ソード・ワールド2.5(sw2.5)リプレイ風オリ主小説 蛮族退治はもう古い!? アルフレイムに響けあたしの平和な歌声! (すー2018)
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導入&パーティメンバー紹介

冒険の始まり

 

 

ここは"呪いと祝福の地"アルフレイム大陸の南西部に位置するブルライト地方。

 

”大舞台”と呼ばれる芸術の王国マカジャハットの前衛的な意匠がこらされたバー「月明かりの夜亭」に彼らは集まっていた。

 

メンバーはいずれも、冒険するのは初めての者ばかり。

 

陽気なグラスランナーの少女が音頭をとる。「まずはかんぱーい!」

 

仲間を見つけられたことに気を良くした5人の、自己紹介が始まった。

 

まず。蛮族とさえ交流したいと考える変わり者のグラスランナー、ピコが語りはじめた……。

 

仲間たちも、おいしい酒に気を良くして、出自をすこしづつ語りだす。

 

ピコの目標である「世界中のひとに自分の歌を聞かせて幸せになってもらう」こととは違う、戦いや強さを求める者たちもいて……。

 

いろんな考え方がごった煮の出来立てほやほやメンバー、今後どうなっていくのやら??

 

 

 

登場人物紹介

 

 

ピコ(グラスランナー) 女 物語の語り手である主人公。

 

芸術が盛んな都市国家マカジャハット王国にやってきた、駆け出しバードのグラスランナー。

 

夢は歌で世界中のひとを幸せにすること! 「蛮族だって、あたしの歌を聞いてくれるならお友達だよ!」

 

取得技能はバードとセージ。友だちにラージャハ帝国在住のコボルドがいる。

 

 

ザムザム(メリア) 男 <大破局> の時代から生きる樹人の古老。

 

でも昔のことは覚えていないのか嫌な記憶があるのか話すことは稀。

 

「死ぬ前に大冒険がしたいのじゃ!」と人里に下りてきた。

 

ユーシズ魔導公国の学校で魔法を学んだ。通称ザム爺。取得技能はフェアリーテイマーとセージ。

 

 

リオン(人間) 男 親は元貴族。不祥事を起こした親のために、"はきだめの"魔動死骸区で育ったぼんぼんスカウト。

 

物事を斜に構えた物言いをするが、意外とお人好しで、悪事を働くことには向いてなさそうな優しさが根っこにある。

 

取得技能はスカウトとソーサラーとフェンサー。

 

 

ロッド(リルドラケン) 男 竜人。"奈落の壁"を守る"壁の守人"を務める親を持つ、パーティ内の主戦力。

 

立派な"壁の守人"になれるように旅をし、日々トレーニングに努める努力家の神官戦士。

 

取得技能はファイターとプリーストとエンハンサー。

 

信仰している神は"奈落の盾神"イーヴ。

 

 

ナナ(リカント) 女 ジニアスタ闘技場の花形決闘士の娘。獣人。特徴は猫耳としっぽ。

 

リカントに理解のあるハーヴェス王国で育った。

 

親のように強い相手を求め勝利したいと常に考えている。頼もしい姉御肌。

 

取得技能はグラップラーとスカウトとエンハンサー。

 

 

 

 

※技能説明

 

バード 吟遊詩人。楽器を持てば、呪歌という特殊な歌の効果を表すことができる。レベルがある程度になると、可愛いペットも飼える。

 

セージ 学者。敵や財宝の情報など、知識を問われるところで役に立つ。

 

フェアリーテイマー 妖精使い。妖精の力を使った魔法が使える。防具は非金属製の鎧でないと扱えない。

 

スカウト 隠密行動や、宝箱の鍵開け、遺跡の罠解除などを行うことができる。

 

ソーサラー 真語魔法という系統の魔法使い。真語・操霊の魔法使い系は、手で中空に魔法文字を書くために、魔法の発動体を持つ腕が自由な状態であり、かつできるだけ軽装であることが望まれる。

 

フェンサー 軽装の戦士職。筋力の半分の武器・防具を身に着けて、敏捷さを持ち味にして戦う。一撃必殺の能力が上がる特性を持つ。

 

重い防具を持てない魔法使い系でもこの技能を取得すると、攻撃をかわす能力を身に着けられるので相性がいい。

 

ファイター 言わずと知れた戦士職。武器・防具ともに強力な装備品を身に着けられる。お金がかかるので、序盤はすかんぴんになりやすいのが玉にキズ。

 

プリースト 神官。神聖魔法という、神の力を借りられる魔法を使える。武器防具に制限が無いため、戦闘系の技能との相性がいい。

 

魔法を行使するには<聖印>という神を信仰していることの証が必要。

 

エンハンサー 練体士。自らの体を強化する数々の技を習得できる。

 

グラップラー 自らの体で戦う拳闘士。パンチやキックなど、グラップラー専用の攻撃ができる。

 

敵の攻撃を俊敏な動きでもってかわすが、防具は薄く軽いものを身に着けることが推奨されるため、かわせずに当たると痛い。

 




オリジナル設定

「月明かりの夜亭」 新進気鋭の冒険者ギルド。酒場としての機能も高く、酒と料理がおいしい。

新しくできたばかりなので登録する冒険者が少なく、ひよっこ冒険者を応援してくれる。

マカジャハットの貴族にコネクションがあるらしく、そこからの依頼も多い。


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さあ、まずは自己紹介!

「ふう、おいしー!」

 

グラスに入ったワインを、あたしはちょっとづつ口にした。

 

いつもなら最安のエール片手に「ぷっふぁー!」もいいんだけど、今日は冒険仲間がそろった初めての大切な日! ちょっとくらい奮発しなくちゃね。

 

「まずは自己紹介しましょう! あたしはピコ。駆け出しのバード兼セージです」

 

パチパチパチ、と拍手がみんなから届いた。

 

「次は俺かな? 俺はロッド。武者修行中のファイター兼プリーストだ。エンハンサーもあるな。信仰している我が神は"奈落の盾神"イーヴ」

 

屈強な戦士が多いという竜人、リルドラケンのロッドが続く。パチパチパチ。また拍手が響いた。

 

「オレはリオン。今はこんな落ちぶれたスカウトなんてのをやってるが、昔は貴族だったんだぜ?」

 

次に、人間のリオンが挨拶した。

 

短い黒髪、くりっとした黒目のまだ少年と言ってもいい顔つき。笑えばイケメンだろうに、残念なことに言葉や表情に陰りがある。

 

「オレはソーサラーとフェンサーもやってる。鍵開けなら、きっと何とかなるさ」とリオン。

 

「んー……。リオンはそんなふうに自分のことを「落ちぶれた」なんていうけどさ。

 

スカウトって宝箱を開けたり、罠を外したりできる技術を持ってるから、冒険者仲間としては欠かせない大事な人だよ?

 

ソーサラーだって、魔法のことはさっぱりなあたしからすれば、魔法が使えることがすごいと思う!」

 

あたしは思ったことをリオンに告げた。

 

「……そうか? そう言ってくれると、すこし嬉しいぜ」

 

リオンが照れた。……可愛いところもあるじゃない。

 

「わたしはナナ。リオン君とはスカウト仲間だし、そっちの技術も持ってるけど、メインはグラップラーなの。エンハンサーもあるわよ。よろしくね」

 

猫耳としっぽがかわいい、ショートヘアの拳闘士、グラップラー……リカントのナナが告げた。

 

「ナナは、あのジニアスタ闘技場に行ったことがあるんだよね!」とあたしは聞いた。

 

「うん。うちの親は決闘士(グラディエーター)だから」

「すごーい!」

「まあ、うちの親に今は負けてるけど、そのうち強くなってみせる!」

「おお~!」

 

パチパチパチ、とみんなが拍手した。

 

「最後はワシかの? ワシはザムザム。ザム爺と呼んでくだされ。

 

大冒険がしたくてのう、ユーシズ魔導公国の学校を出てきましたわい。フェアリーティマーをやっておるよ。セージもな。

 

よろしくのう。ふぉっふぉっふぉっ」

 

樹の人、メリアのザム爺が深々と頭を下げた。頭に一輪のお花が咲いている。お茶目なおじいちゃんだ。

 

ザム爺のまわりを、ふわふわと何かが飛んでいる。

 

「それは……妖精だよね? ザム爺」

「そうじゃよ」

「わあ……! 可愛い!」

 

あたしは好奇心を刺激された。妖精ってごはん食べるのかなあ? おやつあげたい。

 

「これで自己紹介はおしまいね? じゃあ次は……」

 

あたしは、もうひとつ、みんなのことが知りたくて、質問した。

 

 



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みんなの夢は何ですか?

「じゃあ次は、夢! みんな、将来どんなことがしたいか教えてください」

 

あたしはみんなの顔をぐるりと見回した。

 

「あたしの夢は、アルフレイムのたくさんのひとたちに、歌で、幸せになってもらうことだよ!」

「素敵ね。わたしはピコの歌、好きよ」

 

ナナがうれしいことを言ってくれる。

 

「わたしは、ジニアスタ闘技場で自分の腕を試すことかしら? あとは……そうね……」

 

ナナは急に小声になり、ごにょごにょと呟いた。

 

「え? なーに?」

「お、お婿さんが、見つかったらいいな!」

 

必死の声で、ナナは恥ずかしそうに告げた。

 

「ははは、拳闘士、グラップラーの強気な女性と見ていたが、案外乙女なんだなあ」

 

ロッドが言う。竜人、リルドラケンの表情はイマイチよく分からないんだけど、優しく微笑んでいるように見えた。

 

「俺の夢は大きく行こうと思う。数々の依頼をこなすのもいいが、鍛えた果てには、いつか"奈落"の魔神と対峙したいものだ」

「ええ! そんなの、無理だよ! 死んじゃう!」

 

あたしは怖気づいた。

 

"奈落"というのは、アルフレイム大陸の北部にぽっかりと空いた異界への穴だ。

 

およそ3000年くらい前に栄えた古代魔法文明のころにできたものらしく、そこからは強力な魔神が現れて人々に襲い掛かってきたという。

 

古代の魔法王たちが封印したことで、人々は危機を脱したそうだ。

 

再び魔神がやって来ることに備えて、"奈落の壁"を作り、そこに"壁の守り人"と呼ばれる屈強な人々がいて、魔神との戦いに備えているという。

 

この"壁の守り人"と呼ばれる人たちこそ、冒険者の原点で、弱い者を助けるために盾となるんだって。

 

ふわぁ! 英雄譚として歌うにはうってつけの題材だけど、自分たちがそんな存在になるなんて、今は考えられないよ!

 

「今じゃない。いつか、の話だ。ナナの言うジニアスタ闘技場での腕試しも楽しそうだ」

「そっかあ。でもあんまり無理はしないようにしようね。あたしたちが行けそうなのは、とってもちっちゃい"奈落の魔域"くらいだと思うなあ」

「ははは、確かにな」

 

ロッドは快活に笑った。

 

"奈落の魔域"というのは、アルフレイム大陸のあちこちに、ときどき発生する"小さな奈落"だ。

 

それが現れるとき、北の空にオーロラが輝いて、それが示す先に現れるのだと言う。

 

その中は不思議なダンジョンになっていて、放っておくとその魔域が番人として魔神を召喚する。

 

魔神は、番人として"奈落の核"を守るようになるという。

 

小さなものならひとつの屋敷くらいの大きさのダンジョンだけど、大きくなるとひとつの城や要塞ごと"奈落の魔域"になる場合もあるらしい。

 

「ダンジョン! お宝! いいねえ」

 

リオンが相づちを打った。

 

「オレは、まずは金とかお宝だな! "はきだめの"魔動死骸区育ちなもんでね、金の無い暮らしがどんなにひどいか身を持って知ってるんだ」

 

ぶるぶるとリオンは身震いする。

 

「冒険できることになって本当にうれしいんだ。……そうだな、いつかは魔動死骸区で今でも苦しい暮らしをしてるオレのお世話になった人たちに、報いてやりたいな」

 

リオン……この子、シャイで現実的な物言いをするけど、本当はものすごく優しい子なんじゃ……?

 

「魔動死骸区かあ。魔動巨兵の残骸がたくさんあるところらしいね。治安がすごく悪いって聞いてるけど」とあたし。

 

魔動巨兵っていうのは、300年前、蛮族の大侵攻があった<大破局>のときに作られたもので、今は動いているものはいないとか。

 

多くの魔動巨兵の残骸は、高さ100mを超えるものもあって、それ自体が大きなダンジョンになっているところもあるんだって。

 

うう、面白そうではあるかも!

 

「確かに強盗だとか、暴行は多いさ。だけど、いわく付きの人間を受け入れてくれる寛大なところもあるんだぜ。

 

オレは、親の起こした不祥事のせいで貴族の座を追われたけど、そんなオレとオレの家族を迎えてくれたのは魔動死骸区の連中だったんだ」

 

リオンはしみじみと語っていた。

 

「そうなんだ……いっぱい稼いで、魔動死骸区に戻れるといいね! あたしも魔動巨兵のダンジョン、探検してみたーい!」

「ああ。そのうち一緒に行こうな、ピコ!」

 

リオンとあたしは意気投合した。

 

「いいのう、冒険じゃのう!」

 

樹の人、メリアのザム爺が目を輝かせた。頭のお花が二つ三つ、ぱぁっと咲き誇っている。

 

「ワシの夢は、もう、皆についてゆくことで叶いそうじゃよ! 老いて死ぬ前に、できるだけたくさんの冒険がしたいんじゃ!」

「そっかー。あたしも、みんなの冒険を歌にできたらすごくうれしいもんね。これでみんなの夢は全部かな? 一緒に頑張ろうね。かんぱーい!」

 

「乾杯!」とみんなの声が後に続いた。



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はじめてのぼうけん「ガラクタ部屋を片づけよう!」

「あっ、そうだ!」

 

おいしいワインを飲みながら、あたしはみんなに聞かなきゃいけないことを思い出した。

 

「みんな、支給された1200Gは、まだそのまま持ってるよね?」

「ああ。いろいろ買わなくてはいけないな」とロッドが答えた。

 

「なけなしの金だからなあ、大切に使わないとな」とリオン。

 

「冒険者セットに、日用品に防具……冒険するのって物入りねえ」と、ナナがため息をついた。

 

「まあまあ、何とかなるじゃろうて。ふぉっふぉっふぉっ」

 

ザム爺が呑気に笑った。

 

酒場で、そんなふうにワイワイやっていると、一人の人間の女性が近づいてきた。

 

「あら、あなたたち。パーティを結成したのね?」

 

酒場のおかみさん、マチルダさんだった。旦那さんのガッデンさんと一緒にこの「月明かりの夜亭」を切り盛りしている、柔らかな姿勢が優しい、みんなのお母さん的存在だ。

 

肩のあたりで切り揃えた亜麻色の髪、透き通った青色の瞳。緩やかなローブを基調とした服はセンスのいい、職人特注の高級品のようだ。

 

すこし年はいっているかもしれないけれど、なかなかの美人マダムだ。

 

「はーい。これからみんなで買い物に行こうかと思ってたんです」とあたし。

 

「ちょうど良かった。その前に、やってほしい仕事があるのだけれど、いいかしら」

 

マチルダさんが微笑んだ。

 

「えっ……オレたち、丸腰だし、何の装備も持っていませんよ」とリオンがいぶかしげに聞く。

 

「そんなに構えること、ないと思うわ。依頼したいのは、うちの部屋の片づけだもの」

 

マチルダさんがあたしたちの顔をひとりひとり、見た。

 

「部屋の片づけですかぁ」

「うちは、新しく始めたばかりでしょう? 初心者の冒険者登録が多くて、今のあなたたちみたいに、装備にも困っている子たちがいるのよね。

 

だから、あちこちの冒険者ギルドにお願いして、ベテラン冒険者がいらなくなった装備品を寄付してもらったのはいいのだけど、たくさん届きすぎちゃって、うちで一番広い部屋にとにかく詰め込んだのよ。

 

中には、使い物にならないものもけっこうありそうなんだけれど、そのふるい分けをお願いしたいの。

 

今回の報酬は、あなたたちに合う装備品があったらプレゼントということでどうかしら」

「それは……オレたちにとっちゃありがたい話だけど、なんで急に……?」とリオンが尋ねる。

 

「実は……うちの道楽息子が、帰ってくることになってね。

 

倉庫にしちゃったうちの一番広い部屋は、息子の部屋だったの。だから、不要な装備品は片づけて、人が過ごせるスペースを確保してほしいのよ」

 

「なるほど。こんなにありがたい依頼、引き受けねばのう!」とザム爺が言う。

 

「息子の道具も、たぶん、不用品に埋もれていると思うのね。あの子、大切なものは宝箱に入れていたから、スカウトの技術があれば開けてもらって構わないわ。

 

宝箱に入っていたものは、一度わたしに見せてもらえるかしら」

 

「わっかりましたあ! みんな、引き受けるってことでいいよね?」とあたしはみんなに聞いた。

 

断りたいと申し出る人はいなかった。

 

最初の冒険としては地味かもしれないけど、宝箱って聞いてテンション上がるし、マチルダさんの息子さんのために、お掃除を頑張れば、マチルダさんにも息子さんにも、よろこんでもらえるだろうしね!

 

「じゃあ、さっそく始めまーす!」

 

あたしたちは掃除道具を受け取ると、マチルダさんに案内されて「月明かりの夜亭」の奥の部屋に向かった。

 

◇   ◇   ◇

 

 

乱雑に積み上がったアイテムの数々の山が、部屋中ぎゅうぎゅう詰めになって、そこにあった。ぱっと見て、武器や防具、生活用品、趣味用品、ほんっとにたくさんある。

 

「うえー、意外と大変そうかも」

 

あたしは、見るだけで早くもすこしゲンナリした。

 

「重いものはわたしとロッドが持てばいいわね。ピコとリオン君とザム爺さんは、軽そうなものとかこまごましたものを片づけて」

 

ナナがてきぱきと指示をする。うう、いいお嫁さんになりそうだね、ナナ!

 

「了解だぜ!」

「ふわーい」

「承知しましたぞ。ふぉっふぉっふぉっ」

 

筋力無いチームのあたしたちは、ナナの指示に従って掃除を始めた。

 

擦り切れて着ることもできないクロースアーマーや、壊れた装飾品をあたしたちが片づけ、接続部が錆びて壊れそうな金属鎧なんかを、ナナとロッドに任せる。

 

しばらくして……。

 

「おっ」

 

リオンがうれしそうな声をあげた。

 

「どしたの、リオン?」

「見てくれよ。スカウト用ツールだぜ」

「スカウト用ツール?」

「鍵開けとか、解除とかに必須の工具セットさ。

 

市販品だと100Gするから、地味に財布の負担になるんだよな。

 

だけど、こいつがないとせっかく見つけた宝箱があったって、開けるにはとんでもなく苦労するんだ。

 

見ろよ、使い込まれてはいるけど、必要な針金だとかはみんな揃ってる。大切に使わせてもらうことにするよ」

「良かったね」

 

きっと、倉庫に埋もれているよりも、新しい使い手に渡って活躍した方が、道具もうれしいよね!

 

このあと、半日かけてお掃除をしたんだ。

 

見つかった装備品は……。

 

ロッドにはチェインメイル。本人は「ちょっと軽すぎるかもな」って言ってたけど、それはリルドラケンの基準が筋力高いからだよ! あたしたちグラスランナーに、装備出来る人いないよ!

 

ナナは、お洒落な刺繍が付いたポイントガード。古着なのに、すごく可愛い!

 

使ってた人が丁寧に手入れをしていたみたいで、使用済みの独特な味わいが出てる。

 

腰用の装飾品であるベルトもちょっといいのが見つかったので、ポイントガードと合わせて着るとほんとにいい感じ。

 

どちらもお金に変えるとそんなに高いものじゃないけど、ナナはお気に入りになったみたいで、ホクホク顔だ。

 

リオンは、さっきのスカウト用ツールと、防具のソフトレザー、そしてソーサラーの真語魔法を発動させるときに必要なメイジスタッフ。

 

三つも自分に必要なものが見つかるなんて、なんて運がいい子なんだろう!

 

ザム爺は、妖精魔法に必要な<妖精使いの宝石>が4個。

 

妖精魔法はこの<妖精使いの宝石>を装備していないと使えないんだって。

 

ザム爺が言うには、六系統ある妖精魔法の属性「土」「水、氷」「炎」「風」「光」「闇」をすべて使いこなすためには、6個、この<妖精使いの宝石>が必要なんだけど。

 

一度に使える妖精魔法は4つの属性までなので、属性変更をしなければ4個の<妖精使いの宝石>で何とかなるんだって。

 

あとは、ザム爺が着られそうなクロースアーマーも見つかったんだけど……。

 

「新しく冒険をするなら、新しい服がいいわい!」って、自分で新品を買うんだって。

 

まあ、ナナは古着を気に入っているし、人それぞれだよね。

 

あたし? あたしはクロースアーマーをもらうことにしたよ!

 

ナナと比べたらぜんぜん普通のクロースアーマーなんだけど、普段着を着て、今後冒険に出かけるわけにもいかないし、ないよりはマシだよね!

 

そうして、あとは、調理道具をひとつ。野外でも食べ物をおいしく料理したいじゃない?

 

でも食器セットとか下着とかはさすがにお古とはいかないので、あとで新品を買わなくちゃね。

 

だいぶ片付いて、部屋がどうにか見渡せるようになってくると……ありました、宝箱!

 

見渡せるようになった広いお部屋の隅っこに、あたしたちが選別した使える装備品の中に混じって、三個も! なんだけど……。

 

「あれは……?」

 

あたしとザム爺は、セージの知識を駆使して宝箱の隣にひっそりと佇んでいる「魔動機」を見た。

 

丸い頭の、1mくらいのずんぐりとした姿で、体全体が硬質の輝きを放っている。

 

片腕に当たる部分がハンマー状になっていて、当たったらすごく痛そう。

 

足の部分は、車輪になっていた。

 

「ドルンじゃな」

「え……ドルン?」

 

あたしはど忘れしちゃったみたいで、ザム爺の次の言葉を待った。

 

 

「魔動機文明のころに作られた、警護用の魔動機じゃ。何かを守っているのじゃろうのう」

「何かって……あの宝箱に決まってるよ!」

 

うええ、困った! どうしよう。

 

「そのドルンとやらが、どう動くのかちょっと見てみる必要があるな」

 

チェインメイルをさっそく装備したロッドが、ゆっくりと宝箱に近づいた。宝箱から半径1mくらいに近づいたとき、ぐいーん、とドルンの腕が上がった。

 

「おっと」

 

下がると、ドルンの腕も下がる。

 

「まいったな。近づく者から宝箱を守るように言われてるんだろうな……こちらは素手。あちらさんは、ものすごく固そうだ」とロッド。

 

「この部屋にあるし、壊したらマチルダさんが悲しむよね……どうしよう」

 

あたしも考えてみたけど、いいアイディアが思いつかない。

 

「そうだ! こういうのはどうだ?」

 

そんなとき、リオンがポンと手を打った。何かを思いついたみたいだ。

 

「ちょっと待ってろ」

 

リオンはあちこちに並ぶ装備品を物色して、一本のロープを持ってきた。

 

「こいつを張って、罠を作ろう。見たとこ、ドルンのやつは足の車輪で動くんだろ。足にロープを絡めちまえば動けなくなるんじゃねえか?

 

それならひどく壊れることもねーだろうし」

 

おお、グッドアイディア!

 

「じゃあ、リオン君は罠を設置して。わたしとロッドが盾になって罠におびき寄せる役をやるわね」

「オッケー。罠を張るのに10分かかるな。ちょっと待っててくれ」

 

さっそくスカウト用ツールを使って、リオンが罠を作り始めた。ちょうどドルンの足のあたりの高さで、ピンとロープを張る。簡単なドルン捕獲の罠の完成だ。

 

「行くわよ……!」

 

ナナが素早く宝箱に近づいた。ぐいーん、とハンマーが上がる。

 

ナナ目がけて落とされようとしたそれを、ロッドがかばってガツンと引き受けた。

 

そうして、じりじりと戦いながら罠に近づき……ピン、とドルンの足にロープが絡みついた!

 

どしーん、とドルンが倒れる。ういーんういーん、と必死に車輪を回しているみたいだけど、リオンの狙い通り、車輪にロープが絡みついて動けない。

 

「やったあー!」

「良かったのう」

「お宝ゲットだぜ」

「案外、簡単だったわね」

「そうか? 結構、ハンマーは痛かったけどな。しかしこれで宝箱が開けられるな」

 

あたしたちは喜び合った。

 

三つの宝箱の鍵は、そんなに複雑なものでもなく、スカウト用ツールを使ったリオンの手によって次々に開いた。

 

ひとつめの宝箱には、<剣のかけら>が三つ。<剣のかけら>っていうのは、町を、魂の穢れた存在から遠ざけている<守りの剣>の力の維持のために必要なアイテム。

 

ふつうは魔物を倒すと、ときどきその体から見つかることがあるらしい。

 

お金に換金することもできるけど、それは不名誉なこととされていて、名誉を重んじる冒険者ならば、無償でギルドに譲渡するそう。

 

マチルダさんの息子さん、たぶん冒険の思い出のつもりでこの<剣のかけら>を持っていたのかもしれないね。

 

となると、マチルダさんの息子さんも冒険者なのかなあ?

 

ふたつめの宝箱は……人間の大人が扱うにはちょっと小さめな、子ども用と思われるリュート。

 

「見てナナ! あたしにぴったり」

 

リュートを手にして、あたしは弦を弾いてみせた。

 

「欲しいなー、このリュート」とあたし。

「はいはい。マチルダさんと交渉が必要よ」とナナがたしなめた。

 

そしてみっつめの宝箱には……。

 

「何だこれ……?」

 

リオンが中身を取りだした。

 

宝箱に大事そうに入っていたのは、一冊のスケッチブック。パラパラとめくってみると、どのページにも子どもが描いたっぽい落書きがいっぱい。

 

「……破って捨てちまおうか」とリオンが言った。

 

「だめだよー! ドルンに守らせてまで大切にしてた宝箱から出てきたんだよ! もしかしたらとっても大事なものかもしれないよ」と、今度はあたしがたしなめた。

 

「……息子さんやマチルダさんにとっては、宝物なんじゃろうのう」と、ザム爺が思慮深い顔をして言った。

 

「さあ、部屋もだいぶ片付いたし、宝箱の中身も手にできたし、撤収、撤収~!」

 

あたしはみんなにそう告げた。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

「終わったのね? お疲れさま」

 

あたしたちはギルド内にある、マチルダさんの私室に通されていた。酒場や宿屋のエリアとはだいぶ遠いので、静かで落ち着いたところだった。

 

「宝箱に入っていたのが、こちらです」

 

あたしは、<剣のかけら>と、小さなリュートとスケッチブックをテーブルに並べた。

 

「まあ……あの子ったら」

 

マチルダさんの瞳が、みるみるうちに潤んだ。

 

「このリュートは、あの子が子どものときに、どうしてもやりたいって言うから持たせたものなの。

 

結局バードは目指さなくなって、使うことは無くなってしまったけれど、わたしにとってはあの子が小さなときを思い出す、大切な宝物よ。

 

……それに、このスケッチブック! そう……これはあの子の原点ね」

 

「原点……?」

 

あたしたちが続きを聞こうと静かにしていると、部屋のドアがコンコンとノックされた。

 

扉が開いて入って来たのは、マチルダさんの旦那さん、ガッデンさん。つるっと剃り上げたスキンヘッド、隆々の筋肉。

 

この「月明かりの夜亭」のギルドを統括している、とっても偉い人だ。

 

「おい、マチルダ!」

「なあに?」

「あいつが……あいつが帰ってきたぞ!」

「まあ……本当に!?」

 

マチルダさんは、急いで「月明かりの夜亭」の入り口に向かった。あたしたちも後を追いかける。

 

そして到着すると、そこには、マチルダさんと同じ亜麻色の長い髪をひとつに束ねた、背負い袋にスケッチブックを載せた青年が立っていた。

 

「ただいま……母さん」

 

彼の、マチルダさん譲りっぽい優しげな青い瞳がすっと細くなった。

 

「ああ……お帰りなさい」

 

マチルダさんが静かに彼を抱きしめた。

 

「ちょ…ちょっと母さん。みんなが見ているよ」

 

青年は恥ずかしそうだ。

 

「あなたが無事だったから……うれしくて」

 

マチルダさんは泣いていた。

 

「ごはんはちゃんと食べていた?」

「食べてたってば。いつまでも子ども扱いするんだから」

 

青年が恥ずかしそうに笑う。

 

「あ、あのー」

 

感動の再会に遭遇したあたしたちは、なんとも間抜けな声をあげざるを得なかった。

 

 

マチルダさんの部屋に、あたしたちと青年は通されていた。

 

「うわあ……このリュート、なつかしいな! それにこのスケッチブックも」

 

青年がうれしそうな声をあげる。

 

「あ、あのー」

「あっ。申し遅れてすみません。僕は、画家のハイルアートと言います」

 

青年、ハイルアートがぺこりと頭を下げた。

 

ハイルアート……?

 

「どこかで、そのお名前、聞きましたかのう」

「あたしも知らないなあ」

 

あたしとザム爺は首をかしげた。

 

「はは。僕は最近、ようやく絵画で食べられるようになった人間ですから、知らなくても無理はないですね」

 

ハイルアートが頭をかく。

 

「僕の部屋を片付け、思い出の品も見つけて下さり、また、ドルンを壊さないで下さってありがとうございました」

「やっぱり! あのドルンは壊さなくて良かったんですねー」

「そうだ。お礼に、このリュート、持って行ってください」

「えっ……いいんですか?」

 

言葉こそ尋ねる口調になってるけど、あたし、このリュートものすごーく欲しい!

 

「そちらのグラスランナーさんだったら、まだ弾けるでしょう? 僕が持っていても宝の持ち腐れですから」

「ハイル! いいの?」

「いいんだ、母さん。母さんの思い出には、このスケッチブックがあれば十分さ」

「わあ……ありがとうございます! とってもとっても、大切にします!」

 

ハイルアートからリュートを手渡され、あたしは、もう最大限の力で何度も何度も頭を下げた。

 

「そうそう、<剣のかけら>もあなた方から受け取ったことにするわね。一所懸命、掃除をしてくれたお礼」

「ありがとうございます、マチルダさん!」

 

 

……こうして、初めての冒険は大成功に終わったんだ。

 

 

 

 




オリジナル設定

マチルダ……マカジャハットに新しくできた冒険者ギルド「月明かりの夜亭」のマダム。芸術に理解がある。

ガッデン……マチルダの旦那さん。元冒険者で、スキンヘッドにいかつい筋肉がトレードマーク。マチルダとともに、冒険者に対してとても親切にしてくれる。

ハイルアート……ガッデンとマチルダの息子。マカジャハットで認められつつある画家。


追憶の子ども用リュート……今回のセッションでピコがもらうことになった楽器。子ども用といっても作りは精巧にできていて、美しい音色を奏でる。

ドルンに対する罠の効果……ロープの罠でドルンが動けなくなる、という設定はオリジナルのものです。


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レベルアップとお買い物。そしてあたしが「りーだー」に!

初めての依頼を成功させることができたので、あたしもみんなも上機嫌だった。

 

あたしは本職のバード技能を上げて、会話に、もともと持っていたグラスランナー語、交易共通語、汎用蛮族語に次いで、魔神語を増やした。

 

これで蛮族や魔神にだって伝わる歌を作りたいと思ってね!

 

バードとセージを持つあたしは、自分で言うのも何だけど、なんてバイリンガルなんだろう!

 

あとふたつ言語を持ってるけどそれはまた必要になったら紹介するね。

 

それと、新しくフェンサー(軽装の戦士)の技能を習得したの。これで、もし攻撃されても、かわせる可能性がだいぶ上がったよ。

 

武器? バードの呪歌を奏でるためには、両手持ちのリュートが必要だし、第一、あたしは誰かを傷つけるのは嫌いだから、持たないつもりなんだけど……。

 

ロッドはファイター、ナナはグラップラーという本職の腕を磨いたみたい。リオンもあたしと同じフェンサー技能を上げた。いざっていうときはメイジスタッフでぶん殴るのかなあ……?

 

ザム爺は地道にセージを上げた。いろいろな場面で知識って必要になるから、頼もしいな。

 

 

 

「町に買い物しようぞい」というザム爺の言葉に従って、あたしたちはマカジャハットの繁華街に繰り出した。

 

「見て見てナナ! 可愛いドレスー!」

「こっちのお店にも、お洒落なブーツがあるわよ!」

 

あたしたち女性陣は、お店の並ぶ通りのあっちを見たり、こっちを見たりして盛り上がっている。

 

ロッドは武器のお店を見て、次にお財布の中を見つめて、悩ましいため息をついていた。

 

「ロッド、どうしたってんだ?」

「いや……強い武器を買いたいんだが、懐事情が許してくれなくてな」

 

リオンの問いに、ロッドが情け無さそうな顔をする。

 

うん、リルドラケンの表情にもだいぶ慣れてきたよ。

 

「ロッドは何の武器が好きなの?」とあたし。

 

「剣はスタンダードで扱いやすいし、アックスやメイスも捨てがたい。だけど、一撃必殺の機会が多いほうがいいし……。

 

そうなると、俺の筋力にちょうどぴったりなのは何かと思ってな」

 

「安くて便利なのはスピアじゃないかしら?」とナナが言った。

 

そっか、ナナは花形決闘士の娘さんだもんね! きっと親御さんの戦うところを見てるから、武器もたくさん見たことあるよね。

 

「……そうだな。とりあえずは両手持ちのロングスピアにでもするか」

 

ロッドがそう言って武器屋に入っていった。

 

マカジャハットの町は、全体がお洒落だ。武器屋ひとつにしたって精巧な作りの看板がぶら下がってるし、そのほかの店も、綺麗でセンスのいい佇まいをしてる。

 

「懐かしいぜ。貴族だった頃は、高い店でずいぶん飲み食いしたこともあったっけなあ」

 

リオンがぽつりと言った。

 

「昔は昔だよ、リオン! 一般人の感覚に戻れて良かったと思おうよ」

「そうだな。金に関しては、一般よりアコギになったかもしれねえな」

 

リオンは苦笑した。

 

ロッドが武器屋から出てきた。扱いやすそうな両手持ちのロングスピアを持っている。

 

「見てくれ、俺の筋力にぴったり合うロングスピアが売っていたんだ」

「へえ! そういう、買い物のいいタイミングってあるよね、ロッド!」

「良かったわね。先の依頼は武器を持っていなくて結果的に良かったけど、そんな場面が、これからはなかなかあるはずもないでしょうし」とナナ。

 

「これで心おきなく戦える!」

 

ロッドはうれしそうだった。

 

「ええ……戦うの、やだなあ」とあたしが言うと。

 

「俺だって無益な戦いは避けたい。だが、蛮族は、大抵敵対的で、あわよくば俺たちを食っちまおうと狙っているらしいぞ」

「そんなことないよ! あたし、蛮族のコボルドに友だちがいるけど、とってもいい子だもん!」

「それは、そのコボルドが特殊なんだ」

「戦うのは、ほんとに嫌だよ……」

 

言葉を繰り返し、あたしはうつむいた。

 

「ピコ。あなたのそういうとこ、弱いようにも思えるけど、わたしは好きよ。何にでも喧嘩をふっかけるようなヤツよりは、断然マシだもの。パーティをまとめる役目は、ピコ、あなたが相応しいと思うわ」

 

「すまん、ピコ。俺も言い過ぎた。パーティで行動するには、お前くらい慎重で戦いが嫌な奴が代表のほうが、確かにいいかもしれん」

 

「そうだぜ! 戦いよりトンズラ! お宝さえ手に入っちまえばあとは逃げたって構わないと思うぜ」

 

「ふぉっふぉっふぉ。ピコは優しいのう」

 

みんなが優しい言葉をかけてくれる。

 

「ええ……あたし、パーティリーダーやってもいいの……?」

 

その問いに、みんながうなずいた。

 

「分かりました! あたし、精一杯頑張るね!」

 

あたしは大切な役目を引き受けて、にっこりと笑顔になった。

 

 




パーティメンバー各種技能レベル

ピコ 

 バードLV3 セージLv1 フェンサーLv1 

ロッド

 ファイター Lv2 プリーストLv1 エンハンサーLv1  

ナナ

 グラップラーLv2 スカウトLv1 エンハンサーLv1  

リオン

 スカウトLv2 ソーサラーLv1 フェンサーLv2 

ザムザム

 フェアリーティマーLv2 セージLv2 


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2ばんめのぼうけん「腹ペコウルフを手なずけよう!」

あたしたちは、それぞれ最低限、冒険に必要なものを購入した。

 

あたしは新品の、みんなの分の食器セットを買った。これと、ガラクタ部屋で見つけた調理道具を合わせれば、冒険中でもおいしくごはんが食べられる!

 

ロッドは神聖魔法を使うのに必要な<聖印>を発行してもらった。これで、神さまからの加護を得て神聖魔法を使うことができるね。

 

リオンは「地図を作るのに必要だぜ!」と、羽根ペンとインクと羊皮紙を買った。

 

あとはみんな、ひとりづつ冒険者セットと一週間分の着替えセット。

 

冒険者セットは背負い袋、水袋、毛布、たいまつ6本、火口箱、ロープ10mと、とりあえず冒険に使うものが一揃い。ひとつひとつ買うよりお得だったよ。

 

そうして、冒険の準備ができたあたしたちが「月明かりの夜亭」に戻って、一晩泊まり、朝ご飯をギルドの酒場兼食堂のエリアでもぐもぐと食べていると。

 

マチルダさんが、やって来た。

 

「昨日はお部屋の掃除、ありがとうね。今日はまた一つ、依頼があるのだけどいいかしら」

 

「はい! 何でしょう?」

 

お仕事と聞いて、あたしは興味深々にマチルダさんの次の言葉を待った。

 

「ここマカジャハットから半日で行けるユゴー村というところがあるのだけれど……。

 

そこは森に近くて、ときどき魔物が出るらしいの。今回は、そこに住んでいる村人さんからの依頼よ。

 

ユゴーに暮らす村人のひとりが、村のそばでウルフを見かけたのですって。

 

今のところ被害は出ていないそうだけど、安心して暮らすためにウルフを何とかしてほしいそうよ」

 

「ウルフですかぁ……」

 

あたしは頭の中にある魔物の知識をフル稼働させた。

 

ウルフ。森や草原でよく見かける小型の狼だ。そんなに強い魔物じゃないけど、群れで行動してるから、数が多いと、大変かもしれない。

 

「そうですね……あたしたちで対処できそうな数だったらいいんですけど」

 

二、三匹のウルフなら、あたしたちだけでも何とかなりそうだけど……それ以上はちょっと無理そう。

 

「分かったわ。あなたたちを死地に送るつもりはこちらもないわ。

 

手に負えなさそうなときは、逃げてね。

 

報酬はひとり1000G。前渡しに、ひとり一個ずつのヒーリングポーションと一週間分の干し肉やナッツ、ドライフルーツの保存食をあげるわね。捜索も一週間で一区切りつけてちょうだい。

 

手に負えなかった場合、見つからなかった場合は、報酬は残念だけどあげられないわ。それでも、一度マカジャハットまで戻ってきてくれるかしら」

 

「はい。それくらいなら! ……みんな、引き受けていいよね?」

 

「おう! このまま暮らしてちゃ、生活費がかかるだけだからなあ」とリオン。

 

「いよいよ冒険じゃな! ワクワクするわい」とザム爺。

 

「すぐに見つかるといいわね」とナナ。

 

「腕が鳴るな!」とロッド

 

みんな全員、賛成だった。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

ユゴー村には夕方着いた。ユゴー村のひとたちはとても親切で、村長さんの家にあたしたちは一晩泊めていただくことになった。

 

食事もふるまわれて、お肉と野菜の炒めものの郷土料理をあたしたちは食べた。

 

うん、質素だけどおいしい。

 

「さっそく来てくださって助かりました。ありがとうございます」

 

食べているあたしたちに、村長さんが礼を述べた。

 

「こちらが、ウルフを見かけた村の者でございます」

 

紹介されたのは、リオンと同じくらいの年ごろの少年。

 

「ありがとうっス。明日、ウルフを見かけた場所までご案内するっス!」

 

「うん。明日は案内をお願いするね! そのあとは、あたしたちで探してみるから」とあたし。

 

「よろしくっス!」

 

食事の後、あたしはリュートを奏でながら即興の詩を歌ってみた。初めての演奏だからか、ちょっと……あまり上手いとは言えなかったけど。

 

それでも拍手が、村長さんと案内役の少年、そしてみんなからもらえた。

 

うん。演奏や歌を聞いてくれるお客さんがいるっていいね。

 

 

 

 

一晩経ち、あたしたちは少年の案内に従って村の近くの森へと足を踏み入れた。

 

「……ここが、ウルフを見かけたところっス」と、少年が言う。

 

「ありがとう! 気を付けて帰ってね」とあたし。

 

少年は頭を下げて去っていった。

 

「さて……何か残ってりゃいいんだけどな」

 

リオンが地面を丹念に調べ始めた。

 

「おっ」

「どしたの?」

「見つけたぜ。ウルフの足跡だ。今日付いたばっかりのやつだぜ」

「すごーい! じゃあ、それを追いかけていけばいいね?」

 

「森の中はウルフだけじゃない危険もあるだろうし、気を付けていかないとな」とロッドがロングスピアを手にした。

 

森の中は、木々が立ち並んでいた。木漏れ日が心地いい。足跡を追って、しばらく歩くと……。

 

いました! ウルフが三匹!

 

でも……。

 

あたしはウルフの異変に気が付いた。

 

「ガウ……!」

 

ウルフもあたしたちに気が付き、吠え出した。

 

でも……でも。特徴的なのは、ウルフたちのおなかだった。三匹ともあばらが見えるくらい、ガリガリにやせて、足元がふらついている。

 

「……なんか、一瞬でかたがつきそうなんだが?」

 

ロッドも拍子抜けしたみたいだ。

 

ウルフたちは、ガウガウ吠えてるけど、一向に攻撃してこない。攻撃する余力もないほど弱ってるっぽい。

 

「おなか減ってそうだね……そうだ!」

 

あたしは背負い袋から、干し肉を取りだした。

 

「ほら、あげるよー」

 

あたしはウルフたちに干し肉を投げてやる。

 

わき目もふらず、ウルフたちは干し肉にがっついた。あっと言う間に食べ終わり……。

 

「ウウー、ガウ!」

 

あっ……!

 

近づいてたあたしに、ウルフの一匹が飛びかかった。

 

「ピコ!」

 

ナナが叫ぶ。

 

……だけど。

 

あたしは無事だった。

 

「クゥーン、クゥーン」と、ウルフが鼻を鳴らしてあたしの顔をペロペロとなめた。

 

「な、なつきやがった……!?」とリオン。

 

「よしよーし。いい子だねぇ」

 

あたしはウルフの背中を撫でてやった。心地よさそうに撫でられている。

 

「よく慣れとるのう……?」と、ザム爺がいぶかしんだ。

 

「こんな子たち、殺せないよ……」

 

あたしはうつむいた。

 

「ウー、ガウ!」

 

ピクン、とウルフたちが反応した。ガサガサと森の奥から音がする。

 

「何だ……?」

 

あたしたちは、音に向けて、いつでも戦闘に入れるような体勢をとる。

 

現れたのは、真っ白な毛に覆われた、大柄な体の……。

 

「ボルグじゃ!」

 

ザム爺がその名を告げた。

 

ボルグ。蛮族だ。たくましい腕の先の手に、錆びついてそうな剣を持っている。

 

「テキ コロセ!」

 

ボルグの口から、汎用蛮族語が聞こえた。

 

「こいつがウルフたちを飼っとったのか……?」とザム爺。

 

「ウー……ガウ!」

 

ウルフの一匹が恨めしそうな声を出して、ボルグに飛びかかった。

 

だけど、ヨロヨロしたウルフの攻撃は、あっさりとよけられた。

 

「ウラギリ コロス!」

 

ボルグの剣が、ウルフを貫いた。ウルフが地面に倒れ伏す。

 

「ワレ オオイ ココ サレ!」(あたしたちのほうが多い、お前はここを去れ!)と、あたしは汎用蛮族語で話しかけてみた。

 

「ヒト コロス! ワレ タタカウ!」

 

ダメだ。話を聞こうともしない。

怒り狂ったボルグが、こちらに向かってきた。

 

「ピコ、下がれ! あとは俺たちに任せろ」

 

ロッドがあたしの前に出た。

 

 

 

 

戦闘が終わった。あたしたちとウルフ二匹の攻撃を受け、ボルグは倒れた。

 

ボルグの体から、五つの<剣のかけら>が浮き上がる。それと、ボルグの持っていた錆びついた剣を回収して、あたしたちは帰路についた……二匹の、なついたウルフと共に。

 

村のひとたちには、ボルグに殺されたウルフの毛皮を渡して、ウルフを退治したと告げた。

 

なついた二匹のウルフたちに、干し肉をすこしづつやりながら、あたしたちはマカジャハットに戻ってきた。

 

街の前で、パーティのみんなにウルフ二匹の面倒を任せて、あたしは「月明かりの宿亭」に戻り、マチルダさんに事情を説明した。

 

ウルフを操っていたのはボルグだったこと。残ったウルフ二匹を連れてきてしまったこと。

 

ウルフたちはよく慣れていて、食べ物さえあれば、攻撃の意思はあまり無さそうなこと。

 

そうしたら、マチルダさんは「ちょうど良かったわ」と言って、一人の男性を連れてきた。

 

ドワーフだった。きらきらとした金色の髪と長い髭。赤いスーツに身をまとい、黒いシルクハットをかぶっている。

 

「お話は伺いました。私はマカジャハットを拠点に活動する総合芸術団の長、バケットと申します」

 

「総合芸術団……?」とあたしは尋ねる。

 

「歌に踊り、絵画に演劇……様々なパフォーマンスを見せるのが、我々でしてな。

 

ちょうど今、新しい演目として動物を使ったショーをやりたいと考えておりました。

 

聞けば、そのウルフたちは、とてもよく調教されているご様子。うちの団員に、動物の扱いに慣れた者がおりますから、何とかなるでしょう。どうです、うちで引き取らせてはいただけませんか?」

 

「ありがとうございます! そうしていただけると、とても助かります!」

 

ありがたい申し出に、あたしは礼を述べた。

 

バケットさんは団員さんを従えて、町の外まで付いてきてくれ、ウルフ二匹を預かってくれた。

 

門番の人がいぶかしんでいたけど、バケットさんのことをよく知っているみたいで、興業に使う大きな犬です、と言うバケットさんの言葉を聞いて、門を通してくれた。

 

こうして、2番目の冒険は終わりを告げたのだけれど……。

 

「この依頼は、半分成功というところね。一人500G、プレゼントするわ」とマチルダさん。

 

まあ、それでも当面のお金が何とか手に入ったので、ほっとしたよ。

 

いつか、バケットさんのショーも見てみたいなあ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル設定

バケット……金の髪と髭、赤いスーツと黒のシルクハットが特徴的な、マカジャハットの興行師(ショーマン)。詩人や踊り子や画家などを集め、町でパフォーマンスを行うテントを開いている。町の人たちには大人気で、門番でさえその名を知られているほど。

ラージャハ帝国のドノンⅣ世の親戚で、バケットもまた、蛮族やナイトメアに対する偏見を持たず、実力で判断する。

ユゴー村……村と村人たちの設定はオリジナルのものです。

ウルフたちの反応……ウルフが仲間になり、大きな犬として町に入れてもらえるという設定は、オリジナルのものです。


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レベルアップとお買い物。そして新たな戦闘特技の習得!

ウルフたちをバケットさんに預けて、あたしたちは「月明かりの夜亭」に帰ってきた。

 

あたしはバードを上げた。ブルライト地方の話し言葉を覚えたし、新しく覚えた呪歌もひとつ……「レクイエム」だ。襲ってきたから倒しちゃったけど、あのボルグへの弔いの歌を捧げようと思ってね。

 

今後も、どうしても戦わなくちゃいけない場面って、ありそうだから……。せめて、この「レクイエム」で、死なせてしまった相手に対して追悼したいと思うの。

 

それは、バードとして平和を歌いたいあたしの気持ち。

 

ロッドとナナはそれぞれの本職であるファイターとグラップラーを上げた。これで、二人は新しく戦闘特技を取得した。

 

ロッドは<武器習熟A>を扱えるようになり、ナナは<防具習熟A>を覚えた。

 

これで、ロッドは武器の効果をすこし高め、お店で売っているAランクの武器を、ナナは防具の効果をすこし高めて、Aランクの防具を装備できるようになった。

 

まあ、装備出来るよってことだけで、まだまだお金がないから、今のところお店で見てるだけの状態だけどね!

 

ナナは、グラップラーが装備可能なAランクの防具、アラミドコートが気になっているみたい。

 

でも、この間手に入れたお古のお洒落なポイントガードが気に入ってるし、買ったら先々の生活費が気になっちゃうから、今のところはこのままの装備にしておくんだって。

 

ロッドも、ひとまずお古のチェインメイルと、このあいだ買ったロングスピアがあるから戦闘には困らないし、神官として<聖印>を使うために100G払ったこともあって自重したいみたい。

 

リオンも今回の買い物は無し。お部屋の片づけで三つも必要なものが手に入っちゃったから、余裕あるよね。

 

リオンはスカウトを上げて、新しく戦闘特技の≪回避行動Ⅰ≫を覚えた。敵からの攻撃のとき、回避力がほんのちょっと上がったね。

 

ザム爺は、フェアリーティマーとして、すこし強力な妖精が召喚できるようになったので、4つの<妖精使いの宝石>を売って、新しい、今のレベルに合った<妖精使いの宝石>を4つ400Gで購入した。

 

ふわあ、フェアリーティマーって案外、お金がかかるものなんだね! それに、今は<妖精使いの宝石>を四つの部位にそれぞれ装着してるから、ほかのものが装備できないんだ。

 

まとめるには、今ザム爺が扱っている4種の属性だったら<宝石ケース>が、6種だったら<華美なる宝石飾り>が必要になって、<宝石ケース>は100G、<華美なる宝石飾り>は200Gと、名誉点が20点、必要になるんだって。

 

この名誉点というのは、<剣のかけら>をギルドに譲渡したときにもらえるもので、最初の冒険で宝箱に入ってたのと、二番目の冒険でボルグから得たものを渡して、今は25点パーティにあるんだ。

 

これを使えば<華美なる宝石飾り>も買えるけど……。

 

ザム爺は「まだいらんわい」と、断っちゃった。

 

ああ、でもそのうち必要になるかもしれないから、名誉点をどうするか、これから考えていかなくちゃいけないね!

 

ザム爺が新しく覚えた戦闘特技も≪回避行動Ⅰ≫だった。ザム爺は戦士系の技能が無いから、ちょっとでも攻撃をよける力は、あったほうがいいよね。

 

そうしてバタバタと次の冒険に向けて、あれこれ準備してるうちに、あっと言う間に夜になっちゃった。

 

「月明かりの夜亭」に一晩宿泊。

 

そうして朝になったら、あのガッデンさんとマチルダさんの息子さん、ハイルアートさんがあたしたちのところにやって来たんだ……。




パーティメンバー各種技能レベル

ピコ 

 バードLV4 セージLv1 フェンサーLv1 

ロッド

 ファイター Lv3 プリーストLv1 エンハンサーLv1  

ナナ

 グラップラーLv3 スカウトLv1 エンハンサーLv1  

リオン

 スカウトLv3 ソーサラーLv1 フェンサーLv2 

ザムザム

 フェアリーティマーLv3 セージLv2 


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3ばんめのぼうけん「画家さんを護衛しよう!」

「おはようございます、皆さん。昨日はよく眠れましたか?」

 

ハイルアートさんがにこにこしながらあたしたちに聞いた。

 

「はーい。この「月明かりの夜亭」のごはん、おいしいですねー」とあたし。

 

「お口に合うようで良かったです。実は……僕からの依頼があるのですが、聞いていただいてもいいですか?」

 

「何ですかのう? また冒険のお話ですかな」と、ザム爺が目をきらきら輝かせた。

 

「はい。僕はブルライト地方の、街の絵をよく描くんですが、今回は趣向を変えて、自然の風景画を描いてみたいなって考えているんです」

 

「ふむふむ」とリオン。

 

「そこで、とても美しいと言われているファーベルト平原の、菜の花の一種であるパマナが一面に咲いているところをスケッチしてみたいんですね」

 

「ファーベルト平原か。ここマカジャハットからだと、東のジニアスタ闘技場を抜けて、そこから南東のハーヴェスを通って、さらに南東か。ちょっと遠いところにあるな」とロッドが言う。

 

「美しいところっていうけれど、魔物もたくさんいて危険なところでもあるわね」とナナ。

 

「そうなんです。そこで、何かのご縁かと思って、行き帰りとファーベルト平原に滞在している間の護衛を、皆さんにお願いしたくて」

 

「なるほど……。どうする、みんな?」

 

あたしは聞いた。

 

「オレたち、すこし力もついてきたし、いいんじゃねーか? あ、もらうもんはきっちりするのと、無茶苦茶に強い魔物が出たら逃げるけどな!」とリオン。

 

「ジニアスタ闘技場と、ハーヴェスを通るのね……」

「どしたの、ナナ?」

「親に会えるけど、どうしようかなと思って」

「あ……花形決闘士の!」

 

そっか。ナナはハーヴェスにある家を出てきたんだもんね。

 

「親にはのう、会えるときに会っておいた方が良いぞい」とザム爺が諭した。

 

「そうね……じゃあ、ハーヴェスでは、うちの実家に泊まる?」

「うん。そうしてくれると、助かるよ! ナナの親御さんにも会ってみたいしね」

 

「決まりだな」とロッドが言った。

 

「ありがとうございます! 報酬は、ひとり1500G。先に<魔香草>をひとつづつと、往復分の保存食すべてをお渡ししますね。行く先々の街での滞在費も、こちら持ちでいいですよ」

 

話がまとまったと思うと、マチルダさんがやってきた。

 

「また出かけるの……?」

 

マチルダさんは心配そうだ。

 

「大丈夫だよ、母さん。今回はこちらの護衛も付いているし」

 

ハイルアートさんが言う。

 

「まあ……息子がまたお世話になるわね。よろしくお願いするわね、みなさん」

 

「はーい! 出来る限りのことはしますね!」とあたしは答えた。

 

冒険の支度をして「月明かりの夜亭」を出る。

 

マチルダさんは町の門まで見送りに来た。

 

「……気を付けて」

 

そう言って、マカジャハットを出るあたしたちを、マチルダさんはいつまでも見送っていた。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

数日かけて、あたしたちはジニアスタ闘技場に着いた。幸い、魔物や盗賊なんかの襲撃はぜんぜん無かった。

 

マカジャハットからジニアスタ闘技場まではひとがよく通る道があるから、素直にそこを通ったことが良かったのかもしれない。

 

この調子なら、たぶんハーヴェスまでも、楽勝で行けちゃいそうだね。

 

あたしたちはハイルアートさんのことを「ハイル」と呼ぶようになった。数日野外でキャンプして、行動をともにしていれば、自然と連帯感も出てくるよね。

 

ジニアスタ闘技場の入り口は、人だかりでごった返していた。

 

「あ……そっか。今日は、ちょうど満月の日ね」とナナ。

 

「満月の日か。決闘大会がある日だな」とロッド。

 

「面白そうじゃねえか」とリオン。

 

「中を見て見たいのう」とザム爺が言った。

 

 

「あ……ナナお嬢様!」

 

闘技場の入り口に近づくと、受付のひとりがナナを見て叫んだ。

 

「久しぶりね」とナナが応じる。

 

「お母様の試合を見に来たんですね! どうぞどうぞ、こちらへ」

 

受け付けの人が闘技場の中を指した。

 

「……んーと……えーと……あのね、ハイル」

 

いつもよりも歯切れがすごく悪い口調で、ナナがもじもじとした。

 

「何でしょう、ナナさん」

「ちょっとお願いがあって。いいかしら」

 

ハイルにナナが耳打ちする。

 

「えっ……そんな役、僕なんかでいいんですか!?」

「お願い!」

 

ぱん、と顔の前で手を合わせるナナ。

 

「……分かりました。お役に立てるなら」

 

ハイルは了承したみたいだった。うーん。何だろう……?

 

「どうぞ、お嬢様! こちらへ」

 

受け付けのひとの声がする。あたしたちは急いで追いついた。

 

 

暗い通路を抜けて、明るいところに出る。ワアアア、と大歓声が響いた。闘技場は円形になっていて、観客席がぐるりと円を描いている。

 

その真ん中が、決闘士(グラディエーター)の戦う場所で、観客席からよく見えるようになっていた。

 

決闘士たちが使うエリアの方に、あたしたちは案内されたようだ。

 

「さあ、もうすぐお母様の出番ですよ……!」と受付の人がナナに言った。

 

ワアアア、と再び大歓声。

 

闘技場に、ひとりの女性のリカントが現れた。猫耳としっぽはナナと同じだ。凛とした佇まい、隙の無い身のこなし。実力者という雰囲気が、全身からにじみ出てる。

 

「さあ、いよいよジニアスタ闘技場随一の花形決闘士、アンナの登場です!」

 

闘技場にアナウンスが響き渡った。

 

「ええ……あれがナナのお母さん?」

 

あたしはナナに聞いた。

 

「……そうよ。わたしのお母さん」と、ナナが複雑な表情で母親を見て、答えた。

 

「こんなに近くで試合が見られるなんて、ラッキーだぜ」

「ナナのおふくろ様は強そうじゃのう」

「俺も観客じゃなくて、決闘士として参加してみたいものだなあ」

 

リオンとザム爺、そしてロッドが話していた。

 

そうこうするうち、試合が始まった。ナナのお母さんの相手は、ちょっと強そうな、金属鎧と剣を身につけた男の人だった。

 

カアン、と試合開始の鐘が響き、戦いが始まった。

 

「……せいっ」

 

優雅とも言える素早い体の動き。ナナのお母さんは、相手を軽々と、投げ飛ばした。そして、飛び上がって相手を踏みつける。

 

男の人が反撃をするけれど、ひらりとかわす。

 

そして、今度はパンチを二回。フットワークがものすごーく軽い。

 

うう、あたしは、戦いなんて大嫌いだから、試合もあんまり見たくなかったんだけど……。

 

こうして間近で見てると、なんか、こう、高揚してくるものがあるね!

 

「頑張れー!」

 

いつしか、あたしはナナのお母さんを大きな声で応援していた。

 

ガツン! と、男の人が膝をつく。よろよろと片手を上げた。

 

「試合終了! ……アンナの勝利ー!」

 

アナウンスに、観客の大歓声が沸いた。

 

「お母さん……!」

 

ナナが呼ぶと。

 

「ナナ……! 何だい、来てたのかい」

 

ナナのお母さんが、にかっと笑った。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

ジニアスタ闘技場を出て、あたしたちはナナのお母さん、アンナさん専用の馬車に乗せてもらって、ハーヴェスまで到着した。

 

馬車で行けると早くていいね! お金が馬鹿にならないから、まだまだあたしたちは野宿しながらの、のんびり旅になっちゃうけど……。

 

最近は、アルフレイム大陸の北西に位置するドーデン地方の、キングスレイ鉄鋼共和国の首都キングスフォールと、ジニアスタ闘技場の北、カスロット砂漠の向こうにあるラージャハ帝国の"砂漠要塞"と呼ばれる帝都と、鉄道がつながったそうだね! 

 

魔動列車という乗り物が線路の上を動くんだって。

 

魔動列車って、馬車よりも、もっと速いんだろうなあ。

 

 

ハーヴェスの中心街に建った、大きなお屋敷にあたしたちは通された。

 

自己紹介は馬車の中で済ませていた。

 

お屋敷の大きな食事用の広間で、豪勢な食事を取りながら、あたしたちは歓談していた。

 

ふとアンナさんが思いついたように、ナナに聞いた。

 

「それで? 例のことは出来たのかい?」

 

例のこと? 何だろう。

 

「ええ。……こちらが、わたしの恋人のハイルです!」

 

「お世話になります」

 

ハイルがぺこりと頭を下げた。

 

えええ!? いつの間にそんなことになっちゃってたの!?

 

びっくりした表情を何とか飲み込んで、あたしはしげしげと、ナナとハイルを見た。

 

ナナ以外の、仲間もみんな、不思議そうな顔をしてる。

 

「画家だったっけ……? 軟派だねえ」

 

ふうん、とアンナさんが値踏みするようにハイルを見る。

 

「もっと、こう、強いひとを選ぶと思ってたんだけどねえ」

「母さん……! ハイルはとっても良い人なの!」

「はいはい。だけどあんたたちが結婚するなら、私はハイルの義理の母親だ。ちょっとくらいの小言、我慢しなさい」

「もう……だから帰ってきたくなかったんだ」

 

ナナが顔を真っ赤にしてる。怒ってるのか、ハイルのことを言われて恥ずかしいのか……きっとどっちもなんだろうな!

 

「分かった分かった、この話はもうおしまい。

 

で、ファーベルト平原に行くんだって? あんたたちだけでかい」

 

「そうですー」とあたしはアンナさんに答える。

 

「あそこにはたくさんの魔物がいるんだよ! ……そうだ、ちょうど今月の試合も終わったことだし、私が付いて行ってあげる」

 

「ええー、本当ですか? そうしてくださると、とっても助かります!」とあたし。

 

あんなに強いアンナさんが協力してくれたら、平原の魔物なんてへっちゃらになるよ!

 

「冒険に出るのは久しぶりだから、楽しい旅になりそうだ! よろしく、ピコちゃん。それにパーティのみんなもね。わははは!」

 

アンナさんが豪快に笑った。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

ハーヴェスから南東へ、あたしたちは再びアンナさんの馬車で送ってもらった。

 

視界に広がってきたのは……辺り一面、黄色い花が咲いた幻想的な光景!

 

"黄色い絨毯"と称される、ファーベルト平原だ。

 

「うわあー、綺麗!」

 

あたしは歓声をあげた。

 

「本当に美しいですねえ……来て良かったです」とハイル。

 

「絵を描き上げるにはどのくらい日数が必要なんだい」とアンナさん。

 

「そうですね、三日もあれば」

「分かったよ。あんたの周りは、私たちが守る。存分に絵を描いたらいいよ」

 

そうして、あたしたちは、アンナさんが持ってきてくれた大きなテントに入って、三日を過ごすことになったんだ。

 

 

一日目は、平和に時が流れた。朝から晩までハイルはスケッチに夢中だった。

 

 

そうして、二日目……。

 

ガサガサと音がして、何かが近づいてきた!

 

黄色い花々の中から出てきたのは……。

 

ダンシングソーン! 二体も!

 

人の高さほどもある、動く茨だ。茎に無数の棘が付いていて、それで攻撃してくるという。

 

魔物としての強さは、あたしたちと同じくらいだ。

 

「なんだい、これなら私が出る幕も無いねえ」

 

アンナさんがすっと身を引いた。えええ!? 戦ってくれるんじゃないの!?

 

「さあ、鍛えるのにちょうどいいだろ? あんたたち頑張ってね!」

 

アンナさんがにかっと笑った。

 

 

戦闘は、どうにか、あたしたちの勝利で終わった。トゲトゲが痛い痛い。この間もらったヒーリングポーションをここで使っちゃった。

 

二日目はその襲撃だけだったから良かったけど……アンナさん、ひどい! ナナが家を出たのも分かる気がしたよ。

 

夜は見張りを交代しながら眠り……。

 

 

そして三日目。

 

 

出てきた魔物は……。

 

大きなムカデ! あたしもザム爺も知らない魔物だった。顎と脚とが別々に動いて、それぞれが攻撃してくるみたい。

 

「こいつは……腕が鳴るねえ!」

 

アンナさんが喜びの表情を浮かべて、真っ先に攻撃体勢に入った。

 

 

 

……戦いは大変だった。だって、この大きなムカデ、とっても素早くて、攻撃が当たりにくいし、顎にあった毒攻撃にやられると大打撃をくらうし、防御は固いし、複数の脚に攻撃されるしで。

 

みんな<ヒーリングポーション>と<魔香草>は使い果たし、ザム爺の、光属性の妖精魔法[プライマリィヒーリング]で回復したり、あたしの、呪歌のあとに使えるようになる[終律:夏の生命]という演奏で回復したり。

 

リオンの真語魔法で使える攻撃呪文[エネルギー・ボルト]や、相手の物理攻撃を下げる[ブラント・ウェポン]も大活躍。

 

だけど、アンナさんがいなかったら、どうなっていたことやら。二日目にぶっちしたときは腹が立ったけど、アンナさん、自分よりも弱い相手には興味を示さないところ、すごく紳士的なのかもしれないね。

 

「みなさん、ありがとうございました。おかげで、このスケッチブックを元にして、素晴らしい絵が描けそうです」

 

三日の日程を終えて、戦闘の時は、隠れてもらってたハイルが礼を言った。

 

日も暮れ始めたし、撤収の準備を始めた、そのとき。

 

「あれ、見ろよ……!」とリオン。

 

見ると、どこまでも続くパマナの黄色い花の向こうに、バサバサと音をたてて飛んで行くたくさんの真っ黒な大きい鳥。そのはばたきに、パマナの花が散って、とても幻想的!

 

「この光景……素晴らしいですね。言葉にならないくらい」

 

見惚れた表情を浮かべて、ハイルがぽつりとつぶやいた。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

あたしたちは馬車に乗って、ハーヴェスまで戻ってきた。ここでアンナさんとはお別れ。

 

「ナナ。ハイルは私の好みとはちょっと違うけど、大切にするんだよ!」って、アンナさんは含み笑いをして去っていった。

 

ハイルが報酬のことを話したけど、アンナさんは「ひよっこたちで分けなさい!」と断ってた。

 

太っ腹で面倒見のいいとこもあるけど、アンナさんを親に持ったナナは大変だと思う!

 

 

「はあ……」と、ハーヴェスを出た後にナナが大きくため息をついた。

 

「本当に、あんなこと言ってしまって良かったんでしょうか……?」とハイル。

 

「えー、なになに?」

 

あたしは聞いてみる。

 

「こ、恋人が僕だなんていう嘘を……」

「ええ! あれ、嘘だったのー!?」

 

あたしも、ナナを除いたみんなも驚いた。

 

「ありがとう、ハイル。大助かりよ。家にいたときに、母さん、お見合いしろしろってうるさくって。家を出てくるときね。今度来るときはお婿さん候補を連れてくるから! って宣言しちゃってたんだよね」

 

「ああ、それでパーティを作る時に、お婿さんが見つかるといいなって言ってたんだな」とロッド。

 

「ごめんね、ハイル。変なことに付き合わせちゃって」

 

「いえいえ。ナナさんの恋人役、なかなか楽しかったですよ。このまま恋人役を続けてしまってもいいかもしれないって思っちゃいました」

「ええっ!?」とナナ。

「じ、冗談! 冗談です! すみません、変なこと言っちゃって」

 

ハイルは顔を真っ赤にしてうつむいた。

 

「んー。ナナ、このままハイルとらぶらぶになっても、いいと思うよー?」とあたし。

「こら、ピコ! 言い過ぎ。ハ、ハイルが困ってるじゃない」

 

んん? あれ、こっちも、もしかして脈あり……?

 

「ふぉっふぉっふぉっ。若いというのは、いいのおー」と、のんびりとした調子でザム爺が言った。

 

 

ハーヴェスからジニアスタ闘技場、そこからマカジャハットまでの帰り道を、あたしたちはまた野宿しながら帰ってきた。

 

うん、ベッドで眠れるのは何日ぶりだろう! 毛布で毎日、見張りを交代しつつの仮眠は大変だったよ。

 

そうして「月明かりの夜亭」に戻って、約束通りの報酬ひとり1500Gを受け取った。

 

 

これで、3番目の冒険はおしまい。今回は大成功で良かった。

 

いろんな場所も巡れたしね!




オリジナル設定

アンナ……ジニアスタ闘技場の花形決闘士。ナナの母親。ハーヴェスに居を構え、月に一度のジニアスタ闘技場で行われる決闘大会に出場している。レベルの高いグラップラー。

娘のナナを放任主義で育てたのに、彼女が年ごろになると、いい人と見合いをするように圧力をかけたため、ナナは家を飛び出して冒険者になった経緯がある。



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レベルアップとお買い物。そして晴れてギルドの冒険者に!

ハイルの護衛を終えたあたしたちは、街で次の冒険に向けて準備した。

 

あたしはフェンサー技能を上げた。すこしづつだけど、敵の攻撃をかわせる力がつくのは、悪いことじゃないよね。

 

そして……じゃじゃーん! ペットの小鳥を飼いました! あたしの呪歌を一緒に歌ってくれる、かわいくて心強い味方だよ! マカジャハットのペットを売っているお店で、この子と目が合っちゃって。

 

100Gかかったけど、今回の冒険で1500Gの収入があって、お財布が温まったので奮発しちゃった。

 

 

ナナはスカウト技能を上げた。リオンが失敗したときにフォローできるって、頼もしい!

 

そして……この間気になっていたっていうアラミドコートを買ったんだ。今まで使ってたお洒落なポイントガードは、ギルドに寄付したみたい。

 

あのポイントガード、そうやってひとからひとへと渡っていく宿命なのかもしれない……。

 

アラミドコートは回避力も防御力もそれなりにあるから、防御力がまったく無いポイントガードのままだと、これからの冒険にはちょっときついよね。

 

 

ロッドはプリースト技能を上げた。これで、回復魔法の[キュア・ウーンズ]が使えるようになったから、回復役にも回れるね。

 

そして、今回の収入はまるっと貯金するんだって。ロッドが今使ってるロングスピアは打撃力があるから、新しい武器にしなくても、これからの冒険でもまだまだ使えるよね。

 

 

リオンはソーサラー技能を上げた。すこしづつ使える魔法が増えてくのはいいよね。

 

リオンも今回のお金は、ぜーんぶ貯金。きっと、故郷の魔動死骸区のひとたちのためなのかな……?

 

 

ザム爺は、セージを上げた。ファーベルト平原で出てきた大きなムカデの正体が分からなかったのが、悔しかったみたい。あたしもセージ、そろそろ上げた方がいいのかなあ。

 

そして、ザム爺は<妖精使いの宝石>を4個まとめて持てる「宝石ケース」を買った。これで、いろんな部位に新しい装飾品が装備できるね。

 

 

準備をしていたらあっと言う間に夜が来た。

 

あたしたちはすっかりおなじみになった「月明かりの夜亭」に泊まり、朝を迎えたんだ。

 

朝、あたしは今回の冒険で手に入れた、ダンシングソーン一体から出てきた<剣のかけら>を五つと、大きなムカデから入手した「良質の殻」をギルドに渡した。

 

これで、名誉点が15点増えて40点になったのと、150Gを手に入れた。ひとり30G。

 

うん、一日分の宿泊代だね。

 

そうしたら、マチルダさんが奥から出てきて、綺麗な紋章をくれた。

 

「これは……?」

 

「これは"冒険の紋章"ね。うちのギルド所属の、冒険者としての証よ。これで、冒険者と名乗っても差し支えない実力があると認めてもらえるわ」

「わあ、ありがとうございます!」

 

ようやく公認の冒険者になれたよ! うれしいなあ。

 

お金も余裕が出てきたことだし、しばらくはこの街でぶらぶらしてみようかな? 吟遊詩人や踊り子や絵描きさんが街にはたくさんいるらしいし、それを見てるだけでもきっと楽しいよね!

 

そんなことを考えていると。

 

「こんにちは。ピコさん方は、おいでかな?」

 

ギルドに、ウルフの件でお世話になった、バケットさんがやって来たんだ。




パーティメンバー各種技能レベル

ピコ 

 バードLv4 セージLv1 フェンサーLv2 

ロッド

 ファイター Lv3 プリーストLv2 エンハンサーLv1  

ナナ

 グラップラーLv3 スカウトLv2 エンハンサーLv1  

リオン

 スカウトLv3 ソーサラーLv2 フェンサーLv2 

ザムザム

 フェアリーティマーLv3 セージLv3 


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4ばんめのぼうけん「ドノンⅣ世の御前で歌を披露しよう!」

「こんにちは、バケットさん! この間はウルフの件、ありがとうございました!」とあたし。

 

「いやいや。ちょうどそのウルフ……おっほん、大きな犬がですな、いよいよステージデビューも間近になりましてな。

 

せっかくですから、練習風景にはなりますが、ピコさんたちにも楽しんでもらおうと考えて、こちらにお邪魔したのです」

 

「わあ! あたしたち、ショーを見られるんですか!?」

 

あたしの問いに、バケットさんはニコニコと笑って頷いた。

 

 

あたしたちは、マカジャハットの町に並ぶ劇場や美術館の通りを抜けて、一番奥の広場に建てられた、大きなテントに案内された。

 

テントの入り口の前では、画家さんたちが風景画や似顔絵を飾って、売りに出していた。

 

テント脇には吟遊詩人や踊り子さんたちもいて、それぞれ演奏や歌、踊りを披露している。

 

「彼らは、ああしてステージに立つための練習も兼ねているのですよ」と、バケットさんが言った。

 

 

 

テントの中に入ると、暗いところにたくさんの観客席が並び、その奥に光の当たったステージがあった。

 

パンパン、とバケットさんが手を叩くと、ステージに立っていた人たちが奥に引っ込む。そして、例のウル……大きい犬たちが出てきた。

 

側に、調教役らしい人が大きな丸い玉をふたつ、ステージに持ってきた。

 

「さあ、ご覧ください! 大きな犬たちの玉乗りです」

 

バケットさんがそう言うと、ステージに吟遊詩人が現れて、軽快なテンポの音楽を奏で始めた。たたたたん、と、練習風景とはいえ盛り上がる雰囲気。

 

大きな犬たちが、ぴょんと玉に乗り、後足だけで玉の上に立ちあがった。

 

「わあー!」

「すげえ……」

「楽しいのう」

「よく仕込んだわね」

「ステージというのは初めて見たが、悪くないものだなあ」

 

みんなで口々に感想を言い合う。

 

と、そこへ。

 

パチパチパチ、と拍手が響き、あたしたちとバケットさんは振り向いた。

 

そこには……なんと、このマカジャハットの女領主、イェキュラさまが立っていたんだ。

 

 

イェキュラさま。最近、マカジャハットの先の王が急に亡くなってしまって、王妃だったイェキュラさまが女王として即位したばかりと聞いている。

 

最初は「愚女王」とか「娼婦王」とか、国の外でも中でも、さんざんに言われていたけど、めきめき実績を出して、今はブルライト地方の「西の魔女」とさえ呼ばれているんだって。

 

そのイェキュラさまが、直々に、どうしてこのバケットさんのテントに……!?

 

「楽しいショーになりそうね、バケット」

 

イェキュラさまが蠱惑的な微笑みを浮かべた。

 

「これは……このようなところへ、ようこそ」と、バケットさんがかしこまってお辞儀する。

 

「用件を言うわね。今日は、あなたの人づてを使って、ラージャハ帝国のドノンⅣ世陛下と交渉がしたいと思ってここへ来たの」とイェキュラさま。

 

「……確かに、私はドノンⅣ世陛下の親戚でございますし、そろそろラージャハでも公演をと考えていたところではございますが……一体どのような内容ですかな?」

 

「これよ」

 

イェキュラさまが、すっと片手を上げると、侍女らしき人が静々とあるものを捧げて持ってきた。

 

何だろう……? ふつうのピアスみたいだけど。

 

「あれは、<通話のピアス>じゃな」とザム爺が言った。

 

「一対でセットになっておってな。どんなに遠いところで離れていても、このピアスで通話ができる優れものじゃ」

 

 

「そうよ。これで、ドノンⅣ世陛下とわたしの間に、領主どうしホットラインを作りたいの」

 

「なるほど……国と国のトップの友好を深めたいということですな」とバケットさん。

 

「お願いできるかしら。どうしても貴方の力が必要よ、バケット」とイェキュラさまが懇願した。

 

「イェキュラさま……ああ、そんな瞳で見つめられると困りますな。分かりました。……面会をお願いしてみましょう」と、バケットさんが了承した。

 

「行き帰りの道のりは、砂上船を使ってね。護衛も、ちょうどいい方々がここにいるのじゃないかしら」

 

「ええ……あたしたちですか!?」

 

あたしは、急に話を振られてびっくりした。

 

「そうですな……急な話で申し訳ないですが、ピコさんたち、これも何かの縁。ラージャハ帝国までの、念のための護衛をお願いしても良いですかな?」

 

「まあ……今のところ何の依頼も受けてねーし……いいんじゃねえか? 砂上船に乗れるなら、あんまり魔物の心配もない、気楽な旅になりそうだぜ」と、リオン。

 

砂上船というのは、砂漠を駆ける魔船艇のひとつで、富裕層がよく使っている交通手段だ。ふつうならラクダで日数をかけてジニアスタ闘技場の北のカスロット砂漠を越えていかなくちゃいけないんだけど。

 

やったね、これで楽ちんに移動して、ラージャハ帝国に住んでる友だちのコボルドにも、会えるかも!

 

「そう、このお願いをあなた方にするのはですな、ピコさんの吟遊詩人としての腕前を見込んでのことでもあるのです。

 

マカジャハットを拠点とし、常設テントを設けている我々は、ここのショーで手一杯ということもありますし、ぜひ、ラージャハ帝国では、ピコさんの演奏と歌を披露してもらいたいのです」とバケットさん。

 

わーい! バードとしては、これは引き受けなくっちゃだよね!

 

「わっかりましたあ。護衛兼、吟遊詩人としてのお仕事、喜んで引き受けますー!」

 

あたしはガッツポーズを決めた。

 

「ピコが乗り気なら、わたしもいいわ」とナナ。

 

「今回、俺はショーのスタッフでもやるかなあ」とロッド。

 

「ラージャハという未知の場所に、砂上船で安全に行けるなんて、良いのう!」とザム爺。

 

「あらあら、話がまとまったわ。良かったわね、バケット」

 

イェキュラさまが微笑んだ。この方、本当に綺麗だなあ。あたしだって、ちょっとドキドキしちゃうよ。 

 

そんなわけで、あたしたちは護衛兼ショーのスタッフとして、ラージャハ帝国に向かうことになったんだ。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

ラージャハまでの道のりは快適だった。ジニアスタ闘技場までは馬車で行き、そこから北の、カスロット砂漠に入るところで砂上船に乗り換えた。

 

バケットさんとあたしたちを乗せた砂上船は、灼熱のカスロット砂漠をぐんぐんと、とても速いスピードで北上して、ラージャハまで着いた。

 

オアシスの上に建てられたラージャハは、周りをぐるりと堅固な壁で囲まれていた。門ではバケットさんが公演とイェキュラさまの使者として来たことを伝えると、難なく街の中に入れてもらえた。

 

お城までは、てくてくと歩く。街の通り、歩いているひとたちをよく見ると、コボルドとか、穢れを持っているために、人族からは忌み嫌われているというナイトメアが、普通にいる。

 

「蛮族やナイトメアが街の中に……?」とロッドが驚いた。

 

「皇帝陛下のドノンⅣ世が、実力で物事を判断するという話ね。蛮族で重用されている者も少なくないと聞いていたけど……本当だったのね」とナナ。

 

「ふーん……そのドノンⅣ世ってのは見る目があるんだなあ」とリオン。

 

「なるほどのう、珍しいものが見られたわい」とザム爺が言った。

 

お城に着くと、バケットさんを先頭に、あたしたちは謁見の間に通された。質の良い調度品である椅子に腰かけた、ひとりのドワーフが、威厳をもってあたしたちを見ている。

 

銀色の髪や髭と瞳に、鈍い灰色の肌。"黒鉄大砲"(ドノン・カノン)とも呼ばれる、ラージャハ帝国の皇帝陛下……ドノンⅣ世だ。

 

周りには、屈強そうな人族や蛮族が控えている。

 

「久しいな、バケット。貴様の、興業のほうはうまく行っているのか?」

 

「おかげさまで」

 

「しかし儂の親族である貴様を使者にたてるとは無礼ではないか? 「西の魔女」は我らに喧嘩を売りに来たのか? そうであれば容赦なく攻め入るぞ!」

 

ドノンⅣ世が自国の武力をちらつかせる。

 

うわあ、いきなり戦争のお話!? このドノンⅣ世ってひと、とっても怖いよう!

 

あたしは、すがるようにバケットさんを見た。

 

バケットさんは慣れた様子で「まあまあ」とドノンⅣ世をいなした。

 

「その逆ですよ、叔父上さま。本日は、友好の証として献上品をひとつ、お持ち致した所存でございます」

 

バケットさんがあの<通話のピアス>を捧げ持った。

 

「イエキュラさまは、要衝ラージャハ帝国と、さらなる友好関係にありたいと申しております。その友好の証に、こちらの<通話のピアス>を、どうぞお受け取りいただきたく存じます」

 

「ふん……」

 

ドノンⅣ世がピアスを受け取る。そろそろと耳に当てると、イェキュラさまの声が響いた。

 

<こんにちは、ドノン皇帝陛下。この度の使者を送りつけましたこと、皇帝陛下の寛大なお心で、どうぞお許しくださいませ>

 

「用事は何だ?」とドノンⅣ世。

 

<このピアスで、わたくしと陛下の間にホットラインを築き、わたくしという存在を、人づてに聞いた話でなく、直接お見知りおき頂きたいのでございます>

 

「そうか……貴様はナイトメアだったな。領主となって手腕をふるうには、いささか苦労もしただろう」

 

ふっ、と少しだけドノンⅣ世の顔が緩む。

 

<友好の証に、わたくしのマカジャハットでも、蛮族を試験的に受け入れようと計画致しているのです。

 

すぐに貴国のように蛮族やナイトメアが街を闊歩する、という訳にはまいりませんが、試験的に、料理の腕が良いという蛮族達を、冒険者ギルドで雇ってみたいと考えております>

 

「ふむ……」

 

<友好の証として、料理の腕の立つコボルドをすこし、マカジャハットに送ってはいただけませんか……?>

 

「なるほどな。面白い!」

 

ドノンⅣ世は破顔した。なんだ、笑うとお茶目なおじさんドワーフだ。

 

「良かろう。我が国と貴様の国マカジャハットの友好の証、確かに受け取った! わっはっは!」

 

ああ、良かった。最初はどうなることかと思ったけど、結果オーライだね!

 

「こほん。交渉成立ですな。……つきましては叔父上さま。ここにおります吟遊詩人の歌などいかがでございましょう」

 

バケットさんがあたしを指す。うう! ものすごーく緊張するけど、皇帝陛下に聞いていただけるのは光栄だよ!

 

ドノンⅣ世がうなずいて聞く体制に入る。

 

あたしは、手元のリュートを奏でる。

 

「聞いてください……『めしうま』の歌!」

 

そして、歌い始めた。

 

 

   めしうま! 酒うま! みんな仲間!

 

   メシウマ サケウマ ワレ ナカマ!

 

   人族も蛮族も、歌って踊って騒いじゃおう!

 

 

   めしうま! 酒うま! みんな仲間!

 

   メシウマ サケウマ ワレ ナカマ!

 

 

歌に、汎用蛮族語と交易共通語を混ぜてみたよ!

 

陽気な調べに、周りに待機する人族や蛮族の人たちが、こっそりとリズムをとっている。

 

「わっはっは! 吟遊詩人よ、なかなかいい根性をしているな!」

 

最初の攻撃的な雰囲気はどこへやら、とっても和やかになって、交渉はは終了したんだ。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

交渉を無事終えて、あたしたちは数日間、あたしの歌と演奏がメインの公演を行った。

 

パーティのみんなは、裏方のスタッフとして、あたしの出演を手伝ってくれた。

 

街のひとの反応は上々だった。あの「めしうま」の歌のサビを一緒に、コボルドを始めとした蛮族と人族が歌う場面もあって、あたしも、この街がすっかり気に入った。

 

蛮族だって、仲良くしたいっていうひとたちがいるなら、それは受け入れたっていいと思う!

 

敵対的な蛮族も多くて、人族があちこちで苦しみ、あたしたち冒険者に討伐の依頼をしてくることもしばしばあるのは分かってるんだけど……。

 

甘いかもしれないけど、いつか、歌でみんなが仲良くなれたらいいな。

 

 

そうして、公演の期間が過ぎ、マカジャハットに帰ることになって。

 

ドノンⅣ世から命を受けたコボルドが五匹、砂上船に乗ることになった。その中には……。

 

「ピコちゃん! 元気だった……?」

 

慣れた交易共通語で話しかけてくる、二足歩行の犬のような姿の、そのコボルドは。

 

あたしの友だち、コボルドのワフーだった!

 

「わあ……久しぶりだね、ワフー!」

 

あたしとワフーは喜んで抱き合った。

 

「ピコちゃんがお世話になっているっていう、冒険者ギルド「月明かりの夜亭」で料理してもいいってお許しが出たんだよ! これからよろしくね」

 

ワフーは背負い袋にフライパンをぶら下げて、砂上船に乗り込んだ。

 

 

「蛮族といっても、友好的なやつもいるんだなあ。勉強になったぞ」とロッド。

 

「料理上手に悪いやつはいねーんじゃね? めしうま、酒うま~♪」とリオン。

 

ああ、あたしの歌覚えてくれたんだね!

 

「敵対的な蛮族が多いんだから、すこしでも協力的な蛮族は受け入れるべきよね」とナナ。

 

「蛮族とは戦うしかないと思っておったが、新しい時代が来とるのかもしれんのう」とザム爺が言った。

 

そうして、みんなで砂上船に乗り込んで、また快適な旅をして帰ってきたんだけど……。

 

最後の日、砂漠のほとりに近づいて、砂上船の速度が落ちたとき。

 

船の前に、砂煙をたてて魔物が現れたんだ!

 

それはサンドウォーム! 砂の中にうごめく、巨大な蛇みたいな生き物だ。こっちに近づいてくる……!

 

「みんな! 戦闘態勢だよー!」

 

あたしたちは、戦いに備えた。

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

サンドウォームを倒して、五つの<剣のかけら>と砂虫石という綺麗な石を手に入れたあたしたちは、無事、マカジャハットに戻ってきた。

 

「みなさん、本当にお世話になりました。これがお礼です」

 

マカジャハットの常設テントに戻ったバケットさんから、ひとり1500Gの報酬を頂いた。

 

相場としては、あたしたちのレベルだと、あと500Gくらいもらうのが妥当なんだけど。

 

砂上船に乗せてもらったし、皇帝陛下の御前で歌わせてもらえる光栄な場面も作ってくれたし、あたしは大満足!

 

スタッフとして働いたパーティのみんなも、楽しかったと言ってくれているから、OKだよね。

 

そして……。

 

「初めまして、マチルダさん! ぼくがコボルドの料理人ワフーです」

 

「あらあら。イェキュラさまからお話は伺っているわ。ワフー君。これからうちのコックとして、よろしくお願いね」

 

マチルダさんが、快くワフーを受け入れてくれた。

 

うう……あたしたちグラスランナーには、故郷っていうものがあんまり無いんだけど……。

 

このマカジャハット、すごくお世話になっているし、友だちのワフーも来たしで。

 

町が好きになっちゃった。これが故郷っていうものなのかなあ?

 

 

さてさて、これで、今回の冒険はおしまい。

 

成功したし、ラージャハの街にも行けたし、うん、すごーく楽しかったー!

 




オリジナル設定

マカジャハットでバケットが設営している総合芸術団のテントという設定はオリジナルのものです。

ドノンⅣ世とイェキュラがトップ同士の友好関係を結ぶ、というストーリーはオリジナルのものです。


ワフー……ピコの友だち。料理人としてラージャハ帝国で活躍していたコボルド。

イェキュラがマカジャハットにコボルドを受け入れる、というストーリーはオリジナルのものです。


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レベルアップとお買い物。そしてあのユゴー村に再び危機が!

あたしたちはおなじみの「月明かりの夜亭」でくつろいでいた。

 

「まさか、俺達がイェキュラさまやドノンⅣ世陛下と会えるなんてなあ」とロッド。

 

「すっごいことだよね! あたし、とっても緊張したけど、ドノンⅣ世って本当は優しい人なんじゃないかなあ?」

 

「そうだな。外交に武力をちらつかせるとは聞いていたからな。確かに最初はそうだったが、実のところは懐の大きな御仁かもしれん」

 

「オレは砂上船に乗れて楽しかったぜ! "はきだめの"死骸魔動区で暮らしてたら、こんなこと、絶対に無かったからなあ」とリオンも感慨深げに言う。

 

「ワシも、ひとりではカスロット砂漠を越えることなど考えもしなかったじゃろうよ。ラージャハ帝国に行けたことは、あの世への良い土産話になりそうじゃ。旅はいいもんじゃのう」とザム爺。

 

「ショーのスタッフも、案外良かったわ」とナナも微笑んだ。

 

 

「月明かりの夜亭」の施設を使わせてもらって、あたしたちは鍛錬した。

 

あたしはセージを上げた。だんだんと知らないことが増えてきたから、勉強は必要だ。

 

ロッドは、今回レベルアップは無かった。今度の機会に、きっと努力は実るよ。

 

ナナはグラップラー技能を上げた。戦闘力が高くなっていくのは、パーティとしてもありがたいことだね。

 

リオンはソーサラー技能を鍛えた。

 

「これでアンロックが使えるようになったぜ。 お宝に近づいたな!」と本人もうれしそう。

 

あと、リオンは小型ハンマーとフックとくさびを買った。

 

「何が必要になるか分からないからな!」だって。

 

そんなにお値段がするものじゃないから、あって損は無いよね。

 

ザム爺のレベルアップも今回は無し。力を温存してるみたい。

 

そして……。

 

みんな、懐が温まったので、ひとり一個「能力増強の腕輪」を買いました! これは、得意な能力やすこし物足りない能力を補強してくれる素敵な腕輪なんだ。

 

一個1000Gするから、ちょっとお財布が痛かったけど、パーティみんなで同じアイテムを持つって、なんだか立派なチームに思えてくるじゃない?

 

そうそう、この間"冒険の紋章"をマチルダさんからもらって、冒険者として認めてもらったあたしたち。

 

今後は、ギルドにある掲示板に貼られた、自分たちに見合った依頼を選んで、ガッデンさんに話を聞きに行くスタイルに変わるみたい。

 

マチルダさんは、ちょっと前のあたしたちみたいな、ひよっこ冒険者のサポートを。

 

ガッデンさんは、すこし力のついた冒険者のサポートを。

 

それぞれ受け持って、仕事を振り分けているみたい。

 

「何があるかなー?」

 

あたしたちは、興味深々で、掲示板に貼られた依頼内容を見てみた。

 

見たとこ、やっぱり蛮族の討伐依頼とか、魔物の討伐依頼が多いなあ。

 

「うーん……討伐以外の依頼って少ないんだねえ」とあたし。

 

「おっ、これはどうだ?」とロッドが目を輝かせた。

 

「なになにー?」

 

「これは"奈落の魔域"の対処依頼だな。脅威度は俺たちと同じくらいだぞ」とロッド。

 

「うええ、魔神と戦うのー? まだ無理っぽくない!?」とあたし。

 

「おい、場所はユゴー村から三日ほど北東に行ったところだそうだぜ?」とリオンが依頼を見て声をあげた。

 

「ユゴー村って……ウルフの依頼の時、ご飯と一晩の宿泊をお世話になったところじゃない」とナナ。

 

「それは! 助けに行かねばなるまいて」とザム爺。

 

「ほんとだ! うう、分かったよ。この依頼、みんな受けてもいいよね?」とあたし。

 

異を唱えるひとは、いなかった。

 

 




パーティメンバー各種技能レベル

ピコ 

 バードLv4 セージLv2 フェンサーLv2 

ロッド

 ファイターLv3 プリーストLv2 エンハンサーLv1  

ナナ

 グラップラーLv4 スカウトLv2 エンハンサーLv1  

リオン

 スカウトLv3 ソーサラーLv3 フェンサーLv2 

ザムザム

 フェアリーティマーLv3 セージLv3 


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5ばんめのぼうけん「"奈落の魔域"の魔神を倒そう!」

あたしたちは、ガッデンさんに話をした。

 

「お前さんたちくらいなら、きっと何とかなるだろう」と、ガッデンさんは笑顔で送りだしてくれた。

 

往復の食料とひとりひとつづつのヒーリングポーションと、"奈落の魔域"の場所が記された地図を受け取って、さっそくユゴー村へと向かう。

 

半日でユゴー村に着いて、また村長さんのおうちで一泊。

 

「またお世話になります、ありがとうございます」と村長さんは何度もお礼を言ってくれた。

 

朝に、ユゴー村を出発。

 

野宿をしながら、地図の場所へ向かう。

 

そしてあたしたちは、冒険で初めての光景を目にした。

 

そこは洞くつの入り口だった。大きな黒い球体が洞くつの前にある。それが"奈落の魔域"なのだろう。

 

「行くぜ」

 

罠や危険さを感知できるスカウト能力が一番高いリオンを先頭に、あたしたちは恐る恐る"奈落の魔域"に足を踏み入れた。

 

ぐらんぐらん、と平衡感覚がおかしくなり……。

 

 

気が付くと、あたしたちは洞くつの中にいた。暗いので、火口箱でたいまつに火をともす。洞くつの先は谷になっていて、一本の長い吊り橋が奥の方へと伸びている。

 

「ん。この吊り橋に、今のとこ危険はなさそうだぜ」とリオン。

 

みんなで吊り橋に乗ると、ぎしぎし言う。

 

リオンが洞くつの石ころを拾ってきて、吊り橋の向こうの闇に投げた。しばらくして、かつん、と谷底に落ちた音がする。

 

「谷底までは20mってとこか。落ちたら痛いじゃ済まないだろうなあ」とリオン。

 

「うわあ、そんなにあるの? 早いとこ、渡っちゃおう!」とあたし。

 

みんなで吊り橋を恐る恐る渡り切る。

 

その先は、人工の部屋になっていた。

 

「遺跡っぽいね」とあたし。

 

「かなりの年代ものじゃのう」とザム爺が続いて感想を述べた。

 

部屋の奥へ行こうとすると……。

 

ざざざっ、と足元で音がした。

 

「うわっ、何だ……!?」と先頭にいたリオンが後ずさる。

 

よく見てみると。

 

「それ、チープストーンだよ!」

 

あたしは魔物の名を告げた。

 

チープストーン。小さな石ころの魔物だ。洞くつや遺跡なんかによくいて、転がって攻撃してくる。

 

数は三体。うん、今のあたしたちなら負けることはなさそう!

 

 

 

……戦闘はあっさり終わった。

 

チープストーンは動かなくなって、ただの石になった。

 

足元に寄ってくるから転んじゃったりもしたけど、全力を尽くした戦いにはならなかった。

 

 

部屋に静けさが戻る。部屋の奥には扉があった。

 

用心深く、リオンがスカウト用ツールで扉の鍵を開けようとしたとき。

 

ドアが、急に動いて体当たりしてきた!

 

「痛ってえ!」

 

よけ損ねたリオンが悲鳴をあげる。

 

「下がってリオン!」とナナ。

「あとは俺たちに任せろ!」とロッドも続き、あたしたちは不意打ちに慌てて態勢を整えようとした。

 

「ドアイミテーターじゃ! ドアに擬態しとる魔物じゃのう」とザム爺。

 

あたしも、魔物が擬態を解いたから分かるようになったけど……。ドアだから固いんだよね、この魔物!

 

 

 

戦闘は、あたしたちの勝利。

 

不意打ちされて、ちょっとうろたえちゃったけど、前衛・後衛を作りなおして戦闘態勢に入ったら、楽勝だった。

 

倒した後に、魔材というアイテムも入手した。

 

 

ドアイミテーターの向こうには、さらに扉!

 

「こいつもドアイミテーターか……?」

 

用心して、戦闘態勢のまま、あたしたちは扉に近づく。

 

「こいつは普通の扉みたいだ」と、ロッドがドアを叩いた。

 

「ちょっと待ってくれよ」とリオン。

 

そろそろと扉に近づいて、聞き耳をたてている。

 

「まずいな……こりゃ」

 

「どしたの? 何が聞こえたの、リオン?」

 

「ドアの向こうに魔物がいるぜ」

 

「ええ……ほんとに!?」

 

「数がやばい。10匹くらい、いそうなんだ」

 

「えええ、10匹も!?」

 

あたしたちは扉を開ける前に、作戦を立てることにした。

 

 

 

知恵を出し合って練った作戦は、こんな感じ。

 

ドアの鍵を解除したあとで、開かずに一旦、パーティのみんなは洞くつの入り口まで戻って待機。

 

吊り橋を罠に変えて、一番素早くて軽いあたしが、魔物たちを吊り橋までおびき寄せて、吊り橋ごと魔物を谷底に落とすことになった。

 

「ピコ、後は任せたぜ。気を付けろよ」

 

扉の鍵を解除したリオンが、洞くつの入り口へと去っていった。

 

「うん、じゃあ行くよー!」

 

それを見届けて、吊り橋の罠設置に十分な時間をとってから、あたしは思い切り、ドアを開けた。

 

ドアの向こうにいたのは……エルビレア! リオンが言ったとおり、10匹も。

 

人間の子どもくらいの大きさで、頭がエビのような形になっている。

 

魔神のなかでは一番弱いけど、こうして群れになることがあるから厄介なんだよね。

 

おまけにエルビレアは魔神語も話せないから、交渉の余地もないし……。

 

そして。

 

エルビレアたちのその奥に、ありました、奈落の核! 漆黒の剣の形をした結晶体。あれを壊さないと"奈落の魔域"から出られないんだ。

 

「はいはーい、鬼さんこちらー!」

 

あたしはエルビレアを挑発した。一番奥にいる、なんだか強そうな二匹を残して、エルビレアが一斉にこちらへ向かってくる!

 

吊り橋まで走る。何のためらいもなく、エルビレアたちが8匹縦に並んで吊り橋の上にやって来る。

 

「ピコ、こっちだぜ!」とリオン。

 

「あとは任せたよー!」

 

あたしはヒョイと吊り橋を渡り切った。

 

ぷつっ、とリオンが吊り橋を切り落とす。エルビレアは吊り橋ごと、がらがらと谷底に落ちていった。

 

 

エルビレアを罠にかけて倒したあたしたちは、リオンが小型ハンマーで作ってくれた、崖のフックにロープを通して、ひとりずつ谷底に降りた。そして、向こうの崖まで歩いて行き。

 

ロッドがリオンを抱えて、竜の翼で上まで行き、またフックを作って、残ったあたしたちを崖の上まで引き上げてもらった。

 

ロッドは「全員ぶん往復してもいいぞ?」なんて言ってくれたけど、まだ"奈落の核"の前に、強そうなエルビレアが二匹残ってるからね! 体力は温存してもらわないと。

 

そうして、戦闘態勢を再び整えて。

 

あたしたちは、二匹のエルビレアとの戦いを始めたんだ。

 

 

 

戦闘修了。たくさんいれば脅威になるけど、強いとは言っても、二匹のエルビレアに勝つことは難しくなかった。

 

一匹に、三つづつ、合計6個の<剣のかけら>と、二匹分の「悪魔の血」を手に入れた。

 

罠で数が減らせて良かった! もし、そのまま10匹と戦うことになってたら、こんな余裕無かったよ。

 

魔神を倒して、あたしたちは奥へと進み……。

 

「おっ、宝箱だ」とうれしそうなリオン。罠の無いことを確かめて、さっそく開けてみると、ひとつ500Gくらいで売れそうな宝石が5つ。

 

「おおー、臨時収入だあ!」とあたし。

 

「ラッキーね」

「綺麗な宝石じゃのう」

「ここに来たかいがあったなあ」

 

ナナとザム爺、ロッドも嬉しそうだった。

 

 

そして……。

 

部屋の奥にある"奈落の核"の前に、あたしたちはやって来た。

 

 

「これが"奈落の核"なのね」とナナ。

 

「うむ。これを破壊すれば"奈落の魔域"から出られるじゃろう」とザム爺。

 

「じゃあ、壊すよー? せーのっ」

 

あたしは声を掛けた。みんなで"奈落の核"を破壊する。

 

 

ぱらぱらと、五つの”奈落のかけら”に、それは砕けた。その"奈落のかけら"を拾い集めていると、外の景色がぼんやりと見えてくる。

 

「これで帰れるね!」

 

あたしたちは外の景色に向かって、歩きだした。

 

 

歩いて行くと、次第に周りの景色が歪み始め、渦を巻くようにして、それは消滅していく。

 

 

気が付くと、あたしたちは洞くつの入り口に立っていた。

 

 

"奈落の魔域"の消滅を確認して、あたしたちはユゴー村に帰ってきた。村長さんや村人たちが喜び合い、あたしたちに、合計1000Gを渡してくれた。

 

ユゴー村からマカジャハットまで戻り、ガッデンさんに事の次第を伝え、今回の冒険で入手した"奈落のかけら"や「悪魔の血」や「魔材」のアイテムを引き取ってもらう。宝石も売って、お金に変えた。

 

「お前さんたち、本当に力が付いてきたなあ。頼もしいぜ」とガッデンさん。

 

今回は、ユゴー村の村長さんから合計1000Gつまり、ひとり200G、宝箱の宝石が一人500G。そして”奈落のかけら”が200G。ガッデンさんからもらえた報酬がひとり1500G。一人当たり2400G! 魔物から入手した「魔材」や「悪魔の血」ふたつも合わせると、もうほっくほくだよ!

 

……こうして、あたしたちにとって初めての"奈落の魔域"の冒険は、大成功に終わったんだ。




オリジナル設定

エルビレアを吊り橋の罠におびき寄せて数を減らすという行動は、オリジナルのものです。


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それぞれのレベルアップ。そして休日を楽しんでいたら、魔航船がやって来た!

初めての"奈落の魔域"の冒険を終えて、あたしたちは「月明かりの夜亭」でそれぞれの技能を鍛えることにした。

 

あたしはフェンサー技能を上げた。今回みたいに、ひとりで敵をおびき寄せることが起こったとき、もしも転んじゃったりして敵に追いつかれたら、攻撃をかわせる技術を高めておくのはいいことだよね。

 

ロッドはプリースト技能を上げた。だんだんと使える神聖魔法が増えていくのは助かるよ。

 

先の魔神エルビレアとの戦闘でも、ロッドが信仰している"奈落の盾神イーヴ"の魔法には魔神に対する抵抗力を高める「カウンター・デーモン」があったから、地味だけど役に立ったよ。

 

あたしは魔神にも歌を聞かせたいなあって考えて、以前に魔神語を覚えてもいるんだけど……。襲ってくるなら、戦うしかないのも、冒険を重ねてすこし分かってきたし、そこは……うん、難しいとこ。

 

ナナはスカウト技能を鍛えた。同じスカウトのリオンが、技能も高いし結構運のいい子だから、ナナの技術はあんまり表に出てないけど、リオンに頼りきりだと困ることがあるかもしれないから、上げておいて損は無いと思う。

 

ナナは、防御能力が上がるブラックベルトっていうアイテムが気になっているみたいなんだけど。3000Gもするお高い買い物になるから、今回はパスするみたい。

 

確かに、それを買うなら、もうちょっと稼ぎたいとこだよね。

 

リオンもスカウト技能を上げた。"奈落の魔域"では、扉の鍵を開けたり、宝箱を開けたり、吊り橋の罠を作ったり、買ったばかりのフックがすぐに使えたりと、大活躍だったね!

 

今回、リオンが買うものは無いみたい。

 

「そろそろ一度、魔動死骸区に行きてえなあ」なんて言ってる。だいぶお金が貯まったもんね。

 

ザム爺はセージを上げた。さすがメリアの古老、とっても博識になっていくね!

 

 

 

そうして、レベルアップを終えたあたしたちは、久しぶりに休日を楽しむことにしたんだ。

 

一日まるっと、依頼は受けずに、それぞれが町の行きたいとこにばらけたの。

 

えーと……ナナはハイルの誘いを受けて、一緒に、美術館巡りしに行きました。デートだデート! ひゅーひゅー!

 

リオンは「久しぶりのベッドだぜ!」って言って、おなじみの「月明かりの夜亭」のお部屋でのんびりとお昼寝。

 

ザム爺は「日光浴してくるわい」って町に出て行った。

 

ロッドは休日中も、体を鍛えるみたい。

 

あたし? あたしは、町かどで歌ってる吟遊詩人たちと、楽器を一緒に奏でたり、踊り子さんと一緒に踊ったりしてたら、あっという間に一日が過ぎちゃった。

 

そうして、ひとりひとり、久しぶりのお休みをマカジャハットで楽しんでいたら……。

 

町の上空を、すっぽりと覆ってしまいそうな、空中に浮かぶ大きな乗り物……魔航船がやって来たんだ……!

 

 

 




パーティメンバー各種技能レベル

ピコ 

 バードLv4 セージLv2 フェンサーLv3 

ロッド

 ファイターLv3 プリーストLv3 エンハンサーLv1  

ナナ

 グラップラーLv4 スカウトLv3 エンハンサーLv1  

リオン

 スカウトLv4 ソーサラーLv3 フェンサーLv2 

ザムザム

 フェアリーティマーLv3 セージLv4 


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