至高の夢は終わらない (ゲオザーグ)
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評決の日
見切り発車もいいとこなんですが、結構モチベーションはともかくネタ自体はいくつも浮かんできちゃう
むしろそれを形にできる気力がなくて辛い(自業自得)
『扱いづらいパーツとかって話だが、最新型が負けるわけねえだろ!!行くぞおおぉぁあ!!』
かつての繁栄が去って久しい、砂嵐に埋もれた大都市の一角。所々塗装が剥げ、錆びた部分が見える標識や、辛うじて線が覗く路上にて、青と緑に塗装されたロボットが、両肩に収納されていた仕込み武器のブレードを展開して、勢いよく啖呵を切りながら突き進む先にいるのは、巨大な角と牙が目立つ、重厚な和風鎧に身を包んだ半魔巨人。そして両者がすれ違わんとした瞬間、ロボットが両腕を叩きつける前に動き出した巨人の一閃で腰から上下に分断され、巨人を飛び越えた上半身は頭から地面に突き刺さり、下半身は装甲の着いた左足を下にしてきりもみ回転で後方へと過ぎ去っていく。
「う~わぁ、見事に真っ二つ。流石は建やん」
直後ロボットの下半身を足場に姿を現したのは、異様な覆面で顔を覆った、いかにも忍者と言わんばかりの装いの人物。左手に持つ刀には、こちらも今しがた倒してきたところらしい、折り畳み式の細い首部分から引き千切られ単眼のロボットの頭部が、頭頂部から串刺しにされていた。
「まあレベル自体は相変わらず高くて、今までと大差ないようだが、さっきまでみたいにワンサカ湧き出て乱戦にならないだけ、まだこっちのが戦いやすいっちゃ言えるな」
ふう、と半魔巨人がため息をついた直後、巨大な航空機が炎上しながらはるか彼方に墜落し、爆音を上げる。ついで発生した突風と土煙が、両者を覆ってなお勢い止まらず進んでいくことから、爆発が相当な規模だったことがうかがえる。
「わっぷ、すっげー土煙だなオイ。確かあのデカブツ、ブラックさんがウルベルトさんとブルー・インパルスさん連れて相手しにいったんだっけか?」
「そうだな。ここ入って早々に、アレと同じのから違うのまで幾つも上空で飛んでるのを見たブラックさんが、『ずっと飛んでたらヤバそうだから、少しでも片付けてきます』って、文字通り飛んでったっけ」
土煙が止んでから自身のステータスを確認すると、ダメージ等は特に問題ないと判断した両者がこの場にいない仲間の話をしていると、新たな敵影が現れる。
『傭兵同士の潰し合いかよ、仕事ってのは辛いねぇ』
『2人がかりでよく言う、潰す気マンマンのくせによ。ヘヘッ』
「…確かお前がアーベラージで使ってるのって、あんな感じの機体だったか?」
「コイツもそうだったけど、イメージとしてはそうだと思うわ。あの装備がどんくらいの代物かはわかんねえけど」
くすんだオレンジ色で、鳥を思わせる脚部の機体と、細身の青い機体は、2人に狙いを定めたようで突撃してくるが、すでに迎撃の準備を整えた半魔巨人が前者、「クソ…が…ブッ殺…」と怨のこもったノイズ混じりの音声を流すロボットの頭部を、刀を振った勢いで投げ飛ばした忍者が後者に向けて銃撃の合間を縫って接近し、仕留めるまで大して時間はかからなかった。
「にしてもこれ、サービス終了まで間に合うもんかねえ?モモンガさん達も心配だし、やっぱ次フロアへの転移門探しのためにバラけたのは失敗だったか?」
「今更言ったってしょうがねえよ。まずはこのどんどん出てくる場違い極まりないロボット軍団とっとと片付けて、その転移門探し出すぞ」
スケジュールと仲間の心配をする忍者に対し、半魔巨人の意識は早くも駆け付けた新手――両手の盾に、いくつもの着弾跡が刻まれた盾のエンブレムが描かれた緑色の機体と、戦車のような下半身で、銃器を構えたピンクの機体――に向いていた。それ以外にも、ダークグリーンのカラーと右手にガトリング砲を持つ点が共通する機体や、色合いこそ先程のと似てなくもないが、より重装甲重装備の機体など、次々とロボット達が2人に向けて集まってくる。
『私の命はあなたのもの。いつもどおりに、ご遠慮なく!』
『言われなくても撃つけどさ。アンタが死のうが、アタシどうでもいいから』
『来たぜ!おい、ホントに全開でいいんだな?』
『弾代は保証するって話だ!撃ちまくれえアッハッハッハッハッハ!』
『我ら親子の戦い、その要諦は守り!いいか、焦りも恐れも無用だ』
『了解だ、親父。いつもどおり、やってみせるさ』
『今日もいつもと同じだ、兄弟。あいつが動かなくなるまで撃つ』
『そうだな、兄弟。撃って殺すだけだ、俺たちの前に立つ奴は』
『いくら手ごわいと言え、2人がかりでは…勝ったところで、これでは卑怯者呼ばわりされます』
『そこそこ腕は立つようにはなったが、バカか貴様は!いいか、死んだ奴はモノを言わんのだ!』
「…どうしよ、終わる気がしなくなってきた」
「安心しろ、潰し続けりゃいつかは出てこなくなるさ」
軽口をたたき合いながらもしっかりと武器を構える半魔巨人――武人建御雷と忍者――弐式炎雷。両者の視界に眼前の軍勢はなく、すでにその先を見ていた。
ところ変わって、先程の2人から離れた別の摩天楼。薄く霧がかかり、立ち並ぶ高層ビルは上部が大きくえぐり取られたように破損したものや、丸ごと喪失したまま放置され、人気も全くない。そんな中、開けたところで円盤状のボディから生えていただろう複数本の足をほぼ失い、残りを天に向けるように倒れた状態で放置された巨大兵器の残骸の上に「彼ら」はいた。「彼ら」を人と称するには、どうしても語弊があるだろう。場違いにも程がある――尤も「彼ら」にしてみれば、この場所の方が文字通り「場違い」なのだろうが――武骨なローブをまとい、身の丈と並ぶ長さの杖を手にした者は、その顔が皮も肉も一切ない、眼窩の吊り上がった髑髏なのだから。そして周囲のビル上に立ち並ぶ、黄色いカラーリングに蜜蜂をモチーフにしたエンブレムを左肩に施されたロボットの軍団から、その髑髏を守るように対峙するのは、口がついた数多の球状の肉塊がブドウの粒のように集まり、人型を成した様な者と、中世の貴族を思わせる三角帽子に、バロック朝時代の貴族を思わせる派手な服装を真紅で揃え、右手に構えたレイピアを前方のロボット達に突き付ける、アイボリーのワニ人間。
『世界は破壊しつくされ、それでもなお戦いは続いている。消してあげます。そして世に平穏のあらんことを』
『世に平穏のあらんことを。でもあの機体じゃ……たいした金にならなそうだなぁ』
『あなたのような方を消さねば、戦いは無くならぬ。我らはそう仰せつかりました。世に平穏のあらんことを』
『あれだ同志よ。世の平穏を乱す、愚か者よ』
『消さねばならぬ。さもなくば、この荒れ果てた世は救えぬ』
『『世に平穏のあらんことを。世に平穏のあらんことを』』
『我らの本懐を妨げる愚か者…消えよ。世に平穏のあらんことを』
『そろそろ殺しにも飽いたろう。吾が自ら、引導を呉れてやる。彼岸にて、心安らかに暮らすがよい。そして世に平穏のあらんことを』
『大いなるものが我らを見ている。負けるはずがない』
『このエンブレムこそ、その証……ウッフフフフ……』
『『世に平穏のあらんことを』』
世の平穏を掲げ、その邪魔になると一方的に排除を宣告するロボット軍団に対し、真っ先に反応したのは、――傍から見ればどうやったのかは不明だが――喉奥から押し殺すような笑い声をあげる髑髏だった。
「先程から聞いていれば、随分と勝手なことを言ってくれる。かつて我等が成しえた栄光を、何の接点もなく過去のものと称する貴様等の主もそうだが、敵とみれば品なく攻め込んでくるだけだった下の階層の連中といい、随分と無礼者ばかりたむろしていると見える。ならば貴様等の主に、礼儀を徹底的に叩き込んでやろうではないか。我等『アインズ・ウール・ゴウン』がな!」
「さあ行きましょうぞモモンガ様!御前を塞ぐ者は、このクロコダイル公爵が逃がすことなく打ち払いますが故!」
続くようにワニ人間がノリノリで口上を述べると、最後に残った口だらけの肉塊も、ため息とともに呆れ顔の感情アイコンを浮かべるが、合わせるように腰の鞘から得物のロングソードを引き抜く。
「相変わらずノリノリですねえ2人とも。まあサッサと片付けて、ナザリックでお疲れ会に行きたいって気持ちは、俺もわからなくはないですがね」
直後4足型が一斉に銃撃を仕掛け、その合間を縫うように2足型が前方2人に切りかかるが、「クロコダイル公爵」と名乗ったワニ人間は、向かってきたコンビの機体に対し、即座に片方をレイピアで串刺しに、もう1機の頭を鷲掴みにすると同時に魔法を放ち、支援射撃と共に突き進む単体の機体が狙いを定めた肉塊は、ロングソードで切りつけると同時に魔法を発動させる。直後「モモンガ」と呼ばれた髑髏も、合わせるようにより強力な魔法を狙撃してくるロボット達目掛けて放つ。
「魔法最強化!強化掌握雷撃!」
「爆発する斬撃!」
「彼岸に行くのは貴様等のようだな!連鎖する龍雷!」
三者三様の攻撃で呆気ないほどにロボット軍団を全滅させた3人は、拍子抜けしながらも周囲を警戒する。先程の2人ほどではないが、度々波状攻撃気味に複数機が攻め込んできたため、油断はならない。
「揃って派手に決めるのもいいですが、そろそろ建御雷さん達と合流しましょう。ここで手間取ってると、またさっきみたいなのに絡まれちゃいますからね」
「そうですね。いやー、さっきはついいつもの調子で暴言吐いちゃいましたけど、最後の最後にこんな大舞台用意してくれたのは、素直に感謝ですね。おかげで予想してたよりも、大分メンバーが戻ってきてくれましたし」
「ここ最近はログインしても、せいぜいギルド維持費稼ぎくらいしかやることもありませんでしたからねえ。あちらさんも粋な真似をなさりますよ。ベルリバーさんも久々の実戦でしたが、腕が鈍ってないようで何よりでしたわ」
ワニ人間――紅白鰐合戦があるかどうかも分からない額をぬぐうような仕草で目の後部を撫でると、演技をやめて素に戻った髑髏――死の支配者のモモンガも、うれしい誤算のきっかけになってくれた存在への感謝を述べ、口だらけの肉塊――ベルリバーに合わせて仲間との合流を目指す。久々に元気を取り戻したモモンガの姿を見た紅白鰐合戦は、「この調子で新たな生き甲斐を見つけてほしいものだが」と依存ともいえるくらいこの世界にのめり込んでいる彼の身を案じていた。
先ほど墜落したのとはまた違う航空機が爆発、炎上をおこし、高度を下げていく。やがて地上に接触すると、付近に存在するものを無差別に呑み込むような大爆発を起こし、爆発音と衝撃波から少し遅れて、もうもうときのこ雲と土煙を巻き上げる。その様子を上空から眺めているのは、シルクハットを被り、顔の右半分を仮面で覆ったヤギ顔の悪魔、発達した腕と、淡く光る3対6つの紫眼を持ち、胸鰭と腹鰭が翼の如く重なって一体化した濃紺の影鮫、そして黄金色の四肢の先に、猛禽を思わせる漆黒の鉤爪を備え、身体を鮮やかな青い羽で覆った竜鳥人間。やがておもむろに口を開いたのは、ヤギ顔の悪魔だった。
「これで累計何機目だ?全然減る様子見せねえな・・・」
「今ので6機目だから、向こうにしてみれば全然な感じでしょうね。さっきから何機もヘリや飛行機が往復してますけど、そっちもしょっちゅう撃墜されてるはずなのに、全然減る様子ないし」
「もしかして、飛んでるの全部総合して演出用のオブジェクトとか?だとしたら完全無駄骨じゃん…」
「仲間の安全のため」と飛び出した影鮫をサポートすべく同行した悪魔との竜鳥人間だったが、それが完全に無意味な可能性を考慮した後者は、泣き顔の感情アイコンとともに愚痴を漏らすが、どちらもそれに付き合う気はないらしく、以後どうするかに話題を切り替えている。
「とりあえずもう空のデカブツどもは無視して、他のグループと合流しましょう。爆撃もいつまで続くかわかりませんし、早いとこ先に進まないとそのまま強制ログアウトで解散させられかねませんし」
「そりゃいいけど、航空戦力相手する羽目になったのはお前が原因なんだから、しっかり合流までのサポートしろよ?もう終わるからってアイテムとかケチって誤魔化すのはなしだからな」
「あっちょ、置いてくなぁ~!」
慌てて先に降りた2名を追って竜鳥人間も地上へ降りると、狙ったかの如く付近のビル上から黒いロボットが飛び降り、手にした銃器を構えて対峙する。
『お前で28人目。恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ』
そのロボットの発言に、真っ先に反応を示したのは影鮫。片方の刃渡りだけでも自身の肩幅ほどもある両刃の戦斧を右手に呼び出し、調子を確かめるようにブンブンと音を立てて振り回して見せた後に改めて突き付けるように構えると、大見得と共に――足がない故空を切って――突撃する。
「へえ、奇遇だな。確かに俺は28人目だよ。ただしアンタの獲物じゃなく、栄えある『アインズ・ウール・ゴウン』のな!」
そのまま縦横無尽にビルを駆け上り、路上を飛び回りながら時にロボットが距離を取って銃器で狙い撃ち、時に影鮫が一気に詰め寄り戦斧を叩きつける様を眺めていた悪魔と竜鳥人間は、認識される間もなく置き去りとなったためにその時間を無駄にするのは惜しいと、両者を無視して路地裏に隠れ、合流予定の調整に入った。
「とりあえず最寄りの組に合流するとして、今んところどこに誰がいる感じだ?」
「さっき『探索』使って調べた分だと、1番遠いのは茶釜さん達の組かな。それで、モモンガさん達が建御雷さん達と合流目指して移動中。だから、ブラックが戻ってきたら私等も後者と合流目指した方がいいと思う」
竜鳥人間の提案に悪魔が了解の返事をしようとしたのと同時に、その言葉を遮るかの如く『ガシャーン!』と炸裂音が響き渡る。様子を覗き見ると、胸部に大きな裂傷を負ったロボットがビルの中腹に背中から突き刺さる様にめり込み、勝利した喜びを誇る間もなく影鮫が戦斧を収納して戻ってくるところだった。
「すいません、今終わりました」
「ああ、見て分かった。とりあえず、モモンガさん達が建御雷さん達と合流目指してるから、俺達もそこに落ち合おう。インパルスさん、案内頼む」
「オッケー、じゃあ2度手間どころか余計な戦闘挟んだけど、もっかい飛行…は、面倒か。んじゃあ無駄手間かけさせたんだし、アンタがウルベルトさん抱えて運んでよブラック」
「え~…まあそれくらいいいけどよ…」
「いや、いい、自分で飛ぶわ。むしろそれなんて罰ゲームだよ……」
不満げな影鮫――グランディス・ブラックに両脇から肩を抱え込まれそうになって、拒絶した悪魔――ウルベルト・アレイン・オードルが手早く操作画面を呼び出し、発動させた飛行の魔法で空に舞うと、遅れて飛び上がった竜鳥人間――ブルー・インパルスが先陣を切って仲間達の元へと馳せ参じる。
激しい雷雨と荒れ狂う波風が吹き付ける巨大人工浮島は、激戦区となっていた。各地で戦闘由来の爆発や破損が生じる中、沿岸部から波風に乗って、打ち寄せられた廃材やコンテナを蹴散らしながら、ドラム缶を横にしたような無限軌道の下半身に盾と銃器を搭載したロボット達を豪快に突き飛ばすのは、長い鼻の横に対となった同様に長い牙、大きな耳を持つゾウの頭に、黒々とした豊かなライオンの鬣を首に蓄え、同じく漆黒の剛毛に覆われた腕に鋭利な鉤爪と肉球が露呈したクマのような手で、上半身よりも大きな鎚頭の戦槌を持つ獣王人。その後ろからは、雨風吹き荒れる中でも目立つ金の装飾で全身を飾った鳥人が、手に持った弓で、円盤のような体から、手足のような銃器とブースターが生えたロボットや、高台に陣取り、背負った折り畳み式の砲塔を伸ばして、狙撃体制をとる二足歩行のロボットを的確に射抜いていく。
「だぁクッソ!なんだってこんなわざわざ現実に合わせたみてえなフィールド用意してやがんだ!こかぁ『ユグドラシル』じゃねえのか!」
「ここまで荒廃はしてないだろうけど、オフ会でグラブラが、こんな感じの職場って話してた気がするわね。にしてもホント現実そっくりで、ガスマスクが欲しくなってくるわ……」
ウンザリするように突き進みながら戦槌を振り回し、建物や施設ごとロボットや戦闘している人間をまとめて撃破していく獣王人の横から、飛散する破片を避けながら姿を見せるのは、4本の腕を除いて形状だけ見れば人に似た上半身に、同じく甲殻に覆われ、各所に節のある4本の脚、その後ろに大きく膨らみながら先端部が急激に細くなった尾を持ち、背中の甲羅に透明な翅をしまう竜蜘蛛。どちらも見覚えのあり過ぎる周囲の景色に辟易しているが、それは他の者たちも同じようで、周囲の敵を一掃した鳥人を皮切りに、次々合流する仲間達も、同様に不満を露にする。
「マジでほぼまんま現実な状態ですよねーこの階層。一応これ、大分昔のゲームのステージらしいけど、昔の人って予言してたのかな?」
「むしろ『そうなる』って警告してたのに無視し続けた結果が、今の現実なんじゃないかね。それにしても、人数の多さに任せて行動している間に、随分モモンガ君達と離れてしまったようだな。そろそろ回復も必要だと思うし、ここを突破した辺りで、皆を待ちながら休憩しないかい?」
真っ先に肯定したのは、姿こそ鳥人の同族にも見えるが、雨の中でも消えない色鮮やかな炎をまとった朱雀。羽織ったローブや手にした杖を含め、身に着けた装飾品も炎をモチーフにしており、羽毛は髪や髭を思わせる顔の付近こそ角度や光の加減で白や銀にも見える薄水色だが、それ以外は落ち着いた赤で統一されており、穏やかな物腰もあって、老紳士を思わせる。続けて合流したのは、両手に巨大盾を持ち、全身金属鎧をまとった竜人。ローブの鳥人からの提案を聞き、兜の顔部分を開いて素顔を晒して答える。
「さんせー。いやー、あの姿も愛着はないことないんだけど、せっかく復帰するんなら、ってちょっと気分転換のつもりで種族変えてみたら、こうも使い勝手が変わるなんてねえ。粘液盾の名が泣くわ……」
「そういえばそのアバター、インパルスさんがデザインしたんでしたっけ?」
苦笑い顔の感情アイコンを浮かべ、ブランクを抜きにしても、以前活躍した時との勝手の違いを嘆く竜人に尋ねたのは、蔓が束になって、人型を成した様なヴァイン・デス。決して小さくはないものの、周囲が巨体ばかりなため、相対的にそう見えてしまう。
「そうそう、あの人この手のキャラが好きで、復帰の話したら『是非アバターデザインを』ってこっちが引くくらい必死になって頼み込んできてさあ。他にも人魚やら半人半馬やら、色々デザイン提出してきてね。で、『ボツったのは勿体ないから、折角だしナザリックの余ってるポイント使って、NPC作るんだー』って意気込んでた」
「あー、懐かしいなあ。初対面で自己紹介した時、女性って知った途端マナーも何もなしにインパルスさんが『そんなアバター』呼ばわりして、それにキレた姉ちゃんが1発キツいのぶちかましたから、もうブラックさんと鰐合戦さんが平謝りし続けて……」
「オイ愚弟、テメエドサクサでいつの話引っ張り出してきやがんだよ」
割り込んできた鳥人に対し、それまでの良く言えば可愛げのある、悪く言えば媚びたような声から一転し、急にドスの利いた低い声で威圧する竜人。それを見た残りの面々は過去を思い出し、「ああまたか」と呆れた様な雰囲気を出すが、直後炸裂音と共に付近の建物が何か所も吹き飛び、爆発が起きる。
「あー、お2人さん姉弟喧嘩どころじゃないよ。さっきペロロン君が見つけたあの軍艦、だいぶ接近してきたみたい。無視してさっさと次に行くか、一気に叩いて無力化するか。どの道ここは早急に決めないと、今度はさっきのを浴びることになるかもしれないよ?」
「そうね。でもペロロン君や教授みたいな奴も飛び回ってるし、このままじゃ先に進む前に、ミサイルやら砲撃やらで全滅よ。まあ、ここの連中が持ってるおそらくはワールドアイテムの効果で、いくらか戻されても振り出しにならないだけマシなんだろうけど……」
両手に巨大な籠手を装備した半魔巨人が忠告し、竜蜘蛛も早急な指示を要求するように、崩落していくらか開けた部分から海の方を見れば、そこには見るからに巨大な軍艦が鎮座しており、各所から射撃やミサイルを発射し、撃破しようと駆け付けた者達を次々葬っていく。さらにその付近には、先ほどの円盤型を始め、鳥のような風貌をしたロボットや、両脇のコンテナにプロペラを付けた大型機を始めとした様々なヘリが何機も滞在しており、軍艦をサポートするかのように、それぞれが思い思いに備えた銃器を発射している。
「じゃあ周囲の航空戦力は俺と朱雀さんが始末するとして、メコンさんは姉ちゃんとシャドウさんを護衛、ぷにっと萌えさんとやまいこさんをサポートに、軍艦をお願いしていいですかね?」
「そこはむしろ、君達の方に茶釜さんをおいて、アイツ等の気を引いてもらった方がいいんじゃないかと思いますよ?あの数と弾幕じゃ、そちらにも盾役を護衛に置かないと負担が大きすぎますよ。私としては、特に朱雀さんが大丈夫か心配です」
即座に鳥人が護衛の相手を名乗り出たが、ヴァイン・デスがその布陣に対する問題点を挙げ、自分と共に軍艦の相手に推薦された竜人を、両者の護衛に配備するよう意見する。
「心配ありがとう。まあ、確かに年と体への負担のせいで、ドクターストップ受けて引退することにはなったけど、今日1日くらいなら、そこまで負担にはならないと思うよ。むしろあのまま参加を見送っていたら、今後そのことを後悔し続ける羽目になったんじゃないかな。それじゃあいい加減ここから出ないといけなそうだし、ササッとバフを済ませるから、やまいこ君は回復を頼む。ペロロンチーノ君の作戦と、ぷにっと萌え君の陣形で行こう。頼んだよメコン君達」
「応ともさ!そこまでお膳立てされちゃあ、無様は晒せませんよ」
「奮戦するのはいいですけど、無茶しないでくださいね?心配してるのはぷにっとさんだけじゃないんですから」
短杖を振って仲間に回復をかける半魔巨人のやまいこと共に、手に持つ杖を光らせ、仲間に恩恵を与える朱雀――死獣天朱雀は、自身の体調が決して万全ではないことを自覚している。仲間の中には、かつての根城に残った者同士や、親族など親交のある部外者と思い出に浸ることを優先した者、そもそも顔を出すことを選ばなかった者もいたが、それでも彼が今回の参加メンバーに名乗りを挙げたのは、老齢の身故に先が短いと自覚しているからこそ、この世界で知り合った友のために、最後にもう一奮いくらいはするのが、せめてもの礼儀だと判断したから。「どうせ先がないのなら、ここで活躍すれば、いい冥土の土産になるだろう」と、多少冗談めいた説得で困らせてしまったことへの謝罪も込め、こうして心配する周囲に無理を押して願い出た。
そしてその思いを受け取った仲間達――獣王人の獣王メコン川は、竜蜘蛛のシャドウ・ウィドゥ、ヴァイン・デスのぷにっと萌えにやまいこを連れ――間の悪いことに他グループの「必ずや撃墜して帰ってきます!」「必ずや撃墜して帰ってくるなよ!」「必ずや撃墜して帰ってこられないんですか!?やぁだ~!」などとふざけたやり取りがBGMになったため「なんつー締まりのない様だ」と思いながらも――軍艦へと向かい、鳥人のペロロンチーノ、その姉の竜人――ぶくぶく茶釜は、彼等のサポートのため、死獣天朱雀と共に、周囲のロボットやヘリに立ち向かって行く。
書いといてなんだがなんだこのVACvsナザリックな構造はww
ついでと言っちゃなんだが獣王メコン川さんや死獣天朱雀さんのアバターはオリジナルですww
そして今回登場したぶくぶく茶釜さん含む1部メンバーのアバター変更の理由含む設定、経緯については次章にて説明いたしますのでしばしお待ちを
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決戦の地
ってことで説明フェイズ入りま~す
度重なる乱開発と、それに伴う環境汚染が負のループを紡ぎ続けた結果、最早人類は巨大複合企業が管理する完全環境都市、通称「アーコロジー」の外では、満足に生身を晒すどころか、人工心肺なしで活動することすらできない状態まで追い込まれた。
そのアーコロジー同士でさえ、僅かな物資を巡って衝突するほど疲弊した現実に嫌気がさし、逃避のための空想世界として人気を博したDMMO-RPGの中でも、豊富極まりないアバターモデルから職業の組み合わせをはじめ、無限に等しいプレイスタイルを誇った『ユグドラシル』は、長いこと不動の人気と業界内における確固たる地位を築いてきた。
しかし、いかに一世を風靡しようと、時と人気の流れに勝つことは叶わず、ついに12年にも渡ったその歴史に幕を下ろすことが決定されると、「最後の時くらい仲間とゆっくり」、あるいは「かつて倒せなかったあのボスを」などと大半のプレイヤーは考えていたのであろうが、その2月前――悪足掻き気味に前世紀初頭前後を主軸とした権利切れサブカルチャー作品を無差別に取り入れた、通称『最後の大規模イベント』こと大型アップデートイベント『古世界からの使者達』終了後、不特定多数のゲーム内市街地にて、挑戦状ともいうべきメッセージが掲載され始める。
「かつて伝説と栄華を誇った異形種の巣窟『アインズ・ウール・ゴウン』をはじめ、すでに多くの上位ギルドは過去の形骸と化した。そして最早残り少ない時で仮初の安寧を過ごし、最後を迎えるだけの諸君に対し、我等『暁の君臨者』は、最後の大決戦を申し込む。我こそはと思うものは、サービス終了日にて我等の本拠地たる『タワー』にて決戦を迎えよう
P.S 我等の『タワー』内部ギミックは挑戦者を殺すつもりで作った。お前らみんな殺す」
元々は旧時代のサブカルチャー作品に登場する悪役を好む者達が立ち上げ、『悪党軍団』と名乗っていたその集団は、せいぜい同好会クラスのごく小規模な集団に過ぎず、完全に無名の十把一絡げどころか、活動内容もあまり強力なボスに挑むようなことも難関ダンジョンを攻略するようなこともなく、日々適当に財を稼いでその日暮らしをするような代物だったが、『最後の大規模イベント』における活躍で、一気に有名な存在へと成り上がる。
最早サービス終了待ったなしな状態の『ユグドラシル』にて、他のプレイヤーが課金に走らず、せいぜい各所で興味を有した作品モチーフのイベントダンジョンを、まったりプレイで勤しむ中、「待ってました」とばかりにそれまでの消極的な活動がウソの様に活性化し、積極的なイベントダンジョンの探索、攻略に限らず、大規模な課金をしてまで様々なイベントクエストを急速にクリアしていき、その過程で彼らが『タワー』と呼ぶ超巨大拠点系ダンジョンを手中に収めると同時にギルドとして旗揚げし、外装を始めとしたアバターの改修、各々好きなキャラをモチーフにしたNPCの製作、同様にイベント限定の課金ガチャを枯渇させる勢いで無差別にまわし、傭兵NPCとして獲得可能なキャラの収集など、大規模な課金活動を含め、大幅に戦力を拡大していった。
あまりの金に糸目をつけないその振る舞いは、「メンバーはアーコロジーを切り盛りする支配層出身者」「戦力を確保するために野良プレイヤーを金銭で釣って招き、課金ガチャをやるだけやらせて、用が済んだら即座に切り捨てるような、ほぼ違法に等しいこともやった」「そもそもこのイベント自体、『ユグドラシル』終了にかこつけたアーコロジー支配者達の戯れ」なんて噂もあがったことさえある。
話を記載されたメッセージに戻すと、この挑戦状に対抗心を燃やし、すでに引退して久しいメンバーを呼び戻してまで準備に励むギルドも存在する中、名指しで過去の産物扱いされた当の『アインズ・ウール・ゴウン』もまた、「その挑戦を真っ向から受けてやろうじゃないか」と息巻いていた。
元々ギルド長のモモンガは、既に大半のメンバーが『ユグドラシル』を引退し、活動規模がとうに下火となった状態でも、初見攻略後拠点に改装した『ナザリック地下大墳墓』を存続させるべく、同様に定期的なログインを欠かさない熱心なメンバー――グランディス・ブラック、紅白鰐合戦、ブルー・インパルス、シャドウ・ウィドゥ達とともに、ノルマや制限時間を設けながら、競いあうようにして維持費を稼ぎ続けてきた。そうしたある種の依存に等しい状態のモモンガにとって、当然『ユグドラシル』終焉の報は非常に大きなショックとなったが、メンバー達の協力を得た上で、「せめて最後の思い出に」とアカウントも抹消していたかつての仲間達に対し、「折角だし久しぶりにメンバーで集まって、『ユグドラシル』最後の時を一緒に迎えませんか」とある種の未練も籠ったメールを送っていた。残念なことに大半のメンバーから返ってきたのは、仕事の多忙など現実での事情を理由とした謝罪と断りの言葉だったが、そうした中、偶々ネット上で晒されていた「暁の君臨者」の宣戦布告を目の当たりにした武人建御雷と弐式炎雷が、「引退して久しい身とは言え、かつて仲間とともに築き上げた栄光を、ぽっと出の連中如きから勝手に終わったような扱いをされちゃたまらん」と参加の意思を示す。
2人ともアカウントこそとうに抹消していたが、幸い当時使っていたアバターのモデルデータ自体は残っており、装備に関しても、引退の際モモンガに引き渡していたため、合流後に受け取れば問題なかった。更に運営も、最後のカムバックキャンペーンとして、アバター作成の際に種族や職業のレベルも――さすがに「公式チート」とも呼ばれる世界級職業は除外されたが――設定できるようにしていたため、実質無条件で当時の最強状態で復帰することも可能と、御誂えの条件が揃っている。そして相手を想うが故に強く自己主張できないモモンガに代わり、残存メンバー代表名義でグランディス・ブラック協力の元、2人が「名前も聞いたことないような連中から、まるで討ち取ったとばかりに名を挙げられて恥ずかしくないのか」「俺達は決して過去の存在じゃない、『アインズ・ウール・ゴウン」はいまだ健在なりと、勝手に名を持ち出してきた恥知らずどもに思い知らせてやろう』などと断ったメンバー達に改めて声をかけていくうち、プライドや思い出を刺激され、同様に「じゃあ自分も」と参加表明を示すメンバーが続出していき、最終的には攻略に参加せず、『ナザリック地下大墳墓』にて思い出に浸ったり、他の場所をまわったりして過ごそうとするものも含めれば、一転して実に半分近い20人ほどが再来を約束した。
特に『アインズ・ウール・ゴウン』の前身たる集団『九人の自殺点』の発起人にして、公式チート職業の1つ『ワールドチャンピオン』を取得していたたっち・みーの参加は、その打倒を目標としていた武人建御雷や、始めて間もない頃PKの被害に遭い続け、引退を考慮するほど嫌気がさしていたところを助けてもらったモモンガにとって、一際喜びを強めた。
残念なことに引退の際アカウントも抹消していたため、それに伴い『ワールドチャンピオン』の職業も失われており、また特例で招待された妻と娘にナザリックを案内するために、同じく古株で親交のあったあまのまひとつや、懇親の出来ともいうべき第六階層の夜空を名残惜しんだブルー・プラネットと共に残りたいと願い出たが、「『一緒に遊ぼう』とせがまれ、2人に合わせた」と語る新たなアバターはかつて使っていた昆虫系ではなく、天使系の最高位種熾天使で、現役時代何かと対立し、当時使っていた悪魔アバターのまま再開していたウルベルトは「ある意味アンタらしい姿になって帰ってきたな」と皮肉を漏らし、装備やステータスを見せてもらったモモンガは、その圧倒的な強さに思わず「『ワールドチャンピオン』を取得していたころに負けずとも劣らないのではなかろうか」「『暁の君臨者』の連中がどれほどの戦力を有してるのかはサッパリだが、やっぱりたっちさん1人加わってもらうだけで無双できるんじゃないかな」と眩暈を起こしかけたそうな。
またその裏で、同じくナザリック残留を望んだ餡ころもっちもちを始め、ぶくぶく茶釜、やまいこに加え、長らく『ネナベ』と呼ばれる性別偽証をしていたタブラ・スマラグディナを含む同じ女性メンバーに対し、ブルー・インパルスがわざわざ現実で呼び出し、「せっかくだし一念発起して新しいアバターにしてはどうか」と執拗に息巻いてきたが、「キモ可愛い」とは言い続けていたものの、周囲の予想通り――むしろその憐れむような反応が苦しかったそうだが――引くに引けずピンクの肉棒を使っていたぶくぶく茶釜と、かつてはクトゥルフ神話好きが高じ、クトゥルフ神を連想させるタコの様な頭に、溺死体のような膨れ上がった歪な体の『脳食い』を選択したが、他のメンバーが同族で強烈なキワモノ感満載のNPCを作ったせいで気持ち肩身が狭くなったタブラ・スマラグディナ以外の2人は「気に入ってるから」と当時のアバターで復帰する旨をたじたじになりながら伝え、それでもなお勧めてくるブルー・インパルスが「なると思った」と同行して予想通り助けを求められたシャドウ・ウィドゥに締めあげられる一幕もあった。こちらは「モモンガさんに余計な心労かけないため」と元々紅白鰐合戦も含め『爪弾き者』として活動していた頃のリーダーだったグランディス・ブラックにだけ通告され、後日彼が謝罪に駆け回る羽目になった。
結局同様に帰還したやまいこの説得で、娘のユカリは以前にも特例でナザリックを訪問したことのある彼女の妹あけみ共々ナザリックに残った仲間達に預け、同じ天使系種族の乙女天使を取得した妻のメグ共々戦力として駆り出されたたっち・みーが、巨大人工浮島にほど近いビル街の一角にて観察しているのは、人型――と言えるかどうかわからない、中央のレーザーキャノンに手足を取り付けたような風貌で、グランディス・ブラックや武人建御雷が撃破したロボット――ACの何倍もありそうな――具体的に言ってしまえば、周囲の高層ビルと大差ない、赤い装甲に覆われた巨大なロボット兵器。
『TypeD No.5』と呼ばれるその巨大兵器は、先ほどからレーザーキャノンに指からのグレネード、背部のミサイルポッドからのミサイルを次々乱射しては、挑みかかるプレイヤー達を周囲の地形を変える勢いで葬っていく。元のゲームでは割とガバガバな耐久管理のせいで、呆気なく片付いてしまうことも多かったそうだが、『ユグドラシル』で生まれ変わったこの巨大兵器は、当時の恨みを晴らさんとばかりに大暴れし、主達の野望のために破壊の限りを尽くす。
「茶釜さん達が相手してるって軍艦もだろうけど、多分アレも妨害系ボスの1種なんだろうな。まあ、こうして遠めに見てると、場所問わずに当たればダメージは入ってる分、先に相手したあの6本脚の奴よりはマシそうだけど……」
様子見をしているたっち・みーが思い出していたのは、ついさっき戦った別の巨大兵器。円盤状の本体から6本のぶ厚い板状の脚が伸びるその機体――『L.L.L』は、全身を非常に強固な装甲に覆われ、攻撃の際に顔を出す脚部のレーザーキャノン部分以外は、一切のダメージが通らないトンデモ仕様だった。何とか周囲で攻撃する他のプレイヤー達を囮にしている間にレーザーキャノンを破壊していき、撃破に成功したが、この調子ではまだまだ同様の巨大兵器が待ち構えているのではないかと思うと、思わずため息をつかずにはいられない。
「ほらほら、元気出して。ひとまずあれ撃破したら茶釜さん達と合流して、モモンガさん達待ちましょ?」
そんなたっち・みーの隣で、メグが苦笑いの感情アイコンを表示しながら宥める。その様子を眺めながら同じように苦笑いの感情アイコンを表示するのは、煙と炎をまとい、所々陽炎が揺らめくようにぼやけた人型の精霊、ジンのウィッシュⅢと、上半身こそシルエットはグラマラスで、降ろせば腰より下に届くと思わせる長い藍色の髪共々魅力的ながら、肌の色は下半身の蛇体共々深い蒼で、耳の上から1本ずつ角が後ろへなびくように伸び、口からは呼吸に合わせるように青白い炎が一定間隔で噴き出る、強力な悪魔系とドラゴン系の複合異形種『蛇竜母』に変更したタブラ・スマラグディナの2人。先程の『L.L.L』戦では、各員それぞれ1脚ごとに分散し、攻撃のために展開したレーザーキャノンを大威力の攻撃で破壊していき、最後は2人組となって残りの2脚のレーザーキャノンを仕留めフィニッシュとなったが、どちらもブランクを――タブラに関しては、今までと勝手が違うためのギャップも――感じさせない見事な身のこなしと、プレイスキルを披露している。――蛇足だがついでに言うと、実は先程モモンガ達がミツバチモチーフのエンブレムを付けたAC集団――『ビーハイヴ』を相手した時足場にしていた巨大オブジェは、まさに撃破された『L.L.L』の長年放置された残骸という設定だったりするが、当人達がそれを知るのは、もうしばらく先になる。
「やはり狙うとすれば、先程のように相手が攻撃する際のカウンターだろうね。特にあれは色々と武装を積んでいるようだから、どこを攻撃してもいいってんなら、さすがにコア部分のレーザーキャノンは危険すぎるにしても、最低でも背中のミサイルポッドと、それぞれが砲塔になっている指部分を破壊すれば大きく戦力を削げるはずだ」
「指部分といやあ、さっきから腕の中ほどでガチャガチャ鳴ってる飛び出た部分があるんだが、ありゃあ弾倉かね?だとしたらそっち爆破すればもっと効果的じゃないかと」
ひとまずこのまま眺めてばかりいてもどうにもならないので、攻略に取り掛かるべくタブラ・スマラグディナが提案したのは、先程の『L.L.L』同様の武装破壊。そのリスクとリターンを考慮し、まずは指先が大口径のグレネードキャノンとなっている腕部分と、そこから肩部分を通って到達可能な背部のミサイルポッドに狙いを定めようとしたところ、ウィッシュⅢがグレネード弾の詰まった弾倉部分を破壊すればより効率的と修正を加え、リーダー担当のたっち・みーの意見を待つ。
「わかりました。それではさっきと同様に、私達夫婦とそちらで左右に分かれて、可能なら周囲のプレイヤーと協力して、それぞれミサイルポッドと弾倉を破壊していきましょう」
「オーケーたっちさん。ならちょうどこっちに背を向けてるわけだし、早い者勝ちってことで、俺は左側のミサイルポッドをやらせてもらおうかな。タブラさんは腕の方頼みますわ!」
「ハイハイ、ターゲットの選択速度は相変わらずだねぇ」
そして決まったと同時に宣言通り飛び出していくウィッシュⅢにタブラ・スマラグディナが続き、たっち・みーもメグと共に反対側の武装破壊に向かう。
それぞれが一騎当千たる『アインズ・ウール・ゴウン』は、かつての最盛期に自分達が相手した1500人もの大攻勢を思い出す、1200人近い挑戦者の中でも突出して活躍した。正確には、むしろ他のギルドが活躍できないほど「暁の君臨者」の戦力が過度だったともいうべきかもしれない。なんせ彼らの拠点――『タワー』は地下深くへと潜っていく『ナザリック地下大墳墓』とは逆に、名前通り天高く聳え立つ塔を昇っていくのだが、その第1階層――建物が階段状に斜面の各所に立ち並び、その合間にヘリポートらしき開けた場所もある『市街領域』からして「色々とおかしい」と挑戦者達からクレームが勃発した。本来本拠地防衛の序盤戦力となるのは、『POPモンスター』と呼ばれる自動的かつ無尽蔵に出現するLv30までのモンスターなのだが、あろうことか『タワー』で挑戦者達を出迎えたのは、Lv80を超える傭兵NPC軍団だったのだから。
白一色のコスチュームに身を包み、ナイフでの近接戦を得意とする『好中球』、黒いコスチュームで肉弾戦を仕掛けてくる『キラーT』、淑女然とした姿に反し巨大な鈍器や刃物での一撃殲滅が脅威の『マクロファージ』と、予想に反した猛者達の猛攻に戦線は容易く崩壊し、多くの挑戦者達が早々に消え失せた。
これだけでも厄介なのだが、さらに拍車をかけたのが、彼らの有するワールドアイテム『原祖女悪魔の祝福』。このワールドアイテムは、『領域内での蘇生アイテムを使用不能にし、死亡した者を、敵味方問わず死亡時の不利益なしで3分後に体力最大値を保持していた地点に再生させる』という効果を有しているのだが、その再生条件が非常に複雑かつ厄介な代物で、例えば入って早々落とし穴にかかって死亡した場合、その手前に無傷の状態で復活できる。しかし戦闘後に装備を破壊された状態で体力を回復させ、地雷を踏んで死亡した場合、アイテムの消耗や装備の損傷も回復時の状態から引き継いでしまうため、極端な話、クリアするためには完全に回復はせず、勢いそのままに突撃して死に戻りを繰り返すのが1番消耗を抑えた効率的な攻略方法なのだが、乱戦での混乱と情報がなかったこともあって、その効果が判明する頃には大部分のプレイヤー達に本来不要な回復がされてしまっており、大いに後悔する羽目になった。
幸い傭兵NPC達には専用の再生ポイントが用意されていたようで、倒してから再度襲撃してくるまでに間はあったものの、いつの間にか姿を見せていた新手の傭兵NPC――たっち・みー曰く、「自分やあまのまひとつが好きな変身ヒーローものに登場する、等身大の怪人達」が無数のPOPモンスター――同じく「それぞれの戦闘員達」を引き連れ出現するとさらに激戦となり、他グループへの誤射防止のためある程度密集して迎撃しながら突き進んだところで現れたのは、変身ヒーローを思わせるマスクに反し、半そでのシャツに短パン、サンダルと、かなりラフな格好でマスクの上から喫煙する場違いじみた不審者。
操作画面での状態確認にて名前が『天体戦士 サンレッド』と判明した直後、Lvが表示される前に警戒していた十数人のプレイヤーを瞬殺した彼は、プロレス技やらステゴロの殴り合い、果ては吸っていた煙草の押し付けなど、ヒーローというより最早ならず者に等しい暴れぶりを見せ、かつてナザリック攻略でボスを仕留めたことのある、武人建御雷の『五大明王コンボ』で動きを封じたところへの弐式炎雷の『素戔嗚』での一撃さえ問題なく耐えてみせたが、その振る舞いに「ヒーロー像を汚すな」とキレたたっち・みーが大暴れしたことで本気状態の『ファイアーバードフォーム』に移行した末、一騎打ちで激戦の果てに撃破。
しかしこれで終わりかと思いきや、続いて姿を現したのは、全身を金属で覆った蛇のような竜、『メタルシードラモン』。本来上限がLv100の『ユグドラシル』ならあり得ないLv300はその場にいた者を驚愕させるには十分だったが、周囲から傭兵NPC達が姿を消していたこともあって、何とか仕様に慣れてきたところで戦闘自体は問題なく進んだものの、更に連続して重機を組み合わせたような『ブレイクドラモン』、巨大な2連装砲を背負った『ムゲンドラモン』、機動力に優れた『ダークドラモン』と同じLvの階層守護者級NPCが次々出現し、最後に現れたのは、Lv500の『メギドラモン』。「お前らみんな殺す」のフレーズに嘘偽りなしと言わんばかり続く怒涛の連戦に、この段階で早くも精神的に限界を迎え、マジギレしたプレイヤー達との激戦の傍ら、連戦に疲弊した『アインズ・ウール・ゴウン』の面々は彼らに戦闘を任せ休憩していたのだが、その間に大激闘の末、ようやく出現した次の階層――森林を中心に、砂漠や沼地など多様なフィールドが広がる『自然領域』への転移門が解放されると、ぷにっと萌えの提案で仕様が分かるまではまだ余力と勢いのある他のプレイヤー達に先を任せ、落ち着いて進むことになった。
ナザリックにも森林の階層はあるが、『自然領域』の名に恥じぬ多彩な環境は、ゆっくりと腰を落ち着かせることができる時間と、どのようなモンスターが現れても対処可能な装備があれば、森林浴を始めとした観光気分で眺めることもできただろう。しかしサービス終了間近の状態では早急な突破が優先事項であり、暢気に周囲を巡っている余裕などない。
『暁の君臨者』もそれを理解してか、転移門付近にお手本よろしくギミック担当のモンスター――自動車よりも大型のカブトムシやクワガタムシが何体か配備されており、Lv100~140を2体、160~180を1体と順に強くなっていくムシ達を倒していき、最後に現れるLv200を6体――つまり前哨戦含め24回の連戦を勝ち抜けば、階層守護者が出現すると解説まで入れてくるが、先のサンレッドからの連戦をこなした大半のプレイヤーからは、『市街領域』での有様から辿り着けまいと認識した挑発のように感じられたのは、ある意味仕方ないことであろう。
そして様々なモンスターの横槍をいなし続けた末、ギミックボスとでも呼ぶべき6体――『アクティオンゾウカブト』、『ギラファノコギリクワガタ』、『ヘルクレスオオカブト』、『タランドゥスツヤクワガタ』、『マンディブラリスフタマタクワガタ』、『ヘルクレスリッキーブルー』が倒され、最後に出現したのは、メギドラモン同様Lv500の『ヘルクレスエクアトリアヌスブルー』。容姿こそウルベルトに「使いまわし」と称されるように、ギミックボスのヘルクレス2体と大差ないが、メギドラモン程ではないもののその火力、HP共に圧倒的であり、相手の攻撃を避けて上下2本の角で掴み上げ、槍投げのごとく助走をつけて一気に投げ飛ばす必殺技『ジャベリン』で多くのプレイヤーが頭から地面に突き刺さる間抜けな姿――誰が呼んだか通称『スケキヨ』を披露する羽目となった。
そうして十分な休憩と観察を経た『アインズ・ウール・ゴウン』の面々がとった戦法は、まず獣王メコン川がフェイント攻撃をだし、エクアトリアヌスブルーがカウンターで『ジャベリン』を出す態勢に入ったところでぶくぶく茶釜が割り込んで妨害し、その隙にやまいこが吹き飛ばし効果を持つ巨大なガントレットで横から殴打。大きく体を仰け反らせて動きを止めたところに、武人建御雷の『五大明王コンボ』で動きを封じ、総員で袋叩きという、シンプルながら極めて確実な一手。
結果見事エクアトリアヌスブルーの撃破に成功し、現在いる荒廃した都市やその跡地に等しい砂漠地帯が主体の『傭兵領域』に到達。ここからはメンバー各員が階層守護者を担当するそうで、最初に到達したギルドが撃破ボーナスを獲得できるとあって、各ギルドが必死で探索しているのだが、その都度所属NPCに該当するACや、妨害ギミックポジションの巨大兵器が行く手を阻むように姿を現し、段々と戦力を分断している。
そして現在、胸部のレーザーキャノン以外の武装を破壊され、沈黙したTypeD No.5を前に、たっち・みー達が他のグループに伝言で状況を報告し合っている頃、最前線と言える巨大人工浮島でも、難敵とも言える巨大軍艦――St ELMOをぶくぶく茶釜達が撃破していた。
「いや~なんかもうこれだけでも達成感凄いですよね。いっそ切り上げてナザリックに帰っちゃいましょうか?」
「勝手に終わらすなバカ。むしろ連中の話じゃ全部で7ステージあるそうだから、ここをクリアしてもまだ半分も進んでねえだろうが」
早急に取り巻きを全滅させたペロロンチーノと死獣天朱雀の支援で各所の武装を破壊し、最後に残った後方から発射しようとした巨大ミサイルを発射口諸共潰して撃沈に成功したのだが、その戦果に浮かれ本来の目的を忘れたペロロンチーノが、獣王メコン川に小突かれる。そしてぶくぶく茶釜達が取り仕切り、次の行動を決める。
「はいはい、さっきたっちさん達も向こうの方でボス撃破したそうだから、合流次第一緒にモモンガさん達こっち来るの待ってようね~。っても最前線だけあって簡単には休ませてくれなそうだけど……」
気を緩ませたペロロンチーノに代わり、探知スキルを持つシャドウ・ウィドゥのおかげで事前に接近を察していたのだが、監視塔らしき一際高い建物の上から、こちらを窺っているACに目を向けると、向こうも戦闘態勢に入る。
『最初から勝つとは思っていなかったが……腕1本でも道連れにすればいいものを!役立たず共が!!貴様も!企業の連中も!!私の邪魔をするものは、皆死ねばいい!!』
一方的な言いがかりと共に大型狙撃砲での狙撃を決めてくるが、ぶくぶく茶釜のヘイト管理と防御であしらわれているうちにペロロンチーノのカウンター狙撃を受け、大型狙撃砲を捨てて移動と共にレーザーライフルとスナイパーライフルでの反撃に転ずると、意外と身軽な身のこなしで翻弄していくが、それから間もなく駆け付けたウィッシュⅢとタブラ・スマラグディナの焼夷で動きを封じられ、片手剣と盾のたっち・みーと長槍のメグ夫婦のコンビネーションに両腕ごと武器を破壊されると、続く新手の発言が遠く離れたはずの彼等にも届く。
『隊長~仲間はずれはよくないなぁ、オレも入れてくれないとぉ』
『主任!?貴様、何をする気だ!』
『いやいや、ちょっとお手伝いをね!』
しかし直後放たれた『主任』からと思わしき攻撃は、それまで戦っていた『隊長』に炸裂する。動きを止め、爆発する機体から最後に聞こえたのは、先程と打って変わり弱弱しい、まるで怯えたような問いかけ。
『主任……貴様は……貴様等……何者だ……』
「うっそー……ここで同士撃ち?」
「おそらくは演出なんだろうけど、より正確には協力していた第3勢力の離反と言ったところかな。しかし今の攻撃、どうやら核爆発に近い効果のようだ。範囲は狭い分距離が大幅に伸びているから、ペロロン君なら習得できそうな気もするね」
ぶくぶく茶釜が予想外の展開に思わず驚愕の感情アイコンを浮かべて呆然とする横で、死獣天朱雀は冷静に状況と先程の攻撃を分析し、その結果を伝える。その中で話題に挙がったペロロンチーノだが、今の攻撃を見て「いやいやいや」とストップをかける。
「できなくはないかもしれないけど、リスク大きそうじゃありません?それこそなんかの間違いで姉ちゃんああなったら今度は現実で俺の番ですよ?」
「まああの攻撃についてはともかく、そろそろこっちも狙ってきそうですよ。どうやらさっきの『主任』とやらのとこまで行けばいいみたいなんで、あれを避けながらだと難しそうな私とメコンさん、朱雀さん、ウィドゥさん、タブラさんはなるべく大きな建物の影に避難して、やまいこさんは引き続き『不完全な状態で』皆の回復を。残りのたっちさん達には申し訳ないんですが、各自分散して、到達次第攻撃でお願いします」
燃え尽きぬ『隊長』の残骸を見て話すペロロンチーノの仮定にぶくぶく茶釜が何か言いそうだったが、「来いよここまで!お前にその力があるなら!」と『主任』が挑発しながら攻撃準備をしてきたため、これ以上時間を無駄にできそうにないと判断したぷにっと萌えが仲裁に入り、自身を始め機動力の低い獣王メコン川とタブラ・スマラグディナ、あまり無理をさせたくない死獣天朱雀をやまいこに任せ、他のメンバーに攻略方法を伝える。
「わかりました。では、手早く片付けてきます」
「多分モモンガさん達が来るよりは早く片付くと思いますが、念のため伝えといてくださいね」
「接近は苦手だけど、機動力での翻弄なら姉ちゃんよりもうまいと思いますんで、そこは任せてください」
「言うじゃない。だけど、防御役だって攻撃できること、教えてあげなくちゃね」
言うが早くたっち・みー、メグ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノはぷにっと萌えの指示通り散開。『主任』が放つ青白い光の砲弾を回避しながら接近していき、やがて沖合の古びた石油プラントの上にその姿――機動力に富んだ『隊長』に対し、防御を重視したような丸みを帯びた鈍重そうなACを確認したペロロンチーノが牽制を放つが、特に動じた様子はない。
『残念だけど、オレたちには味方なんていないんだ。そう、いないんだよ……味方も、そして、敵もね……愛してるんだぁ君たちをぉ!ハハハァッ!!』
「なんだ急に叫びやがって!ビックリしたなぁ!こちとらアンタみたいなオッサンに好かれたって欠片も嬉しかねえんだよ!」
『アハハハハッ!!いーいじゃあん!盛り上がってきたねぇ!』
最初に到達したため、1番近くで聞く羽目になったペロロンチーノのクレームを一切気にせず、そのまま次弾発射準備に入る『主任』だが、遅れて現れたたっち・みーが発光する巨大銃の銃身を切り、続けてメグの突きで串刺しにされ、最後にぶくぶく茶釜の盾突きで跳ね飛ばされた『主任』は、勢いのままあちこちにぶつかりながら落ちる寸前で止まり、動かなくなる。これで撃破かと思った4人の耳に入ってきたのは、唐突な新手の通信。
『なるほど、それなりの力はあるようですね。認めましょう、貴方の力を。今この瞬間から、貴方は我々の敵。この世界から、消え去るべき敵です』
謎の女性からの一方的な宣告の後、爆発の衝撃で高笑いと共に眼下の海に姿を消す『主任』。何とかクリアはしたものの、撃破した4人、そしてその様子を伝言で聞いたぷにっと萌えの脳裏には、新たな不安と鬱陶しさが陰りとなって、しばらく留まることとなった。
引き続き、大分やらかしたとは自覚している
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行けども行けども
前回投稿の前後に体調崩しました
今は大分落ち着いたんですが、もう体調と天気で予定滅茶苦茶になってから出かけるのも億劫になってきて、変な鬱憤が溜まってきた感じが……
「ウルベルトさんって、あんな禍々しい感じの好きじゃありません?」
「だから単騎で相手しろって?願い下げだよ」
空を見上げてぼそりと漏らすたっち・みーに対し、即刻ノーを突き付けるウルベルト。全盛期ならここから言い争いに発展したものだったが、現在は状況がそれどころではないため、たっち・みーも「いえ、そこまでは……」と濁しただけで、それ以上ウルベルトに余計なことをいう様子はない。
『主任』を撃破した後にモモンガ達と合流し、メンバーが揃った『アインズ・ウール・ゴウン』の面々が、眼球を思わせる球状の本体から複数の触手を伸ばす兵器――『AMMON』を始めとする各種兵器を払い除けながら進んだ先に着いたのは、すぐ後ろの炎上崩壊する市街地から一転して広がる、荒れ果てた大地。先に何があるのかも分からないが、それ以上に今不安を煽るのは、相変わらず現実を思い出させる雲に覆われた赤い空を背景に浮かび、湾曲したフレームに胸部と思わしき個所から溢れる青い光が禍々しさを演出する、『EXUSIA』――能天使の名を冠しながら悪魔を思わせる風貌の兵器。
その機体から聞こえるのは、先程撃破した後に通った地下通路で再度出現し、再度倒したと思った矢先、今度は胸の大穴を始め各所破損した状態で倒壊した柱から引き抜いた鉄骨を右腕にまとわせ、殴りかかってきたところを再度撃破したはずの『主任』の声だが、先程までの鬱陶しいほどに扇情的な様子から一転し、今は不気味なほど落ち着き、まるで見定めるような発言をしてくる。
「しかし『戦いこそが人間の可能性』とは、かなり歪な考え方だな……」
「抗わなければ何も変わらないって意味なら、まさに現実に対する皮肉としては、ピッタリなんでしょうかね。尤も抗ったところで、結局は踏み潰されて終わりそうでもありますが……」
『証明して見せよう。貴様になら、それが出来る筈だ』
『主任』らしき対峙者の出した結論――『戦いこそが人間の可能性』と語るその思考を歪と評する死獣天朱雀に対し、ベルリバーは複雑な様子でネガティブな意見を出すが、他のメンバーが論争に混ざる前に、戦闘準備を済ませた『主任』が翼を光らせながら突撃を繰り出す。
「『魔法最強化』!『魔法位階上昇化』!『骸骨壁』!でもって総員散開ぃ!」
とっさにモモンガが骸骨達の埋め込まれた防壁を発動させるが、直後散開を指示したように、予想通り防壁は容易く突き崩され、足止めにもならなかった。
「何つー威力だ!あれじゃ茶釜さんでも防ぎきれんぞ!」
『アインズ・ウール・ゴウン』最強の魔法詠唱者と言えば、世界級職業の1つ、『ワールドディザスター』を持つウルベルトだが、ギルド長のモモンガも最強とまではいかないまでも、魔法担当としては十分強力な部類に入る。その彼が発動させた『骸骨壁』はまず生半可な攻撃は通さず、下手に接近しようなら埋め込まれた骸骨達の反撃を食らう。
それを可能な限り強化したはずなのに、まるで豆腐に正拳突きでも打ち込んだかの如く一瞬で粉砕された様子に、思わず声を荒げたのは獣王メコン川だけだったが、誰もが同様に驚愕し、その意見に共感した。
実質防御が意味を成さない以上、わざわざ身を挺してまで守り通す必要もないだろうが、いくらやられても時間経過で完全復活できるからと言っても、そのポイントはおそらく相当前――下手をすれば1つ下の『自然領域』からやり直さなければならない。
合流まで時間がかかるだけでなく、引き続き連続での戦闘が想定される以上、ここでメンバー最強の防御役たるぶくぶく茶釜を喪失するのは、あまりにもリスクが大きすぎる。故に死に戻りするなら安全地帯を発見してからとの考えから、せめてこの場だけでも凌ぎ切りたいと思いながら分散したメンバーのうち、真っ先に反撃に転じたのは、先程驚愕の声を上げた獣王メコン川と、彼の両脇に手を通して運んでいたグランディス・ブラック。EXUSIAの頭上に回り込み、再度突進を放ちビルに引っかかって動きが止まった隙に、獣王メコン川から手を離して降ろし、同時に自分も右手に戦斧、左手には即座に操作画面を開いて用意した、発動準備万全の電撃が迸っている。
「食らいやがれえぇッ!!」
「『魔法連射』、『魔法最強化』、『魔法位階上昇化』、『万雷の撃滅』ァ!」
グランディス・ブラックがEXUSIAの無防備な背中に獣王メコン川の戦槌共々戦斧を叩きつけると同時に、魔法を発動させた左手で殴りつけると、巨大な豪雷がいくつも連続で発動し、EXUSIAを貫く。響き渡る轟音と目を眩ます雷光、立ち昇る煙に反しダメージを感じさせないが、対照的に大質量を有する武器を叩きつけられた装甲は、大きく歪みが生じ、僅かながら亀裂も見えるなど明らかに破損している。どうやら魔法防御に比べ、物理防御はそこまで高くないらしい。
「さっきもそうでしたけど、魔法より打撃のが効果的みたいです!ただ柱ぶん回してた時と違ってビルぶち抜いたりまではしないみたいなんで、引き続き可能な限りタゲ取してますから、近接職のたっちさん達は一緒に攻撃参加して、魔法職のモモさん達は物陰から援護に徹してください!」
「わかりましたー!無理しないでくださいねー!」
瞬時にグランディス・ブラックが判明した情報を周囲に伝えると同時に指示を飛ばし、それにモモンガが返事をしながらウルベルトや支援魔法を発動させていた死獣天朱雀、「後は任せたぞー」と激励を送るタブラやウィッシュⅢを連れて避難する。すでに『万雷の撃滅』を放った左手には、戦斧同様に武骨で、見るからに破壊力のありそうな突撃槍を握っており、それでいて同様に常時発動技能でデフォルトの飛行能力を持つたっち・みーやメグに比べても、器用に空中を泳ぐかのごとく動き回りながら、ミサイルやレーザーキャノンなどの飛び道具を回避しつつ、先程のように突撃を放って動きを止めるや否や、他のメンバーが攻撃しやすいよう、確実に機動力を奪うべく翼を狙い、両手の武器で攻撃していく。
そうして何度も攻撃していくうち、遂に右の翼から爆発が起き、EXUSIAの動きが止まる。そうなれば最早こちらのものと言わんばかりに、それまで攻撃の激しさと機動力の高さから、戦闘に参加できなかった弐式炎雷と武人建御雷、初撃以来なかなかチャンスがなかった獣王メコン川も攻撃に加われば、間もなくなす術なく叩かれ続けたEXUSIAも力尽き、爆発を繰り返した末に跡形もなく消滅した。
「やっと終わったか……にしてもいくら拠点ダンジョンだからって、ここまで連戦が頻発すると、いい加減安全地帯が欲しくなってくるわ……」
「全くだな。確か始まったのが昼の1時で、今……もうすぐ3時半か。早いんだか遅いんだかわからんし、警告も出てないからまだ大丈夫だと思うが、そろそろいったんナノマシーン注入した方がいいんじゃないか?」
「ですね。にしても弾代かかるからあんま使ってなかったけど、あんなん出てくるんだったらグレートランチャーやダブルガトリングガンも装備してくればよかったかな……」
装備の選別を後悔するグランディス・ブラックを放置して、弐式炎雷と武人建御雷が気にしだしたのは、『ユグドラシル』へのネットワーク接続を行うために必要なナノマシーンの残量。ナノマシーンは新陳代謝に伴い徐々に体外へ排出されていき、脳内の濃度が15%以下にまで低下するとネットワークに接続不能となり、強制的にログアウトされてしまうため、その前に無痛注射器で注入する必要がある。
『暁の君臨者』の面々が、どれほどの長期戦を見越してこの拠点を構想したのかは不明だが、それこそあれ程大見得切って大々的に宣言しておきながら、強制ログアウトで全滅させるようなセコい手を使う気がないのなら、大規模な連戦を繰り返す以上疲弊するプレイヤーが続出することは明白であり、どこかしらでそうした休憩をはさむための安全地帯か、そのための時間を用意しておくはず。少なくともかつて傭兵プレイヤー、NPCも含めた総勢1500人の大討伐隊がナザリックを襲撃した時、階層守護者担当NPCが撃破された時点でその周辺は安全となったため、そうした軽い休憩のために1時的なログアウトをする余裕はあった。
「今んとこマズい人はいなそうですけど、さすがにこの調子じゃもちませんでしょうね。装備の方も余裕があるうちに何とかしときたいですが、そのためにわざわざ一回死ぬってのも……」
撃破を確認して、新たな敵が出現する様子もないことから、安全と判断して戻ってきたモモンガも同意する。仕様が分からない以上迂闊な行動がとれないため、果たしてどうすれば正解なのか。下手にログアウトしたら、そのまま締め出されるなんて事態も、ないとは言い切れない。などと悩んでいる『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバーの耳に、「ピンポンパンポーン」と唐突な電子音が届く。先程『自然領域』にて、『令嬢』と名乗る『暁の君臨者』のギルド長が、この音の後に説明をしていたことから、おそらく何かしらの報告があるのだろう。
『只今3時半から4時までの30分、ナノマシーン補充等のための休憩時間とするわ。その間戦闘は発生しないし、ログアウトしても現在地から再スタートできるから、安心して離席なさい。それと、現時点で攻略最深部の『傭兵領域』にいるプレイヤー達は、4時になったら特別ボーナスとして、その場で装備の損傷含むダメージを全快状態にしてあげる。ただし、その時点でログインしてないとすっぽかされるから、遅れず戻ってくること。それじゃ、引き続き頑張ってね~』
『天の声』とでも呼ぶべきか、『令嬢』のぞんざいな宣告が下されるとともに、周囲の風の音や、天高く流れる雲の動きが止まる。試しにぷにっと萌えが、付近で巻き上がったまま宙に浮く小石をつまんでみるが、完全にその場で固定されており、便乗したペロロンチーノが力を込めて引っ張ってみても、動く様子はない。
「まるで時間停止だなこりゃ。とりあえず、今のうちにログアウトしちゃいましょうか」
「そうですね。それじゃあ各員休憩して、今後の戦いに備えましょうか」
「さんせー、んじゃまた後程な」
おそらく罠の発動やNPCの攻撃などに関するシステム類を全て停止したのだろうが、そのせいで異様な空間となったことに紅白鰐合戦がうめくも、ひとまず休憩のめどが立ったことに安堵したモモンガの号令に合わせ返事をしたウルベルトを皮切りに姿を消していき、ナザリックに親族を残してきたたっち・みーとメグ、やまいこは伝言で連絡してからログアウトする。
「いやー2時間半もかけて半分も終わってないとか、向こうは大激戦みたいだね……」
既に現実では大気汚染で生じたスモッグに空が覆われ、とうに見ることのできなくなった満天の星空の下、こちらも地上から姿を消して久しい木々が鬱蒼と茂る、ここが地下深くとは到底思えないような空間。
ナザリック地下大墳墓の第六階層、『大森林』でも一際大きい――というよりも太いと表現した方が適切そうな巨大樹のふもとにて、覆面で顔を隠し、人型のカニを背負ったようにも見える姿をしているのは、『アインズ・ウール・ゴウン』の鍛冶師、あまのまひとつ。
かつて『ナインズ・オウン・ゴール』結成からしばらくは、自己防衛のためにある程度戦闘可能なビルドを組んでいたが、メンバーが充実し、この拠点を獲得してからは戦闘から解放され、生産特化に組み直していた。
その時の影響か、再登録の際も似たような職業構成にしてしまい、またそもそも戦闘自体が得意ではなかったので、こうしてかつての拠点で留守番がてら思い出に浸り、そのついでに『ナインズ・オウン・ゴール』結成の際、変身系ヒーローネタがきっかけで仲良くなったたっち・みーから娘のユカリを預けられたので、彼女にたっち・みーの過去を始め、自分達の活躍を語っていた。
「俺としてはあちらさんが作った『自然領域』が気になってきちゃいましたよ。ここもここで悪くないし、力作とあって思い出も豊富で感慨深いけど、あっちもあっちで様々な自然環境が詰め込まれたって聞いたら、どうしてもね……同行しなかったのは失敗だったかな……」
それに返事をするのは、彼の付近に並ぶ、幼げな2人の闇妖精――ではなく、一見付近の木と区別は付かないが、よく見ると幹の途中から二股に分かれた根が脚、葉のない左右の枝が腕と指になった巨木人のブルー・プラネット。
頭上に広がる星空を始め、現実では目にすることができなくなってしまった自然を求めたのが『ユグドラシル』を始めるきっかけだっただけあって、この光景が今日を最後に消滅してしまうことが惜しいのも事実だが、意図はともかく同様に自然を再現した者がいると聞いて興味が湧いたことも、否定はできない。
悩むブルー・プラネットを見て苦笑するあまのまひとつだったが、新たな来訪者の声を聴き、そちらに向き直る。
「お2人さんお待たせー。ペス達連れてきたよー」
「おー、ありがとうございます。しかしあけみちゃんからも可愛いって好評でしたけど、ユカリちゃんも初対面だったのに相当懐いてましたっけねぇ。やっぱりその姿って、女の子にはウケがいいんでしょうかね?」
複数人のメイドを引き連れ先頭を歩くのは、腹部や手足の先は白く、首元にブロンドも混じってはいる他は、ほぼ全身を灰色のフワフワした毛に包んだ垂れ耳のウサギに似るが、右耳の根元にはタンポポの花でできた小さな花輪が飾られ、然程広くない額には、その種族――カーバンクルの象徴ともいうべき赤い柘榴石が輝く。
彼女の名は餡ころもっちもち。かつて性別を偽っていたタブラを含めても『アインズ・ウール・ゴウン』には7人しかいない女性メンバーの1人で、以前はぶくぶく茶釜ややまいこ、時折その妹のあけみもまじえて「女子会」を楽しんでいたのだが、今回はどちらも『暁の君臨者』への殴り込みに参加してこの場におらず、「所属していたギルドはとうに解散して、誘いに乗るほどの熱意もないから」とナザリックに残っていたあけみも、先程姉に合わせてログアウトしてしまったので、代わりに同じく残った2人をお茶に誘い、ぶくぶく茶釜が生み出した階層守護者担当NPC、アウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレを呼んで、待ってもらっていた。
餡ころもっちもちが操作画面を操作し、アイテムボックスからテーブルと椅子を取り出し用意すると、美女揃いの中で唯一犬の頭を持ち、異彩を放つメイド――彼女が長年飼っていた愛犬をモデルに生み出したNPC、ペストーニャ・S・ワンコを始め、連れてきたメイド達がその上に茶器や菓子類を並べ、準備を整える。席は餡ころもっちもちの左右にアウラとマーレが座り、ゲストとでも呼ぶべきあまのまひとつとブルー・プラネットはその逆隣――餡ころもっちもちの斜め向かいの席に座る。
「こんな席に呼ばれるなんて、ちょっと自分でも違和感湧いちゃったりするんですが、今更ながら『ユグドラシル』としてはこうした楽しみ方もアリなんでしょうね」
「待ってる間にブルー・プラネットさんから聞いた話じゃ、昔はそうでもなかったみたいですけど、こうして森林浴しながらお茶を飲むなんて、現実じゃそれこそ支配層の富豪でもないとできない贅沢ですよ。俺も『グルメ鍛冶師』なんて呼ばれてましたけど、お茶なんて現実じゃ最後に飲んだのがいつだったかだって思い出せないですし……」
背負ったカニ部分から伸びるハサミで、器用に持ち手をつまんだティーカップを、覆面で隠れた顔に持っていくあまのまひとつ。彼は現役時代、鍛冶作業の前にゲン担ぎとして、支援効果のある食事を食べていた。『グルメ鍛冶師』の異名は、その行動故に付けられたものなのだが、自然環境と共に社会体制も崩壊した現実では、食事だけでも貧困層ならゼリーやスティック状の合成栄養食品か、錠剤やドリンクなどのサプリメントが定番で、それこそ新鮮な食材を使った、一昔前ならごく普通だった料理でさえまず手が出ないものと成り果てている。
過去にメンバー同士集まって、オフ会を開いたこともあったが、その時の会計だって割り勘などしようものなら、モモンガやウルベルトのような貧困層に属する者は足が出るどころでなくなるため、たっち・みーややまいこのような経済的に余裕のあるメンバーがある程度負担しなければ、碌な店を選べなかったのだから、規制の関係で味覚などは感じれないものの、ゲーム内でもこうして口にできるだけで、2人が幸福を感じるのも無理はない話だろう。
「正直言っちゃうと、私も現実じゃあんまり経験ないんだよねー。お茶の淹れ方とかサッパリだから、結構この子達任せな部分もあるしー」
語尾を伸ばす、独特な緩さを感じさせるしゃべり方をする餡ころもっちもちだが、彼女もまた貧困とまではいかないものの、かといってお世辞にも富裕とまでは言えない身。なのでペストーニャの設定文に『お茶の淹れ方がうまい』などと入力はしたものの、苦し紛れに近いイメージに過ぎず、肝心の細かい部分は生みの親たる自分がサッパリなので、それ以上の入力しようがなかったのが本音だった。
「なんか折角のお茶会なのに暗い感じになってきちゃったな……っても現実の近況報告とかしてもあんまり面白くなさそうだし、このメンバーで昔の話しても……」
空気を察して何とかブルー・プラネットが話題の変換を考えていると、タイミングよく電子音が鳴り、虚空に新たな訪問者が現れたと表示される。
訪問者の名はホワイトブリム。餡ころもっちもちがペストーニャと共に連れきた数人を始め、かつての仲間と同じく41人いるメイド達のデザインを担当したイラストレーターで、『ガチを通り越して最早病気』と評される程にメイド服への入れ込みぶりを持つ人物だった。
「おぉホワイトブリムさんお久しぶりです!今餡ころもっちもちさんと第六階層の巨大樹付近でお茶会してるとこなんですが、よろしければ一緒にどうですか?」
『どうもお久です~。おぉ、いいですね!じゃあ復帰した際モモンガさんから『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』返してもらってるんで、今行きますね』
伝言でブルー・プラネットに誘われ、ホワイトブリムは即座に了承すると共に姿を現す。『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』とは『アインズ・ウール・ゴウン』の一員たる証ともいうべき指輪で、基本順当にしか移動できないナザリック内部を、一瞬かつ自在に移動できる。
その姿はブルー・プラネットと同様に、腕の役割をする木の枝が焦げ茶のコートの裾から覗き、同じ色の帽子と、深緑のマフラーに包まれた顔は、目や鼻が木炭の欠片で表現され、一見すると綿のようにモコモコしているが、近くで見ると、無数の雪の結晶が集まったものだと分かる。彼の種族は雪精霊と呼ばれる精霊で、見た目通り氷属性の魔法に優れ、寒さに強いが、熱に弱い性質を持つ。
「ほぉほぉ、インクリメントとエトワルに、デクリメント、フィースが一緒だったか……っと、失礼失礼。改めて皆さんお久です」
「えーっと……あ、本当だー。全部当たってる」
「さすがホワイトブリムさん。ってか、41人もいてよく覚えてられましたね……」
ホワイトブリムが「生みの親なら当然」とばかりに、着いて早々その場にいたメイド達を一目見ただけで名前を当てる。その姿に驚く仲間達に改めて挨拶をするが、連れてきた餡ころもっちもちが設定を確認しているように、他のメンバーにしてみれば「41人いるのメイドの何人か」程度の認識だったので、「やっぱこの人すげぇ」とあまのまひとつが驚愕を露にしてしまっている。
「そりゃあ今でもパソコンの背景画像はこの子達にしてますし、漫画に登場させる際は、毎回保存しといた設定見直してますからね。あ、そうだ。『ユグドラシル』が終わっちゃうってんで、今度セバスも含めて『プレアデス』の面々も出したいと思ってるんだけど、作った人達って今日来てますか?」
ホワイトブリムは現在漫画家をしており、メイドを主人公とするその作品に、度々『ユグドラシル』で生み出した41人のメイド達を登場させている。彼にとって彼女達は、活躍の場を変えて、今も共にいる存在と言えるのだろう。
ついでに説明すると、彼が名を挙げた『プレアデス』は、ペストーニャを含むこの場にいるメイド達とは違い、戦闘を担当する特別な6人のメイド達のことであり、普段は別行動となっている7人目の末妹が加わることで、『プレイアデス』と呼び名を変える。セバスことセバス・チャンはその指揮をする執事で、この場にいないたっち・みーが作り出している。
「ああ、たっちさんとやまいこさんと、メコンさんと弐式さんはタワーに行ってて、今休憩時間中らしくていったんログアウトしたとこらしい。ガーネットさんと源次郎さんはまだ来てないけど、問題はヘロヘロさんだろうな。モモンガさんの話じゃ、アカウント自体は俺達と違って残ったままだそうだけど、随分忙しいらしくて、もう長いことログインしてないらしいからねぇ……」
「うっわ、それは参ったなぁ……ヘロヘロさんにはク・ドゥ・グラースさんと合わせて連絡とって、許可もらった際に『よかったらソリュシャンも出してやってください』って言われたけど、折角だし、この子達にお別れする余裕くらいあってほしいんだけど、厳しそうだなぁ……」
ブルー・プラネットが名前を呼んだメンバーのうち、ホワイトブリムが反応したヘロヘロは、5人のプログラマー仲間達と共にメイド達の行動AIを作り上げた人物。度重なる激務で以前から何かと健康面に不安がある旨を語っており、「健康診断がレッドすぎて逆にグリーン」などとジョークを飛ばして、笑うよりも先に心配されたこともある。話の様子から、確認できる限りでは幸い存命はしているようだが、今の時世的に、何かの拍子で体調を崩して、そのまま世を去ってしまうことも多々あるため、心配は尽きない。
もう1人のク・ドゥ・グラースは、ホワイトブリムが描き起こしたイラストを元に、NPCとしてネット世界に生み出した外装制作担当で、あまりに緻密デザインに何度も悲鳴を上げ、その都度泣きつくように簡略化を懇願しては、妥協を許さないホワイトブリムから逆に頼み込まれ、結局断り切れずに完遂して見せた、陰の最大功労者とも呼べる人物。しかしあまりの過酷さから、当の本人はメイド達の完成披露後、労うメンバー達に「暫くメイド服は見たくない」と漏らしており、ホワイトブリムが漫画にメイド達出そうと思った時、許可を求めて連絡を取った際も「出すのは構わないけど、あの作業思い出して倒れそうになるから、多分見ないと思うよ?」と答えており、完全にトラウマと化してしまったらしい。
「うーん話題がどんどん暗く……どうすりゃいいのかなぁ……」
せっかく新しくホワイトブリムが加わったのに、話は弾まずむしろ余計に重くなるばかり。感情アイコンはあっても、アバターそのものは基本表情の変化がないため、姿形の異なる4名が無表情で一様に落ち込む、ある種異様な光景は、少しでも改善をと願うそれぞれの試行錯誤と共に、もうしばらく続くことになる。
ほんとは休憩明けから次の話でステージボスまで進めてく予定だったけど、軽い気持ちで場面転換に入れたナザリック側が予想外に進行で悩んだ結果こうなった。
ちなみに餡ころもっちもちさんのアバターモデルは自分が昔飼ってたウサギです(オスでしたが)
以下蛇足気味なネタバレ
ここだけの話、今まで登場&名前出たメンバー全員転移します
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暁の空に果てる願い星
年明けてから大分経っちまいましたが、皆さまあけましておめでとうございます
皆様どうお過ごしでしょうか
自分は引き続き頭痛と目の奥の重みに苦しんでます
いつの頃からだろうか。とうに朽ち果て、栄華も未来も失われたこの世界で、それを受け入れない者達が施す、ハリボテ同然の無意味に等しい延命を嘲うようになったのは。そして針で突けば安易に破裂してしまう、風船のようなその貧弱な世界で、生きる意味を持たない自分が、大河に流れる落ち葉の如く、漠然と理由もなく生きることを自覚したのは。
そんな消極的な生き方を変えたのは、偶々見つけた古いゲームのPVを締めた、『彼』の放った一言。
『好きに生き、理不尽に死ぬ。それが私だ』
それを聞いた途端、自分は大河に流れる落ち葉から、その流れに刃向かって泳ぐ魚になった。この世界で『生きる者』も『生かされる者』も、どうせ最期は『理不尽に死ぬ』。ならば自分も、『彼』のように『好きに生き』てやろうじゃないかと発起し、その過程で糧となる財を得るために多くの罪を成し、『死にたくない』と喚く数多の人間を『理不尽に』殺してきた。隠蔽は面倒だと感じたこともあったが、発覚して追い回される方がもっと面倒だったから、しっかりこなす。
そうして破滅を待って過ごすある日、『彼女』との出会いでまた人生が一変する。
『確かに人類は金の奴隷と成り果て、狭い完全環境都市でどんどん生存圏を削っていることにさえ気付かず、惰性を謳歌しながら最早破滅を待つばかり。そんな世界でアンタが理不尽な死を求めてるんならさぁ、私と一緒に死んでくれない?』
『彼女』が提示した金額は、それまで自分が『好きに生き』て稼いできた額など、たやすく埋もれてしまう程に圧倒的だった。そして差し出す条件は、「共にあるDMMO-RPG――『ユグドラシル』をプレイし続け、その終焉と共に心中すること」。『彼女』に縛られる程度を『理不尽』と感じなくなってしまったのは、果たしてその程度をそう感じないほど『理不尽』に生きてきたからか、あるいはそこまで麻痺してしまったのか。それは最早、自分でさえも分からない。
『タワー』最上層にして、原則メンバー以外立ち入り禁止の『私情領域』。そこに備えられた円卓に集まるメンバーの中で、漆黒の人型が席を立つ。
「まさか客寄せ感覚で疑似餌にしたら、本物が食いついてくるとは思わなかったけど、さすがは『アインズ・ウール・ゴウン』ってとこね。もうそろそろあなたの出番よ?」
「だから『自然領域』で『レクシィ』か『インドミナス』、『イビルジョー』には遇わせとくべきだったんですよ。配分弄ってムシ達とばっか遭遇しやすくしたのは失敗だ・・・」
「まあ、どうせ1番割を食らわない貴女には関係ないことでしょ?この分だと次の妖魔、超人軍団も、原作の『メタルエンパイア』よろしく大した見せ場もなく親玉やられて退場しそうだけど」
対角線上の席――空白を含め数は幾つか多いが、先に立った者の席を時計の『6』とすれば『12』に位置し、周囲に蛇のようにも見える触手を無数に這わせる、一際巨体の存在が声をかけると、斜め左にいる右肩にキャノン砲らしき長物を備えた仲間が、触手の巨体が下した采配を「なめ過ぎた行為だった」と窘める。それに触手の巨体と逆隣に1人挟んだ席に座る仲間が便乗すると、反対側から話題に挙げられた仲間が「勘弁してくれ」と座っていた椅子の背もたれから体を起こす。
「確かにACが比較対象じゃ、ほとんどが生身で碌な飛び道具も持たない妖魔の分が悪過ぎるのは事実だ。でも配分の時俺を押し退けて『先に相手する』って言い出したのは向こうだぞ?」
「そこは理解してるけど……ねえ、やっぱり譲れなかったのは、この中で最初に『姫』と会ったからなの?」
便乗したメンバーの隣に座る仲間が、その配備を疑問視する声が上がる。本来なら指摘通り『自然領域』の次に相手する予定だったのは、『魔法の存在しないダークファンタジー』な作品がベースの『妖魔領域』で、領域の名にもなった『妖魔』と呼ばれるモンスターを中心とした妖怪や悪魔の軍団と、そこに間借りすることになった異形の闘士、『超人』だった。しかしそこに割り込んできたのが席を立った『傭兵領域』の担当者で、『自分こそが先陣を切る』と頑なに譲ろうとしなかったがために、折れた前者が譲る形となる。
『それもあるっちゃあるんですが、やっぱり真っ先に登場して、かっこよく決めたいのも強いですね。仮にもストーリーでラスボス務めた身ですし、ある意味現実に存在しててもおかしくないですし。それにちょっとしたヒッカケみたいな感じで、「次はどんなSF感満載の領域なんだ」って思わせといて、急に中世ファンタジーなフィールドで拍子抜けさせたいってのもありますし』
「おいおい、俺の領域はハズレ扱いかよ……」
「いくら『ゆで理論』がぶっ飛び過ぎて万能だからって、ただのかつて存在した世界の名所巡りじゃ面白くなさそうなんて考えて一括させちゃもらいましたけど、『お嬢』の信頼厚いからってそりゃないですよ、『黒』さん」
地声ではなく、ボイスパッチで機械じみた雑音混じりの音声で「クックッ」と笑いながら答える『黒』と呼ばれた『傭兵領域』の担当者に、体を起こした『妖魔領域』の担当者はウンザリした様子で俯き、そこに間借りすることになった者――『妖魔領域』の担当者の隣に座り、左手の甲に頬を付け、椅子の肘置きにその名前通り肘を置いた人物も、ぞんざいな処遇に抗議の声をあげる。しかし『姫』や『お嬢』と呼ばれたリーダー――『黒』の対面に位置する触手の巨体は、両者の嘆きなど興味ないとばかりに激励を送る。
「あなたの活躍、期待してるわ。せいぜい私達が課金とNPC任せなニワカの寄せ集めじゃないってこと、しっかり見せつけてきてね、『黒い鳥』」
『フッ、了解した。「薔薇園の姫」』
直後『黒い鳥』が転移で部屋を後にすると、『薔薇園の姫』は無言の仲間達に対し、手の如く周囲の蔦を伸ばして演説する。
「さあ、見せてもらいましょう。『アインズ・ウール・ゴウン』の猛者達。私達の望んているような余興に相応しい人物かどうか……あなた達の強さを確かめさせてもらうわ」
『まだよ、私はまだ戦える!!』
EXUSIA撃破後に休息をはさみ、誘導ラインに沿って移動した『アインズ・ウール・ゴウン』の攻略組面々が辿り着いたのは、水が干上がり、無数の大型船が放棄された港跡。再ログインからのボーナスで全快し、さらなるボーナスボスとして現れた、赤く発光する大きな単眼の側面から2本の脚が生えた不気味な機械軍団――『To-605』シリーズを相手に1戦したものの、事前に警戒していたために、然程消耗なく武装の異なる3体を片付けると、総員が回復されると同時に、『能力上限追加+500』が付与された。
あまりの厚遇ぶりに気味悪ささえ感じてきたが、ここで撤退したことを虚仮にされるだけでなく、それのせいで1500人大侵攻を退けたことを始め、過去の栄光に傷をつけるような真似はできないと奮起し、進んだ先の巨大な要塞らしき施設の外壁で待ち構えていた相手――左肩にハートを模った木蓮の紋章を持つ、鋭利なデザインの青いACを各所が炎上し左腕を失うまでに追い込むも、こちらもこちらで満身創痍の身ながら闘志を失わず、先程の『主任』よろしくボロボロでありながらもなお挑みかかる様子を見せてくる。
『ここが!この戦場が!!私の魂の場所よ!!!』
「(『この戦場が魂の場所』……か。だとしたら俺の魂の場所は、それこそあのクソッタレな現実の自宅や職場じゃなくて、もうすぐ終わるこの『ユグドラシル』。ひいては『アインズ・ウール・ゴウン』の思い出を築き上げてきた、『ナザリック地下大墳墓』なんだろうな……)」
限界を無視してなお挑み来る相手――マグノリア・カーチスの放った一言を聞き、モモンガはやられないよう注意しつつも、思わずその叫びに共感していた。幼くして両親を失い、小卒の身で世に出てから大分経ったものの、そうした経歴自体は貧困層の住人には珍しくないし、似たような境遇のウルベルトに至っては、「遺体の回収すら困難」と言われるほど劣悪な仕事場で両親を揃って亡くし、実際遺骨さえも返ってこず、見舞金も極僅かだったのだから、彼に比べれば、死に目に会えた分まだマシだったのだろう。そうした下手をすれば生きることすら苦痛となりかねないような現実では、『アインズ・ウール・ゴウン』の仲間達のような親しい恋人も友人もおらず、正直に言ってしまえば、職場にも割り当てられる仕事に責任感はあれど、上司、同僚と言った属する者を含め、愛着はない。
対して『ユグドラシル』において、彼等と共に成してきた栄光は輝かしく、その舞台が間もなく失われることは未練がましく、できるなら今からでも同志を集めて覆してやりたくさえある。
その一方残った仲間と共に、自身を含めても僅か5人で7倍近い主なき空席を眺めることは苦痛であったのも事実だが、こうして半分以上の仲間が帰ってきたことに「今更のこのこ帰ってきたところで」と恨むどころか、「わざわざ自分のために動いてくれた、仲間からの最後のサプライズ」と歓喜してしまった辺り、「何と自分は単純か」と呆れ、同時に「やはり自分はこの世界が楽しかったのだ」と実感した。
「たっちさん!合わせて!」
「今度こそこれで!」
マグノリアが狙いを定め、残った右腕に構えたレーザーライフルをチャージしながら接近したのは、後方で控えていた回復役のやまいこ。しかし放たれたビームを寸前でぶくぶく茶釜が反射魔法の付与された盾で明後日の方向に受け流し、ミサイルを避けて飛び回っていたブルー・インパルスが頭目掛けて放った蹴りと共に、たっち・みーが繰り出した突きが機体の胸部に突き刺さり、ついにマグノリアが戦闘不能となる。同時に開戦時と同様に、『ファットマン』なる人物とマグノリアの会話へとイベントムービーよろしく場面が変わり、しばらく『アインズ・ウール・ゴウン』の面々は、挑戦者から観客となる。
『好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰のためでもなく。それが、俺らのやり方だったな』
『ありがとう、ファットマン……あなたは、優しいわね…私は、選ばれなかった。でも……さよなら、これで、よかったのよ……』
限界を迎えたマグノリアの機体が沈黙、崩壊するとともに、割り込むようにして『令嬢』が通信を入れる。突破する者の存在は彼女達の希望にはあったが、それが誰だったかまでは予想外だったらしい。
『ちょっと虎の威を借るつもりで名指ししたら、まさか当人達がここまで攻め込んできたのは正直予想外だったわ。今この段階で、乗り込んできた1200人中、400人近くが攻略から脱落してるけど、その中でも1番活躍したのは、あなた達「アインズ・ウール・ゴウン」よ。まったくもって驚異的な攻略ぶり。折角だし、なんでこんな真似ができたか教えてあげる。極端な話、サービス終了に話を持ってってた運営から、半年くらい前に色々と権限を買い取ったの。ムカつくことに、1番欲しかった運営、継続させるための権利は、「時代の移ろい」だのなんだのって理由付けてきて、買い取らせてくれなかったけど。だから最後にこの大決戦で、やりたい放題することにしたって訳。さて、無駄話もこれくらいにして、いい加減階層支配者への案内状を出してあげないとね。この先に担当者がいるわ。ソイツを倒せば晴れて次の階層だから。改めて宣告させてもらうけど、これは私達からの挑戦状よ、あなた達「アインズ・ウール・ゴウン」の強さ、力尽きるまで十分に見せつけてね?』
そうして『令嬢』からの通信が切れると同時に、新たな誘導ラインが表示される。ようやっと階層支配者のお出ましとあって、『アインズ・ウール・ゴウン』の面々も、気合を入れ直す。
「いやー長かったもんだぜ。あんまりにも出番なかったもんだから、ちょいちょい道中で発散してやろうかと何度思ったことか……」
「ウルベルトさん、さっきの挑発もあって結構鬱憤溜まってきた感じ?でもやっとここまできた、って感じがするわねー」
「権利を買い取るなんて、おそらく噂通りアーコロジーの支配層か、或いは極めて近い立場の者なんだろうなぁ。しかし、攻略が半分も進んでいないのに3分の1が脱落するとは、そこまでして最後を飾るイベントをやりたかっただけあって、彼らはちょっと凝り過ぎたみたいだね」
「だとしたら連中がこんな真似したのも、それこそナザリックに1500人殴り込んできた時の再現なんじゃないかって思っちまいますね。あれ結構動画があちこちで反響あったらしいし」
対階層支配者のために温存され過ぎたせいで、ウンザリした様子のウルベルトが背伸びと共に毒を吐けば、シャドウ・ウィドゥが便乗しつつ宥め、その傍らでは先程やけにあっさりと『令嬢』が言い放った裏話に食いつく死獣天朱雀に、ウィッシュⅢも推測を述べる。そうした緩い空気と会話を締めるように、武人建御雷が待ち構える相手に気を向けさせる。
「まぁ何はともあれ、1人だけではあるもののやっと階層支配者役のプレイヤーのお出ましだ。さっきの能力上限追加はあるが、それこそあっちがどんなチートかましてくるかわからねえ以上、改めて気を引き締めて行こうぜ。なぁ、モモンガさん」
「え?あ、まさかここで俺に振りますか。と……、そうですね。武人建御雷さんが弐式炎雷さんとグランディス・ブラックさんと共に呼び掛けてくれたおかげで、ここまで集まったメンバーで進めてこれましたけど、下手したらもっと少人数で相手しなきゃならなかったどころか、そもそも挑むこともできなかったでしょうから、そこは感謝してますよ。では、行きましょうか!」
直後話を振られるとは思わず、思わず何か言わねばと焦りながらも即座にモモンガが激励を放ち、各員がそれぞれに時の声を挙げて進む。
向かった先はマグノリアが守っていた要塞の深部ではなく、そこから比較的離れた広い砂漠地帯。遠方に目立つ複数の甲板らしきプレート状の装飾が残る、巨大な要塞らしき残骸を『アインズ・ウール・ゴウン』の面々が眺めていると、EXUSIAなどを相手していた時までと一転して、不気味な程に雲1つなく晴れ渡る空に、突如空気を切り裂くジェット音が響き渡る。
『J、調子はどう?』
『良好だ』
直後『令嬢』の質問と共に現れたのは、後方に4つのジェットエンジンを備えた、前後に長い機首と相まって首長竜のヒレを思わせる、2対4枚の翼を持つ航空機。頭上を通り過ぎていくその機体に、『アインズ・ウール・ゴウン』の面々は思わず呆然とする。
「あれが階層支配者か?向こうの要塞で待ち構えてるのかと思ったが、まさかわざわざ出向いてきてくれるとは、予想外の遭遇だな」
「どうやらまた茶番入るようですね。『アインズ・ウール・ゴウン』にも好きな人がいますからロールプレイにこだわる分には構わないんですけど、そうしたことに時間割いて、こっちを挑発してるんじゃないかなんて勘繰るのは、深読みしすぎでしょうか?」
「巌流島で宮本武蔵が遅刻したみたいな感じか、それもありそうだね。ひとまず始まるまで余裕がありそうだから、今のうちに支援かけておくよ」
「あ、じゃあお願いしますね朱雀さん」
登場演出を素直に評するタブラの後方では、先の会話から、おそらく戦闘準備前にもうしばらく『令嬢』と階層支配者の会話が続くだろうと予想した死獣天朱雀が、ぷにっと萌えの推測に乗りながら仲間達に戦闘前の支援追加をこなしていく。場合によっては彼も戦闘に参加せざるを得ない事態も有り得るため、こうして隙を見つけては効果が切れた支援を付与しておくことは、ある意味当然のことだろう。
『NPCの戦闘データを統合し、作り上げたオペレーション。無数の修羅場を渡り歩いたあなたの技術。そしてその機体。これが負けるとは思えないわね』
『貴様が欲するのは、この世界有終の美の演出、そして未来なき現実世界との決別。その意味では、我々の思惑は巡り会ったあの時から一致している。アーコロジー支配者達が謳歌するための秩序など、我々の生きる世界ではない』
そうして戦闘準備を進める中、面倒になってきたのか「……なぁ、あれ撃ち落としてクリアとかできるんじゃね?」と言い出したペロロンチーノの冗談に、モモンガが「いや、ここは素直に聞いててあげましょうよ」と宥める様を無視し、予想通り2人のやり取りが続く。
やがてジェットエンジンがパージされ、機体が前後に分離すると、そこから何かが落下する。未だ続く会話から察するに、それこそが本体たる階層支配者なのだろう。
『その恩恵をもらえなかったがために、凶行に走っていたと?』
『腐敗したぬるま湯を詰め込んだが如き、あの狭くおぞましい世界の中に、我々の生きる場は存在しない。好きに生き、理不尽に死ぬ。それが私だ、地位や後ろ盾の有無ではない。戦いはいい、我等にはそれが必要なんだ……』
『令嬢』との会話を終え、戦闘態勢に入ったらしき相手――マグノリアのACよりも鋭利なデザインに、突き出た両肩からは何本ものチューブが伸び、背中には尻尾とも脊椎ともとれるようなパーツを靡かせる『N-WGIX/v』が不気味な音を立てて浮遊すると同時に、周囲に緑色の粒子を放出しながら『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバー達へと向かって行く。
「ようやっと開始か、ってもそっちが長話してる間に、こっちはもう準備万端なんだよ……『朱の新星』!!」
迫り来る相手に向け、真っ先に攻撃を仕掛けたのは、これまで温存されてきた『アインズ・ウール・ゴウン』の最終兵器こと、ウルベルト。『ワールド・ディザスター』は対階層支配者には必須とも言える程の大火力を発動できるのだが、それと引き換えにしてもデメリットとなるほどMP燃費が悪い。それ故これまでの戦闘では先への温存を優先し、戦闘は専ら仲間任せだった。今回も『令嬢』を始めまだ先があると考え、あまり最高位クラスの大技は使えないと判断したが、それでも炎系の対個人攻撃魔法としては最高位に位置する第9位階魔法の『朱の新星』を真正面から受けたなら、対策の有無を問わず大なり小なりダメージは入るはず。仮に失敗しても、何かしら対策があることを見破れれば御の字にしてはコストをかけ過ぎたかもしれないが、炎に包まれる直前、放出する粒子で球状のシールドを形成すると、その外側から炎に包まれ、内部の『N-WGIX/v』本体へのダメージを遮る。
「やはり何かしら対策済みでしたか。しかも散布してるあれ、ペロロンさんのと違って、ダメージ付与効果も有してるみたいですよ」
ペロロンチーノも外見上は似たような、金色の粒子を放出する課金エフェクトをアバターに取り入れていたが、ぷにっと萌えが所有スキルで見破ったように、相手から放出される『コジマ粒子』は、自身へのダメージ遮断だけでなく、周囲への妨害や牽制にも使える、攻防自在の装備となっている。
「となると有効打を当てるには、まずあれを剥がす必要があるか。試しに殴ってみたら、どうにかならないかな?」
「久々にそれ聞きましたが、変わってない様で何となく安心しますわ。ただそれだったらやまいこさんは回復役として必須ですから、代わりに私が1撃決めてきますよ。ダメだったらより破壊力のあるメコンさんや、支援も担当できるウィッシュさんとかタブラさんにも協力してもらえば何とかなるか、と!」
かつても攻略が難航すると、やまいこは「取り敢えず殴ってみよう」と語っていた。とはいえ、回復役たる彼女を未知の相手にぶつけるのは、不安要素やデメリットが多すぎる。一方「ならば自分が」と名乗り出て挑みかかった紅白鰐合戦は、ダメージに直接つながる能力はそこまで高くないし、かといって防御役のぶくぶく茶釜のように防御力もないものの、ベルリバーと並んで器用貧乏になりがちな魔法剣士ながら高いプレイスキルを持ち、フェイントを混ぜた立ち回りで敵の錯乱を担当し、また役割の違いもあってぶくぶく茶釜には幾段か劣るものの、あえて身を危険に晒すことで敵の憎悪値を稼ぎ、その隙を仲間に活用させることも得意とする。
実際彼がダメージ覚悟で球状のシールド――プライマルアーマーに飛び込み、風切り音と共に突き出したレイピアが右の肘に刺さると、『N-WGIX/v』は動きを止める。しかし直後プライマルアーマーを形成する『コジマ粒子』の濃度が段々と上昇していき、見る間に変化する色を警戒して紅白鰐合戦が一気に距離を取ると同時に爆発、霧散する。同時に周囲は高濃度の『コジマ粒子』に汚染され、一時的なダメージ領域となったが、放出した『N-WGIX/v』は棒立ちのまま動く様子を見せない。
「なるほど、プライマルアーマーを取っ払われると再生させるまで動けないみたいですね。今のうちにぶっ叩いてやりましょうか!」
「よっしゃー!フルボッコじゃー!」
「『アインズ・ウール・ゴウン』の名を勝手に使ったこと思い知れー!」
「恨みはないどころか、最後にこうした粋な催しを開いてくれたことには感謝しているが、折角だし便乗させてもらおうかねっと!」
「ここまで大規模なワンサイドだとついつい躊躇しちゃいそうになるけど、それで手ぇ抜いたって思われるのも心外だしなぁ……」
確認と共に紅白鰐合戦が再度切りかかると、それに便乗するかの如く、弐式炎雷、武人建御雷、獣王メコン川等近接系アタッカー達が雪崩込む様に『N-WGIX/v』へと襲い掛かり、タブラやモモンガ、ウィッシュⅢ等後方支援担当のメンバーも、遠方から集中攻撃を仕掛けていく。やがてしばらくすると、再度プライマルアーマーを生成、浮遊した『N-WGIX/v』が動き出し、両手に備えたショートライフルをランダムに狙いを変えながら発砲しつつ、不規則に移動を繰り返す。
「うおっとぉ!?こりゃあやっかいだなぁ、狙いが不特定多数じゃ茶釜さんも防げないだろうに」
「種族のせいで取り回しも大分前と違うから、結構キツイよぉ!だから前衛の人達は悪いけど、自力で何とかしてね!」
より高い素の能力値と、ブルー・インパルスの提出した外観でアバターを竜人に変更したぶくぶく茶釜だが、以前彼女が使っていたスライム種のアバターならば、離れた仲間が攻撃を受けたとしても、ある程度腕を伸ばして庇うすることができた。とはいっても仲間達とて決して彼女1人に頼りきりではなく、防御を捨て、火力と機動力に特化した弐式炎雷が、逆に機動力より防御を重視した獣王メコン川の陰に隠れて身を守るなど、即座に互いのフォローをこなしつつ、再度プライマルアーマーを排除すべく行動する。
「どっひょいやぁ!」
何度目かの攻撃で、シャドウ・ウィドゥが手首から放出する粘着糸を『N-WGIX/v』の機体に付着させ、それをメジャーや掃除機のコードを巻き取るかのように回収することで急接近し、勢いのまま体当たりを放つ。そして放出の体勢になると、今度はその射程外にいた武人建御雷の鎧に放ち、同様に回収して離脱する。
「建御雷さん受け止めてぇ!!」
「悪いが余裕ない!このチャンスを逃すわけにはいかないんでね!」
「うっそおおおおお!」
そのまま抱き留めてもらいたかったのだろうが、願われた武人建御雷の方も動きを止める『N-WGIX/v』へと駆け出してしまい、結果シャドウ・ウィドゥはすれ違った途端、切り離すタイミングを失い、引きずられながら戻る羽目になった。
(((((アっ、アホだ……アホがおる……)))))
まさかの緊迫の場で見せたシャドウ・ウィドゥの醜態に、思わず何人かは呆れながらもそれどころではないためスルーしてしまうが、この場ではむしろ無理して助けようとする方が危なくなるため、皮肉にもそれが正解と言えた。実際彼女がワタワタしてる間に、攻撃を受けていた『N-WGIX/v』は、動き出そうとしたところで大きく後退し停止するが、それを見て「やっと終わりか」と安堵するのは、まだ早かったらしい。
『嘘、こんなことが……なぁんて、言うと思った?これくらい、想定の範囲内よ』
『ジェネレータ出力再上昇。オペレーション、パターン2。見せてみろ、貴様等の力を……』
『令嬢』の挑発に同調するかの如く、脚部側面や両腕の制御装置らしき部分を展開した『N-WGIX/v』は、制御装置の周辺を始め、各所を赤く発行させると、停止するまで自身の周囲にまとうかのごとく展開していた『コジマ粒子』を、逆に周囲を汚染するかの如く拡散させる。
「おぉ!?あの野郎『コジマ粒子』まき散らしてきやがったぞ!」
「さっきみたく濃度は高くない感じですから、後方系の人は先程より距離を取って援護射撃を!近接系は引き続き一撃離脱でお願いします!」
接近を封じるかの如くダメージフィールドを生成してきた『N-WGIX/v』に対し、悪態を吐く弐式炎雷に続き、ぷにっと萌えがとっさに指示を出す。しかし『N-WGIX/v』のパターン変更はこればかりではなく、時折手にした武器をショートライフルからレーザーブレードに持ち替え、急接近から薙ぎ払ってくるかと思いきやライフルでの乱れ撃ちを放ったり、逆に遠方からライフルを構えた先の敵にレーザーでの刺突を放ったりと、よりタイミングの把握が複雑な機動を繰り返す。
「この野郎、好き勝手動き回りやがって……!」
「コイツある意味弐式炎雷さん以上の機動力なのに、制御性と標的選択も上手……ってこら!!どこ行ってんだ!!」
小刻みかつ自在に動き回り、暴れるように手当たり次第攻撃を放つ『N-WGIX/v』に対し、武人建御雷が『五大明王コンボ』を発動させようにも、その動きを予測しなくては、到底当てられるような状況ではない。しかもグランディス・ブラックへと急接近したと思いきや、目の前で曲芸的に攻撃の届かない上空へと飛び上がり、ペロロンチーノとブルー・インパルスと共に罵声を浴びせながら後を追う彼のことなど気にせず、しばらく浮遊していたところからの急降下と、ダメージを受けながらそれ以上に翻弄してみせている。
「まさかサービス最終日でこんな逸材に会うとは……装備やビルド次第では、『ワールドチャンピオン』に君臨できたかもしれませんよコイツ」
「そこまでの才能持ちだったんですか!?だとしたら何で今まで無名だったんだか……」
かつて『ワールドチャンピオン』の職業を保持していたたっち・みーから、同様の素質を保持する相手と聞いて驚愕するモモンガだが、実際公式大会の優勝で取得できる『ワールドチャンピオン』は、その「公式チート」と称されるだけの強さと、取得を求めて多数の挑戦者が集う大会の規模から、取得できずとも活躍次第でその存在を多数のプレイヤーに認知されるため、かつての取得者に「なり得たかもしれない」と仮定されるだけでも、そのプレイヤースキルや戦闘能力が十分驚愕や警戒に値する人物と言える。
とは言えそのたっち・みーを始め、やはり数だけでなく個々が猛者にして、なおかつ各員の連携にも優れた『アインズ・ウール・ゴウン』をたった1人で相手し続けるのは難しかった様で、段々と動きにキレがなくなっていき、機体の各所からは、煙や火花も上がっているのが見える。
「もうそろそろ限界のようだな。ここまでくればコイツで終わるはず!『厄災の暴風』!」
最後に決めたのは、元より消耗の少なさに加え、死獣天朱雀からの支援で、威力強化と共にMPの時間経過回復を早め、万全の状態で待ち構えていたウルベルト。正面のベルリバーから距離を取ろうと後退したところに、その後方から禍々しさを感じさせる闇の呪詛が放たれた『N-WGIX/v』は、成す術なくそれを浴び、一際大きな爆発をあげてウルベルトの左を回転しながら滑走し、左手から離れたレーザーブレードが地面に弾んで爆散する。
『……認めたくないものね、「ユグドラシル」がまた、終わりに近づくみたいで。全てを破壊し尽くされた、絞り粕とさえも言えないようなあの汚れ果てた世界なんて見捨てて、未来永劫この世界で夢に溺れていたいのに……』
倒された『N-WGIX/v』の代わりとばかりに、『令嬢』がどこか演技染みた言い回しの軽さに反し、『アインズ・ウール・ゴウン』の面々ではなく、全く違う相手に向けて込められた怨嗟を滲ませる様な恨み言を吐き捨てる。
『本当はもっとまとめて呼び寄せて、さっきまでみたいなランダムレイド式で再度選別するつもりだったけど、もういいわ。この先からは、特別に私達が直々に相手してあげる。まぁ、配下のNPCを引き連れてくるのはいるみたいだけど。引き続き活躍を期待しているわ。かつて「ユグドラシル」名を馳せた「アインズ・ウール・ゴウン」には、その権利と義務があるんだから』
『令嬢』の宣告と共に限界を迎え、閃光と共に『コジマ粒子』を飛散させて爆発した『N-WGIX/v』が姿を消すと、そこには次の階層へと通じる転移門が出現する。
「権利と義務ね……勝手なこと言ってくれるよ。まあ、せっかくここまで来て、『令嬢』が直々に対峙を宣告してくれたんだ。いっちょハデにぶつかってやろうぜ。なぁ、モモンガさん?」
「そりゃあ元々ネタに名前使われたことにこっちがマジになっただけっても、こうして活躍して、折角名指しされたんですし、ここは進んでいくのが礼儀ってもんでしょうに」
身勝手極まりない相手方の宣告に、理不尽と憤るウルベルトだが、彼に限らずだからと言ってここで棄権して帰還することは選択肢にない様で、リーダーたるモモンガに同意を促す。もちろんモモンガ自身も、『アインズ・ウール・ゴウン』の名を、挑発の材料にされた怒りより、そのおかげで、こうしてかつての仲間が終結したことへの喜びが上回ってはいるものの、このまま先へと進むつもりに変わりはない。だからこそ軽く咳払いしてから仲間達へと向き直ると、口調を魔王演技に切り替え、改めて宣言する。
「諸君!恐れ多くも我等『アインズ・ウール・ゴウン』の名を宣伝に使った、愚か者の1人を仕留めることに成功した!これより先は奴等も本格的な手を打ってくるだろう。しかし私は信じている。必ずや『暁の君臨者』の連中を根絶やしにし、我等『アインズ・ウール・ゴウン』は『ユグドラシル』最後の時まで健在せしと、他のプレイヤー達に知らしめると!」
「「「「「おぉ~~~!!」」」」」
「では向かわん!いざ次の階層へ!!」
号令へのときの声に満足しつつ、足を進めるモモンガを先頭に、転移門へと足を進めていく『アインズ・ウール・ゴウン』の面々。彼らが姿を消した直後、遥か彼方で設置物と化していた巨大要塞――『スピリット・オブ・マザーウィル』の残骸が、息を吹き返すかのように修復されていき、ついに全盛期の姿を取り戻すと、各所に設置された砲台から、目覚めの咆哮とばかりにミサイルを乱射する。
それに呼応するかの如く、上空に現れた召喚魔法陣から、ゆっくりと地上に降ろされ、着地と同時に階層内に残されたプレイヤー達に存在を知らせるかの如く吠えたのは、怪獣を思わせるマザーウィルに負けず劣らずの、漆黒の巨体。
『破滅の魔獣』と恐れられたその機械龍は、自身を召喚した魔法陣へと頭を持ち上げ、そこに向けて、余裕で街1つを地図から消し去れる最強の武装『荷電粒子砲』を発射すると、魔法陣から分散しながら、階層ごとプレイヤーを殲滅せんと各所に降り注いでいく。
ログアウトを強要するかのようなこの仕様に耐えられたプレイヤーはごく僅かで、後の世に悪い意味で『暁の君臨者』の名を刻むこととなった。
後半戦のイメージBGMはMechanized Memoriesで
意外と苦労したのがどうやって倒させるかや、戦闘中の『アインズ・ウール・ゴウン』の面々のやり取りでした
おかげでだいぶ長引くとともに難航で時間かかりましたが、一応月内に何とか次に進ませることができました
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黒幕たちの幕間
N-WGIX/vが倒される少し前、『私情領域』の円卓では、中央で輝く3Dディスプレイに、リアルタイムで映し出される『アインズ・ウール・ゴウン』との戦況を、遅れて合流した仲間達も交えて、眺めていた。
「人数としては非戦闘員も含めた全盛期の半分もいないと言え、ここまで駆け付けた『アインズ・ウール・ゴウン』の面々もすごいけど、それをたった1人でこうも捌ける『死神』さんも流石の腕前だよ。『暁の君臨者』で1番のPvP経験者なだけはあるな」
「あまり気分のいい話じゃないけど、『ユグドラシル』始める前から現実でも異名通りのことやってきたらしい、ってだけはあるわね。片方は元でも、世界級職業2人がいるんだもの……」
体調が優れないのか、右腕で頬杖を突いた者が時折酷く咳込むと、右隣に座る仲間が――アバターの都合上表情に変化はないが――心配そうに覗き込む。『姫』もその様子にN-WGIX/vの活躍に集中できないようで、ディスプレイの発光に照らし出されたワニのような鋭い牙が並ぶ顔をそちらに向ける。
「『武蔵』、ちゃんと薬は飲んだの?出番はまだ先だけど、一応大事とったつもりで本来の倍は処方させたんだから、余裕あるうちにしっかり飲んできなさい」
「あぁ、決着を見届けたらそうさせてもらうよ……」
卓上に投げ出した左手を口元に当て、先程よりも大きな咳を何度もする武蔵。アバターこそ見せつけるかの様にはだけた衣装から、健康的な褐色の肌と抜群のプロポーションを誇る肢体を覗かせる彼女だが、現実では酸素マスクを装着し、『姫』こと『ビオランテ』のコネで得られた大量の薬で容態を安定させていなければ、満足に呼吸もできない程の重病人で、発育不良で幼いうちに成長の止まった貧相な体は、特注された延命装置がなくては10分も持たない。その苦しみの原因たる汚染された環境と、貧富の格差に対する憎悪と諦観が、皮肉にもビオランテのお眼鏡に適い、満足に体を動かすこともままならない妹を嘆き憐れんだ、隣に座る姉の『大和』と共に、こうして彼女の仲間に迎えられ、最期の時を待って耐えてきた。
「おい、そろそろ終わりそうだぞ。HPゲージが赤くなってる」
ビオランテの右側にいる武蔵とは反対側の席から声をかけたのは、現実との感覚差を無視し、見栄え重視で規格外のサイズとなったアバターのメンバーでも、一際巨体の『ガルバトロン』。右隣の席で戦況を見つめる、同様に巨体の弟『メガストーム』に加え、左隣で、背後に使役する装備を模した、彼よりは一回りほど小さいと言え、並の人間に比べれば十分に大きいNPCを従えた、足元までありそうな長い黒髪と、黒いワンピースの妻、『戦艦棲姫』と、その膝に座る、母とは対照的な白髪に同色のワンピース、ミトングローブを着けた娘の『北方棲姫』、同じく左へと順々に並ぶ義妹達――姉とは違い自立性はない、背負い型の装備を後に置いた、姪同様の白髪に、デザインの異なるワンピースを着た『港湾棲姫』と、膝下まで伸びた淡いピンク色髪をツインテールにまとめ、武蔵同様はだけたジャケットの下はビキニ水着で、肘置きに乗せた腰から伸びる装備の上に、重武装の腕を置いた『南方棲鬼』共々加入して以来、メンバー間のスケジュールや予算の管理を担当している。
「もうそこまで?やっぱりキャラに釣られた特殊技能任せのニワカ共と違って、全盛期からの叩き上げは相手のし甲斐がありそうね」
「そうだな。尤も易々負けるつもりはないと言え、荷が重い俺にはどこまでこなせるか分からんが……」
お眼鏡に適わなかった挑戦者達を嘲笑するビオランテに、消極的な合いの手を向けるのは、剣と魔法の世界たる『ユグドラシル』においては正統派だろうが、その世界観を無視し、個々が好き勝手やった結果、SF色が強くなった『暁の君臨者』においては逆に異端の容姿ともいえる、中世的な衣装に長髪の男性、『イースレイ』。次に相手をする『妖魔領域』の階層支配者だが、彼も決して弱い方ではない。しかしN-WGIX/vが今現在見せる奮戦に比べれば、酷く地味で盛り上がりに欠けるだろうことも自覚している。だからこそ少しでも惨めにならぬよう、自らが先陣を切り、最初の階層支配者を免罪符に印象を薄めようとしていた。
そうこうしてる間にN-WGIX/vが撃破されるが、すぐさまビオランテのアナウンスに合わせて復活し、戦闘が再開される。それに合わせて、他の区域で未だに復活したNPC達と戦い続けている他のプレイヤーに――アバターでは表情が分からないが――ウンザリした目を向けていたであろう彼女に、武蔵の右奥から声がかかる。
「あ~、妙に機嫌が悪いと思ったら、そもそも客足が願望より少なかった上に、エンジョイ勢のが多かった感じ?でも正直なところ、それこそ『アインズ・ウール・ゴウン』が大暴れした全盛期ならともかく、幾らラストイベントって大々的に銘打っても、ポッと出の『暁の君臨者』じゃあそもそも集客力に欠けたんじゃない?」
そもそも宣伝や名乗り上げの時期、或いは謳い文句に問題があったのでは、と指摘したのは、大きく開いた胸元を下で結んだジャケットで持ち上げ、タイトスカートから伸びる脚にサイハイソックスを履いた『アイオワ』。かつて集団『悪党軍団』として水面下で工作していた時代に属しておらず、『古世界からの使者達』開催後に便乗的に参入した者の1人で、そうした意味では閉鎖的なメンバーに対し、ある程度部外者ならではの視点を有している。
実際彼女が言うように、ビオランテはかつて『ユグドラシル』全盛期、異形種プレイヤーに対し猛威を振るった人間種プレイヤーのPKへのカウンターPKで悪名を響かせた『アインズ・ウール・ゴウン』が、拠点の『ナザリック地下大墳墓』に攻め込んだ1500人もの『ナザリック討伐隊』を激戦の末壊滅させた伝説を耳にしており、『ユグドラシル』最後の日にそれを凌駕すべく、倍の3000人以上を見込んでこの1大イベントを企画したが、実際集結したのは『ナザリック討伐隊』の8割程度と、撮らぬ狸とばかりに彼女の見積もりを大きく下回る結果だった。
おまけに参加を期待した肝心の名を馳せただろう猛者達は、名指しされた『アインズ・ウール・ゴウン』を除けばほとんどがとうに引退したか、最早イベントに食いつくような熱意を失ったようで、参加者の大半は、過去の偉人を模し、『宝具』と呼ばれる特殊技能を持つ『英霊』、『幽波紋』と呼ばれる特殊技能持ちの分身を使役する『幽波紋使い』、単純な能力値だけならそれこそかの世界級職業をも上回る『サイヤ人』、「全盛期に実装されていたら相当つぎ込んだだろう」とたっち・みーやあまのまひとつが苦笑した各種特撮ヒーロー達を始め、『古世界からの使者達』期間中に実装されたガチャで獲得した、多彩な特殊技能と専用外装から人気を博した特殊分類キャラをNPCとして引き連れたり、自身のアバターに差し替えたりした疑似最強系仕様のまま、軽いノリで便乗したような有様だった。
その結果、仕事をし過ぎて400人もの脱落者を生み出した、本来なら軽い気持ちで悪乗りした連中への篩の1つに『豆腐』がいる。
手足どころか――帽子こそ被っているが――頭に当たる部位もない、人間大の白い柱状の外観は、見るからにネタ感満載の代物で、レベルも職業取得分は一通り戦力となる程までは育てているものの、カンストまでは届いておらず、能力値もそれほど高くない。加えて『打撃ダメージ倍増』のマイナス特殊技能もあるため、『アインズ・ウール・ゴウン』の面々で挙げるなら、見た目に反し攻撃力の低いやまいこでも数発殴れば撃破できる。しかし挑戦者からしてみればその外観以上にふざけた仕様として、先ほど挙げた4者を始めとする1部特殊分類キャラに対し、一切ダメージを受けず、なおかつ与えるダメージが10倍になるなんてチートにも等しい特効を有しており、実際とある英霊プレイヤーが放った、絶大な威力と同士撃ち効果を持つ音響攻撃に対し、一切ダメージを受けず接近し、ナイフの一刺しで撃破してしまった様子は、眺めていた『暁の君臨者』の面々を爆笑させている。
この他にも宝具の効果で大量の配下NPCを召喚した英霊を単体で火炎放射器を振るい焼き尽くした『こんにゃく』、爆弾製作能力持ちの幽波紋に幾度も爆破されながらも煙の中から無傷で現れ、使役者の足元に投げた手榴弾1つで返り討ちにした『ういろう』、インフレのきっかけともいえる『宇宙の帝王』を、その強さと共に印象付けた多段変身を見せる前に拳銃のヘッドショットで仕留めた『杏仁豆腐』、原作では神の力を借りた悪逆非道の権化の如き英霊を、逆にガトリングガンでハチの巣の末ロケットランチャーで粉砕してしまった『プリン』と、同様の見た目と能力値のNPC達が、騙されたプレイヤーや率いるNPCを数多く駆逐している。
当然そうした補整を有するNPCは他にも多々おり、『市街領域』なら「原作再現」を理由に強化され、階層支配者ラッシュの先端となったサンレッドは、無数の武器を背後から射出する英霊を攻撃前にアッパーカットで瞬殺しているし、『自然領域』では度々職権乱用で空間干渉計能力を発動させていた英霊が『アルキデスオオヒラタクワガタ』の特殊技能――空間干渉計能力を持つ相手に対する、演出を元にした複数回攻撃を浴びて跳ね飛ばされ、『最強』と称された聖剣から放たれた一切を消し飛ばす巨大な光の奔流を浴びても、掠り傷どころか身を覆うビロード色の体毛が焼けたりハゲたりすることさえなかった『エレファスゾウカブト』はその英霊を掬い上げた後再度かち上げて一気に上空から叩きつけ、一定時間内の不都合な事象を除去できるはずの幽波紋は、攻撃不発の改変を無視した『グランディスオオクワガタ』の大牙に使役者共々抱擁され、反復横跳びの末、前転しながら放物線を描いて頭から地面に刺さり、著名な冒険者ではなく、その裏に隠れた略奪者として呼び出された英霊が呼びだした巨大船も、求めた財宝を思わせる黄金に輝く甲殻の『オウゴンオニクワガタ』が放つ連続突きで、10秒と経たず使役者以下乗員の肉片と混ざりあった瓦礫に代わり、時を止める能力を持つ幽波紋使いは、『アクティオンゾウカブト』に発動後ラッシュを仕掛けようとしたところで、幽波紋諸共突き飛ばしからの押し潰しでグチャグチャに潰れながら地面に埋まり、反射するものに次々と飛び移れる性質を持つはずの幽波紋は、何の因果か『タランドゥスツヤクワガタ』の全身を覆う光沢に拒まれるように跳ね返され、連続突進のコンボで星となった。
更にメガストームが少し前に名を挙げた『レクシィ』や『インドミナス』は、魔法攻撃を有さない代わりに、『ワールド・ディザスター』が相手でも魔法攻撃が効かない特殊技能を持ち、仮に後悔する前に宣言を無視してけしかけようものなら、『アインズ・ウール・ゴウン』の面々でももう数回黒星が追加されただろう。
アイオワにしてみれば、幾ら圧倒的に相手方のパワーバランスが上回っていたとしても、こうした露骨な補正に嫌気がさしたプレイヤーは、延々とGMコールでクレームをぶつけてくる奴も多い。それこそこちらの意思など気にも留めず、「今まで通りのクソ運営&製作」とその場で匙を投げて諦めるならまだマシな方と言える。
「何?全盛期はもっと理不尽なボスだってワンサカいたんだから、プレイヤースキルでどうにかなるくらいな状況で、キャラに頼り切りなヘタレが音を上げる方がおかしいのよ。むしろ恵まれた能力値や特殊技能からその後のこれに何かしら対策がされてることを考えてない連中なんて、ハナっから願い下げ。つまらない意地で居座り続けるような奴も、この後消滅するって思うと、幾分留飲も下がるわ」
理不尽の原因たるアバターの外装は操作画面で容易に解除できることに加え、NPCの索敵能力はそこまで高くないため、素直に物陰に隠れるか、最悪『原祖女悪魔の祝福』の効果で復活を待ってる間に大人しく解除して挑み直せば、後は人数次第で数の暴力に持ち込んでも十分撃破は可能となっているし、実際『市街領域』での階層支配者ラッシュや、『自然領域』における甲虫達との連戦が突破されたことで、それが証明されている。ビオランテにしてみれば、わざわざそれを無視してケチをつけながら居座り続けられるより、サービス終了を前に復帰者たちで繁盛しているであろう都市で通り魔的に目に付いたプレイヤーを狙うなり、仲間と拠点に戻るなりでもしてPvPに勤しんでもらった方が、遥かに有意義だと認識している。
「ねぇ、今気づいたんだけど、『武道』さんは?さっき見た時は並んで席に着いてたからログインしてるみたいだけど……」
「あぁ、あの人なら一足先に『妖魔領域』に行ってるよ。『瞑想でもして待ってる』ってさ」
ふと大和がこの場に1人いない仲間のことを尋ねると、共同で迎え撃つ予定のイースレイが答える。現在現実の彼等がいるのはビオランテが完全環境都市の一角に用意した専用の別荘で、ここで共同生活を営みながら、自室や居間などの各所で『ユグドラシル』に勤んでいる。件の『武道』こと『ザ・マン』は、特定の領域を有さず、遊撃支配者として各所を好きに移動できる身だが、彼の領域に間借りする形で設置物やNPCを配置しているためか、基本そこに身を置くことを好んでいる。先程大和は武蔵の介抱を終え、取り換えた消耗品などを片付ける途中で、彼がここにいたメンバーと共に居間で接続していた姿を目撃していた。
「おぉ、ついに決着がついたか。敗れることが前提の身と言え、少し物悲しくもなるな」
「そうね。いっそのこと昔あった映画みたいに、この仮想空間を現実に生涯を過ごしたかったわ……」
再度撃破されたN-WGIX/vの姿にアナウンスを入れるビオランテを横目に、イースレイが早々に席を立つ。
「さて、それじゃあ軽くやられてくるよ。せいぜい悪足掻きを楽しんでくれ」
「開き直るにしても自虐し過ぎよ。あまり卑下されたらこっちまで大変になるんだから」
港湾棲姫の呆れ声を背に、自分の領域へと向かった
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雪原の支配者と武の探求者
転移門を潜り抜けた先は、直前までの『傭兵領域』に広がっていた雲1つない青空と、その下の広大な砂漠から一転、厚い雲が広がる空の下には、降り積もった雪が各所に残る、寂れた小さな町。すでに住民はいなくなって久しいようで、建付けが悪くなった扉や、開いたままの窓から見える民家の中には、残された家具に吹き込んだ雪が付着している。
「なんだかナザリックの第五階層みてぇな場所だな。っても全体がこうって感じじゃなさそうだが」
「下の『自然領域』もそうですが、ブルー・プラネットさんが見たら大喜びそうな要素が色々と詰め込まれてますね。しかしこれほど大規模なダンジョンが存在していれば、イベント中に発見や挑戦の報告が挙がってたはずですから、おそらく今回のためにこの状態で完成させてから実装したんでしょう」
ナザリックの第五階層「氷河」では、極寒の空気が吹き荒び、舞い上がる氷雪が侵入者の動きを封じ、遭難させる。そこの階層守護者担当NPCを制作した武人建御雷が指摘する通り、後方に広がる山肌には雪がない森林地帯や、岩肌が露になった場所が多々見える。それを見たぷにっと萌えの推測通り、『タワー』は『暁の君臨者』各員が趣味をつぎ込んだ私物に近く、『古世界からの使者達』も、その実装に当たる正当性を語るための隠れ蓑の意味合いが強い。
「多分階層1つでも、一般的な中規模ダンジョンに換算したら複数分のボリュームでしょうね。ナザリックでも1階層で、こうも環境を小分けして配備はできないし」
グランディス・ブラックが言うように、ナザリック地下大墳墓もダンジョン由来の拠点としては大規模な部類に入るが、それでも――例えば先述した第五階層なら、対照的に「溶岩」の名前通り、紅蓮の輝きを灯す溶岩の川と熱された空気が継続的に炎ダメージを与える、第七階層のような熱気を配置することはもちろん、階層内を支配する冷気の影響を遮断できないように――1つの階層に複雑な環境の変化は用意できず、複数の環境を――それもかつて存在した実際の自然を再現するかのように、境界部分の緩やかな変化まで成しえることができる程の容量を内包する『タワー』の規模は、明らかに「おかしい」と言えよう。
「にしても階層支配者はどこで油売ってんだろ。さっきみたいな演出の準備でもしてるのかな?」
『令嬢』の宣告に反し、待ち構えているはずの階層支配者は姿が見えない。ペロロンチーノが千里眼で探していると、背丈が付近の民家に並ぶか、それを超える異形の軍勢が、ゆったりとした足取りでこちらへと向かってくる姿を目撃し、「ウゲッ」とうめき声をあげて体を引きつかせる。
「なんだ、もう来てたのか。コイツ等を連れて待ち構えるつもりだったが、集めるのに夢中で少し遅れたみたいだな」
腕や目が何対もある者、翼を持ち宙に浮く者、顔は人に似る分体の異形ぶりが目立つ者と、金属を思わせる強固そうな装甲状の皮膚以外、共通点が見当たらない怪物達を引き連れて現れたのは、同様に金属像を思わせる巨大な半人半馬。背中には膜や羽毛のない骨組みだけの翼もあるが、地に足をつけている様子から、見た目通り直接的な飛翔能力はないらしい。
「チッ、いるとは聞いたが、初っ端からゾロゾロNPC連れてきやがったな……」
半人半馬自身の言葉もあって、一言も発さずに付き従ってきた者達が配下のNPCと判断したウルベルトと、武器を構え、表情が反映されるなら同調するように顔をしかめただろうベルリバー達に反し、当の半人半馬は「まぁ落ち着け」と早くも臨戦態勢の『アインズ・ウール・ゴウン』メンバーを宥める。
「コイツ等は戦闘に参加しない観客だ。一応もう1人来る予定だが……っと、やっと来たか」
「グォロラァーーーーッ!!」
半人半馬が1歩下がると、直後その場で地面が盛り上がり、突き破る様にして新手が姿を現す。後方の怪物達に比べれば、宙に浮く彼らは身長こそ大柄ではあるものの、まだ十分人型の範疇に入るだろうが、それでも両肩に巨大なタイヤを装着した騎士のような風貌の者や、単眼の左右に伸びた巨大な角が目立つ者もおり、間違いなく彼等が人間種ではない存在――おそらくは『アインズ・ウール・ゴウン』メンバー達と同じ異形種と理解できる。そしてその中から、最初に現れた剣道着の人物が半人半馬の隣に降り立った。
「遅れてすまんな。ついつい瞑想に夢中となっていたようだ」
「結局始めると伝言に気づかなくなる悪癖はそのままでしたね。ご覧の通りもう来てますよ」
「すまんすまん」と遅れたことを謝り続ける剣道着に、呆れた様な半人半馬が向き直ると、1歩前に出て自己紹介に移る。
「さて、遅れたわけだしあまり悠長にはできんが、自己紹介くらいはしておくか。俺は『イースレイ』。『妖魔領域』の階層支配者で、隣のこっちは間借りしている遊撃支配者の『ストロング・ザ・武道』。一応メインで戦うのは俺の方だな」
「よろしく頼む。と言っても、私としては真正面から1対1で堂々対決するのが望みでな。総出でサッサとイースレイを倒したいってんなら、大人しく成り行きを眺めながら審判でもやってるさ」
わざわざ『令嬢』を付き合わせてまで演技を優先して、満足な名乗りもなかったN-WGIX/vとは逆に、半人半馬のイースレイと剣道着のストロング・ザ・武道は、名乗りと共に簡単なルールの説明を終えると、『アインズ・ウール・ゴウン』メンバーの様子を窺う。
「わざわざどうも。念のため確認しときたいんだが、ストロング・ザ・武道や取り巻き連中は無視しても構わないから、階層支配者のイースレイを倒せばクリアでいいのか?」
真っ先に口を開いたのはウィッシュⅢ。イースレイの話を聞く限り、武道はあくまで立会人に過ぎず、倒すどころか相手をする必要はないとのこと。それに武道自身が「当然」と答える。
「1対1での対決に名乗りがなければ、私としてはこのまま見守るのみさ。わざわざノらなかった相手に、背後から襲い掛かるような真似はしないぞ」
「さっきも言った通り、コイツ等を連れてきた目的は観客用で、戦闘に参加しない。尤も、そっちが望むなら指名した奴は参戦させてもいいぜ?」
血の気が多そうなメンバーが、便乗するようなイースレイの挑発に乗る前に、ベルリバーが「だったら遠慮しようかな」と素直に断ったことでNPCの参戦はなくなったが、支配者の片割れとも称すべき武道に対してはいまだ決まらない。当人達が言うように、NPC共々スルーして参戦させなくてもいいのだろうが、それもそれで胸を張って「勝った」と誇るには、妙に引っかかる半端な感じになってしまう。そうした中で名乗りを挙げたのは、武人建御雷だった。
「確かにアンタが言うように、イースレイを全員で倒しちまうのが賢いやり方で楽なんだろうよ。けどそれじゃああんたも面白くないだろう?だったら俺が相手してやるよ」
「ちょっ、建御雷さん!?」
味方の不利を承知しながら、「無視しても構わん」とあえて突き放したにも関わらず、乗って来るものが現れたことに、「ほぅ?」と感心とも驚愕ともとれる声を出す武道だが、対峙する武人建御雷は、戸惑うモモンガの方を向くと「すまんな」と簡素に詫びる。
「ナザリック攻略の時にも言ったろ?『勝ち方の分からない、相手の手の内を戦闘中に読む戦いをしたかった』ってさ。折角おあつらえ向きに挑戦してきた奴がいるんだ。ここは誰かしら相手してやるのが礼儀ってモンだろ?っつーことで『五大明王コンボ』はイースレイにも効果がありそうだが、今回は抜きで頑張ってくれや」
「いや、それはそうですけども……」
「諦めなよモモンガさん、あぁなった建やんは誰にも止められないんだからさ」
さすがに相談もなしに即決した武人建御雷の独断に、メンバーでも慎重な方に入るベルリバーは勿論、モモンガを始めとした他の面々も不満気な様子を見せるが、一際親しい弐式炎雷が言うように、1度スイッチが入ると止まらなくなるのも周知の事実だし、同様の気質をしたメンバーも少なくはないため、早々に「こうなったら仕方ない」と匙を投げる。
「ハァ、分かりましたよ。ただ『傭兵領域』からやり直しになったら拾いに行くの大変になりそうですから、調子に乗ってやられないでくださいね?」
「そこは問題ないぞ。ここで明かすのもなんだが、領域移動の際は移動先ごとに復活されるように設定してある。意図的に戻らない限り前の領域には戻されないから、安心してくれ」
気を遣ってくれたのか、竹刀を振るい、『地形操作』で寒空の下には場違いなリングを地面から生やす武道が入れたフォローに、モモンガは「それならまだ何とかなるか…」と安堵すると、とりあえず妙な空気を切り替えるために軽く咳をし、さっそく魔王モードに切り替え、改めてイースレイと武道に対峙する。
「では始めようか御両人。好意を侮辱するわけではないが、『アインズ・ウール・ゴウン』を見くびるなよ?」
「上等、こちとら原作があるんだ。それに恥じるような真似ができるかってな」
そのまま一斉に駆け寄る『アインズ・ウール・ゴウン』メンバーと戦闘を開始するイースレイとは逆に、リングの上で武人建御雷を待つ武道は、手にした竹刀を掲げルールを説明する。
「コイツを上空に放り投げ、地面に落ちた時が試合開始のゴングだ。了承をもらった後で悪いが、生憎と私はこうした得物を振るうよりも、直接肉体をぶつけ合わせる方が性に合っててな。あわせろとは言わんが、そこは承知しといてくれよ?それと決着は、階層支配者たるイースレイの戦果を優先させてもらう。彼が倒れるまで試合が続いていれば、そっちの判定勝ちってことになる」
「ハンッ!それくらいは気にしねぇさ。むしろいいのか?そんなハンデをわざわざ背負ってよ」
「間借りしてる身としては、階層支配者の戦果に従うべきは当然だろう。たとえそのせいで不完全燃焼だったとしても、こうして挑んでもらえただけで満足さ」
事前にそう取り決めてあったといえ、条件としては大分不利だが、武道はノッソリとロープを持ち上げ、リングにあがってきた武人建御雷の挑発にも動じず、むしろ挑戦者がいたことを歓喜する様に答えながら竹刀を放り投げ、試合開始を待つ。
「トァーーーーッ!!」
「でりゃぁーーーーッ!!」
そして雪原に見事先端が刺さり、小さな音が鳴ると同時に、両者は雄たけびを上げながら互いに相手へと駆け出す。
「なかなか器用に立ち回るな。まさか一切魔法攻撃がないのに、こうも多人数と渡り合えるとは……」
タブラ・スマラグディナがボソリと漏らすように、イースレイは20人近くを相手に――それも本来なら数々の不都合が生じるだろう、実際の肉体との体格差をものともせずに立ち回り、器用に両手を相手や場面に合わせて槍や剣、盾などに切り替え、その合間に骨格だけの翼から矢を発射して、牽制までこなしてみせる。おまけに魔法攻撃がない代わりに、魔法攻撃への完全耐性スキルまで有しているようで、ウルベルトの攻撃さえ満足にダメージが通らなかった。おかげでぶくぶく茶釜はちょくちょく射撃や突進の吹き飛ばし効果で動きを乱され、遠距離から攻撃するペロロンチーノ達も盾で攻撃を防がれたり、牽制の射撃で妨害されたりと、決定打を決められずにいた。当然足元付近で直接対峙する近接メンバーも、見た目通りに強固な外皮と、鈍重そうな見た目に反した機動力、接近すればカウンターとばかりに繰り出される、踏みつけや後ろ蹴りのせいで攻めあぐねてはいるものの、何とか手数に任せて、少しずつHPを削りつつある。
「幸い召喚魔法で呼び出したモンスターの攻撃や、防壁系魔法での防御は問題ないみたいですね。ってもあまり通じてる印象はありませんが……」
打つ手なしと早々に匙を投げ、観戦に回っていた彼女に返すモモンガも、魔法耐性に気付いてからは、『骸骨壁』での防御や、『死者召喚』で召喚したモンスター――巨体に見合った巨大盾と波状剣を手にした、1度だけだがどんな攻撃を受けてもHP1で耐えきる能力を持つ防御役型のアンデッド、『死の戦士』を指揮しての援護に徹し、巻き込まれないように距離を取っている。N-WGIX/vもそうだが、どうも彼等は魔法を使うつもりはあまりないらしい。そうして様子を眺めているうちに、イースレイが紅白鰐合戦目掛けて右腕の槍から放った突きを死の戦士が庇い、勢いのまま突き飛ばされながら消滅する。
「ウゲ、またやられちゃった。これで3体目か……」
「大丈夫かモモンガさん?回復薬じゃ回復できないんだから、少しは任せて休んでてもいいぞ」
攻撃が通じないため、対象選択の錯乱や、メンバーの補助しかできないが、同様に『精霊召喚』で呼び出した精霊モンスターをけしかけていたウィッシュⅢが、モモンガを心配する。死の支配者を始めとするアンデッド系の異形種は、回復薬が本来の回復効果を成さず、むしろダメージを受けてしまう。そのため回復に難があり、あまり無茶が過ぎるとガス欠を起こしてしまう。いくらノーリスクで復活できるとはいえ、あまりそう何度もお世話になりたくはなるまい。故に休息を挟むようアドバイスを入れるが、モモンガもそれを理解しつつ、手を止めることを良しとはできなかった。
「心配感謝します。でも、ここまできて手を抜いて誰か1人でもやられちゃったら、自分が許せなくなりそうですから」
「相変わらずモモンガ君は自己優先度が低いねえ。だからこそたっち・みー君がリーダーに推薦して、こうして我々も最後まで着いてきてるのかもしれないけどね」
「はははっ、まあご存知の通り現実の私はしがない平社員ですし、こうして最後までしがみつくくらいには依存してますから、居心地のよかった『アインズ・ウール・ゴウン』が壊れないように一生懸命だっただけですよ」
死獣天朱雀の称賛にも苦笑と共に謙遜するが、モモンガは社会的立場や学歴への劣等感故か自己評価こそ低いが、決して自ら言う程無能ではなく、むしろ人間関係の立ち回りは長年積んだ営業の経験が功を成し、曲者揃いな『アインズ・ウール・ゴウン』を――長きにわたって形だけとなっていたが――こうして『ユグドラシル』最後の時まで存続させる程の義理堅さは、多くの場面でプラスに働いている。
「しかしそうなると、階層支配者だけじゃなくて建御雷さんの戦況も気になってくるね。尤も先程ウィッシュさんが懸念したように、どちらかの勝負が終わる前に我々がガス欠を起こす可能性もあるが」
「気持ちはわからなくもないし、邪魔をするのもどうかとは思いましたが、やはり『自然領域』に続いて『五大明王コンボ』は欲しかったですね。耐久型なメコンさんはともかく、あのスピード狂な弐式さんまで追いつけないとか、巨体に反してどんな能力振りしてんだって思わずにはいられませんよ」
ぷにっと萌えが口を挟むように、イースレイは巨体に反しほぼ足を止めることなく機敏に動き回り、対象と同時に行動を瞬時に選択しては、その成否を問わず即座に移動するヒットアンドアウェイを繰り返してくる。そのせいで狙われた時にタイミングよくカウンターを決める獣王メコン川や、糸で動きを阻害するシャドウ・ウィドゥのような重量型メンバーに対し、手数重視のベルリバーやたっち・みーはおろか、スピード特化型の弐式炎雷やブルー・インパルスでさえ大きく置いて行かれ、前者の足止めがないと、満足に攻撃するチャンスを得られずにいた。
一方一騎打ちに乗った武人建御雷は、器用に両脇を伸ばした右腕だけで固定したストロング・ザ・武道の右肩に頭を抱え込まれ、逆立ち状態で持ち上げられていた。武道はそのまま大きくジャンプすると、地面に轟音とともに降り立ち、衝撃で大ダメージを与えた。
「ぐぅ……油断したつもりはねぇが、生身でえっれえ大ダメージ出すじゃねぇか」
「グロロロロ、さすがに『ワンハンド・ブレーンバスター』では決まり切らぬか。レパートリーはたんまりあるんでな。精々倒れる前に少しでも出させてくれよ?『ハリケーンミキサー』!」
解放した武人建御雷が起き上がったところに、武道は続けて――本来の使用者と違って角がないためただの突進ではあるものの、能力値のおかげで威力だけなら負けず劣らずのそれをロープの反動に乗せて放つが、待ち構えていた武人建御雷に肩を掴まれ足止めされる。
「生憎プロレスはサッパリだが、こっちだってパワーは負けちゃいないんだ。そうやすやす押し切れると思うなよ?」
「望むところ。勝負はまだまだこれからだ!」
少なくともこの勝敗の行方は、まだ分かりそうにあるまい。
時間に間に合わせようとするあまり強引に切り上げた結果、前回が中途半端な感じに終わっちまった・・・
こっちも平成最後ってんで間に合わせようとはしてたけど、なかなかやる気が湧かんし・・・
ついでに1部作品をdisったような表現になってますが、知識はないし趣味に合わないから敬遠しているだけで嫌いではないです(クロス系作品は見てる)
後前々回のイメージBGMに関して↓のアレンジ版が気に入ったんでよかったら聞いてみてください
https://www.youtube.com/watch?v=lBmPvWyQ-HY&list=PLb0_I200nJNKNVqK09XVYEvUOQFmv9RdJ&index=51
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7話
環境汚染が深刻な現実では、経済的な由来から大規模な身分格差が当然となっており、とりわけ貧困層では僅かな物資や生活区域を巡って頻繁に衝突が起き、その傍らで飢餓や汚染に怯えながら生きるのが当然だった。だから偶々抗争に巻き込まれてしまった時も、「運がなかった」程度にしか認識せず、そのまま終わるのを待つだけのはずが、何の因果か完全環境都市支配者のトップクラスに属する令嬢が全く無縁な――むしろ危険すぎてまず足を踏み入れようなどとは考えない――はずのスラムを訪れ、面白半分に拾われた――それも理由を聞けば『心中仲間を探していた』などとのたまう――のだから、それを「酔狂」と断じる前に「人生何が起こるか分かったものじゃない」と思ってしまうのも無理はない。
『ここで一人寂しくってのを邪魔するようで悪いけど、どうせ死ぬんならもう少し楽しまない?そのための猶予と予算は当然用意するわ』
そうして用意された先で待っていたのは、それまで無縁だった数多のサブカルチャー作品の数々。たった1作のDMMO-RPGのために用意されたそれは、データでなければどれほどの空間を占拠することかと思う程に膨大だった。
『折角分身にするんなら、細かいところまでこだわりたいの。自分の体の延長戦、わかりやすく例えるなら、労働者達が着けてる人工心肺みたいなものだろうけど、それこそ全身を覆うパワードスーツにしちゃえば大分安心感が違うでしょ?』
そう言ってまだ分身を用意していないのに招いた電子空間で、指の1本ごとに対応させた分身の触手を躍らせる彼女の姿に――表情は変わらずに――苦笑する仲間を見て、よく言えば腹を括った――実際のところは「色々諦めた」に近いが――のもいい思い出になっている。
すでに金属を思わせる巨躯は限界を迎え、細部が徐々に砕けていき、対峙する『アインズ・ウール・ゴウン』の面々を苦戦させてきた再生能力は機能していない。最早形態を維持するのが精一杯の身でありながらも、イースレイはなお立ち向かっていた。
「さっきのもそうだったけど、やっぱコイツ等のタフさは異常だわ。能力値に何か細工してんじゃね?」
いくら相手が運営権限を持つ半公式のボスで、『ワールド・ディザスター』の自身が後のことを考えて温存されていると言え、通常ならここまで苦戦することは考えられないとウルベルトが攻撃しながら漏らすが、イースレイはその場で大剣に変えた右腕で受け流し、隠れて迫る弐式炎雷を相手に鍔迫り合いに持ち込もうとするも、後方へと跳ね飛ばされたように飛び退く。
「スポンサー特権って奴か?確かにありそうっちゃありそうだよな、わざわざ終了に合わせてこんな大規模拠点用意してイベント開催するくらいだし」
「確かに大分強化かかってるな。正確には苦手、不要分野を切り捨てて、その分を得意分野に割り当てた上で倍率を上げてる感じだ。俺や『黒』さんだったら攻撃魔法を完全に捨てて、その分を防御や機動、攻撃に振ってるみたいにな」
様子を窺いながら話に乗った弐式炎雷に答えるイースレイだが、左前脚の欠けた下半身は最早動くこともままならないようで、その場に留まったままで、直後背後から迫るグランディス・ブラック、紅白鰐合戦、ブルー・インパルスの攻撃も、無理矢理上半身を捻って受け止めた左腕がバラバラに砕け散る。それが決定打となったようで、伝搬するように砕けていき、遂には口のない頭部だけが残る。
「尤も流石にここまでみたいだが、な。まぁ自画自賛だが、相応に相手できただろうと思っておくよ……」
やがてそれもボロボロに崩れていき消滅すると、次の階層に進む新たな転移門が出現する。それを見た『アインズ・ウール・ゴウン』の面々は「やっと終わったか」と安堵するが、直後轟音が響き渡り、発生源を向くと未だリングの上で戦っていた武人建御雷とストロング・ザ・武道が向かい合う形でロープに寄りかかっている。先程の轟音は2人が激突して生じたようだが同時にタイムの合図にもなっていたらしい。
「イースレイがやられたか。ならば私の出番もここまでだな。当人も言っていたが、お前ら複数人を相手に良く立ち回ったよ」
「よくやったな、お疲れさん。ってもこっちはまだかかりそうだけどな」
「なんだまだやる気か?すでにイースレイは倒れて転移門も出現してるんだ。余計な消耗はするべきじゃないだろ」
宣言通り先に進ませるつもりの武道に対し、武人建御雷はまだ終わるつもりではないようで、ロープに体を押し付け下がっていく。
「そりゃそうなんだろうけどよ、ここで終わっちゃアンタも不完全燃焼だろ?だから折角だし、これで決着を決めようぜ」
「……ふ、いいだろう。だがここで負けても文句は言うなよ?」
やがて武道も提案に乗り、同様に下がって勢いをつけていく。
「これで終わりだ!『喧嘩ボンバー』!」
「ぜりゃああぁぁぁ!!」
そして両者がロープの反動で直進しすれ違う瞬間、先程とは比べ物にならない音と衝撃が周囲を包み、しばしの沈黙が訪れる。
『期限はあるけど、そこまでなら好きなだけ追求できる場を用意してあげる。あなたもこの世界に満足してないんでしょ?私もなの。だから最後は派手に決めようって、あなたみたいなのを集めてるの』
元々は些細な興味から始めた武術の追求だったが、いつしか本格的なものになっていき、様々な文献や映像に目を通していく中、壁に当たってしまう。今現在普及しているのは、いつしか金持ちの道楽に成り果てた、動きにキレも技術もない、さながら「紛い物」とでも呼ぶべき様な陳腐過ぎる有様の物で、到底期待も納得も出来なかった。
だからこそ『彼女』が示した破滅への片道切符は、非常に魅了的に感じたのだろうと、今でも思う。
ピシリ、と何かが割れる様な音がすると、武道に身を包む道着にひびが広がり、やがて砕け散るとともに本来の姿――ギリシャ神話の神像を思わせる風貌をしたザ・マンが現れ、リングに倒れ込むとともにどこからかゴングの音が鳴り響き、試合の終了を告げた。
「見事だ、武人建御雷……最後にお前ほどの猛者と戦えて……感謝する、ぞ……」
「こっちこそアンタとの大勝負、楽しかったぜ」
表情が変化したならば、おそらく笑顔で交わしたろうやり取りが終わるとともに、ザ・マンが消滅し、これでこの階層も完全制圧したと言えるだろう。
「すまんなモモンガさん、勝手な真似しちまって」
「いえいえ。さすがに無事とは言えませんが、こうしてお互い勝利できたんですし、あのまま不完全燃焼にしない方が後腐れなかったでしょうから、よしとしますよ」
「おかげで大苦戦したけどな」とヤジが飛ばされたが、結果としてはボス担当者を2人撃破できたのだから、充分と言えよう。
次の階層への不安は拭い切れないが、改めて腹を括った『アインズ・ウール・ゴウン』のメンバー達は、更に足を進めていく。
できれば年内に転移まで行きたかったけど、結局全然進まねぇ・・・
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永遠を願い終焉を見据え
ほんとは入れる予定なかったけど、少し前にコラボ目当てにやったアプリゲームで再燃してNPCから昇格して面々が出ます
何が大変だったかって実はキャラ名と折角のうるう年ってことで今日中に間に合わせることだったり
前者に関してはキャラ名そのままだと何か違う気がしたのと設定の方に熱が入っちゃってネタに悩んでました
「引継ぎは全部済ませたつもりだったが、部外に行き届いていなかったとはな。おかげで余計な呼び出しを食らった……」
「あ、お父ちゃんお帰り。出番には間に合った様ね」
『アインズ・ウール・ゴウン』の面々が『妖魔領域』でイースレイを相手に戦っている頃、『私情領域』の円卓からいったん姿を消していたガルバトロンが戻ってくると、戦艦棲姫が迎える。
担当変更の連絡が送り先の不手際で届いなかったので、その説明をして戻ってきたが、見渡すと他にも何人か欠けていたり、空いていた席が埋まっていたりと顔触れが変わっている。
「バトさんお疲れぇ~。いやぁすいませんねえ。ちょっと見ときたい番組あったんで、録画した分フルで見てたら寝坊しちゃって……」
「あ、音蜜さん達は妹さんの方が様態崩したらしくて、藤尾さん達はいつも通りでまだ遅れそうです」
新たに来たメンバーで、N-WGIX/vの左隣に座る銀髪の2人組のうち、両サイドで纏めた髪が多数枝分かれし、先端が上に向いているのは、先に声をかけてきた妹の『深海鶴棲姫』。ロングヘアーを降ろした方が姉の『空母水鬼』で、アイオワ同様後発的に参入した。
「相変わらずあの姉妹はお盛んだな……残りはどうしてる?」
『空母水鬼、慣れんのはわかるがいい加減こちらではキャラ名で呼べ。私も先程戻ったんですが、知ってる限りだと『ウォースパイト』が帰郷命じてた親にブチギレてたんで、それに付き合わされるだろう『リシュリュー』共々もうしばらくかかりそうです。そしてお嬢ですが、どうも見知った顔見つけたらしくて、さっき『ビスマルク』連れて『自然領域』行きましたよ』
「『自然領域』?攻略放棄はわかるが、ログアウトしないで何やってるんだ?」
N-WGIX/vが暗黙のルールと共に他のメンバーがどうしているか語るが、両肩に幼子――どちらもガルバトロンと戦艦棲姫の娘で、右に黒いゴスロリの姉『離島棲鬼』、左に白いワンピースの妹北方棲姫――を載せたメガストームが尋ねる。しかしそれに誰かが答える前に、新たな来訪者の通知と共に、ガンッ!と円卓を蹴り飛ばす音が響く。
『相当荒れているようだな、ウォースパイト』
先のルールに沿ってN-WGIX/vが呼んだ来訪者――肩と胸元を露出したセーラー服とオフショルダーのドレスローブを合わせたような象牙色の服で、女王然とした風貌のウォースパイトは、苛立たし気に足を組んで座り、やけ食いをしているのか何か持つように右手を掲げ、グチャグチャと激しく租借音をあげる。当然アバターの顔はそのままなので、非常にシュールな絵面となる。
「当然よ。いつも通り下らない縁談持ち出して『お前の将来や幸せを考えての判断だ』とか偉そうに言ってるけど、結局相手の家を持ち出して見栄張りたいの丸分かりなんだもの。いくら富裕層だからって明日どうなるかもわからない今の世じゃ最早考えるだけ無駄だってのを全然理解してないし、もうちょっとマシな言い訳考えなさいよ……」
「貴女仮にもお嬢様なんだからもう少しマナー気にしなさいよ。子供見てるのよ?」
「クチャラーだぁ」「マナー悪ぅい」とはしゃぎ立てる幼子2人の様子に戦艦棲姫が呆れるように苦言を漏らすが、当のウォースパイト――実は愚痴相手の親が欧州完全環境都市でもトップクラスの有力者と、ビオランテと並ぶメンバー随一の身分階級でもある――は全然気にした様子がない。
「いいじゃない今日で全部終わるんだし。『好きなように生き、好きなように死ぬ』のが仮にも許される身なんだし、だからレズ姉妹のことも間に合えば笑って流してやればいいのよ」
『それ『傭兵領域』のファットマンのセリフな』と原典を指摘するN-WGIX/vを気にする様子もなく、グラスらしきものを持っているだろう左手を傾けると、いつの間にか隣に座っていたチューブトップワンピースにプラチナブロンドの美女――リシュリューも同様に右手を傾け、カチャン、と軽い音を鳴らしてから煽る。
「まぁ、だからって怒りのままにいきなりピザ頼んで、『あなたも付き合いなさい』なんて言い出しだ時はちょっと呆れたけど」
それでもさすがに突発過ぎて、「奇行」と評さずにはいられない、と暗に物申すリシュリュー。彼女は元々、日本にウォースパイトが留学する際に秘書兼目付け役として同伴を命じられてきたのだが、元々生身では生存すら困難な環境と、極端な身分差社会に虚無感を抱えていたところに、同じく荒廃した世界に生きる希望をなくし、破滅願望を抱いていたビオランテの思考に毒されたことで巻き込まれた苦労人でもある。尤も当人は清々し過ぎて呆れられる――アバターのデザインすら投げ出し、ウォースパイトと連動気味に決められたことそのまま受け入れるほど世間に無関心で、良くも悪くも全然気にする様子もないが。
そして新たなログイン通知と共に、残る空席のうち連結した2つを埋めたのは、どちらも和風デザインのへそ出しノースリーブのトップスに、黒の超ミニスカートで、それぞれ黒髪で腰まであるロングストレートの方が姉の『長門』、茶髪で少し癖のあるボブカットの方が妹の『陸奥』。早くに親を亡くした結果、互いに頼りあううちに共依存となり、割と生々しい関係にまで至ったがために仲間からは散々な言われ様だが、当人達は一切気にする様子もない。
「遅くなってすまん。それとも『待たせたな』、とでも言っておくか?」
「まぁまだ出番じゃないみたいだし、大目に見てよ、ね?」
「確かにまだイースレイが相手してるとこだけど、だからってアンタ等2人の世界に浸り過ぎ……って言ってるそばからイチャつくな!」
南方棲鬼の注意も聞かず、挨拶もそこそこに来て早々長門の肩へと寄りかかる陸奥と、その髪を優しく撫でる長門。いかに同性といえど、あまりに過度なスキンシップは本来ならアカウント停止になりかねないが、運営権限で特別に見逃されている。
「お待たせ、って、トイレ行ってる間に皆来てたんだ」
そこに戻ってきたアイオワも合流するが、一斉に目を向けるメンバーの様子に、思わず「な、何よ」と動揺する。そこにN-WGIX/vが一言。
『あぁ、お前も席立ってたんだったな』
「酷い!?」
一方その頃、ビオランテが向かった『自然領域』には、いまだ留まり、青々と生い茂る木々と共に現実ではもう見ることの叶わない沈みゆく夕日を飛行で上空に浮遊して眺める一団がいた。
「すっご……まさかここまで再現してるなんて……」
「何がすごいって、他の人なんてまず見ないだろうに、わざわざ内装にここまで凝ってるってことだよなぁ………ほら、『自然領域』に残ってるのアタシ等くらいだってのにさ。軒並み『傭兵領域』行っちゃったみたいで、再ログインしてからは他のプレイヤー全然見かけないし」
着物やら露出過多の軽鎧と統一感のない――大雑把にはほぼ「和装」と一括できるのだろうが――色とりどりな女性の一団の名は、集団『剣戟乱舞』。
アバターの元となったのは、かつて中毒者も出るほど人気だったが、社会と娯楽の変化に伴い衰退した賭け事の1種「パチンコ」のキャラで、集団名もイメージソングの1つが由来になっている。
彼女達はいわゆる「エンジョイ勢」と呼ばれる、戦果や戦績を気にせず、ゲームを楽しむこと自体を優先したライト系プレイヤーで、今回参加したのも、「最後を惜しんで予定を合わせて集まることを決めたはいいが、特に何をするまでは決めておらず、暇を持て余すだけだったところにデカい爆弾を仕掛けた奴がいたから、折角だしそのバカに付き合いがてら、運が良ければ帰る前に顔だけでも拝んでみるか」程度のノリで決めている。
それでも決して弱いわけではなく、実際『市街領域』では4連戦の2戦目で、隔離区域の地中から出現した『ブレイクドラモン』が周囲のスラム街や、そこを封鎖している巨大な外壁を破壊して襲い掛かってきたところを10人ほどで立ち回り、巨体を支える脚に集中攻撃で破壊して動きを封じ、油圧ショベルのバケットを思わせる巨大な腕や、尾の先端に付いたドリルを剥ぎ取って武器に使い、見事撃破して見せた。
続くここ『自然領域』でも階層支配者目前の最終戦力――Lv200の6体のうち、半数に当たる『ヘルクレスオオカブト』、『アクティオンゾウカブト』、『ギラファノコギリクワガタ』を始め撃破数最多を誇ったが、いざ階層支配者の『ヘルクレスエクアトリアヌスブルー』と対峙するや『ジャベリン』の犠牲となっていくプレイヤーの姿に攻略意欲を失い撤収、。そのまま観光に転じ、「最後はどこかで適当に焚火でも囲むか、拠点作成アイテム『グリーンシークレットハウス』を設置してゲーム終了を迎えよう」となって、その場所を探しがてら森林浴を楽しんでいる。
「ただ惜しむべくは本来ここ、もっと広いみたいなことなんだよ……ほら、見えてはいるんだけどこの先進めないし」
メンバーの1人――ビキニアーマーに赤毛をポニーテールにしたリーダー、『ブラック・スモーカー』が眼前をトントンとノックすると、何もないはずの空間に白い光が波打ち、そこに透明な壁があることを示す。
「『市街領域』の段階で想定より人数足りなかったみたいで、結構巻いてくみたいなこと言ってたからねぇ……余計なとこ行かないように、って壁張ったのかな?」
赤い甲冑をまとった緑髪ショートの女武者――『チヌーク』が嘆くように漏らすと、隅の方で突破せんと攻撃を続けていた小柄な2人――自身の身の丈とほぼ同等の大砲を、何度も撃ち続ける『燃える佐賀牛』と、ひょうたん型の巨大なハンマーを同じく打ち付ける『お米改造』が疲れ果てたように攻撃をやめる。
「あぁ~全然ダメだ!ってかさっきから静か過ぎない?普通だったらさっきの虫でも襲い掛かってきてもおかしくないってのに……」
「そこはもう突破されたから、わざわざ戦力割く意義もないってことなんじゃない?こっちとしてはその方が安心して過ごせるから、いいっちゃいいんだけど……っ!」
前者の愚痴に返答したのは、丸眼鏡と切れ長の目から理知的な印象を受けるも、例に漏れず腹回りを露出した紫髪の『女豹』。ブラック・スモーカー共々集団の中心部を担う彼女が直後苦無を構えた先に仲間達が目を向けると、一際巨大な転移門からビオランテが杯出てきたところだった。
「うっわ!何か一際デカイの出てきた!」
「チッ、ここで新手たぁね。あんまり消耗したくはないけど、折角だし貸すから好きに暴れな!」
お米改造が慌てて立ち上がろうとするも、疲弊の余りハンマーを持ち上げる余裕もなかったため、うまく経てずに転んでしまう。ブラック・スモーカーも異様なほどに巨大なビオランテに対し戦力を出し惜しんでいては勝てないと判断し、目を離さず操作画面を操作し、所有する装備を仲間達に配布し、自身は虚空から現れたライオン型ロボット――ブレードライガーミラージュKSへと乗り込む。しかし眼前のビオランテは攻撃するそぶりを見せず、むしろ何かを確信したようにつぶやく。
「やっぱり、全部私がプレゼントした装備だ……」
「プレゼント……?アンタもしかして恵梨香か!?」
予想外の相手の正体に驚くブラック・スモーカー。元々これらの装備や外装は正規の課金ではなく、現実にて偶々有していたコネで工面してもらい、多少無理矢理入手していた。その工面してくれたいけ好かないお嬢様が目の前に鎮座する怪物と同一だったとは思わず、つい名前で呼んでしまい、仲間達も同様に驚愕する。そこに新たな声が響く。
「まさか大人気バンドの『レジーナ』が揃って来てたとはね……まぁ、確か今はオフシーズンだったし、いてもおかしくはないか。にしてもアンタ、そのアバターみたいに顔がデカい、もとい広いとは思ってたけど、意外な伝手持ってたのね」
「悪かったわね。言っておくけどこれでも原作からしたら遥かに小さいものだから。あまりデカくするとサーバーの負荷が酷いのよ……」
ビオランテの足元に現れた、金髪ロングストレートと碧眼に灰色の軍服姿の女性――『暁の君臨者』最後の1人、ビスマルクが明かした『剣戟乱舞』の現実の姿。それはジャンル問わず権利切れの既存曲をカバーして人気を博したバンドグループ『レジーナ』。ライブではどれほど広い会場でも満席が当たり前で、恵梨香も親族が度々パーティーに招いていたのを目にしていた。尤も彼女の反応があまりにも薄いせいで、あまりいい印象は持たれていなかったが、それでも羽振りの良さと手の広さから、運営に特権で工面してもらう程度に考えていたのが、まさかの黒幕だったとあれば、驚かざるを得ないだろう。
「まぁいいわ。とりあえずアンタ達は何するつもりだったの?」
「いいんかい。とりあえず『自然領域』に残ったのは、出来凄かったからもうここで攻略止めて、強制ログアウトまで過ごそうかって思ったからよ。予定ないけど、迷惑だってんなら大人しく出てくから」
「それは光栄ね。別に出てかなくてもいいけど、どうせなら『私情領域』にでもお招きしましょうか?『レジーナ』が来てたなんて聞いて嫌がるのはいないし、ちょうどいい見世物もあることだし」
すでにライガーから降り、仲間に預けた装備も回収したブラック・スモーカーが呆れたように答えると、あろうことかビオランテは拠点中枢へと案内する。
「いや、ちょっと、いくら外装工面してくれたからって贔屓すぎやしない?真面目に攻略してる人達に叩かれるような真似はしないでよ?」
「そっちは大丈夫でしょ、そっちが出しゃばらない限り気付かれることはないし。なんなら図書館区域で漫画でも読みながら適当にくつろいで過ごしててもいいだろうし、折角なら金庫で金貨の海でも泳いでみる?」
衣装こそブラック・スモーカーに似るが、右前だけ紺色の髪を大きく垂らし、残りを鉢巻きで流し肩の後ろ辺りで揃えた『ティアマット』が警戒するのに対し、ビスマルクが余計に好条件を出すせいで逆に煽っていくが、腹を括ったブラック・スモーカーが頭をガシガシと掻きながら返答をする。
「もうわかったわよ。装備の対価ってことでアンタの誘いに乗ってやるわよ」
「え、いいの?ってか大丈夫なの?」
「だってこの調子じゃ断っても延々誘ってくるパターンよ」
チヌークよりも赤身の強い鎧に、鬼の顔を模した額当てを装備した銀髪の『豪炎雷神』の心配に、ブラック・スモーカーは「断り様がない」と疲弊した様子で返すが、ビオランテとビスマルクは満足した様子でまったく気にした様子がない。
「オーケイ、それじゃ正式に客分として招待するから、これ承諾よろしくね」
ビオランテがブラック・スモーカーに送ったのは、「同盟の申請」。これを承認し合うことで双方のフレンドリィファイアや拠点NPCの攻撃対象から排される等、様々な特典が付与される。操作画面に表示されたそれを乱雑に承認し、「『暁の君臨者』との同盟を締結しました」とあらたに表示された操作画面を閉じると、開き続けていた転移門に向き直ったビオランテを先頭に姿を消す。
関係ないけど個人的に戦国無双の島津義弘の影響で『ギャンブル』より『博打』の方がしっくりきたり
まぁ中学までにメダルゲームで懲りたんでパチンコは一切やってませんが
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大帝の庭
やべぇ出したいキャラが増え過ぎてドンドン収集着かなくなってきた
末席とは言えギルドランク1桁台に位置したことのある『アインズ・ウール・ゴウン』でさえも、『古世界からの使者達』が始まるまでに活動的メンバーが8分の1になってしまったように、『ユグドラシル』最盛期は無数にあった集団やギルドも、人気の衰退やプレイヤーの引退に伴い、――ギルド長やその権限を引き継いだ代理が解散を宣言したり、活動的メンバーがいなくなった拠点が貯蓄切れで消滅など、経緯こそ異なれど――大半が姿を消していた。そうした中、残されたあぶれ者達が古傷の舐め合いとばかりに集結し、新たに寄せ集めの集団やギルドを立ち上げる流れも、後先短さを感じさせる『ユグドラシル』では珍しい光景ではなかった。
「ぬおぉぉわああああぁぁぁぁぁ!!」
『傭兵領域』にて、残るプレイヤーを足止め――またはそのまま殲滅すべく、スピリット・オブ・マザーウィルの放つ無数のミサイルと破滅の魔獣の放出する分散荷電粒子砲が各地を蹂躙する中、沿岸区でそれに巻き込まれる1人のプレイヤー。
機械系キャラの外装や種族を取得したプレイヤー達が集まってできたギルド『ロボット三原則撤廃活動会』リーダーで、自身も青い脚とトラックの前面を模した胸部を始め、赤い上半身にマスクが特徴のキャラ外装をまとったプレイヤー、『ファイヤーパターン』は、何とか死亡こそ免れたものの、ダメージが大き過ぎて身動きできずにいた。
「うぅ……さっきから急に攻撃が激しくなったが、一体何があったんだ……?」
「おぉーい!大丈夫かーー!」
そこに駆け付けたのは、奇遇にもこの惨劇の主犯の片割れたる破滅の魔獣のキャラ外装に身を包んだ仲間『ヘル・バーナー』。他にも長い顎鬚を持ち、先が長い帽子を被った老人の『高性能じいちゃん』、手にした散弾銃を始め、ジャケットのあちこちに仕込んだ拳銃や背負った突撃銃で武装した『殺戮者』、黒いゴシック衣装を身に纏い、同じく黒い包帯で目を隠した『B52』に、シルクハットと一体化したような頭を始め、各所から蒸気を噴き上げる巨躯の『チェルノ・アルファ』と、様々な仲間達が集まる。
「皆無事……とは言えんだろうが、何とか集まれたか。ひとまず攻撃が止むまで「「「「「「「「ギャアアアアアァァァァァァァ!!!!」」」」」」」」」
何とか戦況を立て直そうと作戦会議を始めようとするも、それすら許さんとばかりに始めた矢先攻撃が始まり、一纏まりになっていたのが災いし、見事壊滅。已む無く復活を待つことになった。
また別の廃墟区域では、『自然領域』で多くのプレイヤーが晒す羽目となった『スケキヨ』状態で1人のプレイヤーが頭から瓦礫に刺さっていた。その際気絶状態にかかり身動き取れずにいたようだが、しばらくすると解除されたようで、ゴソゴソと体を動かし、何とか地に足を付けると同時に抜け出そうとした――ところに追撃が入ったものの、埋まっていた場所からさほど遠くない地点で復活する。
「うぅ~む、皆で記念にと挑んだはいいが、これうちとは相性悪過ぎたな……元々集った前提からして近接前衛特化仕様になったとはしょうがないんだが……」
周囲の敵は全域攻撃が始まってから、出番を終えたとばかりに姿を消したこともあって、開き直ってその場に胡坐をかき、左手に持っていた片手戦斧とつながった鋼球鎖の鎖から離した右手顎に当て考え込んでいるのは、特定作品のキャラ外装装着者で結成した集団、『柱合会議』を中心に他作品のキャラ外装装着者を始め、刃物系武器を主体に戦う――中には弓矢など非火器系の飛び道具や、彼の持つ鋼球鎖のように、「刃物」とは呼ばないような武器を使う者も多くいるが――プレイヤー達が同好会的なノリで集まってできたギルド『刀刃会』のリーダーで、黒い詰襟の上にすでに廃れた宗教の一節が染め抜かれた羽織を着た『百鬼裂滅』。前身となった『柱合会議』の頃からリーダーを務めてきたが、元々皆が皆思い思いに趣味嗜好を優先した構想で、今回の様な対プレイヤー戦――それも相手の拠点に攻め込むような形を考慮していないギルドだったために、当初は難色を示していたものの、「折角誘われたのだから」と宣戦布告に乗った仲間達に押し切られ、こうして参加する羽目になった。
結果序盤は、居合わせた他のプレイヤーとの場当たり的な連携と人海戦術で、階層守護者や遊撃守護者級NPC達の撃破に貢献したものの、『傭兵領域』に来てからは階層守護者担当の捜索で分断され、予想通り遠方からの攻撃で大分不利を強いられる有様。極め付けは追い打ちとばかりに先程からの大規模攻撃で、最早合流どころか移動すらままならない状態とあって、いっそここに来るまで脱落した他のプレイヤー達の様にリタイアしてしまおうかとも思うが、流石に無言で勝手に去るのはギルドリーダー以前に社会人としてどうかとの考えが、辛うじてこの電脳世界に留める。
「せめて誰かと連絡するくらいの余裕はほしいと……あぁまたか」
そして思考中に何度目か数えるのも億劫な死亡通知と復活待機画面に視界が切り替わったのに気づき、「せめて現状か何か連絡してくれ」と『暁の君臨者』に愚痴りながら、とりあえずトイレがてら席を立つついでに、何か摘まもうと一時的にログアウトする。
こうした『アインズ・ウール・ゴウン』以外のプレイヤーの現状も当然『暁の君臨者』側は認識しており、招き入れた『剣戟乱舞』の面々共々、仲間の奮闘の傍ら、円卓中央の3Dディスプレイに映し出される彼等の姿にちょくちょく目を向けていたが、そうした中、ガルバトロンが唐突に――表情に変化のないアバターからでもわかる――喜気を滲ませ、それに隣の戦艦棲姫が気付く。
「お父ちゃんどうかした?」
「あぁ、『傭兵領域』に取り残されていた連中を見ていたが、思いもしなかった奴がいてな」
答えながらガルバトロンが指さす先には、爆発に巻き込まれるファイヤーパターンの姿。彼のキャラ外装は、シリーズこそ異なれど、自身の――アバターの元となったキャラの――宿敵とも呼べる人物『コンボイ』のもの。どんな意図で使っていてここに来たかは不明だが、折角の発見を偶然で流すにはもったいないと感じ、それを無碍にすまいとばかりにビオランテに身を乗り出し詰め寄る。
「なぁ折角だ、コイツ等も俺の階層に呼んでくれ。どうせ『アインズ・ウール・ゴウン』だけじゃこの先頭数が足りなくなるだろうし、余計攻略が遅れるぞ」
「……そうね。少なくともこれまでの活躍を見る限りだと、数や外装の効果に頼り切りな連中はいないみたいだし、こっちの嫌がらせに耐えた根性を讃えて、ってことで特別に合流させましょうか。尤も飛ばした先でもめ事起こしても知らないわよ?」
即座に操作画面から通知を見直し、現存プレイヤー達の能力値から装備、活動履歴を確認し、彼の指摘通り『アインズ・ウール・ゴウン』ではこの先荷が重くなるが、かと言って残る面々に手を抜かせる気もないことから、すでに相手をして負けたN-WGIX/vや、今現在彼等と対峙しているイースレイ、ザ・マンに申し訳ないと思いつつも、根負けする形要望を受け入れる。
「ん?何だここ?」
イースレイを倒し、転移門をくぐった『アインズ・ウール・ゴウン』の面々が着いた先は、無人の大型バス内。しかも外を見るに、高架橋を走行中のようだ。
「車の中?にしては大分広いような……」
見渡すシャドウ・ウィドゥの言う通り、現実よりも明らかに大柄な体躯の異形種が複数いるにも関わらず、車内は充分にすれ違える程移動がスムーズに行えそうな広さをしている。おそらく大柄なアバターでも、狭いところを通れるようになるなどの機能を持っていた空間調整が働いているのだろう。そんな車内を次は一体何がくるのかとしばらく眺めていたところに、何やらガチャガチャと金属が擦れ、ぶつかる音がする。
「何か変な音がドワァ!?」
その音と新たな刺客の気配を察知した弐式炎雷が指摘する前に、バスの後方が何かに薙ぎ払われるように消し飛ぶ。代わりに姿を見せたのは、鉤爪の付いた長い腕に、車のフロントガラスを思わせる肩、背中からは指先よりも巨大な爪が覗く巨大なロボットが、唸り声を上げながら、細い脚先に付いたかかとの車輪でローラースケートよろしく追いかけてくる。
「何だありゃ!?自動人形か!?」
驚きの余り声を荒げるウルベルトだが、直後ロボットは体をかがめたと思いきや、一気に跳躍してバスの前へと躍り出ると同時に、背中から伸ばした爪が先端に付いたアームと腕で前方も破壊する。
「ドワタタタ……皆さん大丈夫ですかぁ!?」
「何とか……!しかし『ボーンクラッシャー』、レベル150、ね……プレイヤーじゃないみたいだけど、とにかくコイツ倒さなきゃ進まないみたいですよ!」
車輪を失い、通気のいい箱と化した車体は、地面との接触で火花を巻き上げながらクルクルと回転し、時折他の車とぶつかって弾む。その過程で何人かは吹き飛ばされたものの、うまいこと常時発動技能の『自動浮遊』で路面に投げ出されずに済んだペロロンチーノが、路面に伏せている面々に声をかけると、真っ先に返答したのはぷにっと萌え。しかも偶然ではあったものの、正面から顔を拝んだ僅かな間に、――名前とレベルだけだが――相手の情報を入手している。
「さっきの様子からして、おそらく当たればダメージや吹き飛ばし効果のあるヤクモノ系仕掛けだと思うが、この付近は車が多い。なるべく少ないところに誘導して……何だ?」
得意の支援も満足にかけられないとあって、このまま路上で戦うのは不安要素が多いと、移動を提案する死獣天朱雀だが、いつものスピードが嘘のように足を止め、上空を見上げる弐式炎雷の姿を見て、同様に上を向く。
「「「「「「「「「「ぬぅおおわぁぁぁああああああぁぁぁあああああああぁぁぁあああああぁぁあああああああああああ!!!!!!」」」」」」」」」」
直後絶叫と共に落下し、路面に上がる土煙から積み重なって姿を見せたのは、『傭兵領域』に取り残されていた、数百人ものプレイヤー達。当初の人数からすれば3~4割程度とだいぶ減ったが、それでも戦力としては頼りにできそうだ。
「ちょっ!?誰だ顔面騎乗してんの!?はよ降りろ垢BANされる!」
「無茶言わないでよ!上に何人乗ってっと思ってんの!?」
「それはこっちも同じなんだがね!多分もっと多いと思うぞ!」
――尤も崩れた人間ピラミッドからの復帰には、もうしばらくかかりそうだが。
金曜ロードショーで放送されてるの見ながら(劇場で見れなかったんで今回が初)仕上げてましたが、ちょくちょく『レディ・プレイヤー1』意識してこの作品仕上げてます
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集う主達
今回も(名前だけ含め)オリギルメン登場です
箸休め程度のつもりでいたらいつの間にか進んでました
『最後の大戦』開始からすでに数時間が経過しているが、参加こそ叶わなかったものの、サービス最終日とあって『ユグドラシル』へのログイン者数は留まることを知らず、むしろ計測上増加しつつある。
当然それは、かつての賑やかさを取り戻しつつある『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点、『ナザリック地下大墳墓』も例外ではない。
「う~っすお久しぶりぃ。って、円卓にゃ誰もいなかったか……」
円卓の1席に気だるげな挨拶と共に姿を現したのは、赤褐色の頭と、そこから伸びる鮮やかなオレンジ色をした太い1対の触角、背面を虹色に輝く漆黒、腹部をくすんだ黄色の甲殻に包まれたいくつもの節で隔たれた長大な身体が椅子に収まり切らず、各節側面から1対ずつ伸びた同じく節で覆われた脚は、背面や腹部と同じ漆黒やくすんだ黄色のものもあれば、赤や青などの鮮やかな色をしたものもある。
大百足の『源次郎』は、『プレアデス』の1人、『エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ』の創造主で、現実では物資の在庫管理を生業としている。そのためアイテムの整理などは得意な方だったが、同時に断捨離が出来ず物を貯め込んでしまうメンバーきっての貧乏性でもあり、オフ会の前後などで度々家に泊めるほど仲のよかった獣王メコン川からも苦言を漏らされる自宅を、『汚部屋』と自虐するほどには自覚していた。
「さぁて、久々にきたはいいけど、何しよっかなぁ。モモンガさん達は『最後の大戦』でいねぇし……」
他のメンバー同様彼も引退して久しかったが、ここ最近不気味なほど順調に休暇がとれていたことに加え、至れり尽くせりな復帰サービスのおかげで、かつて豊富な妨害効果を持つ毒攻撃に、巨体相応の防御力と反した隠密性を活かし『壁役もできる暗殺者』として活躍していた現役時代の感覚も幾分取り戻せている。
とはいえ外に出たところで1人でできることなどたかが知れており、何よりわざわざ最終日に、こちらを襲ってくるかもしれないよそのプレイヤーと遭遇する危険を冒してまでするほど酔狂でもないため、特に意味はなくとも軽く自室に残した所有品の整理でも、と思った矢先、新たなログイン通知と共に現れたかつての仲間に意識を向ける。
「おぉ、そのアバターは確か、源次郎さんだったか?」
同じ象の頭でも、獣王人の獣王メコン川に比べて牙は太短く、穏やかな印象を抱かせる目元も荒々しさを感じさせない。加えて2対の腕のうち下側の両腕を、大きく開いた上着からさらけ出した、戦いとは無縁な様子を現したかのような太鼓腹と、大きな鼻で隠れて見えない顎にそれぞれ伸ばして撫でる象頭神の『音改』は、『アインズ・ウール・ゴウン』の金庫番にして商業活動の要と共に、現実でも1流の商社に勤める経済のプロとも言える人物で、売買額にボーナスが付与される技能を有する彼の引退は、『アインズ・ウール・ゴウン』の金銭管理に少なからず影響を与えていた。現在ではその挽回が如くサービス終了にかこつけた叩き売りに乗じ、様々な希少アイテムをかき集めては、それらを貯蓄する「宝物殿」を有終の美を飾らんとばかりに大量のユグドラシル金貨と共に――それこそモモンガから「そんなに貯めてどうするんですか」と苦笑され、今日再会するまですれ違い続けていた源次郎が暇潰しがてらしていた整理が追い付かなかった程――溢れ返させている。
「あぁ音改さんどうも。ってかログインする度随分貯めてますけど、あんな集めてどうするつもりなんすか?」
さすがにゲームの仲間でも、ログイン早々目の前に巨大な虫がいれば驚くのはしょうがないと思う部分はあるため、驚かれたことにとやかく言うつもりはない源次郎だが、流石に向かう度に起こる宝物殿内の無秩序な増量には困惑せざるを得ず、思わず苦言を漏らす。
「いやぁ、以前のように大規模ではなくても、記念感覚でまた攻めてくる奴とかいるかもしれないでしょ?『タワー』に出向いてるモモンガさん達も、やられて蘇生する必要があるかもしれないし、それ考えると貯蓄はたんまりあるに越したことはないってことで……」
蘇生に必要な金貨はレベルに応じて増えていき、レベル100ともなれば1回でも5億枚と膨大な額がかかるシステム上、苦笑気味に音改が返す懸念もわからなくはないが、今更わざわざ延々と仲間を呼び続けるカエル型モンスター「ツヴェーク」が警報代わりになっている上、猛毒の沼地が点在する大湿地帯「グレンデラ沼地」の奥にある『ナザリック地下大墳墓』まで攻め込む猛者も『暁の君臨者』の挑発を受けて『タワー』に向かっただろう現状では、いくら「過ぎたるは及ばざるがごとし」といえど完全に思い過ごしもいいところだろう。
「ところでどっち先かまでは考えてないが、ムスペルヘイムとニヴルヘイムの中央部で市場を覘いてから、最後はヘルヘイムの市場を見てナザリックに戻ろうと思ってたんだけどね、源次郎さんはどうするんだい?」
「俺?いやぁ、来たはいいけどどうするか決まってなくって、モモンガさん達戻るまで暇潰しに自室の整理でもしようとか思ってたとこだから、護衛がてら便乗してもいい?」
「おぉ、それは助かるよ。だとしたら折角だし、もう何人か集めて、久々にパーティ組んで路銀稼ぎがてら、道中のモンスターを討伐しながら進みたいところだけど、ほかに誰か空いてる人いるかな……?」
分の悪さを自覚した音改が、話題をすり替えんと予定を話すと、源次郎もそこまで言及する気はなかったことから、「非戦闘員でも1人よりはマシ」と考えて同行を申し出たため、気をよくして更なる同伴者を探さんと操作画面を開いていたところに、タイミングよく新たなログイン通知が複数入る。
烏帽子を被り、和装を身にまとった、鶴のような姿の式神、『ばりあぶる・たりすまん』、種族は獣王メコン川と同じ獣王人だが、犀の頭に牛の角と長い牙、虎を思わせる縞柄の体毛に覆われた腕の『チグリス・ユーフラテス』、黒尽くめのスーツとカウボーイハットの所々に空いた穴の各所から、同じく黒の包帯が飛び出し、背中には「つるりんぺたん」と名付けた狙撃銃を背負った、ミイラの『フラットフット』、そして愛嬌のある顔を掘られた南瓜の頭を始め、大根の腕や複数の野菜や果物をその茎やつるでまとめた体に、大きな葉っぱの外套を羽織り、小ぶりな胡瓜や人参が指になった手には、纏う炎以上に赤く熟れたトマトが収まり、そこから幽霊を思わせる顔のある煙が幾つも浮かんでは消えていく蕪の提灯を持った、南瓜頭の蕪提灯持ちの『ぬーぼー』。皆同様に『ユグドラシル』を去って久しかったものの、サービス終了を前に復帰した身だが、今日は集結できないと語っていたはずだった。
「あれ!?皆さん来てくれたのは嬉しいし、タイミングも外に出る算段たててるとこだったからよかったけど、何で急に?」
思わず驚いた音改が急に来た面々に尋ねると、代表してばりあぶる・たりすまんが口を開く。
「いやぁ、本来なら年度の区切りってことで、色々後片付けや新たな取り組みの段取りがあって残業の予定だったんだが、まさか都合よくドタキャンが入って、全部チャラになるとは思わなかったよ。そうした訳で折角だしと思って来たら、なんだか思ったより同じ魂胆の参加者も多かったみたいだね……」
「うちも同じような感じでさ、どうするか考えてたとこにぬーぼーさんから声かけられて、便乗させてもらおうってことで来たの。まぁこうも揃うとは思ってなかったけど……」
苦笑する感情アイコンを出してフラットフットが続くと、名を挙げられたぬーぼーが「いやぁ……」と照れる感情アイコンを出して空いている手で頭を掻く。この2人はメンバー内でも特に探知能力が優れているため、既存仕様の対策が一切通用しないような余程想定外の隠蔽能力をされていない限り、まず間違いなく相手は発見され、先手を打たれるだろう。
「まぁ、都合がいいっちゃいいんだろうな。フラットフットさんとぬーぼーさんがいりゃまず安全でしょ。それで、まさに今どこか行くみたいな話してましたけど、どこ行くつもりだったんですか?」
「あぁ、実は……」
2人のやり取りを眺めていたチグリス・ユーフラテスが尋ねると、音改が先程源次郎に話した予定を改めて説明しようと口を開くが、その直前新たな仲間が顔を出す。
「よぉ、懐かしい顔が急に増えたな」
「皆さんお久しぶりです。これから外出みたいですが、折角ですし、ちょっと一服してからにしません?」
数人の一般メイドを引き連れたホワイトブリムに先んじて部屋の奥にある他の施設につながる扉から姿を現し、円卓の面々に声をかけたのは、オレンジ色の楕円体型で、コック帽にエプロンを身に着けた『カワサキ』。
深刻な環境汚染で新鮮な食材の調達さえ難航するような現実でも大分珍しくなった料理人として、オフ会では度々店を会場として提供し、様々な料理を振る舞いメンバーの舌を魅了していた彼は、『ユグドラシル』でも作った料理に支援効果をもたらす異形種、クックマンを選択し、『ナインズ・オウン・ゴール』創設の頃から料理人として支えてきたが、奇遇にも『古世界からの使者達』で外装を見つけたキャラクター、『コックカワサキ』に縁を感じ、ゲーム内通貨とは別に用意された交換ポイントを貯めて入手してからは、獲得した技能の利便性もあって、『アインズ・ウール・ゴウン』メンバーでは例外的に外装を使用していた。
「あれ、もしかしてカワサキさん?なんか姿変わってね?」
当然長らく顔を会わせなかったメンバー達はそれを知らないため、真っ先に気づいた源次郎のように一瞬混乱するが、すぐに声で彼も久方ぶりに会った仲間だと気づく。
「ああ、少し前『古世界からの使者達』あったろ?贔屓してくれる支援者のおかげで余裕出来たから、久々にログインした際に偶々見つけたんだが、それの課金ガチャで見つけた『コックカワサキ』ってキャラの外装なんだ。意外と使い勝手いいぜ?」
キャラ外装に実装されたプログラム『表情反映』の効果で、感情アイコンの代わりに表示された笑顔で自慢げに説明するカワサキ。料理人ながら大柄で引き締まった体躯のおかげで、食料目当てに忍び込んだ貧困層の住人くらいなら余裕で返り討ちにしてしまう戦闘力を有しながら、「生きたければ飯を食え」を掲げ、そうした相手にも事情や態度次第では利害問わず食事を提供していたため、色々と心配されていたが、富裕層に彼の料理の腕だけでなく、そうした気難しさをも受け入れ、補ってくれる様な人物がいたのは意外だった。
「まぁそこは気になるだろうけど、軽く作っといてやるから、ホワイトブリムさんが言ったように出る前に軽く食ってきなよ。ついでに言っとくが、今度お疲れ会ってことで他の奴等も誘って、久々に現実の方でも集まらないか?」
「おぉ!それいいですね!やっぱカワサキさんの料理はいつも食ってるゼリーやブロック食品とは比べ物になりませんからねぇ!」
「おいおい、俺の料理をあんなギリギリ食べ物の定義に入るような代物と一緒にしないでくれよ」
笑顔の感情アイコンと共に跳ね回って喜びを表現するぬーぼーに苦笑するカワサキだが、比較対象に不満はあれど、自分の腕を称賛してくれているとあって、悪い気分ではないようだ。
「それじゃパトロンに呼ばれてるから、いったんログアウトする前にチャチャッと作ってくるぜ。まぁ、強制ログアウトまでには戻ってこれるさ」
「それじゃあ我々は、メイド達とお茶楽しんでゆっくり待ってますね~」
コートから覗く枯れ木の腕を振るホワイトブリムに、同じく短い腕を上げて応え厨房へと戻っていくカワサキを見送ったメンバーは、早くも現実でのオフ会に思いを馳せながら、彼が戻ってくるのを心待ちにしていた。
ジャック・オ・ランタンにしたぬーぼーさんにちなみこのタイミング
申請してから大分経ちましたが、混沌の魔法使いさんから『生きたければ飯を食え』のカワサキさんをお借りしました(ポジションは謎の引退者の代わり)
https://syosetu.org/novel/156650/
また源次郎さんのモデルにするにあたり、youtuberの青井星さんに許可をいただきました(いつの間にかキャラがモチーフになってた)
https://www.youtube.com/channel/UCCOLC_58pLKn94t1x7_Jmqw
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集結者達の喧騒
執筆中状態で5月からずっと放置してた・・・
『機甲領域』に到着した『アインズ・ウール・ゴウン』の面々と、門番とばかりに彼等の前に姿を見せ、早々に荒々しい歓迎で出迎えたボーンクラッシャーの前に、突如『傭兵領域』各所から上空へと転送され、降り注ぎ、積み重なった数百人に及ぶプレイヤー達。事態が事態なためか双方硬直したまま動けずにいたが、互いにあちこち引っ掛かってシステム面でも干渉したのか、身動きが取れずギャーギャーと騒ぎ続ける様子を見ているうちに冷静になってきたのか、ウルベルトが操作画面を開いたのをきっかけに、他の面々も何人かボーンクラッシャーを気にしつつ眼前の塊を確認する。
「馬鹿みてぇに多いなと思いきや、総勢438人って相当な量だなオイ……」
「まぁだそんな残ってたのか……にしても規模もマチマチだなぁ……『アインズ・ウール・ゴウン』みたいにギルドや集団の大半や総出ってのは勿論だけど、腕試し感覚だったのか、ごく小規模なパーティーや単身の人もいるし……」
想定外過ぎてエラーでも起こしているのか、ボーンクラッシャーが一切動こうとしないのをいいことに、各員の内訳を眺める獣王メコン川が無謀極まりない編成のメンバーに呆れる横で、その装備や外装も確認できるとあって、そちらに目を向けるたっち・みー。
「あ、これ装備してる外装の元ネタも確認できるんだ……おぉ!まさか彼等の外装を使っている者達がいるとは!!」
「あら、本当ね。でもギルド名が『チーム・オンドゥルズ』って……」
「あぁ確かに……構成見る限りだとしっかりガチ系ではあるけど、ギルド名の方でふざけたか……」
その途中突如興奮し、横から眺めたメグと何やら夫婦だけで通じるネタで話だし、白けたように落ち着いたのが気になり、モモンガが頃合いを見計らって話しかける。
「あの~、たっちさん?急にどうしたんですか?」
「あぁ、モモンガさん。いや、前々から話してた私の好きなヒーロー達の外装を装備したプレイヤー達が居て、つい興奮してしまいました……」
どうやら先程降ってきたプレイヤー達の中に、彼の好きなキャラの外装を使うプレイヤー達がいたらしい。
「お、それはよかったですね。俺も見てたんですけど、こっちは昔のエロゲのキャラ使ってる人達見つけましたよ」
「何見っけてるんですかペロロンさん……しかしこうもゴッチャゴチャだと、どこに誰がいるんだか全然わかりませんね……」
「ですねぇ……できれば他のプレイヤーと合わせて助けてあげたいんですが、ボーンクラッシャーがどう動行くか分からない以上、下手に動けませんから……」
「ってか、ちょっとサイズは違うけど、さっきから見たことある顔がこっち見てない・・・?」
「どっちかったら『見てる』ってよりは『向いてる』程度な感じでしょうね。上の人達が重しになってんのか、あの様じゃ満足に首動かすことも出来なそうですし」
同じことをしていたペロロンチーノが発見したものに呆れるモモンガに対し、『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』が信条のたっち・みーとしては、なんならさっさと倒して『チーム・オンドゥルズ』を探しがてら、プレイヤーの山の解体に手を貸してやりたいところだが、悪名高き『アインズ・ウール・ゴウン』に助けられることを良しとしないプレイヤーもいるかもしれないことを考えると、そう手軽に何とかしてやることも出来ず、最早ボーンクラッシャーを完全放置で、未だ顔触れを確認し続ける仲間達と共に傍観せざるを得ない現状に、もどかしい思いをし続けた。
そしてその傍らでぶくぶく茶釜が指さす先には、サイズこそボーンクラッシャーより1周り大きい程度――アバターとしては最大級だったものの、『市街領域』で対峙し、ビルごと多くのプレイヤーを踏み潰し、飛散する瓦礫や防衛兵器の残骸と共に各所の銃火器で猛威を振るったムゲンドラモンが、プレイヤーの山の下部に埋もれ、左側を下に横転した状態で、手足の指先と頭を出し、鰐合戦の指摘する通り虚空を眺めている。どうやらあれの外装も配布されていたらしい。
「ダディさん!ダディさんどこですか!」
「ちょっと上の人!パニクってるのはわかるけどあんま脚振らないで!顔蹴られる!」
「ケンジャキ!?多分お前より下だ!何か上にデカイのがいて動けねぇ!ってかアンタいい加減どけ!」
「……多分オタク含めてそれどころじゃないくらいの数に潰されてるんだが、どうすりゃいいんですかねぇ……?」
ビオランテが『折角残った面々が余計なトラブルで減らないように』と挑戦者達に対しセクハラBAN機能を停止した結果、強制ログアウトが発動せず、逆に身動きできない事態を解決から遠ざけられた彼等だが、たっち・みーが注目した『チーム・オンドゥルズ』の1人で、ギルド名の由来となった作品に登場したヒーローの外装を身に着けたプレイヤー、『ケンジャキ』が、同作に登場する別のヒーローに由来する外装を装着したギルドマスター『テンビンダディ』に呼びかけるが、その最中抜けようとして足をバタつかせた結果、それを顔に振り下ろされる形となる配置にいた『刀刃会』の1人、現実ではすでに見られなくって久しい、桜の花を思わせる髪色の『蜜リン』が『表情反映』で現実に合わせた泣き顔と共に叫ぶのに対し、ダディ達の上で周囲を気にせず硬直したままなのは、叫び散らすテンビンダディに届かない前提で冷めた皮肉を放つムゲンドラモン――『ロボット三原則撤廃活動会』所属の『インフィニット・イビル』とほぼ同サイズで、巨木を思わせるゴロッとした深緑の巨躯に、太い四肢と尾を備えた『大怪獣シムラ』。
罵声と共にバシバシ叩かれることでようやっと反応し、影となった眼元に外皮と一体化したような歯のせいで、どことなく老人を思わせる顔をキョロキョロと動かし、自身の下にいる面々の方を見る。
「あぁ?あんだって?」
「いや聞こえてるだろ!あんたも少しは出ようとしろ!」
「聞こえねぇよぉ!」
「フジャケルナ!!ヒドォチョグテルトヴッドバスゾ!!」
わざわざ煽る様に聞き返してくるシムラに対し、遂にブチギレる余り外装の元ネタよろしく活舌が酷くなるダディ。しかしシムラはそこまで怒りをぶつけられても全く動じた様子を見せない。
「とんでもねぇアタシャ神様だよ」
「おいシムラ今ネタやってる場合じゃ……」
「ダメだこのモーロクイカレてやがる!」
「いや長さんここは『いい加減にしろこのバカ!!』とかでも言わないと先に進みませんよ」
それどころか暢気にボケを重ねてさえ見せる様子に、うまいこと背鰭に挟まっていた仲間――右目に眼帯を付けたザンバラ髪の『イカリヤン』がコミカルにデフォルメされた怒り顔で窘め、そこに同じく挟まって割り込むように声をあげた、蝶を模した左目の眼帯と、オールバックの長い黒髪に赤いチャイナドレスを纏った美女プレイヤー――『刀刃会』の『スラッシュエッジ』がウンザリする様に手を当て、ダディの下にいた蜂の顔モチーフの胸部に、それを無理矢理人に近づけたような顔をした同胞、『四散十二』が対処法と罵声を浴びせると、それまでと打って変わってカッ!と見開いたかのごとく目を光らせ、どこからともなく鳴り出した尺八の音に合わせ、首や手を小刻みに震わせながらカクカク動かし始めたと思いきや、一気に体を持ち上げ、上にいたプレイヤー達を跳ね飛ばす。
「ヌォア「ホわアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」
他のプレイヤーの悲鳴をかき消さんばかりに響き渡るファイヤーパターンの絶叫をバックに立ち上がったシムラは、即座に操作画面から選び出した大太刀の柄を掴み、左手に鞘を持って引き抜く。
「誰がバカだってコノヤロウたたっ切って「空気読まないでネタに走り過ぎたオメェだよいい加減はよ降りろ!」」
そのまま啖呵を切り出したシムラの背から転がり落ちたイカリヤンが、――システムの都合でダメージこそないものの――脇腹めがけて放ったドロップキックで突き飛ばし、ベシャリと地面にのびると、同じく解放された残りの仲間――短い手足と寸詰まりな体躯に反した長い尾の『あ、ライチュウ』、各所に炎の意匠が施された豊満な体躯をした『ヒデブー』、4足歩行の青い体躯に、段々状の金属を思わせる装甲と、鋭利な1本角の『この先工事中につき迂回お願いします』が四散十二と共に集まり、彼の纏う楽器の集合体の様な装備――通称『チンドン屋セット』の奏でる音楽に合わせて踊り出す。
「あいっかりっやに♪あ怒らっれた♪」
「「「はぁいいっかりっやに♪あ怒「わアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」」」」
しかし締める前にシムラとイカリヤン共々未だ動けずにいたプレイヤー達毎、先程まで彼等が浴びていた破滅の魔獣の荷電粒子砲を思わせる光線に呑まれ消滅した。動けるようになって浴びずに済んだプレイヤー達が放った先――まばらに雲が浮く上空を見上げると、彼等の視界を覆いつくさんばかりに巨大な飛行船が光学迷彩を解除し、その姿を現すと同時に、そこから数多の戦闘機が出撃し、人型ロボットとなってボーンクラッシャーの周囲に降り立つ。
「な、何だアイツ等!?飛行機がロボットになった「いいなぁカッケー!!ナザリックにも欲しかったなぁあんなの!!」」
「び、ビックリしたぁ……そういやブルー・インパルスさん、戦闘機好きでしたっけね……名前も昔の航空部隊から拝借したって話してたし……」
それを見てウィッシュⅢの驚きを遮るようにブルー・インパルスが興奮して食いつき、そちらに意識を持っていかれていた弐式炎雷も、かつて彼女がそう語っていたことを思い出し、はしゃぎぶりを理解する。
「何よ、言ってくれてたらその分追加するくらい工面しといたってのに……それよりまだ来るわよ、おそらくあれが本命の階層支配者でしょうね」
そんなやり取りを呆れた様に眺めながら、少々右足を引きずる様に前に出るシャドウ・ウィドゥだが、終了発表から彼女の『ユグドラシル』に対する課金は収まりを見せず、上限開放で何体ものレベル100NPCを作ったり、ガチャでアイテムを貯め込んだりと、停止されるまでに目一杯使い倒していた。
その件についてある者は「何で今更」と疑問を抱き、またある者は事情を察しはすれど、彼女が度々語っていた境遇から、「口を出すべきではない」と黙ったままでいた。それでも今更口を出したところでどうにもならないだろうが、長く共に活動してきた唯一の同性として、後者の1員だったこともあって、冷静になると同時に申し訳なさを感じるブルー・インパルスだが、他の面々と共に続けて降りてきた軍勢の先頭――ガルバトロンを見据える。
「呼んだ時はまさかのトラブルでどうなるか分からんかったが、ふざける奴がいるとは随分余裕の様だな……」
「いやコイツ等が空気読めてないだけだろ」
折角決めてるところに悪いが、とは思いつつも、思わずファイティングポーズを解き、仲間含む他の犠牲者と共に再度積み重なったシムラに親指を向けてツッコミを入れるのは、上にいた彼が蹴り飛ばされた拍子に下から抜け出し、ケンジャキ達と合流していたお陰で巻き込まれずに済んだダディ。しかしガルバトロンはその指摘を気にせず、そのまま続ける。
「まぁいい。本来ならあのまま退場願うところを折角なんで呼ばせてもらった訳だが、俺の相手はただ1人……貴様だコンボイ!!」
突き出した指を向けられるも、指名されたファイヤーパターンは外装のキャラ名で呼ばれ、「え、俺……?」と困惑する。
「貴様が何を思ってその姿になり、タワーを訪れたかは問わん。だがその外装で来たんだ。作品は違えど我が宿敵たるコンボイが来たとあっては、堂々と一騎打ちしかあるまい!そして残りの面々には、我が弟が指揮するデストロン軍団、並びにこの階層に配備された防衛戦力達と遊んでもらうとしよう!」
いきなりガルバトロンの告げた取り決めにプレイヤー達は呆然となるが、ウルベルトが抗議の声をあげる。
「オイ!何勝手に決めてんだ!」
「悪いなアインズ・ウール・ゴウン、こっちにも事情ってもんがあるのさ。戦力は補充してやったんだ、幾らでも復活繰り返して挑んできな!デストロン軍団、総員攻撃開始!!コンボイ以外を押し下げろ!」
「ここにきて一気に数で攻めてきたか!完全形振り構わなくなりやがった!」
「囲まれたらまずいな……自分先陣突っ切って蹴散らしますんで、後方担当の人達庇って続きながら両脇対処お願いします!」
「ちょ、余裕ないからって言うだけ言って置いてかないでくださいよぉ!」
それを一方的に黙殺したメガストームの号令を機に、ボーンクラッシャーを始め、先程空から降りてきた戦闘機や、駆け付ける自動車から変形したロボット戦闘員――『ヴィーコン兵』達トランスフォーマー、それ以外にも付近から多数の恐竜や獣を模した風貌の機械――『ZOIDS』や『TEK恐竜』が襲い掛かる。
当然攻撃魔法を放つウィッシュⅢやモモンガ、ウルベルトを始め、戦槌を振るい、無尽蔵に現れるヴィーコン兵を叩き潰す獣王メコン川、突撃槍を構え、押し寄せる敵兵の壁に穴を開ける様に次々刺し貫くグランディス・ブラック、他にも手数を優先して普段の盾に代わり予備の剣を構えたたっち・みーと並び、細槍を構えるメグ達『アインズ・ウール・ゴウン』以外にも様々なプレイヤー達が対峙し、戦闘を開始する。
「ええいとにかく奴等を倒すぞ!『岩の呼吸肆ノ型 流紋岩・速征』!」
「まずは尖兵の撃破だな……『水の呼吸参ノ型 流流舞い』!」
「ど派手に吹っ飛べぇ!『音の呼吸伍ノ型 鳴弦奏々』!」
その中でも鮮やかなエフェクトと共に駆け抜けていくのは、『刀刃会』の中枢たる旧『柱合会議』の面々。原作ではあくまでそれぞれの奥義たる『呼吸』を極めた者が放つ気迫が形を成した幻影に過ぎず、直接的な効果はなかったが、『ユグドラシル』では攻撃判定や効果を有し、それぞれが当たったヴィーコン兵や、球状に体を収め回転して迫る蟹に似た風貌の『防衛ユニット』、人間大のジャイロヘリを思わせる『アタックドローン』を次々撃破していく。
「っしゃあ!まとめてぶった切ってやらぁ!」
「兄貴ー!お楽しみのとこ水差すようで悪いけどあんま離れないでくれ!」
「折角出たんだ!この数が相手だってんなら『近代火器禁止』縛り破ってでもコイツ使わしてもらうぞ!」
他にも片刃の大剣を振るい、敵陣に突撃するスラッシュエッジを援護するのは、近づく者を棘だらけの細長い砕棍で払い倒しながら、弓に切り替えて大量の火矢を放つ、似たデザインで色違いの蒼いチャイナドレスを纏った薄水色の長髪の美女『クラッシュエッジ』。
その隣では、異形の右腕に握った剣身の側面に目の付いた幅広の大剣が目立つ一本角の兜と青い鎧の『BLUE-D』が、操作画面に正拳突きをした左腕を赤い籠手――『赤龍帝の籠手』に換装し、更に側面にナイフと拳銃を立て掛けて表現された『A』の字が記載された大きめのUSBメモリ――『ガイアメモリ』を手にし、ボタンを押して『アームズ!』と機動音を発したそれを右肩に突き刺し、左腕をガトリング砲に変形させ、次々迫り来るヴィーコン兵や防衛ユニットを穴だらけにし、アタックドローンを撃墜していく。
「お前達!!今こそ先の醜態を晴らし、我等の力を見せる時!!この剣に懸けて、我等が空気の読めないただの間抜けでないことを証明するぞ!!」
「「「「「応っ!!」」」」」
「それでは加藤、音楽!」
「あいよっ!」
「皆、構え!!行くぞ!!あ突いて!!」
「「「「「あ突いて!!」」」」」
「あ押して!!」
「「「「「あ押して!!」」」」」
「あ払って!!」
「「「「「あ払って!!」」」」」
「「「「「「あ最後に斬る!!」」」」」」
イカリヤンの言う様に当人等も自覚している通り、先程から便乗して乗り込み、ふざけているようにしか見えない彼等――かつて1大ブームを巻き起こした伝説のお笑い芸人を敬拝する『全員集合』だが、それでもレベル100プレイヤーだけあって、その実力自体は充分活躍できる水準には到達している。
事実四散十二の『チンドン屋セット』から新たにかかった、気の抜ける音楽に合わせた規則的な竹刀での攻撃は、防衛ユニットを刺し貫き、小型の機械恐竜、『TEKラプトル』を押し退け、アタックドローンを叩き落とし、ヴィーコン兵を両断する。
そうして攻撃する敵こそその都度変わりながら延々ループし、音楽と合わせて攻撃するペースを速めながら着実に前線を押し上げていくが、何度目かの「最後に」に合わせたかの如くどこからか降ってきた戦車が最後列のシムラの頭上に落下。騒々しい音楽と共に周囲の敵ごと大爆発に呑まれてしまう。
「反応したからSupriserequested呼んでみたが、何だあの音楽……」
その実行犯――右目の眼帯と、その上に刺さった角を思わせる破片が目を引く外装のプレイヤー、『ケムイモア』が、本来かかる音楽と違うことに訝しんでいると、付近にいた『ロボット三原則撤廃活動会』の面々も、リーダーのファイヤーパターンを名指しで狙われたとあって行動に移る。
「連中の狙いはアンタらしいから、前線は突っ込んでってる奴等に任せて、『ロボット三原則撤廃活動会』はなるべく後方支援に徹するか」
「その方がよさそうだけど、誰か余ってる銃器ない?このキャラ近接機動特化だから、腰据えてブッパする飛び道具搭載されてなくて……」
「だったらコイツを使え。このバンダナとセットなら、弾切れも起きんはずだ」
「おぉ、誰か分からんがすまんな。俺の装備貸すつもりだったわ」
「じゃあ俺壁役やるわ」
そしてヘル・バーナーの提案の元集結し、チェルノ・アルファが防衛に名乗り挙げる横で、遠距離装備を求めるB52に、殺戮者が手持ちの銃器を差し出そうとした矢先、ケムイモアと接触していた所属集団『TEAM-KOJIPRO』のリーダー、『NAKED―SARU』が操作画面を操作し、足元に突撃銃や拳銃、ロケットランチャーを出現させ、彼の礼を背に、同じく右目に眼帯を付けた犬――『D-dog』を連れ、前線へと馬と走らせるケムイモアに続き、上空から投下された戦車に乗って進む。
そうして次々と様々なプレイヤーが各々武器や四肢、魔法を振るい、無数に現れる戦力を蹴散らしていく光景に、ガルバトロンの願望を邪魔されたメガストームが吠える。
「纏った挙句ファイヤーパターン隠しやがって……こうなりゃ予定より早いが、俺も参加してフェイズ2だ!名前持ちデストロン!ベルサー軍団!攻撃開始!」
直後空に佇む巨大飛行船――『ガルバブルク二世』や、周囲の道路から、それまでの統一されたデザインのヴィーコン兵達とは違う、様々な色合いやデザインの戦闘機や戦車、更には汚染と共に姿を消した海洋生物を模した巨大な空中戦艦が出現する。
同時にメガストームも、戦車の要素を持った緑主体の人型から黒と紫の怪獣を思わせる形態――『ギガストーム』へと変化し、頭部をグルグルと回転させて口から吐く火炎『アンゴルモアバーン』と後頭部から発射する『ヘッドミサイル』、両肩の『ストームキャノン』を乱射し、四肢を振り回して蹴散らしていく。
「何じゃありゃ、見てるこっちの目が回りそうだわ」
「てーかアレ!どうやって倒せってんだよあのデカブツ!」
新たに挿した山頂から溶岩が流れ出る山を模したような『M』が描かれ、『マグマ』と鳴るガイアメモリの力を取り込み、右腕と共に溶岩を纏ったように赤黒い岩殻に覆われ、表面に走る亀裂から覗く赤く燃える剣身から煙と熱気を発する邪剣――『ソウルエッジ』を振るっていたBLUE-Dが、すぐ横を突貫していくギガストームを見送るが、その間も重装備で突撃してきたグランディス・ブラック、同じくパワーファイターで、得物のウォーハンマーを振り下ろす獣王メコン川、「パワーがダメなら」と機敏に背後を取り、双剣の手数で攻め立てようとした元ワールドチャンピオンのたっち・みーと、『アインズ・ウール・ゴウン』の猛者達をも眼中になく、ただただ邪魔だとばかりに跳ね退ける拍子に殲滅しながら突き進み、遂にはリーダーモモンガ達と対峙するかと思いきや、その真横を「コンボォイ!!出てこぉ~い!!」とガン無視で通り過ぎ、「えぇ~……」と呆然自失な様子の彼に見送られていく姿に、クラッシュエッジに呼び戻されたスラッシュエッジが声を荒げる。
階層支配者は兄の方の様なので、武道と同じ形式なら対峙せずスルーしてくれる分には大助かりではあるものの、だからと言って先の宣言通りなら壁とも言える敵陣を突破し対峙したところで、相手するつもりはないようだし、後方で暴れる彼を放置できるかと言えば、現在進行形で周囲にばら撒いている流れ弾や、兄の危機を察して戻ってくる危険を考えると、どうしても不安が残る。
そこに混ざるのは、ドラゴンの意匠が入ったバイクを駆る、黒いコートに、宝石の如き角ばった赤いマスクの『ハルトマン』と、赤いスポーツカーに乗った、それを模したようなヘルメットに、左肩から右脇腹にかけてタイヤを襷がけに装着した『スピード・ブレイク』。『チーム・オンドゥルズ』と共に双方の愛車で駆け巡りながら武器を振るい、時にモチーフヒーロー達の代名詞たるキックでど派手な爆発と共に敵を撃破してきたが、BLUE-Dの持つガイアメモリに気づき、接触してきた。
「お、まさかガイアメモリ持ってる人がいるとはね。『チーム・オンドゥルズ』じゃ『2人で1人』が再現できないからいないけど、そんな使い方もあるのか」
「あ?何だアンタ」
「おっと失礼、ガイアメモリの元ネタに縁があるもんで、ついね。ま、『宝石の魔法使い』とでも名乗っておこうか」
「あ、ゴメン名乗り用意してなかった。まぁ『仮面ドライバー』とでも呼んでくれ」
「なんかあっちの親玉と似たようなこと言ってんじゃねぇか。これ使うのに何か文句でもあんのかよ」
「おいおい落ち着け。ただ見に来ただけで、別に喧嘩売りに来たわけじゃないんだから。ま、お互い健闘しようぜ。それじゃ、お邪魔しましたよ、っと」
それだけ言って去って行く2人に、「何だったんだよ……」とぼやきながらも、BLUE-Dは新たに口を開いた恐竜の顔をアルファベットの『T』に見立てたメモリを取り出し、「ティーレックス!」と鳴るそれを突き立て、ティラノサウルスの頭部の様に変化した右腕から、『赤龍帝の籠手』の発する『エクスプロージョン!』の音声と共に熱線を放ち、左腕からチェーンを射出し、先端に繋がった鉄球でケムイモアを、乗っていた『D-Horse』と呼ばれる馬ごと潰そうとした『スクラッパー』を射抜く。
「助かった、礼を言う」
「気にするな!乱戦な分助けられただけマシに思っとけ」
一方上空から攻撃してくる『ベルサー』の海洋生物型巨大空中戦艦に対しては、スケールからして違い過ぎるとあって、辛うじて無尽蔵に放たれる弾幕や、BLUE-Dが放ったのとは比べ物にならない熱線――『バースト』を避けるくらいしかできずにいた。
「STGのボスラッシュどころか一斉集結って、何考えてんの!だったらこっちもボスで対抗よ!」
機械の翼を広げ、四肢を様々な銃器に変えて対抗していた長髪の美女、『オオムラサキ』がキレながら視線だけで操作画面を操作し、鳥を思わせる風貌の飛行兵器、『重飛行甲冑シームルグ』と『重飛行甲冑アンドレアルフース』、十字状に配置された4本の首を持つドラゴン、『生体兵器ヨルムンガンド』を召喚しけしかけるが、迫り来る1機――淡水魚の1種、ピラニアを模した『ハングリーグラトンズ』が放つ子機達が前面に広がり、一斉射で彼女諸共殲滅する。
「おいおい折角デカブツ呼び出したのにアイツ瞬殺されたぞ!」
「制空押されてるぞ!スターファイター発進急げ!」
「急ごうにもブリキ野郎共の攻勢が激しくて、出したところで飛ぶどころか乗る前にやられちまうよ!誰か奴等の弾幕を少しでも止めてくれ!」
それを眺めながら周囲に残った車を防壁にヴィーコン兵達の攻撃を防ぎ、手持ちの兵器を展開しようと難儀するのは、統一されたデザインにペイントで個性を出した装備の一団――『第332師団』。そこにファイヤーパターンを守りながら応戦し続けていた『ロボット三原則撤廃活動会』が偶然合流する。
「おぉ、どうしたアンタ等」
「ウゲ、奴さんが血眼で探してる連中かよ……上なり前なりを何とかしようにも、見ての通りで手持ちの兵器展開が無理なんだよ」
「だったら幾らかは何とかしよう。丁度ギガストームも、気付いてこっち来てるしな……」
「折角だし付き合おうかい?火力なら負けまいと思うがね」
「できればアンタにゃリーダーの護衛頼みたかったが、そうも言ってられそうになさそうだ……上の連中を始末してくれ、前の連中は任せろ」
事情を聞いて前に出るのは、インフィニット・イビル。続けて名乗り出たヘル・バーナーにベルサーの巨大空中戦艦を頼むと、両手を地に着き背中の連装砲にエネルギーを送り込み、「見つけたぞぉ~!コンボォ~イ!!」と叫びながら複数の部下を引き連れ迫り来るギガストーム目掛けて発射態勢に入り、ヘル・バーナーも口にエネルギーを貯める。
「最大出力で一発かますぞ……!『ムゲンキャノン』!」
「さぁとくとご覧あれ、これが荷電粒子砲の破壊力だ!」
直後サイズ差もあって『市街領域』で対峙したムゲンドラモンや、『傭兵領域』で彼ら自身に対し猛威を振るっていたデスザウラーに比べれば大きく見劣りするが、それでも十分光の濁流と呼べる光線が放出され、迫り来るヴィーコン兵やZOIDSを次々呑み込んでいき、ベルサーの巨大空中戦艦をも貫通し、撃墜していく。
「攻撃が止んだ!今のうちに機体を展開しろ!少しでも押し返せ!」
「やったぜ!これならアイツも「いや、ダメだ……」何だって!?」
「あぁいっそ収束させた方がまだ突破の可能性は高かったろうが、この戦力差では仕方あるまい。後は残りの皆に託すとしよう」
それに巻き込まれて姿を消すギガストームに『第332師団』の1人がガッツポーズで歓喜するも、直後放ち続けるインフィニット・イビルの発言に一転して驚愕する。よく見るとギガストームは道中捕らえていたのかシムラの首を右手で掴んでおり、彼を盾にする形でズンズンと突き進み、「お、お前それは」と掠れた抗議する声を続けさせずにインフィニット・イビルに叩きつけ、更に背後から雄叫びと共に必殺の飛び蹴りを決めにきた『オンドゥルズ』の面々目掛けて投げ付けたシムラごと自身の攻撃と共に『ムゲンキャノン』を撃ち込ませ、「怒っちゃや~よ~!」と先程続けられなかった抗議とは一転したかのような断末魔の絶叫を放つシムラごと彼等を葬り去り、そのまま抑えたインフィニット・イビルも、攻撃を分散させたことを悔いるヘル・バーナーと同士討ちさせる様に向かい合わせて双方の光線を爆発させ、相手の頭を消し飛ばしたことを確認した後、首をへし折って仕留める。
「イビルさん!?バーナーさん!?」
「嘘だろどっちもうちの火力筆頭だぞ……!?」
「俺が出る!こうなったらリーダー引っ込ますしかねぇだろ!アンタ等も少しは護衛協力してくれ!」
「お、おい待てアンタ!」
両者の敗北に驚愕するB52と殺戮者の横を走り抜け、『第332師団』の1人が止めるのも聞かず仇討とばかりに挑みかかり押し留めるのは、巨大なロボット怪獣『グランドキング』の外装を纏った『カウンター・ベイト』。外装入手後に開催されたイベント大会にて、会場が人間種に有利なアスガルズにも関わらず、最大の切り札たる原寸大化を温存したまま、プレイヤースキルだけで数々の搭乗者キャラの外装保有者が駆るスーパーロボットを相手に勝ち進み、唯一原寸大化を使った決戦では相手の絶対防御壁を純粋なパワーだけで突き破って頭を挟み潰し、続く振り下ろしで真っ二つに割いて新たな『アスガルズの世界級優勝者』に君臨してみせた能力から、「反撃の撒き餌」を意味する現在の名前を自ら冠した程の自他共に認める実力者であったが、それでもなお組み合ったまま超至近距離での飛び道具の撃ち合いに転じ、それぞれ互いに周囲の邪魔者たるギガストーム率いるNPC軍団と彼を撃破しようと集まる他プレイヤーを排除し合いながらもなお拮抗。全く勝負が見えないところで、唐突に部外で戦況が動いた。
「オプ、ティ、マァアアス!」
「うわぁあ!?」
「ホオオォ!?」
「リーダー!?」
突如乱戦の中で行方をくらませていたボーンクラッシャーが、先程の流れで合流した『第332師団』の地上戦力を護衛に残る仲間と共に逃亡していたファイヤーパターン目掛け飛び掛かり、そのまま高架橋から諸共転落。遂に乱戦から彼を分断することに成功する。
「よくやったボーンクラッシャー!これでやっと一騎打ちに持ち込める!」
そして黙し戦況を眺め続けていたガルバトロンは歓喜の称賛を送り、『傭兵領域』から持ち出した鳥型兵器の1つ、『SCAVENGER』を呼び出すとその足を掴んで向かわせ、着くと共に自らも飛び降りる様に対峙する。
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