幻想水滸伝ー原初の紋章ー (ユキユキさん)
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ー始まりの章ー
第1話 ~選ばれし者


ー???ー

 

…俺は死んだ筈だ。流されるままに生きて、誰とも関わることもなく、ただひたすら仕事をして寝るだけの生活の中で、ただ独り…孤独の中で死んだ筈だ。…なのにこれはどういうことか? …何故、俺には意識がある? それにここは何処だ?

 

何もない暗闇にただ独り、……俺はまた独りなのか?

 

 

 

 

 

 

どれ程の刻をさ迷ったか? …俺には分からない。だが…相当な刻を独りでさ迷っていた筈、正直…寂しいと思う。生きていた時には思うことがなかった寂しさ、…流石に何もない暗闇で独りは寂しい。

 

 

 

 

 

 

…ずっと独りさ迷っていた時、俺は暗闇の中で光を見た。何かあると思いその光へと向かう俺、…向かってみればそこにいたのは『原初(やみ)』であった。…光ではなかった、…なのに何故俺には光って見えるのだろう?

 

原初(やみ)』に触れると、…頭の中に膨大な記憶が流れてきた。普通ならば堪えられないこと、…されど何故か堪えられる。…よくは分からないけれど、…俺は選ばれたのか?

 

 

 

 

 

 

原初(やみ)』の記憶は言うならば創世の物語、一つの世界がここから生まれて始まったのか。…何とも壮大で凄い事だろうか、…だがアレだな。世界は生まれたわけだが、『原初(やみ)』は独り残されてしまったわけか。

 

何だか共感してしまうな、…俺もずっと独りだし。…何て思っていたら、『原初(やみ)』が俺の中に入ってきた。…………おい! 何故に俺の中へ入ってくる!?

 

…独りは嫌だから? …いや、だからって勝手に入るのはどうなのよ? そう思った矢先、何やらナニカに引っ張られる感じがする。そう思った時…、

 

……グンッ!!

 

確かに引っ張られた。『原初(やみ)』から始まった世界に呼ばれているのか?

 

 

 

 

 

 

…………気付いた時には大地の上であった。何も分からぬままに周囲を見回していると、何やら右手が熱い。確認してみると右手の甲に紋章が、…何だコレ? と思った時、

 

原初(やみ)の紋章』

 

何故かそんな言葉が頭に流れた。あ~…そう、『原初(やみ)』のヤツは俺に寄生したのね。

 

 

 

 

 

 

……………これからどうすればいいのだろう?

 

……まぁこの世界で生きるしかないのだろうな。

 

 

 

 

 

 

さて最初にすべきことは何だ? やはり衣食住か?

 

服は今着ているヤツだけでいいとして、……まずは食い物。続いて住処の確保、この流れが一番良いだろう。

 

それが終わり次第周囲の探索、身体を鍛えるってのも忘れちゃいけない。何があるか分からないからな、鍛えて損はないだろう。

 

後は友達を作ろう! 人肌が恋しい! 独りでいる時間が長すぎたからな、………もう独りは嫌だ。『原初(やみ)』だって同じ気持ちだろう、うん…それがいい!



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第2話 ~真の紋章とは

よぉ…諸君、初めまして。俺の名はカオス・ミケーネ、名も無き男であったがそれじゃあ不便というわけでそう名乗ることにした。名の由来は原初(やみ)=カオスって遠い昔に知り得たというか何というか、ミケーネは何となくで付けたんだが良い感じじゃないか? …カオス・ミケーネってカッコいい響きだと思うんだ。

 

…で俺の容姿は一言で言えば強面の類いになるだろうか? 金髪でウェーブの掛かった髪、顔は整っているのだが目付きがかなり悪い。故に強面と称してみた、…瞳はピンクなのにね? 逆にピンクで目付きが悪いから不気味か? …まぁとにかくイケメン強面である。しかも長身で鍛えたからがっしりしとる、それも相まって強面と称したのさ。

 

 

 

 

 

 

この世界に来てからずっと鍛えてきたから、自分で言うのもアレだが俺は強い。何千何万の者達に襲われたとしても撃破、それが出来ぬのであれば逃げ切ることが可能と胸を張って言える。伊達に数百年生きておりませんとも、…そう数百年。何故か俺は老いることがない、…不老なのである。

 

原因は俺の右手にある紋章、『原初(やみ)の紋章』のせいであると理解している。何でもこの紋章は『28()の真の紋章』の一つらしい。その効果は凄まじく、世界を破壊出来る程のモノとか。…まぁそれほどのモノであったとしても、世界を破壊する気はないのですがね。

 

それはいいとして、…可笑しなことがあるわけで。『28()の真の紋章』が真実であるのに、何故か『27()の真の紋章』とこの世界で伝えられているのだ。この数百年、出来る限り旅をして情報を集めたが28()ではなく27()であった。…これはアレか、遅れて世界へ降りたからなのか? そう考えると俺の『原初(やみ)の紋章』は存在しない筈の紋章、あえて言うならば0の紋章。数えられないからこそ『27()の真の紋章』ということか、…その27()に0が含まれていると考えられる。…というかそう考える、仲間外れは『原初の紋章(コイツ)』が可哀想だ。

 

 

 

 

 

 

真の紋章は凄いみたいだぞ? 絶大な力を宿主に与え、不老にもする凄まじさ。旅の中でもよく耳にしたよ、その紋章達の物語を。まぁ…俺自身で聞き、そして見てきたその物語は決して幸せな物語ではなかったが。数多の悲しみと共に宿主を変えてさ迷う、…一種の呪いと言えよう。俺的には『原初の紋章(コイツ)』を呪いだとは思わないが、目にしてきた物語は呪いと言えた。過ぎたる力を使うは悲劇に繋がる、俺は旅の中でそう学んだよ。

 

最初の内は『原初の紋章(コイツ)』を扱いきれなかったさ。…幾つもの自然を壊し、数多の国を滅ぼす要因になったこともあった。…まぁそれは俺が悪いわけではなく、『原初の紋章(コイツ)』が悪いわけでもない。欲望にまみれた人が悪い、…国が悪いと言える。しかしながら暴走により罪無き人々の命を消した、それには罪悪感があった。だからこそ制御をして安全に行使する、故に今の俺がいるわけだ。

 

俺にとって『原初の紋章(コイツ)』は呪いではなく家族、俺は『原初の紋章(コイツ)』と共に悠久の刻を生きる。いずれ終わりが来るだろうが、…それまでは『原初の紋章(コイツ)』と共に行き続けるさ。

 

 

 

 

 

 

因みに俺の『原初(やみ)の紋章』は凄いぞ? 状態異常の尽くを無効にする。毒とか麻痺とか俺には効かない、これだけで生存率が上がりますね? 他にも成長率? が上がるとか、一度覚えたことは忘れないとか地味なヤツ。後は空間保存庫が使える、…遥か昔の知識で言うならアイテムボックスってヤツ。…凄いだろ?

 

…一番凄いと思う力は眷属化かな? 『原初の紋章(オレ)』と共に生きると心から誓った者を不老にすることが出来るってヤツ。下心とかはなしに本気で共に生きたいと願う者に、不老という共に生き続けるという呪いを与えるのだ。『原初の紋章(コイツ)』は呪いではないけれど、不老(のろい)は与えることが出来る。…不老は決して幸せではないよ? 何故ならば、…全てをこの目に、記憶に焼き付けて生き続けるってことだから。

 

…心が弱ければ壊れるだろうね。…ほら、…呪いだろ?



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第3話 ~宛無き旅の中で…

ーカオスー

 

原初の紋章(コイツ)』と共に旅をして、幾つもの出会いと別れを経験してきた。共に旅をして共に過ごしてきた友人達、…しかし共に生き続けることは出来なかった。不老とはただの人には重いモノなのだろう、特に善きなる者にはな。逆に悪しき者は求めてくる、不老を手にして欲望を叶えようと。…まぁそういう輩は消えて貰っている、生かしておいても害にしかならないからな。…出来る限りの悪しき芽は摘み取っている、後の悲劇に繋がらぬように。

 

 

 

 

 

 

そんな俺の旅路に二人の女性が絡んでくるようになった、その二人は旅路の中で良く出会う。数日の間…ということもあれば、数年数十年単位で会うこともある。不思議なことに彼女達も変わらない、姿が変わらないのだ。…この二人も不老であると考える、…真の紋章を宿しているかは分からないけれど。

 

一人は絶世の美女と言っても良い女性、…名をジーンという。彼女は会う度に扇情的な衣に身を包んでいる、男ならばむしゃぶり付きたい程の色っぽさだ。しかし俺に魅了は効かない、普通の男ではないからな。彼女に会えば少なからず絡んでくる、…が俺は毎回軽くあしらう。それが彼女の琴線に触れたのか、度々ちょっかいを掛けてくるのだ。鬱陶しいと思う反面、嬉しかったりもする。何せ永遠の別れが来ない相手なのだから、不老の俺にはありがたい存在でもあるわけだ。

 

もう一人は可愛らしい美少女とでも言おうか、…名前は確かビッキーといった筈。彼女は何処からともなく突然現れる、そして『カオスさん、カオスさん!』とよくなついてくれるのだ。こんなになついてくれるのだ、可愛くない筈がない。たまに増えていたりするけど可愛い、難点を言えば突然消える。数年数十年…音沙汰がなく、そして前触れもなく現れては再びなつく。…ペット枠になるのだろうか?

 

この二人とは長い付き合いだ、何だかんだで癒される。永遠の刻は心がね、…悲鳴を上げる時もあるのだよ。だからこそ別れのない二人には救われている、言葉にはしないがありがとうって気持ちがある。…絶対に言葉にはしないが、…特にジーンには言いたくない。

 

 

 

 

 

 

更に数百年、…ある森の中で一人の少女に出会った。白髪のパッつん前髪、病的な程に白い肌。全体的に儚げではあるが、その中で光る赤い瞳が印象的だ。総じて美少女、その言葉しか出ない。…それ以上に注目すべきことがある、…彼女は真の紋章を宿している。全ての紋章を生んだと言ってもいい『原初の紋章(コイツ)』がそう訴えてきたのだ、…また俺は真の紋章を巡る戦いに巻き込まれるのか? ……マジかよ。

 

…今更ではあるが、この世界に降りて数千年。真の紋章を巡る戦いによく巻き込まれている、自然を壊し国を滅ぼしたってーのはこれが原因だったりする。…真の紋章同士、…惹かれ合ったりするんかね? …そういえば、その時に出没する女性がいたな。レックナートとかいったっけ? 宿星がどーとか108星が何だとか言っていたような?

 

まぁそれはいいとしてもどうしたものか、…何というかビクビクしているし。…そんな悲しそうな、すがるような目で見詰めないで欲しい。これアレじゃん、…見捨てたら俺ってば外道じゃん。…仕方ないな、…面倒を見てやるか。ほら…君、こっちへ来なさい。

 

 

 

 

 

 

そんなわけで話を聞いてみれば、真の紋章の一つである『月の紋章』に選ばれてしまったが為に追われる身だとか。しかも『月の紋章』の効果でバンパイアになってしまい、化物としても追われる身。誰にも頼ることが出来ずに各地をさ迷っていたらしいのだが、ある日…『月の紋章』が強く進むべき道を示してきたので従ってみた。そうしたら俺がいたってわけね、…なるほど。

 

…聞くところによると彼女は白、悪い娘ではないようだ。逆に彼女を取り巻く人? …国? それが悪いね。化物扱いってのも気に入らない、…彼女が化物ならば俺も化物になるよね? 強すぎるからこそそう呼ばれるのは仕方がないことだけど、………気に入らない。

 

……………よし、決めた!! 少女よ、名前は? ……ふむ、シエラか。

 

ならばシエラよ。俺と共に来るといい、…守ってやる。ついでにお前を追う者や国を滅ぼそう、降りかかる火の粉は払うのではなく消さなければな。



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第4話 ~シエラと共に…

ーカオスー

 

シエラを保護して数百年、その間にシエラを取り巻く鎖は全て…滅した。守ると決めたからには徹底的に、後顧の憂いはないに限る。やはりその時に現れたのがレックナート、また何かを言ってきた。108星とかそういうのはどうでもいいんだが、協力してくれるのならありがたい。彼女に紹介された者達と共に打倒、晴れてシエラは自由の身となった。…なのに彼女は俺と共にいたがる、…自由なんだよ?

 

後はアレだ。…レックナートもそうだけど、ジーンとビッキー。俺がシエラと共に旅をしていると聞いた時の顔、アレはヤバいよ。レックナートの奴は眉間に皺を寄せてシエラを威嚇していたし、ジーンの奴は魔王とでも言えばいいのかっていうオーラを出してくるし、ビッキーにいたっては目から光が消えて『嘘だっ!!』ってさ。…恐いよコイツら!シエラもビビっとるしさ!

 

…でそんな三人の相手をしている間にやらかした。目を離していた隙にシエラが襲われて、『月の紋章』を奪われてしまったのだ。『月の紋章』を奪われて生死の境をさ迷うシエラ、…死なせたくないという俺の我が儘で彼女を眷属化させる。…これで彼女は死なずにすんだ、眷属化が出来たってことはアレか。シエラは俺と共に………。

 

一命を取り止めたシエラはより一層俺になつく、何かなつくとは違うような気がするけど。……もしかして俺が好きだとか? からかい目的でそう聞けば、白い肌を朱色に染めて……、

 

「私…カオスさんが好きです。……愛しています。」

 

はにかみ笑顔でそう言われました。……え、…マジ? からかうつもりで言ったんだけど、………どうしよう。

 

ちょいと恥ずかしくてシエラから視線を外し、問題児三人組の方へと向き直れば、

 

「「「………………。」」」

 

能面のような無表情で俺とシエラを見ていた。……めっちゃ恐いんですけど!!

 

 

 

 

 

 

その後、レックナートは…、

 

「私とカオスは運命の糸で結ばれている、…それをお忘れなく。」

 

そう言って消えた。ジーンは…、

 

「フフフフフ………。」

 

意味深に微笑を浮かべて立ち去った。ビッキーは…、

 

「カオスさんがカオスさんがカオスさんがカオスさんがカオスさんがカオスさんがカオスさんがカオスさんが……ひっくし!?」

 

ブツブツ呟きながら、いつものくしゃみでここから消えた。………恐いよあの三人!!

 

 

 

 

 

 

…………まぁいいか。今はとりあえずシエラのことだな、…うん。えっと…何? 紋章を奪ったのはネクロード? …アイツか! …108星の一人とか言って共に戦った奴。胡散臭いと思っていたが、…『月の紋章』を奪うとはな。そのお陰でシエラは死に掛けたわけで、…これはもう追うしかないな。『月の紋章』を取り戻してシエラに返さねばならない、眷属化にしたとはいえやはり心配だ。『月の紋章』がなくなってしまい眷属化させたとは言っても彼女はバンパイア、力の源である『月の紋章』があるにこしたことはない。…とにかくネクロード、…首を洗って待っているといい!

 

 

 

 

 

 

シエラの為にもネクロードを追うのは決定事項、されど何処へ行ったかは分からず。闇雲に探しても意味がない、悪戯に時間を費やすだけ。これはアレだな、紋章同士が惹かれ合うって特性を利用するしかない。確証があるわけではないけれど、…どういうわけか俺はよく巻き込まれる。俺が何かしらの事件か戦争に巻き込まれた時、そこには必ず真の紋章がある。…それに賭けるしか手がない、何年何十年…何百年経つかは分からないけれどもな。

 

 

 

 

 

 

因みになんだが、…俺はシエラの告白を受け入れた。冷静になって考えてみたら、俺にとってシエラは大切な人となっていた。そりゃあそうだろう、…数百年間共に旅をしていればな。その間にシエラは想いを育んでいて、…俺も知らずの内に。

 

 

 

 

 

 

…………………俺とシエラは結ばれました。本日より彼女はシエラ・ミケーネ、俺の妻です。



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第5話 ~海へ行こう…

ーカオスー

 

シエラの『月の紋章』が奪われ、救う為に眷属化した後に彼女と結ばれたカオスです。その日より彼女の名はシエラ・ミケーネとなり、生涯を共にするパートナー…妻となったわけです。きっかけとなった襲撃者のネクロードには、…礼を言わねばなるまい。その身体に…、その魂に…、死を与える前にきっちりと礼をね。…今は真の紋章を手に入れた喜びの中で微睡んでいるといいさ、…俺に会ったらその喜びが絶望に変わると思うけど。

 

とにかく、…俺とシエラは夫婦となったわけで。その記念として新婚旅行にでも行こうか? ってことになった、…まぁいつも通りの旅ってヤツですわ。気分的にも幸せの真っ只中、いつもの旅も見える景色が変わるってもの。そういうわけで、数百年近くまともに見ていない海へ行こう。…決してシエラの水着姿が見たいわけではない、そう…決してな。…とか言いつつ期待してみたり、…ぬふふふふ。

 

 

 

 

 

 

…で海へ来たわけだが、…やっぱり海はいいな。この広大さ、そして美しさ。海を見ていると自身がちっぽけに思えてくる、…不思議なもんだぜ。…シエラも目を輝かせて海と戯れとるし、…来て正解だな!

 

季節的に海水浴が不可っていうのにはガッカリした、…海を見るだけになってしまった。そう残念に思っていると、シエラがぽつりと呟いた。

 

「…海の向こうには何があるのでしょうか?」

 

そう呟いたんだ。その呟きを聞いた俺は…、

 

「この海の向こうには別大陸があるという。その途中の海には、大小様々な島からなる群島諸国があるらしいが…。ふむ…そうだな、やることも特にないしそこを目指して海へと出てみるか?」

 

と聞けば、シエラは目を輝かせて大きく頷いた。

 

立派な中型船を購入し出航の準備を進めた俺達、まだ見ぬ世界を目指してこの名も知らぬ大陸を出る。素人の癖に大丈夫なのか? と船乗り達に心配をされたが、…この俺に不可能なことなどない。準備期間中に知識を頭に詰め込んだ、故に胸を張って大丈夫だと断言出来る。いざとなれば『原初の紋章(コイツ)』がある、何とかなる筈さ。

 

そんなわけで、俺とシエラの二人は広大な海へと出た。この先に何が待っているのか? それを考えただけでワクワクするな。…お前もそうだろ? シエラ。

 

 

 

 

 

 

順調に海を航行中、様々なことがあった。魔物に襲われること多々、海域の主と思わしき海竜にも遭遇。あわや船を沈められるか!? …とシエラはビビっていたが、この船には俺がいるんだぜ? 自分の旦那を信じなさい! ってなことでちょいと苦労して撃破、船を守りながらだからね。…そんな俺の勇姿に興奮したシエラ、その日の夜は燃え上がったと言っておこう。

 

魔物の他に海賊とも遭遇したりしたな。単独の時もあれば集団で襲ってくることもあった、海賊スティールの傘下だと言われても知らんし。…襲ってくるなら等しく潰してやろう、当然…敵ではなかった。一般の商船や客船が襲われている時もあった、勿論助けましたとも。その時は近くの島まで護衛してやったよ、襲われた直後だしそのまま去るのもね。

 

基本海賊は全て滅するってことにしているけど、中にはそうしない奴等もいる。言うなら義賊ってヤツ? 気の良い連中だったよ。何て言ったか、…そうそうエドガーとブランドだ。この二人は良いね、海賊と言うより海の護衛団と言った方が良いと思う。故に義賊か、…うん。

 

とにかくこの二人とはウマが合ってね、暫くの間…共に行動させて貰ったよ。海の問題に手を貸したりして、夜は常に宴。俺も楽しかったしシエラも楽しんだ、…海ってーのはやっぱり良いね。

 

 

 

 

 

 

今度会う時は恋人を紹介するとエドガーが言い、ブランドとは再会を約束してから二人は去っていった。二人の船を見送ってから俺達も出航する、エドガー達とは別の方角へ船を向けるのが吉だな。爽やかに別れた後、海で再び鉢合わせたら気まずいじゃん?

 

そんなわけで逆方向へ進路を取る、目的地はラズリルって島にしよう。何でもその島にはガイエン海上騎士団というものがあるらしい、シエラも海の騎士団に興味があるみたいだしね。さて、そこには何が待っているのか。楽しみで仕方がないよな? シエラ。



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ー幻想水滸伝Ⅳの章ー
第1話 ~ラズリルにて…


ーカオスー

 

シエラと仲良く寄り添いながら海を航行し、辿り着いたのがラズリルという島。ガイエン公国に属するこの島には、ガイエン海上騎士団というものがある。俺達の目的はその騎士団、どんなものかと興味があってね。一般人の見学って出来るのかね?

 

…結果的に見学は出来た、手練れの騎士から見習いの騎士まで訓練に汗しているな。見た感じ普通の騎士に見えるけど、注意深く見てみれば重心の掛け方が違う。海上での、船上での戦闘を想定して鍛練をしているようだ。…何とも興味深い、海上での戦い方を教えてはくれないだろうか?

 

騎士団長のおっさんに聞いてみたら快く了承、その代わり地上での戦い方を教えてくれと頼まれた。俺の技は全て我流なのだが大丈夫だろうか? と聞いてみれば、ならば先ずは見せてくれとのことで一騎討ちをすることになった。相手は副団長のグレン君、騎士団一の剣術使いだとか。…なら俺も剣で戦うかな?

 

 

 

 

 

 

相手方の攻勢、そして俺は防戦一方。はたから見れば俺が不利であると思うだろう、…しかしそれは違うんだな。分かる人には分かるだろうけど、…俺は汗の一つも掻いていない。しかし相手方のグレン君は汗だらっだら、有効打の一つも俺には与えられていない。…別に遊んでいるわけではないよ? ただ、相手の剣術を見たいが為。俺の我流剣術が防戦に向いていると見せたいが為、それだけなのだよ。きちんと俺の剣術を見てもらわないと、…何せ教えることになるのだから。

 

…う~ん、防戦はこれぐらいでいいかな。これ以上粘ったら、グレン君が疲れて一騎討ちが流れてしまう。それだけは駄目だ、攻めの一手ぐらいは見せないと。そう思った俺は、グレン君の一撃を紙一重で避けてからの一歩。…そう、一歩踏み込んだだけで勝負が決まった。…俺の剣はグレン君の喉元、王手ってなわけです。

 

 

 

 

 

 

一騎討ちが終わって、相手のグレン君が尊敬の眼差しで見てきた。…で開口一番、

 

「カオス殿、私に貴方の我流剣術をお教え願いたい!!」

 

弟子入りを志願してきました。何とも熱い男だね、…気に入った! このグレン君に剣術を教える代わりに、ガイエン海上騎士団の剣術を教えて貰おう。互いに教えたり教えられたり、それで良い感じになったら騎士団全体に教えるのが良いと思う。人様に教えるってーのは滅多にしなかったからね、いきなり大人数は厳しいと思うんだ。教えることに慣れさせてくれ!

 

やはりそのことを団長のおっさんに言えば了承、よろしくと改めて言われた。…そういうわけで、数年…長くて十数年になるかもしれないからこのラズリルに居を構えるか。勝手に予定を決めてしまったが大丈夫かとシエラに聞いてみれば、

 

「初めて自分達の居を構えて共に過ごしますね? …その、…とても楽しみです。」

 

と花が咲くような微笑みで返してきました。あまりの可憐さ…可愛さにテンションが上がり、騎士の皆さんが見ている前で抱き締めてしまいましたよ。

 

…なんだね? グレン君。え…? 俺達の関係? 見て分からないかな、俺とシエラは夫婦だよ。彼女は俺の奥さん、………何故に驚くのかね?

 

 

 

 

 

 

…とのことで、俺とシエラはこのラズリルに住みます。永住ではないけれど、たぶん十数年は住み続けるかと。住まいも団長のおっさんが見付けてくれた、金は腐る程あるから一括払い。不動産屋は俺を上客と見た模様、…色々と便宜を図ってくれよ?

 

俺はガイエン海上騎士団の戦闘指南役に、先ずはグレン君をしっかりと鍛えます。シエラも俺と同じく指南役として雇われた、魔法指南役としてね。シエラは紋章魔法が得意だからね、指南役としては十分過ぎる程の人材だよ。

 

そういうことなんで夫婦共々、このラズリルにて世話になるよ。



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第2話 ~ラズリルでの生活・その1

今のところ調子が良い。

だからチラシから移動しようか。

毎日投稿が出来るかどうかの理由でそっちに行っていたわけだし。


ーカオスー

 

ガイエン海上騎士団に指南役として雇われてから三年、副団長のグレン君は俺の我流剣術を修めました。才能ある者は凄い、…まぁ俺も騎士団の剣術を一年で完全にモノにしましたが。現在は騎士団全体に教えています、個人個人…それぞれにあった戦闘術を。剣術はグレン君に任せて、俺は槍術や弓術…体術など色々な戦闘術を教えています。

 

俺の我流は剣術だけではない、武芸百般…伊達に長生きしとらんのです。今まで人様に対して本格的に教えていなかったから我流と名乗っていたけど、現在ではミケーネ流戦闘術と呼ばれていたりする。更にガイエン海上騎士団に合うよう進化させた戦闘術は別称、ミケーネ流ガイエン式戦闘術とかいう名称になった模様。俺にはよく分からんことだけど、グレン君に『大事なことです!』と熱く言われた。

 

 

 

 

 

 

シエラも同騎士団にて教えているが、…充実しているようで何より。元気に騎士達へ紋章の何足るかを、そして魔法を教えているみたい。熱心に教えを乞う騎士達の中でも、見習い騎士のカタリナって娘が有望だとか。何でも『ある人』の助けになりたいとのことらしい、…健気な良い娘のようだね。シエラが気に入るのも分かるような気がする、それに彼女の言う『あの人』には心当たりがある。生命エネルギーというか魔力というか、同じモノを持つ者が身近にいるし。…事情があるようだからツッコミはしないけど、…俺も一枚噛んじゃおうかな?

 

そんなわけで、度々自宅へカタリナって娘を呼んで体術を個人的に教えている。騎士団では彼女、魔法を中心に訓練をしているから教えられないんだよね。だからシエラに伝言を頼み、やる気があるなら時間外で体術を教えてあげる…と。そうしたら彼女、シエラに連れられて自宅へ来たのさ。そんなやる気のある良い娘には、懇切丁寧に体術を教えてあげようって。

 

カタリナは杖を媒介に魔法を放つみたいだから杖術も合わせて教えよう、白兵の出来る魔法使いは相手にとっては脅威になる。物覚えがいいからこの娘は化けると思うよ、将来は騎士団の幹部を目指せるかと思う。ガイエン海上騎士団の未来は明るい、本当に教えがいがあって良き哉。

 

 

 

 

 

 

そんな日々の中、驚くべき情報が耳に入った。ミドルポートのウォーロックなる人物が、異世界から『巨大樹』と『眠魚』を召還したと独自の情報網で知った。それを聞いて嫌な気分になる、…あの大陸の忌まわしき事件を思い出してしまう。

 

シエラと出会う前、ある国が異世界から二人の男を召還した。一人の男は召還されたということに怒り、帰れないという事実の前に絶望した。もう一人の男はその事実を受け止め、この世界でどう生きるかを模索するようになった。この考え方の違いにより同郷の二人は仲違い、更にこの召還の媒介となった真の紋章である『八房の紋章』が二つに別れて二人にそれぞれ宿る。

 

『八房の紋章(裏)』に取り憑かれた男の名はユーバー、怒りと絶望の中で世界を滅ぼそうと動いた。『八房の紋章(表)』に取り憑かれた男の名はペシュメルガ、負の感情に取り憑かれている友を止めようと戦いに身を投じた。…戦いの結果、一つの国が滅んでユーバーは姿を消した。そしてそのユーバーを追ってペシュメルガも姿を消し、残ったのは滅びだけだった。

 

俺もその戦いに巻き込まれてね、…レックナートのせいで。嫌な戦いだったよ、救いがない悲しい戦い。ユーバーとペシュメルガの仲は完全に決裂、ユーバーは悪となりペシュメルガは善となった。もう交わることがない、どちらかが滅びるまで戦い続ける運命になったのさ。

 

……………異世界からの召還、きっと今回の件も大きくなる筈だ。その動向を注視しなければ、…あの二人の時のように大きなナニカが起きるやもしれない。そう思いながら、俺はラズリルにて日々を過ごしている。

 

 

 

 

 

 

…しかし運命とはままならぬもので、後に『悪魔の兵器』と呼ばれる物が誕生してしまう。

 

『紋章砲』と呼ばれる兵器の誕生、これにより群島諸国は波乱の渦に巻き込まれる。…ここから始まったのかもしれない、一つの紋章の物語が。



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第3話 ~ラズリルでの生活・その2

感想ありがとうございます。

何というか、考えを言葉にする難しさを改めて思ってみたり。


ーカオスー

 

ミドルポートの魔術師ウォーロックにより、異世界から『巨大樹』と『眼魚』を召還。これらを材料にした『紋章砲』なる兵器が開発された、この『紋章砲』の誕生により海での戦い方が大幅に変わる。まだ世にそれほどの数が出回ってはいない、だが何とか入手し…何処よりも早く扱えるようにならなければ。俺の思惑と騎士団の考えが一致し、何とか数基の『紋章砲』を入手。(きた)る世の変化に向けて、ガイエン海上騎士団はいち早く『紋章砲』の扱いを模索していく。そして、俺とシエラの意見が組み込まれた再編が騎士団で行われる。

 

俺とシエラは変わらずに指南役として雇われることとなり、その指南役の他に紋章砲に関することも任された。一目見た瞬間、この『紋章砲』は危うい兵器であると気付く。…がしっかりとした手順を踏めば問題なく運用が可能であると結論付け、運用書の早急なる作成が待たれることに。そして作成された運用書を元に日々の訓練、これにより『紋章砲』による事故を未然に防ぐということを徹底させる。それと同時に、『紋章砲』の配備についても色々と話し合われる。

 

その他にも、この『紋章砲』に安全装置として封印を施しておく。開発されて間もない故、危険な反動(・・)というものがある。その隠された反動(・・)を発動させてはいけない、これは危険すぎるモノだから。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

海賊ではあるが、エドガーとブランドの二人には会っていたりする。世間体や立場を考えて、もっぱら海の上でだけになるのだが…。俺とシエラが騎士団の指南役として雇われていると言ったら驚いていた、…まぁ普通に考えて敵だからな。二人の子分達に警戒されたけど、捕らえることはしないから安心してくれ。…がラズリル近海に現れたのなら、立場的に捕らえるがね。そこらはしっかりとしつけてくれよ? 二人共、友人とその仲間を捕らえたくはないからな。

 

エドガーの恋人であるキカを紹介されたな。男勝りで美人、…というかイケメンな彼女。嫌がるかと思ったら人前で普通にいちゃついとる、…俺も負けてられないってことでシエラといちゃつく。ブランドが凄く嫌な顔をしていたっけ、…独り身? と聞けばめっちゃ落ち込んだ。エドガー曰く、見た目で敬遠されるんだと。…人のことを言えた義理はないが、分かる気がする。

 

後はアレだ、世に出回り始めた『紋章砲』のことも教えておく。幸いにもエドガー達はその存在を知らなかったから、教えてやったら感謝された。更についでとして、海賊スティールが『紋章砲』を入手したらしいってことも合わせて伝えておく。お前達はスティールと敵対しているんだろ? 俺からの情報を生かすも殺すもお前達次第、出来れば有効的に使用して貰いたい。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

仕事の合間にカタリナへ戦闘術を教え、それが終わってから定期的に行っているラズリルの見廻りへ。その見廻りで一人の孤児を保護する、いつも通り先ずは騎士団の館へと連れていく。そこで一時的に保護をし、里親を探すことにした。名前を聞いてみればラズロというらしい、それ以外は分からないと言う。…ラズロね、このラズリルでは聞かぬ名だな。

 

一応調べてみたところ、ラズリルには誰一人…この子に繋がる者がいないことが判明。ならばこの子は何処から来たのか? …と考えて、一つのことが頭をよぎった。一年前に捕まえた奴隷商人の件、全ての奴隷を保護して新たな生活へと送り出したかと思ったが…。その時の保護から外れてしまった子だろうか? …そう考えれば、ラズリル内にこの子の関係者がいないってことに納得が出来る。…となれば、この子の他に見逃してしまった者がいるかもしれない。

 

そう思って捜索してみれば、もう一人見付けたよ。女の子で名前をララクルというらしい、…よくもまぁ無事でいてくれた。とにかく保護をし、ラズロ共々騎士団で面倒を見ることに。…そして判明する、ラズロとララクルには才能があると。…とのことで、この二人は俺が引き取ることに。この時は成人して独り立ちが出来るまで、…そう考えていたんだけどね。

 

 

 

 

 

 

引き取ったラズロとララクルは凄い、教えれば教える程に戦闘術を覚える。ラズロは双剣術に適性が、ララクルには格闘術が良いみたいだ。互いにライバル視して競い合うように鍛えている、その結果…メキメキと実力が上がっていく二人。…逆に魔法が苦手な模様、毎回暴発紛いの爆発を起こす。………危ないから魔法を禁止にした方が良いかもしれない、そう決めると二人は喜びシエラはガックリと肩を落とした。

 

この時にウォルターとかいう男がこのラズリルに訪れた、『紋章砲』について色々と探りを入れているようだ。…残念ながら騎士団の『紋章砲』は俺とシエラが改良した重要機密、見せることも教えることも不可能な物。無理に探ろうものなら外交問題になるぞ? と出会い頭に脅しておけば、悩んだ挙げ句に大人しく引き下がったようで安心した。…悪い人物ではないのだろうが、赤月帝国なる国に属していることが気になる。十中八九…調査員か工作員のどちらかがだろう、…俺としてはこのまま国へ戻った方が長生きすると思うのだがね。



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第4話 ~ラズリルでの生活・その3

年号とか年齢とか物語とか、色々と変わっていますが気にしないでください。

原作と展開が違います。


ーカオスー

 

ラズロとララクルを引き取ってから六年ぐらいになるか? 二人はすくすく育ち、そしてぐんぐん強くなった。二人揃って一二歳、後三年…一五歳になったら騎士団に入団が出来る。二人はその日を目指して日々の鍛練を欠かさない、義理ではあるけれどその成長が嬉しい。先代騎士団長が引退し、現在の騎士団長であるグレン君も楽しみにしてくれている。カタリナも若くして副団長となったし、ガイエン海上騎士団は成長し続けている。

 

ただ…最近、懸念していることがある。騎士団に多額の資金援助をしてくれているラズリルの領主フィンガーフート伯、彼が騎士団の成長と功績を自分の手柄であると吹聴。それと同時に自身の手の者を騎士団に入団させ、騎士団を私兵が如く利用し始めたのだ。グレン君にカタリナもこのことに頭を悩ませているらしい、俺とシエラも助力はしているんだけどね。

 

 

 

 

 

 

こんな身内? のゴタゴタの最中に、騎士団入団を夢見た少年少女がラズリルにやって来た。ここ最近常勝無敗だからね、憧れるのは分かるが時期が悪かった。更に年齢が入団規定に達していない子もいる為、入団が許可出来ない。だが、何かしらの事情があるかもしれないから話を聞いてみるか。

 

タル君一五歳にケネス君一二歳、生活困窮の為に口減らしとして故郷から送り出されてきたらしい。ジュエルちゃん一〇歳、単純に家出をしてきた模様。ポーラちゃん一一歳で母親同伴、故郷から追い出されて帰る所なし。ジュエルちゃんを抜かして帰る所なしの状況、さて…となればこれしかないか。

 

 

 

 

 

 

今の騎士団に入団させたらロクなことにならない為、入団可能なタル君に理由を話して俺の下に置く。指南役補佐としてね、騎士団のゴタゴタが終息したら入団させようかと思う。勿論鍛えてやるさ、良い騎士になれるように。

 

ケネス君とポーラちゃん、その母親も同じく俺が面倒を見る。騎士団を頼ってきたのに規定の為…入団出来ず、帰る場所がないとのこと故に。入団規定の年齢になるまで、タル君同様鍛えるつもり。ポーラちゃんの母親には悪いけれど、我が家の使用人として働いて貰うことにする。それでも彼女の母親は涙を流して俺とシエラに感謝する、…まぁ帰る場所がないもんな。このご時世、仕事と住居が一気に入手出来ることは破格なのかもしれん。

 

問題は家出娘のジュエルちゃん、どうしようかと考える。絶対に帰らないと駄々をこねる、そして家の柱にしがみついて離れない。無理矢理引き剥がして送り返すのが一番なのだが、…この調子じゃまた家出をするだろう。その時に無事でいられるかと考えれば面倒を見るしかない…か?

 

今回訪れた者達を全員引き取ることに決定、一気に家族? が増えてラズロとララクルは大喜び。ついでに今回のようなことが起きないよう布告を徹底させる、次があっても俺ん所で面倒を見れないからな。グレン君とカタリナ、よろしく頼むよ。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

タル君達を迎えて一年になる、最初はぎこちなかったけれど今はみんな普通に生活をしている。鍛練に関しても、ライバルが一気に増えたからラズロとララクルは毎日張り切っている。シエラも嬉しそうに魔法を教えている、ラズロとララクルは魔法に関してダメダメだったが、タル君達はきちんと覚えてくれるからね。中でもポーラちゃんが優秀で次にケネス君、続いてジュエルちゃんにタル君ってところか?

 

とにかく毎日がそれなりに充実している、そう…それなりにだ。何故にそれなりなのかと言えば、騎士団が未だにゴタゴタしているから。グレン君とカタリナは頑張って何とか纏めようとするんだけど、フィンガーフート伯寄りの者が色々とやらかすみたいでね。…良くなるどころか日々悪くなる一方、今ではグレン・カタリナ派にカオス・シエラ派、そしてフィンガーフート伯派の三派閥に別れてしまった。…と言っても俺達とグレン君達の仲は良好、実質的に俺達の派閥とフィンガーフート伯の派閥とで二分化している。

 

因みに『紋章砲』は俺達の方で掌握しており、フィンガーフート伯派には一切触れさせていない。ほぼ素人の集団に扱わせるわけにはね、…改良してはあるけれど危険なのには変わらない。

 

ここに来て暗雲が立ち込めてきた。…ラズリルは、…騎士団はこれからどうなるんだろうか? …心配だ。

 

 

 

 

 

 

心配といえばもう一つ、エドガー達とスティールの争いも未だに続いている。ミドルポートも最近…動きが怪しいし、六年前に会ったウォルターの噂も最近よく耳に入る。…マジでどうなっていくんだ?



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第5話 ~急転

ーカオスー

 

ラズリルにてタル君達を迎えて面倒を見る傍ら、騎士団を何とかしようとグレン君達と立ち回る中、

 

「エドガーが死んだ!? ブランドが行方を眩ました…だと!!?」

 

俺の下に信じがたい情報が入ってくる。友人であるエドガーの死、そして行方を眩ましたブランド。あの二人に限って…と思うのだが、海賊にとって危険な場所であるラズリルまで知らせに来てくれたハーヴェイを考えると…。こちらも今…大変な状況にあるが、エドガーの件を含めてキカのことが心配だ。あの娘は…、泣いちゃいないだろうか?

 

…右手が熱い、『原初の紋章(コイツ)』が主張するってことは争いの前兆。…エドガーの死と行方を眩ましたブランドには真の紋章が関わっている可能性がある。そうじゃなきゃ『原初の紋章(コイツ)』は主張しないわけで。…そうなれば知っておかねばなるまい、この件を詳しく。シエラやグレン君達に暫くの間…苦労を掛けるがこればかりは、…知らぬ間に巻き込まれるのはごめんだからな。シエラやラズロ達の身の安全の為に、…キカの下へ行こう。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

シエラとグレン君宛に置き手紙を書く、そして知らせに来てくれたハーヴェイの案内で船へ乗り込み海賊島を目指す。そこにキカがいて、ハーヴェイ以外の生き残りが数名いるらしい。…一体何が起きたというんだ、それにキカは大丈夫か? 最愛の人と頼りがいのある兄貴分、二人を同時に失ったのだから。

 

…俺も少なからず動揺をしているようで、…さっきから同じことばかり考えてしまう。

 

 

 

 

 

 

海賊島へと辿り着いてみれば、活気がなくて静寂が場を支配している。大将達を失ったのだから仕方がないのかもしれない、それほどに大切な者達であったということなのだろう。荒くれ者達の心中を察しながら、キカの部屋へと案内される。ハーヴェイに促されてノックをし、微かに聞こえた返事を聞いてから部屋の中へと入った。…そこで見たのは男勝りなキカではなく、憔悴し切ったただの女性…にしか見えないキカの姿であった。

 

俺の姿を見たキカは涙を溢す、…俺を見て共に過ごした日々を思い出したのだろう。そんな彼女を見た俺は近付き、エドガーがキカを慰めていた姿を思い出しながら傍にいてやる。今は泣くだけ泣いた方がいい、その方がスッキリとして落ち着けるからな。

 

暫くして落ち着いたキカは、目を赤くしながらも俺に礼を言って事の顛末を話し始める。本当であれば生き残った者達が話すべきだが、俺を迎えにきたハーヴェイ以外…全て亡くなってしまったようだ。故にそれぞれから話を聞いたキカが話す、…そういうことらしい。

 

 

 

 

 

 

…キカから聞かされた話を纏めると、…こういうことらしい。

 

ある日ウォルターと名乗る者達の一行が現れ、海賊スティールの情報があると取引を提案してきた。スティールとの決着を考えていたエドガーは取引に応じ、入手した情報を頼りに彼等を連れてスティール討伐へ動いた。キカは万が一の為に居残り組、今にして思えば良い判断であったと言える。…因みにこの情報の入手先はウォルター曰くミドルポートとのこと、…現在一番怪しい場所からの提供か。

 

ある海域にてスティールを捕捉、ウォルター一行と協力して追い詰めることに成功。しかし何処からともなく現れた謎の艦隊による砲撃で場は混乱、更に追い詰められたスティールは古めかしい『紋章砲』を使用。それにより複数の子分達とウォルターが化物に変化し、突如として見境なく暴れ始める。それでも、何とかスティールを討伐しようと攻め込み……。

 

スティールが何かしらの紋章を使用。その力の前にエドガーは敗れ、スティールはその反動で消滅した。その時に現れた光がブランドに取り憑き、そしてブランドは可愛がっていた子分であるペックを連れて、この場を去っていったらしい。その時に…、

 

「…俺はもう帰れねぇ、…エドガーをキカの下へ。…すまねぇ、…すまねぇと伝えてくれ。…キカに、…カオスとシエラにすまねぇと。」

 

…と、震える声でこの言葉を残していったそうだ。

 

エドガーの遺体と共に、満身創痍で撤退してきたそうで。この島に戻ってきた生き残りは、怪我をしているのに報告と謝罪を真っ先にしてきた。そして後悔と無念を滲ませながらも、安心したかのように亡くなっていったそうだ。エドガーの遺体と愛すべき仲間達の死、そしてブランドが行方を眩ます。たった数日間で事態が急転、キカ自身も何が起きたのか分からないままに悲しみだけが押し寄せてきた…とのこと。

 

 

 

 

 

 

話し終えたら少しは安心したのだろう、キカは俺にもたれ掛かって寝息をたてる。起こさぬようベッドへ運び、その寝顔を見守る。

 

…………寂しいな、……やはり友を失うってことはなかなかに堪える。寿命であるのなら仕方がない、事故であるのなら仕方がない、互いの誇りを懸けた上であるのなら仕方がない。……だがキナ臭い、キナ臭くて不快だ。誰かの思惑が見え隠れしている、………故に俺は調べる。




次回、閑話。


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閑話 ~シエラの物語《前編》

感想ありがとうございます。

今回はシエラの物語。

簡単に書く予定です。

勿論オリジナル。


ーシエラー

 

カオスさん…、夫と出会ってから何百年の刻が経ったのでしょうか? 目を閉じれば思い出す日々、忘れたことはありません。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

わけが分からぬまま『月の紋章』に選ばれ、家族や友人達…大勢の人達に化物と呼ばれ、知らぬ内に手配されて命を狙われ、最終的には国から…国そのものからも狙われることに。逃げる道中、自身の能力を知り化物…バンパイアであることを自覚しました。

 

自覚した日から血を欲するようになりました、…でも私は血を吸うという行為をしませんでした。一度でも血を吸えば私が私ではなくなり、…人々の言う化物にへと変貌してしまうのでは? そう思ったからです。

 

逃げ続けて数年、紋章を宿す前が幸せだったからこそ辛い。逃げることや血を吸いたくなる衝動よりも、独りでいることが…孤独がこんなにも辛いなんて知りませんでした。私は死ぬまで、紋章から解き放たれる時まで独りなのでしょうか?

 

そんな日々の中で、初めて『月の紋章』が反応したのです。紋章に誘われるがまま進み、そして…彼に、カオスさんに出会ったのです。

 

 

 

 

 

 

カオスさんは優しかった。化物と呼ばれ、命を狙われ続けていた私の話をきちんと聞いてくれて。何より、こんな私を守ってやるという言葉までくれるなんて。…私は数年ぶりに安らぎを得ました、…この人は信頼出来ると。

 

安らぎを得た私は張り詰めていた糸が解け、…血を欲する衝動に襲われました。こんな姿…優しくしてくれるカオスさんに、嫌われて…化物と。安らぎから一変、拒絶される恐怖と血を欲する衝動に震えていると、

 

「それが『月の紋章』を宿し、バンパイアに変じてから度々現れるという衝動かね? …なるほど。見たところ…相当苦しいだろう、…今の今まで我慢し続けてきたのだな? …ならば我慢をすることは止めた方がいい、…俺の血で良ければ吸うといい。…心配はいらない、何かしらの力が発揮されようとも俺には効かぬ故。」

 

そう言って自身の首筋を私に差し出してきました。…必死に堪え続けてきた私は、…その甘美なる誘惑に負けてしまい………。

 

 

 

 

 

 

カオスさんから血を頂いて落ち着いた私。化物にならぬよう堪えてきたのに、…私という女は誘惑に負けて! …自分の弱さに己を責める。…そんな私を見ていたのであろう、

 

「君は『月の紋章』の力でバンパイアとなった、人はそれを化物と言う。…だが私からしてみれば化物にあらず、真の紋章を長らく宿している者達の方が化物と言えよう。君はただの幼子だ、…断じて化物ではない。」

 

うっすらとですが、怒りを含んだ物言いで化物という言葉を否定してくれました。その言葉に何か、…力を感じました。私は不思議に思い聞き返しました、何故カオスさんはそう思うのですか?…と。

 

カオスさんは懐かしむように、そして時折悲しそうに語ってくれました。

 

「長き刻の中をさ迷い、『原初の紋章(コイツ)』を宿してこの世界に降りた。この世界に生を受けて千年以上、数多の出会いと別れを経験してきた。これまで心を壊さずに生きている俺こそが化物と言えよう、…まぁ自身を化物だと思ったことはないが。…俺は長き刻をこのままの姿で生きてきたが、それでも人であると胸を張って言える。…心を持ち続ける限り、人であり続けられると俺は思うよ。だから君は君らしくあるといい、決して自身を否定するな。否定は心を傷付け、…紋章に飲まれることになる。そうなって初めて、…化物となる。俺は…、それを見てきたのだよ。だからこそ君は、強く自身を持ち続けて欲しい。君の心が定まるまで、…自由になるまで守る故。」

 

その言葉には重みがありました。カオスさんの言葉を信じるなら、彼は私の数年なんかよりも長い刻を生きてきたということになります。そして色々なモノを見てきて今に至って、それでも壊れることなく人であると。

 

心ある限り人であり続けられる…ですか、…私にはよく分かりません。身も心も逃亡生活で疲れることがありました、紋章を宿す前の生活を思い出して泣きたい時もありました。…そんな生活を続けていたら、…心が壊れていくのでしょうか? 私にはまだ分かりませんけど、彼の経験から言われた言葉ですから心に刻み付けておきましょう。きっと、…それが正しいことなのでしょうから。

 

 

 

 

 

 

出会った今日という日から、私はカオスさんと行動を共にしています。言葉通りにカオスさんは私を守ってくれました、私を狙う者達から……。

 

夜の道(・・・)はとても長いです、まるで迷路(・・)のように。

 

それでもカオスさんは私を守り続けてくれるでしょうか? 終わり無き追跡者達の襲撃から。

 

………いえ、……そのようなことを考えてはいけませんよね? 私は単純に信じればいいのです、…カオスさんに全てを委ねればいいのです。きっとそれこそが私の助かる道、…きっとカオスさんが私の騎士様(・・・・・)なのですから。




次は中編。

あの紋章とあのキャラが出ます。


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閑話 ~シエラの物語《中編》

感想ありがとうございます。

返信は後ほど。


ーシエラー

 

追跡者からの執拗な襲撃を全て撃退し、宣言通りに私を守ってくれるカオスさん。出会ってから数ヶ月、『月の紋章』を宿してからこれ程までに安心して行動が出来るとは思いませんでした。

 

そんな逃亡生活の中でカオスさんが、

 

「…永遠に続く夜の道(・・・)か、随分とシエラにご執心であるな。…夜の帳が彼女の鳥籠、…機を見てと考えていたようだが残念。もう見極めたが故に夜の結界(・・・・)は終幕となる、…陽はまた昇るというわけだ。」

 

そう言って右手を掲げれば、カオスさんの紋章が輝いて………。

 

 

 

 

 

 

太陽が輝く空を見て、…とても懐かしいと思いました。カオスさんの話では、真の紋章を宿した何者かによって国全体が夜の結界で覆われていたとのことです。何故そのようなことを? と思いましたが、十中八九…私が宿している『月の紋章』が目当てであると。それだけではなく、私自身をも欲しているのではないかとカオスさんは言いました。

 

私はカオスさんと共に夜から解放された国を歩きました。驚くことに人々は、私達に襲い掛かることをしないのです。カオスさんが話し掛けても、…傍らに私がいたとしてもにこやかに会話が成立する。…化物と言われない、本当に驚きました。

 

更に驚いたことがあります、カオスさん曰く…、

 

「…あの夜の世界(・・・・)は時間さえも狂わせていたようだ。…話を聞けば、既に滅んだ国を昨日のことのように語り出す。…となれば、シエラが過ごしてきた数年というのは……。」

 

私の数年、…実は数百年ということみたいです。

 

 

 

 

 

 

私を狙う黒幕が姿を現しました。リインという名の騎士、真の紋章の一つである『夜の紋章』を宿す者。彼は、

 

「カオスといったか…、お前のせいで計画が台無しとなった! 後もう少しで私が騎士(・・)として彼女を救い、月の乙女(・・・・)が私のモノとなったのに。そうすれば、…姫様(・・)が救えたというのに! …許しはしない、…許しはしないぞカオス! 貴様を排除し、必ずや月の乙女(・・・・)を我が手中に!!」

 

一方的にそう宣言し、リインという騎士は姿を消しました。…一体何なのでしょう? …私はただのシエラ、…月の乙女(・・・・)なんて。

 

私を狙う者、その黒幕であるリインという騎士との邂逅から数日後。今では昼と夜が等しく訪れるようになりましたが、リインがいるであろう王都は夜のまま。こちら側が夜へと傾けば、王都より夜に属する魔物達が周囲へと散っていき、…徐々に夜の範囲を広げていくではありませんか。

 

…昼が訪れるようになった地域の人々は正気に戻っており、何とかしようと奮戦するも侵食を抑えられず…。夜は確実に近付いてきている。私を狙って確実に………。

 

 

 

 

 

 

このままではまた、…あの夜の結界(・・・・)に閉じ込められてしまう。せっかく夜から解放され、取り残されていた時間から正常なる時間へと戻れたのに。そのことを認識し、ナニカを取り戻そうとする人々がいるのに。そんな人々を再び夜に閉じ込めるというのですか? …そんなこと、…そんなことを許しては!

 

私は自身の為に、この国の為に立ち向かう決心をしました。カオスさんも約束を守る為…、共に戦ってくれるそうです。…本当に心強く思います、でも…あまり手を煩わせぬよう頑張ります。

 

 

 

 

 

 

…更に数日、私達と共に戦ってくれるという人達と共に前へ進みます。道中…人が増えていき、ある場所で朽ちた要塞を発見し本拠地と定めました。…そこである人物と出会います、その方の名はレックナート。彼女の登場で更に加速する戦い、108星を集めることが全てを終わらせる術だと。

 

私を先頭にカオスさんが続き、108星に連なる宿星の勇士達が共に進みます。夜の塔という敵側の重要拠点、そこに囚われていた『星の紋章』を宿す女性ゼラセ。彼女の解放・加入により夜の力は弱まり、やっとのことで攻勢に移り変わりました。

 

敵側の大将であるリイン、彼の目的がこの国の姫様を救うことであることが判明。それには夜の世界(・・・・)であることが重要で、『月の紋章』を宿した乙女の…始祖の魂が必要とのこと。…救いたいという気持ちは分かります、けれどその為に私を…、関係のない人達を巻き込むのは…! 他の方法はなかったのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

月と夜の戦いは終わりへと近付き、…遂に私達はリインのいる王都の目前まで来ることが出来ました。




因みにこの物語では、


天魁星はシエラです。


夜の紋章も星辰剣ではありません。


リインなる人物は幻想水滸伝外伝の登場人物です。



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閑話 ~シエラの物語《後編》

話を纏めようと書いたが、上手く纏まらないし。


途中でよく分からなくなった。


でも、最低限…分かると思うよ?


マジで書いたら何万文字いくのだろうか? ……って感じです。


ーシエラー

 

リインのいる王都を目前に、私達は最終決戦の準備をします。次で最後、この勝敗で私達の未来が決まる。緊張感が漂う中で、108星の仲間達は各々で過ごしています。皆の協力の下で盟主を努める私も、一番に支えてくれたカオスさんと共に…。

 

私の未来と、…この国の未来を懸けて戦う。幾度となく悩み、…考えました。一途に想う騎士の企みを阻止し、一人の女性を犠牲にする。それが正しいのか? …冷静に考えればそれが正しいことは明白、でも…救えるのであれば救いたい。そう考えてしまうのです、…それは傲慢でしょうか?

 

そんな悩みをカオスさんに打ち明けます。すると彼は……、

 

「シエラの想いを否定することはない、…それは君だけのモノ故。…シエラがそう想って戸惑うのであれば、俺が代わりにリインを討たせて貰うよ。理由がどうであれ、ヤツは救う為に様々な者を犠牲にし過ぎた。多くの犠牲の上で救われた命は幸せか? …それは否であろう。聞く限り、件の姫はとても優しく聡明な方だとか。…大きすぎる罪悪感に、生ある内は苦しみ続けることになるかと俺は考える。……それ以上に、俺は君を守ると言った。…違える気はない。」

 

…カオスさん、…貴方はそのような結末を見てきたのですか? …貴方も私と同じ想いで悩み苦しんだことがあったのですか? …たとえどんな結果に繋がろうとも、…私を守ることだけを考えてくれていたのですか?

 

…私の想い、…悩みは私だけのもの。…答えを決めるのは私、…私なのだから。

 

 

 

 

 

 

私の隣にいるカオスさんとゼラセ、そして目の前には私達三人を除く108星達。私は声高らかに演説をした、リインを倒して皆の未来を、国の未来を手に入れましょう…と。士気の上がった戦友達と共に、リインのいる王都へ進軍を開始します。皆の為に、国の為に、…何よりも私の為に。…私はリインを倒します、それがきっと…正しいことだから。

 

 

 

 

 

 

………仲間の援護を受けながら王都内を進み、リインが待ち構えているであろう城内にある姫の寝所へと足を向ける。案の定、…その扉の前にリインが待ち構えており、

 

「…言葉はいらない、私はただ願いの為に剣を振るうのみ! 我が『夜の紋章』よ、…その力を示せ!」

 

リインがそう叫ぶと、彼は紋章と共に光輝き…………。

 

気が付けば私達は闇の中に、いえ…これは夜の中でしょうか? …その夜の中に、夜を具体化させたかのような色の巨人がいた。…それはまるで守護者のように、…それはまるで愛しき者を守るように、…強烈な威圧感を発しながら私達の前に立ち塞がりました。

 

 

 

 

 

 

激しい戦いの中で何とか夜の巨人を討ち、私達は元の世界に…寝所の前に戻ってきました。…扉の前にはリインの姿がなく、彼の使用していた一振りの剣が扉を守るよう突き刺さっていました。その剣をカオスさんが抜き取れば、連動していたかのように寝所へ続く扉が開かれ……。

 

寝所の奥にあるベッド、その真上から神秘的な光が降り注いでおり、その中心には朽ちた白骨が…、そしてその傍らにも一人の白骨………。

 

私達は何と戦っていたのでしょうか? リインは既に朽ちていた? 彼が救おうとしていた姫も同じように………。

 

 

 

 

 

 

その時、リインの剣がカオスさんの手から離れて宙に浮きました。それと同時に私の『月の紋章』が、共に来ていたゼラセの『星の紋章』が、そしてカオスさんの『原初の紋章』が光輝いて………。

 

朽ちた白骨が光となり空へと上がっていきます、…その光は途中で人の姿となり、…それはリインであり、…私に面影が似ている一人の少女でした。その二人を追うように、周囲にある全てが光となり消えていく。最初から何もなかったかのように、全てが幻であったかのように消えていく………。

 

 

 

 

 

 

後に残ったのはリインの剣、そして私達を含めた数人の108星だけでした。そして残ったリインの剣ですが、それには意思があって『夜の紋章』でもあるらしいのです。

 

彼の話では、この国は数百年前に滅んでいるそうです。()の使い手であるリインは主である姫を守りきれず、自身も壮絶な最後を遂げたそうで。…その死の間際、リインの守りたかったという想いが戦場に渦巻く負の力で歪んでしまって……。

 

彼等は滅びの前夜、夜に囚われてしまったそうです。もういない敵の攻撃に備え、時には自分達から攻め込んで国を守ろうとしていた。死してもなお、いもしない敵と戦い続けていたのです。

 

私の記憶も一部が偽りであると知りました、私は別の国の出身でこの国の者ではない…みたいです。たまたま夜の結界に迷い込み、たまたまこの国の何処かに封印されていた『月の紋章』に選ばれただけ。…だからこそわけが分からなかったのだと気付きました、…私を化物として追い出した家族や親しい人達も偽りで、本当の家族や親しい人達はそんなことはなく、遥か昔に………。

 

 

 

 

 

 

巻き込まれたのは分かりましたが、何故…狙われることになったのか? その理由は簡単なことで、この国を滅ぼしたのが『月の紋章』を有する隣国であった為。夜の塔に囚われていたゼラセも同様の理由、『星の紋章』を有するのが侵略国であったから。

 

『月の紋章』と『星の紋章』を宿していた前者は、夜の世界に閉じ込められて既に亡くなっているとのこと。だからこの国に封印されていたのでしょう、そして…『夜の紋章』と相性が良かったからこそ、私達が揃って夜の世界に囚われた…と考えられます。

 

 

 

 

 

 

彼曰く、流れが変わったのがカオスさんの侵入。三つの紋章よりも強力な『原初の紋章』によって、奥底に眠っていたリインの自我が僅かに目覚めたそうで。自身の願いで歪んでしまった国を救う為、囚われ続けている姫を救う為、巻き込まれた者を救う為、僅かに目覚めた自我で悪役を演じ、自身を討ち取ることでこの夢からの解放を望んだ。

 

私を執拗に狙っていたのは『月の紋章』を宿したからで、カオスさんの登場で自我が目覚めて方向転換。その流れを利用して私を月の乙女(・・・・)と呼び、魂が必要とあえて私達の前で言い放ったのも自身の存在を印象付ける為の嘘。騎士(・・)を強調したのも、カオスさんと共に行動させる為。…だから私はカオスさんのことを騎士様と、…少なからず誘導をされていたわけですか。

 

 

 

 

 

 

リインの願いは成就されました、それも最高の形で。ただ討たれて消える筈が、その魂は救われて主である姫と共に消えることが出来たのです。108星の力によって、私が望んだ二人を救う願いは叶いました。

 

『夜の紋章』である彼は私達に礼を言い、疲れたから眠ると言ってこの場から消えました。彼が消えて残ったのは私とカオスさんとゼラセ、108星であった数人のみ。残った私達はこれからどうすれば、そんなことを思いました。

 

 

 

 

 

 

残った皆がこれからどう生きるかを考えている中、カオスさんがボソリと……、

 

「……救いのある結末は初めてだ。…一人の心からの願いが奇跡を生んだ、108星の奇跡というわけか。……なかなかどうして、…運命も捨てたもんじゃないな。」

 

何とも悲しそうに、何かを噛み締めるように、そして嬉しそうに、万感の想いを込めたその呟きが私の心に残りました。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

色々と考えた結果、残った108星はこの地に残るみたいです。共に戦い、…消えていった仲間達の為に出来れば復興させたいと。私もそれに賛同し、カオスさんも暫くは手伝ってくれるそうです。ゼラセも残って手伝いたかったようですが、これ以上…共にいたら何とかって…。そう言って名残惜しそうに、…振り返ってはカオスさんを見て立ち去りました。……ゼラセ、…貴女はカオスさんのことを。

 

 

 

 

 

 

………その後も色々とありました。108星の仲間であるジーンさんとビッキー、レックナートを含んだカオスさんとの絡みとか。…そして同じく108星の仲間であったネクロードの裏切りとか、……本当に色々ありました。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

そんな色々なことがあって、…その後にカオスさんと結ばれて今に至っています。…あの国の跡地は今、…どうなっているのでしょうか? …ゼラセは元気でしょうか? …問題児三人組も変わらずにあの調子なのでしょうか?

 

皆…、何をやっているのでしょうね?




今日よりたぶん、一日か二日を空けての投稿になるかと。


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第6話 ~ラズリルにて…《シエラ》

時間がない。


ーシエラー

 

私とカオスさんの寝所に置き手紙がありました、私とグレンに宛てた手紙のようです。グレン宛は後ほど本人に手渡すとして、私は自分に宛てられた手紙を広げて内容を確認します。

 

 

 

 

 

 

…その内容に私は驚きました。カオスさんとの共通の友人であるエドガーが死に、ブランドが行方を眩ました…と。キカのことが心配であること、…そしてその時の状況を知りたいと書いてありました。最後に暫くは帰らない、苦労を掛けるがよろしく頼むとあります。…暫くということは、長くても半年は戻ってくる気がないということですね。カオスさんと結ばれてから、半年近く離れたのは数回のみ。今回もそれとなると、…何かあるってことでしょうね。

 

苦労を掛けるということに、ラズロ達のことは含まれません。何故なら、子供達の面倒を見ることは私の幸せの一つなのですから。グレンの派閥に私達の派閥、それらに属する騎士達のことも苦労になりません。彼等の成長もまた、幸せなのですから…。そうなると一つですね、仮想敵と言うべき者達。…そう、ガイエン海上騎士団のフィンガーフート伯派。カオスさんのみ言う苦労とは、彼等のことで相違ないでしょう。

 

頻繁に顔を出していたカオスさんの姿が見えない、そこから夫の不在を認識した時に彼等は何かをする可能性が高いとみます。正直に言ってグレンの派閥を含めてのこちら側の陣営、旗頭はカオスさんなのです。グレンもカタリナも皆カオスさんを尊敬しています、カオスさんに憧れて入団した者も多いです。それ故にフィンガーフート伯派はこの機を見逃さないかと、…私はそう考えます。

 

 

 

 

 

 

…更に言うならば、エドガーの死の内容によっては大規模に動くことが予想されます。まだ分かりませんが仮に、…仮に何処の誰かの介入が原因であったのなら。内容によっては、このガイエン海上騎士団にも何かしらの影響があるやも。

 

カオスさんは寂しがり屋ですからね、家族…或いは仲間と認めた者を離そうとはしません。極力失わないように動くような人です、…身内を守ろうとするのがカオスさんです。…その為ならば何でもします、…ラズリルから出奔することになっても。

 

…ですから、ラズロ達にも言い聞かせておかなければなりません。何時如何なる時でもきちんと動けるようにと、…これはとても大事なことです。カオス・シエラ派、私達の派閥に属する騎士とその関係各位にも極秘で伝えておきましょう。更に箝口令です、…漏らすことは許しません。

 

 

 

 

 

 

……それにしても、あのエドガーが死ぬなんて。…彼の双剣術はカオスさんが褒める程のもの、海賊スティールに後れを取るなんてことはない筈です。ましてやブランドがいるのにです、…彼もまた剣豪と言ってもいい程の剣士。…カオスさんが動くのも分かります、…普通に考えればあり得ないですから。

 

そしてキカを心配するのも分かります、…彼女はああ見えて繊細ですからね。愛する人と頼れる人の二人、その二人を同時に失うってことは相当のことです。もし、…カオスさんが死んでしまったら? …考えただけで胸が引き裂かれそうになります。…私なら後を追ってしまうでしょうね、…私にとってカオスさんが全てですから。カオスさんの分まで生きる、…なんて考えられません。

 

自分のことのように考えていたら、私もキカのことが心配になってきました。彼女のことだから死ぬことはないでしょう、…ですが泣いてはいると思います。今すぐ傍に行って抱き締めてあげたい、…まぁ無理なのですが。…その役目はカオスさんに任せます、…頼みましたからね? …どうかキカを支えてください。

 

 

 

 

 

 

エドガーとブランド、そしてキカのことを考えていたら確信してしまいました。カオスさんは動く…と、…何故なら真相を知らない私でもキナ臭さを感じているのです。私で感じるなら、カオスさんも確実にキナ臭いと思っている筈。その時の状況を知って、更に何かしらの思惑を感じ取っていると思います。

 

カオスさん自身がここへ戻らなくても、連絡は何かしらの手段で寄越してくると考えて準備をしましょう。如何なることでも直ぐに対応出来るように本腰を入れるに越したことはありません、…これもカオスさんの妻としての役目。あの人の力となることが至上の喜びとなるのですから、これも内助の功になりますよね?



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第7話 ~思案

ーカオスー

 

キカから話を聞いた俺はこの件を調べることにした、…特に謎の船団というヤツが気になる。…調べると決めたからには早急に行動すべきだろう、今回の件で動いた奴が証拠を隠蔽しようとする筈だし。…俺の想像する、いや…あの男が主導で計画をしたならそうする筈だ。自身の私腹を肥やす為なら何でもする男、奴であれば必ずな…。

 

俺はベッドで眠るキカを見る。今は安心して眠っているけれど、先程までは泣いていた。エドガーの恋人で俺の友人、…そんな彼女の為に俺は動こう。今は亡きエドガーの為に、行方知れずになったブランドの為に、…そして俺自身の為に。俺は絶対に事の真相に辿り着いてみせる、…目星も付いているしな。だから待っていてくれよキカ、…お前がこの海で生きていけるようにしておくからな。お前に危害を加えられぬよう、…奴の動きを封じておく。

 

 

 

 

 

 

キカの部屋から出た俺は、真っ先に船の下へ。そこにはハーヴェイがいて項垂れていた、…無理もないな。件の戦いの生き残りは自分を残して全員亡くなった、キカと同じようにハーヴェイにも辛い現実となったわけだ。そんなハーヴェイに声を掛けて調査に誘えば乗ってきた、何やらやる気があって良い感じ。気を紛らわしたいのもあるが、それ以上に皆の仇となる謎の船団に思うことがあるようだ。

 

勝手に連れ出すわけにはいかないので、理由を話して連れ出すことを近くにいた海賊に伝えておく。キカにも伝えておいてくれと言えば、快く了承してくれた。それだけではなく、頑張ってくれと激励された。ハーヴェイと同じように仇討ちと思っているのだろう、…まぁ間違ってはいないが。

 

 

 

 

 

 

海へ出航した俺達は航路をミドルポートに向けた、…最も怪しく俺が今回の件の黒幕と読んでいる男が治めている島故に。…ラインバッハ2世、ミドルポートを良く治めているがそれは偽りの姿。奴の本当の姿は私利私欲の為に海を荒らす悪徳領主、自らの船団…艦隊の一部を海賊行為にて使っているのだから。

 

ラズリルとミドルポートは海を挟んで互いに近く、そもそもミドルポートは元ガイエン公国領であったらしい。それが今では独立して大いに発展し、現在では群島諸国で一番の裕福な島である。紋章砲発祥の地でもあるし、話題に事欠かない島なのだ。

 

ミドルポートの艦隊に対して、俺達ガイエン海上騎士団はなるべく不干渉であるように努めた。彼等が裏でやっていることには気付いている、…が騒ぎ立てれば外交問題に発展する為、泣く泣く気付かぬふりをしているのが現状。

 

しかしエドガー達にはそういうしがらみがない、…故に堂々と海賊行為を働いている艦隊を攻撃する。エドガー達も海賊ではあるが、弱気を守る義賊の類い。そんなエドガー達を忌々しく思っていた筈なのだ、…ラインバッハ2世という男は。

 

そういう背景があるからこそ、俺はミドルポートに目を付けた。その後押しをしたのがウォルター一行、彼等が入手した情報の出所がミドルポートとのことだからな。彼等のことも目障りであっただろう、何せ『紋章砲』を探っていたのだから。

 

そして海賊スティール、奴もまた邪魔な者。ミドルポート所属の商船を襲撃したりしていたからな、どうにかして討ち取りたいと考えていた筈だ。

 

 

 

 

 

 

…姑息で謀略好きのラインバッハ2世のことだ、ウォルターへ何かを吹き込んだに違いない。それと同時に海賊スティールとエドガー達の動向を調べ、その上でウォルターを海賊島へと送ったのだろう。より良いタイミングを見計らっての策、…本当にタイミングが良すぎる。海は気まぐれなもの、…海の表情を読んでのこの策には多くの人手が必要であると考える。

 

ミドルポートの人手だけでこれ程の策が実行出来るのか? …そう考えた時、考えたくもないことを考えてしまった。…あの愚か者(・・・)達が一枚噛んでいたりしないよな? …と。

 

 

 

 

 

 

……もしそうであったとしたら、…新たなる地を開拓せねばならない。…マジで、…シエラ達には苦労を掛けてしまうな。



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第8話 ~調査の中で…《その1》

ーカオスー

 

ハーヴェイと共に調べてみた結果、…やはりミドルポートは黒だった。今回の一件はラインバッハ2世の筋書き通り、邪魔者である三つの組織を壊滅させるという大胆な策。それを成功させた手腕は流石であると賛辞を贈ろう、…それと同時に俺の敵であると認識を改めさせて貰う。

 

 

 

 

 

 

こうも早くに調べられたのは、…きっとエドガーが俺とハーヴェイを導いてくれたからであろう。そう思わなければ、これ程にまでこの件に関わった人物達と対面する幸運なんざ起きる筈もなし。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

俺とハーヴェイはミドルポートへ向かう途中、商人に変装して潜入をすることにした。今回乗ってきたこの船は商船に見える程の小綺麗さ、変装すれば商人と言っても怪しまれないだろう。商品も適当にアイテムボックスから出しておけばいいし、…って何を驚いているハーヴェイよ。…何もない所から物が出てきたって? そんなのはアレだ、…紋章の力だよ。…凄いだろ?

 

 

 

 

 

 

そんな感じで航海をしていると、前方に漂流しているっぽいオンボロの小型船を発見した。…目にしたのなら助けるってのが海の男、…ってなわけで近付いてみれば驚いた。…俺ではなくハーヴェイがね、…知っているのかね?

 

助けたのは四人の男女? であった。…眼鏡を掛けた兄さんは何処かで見たような? …他の三人は知らんけど。…でハーヴェイに聞いてみれば、ウォルターの仲間だとか言うじゃない。…………で思い出したわけ、この眼鏡の兄さんには六年前に会ってるわ。確かウォルターと二人で一度、…ラズリルに来たことがあるよね?

 

 

 

 

 

 

まぁ会った会わないはどうでもいいとして、何故にこんな所で漂流しているのかと聞いてみた。…聞いてみれば彼等も被害者、…いいように利用されていただけのようだ。

 

簡単に言えば六年前に赤月帝国へ一度戻ったらしいが、仲間だった男に裏切られて追放。身内と共に再びこの群島諸国へと舞い戻り、これも運命と決意して『紋章砲』の調査を再開させた。数年越しの調査の結果、ミドルポートに目的となる情報があると確信。そこへ行ってみれば領主に交渉を持ち掛けられ、どうしても欲しい情報があるから今回の件に乗ったそうだ。

 

乗ったと言っても策略に乗ったわけではなく、海賊スティールの討伐にってことのようだ。スティールも『紋章砲』を所持している、奴を討ってそれが入手出来れば言うことなし。入手が出来なくとも、ミドルポートへ戻れば欲しかった情報が入手出来る。だからこそ乗って、言われた通りにエドガー達をこの討伐へ誘ったのだとか。

 

そしてあの結末、彼等の主であるウォルターは化物に変えられた。彼の息子であるキリルを助ける為、化物となったウォルターをこの眼鏡の兄さんが討ったそうで。その時の出来事に大きなショックを受けたキリルは気絶、未だに目覚めないとのこと。

 

あの混戦から離脱しようとしたが、謎の船団…ミドルポート艦隊が執拗に砲撃を放ってきたそうで。何とか風の紋章の力で船を加速させ、ミドルポート艦隊から逃げ切ることが出来たらしい。何故にミドルポート艦隊であると分かったのか? …船上の者達数人をミドルポートで見たそうで、…ここでやっと自分達が利用されていたのだと気付いた。

 

エドガー達があのような目に遭ったのは自分達のせい、そう言って眼鏡の兄さんと連れの姉さんが土下座で謝ってきた。俺とハーヴェイは直ぐにそれを止めさせたさ、…彼等がきっかけかもしれないが悪くない。彼等は利用されていただけであるし、何より主であるウォルターを失っている。その息子だって眠ったままだ、どう見たって被害者だろう。責めること等出来やしない、きっとキカも責めることはしないだろう。

 

 

 

 

 

 

とりあえず、彼等を保護することに決める。このままにしていたら、彼等はミドルポート勢に狙われ続けるからね。眠り続けているキリルを連れての逃避行は酷だ、…それにひっそりとしている彼女(・・)もワケありっぽいし。

 

俺が保護をすると言えば、眼鏡の兄さんと連れの姉さんに感謝された。そして、ワケありの彼女は何も言わないけど感謝しているっぽい。…そういうわけだから、これからは俺の指示に従ってくれよ?

 

……まず最初に着替えて貰おうかな? その格好は相手方に知られているだろうし。

 

………ああそうだ、そういえば名乗っていなかったね。俺はカオス・ミケーネ、ガイエン海上騎士団の戦闘術指南役さ。

 

……何を驚いているんだ? ………まだ、…何かあるのか?



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第9話 ~調査の中で…《その2》

何故か此方が先に思い浮かんだ。


ーカオスー

 

漂流していた船を保護してみれば、今回調べようとしていた件の関係者…本人達であった。エドガー達と共に主であるウォルターが亡くなり、しかもミドルポートから命を狙われる始末。彼等が悪いわけではないが、きちんと謝罪をしてきたのは評価大。それがなくても保護をするつもりであったが、これにより俺は彼等を待遇良く保護をするつもりだ。衣食住の面倒は当然として、脅威からも守ってやる。…見掛けによらず、俺は甘い男なのだよ。

 

因みに現一行のリーダーがアンダルクという眼鏡の兄さん、次いで連れの姉さんがセネカ。ワケありの彼女がヨーン、眠り続けているのがキリル。この四人が保護対象である、……さて。

 

 

 

 

 

 

ガイエン海上騎士団戦闘術指南役カオス・ミケーネ、そう名乗ったところでアンダルク達の様子が…。少しの警戒が見えるのだが? …どうしたのだろうか? と思った矢先、

 

「何を警戒しているんだか分からねぇけど、カオスの兄貴は信頼出来るぜ? …あの時の悲惨な戦いをよ、独自に調べて俺達を助けてくれようとしてくれてんだ。…現に今だって恨み事の一つも言わねぇでお前達の保護を決めたんだ、…自分の立場があるってのによ。」

 

ハーヴェイが語り出した。……この表情を浮かべた時のハーヴェイは熱い、…こりゃ長くなるぞ。

 

 

 

 

 

 

ハーヴェイの熱い語りに俺の方が恥ずかしくなる、…しかしアンダルク達がそれを聞いて安心してくれたことは良しとしよう。そういうわけで、何故に名乗り上げた瞬間に警戒をしたのかと聞いてみた。…結果、考えたくもないことが起きていた。…まさかあの愚か者(・・・)共がな、ラインバッハ2世に力を貸していたとは。

 

愚か者(・・・)、ガイエン海上騎士団フィンガーフート伯派が一枚噛んでいる。アンダルクの話を聞いて思い至った、ミドルポートの奴等と懇意にしているのはソイツ等しかいない。俺は勿論、グレン君達もミドルポートのことを内心嫌っている。海上の治安を守るのが俺達の仕事だからな、理由は言わずとも分かるだろう?

 

とにかく奴等があの襲撃に参加をしていた、船上にてミドルポートの者達と一緒にいたらしいのだ。同じようにミドルポートにて見掛けた顔のようで、…ガイエン海上騎士団の格好をしていたから間違いないと。…であれば、俺の名乗りで警戒するのは必然。…俺、騎士団幹部として有名だし。

 

…襲撃の黒幕はミドルポート、そしてフィンガーフート伯派か。欲深い二者が組んだ、…なるほど。ラインバッハ2世はまぁ予想通りであった、…フィンガーフート伯派も一応予想はしていたけど。…やってくれたな? っていうのが強い、獅子身中の虫とはこのことか。ガイエン海上騎士団栄光の影にいる愚か者、…やはりこのままではいられない。早急に対処せねば…とその前に、用意した服に着替えてくれるかな? アンダルクご一行。

 

 

 

 

 

 

…よし、着替え終わったようだな。うん、これなら君達であることは分からんだろう。髪型に服装を替えてでも看破されたとすれば、その者は裏の人間であることは確実。見た感じ君達はなかなかの実力者、看破されたのなら相手を倒すといい。先程も言ったが、裏の人間である可能性が高い。遠慮せずにな、…出来る限り派手さを抑えて頼むよ。まぁそうならぬよう行動を(わきま)えれば、そのような事態にはならないかと思うが。

 

立ち位置的に万が一のことを言ったわけだが、船から出ずにいれば万事上手くいく。ハーヴェイが上手いことしてくれるだろうさ、安心してくれたまえ。…うん? 今から何処へ向かうのかだって? …そんなのは決まっている。君達は既に察しているのだろう? …そう、向かう先はミドルポートさ。俺が直に行き話をね、…多少の脅しをするだけだ。

 

…大人しくしていれば大丈夫、キリルとヨーンの傍に控えていなさい。この先は俺に任せるのだ、船のことはハーヴェイにな。

 

 

 

 

 

 

………さて、エドガーの仇を討ちたい所だがどうしたものか。私腹を肥やす黒い領主ではあるが、領民にとっては良い領主であることは明らか。殺すのは除外してやはり脅しだけにするか、…それだけでも十分と言えよう。…誰を敵に回したのかを知って貰わねば、知れば(さか)しい奴のことだから多少は大人しくなるだろう。

 

それとフィンガーフート、…俺はお前を認めんよ。前団長やグレン君達と築き上げた信頼と名誉、…お前にやるわけにはいかぬ。いつまでも同じ船に、…泥船に乗り続けるわけにはな。



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第10話 ~脅し《その1》

のんびりし過ぎかな?


ーカオスー

 

救出したアンダルク達一行を念の為に変装させ、エドガーとスティールの戦いを汚した男。そしてアンダルク達の主を利用し使い捨て、生き残った彼等の命を狙う男。ラインバッハ2世、彼の治めるミドルポートへと船を向ける。奴を調子に乗らせてはならない、故に俺は一言…言葉を彼に贈るべく向かうのだ。

 

 

 

 

 

 

…でミドルポートへ商船を装い寄港したが、流石としか言いようがない。腹黒い領主とはいえその手腕は見事、商業に関してはラズリルを超えている。騎士団関係でガイエン公国へ何度か(おもむ)いたが、ラズリル寄りの港街アンバーに劣らぬ程。…だがまぁそれも裏で色々(・・)とやっているからである、犠牲の上で発展していることを忘れてはいけない。

 

アンダルク達には外へ出ぬよう言っておいた、無用な騒ぎを起こしたくはないからな。起こすのはせめてここを去る時にして欲しい、ラインバッハ2世はともかく民達を不安にさせるのは違うだろ。…と考えればやはり騒ぎを起こすのはダメだ、そうアンダルク達に言えばこの状況で起こす筈がないと返してきた。そこまで強く言葉を返すのであれば大丈夫か? …ハーヴェイ、一応しっかりと見ていてくれよ?

 

 

 

 

 

 

船を降りる際、気配を薄くして静かに足を地へ。完全に消すと違和感が残るからな、薄くして徐々に気配を戻せば影の薄い男とだけ認識される。裏稼業の者はこの中途半端な行動を見抜けない、何せこのような者は数多く存在するからだ。一般人と変わらぬ存在を見張るようなことはしない、悠久の刻を生きたからこそ知り得た隠行術だ。

 

港エリアを抜けても賑わいは消えず、よく統治していることには感心する。ラインバッハ2世はミドルポートを愛しているのだろう、…私腹を肥やすだけの領主ではないということだ。ここがラズリルとは違う、フィンガーフート伯は自身寄りの者だけを優遇するからな。街の発展も偏っているし、ならず者が集まりやすい。騎士団の本拠地だというのにこの(てい)たらく、グレン君や俺も頑張ってはいるんだけどね。フィンガーフート伯派の一帯はなかなかに厄介、下手に突っつくと暴発する恐れがあるのさ。

 

ミドルポートとラズリルの差に少々ヘコんでしまう、大物と小物の違いってヤツだな。まぁいかに大物でも今回はやり過ぎた、程々にしておけば何もしなかった。正しいだけでは世を渡れぬ、俺にはそれが分かる。小物であるフィンガーフート伯を巻き込んだのも悪手、奴は手に余るぞ? …俺達的には有難いことだがな。切るきっかけになったわけだし、…ガイエン海上騎士団はこれを機に…ね。

 

 

 

 

 

 

ラインバッハ2世の館は人に尋ねなくとも分かる、街中で視線を上へ向ければ見えるからだ。騎士団本部よりは小さいがそれに勝る豪華絢爛さ、ミドルポートの領主が誰であるか一目瞭然。富と権力の象徴、それがラインバッハ2世が住まう館。門を前にすればなおのことそう思う、この館を見れば人は自然と(こうべ)を下げるだろう。…俺以外の、…常人であればな。

 

ここへ来る途中、人知れずに服を着替えた。俺ぐらいの者になればこんなことは児戯に等しい、余裕である。今の俺の姿はガイエン海上騎士団のカオス、それに相応しい騎士服で身を包んでいる。商人の姿で会おうとする愚行はしない、門前払いをされるからな。…この姿であれば無下に断られることもないだろう、…慌てると思うがね。

 

そんなわけで、ラインバッハ2世の住まう館の門前。そこを守る門衛に声を掛ければ何故か仰け反る、構わずに名乗りラインバッハ2世へ取り次いで欲しいと頼めば慌てて誰かを呼ぶ。暫くしてから現れたのが気弱そうな青年、俺を見て驚き名を聞いては泣きそうになっていた。…そこまで俺は凶悪な面構えをしているかね?

 

 

 

───────────────────

 

 

 

ー???ー

 

最近慌ただしくあれこれと指示を出すご主人様、シグルド殿も大変な目に遭っているようです。…それに変な方とも連絡を取っているようですし、…それにガイエン海上騎士団の方とも。正直心配ではありますが、あたし程度の存在が何を出来ましょう? せいぜいペットであるデイジーちゃんのお世話ぐらい、…恐いんですけどもね。

 

今日も忘れずにデイジーちゃんのお世話をしなくては、そう思った矢先に門衛の方に呼ばれました。何事でしょう? 軽い気持ちで行ってみれば驚愕。門前にはガイエン海上騎士団の方、それもとびきりの。…幹部で多方面に名の知られている傑物、カオス・ミケーネ様ではありませんか! 初めてお会いしましたが、…恐ろしいの一言。ご主人様に面会? …本来であればお断りをする案件ですが、…相手が悪すぎます! 速やかに、…速やかにご主人様へご報告を!!



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