ゴブリンスレイヤー・白金の英雄 (残夏)
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1話

オリ主設定
白金の冒険者 (ジーク)
史上数人しかいない伝説の白金級冒険者。
漆黒の鎧に魔剣とジャマダハル二振りを使用する
過去にたった一人で魔神王を討伐に成功した。
主に龍の討伐依頼を多く受け、周りからはジーク(龍殺し)と呼ばれている。



焼けた村をもう何度も訪れた事だろうか。

熱気を放ち燃え続ける家や草木、家畜。そしてさっきまで生きていた人間が一面に転がっている。

本来であれば一人ずつ弔ってやりたいが流石に人手や時間が足りなく諦め、ここに来た目的の為村の奥を目指し進んでいく。

「見つけた…」

死んだ村の一番奥。一際熱を放ち大きな火柱を上げる場所にそいつが羽を休めていた。

巨大な羽に硬い鱗で身を包み鋭い牙や爪を持ち、口からは火球(ブレス)を撃つドラゴン。それが村を焼いた正体で隣の王国から討伐依頼を受けたターゲットだ。

「さて…さっさと終わらせて引越しの支度をしないとな」

黒い鎧の後ろに背負うようにして付けられた二つの鞘から魔剣を抜き構えると、ドラゴンもそれに合わせ起き上がり威嚇の咆哮を響かせる。「お前…今俺を恐れたな?」

自然界では自分よりも小さなモノに怯える事はないが、今ドラゴンは確実に自分より遥かに小さい人間一人に怯え、恐れていた。

「この村の人達全員の無念を晴らさせて貰うぞ!」

一気にドラゴンとの間合いを詰める。

ドラゴンは火球を連続で撃ち迎撃するが、避けることなく手にした魔剣で切り裂いていく。

火球では埒が明かないと判断したドラゴンは自慢の鱗で覆われた長い尻尾をムチの様にして自分目掛け振るうが、魔剣の腹でガードをする。

「どうしたその程度か?」

数メートル程押し返されるがやがて勢いが弱まり足を踏ん張って止める。

「先ずは尻尾を頂くぞ!!」

魔剣をドラゴンの尻尾目掛け力いっぱい振り下ろす。

通常の刃物ではドラゴンの鱗に傷すら付ける事は不可能だが魔剣に関しては別の話しであり、実際振り下ろした魔剣は何の抵抗もなくバターを切るようにドラゴンの尻尾を両断する。

「痛かったか?」

痛みに悶えているかの様な咆哮を響かせ、二本足で立ち上がり数歩後ろに下がる。

「おいおい…まだ序の口だぞ…お前にはこの村の人間全員分の苦しみや痛みを味わって貰うんだからな?」

切った尻尾を足でどかし再びドラゴンとの間合いを詰めるが、突然巨大な羽を広げ羽ばたきはじめる。

「恐怖で戦う気がなくなったか…だが逃がしはしない!!」

魔剣を握る手に力を込めると、それに合わせ刀身が細かく震えだす。

「さぁ地を這いつくばっりやがれ!!」

力任せに二振りの魔剣を振るうと黒い斬撃がとびドラゴンの両翼を切断し、翼を失ったドラゴンが地に落ちた。

「じゃあな、トカゲ野郎」

ドラゴンの頭を足で抑え、首目掛け魔剣を振り下ろした。

「さぁてこの位い成長してればいいモンが採れるだろ…お雨かこれで火が消えるな」

魔剣で硬い鱗を剥がし、剥ぎ取り用のナイフを取り出し使える素材の採取を始める。

「お!?龍の宝玉!!希少アイテムだから高値で売れる…ん?」

剥ぎ取りの最中に背後に気配を感じ振り向くと、少し離れた崩れた家に小さな白い影が複数集まり手招きしていた。

「この村の子供達の…そこに何かあるのか?」

害のある感じはしない為近寄ってみる。

「これは!?」

瓦礫の下敷きになった少女を見つけ急いで瓦礫をどかし、息があるか確認をとる。

「弱ってるが息はある、ほら水だ飲めるか?」

水筒の水を少しづつ飲ませていると、先程の白い影が少女を心配しているかの様に俺達を囲んだ。

「この子が居ることを教えてくれたんだなありがとう、大丈夫だこの子は俺が責任をもって王国に連れていくだからお前達も安心してくれ」

そう告げると白い影達は表情こそ見えないが、安心して微笑んでいるきがした。

「お、雨止み始めた…火も消えたか」

雨が止みドス黒い雨雲の切れ間から日差しが降り注ぎ、俺達を焼け落ちた村を照らす。

「ん…逝くのか?…」

白い影達はコクっと頷く。そして霧が霧散する様に少しづつ消えていく。

「向こうではちゃんと幸せに暮らせよ」

彼等が消えゆく瞬間、生前の子供達の姿に戻りちゃんと表情が解った。

「ありがとう…」

そう言い残し彼等は消えていった。

「さぁて報告して次の街に行くか」

小さな命を抱き、村を後にした。

 

 

「国王様!ジーク様がお戻りになられました!!」

急いで馬を走らせ王国に着き、兵隊が王宮の間まで案内する。

「おぉ!!…ん!?」

「子供!?…誰か水と食べ物を持ってきて!?」

王宮の間の扉が開かれ中に入って行くと俺を見たあと抱き抱えた小さな少女に目を向け、王女が駆け寄りその子を優しく抱えた。

「ジークさん…その子は一体?」

「隣り村の唯一の生き残りだ…」

「唯一…と言う事は…村は壊滅した…と言う事ですね…」

王女の問いに無言で頷き返す。

「で…ですがジークさんが戻られたと言う事はドラゴンの討伐は…」

「あぁ村人の仇はとった」

「そうですか…でも仇をとっていただいたなら村人達も報われるでしょう、ですよね?あなた」

「だな、ではジークさん、依頼の報酬を…」

「いや、いい…その代わり一つ頼みがある」

「頼み?」

困惑した表情の王女が抱く少女にドラゴンから剥ぎ取った赤い宝玉を渡す。

「俺の代わりにこの子を育てて欲しいんだ…」

 



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2話

ゴブリンスレイヤーの女武闘家ちゃん可愛いですよね〜


「それは構いませんが…ジークさん王国からお出になられるのですか?」

「まぁなここら一帯のドラゴンは狩り尽くしたからな、じゃあその子を頼む」

「お待ちを!もし良ければ!」

軽く頭を下げ王宮から出ていこうとすると、国王に呼び止められ足を止める。

「他に目的がないのであれば我が国の兵になっては貰えないだろうか?」

「悪いが目的ならある」

「目的?」

「あぁ、都で魔神王が復活するらしいんだ。それで悪魔(デーモン)やドラゴンやらが都に集まって来てるんだとか、だから討伐軍を設立してるからな、俺も魔神王退治するのさ」

「そうですか…ならジークさん、この世界をよろしくお願いします」

「あぁ」

片腕を上げ再びあるきだし、王宮を後にした。

 

 

〔数十年後〕

 

「何とか今日中には次の街に着きそうだな、なぁヴェル」

日が少し暮れた森を黒馬のヴェルと共に進んでいく。

「街に着いたら家を買おう、広い家を」

「いいねぇ!、後広い馬小屋着きのを頼むぜ旦那」

「アハハ!それに酒場の近くだなヴェル?」

「流石だぜ旦那!解ってる~」

 

喋る黒馬、ヴェルと何気ない話をしていると長い森を抜けると、何の変哲もない洞窟の入口を見つけ立ち止まる。

 

「どうした旦那?」

「いや…血の匂いがするんだ、人のな…」

先が見えない闇が広がる洞窟の入口を見つめ、ヴェルから下りると背後に気配を感じ振り返る。

そこには革鎧に楔帷子、左右にある角の装飾品は長い間使っていたらしく折れ、まるで洞窟や狭い場所での戦闘に特化させた小さい剣と丸い盾を装備した冒険者が松明をてに立っていた。

「お前も…ゴブリンを狩りに来たのか?」

「ゴブリンがいるならまずいな、人の血の匂いがしたんだ…きっと冒険者だな」

「見ろよ旦那銀等級の冒険者だぜ、何でそんな薄汚い装備なんだ?」

「ゴブリンを狩るのにデカい剣も分厚い盾も要らない」

「洞窟の様な狭い場所ならその方がやりやすい、それに新品の装備にしないのは金臭さを消す為か…あんた相当ゴブリンに手馴れてるな?」

「全てのゴブリンは俺が狩る、その為に色々学んだ…」

「そうかここで会ったのも何かの縁だ、俺も行く。ヴェルここで待っててくれ」

「あいよ」

「喋る馬を初めてみた…別に構わないが、その大剣だとこの中じゃ邪魔だぞ」

「心配ご無用だ、俺もそれなりに知識はある」

マントを捲り、左右の腰に吊るさがる鞘からジャマダハルを取り出す。

「ジャマダハルか、いい武器だ」

「だろ?盾を付けたオリジナルだ、匂いも無臭草で消してある」

「無臭草?」

「こっちには生えてないのか?まぁいい冒険者が心配だ、行こうゴブリンスレイヤー」

「ゴブリンスレイヤー?」

「あぁアンタの事さゴブリンを狩る者だからな」

「まぁいい行くぞ、お前松明は?」

「必要ない、暗くても見える」

「そうか…」

ゴブリンスレイヤーと共に闇の中へ進んでいく。



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3話

「いやぁぁぁ」

鋭い悲鳴と共に女武闘家の服がゴブリン達の手によって引き裂かれ、白い肌が向きだにしなる。

「いや!離して!!」

剣士に群がっていたゴブリン達も加わり、女武闘家の手足を抑え付け、数体のゴブリンとそれより遥かに巨体のゴブリン、田舎者[ボブ]が肩に弓が刺さった女神官と腹部から血を流した瀕死状態の女魔術士の元へ受かっていく。

(嫌…このままゴブリンに犯されて死ぬまで苗床にされる何て…嫌…誰か助けて…誰かぁ…)

必死に手足をバタつかせ抵抗するが、ゴブリン達の手からは逃れられない。

「…誰か助けて!!」

無意味な悲鳴をあげた瞬間、自分の手足を抑えていたゴブリンが白目を向き事切れ倒れていく。

「な…なに?…」

ゴブリンの死体を見ると頭部にダガーナイフが突き刺さっていて、洞窟の入口側から小さな光が近づいて来ていた。

「な…なに!?」

田舎者や残りのゴブリン達も小さな明かりと共に近づいてくるソレから流れてくる威圧、殺気を感じ取ったらしく、自分達には目もくれず威嚇しながら小さな明かりの方へ向かっていく。

「だ…誰か…助けに来てくれたの?…」

肉や骨が砕け散り音が鳴り響く松明がきえた暗闇を見つめていると何かが足元に転がって来てそれに目を凝らし見ると、先程の田舎者の生首だった。

「ひっ!?」

恐怖で体がこわばっていると、ゆっくりこちらに近づいてくる足音で我に返る。

「松明消えちまったな…」

「大丈夫だ、暗闇に目がなれた。お前は見えているのだろ?」

「まぁな」

「人の…声…」

「お!生きてる大丈夫か?…ほらこれ」

「ぼ…冒険者…」

暗がりから現れ黒い鎧を纏い自分の姿を見てマントを差し出す冒険者と、消えた松明に火を灯す冒険者を見て自分達が救われた事に体の力が抜ける。

「あ…ありがとうございます…」

「いいさ気にするな、よく頑張ったな」

マントを受け取り、纏うと大きな手で頭を撫でられる。

「そっちの子肩に矢が刺さってる!、おい!そっちの魔術師の子は重傷じゃないか!?…ゴブリンスレイヤーその子達にも明かりを…ほら立てるか?」

「だ…大丈夫です」

支えられ立ち上がり、おぼつかない足取りで女神官と女魔術師の元へ向かう。

「ゴブリンの矢か…引き抜くぞ!間に合わなくなる」

松明を持った冒険者は女神官の元に行くとポーチから回復薬と解毒薬に包帯を取り出し、肩に刺さった矢を握る。

「ゴブリンの武器には奴らの糞尿や毒草で作った毒が塗られている、一気に抜くぞ!」

「は…はい!…クッ…あ”あぁ」

劈く悲鳴と共に肩から矢が引き抜かれる。

「早く飲め」

「か…彼女に…使ってあげて…くれませんか…」

女神官が指を刺したのは一番重傷の女魔術師だった。

「息はあるが完全に毒が回ってる…これじゃ君の奇跡も解毒薬も効果がない…」

女武闘家を座らせ意識のない女魔術師の傷を見るが毒の影響で傷口が既に化膿し始め、周りの皮膚が黒く壊死していた。

「そんな…」

「何とかたならいんですか!?せっかく助かったのに…諦める何て…」

「そうだな、まだ諦めるには早いよな!」

涙を流す女武闘家の頭をもう一度撫でポーチから包を取り出し、ドス黒い丸い苔の様な物ををとりだし傷口に塗る。

「それは?…」

「蠱毒と言う苔の一種さ」

「蠱毒!?神殿で教わったんですがどんな奇跡も効かない、解毒薬もない猛毒じゃないですか!!そんな物をどうして傷口に?」

回復薬を飲んだ女神官が駆け寄り、紫色に変色した蠱毒を見つめる。

「蠱毒は特殊でな、同じ宿主の他の毒を解毒して自分だけさらに増殖するんだ、それとコイツに奇跡も解毒薬必要ないよ」

白い粉末が入った瓶の中に水筒の水を注ぎ、軽くまぜ蠱毒にかける

「それは?」

「塩水だ蠱毒は塩に弱いから海風が届く沿岸部には生えないんだ、ほら」

塩水をかけた蠱毒が白くなりまるでカサブタの様になった。

「凄い…」

「塩水をかけた蠱毒は完全に無害、止血もしてくれるからこのまま医者に連れていこう」

「ここから先は俺一人で十分だ、お前が医者つれてってやれ」

「いきなりだな、ゴブリンスレイヤー?」

「ここの巣はあまり大きくないし、殆どのゴブリンはここで狩れたから奥にはシャーマンと数体のゴブリンだけだ」

「はぁ分かったよ」

顔色が良くなった女魔術師を抱き上げ、奥に進んでいくゴブリンスレイヤーを見送る。

「あの!私は着いていきます!照らす事位なら出来ます!」

「なら私も!」

「大丈夫です、貴女はこの人と一緒に医者に行ってください」

女神官が両手で杖を持ち、ゴブリンスレイヤーの後を追う。

「おい!…行っちまったよ…仕方ない、行くぞ」

 



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4話

「ん…ここは?…」

目を覚ますと見知らぬ天井が広がっていて、体を起こし周りを確認すると街病院のベッドの上に横たわっている事に気がつく。

「おぉ目が覚めたか」

「私…どうしてここに?…それにこの服…」

「ワシの娘の服だサイズが合って良かったな、夜遅くに気を失ったお前さんとそこの魔術師のお嬢ちゃんを黒い鎧の冒険者が運んで来たんだ」

「魔術師の…お嬢ちゃん?…」

自分の近場にあるベッドに、寝息を立て横たわる同じパーティだった女魔術師が無事だった事に大きく息を吐く。

「後四日殆どで目は覚めるだろう、二人分の代金は既に受け取っている。君達を連れてきた冒険者なら集会所近くの宿に泊まっているから会って来るといい」

 

 

 

「おはようヴェル」

「よぉ旦那、今日はどうするよ?」

「そうだなぁ…家見たいし…武具屋にも行きたいし…ん?」

今日の予定を考えながらヴェルが繋がれている綱を外し、大通りに出ると人混みが出来ていて騒いでいるのが目に入った。

「何だあれ?」

「さぁ喧嘩か?行ってみるか旦那?」

「そうだな」

ヴェルには乗らず手網を引き人混みの方へ近づく。

 

 

「そこの店から奪った武器を返すんだ!!」

黒い鎧の冒険者が泊まっている宿に向かう途中、武具屋の店主の隙をついて料金を支払わずに剣を盗んで店から出てくる三人組の男達を見つけ呼び止める。

「ふん、知らねぇよ」

「しつけぇーんだよ!!」

「失せな、じゃねぇと痛い目見るぜ嬢ちゃん?」

「知らない?、ならこれは何だ?」

白を切る細身の男が持つ鞘に入った剣を取り上げる。

「な!?クソ返せ!!」

「この剣あんたが使うには重すぎるし大きすぎる!扱い慣れてない証拠に重さで重心が偏ってた!」

「チッやっちまえ!!」

顔に刺青が入った男がナイフを取り出し向かって来るが左にかわし、下顎目掛け膝蹴りを食らわす。

「な!?」

刺青の男が気絶したのを確認し細身の男の背後に周り、うなじに手刀を当て気を失わせる。

 

「…おい!旦那見てみろよ…」

「ん?…あの子昨日の?」

「…あぁ、あの子結構やるぜ?代の大人が二人も落されたぜ?あのおデブちゃんも時間の問題だぜ?…」

「…あの一体この騒ぎは?」

「ん?あぁ、あの男達が武具屋から武器を盗んだのをあの子が見たらしいんだ」

「ほう…ちょっとすまんね」

状況を把握し人混みを掻き分け中心に向かう。

 

「このクソガキ!!」

「フッ!!」

肥満男の力任せのパンチを腰を下げかわし、空いた腹部目掛け正拳突きを食らわせる。

「ウグッ!?…クソ…ちょこまかと」

全力で打った正拳突きはダメージは入ったが肥満男をダウンするまでには至らず、腹部を押さえ数歩下がらせるだけだった。

(ダメだ…体格差とあの脂肪で衝撃が奥まで届かない…)

「スキありだ!クソガキィ!!」

「しまっ!?」

考え事をしていたスキをつかれ肥満男の拳が目の前まで迫っていた。

「イデデデ!?」

「え?…」

肥満男の情けない声に恐怖で閉じた目を開くと、見覚えのある黒い鎧の冒険者が肥満男の手首を掴んでいた。

「あ!貴方は!!」

「よう、もう怪我は平気なのか?」

「は…はい…」

「そっかんでさっきの正拳突きな、もっと腰を深くさげて腰と腕を捻って打ってみな」

「え?…は…はい!」

「な!?てめぇ何なんだ!!」

言われた通りに腰を何時も以上に下げ、腰と腕を捻り肥満男の腹部目掛け打つ。

「ウグッ!!」

正拳突きが当たった瞬間。ドスと鈍い音が鳴り、先程とは比べ物にならないくらいの衝撃が体を貫通し肥満男の背中側の服が丸く破けた。

 



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5話

「衝撃が…貫通した!?」

「よく出来ました」

気絶した肥満男を軽々と投げ捨て、昨日のように女武闘家の頭を撫でる。

「もっと修行すれば…」

数歩下がり女武闘家と同じ正拳突きの構えをとる。

「フンッ!!」

「な!?」

正拳突きを打った瞬間、鋭い破裂音と共に少し離れた場所にいる自分の元まで衝撃が伝わってくる。

「自分より大きい人間はおろか田舎者や小鬼英雄(チャンピオン)の様なデカい相手も仕留められる!」

「な…何?…今の音!?」

「あの黒い鎧の冒険者が何かしたのか?」

「やば…何かさっきより人集まって来てる…」

先程の音が気になったのか、先程より人混みが大きくなってしまった。

「憲兵が来ると面倒だからそろそろ行くか…じゃあな」

「あの!!」

片腕を上げその場を去ろうとした時、女武闘家に呼び止められその場で振り向く。

「ん?どうした」

「あの!私を弟子にしてください!!」

「は?…」

「強くなりたいんです!昨日みたいに仲間がやられてるのを黙って見ているのは嫌なんです!」

「…」

女武闘家の強い決意が篭った目を見つめ、少々考える。

「どんなに辛くても耐えてみせます!だから!」

「弟子…かぁ…師匠もこんな気持ちだったのかな…」

ふと昔の事を思い出す。

「え?…」

「いや、なんでもない、おい!ヴェル!!」

「ん?何だ?」

「うわ!?馬が喋った!?」

「凄い!!何かの魔法かしら?」

邪魔そうに人を避けこっちに近づいてくるが、また人混みが大きくなる。

「弟子出来た!買う家は二階建てに変更な」

「弟子ぃどう言う風の吹き回しだい?旦那」

「たまにはこう言うのもいいだろ?」

「いいんですか!」

「あぁ、よろしくな」

「はい!よろしくお願いします…ですが…」

「あぁ…この人混み…どうしよう」

「ゴラァァァ!!ワシの店の前で何の騒ぎだ!商売にならんだろ!!店に用がないなら消えな!!」

「やべ…おやっさんだ!!」

「逃げろ!?」

人混みをどうやり過ごすか考えていると、武具屋からガタイのいい店主が金槌を振り上げ鬼の様な顔をして店から飛び出し、人混みを散らし始めた。

「ったく…」

先程の人混みが嘘の様に人がいなくなり、その場に残ったのは人間二人と馬一頭のみになった。

「ん?何だお前達…喧嘩か?」

武具屋の店主は黒い鎧の冒険者と女武闘家と気絶した男三人組を交互に見て、腕組をしながらこちらの様子を伺う。

「武具屋か丁度いい、いや俺の弟子がアンタの店から剣を盗んだそこの三人組を退治したんだ」

盗まれた剣を広い上げ、品質を見た後老人に手渡す。

「そうかいありがとよ嬢ちゃん、ったく…ろくに扱えないのに盗むんじゃねよ」

「い…いえ、それであの三人組はどうするんですか?憲兵に引渡しますか?」

「ほっとけその辺で寝てれば勝手に憲兵が見に来るわい、ワシは店に戻るからあんたらも用がないなら何処かに行きな」

「いや丁度武具屋に用があるんでね、さっきの剣かなりの上物だな?」

「ほぅ〜お前さん解るのかい?ワシが造ったんだ、ワシの店にある武具らどれも上物だ」

「まぁな、だからこの子の装備を見繕って貰えるかい?」

ポンと背中を押し女武闘家を前に出す。

「ふむいいだろ店ん中はいんな、さっきの礼にマケてやる」

「ありがとよ、ヴェル少し待っててくれ」

「…ヒヒン」

騒ぎに懲りたのか言葉を遣わず、普通の馬の振りをして返事をする。

「さっきの騒ぎで懲りたんだろうな…んじゃ行くぞ」

「し…師匠…」

武具屋の店主の後に続き中に入ろうとした瞬間、女武闘家に腕を捕まれ歩みを止める。

「どうした?」

「あの…私お金…そんな持ってなくて…」

「は?師匠が弟子の装備を買うのが当たり前だろ?だから行くぞ」

女武闘家の手を引き店内に入ると、燻された革などの独特な匂いに包まれる。

「こっちに来な嬢ちゃん、ワシの孫娘が採寸してくれる」

「は…はい…師匠色々ありがとうございます」

「気にすんな」

軽く頭を下げ、店の奥に消えていく。

「さて、買い物は嬢ちゃんだけかい?魔剣の兄ちゃん」

「あれ?気づいてた」

「当たり前だ、その鎧も普通のじゃないな?魔装か?」

店主が奥から出て来ると鎧や魔剣を眺めはじめた。

「当たりだ」

「魔剣二振りに魔装…常人なら着けた瞬間即死だ、アンタただもんじゃないな?」

「死ぬのが怖くて冒険者が語れるかよ?」

「だっはっはっはっはっお前さん本当に面白いのぉ、んでお前さんは買い物はあるのか?」

「ダガーナイフを20本頼む」

「おじいちゃん~採寸終わったよ」

「ご苦労んじゃ嬢ちゃんの装備選んでくっから、ダガーナイフも会計の時でいいな?」

「あぁ頼む」



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6話

「最近の駆け出しの冒険者は店に来るなり魔剣だの扱えない武器だの買おうとするから困ったもんだ」

「仕方ないさ、現実を知らないで童話の英雄を夢見て冒険者になったんだろうよ」

女武闘家の装備を買うため、立ち寄った武具屋の店主と世間話をしながらいつの間にか多少酒が入り、さらに話に花を咲かせていた。

「その点アンタは相当な数の修羅場を潜り抜けて来たな?魔剣や魔装を使ってるだけの事あるな、弟子の方も死にかけたんじゃないか?」

「そんな事まで判っちまうのかい?」

「当たり前だ!こちとら何千何万の冒険者を見てきたと思ってる?見ただけで判る!…だからこそ自分に合った武器や鎧を買って少しでも長く生きて欲しいんだ…若い冒険者が笑顔で装備を買ってって二度と店にこねぇ事が多くてよ…」

「おやっさん…しょうがねぇよ…どんなにいい武器や鎧を使ってても死んじまう事だってある…だが逆にそれで助かった奴だって沢山いるさ」

涙を流す店主のグラスに酒を注ぎ慰める。

「すまねぇな…情が移っちまった…年寄りは涙脆くていけねぇ…」

涙を拭い酒を一気に飲み干し、無理やり微笑む。

「ワシら武具屋は武具屋らしくいい装備を造って若い冒険者を少しでも長く生き延びさせねぇとな!」

「あぁ!その意気だぜおやっさん!!」

「し…師匠ぉぉ!!助けてぇ!!」

「ん?…なっ!?」

互いに酒を飲み干した瞬間。

店の奥から戦闘には相応しくない露出度が多く、ヒラヒラした飾りに薄い生地で出来た踊り子の衣装を纏った女武闘家が何かに怯えた様子で店内に走って来ると、そのままジークの後ろに隠れる。

「お…おいおい…何て格好してんだい?…」

「そりゃ奉納祭の時に使う踊り衣装だぞ?」

「わ…私は無理矢理…」

「ちょっとぉ〜お客さ〜ん!逃げないでくださいよ〜」

「ヒッ!?」

『なっ!?…何だありゃ!?』

店の奥からゆっくりと現れた店主の孫娘を見て女武闘家は怯えた声をだし、ジークと店主は孫娘が両手に持った先程の踊り衣装以上に露出度が高い衣装に唖然とした。

「な…なぁ…ワシら武具屋や武具屋らしく…何だったかな?」

「さぁ…何だっけ?…」

「あ!お客さん発見!次はこれを着てみましょうよ!」

「わ…私そんな露出度が高いのは恥ずかしくて無理ですよ!!」

「大丈夫ですよぉ!お客さん肌は色白で綺麗だし、美脚だし、美人でスタイルいいんできっと似合いますよ!!何ならそちらの黒い鎧の冒険者さんもお揃いでどうですか?」

「お…俺も!?」

「そう言う問題じゃありません!!露出度が高すぎます!!」

「着てるうちになれますよぉ〜、私の自信作なんですから着てみてくださいよぉ」

「いい加減にせい!!」

「いったぁい!?」

ただならぬオーラを纏い、近づいてくる店主の孫娘の頭を店主が小突く。

「もぉ何するのお爺ちゃん!あ!お酒飲んでるし!!」

「この程度で酔わん!!装備を買いに来た客にそんな布キレを買わせる気か!!普通の装備にせんか!」

「ブー分かったわよ…お客さんこちらへ」

「は…はい…」

半ば不安な表情のまま再び店主の孫娘に着いていく女武闘家を見送り、更に自分が変な装備にならなかった事にホット胸を下ろす。

「ホント済まなかったな…」

「いや…気にしなくて大丈夫だ」

 

 

 

「どうだ気になる所はあるか?」

「いえ特に!」

ちゃんとした防具を着け確認の為軽く動いて見るが、特に問題はなく満足そうな笑顔を浮かべる。

「頑丈で上質の革鎧を下地に胸部や肩部には真金の鎧を付け腕部には楔帷子、動きやすいショートパンツと膝と爪先、踵に仕込み刃があるロングレッグアーマ!武闘家のお客さんにぴったりな防具です!」

「まともな防具を選べたんだな…後はガントレットだな」

「武闘家用の武器はそっちだ」

店主に案内され様々な種類のガントレットを選び始める。

「あ!これいいかもしれない…」

女武闘家が選んだガントレットは漆黒で龍の彫り物が刻まれ、拳にスパイクが付いたものだった。

「ほぅ嬢ちゃんお目が高いな、そいつは希少金属で造ってあるんだ!軽さと強度を兼ね備えた一品さね」

「き…希少金属…」

「希少金属製かぁ、よし!それにしよう!」

「し…師匠!?」

「大丈夫だ、おやっさんもう一つ頼んでもいいか?」

「おう!言ってみな」

背負っていたバックから折れた杖を取り出し、カウンターの上に置く。

「コレって…」

「あぁ女魔術師の杖だ、コイツをなおして欲しいんだ」

「あぁいいだろ」

「助かる、金はこれでいいか?」

女武闘家の装備一式や投げナイフと杖の修理代の金貨が入った大袋を出し、店主に渡す。

「まいど」

「ありがとうございます師匠!」

「師匠として当然だ、それで今後の事だが依頼を受けるのはその怪我治って万全の状態になったらだ」

「はい!師匠!!」

 



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7話

「ん…」

「気がついた…わね」

目を覚ますと泣きボクロが印象的な女魔術師が顔を覗き込み、微笑んでいた。

「貴女は?それにここは?…痛っ…」

上半身を起こすと腹部に激痛が走った。

「まだ動いては…ダメよ、傷が開いてしまう…わ…ここは町病院…よ」

「き…傷?」

泣きボクロの銀等級の女魔術の手を借り再び横になり自分の体を見ると、至る所に包帯が巻かれていた。

「何処まで覚えている…かしら?、ゴブリンの洞窟…で、貴女達のパーティーが壊滅しかけた時の…事を」

「洞窟で…ゴブリンに腹部を…刺されてからは…他の皆は!?、貴女が助けてくれたんですか!?」

「助けたのは私じゃない…わ…生き残った…のは…貴女と女神官と女武闘家…よ、剣士の坊やはダメだったよう…ね」

「そう…ですか…他の二人は今どうしているんですか?」

「二人共貴女達を助けた冒険者達の弟子になった…わ…」

「そう…ですか…」

「貴女はどうする…の?」

「弱い私を弟子にとる人なんていませんよ…杖のない魔術師の私なんて…」

「フフ、杖ってこれの事…かしら?」

「え…」

涙を流す女魔術に彼女が学院卒業の証として貰った杖をさしだす。

「ど…どうして!!確かにゴブリンに折られたのに!?」

痛みを忘れ上半身を起こし杖を受け取ると折られた箇所をじっくり見るが、嘘の様に傷一つ付いていなかった。

「貴女達を助けた冒険者の一人…が…防具屋に頼んで修理して貰った…のよ…渡すように頼まれた…の、貴女の大切な物なのよ…ね?」

「は…い…」

「もう一つ頼まれている…の…」

ベッドの端に腰掛け、女魔術の涙をふく。

「貴女が良けれ…ば…私の弟子に…ならない?」

「わ…私が?…」

「そう…よ…貴女が目覚め…たら…面倒をみて欲しい…と…武闘家のお嬢さんから聞いた…わ…その歳…で火矢が、二発…も放てる…らしいわ…ね…」

「私でも…強くなれますか?」

「勿論、よ…」

 

 

「もう少し難易度が高い依頼こなさないと昇級が…」

「よせよぉ、無理すると怪我すんぞ?」

新しい依頼が掲示板に張り出され、大勢の冒険者で賑わうギルド内。

様々な難易度の依頼がある中でやはり難易度が低く、報酬が安いゴブリン討伐の依頼書が掲示板に貼り残されていた。

「ハァ…」

「どうしたの?ため息なんてついて」

受付で若い受付嬢が深い溜息をつくと、もう一人の受付嬢が心配そうに声をかける。

「今日でゴブリンの依頼が五件も来てて…」

「あぁ…」

ゴブリンは絶えない。

数が多く人間の子度程の身体能力を持った怪物で、新人の冒険者でも討伐が可能。

故に国は動かない。

「ハァ…新人の冒険者に当たらせるしかないとしても万が一の事が…でも何もしなければ村が…うぅ…胃が痛い…」

「アハハ大丈夫?…そう言えばまだ彼来てないのね?」

「彼?…」

「ほら、ゴブリン討伐の依頼を好き好んで受けている…」

「へぇ、ここがこの街のギルドか」

ドアベルの音と共に、漆黒の鎧を纏った冒険者と真新しい装備を纏った女の冒険者がギルドに入って来るのがカウンターから目に入った。

「凄い装備…見かけない冒険者ね?あれ?…あの子って…」

「確か最近この街に来たって言う冒険者じゃない?」

「最近この街に?…」

(あんな強そうな冒険者がゴブリン討伐を受けてくれたらなぁ…)

異様な雰囲気を放つ漆黒の鎧を纏った冒険者が掲示板に進んで行くと、周りの冒険者達が無言で避けていく。

先程までの賑わいがまるで嘘の様だ。

「師匠何の依頼を受けるんですか?」

「まずはゴブリン討伐の…あった五件かよし」

掲示板から依頼書を剥がし、カウンターまで持っていく。

「この依頼を」

「はい…え!?…ゴブリン討伐…ですか?」

「あぁ、今俺の弟子の修行中でな」

漆黒の鎧の冒険者から隣にいる女武闘家の顔を見ると、それは以前新人の冒険者のパーティーの一人だと思い出した。

(そうだ、あの時の…)

「最近この街に来た冒険者ですよね?すいませんが、ヘルムを外して顔と身分証の確認をさせて頂きたいのですが」

「あいよ」

「え!?…」

顔を覆うヘルムが独りでに動き素顔が顕になり首元から出された身分証を見た瞬間、あまりの驚きで声が出なかった。

(銀色や金色じゃない!?それに…もしかしてあの鎧は魔装!?…じゃああの背負ってる剣は…魔剣!?…漆黒の魔装に二振りの魔剣…ま…まさか…史上数人しかいない伝説の白金等級冒険者の一人…)

「は…白金…等級の…ぼ…冒険者…過去に魔神王をたった一人で討ち取った…英雄…ジーク!?…」

『えーー!!、英雄ジーク!!』

受付嬢の声に周りの冒険者達が驚きの表情を浮かべる。

「あぁ、そう呼ばれている」

 



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