ソシャゲ異世界配信系女主人公ちゃんはヒロインをお迎えしたい (薄いの)
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前編

 さらさら、と風が駆け抜けるのと共に背の高いすすきのような植物が鈴なりの音楽を奏でる。

 太陽は丁度真上を指していた。

 

 その下で時折その光を反射するものがある。

 それは流麗な銀の輝きだった。

 安価なものではとうてい為しえない光を放つハーフプレートアーマーの輝き。そして、それを纏う少女。

 

 深い蒼を宿した瞳に、鎧の輝きをそのまま溶かし込んだような銀の髪。

 歳の頃は10代半ばほどだろうか。

 だが、その年齢には不釣り合いなほどに、瞳に秘められた戦意は力強く、彼女が構える剣は殺意に満ち溢れていた。

 

 そして。

 

「―――ッッ!」

 

 彼女が縦に振り下ろしたのか、それとも横に薙いだのか。

 ここ、東アグライナ平原に蔓延る四足の魔獣はまた一体、彼女の剣によって十字に裂かれて息絶えた。

 

 頬に血液の雫を張り付けた少女が振り返る。

 

 そこにあるのは不可思議なもの。

 宙空を漂う水晶玉だ。

 それはふよふよと漂っては、彼女の歩みに付き従うように、あるいは監視するかのように浮遊している。

 

 少女――リィン・アドライナは水晶へと掌を伸ばし、指先で触れる。

 

 途端、掌サイズのウインドウ画面のようなものが虚空に投影される。

 ウインドウ画面の中には少女の故郷の文字が細々と記され、投影されている。

 その中でも、他と比べて少しだけフォントサイズの大きな文字列がある。

 

◇ グロウ・ツリーラインとかいうソシャゲの女主人公(リィンちゃん)になった私の冒険譚 part89 ◇

 

 宝珠カメラと呼ばれる透明なソレは少女を見つめる瞳の中で水晶体のように真っ赤な光が蠢いてリィンを見つめていた。

 ――それは、異界から。あるいはリィンの故郷、日本という島国の中から。

 

 

 

69,名無しの支援者

その無駄にカッチョイイ剣裁きとかどうやってんの

 

70,名無しの支援者

現代人にあるまじき肉体スペック

 

71,名無しの支援者

異世界にいったらチートはつきものだからね

しょうがないね

 

72,名無しの支援者

これグロインのリィンちゃんの肉体スペックがすごいの?なかの人がすごいの?

 

73,名無しの支援者

リィンちゃんはキャラ専用武器以外の全種の武器装備出来るウルトラスペック主人公だぞ

 

74,リィン・アドライナ(12Lv) :カル地方.-東アグライナ平原-

>>69

剣握ってそっちのスキルツリーに熟練度捧げてたら出来るようになってた

>>70

こっちでこの体になってから私、おっぱい抉れた

>>73

それ知ってるなら私に現金を捧げて装備ガチャ回させろ

なんのためにこのクッソ邪魔な宝珠カメラに目隠ししないで野放しにしてると思っているのか

 

75,名無しの支援者

ク ソ レ ズ 降 臨

 

76,名無しの支援者

おっぱい抉れたワロタ

 

77,名無しの支援者

リィンちゃん公式で銀髪で口数少ない貧乳キャラだからしょうがない

まぁ、リィンちゃんと男主人公での話の流れ変えないための大人の事情だろうけど

 

78,名無しの支援者

>>75

最終降臨して好感度MAXにすると性別関わらずいちゃいちゃする仕様のせいでクソレズじゃないって言ってるだろ!

 

79,名無しの支援者

うちのリィンちゃんはこんな口悪くないし清純だよ!

 

80,リィン・アドライナ(12Lv) :カル地方.-東アグライナ平原-

あたちりぃんっ!おかねもっとみちゅいで!

ぼうぐがちゃまわちゅのっ!いっぱいまわちゅのっ!

あと、攻撃痛いの結構しんどい

 

81.名無しの支援者

心の汚さが言動に出ている

 

82.名無しの支援者

最後だけ割りとマジトーンやめろ

というか平然と敵モンスターぶっ殺しながらこういう書き込みできる時点で既に色々逸脱してるけど

 

83.名無しの支援者

そんな痛覚耐性なくてよくソシャゲ主人公やってられるな

 

84.リィン・アドライナ(13Lv) :カル地方.-東アグライナ平原-

>>83

うにゅうにゅうにゅう

あたち、28ちゃいのちゅーしょーきぎょーのおーえるだったのっ!

むちゃいわないでほちいの

 

85.名無しの支援者

リィンちゃんこわれた

 

85.名無しの支援者

リィンちゃんは15歳の銀髪貧乳美少女冒険者だろ(目逸らし)

関係ないけどそっちの端末に諭吉一人分チャージしとくわ

 

86.名無しの支援者

うにゅうにゅうにゅう(チャット横目にグレイワイルドファングを三枚おろしにしながら)

 

87,名無しの支援者

こわい

 

88,名無しの支援者

無口真顔でナメプ魔物斬殺劇場を繰り返すお子様主人公がいるらしい

 

89,リィン・アドライナ(13Lv) :カル地方.-東アグライナ平原-

今気づいたけどレベル13に上がってたわ

うっしゃ

 

90,名無しの支援者

おめ

 

91,名無しの支援者

おめおめ

 

92,名無しの支援者

今、転移から一週間くらい?

結構かかったな

おちゅおちゅ

 

93,名無しの支援者

精神的ダメージで引きこもってた期間結構あるからな

 

94,名無しの支援者

ひきこもリィン

 

95,リィン・アドライナ(13Lv) :カル地方.-東アグライナ平原-

なんかこの歳になってこうやってレベルアップ祝われるとあれだよね

90年代のMMORPGやってた時みたいでちょっと嬉し恥ずかしい

 

96,名無しの支援者

かわいい

 

97,名無しの支援者

かわいい

 

98,名無しの支援者

>>96 >>97

正気に返れ

 

99,名無しの支援者

15歳は90年代のMMORPGはやってないはずでは(おめめぐるぐる)

 

100,名無しの支援者

15歳、銀髪美少女です

 

101,名無しの支援者

直前でうにゅうにゅ(28歳)やってなけりゃ危なかった

 

102,リィン・アドライナ(13Lv) :カル地方.-東アグライナ平原-

そろそろ私のお嫁さんのゆるふわ美少女フィーちゃんをお迎えしてちゅっちゅしにいきます

道中の安全マージンのレベルは確保出来たと思うので

 

103,名無しの支援者

 

104,名無しの支援者

本性出したね

 

105,名無しの支援者

やっぱクソレズじゃねーか!

 

106,名無しの支援者

原作未プレイなんだけどフィーちゃんって誰?

 

107,名無しの支援者

原 作 準 拠

 

108,名無しの支援者

俺は自分の嫁のフィーちゃんがコイツに攻略されるのを見守らなくちゃいかんのか……?

 

109,名無しの支援者

>>106

リィン(又は男主人公)の仲間になる六人のキャラの一人

剣、槍、盾、魔本、杖、暗器の属性のうち杖の属性のゆるふわおっぱい桃髪チョロインの女の子

今はリィンちゃんが剣のツリー伸ばしてるから先に使い勝手のいい杖属性のフィーちゃん拾うのは残当といえば残当

 

110,名無しの支援者

杖、魔本のどっちかはパーティー三枠のうちに入れるのが基本だし

あとガチャ産の属性杖とか属性本の種類多いから弱点突きやすい

 

111,リィン・アドライナ(13Lv) :カル地方.-東アグライナ平原-

ダイヤ貢いでフィーちゃんに穴あけて結婚するからてつだって

 

112,名無しの支援者

ひぇっ

 

113,名無しの支援者

完全にやべぇやつ

 

114,名無しの支援者

異世界転移の神様渾身の人選ミス

 

115,名無しの支援者

間違っても異世界に送り込んではいけなかったOL

 

116,名無しの支援者

フィーちゃんにげて

 

117,リィン・アドライナ(13Lv) :カル地方.-東アグライナ平原-

ごめん

言葉足らずでした

課金ダイヤでフィーちゃんのサブ装備スロットあけるって意味でいいました

でも2980ダイヤで誓約の石碑買って結婚はします

だからもっと私に貢いでください

 

118,名無しの支援者

安心したわ

いや、安心できねぇわこれ

 

119.名無しの支援者

やっぱ逃げろフィーちゃん

 

120,名無しの支援者

赤の他人に自分の結婚費用を全額負担させる主人公がいるらしい

 

121,名無しの支援者

ヤベェやつすぎて一周回って清々しくなってきた

 

122,名無しの支援者

我々は悪魔の手助けをしているのでは……?

 

123,名無しの支援者

無口無表情の銀髪美少女なのにやろうとしてることが欲望に塗れすぎている

 

124,名無しの支援者

見た目だけなら感情を失った美少女アンドロイドで通るのに……

 

125,リィン・アドライナ(13Lv) :カル地方.-東アグライナ平原-

結婚したら夜は宝珠カメラは箱かなにかに隔離するか布でぐるぐる巻きにして目隠しする

このKAMISAMA謎チャットがBANされるのか分からないけど一応ね

まぁ、配慮ってやつかな

 

126,名無しの支援者

もう結婚後の心配してるんだけどこいつ……

 

127,名無しの支援者

いくら貢げば夜も見せてくれますか?

 

128,名無しの支援者

>>127

人間の誇りを思い出せ

 

129,名無しの支援者

>>127

いまのおまえこのクソ女の掌の上だぞ

 

130,名無しの支援者

薄い本常連の女主人公のリィンちゃんなのにここではヘイト稼ぎまくりでわらう

 

131,リィン・アドライナ(13Lv) :カル地方.-東アグライナ平原-

剣属性は前衛職だしヘイト稼いでなんぼなんだよ

 

132,名無しの支援者

そういう意味では言ってない

 

133,名無しの支援者

俺たちは一体なにを見せられそうになっているんだ

 

134,名無しの支援者

こいつ現実世界での被害を減らすために異世界に遺棄されたんじゃないのか




 ◇

つづけ。


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中編

 八方塞がり。

 まさにそうとしか言えないのが今の村の惨状でした。

 

 村外からの流通が止まってから間もなく一週間になります。

 その理由は単純です。

 村の流通を担う拓かれた林道に樹木の魔物、トレントが大量発生したのです。

 

 当然そんなこと、滅多にあることではありません。

 なぜなら、こまめに魔物を間引きしていればこれほどまでに異常発生することはそうそうないはずだからです。

 

 小さな村です。

 行商とて、わざわざ魔物の異常発生地帯にまで赴いて商いをすることもありません。

 村にも、塩などの必需品のストックは多少はあるけれど、いずれそれも尽きてしまうでしょう。

 

「――いきますっ!"マナバレット”!」

 

 魔力の球体を真っすぐに飛ばす"マナバレット”。

 それは、私たち魔法使いならば最初に覚えるであろう、魔法のひとつ。

 

 それは、寸分違わず私の目前に佇み、軋むような音を鳴らすトレントの幹に突き刺さりました。

 みしみし、とどこか不快な感情を呼び起こさせる音色を鳴らすソレ。

 

 ――本来ならばもっと強烈な魔法を打ち込みたい。 

 

 私とて未熟ではありますが見習いの前書きの取れた魔法使い。

 当然、それに見合った魔法を習得しています。

 だけれど、未だ習得出来ていない炎の属性の魔法で有利の取れないのが今の私。

 

 魔力を節約しなければ、逃走のための一手すら打てずに目の前の怪物に殺されてしまうでしょう。

 命あっての物種。

 回復と補助の魔法に強い適正を持つ私にはその意識が強い。

 生き意地が汚い、勇気を持てない、毅然としているようで誰より恐怖心を抱いている。

 

 瞬間、腹部に強い衝撃。

 揺れる視界。

 為すすべがあるはずもなく、跳ね飛ばされる私の身体。

 どこをどう転がったのか。馬車の通行に使われていた道の端に私は転がっていました。

 

 視線を戻せば、先ほどまで私が戦っていたトレントとは別にもう一体のトレントが。

 きっと私を跳ね飛ばしたのももう一体のトレントなのでしょう。

 

 辛うじて手放さずに済んだ樫の杖を地面に突き立て、よろけながら立ち上がりました。

 体の奥底から鈍い痛みが滲んでくるみたいでした。

 

 ――村のみんな、ごめんなさい。私は今日も敗北しました。

 

 諦観――そして、目の前の恐怖から逃れられる醜い安堵の心。

 

 私は死なない。

 樫の杖を強く握りしめる。

 

 陰鬱な感情とは別に身体の奥底から魔力が吹きあがってくる。

 それは魔法力の高くない人でも目視できるほどのものだ。

 ――戦意高揚。あるいは魔力励起。戦いの中で、私たちは一時の強化を得る。

 

 これは神が与えたもうた奇跡の力だ。なんて、私は言うつもりもありませんけど。

 だって、こんな醜い感情から放たれる魔法が奇跡のはずがないから。 

 

 私の持つ固有能力、"二重詠唱(デュアルキャスト)”。

 通常の三倍近くの魔力と引き換えに一度の詠唱で魔法の冷却時間なしで二連続で同じ魔法を発動する力。

 

 私はこの力で物理攻撃を受け止めてくれる"プロテクション”の魔法を二重で掛けて、無様に魔物へ背中を向けて逃げればいい。トレントは物理攻撃しか攻撃手段を持たないのだから。

 なんて簡単で、お手軽なんでしょう。

 

 きっと今日もまた、私は村に逃げ帰って神妙な顔で、みんなに頭を下げるのでしょう。

 『おまえはよくやってくれた』『こんなにぼろぼろになるまで戦わせてしまってすまない』なんて言葉を貰いながら。

 

 思わず乾いた笑いが漏れました。  

 樫の杖を掲げる。杖を中心に魔力が渦巻く。

 

 ――今、まさに杖を振り下ろさんとばかりに構えた、その時だった。

 

 枝葉を蠢かせ、こちらを狙っていた二体のトレントを、銀色の風が通り抜けていった。

 ずるり。と胴体の上と下でトレントがズレて、滑り落ちていく。

 

 ――両断。

 そこに在ったのはもはやトレントであったものの残骸。

 

 そして、その亡骸の背後から現れたのは白銀の輝きをその鎧に、そして髪に宿したような美しい女の子でした。

 青空をそのまま切り取ったような青い瞳と木漏れ日を浴びてきらめく銀の髪。

 

 そして、彼女の周囲をふわふわと漂う水晶玉のようなもの。

 その水晶玉はなにか虚空になにやら板のようなものを映し出していました。

 

 魔法使いの私でも見たことのない魔法でした。

 いえ、魔法道具か遺跡やダンジョンから時折発掘されるアーティファクトや、神具と呼ばれる類のものなのかもしれません。

 

 

 

◇ グロウ・ツリーラインとかいうソシャゲの女主人公(リィンちゃん)になった私の冒険譚 part98 ◇

 

563,名無しの支援者

満を持してリィンちゃん登場

 

564,名無しの支援者

命を脅かしていたトレントを斬殺して颯爽と現れる貞操を脅かすクソレズ

 

565,名無しの支援者

 

566,名無しの支援者

なんでや!カッコよかったやろ!

……いや、トレントのほうがマシかもしれんけど

 

567,名無しの支援者

フィーちゃんピンチになるまで草むらでワクテカ待機してたリィンちゃんにカッコよかった要素ある?

 

568,名無しの支援者

しかもこのクソレズときたらフィーちゃんの必殺技発動しそうになった瞬間慌てて飛び出して瞬殺しやがった

 

569,名無しの支援者

器の小さい主人公

 

570,名無しの支援者

精神的なところがどう見ても主人公というより山賊の下っ端

 

571,名無しの支援者

フィーちゃんの必殺技シーン俺見たかったのにどうしてくれんだこの無能 

 

572,名無しの支援者

俺も生でデュアルキャストみたかった

 

573,リィン・アドライナ(15Lv) :カル地方.-ラダ村林道-

私悪くなくなくなくない??

だって倒されちゃうじゃん!私、こいつらが倒された後どんな顔してのこのこ出てけばいいの?

というかフィーちゃんの最初の絆クエストのトレント討伐ってこんな危なーい!

俺が来たからにはもう安全だっ(きらっ☆)みたいな感じだったじゃんっ!うる覚えだけど

 

574,名無しの支援者

というかトレント弱すぎない?

共闘するクエストっぽいのに一撃かよ

 

575,名無しの支援者

ほんま無能

 

576,名無しの支援者

>>574

こいつ全身課金装備で事前に課金アイテムで使い切りの戦闘一回ステ+15%アップ果実食ってる

 

577,名無しの支援者

しかも本来はここ適正レベル7だぞ

 

578,名無しの支援者

用意周到すぎwwwww

 

579,名無しの支援者

根本的にこの女って勇者属性じゃないだろwww

 

580,名無しの支援者

というかチャット出しっぱなしだけど大丈夫なのこれ?

 

581,名無しの支援者

フィーちゃんこっちガン見してる

 

582,名無しの支援者

リアルのフィーミリアちゃんが僕を見てるぞ!フィーミリアちゃんが僕を見てるぞ!マジモンのフィーミリアちゃんが僕を見てるぞ!!

 

583,名無しの支援者

フィーミリア!フィーミリア!フィーミリア!うわああああああ!

 

583,名無しの支援者

ルイズコピペやめろ!

 

584,リィン・アドライナ(15Lv) :カル地方.-ラダ村林道-

ここに大正義リィンちゃんもいるぞっ☆

 

585,名無しの支援者

あっ、うん

 

586,名無しの支援者

せやね

 

587,名無しの支援者

 

588,名無しの支援者

ぺっ

 

589,名無しの支援者

 

590,名無しの支援者

すっごい塩対応で笑う

 

591,名無しの支援者

ここに塩鉱山をつくろう

 

592,名無しの支援者

中世ファンタジーだと塩は貴重品だからやっぱりリィンちゃんは英雄やな

 

593,名無しの支援者

さすリィン

 

 ◇

 

 今までに見たことのない文字列でした。どこか遠い異国の文字なのでしょうか。

 魔法使いという育ちもあって、それなりの知識を蓄えてはいるのですが、それでも見覚えのない文字列です。

 

 ふと、気づく。

 銀の髪の女の子がじっと私を見つめていました。

 

 深い深い蒼穹の瞳。

 そして、体つきは先ほどの絶技を繰り出したとは思えないほど華奢で、村の女の子と、そう変わるものではありませんでした。

 歳で言えばもしかすると私より五つぐらいは離れているのかもしれません。

 

 ……一体どれほどの因果を重ねれば、この年頃でこれほどの剣士としての高みへ至れるのか。

 もはや想像も出来ませんでした。

 

 ◇

 

620,名無しの支援者

リィンの目が獲物を狙う肉食獣のソレ

 

621,名無しの支援者

逃げろ!フィー!こいつは畜生で、しかもクソレズだ!

 

622,名無しの支援者

(アカン)

 

623,名無しの支援者

俺のフィーちゃんがピンチ

 

 ◇

 

「……"あなた”これが読めるの?」

 

 不思議な文字が流れていく投影された板を物珍し気に見ていた私に彼女はそう声を掛けてきた。

 

「う、ううん。違う。珍しいものだなって思ったの」

 

 私がそう答えると彼女はどこか安堵したような、だけれどもどこか失望を秘めているような、複雑な表情を浮かべた。

 

「どこかの国の言葉なのかな?」

 

 たぶんこの質問はしてはいけなかったのでしょう。

 

 女の子はじぃっと私の瞳をじっと、覗き込んでいた。――高い高い空の色。深い深い海の色。

 空に果てはなく、海の底には暗闇しかない。

 

「……私は、もう帰れないの」

「えっ?」

「……いいの。この文字を読める人はもうこの世界にはいないって……本当は分かってたの」

 

 ◇

 

628,名無しの支援者

この女wwwwwwww

 

629,名無しの支援者

なんなんだこいつwww

 

630,名無しの支援者

滅ぼされた国の唯一の生き残りの女の子ムーヴ

 

631,名無しの支援者

嘘を吐くことに躊躇いがない

 

632,名無しの支援者

壮大なバックボーン背負ってそう

 

633,名無しの支援者

というか日本語はこの世界で読めないって知ってたん?

 

634,名無しの支援者

日本滅ぼさないで

 

635,リィン・アドライナ(15Lv) :カル地方.-ラダ村林道-

>>633

会話は通じるけど文字がこっちの創作言語っぽくて読めない書けない

ゲーム内の鍛冶屋とかも看板がその謎言語だったから現在の私文盲なう

 

636,名無しの支援者

あの創作言語って五十音の置き換えらしいから後で拾って置いといてやるよ

 

637,名無しの支援者

まるで主人公みたいな設定背負った小物

 

638,名無しの支援者

モノホンの主人公やぞ

 

639,名無しの支援者

いまいちヌケない方のリィンちゃん

 

 ◇

 

 ……私はきっと彼女を甘く見ていたのでしょう。

 まだ親元に居るような年頃の女の子が剣一本、一太刀で魔物を斬り殺す。その壮絶さを。

 

 旅は――世界は、危険に満ち溢れている。

 場所も場所だ。ここは田舎もいいところ、道中で獣を、時に狼藉者の類も斬り捨ててきたのかもしれない。

 

 私は弱く、彼女は笑ってしまうくらい強い。それこそ怪物のように。

 ――だけど。

 

「……危ないところを助けてくれてありがとう。私の名前はフィーミリア。よければ、あなたの名前を聞かせてもらっていいですか?」

 

 少しだけ驚嘆するように瞳を瞬かせる女の子に向けて掌を差し出して、私は精一杯笑った。

 

「……わたしは、……リィン。リィン・アドライナ」

 

 おずおずと、どこか緊張した面持ちで握られる掌。

 一瞬で二体のトレントを斬り捨てとは思えない柔らかく、熱を持った掌。普通の女の子と変わりない。

 

「はい! よろしくお願いしますね。リィンちゃん!」

「……あの、……うん」

 

 言葉を詰まらせながら、なんとか、といった様子で言葉を吐き出すリィンちゃん。

 

 ◇

 

652,リィン・アドライナ(15Lv) :カル地方.-ラダ村林道-

あぁ、しゅき……あったかおてて……

おまえら今日の日付覚えとけよ

私とお嫁さんとの出会い記念日だからな

 

653,名無しの支援者

おまえはもうこっち書き込むな

 

654,名無しの支援者

絵面だけは美しい

 

655,名無しの支援者

書きこまなければ若干尊く見えないこともなかったかもしれない

 

656,名無しの支援者

フィーちゃんはやくこいつを崖から投げ落としてくれ

 

657,名無しの支援者

こいつ外面で純情ぶってるけど中身コールタールより黒いって気づいてくれフィーちゃん

 

658,名無しの支援者

言いたい放題で草

 

 ◇

 

 じっと彼女を見つめていると、恥ずかしそうに頬を赤らめて視線を逸らされた。

 あまり、人慣れしていないのか、それとも人に慣れるような生き方が出来なかったのか。

 

 木々の隙間を縫ってひとつ、大きな風が吹いて、スカートの端が揺れる。

 私のなかのなにかが大きく変わっていく予感がしました。



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後編

 白銀の疾風が舞う。

 華奢な体から繰り出される斬撃、それは斬り裂き、薙ぐ、暴力の嵐。

 

 飛翔する斬撃がトレントの群れをすべからく両断していく。

 

 そして、左右で両断された最後のトレントが崩れ落ちた。

 

 ――私たちが手も足も出なかった魔物が僅か一日にして壊滅させられた。

 それは、まるで幻のような出来事でした。

 

 私なんて、彼女の後ろで防護と身体能力アップの魔法を交互に掛け続けるだけ。

 きっと、それすらリィンちゃんには必要ない。

 もしかしたら煩わしいだけの魔法と思われていてもおかしくないかもしれません。

 

 ◇

 

23,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-ラダ村林道 最奥-

私の嫁強すぎ

防具のお陰でカスダメで抑えられてたダメージを全部防護スキルが吸ってる

これ、私が無心でレベル上げてた時が一番痛かったじゃん

 

24,名無しの支援者

もっと苦労しろ

 

25,名無しの支援者

楽するな主人公

 

26,名無しの支援者

ノーダメでモンスター斬殺するだけの女

 

27,名無しの支援者

ターン1

 行動順1:リィン:範囲攻撃(敵前衛壊滅)

 行動順2:フィー:前衛防護魔法

 行動順3:モンスター:反撃(防護魔法で無効化)

ターン2

 リィン:範囲攻撃(敵後衛壊滅)

 

-もんすたーのむれをやっつけた!-

 

ルーティーンゲーと化した異世界転移

 

28,名無しの支援者

RPGのレベル上げで百万回見た光景

 

29,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-ラダ村林道 最奥-

リィンかなーやっぱりww 自分でも思ってるんだけど周りにもリィンちゃんそのものってよく言われるwww

こないだモンスターに絡まれた時も気づいたら意識なくて周りにモンスターが三分割で倒れてたしwww

ちなみに嫁はフィーミリアに似てる(というか本人ww)

あと妹はレテちゃんwww

 

30,名無しの支援者

こいつwww

 

31,名無しの支援者

む か つ く

 

32,名無しの支援者

イキリィン

 

33,名無しの支援者

単純に腹立たしいぞこの女

 

34,名無しの支援者

嫁がフィーミリアと妹のとこ以外特に嘘言ってないのむかつくwww

 

35,名無しの支援者

意識なくて三等分っておまえレベル上げ無心でやってただけだろ

 

36,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-ラダ村林道 最奥-

>>34

そっちも時間の問題ダゾ

 

37,名無しの支援者

レテちゃんって誰?

 

38,名無しの支援者

誰でもいいからこの女黙らせろ

 

39,名無しの支援者

>>37

六人の仲間の魔本属性の女の子

赤髪強気ツンデレ

 

 ◇

 

 そんなことを、私が考えていると、しゃり、とリィンちゃんが剣を剣帯に収め、私を振り返りました。

 

「……おわり。……あの、お疲れ……フィーミリア」

 

 リィンちゃんは少しだけ恥ずかしそうに、小さくそう呟きました。

 剣を握れば一流の戦士のリィンちゃんもやっぱり剣を納めれば可愛らしい普通の女の子で、私も少しだけ微笑ましい気分になってしまったりなんて。

 

「フィーでいいですよ。私のこと、村のみんなにもそう呼ばれてるんです」

「……いいの?」

「もちろんです」

「……分かった。……フィー」

「はい。リィンちゃん」

 

 二人して名前を呼びあい、顔を見合わせて、小さく笑う。

 また少しだけ、リィンちゃんと仲良くなれた気がしました。

 

 ◇

 

69,名無しの支援者

おい、清純ぶるな

 

70,名無しの支援者

白いラベルの貼られたコールタール

 

71,名無しの支援者

赤ずきんの狼みたいなことしてやがる

 

72,※※※※※※※

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73,名無しの支援者

もうゆるして

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 information ルームの設定が変更されました

 以降、画像ファイルの投稿には管理者の承認が必要となります

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

74,名無しの支援者

えっ

 

75,名無しの支援者

なにごと

 

76,名無しの支援者

!?

 

77,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-ラダ村林道 最奥-

あっぶない

投下されてたこっちの世界の創作言語五十音置き換え表の文字を切り貼りした画像で『ふぃーにげて』って書いてあった

これだから頭の回るやつは

今までの人生で一番あせったわ

 

78,名無しの支援者

 

79,名無しの支援者

孔明がいる

 

80,名無しの支援者

ダイイングメッセージかよwww

 

81,名無しの支援者

そのダイイングメッセージ、犯人に握り潰されたぞ

 

82,名無しの支援者

イレギュラーを許さない小物の王様

 

83,名無しの支援者

盤外戦やめろwwwwww

 

84,名無しの支援者

異世界に来てから最もリィンを危機に晒した攻撃だった

 

85,名無しの支援者

実質勇者の一撃だろこれ

 

 

 

 ◇

 

 

 

 村の林道からトレントが駆除されて早三日。

 幸いなことに、魔物の残党が表れる様子もなく、今私の家に泊まっているリィンちゃんはちょっとした村の英雄として受け入れられています。

 

「そういえば、リィンちゃんはどうしてこの村に来たんですか?」

 

 食事の最中、私はずっと気になっていたことを問いかけました。

 リィンちゃんは食事の手を止め、私を見上げる。

 

「……私はこの村に用事があったの」

 

 その言葉に、私は少しだけ驚く。

 彼女は凄腕の剣士です。村の衛士に収まるような器でもないでしょう。

 この村を中継してどこかへ……?

 いえ、でもわざわざ魔物の蔓延る危険な林道を使用する理由もない気がします。

 

 少しの沈黙。

 そして、リィンちゃんは真っ直ぐに掌をかざした。

 

 その掌の先。

 リィンちゃんがかざした掌に収まるように、彼女の隣に浮かんでいた水晶玉が移動する。

 

 目の前を漂うそれを、リィンちゃんは祈るように優しく両の掌で包み込み、儚げに微笑んだ。

 

「この子が……ううん、きっと、もう会えないみんなががここまで私を導いてくれたの」

 

 ◇

 

772,名無しの支援者

フィーちゃんにげて

 

773,名無しの支援者

導いてない

 

774,名無しの支援者

むしろ早く出ていけ

 

775,名無しの支援者

なに我が物顔で同棲生活してんだこいつ

 

776,名無しの支援者

フィーちゃんに近寄るな

 

777,名無しの支援者

今までお前が俺らの忠告聞いたことが一度でもあったかよ

 

778,名無しの支援者

意味深な言葉で勝手に俺たちを殺さないで

 

779,名無しの支援者

日本と一緒に滅ぼされた設定なの俺ら?

 

 ◇

 

 リィンちゃんの祈りと一緒に水晶玉からあふれ出す勢いを増す異国の文字。

 彼女の故郷の言葉たちは、きっとかけがえのない宝物なのでしょう。

 ナビゲーションやサポートの力を持つ異国のアーティファクトかなにかなのでしょうか。

 

「……あのね」

 

 そして、リィンちゃんはそれだけを言って、佇まいを変えました。

 リィンちゃんの瞳に真剣なものが混じるのに、私は少しだけ身構える。

 

「フィー。私、確信があるの。きっと、この子が導いてくれたのはこの村じゃなくて、あなたの居る場所なんだと思う――」

 

 リィンちゃんはずるり、と腰のポーチからなにかを引き摺りだす。

 質量を無視した道具を格納する魔法道具。

 大変に高価なものだと聞きますが、彼女ほどの凄腕ともなるとこれくらいは持っていて当然なのかもしれません。

 

 ◇

 

863,名無しの支援者

でた

 

864,名無しの支援者

出しやがった

 

865,名無しの支援者

63万円装備出たwwwww

 

866,名無しの支援者

俺らのお財布の中身の主な流出先

 

867,名無しの支援者

廃課金の証

 

868,名無しの支援者

リィンちゃんが転移した初日に腱鞘炎になるまで回したアレかよwww

 

869,名無しの支援者

出るまで回して出た後も回して最後まで限界突破させた聖銀杖ブレス・オブ・フレイヤ

 

870,名無しの支援者

同じ杖五本出るまで回したやつかww

 

871,名無しの支援者

ソシャゲの闇を濃縮したような63万円杖

 

872,名無しの支援者

フィーちゃん専用武器でた

 

873,名無しの支援者

初日の自分の生死を分かつかもしれない金で狂ったようにフィーミリア専用ガチャ回してた女

 

874,名無しの支援者

死の恐怖に震えて宿屋に引きこもりながら折れそうな心で嫁ガチャ回してたか弱い女の子()だぞ

 

 ◇

 

 それは、重厚な銀の杖でした。

 その頂に美しく、幻想的ですらある、女性の彫刻が施された杖。私では、とてもではありませんが、価値を図ることは出来そうにありません。そして、なによりも驚いたのは今までに見たことのある魔杖の類が玩具に見えるほどに恐ろしく強い魔法の力をその杖が放っていたことでした。

 

「フィー」

 

 リィンちゃんに声を掛けられて、ようやく私は我に返りました。

 

「手をこちらに」

 

 リィンちゃんはそう言って銀の杖をゆっくりとこちらに差し出しました。

 

「……きっと、この子はあなたを待っていると思うの」

 

 ……なぜでしょうか。

 不思議と、その言葉は私の胸にすっと染み込んでいきました。

 これが「杖に呼ばれている」という感覚なのでしょうか。

 

 ただ無心で掌を伸ばし、私は杖の柄を握りこみました。

 

 瞬間。

 光が溢れ出した。

 それは、杖全体を包み込むように立ち上る陽炎のような輝きでした。

 

「……やっぱり。きっと、私はあなたとこの子を巡り合わせるためにここに来たのね」

 

 ◇

 

953,名無しの支援者

白々しいwwwwwwwww

 

954,名無しの支援者

>>「私はあなたとこの子を巡り合わせるためにここに来たのね」

 

おまえっ!おまえなぁッッッ!

 

955,名無しの支援者

笑いすぎてお腹痛い

 

956,名無しの支援者

ほんとこいつwwwwwこいつはwww

 

957,名無しの支援者

聖剣を勇者に授ける聖女かよお前wwwwww

 

958,名無しの支援者

なんでこの杖めっちゃ光ってんのw

 

959,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-フィーミリア邸-

>>958

キャラ専武器は最後まで限界突破させて特定キャラに装備させると光るぞ!

 

960,名無しの支援者

やっぱ分かっててやってんのかよ!

 

961,名無しの支援者

光るぞ!じゃないだろおまえwwwwww

 

962,名無しの支援者

ずっとプレイしてたけど専武器光るの俺知らなかった

 

963,名無しの支援者

やっぱお前って悪魔の子だわ

 

964,名無しの支援者

>>962

殆ど廃課金の証みたいなもんだから知らなくても全然無理はない

 

 ◇

 

 私の手元で未だ輝きを放つ銀杖。

 未だ呆けている私を見て、リィンちゃんは再び口を開きました。

 

「……あのね、フィー」

 

 なぜだか少しだけ寂しそうなリィンちゃんによって繰り出される言葉。

 その言葉によって私は今、激しく荒れ狂う大いなる運命の奔流の傍に立っていることを思い知らされるのでした。




 ◇
次回、エピローグ(予定)


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エピローグ

「私ね、明後日には村を出てまた、旅に戻ろうと思うの」

 

 これは錯覚なのか、もしかしたら私の情けない願望も入っていたのかもしれません。

 リィンちゃんの表情は、少しだけぎこちない微笑みに見えました。

 

 ◇

 

981,名無しの支援者

はよ出てけ

 

982,名無しの支援者

自首しにいくのか

 

983,名無しの支援者

二度と戻ってくんな

 

984,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-フィーミリアの家-

なんか私に対するあたりが強くない?

 

985,名無しの支援者

そんなことないゾ

 

986,名無しの支援者

気のせい

 

987,名無しの支援者

気になる女の子にちょっかいかけちゃうあれだぞ

 

988,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-フィーミリアの家-

なんだ、そっかぁ

よし、サインあげよっか?

 

990,名無しの支援者

いらねぇwwwww

 

991,名無しの支援者

マジでいらないwwwwww

 

992,名無しの支援者

電子署名かな?

 

993,名無しの支援者

なんか一周回ってクセになってきた

 

994,名無しの支援者

お前のそういうところさぁwww

 

 ◇

 

「……行き、先は、……行き先は、決まっているんですか?」

 

 喉にへばりつくような、なにかの重みを感じて、言葉に詰まりそうになりながら、ようやく私は言葉を絞り出しました。

 

「大丈夫。……行き先はいつだってこの子が教えてくれるもの」

 

 リィンちゃんは水晶玉を一瞥し、小さく笑いました。

 

 ◇

 

3,名無しの支援者

まぁ、地獄行きだろ

 

4,名無しの支援者

唐突な地獄行きで草生える

 

5,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-フィーミリアの家-

私を裁く神がこの世界のどこにいるというのかね

 

6,名無しの支援者

裏ボスみたいなこと言い始めたぞこいつwww

 

7,名無しの支援者

異世界という庭園に投げ込まれた一粒のミントの種みたいな女

 

 ◇

 

「そ、それでね、フィー!」

 

 食事を終え、食器を片付けたリィンちゃんは、どこか気色ばんだ様子で、やや食い気味に声をあげました。

 

「もしも、……良かったらこれから私と、……私と一緒に……」

 

 そこまで言いかけて、言葉を止めました。

 

「……ううん。……ごめんなさい、フィー。……なんでもない、なんでもないの。―――また……繰り返すわけには……いかないものね」

 

 顔を俯かせてリィンちゃんは小さな呟きを漏らしました。

 

「リィンちゃん……」

 

 表情こそ窺えません。

 ですけど、僅かに届いた言葉の残滓。

 それが、彼女の心に深々と突き刺さったままの過去の棘が、未だにその心から血を流させ続けているのだということを確かに知らせてくれました。

 

 一体この歳でどれほどのものを背負えばこれほどまでに……。

 

 気づけば私は両の拳を強く握りしめていました。

 

 ◇

 

36,名無しの支援者

おいふざけんなwwwww

 

37,名無しの支援者

これ以上ないくらい全力で気を惹こうとしてるw

 

38,名無しの支援者

渾身のかまってちゃんムーヴ

 

39,名無しの支援者

過去に仲間を喪ったトラウマ(大嘘)

 

40,名無しの支援者

匂わせてるだけだからセーフ

 

41,名無しの支援者

孤独な戦士リィンちゃん

そのうちもう誰も傷つけたくないのとか言い出しそう

 

42,名無しの支援者

フィーちゃんがめっちゃ痛ましいものを見る目でリィンを見てるwww

 

43,名無しの支援者

騙されないでくれ

 

44,名無しの支援者

というかフィー仲間にするのって本当にこんなイベント経由すんの?

 

45,名無しの支援者

おまえが繰り返してるのは悪行だけだろ

 

46,名無しの支援者

カルマ値マイナスに振り切ってる

 

47,名無しの支援者

>>44

ゲームだと

フィーVSトレント戦、リィン(又は男主人公)乱入

   ↓

フィーと共にラダ村へ

   ↓

おつかいクエスト消化(魔物を統率する強力な魔物の情報入手)

   ↓

フィーと共に残りのトレントの討滅に林道奥地へ

   ↓

トレントを統率する強力な魔物のエルダートレント(林道奥地エリアボス)を見つけて討伐

   ↓

リィン(又は男主人公)が勧誘してフィーがパーティー入り

 

48,名無しの支援者

あれ、あの討伐ってエルダートレントなんてモンスター居たっけ?

 

49,名無しの支援者

>>48

適正レベルの二倍のレベルに課金装備とステアップ課金バフ掛けたリィンの範囲攻撃で取り巻きと一緒に一撃で溶けた

 

50,名無しの支援者

>>49

 

51,名無しの支援者

>>49

ひでぇ

 

52,名無しの支援者

それじゃ分かんねーよwww

 

52,名無しの支援者

レベルと現金の暴力

 

53,名無しの支援者

札束で斬り殺す

 

 ◇

 

「……フィー。いきなり変なことを言ってごめんなさい。私、今日は先に休ませてもらうわね」

 

 明らかに無理をしていると分かるようなぎこちのない笑みを浮かべたリィンちゃんはゆっくりと椅子から立ち上がり、寝室に行くために歩き出しました。

 

 ――彼女が一体なにを言おうとしたのか。

 それが分からないほど、私も鈍いわけではないのでした。

 

 ◇

 

68,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-フィーミリアの家-

おねがいだ、フィー。わたしをひきとめてくれ

 

69,名無しの支援者

変な笑い方しちゃってなんか内臓が痛い

 

70,名無しの支援者

なんでフィー相手に少女漫画みたいな展開期待してんのwww

 

71,名無しの支援者

ヒロイン面するな

 

72,名無しの支援者

敗因:なにやってんだ!追いかけてやれよ!役のサブキャラが居ない

 

73,名無しの支援者

というかこいつ追いかけろとか絶対言いたくないwwww

 

74,名無しの支援者

こいつを追いかけろと諭すとか半分犯罪教唆だろ

 

 

 ◇

 

 

 

 私に背を向けて、遠ざかっていく小さな背中。

 その背中に私は声を掛けようとして―――、結局、私は言葉を掛けることが出来ませんでした。

 

 窓越しに、夜空を見あげる。

 

 ――夜。

 それは暗闇と魔物の支配する時間。

 

 同時に、最も魔性の高まる時間帯でもあります。

 

 狂暴性を増した夜の魔物は、通常の魔物よりもより品質が高く、珍しい素材が手に入りやすくなり、凄腕の戦士や魔法使いとなると、この時間帯も、また冒険の時間となるらしいのですが。今の私では、とてもではありませんが、想像も出来ません。

 

 ――結局のところ、恐ろしくてたまらないのです。

 他でもない、自分のことです。分かっていました。

 魔物が、悪意が、魔性の蔓延る暗闇が。恐くてたまらない。

 

 結局のところ、私は臆病者で、声をあげることが出来なかったんです。

 

 だけれど、きっと今なんだ。

 私は変わらなくちゃいけない。

 

 ――強くなりたい。

 

 戦士が、狩人が、斥候が、魔法使いが。

 戦いに携わるあらゆる者が抱く当たり前の欲求。

 それは、果てのない向上心。

 

 私に足りなかったもの、今の私の胸の中を渦巻いているもの。

 

 気が遠くなるほど昔の故事と無数の冒険譚の中で飽きるほどに見て、聞いた言葉。

 過ちだと分かっていても、それでも手を伸ばしてしまう、力という名の禁断の果実。

 

 ――過ぎた力はきっとこの身を焼き、滅ぼすのでしょう。

 

 机の上に横たわる荘厳な銀の杖。

 

「それでも、私は――」

 

 掌を伸ばし、それを掴み取り、輝きを放ちだしたそれを胸に抱く。

 

「きっといつか、あなたに見合う使い手になってみせるから。だから、お願い。今だけは力を貸して」

 

 きっとそう思いたい私の思い込みなのでしょう。

 だけれど、少しだけ、ほんの少しだけ。

 

「……ありがとう」

 

 銀杖がその煌々とした焔のような輝きを増して、応えてくれたような、そんな気がするのです。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 リィンちゃんの旅立ちの日。

 

 幸いにもこの日の空は快晴で、柔らかな風の吹く日になりました。

 収納の魔法道具らしきものを持つリィンちゃんは目立った荷を持つ必要もなく、背中に一本の剣を吊っているだけの軽装……とはいえ、背丈の小さな彼女では剣一本だけでもいっぱいいっぱいに見えます。

 

「リィンちゃん。この杖はお返しします」

 

 私が銀杖を差し出すと、リィンちゃんは目を丸くしました。

 

 ◇

 

699,名無しの支援者

リィンちゃんフラれたwwwww

 

700,名無しの支援者

ざまぁwwwざまぁwwwwww

 

701,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-フィーミリアの家-

ああああああああああああああああああああ

 

702,名無しの支援者

じきにここも大草原に呑まれる

 

703,名無しの支援者

ごはんおいしい

 

 ◇

 

「……必要ない。元々あなたが持つべきものよ」

 

 困ったように、眉尻を顰めてそう言うリィンちゃん。

 彼女がそう言うことまで、私はどこかで分かっていました。

 なにせ私は、ズルい大人なのですから。

 

「そうですか。でも、困りましたね。私、お友達相手に一方的な大きな貰いものはしたくないんです。ですから、……そうですね。この杖の価値の分だけ、何年掛かるか分かりませんけど、私のことを旅に連れていって、使って貰えませんか?」

 

 ◇

 

783,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-フィーミリアの家-

わたしのえっちなよめ

 

784,名無しの支援者

これはえっち

 

785,名無しの支援者

エロい

 

786,名無しの支援者

公式淫ピ

 

787,名無しの支援者

これもしかしておまえがかつての仲間を喪った孤独な戦士ムーヴしたせいで仲間加入展開が別の派生してね?

 

788,名無しの支援者

リィンと同じ感想に至ってしまったことが無性に悲しい

 

789,名無しの支援者

>>787

あぁ、これリィンが気負わないように仲間じゃなくて同行者の位置から始めようとしてんのか

 

790,名無しの支援者

めっちゃいい人やん

 

791,名無しの支援者

善人すぎて胸が痛い

 

792,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-フィーミリアの家-

>>789

どうしよう

ちょっと胸がちくちくする

 

793,名無しの支援者

 

794,名無しの支援者

リィンのかつて人間だった頃の良心の残滓が反応してる

 

795,名無しの支援者

本能で光を求めてた悪魔の子がちょっと浄化された

 

796,名無しの支援者

これもしかしてリィンの悪性を浄化させるための旅なのでは

 

797,名無しの支援者

リィンの良心とかキウイとかダチョウにとっての翼みたいなものではないのか

 

 ◇

 

 リィンちゃんは、ぽかん、と少しだけ呆けたような可愛らしい顔をしています。

 あまり見ない表情で、微笑ましい気分になります。

 

「……本当に、いいの?」

 

 動揺に揺れる、綺麗な蒼い瞳。

 

「私、きっとリィンちゃんを守れるくらいに強くなってみせますから」

 

 私は少しだけかがんで、リィンちゃんをぎゅっと抱きしめます。

 その体は私が思っていたよりも、ずっと華奢で、硝子細工のような繊細さすら感じるものでした。

 

「フィー……、ありがとう」

 

 胸元から、どこか照れ臭そうな調子のリィンちゃんの声が聞こえる。

 

 ――そう。私はこの旅の中でリィンちゃんを守れるくらい強くなってみせる。

 

 私の、いえ、私たちの物語が、今始まろうとしていました。

 

 ◇

 

981,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-フィーミリアの家-

おっぱい

 

982,名無しの支援者

おっぱい

 

983,名無しの支援者

おっぱい

 

984,名無しの支援者

おっぱい

 

985,名無しの支援者

一瞬で色欲に呑まれた良心

 

986,名無しの支援者

儚かった善性の欠片

 

987,名無しの支援者

しってた

 

988,リィン・アドライナ(16Lv) :カル地方.-フィーミリアの家-

そうだ

フィーミリアに着て欲しいアバターか装備案募集します

ちなみにイベント産以外のアバターやガチャ産装備はコンプリートしてます

私に貢いでからご提案どうぞ

 

989,名無しの支援者

うおおおおおおおおお!!

 

990,名無しの支援者

さすリィン

 

991,名無しの支援者

お前ならやってくれると思ってた

 

992,名無しの支援者

紛うことなき美少女

 

993,名無しの支援者

クソレズ愛してる

 

994,名無しの支援者

大 正 義 主 人 公

 

995,名無しの支援者

これは主人公の器

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 information ルームの設定が変更されました

 以降、ルーム自動作成機能によって作成されるルーム名は以下に変更されます

 

グロウ・ツリーラインとかいうソシャゲの女主人公(リィンちゃん)になった私が魔本のレテちゃんをお迎えしにいくまで partXXX

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

996,名無しの支援者

あっ(察し)

 

997,名無しの支援者

えっ

 

998,名無しの支援者

犯 行 予 告

 

999,名無しの支援者

たのむレテちゃんはたすけて

 

1000,名無しの支援者

もうゆるして

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

1001:このルームは書き込み上限を超えました

 

…………新規ルームが作成されました

20秒後に新規ルームに自動で移動します

――――――――――――――――――――――――――――――




 ◇





 ◇

 あとがき

ここまで笑いながら書いた小説は初めてでした。
本当に楽しかったです。ここまでご覧頂いて、本当にありがとうございました。


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番外
リィンのマイルーム/(略)女主人公ちゃんはキャラソンが歌える


 ふと、真夜中に目が覚めました。

 そして、眠り直そうとして、どこか身の内からつつかれるような違和感を感じました。

 

 旅人にとって、夜は必ずしも安らぎの時間であるとは限りません。

 少し身の寄せ方を間違えれば、身体の熱を奪われ、獣や魔物に肉を貪られてしまいます。

 

 とはいえ、実際の私たちの旅、特に野営の類に関しては、とある事情により、その過酷さからは遠いところにありました。

 

 リィンちゃんと旅に出てかれこれ、一週間ほどになります。

 年上として、身勝手ながらも姉代わりとして、彼女を守ると自らに定めて一週間なのです。 

 

 私が先ほどまで眠りに就いていた、少し大きめのふかふかのベッド。

 

 周りを見渡せば金属の板で出来た棚に、木製の本棚、赤、青、緑と色彩豊かな椅子と、全体的に見て、どこか統一性のない家具たち。

 

 あとは、全くもって着た覚えのない服を着た私が薄い紙に描かれ、壁に貼り付けられた非常に精工な絵画なども最初はありました(*1)。リィンちゃんはなぜか慌てて片付けていましたが、ちょっと不思議な代物でした。いつ描かれたのでしょう。

 

 あと……この部屋にあるのは――そうですね。

 

 どこからか流れ出す音楽と共に狂ったように踊り続ける恐ろしい花の怪物(いつの日か突然歩き出したりしないことを密かに祈っています)。

 

 定期的に「ましゅまろ」なる甘味を上空に勢いよく吐き出し続ける怪しげな魔法道具(こわくてちょっと口に含む勇気が出ませんでした……)。

 

 なぜか中央の無人の机に向けて四方八方から大量の霧を浴びせかける機械群(リィンちゃん曰くそういう異国のお祈りらしいです)。

 

 あとは、個人的にとても好きなのですが、部屋の片隅でかなりのスペースを占領している、とても巨大な鉄のお船の模型です。私は山育ちで、たまに町に降りる程度なため、潜在的に海への憧れがあって、このお船を見て、旅の最中でいつか広大な海を眺めることを密かな夢としています。田舎娘みたいに思われそうで、恥ずかしくて誰かに話すわけでもないのですけれど。

 

 そんな事情もあり、ぼうっとこのお船を眺めていることがあるのですが、時折リィンちゃんもこのお船を眺めて、「これも都合よく『ギジンカ』しないかなぁ」などと言っているので、言葉の意味は分かりませんが、なんとなく親近感を抱いてしまいます。ちょっと……いいえ、結構嬉しいです。こういうところから少しずつでも仲良くなれればな、と思います。

 

 お船。お船。いつか、この鉄のお船の本物も是非眺め―――。

 

 ……脱線しました。

 

 いえ、そうではなく、リィンちゃんが『まいるぅむ』と呼んでいるこの場所では、天幕も焚火も、獣除けの香も必要ない快適な空間を保っています。

 

 しかし、恐ろしいことにかつてはこの『まいるぅむ』という扉の形の魔法道具はもっと強い力を持っていたらしく、『えすでぃー』の姿でつまんだりくるくる回したり出来たらしいのですが、お恥ずかしい話、魔法使いなのに私ではお話が上手く飲み込めませんでした。

 

 これも、私自身が、学び続けることから逃げたツケを払っているのかもしれません。

 これからの行動で取り戻していかなくてはなりませんね。

 

 今更になって、違和感の原因に気づきました。

 

 ―――隣で寝ていたはずのリィンちゃんが居ませんでした。

 

 ずっと一人で旅をしていたリィンちゃんですから、当然ベッドをひとつしか持ち合わせていない訳で(*2)、いえ、まぁ、普通は旅をしていて、ベッドなんて持ち合わせている訳がないのですけれど。それは、それとして。私も最初は部屋の隅で持ち合わせていた毛布にくるまっていようと思っていたのですが、わざわざ気を効かせてベッドのスペースを分けてくれたリィンちゃん。

 

 彼女の姿がどこにも見当たりませんでした。

 

 部屋に灯りを灯すも、その姿はありません。

 

 光に反応したのか、例の花の怪物が軽快な音楽を奏でながら踊り出し、怪しげな魔法道具が、また天井めがけてまたひとつぽん、と『ましゅまろ』を吐き出しています。つまりは平常運転です。

 

 ……となると、外に行ってしまったのでしょうか。

 私は、立てかけてあった白銀の杖を手に取り、扉の外へと向かいました。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 人の営みから少し外れた小高い丘。

 平時ならば、旅人や、狩人、採集に来た村人などの姿もちらほら見れるであろうこの場所も、日が落ちた後はどこかうすら寒いものを感じさせるものへと、姿へと変えます。

 

 私が小さく杖を掲げ、灯りの魔法を唱えようとするのを先んじるように、杖から燃え上がるような陽炎を纏った光が迸り、周囲を明るく照らしました。……本当に、私には勿体ない、優しく、賢い杖です。

 

 探索の基本として、夜のさざめきに耳を凝らすと、小さな歌声が聞こえてくるのが分かります。

 人を惑わす類の魔物でなければ、まずリィンちゃんでしょう。

 私は、そうあたりを付けて歩き出しました。

 

 歩みを進めると、傍らにランタンを置いたまま、丘の先端に腰掛けているリィンちゃんの姿が見えました。

 

 ここまで来ると、少しだけぎこちない様子の歌声もはっきりと聞こえます。

 浮遊する水晶が光る窓を出し、リィンちゃんはそれに、時折ちらちらと視線をやりながらも歌を紡いでいます。

 

 

 

 

 

◇ グロウ・ツリーラインとかいうソシャゲの女主人公(リィンちゃん)になった私が真夜中に自分のキャラソンを熱唱する part174 ◇

 

 ◇

 

77,名無しの支援者

真夜中に出してて許される歌声じゃない

 

78,名無しの支援者

リィンちゃんェ……

 

79,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

……おかしい

なぜ私の激うまキャラソンが不評なのか

 

80,名無しの支援者

そもそも致命的に音ハズしてんだろ

 

81,名無しの支援者

出そうとしてたお布施ひっこめたわ

 

82,名無しの支援者

そもそもフィーちゃん居ない時にお前見てても心が満たされない

 

83,名無しの支援者

しれっとフィーちゃんと同じベッドで寝てんじゃねーぞクソレズ

 

84,名無しの支援者

むしろ延々とフィーちゃんの寝顔配信しろ

 

85,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

>>83

正直、時々辛抱たまらなくなる時あるよね

 

86,名無しの支援者

やめて……フィーちゃんを解放して……

 

84,名無しの支援者

生々しい話やめろ!

 

85,名無しの支援者

そもそもあのマイルームのセンス見た時から正直嫌な予感はしてた

 

86,名無しの支援者

三次元であのいかれた部屋見ると頭おかしくなるよね

 

87,名無しの支援者

とりあえずあの部屋の隅のくそでか戦艦模型は片付けろ

世界観こわれる

 

88,名無しの支援者

もしかして、歌とかじゃなくて芸術関連のスキルが軒並み死滅してるのでは

 

89,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

>>87

戦艦じゃないよ

軽巡洋艦だよ

 

90,名無しの支援者

あれを戦艦と思うとかほんまにわか(笑)

 

91,名無しの支援者

にわか(笑)

 

92,名無しの支援者

ああああ゛あぁぁ!

戦艦だろうと軽巡洋艦だろうと宇宙戦艦だろうとなんでもいいだろうが!!!

 

93,名無しの支援者

なんか激おこで笑う

 

94,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

>>92

もう真夜中なんだからもうちょっと落ち着こうよ

あんま興奮すると眠れなくなるよ

 

96,名無しの支援者

真夜中に熱唱してるやつがなんか言ってるwww

 

97,名無しの支援者

おい、後ろでフィーちゃん見てるぞ

居ないから心配になって探しに来てくれたんじゃね

 

98,名無しの支援者

おまえ、わかってて煽って遊んでるだろw

 

99,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

>>97

……ほんと?

ちょっと今から本気の本気で歌うからキミたち私の声優譲りの声帯(文字通り)の力に萌えていいぞ

力(日本円)・容姿(イラストレーター)・声帯(声優)の三種の神器を備えたミラクルヒロインだぞ

 

100,名無しの支援者

>力(日本円)

これはなんなのwwwww

 

101,名無しの支援者

人気声優から略奪した声帯を我が物顔で誇れる女

 

102,名無しの支援者

>>100

我らが誇る汚れすぎている系主人公やぞ

 

103,名無しの支援者

親が見てるから恰好付けたくて死ぬ気で走る運動会の子供みたいで笑う

 

104,名無しの支援者

根底に褒められたいって欲求があるからかもしれんな

 

105,名無しの支援者

もしかしてリィンってかわいいのでは?

 

106,名無しの支援者

>>105

ははっ(目逸らし)

 

107,名無しの支援者

>>105

ナイスジョーク

 

107,名無しの支援者

>>105

一晩寝れば正気に戻るから大丈夫だよ!

 

108,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

……みんな私のことなんだと思ってるの?

 

109,名無しの支援者

リィンちゃんはリィンちゃんだろ(すっとぼけ)

 

110,名無しの支援者

悪魔の子

 

111,名無しの支援者

たった一ヶ月ほどでグロインの薄い本市場をGLに塗り替えた女

 

112,名無しの支援者

人類が七つの大罪コンプガチャをコンプしたことによって異世界に排出された女

 

113,名無しの支援者

>>112

異世界ちゃん「あ、あのっ!わたし、特に関係ないのに意味もなく割りを食ってませんか?」

 

114,名無しの支援者

特に理由のない社会不適合者搬入が異世界ちゃんを襲う――!

 

115,名無しの支援者

異世界ちゃんの日常

 

 

 

 ◇

 

 リィンちゃんの背後でその歌声に静かに耳を傾けること十分ほどでしょうか。

 歌の終わりから少し経ってから、私はぱちぱち、と小さく手を叩きます。

 

 たどたどしく、どこかズレた音色。

 だけれども、銀の髪を夜風にたなびかせながら、彼女が真剣に歌う姿はどこか幻想的で、高貴な姿にすら見えました。

 

 メロディーに至っては、私が今まで聞いたものや、歌ったことのあるものとは大きくかけ離れた異郷の音楽を彷彿とさせるものでした。そして、事実、そうなのかもしれません。遠い遠い故郷。もう、二度と届かない場所への望郷の想いの秘められた歌。

 

「……ふぃっ、フィー!? さっきの、聞いていたの……?」

 

 ◇

 

139,名無しの支援者

丁度今気づきました感出すな

 

140,名無しの支援者

声帯の持ち腐れ

 

141,名無しの支援者

心の内のドヤ顔が透けて見える

 

 ◇

 

「ふふ、ごめんなさい。でも、リィンちゃんもダメですよ? ……リィンちゃんが強いのは私も知っていますけど、それでも真夜中にお散歩なんて……私、心配になっちゃいます」

「……それは、ごめんなさい」

 

 気まずそうに視線をリィンちゃん。

 気恥ずかしさと、私が黙って覗いていたことに対する、未だ渦巻いてる不満の感情を混ぜ合わせたみたいな顔をしています。

 

 リィンちゃんの隣に腰掛け、丘の上から眼下に広がる闇を見据えます。

 目を凝らせば、遠くに微かに街の灯りが見えました。

 明日は街の宿屋に泊まれるかもしれません。

 

 気づけば夜風にすっかりと、眠気を吹き飛ばれていました。

 ……だからでしょうか。

 

「リィンちゃん。もしよろしければリィンちゃんの知っている歌を教えてくれませんか? せっかくですから、私の知っている歌と交換しましょう」

 

 この旅の中でリィンちゃんと良かったことも、悪かったことも、沢山のことを経験して、共有して。

 

 最後に楽しい旅だった。

 そう笑えるように過ごせたらいい。

 

 だから私は今、眼下に広がる暗闇を払うように、唄声を響かせました。

 強く。強く。私の心に深く、刻みつけるように。

 

 

 

 ◇

 

435,名無しの支援者

入金しました

 

436,名無しの支援者

入金した

 

437,名無しの支援者

送った

 

438,名無しの支援者

今夜は悪夢かと思ったけど案外ぐっすり眠れそう

 

439,名無しの支援者

さすフィー

 

440,名無しの支援者

フィーちゃんが偽物と本物の違いを分からせてくれた

 

441,名無しの支援者

歌詞覚えてすぐとは思えん

 

442,名無しの支援者

>>441

というか設定資料集だと杖属性の魔法使いは来歴が森司祭(ドルイド)とか吟遊詩人とかで潜在的に芸能色強いらしい

体系化して知性と知識で扱うようになったのが杖属性より近代寄りの魔本属性なんだと

 

441,名無しの支援者

自分のキャラソンだとやっぱクッソうめぇなフィーちゃん

 

442,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

なんでぇっ!

なんでさぁっ!!

私の時はむしろ聞いてやったからむしろ金寄越せとかみんな言ってたじゃんっ!

 

443,名無しの支援者

今回は相手が悪い

 

444,名無しの支援者

お前だって目の前でフィーが自分の好きな曲歌ってくれたら貢ぐだろ

 

445,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

>>444

貢ぐわ

 

446,名無しの支援者

無駄に潔い

 

447,名無しの支援者

自分の欲望に正直

まぁ、俺も貢ぐんですけど

 

448,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

なんかもう、むらむらするから今日はもう帰ってフィーの胸元に顔うずめながら寝ます

 

449,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

あ、ごめんミス

 

450,リィン・アドライナ(23Lv) :イドル地方.-フィトスの丘-

×むらむら 〇もやもや

 

451,名無しの支援者

そこ訂正するならフィーの胸元うんぬんも訂正しろ

 

452,名無しの支援者

ふざけんな

 

453,名無しの支援者

はやくこいつなんとかしてくれ




 ◇


 ◇
(*1)キャラクタースキンが増えるとなぜかポスターがおまけで貰える伝統
(*2)むしろ、家具ガチャダブりのベッドその他諸々で溢れてニトリのカタログみたいになってる
 ◇


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ソシャゲ異世界主人公の仲間その一になったけどいつになっても主人公が迎えにこないんだけど!

 剣と魔法のファンタジーを夢見たことがある人は多いと思う。

 

 男性女性問わず、王子様とお姫様のラブロマンスとか、泥臭い冒険活劇とか、レベルをあげてスキルで殴るのでも、延々と錬金窯掻き交ぜて「できったー!」とかやるのでもいい。

 

 こちとら普通の男子高校生だ。

 密かに夢を膨らませるくらいは許してほしいものだ。

 

 話は変わるのだが、グロウ・ツリーラインというアプリゲームがある。

 

 世間ではソシャゲとか現行ゲーム業界の破壊者とか散々に言われてるジャンルのゲームではある。だが、俺たちのような学生にとって元手ゼロで始められる(結局カモになるけど)このジャンルのゲームはまぁ、流行る。

 

 その、グロインとかいう割りとひでー略称のゲームなのだが、昨今のキャラクター課金ゲームとは少し外れた装備課金型のゲームだった。全体攻撃とかステータスバフとか様々なスキルが付与された武器防具を使い分けて遊ぶゲームだ。

 

 主人公の少年、カーネル(女主人公だとリィン)とアプデとかでなんだかんだ増えた今のところ六人の仲間と共に地底世界へ、天空城へと、過去の荒廃世界へと繰り出す硬派なファンタジーだった。

 

 『剣』『槍』『杖』『盾』『魔本』『暗器』の六つの武器属性があり、前半の三つ『剣』『槍』『杖』は初期三属性と呼ばれ、残りの属性は対応キャラクターのラフ画だけ公開され、主人公のみの取得可能スキルとして公開されてから、徐々に仲間キャラクターとして実装されていった歴史があるらしい。そのうち、まだ武器属性ごと増えるかもしんないけど。……ソシャゲの宿命である。

 

 まぁ、俺は初期のプレイヤーじゃないからあんまり詳しくないんだけど。初期三属性の紅一点である『杖』のフィーミリアとかはエイプリルフールにはロリ化スキンが配布され、冬にはミニスカサンタやら、ファンタジー世界なのになぜかどてら着せてこたつに突っ込まれてるログイン画面の一枚絵にされ、夏には水着でおっぱいおっぱいされていたらしい。

 

 『魔本』のレテと『暗器』のナタリーの十代女の子勢が実装されてからは、フィーミリアの運営の玩具具合も鳴りを潜めたが、古参勢は愛着でもあるのか、フィーミリア大好きなのがなんか多いけどよくわかんね。特段歳上趣味もなかったから、フィーミリアかレテかって言ったらツンデレテ派で、フィーミリアは結構放置してたし。というか、フィーミリアの話よりも俺の話である。

 

 そう、俺こと、クロース・ガーランドの話である。

 朝起きたら、知らない別人になっていた。

 いや、知っている、知ってはいるけど。そういう『知っている』ではなかった。

 

 クロース・ガーランド。

 

 グロウ・ツリーラインにおいて、初期三属性の『剣』の属性を司る仲間キャラクターの一人であった。歳は二十二で、黒髪黒目でガタイのいい、寡黙なイケメン剣士である。

 

 ……お気づきだろうか。

 そう、ド田舎の男子高校生だった俺は一気に老けたのだ。

 なんということをしてくれやがったのでしょう。

 

 こういうのってお約束的に「全盛期の肉体で!」とか「私、若返ってる!」とか「わしかわいい」的な感じでキャラクリしてくれるのではないのか。

 

 本来ならば、この肉体に宿っていたクロースの人生を奪ってしまったのでは、とか葛藤するのが良識ある人間っぽいのだが、別にこちとら転生トラックに轢かれたわけでもなく、TS金髪幼女になにがなんでも崇拝されたいという度し難い性癖の存在Xに会った訳でもなく、別にサービス終了最終日までグロインにログインしていた訳でもないのだ。そもそも終わってないし。

 

 つまりは、死んだつもりはさらさらないので向こうで普通に肉体は生活している疑惑まである。泡沫の夢として始末をつけてもよいのでは。ということだ。明日覚めるかもしれない夢だ。よし、理論武装完了。

 

 色々と理由をつけたが、結局のところ、俺は未知の世界の魅力に抗えなかった。

 それに尽きるだろう。

 

「クロース!」

 

 イドル地方、サルティナの街。

 より正確に言えば、グロイン内では『イドル地方 サルティナの街.-西の館-』とかMAP表記されていたのがこの場所である。

 

 身も蓋もない話をしてしまえば、でかい館のテンプレートというやつで、ゲーム内において、『なんかこのパーツの家、どっかで見たぞ』みたいなゲームのグラフィック容量の削減の犠牲に使いまわされてる邸宅その一である。

 

 まぁ、実際のところ、細部は違うだろうし、この俺にとってのリアルとなったサルティナの街はゲーム内みたいに狭い町でもないが、ところどころ目印みたいにゲーム内にもあった建物が見えるので、街の中で迷子になった時なんかは便利だったりする。俺はこっちの世界の土地感ないし。

 

「聞いているのですか? クロース!」

 

 そして、ここからが大事なのだが、俺こと、クロースはカーネルの六人の仲間のうち一人である。クロースに出会い、仲間にする難易度は非常に低い。なぜなら『剣』の仲間であるクロースは初期実装のキャラクターだからだ。仲間にする難易度自体が非常に低い。

 

「はい。なんでしょうかお嬢様」

 

 クロースは寡黙であり、忍耐強い。

 その点で無暗に他人の不興を買わない流浪の剣士である彼は、甘やかされて育った令嬢のクソ幼女にコキ使われ、あちらでおつかい、こちらで討伐と、振り回されながらも雇われ剣士として、この街で生活の糧を得ている。

 偶然出会った主人公一行を巻き込んでクソ幼女にコキ使われたあげくに結局放逐され、ならば、と主人公に合流し、仲間になる。それがクロース・ガーランドの初期ストーリーラインだ。

 

 俺は木剣を素振りする腕を止め、視線をやる。

 そこにいるのは輝くばかりの金の髪を肩まで伸ばし、青い瞳の整った顔立ちの幼い女の子。

 しかし、彼女はむっつりとした顔をして、不機嫌なオーラを振りまいており、半ば睨むように俺を見つめている。

 

 そして、少しばかりの沈黙を挟んでから、彼女はようやく口を開いた。

 

「この街の街道を東に行った先にある洞窟型の迷宮の深層はたいそう美しいと聞くわ。一度、私も見てみたいものね」

「アホか、そんなところ行ったら死ぬわ」

「……言葉に気を付けなさい」

 

 あっ、ヤッベ。素が出た。

 

「お死にになりますお嬢様」

 

 キリリ、と表情を引き締めて一言。

 これで誰がどう見てもクロース・ガーランド。イケメン剣士ですよ! イケメン剣士!

 だというのに、我がフロイラインは額に青筋を浮かべて、口の端をぴくぴくさせてらっしゃる。

 

 この幼女、未だ歳の頃十にも届かないというのに、なんでこんなに怒ってばかりなのか。

 卒業した小学校中学校が、俺の卒業と同時に廃校になるようなド田舎のクソガキだった俺には最近の子どもはよく分からん。必然的にみんな幼馴染だし。ロマンもクソもないな。

 

 というか、サルティナの東の洞窟ダンジョンってあれだろ。地神の祭壇。

 

 装備素材用のダンジョンで、浅い層だと雑魚のみだけど、底がめっちゃ深くて最深層だとゴーレム系のボスが湧くし、製作装備でPT三人レベル60は欲しい。

 

 多分、この不機嫌幼女が綺麗って言ってるのは全30階層のうち、15層から20層までの水晶エリアのことだと思う。

 エリア全体が色のついた水晶でキラキラしてて、採掘すると水晶装備っていう、使い勝手のいい無属性攻撃スキルのついた、中堅くらいの製作装備が作れたりする。そこまででも俺だけのソロだと、レベル35くらいは要ると思う。

 

「……ふぅ。つまらないわね。迷宮の奥底に私を捨てて見せるような気概はないのかしら」

 

 溜息を吐く幼女。

 すげぇな、こいつ、この歳で人生に飽き飽きしてらっしゃるぞ。

 俺なんて今、人生で一番わくわくしているというのに。

 

「そんな暇なんすか?」

「次にその言葉遣いで喋ったらぶっ飛ばすわよ」

 

 フロイラインこわい(震え声)。

 

 クロースが俺になったせいで、日に日に、お嬢様が不機嫌令嬢を通り越して粗暴で粗野路線になっていってる気がする。

 まぁ、いずれ俺はこの子に放逐されるんだからいいっちゃいいんだけど。

 

 そういうところ、やっぱり俺じゃクロースになれないなって感じがある。

 

 というか、中身がジャパニーズ高校生だし、そもそもの話、イケメン寡黙実直剣士とか無理無理毛虫って話なんだけど。

 

 あぁ、でも、水晶エリアの鉱石は一応、地神の祭壇周辺の岩壁から採取出来たような。でも、採掘ポイントの採掘回数が少なくて、ポイントの回復時間も結構長いんだよな。とてもじゃないけど、装備作るのに必要な数は揃わない。それでも、まぁ、眺めて面白がるくらいの欠片くらいは掘れるやもしれん。

 

 多少、我儘幼女の気も紛れるのではと思い立ち、探索用の装備(低ランクの素材だけで作れる採取数・採掘数が増えるやつ)に着替えて出かけようとしたのだがバレて、なぜかお嬢様が付いてくることになり、身の丈に合わない大人用のピッケルを引きずる姿を見て含み笑いしてたら脛に鋭い蹴りを入れられた。

 

 俺は悶絶して転げまわった。

 クソァ! HPバーは削れてないはずだろ! 仕事しろシステム!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 もしかしてこの世界に主人公くん居らんのでは?

 ボブは訝しんだ。

 

 俺がクロースになってから、はや半年が経った。

 だというのに、いつになっても主人公のカーネルが迎えに来やがらねぇ。

 

 カーネルくん本当にこの世界におりゅ? おりゃんの?

 

 というか、中身が俺でも、物語の中の剣士様の片鱗が見えてきてしまって、地神の祭壇の水晶エリアくらいならお嬢様を守りながら物見遊山がてら、楽々巡回出来るようになってしまった。

 

 お陰で、装備製作可能なまでに素材が溜まったらしく、お嬢様が水晶剣やら精緻な装飾の施された指輪やらを作ってプレゼントしてくれた。

 

 お嬢様の提案で、お遊びで二人だけで騎士の叙任式みたいな変な格好つけの儀式もどきをやってみたけど、中の人の高校生的には結構面白かった。この年中不機嫌みたいなお嬢様にもユーモアってあるんだなって。口に出したら一週間口効いて貰えなかったけど。

 

 とはいえ、流石の初期三属性である。現行の環境では『盾』という『剣』以上のタンク用の属性があるが、主人公を考慮から除いた初期三属性は前衛『剣』中衛『槍』後衛『杖』のスタンダードタイプとして設計されただけあって、万能前衛と評して十分な性能を持っていることを実感した。

 

 とはいえ、ここまで俺に音沙汰がないと、今度は心配になってくる。 

 どっかで主人公、野垂れ死んでたりしないよね……?

 

 とりあえずは、カーネルが存在する前提で考えてみる。 

 

 まず、俺がカーネルだったなら、まず迎えにいくのは『剣』の俺(クロース)、又は『杖』のフィーミリアだ。

 なぜなら、両者とも汎用性で言えば頭ひとつ抜けていると言わざるを得ないからだ。

 ついでに言えば、仲間にする難易度が初期三属性だけあって低いこともある。

 

 つまりは、俺のところにカーネルが来ていない以上、フィーミリアのところに行ったのではないか?

 

 そう決めてからの俺の行動は早かった。

 しかし、仕事をお休みするときってなんて言うものなんだろう。

 なんというか、元々、特にアルバイト経験とかもなかったのでこういう時に結構困る。

 

 なんだっけ……なんかドラマとかで見たんだよな。

 ……あー、……そう。そうだ。『お暇をいただきます』、だ!

 

 あー、すっきりした。意外と簡単だった(密かな自慢)この世界の文字でそう書き置きを残し、俺は旅に出ることにした。

 

 ◇

 

 ラダ村はうちの実家よりヤバいド田舎だった。

 

 どうしよう。元々フィーミリアには特に感心なかったんだけど、ちょっと親近感。

 まぁ、おっぱいのでかい女はちょっとご遠慮願いたいからそういうあれではない。所詮は脂肪ですよ。脂肪。

 

 そして、衝撃の事実。

 主人公がカーネルくんじゃなくてリィンちゃんだった。

 

 ほんともうね、超びっくり。

 実際のところ俺が主人公をカーネルくんでプレイしていたからっていう俺の思い込みもあるんだけど。

 

 数ヶ月前に、リィンちゃんがこの村に来て、トレントども(多分フィーミリア加入クエストのアレ)を討伐したらしいと、村人に聞いたらすぐ分かった。

 

 村の恩人に手を貸すべくフィーミリアもリィンについていったらしい。

 

 なんかフィーミリアが燃える杖を持ってたとかも聞いたけど炎属性の杖でも持ってるのだろうか。

 初期装備は最低レアリティの樫の杖だった気がするけど。まぁ、俺が初期装備の鉄の剣じゃなくて、水晶剣持ってるように、フィーミリアが炎属性の杖持ってても別におかしくないっちゃないけど。

 

 なにはともかく、リィン・アドライナ、リィン・アドライナである。

 年齢設定15歳。銀髪碧眼のウルトラ美少女である。ちなみにおっぱいはない。素晴らしい。

 

 来てる……間違いなく来ている……! 俺を中心に渦巻いている大いなる運命の奔流が……!

 エンディングが……、見えた!

 

 大事な話なのだが、誓約の石碑というアイテムがある。

 ぶっちゃけて言えばカッコカリである。なにが、とかは特になにも言うつもりはない。

 

 グロインは主人公を除いて男性キャラが三人、女性キャラが三人だ。

 男性キャラクターに関しては『剣』(寡黙で実直)、『槍』(根暗で厨二病)『盾』(おっさん)。

 この選択肢だったらまず俺を選ぶだろ。というか、選んでくれ。

 

 いや確かに、俺は『魔本』のレテちゃんが嫁だ。なぜなら、おっぱい抉れててちっこいから。

 だが、俺はクロースなのだ。どうか、いちゲーマーとしてだれかに分かってほしい。

 レテちゃんは主人公の嫁なのだ。断じてクロースの嫁ではない。

 

 要するにギャルゲーにおいて、攻略したヒロインが主人公に選ばれなかったルートではサブキャラとくっついてるとかそんな残酷なことをして俺の童貞ハートを傷つけないで欲しいのだ。

 

 だが、リィンとクロースがくっつくのなら自然だ。むしろそうなるべきだ。

 本音で言えばリィンちゃんには日本に居た頃からいろいろお世話になりました。

 

 リィンちゃんおるやんけ! と分かった時点で俺は大目標を達成した。

 もう、これ以上ないほど爽やかな心境だ。

 

 もはや、半ば観光客気分で、フィーミリアとリィンが手に汗握る激しい共闘を繰り広げたであろう林道を、穏やかな笑みを浮かべながら歩み、帰路についた。肝心の俺が居ないと、仲間加入イベントも起こせないしなっ!

 

 いやー、参ったなぁっ! リィンちゃんかぁっ!へへっ、リィンちゃんかぁっ!!

 

 ◇

 

 意気揚々と戻ってまいりましたサルティナの街。

 後はもうリィンちゃんを待つだけ! まだ見ぬ大冒険が俺を待っている!

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 館に戻った俺を待ち受けていたのはいつもとは様子の違うお嬢様だった。

 

 不確かな足取りに、ふらふら揺れる上体。

 何事かと、駆け寄って支えると、俯いていた顔が見上げられる。

 寝不足なのか、メイクではとても隠しきれていない目元に広がるクマに、大きく見開かれた瞳。

 

 言葉を出そうとして、ぱく、ぱく、と唇を空回りさせているお嬢様。

 なに、なんなのこのクッソ重い空気。俺に一体どうしろというの。

 

「や、やっほ! ぼく、クロース」

 

 俺の空気を和ませるクロースジョークが炸裂した。

 

 瞬間、俺の片腕ががっちりと、お嬢様の掌で握り潰すように押さえつけられる。

 なにこれ、痛い! なに、なんなの。この体、一応そこそこ高レベル剣士の肉体なんだけど!

 

「……ダメね。私ったら、(つるぎ)と指輪で縛ったつもりになっていたなんて。……ねぇ、クロース?」

 

 お嬢様、満面のアルカイックスマイル。

 だというのに、目は完全に据わっているし、今だって万力のように俺の腕を締め上げている。

 キミ、ステータスだけじゃなくて、今の俺の肉体年齢と十以上差があるはずだよね!?

 

 お嬢様の空いている方の指先が、俺の指に嵌められている剣と共に贈られた水晶の指輪を撫ぜる。

 

 今度は掴まれた腕を引かれ、無理矢理に屈まされた俺の首元へと、掌を移動させ、労わるように撫でられた。

 俺の背筋にぞわぞわとするものが奔った。

 

 お嬢様は、そのまま俺の耳元で囁く。

 

「……ねぇ。もっと、分かりやすい印が必要?」

 

 な に か が ま ず い 。

 現代日本人らしく、喪われていた動物としての危機感知力がここに来て、初めて警鐘を鳴らしていた。

 

 リィンちゃん! 早く迎えに来てくれ!

 できれば、俺のなにかが終わってしまう前に!

 




 ◇


 ◇

活動報告でプロトタイプのお話にゴーサイン出してくださった方々ありがとうございました。


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