イナズマイレブンGO-魔術師の弟子- (狩る雄)
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第1話 出会い

ここはアメリカの、とあるサッカー場。

 

カウボーイハットを被った大人と、

うさぎを彷彿とさせるような薄黄色の髪の少年。

 

 

「ビリーさん、行きます!」

 

「カモン!」

 

ボールを空へ蹴り上げた俺の背後には化石の恐竜。

 

ダイナソーブレイク!」

噛みつくように、両足でボールをシュートすると、恐竜が吠えてさらに勢いを増していく。

 

ビリーさんは動じず、リズムに乗るようにフットワークをしている。

 

「フラッシュアッパーV4

右手で数回の衝撃波を発して威力を弱め、タイミングよくボールを打ち上げると、ゴールの裏へ転がっていく。

 

「くそーっ!」

 

「うん。ちゃんと威力は上がってるね。」

 

話しかけてきたのは茶色の髪のイケメン、カズヤさんだ。実は今の俺の保護者で、義兄でもある。そして、親友のアスカさんも来ている。2人とも日本人だけど、アメリカのプロサッカーチームのエースだ。俺の信じる最強のMFと、最強のDFだ。

 

「ずっと練習していたからね!」

 

「君の本気なら、俺でも止められるかどうか分からないがね。」

 

「ビリーさん……でも、次の大会じゃ化身禁止らしいし。」

 

少年少女サッカーの世界大会『フットボールフロンティア・インターナショナル ビジョンツー』通称FFIV2がもうすぐ開催されるんだけど、化身とその関連行為の全てを禁止するというルールなんだ。確かに化身を使えるプレイヤーが目立っているけど、多くはない。

 

だからといって、

 

「全力全開を出せないっていうのは、嫌だなー」

 

「アハハ。君って本当に守に似ているよね。」

 

「一哉もだけどな……。」

 

GKとして、円堂守という名は世界中に響いてる。そのライバルであるロココ・ウルパと最強の座を争っている。そして、アスカさんやカズヤさんは、円堂さんがキャプテンをしていた頃のチームメンバーだったらしい。

 

そして、俺の憧れるリベロプレイヤーでもあるんだ。

 

そんな人と俺が?

 

「「どこが?サッカーが好きなところ?」」

 

「お、おう。そういうところだよな。」

 

 

「おい、そろそろ飛行機の時間じゃないか?」

 

ビリーさんの発言で、俺たちは時計を見て青ざめていく。

 

俺は空港に向かって、全力全開で走り出し始める。

 

 

「ヤバイヤバイ!じゃあ、俺行くんで!……また」

 

 

―――サッカーやろうね!

 

 

 

 

 

***

 

 

―――時空を越えた戦いから、時が過ぎた。

 

 

今日は練習も早く終わったんだ。

 

なぜなら、

 

「いよいよ明日かー!」

 

円堂さんたちが出場して優勝に輝いたFFI。

 

その第二回大会がもうすぐ開催されるんだ。その日本代表の選考会が明日にある。もちろん、俺たちも選ばれるとは限らない。雷門中以外にもたくさんの、サッカーの上手いサッカープレイヤーがいる。太陽や白竜や南沢先輩たちがいて、そしてまだ見ぬプレイヤーが日本全国にいるかもしれない。

 

「う~~、ワクワクしてきた!」

 

「天馬はすごいね。僕なんかずっと緊張しているのに……」

 

サッカー部に入部したときから、ずっと一緒にプレーしてきた親友の信助は自信がないのか顔が暗い。たしかに、三国先輩や千宮路のような経験の多いGKがたくさんいて、選ばれるのはたった2人の可能性がある。

 

「なんとかなるさ!信助だって、時空最強イレブンの一員なんだから!」

 

「そうだね。落ち込んでばかりじゃ、劉備さんに笑われちゃうよね!」

 

よしよし、いつもの信助だ。

 

「お、河川敷だ。練習していこう!」

 

「うん!」

 

 

河川敷へ降りて行ってカバンを降ろした。

 

俺はシュート体勢に入る。

全力の助走をつけて、ボールをドリブルしていって、ボレーシュートを叩きこむ。

 

 

マッハウィンド!!」

 

風を纏ったシュートがゴールへ向かっていく。

 

 

信助は一度ゴールから移動して、横から走りこんでいって、跳躍、

 

「ぶっとびパンチ!!」

劉備さんのアドバイスで身に着けたGK技でパンチング

 

 

 

―――太陽を隠す(つき)

 

 

空へ飛んでいくボールを攫うように跳んだ少年が地面に降り立つ。俺たちの方を見ていて、笑顔を浮かべる。彼女と似ていて、親友が重なるような……。

 

「Hey!サッカー、やろう……やんね。」

 

日本語に慣れていないのかな?

 

「う、うん。」

 

パン!

 

「よーし、こい!」

 

「OK」

 

徐に、

ボールの右側を擦り上げるように回転をかけると、ボールは浮いていく。

 

スパイラルショット!!」

全身を使ったボレーシュート。

回転する光を纏ったボールがゴールに向かっていく。

 

「速い!!」

 

「くっ、ぶっとび……うわーー!」

 

ゴールに突き刺さる。

啞然とする俺、転がるボールを見たまま動かない信助。

 

ゴールを決めた彼は気難しい顔をしたままだ。

(まだまだカズヤさんのシュートには勝てないか)

 

 

「よし!次は俺とだ!」

 

信助から受け取ったボールを蹴りこみ、彼に向かってドリブルしていく。

 

そよかぜステップ!!」

一気に加速、さらに一回転しそのまま彼を……

 

「フレイムダンス!!」

逆さまになってブレイクダンスをしていくと、炎を纏っていく。その炎が伸びてきて俺のボールを攫っていった。

 

 

「すごい!君やるね!どこの中学校?」

 

「えーと、……いや、鋭いドリブル技だったから俺も焦ったよ。そして、俺は今までアメリカにいたんだ。日本語は勉強中なんだ。」

 

「「へー」」

 

アメリカ、海外かー。

俺も世界大会で勝ち進んでいけば、世界中のプレイヤーと戦えるんだなぁー。

 

そう思うと、

 

「ワクワクする!」

 

「俺も、日本のサッカーを見るのが楽しみだ。俺の憧れのプレイヤーはみんな、雷門中だからね。ところで、君たちって雷門中だよね?」

 

「そうだけど……」

 

「よかったー、なんとか雷門町まで来れたんだー。」

 

「えっと、良ければ案内しようか?」

 

「サンキュー!木枯らし荘ってところだ。」

 

それって俺が住んでいるところじゃないか。

信助は俺の方を見てくる。

 

 

口を開こうとすると、

秋姉が河川敷に降りてくるのが見えた。

 

「天馬、信助君、今日も練習?それで……」

 

「お!アキさんだ!」

 

「えっと……?」

 

「カズヤさんの……コンヤクシャだよね!」

 

「い、一之瀬君とはまだそんな関係じゃ!」

 

顔を赤くしながら、両手のひらを振っている。

風邪なのかな?

 

 

「秋姉、大丈夫?」

 

「え!? いや、気にしなくていいから!」

 

「えー、アスカさんからそう言えって言われたのにな。」

 

土門君~と言いながら、拳を握りしめる秋姉には化身の兆候が……

 

 

「ところで、まだ自己紹介してなかったか。俺は、一之瀬ルーフェイ!アメリカからやってきた。」

 

「僕は、西園信助!」

「俺は、松風天馬!」

 

満面の笑みを浮かべた彼は、本当に……

 

 

 



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第2話 1点の価値

ここは、ホーリーロードスタジアム。

ドーム状のサッカー場で、今は太陽と青空が見える。

 

『さあついにやってまいりました!少年少女サッカー世界大会FFIV2!今、日本代表『新生イナズマジャパン』が発表されようとしています!一刻も早く知りたいというサポーターにスタジアムは覆いつくされています。』

 

天馬たちの雷門中の他にも、強いオーラを持つサッカープレイヤーはたくさんいる。さすが前回優勝国だね。それにしても、前回は22人の候補者で試合をして決めたらしいけど、どうするんだろう。

 

「世界と戦う新生イナズマジャパンかあ。誰が選ばれるんだろ。ワクワクするよなあ。」

 

「うんうん!」

 

「わくわく? 天馬、自分は絶対に選ばれるというくちぶりだな。」

 

「そういう君も、自信ありげだね。」

 

当然と言わんばかりに、フッと剣城は笑みを浮かべる。

 

「今度は世界だぁ~~!」

 

「こらあまりはしゃぐな。」

 

天馬たちの先輩である彼に注意された。

 

「神童さん、俺たちここまで来たんですね。」

 

「そうだな。長かった。ついにきたんだ。」

 

まるでたくさんの冒険をしてきたような、感慨深い声だった。

 

 

サングラスに白い髪で背の高い、白いスーツを着た人が壇上に上がってくる。

 

『私がイナズマジャパン監督の黒岩流星だ。これより日本代表となる新生イナズマジャパンを発表する!ただし、本日選ばれるのは12名のみだ。』

 

―――たった12人

 

 

『イナズマイレブンキャプテン松風天馬。さらに、新童拓人と剣城京介。』

 

3人の名前に歓声が上がる。全国大会優勝校である雷門中からの主力メンバー3人とあって、期待も大きいんだろうね。

 

『瞬木隼人、野咲さくら、九坂隆二、真名部陣一郎、鉄角真、森村好葉、皆帆和人、井吹宗正、そして、一之瀬ルーフェイ。以上だ。』

 

静寂

 

観客は唖然としていて、一番驚いていているのは彼らの中学校の人たちだ。

 

 

あいつうちにいたか?たしか勉強できたよな?体操じゃなかったか?

―――サッカー部員じゃないよな?

 

 

 

選ばれなかったメンバーの中には一際輝く者たちがいた

 

ライバルに負け、悔しさを天に叫ぶ者

相棒にまた置いていかれ、拳を握りしめる者

親友とサッカーができず、涙を流す者

 

 

 

 

***

 

 

―――青と白で彩られたユニフォームに腕を通す

 

『さあ!これより新生イナズマジャパンの誕生を記念して、エキシビションマッチが行われます!日本を代表とする選手たちのデビュー戦となるこの試合!その栄えある相手は――?』

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

『なんとサッカー名門校 帝国学園です!』

 

グラウンドにトレーラーでダイナミックに入ってきて、11人の選手と監督が降りてくる。静かにゆっくりとトレーラーは戻って行った。

 

 

準備運動をしている俺たちに神童が話しかけてくる。

 

「みんな聞いてくれ。今日出会ったばかりだが試合に勝つためには連携が必要だ。勝利のために全員協力してほしい。頼んだぞ。」

 

「おーう!……ってあれ?」

 

答えたの俺だけ?

 

「お前はベンチスタートだ。フォーメーションはこの紙に書いている通りにしろ。」

 

「そうかー。……じゃ、天馬たち頑張ってね!」

 

監督の指示で、俺はベンチに向かう。

落ち着いた雰囲気のマネージャーと、天馬のガールフレンドの葵がいた。

 

 

―――キックオフ

 

天馬と神童、さらに剣城の3人(だけ)が先陣を切る。

 

 

天馬を囲むように2人のDFがグルグル走り始める。

 

「「サルガッソーV2!!」」

水の渦巻きに巻き込まれ、ボールは宙を舞う。

連携技だね。

 

 

「まだだ!……神のタクトFI!!」

神童が浮いたボールをトラップして、後方のチームメンバーを見る。腕をしなやかに振るうと、炎の旋律を描く。

 

最適な指示で、ボールを繋ぐ必殺タクティクスってところかな。

 

「いけ、瞬木!」

 

――動かない

 

「くっ、野咲!」

 

―――動かない

 

 

「どうして・・・?」

 

「動かないんじゃない。必殺タクティクスの意味が分かってないね。もちろん、あの必殺タクティクスが信頼関係が結ばれているって条件もあるだろうね。」

 

疑問を持った葵に俺は答える。

 

「黒岩監督。彼らの選手データ見せてもらいました。ゆえになぜ彼らを選んだのか私にはわかりかねます。」

 

鉄角真、ボクシング。

瞬木隼人、陸上

森村好葉、園芸部

九坂隆二、不良

真名部陣一郎、計算

野咲さくら、新体操

皆帆和人、刑事の息子

井吹宗正、バスケ

 

 

「へー、みんないいもの持ってるじゃないか。」

 

―――サッカー未経験、サッカー初心者

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 

「選手交代だ。松風、神童、剣城を残して、他全員と交代だ。」

 

「残り3分で、10点ね。」

 

最後に、サッカーを見せろってことかな。

 

―――あの8人に

―――血が出るほど拳を握りしめる彼らに

 

 

「ルーフェイ……」

 

「フェイって呼んでよ、天馬。親しい人はそう呼ぶんだ!」

 

天馬はハッとする。

 

「そうだね。」

 

 

俺たちは頷き合い、

「「まだ、終わってないぞーーーー!」」

 

2人で天高く叫ぶ。

 

「こうなったら、4人で点を取るぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

ーーー試合再開

 

天馬が両手を振るうと、風の道が生まれる。

 

「風穴ドライブ!!」

天馬は風となって、2人を突破し、神童へパス。

 

 

リズムに乗って、リフティングして、

「プレストターンV3!」

一気に駆け抜け、1人を突破した。

 

 

「神のタクトFI!!」

炎の旋律の指示が、道筋を照らす。

 

「天馬と剣城は走れ!……一之瀬!」

 

 

 

俺にパスが繋がる。

残ったDFを次々と躱していく。

 

(カズヤさんもこうして、前へ切り込んでいったんだ。)

 

 

「俺が合わせる! 天馬も剣城も全力全開だーー!!」

 

2人が炎を纏いながら同時に回転しつつ飛びあがると、竜巻を描く。

 

 

俺がボールを浮かせて彼らの到達点に持って行く。

両足のシュート、彼らのツインボレーシュートを叩きこむ!

 

「「「ファイアトルネードTC!!」」」

豪炎がゴールへ向かっていく。

 

 

キーパーの必殺技を諸共せず、

『ゴー―――ル!! イナズマジャパン1点を返したーー!雷門のコンビネーションだーー! 』

 

歓声が巻き起こる。

 

 

 

しかし、非情にもホイッスルが鳴る。

 

『これで試合終了だ……これは最悪の滑り出しだーーー!』

 

ブーーー

ブーーー

ブーーー

 

 

敗北か。

波乱の幕開けだね。

 

「なんなんだ、これ……」

 

天馬の声は風に消えていった。

 

 

 

 



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第3話 バラバラなイレブン

お台場。

ここにイナズマジャパンの合宿所『お台場サッカーガーデン』があるんだ。アジア予選開始まで1週間もあるんだ。まだまだ強くなって試合に挑めるんだね。

 

駅前でリフティングしながら、そこへ向か……

「ここはどこだ?」

 

「ねぇ、一之瀬君だよね?」

 

俺と同じ水色のジャージを着た、桜色の髪の少女が話しかけてくる。

 

「さくらじゃないか、おはよう!」

 

「よ、呼び捨て……うん、おはよう!」

 

一度なぜか一歩引かれたけど、笑顔になって挨拶を返してくれた。

 

「ところで、合宿所ってあっちだよね? もしかして道に迷った?」

 

周りをキョロキョロ見渡してみると、駅前の広場の外周をぐるぐる歩き回っていたみたいだ。

 

「ごめん、案内してもらえると嬉しいかなー。」

 

「いいよ!」

―――はぁー、なんか調子狂うなー

 

前を歩いていく彼女の背中を追いかけながら、リフティングを続ける。

 

「それって、リフティングだよね? よく歩きながらできるね。」

 

「アメリカにいた頃からずっとやっていたし、もう癖になっているかな。」

 

「へぇー、どうして日本、日本代表に?」

 

「俺って1人ぼっちでサッカーやってたところを義兄さんに拾われたんだ。アメリカに住んでいたんだけど、カズヤさんの両親は日本にいるから日本国籍になってるんだよね。」

 

「それって……」

 

「カズヤさんって『フィールドの魔術師』って呼ばれるMFなんだ!!ボールコントロールが上手くて、カッコいいシュートでハットトリックを決めるんだ!」

 

「お義兄さんのこと、大好きなんだ?」

 

「もちろん!……お、これがスタジアムか。」

 

 

 

屋内に入ると、ゲートを抜けた先には真新しいフィールドが広がっている。それに、天馬たちもすでに集まっているようだ。

 

俺たちも準備運動をしていると、監督が来る。

 

「松風。練習を始めろ。」

 

「はい!……みんなサッカーで大切なのは体力づくり。特に持久力はとっても大事なんだ!」

 

キャプテンである天馬に続いて、2つのゴール行き来するシャトルランのように、走り始める。サッカー経験者である俺たちや運動部にいた人たちは、悠々とこなしているんだけどね。

 

「はぁはぁ……」「ぜぇぜぇ…」

「2人とも、自分に負けるな!」

 

「ハァーハァー……」

「好葉。遅れても大丈夫。自分のペースで最後まで走り抜こう!俺も付き合うよ。」

 

天馬は、そんな彼らへ話しかけていって元気づけていく。

 

 

 

「いったん休憩でーす!」

 

マネージャーである葵の声で、何人かがへたり込むようにその場で座っていく。サッカー以外の運動部に所属していても『走る』ことに慣れていない人たちはかなり堪えたみたいだ。

 

井吹に至っては、俺たちと競うように追ってきていたからね。

 

続けて、

パス、ドリブル、シュート、そしてキャッチングを、4人で教えながら練習していく。

 

瞬木ですら、慣れないサッカーで今は肩で息をしている。

 

「今日の練習は終了でーす! ホームエリアでご飯の時間まで休んでくださいね!」

 

監督は何も言わず去っていく。

俺たちは地面と一体化するメンバーが歩けるようになるまで待って、宿舎へとゆっくり向かっていく。後方を付いてきている神童は特に気難しい顔をしているね。剣城や天馬も思いつめている。

 

 

「アハハ……サッカーって大変だね。」

 

「どうだった?」

 

「私も、新体操で体力をつけたつもりだったんだけどね。一之瀬君ってば、ピンピンしてるじゃない?」

 

「慣れてないことをすると体力を使うからね。生まれた時からボール持っていた気がするし。ボールはともd……お、ここもサッカー場なのか!」

 

「良い眺め!」

 

 

「ここは『ヨットハーバーグラウンド』。サッカーガーデンにある2つのスタジアムのうちの1つですね。」

 

宿舎の目の前、海浜公園にも真新しい芝のサッカーフィールドがあった。海に面していて、心地よい風が吹いていて、ここでサッカーをするのは気持ちいいだろうね。眼鏡をかけていて、情報収集が得意なDFの真名部が教えてくれる。

 

 

 

自室に荷物を置いて、夕食を食べて、ミーティングが終わった時には、

「もう、日が暮れているのか。……よし!」

 

今日も、月は見えない。

 

目を閉じ、胸に手を当てる。

俺の背中から紫色のオーラが溢れ、少しずつ形を成していく。

 

―――薄黄色の長い髪の兎人

 

「それって……?」

 

「化身。大会では禁止だけど、使ってあげないと可哀想だし。……って、さくらじゃないか。」

 

すでにゆったりとした私服に着替えていて、さくらが街灯に照らされていた。

 

 

結んだ髪を解いていて、夜風に靡いていた。

 

「えっと、ボールを持って宿舎が出ていくのが見えて。」

―――私よりも輝いていることが嫌。

 

「そうなんだ。」

 

「ねぇ……私たちって足手纏いなんだよね。だから、こんな時間に練習するんだよね。」

―――どうせ一之瀬君だって、一番じゃない私なんて。

 

 

「俺にはサッカーしかないから。俺が繋がりを作れる『唯一』だから。俺は誰よりもサッカーで輝く。」

―――化身は泣いていた

 

 

意識がバラバラなイレブンにとっては、1週間は泡沫のように流れていった。

 

 



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第4話 導かれる俺たち

 

アジア予選一回戦は韓国の『ファイヤードラゴン』。

『韓国の風』と呼ばれるFWのリ・チュンユンは、俊足のストライカ―で要注意とのこと。

 

俺たちは監督の前に立つ。

 

「監督。今回の指示は?」

 

「一之瀬はベンチだ。それ以外に指示は無い。……以上。お前たちの力を見せてもらおう。」

 

何人かは反論を言いたそうにしながらも監督から離れていった。神童を中心に、前半の作戦の確認をしているはずだけど、どこか様子がおかしい。天馬や剣城と比べて、士気が低い。

 

 

「彼らには条件をつけて雇っているのだ。」

 

「どういうことですか、監督?」

 

葵が監督に問いただす。

 

「野咲や井吹は海外留学の資金、鉄角は漁船の修理代、というように、金のために集まったのだ。」

 

「そんな……。」

 

「へぇー。みんな夢のために頑張ってるね。新体操やバスケのためなんだよね?」

 

彼らが一番輝ける場所なんだろうね。

 

「フェイ……」

 

葵は心配そうに俺を見てきたけど、首を傾げるしかなかった。

 

 

 

―――キックオフ

 

焦るようにゴールに向かっていく瞬木はすぐにボールを奪われる。

 

「みんな、練習したことを思い出せ!」

 

天馬の声でも士気は上がらないまま。

神童は井吹と喧嘩をしているかのようなディフェンス。

ストライカ―である剣城は、相手3人でのマーク。

 

 

「これが世界大会か。一方的だね。」

 

サッカーを初めて1週間の彼らは、サッカーについていけない。

 

 

 

「風穴ドライブ!!」

竜巻を纏うドリブルで抜き去り、剣城にパス、

 

2人だけでパスを繋ぎながら、11人と戦うけど……

 

「地走り火炎!」

DFの炎をまとった足でのカットで、ボールを奪われる。

 

 

3vs11の展開だが、点を取ることはできない。

神童の体力を削るディフェンスで点は入っていないとはいえ、時間の問題だ。

 

「変化があったな。……あの3人によって。」

 

フィールドを見たまま何も言わなかった、監督の声がした。

瞬木の参戦に触発されて、立ち止まっていたメンバーも少しずつフィールドを駆け始める。

 

 

 

陸上の俊足を活かしたドリブル

 

新体操のボールコントロールを活かしたパスカット

ボクシングのフィジカルを活かした突破

状況を分析したことでの的確な指示

 

しかし、どこかまだまだ違和感のある連携だ。

 

 

「神童どけと言っているのが分からないのか!」

 

センタリングでボールを持った『韓国の風』がシュート体勢に入る。

 

炎を纏う足で3度蹴る。

「ラピッドファイア!」

ボールも炎を纏いゴールに向かう。

 

「どけーーーっ!」

井吹の前に構える神童は声に気を取られて、

 

シュートがキーパーに向かう。

 

「いくぞ!……うわーーーーっ!!」

 

『ゴ――――ル!!先制点はファイアドラゴンだ!』

 

 

―――前半から後半へ

 

「まだまだ1点取り返していくぞ!」

 

しかし、

天馬も剣城もマークされ続けて思うように動けない。

 

さらに、

神童はゴールを離れない。

 

唯一、

サッカーに喰らいついてく瞬木は独り。

 

 

「何をやっているんだ!」

 

キャプテンの声がフィールドに響く。

 

「どうして、瞬木にボールを渡さないんだ。瞬木はどんな扱いをされても必死に戦っている。よく見るんだ!フィールドに起こっていることを!」

 

瞬木は倒れても、ボールを奪われても、何度でも立ち上がる。

 

 

天馬の声に、瞬木の姿に少しずつ

―――パスが繋がる

 

 

天馬は彼らの想いを受け取って、

金色のオーラを纏い、全力のシュート。

「ゴッドウィンド!!」

イナズマを纏った竜巻がゴールへ向かっていく。

 

 

「大爆発張り手!!」

炎を纏った手のひらでボールに張り手を当てていくが……

「グゥワアアーーーー!」

 

 

 

『試合再開だ!同点という状況で勝つのはどっちだーーーっ!!』

 

 

「どうかせ……」

 

敵のドリブルも、

「アインザッツ」

神童は旋律とともにブロックする。

 

敵のディフェンスも、

「Zスラッシュ!!」

Zを描きながら躱す。

 

 

パスを受けた剣城は、漆黒の翅を広げて羽ばたく。

「デビルバースト!!」

炎と闇を纏ったシュートがゴールに突き刺さる。

 

 

2vs1での勝利。

 

 

「やったー!」

「やったね。」

 

 

―――俺もサッカーしたいな。

 

 

 

***

 

アジア予選2回戦はオーストラリア『ビッグウェイブス』か。

 

練習に来たのは……天馬と剣城と神童、瞬木とさくらか。

 

「他のやつはなぜ時間になっても来ない…?」

 

「たぶん、入団契約のせいだと思うな。一回戦を突破するまでは練習にも必ず出なくちゃいけなかったんだけど。それ以降は参加しなくてもいいって約束なの。」

 

「そんなこと、誰が決めた!!」

 

「落ち着いて、神童。……あ、監督だ。」

 

 

「私が決めたのだ。……松風、今いるメンバーで練習を始めろ。メニューは任せる。以上だ。」

それだけ言い残して、監督は去っていく。

 

「さ、始めよ。キャプテン!」

 

 

 

小さな変化はあったみたいだ。

 

「キャプテン、どうすればドリブルを教えてくれないか?」

 

「それなら、いい練習法があるけど、やってみる?」

 

「キャプテン、それ私にも教えて!前の試合でサッカーちょっと面白くなったから!」

 

瞬木に続いて、準備運動をしていたさくらもキャプテンに教えを乞おうとする。

 

 

 

 

さて、俺は1人で始めるかな。

いつもよりハードな、リフティング、ドリブル、シュート練習をこなしていく。

 

 

「ハァハァ……ってあれ?」

 

いつのまにか さくら以外いなくなっていた。

 

「キャプテンたちなら、他の人たちを探しに行ったよ。やっぱりみんなそろってこそ『チーム』だよね!」

 

「そうなんだ。じゃあ、何か教えようか?」

 

「……え、いいの!? じゃあさー、私必殺技使いたいな。」

―――サッカーの練習なんて面倒くさいな

 

「うーん、さくらなら……よし!」

 

笑顔でお願いしてきた さくらにボールをパスする。

 

「あ、でも!一之瀬君、自分のことで精一杯みたいだし……別に。」

 

「俺がディフェンスするから、バッチコーイ!!」

 

「……は?」

―――なんでやる気になってるの?

 

 

「自由な発想力とか、偶然の閃きが必殺技を生むんだ。やっぱり初めての必殺技だからね、自分自身で身に着けたくないかなー?」

 

「自分で……」

 

「じゃあ、ガンガンいくよ!」

 

フレイムダンス改!!

ちょっとタンマ―!!

 

 

 

***

 

―――少しずつ俺たちは変わっていった

 

脱退試験。

彼ら8人が、誰も守らないシュートを5本のうち1本決めることで、契約は完了する。

 

 

会場は、観客のいるシーサイドスタジアム。

「それではみなさんにイナズマジャパンの精鋭による華麗なシュートをご覧に入れましょう。」

 

観客の歓声を受けて、

鉄角は勇ましくシュートを決める。

 

九坂も、皆帆も、真名部も、森村も、井吹も、瞬木も、さくらも続いていく。

 

 

「そして、最後に前回出場しなかった一之瀬ルーフェイには、このGKと戦ってもらいます。」

 

 

登場した人物に歓声が巻き起こる

 

―――立向居勇気

 

かつて、イナズマジャパンのサブGKだった人。

彼から3本決めることで、俺は強豪のアメリカのチームに入らされる。

 

 

手を抜けば、俺はイナズマジャパンに残ることができる。

 

天馬は心配そうに俺を見てくれている。

さくらも何かを言いたそうにしている。

 

それでも、サッカーに嘘はつけない……

 

 

 

「いきますよ!」

 

ボールを空へ蹴り上げた俺の背後には化石の恐竜。

「真ダイナソーブレイク!」

噛みつくように、両足でボールをシュートすると、恐竜が吠えてさらに勢いを増していく。

 

―――シュートが入る。

 

 

ボールの右側を擦り上げるように回転をかけると、ボールは浮いていって、全身を使ったボレーシュート。

「真スパイラルショット!!」

回転する光を纏ったボールがゴールに向かっていく。

 

―――シュートが入る。

 

 

「どうして、何もしないんだ……。」

 

「君が、シュートから逃げているから! 君自身の本気で来い!」

 

―――血が頭をよぎる

かつて同い年に向けた、あのシュートは危険すぎた。

 

もし、途中でカズヤさんが割って入らなかったら……。

 

 

「フェイ!『野獣の獰猛さと賢者の頭脳』を目指せ! 君ならできる!!」

 

―――俺の禁断のシュート

かつてカズヤさんに怪我をさせた必殺技。

 

「一之瀬君!私見たい!あなた自身が初めて作った必殺技を!」

 

―――俺が初めて身に着けたシュート

身体の中から湧き出る力を表に出した必殺技。

 

「フェイ!迷うな!今のお前なら使いこなせる!」

 

―――炎の不死鳥の化身

何度も這い上がってきた義兄さんの象徴。

 

 

 

 

俺は一度、両頬を叩く。

全力全開のサッカーじゃないと、楽しくないよね。

 

 

 

 

―――『獣の本能』と『魔術師の知性』の融合

 

ボールを勢いよく蹴り上げ、跳んで追いつく。

ボールをゴールに向かって蹴ると一度静止し、紅いオーラの円錐が展開される。

 

跳びこむようにボールを全力で蹴りつける。

「クリムゾンスマッシュ!!」

地面に着地すると、紅い流星がゴールへ向かう。

 

 

 

 

「そう、それでいい!」

 

千手観音を彷彿とさせる手が無数に伸びる。

「ムゲン・ザ・ハンドGx!!」

流星の核であるボールを的確に掴んでいき、キャッチ。

 

 

「全力全開のサッカーで、敗けたかーーー!!」

 

不思議と、笑顔のままだった。

 

 

 

繋がりを作ることばかり考えていた。

俺に結びついた絆を感じろ。

 

網のように広がり、縄のように固い繋がりだ。 

 

―――俺はここにいる。

 

 

 

 

 



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第5話 魅せるサッカー

アジア予選2回戦。

ホーリーロードスタジアム。

 

「オーストラリア『ビッグウェイブス』か。何かを思いつめているような。……おっと試合開始か。」

 

 

「神童、邪魔だ!」

 

「ここでいい。」

 

森村がベンチで、今回は俺がDFに入っている。またもや神童はDFよりも下がっていく。井吹に何かを伝えようとしているんだろうね。

 

天馬が切り込んでいくが、向こうのキャプテンも強いな。

世界レベルに喰らいつこうとするメンバーが少しずつ増えているとはいえ、苦戦している。

 

 

さくらが新体操の動きでボールをカットする。

 

「神童、上がっていいよ」

 

「ああ、ゴールは頼む! 神のタクト!」

両腕をしなやかに振り、指示を出していく。

 

 

「野咲!」

さくらから神童自身にパスをもらう。

 

「九坂!」

指示通り走りこんだ彼に、パス。

 

「瞬木!天馬!」

 

パスが次々と繋がっていき、

 

「バイシクルソード!!」

剣城の闇を纏ったバイシクルシュート。

 

 

そのスピードに、相手のGKは反応できない。

 

『ゴール!!イナズマジャパン、先制点だ!』

 

 

―――試合再開

 

 

九坂を囲むように4人のDFがグルグル走り始める。

「「「「必殺タクティクス サックアウト!!」」」」

海を思わせる渦巻きに巻き込まれ、ボールを奪われた。

 

 

FWが波を纏いながらゴールに向かってきて、宙返り。

「フライングフィッシュ!!」

水をまといながらボールが飛んでくる。

 

 

俺は足で空を斬るように振る。

「スピニングカットV3!!」

地面がえぐれて、水色の薄い膜が吹き出しボールの威力を弱めると、井吹は簡単にキャッチする。

 

「ナイスキャッチ。」

 

「お、おう……」

 

俺は、俺の方法で君にサッカーを伝えるよ。

ボールを転がしてきたので、俺は前線へ繋いでいく。

 

 

4人の連携技であるサックアウトに、神のタクトという今の俺たちの連携では勝てない。

 

キャプテンであるFWが駆け込んでくる。

 

神童は全力でゴール前まで戻ってくる。

 

「どけ、神童!一之瀬!」

 

「うん、いいよ。」

「一之瀬!?……しまった!」

 

 

神童の隙をついて、シュート体勢に入る。

 

波が噴き出し、海を創る。

「メガロドン!」

シュートと同時に水中からサメが飛び出てボールとともにゴールへ向かっていく。

 

「キーパーは俺だ!!うおーーーー……くっ。」

 

『ゴール!!健闘むなしくシュートが入ってしまった。これで同点だーー!!』

 

 

「惜しかったね!もうちょっとで君だけの必殺技を完成するんじゃない?」

 

「俺の……俺だけの。」

 

井吹は自分の右手を見ていた。

 

 

 

―――試合再開

 

野咲さんがポジションを離れて、プレーし始める。

 

『おっと、真名部のミスを野咲がカバー!』

『野咲、ナイスパスカットだ!!』

『一之瀬の鋭いパスも華麗に受け取った!!』

 

俺は剣城に向かってパスしたつもりなんだけどな。

 

 

「そのボールもらうわ!」

 

「させない!」

―――いいところ魅せるんだから!

 

持ち前の技術で、舞うようにDFを躱していく。

 

 

これが、君の自分だけを魅せるサッカーなんだね。

 

 

 

 

『ここで前半終了だー!』

 

 

「今日、なんか調子狂うぜ。」

「そうだね。攻撃のリズムが途切れるっていうか。」

「計算外の結果ばかりです。」

「……うちも、なんか違和感があった。」

 

「そんなこと言われても私はチームのために結果を出したいだけよ!」

―――私は輝かないと見放されるから

 

 

 

『さあ、後半開始です!』

 

「がんばれ さくら!」「あなたの能力を世界に見せつけなさい!」

観客席から聞こえた声。

さくらに似ている大人の男性と女性だ。

 

「そういうことか……。」

 

 

さくらは一瞥して、FW陣のいるところまで駆け上がっていく。

 

「いいとこ見せなきゃ……きゃあ!」

焦っているところを、スライディングでボールを奪われる。

 

鉄角がボールを奪い、一度外に出すけど、

 

スローインで受け取ったボールをパスミス。

―――相手にとっては絶好のチャンス

 

「メガロドン!!」

シュートと同時に水中からサメが飛び出てボールとともにゴールへ向かっていく。

 

「今度こそ!……ぐっ、ぐわああ」

 

ゴールへ向かっていくギリギリに、俺が割り込む。

 

 

俺は足で空を斬るようにさっきよりも勢いよく振る。

「クリムゾンカット!!」

地面がえぐれて、紅い厚い膜が吹き出しボールの威力を完全に相殺し、一度フィールドの外へ出す。

 

膝をつき、右手を見つめ考えている井吹に声をかける。

 

「井吹、がんばれ!」

 

「っ!ああ、次は止める!」

―――もう少しで何か掴めそうだ

 

 

 

『さあ、ビッグウェイブスのコーナーキックだ!』

 

俺や神童のいない場所の、キャプテンではないFWにボールが渡ってしまう。

「メガロドーーン!!」

 

 

 

「井吹!!」

 

「ゴールは、俺が守る!!」

 

 

バスケで培った跳躍をして、右手を地面に叩きこむように衝撃波を出す。

「ワイルドダンク!!」

ボールは勢いよく地面に埋まり、止まる。

 

「よっしゃーーーっ!!」

 

彼らしい、強力な必殺技だね。

 

「井吹、ゴールは任せたよ。」

 

「おう!」

 

 

俺は屈伸を始める。

 

「みんな、1点取っていこう!!」

キャプテンの声がフィールドに響くと、士気が高まっていく。

 

 

 

 

 



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第6話 さくらのサッカー

井吹の必殺技の完成で、士気は高まってきている。

 

俺たちは初めと見違えるほど、

声をかけあうようになった。

 

彼らは初め見違えるほど、

サッカーと向き合い始めた。

 

 

「神童!」

 

「ナイスパス、井吹。」

 

「GKなら、当然だ。プレストターンV3……天馬!」

 

 

しかし、さくらがボールをパスカットをして、走り出す。

 

「こうなったら私も必殺技を!……あ」

 

「何度もいかせはしない! ウィリー・ウィリー!!」

創られた砂嵐でさくらは吹き飛ばされる。

 

 

「きゃあ!」

―――みんなより結果を出さなくちゃいけないのに

 

 

全力全開で、ボールを持つDFに走る。

「真フレイムダンス!」

炎の鞭でボールを掻っ攫い、さくらにパス。

 

 

 

「え?」

―――どうして

 

何度も、何度も、ボールを奪われる。

その度に、俺は取り返していく。

 

 

「一之瀬君、ありがとう。」

―――結果を出せなくて、ごめんなさい。迷惑かけて、ごめん。

 

 

 

「私たちは未来のために負けるわけにはいかないのだ!!」

「キーパー以外は前に上がっていけ!!」

 

同点のまま、時間が無くなっていくにつれて、攻撃が苛烈になってきた。国の想いのために必死な、『全員攻撃』で俺たちの体力は削られていく。

 

「しまった!?」

―――また失敗。

 

 

「メガロドンV2!!」

さっきより威力が増したサメのシュート。

 

 

「ワイルドダンク!!……くっ、」

威力を抑えきれず、宙を舞うボール。

 

「うおおおおお!!」

跳びこむように、全力全開で抱え込む。

 

 

「ナイスガッツ!」

 

「ああ!……皆帆!」

 

 

「オッケー、真名部君!」

「承りました!キャプテンお願いします!」

 

―――声をかけ合うこと、俺たちは繋がっていく。

 

 

「瞬木、走れ!!」

 

「はい!」

 

 

瞬木は、天馬のロングパスに俊足で追いつく。

 

宙を蹴り、空へ行く。

「うおおお! パルクールアタック!!」

空中からの全力シュートは、ゴールに突き刺さる。

 

 

『ゴーーーール!キャプテン松風のアシストで瞬木がシュートを決めた!!』

 

 

 

天馬がさくらに近づいていく。

さくらの両手が、キュッと握られる。

 

「ねぇ、さくらサッカーは楽しい?」

 

「キャプテン、どうしたのいきなり?」

―――怒られるんじゃないの?

 

「さくらは新体操をやってたんだよね。きっと楽しかったんでしょ?その時の気持ちを思い出してほしいんだ。苦しいサッカーなんて俺はしてほしくないから。」

 

「でも!一番にならなきゃ『楽しい』も何もあるワケないじゃない!……なのに、私全然結果出せてない。何度も何度も迷惑かけて。」

 

それが、さくらの笑顔に隠されていた痛みなんだね。

 

 

「円堂守さんって知ってる?」

 

「知っているけど。」

―――サッカーを知らない人でさえ世界で有名なGKよね。

 

「その人もさ、何度も失敗して、何度も挫折してきたんだって。でも、俺の義兄さんやチームメイトが支えてきた。そして彼も守護神としてキャプテンとして、チームを支えてきたんだ。だから、俺もさくらが失敗したって何度だって支える。今度はさくら自身の一番カッコいい技を俺に見せてよ。全力全開で、みんなでサッカーやろうよ!!」

 

「そうだね。みんなで点を取るんだよ。サッカーはチームプレイなんだ!」

 

「……うん、私も頑張ってみる。」

―――みんなでサッカーを……

 

 

 

『試合再開!このままイナズマジャパンは逃げ切ることができるのか!?』

 

「行きますよ、皆帆君。」

「うん!真名部君!」

 

「「スピニングカット!!」」

衝撃波で、突進のようなドリブルを止める。

2人の洞察力や分析力で、数回見ただけで俺の技を真似たんだね。

 

 

九坂にパスが繋がる。

 

「野咲、頼んだ!」

 

しかし、さくらは素早く4人に囲まれる。

 

 

「「「「必殺タクティクス サックアウト!」」」」

 

俺は脇目も振らず、ゴールに向かっていく。

―――先で待ってる、さくら!

 

 

「……神童さん!天高く道を示して!」

 

「あ、ああ! 神のタクトFI!!」

―――野咲はついてこれるのか?

 

波の渦のない空へ向かって、さくらは跳躍する。

 

さらに、

持ち前の柔軟さを活かして、空にが示された炎の道を鮮やかに通る。

 

 

「やったっ!!」

 

「通さない!ウィリー・ウ……」

 

―――あと1人なんだ!

 

一度立ち止まり、舞うように回転し、フープを創る。

「ビューティフルフープ!」

ボールとともに鮮やかに抜き去ると、ピンクのリボンがDFを縛る。

 

「よしっ!」

―――私だけの必殺技ができた!

 

「フェイお願い!!」

―――今度は君が魅せて

 

 

 

ループシュートによって、宙に浮くボールへ跳んで追いつく。

 

「さくらからの想い、無駄にはしない!」

 

 

空中で創った紅い光の円錐へ跳びこむように、ボールを蹴りつける。

「クリムゾンスマッシュ!!」

紅い流星がゴールに向かっていく。

 

 

「俺たちは負けられないんだ!グレートバリアリーフ!!」

澄んだ海の壁を創り出す。

流星は水の抵抗をもろともせず、ゴールネットへ突き刺さる。

 

 

 

『ゴーーール!! 野咲のアシストで、リベロの一之瀬が必殺技を決めたーーー!!そして、試合終了! 3vs1でイナズマジャパンが勝利だーーー!!』

 

 

パン!

 

ハイタッチの音と、歓声が重なる。

 

 

―――みんなで一番、みんなで輝くかー。ま、それもアリかな。

 

 

 

***

 

敗北しトボトボと帰っていった選手たちの控室にはユニフォームだけが散乱していた。

 

 

 

 



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第7話 雷門魂

 

ボールが鮮やかに、何度も舞う。

 

「198,199,200!」

 

「やったあ!新記録!!」

 

「リフティング、すごく上達してるよ!さくらちゃん。」

 

「葵ちゃん、ありがと。でも、まだまだなんだよね……。」

 

「アハハ、フェイって気が付けば、いつもやってるからね。」

 

たぶん1000回超えたくらいのリフティングをしながら、会話に混ざる。

 

 

「そう? さくらも動きが前より鮮やかになっていたね。迷いがなくなったというか。」

 

「み、見てくれていたの!?」

―――もしかして

 

「うん。サッカーを教えてきた身としては気になるし。」

 

「あ、うん、そうなんだー。」

―――この鈍感っ!

 

真名部も皆帆も切磋琢磨し合い、瞬木や鉄角も一緒にシュート練習だ。九坂もキャプテンに教えを乞うようになった。少しずつ、チームとして練習に参加するようになったメンバーが多い。

 

「みんな、一旦休憩だ! この後は練習試合だから、身体をしっかり休めておいてくれ。」

 

「「「おう!」」」「「はーい!」」

 

 

彼らは実戦で伸びるところが大きい。

天馬たちが声をかけてくれたことで、この練習試合を組んでくれた。

 

 

 

「待たせたな!イナズマジャパン!!」

 

特徴的な髪型の長身のGKに率いられて、個性的なメンバーたちがサッカースタジアムに入ってくる。彼らこそ、天馬たちが通う雷門中のサッカー部だ。俺がちゃんと話したことのある人は西園くらいだろうか。

 

「雷門イレブンのみなさん、今日は練習試合をしてくれて、ありがとうございます!」

 

さくらが笑顔で挨拶をすると、何人かが顔を赤くする。

 

「天馬、風邪っぽいメンバーがいるみたいだけど?」

「そうだね。体調が優れていない人たちは……」

 

「一時的なものだから、気にするな。」

 

「「そう?」」

 

剣城の言う通り、顔の熱は少しずつ収まっているようだ。

 

 

「三国さん、霧野はどうしたんですか?」

 

「神童か。あいつは最近、サッカー協会に呼ばれてどこかへ行っているみたいだな。詳しいことは俺たちも知らされていない。」

 

「……そうですか。」

 

「神サマ、久しぶり…!」

 

「あ、ああ。そうだな。」

 

 

時間も有限だから、

「それじゃあ、そろそろ試合を始めましょう!」

 

天馬の声でそれぞれベンチに集まり始める。

 

 

 

 

―――試合開始

 

今日は

エースストライカーである剣城をベンチに下げ、瞬木のワントップだ。

 

キックオフと同時に九坂が駆け込んでいく。

「俺だって、やってやる!」

 

「開始早々、焦りすぎだよ。ハンターズネットV3!!」

空中を2度引っ掻いて作った網で、巨体を弾き飛ばす。

 

「うわっ!」

「ドンマイ九坂!」

 

 

連携にも慣れているのだろう、的確なパスが繋がっていく。

 

「倉間!」

 

「任せろ!サイドワインダーV3!!」

蛇が地を這うようなシュートがゴールに向かっていく。

 

「行かせるか!ワイルドダンク!!」

ダンクの衝撃波で地にボールを埋め込む。

 

「ナイスキャッチ!」

「どうだ!!……森村!」

 

「ふぇ……」

森村にパスがつながるが、どこかオドオドしているままボールを取られる。

 

 

「みんな、戻れーーーっ!」

 

攻撃に意識が集中していた天馬たちの走りも虚しく、

 

 

「もらいますよ!……一乃先輩、青山先輩!!」

 

「「ああ!」」

 

指笛を鳴らすことで地面から青いペンギンが5匹顔を出す。

「皇帝ペンギン!!」「「2号V2!!」」

シュートするとペンギンがついていき、ツインシュートでさらに勢いを増す。

 

 

「くっ!俺が止める!!ワイルド……」

勢いよく跳びあがったが、ペンギンたちの動きに翻弄されてしまう。

 

ゴールにシュートが突き刺さる。

 

「やったー!」

「ナイス!!」

 

 

「ご、ごめん、うちのせいで。」

「いや、俺が止められたかったのが悪い。」

 

自分達を責めていく。

 

 

―――試合再開

 

瞬木が俊足でシュートを決めに行く。

 

「パルクールアタック!!」

空中からの全力シュート。

 

「絶ゴッドハンドX!!」

勢いよく手をクロスさせ、前進しながらのゴッドハンドで完全にシュートを抑え込む。

 

「いいシュートだ!」

 

 

 

「なんて必殺技なんだ!?」

「あれってゴッドハンド!?」

 

「技を出すスピードが速いね。ロココ・ウルパが使う代表的な技だ。」

 

雷門の底力に驚愕するメンバー。

よく使いこまれていて精度の高い必殺技が多い。

 

 

「速水、行け!!」

 

「はい、真ゼロヨン!!……浜野君!」

「くっ、なんて瞬発力だ。」

陸上のクラウチングスタートで瞬木の横を駆け抜けるドリブル技。

 

「おうよ!真なみのりピエロー!……錦!」

「私の必殺技より鮮やかに……」

波を創って球乗りしながら、さくらの横をくるりと躱す。

 

 

「行くぜよ!真 伝来宝刀!!」

天高く掲げた足でシュートを放つと、上に衝撃波を発しながらゴールに向かう。

 

―――俺は指示を待つ。

 

「今度こそ俺が止める!ワイルド……うわーーっ!!」

勢いよく跳んだが、発していた衝撃波に吹き飛ばされる。

 

ゴールギリギリに跳びこむ。

「クリムゾンカット!!」

紅い厚い膜がボールの威力を完全に抑え込む。

 

「前半終了でーす!」

 

 

 

「はぁ…はぁ…。これが雷門イレブンのサッカーか。」

「ぶ、分析が追いつきません。」

「僕も考えている暇がない連携だった。」

 

「九坂、大丈夫か?」

「はい。すみません、俺なんか足引っ張ているみたいで。」

「そんなことないよ。後半も一緒に頑張ろう。」

 

 

後半は、

相手のキーパーが三国さんから西園に交代か。

 

こちらは剣城と天馬が交代した。

 

「今度はこっちの番!ビューティフルフープ!!」

フープを使いながら鮮やかにMFたちを躱していく。

 

 

「行かせないド!アトランティスウォールG3!!……だドン!」

海から巨大な古代遺跡が生まれ、衝撃波で弾き返される。

 

「きゃあ!」

―――なんてすごい必殺技なの。

 

 

車田にボールが渡り、ドリブルで向かっていくところを神童が防ぐ。

 

「くっ……」

 

「神童どうした!?動きが鈍いぞ!……影山!」

 

「はい!」

 

―――皇帝ペンギン2号の体勢に入る。

 

「そのパスは読めていました!」

真名部がボールを奪い、拙いながらもドリブルしていく。

 

「フューチャー・アイ!……九坂君!」

向かってくる倉間の動きを分析し、的確に躱してパスを送る。

 

 

「おう!いけーーーっ!」

 

「真ぶっとびパンチ!!」

ノーマルシュートはパンチングで弾かれる。

 

「くそっ。」

―――意地を張らずバックパスをしていれば

 

「思い切りのいいシュートだったぞ。」

 

「う、うっす!」

―――剣城さん……

 

 

 

コーナーキックの前に、倉間と三国が代わる。

 

「FW、だと……?」

井吹が声を漏らす。

 

神童のコーナーキックから、ボールを狩野が奪う。

 

「一乃!青山!ボールを繋げ!!」

 

「「はい!ブリタニアクロスV3!!」」

2人同時の斬撃で、真名部と皆帆を吹き飛ばす。

 

「錦にパスだ!……錦!ボールを上げろ!!」

 

―――まるで神童のような、的確な指示で連携を繋いでいく。

 

 

 

炎を片足に宿す。宙に浮くボールに跳躍して追いつく。

「あとは俺が決める!バーニングスマッシュ!!」

大回転しながらドロップキックで、シュートが向かってくる。

 

―――俺は指示を待つ。

 

「くっ、フェイ!!力を貸せーー!!」

 

「待ってました!!スピニングカットV4!」

ギリギリのタイミングだったけど、シュートに跳びこんで勢いを弱める。

 

「これなら!ワイルドダンク!!」

地面に埋め、完全に威力を相殺した。

 

「そ、その、ありがとうな。」

 

「どういたしまして。あと1点決めに行くよ!」

 

 

受け取ったボールをドリブルして前進していく。

 

「さくら!」

 

「うん!ビューティフルフープ改!!」

以前よりさらに鮮やかに、躱していく。

 

 

「好葉ちゃん、お願い!」

 

「ふぇ…!?」

 

前ではなく、後ろにいた森村へのパス。

 

「好葉!前を向け!とにかく蹴るんだー!」

 

「キャプテン……うりゃあ!」

 

拙いパスだった。

しかし、想いの籠ったパスに俺は無理やり追いつく。

 

さくらを見て、頷き合う。

 

 

ボールを空中に上げると、空中でさくらがヘディングで目の前に落としてくれる。

「「ツインブースト!!」」

地面と平行に全力シュート、燃えるような勢いでゴールに向かう。

 

「くっ、ハンターズネットV3!!」

 

網を引き裂くことができたが威力が弱まってしまう。

 

 

すかさず剣城がシュートにチェイン。

「デスドロップG3!!」

闇を纏ったオーバーヘッドキックシュートが西園に向かう。

 

「真ぶっとび……うわぁーーー」

意表を突かれたことで、必殺技が間に合わずゴールが入る。

 

「試合終了でーす!」

 

葵の声で、何人かがへたりこむ。

 

「みなさん!今日はありがとうございました!」

 

「こっちこそ楽しかったぞ。キーパーの井吹も頑張れよ!!」

「他のやつも、もっともっと特訓して強くなれ。」

「またサッカーやろうぜ。」

 

 

俺たちはイナズマジャパンのメンバーと雷門中のメンバーが会話をしていく。特に、雷門中の3人は久しぶりに会えたこともあって、積もる話があるみたいだ。

 

さらに、体力が残っているメンバーは各々サッカーを教わり始める。

 

 

はじめて、

純粋に彼らが試合を楽しめた時間だった。

 

 

 

 



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第8話 あふれ出す獣の本能

サウジアラビア代表『シャムシール』との試合が決定された。

スタイルとしては完全な攻撃型とのこと。

 

「今日はこれで解散。あとは自由行動だ。明日からサウジアラビア戦へ向けての最終の調整を行う。以上だ。」

 

監督は水川さんを伴って、ミーティング室から出ていく。マネージャーである水川さんとはあまり話したことはないし、どこかミステリアスな人だ。それにしても監督にしては珍しい指示だ。

 

 

「休みなんて久しぶりだね。みんなはどうするの?」

 

「僕は休ませてもらいますよ。明日の練習が朝の8時からだとすれば、たまった疲労の92%は回復できますからね。」

 

「俺はちょっと弟たちに会ってくるよ。」

 

皆帆や真名部、瞬木をはじめ、自由時間を各自使うことになるだろうね。井吹や鉄角、天馬たちもサッカーの自主練習をやるようだし、俺も混ざろうかなー。

 

 

「ねぇー、フェイ! 私たちサッカーガーデンのショッピングモールに行くんだけど、一緒に来ない?」

 

さくらが森村を引っ張って、話しかけてきた。俺たちの合宿所はお台場にあって、ショッピングモールも同時建設されて、多くの人で賑わっている。義兄さんも女の子の頼みなら快く受けるだろうね。それに、もしトラブルがあってもいけない。

 

「うん、いいよ。」

 

「やったっ!」

―――うそでしょ、断らないなんて!?

 

 

 

イナズマジャパンのジャージのまま行くのではなく、一度着替えて集まることになった。白いシャツにオレンジのベスト、短いズボンという動きやすい服装。リフティングをしながら待つ。

 

「お待たせ!」

 

「おまたせ、しました……」

 

桜色のカーディガンでデニムのショートパンツ、太ももを完全に隠すくらいの黒タイツを履くさくら。黄色いパーカーの上にオーバーオールを着た森村。

 

「いや、今来たところだよ。2人とも似合ってる。」

 

「そ、そう?行きましょ!」

―――うぅ~、卑怯…。

 

 

海に面したショッピングモールはお店が集合していて、どちらかというと商店街に近い。さくらの希望で服を見に行って、森村の希望で本を見に行って、外でやっているショーに立ち止まる。

 

しかし、

さくらと2人きりになると、森村は何かに怯えた様子を見せる。

 

 

 

有名なドーナツ屋さんで休憩をとる。

 

「思ったより、ここって充実しているなー。ねぇ、フェイってこういうの慣れてるの?アメリカで女の子とよく出かけていたり?」

―――エスコートがなんだか上手いのよね

 

「そうでもないかな。サッカーばかりしていた俺たちをアスカさん達が連れて行ってくれたくらいかな。義兄さんが行くと女性ファンに囲まれるからね。ついでに俺にも声をかけられるし、あまり乗り気じゃなかった。いやー、日本って穏やかでいいね。」

 

妙にさくらたちに向けて携帯を構える女性が多かった気がするけど。

 

 

 

「そ、そうなんだ。ところで、好葉ってどういう条件でチームに参加したの?」

 

「ふぇ…?」

 

「私は世界最高峰のチームへの海外留学なんだ。」

―――世界に旅立って、絶対トップになってやる。

 

森村は答えることはなく、俯いたまま。

 

「あー、無理に言わなくていいの。じゃあさ、フェイって監督に何か言われてきたの?」

 

「うん、直接会ったね。俺って別に功績なんてないんだけどね。アメリカのプロサッカーチームに混じってやっていたから目に留まったんじゃないかな。」

 

あの頃は同年代の人たちとサッカーやることを避けていたし。

 

ピロン

 

イナリンクに着信が入る。

これは俺たちチームメンバーが使っているSNSだ。

 

「九坂君が警察に!?」

 

街の不良たちと喧嘩したということ。確かに彼自身も不良らしいけど、そういった悪意は一度も感じられなかった。森村は俯いて顔を曇らせている。

 

「……とにかく寮に戻ってみよう。」

 

 

急いで戻ってみると、すでに天馬以外が集まっていた。

 

 

キャプテンとして行ってきた天馬も交えて、話し始める。

 

彼がチームに参加した条件は、復学。

―――日本代表として彼が相応しいのか。

 

 

 

迷いを心に残したまま、試合の日となった。

準決勝の相手、サウジアラビア代表シャムシール。

 

「神童、またそれか!」

 

試合開始と同時に、また井吹の前までやってくる。

キーパーとしてゴールを任せられるようになったけど、彼はまだ足りないものがある。そしてそれは自分で気づくべきこと。雷門との試合を経験したから、あと少しなんだろうけどね。

 

 

「速い!」

 

さくらがドリブルで抜かれ、ゴール前まで向かってくる。瞬木がベンチで、DF5人という俺たちの守備固めを諸共しない連携だ。

 

 

「この先には行かせない!アインザッツ……なにっ!」

神童は旋律とともにブロックするが、必殺技後の隙をつかれてボールを奪われる。

 

 

「ここは俺が……くっ!」

 

「お前が守備の要だっていうのはバレバレなんだよ。」

 

 

2人の選手に行く手を阻まれる。

キャプテンのFWの必殺技を見ていることしかできない。

 

「オイルラッシュ!」

吹きだした石油とともに、ボールが向かう。

 

「ワイルドダンク……くそっ!!」

 

ボールに向けた右手が滑ってしまい、ゴールが入ってしまう。

必殺技の相性は最悪だ。

 

 

「なんだよ、今のシュート……。」

「ドンマイ、井吹!!」

 

 

試合再開するも、

勢いは完全に相手にあって押されていく。

 

「これがジャパン代表か?」

「お前みたいな弱いやつがよー。」

「木偶の棒っていうんだっけ?」

 

 

「弱い?……舐めんじゃねぇぞ、おんどりゃぁー!!」

 

目つきが変わり、我を忘れる。

 

3人の選手を殴って吹き飛ばしてしまう。

 

 

 

ピーッ

 

『ファール!!九坂が相手に危険なタックルだーー!』

 

「くそっ、やっちまった。」

 

「九坂君、怖がらないで。」

―――強くならなきゃ皆が離れていくって

 

呆然とした九坂に、森村は伝える。

 

「俺が何を……?」

 

フィールドに立ち尽くし、拳を握りしめていた。

 

 

ここで彼を変えたら、ずっとこの溝は埋まらない。

イエローカードを受け取った九坂を入れたまま、試合再開する。

 

天馬の想いも虚しく、危険な九坂を避けながらパスを繋いでいく。

 

「大砂漠砂嵐だ!」

「「「「おう!」」」」

5人の一斉スライディングでボールを運ぶ必殺タクティクス。

 

爆進する砂煙は彼らの動きを隠す。

 

 

「おらっ、オイルラッシュ!」

俺たちDF陣を越えての必殺シュート。

 

 

「ワイルドダンク!!……っ!またか!」

井吹の必殺技は無力だった。

 

 

これで0vs2

 

 

 

 

 



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第9話 教えてもらったもの

 

 

―――0vs2という最悪の展開

 

攻撃の要である天馬や剣城がマークされ続け、神童や俺は守備に徹するしかない状況。さらに、九坂のこともあって動きの鈍いメンバーが多い。

 

さらに九坂を孤立させ、わざと挑発し翻弄していく。

 

「こいつらっ!」

 

「九坂君……」

 

『弱い』という言葉に過剰に反応してしまう九坂。

―――力があれば俺を褒めてくれる。誰もいなくならないはずだ。

 

 

「って、あの人たち誰!?」

 

フィールドに入ってきた不良たち。

この世界大会という場で、度胸のあることをするね。

 

「九坂さん、たっぷりお礼させてもらうぜぇー。」

「弱虫のお前がこんなところで何をやってるんだよぉ-」

 

「俺が弱い?……うおおおおお!!」

バンダナが外れ、熊のようなオーラを発する。

 

 

 

彼の拳は、風で弾き返された。

明るい紫色で鷹のような形状のリーゼントの、料理人が徐に櫛で髪を整え始める。

 

「とび…たかさん……?」

 

「単刀直入に言う。自分の『弱さ』を恐れず思い切ってプレイしろ。」

 

「それは……」

―――喧嘩を教えてくれたときも言ってくれた言葉。

 

 

「りゅうちゃん!わたしのために勇気を出して、いじめっ子に立ち向かった君はよわくなんてなかった。そんなつよい君が好きだった!でも何を言えばよかったか分からなくて、あの日逃げ出してしまったことをずっと謝りたかった!―――強くなくてもいいんだよ!!」

 

「う……うわぁああああああーー!!」

―――その言葉が俺は欲しかったのか

 

天を見ながら、号泣。

 

 

 

「出てけっ!!」

睨まれて、必死に逃げ出していく彼らは警備員に取り押さえられている。

 

 

「つよくなるっていうことは、こういうことなんだな。……キャプテン迷惑かけてすみません。サッカーやりましょう!」

―――もうまちがえない。

 

「あ、ああ。」

 

「そうだ。それでいい。またみんなでラーメン食べに来いよ。」

 

「うっす。俺、もっとつよくなって恩返しします!!」

 

喧嘩で身につけたつよさは、無駄にならない。

暴力に使うな、立ち向かうために使え。

 

「やっと!!分かりました!!」

 

背を向けたまま、手をヒラヒラさせながらフィールドから出ていく。

 

 

 

「ねぇ、どういうこと?」

 

「漢の誓い、じゃないかな?」

 

「へ、へぇー。」

―――ま、一件落着でいいのかな。

 

 

 

試合再開と同時に、九坂はまたオーラを発する。しかし先ほどまでのそれとは違って、そのオーラを身体に纏っていく。ちゃんと瞳に理性が現れている。

 

化身アームドに近く、俺の『獣の本能』のコントロールに似ている。

 

「これが俺の本当のつよさだ!!オラオラメンチ!」

ボールを奪いに来たプレイヤーは蛇に睨まれたように動けなくなる。

 

 

「九坂、シュートだ!」

 

「おう! っ!おらぁ!!」

 

ゴールに向かっていくパワーシュートに天馬は走りこんでいく。

 

「超マッハウィンド!!」

叩きこんだボレーシュートで、ボールは強風を纏いゴールに突き刺さる。

 

これで1vs2

 

 

試合再開のキックオフと同時に、大砂漠砂嵐を使ってくる。

 

「必殺タクティクスで取り返す!!」

 

 

「俺が止める!!」

砂嵐を真正面から打ち消し、シュート体勢に入る。

 

 

―――俺の得意なことをサッカーに!あのときの、『蹴りのトビー』のように!!

 

地面に両足を勢いよく埋める。

「キョウボウヘッド!!」

全力全開のヘディングシュート。

 

 

「ドライ・ブロ―」

炎の拳でボールを殴るも、勢いは揺るがない。

 

 

『ゴーーール!!九坂の新必殺技だーー!!同点まで追いついた!!』

 

これで2vs2

 

「くそっ、俺たちには勝ちしか許されない!!」

 

「「「「デザートドリフト!!」」」」

MF4人による砂を巻き起こしてのドリブル技だ。

 

それを必殺タクティクスに合わせてきて、さらに勢いの強い砂の竜巻となる。

 

 

井吹は、すでに必殺技の構えか……。

 

「真名部!皆帆!同時に行くぞ!!」

 

「はい!」

「うん!」

 

「「「スピニングカット!!」」」

こちらも3人同時のブロック技で迎え撃つ。

 

 

「「「なにっ!!」」」

 

 

砂が晴れたときに、キャプテンのFWが俺たちの横を駆け抜ける。

 

「う、うちが……」

「くそっ…」

 

 

鉄角や森村もドリブルで抜かれ、シュート体勢に。

 

「もらったっ!!オイルラッシュ!!」

 

 

「うおおおお!!」

―――直接触らなければいいんだ!

 

跳躍し、両手で地面を勢いよく叩くと、岩の壁が隆起する。

「フェンスオブガイア!!」

勢いよくボールを前へ弾き返す。

 

 

ボールは天馬のところまで。

 

「はっ!!デザートストー……」

「ZスラッシュG2!!」

DF技を出す前に、速攻のドリブル技で躱す。

 

 

全員攻撃していた相手にとって、カウンター攻撃が突き刺さる。

 

「みんなー!!上がれ!!」

 

「「「「はい!」」」」

「「「おう!!」」」

 

「ビューティフルフープ改!!」

創り出したフープでさくらはDFを華麗に躱す。

 

 

「どうすれば……」

―――剣城はマークされていて、フェイもまだ向かってきているところ

 

「野咲、俺に渡せ!」

 

「うん!」

―――今の九坂君なら、繋いでくれる

 

「うおおお!キョウボウヘッド!!」

―――受け取ってください!!

 

 

「なにっ!?」

「どこ向けて打ってやがる!?」

 

相手のゴールに向けてではなく、こちらのゴールへ。

 

 

 

俺と天馬はそのシュートに向かって真正面から走りこんでいく。

 

「「イナズマ1号!!」」

雷を纏った全力ツインシュート。

 

想いを載せて撃ち返す。

 

「なんだとっ!?」

 

意表を突かれたDFやGKは必殺技を出す暇もなく、雷がゴールに突き刺さる。

 

 

 

 

『ゴール!!さらに試合終了――!!イナズマジャパン、シャムシールを破り準決勝進出を決めました!!』

 

 

「九坂、ナイス判断。」

「ああ、俺たちを信じてくれてありがとう!」

 

「キャプテン、フェイ……なんかサッカーって良いっすね。」

 

「そうだろ!いいだろ、サッカー!」

 

バンダナを撒き直した彼の表情は、優しさとつよさが溢れていた。

 

―――みんなを守っていたつもりだったけど、俺はみんなが離れていくことを恐れていたんだ。サッカーは繋がりを感じさせてくれる。俺がサッカーを好きになれるっていう飛鷹さんの話、本当だったな。俺が身に着けた喧嘩も無駄にはならないって話も。

 

 

試合を重ねるごとにチームは纏まってきている。

 

 



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第10話 救いたい女の子

 

朝から、真名部と皆帆はギクシャクしている。

しかし事情を聞く間もなく、俺たちは監督に呼ばれて食堂の下へ連れて行かれる。

 

特殊な機械のある1室で、急に風景が変わる。

 

「ここは雷門中のグラウンド!?」

 

「これはホログラムだ。しかしただの映像ではない。お前たちの脳に信号を送ることで、本物と全く同じ感覚が再現されている。今日からお前たちはここで特訓してもらう。この『ブラックルーム』で。」

 

徐に片手で装置を操作し始める。

どこかメカメカしい施設に風景が移り変わる。

 

「なぁ……ミサイル…だよな。」

「爆弾よね……。」

「もうどうにでもなれ」

 

 

俺たちの前にボールが現れる。

 

「死ぬ気でドリブルをしろ。」

 

「「「「うわぁぁぁーーー!!」」」」

 

ブラックルームを使用して個人の特訓をしながら、普段のスタジアムで連携の特訓をしながら厳しい日々が続いている。真名部や皆帆は喧嘩を続けているとはいえ、張り合うようにサッカーに取り組んでいる。

 

 

しかし、

『このままイナズマジャパンにとどまる自信がありません 好葉』

 

「置手紙、どうして……?」

 

「森村は悩んでるんすよ。あいつ自分がチームのお荷物になってるって思い込んでて。このままじゃあいつやめちまうかもしれない。」

 

「でも好葉のことは少し放っておいてあげる方がいいのかも…。好葉ってすごい内気でしょう?大勢の前でサッカーするのもキツそうだし。」

―――最近の特訓も辛そうだった

 

「たしかに彼女には日本代表の名は重いのかもしれません。」

「そうだね。闘争心というものがないし、サッカーに向いてないのかもね。」

 

「お前ら何もわかってないな。森村は自分に向き合えない、心を閉ざしているだけなんだ。本当はサッカーやりたいと思うぞ。」

―――かつての俺のように

 

「…九坂、一緒に探しに行こう。」

 

「おう、ありがとうな。」

 

 

 

 

夕暮れになるまで探していると、お台場の観覧車エリアに私服の森村はいた。

 

「猫、いや動物が好きなんだね。」

 

「ううん、動物は悪口言わないから……。」

 

「なあ、あんたに何があったんだ?教えてくれ。」

 

「一之瀬君、九坂君……。うちウジウジしてるから、みんなにイラつくって言われてきたの。顔が気に入らないってことも言われた。」

 

「イナズマジャパンのメンバーは誰もそういうことは言わないと思うよ。」

 

「今はそうだけど、サッカーが下手なままなわたしだし、いつかは……。」

 

「あー、もう見ちゃいられないぜ!!グダグダ言ってないで俺たちを信じろよ!俺もあんたを嫌ってない!怖がっているものに気づいているなら、向き合えよ!俺だってそうした。森村のおかげなんだ!」

 

「でも、ウチは……。」

 

「あー、もうイラつくんだよ、そういうの……あっ」

―――くそっ、言ってしまった。

 

森村はその言葉に塞ぎ込む。

 

 

ふと、

観覧車を指差す子どもたちがいるのが目に入る。

 

「……なんだか騒がしいね。」

 

「あれは猫?……お、おい、どこ行くんだ!?」

 

青白い光を纏いながら駆け込んでいく。

森村は落ちていく猫に飛びつき、キャッチする。

 

「よかった。もう危ないことしちゃだめだよ。」

 

「すげぇ……森村も大丈夫か?」

 

「う、うん。」

 

「あー、いたー!!」

 

さくらと葵が走って向かってくる。

 

「ね、好葉ちゃん!」「女子会しよう!」

 

女子と距離を取ろうとする彼女の両手を優しく握る。

 

「え……うん。」

 

 

「行こうよ!」

―――放っておいてあげるほうがいいのかもしれない。でも、このまま好葉と別れるのは、なんか嫌だな。

 

 

 

「ねぇ、九坂、焦らず自分の気持ちを考えてみなよ。」

 

「俺の、気持ち??」

―――俺は森村のことをなんで無性に助けたいんだ?

 

友達の森村のことを自分自身で救いたくて仕方がないんだよね。

同じ境遇で助け合える、親友になれるかもしれないから。

 

 

 

いくつかのギクシャクを残したまま、試合の日となってしまう。

 

『さあ、いよいよ日本代表イナズマジャパンとタイ代表マッハタイガーの戦いが始まろうとしています!!』

 

 

今回は鉄角がベンチで、それ以外の11人だ。

 

 

「速攻で行くぞ!!」

 

俺たちのキックオフと同時に、DFのキャプテンが上がってくる。ワントップのフォーメーションかと思いきや、ずいぶんと攻撃的なサッカーだ。2人並んで同時に足を振る。

 

「「デスサイズミドル!!」」

 

「うわっ!」

「くっ!」

一閃で、瞬木や剣城が吹き飛ばされボールを奪われてしまう。

 

「いけっ、タムガン!」

 

パスを繋いできて、あっという間に俺たちDF陣の前だ。

 

「こ、こっちに来る……ディフェンスしないと…。」

 

「ジャマだ!どけっ!デスサイズロー!!」

一閃で、森村が吹き飛ばされる。

 

「森村ぁ!?……くっ」

―――だめだ、暴力を振るうと森村が悲しむ

 

 

 

俺がワントップのFWをマークしていることに舌打ちして、ノーマルシュート。

 

「舐めるなっ!!」

井吹はしっかりとキャッチする。

 

 

一瞬で攻守を切り替えてくるチームで、カウンターを狙っているのだろう。俺たちDF陣の真価が試される。

 

「パルクールアタック!!」

 

「「デスサイズミドル!!」」

一閃での、シュートブロック。

 

さらにロングパスでのカウンター攻撃。

 

 

「遅い!!」

 

「「なにっ!?」」

 

「う、うちには無理……。」

 

オドオドしたままで、ボールを奪われる。

前回の試合同様、俺や神童は行く手を阻まれる。

 

「さあ、シュートだ!アイボリークラッシュ!!」

強烈な膝蹴りをすると、像が鳴いて勢いを増す。

 

「くそっ!ワイルドダンク!!」

跳躍してダンクをかけるが、ボールは止まらない。

 

「う、うちの、せいだ。」

 

「いや、俺がもっと強い必殺技を……」

 

まだ井吹には足りないものがある。それは強力な必殺技でも、キャッチングの技術でもない。そしてそれは経験によって培われるものだ。さらに、森村もまだ実力を発揮できていない。あの時、猫を救った勇気は必ずサッカーに活かせる。

 

「九坂、がんばれ。」

 

森村に近づこうとしているのに、森村に避けられてしまっている。

この状況に歯を食いしばっていた。

 

 

 

 



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第11話 繋がる絆

試合再開

 

居ても立っても居られない九坂は天馬に話しかける。

 

「キャプテン、俺、森村を助けたいんです。あいつに伝えたいことがあるんです。でも、何度も伝えようとしたけど、避けられちまって。」

 

「九坂……。だったら、今がチャンスだ。試合中にサッカーで伝えるんだ!」

 

「九坂!!守りを任せろ!全力全開で君の想いを伝えるんだ!」

 

「サンキュー。……いくぞ!!うおおおおお!!」

 

一度深呼吸、

バンダナが外れる、九坂は怒髪天となって森村の前に走っていく。

 

 

「ふぇ…!!」

 

「森村、森村好葉!!俺はお前が好きだぞーーーーっ!!」

 

「ふええーーーー!!」

 

「お前は温かい。顔も可愛い。俺の彼女にしてやるから元気出せっ!!!」

 

―――まっすぐに俺の想いを伝える!

―――こんなうちを誰かが見てくれる?

 

 

 

再びFWが走りこんでくる。

 

「どけっ!お前のディフェンスなど取るに足らん!」

 

「森村、お前なら止められる。絶対にできる!自分の力を信じろ!!」

 

「できる、うちにも……?」

 

「自分の『失敗』を恐れず、思い切ってプレイしろ!!」

 

「うん!」

 

相手選手のプレイに意識を集中させる。

 

―――動きが視える!本能的に動ける!

 

青白い光が一瞬輝く。

 

 

葉っぱが集まり始め、自身に纏っていく。

「このはロール!!」

巨大なボールとなって、ドリブルしてきた相手を轢く。

 

「やったじゃないか!好葉!」

 

「九坂君が、応援してくれたから......」

 

 

「なによ、やればできるじゃない!」

「よしっ、点を取りに行くぞ!!」

 

 

 

今度は俺たちがカウンターをかけていく。

 

好葉からさくらへパスが繋がり、ドリブル突破。

 

少し前へ進んだ真名部がさくらからパスを受け取り、

 

「フューチャー・アイ……九坂君!」

―――上手くいきました

 

動きを読んで、的確に躱してパス。

 

「おう!キョウボウヘッド!!」

 

強力なヘディングシュートがゴールに向かっていく。

 

「「デスサイズミドル!」」

「キラーエルボー!!」

ブロック技と、巨大な肘でのキャッチ技で止められてしまう。

 

あのキーパーの必殺技はそこまで強力じゃないけど、身体能力が高いね。

 

 

 

ホイッスルが鳴り、前半の終了を告げる。

バンダナを撒き直している九坂に自分から話しかけていくのは森村。

 

「ど、ドンマイ……」

 

「ああ、後半も全力で行くぞ。」

 

「うん、頑張る……。」

 

 

 

「ねぇ、天馬。なんだか2人とも顔赤くない?」

「そうだね。もしかして、風邪?」

 

「「はいはい、2人は黙ってて。」」

 

「「う、うん…。」」

話しかけようとしたところを葵やさくらに止められた。

 

 

 

 

0vs1という状況で後半が開始される。

攻撃の勢いは収まることはない、同じ人間とは思えない身体能力だ。

 

「皆帆!真名部!そっちへ行ったぞ!」

 

天馬の声で、

考える素振りの皆帆や、分析する真名部はハッとする。

 

フェイントをかけられてドリブルで抜かれる。

 

 

「クリムゾンカット改!!」

跳びこむように相手選手の前に躍り出て、進化した紅い壁で弾き返す。

 

一度、ボールを外に出す。

 

2人を信じて、俺は時間を稼ぐ。

2人なら、勝利への解法を見つけてくれるだろうから。

 

「このはロール!!」

葉っぱを纏って突進するブロック技。

 

「私だってっ!!グッドスメル!」

闘争心をかき消すことで動きを止めるブロック技。

 

「真ワンダートラップ!!」

一瞬消えるほどのスピードでボールを奪うブロック技。

 

 

―――俺だけじゃない。みんなが彼らを支える。

 

 

 

唯一の相手FWにボールが渡ってしまう。

 

「悪く思うな!勝つのは俺たちの星だ!!」

 

 

「見えました!ディフェンス方程式!!」

数式を用いた分析をもとに、的確にボールを奪う。

 

「そんなドリブルじゃボールを取ってくれと言っているようなものだな。」

 

一度、ボールを奪われる。

 

「いえ、計算通りです。皆帆君!!」

 

「トレースプレス!!2段構えのディフェンスさ。」

相手の仕草や癖を真似して、隙を突いてボールを奪う。

 

「「これが僕たちの勝利の解法です!!」」

 

彼らの得意なことを必殺技に活かした。

剛のプレイを柔のプレイで打ち破ったんだ。

 

「皆帆!真名部!よくやってくれた、このボールを繋いでいくぞ!!……フェイ!!」

 

 

 

紅い光の円錐へ跳びこむように、浮いたボールを蹴りつける。

「クリムゾンスマッシュ!!」

紅い流星がゴールに向かっていく。

 

 

そこに全力疾走していくのは瞬木だ。

 

「うおおおお!マッハ!ウィンド!!」

風を纏ったシュートをチェインしてゴールへ向かっていく

 

「なにっ!!」

カウンター攻撃に反応できず、ゴール。

 

 

これで同点だ。

そして、流れはこちらにある。

 

「オラオラメンチ!!……おらぁ!!」

―――受け取ってください!

 

 

「「「任せろ!!」」」

天高く上げられたボールに俺たちは向かう。

 

俺の両足、彼らのツインボレーシュートを叩きこむ。

「「「ファイアトルネードTC改!!」」」

豪炎がゴールへ向かっていく。

 

「「デスサイズミドル!!……なにーーっ!!」」

一閃を諸共せず、進み続ける。

 

「キラーエルボー……あちぃ!!」

真正面から、強固なキーパー技を打ち破る。

 

 

これで2vs1

 

 

キックオフと同時に、キーパーすら持ち場を離れる全員攻撃で向かってくる。全力全開の身体能力を発揮し始めたのか、急に動きが速くなる。

 

走り方もどこか人間とは、もはや異なるような……。

筋肉にも異常に力が入っている。

 

 

「「「我々の未来がかかっているんだ!!」」」

 

「僕たちなら100%できます!」

「キャプテンたちのような完璧な連携技をね!」

 

皆帆と真名部が両左右から向かう。

「「スピニングカットW!!」」

合成させることで完成した1つの巨大な膜がドリブルを止める。

 

お互いの動きを知り尽くしたからこそできる、息の合ったDF技だ。

 

 

 

ホイッスルが試合終了を告げる。

 

『ここで試合終了だーーーっ、イナズマジャパン、決勝進出だ!!』

 

 

「おレたちが負けタ??ここマデ勝ち進んできたノに……。」

この世の終わりと言わんばかりに、相手選手は膝をつく。

 

 

 

皆帆と真名部は勝利の喜びを分かち合っている。

好葉は、また自分から九坂に近づいていく。

 

「やったな。森村。」

 

「うん。九坂君。」

 

長身の九坂は、直立不動となる。

 

「えと……あの……九坂君の気持ちありがとう。でもごめんなさい。彼女になるのは……その、ダメです!!」

 

きっぱりと断る。

 

「……まあ、いいか。お前が元気になってくれたらそれでいい。」

―――森村が自分の考えを伝えることができるようになったしな。あぁ、飛鷹さんのラーメンが無性に食べたくなってきたぜ。

 

 

「ちょっと屈んで??」

 

「お、おう。」

 

漢泣きすら堪えて笑顔を出す、九坂の耳にゴニョゴニョと伝える。

 

(わたしがもっと前向きになるまで、待っててー?)

 

ボンッ!!

 

 

「「爆発したっ!!九坂、大丈夫か!?」」

 

「「はいはい、邪魔しないの。」」

 

九坂に駆け込んでいこうとする、俺たちは葵やさくらに引っ張られていく。

 

 

「ありがとう、九坂君。」

―――もっと自分を好きになってみるよ。

 

小さな身体は勇気とやさしさで溢れていた。

 

 

 

 



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第12話 進化した強敵

評価と閲覧数とお気に入りを糧に今日もがんばる


決勝を前に、俺たちは練習を重ねる日々だ。

 

準決勝以来、全員がサッカーの特訓に真剣に取り組んでいる。

 

「葵さん、まだ決勝の相手は分からないの?」

 

「明日の午後にはわかるわよ。アラブ首長国連邦とウズベキスタンのどちらかね。」

 

「どっちが相手だろうが俺は攻めてくだけだよ。」

 

「やる気ね!あと1つ勝てばアジア代表になれるものね。」

 

「その次は世界大会、だね。」

 

監督を待つ間、俺たちは会話を始める。

 

 

「俺、サッカーがだんだん楽しくなってきたぜ。」

 

「うちも。」

 

「森村…。」

 

 

「みんな本当によく頑張った。がんばって練習を続けたから、サッカーが応えてくれたんだ。」

 

「ああ、俺は1点も許さない!!」

 

「キーパーなら当然だ。」

 

井吹と神童は睨み合う。

 

神童は特にサッカー未経験者である8人が選ばれたことを疑問に思っている。剣城も自分と互角のプレイヤーが選ばれなかったことがどうやら気になっているみたいだ。確かに潜在能力のある彼らだけど、初めは未知数のつよさだったんだ。

 

 

「全員、集まっているな。今日は午後から練習試合だ。グラウンドに行け。」

 

それだけ伝えて、監督は先に外へ出ていく。

 

 

「本当に監督の前って緊張しちゃうなー」

 

「そう?そんなに悪い人だとは思わないけど?」

 

「雰囲気とかがちょっとね。それにしても、練習試合って楽しみね。」

 

どこか浮き足だっているメンバーもいるが、グラウンドにたどり着く。

 

 

 

「っ!!」

勢いよく向かってくるシュートを剣城が、反射的に打ち返す。

 

「はっ!!」

ボールを押さえつけるように白い髪の選手が地に立つ。

 

 

砂煙が晴れる頃には11人のプレイヤーが立っていた。

 

「白竜…!!」

「霧野!!」

「南沢さん!」

 

「こいつらは『レジスタンスジャパン』。俺が監督の不動だ。」

 

元帝国学園の選手で、かつてイナズマジャパンのMFだった人だ。

 

 

「試合の相手はこいつらだ。それに、化身を使っても構わん。」

 

「なにっ!?」

「しかしっ!?」

 

確かに彼らは強くなった。

しかし、化身が使えるメンバーは、俺や天馬たちだけだ。

 

 

 

 

九坂以外の11人がポジションにつく。

 

相手は各中学校でストライカーを務めるメンバーが揃っている。超攻撃的なサッカーをしてくる上に、化身を持つ選手も多い。かつて天馬たち雷門中と戦ったメンバーたちらしい。

 

「俺たちは今日お前たちを潰しに来た。」

「さあ、イナズマジャパンの力を見せてもらおう。」

 

 

 

「行くぞ!鉄角!!」

 

「ああ!……なにっ!?」

 

天馬のボールをパスカットされる。

 

「どうした、この程度で怯むのか!? 行くぞ!」

 

背中から紫色のオーラが溢れ、少しずつ形を成していく。

「獣王レオン!!」

大きく鋭利な爪が特徴的な化身だ。

 

「スクラッチレイド!!」

 

「化身なのか!?うわああああ!」

地面を引っ掻くように出された衝撃波が鉄角を吹き飛ばす。

 

 

相手の白竜はパスを受け取り、全力疾走してくる。

「スプリントワープ!」

辛うじて姿が視認できるレベルのドリブルでいとも簡単に躱していく。

 

 

シュート体勢に入ると、ボールは風と光を纏い始める。

「いくぞ!!ホワイトハリケーン!!」

天から打ち出された天災レベルのシュートがこちらに向かってくる。

 

「まだまだ行くぞ!パンサーブリザード!!」

雪豹が雄叫びをあげ、シュートチェインで豪雪を纏う。

 

 

「アインザッツG2!!」

「クリムゾンカット改!!」

 

威力を抑えきれなかったが、シュートの威力は相殺できた。

 

「もらった!」

 

「霧野!?」

 

宙に浮くボールを手に入れたのはDFのはずの霧野。

 

 

「行かせません!」

「君が走ってきていたのは視えていたよ!」

 

真名部や皆帆が立ちふさがる。

 

背中から紫色のオーラが溢れ、少しずつ形を成していく。

「戦旗士ブリュンヒルデ!!」

盾と旗を持った鎧姿の女性の化身だ。

 

「アームド!!」

化身を一度崩し、身体に纏っていく。

 

「いくぞ!」

 

「「はやい! うわーーーっ!!」」

向上された身体能力のドリブル突破で2人を吹き飛ばす。

 

「はーーっ!」

さらに化身アームド状態のシュートが井吹に向かう。

 

「ワイルドダンクV2……グハッ」

進化した必殺技が一瞬で破られる。

 

「なんてシュートだ。今までとまるで違う。こんなにも重くて鋭くて。神童たちはこんな奴らと戦ってきたのか。」

―――これが格の違いだとでもいうのか。

 

 

 

キックオフと同時に、天馬は化身を出す。

 

「魔神ペガサスアーク!!」

翼の生えた筋肉質の巨人だ。

 

「アームド!」

天馬も身体に纏っていく。

 

しかし、

相手チームは次々と化身を出して囲んでいく。

 

「くそっ……」

パスを繋ごうとした天馬だけど、

俺や神童、剣城は徹底的にマークされている。

 

「なにを躊躇しているんだ!……ほら!」

白竜が隙をついてスライディングでボールを奪ってパス。

 

 

「いかせるか……」

 

海王の化身を見上げて動きが止まる。

まるで過去がフラッシュバックしたような。

 

「ハッ!そんなディフェンスでこの俺様が止められるか!」

 

「グハッ!?」

化身の槍で薙ぎ払われる。

 

海を創ってシュート体勢に入る。

「ヘヴィアクアランス!!」

シュートをすると、化身も巨大な槍を投擲する。

 

 

「「スピニングカットW!!」」

皆帆と真名部の連携技でパワーダウン。

 

「ワイルドダンクV2!!」

井吹はなんとか勢いを抑え込んだ。

 

 

ボールを投げようとしたが、

 

「くそっ。」

―――すでに息切れをしているメンバーたちが多い

 

 

「なら、……フェイ!!」

 

マークをすり抜け、俺はボールを受け取る。

 

背中から紫色のオーラが溢れ、少しずつ形を成していく。

「月影の白兎 ペリノア!!」

薄黄色の長い髪の兎人。

 

「アームド!!」

俺も化身を身体に纏っていく。

 

白いマフラーを風にたなびかせて、ドリブル突破していく。

 

 

「神童!!」

 

「ああ!!ミキシトランス 信長!!」

パスを受け取った神童の雰囲気や姿が変わる。

 

「刹那ブースト!!」

刀で斬るようにシュートを加えていって、地面と平行に全力シュート。

 

「ミキシトランス ジャンヌ!! ラ・フラム!!」

今度は相手の霧野の雰囲気や姿が変わり、炎の壁でシュートブロック。

 

「やるなっ!」

「神童もさすがだ!」

 

神童は久しぶりにサッカーでいい笑顔を見せる。

 

 

試合はさらに熱くなっていく。

 

 

 



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第13話 譲れない想い

雷門やレジスタンスジャパンは個性溢れるから書きやすい。アジア予選は特に必殺技がワンパターンですからねー

化身大戦始まるよー!




 

 

騎士と白き龍がフィールドに呼び出される。

 

「剣聖ランスロット!!」

「聖獣シャイニングドラゴン!!」

 

「「アームド!!」」

 

剣城や白竜もぶつかり合う。

 

「鈍ってないようだな!」

「お前も相変わらずだなっ!」

 

2人で奪い合ったボールが宙に舞う。

0vs1という状況で、前半終了のホイッスルが鳴った。

 

「こんなに消耗するなんて。」

「くそっ、震えが止まらねぇ。」

「私たち、もっとできたはずなのに……」

 

地面にへたり込むメンバーが完全に立ち上がれる前に後半開始となる。

 

 

 

九坂と鉄角が交代して、俺たち化身使いはすぐにアームドをする。

 

相手は俺たちを潰すように化身アタックをしかけてくる。

体力も削られてきて次第にアームド状態も解かれていく。それは相手も同じなんだけどね。アームド状態の方が化身の力を最大限に使うことができる。こちらは質で、相手は数で化身の力をぶつけ合っているんだ。そして、そんな俺たちの戦いに喰らいつこうとしている者たちがいる。

 

 

「さて、炎魔ガザード!!」

炎の悪魔の化身が姿を現す。

 

まだ化身を温存していたメンバーがいたのか。

 

「爆熱ストーム!!」

豪炎の化身シュートがゴールに向かっていく。

 

 

「私たちだって!見ているだけなんてできない!」

「そうだよな!」

「うん、がんばる!」

 

青白い光を一瞬だけ発して、

さくらと好葉と九坂がシュートに立ち向かう。

 

木や草が創り出されていく。

「「「ディープジャングル!!!」」」

蔦に掴まりながら、3人同時にボールを蹴る。

 

「よしっ!!」

―――3人ならなんとかなる!

 

 

「行かせるか!」

 

ドリブルをしていくさくらの前に霧野は立ち塞がる。

 

背中から紫色のオーラが溢れ、少しずつ形を成していく。

「戦旗士ブリュンヒルデ!!俺は立ち止まってなんかいられないんだ!!神童を支えるために、もっともっとつよくならなきゃいけない。」

 

DFの要である霧野。

チームに勇気を与える旗が風にたなびく。すぐにMFたちも追いつき、鉄壁の守りを築いていく。超攻撃的チームにおいての、護りの中心なんだろうね。

 

 

化身で上がった身体能力で、ボールを奪われる。

 

しかし、

さくらは立ち上がり、彼を追いかける。

 

「敗けない!」

―――昔の私だったら諦めてだろうな。

 

「俺だって、お前たちには譲れない!」

―――辛そうな幼馴染をこのまま放っておけない。

 

「私も、フェイを1人にさせたくないの!」

―――たまに幻のように感じてしまうときがある

 

「その想いは俺も同じだ!」

 

 

全力全開で想いをぶつけ合っている2人の横を、

さくらの前へ俺は向かっていく。

 

―――信じてくれているんだ、私からパスが届くって。

「私、フェイのサッカーを見るのが好き。フェイにサッカーを教えてもらうのが好き。フェイの隣で一緒にサッカーやるのが好きなの!だから、私にも譲れない想いがあるんだーーーっ!!」

 

背中から紫色のオーラが溢れ、少しずつ形を成していく。

「これって化身? うん、これならやれる!!」

薄黄色のローブ、兎の耳を思わせる帽子を被った魔法使いの化身。

 

「それが君の想いの結晶か!」

 

 

魔力を込めるように集中していくと、宙に浮いていく。

「光輪の矢!!」

化身が魔法を放つと、さくらは跳び蹴りでボールを掻っ攫う。

 

 

「フェイ!!」

さくらからの勢いのあるロングパスを受け取る。

 

 

「ゴールはやらん!!賢王キングバーン!」

4本の腕を持つ炎の化身だ。

 

 

俺にはすでに化身を出す体力もない。

 

だから、化身とは別の力を引っ張り出す。クリムゾンスマッシュやクリムゾンカットで使う紅いオーラを化身アームドのように俺の身体に集約する。心臓の鼓動が高まっていって、世界の風がゆっくり動き始める。俺だけが通常通り動ける、いわば加速世界にいるみだいだ。

 

―――アクセル

 

「キングファ……なにっ、いつのまに!?」

 

ゴールのネットに弾かれて、ボールがゆっくりと戻ってくる。

 

 

 

 

片膝をつき、俺は肩で息をする。

 

「化身やミキシなんとか……じゃないのよね?」

 

「そうだね。なにか…別の力だ。ふぅ……それにしても、さくらやったね。」

 

「うん!私も化身できたみたい!」

―――フェイが出しているところ、毎晩見てたからね

 

「名前はもう決めてあげた?」

 

「えっと、月華の魔導士ラヴィニア、かなー?」

 

「それって……?」

 

「ああ!えーと、べ、別に意識なんてしてないから!」

 

「あ、うん、いい名前だと思うよ。」

 

 

 

 

1vs1で試合再開

 

「頼みの4人は体力切れか。決めさせてもらう! ミキシトランス 孔明!!」

 

白竜の雰囲気や姿が変わる。

神童は織田信長、霧野はジャンヌ、そして白竜は孔明。

 

どういう方法かは分からないけど、偉人の力を借りて、パワーアップしているのか。

 

 

「そこだ!!天地雷鳴!!」

岩が隆起して、その上から雷のシュートを降らす。

 

ディープジャングルやスピニングカットWは連携技。それぞれを出すための準備時間を稼がせないようにロングシュートを的確に打ちこんできた。俺もさっきの疲労によって間に合いそうにない。

 

「俺は強くなったんだああ!ワイルドダンクV3!!」

井吹はさらに進化させた必殺技で立ち向かう。

 

バチッッ

 

「なんだとっ!?」

振れる直前に放電したことで、手が弾かれてしまう。

 

 

ゴール前に跳びこんできたのは電光石火のストライカー。

「菊一文字!!」

素早い蹴りで居合。

 

背を向けると、刀のシュートが打ち出される。

 

「さすがだな、剣城。」

―――それでこそ俺のライバル。

 

 

白竜は後衛に託す。

 

「ミキシトランス ジャンヌ!!さらに、化身、アームド!!うおおおおお!!」

 

どうやらミキシトランスとの同時使用はかなり負担がかかるようだ。発動までに時間もかかっているし、全力全開でオーラを捻り出している。

 

一瞬、青く輝く。

 

「ラ・フラムG2!!……はぁはぁ。」

―――神童、どうだ!

 

先ほどより勢いを増した炎で、完全にカウンターシュートの威力を抑え込む。

 

「霧野、それがお前の覚悟なんだな。」

―――俺も前に進まないとな。

 

ホイッスルが鳴る。

同点のまま、試合終了か。

 

 

化身の力を捻り出していたメンバーも、化身に立ち向かったメンバーも地面にへたり込む。神童や剣城は今までで一番良い笑顔を見せている。天馬もなんだけど、全力全開でぶつかる気持ちいいサッカーができたみたいだ。

 

 

「ありがとうって言うべきだね。」

 

鉄角や井吹は悔しさで拳を握っている。

この熱戦を糧に、俺たちはまた前に進み続ける。

 

 

 

 



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第14話 チームとして

 

レジスタンスジャパンとの試合から、俺たちはそれぞれ猛特訓を始めた。

ついに今日はウズベキスタン代表ストームウルフとの決勝戦。

 

「また、攻撃特化のチームなのか。」

 

相手チームの人たちはまるで戦士のような雰囲気だ。

 

「どうしたの?フェイ。」

 

「いや、気にしないで。」

 

 

それぞれポジションについていくんだけど、

実はレジスタンスジャパンから2人追加されたメンバーがいる。

 

DFの霧野とFWの白竜だ

 

 

スターティングメンバーは、

FW 剣城 瞬木 白竜

MF さくら 天馬 神童 九坂

DF 俺 森村 鉄角

GK 井吹

 

キックオフと同時に、走りこんでくる。

 

「さあ、行くぞ!シルクロード!!」

砂漠の日の入りを思わせる静かなドリブル突破で天馬が抜かれる。

 

 

さらに、パスを繋がれていく。

 

「鉄角、くるぞ!!」

 

「あ、ああ!!」

 

「遅い!!ジャッジスルー2!!」

ボール越しに腹に連撃を与えていく。

 

「ぐわああああ……」

 

「ひどい……」

 

鉄角は倒れたまま、痛みを耐えている。

 

「お前は行かせないぞーー」

 

「くそっ……」

俺がフォローに向かおうとするが、行く手を阻まれる。

 

 

「ほら!ゴールドフィーバー!!」

一度地面に埋まって、金を纏うシュートがゴールに向かっていく。

 

「俺だって進化したんだ!ワイルドダンクZ!!……なにっ!?」

極限にまで高めたバスケの技術が破られた。

 

 

 

ボールが膝をつく井吹の横をゆっくりと転がる。

 

「くそっ!次こそは、俺が止めてみせる。」

―――あんなに練習したのに

 

「はぁはぁ……いや、俺がボールを取ってみせる。」

 

「まずは1点。私が取り返して見せる!」

―――いいとこ見せるんだから

 

「みんな、巻き返していこう!!」

―――なんで止めないんだよ

 

「うちが頑張らないと!」

 

不屈の闘志で井吹や鉄角は立ち上がる。さくらや瞬木、森村は決意を新たにして、気合を入れ始める。レジスタンスジャパンとの試合を経て、ブラックルームの特訓を経て、世界レベルまで飛躍している。でも、初めより強くなった彼らだけど、初めとは違った感じのバラバラなイレブンがここにいた。特訓で強くなったことで、自信がついたことで、視野が狭くなっている。

 

0vs1という状況

 

 

 

キックオフと同時に、瞬木は独りで俊足を活かしてドリブルしていく。

白竜と剣城は舌打ちして追いかけ始める。

 

「無駄なんだよ!」

「いくぜぇ!」

 

「「ローリングカッター!!」」

お互いの足を掴んで車輪と化す、2人の連携ブロック技。

 

「うわあああ!!」

―――俺は強くなったはずなのに

 

 

「俺がやる!!うおおおおお!!」

 

「ほら!シルクロード!!」

怒髪天となった九坂は静かに躱される。

 

 

 

「何やってるんだよ!!」

 

「お前もな!!シルクロード!!」

守備範囲を大きく越えて飛び出した鉄角も静かに躱される。

 

―――ディフェンスも攻撃も、チームとして上手く嚙み合わない。

 

 

俺や天馬たちは上手くマークされ続けている。

 

「ねぇ?」

マークについている選手に話しかける。

 

「あ?」

 

「ジャマナンダケド?」

 

「ひっ!?」

 

 

 

「私が止める!グッドスメル!!」

闘争心をかき消すブロック技を使う。

 

「はっ!無駄なんだよ。ジャッジスルー2!!」

 

ボールをさくらの腹に軽く当てられる。

 

「うそ……」

―――あの技がくるっ

 

 

 

心臓の鼓動が高まっていく。

心が紅く塗りつぶされていく。

 

世界の風をかすかに感じられる程度となる。

 

―――アクセル

紅いオーラを纏い、駆ける。

 

 

ゆっくりと風が動く世界。

さくらを救い出し、やさしく地面に降ろす。

 

宙で静止しているボールを俺の足元に置くと、心臓の鼓動が元に戻っていく。

 

「なにが……起こった?」

 

「フェイ……?」

―――目が紅い?

 

 

「お前らぁ!!」

怒声で、ようやく自分以外に目を向けた。

 

「また視野が狭くなってるぞ!せっかく練習したのに、実力を発揮できていない。繋がった絆を大切にしろよ。またバラバラなイレブンになってるぞ!!」

 

思い出すのは帝国学園との試合。

意識もバラバラで、彼らがサッカーに興味がなかった頃。

 

「俺の死ぬ気の全力全開を見てろ!そして目を覚ましやがれ!!」

 

 

ボールを浮かして、再び心臓の鼓動を高める。

風がゆっくりと吹き始める。

 

紅く輝く光を生み出す。

 

「……クリムゾンスマッシュ。おらぁ!!!」

 

一発じゃ足りない。青の光。

「スマッシュ!!」

 

まだいける。緑の光。

「スマッシュ!!」

 

まだ物足りない。黄色の光。

「スマッシュ!!」

 

 

 

俺が風を感じたときには、ゴールに流星が突き刺さる。

 

「いつのまに……?」

 

 

 

膝をつき、心臓の激しい鼓動を落ちつかせる。

 

「ちょ、ちょっと!どうしたの!?」

 

さくらの手を借りながら、

俺はゆっくりと立ち上がりながら、想いを伝える。

 

「みんな、あとは任せた。」

 

控えている仲間がいたから、俺は必殺技を使えた。

 

ベンチの方向を向き、

控えている真名部や皆帆、霧野を見る。

 

 

「俺たち、大切なことを忘れていたな。」

「そうだな。」

「うち、なんか焦ってた。」

「力を、合わせて……」

「俺さえいれば勝てるなんて勘違いを」

 

「フェイ、ごめんね。そしてありがとう。」

―――大切なこと見失ってたよ

 

 

俺はさくらに支えてもらいながら、ベンチにたどり着く。

すでに霧野が立ち上がっていた。

 

「いい言葉だったな。後は任せろ。」

 

「うん。守りは頼んだよ。」

 

 

 

『さあ、一之瀬の謎の新必殺技によって1vs1という同点!!しかし代償は大きく、一度交代となってしまいました。新しくDFの霧野が入り、試合再開です!』

 

 

「なに熱くなってんだか。」

「おら、シュート決めるぞ!」

 

速攻でパスを繋いでいき、シュート体勢に入る。

 

「もう1点もらうぜ、ザルキーパーさんよ!

 

「「デュアルフィーバー!!」」

金を纏うツインシュート。

基本的に2人ずつで動くチームだし、こっちが本来のシュートなのかな。

 

 

「井吹!!フィールドを、俺たちを見ろ!!―――サッカーは11人によるハーモニーなんだ!!」

 

 

「神童……」

―――『独り』に固執する俺をお前は否定していたのか。

 

 

井吹は、心の底から叫ぶ。

 

「霧野っ!!頼む!」

 

「ああ、わかった!!ディープミストV3!!」

濃霧を通ったボールはパワーダウンされる。

 

 

「あとは、俺を信じろ!!」

 

右手に力を込めて、地面を切り裂く。

「ライジングスラッシュ!!」

爪跡の衝撃波でボールを弾き返す。

 

「「なんだとっ!?」」

 

「頼んぞ、神童!ボールを繋いでくれ!!」

 

「ふっ、ようやくわかったようだな。」

 

チームのGKがやることは1人でゴールを守るだけじゃない。何があっても挫けず、どんなことをしてもゴールを守り通すこと。フィールドには共にゴールを守ってくれる仲間がいる。神童が攻撃の司令塔なら、井吹は守備の司令塔としての役割が求められる。俺や神童だけじゃない、三国さんも井吹にそれを伝えてようとしてくれた。確かに時間はかかったけれども自分で気づいてこそ、チームの守護神となり得る。

 

世界を戦っていくのには必要な心構えだ。

 

 

「霧野も前へ行っていいぞ!  森村!鉄角!DFが減るから、気張れぇ!!」

 

「「ああ!」」「うん!」

 

一番後ろでフィールドの状況を見ながら、指示を出していく。

 

 

「もっと、先に行くぞ!!」

天馬の声がみんなに響く。

 

「「「「おう!!」」」」

―――まだまだこのチームで戦いたい。

 

チームの想いが1つになる。

出会うことのなかった俺たちが確かな絆を感じていた。

 

俺たちは世界へ絶対行ってみせる。

 

 

 

 



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第15話 これが俺たちのサッカーだ

 

 

相手チームも、

全力でボールを追いかけてくる。

 

「これ以上、奴を行かせるな!」

「何をしてでもボールを奪う!!」

 

「今のイナズマジャパンなら、これができるはずだ。繋ぐぞ!神のタクトFI!!」

 

炎の旋律を描き始める。

 

「霧野!!」

炎の道に載せて的確にパスを繋ぐ。

 

「野咲!!」

真ビューティフルフープで鮮やかに躱して、パス。

 

「九坂!」

キョウボウヘッドでロングシュート。

 

 

「剣城!白竜!決めろ!!」

 

「「ああ!グレートブラスター!!」

闇と光のツインシュートがゴールに向かっていく。

 

「「デュアルスマッシュ!!……うわあああ!!」」

ボールを左右から挟むように蹴りつけるが勢いは止まらない。

 

 

これで2vs1だ。

さらに前半が終了。

 

 

「2人とも最高のシュートでした!!」

「うちもそう思う!」

 

「「ふっ、当然だ。……むっ」」

2人して同じことを言ったことが気に障ったのか睨み合うライバル。

 

 

「井吹!やったな新必殺技!特訓の成果が出たんじゃないか?」

 

「いや、みんなのおかげだ。みんなが前を守ってくれている。だから、ボールに集中できたんだ。」

 

「神童と似て、素直じゃないな。」

 

「「誰がこいつと!?」」

 

 

 

体力が回復したため、俺と瞬木が交代する。

 

「もう大丈夫なの?」

 

「うん。もう一度、アクセルは使えないけどね。」

 

俺は相手チームのメンバーを見る。

―――つらそうなサッカーをしている

 

 

「俺たちには勝ちしか許されない!」

「「「うおおおお!!」」」

 

今回の試合の相手もまた筋肉が異常に隆起した。

 

 

3人が一列になって駆け込んでくる。

「「「トリプルブースト!!」」」

力任せに次々とシュートを加えていく。

 

 

「みんな頼んだぞ!!」

「ああ、行くぞ!」

「「ああ!!」」

 

井吹の声でディフェンスを固めていって、霧野の声で奮起する。

 

「アインザッツG2!!」

「ディープミストV3」

「クリムゾンカット改!!」

 

それでも勢いを止めきれない。

 

 

「よし、ワイルドダンクZ!!」

勢いよく地面にボールを埋め込む。

 

 

「キャプテン!ゴールは俺たちに任せろ!!……鉄角!」

 

「ああ!」

 

「行かせん!」

 

ボールをすぐに奪われるが、立ち上がって並走する。

 

「また俺の必殺技を受けたいのか!」

 

「くっ……。」

―――古傷が傷む。かつて暴漢に立ち向かったときに負った傷だ。

 

「だが!俺は過去に立ち向かう!フットワークドロウ!!」

ボクシングの技術を活かしたブロック技でリズムよくボールを掻っ攫う。

 

「なにっ!?」

 

「キャプテン!!」

 

「ああ!風穴ドライブ改!!」

勢いを増した風の道を通っていく。

 

「「ローリングカッター」」

 

「うわーーっ!!」

 

隙をつかれてボールを奪われてしまう。

 

そこへ森村が駆けて行く。

纏うのは青い輝き。化身とは違っていて、化身アームド以上の力強いオーラで、優しさの感じる力を身体に纏っていく。あのとき、猫を助けた時の潜在能力だろう。

 

何かの4足歩行の動物を形どる。

誰よりもいい動きで、ボールを掻っ攫う。

 

「ふぇ!? うち、今何を……?」

 

ドリブルをしていく好葉に、さくらが追いつく。

 

「好葉、行くよ!」

 

「うん、さくらちゃん!」

 

 

優しさのある森村のループシュートに、

しなやかな動きで さくらの華麗なシュートを合わせる。

「「バタフライドリームV2!!」」

蝶を思わせるシュートが軽やかにゴールに向かう。

 

「ツイストリーチ!!……!?」

異常なまで伸ばした腕でキャッチしようとするが、逃げるように曲がる。

 

「やったね!」「うん!」

テクニカルでトリッキーなシュートが剛の必殺技を破った。

 

本来の技を彼女たちらしく身に着けたんだ。

 

 

 

3vs1という状況でのキックオフ。

 

「「「くそーーーっ!!」」」

一列に並んでゴールに向かってくる。

 

「ワンパターンだな。」

トリプルブーストを阻止するようにボールを白竜が奪う。

 

 

白い光が天に昇っていき、雲の上から龍の咆哮が聞こえる。

「これが圧倒的な力だ!ホワイトハリケーンG4!!」

凄まじい進化を遂げた天災がゴールに向かう。

 

「俺に追いつけるか!?剣城!」

 

「追いついてみせるさ!白竜!!」

 

獣の遠吠えが響き渡る。

「デスドロップG4!!」

的確なシュートチェインをオーバーヘッドで加える。

 

 

闇と光を纏った巨大ハリケーンがゴールに向かっていく。

「うわああああ」

キーパーは逃げ出して、4vs1。

 

 

確かに、相手は異常な身体能力だ。

それでも俺たちは絶対に負けない確かな絆で結びついている。俺たちは相手と違って、異常な個性を持っている。各々が培ってきた最強の長所をサッカーに活かしている。そのバラバラな強さを繋げていく。

 

それこそが、俺たちイナズマジャパンのサッカー、いや日本のサッカーなんだ。

 

 

「メロディウェイブV2!!」

「オリンポスハーモニー!!」

霧野と神童が音楽を活かしたドリブルでボールを繋いでいく。

 

「天馬行くよ!」

「ああ!」

 

俺たちはゴールに向かって並走。

 

獣の鳴き声が2つ響く。

「「ユニコーンブースト!!」」

ツインシュートとともに、一角獣が向かっていく。

 

 

呆然としているキーパーのゴールに突き刺さって5vs1。

 

 

 

もはやドーピングしているのじゃないかと思うくらい、血管が浮き出ている。

 

「ナゼダなゼだナゼダーーっ!!」

 

「「「トリプルブースト!!」」」

「「デュアルフィーバー!!」」

 

合計5人の全力全開のシュートか。

 

「みんなで、止めるぞ!!」

 

「「「「「おう!!」」」」」

 

天馬の掛け声はみんなの心を結ぶ。

 

「「「ディープジャングル!!」」」

「アインザッツG2!!」

「ディープミストV3!」

「クリムゾンカット改!!」

 

 

鉄角と天馬が井吹の背中を支える。

「「「トリプルディフェンス!!」」」

 

「「「いけーーーーっ!!」」」

皆帆と真名部たちも立ち上がって応援してくれる。

 

―――これが俺たちのサッカーだ!!

 

ホイッスルが鳴り、静寂が流れる。

 

 

「勝った……?」

「うん、勝ったね。」

 

「「「「やったーっ!!」」」」

「優勝だーーーっ!!」

 

まだ地区予選だけど、みんなで掴んだ栄光だ。

響く拍手やエールのなか、誰もが嬉しさを隠せない。

 

 

 

 

ピカッ

 

「え…?」

「光った?」

 

サッカースタジアムが天からの謎の光で包まれる。

 

「どうしたの、みんな…?」

「眠っているようだが……」

「俺たちだけか。」

 

無事なのは俺たちイナズマジャパンと、相手選手たち……

 

「なんだありゃ!?」

「うそ…だろ…」

 

人間の皮が粒子のように剥がれていき、人型宇宙人へと変わり果てる。

 

「今度はなにっ!?」

「あれって……宇宙船…?」

 

天に浮かぶ宇宙船に宇宙船へ、宇宙人たちは回収されていく。

 

 

さらに、1人の宇宙人が地球へ降り立つ。

「おめでとう、地球代表の諸君。君たちはグランドセレスタギャラクシーの予選を勝ち抜き、本大会へ駒を進めた。君たち選手は聞かされていないようだがな。」

 

俺たちが日本代表ではなくて、地球代表??

地球人とは明らかに違う容姿、地球にはない圧倒的な科学力、そしてこれから始まる戦いに俺たちは全く理解が追いつかない。しかし、水川さんと監督だけは冷静な表情のままだ。

 

 

「そこから先は俺が説明しよう。」

 

「豪炎寺さん!?」

 

元イナズマジャパンのエースストライカー豪炎寺さんが現れる。こういう状況じゃなければ、握手を求めるほどのサッカー選手だ。

 

「君たちには混乱を招く恐れがあったため、伝えていなかった。すまない、全て説明しよう。」

 

3カ月前、月を消したのは目の前にいる彼、異星人のオズロック。

 

ファラム・オービアスという巨大な居住惑星がブラックホールに呑み込まれる危機に瀕している。圧倒的科学力を持つ星らしい。そこで移住計画を行うこととなったが、侵略を選ばなかった。もちろん、地球は圧倒的科学力の前に屈することになるだろう。彼らは平和的かつ公平的な手段で、銀河で存続する種族を選ぶ道を選んでくれたらしい。

 

それこそ、サッカー。

 

 

 

 



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第16話 宇宙へ

サッカー大会の上位の星から、星を選ぶ権利がある。しかし、居住することのできる環境の星は多くはない。加えて、ファラムオービアスは想像を絶するほどの民がいるらしい。もし、俺たちが優勝できなかったら、地球に地球人は住めなくなる。

 

そして、すでに滅ぶ種族が決定してしまっている。

 

「地球代表、アースイレブン……俺たちが…?」

 

「このアジア予選で今まで戦ってきたのは、宇宙人なんだね。」

 

「そうだな。グランドセレスタギャラクシー銀河辺境Aブロック予選だ。」

 

筋肉の隆起、ニンゲンと異なる動き、異常な身体能力。

俺たちはサッカーの技術でなんとか戦ってきたけど、真正面から戦って勝てる相手じゃなかった。もし、銀河全体で宇宙戦争をしていたら、地球は真っ先に滅んでいたかもしれない。そんな、漫画やアニメの出来事が今俺たちに起きている。暴動やパニックを起こさないために、秘密裏にサッカー大会を行っていたんだろう。

 

「さて、では選手諸君には準備をしてもらおう。旅立ちの準備をな……。」

 

「俺たちが、宇宙へ……?」

 

 

オズロックや宇宙船は去っていく。

 

「黒岩監督!あなたは全てを知っていて俺たちのことを率いていたんですか!?」

「なぜ秘密に!?」

 

憤りをぶつけるように神童や霧野が問いただす。

 

「本当のことを話して、お前たちは戦えていたのか?」

 

「「くっ」」

 

確かに、地球の運命をかけて戦いを初めからできなかっただろう。

 

「俺たち全員の判断だ。」

鬼道さんに続いて飛鷹さんや立向井さん、他にも名だたる選手が揃う。

義兄さんやアスカさんもいる。

 

彼らですら、

地球をかける戦いを俺たちに頼むしかないのだろうか。

 

「この運命を変えるために、俺たちは黒岩……いや『影山零治』を監督に選んだ。」

 

かつて帝国学園の監督として、伝説のイナズマイレブンと戦いを繰り広げた人物。ドーピングや身体に負担のかかる必殺技の開発、選手生命に関わる暗躍。多くの人の運命に左右してきた、死んだはずの人物だ。

 

「私は死に直面した『あの日』から、今まで見えなかったものが視えるようになった。人の中に眠る『ケモノ』だ。私にはぼんやりとだが、その力が視えるのだ。それこそがこの地球の……いや宇宙で選ばれた者の遺伝子に編み込まれた力だ。古来それは『精霊』と呼ばれていたらしい。」

 

「まさか森村のあの動きは……?」

「フェイの紅いオーラも…?」

「俺や剣城もシュートの威力が急に強まった気がした。」

 

「お前たちのDNAの中に眠る力の覚醒が始まったのだ。他の星の遺伝子を持つ者に接触したことで、自己防衛本能が『ケモノ』の力をめざめさせようとしている。レジスタンスジャパンのときは特例だったが、その力のために化身禁止ルールを提案したのだ。本選では化身の力を使ってもいいが、それだけでは敵わない相手が多いだろう。」

 

「SARUたちより強力な相手なのか……。」

 

「そして、一之瀬。お前はこのチームの最大の鍵だった。松風たちの『ケモノ』の力をめざめさせることに一役買ってくれた。『ケモノ』の力を幼少期すでに開花させていたからではない。お前の『ケモノ』の力の色はここにいる誰のものでもない。―――それはお前がこの星の生まれではないからだ。」

 

「「「なんだって!?」」」

「うそでしょ……」

 

「おれが……?」

俺は、地球人じゃないのか?

 

「以上だ。宇宙へ行くかどうか、地球の運命をかけて戦う覚悟がある者はついてこい。」

 

葛藤する者、混乱する者、すでに決意をした者。

俺は呆然と監督の背中を見たままだった。

 

 

 

「フェイ、俺は君の義弟であることには変わらないよ。」

 

肩を優しく叩いてくれる。

義兄さん……

 

「そうそう!一緒にサッカーやってきた仲間じゃないか!」

「フェイのおかげで私たちパワーアップしたみたいだし!」

 

天馬、さくら……

 

「うん、ありがとう。もう大丈夫だ。」

 

俺が頷くと、みんな頷いてくれた。

 

 

 

俺たちアースイレブンはキャプテンを見る。

 

「それで、どうする天馬……?宇宙へ行くのか?」

 

「サッカーで地球を救えるなら、俺たちのサッカーが地球の希望になるなら、宇宙へ行くしかない!ここで『なんとかなるさ』って言ってもみんなの不安は無くならないと思う。でも、俺たちのサッカーでなんとかしたい!」

 

 

「よく言った、天馬!!」

円堂さんが1人の少年を連れてやってくる。

 

彼こそ元イナズマジャパンキャプテンで雷門の守護神。世界中に名を轟かせるGKだ。覇気というか、凄まじい頼もしさがにじみ出ている。まるでゴールを任せたいと自然と思えるような存在だ。

 

「お前たちのメンバーにこいつが加わる。」

 

「私は市川座名九郎と申します。みなさんとともにサッカーをやらせていただくことになりました。」

 

丁寧なお辞儀をする彼に、天馬たちは口をポカーンと開いている。

 

「こいつには全部話して、俺がずっと特訓をしていた。絶対に力になってくれるはずさ!」

 

「そうですね。名もなき小市民として協力させていただきます。では、少しお見せしましょう。」

 

ボールを地面に置く。

「いよ~~あ、カブキブレイク!!」

強力なボレーシュートがゴールに突き刺さる。

 

「ここまでのシュートを出せるとは。」

「これは頼りになるな。」

 

「そう言うと思いましたよ。」

 

褒めてくれたストライカー2人に対して謙虚に答える。

 

 

「だが……本当に俺たちやれるのか…?」

「地球の運命が…私たちにかかっているって……」

「優勝できる確率は高くはないでしょう。」

 

「なんかプレッシャーっす……それに飛鷹さんたちのほうが」

 

「は?なにお前腑抜けたこと言ってんだ。」

「残念ながら無理だ。俺たちには『ケモノ』の力は宿っていない。」

「この地球で君たちの帰りを待っているよ。」

 

「「「でも……」」」

 

俺も含めて、まだ決心がつかない。

これから始まるサッカーが未知数なんだ。

 

「なあ お前たち。サッカーは好きか?」

 

「え?……好きっていうかなんか楽しいって思うようになったかな。」

「バスケほどじゃあないがな。」

 

サッカーを始めて1年も経っていない彼ら。

 

「うちはサッカーのおかげで勇気出せる。」

「俺は夢中になれるようなモノを見つけたっていう感じがする。」

 

過去に傷を持っていた俺たち。

 

 

「それって、サッカーを好きになったってことだよね?」

 

「大切なのはサッカーがどれだけ大好きかっていう気持ちと必ず勝とうっていう気迫だ。そういうやつに勝利の女神は必ず微笑んでくれる。今までの試合を見て、俺たちは分かってる。お前たちは誰よりもその想いが強い。お前たちならどんな困難でも必ず乗り越えられる。お前たちなら絶対地球を救えるってな!」

 

円堂さんも義兄さんも笑顔で信じていてくれる。

 

 

「俺たちから言うのはこれだけだ。」

「「「「「サッカーを楽しんで来い!!」」」」」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 

 

俺たちはそれぞれ、家族や友達に伝えるため各自解散した。

 

 

俺と義兄さん、アスカさんは天馬と一緒に木枯らし荘に行く。

すでに西園やアキさんが待っていてくれた。

 

2人には事情を話す。

「えーーーっ、天馬たちが地球代表!?」

 

「俺、絶対地球を守ってみせるさ!」

 

「天馬ったら、すっかり頼もしくなっちゃって。」

「俺たちは地球で信じて待ってる。」

「フェイも頑張って来いよ!」

 

 

「もちろん!俺の知らない宇宙のサッカープレイヤーと会えるし、楽しみだよ!」

 

「そうか。じゃあ、どれだけ強くなったかサッカーやりにいこう!」

 

「いこういこう!」

 

俺は義兄さんと河川敷に向かって走り始める。

 

「もう!一之瀬君たち、ご飯の時間まであまりないわよ!!」

 

「「すぐ戻ってくるからーー!!」」

 

俺が何者か分からないけれど、

今はサッカーを楽しもう。

 

サッカーと絆がここにいる証明をくれる。

 

 

 

***

 

夕飯の買い物の帰り道、

もう癖になってしまったリフティングをしながら、パパとママに話す。

 

「もうこの子ったら、勝手にサッカーやりだしたと思ったら、今度は宇宙に行くですって?」

「ふっ、だったら私たちも、宇宙からの中継で応援しないとな。ははは。」

 

「もう!信じてよね。いいもん、私は輝いてみせるんだから、宇宙で一番!!」

 

「さくら……がんばってきなさい」

―――ちょっと見ない間に成長しちゃって。

 

「パパ、ママ…」

 

「ところで、あの一之瀬君とはどういう関係?」

 

ミスしてボールが転がる。

「うわあああ!!まだ何もないから!」

 

 

「ちょっと待て、どういうことだ!!」

 

「フェイとはなんでもないからーー!」

 

いつも冷静なパパは焦っていて、

いつも厳しいママは してやったりという笑顔。

 

今の時間の、紅い夕日はきれいだった。

でも、空はどんどん色が変わっていくんだよなぁ。

 

 

 

***

 

快晴の青空。

 

誰も欠けていない、15人のメンバーが集まった。

 

今まで暮らしていた宿舎が、

電車型の宇宙船『ギャラクシーノーツ号』となる。

 

 

「よし、みんな行くぞ!」

 

ーーー宇宙へGO!!

 

 

 

 

 

 



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第17話 星の運命をかけたサッカー

 

すでに、美しい青い星から離れて暗い宇宙だ。

 

18万8千光年先の惑星で試合が行われる。今まで地球で俺たちは宇宙人たちと予選を行ってきた。それがホームグラウンドの試合とするなら、これからはアウェイの試合となる。20人にも満たない俺たちだけが相手の星に行くことになるんだ。もちろん、その距離は途方もないけれど、この新幹線にも似た宇宙船はファラムオービアスの科学力によって作られたもので、ワープ航行すら搭載されている。

 

今まで暮らしていた合宿所が合わさってできた宇宙船には個室が存在している。特殊な練習場であるブラックルームもあるし食堂もある。宇宙に来たとしても、それほど俺たちの生活はあまり変わってはいなかった。

 

地球時間で朝と呼べる時間。

起床してミーティング室に行って挨拶を交わしていく。

 

不思議な夢を見た天馬は、光輝く 謎の妖精『ピクシー』を連れていた。手乗りサイズで危険な宇宙生物には見えないが、なんだか消えそうだけど凄まじいオーラを秘めているように思える。

 

「ああ、いたいた あんたたち!」

車掌もしてくれている食堂のおばちゃんが部屋に駆け込んでくる。なんだか急いでいるようで、俺たちは後方の車両にある食堂に呼び出された。みかんの皮が散らばっていて、知っている少年がいた。天馬の親友である西園が申し訳なさそうに席に座っていた。

 

「みんなに改めて紹介するよ。俺とずっと一緒にサッカーやってきた西園信助だ。」

 

「お騒がせしてすみません!!」

 

「ああ、雷門中のキーパーの。」

「密航なんて思いきったことやるわね。」

「ガッツ見せるじゃねぇか。」

 

 

黒岩監督もすでに彼の乗船認めてくれたらしい。たしかに俺たちのGKは井吹だけだったし、アースイレブンはなぜか16人には 1人だけ足りなかった。秘めているオーラも天馬たちに負けていないと思う。もしかしたら、白竜や霧野、そして西園の途中参加は予想通りだったのかもしれない。ガッツを見せて、レベルアップして這い上がってきたんだ。

 

彼を歓迎する俺たちに対して、

 

瞬木だけは何も喋らなかった。

―――イラつくんだよね ああいうやつ

 

 

 

***

 

特に航行に異常はなく、ワープ。

紅い岩や砂に囲まれた星『サンドリアス』へたどり着いた。

 

試合は明日か。

今までの試合と違って、アウェイの星なんだよね。

 

 

どこか恐竜にも見えるサンドリアス人の町を歩いていく。

 

乾燥していて、重力が軽い。

「これは苦労しそうだね。」

リフティングをしてみるけど、いつも通りにいかないんだ。

 

身体が軽い代わりに、ボールの重さが軽いし砂に足を取られてしまう。

 

「……ところで、」

 

「「ここはどこだ?」」

見渡す限り砂漠の場所で、声が重なる。

 

「へぇ、お前もサッカーやるんだな。」

 

俺と同じ薄黄色の髪で、短髪の少年がリフティングをしながら口を開いた。

着ている黒いコートは砂で汚れている。

 

「うん。物心ついたときからずっとかな。」

 

「奇遇だな。俺もだぞ。」

 

「俺の名は一之瀬ルーフェイ。よければフェイって呼んで!」

 

「俺はカイザ。よろしくな、フェイ。」

 

リフティングを続けながら、並んで歩き続ける。

 

 

太陽は眩しく輝いていてさらに砂に足を取られて、体力を奪われていく。

 

「カイザはこの星の人じゃないんだよね?」

 

「Yes, 俺は宇宙を股に掛ける傭兵なのさ。……おっと目的の獲物だ。」

 

砂漠の砂が上に吹き上がっている。

硬い頭部を突き上げて出てきたのは恐竜。

 

「こいつの素材を依頼されて、この星にきたんだ。」

 

ボールを勢いよく蹴り上げ、跳んで追いつく。

ボールを相手に向かって蹴ると一度静止し、黄金の光の円錐が展開される。

 

跳びこむようにボールを両足で蹴りつける。

「ゴルドスマッシュ!!」

地面に着地すると、黄金の流星が恐竜へ向かう。

 

 

俺のクリムゾンスマッシュに似ていて、さらに威力は超えている。

硬い頭部を砕かれ、恐竜はゆっくりと倒れていく。

 

彼は徐に宇宙船を展開させる。

「スマートだぜ。またな、フェイ。」

 

「うん、またいつか会おう。」

 

宇宙船が飛び去っていた方向、

砂の煙が晴れていくと町が見えたのでまっすぐ向かう。

 

 

「ふぅ…なんとか戻ってこれたか。」

 

「フェイ!!まーた、どこか行っちゃって!!」

 

さくらに手を引っ張られて、

俺たちの宇宙船まで連れていかれる。

 

「別に逃げないんだけど……?」

 

「こうでもしないと、いつもいつもはぐれるじゃない!?」

 

それ以上、有無を言うことのできなかった。

 

 

 

 

 

ブラックルームで最終調整して、試合に臨む。

宇宙を移動してきたというスターシップスタジアムでポジションにつく。

 

観客はこの星の人たちで埋め尽くされていて、

まさにアウェイだ。

 

「ついに、初戦か。」

 

もしこの試合で負けたら、地球の未来はない。

 

スターティングメンバーは、

FW 剣城、白竜

MF 天馬 神童 九坂

DF 俺 鉄角 霧野 真名部 皆帆

GK 井吹

 

 

DFの多い陣形だ。

しかし、俺はリベロとしていつでも前線に上がるつもりだ。井吹や霧野が中心となって守備を固めていく、神童や天馬が中心となって攻撃を繋いでいく。これが俺たちのサッカーだ。予選を通して繋がった絆で俺たちは、宇宙で戦っていく。

 

 

相手はバルガっていう助っ人がいるらしい。ファラムオービアス人のDFで、筋肉が凄まじい。サンドリアス人とはどこか息があっていない。それにしても、なぜ俺たちアースイレブンを警戒しているんだろうか。すでに決勝を決めているチームでも、やはり星の未来がかかっているからだろうか。

 

 

ホイッスルの音で、試合が開始される。

剣城と白竜は、天馬にボールを託して前に進んでいく。続いて、俺たちDF陣も少しずつラインを上げていく。

 

相手も様子見程度に、慎重に向かってくる。

 

いや、

持ち場を明らかに離れて、バルガが走ってきている!?

 

「グハハ!!俺に任せておけ!!」

 

地面を勢いよく叩き、巨大な岩の鎚を手に持つ。

「ロックハンマー!!」

ジャンプして、勢いよく振り下ろす。

 

「うわぁーー!」

 

「「「「キャプテン(天馬)!!」」」」

 

直撃は免れたものの、衝撃波で地面に叩きつけられる。

 

「グワハハ!これが地球代表の実力か? 話にならんな。おらぁ!!」

 

必殺技を使わないロングシュートが向かってくる。

 

「「スピニングカットW……なんだって!?」」

皆帆と真名部の合体技が、紙のように破れる。

 

「くっ、ミキシトランス ジャンヌ!! ラ・フラムG2!」

進化した炎の壁でも、スピードは緩まない。

 

「うおおおお!!ライジングスラッシュ!!」

爪跡の衝撃波で弾き返す。

 

 

しかし、

開始早々圧倒的な身体能力を見せつけられた。

 

「挨拶代わりだ!お前たち!この星の未来のためだ。容赦するな!!」

 

「「「あ、ああ!!」」」

 

バルガの言葉で、相手チーム全体にラフプレイが目立ち始めた。しかし彼らは辛そうなサッカーをしている。嗤っているのはバルガただ1人。相手のキャプテンやキーパーはラフプレイを止めようと叫び続けている。

 

「うおおお!!おんどりゃぁぁーー!」

怒髪天となった九坂がぶつかっていくが、1人抑えるので精一杯。

 

「グハッ……」

更なる選手に吹き飛ばされる。

 

「九坂っ!!このやろう! フットワークドロウ!!」

ボクシングのフットワークでボールを掻っ攫う。

 

「無駄だ!いくぞ!!」

 

2人が仁王立ちして地面を踏み込むと鉄角が岩の谷に孤立する。

「「「ノーエスケイプ!!」」」

残った1人がスライディングでボールを奪う。

 

鉄角は地面に打ち付けられる。

 

 

俺たちDF陣を中心に疲労が溜まっていく。

そして、天馬をはじめとする攻撃陣は憤りを感じていた。

 

 

まるで、

お互いのチームが攻守それぞれ半分に分かれたようだった。

 

 

 

 

 

 



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第18話 宝玉の解放

 

サンドリアスイレブンとの試合は、不穏なスタートとなっている。

 

 

「何をしているバルガ!!卑怯なプレイをさせるんじゃない!!」

「ふっ、何を言っているんだ、サンドリアスキャプテンさんよぉ。戦いは勝つか負けるかだろう?お前さんの言う誇りなんてものも勝たなければ、宇宙の塵となるのさ!」

 

それでもサンドリアス人たちはどこか渋り始める。

 

「おらっ、ボールよこせ!!」

サンドリアスのプレイヤーからボールを強引に奪った。

 

「そーれそれそれ、いくぞおっ!! つちだるま!!」

岩を纏ったボールがゴールに向かってくる。

 

 

 

「フェイ、いけるか!?」

 

「やってみる!化身アームド!……クリムゾンカット改!!」

マフラーを風にたなびかせて、威力を底上げした紅い膜で防ごうとした。

 

 

しかし岩は依然として転がっている。

 

「ほらよっ!!」

岩から勢いよくボールが飛び出す。

 

「なんだとっ!?」

手を伸ばすように飛びつくが、ゴールを許してしまう。

 

 

 

試合再開となっても、ラフプレーは続く。

激しい猛攻で、俺たちDF陣は立ち上がれない人が多い。

 

砂の粒子が巻き上げられる。

「ダストジャベリン!!」

槍と化したシュートが向かってくる。

 

「くそっ、神童頼む!!」

―――これ以上は点をやれない。

 

「アインザッツG3!!」

旋律のシュートブロックでも止まらない。

 

「ライジングスラッシュ改!!」

進化した衝撃波でも抑えきれない。

 

「やらせるかあああ!!」

霧野が身を挺したヘディングでボールを外に出す。

 

「霧野、大丈夫か!?」

 

「くっ、すまない、これ以上は無理そうだ……。」

 

皆帆、真名部、霧野の3人と、

市川、森村、さくらの3人が交代する。

 

 

 

俺は交代する3人のもとへ向かう。

 

「みんなは俺たちの動きどう思った?」

 

「相手の動きじゃなくて??」

 

「普段の皆さんなら、もっと戦えたでしょうね。しかし……」

 

「勝つことにこだわっている、だね。」

 

地球の未来がかかっているから。失敗は許されないから。もっと強くならなきゃいけないから。何かの理由に俺たちはプレッシャーを感じてしまっている。天馬や剣城ですら、攻めに意識が集中してしまっている。独りよがりのプレーとまではいかないけれど、俺たちDF陣とFW陣が分裂してしまっている。

 

攻撃と防御それぞれに意識が集中してしまっているんだ。

 

 

「そういうと思いましたよ。」

 

「うち、どうすればいい?みんなの辛そうな顔見たくないの。みんなの心を守りたいの。」

 

「森村さん。鬼ごっこを知っていますか?」

 

「えっと……?」

 

「あなたがボールを持ってオニから逃げ続ける。そうすれば、みんなを守れるのです。しかし、本気でやらなければなりません。やれますか?」

 

リベロの俺と違って、ディフェンスを中心としてプレーしてきた森村が積極的に攻撃に参加していくこと。相手のラフプレーを掻い潜りながら、みんなにサッカーで想いを伝える覚悟はすでにできていた。

 

「うち、がんばる!!」

 

「好葉、私も頼ってね。」

 

「うん、ありがとう。よし、全力全開!」

 

 

 

 

相手のコーナーキックで試合再開となる。

 

さくらは化身を発動させる。

「月華の魔導士ラヴィニア!! 光輪の矢!!」

宙に浮くボールを地面に縫い付けるように落とす。

 

そして、森村へパス。

 

 

「みんなのイライラとかムカムカとか、うちが引き受ける。」

 

「そんな小さな体で何ができる!?ひと思いにつぶしてやる!!」

 

「うぅ」

ロックハンマーの衝撃で、森村は吹き飛ばされる。

 

「森村ぁ!!」

九坂は駆け寄ろうとして、一度立ち止まる。

 

 

青い光を纏っていって、1人で立ちあがった。

「負けない!うちがみんなを守るっ!!」

黄緑色のフォックスが森村に憑く。

 

バルガの周りをフォックスは駆け始めると幻想的な煙に包まれる。

「ソウルストライク!!」

煙の中から飛び出して奇襲、ボールを掻っ攫う。

 

 

これこそが森村をはじめとする、俺たちに宿る「ケモノ」の力だ。

地球外のサッカープレイヤーに立ち向かったことで覚醒したDNAに刻まれたもの。

 

 

フォックスの鳴き声が響く。

「トリックボール!」

ボールが巨大化して相手に降り注ぐ。

 

「うわあああ……あれ??」

しかしそれは幻だった。

 

 

フィールドをドリブルで駆け始める。

森村の勇気とやさしさがフィールドにいるアースイレブンに響く。

 

「森村 サンキュな!頭が冷えたぜ。」

 

「九坂君、良かった……。」

 

「好葉、こっちだ!」

 

「キャプテンおねがい!」

 

パスを受け取り、そよかぜステップS で華麗に躱していく。

 

 

「みんな円堂監督たちの言葉を思い出せ!! 」

 

天馬がフィールドに声を響かせる。

 

「確かに、勝たなきゃいけないサッカーだ。でも、サッカーを楽しまなきゃサッカーが泣いてるよ。みんなラフプレーに負けるな。みんなで心を一つにして、全力全開で立ち向かうんだ!!」

 

「「「「「おう!!」」」」」

 

天馬の導きで再び、俺たちの心は1つになった。

 

 

復帰したバルガが立ち塞がる。

「いかせるかぁ!!」

 

「ミキシトランス アーサー! 王の剣!!」

光輝く聖剣で斬りつつ、ドリブル突破。

 

 

「剣城、神童さん!」

「「ああ!ミキシトランス!!」」

 

2人も、最強の偉人の力を纏う。

 

―――力を借りるぞ みんな!!

 

『時空』を駆け巡って得た絆の力、

色とりどりのオーラを集約し纏っていく。

「「「最強イレブン波動!!」」」

虹色のシュートがゴールに向かう。

 

「「「「「いけーーーーっ!!」」」」」

 

「うおおお!!サンドノック!」

地面から突き上げられた砂の腕とぶつかり合う。

 

硬めた砂が割れて、ゴール。

 

 

 

「「「「よっしゃーーっ!」」」」

「「「やったーーっ!」」」

俺たち全員が3人を祝福する。

 

これで同点。

ホイッスルの音が、前半の終了を告げた。

 

 

 

「やはりお前たちのやり方はヌルすぎる!!相手がソウルを使ってきたなら、もっともっと完璧に叩きつぶさなければいけない!」

 

「もうやめろ!!彼ら地球人は正々堂々と立ち向かってくる。それなのに私たちはどうだ?誇り高きサンドリアス人として恥ずかしくないのか!」

「いいのか!?俺がいなければ、お前たちの星は滅びるだろうよ!!」

 

「「「それでも!!俺たちは誇りを選ぶ!」」」

「なっ!くそっ……後悔するんじゃねぇぞ。」

 

バルガがスタジアムから1人去っていく。

ここからがサンドリアスイレブン本来のサッカーなんだね。

 

 

 

―――後半開始

 

「アースイレブンの諸君、すまなかった。そして、これからは俺たちのサッカーでぶつかっていく!!」

 

「ああ!勝負だ!!」

 

「「「「サッカーやろうぜ!!」」」」

 

 

お互いに持ちうる全てを使ってぶつかりはじめる。

俺たちは化身やミキシトランスを使って彼らの高い身体能力についていけるくらいだ。やはりこの広い宇宙で最強のサッカープレイヤーたちと戦っていくには、ソウルの力がどれほど重要か分かる。

 

 

相手のキャプテンが黄色に輝く。

「うおおおお!!」

黄色い爬虫類が憑く。

 

「カゼルマもソウルを!? ワンダー……」

 

「ソウルストライク!!」

土を潜りながら天馬のブロックを抜き去る。

 

 

森村が向かっていく。

「うちが止める!!はああああ」

黄緑色のフォックスが憑く。

 

「「「キャプテンの邪魔はさせん!!」」」

しかし行く手を阻まれる。

 

 

 

「お前たち……ダストジャベリン!!」

ソウルの力で勢いを増した砂の槍が向かってくる。

 

「くそっ、俺もソウルを出せれば……」

 

「だったら俺がやる!」

 

俺にもできる。

まだ完全とはいかないけれど、ソウルの力の一端は出せるはずだ。

 

ルビーに輝く。

「うおおおお!」

小さなカーバンクルが憑く。

 

 

「ソウルストライク!」

 

まずは一時的な加速。

さらに額のルビーが紅く輝いて、膜を次々と重ねていく。

 

数多くの防御膜は、完全に砂の勢いを抑え込む。

 

 

 

「「なにあれかわいい!」」

 

元に戻った風の音に混じって、さくらや葵の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 



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第19話 宝玉の導き

ソウルを使ってからの数秒程度の加速なら、息切れはしないな。

どうやらソウルによって能力の適正があり、カーバンクルはDF型のようだ。カゼルマのソウルはMF型だったため、必殺シュートを抑え込むことができた。今の俺は、特に加速とアシスト能力が飛躍的に向上している。特化的で瞬間的な能力向上が化身やミキシトランスと異なる点だね。

 

そして、ケモノの本能によって身体が的確に動いてくれる。

 

 

足にパワーを集約させて、勢いよく蹴りこんだ。

「市川!!」

俺のロングパスを鮮やかに受け取ってくれる。

 

 

青い光を纏いながらドリブルしていく。

「そうくると思いましたよ。……『獅子王の舞』ご覧あれ~~」

橙色のライオンが憑く。

 

「ソウルストライク~~!!」

咆哮とともに超威力のシュートがゴールに向かっていく。

 

「サンドノック!!……ぐわーーーっ。」

砂の手はライオンに嚙み砕かれる。

 

 

「ナイス市川。」

「それほどでも。」

「ねぇ、ザナークって呼んでいい? なんだかしっくりくるし。」

「そういうと思いましたよ。ぜひ。」

 

これで2vs1だ。

 

 

 

「ミキシトランス 孔明!!」

「ミキシトランス ノブナガ!」

 

「「繋いでいくぞ!」」

2人の偉人の力で、的確な指示でパスを繋げていく。

 

「鉄角!」

「九坂!!」

「ああ!さくら!」

「はい!キャプテン!」

「剣城!」

 

「ミキシトランス 沖田! さらに化身アームド!!」

騎士と武士の融合。

 

「菊一文字 改!!」

居合斬りによる必殺シュートがゴールに向かっていく。

 

 

黄色のオーラが輝く。

「俺はサンドリアスの守護神なんだ!うおおおお!」

橙色のサソリのような生物が憑く。

 

ボールに2つのハサミと尾を向ける。

「ソウルストライク!!」

3方向からの打撃で、ボールを抑え込む。

 

 

 

砂煙が晴れたころに、

寂しくホイッスルが鳴る。

 

 

2vs1で俺たちの勝ち。

しかし喜びの声を素直に上げることはできない。

 

歓声ではなく、嘆きがスタジアムに響いている。

 

「天馬、初戦突破おめでとう。君たちと戦えてよかった。」

 

「カゼルマ……」

 

「私たちは誇りをかけて最後まで戦うことができた。それだけで満足だ。」

 

 

俺たちはこれからも厳しく険しい戦いを強いられることになるんだね。

 

 

 

***

 

水川さんは宇宙人だった。

正確には地球人の少女に憑依しているのだけれど。

 

ブラックホールで呑み込まれたたった1人の生き残り。しかし脱出に失敗していまい、精神だけの存在になってしまったらしい。そんな過酷な運命を背負わされた彼の名はポトムリ。

 

「「それって幽霊じゃないの!?」」

 

さくらや葵、森村は抱きつき合って震えている。

 

「とりあえず話を聞こうよ。」

 

意識不明だった水川みのりさんの身体に乗り移って、数ヶ月生きてきた。

彼女に魂が定着しないように、今はピエロの人形に憑依している。

 

そして、地球にたどり着いたことを運命として、地球を守るためにマネージャーとなることを選んだんだ。天馬が夢で会い、導かれたという姫は星と運命を共にしたらしい。

 

それでも、

天馬の手に入れた希望の石は、この宇宙での争いを終わらせる鍵となるはずだ。

 

 

ちなみに彼女の意識が表に出てきてしまうため、

「なんだんだおめぇら!!……失礼。」

「そういえば水川みのりって、あの○○中のミノタウルスの!?」

九坂には心当たりがあるみたいだ。たぶん不良の知り合いだろう。

 

 

ともかく、

「勝ち進んでいったその先にカトラのいう、答えがきっとある。みんな頑張ろう!!」

 

「「「おう!!」」」

「「「はい!」」」

 

試合直後よりも、明るい声が合わさった。

 

 

 

 

***

 

次の惑星まで時間がかかる。

ブラックルームで各々練習を重ねていく。

 

ボールは旋律を描く。

「「フォルテシモ!!」」

霧野と神童ツインシュートがゴールに向かう。

 

「護星神タイタニアス!アームド!!」

西園は化身を纏って両手でしっかりとキャッチする。

 

 

「くっ、ファイアトルネードDDほどの威力は出ないか。」

「どう思う? フェイ。」

 

確かに、

息の合った連携技の威力は倍程度に上がっていた。

 

「必殺技がシンクロしすぎたのかな。必殺技の足し算に近かった。相手に合わせることを気にしすぎているかもしれないね。」

 

「そうなっているのか。」

「…天馬たちは2人が全力を出すことで合わせているんだろう。」

 

俺は無言で頷き、1つの冊子を見せる。

 

実は義兄さんや円堂さんたちからは、秘伝書を貰っている。

必殺技のやり方が描かれていて特に連携技が多い。

 

「ザ・フェニックスか。」

 

3人が一点を同じ速度で通過すると炎が巻き起こり、ボールを舞い上げる。

そして一方向からシュートを同時に叩きこむ必殺シュートだ。

 

「シンクロしすぎる俺たちなら、うってつけだな。」

「フェイ頼めるか?」

「うん、俺が合わせる。」

 

ボールコントロールが得意な俺が参加すれば上手くいくはずだ。

 

 

しかし、

先ほど纏まっておいてあった秘伝書がいくつか失くなっていた。

 

ここに来てから様子がおかしいメンバーがいる。

 

「ちょっといいかな?剣城、白竜。」

 

必殺技を使わず、

2人は勢いのあるシュートをゴールに放っている。

 

 

「なぁ、なにかあるのか?」

「そうそう、いつも通りスゴいシュートだと思うけど?」

鉄角や西園が尋ねてくる。

 

 

「撃ってみてほしいんだ、グレートブラスターを。」

 

2人ともシュートを放つ足を止め、冷や汗を掻いている。

 

「どうしたの、2人とも?」

 

 

「できるわけないよな。偽物だし。」

俺たちの背後からの声。

 

「「「って誰!?」」」

 

いつのまにかいた、

俺以外知らない少年に天馬たちは驚く。

 

「カイザじゃないか。」

 

「Yes,また会ったな。この2人はファラムオービアスのスパイだ。お前たちアースイレブンの動向を探りに来たんだ。ついでに秘伝書も一部貰っていったらしい。ともかくツルギやハクリュウは、連れ去られたってわけ。」

 

「「「なんだって!?」」」

誰よりも先に雷門の4人が声を上げる。

 

「俺は関与してないんだけどな。俺の今の雇い主、女王様が欲しいって言ったからだ。Vip待遇でも受けてるんじゃないのか? 知らないけどさ。」

 

「「お前、姫様を裏切るのか!?」」

ボールをカイザに向けて蹴る。

 

 

―――アクセル

―――アクセル

 

「よくないなぁ、そういうの。」

目の色が暗く変わり、彼は嗤う。

 

彼は2つのボールを蹴り返し当てる。

特殊な縄を取り出し2人に鮮やかに巻き付けていった。

 

「じゃあな、俺はこいつらを宇宙に捨ててくるさ。」

 

「待って。ファラムオービアスに雇われたってことは俺たちの前に立ち塞がるってこと?」

 

引きずっていこうとする彼を止める。

 

「そうだな。お前ら、いやお前を消すためさ。さっきの試合も見てたぜ。この宇宙で最強の力を持つ種族はもう俺1人だけだと思っていた。小さな星に棲んでいた俺たちの種族は、宇宙で稀有な能力を持つ者が多かったのさ。 そうさ、すでにブラックホールに呑み込まれたはずだった。しかし、お前が生き残っていた。」

 

俺の故郷の星か。

ポトムリの星と同じようにすでにブラックホールに……

 

「この宇宙で最強は1人でいい!俺と似ている技を使うのも虫唾が走る。―――次の星でサッカーやろうぜ。」

 

初めて出会った時の表情はすでになかった。

彼は唯一無二の強さを渇望しているんだ。俺がこの世界に生きている証明を探しているように、彼は強さを示すことで生きている証明を創り出そうとしているんだ。

 

だから、

 

「うん、受けて立つよ。」

 

世界が通常通りに動き始めた頃には、彼は消えていた。

 

 

 

心臓を押さえて膝をつく俺を、さくらは慌ててつつも支えてくれる。

 

「逃げられたか」

「神童、信助、天馬、どうする?」

「まさか、2人が……」

「どうすれば…」

 

「進むしかないよ。ファラムオービアスにいることは間違いないんだ。ここからは俺たちで戦っていこう。」

 

「そうだね。一戦一戦サッカーを続けていくしかない……」

 

剣城と白竜の安否に対する不安を特に天馬は感じていた。

 

 

 

 



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キャラ設定 (アースイレブン)

 

 

 

松風天馬MF

サッカー大好きな原作主人公。眼は灰色、髪は茶髪でチョココロネ的髪型。雷門中でもアースイレブンでもキャプテンを務める。サッカー素人だったり悩みを抱えていたりしたメンバーたちを導き、チームを1つにしていった。ドリブルを得意としていて、『絶対的な勇気と揺るぎない実行力で、大地をも味方にする「キングオブミッドフィルダー」』という時空最強イレブンの一角も担う。マネージャーの葵は幼馴染であり、彼女の応援は励みになっている。しかし、サッカーに熱中しすぎていて好意を持たれていることに気付いていない。一部例外もあるが、風に関する必殺技を使う。

 

 

剣城京介FW

天馬のライバルであって親友。濃紺で逆立った髪。かつては敵として立ち塞がったが、雷門中のエースストライカーである。シュート力も凄まじいが、持ち前の嗅覚でシュートを積極的に打っていく。『稲妻のように素早く切り込む速さ 「電光石火のスピードストライカー」』という時空最強イレブンの一角を担う。炎を纏う闇の必殺技を使う。

 

 

神童拓人MF

ウェーブのかかったグレーの髪をしている。クールに見えて実は泣き虫。攻撃の要として、チームを指示していく。アースイレブンの素人メンバーをしばらく受け入れることはなかった。一之瀬の存在によって胃痛は緩和され、霧野の参戦によって快方へと向かった。『人を見抜き大局を見抜く、静と動を併せ持つ「真実のゲームメーカー」』という時空最強イレブンの一角を担う。霧野とは幼馴染であって親友。音楽に関する必殺技を使う。

 

 

 

瞬木隼人 FW

海王学園で陸上をやっていた。そこで培った俊足を活かしたサッカーが得意。過去の一件から人間不信な気質があって裏表が激しい。後に、心を開き本音をぶつけてくるが、どこか憎めない。陸上や風に関する必殺技を使う。

 

 

野咲さくら MF

大海原中で新体操をやっていた。柔軟な体を活かしたサッカーが得意。厳しく育てられてきたため、一番輝かなければならないという《夢》を持たされていた。その経緯もあって自己中心的で腹黒い部分もあるが、フェイの前では調子が狂わされる。サッカーを通して、『皆で一番になるのも悪くない』と吹っ切れた。さらにフェイへの想いもあって、宇宙で一番輝くという『夢』を自分で抱くようになる。そのカタチとして化身を習得する。新体操に関する必殺技を使う。

 

 

九坂隆二 MF

友信学園で不良をやっていた。喧嘩を活かしたサッカーが得意。優しそうな表情を常に浮かべているが、キレると怒髪天となってパワーアップする。しかし根も優しいのは確かである。この二次創作では元イナズマジャパン飛鷹と面識があって喧嘩を教えてもらったことになっている。試合中に森村に告白するという漢を見せつけた。喧嘩に関する必殺技を使う。

 

 

森村好葉 DF

漫遊寺中の帰宅部。勇気を活かしたサッカーが得意。いわゆるいじめられっ子だったが、九坂の応援や告白によって自信を持ち始める。まだ完全ではなく、彼の想いには少しずつ向き合っていくことにしている。自然に関する必殺技を使う。

 

 

鉄角真 DF

万能坂中のボクサー。フットワークを活かしたサッカーが得意。ひったくり犯から女性を救った際負ったケガがもとで、ボクサーの道は諦めている。男気があって、ガッツのあるプレーを見せる。助けた女性からSNSでアプローチをかけられているとはいえ、今はサッカーに夢中である。ボクシングに関する必殺技を使う。

 

 

真名部陣一郎 DF

栄都学園の秀才。頭脳を活かしたサッカーが得意。両親と上手くいっていなかったが、皆帆のおかげで解消。今では彼とは抜群のコンビである。分析に関する必殺技を使う。

 

 

皆帆和人 DF

天河原中の帰宅部。推理力を活かしたサッカーが得意。今は亡き父親のような刑事になることが夢。真名部は最高の相棒である。計算に関する必殺技を使う。

 

 

井吹宗正 GK

月山国光中のバスケ部。反射神経を活かしたサッカーが得意。自信家な性格で孤高を好むバスケットボールプレイヤーだったが、神童やフェイ、三国によってチームの大切さを知る。基本的にクールであって、ガッツを見せるプレーもする。バスケットボールに関する必殺技を使う。

 

 

市川座名九郎 FW

すでに歌舞伎役者として活躍している。抜群の身体能力を活かしたサッカーが得意。性格は物静かで大人しく、かの『小市民』の先祖とは思えない。ソウルを発動させると、荒々しさや猛々しさを見せる。歌舞伎に関する必殺技を使う。

 

 

西園信助 GK

雷門中でもキーパーを務める。天馬とサッカーをするために宇宙船に忍びこむガッツを見せる。小さな身体にパワーを秘めていて、抜群の跳躍力も持つ。『大国を治める力、強靭な行動力と実行力を持つ「鉄壁のキーパー」』として時空最強イレブンの一角を担う。跳躍力を使った必殺技を使う。

 

 

霧野蘭丸 DF

雷門中の守備の要。メンバーに選出されず神童に追いつくために奮起した結果、レジスタンスジャパンメンバーに選ばれる。アースイレブンメンバーにも無事加えられた。『仲間の勇気を奮い立たせ、鉄壁の守りに変える「カリスマディフェンダー」』として時空最強イレブンの一角を担う。神童とは幼馴染であって親友。霧や音楽に関する必殺技を使う。……そして男の娘である。

 

 

白竜 FW

元フィフスセクターのストライカ―。実力が拮抗している剣城をライバル視している。メンバーに選出されなかったことで奮起、レジスタンスジャパンキャプテンに選ばれる。アースイレブンにも無事加えられた。『未来をも見通す状況推理能力で敵の急所をつく「正確無比のミッドフィルダー」』として時空最強イレブンの一角を担う。天災レベルの光の必殺技を使う。

 

 

 

 

オリ主

 

一之瀬ルーフェイ(愛称はフェイ)

DF(リベロ)

 

容姿 薄黄色の髪で、ウサギの耳が真っ直ぐ伸びているような髪型。顔立ちは幼い。

 

性格 高い判断力や思考力を持っているが、天然。作戦や方針などは基本的にチームメイトに合わせる。気がつけばリフティングをしていて方向音痴である。自分にはサッカーしかないと思っていた時期があったり、相手に対して危険な威力のシュート技の封印をしていたなど メンタルはあまり強くはない。

 

アメリカ出身だが周りに日本人が多かったため、日本人気質。孤児であって一之瀬に拾われ義弟となる。土門や西垣たちにもサッカーを教わったためDF、一之瀬や円堂への憧れからドリブルやシュートも練習したためリベロプレイヤーを志している。

 

(フェイ・ルーンの先祖だが、言動の一致はあまりない。無類のサッカー好きなところや明るいところは似ているが。野咲さくらに好意を抱いている。しかしサッカーに熱中しているため、色恋沙汰はまだよく分かっていない。しかも実は宇宙人。滅んだ小さな星の生き残りの1人。みな稀有な能力を有していて、アクセルはその星人の固有の技である。アースイレブンのソウルを引き出し成長を促進させるという『鍵』となった。多数のソウルを有しているため潜在能力は高いが、身体に負担がかかっている。本人が『全力全開』という座右の銘を持っていることも拍車をかける。)

 

必殺技

真ダイナソーブレイク

真スパイラルショット

スピニングカットV3

真フレイムダンス

 

(クリムゾンスマッシュ ※紅いライダーキックシュート)

(クリムゾンカット改 ※紅いスピニングカットで威力ははるかに高い。)

(アクセル ※心臓の鼓動を速めて一定時間加速する。アジア予選では負担が大きくて1試合につき1回程度しか使えなかった。)

 

連携技

ツインブースト

ファイアトルネードTC

イナズマ一号⇒ユニコーンブースト

 

化身 月影の白兎ペリノア(光速闘士ロビンを薄黄色に)※アームドもすでに可能。

ソウル カーバンクル、、、、、、、

 

 

 



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第20話 アドバンスド・ダーク

水の惑星 サザナーラに降り立つ。

街行く人は、地球人と同じ手足を持ち、見た目も似ている。身体は水色で、ところどころ海の生き物に見られるような特徴があり水中でも活動できるのだろう。そして穏やかそうな雰囲気の人が多い。

 

99%が水の星だけど、

酸素があって俺たちも活動できる、チューブ状の街が築かれている。

 

「まるで水族館に来たみたいだね。」

 

「そ、そうね!」

 

俺の右手を掴んだ手に力が籠められる。

よほど、俺が迷子にならないかどうか心配なのだろう。なんだか動きが緊張しているのは、初めての星で危険なことが起こりうる可能性があるからだろう。本当にさくらにはいつも助けてもらっている。

 

 

5人組のサザナーラ人が近づいてくる。

 

「お前たち、アースイレブンだな?」

「なあなあサッカーバトルやろうぜ。」

「アタシたちチキューのサッカーに興味あるの!」

 

このサッカーバトルの誘いにはメリットとデメリットがある。この星の環境に少しでも慣れることができ、サザナーラ人のサッカーを見ることができる。しかし何か裏があるような誘いであって、どこから相手選手たちが見ているか分からない。

 

キャプテンに判断を任せようと決めた俺たちのなかで、神童が口を開く。

 

「天馬、どうする?」

―――あまり手の内は見せたくない

 

「瞬木との連携プレイで、一気に決めようと思います。さくら、フェイはサポートしてくれ。井吹、ゴールは頼んだよ。」

 

2人の会話は小声だった。

しかし、サザナーラ人たちはまるで聞こえているようにニヤリとする。

 

 

「さあさあ!それじゃあ準備よ!」

 

街にあるサッカーフィールドへ移動する。

騒ぎを聞きつけて多くのサザナーラ人が集まってきた。もちろん、純粋に俺たちのサッカーを見に来ている者たちが多いだろう。心が覗かれる感覚と、ギャラリーに紛れた1つの悪意ある視線が向けられているのを感じる。

 

「フェイ、どうしたの?」

 

「いや、なんでもないよ。」

 

「そう……」

―――また 独りで抱え込むんだ

 

 

キックオフ。

瞬木が俊足でドリブル、天馬にパスを繋ごうとする。

 

「なんだか、ボールが上手く飛ばない……?」

 

天馬は、勢いを失って転がってきたボールを取りに行く。サンドリアスと違って重力が大きいから、浮かせたボールがすぐに地面に落ちてしまうのか。それに、いつもより瞬木もスピードが出せていなかった。

 

「ふふっ、いただき!」

予想していたかのように的確にパスカット。

 

「私が止める!グッド……」

 

「あまい!イリュージョンボール!!」

いくつも見えるボールに困惑して、さくらはドリブル突破されてしまう。

 

「君もおそーい」

俺のスライディングも鮮やかに躱される。

 

「ドンマイドンマイ!!」

―――なにやってるんだか

 

 

「もらったぁっ!」

 

「俺に任せろ!!」

相手のノーマルシュートをガッチリとキャッチする。

 

井吹がボールを転がすと、凄まじいスピードで転がっていった。フィールドが滑りやすいという、これもこの星の特徴なのだろう。

 

ボールを得たのは瞬木だった。

 

「俺はこんな茶番なんてどうでもいいんだ!さっさと終わらせる!」

 

瞬木は黒い炎を纏って回転しつつ浮かび上がっていく。

「ダークトルネード!!」

上空からゴールへ叩きつけるようにシュートを放つ。

 

「「エアーバレット!」」

2人のDFが風の弾丸で挟み込み、ボールは勢いを完全に失った。

 

「なにっ!」

―――今のは本気のシュートなんだぞっ

 

「フフッ、ざーんねん。」

「せっかくのチャンス無駄にしちゃったねー」

「おいおい、ツルギを出せよ。」

 

「くそっ、俺だってストライカーなのに。」

 

 

 

「よう、苦戦しているな。」

 

「カイザ……」

 

観客を掻き分け、サッカーフィールドの外から話しかけてくる。確かに、天馬は剣城のことを気にしてプレーに集中できていなくて、瞬木はストライカーとしての劣等感を感じてしまっている。2人の動きは星の環境のせいだけじゃなくて、確実に鈍くなっている。

 

「アクセルを使えよ。それしかないよな。 もちろんリスクはあるが、ね……?」

 

次第にさくらへ視線を向けつつ言いきった。

 

 

 

意識を集中し始める。

 

「ダメッ!!」

 

「どうして…?」

片腕を掴まれて止められた。

 

「また倒れそうになるんでしょ。ねぇ、他の方法を選ぼう? 化身もあるし、連携技だってあるんだし。」

 

アクセルによる負担は いまだに解消できていない。加速したまま必殺シュートを放てば、無事に立っていられる自信はない。たとえソウルを発動したとしてもどうなるかわからない。

 

それでも、

 

「それしかないんだ。別に俺が倒れてもみんながいるし……」

 

パン!

 

「え……?」

 

頬を叩かれて―――

 

 

「繋がった絆を大切にしてって、フェイが言ってくれたじゃない。」

 

彼女は泣いていて―――

 

「あなたのそれは『全力全開』だけど、決していいものじゃないと思う。」

 

どういうこと―――

 

「私たちのために『無茶』をしなくていいの。もっとあなたは自分のことを大切にしてよ。だから、お願い……やめて…?」

 

ねぇ、どうして―――

 

 

 

「お優しいことだ。明日を楽しみにしてるぜ、アースイレブン。」

 

「あーあ、白けちゃった。」

「ま、楽しかったよ。いろいろおもしろいもの見れたしー」

「行こうぜー。」

 

カイザや5人組は去っていく。

 

海の底に相応しい静寂が流れていた。

 

 

 

 

***

 

試合の日となった。

サザナーライレブンもすでにフィールドに来ている。

 

腰まで届く水色の髪で、ヒラリという紫天王が助っ人に来たんだ。サンドリアスのときのバルガに続いて2人目。サザナーライレブンたちとは上手くいっていないようで今はベンチで待機している。そしてカイザはすでに俺と同じDFとして、リベロとして試合に出ている。

 

 

 

天馬のもとへ、相手のキャプテンたちが寄っていく。

 

「ねえ、アースイレブンのみなさん。ポワイたちからていあーん!」

「チキューと重力違うじゃん?」

「サッカーの実力で勝負しようかなって!」

 

「それって、俺たちのアズルを見ないってこと?」

 

「正々堂々サッカーしようかなって思ったの。」

「いい勝負にしましょう。」

 

「あ、ああ。」

 

 

『アズル』

サザナーラ人が見ることのできる心の形。人が考えていることによって、様々に色や形を変えていく。プラスな気持ちなら赤や橙などの明るい色と優しい形、マイナスな気持ちなら青や黒と歪な形となる。それを見ることで彼らは考えていることがわかる。

 

 

スターティングメンバーは、

 

FW 瞬木 ザナーク

MF さくら 神童 天馬 九坂

DF 俺 鉄角 真名部 皆帆

GK 井吹

 

 

俺もポジションにつき、前を向く。

さくらの心配そうな顔が視界に入ったけれども、目を逸らすことしかできなかった。

 

 

 

試合開始

キックオフと同時に、瞬木がドリブルで前進していく。

 

「キャプテン!」

「よし、パスが繋がった。やっぱり心を読んでいないのか!」

 

「あなたたちなんて、心を読まなくたって簡単よ!」

 

「うわっ!」

緩やかなスライディングでボールを奪われる。

 

「ドンマイ、キャプテン!」

―――俺がせっかくチャンス作ってやったのによ。

 

 

 

 

まるで心を見ているかのように、

動きが読まれて瞬木以外はプレーに圧倒されていく。

 

「キャプテンもう一度だ!」

 

「ああ。ミキシトランス アーサー! 真 風穴ドライブ!!」

竜巻の道を突き進みドリブル突破。

 

「よし、剣城……」

天馬の動きが止まる。

 

「ウォーターフォール!!」

巨大な滝を創り出す。

 

「うわぁ!?」

水流によって弾き飛ばされる。

 

 

 

「ちっ。」

―――こいつらに任せてられるかよ。

 

瞬木が俊足で追いつき、ボールを奪う。

 

「やーん、すごいスピードだね お兄さん!」

 

「ふっ、どうだ。」

―――なんで俺がお前らの尻拭いなんか

 

 

瞬木から俺へパスが繋がる。

 

「わーいわーい!」

「「「かーごめかごめかごめ」」」

3人の選手が俺を囲むようにゆっくりと歩いている。

 

 

重力の影響で、

ボールを宙に浮かせてのパスは得策じゃない。

 

「くっ…アクセル……」

さくらが視界に入る。

 

「「「いえーい!」」」

3人同時に勢いよく向かってくる。

 

「しまった!?」

声が自然と漏れる。

迷っている隙をつかれてボールを奪われてしまった。

 

 

「フェイだいじょうぶ。 私がフォローするから……」

 

「あまいあまい!リキッドフロウ!!」

水と化して、さくらはドリブル突破されてしまう。

 

「そんな!?」

 

「ここは俺が! フット……」

鉄角も水の動きに翻弄されてしまう。

 

 

「ポワイが ゴール決めちゃうよー!」

 

「皆帆!真名部!頼む!」

 

「「スピニングカットW!」」

合成した衝撃波でのブロック技を放つ。

 

「うわわ、あぶないよー?」

相手のキャプテンはタイミングよく立ち止まることで、回避する。

 

「完璧なタイミングだったはずです!?」

「まるで動きを読まれたような…」

 

「くそっ」

―――右か左か……右だ!!

 

 

相手の動きを読んで、井吹は勢いよく跳ぶ。

 

「せやー!」

 

決して強い蹴りではなかった、

地面を這うように進んだボールがゴールのネットに弾かれる。

 

「なん…だと…」

 

「イエイ!!」

「「「やったーっ!」」」

 

 

心に迷いを抱えたまま、

試合時間は はかなく流れていく。

 

サザナーライレブンの笑いと、

カイザとヒラリの嗤いが、俺たちをさらに焦らせていく。

 

 

 



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第21話 宝玉の氾濫

 

0vs1

静かな先取点を奪われ、試合再開。

 

瞬木の俊足を活かしたドリブルが上手くいっていて、

点数では負けているけれども優勢に思える。

 

「キャプテン!!」

 

「ああ!魔神 ペガサスアーク!!」

 

化身の手に乗り天馬は、飛んでいく。

「ジャスティスウィング!!」

魔神の拳とともに全力シュート。

 

 

相手のキーパーは水色に輝く。

「私のソウルをお見せしましょう。」

黄色イルカのような生き物が憑く。

 

「ソウルストライク!!」

イルカの水鉄砲でボールは弾かれる。

 

 

キーパーが転がしたボールを瞬木がカットする。

―――どいつもこいつも俺の足ばっかり引っ張りやがって!

 

「もらうぞ!」

今まで動きのなかったカイザがスライディングでボール奪う。

 

「なにっ!」

―――おい、お前ら早くボールを取り返せ!

 

「これが最強の力だ!アクセル!!」

 

天馬たちMFを越えて、

DF陣すら越えて、

すでに井吹の目の前。

 

「あれってまさか、フェイと同じ!」

「いつのまにっ!」

 

黄金の光の円錐が展開される。

跳びこむようにボールを両足で蹴りつける。

「ゴルドスマッシュ!!」

黄金の流星がゴールに向かってくる。

 

「くそっーー!!」

必殺技を出す間もなく、せめてもの抵抗に手を伸ばした。

 

 

 

これで0vs2

前半終了のホイッスルが静寂の世界に鳴る。

 

 

 

 

作戦の確認を交えるときも雷門の4人の表情は晴れない。

かくいう俺やさくらも思いつめたままだ。

 

 

***

 

向こうのベンチで一悶着あったみたいだけれど、

ヒラリがMFの位置に入って後半開始。

 

試合はどんどん縺れていく。

俺たちの動きは読まれ、瞬木だけが活躍して孤立させられている。

 

「こうなったら私がソウルで……」

 

ソウルを発動させようとした市川の前に、カイザは立ち塞がる。

 

「やらないぞ。アスタリスクロック!!」

浮かび上がった6つの岩が合わさるときの衝撃でブロックされてしまう。

 

 

さらに、今まで手加減をしていたカイザがフィールドを駆け始めた。化身やミキシトランスを使っていないにも関わらず、それ以上の実力を見せつける。

 

 

「私が止めてみせる! 月華の魔導士ラヴィニア!!」

 

「ほらよっ。」

 

「えっ…?」

化身必殺技を出す準備をしていたところに、ヒラリへパスされてしまう。

 

水の刃をさくらに向けて飛ばす。

「ジャックナイフ!!」

 

「え?……きゃあ!」

外したと見せかけて背後から切り裂かれ、化身がゆっくりと消えていく。

 

「敗け…ない…。」

それでもなお立ち上がろうとした。

 

 

 

「へぇー。おいお前、合わせろ。」

「指図しないで!」

 

カイザが3つに分裂させ、ボールは赤黒いオーラを纏う。

「「ジャッジスルー3!!」」

ヒラリが分裂したボールをさくらに向けて蹴りつける。

 

 

ルビーの輝きを放つ。

「くそっ、ソウルストライク!!」

 

カーバンクルが俺に憑き、加速。

さくらを救いだしたが、俺は膝をついてしまう。

 

「貴重な一回を使ってしまったなァ……」

 

「はぁはぁ……」

「フェイ……」

 

 

「どうして…さくらを…執拗に狙った?」

 

目の色が暗くなって嗤っている、彼を見上げる。

 

「Yes,それはお前の力を使わせるためだ。それが勝つためのスマートな作戦だったんだよ。お前さえいなければサザナーライレブンはこのまま勝てるからな。つまり、危険な目に遭ったのは一之瀬ルーフェイってやつのせいなんだよ。」

 

 

この力が『鍵』と黒岩監督が言ってくれたことが嬉しかった。

この力がみんなの勝利のために使えることが嬉しかった。

この力がさくらを守れて嬉しかった。

 

でも、

この力がさくらを心配させた。

この力がさくらを傷つけるきっかけとなった。

 

視界が揺れていく。

かつてクリムゾンスマッシュで義兄さんを傷つけたこと。

 

ドス黒い真紅が頭を過ぎる。

 

透明の心が、黒に埋め尽くされていくような―――

 

「お前はそこで立ち止まってな。」

 

全身から全部の力が抜けていった。

 

 

瞬木は駆け寄って来る。

 

「一之瀬 大丈夫か!?」

―――なんで勝機無駄にしてるんだよ

 

「きゃーははは! 『大丈夫か』だってー! もういい加減仲間ごっこやめちゃってよね。」

 

「なにを言っている!?」

―――おいまさか

 

相手のキャプテンの目つきが変わる。

 

「あんたがチームメイトのことどう思ってたか、おトモダチに発表しちゃいまーす。『どいつもこいつも俺の足ばっかり引っ張りやがって』『お前ら早くボールを取り返せよ』とかとかー?」

 

「ま、瞬木?」

「今の…ホントなのか?」

 

「なんだよ…お前ら…。そうさ、俺はそういうヤツなんだ。だからなんだ!!悪いのか。人なんて信用できるわけない。いいヤツを演じていただけさ。それが俺なんだ、瞬木隼人なんだ!!なんか文句あんのかよ!!」

 

それは初めて聞いた瞬木の本音だった。

 

自然とサッカーの試合は中断され、静寂が訪れる。

寂しさのある海の底だけれども、水の音は涼しく心に入っていく。

 

天馬が口を開いた。

 

「文句なんかないよ。」

 

「なんだって…?」

 

「瞬木は自分が嫌だったんだ。ちゃんと信用したいのにそうなれない自分が嫌だったんだよ。本当は誰よりも人と繋がりたいって思っているはずさ。だから、本音を聞かせてくれてありがとう。」

 

「『ありがとう』……?」

 

「ああ!悪い心なんて誰にでもある。だけどそれを乗り越えて受け入れるんだ。いいとこも悪いところも全部ひっくるめて、瞬木隼人だ!!ぜーーーーんぶ!俺の仲間の瞬木隼人だーーーっ!」

 

 

『太陽のような心地いいアズル』は輝く。

 

「な、なんでなの!あいつらのアズルなんで壊れないの!?」

 

 

 

「フェイ、君は強い力を持っているのは知っている。でも、人は傷つけないなんてことはできないんだ。君が傷つける気がなかったとしても、無自覚に誰かが傷つくこともあるものさ。」

 

一度、言葉を区切る。

 

「必要なのは自覚なんだ。例えば、どうでもいい相手なら傷つけたことにすら気づかないかもしれない。でも大切に思うからこそ、傷つけてしまったと感じるんだ。誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだよ。さくらを護るためにフェイはアクセルを使ったんだ。だから、フェイは大切なときに力を使えるんだ。君の力を使いこなせるって俺たちは知っている。」

 

 

気づけば、

目の前に優しい顔がある。

 

柔らかい太ももから温もりを感じて、

優しく撫でてくれる手から温もりをくれる。

 

ずっと昔に感じた温もりと似ているけれど、違う温もり。

 

頬が熱くなる。

 

「私の『夢』は世界で一番輝くこと。新体操でもそう。サッカーでもそう。それでね、与えられた《夢》が『夢』になったのは、あなたのおかげなの。さっきもあなたが力を使って助けてくれたのよ。だからね…」

 

『ありがとう』

 

俺の、

今まで溜め込んでいた涙が全て溢れる。

 

「さくら……」

 

俺をゆっくりと立ち上がらせながら、青い光を纏っていく。

「フェイは無茶するのをやめないもんね。だから、今度は私があなたを支えてあげる。宇宙で一番輝いているから、私を見てて……。」

―――『一番星』の横で優しく輝く、私の『お月様』

 

可憐であって、勇ましくもある桃色のカモシカが憑く。

 

 

 

「くそっ、立ち直りやがったか。アスタリスク……」

岩が浮遊していく。

 

崖を跳び越えるほどの跳躍を見せる。

「これが私の全力全開!ソウルストライク!!」

勢いよく角でカイザを吹き飛ばす。

 

 

「あんたムカつくわね!」

 

「さっきはよくもやってくれたわね!」

 

カモシカの鳴き声が響き、新体操のリボンを手にする。

「リボンシャワー!!」

ヒラリの周りを星の軌跡を描きながら舞って、躱す。

 

 

「フェイ繋いで!!」

 

「ああ!」

 

 

パスを受け取ってアメジストの輝きを放つ。

「これが俺のもう1つの全力全開!」

体躯のいいキャットが俺に憑く。

 

 

「お前だけにはやらせるかよ!!アクセル!」

 

「ソウルストライク!!」

アクセル状態でさらに素早い動きで、カイザをドリブル突破。

 

 

「さくら!」

 

ボールを受け取ってその場で華麗に回ると、星の軌跡を描く。

「マーメイドスマッシュ!!」

カモシカの力強い蹴りでシュートが出される。

 

「ソウルストライク!!」

イルカの水鉄砲を弾き飛ばし、ゴールが決まる。

 

 

パン

 

お互い歩み寄って、ハイタッチ。

 

「ナイスシュート!」

「アシストありがと!」

 

オーストラリア代表との試合のときよりも、ずっと気持ちいいサッカーがさくらとできた。

 

やっぱり俺はさくらの隣でサッカーをするのが好きなのだろう。

さくらの輝いている姿を誰よりも近くで見ていたい。

 

 

「2人ともすごかったぞ!」

 

「キャプテン、ありがと!」

「天馬も励ましてくれてありがとう。」

 

 

彼は笑顔で頷いてくれる。

そして、天馬には葵が近づいていく。

 

「ねぇ天馬。」

 

「試合中にどうしたんだ、葵?」

 

「天馬ってホントにキャプテンとして頑張ってるね。チームメイトを導いて、支えてくれる。この1年いろんなことがあったよね。天馬はサッカーを救って、時空を救ってくれて、今度は宇宙を救おうと頑張ってる。でも、天馬って肩に力が入りすぎていると思うの。もっと天馬らしさを出してもいいと思うの。」

 

「それは…」

 

「希望を繋ぐんでしょう?その先で必ず剣城君や白竜君は助けられる。だから大丈夫。なんとかなるさ♪」

 

「……そうだね!うん、なんとかなるさ、だね!!」

 

「みんなが天馬を支えてあげるから。もちろん私も!これからも一緒に頑張ろう、天馬!!」

 

神童さんからキャプテンを託された。

アーサー王にリーダーとしての資質を問われた。

今のチームでは『キャプテン』として頼られることが多くなった。

 

だから、

気づかないうちに『俺らしさ』が薄れていったのかもしれない。

 

 

((もう迷わない。道を示して導いてくれる大人がいる。もし立ち止まっても支えてくれる仲間がいる。そしてたとえ挫折しても立ち上がらせてくれる女の子がいる。繋がりこそが一番自慢できることなんだ。だから迷わない。明るい未来を創るために『先のステージ』へ進み続ける。))

 

「「よし、全力全開でサッカー楽しむぞーーーっ!!」」

 

なんて自分勝手な発言なのだろう。

でも大切な女の子たちはやさしく微笑んでくれた。

 

 

 

 



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第22話 宝玉の祈り

 

試合は前半から後半へ。

真名部と鉄角の2人と、

霧野と森村の2人が交代する。

 

1vs2という状況だけれど、俺たちの闘志は燃えている。

 

 

 

瞬木は俊足でフィールドを駆け始める。天馬とボールを交換しつつドリブルで前に走り続ける。心の底からの楽しさが彼の表情にはにあった。

 

「ついてこれるか?俺のスピードに!」

 

「ああ!ついていってみせるさ!」

 

 

「くそっ、俺こそが最強なんだ!アクセル!!」

カイザは加速して、天馬のブロックに向かう。

 

 

「俺も敗けていられるか! アグレッシブビートGO!!」

 

心臓の鼓動を加速させた上に、本能を加えてドリブル突破。

 

「なんだとっ!?」

 

「まだまだこれからさ!瞬木行くぞ!!」

 

 

青い輝きを放って、白い馬が憑く。

「ソウルストライク!!」

瞬木を乗せて、ドリブル突破していく。

 

 

「いけーーーーっ!!」

 

さらに先へボールを蹴ると勢いよく転がっていく。

サザナーライレブンの誰もが疑問を抱いた。心を読まれることのない、本能的に出したパスだったんだ。俺はさらに走る速度を上げる。

 

跳びこむように俺はボールの前に躍り出て、今度はバックパス。

 

「いけるかい? 瞬木!!」

 

道筋を照らしチームメイトを導くこと、フィールドに追い風を起こすことが、『天馬らしいキャプテン』の答えなんだ。そして、攻守関わらずフィールドを搔き乱し仲間にチャンスを託すことが、『俺らしいフィールドの魔術師』の答えだ。

 

表情を緩めた瞬木は全速力で追いつく。

 

「おもしれぇ。2人とも本当におもしろいやつだよ!!」

 

 

青黒い輝きを放って、青いハヤブサが憑く。

「止められるもんなら 止めてみろ!」

 

味方のディフェンスラインからクラウチングスタート。サッカーコートを誰よりも速く一直線に駆けて行く。風を切り裂いていくほどのスピードは誰にも止められない。

 

さらに青黒いオーラをまき散らしていく。

 

「なんなのあのドス黒いアズルーー!?」

「頭が割れるーっ!」

 

 

ハヤブサの鳴き声が響く。

「マッハウィンド爆ブースト!!」

全速力のスピードを載せてボレーシュートを打つと、ボールは消える。

 

シュートがゴールに突き刺さって、これで同点。

……しかし遅れて風がフィールドに吹き荒れる。

 

「くそっ、瞬木のやつ…!!」

「なんなのよ もう!?」

「あいつ俺たちのこと気にしてないだろ!?」

 

「いいかお前ら!俺の足を引っ張んなよ。せいぜい俺のプレイに追いついてくるんだな!!」

 

「うん、それが本当の瞬木隼人なんだな! 俺、嬉しいよ!」

 

「そういうと思いましたよ。私も精進します。」

「俺も負けてられるか!」

「君の全力全開見せてもらったよ。」

 

「……ふんっ!」

―――相変わらずお人好しばかりだ。悪い気分じゃないがな。

 

 

 

「でもでもあいつのアズルを見ないようにすればいいだけ! そうすれば、相手の動きなんて全部読めるんだから。助っ人の2人は、あいつを抑えておいて!!」

 

「「命令するなっ!……お前も同じこと言うなァ!」」

 

「ああもう!あんたらもトゲトゲしいアズル見せないで!!」

 

 

 

―――カイザやヒラリのアズル、そしてサザナーラ人の特性。

「なるほどね。瞬木君、一之瀬君手伝ってくれないか?」

 

皆帆から作戦を聞く。

 

「へぇー、面白そうなこと考えてるな。」

「さすがの観察眼だね、協力するよ。」

 

 

 

試合再開と同時にサザナーライレブンの猛攻が始まる。

アズルを読むことで、俺たちの考える動きは読まれていく。今まで瞬木や俺を陥れる作戦に徹していたし、ここからが相手の本領発揮なのだろう。瞬木に対してだけはアズルを読むのを避けているみたいだけど。

 

 

「うちが止める!」

森村にフォックスが憑いてブロックに向かう。

 

「いっちゃえー!」

 

しかし森村の動きを読んでいたポワイはボールをパスする。

 

「わかりました!バブルボイル!!」

水に包まれたボールを沸騰させて打ち出す。

 

 

「俺に任せろ!真ライジングスラッシュ!!」

爪跡の衝撃波で弾き返す。

 

 

浮き上がったボールをタイミングよく手に入れられる。

 

「きゃはっ!読めてたもんね。 みんないくよ!!」

―――これにはあなたは反応できないってわかってる

 

 

「井吹、みんな! 来るよっ!!」

それはベンチからの西園の声。

 

 

3人がボールの周りを駆け始めると、水の竜巻が生まれていく。

「「「アクアストリーム!!」」」

ボールを突き上げるように竜巻の中を進ませる。

 

 

「「ミキシトランス!!」」

ノブナガとジャンヌの力をそれぞれ受け継いだ彼らが動いた。

 

2人は祈り、火事に匹敵する炎を呼び覚ます。

「「ブリュレ・ノクチュルヌ」」

炎はボールを包み込み、寂しく静かに威力を無に弱めていく。

 

 

跳躍し、

両手で地面を勢いよく叩くと岩の壁が隆起する。

「フェンスオブガイア!!」

岩の壁に弱々しく弾かれて、ボールが転がっていく。

 

 

 

予想外のフィールド外からの声だった。

西園が呼びかけることで、アースイレブンの動きが瞬時に変化した。すでにシュートを打とうとしていたので、サザナーライレブンも対応できなかったんだ。

 

 

「だ、だったら もう一度!!」

 

ボールは相手のキャプテンたちの前へいった。

 

しかし夜に包まれる。

「ボクは今楽しくて仕方がないんだ。ボクの推理力が宇宙人にも通用するってわかった。ソウルストライク!!」

大きなフクロウがボールを掴んで飛んでいく。

 

「相手は動揺している。瞬木君いまだ!」

 

ボールは皆帆から瞬木へ。

 

「オーケー」

 

「ええい 私が止める。」

 

ヒラリが立ち塞がると、一度止まる。

 

「なんだ年増女かよ。」

 

「なっ…!!」

 

2人は一進一退の攻防を見せる。

瞬木はすらすらと悪口を言い続ける。

 

「ちっ、やってくれるじゃねぇか!おばさん!!」

 

「きぃ!バカにして!!」

 

 

 

「おいお前、載せられてるぞ!」

―――こうなったら俺のアクセルで

 

アクセル。

俺がカイザの行く手を阻む。

 

「くそっ、俺より速いだと……」

 

 

「あんた何遊んでるの!」

「っ!うるせぇ 自分の心配してろ!!」

「あら、さっきまでの余裕どこに行ったのかしら?」

「お前こそ劣勢じゃねぇか。」

「今からボール取り返すのよ!」

 

 

2人のやりとりを見たサザナーライレブンは頭を抱え始めた。

 

「何よあいつらのアズル!!」

「トゲトゲとトゲトゲぶつかってる!!」

「イタタタタ!」

 

サザナーラ人は人の心が見える。それは 見えすぎるくらいな力だ。相手が瞬木と俺たちのアズルをぶつけたように、カイザとヒラリのアズルをぶつけさせた。結果的にはトゲが飛散するような光景となっているようだ。皆帆曰く、『Oh,モーレツ大作戦』。

 

サザナーライレブンはアズルを見るのをたまらず中止した。

 

―――それは決定的な隙となる。

 

「今です!」

「うん、ザナーク行こう!」

 

トパーズに輝き、タイガーが憑く。

青色に輝き、橙色のライオンが憑く。

 

「「ソウルストライク!!」」

 

2頭の猛獣の咆哮。

超威力のロングツインシュートがゴールに向かっていく。

 

 

キーパーは頭を抱えたままでソウルを発動できず、ゴール。

これで3vs2だ。

 

 

 

 

それでも、まだ時間はある。

しかしすぐにキックオフとはならなかった。

 

「もう、どうすればいいの」

「ポワイちゃん…」

「ポワイ様……」

 

相手のキャプテンは余裕を失くしているのか、頬を膨らませている。すでに意気消沈しているメンバーも多い。互いの落ち込んだアズルを見て、負けだろうという想いを読み取って、連鎖的に表情が暗くなっていく。そしてそれは観客のサザナーラ人たちにも広がっていった。

 

それは未来を失ったという絶望。

 

「ねぇ、ポワイ。どうしてサッカーをやろうと思ったの?」

 

「……楽しかったから。」

 

「だったらさ、今は純粋にサッカーを楽しもうよ。」

 

なに言っているの? とポワイは反論することはなかった。その明るい表情からも、太陽のような光輝くアズルから嘘を言っていないことがわかる。未来を切り開く希望の光で照らしてくれる。

 

「確かに星の運命をかけた戦いだ。でも、サッカーが教えてくれているんだ。銀河をサッカーで繋げればなんとかなるさって言ってくれた。だから、俺はサッカーを信じる。」

 

「もー!なんとかなるさって 楽観的すぎ! でも、嫌いじゃないよ。」

 

先ほどまでの暗さはなくなり、心の底から笑顔を見せる。

そして、ポワイのアズルを見た他のメンバーも立ち直り始めた。

 

 

「おいおい、勝てる試合だったのによ。」

「あんたも最後までやりたいくせにー?」

「うん、うちも最後までがんばる。」

「キャプテンなら、そういうと思いましたよ。」

 

「うん、天馬らしいね。」

俺たちは天馬に導かれて宇宙までやってきたと言っていい。出会うことのなかった俺たちをサッカーで結びつけてくれた。今も、相手選手であるサザナーライレブンにも勇気を与えた。先導者となって彼はサッカーを全力全開で楽しむんだ。

 

決まったよ 俺の夢

 

 

「よーし、みんなー!!」

「「「「「「サッカーやろうぜ!!」」」」」」

 

キックオフ。

残りの時間を忘れるほどの接戦が繰り広げられる。

 

ザナークのディフェンスをアズルを見て躱したMFに対して、神童はアインザッツG4でボールを奪う。しかし神童のマークに入っていたMFがカバーに入ってボールを取り戻す。九坂や森村が向かっていくが、アズルを読み合うことでパスを繋いでいく。

 

瞬木が前線から疾走してきてパスカット。彼のアズルは読むことはできないが、3人で囲んでスライディング。そこへ皆帆のソウルストライクで裏をつくディフェンスが炸裂、まさかのボールを持ったのは相手GKだった。

 

「ポワイ様!!」

 

そのパスに、俺は一早く反応してディフェンスに向かう。

 

「オッケー♪ ソウルストライク!!」

熱帯魚に似た生物が憑き、俺は鮮やかにドリブル突破されてしまう。

 

「いかせない!」

さくらがカバーに入ってソウルを発動。

ドレスのようなヒレを持つ美しい魚と、可憐で勇ましいカモシカが対峙する。

 

ここでホイッスルが鳴った。

 

「ぶー、あとちょっとだったのにー」

 

「はー、ひやひやしたー。」

 

 

各々、健闘を讃え合っている。

俺は相手のベンチにいるカイザのもとへ向かう。ヒラリに付き添われている彼は疲弊しきっている。アクセルを使いすぎたのだろう。

 

「友達が心配になったから様子を見にきたんだ。」

 

彼は目を一瞬見開いて、次第に笑みを零す。さくらを傷つけたことは許せなかったけれど、本人はポワイとおしゃべりをしていて もう気にしていないみたいだし。それに、彼とはまた正面から全力全開でサッカーをやってみたい。

 

「ファラム・オービアスで待ってる。今度こそ俺が叩き伏せてやる。」

 

「ホント素直じゃないわね。それに あんたもお人好しね。」

 

「ありがとう、ヒラリもカイザを頼んだよ。」

 

「「はぁー!?誰がこんなやつ!」」

 

ベンチから勢いよく立ち上がって口喧嘩を始めた。先ほどまでの疲弊も吹き飛んだようで、もう大丈夫そうだ。とても仲の良い2人を置いておいて大切な人たちの元へ俺は向かう。

 

 

サザナーライレブンとの別れ際に、ふと考える。

俺のアズルはどう見えているんだろうって。

 

「空だよ。夕暮れだったり晴れだったり雨だったり。じゃあね みんな! 私たちの星のことは任せたよ!」

 

海の色に似た青い石を彼は天馬に手渡す。2つ目の希望のカケラは彼ら自身から託された。。

 

満開の笑顔で手を振ってくれる。

あと2つの星を経て、ファラム・オービアスだ。

 

「あ、サクラはあのこともがんばってねー!!

 

「ちょっと!?」

 

 



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