機動戦士 ハイスクールAGE〜革新の為に〜 (silverArk.)
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運命の始まり
辺りが火に包まれている。少し前まであったはずの建物は軒並み残骸に変わるか、今にも崩れそうになっている。
そして、目の前で崩れた木材から俺を庇って代わりに潰されてしまった女性がいた。
かなりの高さから落下した木材は、その女性の胸部をいとも簡単に叩き潰している。……即死だった。
その光景に、俺は
外では相変わらず、怒声とともに何かを撃つ様な音が響いている。
俺は目の前に伏している、死んでしまった女性へと震える左手を差し出す。女性は庇ってしまえば自らが死んでしまうことを承知していたにも拘わらず安心感のある笑みを浮かべていた。
震える手が女性に触れる、その寸前。一筋の光が俺の目の前を擦過した。余りの光に目を瞑ると同時にチリ、と指先が焦げる感触がする。光とともに断末魔の様なものが響いた。
そうして、目を開けた俺の目の前には何もなかった。そう、文字通りなにも。あれだけ燃え盛っていた火も、今にも崩れそうだった木材も。……俺を庇って死んだ女性も。
「――あ」
口から空気が漏れる。一瞬にして無へと変わってしまった目の前の光景。その事実に、俺は膝をついた。
強烈に襲ってくる虚無感。転生する前は絶対に経験しなかった感覚に、俺は堪え切れず吐き気を堪えることが出来なかった。
素直に、逆らう事無く胃からせり上がってくるものを全てぶちまけ、尚も襲ってくる不快感に身を捩る。
そうして蹲る俺。その視界に、光が射した。その光はどこか神々しく、そして目の前を全て吹き飛ばした光に似ていた。
「どうかしましたか?」
突如として掛けられた声に、俺はゆっくりと顔を上げた。
俺に声を掛けた人物。それは人では無かった。
全身から発されている眩しくない程度の光。トーガのような服装。そして何より人では無いことをはっきりと示す、背から生えた純白の羽。それは天使であった。
しかし、俺はそんな存在に頓着している程心に余裕は無かった。茫然と、その天使を無感動に眺めつつ口から自然に声が漏れる。
「……かあ、さん」
何を思ったか、天使は俺の方に跪くとゆっくりと手を差し伸べた。その手は俺の頬を撫でた。
「先ほどの汚らわしい悪魔を葬った攻撃で母親が亡くなってしまったのですね。残念です。しかし、悲しむ必要はありません。貴方の母親の命は主の元へと向かったのですから」
「……っは」
思考がぐちゃぐちゃになる。悪魔?主?何をコイツは言っているのだろうか。いや、その前にコイツは何を言っているんだ?母さんを消したのは、コイツ?
纏まらない思考。混乱の極みにある俺に、その天使は続けた。
「故に、私たちとともに戦いませんか?汚らわしい悪魔と堕天使を共に滅し、この世に清浄なる世界をもたらす為に。この戦いで戦果をあげたならば、主は死んでしまった母親を蘇生してくださるかもしれません」
「……」
「貴方からは強大な力を感じます。是非ともその力を我らとともに振いましょう」
「……」
「どうしました?返答を……ぐッ!」
気づけば、俺はその天使を刺していた。寸前まで刃物など無かった右手。しかし、天使へと攻撃をした時には右腕が純白の装甲を纏っていた。そして、天使を穿っていたのは右のマニュピレーターに握られたビームダガーであった。
ほぼ無意識下で行われた攻撃。俺ですら攻撃をした事に気づいていなかったそれに、天使はギリギリ障壁を張ってガードをしていた。
「何をッ!」
「こんのおぉぉぉッッ!」
驚愕の表情で硬直する天使。その表情からは、下等生物に一撃を貰ったという思考が顕著に表れていた。
そして俺はと言うと、目の前の天使が起こした事を思い出し、恐怖を覚えていた。そして、恐怖に沸騰した頭は目の前の天使に追撃を下した。
障壁に抉り込むようにして何度も何度もビームダガーを叩きこむ。
一撃毎にビームを構成する粒子が散り、障壁に罅が入る。そして、遂に障壁に穴が開いた。
その光景に、流石に危険と感じたのだろう。天使は掲げた手に光の槍を構成した。
だが、それよりも先に最高出力に上げられたビームダガーが穴から天使の心臓部分を貫く。さらに、それにとどまらず肩部に設置された小型バーニアが火を吹いて腕を強制的に上へと挙げた。
強制的に動かされた腕からは枯れ木を折るような音。しかし、その代償を支払った代わりに天使は脳天まで間っ二つになり、焦げたザクロへとクラスチェンジした。
仰向けに倒れる天使(だったもの)。しかし、そんなものは既にどうでもよかった。
俺はその場に膝を突くと顔を伏せて、胃の中の物を全て吐き出した。それが固形物から半固形物、黄色い液体に変わってようやく吐き気は治まった。
次いで瞳からは涙が溢れ出した。それは天使を殺した事による悲しみではない。
「かあ、さん……」
光が穿った場所の塵をかき集めて呟く。右腕が未だ装甲に覆われたままであるため、地面を削る事しかで来ていない。
しかし、俺はその行為をやめる事が出来なかった。地面を抉り続け塵を集める。
轟、と風が吹いた。その風は集めた塵をいとも簡単に吹き飛ばしてしまった。
「……母さぁぁんッッ!」
慟哭する俺の周囲から、まだ火は消えていなかった。
それが全ての始まりだった。俺がこの世界へと転生してから既に何百年と過ぎた。とは言っても人間はやめてはいない。ある意味では人間ではないが。
転生特典はAGEデバイス。ガンダムオタであった俺は転生先でガンダムに乗る事を夢見ていたためだ。しかし、それは叶わなかったが。さらに俺には、転生特典のほかに死ぬ度に別の肉体に転生をするという呪いが付与されていた。転生する度に記憶は一旦リセットされるが、魂と融合したAGEデバイスが記憶を戻してしまう。さらに、転生前と同じように俺をⅹラウンダ―へと進化させた。
ある意味デメリットにも思えるそれは、俺から人外どもへの復讐心を忘れさせず、戦闘技術を落さないという重要な役割を果たしてくれた。
俺が転生した世界は歪んでいた。その歪みの原因は人外ども――天使、堕天使そして悪魔だった。
そして、俺は転生すると必ずその人外どもと戦ってきた。しかも一人ではない。一番初めにこの世界へと転生した時に作り上げた組織。その仲間たちと、手にした力とともに。
「おのれぇ……人間風情がぁ……」
「まだ息があるのか。しぶとさだけは凄いな」
ずるずると這いずるようにして動く人外。それが恨みの声をあげた。
「ま、とっとくたばれ」
無造作に、無感動に右のマニュピレーターに握ったハイパードッズライフルのトリガーを引き絞る。
放たれた螺旋状に回転するビームは悪魔を貫き、その存在を抹消した。
時代を重ねることによって進化した力。その初めての試運転に俺は少し心が躍っていた。
転生する以上、ⅹラウンダ―能力以外の肉体に依存しない力。真にスーツ型であるMS。
それが、俺たちの力であった。
魔法、正確には魔術だがそれを使うものは居はするのだが、その数は少ない。と、言うのも魔術というものは本来秘匿するべきものであり、安易に披露する物ではないからである。さらに、魔術を扱うための回路が年を経るごとに少なくなり始めているらしい。
「任務、完了。帰投する」
人間のオークションをしていたという場所を廃墟へと変えた俺は、その場をストライダーフォームにて一気に離脱しながら、連絡を入れる。
「こちらは片付いた。……ああ、実戦データもとれたし対象も護衛やお得意さんごと消滅させた」
通信から喜びの声が上がるがそれをスル―して俺は続ける。
「このまま俺はあの町へと戻る。済まないが交渉は頼んだぞ」
通信の相手は不平を洩らす。しかしながら、俺は交渉ごとは苦手であるしあの町から今は目を離せない為に渋々了承の意を発した。
「そう不満を言うなよ、分かっているさ。後は頼んだぞリディ」
そして、通信を切った俺は機首をその町へと向けた。
悪魔が事実上不法占拠をしている土地。そして、俺が転生した場所。
無能な貴族のお陰で最早無法地帯となっている町、駒王町その場所へと。
「さあ、行くぞAGE2。今度こそあいつ等を滅ぼす為に」
俺のその声に、ガンダムのツインアイが煌と輝いた。
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そして刻は回り往く
悪魔の粗だらけの警戒網を何時も通りにすり抜け、自宅へと帰還した俺は通学をしていた。
自宅の地下にはドックが設けられており、現在AGE2はそこに格納されハロによるメンテナンスを受けているだろう。
何故、自宅をそうも弄って大丈夫なのか。それは既に俺の両親がこの世に居らず組織の力があったから、という答えを返す。
俺に掛けられた呪い、さしずめ無限転生と呼ぶ――は俺から必ず家族を奪う。よくある転生者のテンプレと言うやつだ。と一度目に死んだ際に高説されたのは、忘れられない記憶だ。
それによって、俺には家族がいない。次いでに恋人も居たことがない。大体、十六~二十の間で死んでしまう事が殆どなのだから仕方ないのだ。多分きっとそう。メイビー。
話を戻そう。死んだ俺と共にガンダムは消える。が、俺が転生し再びガンダムを十全に扱えるように成った時にとある場所へ向かう。そして、とあるシステムを起動することで俺が転生した事を示しているのだ。そうやって俺は組織を存続させてきた。創設者の一人である俺が居る事で組織は道を外すこと無く、目的の為に戦い続ける事が出来ている。それに、創設当時のメンバー。その子孫が居ることも大きい。
そうやって転生をした俺の行動拠点として、自宅を改装して貰ったと云うわけである。何せ、カバーとしての身分は高校生。おいそれと転校などすると、悪魔側に怪しまれかねないからである。
この町で転校する事を考えると、それは自然に町を出る事と直結する。
駒王学園の理事をしているあの悪魔は、周辺の学校を統廃合。自分たちの為に養殖場を作り上げた。その為に、町には高校が一つしかなく他の高校にほとんど行くことは出来ないのだった。
「……はァ」
気付けば漏れるため息。今日もあの目障り極まりない光景を見るのだと思うと、俺のため息は止まることがなかった。
教室に入った俺は、誰とも挨拶をする事なく席へと座り授業の準備を始める。この学園は元が女子高であった為に、ほとんど女の園状態である。耐性が無い俺には少々キツイ空間だ。
そんな学園で、無闇に話掛けたりきもい笑いをしていれば、翌日からは変態として白い眼で見られ兼ねない。そんな空間なのである。
無論、俺はそんな事が無いように気を使っている。誰かのやった行動で、他人が迷惑を被るほど理不尽な事は……他にもあるけども。
だからこそ、俺は目の端に捉えている奴らが赦せなかった。
「おお!それ新作のAVじゃーか!もう手に入ったのか!?」
「ああ!おっぱいもお尻もまる出しでかなりどころか最高だ!!」
この声を聞くだけでイライラが募る。俺はこめかみに指を当て、頭痛を堪える。
「うっさいわね猿共! 少しは慎みを持ちなさいよ!」
「黙れ!女子供が俺たちの高尚にして崇高なる趣味に口を出すな!脳内で犯すぞ!」
「きゃ~~~! やっぱこいつら猿よ!交尾することしか頭にない下品なケダモノよ!だから男は嫌なのよ!」
……動物園かここは。
ギャアギャアと喧しく罵り合う声に頭痛は最高潮に達して行く。こう言う奴らがいるからこそ、この学園での男子の地位が低くなって居るのだ。こいつらはそれを理解していない。
よく欲望の塊をケダモノと表現するが、動物の欲望にはしっかりとした何らかの終着点がある。人間や悪魔みたいに見境ないことはないのだ。
つまり、普通の人間なら抑えられる欲に従っている辺り、人間以下なのだろう。
最もこの駒王学園には全面に、気付かない程度の暗示が常に展開されている。
其れにしても、あいつら以外は耐えられているのに。何かにつけ、覗きは神聖な行為だ。や、ハーレムを!と宣う。欲望によってまったく人間性を放棄してしまっている。まだ獣の方がマシと思える程だ。
結局、奴らは生活指導の先生が連行するまで騒ぎ続けたのだった。
それは突然の事だった。
学校が終わり、真っ直ぐ家への帰路に着こうとしていた俺の耳にそれが飛び込んで来たのは。
「聞いてくれ!俺…彼女ができたんだ!」
正に驚愕であった。あの変態に彼女である。最早訳がわからない。
思わず足を止め、兵藤の説明を聞いてしまう。 そして俺は強烈な違和感を感じた。
話を聞くに、相手は他校。しかし、この辺に高校は無い。それに明らかに知り合いとも思えない。最後に兵藤を狙ったハニトラ。
状況から答えをぼんやりと見いだした俺は、兵藤の前へと足を運んでいた。
「……止めておけ」
「な、なんだよ
「お前は騙されている。このまま行けば、お前は……死ぬぞ」
嫌っているとはいえ、命。騙されているのならば救う必要があると、俺は忠告をかける。
それに対して兵藤が返した答えは。
「ハァ!?何を言ってるんだお前。あ~分かった!お前悔しいんだろ?残念だったな、俺に彼女が出来て!」
心底嘲った笑い、だった。
「…そうか」
俺はそれだけ言うと踵を返して、今度こそ帰路に就く。後ろでは、兵藤が未だ声を張り上げて自慢をしていた。
あれから数日後、どうやら兵藤はデートをしているらしい。
と、言うのも先程から一緒にいる女と共に色々と見て回っている為であった。
だが、その光景は見ていて嘲笑を誘うものでしか無かった。
終始デレデレと顔面崩壊をした表情で一緒に居る女―堕天使と話している。
一方、堕天使はと言うと表面上はニコニコとしている。だが、その内免はというと全くの正反対であった。
堕天使から感じ取った意志からは玩具を弄ぶような邪悪な愉悦が感じられる。
「……チッ、面倒な」
俺は舌打ちを一つすると、二人をつけ始めた。
悪魔、堕天使は人間に与えている直接的被害の犯人ツートップである。天使は狡猾にも、間接的な被害を与える事に特化しているが。
時間も夕暮れ。時間的にもちょうどいいのだろう、堕天使は公園へと兵藤を誘導していた。
やろうとしている事に見当はつく。が、俺は兵藤を助ける気は無かった。
騙される、嵌められる或いは気紛れにやられる。そんな事は幾らでもある。
理不尽な理由で殺される。そんな人々を守るのが俺に課せられた役目でもあり、目的でもある。
だが、結局は選ぶのは本人だ。俺は忠告をした。しかし、兵藤はそれを無視し、疑うこともなく甘言に乗った。
ならば、救う価値などないだろう。最も、犯罪者である兵藤は社会が裁くべきなのだろうが。
公園に兵藤らが入る前に、俺はガンダムを纏う。MSには量子化による瞬時の蒸着を可能とするシステムを搭載しているためである。その代償として、解除するとその場にMSは残ってしまうが。
そして、とある機能を使用した。
”見えざる傘”という物がある。作中ではヴェイガンが作成したステルスシステムでもあり、その性能は凄まじい。光学迷彩に不可視化、音響までは流石に無理だが、熱源索敵にも引っ掛からない。さらに、組織の性質上他のMSにも標準装備されているのである。
ついでに言うなら気配も遮断出来ないのだが、そもそもAGEシステムがこれを作成する段階で、気配遮断の技能を会得していたため、無問題である。
……それしても気配遮断の技能を教授してくれたあの骸骨面の方はまだご存命なのだろうか。だとしたら首を飛ばされそうで少し恐ろしい。
などと、かつての事を振り返っていると堕天使が人払いの結界を発動させた。
そして、堕天使はその人間態をほどき本来の姿と本性を表した。
なんとも言い難いコスチュームの姿になると嘲笑を浮かべながら兵藤に殺害宣言を下した。
余りの隙だらけの姿に笑いそうになるのを堪えながら隙を伺う。
突然の恋人(笑)の豹変に混乱する兵藤を尻目に、俺はライフルではなくリア・スカートにマウントされたビームサーベルを抜いた。
「さようなら、恨むなら聖書の神を恨んでね」
格好をつけるためか、上空へと羽ばたいた堕天使は光の槍を編むと、それを兵藤へと放った。
そこが絶好のタイミングだった。
光の槍が兵藤の心臓を貫いて死を与えた瞬間、”見えざる傘”を解除。そのまま、推力を全開にして舞い上がるとビームサーベルを発振、無防備な背後へと迫る。
そして、堕天使が気付く前に脳天から股下まで一気に斬り裂いた。
「……くたばれ化け物が」
それでお仕舞いだった。哄笑を上げる積もりだったのか、大きく口をかっ開いた間抜けな姿のまま二つになって地へと堕ちる。
完成した二つの死体。兵藤の方は警察が入ったり葬式が上がるだろうが、堕天使の方は面倒臭いことになる。
俺は人払いの効果が消える前に、堕天使に向けてハイパードッズライフルを構えた。そして、周囲に影響を与えない程度に威力を調整すると銃爪を引いた。
DODS効果を得たビームは堕天使の死体に着弾。即座にDODS効果により、死体を分解・消滅さしめた。
堕天使の処理を終わらせた俺は人払いの効果が消滅するより前にその場から離脱すべく、スラスターに火を入れ……
「……そこか!」
バーニアを噴かし、ビームサーベルのグリップ下部からサーベルを発振。そのまま、兵藤へと殺到する。
コンマ秒の速さで兵藤へと到達。ビームサーベルを振り下ろし、兵藤の制服。そのポケットを貫いた。
ポケットから覗くのは焦げたチラシ。だが、ただのチラシではない。そこに描かれているのは悪魔の紋章である。
恐らくは悪魔の使い魔が配布しているのを貰ったのだろうが、それが起動し掛けていたのである。
その微弱な反応をガンダムのセンサーが捕らえてくれたため、間に合ったのだった。
この町でこの悪魔の紋章。十中八九、あの赤髪の無能貴族がで張ってくる。その召喚をギリギリで防いだのだ。
こうやって配ったチラシによって悪魔は人の人生を蝕んでいる。望まずに召喚したとて、奴らは代償を求める。そうして堕落を誘うのだ。
そうやって人生を破滅させられた人間は少なくない。そういう事にかまけているからこそ、この町には化け物どもが跳梁跋扈するのだ。
だからこそ、あの無能が出てくる事を防いだのだ。あの顔を見た瞬間、俺が何をするかわからない。ここで無能を殺してしまえば、折角の計画が無駄になってしまう。それだけは避けなければならなかった。
今度こそ、状況が終了した事を確認した俺は再び”見えざる傘”を展開。ストライダーフォームへと可変しその場から離脱する。
「…じゃあな、兵藤。来世はもっとまともな性格に生まれてこい」
驚愕の表情で固まったままの表情で死んでいる兵藤に俺はそう声を掛けた。
兵藤の死体が残る公園。生き物のの気配一つない場所で、何かがピクリと動いた。
それは兵藤の左腕であった。微弱に赤く、発光する腕。
その光景は腕に何かの生き物が取り憑いているかの様だった。
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墜ちる魔(前編)
堕天使を殺してから数日、町は騒然としていた。と言うのも、堕天使に殺された兵藤の遺体が発見され、それについての捜査が始まったためである。
ニュースにもなった兵藤の殺害事件だが、町の評判は兵藤の死を悼むより、自業自得といった風潮である。それについて俺は、特に思うことはなかった。警察も犯人を兵藤の犯罪行為に耐えかねて、と考えているようであるし実際自らの欲望で死んだことは間違いようのない事実であるのだから。
だが、一方で兵藤の死によって面倒な事になったのは確かである。
警察の調査が入った学園の悪魔どもがピリピリとし始めたのだ。特にあの高慢ちきな赤髪が一番ピリピリしている。それも当人からすれば(人ではないが)当然なのだろう。自分が支配している(と思っている)土地で、しかも学園の生徒が殺された。さらに城にも記憶を弄りづらい国家権力が侵入してきたのだ。さらに俺が召喚がキャンセルしたことで、犯人を敵対勢力と考えているのだろう。
その為にあの悪魔たちは、侵入してくるはぐれ共の討伐をそっちのけにして夜な夜な意味をなさない徘徊を行っている。
「……単細胞共め」
ため息混じりの毒が口から漏れる。アイツらは一つの事にしか考えが行かないのだろうか。犯人を追っかけ回すのは勝手だが、今まででさえまともに果たして居なかった責務を完全に放棄するなど、今時の子供でさえしない事だろう。
自らのしたことに責任を持てない、持たない。それは最早獣以下の存在と言っても過言ではないだろう。本音を言うのならば、今すぐにでもアイツをぶっ殺してやりたいところだ。ところなのだが、それを今すぐと言うのは難しい。
この町は自称あいつの支配下、その土地で何の策もなく殺してしまえば、お飾り魔王が黙ってはいない。恐らく、この町の人間全てを殺してしまうだろう。
それは避けたい。出来ることなら、あいつが堕天使の根城である廃教会にでも乗り込んでくれれば楽であるのに……。
何故、俺が堕天使の根城を放置しているのか。それは曲がりなりにも奴らがはぐれ悪魔共を狩り、悪魔にズブズブに洗脳されきった人間を殺すからである。
この町にはどこから沸いてくるのか、アホみたいな数のはぐれ悪魔がやってくる。それを俺が相手するとなると、とても手も時間も足りない。それに、破滅を待つばかりとは言え何の罪もない人間を殺す事は出来ない。
その点、堕天使やはぐれ神父は容赦なくそうした者たちを狩り取る。故に、まだ利益がある内は放置に徹しているのだ。俺が殺したあの堕天使は人以下の兵藤とは言え、一応人を騙して殺した。だからつい、殺ってしまったのだった。
ともあれ、ピリピリし始めた悪魔共は強権を発動。数日に渡って学園を休校にしやがった。だからこそ、俺は真っ昼間の町を歩いているのであった。
それにしても、と俺はフッと、とある事について思案を巡らせた。とある事と言うのは兵藤の遺体の事だった。
ニュースでも流れた兵藤の事件だが、その中で一つ俺が分からない事があった。
それは、兵藤の左腕が何かによって引きちぎられたかの様に欠損していた。という情報だった。
少なくとも、俺が最後に見たときには両腕はキッチリあったし然りとて、腕を千切って行くやつがあの辺に居たとも思えない。 全くの理解不能だった。
仮に兵藤が神器を保有していたとて、死体からは神器を取り出せない。神器は肉体ではなく、魂に癒着しているからである。だが、もし仮にその神器に魂が入っていればそれは分からないが。
ともかく、今日はどうするかとそれまでの思案を断ち切って予定を考え出す。
「きゃッ!?」
そして、下げていた視線を正面に戻そうとした時、俺の視界に何かが入り込んだ。
視界に入り込んだのは布だった。一般的にはヴェールと呼ばれているやつだ。
それが視界に入り込むと同時、転ぶ音が聞こえたので顔を上げると、シスター服の女性が転んでいた。
妙な。この道はアスファルトのひび割れなんかも何もない道だ。なのに何故転ぶ?
ただ転んでいるだけならヴェールを渡して通り過ぎるのだが、辺りには彼女の荷物らしきものが散乱してしまっている。しかも、ひとつふたつという次元じゃあない。恐らくは彼女の荷物ほぼ全部ではないだろうか。
そこまでいくと可哀想に思えてきたので、流石の俺も手伝うことにした。
「……随分と派手にこけたな」
「あ…ありがとうございます。あぅ……なんで何もないとこで転ぶのでしょうか」
とりあえずその辺に落ちている物を片っ端から拾って往く。俺が拾ってトランクに戻して居るのに対して、何故か彼女は拾ったものを落としてまた混乱する。
どうやらドジと天然と運動音痴が掛け算になって、ここまで大きな被害をもたらしているらしい。よく今まで大きな怪我もなく生きてこられたな、と俺は見当違いな事を思ってしまった。
「これで全部、だな」
「あ…ありがとうございます」
最後の物を渡した俺は、そこでようやく女性の素顔を見た。その素顔はなんと言うかおっとりとした雰囲気を美人だった。こんな美人なら、ドジでも天然でも運動音痴でも周りの人は助けるのだろうな、と俺は思ってしまう。人間顔が九割だかなぁ。……限度はあるし、中身がアレだったらお仕舞いだが。あの悪魔のように。
「じゃあ、俺はこれで」
「ちょっと、待ってください」
「…礼なら要らないぞ」
俺はさっさと立ち去ろうと踵を返す。一度は見捨てようとした手前気まずい。だが、彼女は僕の服の端を摘んで邪魔をした。
「そ、それもあるのですが、道案内も頼めませんでしょうか?言葉が通じなくて…どうしようもなくて」
「…ああ、なんだそういうことか」
どうやら目の前の彼女は、今日からこの街の廃教会に赴任したらしい。日本に来たはいいものの、道に迷った挙げ句、日本語が出来ないので道も尋ねることが出来ずに困っていたようだ。
話している言葉は英語だが訛りからしてイギリス系の英語、そのうえ比較的田舎の方だろうか。
一応、多くの前世を経たお陰で大抵の言語なら理解出来る。だからこそ、今もこうして軽く自己紹介や話が出来ているのだ。
…それにしても妙である。普通ならば日本語を習得している聖職者が派遣される筈だし、それに日本人でも事足りる。信徒は日本にも居る。例えば、突然家を訪問して来て聖書の話をしてくるやつらとか。
話が逸れたが、この町のしかも廃協会に来るなどアイツの言っていた人物で間違いはないだろう。
アーシア・アルジェント。堕天使に潜り込んでいるアイツからの報告にあった少女だ。
普段はちゃらんぽらんの癖に報告書とかは妙に真面目なお陰で、頭の中の情報と一致した。
彼女も裏の事情は知っている。だが、何のためにここに居るかは分からない。本格的に堕天使の手先になったと言う報告もない。
だからこそ、俺は彼女を教会に送る。道中で様子を見るためと、あわよくば情報を引き出すためである。
「ヴェ!! 痛いよぉ!!」
ふと、子供の鳴き声が響いた。
声のした方向に振り向くと、公園で子供が泣いていた。
よく見ると膝が血まみれだ。擦り傷怪我が痛くて泣いているのだろう。
ふと、俺にもこんな時期があった、と郷愁を覚えしまう。
「男の子がこんな事で泣いてはダメですよ? ……ほら、これで。……治りましたよ」
彼女――アーシアはその子供を見た瞬間にその場を離れると、子供の側に駆け寄った。そして、その場に屈むと、子供に顔を近づけながら、慰めの言葉をかける。その姿は、あの忌々しい鳩なんかより、よっぽど天使に思える姿だった。
どうやら普段は運動音痴のようだが、特定の条件下では無効化されるようだった。何か世界の補正でも掛かって居るのだろうか。
「……やはり、か」
そして、俺は嘆息した
アーシアが擦りむいた部分に両手を翳す。するとアーシアの指に突如として指輪が出現。そこから緑色の光が放出する。その光に触れた子供の怪我は数秒たらずで消え去り、なんと完治してしまった。
報告書通りの能力だった。
「わっ!治ったぁ!ありがとう! お姉ちゃん!!」
その子供は理屈は分からないが怪我が治ると、笑顔元気よくアーシアに向けて礼を言い、後ろにいる母親の方へと駆け寄った。
だが、母親はこどもの手を引っ張って、急いで離れてゆく。明らかにアーシアを恐れていた。
しかしそれは仕方の無いことではあるのだ。。彼らのようになんの力も無く、裏の事情も知らないたちにとって、彼女らのような特殊な力を持つ者は人でない存在に見えるし、思ってしまうのだろう。
そうやって迫害された者も組織には何人か居る。故に、逃げた母親の気持ちも分かるし、アーシアの気持ちも少しは分かる積もりだ。
組織に居る人間はその殆どがただの人間だ。元々MSは人が、人ならざる者を狩る為に造ったものだ。だからこそ、組織に入った人間はほぼ全て人外に恨みを持つ者となる。その為、神器を知らずに驚く者も少なくは無い。
にしても、少し怖がりすぎではなかろうか?
アーシアの治癒の光みたいな危険性の少ない能力に対してはいささかオーバーリアクションだと思えてしまう。しかも、子供を治療して貰った分際で。
「……庵さん、すみません。いきなり止まってしまって」
アーシアは母親の視線が刺さったせいで、その場で立ち尽くしたが、数秒ほどで立ち直り俺に振り向いた。
ぎこちなさを感じる笑顔だ。まるで、味方も大きな被害を受けたのに勝ったと喧伝した時の俺みたいに。
「……アーシア、君は至って普通の人間だ。何も思う必要は無い」
「……え?」
俺はそれだけを言うと、そのまま目的地へと足を進めた。
アーシアを廃協会へと送った俺は、その足で町をブラついていた。色々と思う事があったからである。
始め、俺はアーシアを警戒していた。一応、堕天使陣営に属していたからである。
しかしながら、彼女は純粋であった。それは言葉の端々からもアーシアの恣意からも感じられた。
「可哀想に。アレだけ純粋ならさぞ生きにくかろうよ」
純粋と言うものは時として弱点ともなる。そこに漬け込まれて死んだ奴を、俺は大勢見てきた。だからこそ、俺は素直にアーシアを可哀想と思っていた。
が、その一方で俺の失ってしまったものへの羨望も絶えなかったのは確かだった。
アーシアはある意味、ユリンポジです。
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墜ちる魔(中編)
アーシアと別れた俺は、暫く町で時間を潰して帰宅。そして夜の十二時を過ぎた頃に、とある廃屋へと足を運んだ。
目的は、日が出ている際に見つけたはぐれ悪魔を討伐する事だ。
元々、ある程度の目星を着けて歩き回っていたがさっくりとこの場所でレーダーに反応したのである。このレーダーは、悪魔、堕天使と天使の魔力反応に対してだけ感知する。
さらにかなりの年月を経た事で、かなり精度を誇り、手のひらサイズにまでの小型化に成功している。それまでは、MSの頭部に着ける他なく戦闘に支障をきたしていた。が、小型化によりMSを乗着する事なく索敵を行える様になっていた。
話を戻そう。はぐれ悪魔と言う者は元々は転生悪魔と呼ばれていた者達である。転生悪魔と言うものは、元々は悪魔でなく人間や妖怪と言った種族だ。その他種族をいとも簡単に悪魔に変えてしまう冒涜的な道具がある。
それがイービルピースだ。この道具は他種族の了解に拘わらず、強制的に悪魔へと転生させる力を持った、当に悪魔の道具である。
この道具によって悪魔になってしまった者達は転生悪魔と呼ばれている。そして、その道具の持ち主の奴隷と化すのだ。当然、その中には何らかの理由(ほぼ、持ち主悪魔の悪事)によって持ち主を殺したり、魔窟から脱走する者が出てくる。当たり前だ、少し前まで普通の生活だったのが歪んだ奴隷生活を余儀なくされるのだ。マトモな精神を持っているのならば発狂して当然だ。
そして、この被害者達の事を俺達は“はぐれ悪魔”と呼称している。悪魔側からすれば反逆者だが。
大体、駒を持つべき者をあのお飾り魔王がしっかりと選別しないからこうなるのだ。殺されるべき事をしているのにも拘わらず、転生悪魔がソイツを殺せば、ろくな捜査もせずに即反逆者扱い。明らかに人間や他の種族を下に見ている証拠だ。
さらに、そのような事件が起きているのに悪魔達は駒の使用を止めようとしない。只、悪魔の人口が減っていると言う理由だけで。それは、アイツらが人間を下等生物と思っている証だろう。これをそのままにしておけば、人間達は食い物にされ続ける。だからこそ――
「……だから、戦わなければならない」
つと、漏れる言葉。言葉にしてこそ分かる、自らの血塗られた覚悟。アーシアのような純粋に思う事は出来ず、その純粋には永遠に戻れない事に。
「…旨そうな匂いがするぞ?鉄のような油のような匂いだ。うまいのかな?それとも毒があるのかな?」
廃屋を進んでいると、待ってましたとばかりにはぐれ悪魔が出てきた。
体長は5m前後、上半身は裸の美女で下半身はアラクネの如く蜘蛛だ。その細身の腕には到底につかない、重厚なハルバードが握られている。
悪魔の姿は変化自由自在と言う訳ではない。が、殊に転生悪魔は違う。悪魔の駒には俗に言う、七大罪の業がプログラムしてある。これが、転生悪魔が異形化する原因だ。
悪魔の世界は力社会(実際は貴族主義による純血社会)である。その中では当然、力の比較的弱い転生悪魔は力を求める傾向にある。
そして、悪魔は欲望への歯止めと言うものは無いに等しい。さらに、人間は欲望に弱い生物である。そうして飽くなき力への欲望をみなぎらせた結果、七大罪の成分が暴走。異形へと化してしまう。
そして、力への渇望の原因はほぼほぼ主たる悪魔が原因だ。つまり、はぐれ悪魔とは悪魔への加害者ではなく徹頭徹尾、被害者なのだ。
そして、はぐれと認定するシステムもガバガバだ。主たる悪魔を殺さなくても、その主が一言訴えれば即はぐれである。
当然、はぐれ悪魔は逃げる。その先には自身の自我を保つ手段がない限り暴走、と言う結末が横たわっている。
そして、暴走の果てにあるのは言わずもがなでる。
その結果の一つであるはぐれ悪魔に俺は何も声を掛けなかった。否、掛けられなかった。現状、悪魔の駒を分離する手段は無く、暴走した彼等彼女等を止めるには殺すしかない。事実、俺は既に数千のはぐれ悪魔を手にかけている。そんな破壊者にして、殺戮者でもある俺が救いの言葉など掛けられる筈が無かった。
故に、はぐれ悪魔の言葉に対して俺は行動を以て返した。
無言でAGE2を乗着した俺は、右マニュピレータでリア・スカートからビームサーベルのグリップを装備。そのまま、発振させた。
その行動に危機感を得たのだろう。はぐれ悪魔は胸部から魔力をそのままマシンガンの如く撃ち出した。
悪魔や天使共が、使用する光力と魔法は、自身の光力と魔力をそのままに撃ち出す物とある程度属性に加工して撃ち出すものがある。そして、例外もあるが光力と魔力をそのままに撃ち出すものは威力が低く、加工した方が高い威力を誇る。しかし、どちらも脅威である事には変わり無かった。その実例として俺もそれで一度は死んでいる。
だが、人間の最も大きな力はその成長性である。
はぐれ悪魔の魔力マシンガンに俺は、左腕にマウントした小型シールドを掲げて吶喊した。
魔力マシンガンが小型シールドに着弾する。が、しかしその魔力マシンガンがシールドを貫く事なく霧散して行く。
以前、悪魔の魔力攻撃によって死んだ俺だが、その戦闘データからAGEデバイスがその魔力攻撃を防ぐ基本理論を構築。そして、その理論を元に魔術師や材料開発科が合同でそれを物質化させた。
それが、
故に。魔力マシンガンはシールドの表面を撫ぜるのみにとどまった。
その光景に驚いたのだろう。一瞬、はぐれ悪魔の動きが停滞した。そして、それを見逃す俺ではない。
ガンダムの背部のブースター、さらに両肩に配備された計四枚の可変翼を以て一瞬で最速まで至る。そこに銃弾の様な回転も自身に加え、はぐれ悪魔の蜘蛛と人間体の継ぎ目を斬り抜けた。
吹き出る夥しい量の血液。ドチャリ、ドチャリと地に落ちる人間体と崩れ落ちる蜘蛛の体。それと同時に漂う――最もガンダムに乗着しているために嗅いだ訳ではない――肉が焦げる匂い。荷電粒子による為だ。
はぐれ悪魔を斬り抜けた俺は、背を向ける事なく即座にスラスターによる姿勢制御を行い、ある程度距離を取りつつはぐれ悪魔へと機体を翻した。
その迅速な機体のレスポンスに、不謹慎にも俺は満足感を得た。前回の俺がくたばった要因たるリゼウム討伐作戦。その際にはAGE1の反応が俺に追い付いていなかった。
MSの基本操作にはインテンション・オートマチックと、手動操作の両方を採用している。新兵でもMSを動かして戦闘に参加させる為だ。
そして、リゼウム討伐戦。激闘に激闘を重ね、多大な被害と俺の死亡を以てして討伐には成功した。しかしながら、その戦闘中でAGE1は俺の思考に追い付かず、その機動にラグを生じさせていた。
何度も何度も機体のOSやシステムのアップデートを行い、多数のウェアも開発した。が、機体が俺に付いてこれなければ戦闘はろくにこなせない。
だからこそ、基本設計から見直したAGE2は俺の望むスペックを十全に備えていた。その事実に満足感を得てしまったのである。
血の海に倒れ伏すはぐれ悪魔。最早断続的に血液を吹き出して震えるしかないその身に止めを刺すべく、通常歩行にて接近をかける。そして、ビームサーベルの刃が十二分に届く位置まで接近、無言で腕を振りかぶった。
瞬間、脳内に閃光が走った俺はビームサーベルを振り下ろす事なく、脚部スラスターによるホバー移動を以て後退した。
果たして、先程まで俺が居た場所には重厚なハルバードが突き立っていた。それを成したのは無論、はぐれ悪魔だ。
「……何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ何故だぁ!」
叫び声を挙げるのははぐれ悪魔。その眼からは血涙が滴っている。
叫び声と同時、蜘蛛は俺に向かって白い液体を吐き出した。即座にセンサーが正体を特定、酸だ。
「私はぁ!私は悪魔に捕まって!ソイツは奴隷商人で、私は貴族悪魔に売られて!!」
降りかかってくる酸に、俺はAGE2の左肩を可変。ビームバルカンの砲身を露出させると、その直撃コースの酸を迎撃する。
さらにはぐれ悪魔本体から放たれる電撃に対しても回避運動をする。
「ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと!奪われて、奪われて続けて!やっと、自由になったのに…」
ビームバルカンによる迎撃と回避運動をしつつ、はぐれ悪魔の隙を見つけた俺は、左マニュピレータで、リア・スカートにマウント状態のビームサーベルを発振、そして投擲。蜘蛛の脳天を貫き惨殺した。
自身の一部であった蜘蛛の末路を歯牙にも掛けず、はぐれ悪魔は消失した下半身の代わりとして蝙蝠の翼を展開。ハルバードを構えての突撃を敢行した。
「こんな所で…こんな場所なんかで!死ねるかあああああぁぁぁぁぁ!!」
「……すまない」
風を切って突き進むハルバード。その重量とはぐれ悪魔の膂力から鑑みるに、AGE2の装甲を貫かずとも俺に致命の傷を与える事は確実だった。
しかし、俺はその愚直なまでの突撃を身を沈ませる事で回避。はぐれ悪魔の懐まで忍び込み、心臓へとビームサーベルを突き刺した。
するり、とビームサーベルを抜くとはぐれ悪魔はその場に崩れ落ちた。
俺は、突撃時の表情のままに開かれたはぐれ悪魔の眼を左マニュピレータでゆっくりと閉ざす。
……何時もこの瞬間がやりきれない。はぐれ悪魔が悪では無いことは分かっている。分かりきっている。しかし、暴走した彼等彼女等を殺さなければ無駄に血は流れ、命は消える。
はぐれ悪魔を殺した時、俺にのし掛かるのは拭いきれない罪の意識。そして、俺が壊す事しか出来ない破壊者である事を再認識させられるのだ。
俺は命の灯火が消えたはぐれ悪魔に黙祷を捧げると、蜘蛛に突き立ったビームサーベルを回収。真夜中の駒王町へと舞い上がった。
「……血の匂い」
無能姫リアス・グレモリーの眷属の一人である塔城小猫は漂ってきた濃厚な血の匂いに眉をひそめた。先日起きた、兵藤一誠殺人事件の下手人探しに躍起になるあまり、はぐれ悪魔の討伐を怠ってしまっていたグレモリー達。その結果として、大公からお叱りを受けつつ何度めかの依頼を遂行しにこの場へと足を運んだのであった。そして、其処には血の海に沈む今回の討伐対象らしき悪魔の姿が横たわるのみであった。
「また……ですか」
そう苦虫を噛み潰したような表情で呟いたのは金髪の少年、木場だ。
「……この街は私の縄張りなのに。一体どういうつもりなのかしら」
そう言って苛立たしげに親指の爪をキチキチと噛むグレモリー。その表情からは不満しか見受けられない。
しかも、その不満ははぐれ悪魔を倒せなかったと言う一辺に尽きる。多く人間の命が失われた事には全く目が行っていなかった。
「本当、苛立たしいわね」
そう呟くグレモリーの目からは自身の思い通りにならない世界への怒りが滲み出ていた。
「それでは、正式にブルーコスモスは我々を支援する。と、言う事で宜しいですね」
とある一室で、金髪の青年――リディ・マーセナスは居並ぶ人々に告げた。そして、その宣言に満足そうに頷く人々。
そして、恙無く調印も終了。人々が部屋から次々と退出する中、一人の男がリディへと声を掛けた。
「流石、見事な手並みですね。次期マーセナス議員殿は 」
「これは、アズラエルさん。いえ、これが自分の領分ですから」
「呼び捨てで構いませんよ。それより、あの件です。本気であの方は実行なさるおつもりで?」
「はい、自分たちもその積もりですよ。だからこそ、アズラエル社長も賛同なさったのでしょう?」
「ええ、勿論。全ては青き清浄なる世界のために」
そう言って立ち去るムニタ・アズラエル。
その姿を見送ったリディは懐から携帯端末を取り出した。会談の成功を告げる為に
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