久しぶりに家を出たら、そこは巨人が闊歩する地獄だだった (虚ろな勇者の影)
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巨人って大っきいなぁー

「なるほど、ここれが現における地獄か…私、結構永く生きてるつもりだったけどまだまだだったなー」

 

 

 

──100年の安泰、此処に崩れり───

 

 

 

ほんの3週間前までは、ここの支配者は赤ん坊含め50cm~大きくても2mぐらいの()()達だった。

大人達は仕事、子供が喧嘩をしつつも元気に走り回り、駐屯兵団はそれを肴に酒を飲む、飲める街だったというのに。

 

いまやなんだ、馬鹿でかい人間が全裸で散歩、同じく馬鹿でかい子供がが家を壊しつつも元気に走り回りる。ここの支配者はいつの間にか()()になっていた。

もちろん、酒を飲んでるやつなんて居ない。

 

……というか、私と同じサイズの人型が居ない。

 

 

私が地下室で読書に明け暮れていた3週間であっさり人類は巨人に敗北したらしい。でかい穴の空いたウォールマリアから蛆虫のように(それにしてはクソでかいが)出てくる巨人を確認しつつ思う。

というか家の地下室にいたせいで緊急ベルが聞こえなかったらしい。つまり、逃げ遅れた。

 

うわぁお絶対絶命だぁ。今日が私の命日だぁー。

 

眼前を闊歩する去勢された男共(超ビックサイズ)を眺めながら思う。

 

 

「いやね、永遠の平和なんぞありゃせんとは思ってたけど、いざ崩れてみると、うん。こりゃなかなか壮観だ」

 

カッコイイことを言いつつ現実逃避を試みるが、出来るはずもなく、むしろ馬鹿でかい顔が私に迫ってきた。

 

……大きい唇ですね。ディープキスで舌どころか頭まで咥えて、そのまま首を折ってしまえそうですね。

 

私の考えを実行するように大きな口を開けて私の頭にかぶりつく。熱い、いろんな意味で熱いキッスだ!!

そう巫山戯られるのも長くは無かった。

 

クシャり、そんな音だっただろうか。私の首は呆気なく噛み砕かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

────久しぶりに家を出たら、そこは巨人が闊歩する地獄だだった。

 

 

 

 

 

そこで私はあっさり巨人に見つかり、頭ごと咥える斬新キッスで勢いあまり首を噛み砕かれ、……死んだ。

 

そう、死んだ。

 

 

 

 

「あー、死んだ死んだ〜。なんて清々しい気分なんだー」

 

 

 

 

んで、()()()()()

 

 

私、シナン・イッガールノ。

転生特典で不死身の体を手に入れた元人間である。いや、今も心は人間のつもりだ。因みに転生したことは知っているが前世の記憶はない。

年は今年で87歳、見た目は永遠の16歳。私を餓鬼扱いしたやつは殺す。チョー殺す。

嫌いなものは犬と玉ねぎ、好きなものは毒と新しい事。

 

よろしくねっ!

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「首を噛み千切られて死ぬのは初めてだ。めちゃくちゃ痛いぞこれ」

 

もう絶対やんない。というか、初めて巨人に殺された。巨人は巨人殺され記念日にしよう。来年からこの日は巨人に殺されるのもいいかもしれない。

 

「って!そんなこと考え得てる場合じゃねぇ!逃げないと!!」

 

私の頭をもしゃもしゃしている巨人から全力で逃げる。超逃げる。

足の筋肉がブチブチなってるけど気にしない。目から血は出るし、吐血に混じって変な肉塊も吐き出してるけど気にしない気にしない。

 

と、全力で走ったおかげで巨人達は既に遥か彼方。こちらに気付き、追って来る様子はない。とりあえず安全のようだ。

 

「だっしゃぁーーー!!!!つっかれたー!!!私頑張ったぁ!!よし、死のう!」

 

常に懐に携帯しているナイフを取りだし、そのまま首に宛てがい、思いっきり引く。プシャーっ!という軽い音と共に命が溢れていく。

 

 

───。

 

 

「はぁー。生き返った」

 

酷使し過ぎて折れた足も、破れた肺も元通り。ほんと不死身って便利。

私の不死身の特徴は普通に手足を切断しても、目ん玉を抉りとっても、病気になっても治らない所だ。ただ死んだ時たしの身体は例外なく16歳の誕生日に戻る。

つまり、疲れたり、眠くなったりしても一旦死ねば16歳の誕生日の元気な自分に戻れるという事だ。

本が読みたいけどトイレ行きたいし、お腹すいたし、眠いしという時でも、1回死ぬことで問題は解決され、集中して本が読める。不死身凄い。とても便利。

 

「おかげで、1日に1回ぐらいは自殺するという危ない奴になってしまった……まぁ、いいんだけどさ」

 

それで、死に過ぎたせいか脳のストッパーがぶっ壊れた。人間は無意識の内に力をセーブする。一説によると人間は常に全力の20%で生活しているという。そうしなければ肉体が持たない、すぐに壊れてしまうからだ。火事場の馬鹿力は緊急事態のためこのストッパーが一時的に外れた状態を指す。

で、何が言いたいかと言うと、つまり私は肉体が壊れても死ねば復活するということ。それに気がついた辺りから私は限界を超えた動き、常に100%のパフォーマンスが出来るようになった。いぇーい。

人間の100%全力の走りは凄い。めっちゃ早い。巨人から逃げられるぐらいには。

 

「さて、これからどーすっかねー」

 

とりあえず、現状確認かな。壊されたのはウォールマリアだけなのか?生存者は?そもそも一体誰が壁を壊した?

謎はいくらでもある。

 

「永く生きて来たけど、こんな状況は初めてだ」

 

なんか、ワクワクしてきた。うん。ちょっとこの辺を冒険してみよう。幸いなことに私睡眠も食事も要らない体だし。

 

 

────こうして私の巨人のいる世界が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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自覚のない厨二病

キャラ崩壊注意。


「巨人発見!」

 

青い空が目に染みる晴れの日。小鳥がチュピチュピ鳴いている。

そんな清々しい朝に巨人が一体。全くもってお呼びではない。

だが、こちらには気づいていないようだ。

 

アンカー発射。

対角線上にある建物に着地───すれ違う巨人───そのまま流れ作業的にうなじを切り落とすスタイル。

血の付いたブレードを収め、蒸気を出しながら倒れる巨人をバックに一言。

 

「またつまらぬものを斬ってしまった…」

 

…………。

 

決まったァ!!!

もうかっこよすぎて自分が怖い。

なんかもう、かっこよさの極みだと思う。

今までで2番目ぐらいかな。

1番は、

 

「闇の炎に抱かれて消えろぉぉぉ!!!」

 

あの憎きあんちくしょうの顔を睨み付けつつ言った時だった。

もう、床を高速で転げ回って後悔するぐらいだった。かっこ良すぎて悶絶してしまったのは後にも先にもあれがだけだ。

 

 

「それにしてもなんか今日巨人多くね?」

 

……これでもう4体目だよ?

血涙止まんないし、太ももの筋肉がちぎれつつあるんだけど。とりあえず、

 

 

「1回、死んどくか」

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

ウォールマリアが壊されてはや2年。

私は今日も巨人をぶっ殺しつつ、その辺旅というか、歩いてる。

この立体機動装置は駐屯兵団の武器倉庫からかっぱらってきた。

駐屯兵団時代の経験が役に立ったぜ。

永く生きてると色々経験出来るね。自慢だけど私、憲兵団だったこともあるんだぜ!半年ぐらいで辞めたけど。

 

でも、なんだかんだ言ってこれ使うの30年振りで焦ったわー。普通にバランス感覚鈍ってるし、なんか装置は改良されてるしでちゃんと使えるようになるまで何回死んだよ、私。

壁とキッス、巨人にぱっくりと、誤作動して地面とキッス、巨人握り

潰され、筋肉痛が酷いから自殺……。

 

「我ながら酷いな…でもいいんだ!そのおかげで今は自由自在に使えるから!」

 

私の2年間の努力は無駄じゃなかった!!

というか、ケガを恐れずにガンガンやれるから上達も早いんだなこれが。と、自画自賛してみる。

1人だと褒めてくれる人もいない。寂しい。

あーあー、人肌が恋しーな。誰か喋り相手プリーズ。

 

「ん?なんだあれ、狼煙?……って煙弾?」

 

いやぁ、久しぶりに見たなぁー、あの色。訓練兵の時振りだから……50年ぶり?

 

「って、あの色!!緊急事態のやつじゃんっ!!」

 

呑気に長生き自慢してる場合じゃないよ。

緊急ってつまり巨人相手に詰んでるってことじゃん!!

 

「早く、助けに行かないと!!」

 

……やばい、そんな場合じゃないけど顔がニヤけるの止めらんない。

 

「だって!人間だよ!?約2年ぶりの!!

会話、そう会話ができる!!言葉のキャッチボールだぞ!いやっフゥーー!!」

 

 

 

 

◆◇◆

 

猛スピードで煙の出どころに近づく。

するとやはり、と言うべきか巨人がわんさか群がっていた。

その巨人達の周りを私のと同じ、そう立体機動装置を使って飛び回る緑の人影が何個か。

 

「あの紋章は……調査兵団じゃないか!!」

 

なるほど、調査兵団がいたのか!そりゃ壁外に居るっつたらそれ以外ありえないよな、うん。

いや、ウォールマリア内だから壁内か?

 

「まぁ、いいや。兎に角っ────!!」

 

壊れかけた民家の屋根に着地、人間の全力ジャンプ、立体機動なしで10メートルは軽いね。

人間の馬鹿力舐めんなよ。その気になれば壁を垂直に走ることだって出来るんだぞ。

 

───アンカーを近くに居る巨人の首にぶっ刺す。そのまま一直線にうなじカット。1体死亡っと。

────別の巨人がこちらを向いたので眼球にアンカーをぶっ刺し、伸びてきた腕とカッティングしつつ、頭上をフライアウェイ。

 

「本日6体目の巨人か。

支配者級とあえるのはうれしいが……おまえも殺すぞ!!」

 

────んでもって、うなじをスライスイング。

うん。今日は一段と決まってるね私。

うんうんと頷いていると、緑の服を着た…戦っていた兵士の1人が話しかけてきた。

 

「?!増援か?!助かった!!」

「おっす、おっす。煙弾見つけて飛んできました」

「1人か?ほかの班員は?」

 

ガッカリとした様子で尋ねられる。

いや、班員も何も私調査兵団じゃないぞ。

返す言葉が見当たらず、沈黙していると、男は何かを察した様で申し訳なさそうな顔をした。

 

「……あぁ、そうか……しかし!今は悔やんでいる時間ではない!

しかし、初めて見る顔だな。新兵か?

いや、そんなことはいい。まだ戦えるか?!」

「私を誰だと思っている?シナン・イッガールノだぞ?死しても尚戦ってやるさ」

 

久しぶりの会話だ。楽しい。やっぱ聞いてくれる人がいないと私のかっこよさも伝わりにくいって事ね!

 

「……戦えるんだな。現在我々は兵糧拠点設置の為、巨人の誘導作戦を行っている。

お前も巨人共の目をここに引き付けておいて欲しい!!任務は以上だ!

グレグレも無駄に死んでくれるなよ!!」

 

決死を覚悟したような顔。いや、実際しているのだろう。そんな決意に充ちた顔で彼は巨人達の群れへ突っ込んでいく。

 

「ふむふむ。りょーかい。

でもそれって──別に殺し尽くしてしまってもかまわないのだろう?」

 

ニヤリ、顔が歪むのを感じる。

久しぶりに人と喋れたんだ、コイツらを殺させはしないぞ。私はこの後こいつらと酒を飲み語らう予定がある、だから邪魔な君達は駆逐してしまおう。この巨人共が!!

 

───アンカーを撃つ─削ぐ──そのまま反動で回転──背後をとる─切り刻む──引っ張られる─飛ぶ──削ぐ──削ぐ─削ぐ、削ぐ削ぐ削ぐ削ぐ削ぐ────

 

………………。

 

「私の前に現れたことが、お前のミスだ」

 

群がっていた最後の一体の首が地に落ちる。

大量に殺したせいか、水蒸気で辺りは真っ白。

 

「お前、本当新兵か?!強いなんてものじゃないぞ……!」

「本当に全て殺し尽くすとは……」

「あんなに囲まれてたのに、生き残ったぜ、俺達……!!」

「あぁ、信じられねぇ……」

 

戦っていた、兵士達が私の周りに集まりそんなことを言ってくる。

 

づ、づがれだ。本気出しすぎた。血塊が詰まって息が出来ない。ダメだもう立てない。死ぬ。死んでしまう。よし、死のう──あっ、ダメだ人が居る!!

ちょっとみんな近寄らないであっちに行っててくれないかな?!

 

 

「援軍に来た!!状況は?!」

 

そんな声と共に向かってきた数人の兵士達。

 

「リヴァイ班?!」

 

リヴァイ班?いや、そんなのどうでもいいから早くどっかいってくれ、私は人知れず死にたいんだよ。

あー、やばいなんか視界が赤かったのに、白っぽくなってきた。

 

◆◇◆

 

緊急事態の煙弾を目認し、駆けつけたリヴァイ班。巨人による大殺戮が広がっているであろうと予測されたその場所。

しかし、あったのは蒸気になり消えゆく巨人の死体の山と、生き残ったであろう十数人の兵士達。

 

「こりゃどういう状況だ?巨人が1匹もいねぇじゃねぇか」

「リ、ヴァイ兵士長!なぜここに?!」

 

突然現れた自分では声の掛けることの出来ない英雄に、ミーハー心のある兵士が声うわずらせて問いかける。

 

「……チッ。いいから早く説明しろ、クソが」

「はっ!……申し訳ありません!!

誘導作戦のため巨人の群れと我が班の兵士達が戦っていました。戦況は絶望的、このままでは10分と持たず全滅かと思われた頃、そこに居る新兵が現れ、全て討伐し尽くしました!!」

「本当か?」

 

にわかには信じ難い事実。巨人を一体倒すのに30人の犠牲が必要と言われている。リヴァイ兵士長ほどの人ならともかく、新兵が?群れと呼ばれるぐらいの巨人達を1人で殺し尽くしてしまった??

 

 

「……とんでもねぇヤツが居たもんだな」

 

その呟きを聞き取れたのはたまたま近くにいたペトラという少女だけだった。

後に彼女は語る。「兵長はあの時確かに笑っていた、もちろん網膜に焼付けた」と。




現在後悔可能な情報
◆シナン・イッガールノは自覚の無い厨二病患者である。
◇シナン・イッガールノは不死身なのをいい事によく死ぬ。食事をするように、トイレに行くように、息をするついでに死ぬ。
◆シナン・イッガールノは過去に、訓練兵団、憲兵団、駐屯兵団だったこともある。


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