異能黎明期の魔法少女(♂) (薄いの)
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異能黎明期の魔法少女(♂)
『199×年初頭から鳴坂市周辺にて確認されていた夢の少女について』
異能者を収容する学園も多く生まれている昨今。
それらの多くは我々の世界が『悪夢』と呼ばれる怪物の住まう異界と場所を近くしたことによる変異、あるいは進化である。
今の人類を脅かしている異形の怪物、『悪夢』。
彼の怪物が『悪夢』と呼ばれるようになった所以について、ご存知の方も多いと思うが、ここで述べようと思う。
夢の少女は、異界との接触が及ぼした最初期の異能覚醒者だと言われている。
彼女の力は、夢の操作や実体化、あるいは副産物として精神操作の力も持ち合わせていたとも当時の媒体では語られている。しかし、錯綜する当時の情報では、彼女こそが『悪夢』の使役者であり、すべての元凶である。とも語られていた。
それは、残酷な話ではあるが、異能発現者が極端に少なく、異界について殆ど知られていない当時の状況では無理もない話であった。
最初期の当時の彼女の扱いも、一種の都市伝説のようなものであり、地域掲示板においてひそやかに語られる与太話のようなものであった。
『悪夢を見ている夜は眠たげな瞳をした黒い女の子が現れて、悪夢を剥ぎ取っていく』
『夜の公園で、ゴシックドレスの女の子に従えられた怪物が、これまた別の怪物と戦っていた』
『夢で見たドラゴンが窓の外で本当に飛び回っていた。背中に女の子が乗っていたように見えた』
『真っ黒の女の子が出てくる夢を見てから不眠症が治った』
それらはこういった、当時にしては途方もない話で、異能の知れ渡り、異能者の教育や、意図的な能力上昇を試みている現代においても強力な能力である。その強力さ故に、彼女もまた当時の人々に『怪物』のレッテルを貼られてしまったことは皮肉であるが。
2000年代半ばになって唐突に姿を消してしまうまで、彼女の『悪夢』討伐は続いた。そう、異界の怪物が現代で『悪夢』と呼ばれているのは彼女の操る『夢』の名残である。
それが、異能者の増加や、『悪夢』に対処する方法を人が充分に学んだことによって、彼女自身が人々に『悪夢』に対処できる、と判断したことによるものなのか、はたまた、人々に対してほとほと愛想を尽かしてしまったのかは定かではない。
しかし、今となってもネット住民の手によって『夢子』と名づけられた彼女の目撃証言は絶えない。超級の異能者でありながら、未だ協会には未登録であり、世界中が血眼で探し回っている彼女。
その目撃証言が真実か嘘か。眠りと安息に飢えた現代人が未だ『夢子』を忘れられていないことは間違いのないことである。
◇
鳴坂市について語る part81
181,鳴坂市出身の無辜の民
来たぞ!夜が!俺たちの時間だ!
182,鳴坂市出身の無辜の民
今夜こそ夢に夢子ちゃん来い!
183,鳴坂市出身の無辜の民
ここはなんのスレなんですかね……
184,鳴坂市出身の無辜の民 (自分)
夢見てないで諦めろよ
魔法少女なんて居ない
絶対居ないから
184,鳴坂市出身の無辜の民
>>184
もしかして夢子ちゃんエアプ勢?
プークスクス!
185,鳴坂市出身の無辜の民
今夜の夢子ちゃんガチャタイム
俺の夢持ってっていいぞ夢子ォ!
186,鳴坂市出身の無辜の民
今時夢子ちゃんエアプ勢の男の人って
187,鳴坂市出身の無辜の民
夢子ガチャはよ
寝るわ
188,鳴坂市出身の無辜の民 (自分)
おまえら頭おかしいよ
189,鳴坂市出身の無辜の民
来たれ!ゴスロリ夢子ちゃん!
190,鳴坂市出身の無辜の民
夢見ることくらいは許せよ荒らしくん
191,鳴坂市出身の無辜の民
ガチャ寝します
◇
ヤベェ、どうしよう。やりすぎた。
俺は、PCデスクにごつん、と頭を押し付けた。
―――失敗した。気づくのが遅すぎたんだ。
なぜこんなことになってしまったのか。
先ほどまで必死で叩いていたキーボードの上に頬を当てながら、ぼうっと近くの姿見へと視線をやる。
◇
唐突だが、吾輩は超能力者である。
とはいえ、最初は、いや、この能力が芽生えた当初、半年前は些細な能力だったのだ。
言ってしまえば、『ランダムで他人の夢を覗く能力』だ。
暇を潰すにはもってこいの能力だと思わないだろうか。
だが、最初の失敗はとある夢に潜り込んだ時に、夢の主の子どもに俺の存在を認識された時だ。今までに一度もそんなことはなかったのだが、子ども特有の認識力なのか、はっきりと俺の存在を『認識』された。
その日から、俺の能力は、『他人の『夢の傍観者』から『夢の登場人物』』へと変化、あるいは進化した。
次の失敗は顔色の悪い男の夢に潜り込んだ時だった。
彼はゾンビみたいな怪物や武器を持った人間で溢れたバリバリの悪夢を見ていた。
殺され役のモブみたいな立ち位置だった俺は流石に恐怖を覚えた。
口の端から涎を垂れ流し、今にも俺に噛みつこうとしていた怪物を必死に掌で押し返していて、気づけば、俺はその悪夢を『引き剥がす』という力を得ていた。
この頃になると、俺の力は、潜る他人の夢を選んだり、容易く他人の夢を引き剥がしたり、ひっつけたり出来るようになっていた。
後になって気づいたことなのだが、俺のこの力は他人に大きく依存する。
俺は誰かに『識られる』ことにより、力を確立させ、成長させることが出来るようになっているらしかった。
問題はこの後だ。
ちょっとしたボランティア感覚で他人の悪夢をひっぺがして悪夢を晴らしていたりした。
それが、口コミやらで能力の成長に影響を及ぼすことがちょっとだけ楽しみだったのかもしれない。
だが、ある悪夢に潜った時のことだ。
夢の中の俺の姿はなぜか近所の中学校の制服を着た女の子になっていた。
なぜなのか。
必死で理由を探った俺は、某掲示板の地域スレッドに辿り着いた。
◇
891,鳴坂市出身の無辜の民
なんか最近めっちゃ気持ち悪い夢見てたんだけど黒髪のクッソ可愛い女の子が出てきて助けてくれたわw
892,鳴坂市出身の無辜の民
くっそどーでもいいwww
893,鳴坂市出身の無辜の民
俺も最近誰かに助けられた夢見たけどあんま覚えてないわ
女の子だったのかも
894,鳴坂市出身の無辜の民
まぁ、夢だし
894,鳴坂市出身の無辜の民
俺は男だったけど女の子の方がロマンあるよな
現代異能バトルみたいでwww
◇
お ま え 話 盛 っ た だ ろ !
俺は激怒した。
確かにどうせ悪夢をひっぺがしてくれるなら俺みたいなお兄さんより美少女の方がいいだろう。
分かる。分かるよ?
でもさ……話盛らなくてよくない……?
俺さ……お前の悪夢引っぺがしたからもう悪夢見てないでしょ……?
恩着せがましい言い方すると恩人じゃん……?
この頃になってリアルの俺でも耳にするひとつの噂が広まっていた。
化け物の噂だ。
これが、世界中で多く散見されているらしい。
嘘か、真か。
実際に映像の類も流出しており、周囲ではちょっとした笑い話として片付けられていた。
だが、俺だけは笑えなかった。
俺みたいな特異な能力持ちが現実世界に牙を剥いているのか、それともマジモンの化け物が存在していたりするのか。
とはいえ、俺みたいに精神安定ぐらいにしか使えない超能力じゃどうしようもないな、と、内心諦めて、いや、多分安堵していたのかもしれない。下手に超能力が掌から炎が出てくるとかだったならヒーロームーヴに酔っていたかもしれないし。
そんなある日、目が覚めると、ふと違和感を覚えた。
枕が高くて、首が痛いのだ。
立ち上がり、灯りをつける。
更なる違和感。
視界は異様に低いし、足が寒いのだ。
ふと、姿見に視線をやる。
そこに立っているのは眠たげな目をした、肩まで伸びた黒髪に黒目、ゴスロリ衣装の中学生くらいの女の子が立っていた。
鏡の中の美少女の頬が引き攣る。
見覚えがあるどころじゃなかった。
その姿は、噂が進化して生まれた夢喰い美少女『夢子』(最新版)であった。
俺は飛びつくようにしてスリープ状態のPCを立ち上げ、街スレへと飛んだ。
◇
455,鳴坂市出身の無辜の民
海外の化け物動画見た?
ヤバくねあれ
456,鳴坂市出身の無辜の民
フェイクだろ
457,鳴坂市出身の無辜の民
リアルすぎてキモい
458,鳴坂市出身の無辜の民
まぁ、なんかあっても鳴坂には夢子ちゃんがいるからヘーキヘーキ
459,鳴坂市出身の無辜の民
さすゆめ
460,鳴坂市出身の無辜の民
真夜中に月をバックに化け物退治する魔法少女夢子ちゃんマジヒロイン
461,鳴坂市出身の無辜の民
都市伝説系ヒロイン
462,鳴坂市出身の無辜の民
漫画とかラノベの一巻とかに出てくるヒロイン感ある
◇
俺は深夜零時になると化け物と戦う魔法少女になる。
でも、正直、時々世界を滅ぼしてやりたいとも思う。
◇
◇
×眠そうな目をした系ヒロイン
〇深夜だからガチで眠い
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