美味いを体現させる男だ。

宴は良いものだが、村人達としては宴をするほどの食料の備蓄は無い。村人達だってこんな奇跡を起きた今日くらい宴をしたいが『貧しい』という現実を忘れてはいけない。

今このまま流れに任せて宴を開けば明日からより生活が厳しくなってしまうのだ。

 

「なあに安心しろ。お主たちの備蓄は削らん。全てこちらが出すとも!!」

 

はっきり言って彼らのどこに宴を開くほどの食料があるのか疑問だ。どこからどう見ても何も無い。

そう思っていたら気が付いたら俵藤太が大きな米俵を持っていた。

 

「いつの間に?」

「アレを使うんだね」

「おおともマスター!!」

(アレって…前に言っていたアレか。でもアレとは一体何だ?)

 

趙雲が頭にまたハテナマークを浮かばせているが俵藤太はアレとやらを発動する。

 

「悪虫退治に工夫を凝らし、三上山を往来すれば汲めども汲めども尽きぬ幸。お山を七巻き、まだ足りぬ。お山を鉢巻、なんのその。どうせ食うならお山を渦巻き、龍神さまの太っ腹、釜を開ければ大漁満席。さあ、行くぞぅ!!」

「な、なんだ?」

「対宴宝具。美味しいお米が、どーん、どーん!!」

 

宝具『無尽俵』の発動。一つの村の飢えを満たすことは容易い宝具だ。

美味しいお米が滝のようにどんどん出てくる。更には『山海の珍味がいくらでも湧いてくる鍋』の能力も纏められているのでお米だけでなく山海の珍味も出てくる。

これには趙雲達や村人達も空いた口が塞がらない。これは人々の腹を満たし、飢えを退ける恵みの奇蹟。

 

「な、何なのだこれはーー!?」

 

叫びたくなるのも分かるってものだ。

第六特異点での記憶が蘇る。あの時のマシュに呪腕のハサンやベディヴィエール、百貌のハサンも驚愕しまくってた。

 

「さあ、宴だ!!」

 

宴が始まる。

村人達にとってもう今日は本当に奇蹟の一日だろう。大軍の盗賊を退け、食いきれないほどの米や山海の幸を食らう。

もうこれが夢だって言われても信じてしまうだろう。だけど米を噛みしめることでやはり現実だと認識する。

老若男女全員が勢いよくがっついている。こんな御馳走は初めてなのかもしれない。

 

「ゆっくり、腹いっぱい食え。まだまだあるからな!!」

 

豪快に俵藤太は大きな焼き魚をペロリと平らげる。その姿を見て村人の男たちも真似してがっつく。

玄奘三蔵は前みたいに『おにぎり百連如来掌』でおにぎりを大量生産して子供たちに分け与えていた。

荊軻は趙雲と酒盛りをしている。全員が全員で宴を楽しんでいる。

 

「みんな笑顔だね」

「だな。やはりみんなで囲って飯を食うのは良い!!」

 

おにぎりを口に放り込む。同じくしておにぎりをかぶりつく。美味しい。

まさかこの時代に来て戦に巻き込まれたのは予想外であった。そして自分たちが戦うことになるとは。

本当にこの時代は生きるためには戦わねばならないというのが嫌なほど実感してしまった。今までも似たようなものであるが今回ばかりは魔術とか関係なく生きるための人間同士の戦いであったのだ。

藤丸立香だって思うところはあるのだ。でも自分の選んだ道に疑問を覚えてはいけない。

 

「立香殿。これも食べますか?」

「ん、楽進?」

「ちょ、待てや凪!!」

「それは流石にマズイのー」

 

楽進が持ってきた食べ物は赤かった。

 

「何これ」

 

赤い。でもエリザベートの紅い料理ほどではない。

 

「どうぞ」

「いただきます」

「ちょ。立香はん!?」

 

辛い。ただ辛いだけの料理であった。

だが概念礼装の激辛麻婆豆腐を持つ彼にとってこれくらいの辛さは平気だ。本当に平気ってわけじゃないけど。

 

「立香殿!!」

 

初めて自分の料理を完食した彼に楽進はちょっぴり感動。

 

「よく食ったな立香はん…」

「大丈夫なのー?」

「口の中が大炎上だ」

「それ大丈夫じゃないやん」

 

いつの間にか集まる仲良し3人組。

 

「それにしても凄かったなあ。なんやのあの人ら?」

「俺の大切な仲間だよ。彼等が力を貸してくれるから俺も戦えるんだ」

「彼等とは何処で?」

「そうだな…何処だったかな。でもどうやって出会ったかと聞かれればそれは縁かな」

「縁?」

「そ、人と人を紡ぐつながりだよ」

 

マスターが多くの英霊を召喚したのは『縁』のおかげだ。だからこそ彼は『縁』を大切にしている。

 

「それに君達や趙雲達に出会えたことも縁なんかじゃないかと思ってるよ。だからもしかしたらいつかまた会えるかもってね」

「縁か…良いですね」

 

今までの旅は人との縁があったからこそっていうのもあった。

 

「みんな笑顔ですね」

 

楽進は村人のみんなを見る。これは藤丸立香達が助けた結果だ。

今回は奇跡のような出来事であったが、その奇跡を起こしたのは人間であるのだから自分でもできるのではないかと思ってしまう。

自分だって強いのだからこんなご時世でできる事があるのかもしれない。例えば義勇軍に所属して各地で悪さをする賊達を懲らしめるとか。

今回の事が楽進を義勇軍に入る切っ掛けとなったのは藤丸立香は知らなかった。そして彼女だけでなく李典や于禁も。

今度、彼女たちと再会するのはまさかの陣営となる。いや、予想すれば分かることなのだが。

 

「おーいマスター」

「今行くよ」

 

宴は続く。

 

 

19

 

 

宴の熱気を冷ますために、息抜きがてらちょっとばかし抜ける藤丸立香。さっきから村人に酒を飲まされそうで大変だ。

それに荊軻と燕青も悪ふざけで酒を進めてくる。そこは2人らしい悪ふざけである。飲んで食って遊んで歌う。それが好きな2人だ。

 

「ふう」

「一息かな立香殿?」

「あ、趙雲さん」

 

一息ついていたら趙雲が来てくれる。彼女もまた一息つきにきたのだろう。

彼女も酒を進めてくるが、何度も言うが藤丸立香は飲めない。それに残念そうな顔をしているがしょうがないものだ。

 

「飲めぬのか。私としては立香殿と酒を酌み交わしたかったものなのだがな」

「ごめんね」

「仕方あるまい。なら話は付き合ってくれるな?」

「いいよ」

 

ひょいと隣に座る趙雲。

 

「さて、お主たちは何者なのだ?」

 

いきなりな会話の切り出しだ。確かに今回の戦いでいろいろとあったのだから聞き出したいことがあるのだろう。

 

「カルデアの者です」

「かるであ?」

 

前には言ったかもしれないがそう言う他ない。

説明しようにも難しいものだ。魔術やら科学やら英霊やら特異点とか言っても分からないだろう。

あるいは魔術に関しては伝わるかもしれない。妖術という言葉はしっているようだから。

 

「まさか五胡の妖術師の連中ではあるまいな」

「違います」

「ふむ…あれだけの力を持つ将たちをまとめるのだ。やはりこれから名声でもあげるつもりか?」

「名声?」

 

趙雲の言った言葉に首を傾ける。

名声なんて目的ではない。目的は特異点たる原因だ。これも説明するか悩むものだが。

 

「ただの探し物だよ」

「セイハイというやつだな。それはそんなに重要な物なのか?」

「うん。それを目的に何度も旅をしてきたからね」

 

聖杯に特異点などの目的のために様々な時代をレイシフトしたのだ。

それに重要も重要。世界を賭けて戦ったのだから。

 

「お前たちの目的はよく分からないところもある。だがそれが第一で覇権を手に入れるとか国を建国させるなど考えはせんのか?」

「しない。建国って…考えられないよ」

「そうか。その力を何かのために役立てたいとかは?」

「出来るなら役立てたいね。でも俺に力は無いよ。俺は皆に力を貸してもらってるだけなんだ」

 

皆が力を貸してくれるから人を助けることができた。特異点を解決できた。自分だけでは何もできない。

 

「でも、そんな俺でも何かできる事が有るなら何でもやるさ」

 

本当に不思議な男だと趙雲は思う。

これだけ有能な仲間を持っておきながら何故そこまで無欲なのだろうか。

目的はあるようだがそれは物探し。言っては悪いかもしれないが、それは仲間たちの力や才能の無駄遣い。

それなら何処かの国にでも仕えればすぐにでも昇進するだろう。だけど燕青達は藤丸立香から離れるつもりは毛頭もない。

それは何故か。

藤丸立香にはやはり趙雲にはまだ分からない何かがあるという事なのだろうか。

 

「お主たちの目的は私には分からんが重要なのだな」

「うん」

 

彼の目は真っすぐであった。その目の色から彼の言う物探しは馬鹿にはできない旅路なのだろう。

馬鹿にはできないが結局、分からない部分もある。

それは趙雲の世界観と藤丸立香の世界観が違うからだ。この時代の趙雲と未来の藤丸立香では価値観が違うし、見据える未来の目的や夢もズレがある。

こればかりは時代に生きる者たちの違いである。

 

「…星だ」

「え?」

「私の真名は星。受け取ってくれ」

「いいの?」

 

真名とはとても大事なものだ。聞いた話だと不用心に言葉にすれば斬りかかられてもおかしくないという。

その真名制度を知らない者にとっては初見殺しすぎる。

そんな大切な真名を急に受け取ってほしいとはどういうことだろう。

 

「真名とは家族や親しい友人や認めた者に受け取ってもらう名だ。それならお主に預けても構わんと思ったからさ」

 

趙雲曰く藤丸立香を認めたから真名を預けた。それだけだ。

 

「認めてもらえたってこと?」

「ああ。お主の人柄は旅を共にしたから分かる。それに最終的にはお主の言葉によってこの村を救うことになったのだ。お主は正義感のある人で信頼におけると判断した」

 

そう言われると少しむずかゆいものがある。

 

「受け取ってもらえるか?」

「もちろん。ありがとう星さん」

「さん付けはいらんさ。そのまま星でいい」

「そっか。じゃあ改めて、俺は藤丸立香。よろしく星」

「待て」

 

ピタリとストップが掛けられた。

 

「何?」

「まさか今まで呼んでいた名前が真名か?」

「俺が住んでいたところには真名っていうのが無かったからね。苗字と名前。この2つで名を名乗ってる」

 

真名隠しと言うものが聖杯戦争であるが、それはこの時代特有のものではない。

 

「むむむ…いきなり真名を呼ばせていたのか」

「真名ではないから…真名?」

 

藤丸立香という名前は彼だけの名前。本当の名前ということなら当てはまるが、この時代の真名に当てはまるかと言われれば微妙なところだ。

 

「住んでいる地域や国が違えばしきたりや制度が違うってことかな」

「そ、そうなのか?」

 

やはり藤丸立香には不思議なところがありそうだ。

 

「話が折れたけどよろしく星」

「ああ、立香」

 

お互いに真名を預けてまた2人は宴会に戻るのであった。

 

 

20

 

 

何処か。

 

「うう~ん。なんなのかしらこの外史?」

「どうしたのだ貂蝉よ」

「あらん、卑弥呼じゃない。実はちょっと気になる外史があってねえん」

 

2人の筋肉達磨がある1つの外史を見る。

 

「この外史がどうしたのだ。どこか異常があるようには…むむ!!」

「でしょう?」

「むむ、これは…なんと言ったらいいか。確かに変だな」

「でしょう?」

「うむ。原因が分からんが」

「ええ、原因が分からないけどん」

「あいつらの線は?」

「あの子たちは今、大人しいし違うと思うわよん。それにあの子たちなら手が出せないはずよ」

 

原因が分からないけど確認している外史はどこかおかしい。何かおかしいのだ。

その違和感とはまるでこの外史自体が危険を訴えているようなのだ。

 

「この外史にイレギュラーでも紛れ込んでいるのかしらねん?」

「可能性は無くは無いぞ。いくつかの外史には『彼』以外の奴もおったからな。でも外史として成り立っていたぞ」

「ならこの外史もご主人様以外の誰かが…」

 

複数ある外史には『彼』以外の存在がいる場合もある。その結果『彼』とは違う歴史の外史になるのだ。

その結果、外史に大きな影響が出る場合もある。平穏になったり、まさに歴史通りになったり、苛烈な世界になったりとある。

だがどの外史も1つの物語として存在している。それを貂蝉や卑弥呼は認めている。

だがこの外史だけは輪にかけて今までと違うのだ。

 

「なら見に行くか貂蝉よ!!」

「ん勿論よん!!」

 

2人のある意味最強筋肉達磨たちはこの外史に飛ぶことを決めたのであった。

 

「「じゅぅわ!!」」

 

2人の筋肉達磨がこの場から消えた後、2人の男性がコツコツと現れる。

 

「やっとこの外史に飛んだか人外筋肉達磨どもめ。何が手が出せないだ。手を出さなかっただけだ」

「では、やっと計画が始動ですね左慈」

「ふん。下地はもう出来てるんだ。あとは始めるだけだ」

 

さっきの筋肉達磨たちは見た目はアレだが、どちらかと言えば善性の存在。今いる男性2人は見た目は整っているのに混沌のような存在だ。

彼らは何かを仕出かそうとしている。それはきっと良いことではないだろう。

 

「しかしよくこんな方法を見つけましたね左慈」

「様々な外史を見たり、正史を見たりしたからな。そして多くの繋がりを辿って見つけた世界だ。あの世界を見つけたのは本当に運が良かったにすぎない。それはまさに天文学的な確率だ」

「あちらの世界にも三国志という概念があってこそ見つけられて、繋げることも可能でしたが…大変無茶でしたよ。下手したらと考えると」

「だが繋げることができた。そのおかげでこの外史に無かった概念が付属された」

 

付属されたおかげで彼らの言う計画が始まったのだ。

 

「では俺はこれからこの器を持って行ってくる。この器に込めるモノを狩らないといけないからな。残り半分の器をお前があの外史に持って行け于吉」

「了解です」

 

左慈と呼ばれる男は于吉と言う男に半分に割れた鏡を渡す。

 

「それがあの外史に送り込まれれば計画が本格的に始動だ。なんせそれが大事な願望器の代わりなんだからな」

「では私が責任を持ってあの外史に持って行きます。ですが左慈も急いでくださいね。この計画は時間制限があるんですから」

「分かっている。俺がそっちの外史での各陣営の戦が終わる前に戻ってくる」

「それにしても大変ですね…その器に70人以上の魂を入れなければ為らないのですよね?」

 

その言葉に左慈はうんざりした顔をする。

 

「ああ。1つの外史で70人以上主要人物を殺すとなると流石に奴等にバレるし、外史に影響が出る。影響がでる分には構わないがそれだとあの2人にバレるのが問題だ。彼奴がそっちの外史に行っている間にバレないようにするとなると面倒だが1つの外史に対して1人を殺すペースだな」

「それでも70以上の外史を渡りますか」

「こたえるな…」

「疲れたら私の胸をお貸ししますよ」

「断る!!」

 

両腕を広げて左慈に近づく于吉だが凄い嫌な目をされた。でも于吉にとって、それも可愛いと思っているようだが。

 

「お前は変わらないな…」

「全く左慈ったら恥ずかしがらなくても良いのに」

「本当に嫌がっているのが分からないのかお前は!?」

「ええ」

「凄い笑顔で肯定したな!?」

 

ギャイギャイ文句を言う左慈に対していきなり真顔になって質問する。

 

「しかし、代わりになるのですか?」

「幻霊くらいの価値はあるだろ。外史とはいえ仮にも三国志の英雄たちだ。だからこそ多くの魂が必要になる」

「分かりました。ではご武運を」

「ああ。そっちは任せたぞ于吉」

 

左慈はそう言って消える。

 

「さて、私も行きますか。向こうの外史では私もあの時のように久しぶりに裏で動きますかね………カルデアの者たちには悪いですが私も本気でいきます」

 

于吉もまた消える。そして計画始動。

 




読んでくれてありがとうございました。

しかし、趙雲達の活躍を書けなかったのは俺の力不足です。

英霊たちは盗賊相手なら無双できます。だってFate/EXTELLA LINKで無双してますし。
でも少しやりすぎたかもしれませんね。でもこんなものですかね。

藤太の無限俵はどうしても出したかったです。

さてさて、次回もゆっくりとお待ちください。



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次の町へ

今回で趙雲たちや楽進たちとは一旦お別れです。
そしてまた新たな恋姫のキャラたちと出会います。


21

 

 

村から出る時は大変であった。なんせ村人たちがずっと村に残ってくれなんて言うからだ。

だけどずっと残ってはいられない。大事な目的があるのだから。

その代わりと言っては何だが、俵藤太の『無尽俵』から出てきた食料を残してきた。あの量ならばあと1年は持つだろう。

村人たちからは惜しまれながら藤丸立香たちは旅に戻ったのであった。

 

「また元のメンバーに戻ったね」

「そうだな。だが仕方無い、趙雲たちも目的があって旅をしているのだからな」

 

趙雲こと星たちとは旅の目的ため別々に別れた。ちょっぴり寂しいものだがまた縁があれば再会できるだろう。

 

「目指すは一番の都、洛陽か。長い道のりになるかもしれんがペースを崩さずに行くぞ」

「はーい先生」

 

洛陽まで長い道のりだが、アメリカ横断の時を思い出せば乗り越えられるだろう。

 

「あと賊たちにも気をつけねばな。最近は黄色い布の盗賊が増えているらしいからな」

「黄巾党も活発になってきたということね。また襲ってきたら御仏に変わって成敗よ!!」

 

旅を続けていればこのご時世、黄巾党に接触する機会は大いにある。今までも襲ってきた黄巾党は全て潰してきた。

大規模な戦いではない。玄奘三蔵がいるので命を取らずに見逃している。彼女は悪い子は徹底してボコる主義なので、二度と悪さをしないように痛い目には合わせ、諭す。

 

「三蔵ちゃんがそんなこと言ったから黄巾党が来たよ」

「ぎゃてぇ…アタシのせいなの?」

「たまたまだと思うよ三蔵ちゃん」

「そうよね!!」

 

ヤレヤレと言いながら李書文が一番槍で突っ込んでいく。

 

 

22

 

 

「そこのお前たち何をしている!!」

 

急に大きな声だが女性らしい声が響いた。誰かと思って振り向くと2人の女性が居た。

男勝りな女性と妙齢の艶やかな女性だ。

 

「誰?」

「それはワシらの台詞じゃな。見ればそこに並べておるのは黄巾の一味のようだが?」

 

今まさにボコって諭してました。

 

「怪しい奴め。何が目的だ!!」

「え、どこが怪しいの?」

「どこも怪しくないよな」

「だよね荊軻」

「確かに怪しくは無いと思うぞ焔耶よ」

「うう、桔梗様まで…兎に角、お前ら誰だ!!」

「そっちこそ誰だ!!」

 

ここで豪胆にも言い返す。たまに藤丸立香は豪胆な性格になる。

 

「何だと!?」

「はっはっはっは、なかなか豪胆な男ではないか。良いだろう。ワシは厳顔だ」

「藤丸立香です」

 

名前を教えてくれたのなら自己紹介するのは当たり前。

 

「でこっちがーー」

 

仲間であるみんなも自己紹介。

 

「□□□□□□□□□□□□!!」

「うわあっ、何だこいつ!?」

「彼は呂布奉先。意思疎通ができないけど頼もしい奴だよ」

「意思疎通できなくて頼もしいものか!?」

「む、その徳利は」

「お、お主この徳利に気付いたか」

「こっちにも良いのがあるぞ。飲み比べるか?」

「良いな!!」

「こっちの白い着物を纏う東洋の美女が荊軻ね」

「おいおい言い過ぎだぞマスター。照れてしまうではないか」

「何もう仲良くなってるんですか桔梗様!?」

 

このように焔耶と呼ばれる女性にツッコまれながら仲間の自己紹介をするのであった。

でも何故か彼女だけが警戒を解いていない。何故だろうか。人がせっかく懇切丁寧に自己紹介をしたのに。

 

「何が不満なの?」

「いや、不満とかじゃなくて…てか、お前馴れ馴れしいぞ」

「そう?」

「気にするな焔耶よ」

「そうそう。うちの主はそんなんだからな」

「て、何もう酒盛りしようとしてるんですか!!」

「ちょっとだけだよ荊軻」

「そっちの主とやらは寛容だのう。焔耶もそれくらい寛容さをみせよ」

 

普通はこんなところで酒盛りはしないので焔耶の方が正しい。だが悲しいかな、多数決で負ければ正論が覆ってしまうもの。

更に俵藤太と燕青も加わってきた。手にはいつの間にかつまみ料理がある。

 

「え、ちょ、本当に酒盛りするんですか桔梗様!?」

 

ぐだぐだしてきたので閑話休題。

 

「焔耶ちゃん、桔梗。2人ともどうしたの。あなたたち、良かったら詳しく事情を聞かせてもらえないかしら?」

 

今度もまた妙齢で艶やかな女性が出てきた。

 

「私は黄忠よ。あなたは?」

「藤丸立香です。実はーー」

 

何故黄巾党たちを捕縛したか、何故酒盛りをしようとしたのか懇切丁寧に説明。

 

「黄巾党を捕縛した経緯も酒盛りしようとしていた経緯も分かったわ」

 

自分たちはただの旅人で、たまたま此所で黄巾党に襲われたから撃退したにすぎない。それにしても黄忠と言ったら三国志に出てくる蜀の有名な武将ではないか。彼女が本物か分からないが。

趙雲も女性で黄忠も女性ときた。有名な偉人たちが実は女性であったなんてもう慣れてしまったが、まさか蜀の五虎将軍のうち2人が女性の可能性があるとは。

 

(ねえ孔明先生)

(ノーコメントだ)

 

自分の中にいる英霊から何か感じ取ったのか諸葛孔明は微妙な顔をしている。

正直なところ、この世界は本当に自分たちの知る三国志とは違うのかもしれない。でもまだ確定はできない。

一番の解決方法はこの時代の諸葛孔明と呂布奉先に会うことだ。会って同一人物ならばここは藤丸立香の世界線の過去になる。だが違うとなると藤丸立香の世界線の過去とは別の並行世界だ。

 

(いや、しかし、ここまでくると此処の諸葛孔明はまさか…)

 

諸葛孔明はこの時代に生きる諸葛孔明を予想してしまい頭を押さえてしまう。違って欲しいが、その答え合わせはまだ先である。

 

「なるほど黄巾党を討伐していたと」

「なるほど、旅人でありながら見上げた心がけね。だったらあの黄巾の連中は私たちが引き取らせてもらっても良いかしら。しかるべき罪を償わせて郷里にでも返そうと思うのだけれど」

「では、お任せします」

 

こういうのは彼女たちの方が専門だろう。どうせこちらはボコって諭すだけなのだから。

そもそも玄奘三蔵の説教で改心してると思うから素直に罪を償うだろう。

 

「そういえば結局そっちは?」

「そういえば焔耶だけ自己紹介しておらんかったな。焔耶」

「魏延だ。疑って悪かったな」

「大丈夫。気にしてないよ」

「それよりお主ら、そこまで腕が立つなら少々手伝ってはもらえんだろうか?」

「もしかして黄巾党の討伐?」

「話が早いわね。貴方達さえ良ければ手伝ってもらえないかしら。もちろん、褒賞は十分に用意させてもらうわ」

 

チラリとみんなを見るとどっちでも構わないと言う顔だ。ならば引き受ける。

それに路銀もそろそろ必要になってくるだろう。

 

「ありがとう。助かるわ」

 

 

23

 

 

まさかの出会いに依りまた賊達と戦うはめになるとは思わなかった。だがそろそろ慣れないといけないかもしれない。

やはりこの三国時代では当たり前に戦に巻き込まれるという事だ。

でも、今回はあの村より全然マシだ。なんせ今回はちゃんと兵士達が組織された軍であるのだから。

藤丸立香達は客将扱いで一緒に敵の陣地に行軍する。

 

「ふむ、此所か。そうだな弓の部隊が多いのなら…」

 

早速、諸葛孔明が策を考える。こういう戦略を考えるのは得意中の得意だ。

何通りのも策を考えて黄忠に授ける。まるで策が湯水のように湧き出てくる様を見て黄忠はつい固まってしまう。

しかもどの策もこの戦いでは全て有利になるものばかり。策とはそういうものだが。

 

「あ、あなた…何処かの州で軍師をしていた経験があるの?」

「いや、私はずっとマス…藤丸と一緒に旅をしていた」

 

仕えるとなるとやはり一番はあの征服馬鹿だけだが。

 

「そうなの。有効な策をありがとう孔明さん」

「礼を言うならうちの主である藤丸に言ってくれ。彼奴が手伝うと言い出したんだからな」

「立香さんに?」

「ああ。彼奴は善人だからな。こういうのはほっとけないお人好しなんだ」

「分かったわ。会ったらお礼を言うわね」

 

黄忠が自分のマスターへ会いに行くのを確認して諸葛孔明は葉巻を吸う。

この時代というよりはこの世界だが、自分の中ではもう異世界レベルだと仮定している。何故なら趙雲と黄忠が女性という部分が引っかかるからだ。

もしかしたら本当にあの英雄2人も女性かもしれないが、自分の中にいる英霊から感じる反応は彼女たちは違うと言っているのだ。ただそう感じるだけだがもう確定している。

前にマスターが体験した『下総国』とも違う亜種並行世界だ。そもそも亜種並行世界と括っても良いかも分からない。

ここは一体何処なのか。

 

 

24

 

 

黄巾党との戦だが特に大きな痛手も無く決着がついた。

もちろん黄忠の率いる軍の勝利である。彼女達の率いる軍と諸葛孔明の策に李書文たち一騎当千の力が加われば正規の軍でもない盗賊の集団に負けるはずがない。

そしてやはり驚かれたのが李書文達の力だろう。なんせ本当に一騎当千の言葉を体現させているのだから。

彼等が黄巾党に突っ込んだ瞬間にはもう半壊させてるのだから驚かれるのは当たり前だ。特に一緒に突っ込んだ魏延は心底驚かれてしまった。

何か戦に参加する度に同じようなリアクションばかりだ。でもこれしか言うことがない。

どうでもいいが、戦闘特化以外の英霊たち。武則天たちは暇であったらしい。

 

「何かこの時代のパワーバランスが…」

「それはもう今更だろう。それに此方だってパワーバランスがおかしい戦いなら幾らでも体験しただろうが」

 

今までの特異点の中で確かにもう抗えない敗北の戦いは逢った。それをなんとか奇跡のように覆してきたものだが。

今回は此方側が有利ということなだけだろう。

 

「深く考えるな」

「そうする」

 

現在は黄忠のご厚意で彼女たちの町を拠点にさせてもらっている。また旅の準備ができれば出ていくつもりだが。

この町ではそれぞれが好きに行動しているようだ。荊軻は厳顔とよく会っては酒盛りをしているし、李書文は魏延によく勝負を挑まれてるらしい。

哪吒は町の子供たちと一緒に遊んだりしているし、他のメンバーも好きにしている。

でも何故か諸葛孔明は町の執政の雑務をやらされていた。

 

「何故、私がこんな事をせねばならんのだ!?」

「くっふっふー。そんな事を言うな軍師よ」

「武則天。お前も何故こんな仕事を手伝っている? ここはお前の国ではないぞ」

「気が向いたからじゃ。それにカルデアにいる時はこういう事をしないからのう。久しぶりに上に立つ者としてやってみたくなっただけじゃ」

 

武則天に関しては本当にただの気まぐれなのだろう。彼女は女帝だが、そこに至るまでの学問を、武芸を、女の技を、自分にとって不要な他の全てを捨てて磨いた。その中に執政の仕事をこなした事くらい幾らでもある。

そもそも国のトップに居たのだから執政したのは当たり前だ。だが、此所は彼女の国ではない。それだけは自分自身でも分かっているのだ。

 

「おい武則天。変な案を入れ込むな」

「なんじゃ、それくらい良いじゃろ」

「此所をどうするつもりだ」

「この町から黄巾党を出さないように。くっふっふー」

「一歩間違えれば恐怖政治になるだろうが」

「そうかの?」

「とぼけた顔をしやがって…」

 

諸葛孔明は本当に余計な事はするなと釘を刺す。本物の王だからこそ質が悪いものだ。

 

「ところでマスターはどこかのう。せっかくだから妾と共同統治の仕方を練習させようかと思ったのだが?」

「マスターなら黄忠の娘と遊んでいるんじゃないか?」

 

マスターなら確か黄忠とその娘の璃々と一緒に居たのを見た覚えがあったなと呟く。

 

 

25

 

 

黄忠が娘の璃々を探していると庭の方で声が聞こえた。

 

「もっとお話して、リツカお兄ちゃーん」

「良いとも」

 

どうやら娘はこの町に滞在するのを許可した藤丸立香と一緒に居るようだ。

そしてどうやら彼は娘に何か物語でも聞かせてあげている。その物語が面白いのか璃々は凄く前のめりで聞いている。「続きは、続きは」っと言う顔で藤丸立香の腕をゆすっているのも見ていて微笑ましいものだ。

でもあんな楽しそうな顔をする璃々は久しぶりだ。娘のあんな笑顔を見れたのなら彼等をこの町に滞在させたのは正解だろう。

 

「それで龍のまじょさんはどうなったのー?」

「そうだね。敵対関係だったけど…次に再会した時には絆を深めるほどの仲間になれたんだ」

「そうなんだ!!」

「うん。まあ、人間らしくなったと言えばいいかな。でも贋作事件での割と少女らしい願望は可愛かったね」

「がんさくじけん?」

「そこはまた違う物語なんだ」

「そっちも聞かせてー」

「良いとも」

 

彼は自分が今まで旅をしてきた内容を物語風にして聞かせている。流石にこんな小さい子にエグイ内容は聞かせるわけにはいかないので端折ってる部分はある。

第七特異点の話なんてどうすればいいんだか。話す機会があるか分からないが。

面白おかしくならばイベント時が良いかもしれない。でも説明が難しいものだ。特に『ぐだぐだ粒子』とか『チェイテピラミッド姫路城』とかはどうする。

 

「物語風っていうか冒険譚なら…ハロウィン2部かな。あれは一応、勇者を題材にしてたし」

 

でもやっぱり色々駄目かもしれない。

 

「あらあら、璃々。立香さんからお話を聞かせてもらってるのね」

「あ、お母さん。うん。リツカお兄ちゃんのお話とってもおもしろいの!!」

「ありがとう立香さん。璃々の話し相手になってくれて」

 

全く持って構わない。子供の相手は慣れている。

そもそもカルデアでは子供達をいくらでも相手している。そんな中、璃々の相手をするなんて簡単だ。

簡単というか、これが普通の子供かと思う。下総国で出会ったあの2人の子供たちと重なってしまう。

でも、しっかりした子供だと思う。

 

「もしかして、立香さんにも子供がいたりして?」

「居るね」

「え、本当に。じゃあもう婚姻を」

「結婚はしてない」

 

結婚はしていない。ただ子供のサーヴァントがいるのだ。正確には子供ではないだろうが、精神的なものであろう。

そして、おそらく彼が結婚という話になったら間違いなく大事件が起こるだろう。主にマスターラブ勢によって。

 

「あら、そうなの」

「結婚願望はある」

 

たぶん、今の言葉を聞いたらカルデアにいる何人かの英霊は席を立ったと思う。

特にあの3人に聞かれたら大惨事ではなかろうか。

 

「ねーねー。お話の続きは?」

「ああ、そういえば続きだったね」

「私も聞いてみたいわ」

「じゃあーー」

 

彼はまた話す。出会いと別れ、絶望と希望の旅の軌跡を。

その話は璃々が前のめりで聞きたくなるのも分かるというものだ。どこか信じられない所もあるが、嘘を言っている様には見えない。

おそらくこの話は彼が実際に体験した事を物語風にして語っているのだろう。それにしても栄華を極めていた国が圧倒的巨大な連合国軍に勝利した物語なんてつい聞き入ってしまう。

どうやって勝てたのか。絶望的な戦力差をどうやって埋めたのか。そして、藤丸立香は何故、そんな所にいたのか。

 

「ねえ立香さん…貴方は一体?」

「カルデアの者です」

「かるであ?」

 

聞いたことのない言葉だ。州でもない。

 

「…立香さんは何のために戦っているのですか?」

 

つい聞きたくなった。彼は何が目的で戦っているのだろうか。

今のご時世、世の中は徐々に混乱していくだろう。今はまだマシだ。

黄忠の予想ではいずれ大陸は荒れる。そしてきっと大陸の覇権争いが始まる。そんな気がするのだ。

この大陸の覇権を手に入れる者や平和を望む者など大望を持った傑物が現れる。そんな中で彼女は藤丸立香に出会った。

彼と一緒にいて分かったことがある。彼は人助けや並々ならぬ信念からの行動などに対しては損得勘定抜きで真摯に応える姿勢がある。目の前の問題を進んで解決するほど善人なのだ。

ならばこの今の世だって黙っていないはずだ。ならばどう思っているのか気になる。

 

「何のために戦っているか、か…それはやっぱ、生きるためだよ」

 

カルデアのマスターとして人理の修復及び守護という大きな使命がある。でも彼は当たり前の目的があるのだ。ごく普通の人間として生き続けるという普遍的な願いが。

そのためにどんな過酷な状況でも足掻いた存在が藤丸立香である。

 

「生きる為に?」

「うん、それは人間なら誰もが思う事だと思うよ。黄忠さんだってそうでしょ。それに璃々ちゃんにだって生きてもらいたいでしょ」

 

さも当然の如く答えた彼にちょっと虚を突かれる。

大陸の覇権を手に入れるとか、平和を手に入れるために国を創るとか、戦乱を治めるとか、大きい待望を持っているのかと思っていたが全然違った。

普通の、当たり前の答えが返ってきたのだ。彼は理想に溺れた愚か者でもないし、王として大きな器を持った人でもない。

普通の人であった。

 

「…そうね。璃々には幸せになってもらいたいし、私より長く生きて欲しいわ」

 

彼は普通であるが、何処か他の一般人とは違う何かを持っている気がする。それは才能とかではない。

その正体とは彼が今まで経験した旅で培ったモノだろう。今までの旅を考えてみれば当然だと思う。

彼は普通だが今に至るまでの旅路は普通ではなかった。ならば成長するのは当然である。そして、彼自身気付いていないかもしれないが『他人との縁に関する幸運』があると思う。

だけどそれだけなのだ。彼は王になりたいとか大陸を手に入れたいとか、そういうものはない。

 

(立香さんか…)

 

そんな不思議な人の周りには諸葛孔明や李書文達という天才や化け物達が集まっている。

彼らの力は目の当たりにしているので嫌というほど凄い人材だと理解している。その人材たちを纏めているのに私利私欲に使わない。

全員が彼に忠誠を誓っていたり、大切な友として接したり、好意を持たれたりしているのにも関わらずだ。

本当に変わった人だ。そしてとても良い人格者だ。でもそんな人間だからこそ彼等は仕えているのだろう。

 

「黄忠さんは?」

「私?」

「うん。黄忠さんはどうなのかなーって」

「私はそうねえ…将としてこの城を守り、民を守る。でもやっぱり、一番は璃々の為ね。母親として娘の幸せを願うわ」

 

黄忠は娘の頭を優しく撫でる。その顔は慈愛に満ちていた。そして自分自身、昔を思い出す。最初の原点は力無き人々を守るために武芸を極め、軍人に為ると決めたはずだった。

 

「うん。素敵な女性だね黄忠さんは」

「え、えっと…立香さんったら」

 

いきなり「素敵だ」と言われてつい照れてしまう。久しぶりに男性にそんな事を言われて心がドキリとしてしまったのだ。

部下からは素晴らしい将として人徳者として褒められ慣れているが、女性として褒められたのは本当に久しぶり。

大人の女性として平然を保たねばと思ってちょっと深呼吸。流石に自分はそんな安い女と思われたくないのだ。それはやっぱり大人の女性として。

 

「もう、からかわないで立香さんったら」

「本心だけどなぁ」

 

まっすぐな目を見て分かってしまう。確かに彼は本当にそう思ったからこそ本心で言ったのだろう。

調子が狂うというか、ペースを取られてしまうというか。自分の顔が赤くなっていないかとつい気になってしまう。

 

「え、えと…もう」

「あ、可愛い反応。ねー、璃々ちゃん」

「お母さん、可愛いー」

「こら、璃々まで」

 

流石にこのままではマズイので急いで話題を変える。

 

「そ、そういえばこんな予言があるのを知っているかしら?」

「予言?」

「ええ、『天の御遣い』というものよ」

 

『天の御遣い』。この乱世を鎮めるために天から遣わされた者が流星と共に舞い降りる。

嘘か本当か分りもしないが、今のご時世では多くの力なき民が縋ってしまう噂だ。

 

「へえ…」

 

三国志の物語で『天の御遣い』なんて言葉は聞いたことも無い。

流石に藤丸立香だって三国志の大まかなことくらいは知っているが、『天の御遣い』なんて大きな題材になりそうなものが三国志に出てくるなら絶対に知っているはずだ。

考えられるのは本当に歴史に残らなかった民草たちの拠り所の噂にすぎないか、この時代の特異点たる何かか。

面白い情報が手に入ったものだ。

 

「その噂って何処が発端?」

「ええっと…確か管輅っていう占い師が占ったと思うわ」

「ふーん、管輅ね」

 

今いちピンとこない。残念だが彼の頭ではその管輅の知識はない。

 

「どこに居るか分かる?」

「さあ、それは分からないわ。ごめんなさいね」

「そっか。なら仕方ないね」

 

『天の御遣い』。この存在は彼にとってまさかの縁になるのかもしれない。

 

 




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。

新たな恋姫キャラは黄忠さんたちでした。
どんどん藤丸立香は恋姫のキャラたちと縁を紡いでいきます。



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黄忠

今回は黄忠たちの日常回です。
一刀ではなくて立香だったらこんな感じになるという回です。
まあ、あまり変わらないかもしれませんが。


26

 

 

鍛錬場にて。

 

「うおらあああああああああ!!」

「ふん!!」

「アッーーーーーーー!?」

 

魏延が飛んだ。正確には殴り飛ばされたが正しい。

 

「おーおー焔耶のやつめ、また李書文殿に高く殴り飛ばされたな」

「彼女も懲りないな。これで何回目だ?」

「さてな。もうあの光景が日常になってしまいそうだ」

 

魏延はよく李書文に勝負を仕掛けていた。彼女は最初、鍛錬として付き合ってもらっていたが最近ではもう襲撃に近い形で勝負を仕掛けているのだ。

李書文としては三国志の英雄の1人と戦えるのなら是非もないが、何でもかんでも突っ込んで来るのは直してもらいたい。

彼女が突っかかって来る理由は最初に賊達を一緒に倒した時に在るのだろう。

彼女は強いし、伸びしろは有る。自分が強い者だと疑っていない。そして自分より強い人は居るってことくらい理解している。でもよく考えないのが傷である。

だけど、李書文との出会いは劇的で合ったのだ。自分より強い人が居るくらい理解していたけど、こうも圧倒的な武を持った人を見たのは初めてであった。

彼の戦いの気迫を見てしまい恐怖し、憧れた。その強さの領域に自分自身も到達したいと思ってよく勝負を仕掛けるのだ。

 

「まだまだああああああ!!」

「ふん、破っ!!」

「アッーーーーーーーー!?」

 

また殴り飛ばされる魏延であった。

 

「本当に懲りないのう…」

「ま、あれが彼女の悪い所でもあり良い所なのだろうな」

「良く分かってるな荊軻殿。儂もあやつのああいうところが好きだ」

 

馬鹿な子ほど可愛いというやつだ。それでも立派な将に成るのなら少しは猪突猛進は直してもらいたいものだ。魏延はどこか一直線な処がある。

こういう人は言葉で言っても聞かないし、理解しないだろう。だから満足するまで相手をしてもらうしかない。

李書文には悪いが彼女の気が済むまで相手をしてもらいたい。

 

「それにしてもお主らは優秀な人材ばかりだな」

「何だ藪から棒に?」

「いや、武や智、徳の秀でた者ばかり揃った集団だと思ったのだ」

 

彼女の言う通り彼等はそれぞれ武、智、徳、それに王としての資質を持っている。そんな集団を見れば不思議がるのは当然だ。

 

「そんなお主らが1人の主に仕える。藤丸と言ったか?」

 

はっきり言えば旅をしている彼より、何処かの洲にでも仕えた方がより良い待遇を手に入れる事ができるのではないだろうか。

李書文や燕青たちの武ならばすぐにでも将になれるだろうし、諸葛孔明の突き抜けた智ならば軍師でも文官でも上にいける。

武則天が成長し、大人になれば国の指導者になれる可能性だってある。だが才能溢れる彼等は1人の少年である藤丸立香に仕えているのだ。

 

「あやつは仕えるほど凄いのか。良い男ではあるが王としては…」

「なあに彼には好きで仕えて居るのさ。王の資質があるとか関係ない」

「ふむ、そうなのか?」

「ああ、我が主は私の力を貸して欲しいと言った。それに私が応えたまでの事」

 

暗殺を失敗したアサシンクラスの英霊だと言うのに真正面から「力を貸して欲しい。貴方が必要だ」と言われたら力を貸したくなるものだ。少なくとも荊軻はそう思った。

 

「うーん、あの小僧は実は貴族とかだったりするのか?」

「いや、普通の生まれだな。だが気骨のある男だ。これでも私は彼に仕える1人として最古参でな。我が主は未熟な頃から気骨がある方だったな」

「ほう、男らしいと?」

「男らしいな。どんな状況でも言いたい事は言う男だ」

 

決める時は決め、ネタとしては走る時は走る。

 

「それも相まって多くの英…武人や天才を仲間にしているよ」

「多くの…なんだ他にも仕えて居る奴等が居るのか?」

「ああ、今は私達だけだが…他にも100人は主に仕えている仲間が居るよ」

 

つい口に含んだ酒を吹き出しそうになった。

 

「お主ら本当にただの旅人か!?」

 

やっぱりどこかの国の貴族だったりするのではないだろうか。

賊では無いし、落ちぶれた貴族でも為さそうだ。嘘を言っているようには見えないが、酒が入っている荊軻だ。

 

「いや、貴族ではないぞ」

「ならば100人云々は冗談か?」

「そっちは本当だ」

「むう…」

 

まったくもって彼らが分からなくなってきた。詳しく説明しても構わないが混乱するし、信じてはくれないだろう。

何より荊軻は説明するのが面倒だ。

 

「ま、それだけ我が主は良い男ってことだ。実際に多くの女に好かれている」

「なんと、ならお主もか?」

 

混乱しそうな時にちょうどよさげな話が入り込んでくる。

100人云々の話よりも、今の話の方がよっぽど酒のつまみに成るってものだ。しかも荊軻ほどの女性となると厳顔でなくとも気になる。

 

「そうさな、確かに好きだな」

 

マスターである藤丸立香のことは好きだ。だがそれは男女の仲と言われれば少し違う気がする。

信頼しているし、背中を預けても良い存在だ。友以上で有ることは確かだ。

 

「最古参の1人として昔から見ていたから、どちらかと言うと姉の立場に近いかな?」

(うーむ、どちらかと言えば友以上恋人未満って処かのう…どうだろうな?)

 

厳顔の考えは意外にも当たりかもしれない。

 

「他の仲間の女子共は?」

「ふむ、今いる中で一番分かりやすいのはあの武則天だな」

「あの童女か?」

「ああ、もし国を統べることがあれば一緒に統治していきたいと言っていたらしいからな」

「なるほど、分かりやすい告白だな」

 

一緒に国を統治しようだなんて口説き文句も良いところだ。そもそも何故、そんな事を荊軻が知っているかは内緒だ。

 

「三蔵殿はどうだ?」

「三蔵は…そうだな。彼女は恋愛というのを意識しないようにしているな」

「そうなのか?」

 

そういえばいつも藤丸立香にベッタリな気がしなくもないがと疑問に首を傾ける。それに気が付いた荊軻が補足をする。

 

「彼女は仏教的に恋愛などを制約しているらしい」

 

今までにマスターである藤丸立香に何度もデレた対応をして、そのたび自分でブレーキをかけている様子を見た事がある。そのせいか惚れているかもしれないが、仏教的にブレーキがかかっているのだ。

だが、彼女にとってマスターが大切な人である事は変わりないだろう。

 

(じゃあ、制約がなければ三蔵殿はいっきに…)

 

恐らくものすごく甘えてくるだろう。今でも甘えてくるけど。

 

「哪吒殿は?」

「ふむ、彼女は私たちの中で一番の新参者だが…はっきりと主に好意の言葉を言っている」

 

最初はそっけない態度を取っていたが一緒にいて絆を深めていく事で、彼女は明確に好意を示してきたのだ。

恥ずかしながらも「大好き」と言っていた彼女はマスターを裏切る事はないだろう。

だけど男女の恋仲というよりかは友人として、仲間としての「大好き」かもしれないが。

 

(哪吒殿は恋仲に至るまであと一歩という事か?)

 

厳顔の考えが全て的を得ているか分からないが、確実に好意を持っているのは確かだ。

 

「モテモテだのう。お主らの主は」

「ああ、それはモテモテだ。他にも私達の仲間で好意を抱いているのが何人も居るからな」

「どれくらいだ?」

「そうさな…」

 

ここで荊軻は手を広げる。そしていっきに5本の指を折る。

 

「ちと待て」

「何だ?」

「何で今5本の指を折った。普通は一本一本数えるものだろう!?」

「いや、一本一本指を折って数えなくともすぐに主に惚れているのが5人思い浮かんだからな」

 

そしてもう片方の手の指も5本全て折っていっきに数えた。

 

「どれだけモテてるんだあの小僧は!?」

「おお、もう10人か。指が足らんな」

 

しょうがないので今度は折った5本の指を広げた。これで15人である。

 

「おい!」

「はっはっはっはっは、仕方あるまい。本当に多くの仲間から好意を持たれているのだからな」

 

ここで荊軻は数えるのを止めた。本当に彼は多くの絆を深めているのだから。

 

「正直なところ信じられぬな」

「なら今度一緒に過ごしてみると良い。少しは彼のことが分かるかもしれんぞ」

「ふむ…なら今度、飲みに誘ってみるか」

「あ、うちの主はまだ酒が飲めないぞ」

「え、飲めんのか?」

 

結局の処厳顔は藤丸立香がどんな男なのかは分からずじまいであった。

 

27

 

 

また別の日。

 

「ふわあぁ…おはよう」

「あら、おはよう立香さん」

 

朝起きて外に出ると黄忠と出会う。朝の挨拶は大事だ。

 

「立香さんたら寝癖が凄いわよ」

「そう?」

 

鏡を見てないから自分の今の髪型が分からない。いつもの髪型よりも爆発しているということだろうか。

さわさわと頭を触ってみると確かに髪型が爆発している気がしなくもない。

 

「ほら、見せてみて」

 

黄忠が頭の寝癖を直してくれる。正面から直してくれるので彼女の胸が物凄く近い。

朝からこんなドキドキするなんて健全な男子である藤丸立香にはキツイものが在る。と、言ってもカルデアの朝では高確率で女性サーヴァントが寝床に入り込んで居るのだが。

あの寝床に勝手に入り込んでくるトリオだけではないのだ。朝起きていつも驚く。もしかしたら気が付かないうちに貞操を奪われていたなんて事は否定しきれない。

 

「うーん、この寝癖がちょっと…」

(揺れてる…)

 

ガン見である。男なのであるからやっぱり見てしまうのは悲しいかな、男の性である。

そう言えばパッションリップや葛飾北斎の時もつい反応して見てしまったものである。

 

「おはようだな紫苑、藤丸!!」

 

今度は厳顔と挨拶。彼女は朝から元気と快活さを感じさせてくれる。

朝から挨拶が元気なのはさっぱりしていて相手側も気分が良くなるものだ。そういう人物が近くに居る、良いものだ。

 

「ん、どうしたのだ?」

「ちょっと立香さんの寝癖がなかなか直らなくてね」

「直らないのならばこうしてしまえば良かろう!」

 

すると厳顔が頭がワシャワシャとしてくる。

 

「どうだ。これなら野生味溢れて良いだろう!!」

「それじゃあ本末転倒じゃない…でも、これはこれで良いかも。でもでもやっぱり立香さんは綺麗に髪型を纏めた方が…」

「いやいや、こやつは此方の方が…」

「……」

 

気が付けば2人から髪型を物凄くイジられている。朝から黄忠と厳顔に遊ばれているのであった。

 

「ほう…朝からモテモテだな我が主は」

「ただ遊ばれているだけな気がするよ荊軻…」

 

助けが来てくれたかと思ったが荊軻は微笑しながら近づくだけだ。どうも助けてくれるような感じではない。

ただ見ているだけで、微笑して居るだけ。

 

「大丈夫だろう。髪型を決めるだけなんだからその内終わるさ」

 

さっきからワシャワシャクシャクシャされているが、荊軻曰くいずれ終わる。確かに髪型を直すというのはいずれ終わる。

だからそれまで我慢しろという事なのだろう。だけど運が良いのかここで小さな助けが入る。

 

「もう、お母さん。なにしてるの!!?」

 

黄忠の娘である璃々の登場だ。

 

「あら璃々」

「もう、早く朝ごはんを食べなきゃいけないよ!!」

 

娘の一言で紫苑はピタリと手の動きを止める。そういえばまだ朝飯を食べていない。

今日の朝ごはんは誰が作ってるのか気になってしまう。此所の料理人が作る料理も美味しいけど俵藤太が作る料理も美味しいのだ。

此所の料理人だと中華ばっかりだったから俵藤太の作る和食が時たま物凄く食べたくなる時がある。

 

(というか藤太はいつの間に厨房を任されたんだろ…)

 

料理上手な英霊はどこでも厨房を任されるのだろうか?カルデアでは高級レストランに負けない位の料理が出るほどだ。

 

「あらあら…じゃあ朝御飯を食べに行きましょうか。立香さんも一緒に。もちろん荊軻さんも」

 

娘の璃々には黄忠は勝てないようで髪型をイジるのをピタリと止める。

だけど頭のワシャワシャが止まらない。

 

「よしならばこのまま行くぞ」

 

厳顔が髪型をイジるのを止めないからだ。どうやら今日は野生味溢れる髪型に決定した。

 

「なかなか似合っているぞ主」

「そう荊軻?」

 

この後、俵藤太や燕青、武則天にからかわれたのは言うまでもない。

 

 

28

 

 

「立香さん」

「リツカお兄ちゃーん」

「此方だぞ」

 

声がした方を見てみると黄忠たちが真昼間から酒盛りをして居た。

厳顔なんて気持ちよく酒を飲んでいる。だがこれには理由が在る。

何でも彼女たちは昼前までに今日の仕事を全て終わらせたから空いた時間は酒盛りをしようという事になったらしい。

 

「へえ」

 

厳顔は初対面の時から酒好きというのが分かっていたが黄忠が昼間から酒を飲むのは意外だ。

 

「あら、意外ですか?」

「うん。黄忠はこういうのを止める側かと思ってた」

「買いかぶりすぎですよ。私とて、怠けて過ごしたいと思う心は人並みには持ち合わせているわ」

「そうそう、本性は儂と大差ない飲んだくれだ」

「飲んだくれだなんて心外よ桔梗」

 

厳顔の言葉に苦笑しつつ、黄忠は口に当てた杯を傾ける。その仕草はいちいち上品で色っぽい。

視線に気付いたのか、彼女は目を細めて微笑み、酒に濡れて艶やかに光る唇を舌でなぞった。からかっているのだろう。

耐性がなければ藤丸立香はこれだけで緊張して体が強張ってしまうだろう。

 

「もおー、お母さんってば、そんなにいっぱいお酒飲んでこの前みたいになっちゃっても知らないんだから」

「この前?」

「うんとね、この前お母さんお酒いっぱい飲んで帰ってきたの…べろべろで立てないし、おみずーって言ったまま床で寝ちゃうし…璃々、大変だったんだよ」

「ほお」

 

これまた意外な一面だ。

 

「まあ…たまにはそういう事もありますよ」

 

視線を明後日の方向に逸らした。

 

「なるほど。儂と荊軻とで飲み比べをした日のことか」

「荊軻ぁ…」

 

いつの間に。

 

「平気な顔して帰って行ったくせに、それほどまで酔っていたのなら引き分けにせず決着を付けるべきだったな」

「引き分けにしてあげたのは私の方でしょう。千鳥足だった貴女を誰が部屋まで送って行ってあげたと思ってるの?」

 

言い合いながらも彼女たちは笑顔で酒を飲んでいる。気兼ねなく会話をし、酒を飲む。

これもまた彼女達の楽しみの1つなのだろう。自分も酒を飲める時が来たら彼女達みたいに気兼ねなく友人と酒を飲みたいものだ。

 

「ところで荊軻は?」

「一番最初に脱落したわね。それでも起き上がっては飲んでを繰り返してたけど」

「うむ、だが酔った彼奴はまるで別人だったぞ」

 

傍若無人という四字熟語の元になった人物であるからだ。彼女のデキ上がり様を初めて見たのはクリスマスの時である。あれは驚いた。特に『へべれけぱわー』はマジで驚いた。

何でも荊軻がデキ上がった時から酒の飲むペースが物凄く早くなったとかなんとか。そのせいも有り2人がお酒で酷く潰れた要因だ。

 

「誰が回収しに来た?」

「李書文殿と燕青殿だな」

「やっぱり」

 

この3人は同郷として結構吊るんでいたりするのだ。

暴れる荊軻を担いで戻って行く2人はとても苦労していたと厳顔は語った。

 

「お疲れ李先生、燕青」

 

此所にはいない2人に礼を言っておく。

 

「お主は飲めんのか藤丸?」

「飲めないです」

「何だ飲めんのか、残念だ」

 

飲めないものはしょうがない。だけどいつかは飲んでみたいものだ。

 

「なら飲めるようになったら付き合ってくれよ」

「勿論」

 

この約束は契約した英霊たちにもしている。いずれ飲みたいものだ。

 

 

29

 

 

翌朝 旅立つ時。

何だかんだで結構滞在してしまったが、目的のためにそろそろ旅に戻らねばならないだろう。

盗賊退治と、諸葛孔明達が文官紛いの仕事を何故か行ったおかげで路銀は十分だ。そのせいか諸葛孔明は疲れた顔をしていた。

カルデアでも頑張ってもらって、此所でも頑張るとは彼には頭が上がらないものだ。でも種火回収には編成から抜くことはほとんど無い。イベントでも。

 

「もう、行ってしまうのですね。もう少しこの町でゆっくりしていっても良いのに」

「旅の目的が在るからね。逆に此所まで滞在させてくれて助かったよ」

 

彼等からしてみれば長く居すぎたのかもしれない。このまま町に居座って居たら自分たちの目的が遅れてしまう。

マシュたちとの通信は取れていない。向こうもこっちを気にしているだろうが、此方も気になる。だけど通信ができないのなら此方では此方でやる事をしないといけないのだ。

 

「では、またな荊軻殿。また再会したら酒を酌み交わそうではないか」

「ああ。勿論だとも」

 

荊軻は厳顔と飲み仲間となっていた。

そして李書文と魏延は。

 

「今度会ったら、必ずお前の武を超えてやるからな!!」

「呵々。何時でも主の挑戦を受けようではないか」

 

気が付けば武を追い求め、挑戦を受ける関係になっていた。なんだかんだで優しいのが李書文だ。

でも戦いになると容赦がないので注意。

 

「私としてはこのまま残って欲しい処ね」

 

文官や政事に関して言えば、諸葛孔明や武則天はとても惜しい。2人のおかげで何倍も仕事が捗っていた。

戦う将ならばやはり、李書文や燕青達だろう。彼等が居ればこの町の安全は確実だって言いたくなる程だ。

そして民草達を纏めるには玄奘三蔵が居てくれると助かる。気が付いたら彼女は皆に道徳を教えていた。

そのおかげなのか、町で悪事をする人が減った気がする。町の問題児や悪ガキ達が彼女のおかげで更生した報告を幾つも聞いたからだ。

 

「じゃあ、西に行くわよ!!」

「三蔵ちゃん。今度は西じゃないから。洛陽は西じゃないから」

「洛陽に行くのですね」

「うん。取りあえず一番の都に行く事にしたんだ」

 

多くの人が集まる所に多くの情報が集まる。これは鉄則だ。

 

「また縁があれば会いましょう紫苑さん」

「ええ、立香さん」

「ばいばーい、リツカお兄ちゃん」

 

目指すは洛陽。カルデア御一行はまた旅立つのであった。

 

「ん、おいおい紫苑。お主いつの間に真名を預けたんだ?」

「いつの間にかによ」

「まさか惚れたのか?」

「そ、そんなんじゃないわよ桔梗…」

「の割には顔が赤いぞ」

 

いつの間にか藤丸立香は紫苑と絆を深めてた。流石は英霊たらしの異名を持つ男である。本人は狙って絆を深めたわけでは無く、全て自然体であるが故に恐ろしい。

 

「実は立香さん、最初から私達に真名で呼ばせてたみたいなの」

 

藤丸立香というのが彼の名前。この大陸にある習慣で当てはめるとしたらそれが真名になる。

 

「な、あの小僧。初対面の儂らに真名を言ったのか!?」

「ええ。私も流石に驚いたわよ。何でも生まれた土地の風習や習慣が違うって言ってたけど」

「…本当に不思議な男だな」

 

不思議というか、常識外れというか、豪胆なのか。彼女達はきっと彼を忘れる事はないだろう。

 

 

30

 

 

藤丸立香が洛陽に向けて出発した頃、各州でこの時代の英雄たちが乱世に向けて動き出していた。

1つは大陸の平和の為に。1つは覇権を手中に治める為に。1つは宿願を果たす為に。

それぞれが我が胸に誇りと大望を抱く。

 

平和を願う者

 

「うう、まさかいきなり食い逃げと誤解されるなんて」

「そりゃ無一文でご飯食べたらそう為るのだ」

 

これから大陸を平和にする為に戦うと大望を話したくせに食事処で無一文と発覚した者達。

大陸を平和にすると言っておきながら本当に食い逃げをするわけにもいかず、店の皿洗いをするしかなかった。

 

「なんつーかゴメン」

「いいんだよご主人様。私達が勝手にお金を持ってると勘違いしただけだし」

 

彼女達はまだまだ弱小勢力だ。今の今までどうにかしてきたが、限界がある。

いくら立派な志が在っても、武力に自信が在ってもたった3人じゃどうにも出来ない。

だからこそ彼女達は今の自分達を変える何かが欲しかった。そして今日まさにその変化に出会えたのだ。

彼女たちはやっとスタートラインに立てたに過ぎない。

 

覇権を狙う者。

 

きっとこの陣営がこの時代で一番勢力が大きくなるだろう。

大望を抱く彼女には財が在る、人材が居り、カリスマが有り。今は小さな勢力だが覇権に歩むことでどんどんと勢力を拡大していく。

 

「春蘭、秋蘭」

「は、此所に!!」

「此所に居ます」

 

小柄な体格であるが覇気はとても大きい。彼女のような存在は生まれながらの王の才覚があるのだろう。

 

「また盗賊達が出没したそうね。私の治める街を汚すわけにはいかないわ」

「はっ、すぐに成敗してまいります!!」

「相変わらずだな姉者」

「そこが春蘭の可愛いところよ」

 

彼女ならばすぐに盗賊たちを討伐するだろう。

 

「秋蘭。街の様子は?」

「相変わらずです。何か在るとすればやはりあの占い師の占いですね」

「乱世を鎮めるとかいう天の御使いの事ね?」

「はい」

 

今の荒れた世で民達が縋る拠り所。

所詮はただの占いから出たものだ。だが弱き民からしてみれば救いを与える何かが欲しいのだ。

 

「それともう1つ噂が在ります」

「今度は何かしら。天の御使いが流星で落ちてくるのに対して、地の御使いが地より這い出てくるとか?」

「いえ、違います。何でもある村を守るために天から炎の使者が舞い降りてきたとか」

 

天の御使いくらいうさん臭い話だ。今度は炎の使者ときたものだ。これだと次は風だの水だのの使者だか御使いが出てきてもおかしくない。所詮噂だが火のないところに煙は立たない。何か元になった話があるはずだ。

 

「それも占い?」

「いえ、これはあの占い師とはまた別ですね」

 

この噂は天の御遣いから派生したものかもしれないし、元となった話が誇張されたのかもしれない。あるいは本物ということもあるかもしれない。

 

「まあ、頭の片隅に覚えておくわ」

 

宿願を果たすもの。

 

「雪蓮。また仕事をさぼったな」

「えー休憩よ休憩」

「まったく…」

 

孫家の次期党首のくせして仕事をさぼるのはいただけない。

真面目に仕事をしてくれると助かるのだが、理想と離れている。

彼女はよくも悪くも自由という事である。だけどここぞという所では決めるのだから男女関係なく惚れてしまうものだ。

 

「はあ、祭殿も一緒にさぼる時が有るから困る」

「ねーねー。なんか面白い話ない?」

「天の…」

「それはもう知ってるから」

 

天の御遣いという噂はもう大陸中に広まっている。聞けば天の御使いは何処かの誰かが祭り上げたなんて噂ももう出ている始末である。

そんなものは城下町を歩いていたらいくらでも耳に入るってものだ。よく仕事をサボって城下町に行く孫策はよく知っている。

 

「そうだな…眉唾ものだが、ある旅人の集団が貧しい村で食料を恵んでいるなんてのがある」

「えーそんなの…」

「その旅人の集団は何でも食料を湯水のように出すらしい」

「何それ、そんなのウチに欲しいんだけど!!」

 

食料を湯水のように出すなんて、そんなのどこの誰もが欲しいだろう。

 

「どうやってご飯を湯水のように出してるの!?」

「そこまでは分からん。ただの噂だぞ」

 

どの勢力もまだ動き出したばかり。これからが彼女たちの時代なのだ。




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。

今回はオリジナルと恋姫のキャラたちの幕間を元にした話でした。
そして最後には各陣営の話をほんのちょっとです。
そしてそして本郷一刀がどの陣営にいるか分かりましたね。


それと荊軻たちがマスターのことをどう思っているかに関しては私の想像であり妄想なのであしからず。
「そうじゃない!!」と思う読者様たちはすいませんね。
そこは自分たちの想像と妄想で楽しんでください。
では、また次回で!!


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洛陽

こんにちは。
今回から洛陽に入ります。ということで彼女たちが登場します。



31

 

 

洛陽に到着したカルデア御一行。やはり一番の都と言うだけあって、今まで立ち寄ってきた町や村に比べてどれだけ発展しているかが分かる。

人も当たり前のように多く、貧しさを感じさせない。やはりこの大陸の中心地はある意味平和だ。

だがそれは外見だけに過ぎない。本当は内側が酷く汚れているのだ。

平和な場所のくせして、内側にこの大陸を蝕むモノが存在しているのだ。俗に言うと政治を腐敗させている存在達。

 

「着いたね」

「ああ。着いたな」

 

着いたから直ぐにどうにかできる訳では無いし。まずは足を休めたいところだ。

これだけ大きい都ならば良い宿屋が在るだろう。

 

「ふーやー。妾もう疲れたぞ」

「アタシも疲れたわ」

「お前らずっとおぶさってただろーが」

 

武則天と玄奘三蔵に的確なツッコミを入れる燕青。

 

「じゃあ、まずは宿屋にレッツラゴー」

 

洛陽を歩くカルデア御一行達。他の村や町では今まで気にもしなかったが藤丸立香達はこの洛陽では案外目立つ。

なんせこの時代からしてみれば変わった服装を着ているのだから。その目立つというのが藤丸立香と諸葛孔明の服で、現代の物なのだからより目立つ。

この時代に魔術礼装の服や現代のスーツ姿なんて似つかわしくない。

だから直ぐに彼等の事が噂でこの洛陽で広まることになる。だが所詮、旅の者という位で警戒される訳でもなく、物珍しさに大勢が集まると言う事はない。

ただただ、「あれが噂の?」程度くらいにしか見られないだろう。

でもその噂を面白がって聞くかはその人次第。そしてどう捉えるかもその人次第なのだ。

 

「報告から聞いた怪しい奴らとはお前らだな」

「え?」

「んー、そこまで怪しい奴か。まあ、確かにあの2人は変わった服を着とるけど」

「え?」

 

何故か偉い人っぽいのが兵士達を連れてきた。

これはおかしい。何もやっていない筈だ。藤丸立香は仲間を見ると全員が首を横を振っている。

 

「神妙にお縄につけ!!」

「何もやってないから」

「認めない気か!?」

「じゃあ俺らが何をしたっていうんだ!!」

「それは………………なあ霞、こいつらの罪状何だっけ?」

「何もあらへんよ」

 

空気が止まる。

 

「……」

「……」

「神妙にお縄につけえい!!」

「え、続けるの!?」

 

閑話休題。

 

「いやーすまんすまん。なんや、怪しい奴がおるって報告が有ってな。只の勘違いみたいやね」

「誤解が解けて良かったです」

「すまんなあ」

「いや、本当に」

 

皮肉を込めて大きくはっきりと言う。

 

「そんな目で見て責めんといて…本当にウチらが悪かったから」

「まったく。誰がこんな報告をしてんだか」

「いや、華雄っち。あんたがいきなり話も聞かずに突っかかったんやからな?」

「むう…」

 

いきなり罪人認定されたのだが誤解が解けたのは良かった。

自己紹介をしたがこの2人、実はまたも三国志の英雄だと分かった。その名も張遼と華雄だ。

広い大陸と言えど、まさかこうも三国志の英雄たちに出会えるとは思わなかった。だがまだ主役級の英雄には出会えていないが。

 

「で、お前が呂布~?」

「どうしたの張遼さん」

 

張遼が呂布奉先をジト目で見ていた。それは華雄も同じく。

 

「□□□!!」

「うわ、びっくりした!?」

「お、脅かすな!!」

「えーと、呂布はハッキリ言えだって」

「え、こいつが何て言ったか分かるんか!?」

「うん。この陳宮の翻訳書のおかげで」

 

これで誰でも呂布奉先とコミュニケーションができる翻訳書を見せる。でもあげない。

 

「陳宮?」

「なあ…」

「うーん」

「だからどうしたの?」

「いや、うちらの陣営にも恋…呂布と陳宮がいてなあ。まさか同姓同名がいるなんて珍しいもんやなーっと。見た目は全然ちゃうけど」

「え!?」

 

洛陽にて、ついにこの時代の呂布奉先を知る者と出会う。彼女の話からするとこの時代の呂布奉先は藤丸立香の知っている呂布奉先では無いようだ。

そもそも見た目も性別も違うらしい。この事からこの三国時代が自分達の知る時代で無い事が決定した。

亜種並行世界でも相当ズレているのかもしれない。そもそも並行世界と言ってもいいか分からない。これだとこの時代の諸葛孔明も女性の可能性がある。

それを予想しているのか此方の諸葛孔明も微妙な顔をしている。どうやら何か思い当たる節があるようだ。

 

「ねえ、どんな人?」

「めちゃくちゃ強いで」

「うちの呂布も強いよ」

「□□□」

 

この時代に2人の最強武将が揃ったことになる。

 

「なら会ってみる?」

「うん」

 

 

32

 

 

目の前にこの時代の呂布と陳宮がいる。

 

「□□…」

 

カルデアの呂布奉先は物凄く微妙な顔をしている。はっきり言って彼のこの顔は相当レアだと思う。

尤も藤丸立香もちょっと予想外であったが。呂布よりも陳宮に対して。自分の知るあのサディストがこの三国時代では小さい幼女だから。

カルデアの呂布奉先もこの陳宮を見てまた微妙な顔をしている。彼からしてみれば小っちゃすぎる。

 

「なんなのですかこいつらはー!?」

「いやあ、このデカイの恋と同じで呂布ちゅうんよ。しかも仲間に陳宮って名前も居るらしいんよ」

「な! ねねばかりか、恋殿の名を不遜にも利用している賊ですか!?」

 

また誤解が起きそうだ。

 

「こんな賊は即刻首を撥ねるです!!」

「誤解だから!」

「まさかお前がねねの名前を利用してる輩ですか!!」

「違うから」

 

よく突っかかって来る元気な子である。でも言葉の節々から彼女がどれだけ恋、もとい呂布を大事に思っているかが分かる。

きっと彼女にとってはこの時代の呂布に並々ならぬ恩が有るのかもしれない。

 

「霞。どうしてこんな奴らを連れて来たです!!?」

「そろそろ落ち着かんか!!」

 

張遼が陳宮の頭にチョップして黙らせる。

 

「こいつらはな、全然賊でもなんでも無いんや。寧ろこっちが迷惑をかけた側や」

「そんなのそっちの失敗じゃないですか!!」

「そやね」

「開き直ったです!?」

 

張遼と陳宮が言い合っているのを無視してこの時代の呂布に目を向ける。

 

「………」

「こんにちは」

「………」

「こんにちは」

「………ん」

 

即刻理解。これは意思疎通が難しいタイプだ。

まさかこの時代の呂布も意思疎通が難しいとは。そもそもバーサーカーでも無いのに意思疎通ができないとはこれ如何に。

ちょっと考えて、陳宮のもとに。

 

「ねえ陳宮さん」

「何ですか。今こっちは霞を叱るのに…」

「呂布さんの翻訳書とかある?」

「そんなのあるかですー!?」

 

翻訳書は無いようだ。

これはしょうがないと言うことで自力でコミュニケーションするしかない様である。

どうやって意思疎通をするかと考えていたが犬が近寄ってきた。普通に可愛らしい犬で頭を撫でる。

この犬はどうやら人に懐きやすいのかもしれない。犬を見ると新宿で会ったカヴァスⅡ世を思い出す。

 

「セキト」

「この犬の名前?」

「うん」

 

セキトと今言った。てことはまさかこの犬が赤兎馬なのだろうか。

呂布奉先の愛馬が此方側だと犬。またカルデアの呂布奉先が微妙な顔をしていた。一体この三国時代はどうなっているんだろうか。

 

「あ、恋殿ダメです。そいつに近づいちゃダメです!!」

 

ふるふると首を振る。

 

「大丈夫。セキトが懐いている。だから良い人」

「で、でも~」

 

なにか分からないけどこの時代の呂布には認められた。犬の判断で良いのか分からないけど、此方としても悪事を働いているわけではない。

属性で悪は仲間にいるけど、だからと言って今ここで悪事を働く理由は無いし。そもそも悪事を働く気もさらさら無い。

おそらくこのセキトと言う犬は藤丸立香という人間が善人で安全だということを動物の本能で理解したのだろう。

彼の近くに居る事が絶対に安全だという事も理解しているので悪属性の英霊からも大丈夫と思ってるのだろう。

 

「お前。良い人」

「恋が認めたってことはほんに良い奴って事やな!!」

「そして、彼奴らとても強い」

 

藤丸立香の後ろに居る李書文や燕青、そして同じ名前の呂布奉先達を見る。彼女も武人として本能でみんなの力を感じ取ったのだろう。

 

(ふむ、流石はこの時代の呂布。此方の強さを感知したのか…いやはや、性別が違う呂布でも呂布か。そしてこの時代で出会った武人の中で1番強いな)

(おいおい神槍、手合わせしてみたいんだろーが俺らと向こうは未だそんな仲じゃねえーからな。話を聞くと向こうはお偉いさんらしいし)

(うむ、分かっておる)

(その割には戦いたそうな目をしてるぜ)

 

李書文。旅をしていたら実はこの時代の英雄達と案外会えるので、英雄達と戦ってみたいという我儘が自分の中に出てきたのだ。

同じ大陸の出であり、武人として三国時代の英雄と戦えるなんてまるで夢の様であろう。武人の誰もが過去の英雄たちと戦いたいなんてあるかもしれない。

最も李書文はカルデアで何人もの英雄達と戦っているが。でも残念だが三国志の英雄とは呂布と諸葛孔明以外に会ったことは無い。

 

「華雄、霞。こんな所に居たのね。恋にねねまで」

「あれ、何方でしょうか?」

 

またも誰かがこの場に訪れる。言葉からして張遼の知り合いの様だ。

 

「あ、詠に月」

「あ、詠に月…じゃないわよ。不審者の件はどうしたのよ。つーか、誰よそいつら」

 

なんかツンツンしてそうな女の子と物凄く大人しそうで儚げな女の子。まさかこの2人も三国志に出てくる英雄じゃないだろうかと考える。

だが自分の知る三国志の英雄の誰かと当てはまる人がいない。

 

「誰?」

「それはアタシの台詞よ」

「ああ、詠。こいつらが報告であった怪しい奴等」

「何でこんな所に居るのよ!?」

「ちょい待ち。実はその報告は勘違いみたいでな…こいつら何でもなかったんよ」

「ふーん。で、それで何で此所に居るわけ?」

「いやあ、実はこのデカイのが恋と同じ呂布って名前でな。だからちょい会わせてみようかと」

「そんな事せず仕事しなさいよ!?」

 

詠の呼ばれる女性はどうもツンツンレベルが高そうだ。

 

「落ち着きなよ。あと眼鏡似合ってるよ」

「な、何よいきなり!?」

 

いきなり眼鏡が似合っていると言われてつい照れる彼女。だが警戒しているのか一歩後退された。褒めたつもりだが警戒されてしまうとは少しショックである。

 

「……」

「で、誰?」

「藤丸立香です」

 

自己紹介って大事。

 

「あ、この2人はな董卓様と賈駆や」

「董卓ぅ!?」

「へうう!?」

 

今、張遼が凄い事を言った。本人からして見ればそうでもないんだろうけど、此方からしてみれば予想外の言葉だ。

だって、史実では凶悪な暴君としてその名が知られているのに目の前の儚げで心優しそうな人物が董卓だというのだから。

カルデアの呂布奉先を見るとまたも微妙な顔をしていた。今日は呂布奉先の珍しい顔ばかり見ることができる日だ。

 

「ちょっと月を脅かさないでよ!!」

「あ、ごめん」

 

だけど本当に予想外すぎる。予想外すぎてつい何度も見てしまう。

 

「じーーー」

「あ、あの」

「じーーーー」

「へうう」

「照れた。可愛い!」

「か、可愛い!?…へうう!」

「なに月を邪な目で見てんのよ!!?」

「邪な目とは失礼な!!」

 

どうも彼女は董卓の事になると五月蠅くなる様だ。陳宮と同じで、董卓をとても大切にしているのだろう。

それはまさに親馬鹿の様に。

 

「まあ、詠っちは月っちをメッチャ大切にしてるからな。しょーがないって思ってーや」

「うん。そうする」

 

そんな時に1人の部下らしき人が現れる。

 

「賈駆様。何進様がお呼びです。それとその後は張譲様も…」

「はあ、またか。分かったわ今行く」

(何進? 張譲?)

(何進とはこの国の大将軍だ。そして張譲は宦官だ。特に張譲は十常侍という宦官グループのリーダーだぞ。この勉強不足め)

(勉強頑張ります孔明先生)

 

この国の上にいる存在達。特に張譲達十常侍こそが黄巾党との内通者だと歴史に残っている。

すなわちこの大陸を腐敗させている黒幕がまさかのまさかで国の重要人物という事だ。国を良くするはずの存在が国を腐敗させていくという矛盾。

だけど案外そういう魑魅魍魎が国の内部に居るものなのだ。

 

(…どの時代の国にも魑魅魍魎は居るものだ)

(世知辛いね)

(悪いが私達ができる事は無いぞ。これが三国時代の通る歴史なのだからな)

(…それは分かってるよ)

 

この大陸が腐敗している原因が分かったとしても藤丸立香は何もできない。苦しんでいる人々をどうにかしたいという気持ちが無いわけではない。

しかし、この時代は歴史通りに進んでいる。ならば自分たちができることはなにも無いのだ。例えここが異世界とも言えるような並行世界でも。

 

(何かもどかしいな)

 

でも何もできない。今ここで彼らが動いたらもしかしたら歴史が変わるだろう。

彼らが動くときはこの時代の特異点を修正する時だけだ。

 

「って、ふーやーちゃんが董卓さんと何か話してる」

 

武則天が董卓と話している。

 

「ほっほーう、お主があの董卓か。くっふっふー…信じられぬのう」

「あ、あの?」

「ふむ、儚げながらも何事も断行できる意思はありそうじゃな」

「え、えと?」

「普通は先輩からじゃが今回は後輩からのアドバ…じゃない助言じゃ。敵が多いならば先に仕掛けろ。そして自分の欲に従え」

「それはどういう…?」

「そういう意味じゃ」

 

そう言って武則天はそそくさと戻ってくる。

 

「何を話してたの?」

「ちょっと後輩からの助言を。尤もあやつは皇帝ではないが国を意のままにしたことがあるのじゃろう」

 

この時代的にはこれからの話だが。

 

「余計な入れ知恵をするな」

「よいではないか。ただの気まぐれじゃ。それにああ言ったくらいで歴史は変わらんじゃろうて」

 

確かに武則天の先ほどの言葉では歴史は変わらないだろう。

 

「それにしても…あやつが本当に暴君に成るのかのう?」

「うん。正直信じられないね」

「人間は変わる者だ」

 

そうは言うが、それでもやっぱり信じられない。あの儚げな少女が暴君に成るなんて。

でもよく女は化けるなんて聞くからあながち間違いではないのかもしれない。結論で言うとよく分かりませんという事で。

答えはこの時代の未来ということだ。

 

 

33

 

 

「荊軻、燕青」

「何かな?」

「何だい軍師の兄さん?」

 

諸葛孔明の声に荊軻と燕青が集まる。

 

「今から霊帝の宮殿に潜入してきて情報を集めて来て欲しい。何も無ければそれでも構わない」

 

仮定として宮中にこの時代が特異点となる原因が在るかもしれないのだ。もしくはこの時代に召喚された英霊の存在など。

そして宮中でしか知らない情報も有れば欲しい所だ。きっと普通には手に入らない情報が有るかもしれないのだ。

 

「やってくれ。お前らが私たちの中で気配遮断スキルが高いからな」

「了解した」

「良いよぉ」

 

そう言った瞬間には2人はその場から消える。

彼等なら見つからずに宮殿での情報収集をしてくれるだろう。普通の人間になら絶対に見つから無いだろうが、油断はしてはいけない。

可能性として此方と同じく英霊が居たら、見つからないという保証は無いのだから。

 

「さてさて、宮中で何が出てくるやら…」

 

何かしら情報が出てくる事を予想しながら葉巻を吸う。

だけど出てくる情報にはまた諸葛孔明の頭を痛めてくるモノが有るのだが。男性だと思っていた人が女性だったという点で。

 

「…本当にこの時代の諸葛孔明が私の思う諸葛孔明ではないで居てくれよ」

 

この言葉に込める思いは切実だが、結果がどうなるかは分からない。安心するか、顔を顰めるかはこの時代の諸葛孔明に会った時に分かるというもの。

 

「あ、ここにいたんだ孔明先生」

「どうしたマスター?」

「張遼さんからご飯誘われたんだ。先生も良かったら行こ」

「…お前は本当に人と仲良くなるのが早いな」

「荊軻と燕青は?」

「少し出払っている」

「そっか」

 

すぐに諸葛孔明の顔を見て察する。彼らは今頃仕事をしているのだろう。

ならば自分が言う事は無い。宮中で情報収集をしているのならマスターとしても言う事は無い。その選択は正しいのだから。

 

 

34

 

 

詠はまた頭を抱えている。董卓と共に涼州で部隊を率いて居た所を張譲に引き入れられて洛陽に来てから心身共に疲労が溜まってきている。

はっきり言って引き入れられたのは失敗で有った。ここまで酷使されるとは思わなかったのだ。しかも何進にすら良いように使われる羽目になっているのだからたまったものじゃない。

しかし相手は官僚の重要人と加えて漢の大将軍。その2人に逆らえる筈も無く、無駄に働かされて居るのだ。

正直言って、霞なんて文句ばかり言っている。だけど月が使い潰される寄りマシだと詠は思っている。

そもそも文句を言っているのに霞や恋たちが渋々仕事をして居るのは全て月の為で在る。本当に彼女は仲間から愛されているのだ。

 

「ったく何進は大陸中に増えて居る賊まで倒せって…無茶にも程があるわ。他の諸侯にも手伝わせないと無理よ」

「じゃあ手伝わせれば良いやん」

「最終的にはそう成るわよ。だってもう自分の所で賊退治をして居るのだから」

 

大陸全土で出没している黄色い布を纏った賊達。黄巾党。

どの州にも出没して居るのだから各太守が迎え撃っているのは当たり前だ。だが最近の黄巾党は本当に有象無象に出没して居る。

もはや賊の集団から大軍へと膨れ上がって居るのだ。ならば結局は自分の治める町を守る為に戦うしかないのだ。

 

「でも正直な処アタシたちの面子も有るから此方で多くの賊を退治したいのよね」

「無茶言うなぁ」

 

官軍が先頭を切って戦わなければ他の諸侯も動かない場合も有るだろう。だからこそ自分たちが今増えている黄巾党を倒せると各州に伝えないといけない。

 

「流石に何進も動くそうよ」

「えー、無茶な命令してこんやろうなぁ?。こう…無茶な作戦で黄巾の連中を倒せとか」

「すると思うわ」

 

溜息を吐く霞。

 

「アタシたちの所には強い将が霞に恋、華雄のみ。できればもっと将が欲しいわね」

 

大々的に部隊を動かしたいが数もあるし、率いる将も必要だ。何だかんだで人材不足という事である。

 

「んー…なら彼奴らに声かけてみるか?」

「彼奴らって誰よ?」

「ほれ、今日ウチらん所に来てたやろ。つーかウチが呼んだ彼奴らや」

「まさか彼奴ら?」

「なんせあの恋が強さを認めたんやでぇ。十分戦力になってくれるやろ………了承してくれたらの話やけど」

「褒賞を少し高めに出しなさい。もしかしたら食いつくかも」

「了解したで。なら今から飯にでも誘ってみるか。ウチあの小僧と仲良くなってん、まずは飯くらい一緒に食べてくれるやろ」

 

 

35

 

 

ある屋敷の中。

 

「例の件はどうなっている?」

「貴方が密かに行っている悪政のおかげで民の怨嗟の声によって太平要術は順調に妖力を溜めていますよ」

「…民の怨嗟の声を妖力に変えるか。恐ろしい書が在ったものだな」

「そして貴方は太平要術を使って巨大の力を手に入れようとしている」

「ふん…しかし太平要術を黄巾党に渡しといて良かったのか?」

「ええ。あれは妖術書でなくとも人を惹きつけ、纏め上げる内容も在りますので…より怨嗟の声を出すのに役立ってますよ」

 

悪政によって大陸は荒れ、民達は餓えていく。そしてそこから脱する為に賊と成り、似た様な境遇の民から奪う。その繰り返しだ。

貧しい者同士が蹴落とし合う最悪な展開だ。これならより怨嗟の声が出てくる。

 

「それに私ならいつでも回収できますので」

「いつでも回収できないと困るぞ」

「任せてください。では私はまだやる事が有りますので」

 

そう言って男は屋敷から出て行く。

 

「ふん…似非道士め。力さえ手には入ればすぐに口封じで消してやる」

 

屋敷から出て行った男に汚い言葉を吐く。所詮あの男も利用しているだけにすぎないのだ。

全ては自分の掌で世の中が動いて居ると思っているこの者は張譲。十常侍という宦官グループのリーダーである。

 

「ここの外史の張譲も結局は同じような末路を辿ると言うのに…まるで道化ですね」

 

ヤレヤレと何もない空間から出てきたのは先ほどまで居た男である。

 

「貴方の末路は変わりませんがこの外史の流れは変えてみせますよ…終わりのね」

 

彼のその目には今度こそ終わらせるという覚悟がある。

 

「さて、この洛陽にカルデアが来ている様ですし…一旦身を潜めますか」

 

 

36

 

 

趙雲もとい星は噂にあった『天の御使い』を初めて見た。

顔は男前。体格からして多少は鍛えているようだ。服装も大陸を旅してきたが初めて見る服である。

知略もありそうで、抜け目も無さそう。でも武人というわけでは無さそうだ。もし、今ここで戦ってもすぐ倒せそうである。この集まっている人物のなかで一番弱い。

だけど只者ではないのは確かかもしれない。

 

(何故、私の字を?)

 

天の御遣いはどうやって字である『子龍』の名を知っていたのか。星は字を一度も名乗っていないのに天の御遣いである彼は言い当てたのだ。

しかも妙に一方的に知っている感じでも在った。それがまた不思議である。

その理由は劉備とやらが「天の御遣いだから」と言うが、「その理屈はおかしい」とツッコミを入れた。

 

(ふむ、彼が天の御遣いか)

 

性格はお人好しそうな感じで気さくで優しい。悪い人間ではないだろう。器量もなかなかありそうだ。

 

「北郷一刀だ。天の御遣いなんて呼ばれてる。よろしく」

「ああ。よろしく」

「ふふ、なかなかの器量の持ち主のようだ」

「おいおい、まさか私を捨てて北郷の下につく気じゃないだろうな星?」

「さて、それはまだ分かりませんな」

 

天下を憂う者としては徳ある主君に仕えることが喜びらしい。

 

「俺は主君になる気なんてないけどなあ」

 

そんな事を言う北郷一刀だが劉備達にとって彼は主君である。

 

(徳ある主君か…)

 

北郷一刀を見ていると『彼』を思い出す。

そういえば服装とか少し似ている気がする。北郷一刀は白い服を着ているし、『彼』も似た様な白い服を着ていた。

髪の色や顔つきとかもどこか似ている気がする。歳も同じくらいだ。

そうなると彼も『天の御遣い』なのかと考えてしまう。

 

(いや、それは早計だな。それに彼は天の御遣いなんて言っていない)

 

恐らく北郷一刀と藤丸立香は関係ない。

今はそう思う星であった。

 




読んでくださってありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください

さてさて、ついに呂布同士の会合でした。
やっぱ、カルデアの呂布は恋姫の呂布を見たらどんな反応するかと考えて、ああなりました。喚いたりとかはしそうには思えませんので。
またいずれ呂布同士の話は書きたいと思います。

洛陽(漢側)のキャラは他にもいるのでいずれ出したいですね。
革命で新規キャラが増えたので何進とか慮植とか。
そして張譲を出しましたが、アニメ版の張譲です。原作だと名前のみしか出ていませんので。

そんでもって星は北郷一刀と接触。
藤丸立香を知る星が北郷一刀を見て…っての感じになりましたね。


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手掛かり

今回も洛陽での話です。
そして物語も次の段階に入る手がかりを得ます。
どんどんと物語は進んでいきますよ。


37

 

 

張遼たちとの食事会で客将をしてみないかという誘いがあった。似たような事は紫苑の所でやっていたがまさか官軍から直々に誘いがくるとは思わなかった。

最初は断ろうとしたが、諸葛孔明から一旦考えさせてくれと割り込まれる。どうやら何か彼に考えが有るのだろう。

食事が終わった後、ちょうど荊軻と燕青が帰ってきたのでこれからカルデア会議だ。

 

「どうだった?」

「そうだな…まあ色々と分かった事が有ったよ」

「そうそう。まさか霊帝に献帝、何進にはたまた趙忠も女だったぜ」

 

またも今まで男性だと思っていた人物が女性であったという事実。そろそろ慣れたいくらいだがやはり、虚を突かれるというかツッコミたくなるというか。

しかも色々と史実と違う部分がある。確か霊帝と献帝の関係は父と子だ。しかし荊軻たちの話を聞くと姉妹の関係だと言う。この部分で既に史実と違う。

この並行世界の時代はどうやら何かが違う。

 

「その中で怪しいのは居たか?実は英霊だったりとか」

「ないな」

「ああ、居ない」

 

彼らが見てきた人物の中に英霊は居なかったようだ。ならば他に情報が無いのか。

 

「うーんと…そうだな霊帝はまったくもって治世に興味が無いみたいだ。ただ美食に浸るだけの毎日っぽい」

「ふや、皇帝のくせしてか!?」

「まあ尤も霊帝をそうしたのが超忠のようだがな」

「他には?」

「やはり歴史通りなのか張譲が黄巾党と繋がっているらしい」

「歴史通りだね」

 

幾つか提示された情報はやはりこの時代にとって歴史通りの情報で在った。もっともこの時代からしてみれば大きな情報なのだが。

張譲が黄巾党と繋がっているという情報なんてそれは大きすぎる。

 

「あと何か気になるのが有るとすれば…その張譲が道士と関わりが有るとか」

「道士?」

「ああ。何でも太平要術の書とか何とか」

「太平要術の書か…気になるな」

 

道士に太平要術の書。確かに気になる部分だろう。

そもそも張譲が道士と繋がっているなんて聞いたことが無い。これはもしや何か有るのかもしれない。

そうなるとこの情報収集も無駄では無い。

 

「じゃあ、これから張譲と太平要術の書を調べてみる?」

「そうだな。やっと次の目的が明確に成ったな」

 

そうなるとどうするか。それは張譲と接触する事と、太平要術の書について調べる事に成るだろう。

 

「もし太平要術の書とやらが太平清領書ならばおそらく黄巾党の首魁である張角の手にいずれ渡ることになるだろう。ならば結局は黄巾党と戦わねばならない」

「本当にどっちにしろ張遼の誘いに乗るってかぁ。ま、いいがな」

「余計な戦いに為るかもしれないが…如何せん数が多い。最終的には張角に接触すれば良い。だがその前に太平要術の書を調べてみたいのだがな」

「張角の手に渡る前にか…そうなると太平要術の書が今どこに在るかだね」

「もうちょっと内側に入って調べてみるか」

 

 

38

 

 

霞の誘いをどうやら藤丸立香たちが了承してくれた。だが彼等にも旅のなか目的があるので、自分たちの好きな時に抜け出させてもらうという条件付きでだ。

元々旅人なのだからそれくらいは詠としても了承する。恋が彼等は強いと言っていたらしいから霞の案に乗ってみたがまだ様子見だ。

彼等が本当に力になるかどうか。今の状況として人材不足は否めないが、それでもいきなり何処の出か分からない奴等を雇うなんて普通はでき無い。

使えない様ならすぐにでも叩き出すつもりだ。こんな忙しい時に使えない者は要らない。

 

「…そう思ってたけど」

「おい賈駆。終わったから此方のを確認してくれ」

「くっふっふ妾の方も終わったぞ。ほれ、次のは有るか?」

 

物凄く助かっている。

正直に言って正式に雇いたいくらいだ。そして特に諸葛孔明という男に全て任せたいくらいである。

もし正式に雇えたならば彼に重要な案件まで任せることが可能だろう。

 

「あの、これ出来る?」

「任せろ」

「任せるのじゃ」

 

彼らでも手伝わせる事ができる案件はすぐさま処理していく。溜まっていた面倒事が順調に処理されて詠としては頭痛がなくなりそうだ。

今まで殆んど1人で処理してきたがやっぱり有能な部下って必要だと思った瞬間である。

 

「あと我らの主から連絡が来ているぞ」

「え、なんて?」

「指示された場所の黄巾党の軍勢を倒したから戻ってくるそうだ」

「ああ、なら次は此所に向けて移動してもらって。今度は其所に黄巾党の軍勢が現れたみたいだから」

「分かった。主にはそう連絡を出しておこう」

 

黄巾党との戦いもまた彼等のおかげで助かっている。よく霞から連絡を受けているが相当な武らしい。

恋が認めた事は本当で彼等の実力はまさに恋と同じ域に至って居るとの事。特に同じ名前である呂布奉先はまさに天災が通ったというのに相応しいらしい。

将として李書文や燕青達は性に合っていないようで一番槍として戦っている。だが俵藤太は将として的確な指示を出していつの間にか兵達に認められている。豪快かつ爽やかで気前が良く、料理上手で面倒見のいい兄貴肌な分、兵達と仲良くなるのはすぐであったのだ。

もっとも俵藤太は生前は武将であり兵を率いた経験があるのだから当たり前である。

 

「さあ、戦が終わったから飯だ!!」

 

そして黄巾党を倒した後は俵藤太主催で飯を食うのはもはや恒例である。そして移動の最中にて恋や霞達と合流すれば宴会騒ぎに成る。

 

「いやはや、流石は三国時代最強の英雄。呂布という名前に嘘偽り無し」

「だな。あんなポケーっとした顔のくせに戦場に立ったら恐ろしいぜ。たった1人で黄巾党の軍勢を倒したしな」

 

この時代の呂布、恋はその名に恥じぬ戦いを李書文達に見せてくれた。まさに一騎当千の将で今まで出会ってきたこの時代の武人とは圧倒的に開きがある。

李書文は自分の血が騒ぐのが抑えられない。武人として彼女と戦ってみたいという気持ちが止められないのだ。彼としてはいずれ戦ってみせると決めている。

 

「ありゃいずれは英霊になるんじゃね?」

「そうなの?」

「その可能性は有るなぁ。つーか並行世界でも呂布奉先だろ。なら成るだろうよ」

 

まるでこの時代の特異点に成りそうな位の強さだ。でも彼女が特異点という訳では無い。

どの並行世界でも三国志の『呂布奉先』という名前はとても圧倒的なのかもしれない。

 

「どや、ウチの恋は強いやろ~!」

 

いつの間にか酔っぱらった張遼が絡んできた。荊軻と酒盛りでもしてデキ上がったのだろう。まだまだ昼間だというのに。

 

「ああ、流石だ。これはこの大陸最強の称号は彼女のものだな」

「本当にな。もし恋が敵だったらなんて考えたくもないわ」

 

そんな黄巾党が恐れる呂布だが、俵藤太の美味しいご飯を頬いっぱいに掻きこんで食べていた。

本当に彼女はスイッチの切り替えがはっきりしている。今の彼女が黄巾党の軍勢の一角を1人で壊滅させたとは誰も思えない。

 

「…美味しい」

「おかわりならいくらでもあるぞ!!」

「…おかわり」

「おおとも!!」

 

デンっと白米のお代わりを恋に渡す。そして恋が頬に掻きこむ。その繰り返しが何度も続いて居る。

 

「ところで兵糧ってこんなに在ったっけ?」

「あ、自分ら持ちなので」

「魚やら肉やらまで…」

「それもこっち持ちです」

 

どっからこんなに兵糧が出てきたのかと疑問に思ったが酒に酔っているのですぐに忘れる。

 

「張遼~。酒のお代わり~!」

「お、荊軻っち。こっちに有るで~!」

「あ、ヤベ。荊軻の姐さんが傍若無人の手前になりそうだ!」

 

張遼は思う。こんな戦後の馬鹿騒ぎなんて久しぶりだ。洛陽に来てから今まで何進やら張譲やらの事でうんざりしていた。

だからこそ今のこの瞬間が面白い。また昔みたいに月や詠とも一緒に宴会したいものだ。

 

 

39

 

 

藤丸立香達がなんだかんだで董卓の元で働いている間、幾つか情報を手に入れた。

それは太平要術の書についてだ。なんでもある黄巾党が盗んで豫州の沛国に入り込んだという情報を手に入れたのだ。これは直ぐさま回収しに行くしかないだろう。

このまま沛国に向かって太平要術の書を回収しにいくのは良いが、きっと一悶着が起こるだろう。その一悶着で一々町の太守らと言い合うのは面倒なのだ。

前までならば旅人として動いても良かったが、最近は黄巾党が活発に成っているので町や州ごとに賊退治で動いているのだ。そこを旅のならず者が解決したという事に成ると彼らの面子に関わる。

ただでさえ、今は董卓の下で客将扱いになって居るので彼女達の為にも問題を起こすわけにはいかないのだ。

 

「と、言うわけで沛国の相に官軍である此方側から我々が行くと伝えてもらった」

「流石、孔明先生。仕事が早いです」

「これくらい当たり前だ」

 

早速、次の目的地に行く事が決まったので董卓たちに客将を抜ける事を言わねばならない。せっかく董卓軍の人達と仲良くなったが、この別れはしょうがないだろう。

出会いもあれば別れも有るという事だ。今までだってそうだったのだから。

 

「ーーというわけで、そろそろ洛陽から出発します」

「いきなりね!?」

 

藤丸立香の洛陽からの出発について聞かされた賈駆は彼らを引き留める。彼女からしてみればこれだけ有能な者たちを手放したくない。

特に長髪の男である諸葛孔明は重宝ものだ。

 

「え、出ていってしまわれるのですか?」

「うん。次の目的地が決まったからね」

「そんな…」

 

出ていくという事を聞いた董卓は悲しい顔をする。せっかく仲良くなれたのにだ。

信頼できる人は彼女には少ない。そんな中で信頼できる男性が現れたのにもう出て行ってしまうのは悲しいことだ。

 

「…藤丸。出ていく?」

「うん。俺達にも目的が有るからね呂布さん」

 

今度は呂布までが悲しそうな顔をしてきた。どれも友人の別れを惜しむような顔である。

何だかんだで此所でも信頼を得ているカルデア御一行。

人柄的にもに武力、知識と揃っている彼等を手放すのは軍事的にも私的でも惜しむのは当たり前。

 

「…やだ」

「そんなこと言われても」

「…どっかに閉じ込める?」

「止めてください呂布さん。てか、何で疑問形?」

 

何故か呂布が怖いことを言った。どうも彼女は色々とストレートに言ってくる。

だけど今回の事は彼女達も分かっているはずだ。此方には此方の目的が有るから抜けたい時に抜けると告げていたのだから。

 

「しゃーないよ。藤丸っちは正規の軍じゃないしな」

「はあ…ま、前から言ってたしね。確か沛国に行くんだっけ?」

「うん。そこに目的の物が有るかもしれないんだ。それを回収するのが俺らの役目だしね」

「では、無かったら?」

「また探す。見つかるまで繰り返しだよ」

「では、見つかっても見つからなくてもまたいらしてくださいね」

 

董卓が優しく手を握ってくる。全く持って彼女が本当に暴君になるのか信じられない。

 

「うん。また縁があれば会えるよ」

 

カルデア御一行。今度は豫州の沛国へ。

 

 

39

 

 

何処かの屋敷にて。

 

「ふん。何進め…余計な事を」

 

十常寺と何進との対立は最近どんどんと悪化している。元々仲は良くなかったがお互いに牽制しあっているのだ。

お互いに霊帝との繋がりが深い分、中々出し抜くことができないのだ。

 

「ただの肉屋だった奴が威張りおってからに…」

「ただいま戻りましたよ」

「む、于吉か。最近姿を見なかったから死んだかと思ったよ」

「まさか。冗談が下手ですねえ」

 

気が付いたら気配もなく後ろに控えていた于吉。こういう所も張譲が彼を嫌う要因の1つだ。

誰だって気配無く後ろに立たれていたら嫌だろう。

 

「今まで何処に行っていた?」

「太平要術の書が何処に在るか探っていたんですよ。見失う分けにはいきませんので」

「ふん、燃やされたとなったら最悪だな」

「それはあり得ませんよ。アレはきっとある人物の手に一旦渡ります。そしていずれ此方に戻ってきますので」

「その確信はどこから出てくるんだ?」

「私の占いから」

 

その言葉を聞いて溜息を吐きそうになるが堪えた。やはりこいつも胡散臭い。

名前を忘れたが胡散臭い占い師が『天の御使い』やらなんやらを言ってたのを思い出す。その占い師と同じくらい于吉も胡散臭いのだ。

 

「まあいい。順調なら構わないさ。此方は何進の相手をするので忙しいからな…太平要術に関しては任せた」

「はい。お任せください」

「では、私はそろそろ休む。最近身体の調子が悪いからな」

「はい。お身体には気を付けてくださいね」

 

張譲は頭を抑えながら自分の部屋へと戻るのであった。

完全に張譲がこの場から消えたのを確認してから于吉が口を開く。

 

「ふむ、張譲も利用できるだけ利用しませんとね」

 

特にカルデアと一戦交える事がある場合はできるだけ戦力が欲しい。そして人外筋肉達磨たちの相手をするのもだ。

 

「やっとカルデアが洛陽から出て行ったので一安心ですね…まあもしかしたら感づかれはしてるかもしれませんが」

 

 

40

 

 

紫苑たちはまさかの人物たちと遭遇していた。

 

「紫苑じゃない、黄忠ちゃんね。ということは…ここは」

「あ、貴方たちは一体?」

 

紫苑たちの前には医者が1人と筋肉達磨が2人いる。紫苑たちは気にしていないが焔耶は流石に自称巫女と自称踊り子である筋肉達磨たちに警戒していた。

 

「…どうやら時期的には黄巾の乱辺りなのねん。さて、この外史だとご主人様がどの陣営にいるのかしら?」

 

調べるとしたらやはりあの3陣営だろう。基本的にはよくあの3陣営にいることが多い。だがたまに違う陣営になったりするから外史とは分からないものだ。

 

「ねえ黄忠ちゃん。北郷一刀って名前の人知ってる?」

「北郷一刀……いえ、知りません。ごめんなさい」

「そう。ありがとねん」

 

どうやらこの陣営にはいないようだ。やはり3陣営を調べるのが一番のようだ。

それともう1つ調べなければならないことがある。この外史の異常についてだ。

 

「他に変わったことって有ったりする?」

「変わったことね…いえ、特には」

「いや、有ったじゃないですか紫苑様。ほら、前に出会った彼奴ら」

「もしかして…立香さん達の事?」

「リツカ?」

 

聞いたこともない名前だ。今まで幾つかの外史を見てきたが『立香』なんて名前は聞いたことも、会ったことも無い。

 

「どんな人なの?」

「とても良い人よ」

「まあ、藤丸を合わせて2人は変わった服を着ていたけどな」

 

そう言って厳顔は器用に地面に藤丸立香と諸葛孔明の服をスイスイと描く。その服はこの時代的な着物等ではなく、現代的なスーツや洋服である。

それを見た筋肉達磨達はお互いを見て頷く。

 

「名前は何ていうのかしら?」

「藤丸立香という名前よ」

 

更に他のメンバーの名前を聞いて筋肉達磨たちは目を見開く。

 

(なあ、貂蝉よ…)

(ええ、どうやら早速この外史でのイレギュラーの情報を得られたようね。それにしてもまさか正史の偉人たちも来ているかもしれないとはね)

「どうしたの?」

「いえ、何でもないわん。ところでその人達は今どこに?」

「確か洛陽に行くって…」

「なぁるほどねぇん」




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。

今回の物語で出てきた『太平要術の書』。まずは、それを巡る事になっていきます。
于吉も貂蝉たちも立香たちがいる外史にて動き始めてます。
そして貂蝉たちは藤丸立香たちをロックオンしたようです・・・

次回は豫州の沛国へ。そうなると登場する恋姫キャラはあの親子ですね。


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沛国

こんにちは。
今回は沛国での物語です。
物語の展開としてはまだまだ緩やかですが、少しずつ「解決すべき案件」には近づいて行ってます。



41

 

 

カルデア御一行は洛陽から沛国へと足を延ばした。

 

「沛国に到着!!」

「着いたな。洛陽ほどではないが豊かそうだ」

 

周りを見ると今にも収穫できそうな多くの野菜畑がある。今まで見てきた村ではこんな実りのある畑は見たことがない。

きっとこの畑を管理するものは相当腕が良いのだろう。土や水、野菜等々が良く育っているのがその証拠だ。

 

「うむうむ、良い田畑だ。ここでは餓えは無さそうだな!!」

 

ここでも餓えが在るのなら俵藤太の無尽俵の出番かと思っていたがその必要は無さそうだ。

裕福とは言えないかもしれないが貧しくも無い。十分にこの荒れた大陸でも此所では人々が活気づいている。

 

「まずは沛国の相である陳珪に会う。今回の事に関して既に向こうにも報告がいっているはずだが此方も顔を出さねば為らん」

「挨拶は大事ってやつだね」

「そういう事だ」

「じゃあ、彼処に居る人に声をかけてくるよ。その陳珪って人が何処に居るか聞かないとね」

 

すぐさま近くに居た青髪の女性に声を掛ける。本当にグイグイ行くのが慣れているものだ。

 

「あの、すみません」

「はい、何でしょうか?」

 

恐らく藤丸立香と同じくらいの齢で健康そうな肌をしている。そしてどこか周りに居る農家の人にはない雰囲気が有った。

なんというか恰好は質素なのだが内側からは違うと感じる。その違いとは本のわずか位のものだ。あと眼鏡をかけていた。

 

「あ、眼鏡似合ってるね」

「え、いきなり?」

 

声を掛けられたと思ったらいきなり褒められた女性は照れてしまう。彼女は褒められ慣れていないのか、少しオドオドし始めた。

そんなことを気にせずに質問開始。

 

「実はここの相の人。えっと、陳珪さんに会いたいんだけど…どこに行けば会えるかな?」

「母さんに?」

「え、お母さん?」

 

第一村人がこの沛国の相の娘であった。

 

 

42

 

 

少し前に曹操と会談して、豫洲に逃げ込み手勢を拡大させている不埒な賊を討伐するように取り決めた。

あの曹操ならば賊を見事に討ち取ってくれるだろう。彼女にはカリスマが有り、精鋭の兵が居る。そして彼女を慕う人材はレベルが高い。

彼女と会話したけれど、相当口の回る猛者だ。あれならば政事の闇とも十分に戦える。全く持って才能の塊だと思う。

陳留にも兵団が要るが、質でも彼方が上だろう。豫洲より精鋭の兵達が居るのが羨ましいものだ。今はまだ幹が細い樹であるが、いずれは国を守る大樹になる可能性は大いにある。

だからこそ曹操との会談はとても実りのあるものだった。

 

「そんな時にまさか洛陽からこんな書簡が届くなんてね」

 

届いた書簡には、これから沛国にある団体が来ると書かれていたのだ。そしてその者達の沛国での行動する許可をして欲しいとの事。

行動の理由は賊の討伐との事。何で賊の討伐をする為だけに洛陽から書簡が届いたのかが気になる。

これが官軍というのなら分かるが、その団体とやらは何処の軍にも所属していないし、客将という扱いでも無い。しかも義勇軍でもないそうだ。

そんな何処の誰かも分からない者達の為に官軍が直々に書簡を送る等普通はあり得ないのだ。

 

「どんな人達なのかしらね」

 

実際の処は諸葛孔明が洛陽で上手くやったというのだが。更に詳しく言うならば賈駆に上手く書簡を書かせて届けさせただけである。

実は特別な者達なのではと考えている彼女は的外れである。別の意味で特別というのならば正解ではあるが。

 

「母さん、今いい?」

「あら喜雨? 良いわよ」

「母さんにお客さん…何でも洛陽から書簡が届いているはずだって言ってたよ」

「ああ、分かったわ。通してくれるかしら」

「うん」

 

早速、件の者達が来たようだ。

彼等がどの様な人物達なのかを沛国の相である陳珪は見定めなければならない。

そしてもし、使えそうな人材ならば上手く取り入れたいものだ。

 

 

43

 

 

偶々声を掛けたのが陳珪の娘であった陳登に案内されて部屋に到着。部屋に入って目の前には妖艶な女性が居た。

彼女こそがこの沛国の相である陳珪だ。佇まいや雰囲気が今まで出会った来た人物とは違うのが分かる。恐らく彼女は相当な手練れなのだろう。政事面でという意味で。

あと失礼かもしれないが、最初に目に入ったのが彼女の胸であった。藤丸立香もやっぱ男の子という事である。

源頼光やブーディカにも負けないくらい大きかった。パッションリップとは流石に比べられないが。

補足だが武則天は自分の胸に手を当てて彼女の胸を凝視していた。

 

(あら、あの子ったら)

 

女性とは男性の視線に敏感なものだ。だから陳珪が藤丸立香の視線に気づくのは一瞬であった。

 

「こんにちは。藤丸立香です」

「私は陳珪。知ってると思うけどこの沛国の相よ。そして貴方達を案内してくれたのが娘の陳登よ」

「どうも」

 

陳珪は藤丸立香たちを見る。彼等に出会う前に娘からどんな人物達か聞いてみたが、大道芸の集まりの様だと言っていた。

確かにそう見えなくはない。武装した者もいるが、集団で見ると傭兵というより大道芸人っぽい。

 

(…なるほど、喜雨の言うとおりね。でもこんな人達がどうやって官軍との繋がりを?)

「あのー、書簡でも届いていると思うんですがここでの自由の許可を貰いたいんですが……許可して貰えます?」

「ああ、それね。それは大丈夫よ。此方としても賊を退治してくれるのなら願ったりよ」

 

彼等が自由に動くのは賊退治という事だ。だけど其だけが目的とは思えない。

何故なら賊退治をするのに何でココを選んだのか。その部分は誰もが少しは考えれば疑問に思うはず。賊退治ならば何処でもできるからだ、この沛国ではなくて他の州で賊退治をした方が褒賞が貰えるだろう。

なのにこの沛国で賊退治。しかも褒賞はいらないときているのでますます気になる。

 

「褒賞がいらないと書いてあるのだけれど本当かしら?」

「ああ。要らない」

 

ここで諸葛孔明が対応する番だ。難しい交渉するのは彼が適任なのだから。

 

「いらないのならそれで良いけど…何でいらないのかしらね?」

 

普通は命がけで賊を退治して褒賞も何もいらないなんて信じられない。無欲な人間は居るが、ここまで無欲となると何か有るのではないかと普通は疑う。

それに気づいた諸葛孔明はすぐに口を開く。

 

「探し物をしている。どうやらその探し物がこの国にいる賊が盗んだという情報を聞いたからな。もし賊を退治して、その探し物があったら貰う。それだけだ」

「探し物…それは何かしら?」

 

賊が盗んだ物と聞いてすぐに思い浮かんだのは『太平要術の書』だ。それは曹操も探している物。

まさかこんな偶然が有るのだろうか?。気にもしなかったが『太平要術の書』とは案外価値の有る物かもしれない。

 

「教える必要は無いだろう。それは陳珪殿にとって害になる物でも損になる物でも無いからな」

「太平要術の書かしら?」

「……何だ知っていたのか」

 

できればこのまま此方の探し物に関して聞かないで欲しかったがどうやら向こうも此方の探し物について知っている様だ。

太平要術の書が特異点となる原因ならば此方で処理したいだけだ。違っていてもどうこうするつもりはない。

 

「太平要術の書とはそこまで価値のある書物なのかしらね?」

 

出来ればここで食いついてほしくは無かった。その書物に彼女が食いつけば手に入れるのが難しくなるのだから。

もしも陳珪が太平要術の書を渡せと言い始めれば厄介になる。

すぐにどうするか考えた結果、こう言う他無い。

 

「もしその書物が私達の探している物で無ければ譲渡するさ」

「あら、良いの?」

「ああ。探し物でなければ、それは私達にとって価値の無い物だからな」

 

今はこう言うしかないだろう。こう言っておけば相手側も多少は納得するもの。

 

「探し物だったら?」

 

その返しは出来れば言ってほしくなかった。だがどっちにしろ此方も返す言葉は用意してある。

 

「欲しいというのならやろう。だが、その代わりこっちがまず太平要術の書の中身を確認したらだ」

 

探し物で有ろうと無かろうと最終的に陳珪の下に渡る。これなら文句など言える様な事は無い。

 

「……良いでしょう」

 

陳珪は思案する。彼等が太平要術の書が欲しいというのは分かった。

だが、絶対に手に入れるという欲は感じ取れない。曹操も太平要術の書を欲しがっていたが彼らよりも欲しがっているように感じられた。

だけど彼らは最終的には陳珪の下に渡すと言っている。ならばそこまで太平要術の書を求めてはいない事に成るのだ。

 

(彼等の本当の目的は何なのかしら?)

 

間違いなく目の前にいる諸葛孔明という男は腹に色々と抱えて居るだろう。恐らく自分と同じで手強いタイプだ。

 

「では、私達は早速仕事をさせてもらおう」

「あ、ちょっと待ってもらえる?」

「何だ」

「実はーー」

 

一応、彼等には話さないといけないだろう。曹操の事を。

そして陳珪は彼等の本当の目的を見極めるべく動く。

 

(ええっと、もし探りを入れるなら…)

 

陳珪の人を見る目は確かだ。そして自分の魅力や知恵を使って骨抜きにできそうな人物を考える。

 

(やっぱり、あの子よね)

 

陳珪の目に映ったのは彼しか無かった。藤丸立香しか。

 

 

44

 

 

陳珪からの許可を得て『太平要術の書』を探すために黄巾党のアジトをいくつかピックアップする。

何処に太平要術の書があるか分からないので虱潰しに探すしかないだろう。だがその中であるアジトだけは狙うなと陳珪から言われている。

 

「曹操ねぇ」

 

三国志の主役級の英雄である曹操。なんでもカルデア御一行が沛国に来る前に陳珪は陳留で曹操と会談したらしい。

その会談で色々と複雑な事があった様だが、簡単に纏めると陳珪は曹操に陳留から逃した賊が豫洲に入って来たから責任持って始末しろと言ったそうだ。

だから曹操が始末する黄巾党は狙うなという事だ。

 

「もし、そのアジトに太平要術の書があったら?」

「曹操と交渉する他ないだろうな。もしくは先に手に入れる」

「それにしても曹操か」

 

三国志を知っている者ならば必ず知っているはずの英雄。後の時代では中国にて最高の認知度を誇るだろう。

聖杯戦争の開催地が中国で、召喚された英霊が曹操ならば知名度補正で圧倒的な英霊になるだろう。日本で織田信長が召喚されるようなものなのだから。

 

「大物の登場ってとこだなマスター。流石のオレも曹操くらい知ってるぜ」

「燕青の言う通りだ」

「何でもリアルチートって言うくらいの人物なんだろ?」

「またそんな言葉…黒ひげだな」

 

この時代の中でもトップを走る存在なのは間違いない。

 

「…また女性なのかな?」

「うーん…その可能性はあるかもなあ。霊帝とか何進もそうだったし。てか、今のところ出会う英雄たち全部女性だけだな」

 

燕青の言う通りで今のところ、三国志で活躍する英雄たちは全員女性なのだ。

このままいくと本当に曹操まで女性の可能性が高い。もうこの並行世界は『そういう並行世界』だと考え始めているのだ。

こうなると劉備や孫権も女性じゃないかと思ってしまう。そもそも暴君であると歴史に語り継がれた董卓があんな優しい女性の時点で相当驚いたのだ。

 

「女だろうが男だろうが曹操は曹操なのじゃろう」

 

女性だろうが男性だろうが曹操は曹操だ。性別が違うだけできっとこの時代の曹操も歴史の語り継がれる要な覇道を突き進むはずだろう。

 

「話を戻すが黄巾党のアジトを虱潰しにして行くぞ。一応言っておくが…退治なんて名目で動いているが目的は書を探すだけだ」

 

黄巾党は日々数を増やしている。大軍に膨れ上がっている黄巾党を倒すのは骨が折れる。

此方に英霊が9騎居ると言っても何万という大軍相手は厳しいだろう。やりようによっては勝てない事もないだろうが数が馬鹿げている。

 

「余計な戦闘はしなくていい。太平要術の書が在るかどうかだけ確認するんだ」

「儂は大軍相手でも構わんがな」

「□□□□!!」

「そこの戦闘狂2人は黙ってろ!」

 

何万という大軍ならば藤丸立香達が相手をしなくても、この時代の官軍や自国の軍が相手にする。歴史本来の戦いに藤丸立香達は関係ないのだから。

最も目の前で助けを求めていた人が居たとして英霊たちのマスターである彼が無視できるかと言われれば否定ができないが。

 

「では、早速行くぞ」

「おー!!」

 

 

45

 

 

最近この沛国に訪れた藤丸立香とその一団。彼等の目的は黄巾党の退治という名目で太平要術の書が目的らしい。

はっきり言ってまだ彼等は何かを隠している。それがまだ分からないから泳がせているのだ。

その泳がせている間に彼等は着々戦果を残している。何と見つけた黄巾党のアジトを全て潰して回っているのだ。

短い期間でありながら多くの黄巾党を退治し、捕縛している。そしてたった10人でその戦果をあげている。

正直どうやってたった10人で黄巾党のアジトを潰しているのかが気に為る。どうやら彼等は本当に只者ではなさそうだ。

陳珪は探りを入れる為に藤丸立香に近づく。彼が陳珪を異性として見ているのは初めて会った時に気付いている。ああいう男性ならばいくらでも掌で踊らせてきたのだから取り入るのは簡単だ。

それによく彼等を観察すると不思議であるが藤丸立香を頭目としている集団だ。ならば頭である彼を籠絡してしまえば、そのまま彼等の戦力を手にいられるというものだ。

はっきり言って彼らは十分な戦力だ。彼等程の戦力ならばどの国も欲しがるだろう。人材を集めている曹操だって彼等の事を知れば欲しがるだろう。

すぐに藤丸立香を籠絡できるとは思わない。だから少しずつジワジワと絡めとるように攻めていくのだ。

だからまずは身体を使ってみることにしてみた。

 

「…あの、陳珪さん」

「はい、どうしたの立香さん?」

「……どいて欲しいのですが」

「あん、そこは触っちゃ駄目!」

「どこも触ってないんですけども!?」

 

陳珪は藤丸立香を押し倒すように覆いかぶさっていた。こうなった経緯は普通に陳珪が躓いて、ちょうど目の前に居た藤丸立香に向かって転んだのだ。

彼の目の前には覆いつくすほど柔らかいものが圧迫してくる。女性の魅力の1つが暴力的に攻めてくるのだ。

どいて欲しいのだが、何故か彼女はグイグイと腕に力を込めて抱きしめてくる。最初は彼女も混乱しているのだろうと思っていた。

本当に最初は偶然で。これっきりというわけではなかったのだ。

 

「ねえ、もうワザとだよね?」

「あら、どうしてそう思うの立香さん?」

「だって、これもう何回目なのさ」

 

もう何回も陳珪に押し倒された事やら。流石にドジっ子とは思えない。

 

「でも嫌ってわけじゃないでしょう?」

「うん」

 

男の本音が出てしまった。だがしょうがないのだ。だって男の子だし。

でもだからと言って警戒が無い訳ではない。こうも身体を使って誘惑してくる陳珪に藤丸立香も流石に警戒する。

 

「何でこんな事を?」

「そうねえ…」

「ちょ、陳珪さんどこ触ってんですか!?」

「うふふ…」

「意味深な笑い声で誤魔化さないでくださいよ!?」

 

まずはどいてくれる事が重要なのだがどいてくれない陳珪。そして彼女の手は何故か彼の変な場所に。

カルデアにもそういう過激な英霊が居るから慣れている為に少しは冷静だ。慣れてしまった自分もそれで良いのか分からないが。

その度に自分でもモンモンとしてしまうが我慢しているし、カルデア警察なる者も居るので守られてはいる。

いつの間にかそんなものが出来たか知らないが。

 

「何が目的ですか?」

「あら、聞いたら答えてくれるのかしら?」

「怪しまれるくらいならね」

「…じゃあ同じように質問。何が目的なの?」

「言ったと思うけど太平要術の書だよ」

「本当に?」

「本当」

 

彼女の胸で顔が隠れているけど藤丸立香は嘘はついていない目をしている。だって本当に太平要術の書が目的の1つなのだから。

本当に太平要術の書が目的だ。ただ、それが目的への過程の途中というだけ。だから嘘は言っていない。

 

「実は王になりたいとか、大軍を手に入れたいとか…大きな野心が有ったりしないの?」

「無いよ」

 

キッパリと言う。だって本当の事だもの。

 

「で、陳珪さんは何の用なのかな? もしかしてソレを聞く為だけにこんな事を…?」

「ふぅ、本当に野心とか何か他に目的が有るわけじゃないのね」

 

陳珪は藤丸立香が本当に嘘を言っていないことが理解できた。彼は純粋すぎるほど善人だと分かるのだ。

なんせ様々な人間を見てきた彼女には良い人間か悪い人間かを見分けをつける観察眼は養っている。だから今回ばかりは当てが外れたようだと思った。

 

「そうなのね…」

「分かってくれましたか…じゃあどいてくれると助かります」

 

何で怪しまれていたか分からないが誤解は解けた様だ。実際に彼女は無駄に警戒しすぎたという事である。

彼等のやっている特異点の解決は陳珪達には全く持って関係ないのだから。

 

「あの…何でどいてくれないの?」

 

未だに陳珪は藤丸立香に覆いかぶさったままだ。そろそろ彼女の胸に圧迫されて息がしづらく少々苦しい。

何故どいてくれないのかまた分からなくなってきた。

 

「なんか立香くんが可愛いからつまみ食いしちゃおうかなって」

「ええぇ!?」

 

いつの間にか君付け。恐らく誤解は解けて警戒も解いてくれたのは確かだ。でも何故か誘惑的な雰囲気。

こんな所をマスターラブ勢に見られたらどうなる事やら。

 

「どど、どうして!?」

「私だって誰彼構わずってわけじゃないのよ。君が可愛いから…ね」

 

そんな蠱惑的な声を耳元で囁かれてしまったらゾクゾクしない男はいない。

自分の魅力的な肢体を上手く有効に使う事は有る。だけど陳珪だって本当に誰彼構わずというわけでは無いのだ。

今も彼を誘惑しているのは勿論、全ての理由が可愛いからつまみ食いをするわけでは無い。彼等の戦力が魅力的だからだ。

もし、彼を籠絡できればいざという時に上手く利用できるかもしれないのだ。彼等を将としてこの国の軍隊に組み込めば陳留に居る曹操の軍隊とも渡り合えるかもしれないと考えたからだ。

この沛国は残念ながら黄巾党に渡り合えるほどの力は無い。彼女の計画としては曹操に取り入る事も考えていた。

だけど彼等を手に入れればその必要は無くなるかもしれない。なんせたった10人で黄巾党の拠点を潰して回っているのだから。

拠点と言っても大軍が居るわけでは無い。それでも多くても100人は最低でもいるはずだ。最近の黄巾党の増殖具合を予想するとそれくらいの規模が普通だろう。

これから曹操が退治してくれるであろう賊の拠点は数千に膨れているはずで有る。たった3人が数千にまで増殖する戦乱の時代だ。

だからこそそんな危険な賊の集団を倒せる知力と戦力を持つ彼等が欲しいのだ。

 

「このまま私に任せてくれれば良いのよ。それだけで気持ちの良い時間が過ごせるわ」

「!?」

「それで私に靡いてくれても靡かなくても、それは君の自由だしね」

「おお!?」

「さ、私に任せて」

「フォウ!?」

 

ついフォウの声真似をしてしまった。ここはどうするべきか頭の中に選択肢が出てくる。

1つは『据え膳食わぬは何とやら』で、そしてもう1つは『優しくしてください』であった。

よくよく考えるとどっちも結果は同じだという事に後で気付くのだが。案外まだ混乱しているのであった。

 

「さあ…ってあら?」

 

彼女の魅惑的な胸で何も見えないが、どうやら誰か来たようだ。これは助かったと一安心である。

流石に誰かが来れば致すのを止めるだろう。やっと陳珪が退いてくれて藤丸立香が見たのは武則天と玄奘三蔵であった。

 

「あ、2人とも」

「あ、2人とも…ではなーい! 何をやっとるのじゃ愚か者ーぅ!!?」

「なななな、アタシの弟子のくせして何やってるのよ!? 修行が足りないわ!!」

「お仕置きで拷問じゃ!!」

「理不尽!?」

 

しょうもない事件であった。

 

 

46

 

 

しょうもない事件の後、藤丸立香は武則天と玄奘三蔵に引き摺られながら説教を受ける。

武則天から拷問を受ける事は回避できたが玄奘三蔵の説法という名のお仕置きは回避できない。

煩悩を祓う修行をさせられるらしい。どんな事をさせられるのだろうか。

 

「まったくアタシの弟子として不甲斐ないわ!!」

「あんな年増の何処が良いんじゃ!!?」

「ふーやーちゃん。ソレ陳珪さんの前で言っちゃダメだよ」

 

女性の年齢に関しては難しいものだ。それに関しては多くの者が痛い目に合っているのだから。

 

「で、俺は何をさせられるのお師匠様?」

「陳登ちゃんが畑仕事をやっているから手伝ってあげるのよ!!」

「なるほど。YARIOたちの出番じゃないか」

 

でもここにはYARIOたちはいない。いたら村すら開拓できるはずだ。

 

「畑仕事なら修行にバッチシよ。マスターの煩悩を退散させられるわ!!」

 

勿論、師匠である玄奘三蔵も一緒に手伝うらしい。

 

「もちろん、武則天さんもーー」

「妾は見てるからな」

「えー!?」

 

武則天なら手伝うことはしないだろう。

 

「ぎゃてえ…まあ、トータも居るしいっか」

「藤太も居るの?」

「ええ、何か手伝いたくなったって」

 

どうやら俵藤太も畑の手伝いをしているようだ。食に拘りを持つ男。ならば食材を作る段階である耕作にも気になる所が有るのかもしれない。

城から出て陳登が管理をしている田畑に赴くと早速見つける事ができた。陳登の周りには農民たちが集まって彼女の指示を仰いで動いて居るようだ。

 

「この辺りは体菜か大根かな」

「分かりました。向こうの畑は来月には開墾が終わる予定ですけど、同じで良いですか?」

「来月なら同じで間に合うかな。後半までかかるようだと厳しいかも」

「でしたらーー」

 

見ていて分かるように陳登はテキパキと農民たちに農作について説明し、指示を出している。まだまだ若いと言うのに良い采配である。

忙しそうに指示しているが、玄奘三蔵は気にせずにズズイと間に入っていく。

 

「陳登ちゃーん!!」

「あ、三蔵さん。どうしたの?」

「畑仕事の手伝いに来たわ。アタシの弟子をコキ使ってちょーだい!」

 

引き摺れている藤丸立香を見て挨拶。

 

「そしてアタシも手伝うわ!!」

 

プルンと揺らしながら胸を張る玄奘三蔵であった。

 

「武則天さんも?」

「妾はやらん」

「なら邪魔にならないところに居てよね」

「くっふっふー。分かっておるわ娘っ子」

「娘っ子って…ボクの方が全然年上だと思うけどな。全く、手伝わないんなら…」

 

陳登と会話しているとたまに思うがどこか一言多い気がする。それが彼女の性格という事なのだろう。

でも相手によってはその性格は苦労するかもしれない。特にプライドの高い人や言葉遣いに細かい人など。

だから彼女が村人たちと信頼し合っているのはきっと色々と有ったが、何とか上手くはいったという事だろう。

 

「それにしても急だね」

「弟子の煩悩退散させる為よ!!」

「煩悩退散って…何があったの?」

「実はね…」

 

藤丸立香が陳珪に押し倒されていた時の事を説明。その説明を聞いて陳登は特に思うことはない。

まるで当たり前というか、いつもの事のようなことを聞いた感じだ。

 

「そう。母さんもよくやるよ」

「よくやるって…」

「詳しくは知らないけどさ。よく母さんは色々と手回しをしてるからね。立香さんも気を付けた方がいいよ」

 

諸葛孔明も陳珪のことは胡散臭い人物と評していた。常に相手を煙に巻くような話し方をしたりしているし、有力者には露骨に取り入るような事もしているらしい。

はっきり言って彼女が何を考えて有力者へ露骨に取り入ろうとしているのかは今現在、誰も分からない。娘である陳登さえも。

 

「……はあ」

 

陳登は母親の陳珪の事が分からない。藤丸立香達は彼女達親子の擦れ違いの事は今の段階では分からないのであった。

 

「ところでトータは?」

「ああ、藤太さんならーー」

 

陳登が俵藤太が何処にいるか話そうとするが、その前に件の俵藤太が泥だらけながら来てくれる。

 

「マスター、それに三蔵に武則天まで。どうした?」

 

後ろには多くの農民たちが居る。まるで自分の部下のように従えているみたいだ。

 

「藤太さん」

「おお、陳登。向こうの畑の土起こしは終わったぞ。次はどうする?」

「ありがとう藤太さん。じゃあ次はーー」

 

陳登は俵藤太に近づいて次の指示を出している。何処か遠慮がないというか信頼している感じで畑作業をお願いしているのだ。

その指示を笑顔で了承する俵藤太。そのまま後ろにいる農民たちに作業の段取りをテキパキ伝えて動き出す。

 

「藤太さんは腕が良いね。はあ…彼が最初から居てくれたらどれだけ助かった事か」

 

彼は豪快かつ爽やかで、気前が良くて料理上手で面倒見もいい兄貴肌の漢だ。その包容力からすぐに人と打ち解けてしまう。彼の後ろにいた農民達も慕って指示を受けており、その顔に不満なんて1つも無い様だ。

陳登だって俵藤太には何処か信頼を置いているように見えた。でもその気持ちは分かる。藤丸立香だって俵藤太と出会った時は彼の良さにすぐに懐いたのだから。

俵藤太はカルデアで誇る頼りたくなる兄貴系英霊の1騎である。

 

「それが終わったら…次は苗を植えてもらっていいかな?」

「良いぞ!!」

「あ、ありがとう!」

「遠慮するな。お主はまだまだ子供なんだから、大人を頼るのは悪い事ではないぞ」

 

ポンポンと陳登の頭に手を置く。それが少し恥ずかしい様だ。

 

「藤太さん…手に泥が付いてる」

「おっと、すまん。せっかくの綺麗な髪が台無しになってしまうな」

「綺麗な髪って…藤太さんたら言い過ぎだよ」

「そんな事はないと思うがな」

「……もう」

 

きっとここに陳珪がいたら娘の珍しい顔を見ることが出来ただろう。

 

「ところでマスター達は?」

「修行よ!!」

「だいたい分かった」

 

俵藤太は玄奘三蔵の弟子に一応なっているので彼女の考えはだいたい読める。

これにはマスターに優しい目で見るしかない。

 

「大変だなマスター」

「いつもの事だよ」

 

そう、いつもの事である。彼は英霊達に関わって生きている。それが良い事だったり、問題に巻き込まれたりと様々なのだ。

 

「ほれ、マスター。畑仕事をするのだろう? ならば妾がサボらないか見張っててやろう。妾直々にマスター専属の見張りをしてやるのじゃ。光栄に思うがよい!」

 

そう言って武則天はマスターの背中におぶさる。これでは畑仕事が出来ない。

 

「サボったら罰として拷問じゃぞ」

 

機嫌が良さそうに背中の方でチャキっと何かを用意した音が聞こえた。

 

「怖くて後ろが振り向けない…」

 

そう言いつつ藤丸立香は俵藤太たちと畑仕事をするのであった。

沛国での生活は始まったばかりである。




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。(おそらく来週くらい)

今回は陳珪たち親子でした。
陳珪ならカルデア集団のリーダーである藤丸立香を見たらすぐにでも簡単に籠絡できると思って動くのではないか、とも思って誘惑している感じになりました。

俵藤太なら陳登の一言多い言葉も気にしないので仲良くなるというか信頼を勝ち取るのも早いと思います。

・・・他のキャラがまだ余っている感じでもったいない。
やはり全員いっきに活躍させるのは難しいものですね。1話ごとに恋姫もfgoキャラも活躍させるように頑張って行きます。


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親子

早めに書けたので投稿します!!
前回から来週っていったけど、うまく早く書けるもんだな。


47

 

 

豫洲の沛国で黄巾討伐しながら太平要術の書を探していたのだが未だに見つからない。目ぼしい場所の黄巾党の拠点は粗方全て潰したのだが見つからないのだ。

こうなると太平要術の書は本当に曹操が討伐するであろう賊の拠点に在るのかもしれない。

 

「どうしよう先生。やっぱり俺等もその拠点に行くべきかな?」

「そうしたいところだが…陳珪から聞くにそれは曹操の性格上許さないだろうな。それに陳珪から曹操に頼んだ手前で私達をその拠点に行かせるのも無いかもしれん」

「じゃあ、危険だけど燕青達に頼むしかないか」

「そうだな、燕青達に頼んで拠点を調べてもらう他ない……ところで何でもマスターは陳珪に迫られてるそうだな」

「そうなんだよね…何でだろう? その度に武則天に拷問されそうに為るし、三蔵ちゃんからは煩悩を断つべしって言って修行させられるし」

「だから包帯ぐるぐる巻きなのか?」

「大丈夫。もう完治したから!」

「お前は時たまに回復速度が速い時があるよな」

「イベント時ははっちゃけるし丈夫になったりします!」

 

何故かたまに超人並みの身体能力に為ったりする謎の奇跡を起こす藤丸立香。平凡なんて言われているが、こういうのが有るからよく分からない人物だ。

そんなことより諸葛孔明は何故マスターが陳珪に誘惑されているかの見当がすぐについた。どうせ彼を籠絡してカルデア御一行の力を操りたいと考えているのだろう。

こんな簡単な狙いくらいすぐに分かるというもの。最も恐らく相手もバレて分かってやっているのだろうが藤丸立香なら誘惑できると思っているのだろう。

彼は良くも悪くも純粋だ。そういう所を狙われているのだろう。

 

(ったく…だがマスターも簡単には落ちないだろう。というか逆に落としそうだ。なんせうちのマスターは英霊たらしだからな)

 

軽く笑う諸葛孔明。その笑いは誰にも見られなかった。

 

「呼んだかマスター?」

「どうしたマスター?」

 

来てくれたのは青燕と荊軻。この2人は先ほど話していたように曹操が討伐する賊の拠点への侵入と捜査をしてもらうために呼んだのだ。

流石にカルデア一行である彼らが曹操の討伐する賊を倒してしまったなんて事になったら陳珪側に迷惑がかかる。その様な事態が陳珪と曹操でイザコザがあっては悪いので、件の二人に気づかれること無く内密に納めたい。

2人には隠密行動で太平要術の書を探してもらいたいのだ。バレなければ、見つからなければどうという事も無いという訳だ。だからこそアサシンクラスで在る2人に頼んだのむのだ。

 

「了解したぜマスター!」

「了解した」

「気を付けてね2人とも」

 

2人は音も出さずに消える。彼等ならば賊にも曹操軍にも見つからずに隠密行動で仕事をしてくれるだろう。

 

「でも曹操か…やっぱり女性かな?」

「さあな」

 

場面が変わって俵藤太は畑から野菜を収穫して居た。この野菜は陳珪の娘である陳登が育てた物だ。

彼女の野菜の育て方はプロ並み。野菜の事、土の事、水の事などを全て理解して栽培しているのだ。

この事に関して俵藤太は彼女の手腕に感心していた。

 

「ほお、これは良い野菜だな! この時代にこんな良い野菜を育てられるとは凄いぞ!」

「こんな時代だからこそだよ。政事とか戦とか分からないけど、生きるには食べないといけない。食べるには食べ物を作らないといけない」

「そうだな!」

「自分で畑を耕して、種を撒いて、育てて…穫れた野菜を食べたら心を満たされない、喜びを感じない人はいないはずだよ」

「まさにその通りだ!!」

 

陳登は実は人見知りで対人関係が苦手なのだが俵藤太の豪快かつ爽やか、気前が良くて面倒見のいい兄貴肌の性質ゆえか彼にはそこまで緊張はしない。

しかも彼は食のこだわり等が有る為か陳登の考えにも理解してくれる。そのことが彼女にとって嬉しいものが在った。

 

「戦いなんて非効率。みんなで畑を耕せばいいんだ」

「確かに戦なんてせずに皆が皆、畑を耕せば今頃こんな時代には成らなかったかもしれんな」

 

だけどそう成らないのがこの世。完全なる平和なんて実現した事が有るなんて聞いたことが無い。

平和の裏に戦いが、戦いの裏に平和が有る。まさに表裏一体である。

彼女の言う通り皆が皆、畑を耕すなんて夢のまた夢だろう。その事は俵藤太も陳登も理解している。ただ言ってみただけにすぎないのだ。

 

「母さんも…」

「陳珪殿がどうした?」

「母さんはよく分からない」

 

小さく呟いた彼女の顔は暗い。陳珪と陳登の親子関係は傍から見れば普通だと思うが娘である彼女はそう思ってないらしい。親子関係は冷えていると思っている。

彼女の本心としては母親の事を理解したい。もっと仲良くしたいと心の奥底では思っているのだ。

 

(…私何を)

 

つい口走ってしまった自分を戒める。何故、人には言わない事を呟いたのか分からない。これも彼の人柄なのか?。

そもそも彼だけでなく、彼等の主である藤丸立香にもつい呟きそうに為った事が有る。自分はそんな簡単に心情を吐露なんてしない筈。きっと疲れているせいだろうと思う事にした。

 

「なんか母さんは貴方達の主にちょっかいかけてみるみたい。ごめんなさい」

「あー、それか。大丈夫だぞ! 主も気にしてないしな!」

 

確かに陳珪に誘惑されているが何とか自制しているので大丈夫だ。というか玄奘三蔵と武則天が諫め、あと一歩の所で陳珪の邪魔をしてくるでのでセーフ。

その後は2人に拷問と説法を責め苦に合うのだが。でもその後はケロリとした顔を見せてくるマスターである。

 

(マスターは時と場合によって治癒速度が変わるんだよなあ。何でか知らんが)

 

本編とイベントの違いである。

 

(それにしても陳登と陳珪の親子関係は複雑そうで…そうでもなさそうな気がするがな)

 

彼女たち親子を見るとお互いに嫌っているという事は無い。お互いにどう接すれば良いのか分から無いという感じだ。

陳珪に関しては娘である陳登を見る目が優しい時が有る。あれはまさしく娘を思う母親の目で在ると俵藤太は思う。

これなら一度、腹を割って話し合いをする機会があれば親子の距離は進むのではないだろうか?。

 

(そう思うのは簡単だが、実際には難しいというもんかな?)

 

その通りだ。第3者からして視れば、そうでも無いと思う事は当事者からして見ればそうでも無い事も有る。

だけどこれだけは言える。彼女たち親子は間違いなく家族愛が有る。ただお互いに接し方が分からないだけなのだ。

 

(何でこんなややこしい家族関係に成っておるのだろうな?)

 

彼女たち親子がすれ違ってしまったのはこの時代のせいなのか? それともただ彼女達の性格の問題なのか? そればかりは俵藤太が知る由も無かった。

 

「何か困った事があったら相談に乗るぞ陳登よ」

「藤太さん…」

 

今はこう言うしか無い。今は仲良くして居るが他人が家族関係にとやかく言うのも相手にとって良い気分ではないだろう。

 

「お主が本当に母親の事を知りたいというの為らば力に成ろう。だが吾が出来るのは力を貸すだけだ。陳珪の事を深く知ろうとするならばお主が足を踏み出さねば為らんぞ」

 

切っ掛けを作るだけだ。どんな問題で有ろうと自分に関する事は自分で決着をつけねばならない。

 

「いきなりなんなの?」

「はっはっはっは。なに、拙者の独り言だと思えばいいさ!!」

 

そう言うが陳登は少し気が楽に成った。自分自身としては余計な事を言ったかと思うが、ここまで他人の家族に対して親身に話してくれるのは彼が初めてだ。

お節介と言えば、それで終わりだが陳登としては少し嬉しかったのだ。

 

「藤太さんは優しいね。…あと立香も優しい」

 

陳珪にちょっかいをかけられている彼等の主を思い浮かべる。てっきりさっさとこの国から出て行くかと思えばそうでも無かった。

何度押し倒されても特に気にしている様子は無く。次の日にはケロリとしている様な感じで在る。

 

「我が主は拙者なんかよりもよっぽど優しい男だぞ!」

 

今頃も陳珪に押し倒されてるのだろうかと思ってしまう。その度に玄奘三蔵や武則天に助けられて、説教と拷問を食らって居るかもしれない。

そう思うとそろそろマスターのところに戻った方が良いかもしれない。

 

「ま、そろそろ昼時だ。飯にするか!!」

「……うん!」

 

昼飯を食べようと歩き出す。先頭は俵藤太で後ろから陳登がついて行く。

そして後ろからドサリと倒れた音が聞こえた。

 

「ん、どうした?」

 

後ろを振り返ると陳登がうずくまって倒れていた。

 

「陳登!?」

 

すぐに抱きかかえて走る他無かった。

 

 

48

 

 

「嬉雨!?」

 

陳珪は急いで部屋に入ってきて眠って居る陳登に駆け寄って彼女の顔を見ると今まで見てきた冷静な顔が崩れていた。

その顔はとても焦っている。正直こんな彼女は信じられなかった。こうも焦っているとは彼女にとって今までに無かった事なのだろう。

そしてその姿は娘を心配する母で在る。

 

「嬉雨、大丈夫!?」

「うう…」

「ねえ、嬉雨!?」

「落ち着け陳珪殿」

「これが落ち着いてられるわけーー!」

「陳珪殿が慌てれば彼女が助かるのか?」

 

諸葛孔明の言葉で陳珪は黙る。確かに慌てた所で陳登の具合が良くなるわけでも無い。今、自分たちができる事を考えなければ為らない。

彼の言葉によってその事が少しは伝わったのか陳珪は深呼吸をして一旦落ち着く。いつもの冷静な彼女だ。

 

「そうね。その通りだわ」

 

まずできること医者を呼ぶ事だ。医学については専門外である自分ではどうにもでき無い。

 

「嬉雨、すぐに医者を呼んでくるからね。誰か居る?!」

 

陳珪はすぐに医者を手配する要に部下に声を掛け始めた。

 

「陳登さんどうしたんだろう。いきなり倒れたの藤太?」

「ああ、いきなりだった。一緒に畑仕事をしていたが体調が悪いように見えなかったぞ」

 

俵藤太と陳登が一緒に畑仕事をしていた。その間は彼女は異常なんて無かった。昼飯にしようとした時に急に倒れたのだ。

症状を見ると腹部を抑えながら痛みを我慢している。

 

「…………まさか」

「何か知ってるの孔明先生?」

「もしかしたらだが……」

 

諸葛孔明は陳登に近づいて言葉をかける。

 

「おい。もしかして最近、膾…生魚を食べたか?」

「た…食べたけど?」

「分かった」

 

今の言葉で納得した様に頷いた。

納得したというのならば何か分かったという事だ。だけど彼だけが分かっていては意味が無い。

何が分ったのか聞いてみるとまさかの理由が出てきた。

 

「虫だ」

「むし?」

「寄生虫だ」

 

話によると陳登の歴史の中で膾を食べて寄生虫に中ったという物が在る。

確かに今の症状を当てはめると寄生虫の可能性は大いに有る。そもそも今の時代では生の魚を食べるという事は現代に比べて危険だ。

 

「寄生虫…!?」

「歴史だと華佗と言う医者に助けてもらったはずだ」

「華佗?」

「神医とも言われるほどの天才医師だ」

「孔明先生は治せない?」

「私は医者じゃない。ナイチンゲールでも呼べ」

「婦長を呼んだらきっと陳登さんの腹を掻っ捌くと思うよ」

「「「………」」」

 

誰も否定しない。

 

「陳登さんを治すには華佗という医者を探さないとダメなのか?」

「だがこんな大きい大陸で人探しは困難だぞ!」

「陳珪さんは確か色んな所で顔が効いているから、もしかしたら」

「確かに彼女の顔は広そうだな」

 

こうしては居られない。直ぐさま陳珪の跡を追って、華佗という医者のことを伝えた。

華佗ならば娘を助けられると聞いて陳珪の動きは速かった。すぐさま各知り合いの諸侯に華佗という人物の情報が無いかを集めるために動いたのだ。

ただの相がこうも多くの重要人物達と知り合いとはやはり陳珪は只者ではない様だ。

 

「彼女の顔の広さならばもしかしたら見つかるかもしれないな」

「早く見つかると良いけど…」

 

陳登は今も苦しんでいる。陳珪は早く華佗が見つからないかと焦りで顔がだんだんと色あせていく。

こんな状況で何もでき無い藤丸立香は心が痛い。これは彼が優しいのと、お人よしのせいなのだが、何騎かの英霊はそこまでのめり込む必要は無いと思っている。だけどそんな彼のソコがまた良い所なのだ。

部屋で何もしないより外で歩いて居たい。だから藤丸立香は外に足を伸ばす。

 

「むう…陳登さんが苦しんでいるのに何もできないなんて! ぎゃてぇよ!」

「三蔵ちゃんそんなこと言ってもなぁ。華佗って人が見つからないんじゃ…」

「呼んだか?」

「え?」

 

外に出ていたら偶然なのか。運が良かったのか。

件の華佗に出会えた。

 

 

49

 

 

「なるほど虫に中ったのか…全て理解した。任せろ俺なら治せる!」

「本当!?」

「ああ。五斗米道を極めし俺に治せぬ病魔は無い。治せぬモノが有るとしたらそれは恋の病くらいだ!!」

 

確かに恋の病はある意味、重大な病気だろう。その例を幾らでも見てきた経験が有る。というかその恋の病に巻き込まれて居るのがマスターだ。

モテモテなのは羨ましいが実際の所は大変で在るのだ。

 

「虫下しならば針を使う必要は無いな。だが痛みを和らげるためには使うか」

「針?」

「ああ。五斗米道の神髄は針にある。だが、虫下しならば材料さえあれば作れるぞ。それにとりわけ難しい材料は無いからな。すぐに用意できる!」

「なら、材料を揃えるのを手伝うよ!」

「そうか、助かる! 苦しんでいる患者を早く治すには人手が多いことに越したことはないからな!」

 

薬を作るには材料が必要だ。薬の材料も簡単には集まらない。それが医者にとっての秘伝ともなればより難しいだろう。

だからこそ人手が必要なのだ。

 

「材料はこれとこれと……これ等だ。集められるか?」

「集められるわ。すぐに手配してくる!」

「こっちのは山に行けば取れるはずだ」

「じゃあそっちは俺等が集めるよ!」

「助かる。こっちは俺も一緒に行こう!」

 

陳珪は集められる材料はすぐに集めた。藤丸立香達は山で必要な材料を集める。

薬の材料は彼等のおかげで難なく集めることに成功した。あとは華佗に薬を作ってもらうだけである。

 

「任せろ。はあああああああああ!!」

(何で薬を作るのに吼えたんだろう?)

「出来たぞ!!」

「早ぁ!?」

 

華佗によって完成された薬はとても苦そうであった。良薬は口に苦しという言葉があるのだからしょうがない。

 

「さあ陳登。これを飲んで吐くんだ!!」

「………飲むのに吐くの?」

「ああ!!」

 

自信満々の顔で薬を飲んで吐けと言う医者。虫下しだから仕方ないかもしれないけれど、乙女に向かってソレは流石に無いだろう。

 

「でも、そうじゃないと寄生虫をどうにかできないぞ?」

「うう、確かに……でも!」

 

チラリと藤丸立香や俵藤太たちを見る。乙女としては確かに男性に吐いている姿は見られたくはないだろう。

これには女性にしか分からない気持ちなので、察した武則天や玄奘三蔵は男性達を一旦部屋から追い出すのであった。

 

「あ、あの俺は医者なんだが…!?」

「ええい! 乙女心の分からん奴め! 何かあったらすぐに呼び出す。だから扉の前で待機しておれい!!」

「いや、医者としては…!」

「指を千切るぞ!」

「…待ってます」

 

本当に華佗の方が正しいのだが、乙女の心は時にして何事にも最優先される事が有るらしい。

こればかりは男性にとって口が挟めないので大人しく待機するしかないのだ。

 

「何かあればすぐに言ってくれ! 飲んで吐くだけだから問題は無いと思うが…何かあればすぐに入るからな!」

 

陳登、虫下しを処方中。

 

「よし。虫は全て吐き出したな」

「もう大丈夫なの?」

「ああ。もう大丈夫だぞ。でも胃の方は寄生虫によって傷つけられているから胃に優しい食べ物を食べると良いぞ!」

「ああ、嬉雨!!」

「わ、母さん!?」

 

陳珪は陳登を優しく抱擁する。その姿はまさに娘を想う母である。

 

「今は2人だけにしといた方が良いかな?」

「そうだな」

 

今ここでは藤丸立香達はお邪魔だろう。そっと彼等は部屋を出るので在った。

 

 

50

 

 

「立香さん」

「あれ、陳珪さん。陳登さんはもういいの?」

「ええ。嬉雨はもう寝たわ」

「そっか」

 

陳登は完全に寄生虫の苦しみから開放された。今まで激痛と戦ってきた彼女はやっと休めるのだ。

今は布団の中でぐっすりと眠って居るころだろう。その眠りはいつもより暖かい。

なんせ寄生虫を吐き出しただけで無く、家族の絆を確認できたのだから。

 

「久しぶりに嬉雨とたくさん話したわ」

「陳登さんと?」

 

家族なのだから当たり前だろうと思ったが陳珪はそのまま口を開く。

 

「私は政事で、嬉雨は農業で。いつのまにか別れてしまって家族というものが何なのか忘れてしまって居たわ」

 

陳珪と陳登はすれ違っているように見える。本人達もそう思って居た。でもそれは本人たちの勘違いだ。

実際はお互いとも家族としてもっと親しくなりたかった。仲良く成りたかった。母と娘として家族愛を感じたかったのだ。

 

「まさかこんな事にならないとお互いの事が話せないなんてね」

 

今までお互いに何かあれば打ち明けたいと思っていた。でも出来なかった。

その出来た結果が今回の事だというのが何とも言えない。なんせ娘が苦しんでいたのだから。

 

「でもまさか嬉雨も同じ思いだったなんてね…やっぱ家族なのね!」

 

家族とはそういうものなのかもしれない。

陳珪を見るとどこか優しい顔になっている気がしなくもない。彼女は家族としての心を塞いでいた壁がやっと崩れたのかもしれない。

 

「これも立香さん達のおかげね」

「え…、それは違うよ。陳登さんを治したのは華佗さんじゃないか」

「確かにそうね。華佗さんにはもうお礼は言ったわ。でもやっぱり立香さん達のおかげでも有るのよ」

「何で?」

「貴方たちと出会わなければ、こうはならなかった」

 

間違いなく彼らとの出会いは何かしらの変化を彼女たち親子に与えたはずだ。

 

「立香さん…貴方は持っている」

 

何を持っているというのか分からない。はっきり言って自分に何か凄い物を持っている覚えはない。

 

「持っているというのは天運よ」

「天運?」

「そう。極わずか選ばれた人しか持っていない天運! それは努力でも才能でも手に入らないモノ」

「えー…俺そんなの持ってないですよ!? だって俺平凡だし!」

 

藤丸立香自身は天運なんて持っていないと言うが実際はそんな事は無いだろう。

彼自身気付いていないが実際のところ持っている。天運に関しては英霊たち何騎かが持っていると言っているのだ。

そうでなければ今まで特異点の旅で説明できない部分も有っただろう。

縁というのも要因として大きいが、それでもピンチの時は彼の天運のおかげで助かってきた。

それを力を貸してくれた英霊のおかげだといつも言っているのだが。

彼の善性という人の良さもあるが、多くの英霊が力を貸してくれた。特異点でうまい具合に重要な人物に出会えた。

どんな絶望的な状況でも最終的には諦めずにその時の最良で解決してきた。

これらをふまえて天運を持っていないと言い切れるのか。

 

「私は華佗さんを見つけるのに今できる手を多く使ったけど見つからなかった。でも立香さんは華佗さんを見つけたいと思っていたら見つけた」

 

見つけたいと思っている人を偶然にも見つけることができる。これまさに持っている人ではないと不可能だ。

 

「立香さんはこの大陸ではまさに『天の御使い』なんて呼ばれる人かもしれないわ」

 

『天運を持つ人』と『天の御使い』と言われれば何となくだがイコールが成り立つ気がする。

陳珪は藤丸立香の事をこの大陸で唯一天運を持つ人間と断定しまうほど彼を認めているのだ。

平凡だというのならば何故、彼に一騎当千とも言える武人が仕えているのか? 何故、凄腕ともいえる間諜のような人が仕えて居るのか?

何故、化け物並みの知性をもった軍師が仕えて居るのか? 何故、清廉で道徳ある高潔な僧が仕えて居るのか?

何故、王の器を持った人が平凡な彼に仕えて居るのか?

彼の周りにはまさに国を建国させるには必要な人材ばかり揃って居る。

大陸を制覇できるような人材が多いのだ。

 

(曹操さんも私が見てきた中で覇王としての資格を持っているわ。彼女には財力が在る、武力を誇る将が居るし、多くの兵力が在る、王としての器が在る、そして彼女も運を持っている。でも立香さんとは違う!)

 

曹操と比べられるなんて藤丸立香からしてみれば恐れ多すぎる。そもそも勝負にもならない。

でも陳珪は比べたのだ。

普通に比べれば曹操の圧倒的勝利。だけど天運だけは負けていない。

それは彼の周りを見れば分かる事だ。平凡だというのならば彼の周りにこれだけの存在は集まらないだろう。

 

「だから立香さんは天運を持っていることを自覚した方が良いわよ!」

「そうなのかな…?」

 

陳珪は心の底から彼が欲しいと思った。

彼に仕えている燕青達みたいに仕えてみたいと思ってしまった。それは今まで出会ってきた事のない人材故に。

こんな人にもしも仕えてみたら、もしかしたらこの乱世の時代が変わるかもしれないと勘が訴えているのだ。

彼との出会いは確かに変化を与えてくれたのだ。

 

「ねえ立香さん。国を治めることに興味はないかしら?」

「ない」

「………ないの?」

「ないね」

 

彼の周りには国を治める人材がそろって居る。今は少ないが彼や諸葛孔明や武則天が手を回せば幾らでも人材を確保できそうである。

そもそも陳珪の知り合いを各州からそういう風に引き抜いていけば不可能ではない。それだけ彼女の顔は広い。

だけど目の前にいる彼は国を治めることに関して興味が無いとハッキリと言った。

これでは陳珪が考える未来が実現しない。彼女としては彼が義勇軍でも何でも行動してくれると計画的に考えると助かるのだが、彼等はきっとそんなことはしないだろう。

どうにかして彼にその気になってもらおうと思案する。やはり色仕掛けだろうかと考える。絶対にその気にさせる。

 

(この子って女慣れしてる感じだけど初心なのよね。そこが可愛いっていうかなんていうか…よし!)

 

ごく自然に藤丸立香に近づく陳珪。本気で彼を誘惑で落とそうと決めた。

普通の者が彼を見たらやはり平凡だと称するだろう。だけど彼をよく見ると分かる者は分かるのだ。

彼は本当に天運を持っている人間だと。そして天運を持っているだけの人間では無くて、彼は強い人間だと理解する。

だからこそ陳珪は本気で彼が欲しいと思った。

 

「ねえ、ダメなの?」

「ダメって言うか…うん、ダメだね! 俺たちには目的があるからね。そのためには国を治めるとかできないんだ」

 

そもそも国を治めるなんて考えた事も無い。というよりもそんな事ができるはずもない。

彼が天運を持っていようがなんだろうが、結局は平凡な一般人なのだから。

 

「目的って?」

「特異点を解決すること!!」

「え、とくいてん?」

「そう。だから…国を治めるとかできない。ていうか俺にそんな王様のような事はできないよ」

「そうなの…」

 

藤丸立香の言葉はまさに本音。特異点というのはよく分からないが、解決すべき使命というのは分かる。

国を治めることができると言われても、反応しない。天運を持っていると言っても自分を威張ったりする様な事も無い。

彼は無欲なのか? 王に興味がないのか? 大陸制覇にすら興味が無いのか? 陳珪はそう考える。

だけど違うのだ。藤丸立香と陳珪の思想が違う。正確にはカルデアの人間と三国時代の人間では考えが同じに成る事は無い。

だからどう説得しようが、誘惑しようが話は平行線のままなのである。

 

「だから、そういう難しい話は違う人に…曹操さんとかにするべきだよ」

「……そっか。正直に言えば君が台頭してくれると良いんだけどね」

「陳珪さん…………そろそろどいてください」

 

実はいつの間にかまた押し倒されていた。それはもう密着していて、女の色香を思いっきり利用して押し倒して居る。

そんな事をされれば健全な男子である藤丸立香には我慢の限界が近い。

カルデアでもよく誘惑されたり夜這いを受けたりするのを毎回我慢しているが、それにも限度がある。

 

「あ、ちょ、待って待って!?」

「あ、ちょっとこのまま!。私に任せてくれたらいいから」

「だから何で!?」

「せめて天運を分けてもらおうかなって」

「荊軻ぁ、燕青ーん!!」

 

残念だが彼女達は今居ない。

 

「そうだ今2人は出払ってるんだった!?」

「うふふ!」

「書文先生ー!!」

「やれやれ…」

 

マスターセコム部隊出動。

 

 

51

 

 

燕青と荊軻はある軍と黄巾党の賊の集団が戦っている戦場を見て居た。その軍の牙門旗には曹とある。

この時代で曹と言えば魏の曹操しか思いつかない。千里眼のスキルは無いが目を凝らして見ると一際目立つ人物が居る。その人物こそが曹操かもしれない。

 

「チビで金髪クルクルじゃねえか!?」

「あれが曹操か?」

「かもなぁ」

 

曹操という人物を勝手に予想していたイメージと全然違うのでちょっと面食らう。最もこの三国時代で接触してきた武将のほとんどに面食らっているのだが。

 

「それにしてもこの戦は間違いなく曹操の勝ちだな」

 

曹操軍が黄巾党の賊を圧倒的なまでに蹂躙している。そもそもこの戦いを最初から見ていたが賊の方はまさに烏合の衆というモノだ。

そんな相手に訓練された正規軍が負ける事は無い。

 

「つーか曹操軍の銅鑼の音で賊が飛び出してきてたぞ。何であいつら出撃してんだ?」

「出撃の合図と勘違いしたのではないか?」

 

恐らく曹操は挑発や名乗りを考えていたのだろうが、無駄になったので在る。

 

「んじゃあ今が丁度、賊のアジトに潜入できる時だな」

 

アジトから大半の賊が出撃したのだから今頃、中の敵は数少ない。それなら潜入して太平要術の書を探す事ができる。

曹操軍が賊たちと戦をしている間、2人は賊のアジトに潜入する。

潜入だがいとも簡単に出来た。これ程まで簡単に潜入できるなんて逆に力が抜けてしまうと言うもの。

 

「んー…」

 

そのまま砦の宝物庫やらを調べているが太平要術の書とやらは見つからない。賊の何人かを捕まえて拷問もとい尋問して聞き出してみたが全てハズレで在った。

荊軻と二手に分かれて探していたが、彼女の方も見つからなかった様だ。これは他の者が持ち出して逃げたか、戦いに挑んだかだろうか?。

どちらにしてもまた探す羽目に成る。分かった事はこの賊のアジトには太平要術の書が無いという事だけだ。

 

「おっと!」

 

誰かが部屋に入って来た為、すぐさま霊体化する。誰か黄巾賊が戻って来たかと思ったが違った。

青髪の女性と黒髪の女性が入って来たのだ。そう言えばこの女性達は曹操らしき人物の近くに居た連中だと思い出す。

おそらく曹操に側近に当たる人物だろう。そうなると曹操の側近の武将で考えると夏侯惇や夏侯淵などだ。

 

「秋蘭よ。確か、大変用心の書だっけか?」

「太平要術の書だ姉者!」

「おお、それそれ!!」

 

黒髪の女性の方からはポンコツ臭がする。強い武将では在るが頭の方は弱そうだ。

 

「……無いぞ。その太平要術の書?」

「確かに無いな。もしかしたら奪われたのかもしれんな!?」

「何だと!?」

 

秋蘭と呼ばれた女性は周囲を見る。散乱する部屋を見ると普通に賊が荒らしたままに見えるがそうでは無い。

何処かしら探し物をするように散らかせた様にも見えるのだ。

姉の方よりも妹の方が鋭そうだ。流石に霊体化している燕青達には気付いていないが、彼等が探し物をしていたというのに気付いている。

 

(よくもまあちょっとの違和感で気づくもんだな)

 

普通の人間ならば気付かないだろう。

 

「では誰かが侵入して盗んだのか!?」

「そういう可能性も有ると言う事だ姉者。もしくは逃げ出した賊が持って行ったと言う可能性も有る」

 

此所には太平要術の書は無い。それだけが分かれば十分だ。

 

「華琳様に報告しに戻るぞ姉者」

「ああ、分かった。戻るか秋蘭!」

 

彼女達が戻った事を確認すると燕青達も戻るのであった。

この時ではまだカルデアは曹操軍との接触は無い。




読んでくださってありがとうございました。
次回もまたゆっくりとお待ちください。
(次回も来週を予定しています。もしくは早く投稿できれば投稿します)

今回はどうでしたでしょうか。
実は華佗を登場させたくて、陳登の寄生虫の話を自分なりに書きました。
もしかしたら物足りたかった感じがするかもしれませんね。

陳珪はやっぱり立香の『縁の力』に気付くと思います。なのであんな感じになりました。結構、長々と書きすぎたかなあ。でも、過去の時代の人間にとっても違う考えを持つ人間の思想は興味を惹かれると思います。どんな人間であろうと上に立つのは周囲とは違う考えを持つ者だと思います。織田信長にしろ、曹操にしろ。





そして華佗を登場させたということは、ついにあの漢女たちも!!
次回のタイトルは『筋肉と筋肉』です。


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筋肉と筋肉

気が付けばお気に入りが1000件超えてました。
読者様、ありがとうございます。これからも頑張ります!!
またまた早めに投稿できました。

で、今回でついにあの漢女たちが登場!!
この物語も一章とすると今、半分くらいです。(2章、3章も考えてます)


52

 

 

今日のカルデア会議。

 

「さて、燕青に荊軻。どうだった?」

「結論から言おう。無かった」

「無かった?」

「ああ、そうだぜ軍師の兄さん。あると思っていた黄巾党のアジトには無かったぜ。曹操たちが奪ったわけでもない。最初っから無かったんだ」

 

有ると思っていた太平要術の書が無かったのだ。

アタリを予想していたのだが、まさか見つからなかったとは。諸葛孔明は少し頭が痛く成る。

おそらくはもう太平要術の書は別の所に渡ってしまったのだろう。そして其れは黄巾党の首魁の手に渡ったという事を意味する。

こう成ると本格的に黄巾党の本隊に向かわねばならなくなる。それはそれで面倒な事になる。

 

「はあ…こうなると最悪、黄巾党と本格的に戦うことになる」

「もう戦っているではないか」

「戦っていると言っても末端の奴等ばかりだ。これから本隊と戦う事になったら今よりキツイぞ」

 

黄巾党の本隊と戦う。それは敵の数が何万という規模に増えるという事を意味する。

そんな数、いくら英霊とはいえ戦っていられない。李書文や呂布奉先は気にしないかもしれないが。

 

「できれば戦わずして太平要術の書を手に入れたいものだ」

「お主は軍師だろう?」

「こっちが10人。相手が数万。軍師でもこの差は策を考えるのを諦めるだろうが…」

 

そんな状況で策を考えろと言われた時には胃がストレスでマッハ。

 

「お主なら、それでも策を考えそうだがな」

「それは言い過ぎだ」

 

買いかぶり過ぎだと言わんばりに苦笑する。でも藤丸立香としては本当に策を捻り出すんじゃないかと思っている。

 

「じゃあ、そうなると次の目的はどうにかして黄巾党の本隊を調査するしかないって事?」

「ああ。そして、その『どうにか』を考えないとな」

 

その『どうにか』はもう考えている。

洛陽に居る董卓軍、正確には官軍に戻る事だ。其所で軍に一時的に所属させてもらって黄巾党の討伐に入るのだ。

何も従順に黄巾党を討伐をする必要は無い。史実通りならば黄巾党はカルデアの皆が戦わずともいずれ討伐されるのだから。

彼等がやるのは特異点となる原因の解決だ。討伐に加わっている間に原因を探し出すのが一番の方法だろう。

 

「それだと誰よりも先に黄巾党の首魁に到達しないといけないね」

「ああ。その時はアサシンクラスの燕青たちに出張ってもらう」

「いいよぉ」

「良いだろう」

「任せよ!!」

 

次の目的は決まった。ならばまた洛陽に戻ってこれからの事を準備しないといけないだろう。

 

「では、会議終了…」

「あ、ちょっと待って」

「どうしたマスター?」

「曹操って女性だった?」

「そっちか」

「女だったぜ」

 

やっぱりこの時代の曹操も女性だった。

 

「けっこうチビだったけどな。それとクルクルおさげだった」

「クルクル?」

「それと夏侯惇や夏侯淵も女だったな」

「名のある将はみんな女だったぞ。或いはこの時代というか世界は三国志に登場する英雄たちはみな女かもな」

「劉備や孫権とかも」

「女やもしれんな」

「想像できないな」

 

本当に想像できない。三国志の主人公格とも言える曹操が女性とは本当に想像できない。

しかもチビでくるくるおさげ。さらに想像できなく成った。

 

「でも覇気は有ったな。女でチビでくるくるおさげだろうが英雄の資質は十分だ。カリスマもありまくりだ」

 

三国志に語られる英雄は性別が違くとも英雄は英雄。

英雄と語られる存在はやはりとびぬけているという事なのだろう。英霊に認められているというのはそういう事だ。

まだ彼らは知らないがここの曹操は文武に優れた完璧超人とまで言われている存在だ。能力だけなら英霊並みの何かを持っていてもおかしくない。

 

「もしかしたらいずれ会うことになるかもしれないな」

 

 

53

 

 

目的が決まった。

ならば今いる豫洲から洛陽に戻ることに成ったのだ。

洛陽に戻ることを陳珪に伝えてすぐに出発する事になったのだが、そこでちょっとイザコザがあった。

イザコザと言っても陳珪が藤丸立香達を引き留めようとしただけなのだが。彼女の心情としてはこれほどの人材を手放したくないっていう気持ちは分からないでもないが。

 

「またね立香くん」

「はい。お世話になりました陳珪さん」

「また近くを寄ったら訪れてね」

「はい。その時はよろしくお願いします」

 

ススっと陳珪が近づいてきて耳打ちをしてくる。

 

「今度来たら続きをしようね?」

「………」

「半分冗談よ」

 

半分冗談とは。

 

「藤太さん…いろいろとありがとう」

「うむ、元気でな陳登。これからも頑張れよ」

「私……いや、何でもない。私これからも頑張る」

 

陳登と俵藤太のやり取りに何かを感じ取った母の陳珪。

 

「ねえ立香くん…あれ何かしら?」

「陳登さんと藤太」

「そうだけど、そうじゃなくて!」

 

握っている手に力が入っている。実は陳珪は親バカの資質があるのかもしれない。

豫洲の沛国では目的は果たせなかったが色々とあった。

色仕掛けにあったり、押し倒されたり、誘惑されたりと。よくよく考えてみると陳珪との絡みが多かった気がしなくもないと思う藤丸立香であった。

さて、沛国から出発したは良いけど気になる点のツッコミをするとしよう。

 

「そういえば何で華佗さんがいるの?」

「俺も向かう先がこっちなだけだ」

 

ツッコミたいというのは何故か違和感なく華佗が居る事である。

最も彼からは悪意を感じないので危険だとは判断していない。寧ろ久しぶりに善意ある好青年に出会った気がする。

彼は医者として大陸に蔓延る病魔を治療する為に旅をしているらしい。彼は困った人や病気にかかった人がいれば見捨てる事はできないという精神がある。

そのおかげか藤丸立香とは打ち解けるのが早かった。話しているともしかしたらナイチンゲールとも話が合うかもしれない。

華佗もまた病魔を倒すためには物凄い全力で周りを見ないからだ。

 

「それに連れの2人もそろそろ合流しないとな」

「連れの2人って?」

「旅の途中で知り合った人達だ。貂蝉と卑弥呼って人達だ」

「貂蝉に卑弥呼!?」

 

貂蝉と卑弥呼とはまた偉人が登場したものだ。貂蝉は時代的にも大陸的にも分かる。しかし、卑弥呼は違う。卑弥呼は日本の存在なはずだ。それが貂蝉と華佗と関わりが有るなんて歴史的に聞いた事も無い。

これもまた史実とは違う。まだ本物と決まったわけでは無い。だけど貂蝉と卑弥呼なんて名前が同じだけなんてないだろう。

 

「華佗ちゃ~ん」

 

いきなり胃にズシンとくる声質が響いた。その声質の方を見てみるとマッスルが2人顕れたのだ。

何故か女性ものの際どい下着のみを着けた変態マッスルが。

 

「変態だー!?」

 

この第一声は誰もが言うはずだろう。

 

「みんな戦闘準備!!」

「技能使用!!」

「刑の執行じゃ!!」

「えーっと…御仏的にどうだろう?」

 

藤丸立香の号令と共に英霊たちは戦闘配置につく。武則天は汚物を見るような目をしているし、玄奘三蔵は御仏的にアリかナシかを呟いている。

御仏的にアウトだと思う。あの李書文も流石に顔を崩している。もうスキルとか使用していつでも攻撃できる。

 

「何よだぁれが、どんなヒトも一度目にしたら気絶しちゃうほどの鋼鉄の筋肉オバケですってぇ!?」

「お主らじゃ、お主ら!!」

 

変態の憤怒に負けずに武則天は吠えかかる。そこまでは言ってはいないが、実際は言いえているので否定はしない。

 

「何ですぅって、こんな可愛い子を捕まえておきながらん」

「鏡を見てみんか!!」

「なんだこの威勢の良い娘っ子は?」

 

2人の変態マッスルが揃うとなかなか威圧される。

今まで多くの特異点を攻略してきたがこれほどまでの変態は見たことが無い。そして圧倒的マッスル。

 

「レオニダスやスパルタクスにも負けず劣らずのマッスルなんて!?」

「ツッコミはそっちなのかマスターよぉ」

「レオニダスにスパルタクスだと…ふふ、偉大な戦士に比較されるとはな」

 

レオニダス一世もスパルタクスもカルデアが誇るマッスル英霊たちである。マッスルサーヴァントのランキングでも不動の一位二位に位置するのだ。そんな彼らに負けないマッスルが目の前にいる。

 

「控えおろーう。妾を誰だと心得る。聖神皇帝の武則天じゃぞ!!」

「何、あの中国史上唯一の女帝か!!」

「こーんな可愛い子なんてねぇ……ところでアタシ好みのオノコがイッパイだわん。そこの子なんてご主人様みたいに好みだわ。あらやだ、アタシってば浮気しちゃう」

 

パチっとウィンクしてハートを藤丸立香に飛ばしてくるがすぐさま燕青が前に出てくれて叩き落としてくれる。今のはスキルか何かだろうか。魅了系のスキルだったら真底嫌だ。

 

「この2人は俺の旅の仲間で――」

「アタシは街に咲く一輪の花。踊り子の貂蝉よん」

「ワシは謎の巫女。卑弥呼だ」

 

やはり自己紹介を聞いても貂蝉と卑弥呼と名乗った。史実では男性だけど、女性だったなんて事はカルデアでいくらでもあった。けれどもその逆は初めてである。

 

「この2人が貂蝉と卑弥呼…」

「なんだ知り合いか?」

「いや、そういう訳じゃないけど」

「ん、そうなのか?」

 

知り合いではない。ただ此方が歴史的に一方的に知っているだけなのだ。

 

「おい。貂蝉に卑弥呼とやら」

「あらやだ。この長髪オノコってばいいオノコぉ」

「むむ、確かに。これはワシも浮気しそうだわい。いやいや、ワシは華佗一筋!!」

「しょうがないわよん卑弥呼。だってアタシたちは恋多き漢女なんだから」

 

なんかよく分からないが背筋が凍りそうな話をしている。諸葛孔明も頭を抱えそうに成るが、持ちこたえる。

 

「私は諸葛孔明と言う」

「あら、諸葛孔明…」

「お前たちは何者だ?」

「アタシたちは恋多き漢女よん」

「そんな頭の痛い話はどうでもいい。何でレオニダスやスパルタクスを知っている。何で三国志以降の時代の存在である武則天を知っている?」

 

諸葛孔明の言葉に貂蝉と卑弥呼は口を閉じる。確かにそうだ。仮に彼らが本当に貂蝉と卑弥呼だとしよう。そんな彼らよりも後の時代に活躍した武則天を知っているのはおかしいのだ。

 

「もう一度聞く。お前らは何者だ」

 

諸葛孔明の鋭い眼光が2人を射ぬく。間違いなく彼らはこの時代のイレギュラーな存在だと予想している。いや、確定させた。

 

「…アタシたちは恋多き漢女よん!!」

「待て貂蝉。これは隠し通せる状況ではないぞ」

「…みたいねぇ」

 

ため息を吐きながら体をくねらせる。何でこう、彼らは背筋を凍らせるような動きをするのだろうか。

 

「全く、あの長髪オノコの眼光が鋭すぎるからアソコがジュンジュンしちゃうわよん」

「ああ、それは同意だな」

「…………」

 

諸葛孔明が真顔になった。というか他の皆も真顔に成っている。彼ら2人は黒髭とは別のベクトルで気持ち悪い。こう言っては失礼過ぎるかもしれないけど嘘はつけない。

でも彼等だって良い人かもしれないのだ。

 

「うふん」

「ふんぬう」

 

見た目と発言は大事。

 

「華佗ちゃんはちょっと席を外しててね」

「よく分からないが、分かった」

 

急に2人が真剣な顔をした。

 

「さて、真剣に話しましょうかねえん」

 

真剣に話すことに為っても服装と言葉使いはそのままの様だ。

藤丸立香達と貂蝉達はお互いの事情を話し合う。その事でやっとこの時代、この世界について理解する事ができたのだ。

 

「外史か…」

 

外史。

多くの人々の想像によって創造された世界。正史とは違う在り方を持つ世界。

こうだったら、例えば、もしも、実は、といった想像の世界。

違うかもしれないが、玄奘三蔵と天竺を目指した世界観と似て非なる感じだ。

 

「カルデア。特異点。亜種平行世界。人理。英霊。なるほどねえ」

 

貂蝉はまさかの来訪者にビックリだ。ビックリとは彼らが別世界から来たという点ではない。

他の多くの外史には転生者やら異世界やらから来た存在なんてザラだ。ビックリしたのは彼らの世界だ。人理焼却なんて前代未聞の偉業とは考えたこともなかった。

 

「アナタたちの世界は大変ねぇ」

「何とかなったけど……まだ終わりじゃないんだ」

(簡単に言ってるけど、その何とかしたってのが驚きなんだけどぉ)

 

実際は簡単でも何でもない。たくさん失い、たくさん傷付き、たくさん出会って、力を貸してもらった。

言葉では表せない旅路なのだ。そして彼等の旅路はまだ終わっていない。

 

「この世界は平行世界ではない様だな。確かに三国志の世界なのは間違いない。だが、我々の知っている三国志世界では無い」

 

具体的に説明するならば、藤丸立香たちは史実である三国志を元にした別の三国志の物語の世界に居るという事だ。

もっと分かりやすくするならば三国志の二次創作の世界に居るという事だ。

 

「ここは異世界か」

 

ため息しか出ない。こんな事例は初めてである。

ついにマスターのレムレム睡眠は異世界に転移するまでに至ったようだ。

 

「どうしよう。次から簡単にレムレム睡眠できない」

 

だがいずれは、そのうちに転移するのではないかと思われていたかもしれない。

 

「で、この外史とやらは三国志の並行世界じゃないんだね?」

「貂蝉の話を聞くと違うな。まず並行世界だと言うのならば人物が同じであるはずだ。カルデアの呂布奉先と外史の呂布奉先はまさに別人であったからな」

 

最初はただ性別が女性だったらという可能性はあった。それは藤丸立香が男性のマスターでなく、女性のマスターである可能性があるように。

並行世界の果てから来たカルデアのマスターを見た事があるからこそ否定できない可能性だった。しかし、この外史は正史と隣り合わせにある別の可能性のある世界ではない。

いくら並行世界は正史に対して無数にある『別の可能性を描いた世界』と言えどこの外史は正史と比較した場合、多少の差異なんて言葉では片づけられない。

 

「難しい…」

「なら難しく考えるな。この外史とやらは三国志から派生した異世界と考えろ」

 

三国志から派生した異世界。これなら分かりやすいかもしれない。例えば、世界観は同じで名前も同じだけど登場人物をまるまる変えたというものだろう。

 

「ええ。その認識で良いと思うわん。アタシたちは正史のことを現実世界または外史の元になった世界と考えているもの」

 

貂蝉たちが言う正史は本来の三国志の歴史が綴られた世界のことだ。

 

(三国志には正史三国志と三国志演義があるが…この外史はどちらも元になっているのだろうな)

 

この外史はきっと『三国志』という括り全てを元にしている。

 

「そんな世界も存在するんだね」

「この世界、この宇宙はまだまだ解明されていない。こんな世界があっても否定はできんさ」

 

世界は、宇宙はまだ分からないことだらけ。藤丸立香が生きる宇宙があり、また違う生命体が生きる宇宙もある。宇宙には様々な世界が存在するのだ。

 

「それであんたらはこの外史の管理者だと?」

「今なお生まれてくる外史の…ね」

「どういう存在だ?」

「ただの管理者…というよりは見守っている存在なだけよ。そしてイレギュラーがあれば解決する。そんな役割よん」

 

外史と言ってもこの世界1つだけでは無い。並行世界の様に何通りのも外史が存在するという。今もなお新たな外史が生まれているのかもしれないのだ。

そんな無限とも言える世界である外史を彼等はたった2人で管理しているとの事。もしかしたら他にも仲間が居るかもしれないが、それは分からない。

何とも気の遠くなる話だ。彼らは特別な存在なのかもしれない。彼等は人間ではなく、幻想種とか次元の違う存在とかそういう者だろう。

 

「うふん」

(幻想種じゃなくて変態種?)

 

まだ彼ら2人には警戒は解けそうになさそうだ。

 

「で、我々がイレギュラーだと?」

「最初はそう思ったけどん…違うわね。だって悪人には見えなそうだもん。特にそこのオノコとかね」

 

ウィンクしながら藤丸立香を見る貂蝉。そのウィンクをまた叩き落としてくれる燕青。

やはり何かのスキルなのかもしれない。

 

「うむ。お主らはどうやらそこの小童を主としている。その小童はどう見ても悪人では無い。寧ろ善人だ」

 

「アナタたちは確かにイレギュラーよ。でもこの外史をどうこうしようとする感じじゃないわね」

「うん。俺等はこの世界の特異点を探しているんだ。そうなるとイレギュラーを探しているという点では同じかもね」

 

お互いにイレギュラーを探している。そうなると案外目的は一緒かもしれないのだ。

彼らが察知したイレギュラーが藤丸立香達ではないとすると同じく特異点なる原因が有るかもしれない。

 

「アナタ達は何か掴んでたりするのん?」

「太平要術の書ってのが怪しいと思ってる」

「太平要術ねえ…確かにあの書はアレね」

「貂蝉さんも知っているの?」

「ええ、普通に使う分には人心掌握を高めることができるわ。でもその太平要術の書には特別な使い方が有るのよん」

「特別な使い方って道士が使うって意味で?」

「あら、よく分かったわね」

 

そもそも太平要術の書が怪しいと踏んだのは洛陽の宮中で手に入れた情報だ。

それは黄巾党と繋がっている張譲が更に謎の道士とも繋がっているという事から太平要術の書について知った。

正史では張譲が道士と繋がっていたなんてどの歴史書も無い。もしかしたら歴史に埋もれた真実かもしれないけれど、怪しいのならば調べるしかない。

だから太平要術の書を追っているという事だ。

 

「張譲が謎の道士と繋がっている」

(む、太平要術の書に謎の道士とはもしや…)

(いえ、それはあり得ないはずだわ)

(しかし、貂蝉よ万が一という可能性も無くはないぞ)

 

貂蝉はある外史の事を思い出す。

その外史でも張譲はある道士と繋がっており、太平要術の書を巡って大きな戦乱が起きたのだ。

結果的にその外史では太平要術の書を巡る戦いは治まった。その外史は今頃、新たな未来に向けて進んでいる。

 

「何か知っていそうだな」

「…むむ」

「お互いにイレギュラーを探している。ならば目的は一緒ではないか?」

「うーん、長髪オノコの…孔明ちゃんの言うとおりね」

「うむ。ここは協力を仰ぐのも良いかもしれん」

 

貂蝉と卑弥呼はお互いに頷き合って、彼等が知っている情報をさらに教えてくれた。

ここでは無く別の外史にて太平要術の書を用いた人物にして戦乱を起こした存在の名を。

 

「于吉?」

「そうよん。一応同じ管理者だけど向こうは外史の否定派。アタシたちは肯定派」

「否定派と肯定派?」

「新たに生まれる外史を認めるのが肯定派。外史を全て認めないのが否定派よ。于吉は一時期ある外史を消滅させようと行動していた事があるわ」

 

外史の、世界の消滅を実行した外史否定派。その1人がこの外史に来ている可能性があるという。

それにしても世界の消滅を実行しようとしたなんて何か近しいものを感じる。

 

(これはただの三国志の世界とは言い切れなくなってきたな)

 

そうなると于吉とやらを捕まえないといけないだろう。

 

「孔明先生」

「ああ。やることは決まったな」

「あらん、そっちもアタシたちと同じ考えのようねん」

「うむ」

 

やる事は決まった。共同戦線だ。

貂蝉達はこの外史のイレギュラーを解決したい。藤丸立香達はこの外史に転移した理由として特異点を解決したい。

目的は一緒なのだ。お互いの問題が解決すれば外史からはお互いに消える。ならば協力しないわけないだろう。

 

「よろしく貂蝉、卑弥呼」

「よろしくねん!!」

「よろしく頼むぞ!!」

「もちろん華佗も」

「お、話が終わったのか。よろしくな!!」

 

漢ルートに突入しました。

 

「……□□」

 

ところで呂布奉先がこの時代の呂布と会った時より凄い微妙な顔をしていた。

 

「どうしたの呂布奉先?」

「□□…」

「飛将軍が膝をついた!?」

 

どうやらこの外史の貂蝉に精神的にやられたようだ。カルデアの呂布奉先に膝をつかせるとは外史の貂蝉恐るべし。

 

「あらん、どうしたの?」

「□□っ!?」

「吐血!?」

「あらあら華佗ちゃーん」

「どうした急患か!?」

「アタシも手伝うわん。うふん」

「□□……!?」

「これ以上、飛将軍を苦しませないで」

 

本当に恐るべし貂蝉。

 

「大事なことだから2回言ったのだな!!」

「こいつらを連れて行くのか…」

 

余所に諸葛孔明は頭を抑えていた。




読んでくださってありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。(早めに投稿できたらしますが、また次回も来週くらいを予定してます)

さて、カルデア御一行は漢ルートに突入です。
どの陣営のルートに入るか悩んでましたが、何だかんだでまずは漢ルートです。(二重の意味で)

どんどんとキャラが増えてきてます。何とか全員が活躍させたいですが難しいですね。でも頑張ります!!

あと、呂布奉先をキャラ崩壊させてしまいスマン…
でも誰だってあの貂蝉を見たらなあ…貂蝉と卑弥呼、濃すぎる。






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黄巾の乱へ

こんにちは。
タイトルは黄巾の乱へととありますが、本格的には戦いません。
ただこれから黄巾の乱に入るぞーみたいな前振りみたいなもんです。


54

 

 

新たに貂蝉に卑弥呼、華佗たちを仲間に加えて洛陽に戻るカルデア一行。

洛陽に戻りながら今後の事について話し合っていた。

それは于吉の確保と太平要術の書の回収だ。

于吉が本当に張譲と繋がっているか分からないがそれは調べれば分かる事だ。于吉に関しては貂蝉達が対処するとの事。

こればかりは同じ外史の管理者として、身内として解決しないといけないという事らしい。

そして太平要術の書に関してはカルデア御一行が回収する事に為った。元々回収するつもりだったのだから問題は無い。

 

「そうなるとどうしようかしら?」

「何が?」

「于吉が居るかどうか調べる為に洛陽に行くのは良いんだけど…宮中に入るのがね」

「その見た目じゃね」

「だってアタシ洛陽に知り合いがいないしぃ」

「いや、見た目だよ」

「鏡を見んか筋肉達磨!!」

 

間違いなく貂蝉と卑弥呼が洛陽の宮中に入ったら不審者扱いだろう。

 

「やっぱり忍び込むしかないのかしら」

「その姿で隠密行動できんのかよ?」

 

貂蝉の言葉に誰もがツッコミをしてしまう。

 

「まあ、でも大丈夫。洛陽には知り合いがいるから」

「あら、そうなの?」

「うん。董卓さん達だよ」

「月…董卓ちゃんね」

 

貂蝉の顔がどこか懐かしそうな顔になっている。もしかしたら他の外史で董卓と知り合いだったのかもしれない。

きっとそうに違いないだろう。

 

「取りあえずまた董卓の所に転がり込む」

「そうなると嫌でも黄巾党の討伐に駆り出されそうね」

「それはしょうがなかろう玄奘三蔵よ」

「争いは嫌いなんだけど…」

「戦うのはワシらだ。お主が気に病む必要はなかろうに」

「でもでも」

「三蔵ちゃんねえ…御仏の教えとしてそうよねえ。でもこの外史では仕方なのない事よ」

 

三国志の時代は戦乱の世だ。戦いが無いなんてことは無い。

 

「それにしても驚きだ。多くの偉人に英雄が我らの前に居るのだからな」

 

俵藤太に荊軻、諸葛孔明、呂布奉先、玄奘三蔵、李書文、燕青、武則天、哪吒と英雄だらけだ。

 

「だがこの三国志に其方側の諸葛孔明と呂布奉先も来て居るとは驚きだな」

「此方の孔明ちゃんと呂布ちゃんとは違うわねえ」

 

性別が違う。

 

「でも其方の孔明は人種が違う様な」

「私の場合は特殊でね。諸葛孔明だが肉体は違う」

 

疑似サーヴァントという存在だ。

 

「なぁるほどねん。理解したわ。ま、この外史に孔明と呂布が2人居る事になるけど大丈夫でしょ。なんせ世界が違うんだしね」

「やはりそういう危険性があったりしたか?」

「まあね、1つの世界に同一人物が存在なんてありえない事だからね。この話は難しいからおいおい」

 

これからの目的が今までよりも明確になってきた。もうすぐ洛陽に到着する。

 

「まずは董卓さん達に貂蝉達を紹介しないといけないな」

「悲鳴を上げるか気絶するかのドチラかに為るんじゃないか?」

「否定できない…!!」

 

 

55

 

 

「いやあああああああ!?」

「ふぇう…!?」

 

貂蝉達を董卓達に紹介したが荊軻の言った通りになってしまった。

 

「あらん、アタシたちの美しさにやられちゃったのかしら?」

「なんとも罪深いなワシらは。はっはっはっは!!」

「だから鏡を見てみい!!」

 

閑話休題。

 

「うう、立香達が戻ってきたかと思えば凄いの連れて来るし…」

「こんなんだけど良い人達だと思う」

「へうう」

「大丈夫、董卓さん?」

 

取りあえず2人は冷静に戻った様だ。それにしても貂蝉達の強烈さはとんでもなかった。

 

「慣れれば気絶しなくなると思うよ」

「慣れなきゃいけないの!?」

「慣れて」

「しかもこっちが折れなきゃいけないの!?」

「うん」

 

貂蝉と卑弥呼の姿は残念だが圧倒的筋肉のままだ。いちいち見ては気絶してしまう様な事が多々あったら業務にも私生活にも大変だろう。

だから慣れるしかないのだ。既に藤丸立香達はもう慣れた。スパルタクスやティーチ達と絆を深めたマスターを舐めないでいただきたい。

 

「俺たち同士」

「あらヤダ立香ちゃんったらアタシの心をキュンキュンさせないでよん。ご主人様を裏切らせないでん」

(ご主人様?)

 

時折、貂蝉の口から出てくる『ご主人様』とは誰の事なのだろうか。いずれは聞きださなければならないだろう。

もしかしたらおいおい関わりがあるかもしれないのだ。だがまさかその『ご主人様』という存在の正体がまさかの存在だとは思わなかっただろう。

 

「はあ…頑張ってみるわ」

「はい」

「よろしくねん」

「うむ。卑弥呼だ」

「うう…」

 

董卓と賈駆は顔を青くしている。たぶん慣れるのに時間がかかるだろう。

 

「あとで霞や恋達にも彼等の事を言っておかないとね…たぶん初見だったら不審者扱いで斬ると思うし」

「否定できないね」

「具合が悪いなら診てやるぞ」

 

忘れていけないのが華佗。彼の五斗米道は有名らしく、名も広まっている。

そのため董卓や賈駆は彼の名前を知っていたのだ。彼女としても彼が来てくれたのは運が良いと思った。

なんせ最近の黄巾党との戦いが激化してきているので負傷兵達も多い。そんな時に腕の良い医者が来てくれたのは本当に運が良い。

 

「華佗。兵達の治療をお願いしたいわ。勿論褒賞は出すわ」

「任せろ。我が五斗米道に治せぬ傷は存在しないからな。すぐに案内してくれ」

 

華佗は大張り切りでケガで床に伏している兵の元に向かった。

 

「アタシもついて行くわーん」

「ワシもな」

「…アレ患者がさらに悪化するんじゃないか?」

「それも否定できないね」

 

後に患者の兵達の悲鳴が聞こえたのは言うまでもない。でも治療には成功しているのでやはり腕は確かだ。

 

「何なのよあいつ等?」

「謎の巫女と踊り子らしい」

「…はあ」

 

溜息を吐くしかなかった。

 

「それにしてもまた訪れてくれてくださったんですね」

「うん。また寄るって約束したしね」

 

約束を守ってまた訪れた。守ってくれた事が嬉しいのか董卓は笑顔だ。

 

「で、立香達はこれからどうするのさ?。またボクたちの所で黄巾党の討伐に力になってくれるなら大助かりなんだけど」

 

黄巾党の戦いは本格的に激化している。そのせいで朝廷から大陸全土に黄巾党討伐が下されたのだから。

その結果、上からの命令が董卓陣営に降りかかってきているのだ。何進や張譲などからの命令で胃に穴が開きそうな賈駆。

そんな時にカルデア御一行がまた戻ってきてくれた。これは賈駆としては逃したく無い。

彼等の力はもう前の一件で分かっている。出来ればではなくて今すぐにでもその戦力が欲しい。

 

「私としては力を貸して欲しいです」

「それはこっちから言おうとしてたんだ」

「じゃあ」

「うん。またお世話になります」

「ああ良かった。此方こそよろしくお願いします」

 

藤丸立香たちはまた董卓陣営に入る。

 

「それにしても董卓さん痩せた?」

「へう?」

「いや、何ていうか…とても疲れてるように見えるよ」

 

董卓だけでなく、賈駆もだ。その原因はやはり何進や張譲の無茶な命令が心身とも負荷をかけている。

 

「ちゃんと休んだ方が良いよ」

 

董卓の頭をポンポン優しく撫でる。

 

「へう…」

 

そのせいなのか分からないけど董卓が頬を赤く染めた。頭を撫でられたことが無かったのか恥ずかしそうだ。

 

「ちょっと何、月の頭を触ってんのよ!!」

「あ、ゴメン」

 

つい撫でてしまったのはカルデアキッズのような可愛さが有ったからだ。

 

「いえ、その…嫌じゃないので」

 

どこか名残惜しそうな顔をする董卓。見た目に反して甘えさせてくれる人はいないのだろうか。

 

「これからまた宜しく」

 

 

56

 

 

「張遼将軍。我が本隊、両翼共にもう限界です!!」

「ちっ、アホ何進め…冀州から豫洲に大急ぎで転戦せえとか無茶ばっか言いくりさおって!?」

 

黄巾党も今や規模が膨れ上がり、野党や暴徒なんて域を超えて軍隊レベルになっている。

官軍の兵士が撤退を提案するが、できない。出来るものなら撤退したいが、ここでしくじってしまったら本国に居る董卓の首が飛ぶ。

二度目は無いという事である。

 

「華雄と慮植殿のとこの将軍に伝令を出しい。一時後退して陣形を整え…」

「張遼様! 左翼の華雄様から伝令です! 我、敵部隊に包囲され孤立。至急支援求むとのこと!!」

「出来るかアホー!!」

 

飯も武器も兵も時間も策も無い状況だ。

 

「ったく、今此所に立香はん達が居れば物凄く助かるんやけどなあ」

 

前に董卓陣営に客将をしていた者たちを思い出す。彼等が居た時は賊退治はとても助かっていた。

兵力的にも兵糧的にも十分すぎる程で、あの時やっぱり勧誘すれば良かったと思う。客将と言わずに正式に雇っていれば今頃こんなにも苦戦していないだろう。

華雄だって敵に囲まれるなんてドジをしていないはずだ。案外、ドジばかりで勝手に突撃しているのはいつもの気がしなくもないが。

 

「はぁ、戻って来てくれないかな立香はん達…」

 

短期間でしか董卓陣営にしかいなかったが、真名を預けても良いと思うくらい仲は良かったのだ。

それは張遼だけでないだろう。呂布なんかは気が付けば藤丸立香に懐いていた気がする。

 

「はぁ。まずはこの状況をどうにかせんとな!」

 

どう思った所でピンチなのは変わら無い。だが、流れは変わる。

 

「敵の増援か!?」

「いえ、旗印は曹と夏侯。おそらく曹孟徳の軍かと思われます」

「苑州の州牧か。月が手ェ回せるか分からんと言うとったけど、何とかなったみたいやな」

 

今の流れは黄巾党だ。だが時代の流れは一定ではない。いずれは大きく時代の流れは変化するのだ。

 

 

57

 

 

何かを感じて目を開ける。その何かとはとても暑苦しくて気持ち悪い気だ。

この気にはとても覚えが有る。なんせ敵対している筋肉達磨達の者だからだ。

 

(貂蝉と卑弥呼が洛陽に来ましたね。しかもカルデアの者達も連れてですか……そろそろココも離れないといけませんね。それと此方も次の段階に進めますか)

「おい于吉」

「はいはい何ですか?」

「太平要術の書はどうなっている? 朝廷より完全に黄巾党の討伐が下された。もう黄巾党を利用して民どもから怨嗟の力をむしり取ることはできなくなるぞ」

「それならもう大丈夫ですよ。太平要術の書にはもう十分怨嗟の力をため込みましたよ」

「なるほど…なら良い。ではもう黄巾党には消えてもらわないとな」

 

太平要術の書には十分力が溜まった。その為に利用していた黄巾党はもう必要ない。

そもそも黄巾党と張譲が繋がっていたという事実を公にさせる訳にはいかないのだ。もしバレたら霊帝から何を言われるか分かったものではない。

最悪死罪。最悪と言わずもがな死罪決定だろう。

だから繋がっていた黄巾党には消えてもらう。ちょうど朝廷から討伐命令が出たというのならば是非もない。

 

「ならばアレを動かせ」

「分かりましたよ。でもアレを動かすには時間が必要です。なんせあれだけの大軍なんですから」

「それは分かっている。だが太平要術の書に怨嗟の力を溜め込むよりかは早いのだろう?」

「ええ。それまでは気を付けてくださいね」

「言われるまでもない。黄巾党が片付いたらやることは多く有るのだからな」

 

今、張譲と何進は対立して居る。今は燻っている程度だが黄巾党との決着がついたら激化するだろう。

激化してしまえば此方は色々と不利が有る。ならば今のうちに幾つか策を巡らした方がよいだろう。

 

「何進程度ならばどうとでも成る」

 

張譲は忙しいのかすぐさま于吉の前から消える。

 

(宮中に巣くうネズミは本当に忙しいですね。では兵馬妖の準備をしますか)

 

于吉も于吉で忙しい。なんせこの洛陽に敵対している貂蝉たちがいるのだから。

 

 

そして一方その頃。

身体をくねらせながらも何かを感じる貂蝉。

 

「こぉの感じは于吉ちゃんね」

「やはり感じたか貂蝉」

「ええ…どうやってこの外史にこれたのかしらねん?。もう手出しできない様にしたつもりなのだけれど」

「見くびっていたという他無いな」

「こぉれはアタシも油断しすぎたということね。まさかまた動き出すとはねえ。もしかして左慈ちゃんもいるかもねえ」

 

まさかとは思っていた。できれば外れであって欲しかった。この外史にいないで欲しかった。

でも、そのまさかが当たってしまったのだ。間違いなくこの外史に、この洛陽に于吉が居る。

今回の目的は何なのか。また外史を消滅させようと考えているのか。それとも他の外史でのように同じことをしようとするのか。

どっちにしろ見過ごせない。

 

「太平要術ならば兵馬妖か?」

「でしょうねえ。それにしても立香ちゃん達がこの外史に来た原因も于吉ちゃんが関係しているのしら?」

「しかし、そうなると何故カルデアの者たちを呼んだのかが気になる。メリットがまるで分からないぞ?」

「カルデアの目的は特異点の解決。だとしたら于吉のやっている事によっては完全に敵と成る。そうだとしても呼ぶ必要があったとしたら…」

「もしかしたら今回はワシらにも予想がつかん何かを仕出かすつもりやもしれんな」

「そうだとしても絶対に阻止しないとねえ」

 

外史の肯定派と否定派の戦い。それはまさに世界をかけた戦いだ。




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。
次回は…早く投稿できたらします。遅くても恐らくは来週には投稿する予定ですね。

今回は、洛陽に貂蝉たちを引き連れてカルデア御一行が戻ってきました。
まあ、月や詠たちの反応は妥当かな・・・慣れれば普通になります。

黄巾党の本隊の話も近くなってきたのであの三姉妹の登場もあと少しです。


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張三姉妹

こんにちは。
早く書けたので投稿です!!
早く書けたなぁ・・・

今回はもう黄巾の乱に入ります。
物語的にも進めていきます!!


58

 

 

黄巾党の討伐が本格的に開始された。多くの諸侯が名声を手に入れる為に軍を動かした。

話を聞けば曹操や孫堅と言った名のある猛者達も動き出したと言うのだ。

そうなると劉備だってどこかで動いているだろう。まだ頭角を表していないがいずれ直ぐに表に出て来るはずだ。

黄巾党もついに年貢の納め時だ。なんせ黄巾党の首魁の場所。黄巾党の本隊を見つけられたのだ。

そう成るともう黄巾の乱も最終決戦と為る。尚、討伐軍を率いる様に先端に位置するのは曹操の軍だ。曹操軍は黄巾党の本隊を発見したという功績がある。

実際に曹操が主軸に黄巾党の本隊と戦うことになるかもしれない。

 

「で、これが黄巾党の首魁である張角?」

 

黄巾党の首魁に関してだが容姿について教えてもらうと今まで調べた情報を纏めた似顔絵を貰えた。

しかし、その絵姿が問題であったのだ。

 

「角や腕が何本も生えているし、髭もモジャモジャだ…てかこれ人間じゃないでしょ?」

 

この絵姿を描いた人は途中で何も思わなかったのか。普通はツッコミたくなるはずだ。

 

「そりゃウチも思ったけど、けどしょうがないやん。何とか集めた情報によって出来たのがコレだし」

「いや、それでも何故こう成ったのかが気になるんだが張遼。黄巾党の誰かを捕縛して尋問でもすればいいじゃないか?」

「いや、それはもうしてんのよ。でも黄巾党の連中はどいつもこいつも口が硬うて張角について口を割らんのや」

 

捕まえた黄巾党の兵達は全員が張角について口を絶対に割らない。どんな尋問をしても拷問をしても口を割らなかったのだ。

これに関しては黄巾党の張角を絶対的に忠誠を誓っている故かもしれない。この忠誠の高さに関しては敵なのに妙に評価されている。

 

「なんじゃ、そんなのは拷問の仕方が悪いのではないか。ならば妾に任せよ」

「どうするん?」

「まずは……」

「ちょっと!? 月が居る前で物騒な事を言わないでよ!!」

 

董卓は優しい女の子だ。そんな彼女にはできれば嫌な物に関しての情報は与えたく無いという事である。

だが武則天からしてみれば上に立つ者ならばどんな事も知る必要が有ると思っている。

知らなかったというだけで大国が滅びる事が有るのだから。

 

「はやくそのよく分からない物をしまいなさいよ!」

「えー妾に対して不敬な奴じゃな」

 

すぐさま謎の物を仕舞っていた。アレが何なのかよく分からないけど知らなくても良いだろう。

でもカルデアキッズに渡すのは勘弁してもらいたい。

 

「で、本題なんだけど」

「我らに黄巾党の本隊を討伐するのに入れと?」

「そうよ」

「まあ、構わない。そもそもそれは願ったりだ」

 

太平要術の書を持つ張角に会う為には黄巾の乱に行かなければならないし、戦わなければならない。

そして何より、誰よりも早く張角の元に足を走らせないといけないのだ。

 

「えーとアンタたちには此所を任せたいのだけれど」

「いいのか任されても。普通は張遼や華雄、呂布の部隊に入るかと思ったのだが…」

「アンタたちなら何処かの部隊に入れる寄りかは1つの部隊として動かした方が効率が良いもの」

「そうか。なら任された」

 

これでより動きやすく為った。これならばより秘密裏に動く事ができるだろう。

 

「アタシらの中から兵を貸すから上手く指示してね。アンタらならできるでしょ」

「お互い頑張りましょう」

「うん」

 

準備は出来た。後は黄巾党の本隊と相まみえるだけである。

 

 

59

 

 

ついに開戦された黄巾党との最終決戦。各諸侯達も黄巾党を討伐しようと鬼気として戦いに飛びこんでいく。

剣戟に雄叫び、罵声に血飛沫と戦の現実が嫌でも目や耳に入ってくる。五感に入ってくる。

相手は人間で幻想種や魔物では無い。だからこそ人を殺すという戦に忌避感を感じてしまうのは藤丸立香が善人で平凡で優しいからだ。

そう感じるのは個人の意思。でも相手はそんな事を考慮してくれる筈も無し。

ここは藤丸立香の考えを理解してくれる時代でも世界でも無い。こんなのは今更だがそう思ってしまうのだから仕方ないのだ。

 

「無理すんなよマスター」

「大丈夫。前には進まないといけないからさ!」

 

多くの特異点や亜種特異点を回ってきたのだから耐性はある。でもやはり無理して居ると英霊達にはバレバレだ。

だからこそ忠誠心の高い燕青などは自分が汚れ仕事を負うことを厭わない。

 

「行くぜ荊軻の姐さんに拳法の達人」

「ああ」

「うむ」

 

先に燕青達が出る。でもその前には既に呂布奉先と那托が黄巾党の軍隊に突撃して要る。

俵藤太と諸葛孔明は董卓軍から借りた兵達の指揮をしており、玄奘三蔵と武則天はマスターの警護だ。

だが彼等の目的は黄巾党の全討伐では無い。本当の目的は張角が持つという太平要術の書だ。

この黄巾の乱は他の諸侯達によって治まるだろう。だから彼等の本来の目的を達成しなければ為らないのだから。

藤丸立香は頬を強めに叩いて気を引き締める。目を逸らすことはできない。

戦いを受け止めて進む。

 

「行くぞお前達。吾に続けぇい!!」

 

俵藤太が将として軍を動かして黄巾党達と戦う。

ここでカルデア側が秘密裏に計画を発動する。黄巾の乱とは関係ない計画が。

表向きは黄巾党と戦う事になっているが裏だと太平要術の書を回収するために動くのだ。

黄巾の乱は俵藤太と呂布奉先、李書文、哪吒が戦う事になって要る。そして太平要術の書回収チームは藤丸立香に燕青、荊軻、諸葛孔明、玄奘三蔵、武則天だ。

 

「□□□□□!!」」

「何、ようは殺し合いよ。お主らの全力、見せてもらおう」

「頑張る ファイト」

 

早速三人が黄巾党の軍に突貫。そのまま瓦解させていく。相手は魔物でも幻想種でも無いただの賊だ。ただ数が多すぎるだけの賊。

そんな多すぎるだけの賊は三人の英霊が突撃しただけで崩れるのは誰もが考えられる。特にその三人は戦闘に特化している英霊なのだから。

しかも呂布奉先は生前でも英霊になってもこういう戦はしているし、無双という言葉を体現させるほどだ。

 

「ようし、お前たちこのまま突撃するぞ。敵はもう総崩れだ!!」

 

借りた董卓軍の兵士を鼓舞しながら戦が始まる。兵士達も目の前で一騎当千の猛者達が黄巾党の賊を倒しているのを見れば士気がより上がるというもの。

一騎当千の将と士気の高い兵士達。戦いの流れは完全に此方側だ。戦いの流れに乗ればどんどんと士気は上がっていく。

 

「あまり突出し過ぎるなよ。無理に突出してしまえば孤立してしまうからな」

「しかし俵殿。書文殿達はもう既に突出してるのですが」

「あいつらは気にするな」

「ええぇ!?」

 

あの三人組なら笑いながら帰ってきそうだ。

 

「はっ、せい、やあっ、しゃあっ!!」

 

哪吒たちは火尖槍を振り回しながら無双するのであった。

 

 

60

 

 

黄巾党本陣。

 

「やっぱりもうダメね。姉さんもう逃げましょう」

「う、うん」

 

もう黄巾党はお終いだ。今の結果を見れば誰だって分る。

そもそも張三姉妹は何も大陸を取るつもりで動いていたわけでは無いのだ。多くの誤解や勘違いから今に至ってしまっただけである。退くに退けなくなった状況でしか無かったのだ。

正直なところ、こうなったのは張三姉妹も予想外すぎる。

 

「荷物は持った?」

「持ったよ。いつでも大丈夫」

「後はこの太平要術の書を持って…」

「張角様!!」

 

いざ逃げようとした矢先に部下(ファン)二人が入って来る。非情な決断かもしれないが今助かる為についてきてくれたファンを見捨てようとしていた。

だからこそ今自分たちだけで逃げようとしていた事がバレたら何をされるか分かったものでは無い。

 

(こんな時に…)

「張角様。張宝様。張梁様。此所はもうダメです早くお逃げください。 貴女方さえ生き残ってくだされば再起を図れます!!」

(おや?)

 

来てくれた二人から脱出してくれと促される。これは願ってもいない状況だ。それなら気兼ね無く逃げだせるというもの。

 

「分かったわ」

「我ら二人が護衛致します荷物を」

「わあ、ありがとう」

「丁寧に運びなさいよね」

「ちぃ姉さん。こんな時に丁寧も何も…」

 

張三姉妹ファン二人に扇動されながら本陣から脱出した。

 

 

61

 

 

黄巾党本陣から逃げ出して森の中に入る。此所まで来ればもう追ってこない筈だと思ってしまい、張角は休憩を提案する。なんせずっと走っていたのだから息がもたない。

 

「ねえ休憩しようよ~」

「アタシも疲れたから賛成」

「てんほー姉さん、ちぃ姉さん…いくら離れてもまだ敵が追いかけて来ないわけじゃないのよ」

 

できればもっと遠くまで逃げたいと思うが実際のところ疲れたというのは本当だ。

息も上がっているし、足も震えている。これ以上無理に走っても、いざ動けなくなったら元も子も無い。

 

「ちょっと休憩しましょう」

 

せめて一息だけついたら逃げなくてはならない。もっと離れないと敵はどこまでも追いかけて来るのだから。

 

「あなたたち二人は見張りをお願い」

「………」

「どうしたのよ?」

「いやあ、まさか簡単に付いてくるとは思わなくてねぇ」

 

黄巾党の一人が急に砕けた口調で話し始めた。そして彼が発した言葉に対して背中がゾワリとしてしまう。

まさかと思う事実に身体が震えてしまう。

 

「上手くいくもんだなマスター」

「だね、黄巾党の恰好をするだけで普通に本陣に、てか張角達の所に入れたし」

 

心臓の鼓動が激しくなる。背中がゾワゾワする。足や腕が震える。

こんな嫌な予想は外れて欲しいが現実とは非情だ。

 

「あ、貴方達まさか…!?」

「黄巾党じゃない。今きみたちが戦っている側だよ」

「「「やっぱりー!?」」」

 

黄色の布を取るとファン二人の正体は藤丸立香と燕青であったのだ。

 

「いや、特に変装する必要も無かったとは…黄色の布を巻くだけとはなぁ」

「それはそうだ。黄色の布とは黄巾党の信者の証。それさえ付ければ黄巾党を名乗れば誰でもなれる」

「それならいくらでも間者が入り込めるな」

「くっふっふっふー! 黄巾党は組織体系が出来ていないのう」

「この子達が張角…悪い子たちには見えないけど」

気が付けば周りに諸葛孔明、荊軻、武則天、玄奘三蔵が張三姉妹を囲んでいた。

 

「「「囲まれてるー!?」」」

 

逃げてこれたかと思えば絶体絶命。逃げる段階で詰んでいたのだ。

 

「それにしても彼女達が張角たち…絵姿と全然違うじゃん!?」

「あんなのが居たら、逆に怖いぞ!」

 

ガクガクブルブルと震えている張三姉妹の前に出る諸葛孔明。

 

「さて、君達はもう詰んだ。悪あがきはしない方が賢明だ」

「嫌、まだ死にたくないー!!」

「まだ色々とやりたい事があるのにー!!」

「殺すとは言っていない」

「へっ!? 助けてくれるの?」

「それはお前たち次第だ」

 

自分たち次第と言われて首を傾ける。今の自分達に何ができるか。

 

「まさか身体っ!?」

「「ええ!?」」

「違う」

 

頓珍漢な考えに至った張宝の言葉に被せて否定する。

 

「お前達が持っている書物が欲しい。ここまで言えば分かるな?」

「太平要術の書?」

「そうだ。それさえ渡してくれれば命は取らんさ」

 

元々命を奪うつもりは無い。太平要術の書さえ手に入れば良いのだ。

それに貂蝉から何故か張三姉妹は殺さないで欲しいと言われている。何でも彼女達にはまだ役目が有るとの事。

 

「渡せば助けてくれるのね?」

「約束しよう」

「なら早く渡しちゃおうよー」

 

命が助かるのならば、そんな書物は早く渡してしまえと急かす張角。太平要術の書のおかげでここまでこれたが、命より大事な物は無い。

 

「分かったわ。コレよ」

 

張梁が太平要術の書を渡そうとした時、誰も知らない手が伸びてきた。

 

「渡さないでください。これは私の物なので返してもらいますよ」

「え、誰!?」

 

知らない男が太平要術の書を張梁の手から奪っていた。

 

「荊軻、燕青!!」

 

藤丸立香が叫ぶがもう遅かった。

燕青の拳が、荊軻の刃が知らない男に届いたかと思えば煙のように消えていた。もう声しか聞こえない。

 

『ふふふ、貴方方と戦うつもりは有りませんよ。私はただ回収しに来ただけですからね』

「お前は誰だ!?」

『私の名前は于吉。またどこかで会いましょうカルデアのマスターよ』

 

この言葉を最後に于吉の気配は完全に消えた。

 

「やられた! もう少し警戒するべきだった…私のミスだ」

「今のが貂蝉の言っていた于吉か? 怪しげな道士だな」

 

まさかの于吉登場に諸葛孔明は汚い言葉を吐きそうになる。

いきなりすぎた。いきなりすぎて未だに少し混乱中だ。

これはすぐにでも貂蝉たちに合流して報告しなければならないだろう。

 

「あ、あのー」

「何だ?」

「私たちは…?」

 

張三姉妹は太平要術の書を渡せば命が助かることになっている。しかし、渡す前に奪われてしまったのだから条件が破綻しているのだ。

 

「そうじゃのう…目的の物がなくなってしまったから、その約束は無効じゃな」

「ええぇ!? でもそれはさっきの奴が…!!」

「お主らは太平要術の書を持っていたから命の交渉ができたのじゃ。だが何も無いのならば価値は無い」

 

もし、諸葛孔明が太平要術の書を受け取ってから奪われてしまえば張三姉妹に落ち度は無かっただろう。

しかし、張梁が渡す前に奪われてしまった。そういう意味では所有権が諸葛孔明では無くて張梁のままだ。

例えるならば買い物中にお金を払う前に商品が泥棒に奪われたらどっちが責任かというのならば買い手じゃなくて売り手だろう。

 

「くっふっふー! さて、自棄になって暴れられても困る。動けなくしておくか」

 

武則天が拷問器具を取り出す。

 

「あわわわわわわ…!?」

「いやよー!!」

「はいはいストップだよ、ふーやーちゃん」

 

拷問器具を持って近づく武則天を止める藤丸立香と玄奘三蔵。

もちろん武則天も本気で拷問しようとしていたわけではない。ただの冗談だ。質の悪い冗談である。

 

「冗談じゃよ冗談。くっふっふっふー」

「全くもう! ごめんね」

「こ、殺さないの?」

「殺さないよ」

「助けてくれるの?」

「うん。だからその為にちょっと手伝ってもらっていいかな?」

「手伝う?」

 

 

62

 

 

楽進は張三姉妹を追いかける。

このまま逃がしたとなると曹操に顔向けできない。せっかく曹操軍に入れてもらったのだから力にならねばならない。

せっかく『あの人達』と出会ってやっと自分達のすべきことを歩み始めたのだ。ここで折れるわけにはいかないのだ!

そう思って足に力を入れて走る。そして黄巾党本陣は燃えていた。

 

「見つけたっす!!」

「張角だな!?」

「そうだよ~」

「残りの二人の張宝と張梁はどこだ?」

「ここ」

 

そう言って張角の手に握られていたのは二色の髪の毛の束であった。その髪の毛の意味は遺品。

既に張宝と張梁はこの世にもういない。

 

「ちーほーちゃんとれんほーちゃんは一足先に火の中に入っていったよ」

「なに!?」

「そして私も…」

 

張角は自分の髪の毛を切って同じように束にする。

 

「これをあなたたちにあげるね」

 

三束の髪の毛を置いて張角は火の中に走っていった。

 

「待て!!」

 

もう遅い。説得する暇も無く、身体が動くころには張角は火の渦に飛び込んで行った。




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。また早く投稿できればしますが予定では来週にしています。

黄巾の乱。そこまで戦っていません。目的はあくまで回収ですからね。
回収できなかったけど…于吉がいきなり現れましたがアニメ版でもいきなりだったので。

そして張角たちもどうなるか…まあだいたい予想できると思います。

黄巾の乱はすぐに終わります。メインの話はこの後になりますから。
ちょくちょく出てきた張譲とか。
まあこの物語を1章とすると『漢』…洛陽で戦いが始まります。


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黄巾の乱の終わり

こんにちは。
前回、投稿が来週予定と言っておきながら今日投稿します。
多分次回の投稿は未定になると思いますから。

何故かって? だって来週からFGOでハロウィンイベントですもん。
ネタとかも見つかるかもだから、そっち優先になるかもしれません。

すいません。



63

 

何処か。

 

「いやぁ、熱かったぜ!」

「お疲れ燕青」

 

燕青に向かって扇子で扇いで風を送る。

なんせ彼はさっきまで火の中に居たのだから。これも全て張三姉妹を助ける為である。

 

「こ、これで大丈夫なのよね?」

「すごーい! お兄さん私にそっくりだったよ!」

「へ、変装の達人?」

 

楽進は確かに張角が火の渦に入って行ったの見た。それを報告しているだろう。

だが藤丸立香の目の前には張角だけでなく、張宝に張梁も生きている。その理由は簡単だ。

 

燕青が変装して楽進の前で演技をしただけなのだから。

 

「髪の毛を切るのは躊躇っちゃったけど…」

「命が助かるなら安い物よ!」

 

命より高いモノは無い。

 

「これでお前達は表向きには死んだ事になった」

 

張三姉妹は死んだ。であれば目の前に居る彼女達は誰でも無い。

 

「黄巾党が世間から忘れられるまでおとなしくしておけ。その後は好きな様にしろ」

 

今はまだ黄巾党の熱が冷めていないので彼女達がより安全に暮らす為には今は身を隠しておくべきだろう。

元々、芸をやって旅をしている彼女達にとって酷かもしれないが今は目立つことを控えるべきなのだ。

 

「それにしても黄巾の乱の原因が勘違いからとはね…!」

「うーん…歌で大陸を取るからどうやって武力で大陸制覇に成ったのかしらね?」

「そんなのアタシが知りたいわよ! 何故か退くに退けなくなっちゃったしさ!!」

 

各諸侯が黄巾の乱の原因を知ったら眉間を抑えてしまうだろう。

実際の所諸葛孔明は眉間を抑えて居る。こんな呆れた理由ならしょうがないだろう。

 

「はあ…!」

「あ、孔明先生がため息まで!?」

 

呆れすぎて凄い溜息を吐いていた。諸葛孔明の疑似サーヴァントとしてこの三国志の世界が分からなくなってきた様だ。

 

「だが結局は今の漢に不満を持った者たちにとって利用されたというのも有るだろう。蜂起を起こす理由に指導者という形として祭り上げられたのだろうな」

 

恐らく黄巾党の拡大も張三姉妹のファンだけというわけでは無いだろう。黄巾党の熱気に充てられて暴れた者や本当に今の大陸に不満を持って動いた者も居るだろう。

 

「ほれ、戻るぞ」

 

武則天が諸葛孔明の頭をペシペシ叩く。

もうここには用は無い。戻って貂蝉達と合流して于吉と接触した事を報告するべきだろう。

そして太平要術の書が奪われた事もだ。

 

「じゃ、帰るか!」

 

よっこらせっと腰を上げて洛陽に帰る。ぞろぞろ列を組んで帰るがついで張三姉妹もついて来る。

 

「何で?」

「だって、まだ危ないし! あなた達についていけば危険は無くなるかなって」

 

確かに今は誰かに助けてくれるという状況が彼女達には好ましいだろう。今の処彼女達の正体は藤丸立香達と曹操軍しか知らないという事になっている。

ならば曹操の領地から離れれば大丈夫だろう。でも其れはただの憶測だ。もし他の者に知られていたらっと考えると危険だ。

でも、今は藤丸立香達に付いていけば安全だと思える。

だから張三姉妹は藤丸立香の後ろを付いていく。

 

「なんともまあ、アヒルの子供みたいに…」

 

彼女達も藤丸立香の傍が一番安全だという事に気が付いているのだ。彼の傍に居ればとりあえず襲われないという事と、英霊に攻撃されないという事に。

基本的に英霊たちはマスターを中心に守るように行動しているのなら、マスターの傍が一番安全である。

 

「…うーん。どうしよっか?」

「荷物になること確定だが…連れていくなら構わない。余計な事をしなければな」

「良いって!」

 

後ろにぴったり付いて居る張三姉妹に答えると顔に希望が戻った様にしている。

 

「でもこれから行く場所は洛陽…官軍の居る所だけど?」

「「「えっ!!?」」」

 

今度は顔が青くなった。

 

「大丈夫だろう。どうせ張角達の顔は分からんのだから」

 

荊軻の言う通りだし、何度も言うが張角達の顔を分かっているのはカルデア御一行と曹操軍くらいのもの。

これから洛陽に戻って彼女達の事を問われても、ただの捕まった民間人と言えば誤魔化せる。

あとは彼女達が余計な事を言わなければ大丈夫だろう。

 

「私達はお前達が余計な事をしなければ危害を加えるつもりは無い。落陽に付いてくるのも構わんがおとなしくしていろよ」

「しないわ! 助けてもらったのに仇を返すような事はしないわ!」

「そうそう!」

「大人しくしてまーす!」

 

この後、洛陽に戻って張三姉妹が呂布を見て何故か顔をより真っ青にしたのは別の話。

 

 

64

 

 

洛陽にて。

 

「で、誰なのその子たち?」

 

賈駆がジロリと見るは張三姉妹。やはり連れてきたら問われるは当たり前だ。

 

「え、えーと…!」

 

張梁は何をどう説明するか悩んだが、ここで諸葛孔明が口を挟む。

 

「あまり強く当たらないでくれ。彼女達は黄巾党に捕まっていた娘達だ。賊に若き娘が捕まっていた…大体分かるだろう?」

「あっ…!」

 

何かを察したのか賈駆は同情する顔になった。

 

「そ、そう。貴女たち大変だったわね!」

「俺たちが世話するから良いかな?」

「良いわよ。部屋を貸す用意をしておくわ」

 

どういう意味か分からなかったのは張角だけであった。

 

「大変でしたね」

「うん…うん?」

 

董卓が優しく張角の手を握って心配するのであった。

 

「ぎゃてぇ、本当に可哀そう!」

(三蔵ちゃん。それ嘘だからね!)

(どういう意味なのかな、れんほーちゃん?)

(…後で話すわてんほー姉さん)

 

だが張角達が慰め者になっていたなんて自分の姉にどうやって説明するか悩んだ。でもストレートに言った方が早いかもしれない。

どうせ嘘なのだから。でも董卓達の同情は買えた様だ。これでより彼女達を疑う理由は無くなっただろう。

 

「立香さんお疲れ様でした。皆さんもお疲れ様です。あなた方のおかげで黄巾党ももう終わりです」

「まだ残党が居るけどそれも時間の問題よ。黄巾党の首魁は曹操が打ち取ったし。徐々に黄巾党も大陸から消えるわ」

「今日はゆっくりしていってください。宴会なども開いて羽目を外しても大丈夫ですからね!」

 

ニコリと笑う董卓。だけどその前に貂蝉達に報告である。

 

「よっしゃあ。荊軻、燕青、一緒に酒を飲み交わすでー!!」

「承った」

 

既に徳利を用意している荊軻。どこからその酒を出したのだか?

 

「ほれほれ、華雄に恋、ねねも行くで!!」

 

もう張遼は打ち上げ気分であった。

それと変わって、目の前には圧倒的な筋肉(マッスル)が立ちはだかる。

 

「立ちはだかってないわよん!?」

「そう見える!」

 

この後に打ち上げがあるが此方の方が大事だ。

 

「于吉ちゃんに会ったのね!?」

「うん。ごめん、太平要術の書は奪われた」

「ぬぬぬ、于吉め! だがこれで完全に奴めが裏で暗躍していることが分かったぞ!」

 

貂蝉達が観測した異変は確定した。それに于吉には聞きたい事が有るのだ。

 

「彼は我々を知っていた。カルデアのマスターとはっきり口にしたからな」

 

その通りだ。于吉は藤丸立香に向かって「カルデアのマスター」と言ったのだ。ならば彼は何かを知っているのだろう。

それならば藤丸立香達がこの外史に転移した理由を知ってる可能性が高い。

 

「于吉ちゃんを捕まえないとね!」

「ならば儂は妖馬兵が眠っている所に行ってくる!」

「ならアタシはこのままここで見張って居るわ。潜入した結果、やっぱり張譲と于吉ちゃんが繋がっている様だしね」

(その恰好で潜入が成功したのか…!?)

「うむ! 貂蝉よ」

「何かしら?」

 

急に卑弥呼が真剣な顔になる。

 

「抜け駆けは許さんからな!!?」

「分かってるわよん。うふ!」

 

何を言っているのか分からない。

 

「儂がいない間に華陀だけでなく立香も狙ったら許さんからな!!」

「あれ、俺も狙われてる!?」

「それはアタシの漢女心が先走りしなければね!」

「不安なんだけど!?」

 

いつの間に貂蝉と卑弥呼の漢女のターゲットにされたのだろうか!?。

 

「でもでもん、立香ちゃんたちのお連れは良いオノコがいっぱいなのよねぇ!?」

 

どうやらターゲットは藤丸立香だけではないようであった。

 

「アタシ達ってばぁ移り目が多いわん!!」

「しょうがあるまい。儂等は漢女なんだからな!!」

「「はっはっはっはっはっはっは!!」」

 

ただただ怖い。

 

 

65

 

 

黄巾の乱は終わった。これでやっと次の段階に進める。この外史も次へと進む。

太平要術の書は十分に負の力は溜まったのだから妖馬兵も動かせる。しかし、まだその時では無い。妖馬兵はまだ動かさない。

 

妖馬兵を使うにはまだ早い。だから次の策を実行させよう。

 

まず、貂蝉と卑弥呼が邪魔だ。彼らは厄介だ。この外史の武将達よりも厄介すぎる。

 

同じく厄介なのがカルデアの者達。

カルデアの力は強すぎる。できれば計画の邪魔はされたくないがいずれは戦う羽目に成る。

 

だがカルデアは敵にする必要は無い。倒す必要は無い。ただ計画が完遂すれば良いのだ。

 

それまで邪魔されない様にすればよいだけなのだから。

 

だから目下の敵は貂蝉達だろう。

少し太平要術の書と張譲を利用するとしよう。ちょうど彼等が洛陽に居るのと董卓軍に居るこの時は策の実行がしやすいというものだ。

 




読んでくださってありがとうございます。
次回もゆっくりとお待ちください。

次回は未定です。ハロウィンイベントが落ち着いたらですかね。
はあー今回のガチャは大丈夫かな・・・石は貯めたけど。

次回は日常編を書こうと思います。
董卓や華佗、呂布とかのです。


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洛陽での日常1

こんにちは。
今回のハロウィンイベントも色々と予想外でした。
予告とか…ニチアサ感が強い。


てか、礼装がガチャで来ないんですけど!?←(個人的な叫び)


66

 

 

洛陽のある食事処にて。

 

「おいしいー!!」

「あ、てんほー姉さんそれちぃの杏仁豆腐!?」

「そんなのまた頼めばいいんだよ」

「そうだけどさー」

「2人とも行儀が悪いわよ。まったくもう」

 

張三姉妹はまったりと昼食を食べていた。

 

「よく食べるね」

「だねぇ」

 

彼女達のお目付け役として藤丸立香と燕青が居る。

彼女達はもう黄巾党の首魁では無い。またただの旅芸人だ。でも今はまだ公に活動できないから藤丸立香の所で世話になって居るのだ。

 

「今日は立香が奢ってくれるんでしょ?」

「今日も、だからね。ちぃちゃん」

 

最近はよく藤丸立香にべったりの3人。そして彼女達の真名も預けてもらっている。

そもそも張角、張宝、張梁の名前はもう使えない。そうなるともう名乗るは真名くらいしかないのだ。

最初は彼女達、もとい地和は反対したが残り2人は構わないとのことで、結局納得した。その為に今は真名で呼んでいるのだ。

 

「今日もだっけ?」

「うん」

 

最近べったりなのでよくタカられる。色々有ったというのにポジティブというか根性が有るというか。

でも呂布や武則天の前では大人しく成るけど。本当にこの外史の呂布の間で何が有ったのやら。

 

「はあ~それにしても歌が歌えないってキツイわ」

「ねー。私は早く皆で歌を歌いたいよー」

「しょうがないわよ。こればかりは大人しくしないと」

 

黄巾の乱から熱は冷めてきている。彼女たちの歌が解禁されるのもあと少しだろう。

 

「もし次に歌を歌う時は気を付けて。あと言葉にはね」

「わ、分かってるわよ」

「大丈夫。次からは私が釘を刺しとくから」

「頼むよ人和」

 

この天和と地和を纏めているのは人和の様だ。彼女だけが頼りかもしれない。

 

「それにしても…2人ともカッコイイよねー」

 

天和がいきなり藤丸立香と燕青を褒めた。いきなりなんだなんだという顔をしてしまう。

 

「お姉ちゃんは立香くんがいいかな」

「え、そうなのてんほー姉さん。アタシは燕青かな」

 

いきなり男の値踏みが始まったんだが。これには人和もため息。

 

「お姉ちゃんは立香くんをお世話役として任命します」

 

もう既にお世話しているという言葉は飲み込んだ。

 

「じゃあアタシは燕青に!!」

「俺はもう主を世話してっから」

「えーお世話してよ」

「もうウチの主にしてもらってるだろぉが」

 

燕青は呆れ顔。残念だが彼の忠誠は藤丸立香に捧げているので地和のお願いは無理だ。

 

「面白い話をしておるのうお主ら」

「わっ、アンタいつの間に!?」

 

気が付いたら武則天が食卓を囲んで居た。これには張三姉妹は驚く。

アサシンクラスなのだからこれくらいは当たり前だ。

 

「それにしてもアイドルか。妾も別のどこかの妾がアイドルをやった気がするのう」

「何言ってんだ?」

 

燕青がツッコミをしてから武則天を加えてまた食事を再開するのであった。

 

「そもそも何で3人はふーやーちゃんが苦手なのさ。特にちぃちゃん」

「だ、だって…その子あたしたちを拷問しようとするんだもん!!」

 

そういえば最初の顔合わせた時が敵同士だったし、武則天の質の悪い冗談が少し彼女達のトラウマになっているのかもしれない。

 

「大丈夫。そんなことさせないから」

「うー…頼むわよ立香」

「はいはい」

 

流石に武則天には好き勝手に拷問させない様にはしている。彼女もまた藤丸立香が居る所では拷問をしていない。

だから張三姉妹がマスターである藤丸立香に何かしなければ大丈夫だろう。

 

「ところで…あいどるって何?」

 

天和は武則天の言った『アイドル』という言葉に反応したようだ。この三国時代には『アイドル』という言葉なんてまだ存在しない。

そもそも横文字自体が無いのだから、この反応は当たり前なのかもしれない。

 

「アイドルってのは……まさに貴女達の事です」

「歌を歌う人の事?」

「あながち間違いじゃないね」

 

そう言えば彼女達は熱狂的なファンという名の黄巾党た達が居た。崇拝される人物としてまさに黄巾党の『偶像』で有った。

そうなると彼女達はまさに『アイドル』だろう。

 

「あいどるかー」

「良い言葉ね!!」

「ふむ、あいどる」

 

どうやら張三姉妹は『アイドル』という言葉が気に入ったようだ。

 

「それにしても貴女って歌えるんだ?」

「歌えるわ。これでもアイドルグループを立ち上げてカルデアで多くのファンを作っていったのだからな。そんな気がする!!」

「それ知らないんだけど」

 

その話はまた別の武則天の話なのだから藤丸立香が知らなくて当然である。

 

「ふ、ふーん。で、ちぃたちの方が絶対歌が上手いからね」

「お、言ったな小娘」

 

そういえば武則天は皇帝特権というスキルが有るから本人が主張する事で短期間だけ獲得できる筈だ。

そもそも彼女ならば皇帝に至るまでの努力で歌という分野にも手を出していたかもしれないが。

 

「くっふっふ。なら、どっちが上手いか勝負するか?」

「じょ、上等よ!!」

「ちょっと地和姉さん!?」

 

何だか勝手に武則天と地和が睨み合いをしている。最も武則天は涼しい顔だ。

また武則天が暇なのか、気まぐれなのかで張三姉妹をからかって居る様である。

 

「おいおい…」

 

燕青も呆れ顔をしている。

 

「何か面白そうだな。歌や踊りは俺も好きだぜ」

 

そうでは無く、彼もノリ気の様である。

燕青もまたこういうのが好きな人物だ。食って飲んで歌って踊る。これもまた彼の生き様の1つなのだから。

 

「よーし、丁度ここは飯屋で人も居る。観客なら揃ってるぜ」

 

燕青がおもむろに楽器を取り出す。どこから取り出したかは聞かないでおく。

彼は様々な技術を持っている。その1つが楽器だ。前に頼んで楽器を弾いてもらった事があったが、とても上手かった。

 

「んじゃま、俺が前座で一曲弾いといてやるよ」

 

燕青が楽器を弾き始めると店に居るお客全員の目と耳が集中する。前に聞いた事があるがやはり上手い。

 

「わあ!? 良い!」

「いいじゃない」

「本当に上手い…!?」

 

張三姉妹も聞き入っているようだ。

 

「ふふん。中々やるな遊客め」

 

武則天もまた人の努力と技術は良いものならば認める。

燕青の前座で店に居るお客たちは良い感じに盛り上がっている。

 

「ならば次は妾じゃな」

 

今度は武則天の番。

 

「くっふっふ~。高貴な妾の歌声を聞けるなぞ人生を何度やり直してもあるかどうかのシロモノじゃぞ」

 

歌い始める武則天。確かに彼女の歌は素晴らしく、聞けた事は幸運であろう。

彼女の歌声に見惚れて、聞き入ってしまう程だ。既にお客達は武則天の歌声の虜である。その様子を見て地和は悔しそうだ。

 

「凄いよふーやーちゃん!!」

「だろうマスターよ。ほれ頭を撫でれ、飴もよこせ」

 

頭を撫でると嬉しそうに目を細めてくれる。

 

「ちぃだって負けてられないんだから」

 

最後は張三姉妹たちの出番だ。

 

「歌いましょう人和、てんほー姉さん」

「いいよー」

「ちょっと姉さん!?」

 

今は大人しくしていろと諸葛孔明から釘を刺されている。しかも場所が場所。此所は官軍の居る洛陽である。

人和の頭には黄巾党の出来事が思い出される。

 

「大丈夫よ。だって向こうから勝負を仕掛けてきたのよ」

「で、でも…」

 

チラリと此方を見てくる。本当に大丈夫なのかの確認だろう。

確かに諸葛孔明から釘を刺されたばかりだが場所が洛陽とはいえ、此所は飲食店の中。大々的に彼女達の歌を広めるわけでは無い。

そもそもエリザベートの件でこういうのは止めても意味が無いと既に理解している。結局は歌うことになるという事だ。

 

「いいよ」

 

親指を立てて笑顔で肯定。

 

「さっすが立香。分かってるじゃない。ほらお許しも出たし歌うわよてんほー姉さん、人和!!」

「わーい歌える。ありがとー立香くん」

「…もう」

 

天和は歌う気満々。人和は結局折れる。

 

「じゃあ行くわよ!!」

「いっくよー」

「ああ、不安だけど…歌だけは本気で行かないとね」

 

張三姉妹の歌が始まる。

黄巾党のみんなが魅了されるほどの歌声。

どれほどのものかと思っていたが、確かに黄巾党がファンになるのが分かる気がする。

彼女達の歌声は元気をくれるような感じだ。お客達も彼女達の歌でノリノリである。

 

「イエーイ!!」

 

つい藤丸立香もノってしまう。エリザベートのライブでは無かった事だ。

武則天の歌は見惚れて聞き入ってしまうのとは対照に張三姉妹の歌はテンションが上がって一緒に歌ってしまう。

 

「お、良いじゃねえか」

「ほほう。やるのう」

 

燕青も武則天も彼女達の歌を素晴らしいと評価。

勝負形式な感じであったが、もう武則天も燕青も加わって飲食店の中は完全にライブ会場になってしまう。

 

「次はまた妾の番じゃ」

「ノってきたからまた弾いてやるよ。主も歌おうぜ」

 

もう諸葛孔明の言っていた「大人しくしておけ」という忠告は彼方へと吹き飛んだ。

今まで歌う事を我慢していたのか張三姉妹は今まで我慢していたモノを全て吐き出すように歌う。

藤丸立香達は存分に歌うのであった。

 

「とても良かったよ」

「でしょー。立香くん私に惚れちゃったかなー?」

「どうよ。ちぃは天才なんだから!!」

「ふう、久しぶりに歌えて満足ね」

 

今日の1日で彼女達とまた仲良くなった気がする。一緒に皆で歌を歌えば心の距離が縮まるとは本当かもしれない。

 

「今度は大きな舞台で歌いたいな立香くん」

「あれ、何かマネージャーみたいな役割になってないよね」

 

藤丸立香、何だかんだで張三姉妹のお世話係からマネージャーになるのは時間の問題である。

そして、今日の事がすぐにでも諸葛孔明の耳に入ってみんなで説教されるのも時間の問題である。

 

「お前たち…」

「ゴメン先生」

 

 

67

 

 

今日は華佗と一緒である。

 

「ゴッドヴェイドォォォォォ!!」

「五斗米道とは…」

「何なのよ、あの暑苦しい掛け声は…」

「でも華佗さんの腕は確かだよ詠ちゃん」

「そこはアタシも認めてるわよ」

 

華佗の治療方法は見ていて頓珍漢のように感じるが、本人は至って大真面目。そして最高の結果を残してくる。

あの治療方法でどうやって治しているのか意味不明だが腕は董卓の言った通り本物である。

 

「診断や薬を作る時は普通なのに…針治療の時は何でああなのかしら?」

 

華佗は良い医者だ。なんせ慈善活動で大陸を旅していたほどなのだから。

そして熱い漢である。

 

「ふう、此所には手強い病魔はいない様だな…だが慢心はいけないな」

「お疲れ華佗」

「おう、立香…それに董卓に賈駆まで。何かあったか?」

「いや、兵達からアンタの腕が良いって褒めてたから見に来ただけよ」

「華佗さん。我が陣営の兵たちの治療ありがとうございます」

「ははっ、良いってことよ」

 

黄巾党討伐での負傷者は少なくは無い。そんな時に華佗が居てくれたからこそ、兵達の回復が順調なのだ。

本当ならばもっと多くの場所に回って負傷者を治療したいだろうが、華佗は洛陽に残ってくれている事に董卓は感謝しているのだ。

 

(本当にナイチンゲールと気が合うかも…あ、やっぱ分からん)

「それにしてもアンタらも気をつけろよ。特に賈駆」

「何がよ?」

「最近疲れが溜まってるんじゃないか。忙しいのは分かるが無理して倒れたら本末転倒だぞ」

「うっ…」

 

黄巾党討伐が終わってからの後処理は大変であったが、今は落ち着いている。それでも忙しいという事は他に何かが有るという事である。

その他の何かというのは華佗も藤丸立香も何も知らぬことであり、関係無い事である。そればかりは朝廷内の問題である。

余所者である2人は本当に知らなくて良い事だ。

 

「本当に気を付けてね詠ちゃん」

「それは月もでしょ」

 

だが賈駆としては無茶でもしなければ大切な董卓を守る事はできないと思っている。この朝廷内も近いうちに変わる。

それこそこの大陸に響き渡るような大きな変化である。そのために彼女は裏で策を講じているのだ。

 

「あ、そうだ立香。服を脱げ」

「え?」

「服を脱いで横になってくれ」

「え?」

 

いきなり華佗に服を脱いで横になれと言われて一瞬呆ける。

 

「ああ、そういうこと」

 

そしてすぐに理解。

 

「ちょ、何言ってんのよアンタ!?」

「はううぅ…」

「何って俺が立香をスッキリさせてやろうかと…」

「えっ、だから何をっ…それって」

「か、華佗さん…そんな趣味を」

 

董卓と賈駆は顔を赤くしながらアワアワしている。

 

「脱いだよ」

「ってアンタまで!?」

「え、だって華佗が俺の体調を見てくれるってだけでしょ?」

「ああ。どうも立香はこの中で一番体に疲れが溜まっているからな。俺の針治療でスッキリさせてやろうと思ってな」

 

華佗の答えを聞いた瞬間に2人は沸騰したヤカンの様になっていた。

 

「どうしたんだ?」

「な、何でもないわよ」

 

何か別の事でも考えていたのだろうかと首を傾けた。

 

「何だと思ってたの董卓さん?」

「ええっ…な、えと」

「ん?」

「いじめないでください立香さん…」

「いじめた覚えはないんだけど」

 

よく分からないがこれ以上董卓に先ほどの事を聞くのはダメらしいので止めた。

 

「「…」」

「どうかした?」

「いや、何でも」

 

一旦、落ち着いたと思ったら2人から視線を感じる。

 

(あれ、案外こいつって鍛えてる?)

(立香さんってば…意外に)

「お、案外鍛えてるんだな」

「まあね。色んな師匠や先生から鍛えられてるから」

 

多くの先生気質を持つ英霊からは多くの事を教えてもらっている。それは魔術の事だったり、鍛錬だったり、忍術だったりと様々だ。

そのおかげで身に付いた技術だって多くある。忍術で身代わりの術なら習得済みである。

 

「うーん、あちこち傷が有るな。お前今まで何をしてきたんだ?」

「…まあ、色々と」

 

体に刻まれた傷は今までの旅の記録でもある。

 

「まあ、任せろ。お前の疲れを我が五斗米道の鍼でスッキリさせてやるさ」

 

スっと針を出す華佗。針治療なんて初めてな気がする。

痛いのか気持ちいいものなのか分からない。だけど治療なのだから悪いようにはならないだろう。

 

「じゃあお願いします」

「任せろ。ゴッドヴェイドォォォォ!!」

 

華佗による治療が始まる。

そんな様子を横で見る董卓と賈駆。未だに視線はずらさない。2人が何を思っているかは内緒だ。

彼女達にとって男性の裸体をこんな間近で見るのは初めてなのだろう。特に賈駆はそういう耐性が無いので顔が真っ赤だ。

 

(それにしても…彼を治療した人は腕が良いな)

 

華佗は藤丸立香を鍼治療しながら体を診る。彼の体は傷だらけだが、腕の良い医者によって治療されている。華佗は彼の体にどんな傷があったか分かる目を持っている。だからこそ体中にあったであろう傷が多すぎるというのが分かる。

 

(ここなんか腹を貫かれた傷が有った…しかもあり得ないが人の手によって貫かれたんじゃないか?)

 

彼はどんな事をしたら人の手で腸を貫かれるなんて事になるのだろう? どんな旅や戦いをしたらこんな傷を受けるのだろう?

気になるが余計な詮索はしない。それは藤丸立香や華佗のためでもある。余計な人の詮索は自分の命を削ることだと知っているからだ。

 

「俺に出会う前に良い腕の医者に出会えたんだな」

「うん。婦長は腕が良いからね……あとウチには腕の良い医者がいたよ」

「…そうか」

 

藤丸立香はどこか懐かしそうで寂しそうな顔をする。その顔を見て、これ以上は話さない方が良いと判断。

こういう顔の人間は医者として何度も見てきた。きっと大切な人を失ったのだろう。

こうなれば何が何でも彼の疲れを取って見せると気合が入るものだ。

 

「行くぞ。ゴッドヴェイドオオオオ!!」

「いや、その掛け声はどうだろう?」

 

未だに謎が多い五斗米道。話に聞くと神農大帝が生み出した医術とか、医術を目的とした道教団体とかいろいろとあるらしい。

謎が多いが藤丸立香達にいずれ関わるのかどうかと聞かれれば分からない。

でも、もしかしたら華佗と五斗米道に大きく関わる何かが起こるかもしれない。それは事件なのか縁によるものなのか分からないが、今の藤丸立香はそう思ってしまった。

 

「げ・ん・き・になれええええええ!!」

「鍼を刺すたびに、その掛け声を言うの?」




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。(たぶん来週予定です)

今回は張三姉妹と董卓たち(どっちかっていうと華佗)の日常回でした。
次回もまた日常回です。次回は…呂布たちや張遼予定です。

武則天がアイドル云々の話はFGOコミックアラカルトから参照致しました。
気になる人は買って読んでみよう。


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洛陽での日常2

こんにちは!!
今年のハロウィンイベントも良かったです。
何とかストーリーはクリアしました。あとは周回のみ…

さてさて、今回も物語は日常回です!!
誰の日常回かは読んでどうぞ!!


68

 

 

「わん!!」

 

犬の鳴き声が聞こえた。足元を見ると赤毛の子犬が足元に居た。

この犬の名はセキトだ。外史の呂布のセキトである。この世界の赤兎馬は馬ではなくて犬であるのかと思ったが、あとでちゃんと馬の赤兎馬が居る事が発覚した。

 

「どうしたのセキト?」

 

セキトの後を付いて行くと、ある茂みの中に入らされる。其所にはこの世界の呂布が気持ちよさそうに寝て居た。

しかも犬や猫達と一緒に気持ち良さそうに昼寝をして居るのだ。今日はポカポカ陽気で昼寝日和なのは確かだろう。こんな日はタマモキャットも日向ぼっこでお昼寝するに違いない。

 

「この世界の呂布は俺が知っている呂布のイメージと全然違うんだよね」

 

だが実力だけはイメージとぴったりである。なんせたった1人で数万の黄巾党の賊を倒した一騎当千の将である。

一騎当千万夫不当の名声はこの世界の呂布もカルデアの呂布奉先も同じだ。違うのは生き様や性格かもしれない。

だってカルデアの呂布奉先が目の前にいる呂布と同じように昼寝している姿は見た事が無いのだ。でも意外な姿はたまに見る。

 

(ウチの呂布はフランと一緒に居る時は優しいんだよね)

 

そのうちフランケンシュタインのパパの座を賭けてジェームズ・モリアーティと呂布奉先が何かするんじゃないかとヒヤヒヤしている。

 

「ん…立香?」

「あ、ごめん。起こしちゃったかな?」

「んん、大丈夫。気にして無い…寝たから元気に成った」

 

睡眠は大切だ。疲れたら寝て元気に成る。それは当たり前だ。

そういえば彼女みたいに何も気にせずに昼寝をした記憶があったような無かったような気もしなくも無い。

少しだけさっきまでの彼女が羨ましいものだ。平和な世界で温かい太陽の光と涼しい風を浴びて昼寝をしてみたい。そんな未来も欲しいものだ。

 

「…お腹空いた」

「そう」

「…お昼寝したらお腹が空っぽ」

「そう」

 

ぐぎゅううううううっと腹減り虫が鳴く。

 

「今度はお腹の音で抗議にしにかかったか」

 

あまり感情の出さない彼女だが、これでも一緒に過ごしていればだいたい何を考えているのかが分かってくる。多くの英霊と絆を紡いだ彼を舐めないでもらいたい。

彼女の考えが代々分かってきた藤丸立香は何故か張遼や華雄に驚かれた。張遼達曰く、呂布の考えが分かるのは凄いとの事。

 

「ん」

 

ぐぎゅうううううううううっと腹減りの抗議は続く。

 

「分かった。ごはん食べに行こうか?」

「良いの?」

「お腹の音を鳴らしておきながら…」

 

彼女は天然なのか狙ってやっているのか。

 

「肉まん食べたい」

「…肉まん売ってるの?」

 

肉まんはどの時代から存在していたのか。三国時代にはそもそも肉まんはあったのか。

一瞬そんな事を考えたが、すぐに考えるのを辞める。肉まんが売ってるならそれで良い。

 

「じゃあ町にでも行ってみる?」

「…行く」

 

藤丸立香と呂布の買い食い道スタート。

洛陽の町並みを見ながら歩き回る。目指すは点心やらなんやら売り出している屋台通りだ。

 

「肉まん」

 

鼻に薫るは食欲をそそる匂い。そういえば何だかんだで時刻は昼頃でお腹が空くのはちょうどいい時間帯だ。

お小遣いなら持っているから今日は昼から買い食いをしても事足りる。ならばもう今日は昼からずっと食べていても良いだろう。

 

「ぬぬぬ、何故こんな奴が恋殿と一緒に!?」

「□□」

「うわ、驚かすなです!!」

 

実は買い食い道のお供に陳宮とカルデアの呂布奉先が加わった。

呂布と2人で街に繰り出そうとしたら後ろからいきなり陳宮から「ちんきゅうきっく」なるものを食らった。陳宮曰く藤丸立香が我が主人の呂布を籠絡しそうに見えたから攻撃してきたとの事。

なんという誤解だ。籠絡なんてできもしないのに。

 

「うるさいです。お前は恋殿を籠絡して…恋殿の、恋殿の玉体を汚す気ですの」

「こんな街中でなんという事を言うんだこのチミっ子は」

「□□□」

「ほら、うちの呂布も微妙な顔してる」

「何でこいつが微妙な顔してるのですか!?」

 

それはやっぱり自分の知っている陳宮がこんなんだからだと思われる。藤丸立香も自分の知っているサディスト陳宮がこの外史だとこんな生意気チミっ子とは予想外だ。

あの呂布奉先も目の前の陳宮を見ると意気消沈して珍しく大人しい。本当に珍しい。

 

「お腹空いた」

「恋殿。街に来なくともご飯なら用意できましたのに」

「ううん。恋、立香と外に出たかった」

「やはりもう恋殿はこいつに…」

「何故そこでそうなるのかな。ほら飴あげるから」

「子供扱いするなですー!!」

 

子供ではないだろうか。

 

「恋も飴ほしい」

「はい」

「餌付けするなですー!!」

「肉まんも買ったよ」

「ん、ありがと」

「うううううぅぅぅ!!」

「ねね。うるさい」

「恋殿!?」

 

何だか忙しい陳宮だ。

 

「□□…」

 

今の言葉を翻訳すると「陳宮だが我が軍師の陳宮ではない也」と言っている。

確かに性格的にも背格好的にも全然違う。似ている処なんて軍師という肩書きくらいだけだ。

 

「もぐもぐ。むぐむぐ」

 

それにしても呂布はさっきから良いペースで肉まんを食べている。まるで肉まんが飲み物のようだ。

見ていて飽きないので追加の肉まんを買って渡す。

 

「もぐもぐ、むぐむぐ」

「もっと食べる?」

「立香も食べる」

「いただきます」

 

呂布奉先と陳宮も肉まんを渡され食べる。4人全員が肉まんを食べるのはまた珍しい光景かもしれない。

たまにはこういう1日もあっても良いだろう。

 

「…ん」

「何かな呂布さん?」

 

じーっと見つめてくる呂布。

 

「…お前は何か良い」

「いきなりだね!」

 

呂布は藤丸立香の傍に居る事が安心できると感じている。まるで董卓の傍に居る様にだ。

彼女とは別の安心感が有るのが呂布にとってはまた良いのだ。

 

「ずっと此所に居ろ」

「うーん、ずっとは無理だなあ」

 

目的がある。ずっと一緒にいることはできない。

 

「…むう、縄で縛る?」

「疑問形でサラっと不穏な事を言わないで」

「ん?」

 

よく分かっていない様子。

 

「……活気があるなー」

 

それにしても流石は洛陽だ。賑やかで活気がある。黄巾の乱が有ったというのに民達は変わらずの生活をして居る。

 

「これも官軍が頑張って黄巾党を倒した結果なのかな?」

 

黄巾党によって多くの民たちは苦しみを受けた。それを守った、守らなかったのも官軍。

守ってもらった民は感謝するが、守ってもらえなかった民たちは恨んでる。そのかわり守ってもらった諸侯に感謝する。

考えていて難しいものだ。頑張って戦っているのに感謝されないというのも有るのは厳しい。そんなのは手が回らなかったというのも有れば、見捨てたというのも有るから何が悪くて何が正しいなんて事になってしまう。

だけど今のこの町の風景は張遼や呂布が戦って守ったモノで有るのは間違いない。

 

「そんなの恋殿のおかげですからな」

 

陳宮は自信満々に答える。

 

「確かに呂布さんは一騎当千で戦ったからね…まるで怖い者知らずだよ」

「そんなの当たりま…」

「そんなことない」

 

ピシャリと陳宮が肯定する前に呂布が否定してくる。

 

「戦いは…戦争は怖いもの。たくさんの人が傷つくのが戦争。皆、傷つきたくないから相手を倒す」

 

前に華雄や張遼は呂布が何を考えているか分からない時が有ると言っていた。

確かに彼女は口数が少ないし、言葉で語るより先に行動を移す。だけど今言った質問や自分の答えを持っているという事は、実は良く考えているのかもしれない。

 

「お前は戦いをどう思ってる?」

「戦いに附いて?」

「うん」

 

いきなりな質問だ。まさかこんな質問をしてくるなんて思わなかった。

 

「恋も戦いは怖い。でも戦わないと生きていけない。だから戦う」

「□□□」

 

カルデアの呂布も外史の呂布が案外考えているのに頷く。彼女の考えは間違っていない。

生きる為に戦う。それは正しい。

 

「生きるために戦う。それは正しいと思う。俺だって今までの旅路はそうだったよ」

 

戦いは怖い。それも正しい。

藤丸立香だって多くの戦いを経験してきたけど、どれも怖かった。

でも怖くても負けられない戦いなのだ。なんせ彼の背中には大きすぎる使命を背負ってしまったのだから。

そんな使命は彼には重すぎる。だけど彼しかいなかった。藤丸立香しかいなかったから、その使命を背負い込んだのだ。

誰かがやらねばならない使命。誰でも良いというわけではないけれど、運命なのか偶然なのか藤丸立香しかいなかったから彼が背負い込んだ。

 

「…戦うという事は生きる為だけじゃ無い。その戦いで誰かを不幸にさせてしまうという事もある」

「誰かを不幸に?」

「何ですかそれは?」

 

自身の願いや正義、生存の為に他者の其れを踏みにじる事や何かを救う為に何かを切り捨てる事だ。

自分が幸せに成る事で誰かが不幸に成る。それは黄巾の乱でもそうだろう。

黄巾の乱で勝ったのが官軍で、負けたのが黄巾党だ。

勝った官軍はいつも通りの生活に、負けた黄巾党は絶望を。これで分かる筈だろう。

戦いに寄って誰かが勝つ事で誰かが不幸に成るという事を。

 

「何を言ってるんですか、黄巾党は悪なんですよ」

 

陳宮は黄巾党が悪だと疑っていない。実際に黄巾党のせいで多くの民達が苦しめられてきたのだから。

どこの町や村に行っても黄巾党が悪と断言するだろう。でも違うのだ。

黄巾党に成った者の中には此方と同じように生きる為に賊に成ったというのも有るのだ。

結局の処どっちも生きる為に戦っている。

 

「黄巾党を倒すのはダメだった?」

「そんな事は無いと思う。倒さないと此方が死んでたから」

「ん?」

「呂布さんの質問に対する答えだけど…戦うっていうのはお互いの曲げられない意思のぶつかり合いだよ。だから自分が背負っているモノの為に相手を倒して不幸にさせてしまうんだ。だけどそれを後悔しちゃうかもしれないけど…止まっちゃいけない」

 

官軍や諸侯にも負けられない理由が有る。黄巾党にも負けられない理由が有る。

それが黄巾党の戦いだったのだ。

 

「…曲げられない意思のぶつかり合い」

「もちろん、この答えが必ずしも正解ってわけじゃないけどね」

「ううん…その考えもいいと思う」

 

呂布は納得したような顔だ。彼女の質問に対する答えがこれでよかったようである。

 

「立香も、それで戦ったの?」

「うん。生きる為に、背負った使命の為に戦ったよ」

 

多く戦ってきた。その後ろには藤丸立香達が自分の世界を救う為に罪なき者達だって置いてきた。

その罪悪感に押し潰されそうだけど命を賭して守ってくれた友と約束したから挫けちゃいけない。

 

「立香は弱いけど…強い」

「なんだそりゃ」

 

武力的なものではない。呂布が言ったのは精神的なものである心の強さだ。

それを分かっているのかカルデアの呂布奉先は頷いていた。

 

 

69

 

 

今日は哪吒と一緒に洛陽の町を練り歩いている。買い食いしたり、町の子供達と遊んだりとしているのだ。

そんな事をしながら町を歩いていると、どこからともなく罵声が響いてきた。どんな場所でも喧嘩とかはああるらしい。

ここが天子様のいる洛陽であってもだ。

 

「ますたー 喧嘩 あっち」

「行ってみようか。だって聞き覚えのある声も聞こえたし」

 

その罵声の中で確かに聞き覚えのある声が聞こえた。ここ最近よく聞く声である。

現場に向かって見ると。

 

「ほれ、遠慮せんとかかってこんか」

 

この声の主は張遼である。

騒ぎの現場では彼女が凛々しい袴姿で仁王立ちになり、チンピラらしい3人組と対峙して居たのだ。

その3人組が何処かで見た事が有るような人物と一瞬思ったが他人の空似だろう。

 

「俺たちゃ、そっちのオヤジに用があるんだよ。関係ないヤツは引っ込んでろ!!」

「ひいぃ!?」

「おっちゃん、ええからウチの後ろに隠れとき。…せやから用事やったらウチを通せってゆうてるねん!!」

「うぐぐ…あ、アニキィ」

「あのな、お嬢ちゃん別にとって食おうってわけじゃないんだ。ちょーっとお願いしたいことがあるだけで…」

「う、嘘つけ。お前らオレに金をたかってきたんだろうが!!」

「てめえは黙ってろ!!」

「ひいぃっ」

「あんたが黙れや!!」

 

会話から察するに3人組に絡まれた人が張遼に助けられているという構図だ。

しかも張遼は挑発してるようでチンピラ3人組はイライラしている。なんとなくだがこの後の展開が読める。

 

「そんな訳の分からない因縁でおっちゃんから金をたかんなや。さっさと帰れ」

「この野郎」

「もういいっ、やっちまえお前ら」

 

チンピラ3人組は張遼の挑発に我慢できないのか武器を構える。

 

「やぁっとやる気になってくれたみたいやな。ほな行くでぇ!!」

 

張遼も自分の背丈由りもずっと大きな偃月刀を構えると、掛け声とともに地面を蹴った。

 

「でえええええやあああああ!!」

 

彼女の細腕のどこにこんな力が有るのか、という勢いで得物が振り上げられ、鋭い剣先が瞬く。

一瞬で2人のチンピラを倒した。

 

「ふっ…あと1人やな」

「くっ、この…」

「なんやまだやるんか? ウチは構へんで」

「くそっ…テメエら、いつまで寝てる気だ!?」

 

あっという間に仲間を伸され、リーダー格のチンピラも流石にこれ以上は部が悪いと判断したのかもしれない。

足元に転がる仲間を容赦なく蹴り上げて無理やり引き起こした。

 

「おら、さっさと行くぞ!!」

「はっ、もう二度とくんなや」

「覚えてやがれよ!!」

「うわあ…これまたつまらん遠吠えやな。もちっと気ぃきかせて、わんわんってくらい言うてみぃ!!」

 

逃げて行ったチンピラの背中に張遼は最後まで容赦なく罵声を投げつけた。

そしてチンピラ達が消えた後、周囲に居た市民達から大きな歓声が上がったのであった。

次々に浴びせられる拍手と称賛に、恥ずかしいと言いつつも彼女は気持ちよさそうに応えている。

 

「どもなー。ありがとー!!」

 

満面の笑みで手を振っていた張遼が、きょとんと眼を見開いて動きを止めた。

その目の先には藤丸立香と哪吒が居たからである。

 

「お見事でした」

「なんや立香に哪吒やーん!!」

「悪党 成敗 見事」

「なーに、こんなん当たり前や」

 

彼女は今日、非番であるようで街中を歩いていたらおっちゃんに絡んでるチンピラを発見して、先ほどのような事に為ったとの事。

先ほどまでの事は彼女の性格上許せなかったからこそ自らの手で助けたのだ。その行為に後悔は無い。

 

「さーて、この後はメシでも…」

「きゃあああああああ!?」

「なんや!?」

 

丁度お腹が空いたから藤丸立香達を誘って食事でもしようかと思ったその時、女性の悲鳴が聞こえた。 

すぐさま現場に走ると先ほどのチンピラ達が小さな子供を抱えて武器を突き立てて居た。

 

「わたしの子を返して!!」

「うるせえ、黙ってろ!!」

 

先ほどの女性の悲鳴はあのチンピラ達に子供を奪われた時に出た悲鳴のようだ。

 

「貴様ら…何しとんねん」

「さっきぶりだな。言っただろ? 覚えてろって」

「その子を早く母親に返しぃ」

「誰が返すかよ。これは人質だ…てめえをボコボコにする為のな!!」

 

人質。こういう犯罪によく聞くし、初歩的で悪人がよくするイメージのもの。

だが効果は何よりも誰よりも酷く効く。下手に動いたら無関係な人の命が消えてしまうのだから。

 

「貴様ら…腐ってんな」

「うるせえ黙ってろ。変に動くんじゃねえぞ!!」

「やるぅアニキ」

「だ、だな」

 

チンピラ達は圧倒的な有利に立って居る。流石の張遼も人質が取られては先ほどみたいに挑発も何も動けない。

 

「う、うああああん」

「黙ってろガキが!!」

 

人質になった子供は泣き叫ぶ。それに対してイラついて怒鳴るチンピラ。

これは最悪な状況だ。もしチンピラのリーダー格の手が滑って子供を殺すなんて事に為ったら最悪すぎる。

そこに居る母親と人質に成った子供は無関係な人達だ。無関係な人たちは巻き込まれてはならないし、傷ついてはならない。

そんな人たちは救わなければならない。

 

「ますたー あいつ等 許せない」

「ねえ哪吒…」

 

隣に居る哪吒を見ると怒りによって目が見開いていて、その目には殺気が籠っている。

子供達に優しき善神を望む哪吒にとって目の前で起きている事は許せないのであろう。もし此所にアタランテが居たら同じ反応をすると思う。

 

「へっ…どうしてくれようかな?」

「あ、アニキ。あの女をぶん殴らせてくだせい。やられた傷がうずくんで」

「だ、だな。オイラもなんだな」

 

チンピラたちは人質を取ってどうしてくれようかとゆっくり思案している。これは自分達が圧倒的有利だと思っているからだ。

 

「俺達に恥をかかせたんだ。同じように恥をかかせてやるぜ!…そうだな、この場で裸にしちまうのもいいかもな」

「おお、流石はアニキ!!」

「だ、だな!!」

 

下品な顔をしながら張遼を舐める様に見てくるチンピラ3人。

 

「こ、この下衆ども」

「そんなこと言っていいのか」

 

剣を子供の喉に近づける。

 

「さっさと脱げや」

「ちょっと待った!!」

 

ここで藤丸立香が手を真っすぐに上げる。

 

「あんだ小僧が邪魔すんな」

 

藤丸立香は両手を挙げて何も武器を持っていない一般人をアピールしながら近づく。

 

「ちょっ、立香はん」

「俺とその子を人質交換しよう」

「はあ、何を言ってんだお前?」

 

確かにいきなり人質交換と言われればチンピラたちの反応も分からないでもない。

 

「その子が可哀そうだ。俺と代わってほしい」

「ア、アニキどうしやすか?」

「そうだな…」

「うあああああん」

「だから黙ってろガキ」

 

子供はずっと泣き叫ぶ。

 

「俺なら泣かないし、何もしない。黙ってる。人質なら大人しい方がいいだろ?」

「…それもそうだな」

 

納得したようで人質交換が行われる。両手を挙げながら近づいて行き、相手の剣の間合いまで入る。

 

「此所まで来たから子供を離して。何もしない」

「ちっ、小僧が。ほらよ」

 

チンピラのリーダー格は子供を乱暴に投げつけた。

 

「あ!?」

 

哪吒は急いで駆け出して子供をキャッチ。そのまま母親に優しく返す。

 

「坊や!!」

「うあああん! お母さああん」

 

良かった、という顔をした後にすぐさまチンピラに顔を向けて殺気を滲み出す。

よくも子供を投げ飛ばしたという想いと、マスターを傷つけたら許さないという二重の殺気である。

 

「大人しくしとけよ小僧」

「はい」

 

子供は助け出したが藤丸立香が代わったというだけでピンチと言う意味では変わらない。

でも変化は起きている。

 

「ほれ、続きだ。さっさと脱げ女」

「ぐ、こんの…」

 

張遼としてはこんな奴らの言う事を聞くつもりは無い。だが藤丸立香を見捨てるわけにもいかない。

 

「おらおら早く脱げやー!!」

 

下品な笑い声が周囲に響き、周囲に居た民達は不安な顔になっていく。

そんな中、藤丸立香は哪吒にアイコンタクトを送る。そのアイコンタクトが逆転の開始であった。

 

「はっはっはっはっは、がふう!?」

 

チンピラがいきなり後ろに吹き飛んだ。

 

「なんだぁアニキ…ゲフ!?」

「…ごふ!?」

 

残り2人も前のめりに倒れる。

その隙をついて藤丸立香は捕縛から抜け出して跳ぶように駆け抜ける。

 

「あと頼んだ哪吒!!」

「了解 ますたー 張遼 お前も来い」

「よっしゃ任せろや! こんな下種共ぶっ潰す!!」

 

哪吒と張遼が怒りの形相でチンピラ達に拳を振るった。

それだけで今度こそチンピラどもとの関わりはお終いだ。張遼達の怒りによってボコボコに成ったチンピラは捕縛されて後から来た華雄達に引き渡した。

 

「おお、霞。非番なのにお疲れだな」

「もうちっと早く来てくれてもなあ」

「んん、何だ?」

 

華雄に労われている中でチンピラを制圧した張遼と哪吒は民達から歓声を受けていた。ただチンピラを倒しただけだが正義が悪を倒すという構図によって歓声を受けているのである。

それでも悪い気は起きない2人なので恥ずかしながら対応している。

 

「ありがとう哪吒、張遼さん」

「ますたー 無事 良かった!」

「ええって、ええって」

 

周囲に居た多くの民達は哪吒と張遼に歓声を上げている。その2人だけにである。

身代わりに為った藤丸立香は歓声は無い。だって悪党を倒してないのだから。だけど歓声が無い事に不満は無いのだ。

藤丸立香は歓声が欲しくて子供の身代わりになったわけでは無い。他人とは言え母親と子供を助けたいから哪吒と協力して身代わり行為をしたのである。

 

「あの…」

「ん?」

「うちの子を助けてくれてありがとうございました!!」

「ありがと。お兄ちゃん!!」

 

評価されない時もあるだろう。でも見てくれている人もいるのを忘れてはならない。

ポンポンと優しく子供の頭を撫でる。

 

「無事で良かったよ」

「ぼく強くなる!!」

「そっか、頑張ってね。君なら強くなれるよ」

 

笑顔で子供の夢を応援する。きっとこの子なら強くなるだろう。

これにてチンピラ達小悪党との関わる事件は終わりだ。後は元々、張遼から誘われようとしていた食事に行こうとの再開である。

 

「なあ立香」

「何かな張遼さん…ズルズル」

 

ラーメンを啜っている時に張遼から名前を呼ばれる。

 

「あん時にチンピラどもがいきなり態勢を崩したよな」

「うん」

「何したん?」

「俺は何もやってないよ」

「そんなはずないやろ。ウチはこの目で立香の懐から何か物体が飛び出してチンピラどもに当たったのを見たで!」

 

あの時チンピラ達がいきなり態勢を崩した。それは普通だったらあり得ないが張遼の目には何か小さな輪っかのような物が飛んでいたのを見たのである。

そしてその輪の様な物は目の前にいる藤丸立香の懐から出てきたのも見た。

 

「したのは俺じゃなくて哪吒だよ」

「もぐもぐ ん?」

 

自分の名前が出たので視線を向ける哪吒。その手には箸で焼売を摘まんでいる。

 

「哪吒はんが?」

「うん コレ」

 

そう言って哪吒が見せたのは腕にはめている乾坤圏。

 

「なんやそれ?」

「乾坤圏」

「ん? どっかで聞いた事があるよーな…」

「えい」

 

哪吒は乾坤圏を宙に軽く投げる。

 

「停」

 

乾坤圏は宙に留まる。

 

「おわっ何や宙に輪っかが浮いてるで!?」

 

驚いた張遼を更に驚かせようと哪吒は乾坤圏を自由に操る。

 

「あんた妖術師やったんか!?」

「違う どっちかと言われれば 道士?」

「同じようなもんやろ。五胡に妖術師がおるって噂で聞いたけど…ほんま者を直に見たのは初めてや」

(五胡?)

「他にもいろいろ出来るんか」

「できる」

「見せてーや」

「見世物じゃない」

「ちぇー」

 

二人の説明で何でいきなりチンピラたちが態勢を崩したのか理由が分かった。

最初から藤丸立香が身代わりになる時には打開策を持っていたのだ。

 

「立香が考えたん?」

「うん。まあ危なっかしい策だったけど…あの後、心臓バクバクだったから」

「いやいや、上手くいったやん。十分良い策だった思うけど」

 

上手く策が成功した。それは良い。

だけど上手くいかなかったら、という事だってあるのだ。

 

「もし、身代わりに応じてくれなかったら。騙されて俺も人質になってしまったら。怒りを買って暴れだしたら…色々とあるよ」

 

策を考えるのは1つだけでは足りない。様々な可能性を考えて幾つも用意するものだ。

カルデアで諸葛孔明の授業でもよく言われている。

 

「なんや他にも策があったんか?」

「うん。これも孔明先生の授業の賜物だね」

 

授業ではよく困らせて申し訳ないが勉強が役に立っているので、今ここで心の中に諸葛孔明に感謝。

後で実際に会って感謝もしないといけない。

 

(色々と片付いたら新しいゲームを買ってあげよう)

「やるやん立香。アンタはいずれ軍師か策士にでもなるんか?」

 

軍師か策士に成る。そう言われてもピンとは来ない。

カルデアのマスターは軍師や策士は違う。

 

「何か違うかな…」

「ん、そうなん?」

 

張遼は頭にハテナマークを浮かべながら春巻きを齧る。

 

「ま、でも今回の騒動の解決は立香のおかげやで。ほんま助かったで」

「うん ますたーのおかげ 偉い」 

 

策を考えた藤丸立香のおかげで打開できた。これは紛れもない真実だ。

 

「でも倒したのは2人じゃない。2人を信用してたからできた策だよ」

「こら。これはあんたの功績でもあるんやから胸を張りぃ」

 

バシバシと肩を叩いてくる張遼。謙遜も良いが自分の功績は胸を張るべきだと教えてくれる。

藤丸立香は戦えない。でも、怖くても自ら足を歩める勇気と強さを持っている。

優秀で才能ある仲間達の主である彼は何ができるのか。最初はそればかり思っていた。

凄い者達の主のくせに、これといって活躍はあまり聞かない。でも今日の事でやっと分かった。

ただの善人というわけでは無く自分の出来る事を出来る範囲でこなしている。身代わりなんて自ら代わるような人間はそうそういない。

今まで一緒にいて、人助けや並々ならぬ信念からの行動などに対しては損得勘定抜きで真摯に応える姿勢を貫いている人物だと思った。

その良さが哪吒達が主として認めている1つなのかもしれない。

 

「やっぱあんたは良いやつやな立香」

 

ニカリと笑う。

 

「あんたは、変わらずそのまま良い奴でいてな」

 

 

70

 

 

張譲は策を考える。どうやって邪魔な何進達を消すかを。

彼女の妹である何太后は霊帝の妃。普通に消しては怪しまれる。それに何進の回し者が自分である張譲について調べている。

おそらく黄巾党のつながりがあると踏んで調べているのだろう。確かにあるからもみ消したが、何進の事だからどこからか炙り出す恐れがある。

 

(だからこそ今の何進は邪魔だ)

 

今の霊帝は十常侍の1人である趙忠が骨抜きにしている。最もあの彼女は本当に霊帝を甘やかしているのだが。

だけどそれだけでも此方としては助かる。上手く霊帝を操れるかもしれないからだ。

 

(だが霊帝も力が弱まっている。なんせ政事に興味が全くないからな。アレはただ美食を食う日々を過ごしているだけだ)

 

そうなったのには十常侍の彼女にも責任の一端がある。

 

(あいつは惚けた顔して腹黒いからな。余計な情報を霊帝に流さないのには良い働きだ)

 

趙忠が張譲にとって良い働きをしてくれるのならまだ残す必要はある。

 

(いずれは十常侍の見直しも必要だな。それにしても于吉は最近顔を出さないな。それほどまで妖馬兵の準備に時間が掛かるという事か?)

 

妖馬兵は張譲が待ちに待っている戦力。それさえ手に入ればすぐにで何進だろうが呂布だろうが倒せる力なのだ。

 

(まあ、良いさ。妖馬兵が来るまで朝廷をより我が手で絡めてみせる。その為に邪魔者は消してやる)

 

張譲はより力を得る為にまだまだ洛陽で策を巡らせる。それが漢王朝の衰退であると分かりながら。

 

 

71

 

 

漢の大将軍である何進は妹の何太后と密やかに会話をしていた。

 

「あの暗君め」

「姉さま。どこに耳と目があるか分かりませんよ」

「ここなら安全だ。瑞姫だって暗君のご機嫌取りは飽きただろう。それに張譲も邪魔すぎる。あの魑魅魍魎の十常侍めが」

 

何進は大将軍なって全て人生上手くいくものかと思えば、実際は心労ばかりだ。最近は霊帝のご機嫌取りと十常侍の睨み合いばかりな気がする。

張譲に関しては、調べていくとキナ臭い事が分かった。それは黄巾党と繋がっていたという事。もしそれが本当ならば、それをネタに張譲を消すことができるのだ。

だが調べさせるように部下に任せたが未だに良い情報は持ってこない。もし、情報が無くともいずれは消す算段は他にも考えている。

 

「褒めたくはないが、もみ消すのはお手の物か張譲め」

 

張譲だけでなく十常従の全てを消さねば安心はできない。ここ最近は対立が明確になっているから近いうちに此方から仕掛けないとマズイだろう。

だからどうやって上手く策を実行させるかだ。

考える事やストレスによって最近は彼女の酒の量が増えたかもしれない。

 

「ところで姉さま。最近というか前から董卓のところに面白い客将が居るのを知ってる?」

「何だそれは?」

「どれも優秀な人材らしいわよ。武力も知力も揃ってる人達だとか」

「董卓の所に居るのが勿体ないではないか!」

 

今の状況では優秀な部下ができるだけ多く欲しい。全ては周囲の敵を倒す為と自分達を守るため。

大将軍と霊帝の妃という位にいるとはいえ、安全というわけでは無い。逆に国のトップの位置に近い程、足元が危険なのだ。

いつ狙われても、暗殺されてもおかしくはない地位である。

 

「それに良い男もいるみたい」

「ほお、それはそれは!」

 

ニヤける何進。

 

「その人たちは1人の主に仕えて旅をしていた集団みたいでね。その主とやらを籠絡すれば董卓の元から奪えるかも」

「なら…」

「試してみましょうか」

 

実は何太后、前にチラリと董卓の所で客将をしている集団の主である男とやらを見た事がある。

その男は何太后になかなか好みの男性であったし、誘惑すればすぐにでも籠絡できそうな感じであった。

籠絡さえできれば董卓のところからごろりと人材を奪えるだろう。

 

(なんて名前の子だったかしら?)

 

まさか、そんな事が話されているなんて藤丸立香は思うまい。だがこれで藤丸立香たちは宮中での闇に少しずつだが巻き込まれ始めているかもしれない。




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください(たぶんまた来週予定)

今回は呂布と張遼たちの日常回でした。
それとちょいちょい、次回からは日常回だけではなく、本編に繋がるような話も入れていこうと思ってます。

次回はどうしようかな…何太后や卑弥呼とかの話にしようかな。
では、また


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洛陽での日常3

こんにちは。
早くも物語が書けたので投稿します!!

今回は前話で予定していたように何太后や卑弥呼達の話にしました。
それとメインの物語に続く話もチョイチョイと。


72

 

 

藤丸立香はぼーっとしていた。

今日は特に何かする事もないのでぼーっとする事しかないのだ。

于吉の手がかりが無いので動く事もできない。これは卑弥呼の帰り待ちだ。そして于吉と繋がっているであろう張譲相手にも藤丸立香は何もできない。

董卓の客将とはいえ、十常侍に近づく権限は無い。これは董卓から情報を貰う事しかできないのだ。

あと貂蝉が潜入捜査しているらしい。

 

(あの姿でよく潜入とか出来るよね)

 

貂蝉はアサシンのように気配遮断スキルを持っているのだろうか?┈謎である。

勿論、燕青達アサシンクラスにも調べてもらっている。今やれることは全てやっている。

だから今は待つしかない。

 

「暇だから日向ぼっこしかできない」

 

微睡みに意識がどんどんと持っていかれる。久しぶりのレムレムモードだ。

レムレムモードになってどこかに飛ばされるのは勘弁である。

時代や世界は違えど太陽の温かさは同じのようだ。

 

「…………………………………………………………………」

 

眠ってどれくらい経っただろうか1時間か2時間か、眠って目が覚めてもまだ日は高いまま。

まだ眠気が残っているので至福の二度寝に入る。

そんな時に声を掛けられる。その声は知らない声であった。

 

「ねえ、ちょっと」

「んえ?」

 

目が覚めると目の前に全然知らない美人がいた。

 

「誰?」

「寝起きとはいえ、誰だなんて不敬な言葉ね。でも妾は寛大だから許してあげる!」

 

いきなり注意された。こちらが悪いのだろうか、と疑問に思うがまだ眠気によって意識がいまいち覚醒していないのだ。

目を擦りながら目の前に居る美人を見る。緑髪の長髪でどこが艶やかさと高貴さを隠すことなく感じさせる。

本当に誰だか分からない。分かるのは官軍、というよりも宮中の誰かだろう。おそらく偉い人かもしれない。

そうなると確かに今の藤丸立香は不敬になるかもしれない。でもまだ寝たままである。

 

「あー…えっと。姿勢を正します」

 

もそもそと正座をする。

 

「誰ですか?」

「貴方…私が分からないの?」

「分かりません」

 

本当に分からない。董卓のおかげで宮中に入れて居るがそれは董卓達に足を踏み入れて良いと、許可がある所だけだ。

そもそも今、藤丸立香が宮中に居る事自体がよくよく考えれば凄いというか異様というか変な状況であるが。

 

(あ、でも第二特異点ではネロの宮中や第七特異点ではギルガメッシュ王の宮中によく足を運んでたなぁ)

 

案外、お偉い人達の場所に身を置いていた気がしなくもない。

 

「自分は藤丸立香です」

「うんうん。まずは貴方から名乗ったわね。それで良いわ。私は何太后よ」

 

何太后。この名前は董卓から聞いた覚えが有る。それは霊帝の妃であり、何進大将軍の妹だった筈だ。

 

「ああ、霊帝様の妃様…」

「そうよ…って、それでも驚かないのね」

 

何太后としては焦ったり、恐怖したり、諂うかするかと思ったが目の前に藤丸立香は変わらずの態度のままだ。

不敬を通り越して新鮮な態度に気分は悪くない。

 

「貴方って確か董卓の所の客将をしているんですってね?」

「そうです。で、何太后様がどうしてこんな所に?」

 

そんなお偉い人が何でこんな所に居るのか分からない。そういう人は宮中でも奥の奥に居る筈なのに。

まさか第七特異点のギルガメッシュ王のように彼女も外に出て調べものをしたりするのだろうか。

そうなるとこの世界の何太后はなかなかアクティブだ。

 

「何か用ですか」

「貴方、私に対して思うことは無いの?」

「美人ですね」

「当たり前よ」

 

いきなり何か用とか思う事とか無いのかと、言われてもよく分からない。だから第一印象を直ぐに答えた。

当たり前と返されたが。だがその返しは英霊で慣れている。

契約した英霊の中には自分が美しいと自信をもって言う英霊は幾らでも居る。実際に美しいから正論なのだ。

 

「貴方は董卓の所で何をしているの?」

「客将」

「それは知ってるわよ。具体的には?」

「えーと…」

 

取り合えず彼女に逆らうのはやめておくべきである。特異点やカルデアでは彼女のように偉すぎる人物には幾らでも会ってきて感覚が少し麻痺しているかもしれないが普通だったらこの状況は異常である。最悪、不敬罪で首を刎ねられてもおかしくはないだろう。

そして董卓達に迷惑がかかったら困る。

彼女に言われた質問を答えていく藤丸立香。

 

(うーん、使えそうな情報を持っていなさそうね)

 

何太后としては何か使えそうな情報が欲しかった。それは今の宮中で上手く生き残る為にだ。

最近は何進と十常侍の対立がより大きくなっている。特に張譲達と十常侍の動きは怪しい。いずれ何か仕出かす可能性は高い。

その為に彼女にとって有利と成る情報を調べているのだ。彼女は目的のためには自ら動いた。危機を退ければこれ迄道理に贅沢な暮らしに娯楽を楽しめる。

 

「ーーそんなもんかな」

 

目の前にいる彼だが、董卓の所で客将をして居るのだが。密偵から聞いた話だと客将扱いだが董卓軍としては重宝しているとの事。

武力や知力に抜き出ている者がぞろぞろ揃っているのが吸収された状況だ。それを董卓に渡すのはもったいない。できれば欲しいものだと考えているのだ。

その破格な人材は何でも目の前に居る彼が中心でいるそうな。彼が破格な人材達の主人。

 

(見た目はなかなか良いけど…平凡そうね)

 

平凡そうな彼なら色香で籠絡できるかと思えば、今のところ彼は何太后に対して欲情した目を向けていない。

何太后を見る男の目は色欲に染まった者が多い。世の中の男はそんなモノだらけだけで、一声かければ籠絡できるものだと判断しているのだ。

だが藤丸立香はそんな気はなさそうである。時折こちらで色香を出しているが全く効いて無さそうである。女性に興味が無い、という分けでは無さそうでは有るが。

ただ自分の色香が効いていないのは癪に障ると思ってしまう。今まで自分の地位と美しさならどんな男も手玉に取れたが今回の事は初めてなのだ。

 

(何でかしらね?)

 

藤丸立香も女性の色香が効かないという分けでは無い。むろん効く。こういう言い方も妙かもしれないがカルデアでは藤丸立香は多くの女性英霊に誘惑されているから耐性が多少付いただけだ。

でもエウリュアレやステンノのチャームは今でも勝てない。よくチャーム掛けられて遊ばれる。

 

(特に董卓とかの弱みなども知っていなさそうね)

 

情報を知らないのなら、やはり籠絡して彼等の力を取り込みたい。

 

(芋男ならこんな事しないけど彼なら合格点だし)

 

何太后は藤丸立香の腕を掴んで自分の胸に引き寄せる。柔らかい感触が広がっていく。そして甘い言葉を紡いでいく。

こうすればどんな男だろうが落ちると確信して彼の顔を見る。

 

(えっ…!?)

 

藤丸立香の顔は少しは驚いて照れている感じではある。だがそれだけで、男を手玉に取ったという達成感は感じられない。

デレデレして完全に落ちると思っていた予想が外れたのだ。

 

(何で!?)

(ハロウィンの時のおっきーを思い出した)

 

しかも藤丸立香は何太后ではなくて刑部姫を思い浮かべている始末である。

 

「ねえ何太后様」

「えっ、何?」

 

自分の色香が効か無い事が予想外だった中、いきなり声を掛けられて少し動揺してしまう。

 

「后様って暇なんですか?」

「暇って…」

 

予想外の質問に肩がガクっとする。

暇では無い。でも霊帝のご機嫌取りやら何やらが毎日で同じことばかりではあるかもしれない。

最初は霊帝の妃として見初められた時は良かった。何もかも全て上手くいくものかと思っていた。でも今はそんなこと彼女は思ってない。

 

「ある意味暇かもね。面白い話でもしてくれるかしら?」

「いいですよ。そうだな…じゃあチェイテピラミッド姫路城の話を」

「何よそれ…?」

 

彼女の先ほどの行動で刑部姫を思い出したからハロウィンのあり得ない物語を紡ぎだす。もちろん話せる範囲で、脚色はするが。

脚色しても常識的に考えて信じられなく、そんなものが存在するなんて考えられ無い。それは聞いていて信じられない物だが耳を傾けるのに十分な話だった。

気が付けば何太后は彼の旅路の物語に夢中になっていた。話している内容がハロウィンで信じられないが物語としては面白い。

面白くて不思議で今日一日は彼の話を聞きこんでしまったのであった。

 

「ーーっていう事があったわ」

「坊主の話を聞いて来ただけだったのか端姫?」

 

何進としては何太后が董卓の所の客将の坊主を籠絡してきたという報告が聞けると思っていたが予想の斜めの報告であった。

 

「まさか端姫の色香が効かぬとは…正直信じられぬぞ」

「まったく効いていなかったわけじゃないんだけどねえ」

 

効いていない分けでは無い。だが藤丸立香の意識が何太后に魅了されなかっただけだ。

 

「うぬぬ…聞く話によると一騎当千の武人が居るというから我らの手駒にしたかったのだが」

「それと軍師と文官両方をこなすキレ者も居るそうよ」

「董卓め。どこでそんな人材を…私も自ら動くか?」

「姉さまのいやらしいお身体で誘惑すれば大丈夫ね。だって姉さま淫乱で度し難いもの。流石は姉さま」

「ああ……って、今のは褒めたのか端姫?」

 

よく分らないうちに藤丸立香はどんどんと何進と何太后に目を付けられる。

 

 

73

 

 

藤丸立香の先生である諸葛孔明はまたも賈駆から文官の仕事を回されていた。こんな仕事は彼がやる物では無いのだが、彼の才能をうまく利用しない手はないと賈駆は面倒くさい、もとい彼にこなせる仕事をふっているのだ。

これには賈駆の仕事が減っているので助かっている。これで彼女自身も色々と手が回せるというものだ。

 

「一応私は客将という扱いだが、こういうのを任せるのは拙いのではないのか? 賈駆よ」

「仕事が出来る奴が居るのならアタシは幾らでも利用するわ」

「……機密だったりしないのか」

「そういうのは回さないから安心して」

「今すぐ開放しろ」

「嫌よ。貴方ほどの人材を何もさせないのは勿体ないわ」

「それなら武則天も使え!」

「あー…彼女はちょっと苦手なのよ」

 

確かに武則天は基本的にマスター以外の者の言う事は聞かない。

聞く人が居てもそれは武則天自身が認めた人だけだ。

 

「たまに手伝ってくれるけど…彼女自身が好き勝手にするから困るのよね」

「まあ、しかたあるまい。彼女はちょっとな」

 

武則天は英霊とはいえ、皇帝だ。彼女に命令する事なんてできない。それを彼女は許さない。

だからこそ武則天は好き勝手にしているのだ。今頃は洛陽の町を歩いているかマスターと一緒に居るかだろう。

 

「ところで張譲のことが聞きたいんだっけ?」

「ああ。何でも道士と繋がってるだとか…貂蝉たちの情報だとな」

「うっ…」

 

圧倒的筋肉である貂蝉を思い出して顔を青くする。流石にもう気絶しなくなった。彼女も成長したようだ。

 

「そういえばその貂蝉とやらは?」

「知らん」

「月と一緒に居るだなんて言ったら許さないわよ」

「それを私に言うな」

 

話が一瞬それたが話を戻す。

張譲が謎の道士と繋がっているという事。

 

「道士かどうか分からないけど誰かと会っている形跡は有るわ。でも最近は無いみたいだけどね」

「そうか」

 

太平要術の書はその道士に奪われた。しかもその太平要術の書は元々、その道士の物で在ったのなら黄巾党と繋がっていた可能性が有るという事だ。

ならば張譲も黄巾党と繋がっている可能性が浮上してきた。

これは賈駆も面白い情報だと思った。張譲が黄巾党と繋がっていたらそれをネタとして追いやる事ができる。

だから賈駆も確実な情報を得ようと張譲について調べている。だがこの宮中で様々な人物の調べ上げなんて誰もがやっている。

 

「やはりこういう所は魔窟だな」

「否定はしないわ。実際にそうだし」

 

どの時代もこういう所は魔窟やら蟲毒の壺の中だとかと例えられている要だ。

こういう場所には然るべき専門の人が居るべきだろう。ちょっと頭が良いくらいの者では利用されて捨てられるのがオチだが。

だからこそ優しい董卓が此所に居ることが合わない。

 

(彼女だからこそか?)

 

董卓は優しい。史実とは真逆のような性格だ。

恐らくこの洛陽で唯一の癒しであり、救いなのかもしれない。

 

(そういえばまともなのが将軍に2人いたか…確か盧植と皇甫嵩だったか)

「失礼しますね」

「貴女は…趙忠じゃない。何よ?」

「ちょっと前に話した事で相談よ」

「ああ、アレね」

 

何かの秘密の相談と察知して諸葛孔明は部屋から出ようとするが賈駆に止められる。

 

「貴方も加わってくれない?」

 

面倒に巻き込まれてため息を吐いてしまう。

 

「何だ?」

 

妙な事に巻き込まれたものだ。

 

 

74

 

 

「こおおおおおおおおお!!」

「奮破!!」

 

貂蝉と李書文が拳で語り合っていた。語り合っていたというのは少し違う。恐らく稽古をしているだけだ。

稽古とはいえ、あの李書文と渡り合っている貂蝉はやっぱり只者ではない。

 

「ふんぬうううううううう!!」

「喰らえ!!」

 

拳と拳の打ち合いが続く。

 

「いやぁ、凄いねえ」

「まったく」

「せやな」

 

彼等の稽古を見るのは燕青に華雄、張遼。戦いが好きな武人達は暇な時よく稽古をしている。

そこに貂蝉が加わってより暑苦しくなっているのだ。

そもそも英霊と渡り合っている貂蝉とは一体。そうなると卑弥呼もまた同じくらいの強さなのだろうか。

彼らの筋肉は見せかけではないということだ。おそらく筋力はAやEXは有るかもしれない。

 

「お主の拳は重いな」

「当たり前でしょ。なんせ私の拳には愛が籠ってるんだからん」

「メチャクチャ強いけどキモイんやよな」

「ああん?」

「あ、すまん。だからその顔やめてーな」

 

流石の張遼も貂蝉の睨みには勝てないようだ。

 

「まったくこんな可愛い漢女のどこがキモイて言うのよ。酷いわぁん」

「可愛い?」

「まぁ、人様をいきなりキモイは確かに酷いかもな」

「そうよねぇ! 燕青ちゃんわかってるぅ」

「でも見た目は大事だぜ。常識的に考えて」

 

人様に「キモイ」は中傷の言葉だろう。でも言われてしまう原因があれば庇うことはできない。

貂蝉の見た目は女性下着を履いただけのゴリゴリの筋肉漢。常識的に考えて変質者と言われても擁護はできない。

 

「この姿のどこがキモイのよん。何も隠していない清廉潔白な肉体じゃなぁい?」

「何も隠していないっていうか、何も着てないからな」

「あっ、でもぉ! 大事な所は隠してるけどねん」

「そこは絶対に隠しとけ」

 

貂蝉の衣服防御はカルデアにいる誰よりも頼りない。

 

「ま、それは置いておいて。今回ばかりは于吉ちゃんにキツイお灸を据えないとね。だから私も鈍った感を取り戻さないと」

「その于吉とやらは強いのか?」

「いいえ、どちらかと言えば策を講じるタイプの子よ」

「なるほど。ならば我らが軍師の出番だな」

 

がんばれ重労働軍師。

 

「お疲れー」

「おっ、主」

「あらぁ、立香ちゃん!!」

「立香はんやん。どうしたん?」

 

稽古をしていた所に藤丸立香がやって来る。一緒に稽古をするわけではないが暇だったので見学しにきたのだ。

勿論、稽古しているのだから差し入れも忘れずに。

 

「はい差し入れ」

「気が利くやん立香!!」

「何か城下町で人気の饅頭だって」

「いただこう」

「いっただくわん」

「儂は茶で」

 

稽古は一旦中断。休憩である。

 

「貂蝉と手合わせしてたんだね」

「うむ。貂蝉という名前のくせして実力は一流だ」

「いやん、立香ちゃんったら惚れ直した?」

「……」

 

貂蝉がこういう人物というのは理解しているがそれでも圧倒される時がある。

圧倒されると言うか、背筋がゾワゾワするというか、貞操に危険を感じると言うか。

 

(それにしても李師匠と互角に戦えるって…やっぱり何者なんだろう貂蝉って)

 

英霊で無く、人間の身で在りながらその殻を破った者達を見た事は幾人か有る。それでも目の前に居る貂蝉は別な感じがするのだ。

前にも思ったが貂蝉や卑弥呼は人間ではないのかもしれない。変な意味ではなく、『外史の管理者』という存在に対してだ。

『外史の管理者』とは次元を超えた存在だ。意外にも英霊より高度な存在だってあり得る。話を聞いていれば外史という無限ともいえる世界を渡っているという。

それは此方側の主観で魔術ではなく魔法の域ではないだろうか?そう冷静に考えるとやはり貂蝉や卑弥呼は次元の違う存在である。

 

(なら同じ存在である于吉も…?)

 

目下の敵である于吉も油断できない存在に成る。ただでさえ、諸葛孔明や荊軻達に気付かれずに現れて太平要術の書を奪ったのだから。

貂蝉の情報からだと于吉は戦闘タイプではなく、策を講じて攻めてくるタイプだ。そうなると多くの策で攻めてくるだろう。

その策がどのようなものかは分からない。だが今もその策が足元に近づいてくるかもしれないから油断はできない。

 

(于吉はこの洛陽で張譲と繋がっている事は分かっている。ならこの洛陽で何か策を用意しているに違いない)

「あらん? 立香ちゃんの視線が熱いわよ」

「……熱い視線じゃなくて冷たい視線の間違いちゃうんか?」

 

考え事をしていたのだが貂蝉から勘違いされてしまった様だ。

 

「んー…貂蝉ってどんな人か詳しく知りたいなって思っただけ」

「あらヤダ立香ちゃんたらっ!?」

 

急にクネクネする筋肉漢女の貂蝉。その頬は何故か乙女のように赤らんでいた。

 

「アタシの身体の隅々まで知りたいだぁなんて!…あっ、ダメ、ソコはダメ。アタシにはご主人様がいるのにー!!」

「……そんな事は言ってないから」

「こいつは何を言っているんだ?」

「華雄が知らなくても良いと思うぜぇ…」

 

白い目で貂蝉を見る藤丸立香たちである。

 

「てか、本当に誰なのさ貂蝉の言うご主人様って…」

「うふふ…立香ちゃんに似て、可愛くてカッコイイ素敵なご主人様よ」

 

もの凄く気に成るがそのご主人様とやらに同情もしてしまいそうだ。

 

「でも、およよ…ご主人様にはライバルが多いし、アタシの気持ちに気付いてくれないの」

 

急に乙女のように落ち込んだ。いろいろと忙しいようである。だけどそのご主人様も貂蝉の気持ちに気付いていない振りをしているだけだろう。

気付いたら気付いたできっと大変だ。もしかしなくとも気付いているが現実に目を背けているのだろう、そのご主人様とやらは。

 

「うおおおおおお。でも貂蝉負けない。まだまだ漢女力が足りてないのよきっとぉ!!」

(その漢女力って何ぞ?)

 

漢女力の漢の部分は十分あると思う。女の部分は恐らく無いと思う。

 

「分かるか拳法の先生よぉ?」

「儂には全く分からぬ」

 

貂蝉の考えはきっとここにいる誰もが分からないだろう。

 

「…まあ、でもきっといつかは貂蝉の気持ちも通じるよ」

「立香ちゃん?」

「今日まで貂蝉たちと一緒にいたけど、貂蝉は悪い人じゃないからね」

 

貂蝉と卑弥呼の言動には背筋がゾワゾワするが悪い人間ではないのだ。善人と言われても分かるほど良い人なのだ。

人を気遣う気持ちもあるし、外史の秩序を守るために戦う熱い気持ちもある。

彼は間違いなく良い人間で信頼できる。

 

「貂蝉のその気持ちが実るかどうか置いといて、信頼は築けるよ。俺は仲間としてもう信頼してるしね」

 

新宿やアガルタで怪しい仲間はいたが、今回ばかりは信頼できる。それほど貂蝉と卑弥呼は善人だと思えるのだ。

藤丸立香が「信頼している」という言葉と笑顔を貂蝉に向ける。

 

「立香ちゃん…!!」

「この洛陽に来るまで一緒に戦った仲だし、守ってくれた事もあった。それは助かったし、嬉しかったよ」

「それわぁん…」

「まだ出会ったばかりなのに俺らを心配して気遣ってくれたのも嬉しかった」

「んんん!!」

「貂蝉は俺のことどう思ってるか知らないけど…俺は貂蝉や卑弥呼の事はもう信頼できる仲間と思ってるよ」

「もうダメぇん!!」

 

バタァンといきなり倒れて頬を赤くしながら悶絶している貂蝉。

 

「ダメん…ご主人様を裏切らせないでぇー!!」

「…どーしたのさ?」

 

何故倒れたのか分からない藤丸立香。

 

「ああ…これが絆されるってことなのねん!!」

「………」

 

何故か貂蝉との絆レベルが上がったようである。

本当に分からないけど絆レベルが上がったのが実感出来てしまった。

 

「あーあー、またウチの主は…」

 

藤丸立香の人たらしや英霊たらしは『EX』を誇る。

どんな相手だろうが9割がた仲良くなれるし、絆を深めることができる。

そのせいか男女関係なく友情、親愛、愛情と向けられるほどである。

それはこの外史に来てからも変わらず発揮している。

 

「まあ、スパルタクスやヘシアン・ロボ、あのおっかねえ山の翁の爺さんに煩悩菩薩の殺生院キアラまで絆を深めてるからなぁ主は…そこの筋肉漢女の貂蝉と絆を深めてもおかしくはないか」

「…だな」

 

燕青と李書文はうんうんと納得している。そして張遼と華雄もまた分からないでもない、という顔をしているのだ。

 

(まあ、確かに立香は人の心に近づくのが上手いっていうかなんていうか…でも無神経に近づくってわけでもちゃうんよね。なあ華雄?)

(う、うむ。私も彼の誠実な性格は嫌いではない。あの恋すら懐いているしな)

 

何かあったのか知らないが2人は少し頬を赤くしながら、その何かを思い出している。

 

(いつの間に何をしたんだ主?…荊軻の姐さん何か知ってっかな?)

 

藤丸立香の天然人たらしは何処でも猛威を振るっているようである。

しかもこれは意図的では無く、天然でやっているのだから恐ろしい。

 

 

75

 

 

卑弥呼は于吉の現れる妖馬兵が封印されている場所に来て中を確認したのだが。

 

「ぬう!?」

 

しかめっ面の卑弥呼。どうやら遅かったという意味の顔だ。

もう既にこの場に妖馬兵の軍隊は無い。もう于吉によって回収された様だ。

 

「おのれ于吉め…これはすぐに戻って貂蝉達と会議だな」

 

今のところ後手に回っている。これでは于吉に好きな様にさせてしまってばかりだ。

 

「于吉は暗躍しているが左慈の方の目立ちはないな…そもそもこの外史に来て居るか分からん」

 

彼らは今までも何度も敵対して外史で暗躍してきた。だが今回ばかりは今までとは違うのだ。

于吉はまるで確実に勝てる余裕がある感じであった。きっと他にも何か隠しているのだろう。これは此方も油断ができないというもの。

 

「しかし貂蝉はワシがいない間に華佗と立香に手を出しておらんよな?」

「聞いていておぞましいですね」

「于吉か!!」

 

歴戦の戦士の目で現れた于吉を見る。熱すぎる目でもある。

于吉は卑弥呼のその目が嫌いだ。何でもかんでもどうにか為ると思っている様な目が嫌いだ。

 

「まさかお主の方から現れてくれるとはのう」

「いずれは貴方たちと戦う運命です。なら隠れている必要はないでしょう」

 

いずれ戦う運命。それが早いか遅いかのだけ。

 

「私も隠れているのに飽きたので…反撃ですよ」

「来るか!!」

 

卑弥呼は拳を構える。

 

「いえいえ、此所では在りませんよ。それに私は自ら戦うという柄では有りませんので。私には私の戦い方があります」

「それは陰湿な策的という意味でか?」

「お好きなように捉えて構いませんよ。しかし、これだけは言っておきます。今回は今までと違いますよ」

「ほお…だが今回もお前たちの策は敗れる!!」

 

本当に于吉は卑弥呼の自信が嫌いだ。

 

「そちらにカルデアが協力していると言って油断しないことですね」

「ふん。お前こそ今回は相手を見誤っていまいか?」

 

普通に考えて戦力差を比べると卑弥呼側と于吉側でどちらが有利かと言われれば卑弥呼側が有利だ。

 

「そうですね…確かにカルデアは強すぎます。ですが英霊に絶対に勝てないなんてことは無いんですよ」

「何だと?」

 

英霊に絶対に勝てないということは無い。基本的に考えれば勝てないと誰もが思うが実はそうではない。

 

「英霊もまた頭や心臓を潰せば倒せます。それは人間や動物と同じです。知りませんでしたか?」

 

その通りだ。英霊も人間と同じように心臓の破壊や首の切断などが起これば、如何に破格の力を持つ英雄と言えど消滅するのだ。

英霊は無敵の存在ではない。

 

「更に英霊を束ねるマスター…確か藤丸立香と言いましたね? 彼を殺してもいい。それだけでカルデアは終わりなんですよ」

 

確かにカルデアは強い。だが今のカルデアは1つでも何かが欠ければ瓦解するほど脆いのだ。その大きな役割を持っている1人は藤丸立香である。

狙う箇所は考えれば考えるほど出てくる。

 

「私は無敵の相手と戦うわけではない。今言ったように狙う隙は幾らでも有るという事です」

「そんなことさせると思うか?」

「今回は『外史』の于吉としてでなく、『管理者』の于吉として本気で行きます」

 

『外史』の于吉ではなく、『管理者』としての于吉。その意味に卑弥呼は拳を握る。

 

「貴様…!?」

「この外史…三国志という物語に縛られません」

「この外史によって与えられた役割を放棄するか!?」

 

貂蝉や于吉と言った名前は三国志に出てくる登場人物だ。だが此所に居る于吉や卑弥呼はこの外史に登場する正規の人物では無い。

ただこの外史の登場人物に成るために名前を当てはめただけである。本当は彼ら管理者はこの外史の三国志に出てくる登場人物では無いのだから。

 

「放棄も何も…あなた方だって卑弥呼や貂蝉の名前を付けているだけで本来その人物達の役割をしていないじゃないですか?」

「儂はこれでもやっておるわ。貂蝉のやつがやっておらんだけだ!!」

 

貂蝉がこの外史で本来の三国志である『貂蝉』の役割を出来るがどうか不明である。

 

「まあ、お互い名前を勝手に貰ってるだけですから。何はともあれ…次は洛陽でお会いしましょう」

「待て、洛陽だと!?」

「まずは洛陽で初戦です!」

 

そう言葉を残して于吉は消える。

 

「ぬう、于吉め。今までと何か違うな」

 




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。次回は…来週投稿できたらします。
出来なかったら再来週ですね。

今回は何太后や卑弥呼たちの話でした!!
何太后の魅了は立香には効きませんでした・・・まあ、クラっとはしますがね。
だって立香もやっぱり男の子ですから。
そのせいなのか、何太后と何進に目をつけられます。

貂蝉の絆レベルが上がった・・・何でだ?
まあ、藤丸立香ならおかしくは無いと思いますが。


敵サイドにもスポットは当てます。
于吉だって負けているつもりはありません。実際に彼らの存在って普通ではないと思います。だって外史という多くの並行世界を渡って管理しているなら高度な存在だと自分は思いますから。


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洛陽での日常4-天子様ー

こんにちは。
タイトルの通り、恋姫の霊帝たちの話を書いてみました。
霊帝(空丹)や劉協(白丹)についてまだ分からない所があるのでオリジナル感があります。もしかしたら違和感があるかもです。

霊帝(空丹)たちについての掘り下げは来年発売予定の恋姫革命の第3弾かなぁ


76

 

 

霊帝は庭で菓子とお茶を嗜みながら過ごしていた。横には妹の劉協と十常侍の趙忠が居る。

何故宮中の外に居るのかと言われれば霊帝の思い付きであり、我儘である。彼女はこの大陸の頂点だ。ならばどんな事を言おうとも否定され無い。

だから外でお菓子を食べ、その甘さに舌鼓みというわけだ。

 

「こうきんとうってお菓子じゃなかったのね」

「何でお菓子だと思ったのお姉さま?…」

「とう、糖だから甘いお菓子と思ったのよ。まったく聞いたこともないお菓子だから気にはなったわ」

 

前に中郎将の軍議に顔を出した事があり、その時の話の殆んどを聞き流して居たのだが。唯一こうきんとうと言う名前に興味を持ち、どの様な菓子なのかと思案していた。(勿論、彼女の考えてる最中にも話し合いはされたが。自身の思考に没頭する彼女の耳に入る事は無かった)聴いたことの無い名のためいったいどんなお菓子なのだと思っていたが、字で書かれると黄巾党だ。まさか賊のことだと分かって興味が失せた。あと数日もすれば霊帝の記憶から完全に消え去るだろう。

それほど霊帝にとってはどうでもいい事になったのだから。

 

「ああ陛下、残念がるお顔も素敵です」

「ねえ、黄。新しい甘いお菓子とか無いの?」

「そうですね。宮中の料理人に甘いお菓子を作るように指示を出しておきます。きっと主上様の口に合うお菓子を作らせましょう」

「お願いね黄」

「はい、主上様」

「……お姉さまったら」

 

霊帝は自前の性質と趙忠の甘やかしによって贅沢を尽くす。劉協は幼いながらも国を思おうとする。こうも姉妹でありながら違う。それはやはり彼女達の側にいる者によって大きく影響を受けたからだろう。

言わずもがな霊帝の側には趙忠。劉協の場合は董卓だ。隣にいた者によってこうも違う。趙忠によって霊帝は甘やかされた。董卓によって劉協は努力を覚えた健気な子になった。

 

「あら?」

 

この時、霊帝の目にある人物たちが映った。その人物が霊帝の目に映ったのは本当に偶然であったのだ。

彼女の我儘で外に居たという事と、その人物が霊帝の目に映ってしまったという偶然だ。普通だったらあり得ない事だ。

 

「ねえ、黄。あの人たちを連れてきて」

「畏まりました」

 

そう言って趙忠が連れて来たのは藤丸立香と武則天に玄奘三蔵、董卓であった。

 

「連れてきましたわ主上様」

 

いきなり連れてこられた藤丸立香達は首を傾け、董卓は霊帝と劉協を前にしてしまい動揺する。

 

「て、天子様、劉協様。どうしてお外に?」

「あら月。ただ外に出てみたかったからよ」

「月…」

 

理由はただの霊帝の思い付き。だが霊帝の言葉や思い付きは何でも通る。

だから外に出たいと言えば幾らでも出れる。

 

「そこの人たちって月の部下かしら?」

「ええと、部下ではなくて私の所にて客将として迎えています」

「そうなのね」

「あ、あの立香さん達頭を下げて!」

 

藤丸立香と玄奘三蔵は頭を下げるが武則天は下げない。

 

「あの、武則天さん!?」

「嫌じゃ。何で妾が頭を下げねばならぬ」

 

武則天は女帝だ。頭を下げる理由はない。

女帝として誇りが頭を下げることを許さない。恐らく、王様系の英霊は頭を下げる事を絶対にしないだろう。特に英雄王や太陽王は絶対に。

 

「あ、あの武則天さん…」

「嫌じゃ!」

 

こればかりは今此所に霊帝と武則天が居た事は運が無かっただろう。

これは流石に董卓も焦る。目の前に居るのはこの大陸の頂点である天子。その妹である劉協と真名を呼び合う仲とは言え、これは不敬すぎるので庇い立てができない。

 

「こーら頭を下げなさい」

「あ、こらやめぬか。頭を押さえ付けるな」

 

ここで玄奘三蔵が武則天の頭を抑えて下に向けさせようとする。必死で抗う武則天。

武則天の誇りを無下にするつもりは無いが、ここで董卓に迷惑をかける訳にはいくまいと理解した玄奘三蔵が動いたのだ。

今カルデア御一行は董卓の所で世話になっている。そんな時に彼女達に迷惑をかけてしまえばまずいだろう。

 

「ぐぬぬぬぬ…!!」

「ほら頭さげて!」

「この体育会系キャスターめ」

 

まだせめぎ合う2人。それに対してどうすればいいか混乱しそうになる董卓であった。

だが霊帝はそんな事よりも目に映っている物がある。それが気に成るから今の武則天に対する不敬を気にしていない。

これも偶然なのか運が良いのか分からない。

 

「そこの貴方」

「はい。何ですか?」

「その手に持っている物はなに?」

 

手に持っているお盆の上に置いてある4つの茶碗が霊帝に目に映ったのだ。しかもほのかに甘い香りがする。

 

「プリンです」

「ぷりん?」

 

聞いた事も無い言葉に首を傾ける。

 

「甘い食べ物です」

 

何故、彼がプリンを持っているかと言われれば作ったからとしか言いようがない。

元々は甘いものを食べたいと武則天が言ったので作ったのだ。材料は俵藤太が居るから全然大丈夫で、作るのに関してもこの時代の調理具でも作れた。

ちょうど董卓も居たので誘って外で食べようとしたのだ。そんな時に霊帝の目に映ったということ。

 

「甘いお菓子なのね?」

「そうです」

 

普通に霊帝と会話をしている藤丸立香に董卓はまたもハラハラ。言葉使いとかに無礼は無いからまだ大丈夫。

董卓としては彼がこの大陸の頂点と会話をすることなんて無いと思っていた。だから特に天子に対する言葉使いとかや注意事項をそこまで教えていなかったのだ。

 

(り、立香さん…)

「美味しいの?」

「甘くて美味しいですよ。柔らかくてなめらかです」

「そう。なら食べてみたいわ」

 

見たこともない甘い食べ物という事で霊帝は興味をそそられる。先ほどまで未知なる甘いお菓子を食べたいと思っていた矢先に、知らない甘い食べ物が転がり込んできたのだ。

そんなもの興味を惹かれないわけが無い。

 

「どうぞ」

「あ、それは妾の!?」

「はーい頭を下げましょうね」

「ええい、その手をどけんか不敬もの」

 

気が付けば玄奘三蔵が武則天をどんどんと霊帝の傍から引き離して行く。

そうしてくれる玄奘三蔵に感謝する董卓。

 

「ふむ」

 

趙忠は受け取る前に藤丸立香にプリンを1つ毒見させる。

董卓の客将と言えど霊帝の身の安全を考えるのは当たり前。彼女のしたことは当然である。

 

「あら」

 

霊帝が目を見張る。

プリンを掬うとレンゲにぷるんとした物体が目に映る。とろりとした蜜と甘い香りがする。

もぐりと食べた藤丸立香に異常は無い。異常が有っても困るのだが。

 

(というか毒が効かないことになっている俺って毒見役に最適かも)

 

毒が無いことを確認した趙忠は霊帝にプリンを1つ渡す。

 

「ふむふむ」

 

霊帝はさっそくプリンを一口食べる。

 

「甘いわ」

 

甘く、舌触りもなめらか。初めて食べるプリンに久しぶりに食の楽しみが沸き上がる。

気が付けば完食していたので新たにお代わりを趙忠から受け取る。それもすぐに食べ終わる。そうすると4つ全て食べ終わってしまったのだ。

 

「そこのあなた。これはあなたが作ったの?」

「はい。美味しかったですか?」

「まあまあね」

 

まさかプリンを作って霊帝に褒められるなんて思いもよらなかった。なんならカルデアキッチンクラブのコックたちを紹介してみたいと思ってしまう。

 

「もうないの?」

「ないです」

 

4つしか作らなかったのでもうない。これ以上強請られても出せない。

 

「もっと食べたいわ」

「作れません」

「なぜ?」

「材料がありません」

 

また俵藤太に頼むしかないだろう。

 

「主上様の御言葉ですよ」

「作れないものは作れません。でも飴ならあります」

「あ、あの立香さん…」

 

真っ向から霊帝の頼みを断る藤丸立香に董卓は胃が縮みそうになる。

だけど彼だって作れない物は作れない。別の物を作って渡せばそれこそが不敬というものだ。

 

「また今度ならたくさん作ります」

「本当ね?」

「絶対約束します」

 

 

そう言った霊帝は気分を良くしながら宮中内に戻る。

 

「白湯は?」

「お姉さま。私は月と話してから戻りますね」

「そう」

 

霊帝と趙忠は戻っていく。その場に残ったのは藤丸立香と董卓と劉協。そして戻ってきた玄奘三蔵と武則天。

 

「ふ、ふえええええ…」

「どうしたの董卓さん?」

 

やっと緊張の糸が切れた董卓。

 

「大丈夫、月?」

「白湯様…はい」

 

残った劉協は藤丸立香たちに口を開いても良いと許可する。彼女は月の客将というのならば多少の不敬は気にしない。

 

「立香さん…はらはらしましたよ」

「そう?」

 

藤丸立香としては王様系英霊と接するような感覚で会話したつもりだ。

言葉使いも選んで会話したはずだからおかしいところもおそらくなかったはずである。

 

「でも凄く慣れた感じでしたね」

「これでもいろんな王様や皇帝様と会話したからね」

「そうなんですか?」

 

様々な王と皇帝と会話したことがあるという言葉が劉協の耳に入る。

自分も王としての血筋だ。だけど他の王や皇帝というのは聞いたことがなかった。だから聞いてみたいと思った。

 

「立香さん…多くの王たちと会ったって一体?」

「この大陸が世界の全てじゃないよ董卓さん。海の向こう側には多くの国があるんだ」

「あ、あの…」

「白丹様どうしました?」

「あの、月。その人の言っていた事が聞いてみたいわ。それに聞きたいこともある」

「ん?」

 

劉協は藤丸立香を見る。

 

「お話を聞かせてもらえませんか。貴方が会ってきた王たちのことを」

「立香さん。私からもお願いします」

 

劉協と董卓からそう言われてしまえば断れないというものだ。

 

「何々、お話しするの?」

「何じゃマスター。王や皇帝の話をするなら分かっておるよな?」

 

まずこちらの陣営には武則天という女帝がいる。カルデアには多くの王や皇帝がいる。全て話すと長くなるだろう。

それでも劉協が満足する王の話をするとしよう。マーリンやシェヘラザードのように上手く話せないが頑張って話してみようと思ったのだ。

 

「まずは――」

 

藤丸立香は縁によって出会ってきた王や皇帝の話をする。

王たちの生き様や運命、国、戦い。何を求め、何を成したか。王であるが故の由縁。誇りや曲げられぬ意思。

語るに語るとその凄さが再確認できるし、相手も分かってくれる。

でもやっぱりたった1日じゃカルデアにいる王様たちを全て語ることはできない。カルデアに多くの王様系英霊がいるのだから。

 

「――聖神皇帝って人はそんな人だったよ」

「くっふっふー」

 

武則天はいつの間にか藤丸立香の膝に座って話を聞いていた。特に自分の話を誇らしく語ってくれたのは嬉しいものだ。

 

「うんうん。アタシもいろんな王様と語ったわ」

 

玄奘三蔵は相手が王であっても言うことは言う。それが彼女の強みの1つである。

第六特異点ではあの太陽王であるオジマンディアスに一歩も引かずに言葉を発したのだ。それは藤丸立香も同じくだが。

 

「多くの王たち…」

 

劉協は語られた王たちの話を聞いて胸が熱くなる。これは話を聞いて新たな知識を得た喜びの感覚に近い。

彼の話をもっと聞きたい。その聞いた王たちに並べるくらいに自分もなれるかと想像してしまう。その想像をするだけでもっと努力しないといけないと思う。

そして聞いてみたいことがある。多くの王や国を見たということなら、この質問に対して忌憚なく答えられるはずだ。

 

「あの…この国を、大陸を見てどう思いますか?」

 

この国、この大陸についてだ。

 

「あ、あの。忌憚なき答えをお願いします」

 

忌憚なき答えをお願いすると言われてしまってははっきりと言う他ない。だがきっと劉協が予想している答えが返ってくるだけだ。

 

「良い国とは言えないかも」

「そうね、人々の笑顔がないわ」

「…っ」

「り、立香さん、三蔵さん!?」

 

はっきりと言う。

 

「大陸全てを見てきたわけではないけど…この洛陽から離れている程、人々は貧しく餓えに苦しんでいたよ」

「そうそう。酷いところだと生きる気力が顔から消えていたわ。まるで生きるのが辛いようだったよう」

 

中にはまだマシな村や町だってあった。豊かな国であっただがそれはその国の諸侯たちのおかげだ。

力や努力がなく、賄賂ばかりの太守が治めている場所は酷いものであった。中には金品だけ持ち逃げした太守だっていたのである。これも腐敗しきった朝廷の十常侍の影響だ。

それを良しとしている今の国が良いと心の底からは言えない。それに前までも今も賊などに怯える日々だ。黄巾党の乱の時は多くの小さな村や町は犠牲にあった。

今は幼く未熟な劉協であっても流石にそれくらい耳に入っている。

だが今の彼女ではどうにかしたくともできない。周りにいる魑魅魍魎たちが劉協を見張っているからだ。今の彼女は霊帝の妹というポジションにいながらも力が無いという状況である。

 

「多くの国を見てきたけど…やっぱり人々の笑顔がない国は良いと言えない」

「この洛陽も表向きしか知らないわ。裏はどうだか分からないわね」

 

どんな絶望的な状況でも明日を生きるために一生懸命な民の国を見た。民のために、自分の国のために、自分のために奮起する王を見た。

第七特異点でのウルクの国を比較しているのは流石にどうだろうと思ったかもしれないが、藤丸立香が心の底から凄いと思えた国の1つがバビロニアだったのだからしょうがない。

 

「この洛陽は安全だし豊かだから人々にまだ笑顔があった。でも他の場所はそうじゃなかったよ」

 

実際にこの洛陽だって裏は平和とは言えない何かだってある。だからこの国は良いと言えない。今は。

 

「そうですか…」

 

嘘も言わない。忌憚なき答えをはっきりと言った。劉協が望んでいる答えを言わなければ質問の意味がないのだから。

 

「やっぱり今のままじゃいけないんですね。変えないといけない」

「言葉で言うのは簡単じゃぞ」

 

武則天が劉協の国を変えると言う言葉に被せる。

 

「お主は何をしておる。ただただ言葉を放つだけでは何も変わらんぞ。周りの者に任せっきりなのではないか?」

「そ、それは」

「ぶ、武則天さん!?」

「信じられる者がいるのならば良い。だが王の周りには信用できる者なぞ少ない。ならば自分でやるしかない…妾はそうだった」

 

彼女が皇帝になったのは学問を武芸を女の技を自分にとって不要な他の全てを捨てて磨いたからだ。単にそう願い、そう決意し、そう努力したから。

その努力は誰かの成果ではない。まさに自分自身だけの成果だ。

ならばその努力を劉協は今しているかと言われれば自信をもって首を縦に振れない。

 

「…それは」

「何もせぬのなら国は変わらん。自分も変わらん」

 

劉協の国を立て直すという気持ちは本物だ。だが行動に移せていないというだけ。それだけなのだ。

この国の頂点にいるようなお方にこんなことを言うのは恐れ多いかもしれないが、劉協には覚悟がまだ無いのだ。

 

「どんな結末が待っていようが王として覚悟を持って前に進み、受け止めねばならないぞ」

 

武則天の言葉には重みがある。それはカルデアの者しか分からないが、彼女の言葉の圧は董卓と劉協に届く。

2人は彼女に皇帝としての迫力を感じた。実際に武則天は皇帝なのだが。

 

「覚悟に努力…信じられる者」

 

劉協は武則天の言葉を呟く。この外史の劉協がどんな道を辿るか分からないが、同じ王や皇帝に連なる者としてアドバイスを送ったつもりの武則天。

こんがらがるが、時代的には劉協は武則天にとって先輩にあたる。世界が違うのに、子孫でもないのに、時代的にも全く離れている。

でも武則天の同じ王としての何かに気まぐれでアドバイスした。それだけだ。

 

「…ありがとうございました。何だか良いお話を聞けて為になりました」

 

劉協からお礼を言われるなんてこの国からしたら卒倒ものだ。だけど藤丸立香たちは普通にお礼の言葉として受け取った。

 

「お礼なんていいわよ。これも御仏の導きだし」

「あ、あの…またお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」

「いいですよ」

 

お話くらい聞かせるのはいくらでもできる。

 

「では、また」

 

そう言って董卓と劉協は戻っていった。

 

「…今思うと俺ってこの国の、大陸のトップと話してたんだね」

「そうねー」

「何を今さら…というかマスターは今までもっと凄い王や皇帝と口を交わしておるではないか。妾のようなな!!」

 

今日のことを賈駆に報告したところ。

 

「あ、あんたたちは何てことをしてんのよー!?」

「いやあ」

「褒めてないわよ。首が斬られてないのが奇跡よ!?」

 

凄い説教された。彼女の気持ちは分からなくもない。

本当に普通だったらあり得ないのだから。

藤丸立香。運が良いのか悪いのか、偶然なのか運命なのか分からないが霊帝のプリン作りの命と劉協の話相手の命を受ける。

 

「あんたってどうなってんのよ!?」

「さあ?」

 

これでも平凡と言われている。

 

「そこらの男が天子様と劉協様に近づけて普通に会話したってのがおかしいわよ!?」

「そう?」

 

これが藤丸立香の不思議さの1つである。

 

「月、あの方たちは不思議な人たちですね」

「立香さんたちのことですね」

「ええ。お姉さまにも気に入れられていたわ。それに私も」

 

今日出会った藤丸立香たち。彼らはまるでこの大陸の人間じゃないような存在だ。

霊帝や劉協の知らないことばかり知っている。彼らとの出会いは彼女たちの日常を少し変えた。それだけでも今日は良い日だと思うだろう。

霊帝には記憶に残るに値する日となった。劉協にとっては心を意思を成長させる糧になった1日となった。

 

「藤丸殿は月に似ているような気がします」

「私にですか?」

「ええ。優しく、強い意志を持っている気がします」

 

自分の姉である霊帝はどう思っているか分からないが劉協は藤丸立香のことをそこらの下々の者とは思えない。

なんせ堂々とした口調で会話をしてきたのだ。王としての威圧も受け流して普通に会話してきた。それさえも彼女にとっては新鮮だった。

 

「また話を聞きたいものです」

「立香さんならまたお話を聞かせてくださいますよ」

 

董卓はこれに関してははっきり言える。なんせ彼とても良い人なのだから。

 

 

77

 

 

何進と十常侍の対立は日に日に悪化している。お互いに牽制し合い、腹の探り合い、騙し合いと毎日だ。

そんな事が続けばどちらも不満は溜まりに溜まりに、いつでも爆発しそうになる。ここにいる十常侍たちは不満を隠すことなく口にした。

 

「おのれ、肉屋如きが…!!」

「大将軍の器でないくせに威張るなぞ…!!」

「あんな愚か者はさっさと消せないのか!!」

 

何進が聞けば今すぐにでも十常侍の首を切り落とそうな罵声ばかり。それほどまで十常侍にとって何進は敵でしかないのだ。

 

「落ち着いてください皆さん」

「趙忠殿…」

「今ここで何進殿に悪口を言った所で何も変化は起きませんよ」

 

何進に対して不満をいくら口にしたところで一瞬だけ十常侍の気が収まるだけだ。だが何進が健在ならば不満を口にしたより先にまた不満が募るという悪循環。

肉体的にも精神的にも、権力的にも目の上のタンコブを処理しなければ十常侍に安寧は訪れない。

 

「ならば早く何進を消す策を考えなければなりませんな」

「なら良い策でもあるかい?」

「張譲殿」

「消すのは簡単だ。だけど何進は霊帝と深く関わっている何太后の姉だ。何も考えずに刺客を放って消せばまず疑われるのはボクらだ」

 

何進と十常侍が対立しているのは周知の事実。何も考えずにどちらかが動けばどちらも真っ先に疑われる。

 

「何進だけを消すのはダメだ。何進の息が掛かっている者全てを消すんだよ」

「もしくは此方側に引き込めれば…ですね」

「ああ、趙忠の言う通りだね」

 

自分たちにとって不穏分子を全て消さなければ安寧は訪れない。跡を継ぐような奴らを残してはならないのだ。

 

「まあ、何進の下に付くような奴も少ないと思うけどね」

 

十常侍たちは自分たちの事を棚に上げるが、何進に対して不満を持つ者たちは多くいる。

何進は漢という国を腐らせた要因の1人であるのだから。官軍の兵士たちは良い顔で従っているが裏では悪口ばかりである。

今、この官軍でまともなのは董卓や皇甫嵩たちくらいのもの。そのため官軍の兵士たちの信頼も董卓たちに集まりつつあるのだ。

 

「ここは私が策を立案しましょう」

「趙忠殿…良い策があるので?」

「ほお…趙忠殿が」

「はい、お任せください。よろしいですか張譲殿?」

「………構わないよ。趙忠に任せる。で、どんな策なんだい?」

「はい。私が考えた策とは――」

 

趙忠の策の説明を聞いた後、張譲は自室に戻っていた。

 

「ふむ、趙忠の策はまあまあかな。だけど上手くいくかどうか…」

 

趙忠から説明された策は悪いものではない。だが確実性は欠ける策だったのだ。

 

「そもそも何進がホイホイと来るかどうか…そのために趙忠は何太后を引き込むらしいけど」

 

何進と何太后の絆の強さは知らない。肉親とはいえ、命が関わるとなった時に彼女たち何姉妹はどうなるかまでは張譲すら分からない。

 

「まあ…人間の本性なんて欲望にまみれたものだからね。いざという時、人間は本性を現し、いくらでも残酷に醜くなるものさ」




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。次回も来週予定。もしくは再来週になるかもです。

今回の話はどうでしたでしょうか。
藤丸立香が霊帝たちと関わった話でした。普通だったら近づくことも顔も見上げることも口を開くこともできない存在ですが、偶然にも関わったという物語です。
まあ、原作でも藤丸立香は多くの時代の王や皇帝。更には女神様まで関わっていますのであり得ない話ではないと思って書きました。相手がどんな人物でも堂々と口を開きますからね立香は。(流石に空気を読む時もありますが)
ちょっと物語的にも内容的にも無理があったかな?

日常編もあと2話で終わりにします。その後が本編に入ります。


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洛陽での日常5-曹操との出会いー

こんにちは。
今回も日常回は5回目。でも本編よりに戻っていきます。


78

 

 

「西園軍の任命式?」

「そう。出て欲しいんだけど」

「断る」

 

いきなり賈駆に呼び出された諸葛孔明だが、内容は西園軍の任命式に出て欲しいということ。

賈駆としては董卓陣営には有能な人材が多くいるというのは知らしめてこの宮廷でも力を示したいのだ。最近宮中でも董卓のところに多くの良い人材が集まっているなんて噂が立っている。

それだけでもこんな魔窟では力を示すのに十分だ。それも式典に董卓の人材が多くいればそれだけ董卓が宮中で力を広めているという宣伝になるというもの。

 

「面倒だ。何度も言うがこれでも私たちは客将だ。そんな人物が式典に出るなんて無いだろう」

 

面倒だから絶対に出たくないという顔が出ている。こんなところまで来てカルデアのように過労ばかりは絶対に嫌だという現れ。

だが有能だから目を付けられる。これはどの時代であってもしょうがないものだ。

 

「がんばれ孔明せんせー」

「おのれマスター。他人事だとばかりに…!!」

「あんたも出てもらうわよ藤丸」

「え…面倒」

「フッ…」

「ニヒルに笑いやがって…」

 

一応、式典で彼らを選んだのはまともなのが彼らだからだ。

彼らの仲間である呂布奉先と燕青や李書文などは式典には性格的に合わない。荊軻や哪吒も少し違う。武則天は大丈夫そうで何か違う。

玄奘三蔵と俵藤太は良い。そうなると藤丸立香と諸葛孔明を含めた4名は合格である。

 

「俺らはアンタらの部下じゃねえんだけどなぁ」

「然り」

 

最近何故かカルデア御一行が董卓陣営になり始めている。というか賈駆はそうしたいと思っているし、張遼や呂布はもう既にそうだと思っている。

仲間意識を持ってくれるのは嬉しいものだが、気が付いたら勝手に陣営に入れられるのは困るものだ。それでは勝手に動けない。

 

「出てくれる?」

「うーん…私的にはそういうところはちょっと苦手なのよね」

「俺は構わんがな」

 

玄奘三蔵はちょっと躊躇いで、俵藤太は了承。

 

「つーか俺って式典に出る程のもんじゃないんだけど」

「天子様と劉協様と対等に話し合ったあんたが何を言うのよ」

 

ただ霊帝にプリンを作ってあげるのと、劉協に昔の旅の話をしているだけである。

そんなのでこの宮中で偉くなったとは言えない。

 

「それがここではどれだけの事か自覚がないようね」

 

霊帝と劉協のお気に入り、という言葉が付けば箔がつくだろう。

 

「お気に入りになった覚えはないけど」

「もう噂されてるわよ」

「プリンとお話を聞かせただけで…!?」

 

どうなっているんだこの朝廷はと思うのであった。

 

「だから出てよ」

「恋も立香に出て欲しい」

「ほら珍しく恋もそう言ってる」

「えー…貂蝉は?」

「あんなの天子様の前に出せるわけないでしょうがっ!!」

「呼んだぁん?」

「ひぃっ、呼んでないからあっち行きなさい!!」

 

出てきた筋肉達磨をすぐさま引っ込めさせる。貂蝉を霊帝の前に出すわけにはいかない。

出したらどうなるか分かったものじゃないからだ。もしかしたら気絶させてしまう危険性だったりする可能性もなくはない。

実際に賈駆や董卓は気絶した。呂布や華雄は平気だったみたいだが耐性の無い者はキツイだろう。

 

「なんだか失礼なことを思われてる気がするわぁん」

「なら見た目を気にしろ。人は見た目から印象を8割も決めるらしいぞ」

「どこに出しても恥ずかしくない綺麗な肉体だと思うけど?」

 

どうやら貂蝉とは常識的な会話が成り立たないようだ。

それはさて置き、話を元に戻す。

 

「やっぱ遠慮しとく」

「むむ」

「ダメだよ詠ちゃん。無理を言って困らせちゃ…」

「月がそう言うなら…」

 

賈駆の弱点は董卓。董卓の言葉ならすんなり受け止めるようだ。

 

「ならその代わり式典の間は大人しくしてなさいよ。特にそこの武人共は!!」

「へいへーい」

「分かった」

「あと荊軻も酒は飲まない」

「傍若無人にならなければいいだろう?」

「ダメに決まってるでしょ!!」

 

カルデア御一行はとんでもない人材ばかりだが、賈駆は客将に迎えてから嫌というほど一癖も二癖もある人物たちだと理解したのだ。

 

「じゃあお留守番してまーす」

 

 

79

 

 

今日、洛陽の宮中にて西園軍の式典が行われた。

その式典は黄巾党の乱で活躍した諸侯たちのためのもの。朝廷が黄巾党を鎮めろと言って従って鎮めた。

ならば何か褒賞がなければ各諸侯たちも納得がいかないだろう。だからこその式典だ。

 

「今頃堅苦しい式典をやっているころだろう」

「ちょっと忍び込んで見てきたぜ」

 

気が付いたら燕青がいなかったと思ったら式典に忍び込んできたらしい。

暇だったから、という理由だけで忍び込む。そういえば燕青はよく内緒でレイシフトして新宿に行ったりとしている。

 

「曹操や袁紹とかいたぜ。どっちも金髪くるくるだったな。いや、袁紹の方がくるくるだったな」

「くるくる」

「おう。くるくる」

 

袁紹はなんでもまさにお嬢様キャラのくるくるヘアーとのこと。三国志の英雄たちが女性になっているのはもう慣れたが髪型も色々あるのだろう。

それは人それぞれ、地域柄、国柄なので特に変だとは思わない。

 

「そういやあ、曹操のところに陳珪がいたぜ。見る限り曹操に下ったんだろう」

「そっか」

「陳登はいたか?」

「いや、居なかったな。いたのは黒髪と青髪の姉ちゃん…多分姉妹。桃色髪の童女にまた金髪のちとくるくるのお嬢さんだったなぁ」

 

くるくる率が多い。

 

「特に何もなく堅苦しい式典が続いただけだ」

 

そういう堅苦しい式典はどの世界でもどの時代でも変わらないということを知った。

 

 

80

 

 

ギスギスした空気の西園軍の任命式も終えた曹操軍。その中で不機嫌さを一番露わにしたのは曹洪である。

 

「まったくなんですの、あの方々は」

 

最初は劉協の可愛さで眼福であったが、その後が問題だった。

式典の大半を占めたのは霊帝の言葉でも尚書令の挨拶でもなく、何進の演説だ。

何進の演説が始まった瞬間に周囲の空気が張り詰めた。というよりも凍り付いた。

 

「西園軍は天子様の軍なのでしょう。それを事あるごとに我が軍、我が軍と…」

 

曹洪は何進の偉そうな物言いの上に完全に上から目線だったのが気に食わなかったのだ。実際に漢の大将軍なのだから偉いのだが、勝手に曹操軍を自分のもののように言うのが一番の不満の原因である。

 

「お姉さまはあのような方に仕えるために八校尉に拝領したわけではありませんのに!!」

「栄華様。どこで誰が耳をそばだてているか分かりませんよ」

「ですが燈…!!」

「燈の言う通りよ。控えなさい」

「あ…失礼いたしましたわ。わたくしったら何をこんなに熱くなって…」

「いずれにしても、八校尉は名誉官職ですから…実際に軍があるわけではないでしょう」

 

本来は黄巾党に対抗するために設立された軍だ。だが黄巾党は曹操軍や各諸侯に義勇軍のおかげで討伐された。

ならばもう実際に動くことはない。だから名前だけが発揮しているにすぎない。

 

「むう…」

「どうしましたの春蘭さん?」

「あの大将軍の物言いが腹立たしいのは間違いないが…実は腑に落ちんことがあってな」

「何だ姉者?」

「どうしてあんな雑魚が大将軍を名乗っているんだ?」

 

夏侯惇は曹洪よりもマズイ言葉を言う。

 

「あ、それボクも思いました」

 

許緒も夏侯惇に同意した。今ここに無礼な人物2人出現。

許緒も同意したのに陳珪と夏侯淵は呆れてしまう。

 

「だが禁軍十万の頂点に立つ大将軍だろ。実力を隠しているように見えないし、あれなら十人束にしても季衣の方が強いぞ」

 

彼女はまったくもって悪気や馬鹿にしているわけではない。武人として何進の実力が弱いことに疑問を思っているだけなのだ。

 

「呵々、大将軍を雑魚呼ばわりとは怖い者知らずがいたものだ」

「それは彼女が元々武人ではないからだな」

 

董卓と曹操たちに別の声が届く。その言葉は夏侯惇の疑問を説明した。

何進の隣にいた何太合。彼女は霊帝の妃であり何進の妹だ。そこからの繋がりで大将軍まで上り詰めた。

その過程でどこまで努力したかまでは知らないが。運も実力の内とも言う。

 

「先ほど注意されていたようだが、こんな場所では言葉に気を付けることだ」

「孔明さんに李書文さん」

「あ、董卓さん」

「「立香さん」」

「「え」」

 

董卓と陳珪の言葉が重なる。

 

「久しぶりです陳珪さん」

 

燕青から聞いた話で陳珪が来ているのは知っていた。なら顔を合わせるくらいできるだろうと思って来てみたのだ。

 

「立香さんたちは今ここに?」

「うん。董卓さんのところで客将やってるんだ」

 

陳珪がするりと藤丸立香に近づく。相変わらず距離が近い。

 

「もう、私のところから離れて董卓さんのところに行くなんて」

 

小さな声で呟いてくる。

 

「たまたまだよ」

 

たまたま、というよりも元々、拠点が洛陽になっていただけだ。

 

「燈、彼らは?」

「華琳様。彼らは私が沛国で相をしていたころにお世話になった方たちです」

「へえ」

 

華琳と呼ばれた女性が曹操。見て分かる。彼女もカリスマ持ちだ。

多くの王様系の英霊が持つカリスマを感じ取ってきた藤丸立香だからこそ目の前にいる曹操が本物だと分かる。

今まで多くの三国志の武人たちや文官たちを目にしてきたが彼女だけは別格だ。多くの偉人や英雄が英霊になったように彼女もまた英霊になってもおかしくないほどの存在だ。

そう藤丸立香は感じ取ったのだ。

 

「藤丸立香です」

「曹孟徳よ」

 

カルデアのマスターと魏の王の会合。

 

(彼は…)

 

曹操は藤丸立香を見た時、ある人物を思い出す。それは前に劉備の義勇軍にいた天の御使いだ。

似ている、というのが曹操の思ったこと。似ているというのは服装や顔つきという意味でだ。

劉備のところにいた天の御使いも藤丸立香のように変わった繊維で出来た白い服を着ていた覚えがある。

それに名前の名乗り方も同じだ。この大陸の名乗り方ではない。

 

(劉備のところにいた天の御使いの名前は北郷一刀。で、目の前にいるのが藤丸立香)

 

何かしらの接点があるように感じるのだ。

 

「ねえ、貴方も天の御使いなのかしら?」

 

曹操の言葉に陳珪や董卓、諸葛孔明が反応する。なんせ曹操が藤丸立香に対して「貴方も」と言ったからである。

 

「いや、違うけど」

 

それをキッパリと否定する藤丸立香。天の御使いと名乗ったことなんて一度たりともない。

 

「どうして俺が天の御使いだと思ったの曹操さん?」

(私に対して堂々と聞き返してくる気骨…それも似ているわね)

 

前に曹操に対して普通に聞き返してきた北郷一刀も同じであった。その時は夏侯惇に怒鳴られたが。今回は朝廷なので夏侯惇は抑えている。

 

(いえ、春蘭はあの男に警戒しているようね)

 

その夏侯惇はというと静かに李書文を警戒中。

 

「むむ、お前」

「姉者?」

「秋蘭…この男相当強いぞ」

 

夏侯惇が見るのは李書文。武人としての本能が彼に対して危険を知らせている。

今まで出会ってきた武人の中だと孫策は別格だった。だがさらに今現れた李書文もまた別格だ。

 

「そう気を荒立たせるな。ここは戦う場所ではないからな。場所を変えれば儂はいくらでも相手してやるが?」

「ふん、そういうお前も気が立っているではないか。名は?」

「李書文だ」

「夏侯惇だ」

 

2人とも凶悪な顔になる一歩手前。似た気質を持っている2人なのかもしれない。

これは藤丸立香の個人的な意見だが武人はどうも戦いたがりだ。同じ武人同士が顔を合わされば手合わせが始まる。

カルデアの武人系の英霊はそうである。李書文や燕青にベオウルフ等などが良い例だ。たまにマルタも入る時もある。

 

「姉者、気を抑えろ。ここは朝廷内だぞ」

「う、分かっている秋蘭」

「いずれ手合わせしてみたいものだ」

 

李書文もまた夏侯惇が武人として気になる様子。

 

「曹操さん?」

「何でもないわ。実は前に貴方と似た奴と会ったのよ。その男が天の御使いを名乗っていた…似てたから貴方も天の御使いかと思ったのよ」

「そんなに似てたの?」

「そっくりと言うわけではないわ。服装や顔つき、雰囲気とかが貴方と被ったのよ」

「ふーん。何て人?」

「あら、結構噂になっているから知っているかと思ったけど?」

 

全く知らなかった。『天の御使い』という言葉は知っていたがどんな人物で何処にいるかまでは見当もつかなかったのだ。

それは調べていないからだから当たり前なのだが。

 

「北郷一刀って男。今は劉備のところにいるみたいよ」

 

北郷一刀。この名前はまさに日本人の名前だ。

三国志の中に『北郷一刀』という名前は絶対に無いはずだ。それはきっとこの三国志ではイレギュラーな存在。藤丸立香たちカルデアと同じように。

 

(……貂蝉に聞いてみるか)

 

静かに聞いていた諸葛孔明。北郷一刀という名前を聞いてすぐさま貂蝉が何か知っていると当たりをつけたのだ。

敵になるか味方になるか分からないがその名前は頭の片隅にでも置いておく必要があるだろう。

 

「さて、答えたのだから私も何か聞いてもよろしいかしら?」

「え、うん。いいけど」

 

曹操から何を聞かれるのだろうか。いきなりすぎてちょっと緊張してしまい体が強張る。

 

「貴方にとって誇りとは?」

「誇り?」

「ええ、私は誇りとは天へと示す己の存在意義だと思ってるわ。誇り無き人物は例えそれが有能な者であれ、人としては下品の下品。そのような下郎は我が覇道には必要なし」

 

前に劉備は誇りについてよく分かっていなかった。今度出会った時にはまた彼女の誇りについて聞いてみたいものだと思っている。

今回は目の前の藤丸立香に聞いている。何故彼に聞いているかと言われれば、劉備の時を思い出した故の気まぐれだ。

 

「うーん、俺にとっての誇りっていうか何のために戦っているとかそういう意味でもいい?」

「それでも良いわ」

「生きるため」

 

曹操の答えをシンプルに答える。シンプルでありながら奥が深い答えである。

藤丸立香の戦いの意味は生きるため。他にも人理のためとかもいろいろあるが、最終的な戦う原動力はそれだ。

 

「生きるためって…そんなの誰もが思ってることじゃない」

「そう、誰もが思ってることだよ。誰もが当たり前に願うことのために戦っているんだ」

「貴方には大望のためのとか、野望のためとかそういうのは無いの?」

「そういうのは考えたことは無いな…あ、でも大切な人が笑顔になれる平和とかは欲しいかな」

 

なんとも普通な答えだ。

まだ北郷一刀の方が天の御使いとしての自分を理解し、劉備の大望を目指すため自ら神輿になっていた。でも藤丸立香は普通だった。

劉備と北郷一刀は考えが甘いながらも大陸の平和を望む。藤丸立香は普通に生きることを望む。

 

(ちょっと期待外れかしらね…)

 

これで話を終わりにしようとしたが藤丸立香はまだ口を閉じていない。

 

「実は大きな救いのために戦えって言われてさ。そんなの最初から覚悟なんて無かった俺には大きすぎる責任だったよ。でも、誰かがやらなくちゃいけないのなら…やるしかないでしょ。それが俺だったんだ。俺しかいなかったんだ」

「…」

 

急に藤丸立香の空気が変わる。顔つきや目の光が変わったのだ。

 

「俺は自分に出来る事を、出来る範囲で努力するさ。出来ない事なら、出来る範囲に収めようとするよ。先達の助けを借りて未来を夢見るんだ。絶望的な状況下でも人間として正しく抗い続ける。時折挫けそうになるけど振り返りもするさ。だけど足を止めるのも振り返るのも一瞬だよ」

 

この言葉はある人の受け売りだ。最初に助けてくれた英霊の受け売り。

藤丸立香は今までの旅路を思い出している。どんなに歳を取ろうが頭を打ち抜かれようが絶対に忘れない旅路。

生きるなんて言葉は簡単に言える。でも生きるために圧倒的な絶望を抗うことは難しい。

7つの特異点と亜種特異点、ロストベルトを攻略し、生き残ってきた彼の言葉は重い。

藤丸立香は王の才覚があるとか、強い武人だとかそういう存在ではなく普通の一般人だ。だが彼は多くの困難を乗り越えてきた強い人間となったのだ。

認められなくても、評価されなくてもいい。でもその旅路だけは誰にも馬鹿にされたくないし、否定されたくない。

 

「俺は生きるために戦う。それがみんなを救う一歩にだってなるんだから」

 

先ほどまで曹操の前に立っていた藤丸立香は普通だった。でも今いる彼はまるで大きな戦いを勝ち抜いてきた勇士のような人物に見えたのであった。

 

 

81

 

 

洛陽から陳留への帰り道。

 

「不思議な魅力のある人だったでしょう華琳様?」

「ええ、最初はそこらの普通な男かと思ったけど…あの天の御使いのように何か違うわね」

 

曹操は藤丸立香が違うと感じ取った。確かに普通であるかもしれない。でも何かが違うのだ。

王の才覚があるとか、武将としての力があるとか、軍師としての知力が溢れているとか、そういうのではない。だけどそれらとは違う何かを持っている気がする。

 

「立香さんの言葉は何故か響くのよね」

「あら、燈ったらあの男を無駄に評価しすぎてない?」

「…そうかもしれないわね」

 

燈がここまで評価するのは珍しい。曹操は知らぬことだが、彼らと陳珪の物語があったのだ。

彼女が認める人物は少ない。認めて下ったのが曹操だ。

 

「もし彼が我が覇道の前に立ちふさがったら、どう出るのかしらね?」

(うーん…立香さんは華琳様の覇道の前に出るかしら?)

 

藤丸立香は大陸の覇権を手に入れるつもりはない。だから曹操の前に立ちはだかることは無い気がする。

だがこの世の中どうなるか分からないし、人の心の移り変わりも分からないもの。

 

「まあ、もしそうなったら大変ね」

「あら、それは?」

「立香さんの周りには有能な人材が集まっているからね。華琳様のように」

 

そう言えば黒髪長髪の男と赤髪の男だが確かに只者ではない。特に夏侯惇は李書文を警戒していた。

曹操自身もあの李書文は危険だと理解できる。まるで人の皮を被った化け物のようだと感じたのだ。

あの武人を相手にするのは骨が折れるだろう。

 

「あの眼鏡は確か諸葛孔明って言ってたわよね…ん、そう言えば劉備のところにも諸葛孔明と名乗る子がいたわね。ただの同姓同名かしら?」

 

あの男もただ者でないことは曹操も気づいている。おそらく曹操のところにいる軍師に匹敵するかもしれない。

 

「あの孔明とかいう男は?」

「彼は相当なキレ者よ。腹の探り合いになったら私でも厳しいかもね」

「あら、燈にそこまで言わせるなんて」

「というか立香さんに仕える人たちみんな只者じゃないわよ」

 

悩ましげにため息を吐く陳珪。彼に仕える英霊のことを全て理解できたつもりではないが、陳珪が今まで出会ってきた人物たちでも上位に入る程の只者ではなかったのだ。

 

「そうなの?」

「ええ、立香さんにはあと7人も只者じゃないのがいるわ。華琳様好みの子もいるわよ」

「あら、それなら会っていきたかったわ」

 

可愛い、美しい女の子が好きな曹操にとってその情報は良いものだ。

 

「おい燈」

「何かしら?」

 

夏侯惇が陳珪に声を掛ける。

 

「あの李書文の他に強い奴はいるか?」

「いたわよ。呂布、燕青、哪吒、藤太と言う人たち4人。この4人もとっても強いわ」

「ん、ちょっと待て。あの呂布もあいつの部下なのか?」

「ああ、その呂布ではないわ。同じ名前なのよ。見た目はまったく違うわよ」

「そうなのか?」

 

ややこしい事この上ないが、同姓同名がいるというのは色々と何かしらちょっとしたことがあるものだ。

今のように同姓同名がいただけで少し混乱したりする。

 

「武力も優れて、知力も優れている人材が揃っているか…ますます面白いわね。あんな平凡そうな子なくせに」

「本当よね。更にその中には王としての資質を持つ者すら付き従っているのだから」

「そうなの?」

「ええ、あの子は…」

 

武則天を思い出す陳珪。彼女はどこか王の気質を感じたのだ。

普段は子供のような振る舞いだが、時折に王の顔を見せたりする。そんな彼女すら従わせているからこそ不思議なのだ。

 

「ますます不思議な奴ね。もしかしなくてもまた近いうちに会えるかもしれないわ」

「そうですね。私がそうだったんですから」

 

曹操は今日の出会いに不思議な縁を感じるのであった。

 

 

82

 

 

「曹操さんってやっぱり凄かった」

 

この外史の曹操を近くで見て思ったことは、まさに『王』であった。

 

「どんな世界であれ、曹操というのならば英雄と言うことなのだろうな」

 

諸葛孔明だって曹操のカリスマ性は感じた。王としての資質も感じた。本物だということを。

今はまだ陳留の太守だろうがすぐに魏を建国してこの大陸の覇権を掴もうとする王となる。

 

「ふん、連れている夏侯惇を飼いならしているのだからなかなか」

 

李書文も曹操に対しての評価は高い。彼が人を認めるなんてそうそうないからこそ、より曹操の凄さが極まるもの。

 

「まあ、次に会うことがあるか分からないがな」

 

カルデアの目的をもう一度、再確認しよう。

この亜種並行世界なのか亜種特異点なのかどちらかに分類されるか分からないがこの外史に異常を感知した。

その原因は恐らく于吉という男が鍵を握っている。そのため、今は于吉の手がかりを探しているのである。

 

「今は卑弥呼の帰還待ちだがな」

 

マシュたちに心配ばかり募らせているのではないだろうかと思ってしまう。だけどカルデアと通信が繋がらないなんていくらでもあった。

そんな時は自分のやれることをやるだけ。カルデア側もいつでも対応できるように準備している。

 

「今は出来ることをやろう」

「そうだな」

「そう言えば賈駆さんは?」

「そう言えば詠ちゃんがいない」

 

話を切り替えて董卓に賈駆について聞いてみる。

彼女はいつも董卓と一緒にいるイメージしかない。だからこそ今、董卓と一緒にいないのが珍しいものだ。

 

(…恐らく賈駆はあの策を実行しに行ったな。この洛陽もそろそろ血生臭いことになるやもしれん)

 

諸葛孔明は賈駆がどうしているかの予想は立てていた。この朝廷に、洛陽に近いうち大事件が起こるだろう。

この大陸全土に広がる程の大事件が。

 

 

そしてその賈駆はと言うと。

 

「お疲れさま姉様。さ、一献どうぞ」

「うむ。まったくあの暗君めが。瑞姫がなだめすかして、やっと一言か」

「大変だったのよ。下々の事は傾に任せておけばいいの一点張りで。それに黄も陛下を甘やかすばかりで…」

 

何進と何太后は今日の政務を全て終わらせて休憩していた。

今日はいろいろと忙しかった。西園軍の任命式やらなんやらとあったからだ。

 

「…あれはダメだ。無能なだけなら良いが、陛下に甘言を吹き込むだけの知恵だけは回りおる。余計にタチが悪い…そろそろ潮時だな」

「まあ、怖いお顔」

「瑞姫とてもはや機嫌取りも飽きただろう。そうだな、陛下の妹君なら後を継ぐのも不思議ではないだろう」

「白丹さま?」

「うむ。あれならまだ幼い故、我らの好きにできよう。なまじ政事に関心があるのも都合が良い」

「大きくなってからが問題じゃない?」

「時間はたっぷりあるのだ。それまでに骨抜きにしてやれば良かろう…とはいえ、あまりあからさまに消えていただいては余の可愛い瑞姫が疑われてしまうな。さて、良い策はないものか」

 

何進が策がないかと考えようとした時に声が聞こえた。

 

「策ならあるわよ」

「貴様…よもや先ほどの話!!」

「ああ、別に誰にも言うつもりはないってば。貰えるものさえ貰えるならね」

 

睨み合う2人。

 

「ちっ。はるか西方より取り寄せた瑠璃の杯だ。貴様ごときにくれてやるには過ぎた代物よ」

「おや、気前が良い。ありがたく戴いておくわね」

「けれど貴女、董卓の腰巾着ではなかったの?」

「ボクだって少しは良い目が見たいわよ。分かるでしょ?」

 

怪しいが聞いておけるものは聞いておく。

利用できる者は全て利用するのが何進だ。

 

「ふん、まあいい。して方策とは?」

「趙忠を取り込めばいいのよ。簡単でしょ?」

「黄だと…天子様を妄信する一番面倒な輩だぞ」

「だからいいんじゃない。あれは天子様と静かに日々が過ごせれば他はどうでも良い奴だから。天子様もそうでしょ。日々、楽しく贅沢に過ごせればいいと考えているだけのお方じゃないの?」

「それは確かに…」

 

何進とて趙忠がどういう人物か知っている。

 

「なら、それを叶えて差し上げればいいのよ。消すなんて物騒なことを言わなくてもね」

「なるほど。自らご退位いただくなら我らが非を問われることもない。まあ他の十常侍は邪魔だがな」

「その上で白丹さまをご指名いただくなら…」

「みんなが満足するなら、どこからも文句何て出ないでしょ。で、具体的な方法だけれど…」

 

賈駆が策を説明していく。何進がこの先、洛陽を手中に治めるものと邪魔な十常侍を消す策を。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。次回も来週くらいの予定です。

今回は曹操との出会いでした。
彼女が藤丸立香を見て思ったことは平凡。でも何か引っかかる部分があるという感じで書きました。そりゃあ、7つの特異点を解決し、亜種特異点も解決。
そして自分の世界を救うために、ロストベルトで罪のない生命さえも消滅させる覚悟を持った人間ですもん。ただ平凡ではないと思います。

逆に立香は曹操をみて、やはり曹操は曹操と言われるだけのカリスマを思いっきり感じてます。恋姫の曹操は武力はずば抜けてませんが、王としてはどの三国よりもずば抜けていますからね。しかも皇帝特権でも持ってるのかっていうくらい多彩な才能もありますし。立香側の世界の王とも張り合えるんじゃないかと思ってます。

次回で日常回は終わりです。本編にもう戻ります。


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洛陽での日常6

こんにちは。(前書きをちょっと内容を変更)

さて、実は感想で藤丸立香が不自然に評価されてて違和感があると似たような感想がいくつかありました。
それが何度も続くのもどうかと思いますし、そのせいでFGOを知らない人は藤丸立香のキャラを誤解させてしまうかもしれません。
この指摘に気付かされて、自分の作品を読み返して確かにそうだなって思いましたので少しづつ直していこうと思います。

もしかしたら、またそういう場面を書いてしまうことがあるかもしれません。その時はすいません。過去の各話もいずれ修正していこうと思います。

私はどちらの作品も好きです。
この作品はFGOと恋姫のクロス作品。どちらの作品の登場キャラも活躍できるように書いていけるようにします。

前書きで長々と失礼しました。



83

 

 

宮廷で董卓にお世話になっていれば呂布やら張遼やら、まさかの何太后、霊帝や劉協と出会いもする。

そして今度は漢の大将軍の何進と出会ったのだ。

 

「お前が我が妹が言っていた藤丸立香とやらか」

 

洛陽にいるとは言え、まさかこうもこの国の重要人物たちに出会えるものであろうか。

運が良いの悪いのか分からないが、これも藤丸立香の縁を紡ぐ力の1つかもしれない。

 

「おい、まさか余のことが分からんとは言わんよな?」

「漢の大将軍の何進さんですよね」

「その通りだ。知っているのなら早く返事をせんか。あと様をつけろ」

 

早く返事をしろと言われたがいきなりだったから反応が遅れただけである。

それにしてもまさか漢の大将軍から直々に声をかけられるなんてそうそうない。一体何だろうかと思ったが彼には思い当たる節は案外ある。

 

「何ですか。何太后様のことですか、霊帝様のことですか、劉協様のことですか?」

 

何進に関係あると言ったら何太后たちだ。偶然か否か分からないがこの洛陽でトップ陣と知り合ったのだから。

 

「聞きたい事があるならどうぞ!!」

「お、おう。なかなか威勢が良いな…」

 

何進としては自分が出れば少しは怖気づくかと思ったがそうでもなかった。普通に話しかけてくる気骨がある。

これは妹である何太后から聞いた話だとや霊帝や劉協相手にも怖気づかずに話す気骨があるというのだ。報告でも聞いていたが霊帝には『ぷりん』なるお菓子を振舞って気に入られ、劉協には良い話相手になっていたりしている。

たかだか旅人であり、董卓のところの客将が国のトップにそこまで近づいたなんてあり得ないことだ。

 

「お前は確か董卓のところで客将をやっていたな」

「お世話になってます!!」

「堂々と言うなお前」

 

嘗められないように威圧的な態度でいるが何故か彼と話していると毒気を抜かれる。なんとも調子が狂うのだ。

 

「まあ良い。董卓のところなんかよりも余の下で働かんか?」

 

何進の目的は藤丸立香たちの陣営を董卓から奪おうとしているのだ。董卓の新たな客将について調べてみたところ余程の人材であること分かった。

ならば、何進としては彼らが董卓の所にいるのは勿体ないと思っている。そうなれば何進の下に引き込みたいのが本音だ。

 

「董卓のところ何ぞよりも余の下の方が良い目が見られるぞ?」

 

藤丸立香を主として数人の凄腕の人材が仕えている。ならば主である藤丸立香を籠絡すれば残りは全部引っ付いてくるという形だ。

 

「どうだ?」

 

何進は藤丸立香に接近し、自分の艶やかな肢体を使う。自分の魅力のことは一番分かっている。

だからどう使えば男が自分の手のひらに墜ちるか簡単だ。今までも男なんぞいくらでも堕としてきた。

だが、今回はより大胆に誘惑する。なんせあの何太后の誘惑を耐えたというからだ。

顔と顔が近く、足が股に入り込む。壁際に追い込まれて密着する。

何進の艶やかで悩まし気な魅力が全力で藤丸立香を襲う。だが色香で落ちる藤丸立香ではないのだ。

ハニートラップや誘惑、貞操の危機なんてカルデアでは日常茶飯事だ。それはそれで問題な気もするが。

 

「いや、遠慮します」

「な、何!?」

 

断られるなんて思ってもいなかった何進は後ずさる。

 

「何故だ。余は漢の大将軍だぞ!?」

「知ってる」

「そうではないっ!!」

 

大将軍から直々の誘いを蹴ったことに関してである。

 

「俺…俺たちには目的があるんだ。そのためには何処かの誰かの下にずっと仕えていることはできない。董卓さんの所もいずれは離れるつもりだよ」

 

藤丸立香がこの外史に転移した理由が于吉を貂蝉とともに倒すことだというのなら洛陽で目的は達する。そうしたら帰還できるはずだと思っている。

そのために目的を遠回りさせるような行動はできないのだ。もし何進の下について余計な仕事をしてしまえば目的から離れてしまう。

だから何進の誘いには乗れない。

 

「く、この…」

「でも何か困ったことがあったら力になるよ」

「はあ!?」

 

誘いには乗らないが、困った事があったら力になると言ってくる。ますます分からない男である。

ただ馬鹿なのかお人好しなのか、実は腹に何か隠しているのか。どれなのかすら判断がつかない。

 

(だが、この小僧は腹に何か隠しているようなタマではない)

 

本気で力になると言っている可能性もある。そうだったら物凄くお人好しな男になる。

 

「じゃ、そういうわけで」

 

そそくさと何進から離れようとするが、ガシリと肩を掴まれる。

 

「待て」

「この後、セキトの…犬の世話をしなくちゃけないんだ」

「余より犬の方が優先とか不敬であろうが!?」

 

追いかけっこ開始。

 

「逃がしたっ!!」

 

結局、藤丸立香を逃がした何進。それは途中で藤丸立香が燕青と出会って逃がしてもらったからだ。

もし燕青がいなくともエウリュアレを抱えてヘラクレスと追いかけっこをした彼なら逃げれたかもしれないが。

 

「あらあら、姉様ったら立香くんに振られちゃったのね」

「端姫」

 

気が付けば何太后が何進の傍に来ていた。手には水を用意してくれている。

追いかけっこしたら喉が乾く。そのための水である。まったくもってできた妹である何太后。

 

「どうだった姉様。変わった子でしょう?」

「あれはただのお人好しの小僧だろう。もしくは世間を知らない馬鹿か」

 

密着した時に身体が鍛えられているのは分かったが兵士に向いているとは思えない。

恐らく何進が本気を出さずとも戦えば倒せる。

だが確かに変わった奴ではあった。漢の大将軍に対して「何か困ったことがあれば力になる」なんて言えるものではないからだ。その事から悪い奴ではないと判断している。

 

「あと端姫だけでなく、私の誘惑まで効かなかったのが気に入らん」

「それはそうよね。私もそれは気に食わないわ。こうなると何が何でも彼を落としたくなるわ」

「うーん、あんな小僧は一晩中我ら2人が床の相手をしてやれば籠絡できそうなもんだがな」

「いずれはモノにしてあげるわ立香くん」

 

自分たちの女の色香が効かなかったのが女のプライドを刺激する。これは彼女たちの美しさや女性としての魅力があると自分で十分に分かっているからだ。

特に何太后は自分の美しさによって霊帝の妃まで上り詰めた程だ。

 

「ところで瑞姫よ。最近の私の様子はこの宮中ではどうなっているのだ?」

「姉様が思ってる通りよ」

「そうかそうか。なら良い」

 

何か良からぬことを考えている何姉妹。そのせいで彼女たちは女性のプライドによって本気で藤丸立香に目をつけたが、洛陽で彼を籠絡することはできない。

出来ない理由がある。なんせ彼女たちの足元には策と裏切りの混じった絡め手が近づいてきているのだから。

 

 

84

 

 

卑弥呼が妖馬兵を調べに行ってから太陽が何度も昇った頃、部屋でゆっくりしていたら扉が大きな開放音と共に開かれる。

いきなり扉を大きくこじ開けてきた漢女。卑弥呼の帰還である。

 

「今、帰ったぞ!!」

「おかえり」

「貂蝉よ、立香と華佗に手を出しておらんよな!!」

 

帰ってきて聞くのはいきなりソレかと思ってしまう。言うのは于吉についてではなかろうか。

 

「貂蝉よ、立香と華佗に手を出しておらんよな!!」

「何故2回言ったし」

 

大事なことだから2回言ったのだ。

 

「安心しなさい手は出してないわよん。まあ、ちょっと私の漢女心が先走りそうになったけどねん…うふ!!」

「く、先っぽも手を出しておらんよな!!」

 

物の例えが酷い気がする。

取り合えず于吉について話を聞きたいため貂蝉と卑弥呼の言い合いを止める。早速会議を始めるのであった。

 

「まず結論から言おう。妖馬兵は既に于吉に取られてしまった」

「何ですって!?」

「そして于吉とも接触した」

「于吉は何て言ってたのかしらん?」

「この洛陽で相見えるとのことだ」

 

于吉は何でもこの洛陽で戦うことを選んだそうだ。

その意味は妖馬兵で攻めてくるということなのだろうか。もし、そうだったならば黄巾党の乱の時のように大きな戦いになるかもしれない。

 

「どう攻めてくるかまでは分からん。だが奴は確かにこの洛陽でワシらと戦うと言っていたぞ」

 

妖馬兵が大群で洛陽を落としに来るかもしれない。すぐにでも洛陽の周囲を警戒しないといけなくなる。

そして張譲にも目を光らせなければならない。なんせ張譲と于吉は手を組んでいるからだ。

まずは張譲のところに行って于吉の影が無いか調べてみるのも1つの手だろう。

 

「ついに動き出すか…」

 

ついに黒幕との戦いが始まる。それと同時にこの洛陽で大きな大事件が起こるのであった。

 

 

一方その頃。

 

「何進様が?」

「ええ、取り乱してしまって、もう大変だったわ」

「何進様は近頃、どこか様子がおかしいわよね?」

「お焦りなのでしょう。黄巾の乱が収束しても大陸の混沌は深まるばかり…」

 

皇甫嵩は何進の様子がここ最近おかしいと同僚の董卓と盧植に伝える。

何進の様子がおかしくなり始めたのは十常侍との間柄がより一層悪くなってきたからだ。少しでも何かがあれば十常侍に命を狙われていると言う始末らしい。

 

「そうね。諸侯は互いの領地を狙って、私闘に明け暮れている。私たちの調停にも耳を貸してくれないし」

「せっかく乱を治めたのに、漢の威信の低下は止まらない。どうにかしなければ…こんな折に何進殿があの様子ではね」

「でも十常侍が不当な動きをしているのは事実よね?」

 

何進も十常侍もおかしな動きをし始めているのは董卓達も気づいている。

 

「黄巾討伐の指揮ぶりは、お世辞にも褒められたものではなかったからね。私の働きの悪さを棚に上げる気はないけれど」

「いえ、楼杏さんは十分にご活躍されたと思います」

「ありがとう。そう言ってくれるのは月さんだけよ」

「しかし、趙忠は本気で何かを企んでいるのかしら?」

 

十常侍でも趙忠の動きが変わったのだ。あからさま、というわけではないが何かを企んでいるというのは分かる。

それが何かはだいたい予想できてしまう。何進と十常侍の関係を見てしまうとだ。

 

「ん~、先行きが心配ね」

「あの…楼杏さんは、もうすぐ出陣ですよね?」

「ええ、涼州討伐よ。今回は長くかかりそうだわ。私の留守中に都で何事も起きなければいいのだけれど…月さん、風鈴、天子様も頼んだわよ」

「ええ」

「は、はい」

 

皇甫嵩は新たな任務で洛陽から離れる。黄巾の乱が終わったと言っても次から次へと新たな問題は出てくるもの。

だけど、彼女がこの時期に洛陽から離れるのはある意味良かったかもしれない。

これから起きる大事件には関わらせない。

 

「涼州では、素敵な出会いが待ってるといいね」

「お、大きなお世話よ。いい加減、身を固めたいのは事実だけど戦、戦の毎日では難しい話ね」

「ふふふ」

「でも…ここでも良い人はいそうなのよね」

「あら、そうなの?」

「ほら、月さんのところで客将をやっている」

「立香さんたちのことですか?」

「あー、あの子たちね」

 

実は皇甫嵩も慮植も藤丸立香たちと面識はある。

深くは関わっていないのに深く印象に残っているのだ。

 

「あの子はなかなか良い子だったわね。他にも良い人もいたし…特に孔明って人は良いわね」

「私はあの子を見ていると昔の教え子を思い出すわ」

 

いつの間に彼女たちと接触したのだろうかと思う董卓だが、彼らは何だかんだでこの洛陽でも重要人物たちに接触していることを思い出す。

何太后に霊帝、劉協といった大物たち。彼らと言うよりも藤丸立香がいつも中心にいる。

人との縁の繋がりが多い男である。

 

「それじゃあ、私は出陣の支度があるから…」

「ええ、おやすみなさい」

「おやすみなさいませ」

 

部屋から出ていく皇甫嵩。

 

「…ねえ、月ちゃん。さっきの話だけど、十常侍の動きについてあなたは何か掴んでいる?」

「実はそのことで、大事なお話があります」

 

話を切り替えて盧植には大事な話をしなければならない。

 

 

更に宮中の別の場所では。

 

「はー…それにしても姉さまはもう駄目ですね。妾もほとほと愛想が尽きましたわ」

「では、私の話を考えてくださったのですね?」

「ええ、黄巾の乱での失態に、将軍たちの心も姉さまから離れています。その上、貴女たち十常侍まで敵に回そうとするなんて…」

 

いずれは謀反を起こされてしまうのは目に見えてしまう。

何太后の目から見ても最近の何進の様子がおかしいと思うのは明らかである。とても怯えているように見えるのだ。彼女はそういう風に見える。

 

「はい、何進殿が大将軍では漢王朝は持ちません。主上様の御為にも今、手を打っておかなければなりません」

「次の大将軍には誰を考えているのですか?」

「能力、人望から考えても皇甫嵩殿が適任かと」

「ふふっ、左様なことをおしゃいますが皇甫嵩殿は涼州へ出陣し、しばらく都を空けるのでしょう。その間に姉さまを排除し、貴女たち十常侍が権力を掌握した上で帰還した皇甫嵩殿には名ばかりの大将軍を命じるつもりかしら?」

「すべては主上様の御為です。愚かな武官どもがちからを握っている限り、この先も漢の国は乱れ続けるでしょう」

 

趙忠の行動は全て天子様である霊帝のため。

他の仲間である十常侍も関係ない。何もかも霊帝が最優先なのだ。

 

「ふふ、しょせん将軍は皆、戦したがりですものね。それで、妾にどうしろと仰るのです?」

「はい、近々、我ら十常侍は改めて黄巾討伐の功績をたたえ、何進殿をねぎらうための祝宴を催します。何太后様はその宴に何進殿を出席するよう何卒ご説得を」

「それはどうでしょうね。姉様は十常侍に命を狙われていると思っていますのよ?」

 

最近の何進は十常侍を恐れているようなのだ。そんな十常侍が催す宴にホイホイと来るとは思えない。

 

「この宴はまさにその誤解を解くためのものだと…十常侍には何進殿と敵対する意思はないと、くれぐれも妹君から何進殿を説き伏せてください」

 

何進を宴に参加させるために趙忠は何太后に近づいたのだ。彼女と手を取って、何進を宴に呼ばなければ意味は無い。

これで何進が宴に来なければ今まで準備してきた策が全て水の泡になる。

 

「まあ、出来る限りの説得はしてみましょう。それで宴の席で姉様を捕らえるのですね?」

「はい、そして天子様の勅をもって、大将軍の任を解きます。この洛陽からは追放ということにいたしましょう」

「その言葉に偽りはないでしょうね。姉様に怪我を負わせたり、命を奪ったりするようなことは…」

「ありえません。宮中での流血沙汰など、私も見たくありませんから」

 

何太后は自分の姉を殺そうなんて思っていない。趙忠の策には乗るが何進の命は奪わせない。

 

「ふふっ…貴女を信じておきましょうか」

 

何太后は趙忠を「信じる」と言った。その言葉がどれだけ重いか軽いかは彼女の心情でしか分からない。

 




読んでくれてありがとうございます。
次回もまたゆっくりとお待ちください。次回は早ければ来週。でなければ再来週予定。
でも来週か再来週はSINが配信かもしれないので…どうなるか。

SINの内容や新鯖によってはこの物語も変更や追加キャラもあるかも。
そうなるとまた…頑張ろう。

今回は最後に何進との話でした。それと本編へと繋がる話でした。
盧植や皇甫嵩の関わる話はまたいずれ書いていきたいです。

次回でやっと本編に戻ります。


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力の渇望-悪龍-

こんにちは。
前話で次の投稿は来週かもって書きましたが今日投稿です。
勢いで書きました。おそらく今までの話の中でこの話が一番文字数が多いですね。

いっきに本編が進みました。この章での終盤にあたります。


85

 

 

賈駆たちは誰にも聞き耳を立てられない場所で密談を交わしていた。

 

「そっか、やるねんな」

「うん。趙忠殿は何進様を暗殺するために宴を開く手配をした。何太后様もすでに抱き込んでいる。呂布と陳宮は最初から賛同してるし、盧植将軍も昨晩、月が説得したよ」

 

その密談は物騒なものだ。大将軍を暗殺やらなんやらと物騒極まりない。

 

「ほな、いよいよやな」

「華雄将軍には話した?」

「いや、言うてへん。華雄は一本気なヤツやからな…全部、済んだ後で話すわ。その方が、アイツも気が楽やろ」

「わかった」

 

華雄には話していない。彼女には話さないのは張遼が言うようにこういうのは合わないからだ。

華雄本人からしてみれば、後から説明されたら説明されたらで何故関わらせなかったと怒るかもしれないだろう。

 

「月の腹はもう決まってるんやな?」

「もちろんだよ。これはもともと、月がやるって決めたことなんだしね」

「ウチは気が重いわ。しゃーないのは分かってるんやけど皇甫嵩将軍の留守にやるっちゅーのもなぁ」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ。確かに皇甫嵩将軍には悪いと思ってる…でも、今が絶好の機会なんだ」

「分かってる。よし、やるっきゃないか。これもお国のためやな」

「うん、ボクたちでこの国を救うんだよ」

 

これは国が変わる革命だ。国を救うために人の命を奪う。

これはどの時代にも起こりえる大事件。

西園軍の任命式や卑弥呼が帰還してから時が経ち、朝廷の宮中で大きな事件が起きる。

これは朝廷内の問題だ。

今まで牙を隠していたにせよ、磨いていたにせよ、これから董卓の猛攻が始まる。

これは朝廷の大粛清の第一歩だ。もうこの国は汚れすぎている。ならば一度解体して立て直さねばならない。

そのためには今いる魑魅魍魎たちが邪魔なのだ。そうしなければ天子様に国を返上できない。

董卓は自分の手が血で汚れる覚悟はもうできている。

彼女は優しい。そして非情になる覚悟も持っている。全ては天子様のために動く。

 

「月」

「詠ちゃん」

「準備が出来たわよ」

「分かった。恋さん、霞さん」

「…ん」

「いるで」

 

董卓を慕う将たちや護衛たちも万全。

覚悟はもう出来ている。

 

「みんな、行きましょう」

 

これから朝廷に最も深くに根付いている魑魅魍魎を炙り出す。

 

 

86

 

 

董卓たちが魑魅魍魎たちを捕縛しに行こうとしていた時、藤丸立香たちは于吉に関して対策会議をしていた。

今のところ、于吉は妖馬兵を出陣させて洛陽を堕とす気配は無い。燕青や荊軻が洛陽の周囲を警戒していて探索に出ても何も発見されなかったのだ。

 

「ふむ、于吉め…嘘をついたか?」

「いや、そんなことは無いと思うけどねん…」

 

于吉が諦めるとは思えない。

 

「太平要術は何も妖馬兵を操るだけが力ではない。他にも様々な力があると聞く」

 

この会議には華佗も参加している。彼は医者であるが、実はもう一つの顔が存在する。

それは道教の教団『五斗米道』に属する顔だ。彼は何でも世に災いをもたらす『太平要術の書』を封印する、もしくは処理する命を受けて元々大陸を旅をしていたのだ。

そんな彼に出会えたのも何かの縁だろう。

 

「それが于吉という道士の手に渡ったと言うのなら危険だ。貂蝉の話だと于吉は凄腕の道士なのだろう?」

「ええ、于吉ちゃんはあれでも凄腕。それに太平要術の書の力が合わされば…ううん、もう」

「封印するか燃やすかできれば良いのだが…」

「封印する役目は華佗に任せる」

「任せてくれ!!」

 

着実に于吉と太平要術の書対策が固まっていく。だが相手は神出鬼没の道士であり、貂蝉と同じく別次元の存在。

どんな時にでも攻め込んでくる。

 

例えば今だったり。

 

「いやあ、私対策の会議だなんて…私ったら人気者ですね」

 

パチンっと諸葛孔明は指を鳴らすと于吉の立っている床が爆発する。

 

「ふん、前のようにいきなり出現する対策はできている。よく私の陣の中に不用意に入ったものだな」

「……ケホケホ。罠に掛かる覚悟はありましたけど、足が吹き飛ぶ所だったじゃないですか」

 

服が焦げ、火傷もちらほら出来ているが澄ました顔だ。

 

「まったく容赦の無い…こちらの孔明の方が面倒ですね」

「于吉!!」

 

すぐさま卑弥呼が拳を握り突撃。貂蝉も先回りして挟み撃ち。

 

「合わせろ貂蝉!!」

「分かってるわよん!!」

 

同時に拳を突き出すが、彼らの前に屈強な土人形が召喚された。

 

「あれは妖馬兵だ!!」

 

華佗が叫ぶのと同時に卑弥呼たちの拳が妖馬兵を粉砕する。だが粉砕されても残った腕で卑弥呼と貂蝉に殴りかかる。

 

「この土くれがあ!!」

「こんなのでアタシの愛を止められると思わないでよ!!」

 

2発目の拳で今度こそ妖馬兵を破壊する。

 

「やはり妖馬兵を使ってきたか。ならばお前の持つ太平要術の書を封印する!!」

「五斗米道の華佗ですか…貴方も毎回面倒ですね」

「毎回だと。何を言っている?」

「こちらの話ですよ」

 

華佗も突撃して攻撃に加わる。意外にも彼は戦える。

今まで太平要術の書を封印するために1人で大陸を旅していたのだから戦うことは当たり前にできるのだ。それに体の治し方が分かるのならば人体の壊し方。

どう戦えばいいかすらも分かっている。

 

「意外に戦える…!?」

 

于吉も少し驚いていた。直接戦うのは今回が初めてである。

 

「悪いがここで捕まえさせてもらうぜぇ」

「悪人 捕縛」

 

燕青と哪吒も加わるが、それは于吉としても勘弁してもらいたい。だからまた妖馬兵を召喚した。

しかも大量に。

室内が妖馬兵によって埋め尽くされる。これではギュウギュウに押しつぶされてしまう。

 

「さあ、孔明。このまま押し潰されたくなければ陣を解きなさい」

「チッ…」

 

どんどん召喚されていく妖馬兵。今ここで暴れられてもマスターに被害が及ぶ。

仕方ないとはいえ、陣を一端開放する。

 

「こちらですよ」

 

そのまま于吉は全員を誘うようにふわりと浮きながら離れていく。

 

「逃がすか!!」

「待て華佗、罠かもしれんぞ!!」

「構うものか。虎穴にいらずんば虎児を得ずだ!!」

「あらやだ、漢らしい…」

 

確かに罠かもしれないがここで見逃すわけにはいかない。華佗の言う通り追いかけるしかないだろう。

于吉を追いかけた先に何の策があろうとも打ち破って見せる。

 

「俺らも追いかけよう!!」

 

 

87

 

 

何進は妹の何太后に連れられて十常侍の催す黄巾討伐の祝宴に参加していた。

 

「何進殿。ようこそお越しくださいました。どうぞ上座へ」

 

趙忠に促され、上座に不満を隠さずに座る。その時に一番の敵である張譲と目が合うがすぐに逸らす。

今まで対立してきた敵である十常侍の催す宴なんて面白くもなんともない。そもそもこの宴に来た事自体が何進自身からしてみればあり得ない。

どう見ても敵の胃袋の中に入り込んでいるようなものなのだから。

 

「ふん」

「何太后様もどうぞお席へ」

「ええ」

 

並ぶは豪勢な料理たち。この宮廷だからこそ用意できる高級の料理だ。

こんな高級な料理はまず下々の者には口にはできない。

 

「ふふっ。まあまあ、なんと美味しそうなご馳走なのでしょう。珍しい食材がたくさんですわね姉様?」

「あ、ああ」

 

十常侍の1人が何進の盃に酒を注ごうと近づいてくる。そして美味しそうな酒を注ぐ。

だが、何進の目には美味しそうな酒には見えない。

 

「趙忠。これはどういう風の吹き回しだ?」

「何進殿。近頃、我らの間には行き違いもございました。ですが、この盃をもって、かつてのように昵懇な間柄に戻りましょう。漢の国を導き、主上様をお守りするのには大将軍何進殿と我ら十常侍が力をひとつにしなくてはならないのです」

 

笑顔で趙忠は何進に一緒に酒を飲むように促す。それが目的なのだから。

 

「……妹よ」

「はい、姉様」

「毒見役を呼べ」

「まあ!?」

 

この言葉に他の十常侍は驚きと、不満を口にする。

 

「何進殿!!」

「それはあまりにも無礼というものですぞ!?」

 

十常侍は口々に失礼だと言ってくる。だが何進の反応は張譲も当然だと思っている。

 

(ふん。何進の反応は当たり前だよね…だがここまで来たら無理矢理でもーー)

「ほお、ならばこの酒、貴様が飲んでみろ?」

 

今の言葉で他の十常侍たちは黙り込んでしまう。

 

「趙忠、貴様はどうだ。張譲もな?」

 

趙忠はチラリと何太后を見る。こういう時のために彼女は何太后を引き込んだのだ。

 

「…何太后様」

「ええ。姉様、礼を逸するにも程があります。姉様も武人の端くれでしょう。如何に政敵でも……毒で殺めようだなんて褒められたものではありませんわ」

「…!!」

 

この言葉に趙忠や他の十常侍たちの顔が歪む。より歪んだのは趙忠である。

これは「裏切られた」という言葉が頭に響く。

何太后は趙忠に引き込まれていない。逆に利用させられたのだ。

 

(っ…趙忠め話が違うではないか。何太后は此方に取り込んだのではないのか!?)

 

趙忠のミスに張譲も顔が一瞬歪む。

 

「クククッ…ハッハッハッハ!!」

 

何進は今まで怯えていた顔から変わり破顔をする。

 

「貴様らの猿芝居など、最初から見抜いておったわ。たわけが、十常侍全員が呑気に余の前に雁首をそろえおって!!」

 

実は最近の何進が怯えているという宮中でいつの間にか広まった噂は全て演技である。

自分自身が十常侍に恐怖している状態になって油断させたのだ。

 

「うふふふふふっ」

「出あえーーーーいっ!!」

 

董卓たちや兵士たちが宴の席に乱暴に入ってくる。

十常侍たちは全員が苦々しい顔。圧倒的な有利かと思えば形勢が逆転させられる。

 

「動くんやない!!」

「もう、あきらめてください」

「宴の間は完全に、兵が包囲しているよ」

 

もう十常侍に逃げ場はない。

 

「何太后様、貴女は初めから私を謀っていたのですか?」

「ふふ、ごめんなさい。でも、貴女って意外に馬鹿だったわね。私が本気で姉様を裏切るとでも思ったの?」

 

趙忠は完全に引き込めていたかと思っていたが甘く見ていた。

彼女は何太后だ。何も裏が無く、乗ってくるとは思えないはずだったのだ。だがもうそんな考えは遅い。

 

「我ら姉妹の絆を侮ったな?」

「ええ。どんなに馬鹿でお調子者でも、姉様は私の姉様ですものね」

「い、妹よ…」

 

今の言葉は流石に無いだろうと心の中で妹にツッコミを入れる。

 

「……やれ!!」

 

号令と共に張遼たち兵士が動く。

 

「潔う往生せい。アンタらがのさばったせいで漢の国がここまでダメになってもうたんやっ!!」

「や、やめ…待てーーー!?」

 

張遼の偃月刀が煌めくと同時に血が飛び散った。

兵士たちも他の十常侍に剣を振るう。もはやここは阿鼻叫喚の地獄。人が人を殺す場。

 

「皆殺しにいたせ!!」

「ふん…斬ってもウチの刀が汚れるだけのようなヤツらやけどな」

 

十常侍たちは怨嗟の言葉を残しながら死んでいく。

 

「クックック…ハーッハッハッハ!!」

「あー…いやだわ。姉様、私、気分が悪くなてきちゃった。もう部屋に戻ってもいい?」

「まあ待たんか」

「…なぜ、殺さないのですか?」

 

今のところ生き残ったのは趙忠と張譲の2人。

 

「貴様は霊帝のお気に入りだからな。だが、あれは無能にも程があるのでな。そろそろ妹の劉協に皇帝の座を譲っていただく」

「私はあまり気乗りしないんだけどねー」

「それゆえ、貴様だけは生かしてやろう。隠居された霊帝が大人しくされているように貴様が相手を務めるのだ」

 

霊帝を大人しくさせる鎖が必要だ。その役目が趙忠というだけのこと。

彼女に選択肢なんてない。ここで断れば命がないのだから。

 

「…そうですか。ならば、私にも異存はございませんね」

「ああ?」

「私の願いはあくまで、主上様の安らかなお暮しです。俗世から解き放たれ、主上様と平穏無事に過ごせるなら、それは私にとって何より喜ぶべきことです。承知しました。言われたとおりにいたしましょう」

 

その命は趙忠にとって願っても無いこと。死なずに霊帝と過ごせるなら構わない。

 

「ふん、つまらん負け惜しみを」

「ほんと、変わった娘ねー」

 

何進は今度は張譲に家畜を見るような視線を向ける。

 

「張譲よ。今までよくもやってくれたな。」

「…まさかボクも助けてくれるのかい?」

「そんなわけ無かろう。貴様は余みずから首を斬ってくれよう…だが余も寛大だ。貴様は最後に殺してやる」

 

何進は次の命令を口にする。

 

「張遼、董卓よ宮殿に散り、十常侍の息がかかった宦官どもを一人残らず捕えよ!!」

「……はー。傾、悪いけど」

「なっ…!?」

「姉様…!!」

「ちょ、張遼。貴様…気でも違ったか!?」

 

張遼は偃月刀を何進に向けた。

 

「どうかしてるんがアンタの方や」

「おい董卓、何をしている。このたわけを斬れ!!」

「それは…出来ません」

 

今度は兵士たち全員が今度は何進達に剣を向ける。

 

「か、賈駆っ。これは一体どういう事だ!!」

「何進、お前のおかげで十常侍をまとめて葬ることができたよ。お前の役目はこれで終わりだ」

「賈駆、貴様っ!!」

「何進様、覚悟をお決めください」

「き、貴様ら…さんざん目をかけてやった恩を忘れおって…誰か、この痴れ者どもを斬れーー!!」

 

だが誰も何進の命令に従う者はいない。もう何進に従う兵士はここにはいないのだ。

それは今まで彼女がやってきた自業自得の結果である。

 

「お、おのれ!!」

「はぁ…結局、私たちも騙されていたってことなのね」

「そういうことか。妙に協力的だと思えば、すべては貴様自身が実権握るためだったということか」

 

今回の大事件の裏で糸を引いていたのは何進でも十常侍でもない。全て董卓たちによる策略だ。

この計画を立案したのは董卓自身。策を考えて、実行への準備の根回しをしたのは賈駆。

もうこの漢は魑魅魍魎たちによって腐りに腐っている。ならばこの国の癌を全て除去しないとどうにもならない。

賈駆は何進にも十常侍の趙忠にも接触し、秘密裏に潰し合うように根回しをしたのだ。

何進にも趙忠にも今回の宴を催す場で暗殺する策を授けたのである。まずは趙忠に何進の暗殺の策を授けた。次に何進と何太后には趙忠たちが暗殺計画の情報を流して行動させた。

趙忠と何太后を接触させるようにも裏で手を引いていた。何進に演技するようにも仕向けた。何もかも裏で秘密裏に準備してきたのである。

何進にも趙忠にもバレないように行動したのは流石に骨が折れたものだ。

だがその結果、何進も趙忠も疑いもせずに乗ってくれたからこそ上手くいったのである。

 

「…何進殿たちを連れて行ってください」

 

兵士たちが何進達を剣を向けながら囲む。

 

「霞…」

 

何進は張遼の真名で呼ぶ。

 

「ウチかて悩んだんやで…でももうアカン。アンタみたいなやつに、劉協様を傀儡に好き勝手されたら十常侍の専横となんも変わらん。この叛乱もただの混乱を呼んだだけになる」

「この腐った朝廷を改革するには演出は過剰なくらいの方がいい。それに民から見ればお前も十常侍も大差ないんだ。恨むのなら自分の俗物振りを恨むんだね」

 

何進はもう何も対策を練れない。

 

「ああぁ…」

「姉様、あきらめましょう」

「す、すまぬ妹よ」

 

何進と何太后は兵士たちに連行されていった。そして今度は趙忠に目を向ける。

 

「…私はどうなるのですか?」

「何進じゃないけれど、陛下には劉協様に帝位を譲っていただく。今の漢を背負うには陛下では荷が重過ぎる」

「…結局、貴女方も劉協様を傀儡にして、漢を乗っ取る算段ですか。あの何進といったい何が違うのです?」

「くっ…月をそんな風に言わないでよ!!」

 

何進と一緒にさせるのが気に食わない賈駆。彼女は怒りの目を趙忠に向けるが董卓によって遮られた。

 

「…そう思われても仕方ありませんね」

 

董卓は何進とは違う。

 

「私も全ては天子様のためです。この国は…もう駄目です。元に戻すには、より良くするには誰かが今の漢を壊さねばなりません」

 

今まさに董卓達は漢を壊した。漢の上層部に巣食い、国を好き勝手政をしていた魑魅魍魎たちを処理したのである。

 

「壊す役割をするその誰かが私だったということに過ぎません」

「っ!?」

 

董卓の目の奥は覚悟を持った光が存在する。

その目の奥にある光は綺麗なものではない。こんな儚げで優しい人には似合わない鈍く暗い光。

未来のために全ての汚れを背負う董卓。そのために彼女は非情になってみせる。その彼女の覚悟は目的のためなら強引ながらも実行させる厭わない程の強い意思だ。

『強引』という言葉の中には今のような虐殺さえ含まれているのだ。

その意思を感じ取った趙忠は董卓に恐怖してしまった。

 

(…これがあの董卓さん?)

「ふん、お前や何太后が陛下を骨抜きにしたせいだよ!!」

 

趙忠もまた兵士に引きつられて連行されていった。

そして最後に董卓たちは張譲に目を向ける。

 

「張譲殿」

「…まさか君なんかがここまでやってくれるとはね。はっきり言って予想外だったよ」

 

張譲の顔は涼しい。軽口を叩けるほどなのだから。

 

「まずあんたに聞きたいことがあるわ」

「なんだい賈駆?」

「あんた、道士と繋がりあるみたいね?」

「それをどこで…」

 

この言葉にピクリと反応する。秘密裏にしていたがバレていた。

どこで情報が漏洩していたか分からない。だがここは魑魅魍魎が跋扈していた場所だ。納得はしたくはないが不思議ではない。

 

「アンタ以外の十常侍や何進たちも厄介だったけど…アンタが一番厄介よ。道士なんて胡散臭くても怪しすぎる。何を考えてるのよ」

「…………く」

 

実は張譲の精神上だと完全に追い込まれていた。涼しい顔は嘘である。

何進を暗殺しようと思えば、返り討ちにあって十常侍は壊滅。そしたら今度は董卓が裏切り、何進さえも追いやった。

このままだと処刑は免れない。何進が消えたと思ったら次はまさか自分の番になるなんて笑えない。こんな事なら趙忠の策略なんかに乗るべきではなかった。

 

(おのれ…!!)

 

怒りと焦りが張譲を悩ませる。

 

(ここまで地位を上り詰めたのだ。こんな所で終わるわけにはいかないだろう!!)

 

まずは逃げなければならない。生き延びて再起を果たす。

 

「董卓め…」

「逃がすと思ってんの?」

 

賈駆が護衛を引き連れて張譲の前に出る。更には呂布たちも出てくる。

 

「張譲殿。諦めてください」

「董卓…!!」

 

賈駆の後ろから董卓が現れる。これで完全に張譲は包囲された。

 

「大人しく捕まってください」

「は、大人しくだと。捕まった所で殺さるだけではないか!!」

「当たり前でしょうが…アンタの罪はそれほど重いわ」

「たかだが西涼の出めが…!!」

 

張譲は拳を強く握りしめる。

 

「もうアンタの終わりよ」

 

呂布と張遼が武器を持って前に出る。だがまだ張譲の終わりではない。

 

「追い込まれてますね張譲」

「う、于吉か!?」

 

壁から幽霊のように于吉が出てくる。

 

「な、だ、誰ですか!?」

「壁から出てくるなんて!?」

「おや、董卓たちもお揃いですね。あ、張譲。この壁から離れていてください。壊されるので」

「何を言って…!?」

 

いきなり于吉がすり抜けてきた壁が大破した。

 

「ふんはあああああああ!!」

「うっふううううううううん!!」

 

壁から出てきたのは圧倒的な筋肉を持つ貂蝉と卑弥呼であった。

 

「何だこの化け物たちは!?」

「どこから出て来てんのよあんたらは!?」

 

流石の張譲も驚き、賈駆は壁を粉砕してきて出てきた貂蝉と卑弥呼にツッコミを入れる。

 

「あら、賈駆ちゃんに董卓ちゃんに…あらあら全員集合ねえ」

「董卓さんに賈駆さん!!」

「立香さんたちまで!!」

 

まさかのまさかで全員が集合した。だがこれこそが于吉が用意していた策の場所である。

今から彼は策を実行する。

 

「太平要術の書にはこんな使い方もあるのですよ」

 

太平要術の書を開いて、何か呪文のような言葉を紡いでいる。

 

「おい于吉何をやっているんだ。妖馬兵はどうした。こんなときにブツブツと言っている場合じゃないんだぞ!!」

 

「張譲。アナタは力を欲していましたね?」

「そんなこと当たり前だ。力があるならこんな状況ならずにすんだものの…」

「なら力を与えましょう。太平要術にはこういう使い方もありますので」

 

于吉が呪文を唱え終わった瞬間に太平要術の書から不気味な光が飛び出して張譲に取り込まれて行った。

 

「な、于吉何を!?」

「だから力を与えました。これでアナタは無敵ですよ」

「うあああああああああ!?」

 

不気味な光が張譲を包む。

 

「な、何が起こるんや!?」

「あれは…危険」

「ぬう、于吉め。無茶なことを!!」

「何をしたの?」

「奴は大陸全土から集めた負のエネルギーを張譲めに取り込ませたのだ。あんなことをしてどうなるか分かったものじゃないぞ」

言っていることは理解できた。しかし実際のところやられた張譲はたまったものではないだろう。

 

「張譲は力を貪欲に欲していた。ならば耐えれるでしょう」

 

「耐えれるとは簡単に言うな。アレは一般人に無理矢理に魔術回路を埋め込んでいるものだぞ」

 

「これはこれは諸葛孔明殿。こちらの諸葛孔明には会われたかな?」

「……まだだ」

「フフ、あんな幼女ですが確かに諸葛孔明ですよ」

 

不気味な光が徐々に収縮していく。その中心には張譲が不気味に笑っていた。

 

「はは、ははははは。なんだ、力が溢れてくるぞ」

 

魔力が、妖力が溢れている。この溢れてくる力が何でも出来ると思わせてくれる。すぐにでも早くこの力を試したい。

 

「丁度良いところに目の前に賊がいるな」

 

ギロリとその眼光は藤丸立香たちを見る、董卓たちを見る。

 

「董卓。このボクを追い詰めたつもりだろうが天はボクを選んだようだ」

 

肉体から妖力を滲み出させて手に集中させる。あれは魔力弾だ。

 

「死ね董卓!!」

「月!?」

「危ない!!」

 

魔力弾が董卓に接触する前に藤丸立香は走る。そのまま飛び込むように董卓を押し倒して避けるがその前に燕青が魔力弾を蹴り飛ばしていた。

 

「大丈夫か董卓さん!?」

「は、はい。ありがとうございます」

「全く、無茶しないでくれ主」

 

お互いに無傷。間一髪と言うところだろう。

 

「月になんてことすんのよ!!」

「なんてこともなにも。ただボクは自分の敵を倒すだけだよ。今まで同じようにね」

 

ニヤリと歪んだ顔。

その歪んだ顔が戦いの始まりだ。

 

「よくも月を…屠る」

 

呂布が勢いよく飛び込んで武器を力の限り振るうが張譲が片手を掲げて結界を展開。あと一歩のところで防いでみせた。

 

「ははははは。どうだ、あの呂布の一撃を防いだぞ!!」

 

張譲にとって呂布の力は恐ろしかった。だがそれはもう過去形だ。自分自身で呂布の攻撃を防げるようになればどうとにでもなるのだから。

 

「呂布。どうだこのボクに付かないか?」

「戯れ事!!」

「そうか残念だ」

 

もう片手で大きな魔力弾を形成。その魔力弾が呂布に接触する前に藤丸立香が動く。

 

「哪吒、燕青、呂布奉先お願い!!」

 

号令と共に3騎が動く。

哪吒が大きな魔力弾を破裂させ、呂布奉先が結界を張っている張譲に連撃。燕青がそのうちに呂布を回収した。

 

「ええい、うっとおしい!!」

 

呂布奉先の連撃に圧されたのが焦ったのか、魔力弾を散弾のように放つ。

 

「三蔵ちゃんスキル『妖惹の紅顔』を。孔明先生はスキル『軍師の忠言』を!!」

「まっかせて!!」

「了解した」

 

魔力弾の散弾が全て玄奘三蔵に引き寄せられる。その全てを受けて耐えてみせる。

 

「三蔵ちゃん!!」

「大丈夫よマスター。これも御仏の加護よ!!」

自分は全く平気だと態度をみせる。そのまま張譲に攻撃へと転じる。

 

「御仏的に貴方は許せないわ!!」

「許せないのはこっちだ。ボクの邪魔をするな!!」

「みんな、そのまま攻撃を休まずに!!」

 

張譲は結界を張るが哪吒たちの猛攻は止まらない。力を得て、こんな有象無象など簡単に倒せると思っていた。あの呂布さえも超える力を得て手に入れたのだから数の差など意味はないと思っていた。しかし、目の前にいる敵は強かった。それが張譲を苛つかせる。

 

「おのれ…だが、ボクの力は最強だ。この結界が破られるはずはない!!」

「李書文!!」

「応さ!!」

 

今まで潜んでいた李書文が蹴速と共に速さを乗せた拳で打ち抜く。

張譲の術はまだ慣れていないのか完全無敵な結界ではない。複数の英霊たちの攻撃で結界が破壊された。

 

「今だ!!」

「うぐああああああ!?」

 

李書文の槍が張譲を貫く。

 

「急所は外した。もう降参しろ」

 

戦いは瞬時に決着がついた。いくら巨大な力を得ても、使い方が分からなければ意味はない。実際に張譲は得た力を使いこなせていないのだ。いきなり拳銃を素人が使っているようなものである。

そんな相手に百戦錬磨の英霊が遅れをとるはずもない。

 

「す、すごい…」

 

この戦いを見た賈駆はポツリと呟いた。もちろん、李書文たちの強さを再確認しただけではない。寧ろ、今回の称賛は藤丸立香にもある。今まで彼は呆れるほどお人好しで、皆が認める善人くらいだと思っていた。実際に彼は心を許しそうになるくらい善人だ。そんな彼が今の戦いで見せた采配は目を疑った。

的確で冷静な指示により敵を打ち破ったのだ。采配には李書文たちは迷いなく従った。それほどまでに藤丸立香の指示を信じているということ。

賈駆は藤丸立香の強さの1つを見た瞬間であった。

 

 

88

 

 

「おやおや、流石は英霊ですね。そして英霊を指示するマスターである彼も見事です」

 

英霊も驚異だがマスターである彼も驚異である。あれだけ我の強い英雄や偉人をまとめあげるのはそうはいない。

于吉にとって藤丸立香という人間は油断できない。天の御使いである北郷一刀を油断できないように。

 

「ここまでねん于吉ちゃん」

「観念しろ于吉!!」

「于吉よその太平要術の書。俺が五斗米道の力で封印してやるぜ!!」

「こっちはこっちで人外ですね」

 

于吉に暑苦しい気で圧倒する貂蝉と卑弥呼。それに加わるは華佗の熱血な闘気。並みの者なら彼らの気当りで気を失うだろう。恐らくこの世界の並みの武将たちなら気絶する。

 

「こんなことをして何が目的だ。やはり外史の消滅を企んでいるのではなかろうな?」

「そうなると左慈ちゃんもいるはずよね?」

 

于吉には明確な前科がある。いくつもあるが、明確なものは2回だ。1回目はある外史にて左慈とともに外史の消滅と天の御使いの殺害を計った。2回目は別の外史で暗躍し、最強の軍隊を手に入れて都を墜とそうとした。

 

「これで3回目かしら。懲りないわねえ」

「今回は前のようにはいきませんよ。今回は本気ですので」

「ほお、だが今回はワシもおる。前より上手くいかんぞ」

「卑弥呼。アナタがいるから何だと言うのですか。先程も言いましたが今回は本気ですので」

 

張譲の方からいきなり禍々しい気が放たれた。

 

「なんだ!?」

「今回は本気です。私は左慈のために外史を破壊する」

 

パチンと指を鳴らすと多くの妖馬兵を召喚する。これは張譲への置き土産。

 

「待て于吉!?」

「またお会いしましょう。私にはやることがありますので。もし次があるなら…ーーーで」

「何だと、それはどういう!?」

 

于吉は靄のように消えた。

 

 

89

 

 

張譲は虫の息だったはずだ。だが、体から禍々しい気が滲み出ている。よく見ると槍で貫かれた傷が徐々に塞がっている。

 

「む、面妖な。あれも太平要術の力か」

「おのれ賊ごときがあああああ!!」

 

張譲が吼える。すると張譲の肉体が変質してゆく。

 

「うう…うがあああああああああああ!!」

 

鱗が生える。角が生える。尻尾が生える。牙が生える。肉体が大きく変化していく。その姿は誰もが見れば分かる。

 

「龍……!!」

「ボクの邪魔をするな!!」

 

灼熱の炎が吐かれる。龍のブレスは驚異的な力。

 

「あっははははははは!!」

 

巨大な龍。その大きさは邪竜を思い出す。

今の張譲は悪龍と言うべきか。

 

「凄いぞ凄いぞ。ボクは龍となった。軍隊なぞいらない。ボクさえいれば無敵だ。龍とは神に等しい。ボクは大陸の頂点に辿り着いたんだ!!」

 

その姿、その力、その驚異は幻想で最強。誰もが敵わないと思う。

董卓や賈駆は腰が抜けてしまう。早く逃げなければと頭では理解しているが体が動かない。呂布や張遼は董卓たちを守らねばと前に出るが龍となった張譲には刃が届かない。

 

「あはははははははは。賊が、董卓が呂布が虫のようだ。恐れずに足りないな!!」

「こ、こりゃまずいで!?」

「…強い」

「まさか龍になるなんて…嘘でしょ」

 

実はこの外史には龍が存在する。幻想と現実が混ざりあった世界なのだ。

だから龍という概念はこの外史にとってなんらおかしくはない。

 

「お前たちを片付けたらこのまま天子を手に入れる。いや、このボクが天子になることだって可能なはずだ。なんせ今のボクは大陸の頂点なんだからな!!」

 

力を手に入れた張譲は自分が最強の存在だと疑っていない。

張譲は力が欲しかった。宮中では実権を手に入れても自分の兵などはいなかった。だからいずれはすぐに鎮められる可能性があったのだ。だが今はどうだ。張譲にとって一番厄介な董卓たちを圧倒している。彼女さえ潰せばもう天子は手に入る。

いずれ袁紹などの諸侯が天子を取り返しに来るかもしれないが今の力を持つ張譲ならば返り討ちにできる。

 

「天子を手に入れたら宮中の掃除だ。邪魔な諸侯どもも消す。ボクに逆らう奴は全員消す。あとはボクが理想の国家を建て直してやろう!!」

 

やっと張譲の思い浮かべる道が見えてきた。自分の欲しかった力を手に入れたのだ。あとは自分が動くだけ。

 

「だ、駄目です。張譲殿。貴方に天子様は渡しません!!」

 

悪龍となった脅威の張譲に恐怖しながら董卓は口を開く。

 

「ふん、このボクに指図するな。それに今の君はとても怯えている姿が滑稽だな。それでよくボクに指図したものだ。あっははははははは!!」

 

董卓が発した言葉は悪龍となった張譲に対しての精一杯の抵抗。だが張譲は虫の声のように気にもしない。もう張譲にとってそこらの人間は下等な存在。なんせ自分は龍という最上位の存在になっているのだから。

 

「さあ、焼け死ね!!」

 

足が動かない。圧倒的な力の前に体が言うことを聞いてくれないのだ。賈駆は董卓だけでも逃がさないと考えるがやはり身体が動かない。

呂布や張遼たちは無理矢理にも足を動かして董卓たちの前に出る。

董卓だけは守らねばならない。彼女のように優しく、覚悟を持った大切な人は自分たちの命に代えても守らねばならない。

 

「月だけでも…」

 

自分の身体なんだから動くはずだ。だけど動けと頭で命令しても動かない。目の前には圧倒的な驚異。

どうしてこうなったのだろうか。これはやはり殺す殺されるの事だからか。

順調だったはずだ。なのに今は絶体絶命。まだ死ぬわけにはいかない。頭にはグルグルと様々な言葉が回るがまとまらない。

董卓だって賈駆と同じ考えで大切な人を助けたいと思っている。賈駆を呂布を、張遼を助けたい。

振るえる手を拳にして握る。振るえを止めて何かをしなくてはならない。だが何も考えられない。

 

「み、みんな…」

 

もう駄目だと思った時、董卓と賈駆の横をすり抜けて前に出た人物がいる。

 

「あ、あんた…」

「立香さん!?」

 

前に出たのは藤丸立香だった。

 

「燕青、李書文頼む!!」

「いいよぉ!!」

「応さ!!」

 

マスターの指示で2人は跳んで悪龍となった張譲の顎を下から蹴り上げた。

「ぐぶっ!?」

 

灼熱の炎は董卓たちには吐かれなかった。

 

「みんな配置に着いて!!」

 

こんな絶望的な状況だと言うのに彼の目は死んでいなかった。

 

「いつでもいいぞ!!」

「戦闘 準備 完了」

「任せろ」

「妾に任せるがよい」

「御仏の力を見せるわ」

「□□□□□□!!」

「マスター、全員配置に着いたぞ」

 

俵藤太たちは指示された場所に配置した。これから行うのは悪龍退治。これこそが藤丸立香たちの本当の戦いだ。彼らが解決しなければならない事案だ。

 

「おのれ。たかだか矮小な賊ごときが…関係ない者が出しゃばるな小僧!!」

 

張譲の目が藤丸立香に向けられる。

彼が今の張譲に恐怖しているのは分かる。そのくせして恐怖の対象である自らを倒すと口語しているのだ。

それがとても気に食わない。その理由は分かっている。それは彼の目が董卓と同じように弱いくせに強い覚悟を持った目をしているからである。

 

「その目が気にいらない!!」

 

張譲が吼える。

 

「確かに俺は関係ないかもしれないよ。この国だとね…でも今のこれはそう言ってられない!!」

「お前がこのボクを止められると思ってるのか!!」

「俺だけじゃ無理だよ」

 

キッパリと言う。藤丸立香個人では今の張譲に立ち向かってでもすぐに殺される。

 

「俺ができるのは力を貸してもらう事だよ」

 

自分に力が無いことくらいは自覚している。だからこそ仲間の力が必要だ。

 

「これは俺だけしかできないことじゃない。誰だって出来る事だ」

 

この言葉が董卓の耳に入る。

 

「誰にだって出来る…」

 

彼の背中を見ていつの間にか振るえが消えている。

 

「張譲。お前を止める」

「止めるだと、止めると言ったか小僧…このボクをどうにかできると思うな!!」

 

悪龍退治が始まった。荒れ狂う悪龍に立ちに向かうは1人のマスターと英霊たち。

気が付けば于吉が置き土産に残した妖馬兵がぞろぞろと迫っている。

 

「行くよみんな」

 

悪龍になった張譲へとカルデアの呂布奉先の咆哮とともに動き出す。

李書文の槍が、哪吒の火尖槍が、呂布奉先の方天画戟が振るわれる。

相手は巨大な悪龍。適当に攻撃しても意味は無い。ならば急所や弱点となる核を狙うべき。

 

「あの角が怪しいかな孔明先生?」

「そうだ。狙うはあの角だマスター。あそこに魔力が集中している」

「分かった孔明先生!!」

 

狙うは額に生えている角。

哪吒は大きく飛んで悪龍の角へと目掛けて火尖槍を突き出す。

 

「むむ 角硬い へし折るのに時間かかる」

「ボクの玉体に触れるな!!」

「哪吒太子よ離れろ!!」

 

張譲が周りに魔力弾を複数展開。俵藤太が全て弓矢で打ち抜く。

 

「酷吏たちよ。妾のために道を作れ」

 

多くの酷吏たちを召喚して組体操のように重なっていくと高くまでそびえたつ。

そこを武則天は上りあがって悪龍となった張譲の背中に乗る。

 

「へし折るのがダメでは削り切ってくれるわ」

 

酷吏を2人召喚して長い鋸でギコギコと削り切り始める。少しずつだが角に傷がつき始める。

 

「ああ、小賢しい!!」

「藤太、哪吒。悪龍の髭を止めるんだ!!」

 

龍の髭で薙ぎ払おうとするが2本とも弾け飛んだ。

 

「させんぞ!!」

「龍の髭 穿いた」

 

俵藤太の矢と哪吒の火尖槍の援護により武則天は無傷。

 

「飛んでいると戦いにくいな」

「なら落とすしかあるまい」

「ええい、灼熱の炎で燃やしてくれる!!」

「三蔵ちゃん。緊箍児で口を塞いで!!」

「任せて!!」

 

シャンッと錫杖を鳴らすと光の輪のような緊箍児が龍となった張譲の口の周りに大きく出現して締め付ける。

これでブレスを封じた。龍のブレスほど強いものはない。

 

「三蔵ちゃん、そのまま締め付けさせといて!!」

 

ブレスを防いだ隙に哪吒はもう一度角に突貫。

 

「孔明先生。張譲を叩き落とす策はある?」

「もう出来ている」

 

パチンと指を鳴らすと張譲の周りに魔法陣が複数展開されて爆破した。

 

「こらあ、妾もいるのだぞ!!」

「だから当たらないように配置した」

 

魔法陣の爆破によって張譲は態勢を崩す。

 

「呂布奉先。儂らを投げ飛ばせ」

「お願いするぜ飛将軍」

「□□□□!!」

 

呂布奉先によって李書文と燕青は高く高く投げ飛ばされる。そして2人は拳を握って急降下して悪龍の背中に力の限り殴る。

 

「ぐぶうおお!?」

 

物理的な力で悪龍は地に墜ちていく。

 

「マスター。武則天の宝具だ」

「そういうことか。武則天は宝具の開放を!!」

 

令呪を一角使用。

 

「くっふっふっふー。こやつは罪だらけだからのう。妾の宝具がよく効くだろうて」

 

宝具展開。

 

「そなたは幸運じゃぞ? 妾の公務を、誰よりも間近で見られるのじゃからな!!」

 

宝具『告密羅職経』の発動。

張譲の墜ちる下に毒の壺のように広く広がった沼が広がった。そのままどぼりと墜ちて毒が悪龍の肉体を犯し、自由を奪う。

 

「うおおおおがあ、な、なんだこれは!?」

「もうお主は飛ぶことは出来ぬぞ」

「こ、こんなもの…!!」

「無理だぞ地に墜ちた龍よ」

 

決着の時は近づく。

 

「く、おのれ…妖馬兵!!」

 

控えていた妖馬兵が動き出す。

 

「ボクがこの毒沼から出るまで守れ妖馬兵!!」

 

ぞろぞろと突進してくる妖馬兵。その数は置き土産にしては多すぎる。

暴れている悪龍を押し留めるのに英霊たちは出張っている。残りの英霊たちでは対処には難しい。

 

「ぞろぞろと出てくるな。しかも土くれなのだから私の刃ではどこ狙っても意味ないな」

「どこを攻撃しても、形が残っていれば動くしな!!」

 

荊軻にとって妖馬兵は相性が悪い。無機質な相手は何処を斬っても毒でも意味がないからだ。

 

「うわわわ、こっち来たー!?」

 

緊箍児で悪龍の口を塞いでいる玄奘三蔵の元に近づいてくる。今ここで邪魔されたら悪龍のブレスが開放されてしまう。

 

「藤太は三蔵ちゃんの護衛を!!」

「まったく世話の焼ける師匠だな!!」

 

次に悪龍となった張譲の方を見る。そこで押し留めているのは武則天を筆頭に燕青、李書文、哪吒だ。

彼らは暴れる悪龍を押し留めるのに戦っている。トドメを決めるためにあと1人か2人を向かわせなければならない。

荊軻と諸葛孔明は藤丸立香を護衛しながら近寄る妖馬兵を壊している。

ならばこの中で一番破壊力のある呂布奉先を向かわせたいが妖馬兵たちの壁に塞がれている。呂布奉先が破壊しても破壊しても沸いて出てくる。

あと1手足りない。

 

「チッ…妖馬兵の数が多いな」

 

まさかの多さに舌打ちをする諸葛孔明。

 

「…董卓さん」

「は、はい!?」

 

急に声を掛けられて意識が覚醒する董卓。

 

「力を貸してほしい。悪龍になった張譲はなんとかする。だから周りにいる妖馬兵をなんとかしてほしいんだ。お願いだ」

 

藤丸立香は力を貸してほしいと董卓たちにお願いする。こんな戦いは規格外だと分かってる。

だがこんな戦いに力を貸してほしいと董卓にお願いするしかなかった。断られてもしょうがないと思っていてもお願いするしかないのだ。

彼女たちの力が借りたいのだ。

 

「………」

「月?」

「分かりました」

 

董卓は目を一瞬だけ瞑って目を開く。そして立ち上がって呂布たちに、残った兵士たちに声を掛ける。

 

「皆さん…立香さんたちが戦っています。あの龍は本物ではありません。あれは十常侍の張譲です!!」

 

董卓にはふさわしくない大きな声を張る。

 

「今の戦いを見れば分かります。この戦いに勝てないということはありません!!」

 

たった10人で悪龍と戦っている。見ていて説明を貰いたい部分もあるが張譲が悪龍になった時点で今さらだ。

 

「立ち上がってください。私は逃げません!!」

 

董卓は足を動かす。声を荒げるように仲間の兵士たちに鼓舞を上げる。

 

「漢を救うため、私に力を貸してください!!」

「しゃーないな。ここまで言われたら腰抜かして何もしないわけにはいかへんよな!!」

「…うん!!」

 

張遼と呂布が董卓に近づく妖馬兵を一撃で切断する。

客将である藤丸立香たちが戦っている。見ているだけなんてしない。

 

「おら、行くぞ。こいつらはしぶといが倒せないわけやあらへん。自分の持つ武器を持ってこいつらを斬れ!!」

 

自分たちの大将である董卓が前に出て鼓舞を続ける。

武将の呂布と張遼が妖馬兵を破壊する。その勢いに乗らない兵士たちはここにはいなかった。

 

「俺たちもいくぞー!!」

「こいつらを倒せ!!」

「董卓様をお守りしろ!!」

「張遼将軍と呂布将軍に続けええい!!」

 

兵士たちが雄たけびを上げて妖馬兵に斬って掛かる。

 

「おらおらぁ!!」

「ふん!!」

「なんや見た目はゴツイがこんなん敵やあらへんわ!!」

 

張遼の偃月刀で妖馬兵を動けなくなるまで斬る。妖馬兵の恐ろしいところは完全に破壊するまで動くところだ。

だから動けなくなるまで斬り続ければ倒せる。

 

「でやあああああああああああああああ!!」

 

張遼が連続斬りで切り刻む。

 

「くらええ!!」

 

偃月刀を振るい、怒涛の勢いで妖馬兵を破壊していく。

拳を突き出すように殴り、偃月刀を叩きつけるようにし、振り払うように斬る。

 

「おらあああああああ!!」

 

もう既に1人で何体も破壊する。

 

「流石だな。応援助かるよ」

「いいっていいって荊軻っち。これは元々ウチらの戦いやしな!!」

 

そう言った同時に荊軻は張遼の後ろの妖馬兵を破壊し、張遼は荊軻の後ろにいる妖馬兵を破壊する。

 

「ま、恋には及ばへんけどね」

 

張遼は呂布の方を見ると彼女が一騎当千の如く妖馬兵をなぎ倒している。やはり彼女は強い。

彼女の持つ方天画戟をまるで自分の手足のように振るっている。

 

「せい!!」

 

一回薙ぎ払うだけで数体の妖馬兵を破壊。

 

「まだまだ!!」

 

踏みつけ、殴り上げ、そのまま方天画戟で斬る。まだまだ斬り続ける。

極めつけは方天画戟を妖馬兵の腹部に横殴りに降るって折り曲げて、そのまま方天画戟ごと投げ上げる。後を追うように跳び、捕まえて地面に叩き落とした。

その落とした先にいる妖馬兵をも下敷きにして潰す。勢いは止まらずに走り出して目の前にいる妖馬兵を貫く。

その姿はやはり一騎当千である。

 

「やっぱ凄いわ恋っち」

「ほお、あれは凄いな…」

 

荊軻は素直に感嘆する。

確かに張遼の言う通りでこの外史の呂布は凄まじい。李書文が戦いたくなるのが分かるというものだ。

彼女は英霊ではなく生身の人間だ。だと言うのにその力は想像以上。

 

「はあ!!」

 

そのままカルデアの呂布奉先の元に向かって、彼の進行を邪魔する妖馬兵を全て薙ぎ払う。

 

「…無事?」

「□□」

 

呂布奉先の言葉は分からないが外史の呂布は何となく彼が「無傷也」と言っているように聞こえたのであった。

 

「月…」

 

董卓は藤丸立香の横に立つ。賈駆は董卓を支える。

董卓を支えている賈駆だからこそ、彼女が立っているのだけで無理をしているというのが分かる。それでも勇気を出して立っているのだ。

ならば親友として彼女を最後まで付き合って支えてみせる。それが今、彼女にできることなのだから。

たったそれだけが董卓にとってとても力強い支えであるのだ。

 

(ありがとう詠ちゃん)

 

お互いに強く手を握りあう。

そして横には同じように怖いはずなのに立ち向かっている藤丸立香。彼らが立ち向かったからこそ勇気を貰えたのだ。

藤丸立香だって董卓達に力を貸してもらったからこそより心に余裕が出てくる。戦いの流れも此方側に向いてきている。

お互いに勇気を貰え合っているのだ。

 

「皆さん、このまま霞さんを先頭に悪龍になった張譲への道を作ってください!!」

「荊軻は2人の呂布を先導して!!」

 

藤丸立香と董卓は指示を出し続ける。

その指示を的確に遂行する仲間たち。応えるために全力で力を出す。

 

「ほな道を切り開くで野郎ども!!」

「「「おおおおおおおお!!」」」

 

張遼と兵士たちが妖馬兵を崩して道を作る。

 

「2人の呂布よ。私に付いて来い!!」

「□□□!!」

「うん!!」

 

荊軻を先頭に走り出す。目指すは悪龍の角。

 

「こんな…何で…僕は力を手に入れたのに!!」

 

暴れる悪龍となった張譲は今だに毒の沼の中。脱出させないために武則天の宝具と李書文たちが奮闘している結果だ。

 

「何でだ。くそっ、あの目が気に入らない!!」

 

董卓の、藤丸立香の目が気に入らない。

周りにいる李書文たちや、妖馬兵を倒している張遼たちも気に食わない。

自分に逆らう全てが気に入らないのだ。

 

「何でだ。何でボクの邪魔をする!?」

「それは今の状況が…俺たちが解決するべき案件だからだよ」

「邪魔も何も私たちは敵対しています。ならばお互いに邪魔をしあうのは当たり前です。貴方には貴方の目的があり、私には私の目的があります!!」

 

董卓はこの漢を変えるために。張譲はこの漢を手中に収めるために。そして藤丸立香はこの問題を解決するために。

それぞれが別の目的のために戦っている。

 

「おのれ…こんなところで!!」

 

悪龍となった張譲の動きが徐々に鈍くなる。武則天の宝具が効いている証拠だ。

 

「行け2人とも!!」

 

荊軻は2人の呂布を悪龍となった張譲のところまで先導した。あとは2人の役目をこなすだけである。

藤丸立香と董卓は2人の呂布に同時に声を掛けた。言葉も同じだ。

 

「呂布奉先!!」

「恋さん。お願いします!!」

 

悪龍退治の時。

 

「□□□□□□□□□□!!」

「恋も!!」

 

2人の呂布奉先が駆け出して悪龍となった張譲の元へとたどり着く。弱点となる角へと目掛けて2本の方天画戟を振るった時、悪龍の角が砕け散った。

 

「があああああああああ。そんな、嘘だあああああ…嫌だ。こんな所で終わってたまるかああああああ!?」

 

悪龍の肉体に亀裂が走る。全てが崩れていく。

断末魔とともに悪龍となった張譲は毒の沼と一緒に消えていったのであった。

 

 

90

 

 

悪龍退治は終わった。残ったのはぐちゃぐちゃになった周囲に残骸のみ。

 

「お、終わったのでしょうか?」

「終わったよ」

 

手を差し出す。その手は微かに震えていた。

堂々とした指揮をしていたが内心はやはり怖かった。あんな巨大な龍は久しぶりに相手にした。でも戦わなければ生き残れない。

 

「ありがとうございました。立香さん、貴方がたは命の恩人です」

「董卓さんたちだって戦ったじゃないか。俺らだけのおかげじゃない…助かったよ。董卓さんは凄いね」

「月です」

「え?」

「月と呼んでください。立香さんなら真名で呼ばれたいのです。もちろん皆さんも」

「うん。ありがとう月」

 

笑顔で藤丸立香の手を握り返す。

 

「月が許すならボクだって」

「なんやなんや、真名を預けるならウチも!!」

「真名は恋」

 

戦いが終わり、信頼が築け、真名を呼び合う関係となる。

まだ後処理やら色々とやることは残っているが今は張譲との決着がついたのだからそれでよし。

他にも調べることや次のことも考える必要もあるけれど戦いが終わった後は休息が必要だ。藤丸立香はその場にへたり込む。

 

「立香さん大丈夫ですか!?」

「大丈夫だよ月。ははは…足にきちゃったよ」

 

于吉の策と宮廷の闇が消えたのであった。

 

「お疲れ様です立香さん」

「うん」

 

戦いは終わった。今はそれでいい。




読んでくださってありがとうございました。
今回は長く書いてしまいました。最初は分けようかと思いましたが1話にまとめてしまいましたね。

オリジナル設定で太平要術の書の力によって張譲が悪龍になるというもので、藤丸立香たちと董卓たちが力を合わせて戦うという話でした。
カルデア側も恋姫側も戦う姿を書きたかったので今回のような感じになりましたね。

次回でこの物語の1章にあたる部分は終了です。


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次の目的地へ

こんにちは。
早速連続投稿です。今回はエピローグみたいなもんです…と次回へ続く話かな。
これでこの物語の1章が終了しました。


91

 

 

張譲との戦いの後はやはりバタバタと忙しかった。董卓達が。

なんせ、この朝廷には張譲ほどでは無いがまだまだ魑魅魍魎達が居るのだから。だが張譲が消えた今、残った魑魅魍魎達は牙を抜かれた獣のようなもの。

何進も張譲も居ない宮廷はがら空きだ。そこに董卓が入る形になっている。そしてこれからなるであろう彼女の役職ならば不正や賄賂などあくどいことをしていた者たちを罰せられる。

もうすぐ洛陽の宮廷で大粛清が始まる。

そんな中で藤丸立香達はというと、貂蝉達とこれからの事で打ち合わせをしていた。

 

「于吉だが去り際にこう言っていた。次は呉の地で策を用意していると」

「呉?…孫権とかの?」

「そうよ立香ちゃん」

 

朝廷で逃した于吉はどうやら呉に向かったということ。

しかもご丁寧に策を用意しているなんて罠そのものではないか。だけど呉に行かねばならない。

行かねば問題を解決できないのだから。

 

「罠だな」

「罠ねん」

「でも行かないといけないなら行くよ」

 

藤丸立香の言葉に皆が頷く。

次の目的地は三国志の代表の1つである呉。今はまだ大きな国ではない。これから大きく成っていく国。

呉でもきっと多くの縁によって多くの人物達に出会うだろう。

 

「じゃあ…名残惜しいけど月達ともお別れか」

「そうだねぇ。ま、しょうがないだろ…いずれはこの洛陽からは離れるんだ」

 

燕青の言う通りだ。この別れは決まっていたこと。

 

(まあ、この洛陽もそろそろ血生臭くなる…それなら早めに出立した方が良いだろうな)

 

この外史では献帝の時代に成ってくるというのならば董卓の時代という事だ。

これは董卓が洛陽で実権を握る前の出来事になるだろう。史実ではこれから董卓が暴政を起こすことになるが彼女が本当に暴政を起こすとは思えない。

だがどうなるかなんて未来の事は分からないものだ。史実は史実で、此処は外史。もしかしたら史実とは別の道を辿るかもしれないのだ。

 

 

92

 

 

出立の時。

 

「もう行ってしまわれるのですね…」

 

月の顔は残念というのを表している。せっかく真名を預け、信頼しあった仲に成ったのにもう洛陽から離れてしまうなんて本当に残念だ。

彼女としてはできれば彼等には残って欲しいというのが本心だ。だが彼らにも目的が有る。それを自分の我儘で邪魔なんてできないのが月である。

 

「またこの洛陽に来られたら顔を見せ来てくださいね。立香さんたちならいつでも大歓迎ですから」

「うん。その時はよろしくね月」

 

しっかりとお互いに握手をするのであった。

 

「また来たら本格的にウチの軍に入ってよね。そうすれば月も喜ぶしさ」

「また来てなー!!」

「お前たちならば歓迎しよう」

「恋待ってる」

「恋殿を悲しませたら、ちんきゅーきっくですぞ!!」

 

月達に見送りをされながらカルデア御一行は呉へと出立するのであった。

 

 

93

 

 

最初の策は成功した。悪龍となった張譲は負けたがこれは失敗ではない。なんせ今回の策は倒すということを目的としていない。

それは貂蝉たちを倒すことが出来たら良かったくらいしか思っていない。本当の目的はカルデアの戦力が知りたかっただけだ。

 

そのために張譲を利用したのだから。そしてどれほどの戦力か知れた。

やはり英霊達は驚異的な力の持ち主だ。悪龍となった張譲を倒したのだから普通に戦っても勝てない。ならばより驚異的な策を考えるまでだ。

 

倒せないことはやはり絶対にないのだから。

 

策は考えればいい。純粋に力が足りないのだ。その力を用意しなければならないだろう。

 

「あの地で彼女達を利用しますかね。特に彼女はこの外史でも異常な程の力の持ち主ですし」

 

この外史にいる力を持つ者たちとは一線を越える存在はいる。まるで生まれる世界を間違えたのではないかというほどの人物たち。

例えば洛陽に居た呂布。彼女こそが異常な力を持つ最たる例の1人だ。なんせたった1人で黄巾党の軍勢数万を倒したという功績がある。

今回の戦いでもその片鱗を見せてくれた。英霊達でさえ彼女の強さは認めていた。

呂布だから、という言葉で片づけないで欲しい。普通はたった1人で武器を持って数万の軍勢を倒すだなんて不可能である。

この外史では特異とも言える存在だろう。彼女も于吉にとって英霊や貂蝉達とは別に驚異として警戒されている。

 

この存在は呂布だけでは無い。他にも居る事が調べでは分かっている。

その他というのが次の目的だ。

 

「彼女の持前の力と太平要術の力なら化けるでしょう」

 

次の策はもう動き始めている。

 

「それに最初の策は潰れましたが…潰れたと同時に時限式の策が洛陽に設置されました。その策は恐らくこの大陸が群雄割拠の時代に入る前に起こるあの大きな戦で起動するでしょう」

 

もう2つも策を用意している。その2つともこの外史では歴史的に影響を与える策である。

今回の最初の策もそうだった。張譲が死なずに勝っていたら、この三国志の外史は別の歴史を歩んでいたかもしれない。

 

「張譲が勝っていたら…董卓も天子も消して自分が帝となったかもしれませんね」

 

張譲は役目を果たした。なら次も期待しようと思う。

 

「あの地で行う次の策は面白いですよカルデアの皆さん。それに貂蝉に卑弥呼。フフフフフフ」

 

この外史は次のステージへと進む。

 

藤丸立香たちが洛陽から出発したと同時に他の場所でも英雄となる者たちも少しずつ動いているのだ。

 

 

覇王たる少女。

 

「あの大将軍の何進が死んだのね?」

「はい。あと十常侍も全員粛清されたと…」

「まあ、いずれはそうなると予測は出来ていたけどね」

 

朝廷の内情を少しでも知っていれば予想は容易である。遅かれ早かれ今の漢王朝は崩壊する。そして新たな時代が始まる。

この大陸で一番目を光らせている少女こそが曹操。彼女には野心がある。

この大陸の覇権を手に入れるという野心が。それはこの大陸の平和を手に入れるというもののため。

自らがこの大陸の覇王となり大陸の民たちを平和へと導く。そのために戦って勝ち続けるしかない。

それに一番近づけるのが曹操なのだ。

 

「我が覇業はまだ始まったばかりよ」

 

曹操の覇業はこれからだ。その覇業への道は厳しく険しい。

その厳しく険しい道の中には何があるのかはまだ今の曹操には分からない。

 

 

絆の強さはどこの国も負けない一族。

 

「黄祖か…」

 

彼女達の所にはまだ何進や十常侍が死んだ情報は流れていない。その訳がある。

洛陽での情報が入る前に一大事と言える事件が起きているのだから。その大事件は大将軍の何進が死んだという情報や朝廷が変化したことよりも重要案件。

それはまさに孫呉にとって生き残るか滅ぶかの問題なのだ。

今までも無茶な事はあったが、全て自分の力と仲間の絆と持前のデカイ自信によって解決してきた者が孫呉に居る。

 

その者はこの大陸に生きる者たちの中でも豪傑で恐ろしくも美しさを持つ。力も常軌を超えた者だ。彼女が孫呉の礎を築いたと言っても良い。

彼女がいれば何もかも上手くいくと部下たちに思わせるほどの豪傑。そんな存在でさえ、何かキナ臭いモノを感じ取っている。

 

「何か嫌な予感がするな…。それと変わった出会いもある気がするぜ」

 

南海覇王を握る豪傑は夜空を見ながら静かに呟く。

 

 

平和を望む優しき少女と、その子のために力になると決めた誠実な少年。

 

「黄巾の乱が終わっても…大陸は平和じゃないんだねご主人様」

「ああ。これから大陸はもっと荒れると思う」

「それって天の御使いとしての予言?」

「んー…そうかも」

 

劉備の横にいる天の御使いである北郷一刀。彼はこれから起こるであろう出来事が大まかに分かる。

実際にその予想が正確かと言われれば確実性はない。だがこの世界が彼の知る三国志の歴史と似たように辿るならば大体は正解なのだ。

 

「ま、今やる事はこの平原で治安を良くする事だけどね」

「そうだよね。もう、初めての事ばかりで大変だよ」

 

黄巾の乱で活躍した成果で平原の相となった劉備。最初はたった3人で盗賊退治をしていた劉備が平原の相までのし上がったのは大出世も良いとこだ。

だが劉備の快進撃はまだまだこれからなのだ。それに彼女の隣には信頼でき、大切であり、大好きな天の御使いがいる。

彼と一緒に、大切な仲間たちと劉備は大陸の平和のために頑張り続ける。

 

「はは、俺も頑張るから桃香も頑張ろうな」

「うん。ご主人様!!」

 

劉備は平和のため努力する。そして北郷一刀は彼女達の夢の手助けをする。

彼の運命は劉備に出会った事で決まった。だがこの外史での彼の運命の中にはある特異とも言える人物達と出会うことになる。

他の外史ではあり得ない出会い。この外史だからこそあり得た出会い。

その出会いが彼の運命を変える。そして、その出会う人物達も。

 

北郷一刀と藤丸立香の出会いも徐々に近づいていく。




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。次回の更新は未定です。
FGO本編でSINが始まりそうなので、そっちに集中しちゃうかもなので。

SINの内容によっては今考えている構想も変更しちゃうかもなあ。
まだ先ですけど革命の劉備編も気になる…
次の更新は未定ですけど12月中にはしたいと思ってます。

2章はこの話を読んで分かるように孫呉での話を予定しています。
どんな内容かはゆっくりとお待ちください。

W主人公のもう1人である一刀はまだちょっと先ですね。
私の今の構想だと3章で出したいと思ってます。はやく立香と一刀2人の話を書きたいもんです。



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2:孫呉滅亡修正 編
呉へ?


こんにちは。
やっと更新です。今回から第二章です!!
今回の舞台は呉!!

ロストベルト3章クリアしました。面白かったです!!
そしたらもうクリスマスイベントとは…



94

 

 

呉に向けてまた大陸を横断する旅が始まった。

カルデア御一行に貂蝉と卑弥呼、華佗の3人が加わっての旅である。だが何か忘れている気がしていると思う藤丸立香。

 

「何か忘れている気がする…」

「どうしたマスター?」

「いや、何か忘れてることがあったような…」

 

何か忘れているという点でみんなが首を傾ける。確かに何か忘れている。

 

「何だっけかなぁ…マスターの言う通り、確かに何か忘れてる気がすんな。でも忘れるってことはそこまで重要じゃねえんじゃね?」

「いや、そうでもないような」

 

燕青がそう言った時、哪吒が後方から誰か近づいていると報告が来る。賊か何かかと思って警戒するが違うようだ。

遠くの方に3人ほどが後を追いかけて来ているのだ。今この場に千里眼持ちなどのアーチャーがいないのが残念だ。

 

「誰だろう?」

 

一応待ってみるカルデア御一行。するとその3人とはみんなが忘れている事であり人物たちであった。

 

「ちょっとアタシたちを置いて行くってどういうことなのよ!?」

「えーん、酷いよ立香くん!!」

「ちょっと姉さん落ち着いて…後とりあえず水が欲しい。喉乾いた…」

 

忘れていたのは張三姉妹のことだ。

 

「ごめん。忘れてた」

「忘れっ、この…アタシたちを忘れるなんていい度胸じゃない!!」

 

本気で忘れていた。これは彼女たちに申し訳ないことをしたと本気で謝る。

 

「てか、何でついてきたの?」

「え、そ、それは…アンタたちと一緒にいた方が安全だし」

「お姉ちゃんはまだ立香くんたちと一緒に居たいなーって」

「立香さんたちとならまた大陸を周れるし、それにこのまま洛陽に残っていてもね」

 

旅芸人としていつまでも洛陽にはいられない。そもそも黄巾党の元首魁として何も守りも無いのに洛陽にいるのは危険だ。

もう死んだことになっていようとまだ黄巾の乱から時はそれほど経っていない。どこから自分たちのことがバレるか分からないものである。

ならば自分たちを保護してくれた藤丸立香たちの傍が一番安全というもの。それに彼らは大陸を旅をするのだから張三姉妹にとってはまたとない好機なのだ。

だから彼女たちは追いかけてきたのである。

 

「お荷物が増えたか」

「何ですって!?」

「まあまあ」

 

ここまで追いかけてきたのならば、追い返すのは忍びない。ならば呉まで一緒でも良いだろうと判断。

だが、旅には危険が伴うことは説明しなければならない。ここは大事な所だ。

 

「旅に危険なんて今さらよ。そもそもアタシたちは朝廷の官軍や大陸中の諸侯から命を狙われていたのよ」

「あははー…そうなんだよねー」

 

本当に今さらである。彼女たちは既に危険というものは十分に分かっている。

彼らの旅に加わって危険があったとしても大陸中の敵になった彼女からしてみれば構いはしないのだ。

 

(うふふ…彼女たちにはきっと役目があるわん。一緒にいることは好ましい事ねん)

(ま、それはいずれだな)

 

張三姉妹の仲間入りを貂蝉たちにとっても嬉しいものだ。

 

「じゃあよろしく」

「よろしくー」

 

ついでに張三姉妹も含め呉へと出発する。

 

「この先に町がある。今日はそこまで行って休もう」

「お風呂入りたーい」

「はいはい」

 

だけどその町で彼らはまさかの情報を得るのであった。

 

 

95

 

 

呉に向かう手前の町に到着して早速宿屋に泊まる。張三姉妹は疲れているのかすぐさまベッドに倒れた。

彼女たちは元々旅芸人なのだから大陸横断は慣れているだろうが、久しぶりの旅なので疲れが溜まりやすかったのである。彼女たちはそのまま眠ってしまった。

 

「さて、マスターも疲れているなら早めに就寝しても構わないぞ」

「そうする…」

「お、レムレムかあ?」

 

これは普通に睡魔が襲ってきただけである。いつものレムレム睡眠ではない。

藤丸立香もこの睡魔では普通に寝るだけだと分かる。

 

「明日も早い。今のうちに眠っておけ」

「じゃあ俺らは今から居酒屋に行って情報収集でもしてくるぜ」

「なら私も行こう」

「儂は行かん」

「えー」

 

李書文が行かないと言ったのに対して不満を呟く燕青と荊軻であった。

居酒屋に行ってもいいがこの2人だけだとマズイ気がしなくもないので李書文もストッパー役で付いて行ってもらいたい。

 

「李師匠。お目付け役でお願い」

「むう…」

 

本当は嫌だがマスターにお願いされては李書文も断れない。そもそも、もし2人だけが居酒屋に行った場合の事を考えたらお願いされなくとも行くはめにはなっていただろう。

ため息を吐きながら李書文は2人についていくのであった。

 

「妾も疲れたから今日は宿からは出んぞ」

「アタシもー」

 

武則天と玄奘三蔵はもう寝るようだ。他にも俵藤太たちとかも自由行動兼情報収集で好きにしているということ。

 

「みんな、はしゃぎ過ぎないようにね」

 

特に荊軻。

 

「傍若無人にならないから大丈夫だって」

「李師匠、燕青頼むよ」

 

もう太陽も沈んで辺りは暗い。

 

「俺も早めに寝るか」

「ならば、だぁりんと一緒に!!」

「じゃあ私は立香ちゃんと!!」

「お主らは寝ずの番をしているか、2人して寝てろ」

 

貂蝉と卑弥呼に当たりがキツイ武則天であった。

 

 

96

 

 

朝起きて早速カルデア会議。しかも緊急会議。

何でも重大な情報を手に入れたとのこと。それはまさか過ぎる情報である。

 

「呉が滅んだぁ!?」

「正確には孫呉が戦に負けた」

「何で!?」

 

孫家が滅んだという事実に貂蝉も卑弥呼も思案顔をする。

 

「ありえん…」

「ええ。ねえねえ孔明ちゃん滅んだ原因は?」

「黄租という武将が率いた軍と戦って負けたそうだ」

 

史実ならば孫家はこの段階では滅びはしない。黄祖という武将と戦うのは史実にあることは確かだ。

だが本当ならば孫一族と黄祖の戦いの結果、勝利者は孫一族だ。だから孫家が滅んだというのはおかしいのである。

ここは外史であり、史実とは違う。だからこの外史は孫家が、呉が繁栄しない世界なのかもしれない可能性はある。

 

「この外史は呉が建国されないという世界線というのは否定できないわ。でもそんな世界線が万が一あったとしても呉が、孫家が滅ぶのには明確な理由があるはずよん」

 

黄祖と戦ったとしても、負けた理由があるはずだ。その理由が史実とは別の道を辿ったこの外史となる。

 

「何故孫家は負けたのだ?」

「そこが于吉に繋がるようだぞ」

「なぁんですってっ!?」

「どうやら黄祖の軍には白服の道士たちや土くれの人形兵がいたそうだ」

「白服の道士に土くれの人形兵…なるほどねえん」

 

白服の道士と土くれの人形兵。

白服の道士とはよく于吉が妖術召喚する人形兵。『傀儡』と呼ばれる白装束の者だ。

土くれの人形とは間違いなく妖馬兵ことだろう。

 

「于吉め…まさかそこまで手を出したとはなっ!!」

 

この外史で孫家が滅んだ理由は于吉が関わってしまったからだ。外史の管理者として大きすぎる変化を与えるほど影響を出してはならない。

それをいとも簡単に破ってしまった于吉。卑弥呼と貂蝉はそれに対して怒っているのだ。

 

「おのれ…こんなのは本来の外史の流れではない!!」

 

もし、于吉が手を出さなければ孫家は滅びずに呉が栄えたかもしれない。そうなるはずだった可能性はあった。

 

「なんてことを…っ」

 

この外史は于吉によって間違えた道を辿っている。ならば同じ管理者として于吉を絶対に止めねばならない。

 

「呉で待っていると于吉は言ったが…まさかこんな事とはな」

「そうなると敵は于吉だけじゃない?」

「その黄祖と手を組んでいるならば、その武将とも戦うことになるだろうな」

「ぎゃてえ…まさか戦争?」

「小さいとはいえ国1つと戦いたくないな」

 

黄祖が孫家を滅ぼしたということは呉という国がそのまま黄祖のものになるだろう。そんな奴らと全面戦争なんてやっていられない。

 

(雪蓮ちゃん…蓮華ちゃん、小蓮ちゃん)

 

貂蝉は何かを思い出しているのか悲しそうな顔だ。

これから呉に行くのは間違いなく罠だし、此方を倒す準備もしているだろう。それでも行かねばならない。

 

「気を付けて行くしかないって事か」

「そうだ。行くしかないだろう」

 

だがいきなり特攻するわけにはいかない。まずはまた情報を集めないといけないだろう。

 

「ならこの町を拠点にしてより情報を集めるか?」

「てか、取り合えずその黄祖のところを見に行くんだろ?」

「ああ。孫家が滅んだ呉がどうなっているか見に行かねばな」

 

呉に近づいてきたと思ったらまさか過ぎる情報であった。

 

「おはよー立香くーん」

「おはよぉー、朝ごはんは?」

「おはようございます。ほら天和姉さん、地和姉さんシャキっとして」

 

カルデア会議がちょうど終わった後に張三姉妹がのほほんと起きてきたのであった。

 

「あれ、みんなで何してたのー?」

「これからの旅について」

「呉に行くんじゃないのー?」

「そうだよ天和さん」

 

朝ごはんを食べて早速、呉に向けて出発するのであった。

 

 

97

 

 

大きな川が見えてきた。あの川はきっと江東から続くものだ。

この大きさならば船だって動かせる。実際にこの時代では川を船で移動させたなんてものがある。

 

「大きな川だ…」

「大きい」

「ね、哪吒」

「あっ」

 

哪吒が大きな川を目を細めて見ていると、何かを発見したようですぐに川の方に飛んで行った。

 

「どうしたの哪吒!?」

「ちょっと哪吒ー!!」

 

マスターと玄奘三蔵の声を無視して川の中心部にある岩の連なりまで飛んで何かを引っ張る。すると出てきたのは人であった。

女性の人。遠くからでも分かるようにボロボロに傷ついている。

 

「ちょっと、あんたってば何で死体を持ってきてんのよ!?」

「地和姉さん、落ち着いて。まあ、私も流石に引いたけど」

「この人 まだ生きてる」

「生きてるって…どう見ても死んでるじゃないの!?」

 

顔色は青く、体中は酷いほど傷だらけ。そして決定的な決め手は額に矢で撃たれた傷跡があったのだ。

それに魚に食われかけて酷い有様だ。地和たちが口を抑えるのは分かる。藤丸立香も同じ反応だ。

こんな状態で川に沈んでいたとなれば死亡しているのを誰だって頷くだろう。

 

「酷い有様じゃのう」

「ぎゃてえ…」

「早く元の場所に戻しなさいよ!!」

「生きてる」

 

哪吒は「生きてる」の一転張り。ならばここは華佗の出番であると判断。

 

「華佗!!」

「ああ、見せてくれ立香」

 

すぐさま華佗の診察が始まる。

 

「酷いな…だが哪吒の言う通り彼女は生きてるぞ!!」

「嘘でしょ!?」

 

地和の言葉は誰だって言いたくなる言葉だ。だが大陸一の腕を持つと言われている華佗の言葉だ。

 

「てことは…華佗ちゃん」

「ああ貂蝉。彼女を助けられるぞ!!」

 

すぐさま治療の準備を始まる。

 

「はあああああああああ!!」

 

何故か物凄い闘気を発して鍼を持つ。

 

「行くぞ。我が身、我が鍼1つなり、全力全快、診察必治療…展状転解、唯臥毒損。げ・ん・きになれえええええええええ!!」

 

鍼を打ったら女性の体が赤みを増す。酷く青かった顔に命の灯が戻ったかのようだ。

 

「よし!!」

「ほう、凄いな」

 

諸葛孔明だってもう助からないと踏んでいたが、助けた華佗の腕に素直に驚く。

だが、それでもこの女性の命はまだ風前の灯だ。治療はまだまだ続く。

 

「立香、これも頼む」

「任せて」

「…手際が良いな。立香は医療の心得があるのか?」

「少しだけ。っても教えてもらった程度だよ」

「それでも十分だ」

 

本格的な治療ができるわけではない。でも少しくらいの手当てはできる。

前に宮本武蔵の負傷した目を治療したことがあるくらいなのだから。

 

「…これで何とかなったな」

 

治療は終わった。だが、それでも確実に助かったとは言えない。

 

「治療は尽くした。あとは彼女自身の生きようとする意志に賭けるしかない」

「それって…」

「彼女が生きようとするならば助かる。そう思っていなければ死ぬ」

「そっか」

 

そもそも彼女が生きていたという時点で奇跡なのだ。普通ならば死んでいたはずなのである。

だから彼女が生きていたというの奇跡は華佗にとってとても驚いた。

 

「この人はもの凄い生命力の持ち主だ。実は鬼人だったと言われてもおかしくないかもな」

「誰なんだろう?」

 

せっかくここまで来たが、町に戻った方がよいと考える。彼女をこんなところに寝かしてはおけないのだから。

 

「ならせめて二手に分かれるか。町に戻る側とこのまま進む側」

 

このまま進むのは卑弥呼と哪吒、武則天、諸葛孔明だ。

 

「何故、妾まで!?」

 

何故この組み合わせになったかは謎である。

 

「では行ってくる。なに、確認したらすぐに戻ってくるさ」

「うん。気を付けて」

 

 

98

 

 

何処かの森の中。

 

「小蓮様…こちらです」

「うう…母様、姉さま」

 

2人の女性はボロきれの布を纏って森の中を徘徊する。彼女たちはボロボロで、戦の敗戦兵である。

黄祖軍に負けて命からがら逃げ出してきたのだ。小蓮と呼ばれた少女は悲痛の顔をしている。全てに絶望した顔だ。

戦に負けるとはこういうことだ。全てを失ってしまう。彼女の大切な人でさえ。

 

「…まだ終わりではありません。孫家にはまだ貴女がいます」

「明命?」

「小蓮様さえいればまだ再起を計れます。孫家は滅んでいません!!」

「明命…」

 

確かに孫家は黄祖に負けた。でもまだ完全な敗北ではない。まだ孫家の血は絶えていないのだ。

まだ最後の生き残りがここにいる。孫家はまだ健在なのだ。

 

「まずはここよりもっと離れましょう」

「うん…」

 

2人の女性は更に森の奥へと進んでいくのであった。

だが、誰にも会わないというわけではない。今の彼女たちとしては誰にも会いたくない。ここで誰かに会うとなれば、それは敵兵くらいなのだから。

しかし彼女たちが出会ったのは賊でも黄祖の兵でもなかった。彼女たちにとってまだマシな出会いであったのだ。

 

「む 誰?」

「小蓮様、私の後ろに!!」

 

明命と呼ばれる少女は剣を抜いて構える。目の前にいるのは鮮やかな赤と黒の服を着て槍を持った人物。

 

(誰?)

「どうしたのじゃ哪吒?」

「人間 2人 いる」

「お、本当じゃな。誰じゃそいつら」

 

新たに誰かが現れる。今度は何処か高貴そうな人物だ。背丈は小さいほう。

 

「誰じゃお主ら?」

「く…!!」

「ん?」

 

誰と言われて何も口にしない。これはすぐに怪しいと判断する武則天。手には瞬時に武器を用意。

 

「答えぬと言うのならば何やら訳ありか、もしくは怪しい者じゃのう…ならば妾の拷問で言わせたくなるようにしてやろうかのう?」

 

瞬時に明命は目の前の2人が強者だと判断。特に槍を持った者は強い。今の傷ついた身体で勝てない。

だが命を賭して小蓮だけは守る覚悟だ。彼女こそが孫家の最後の希望なのだから。

 

(小蓮様。私が突撃している間にお逃げを!!)

(あなたを残していけるわけないでしょ!!)

「来るなら 来い」

 

哪吒も火尖槍を構える。

 

「お逃げを小蓮様!!」

 

決死の覚悟を決めて、いざ剣を抜こうとしたした時に雄々しい声によって場は止まる。

 

「待つのだ哪吒、武則天よ!!」

 

その声の主は卑弥呼である。圧倒的な筋肉の漢女の登場により警戒度が上がる少女2人。おそらく卑弥呼を見れば誰でも警戒するが。

 

「何じゃ卑弥呼」

「そやつらは敵ではない。そやつらは孫呉の者たちだ」

 

自分たちのことを知っている人物が現れて尚、警戒する。逃げている最中に自分たちを知る者が現れればより警戒するのは当たり前だ。

 

「安心しろ。ワシらは敵ではない」

「そんなの信じられません」

「むむ、確かにワシらが敵でないという事を証明することはできんが…ううむ」

 

いきなり現れて敵ではないと言われても信じるかは人それぞれ。だが2人は敗残兵であり、逃亡者。そんな2人の心境を考えれば信じてくれない方が当然かもしれない。

 

「待って明命」

 

だが孫呉の姫は自分の直感を信じる。

 

「たぶん大丈夫。武器を下ろして」

「小蓮様!?」

「どっちにしろ逃げられないわ。なら敵じゃないっていうのを信じるわよ」

 

その言葉に剣の柄から手を離す。しかし警戒は解かない。いつでも自分を犠牲にしてでも守る覚悟は消えない。

 

「ここではなんだ。ワシらの野営地に来るといい」

 

そう言われて案内された野営地に行くと焚火の前にいる男は小蓮たちを見て一言。

 

「誰だそいつらは?」

「私は孫尚香」

「周泰です」

「…なるほどな。諸葛孔明だ」

 

お互いに自己紹介をする。

 

「それにしても丁度良かった」

「ちょうど良かったって何よ?」

「実は呉に関係ある者を探していた」

「何のために」

「黄祖の戦についてだ」

 

黄祖という名を聞いて2人の顔が険しくなる。仇敵なのだから致し方ない。

だが諸葛孔明が知りたいのは黄祖の人柄なのではなく、黄祖がどんな軍を率いていたかだ。

噂や町の情報だと妖馬兵や傀儡という白装束の者たちが黄祖についていたという。それが本当かどうか確かめたいのだ。

 

「黄祖の軍に土人形の兵と白装束の奴らがいなかったか?」

「…ええ、いたわ」

「やはり。なら于吉という男は知らないか?」

「そんな人は知らないけど」

 

妖馬兵と傀儡が黄祖の軍にいるのは確かなようだ。ならば于吉は黄祖と繋がっている。

 

「誰よその于吉ってのは?」

「ワシらが追っている人物だ。于吉は道士で、その土人形と白装束を黄祖にくれてやったのも于吉だろう」

「な、黄祖のやつ道士となんかとつるんでたの!?」

 

そんな可能性はとうに思っていた。今でも戦の中で急に出てきた土人形の兵と白装束たち。

そいつらは死も恐れずに突撃してくる不気味な存在。白装束は斬っても斬っても次から出てくるし、土人形兵は完全に破壊しないと止められない。これほど不気味なことは2人にとって初めてであったのだ。

 

「ワシらは于吉を止めるべく旅をしている。あやつは大陸を混乱させるつもりなのだ」

 

同じ陣営に敵がいる。少し話を戻すが、これで少しは警戒が解けるのではないだろうか。敵の敵は味方というやつだ。

 

「2人とも疲れているだろう。今は安心して休め。ワシらが番をしてやろう」

「いえ、私は大丈夫ですので」

「じゃあシャオはもう寝る。疲れちゃっ…た」

 

小蓮は緊張の糸が途切れたのか倒れるように寝てしまった。

今まで休まずにここまで来たからだ。

 

(ここで彼女たちに出会えたのは幸運だな…しかしどうするか)

(朝になったら貂蝉のところに戻るか)

 

孫呉の縁が紡ぎだす。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回もゆっくりとお待ちください。次回の更新予定は来週くらいです。
早く更新できたら更新します。

さてさて、2章でいきなりの展開です。
于吉の手によって孫家が黄祖に負けたという流れ。
これをどう解決するかがカルデアと貂蝉たちの難題ですね。

正規の流れに正さないといけない、修正、過去に何があったのか→あの手で行こう。

そして川で助けた女性は一体誰なのか。


孫呉のキャラは魅力的なキャラが多いですよね。どれも好きなキャラなのでたくさん活躍させていきたいです!!


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過去の呉へ

サブタイトル今回の話がどんなものか大体分かっちゃいますね。
どんな内容かはどうぞ。


99

 

 

卑弥呼達と別れて急いで近くの町まで戻る。

それは助けた女性を近くの町まで運び、衛生面が良いベッドに寝かすためだ。

 

「よし、また治療を続けるぞ」

「え、その人助かったんじゃないの?」

「確かに助かったが緊急処置にすぎないさ。まだあちこち傷だらけだからな」

 

助けた女性は重症であったが華佗は最善を尽くした。

何でも彼曰く、命の灯に風を送り込んだとのこと。その後、助かるかどうかは彼女の『生きたいという意思』に左右されるらしい。

 

「彼女は生きる意志があったからこそ何とか一命を取り留めた。でも体はボロボロだからな。こういう重傷者には病魔が取り憑きやすい」

 

一命を取り留めても体が弱っていれば病弱死してしまう。だから華佗はまた治療を開始しようとしているのだ。

 

「手伝ってくれ。地和たちもだ」

「えー、アタシたちも!?」

「人命が掛かっているんだ。当たり前だろう!!」

「う、そうよね」

「アタシも手伝うわ華佗ちゃん」

「助かる!!」

 

医者として助かる命を放っておけない。何が何でも助けるつもりだ。

彼女にはまだ生きようとする意志がある。ならばその意思を受け取って助けるのが華佗の役目。

 

「それにしても酷いな…体中がボロボロ。片目なんて魚に食われてる。だがもう片方は奇跡的に残ってるな。でも目に傷がついている可能性がある」

 

きっと美人だったのだろうが戦いの傷や魚に食われた傷と酷い有様だ。だけどそれを治療するのも華佗の役目である。

妥協なんて絶対にしない。最高の治療で治してみせる。これは華佗の、五斗米道の後継者として誇りもかかっている。

 

「それにしても驚きなのが彼女の額の傷の部分だ。矢で討たれてたはずなのに何とか生きていたというのが考えられない。こういうのが奇跡って言うんだろうな」

 

本当に普通ならば死んでいておかしくないが奇跡的に生きているのだ。

世の中にはこういう死んでもおかしくないケガをしてたのに生き延びたというのはいくつか事例がある。華佗自身も大陸を旅しながら病人や怪我人を治療していたが、時たまに助からないと踏んでいたが奇跡的に助かった患者もいた事もある。

目の前で寝ている女性もその事例の1つに入っている状況だ。

 

(それも驚きなんだが何か妙な傷だな。矢で討たれたのは確かだ。だがその後に誰かに治療されたような跡もある。何だこれは?)

 

妙な治療方法が施された跡が分かったのはこの場で華佗だけだ。その妙な治療方法とはまるでギリギリ延命させたようなもの。

 

(これは治療目的で施術されたのではない。これはまるで…)

「華佗ちゃん、ちょっといい?」

「何だ貂蝉?」

「ちょっと立香ちゃん達と大事な話があるの。少し時間をもらってもいい?」

「ああ、勿論だ。よし、まずは湯を沸かしてくれ天和」

「はーい!」

 

部屋を変えて貂蝉とカルデアたちの緊急会議。とても重要な話があるということ。

 

「まず、孫呉を滅ぼした切っ掛けを作ったのは間違いなく于吉ちゃんね。妖馬兵と傀儡を黄祖に渡して孫呉を滅ぼしたのでしょうね」

 

この貂蝉の仮定は正解だ。今は離れている卑弥呼たちは確証を得ているのだから。

 

「それでアタシは考えたわ。この状況をどうするかを」

「まさか、黄祖の根城に行って于吉を倒すってか?」

「それも考えたけど…まずこの外史は于吉の手で間違った道を辿っているわ。ソレそのものを修正しないといけないの」

 

于吉や貂蝉という管理者はこの外史では本来存在しないもの。ただ三国志に登場する名前を貰って降り立ったにすぎないのだ。

本来存在しない者が三国志という歴史を本来ならば改変してはならない。それはこの外史の管理者としてはやってはいけないこと。

 

(まあ、例外はあるけどねん)

 

于吉が手を出さず、黄祖が孫呉に勝ったというのならば貂蝉も文句は言わない。そうなったら、ここはそういう外史と言うだけなのだからだ。

だが間違いなく于吉は黄祖に手を貸し、傀儡と妖馬兵を渡したのだ。

ここはもう特異点とも言う歪みになっているのだ。本来ならば孫呉は黄祖に負けない。でも孫呉は黄祖に負けた。

この外史は正常な時間軸から切り離された現実であり、よりもしもの世界になっている。藤丸立香達がカルデアで発見した特異点と同じだ。

 

「どうするのだ?」

「過去に跳んで于吉の策を破るのよ」

「レイシフト!!」

「タイムスリップよ。あ、でもレイシフトでも合っているわね」

 

この場合、タイムスリップもレイシフトも同じだが。

 

「そんなことが可能なのか?」

「ええ。アタシはこれでも外史の管理者よ」

 

外史の管理者ならば様々な外史を渡り歩くことができる。ならば過去にタイムスリップすることだって可能だ。

于吉だって過去に跳んでいるのだから貂蝉もできるに決まっている。

 

「だけどここにいる全員を過去に飛ばす事はできないの。頑張っても4人ね」

 

4人だけが過去に跳ぶことができる。

 

「貂蝉を含めるからこっちからは3人か」

「いえ、アタシは行けないわん。立香ちゃんたちが行ってほしいわ」

 

貂蝉は申し訳なさそうに言う。

 

「本当なら行きたいけどアタシがイクより立香ちゃんたちがイク方が良い気がするの。漢女の勘よ」

「何か字が違くなかった?」

「気のせいじゃない?」

 

そうなると過去に跳ぶメンバーを決めなければならない。

まずはマスターである藤丸立香は決まっている。あと3人だ。

 

「荊軻、李書文、燕青で」

「任された」

「応」

「いいよぉ我が主。どこまでもついて行くぜ」

 

過去に跳ぶメンバーは決定。

 

「跳ぶのは黄巾党の乱が終わった後くらいね」

「俺らが洛陽であーだこーだしているあたりか?」

「ええ、それなら過去の自分達と会う事なんてないでしょうからねぇ」

 

貂蝉が藤丸立香たちの周りに墨で円を書く。

 

「では始めるわ。こおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

貂蝉の筋肉が膨張する。熱気が放たれる。気合が放たれる。

 

「イ・ク・わ・よん!!」

「だから字がーー」

「アタシの手でイっちまいなあああああああああああああ!!」

「いや、だから字が…って何その掛け声!?」

 

貂蝉が力を発揮した瞬間に藤丸立香達は眩い光に包まれて消えた。

 

「頼んだわよ立香ちゃん達…」

 

貂蝉は藤丸立香達を信じる。自分ではなく彼等でなければならないと漢女の直感が自分自身に訴えているのだ。

だからこそ彼等を過去の呉に送ったのである。

 

(立香ちゃん達なら大丈夫)

 

目を瞑り、乙女のように無事を祈る貂蝉であった。

 

「ちょっといいか?」

「何かしら藤太ちゃん。今、丁度いい感じに区切りが付いたんだけど。そんでもって次の場面にイクところだったんだけどねん」

「次の場面って何言ってんだ貂蝉よ。って、そうではなく…吾がちと気になったのだが過去に戻って修正すると言うが今ここの吾らに何か影響があったりするのか?」

 

難しいことは分からないが過去を修正すれば未来も修正される。その理論の正確な確証は実証されていないが人理修復での事がある。

過去が変われば未来も変わることは事実である。そこで気になる点があるのだ。それが並行世界の話になる。

今の外史は孫呉が黄祖に負けた世界線になっている。過去に跳んだ藤丸立香たちによって修正されれば孫呉が勝つ世界線になるはずである。

修正したとしても外史には2つの世界線が生まれた事になっているのだ。

 

「修正したとしても吾らはどっちに残るんだ?」

「ああ、その話ねん」

「うむ。ここに孔明がいればもっと分かると思うんだがな」

 

普通に考えれば過去を修正されれば今の現在が変わる。それだけで納得するのもいいはずだ。だがここは外史という藤丸立香の元いた世界とは法則が違うかもしれないから無視はできない。

 

「では説明するわよん。それがアタシたちのこれからやる事でもあるからね…それでは眼鏡を掛けてっと」

「これから吾らが為すべきこと…って何で眼鏡掛けた?」

「聞いた話だと立香ちゃんは眼鏡萌えらしいから」

「……」

 

何処からか分からないがホワイトボードと黒ペンを取り出す眼鏡の貂蝉。

 

「まず外史は間違いなく貴方達の世界とは法則が違うわん。似ているけど違う部分はあるわ」

「違う部分って例えば?」

「いい質問ね三蔵ちゃん!!」

 

違う部分というのが世界に対する特別な現象や事象があるということだ。

ホワイトボードに黒ペンで『次元接触現象』や『空間併合事象』や『並行世界既視感』と書いていく。

 

「聞いた事も見たことも無い言葉だわ」

 

三蔵玄奘は貂蝉の書いた文字にハテナマークを浮かべる。それは呂布奉先や俵藤太もである。

 

「まずこの外史で過去を修正したら今ここにいる現在の外史はどう修正されるか…はっきり言ってしまえば過去に修正された影響によって変化するわ」

「ならこの外史はマスターの活躍によって正規の道に戻るのだな?」

「ええ。確かに二つの世界線が生まれるけど過去に戻って修正してきた立香ちゃんだけが正規の外史に進むなんて事は無いわ。アタシたちがこの外史に置き去りなんて事は無い」

 

この外史では過去に戻って修正すれば戻った外史で正規の道になる。それは外史の管理者である貂蝉の言葉ならば真実である。

 

「ここで次元接触現象というのが起こるわ」

「次元接触現象?」

「次元接触現象とはそのままの意味で次元が接触する現象よ。2つの世界が接触するの」

「それって大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫よ。この外史という世界だからこそ起きる事象なのよ」

 

過去修正によって黄祖が孫呉に勝ったという世界線と孫呉が黄祖に勝ったという世界線が接触するということだ。

次元が接触する現象はこの外史でいくつかあるが、まず1つとして過去の改変によって今の世界線に改変された世界線が上書きされる時に起こるのだ。

 

「その上書きが空間併合事象よ」

「また難しいものが…」

「空間併合事象は次元接触現象から次への段階に起こる時の事象よ。2つの分かれた並行外史が1つに成ることね」

 

枝分かれに為った並行世界がまた1つに戻るというよりかは、修正されて新たに生まれた世界線が修正する前の世界線に後ろから重なるという方が正しい。これが過去を修正して未来が変わる現象の1つである。

 

「貴方達の世界ではどうか分からないけど、この外史ではそういう風に次元の変化が起きてるのよ」

「ふむ」

「過去修正によって上書きされた世界や次元が何らかの原因によって一瞬だけ世界が重なると副作用の様なもので並行既視感が起こるわ。まあデジャブの様なものね」

「デジャブは聞いた事があるな。体験した事が無い事を前に一度体験したような感覚に陥ることだろう?」

「ええ。デジャブの理論は色々と考えられてるけど…この世界で起きているデジャブは世界が一瞬だけ接触した、もしくは上書きされて一緒に記憶として残るから」

 

並行世界が重なると世界に居る生命体も重なる。そうなると記憶や見た物なども重なるのだ。

記憶や見た物が重なるというがもう一方が見た事が無い、体験した事が無い事もあったりする場合がある。そのもう一方がデジャブの原因に成るのだ。

体験した事が無いのに前に体験した事がある錯覚は並行世界側の自分が体験した事を重なった時に記憶として組み込まれるからである。これは全員が意識することは無い。

極まれにこの感覚を体験するのは人による。例えば天の御遣いを見てどこかで会った事が有るような気がする武将が居たとしたら、それは並行世界では自軍に所属していたからなんて可能性だ。

 

「過去の改変というより世界の上書きって言い方が正しいかもねん」

「なるほどー」

「分かったのか三蔵よ?」

「なんとなく!」

 

この現象は此処に諸葛孔明が居たら興味深く聞いていたはずだ。異世界の法則なんてまず普通に生きていても知ることは無い。

 

「で、次元接触現象は立香ちゃん達が過去に跳んだことでこれから始まるわ。それは立香ちゃん達が過去で大きな変化を起こすことでね」

「それが于吉の策を破ることね!!」

「正解よん。でも立香ちゃんが過去で修正しても此方側の問題を解決しないと完全な修正は起きないわ」

「こちら側の問題?」

「ここがこの外史のまたちょっとした特殊な処でね…過去を修正した時に修正された外史が今の間違った外史を上書きする際に間違った外史にイレギュラーが存在していると上書きの邪魔になってしまうのよ!」

 

上書きする際に異物があれば上手く出来ないということである。

 

「それって吾らか?」

「確かに貴方たちはイレギュラーだけど、違うわ。例えばだけど過去で人を殺したら、今生きているその人はそれに合わせて消えてしまうでしょう?」

「うむ」

「なら過去で死んでいるはずなのに現在も消えずに残っているとしたらおかしいでしょ?」

「おかしいな」

「そういうイレギュラーもあるってことよ」

「分からん」

 

貂蝉の言っていることは分からないでもないが、少し頭に引っかかった。

過去で修正したものは未来で必ず影響される。それが歴史的に大きな役割や影響を持つ存在ならば猶更である。

 

「過去で修正されたものはすべからく変わるだろう。今の例えはよく分からんぞ?」

 

過去で死んだ人がいたら未来で生きていたその人は辻褄を合わせるために消える。それが何故消えないのか。

確かにそれは世界的にイレギュラーではある。

 

「過去で死んだ人間は未来で消えてしまう。だけどその消えてしまうはずだった未来の人間が実は消えていなかったらイレギュラーよね?」

「そうね」

「その人間の正体が実は特異点としての存在としたらどうかしら?」

「む…それは」

 

過去で死んだら未来で消えてしまう。だが未来でその人物が既に死の法則を越えた別存在ならば世界的に特異点に為り得る。

過去の人物が未来では別の存在になっていたら、過去と未来の修正が影響されないかもしれないということだ。

 

「そんなことあり得るのか。別の存在になったといっても元はそいつだ。過去で消えてしまえば別の存在になるという過程すら意味ないのではないか?」

「そう考えるわよね。だけどこう考えてみて、未来で別の存在になった。なった過程でもう別な存在。そこでその人間の存在は終わっているという区切りをつけられた」

 

区切られた人間はもうその時点で終了しているのだ。世界の辻褄合わせの修正も区切られたそこまで。

それ以降の別存在になった者は影響を受けない。なんせ、もう存在証明として違うからだ。

 

「んんん?」

「三蔵ちゃん分かった?」

「分からないわ!!」

「うーん…言い方がマズイのかしらね」

 

言い方がどうやらピンと来ないのかもしれない。よりよく分かりやすいように考える貂蝉。

 

「過去を変えたら未来の人が消えてしまうという言い方がダメかもねん。じゃあ過去に死んだ人間は未来でも死んでいなければならないという辻褄があるわよねぇ?」

 

過去で死んでしまった人間は未来でも辻褄合わせのために死んでいなければならない。この法則がある。

 

「過去で死んだ人と未来で動く死体はどう思う?」

「えーっと…おかしいけど、どっちも死んでるわよね?」

「その通りよ。ならどちらも死んでいるという辻褄の法則は合っているから変ではないわよね」

 

過去で死んでいるのと未来で動く死体。それはどちらも死んでいるから、死という概念の筋は通っている。だから世界の修正的に辻褄はあっているのだ。

 

「SFとかだとよく過去で死んだら未来で生きているその人はスゥっと消えるイメージがあるけど…絶対そうなるとは限らないわ」

 

確かにSFだと過去で生きている人間が死んだら未来の人間が消えるというのがある。だがそれは1つの表し方だ。

もしかしたら消えずにいきなり死んで倒れるという表し方かもしれない。そういう他の表し方が複数あるかもしれないのだ。

結局は過去と未来の辻褄を合わせるために修正されていればいいのである。

 

「何となく分かってきたぞ」

「動く死体。それは死んでいるから修正としては消滅するというのは無いわ。それが特異点たる存在になる」

 

ここで過去修正による世界の上書きの話に戻る。

もしも特異点たる存在を過去で解決したとしても、その存在が未来で動く死体で特異な存在として存在していたら上書きの邪魔になってしまうのだ。

 

「世界の上書き…空間併合事象で世界が合わさって辻褄が合うように成る。でも過去で死んだ結果と未来で動いている死体が上書きされても結局は動く死体は残ってしまう。どっちも死んでいる事に成っているからね。それが修正として邪魔になるのよ」

「ようやく分かってきたぞ。最初からそういう風に言ってくれれば分かりやすかったんだがな」

「だって、知的に説明すれば立香ちゃんにギャップ萌えしてもらえるかと思ってねえん」

「………知的と難しく説明するのは違うからな」

 

貂蝉が難しい感じに説明していたが纏めると簡単だ。

この外史では藤丸立香達の世界とは法則が違う部分がある。その違うと言う部分が世界で起こる現象の事だ。

今回は過去修正によって起こる現象。次元接触現象、空間併合事象、並行世界既視感。

何らかの異変や影響、もしくは過去を修正する事によって既に起きた世界線に変えられた世界線へ上書きされる時に次元が接触するのが次元接触現象。

未来が変わるという修正。変える前の世界線に変えた世界線が上書きされた事象が空間併合事象。

未来が修正された後や、2つの次元が一瞬だけ接触した時の副作用として起こるのが並行世界既視感。

これらが過去修正などの外史で起こる一連の流れである。

 

「なるほどな。過去修正と言っても単純な事が起きているわけではないからな」

「その通りよん」

「過去を修正しても未来でイレギュラーがあれば修正が上手くいかないというのが吾らがどうにかする案件だな?」

「正解よん!!」

「そのイレギュラーというのが貂蝉が説明で度々出した『動く死体』か?」

「流石ねん!!」

 

その修正の最中で未来にイレギュラーとなるモノがあると上手く修正が起きない。その1つが動く死体。

上手く修正が起きないというのは上書きされても、その世界線に所々におかしな部分が残ってしまうという事だ。

過去で死んだ人間でも未来では動く死体として存在する。その動く死体が問題なのだ。過去で死んでも未来でも死んでるというのが辻褄が合っている為、その動く死体がさらに特異な存在ならばより修正に影響がある。

この外史でどのように上手くいかないかと考えると、その動く死体が何処かの武将で兵を率いているとする。

過去で死んだとしても未来では動く死体となっていたとする。過去未来の辻褄としては死んでいるから一応法則としては成り立ってしまう抜け道だ。過去で倒したとしても既に発生している未来の世界線ではなんらかでか動く死体として兵を率いていても、上書きによってもあまり修正に意味を成さなく為ってしまうのだ。

過去でも未来でも死んでいては修正される意味はないのだから。

 

「アタシは今回の問題で1つの可能性を予測したわ。于吉は動く死体を作っている可能性があるとね」

「動く死体…キョンシー?」

「三蔵ちゃん正解よん。もう理解が早くて良いわ!!」

 

于吉は道士であり妖術師。キョンシーを生み出す術を持っていてもおかしくない。

 

「もしかしたら于吉は黄祖を動く死体として駒にしている可能性があるのよ」

 

貂蝉の予測だが黄祖と孫呉の戦いでは実際のところ孫呉が勝っていたかもしれない。だがその後は于吉の手によって黄祖を動く死体にして、妖馬兵を貸し与えて復讐されたと考えているのだ。

 

「黄祖が動く死体か…」

「ええ。そこに太平要術の書によってより改造されていればまず間違いなく悪龍になった張譲のように危険ねえ」

 

貂蝉の予測である于吉の策。

動く死体にして太平要術の書によって改造された黄祖。そして于吉によって覚醒された大軍の妖馬兵。

これは確かに強大な敵であり、孫呉もカルデアも苦戦する強さ。

 

「貂蝉の説明ならば過去を修正された世界でもその動く死体である黄祖は未来でも存在し続けるな」

 

過去を修正されたとしても未来でも存在し続ける。これは過去未来修正の中にあった抜け道というのかもしれない。

于吉にとって過去を修正されようが戦力は残るし、過去修正の影響にもきたすというわけだ。

 

「これが于吉の考えた策と言うのならば確かにとんでもないな」

「ええ。だから現在の問題をアタシ達が解決しないといけないのよ。過去未来の修正を上手くイクようにするにはね」

 

藤丸立香が過去に戻って于吉の策を破る。既に于吉の策によって過去を修正しても意味を成さない異変を現在に残った貂蝉たちが破る。

過去と現在の問題を解決しないと外史の歴史修正が上手くいかないということだ。

 

「過去に行った立香ちゃん達が頑張るだけじゃないのよん」

 

 

100

 

 

卑弥呼は身体の何処かにビクンと電流のようなシグナルが走る。

 

「むむ!!」

「どうした卑弥呼?」

「…そうか。貂蝉はあの手を使ったのだな」

 

神妙な顔つきになる卑弥呼に声を掛ける諸葛孔明。

 

「貂蝉はどうやら過去に跳ぶことを選んだようだ」

「過去に?」

「うむ、過去に跳んで于吉の策を打ち破るのだろう」

 

この外史は于吉によって間違った道を辿り始めている。ならば特異点たる原因を解決する為に過去に跳ぶのはカルデアでもやっていることだ。

だがマスターのレムレム睡眠による転移からこの外史に来て、更に過去に跳ぶなんて初めての事だろう。色々と不安があるが卑弥呼の説明から聞くともう遅い。

マスター達はもうこの外史の過去に跳んでしまったのだろう。できれば自分達が戻るまで待ってもらいたかったものだと考える諸葛孔明。

 

「歴史修正か…だが全てを救えるとは限らないぞ」

「分かっておるわ。人理精算というやつなのだろう?」

「知っていたか」

「無論だ。これでも外史の、世界の管理者だぞ。辻褄合わせ…こればかりはどうしようもないな」

 

ここは外史という異世界だから少し違うが、元々決まった運命は覆せない。

だがここは正史でなくて外史。正史で決まっていた運命が外史では違う運命であったなんて事はよくあることだ。それをよく知っている卑弥呼である。

 

「だがこの外史は正史とは違うのでな。どうなるかは分からん」

「外史は正史の三国志を元にしているのだろう? なら決まった未来を進むのに対して修正されるのではないか?」

「いや、この外史は確かに正史の三国志を元にしている。だが未来の結果はいくつかあるのだ」

 

この外史の歴史の流れは確かに正史の三国志を基準にしているが未来が違うとの事。

 

「前にも言ったがこの外史にも複数の並行世界がある。だが同じ未来になることはないのだ」

「剪定事象か?」

 

卑弥呼が言う外史の未来には決まったルートが1つではなく複数存在する。

まずこの外史には基本軸となる世界がある。それが于吉達が滅ぼそうとした外史世界だ。その外史世界のルートだと実は結果的に滅んだ事になっている。

それはある男と三国志の武将達に貂蝉が于吉達と戦ったが結局はその外史が滅んだのだ。そしてそのまま正史に跳ぶというルートである。

その基本軸世界の外史を中心としてルートがいくつか分かれる。

三国の魏がメインの外史で、曹操が大陸を天下統一をするというルート。呉がメインの外史だと呉蜀同盟によって魏を打ち倒し、天下二分の計が成立するルート。

蜀がメインの外史だと蜀呉同盟により魏と戦い、曹操が和平に応じ天下三分の計を成立させて終戦させるルート。

そしてもう1つが于吉が二度目の外史にて暗躍し、妖馬兵を復活させて武将達と戦ったルートだ。

 

「外史の未来はまだまだあるかもしれんが、この5つのどれかが基本的にこの外史の未来となるだろうな。もしくはちょっとばかし違うかもしれんが大体似たような未来に進む」

 

実はもう1つ特別な外史があるがそれは割愛である。漢女ルートとも言う。

 

(あれは未完であるようなものであるからな)

 

当事者の卑弥呼は華佗との思い出に浸かる。

 

「並行世界は多少の差異はあっても未来は同じになるのだが…それを聞くとバラバラな未来だな」

「うむ、正史の三国志演技よりも違う未来となる」

「それだとこの外史はやはり編纂事象に入る部類かもしれんな」

 

正史の歴史よりも完全に別世界になるということだ。正史の三国志だといずれは三国とも滅びて晋という国が天下統一することになっている。

だが卑弥呼がいう外史の未来だといずれも希望に満ちた理想世界になるらしい。なんせ三国の覇権争いが終わった未来が綴られた外史も存在するのだから。

 

「正史から離れすぎて破滅するということはないのか?」

「ないな。外史はそちらの世界とは違う。外史は並行世界のようで別の世界のようなものでもあるからのう。だが外史は他にも複数存在する。中にはこの5つのどれかに属さない未来もあるが…それだと確かに破滅してしまう未来はあるかもしれぬな」

 

詳しく語ると混乱するので割愛しているが実は他の外史には異世界人とか転生者がいたりするのだ。

彼らによってまた未来は変わる。その結果によって希望と幸福に満ちた理想世界になったり、いずれ滅んだり、未来は無いと外史の判断で打ち切りになったする可能性はある。

 

「5つの未来のどれかになると言うが…その未来に至るにはターニングポイントがあるはずだろう?」

「うむ。実は言うとどの未来になるかだが、ここで天の御遣いが関わる」

 

天の御遣い。これは旅をしていれば度々耳に入った言葉だ。

最初はもしかして特異点たる原因ではないかと思っていずれは調べようと思っていた。

 

「天の御遣いが三国のどこかの陣営に所属することで、ある程度未来が決定されるのだ」

「なるほど。天の御遣いが蜀、魏、呉の何処かに入れば進む未来が外史で決定されるということか」

 

この外史の未来が決まるターニングポイントは天の御遣いがどの陣営に入るかで決まる。

基本軸となる外史は劉備ではなく、天の御遣いが劉備役として進む未来だから劉備が存在しないというのもある。そして于吉が2度目の外史で暗躍するルートはそもそも天の御遣いがいないという世界線だ。

天の御遣いがいるかいないかでこの外史は進む未来が決定されるのだ。それほどまでにこの外史にとって天の御遣いとは重要な人物となっている。

 

「天の御遣いが今どの陣営に居るか分かればこの外史の未来も多少は分かるのだがな」

「だからお前らは天の御遣いを探していたのか?」

「うむ。実は先ほど孫尚香が寝る前に聞いてみたが天の御遣いは知らないと言っていた」

 

そうなるとこの外史は呉をメインにしたルートではないようだ。

 

「天の御遣いとは何者だ?」

「ふふふ。貂蝉が惚れる程の良いオノコだ。ああ、ワシも華佗とお胸がムネムネするような青春をしてみたいぞ」

「………」

 

聞く気が失せてしまう。だがいずれは聞かなければならない案件だ。

 

「しかし過去へか。はあ、私も付いていきたかったがな…頼んだぞマスター」

 

この外史に新たな流星が降り立つ。2つ目の大きな流星である。

最初の流星は天の御使いを乗せてこの大陸に降り立った。だがこの2つ目の流星は様々な噂が立てられる。

2人目の天の御使いがこの大陸に降り立ったとか、ただ流れ星が落ちただけとか、五胡の妖術師が星降りを起こしたとか。最初の流星とは違って幾つも説が出ているのだ。

その噂や説を信じるかは人それぞれ。だけどある人物たちは2人目の天の御使いを信じた。そして取り込もうとした。

それが間違った運命を打ち破る切っ掛けになるのだ。

 

 

101

 

 

流星はある地に降り注いだ。流星は眩い光を発光させたままである。

その落ちた流星目当てに集まる者達も居た。

 

「はー、天の御遣いをひっ捕えて来いだなんて…祭、悪いわね。母様の思い付きにつき合わせちゃって」

「はっはっは、これしきのこと慣れておるわい」

「まったく2人目の天の御遣いかもしれないなんて…天の御遣いはもう何処かの陣営にいるとか聞いたわよ」

「確か…黄巾の乱でも活躍していた義勇軍の所に居るとかいう噂じゃったか?」

「そうそう。会いはしなかったけど噂は聞いてるからね。なのに2人目なんて…」

 

2人目の天の御遣いを手に入れた所で既に天の御使いは劉備とか言う武将の陣営に居ると広まっている。何か役に立つのか分からない。

だが管轄は流星から天の御遣いを乗せて降り立つって事しか占っていない。天の御遣いの人数までは占いで言い残していないのだ。

1人だけかと思っていたが実は2人目もいるって可能性は否定しきれない。これは考えの問題だろう。誰が天の御遣いが1人だけと決めたのか。

占い師である管轄も天の御遣いが1人だけだなんて言っていないのだ。

 

「じゃあ行くわよ祭」

「ああ、策殿」

 

馬を走らせて2人の女性は流星の落ちた場所まで走り切る。

 

「雷火の話だとこの辺りよね?」

「ふむ、それらしきのものは見当たらんが」

「手分けしましょ。一刻後にまたここで落ち合いましょ」

 

二手に分かれて落ちた星を探す。だが2人とも落ちた星なんてみたことがないがこれに違いないってモノをこの後に発見する。

 

「……え、星?」

 

彼女の目の前には白く光っている大きくて丸いモノがあったのだ。

落ちた星を見た事がない者にとって、目の前のモノを見れば星だと思うのは当然だろう。

気になってもっと近くへ行こうとした瞬間に誰かの気配を感じる。

 

「何者か!?」

「おー、あったあった。間違いなくアレだよね!!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ」

「んん、あんた誰?」

「それはこっちの台詞よ。名乗りなさい!!」

「ふっふー。人に名前を聞くときはまずは自分から名乗るのが礼儀ってもんじゃない?」

「ふふっ」

「ん、何かおかしい?」

「いえ、何でもないわ」

 

どちらも落ちた星目当て。ならばどうするかなんて決まっている。

戦って勝った方が星をもらい受けるという事だ。お互いに武器を構えて剣戟が始まる。

 

「はああああああ!!」

「とりゃあああああ!!」

 

2人の戦いはどちらも激しく、剣の火花が迸る。お互いの実力は拮抗している。

どちらも笑いながら斬り合いをしているのは楽しんでいるから。同じ実力で斬り合いをする。2人も強い者の出会いに楽しんでいるのだ。

 

「やるねー!」

「貴女も…ねっ!!」

 

この戦いが何時までも続けば良いなんて思うがここで終わる。

 

「待てぇぇぇぇい!!」

「え!?」

「待たんかぁああ!!」

「さっ…!!」

「貴様は何者か!?」

 

現れた女性は弓矢を構える。

 

「二対一じゃ、流石に分が悪いかー。星は諦めるしかないね」

 

楽しい勝負はお終い。決着つかずの引き分けということだ。

 

「…策殿。こやつは?」

「さあ、誰かしらね?」

「太史慈よ」

 

サラリと名乗る太史慈。

 

「そう…私は孫策よ」

「えーあんたがあの孫堅の…どうりで。まあいっか。じゃあね!!」

 

落ちた星を巡る勝負は太史慈が諦め、孫策が勝ち取った。

 

「ふふっ、変な子…」

「あれが太史慈か」

「え、祭知ってるの?」

「まあな。それよりも策殿。何を勝手に…」

「あーん説教は聞きたくなーい!!」

「だから…む、あれは!?」

 

祭と呼ばれる女性は目を見開く。

 

「そうそう。あんなの見た事ないよね」

 

孫策達の目の前に発光するモノ。未だに白く光り続けていたが徐々に収まっていく。

 

「策殿、離れよ!!」

「大丈夫よ祭」

 

光がどんどんと収まっていくと中から人影が見えてきた。

 

「誰かいるわ…しかも複数!?」

「気を付けるのじゃ策殿!!」

 

光が消えた時、その場に現れたのは4名。

 

「本当についたのか?」

「さあな。現地人に聞かねば分かるまい」

「マスター大丈夫かぁ?」

 

まず孫策の目に入ったのは赤い中華服を着て、槍を持った赤髪の男。白い着物を着た黒髪の美人女性。見事な刺青のある伊達男。

 

「大丈夫だよ燕青。それにしても貂蝉のあの掛け声なんか字が違う気がするんだよな。てかおかしい」

 

そして最後に出てきたのは見慣れない白い服を着た少年であった。

もしかしたら全員が天の御遣いかもしれないが、もしこの中で1人だけと言うのなら見慣れない白い服を着た少年かもしれない。

これは孫策の勘である。彼女の勘はよく当たるので皆が信じる。ここぞという時は彼女の勘を頼る時だってあるものだ。

 

「ちょっと其処の人達!!」

 

孫策は意を決して声を掛ける。すると全員の目は孫策の集中する。

燕青たちは瞬時に白い服を着た少年を、藤丸立香を庇うように構える。

 

「策殿!!」

 

同じく祭と呼ばれる女性は孫策の前に庇うように出る。

一触即発の状態になったが、この空気をまず破ったのが藤丸立香であった。

元気な声で。

 

「すいません。貴女たちはここらの人ですかー!!」

「え、ええ。そうだけど」

「俺は藤丸立香って言います。ここらって何処ですかー!!」

「…何だか元気な子ねえ」

 

彼からは悪意を感じない。これは話に応じてくれるだろうと判断できる。そもそも向こうから話しかけている。

 

「祭、武器を下ろして。彼等は大丈夫よ」

「しかし…」

「大丈夫」

 

祭が武器を下ろしたのを見ると燕青達も警戒を解いてくれた。

 

「私は孫策よ。ここは建業と徐洲の間辺り」

「孫策」

 

孫策伯符という名前を聞いて此処が呉に近い場所というのは理解できた。

ならば貂蝉の過去に跳ばす方法は成功したようだ。そして早速、呉の関係者というかそのものである孫策に出会わせてくれるとは貂蝉はなかなか出来る。

 

(やるなあ貂蝉)

「質問には答えたわ。なら今度は私の質問に答えてくれるかしら?」

「いいともー!!」

 

なかなか元気に返事をしてくれるのに気分は悪くない。

 

「あなたって天の御遣いなの?」

「違います」

「嘘だー!!」

「何で真実を答えたのに嘘と言われるんだ?…」

「だってさっきまで落ちた星の中に居たのよ!!」

「星の中?」

 

藤丸立香だけでなく、燕青達も首を傾ける。

 

「さっきまで眩い光の中に居たアレじゃねえか?」

「ああ、アレ」

 

貂蝉によって過去に跳ばされた時、藤丸立香達は眩い光に包まれた。それが孫策達からしてみれば星に見えたのだろう。

しかも夜空から降り注いだらしく、それなら星だと思われてもしょうがない。さらにさらに話を聞くと管輅の占いでだと、黒天を引き裂いて一筋の流星が天の御遣いをこの大地に降り立たせるなんてのがあるらしい。

それがまさに藤丸立香達にピッタリと当てはまるのだ。

 

「あー…それだと俺ら天の御遣いだね」

「だな」

 

荊軻も頷く。

 

「じゃあ、やっぱり天の御遣いなのね?」

 

孫策は管輅の占いなんて信じていなかった。そもそも占いとかそういうのはあまり信じていない派なのだ。だが今夜の事を自分の目で見てしまえば嫌でも信じるってものだ。現実的ではない非現実的なことが起きている。

 

「天の御遣いの基準がよく分からないけど、その管輅の占いに当てはまっているなら…天の御遣いってことになるね」

「やっぱり。じゃあそっちは?」

 

孫策は燕青たちを見る。

 

「俺の仲間たちだよ」

「彼らも天の身遣い?」

「んー…俺等はどっちかっていうと護衛じゃねえか?」

 

燕青は疑問形で答える。

 

「まあ、我が主である事には変わりないからな」

 

天の御遣いに護衛がいてもおかしくはない。藤丸立香を主と呼んでいるなら間違いなく彼らは従者だ。

 

「一応、天の国の者だけど御遣いという役割を持っているのは貴方だけってことね」

「俺としては天の御遣いなんて大それたもんじゃないけどね」

「でも貴方は管輅の占いにとても一致しているわ」

 

眩い光を放っていた星の中から出てきた見慣れない服を着た少年。本人は天の御遣いではないと否定しているが管輅の占いにとても一致しているのだ。

これだけなら誰もが彼を天の御遣いと思うだろう。

今のところ黒天を引き裂いて大地に降り立ったところまでは一致。

 

「君が天の御遣いだとして何のためにこの地に来たのかしら。目的は?」

「…この大陸を混乱させる奴がいる。そいつを止めるために来たんだ」

 

天の御遣いの役割は大陸の乱世を鎮めること。これも一致した。もう彼が本当に天の御遣いだと孫策は確定した瞬間である。

 

「ねえ、取り合えずウチに来ない?」

「策殿!?」

「祭、これは母様の命令よ。それに彼は天の御遣いに一致してるじゃない」

「まあ、そうじゃが」

「どう?」

 

孫策の拠点である呉に行けるのなら願ったりだ。過去に来たら必ず行かなければならない場所だ。

 

「行きます」

 

早速、呉への道が開かれた。




読んでくれてありがとうございます。
次回はまた未定です。何だかんだでもう年末ですよ。
次回更新は未定ですけど…早めに更新出来たらします。


今回の物語はいろいろと考えて過去の呉に行くというものになりました。
話の中で次元接触現象とかデジャブについてとか…私なりの考えた設定です。
過去未来の修正とか影響とかも私なりに考えたものですので、私の考えが正しいとか違うとかそういうのはありませんね。このような考えで話を展開させただけです。

細々と書きましたが…結局は過去に行った立香たちと現在にいる貂蝉たちが呉のメンバーと関わる話を書きたかっただけですね。
ただ単純に間違った未来を変える物語が今回の2章のメインです。
どんな展開になるかは…これからですね。

では、また次の話にて!!


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まさかの役目

こんにちは。
今年最後の更新です。もう今年もわずかですね。早いような長いような。

FGOのクリスマスイベントは頑張って走り切りました!!
そして、ついに恋姫革命の第3弾…ティザーサイトが!!
次回作が楽しみです。公式サイトの公開が来年の2月22日みたいですね。



102

 

 

孫策に呉と思ったが実は揚洲の建業に案内されて藤丸立香たちは早速、城の謁見の間という場所に連れ出された。

謁見の間には武将やら軍師やら文官やらが勢揃いだ。きっとこの呉の中枢を担っている人物たちである。

 

「ほほう、そこの小僧が天の御遣いか」

(ん、あの人どこかで…?)

「見たところただの小僧だが…」

 

玉座に腰かけている女性。彼女があの中で一番凄い。玉座に座っているのだから一番偉いのは分かっているが、彼女は他の武将たちとは比べ物にならない。

覇気が違う。強さが違う。カリスマが違う。他の武将たちよりもずば抜けている。

これはこの外史でも曹操以来、凄いと感じたのだ。まさに傑物であると理解させられる。

 

「これが天の御遣いとやらか。それらしい神気など微塵も感じぬが」

 

今度はあの中で一番年下そうな女性が此方を見ながらちょいキツ目に判定。普通の人間なのだから神性属性は無いに決まっている。

 

「でも、ちょっと可愛いわね、私は好みよ」

「はい~仲良くできそうですね~」

 

青髪のお姉さん的な女性と眼鏡の緑髪でののほほんとした女性からは好印象。

彼女たちは全員が呉で活躍する有名な英雄たちだ。きっとあの呉の軍師である周瑜もいるはずである。

 

「ふふふ、天の御遣いか」

 

藤丸立香たちの本来の目的はこの地の何処かにいる于吉の捕縛だ。こんな事を孫堅の前では言えないが呉の滅亡を回避させるため。

貂蝉から頼まれた使命を果たすため。

 

「おい、小僧!!」

「はい、何ですか!!」

 

相手が大きい声で話しかけてきたので釣られて大きい声で返してしまった。

 

「お、威勢が良いな。名は何と申す?」

「藤丸立香です!!」

「オレは呉群太守の孫堅だ。なかなか元気のある小僧じゃねえか」

(この人があの孫堅…)

 

孫堅。孫呉の礎を築いた英雄で三国志でも主役級の1人だ。名前に恥じぬ覇気を感じる。

 

「見れば見るほどただの小僧だ」

 

この孫堅の言葉に他の臣下たちも頷く。

 

「で、そっちが護衛だったか?」

「荊軻に李書文、燕青。みんな頼れる俺の仲間だよ」

「頼れる仲間…なあ!!」

 

孫堅がいきなり殺気を藤丸立香に放つ。

 

「うっ!?」

 

足が強張り、震えるが崩れることはなく耐えきれる。この殺気は本当に殺しに来るようなモノではない。

矛盾かもしれないが殺気を向けられても大丈夫だと思える。怖いけど平気なのだ。

今の孫堅以上の殺気なんて今までいくらでも受けてきた。特に新宿で戦った魔神柱の殺気を超える存在はそうそういない。

あの魔神柱は藤丸立香を殺すためだけに三千年を費やし、憎悪を募らせ続け、たった一個人を殺すためだけに世界を滅ぼす程の計画を立てた。

三千年の憎悪、復讐、殺気を超えるものなんて本当にそうそう無い。だからこの殺気に藤丸立香は耐えられた。

 

(ほう、あの小僧なかなか……む!!)

 

そして今度は別の殺気が放たれる。今度は藤丸立香ではなくて孫堅に。

 

「あっはっはっは。悪ふざけはそこまでにしてくれよ。あんたが孫堅だろうが何だろうが俺らは主のために動くぜ」

 

目が笑っていない燕青の殺気だ。荊軻は匕首を手にかけているし、李書文は静かに拳を握って構える。

少し動いた瞬間に孫呉の武将たちが孫堅を守るように前に出る。だがそれだけで何かが起こるというわけではない。

 

「悪い悪い。天の御遣いの護衛ってのはどれくらいのものか気になってな。気分を悪くしたなら謝ろう。はっはっはっは!!」

 

謁見の間に漂う殺気が消える。

 

「ふうー」

「ちょっと母様いきなりすぎるのよ!!」

「そうですぞ。何をやっておられるのですか!?」

 

臣下と娘に怒られる孫堅であった。

 

「さっき言ったじゃねえか。天の御遣いの護衛がどれほどのもんか気になったって」

「だからって、こんな方法で試さなくてよかったでしょうが!!」

「実力を測るにはコレが一番だ」

 

今の方法に関してヤレヤレと言った臣下もいれば怒る臣下もいるのであった。

何だか賑やかというか、そんな陣営だ。

 

「だが今のでこいつらがなかなかの実力だと分かったじゃねえか」

「まあ確かに…」

 

護衛の3人を、特に燕青を見る武将たち。孫堅に負けず劣らずの殺気をこの謁見の間に放出させた伊達男。

軍師や文官は見ても分からないが武将としての目ならば燕青たちを見ればどれだけの実力かは分かるというもの。

殺気の濃さや身体つき、目つきや目の中の光など。他にも構えや足運びなどを見ても熟練者だと分かる。

 

(護衛3人の腕は確かに一流そうだ)

 

天の御遣いの護衛を名乗るだけの事はあるということだ。

 

「貴様が天の御遣いだとして、貴様は何をしにこの地に参った?」

「孫策さんにも言ったけど…」

 

于吉という道士を追ってここまで来た事を怪しまれないように説明。流石に未来から来たなんて突拍子も無い事を言うわけにはいかないからだ。

というか気が付けば天の御遣いと認識させられているが、藤丸立香は天の御遣いではない。だが何故星の中にいたかと言われてしまえば説明ができない。

 

「大陸を混乱させる道士…于吉か。聞いたことねえな」

 

そう言って他の臣下を見るが臣下たちも首を振る。

 

「于吉か…やはり聞かぬ名前だ。そんな奴がいれば耳に残っていても不思議ではないのだがな」

「そっか」

 

流石にそこまで幸先が良いというわけではないらしい。孫呉の者たちに出会えただけでも運が良い方だ。

 

「これからどうするんだ?」

「于吉を探します」

「どこか宛があるのか小僧?」

「取り合えず、ここいらを調べてみようと思います」

「ふむ、ならオレんところに来ないか?」

「と、言うと?」

「ここを拠点にしてみないかということだ。無論ただじゃねえがな」

 

これも願ってもない提案だ。孫呉の中心にいることができればいずれ黄祖との戦いで于吉と接触できるかもしれない。

 

「お願いします」

「くく、面白そうだ。貴様らはオレが養ってやるよ。その代わり働いてもらうぜ」

 

藤丸立香たちは上手く孫呉に入ることができた。これは過去に来て十分な働きだ。

 

「ふむ、如何に利用なさいますか?」

 

そしてこの揚洲の建業にて住まわせてもらう代わりに何をすれば良いか。

 

「風評よ。管輅の予言も、流れ星がこの揚洲で知らん奴はおらんのだろう。それに太史慈だったか、そやつの口からも我が天の御遣いを虜としたことも劉耀に伝わっておろう」

「なるほど噂を広めますか」

「応。孫呉に天の血が入ったとなれば諸侯はもちろん漢室さえ影響を及ぼせる!!」

 

何かよく分からないことが進行している。もちろんとっても厄介と言う意味で。

とても後悔しそうな働きを命令されそうな気がする。

 

「はて、血とは?」

 

孫策と一緒に居た黄蓋はどうやらよく分かってないようだ。そもそも他の者たちもよく分かっていない。

 

「知れたこと。おい立香、貴様は今日より天の御遣いの種を我が家、我が臣どもにばら撒け!!」

「タネ?」

 

物凄く意味が分からない。というか分かりたくないと理性が警告している。

 

「んなもん貴様の子種に決まってるだろう。精だ精。我が家の女どもを孕ませろと命じている!!」

 

孫堅が何を言っているのか分からなかった。

 

「ああー…そういう」

 

この無茶苦茶な命令に孫策は何故か納得の表情をしている。どうしてそんな表情ができるのだろうか本気で思ってしまう。

 

「母様にしては名案ね。立香が何人か孕ませたら呉に天の血が入ったと宣伝できるものね」

「あは、案外良いかもね」

「でしょ」

 

これは庶民の心にも孫呉の人間に対して畏怖の感情が自然に起こるという狙いもある。

黄蓋も良い案だと笑いながら納得。男冥利の破格な案である。

だがこんなのはあり得ない。

 

「お考えは分かります。じゃが、如何にして諸侯に、それを信じさせるのじゃ?」

 

ここで否定的な感じの言葉を感じる。ここで味方が出来そうである。

 

「確かに衣服は見慣れるものではないが、それを除けばどうということのない普通の若者ではないか?」

「そうですか~。とっても素敵なお顔をしていると思いますけどね~」

「話の腰を折るな」

「まあ、でもそれはそうよね。本当に星が運んできたとしても…この藤丸立香くんは私たちと同じ人にしか見えないわ」

 

同じ人間であるから当たり前だ。

 

「うむ。間近で見る我らでもそう感じるのじゃ。天下の諸侯がその風評を鵜呑みにするとは思えん」

 

もっと批判してほしいと心の中であの小さい女性にエールを送る。

 

「おい立香。言われぱっなしで良いのか?」

「良いです」

「この野郎。まあさような風評なぞ後から勝手について参る。立香が励んで種をばら撒いているうちにな」

「品の無い」

「それに立香はなかなか気骨のある男ではないか。なんせオレの殺気を耐えきった男だぞ」

「ああー、確かに。普通だったら失神してもおかしくないわよね」

「まあ、確かにそこは評価できるが…」

「まずは貴様らが信じることが肝要なのだ。オレは信じた。婆よ、立香が…オレが信じられぬか?」

「初めから疑ってなどおりませぬ。まあ、そういうことでござれば」

 

味方だと思ってたらすぐに孫堅に納得させられた。

いいのだろうかと頭がグルグルしてしまう。こういうのはもっとよく考えるべきだ。とてもデリケートな問題だし、これから孫呉の問題のはずだ。

 

「おう、分かったか」

「ただ、それではまるでお飾りじゃ、今の孫呉にかような者たちを養う余裕はありませぬぞ?」

「分かっておる。立香も種馬の役目だけじゃ、それはそれで身が持たんだろう」

 

他に何をさせられるのだろうか気になる。

 

「いずれは戦場にも立たせる。オレの殺気を耐えたんだから戦の気に巻き込まれんだろう」

 

それは天の御遣いとして兵の発揚に役立たせるためというのもあるものだ。

それにこの時代では戦なんて当たり前だ。その役目で戦えと言うのなら戦うしかない。

 

「それならもう出ているよ」

「ほう…?」

「何じゃお主…戦場に出たことがあるのか?」

「うん。まあ俺自身が戦っているわけじゃないけどね。俺が指揮して仲間たちに戦ってもらっているんだ」

「天の国では軍師だったのか」

 

軍師とは言い切れない。でも第五特異点では自ら手がけた編成により大規模な戦争の勝利に貢献した実績がある。

聖杯探索で培った戦いは彼にとって大きな経験値なのだ。この外史の戦とは勝手が違うが何も役に立たないということはない。

 

「似たような事はしてた。でも本物の軍師として期待されたら困るけどね」

「でも少しはできるのだろう?」

「うん。あと事務仕事もできます」

 

孫堅は一考して黒髪の眼鏡と緑髪の眼鏡の女性に顔を向けた。

 

「公瑾、伯言。立香をどんなものか見てやれ」

「はっ」

「は~い。分かりました~」

「あと、婆もたまに見てやれ」

「分かりました。ですがこんな奴に内政なんて…」

「手伝いくらいはできるだろ」

 

どうやら種馬云々はともかく、孫呉にいる間は軍師の補佐のような仕事をするかもしれない。

こんなことなら諸葛孔明からもっと勉強を教えてもらうべきだった。

 

「では立香の役目は種馬と軍師の補佐などだな」

 

そして李書文たちは藤丸立香の護衛という仕事がある。だが、それだけの仕事は孫堅はさせるつもりはないようだ。

 

「お前らは立香の護衛をしてもらうのは構わん。だがオレの元にいるってことは他の事もやってもらうからな」

「うちの主が良いって言うならいいぜ」

 

燕青の言葉に頷く残りの2人たちだが本来の役目はマスターの守護。それだけは譲れない。

 

「頼むね荊軻、李書文、燕青」

 

彼らの強さならばもう分かっている。李書文と燕青なら将として使えるかもしれない。荊軻に関しては暗殺とか斥候とかに仕えそうだ。

孫堅は瞬時に藤丸立香の護衛たちを分析し、役割を考える。

 

「よし、では立香。種の方は頑張れよ」

「辞退します」

「立香!!」

「何ですか!!」

「貴様はオレの元でタダ飯を食らう気か!!」

「いや、それならこっちには藤太が……いないんだった!!」

 

頼りになる兄貴の1人である俵藤太がいないのは寂しい。

 

「何が不満なのだ。貴様も男なら股に立派なタマがぶら下がっているだろう!!」

「ある」

「お、言ったな?」

「でも、こんなのって…考え直してください」

「ヤれ!!」

 

孫堅と恐れ多くも言い合い開始。

この言い合いに孫策たちは笑っている。そして孫堅と真正面から言い合うの気骨さに少し驚きで面白いと感じる。

 

「ううむ、何とも…これは」

「流石だな我が主」

「はっはっは…はぁ」

 

マスターが種馬になる事に関して李書文は言葉を無くす。

荊軻と燕青も呆れているというか、逆に驚けないという感じになっている。

 

「男だろ!!」

「男だけども!?」

「こんの…だから何が不満なのだ!!」

「不満とかそういうんじゃなくて!?」

 

何処か楽しそうな孫堅。藤丸立香は気付かないが案外、このやり取りを楽しんでいるかもしれない。

 

「まーまー」

「孫策さん…」

「それじゃあ、取り合えず決まりね。でも、嫌がる女の子に無理やりなんてダメよ?」

 

取り合えず決まっていない。

 

「いいや構わん、手当たり次第に突っ込め。オレが許可する。何ならこの場で伯符を孕ませたって構わねえぞ!!」

「何言ってんだアンタ」

「ちょっと、ダメに決まってるでしょ!!」

「ほれ見ろ」

 

やっぱり娘の孫策も母の孫堅の案に否定的なところはあるようだ。

 

「だけど…二人きりの時ならね?」

「おっと、まさかの味方じゃなかった件について」

 

すっと歩み寄んできて、耳元でそんな事を言わないほしい。嫌でも反応してしまう。

男の性とは悲しい。嫌ではないが。

 

「流石に手当たり次第は賛同できませんな。風紀が乱れます」

「そういう問題じゃないと思います」

「そうだな。藤丸、気に入った女子がおればちゃんと口説いてその気にさせるのじゃ」

「ええ、その気にさせて…相手が承知したらその先は何をしても構わないからね」

「うふふ、お姉さんがいろいろ教えてあげてもいいわよ」

「誰も味方はいないんですかー?」

 

味方は本当にいない。味方は絆を深めた荊軻たちだけのようだ。

荊軻たちの方を見るが顔を見て分かる。『頑張れ』と書いてあるのだ。

 

「儂はそういうのは疎いのでな」

「師匠…」

「なあに、頑張れよ主。主なら大丈夫だって。カルデアで何人の女性英霊をモノにしてきたんだよ」

「燕青…モノにした覚えはないんだけど」

「「ほお」」

「その顔は何さ荊軻、燕青」

 

絆を深めた仲間もどうやら良いアドバイスをくれなかった。

多くの特異点を巡ってきた彼にとって種馬になれなんて事はなかった。今回ばかりはとても難関である。

微小特異点を解決するより難しい案件である。

 

「チマチマしてるんじゃねえぞ。とっとと種をばら撒いて孫呉の女どもに貴様のガキを生ませろ!!」

「話を聞いてください」

「聞いてるじゃねえか」

「勝手に話が進んでます」

「良いじゃねえか」

「考え直してください」

「決定事項だ!!」

 

もう止められないようだ。だがどうにかしなければならない。

今回の目的は孫呉を滅ぼす原因を作った于吉を倒しに過去の孫呉に来たのに何で種馬なんかに任命させられたのか。

ハロウィンイベント並みに逃げ出したくなった藤丸立香であった。

 

「じゃあ、これで立香たちは孫呉の一員ね」

「もう一度、自己紹介をするわ。姓は孫、名は策、字は伯符、真名は雪蓮よ」

「オレは炎蓮だ。中々面白そうで気に入ったぞ立香!!」

 

一応、認めてくれたってことで自己紹介が始まる。それも真名まで預けてくれるとは予想外だ。党首である孫堅が真名を預けたのを皮切りに他の武将たちの真名も預けてもらえた。

まだまだお互い知らないことばかりだと言うのに真名を預けてくれる。相手は信頼をしようと歩み寄ってくれているのだ。

種馬云々は置いといて、此方も信頼してもらうように孫呉では頑張らないといけない。いきなり真名を多く教えてもらい過ぎて覚えるのに大変だが、大切な名前だ。

真名を覚えるために無理やり頭に叩き込むのであった。

 

「オレにはそこの雪蓮の他にも、二人娘がいるのだが、今は役目で建業を離れていてな。いずれ紹介する」

 

二人の娘と聞いて思い浮かんだ名前が孫権と孫尚香だ。それにしてもやはり全員女性のようだ。

彼女たちはいずれ紹介してくれるとのこと。残り2人の孫堅の娘たちはどんな人なのだろうかと気になる。

今日の孫呉の出会いは衝撃的であった。

 

 

103

 

 

重い重い溜息しか出ない。せっかく過去に遡って孫呉の陣営に入り込めたまではいい。だが、まさか孫呉で種馬を任命されるなんて誰が想像できるであろうか。

種馬になる気は一切ないが向こうはもうそれで確定している。孫呉の人間は話を聞いてくれない。

 

「どうすればいいんだ…」

「なっちまったもんは仕方ないな」

「他人事だと思って…」

「なあに、そのうち慣れるって」

 

種馬に慣れるのは良いことなのだろうか分からない。そもそも天の血を孫呉に入れると言うが藤丸立香は天の御遣いではないと言うのに。

管輅とか言う占い師の予言とはぴったり当てはまるようだが、それでも違うと思っている。

 

「取り合えず種馬云々は置いといてだ。次はどうするか話そうぜ」

「そうだね」

 

拠点をこの揚洲の建業、孫呉の中に入り込めた。ならば次の段階に進める。

于吉は黄祖の陣営にいることになっている。ならば黄祖のいる荊州・江夏で調べるべきだ。

 

「んじゃ、そこに行ってみるか。隠密行動ってな」

 

そうなると荊軻と燕青たちアサシンクラスの仕事だ。

 

「俺らが離れている間はマスターを頼むぜ李書文」

「心得た」

 

李書文ならそこらの賊や刺客などに後れを取ることはない。

 

「それにしてもやっぱ種馬は…」

 

首をガクンと垂れてしまう。まだ続く種馬任命の話。

 

「あんま気にしてっと頭が痛くなるぜ。マスターも良い歳だしなんだからここいらで女を知っとけよ」

「ななななな」

「興味ない事ないだろ?」

「………はい」

「つーかマスターに好意を抱いている奴なんかたくさんいんだろ。カルデアでそういうのは無かったのか?」

 

藤丸立香が契約したサーヴァントたちの中には好意を持つ者たちがいる。絆を深めていくほどその気持ちは大きくなる。

それなら本当に「実は…」なんてことがないのだろうかと考える燕青。

 

「マシュの嬢ちゃんにあの愛が重い3人組。あのアルターエゴたちや竜の魔女、子供好きのアーチャー、2人組の海賊に二刀流の侍、天才剣士、勝利の女王、女神様…数えたらキリがないぜ」

 

数え出したら本当にキリがない。燕青が挙げた者たち以外にもまだまだいる。

 

「結構際どい事もあったと聞くぜ。つーか、マシュの嬢ちゃんとは何かあるだろぉ?」

「いや、そのマシュとはその…」

「俺らアサシンクラスの最古参で先輩のマタ・ハリの姐さんはどうなのよ。なんか酔った勢いで既成事実かどうとかあったらしいじゃねえか」

「それはクリスマスの…」

「溶岩水泳部の3人はベッドに忍び込んでくるんだろ。絶対何かあっただろ」

「だ、だから」

「嘘か本当か…バレンタインにある女英霊たちから部屋の鍵をもらったとか」

「何で知ってる」

 

ニマニマと面白そうにマスターをいじめる燕青。絶対にからかっている顔だ。

 

「夏の無人島なんて…絶対に何かあったろ!!」

「ないから!!」

「嘘だあ」

「師匠。燕青がいじめる!!」

「そこで儂に頼られてもな」

 

今が頼る時だ。

頼らないと藤丸立香の精神が削り取られそうだ。

 

「…儂はそういうのは分からん。だが男と女はいずれは結ばれる。そうなればそういう行為をするのはおかしくない」

「うん」

「だからマスターあまり気にするな。そして燕青はからかうな」

「へいへーい」

「うん…ん?」

 

今の李書文の言葉を聞くが、何か違う気がする。肯定のような言葉な気がしなくもない。

だが深く考えないことにする。

 

「ま、我が主に経験があるにしろ無いにしろ我らがやることは変わらんだろう?」

「うむ、荊軻の言う通りだ。目的は于吉の打倒」

 

種馬云々は本当に取り合えず置いておくべきだ。目的は荊軻の言う通り于吉を倒すことだ。

目的が達成されればこの過去の世界から元の時代に戻る事ができるはず。そうなれば種馬の役目なんて無くなる。

 

「まあ、その前にその役目が来るかもしれんがな」

「……」

「その日のために練習でもしとくか?」

「え?」

「前にも言った事があるだろう。私は殺す、君は魔力を与える。別の方法で魔力を貰うのも有りかなっ…とな」

 

ドキリとしてしまう。燕青はピュウと口笛を吹く。

カルデアでは電力を魔力に変換して供給しているが、荊軻の言う別の方法の魔力供給が気になる。

別の方法となるとまず一番に思いついてしまうのが粘膜接触による魔力供給である。これを最初教えてもらった時は「え?」と聞き返してしまったほどである。

 

「え、ちょっと、練習で魔力供給って…え?」

「ふふふ…」

 

荊軻がもう酔っているのか、どういう意味で言っているのだろうか分からない。

 

「きょ、今日のカルデア会議はここまでー!!」

 

この後、本当に練習したかどうかは謎である。

 

 

104

 

 

パチリと目が覚める。意識は覚醒しているがまだ眠いと言うのが本音だ。

孫尚香は目を擦りながら周囲を確認する。まず目の前にいるのが寝ずの番をしてくれた周泰だ。

 

「おはよう周泰」

「お目覚めになりましたか孫尚香様」

「ええ。目覚めは最悪だけど……寝ずの番ありがとうね」

「いえいえ。私なら一日くらい寝なくても大丈夫ですから」

 

そう言っているが疲れが溜まっているのが分かってしまう。間違いなく彼女は無理をしているのだ。

孫尚香としては無理せずに周泰に休憩させてあげたいが今の状況では無理である。例え、敵ではなくとも素性の知れない者がいるのだから。

 

「起きたか孫尚香。周泰よ」

 

極限まで鍛えた筋肉の漢女である卑弥呼が朝餉に用意したスープを2人に差し出す。

 

「食べると良い。ワシ特製の朝餉だ」

 

2人は一瞬だけ躊躇ったがスープには毒なんて入っていない。毒殺しなくとも昨日にならその機会がいくらでもあったのだからだ。

もしも彼らが敵だったら毒なんてものは使わないはずだ。

まず周泰が毒見するが別に何ともない。このことから孫尚香も口にする。

 

「美味しい」

「それは良かった。ワシはこれでも良いオノコの胃袋をガッチガチに掴むために料理を勉強しているからな」

「それはきっと無駄な勉強じゃな」

 

そんな事を言う武則天だがスープが美味しいのは確かである。

 

「ワシは料理が出来る漢女なのだ!!」

「うん 美味」

 

まだ安心は出来ないが久しぶりに身体の芯から温まる食事が出来ただけでも良かったと思う孫尚香であった。

そのおかげか少しだけ心に余裕が出来る2人。

 

「ねえ、あんた達は于吉とか言う奴を捕まえる為に旅してるんだっけ?」

「そうだが?」

「なるほどね」

 

孫尚香はスープを啜りながら考える。

 

「于吉とかいう奴が黄祖と手を組んでいるなら…黄祖もあなた達にとって敵になるわよね?」

「そうだな。于吉の奴めが黄祖と手を組んでいればいずれは戦うはめになるだろうな」

 

そこの部分が卑弥呼にとって一番考えたくない所である。もし戦いになれば最悪なケースだと黄祖との軍と全面対決となってしまう。

そうなると卑弥呼でもカルデアでも戦力的に敵わない。だがそれでも戦わないといけなくなる可能性は高い。どうやって最悪なケースとして黄祖軍と戦うかが卑弥呼にとっての難題である。

 

「難題だな。流石に我らでも統率の取れた大軍相手は敵わない。如何に英霊と言えどな」

 

于吉が黄祖と手を組んでいるなら間違いなく妖馬兵もいる。そこに黄祖軍の鍛えられた兵士たちも加わればより強固な軍である。

結局のところ戦争とは数で決まる。質が良くても数には敵わない時があるのだ。

 

「なら私たちと手を組まない?」

「手を組むだと?」

「ええ」

 

孫尚香のまさかの提案。

 

「孫尚香様それは…」

「私に任せて周泰。考えがあるの」

 

彼女の考えこそが卑弥呼たちにとってこれからどう動いていくかが決まるものであるのだ。

 

「私たちは黄祖に負けた。でもまだ終わりじゃないの」

 

彼女の話を聞くと孫呉は黄祖軍に負けた。だが全滅というわけではないのだ。

戦争に負けたあとだが孫呉の軍はバラバラに散らばったのだ。負けたのは確かだが全滅したわけではなく、生き残るために敗走したのである。

 

「今はバラバラだけどいずれは孫呉の生き残りを集めて再起を計るつもりなの」

 

まだ孫呉は負けていない。今ここに孫家の娘である孫尚香が生きているのだから。

 

「バラバラになったということはまだ呉の武将は生きていると言う事か?」

「それは…生きていることを願っているわ」

 

暗くなる2人の顔。

バラバラになって敗走したというが黄祖軍が追撃をしないわけがない。他を助ける為に殿をした孫呉の軍もいれば、追撃によって倒された兵士たちもいる。

だから孫呉の軍はどれほど生き残っているかまでは分からないのだ。それでも孫尚香は大事な人が、信頼する呉の兵士たちが多く生き残っていることを願う。

 

「生き残っているのがどれだけいるか分からない。でも再起は必ず起こすつもり。そのためには新たな仲間が必要なのよ」

 

生き残った呉の兵士たちを集めても戦力的に黄祖軍には敵わないかもしれない。だからこそ新たな力が欲しい。

目の前には4人も強そうな奴らがいる。数の足しにはならないが質は良い人材だと分かる。

 

「一応聞くけど強いわよね?」

「お主らより強いわ」

「えー…あんたってば私より年下っぽいじゃん。それに前線で戦うって感じじゃなさそう」

「いや、お主の方が年下じゃろうが」

 

諸葛孔明は武則天と孫尚香を見て背丈はどっこいどっこいではないかと言う言葉を静かに飲み込んだ。

 

「私と武則天は確かに戦闘向きではない。だがそこにいる卑弥呼や哪吒は戦闘向きだ。私はどちらかというと軍師だからな」

「いや、ワシとしてはそうでも…漢女だし」

「「「嘘を付くな」」」

 

全員の本音が1つになった瞬間である。

 

「それに私たちには仲間がいる。今離れている他の仲間の方がより戦上手の奴がいるさ」

「そうなの?」

「ああ。その他の仲間には武将経験…兵を率いた経験もある奴もいる」

「それなら合格だね」

 

新たに仲間に加えたいと思っていた人にはまだ仲間がいることが分かった。これは嬉しい情報だ。

それでも数人程度だろうが今は少しでも仲間が必要な孫尚香。

 

「で、私たちの仲間になってくれるのかしら。あなたたちは于吉とかいう道士を捕まえたい。私たちは黄祖を倒したい。その2人は手を組んでいる。敵は同じでしょ」

「ああ。それは願っても無い提案だ。よろしく頼む」

 

今ここで卑弥呼たちと孫尚香たちは手を組んだ。敵が同じならばどちらも断ることはない。

 

「やったわ周泰!!」

「はい孫尚香様!!」

 

イエーイとハイタッチしそうな勢いである。

 

「で、これからどうするか宛があるのか。さっき言っていたように撤退した呉の兵士たちと合流するということか?」

「その通りよ。えーっと、孔明だっけ?」

「そうだ。呉の姫」

 

黄祖軍ともう一度戦うには散らばった呉の兵士たちを集めなければならない。そして兵士たちだけではダメだ。

兵士をまとめる武将も必要なのだ。如何に兵士たちを多く集めても先導してくれる将がいなければ宝の持ち腐れになってしまう。

 

「合流するのも大事だけどやっぱり将たる存在も必要よ。やっぱり将と言うなら粋…程普や黄蓋が無事だと良いんだけど」

(程普に黄蓋か。どちらも呉の両翼にあたる武将だな)

 

どちらも呉で活躍する武将だ。もし無事ならば必ず力になる人物たちだ。

 

「どこで合流するかというのも分かっているのか?」

「うん。いくつか合流する箇所は撤退する前に決めてあるの。ここから近い場所だと…北の方に町があると思う」

 

地面に地図を書いて合流場所を書く周泰と説明する孫尚香。

 

「その町なら私たちの仲間もいるな。丁度良い」

「本当に丁度良いですね。貴方たちの仲間と私たちの仲間も合流できて!!」

 

ニパっと笑顔になる周泰。

 

「ならもう出発?」

 

哪吒がスープを飲み干してごちそうさまをする。

 

「そうだな。ところで孫尚香お前たちは2人だけか。他に仲間が離れていたりして待機してないか?」

「してないわよ。私たちはたった2人だけ。勇敢な呉の兵士たちが黄祖軍から逃がしてくれたのよ」

「そうか」

 

彼女の顔から分かる。おそらく彼女たちを逃がした勇敢な呉の兵士たちはもうこの世にはいない。

その勇敢な呉の兵士たちに卑弥呼は称賛と冥福を祈る。

 

「そうだ孫尚香よ。お前の姉にあたる孫権や孫策もどうか分からないのか?」

「……分からないわ」

「孫権様は無事な可能性は高いですけど、孫策様は周瑜様と最後まで黄祖軍と戦っていました」

(どういう考えをしたか分からないが孫策は孫権と孫尚香を生かすために黄祖軍を食い止めることを決めたかもしれんな)

 

この外史では分からないが正史では孫堅の血を継ぐ者が呉をより繁栄させていく。その中でも孫権が呉の地を安定させて繁栄させる。

孫策はそれを直感か何かで分かっていたのかもしれない。孫策の方が覇権を争う戦いが上だが孫権の方は人材の心を掴んでよりよく活躍させて呉を守り安定させるのは上ということだ。

 

「無事だと良いな」

「うん。それと…彼らも帰ってくるといいな」

「彼ら?」

「天の御遣いよ」

 

この言葉を聞いて即座に反応する卑弥呼と諸葛孔明。

 

(おい、確か昨日の段階だと天の御遣いについて彼女は知らないと言っていたんだよな?)

(うむ。昨日の様子からだと嘘を言っているようには見えなかった。ならば…もう既に未来は変わっているということだな)

(それだとどういう風に変わったんだか…)

 

天の御遣いがいる。まさかの情報であるが、彼女の帰ったという発言も気になる。

 

「何て奴なんだ天の御遣いとは。まさか北郷一刀という名前だったりしないか?」

「誰それ?」

「む、違うのか」

 

卑弥呼の中では天の御遣いイコール北郷一刀なのだが彼女はそれを否定した。

この外史ではカルデア以外に異世界者や転生者はいない。そうなると誰になるのか分からなくなる。

 

「名前は何と言うのだ?」

「藤丸立香」

「「「「………」」」」

 

真顔になる諸葛孔明たち。

 

「彼には天の護衛もついていて荊軻って人に燕青に李書文って人たちもいたわ」

「「「「………」」」」

 

物凄く知り合いであった。

 

「そ、そうか」

 

取り合えず仲間だということは一応黙っておく諸葛孔明たち。ここで仲間と言ったらややこしくなりそうだからだ。

 

「まさか びっくり」

「じゃのう。何をやっているんじゃマスターは…」

 

哪吒と武則天は己のマスターが過去で何をしているのか気になるのであった。

 

「…その藤丸立香というのは一体?」

 

白々しいまでに自分のマスターの事を聞く諸葛孔明。

 

「呉の地に降り立った天の御遣い…役目を果たしたとかで帰っちゃったけどね。何よ役目ならまだ果たしてないじゃないのよ」

「役目?」

「うん。姉様から聞いただけだからどんな役目を果たしたわからないけど…立香たちは役目を果たしたから天に帰っちゃったの」

 

孫尚香は天の御遣いの役目について全てを知っているわけではない。それはカルデアや卑弥呼たち側の目的を詳しくまでは知らないからだ。

 

「天の御遣いの役目はこの大陸の戦乱を終わらせる事です。でもそれは1人目の役目だったのかもしれません。立香さんは2人目らしいですから別の役目があったのかもしれません」

(1人目と2人目…2人目がマスターか)

(ならば1人目がやはり北郷一刀だな)

 

過去の呉で藤丸立香たちがどのように関わったのか気になる。

彼らの役目とはおそらく呉の過去を修正するということだ。だがどのように何を修正したかまでは現在の諸葛孔明たちは分からない。

 

「マス…藤丸立香の役目か。どんな内容か本当に分からないのか?」

「分かんないわよ。私が知っている立香の役目は1つだけだし」

「ん、他にも役目があるのか?」

「ええ」

「何だそれは?」

「それは~ウフフ」

「ん?」

 

孫尚香は小悪魔スマイルで頬を染める。

 

「立香の、天の血を呉に入れることよ」

「あははー、まあそれはですね」

 

周泰も何故か頬を赤くしている。

 

「天の血を呉に入れるだと?」

「立香と子を作るってこと」

(マスターは過去の呉で何やっているんだ!?)

 

これを清姫や源頼光たちが聞いたらどうなるか想像したくない。そもそもマスターに好意を抱いている英霊に聞かせるわけにはいかない。

諸葛孔明は顔を手で抑えてしまいながらため息が出る。

 

「おい小娘。子を作るとか言ったのか?」

 

武則天が据わった目で孫尚香を見る。

 

「ええ、そうよ。私が一番に立香との子を作るつもりだったのよ」

「ほぉー……マスターめ帰ってきたら拷問じゃな」

 

ボソリと怖い事を言う武則天。

 

「でも立香はその役目を果たさずに帰っちゃったけどね。何で勝手に帰っちゃうのよ…」

「…その帰ったというのが藤丸立香が本来の役目を果たしたからなんだな」

(恐らくというか絶対に立香は過去の呉で何かをしたからこそ役目を果たして帰ったのだろうな)

(ということはもう現在に戻ってきているということか。そして既に過去改変によって現在も変化が起きている)

(そうだな。貂蝉はもう何か知っているかもしれん)

 

そうなるとやはり一旦町に戻って貂蝉たちと合流するのが一番だ。

 

「その本来の役目とやらは姉様たちなら知ってるかも。私はただ姉様から立香が役目を果たして帰ったとしか聞いてないから」

「なるほどな」

 

取り合えず今の段階だと町に戻り貂蝉たちと合流。そして孫尚香たちの仲間と合流することが今の彼らのすべきことである。

現在のこの地でもやることはまだまだある。だが泣き言は言っていられない。過去で藤丸立香たちが頑張ったというのならば今は現在に残っている卑弥呼たちも頑張るしかないのだ。

 

 




読んでくれてありがとうございました。
次回は来年の1月中に更新予定です。

はい。この物語では一刀が呉にいないので立香が種馬の役割を任命されました。
溶岩水泳部たちを筆頭に立香に好意を寄せる英霊が本気で時空を超えてきそうです。

まあ、立香はその役目は果たしませんがね。彼女たちを幸せにするのはやはり一刀で立香が果たす役目は種馬ではなくて間違った運命を修正することですから。
でも、まさかの役目に立香は一刀よりもアワアワします。

次回は過去の呉の日常編や、現在での貂蝉たちサイドの話を考えております。
では。また。





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孫呉の人たち1

あけましておめでとうございます。
もそっと更新です。
タイトルで分かるかもしれませんが過去の呉で立香たちが過ごす日常回です。


105

 

 

早速、孫家の下に入ったということで今の情勢を聞くところから始まる。

説明を聞くとやはり貂蝉が言ったように黄巾の乱が終わった後にあたる。その頃だと今頃、月や恋たちと遊んだり仕事したりしていた頃だ。

 

(ふむふむ)

 

そしてこの揚州では孫家の力が一番有力との事。

兵力、土地の結束力は他家には負けないくらい強い。これは孫堅もとい、炎蓮の統治のおかげだ。

炎蓮の善政を慕って、近頃は他の土地からも孫家の支配地に大勢の民が入っているらしい。

祭や雷火の話を聞くと炎蓮のカリスマ性をこれでもかと聞かされたものである。

 

「おい立香。貴様に話があるからついて参れ!!」

「はいっす」

 

そしてその件の炎蓮から散歩と言う名の城下町の警邏に行く事となった。

 

「うむ」

 

町に到着して炎蓮は町の様子を満足そうに眺めている。

町にはたくさんの品を積んだ荷車がひっきりなしに行きかい、立ち並んだ店からは活気に満ちた商人の声が途切れることなく響いていた。

更には炎蓮の周りには民たちが大勢集まってくる。民からには誰もが彼女に感謝し、称えたりしている。

誰もが本当に炎蓮を慕って、かつ威風堂々とした建業の主を畏れているようだ。

 

「我ら建業の民、孫堅様のご統治には皆々、心の底から深く感謝しています!!」

「わかったわかった。ンなことはいいから、しゃべってないで働きやがれ。もう散った散った!!」

 

言葉使いは最初に出会った時から思っていたが乱暴だ。でもその声には民への優しさが籠っている。

立ち振る舞いや言葉の節々からも人としての器の大きさが感じられるのだ。やはり英雄となる者は一味違う。

 

「大人気だね炎蓮さん」

「そうか?」

「そうです」

「そんなことより立香、この町を見て見ろ」

 

思った事はやはり活気があるということだ。その思った事を口にすると炎蓮はどうやってここまで活気のある町にしたかを語ってくれる。

色々と大変だったのは間違いない。ここまで活気になれたのは彼女の力のおかげであり、民たちの力でもある。

 

「立香はこの町より大きな町を見た事があるのか?」

「あるよ。いくつも見て来たよ」

「ほう、洛陽よりも大きな町ならどうだ。と言っても、貴様は洛陽を知らんか…」

 

知っている。ここで話すと説明が面倒であるので見てないという事にしておく方が良いだろうと思って黙っておく。

 

「確かに知らないけど…たぶん洛陽より大きいと思う町は知ってるよ。百万とか三百万とか住んでる町に国なんてね」

「百万だと!?」

 

その数に笑いながら驚いている。

 

「嘘じゃないよ」

「疑ってなどおらんさ。そいつは征服のし甲斐があるってもんだ」

 

目が本気だ。

 

「それは難しいんじゃない?」

「ほお、何故だ」

「そういう凄い所を治めている凄い人がいるってこと。炎蓮さんのようにね」

「クックック、確かに」

 

国を治める者と聞いて、頭に浮かべる王様系の英霊たち。

 

「炎蓮さんの目的って大陸統一だったりするの?」

「それはつまり、このオレに漢王朝を倒せと申してるのか?」

「違うの?」

「…そうさな、我が願いは天下の民の安寧だ。漢王朝にその力が無いのならオレが代わりにやるしかあるまいか」

 

洛陽の宮中にいる人たちが聞いたら大変だ。

 

「だが、今の孫呉の力では、天下など夢のまた夢よ。オレの代では揚州の統一がいいところか」

 

真顔に戻って目を細めそながら呟く。豪快そうに見えて現実的だ。

 

「その時に後を任せる者が育っておればいいのだがな」

「あれ、雪蓮さんは?」

「雪蓮か。あれはな…」

 

娘の名前を聞いて渋い表情になった。雪蓮もとい孫策は三国志でも有名な英雄。

だがそんなことは今を生きる炎蓮は知らない。親の目からしてみればまだまだと言う事かもしれない。

 

「噂をすればだ。あれを見ろ」

 

顎をしゃくって前の方向を見ると、雪蓮が昼間っから酒盛りしていた。

 

「ほれ見ろ。あのバカ面が孫家の跡取り娘のツラか?」

「残念ながらそうです」

「そうか…残念ながら跡取り娘か」

 

雪蓮は昼間から真っ赤な顔で瓢箪掲げて悠々と町を散歩していた。

民からは慕われているが一歩見間違えればダメ人間である。

 

「クク、良い事を思いついた」

「その割には悪い顔ですよ炎蓮さん」

 

彼女は音も無く消える。どうやらアサシンクラスの適合があるかもしれない。

 

「あ、立香!!」

「雪蓮さん。昼間から酒盛りですか」

「いーじゃない」

 

雪蓮が此方に気付いて近づいてきてくれた瞬間に炎蓮は彼女の背後に現れた。

 

「あ」

「へ?」

 

鬼の形相でおもいきり拳を振りかぶっている。

 

「あ」

「うおおおおりゃあああああ!!」

「んぎゃあああ!?」

 

見事に炎蓮の拳骨が雪蓮の脳天に直撃。

 

「見事な一撃でした」

「だろう?」

 

悶絶している自分の娘を余所に手応えあり、という顔の母親という図になっている。

 

「何するのよ!!」

「ハッ、未熟者め!!」

「はあ!?」

「我らは常に命を狙われておるのだ。それが易々と不意打ちを食らうとは…オレの教えを忘れたか!!」

「殺気があれば気付いてたわよ。母様にいきなり襲われるなんて考えるわけもないでしょ!?」

 

母と娘の口喧嘩が開始された。

正直に言ってなんとも豪快すぎる母親だ。雪蓮は不満を言いまくるが炎蓮をそれを論破して黙らせる。

すぐに母親である彼女が優位にたって口喧嘩も勝利した。

 

「ううぅ、もう分かったわよ!!」

「ふん、口の減らん奴め」

 

口喧嘩に負けたのが悔しいのか、頬を膨らませながら城の方に歩いていくのであった、

 

「…というわけだ。あのような半端者にまだまだ家督は譲れんな」

 

厳しい母親である。

炎蓮としては孫家の跡継ぎとして警戒心が足りないということらしい。だからと言って気配を消して娘の脳天に拳骨とは過激である。

 

「そういう炎蓮さんには護衛がついてるの?」

「ふん」

 

彼女が手を挙げると数人の人が姿を現す。装いは庶民と変わらないが、見せつけるように懐に忍ばせた刃を光らせている。

間違いなく彼女専属の護衛部隊だ。そして姿を見せたと思ったらすぐにでも人込みの中へと消えていった。

 

「己を省みずに理不尽に娘を殴ったりせんわ」

「すると思ってた」

「一言多いな貴様」

 

彼女曰く、かなり強引に三群を征服したから、恨んでいる者は多いとの事。街中だろうと戦場だろうと刺客に襲われるのは変わらない。

人の上に立つ者として足元が絶対に安全というわけではないのだ。

 

「そういうお前はどうなんだ?」

「何が?」

「貴様がどう考えようと貴様の体には利用価値がある。天の御遣いを攫おうと、或いは殺そうとする者がいることを肝に銘じておけ」

 

殺されるなんて特異点攻略時にいくらでもあった。それくらいの心構えはある。

 

「というか護衛もいるのに、その護衛をつけていないじゃないか」

 

てっきり近くにいるものかと思って炎蓮はさっきからあの3人を探していたのだ。自分の護衛のように隠密行動をしていれば見つからないのは当たり前だが自分なら見つけられると思っていたのだ。

だが見つからない。上手く隠れているか、本当に居ないかだ。もし本当に護衛が居なく、炎蓮がいるからということで安心して任せているのなら藤丸立香の護衛は失格だ。

 

「…誰かいる?」

 

そう呟くが誰も出てこない。

 

「おい、誰がいるのか分かってないのか」

「たまに誰がいるか分からない時がある」

「何だそりゃ?」

 

特にアサシンクラスの護衛は誰がいるか分からない時があるのだ。なんせ、自主的に護衛してくれるから。

その自主的に護衛してくれるのが忍者英霊の誰かだったり、ハサンの誰かだったりする。

 

「お前、危機感がないな」

「これでも危機察知能力はあるよ」

「本当かよ」

 

実は呪腕のハサンから「危険感知は一流」と言われている。

 

「嘘だろ」

 

炎蓮は信じられないようだが。

そんな時に先ほどの炎蓮の護衛がまた姿を現した。

 

「孫堅様」

「どうした。何かあったか…む?」

 

炎蓮の護衛が1人近づいた瞬間に先ほどまでいた護衛が全員また現れた。

 

「孫堅様から離れろ!!」

 

そして声を出した護衛が今、炎蓮に近づいていた護衛であった。

 

「っ!?」

 

すぐさま炎蓮は後方に跳ぶ。

護衛を見比べても全く同じ。同じ体形に同じ顔に同じ服装で、はっきり言って違いが分からない。

 

「何者だ」

 

炎蓮と護衛たちは殺気を滲み出す。

 

「おい立香、離れていろ」

「いや、大丈夫」

「大丈夫だと?」

「もういいよ燕青」

 

藤丸立香はこれが茶番だと分かった。

 

「ははは、流石は我が主。よく気付いたなぁ」

「こんな状況だと燕青くらいしかいないでしょ」

 

偽護衛が正体を現すと出てきたのは燕青であった。

 

「いやあ、驚かしてすまなかったな。それにしてもあんたの殺気はビリビリくるぜ」

「貴様…そうか、変装か」

「ああ。これでも変装の達人なんでな。あんたにだって、あんたの娘にもなれるぞ」

 

ニカッと笑う燕青。だがこれで炎蓮はもっと彼が只者ではないと再認識させられる。

あの変装した護衛の姿に何の違和感も無かった。もし彼が敵で、護衛が居なかった場合はもう結末は分かってしまう。

 

「俺は見た事がある奴なら誰でも変装できる。これでも怪人∞面相もやったこともある気がするし」

 

誰でも変装出来ると聞いてピクリと片眉毛を上にあげる。

 

「誰でもか。ならオレに変装してみろ」

「お安い御用だ」

 

燕青はどこからとも無く大きな布を被って、すぐに大きな布の中から出てくる。

 

「どうだオレ?」

 

大きな布の中から出てきたのは炎蓮であった。護衛の者たちには動揺が走る。

何せ護衛の者たちでさえ見分けがつかないくらい完璧な変装なのだから。

 

「ほお」

 

炎蓮は自分自身になった燕青をマジマジと見る。

まさかここまでソックリに変装するとは思わなかった。これは物凄い特技だ。

 

「他にも変装出来るぜ」

 

すると立て続けに雪蓮や冥琳に雷火と連続で変身する。これには流石に久しぶりに驚いた。

目の前で変装されなければ偽物だと分からない程なのだから。彼が敵でなくて良かったと思える。

もし敵であったらみすみす暗殺されたりとか、国の内部をメチャクチャにされたりとかされそうだ。

 

「姿は完璧だ。だが中身はそうでもないようだな」

「そこを突かれると痛いね。中身に関しては演技しかないからな」

 

中身は流石に違う。そこの部分をすぐさま分かった炎蓮の回答には燕青もばつが悪い顔。姿形までは完璧に変装出来るが中身は観察して真似しなければならないのだ。

 

「…ふん、天の御遣いの護衛はやはり只者ではないと言う事か。おいお前ら大丈夫だから持ち場に戻れ」

 

炎蓮が一声掛けると護衛たちはまた消える。

 

「うっし。姿を現しちまったからこのまま同行するぜ」

「ったく、面白い奴らだぜ」

 

やはり面白い奴らを孫呉に引き込めたと思うのであった。

燕青の利用価値について炎蓮の中で考えが巡る。この変装術はいくらでも有効活用ができるのだから。

 

「さあ、行くぞ立香。そろそろ腹も減った。その辺でメシでも食うか?」

「食べる」

「俺もご相伴に預からせてくれ」

「いいとも。さあメシだ!!」

 

いろいろと勉強させてもらいながら炎蓮と昼飯を食べるのであった。

 

 

106

 

 

炎蓮と昼飯を終えてからは別々の行動になった。彼女はまだやることがあるらしく、先に城に戻ってろとのこと。燕青も姿を消して護衛に戻った。

このまま一緒に居ても良かったのにと藤丸立香は思ったが今日は護衛に徹底するらしい。

この後、最初は城に戻ろうとしたがこのまま町の探索をするの良いと思って寄り道していると角の曲がった道先で昼前に会った雪蓮が立っていた。

よく見ると老夫婦と楽しそうにお喋りしている。その姿を見るととても親し気だ。

老夫婦も雪蓮と話している姿はとても楽しそうで、とても温かな雰囲気である。

彼女もまた民から慕われているようだ。

 

(何か約束事をしたみたい)

 

雪蓮と老夫婦と会話が終わったようで今度は藤丸立香と目が合う。

 

「あ、立香」

「やあ、さっきぶり」

 

老夫婦と別れて雪蓮は藤丸立香と肩を並べて城への帰路につく。

 

「何であの時、母様が後ろにいたことを教えてくれなかったのよー。頭にたんこぶ出来たのよ」

「その文句は炎蓮さんに言ってください」

 

拳骨したのは彼女の母親である。そして自分の娘に拳骨を背後からするなんて思うはずもない。

 

「次は私の味方でいてよね」

 

それはその時による。

 

「ていうか雪蓮さんはあのまますぐに城に戻らなかったんだ」

「ええ。さっきのお爺ちゃんとお婆ちゃんと話が弾んじゃってね」

 

先ほどの老夫婦は昔馴染みでよくご飯を食べにも行く間柄らしい。更には人生の先輩として色々と教えてもらっているようだ。

それにはとても感謝して、よく遊びに行くこともあるようだ。彼女には彼女を慕う者がいるということが分かる。

 

「何か頼まれごとしてたみたいだけど」

「そうそう。実はね絵姿を描いてほしいみたいなの」

 

こういう頼まれ事も彼女は引き受けてくれるのも慕われる要因かもしれない。

 

「だから城に戻ったら絵師の手配お願いね。詳しいことは冥琳に聞けば分かるから」

「何て?」

「何て、じゃないよ。お爺ちゃんとお婆ちゃんの絵姿の事よ」

「それは分かってるけど…何で俺に頼むのさ」

「乗り掛かった舟でしょ。それに立香が教えてくれなかったから母様から拳骨を食らったのよ」

 

それは藤丸立香のせいではない。

 

「いーじゃないのよー!!」

「あーもう。分かったよ」

「やったぁ流石は立香。私の婿候補!!」

「婿候補じゃないでしょ」

「じゃあ呉の種馬?」

「それは酷いよ!!」

 

呉の種馬とは酷い。だが彼は知らないが世界線によっては種馬認定の天の御遣いがいるのだ。

 

「で、俺に頼むってことは何か用事でもあるの?」

「私は忙しいのよ。今日もこれから豚さんのエサやりをしに行かなきゃならないんだから」

「サボリじゃないか!!」

 

どうやら城に戻らないらしい。昼前に炎蓮に注意されたのは忘れたのだろうか。

 

「それじゃまたね立香!!」

 

そう言って人込みに消えていくのであった。

彼女はとても活発で奔放そうな人だ。自由人という言葉が似合う。

いつまでも元気のままであろう。

 

「――と言うわけです冥琳さん。絵姿の件と雪蓮さんがいない理由が以上です」

 

ところ変わってその後は冥琳と一緒に居る。あのまま城に戻って雪蓮に頼まれた絵姿について手配のことを伝えたのだ。

 

「成程、絵姿の件は分かった。それと雪蓮が仕事をしていない理由も」

 

そして雪蓮は最初からサボリをしていたようだ。てっきり非番かと思えば仕事を途中でほうり出して街中に繰り出していたらしい。それなら炎蓮から拳骨を食らっても文句は言えない。

 

「雪蓮め…帰ってきたらどうしてくれようか」

「あ、折檻ならもう既に受けてるからお手柔らかに」

「何故だ?」

 

昼前に起こった事を話すと冥琳と笑った。

 

「ははは。大殿らしい」

 

彼女の笑った顔は何となくだがレアな気がした。彼女のようにクールそうな女性にとって笑顔とはドキリとさせられる。

カルデアでもそういう女性英霊は何人かいたものだ。例えば最初の頃のマシュとかもだ。

 

「まあ、でもサボった罰は受けてもらうがな」

「雪蓮さん…冥琳さんは甘くないようです」

 

ここには居ない雪蓮に「頑張れ」と心の中でエールを送る。

 

「当たり前だ。雪蓮を甘やかしては調子に乗るだけだから。というかまたサボる」

「もう何度もサボってんじゃないのかな。アレはもう常習犯な感じだったよ」

「正解だ」

 

雪蓮の隣にはとても優秀な仲間が傍にいる。炎蓮は自分の娘を心配していたが、彼女の周りにも頼りがいのある仲間がいるようだ。

 

「ん、その本は?」

「これか。ただの物語さ。私だってたまにはこういうのを読む。難しい本ばかり読んでいるわけではないぞ」

 

紙やペン等が世の中に出てくれば物語を書く者は現れる。そうすれば作家たちが多くの物語を生み出すのだ。

 

「面白い話の本ならたんとある。今度おすすめの本をお贈りしようか?」

「うん、ありがとう」

「そう言えばお前は字が読めるのか?」

「これでも字を教わってたから少しはね」

 

中国圏内の英霊にたまに教えてもらったりしている。中国と言わず様々な国の英霊からもだ。

英語ならビリーやアビゲイルに。フランス語はエドモンやマリー、デオンに。インドだとラーマやアルジュナとか。

流石に全てを完璧にマスターできたわけではない。その中でも英語は頑張っている。

 

「エルキドゥからウルク語を教えてもらった時があるけどサッパリだったな…」

「えるきでう?」

「こっちの話」

「…たまに立香は聞かない言葉を言うな」

 

藤丸立香は天の御遣いでありながら普通だ。だが何もできない小僧というわけではない。

前に軍師のような事をしていたというから軍師組である冥琳たちで少し見てみたが戦に対してどのような編成が良いか、どうやって攻めるか守るか等を彼なりの考えはできていた。

その案は冥琳や穏でもたまに意表を突かれる時があるものだ。だが本職の軍師としては藤丸立香はまだまだ甘いという評価である。軍師レベルで見れば冥琳や穏の足元に及ばないのだ。軍師でないから当たり前だが。

 

(戦略の中に時たま誰かの色が見える気がする)

 

これでも諸葛孔明から教えてもらった事がある。それを感じ取った冥琳。

前に「もしかして軍師として誰か師がいたか?」と聞くと「孔明先生だね。たまに教えてもらってる」と彼は言った。

藤丸立香の師である諸葛孔明。

後世の者からしてみれば軍師の偉人と言えば誰か、と聞かれればまず諸葛孔明の名前が必ず挙げられるだろう。そんな人物から教えてもらうなんて後世の者からしてみれば羨ましいだろう。

 

(その孔明という者とは話してみたいものだな)

 

軍師同士で何か実りのある話ができるかと思っている。

 

「前に戦に出た事があると言ったな」

「うん。いろいろな所に行って戦ってきたからね」

「その戦に関して聞いてみてもよいか?」

「いいよ。戦ってきた戦争は…」

 

特異点や亜種特異点などの戦いは全て大きかった。その中でこの三国時代に通じる戦いを考え、分かりやすく話す。

特異点での話を全てそのまま話すわけにはいかない。そもそも信じてくれるかも分からないからだ。今までも特異点のことを話す時は多少脚色しないと相手に伝わらない時があるのだから。

冥琳に分かりやすいように選んだ戦いの話は第2特異点と第5特異点。特に第2特異点の戦いは軍師として分かりやすいだろう。

何せネロの率いるローマ軍で客将をしていたのだから戦いの状況は上手く説明できる。

 

「よく勝ったものだな」

「今思うとそうだね。でも負けられない戦いだったから」

 

今思うと全てが負けられない戦いだった。諦めかけた時だってあるが、ここぞと言う逆転があったからこそ前に進めた。

そして今ここにいる。

 

(今の話は嘘ではないだろう。それでも分からないところもあるが…)

 

今まで出会ってきた人物が思うことを冥琳も思う。不思議な男だと。

そして気になる事も出てきてしまう。

 

(天の国とはどんな国なのだろうな?)

 




読んでくれてありがとうございました。
次回はまた1月中に更新します。

日常回をもそっと書きました。
日常回はあと2回書きます。その後に現在の話に戻すような流れを考えてますね。



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孫呉の人たち2

日常編その2です。


107

 

 

今日も今日とて揚州の建業で過ごす。

 

「あー立香さんに荊軻さん~」

 

どこかのんびりとした声が聞こえてきた。振り向けば穏がポテポテを歩いてくる。

 

「祭様を知りませんか~?」

「知らないな。荊軻は?」

「私も知らぬな」

「そうですか~。ありがとうございました」

「じゃあ見かけたら穏さんが探していたことを伝えとくよ」

「ありがとうございます~」

 

そう言って穏はまたポテポテと歩いて行った。

 

「……」

 

この地で数日が過ぎたが、いつも思うことがある。

それは露出が多い服ばかりを着ているということだ。今まで縁を結んでいた英霊たちも露出の高い服を着ていたから慣れてはいるが。

男としては目の保養になるから良いのだがたまに直視できない時があるから男子である藤丸立香は困るのだ。

 

「どうしたマスター?」

「何でもないっす」

 

荊軻も荊軻で生足を見るたびにドキリとさせられてしまう。そもそもカルデアでは魅力的な女性英霊が多過ぎなのだ。

 

「よし、なら外に行くぞ。情報収集だ」

「そう言って荊軻は酒が飲みたいだけでしょ」

「はっはっはっは。この地の酒は如何様なものかとな」

 

荊軻はどの地に行ってもこの外史の武将たちと出会っては酒を楽しんでいる。ここだと祭や粋怜と気が付けば飲み仲間になっていたのだ。

 

「飲み仲間の荊軻さん。祭さんがどこにいるか検討がつかないの?」

「そうさな…たぶん、外で飲んでいるんではないか?」

 

この言葉は正解のようで、実際に外で飲んでいた。

 

「本当にいたよ」

 

「おお、藤丸に荊軻ではないか。こっちだこっちだ」

 

祭に手でこっちこっちと振られて近づく。

 

「で、本当に酒を飲んでたよ」

 

確か彼女は今日、非番ではなかったはずだ。なのに真昼間から酒を飲んでいる事実。

こんなの冥琳や雷火に見られたら怒られるだろう。

 

「私も飲もう」

「うむ、荊軻ならそう言うと思っておったぞ。藤丸も飲むか?」

「俺って酒飲めないんで」

「何、飲めんのか。人生損してるぞ」

「大丈夫。その内飲めるようになるから」

「では、今飲んでみるか」

 

彼女が仕事をサボって酒を飲んでいる輪に入る荊軻と藤丸立香。

 

「遠慮します」

「なに、わしの酒が飲めんと言うのか?」

「アルハラは勘弁です」

「あるはら?」

 

前に間違って酒を飲んですぐに酩酊状態になったのだから飲めない。そもそも黄金のハチミツ風味の飲み物を一口飲んだ事で直後の記憶を失って目覚めると江戸に居たなんて事例があるので酒を飲む事自体は控えているのだ。

まだ1回限りだが酒飲んで何処かに転移するなんて体験したら、次から酒を飲むのが怖いと言うものだ。

 

「前に間違って酒飲んだら大変な目にあったから」

「何だ悪酔いするのか?」

「傍若無人になるのは荊軻です」

「んん?」

「おかわり」

 

荊軻は既に酒瓶を空けていた。

 

「おお、やはり荊軻はいつ見ても良い飲みっぷりだ。こりゃ儂も負けてられん」

 

祭も荊軻に負けじと酒瓶を空ける。荊軻に関しては昼間から傍若無人にならないでもらいたい。

 

「大丈夫だ。まだこの地ではなってないから」

「まだ…」

「ああ、まだ」

 

そのうち傍若無人になって燕青や李書文を困らす。回収すると言う意味で。

 

「そういえば穏さんが探してましたよ」

「穏が?」

「この前の事をやっぱり抗議したかったりして」

 

この前とは穏が祭に兵士の訓練を交換条件で押し付けた件だ。

 

「そうかもな。違う件もしれんが」

 

実はこんな会話があった。

 

「祭さま~、それに立香さんも~」

 

トテトテと近づいてきた穏。

 

「ご一緒で何をしてたんです~。もしかして祭さまが立香さんをいじめてたとか~?」

「人聞きの悪い。実は素振りや調練について少し教示をしていただけじゃよ」

「そうなんですか?」

「うむ。まだまだ未熟だが筋が良いぞ」

 

これでも多くの英霊から稽古を教わっている。そのおかげか祭の教示に上手く応えられているのだ。

藤丸立香はどこか生徒気質なので先生気質の者とは相性が良いのだ。

 

「ふふ、祭さまと立香さんは仲がよろしいんですね~。じゃあわたしは邪魔にならないようにここら辺でー」

「待たんか穏。お主に話があるのを思い出した」

「話ですか?」

 

首を傾ける穏。

話とは祭から見て穏の部隊の調練を見かけていないということだ。

武将として彼女の部隊を改善点やら注意点を話す。穏としても注意点に関しては否定できない案件だ。いずれは直さねばならない。

だから穏が自分の部隊を改善するために動くべきなのだが、何を思ったのか祭に押し付けようと考え出したのだ。

 

「儂にやれと?」

「良い案だと思いませんか。そうすれば私は楽を出来ますし、隊も強くなれますし、一石二鳥です~」

「それって穏さんは一石二鳥だけど祭さんは得が無いよね」

「そうじゃ。藤丸の言う通りではないか」

「得ならあるじゃないですか、祭さまの欲求がかなって軍が強くなりますよ?」

「儂個人に対する得がないと言っておるんじゃ」

「え~。祭さまって欲張りですねえ」

 

意外に強かというかなんというか。祭の言い分を認めない穏。欲張りなのは穏の方ではないだろうか。

彼女はすすっと祭に擦り寄って耳打ちをした。

内容としては付け届けを加えるということ。人の部隊を面倒を見るのだから無償なんて言葉はない。

 

「何をくれるのじゃ?」

「そうですねぇ…」

 

まずは美味しいお肉。

 

「肉だけか?」

「ふぇ?」

 

お肉だけでは足らない。

 

「じゃあ、お野菜もつけちゃいます」

 

今度は野菜。

だけどそれでも足らない。

肉と野菜の両方でも足らないのだ。

 

「じゃあじゃあ、お魚もつけちゃいます。これならどうですか?」

「いいや、足らんな」

「ご、強欲ですぅ…」

「何を言う。もとはと言えば、お主の方から言い出した事じゃろう」

 

付け届けをして自分のすべき仕事を人様に押しつけるのだから誠意が必要だ。

物事というのは等価交換で成り立っているとのこと。

 

「人の弱みにつけこんでぇ~」

「その弱みを与えたのか穏さんだけど」

 

どうやら自分の事は棚に上げているようだ。

 

「で、どうするんじゃ。嫌なら構わんが」

「構わないって、調練しなくても良いって意味じゃ…」

「馬鹿者。自分で調練せいという事じゃ!!」

「ですよね~」

 

正論なので言い返せない。

 

「分かりましたよ。じゃあ、お酒をつけます」

「ん?」

 

肉と野菜と魚と酒。

穏はさらに付け届けを追加する。これには祭も考え直す。

酒というキーワードが強いのだろうか。

 

「何年分じゃ?」

「年っ!?」

(祭さんも言うなぁ)

「まさか一食分で済ますつもりではあるまい?」

「だからって何年分って…そんなに付け届けたら陸家の家計がボーボーになっちゃいますよぉ~」

 

確かに年単位ならば大出費だ。でも人様の部隊の面倒を見るというのは一日二日というのではない。長い間調練して悪いところを直すのだ。部隊なのだから一人二人の問題ではないのだ。

 

「ならば、お主に出来る可能な限りの心意気を見せてみよ」

「ええと、それじゃあ…三日分」

「話にならんな」

「あ~~じゃあ十日分なら!!」

「まだじゃ。だが儂も鬼ではない。あと一声で許してやる」

「鬼のくせに~」

「んん、話は無かったことにするか?」

「祭さまって素晴らしい人ですよねぇ~。とても綺麗で魅力的な女性です~」

 

手首が千切れん限りの手のひら返しだ。

 

「じゃあ…半月分で」

「うむ。一月分じゃな。それで手を打ってやろう」

「ちょっ、祭さま。わたしは半月分って~」

「文句があるのか?」

 

こう言われてしまえばどうも反論できない。ガックシとしながら折れた穏であった。

 

「出費が痛いのなら自分で調練すれば良いのに」

「まさにそうじゃぞ」

 

2人のやりとりを蚊帳の外で見ていた藤丸立香は正論を言う。

 

「それだと私が楽できないじゃないですか~!!」

「おっと、本音が出たよ」

 

祭曰く、穏は楽をしようと考える事が多々あるらしい。

 

「立香さんもわたしの味方になってください~」

「んー…場合によっては味方になれたね。上手くいけば付け届けも年単位でも用意できるし」

 

この場に俵藤太がいればの話である。居ても俵藤太が食材を出してくれるかは別として。

 

「なんと、流石は天の御遣いじゃな」

「今用意してください~。陸家の家計が~!!」

「無理」

 

このようなやりとりがあったのだ。

 

「あったのう。あの条件じゃなきゃ割に合わんからな」

「穏さんも諦めれば良かったのにね」

 

そうまでしても兵士の訓練からサボりたかった穏。

 

「ふむ、それにしても」

「何ですかベタベタ触って」

 

酔っているのかボディタッチをしてくる祭。

 

「主だって部屋に仲間を連れ込んで仲間を触ったり声を聴いてるではないか」

「ほお」

「荊軻。それだけだと誤解されるから」

 

荊軻は間違った事は言っていない。ただ言葉が足りてないだけだ。

ただマイルームで楽しく会話したり、コミュニケーションにボディタッチをするなども多いため、周りから突っ込まれたり怒られたりする事があるだけだ。

 

「で、何ですか祭さん」

「いや、やはりなかなか鍛えていると思っただけだ」

「鍛えてますからね!!」

 

前線に出て戦うと言っても指揮官のようなもの。自ら戦うことはしないが体を鍛えておいて損は無い。

実際に鍛えておいてよかったという場面はいくつもあったのだから。

 

「そういえばお主は軍師であったな」

「みたいなものです」

「だが智謀があるならそれでも良し。戦うということは武力が全てではないからな」

「ああ、祭殿の言う通りだ。力だけが全てではない。ここを使うことはとても大切だ」

 

荊軻は頭をツンツンと突いてくる。計画や算段、策、編成。戦いの中で考えることは多くあるのだ。

 

「今も精進してます」

「うむ、頑張れ藤丸」

 

ニヤっと笑って一息に酒を飲み干した。荊軻も祭も手が止まる気配無し。

 

「そう言えば非番じゃないのに良いの?」

「構わんさ」

「それくらいにしといた方が良いと思うよ」

「構わんと言っておるだろう」

「そうかなー」

「構わんと言っておるだろうに」

「祭さんのために言っているんだよ」

「はあ?」

 

何故急に酒を飲むを止めさせようとしていると言うと、彼女の後ろにいる人物と目が合ったからだ。

 

「……」

 

冥琳が鋭い目で祭を見ているからである。

 

「なんじゃ?」

 

酔っているので気付かないのか、冥琳が気配を消しているのは分からない。

間違いなく冥琳は怒っている。そんなのこんな真昼間から仕事もしないで酒を飲んでる将軍を見かけたら怒りもするかもしれない。

 

「祭さん仕事はいいの?」

「仕事など酒を飲みながらしたところで、どうと言うことはあるまい」

(おーっと冥琳さんの目がまた鋭くなった)

 

このあと祭がどうなるのか心配になる。

 

「冥琳さんに見つかったら大変だね」

「なぁに、あんなひよっこに何を言われても気にせんわい」

 

何でも周家のご令嬢である冥琳は昔泣き虫でよく苛められていたのを助けたそうだ。

その話をしたら更に冥琳の目が鋭くなった。

 

(ゆっくりと近づいてきてる)

「ふふ、なら冥琳殿に見つかっても気にせず酒が飲めるということだな」

「おおとも。荊軻よまだまだ飲むぞ」

 

荊軻も最初っから気付いているのでこの後に起こる事を予想しながらニヤニヤしている。

 

「そもそも冥琳はいつの間にか偉そうな物言いをするようになってしまってなぁ…儂はあんなふうに育てた覚えはないぞ!!」

「私も育てていただいた覚えはありませんが」

「ん?」

 

不思議そうに首を傾けて背後を見ると今話に出ていた冥琳がいた。

 

「偉そうな物言いをするようになってしまって申し訳ありませんでしたな。これからは気を付けるようにいたしましょう」

「なっ…」

 

祭の表情が固まる。

酔いも一気に醒めて顔から赤みが引いて、代わりに浮かんだ冷や汗がタラリ。そして彼女の顔が此方に向き直る。

 

「のう藤丸よ」

「何ですか」

「儂やもしや…虎口に飛び込んだ兎か?」

「もう食べられてますね」

「…既に虎の胃の中か」

 

がしりと冥琳が祭の肩を掴む。

 

「さて、祭殿。そろそろ観念されましたかな?」

「い、いや待て」

「ここでは周りの迷惑になりますから場所を変えましょう」

「…助けろ藤丸!!」

 

祭は応援を呼ぶ。

 

「荊軻、次の店行こうか」

「だな」

「薄情者~!!」

「賢明な判断だ立香」

 

しかし応援は呼ばれなかった。

仕事をサボったら悪いから。

 

 

108

 

 

祭を冥琳に預けて荊軻と町を巡るのを続ける。前にも炎蓮と回ったから知っているが、やはり活気のある町である。

 

「そこのお兄さんにお姉さん。今夜の酒のおともにぜひ、うちの干物を一つ買て行ってくんな!!」

「主、買ってくれ」

「はいはい」

 

建業の町は本当に商売が盛んだ。歩けば必ず声を掛けられる。商売魂が熱い。

そんな街中を歩いていると怒声が聞こえてきた。どんな場所であれ喧嘩は当たり前にあるということだ。

 

「おい、何だよその態度は!?」

(何かな?)

「へっへ、冷たいこと言ってないでオレたちと遊ぼうぜ」

 

喧嘩かと思ったらナンパのようでもある。これは質の悪い人に絡まれているようだ。

こういう時は関わらない方が身のためだが、藤丸立香としては無視できない性分である。荊軻を見るとヤレヤレと言った感じの顔をしているがついてきてくれる。

 

「こっちかな?」

 

人気の無い裏通りに足を踏み入れると、絡まれていたのは知り合いだった。

 

「はあ…」

 

路地裏では人相の悪い3人の男が粋怜を取り囲んでいたのだ。

その状況に粋怜は呆れているようでため息を吐いていた。何がどうなって孫呉の将がチンピラに囲まれているのだろうか。

 

「くっくっく。怖がるなよ姉ちゃん」

「怖がっていないけれど」

「兄貴はな、山犬団の頭目様だぞ!!」

 

どうやら野盗か何かだ。彼女の正体を知らないということは彼らは余所から来た野盗なのだ。

そうでなければ孫呉の将である彼女に絡まないはずだ。

 

「とにかく、あんたたちみたいなのが道端でたむろしていたら、領民が迷惑なのよ。さっさと散りなさい」

 

一応優しく、諭しているようだが彼らはいう事を聞かない。

 

「あのね、何で私があんたたちとお酒を飲まなきゃいけないの。っていうか自分の顔見た事あるかしら。私とつり合いが取れると思ってるの?」

 

彼女の澄ました態度に頭がきて彼らは今にも腕力に訴えそうな気配だ。

 

「言うな彼女も」

「だね」

 

彼女の強さならば3人のチンピラなら簡単に一蹴できるだろうが、ここまで来て大丈夫だと思っても引き返せないだろう。

 

「ここは穏便に済ませよう。荊軻、リーダー格を頼む」

「了解した」

 

荊軻がスっと消える。

 

「よし…そこまでー!!」

 

藤丸立香が路地裏に突撃。

 

「え、立香くん?」

「なんだなんだ、この小僧?」

 

チンピラたちの視線が藤丸立香に集中する。

 

「彼女とても嫌がってるじゃないか。女性の嫌がることは男としてやってはいけないんだよ」

 

前にランスロット(セイバー)が言っていた。というよりもカルデアにいる円卓の騎士全員が言っていた。

 

「小僧が、場違いなんだよ!!」

「そうだそうだ。この方を誰だとーー」

「山犬団の頭目でしょ。さっき聞こえてきたから」

 

頭目が顎をクイっとすると手下2人が藤丸立香の前に出てくる。顔はニヤニヤしている。

きっとこんな小僧ごとき、いくらでもどうにでもなると思っている顔だ。確かにそうかもしれない。藤丸立香1人だけだったならば。

 

「このまま何知らぬ顔で消えるなら痛い目に合わないぜ」

「そうそう。痛い目に合いたいって言うなら、いくらでも手伝ってやるがな!!」

 

笑われてしまう。だが頭目を見て、粋怜も見る。今の周囲を確認。

自分とチンピラたちの距離も確認。まだ相手の間合いに入っていない。

 

「…荊軻!!」

「もう終わっている」

 

音も無く荊軻は匕首を山犬団の頭目の首に突き付けていた。

 

「え?」

「あら」

 

いきなり現れた荊軻にチンピラは動揺が走る。

 

「余計な動きはするな。そこのお前たちもだ…余計な動きをすればこの匕首がお前たちの頭目の首を貫くぞ」

 

匕首はもう山犬団の頭目の首とは目と鼻の先。荊軻の腕なら本当にチンピラが余計な動きをしたら首を斬ることができる。

これにはチンピラたちも嫌でも分かるってものだ。

 

「お、お前ら動くな。動いたら俺が死ぬ!!」

 

先ほどまで威張っていた頭目の顔は真っ青だ。

 

「さて、どうすればよいか分かるな?」

「へ、へい。すぐにでもこの場から消えますんで!!」

「それとそこにいる女性だがーー」

 

更にチンピラたちは粋怜の正体を知るや否や脱兎の如くに逃げ出していった。

呉の土地では孫呉に連なる者たちの名前は絶大ということだ。

 

「ありがとう立香くん。荊軻」

「粋怜さん大丈夫?」

「ええ。それと、さん付けは余計ね。粋怜でいいわ」

「じゃあ、粋怜」

「そうそう。私のことは呼び捨てでいいわ。せっかく真名を預けたんだから、ちゃんと粋怜って呼んでちょうだい」

 

呼び捨ての方が粋怜としては嬉しいようだ。他人行儀だとどこか慣れないらしい。

それなら藤丸立香も気が楽というものだ。

それにしても彼女は綺麗で優しいお姉さんだ。カルデアだとブーティカやエレナに近しい気がする。

最初に合った時も好印象でとても話しかけやすい人だった。

だけど優しいだけではない。彼女は孫呉の武将であり強さもある。前に兵士たちの訓練を見学させてもらったけど、その姿はまさに覇気ある将軍であった。

兵士たちは粋怜の号令にそろった動きをしていた。ああいうのが精鋭揃いの軍と言うのだ。訓練を見ていてその迫力に感動したくらいだ。

でも何故か訓練にいつの間にかに参戦させられていたけれども。あれは大変だった。

でもこなした。これでもレオニダスのスパルタ訓練をこなしたことがあるのだから。その時は他に見ていた祭や雷火に褒められたものだ。

 

「ありがとうね」

「活躍したのは荊軻だよ」

「なに、私は主の指示に従ったまでだ」

「指示?」

 

指示と言っても簡単なものだ。先ほど起こった事なのだから。

まず藤丸立香が現場に赴き、視線を集める。その隙に荊軻が気配を消して山犬団の頭目の背後に回る。

頭目の性格からして自分は前に出ず、安全なところいる性分だと予想。それが正解で部下2人を藤丸立香に仕向けた時点で頭目の安全は無くなった。

部下2人が藤丸立香の間合いに入る前に荊軻が頭目の首に七首を突き付けて終了。

 

「へえ、そういう指示だったんだ」

「まあ、俺がいなくても荊軻だけでどうにかできたと思うけどね。っていうか粋怜だけでも大丈夫そうだったけど」

「まあね」

「言い切ったよ」

 

でも事実だから仕方ない。彼女の腕ならば先ほどのチンピラなんて脅威ではないのだから。

 

「それでも助けに来てくれたって事実はお姉さん嬉しいわ」

 

彼女としては久しぶりに異性に助けられたのが新鮮なのだ。

 

「立香くんって、すっごく勇敢なのね。お姉さん惚れちゃったよ」

「またまたー」

「本当だって。ふふっ、もしかして立香くんは困っている女の子がいたらほっとけない性質なのかな?」

「我が主は女だろうが男だろうが、困っていたら手を差し伸ばす性分だ」

「あら、やっぱり」

 

そのおかげで損をしたり、助けられたりと多々ある。お人好しということだ。

だけどそれが藤丸立香の良いところの1つである。荊軻もそれが分かっているので微笑している。

 

「ま、それは良い男の条件よ。本当に惚れさせてね」

「いきなり何を言うんですか」

「だって、いずれは立香くんの子を産むかもだしね」

「だから、それはぁ!?」

「もー、立香くんったら、かーわいー」

 

からかわれた。

彼女は普段バリバリのキャリアウーマンだがプライベートだとプライベートだと気さくで陽気なお姉さんだ。

こういうのもみんなに慕われている要因だ。だがからかうのは止めて欲しい。変に期待してしまうと言うかなんというか。

そんな時にすすっと近づいてきて耳打ちをしてくる。

 

「でも冗談じゃないからね。いつか良い男になったら私はいいわよ」

「心臓に悪い!!」

「はっはっは、主もそろそろ慣れろ」

 

似たような女性はカルデアにいたけど、このようにグイグイ来るのはドキマギするものだ。

もっとグイグイ来る女性英霊もいるけど。

 

「そう言えば立香くんたちって今日は非番なの?」

「うん。粋怜は?」

「今日はこのまま警備隊の詰め所に行って、その後にお城に戻るわ。今日はそれであがりよ…よし、じゃあ今晩は食事しましょ。お礼も兼ねてね」

「いいの?」

「ええ。立香くんと荊軻とお酒飲みたいしね」

「俺飲めないんで」

「えー、そうなの?」

 

この後、食事をする事になるのだがエライ目にあったのは言うまでもない。

荊軻は言わずもがな、まさか粋怜までデキ上がってしまうとは思わなかったのだから。

荊軻で酔った人の豹変は慣れているが、まさか彼女も結構豹変するとは思わなかったのだから。

豹変した粋怜は意味深なことを言うし、ベッタリと密着したりと大変であったのだ。しかも酔った荊軻も参戦するのだからもう大変。

それと2人の美人からベッタリで周りの客から嫉妬の目を喰らったのも居心地が悪かった。そして結局収集がつかなくて、こんなので令呪を1角使って燕青を呼んでしまったのであった。

 

「マスター…こんなので令呪使うなよぉ」

「俺1人じゃ無理」

「まあ、今のマスターはおんぶに抱っこな状況だしな」

 

どちらか1人を引き取ってもらいたい。

その後は城に帰って冥琳に言われた客室に粋怜を寝かしつけてその日は終わったのだ。

 

(でも何で冥琳さんは粋怜の部屋じゃなくて客室に運べなんて言ったんだろう?)

 

この謎は後日知ることになる。

 




読んでくれてありがとうございました。
次回はまた未定です。早く更新出来たら更新します。

さて、またまた日常編でした。立香たちだったらこんな感じの物語になるかなっと思いながら書きましたね。次回も日常編です。それが終わりましたら物語は進みます。


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孫呉の人たち3

日常その3です。


109

 

 

「ではでは、よ~く聞いていてくださいね~」

「はい」

 

孫呉の地で生活することになった藤丸立香たち。

これからお城で暮らさせていただく上で、主だった人たちの仕事の説明を受けることになった。

教えてくれる先生は雷火と穏である。

 

「まずは軍事じゃが、戦に関することは概ね冥琳が取り仕切っておる。他にはーー」

 

実際に戦場で将軍として兵を府聞いているのが祭に粋怜、雪蓮たち。彼女たち呉の猛将たちは史実でも有名な将だ。

穏も冥琳と同じ軍師で彼女の補佐をしているようだ。

軍師のトップが冥琳でナンバー2が穏であるということ。

 

「政に関しては、こちらの雷火さまが全て仕切っていらっしゃいます」

「そうは申しても、冥琳の手は借りておるがな」

「冥琳さまの智謀を軍事のみに向けられるのはあまりに勿体ないですから~」

「まだまだ若いがの。まあ、他の将に比べれば冥琳もいくらかは政というものを分かっておるようじゃが」

 

冥琳はこの孫呉でも重宝されている人材のようだ。穏も内政に関わっているようだが雷火の目からしてみればまだまだヒヨッコレベルらしい。

彼女の評価は厳しいというのは分かった。

 

「ふむふむ。穏さんも軍師であり内政も行っていると」

「はい~そうなんです」

「わしとしては穏には内政面で力を発揮してもらいたいがの」

 

だが人材の面から考えると冥琳に代わって軍師を務められるのは穏くらいのものらしい。

雷火としては内政面で活躍してもらいたいが、冥琳としては軍師として成長してもらいたいとのこと。

穏は人材面として引っ張りだこのようだ。

 

「みんなから大人気だね」

「非才の身でありますが~」

「代わりがおらんだけじゃ」

「もう~」

 

軍事は冥琳、政治は雷火がトップ。その下で穏が2人を補佐するという形になっている。

 

「おそらく立香さんも~、私と同じようなお役目をすることになると思いますよ~」

「俺が?」

 

急に近づいてくる。彼女も人との距離が近い。

それは吐息が顔に掛かって、胸と胸がくっつきそうなくらい。

 

「穏、立香との距離が近すぎじゃ」

「そうですか~?」

 

彼女も今のが素なのだろう。

 

「立香よ改めて申すが…お主の役目は天の血を我が呉に入れる事じゃ」

「………それってやっぱり本気なの?」

「大殿様が決めたことじゃ」

 

それに関しては本気で悩んでいる。正直、雷火だって最初は反対していたのに今では肯定してしまっている。

 

「…まあ、わしもお主が言いたいことは分かる」

「なら雷火先生…撤廃してください」

「炎蓮様が許さんじゃろうて」

「はあ…まあ、それは置いておこう。取り合えず俺のもう1つの役目は俺の出来る範囲でみんなのお役目を手伝えばいいってことかな?」

 

穏が言っていた事とはそういうことだ。

 

「うむ、そうじゃ」

「立香さんのことは、わたしが優しく面倒見て差し上げますからね~。うふふふふふ、な・ん・で・も」

 

また近い。

 

「何か分からないことがあれば尋ねるのじゃぞ」

「はい、どんどん尋ねてください~」

 

分からないことがあれば聞く。それが当たり前だ。

穏なら性格的にも雰囲気的にも話しかけやすい。彼女が面倒見役の1人で正解というのは良かったものだ。

 

「や~ん、困りますぅお天道様がまだ高いのに、熱いまなざしを向けられてしまっても~」

「発情期の猫じゃな」

「でもぉ…やっぱり仲謀さまたちのこともありますしいぃ。順番は考えた方がいいんでしょうかねぇ~」

「わしは知らん」

「立香さんはどう思います~?」

「俺も知らん」

 

グイグイ近づいてくる。彼女は天然そうで積極的な感じだ。

 

「まったく、穏。いきなりか?」

「何のことですかぁ?」

「とぼけるな。ふん、最近の若い者は…穏、お主はもう少し女子としての恥じらいを知れ」

「知ってますよぉ。立香さんに見られてさっきからもうずっと恥ずかしくって仕方ないです」

 

その割には距離が本当に近い。

 

(てか、俺ってそんなに露骨に穏さんのこと見てたかな)

 

男の本能とは怖いものだ。

というよりも話が物凄く脱線している。

 

「話を戻すけど…俺のやることは冥琳さんや雷火さん、穏さんの手伝いってので良いのかな?」

「ま、そうじゃな」

 

藤丸立香の孫呉での仕事は内政面や軍師の手伝い。手伝いと言っても限られたことしかできないだろう。

いくら諸葛孔明や他の英霊から勉強させてもらったことがあると言っても藤丸立香が全てを吸収して何でも出来るようなスーパーマンになったわけではないのだから。

だから孫呉でも自分の出来る範囲で最善を尽くすしかない。

 

「頑張ります」

 

「ああ、頑張れ。もうお前たちの護衛は既に仕事をしておるからな」

 

李書文に燕青、荊軻。この3人の仕事は藤丸立香の護衛が本業だが、孫呉に住まわせているのだから孫呉に対して利になる仕事をせねばならない。

李書文は、その強さからよく調練に繰り出されている。本人はガラではないが仕事だからと妥協して一緒に調練に出ているのだ。

体を動かさないと鈍るから丁度良いのかもしれない。本来ならば賊討伐とか荒事の鎮圧が本人としてはまだマシとのこと。

 

「李書文は武骨な奴じゃが、与えられた仕事はこなしてくれる」

「ですね~。賊や暴徒たちを鎮圧してくれますから祭さまや粋怜さまに別の仕事を任せられますからね~」

「あ奴はああいうのを任せるのが良い…まあ大殿様とちと性格が似ている気がするが」

「雪蓮さまともですよね~。強者と戦うのに一直線というところとか」

 

確かに李書文とあの親子はどこか似ている部分があるのは分からなくもない。そのうち調練で剣の打ち合いをするのではないだろうか。

いずれ知ることになるが、血気盛んで猛り狂う姿は確かに似ている部分がある。

 

「次に燕青じゃが、奴ほど諜報に適した者はおらんな。あの変装術は驚かされたぞ」

「みんなびっくりしてましたよね」

「いきなり大殿様に呼ばれたかと思えば2人いるのじゃからな…しかもわしらが見分けもつかぬほどに」

「ですね~。更にあの後みなさん全員に変装した時はもっと驚きましたよ~」

 

その驚く顔が見たかったのだろう炎蓮は。そして燕青の運用も分からせるためもあっただろう。

だからこそ燕青は孫呉で諜報の仕事が任された。そのおかげで彼はよく外に出ることができるのでカルデア側の仕事も同時に出来るということだ。

黄祖などの情報は着々と集まっているのだ。于吉に関しては未だに出てこないが。

 

「あの変装術ならばどこに行っても足がつかぬからな。本当に諜報には適任じゃ……まあちと自由過ぎるがの」

「侠客だし……てかそれ炎蓮さんにも言ってるの?」

「…確かにの」

「ですよね~」

 

燕青もまた炎蓮と性格的に相性が良い。

 

「次に荊軻じゃが彼女は賊退治も諜報もどっちもしてくれる。じゃがお主の護衛の方が多いな」

 

藤丸立香の護衛は最低でも1人がついている。その護衛で多いのが荊軻だ。

よく仕事で駆り出されるのが燕青と李書文だからという消去法もあるが。

 

「話が一番通じるのは荊軻なのじゃがな。たまに祭や粋怜と酒盛りしておるが」

「荊軻さんが来てから祭さまと粋怜さまの酒盛りが増えましたよね~」

「それは控えてもらいたいのじゃ」

 

それもあってか彼女も炎蓮と相性が良い。そもそも今回の英霊たち3人とも炎蓮とも相性が良い気がする。

これは宴会なんかやった時は凄いことになりそうだ。

 

「うーむ、お主の護衛はそういうのしかおらんのか。できれば内政面に強い奴もいてほしかったが…これは我儘じゃな」

「いるよ」

「なんと!?」

「あ、でも今はいない。てか別行動してるからね」

「なんじゃ…」

 

期待させおってみたいな顔をしている雷火。

居ないものはしょうがない。というよりも時間軸的にいるが、ややこしくなるので呼ぶというのはできない。

 

「仕方ないからお主が頑張れよ」

「うん。俺は俺の出来ることをやるよ」

「その意気ですよ~」

 

自分は英霊たちみたいにいきなり活躍なんてできない。でもきっと自分にできることがある。

 

 

110

 

 

自分の出来る範囲のことに最善を尽くす。

早速出来ることだが事務的な手伝い。はっきり言ってお使いレベルのようなものだ。

いきなり孫呉の内政面や軍事に関わらされたら、それはそれでどうかと思うが。

こういう小さな事から手伝えれば良いのだ。

 

「えーと祭さんと粋怜は…」

 

実は穏から直近の戦闘についての報告書の回収をお願いされたのだ。その回収も残りは祭と粋怜の2人のみ。

探しているが見つからない。今日は2人とも非番とのことで城内にはいないのかもしれない。

だが、そんな時にやっと見つけたのだ。なんせ賑やかな声が聞こえてきたのだから。

その場に行ってみると祭と粋怜はいた。しかも荊軻もだ。

 

「うむうむ、厨房から提供されたこのつまみも大変美味じゃ」

「やっぱ魚は干物よね。まあ、提供されたんじゃなくてかっぱらってきたんだけど」

「うむ、本当に美味な酒だな」

 

3人が仲良く酒盛りしていた。この光景はまだ新しいのに、既に日常的な光景となりつつある。

 

「昼間から酒盛りですか」

「む、なんじゃ小僧か。驚かせおって」

「やあ立香くん」

「あ、主ではないか」

 

昼間っから庭で酒盛りをしている美女3人の構図だ。既に酔いは少し回ってるようである。

祭曰く、非番で快晴なのだから昼間から酒盛りをしていたようだ。酒盛りに天気は関係ないと思う。

 

「部屋の中で内々に飲むならば普段は話せぬ己の事を酒の力を借りて語り合うこともあるじゃろう。そしてこのように晴れ渡った空の下で飲む酒は言わずもがな最高じゃ」

 

もう既に空いた酒瓶が数本転がっているし台所からくすねてきたつまみは量が多い。

 

「と、いうわけで最高のお酒、立香くんもいっちゃわない?」

 

「何度も言いますが飲めません」

 

嬉しい誘いではあるが、今は仕事中である。

 

「主は何をやっているのだ?」

「この前の戦闘の報告書を将のみんなから回収する仕事」

「あー…そんなことを頼まれておったのう」

「あー書きはしたけど今は流石に持ってないわね」

 

2人は報告書を終わらせてから酒を楽しんでいるようだ。

 

「今ないものを今出すことは出来ぬ。というわけでお主も付き合え」

「主も酒は飲めぬがつまみは食えるだろう?」

「荊軻まで…仕事中です」

「堅いことを言うな。この黄蓋と程普が飲めと言っておるのじゃぞ」

「そうそう。実際に私と祭から誘われたって言えば、昼間からお酒を飲んでても怒る人なんかいないわよ」

「…冥琳や雷火先生も?」

 

そっぽを向く2人。

その2人は例外のようだ。

 

「取り合えず席につきなって」

 

粋怜に席を着かされると同時に新たな声が聞こえてきた。

 

「おやおや、将軍2人で城に飲み屋でも開くつもりか?」

 

件の雷火であった。

 

「まったく、若いのを捕まえて昼間っから酒盛りとは良い身分じゃの」

「あらー雷火先生」

 

あちゃあ、という感じの顔だ。できれば見つかりたくなかった人物の1人。

 

「雷火先生。私たち今日は非番よ?」

「じゃが非番でない者を酒に誘うのは宿老としてどうなのじゃ。まったくお主らときたらーー」

 

雷火の説教が始まる。何故か荊軻も説教されている始末だ。

 

(3人とも全然気にしてないように見える)

 

それにしても前に聞いたが雷火は祭や粋怜より全然年上だと言う。正直言って信じられない。

こういうのがあるから女性とは謎な部分がある。カルデアだとやはりエレナくらい年齢の謎があるのだ。

この話に関してはきっといつまで経っても分からないから考えるのを止めた。そうこうしていると雷火の説教は終わりを迎えていた。

 

「はいはい雷火先生。場所を変えて続きをしますよ」

「うむ、非番なのじゃから部屋でやれ。こんな真昼間から庭で酒盛りなんて他の兵士たちに面目がつかんじゃろうて」

 

雷火だって非番の者に酒を飲むなと言わない。だが酒盛りをするなら場所を考えろと言っているのだ。

こればかりは正論なので誰も反論しない。

 

「じゃあ、場所を変えて続きをやりましょうか祭、荊軻」

「じゃのう」

「やれやれ」

 

最後に一口酒を飲んで席から立つ3人。

 

「あ、片づけるの手伝って立香くん」

「自分たちでせんか」

「えー」

「えーじゃない」

 

藤丸立香としては手伝っても良いがまだ自分の仕事を片付けていない。

 

「じゃあ立香くん。仕事が終わったら来てね」

「あ、報告書…」

「それ今話すとややこしくなるから。後で絶対に出すからね。ね、祭?」

「う、うむ」

「余計な説教がまた始まりそうだな」

 

スタコラサッサと消える3人なのであった。

 

「して、報告書とは?」

「まあ、後で説教だよね」

 

本当に説教になったかどうかは知らない。

 

「はあ、孫呉の両翼がだらしない…というよりもお主の護衛も何をしておるんじゃ」

「酒盛り」

「それは見りゃ分かるわ」

「まあ、毎日気を張っていたら心が持たないってことだよ。気が抜ける時は抜いてゆっくりしたいということだと思う」

 

この言葉に間違いではない。どんな強者だろうが知恵がある者だろうが休みが欲しいというものだ。

そうしないと過労でポックリと死んでしまった賢王を思い出す。蘇ったけれども。

 

「…そうかもしれぬな。だからと言ってあんな庭で酒盛りは宿老として示しがつかぬがな」

 

雷火と話していて分かったことがある。頑固というのもあるが、伝統を重んじる性格のようだ。

伝統を重んじるというのは悪い事ではない。だけどそれが原因で若い者とぶつかるというのもある。

彼女はきっとそういう問題にぶつかり合うだろう。それはどの時代でもあることだ。

 

「報告書とやらは祭と粋怜のだけか?」

「うん、そうだね。あとは穏さんに提出するだけ」

「ふむ、なら今回収したものだけを提出しておけ。穏にはあとで2人から提出させるように言っておく。お主もそう伝えておけ」

「分かった。じゃあその後は…雷火先生このあと空いてる?」

「空いておる。また勉強を見てやる」

「お願いします先生」

 

実は雷火から勉強を教わっているのだ。勉強と言っても学校をイメージするようなものではない。

藤丸立香は軍師として冥琳や穏から面倒を見られているだけでない。内政面での手伝いで雷火からも教わっているのだ。

はっきり言って内政面の方はからっきしだ。そんなのやったことも無い藤丸立香なのだから当然だ。

正直に言って軍師の真似事よりも呉では役に立てない気がする。

 

「俺は内政面はからっきし」

「じゃな」

 

肯定される。だが事実なのだからショックは無い。

 

「人それぞれには本分というものがある。祭たちは戦、冥琳たちは軍師、わしは治政というようにな。お主にも何かしら出来る本分が見つかろう」

 

藤丸立香の出来ること。彼の本分。

確かにあるかもしれないが自分自身ではよく分からない。自分にとっての本分がピンと来ない。

だがここに至るまで多くの事を経験し、多くの事をこなしてきた。そうなるとやはり今の藤丸立香の本分はカルデアのマスターとして前に進むだけだ。

 

「で、立香よ。天の御遣いとしての役目は果たしておるのか?」

「役目?」

「そんなのは孫呉に血を入れることじゃ」

「そっちの役目は果たしておりません」

 

孫呉のみんなとは仲良くはなっているが、そこまでは深く男女の仲にはなっていない。そもそも何度も思っているがその役目は果たす気は無い。

藤丸立香は天の御遣いではない。天の血なんて大層なモノは流れていないのだ。

炎蓮はどんどんヤッちまえ的な勢いで指示してくるが藤丸立香は逆である。天の御遣いでないのに天の御遣いとして孫呉の将たち、雪蓮たちを孕ますなんて考えただけでもダメな気がする。

雪蓮たちが女性として魅力が無いというわけではない。寧ろ凄く魅力的で良い女性たちばかりだ。彼女たちならば多くの男性から好意を持たれるはずである。

何故ダメかと言われれば、ただ彼女たちを騙しているような感じがしてならない。それと可愛い後輩であるマシュの顔がチラつくのだ。そして溶岩水泳部たちも。

騙しているという罪悪感とよく分からない命の危機を感じているからこそ炎蓮の与えられた役目を果たす気になれないのだ。

 

「何故しないのじゃ?」

「何故って言われても…逆に聞きますけど天の御遣いを名乗るわけの分からない男の子供を生むなんて普通は嫌でしょ?」

「質問を質問で返すな。だが答えてやろう。確かに普通に考えて嫌だ…しかし、お主は悪い奴ではないし、容姿も悪くない。そういう面で考えて絶対に無理と言うことは無いのじゃ。そこは炎蓮様も考えておるだろうな」

 

炎蓮も天の血を孫呉に入れるのに何が何でもというわけではない。天の血を持つ男がいるなら絶対に自分も含めて孫呉の女に子を産ませるなんて無茶な事をさせない。

この孫呉に天の血を入れると決めたのは藤丸立香という男が信頼に値する人間だと可能性があったから決めたのだ。その後は藤丸立香と子を産む女たちの問題だ。

 

「立香よ。お主が天の御遣いだからと言って孫呉の女たちと子作りがすぐ出来るというわけではない。ちゃんと考えられて選ばれたからなのじゃぞ」

「な、なるほど…」

 

『天の御遣い』というステータスだけで種馬になれるわけではなかった。

 

「で、お主は何で子作りせんのじゃ?」

「…もう信じてもらえないと思いますけど俺は天の御遣いなんて大層な人じゃないからですよ。そんな俺の子を産んでもらうっていうのは相手の女性に失礼以前の問題だからです」

「そうか?」

「何でそこで首を傾けるんですか」

 

雷火は「何言っているんだ?」くらいの感じで首を傾けた。

 

「え、いやいや。俺ってそこで疑問顔になるような事って言いました!?」

「お主の言いたい事は分かる。だが炎蓮様がお主の天の血を孫呉に入れる事を決めた。炎蓮様が決めたのだから間違いはないじゃろうて」

「炎蓮さんを信頼しているのは分かりますけど!?」

「それとも立香よ。お主は天の血を入れる役目になったからと言って無責任に無理矢理に孫呉の女に手を出すような屑か?」

「そんな事は絶対にしません!!」

「そこじゃ。お主はそんな屑な真似はしない男だと分かっている。お主は良い奴だと今日までに多くの者が知った。もしかしたらお主なら…という女がもうおるかもしれんぞ」

「え」

 

ちょっと赤くなる。

 

「案外、お主を良く思っている女たちはいるぞ」

「そ、そうなんだ」

 

まさかの情報につい照れてしまう。

 

「うむ。炎蓮様や雪蓮様たちも結構褒めておったぞ」

「ど、どんな風に?」

「どうしようもないくらいのお人好し」

「褒めてんの?」

 

褒めてるのか褒めてないのか分からない評価である。

だが雷火の発せられる声質からだと悪いような意味ではない。お人好しな藤丸立香だからこそ雪蓮たちは信じられるのだ。

それは契約した英霊たちも思うこと。藤丸立香がマスターで、彼の横に立ち、一緒に歩めたことで良いと思えるのだ。

 

「悪い男ではないことは分かったのだ。それだけでも良い前進じゃ」

 

夫婦になる。子を産む。そうなる前は男女の仲が良い進展をしなければならない。

男だろうが女だろうが、どっちも相手の事を『良い人』思わなければならない。そうしないと男女の仲は進展しないのだ。

孫呉の女性からしてみればここ最近で藤丸立香という男は『悪い男』ではないと浸透しつつある。これは孫呉に天の血を入れるという目的を考える炎蓮からしてみれば良い傾向であるのだ。

別の外史の天の御遣いだって孫呉の女性たちに悪い男ではないと判断され、少しずつ絆を深めて男女の仲を深めたからこそ役目を果たしというもの。

 

「これからも頑張れと言うことじゃ」

「軍師どうこうの方は頑張るけど、孫呉に血を入れる方は…」

「まだ言うかこの小僧は…こんのヘタレめが!!」

 

雷火の一喝が響き渡る。まだ、ぐだぐだ言う藤丸立香にイラついてしまったからだ。

だが藤丸立香の気持ちも察してほしい。普通に考えればハーレムで男の夢だが冷静になって考えてみると本当にいいのかっと思うはずだ。

 

「もしかしたら孫呉の女の中にはその気になっておる奴もおるかもしれんのじゃぞ。男をみせい」

 

今だに役目を撤廃したい藤丸立香。ヘタレと言われようが自分はそんな役目を果たせないのだ。

 

「わしもお主の事を良い男と思っておるんじゃから胸を張れい」

 

彼は素直な男性であり、生徒気質で教える身としては良い気分である。たまに寝るが。

 

「うん?」

「い、言っとくが、ワシがお主の子を産むとは限らんからな!!」

 

顔が徐々に真っ赤になる雷火。余計な事を言って変に意識してしまったゆえの結果である。

 

「く、いきなりの照れがカワイイ…」

「何を言っておるんじゃ!?」

 

あーだこーだ言おうが藤丸立香はこの孫呉で上手く過ごしているということである。

 

 

111

 

 

張角に張宝、張梁たち張三姉妹が死んだ事により黄巾党の勢いは急激に消えた。

本当は彼女たち姉妹は死んでいないが、藤丸立香たちの策によって死んだということになっている。この真実は藤丸立香たちしか知らない。

ならば張三姉妹を崇拝する黄巾党たちは本当に死んだと思っている。そうなるように講じたのだからカルデア御一行の策は上手く成功したのだ。それは天和たちを生かすため必要な策だった。

だがその策は天和たちを救うだけで、その後の余計な後始末が出来てしまった事を藤丸立香たちは気付きはしなかった。

まさかこんなにも余計な力を付けるとは思わなかったのだ。

 

「張角様…」

 

黄巾の乱の始まりは張三姉妹たちの一言。それがまさか朝廷を倒すというのまで発展したのだから恐ろしい。

だが、その一言が全ての原因というわけではない。黄巾党は張三姉妹のファンが多く占めていたが、その中には今の朝廷に不満を持つ者もいた。その者たちが張三姉妹たちの言葉を利用して朝廷を倒すというように流れを導いたものをある。

そのおかげで黄巾党が今の漢に剣を向けてしまったのだ。結果としては官軍や各諸侯たちの奮力によって鎮められたので、今の腐敗した漢に不満を持つ者たちの野心は瓦解した。

 

「どうして死んでしまったのですか」

 

今の漢に不満を持つ者たちは牙を折られてもう奮起することはできない。だが、張三姉妹のファンだった者たちは違う。

ファンだった者たちは漢に不満を持っていたかもしれないが優先度は張三姉妹の方だ。漢を倒す事が出来なかった事よりも張三姉妹が死んだ事の方に落胆したのである。

 

「張角様たちは本当に死んだのですか?」

 

黄巾党にとって張三姉妹たちはまさに崇拝する程の存在だ。だから張三姉妹たちが死んだという嘘の結果でも偶像となってしまう。それが藤丸立香たちが解決するのを忘れてしまった後始末。

この後始末は必ずしも藤丸立香たちは解決しなければならないというわけではない。これは誰であるとも起こるだろうというもの。

藤丸立香たちではなく、曹操だろうが劉備だろうが孫策たち諸侯たちだろうが張角たちを仕留めれば起こりえる結果だ。誰かが張角たちを手にかければ起こる黄巾党のその後の可能性。

これは正実でも外史でも歴史に埋もれた1つの出来事。あったかどうか分からないが可能性はある出来事。もし、あったとしても正史では表に出てこずに人知れずに解決された出来事。

それは張角たちの意志を勝手に解釈して継ぐ者だ。

 

「張角は死にました」

「あなたは?」

「ですが、張角たちは蘇ります」

「張角様が!?」

「ええ。その為には張角を蘇らせる場所が必要です」

 

崇拝は時に大きな宗教を生み出す。それがどんな宗教であろうとも関係無い。

よって深く、狂気的なまでの崇拝は最悪な邪教を生み出す場合もある。そうなるとどう信仰し、どういう活動をするのも内容が第三者の目から見れば異端や禁忌を感じる。

 

「張角たちは多くの信者をお求めです。多くの声をお求めです。またこの大地に歌を広めたいと思っています」

 

その言葉は落胆した者には危険で甘美なものだ。

 

「死んだ者は何もできません。だから待っているのです」

「張角様が待っている…」

「ならば分かるでしょう?」

「そ、それは…」

「貴方がやるのです」

 

渡されたのは太平要術の書。これは張角たちが持っていた書物。

 

「貴方が選ばれたのです。貴方が張角を蘇らせるのです」

「わ、私が…」

「貴方は張角たちの意志を継ぐ者です」

「張角様の意志を…!!」

「これから貴方は大賢良師と名乗りなさい。その名は張角を継いだ証拠です」

 

于吉の甘言が二代目大賢良師を惑わす。




読んでくれてありがとうございました。
次回は今月中。早く更新出来たらします。

さて、今回も立香だったらこんな感じになるかなって思って書きました。
孫呉での彼の評価はまあ、悪い男じゃないよねって感じです。
絆を深めるていく彼なら孫呉の人も悪い男ではないと判断すると思いました。

そして最後の方は次回から本編に戻る予告のようなものです。
オリジナルですけどあるルートでは起こりえる可能性の話です。それを書いていきます。


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黄巾党の残党

前回のあとがきで今月中に更新すると書きましたがその日中でした。
今回から本編であり、オリジナルになります。

現在と過去2つの話になります。



112

 

 

現在にて。

俵藤太は猿に劣らないくらいに木を登って辺り周辺を見渡す。今、俵藤太は貂蝉たちから離れて呂布奉先と2人で散策をしているのだ。藤丸立香たちが過去に飛んだことにより、何か改変が起きているかもしれないと考えて町から出たのだ。

 

「ううむ。何か…お?」

 

何かを発見。

目を細めて、その何かを見る。

 

「呂布よこのまま真っ直ぐ走るぞ!!」

 

彼の顔が真剣になる。

この顔はすぐにでも駆けつけないといけないと分かるものであった。

そしてその先にて。

程普は身体に力が入らないと感じるが無理矢理でも足を動かすしかない。彼女はまだ知らないが土くれ人形の正体である妖馬兵は永遠と追ってくる。

人間ではない妖馬兵はスタミナを知らない。敗走兵を追撃するには妖馬兵ほど適している存在はいないのだ。

 

(みんなも限界に近いわね…)

 

程普は仲間の兵士たちを見てすぐ分かる。彼らも戦いに敗走と加えて追ってくる兵馬妖の相手をしていれば限界なんて当たり前。

 

「徳謀様~…あの土くれ人形が~」

「もう追いついたか!!」

 

後方を見ると兵馬妖が複数追いかけて来ている。土人形だから表情が無いなんて当たり前だが、それがより不気味さを際立たせているのだ。

 

「私が出る」

「ダメです徳謀様!?」

「止めないで伯言。私が先頭をきって戦わないといけないのよ」

「でももう何十体も倒して限界じゃないですかあ。それにその片足だけじゃもう限界ですよ!!」

 

陸遜は片足が義足の程普を見る。

 

「昔の傷よ」

 

程普は1人で何十体も兵馬妖を倒している。彼女が先頭をきって戦っているからこそ呉の兵士たちも我に続けと兵馬妖と戦っているのだ。

だがもう限界に近い。いくら自分が強いとあっても永遠に戦えることはできない。それは勇敢で屈強な呉の兵士だってそうだ。

 

「でもこんな所で死ぬわけにはいかないのよ。せめて伯言だけでも」

「嫌です。私だけ逃げるわけにはいきません!!」

「ダメよ。アナタなら仲謀様の力になれる。アナタが生き残るべきよ」

 

程普はそう言って追いかけて来た妖馬兵に斬りかかる。兵士たちも程普だけ戦わせまいと続く。

残った兵士は陸遜を逃がすように前へ前へと進む。

 

「伯言様。今のうちに!!」

「嫌です。徳謀様も一緒に!!」

「逃げなさい伯言!!」

 

後ろから聞こえる陸遜の声を無視して妖馬兵を止める。

相手は生命の無い人形兵。どこを斬っても意味はない。こういう相手をどう対処するかは戦う中でもう分かっている。

 

「相手の四肢を狙うのよ。頭や心臓を狙っても意味は無いわ!!」

「「「おおおおおおお!!」」」

 

呉の兵士たちも限界を超えて妖馬兵に斬りかかる。

 

「必ず複数で相手取りなさい!!」

 

必ず2人以上で妖馬兵にはあたる。だが程普は1人で妖馬兵と戦う。

 

「はああああああ!!」

 

兵馬妖の戦い方としてはまず腕を狙う。武器を持っている腕さえ切り落とせば妖馬兵の力は激減する。そして次に足を切り落とせば機動力が無くなる。

最後に胴体を破壊すれば妖馬兵は倒せるのだ。だが倒し方が分かっても簡単ではない。

 

「ったくもう。孫堅様なら一太刀で胴体を真っ二つにできそうなのにね」

 

孫堅という名前を出して彼女は歯を食いしばるが、それは孫堅を恨んでいるからではない。自分自身の不甲斐なさに対してのものだ。

彼女は孫堅に対して謝りたい、代わりに自分が死ねばよかった等ばかり考えているのだ。だが程普が死ぬことは孫堅自身は望まない。

 

「伯言…私はまだ死ぬ気は無いわよ」

 

まだ死ねない。彼女は孫堅からの言葉を忘れない。

 

「でも死ぬならただでは死なないわ。できるだけ多くの敵を倒す!!」

 

その言葉を発して兵馬妖を破壊する。

 

「次!!」

 

次の兵馬妖を相手にしようかと思った時、陸遜が先に撤退した方から雄たけびが聞こえた。

 

「な、何!?」

 

謎の雄たけび。こんな状況ならば敵の新手かと思うのは当然であった。

 

「あ、ああ…そんな」

 

陸遜の目の前には赤い鎧を纏った巨体の漢。こんな奴は見た事が無い。

彼はまるで道を塞ぐように現れたのだ。現れたというよりかは降ってきた。

 

「陸遜様をお守りしろ!!」

 

兵士たちは陸遜の前に出て剣や槍を構える。

今の状況に陸遜はどうにかしなければと頭を回転させる。後方には妖馬兵で前方には謎の巨漢。正直に言って大ピンチである。

 

「ど、どうにか策を…」

「□□□□□□□□!!」

「ひう!?」

「お、御守りするのだ!!」

 

呉の兵士たちは槍を突き出して赤い鎧の巨漢に立ち向かうが、その赤い鎧の巨漢は彼らを無視してそのまま彼らの後方へと走り出した。

 

「え?」

 

敵ではなかったのかと一瞬だけ呆けるが陸遜の後方には程普が殿にいる。自分ではなく程普を狙った者だとしたらマズイ。あのような巨漢までもが狙ったとしたら限界に近い程普は殺される。

 

「た、助けないと!!」

「ダメです。このまま戻ったら陸遜様まで危険ですよ!?」

「でも!?」

「陸遜様が助かることが程普様の最も思う願いです!!」

 

そんなことは程普と話したのだから分かっている。だがそれでも人の気持ちとは合理性よりも感情で動いてしまうのだ。

陸遜の頭には物凄い葛藤が生じてしまう。自分が逃げないといけないのは分かっているが彼女を助けに行きたい。だか程普を助けに行けばどうなるか予想が付かない。軍師として冷静にならねばならないが彼女は葛藤してしまって中々冷静になれない。

「…うう」

 

もしかしたら彼女たちはここで果てていたかもしれない。だがそうにはならない。そうならないイレギュラー的な理由が彼女の目の前には現れたのだから。

 

「おい。大丈夫か!!」

「あ、あなたは?」

 

陸遜の前に現れた漢。この漢が現れたからこそ彼女たち運命が変わった。

 

「□□□□□□!!」

「こ、こいつは何?」

 

程普の後方から突っ走ってきた赤い鎧の巨漢。最初は陸遜を殺して次は自分を狙いにきたのかと思って怒りに燃えたがそうではなかった。

もし、そうならば巨漢の男は今の段階で程普に襲いかかっている。しかし巨漢の男は程普ではなくて兵馬妖を攻撃しているのだ。

「敵じゃない?」

 

後方を注意しながら見ると呉の兵士たちは無事そうだ。敵だったら後方の兵士たちも無事ではないはず。それなのに無事ならば赤い鎧の巨漢は敵でははい可能性が高い。そもそも兵馬妖を倒している時点で少なくとも今は敵ではない。

まだ分からない点はいくつかあるが今はチャンスだ。

もしも赤い鎧の巨漢に続けば残りの兵馬妖は倒せる可能性は高い。赤い鎧の巨漢は雄叫びをあげながら兵馬妖を蹂躙するかの如く破壊している。その姿を見ると黄巾党を一太刀で何人も斬り倒した孫堅を思い出してしまう。

 

「程普様。どうしますか!?」

「このまま…」

「徳謀様~!!」

「伯玄どうしてここに!?」

 

生き残らせるために逃がした陸遜が戻ってきたのだ。状況がいきなり変わりすぎて混乱しそうだ。

 

「逃げなさいと言ったでしょう!!」

「状況が変わったんです!!」

「おお、無事のようだな」

「誰!?」

陸遜の後ろから漢が駆け寄ってきた。その人物は知らない。呉の兵士ではない。

 

「この方は俵さんと言っています」

「状況は分かっている。あの土くれ人形に追われておるのだろう。ならば手を貸そう。何せあの土くれ人形は吾らにとっても敵だからな」

 

この言葉で彼らが敵では無いことが確定。

 

「あそこで暴れているのも敵ではないぞ。仲間だ」

「□□□□!!」

 

赤い鎧の巨漢は兵馬妖をたった1人で殲滅させている。その強さは圧巻させられるものだ。

 

「凄いわね彼」

「ああ。あやつは今いる吾らの中で一番の強さを持つからな。一騎当千の言葉を体現する漢だ。あんな真似は吾でも難しいかもな」

「□□□□!!」

 

程普たちを追撃したきた兵馬妖は呂布奉先が全滅させた。やっと心の底からというか腰が抜けて地面に座ってしまう呉の兵士たち。

今までずっと永遠と追ってくる妖馬兵に追われていたら今の彼らの姿は当たり前だ。後ろに迫る死から逃れたら誰だって心から安心する。

 

「大丈夫かお主たち?」

「助かったわ。それであなた達は?」

「はいはい~。助かったのは良いのですが…あの。俵さんはどなた様たちですか?」

 

まさかの援軍に助かったのは良いが目の前の2人は知らない男である。しかも程普が今まで見てきた戦士の中でも上位10人に入る程の強さを持っていた。

彼女と同じく兵馬妖をたった1人で相手出来る戦士が2人。特に赤い鎧の巨漢は異常なほどの強さだ。

 

「まず、名を明かそう。吾は俵藤太だ。こっちが呂布奉先」

「□□□!!」

「訳有ってこいつは言葉が話せないが一応は意思疎通はできる…たぶん。恐らく大丈夫!!」

 

俵藤太はそう言うがそれって本当に大丈夫なのかと思う程普達。

彼の言葉には不安そうな感じも含まれているからだ。呂布奉先を見て、俵藤太を見る。

呂布奉先を見ても彼の顔は厳つく、雄たけびを上げてるだけで意思が疎通できそうにないと感じてしまう。

 

「本当に意思疎通できるんですか~?」

「出来るぞ…たぶん!!」

「そのたぶんってのが不安です」

 

陸遜の言葉は誰もが首を縦に振る。

 

「で、お主たちは?」

「…私は程普よ」

「私は陸遜です~」

 

簡単な自己紹介を済まして状況を確認する俵藤太。

まず間違いなく彼女たちは呉の関係者の可能性が高い。兵馬妖は今の段階では于吉が黄祖に渡しているのだからその黄祖が追っている者たちは呉の関係者だ。

彼女たちはどう見ても敗戦者たちだ。この時代ならば何もおかしいわけではない。

 

「もしかしなくてもお主らは孫呉の者たちか?」

「…もしかしなくても孫家の者よ」

 

一瞬だけ警戒の色を出されたが彼女たちの素性を明かしてくれた。

俵藤太の予想は正解した。彼女たちは黄祖軍に負けた孫家の軍団だ。町の噂では孫家が滅んだと言っていたが目の前を見て分かるように完全には滅んではいない。

過去改変によって多少は変化したのか。それとも元々なのか。それは分からない。

 

「程普殿。あの土くれの人形を知っているか?」

「知らないわ。ここに来るまで何度か戦ったけど…初めて見る奴らね」

「何ですかあれは。あんなもの見た事も聞いた事もありませんよ!!」

 

陸遜が「あり得ない」と言いながら行き場の無い不満を垂らす。軍師からしてみればあのような土人形の戦い方は分かるものではない。

だが倒し方までは理解できている。それでも黄祖は土人形を最大限に活かしているのだ。

 

「そうか。アレの正体までは知らぬか」

「俵殿は知っているの?」

「ああ」

 

知っているという言葉で2人の視線が俵藤太を射抜く。

 

「あれは何?」

「あの土くれ人形は兵馬妖というそうだ。道士が操る土人形の兵士だ」

「何でそんなモノを黄祖が…いや、あいつか!!」

 

程普と陸遜が何か気付いた顔をする。そして彼女が言った「あいつ」という言葉。

 

「そう言えば黄祖の傍には道士のような奴が控えていた。あの道士が…!!」

 

程普に怒りの色が見える。彼女が言う道士とは恐らく于吉ではないかと俵藤太は思う。

ここらで道士と聞くと于吉くらいしか思いつかない。しかも程普は、恐らく于吉であろう人物に対して相当な怒りを表している。

 

(何か于吉がしたのは確かだな)

 

于吉は程普に、孫呉に恨まれるような事をしでかした。それが孫呉を滅ばせる切っ掛けとなることだ。

 

「あいつが。くっ、私のせいで孫堅様が…」

「…それは徳謀様のせいじゃありません」

(孫堅様?)

 

流石に何かあったのか知りたいが、今はそんなことを聞ける雰囲気ではなさそうだ。俵藤太はそこまで空気を読めない漢ではない。

その事はきっと話しにくい事だろうが于吉に関することはいずれは聞かねばならない。

 

「あー…その何だ。何かあったみたいだが、これからどうするんだお前たち?」

「…それは」

「この先に町がある。取り合えずそこまで行くか。その町には拙者の仲間たちもいるしな」

「…そうね」

 

程普たちも元々その町を目指していた。俵藤太の提案でなくとも向かうつもりだ。

 

「だけど流石に休憩しないと無理ですよ~」

「そうね流石にみんな限界だわ。飲まず食わずでここまで来たからね」

「何だ飯を食っていないのか。それはいかん、いかんぞ。飯を食わねば心も身体も満たされんからな!!」

「でも、もう兵糧は無いですよ~」

 

ここに来るまで兵糧は尽きた。そもそも妖馬兵に追われていたのでまともな食事すらできなかった。

妖馬兵を退けて安心感が出たのか忘れていた空腹感と疲れが同時に呉の兵士たちを襲ったのだ。これでは流石に町までは届かない。

 

「うむ。ならばここは吾の出番だな!!」

 

いきなりドンっと米俵を出す。

 

「え、それどこから出したんですか!?」

「町に行く前に腹ごしらえだ!!」

 

俵藤太の『無尽俵』。これはどの時代、どの国の人たちでも必ず驚かれる。

彼の『無尽俵』は程普たちに驚きを与え、空腹を満たすのであった。

 

「□□□(燃料をどんどん持ってこい)」

 

 

113

 

 

現在にて。

 

「よし。治療の方もこれで大丈夫だ」

 

華佗が額に付いた汗を拭う。

 

「つ、疲れた~」

「お姉ちゃんもう動けない」

「た、確かに疲れた…」

 

華佗の治療の簡単な手伝いとはいえ、その手伝いの量は膨大であったのだ。

張三姉妹はもう立てないくらい疲れている。

 

「もう、だらしないわねん。アタシなんかまだまだ華佗ちゃんの為なら火の中でも水の中でも手伝いにいけちゃうわよん!!」

 

何故かガッチリムッチリと筋肉を魅せ付けるポーズをする貂蝉。

それを見て張三姉妹は「うへぇ…」という顔をしているのであった。

 

「華佗ちゃん。この女性の容体はもう大丈夫かしら?」

「ああ、俺の全てで治療を尽くした。後はもう彼女は絶対安静だ。でも油断はできないけどな」

(この人…やっぱり)

 

貂蝉はベッドで寝ている女性を見て思う。この女性は別の外史で見た事がある。

その時は彼女が死にかけていたのではなくて別の誰かが死にかけていたのだが。なんとも変わった巡り合わせである。

 

「それにしてもこの人はよく生きていたわねえ」

「そのことだが…彼女の額の傷を見ると矢は脳まで至っていた。だが脳は無事だったんだ」

「脳が無事だったの?」

 

矢が頭蓋骨を貫いていたら脳に達する。だが華佗の診断によると脳には傷がついていないのだ。

それはおかしいと貂蝉は首を傾ける。

 

「でだ、よく診断してみると誰かによって治療された跡があったんだ」

「あら、そうなの」

「ああ。だが治療って言っても脳の傷すら治すなんて…俺より腕が良いぞ」

 

脳の傷を治療するほどの医者。それは余程腕が良い医者だ。

華佗に並ぶ程の医者。もしくは彼以上の医者となると華佗自身が気になるのは決まっている。

 

「華佗ちゃん以上の腕だなんて驚きね」

「ああ。一度会って話したいものだ。だが気になるのは俺以上の腕かもしれないのに何故か治療が不完全なんだ」

「不完全?」

「ああ。脳の治療を施したのに他が雑だ。いや、他の傷も治療されているんだが完全には治していないというのが不自然なんだ」

 

華佗以上ならばより治っていてもおかしくはないという考えだ。

 

「それは川で溺れていたからとかで傷が増えたとかじゃないの?」

「いや違う。元々あった傷なら分かる。確かに治療された跡があるんだ。それよりも前の傷もあるのに治療されていない部分もある」

 

確かに彼女は誰かに治療された跡があると華佗は見ている。だが何故か必要最低限しか治療されていないのだ。そこが華佗の気になる部分だ。

 

「必要最低限?」

「そこがおかしいんだ。脳を治療する程の腕ならば他の傷も治していてもおかしくないのに」

 

完全には治療していない。

 

「治療が途中だったのか。それともその腕の良い医者に何かあったのか。…考えたくないがそもそも治療行為ではなかったのか」

「治療行為ではなかった?」

「まあ、彼女が助かっただけでも良しとしよう」

 

気になることは多い。だが今はベッドに寝ている女性が助かったというのが重要だ。

 

「天和たちはもう休憩していいぞ。ここから先は俺だけでも十分だ」

「「「は~い」」」

 

ここでガチャリと誰かが入ってくる。

 

「あ、治療の方は終わったの?」

「終わったわよん三蔵ちゃん。どうしたの?」

「実は天和ちゃんたちに聞きたい事があるの」

「えー…私たちに?」

 

疲れた顔の天和たちの視線が三蔵玄奘を見る。

 

「それ後で良い?」

「甘い物食べながらでいい?」

「それなら!!」

 

急に元気な顔になる地和。

 

「それなら行ってくると良い。さっきも言ったけどもう俺だけで大丈夫だからな。貂蝉も手伝ってくれてありがとうな」

「ああん、華佗ちゃんに褒められてイイワ」

 

華佗はそのまま女性を看ているとのこと。もし目覚めたら看病ができる人がその場にいなくなるわけにはいかない。

よって華佗は貂蝉たちは見送るのであった。

 

「じゃ、遅くなるなよ」

 

貂蝉たちは何処か甘味処に入店して点心を頼む。

 

「私は杏仁豆腐~」

「胡麻団子3つ」

 

地和たちは遠慮なく甘い点心を頼む。勿論、三蔵玄奘も頼む。

 

「甘くて美味しい~」

 

ムグムグと食べる姿を貂蝉は微笑ましく見る。よくよく状況を確認すると張三姉妹と玄奘三蔵の隣に筋肉ムキムキの半裸の漢がいるのは異様な光景である。

たまにというか他の客や店員はその光景をつい見てしまうのは当然だ。そもそも店員も杏仁豆腐を机に置くたびに玄奘三蔵たちと貂蝉を交互に見ている始末だ。

 

「さて、三蔵ちゃん。天和ちゃんたちに話って何かしら?」

「ああ、そうだったわね」

 

胡麻団子を食べながら玄奘三蔵は天和たちにあることを聞く。

 

「天和ちゃんって黄巾党の時に大賢良師って呼ばれてた?」

「ああー…呼ばれてたよ~」

 

大賢良師は張角の呼び名の1つだ。これは彼女たちが呼ばせていたわけではなく、黄巾党の者たちが勝手に呼び始めたのだ。

悪い意味で呼ばれていたわけではないから彼女たちも気にせずにいた。だが地和としてはもっと可愛い呼び名にしてほしかったと言う。

 

「それがどうしたの三蔵さん?」

「人和は知ってるかな。もしかして2代目大賢良師とか決めた?」

「え、それ知らないけど…姉さんたち勝手に決めた?」

 

天和も地和も首を横に振る。

 

「急にどうしたの三蔵さん?」

「実はこの町で話を聞いてたら2代目の大賢良師が現れたとかなんとかって聞いたの」

「えー何それ知らないよ!?」

 

張三姉妹は杏仁豆腐を食べながらまさかの情報に驚く。

2代目の大賢良師なんて聞いた事もないし任命させた覚えもない。このことから分かるのはまた黄巾党の勝手な行動だ。

 

「はあ…前もそうだけど。私たちの事が好きで応援してくれるのは嬉しいけど勝手に暴走するのは嫌ね」

 

人和は頭痛がしたのか頭を抑える。

 

「黄巾党の残党の誰かが二代目大賢良師を名乗ってまた再起でも図ろうって魂胆かしらねえ」

 

貂蝉もため息を吐く。

黄巾党はまだまだ終わっていないということだ。これでも大陸中を騒がせたほどの勢力だったのだから当たり前かもしれない。

 

「で、その2代目の大賢良師はどうなったのよ?」

「何でも揚州の建業を治める孫堅って人が鎮めたらしいわ」

「孫堅ねえ」

「しかも目的は天和ちゃんたちを蘇らせようとしてたんだって」

 

天和たちを蘇らす。その言葉に対して地和は首を傾ける。

 

「アタシたち生きてるけど」

「それは裏向きでしょ地和姉さん。表向きじゃ私たちは死んだことになってるのよ」

「そういえばそうだった」

「忘れないでよ」

 

生きているけど死んだ事になっている。これは藤丸立香たちの策によって大陸中に広まっている。

 

「そのよく分からない事をしようとしている黄巾党の残党を鎮めたのが孫堅と言うわけねぇ」

「そうなのよ貂蝉さん。でも簡単には鎮められなかったそうよ。結構苛烈な戦になったとか。孫堅の部下である両翼の将である1人の足を負傷させたとかあったみたい」

 

残党の兵たちは完全に牙を抜かれたわけではない。

どの時代もどの国も残党兵たちが何かしら再起を計ろうと行動を移すのだ。

 

「で、さらに不穏な話があるのよね」

「それは何かしら?」

「蘇らせようとしたけど出てきたのは化け物とかね」

 

玄奘三蔵の言葉に貂蝉はパチクリと目を瞬きをしてしまう。

 

「化け物?」

 

114

 

 

過去の呉。揚州の建業にて

 

「これより軍議を始める!!」

 

炎蓮の雄々しく響く声が部屋に広がる。

この軍議には孫呉の将たちの他に藤丸立香たちも参加していた。

彼らはもう孫呉の一員ということで軍議に参加することを許されているのだ。

 

「今回の軍議の内容だが…冥琳」

「はっ」

 

黄巾党は張角の死によって勢力は消えた。しかし黄巾党全てが全滅したわけではない。

まだ黄巾党の残党は散り散りになって各州に存在しているのだ。

 

「黄巾党の残党が我が治める孫呉の地に集まりつつある」

「げー、まだ黄巾党がいんの?」

「全く…終わらないものだな」

 

雪蓮と祭はもうウンザリという顔をしている。

黄巾の乱は漢王朝の腐敗によって始まった。抑圧された不満や怒りが爆発した結果の1つである。

祭としては戦いにくい戦であったのだ。相手が悪党や賊なら構わない。だが、黄巾党に入る前は罪も無い生きる事に必死な農民だと思えば戦いにくい。

 

「はい。質問です!!」

「許可する。何だ立香!!」

「さっき呉に黄巾党の残党が集まりつつあるって言いましたけど、各州からですか?」

 

黄巾党の残党は各州に散り散りになっている。それが孫呉の地に集まっているのだ。

 

「そうだ。それは新たな指導者が現れたからだ立香」

「新たな指導者?」

「そいつは張角が呼ばれていた大賢良師という名を名乗って黄巾党の残党を集めているようなんだ」

 

要は張角の後継者を名乗る存在だ。

 

「まあ、て…張角たちの人気は凄かったからなぁ。つーかアレはもう崇拝の域だったしな」

「それだ燕青」

「あん?」

 

黄巾党にとって張角たちはまさに崇拝する程の存在だった。黄巾党の中には狂気的なまでに崇拝する輩もいただろう。

そういう狂気的なまでに崇拝していた人物が張角たちの意志を勝手に解釈して継ぐ。それが大賢良師を名乗る者の正体だ。

 

「そういう奴は宗教団体を創る輩なのでしょうね」

「邪教か」

「それも正解だ」

 

荊軻と粋怜が何気なく思った事が正解だと冥琳は言う。

大賢良師が散り散りになった黄巾党の残党を集めて宗教を創設したのだ。元々、張角たちを崇拝していたのだから宗教になるのも時間の問題だった。

その宗教の名は『太平道』。目的は何でも張角たちの復活である。

 

「復活!?」

「ああ、どうやらそいつらは張角たちを蘇らせようと怪しげな儀式などをしているらしい」

「蘇らせるって…死んだ人間は蘇らないわよ」

 

死んだ人間は蘇らない。誰もが大切な人が死んだら生き返って欲しいと思うだろうが、死んだ人間は蘇らないのは自然の摂理である。

そんな自然の摂理を捻じ曲げて太平道という宗教は張角たちを蘇らせる。

 

「怪しげな儀式って何をやってるのよ?」

「……」

「どうしたの冥琳?」

 

冥琳の顔が歪む。

 

「生贄だ」

「なっ!?」

 

生贄だけではない。人体実験や道術やら外法とも言える方法ばかりしている。

そんなことをしても死んだ人間は蘇らない。だが崇拝する狂気的な人間はその当たり前なことを気づきもしないのだ。

 

「その生贄って…!!」

「ああ。人間たちだ」

 

狂人の身勝手な願いのために罪なき人々が死んでいる。そんな事は炎蓮だけでなく、雪蓮たちだって許さない。

 

「非道な方法で我が民が殺されている。そんなことは絶対に許せねえ!!」

 

炎蓮の怒りが滲み出ている。その怒りはここにはいない大賢老師に向けられる。

守るべき民が関係なく殺されている。これは領地を治め、民を守る者にとって許されない行為である。

 

「やることは1つだ。そんな糞みてえな奴らをぶっ殺す!!」

 

黄巾の乱が終わってやっと落ち着いたかと思えば、まだ黄巾党の波は残っていた。

残党たちが集まり、新たな黄巾党が復活しつつある。それが宗教組織の太平道だ。

規模は小さいが前の黄巾党よりも質が悪くなっていることは確かである。その代わり狂気は濃い。

 

「すぐに太平道を落とす準備に取り掛かる!!」

「「「はっ!!」」」

 

 

115

 

 

宗教組織の太平道を倒すのに藤丸立香たちも参加する事が決まった。

孫呉の一員になったからにはもちろん藤丸立香たちも戦力として数えられている。元々、炎蓮から戦いには参戦させると言っていたのだから、それは分かっていたことだ。

これが孫呉での地で初めての本格的な戦である。

 

「黄巾党のその後の後始末ってところかぁ?」

 

今回の戦いを燕青が呟く。確かにこの戦いは黄巾党のその後の後始末にあたるかもしれない。

黄巾の乱が終わったからといっても黄巾党の全てが全滅したわけではない。生き残っている黄巾党がいて、何かを仕出かす。それが太平道の創設になったわけだ。

1つの戦いが終わったからと言って次がもうないなんて事はない。勝てば終わるというのはそうそうないのだ。

戦争をして勝てば栄華を、負ければ衰退を、というがその負けた方には更に復讐というものや自らが後継者を名乗る者が付与される。その付与が新たな戦いを呼び覚ますのだ。

 

「…それって俺らのせいなのかな?」

「どういう事だマスター?」

「だって、俺らが天和たちを死んだ事にしたから黄巾党の後継者を生み出してしまったのかなって…」

 

黄巾党は天和たちをとても崇拝していた。ならば彼女たちが死んだら今回の事が予想ができたかもしれない。それを阻止できたのではないだろうかと藤丸立香は思ってしまったのだ。

もっと上手く何か出来たのではないかと思ってしまう。今まで自分の出来ることをやってその時の最善を尽くしてきた。だが、やはりもっと上手くできたのではないかと後々思ってしまうことはいくらでもあった。

 

「マスターよぉ」

 

燕青が藤丸立香の頭をガシガシとかき回す。

 

「んなこと言ったらどの歴史の戦いでもそうだろぉ?」

 

多くの国同士の戦争や地域的な紛争、各宗教的な戦い、対立組織同士の抗争等々。歴史の多くの戦いの中で今回のような後始末が出てきたはずだ。

それが歴史に残らずに裏に埋もれた戦いであってもだ。その後始末はどんなに優秀な人だろうとも、裏世界の悪人だろうとも、正義のために戦った者だろうとも出してしまう可能性は高い。

 

「確かに出してしまったら…まあ、五月蠅い奴らは五月蠅いが、だったらお前だったら何とかできたのかって言うなオレは」

「燕青の言う通りだぞマスター。戦争なんてそんなものだ。いちいち考えてたら身が持たんぞ」

 

いちいち考えていたら身が持たない。それはそうだ。

上手く今回のような事を起こさなかった人たちもいるだろう。だが起こしてしまったなら誰が悪いのかと言われたら何か違うはずだ。

悪いなんて事を言い出した者がいたら、今度は戦争自体を起こせないでみせろと言う輩が現れる。そんな事は不可能だ。

世界から狂気が消える日は来ない。人間同士がいがみ合うのが無くならないのだから。

それに黄巾の乱を鎮めたのは藤丸立香たちだけではない。各州の諸侯や官軍たち全員で鎮めたのだ。

責任があるなんて言い出したら全員になる。全員が張角たちを仕留めようとしたのだから。

 

「出来ることは外法を行う太平道を倒す。それだけだぞ我がマスター」

「…分かった。そうだね」

 

余計な考えをしてしまったが起きてしまった事はもうしょうがない。

孫呉の壊滅を防ぐために過去に遡った藤丸立香たちが、そう思うのは何か矛盾を感じるところがあるが一旦置いておく。

 

「う~ん……」

「どうしたマスター。まだ何かあるのか?」

「いや、大賢良師は天和たちを蘇らせようとしてるんだよね」

「そういう情報だったな」

 

太平道を創設した大賢良師は張角を、天和たちを蘇らせるために活動している。それに関して疑問を思うのが藤丸立香たちだ。

 

「だって天和たちは生きてるよね」

「ああ、私らが生かしたからな」

「じゃあ大賢良師は死んでいない天和を蘇らせようって…どういうこと?」

 

天和たちが生きていることを知らないのだから仕方無い。だが、それでも大賢良師は誰を蘇らすつもりのか。

 

 

116

 

 

邪教となりつつある宗教組織の太平道を壊滅させるために孫呉の将たちが集まって建業を出発する。

そのちょっと前の話。

 

「んじゃあ行くぞ!!」

「待ってくだされ炎蓮様!!」

「何だ婆?」

 

炎蓮が『南海覇王』という宝剣を握りしめて門へと行くのを止める雷火。

 

「何だ…ではないですぞ!!」

 

炎蓮よりも大きな声で怒鳴る雷火。その怒声は城中に響き渡るくらい大きい。

 

「まだ傷は完全に癒えてはいないのですぞ!!」

「んなもん癒えた!!」

「そんなわけないではありませぬか!?」

 

実は炎蓮は先の黄巾の乱にて負傷していたのだ。そんなのを知らない人ならば今の炎蓮を見ても分からないだろう。

負傷人で孫呉のトップを戦場に行かす臣下はいない。

 

「ちょっ、何で武装してんのよ母様!?」

「また五月蠅いのが来たな」

「五月蠅いって何よ!?」

 

今度は娘の雪蓮まで来て母親である炎蓮を止める。だが五月蠅いのが来ても2人も来て耳を塞いで知らんぷりの炎蓮。

確かに万全ではないが本人としては戦えるまで回復している。無辜な民が邪教の食い物にされてて城でじっとはしてられないのだ。

 

「母様は城で養生してて。邪教集団なんて私たちが壊滅させてくるから!!」

「あんだと…お前に出来るのか?」

「出来る出来ないじゃないわ。やるのよ」

 

雪蓮の目には覚悟を持った目。いずれは孫家の当主を譲る娘。

まだまだヒヨッコで党首の座を継がせるのも先かといつも思っていたが、その日も近いかもしれない。

 

「良い目をするようになったな雪蓮」

「何よいきなり」

 

いきなり褒められて少し嬉しい。いがみ合っていても親子で、目標とする人から褒められれば嬉しいに決まっている。

 

「だがオレは出陣するぞ!!」

「んな事させるわけないでしょーがっ!!」

「いい加減に話を聞いてくだされ!!」

 

また繰り返し言い合いは続く。そんなに怒鳴っていたら流石に聞こえてくるから気にはなる。

近くを通った藤丸立香と李書文が顔を出す。

 

「どーしたの?」

「何やら言い合いが外まで聞こえてくるが…」

「あ、立香…って何その恰好?」

 

藤丸立香の恰好はカルデア戦闘服の姿である。

カルデアの技術部が激化する戦闘に耐えられるように作りだした魔術礼装だ。邪教集団とはいえ、敵の本拠地に突撃するのだ。

この外史で今まで後方から指示していたが、今回は前衛に出るかもしれないからカルデア戦闘服を装着したのである。

 

「ほほう…やはり鍛えてるな」

 

炎蓮がジロジロと立香を見る。

カルデア戦闘服は体の線がハッキリ出るボディスーツのようなデザインだ。ならば本人の鍛錬の結果が人様にすぐ分かる。

この藤丸立香の肉体は横にいる李書文の鍛錬を指導したおかげである。

 

「師匠の指導の賜物です」

「ふっ…」

「ふむ。軍師を名乗るが頭だけではなく体の方もちゃんと鍛えてるのじゃな」

「ええ、確かに鍛えてるわね……あと何かスケベっぽい」

「すけべっぽい!?」

 

雪蓮の言葉にすぐさまツッコミをする。だが彼女の言葉は分からなくもない。

藤丸立香もこのカルデア戦闘服を見て着た時の感想は似たようなものであったのだから。

まず最初に戦闘服を見て思った事がカルデアの技術スタッフに「日本のアニメ好きだろ!!」である。次に着て体の線がしっかりと出たのでエロイ気がする、である。

実際にこのカルデア戦闘服を着て一部の女性サーヴァントからそういう目で見られた事がある。一部男性サーヴァントもだ。

 

「何だ立香。その艶姿で誘ってるのか?」

「艶姿!?誘ってる!?」

 

カルデア戦闘服は艶姿ではない。

 

「おおともよ。そんな姿で血の気の多い奴や性欲の強い奴らの前に出て見ろ。すぐに抱かれるぞ。もしオレがそんな気分だったら抱くな。はっはっはっは」

「何言ってるんですか!?」

 

カルデア戦闘服を着て、こんな事を言われるとは思いもしなかった。

 

「む、むう…」

 

こういうのに少し慣れていないのか雷火がちょっと顔が赤い。そもそも男性の体をマジマシと見る機会がないので、この反応は当然であった。

 

「少しその…風紀的に」

「え?」

 

雷火にそう言われて藤丸立香は「何を言ってるんだ?」と思いながら炎蓮と雪蓮を見る。

 

「「ん?」」

 

孫呉の将たちを見れば露出の多い服を着ている。それについて雷火は何も思わないのだろうか。

雷火の考える風紀とは一体何か分からない。

 

「ねえ立香。そのスケベ服って」

「スケベ服ってなにさ。これはれっきとした戦闘服…戦装束です」

「へえ…天の国の戦装束ってそんなのなんだ。天の国の人はみんなソレを着るのね」

「いや、戦装束はこれだけじゃないから」

 

実は今まで来ていた服である魔術礼装・カルデアも考えようによっては戦装束のようなものだ。

彼の着る服のほとんどが魔術礼装であり、戦闘面で戦ったり、サポートするのだ。しかも水着まである。

 

「他にもあるんだ」

「うん」

「今度見せてよ」

「いいよ…で、何があったの?」

 

話が脱線していたが本来の話はカルデア戦闘服についてではない。炎蓮の出撃を止めるための話である。

 

「何やら揉めてる様だがどうしたのだ?」

「そうだった。立香も李書文も言ってよ!!」

「何を?」

「母様ったら怪我してるのに出撃しようとしてるのよ!!」

 

怪我をしているのに出撃する。それは普通に考えてマズイだろう。

 

「怪我してるなら養生するべきだよ炎蓮さん」

「ほら、立香だってそう言ってるじゃない!!」

 

怪我人は寝てろ。そういう目で見る雪蓮。

 

「ほら。李書文も一声!!」

「…負傷者は戦の邪魔になるな」

「ほらみろ!!」

「オレがお荷物扱いか。言ったな李書文め…ならオレが本当にお荷物になるか確かめてみるか?」

 

ギラリと目が光る。それを見た李書文もピクリと反応。

 

「ほお、面白い」

 

血の気の多い2人が一触即発。

 

「だから止めんかぁぁ!!」

 

ここで雷火の怒声。

 

「炎蓮様は何度言ったら分かるのですか。養生していてください。そして李書文はすぐに炎蓮様の挑発に乗るでないわ。この戦闘狂めが!!」

「むう」

「お主は相手が戦う覚悟があればどこでも戦う獣じゃろうて。それは残念ながら炎蓮さまもな!!」

「雷火先生ったら師匠のこと分かってるね」

 

李書文。強き戦士がいれば手合わせがしたくなるものらしい。

炎蓮は李書文にとって戦いたくなる戦士のようだ。藤丸立香としては彼女の戦った姿は見た事がない。

だが戦った姿は見てなくとも彼女からは歴戦の戦士の風格が感じられる。彼女もこの外史では恋に次ぐ異常なまでの力の持ち主だと分かるのだ。

聞いた話によると炎蓮は黄巾の乱で黄巾党を一太刀で複数人も切り殺したとの事。そんな事が出来るのこの外史でも恋くらいの者。

 

(…炎蓮さんもきっと凄く強いんだろうね。そりゃあ師匠も戦いたくなるか)

 

李書文の事をよく分かっているからこそマスターである彼は戦いたい気持ちの師匠が分かる。

 

「あれもダメこれもダメ…じゃあどうすればいいんだよ婆」

「だから大人しくしてくだされ!!」

「寝るってんなら…よし、立香よ部屋に来い。オレの相手しろ。この滾りを鎮めるのを戦いで止められないなら男しかおらん」

「だから何で!?」

「そんな恰好してるからだ」

「おかしくない!?」

 

絶対におかしいが時代が違ければ考えも違う。現代の藤丸立香と外史の炎蓮とは考え方が全く違うのだ。

どちらもきっと考え方について語ると「え?」となること間違いなし。ならば性に対しても考え方違う。

そもそもここでは炎蓮がトップの人間なのだから選び放題なのは間違いない。

 

「ちょっと母さま!!」

「雪蓮さん、ちょっとこの人止めて!!」

「ヤったら具合を教えて。参考にするわ」

「おい」

 

本気なのか冗談なのか分からない。

 

「でもやっぱり母様に先にこされるのはなー」

「ならさっさとお前らがヤって孫を見せろ。この場でヤっても構わんぞ」

「止めんか!!」

 

また怒鳴る雷火。彼女はそのうち頭に血が上りすぎて倒れるのではないかと心配になってしまうレベルだ。

 

「まったく親子揃ってこんな所で下世話な事を…!!」

「下世話とは何だ。これも立派な孫呉の未来についての話だぞ」

「戦の前に話す話ではないと言っておるのです!!」

 

天の血を孫呉に入れる。これは雷火も納得してはいる。

 

「ったく、これくらい構わないだろうが。つーか、婆の方はどうなんだ?」

「…何がですか?」

「婆は立香とはシてねえのか?」

「な、ななな何を言っておられるのですか!?」

「だってオレらん中で一番、立香と接触が多いだろう」

 

藤丸立香と雷火との接触率は確かに高い。この地では彼との接触が多いのは軍師として指導している穏や冥琳だ。

その中で内政も教えている雷火も多い。内政なんて藤丸立香には専門外なのだが教え込まれている。専門外で今まで関わってこなかったものをやることになったのなら自然と専門の人に教えてもらうことになる。

ならば雷火と会うことも自然と多くなるのは当たり前だ。今のところまだ雑用レベルしか雷火の手伝いをできていない。

 

「そうなのか?」

「そういえばそうだね」

 

李書文がマスターに何となく確認する。それを肯定するマスター。

 

「何もしてないのか?」

「しておりませぬわ!!」

「婆、もう年を考えろ。いつまで独り身のつもりだ」

「炎蓮様に心配されるような事ではありませねわ!!」

「そもそもなあ。祭や粋怜だっていつまで…」

 

ここには居ない祭と粋怜はクシャミをしたそうな。

 

「悪い男ではないだろ」

「まあ、そうですが…そもそも炎蓮様は無駄に立香を評価しているというか、気に入っておりますな」

「なんとなく気に入っている」

「なんとなくって…」

「最初はな。だが接する内に彼の良さが分かったからな。それはお前たちもそうだろう?」

 

彼女の言葉に「まあ、確かに」と肯定する雪蓮と雷火。藤丸立香の人と絆を深めるというのは凄い所の1つだ。

なんせ彼は誰とでも絆を深めている。数多く個性の持ち主である英霊と絆を深めたのが彼の凄さの結果である。

善人や悪人に学者、音楽家、王、武将、悪魔、女神と個性は多すぎる。様々な個性の持ち主から絆を深め、信頼されるというのは凄いことなのだ。

彼は平凡なんて言われているが、実は何かしら持っていると何騎かの英霊は語っている。

 

「それにこいつは何かオレにとって力になってくれる気がするのだ。しかもそれは孫呉にとって重要な時にな」

「その根拠は何よ母様?」

「勘だ!!」

「勘て……」

 

炎蓮も雪蓮も自分の直感を信じている。一瞬呆れてしまったが彼女の直感は皆が無条件で信じる時があるのだ。

 

「で、何かないのか?」

「しつこいですぞ」

「ないのか立香?」

「ないです…………この前、雷火先生を膝に乗せた以外は」

「な、立香っ!?」

「ほお」

「何それ何それ!!」

 

気になるっという顔でニヤリと迫る2人。そして慌てる雷火。

 

「膝に乗せたと言うがそれはどういう…」

「そんな事はどうでもいいから炎蓮様は早く部屋で養生してくだされ!!」

「立香はよくうちの重鎮中の重鎮を…」

「雪蓮様もさっさと立香と李書文を連れて出発するのじゃ!!」

 

これは太平道を討伐へ出撃前のちょっとした出来事であった。




読んでくれてありがとうございました。
次回は来月。二週間後くらいの更新予定です。

現在と過去の2つの話でした。
現在では俵藤太が程普たちと合流し、三蔵ちゃんたちは不穏な事件を知る。
過去では三蔵ちゃんたちが知った不穏な事件を起こした黄巾党の残党との戦いです。

実は魏ルートにて曹操は張角の意志を勝手に継ぐ存在が現れることを危惧していたシーンがありました。結果的には天和たちと取引して防ぎました。これはそのような存在が現れてしまったという物語です。
しかも于吉の介入もあり、より不穏な感じになっています。
どうなっていくかは次回になります。



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邪教組織

117

 

 

邪教と化している宗教組織『太平道』を壊滅させるために建業から孫家の軍が出撃した。

任された将は雪蓮に粋怜、祭。軍師には冥琳と穏が抜擢された。更に藤丸立香たちも加わる。

今、彼らは太平道が拠点として奪った町へと行軍している。その町は完全に太平道の拠点となって、張角復活のために外法の儀式が行われているのだ。

今なお無辜な民が犠牲になっている姿を想像すると拳が強く握ってしまう。どんな儀式をしているかなんて考えたくないが生贄なんて言葉を聞けば嫌な事しか思いつかない。

 

「斥候からの情報だと大賢良師は町を完全に支配している」

「その町の民を生贄にしているわけか。ぬう、許せん」

「確かにしていますが…斥候の話だと太平道へ無理矢理所属させているらしいです」

「無理矢理?」

「ああ。外法な方法で怪しげな儀式をしているのは間違いない。だが大賢良師は信者を増やす事も力を入れている」

 

太平道の信者になる者は生贄にならず、信者にならない者は生贄にさせられる。

これを聞くに大賢良師は信者を増やす事を力に入れているの