刀使ノ兄弟 (腰痛持ち)
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胎動編
1話 刀使ノ兄弟


 

某県某所の山中に風を切る音と呼気が聞こえた

「ふっ!ふっ!」

 その音の発生源では一人の青少年がTシャツとジャージ姿で黙々と木刀を振るっていた

「およ?まだ振っていたでござるか?そろそろ飯時故水でも浴びてくるでござるよ」

 獣道から大きな猪を担いでひょろっとした優男系の男が現れた

「もうそんな時間ですか、すみません夢中になってしまって」

「なに、夢中になれると言うのは悪い事ではござらんよ、むしろやるべきことがある時はその方が良いでござる、さ早く汗を流して食事の準備をするでござるよ」

「はいっ!」

 そう言って少年はタオルを持って駆けて行った

 

 

 戻ってきて早速二人で火を起こし猪の丸焼きと汗を流すついでに少年が取ってきた魚を塩焼きにして食事をしていると

 

「そう言えば勇刀(ユウト)近々お主の妹君の試合でござったな」

「あぁ~そういえばそうっすね、可奈美の奴大丈夫かな」

「最近はほおむしっくというものを起こさなくなったそうでござるな」

「えぇ美濃関に入学したてのころは大変でしたよ、毎日夜な夜な泣きながら電話かけて来たり、酷い時には学校から慰めに来てくれって呼びだし食らうし」

「しかし勇刀も未成年である以上真夜中に出歩くのはご法度でござろう?」

「美濃関の学長が迎えを寄越してくれたんです。んで宥めたり一緒に稽古したりまさか1週間も美濃関に居る事になるとは思いませんでしたよ」

「だから書置きを残して行ったのでござるか」

「えぇ鷹丸に頼んで師匠の所に届けてもらっておいて正解でした。」

 

 師匠と勇刀は笑いながら話に花を咲かせる

 話は剣や戦闘の話しに飛び火し語り尽くした

 そして日が傾いて来た頃

 

「それじゃぁそろそろ俺は山を降りますね」

「うむ、鍛錬は怠らぬように、日々精進でござるよ」

「はいっ!それでは失礼します。緋村師匠!」

 そう言って勇刀は荷物をまとめて下山して行った

「勇往邁進あるのみでござるよ、衛藤勇刀」

 衛藤勇刀の師匠、緋村剣心はさりゆく背中を優しく見つめていた

 

 

「さてと、そろそろアイツから電話が来る頃かな?」

 家について荷解きをして寛いでいると読み通り携帯が鳴動した

「もしも「もしもしお兄ちゃん!?可奈美だよ!ねぇねぇ!明日の試合見に来てくれる!?」お前俺がまだ喋る前に用件を切り出すな!」

『だって絶対お兄ちゃんに見に来て欲しいんだもん……』

 

電話の向こうの可奈美はすこしシュンとした声で話す

 こうなると俺は折れるしかない、俺としても正直な話大切な妹の刀使としての姿も見ておきたいから行くつもりではあった、その為なのか先日、美濃関の学長から封筒

で御前試合予選の観覧許可書なる物が送られてきた

 

「ちゃんと行くから安心しろ、明日、朝早いからもう切るぞ」

『本当!?ありがとうお兄ちゃん!!それじゃぁ明日ね!』

「あぁ、明日な」

 勇刀は電話を切り明日の支度を済ませて眠りについた

 

 

「えへへ~~!」

「嬉しそうだね可奈美ちゃん」

 

 宿舎の自室には携帯を握りしめて顔の筋肉を全て緩めて笑っている勇刀の妹、衛藤可奈美と同級生の柳瀬舞衣がいた

 

「うん!だって久しぶりにお兄ちゃんに会えるんだもん!頑張って沢山勝たなきゃ!」

「よっぽど楽しみなんだね、私も久しぶりに勇刀さんに会うの楽しみだな」

「さぁ!頑張るぞー!」

 

 

 

 この時私は私達とお兄ちゃんに起きる事を何も知らなかった

 

 

 

 

 

 




あとがき
ちまちまと自分用に書いていた物を何故か投稿してしまいました。
公開しようと思っていなかったので稚拙な文章かもしれません。
オリジナルキャラ考えるの苦手マンなので師匠は某抜刀斎さんに就任していただきました。
続きを投稿するかどうかはまた改めて考えようと思います。


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2話 兄、鎌倉に立つ

舞衣ちゃんの兄が登場します!


鎌倉

「あ~~っやっぱずっと座ってるのはキツイなぁ」

 

勇刀は朝早くに家を出て鎌倉の地に到着していた

そして

 

「勇刀君お久しぶりです」

「尊か久しぶり!!」

 

駅から出た俺は改札口付近で妹の友達の兄である柳瀬尊(ヤナセミコト)と合流した

 

「去年の夏ぶりですね、勇刀君」

「あぁ!あの時は可奈美が迷惑かけて悪かったな」

「舞衣も楽しそうでしたし問題ありませんよ。それに僕の家はあの程度我儘にもなりませんから」

「ははっ!金持ちの家は言う事が違うな!」

 

彼の名前は柳瀬尊(ヤナセミコト)、新興の企業「柳瀬グループ」代表の息子で俺と同じ美濃関学院に通う妹を持つ兄だ、その妹が可奈美の友達である柳瀬舞衣ちゃんである、初めて出会ったのは可奈美が中学1年生の時の夏休みに可奈美にせがまれ一緒に舞衣ちゃんの家の別荘に泊りに行った時に出会った

俺と尊は同い年と言う事と反りが合い直ぐに仲良くなった、メッセージのやり取りなども頻繁にしている

 

「積もる話もありますがそろそろ行きましょう、会場までは家の車で移動します。」

すると尊の後ろにあった車のドアが開き二人で乗り込む

そのまま車は御前試合の予選会場へ向かって行った

 

「はぁ~シートふっかふかだなぁ!座ってて楽だぁ」

「電車の座席はそんなに固いんですか?僕は電車に乗ったことがないので解らないのですが」

「新しい車両は比較的ふかふかだけど古い車両や地方を走ってる車両は固いのが多いな、てか電車乗った事ねぇのかよ!?」

「えぇ移動は基本車か飛行機ですから」

「あぁさよですか……」

 

他愛の無い会話をしているうちに会場に着き二人は美濃関学長から送られてきた入場許可証を提示し会場に入った

 

「舞衣からメッセージで美濃関からも応援が来てるらしいのでその子達と合流しましょうか」

「そうだな」

 

そう言って会場内を歩いていると

 

「あっ!可奈美のお兄さんと舞衣ちゃんのお兄さん発見!!」

「久しぶり、可奈美が迷惑かけてない?」

「大丈夫です!時々剣の修業とか」

「試合にかなり付き合わされますけど……」

「ほんとゴメンね!俺が甘やかして育てちゃったから、後でキツク言っとくから!」

「えぇ!?いやほんと大丈夫ですから!私達もお兄さんに教わった事を可奈美相手に試してますから!頭をあげてください!」

 

勇刀が可奈美のわがままに付き合っている生徒に頭を下げている一方で

 

「舞衣ちゃんには何時もお世話になってます!」

「舞衣ちゃんのお菓子が絶品で!」

「そうなんだね、これからも妹と仲良くしてくれると嬉しいな」

 

尊は妹を褒められて笑顔だった

 

「くっ!この差は一体っ!!」

 

勇刀は自分の妹と友人の妹の差に頭を抱えていた

 

 

勇刀達は可奈美と舞衣のクラスメイトに案内してもらい観覧席で試合を見ていた

可奈美は相手との試合を楽しみ過ぎるあまり危ない場面が目立っていた

舞衣は確りと相手を観察し油断せずに立ち会っていた

 

「はぁ危なっかしい試合ばっかしやがって、強い奴と戦えるからって浮かれてるな」

「でも可奈美ちゃん凄く強いですよ、勝てるかな舞衣」

「まぁ順当にいけば舞衣ちゃんとも当たるな、でも勝負は終わるまで解らないから、可奈美は足元を掬われかねない」

「剣術に関してだけ勇刀君は厳しいですね」

「アイツが自分で歩むと決めた道だ、俺もアイツが戦えるように自分の守りたい物を護れるように妥協はしなかったからな」

「愛ですね」

「この世でたった一人の大切な妹だからな…」

 

このやり取りを見ていたクラスメイト達は

「いいなぁ私もこんなお兄ちゃんが欲しかったなぁ」

「アタシも~」

 

ただ羨むだけだったそしてそこへ

「おにーちゃーん!!」

「げふぅっ!」

 

勇刀の妹、衛藤可奈美が勇刀目がけて突進をかましてきた

「あー、勇刀君大丈夫ですか?」

「この程度でやられてたら可奈美の兄は務まんねぇよ」

「さっすが可奈美のお兄ちゃん!やっぱりうちのお兄ちゃんは最強だね!」

「可奈美、お前ももう中学生なんだからもうちょっと女の子らしくしたらどうよ?そんなんじゃ彼氏も出来ないぞ?」

「え?カレシ?私にはお兄ちゃんがいるからいらないよ?」

「違う、そうじゃなくて」

勇刀は未だに自分の上に乗っている可奈美とあれやこれやと問答していた

 

「勇刀君は苦労しそうですね」

「勇刀さん、頑張って下さい」

そんな二人を見ている周囲の目は温かかった

 

そして決勝戦に出場するのは可奈美に決定した

「ねぇねぇお兄ちゃん!後で稽古つけてよ!」

「いいぞ、決勝戦までは見れないからなお前が勝てる様に少しでも鍛えてやるよ」

「わーーい!やったぁ!それじゃぁあっちでやろう!早く早く!」

「あぁもう!解ったから引っ張るな!」

「勇刀君も大変ですね」

可奈美は勇刀の手を引き外へ出て行った

 

「私達も行こう!勇刀さんの稽古なら見てるだけでも得だよ!」

「そうだね!行こう!」

応援団の子達も二人を追いかけて行った

 

「……僕等も行きましょうか」

「はい!お兄様!」

「何時も通り尊兄さんでいいですよ」

 

 

 

予選会場から少し離れた開けた場所で訓練用の木刀を持って対峙している勇刀と可奈美がいた

「行くよ!お兄ちゃん!」

「いつでもこい!」

 

暫しの沈黙を経て可奈美が仕掛ける

「せぇい!!」

「よっ!」

「くっ!」

 

可奈美の木刀の斬撃をまるで解っていたかのように避けてカウンターで斬りかかる

それから何度か攻守が入れ替わり打ち合いは続いた

 

「やっぱり勇刀さん凄いなぁ!可奈美の剣をあんな簡単に避けてカウンターまでいれられるなんて」

「太刀筋も私達なんかより断然綺麗だし!」

「勇刀さんが刀使として一緒に戦ってくれたら百人力だよ」

「それは無理でしょ勇刀さん男性だし」

クラスメイト達は可奈美と勇刀の打ち合いを見て思い思いの感想を口にする

「勇刀さん非常勤でもいいから美濃関に稽古つけに来てくれないかなぁ」

「いいねそれ!御前試合が終わったら学長に直談判しに行こう!」

(なーんか変な話で盛り上がってるな~「よぉ~しこんなもんで終わりだ、可奈美は決勝戦までは休んどきな」

「えぇ~~!?もっとやろうよ~~!」

「アホか、可奈美はこれから決勝だろうが、俺との稽古で出し切ってどうすんだこれ以上は本番までとっとけ」

「…は~い」

 

可奈美はしぶしぶ近くの木陰で涼み始めた

「相変わらず綺麗な剣捌きでしたね」

「まぁこれでも毎日鍛錬は欠かしてないしな、尊はどうなんだ?ちゃんとやってるか?」

「えぇ、これでも最近は道場の人達とも対等に戦えるようになったんですよ」

「そうか、なら試してみるか?」

「えぇぜひお願いします」

 

尊は勇刀から可奈美との打ち合いで使っていた木刀を受け取り構えた

周囲に居たクラスメイト達は二人の精神が極限まで研ぎ澄まされている事で生じる周囲を圧するような緊張感に生唾を飲んだ

そして二人の間を風が吹き抜けて行き木々を揺らす、その風が巻き上げた葉が二人の間に落ちた

 

「っ!!!!」

最初に仕掛けたのは尊だった、尊は上段からの唐竹で斬りかかる

「踏み込みが浅い!」

 

勇刀は問題点を指摘しながら攻撃を避けて

突きを放つがそれを尊は紙一重で回避し距離をとる

「尊の通ってる道場の人達相手なら今の踏み込みで良いんだろうが俺には通用しない、そこらの道場に居る門下生と同じように戦ってても一生勝てないぞ?」

「っ!……そうですね、いやそうでしたね、君は間違いなく僕が知る中で最強の一人だ、そんな人に一般人の門下生と同じように挑むなんて僕はどうかしていました。行きますよ勇刀君!!」

「来い!!!!」

 

そこからの俺達の稽古はやはりと言うべきか少し熱が入ってしまって可奈美との時間よりも長い時間打ち合っていた

俺達の打ち合いを可奈美や舞衣ちゃんそして二人のクラスメイト達も食い入る様に見つめていた

いつの間にか他校の刀使や伍箇伝以外の制服を着ていた人達もいて、見世物の様な事になっていた

 

「ふぅここらで止めとくかこれ以上やると怒られそうだ」

「そうですね、しかし勇刀君から一本とるには骨が折れそうですね」

「あったりまえよ、まだまだ負けてやる気は無いからな」

「そうですか、そうでなくては困りますよ?君は僕の目標なんですから」

二人は拳を突き合わせて感想を言い合っていると自然と周りから拍手が巻き起こった

 

「勇刀さん!また美濃関にいらしてください!そうしたら今度は私達に稽古をつけてください!」

「いやぁもう用事もないし余り行く事は無いかなぁ」

「えぇ~~そんなぁ!」

「はっ!?用事がないなら作ればいいのでは!」

「天才か!?可奈美!!」

「んぇ?なに?」

「また去年みたいにホームシックになって!!」

「えぇ!?!?どういうこと!?」

「可奈美がホームシックになればまた勇刀さんが美濃関に来てくれるでしょ?そしたら可奈美はいつも勇刀さんと一緒に居られる!私達は勇刀さんに稽古を着けてもらえる!まさにwin-winの関係ってやつよ!」

「はっ!私なんでそんな簡単な事に気付かなかったの!?」

 

可奈美とクラスメイト達の暴走は止まらずにどんどん話は進んで行く

「おい!もっとましな方法は無いのか!」

「それじゃぁお兄ちゃん!決勝戦が終わったら一緒に美濃関に帰ろう!」

※美濃関は寮制です。

 

「俺も学校があるから無理だよ、それに可奈美ももう大丈夫だから」

「お兄ちゃんは可奈美と一緒に、居たくないの?可奈美の事嫌いになった?」

可奈美は涙を溜めた上目遣いで勇刀を見上げて袖の先を摘まんだ

「うっ!……」

可奈美も可奈美で重度のブラコンだが勇刀も勇刀でシスコンの気がある、その証拠に可奈美にこうやってお願いされると昔から高確率で勇刀が折れていた

「……はぁ解ったよじゃぁ月一回会いに行くよ、稽古もその時付きあってやるから」

「「「「いぃぃぃぃやったぁあああああああああ!!!!!」」」」

美濃関の少女達は歓喜に包まれた

 

「相変わらず妹さんには剣以外では甘いですね」

「ほっとけ…」

尊は項垂れている勇刀に憎まれ口を聞くが静かにかえすだけだった

 

 

そして決勝の時刻になり可奈美達は決勝の試合会場へと向かい

勇刀と尊は鎌倉の街で観光をしていた

 

「しかし可奈美だけじゃなく美濃関の子達にも困った、俺弟子をとった憶えないんだけど、そもそも人に教えられるほど凄い剣士じゃないし」

「でも美濃関の子達は皆、君を心の底から信用しているようでしたが?」

「去年可奈美が美濃関学院中等部に入学して寮生活になったろ?そしたら早々にホームシックになってな」

 

今から丁度1年前勇刀が中学3年生、可奈美が中学1年生になった頃可奈美は美濃関の寮に入り学校生活が始まって数週間が経った頃

 

「はぁ親父は出張で暫く帰ってこないし可奈美は全寮制の美濃関に進学したから居ないし、実質一人暮らしみたいなもんか、あ~夕飯どうしよう」

スーパーで食品コーナーを回っていると携帯が鳴った

 

「はいもしもし」

「衛藤可奈美さんのお兄さんでしょうか?」

「はいそうですが、どちら様ですか?」

「申し遅れました。私美濃関学院中等部で衛藤可奈美さんの担任をしている佐藤と申します。実は妹さんの事でお話が」

「まさか入学早々なにかやらかしちゃった感じですか?それなら親父の方に電話した方が」

「いえ、衛藤さんは剣術に関しては問題ないのですが日常生活の方で少し支障をきたしていまして、この事をお父さんにもお伝えしたのですがお兄さんの方が適任だと言われてご連絡させていただいた次第です。」

「はぁそれで可奈美に何が……」

「ホームシックです。」

「………ホームシックゥ!?」

「はい、先週の終りから食欲も元気も無くなっていて、ただ剣の稽古だけは毎日続けていたんですが、それも最近手に着かないようで、そしてついに今朝になって寮部屋から出てこなくなってしまったのです。本人からもお兄さんに会いたいと言う様な事を聞いておりまして、お父様に相談した時も「娘の事は息子に任せてあるので」と」

 

「まぁ親父も出張で今居ませんしねぇ、解りました僕が学校の方に伺います」

「ありがとうございます!今迎えの車がお宅に向かっていますので準備をお願いします!」

「はい、お手数おかけして申し訳ありません」

そしてその1時間後家に迎えが到着した

「すみません、行きがけに寄っていただきたい所があるんですがいいですか?」

「構いませんよ、どちらに向かいましょう。」

「あの山の麓にお願いします。」

「はい」

 

車は勇刀の指定した山の麓に着くと

勇刀が指笛を吹くと1羽の鷹が勇刀の腕に停まった

「この手紙を師匠の所へ届けてくれる?」

勇刀が鷹の背中についている筒状の入れ物に巻物の様にして丸めた手紙を入れると鷹は頷くと飛んで行った

 

「頼んだよ~~っ……すみませんお待たせしました。美濃関に向かいましょう」

「はい」

そうして俺は美濃関学院へと向かった

 

そして寮のエントランスに入ると心配するクラスメイトに囲まれて涙を流す可奈美が居た

俺はすぐさま可奈美の名前を呼んだ

 

「可奈美!!」

「っ!!お兄ちゃん!!」

可奈美は顔をあげ勇刀に抱きついた

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

「もう大丈夫だ、兄ちゃんが来たからな」

勇刀に泣きつく可奈美を見てクラスメイト達が話す声が聞こえる

 

「あの人が衛藤さんのお兄さん?」

「えっ?凄いイケメン……」

「衛藤さんの家の顔面偏差値高過ぎじゃない?」

「いいなぁ衛藤さんあんなイケメンのお兄さんが居て、ウチのと交換して欲しいなぁ」

「絶対ダメ!!カナのお兄ちゃんは誰にもあげないんだから!!!!」

「地獄耳!?」

「ん?何の話してたんだ?可奈美」

「うぅん!何でもないよ!それよりもお兄ちゃんなんで此処に?」

「お前がホームシックになってるって担任の先生から連絡があったから来たんだよ」

勇刀は此処までの経緯を可奈美に説明すると可奈美は見るからに落ち込む

「また、お兄ちゃんに迷惑かけちゃったね。可奈美もお兄ちゃんみたいに強くなりたくて此処に、美濃関に来たのに…こんなんじゃ」

「バカ、そんな駆け足で強くなろうとしなくて良いんだよ、お前はお前のペースで強くなれば良い、急ぎ過ぎても良い事は無いんだから」

勇刀に抱きしめられ涙を流す可奈美を生れて間もない子をあやすように優しく頭を撫でる

次第に落ち着いたのか可奈美は勇刀に抱きついたまま眠ってしまった。

 

「コイツ人に抱きついたまま寝やがった、どうすれば」

「今日は妹さんの部屋で休んで下さい、その方が可奈美さんも安心できるでしょうから」

「ありがとうございます」

「柳瀬さんお兄さんを可奈美さんの部屋まで案内してあげて、他の皆は解散して早く休みなさい」

「「「「はーーい」」」」

生徒達は其々の部屋へ戻って行くそして一人の大人しそうな少女が勇刀に近づいて来た

 

「えっと私可奈美ちゃんのクラスメイトの柳瀬舞衣と申します。可奈美ちゃんの部屋までご案内します」

「そんなに畏まらなくても良いよ、もっと気軽に呼んで貰っていいから、堅苦しいの苦手だからさ」

「では勇刀さんと呼んでも良いですか?私の事も下の名前で呼んでいただいて構いません」

「じゃ舞衣ちゃん案内宜しくね」

「はい!」

 

勇刀は可奈美を抱き上げて舞衣に案内されて可奈美の部屋に来た

「ここが可奈美ちゃんの寮部屋です。それじゃあ私はこれで、お休みなさい」

「あぁありがとう舞衣ちゃん、おやすみ」

勇刀は舞衣と別れて可奈美の部屋へ入ると

「なんだこりゃ……」

勇刀の目の前に広がっていたのは脱ぎ散らかされた洋服や制服やその他いろいろな物が散乱していた

 

「説教は明日だな、今日はもう寝るか」

可奈美をベッドに寝かせて自分は床に寝ようとしたが可奈美はがっちりと勇刀の服を掴んで離さないため仕方なく可奈美と同じベッドで眠る事にした

「一緒に寝るのなんて何年振りだろうな」

「おにいちゃん……」

勇刀は優しく可奈美の髪を手で梳いて優しく撫でる

「おやすみ、可奈美」

 

 

 

「なんて事があってな、次の日に部屋の片付けをさせて気が紛れる様に稽古に付き合ってやってその日の夜には帰るつもりだったんだけど」

「けど?」

 

 

『やだやだ!帰っちゃ駄目!!』

『帰っちゃ駄目て、家の事もあるしもう帰らないと』

『そうだよ、可奈美ちゃん勇刀さん困ってるよ』

寮の部屋では帰ろうとする俺に抱きついて帰らないでと駄々をこねる可奈美を舞衣ちゃんが宥めるという図が展開されていた

 

するとそこへ寮長と担任の先生がやってきた

『送迎の準備が出来ましたよ……あらあら』

『お兄さんも大変ね、明日もお休みだし泊って行ったらどうかしら?』

『いやいや!女子寮に男が泊まるわけに行かないでしょ!?』

『大丈夫よ、生徒の皆にはメールで伝えておくから安心しなさい』

『それで良いんですか先生!!』

『今日の可奈美さんとの打ち合いを見たのと貴方と話した事で確信したらしいわ、貴方なら大丈夫だって』

『いや何を確信したの!?喋ったって言っても挨拶と軽い世間話ですよ!?それで何を確信したって言うんですか!?』

『ウチの羽島学長は20年前の相模湾大厄災で大荒魂を鎮めた英雄の一人なの、そんな人が言うんだから間違いないわ』

『えぇ~~……』

 

その後なんやかんやあり約1週間もの間美濃関に滞在し可奈美に稽古を着けていると徐々に教えを請う生徒達が増えいつの間にか学年関係なく放課後の時間は勇刀の下での稽古が日常化していた

 

「んでようやく可奈美のホームシックが治まって美濃関から解放されたんだ」

「大変でしたね、君も受験を控えていたでしょうに」

「ホントだよ、でも無事志望校には入れたしもうどうでもいいんだけどね!」

「僕は君のそういう所に好感が持てますよ」

「ははっ!そつはどうも……尊、気づいてるか?」

「えぇ、うっすらとはついてきていますね、何者でしょうか?」

「さぁな、何処の回し者か判らないけど撒くか」

「そうしましょう」

 

小声で追手を撒く算段を決めそのまま実行に移す

「おい!尊!このままのペースじゃ予定してた所周りきれねぇ!走るぞ!!!!」

「そうですね!そうしましょう!!」

わざとらしい大きな声で喋って走り出す

「っ!!」

追跡者は慌てた様子で二人を追いかける

 

「恐らく折神紫付きと鎌府の刀使だな」

「その様ですね、それにしても何故僕達をストーキングしていたのでしょうか?」

「さぁな、取り敢えず次の道曲がるぞ、右な」

「了解!」

 

二人は走りながら相手の考察を行いなるべく人混みのある所を駆け抜けて行く

そして大通りを曲がり直ぐの店に駆け込むと追手は見失ったと焦りそのまま何処かへ走って行った

「…行ったみたいだな」

「そうですね、暫くは大人しく身を隠しながら移動した方が良さそうですね」

二人は店を出てまた歩き出した

「しっかし刀使に後を着けられる覚えは無いんだけどな」

「御前試合の決勝戦でなにかあったのかも知れませんね」

「いやいやまさか!御前試合の警備見たろ?あんな警備の中で何が起きるってんだよ」

「ん?舞衣から電話ですね、失礼…はい尊です。どうしたんですか?解りました……

勇刀君には僕から伝えます。はい、そちらも気をつけてください。それでは」

 

尊は電話を切り端末を仕舞うと真剣な表情で勇刀と向き合うその真剣な表情に思わず勇刀の表情も真剣な物になる

 

「勇刀君、落ち付いて聞いて下さいね?」

「何かあったんだな?」

「可奈美ちゃんが折神紫を襲撃した人物を護り共に御前試合の会場から逃亡したそうです。」

「なんっ…だと?」

キャァアアアアアアアアアアア!!!

荒魂だぁあああああああ!!!

「「っ!!!!」」

突如二人の目の前に球体の様な身体を持った荒魂が現れ二人を飲み込み消えて行った

 




二話目の投稿です。
いかがでしたか?
次はまぁ来週あたりにでも投稿しますので気が向いたら読みに来てください。
それではまた次回


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3話 兄、先導

「ここは…どこだ」

勇刀が目を覚ましたのは正に異様と言う他ない場所だった

空は血の様に赤く染まり流れる雲は何よりも黒い、大地も黒く染まり足踏みをすると脆い炭を踏み砕いたような乾いた音がした

暫く歩くと目の前に枯れた木が疎らに生えている小高い丘の様な場所にたどり着いた

 

「………」

勇刀は引き寄せられるような何かを感じてその丘を登って行く、そして頂上に近づくにつれて今まで静かだった心がざわめき立っている事に気付いた、そしてそのざわめきが丘を登れば登るほど強くなることにも、そして頂上に着いた時、勇刀の目の前には地面から自分の身長と同じ位の高さまで吹き出ている靄の様な物があった

「なんだ…これ、っ!?」

勇刀が靄に触れると意識は暗転し視界は黒く塗りつぶされた

 

「んっ……あれ?ここは」

「起きましたか?」

「尊?……っ!?マジで何処だ此処!!」

勇刀が目を覚まして最初に見たのは尊の顔だった、尊は目を覚ました勇刀を見てほっと息をついた、勇刀は眠っていたベッドから飛び起き周囲を見渡すと石牢の様な所に閉じ込められていた

 

「おい、アンタの連れ漸く起きたか?」

「えぇ、今目が覚めた所ですよ、勇仁君」

「呑気なもんだこんな状況で」

「ちょっと勇仁君!言い過ぎだって!」

すると他の牢屋からも声が聞こえて来た

 

「なぁ尊、俺達以外にもいるのか?」

「えぇ、僕等の他にあと4人は居るようです。今声をかけてきてくれたのが益子勇仁君と古波蔵綾人君です。軽く情報交換はしてありますが全員突如として現れた荒魂にのみ込まれて気づいたら此処に居たそうです。」

「俺達と全く同じだな、違うのは場所ぐらいか」

「そうですね……」

 

話している最中牢屋の錠が突如外れる音が響いた

二人は顔を見合わせそっと檻の外にでる

「どういう事だ、勝手に鍵が開くなんて」

「考えても仕方ありません。他のみんなも出てきたみたいですよ」

 

「何だってんだ、ホントによ!」

「はぁ、勇仁少しは落ち着きなよ」

 

「…………」

「…………」

 

「さてと、まず自己紹介でもするか」

「こんな時にどういう神経してんだ?」

「こういう時だからこそだと思いますよ。何も知らないよりは名前だけでも知っておいた方が良い」

「つーわけで俺は衛藤勇刀(ユウト)!歳は16だ宜しくな」

「僕は柳瀬(ミコト)同じく16歳です宜しくお願いします。」

「ちっ年上かよ、益子勇仁(ハヤト)、14っす……」

「はぁ~、僕は古波蔵綾人(アヤト)です。歳は勇仁君と同じ14歳です」

「十条和人(カズト)、15歳です。」

「糸見海翔(カイト)です!10歳です!」

「まぁこの先どうなるかわかんねぇけど取り敢えず宜しくな」

全員の自己紹介が終わると勇刀は満足げに微笑むと外へ続くであろう扉がひとりでに開いた

 

「行くしかないよな?」

「それしかないでしょう、確実に罠でしょうが」

「ならとっとと行こうぜ、こんな辛気臭ぇ所に長居なんざしたくねぇ」

「それに関しては勇仁君に賛成かな、ここ嫌な感じだし」

「俺も異論は無い」

「僕も早くお家に帰ってゲームしたい」

全員の意思を確認し6人はすぐさま行動を開始した

 

牢屋を出て通路に出るとそこからは一本道だった

「なんか進めば進むほど嫌な感じが強くなってるって感じるのは俺だけ?」

「僕も同じですよ衛藤先輩、あの扉の向こうからビシバシ感じます」

「先輩なんて堅苦しいの無しにしようぜ」

勇刀は目の前にある扉を開いた、その先に見えたのはひらけた空間だったそしてその中央に人影があった

 

「随分と遅かったな」

聞こえた声は女性の声だった、その一声でその場に居た全員が身構える

「なんだ、ただの女の声がスゲー圧じゃねぇかっ」

「ただ者じゃない、何者だっ!」

「あれはっ!折神…紫っ」

「折神紫!?なんでそんな人がこんな所に!?」

「アンタが俺達をここに連れて来たのか?」

「あぁそうだ、お前達は選ばれたからな」

折神紫は仁王立ちのまま言葉を紡いでいた、

 

「けっ!折神家の御当主様が人攫いなんざ、趣味悪いなっ!!」

「待て勇仁!」

「ぐえっ何しやがんだ!!」

勇刀は紫に突っ込もうとした勇仁の襟を掴んで止める

 

「馬鹿かお前!闇雲に突っ込んでどうするつもりだ!」

「一発ぶん殴る!」

「勇仁君ってホント昔から脳筋だよねぇ」

「殴るにしてもまず状況を良く見ろ、それに今の俺達の目的はここから脱出する事だろう本来の目的を忘れるな」

「ちっ!だけどどうすんだよ実際!アイツを越えなきゃここから出られねぇだろうが!!」

「その出口が見つかってねぇのに突っ込んでどうすんだよ!」

「おそらく出口は反対側の扉しかないようですね」

「さてと、取り敢えず俺が行くからどうにかこうにかして扉まで走れ」

「はぁっ!?テメェ!他人には行くなって言っといて自分は行くのかよ!?」

「お前よりかは戦えるからな、尊他の奴等の事頼んだ」

「了解です。」

 

「ほぉ私に一人で挑んでくるか」

「あぁ、時間稼ぎ位なら十分だからな…行くぞ!!」

「……っ!?」

「はい?」

 

勇刀は脚に力を込めて駆けだしたと思った次の瞬間には折神紫の前にいたそして構えていた拳をそのまま振り抜いた時咄嗟に受け止めた折神紫ごと殴り飛ばし天井と地表の中間地点に飛んで行った

その光景に勇刀を含んだ6人は茫然として開いた口が塞がっていなかった

 

「っ!ぼけっとしてる場合じゃねぇ!早く行くぞ!!」

「そうですねっ皆行きますよ!」

走りながら折神紫の飛ばされた方をみると動き出す気配は無かった

「死んでませんよね?あれ」

「折神家の当主を殴り飛ばすとは、衛藤さん貴方は一体」

「俺が知りたいよそんなの!そもそもあの一連の動作で一番混乱してんの俺だから!走って近づこうとして駆けだしたら目の前に瞬間移動っぽいのしてるし!構えてた拳振り抜いたらあんなにぶっ飛んでくし!」

 

和人の言葉に半ば投げやりになって答える

「お兄ちゃん凄いね!!どうやったの!?」

「普通に走ろうとしたらあぁなった」

「ホント!?じゃぁ僕もやってみるね!えいっ!!」

「おい!まっ!」

「へぶっ!」

海翔は脚に力を込めて飛び出すと加減を間違えたのか反対側の壁に激突した

 

「良く解りもしない力をいきなり使うなって」

「うぇ~~、でも痛くない!」

「遊んでいる余裕は無いと思うが……」

「そうですね、早く行きましょう」

扉を開くと階段が続いており登りきるとまた前と同じ様な空間に出た

 

「今度は誰も居ない様ですね」

「なら走るが吉だな!」

そいて中央部分に差し掛かった時

「待って!何か来ます!」

「何が!?どこから!?」

「恐らく正面、何かは出てきてみないと…」

尊が何かを感じ取り走るのを止めると目の前の地面から荒魂が現れた

 

「こんな所に荒魂だと!?どうなってやがる!」

「しかも6体も…なんでこんな」

「早く突破しなければいつ折神紫が追ってくるか解らないぞ」

「心配するな私ならもう追いついた」

「「「「「「!?」」」」」」

 

「前門の荒魂、後門の折神紫、絶体絶命、八方塞がりってやつか」

「安心しろ、私にはお前達を殺す気は無いお前達は希少な存在だ」

「何だと?」

「最初に行ったはずだお前達は選ばれたのだと、余興もこれまでにしよう」

折神紫が指を鳴らすと荒魂が変身し勇刀達を連れ去った荒魂になった

 

「こいつ等あの時の!」

「全員散らばれ!固まってると一網打尽だ!各々隙を見て出口を目指せ!!」

「ほぉ……」

「どういうわけか知らんが俺と海翔ので力の使い方はざっくり聞いたろ!ぶっつけ本番だが今すぐ慣れろ!!」

「「「「無茶苦茶言うな!!」」」」

 

さて見せてもらおうかお前達の力を

 

益子 勇仁

「ちっくしょうが!!やってやるよ!!!!化け物どもが!!かかってこいやぁ!!」

「いや逃げなよ勇仁君!!」

勇仁は拳を振りかぶり荒魂に突撃して行った

 

古波蔵綾人

「って!他人の心配してる場合じゃない!僕も逃げ切らないと!」

必死に逃げ回るが振りきることが出来ずに追い込まれる

「くっ!このまま何もできずに捕まるのってなんか情けないよね男として…だったら!一発ぶん殴る!!」

 

糸見 海翔

「わ~~い!鬼さんこちら!!」

海人は力の使い方のコツを掴んだのか鬼ごっこ感覚で素早く逃げ回っている

「あははは!!こっちこっち!えいっ!!」

そして逃げては殴る逃げては殴るを繰り返していた

 

十条和人

「ちっ!こんな所で捕まるわけにはいかないんだ、待っていろ姫和っ!」

和人は迫りくる荒魂に正面から挑み殴り飛ばす

「おぉおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

柳瀬 尊

「皆散らばってしまいましたか、しかし勇刀君の咄嗟の判断力には驚きました。指揮能力もあるなんて、っ!なんでこんな力が僕達に!折神紫は何か知っていそうな口ぶりでしたが」

「おぉーい!尊!余計なこと考えてないで逃げる事に集中しろ!」

「解ってますよ!あぁもう!しつこい!!」

思考しながら的確にルートを見つけて移動する尊ではあるが考えばかりが先に立ち時折追い詰められる場面があったが他の4人に倣って殴り飛ばした

 

 

「全員なんとかやれてるみたいだな、一部からは積極的に殴りに行く音が聞こえるが捕まらなければいいか」

しかしどうする?このまま逃げてても埒が明かないが荒魂を倒す手段なんて無いし

あぁ~~どうすっかなぁ!折神紫は手を出さずに眺めてるだけ、動く気配すらない

やつの目的は何だ?仕掛けてくるならそろそろ頃合いの筈だが

 

そのとき折神紫が肘をまげて親指と中指の腹を合わせて擦り音を鳴らすと

俺達を追っていた荒魂がそれぞれ特異な変化を起こした

勇仁を追っていた荒魂は巨大な手となり左手はいとも容易く勇仁を掴み右手で握っている刀の切っ先を勇仁へ向けて刺し貫いた

 

綾人を追っていた荒魂は頭の先に生えている切先の様な角を伸ばし綾人の中心を正確に貫いた

 

海翔は全身を氷漬けにされ、動けない所を刃で貫かれた

 

和人は燃え盛るが焔で出来た剣で貫かれた

 

尊は身体が桜の花びらの様になる荒魂に周囲を囲まれ花びらに包まれて貫かれた

 

「尊!!皆!!!」

「人の心配をしている暇があるのか?」

「っ!?がはっ!!!!」

 

俺は5人に気をとられている間に日本刀に形を変えた荒魂に貫かれた

そこで俺の意識は刈り取られた

 

6人は倒れ動かなかった

 

 

「救護隊6名を回収し地上の医務室へ搬送しろ」

折神紫の声を聞き目指していた扉から担架を持った集団が現れ手際よく6人を其々の担架に乗せると撤収して行った

 

「さてここからが見物だな……」

折神紫もその場から立ち去って行った後に残されたのは荒れた大地だけだった

ここで行われいて居た事は勇刀達と折神紫の7人しか知らない

 

 

『……此処はさっきの丘か』

勇刀はまた牢屋で目覚める前の丘に立っていた

『ホント何なんだここ…』

【また会ったな】

『っ!?あんた誰だ?』

 

声が聞こえた重く厳かな老いた男性の声が俺は声のした方へ振りかえると黒いマントを纏った男が居た

 

【私は■■だ、衛藤勇刀】

『なんだ聞きとれない?』

【そうか、まだ無理かでは私はお前に届くまで何度でも叫び続けよう、暫しお別れだ、衛藤勇刀】

『おいっ!アンタ一体!!』

 

俺は訳もわからぬまま男に手を伸ばすがその手は空を切り男は足元にあった靄の様なものに塵となって吸い込まれて行った。

 

「んっ……眩しいな……」

「起きましたか?勇刀君」

目を覚ました勇刀は窓から差し込む日差しで目を覚ますとふかふかのベッドの上だった

 

他の5人も既に起きていた

「またお前が最後かよ、良く寝るな」

「あぁ、そうかまた俺が最後か悪いな……てかお前ら怪我はどうした!?!?刺されたんだぞ!?」

「あぁそれなら」

「なんかわかんないけど起きたら治ってたんだ~~、不思議だよねぇ~」

「そうなのか…んでここは何処だ?観た所病院みたいだけど」

「ここは折神家所有の医療施設だそうだ、要は折神紫の御膝元だ」

海翔が端的に傷の説明をし和人が場所を説明した

 

「ん~~折神紫の目的がさっぱりわからない、アイツは俺達で何をしたいんだ?」

「それは私が説明してやろう」

突如部屋の扉を開いて現れたのは折神紫本人だった

 

突然の登場に全員固まっていた

「全員動ける様だな、なら私について来い、お前達を集めた目的を説明してやる」

勇刀達は何も言わずに予め用意されていたサンダルをはき部屋を出た

部屋の外には親衛隊が待機していた

 

「僕は折神紫親衛隊第1席獅堂真希だ、一瞬でも怪しい動きをすれば即座に切り捨てる、覚悟しておいてくれ」

「まぁ事此処に至ってそんな事をしても無駄だと言う事は皆さん既にお解りの事と思いますわ」

 

折神紫の半歩後ろに獅堂真希が付き勇刀達の後ろに親衛隊2席此花寿々花が付き常に監視された状態だった

(はぁ、良くやるわホント、折神紫の実力が噂通りで御刀を差してるなら護衛なんて要らないだろうに、仕事熱心なこって)

勇刀は折神紫の様子を観察していた

 

「では行くぞ」

「「はい」」

親衛隊の二人が返事をすると折神紫は歩き出した

そして一行が向かったのは同じ建物の地下だった、エレベーターで表示されている回数よりも下の階に止まり、扉が開いた先に遭ったのは広い洞窟の様な地下空間だった

 

そして中央部には6本の日本刀が地面に突き刺さっていた

 

「なんだこりゃ?ひでぇな、全体錆まみれじゃねぇか」

「これは御刀?」

 

勇刀達はじっくりと刀を見ていると獅堂と此花が折神紫に疑問を投げかける

「紫様、これは御刀ですか?」

「あぁ、そうだ」

「しかし刀使でもなく、しかも男性の彼等に何の関係があると言うのです?」

「見ていればわかる、ではその御刀を地面から引き抜け」

 

6人は無意識のうちに柄を握り地面から引き抜いていた

そして突然風が巻き起こり砂を巻き上げ折神紫達の視界から6人を消した

「なっなんですの!?」

「これは一体っ!!」

「この気配……成功したか!」

徐々に風が治まり人影が視認できるようになってきた

 

「くっそ!なんだこりゃ!砂まみれじゃねぇかチクショウ!」

「うへぇ~ザラザラして気持ち悪いなぁ」

「何がどうなっているんだ!」

「ぺっぺっ!もぉ~~埃っぽいのきらーい!」

「何なんですかもう!色々わけが分かりません!」

其々錆びた状態ではない日本刀を手にして姿を現した

 

「最後の一人はどうした?」

「なぁ、なんか俺の刀だけ…よっ!」

「そんな、在り得ませんわ、御刀があんな」

「何て巨大な御刀だ、彼の身の丈とほぼ同じだなんて」

「なんか違くない?」

最後に残っていた勇刀が持っていた刀は巨大化し勇刀の身長とほぼ同じ大きさになっていた

 

「なっなんだその馬鹿でけぇ刀はっ」

「大きい…」

「馬鹿な……」

「うわ~!すごーい!!」

「勇刀君…君は一体」

「大きさの割に軽いな、なんかしっくりくるって言うか手に馴染むっていうか…」

 

「紫様!これは!いっ、たい…」

「良いぞ!そうでなくてはな!」

真希は問い詰めた紫が鋭い眼光で笑っているのをみて底知れぬ畏怖を抱いた

 

「これよりお前達は私の部下となり親衛隊とは別の部隊として戦ってもらう!お前達は荒ぶる魂を切り祓う刀使ではない、お前達は荒ぶる魂を狩る者、死神だ!」

「死神……」

 

こうして彼等は唐突に折神紫から荒魂と戦う術を手に入れた、奇しくも姉妹達と同じ力を得て戦いに身を投じて行くことになる

 




はい、キャラクターが増えました。
そして名字ですね、全員メインキャラクターの家族です。

そして最後の御当主様の台詞は少々強引すぎるような気もしてます。
斬魄刀ですが、主人公のはもう解りますよね(笑)

最後に一言








ルビって便利ですよね
それではまた次回


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4話 兄、任命そして捜索

今回はお話がメインの回になります。


後日俺達は解放されることも無いまま親衛隊とは別の折神紫直属の部隊、《六刃将(ろくじんしょう)》となった、学校には折神家が手を回したらしい、そしてその部隊の纏め役たる隊長は

「衛藤勇刀、お前が適任だ」

「はぁ!?俺!?」

折神紫の執務室に俺の素っ頓狂な声が響く

「あぁ、お前は他の者に比べて指揮能力が高く状況を良く見て視野を広く持つことが出来ていた、よって私がお前に決めた因みに拒否権は無い、」

「デスヨネ…てかそんな事よりも何なんだよあの御刀は!男が御刀に選ばれるなんて聞いた事無いんだけど!」

「貴様!紫様に対してなんだその口は!」

俺の折神紫に対しての言動が気に食わなかったのか親衛隊の第一席の獅堂真希が突っかかってきた

「良い下がれ真希、それの説明も兼ねて親衛隊含めお前達を呼んだ」

「しかしっ!」

「良いと言っている、私も忙しい、手短に済ませたい」

「っ、わかりました…」

獅堂は納得していないのか鋭い眼光で俺を睨めつけながら下がった

「さて、お前達の持っている刀だが御刀との違いを説明しよう、まずお前達の持つ6振りの刀の名を知る者はこの世に一人としていない」

「はぁ?御刀の名を誰も知らない?」

「どういういことですか?」

「その御刀の名は刀自身が知っている、故に聞き出せ刀の名を」

「刀に聞き出す?アンタはこの御刀に人格の様な物が宿ってると言いたいのか?」

俺の言葉に折神紫は静かに目を閉じ頷いた

「御刀に意識があるなんて…俄かには信じられませんわ」

「へぇ~おにーさん達の御刀って凄いんだね!それでそれで!?その名前を知ってるとどんなことが起きるの?」

親衛隊の第四席 燕 結芽が興奮気味に聞いた

「御刀のその姿は封印されている状態でな、御刀からその名を聞き出し名を呼ぶ事で御刀に封じられた力を開放することが出来る、これを刀剣解放(とうけんかいほう)という」

「刀剣…解放、じゃぁその能力は名前を聞きだして名を呼ぶまでは解らないのか」

「そういう事になる、故にいついかなる時も己の御刀を肌身離さず携帯しろ私が許可する、と言うわけで早速お前達に初仕事だ」

「いやいやいやいやまてまてまてまて!!」

「なんだ?」

「なんだじゃないよ!いきなり実戦とか何考えてんだ!少し位訓練してからじゃないと無理に決まってんだろ!?」

「私も彼の意見に賛成ですわ、いくら御刀に選ばれたとは言え基礎訓練も無しに実戦は危険すぎますわ」

「心配するなこいつ等は一人一人が一線級の実力者だ、幼い頃から剣を振っている、基礎訓練など不要だ、だな?飛天御剣流継承者」

「「「「「「っ!?!?!?」」」」」」

「何処でそれをっ」

思わず俺の流派を知られ眼光が鋭くなる

そして周りの奴等も俺の流派をしり驚いていた

「勇刀君があの飛天御剣流の継承者…」

「大昔に途絶えたって言う幻の流派じゃねぇか、生き残りが居たとはな」

「ほんと、ビックリだよ」

「良く知らないけど凄いことなのはわかる!」

「………」

「私の情報網を甘く見られては困る、任務の内容は夜見から説明させる、私はもうここを出なければならん、任せるぞ」

それだけ言い残し折神紫は颯爽と部屋を出て行った

「僭越ながら私、皐月夜見が任務の説明をさせていただきます」

そういって俺達に詳細が書かれた紙を渡す

そこには俺の妹衛藤可奈美の写真が貼られていた

「っ!?」

「これはっ!?」

「今回の任務は紫様襲撃事件の襲撃犯、十条姫和と衛藤可奈美の両名を捕縛することです。」

「衛藤?もしかしてこの衛藤可奈美と十条姫和とは御二人と何か関係が?」

「えぇ、資料によると衛藤勇刀さんの妹が衛藤可奈美、そして十条和人さんの妹が十条姫和とのことです。」

「それは事実なのかい?」

獅堂が俺達に確認するように問いかけてくる

「あぁ衛藤可奈美は俺の実の妹だ」

「同じく十条姫和も俺の妹だ」

「なら御二人はこの任務から外すべきですわね、情が湧いて逃がされては困りますもの」

「いえ紫様からは今回の任務必ず六刃将全員で出向くようにと厳命されています」

「家族が語りかければ情で流されると紫様は御思いなのでしょうか」

「はぁ、それこそあの人のみぞ知るって所だろ?やるっきゃねぇか」

「衛藤勇刀、アンタはそれで良いのか?下手をすれば血を分けた妹と戦わなければならなくなるんだぞ?」

和人の問いに俺は頭を掻きながら

「ん~、なんかいつかこんな日が来るんじゃないかって、何んと無しに思ってたんだ」

「何だと?」

「まぁアイツが折神紫を襲撃することが解ってたんじゃなくて、俺達が剣士として剣の道を歩んでいれば、いずれ譲れない物の為に本気で刃を交える時が来るんじゃないかってさ」

「貴方は辛くありませんの?一時とはいえ家族に刀を向ける事が」

「心苦しくはあるが俺はアイツの兄としてやるべきことをやるだけだ」

そう言って部屋を出た、

そうだ俺はアイツの兄貴だなら俺はやるべき事をやるだけだ

「なお襲撃犯が潜伏していると思われる現場付近には、既に特殊部隊が到着し陣地を形成しています。我々はそこへ合流します」

親衛隊と六刃将は其々ヘリへと乗り込み特殊部隊と合流した

 

「さて、親衛隊の指揮は獅堂に任せる、六刃将は二つに分ける、まず守衛に勇仁、綾人に尊の3人そして捜索に俺、和人、海翔の3人だ、尊は俺が居ない間2人を纏めてくれ、親衛隊はどうする?」

「あぁ此方は夜見を守衛に置き、僕と寿々花で捜索に当たる、夜見は六刃将と待機だ、何かあればすぐに連絡を」

「畏まりました」

「んじゃ尊、頼んだ」

「はい、了解しました。隊長殿」

「その呼び方止め!むずむずするから!」

「冗談ですよ、行ってらっしゃい勇刀君」

俺は短く「おうっ」と返して森の中へ入って行った

森の中へ入って少し歩いていると此花が不思議そうに聞いて来た

「そう言えば衛藤さんと糸見さんは御刀を背負ってらっしゃいますけど、どうやって鞘から抜きますの?」

此花の疑問も尤もだ、俺は身の丈程の大刀の為腰に差す事が出来ない、海翔は身長が足りず差す事が出来ない為仕方なく背負っている

「あぁ、俺も海翔も御刀を抜こうとすると鞘が消えるんだ、んで鞘に収めようとして背中に戻すと鞘が出てくるんだ、ほらな?」

俺は背中を見せて実演してみせると二人は「おぉ~~」と感心したように声を出した

「戦闘に支障が出ないようで安心しましたわ、では私達は西側を探索します。東側はお任せ致しますわ」

「任された」

「何かあれば支給されたスペクトラムファインダーで連絡を取り合おう、既に僕達の端末の連絡先は登録されているはずだ」

「OK、んじゃぁな」

俺達は親衛隊と別れて捜索を始めた

俺達は木から木に飛び移り捜索範囲を広くしていたが見つからず偶々見つけた川のほとりで休んでいた

「ん~~中々見つかんないねぇ~」

「そうだなぁ、何処ほっつき歩いてんだか…」

「隊長」

「なんだ和人?あと隊長言うの止め」

「すまない…アンタは妹の事が心配じゃないのか?」

珍しく和人から話しかけて来た

「お前と同じだよ、この世に一人しかいない大切な妹だ、心配してないわけないだろ?」

「変な事を聞いてしまった様だな…」

「そういう和人はどうなんだ?今回の折神紫の襲撃事件主犯はお前の妹だろ?何か心当たりがあるんじゃないのか?」

「俺の母親は20年前の相模湾岸大厄災の時の英雄だった、ある人物から母に届いた手紙を見て姫和は折神紫を討つと言って変わってしまった。俺がもっと確りしていればこんな事には…」

「和人お前さ、後悔してんだろ?あの時あぁしていればこうしていればってさ」

「あぁちゃんと姫和と向き合っていれば、アイツの抱えている物を少しでも俺が抱えてあげられていたらとずっと思っていた、でもっ出来なかったっ」

「なら今度はちゃんと手を差し伸べられるように確りしろよ、後悔するのは良いが自責の念に捕らわれるのだけは止めろ、そんな物はただ自分の脚を重くする枷にしかならん」

「っ!」

「今お前が向かい合うべきなのは何もできなかった過去じゃない、何でもできる未来だ」

「解った…善処する」

「おぉ~~勇刀お兄ちゃんカッコいい!!」

「照れるぜ!」

和気藹藹と話していると俺の端末に皐月夜見から通信が入った

「はい、もしもし?」

「衛藤さん、急ですが捜索対象を発見し交戦中と獅堂一席から通信が入りました。至急現場に向かって下さい」

「了解!そう言えば来る時にS装備がどうとかいってたか?あれはどうだった?」

「S装備の件については未だ調査中です。気になりますか?」

「あぁ、変な感じがする、特殊部隊の奴らに周囲の警戒を強化させた方がいいかもな」

「了解です。その様に致します。それから交戦地点の座標は端末に転送してありますので急ぎ合流を」

「了解、移動を開始する」

俺は夜見との通信を切り和人と海翔に向き直りニッと笑いながら声をかける

「襲撃犯が親衛隊の獅堂と此花両名と交戦中だそうだ、俺達もそこに合流する、行くぞ!」

「了解!」

「は~~い!」

俺達は端末で示された方角へ駆けだした

 



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5話 兄、初陣

陣地の守衛に残された尊と勇仁と綾人はテントの中で椅子に座って待機していた

 

「はぁ守衛とは言われたけど襲撃犯が此処を襲いに来る事なんか絶対ないよねぇ」

「だな、勇刀の奴それを解った上で俺達を残したんだ」

「まぁ勇刀君にも何か考えや気になる事があったのでしょう、それにS装備の件もありますから、どちらかと言うと僕等が残されたのはS装備の事でしょうね」

「S装備ってあれだよな?荒魂殲滅用の強襲装備」

「えぇ、折神家管理の元で開発・運用されている代物がなぜ折神家の預かり知らぬ所で使用されているのかそしてそんな物が何故荒魂の居ないこんな山中に射出されたのか疑問は尽きませんが勇刀君は何かを感じたのでしょう」

尊達がテントの中で寛いでいると外が俄かに騒がしくなった

「騒がしいですね何かあったのでしょうか?」

「ちょっと聞いて来ますね」

綾人はテントの外に出て見張りの隊員に声をかける

「すみません、騒がしいようですけど何があったんですか?」

「あぁ六刃将の、つい今しがた長船の刀使が投降してきたんですよ。その為周囲に仲間が潜んでいる可能性があるとみて捜索隊を組織している所です。」

「ありがとうございます。それでその刀使は今どこに?」

「今は我々監視の下、Eテントにて拘留中です。」

「そうですか、御忙しい所ありがとうございます。」

「いいえ!これも職務の内ですので!」

隊員の敬礼に敬礼で答え長船の刀使が捕らえられているテントへ向かった

「長船の刀使ってどんな人だろう、どれどれ~?………っ!?」

綾人はテントの一部に開けらた窓からこっそり中の様子を覗いたときその目に映ったのは綾人に取ってまさかの人物だった

「姉さんっ」

綾人はハッと大きな声を出してしまった口を抑えて窓の下にしゃがみ込んだ

「何で姉さんがこんな所に?そもそも御前試合が終わったらバカンスして帰るって言ってたのに……もしかしたら勇仁君の御姉さんも!」

綾人はその場からすぐさま自分達のテントに戻った

「勇仁君大変だよ!!」

「うぉおぅ!?どっどうしたんだよ?」

テントに駆け込んできた綾人に椅子で寛いでいた勇仁は驚いて後ろに倒れた

「今警備の人に長船の刀使が投降してきたって聞いて見て来たんだけど、その刀使が…姉さんだったんだ」

「はぁ!?お前の姉ちゃんが!?」

「うん!もしかしたらだけどあの所属不明のS装備はもしかしたら姉さん達が使ったのかも知れない」

「勇刀の読みは当たってたって事か……でも確認されてるS装備は2つだろ?一つはお前の姉ちゃんだとしてもう…一つ…はっ」

「もう一つは……恐らく」

「姉貴っ……そうだよな、お前の姉ちゃんと一番仲が良いのはウチの姉貴だもんなっ、クソッタレ!俺は外で姉貴を探す!お前は自分の姉を監視しとけ!」

「でも尊さんには何て言えば!?」

「んなもん機動隊の支援とでもいっときゃ良いだろ!俺はもう行くぞ!」

「ちょっと勇仁君!」

「どうしたんですか?!」

勇仁が飛び出して行ったのと入れ違いになる様に尊が戻ってきた

「あっえっと今機動隊の人から周囲の捜索を手伝ってくれって言われて」

「その割には焦っていたみたいですが…」

「隊員の人も急いでたみたいだったのでっ」

「そうですか、まぁ何もしないよりは良いでしょう」

「じっ実は僕も投降してきた長船の刀使の監視をお願いされててっ!Eテントに行かなくちゃいけないので此処はお願いします!何かあれば連絡して下さーーーい!」

「はっはい、気をつけて……」

尊は走って行く綾人を茫然と見送る事しかできず立ち尽くしていた

「僕が少しテントを空けていた間に一体何が……」

 

「くそったれ!なんだってあの、何時も怠けて本当に大事な事以外サボるのが信条の姉貴がこんな所に居やがる!」

勇仁は姉を探す為に森を駆けていた

その胸中は穏やかではなく大時化の海の様だった

その時周囲に突然蝶の様な荒魂が飛来した

「くっ!荒魂!?こんな時に何だってんだ!!クソがっ!!」

勇仁は荒魂たちが集まっている場所へ向かった

 

 

「フゥ、何んとか脱出できましタ、後はこれをグランパに届ければ!」

「何を誰に届けるの?」

「っ!何者デース!?」

「僕だよ、姉さん……」

「なっ!?アヤト!?何故貴方が!」

 

 

「お前には俺のペットが世話になったな、その借り返させてもらうぞ」

「出来るでしょうか?貴女に」

「キエェエエエエエエエエエ!!!!!」

自身の身の丈をはるかに超える大刀を軽々扱う少女の振り下ろしが夜見に目がけて襲いかかる

「おぉおおおおおおお!!!!!」

ガギィンと鉄と鉄がぶつかり合う音が響いた、その発生源は夜見から少し離れた場所だった

そこでは勇仁が大刀の刃を受け止めていた

「なんだお前!(コイツ俺の渾身の振り下ろしを受け止めやがった!?)」

「コイツの相手は俺に任せてもらう、アンタは戻れウチの副隊長一人じゃまだあの規模の指揮を執るのは無理だろ」

「そうですね、そうさせていただきます」

「テメェ!逃げるのか!」

「お前の相手は俺だ!!」

「ぐっ!離せ!!」

勇仁は拠点へ戻る夜見を見届けてから目の前の少女をその場から遠ざける様に押し出して行った

「落ちつけよっ!俺だ!」

「っ!勇仁!?何でお前がこんな所に!そもそもその力は何だよ!」

勇仁は森の中にある小さな開けた場所で少女を離すとフードを取った

「いっぺんに聞くなよ!俺が説明下手ってのは姉貴が良く知ってんだろ!益子薫!」

「そうだった!ウチの愚弟は超絶不器用な男だった!」

「うるせぇ!姉貴も似たようなもんだろうが!」

 

 

 

「答えてください!アヤト!なぜ貴方がこんな所に!」

「姉さんこそこんな所で何してるの?御前試合が終わったらバカンスして帰ってくる事になっていたでしょ?」

綾人は脱走した姉を待ち伏せして対峙していた

綾人はだんまりを決め込む姉を見て意を決した瞳を向ける

「今の僕は折神紫直属の部隊、六刃将の一人だ、もし今の姉さんがあの人に仇なす存在なら見過ごすわけにはいかない、古波蔵エレン」

「……嘘ですよね?ウソだと言って下さい!!貴方がそんな嘘を言うはずがない!」

「残念だけど本当だよ、で今の僕の仕事はあの場所の防衛、そこから人を逃がすわけにはいかない」

綾人は腰から自らの脇差しの御刀を抜き、切っ先をエレンに向ける

「っ!!」

エレンも自らの御刀を抜き構える

 

 

 

「そんなわけで俺は今じゃ、折神紫の部下だ、どうだ?かなりの大出世だろ?」

「馬鹿言うんじゃねぇ!何が大出世だ!アイツが何者なのかも知らないでそんな事言うんじゃねぇ!!」

勇仁はケラケラと笑いながら姉の薫に言うと怒りの表情で返して来た

「はっ!知ってるさ折神紫は荒魂なんだろ?それも普通の荒魂と別次元の強さの」

「そこまで知ってるなら何で!」

「俺達六刃将の御刀は特別でな、荒魂の気配や刀使の持つ御刀の神気や気配を感知出来る、それで解っちまったんだアイツの中に居る荒魂はただの大荒魂じゃないってな……綾人の方も話はついたみたいだぜ」

「綾人!?エレンの弟も折神紫の部下になったのか!?」

「あぁそういうわけだから、」

勇仁は薫に切りかかろうとした時

『稼働中の全親衛隊員及び六刃将に通達』

突然折神家から支給されている端末から折神紫の声がスピーカーモードで流された

 

 

「海翔、和人止まれっ!折神紫からの一斉通信?」

『現在神奈川県相模湾の一部で大規模な荒魂の集団の反応を捕捉した』

「「「「「「「「!!!!!!」」」」」」」」

『現在鎌府の刀使達と機動部隊が現場に防衛線を敷いている、親衛隊と六刃将は遂行中の任務を全て破棄し至急現場へ急行せよ』

 

 

襲撃犯と対峙していた親衛隊の二人は通信を聞いて苦虫を噛み潰したような顔をしていた

「くっ!目標を目の前に捉えておきながらっ」

「真希さん!紫様の御命令です!ここでこの二人に構っていたら民間人に多くの被害者が出ますわ!」

「これまでか!退くぞ、寿々花!ヘリの準備をさせて置け!」

『心配には及びませんよ、獅堂一席!御二人と此方の捜索班が戻ってくる頃には、準備も終わっています!』

「手際が良いですわね、六刃将の副隊長さんは」

『なるべく早く戻って来てください』

「言われるまでも無い!行くぞ寿々花!」

二人は写シを張ったまま飛び去って行った

「荒魂の出現に助けられるのは刀使として気に入らないがこの隙に離脱するぞ!」

「うっうん!」

(今の電話の声、聞いたことがある様な……)

「可奈美!早くしろ置いて行くぞ!」

「あぁ!待ってよ姫和ちゃん!」

十条姫和と衛藤可奈美はその場を後にして森の中に消えて行った

 

「なんだか大変な事が起きるみたいだね」

「アヤトは行かないのですカ?なら私と一緒に!」

「それは無理、姉さんは姉さんのやるべき事をやって、僕は今の僕にできる事をするから、それじゃぁまたね」

「アヤト……今度会った時は必ずアヤトを連れ戻しマス!」

エレンは綾人が飛んで行った方を向きながら森に消えて行った

 

 

「あ~ぁなんだよ、折角気ぃ利かせようとしてたのに」

「おい、お前の上司からの呼びだしだろ?早く言った方がいいんじゃないのか?」

「ねねっ!」

「言われんでもそうするわ!ったくじゃぁな姉貴、ねねも姉貴の事頼んだぞ、上手くやれよ…また今度な」

「ねねねっ!」

「おう、お前もな、下手打って死ぬんじゃないぞ」

「うるせぇよ」

そう言い残し勇仁は拠点へ戻って行った

 

 

 

「まさかこんな事になるとはな、早く俺達も拠点に戻ろう、その途中で獅堂達とも合流できるかもしれない」

「あぁ!」

「はーい!」

勇刀達は結局、獅堂達に合流する事は出来ずにそのまま拠点へと戻って行った

その途中獅堂真希と此花寿々花と合流した

「よぉ、間に合わなくて悪かったな」

「あぁ、その事は気にしていない、広範囲に展開し過ぎた僕等の落ち度だ、君達が気に病む必要は無いよ」

「そう言ってもらえるとありがたいね、でどうだった?俺と和人の妹は?」

「強かったよ…でも今度は負けない、次こそは勝つ!」

可奈美の強さを、その身を持って体感した真希と寿々花は、一瞬目を伏せるが直ぐに顔をあげて決意に満ちた瞳で前を見ていた

「真希さんの言う通りですわ、親衛隊が負けっぱなしというのは示しがつきませんもの!」

「お姉ちゃん達頑張れ~~!」

「なんだか複雑だな……」

「そんな事より今は相模湾の荒魂の集団ですわ」

「あぁ、今までこんな事は起こった事は無かったんだ、どれだけの被害になるか…」

「なら速く行くしかねぇよな、ちょっと失礼するよ御二人さん!」

「は?」

「え?」

勇刀は二人を脇に抱えると

「喋ると舌噛むぞ!!」

いつも以上に力を込めて地面を蹴るとミサイルの様な速度で飛んで行った

「うわぁあああああああああああああああ!!!!!」

「きゃぁあああああああああああああああ!!!!!」

悲鳴をあげて飛んで行く親衛隊を見て残された二人は静かに手を合わせた

「さて、俺達も行くか」

「そうだね、和人兄ちゃん」

二人も勇刀同様地面を蹴り飛んで行った

 

 

 

その頃拠点ではヘリの準備も完了し親衛隊と六刃将で別のヘリで待機していた

ヘリは羽を回し続けいつでも飛び立てる状態だった

「アイツ等まだ戻ってこねぇのかよ!」

「しょうがないでしょ!隊長達の捜索範囲かなり広いんだから!戻ってくるのにどうしたって時間がかかるんだから!」

「勇刀君達と親衛隊の御二人が戻ったらすぐ出発します!」

「ヘリのレーダーに高速で接近する物体を感知!数は3!」

「来た!」

レーダーに映った影はヘリの傍に着地もとい着弾した

「ただいまぁ!」

「やっと戻ってきたか!親衛隊はそっちのヘリだとさ!……その二人どうした?」

「えっ?あぁ最高速で飛んできたから少しビックリしたみたいで」

勇仁は勇刀が脇に抱えている伸びている真希と寿々花をみて驚いていた

「はぁ…全く勇刀は、女性をそんな風に抱えるなんて失礼ですよ」

「全くだ…」

「レディの扱いはもっと慎重かつ丁寧にして欲しいですわね…」

「悪い悪い次があったら気をつけるよ」

勇刀が二人を親衛隊のヘリに乗せて勇刀も六刃将のヘリに乗り込んだ

「出して下さい!」

「了解!!」

全員乗り込んだのを確認した尊がパイロットに発進の指示を出すとプロペラの回転数が急上昇し飛び立っていった

 

ヘリに乗り込むと内部にあるモニターに折神紫が映し出されブリーフィングが始まった

『それでは現状を説明する、数時間前相模湾湾内の海中に無数の荒魂と思われる反応が検知された、その反応は増大し非常事態警報の発令となった、現在周辺住民の避難が急ピッチで進められている、並行して幹線道路及び鉄道路線の封鎖も行っているが荒魂の出現までに完了できる見込みは薄い』

「最低限、殲滅戦ではなく防衛戦になる事も覚悟しなければなりませんね」

『そうだ、現場には既に鎌府の刀使達が防衛ラインを構築し荒魂を待ち構えている、諸君には現場に到着次第戦線に参加してもらう、初任務がとんでもない事になってしまったがお前達ならこの戦い必ずや勝利を掴めるだろう、健闘を祈る』

「「「「「「了解」」」」」」

 

 

『六刃将共々活躍を期待している、お前達の力存分に振るうといい』

「畏まりました。」

「しかしただの捕り物がこんな事になるなんて思いもしませんでしたわ」

「あぁそうだな、それに場所が20年前の大厄災と同じ場所とは嫌な巡り合わせだ」

「そうですね……」

 

 

そして一行を乗せたヘリは現場上空に到着した

上空から見下ろすともう戦闘は始まっており荒魂が上陸しようとするのを鎌府の刀使達が水際で食い止めていた

「何だよもう始まってんじゃねーか!」

「少し遅かった様ですね」

「ねぇねぇ速く行った方が良くない?」

「あぁ、このままでは何時突破されるか解らないぞ」

「その前に配置はどうするの?」

「戦場は左右に細長く展開されてるから一か所に戦力を集中させても意味は無い、なら中央に俺と尊そして右翼に海翔と和人!そして左翼に勇仁と綾人が展開、それぞれ周囲の刀使のチームをサポートしつつ戦え!」

簡潔な配置と作戦内容を伝えると再びヘリ内部のモニターに折神紫が映し出された

『衛藤勇刀、聞こえるか』

「何でしょうか?」

『この戦いはお前達の初お披露目だ、派手に暴れてくれて構わん、お前達の存在と力を存分に示せ』

「了解!……別に全て俺達で倒してしまっても良いでしょ?」

『ふっ、やれるものならやって見せろ』

「全員聞いたな!上司からの許可も下りた!あそこに居る荒魂!全部狩り尽くすぞ!!」

「おうよ!!」

「はい!」

「うん!」

「あぁ!」

「了解!」

「行くぞ!六刃将出撃!!」

六刃将はそれぞれの持ち場に降下して行った

そのころ親衛隊は

「六刃将は出撃したか、なら僕達も行こう下で結芽も待っているだろう」

「えぇ、参りましょうか」

「準備は……万端」

「親衛隊!行くぞ!」

親衛隊もヘリから飛び降り戦場へと舞い降りた

 

防衛線では鎌府の刀使達が物量差で押され始めていた

「っ…数が多すぎる……このままじゃ」

「うだうだ言ってねぇで手ぇ動かせ!これだけの荒魂ちゃんを狩れる機会なんて早々無ぇぞ!とかいつもなら言うんだけど今回ばっかしはちとやべぇな、流石のアタシでもこりゃキツイぜ」

「前方!大型種来ます!!」

「何時の間にこんなでけぇのが!?沙耶香下がれ!!」

「っダメ、間に合わない……」

目の前まで迫った大型の荒魂の拳に沙耶香は己の死を感じ取った

「おおおおおおおおおおお!!!らぁっ!!!!」

しかし空から聞こえた叫びと共に目の前に何かが落ち荒魂が切り裂かれた

「ふぅ、間に合って良かった大丈夫か?」

「此処からは僕等も加勢します」

「男の人の、声…」

「アンタら、何者だ?」

「俺か?俺は折神紫直属部隊【六刃将】隊長、コールサインはユウだ」

「僕は副隊長のミコトです」

勇刀は尻餅をついている沙耶香と呼ばれた刀使に手を差し伸べて立たせる

「六刃将各員に命じる!目の前の荒魂を…狩り尽くせぇええええええええええええ!!!!」

6人の黒衣を纏った荒魂を狩る者が躍動する、押し込まれていた戦線は瞬く間に押し戻されて行った

「凄い…たった6人であの数の荒魂を圧倒してる……」

「チクショウ!このままじゃアタシの分の荒魂ちゃんまで全部食われちまう!!アタシ達も行くぞ!!」

「うんっ」

そこへ士気を取り戻した鎌府の刀使達が加わり戦況は一変してしまった。

その様子を指揮所で見ていた鎌府学長、高津雪那は驚きを隠せないでいた

「何だ、あの6人は…何だあの圧倒的なまでの力は、私が育て上げて来た鎌府の刀使達が…沙耶香が助けられるなんてっ」

そこへ折神紫から通信が入る

「紫様っ!あの者たちは一体何なのですか!なぜ我等鎌府にお任せいただけないのですか!?」

『鎌府だけでは手に余ると私が判断し差し向けた、心配するな奴等は強い、あの程度の荒魂など軽く蹴散らすさ』

「そうではなく!何故我ら鎌府に全てをお任せ頂けないのですか!?我等の力をもってすればこの程度の事態など容易く!」

『その割には苦戦していた様だが?あまり過信が過ぎると痛い目を見るぞ』

「っ!……はい、申し訳ありません」

『現場の刀使達には六刃将と連携を取りつつ作戦を遂行させろ』

「…畏まりましたっ……クソっ!!」

高津雪那は通信が切れた後ヒステリックに叫び拳を机に叩きつけた

 

その時防衛線では激しい戦闘が繰り広げられていた

「このまま防衛線を押し上げる!着いて来れるか!?」

「大丈夫……」

「まだまだっ行けるぜっ!!」

「フードの刀使は俺の傍を離れるな!目をつけてねぇと何しでかすか解らん!」

「アタシを問題児扱いするなぁー!」

「凄い…彼女の問題点をもう見抜いてる」

「おい!…うぐっ」

沙耶香の容赦ない説明に突っ込みを入れるフードの刀使は少しふらついた

「言わんこっちゃない!沙耶香って呼ばれてたよな?」

「うん…なに?」

「今から俺とミコトを先頭に区画を分ける!俺達が最前線を押し上げる!沙耶香は俺の後ろで俺達が討ち洩らした荒魂を処理しろ!その後ろにガス欠寸前のフードそしてそれをサポートする刀使に分ける!そうすればフードは休みながらでも荒魂と戦えるだろ?」

勇刀は荒魂を切り伏せながら作戦を説明するがフードの刀使は納得していなかった

「アタシは後詰めなんか嫌だね!あと他人のお零れの荒魂ちゃんを狩るのも御免だ!アタシはアタシのやりたいように荒魂を狩る!!せやぁっ!!」

フードの刀使は額に汗を浮かべながら荒魂の群れに突っ込んで行った

「あっおい!くそっ!作戦修正!俺とフードとで前線を支える!沙耶香と尊は俺達の後方にて戦闘!その他はその後方で二人のサポートだ!おいこら!待てフード!!」

「はぁ彼女にはもう少し協調性と言う物を持って欲しいですね」

勇刀はフードの刀使を追い尊は沙耶香と共に荒魂の処理に向かった

 

 

 

「おおおおおおおおおおらぁあああああああああ!!!」

「……ねぇあれってホントに人間なの?私には化け物が化け物相手に暴れ回ってるようにしか見えないんだけど」

「激しく同意」

「はげど」

「それな」

別の部隊の鎌府の刀使達の前では荒魂が宙を舞い吹き飛ばされていた、雄叫びと共に

「こんなんじゃ準備運動にもなりゃしねぇぞ!!もっと骨のある荒魂はいねぇのか!?」

勇仁は自慢の剛腕と力任せの剣で荒魂を相手取っていた

そこへ大型の荒魂が3体現れる

「へっ!少しは楽しめそうじゃねぇか!!」

「おらぁっ!!」

拳を振り下ろして来た荒魂に勇仁は突きを放ち、拳を弾いてよろけている隙に荒魂の頭を鷲掴みにし地面に叩きつける

「まだだぞオラァ!!」

叩きつけた荒魂をそのまま持ち上げ2体目と3体目の荒魂に投げつけると

「キェエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」

姉と同じ声を上げ其々を一刀にて斬り伏せた

「はっ!この程度かよ、つまんねぇな、次行くぞ次!!」

「やばたにえん」

「「「「「それな」」」」」

荒魂を小石の様にブン投げる人間を見て鎌府の刀使達の語彙力は大幅に落ちた

 

 

 

「勇仁君あんなに派手に暴れ回って体力持つのかな?まぁスタミナ切れを起こしてる所観た事無いから大丈夫か」

綾人は他の刀使達と陣を組んで戦っていた

「貴方が六刃将のお一人ですか?」

「そうだよ、取り敢えずこの辺の荒魂があっちの派手に暴れてる方に引き寄せられてるからやるべき事は一つだよね」

「これ以上向こうへ行く前に1体でも多くの荒魂を倒す、ですか?」

「その通り、そうすれば向こうの負担も減るし、荒魂の注意が向こうに向いてるから僕等も荒魂を狩り易い、win-winってやつかな?さーて頑張ろうか!」

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

「僕が突っ込むから援護宜しく!」

「了解!」

綾人は荒魂の群れに飛び込むと短い御刀でバッタバッタと荒魂を切り裂いて行く

そして討ち洩らした荒魂を鎌府の刀使達が処理して行く即席にしては上出来のコンビネーションで荒魂を祓って行く

「よいしょっと!そっち行ったよ!」

「はい!はぁああああああああ!!!!」

「うん!Good Kill!さぁどんどん行くよ!!」

綾人のサポートしている刀使達のチームは連携がドンドン良くなっていった

それは綾人が刀使達を上手く誘導しサポートしていたからだ

それは刀使達も感じていた

(あれ?なんだかいつもより戦いやすい?)

(荒魂の方から私達の懐に飛び込んできてる)

(多分あの人が私達を上手く誘導してくれてるんだ)

(こんな人が一席以外に甘んじているなんて六刃将の一席って一体…)

「さぁ!後少しだ!頑張ろう!!」

「「「「「「はいっ!!!」」」」」」

 

 

「向こうは随分と騒がしいな、海翔お前は誰を探しているんだ?」

「ん?お姉ちゃんが鎌府の刀使だから居るかな―と思って探してるんだ」

「そうか、家族を探すのは良いがやるべき事を見失うなよ」

「はーーい!じゃぁ行ってくるね!」

「あぁ確りな……さて始めるか」

和人は持ち場に走って行く海翔を見届け自分の御刀を抜くと手近にいた刀使の小隊に加勢した

「はぁっ!!この辺りを抑えているのは貴方達か?」

「はいっ!そうです!」

小隊長の刀使の返事を聞くと和人は頷き荒魂に向かって構え直す

「暫し加勢する、まだ戦えるか?」

「はい!まだ行けます!!」

「よし、なら俺達で防衛線を押し上げる!俺達の後ろにはまだ民間人が残っているみっともない所は見せられないぞ!」

「「「「「はいっ!!」」」」」

和人達は目の前の荒魂の大群に飛び込んで行った

(ブリーフィングでは荒魂が出現した経緯については不明だと言われたが、現場が20年前の大厄災の近辺である所を見ると違和感は拭えない、やはり母さんに宛てられた手紙は真実なのか?)

「きゃぁっ!!」

「っ!?クソっ!!」

和人は荒魂の攻撃に耐えきれず吹き飛ばされた刀使に駆け寄り素早く荒魂を切り捨てる

「全員聞け!間違っても俺から離れ過ぎるな!死なない事が第一だ!生きて入れば万事どうにでもなる!!死ぬな!無様に足掻いても這いずり回っても生きろ!!」

和人は荒魂に囲まれている全員に聞こえる様に声を張り上げる、願わくばこの戦場に居る全員に届くように

 

「へっ!言うじゃねぇか和人パイセン!」

 

「もう少し大人しい人だと思ってたけどあんなに大きな声でるんだ、すご」

 

「良い事を言ってくれますね、和人君」

 

「案外熱い奴なんだな和人って、こっちも乗って来ちまった!」

 

他の4人が和人の声に影響されて士気を上げている時、それを同じ右翼で聞いていた海翔は仕留めた荒魂の残骸の上で座りながら聞いていた

「ん~~和人お兄ちゃん凄いな~、僕も頑張らなくっちゃ!ねぇー!お姉ちゃん達だいじょーぶ?」

「はぁっはぁっはぁっ!」

「何なのよあの子!現れたと思ったら10体以上いた荒魂を一瞬で倒すなんて…」

海人は残骸の下で肩で息をしている刀使達に声をかけるが息絶え絶えで返事をする余裕は無かった

「も~~だらしないなぁ、僕のお姉ちゃんならこの位全然大丈夫なのに~~よっと!」

海人は残骸から降りて収めていた御刀を抜くと

「それじゃぁ僕は先に行ってるから、お姉ちゃん達は休んでていいよ!それじゃぁね!」

海人はご機嫌な足取りで荒魂の群れに一人で斬り込んで行った

「あははは!!それそれぇ!!」

その様はまさに舞うが如く、閃く刃は確実に荒魂を切り捨てる

 

 

 

そして幾ばくかの時が過ぎ荒魂の数が見るからに減って来ていた

「荒魂の数が減ってきたな」

「えぇ、そろそろ終わりとみて良いでしょうけど、感じますか?」

「あぁ海の方からヤバそうなのが一つ近づいてきてる」

「おっ?また新手が来るのか?へへっ…やっぱり荒魂、退治はこうでないとなっ」

「お前はもう喋るな、立ってるので精一杯の癖しやがって」

勇刀達は中央の最前線で荒魂を迎え撃っていた

傍らには立っているので精一杯のフードが居た

「取り敢えず一旦退いてこのフードを救護部隊に任せよう、確実に限界だ」

「アタシはっまだやれるってのっ!」

「痩せ我慢も程々にしないと取り返しのつかない事になりますよ。

では速く退きましょう、手遅れになる前に」

「よし!じゃぁしっかり掴まってろよ」

「ちょっ!?何してんだよ離せよ!」

「喋ったら舌噛むからな!」

勇刀はフードを抱き上げて全速力で後方にいる沙耶香達の所まで戻った

「沙耶香!!」

「っ!ユウ…どうしたの?」

「直ぐにコイツを連れて最終防衛ラインまで下がれ、デカイのが来る」

「幸いその反応が最後の様ですから、それがここに到着するまでに他の雑魚を片付けます。君達は最終防衛ラインにまで来た荒魂を処理して下さい」

「任務了解……二人とも気をつけて…」

沙耶香は頷くと部隊員と共にフードの腕を確りロックして引きずって行った

「……おかしい」

「何がおかしいんですか?糸見さん」

「呼吹が何も言わない、いつもの彼女ならもっと騒ぐはず」

「確かに六刃将のお二人に連れてこられた時から大人しいですね」

「「あっ……」」

「キュ~~~~……」

二人がフードの刀使、七之里呼吹を見ると目を回して気絶していた、顔も真っ赤だった

「「気絶してる……楽だしまぁ良いか」」

二人はそのまま最終防衛ラインまで後退して行った

 

他の六刃将もサポートしていた部隊を同じ様に下がらせて残りを処理していた

「さてとこの辺の荒魂は片付いたな」

「えぇ、両翼共に片付いたようですね今此方に向かってきています」

勇刀と尊の元へ最初に現れたのは親衛隊だった

「衛藤勇刀!」

「おう、獅堂と此花、皐月と誰だ?」

「彼女は親衛隊の燕結芽ですわ」

「初めまして!おにーさん達が六刃将っていう人達?」

「あぁ、俺は六刃将隊長の衛藤勇刀だ、宜しくな燕」

「私の事は結芽でいいよ、勇刀おにーさん!」

「そうか、改めて宜しくな結芽」

勇刀が結芽と話している時尊は獅堂、此花と皐月と話していた

「それじゃぁ取り敢えず現れていた荒魂は全て倒しきったんですね」

「あぁ、中々手古摺らされたけどね、流石の僕達も少し疲れたよ」

「お疲れの所申し訳ないんですが、まだ来るようなんです」

「まだ来るんですの!?あれ程の荒魂たちを退けた後だと言うのに」

「鎌府の刀使達も疲労していますし、一番近くの美濃関に応援を要請しても確実に間に合いません」

皐月の冷静な分析に獅堂と此花が頷く

「俺達はまだまだやれるぜ!!」

「勇仁君は何時も元気だね」

「こちらはまだまだ戦える、鎌府の刀使達にはこれ以上無理をさせるべきではない此処から先は」

「僕達だけでじゅーぶんだよ!大きいのが1匹だけだし!」

各所に散っていた六刃将達が戻ってきた

「はぁ、皆はこう言っていますが、隊長は如何ですか?」

「ん?まぁぶっちゃけ、俺達六刃将に親衛隊の4人の計10人が居るんだ、これだけの仲間が居て何を恐れる事があるって話しだよ」

「ではここで迎え撃つと言う事だね?」

「おう!ここでぶっ潰す!」

獅堂の確認に気持ちいい笑顔で拳を突き出す

「んじゃさっさと片付けようぜ!」

「そうだね、サクッとやっちゃおう」

「これ以上住民の皆さんに不安を与え続けるわけには行きませんから」

「あぁ、早々にケリをつけるぞ」

「がんばるぞー!」

「偶にはこういうのも悪くは無いかな」

「そうですわね、柄にもなく高揚してしまいますわ」

「これもあのお方の御ために」

「おにーさん、おねーさん達には負けないからね!」

他の九人も拳を合わせて円になる、全員の表情は穏やかで柔らかい笑みが零れていた、

そこへ突如海面から水柱が立ち上り巨大な荒魂が現れた

「さぁ行くぞ!!」

10人が一斉に荒魂に斬りかかった

 

巨大な荒魂を前にして勇仁が興奮を抑えられない様に声を出した

 

「コイツはまたデケェのが出て来たな!」

「今度は勇仁君でも殴り飛ばしたりは出来ないんじゃない?」

「はっ!俺を舐めんなよ!コイツも殴り飛ばしてやるよ!」

「あまり一人で突っ込まないで下さいね!」

「俺はこういう奴とやりたかったんだ!!」

勇仁の奴、興奮し過ぎてるな、どうにかして鎮めないと何しでかすか解ったもんじゃねーな

「おい勇仁!取り敢えず、お前アイツを一発ぶん殴ってこい!!」

「ちょっ!勇刀君!?」

「それは彼を負傷させに行く様なものです!命令の撤回を!」

「構うな!行け勇仁!!」

尊と寿々花の抗議に勇刀は耳を貸さずに勇仁へ指示を飛ばす

「へっ!少しだけお前が上司で良かったよ!!ドラァッ!!!!」

最初こそ拮抗していたが次第に勇仁が押され始める

「はぁっ!!」

そこへ勇刀が荒魂の腕を斬り落とす

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

腕を斬り落とされた荒魂は数歩後ずさり傷口を抑える傷口からはノロが溢れだしていた

 

「よぉ、少しは落ち着いたか?」

「っ!お前っ」

「興奮するなとはいわねーよ、けど戦場での鉄則は、心はホットに頭はクールにだ、地の力は俺達の中では断トツなんだから、あんまりぶんぶん振り回しても宝の持ち腐れだぞ」

「………」

何も勇刀はやけくそで勇仁に指示を出したわけではなかった、極度の興奮状態になり明らかに正常な判断が出来ていないと判断したからだ

「だからあんな無茶苦茶な指示を…」

「勇刀君……」

「さぁこっからだぞ!勇仁!お前にはガンガン攻めてもらうからな!覚悟しとけよ!」

「っ!!…あぁ任せとけよ勇刀!!何だろうとぶっ飛ばしてやる!」

二人は拳をぶつけ合うと荒魂に向かって駆けだして行く、それに続く様に他のメンバーも行動を開始する

「アイツの攻撃は勇仁が弾け!それで出来た隙を俺達で突いて行く!

「任せろ!!いっくぜっ!!……なんだ、これ…」

いつの間にか勇仁以外の全ての物から色が消えさりモノクロの世界が広がっていた、そして時が止まったかのように全てが停止していた

そして目の前の海の中から何かが階段を上がる様に現れた

「何だ……お前」

《我はお前の刃、お前は我の誇り、お前の望みの為我は力を与えよう》

「何のことだ!お前は一体何なんだよ!荒魂か!?」

《我の名はお前の魂と共にある、さぁ轟かせてみよ、我の名を!》

この時勇仁は自身の身体から力が溢れるのを感じた、その力は体中を駆け廻りそして頭に名前が浮かび、それと同時に世界に色が戻り、時が流れ始める

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

勇仁は絶叫と共に天高く跳び剣を振り上げる

「全員!攻撃準備!!隙を逃すなよ!」

「いいや!俺とコイツで終わらせる!!」

勇仁は上段に構えた御刀をその名を叫び振り下ろす

「轟け!天譴(てんけん)!!!!」

すると勇仁の御刀とは別の巨大な刀が現れ荒魂を切り裂いた

その一振りで海が割れた、その現象がどれ程の衝撃かを物語っていた

その衝撃的な光景に勇刀達は茫然とするしかなかった

「はぁ~~~~~、これから宜しくな、天譴」

勇仁は名を知った御刀[天譴(てんけん)]を空に掲げてそう呟いた

 




勇刀達の戦闘回でした。
やはり戦闘描写は難しいですね、これからも上手く書けるように頑張らねば!
そしてある意味読者の方の期待を裏切る形になってしまいましたがご了承ください。
アニメ通りに進んでもなんだかなぁと思っていた節はあったので、この様な形にさせていただきました。

それではまた次回!



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6話 兄、対話

「あ~~疲れた」

「これなら荒魂と戦ってる方がマシだったな」

「メディア対応とはこんなにも疲れる物だったのか……」

「ていうか僕達質問になんて答えないのに居る意味あったの?」

「まぁあの会見自体僕等の事がメインでしたからね、その場に居る事に意味があったんですよ」

「お前ら親衛隊は慣れたもんだったな、真希」

俺達六刃将と親衛隊の面々は荒魂退治と記者会見(居るだけ)を終え折神家にある大広間で写シを解いてだらけていた

俺達の写シは刀使が使う者とは別物であるらしく

写シを張ると真っ黒のフード付きロングコートと黒のインナーとズボンという姿に変わる

「当然だ、この程度の事で疲労していては紫様の親衛隊は務まらないからな」

「私は紫様の政務に同行することもありますからこういう場は慣れていますわ」

「親衛隊も大変だな、はぁコンビニ行こう、なんか欲しいものあるならついでに買ってくるけど?」

「あまり部隊の隊長が進んでそういう事するのはどうかと……」

「俺がやりたいからやってんだよ、それに部下を労うのも上司の務めだろ?夜見」

「んじゃ俺コーラ」

「僕はサイダーがいいです」

「僕オレンジジュース!」

「僕は緑茶でお願いしますね」

「俺はコーヒーをブラックで」

「はいよ、親衛隊はどうする?何かあれば買ってくるぞ」

俺は端末に買う物をメモすると親衛隊にも声をかける、こいつ等も頑張ってたし何かあっても良いだろう

「いいの!?やったー!私アイス食べたい!」

「本当に宜しいんですの?私達の分まで」

「良いんだよ、さっきご当主さまから今回の件の報酬を貰ったからな」

俺は5人に封筒を渡す、その封筒はかなりの厚みがあり重い

そして改めてこんな重い封筒をポンと渡せる折紙家は凄い家なんだなと改めて思い知った

「それじゃぁ僕はCCレモンを頼むよ」

「では私は紅茶をお願い致しますわ」

「私はコーヒー牛乳をお願いします」

俺は親衛隊の物もメモし部屋を出てコンビニへと向かう

 

 

「ん~~この辺も夜になると静かだなぁ」

俺は夜の鎌倉を歩いていた、夜風が心地いい

「ん?あれは…舞衣ちゃん?」

「えっ?勇刀さん?」

思いもよらない再会をした俺達は近くにあったベンチに腰をおろしていた

「御前試合の時以来かな、元気してた?」

「…はい、勇刀さんはまだ鎌倉に居たんですね」

「うん、折角の休みだしじっくり観光したいなぁって、それにしても今日は大変だったねぇ急にあんなに沢山の荒魂が押し寄せてくるなんて、ビックリだよ(どの口が言ってんだよ、最前で戦ってた癖しやがって)」

「ホントにそうですよね、私は後方で避難誘導とか逃げ遅れた人の捜索とかを主にしていましたから最前線には出ていませんが、六刃将って人達が大活躍したんですよね」

「そうらしいね、俺も見て見たかったなぁ」

「駄目ですよ!荒魂退治は本当に危険なんですから!」

「解ってるって、専門家の言う通りにしますよ、でもこれだけは忘れないでね?」

「なんですか?」

「君の事を心配している人が居るって事を、別に無理をするなとか命を賭けるなって言いたいんじゃない、ただどんな状況でも必ず自分達の所へ帰って来て欲しいんだ、生きてさえいれば幾らでもやり直せるんだから」

「はい……」

「そう言えば舞衣ちゃんはこんな時間になにしてるの?中学生が出歩いていて良い時間じゃないと思うけど?」

俺はずっと気になっていた事を聞いた、普通夜も10時を過ぎたなら無暗に出歩かないのが常だ、幾ら刀使と言っても舞衣ちゃんはまだ中学生だ、しかも超が何個付いても良い位の超絶美少女だ、同じ妹を持つ兄として尊の気持ちは痛いほどわかる、ウチの妹も舞衣ちゃんに負けず劣らずの美少女だ、ただ剣術馬鹿で部屋の汚れ具合は酷いがこの世に一人しかいない可愛い妹だ、今ごろ何処で何をしているのやら

物思いにふけっていると舞衣ちゃんが強い意志の籠った瞳で俺を見据えた

「どうしても助けてあげたい子が居るんです。」

「さっすが!舞衣ちゃんらしいね誰にでも優しくできる、俺は舞衣ちゃんのそういう所好きだよ!」

「好きっ!?」

何故か舞衣ちゃんは顔を赤くして驚いていた

「だから舞衣ちゃんの優しさや温もりがその子に伝われば良いな」

「はい、ありがとうございます…そう言えば勇刀さんはどうしてこんな時間にそんなにたくさんのジュースを持っていたんですか?」

「………」

俺は自分が持っていた明らかに二人で飲むには多すぎるジュースを見てドキッとした

やっべ!こんな事になるとは思わなくて言い訳考えてねぇ!どうしよ!?

「えぇっと!そう!あれだ!今日は徹夜で遊ぼうってなってさ!お菓子とかは買っていたのだけど飲み物を買うの忘れちゃっていて!それで買いに来たんだ!」

「夜にお菓子を食べ過ぎると太っちゃいますよ?あと夜更かしもしないでちゃんと寝ないと駄目です!」

「あはは、いやー返す言葉も無い、流石妹が二人も居るだけあるわ、良いお姉ちゃんだ、それで探してる子はどんな子なの?」

「えぇっと沙耶香ちゃんは、背丈は私よりも小さい此の位で、髪の毛も白くて色白の可愛い子です」

(どっかで聞いたことある名前だけど鎌府の子かな?「えっとたしかそんなような子がコンビニの近くに居た様な気がする」

「本当ですか!?教えていただいてありがとうございます!それじゃあ私はこれで!」

舞衣ちゃんは笑顔になってコンビニの方へ走って行った

「気をつけてね~」

手を振って舞衣ちゃんを見送り俺も帰った

 

 

「ただいま~~」

「あら?ずいぶん遅かったですわね、何をしてらっしゃいましたの?」

「尊の妹に会ってさ、少し話してたんだよ、ほれ此花の紅茶な」

「ありがとうございます。それと私の事は寿々花で良いですわよ、私もお名前で呼ばせて頂きますわ、勇刀さん」

「そうか?ならそうするよ、寿々花」

そして其々の飲み物を渡して行くと結芽が居ない事に気づく

「あれ?結芽は?」

「結芽なら部屋を出たきり戻ってきていないな」

「そうか、なら結芽のアイスは冷蔵庫入れとかなきゃ」

俺はアイスを備え付けの冷凍庫に入れて自分の飲み物を飲みながらさっきの会見を思い出す

「まぁさかこんなに早く折神紫の元を離れて独立部隊として動く事になるとは思わなかったな」

「あぁそれについては僕も同意見だ、今回の戦いで君達の強さを見る事が出来たし、その力に何ら疑問は無い、しかし部隊行動は個々の実力とは別の力が求められる、いくら個々人の力が絶大でもそれは所詮単体での戦闘時にのみ発揮される、しかし集団戦はチームワークが大切だ、上手く連携が取れなければ個々の力は半減する事になる」

「私達も最初は苦労しましたものね」

「まぁその辺は実戦で鍛えろって遠まわしに言ってるのかもな、ご当主様は」

そう、さっきの会見で折神紫は俺達六刃将を直属部隊ではなく独立部隊にすると宣言した

その為俺達は独自の判断で行動できるようになった

と言っても明確な目標がないから何をするでもなく出動要請があったら出るって位だけど

「はぁ、素振りでもしてこようかなぁ~」

「山狩りから碌に休めていませんし、少し休息を取る事をお勧めします。」

「夜見の言う通りですわ、休む事も任務の内ですわよ?」

「それもそうなんだけどさぁ、勇仁にあんなの見せられたら、何かせずにはいられないんだよ」

夜見と寿々花の忠告に俺は頭を掻きながら答える

「確かに…あれは衝撃的だった、たった一撃であの巨大な荒魂を真っ二つにしてしまったんだから」

「確かにあれは凄かったよねぇ~御刀も主人に似るのかな?」

「おっきい御刀がズドーンてやってたよね!」

「あの様な力が他の皆さんの御刀にも秘められていると言うのですから大きな戦力には違いありません」

「勇刀君は今のままでも十分強いんだから焦る必要は無いと思うよ」

尊の言葉にも一理ある、力は急いで求めても良い結果は生まない、俺の師匠も同じ事を言っていた

「まぁでも頭が冴えちゃってるから落ち着く為にも少し体を動かしてくるよ」

そう言って俺は部屋を出る

「勇刀君……」

僕達は彼の背中を見送る事しかできなかった

程なくして建物の裏手から等間隔に風を切る音が聞こえて来た

 




皆でお喋り回でした~~。
投稿日や時間が毎週バラバラですみません。

そして毎回読んでいただいてありがとうございます。
毎回感想をいただけているので励みになります。
これからも宜しくお願いします。


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7話 兄 、再会そして修行

舞衣ちゃんと再会してから一夜明けて俺達は局長室に呼ばれていた

「お前達に舞草の拠点を捜索してもらいたい」

「確か反折神紫派の組織でしたよね」

「あぁここの所何やら動き出している様でな、お前達にはその拠点を捜索してもらいたい」

俺は紫から資料の書類に目を通す

「大体の目星は付いてるんだな」

「あぁその書類に記したエリアの海岸線だ、そこを虱潰しに探してもらう」

「りょーかい、んじゃ行ってきますわ」

そう言い残して俺達は局長室を出て、その足でヘリポートに赴き指定されたエリアへ向かった

「勇刀君昨日はよく眠れましたか?」

「あぁ、途中から合流した結芽と打ち合っていい感じで疲れて爆睡だったわ」

「結芽ちゃんと戦ったの!?どうだった!?強かった!?」

「あぁあの実力で四席って言うのには驚いたけど何か理由があるんだろうと思ったよ」

「へぇじゃぁ今度僕とも戦ってもらおうっと!」

ヘリの中では他愛の無い会話をしながら暇を潰していた、するとパイロットから目的地上空に到着したと言われたが着陸できるスペースが確保できない為、ある程度の高さまで高度を下げそこから写シを張り単身降下して行った

「さーて行こうか」

「行こうかって何処行く気だよ?これから探すんだろ?」

「まぁ取り敢えず行って見て、違ったらそこからバラけて探せばいいだろ、んじゃ着いて来い」

俺達は目的地へと向かった、そこには集落の様な物があり御社も確認できた

そして長船の刀使達もちらほらと見受けられた

俺達はその集落を見渡せる山の木の上にいた

「どうやら、当たりだったようだが、これからどうするんだ?隊長」

「取り敢えず妹に説教しに行くぞ、タイミング良く舞草のボスもご一緒だ」

「なんでそんな事が解るの?」

「ん?御刀の神気と刀使の霊気を探ったんだ、お前らも集中したら出来るぞ」

「あっ!ホントだ!お姉ちゃんもいる!」

「この感じ、姫和っ」

勇仁と綾人も探ったらしく俯いていた、あそこに居て欲しくないって思うのは当然だろうな

「てな訳で突撃訪問と洒落込もうか!」

俺達は木から飛び降り可奈美達の霊気を感じた離れに向かった

 

俺達が向かった離れでは折神朱音と白髪の爺さんそしてスーツの上に法被を着た長船女学園の真庭学長が可奈美達に話をしていた

「そう言えば昔、お兄ちゃんと一緒にお母さんのお墓参りに行った時、お兄ちゃんが言ってたんですけど」

『可奈美は、毎日母さんと剣の稽古をしていて何か感じた事はあるか?』

『ん~~特にないかなぁ、お母さんは剣の稽古しててもお母さんだったし、でも私が上手に出来るとお母さんの目がすっごくキラキラしてね!そこからあっという間に1本取られちゃうんだぁ!』

『そうなんだ』

『でも何でそんな事聞くの?』

『俺は時々、母さんから母さんとは違う何かを感じたんだ、冷たくて怖いけどなんだか凄く懐かしい物を……』

 

 

「美奈都先輩から…それはお前の兄から詳しく話を聞きたい物だな」

「確かに興味深い話ですね、彼女のご子息であるなら何かに気付いていても不思議ではありません」

「君のお兄さんは今どこに居るんだい?」

「可奈美ちゃんのお兄さんなら、先日沙耶香ちゃんを探している時に鎌倉でお会いしました」

「お兄ちゃんまだ鎌倉に居たんだ」

「鎌倉か此方からは手を出しずらい場所だな、さてどうしたものか」

 

「その事なら心配ご無用!!何故って!!」

「「「「「「「!?!?!??!?!?」」」」」」

「俺達が来た!!!!」

突然離れの障子が開くとそこには六刃将が勢ぞろいしていた

「なっ!?六刃将!?何故ここが!」

「最悪なシチュエーションだね!」

いきなりの出現に可奈美達は御刀を構えた

「はいはい、別にドンパチしに来たわけじゃないから物騒な物は下げろ」

臨戦態勢をとる可奈美達を前にしても冷静さを損なうことなく冷静な対応をする

「折神紫の部下であるお前達の言葉など信用出来るわけがないだろう、舞草の拠点を潰しに来たのか!」

「だからちげーっつうの!」

「では何が目的なのですか?」

声を荒げて否定する勇刀に朱音が問う

「愚妹への説教だよ」

「だって俺さっきまで話に出てた兄だから」

「「お兄ちゃん!?/勇刀さん!?」」

フードをとって素顔を晒すと約二名から驚きの声が上がった

「お兄ちゃん……おにいちゃーーん!!」

可奈美は抑えきれなくなったのか勇刀に抱きついた

そして緩みきった笑顔で頬ずりをしていた

「おぉっと!?よしよし元気だったか可奈美」

「待て可奈美!ソイツが何をしに来たと言っていたのか憶えていないのか!?」

「えっ?ぐまいに説教だっけ?ねぇ舞衣ちゃんぐまいってどういう意味?」

「えぇっと…自分の妹をへりくだる時に使う言葉で」

「へぇじゃぁお兄ちゃんが言うってことは私の事なんだね!……え?愚妹に説教って事は、私叱られるの!?」

「今更かよ!?お前の妹大丈夫なのか?」

「ホントだよ、こんなんで嫁の貰い手どころか彼氏が出来るのかすら心配だ」

「だから私にはお兄ちゃんがいるから彼氏なんかいらないの!私はお兄ちゃんと結婚するの!」

「お前まだそんな事言ってんの!?いい加減にしとけって」

「嫌っ!カナはお兄ちゃんのお嫁さんになるの!良いよって言ってくれたよね!?」

「お前良く覚えてるな、そんな昔の事!?」

「だってカナ、お兄ちゃんの事大好きだもん!」

「……じゃぁその大好きな兄貴に心配かけるんじゃねぇよ、バ可奈美っ」

勇刀が可奈美を強く抱きしめると可奈美も久しぶりに感じる兄の暖かさに不安から解き放たれ自然と涙が溢れていた

「少し見ない間に顔つきが少し変わりましたね、舞衣」

「っ!?尊兄さん!まさか兄さんまでっ」

「えぇ、でも御刀を手に入れた事以外は何も変わっていませんから安心して下さい」

「そうですね、安心しました……」

舞衣は優しく微笑み自分の頭を優しく撫でてくれる温かい手を感じ目を細めていた

しかし微笑ましい雰囲気ではない所があった

「姫和……」

「私を裏切ったのか…何でっどうしてっ!!」

「違う!俺の話を聞いてくれ!俺はお前を裏切ったわけじゃない!」

「うるさい!!お前の話なんか聞きたくない!!兄さんだけは私の味方で居てくれると信じていたのに!!こんなっ!こんなの!!」

「落ち着け姫和!俺はっ!」

「黙れ!!お前はもう!私の家族なんかじゃない!!私の敵だ!!折神紫諸共、殺してやる!!」

姫和は御刀を抜いたと同時に写シを張り、迅移で和人に迫り突き刺そうとしたが

一瞬の内に二人の間に勇刀が入り込み、小烏丸の切っ先を右手の指で摘まんで止め姫和が次に何かをする前に、今度は投げ飛ばし畳に抑えつけた

「………」

あまりに唐突な出来事に姫和は勿論、周囲に居た人物全員が唖然としていた

「言い忘れていたが俺は目の前で仲間が殺されるのを止められない程、弱くは無いぞ」

「っ!!」

抑えつけられている姫和は勇刀の殺気をその身に受けて震えていた

「お前の兄は、何よりもまずお前の身を案じていた、天城峠でお前の下に辿り着けなかった事を悔んでも居た、そんな兄貴が妹を裏切るわけないだろ」

勇刀は姫和の上から退き解放した

「姫和すまなかった、お前が苦しんでいる時に傍に居てやれずに、俺はお前の無事を祈る事しか出来なかった」

「兄さんっ…私、ごめんなさい!ごめんなさい!!」

「俺は大丈夫だ…妹の癇癪を受け止めるのも兄の仕事だからな」

和人は泣きじゃくる姫和を抱きしめて優しく頭を撫でる

 

「ねぇお兄ちゃん、あの子どうしたんだろう?」

「海翔?……」

可奈美が縁側にて体育座りで丸くなっている海翔を見つけた

「どうした海翔?」

勇刀は海翔の隣に座り話しかけると

「お姉ちゃんに嫌われた……」

「はい?」

「どういうこと?」

海翔は勇刀達に話した内容はこうだった

姉と再会できたことが嬉しく抱きつこうとした時、沙耶香は「嫌」と言って避けられ追い打ちとばかりに「近寄らないで……」と言われたらしい

「僕、お姉ちゃんに嫌われる様なことしちゃったのかな…ぼく、ただお姉ちゃんに褒めてもらいたかっただけなのに…」

海翔は顔を伏せてギュっと小さくなる

「はぁ、しょうがねぇな」

そう言って勇刀は舞衣と一緒に居る沙耶香に声をかける

「防衛線以来だね、沙耶香ちゃん」

「うん…まさか可奈美のお兄さんだったなんて……」

「俺も驚いたよ、沙耶香ちゃんが海翔のお姉ちゃんだったなんて」

「私は…お姉ちゃんなんかじゃ、ない」

「少しお話しない?」

「解った……」

「ゴメンね舞衣ちゃん、沙耶香ちゃん借りるよ?」

「はい、じゃあ私皆の所に居るから」

舞衣と離れ二人は縁側に腰を下ろす

「改めて可奈美の兄兼六刃将隊長の衛藤勇刀だ、よろしく」

「鎌府女学院中等部1年糸見沙耶香…よろしく」

二人は握手を交わし話始める

「沙耶香ちゃんは、海翔の事をどう思ってるの?」

「あの子は、天才…私と違って」

「天才?」

「そう…昔から私と同じ習い事をやって全部私を置いて上手くなる……その度に私は海翔と両親以外の人から比べられた」

あぁそういう事かと勇刀は納得していた

沙耶香は本心で海翔を嫌っている訳ではなかった、ただ姉である自分より弟である海翔の方が優れていた事、そしてその才能に劣等感を感じていた

そこに追い打ちをかける様に周囲の人間からの比較、正直兄弟が居たらそうなってしまってもおかしくは無いが、海翔の才能が著しく常軌を逸している為、重症化したんだろうと勇刀は感じた

「その後かな?沙耶香ちゃんが御刀に選ばれたのは」

「そう、これで私は海翔と対等になれると思ったのに……」

「何の因果か弟が自分と同じか、それ以上の力を持ってしまい、また置いて行かれるんじゃないか、追い越されてしまうんじゃないか…と」

沙耶香は頷き肯定する

「海翔は天才なんかじゃないよ」

「そんなはずないっ、あの子は特別…」

「沙耶香ちゃん手見せて」

「どうして?」

「いいから」

沙耶香は渋々勇刀に掌を見せるとまだ小さな手を握り確かめる様に触れる

「うん、豆のある良い剣士の手だ、毎日確りと素振りをしないとこうはならないよ」

「それがなに?こんなの普通…」

「普通沙耶香ちゃんと同い年でこんな手の子はそうそう居ないよ、それだけ沙耶香ちゃんが努力してるってこと」

「………」

「沙耶香ちゃんは努力の天才だ」

「っ!!私、が?」

「あぁ、沙耶香ちゃんの手を見れば解るよ、毎日の努力が今に繋がっている何よりの証明だ」

「勇刀…私強くなりたい…今よりももっと強く」

勇刀は沙耶香の手を優しく自分の手で包み、優しくでも確りと沙耶香に言うとそれに応える様に彼女も強い意志の籠った瞳で勇刀と眼を合わせた

「あぁ、君は強い、そしてもっともっと強くなれる…と言うわけでだ、お前ら俺が稽古つけてやろうか?」

その言葉に約一名が飛び付く

「ホント!?お兄ちゃん!?」

「あぁ、決戦前のパワーアップイベントだと思え、一日でも早く今より強くなってもらわないと困るからな」

「それはどうしてだい?急ぐ必要は無いと思うのだが」

「恐らく折神紫は俺達以外にもこの場所を探している筈だ、だが見つけるのには早くても5日は掛かるはずだ、よって3日でお前らを鍛える」

「3日!?いくらなんでも短すぎると思います!」

「お前らが今相手取ってるのは現役最強の刀使、折神紫だ、そんな奴が時間を与えてくれると思うなよ、あと5日後には折神家へ奇襲な」

「はぁ!?どんだけ詰め込むつもりだよ!?」

「そうでもしなきゃ間にあわなねぇんだよ!折神紫にとりついている荒魂が完全に復活してしまう前に斬るしかない、それが出来なければ20年前の再現、いやあの時以上の被害が出る、どれだけの命が犠牲になるか解らない」

「確かに衛藤さんの言うことにも一理あります。このまま手をこまねいている程、姉も愚鈍ではありません」

「そしてそれに伴いこちらの主戦力のパワーアップを図り、その後折神家へ奇襲と言う事か、しかしその奇襲に君達も加わってくれるのが手っ取り早いと思うんだが?」

「そうだよ!お兄ちゃん達が居ればもっと簡単に!」

「悪いがそれは出来ない」

「それは何故だ?」

「タギツヒメ討伐成功後、刀剣類管理局と特別祭祀機動隊は必ず混乱するだろう、その時の為に俺達は準備しなきゃいけない事がたくさんあるんだよ」

「というと?」

「僕等六刃将は、先日刀剣類管理局及び特別祭祀機動隊とは独立した部隊になりました。その際管理局局長に不測の事態が起きた場合、一時的にではありますが管理局局長の権限と特祭隊の指揮権がそのまま六神将の隊長である、勇刀君に降りてくることになっているんです」

「ということは、私達がタギツヒメを斬り折神紫が動けなくなった場合、私達の上司はユウユウになると言う事デスカ!?」

「まぁあくまで一時的にだけどな、その後の事は追々考えるさ、んじゃ明日から早速稽古始めるからとっとと寝て明日に備えろよ、じゃぁな」

「お待ちください」

「はい?」

「皆さんさえ宜しければ泊って行って下さって結構ですよ、御家族の方とも積もる話もあるでしょうし」

「いや別にそこまでしても「いやったーーー!お兄ちゃん一緒に寝よう!」解ったから!静かにしろ!」

可奈美は恐ろしい早さで朱音の話に食い付き勇刀に抱きつく

「可奈美…勇刀の事になると迅移より速い」

こうして六刃将も可奈美達と同じ場所に泊る事が決定した

この後可奈美が勇刀と一緒に風呂に入りたがるがそれはまた別のお話で

 




ここに師匠勇刀爆誕!
次話からは勇刀師匠が指導を頑張ります!


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8話 兄、指導へ

ニンテンドーswitchを買ってきてウキウキな腰痛持ちです。
今回から修行編に入ります。
勇刀流の指導はどんな感じなんでしょうか
それではどうぞ


朝食を食べ終え境内に勇刀と可奈美達が集まっていた

「んじゃ!稽古を始めるぞ!と言いたいところだが……」

「どうしたの?お兄ちゃん?」

「お前ら……なんで制服姿なんだよ!!」

「何か問題ありデスカ?」

「おおありだわボケ!男の俺がいるのにそんなヒラヒラの短いスカートで稽古なんかするな!特にエレン!お前タイ捨流だろう!体術使うんだからお前が一番危ないんだよ!!」

「「「「「あっ……」」」」」

「私は別にお兄ちゃんになら見られても全然平気だけど?」

一人を除いて全員が自分の間違いに気づき、勇刀同様顔を赤くしていた

「解ったらさっさと可奈美を連れて着替えて来い!」

「「「「「はいぃぃぃぃぃ!!!」」」」」

「うぇえ!?ちょっと皆待ってよぉ~~~~!」

5人は可奈美を引きずり着替えに走って行った

その様子を見て勇刀は溜息を零す

「はぁ、先が思いやられる」

「大丈夫ですか?勇刀君」

「あぁ尊か思いっきり出鼻を挫かれたよ、そっちはどうだ?」

「えぇ今の所機動隊や親衛隊に動きはありませんよ」

勇刀は尊達に捜索活動にあたっている特祭隊や親衛隊等の動向を探らせていた

尊の報告によればまだこの場所を特定できてはいないようだった

「でもまぁ時間の問題だよな……」

そういって空を見上げ、流れる雲を眺めて期間限定の弟子達が戻ってくるのを待つ、

そして6人が戻ってきた

「お待たせしましたっ!」

「はぁ、取り敢えず水飲んで呼吸を整えろ、その間に稽古の説明するから」

「その前に質問良いか?」

「なんだ?薫?」

「普通稽古って言ったら朝早くからやるもんだろ?なのになんでこんな時間からなんだ?」

薫が指摘した通り現在時刻 午前9時を過ぎたころだった

「じゃぁ薫は朝っぱらから寝惚けた状態でやる素振りと確りと目覚めた状態でやる素振りどっちが集中できる?」

「そりゃぁちゃんと起きて飯食った後の方が」

「だろ?昔みたいに朝早くから起きて闇雲にやるのを俺は好かん!勿論時には精神論や根性論も必要だが、それ主体では強くなるのに時間がかかる!」

「確かに今の私達には時間がありませんからネ」

「そう、だからこその効率化だ、俺の稽古はだいたいそういうもんだから覚えとけ、んじゃまずはストレッチから始めるぞ、二人組になって最低でも30秒は伸ばせよ」

勇刀の指示の下で稽古が始まる

6人がそれぞれペアを組みストレッチを始める

勇刀はそれを真剣なまなざしで眺めて時折アドバイスする

「薫、もうちょっと深い呼吸を意識しろ」

「お、おう」

「薫!ファイトデース!」

「姫和は今よりもう少し伸ばしてみろ」

「わかったっ……」

「頑張れ姫和ちゃん!」

その後押し手を入れ替えてストレッチを終え

「さて身体も伸ばした所で素振りだ、これは各々流派があるから細かい事は言わんが、自分の流派の型を確りイメージして刀を振る、疲れて正しく振れなくなったら自分の判断で休憩していいぞ」

「そんな事で本当に強くなれるのか?」

「ただぼけーっと休むだけじゃない、確りと正しい素振りをしている自分をイメージしながら休憩しろ、身体は休めて良いが頭は休めるなよ」

「「「「「「はいっ!」」」」」」

そこからは黙々と自分の流派の基礎をおさらいして行く時間が始まった

それぞれが一心不乱に刀を振る、その動作は滞りなく滑らかだった、しかし

「ほら、振りが雑になって来てるぞ!素振りをしている間は集中を絶やすな、精神と神経を研ぎ澄ませろ!指先までじゃない御刀の切っ先まで神経を張り巡らせろ」

「「「「はいっ!!!!」」」」

「沙耶香ちゃんと薫は少し休め、素振りの型が崩れてきてる」

「まだ、振れる……」

「オレもだ!まだやれるぞ!」

「その意気や良し、だからこそ一旦休め、頭の中で理想の型をイメージしながらな、力の入れ時と抜き時を身につける為でもあるんだからな」

勇刀の言葉に渋々といったように木陰に入り休憩を始める二人を見て満足そうに笑い、他のメンバーに眼を向ける

「何度でも言うが刀は自分の体の一部だと思え、昼まではこれを毎日やるぞ」

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

「ねねっ!」

6人と1匹は気合いの入った声で応え御刀を振り続けた

 

そして時刻は昼になり休憩を挿みながらとはいえ、御刀を振り続けた6人は限界になっていた

「だぁー!休みながらつっても流石にキツイ!」

「もう、腕が上がらない」

「くっ!これしきの事で腕が上がらなくなるなんて!」

「腕がぱんぱんデース」

「もう…ダメ」

「皆大丈夫?」

5人がヘ垂れこんでいる傍らで可奈美だけがけろっとした表情だった

「というか、なんで可奈美はそんなに元気なんだよ」

「私は時々、同じ事をしているからね~」

「お前は何処まで剣術バカなんだ」

「まぁまだ初日だし良いか、んじゃ俺と可奈美で、次にやる事を実演するから良く見とけ【帽子落とし】やるぞ」

「うん!!今日こそお兄ちゃんから帽子を落として見せるよ!」

勇刀は何処から取り出した帽子を被り両者が御刀を構える

「これからやる事は簡単だ、五分以内に俺が被ってる帽子を落とす、これだけだ」

「行くよ!お兄ちゃん!!はぁっ!!」

兄妹の剣戟が始まった

「帽子を落とすだけって、勇刀相手にそれが出来る奴が居るのか?」

「居ない…んじゃないかな」

5人の前で汗一つ掻かず、息一つ乱さず可奈美を圧倒している勇刀を見て改めて思う

なぜ衛藤勇刀はこんなにも強いのか、この圧倒的な力をどうやって手に入れたのか、勇刀に対して謎が深まった

「どうした!まだ2分しか経ってないぞ!!」

「まだだよお兄ちゃん!!」

「よぉしその息だ!!」

結局この日、可奈美は勇刀の頭から帽子を落とす事は出来なかった

「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」

荒い息遣いで木陰に倒れ込む可奈美をよそに次の挑戦者を募った

「それじゃぁ次だ!どんどん掛かってこい!」

「私が行く!」

「次は姫和か、んじゃ今から5分間だ!よーいスタート!」

「はぁっ!!」

姫和は自身が出せる最速の迅移で距離を詰め、その勢いを利用し御刀を振るうがいとも簡単に防がれ

「くっ!」

「ほいっと!」

「うわぁっ!!」

弾き返された、しかしそれでも負けじと斬りかかるが、素振りでの疲労が剣の振りを鈍らせる

「剣が鈍ってるぞ姫和!そんな鈍い剣じゃ誰にも届かないぞ!!」

「くっ!!」

姫和は更に力強く剣を振るうがいつもの様な鋭さは無くただ荒々しいばかりだった

「我武者羅に振るうな!全ての流派には先人達が残した術理がある、それを無視するな」

「わかっている!」

「解ってないから力任せになってんだろうが、こういう時こそ基本に立ち返れ!自分より強い奴にあからさまな奇襲は通用しないぞ!」

「くっ!!」

姫和の頭には御前試合での奇襲がフラッシュバックしていた

タイミングも位置も速度も全てが完璧なはずだった

しかし折神紫にはそれをいとも容易く防がれてしまった

そこから姫和の動きにキレがなくなり立ち上がれなくなってしまった

 

「さぁて次は誰だ?」

「おいおいマジかよ、あの二人を相手して息一つ乱さねぇとか、ありゃ人間じゃないな」

「薫、ユウユウに失礼ですよ」

「それじゃぁ私が行く……」

「次は沙耶香ちゃんか、いいよかかっておいで!」

こうして勇刀と可奈美達の稽古は続いて行った、次第に勇刀の剣に食らいついていける様になってはいたが誰も帽子を落とすまでには至らなかった

 

 

 

「はぁ~~ユウユウの稽古は堪えますねぇ~~」

「そうだなぁ~、長船での稽古が生ぬるく思えてくる」

温泉に浸かりながら各々思った事を口にする

「あぁ、しかしこれで強くなれるのなら、私はやり遂げて見せる!」

「おぉ~ひよよんが燃えてるな、こりゃ頼もしい」

「私ももっと頑張る……海翔よりも強くなる」

「………」

「可奈美ちゃん?どうしたの?」

舞衣は先程から俯いたまま一言も話さない、可奈美に話しかけた

「……いつになったら、お兄ちゃんに追いつけるのかなって、はやくお兄ちゃんと同じくらい強くなって褒めてもらいたいのに」

これまで可奈美は剣術に置いては勇刀に褒めてもらえる事は無かった、それは彼が可奈美の夢を理解し、その夢を叶えられるようにする為だった

「多分ユウユウは心の中ではカナミンの事をすっごく褒めてると思いますよ。だってカナミンと稽古をしてる時のユウユウは、凄く良いスマイルでしたから」

「確かに勇刀さん可奈美ちゃんと稽古してる時が一番楽しそうに笑ってるよね」

「そうなの?」

「ハイ!カナミンはユウユウとの稽古に必死で気付いていないかもしれませンガ、すっごく優しい笑顔でしたよ!」

「…………」

「多分だけどよ、アイツはこの中の誰よりも、お前に期待してると思うぞ、ホントお前ら兄妹は妥協ってのを知らないよな」

「ところで普段の勇刀さんはどういう人なんだ?」

「おっ?どうしたヒヨヨン?まさかアイツに惚れたか?」

「えっ?……」

「なっ!?ちっ違うぞ!私はただ、あの強さの秘密は普段の日常生活にあるんじゃないかと思っただけだ!決してそんな浮ついた気持ちで聞いたわけじゃない!」

「なーんだ安心したよ、姫和ちゃんにお兄ちゃんが取られちゃうんじゃないかって、お兄ちゃんはカナのお兄ちゃんだからダレニモアゲナイヨ?」

「「「「「…………」」」」」

瞳から光が無くなった可奈美を見て5人は確信した

兄の事になると剣術とはまた別のベクトルでヤバいと

「マイマイは知っていたのデスカ?カナミンのアレ?」

「私もここまでのを見るのは初めてかな、1年生の時に可奈美ちゃんがホームシックになって勇刀さんが面倒を見に来ていたけど、その時はこんな風じゃなかったし」

「はぁ~~勇刀も大変だな、大変なのは彼女も一緒か」

「どうにか矯正しないと不味いんじゃないのか?このままだと手遅れになりかねないぞ」

「どうするの?……」

「そりゃ、勇刀より良い男を可奈美にぶつけるしかないだろ」

「ユウユウよりも良い男の人デスカ…」

5人が勇刀よりも良い男を想像する

(勇刀さんは強くて優しくて)

(勇刀は温かくて包み込んでくれる…撫でられると凄く安心する)

(勇刀は良く人を見てる奴だよな、稽古の時も真っ先に俺の状態に気付いてくれたし)

(ユウユウはすっごく頼もしいデスネ、仲間思いで皆を大切にしてくれるので、誰に紹介しても自慢できマース!)

(勇刀さんはまだ出会って日は浅いが、不思議と心から信じられる人だ、可奈美は勇刀さんに似たんだな、駄目だ)

 

((((((勇刀/さん/ユウユウより良い人が想像できない……))))))

 

「皆どうしたの?黙り込んじゃって?」

 

舞衣達の気苦労など露知らずケロッとした顔で5人を見つめる

その顔に5人は一斉に溜息をついた

 

「???」

 

可奈美はそんな5人の反応を見て小首を傾げて不思議そうにしていた

そして6人は風呂から上がって、同じタイミングで風呂に入っていた勇刀と合流しようとしていた

 

「あっ!お兄ちゃんだ、おにーちゃー……ん」

可奈美の眼に飛び込んできたのは楽しそうに舞草に所属する長船女学園の刀使達と談笑する勇刀の姿だった

見る見るうちに可奈美の瞳から光が消えて行った

そしてフラフラと勇刀に近づいて行く

「おい、ヤバいんじゃないのか?あれ?」

「でも勇刀さんも居るし、大丈夫じゃないかな?」

5人は固唾をのんでこの状況を見守っていた

「ねぇ…お兄ちゃん」

「よぉ、さっぱりしてきたか?」

「うん、お兄ちゃんは何をしてたの?」

「お前らが風呂からあがって来るまで暇だったから、この子達と剣術の話と、ちょっとしたアドバイスを」

長船の刀使達は兄妹の時間を邪魔しては悪いと、その場を去って行った

「じゃ身体が温まっている間にストレッチしとけよ」

「お兄ちゃん!髪梳かしてよ」

「何で俺なんだよ、舞衣ちゃんとかにやってもらえばいいだろ?」

「お兄ちゃんにしてもらいたいのーー!やってやってーー!」

自分に抱きついて駄々をこねる可奈美に根負けして勇刀は彼女の髪を梳かしてやる事にした

そして可奈美は満面の笑顔で勇刀の隣に座り櫛とブラシを手渡した

「はぁ~、何時までも手のかかる妹だな」

「お兄ちゃんの事大好きだから仕方ないよね~~、お兄ちゃんもカナの事大好きだもんね!」

「ちょーしにのるな!まったく」

「えへへ~怒られた~~」

 

 

「勇刀も勇刀で剣術以外じゃ可奈美に甘甘だな、こりゃブラコンが加速するわけだ」

「ワタシもユウユウにブラシして欲しいデース」

「可奈美ちゃん、凄く気持ち良さそう」

「勇刀に撫でられると、凄く安心して…心が温かくなる」

「サーヤはカナミンが羨ましいデスカ?」

「……私も勇刀にやってもらう」

「あっ!おい沙耶香!?」

「どうするんだ!?行ってしまったぞ!」

 

沙耶香はササッと勇刀の下へ行ってしまった。

4人も沙耶香を追いかけて行き勇刀と合流した。

「ねぇ勇刀…」

「ん?沙耶香ちゃんかどうかした?」

「私の髪も、梳かして……」

「えっ?」

「俺に?」

勇刀は沙耶香の発言に驚いていた、そして可奈美は固まっていた

沙耶香は真っ直ぐな眼で勇刀を見つめブラシを差し出す

一つ溜息をつき

「良いよ、ここに座って」

勇刀は自分が座っている長椅子の右側を手で軽く叩いて座る様に促すと、沙耶香もちょこんと勇刀に背を向けて座る

そして勇刀は沙耶香の髪を優しく梳かし始める

さて、ここで可奈美は今どうしているかというと

「………」

勇刀の背中にしがみついて離れなかった

その様子を見ていた他の4人も途方に暮れていた

しかし沙耶香にはそんな事は関係なく、気持ちいいのか眠ってしまった

「サーヤ眠ってしまいましたね。」

「仕方ねぇ俺達で運ぶか」

「あぁ悪いがそうしてもらえると助かる」

「まぁお前も頑張れよ」

「おう………」

「goodnight!ユウユウ、また明日デス!」

「あぁまた明日な……はぁ」

エレンが沙耶香を背負い

薫達もそれに続いて部屋に戻って行った

その場に残った勇刀は未だに背中にくっついている可奈美に声をかける

「そろそろ寝ないと明日に支障が出るぞ?」

「……」

可奈美は勇刀の背中に顔を押し付けたまま小さく首を横に振った

それ以上の行動を起こさない可奈美に話しかける

「なぁ可奈美は、俺が他の子達に優しくするのがそんなに嫌なのか?」

「……だってお兄ちゃんは、カナだけのお兄ちゃんだもん…」

「でもこれからはそういうわけにもいかないって、可奈美も解ってるだろ?」

「……」

可奈美は小さく頷いた

彼女も兄が御刀を手にしたと知った時に既に解っていた、今まで通りの様な兄妹の時間は少なくなると、兄に甘える時間が極端に少なくなる事も、頭では解っているでも心はそう簡単に勇刀から離れる事は出来ない

母親が亡くなってから父は出張が増え家に帰ってくる事も少なくなった、その為勇刀はまだ小学生であったにもかかわらず、炊事洗濯を頑張ってこなせる様にして、可奈美の剣の稽古にも嫌な顔一つせず付き合ってくれた、自分も友達と放課後に遊んだり、休日には友達の家に遊びに行ったりしたかっただろう、修学旅行にも可奈美を一人に出来ないと言って参加せずに一緒に居てくれた

そんな兄が大好きだ、この世界の誰よりも、だからそんな兄との時間が少なくなるのが心底受け入れられなかった

「なら良いんだ、何も可奈美と一緒に居られなくなるわけじゃないんだから、少し一緒に居られる時間は少なくなるけど確り時間は作れるようにするからさ」

可奈美は勇刀の言葉を聞いて頷くと少し力を緩めた

「それじゃぁもう寝るか!」

「お兄ちゃんと一緒が良い……」

「じゃ一緒に寝るか、行くぞ可奈美」

「じゃぁおんぶしてお兄ちゃん」

勇刀は多少苦笑いを浮かべたがそれでも笑顔で応じた

そして可奈美は勇刀の暖かく大きな背中でいつの間にか眠ってしまった。

この時だけは確かに兄妹二人だけの時間が流れていた

 




勇刀さん、それじゃあ妹はいつまでたっても兄離れしませんぜ

それではまた次回で!


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9話 兄、指導そして偵察

今回は勇刀以外の六刃将がメインです!
少し短いかもしれません

それではどうぞ


「さーて今日も元気に始めようか!!」

「「「「「「はいっ!」」」」」」

勇刀は気合いの入った返事に嬉しそうな笑みを浮かべて指示を飛ばす

「そんじゃぁ昨日と同じ様に素振りから行こう!集中して行け!!」

6人はまた気合いの入った返事を返し各自適当な間隔を開けて素振りを始める

その様子を歩きながら全員の素振りをチェックしていき適宜アドバイスをして行く

 

(尊達の方は上手くやれてるかな)

勇刀は空を見上げ散らばって行動している5人を思い浮かべる

尊達は特祭隊の監視と荒魂の討滅を行っていた

 

「はぁ~ぁ、荒魂も出ねぇし、特祭隊や機動隊が拠点を探り当てた様子もねぇしつまんねぇな」

「仕方ないでしょ、特祭隊や機動隊の人達は僕等ほど身軽じゃないんだから」

勇仁の口に綾人がすぐさま突っ込みを入れると勇仁は木の枝の上で器用に寝転がった

「あ~ぁ、暇つぶし程度に荒魂出てこねぇかなぁ」

「そういう事言っちゃ駄目だよ、出てこない方が良いんだから」

「つってもよ~~……なぁ綾人」

「なに?勇仁君」

「…本当に上手く行くと思うか?」

「それこそやってみなと解らない事だし、その成功率を少しでも上げる為に勇刀さんが稽古つけてるんだよ」

「そうだけどよ」

勇仁は心配した面持ちで集落の方を見つめると綾人が何かを察したように

「ははぁ~ん、さては薫さんの事が心配なんでしょ?」

「はっ?誰が姉貴の事心配したんだよ!」

「言葉の端々からお姉ちゃん心配オーラが出てきてたよ~~」

「俺が何時そんなオーラ出したんだよ!あっ!おい綾人待て!!」

「まったないよ~~~!」

綾人はその場を飛び出し勇仁もその後を追い駆けて行った

 

「ねぇねぇ尊お兄ちゃん!」

「何ですか?海翔君」

尊と海翔のペアは森の中を巡回していた

「お姉ちゃん達がきょくちょーの所に行ったら、僕達はどうするの?」

「その場合僕等は任務失敗ですね、見つけるべき舞草の拠点を見つける事が出来ず襲撃を許してしまったんですから」

「ふーん、でもお姉ちゃんが元気なら何でもいいや!」

「そうですね、僕も同じです」

「今日は帰ったらお姉ちゃんと一緒にお風呂入るんだ!」

「それは良いですね、ゆっくりして来てください、では今日は早めに戻りましょうか」

「いいの!?やったー!!」

喜ぶ海翔を見て尊は残っている巡回分は自分一人で行おうと心に決めた

六刃将結成からここまで休める時間と言えば目的地までの移動時間と夜の短い睡眠時間のみだった為、まだ小学生の海翔にこれ以上の無理はさせられないと配慮した結果だった

「尊さんに海翔、こんな所に居たのか」

「あっ和人お兄ちゃん!」

「和人君、そちらの巡回も終わりですか?」

「あぁ、機動隊や親衛隊に動きは無い、小さな荒魂を斬った位の物だ」

「そうですか、僕等も今から切り上げる所です。一緒に戻りましょう」

「いや、しかしまだ残りが…」

「少し海翔君を休ませてあげたいんです。ここのところ休む暇もありませんでしたから」

「そういう事か、解った俺も残りの巡回に付き合おう」

「ありがとうございます。和人君」

二人は海翔に聞こえない様に小さな声で話しながら拠点に戻った、そして海翔と別れた後二人は巡回を再開し無事に終えた

 

 

そして宿泊している施設に戻り入浴する為風呂場へ向かう途中で勇仁と綾人が合流し4人で風呂場へ向かっていた

 

「向こうの動向は探れましたか?」

「いいや、まだここを探り当てられてなかったな、一度機動隊の仮設本部まで行ってきたが上手く行ってないみたいだったな」

「舞草か僕等が下手な事をしない限り見つかる可能性は低いと思いますよ」

二人の報告を聞いて少し安心した様に息をついた

そしてそのまま歩いて行くと勇刀と可奈美達が居た

「おっ尊達かおつかれ、どうだった?」

「お疲れ様です。折神紫派はまだこの場所を特定できてはいない様です。あくまで舞草や僕等が下手な事をしなければという前提条件が付きますが、皆さんは何をしていたんですか?」

「あぁ、今日は昨日のメニューに加えて長船の人達に協力してもらって集団戦闘の訓練をしたんだ、んで俺からのアドバイス中だったんだ」

勇刀の前には疲れ切ったように座っている可奈美達が居た

「はぁ~勇刀の稽古だけでもキツイのに、そこにまた別メニューぶっ込んでくるとか、鬼め!」

「はっはっはっ!お前らを強くする為なら鬼にでもなんでもなってやるよ、お前等には勝ってもらわなきゃ困るからな!」

「そう言えば糸見さんが居ませんね」

「沙耶香ちゃんならそろそろ海翔と一緒に来ると思うぞ、噂をすればだな」

「お待たせ……」

「おっ風呂!おっ風呂!お姉ちゃんとおっ風呂!」

勇刀達の下にいつも通りの沙耶香とウキウキ上機嫌で自作の歌を口ずさんでいる海翔が合流した

二人は手を繋いでこの前までの険悪な雰囲気が嘘のように無くなっていた

「なんかいつも以上にウキウキしてんな、海翔の奴」

「そうだねぇ、お姉さんと一緒に居られるのがよっぽど嬉しいんだろうね」

「よう海翔、随分とご機嫌だな」

「うん!今日はお姉ちゃんとお風呂に入るんだ!」

その言葉に沙耶香と可奈美そして和人と尊以外の全員が固まった

「……沙耶香ちゃんと海翔と可奈美以外集合!」

「えぇ!?お兄ちゃんなんで!?」

「可奈美は沙耶香ちゃんと剣術の話でもしてろ」

勇刀の集合に今まで倒れ込んでいたメンバーも即座に起き上がり勇刀達と円陣を組んで話し始めた

「取り敢えず女子ズ、海翔があぁ言ってるって事は行く先は女湯だ、それについてはどうだ?」

「いうて小学生だろ?アタシは別に気にはならんぞ」

「ワタシもこれと言って言う事はありまセーン、何より二人には家族との時間を過ごさせてあげたいデス」

「私も大丈夫です。兄さんとも私が海翔君と同じ年まで一緒に入ってましたから」

「んじゃ決まりだな、さぁてひとっ風呂浴びて来ますか」

「お前達ここに居たのか」

「Oh!紗南センセー!」

「なんか用かおばさん、俺達はこれから風呂でリフレッシュタイムなんだが」

「これが終わったら覚えとけよ薫……私はこれから学園に戻ってエレンが入手したアンプルの解析に入る、お前達も気をつけろ」

「ハイ!頑張りマース!!」

「コイツ等の事頼んだぞ、衛藤勇刀」

「任されましたよ、そちらも気をつけて下さいね」

「あぁ、それじゃぁな」

真庭学長は長船女学園に帰って行った

それを見送った勇刀達は風呂へと入って行った

 

「時に勇刀君、舞衣達の様子はどうですか?」

湯船に浸かりながら徐に尊が聞いて来た

他の3人も興味がある様だった

「アイツ等、特に薫は口ではあんな事言ってたが良くやってるよ、皆強くなろうと必死に食らいついて来る、本当だったらもっと時間をかけてやりたいけど、それを状況が許してくれない、だけどそんな状況でも確実に強くなってるよ」

「そうですか、君からそれを聞けて安心しました。心配しなくて済みそうですね」

「しっかしあのサボリ魔の姉貴がねぇ~、ほんとビックリだよ」

「姉さんはどう?」

「エレンは本番の為の練習、実戦の為の稽古っていうのが良く解ってるよ、俺との稽古も実戦を意識してるから、やりがいがあるよ」

今度は折神紫と同じ型で稽古つけてやるのも面白いかもな

と冗談交じりに笑っていたが誰もが冗談だろうと思い深くは追求せず笑って受け流していた

 

所は変わって女湯

「んぅ~~!」

「ん、あんまり動かないで…上手く洗えない」

「えへへ~~、ごめんなさーい!」

沙耶香が海翔の頭を洗っていた

その様子を見ていた4人は微笑みながら二人を見ていたが、ただ一人頬を膨らませて見ている人物が居た

「いいなぁ~~沙耶香ちゃん、私もお兄ちゃんと洗いっこしたかったなぁ」

「カナミンは本当にユウユウの事が大好き何デスネェ」

「違うよエレンちゃん!大好きなんじゃないの!私はお兄ちゃんを愛してるんだよ!」

「おいおい、なんだか昨日から症状が悪化してねぇか?」

「あぁ、昨晩何があったんだ」

一同は明らかにブラコンが深刻化している可奈美を見て茫然としていた

「そこは駄目だよお兄ちゃん!でもお兄ちゃんになら良いかも……」

((((もう、手遅れかもしれない……))))

そんな可奈美達を他所に糸見姉弟は

「こんどは僕がお姉ちゃんの背中洗ってあげるね!」

「お願い」                

「うん!痛かったら言ってね!」

微笑ましい光景が広がっていた

 

 

真庭学長を見送る為、フリードマンと朱音は集落の入り口付近まで来ていた

「それでは朱音様、私は学園に戻ります。どうかお気をつけて」

「はい、あなたも気をつけて下さい。吉報を待っています」

「ご期待に添えるよう努力します。」

真庭学長はそれではと言い残し車に乗り込み集落を後にした

 

「さぁ朱音様、戻りましょうそろそろ皆も風呂から上がって来る頃でしょう」

「そうですね、戻ったら夕食にしましょう。」

車を見送った二人は集落の中へ戻って行った

いつもより数段騒がしい屋敷を見て二人は知らぬ間に微笑んでいた

 

「さて、学園に戻ったら忙しくなるぞ、気合いを入れないとなっ」

車の中で気合いを入れ直し真庭学長は日も暮れた暗い空の下を学園に向けて走り抜けた

 

 

 

 

 

 

「そこに居たのか……私から良く隠し通した物だ、だがこれで終わりだ」

 

絶望が足を踏み出した瞬間だった

 




天辺を超えてしまった!
そしてストックも少なくなってきている!
ヤバイ!!


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10話 兄、脱出そして激情

2週連続投稿を遅らせたのは誰だ!?
そう!この俺だ!!ビクン!ビクン!(白目)

それではどうぞ


「さーて今日で決戦直前パワーアップイベントも最終日!経験値稼ぎも終わりだ!明日には折神家へ殴りこむ!準備は良いか!!」

 

毎日稽古をしていた神社の境内にいつもの7人が集合していた

 

「「「「「「はいっ!!!!」」」」」」」

 

威勢のいい返事に勇刀はにっこりと笑い

全員を見渡し少し間を置いて話し始めた

 

「正直言うと俺は剣士としてはまだまだ半人前だ、そんな俺が短期間で、それも他流派の門下生に手解きをして良いもんかと悩んでたんだが、どうやら俺の杞憂だったらしい」

勇刀は6人の顔と眼を一人一人確りと見つめ何かを確認していた

可奈美達の眼には確かな自信と力強さが宿っていた、

「強くなったお前等に御褒美だ、今日は俺達がお前等の相手をしてやる」

「俺達?」

可奈美が小首を傾げ聞き返すと後ろの階段から集団の足音が聞こえた

「お―居た居た!待ったか?」

「いいや、丁度いいタイミングだったよ」

「何だ?何だ?六刃将が揃い踏みじゃねーか、まさかご褒美って」

「おう!パワーアップイベント最後の〆は、俺達六刃将との集団模擬戦闘だ!!」

「「「「「「えぇええええええええええええええええ!?!?!?!?!?」」」」」」

境内に6人の叫び声が木霊した

そしてそのまま問答無用で始まった模擬戦闘は数回に分けて手を変え品を変え行われ、終わる頃には双方全身泥だらけになっていたが、誰一人下を向いている者は居なかった

そして女子一行は少し速いが露店風呂で汗を流していた

そして脱衣所に戻ってくると

「あれ?私達の服が無いよ!?」

「どういうこと?」

「もしかして、ねねか?」

「ねねっ!?ねねーっ!ねねーっ!」

籠の中に入れておいた自分達の服が無くなり真っ先に疑いの矛先が向いたのは…そう淫獣ねねだった

ねねは自分ではないと身振り手振りで必死に弁明するも疑惑は晴れなかった

「皆、上がった見たいね」

「孝子さん、私たちの洋服が」

「それなら洗濯に回しといたから、乾くまでこっちを着ていて」

孝子が取り出したのは浴衣だった

「それじゃぁ今日はお祭りだから遊んできなさい、外で皆待ってるから」

それを手際よく配り全員に着付け終えると脱衣所から出て行き、その後を追って外に出ると

「おっ似合ってるな、可奈美」

「本当!?お兄ちゃん!」

兄弟達が待っていた

 

「良く着付けられていますね、可愛いですよ舞衣」

「ありがとうございます。尊兄さん」

 

「ますます、母さんに似て来たな姫和、似合っているぞ」

「ありがとう…少し気恥ずかしいな」

 

「ヘーイ!アヤト!お姉ちゃんの浴衣姿はどうですかー?」

「すごく似合ってるよ、姉さん」

 

「よく似合ってんじゃん、馬子にも衣装ってやつか?」

「んー、我が弟ながらここまで女心が解らん奴だったとは、他の家をよく見てみろ、このままじゃ益子家も終わりだな」

 

「どう?…変じゃ、ない?」

「ぜんぜん変じゃないよ!すっごく可愛いよ!お姉ちゃん!」

 

それぞれが家族と会話を終えて縁日に繰り出して言った

勇刀達は写しを張った状態ではなく、普段着に着替えていた

 

「お兄ちゃん!私りんご飴食べたい!」

「解ったから走るな!転んだらどうすんだ!折角の浴衣が台無しだぞ!」

「早くはやくーーー!」

妹に振り回される兄が居れば

 

「舞衣は何か食べたい物はありますか?お金は全て僕が出しますから」

「じゃぁ…綿菓子が食べたいです」

妹とゆっくり縁日を回る兄が居れば

 

「ナカナカうまく掬えませんネ!」

「……それっ!!やった!掬えたーー!!」

「Oh!流石マイブラザー!!」

姉と仲良く金魚すくいに興じる弟がいれば

 

「やっぱ祭りと言えば飲み食いしながらまったり過ごすに限るな」

「そーだなー」

「弟よ、たこ焼き一つくれぇ」

「ホレ、熱いぞ」

「はふっはふっはふっ!!……中々いけるな、このたこ焼き」

「だろ?」

ベンチに座りラムネを飲みながら、焼きそばとたこ焼きを姉と一緒に仲良く食べている弟も居れば

 

「お姉ちゃん見て見て!!じゃじゃーん!!」

「海翔…カラフルで綺麗」

「この棒を繋げて……お姉ちゃん行くよーエイッ!」

「っ!…今の凄い綺麗だった…海翔もう一度、行くよ」

露店で売っていた、折ると光る細い棒を輪っかの様に繋ぎ合せて、フリスビーの様に姉と投げて遊んでいる弟も居た

 

其々が思い思いに家族との時間を楽しく過ごしていた

 

 

「ねえ、お兄ちゃん……」

「何だ?可奈美」

勇刀と可奈美は山の中にある小川のほとりで適当な大きさの岩に腰掛けていた

「お兄ちゃんは、どうしてそんなに強くなれたの?」

「そんなの決まってるだろ?可奈美や母さんを護る為だ、つっても結局母さんの事はどうしようも無かったけどな、だからせめて可奈美だけでも護れる様になる為に、俺は強くなったんだ」

 

「カナももっと強くなるにはどうしたらいいかな?」

「可奈美は今も十分強いぞ、少なくともあの6人の中で一番集中してるのは、可奈美と剣を合わせてる時だ、次いで沙耶香ちゃんと姫和ちゃんだな」

 

 

「まぁでも俺から言わせればまだまだ、だから当分の間は護る対象だけどな」

そう言って立ち上がり空を見上げて夜空に広がる星を眺める

「お前等刀使は荒魂に対抗できる唯一の希望なんだよ、俺達と違ってな」

「でもお兄ちゃん達だって御刀に選ばれて、私達と同じ刀使になったんだよ」

「俺達の力は何時失われるか解らない言わば付け焼刃だ、そんな力より今まで脈々と受け継がれてきたお前達の力の方が重要だ、だから俺はお前達を全力で護り育てる」

勇刀は振り返り可奈美をじっと見つめてそう言った

確かに可奈美の言う通り、勇刀達も御刀に選ばれ刀使と同等かそれ以上の力を手に入れた

しかし、この力についての文献や伝承は極めて少なく、情報量が圧倒的に不足している、そんな力を頼るよりも古来より連綿と受け継がれ確実に扱う事の出来る力を伸ばす方が確実だと勇刀は考えていた

「だから俺はお前達が巣立って行くのが楽しみだよ」

「私は何処にも行かないよ、お兄ちゃん」

「可奈美?」

「愛してるよ、お兄ちゃん」

「……そういう事は家族以外の、本当に大切な人にいうセリフだぞ、そういう奴に出会うまで取っとけ」

可奈美の急な告白に多少フリーズしていたが直ぐに持ち直した

が可奈美は眼に涙を溜めてて勇刀を見ていた

「カナにはお兄ちゃんが居る、違う…カナにはお兄ちゃんしか居ないの、お兄ちゃんは何時だってカナと一緒に居てくれた!一人で寂しくない様にって!小学校の時、クラスの男の子達に苛められてる時も何時もカナを護ってくれた!私はそんなお兄ちゃんが大好き!愛してる!私はお兄ちゃんとずっと一緒に居たい!!お兄ちゃんの隣にずっとっ…」

大きな瞳から涙を零しながら勇刀に抱きついて離さなかった

「可奈美……」

勇刀はこの時、可奈美の想いが家族に向けられる愛情では無い事に気がついた

それでもこの愛を受け取る事は出来なかった、それは自分と可奈美の関係が兄妹だったからだ

無論、勇刀はそれを確りと理解していた、故に返答は解りきっていた

「ありがとう可奈美、でも俺はその想いに応える事は出来ない、いや応えちゃいけないんだ、だって俺達は兄妹で家族だから、ごめんな」

その言葉を聞き可奈美は泣き崩れてしまった。

そんな可奈美を勇刀は優しく抱きしめて子供をあやす様に撫でる

その時だった、六刃将がこの里に近づく御刀の神気と刀使の気配を察知したのは

「「「「「「っ!!!!!」」」」」」

 

「尊兄さんどうかしましたか?」

「舞衣!今すぐ着替えてこの里から脱出してください!!」

「えぇっ!?」

 

「くっそ!!急に何だってんだよ!!」

「それはこっちのセリフだ!何があったんだよ勇仁!」

 

「姉さん速く皆と合流するよ!でないと手遅れになる!」

「What!?どういう事デスカ!?」

 

「結芽ちゃんがここに向かって来てる!!」

「親衛隊がっ……でもどうしてここが…」

 

「どういう事だ、親衛隊にも機動隊にも察知されたそぶりは無かった筈だ!」

「奴等どうやってこの場所を」

 

其々が自分の妹と姉を朱音の下へ集合させた

 

 

「皆さん一体どうしたのですか?」

屋敷でフリードマンとこれからの話し合いをしていた朱音が外へ出てきた

「直ぐにこの里から脱出しろ!親衛隊が来る!おそらく機動隊も同時進行で行動している筈だ!完全に囲まれる前に潜水艦で海へ出ろ!」

 

「どうやってこの場所を見つけ出したと言うんだ」

「恐らくノロのアンプルだろう、舞草の拠点を見つける為にワザと持ち出させ、泳がされたんだ、折神紫が抑え込んでいる大荒魂はその反応を探っていたんだ」

勇刀が仮説を述べるとフリードマンは確信めいた表情で頷き、それを見た他のメンバーは驚愕した

「じゃぁそれを長船に持って帰った学長も」

「あぁ、必ず何かけしかけてくる筈だ、そのまま潜水艦へ行け!着替えはそこで済ませろ」

「お兄ちゃん達は!?」

「俺達は間に合わなかった風を装って外の連中と合流する、手出しはしないから安心しろ、それじゃぁ可奈美達の事頼みましたよ」

「はい、それではまた…さぁ皆さんこちらへ!一刻も早く脱出しましょう!」

朱音は可奈美達を連れて脱出用の通路から潜水艦へ向かって行った

 

「勇刀君」

「あぁ、俺達はこれから外の機動隊と合流する行くぞ!」

 

五人は頷くと抜け道を使い里の外へ出て機動隊と合流し、入口から改めて里の中へ入ると機動隊が突入した後だった

 

勇刀は現状を把握する為、指揮車にいる機動隊の隊員に声をかけた

「酷いなこりゃ、状況は?」

「これは隊長殿!現在親衛隊の燕四席と共に機動隊員が内部へ突入し反乱分子の刀使と交戦中です!」

「そうか…このボウガン見たいな装備は?」

勇刀は上空からドローンで撮影されている映像に見た事の無い装備を持っている隊員を見つけた

「写シを張った刀使に対抗する為に新しく支給された装備です。この矢が当たると写シを半強制的に剥がす事が可能です」

「いつのまにそんな物を」

「予てより試作していた物を無理やり実用化させたようです。」

「…負傷者の数は?」

「想定以上に抵抗が激しく苦戦しており双方ともに負傷者は増加しています。」

「解った、負傷者の対応は任せます。俺達は里の周囲を個々で固めます。」

「はい!貴方達が居れば盤石です!ご武運を!」

そして勇刀達は里の周囲に散らばり手は出さずに状況を最後まで見届けた

里の制圧が完了し事後処理をしている時に事件は起きた

 

 

「………はぁなんだかなぁ」

勇刀は静かになった里を一人歩いていた、その顔は複雑な心境を露わにしていた

周囲を見渡すと縁日の名残りがあり、先程までお祭で賑わっていた事が嘘の様な静けさだった

 

「管理局も舞草も敵は同じ荒魂なのに、なんでこんな事になるんだろうな」

「キャーーーーーッ!!」

「っ!?」

勇刀がボヤキながら歩いていると何処からか女性の叫び声が聞こえた、それも複数の声が

ただならぬ気配を感じ勇刀は声のした方へ駈け出した。

 

「へへっ!いくら刀使って言っても今は御刀も没収された上に国に反旗を翻した逆賊だ、何したって文句は無ぇだろう!」

「長船の刀使は良い身体の奴が多いからな!ラッキーだぜ!」

「手錠で拘束されてるからヤリタイ放題だな!!」

 

「おい!お前等何してる!!」

勇刀が到着した時彼の眼に飛び込んできた光景は機動隊の隊員に犯されそうになっている舞草に所属し里で抗戦していた長船の刀使達の姿だった

 

「おぉ!六刃将の隊長殿!アンタも一緒にどうですかい?良い憂さ晴らしになりますよ」

「あれだけ勇ましく戦ってても御刀さえなければただの小娘だ、このギャップがたまんないんすよねぇ!」

「勿論この事は内密にお願いしますよ?この事がバレたらただでは済まないんで」

 

「ヒッ!?来ないで!来ないでぇ!!」

長船の刀使は無言で近づいてくる勇刀と今にも自分達を犯そうとする、隊員達に精一杯の拒絶を示すがその全ては徒労に終わるかと思われた

「テメェら……歯ぁ食い縛れぇ!!!!」

「がはっ!」

「ごほっ!」

「がぁっ!!」

 

「えっ……」

「どう…して」

 

刀使達は今目の前で起きた事に眼を点にしていた

自分達を襲おうとしていた男達を、六刃将の隊長が殴り飛ばした

そしてその男は、自分達を護る様に暴漢達との間に立っていた

 

「何しやがっ…る……あ、あぁ」

暴漢達が威勢よく顔を上げると視線の先にはフードの奥から自分達を睨みつける鋭い眼光があった

その眼から伝わる威圧感に体が小刻みに震え始めた

その圧は次第に大きくなり周囲の空気さえも変えてしまった

 

その圧を感じたのか尊達や結芽がその場に駆け付けた

 

「勇刀君!!」

「何々?何かあったの?」

「うわー勇刀お兄さん、もしかしなくても凄く怒ってる?」

「何て圧だよ…こりゃご当主様と同等かそれ以上じゃねぇかっ」

「っ………」

「こんなのを真正面から当てられてる、あの3人はたまったもんじゃ無いだろうね、ホント何したんだろ?」

 

そしてその圧に誘われて周囲にノロが溢れだし複数の荒魂が出現した

 

「丁度いい、お前等みたいな下衆野郎共を斬ったとあっちゃ、俺の御刀が薄汚れちまうからな、アイツ等に処理してもらおう」

 

「あんた、何言って…おぉい!やめろ!やめてくれぇ!!」

「おらぁ!!」

 

「「「「「!?!?!?!?」」」」」

 

勇刀は隊員達の襟首を掴み、そのまま荒魂の前に投げ込んだ

その光景を見たその場に居た全員が言葉を失った

 

そして荒魂達は投げ込まれてきた隊員達ににじり寄って牙をチラつかせる

「ちょっと勇刀さん!何してるの!?」

「自分が何をしたのか解っているのか!?」

「黙ってろ」

「アンタはっ!」

「黙れと言ったっ」

「「「「「「「っ!?!?」」」」」」」

勇刀に詰め寄った綾人と和人が諌めるが一言で一蹴され、そして二言目には直に殺気を当てられ後ずさった、彼の瞳からはいつもの温厚さは消え失せ、かわりに冷徹なまでの殺意で満たされていた

 

「ひぃいいいいいいいいいっ!!!!たっ助けてくれぇ!!」

「そうか、助けてほしいか、なら認めろ自分たちでは荒魂を祓う事は出来ないと、そこで認めて地べたに額を擦りつけて許しを請え、そうすれば助けてやる」

「そっそんな!ひぃいいいいいいいい!!!」

「くそ!このままじゃ!」

「誰一人、今居る場所を動くな、これは命令だ」

「でも早く助けてあげないとあの人達荒魂に」

「何も助けないとは言ってないだろ、アイツ等が俺の出した条件を満たせばすぐに助けてやる」

「勇刀君……」

「早く認めた方が身の為だぜ、でないと本当に死ぬぞ」

「解った!認める!認めるから!!俺達だけじゃ荒魂を祓う事なんか出来ない!こんな事二度としないから許してくれ!!助けてくれぇ!!!!」

その言葉を聞いた瞬間荒魂達が一斉に隊員達に飛び掛かった

「くそ!間に合わな…何時の間にあんな所に!?」

和人が御刀に手をかけた時、すでに勇刀は荒魂を切り裂いていた

素人目には何が起きたか視覚で捉えることすら出来なかったが確かに3匹居た荒魂は全て御刀で斬られノロの結合が解かれ液状になっていた

「最初からそう言え屑が!次同じ事やってみろ!そんときはその首即座に斬り落としてやる……解ったか!!!!」

「「「はっはぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」」」

「じゃぁ懲罰房で一月頭冷やして来い!!!!」

「「「了解しましたぁああああああああああああああああ!!!!!!」」」

隊員達はダッシュでその場を去り、自ら懲罰房のある車両へ閉じこもった

 

そして勇刀は被害にあっていた刀使達の所へ行き

「ゴメンな、俺がもっと早く来てれば怖い思いせずに済んだのに」

「そんなこと無いです、貴方は私達の事を確り護ってくれました!確かに少しやり過ぎだとも思いましたけど、それでも私達は確かに貴方に救われました!」

「そうか……大丈夫皆の事は悪い様には絶対させないから、刀使の力は絶対に必要なんだ、特にアンタ達みたいな年長の経験豊富な刀使は」

勇刀からは今まで纏っていた冷徹な雰囲気は消え、いつもの柔らかい状態に戻っていた

「綾人、和人驚かせて悪かったな」

「ほんとだよ!凄くビックリしたんだからね!」

「あぁ今回の様な事はもう止めてくれ」

「悪かったな、謝りついでにこの子達を護送車まで送ってやってくれ、お前等なら安心して任せられる」

「りょーかい!」

「あぁ、任された」

二人は刀使達を連れて護送車へ向かった

それを見送ったあと尊が勇刀に声をかけた

「勇刀君」

「何だよ尊、お前は初めてじゃないだろ?あの俺を見るのは」

「そうですね、君のそういう所はまったく改善されていませんでしたね、やはり許せませんか?あぁいう手合いは?」

「あぁ、人の想いを踏み躙って自分の欲を満たそうとする奴を俺は絶対に認めない、刀使達はあんな奴等の欲情を発散させる為に命を懸けてるわけじゃない、怖い思いをしてるわけじゃないんだ」

「そうですね、しかしそんな思いがあったとしても今回の君の行動は決して褒められた物じゃないと言う事は解っていますね?」

「解ってるよ、俺もまだまだって事だな、あ~ぁ久しぶりに怒ったから疲れちった、俺達は明日の朝になったら鎌倉に戻るぞ、結芽もそうだろう?」

「うん!それよりさそれよりさぁ!私と立ち合いしてよ!今回の人達ダメダメだったから不完全燃焼だったんだぁ!」

「鎌倉帰ったら付き合ってやるから今は勘弁しろ!」

「約束だからね!おにーちゃん!」

「はいはい、んじゃおやすみー」

 

こうして事態は着々と終結へと向かって行く

 

 

その頃、脱出した可奈美達は

「はっ!誰かがお兄ちゃんのこと、おにーちゃんって呼んでる気がする!!」

「可奈美さんは何を言っておられるのですか?」

「んー、カナミンはユウユウに対するシックスセンスが異常に発達してますカラ」

「要するに変な電波でも受信したんだろう」

「そうですか……」

「愛のなせる技という所かな」

 

 




初めて勇刀がブチ切れましたね。
いやー、どうやって怒らせようか、どうしたら怒るだろうかと悩みに悩みましたよ本当に!

それではまた次回!


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11話 兄、帰還そして決戦へ

折神家、広間
そこでは六神将のメンバーが大きな炬燵に入りテレビを見てみかんを食べながら暖を取っていた

「はぁ~~、やっぱり正月は炬燵でミカン食いながら寝るに限るわ」
「勇刀君、何故僕らはこんなことをしているんですか?」
「確かに、本編だと割りとシリアスって言うか緊迫してる所だよね?」
「そんな話の前にこんなダラダラしてて良いのかよ?」
「まぁこういう事があってもたまには良いだろう」
「あぁ~~~~!!し〇えが強い!!つりざおのリーチ長すぎ!!」

するとそこへ可奈美達が入ってきた

「おにいちゃーん!アイス買ってきたから一緒に食べよう!」
「おっ!気がきくな可奈美」

「尊兄さん、お茶を淹れてきました。それからお茶菓子の代わりにクッキーも」
「ありがとうございます。舞衣のクッキーは美味しいから大好物だよ」

「ヘーイ!アヤトお姉ちゃんと一緒に遊びましょう!」
「いいよ、何しよっか?」

「お~さぶさぶ!勇仁外から帰った姉を炬燵に入れてくれ」
「ん?こっち来い、ほら姉貴の半纏」

「海翔…スプラトゥー〇やろう…」
「うん!!一緒にやろう!」


「ってそうじゃなーーーーい!!!!」
「どっどうしたの!?お兄ちゃん!?」
「どうしたも、こうしたも俺達がここにいるのは家族でだらだら過ごすためじゃない!」
「じゃぁ何のために僕らはここにいるんですか?」

「それは……」

「「「「「「それは????」」」」」」

「この刀使ノ兄弟を読んでくれている読者のみんなに新年の挨拶をするためだよ!つーわけで!行くぞ!3・2・1!」


「「「「「「「新年明けましておめでとうございます!本年も刀使ノ兄弟を宜しくお願い致します」」」」」」





「あぁ~~~疲れたっと」

勇刀は鎌倉の管理局本部に帰って来るなり

六刃将の待機室に置いてある豪奢なソファに寝そべっていた

「怪しまれてる様子は無かったけど、問題はこの後だよなぁ~~」

「何が問題なんだい?衛藤勇刀」

「真希か、逃げたアイツ等がいつここに襲撃を仕掛けてくるか考えてたんだ」

いつの間にかソファの背凭れの後ろに真希が現れた

「そんな事か、僕等親衛隊と君達六刃将が居ればそんな事は問題にすらならないよ」

「いやぁ~それがさっき報告に行ったら、俺達は別の場所で待機って言われてさ、それで悩んでたんだよ」

「なんだって!?それは本当かい!?」

「あぁ、何度も考え直す様に言ったんだが、頑として首を縦に振らないんだな、ご当主様は」

「僕からも紫様に話をしてくる!」

「止めとけ、俺が言って駄目だったんだ、真希が行った所で変わるわけないだろ」

「しかしっ!」

「しかしももやしも無ぇよ、この決断にも何かご当主様なりの意図や意味があるんだろ、俺達はそれに従うだけだ」

「………」

「それにここには親衛隊が居て更に鎌府の刀使達も大勢いるんだ、これでどうにも出来なかったらしょうがねぇよ」

「こんな所で二人きりでお話しとは、どうなさいましたの?」

「寿々花か御当主様の采配を少しな、寿々花はどう見る?」

「そうですわね、丁度柳瀬さんとも同じ話をしましたけれど、私は鎌府の担当区域を六刃将の皆さんでカバー・フォローしつつ、そこで浮いた人員を折神家の護りに回す御つもりでしょう、恐らく紫様は数で圧倒するおつもりですわね」

「まぁそれが妥当だよな、相手はたったの6人だ、少数には数で押すのが一番手っ取り早いが荒魂への対処も手放しには出来ない、そこで一人で刀使何十人分の戦闘力がある俺達の出番ってわけだ」

勇刀はソファから起き上がりながら自分達の役割を冷静に考える

 

「人使いが荒いよまったく」と愚痴を零しながら立ち上がる

その表情は少し疲れの色が見えた

「何処へ行かれますの?」

「ん~?シャワーでも浴びてスッキリしようと思ってさ……一緒に浴びるか?」

「なっ!?」

「へっ!?/////」

勇刀の提案に赤面して硬直する親衛隊一席と二席を見て勇刀は小さく笑う

「冗談だよ!しかし真希と寿々花はもうちょっと男に対して耐性つけと居た方が良いぞ、二人とも美人だから刀使を引退したらモテるぞぉ~~」

「かっからかわないでくれ!」

「そっそそそそうですわ!!こんな非常時に何を考えていらっしゃいますの!?…まぁこんな時でなければ吝かでも無いのですけど……」

「……寿々花?」

「なっななななんでもありませんわ!!!」

寿々花のお嬢様らしからぬ爆弾発言に小々面喰った勇刀と真希だがそれで冷静になる事も出来た為、今のは聞かなかった事にした

「んじゃシャワー浴びてくるわ」

「あぁ…」

「行ってらっしゃいまし…」

二人は勇刀が出て行った扉をじっと見つめていた、その顔は少し頬を赤く染めていた

「失礼します……どうかされたのですか?お二人とも」

「ほんとだー!二人とも顔赤いよ~~?」

「「なっなんでもない!/何でもありませんわ!」」

入れ替わりで入って来た夜見と結芽に見られまた少し取り乱してしまった。

「「????」」

((衛藤勇刀が/勇刀さんが、僕/私を美人だって……))

また二人、勇刀に落ちそうな人間が増えたのであった

 

「はっ!?今度はお兄ちゃんに美人だって言われた人が居る!!」

 

「またか…」

「本当にカナミンの第六感は異常デスネ」

「舞衣…可奈美がどんどん人間離れしてく…」

「それはどうにもできないかなぁ」

「そのうち勇刀に関する事だけ人間辞めちまうんじゃねぇのか?」

 

「皆作戦の概要を説明するから集まって……可奈美ちゃんどうしたの?」

皆を呼びに来た恩田累は可奈美を見て首をかしげていた

「大丈夫です!可奈美ちゃんは私達が連れて行きますから!」

「そう?ならお願いね」

恩田は少し困惑して出て行った

「お兄ちゃんに美人って言われたの誰だろう?親衛隊の人達かなぁ、それとも鎌府の人?」

等と考えている自分達の主戦力を見て溜息をついた

その溜息が可奈美に届く事は無かった

そしてブツブツと独り言に花を咲かせている可奈美を引きずって作戦の概要を聞く為に

朱音の下へ向かった

 

 

 

そしてその時は来た

 

「これは攻撃ではありません!我々人類が生き残るのに必要な希望なのです!ですから皆さん!どうか恐れず見届けて下さい!!」

 

朱音の乗っていた潜水艦から六発のミサイルが発射された

それは真っ直ぐに折神家へ向かって飛んで行く

 

「始まった!多分あれに可奈美達が乗ってるんだ!」

「そんな事解るんですか!?」

「何んとなくだけどきっとそうだよ!」

「それでは私達が執るべき行動を手短に説明します。」

「ミルヤさんの指示なら私じゃんじゃん働いちゃいますよーーー!!」

「荒魂ちゃんの相手してる方がよっぽどいいんだけど、此処まできといてそれは無いか、しゃぁねぇ付き合ってやるか!」

「迅速に行動しましょう!ここから先は一瞬たりとも油断出来ないわ!」

「ではより効率的かつ広範囲で作戦を遂行するために隊を2つに分けます!各自分隊長の指示に従い行動するように!」

ここに一つ予期せぬ侵入者が出現した

 

「鎌府の子達とは違うのが混じってるな、一人は確か……相模湾の防衛線で一緒に戦ったフードの刀使か」

勇刀は覚えのある気配を感じ、ベランダから外を眺めていると夜見が声をかけてきた

「衛藤さん、紫様から都心への出撃命令が出ていた筈では」

「あぁ、他の連中はもう指定場所に向かわせた、俺も後少ししたら出発する、夜見こそご当主様の傍に居なくても良いのか?」

「紫さまは現在本家最奥部の祭壇にいらっしゃいます、反乱分子がそこに辿り着く事はありえませんので」

「そうか、なら安心だ…んじゃ俺も行くかしっかりな夜見」

「はい…衛藤さんもご武運を、お元気で」

「おう!……お元気で?それってどういう……まぁ良いか」

夜見は不可解な挨拶を残し迎撃に向かった、勇刀は彼女の背中を見つめることしか出来なかった

彼もまた自らの行動を開始した

 

 

その頃、折神家の東部

そこでは赤羽刀調査隊の面々が合流していた

「なんだか、守衛の人達が少なくないですか?」

「恐らく、撹乱作戦の効果が出てきているのでしょう、ここまで出来れば我々の役目もココまでですね」

「なら、早くここから離れましょう!」

「そうだね!早くここから脱出しよう!」

「いや、そうは問屋が卸してくれねぇみたいだぜ」

「そうみたいですね、皆さん覚悟した方が良さそうです」

「それってどういう……まさかあの人はっ」

「どうして、六刃将の一人がこんな所に!?」

「あぁ、しかも隊長格と来た、出来れば敵としてはぜってー会いたくなかったぜ!」

6人の前に現れたのは刀剣類管理局独立部隊【六刃将】一席そして隊長のユウの姿だった

その姿を眼にして全員が即座に抜刀し、そして表情が強張った

まさかこんな中心部と離れた場所で最強クラスの相手を遭遇するなど思っても居なかったからだ

「この人が此処にいるって事はもしかして」

「えぇ、恐らく折神紫への増援である事は確実ですね」

「それじゃぁ、この人を食い止めないと……」

「確実にこの襲撃は失敗となるでしょう」

「だな、折神紫一人相手取るだけでも精一杯な所に、コイツが参戦したらソッコーで終わりだな」

ミルヤと呼吹の冷静な分析を聞き冷静では居られなくなった者が居た

「なら、ここでこの人を食い止めなきゃ!絶対に可奈美達の所へは行かせない!!やぁっ!!」

「っ!?ほのちゃん!!」

「っ!?」

切っ先の欠けた御刀を持った刀使がユウに斬りかかると即座に抜刀し斬撃を防ぐ

(ん~、なんか知らないけど、声かけるタイミング逃しちゃったな、まぁ美炎の成長を試すのにはうってつけだな)

勇刀はこう考えて暫くの間剣を打ち合った

その光景を見ていた調査隊の隊長である木寅ミルヤは疑問を抱く

「妙ですね、彼の実力が噂通りなら彼女一人倒すのは容易なはず」

「みほっちの奴完璧に遊ばれてるな、アイツの強さはこんなもんじゃないぜ」

「呼吹さんは彼の事を知っているの?」

「アタシも言うほど知ってるわけじゃねぇけど、一緒に戦った事がある分お前等よりはアイツの事は解る」

「相模湾防衛線の時ですか?」

「海から出てくる無数の荒魂に押しこまれてた防衛線をたった六人で押し戻しやがったんだ、今でも眼を閉じれば浮かんできやがる、空から降って来たアイツが大型の荒魂ちゃんを切り裂いた時の事が」

「そんな事が……」

「多分…いや、あの時あの場所で戦ってたアタシ達鎌府の刀使と六刃将を含めても、アイツが一番強い」

呼吹の普段からは想像もできないほどに真面目な語り口で語られた言葉には説得力と確信が込められていた

「動きのキレや滑らかさそんで御刀のキレはあの時ほどじゃない、確実に手を抜かれてる、何かを確かめてるみてぇな感じだ」

「なら、相手が油断してる今が好機ですね!油断してる内に全員で一気に掛かれば勝ち目はあります!」

「そうね!美炎ちゃんのタイミングに合わせて一斉に行きましょう!」

「解りました。全員集中しろ!」

(ふむ、作戦会議は終わったか…いつでも来い)

全員がユウと美炎の打ち合いに集中する

(ここで、ワザと隙を作ると)

「今だ!!」

ユウの隙(罠)にまんまと嵌り一斉に切りかかる調査隊、しかしそれに全く動じることも無く、全てを弾き、避け、払い全員の手から御刀を弾き飛ばしそれを見事空中で掴む

「そんなっ、私たちの一斉攻撃が」

「あんな簡単に」

「防がれるなんて…」

「チッ相変わらず馬鹿みてぇな強さしやがって」

「御刀も取られちゃいましたっ」

「このままじゃ…」

調査隊のメンバーはユウの底知れない強さを前に絶望していた

御刀は目の前の敵の手中にあり、今自分達は丸腰状態でありこのままでは写シすら張ることも出来ないただの女子学生に成ってしまった。

「美炎は少し成長したかな、まだまだだけどこのままちゃんと稽古を積んで場数を踏めば確実に強くなる、フードの方はまだ集団戦に慣れてないな、タイミングが半歩遅れだったぞ」

「えっ?その声……もしかして」

そんな時、唐突にユウが軽い口調で喋り始めた、その聞き覚えのある声に安桜美炎が反応した

「なんだよ、気付いてなかったのか?あれだけ稽古で打ち合って、今も散々付き合ってやったのに、俺だよ俺、衛藤可奈美の兄、衛藤勇刀だよ」

フードを取った勇刀の顔を見た美炎は数秒固まったあと

「えぇええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?勇刀さん!?!?」

 

静かだった折神家に美炎の叫び声が木霊した

 

 




前書きに駄文にて新年のご挨拶をさせていただきました。

昨年は中途半端な時季に始まったこの小説ですが、ありがたい事にお気に入りにして下さる方も増え、そして毎回感想を書いて下さる方も増え皆さんのおかげでここまで来る事が出来ました。

一応アニメと同様12話で波乱編は終了となります。

これからも宜しくお願い致します。

腰痛持ち


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12話 兄、東京防衛戦

たぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいへん
長らくお待たせいたしました!!!!!!!!

最後やっぱり締めが思いつかなくて打ち切り作品みたいな感がありますが!
ちゃんと!
続きます!!
ので!!!
ご安心を!!!!


折神家最奥部

そこは今まで折神家によって一括管理されていたノロの貯蔵庫だった

しかし今まで集められていた膨大な量のノロは1滴も残っておらずもぬけの殻となっていた

そんな場所で可奈美と姫和は折神紫と戦っていた

「此処にあったノロはもう全て吸収された後か……」

「そうみたいだね、でもここまで来たらもう関係ないよ姫和ちゃん」

「あぁ、ここまで来たら最早奴を斬るのみだ!!」

二人は同時に踏み出しタギツヒメに支配された折神紫に斬りかかる

「はぁああ!!!!」

「せやぁっ!!」

「ふん」

打ち合い、ぶつかり合う鋼の音が響いていた

「いくらか力をつけた様だな、だがそれでも吹き荒れる嵐の前には無力、非力な鳥たちよ」

「その非力な鳥にこれから斬られる覚悟は出来ているか?」

「貴女は私達が必ず止める!!」

「やって見せろ!!」

世界の命運をかけた戦いの音だけが静寂に包まれた洞窟に木霊していた

そして場所は変わり調査隊と勇刀達は

「ゆゆゆ勇刀さん!?何でこんな所に!?というかそもそも何で御刀を持って六刃将なんて」

「取り敢えず落ちつけ美炎!悪いけど今お前の質問に一つ一つ答えてやれる時間は無いんだ、まずお前等はこのまま都内に向かい待機だ」

「勇刀さんどれってどういう…これから何が起きるんですか?」

「俺も確信も確証も無いからなんとも言えないがヤバイ事になるかもしれん、それまでこの金でお茶でも飲んでろ、それから何も起きなかったらどっかホテルなり宿に泊まれ、女の子がネットカフェやらマンガ喫茶で寝泊まりするのはよろしくないからな!多分それだけあれば鎌倉から特急で楽に移動できるだろう」

美炎は六刃将隊長の正体に困惑していたが勇刀は矢継ぎ早に指示を出す

「少しお待ちを、貴方は安桜美炎とどういう関係なのですか?」

「えぇっと勇刀さんは可奈美のお兄さんで私達が1年生だった頃に1週間だけ美濃関で指導を受けていた事があるんです。」

「美炎とはその時連絡先を交換して、稽古のアドバイスとか送られてきた素振りの動画をチェックしたりとか色々連絡をとったりしてたんだ」

「美炎ちゃんにそんな相手が居たなんて、しかも男の子、お姉さんなんだか複雑だわ」

「それで貴方はこの後何が起こると予想しているのですか?」

「あぁ、可奈美達が上手くやれば何も起こらないだろうが、絶対そうは行かないだろうと思ってる…それが成功してしまえば姫和は……」

「勇刀さん?」

「だから起こり得るであろう事は、可奈美達に討伐されそうになったタギツヒメは必ず折神紫の身体から逃げ出すだろう、その際追撃を防ぐために今まで溜めこんだノロを放出していくはずだ」

「もしそんな事になったら…」

「えぇ、狭く見積もっても関東圏にノロが飛散し、荒魂が大量発生するでしょう」

「そんな広範囲にノロがばら撒かれたら今配備されてる鎌府の刀使だけじゃ対応しきれませんよ」

「そうだ、だから美炎達にも協力してもらいたいんだ、人手は多いに越した事はないからな」

「よぉし!!そういう事ならさっさと都内に戻ろうぜ!!荒魂ちゃん達がアタシを待ってる!!」

「呼吹さん…」

「ふっきーって本当にブレないよね」

多くの荒魂と戦えると聞いた呼吹は眼の色を変えて急に活発になった

その様子を見た調査隊の面々と勇刀はやれやれといった

様子で呼吹を見ていた

「防衛線の時から変わらないな、このフードは、この部隊の隊長は?」

「私です。綾小路武芸学舎高等部、木寅ミルヤです」

「君が隊長か、なら俺が言った事考えといてくれ、行くか行かないかは君に一任するから」

「?命令では無いのですか?」

「あぁ、これに関しちゃ強制する気は無いから皆で話し合って決めな、俺は先に行くから」

「えっ!?可奈美達の所には行かないんですか!?」

美炎は立ち去ろうとする勇刀に驚き、声を懸けるが勇刀は歩みを止める事も無く

「アイツ等には俺の覚悟と剣を託したから大丈夫だ、俺が保障する」

そう言い残し勇刀はその場を後にした

その後ろ姿を見て調査隊一行は顔を見合わせ折神家から都内へと向かった

その表情には確かな決意が見てとれた

 

 

 

 

 

「でもやっぱり心配は心配なんだよなぁ~~」

しかしこの男、美炎達の前で決めておきながら可奈美達の所へこっそりと様子を窺いに来ていた

勇刀は洞窟の岩影から6人の様子を見ていた

「っ……やっぱり心配する必要なんて無かったな」

彼が見つめる先では強大な敵を前にしても臆することなく確かな信念と覚悟を持って己が刃を振るう可奈美達の姿があった

「お前等なら絶対に大丈夫だ…」

それを見た勇刀は来た道を引き返し、今度こそ仲間達の下へと向かった

 

 

 

 

 

 

都内某所

「よぉ、待たせたな」

勇刀が到着した場所は高層ビルの屋上で繁華街や遠くの町が見渡せる場所だった

「ずいぶん遅かったですね、何かありましたか?」

「ん?まぁちょっと可奈美達の方を覗いて来た」

「姫和は…どんなようすだった?」

「心配すんな、今の姫和は一人じゃない、可奈美達や俺達もいるんだ一人で死に急ぐような真似なんか絶対しない」

「そうか、なら良いんだ」

「ねぇねぇ!!流れ星だよ!!」

海翔が空を指差してその先を飛んで行く3本の光の筋を見ていると

全員のスペクトラムファインダーが異常な反応を示していた

「なんじゃありゃ!?馬鹿みてぇなデカさだな」

「あれが全部ノロ!?どれだけ溜めこんでたのさ!?」

「いやぁ~~流石にこれは予想外だったわぁ」

6人は空を流れる流星群の様な大量のノロに圧倒されていた

「しかし、これは舞衣達が成功したと言う事ですね」

「そうだね、なら今度は僕達の番だよね」

「おうよ!姉貴にばっかり良い格好させてられるか!!」

「よーしっ!頑張るぞー!!」

 

その時勇刀のスペクトラムファインダーに着信があった

「もしもし……そうですか、了解です。はい謹んで拝命致します。それでは」

勇刀は通信を切り、一つ息を吐いた

一度閉じて再び開いた瞳は力強さが宿っていた

「辞令ですか?」

「あぁ、折神紫の権限が俺に降りてきた、てわけでこんな事が出来る様になるんだな」

勇刀は再びファインダーを操作し通話を開始する

「あーもしもし、現在都内及び首都圏に展開中の刀使に達する」

 

「この声!勇刀さん!?」

「私のファインダーにも通信が来てます!」

「これは全ての刀使のファインダーに一斉通信をしているのですか」

 

「こちらは刀剣類管理局臨時局長、独立部隊六刃将隊長及び一席のユウだ」

 

「「「「「刀剣類管理局臨時局長!?!?!?!?!?」」」」」

 

「今俺がその地位に居る事の説明をするには時間が無い、今は空を流れる3つの流星だ」

 

この通信を聞いていた全ての刀使が空を流れる、光の筋を見上げる

それは本体から無数の光を撒き散らしながら夜空を進んで行く

まるでこの空は自分の物だと言わんばかりに

 

「俺達の頭上を飛んでいるのは願いの叶う流れ星ではない、20年前の相模湾大厄災の終結から折神家が厳重に封印し管理していたノロだ、それが今封を解かれ解き放たれた、これが何を意味するか刀使である皆にはすぐ理解できるはずだ」

 

 

「えぇ!?あれが全部ノロ!?」

「いくらなんでも多すぎませんか!?」

「おいおい!そしたらどんだけの量の荒魂ちゃんとやれるんだ!?」

 

「このままでは関東圏に荒魂が溢れかえり文字通り地獄と化すだろう、それを阻止する為に皆の力を貸して欲しい!、無論これは強制ではない、未だ実戦経験の浅い者や実戦を経験していない者に関しては避難誘導や後方支援へ回ってくれて構わない、それでは皆の奮起を期待する」

 

そう締めくくり通信を切る

 

それと同時にファインダーに多数の荒魂出現を知らせるアラートが鳴り響いた

 

「さぁ来たぞ!準備は良いか?」

「それを聞いて俺達の準備が整って居なかった事があったか?」

「俺達はいつでも行けるぜ!」

「後は勇刀さんだけだよ」

「はやく行こうよ!!」

「勇刀君」

 

全員の返答を受け勇刀は口角を上げ高らかに叫ぶ

「じゃぁ、六刃将出撃!!」

 

それを合図に全員がビルから飛び降りる

 

 

その日、東京は過去に例を見ない状況に陥った

 

「ご覧ください!!あの巨大な流星から放たれた光が地上に降り注ぎ荒魂が大量発生しています!これは現実に起きている光景なのでしょうか!?これを受け刀剣類管理局は非常事態警報を発令!自衛隊と特別祭祀機動隊が住民の避難及び荒魂の掃討作戦に当たっています!!あっ!今各伍箇伝から派遣されてきた刀使達が降下していきます!あれは美濃関学院の刀使達です!」

 

各社報道は東京上空にヘリを上げて状況を伝えていた

 

「パイロット!!こっちにデカイ荒魂が来てる!!避けて!!」

「駄目です!!間に合いません!!くっそぉおおおおおおおおおおお!!!」

この時ヘリに乗っていた全員がもう駄目だと諦めていたその時

 

「はぁっ!!……おい!すぐにこの空域から離れろ!次は護ってやれるかわからねぇぞ!」

彼等を救ったのは黒衣を纏い大刀を携えた男だった

 

「貴方は六刃将隊長のユウさん!!」

 

「他の同業他社にも伝えろ!もうすぐここに伍箇伝から増援で刀使達を乗せた輸送ヘリが飛来する!民間のヘリは直ちに現空域から避退しろと!」

「しかし我々には真実を伝える使命があります!!」

「そんな大層な覚悟があるなら、ここで死ぬべきじゃないってこと位解るだろう!命の賭け時を見誤るな!」

「っ!!」

「アンタ達が死ぬべきなのはこんな所じゃない!」

「パイロット、この空域から離れて下さい……」

「協力感謝する」

「最後に一つ、良いですか?」

「なんだ?」

「事態が落ち着いたら密着取材お願いしても良いですか?」

「気が向いたらな、じゃぁ道中気をつけてな」

「はい、貴方もご武運を……」

「おう!」

 

 

勇刀はヘリが進路を変えるのを確認してヘリから飛び降りて行った

 

 

「良かったんですか?引き下がって」

「良いも悪いも無いわよ、彼等は自分の命を賭けて私達を護ろうとしてくれているのに、それを無碍にして脚を引っ張る様な真似出来ないわよっ……はぁ」

「どうしたんですか?溜息なんかついて」

「いや、かっこよかったなぁって……」

「えっ!?彼の顔見えたんですか!?」

「うん…チラッとだけどでも確り見えた、凄く力強い眼をしてた…はぁ~~」

「どんなイケメンでした!?忘れちゃわない内にスケッチに描き起こして下さいよ!謎に包まれた刀剣類管理局独立部隊隊長の素顔なんて特ダネじゃないですか!!」

 

 

最後まで騒々しいままヘリは退避して行った

それを先頭に続々と民間のヘリが東京上空から退避して始めた

 

 

空を見上げて去って行くヘリを見送りながら荒魂を討滅していく

「漸く逃げてくれたか、てか今更だけどこの上着邪魔だな」

 

「それを脱ぐと姿を世間に晒す事になりますが?」

「人の命がかかってんのにそんなこと気にしてられるかっての!」

 

「「「「「そう言う事なら!俺/僕達も!!!!」」」」」

 

一斉に黒衣を脱ぎ捨てた

 

「うわっ動きやすい!!」

「すげぇ身軽だぜ!」

 

「感想は後!今はこの状況をひっくり返しますよ!散れ、千本桜」

 

「は?」

 

「りょーかい!霜天に坐せ!氷輪丸(ひょうりんまる)!!」

 

「はっ?」

 

「行くよ!射殺せ!神鎗(しんそう)!」

 

「ちょっ!?」

 

「万象一切灰燼と成せ!流刃若火(りゅうじんじゃっか)!」

 

「なんだって!?お前等何時の間に!!」

 

「「「「いやさっきちょっと」」」」

 

「さっき!?ちょっと!?どういうことだってばよ!!」

 

その日荒魂以外に季節外れの桜と氷の龍が舞い、そして剣が伸び縮みしていた

 

 

六刃将の伝説が増えた瞬間だった

 

「別に羨ましくなんて無いんだからなぁあああああああ!!!!」

チクショォオオオオという叫び声と共に荒魂を狩り尽くしていた

 

((((あぁ、羨ましいんだ))))

 

「おぉ~~~、勇刀お兄ちゃんすご~~い!!」

 

突如自分以外の全員が御刀の刀剣解放を習得した事実にショックを受けていたがそれを燃料にしていた

 

そして勇刀が要請していた増援が続々と到着し劣勢だった状況は覆り優勢になって行った

そして市民の避難が完全に完了した時

 

戦闘中だった勇刀達の下に数個の刀使の部隊が合流した

「六刃将の皆さん!伍箇伝の真庭学長、五條学長、羽島学長が指揮所でお待ちです」

「ここは私達が引き継ぎますので皆さんは学長達の所へ」

「増援が来て勢いに乗りたいって時に!」

「大丈夫です!私達が皆さんの分も頑張りますから!行って下さい!」

「勇刀君ここは一旦下がりましょう!僕等の体力も無尽蔵というわけじゃありませんから、休息も必要です」

「確かに戦闘が始まってからずっと戦い通しだから流石に疲れたかも」

「解った、だけど危険だと思ったら直ぐに応援を呼べ!必ず助けに行くからな!」

「はい!その時はお願いしますね!」

 

「……指揮所まで退くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指揮所

そこでは大きなテントが張られそれぞれ指揮所や救護隊の詰め所等区分けされ、皆忙しなく動きまわっていた

そして一番大きいテントの中に入ると

 

「久しぶりね勇刀君、今は衛藤臨時局長と呼んだ方が良いかしら?」

「止めて下さいよ羽島学長、そんな大層な人間じゃありませんから、こっちは可奈美がご迷惑をお掛けした件もあるんですから」

「でも実質ウチらの上司でもあるわけやからねぇ、上下関係の事はしっかりしとかんとね」

「五條学長……」

「久しぶりやね和人君、元気にしとった?」

「この度は申し訳ありません。俺が姫和を止められていればこんな事には…」

「和人君が気にする事は何もありません。もし十条さんが行動を起こさなくても舞草が遅かれ早かれ動いとったんやし」

「そうだな、そして戦闘開始からここまでご苦労だった、これからは部隊を交互に入れ返させ休息を取らせる、お前達は現在我々が保持し得る最高戦力だ、それを失うわけにはいかないんだ」

「そうや!皆がどうして御刀に選ばれたのか詳しい話を聞かせてもらってもええやろうか?」

「そうですね、その話は我々としても是非把握しておきたいですからね、てな訳で報告とまでは行かないが、お前達に何があったのか話してくれるか?」

「えぇ、解りました」

こうして勇刀達は今までの事を学長達に語った、御前試合から始まった日々の事を

そして全てを話し終えた所で6人は休息用にあてがわれたテントで休息をとった

 

 

指揮所テント

「はぁそれにしても勇刀君たちが御刀に選ばれるなんて、ビックリだわ」

「そやなぁ、しかもその御刀が他の御刀とはまったく別物なんやもんな、恐れ入るわ」

「そうですね、そして先の戦闘で示したその力は我々の想像をはるかに超える物でしょう」

「最初に見た時は幻かとおもたけど現実なんやなぁ、刀身が桜の花びら見たいに散ったり、氷の龍を出したり、刀身からごっつ大きな炎だしたり、アニメや漫画見たいやね」

「これから先も、その力が必要になって来るのよね」

学長達は溜息をつきこれからの方針を話し始めた

 

これから先の新たなる展開に備えて

この時既に新たな敵の脈動が既に始まっていた

しかし今の彼等にそんな事を知る余裕はあるはずも無かった

 

今はまだ自らの出自さえも知らぬ彼なのだから

 




とりあえず前半は以上で終了です!

とじとものイベントのお話なんかもちょくちょく投稿できたらと思いますのでそちらもお楽しみに

活動報告に今後の事を書いて投稿したので良ければご一読下さい。


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幕間編
13話 日常と現実と…


月一更新を始めて一発目!
お待たせしました!

日常パートの新キャラ登場です!!


 

あの日起こった事件は 鎌倉 特別危険廃棄物漏出問題 と名付けられ発生から一カ月が経ち、事態は俺達や伍箇伝の刀使そして刀剣類管理局と自衛隊の対応で一応の鎮静化を見たがそれでも荒魂の発生率は高いままだ

当時は臨時局長として俺、衛藤勇刀が何故か未成年ながら折神朱音さんや沢山の人に支えられながら先陣切って今後の対策等の取り決めや関係各所への事情説明を行った

 

今になって思えばとんでもない仕事をしてたもんだと思うが、当時の俺にはそんな事を考える余裕は無かった

現場で戦う刀使の子達の負担や不安を少しでも軽くしてあげたい一心だった

そして今は臨時局長の任を長船女学園の真庭学長に引き継ぎ、高校生には分不相応な仕事から解放されたと思っていた

 

 

「はぁ~毎日毎日大騒ぎしやがって、近所迷惑も考えろっての」

しかしそうは問屋が卸さなかった

連日俺の自宅前には報道陣が大挙して押し寄せて来ていた

これは他の六刃将メンバーも同じ状況であった

一つ違うのは報道陣への対応を両親が行っているという点だった

学校へも両親が送り迎えをしてくれているそうだ、羨ましい

和人も親戚の大人が送り迎えをしてくれているらしい

 

 ウチの保護者は出張と称して何処をほっつき歩いているのか解らず消息不明だった

俺が居ない間に何度か帰って来ていた様だが最低限の掃除と意味不明な書き置きだけが残されていた、一度読んですぐ捨てたから詳しい内容までは憶えていないがふざけた書きだしだった事だけは覚えてる

そんなこんなで俺は登下校もコソコソ隠れながら行っていた

幸いにも俺達は刀使の術を使う時写シを張る必要は無い様で生身で迅移(俺達が使う物は少し違う)が使用可能だった

 その為毎日学校まで迅移の特訓だった

因みに俺達高校生組は六刃将としての活動期間中のたらない出席日数や単位の分は補習を受ける事で補ってもらっている

折神家からのお達しとその後の前出の事件収束に貢献したのが大きかったようだ

そして今日も今日とて学校へ着くと

 

「あ~~~いたかったぜ~~~~!ゆ~~~う~~~と~~~~~!!!!!」

「喧しい!!」

「げほぉあっ!?」

「まさか後ろ回し蹴りで来るとは……流石だぜ、隊長」

「隊長言うな!お前は俺の部下じゃねぇ」

勇刀が教室へ続く廊下を歩いていると正面から男子生徒が飛びついて来たが

それを勇刀は躊躇なく後ろ回し蹴りで蹴り飛ばした

蹴り飛ばされた生徒はゴロンゴロンと廊下を転がっていた

こうして、俺の何気ない1日が始まっていく

 

通常の授業を消化し昼休みとなり勇刀は友人達と昼食をとっていた

「それにしても、勇刀はなにがどうなって御刀に選ばれちまったんだ?妹の試合を観に行くってから何があったんだ?急にお前が刀使になったってニュースで見て驚いたんだぜ?」

「何度も言ってんだろ、俺にも何で御刀に選ばれたのかわからねぇし、六刃将として活動してた間の事は守秘義務と緘口令が敷かれてて話せねぇんだってのいい加減しつけーよ」

「なんだよー!少しぐらいいいじゃねーかよケチー!」

研吾(ケンゴ)…勇刀も色々大変なんだあまり深追いしてやるな…」

「そうですよ研吾さーん、また蹴り飛ばされちゃいますよ~~」

「そうですねー、今度は朝みたいな手加減ありじゃなくて今度は手加減なしで蹴り飛ばしますね~~」

「ちょっ!敬語止め!なんでいきなりよそよそしくなるんだよ~~!」

「研吾…」

蔵澤(クラサワ)~~~~!お前だけは俺の友達だ~~」

「…いい加減にした方が良いと思います…」

「蔵澤お前もかぁ~~~~~~!!!!!!チックショォーーーーーーー!!」

浅井研吾は騒々しくその場を去って行った

「アイツは相変わらず騒がしいな、ある意味安心したぜ」

「でも研吾君が勇刀君の事心配してたのは本当だよ」

「そうだね、勇刀が帰って来て一番嬉しいのは研吾だと思うよ」

「あぁ、いつも以上に騒がしいからな…」

「そうか……おまえ等、放課後暇?」

その問いに全員が頷き、その後は何時も通りの学校生活が続いて行った

 

そして放課後

「まったく!なんだよ勇刀の奴!久しぶりに会ったんだからもっと構ってくれてもいいじゃねーか!いいよいいよ!もう俺だけでどっか遊びに行っちゃうもんねー!頼まれても誘ってやんねーよーだ!」

研吾はまだ昼の事を根に持っているようでブツブツ呟きながら校門へ向かって歩いていると

 

「おっ!やっと来たな研吾」

「えっ?」

「遅いですよ研吾さ~~ん」

「待ちくたびれたぞ…研吾」

「早く行こうよ、研吾く~~ん」

 

研吾が見た先には勇刀達が待っていた

 

「勇刀何で…」

「何でって遊びに行くからに決まってんだろ?早く行くぞ研吾」

「でもお前補習が」

「補習は終わったからな!今まで遊べなかった分遊ぶぞ!だからお前も一緒に来いよ」

 

「……よぉーし解ったぁ!!お前等今日は遊び尽すぞぉ!!!オレについてこぉーーい!!」

 

その後勇刀達はゲームセンターやダーツにビリヤードにカラオケと法令で定められた高校生が出歩ける時間のギリギリまで遊び尽した

 

「いやーー!遊んだ遊んだ!」

「なんだかあっという間だったね」

「あぁ、こんなに遊んだのは久しぶりだ…」

 

すっかり暗くなった帰り道を5人は歩いていた

 

「すっかり暗くなっちまったな、上川は家まで送ってくか?」

「うぅん、私は大丈夫!私の家この直ぐ近くだし、大島君が途中まで道一緒だから」

「そうか、なら上川の事頼んだぞ、(ノリト)

「大丈夫、研吾君に任せるより安心だから」

「そいつはどういう意味だ祝ぉ!!」

「研吾…近所迷惑だ」

「くぅっ!!」

 

「それじゃぁまた明日ね!勇刀君!研吾君!晴季君!」

「また明日」

 

上川結華(カミカワユイカ)水嶋祝(ミズシマ ノリト)と分かれ

 

「それじゃぁ、俺達もここで…」

「それじゃぁな勇刀!今日は楽しかったぜ!また明日な」

「じゃなぁまた明日」

 

朝井研吾(アサイ ケンゴ)蔵澤 晴季(クラサワハルキ)とも別れた

 

勇刀一人になった事でその場は急激に静まり返った

そして勇刀も歩き出すかと思いきや

「よぉ、俺一人になったんだ、いい加減出てきたらどうだ?真希」

「っ!?……流石だね、何時から気付いていたんだい?」

勇刀が見上げた屋根の上から人が飛び降りてきた人物は

折神紫親衛隊第一席 獅堂真希だった

 

「あの日から行方不明で何処ほっつき歩いてるのかと思ったらこんな所に居るとはな、寿々花も心配してたぞ」

「それに関しては済まないと思っているよ、でも僕にはやらなければいけない事があるんだ」

「それは、お前一人だけでやり遂げなきゃいけない事なのか?」

「あぁそうだ、親衛隊として紫様のお傍に居ながらタギツヒメの存在に気が付く事が出来なかった事への償いなんだ」

「じゃぁお前なんで俺の前にノコノコと現れた?それだけの覚悟と決意があるなら、俺の所に来る必要なんて無かったんじゃねーのか?」

「あぁ、そうだねその通りだ…でも、無意識の内にここに来ていたんだ」

彼女の顔には影が落ち、その表情は親衛隊第一席として常に高みを目指し上を向いていた頃からは想像もできない程に沈んでいた、今の彼女の心の中にあるのは罪の意識、折神紫の最も近くにいた自分がもっとしっかりしていればこんな事にならなかった

自分が折神紫の異変に気付いてさえすればこんな事にはならなかった

自分が自分が自分が自分が自分自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が自分が

と自分で自分を責め続けていた、責任感の強い彼女ならば当然のことだった

そんな彼女が無意識の内に助けを求めて勇刀を訪ねてきた、プライドの高い以前の彼女からは想像できない事だった、それ程までに彼女は追い詰められていた

 

「僕は…誰かに、いや他の誰でも無い君に背中を押して欲しかったんだと思う」

「んで俺の所に来たと…はぁそれよりも真希」

「ん?なんっ!?ちょっ何をしてっ!?」

勇刀は真希の手を引いて抱き寄せてフードを取り首筋に顔を近づける

「真希…お前」

「なっなんだい!?」

「風呂どころかシャワーすら浴びてねぇだろ?」

勇刀に抱きしめられたまま固まっていた真希はその一言で再起動した

「いいいいいいや!いいいいいいつもは毎日ちゃんとおおおおおおお風呂に入って清潔にしているんだがいいいいいい今はタギツヒメをおおおおおお追って宿無し根無し草の生活でしかたなく、うわっ!衛藤勇刀一体どこへ!?」

「そんな事だろうと思ったぜ、どうせ飯も碌に食って無いんだろう?なら風呂のついでに飯食ってけ」

「そんなっ!?そこまで世話になるわけには!」

「お前と会った事は誰にもいわねぇから安心しろ、それにそんな状態の女の子放っておけるかよ」

勇刀は真希の手を引いて家に帰った

「おっお邪魔します」

「取り敢えず今から風呂沸かすからソファで寛いでろ」

「僕も何か手伝うよ」

「こっちの事は気にすんな、落ち着かないなら庭で素振りでもしてな」

勇刀は真希に素振り用の木刀を持たせてさっさとキッチンに入り食事の準備をしていた

真希はその言葉に甘え素振りを始め、お湯が沸くと

「服は脱いだら洗濯機に入れとけ、洗っといてやる、乾くまではブカブカかも知れないけど俺のジャージで我慢してくれ」

「ここまでしてもらっているのに文句を言うほど図々しくは無いよ」

「シャンプーとかボディソープは勝手に使ってくれていいぜ」

「あぁありがとう」

「んじゃ風呂から上がったらリビングに来い、飯用意しとくから」

そう言い残し勇刀は脱衣所から出て行った

そして真希も着ていた物を脱ぎ浴室へ入った

 

「はぁ……温かいな、どうしてこうも惹かれるんだろう、彼には不思議な魅力がある」

真希は浴槽に浸かりながら湯気の漂う天井を見上げて体を包み込む温もりに全身の力が抜けていくのを感じた

その感覚はとても心地のいいものだった

その後真希は身体と頭を洗いもう一度湯に浸かり浴室を出た

するとリビングから良い香りが漂ってきた

「お先にお風呂を頂いたよ、ありがとう」

「おう、どういたしまして、んじゃ次は飯だ!早く座れよ」

「あぁ、これは凄いな、どれも美味しそうだ」

食卓の上には鶏のから揚げに出汁巻き玉子にサラダや味噌汁などのメニューが並んでいた

「あぁ腕によりをかけて作ったからな、おかわりもあるから沢山食えよ」

「それじゃぁ、いただきます!」

「召し上がれ」

二人は手を合わせて料理に箸をつける

「まずはから揚げから頂こう、はむ…っ噛めば噛むほど中から肉汁が溢れ出てくる!外はかりっと中はジューシー!こんな美味しいから揚げを食べたのは初めてだ!」

「そうか、お口にあったならよかった、どんどん食べて良いぞ!」

「この玉子焼きもふわふわでよく出汁が効いている!どれもこれも美味すぎる!!」

「お~~すげぇ食いっぷりだな…」

勇刀は真希の食レポを聞きながら箸を進めて行き対する真希は勇刀の作った料理に夢中になっていた

 

相当腹減ってたんだな真希の奴

 

凄い勢いで食べ進めて行く真希を見ていた

そして食事を終えると

「ご馳走様でした。凄く美味しかったよ」

「そいつは良かった…んで何か尻尾は掴めたか?」

「今の所タギツヒメは各地で荒魂を倒しノロを吸収している様だ、到着する頃には何時も手遅れだけどね、それから関係があるかどうかは不明だが鎌府の高津学長が姿を消したそうだ」

「あぁそれについてが俺達にも報告が来てる、夜見も姿を消したそうだ」

「なんだって!?」

「夜見の経歴を調べて見たが親衛隊入隊前は鎌府に居たそうだな、んで舞衣ちゃんと沙耶香ちゃんから話を聞いたが高津学長に忠誠を誓っているようだったらしい、夜見は高津学長に何か恩義があるんだろう」

二人は少し沈黙してお茶を啜る、その時の心境を知る者は誰も居ない、ただ二人はやるべき事は解っていた

「真希」

「なんだい?」

「お前に六刃将隊長として調査を命じる、タギツヒメ及び高津雪那の所在を調べろ、恐らくそこに夜見も居るはずだ」

「その任務請け負おう、必ず掴んでみせるよ」

「報告は俺の所へ来て直接か端末へ頼む、それから軍資金も支給するから無理はするな」

「相変わらず君は心配性だね、でも心遣い感謝するよ」

「んじゃ今日はもう寝ろ、俺も明日は用事があるからな」

「あぁそうさせてもらうよ」

「客間に布団出してあるからそれ使いな、おやすみ」

 

真希は一足先に客間で床に着き、勇刀は食事の後片付けに取り掛かった

 

「ふぅ、明日は美濃関か……さっさと片付けて速く寝よう」

 

下洗いした食器を食洗機にかけ勇刀も自室のベッドで眠りに着いた

 





とじとも
で可奈美が来てくれなくて少し落ち込み気味の作者です。
新コラボの可奈美の衣装が可愛すぎてツライ


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14話 兄の週末出張稽古

真希を泊めた翌日の早朝

勇刀は大きめのボストンバックと自身の御刀を背負い私服姿で

真希は前日の出で立ちのまま小さなカバンを背負っていた

 

「一晩泊めてもらった上にお弁当まで貰ってしまって、お世話になりっぱなしだな」

「気にするな、俺が自分の分を作る予定があったし何より俺がやれることやっただけだ、何かあったら必ず連絡しろよ、お前一人で戦ってるわけじゃねぇーんだからな」

「あぁ、ありがとう期待に添える様に努力するよ、それじゃぁまた」

「おう、またな」

 

二人はそれぞれたがいに背を向け反対方向へ歩き出した

 

(ありがとう、衛藤勇刀…いや勇刀これで僕は……)

 

(さーて、アイツ等ちゃんとサボらずやってたかなぁ)

 

それぞれの思いを胸に二人は目的の為に歩き出した

 

そしてそれをまったく別の方向から見つめる人影があった

 

「勇刀の家から見知らぬ美女が出てきたっ………こいつぁタイヘンだっ!!」

その人影は音も無くその場を離れて行った

 

勇刀は途中コンビニで飲み物を買い駅で電車に乗り着いた場所は

 

「あっ!居た居た!勇刀さーん」

「ちょっと美炎ちゃんあんまり大きな声出すと騒ぎになっちゃうよ」

「相変わらず元気だな美炎、誰と居ても保護者位置だよな舞衣ちゃんは」

 

伍箇伝の内の一つ美濃関学院の最寄り駅、岐阜羽島駅

そこで勇刀は学院の生徒で顔見知りの安桜美炎に出迎えられていた

 

「まぁ元気だけが取り柄みたいな所があるので!」

「いつもの事ですから慣れっこです!」

「そうかい、んじゃ見つかる前にとっとと行きますか」

 

そういって歩き出そうとした瞬間

 

「居たわ!!衛藤勇刀よ!!」

「はぁ…マジか」

「もしかして私のせい?」

「多分…そうだと思うよ」

 

先程の美炎の声を聞きつけて周囲で張り込みをしていたメディアの人間が集まって来た

 

「衛藤勇刀さん!一言コメントをお願いします!」

「貴方達六刃将の活動を教えてください!」

 

等など一斉につめかけてきていた

 

「はぁ美炎、舞衣ちゃん変な所触っちゃったらゴメンな」

「え?」

「へっ?」

「よっと!!」

「うわぁっ!?」

「きゃっ!?」

 

勇刀は二人を両腕で抱えて立ち上がる

美炎と舞衣は突然抱き上げられ驚いていたが、二人の手はしっかりと勇刀に添えられていて、二人の表情に不安な様子は無く、自然と勇刀に身体を預けていた

 

「喋ると舌噛むからな!気をつけろよ!!」

「「はいっ!!」」

「行くぜっ!」

「あっ!ちょっと!!待って!!」

 

勇刀は迅移を使いその場から駆けだした

その場に残された報道陣は電信柱や屋根を足場に駆けて行く勇刀を見上げる事しか出来なかった

 

そして3人はそのまま人気の少ない所まで移動し柳瀬家の執事柴田さんの運転する車に乗り込み学院へ向かった

 

「は~まったく美炎のせいでえらい騒ぎになっちまったな」

「すみませんでした。以後気をつけます…」

「それにしても美炎ちゃん、よく勇刀さんがいるって解ったね」

「なんかふと感じたんだ、勇刀さんがそこに居るって自分でも何でだかよく分からないんだけどね」

「ふーん、偶然かそれとも美炎の感覚が人並み外れてるだけなのか、まぁ美炎らしいって言えば美炎らしいけどな」

「そうですね」

「ちょっと二人とも、私の事バカにしてる?」

「「全然?」」

「絶対バカにしてるでしょーー!」

 

そうして雑談をしている内に車は美濃関学院に到着した

 

「さてと、取り敢えず先に荷物を置いて来ちゃおう」

「勇刀さんは何時もの部屋を使って下さい」

「あいよ、そう言えば可奈美はどうした?」

「可奈美は関東への派遣が延長されちゃってて」

「可奈美ちゃん本人は帰って来るつもりだったらしいんですけど、真庭本部長からどうしてもって」

 

「うぇえええええええええん!!おにーちゃあああああああん!!」

「すまん衛藤耐えてくれ……」

 

「まぁ、仕事だから仕方ない、次来た時は大変な事になるんだろうな、それじゃぁ俺も荷物置いて着替えたらすぐ行くから、皆も準備しといてな」

「はい!解りました!!」

勇刀は今しがた聞こえた可奈美の泣き声を空耳だと思い込み頭を振って気を取り直して部屋に荷物を置き、ジャージに着替えて早速、道場へ向かった

 

そして道場へ着くと美濃関の刀使科の生徒達がジャージ姿で集まっており

勇刀が来た事に気付くと一斉に一礼の挨拶をし、勇刀もそれに一礼で返した

 

「皆おはよう!」

「「「おはようございます」」」

勇刀は前に用意された台の上に乗り挨拶すると元気よく返す美濃関の生徒達、中には高等部の生徒達も混ざっているが全員、勇刀に対して信頼の眼差しを向けていた

「さぁ今週もこの日が来たぞ!ちゃんとサボらずやってたか!?」

「「「「はい!!!」」」」

「じゃぁその成果、見せてもらおう!素振り始め!!」

「「「「「はいっ!!!」」」」

 

生徒達は自分の周りに一定の間隔を開けて素振りを始めた

勇刀はその様子を台の上から眺めたり周りを歩いたりして見回っていた

そして適宜声をかけていた

 

「前回も言ったけど、疲れて正しく振れなくなったら休んで良いからな~」

「「「「「「はいっ!!!」」」」」」

 

返事はするものの、振るう木刀は止まることなく空を切る音を発し続ける

しかしそれでも自分がしっかりと振る事が出来なくなったと認識した生徒達はそれぞれ休憩を始める

そしてそのまま勇刀の号令で素振りの時間は終わり

 

「そこまで!!うん、最初の時より皆素直に振れる様になってたから良かった!先週からちゃんと積み重ねていた成果だな!あとは個人で何か聞きたい事があれば休憩中でもいいから聞きに来な」

「「「「「はいっ!!!」」」」

「いつまでも素振りだけじゃつまんないだろうから次に進むぞ」

 

その言葉を聞き生徒達は浮足立ち眼が輝き始めた

 

「舞衣ちゃんは何やるか解るよね?」

「えっと…帽子落としですか?」

「その通り!ただ人数も多いし仕様を変更します!それがこれだ!」

 

勇刀が何処からともなく取り出した大きな紙にはこう書かれていた

 

二人一組のペアとなり両者が帽子を被る

 

制限時間内に相手から帽子を落とした方の勝ち

 

両者とも帽子を落とせなかった場合はじゃんけんで勝負を決める事

 

そして勝者は俺と帽子落とし

 

「それじゃぁ二人一組帽子落とし開始!写シ張って制限時間は3分!」

 

それぞれが近くに居た者同士でペアを組み対峙する

 

ここに少女達の戦いの幕が切って落とされた

 

そして勇刀と打ち合う少女達が選抜された

 

「さぁてまずはふたばちゃんだな、いつでもかかっておいで!」

「はい!宜しくお願いします!!……やぁっ!!」

 

まず最初の相手は中等部の長江ふたばだった

中等部1年ということもありまだまだ動作にぎこちなさがあった

そんな動きを見て勇刀は微笑み、しっかり受け止める

 

「ほら!踏み込みが甘いぞ!確り踏み込んで来い!」

「はいっ!…たぁっ!!」

「いいぞ!ふたばちゃんはもっとしっかり相手に打ち込む事!それがちゃんと出来る様になって初めて次の段階へ進める!」

「てやぁあああああああ!!!!」

 

勇刀は適宜アドバイスを交えてふたばと剣を打ち合わせる

そして最後にはふたばがスタミナ切れを起こし終了となった

 

「次は私とお願いします」

「次は舞衣ちゃんか。いいよかかっておいで!」

「やぁっ!!」

「おぉっと!流石御前試合での美濃関代表!良い動きだ」

 

勇刀は舞衣の居合い抜きを回避するとそのまま反撃に転じるため御刀を振り抜くが避ける

 

(勇刀さんの斬撃は一振り一振りが鋭く重い、よく妹が見てるヒーローアニメの必殺技みたい、まともに真正面から受けちゃ駄目!避けて受け流して!反撃する!)

 

舞衣ちゃんは冷静に彼我の実力差を見て戦っていた、しかし

 

(流石舞衣ちゃんと言った感じだな、しっかりと自分と俺の差を考えた上で最善の戦い方を常に選択してる、戦闘でも司令塔になるだけはあるけど、仲間のいない一対一の勝負だとそれだけじゃ、足りない)

勇刀は少しギアを上げ御刀を振るう、すると舞衣は次第に反撃する余裕が無くなり防戦一方になっていた

(くっ!想定が甘かった、勇刀さんなら私がそういう戦い方をするという事も想定内だったんだ、だから私がギリギリ反応して避けられる速さで攻撃出来ていたんだ)

「ほらほら!防戦一方になって来てるよ!頭を使うのも良いけど頭でっかちになり過ぎない!今は味方も居ない、連携の必要もない!思いっきり本能で戦ってみても良いんじゃない?」

「本能で……」

「そう、それが舞衣ちゃんと次の段階へ押し上げてくれるはずだ」

「……………ふぅ」

舞衣は深く深呼吸をし構えを解いて脱力する

「…………っ!!」

「っぅおぁっ!?」

次の瞬間勇刀の視界から舞衣が消え眼前に迫っていた刃を弾く事で精一杯だった

 

「少し言っただけでここまで変わるか!?舞衣ちゃん恐ろしい子!」

 

その後も舞衣の猛攻は続き勇刀も応戦するが舞衣の予測できない動きに手古摺っていた

 

「ナニあれ!?今勇刀さんと打ち合ってるのってホントに舞衣!?」

「凄い、いつもの柳瀬さんの剣とは全然違う」

「柳瀬先輩スゴイ」

「やっぱり衛藤君に頼んで正解だったわね」

「学長!いつの間に!?」

 

壁際で二人の打ち合いを見ていた美炎達の傍にいつの間にか美濃関学院学長、羽島江麻が立っていた

 

「それより学長、勇刀さんに頼んで正解だった、というのは?」

「ふふっ、それは貴女達が一番解っている事の筈よ」

「私達が?」

「じゃぁ技量も実力も衛藤君とまったく同じ人がもう一人いたとしましょう、その人は貴女達の剣の腕だけを見てそれだけを確実に上げてくれます。それに対して衛藤君は貴女達自身をよく見て、得手不得手や癖をしっかり理解して、それに合わせて助言や指導をしてくれる、さぁどっちが良いかしら?」

 

それを聞いていた生徒達は少し考えるがどちらが良いかなど解りきっていた

 

「本当に可奈美が居てくれて良かった、そして勇刀さんが可奈美のお兄さんで良かったって、可奈美っていう目標が居て、それに近づく為に手を貸してくれる人が居る、私達って本当に恵まれてるなって思います。それからそれに今まで無自覚だった事も反省してます。

もっともっと頑張らなくちゃ!!成せば成る!!」

「おう!頑張れよ!」

「はいっ!!って勇刀さん!?舞衣と打ち合ってたんじゃ!?」

 

美炎はいつの間にか目の前にいた勇刀に驚いていた

そして腕の中には肩で息をしている舞衣が抱き抱えられていた

 

「舞衣ちゃんも良く頑張ったけど、すこし飛ばし過ぎたね」

「はい……でも、何か…掴めた、気がします……」

「そっか、なら少し成長かな、じゃあ次は美炎だ準備は良いか?」

「はいっ!!!!」

 

勇刀は舞衣を他の生徒達に任せて美炎と向き合う

その時見た勇刀の力強い瞳に美炎は身体の奥から力が湧いてくるのを感じ

思わず声が上ずってしまった、がそんな事も気にならないほどに美炎は勇刀に集中していた

 

「それじゃぁせっかく学長もいるし、合図は学長にお願いします」

「解ったわ、では双方構え!写シ!……始め!」

「せぇええええええええい!!!!」

 

 

 

 

 

 

「しかし、さっきの美炎には驚いた、確かに可奈美が興味を持つはずだ」

日も暮れて空に無数の星が輝いている夜空の下、学院のグラウンドを勇刀は一定のスピードで走っていた

 

脳裏に過るのは昼間の美炎との打ち合いの記憶だった

その時の美炎からは普段とは全く別の何かが感じられた

 

「あれが本人の言う【集中している状態】なら、あれを自在に使いこなせれば一気に化けるぞ…ん?あれは……」

勇刀がふと寮の方を見ると屋上に誰かが居るのが見えた

 

 

「ふっ!ふっ!ふっ!」

 

寮の屋上では美炎が独り自身の御刀《加州清光》を振っていた

美炎の顔からは御刀を振る度汗が飛び、その量がどれだけの数を振ったかを言わずとも示していた

 

(私はまだまだ強くなれる!強くなって沢山の人を荒魂から護るんだ!その為にはもっともっと努力しなきゃ!!)

「お…」

「ふっ!ふっ!ふっ!」

「…いっ!」

「ふっ!ふっ!ふっ!」

「お………の!」

「ふっ!ふっ!ふっ!」

「安桜美炎!!」

「わひゃいっ!?えっ?勇刀さん?」

「やっと気付いたか」

 

美炎はいきなり現れた勇刀に驚き尻餅をついていた

 

「お前何時から振ってんだ?」

「えっ?えぇ~っとご飯食べ終わって直ぐからだったので……2時間くらい?」

「はぁ~~お前はホントに自制って言葉を知らないのか、今日はもう終わりにして休め、これ以上はオーバーワークだ」

「でもっ!もっと強くなって荒魂から沢山の人を護れるようにならないと!」

「その意気や良し、でもそれでお前が身体を壊したら意味無いだろ?他人の事と同じ位にちゃんと自分の事も大切にしてあげなきゃ駄目だろ?」

「わたしっわたしっ!」

 

勇刀の優しい言葉に美炎は涙を流し俯いていた

 

「何で泣いてんだよ、まったくこれじゃぁ妹が一人増えた見たいだ」

 

勇刀は泣いている美炎を優しく抱きしめて髪を梳く様に優しく撫でると

疲れていたのか美炎は眠ってしまった。

仕方なく勇刀は美炎を背負って寮へと戻る

しかし一つ問題があった

 

「俺、美炎の寮部屋知らねぇ」

 

そう、勇刀は美炎の部屋を知らなかった

その部屋の住人は

 

「勇刀おにいちゃぁん……」

 

と勇刀の背中で寝息を立てていた

この後運よく舞衣ちゃんに会い、美炎の部屋まで案内してもらい事無きを得た

そして勇刀も宛がわれた部屋へ戻り眠りに着いた

 

翌日の稽古をより充実した物にする為に

 




とじとものキャラクターも出てきたりしましたね。
案外とじともから出てくるキャラクターも思ったほど多くなかったので驚きました。

ではまた次回お会いしましょう。


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15話 兄の争奪戦&アフタースクールバトル

切り所を見失っていたらやたら長くなってしまいました。



ある日の放課後、勇刀の通う高校の校門前に色々な色の制服を着た女子生徒達がいた

その集団に周囲の視線が集中していた

 

「ここがユウユウの通っているハイスクールデスカ?」

「あぁ真庭のオバサンからの資料にはそう書いてあるな」

「でもやっぱり急に会いに行ったら迷惑じゃないかしら?」

「大丈夫…勇刀は優しいから、許してくれる」

「なぁ~アタシまで来る必要あったのか?」

「?呼吹は勇刀に稽古つけてもらいたくないの?」

「アタシは強くなって荒魂ちゃんと楽しくやれればいいんだよ」

「なら問題はナッシングデース!ユウユウに鍛えられれば、今よりももっと強くなれますヨ!」

「はぁ~ならしかたねーな、付き合ってやるよ」

「うん、ありがとう呼吹」

「しかしまさかこんな大所帯になるとは思いませんでした」

「あぁ、これには少し驚きだがそれに見合うだけの成果を得られるのは確かだ」

「えっと本当に大丈夫だったんですか?私達衛藤さんのお兄さんとはそこまで親しくないのに」

「まぁ勇刀の事だからちゃんと頼めば行けるだろ」

「では早くいきましょ、ここにいると人の目を集めてしまいますから」

 

そう言って集団は校舎内に入って行った

 

美濃関での出張稽古も終わり

また高校生としての放課後を過ごしていた

 

「なぁなぁ勇刀~今日どっか寄ってこうぜ~」

「ん~そうだなぁ~今日はなんか嫌な予感がするからこのまま直帰するわ」

「そっか~なら仕方ないな~俺も遊び過ぎて今月ピンチだし、家で大人しくゲームでもするわ~」

 

そんな他愛ない話をしていると騒がしい集団が勇刀の教室へ近づいてきていた

 

「おい、本当にこっちであってるんだろーな?」

「紗南センセーに貰った資料には1-3組と書いてありましたから間違いありまセン!」

「確かにあのおばさんは、人を馬車馬のように働かせてこき使う最悪なオバサンだが、こういう情報に限って嘘はつかないから安心しろ」

「それは信頼していると言えるのかしら?」

「まぁ信頼や信用の形は人それぞれだからな、薫がそれで良いなら良いんじゃないか?」

「少し違う気もしますが、この際置いておきましょう」

「あっ皆さんあの教室じゃないですか?」

「よし、行けエレン、お前が切り込み隊長だ」

「了解デス!ユウユウお久しぶりデース!」

 

騒がしい集団が扉の前で立ち止まると扉が開かれた

そこには顔見知りと折神家で知り合った刀使達がいた

 

「エレン!薫!姫和ちゃん!沙耶香ちゃん!瀬戸内さん!清香ちゃん!木寅!フッキー!

お前等なんでここに!?」

「ユウユウ会いたかったデーース!」

「おうふぅっ!エレン急に抱きつくのは止めなさいよ」

「むぅ、積極的な女の子は嫌いデスカ?」

「いいや?でも時と場所は考えて欲しいかな?」

 

勇刀の言葉でエレンは改めて周囲を見渡すと、呆れている用に苦笑いする仲間と突然現れた金髪巨乳美少女に抱きつかれた勇刀を見て、呆然といている勇刀のクラスメイト達がいたので渋々離れることにした

 

「んでこの大所帯で何しに来たんだ?」

「勇刀に、お願いがあってきた…」

 

沙耶香が勇刀の手を握って上目使いで勇刀を見た

 

「でもここだと少し話しにくいから別のところに案内してくれないかしら?」

「ん~それじゃぁ食堂でいいか、この時間なら人も居ないだろうし」

 

後に勇刀はこの判断が誤りだと言うことを思い知ることになる

勇刀は全員に自販機で飲み物を奢り大きな丸いテーブルを囲んで席に着いた

 

「沙耶香ちゃん?」

「なに?」

「いやなに?じゃなくて、何で俺の膝の上に座ってるの?」

「勇刀は嫌?」

 

沙耶香は勇刀の足の上にちょこんと座っており

他のメンバーもなぜそこ?

という顔をしていた

 

「まぁ沙耶香ちゃん軽いから良いんだけどさ」

「うん、ありがとう…」

「いや良いのかよ!?」

「まぁこれが勇刀だからな」

「んで本題は何だ?」

 

突っ込みを入れる呼吹を薫が宥める

そして勇刀に買ってもらった紙パックのジュースを飲み始めると

同時に本題に入る

 

「ユウユウは関東に派遣されていないので知らないかもしれませんガ、

最近美濃関の刀使達の動きが格段によくなっているんデス」

「ふむふむ」

「それだけならまだ良いんデス、強くなるのは良い事デスからでも問題はその後ナンですよ」

「何かあったのか?」

「なぜこの短期間で強くなれたのか聞いた…そうしたら」

「美濃関の生徒達に聞いて見てもいつもはぐらかされんだ」

 

美濃関生徒

 

MAさんの証言

「わわ私はわたしでがががががんばってるだけだから!誰にも教わってないから!」

 

KEさんの証言

「べ別にとと特別な事なんてししししてないよ~~~~おにい「可奈美それ以上は駄目!!」

 

「こんな具合だな」

「ホントにアイツ等何してんだ?」

「そこで私達は一つの真実に辿り着きましタ!美濃関は秘密裏に優秀な指導者を外部から

招きいれたのだと!」

「いやもう可奈美が答え言ってるよね」

「そしてその優秀な指導者とはズバリ!ユウユウ貴方デース!」

「いやそうだけど、どうしたエレン?なんかキャラがふわふわしてるぞ?疲れてるのか?」

 

ガタっと立ち上がって探偵が犯人を的中させた時の様に勇刀を指したエレンを座らせる

 

「やはりそうだったか、大方勇刀さんを自分達だけの物にしたかったんだろう、主に可奈美の考えそうなことだ」

「あのブラコンなら当然考えるよな、んで勇刀はどのくらいのペースで美濃関に行ってるんだ?」

「基本的に毎週、土曜日と日曜日一泊二日で稽古つけに行ってるけど」

「はぁっ!?お前そんなに行ってんのかよ!?」

「それなら、あの成長スピードにも納得がいくな、毎週勇刀さんの稽古を受けて強くならない方がおかしい」

「美濃関はまぁまぁ近いし、稽古つけに行くようになったのも美濃関の子達が学長に直談判しに行って、学長の許可が下りたからだしな」

 

「確かに羽島学長としても許可を出さない理由はありませんね、実績は十分そして生徒達からの信頼も篤い、こんな人材はそうそう居ませんからね」

「問題はその人材を美濃関が独占しているということナンデスヨ!衛藤勇刀は伍箇伝の共有財産であると言う事デス!」

「は?」

 

突拍子もない宣言に口をぽかーんと開けてい固まっていた

 

「言われてみればエレンさんの言うことにも一理あるわね」

「確かに力の差が開きすぎると迅速な作戦遂行に支障を来す可能性がありますね」

「私も…もっと強くなりたい」

「いや、そう言われてもな」

 

確かにミルヤの言っている事は勇刀も理解できる、部隊内で力の差があり過ぎると部隊の運用効率が下がってしまうというのは有名な話だ、故に現状美濃関だけが実力的に突出している状況を、他の四校を底上げして差を縮めようと言うのは至極当然の事だった

しかし勇刀的には女子高である鎌府と長船に行くのはどうしても気が引けていた

沙耶香とエレンの事だから、日程的にも美濃関と同じ物を要求してくるだろうというのは火を見るよりも明らかだった

 

「ユウユウお願いデス!長船にも稽古をつけに来て下サイ!」

「勇刀…鎌府にも、来て…」

「学長達は何て言ってるんだ?鎌府と長船なんて今特に大変だろ?高津学長は行方知れずだし、真庭学長も本部長代理で殆ど鎌倉だし」

「ウチは何の問題も無いってよ、むしろ指導は勇刀に一任するそうだ」

「真庭学長から伝言も預かっているわ、【衛藤兄へ、是非ともウチの連中を扱いてやってくれ、確かに女子高である長船へ宿泊で稽古をつけに来るのは気が進まないだろうが、当然対策はとるし其方からも何かあれば遠慮なく言ってもらって構わない、宜しく頼む】真庭学長からの伝言はこれで終わり、そして私からもお願い、私も強くなってもっとたくさんの人や仲間を、護れる様になりたいの!」

 

この様に刀使達の熱い思いを目の当たりにしていた時、その様子を傍から見ていた生徒達には

 

「くぅ~~!勇刀ばっかあんなに可愛い子達に囲まれやがって~~!」

「ナニあれ?修羅場?」

「えっ?衛藤君あんな可愛い子達に言い寄られてるの?」

「あれって伍箇伝の子達じゃね?御刀持ってるし」

「それにしてもホント可愛い子ばっかじゃねぇか」

「なー、流石我が校1のモテ男、その影響が他校のそれも刀使っつー国家公務員を養成する所にまで及ぶとは、恐るべし」

「いいなぁ、俺もあんな可愛い子達に言い寄られてみてぇ」

「あんたには一生無理よ」

「くぅぅぅぅぅ!!」

「悔しかったらもっと自分磨きな」

 

(それにしてもアイツ等、コソコソしやがって変な噂が流れたらどうしてくれんだよ)

 

こうして大挙して押し寄せた野次馬達が食堂の入り口から勇刀達を見つめていた事にもしっかりと気付いていた

 

 

(このまま長引くとどんな尾ひれが着くか解ったもんじゃねーな)

「は~解ったよ、女の子にこれだけ頼まれて頭下げられて、その思いに応えないってのは男としては最低だからな」

その言葉を聞いて少し間をおいて

「ユウユウありがとうございマーす!!大好きでーース!」

「勇刀…ありがとう…」

「ちょっ!?待て待てストップストップ!こんなところで抱き着いてくるなって!少しは周りを気にしろって!」

 

まず感情が表に出やすいエレンが沙耶香を巻き込むように勇刀に抱きつき椅子ごと後ろに倒れ、沙耶香も勇刀にそのまま抱きついた

 

「おいお前達、少しは場を弁えろ!」

「十条さんの言うとおりよ、二人とも少し落ち着いて!」

 

「ったく、騒がしい奴等だな」

「エレンは何時もの事だから慣れてるけどな」

「しかし糸見沙耶香があのような行動をとるとは予想外です」

「どうしてですか?」

「聞いていた情報にはあのような事をする様な人物では無いと思っていたので」

「まぁ実際オレもビックリしたわ、あの任務をこなす以外に興味を示さなかった沙耶香があんなことするなんてな、でもそれだけ勇刀の事を信頼してんだよ」

「へぇ~、まぁアタシは強くなれれば何でも良いんだけどな」

 

抱き着いて離れようとしない二人を常識人枠の二人が引き離そうと動きだし

それ以外の事の成り行きを見守っていた薫達は奢ってもらったジュースを飲みながら静観していた

そんな放課後の平和な時間が過ぎていくと誰もが思っていた

 

「っ!?」

「ワォ!?いきなりどうしたんですか?」

「…勇刀?」

押し倒されている状態からいきなり上体が起き上がった勇刀に驚いたエレンと沙耶香が問い掛けるが勇刀は天井を凝視していた

「来る…」

「来る?一体何が…っ!?」

勇刀が言葉を呟き校庭の方を向いた瞬間、刀使達の持っているスペクトラムファインダーが一斉に荒魂の出現を知らせるアラーム音を発した

そして校庭からは部活中だった生徒達の悲鳴が聞こえてきた

「なっなんだ!?」

「おぉい!あれって荒魂じゃねーのか!?」

「嘘だろ!?なんでこんな所に!」

 

「落ち着けぇえええええええええええ!!!!」

 

食堂に居た生徒達はいきなりの事に混乱していたが勇刀の

声で静まり返った

 

「一旦落ち着け!ここには俺達(刀使)が居る!慌てず落ち着いて教職員の指示にしたがって避難しろ!幸い校門はグラウンドとは反対方向だから安全に外に出られる!」

 

「勇刀さん!被害が出る前に速く行こう!」

「言われなくても!って御刀!」

「それなら心配すんな、もうじき来る」

「ねねーー!」

「おぉっ!?ねねが持ってきてくれたのか!サンキュー!後で何か食いもんでも奢ってやるよ!」

「私達も行くぞ!」

そう言ってねねから御刀を受け取り外へ出て行き、姫和達もその後に続いた

 

(今、彼はスペクトラムファインダーよりも速く荒魂の出現を察知していたような…気のせい、でしょう)

 

ミルヤも思考はそこそこに勇刀達の後を追った

 

グラウンドでは荒魂が現れた事でパニック状態になっていた

 

生徒達は逃げ惑い、部活の指導をしていた教員達は生徒を必死に逃がそうと大声で指示を飛ばしていたがグラウンドに現れた荒魂の叫び声で全てが無意味になっていた

 

「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

「ひっ!きぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

そして一人の生徒が荒魂に押しつぶされようとしたその時

 

「よぉ、大丈夫か?」

「……えっ?衛藤君…」

「もう大丈夫だ…俺達が来た!!」

 

生徒が眼を開けた先には身の丈ほどの大刀で荒魂の鋭い牙を受け止めている勇刀が居た

 

「動けるなら速く安全な所へ走れ!それが無理なら!!おぉおおおおおお!!!」

 

勇刀は受け止めた牙を御刀で押し返し荒魂を押し退けた

 

「そこに居ろ、俺より後ろには絶対通さない!」

「うん!うん!!」

「よし!全員準備は良いか!」

 

「「「「「「「「はいっ!!!!!おうっ!!!」」」」」」」

 

「総員!抜刀!!写シ!!!」

 

荒魂を囲むように立つ刀使達が刀を抜き写シを張る

 

「戦闘開始!!」

 

その声と同時に一斉に行動を始める

 

「おっ先ぃーーー!」

 

案の定七之里呼吹が一足先に荒魂へ突っ込んで行った

 

「七之里呼吹!また!」

「あれがアイツのスタイルだ、好きにやらせてやれ」

「しかし!それでは連携が!」

「今は俺が居る安心しろ、アイツがヘマしても俺がカバーしてやれる、それに学校が戦場になってる時点で短期決戦しか考えてねぇよ、お前もだろ?木寅」

「はい、では問題児はお任せします。」

「おう任せろ、とっとと終わらせて帰ろうや」

 

そして二人もそれぞれのポジションに着き

 

「それじゃぁ作戦はここに来る途中に伝えたとおりだ!攻撃手は俺とフッキー!撹乱は姫和ちゃんと沙耶香ちゃん! エレンと瀬戸内さんと木寅と清香ちゃんは二人一組で荒魂がグラウンドから出ない様に牽制だ、止めは薫だ!しっかり準備しとけよ!」

 

「「「「「「「「了解!!!」」」」」」」」

 

そこからの行動は早かった

 

「やっぱりお前と組むと好きに暴れられるからサイコーだぜ!!」

「俺以外だとこうはいかねーもんな!今は好きに暴れて良いぜ!」

「ははっ!やっぱりお前は最高だぜ!アイシテルぜ!勇刀!!」

「「「「「「「!?!?!?!?!?!?」」」」」」

 

呼吹の大胆カミングアウトに一瞬戦慄するも、いつも通りの言動に近い物である為

気のせいだとして頭の隅に追いやった、自分がやるべき事を完璧にこなす為に

 

「そういうのは本当に大切な時の為に取っときな!でも、悪かないなっ!」

「さぁどんどん行くぜぇ!!」

 

「行くぞ!荒魂を好きに行動させるな!」

「わかりました!」

 

「エレンさん私達も行きましょう!」

「ハイ!お仕事の時間デス」

 

「沙耶香、私達も行くぞ」

「うん、頑張って勇刀に誉めてもらう…」

 

その後荒魂を追い詰めようとするが

 

「くっ!この荒魂予想以上に硬いわね!」

「やっぱり頭以外も結構な硬度があるらしいな、薫気合い入れて打ち込まないと長引くぞ!」

「は~マジか~、楽に終わると思ってたんだけどな~」

「よーし、んじゃ真庭学長には薫はやる気がありませんでしたって俺が報告しとくは、あ~ぁそんな報告が上がったら真庭学長怒って薫に無茶な任務やらせるんだろうな~~」

「ひぃっ!ヤメロ!そんなことされたら、任務でなく直に殺される!」

「じゃぁやる気出せ!んで終わったら俺んちで飯にしようぜ!薫の好きなもの作ってやるよ」

 

「なん…だと?」

「ユウユウの」

「家で」

「ご飯」

 

勇刀の言葉に反応したのは薫だけではなかった

 

(これは散々可奈美に自慢されてきた勇刀さんの手料理を食べる絶好のチャンス!)

(しかも上手く行けば、そのまま勇刀の家に泊まって仕事を正当な理由で休める!)

(フフフ!残念でしたねカナミン!そして美濃関の皆サン!ユウユウの手料理は私達が美味しくいただきマース!)

(勇刀のご飯…楽しみ…その為にもこの荒魂を)

 

((((即刻片付ける!!!!))))

 

一部の刀使達の心が1つになった瞬間だった

 

 

同時刻 鎌倉、鎌府女学院 女子寮

 

「はっ!!誰かがお兄ちゃんの手料理を食べようとしてる!!!」

 

 

場所は戻り、勇刀達は突如動きのよくなったメンバーを軸に攻撃していた

軸になっているメンバーの動きは凄まじく鬼気迫るオーラを発していた

 

「オラァ!ひよよん!もっと気合い入れろ!でないと勇刀の飯食うのが遅くなるだろ!」

「わかっている!お前こそ準備は出来ているんだろうな!」

「いつでも来いオラ!ひよよんは自分の胸が成長したときの準備でもしてろ!」

「しょうちしたきさまはきる!!」

「二人とも!お決まりの喧嘩をしている場合ではアリマセン!」

「そう、すぐに、迅速に、これを、処理する」

 

4人は喧嘩をしながらも確実に自分の仕事をこなしていた

もはやこの4人だけで良いのではないかと言うほどの働きだった

 

「あの4人は急にどうしたのですか?彼が食事の話をした途端に今までの3倍以上の動きを見せていますが」

「たぶん衛藤さんのお兄さんの手料理が凄く美味しいからだと思います」

「そうなの?清香ちゃん」

「はい、私もほのちゃんからお話だけしか聞いていないので詳しくはわからないんですけど」

「そうなのですね、では私達も早く加勢しましょう、ノロの回収部隊が来る頃には良い時間でしょうから」

 

そして調査隊の3人も加わり

 

「薫!!叩き斬れ!!」

「任せろ!!キィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」

 

薫の渾身の猿叫と共に荒魂はノロとなり崩れ落ちた

 

「ふぅ」

「ナイス薫、んじゃノロの回収部隊呼ぶから、不用意に人が近づかないように封鎖しといて、先生達には俺からも伝えとくから」

「解ったここは任せてくれ」

 

 

勇刀はスペクトラムファインダーで特別祭祀機動隊にノロ回収部隊を要請し、そのまま生徒と共に避難していた教師に状況の説明をして生徒達をグラウンドに近づけない様に周知させて、今日はこのまま全生徒を下校させるように指示を出した

 

そしてグラウンドに戻りながら今日の夕飯の献立を考えていた

 

「今日の夕飯どうすっかな~、とりあえずアイツ等にリクエスト聞いて買い物行くか」

「よぉ回収部隊の方はどうだった?」

「あぁ、護衛の刀使とこっちに向かってる、30分位で着くってよ」

「回収部隊に護衛の刀使を着けると言う事は、ノロの強奪犯を警戒しての事でしょう」

「あぁ、この前、真庭本部長から連絡のあった奴か、フードの刀使、容姿も目的も思想も一切不明で神出鬼没、まぁ今回に限っては出てこないだろ、そいつにまともな判断力があればな」

「そうだと良いですね」

 

「おーーーい!!勇刀―――――!!」

「あっ!?お前ら何してんだ!全校生徒は即時下校って言われただろ!」

 

仕事の話をしていると研吾達が駆け寄って来た

 

「心配だったからつい」

「勇刀のクラスメイトか?」

「俺の友達だよ、つーかお前等何しに来た」

「勇刀の同僚である可愛い刀使さん達を拝みにkブフェッ!!」

「下心丸出しかよ!」

「マーマー、オトモダチもユウユウを心配して来てくれたんですから、少し位大目に見てあげまショウ」

「そうだけど、そういうわけにもいかねーだろ、ん?どうした研吾?」

「………」

 

勇刀は先程からエレンの方を見て固まっている研吾に話しかけるが反応が無かったが次の瞬間

 

「そ、それは制服と言う名の凶器ですね!お嬢さーーーーーーん!!」

「寝てろ!」

「グヘッ!!キュウ~~~~~~………」

「わりぃ晴季、この変態の事頼むわ」

「あぁ、任せろ」

 

エレンの胸に飛び込もうとした研吾の首に手刀を叩き込み気絶させ、一番体格の良い晴季に任せた

 

「OH!なんだかねねみたいな人でしたネ~」

「悪いなエレン、驚いただろ?」

「何んとも無いですヨ、ユウユウが何もしなくても、私一人で対処出来ましたカラ」

「それでもだ、いくら御刀を持っていると言ったって刀使だって言ったって、皆は女の子だ、それは何があろうと変わらないんだよ」

「ユウユウ…」

「だからこの力を手に入れた時に、俺は護ると決めた物がある」

「まさか勇刀さん、貴方が護ろうとしているのは」

「俺は荒魂から一般の人達だけじゃない、刀使の皆も護る、それが俺の護ると決めた物だ、だから安心しろ、俺の眼が黒い内は、俺の目の前じゃ誰も死なせない」

 

その決意は言葉に乗り、その場に居てそれを聞いた者全ての心に響いた

しかし、その決意には盲点もあった

「でも、それじゃぁ…誰が勇刀を、護ってくれるの?」

「あ~…」

「沙耶香の言う通りだ、勇刀さんは何時も私達刀使の事を一番に考えて護ってくれる、しかし貴方にもしもの事があったら」

 

沙耶香と姫和の言葉に勇刀は明後日の方向を見ながら頭を掻いて言葉を濁す

まさか自分の心配をされるとは思わなかったと言った反応だった

それでもすぐに持ち直してこう続けた

 

「ん~、じゃぁその時は皆にお願いしようかな、だから俺が安心して皆に任せられるように強くなってくれ」

「おいおい、勇刀に認められるようになるって、どんだけ強くならないといけないんだ」

「私達も頑張って強くならいとね!」

「頑張りましょうね十条さん!」

「あぁ!今度こそ確実にタギツヒメを」

 

口々に自分達の想いを言葉にする彼女達を見た勇刀の顔は自然と緩んでいた

これから成長し強く大きい翼を持つ雛鳥達の羽ばたきを楽しみにしているようだった

 

そこへ予定よりも速くノロの回収部隊が到着し、ノロを回収している最中の事だった

 

「は~~、これが終わればオレ達の仕事は終わりだな」

「最後まで気を抜くな、まだ襲撃犯が来ないとも限らないんだぞ」

「流石にそれは無いだろ、今までは護衛が手薄だったから襲撃してきたんだろうが、今回は六刃将隊長で折神紫と同等クラスの最強刀使と目される勇刀が居るんだ、そこに態々襲撃なんてして来ないだろ」

「そうですね、そうだといいですね」

「でも逆にそういう油断を突いて来るかもしれませんヨ!」

「おいエレン物騒な事言うなよ!フラグが立っちまったらどうすんだ!」

「強ちありえないとは断言できません。警戒は行って然るべきですよ、益子薫」

「そうね、これだけの戦力が居てノロの強奪を防げなかった時のほうが深刻だものね」

「まぁそうやって話してる内に回収作業も終わりそうだし、もう大丈夫だろ…っ!!」

 

その時、学校のフェンスの向こう側から黒い影が勇刀に襲い掛かった

しかし向けられた刃を御刀で受け止め相手を弾き飛ばす事で距離を取った

 

「おぉっと!あぶねぇ!まさかホントに来やがるとはな!」

「勇刀さん!!」

「お前等は周辺警戒!!襲撃犯がコイツだけとは限らないからな!木寅指揮は任せた!」

「了解!調査隊は生徒達の保護!その他は回収部隊のガードにまわれ!」

「「「「「「「了解!!!」」」」」」」

 

ミルヤの的確な指示の下それぞれが行動し勇刀が存分に戦えるようにスペースを確保すると勇刀は襲撃犯に鋭い眼光と殺気をぶつける

 

「一つ聞きてぇんだけどよ、何でこのタイミングで実行した、回収した後に襲撃してノロを奪う方がよっぽど安全だったじゃねーか?」

「………」

「だんまりかよっ!!」

「っ……!」

「せぇいっ!!」

 

襲撃犯は勇刀の御刀を回避するのが精一杯といった様子だった

現に回避が間に合わずガードを余儀なくされた時は数メートルは吹き飛ばされていた

 

(剣を合わせた時の感覚からしてこいつが刀使ではない事は確かだ、でもこんなところで悠長に分析しながら戦ってられねぇよな)

 

勇刀は周囲を見渡し状況を確認する、自らの通う学校が戦場となり、いつもであれば部活動に励む生徒達の声で活気づいている頃のはずだが学校は静まり返りただ金属同士がぶつかり合う音が響いているだけだった、そして音の発生源を険しい顔で見守る刀使達と怯えた様子でただ立ち尽くしているクラスメイト達、その様子を見た勇刀にはすぐにでも襲撃犯を叩き斬るという選択肢しか無くなった

 

「悪いな、ここは悠長に戦っていて良い場所じゃねぇんだ」

勇刀は切先を襲撃犯に向け威圧する

「っ!!」

「はぁっ!!」

「クッ!!」

 

勇刀は敵が怯んだ一瞬の隙を見逃さずに斬りかかり

袈裟切りで振り下ろしたが敵は寸での所で半歩下がる事で致命傷を避けたが、それでも浅くは無い傷を負った

 

「グッ!!……潮時か」

「逃げた!?」

「逃がすか!」

「待て追うな!」

 

勇刀は追おうとする姫和とミルヤに待ったをかける

 

「しかし奴は貴方との戦いで消耗している!今が絶好のチャンスなのですよ!」

「それを何故追うなと!」

「奴にはそう浅くは無い傷を負わせた、当分の間はノロの強奪なんて出来やしない」

「なら尚更奴を斬るべきです!」

「木寅ミルヤッ!!!!」

「っ!!」

 

ミルヤは急に大声で呼ばれ一瞬身体を強張らせた

勇刀はミルヤに近づき手を伸ばす

 

「っ~~~~~~っ!?ひょふほ、はひほふふんへふは!」

「そんな怖い顔すんなよ、綺麗な顔が台無しだぞ?」

「ふぇえ!?」

 

勇刀はミルヤのほっぺを摘まみ、捏ね繰り回していた

 

「一回落ち着け、俺達はもう当初の目的を果たしてるんだ、その上に素性も能力も未知数な敵を追いかける必要はない、今俺達がするべき事はそうじゃないんだ」

「ぷわぁ!では今私達がやるべき事とは…」

「それは……」

 

勇刀はミルヤのほっぺから手を離して笑顔で宣言する

 

「この荒魂の残骸をとっとと片付けて飯を食う事だ!!!!」

「「「「「「えっ?」」」」」」」

 

その場に居た全員が素っ頓狂な声を出してしまった

がそんな事もお構いなしに晴れやかな笑顔で笑いながら姫和にも近づく

姫和の頭を撫でながら、目線を合わせてしっかりと眼をあわせる

 

「俺達は今回、偶然アイツに遭遇しただけで本来の仕事は荒魂を祓い、ノロを回収し荒魂に対抗できない人達を護る事だ、今日の俺達の成果は荒魂を祓って、ノロも回収して、襲撃犯は撃退してって最高の出来じゃん、襲撃犯への対処はまた別件だ」

「それは、そうだが……ふわぁ!」

 

姫和はまだ納得が出来ない様子で俯いていたが勇刀に頬を引っ張られ顔を上げさせられた

 

「だーかーら、今回は奴と戦う時じゃ無かったってだけだ!これから先でその時が来れば否が応でもアイツと向き合わなきゃいけない時が来る、だから余計な物まで背負い込むな、特に姫和ちゃんは」

「ほほへほれほ!?」

「和人から聞いたよ、柊の血を継ぐ姫和ちゃんの家の宿命も、最初っからそんな重い物を背負ってるのにまた新しく背負い込む事なんて無いんだよ」

 

姫和は勇刀の優しい言葉に思わず、黙ってしまう

 

「………」

「姫和ちゃんが居なくなったら可奈美は勿論俺だって悲しいし、それはエレンや薫や沙耶香ちゃん、調査隊の皆だって同じだ、それに一番悲しむのは唯一の肉親である和人だ」

「そへへほ、わはひわ…」

「姫和ちゃんには、俺達がそんなに頼りなく見えるか?」

「っ!そんな事は無いです!勇刀さん達はっ兄さんはっ凄く頼もしいです!でもこれは私が独りで……それが柊の宿命ですから」

 

姫和は思わず頬を摘まんでいる勇刀の手を掴んで離し力強く手を握る

握っている姫和の手は心なしか小さく震えていた

 

「そんな今にも泣き出しそうな眼で言われても説得力なんて無いぞ、姫和ちゃんは何でもかんでも背負って立てるほど頑丈じゃないんだよ、それは人間である限り誰でも一緒だ、俺も折神紫もな、だから分けろ、俺の肩にも和人の肩にもちょっとずつ乗っけてちょっとずつ立てば良い、姫和ちゃんは独りなんかじゃないんだから」

 

周囲を見渡すと仲間達が居た、全員が頼もしく見えた、その事が姫和の心に余裕を生んだ

その時姫和はどこか身体が軽くなるのを感じた、この人とならどんな事でも成し遂げられるとそう感じさせる程だった

 

「おーい、ノロの回収終わったとさ~~」

「おっ!ならさっさと買い出しして帰るか!何作るかは買い物しながら決めよう!」

「なあなあ!プリン買って帰ろうぜ!食後のデザートに!」

「あ~そう言えば家の冷蔵庫に、この間試しに作ったプリンがあったな」

「お前、デザートも作れんのかよ!?本当に男か!?」

「なんだ?フッキー?そんなに疑うなら食ってみるか?」

「アタシはプリンにはうるさいぜ!」

 

そう言ってワイワイと歩き出す仲間達の背中を見ながら姫和は微笑んでいた

そして自分も仲間達の輪に加わる為に後を追う

 

「勇刀さん!チョコミントアイスはありますか?」

「ん~~流石にそれは無いから帰りに買って帰るか!」

「良いんですか!ありがとうございます!」

「いいよ」

 

「おーい!勇刀!俺達も飯食いに言って良いか?」

「えー、俺は良いけど皆は?」

「私は全然オッケーデース!」

「オレも構わんぞ」

という具合に特に反対意見も出なかった為、研吾達も参加する事になった、

「んで~?今日は何作るんだ?」

「それを買い出し中に考えんだよ、お前らも何か案出せ」

 

この後勇刀の家での食事会は始まった

 

続く

 




文字数にして11399文字という現時点での最長記録を樹立してしまいました。
次は衛藤家での食事回です。
お楽しみに


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16話 兄の過去と手料理パーティー

勇刀の昔話がちらっと語られます!



「さぁ~て、今日は何作ろうかな~」

「なぁ買い物は何処でするんだ?スーパーか?」

「ん~それでも良いんだけど俺は何時も商店街の八百屋さんとかで買ってるな」

俺は研吾達には先に帰って荷物を置いてくる様に言っておき、俺はエレン達と買い物をしていた

「しかし先程から凄いですね」

「おう、衛藤のボウズ!おめぇさん、そんな別嬪さん大勢引き連れて羨ましいねぇ!」

「おいおい、おっちゃん、そんなに鼻の下伸ばしてるとまたばっちゃんに叱られるぞ」

「ははは!そいつは勘弁だな!」

「あっ!勇刀の兄ちゃん!今度剣術教えてくれよ!」

「暇があればな、ちゃんと自主練しとけよ」

「「「「オッス!!!!」」」」

商店街に入ってから勇刀は老若男女問わず、あらゆる人に話しかけられていた

それは買い物をしているときも変わらなかった

「あらあら勇刀ちゃん、今日は可奈美ちゃんと一緒じゃないのね?」

「可奈美は今寮生活になったからねぇ~」

「でも今日は随分と大人数なのね」

「あぁ俺の新しい友達で刀使さん、なんだぜ」

「あらあらそうなの~、いつもお世話になってます、刀使さん達が居てくれるおかげで平和に過ごせてるわ」

八百屋のお婆ちゃん、のんびりしたしゃべり方とお礼に

皆は照れくさそうに、少しぎこちない返答をしてしまっていた

「そうだわ勇刀ちゃん、今日はこれをサービスしてあげるわね」

そういうと勇刀の持っていた袋にリンゴを数個入れてくれた

「本当に良いの?」

「良いのよ、勇刀ちゃんはこの町自慢の刀使さんだからね」

「ありがとばあちゃん、また買い物に来るよ」

「えぇ待ってるわね」

 

その次に寄った肉屋さんでは

 

「おぉ!衛藤さんとこの!さっきは家の娘を助けてもらったみたいで!本当にありがとう!!お前からもちゃんとお礼しなさい!」

「あっあのえっと…あの時は助けてくれて…その、ありがとうございました」

「あぁ!ここ君の家だったのか!さっきは間に合ってよかったよ、怪我は大丈夫?」

「は、はい転んだ時に出来た擦り傷とかだけで、大した物はありません」

 

お店の奥から出てきたのは先程荒魂に襲われそうになっていた女子生徒だった

腕などに絆創膏やガーゼ等を貼ってはいるが元気そうにしていた

 

「そっかなら良かった、傷も痕が残らない様に治ると良いね」

「はっはい、そのえっと……」

 

女子生徒は顔を赤くしてスススと父親の後ろに隠れてしまった

 

「ははは、悪いねぇこの子は昔から男の子には人見知りが激しくてねぇ、んで今日は何をお求めで?」

「今日はハンバーグにしようと思ってるんだけど、良い肉はある?」

「おぉ!あるぜぇ!とっておきのがな、娘を助けてくれた礼だ、コイツを持ってってくれ!」

「デケェ!なんだこの肉の塊!!」

「おうよ!斬り分けて丸ごと焼いてローストビーフにしても良し!厚切りにしてステーキにしても良しの最高級牛肉だ!好きなように料理して食べてくんな!」

 

店主が出して来たのは巨大な肉塊だった、それも見るからに高級そうな

それを目の前にした勇刀達は一瞬言葉を失っていた

 

「おっちゃんありがとう!コイツはオレ達が責任もって美味しくいただくぞ!!」

「あぁ!そうしてやってくれ!これ食って精つけてくれ!衛藤さんとこの子なら上手く料理してくれっから安心しな!」

「いやいやいや!いくらなんでもこんな高そうな肉タダでもらえるわけないでしょ!?てか薫、お前も勝手に話を進めんな!」

「バカヤロウ!この厚意を勇刀は無碍にするっていうのか!オレにはそんなこと出来ないぞ!」

「そうだぜ、こういうのは素直に受け取っておくもんだ、コイツは人生の先輩からのお節介だ、それともウチの娘を貰ってくれるかい?」

「っ!ちょっとお父さん!」

 

娘は顔を真っ赤しにポカポカと父の背中を叩き抗議し、父親はハッハッハッハッハ!と

豪快にあっけらかんと笑っていた

勇刀は手を額に宛てて呆れたというようなポーズをしていた

 

「んで?どっちを持ってく?」

「肉に決まってんだろ!自分の娘と肉を同列で扱うな!アンタ其れでも親か!?」

「おいおい、見縊ってもらっちゃ困るぜボウズ!お前さんにだからこんな事言えるんだぜ、うちの娘を託せるのはここらじゃお前さんしかいねぇんだ」

「ごめんなさい!ごめんなさい!父が変な事ばかり!」

 

「なんかすげえ豪快なオヤジだな」

「えぇ…少し驚きました」

 

「おっ?なんだ?後ろにもまた偉い別嬪さん達がいるじゃねぇか!モテモテだねぇこの色男!」

「もーお父さんいい加減にしてよーーー!!」

 

この直後余りの騒がしさに店の奥から出てきた奥さんに親父さんは叱られ

大人しくなり、娘にも数週間口をきいてもらえなかったそうな

 

そして他の買い物も済ませ帰路の途中

 

「あ~~マジでどっと疲れた……」

「お疲れ様です、勇刀さん」

「ありがとう姫和ちゃん、悪いね荷物持って貰っちゃって」

「ご馳走になるんですから、これ位させて下さい。どうせなら料理のお手伝いもします。」

「ありがとう、将来姫和ちゃんは良いお嫁さんになるよ」

「およめっ!…さん……私が、勇刀さんの…およめ…さん」

「あれ?姫和ちゃん?」

「それじゃぁオレ達はコインロッカーに預けてた荷物取りに行くから、夕飯の準備は頼んだ」

「あっあぁ荷物は任せたぞ薫」

「私達は先に料理の準備を進めちゃうわね」

「ハイ!お願いしマース!」

 

勇刀と姫和と知恵以外のメンバーはコインロッカーに預けた自分達の荷物を回収するために駅に向かった、勇刀は沙耶香の端末に家の位置情報を送っておき、道に迷う事がない様にしておいた

 

そして帰宅すると家の前では既に研吾達が集合していた

「おかえりー!待ってたぜ―!」

「待たせたな、お前等は適当に寛いでてくれ、俺達はすぐ飯作るから」

 

研吾達を招き入れ一旦自室に戻ってカバンを置き、ブレザーだけをハンガーにかけ、またリビングに戻る

 

「ここが勇刀さんと可奈美の家」

「なんだか至って普通の家ね」

「まぁ、親父がどんな仕事をしてるか解らないってのを除けば、普通の家庭だからな、じゃぁ二人とも手伝って」

 

「解りました!」

「任せて!」

「勇刀――俺達も何か手伝うか~~?」

 

「じゃぁテーブルにクロスかけといて、それ以外はまた後で頼むわ」

「よぉし!任せろ!!」

 

研吾達はリビングにある大きなテーブルにクロスをかけちょっとした掃除を始めた

 

「さて、んじゃまずサラダから作るか」

「そうね、手早く作れる物から用意しちゃいましょうか」

姫和と智恵は手分けして大きなボウル水を張りキャベツとレタスを適当な大きさに千切り入れ取り出し水気を切りお皿に盛り、その上から戻したワカメやニンジン、玉葱をスライスし、それらを均等に混ぜ合わせて大きめの皿二枚に盛り付け

勇刀は魚屋で買ったサーモンやマグロの赤身といった魚の切り身を、刺身よりも薄めにスライスし、先に皿に盛ってあったサラダの上に乗せる

「ドレッシングは取り分けた後でお好みでかけて貰おう、さて次は肉だな」

 

勇刀は肉屋で受け取った

肉の塊を丸ごと半分に切り片方を密封出来る袋に入れその中に肉が浸るぐらいコーラを注ぎ始めた

 

「これで後は1時間位冷蔵庫で寝かせて置こう」

「お肉を軟らかくする方法はいくつかあるけれど、コーラに漬けるのは初めてみたわ」

「私もです。家ではヨーグルトや牛乳によく漬けていました。」

「まぁこういうのは手に入れやすい物を使うのが一番良いんだよ、それこそ自分が扱いやすい物をな、さーて次は何作ろうかな」

「そう言えば、さっき切り分けたもう半分のお肉はどうするんですか?」

 

次の料理に取り掛かる準備をしていた勇刀に姫和が聞くと

準備を進めながら答える

 

「可奈美の分だよ、アイツだって荒魂から沢山の人達を護る為に頑張ってるのに久しぶりに帰って来て、何もない何て寂しいじゃん」

「でもいつ帰って来るかなんて、確実にはわからないんじゃ」

「いや2日以内には必ず帰って来る、確実にだ」

 

二人が見た勇刀の横顔は確信を持って、可奈美が帰って来る事を信じて疑わないという表情をしていた、

 

「やっぱり勇刀君もお兄さんなのね衛藤さんの事は何でもお見通しね」

「伊達に長い事可奈美の兄やってないよ、さーて食べ盛りが多いからな、じゃんじゃん作るか」

「そうね!材料を余らせちゃうのも勿体無いものね!」

 

そうして3人は色々な料理を作って行く、この時の3人の手際の良さは目を見張る物があり、その様子を見ていた研吾達は「この3人なら店を出せるのでは」と其々の脳裏をよぎった

そうさせるほどに料理の腕前が同年代の誰よりも秀でていたという何よりの証明だった

 

ピンポーーン

 

「おっ来たか、二人ともここ任せて良いか?」

「はい、大丈夫です」

「あと、もう少しで終わるから後は私達でやっておくわね」

 

勇刀はキッチンを二人に任せて玄関へ向かい、ドアを開けると

「ユウユウ!おじゃましマース!」

 

門の前にはエレン達、荷物回収組が居た、ほぼ全員が違う学校の制服を着ているので物凄く目立つ集団だった

勇刀は門を開きエレン達を家に招き入れる

 

「駅からここまで迷わなかったか?」

「大丈夫、勇刀が家までの地図をくれたから、真っ直ぐ来れた」

「そうか、なら良かった荷物はリビングの隅にでも置いといてくれ、食事の準備も出来てるから」

 

リビングに入るとテーブルには所狭しと料理が置かれていた

 

「おぉーー!こりゃすげぇな!」

「これ程の料理をたった3人、しかもこの短時間で用意するとは、凄いですね」

「まぁ手伝ってくれた二人の手際が良かったからな、んじゃエレン達は手を洗って来な、洗面所は向こうだから」

「了解デス!」

 

料理の多さに薫とミルヤも驚いていた

そして手洗いの指示を出し、自身もキッチンで手を洗い配膳や盛り付けの手伝いをする

そして

 

「え~~それでは皆様!本日はお集まりいただき誠にありがとうございます!乾杯の挨拶は僭越ながら私、朝井研吾が務めさせていただきます!」

 

何故かジュースの入ったグラスを持ち、乾杯の音頭を取ろうとしている研吾が居た

 

「なぁ良いのか?アレ」

「…まぁ、そのなんだ……やらせてやってくれ」

「研吾さんがウザくてゴメンね~~」

「ソコォ!他人の悪口を本人の前で堂々と言うなぁ!!」

「研吾…早くしてくれ、早く食べたい」

「解ったよ!えぇ~~今日の出会いを祝して乾杯!!」

「「「「「「かんぱ~~~~~~い!!」」」」」」」

 

こうして衛藤家での宴会が始まった

 

「おぉっ!この出汁巻き卵うめぇ!」

「この唐揚げもカリッカリでめちゃくちゃ美味い!!」

「ん~~~っ!また料理上手くなったな勇刀!」

「そりゃ毎日料理してたら嫌でも上手くなるだろうよ、食事は大事だからな」

「うん、私…勇刀の料理好き、心が温かくなる、舞衣のクッキーと同じ位好き」

「そっかそっか、それは光栄だね、沙耶香ちゃんは普段どんな物食べてるの?」

 

この質問によって鎌府が勇刀の怒りを買うことになるとは誰も思っていなかった

 

「え?携行栄養保存食とか…」

「……は?」

「サーヤそれは本当ですか?」

「うん、高津学長達が開発した、最新の栄養食って言ってた…ダメだった?」

「だけどあれだけだと食った気しねぇんだよな~」

「そりゃそうだろう、しかし鎌府は大丈夫なのか?」

「大丈夫な訳ないだろ、鎌府には今度俺が直接話しとく、沙耶香ちゃん今日は好きなだけ食べて良いよ!」

「うん沢山食べる、いただきます」

 

沙耶香は美味しそうに料理を可愛らしく咀嚼する

そんな沙耶香を見て勇刀は溜め息をつく

そこへエレンが隣に座る

 

「ユウユウ、鎌府の事はどうするつもりデスカ?」

「今すぐにどうこうする気はないけど近い内に話しはするよ、エレンも何かあったらすぐに言えよ?力になってやれるかもしれないから」

 

勇刀はエレンの頭を撫でエレンもそれを受け入れる

 

「ユウユウは本当に優しいデスネ」

「そうでもねーよ、んじゃそろそろ薫お待ちかねの物ができた頃かな?」

「ん?」

「ちょっと待ってろ」

 

勇刀はキッチンに向かい炊飯器を開けそこから密閉された袋に入った肉の塊を薫に見せた

 

「そっそれは!肉屋のおっちゃんがくれた肉!!」

「薫の分は丼にしてやる、それ以外のは新しくサラダに乗せて出すから葉っぱで巻いて食うなりして好きに食べて良いぜ」

「勇刀…お前は神か……」

「よせやい照れるだろ!んじゃちょっと待ってな」

 

勇刀はキッチンに戻り作業を始めた

そして改めて部屋の中を見渡してみるとある事に気付いた

「先程から気になっていたのですが、彼ほどの剣の腕があれば色々な大会で優秀な成績を納めていると思ったのですが、賞状やトロフィーと言った物は無いのですね」

 

ミルヤの言う通りリビングを見渡してみても賞状やトロフィーといった物が見当たらなかった

確かに勇刀程の実力があれば国内で開催される出場可能な大会では常に上位は愚か優勝さえ確実だろう、しかしその証明となるものは一つも無かった

 

「あー、勇刀はそういうのに全然興味無いらしいから」

「興味が無い?」

 

祝がなんとも無しに話始めた

 

「それはどういう事なんでしょうか?」

「勇刀は競い合う為に強くなったわけじゃないんだって」

「あー、勇刀なら言いそうだな、絶対可奈美を護るためだって感じだろ?」

「せいかーい、ほんとに何処でも変わらないんだね勇刀は、研吾さんはどうなんです?僕達の中で一番付き合い長いよね?」

「んぁ?そうだなぁ…でも一番アイツが変わったのは、やっぱり勇刀と可奈美ちゃんのお母さんが亡くなってからかな」

 

人生の転機は人に様々な影響を与える、ポジティブな影響またはネガティブな影響、しかしそれは与えられるだけであり

その与えられた物をどう処理し変化するかは与えられた本人に全て委ねられる

その場に居た全員が研吾から発せられる次の言葉を待つ、この場に居る誰よりも彼の事を昔から知っている人物だと言う事を理解している、そして今までの口ぶりから理解した

 

「俺は昔の勇刀の方が心から笑ってたと思うな、勇刀ってお母さんの事大好きだったんだよ、お母さんといる時はいつもべったりですっごいニコニコしてて幸せそうだった、でもお母さんを亡くして直ぐの頃は全く笑わなくなっちまったんだ」

「笑わなくなった?」

「流石にショックだったんだよ、まだ小学生だったし少しの間学校も休みがちにもなってたし、その頃から親父さんが家を空ける事が多くなってな、殆ど可奈美ちゃんと二人暮らしみたいになっちまってたんだ」

「そうですよね…そうなっちゃいますよね。そんなに大好きだったお母さんを亡くしてしまったら」

「それにお父さんまで…」

「それ以降、勇刀は大切な人を護るって事に固執し始めてアイツは、少しずつ変わって行っちまった、そんな時にあの事件が起きた」

「事件?」

 

大切な者を護る、それが勇刀の初期衝動、力の源泉、そしてそれを彼が認識する事になる事件があった

「あぁ、勇刀が休みがちだった頃からだんだんと学校に来るようになって、一部の奴等が勇刀と可奈美ちゃんにちょっかいを出す様になったんだ、それがだんだんエスカレートして行って最終的に集団によるいじめにまで発展したんだ」

「…聞きたくはないのだけど、それで終わるわけじゃないのよね?」

「モチロン!アイツは可奈美ちゃんを虐めてた上級生の男子を返り討ちにして、その事を聞きつけたそいつの中学生だった兄貴が連れてきた友達連中10~20人を竹刀と木刀の二振りだけで全員をボッコボコのフルボッコにしちまったんだよ!まだ小学生だった男の子一人で」

「お~お~、衛藤勇刀最強伝説の幕開けだな」

 

その時の事は今でも地元住民と学校関係者の間で語り継がれているという

その後は周囲からの証言と研吾が現場に連れてきた大人達からの証言で非は勇刀と可奈美を虐めていた側にあるとして、件の上級生とその兄は他所に転校し、暴行に関与した兄の同級生達にも同様の処罰が下された。

と言うのも今回の事に関与した加害者達は以前より黒い噂が絶えず上がっており

この事件をきっかけに次々と隠蔽されていた悪事が芋づる式に発覚した為に重い処罰が下されたのだそうだ

 

「まぁ勿論勇刀にも何かしら罰があるって話だったんだけど、商店街の大人達が挙って勇刀に味方してくれたお陰で勇刀は無罪放免でお咎め無しってなったんだ」

 

(大切な家族を護る為に立ち向かったあの子が何故罰を受けなきゃいけないんだ!)

(本当に罰し省みるべきはこんな事態になるまで何も出来なかった俺達大人だろう!)

(もっと人との接し方・関わり方を教えてあげるべきだろう!頭を良くするだけが学校の役割じゃないよ!アンタ達学校だけじゃ無理だって言うんならアタシ達も手伝うよ!)

 

「それからは勇刀達に絡んでくる奴等も居なくなって、徐々に笑顔も増えて行って今に至ると言うう感じかね」

「ユウユウにそんな過去があったなんて、知りませんデシタ」

「これ以上話すと勇刀に怒られちまうから、終わり!それよりも飯食おうぜ!」

 

「おーい肉の準備で来たぞ~~!」

「おっ!待ってたぜ勇刀!オレのローストビーフ丼!!」

「そんなに焦るな薫!別に逃げやしねぇよ!薫以外はこっちな」

 

丁度いいタイミングで勇刀が料理を持って戻って来た為、勇刀の昔話は終わった

そして薫は勇刀御手製のローストビーフ丼を味わい尽くし、他のメンバーもまた目の前の料理に舌鼓を打っていた

そんな時間もあっという間に過ぎお開きの時間になった

 

「じゃぁ気をつけて帰れよ」

 

「んじゃ勇刀!ご馳走様!」

「また、機会があったら頼む」

「刀使の人達と沢山御話が出来て楽しかったよ、また遊びに来てね」

「それじゃぁ、勇刀君!お邪魔しました!今度は私の手料理ご馳走するね!」

 

勇刀は門の前で4人を見送り家に戻ると

ご飯のお礼と言う事でエレン達が後片付けをしてくれていた

 

「悪いな後片付けしてもらって」

「この位させてください。それでなくても勇刀さんにはお世話になっているんですから」

「うん、勇刀にはいつも貰ってばかりだから…少しはお返ししたい、から」

「そっか、なら御言葉に甘えようかな」

 

勇刀は綺麗になったリビングでソファーに腰掛け部屋を見渡していると、視界にエレン達が持ってきた荷物が入った

各々が持ってきたキャリーバックは大きめで遠征に行く時などに使用する物のようだった

ここで勇刀の脳裏にある可能性が過った

 

「なぁ、お前等…そう言えば今日どうすんの?」

 

その言葉を聞いた瞬間に全員の動きが止まる

 

「???………っ!お前等もしかして…」

「ゆっユウユウ!?」

 

その挙動を見て何かを感じ取った勇刀は近くにいたエレンに後ろから近づき抱き締めた

 

「なぁ…エレン」

「なっなんデスカ?そんな耳元で囁かれると、くすぐったいデ~ス」

「皆、今日この後どうするつもりなんだ?」

「えっ…と、その」

「ん~~~?歯切れが悪いな?いつもの勢いはどうした?」

 

勇刀はエレンの耳元で甘く囁きエレンはくすぐったそうに身を捩るが一層強く抱き締める

 

「えっと、そのデスネ…んっ、ユウユウにお願いがっ」

「なんだ?」

「私達、今日…泊まるっ所が、無くてデスネ…それで、その」

「はぁ~~~、全員一旦集合!」

 

勇刀は全員を呼び戻す

抱き締めから解放された後もしばらくの間エレンの顔は赤いままだった

 

「さーて、お前等どういう事か説明してもらおうか?」

「勇刀にお願いをしに行くことだけ考えてて、その後の事を考えるのを忘れてた…」

「はい、私も瀬戸内智恵も失念していました。お恥ずかしい」

 

いつもは冷静なメンバーも今日に限ってはどこか抜けていたようだった

そしてこのあとの事に関しては勇刀に対する打算が9割を占めていた

それも、勇刀の性格を知っているがゆえだったのだが

 

「はぁ、ちゃんと後先考えなさいよ全く……今日は客間に泊まってけ」

「すみません、勇刀さんに甘えきってしまって…」

「そう思うならちゃんと事前に相談しろよ、とりあえず何組かに別れて風呂入ってこい、もう沸いてる頃だろうから」

「勇刀は、いつ入るの?…」

「俺は皆が入り終わった後で入るよ、その方がのんびり出来るからな、あっ課題やんなきゃ」

 

学校から出されていた課題の事を思いだし、自室に戻ってプリントと筆記用具を持ち降りてきて

問題を解き始める

 

「そういえば、皆は勉強の方は大丈夫なのか?可奈美は試験の度に電話で泣き付いてきてたけど」

「勉強の方も疎かにはしていません。しかし今までよりもそちらに割ける時間が減っているのは事実です」

「まぁそうだろうな、あ~この問題作ったの沖先生だな、ホントこういう引っ掛け好きだよなぁ、研吾辺りがまんまと引っ掛かってそうだな」

 

雑談をしながらも問題を解くペースは変わらずに進めていく

ペンは止まること無く紙面を滑るように走り続けた

 

「そういえば私も課題が出されていたんだった」

「私も、宿題…やらなきゃ」

「おーおー、折角の休みなのにひよよんも沙耶香もよくやるなぁ」

「ホントだぜ、アタシ等は荒魂を倒せればそれで良いんだから勉強なんて重要じゃねーだろ」

「薫、そういえばセンセーから課題を出されていませんでしたカ?」

「呼吹も…宿題が出されてたはず」

 

姫和と沙耶香も自分の鞄から教科書とプリントと筆記用具を取りだして勉強を始めた

それを見ていた薫と呼吹はだらけきった声をあげる

 

「おぉい!嫌なこと思い出させんなよ!折角忘れてたのに!そもそも課題に手を出す時間がないのはあのオバサンの人使いが荒いのがそもそもの原因なんだぞ!」

「アタシは別に勉強なんて必要最低限出来れば良いんだよ!」

「勉強できて損は無いし無駄に説教されたくないだろ?解らないなら教えてやるから課題持ってこい」

「ちくしょう、まさかこんな事になるとは思わなかった」

「ホントだぜ、はぁ~」

 

「それじゃぁ私達は先にお風呂頂いちゃうわね、上がったら私達もお勉強手伝うから」

「そうですね、そうしましょうそれではお先に失礼します」

「それじゃぁ薫!fightデース!」

 

薫と呼吹は渋々自身の鞄から勉強道具を出して机に広げると、大人しく問題を解き始める

それを見て智恵とミルヤとエレンが先に風呂へ向かった

 

「いよーし今日の分の課題終わり!」

「はぁ!?もうかよ!?」

「いくらなんでも早すぎだろ!」

「毎日コツコツやるから一日の量はこの位で済むんだよ、その方が楽だぞ」

「ねぇ、勇刀、ここ教えて…」

「私もここが解らないんですが」

「良いよ順番にな、さぁここからは先生モードに突入だ、ふっきーと薫も解らないところがあったらすぐ言えよ」

 

こうして一足先に今日のノルマを達成した勇刀は教える側にまわり、それぞれの疑問に答えていく

時には逆に質問をしながら、時には結論から遡りながら色々な方法で問題の見方と解き方、答えの導きだし方を教えていく、こうして勉強会は進んでいく

 

場所は変わり浴室で入浴中の3人、は浴室の広さに驚いていた

 

「しかしこれは一般家庭の浴室とは思えない広さですね」

「そうね、これにはちょっと驚きね」

「しかしこれだけ広ければ3人で湯船に浸かってもリラックスできマスネ!」

「私が先に身体と頭を洗っちゃうわね」

 

「ん゛ん゛~~~~っ!はぁ~気持ちいいデスネ~~……」

「えぇ、やはり一番風呂というのは良い物ですね」

 

3人はシャワーで身体を流し、智恵が先に身体を洗い他の二人が湯船に浸かる

湯船も広く身長170㎝のエレンとミルヤが同時に入ってもまだ余裕があった

 

「しかし衛藤勇刀の心の広さは凄まじいですね、突然8人の大人数で押しかけても快く迎え入れてくれただけでなく、食事や宿泊まで面倒を見てくれるとは思いませんでした。」

「ユウユウは優しすぎるんデス、昔の話を聞いて確信しました。誰かの為に自分が傷つく事を厭わない」

「そうね、自分を犠牲にしても大切なものを護る、これは優しさではなく自己犠牲ね」

「私は彼に自分を犠牲になんてして欲しくはありまセン、でも…」

「力が劣り護られる側の自分が何を言っても説得力がないだから強くなる、そうすれば彼が自分を犠牲にする必要は無くなるからというわけですか」

 

エレンが語ったのは勇刀の優しさへの不安だった

彼女の口調からはいつもの溌剌とした声は無くなり、自分の無力さを嘆いているようだった

同校に所属する智恵はそんなエレンの様子を見て彼女が言いたい事を理解し、ミルヤも知恵同様に考えを理解する

二人の言葉にエレンは小さく頷く

「ユウユウにはもっと私達を頼ってほしいんデス、一歩後ろに控えているんじゃなくてユウユウの隣に立って一緒に戦いたいんデス」

「そうですね、それが可能になれば今よりも一層効率的に荒魂を討伐できるようになるでしょう」

「そうね、その為にはちゃんと強くならなきゃね!」

 

その後は世間話で盛り上がりながら時間が過ぎていった

 

「お風呂頂きマシタ~~!」

「おう、次は薫とふっきーと沙耶香ちゃん入っておいで」 

「お前ら長々と風呂入りすぎなんだよ!」

「あぁ~、やっと解放される…」

「あぁよく頑張ったな、薫」

「ちょっ撫でんなって!」

「頑張ったからご褒美だよ」

「同い年の女子を子供扱いすんなよ!」

「悪い悪い、可奈美に勉強教えてたときはいつも撫でてたからつい癖で!」

「ん?沙耶香ちゃんどうした?」

 

勇刀は無意識の内に薫の頭を撫でていた、

その事に薫が顔を赤くしてじゃれているところに沙耶香が勇刀に向けて頭を向けていた

 

「私も…頑張った、だからご褒美ちょうだい…」

「よしよし、よく頑張ったね」

「うん…ありがとう」

 

沙耶香は撫でられている時、気持ち良さそうに目を細めて受け入れていた

その様子は端から見ていると兄に甘える妹の様に見えていた

この光景を可奈美が見ていたとしたら大変な事になっていただろう

 

「おーい沙耶香そろそろ風呂いくぞ~」

「うん、今行く、勇刀ありがとう…」

「あぁ、ゆっくりしておいで」

 

そして3人が風呂に入っている間に残りのメンバーで客間に布団を敷いておき、手早く就寝出来る様にしておく

 

そして最後の姫和と清香が風呂に入り終えて就寝すると思われていた

がエレンが「舞草の里でサーヤにしていたみたいに私の髪をも梳かして欲しいデース」

と言い出し、それに沙耶香が乗りせがんでいると姫和も「私の髪も…良いでしょうか?」と恥ずかしそうに言い出し薫も「おぉーならオレのも頼む、毎日毎日めんどくせーんだよ」と丸投げした

 

勇刀も早く寝たかった事もあり、「じゃぁ希望者は並べ~」と指示を出し並ばせると

しれっと調査隊のミルヤと智恵も加わっていた

そこにはあえて突っ込まずに確りと丁寧に扱っていき、その日は終わった

 

 




料理のテーマとかを混ぜるとレシピとかを調べたりすると、色々な料理が見れて楽しいですね。
それから誰かに甘える沙耶香ちゃんが妄想しててかなり可愛かったです!
自分で想像しながら書きましたけどかなりいいですね!




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17話 兄への不意打ち・妹のわがまま

はーい
日常編ですー。

今回は短いですー。

勇刀の過保護が炸裂ですー。


(ん~、なんだ…)

 

明くる日の朝、勇刀は布団の中で蠢く自分以外の気配で目が覚めた

 

「誰だ…」

「すぅ…すぅ…すぅ…」

 

布団を捲るとそこには沙耶香が勇刀に抱きついていた

勇刀は沙耶香の頭を撫で微笑み、可奈美が小さかった時の事を思いだしていた

 

(そう言えば可奈美も昔はよく俺の布団に潜り込んで来てたなぁ)

「ん~、ユウユウ~……」

「は?……エレンっ!?」

 

勇刀は後ろから声が聞こえて抱き締められていることに気づき後ろを向くと

エレンが自分に密着するようにして眠っていた

 

「ちょっとエレン、朝一でその身体に抱き付かれると色々ヤバイんですがっ」

「ユウユウ~~……」

 

しかしエレンは勇刀の事などお構いなしに眠ったまま自身の豊満な身体を無遠慮に押し付けてきた

並みの男ならここで理性が蒸発し獣と成り果てるだろうが、勇刀の理性と精神力はこの局面を乗り切った

この後をどうしようかと考えていると

ドタドタと部屋に近づいて来る足音が聞こえてきた

 

バタァン!!

 

「沙耶香!」

「エレンちゃん!」

「おぉ~姫和ちゃんと瀬戸内さんか~、この二人をどうにかしてくれぇ~」

 

勢いよく部屋の扉が開き、入ってきたのは姫和と智恵だった

二人はすぐさま沙耶香とエレンを勇刀から引き剥がした

 

「あー助かった」

「まったく大胆にも程があるだろう!男性の布団に夜な夜なもっもも潜り込むなんて!」

「本当ね、考えが甘かったわね」

「ほら二人とも起きろ、朝だぞー!」

 

勇刀から引き剥がされてもなお起きない二人に3人は溜め息を吐き

起こそうと声をかけて揺するが起きる気配がなかった

 

「二人の事任せて良いか?皆の朝飯作らなきゃいけないから」

「えぇ、二人の事は任せて!朝ごはんまでには間に合わせるから!」

「頼んだ」

二人を姫和達に任せ、勇刀は隣の部屋で着替えてキッチンで朝食の準備をする

先に準備を済ませていた薫達と協力し準備を終えた時にエレンと沙耶香がリビングに来た

「ふぁ~~おはようございマース……」

「…おはよう……」

「やっと来たな寝坊助コンビ」

「ほら、二人ともこっちよ」

 

降りてきた二人はまだ眠そうな目を擦りながら智恵に促されて席に着いた

 

「よぉ勇刀との添い寝はどうだった?」

「ん~~ぐっすり眠れマシタ」

「しかし沙耶香、お前も大胆になったよな」

「自分でも…わからない、どうして勇刀にこんなことが出来るのか……わからない」

「俺からしたら勘弁してほしいわ、言っとくけど俺だから良かったものの他の男に同じことやったら二人とも襲われるからな!もう誰にもするなよ!」

「は~~い、今後もユウユウとしか添い寝はしまセーン……」

「私も…寝るときは勇刀とと寝る……」

「違うそうじゃなくて…!」

 

勇刀は今だ寝ぼけている二人とのやり取りに頭を抱えてしまった。

その様子を見ていた他のメンバーは苦笑いや興味なしといった様子だった

そして朝食を食べ終えて帰り支度を済ませたメンバーは新幹線の時間まで寛いでいた

 

「あー、もう休暇も終わりかぁ仕事したくねぇ~」

「ネー」

「しっかり休んだ後はしっかり働かなきゃダメよ薫さん」

「そうですね、今回我々の穴を埋めるために美濃関の刀使達に負担を強いてしまっているのですから、この後は我々もしっかりと刀使としての使命を果たさなければ」

「それから真庭本部長や各学長達に勇刀さんの稽古の日程を調整してもらわなければいけないしな」

「その件に関しては俺も近々本部に行かなきゃな学校の予定とかもあるし、羽島学長には俺から話しとくから」

「では美濃関の方はお任せします。私達はそれぞれの学長に話をつけますので」

「あぁ任せたぜ、そろそろ時間じゃねーか?」

 

時計を見ると新幹線の時間が迫っていた

それぞれが自分の荷物を持ち駅へ向かった

勇刀もみんなを最後まで見送るため一緒だった

 

その間、何故かねねは勇刀の頭の上で寛ぎながら周囲を眺めていた

「ね~~……」

「くそぉ、ねねの奴一匹だけ楽しやがってっ」

「衛藤さんは身長も高いですし、眺めが良いんですね」

 

そして新幹線に乗る頃には渋々薫の頭に戻っていった

 

「まずは平城と長船と綾小路方面だな」

「はい、衛藤勇刀大変お世話になりました。」

「気にすんな、俺も久しぶりに楽しかったからな」

「今度は事態が収まった時にまた行いたいデスネ」

「そうだな、その時は私達の料理も勇刀さんに食べてもらいたいです!」

「皆の手料理か、それは楽しみだな」

 

ホームで会話をしていると発車を知らせる、ベルが鳴った

 

「それじゃぁユウユウ!今度は長船で会いましょう!バーイ!」

「じゃあな勇刀、長船に来た時はまた飯作ってくれ」

「もぉ薫さんはそればっかりね、でも今回は本当にありがとう、美炎ちゃんによろしくね」

 

 

「それでは勇刀さん、稽古の時はよろしくお願いします!」

「私もそれまでにはもっと頑張ります!」

 

「それでは綾小路に来たときもよろしくお願いします」

 

「おう!じゃぁまたな」

 

そういった瞬間ドアが閉まり新幹線は発車し、勇刀はそれを見えなくなるまで見送った

そして次は関東方面の沙耶香、呼吹を見送るため反対方向のホームへ向かった

 

「しかし、ここから女子中学生を二人だけで帰すのもなぁ」

「平城の二人だって中学生だろうが、なんでアタシ達だけそんなに心配すんだよ」

「あの二人はしっかりしてる子達だから心配してないけど、ふっきーとかフラッとどっか行っちゃいそうだし、沙耶香ちゃんは初対面の人とはコミニュケーションとれないし、二人とも可愛いから変な奴に狙われたら困る」

 

「ああああアタシが可愛いだなんて!何いってんだ!」

「端から見ると美少女だぞふっきー、沙耶香ちゃんもな、迎えに来てもらえないの?」

「たぶん無理…」

「今から連絡して運良く手配してもらったとして迎えが来るのは明日だな」

「だよなぁ~」

「私はそれでも良い、勇刀と一緒にいられる…」

「いや、それはダメだろ…仕方ない、良いか二人とも知らない人には付いていかない、声をかけられても答えないこと、何かあったらすぐに回りの大人を頼ること、いくら刀使が超法規的国家公務員だとしてもまだ子供なんだから」

「子供扱いすんなよな!」

「まだまだ子供だよ、ふっきーも沙耶香ちゃんも俺もな」

 

勇刀は自分の手を握っていた、沙耶香の手を包むように握り返し諭すように言う

その言葉に二人は自然と耳を傾け静かに頷いた

それを見た勇刀は笑顔になり二人の頭を優しく撫でる

そこにちょうど良く二人が乗る列車が来た

 

「じゃぁな…今度鎌府に来たら、いろんな所を案内してやるよ」

「またね、勇刀」

 

勇刀は笑顔で手を振りドアが閉まったあとも列車が見えなくなるまで見送り続けた

そして、見送りを終えた勇刀が駅を出ると思わぬ声が聞こえてきた

 

「あっ!お兄ちゃんだ!おにーちゃーん!」

「可奈美!?」

「ただーいま!」

「おっと!おかえり、可奈美」

 

勇刀は飛び付いてきた可奈美を優しく抱き止めてその場で数回ぐるぐると回った

 

「お前よく帰ってこれたな、関東なんて今大変なのに」

「真庭本部長が長期休暇をくれたんだ!だから帰ってこれたの」

「そうなのか、それじゃしばらくは一緒に居られるんだな」

(まぁ、数日中に鎌府に行くんだけどね)

 

「うん!そうだよ!…それよりもお兄ちゃん」

「ん?…どうした可奈美?」

 

刹那、可奈美から何か薄ら寒い気配を感じるも、直ぐに気配が消えた

その事を不審に思いつつも勇刀はいつものように接する

 

「なんだか、お兄ちゃんから甘くて良い匂いがする、女の子の匂いが……」

「え~っと実は昨日調査隊のメンバーと沙耶香ちゃんと姫和ちゃんとエレンと薫が来て、家に泊まったんだよ、んで昨日、沙耶香ちゃんとエレンが夜中に俺のベッドに潜り込んできてて、多分その時のだな、うん、きっとそうだ」

「…………」

「可奈美?どうし…た!?」

 

急に何も言わず黙ってしまった可奈美に視線を落とすと

眼に涙を溜めて頬を大きく膨らませて今にも泣き出しそうに怒ってる顔の可奈美がいた

 

「えっ!?ちょ可奈美どうした!?何で泣いてんだ!」

「姫和ちゃん達ばっかりずるい!それならカナはお休み終わるまでずっとお兄ちゃんと一緒に居るーーーー!!」

 

可奈美は勇刀にギュッと抱きつき無理やり腕を組んだ、

突然響いた大きな声に周囲の視線が一気に二人へ集中するが

言外に「あぁなんだ衛藤さん家の二人か」というようなそぶりで直ぐに視線は散らばった

離れろと言っても聞かない言う事を聞いてくれない可奈美に溜息をついて

 

「はぁ……仕方ねぇな、今日は可奈美の好きな物作ってやるよ」

「ハンバーグ……」

「はいはい、解りましたよお姫様」

 

そして商店街に着くと

 

「おっ坊主!今日は可奈美ちゃんと一緒か!昨日は沢山の女の子侍らせといて今日は可愛い妹と一緒か?やっぱりもてる男は違うねぇ!!」

「っ~~~~~~!!…………」

「はっはっはっはっ!!!!可奈美の細い指がめり込んで痛いぞぉ!はっはっはっ!(魚屋のオヤジめ!今度会ったら覚えとけよ!!)

 

前日の買い物の様子を見ていた魚屋のオヤジが余計なちょっかいをかけてきたせいで

可奈美と腕を組んでいる左腕に可奈美の細くしなやかな指がめり込み激痛を走らせていた

 

その後無事にハンバーグの材料を購入して

帰宅すると同時に料理を始め、昨日の夕飯で可奈美の分として取っておいた料理と共に振舞った

豪勢な料理に面喰っていた可奈美だったが、直ぐに立ち直り凄い勢いで食べ進め始めた

 

そしてその日は案の定可奈美が勇刀と寝ると言いだし、結局勇刀が折れる形で事態は収束した

 




今回はあえて短くしてみました。
ここ数話1万字超えが多かったので短く纏めてみました。

感想や評価等々お待ちしてます。


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18話 糸見海翔の衛藤勇刀観察日記

たぁあああああああああああいへん!
なああああああああああああがらく!!
おぉおおおおおおおおおおおまたせ!!!
しぃいいいいいいいいいいいました!!!!


海翔が通っている学校のクラスでは何やら日記の発表を授業の中で行っていた

授業参観の日だった様で教室の後方には生徒の家族が並んでいた。

 

「今日はお姉ちゃんの通っている学校に勇刀おにーちゃんが来るとお姉ちゃんから聞いたので、

お姉ちゃんが通っている鎌府女学院に遊びに行ってきました。」

 

 糸見海翔の衛藤勇刀観察日記

 

○月×日

今日は勇刀おにーちゃんに会いにお姉ちゃんが通っている学校に行きました。

 

「みあげた夜空のほしたちのひーかーりー!」

 

海翔は歌を口ずさみながら足取り軽く歩いていた

その様子を見ていたすれ違った人達は無意識に笑顔になっていた

そんなことには一切気づかずに鎌府女学院の校門を潜った

 

「勇刀おにーちゃんはどーこかなー?」

「おや?貴方は確か…」

「あっ!つぐみお姉ちゃん!」

「糸見さんの弟さんですね、こんなところでどうしたんです?」

「えっとね!今日勇刀おにーちゃんが来るってお姉ちゃんから聞いて会いに来たんだ!」

「そうだったんですね、実は私も衛藤さんに会いに行く所だったので一緒にいきましょう」

「うん!一緒に行こー!」

 

海翔が出会ったのは鎌府女学院高等部2年の潘つぐみだった、つぐみは海翔とはぐれないように手を繋ぎ勇刀のもとへ向かった

片や女子高生、片や背中に御刀を背負った小学生という世間一般から見れば珍しい組み合わせであった

 

「今衛藤さんはここで鎌府の刀使と関東へ派遣されてきた他校の刀使の皆さんと立ち会いをされているそうです」

「おぉ~!たくさん人が居るね!」

 

二人は道場の窓から中を覗いていた、視線の先では4人の刀使と同時に立ち会いを行っていた

4人は一斉に斬りかかるがそれをいとも簡単にいなし弾き返している勇刀がいた

 

 

「その様ですね。やはり衛藤さんとの立ち会いは現場に出る方には大人気ですね」

「なんでー?」

「やはり実績がありますからね~、彼に育てられた美濃関学院の彼女達を見れば一目瞭然です。」

 

「ほらほら!動きが鈍ってきてるぞ!まだ始まって3分しか経ってないよ!スタミナが足らないんじゃないか!?」

勇刀おにーちゃんは鎌府の刀使のおねーちゃん達と立ち合いをしていました。

みんな、真剣におにーちゃんに立ち向かっていて凄くかっこよかったです。

 

「うっ!まだまだぁ!!」

「はぁっ!」

「絶対一本取る!」

「行きます!!」

「よぉしその息だ!」

 

勇刀と立ち会いをしている4人はもとより、それを周囲で見学している刀使達も食い入る様見つめて集中力を高めていた

その様子を見ていたつぐみが海翔の方を見ると

 

「っ~~~~~!!」

「おやおや…それじゃぁ行きますか?」

「うんっ!!」

 

海翔は目を爛々と輝かせて落ち着きが無かった

その様子を見てつぐみは海翔の手を引いて道場の中へ入っていった

 

「失礼しまーす」

「おー、ひろーい」

 

道場の中は独特な匂いと雰囲気が漂っていた

海翔は物珍しそうに周囲を見渡していた

 

「あぁ?お前がここに来るなんて珍しいじゃねーか、つぐみ」

「七之里さんこそ、ここに来る様なキャラでしたっけ?」

「キャラってなんだよ、アタシが道場に居るのは場違いだってか?お前こそ子供連れて何してんだ」

「この子は糸見さんの弟さんですよ、今日は糸見さんに衛藤さんが来ることを聞いて会いに来たそうです。」

「はじめまして!糸見海翔です!」

「おう、アタシは七之里呼吹だ、よろしくな」

「よろしくね!呼吹おねーちゃん!」

 

海翔と呼吹が自己紹介をして話していると誰かが近づいてきた

 

「海翔……」

「あっお姉ちゃん!」

「来てたんだ、迷子にならなかった?」

「うん!つぐみお姉ちゃんと一緒に来たんだよ~」

「そう…ありがとうつぐみ、海翔がお世話になりました。」

「いえいえ、この位お安いご用ですよ」

 

弟を送り届けてくれたつぐみにお礼をしている所から、ちゃんとお姉ちゃんなんだなと言うことが垣間見えた瞬間だった

この時の事をその場にいた呼吹は後にこう評している

 

あの時の沙耶香は今までとは随分違って見えた、なんつーんだろうな背伸びをしてお姉ちゃんぶるんじゃなく自然体で姉として振る舞えてた

 

そこへ立ち会いを終えた勇刀が来た

 

「よぉ海翔久しぶりだな!」

「うん!久しぶり勇刀おにーちゃん!」

 

海翔が勇刀に飛び付き再会を喜んでいた

そこへ可奈美がタオルとドリンクを持って来た

 

「お兄ちゃん、はいタオルとドリンクだよ」

「ありがとう可奈美………ふぅ」

「しっかし勇刀もよくやるよな、休日に鎌倉にまで呼び出されて大勢の相手させられてんだからな、良い迷惑だろ?」

「そうなの?…勇刀は休日に私達の相手をするのは、嫌?」

「そんなこと無いから大丈夫だよ、ふっきーがふざけて言ってるだけだから」

 

呼吹の何気ない言葉に沙耶香はショックを受け、すがるような目で見つめて来たので勇刀は

少し苦笑いになりながらも安心させるように沙耶香の頭を撫でながら言うと安心したように勇刀の手を受け入れていた

 

「むぅ~~~っ!!」

「可奈美お姉ちゃんどうしたの?」

「ん~、あれは気にしなくても大丈夫ですよ。」

「だな、ありゃあ大好きなお兄ちゃん取られて拗ねてるだけだ、ほっとけば勇刀が何とかするだろ」

「原因は七之里さんだったと思いますけど……まぁ良いでしょう」

 

3人はじゃれあっている兄妹を見つめていた

しかし痺れを切らしたかのように海翔が勇刀に歩み寄っていき

 

「ねぇねぇ!勇刀お兄ちゃん!僕とも立ち合おうよー!」

「おぉ良いぞー」

「私も…海翔と一緒にやる、良い?」

「いいぞ、んじゃ始めるか」

 

3人は御刀を抜き距離を空ける

当然ながら3人の眼は真剣なものになっていた

道場に緊張が走る

 

「………ゴクッ」

 

「「「っ!!!!!」」」」

 

誰かが緊張に耐えられず生唾を飲んだ音が聞こえた

それを合図にしたのか、3人が同時に動き出した

 

それとほぼ同時に金属がぶつかり合う音が響いた

 

「また速くなったな沙耶香ちゃん!」

「うん、勇刀に誉めてもらいたいから…頑張った……」

「そうか、んじゃまぁそのまま頑張れ!」

「よいしょぉおおお!!」

「あーまあまだっつーの!ほらよ!」

「うわぁっ!」

 

最初に斬りかかってきた沙耶香の剣を受け止め

後ろから頭上から襲ってきた海翔は沙耶香共々斬り上げて弾く

その力を利用し二人は勇刀から距離をとった

 

僕も全力でおにーちゃんに斬りかかったけど簡単に防がれてしまいました。

 

「やっぱり勇刀は一筋縄じゃいかない」

「うん!やっぱり勇刀おにいちゃんは強いなぁ~!」

 

「流石伸び盛りコンビだわ、俺もウカウカしてられねぇな」

 

今の一連のやり取りを見ていた外野の刀使達は食い入る様に見ていた

3人の打ち合いは続き、2対1という圧倒的に不利な状況であっても、涼しい顔で沙耶香と海翔の相手をする勇刀を見て

改めて人外級の強さを再認識すると共に自分達との差を痛感する一同なのだった

しかしそれでも彼女達が心折れず諦めずにいられるのも、勇刀のおかげだった

そんな中心中穏やかでない少女が一人

 

(むぅ~~~~っ!次は私とお兄ちゃんで立ち合おうと思ってたのにぃ!!)

 

この日の夜、勇刀は夜中まで拗ねてしまった妹の相手をさせられる事になるのだが、それを勇刀が知る術は無かった

 

この間にも3人の打ち合いは続いていた

「やっぱり…強いね」

「あはははは!楽しいね!勇刀おにーちゃん!前通ってた道場にいたどんな人達より強いよ!」

「おうよ!今俺が勝てないのは師匠位のもんだ!、だから全力でかかってきな!!」

 

己の持てる技量を総て注ぎ込んでも尚越えられない存在との戦いに海翔と沙耶香は自然と笑顔になっていた、その顔をみた勇刀も自然と笑顔になる

 

「それじゃぁ僕も全力で行くよーーー!霜天に座せ!!」

「ちょっ!それはいくらなんでもヤバッ」

「氷輪丸!!!!」

 

その瞬間、一瞬にして道場の総てが氷雪に包まれた

 

「あれ?みんな?」

「………っ海翔ぉお!!」

「あっ勇刀おにーちゃん大丈夫だった?」

 

氷像と化していた勇刀が氷を砕くと

その衝撃で周囲で凍り付いていた観戦していた刀使達を覆っていた氷も砕けて事なきを得た

 

「こんな所でお前が刀剣解放したらどうなるか位ちゃんと考えろっ!」

「うわぁーーーーん!ごめんなさーーーい!!」

 

海翔は勇刀にこめかみの部分を両サイドから拳の出っ張っている所でグリグリと押し込まれていた

 

「へっくしゅ!これが海翔君の御刀の力……」

「想像以上……クシュン!」

「とんだとばっちりだぜチクショウっ…うぅさび~」

「こここれは、また興味深い能力ですね……ヘクシュ!」

 

一瞬で道場が氷に覆われ中にいた刀使達が寒さに凍えていると

 

「なんだ!何があった!」

 

真庭本部長が到着し事情を説明すると、海翔には烈火のごとくお怒りの真庭本部長に説教をされた

 

そして海翔が御刀である程度の氷を除去した後、小学生一人にすべてやらせる訳にもいかず、全員で道場の清掃と簡易の点検を行い、本格的な点検は後日行われることになった

 

「手伝ってくれてありがとうございました。あとごめんなさい」

 

清掃終了後、海翔は沙耶香に促され自分の事を手伝ってくれた人達にお礼と謝罪をしていた

なおその場に居た全員に凍傷といった怪我は無かったため快く謝罪を受け入れていた

 

「おう、さーてもう夕飯の時間か~」

「でもこの時間の食堂はいつも混んでるから……」

「マジか…しゃーねぇどっか食いに行くか 」

「それなら、良いところがあるぜ」

「七之里さん、もしかしてあそこですか?」

「あそこ?」

「あぁアタシがよく行くラーメン屋だ」

「ラーメンか良いね!じゃぁそこ行くか!」

「さんせーい!」

「僕も行くーー!」

「でも海翔の分まで出せるお金…持ってない、それに舞衣にそういうのはあんまり食べちゃいけないって」

「えーー」

「ほんとに沙耶香に対しては過保護だな~」

「舞衣ちゃんらしいなぁ」

「二人の分は俺が出すから大丈夫、それに舞衣ちゃんには俺が話すから大丈夫だよ」

 

みんなと行けずに少し寂しそうな沙耶香を見かねた勇刀は彼女の頭を撫でながら

話すと沙耶香もうんと頷いた

 

「それじゃぁ行くか!ふっきー案内よろしく!」

「よぉし!アタシに着いてきな!」

「「おぉーーー!」」

「まったくあいつら元気だな」

「早く行かないと置いていかれちゃいますよ」

「はいはい、わかりましたよつぐみパイセン、行こう沙耶香ちゃん」

 

呼吹の後を元気良く着いていく可奈美と海翔を見てため息混じりに眺めていたが

つぐみに急かされて渋々沙耶香の手を引いて呼吹達に着いていった

 

 

「おーっすオヤジ、やってるか!」

「おっなんだ呼吹ちゃんじゃねーか、随分と久しぶりじゃねえか」

 

呼吹が行きつけのラーメン屋はカウンター席が10席程の小さな店だった

中では快活な初老の男性が仕込みをしていた

 

「最近荒魂ちゃんがわんさか出てくるからよ~」

「そうか~、やっぱり大変なんだな、今日は一人かい?」

「いや、アタシ含めて6人だ」

「なんだ随分大所帯じゃねーか、んじゃこっち側に座んな」

「おうサンキューオヤジ!おーい空いてるってよ」

「良かったー空いてなかったらどうしようかと思ったぜ」

「いらっしゃ…い………」

 

オヤジは呼吹が呼び込んだ人物を見て我が眼を疑いそして固まった

 

「こんばんは」

「こんばんはーー!」

「ああああんた、六刃将の!呼吹ちゃんこりゃいったい」

「まぁせっかく鎌倉まで来たんだし鎌府の食堂ってのもアレだと思ってよ、アタシが連れてきた」

 

突然目の前に鎌倉特別廃棄物漏出問題発生時、初期対応で群がる荒魂を刀使達の先頭に立って戦った、功労者が現れたとたんにオヤジはあわてふためいていた

 

「そうか、なら呼吹ちゃんの顔に泥を塗るわけにもいかねぇな!店自慢のラーメン腹一杯食ってってくんな!」

「おう!んじゃアタシはいつものな!」

「それじゃぁ私は醤油ラーメンにしましょう」

「私はとんこつ!」

「沙耶香ちゃんと海翔も好きなの頼んで良いからな」

「本当に…良いの?」

「もちろん!沙耶香ちゃんにもお美味しいもの食べてほしいんだ」

「ありがとう、勇刀…海翔はなに食べる?」

「んーとねー!僕チャーシューメン!」

「私は…塩ラーメン」

「んじゃぁ俺は味噌ラーメン大盛り!」

「あいよ!んじゃぁちょっと待ってな!」

 

全員の注文を聞き、オヤジは調理に入った

その瞬間から顔つきが変わり職人の顔になった

 

そして全員の注文がほぼ同時に提供された

「はい!お待ち!!」

 

「お~~、これは美味しそうですね」

「美味しそうじゃなくて旨いんだよ!ここのは!」

「嬉しい事言ってくれるじゃねぇか呼吹ちゃん!ささっ!熱いうちに食ってくれよ!」

「それじゃぁ…」

「「「「「いっただきまーーーーす!!!」」」」」」

 

みんなが食べ進めているとき不意に餃子の皿がそれぞれの前に置かれた

 

「それから、これはサービスだ」

「良いんですか?」

「あぁ、俺達にはこんなことしか出来ないからな、巷じゃ刀剣類管理局を批難する声が態勢を占めてるが、そういうこと言ってるのはあの戦いを目の前で見てない奴等だ、俺は知ってるぜ、皆を護るために年端もいかない子達が大きな荒魂に立ち向かっていたのを」

 

オヤジは照れくさそうに頬を掻いて言葉を区切るが間もなく続ける

 

「護られた人間の代表ってわけじゃないが、心ばかしのお礼だ…ありがとう」

「それじゃぁ、これは遠慮無くいただきます。オヤジさんも身体にきをつけて美味しいラーメンを出来るだけ長く作って下さいね。」

「おうよ!身体の頑強さは誰にも負けねぇからよ!また食いに来てくれよな!」

「必ず来ますよ。こんなに旨いラーメンは何度でも食べに来ます。」

 

その後は皆でワイワイと食事をして鎌府に戻り就寝した。

 

 

海翔の日記を聞いていた教室は雰囲気はいつもとは違っていたが、海翔は気にしたそぶりはなく誇らしげな表情だった

 

「…っはい!糸見さんありがとうございました!それで糸見さんは発表するまでにどんな学びや目標が見つかりましたか?」

 

「勇刀おにーちゃんはいつも 力の強さは心の強さだ、心が強ければ辛いことにも苦しい事にも自分を信じて立ち向かえる と言っていました。」

 

その言葉を聞いた教室に居た海翔以外の全員がその言葉に聞き入っていた

 

「そして僕の目標は勇刀おにーちゃん見たいに強くて優しい人になることです!!」

 

その宣言と同時に海翔の持っていた六刃将専用のスペクトラムファインダーが荒魂出現のアラームを発した。

 

その直後荒魂発生を知らせる校内放送が流れ、荒魂出現の現場が近隣であった影響で児童と保護者は避難準備に入った

海翔も教師の引率で校庭に避難し、学年毎に並んで待機していた。

 

「ん~~、連絡まだかな~…おっ勇刀おにーちゃんからだ!」

 

待機中、端末をいじっていた時勇刀から通信が入った

 

「海翔、今学校か?」

「うん!そうだよー」

「そうか、なら荒魂が出たのは知ってるか?」

「うん!でも今は見んなと一緒に避難してるよ」

「ならそのまま待機だ、現場までの直線上に海翔の学校があるからそこで合流する、はぐれ荒魂が来たら海翔が対処だ、現場判断で刀剣解放も許可する」

「はーい!」

「それじゃぁ後でな」

「うん!ばいばーい!」

 

海翔は通話を切り担任の所へ向かう

 

「せんせー」

「糸見さんどうしたの?」

「えっとね、今から六刃将のお仕事始めるから言いに来たの、はぐれ荒魂が来たら僕がやっつけるね!」

「………えぇならお願いします。」

「うん!」

 

このとき彼女は教師としては苦渋の判断だった

しかし今は海翔に頼る他無い状況でもあった為やむ終えず承諾するしかなかった

 

そして勇刀の予想が的中し大本からはぐれた荒魂が群れて海翔のいる学校に襲いかかった

そこからの海翔の行動は早かった

 

「みんな落ち着いて!まずは先生達の言うことを良く聞いて素早く移動!荒魂は僕がやっつけるから安心してね!…写シ」

 

海翔は写シを張り御刀を抜いて荒魂を斬り祓って行く

その姿にその場に居た全員が避難を忘れ眼を奪われていた

淡々と舞うように荒魂を斬り祓う姿に

 

そして最後の一匹を倒した時、刀使数名を連れた勇刀が合流した

 

「海翔!」

「勇刀おにーちゃん、こんにちは~」

「丁度倒し終わったみたいだな」

「うん!ぜーんぶやっつけたよ!凄いでしょ!」

「あぁ、凄いぞ!」

「えへへ~~!」

「衛藤隊長!私達はこの後どうしましょう!」

 

勇刀が海翔の頭をワシャワシャと撫でていると後ろで待機していた刀使達が指示を求めてきた

 

「では隊を二つに分ける、長崎、姫野、鴨、成瀬、長江、岩倉の6名は児童、教師、保護者を避難所まで護衛任務だ、隊長は成瀬、隊長補佐に岩倉だ」

「「了解です!!」」

「任務終了後は速やかに本隊に合流だ、それ以外の子は俺達と荒魂退治だ!」

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

「行くぞ海翔!」

「うん!」

 

海翔と勇刀は刀使達を引き連れ荒魂退治へと向かった

そして残った6人は速やかに護衛対象を避難させるべく行動を開始した

 

隊長である成瀬に海翔の担任が心配そうに話しかけてきた

 

「それでは皆さんは私達が避難所まで護衛します!」

「あの!糸見君は大丈夫でしょうか…」

「…大丈夫ですよ、あのお二人は刀使の中でも最強クラスの剣士ですから、それに勇刀さんが一緒ならどんな荒魂が出てきても心配はありません。」

 

成瀬は彼女の心配を少しでも和らげようと落ち着く様に語りかける

 

「そうですか……」

「教師としては心苦しいかもしれませんが、今は皆さんの安全を確保する事が第一です。皆さんを速く目的地まで送る事が出来れば、私達も先に行った方々と合流できます。」

「はい、分かりました。宜しくお願いします」

「はい!お任せ下さい!」

 

その後は護衛も何事も無く終り、荒魂退治も海翔と勇刀と刀使達の活躍により早期に終息した

事後処理も終わり、海翔と勇刀が学校に戻ると一足先に戻って来ていた児童達に歓迎され、二人は暫くの間、児童達に質問攻めになっていた

 

 




この度は投稿が遅れてすみませんでした。
仕事で忙殺&長期の体調不良で投稿が遅れに遅れました!

ちなみに最後に出てきた6人の刀使ですが
とじとものサポートメンバで刀使科に所属している
長崎 澄
姫野 志保
鴨 ちなみ
成瀬 実紀
長江 ふたば
岩倉 早苗
の六名です。

ちょいちょいサポメンも出して行こうと思ってます。


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19話 兄と兄妹喧嘩

さぁ、番外編の方と並行して書いてたら遅れました。

新キャラ…出ます…










以上!!


 

「はぁ~~、やっぱり何気ない日常は良いねぇ~~」

「綾人、お前最近爺癖ぇぞ?」

「何だよ~、少し位普通の日常に浸ったっていいでしょ~~、はぁ縁側でお茶飲みながらのんびりしたい…」

 

とある晴天の午後、勇仁と綾人は友人と連れ立って市街地にあるオシャレな喫茶店のテラス席でコーヒーを飲みながら寛ぎ、綾人にいたっては机に突っ伏していた

 

「しっかしアンタらとんでもない事に巻き込まれたわね」

「まーな、でもそのお陰で退屈はしなかったけどな」

「アンタのマイペースは変わらずか」

「勇仁君はいいよね~単細胞で、僕なんかどうなる事かと毎日ひやひやしてたのに」

「アンタも苦労してんだね」

「つか夏鈴、お前こんな所いて大丈夫なのかよ?」

 

勇仁は隣でカフェオレを飲んでいる、黒髪ロングの女子、篠塚夏鈴に声をかけた

 

「大丈夫って?」

「お前んとこの兄貴が、今ごろ血眼になってお前の事探してんじゃねーの?」

「問題ないわよ、今ごろあの馬鹿兄貴は生徒会の仕事で忙殺されてるだろうし、サボるのは真理さんが許さないわよ」

「そうか、アイツも大変だな」

「それに今日はのんびりするって決めてるの」

「そうかよ」

「夏鈴ちゃんも大変だよねぇ~」

「二人程じゃないわよ、はぁ~」

「お前ら…老けるぞ」

 

中学生が二人して机に突っ伏すという状況を勇仁は珈琲を啜りながら眺めていた

するとそこへ

 

「最近の中学生はこんなカフェでお茶するのか、洒落てんなー」

「は?」

「え?」

「へ?」

「久しぶりだな勇仁、綾人」

 

「勇刀ぉ!?」

「勇刀さん!?」

「うそ…本物?」

 

まさかの人物が不意に現れ二人は驚愕し一人は呆然としていた

この状況を作り出した本人はちゃっかりと同じテーブルに座った

 

「んで?お前は岡山まで何しに来たんだ」

「まぁ、なんとなーく想像は出来るけどね」

「綾人のお察しの通り長船への稽古だよ、この辺でエレン・薫と待ち合わせしてんだ、でこの子は?」

「えぇえっと!あああのわわ私ししし篠塚夏鈴ですっ!!お会いできてここ光栄です!!」

「いやそんなに緊張しなくても大丈夫だから」

勇刀は目の前でガチガチに緊張している夏鈴を見て不思議がっていた

「いや~それは無理だと思うよ?」

「何でだよ?」

「お前自分の知名度と報道のされ方知らねーのか?」

「知らん、最近テレビ見てないからな、そんなに凄いのか?」

「僕達も含めて凄い事になってるんだよ」

 

綾人は自分のスペクトラムファインダーの検索機能を使って自分達のニュースや記事を見ていく

「あぁこれは漏洩事件の後の記事か」

《史上初の男性刀使!その正体はイケメン集団!》

「は?」

《謎に包まれた黒衣の剣客刀使集団!彼らの素顔はイケメン小中高生》

「なに?」

《遂に謎の部隊!六刃将の素顔が明らかに!全員アイドル級!》

「……」

 

これ以外にも出てくる記事に勇刀は絶句していた

主にアイドル扱いをされていることに

 

「なにこれ?なんでこんなアイドルみたいな事になってるんだ?」

「さぁ?」

「知らね」

「そりゃ、皆さんカッコいいですし」

「何言ってんだオメーは?」

「あんたに対しては本当に不本意だけど、顔だけは良いのよ、綾人もかわいい顔してて先輩達から結構人気あるのよ」

「あんだと!」

「勇仁君どうどう!でもそんな風に見られてたんだね」

「まーね、あんた達もそうだけど、衛藤さんと糸見君と十条さんも人気ですよ!」

「確かに漏洩事件のあと帰って来てからは本当に凄かったもんね」

「あぁ毎日毎日マスコミ共が大勢押し掛けてきて家から出られやしなかったからな」

「そのうちアイドルデビューとかもあったりするんじゃないですか?」

「勘弁してくれ、そういうのは俺の性に合わないんだよ」

 

自分達の知名度を再確認し事件後の事を思い返し、今後を想像していると

 

「おーい勇刀、迎えに来てやったぞ」

「ユウユウお待たせしまシタ!」

「あれ?姉さん」

「姉貴か、こんな所で何してんだ?」

 

いつもの長船凸凹コンビが現れた

 

「オレ達は勇刀を迎えに来たんだよ」

「まさかアヤト達と一緒にいるトハ思いませんデシタ」

「僕達も偶然会ったんだよ」

「おい勇仁、ちゃんと学校行ってるか?」

「行っとるわ!学校終わっていつも通りダラダラしてんだよ」

「チクショウ!なんでオレ達には放課後にダラダラする権利が無いんだ!」

「それはワタシ達が刀使だからデース!それに非番の日はティータイムを満喫してイマスヨネ?」

「違う!オレは毎日放課後はダラダラとのんびりしたいんだ!」

「ブレないなー薫は」

「てなわけで迎えに来てやったオレに何か飲み物を奢ってくれ」

「薫ワガママはいけませんヨ?」

「別に良いぞ、つっても椅子が一つ足らないから店員さんに言って持ってきてもらわないと」

「問題ないオレはここに座るから、椅子にはエレンが座れ」

 

二人が座るために勇刀が店員を呼ぼうとしたとき、薫は勇刀の膝の上に座った

 

「薫、姉としてのプライドは無いのか?」

「勇刀、それはお前には言われたくないぞ、それに店員さんの仕事増やすのも申し訳ないだろうこれが最善策だ、ささ気にせずカフェラテをオーダーしてくれ」

「はぁ~まぁいいか、エレンは何頼む?遠慮しなくて良いぞ」

「本当に良いんデスカ?」

「あぁ、迎えに来てくれたお礼だよ」

「それじゃぁユウユウと同じものをいただきマス」

「はいよ、すみませーーん!」

 

こうしてエレンと薫も交えて6人は会話に花を咲かせた

そんなとき

 

「はっ!?」

「?どうしたの夏鈴ちゃん?」

「なんかもの凄く嫌な予感がするの…来て欲しくない存在がここに物凄い速さで近づいてきてる気がする」

「それって」

「もしかして…」

「「「?????」」」

 

勇刀と薫とエレンは夏鈴の言っている意味が解らず首をかしげていたいると

遠くから土煙と大声をあげて近づいてくる存在があった

 

「ぁぁぁぁぁああああああああありぃいいいいいいいいいいーーーーーーーーーーん!!!!!」

「チッ、めんどくせーのが来やがった」

「あのバカ……」

「あはは…」

「「「????」」」

 

「夏鈴!!!!いい加減にその不良小僧と関わるのを止めないか!!!!」

「うっさい!バカ兄貴!!あんたに私の交遊関係にまで口出しされる謂れはないって、いつも言ってるでしょ!!」

「喧しい!俺は夏鈴の為を思って言っているんだ!お前にもしもの事があったらと!俺は毎日気が気じゃないんだ!」

「なんで兄貴が安心するために私の友達を制限されなきゃいけないのよ!!私の友達は私が決める!!バカ兄貴には関係無いから口出ししないで!!」

 

到着して早々口論を始める両者を勇刀達は眺めていた

 

「なんだか凄いのが来たな」

「でも勇仁と綾人の反応を見る限りいつもの事ぽいけどな」

「アヤト、二人を止めなくても大丈夫なんデスカ?」

「まぁいつもの事だから大丈夫だよ、あまりにヒートアップするようなら流石に止めるけどね」

「この兄妹は毎回毎回よーやるわマジで」

「貴様も!夏鈴から手を引けといつも言っているだろう!!!お前は夏鈴の友人に相応しくないといい加減に理解しろ!いくら家が歴史ある刀使の家系だろうと六刃将ともてはやされようと貴様の様な人間は認めんぞ!」

「はっ!テメーに認められようが認められまいが、それこそ赤の他人のテメーにはカンケーねー話だろ?俺のダチは俺が決める、口出しすんじゃねーよ」

「っ!!貴様はっ「はいはい終了ーー」っ!?」

 

勇刀もいよいよ見ていられなくなったのか

二人の間に割って入った

勇仁ははぁとため息を一つ吐いて座り直し

夏鈴の兄は勇刀をまじまじと見つめていた

それを不審に思った夏鈴が声をかけると

 

「ちょっと兄貴?どうしたの?」

「あああああああ貴方はっまさかっ!」

「またこのパターンか…」

「諦めろ勇刀、もうお約束だ」

「衛藤ゆう」

 

 

~いつもの事なので割愛します~

 

 

 

いつもの叫びがあったあと落ち着きを取り戻した夏鈴の兄を交えて座っていた

 

「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ない、俺は篠塚 厳冬と言います。」

「衛藤 勇刀だ、よろしくな」

「古波蔵 エレン、綾人のお姉ちゃんデース!」

「勇仁の姉の益子 薫だ」

 

「お待たせいたしました。アイスコーヒーです。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます。…まさかこんな所で貴方にお会いできるなんて光栄です!」

「よくもまぁ、あんな兄妹喧嘩みせといて平然としてられんな」

「なんだと?」

「勇仁止めなさい、厳冬さんあんたも場所を考えられなかった落度があるんだ、今回は冷静さを欠いたアンタが悪い」

「くっ!」

「でも妹思いなのは凄く伝わってきマシタヨ」

「しかし限度ってもんがあるだろう、これじゃぁお前の妹も息がつまっちまうだろう」

「それは解っているつもりなのですが、どうしても夏鈴の事が心配で」

 

厳冬の家、即ち篠塚家は多くの企業や組織を経営・運営しており、身近な所で言えば柳瀬家と同じ家柄で幼い頃から両親は仕事で家を空ける事が多かった、メイドを雇っているとは言え夏鈴の面倒を見ていたのは厳冬だった

 その時から厳冬は夏鈴の為に自分の時間を費やしていたが、時が経ち成長するにつれ、夏鈴は厳冬からの束縛にも似た接し方に嫌気がさし、二人の間に距離が出来て擦れ違いが生じてしまったという

 

「夏鈴ちゃんの家も大変なんだね」

「だからって一々喧嘩吹っかけられるこっちの身にもなれよ」

「それは勇仁に同情するな」

「でも今のままは絶対ダメだとおもいマス、ユウユウ何か良いアイディアはありませんカ?」

「なんでそこで俺に振るんだよ?」

「話を聞く限り、この中で一番境遇が似通ってるのはお前だからな」

 

エレンと薫に話を振られ自分に出来るアドバイスは無いか少しの間考えた結果、出た答えは

 

「そうだな、まず現状から考えると夏鈴ちゃんはお前の事は見てないぞ」

「っ!!」

「それは今までお前の考えだけを一方的に押し付けて来たからだ、厳冬がやらなきゃいけなかったのは考えを押し付けるんじゃ無く、提示し妹の意見を聞いて二人で考えるべきだったんだ、誰も頭ごなしに押し付けられた事なんか簡単には受け入れられないよ、それが小さくて純粋な子供なら尚更な」

「………」

「ある程度成長したんだから二人で話し合い位出来るだろ?俺から言えるとはこれ位かな」

「お兄ちゃん……」

 

勇刀の話しをじっと聞いていた厳冬は俯いて今までの行動を思い返していた

確かに自分のお思いばかりが一方通行であった事は確かだった

しかし厳冬にとっては自分の妹への想いも否定されたように感じられた

周囲の人物も思いつめてしまっている厳冬の雰囲気に当てられて暗くなっていた

するとそこへ良く響く明るい声が聞こえて来た

 

「おにーちゃーん!!お待たせー!もーレジが混んでて大変だったよ~~、薫ちゃんにエレンちゃん!久しぶり~」

 

勇刀の後ろには私服姿の可奈美が立っていた

その笑顔は兄との旅行を満喫しているといった満面の笑みだった

 

「買い物は終わったんだな」

「うん!さっき宅配便で日付指定で送って来ちゃった」

 

可奈美は勇刀に後ろから抱き付きながら頬ずりをしていた

 

「ハーイ!カナミン!」

「久しぶりだな、元気だったか?」

「お兄ちゃんと一緒だから元気一杯だよ~!勇仁君と綾人君も久しぶり~~」

「うん、久しぶり可奈美ちゃん」

「お前も相変わらずだな、可奈美」

 

可奈美の声と笑顔で雰囲気が明るくなっていた

 

「えっとすみません。その方は?」

「コイツは俺の妹の衛藤可奈美で、美濃関学院所属の刀使だ、今俺の出張稽古のアシスタントとして一緒に各校を周ってるんだ」

「初めまして!衛藤可奈美です!好きな物はお兄ちゃんの手料理と好きな人はお兄ちゃんです!」

 

「「…………」」

 

インパクトのある可奈美の自己紹介に夏鈴と厳冬はポカーンと唖然としていた

そして可奈美の事を知っているメンバーは苦笑いをしていた

 

「勇刀の言いたい事がこれで解っただろ?今の二人の関係があるのは勇刀と可奈美が互いを想い合ってるからだって事だ、多分勇刀もそれを言いたかったんだと思うぞ」

「互いを…思い合う」

 

厳冬と夏鈴は人前でじゃれあっている勇刀と可奈美を見て、二人の関係性がどんな物であるかを

 

「まぁカナミンとユウユウの関係はある意味特別ですから余り参考にはならないと思いますケド」

「でも仲が良いのは良い事だよね」

「いや、あれはどう考えても度が過ぎてるだろ」

 

「兎に角!厳冬と夏鈴ちゃんはちゃんとお互いに話し合って最適な関係を築きなさいよっ」

「お兄ちゃん今度は美味しい物食べに行きたい!」

「もう長船に行かなきゃいけないから我慢しなさい!!」

「えーっ!?」

「心配しなくても夜は美味しいお店に連れて行ってあげますから我慢してクダサイ」

「本当!?やったー!!」

 

その後は勇仁達と分かれ長船女学院に向かい早速稽古を開始した

この稽古で長船の刀使達は衝撃的な場面を目撃することとなる




さーて次の話もどんどん書くぞー!(白目)
気合いだーーーーーーー!!



なぜ軽率に新キャラを出してしまうのか……
オリ刀使にも興味ありです。
ただ絵が描けないので文章でのみになりますが面白おかしく考えてみようかなー


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20話 柳瀬兄妹のひと時

さぁ、先の話を考えるのに苦戦してます!

そしてアニメにもチラッとしか出てきていない
柳瀬家三姉妹の次女と三女が出てきます。

それから僕のTwitterで、ちょろっと募集してたんですが
皆さんがこの作品を読んでいて想像する、勇刀達のCVを聞いてみたいので、感想欄に書いていただけると嬉しいです!
あっちなみに海翔君の場合は男性声優に限ったりはしません。
小学生なので女性声優さんでもOkです!


勇刀が長船で出張稽古に赴いているある日の昼下がり

柳瀬尊は自宅のソファで読書をしていた

 

「そういえば、勇刀君は今ごろ長船女学園で稽古中でしょうか」

 

尊は顔を上げ窓の外に広がる晴れ渡る空を見上げてふとつぶやく

するとそのタイミングを見計らったように車のエンジン音が近付いてきて玄関付近で停車した

 

「帰ってきたみたいですね」

 

玄関の扉が開きドタドタと大きな足音を鳴らしてリビングの扉が勢いよく開かれた

 

「たっだいまーーーー!お・兄・いーーーーーーーー!!!!!」

「お帰り美結」

 

扉を開けて一番に入って来たのは次女の美結だった

美結は鞄を投げ捨て尊に抱きついてソファに寝転んだ

 

「ん~~お兄ぃ~~」

「美結は急に甘えたさんになったね?」

「ん~~?そうでもないよ??」

「また美結お姉ちゃん制服のままお兄ちゃんに抱きついて寝てるー」

「もう!美結ちゃんと着替えてから寛ぎなさい!尊兄さんも美結をあまり甘やかさないで下さい!」

 

尊は自分に抱きついている美結の頭を撫でていると、遅れて舞衣と三女の詩織が帰宅してきた

 

「えぇー!私はお兄ぃ成分を補給中で忙しいのーー!」

「お兄ちゃんが帰ってきてから美結お姉ちゃん、お兄ちゃんにだけほんと甘えん坊になったよね」

「僕も皆を心配させてしまったからね、できる限りは時間を取るようにしたいんだ」

「えへへ~~」

「もちろん詩織や舞衣ともね」

「お兄ちゃん」

「兄さん」

 

その日は両親は多忙で居なかったものの久しぶりに兄妹が全員揃っての一日になった

 

「それじゃぁ僕は少し自主稽古してくるから」

「はーい!行ってらっしゃい!」

「早く帰ってきてね~」

「尊兄さん!」

「舞衣?」

「私も一緒に行って…良いですか?」

「そうだね、相手がいる方が助かるから一緒に行こう」

「えぇーー!舞衣姉ぇだけズルい!なら私も行く!」

「じゃぁ詩織も行くー」

「わかったわかった、じゃぁ皆で行こう」

「もぅ、遊びに行くんじゃないのに」

「まぁまぁ、舞衣は準備しておいで、僕も準備があるから」

 

その後二人は動きやすい服装に着替え自身の御刀を持ち敷地内にある開けた場所に来た

 

「ここに来るのも久しぶりだなー」

「そうですね、私が美濃関に入学してからここに来る事は少なくなっていましたから」

 

そこはかつて舞衣が美濃関入学前に尊と剣術の稽古をしていた場所だった

そんな思い出の場所で感傷に浸りつつも二人はアップを済ませてお互いに写シを張り構える

 

「いつでもどうぞ」

「ではこちらから行きますっ……はぁっ!」

 

舞衣からの袈裟斬りで打ち合いが始まった

二人は迅移を使いながら何度も剣を打ち合った

 

「舞衣姉ぇ、すご…」

「尊お兄ちゃんも……」

 

その様子を美結と詩織はただ眺めていた

 

「随分と変わりましたね、舞衣」

「はい、私だけが置いて行かれるのは嫌ですから」

 

尊は自分の妹の剣が変わったことにすぐに気付いた

そしてその原因と要因にも

 

「勇刀君と可奈美ちゃんかな」

「そうです。勇刀さんの様にどんな時でも誰かを護れるようになりたい、可奈美ちゃんの様に自分の想いを真っ直ぐに貫けるようになりたい、だから私は強い自分になる、その為なら何度でも変わります。」

 

(本当にあの兄妹はつくづく人を突き動かすのが上手い、無意識でしょうけど)

「舞衣の向上心は天井しらずだね、でもそれなら僕も負けてるつもりはないよ!今度はこちらから行くよ!!」

「はいっ!!」

 

このとき始まった打ち合いは今までの物とは一線を画していた

速度も斬撃の重さも響き渡る音さえもが違った

 

「「………」」

 

美結と詩織は二人の剣戟の応酬に眼を奪われ言葉を呟くことさえ忘れていた

 

「はぁああああああああああああああ!!!!」

「てやぁあああああああああああああ!!!!」

 

二人の打ち合いはその後30分続き終わりを迎えた

舞衣と尊は下の妹達の所でドリンクを飲んでいた

 

「ふぅ、しかし勇刀君との稽古が舞衣をここまで変えてしまうなんて、やはり彼は僕らとは見えているものが違いますね」

「本当に凄いですよね…」

「私も久しぶりに会いたいな、勇刀さんに」

「うん、前に会ったときはそんなにお話出来なかったから、今度はちゃんとお話したいな」

「そう言えば二人は初めて会った時は、勇刀君の事怖がっていたからね」

「あの時はそうだったけど今度会った時はきっと楽しくお話できると思うな、私も美結と詩織には勇刀さんと仲良くして欲しいし」

 

舞衣の笑顔を見て次女の美結はニヤリと笑ってとんでもない爆弾を落とす

 

「そりゃ勇刀さんは舞衣姉ぇの旦那さん候補だからね、家族ぐるみのお付き合いがあれば何かと楽だし」

 

「えっ!?」

「ブフォォッ!」

 

美結の突然の発言に尊は飲んでいたドリンクを吹き出し

舞衣は手に持っていたボトルを落とした

 

「ケホッ!ケホッ!」

「お兄ちゃん大丈夫?」

「もう美結!突然何て事言い出すの!?」

「えぇ~?舞衣姉ぇもしかして気付かれてないとでも思った~?」

「な何が?」

「舞衣姉ぇが端末で勇刀さんの写真をじーっと見つめてたり夜な夜な部屋で勇刀さんの名前をy「もうやめてぇええええええええええ!!!!!」うわぁ!?もごもご」

「舞衣……」

「舞衣お姉ちゃん……」

「うぅっお願いこの事は勇刀さんには、絶対内緒にしてっ……」

 

舞衣は美結の口を塞いで止めようとするがタイミングが遅かった

乙女の機密事項を暴露され、力無く地面に手を突き項垂れる舞衣の姿は普段のイメージからはとても想像できない物だった

そしてそんな舞衣を見る尊と詩織は少し引くと同時に哀れにも思っていた

 

「まっまぁ私も勇刀さんの事は好きだしね!カッコいいし!そんな人が義兄になってくれたら私も自慢できるし!ライバルは多いと思うけど頑張ってよお姉ちゃん!」

「うぅ…こんな私の事を知ったら勇刀さんに嫌われちゃう……」

「だっ大丈夫だよ舞衣!勇刀君はそんな事で人を嫌ったりしないよ!ちゃんとそれも含めて舞衣の事を見てくれるよ!」

「そっそうだよお姉ちゃん!勇刀さんの事は舞衣お姉ちゃんだって良く知ってるんでしょ!?」

「そうだよね…勇刀さんは、そんな人じゃない」

 

こうして舞衣をなだめて元に戻ると

 

「それじゃぁ僕は千本桜の方を稽古するから3人はそこで見ていてね」

 

尊は御刀を眼前で構え、名を呼ぶ

 

「散れ、千本桜」

 

すると御刀の刀身が桜の花びらの様に散り

波や流れる水の様に縦横無尽に尊の周囲を旋回する

 

「行けっ」

 

その言葉と同時に散った刃がまるで生き物の様に木々の間をすり抜けて行く

しかし中には木に当たってしまい切り刻んでしまったり、砕いてしまったりする所が出て来た

 

「やっぱり自分から離れれば離れる程コントロールが難しいな、それにスピードも落ちてる」

「綺麗…」

「「………」」

 

もっと上手に扱える様にならないと、この程度の速度なら勇刀君は余裕で間合いを詰めてくる、彼に勝てる位にならないと話にもならない!!

もっと強く!更なる高みへ!!

 

尊の表情は次第に険しい物へ変わり、手を使い操り始めると速度は跳ね上がったが制御は更に困難を極めた

この稽古は日が落ちてからも続いたが集中力が切れたため切り上げる事になった。

 

そして家に戻り4人で食卓を囲んだ、久しぶりの兄妹水入らずでの食事は楽しく安らぎを尊に齎していた

そして風呂に入り自室に戻り、ベッドに横になると直ぐに眠りに落ちてしまった

 

その頃舞衣はベッドの上で正座して端末を耳に当て電話をしていた

 

「もしもし?夜分遅くにごめんなさい。折り入ってお願いがあります…私に抜刀居合いを教えてください。」

 

ここに一人の少女がより強さを求める為の扉を開いた

自らの刃をより強く鋭くするために

 

 

綾小路武芸学舎 学長室

 

相楽学長は木寅ミルヤから提出された提案書に眼を通していた

その顔真剣そのものだった

その雰囲気につられてミルヤの表情も少し固くなっていた

 

「この件は確かに魅力的だが綾小路武芸学舎としては受け入れかねる、すまないな木寅」

「いえ、相楽学長の判断であれば致し方ありません。」

「しかし、お前がこの様な提案をしてくるとはな、意外だったぞ」

「私はより効率的に荒魂を討伐するためには刀使の個人能力を高める事が最善だと判断したまでです。」

「本当にそうかな?お前は衛藤勇刀と出会ってから少し雰囲気が変わったぞ」

「そうでしょうか?確かに彼に影響されることは多々ありますが、それと私の雰囲気となんの関係があるのでしょうか?」

「いずれ解る時が来るさ、木寅なら大丈夫だ」

「はぁ…では私はこれで失礼します。」

「あぁ、ゆっくり休め」

 

ミルヤが部屋を出ると相楽学長は息を吐きながら背凭れに体を預け天井を仰ぎ見る

その表情には明らかな怒りと憤りが見てとれた

 

「彼に頼ることが出来たのならばどれだけ幸福か、あの子達の負担もどれ程軽いか、しかしもう後戻りは出来ない」

 

一人語る相楽学長の姿はやりきれない想いを抱えたまま、校舎から消えていった

 

 

そこはこの世に存在するどんな物よりも黒く、この世に存在するどんな場所より暗い空間

光は差さず、風もなく、音もない、ただ上下の認識が有るのみだった

 

「永きに渡る我らの宿願!あの御方の御霊を刀使達から解放するのだ」

 

この言葉に返答するものは居ない、ただ声だけが遠くに広がっていく

 

「その為の備えも間もなく終わる、もう暫くお待ちください。必ずやあなた様をここに御戻しします。」

 

一人の声が虚しく響いていた

それを聞くのは巨大な骸の様な石像のみだった

 

 

 

 




長船女学園、女子寮宿直室

「あ~…疲れた」
「薫ちゃん、休むなら自分の寮部屋にしなよ」
「別に良いじゃねぇか、減るもんでも無し」
「減るよ!私とお兄ちゃんの二人っきりの時間が!」
「まぁまぁカナミン、薫も今日は凄く頑張ったので大目に見てあげてクダサイ」

この日、可奈美と勇刀が宿泊する宿直室ではちゃぶ台を女子3人で囲んでいた
そして備え付けのキッチンからは勇刀が何やら準備をしていた

「お前ら元気だな、そんなに元気なら明日はもっと厳しくしても大丈夫そうだな」
「死んでしまいます。ヤメロクダサイ」
「んじゃこれ飲んだら歯磨いてさっさと寝ろよ」

お盆にコーヒーカップを4つ乗せて戻ってきた勇刀の冗談に薫は凍り付き即土下座をキメていた

「これはホットミルクデスネ」
「この味、ハチミツか。落ち着くな」
「あぁ、寝る前にこれ飲むと落ち着いて良く眠れるんだ、可奈美のは少し温めにしといたぞ」
「ありがとう、お兄ちゃん!」

「それでは薫、そろそろ部屋に戻りましょうか…薫?」
「スースー…」
「喋らなくなったと思ったら寝やがった」
「起こしちゃうのも可哀想だよね」
「しょうがない、俺が背負って部屋まで運ぶわ」
「薫の部屋までは私が案内シマス!」
「頼むわ、可奈美は寝る支度してな」
「…はーい」

ホットミルクを飲みながら談笑をしていると、いつの間にか薫が眠ってしまった
勇刀は薫を背中に背負い立ち上がりエレンに薫の寮部屋まで案内を頼んだ

「しっかし薫はやっぱり軽いな、こんな体であんなデカイ御刀振り回してるんだから凄いよな」
「そうデスネェ、薫は頑張りやさんなので稽古中ももっと褒めてあげればもっと頑張ると思いマスヨ」
「そうだな、機会があればそうするよ」

そして薫の部屋に入り彼女をベッドに寝かせてエレンと別れ部屋に戻った
するとパジャマに着替えた可奈美が備え付けのベッドに座って勇刀をジーっと見ていた

「どうした?先に寝てて良かったのに」
「んー!」

可奈美は頬を膨らせながら勇刀に手を伸ばしていた
その時勇刀は全てを悟り自分も寝巻に着替えて可奈美を抱きしめる形にして
ベッドに入った

「ん~~っお兄ちゃ~~ん/////」
「はぁ、いつまでも手のかかる妹だな…」
「えへへ~~」

勇刀の胸に顔を埋めて幸せそうにしていた


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21話 蕾の剣、それは清らかな香りと共に開花を待つ

月末を待たずにゲリラとうこぉおおおおおおおおおおお!!!!!!
お待たせしました!
次も今月中に投稿できるように鋭意製作中です!!

コロナなんかに負けねぇぞ!!!


勇刀の全国伍箇伝出張稽古も平城学館を残すのみとなっていた

そして今は姫和の案内で平城学館学長、五條いろはのもとへ向かっていた

 

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 

「なぁ、和人…」

「なんだ?」

「姫和ちゃん動きがぎこちないけど、どうしたんだ?」

「なんだか動きがカクカクしてるね」

「今朝会った時は普段通りだったんだが、二人が到着する時間が近づくにつれて、あんな風になってしまったんだ」

 

3人の前を歩く姫和の動きはロボットの様にカクカクしたような動きになっていた

そんな姫和の様子を後ろからヒソヒソ話をしていたが原因は解らないまま学長室に到着した

 

「勇刀君、可奈美ちゃんようこそ平城学館へ」

「お久しぶりです。五條学長」

「そうやねぇ、東京防衛戦以来やねぇ元気にしとった?」

「はい!私もお兄ちゃんも元気です!」

「ふふ、そうみたいやね、今日からウチの子達の事お願いね」

「精一杯勤めさせていただきます。」

「私もお兄ちゃんと一緒に頑張ります!」

「衛藤は相変わらずだな」

「…………」

「それじゃ今日参加する子達は道場に居るから準備が出来たら早速お願いね」

「はい、わかりました」

「十条さん?」

 

姫和以外の3人は準備をするために学長室を出たが姫和だけはその場に残っていた

 

「………」

「姫和ちゃん?皆行ってもうたよ?」

「えっ!?」

「なんや今日は上の空やね。」

「すみません。」

「今朝は普段通りやったけど、勇刀君が来てからやね?」

「はい…私にも良く解らないんです。兄さんと居るときは平気なんですが、勇刀さんが居る時は何かが違うんです。」

「あらあら(これは姫和ちゃんにも来るべき時が来たんやね)」

「…すみません!私も行ってきます!」

「篝ちゃん、娘さんはちゃんと女の子しとるよ…美奈都ちゃん家の子はちょっとアレやけどね」

 

姫和の様子を察した五條学長はにこやかに微笑み、姫和は自らの頬を叩き部屋を出ていった

学長は自分の机の上に置いてある写真立てを手に取り今は亡き戦友に語りかけていた

当然返答は無いが五條学長の頬は緩み優しい笑顔になっていた

 

「さぁて!今日も気合い入れて行きましょ」

 

 

その頃道場では

 

「ストレッチが終わったらそれぞれの流派の型で素振りだ!基礎をたかが基礎と思って軽んじるなよ!これから先の土台になるからこそ手を抜かずに何よりも神経を研ぎ澄ませろ!!」

 

「「「「「はいっ!!!!!!!!」」」」」」

 

早速勇刀による稽古が始まっていた

最近は姫和や六角清香等優秀な刀使を輩出しており、将来有望な刀使達も多く在籍していた

そのため指導中も勇刀は何処か楽しげだった

 

「姫野さんは剣を振るようになって日が浅いから他の皆よりもハンデがあると思うけど、焦らずにじっくりやっていこう、そうすれば良い刀使になれる」

「はい!ありがとうございます!!」

「頑張れ!」

 

気になった刀使に助言をして回っていると調査隊にいた六角清香が勇刀のもとへやってきた

 

「あの衛藤さん、少し良いですか?」

「清香ちゃんかどうした?」

「私は衛藤さんにどう映りましたか?」

「ん~、稽古の時は凄く頑張って取り組んでるし、真っ直ぐで素直な良い子だよ、でも」

「でも?」

「清香ちゃん無意識に自分の事、卑下しすぎだと思うよ」

「それは、どういう…」

「言うより実際に見せた方が良いかな、松永さんちょっといい?」

「はい、なんですか?」

 

勇刀は近くに居た高等部1年の松永衣理奈を呼び、打ち合いの提案をし彼女もそれを受け入れ

二人は向かい合い、打ち合いを始めた

その様子を端からなんの説明もなく眺める清香達

 

序盤は小気味良く攻守が入れ替わりながら展開していった

しかし勇刀が松永を大きく弾き飛ばしてから状況は一変した

突如勇刀が攻めに転じたのだ、そこからは勇刀の激しい攻撃に成す術もなく御刀を弾かれ

打ち合いは終了した。

 

「高等部なだけあって足運びも状況判断も冷静に出来てるけどイレギュラーにはもう少し迅速に対応できるといいね、また次に会うときが楽しみだ」

「ありがとうございます!!頑張ります!!」

「次は清香ちゃんの番だよ」

「えぇ!?私ですか!?」

「そうだよ、これが一番分かりやすい方法だから」

 

勇刀は松永にアドバイスを送った

次は清香に自分との打ち合いを要求した

清香は胸の前で両手を握り、意を決した表情で勇刀の前で御刀を構えた

 

「じゃぁ最初は軽く打ち合うよ」

「っはい!よろしくお願いします!」

 

 そこから二人の時間が始まった

清香は間合いの違う剣に対して上手く立ち回っていた

それを勇刀は分析するように見つめながら、松永の時とは違い徐々にギアを上げていく

 

 ここでこの様子を見ている刀使達はある事に気がついた、勇刀が清香へ打ち込む強さ、速さは先程の松永との打ち合いの最高値を既に上回っている事に

 

「すごい、六角さんが勇刀さんの剣と打ち合ってる」

「いや、あれは打ち合ってるんじゃない、流しているんだ」

「うん、清香ちゃんは無理にお兄ちゃんの剣と打ち合うんじゃなくて、受け流して避けてるんだ」

「刃長の短い御刀と六角さんの技量があってこその戦い方なんだね」

 

 清香ちゃんいい感じだ、これで後一手あれば化けるぞ、さぁどう出る?

 

 大丈夫着いて行けてる!でもこのままじゃ私が疲れて動けなくなっちゃう、どうすれば

 

「清香ちゃん攻め手に欠けるって感じだね」

「…あぁ、集団戦闘では場持ちは良いが単独戦闘においてはただのじり貧だ、この場合狙う事と言えば」

「相手の攻撃の隙を突いた瞬時の反撃(カウンター)やね」

「学長!いつの間に!?」

「ちょっと稽古の様子が気になってな、休憩がてら見学に」

「学長先程おっしゃっていたのは」

「んー、多分やけど彼は六角さんに必要な物を理解して欲しいんと思うんよ」

 

尚も続く二人の打ち合いを見つめる巫女の目には何が写るのか

少女達は汗を拭いそれぞれの思いを胸に、剣をとって立ち上がった

その背中を五條学長は笑顔で見つめていた

彼女達の前途に光があるようにと

 

「あぅ~、もう動けません~~……」

「惜しかったね清香ちゃん、でも良いところまで来てるから後少しだ」

「はい!私頑張ります!!」

「頑張れ!それじゃぁもう少しやったら昼休憩にするから、集中していこう!!」

「「「「「はい!!!!!」」」」」

「さ、ウチも頑張らんとな」

 

道場からは少女達の声と打ち合う音が日が落ちても響いていた

 

 

 

 さぁて、久方ぶりに刀使共と斬り合いに行くとするか

 どれだけ血を我が爪に吸わせられるかな、クックック

 

 



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22話 折れる刃と失意の雛鳥


    沈み行く意識の中で
     
       誰かが悪態をつき

          誰かが嗤っていた


 

 

「……………」

 

奈良市内でも最大級の規模を誇る大病院の集中治療室

そこには無数の医療機器に繋がれた勇刀がベッドで眠っていた

 

壁の一面がガラス張りになっており外から中の様子を見ている少女が一人

勇刀の妹、衛藤可奈美

彼女の顔からは何時もの明るい笑顔は消え去り、瞳に光はなくただ勇刀を見つめているだけだった

 

「衛藤さん、ちゃん休まないと倒れちゃいますよ?今は少しでも休んでください」

「ありがとう清香ちゃん、でも私が寝てる間にお兄ちゃんが居なくなっちゃいそうで、怖いの怖くて怖くて堪らないのっ…お兄ちゃんが居なくなっちゃったら私っわたし!」

「衛藤さん……」

 

清香は可奈美にかける言葉が見つからず、押し黙ってしまった

自身に兄はいないが、可奈美の言葉からは勇刀がどれ程大切な存在かが痛いほど伝わってきた、可奈美をこのまま放っておく事は出来ないが自分に出来ることが解らずにただ、その場に立っていることしか出来なかった

 

すると、自分達の方へ駆け寄ってくる多くの足音が聞こえた

 

「勇刀さん!!可奈美ちゃん!!」

「勇刀君!!」

 

その足音の正体は六刃将と舞衣、沙耶香、薫、エレン、智恵、美炎、呼吹だった

「舞、衣ちゃん…」

「ほのちゃん、皆さん」

 

「可奈美ちゃん大丈夫!?勇刀さん…は……そんな」

「おい…嘘だろ、何かの冗談だよな!?勇刀!」

「薫落ち着いてくだサい!」

「勇刀お兄ちゃん!」

「勇刀っ……」

 

「おい、和人のヤローはどうした!」

「ヒッ!十条さんのお兄さんなら妹さんを探しに行ってますっ」

「ちょっと益子君!清香ちゃんを怯えさせないであげて!」

 

到着するなり各々が勇刀の状態に驚愕し混乱していた

それは今まで常に自分達の先頭に立って戦っていた勇刀からは想像出来ない姿だったからだ

そこへ和人が戻ってきた

 

 

「皆、来ていたのか」

「っ!十条さんは見つかりましたか!?」

「あぁ、土砂降りの中素振りをしていた、今は風呂に入れて休ませている」

「おい和人!!テメー勇刀と一緒に戦ってたんだろ!それでなんで勇刀だけがあんな重症なんだよ!!!テメーは一体何してたんだよ!!!!」

「俺は……」

「勇仁君!!落ち着いて!!」

「これが落ち着けるか!あの勇刀が!あんな一方的にやられたんだぞ!誰かが馬鹿見てねぇなヘマしなきゃ!こんな事になるはずねぇだろ!!」

「勇仁」

「あぁ!?」

「黙れ」

「っ!!」

 

意外にも勇仁を抑えたのは尊だった

普段の温和な雰囲気からは考えられない程に鋭い目付きと殺気を勇仁に当てていた

その場にいた勇仁以外のメンバーも押し黙った

 

「和人君、辛いでしょうけど詳しく話してください。」

「…あぁ、奴が現れたのは昨日の昼過ぎだった」

 

 

遡ること一日

その日は平城学館での出張稽古二日目が始まっていた

道場では前日に引き続きストレッチ後の素振りから始まっていた

勇刀は昨日と同様に素振りを一人一人チェックしながらアドバイスをしていた

和人も勇刀の補助として水分補給の為のドリンク作りなどのサポートをしていた

 

「和人君聞いてよ!お兄ちゃんてば平城の子達とばっかり立ち会って私の事はほったらかしなんだよ!酷くない!?」

「お前は何の為に来たんだ」

「お兄ちゃんと一緒に居たいからだよ?」

「勇刀の指導補助だ……はぁ、苦労人だな勇刀も」

「ん?和人君何か言った?」

「何でもない……」

 

これまで勇刀が出張稽古をしてきた所では最後の〆に可奈美が出張先の刀使との立ち会い稽古の相手をして、勇刀が端からみて指摘をする内容の稽古もあったが平城ではまだ行われておらず可奈美は暇を持て余していた

 

その時、校内アナウンスが荒魂の大量発生を知らせた

そしてアナウンスで召集された勇刀と和人は学長室に急いだ

 

「現状を簡潔に説明します。現在奈良県北部の山間に強大な荒魂の反応とそれに付随する多数の荒魂の反応を感知しました。」

「この規模、尋常じゃありませんね。まさか関東以外でこんな反応が出るとは」

「あぁ、しかも帯同している荒魂の数も相当だ」

「まず衛藤君と十条君には前線に出て強い反応の荒魂を頼みます。タギツヒメ程では無いにしても大荒魂クラスや現状二人にしか頼める子が居ないんが正直な所や」

「了解です。なら俺と和人と可奈美に姫和ちゃんでそこに向かいます。」

「これがベストだろう、未知数の敵でもこの編成ならなんとかなるだろう」

「ならそれ以外の刀使科の子達はいつも通りの編成で取り巻きに対応させます。現在移動こそしていないものの、いつ動き出すか」

「了解です。可及的速やかに処理します。」

 

勇刀はデータを受け取り部屋を出た

そのまま可奈美と姫和に声をかけ準備をさせ、出動する刀使全員を集めた

 

「急な出動になっちゃったけど、昨日と今日やったことと今まで積み重ねてきたものが皆を助けてくれる、ここにいる仲間とこの状況を覆して全員無事に帰ってこよう!!」

 

「「「「「「「はいっ!!!!!」」」」」

 

それぞれ、部隊編成毎に輸送車に乗り込み出発した

車の中は緊張感が漂っていた

しかし勇刀がいる車は少し違っていた

 

「皆には仲間を意識させたけど、俺達はそうはいかないぞ。必要ならこっちを取り巻きに割かなきゃいけなくなる」

「あぁ、臨機応変に対応しなければな」

「そうですね。全力で挑みます!」

「どんな荒魂だってお兄ちゃんと私達なら勝てるよ!」

「可奈美、何時もの荒魂討伐とは規模が違うんだ不測の事態も想定しておかないと犠牲が出てからじゃ遅いんだ、楽観を捨ててもう一回気を引き締めろ」

「…はい」

「良い子だ」

 

勇刀は和人と有り得るであろう可能性について話していたが、可奈美は初めての兄との実戦と言うことで浮き足立っていた所を勇刀が注意をして作戦に目を向けさせた

聞き分けの良い可奈美の頭を撫でて作戦に集中していく

 

そして現場に到着し展開を終えた

 

「展開中の全刀使!特祭隊員に告ぐ!作戦開始!!!!」

「行くぞ!可奈美!」

「うん!頑張ろう姫和ちゃん!!」

 

荒魂を囲むように展開していた刀使達が一斉に目標に動き出した

 

「衛藤隊長達に道を開けろ!」

「全力を尽くせ!」

 

勇刀達は出来た道を全力で駆け抜けていく

そして遂に元凶との邂逅を果たす

 

「こいつが親玉か…」

「大きい」

 

4人の前に現れたのは両腕が鋭い刃の様な爪を持った巨大な人形の荒魂だった

 

 中々ニ骨ノアリソウナ人間ダナ、コイツハ楽シメソウダ

 

「荒魂が喋った!?」

「タギツヒメと同じタイプか、油断できんぞ」

 

 タギツヒメカ懐カシイ名ヲ聞イタ、刀使共ヨク来タナ、楽シモウゾ

 

「話が早くて助かるわ、行くぞ!」

 

勇刀が先頭を切って斬りかかるが外皮が予想以上に堅く、刃が通らなかった

この事に多少の衝撃を受けつつも冷静に分析をしていく

 

和人の御刀はここじゃ解放させられない、となると直接切り落としていくしかないがこの硬度だ根比べになるな、勇仁が居れば少しは楽になるんだろうが無い物ねだりか

 

 ドウシタ?始マッテ早々ニ考エ事カ?随分ト余裕ダナァ刀使!!!!

 

「ぐぉっ!!」

 

 サァ!モット私ヲ楽シマセロ!!コレデハマダマダ足リンゾ!!!!

 

「させるか!」

 遅イ!!

「チッ!姫和!!可奈美!!」

「はぁっ!!」

「せいっ!!」

 

御刀を受け止め、そのまま振り払い勇刀を吹き飛ばすと追撃を加えるが

それを和人が遮ろうとするが片方の腕で牽制される

しかし、両腕が塞がった状態で姫和の突きと可奈美の横薙ぎによる挟撃が、荒魂の頭部を捉えたかに見えた

 

 ソノ程度デハ俺ノ身体ニハ傷ヒトツツケラレンゾ!!刀使共!!!!!

 

「そんな馬鹿な!」

「これでも刃が通らないなんて!」

 

 ハルカ昔ノ刀使共ノ方ガ良イ太刀筋ダッタゾ

 

「くっ!今度こそ貫いてやる!」

「よせ姫和!挑発に乗るな、冷静になれ」

 

二人の斬撃は完全に受け止められていた、渾身の一太刀が通じず二人の表情を見て嘲笑うかのように煽る

 

「ならこいつはどうだ!!飛天御剣流!龍槌閃!!」

 

 ムッ!コノ技ハ!!

 

「勇刀!」

「勇刀さん!!」

「お兄ちゃん!」

 

 チィッ!!!

 

二人を煽る一瞬の隙を突いて空高く飛び上がった勇刀は自由落下の速度を利用し荒魂に振り下ろしを叩きつけた、荒魂は片腕で防御するが御刀の刃が深々と切り込みを作っていた

腕を押し出し勇刀を振り払うと勇刀を見つめて目を細めた

 

 ソノ技、飛天御剣流継承者カ、マサカ当世デモ拝メルトハナ、緋村ハ息災カ?

 

「あぁ?確かに俺の師匠の名前だが確実にお前の知ってる人間じゃないぞ」

 

 ソウカ、左頬ニ俺ガツケタ十字傷ガアル緋色の髪の優男ナンダガナァ、流石ニ死ンダカ

 

「おいおい、なんの冗談だそりゃ、師匠の人相とドンピシャじゃねぇか!おい荒魂!その人の口調はござる口調だったりしねぇよな!」

 

 ン?タシカニ当時デモ珍シイ口癖ダッタガ、マサカ貴様ノ師匠ガアノ抜刀斎!緋村剣心ソノ人ダッタトハナ!!コレハ傑作ダ!ナラバ手ヲ抜イテハ緋村ニモ申シ訳ナイナ!

ココカラハ全霊デ相手ヲシテヤル!

オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!

 

荒魂の雄叫びは雲を呼び雨を降らせた

そして周囲からノロが地表に吹き出し目の前の大荒魂に集まっていく

もとから巨大だった身体はさらに巨大化し巨躯の大鬼となった

 

「何でこんな大荒魂が、今までスぺクトラムファインダーに引っ掛からなかったんだ……」

 

 俺ハ今マデ封印サレテイタノダカラ当然ダナ!アノ緋村剣心デサエ俺ヲ倒シキレズニ折神家ト共ニ封印スル他ナカッタノダカラナ、ヤツノ頬ノ傷モソノ時ニツケタ物ダ

 

「勇刀!雨が降りだした今なら流刃若火も使える!!ここで倒しきるぞ!!!!」

「…………」

「勇刀!!!!」

 

和人の本能がここでコイツを斬らなければいけないと警鐘を最大で鳴らしていた

そして雨が降りだした今の状況なら刀剣解放を行っても被害もある程度押さえられると判断し、勇刀に進言するが肝心の勇刀は大荒魂を見上げて呆然としていたが和人の声でハッと気を戻した

 

「っ!…和人」

「呆けている場合か!!ここでコイツを叩かなければどれだけの被害が出るか解らない…ぞ…」

「総員撤退!!!!殿は俺が務める!展開中の部隊も即時撤退!討ち漏らしがあっても構うな!!この部隊の指揮権は和人に任せる!」

「正気か勇刀!!おい!!!」

「お兄ちゃん!」

「勇刀さん!!」

 

 一騎討チカ!イイゾ!ノッタ!

 

勇刀は和人達に撤退命令を出し、大荒魂を山奥へ誘引していった

そして突然の撤退命令に困惑した和人だったが、取り巻きの荒魂はほぼ討伐が完了していたため、他の部隊には山の麓までの撤退命令を出し待機させた

 

「兄さん!このままでは勇刀さんが危険です!いくら勇刀さんでも、あの荒魂には一人ではとても!…兄さん?」

「勇刀のあんな表情は初めて見た、あの荒魂に心の底から恐怖している顔だった、体も震えていた、勝てないとはっきり自覚しているんだあの大荒魂に」

「お兄ちゃんが………っ!」

「可奈美!!」

「衛藤!!クソっ!アイツが素直にこんな指示に従うわけが無いだろう!」

 

可奈美は和人の話を聞いて不安な表情で勇刀が向かった方へ駆け出し姫和も後を追った

和人も救護班の要請と観測の強化そして消火班の準備を指揮所に要請し二人を追った

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 遅イワ!!

「グッ!…はぁはぁはぁ!」

 

 コノ程度カ、奴ノ弟子ト言ウカラドレ程カト期待シタガ、足元ニモ及バン塵屑トハナ

 ダガ俺ニ勝テヌト悟ッテ部下ヲ下ガラセタ判断ハ誉メテヤロウ

 

勇刀の写シは既に剥がれ、再度張り直す事も出来ず生身で戦っていた

体には多くの切り傷があり息も絶え絶えで、御刀を杖代わりにしてやっと立っていた

 

「うるせぇな…こんな所でアイツ等を死なせるわけには、行かねぇんだよ」

 

 ソウカ、自ラハ捨テ石カ、見上ゲタ覚悟ダ、ソノ覚悟ニ免ジテ苦シマヌヨウニ終ワラセテヤル

あぁ、こんな所で終わりか…ゴメンな可奈美、お前が幸せになるまでそばに居てやれなくて、母さんゴメン、俺約束護れなかった…

 サラバダ!

 

その瞬間、山その物を揺らすような地響きが襲った、その衝撃の中心部分は抉れてクレーターのようになっていた

 

あれ?なんだか柔らかくて、温かい何かに包まれてる様な、これがあの世か…あぁ天国でも雨は降るんだな

 

「いちゃん!…お兄ちゃん!起きてよ!!目を開けて!お兄ちゃん!!」

「っ!可奈美!お前何してんだ!!早く逃げろ!死にたいのか!!」

「嫌だ!お兄ちゃんを見捨てて私だけ生き残る位なら私も一緒に死ぬ!!!!独りぼっちは嫌だ!!!!」

 

 小僧ノ覚悟ヲ無駄ニシテ死ニニ来ルトハ愚カナ、シカシ中々ドウシテ、逃ゲノ兄トハ違イ気骨ノアル小娘ヨ!

 

「うるさい!お兄ちゃんはお前なんかに絶対負けない!!!」

 

 ソウカ、ナラバ兄妹モロトモ死ヌガイイ!

 

「可奈美!!!!!」

「お兄ちゃん!?」

 

 甘イワ!ソノ程度デ、コノ爪ヲ防グコト能ワズ!!

 

二人を串刺しにしようとする爪の線上から可奈美を自分の後ろに引っ張り御刀の腹で突きを受け止めた

 

「なっ!?ガハっ!くそっ…たれ… 」

「…お兄…ちゃん?」

 

 貴様マサカ…ソウイウコトカ、貴様ガ器カ

 

可奈美を庇い突きを受け止めた御刀を爪が貫き、更に勇刀を貫いた

そして爪を引き抜かれ、勇刀が倒れ血だまりが広がって行く

勇刀は霞んでゆく視界で最後に見たのは涙を流している可奈美の顔だった

 

 チッ情けねぇな…

 

「万象一切灰燼と成せ!!!!流刃若火!!!!!」

 グォオオオオッ!!!小癪な!!

「姫和!!二人を回収して後方に下がれ!!」

 

突如荒魂の周囲を燃え盛る炎が包み込み、荒魂との間に炎の壁ができた

 

「はいっ!可奈美っしっかりしろ!可奈美!!」

「…………」

「勇刀さんを死なせたいのか!!!!!」

「っ!やだっ嫌だ!!死んでほしくない!!」

「なら気をしっかり持て!!兄さんが時間を稼いでくれている内に救護班の所へ行くぞ!」

 

姫和は茫然自失となっている可奈美を心にもない言葉で無理やり立ち上がらせる

 

「城郭炎上!走れ!!」

 

 小癪ナ、シカシコレデ終イトイウニハ惜シイ、刀使共!一月ノ後マタ会オウ!

 ソレマデニ腕ヲ磨キ!刃ヲ研イデオケ!

 

和人が大荒魂を燃え盛る炎の壁で包み込み行動を制限させたと同時に可奈美と姫和で勇刀を抱えて、麓まで一気に駆け抜ける

結局大荒魂が追いかけてくることは無かったが、3人の心が休まることはなかった

 

そして麓にて待機していた、特祭隊員が見たものは自らの足で立つことすら出来ず、二人の少女に抱えられた、血塗れの勇刀の姿だった

 

その光景をみた平城の刀使達は一様に口を揃えた

「現実の光景だとは思えなかった」と

そしてこの報は平城学館から一斉に折神家や伍箇伝へと伝わり、世間へと報じられた

 鎌倉危険廃棄物漏出問題後の東京防衛戦に始まり、その後の混乱を終息に向かわせた功労者の負傷、そして戦線離脱の報せは、刀使達は勿論一般市民の不安を煽るにはこれ以上無い出来事だった

 

今回4人が交戦した大荒魂の詳細は秘匿され、

和人から報告を受けた平城学館学長、五條いろはは折神家に緊急対策本部の設立を打診し、折神朱音が承認し補充要員として

折神家からは勇刀以外の六刃将の5人

美濃関学院からは柳瀬舞衣、安桜美炎

鎌府女学院からは糸見沙耶香、七之里呼吹、潘つぐみ

長船女学園からは益子薫、古波蔵エレン、瀬戸内智恵

遅れて綾小路武芸学舎からは木寅ミルヤ、山城由依

が各校から選抜され派遣された

 

たった一人の抜けた穴を補う為に手練れの刀使が15名も増援として送られた事に各学長の危機感が伺えた

 

「これがあの時に起きたことだ……」

「和人君、話してくれてありがとうございました。君が最後まで冷静で居てくれたお陰で勇刀君は一命をとりとめる事が出来たんです。君は何も間違ってなどいません。」

「それでもっ俺にもっと力があればっ……」

「和人君そんなに思い詰めちゃ駄目よ、その大荒魂と対峙した全員が誰一人欠けること無く居るのは貴方のお陰なのよ」

「あぁ、オレもお前はよくやったと思うぞ、誰一人死なせずに生きて帰って来たんだからな、それに勇刀はこの程度で死ぬ程柔じゃない」

 

薫の言葉にその場に居た全員が頷き、眠り続ける勇刀を見る

その瞳には勇刀への信頼と確たる決意が宿っていた

唐突に今まで沈黙を保っていた呼吹が和人に確認した

 

「それで?その大荒魂ちゃんは一月後に動き出すって言ってたんだよな?」

「あぁ、そうだ」

「呼吹さんまさか」

「あぁ?勇刀の代わりにアタシ達がその大荒魂ちゃんをブッタ斬るんだよ!その為にここに派遣されたんだろーが!やることやってたら一月なんてあっという間だぜ!」

「私もふっきーに賛成!!もっともっと強くならなきゃ!勇刀さんが起きたときに強くなった私達を見せつけて驚かせよう!」

「私も…美炎に賛成、勇刀に頼ってもらえる様になる」

「沙耶香ちゃん…」

 

「おい、どうすんだよ副隊長、あいつ等はやる気みてぇだぞ」

「僕らもやりますよ。御刀の力を各々高めなければいけませんから、早く行きますよ。純粋な物理攻撃なら君が一番なんですから」

「今度はぼくもがんばるから!和人兄ちゃんが燃やしても僕が凍らせて消してあげるからね!!」

「あぁ…頼んだぞ海翔」

「ほらほら!勇仁君早く行くよ!!」

「わかったから押すなよ!」

 

「勇刀君…待っていますよ」

 

全員が一斉に稽古場に向かったが、尊はその場に残り勇刀に言葉をかけてその場を後にした

しかし可奈美はその場に残り勇刀を見つめていた

その顔は暗く沈んでいた

 

 

 





 「まさか勇刀君がやられるなんて」

「刀使達の士気低下は避けられないか」

   「本当ですか!?すぐに手配します!」

  「私だけじゃなくて、ここにいる全員が知っている人よ」

「「「「「「「はぁ!?!?!?!?!?!?!?」」」」」」


      「ハッ!まさか、テメーからそんな言葉が聞けるとはな!今更何言ってやがる」


「てめぇ相手じゃ、これでも足りねぇよ!」


 「誰だ!病院で派手に暴れてるのは!」

「ねぇ、なんで無視するの!?ちゃんと答えてよ!」

       「はいはーい!待ってましたよー!」

  
   「邪魔しないで!!」


次回
  『離別と再会』


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23話 離別と再会

 俺は降りかかる不幸総てを斬り伏せた 妹を護る為に 笑顔を護る為に

    その為に自分のほとんどの時間を費やした 

 都市伝説扱いだった山に住むという抜刀斎に弟子入りして剣を学んだ
 
  母を幼くして亡くし 父は母が亡くなるのと同時期に家を空ける様になった

頼れる大人は身近に居ない なら俺が護る そう誓ったはずなのに


 

 

刀剣類監理局本部オペレーションルーム

 

そこでは真庭局長代行と折神朱音が各伍箇伝の学長そして折神紫がモニター越しに会議をしていた

「まさか勇刀君がやられるなんて」

「彼の容態は?」

「今のところ安定してはいるんやけど、いつ意識が戻るかはなんとも…もし意識が戻ったとしても」

「即復帰、とは行かないだろう」

 

紫の言葉に全員が頷いた、そして彼の戦線離脱で発生する、もう一つの弊害それは

 

「刀使達の士気低下は避けられないか、衛藤可奈美の様子は?」

「それが塞ぎ込んでもうて、部屋から出て来んようになってしもうたんや」

「衛藤さん…」

「あの兄妹がそろって離脱というのは痛すぎるな、必要であれば衛藤可奈美に対してはカウンセリングを行い精神面でのバックアップを怠るな」

 

現役刀使の中で最強クラスの勇刀が荒魂に敗れた事で他の刀使達に及ぼす影響は計り知れない物であった、その事はここにいる全員が周知している事でもあったし何よりの懸案事項だった、そして可奈美に対しての対応も協議されていた

 

「次に今回4人が交戦した大荒魂ですが、人語を話す事と過去に折神家と緋村剣心という人物によって共同で封印されていたと大荒魂から聞いたと十条和人からの報告が来ています。」

「こちらに関しては既に私の方から家の者に文献や当時の資料を探すよう手配しています。」

「そして興味深い話がもう一つ、この緋村剣心という人物が衛藤勇刀の師匠に当たる人物である可能性が非常に高いという報告も同じく十条和人から受けています。」

「どういう事だ?荒魂の話を信用するなら、その男は生きていられる様な年齢では無い筈だ、他人の空似という可能性は?」

「その線も当然考えましたが、その話を荒魂から聞いた衛藤勇刀の反応は明らかに動揺していたと」

「朱音、今から送る場所に向かえ、おそらくそこに衛藤勇刀の師匠、緋村剣心がいるはずだ」

「本当ですか!?すぐに手配します!」

 

朱音は従者をすぐさま指定された場所へ向かわせた

外からは何台かの車が走って行く音が聞こえた

 

「しかし紫、なぜお前が彼の師匠の所在を知っているんだ?」

「ただの偶然だ」

「そういうことにしておこう、ところで羽島学長、彼の家族と連絡はついたのか?」

「それがまったく連絡がつかないのよ、家にも帰って無いみたいだし緊急連絡先に連絡しても出ないし、こんな時に何をしてるのかしらあの人は」

「あの人?お前は知っているのか?」

 

相楽結月は知っている風な口調の羽島学長に聞くが予想外の答えが返ってきた

 

「私だけじゃなくてここにいる全員が知っている人よ」

「誰なんです?江麻先輩、私の記憶じゃ衛藤なんて名前の知り合いはいないんですけど」

「あの人の学生時代の名前は黒崎一刀(くろさきいっとう)、私達と一緒に鎌府高等学校で一緒に学んでいた人よ」

「「「「「「はぁっ!?!?!?!?!?!?!」」」」」」」

 

各学長と折神姉妹は素っ頓狂な声を上げて驚いていた

五條いろはに至っては糸目が全開に見開いてしまっていた

 

「一刀先輩が衛藤勇刀の父親!?というかなんで苗字変わってるんですか!?」

「家庭内で色々あったらしくてね、衛藤さんの入学式で会ったときは驚いたわよ」

「まさか黒崎が結婚し子供まで作っていたとは、しかも二人も…」

「ほんとビックリしたわ、あのやんちゃで女好きやった一刀君がねぇ」

「美奈都先輩と結婚してたなんて、江麻先輩狙いだとずっと思ってたんですが意外でしたね」

「そういえばそうだったな、江麻と話している所を美奈都が見かける度に、あの二人が痴話喧嘩をして…賑やかだったな」

「黒崎さんのお話なら下級生でも話題になっていましたよ。男性なのに凄く強い人がいると」

「噂じゃ迅移の動きに着いてきたとか、荒魂発生時その場にいた子供を護る為に荒魂を殴り飛ばしたとか、色々聞きましたよ」

 

当時の噂話を聞いて思い当たる節があったのか同学年であった羽島江麻は乾いた笑みを浮かべていた

 

「あはは…全部本当なんだけどね、今頃どこで何をしてるのかしら」

 

数日後、勇刀が入院している病院の前には一人の男が立っていた

 

「江麻から送られてきた病院はここだな、今回はアイツに感謝しなきゃなんねーか」

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

勇刀は容体がある程度まで回復したことで、集中治療室から折神家直轄の病院へ移されていた、それも面会に制限がかかる特別な個室の病室であった

そこには眠っている勇刀と先ほどの男がいた、

男は複雑な表情で勇刀の顔を少し見つめると脇に置いてある椅子に腰を下ろした

 

「はぁ、美奈都に合わせる顔がねぇな…」

「ハッ!まさかテメーからそんな言葉が聞けるとはな!今更何言ってやがる」

 

ぼそりとつぶやくと男が呟くとそれをあざ笑う声が響いた

その声は意識を失い眠っているはずの勇刀の口からだった

 

「チッ…お前はお呼びじゃねーんだよ、とっとと引っ込め」

「お前こそ、息子の顔を見に来たわけじゃねぇだろ?」

 

上体を起こした彼の目は金色に輝き、肌と髪の色はこの世の何よりも白く、生気を感じることは出来ず寒々しさを感じさせた

彼の目は嘲笑う様に男に向けられ

その目を見た男の顔は苦虫を噛み潰した様な顔になり目には怒気が見てとれた

 

「よくご存じで、てなわけで…死んでくれや」

 

突如病室が爆発し病院が揺れた

 

「ハハッ!!随分と派手におっぱじめるじゃねぇか小僧!!」

「てめぇ相手じゃこれでも足りねぇよ!」

「わかってるじゃねぇか!!!!」

 

四階の病室から外へ飛び出し着地すると男は既に鞘袋から刀を抜いて構えていた

 

そこへ勇刀へのお見舞いの為、病院を訪れていた可奈美達が駆けつけてきた

 

「誰だ!病院で派手に暴れてるのは!」

「あれは勇刀さん?…でもなんかいつもと雰囲気が違うような」

「もう一人勇刀さんと対峙している人物は…」

「…お父さん?っ!お父さん!!」

「可奈美ちゃん!」

 

可奈美は父である衛藤一刀に駆け寄る

そして彼女が見たものは眼も髪も肌の色も人の物ではなくなってしまった勇刀の姿だった

 

「お兄…ちゃん?ねぇ、お兄ちゃんなの?」

「…………」

「ねぇ、なんで無視するの!?ちゃんと答えてよ!!」

「止めとけ、今はいつもの勇刀じゃない…今の勇刀に何を語りかけても無駄だ」

「黙れ、久しぶりに表に出てきたと思えばむさ苦しい男にきゃんきゃん喚く小娘、せっかくの現世が台無しだ」

「っ!!」

「悪いがすぐに戻ってもらうぞ、お前の居場所はここじゃないんだよ」

「出来るかな?今のお前に?」

 

突如彼を中心に空気を震わせるほどの威圧感が広がると、周囲の地面からノロが溢れ出し集まり荒魂を形作った

 

「チッ!目覚めてすぐこんな事まで」

 

「来い」

 

彼が呼ぶと荒魂は形を変え、彼の翳した手へ収まると柄も無く、鍔も無いただ荒魂を模した無骨な大刀となった

 

「まぁ、そのうち慣れるか、後ろの小娘の中にも俺好みの奴が何人かいるから軽くノシて連れていくか、それとも俺と共に来るか?」

「「ッ!!!!!」」

 

全員の視界から一瞬にして彼が消え、次に認識下ときには

エレンと知恵の間で二人の腰に手を回していた

 

「ユウユウとでないならノーサンキューデス!!」

「私もどうせなら衛藤君とが良いわね!」

 

エレンと知恵は回し蹴りと逆風で距離をとった

 

「おぉっとと、コイツ意外とモテモテじゃねーか、やるねぇ…」

 

「「「「「「「「っ!!!!!!」」」」」」

 

 

殺気を飛ばされた可奈美達はとっさに御刀を抜いた

その様子を見て感心したように眼を見開いた

 

「ほ~、中々良い反応だ、これなら肩慣らしには丁度いい、一刀共々相手をしてやる」

「いや。お前さんの相手は俺一人で十分だ」

「そうか、ならお前をさっさと殺して、後はゆるりと楽しむとしよう」

 

二人は数秒目を合わせた後、最初に動いたのは一刀だった、迅移の様な移動法で後ろをとり刀を振り下ろすが、それを直接見ることもなく大刀を振り翳し受け止める、そしてそのまま大刀を振り抜き一刀を吹き飛ばす

 

「お父さん!!」

「随分衰えたな、その程度でよくもまぁ大見得を切ったものだ、肩透かしにも程があるぞ」

「うるせぇな、俺の全盛期なんざとっくに通りすぎてんだよ、いつまでも昔のまんまだと思うなよ!」

「はっ!馬鹿正直なことだ、では全力で貴様を叩き潰そう!!」

「へっ!誰が真正面からテメーとやりあうかってんだ!浦原!」

「はいはーい!待ってましたよー!」

「くっ!これは鬼道!クソッ!この程度の物で!」

 

突如現れたのは緑の甚平とその上に羽織を羽織って目深に帽子を被った男だった

その男が、担いでいた大きな布を巻かれた筒から何条もの光る鎖が射出され、彼に巻き付き捕縛した

 

「お前は引っ込んでな」

「ぐっ!おの、れっ……」

 

彼の眼前に一刀が掌を向けると、意識を失い倒れた

 

「ふぅ…浦原コイツの事よろしく頼むわ」

「了解ッス!じゃぁ息子さんお預かりしますね」

「あぁみっちりしごいてやってくれ」

「ハイ!それじゃぁ失礼しまーす!」

 

浦原と呼ばれた男は意識を失っている勇刀を担いでその場から消えた

 

「お兄ちゃん!!」

「待て可奈美」

「っ!!」

 

可奈美は消えた浦原の後を追おうと駆け出すが、それを一刀が可奈美の手を引いて止める

が、可奈美はその手を思い切り振り解いた、そして一刀が見た娘の顔は怒りで染まっていた

 

「邪魔しないで!!」

「………」

「可奈美ちゃん…」

「カナミン」

 

「ずっと私達の事放っておいたくせに!お母さんが死んじゃってから私の誕生日にもお兄ちゃんの誕生日にも一度だって帰ってきてくれなかったくせに!お兄ちゃんがこんな事になって何度もメールも電話もしたのに全然返事も無いし出てくれなかったくせに!!今更何しに来たの!」

 

可奈美の口から放たれたのは長年言いたくても言えなかった父親への恨み辛みだった

そんな彼女の瞳は少なくとも実の父親に向けられる様なものではなかった、御刀を握る手は力が入りすぎる余り小刻みに震えていた

 

「………………」

 

その言葉を一刀はただただ目を伏して聞くだけだったが

少し間を置き一人語り始めた

 

「俺は父親失格だ、いくら美奈都達との約束とはいえ、一番大切な筈の家族を護るべき子供達をおざなりにしちまった、そんな奴の言うことなんて信じられないかも知れないが、これだけは信じてくれ、勇刀は必ず帰ってくる!今よりも強くなって必ずな」

 

「昔からなーんにも変わっとらんね一刀君は」

「五條学長」

「アンタも大概だと思うぜ、いろは先輩」

「学長お知り合いだったんですか!?」

「そうや、ウチだけやのうて他の伍箇伝学長もうそうやし、紫様や朱音様それに十条さんのお母さんもよー知っとるよ」

「君が篝ちゃんの娘さんか、お母さんによく似てるな」

 

五條学長の言葉に可奈美は勿論他の面々も驚きを隠せなかった

伍箇伝の学長達と知り合いというのもそうだが、まさか折神家にまで顔が利くと言うのは流石に予想外だった

 

 

「それで、今回のことはちゃーんと説明してくれるんやろ?」

「あぁその為に来たんだ、他の六刃将が集まってから説明する、招集頼めるか?」

「なら紫ちゃん達も通信で来てもらわんとね、皆は学長室で待っててな」

 

一刀はいろはと共に平城学館に戻り、可奈美達もそれに続いた

 

 

 

 

 




おはよーございま~~~す。衛藤サン、起きてくださーい、朝ですよ~~~~
  

      まず自己紹介からだな、俺は衛藤一刀、勇刀と可奈美の父親だ


 そんな荒魂に、私達本当に勝てるんでしょうか?


          家族揃ってチートかよ、衛藤家の遺伝子はどうなってんだ?


     冗談じゃなくてマジみたいっすね…

 
  あ~、言われてたよね、相模湾防衛戦の時に



            行くよ!おじさん!


次回、『勉強部屋』


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24話 勉強部屋

どうも!
予約投稿したと思っていたら出来てなかったあほの作者です!

おまたせしましてすみません!

前書きもそこそこに本編どうぞ!


 ったく、こんな奴に主導権を握られてるなんざいい加減ウンザリだぜ

 自分の力もろくに扱えねえ、そんなんだから刀折られんだよ

 

誰だお前

 

 あぁ?命の恩人に向かって何様だ?

 

お前に助けられた覚えは無いんだが?

 

 そうかよ、ならとっとと帰れ呼ばれてんぞ

 

 

この言葉を聞いたん瞬間、俺の意識はどこともわからない白い場所から真っ暗闇のただ中に落ちていった

 

「おはよーございま~~~す。衛藤サン、起きてくださーい、朝ですよ~~~~」

「……ここは」

 

勇刀が眼を覚ました場所は開けた洞窟の様な場所で天井は高く10m以上はあった

壁際には上へ上がるための梯子が壁に打ち付けられていた

そして目の前にはヘラヘラと笑っている謎の下駄帽子、手には細い杖を持っていた

 

「えっとどちら様?それからここは…」

「おぉっと!そういえば自己紹介がまだだったっすねぇ、アタシは浦原喜助、浦原商店ってしがない駄菓子屋の店主やってます。以後お見知りおきを、そんでここはアタシの店の地下にある通称 勉強部屋っす」

「えっとご丁寧にどうも、俺は…」

「えぇ知ってますよ、衛藤勇刀サン、美奈都サンと一刀サンの息子さんですよね」

「どうして俺のことを」

「そりゃ君のお父さんとは古い付き合いですからね、それじゃぁ時間もあまり無いので早速始めましょう」

「始めるって何を…」

「修行です。君の御刀「斬魄刀(ざんぱくとう)」を元に戻し、刀剣解放を会得する為の」

 

 

 

場所は移り、平城学館学長室

そこには勇刀を除いた六刃将と伍箇伝各校から派遣された刀使達が集まっていた

遠方にいる他校の学長及び折神紫、折神朱音は画面越しで参加していた

 

「まず自己紹介からだな、俺は衛藤一刀、勇刀と可奈美の父親だ」

『久しいな黒崎、いや今は衛藤と呼んだ方が良いか?』

「どっちでもお前の好きにしろよ紫、朱音ちゃんも呼ぶんなら好きな方で呼んでくれてかまわねぇぜ」

『はい、では私は一刀さんと呼ばせて頂きますね。』

 

「紫様と朱音様を呼び捨てにしてる…」

「何なんだ、あのオヤジ?」

「みんな仲良しなんだね~」

 

自分達の上司達を気軽に呼び捨てにして打ち解けている、人物を見て困惑している

 

「それで一刀君?今日は何しに来たんや?まさか勇刀君を連れ出すだけが目的とちゃうやろ?」

「まぁ、まず端的に言うならお前らがこれから立ち向かう荒魂についてだ」

「アイツについて、何か知っているんですか?」

「あぁお前らよりかは情報はある、確かお前も勇刀達と一緒にアイツと接触したんだったな、えーっと」

「十条和人です。」

「あぁ篝ちゃんの子か、まぁお前は実際に対峙したから感じたと思うが奴から何を感じた?」

「…あまり上手く言い表せませんが、底の見えない暗い穴を覗き込んでいる様な気分でした。目の前に居るだけが全てでは無いような感覚が」

 

一刀は和人の言葉を聞き「そうか」と呟いて暫く思案して再び口を開いた

 

「お前の感覚は間違っちゃいねぇよ、お前達が戦ったのはリョウメンスクナノカミと言われる大荒魂だ」

「あれが、大荒魂…タギツヒメと同格…」

「いや、下手したらアイツより格上だ、なにせお前たちが戦ったスクナは本体じゃないからな、お前達が戦ったのはスクナが現世の情報を集めるために残した端末、様はラジコン?みたいなもんだ」

「では、本体は何処にいるんデスか?」

「幽世だ。本体は60m級二面四腕の巨躯の大鬼だからな、そんな奴がホイホイ現世に来れるか、いや来てたまるか」

 

あまりのスケールの大きさに全員が言葉を失った、それは学長達も例外ではなかった

 

「ではアイツはまだまだ強くなると?」

「あぁ、おそらく今回は現世に散らばるノロを吸収しただけだろうが幽世からも力を補給しだしたら厄介だぞ」

「そんな荒魂に、私達本当に勝てるんでしょうか?」

 

清香のついつい出てしまう弱気な発言が周囲に伝播する

それを機敏に感じ取った一刀が間髪入れずに喝を入れる

 

「勝つんだよ、その為に俺が来た。これからお前等を徹底的に鍛える、それがここに来た目的の二つ目だ」

「鍛えるのは良いんですが、一刀さんはどの位の力量をお持ちなんですか?生憎勇刀君からはお父さんの話は一度も聞いたことがなくて」

「その事なら心配せんでもえぇよ、この人強いで、全盛期の学長達と紫ちゃんが束でかかっても傷一つ付けられんかったんやから」

「家族揃ってチートかよ、衛藤家の遺伝子はどうなってんだ?」

「ちょっと勇仁君!」

「いや~照れるぜ!」

「えぇ…」

「一刀君誰も誉めとらんよ…んじゃ場所はここの道場使ってもらってえぇよ」

「助かるぜいろはさん、んじゃ30分後に稽古着に着替えて全員道場に集合!解散!!」

 

 

場所は移り勉強部屋

そこでは黒板の前で正座して講義を受けている勇刀の姿があった

 

「まぁここまでが刀剣解放の主な手順っす。何か質問は?」

「えっと、俺恐らく御刀の人格ってのには会ってると思います。一度も名前が聞こえたことは無いんですけど」

「ふむ、なら刃禅をしても意味は無さそうっスね、分りました。ならやる事は一つ、アタシと一対一の殺し合いをしましょう。」

「えっ?…っ!!」

 

勇刀は殺気を感じその場から飛び退くと先程までいた場所には大きな切れ目が入っていた

確りと受け身をとり浦原を凝視する

 

「おぉ~流石っすね、あの不意打ちを完璧に避けるとは」

「冗談じゃなくてマジみたいっすね…」

「えぇ、貴方には強くなってもらわないといけませんから」

「くそったれ!」

 

浦原は自身の杖から細い刀を引き出し、勇刀も背負った鞘から折れた御刀を抜く

両者はジリジリと距離を測り構える

 

「っ!」

「はぁっ!!!」

 

剣と剣がぶつかり視線が交わる、この日勉強部屋には長時間剣戟の音が響き続けた

 

 

 

 

「お前ら刀剣開放の修行もいいけどな、剣技を磨けよ!剣技あっての刀剣開放だと自覚しろ!!」

「っせぇなオラッ!!!」

「元から力があんだから、闇雲に振り回すな!脳筋小僧!!同じこと勇刀に言われなかったか!」

「あ~、言われてたよね、相模湾防衛戦の時に」

「喧しいわ!!」

「お前もだぞ、頭も回るし小回りも効くんだ仲間のサポートに回り過ぎずに自分がメインで攻めることも考えろ!」

「うっ」

 

一刀と二対一での立ち合いで勇仁と綾人は同時に痛いところを突かれ、片や逆上し片や落ち込んでいた

そんな二人を他所に新たな挑戦者が現れた

 

「次は俺達だ」

「行くよ!おじさん!」

「おっしゃこい!!」

 

今度は和人と海翔が挑む

海翔は和人の背中を踏み台にしたり、和人は海翔を目くらましに利用したりと

二人は互いの体格差を利用してトリッキーに一刀を攻めていく

 

「ちぃっ!良い連携するじゃねぇか!おぉっ!?冷てぇ!!」

「氷輪丸!!」

「はぁっ!!」

「まだまだぁ!!」

「ちっ」

「うわぁ~~~!!!」

 

海翔が柄頭から伸びている鎖の先に三日月型の重りを一刀の腕に巻きつけそれごと凍らせた

そこへ和人が追撃をしかけるが凍っていない手に持っていた御刀で防がれ

強引に凍った腕を振り回し海翔を投げ飛ばして氷を砕いた

 

「お前らの連携はそれなりだったが要所要所がまだ甘い、凍らせるなら武器を持ってる手であるべきだし、動きが制限された敵だからと言って真正面から攻めるな、相手の行動を制限している事の優位性を無駄にせず攻めろ、それ以外の攻撃はそこそこだったな」

 

和人と海翔の総評は前の二人よりは好評だったものの、一刀としてはまだまだ物足りないといった様子だった

 

「勇刀の戦闘力は血筋からきてるのか」

「どうだろうな俺はアイツとは剣を交えた事なんてねーから、専ら勇刀と可奈美を鍛えてたのは美奈都だし、美奈都が亡くなってからは自己流と飛天御剣流での稽古だったからな」

 

一刀は昔を懐かしむように語る

そしてどこか悔やむような表情でもあった

 

「へぇ~~、勇刀お兄ちゃんすご~い」

「俺としちゃお前らには頑張って欲しいんだわ、勇刀の為にも」

 

一刀の言葉には先程同様後悔があった

それはとても深い物のように感じられた

がそんなこともお構い無しに勇仁が切り込む

 

「どいうこった?」

「お前らも知ってるだろうが、アイツは年下や同い年は勿論、年上の大人にさえほぼ負けたことはない、アイツを負かすことが出来る人間はごく一部に限られる」

「そうですね、彼の強さは常軌を逸していると言ってもいいでしょう。ですがだからこそ憧れる、そんな彼の隣で戦えたらと、彼だけに負担を強いるわけにはいきませんから」

「それもあるが、そうじゃねぇ」

「どう言うことですか?」

「勇刀に何かあった時、アイツを止められるのはお前たちだけだからだ」

「アンタはこれから勇刀に起こるであろう事が予想できているのか?」

 

和人の質問に一刀は思考する

伝えるべきか、濁すべきか

 

「複数の可能性は想定してある、だからその時の為にお前らには強くなってもらわなくちゃいけないんだ」

「ん~?どう言うことかな?綾人お兄ちゃん?」

「さぁ?僕にもさっぱり、だけど僕らのやるべき事は明確だよね、姉さん」

「Yes!ワタシ達だけどもスクナを倒せるようになりまショウ!」

「そうだね!姉さん立ち合いに付き合ってもらっていい?」

「welcomeデスヨ!mybrother!」

 

綾人はエレンと共に打ち合いを始めた

それをみて他の面々も自分達の課題に向き合い始める

 

「無闇に振り回すなってどうすりゃいいんだよ、当たれば一撃で倒せるんだからそれで良いじゃねぇか」

「はぁ~、仕方ない愚弟のために一肌脱いでやるか」

「んだよ、姉貴」

 

普段使わない頭を使って空回りしている勇仁をみかねて薫が助け船を出す

 

「勇仁、勇刀も勇刀の親父も思い切り振るなって言ってるわけじゃない、ただ相手との駆け引きの中でタイミングを見計らって思い切り振れってことだ」

「駆け引きぃ?なんでそんな面倒なことしなきゃなんねーんだよ」

「じゃぁお前、ただ振り回すだけでちょこまかと動き回る海翔や綾人に当てられるのか?」

「うっ…」

 

勇仁は薫の例えに言葉をつまらせる

確かに二人の戦いかたには似通っている部分がある

 

海翔は持ち前の速度と小さい身体を使って相手の懐に潜り込む戦法

綾人は独自のステップを加えた特殊な迅移とフェイントを使い敵を翻弄し的確に相手の急所を突く戦法を得意としていた

どちらも速度に重きを置いた戦い方で動作の大きい力任せの戦い方では不利だという事は理解できたようだった

 

「確かにわりと無理ゲーだ」

「そんなお前に同じパワーファイターの姉であるオレが指導してやる」

「仕方ねぇな、指導されてやるよ」

「我が弟ながら太々しいなぁ、親の顔が見たい」

 

勇仁は戦法の糸口を掴むために姉を師事し、稽古を始める

それぞれがより高みに至るために力を尽くしていく

 

「………」

 

しかしそれを遠くから眺めている少女がいた、可奈美だった

 可奈美は御刀を持ってはいるものの稽古の様子を眺めているだけで参加しようとはせず、ただ見つめているだけで、すぐに走り去ってしまった。

 

「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」

 

可奈美は森の中を目的にも決めずに、涙を流しながら我武者羅に走っていた

 

「はぁはぁはぁ………ああああああああああ!!!!!!」

 

そして立ち止まったと思いきや、突如叫びながら千鳥を鞘から抜き周囲にある木々を切り裂き始めた

 可奈美の表情は怒りに染まっていた

 

「何やら騒がしいと思い来てみれば、これは只事ではござらんな、そこのお嬢さん落ち着くでござるよ」

「はぁ、はぁ、はぁ…誰ですか?こんなところで何をしているんですか?」

 

そんな彼女に声をかける男がいた

男は和装に笠を被っており、表情を伺うことは出来なかった

可奈美はこんな山奥で突如現れた男を警戒し構える、しかし男はそんなことはお構い無しと言うような素振りだ

 

「うむ、拙者の弟子がこの近くの病院に運び込まれたと報せが来たので向かっている途中でござる。ここには偶さか近くで休んで居た時に自然の物ではない音を聞きつけて来たでござる。」

「こんな山の中を一人で、ですか?」

「拙者山暮らしが長く、世俗に疎いゆえこうするしかないのでござるよ。」

「変わってますね。でも凄いですねこんな山の中をずっと一人で…私にはとても真似できないです。」

「拙者も山暮らしを始めたときは苦労したでござる。要は慣れでござる。お主も一暴れしてお疲れのご様子、一息つこう」

「…はい」

 

男はそう言いながら近くにあった可奈美が切った木に腰かけて自分の隣に座るよう可奈美を誘う

 あれ?なんで私今断らなかったんだろう?初めて会う人なのになんだか不思議と安心する

 

可奈美は男の提案を無意識にすんなりと受けたことに内心驚いていたが男から感じる安心感に、可奈美の警戒心は解れていた

 

「あの…」

「ん?なんでござるか?」

「貴方はさっきずっと一人でここまでやって来たって言ってましたけど、途中寂しかったり怖かったりしないんですか?」

 

可奈美は思っていることを聞いてみた

会ったばかりで名前も知らないが聞かずにはいられなかった、今まで自分が強大な敵に立ち向かってこれたのは兄であり目標でもある衛藤勇刀が心の支えだったからだ

 しかしその支えを失くし、今自分はかつて無いほどに精神的ダメージを受け日常生活さえままならなくなっている

 この男が心の支えもなく、拠り所もなく、何故たった一人で何日も山の中を一人で歩くことが出来るのか、その答えを可奈美は知りたかった

 

「ん~そうでござるなぁ、拙者は物心ついた時から独りの天涯孤独、信ずるものは己と磨き上げた力だけでござった、そこから更に信じられる友が増え拙者の心を支えてくれている、故に夜の森であろうと臆する事無く歩みを止める事無くいられるのでござる。」

「………」

「察するに先程の荒れようは心の寄る辺を失くした不安からでござるか?」

「っ!?どうして…解ったんですか?」

「勘でござる。改めて見たところお主は刀使さんでござるな、拙者で良ければ話ぐらい聞くでござるよ?」

「…私には兄がいるんです。強くて優しくて料理も上手な自慢のお兄ちゃんが…でもお兄ちゃんが死んじゃうかもしれない大怪我をしたんです。」

 

男の言葉を聞き可奈美はポツポツと話し始める、各所を伏せながら語る彼女の口調は当然の事ながら暗く時折言葉に詰まりながらという聞き手にとっては辛い状況だったが、男はただ適度に相槌を入れて聞き続けた

 

「お兄ちゃんは私達を護るためにっ、必死にたたかっくれてたのに!わたしはっお兄ちゃんの足を引っ張るだけで!なにも出来なかったんです!私にもっと力があれば!私がもっと強かったら!あんな大怪我しなくて済んだのに!」

 

男は可奈美の叫びを聞き、微笑んだ

その微笑みの意味を知る者は男以外に居なかった

おもむろに男は可奈美の頭に手を置き優しく語りかけた

 

「お主は、もう自分がやるべき事を解っているでござるよ。」

「えっ…」

 

可奈美は驚いて男を見ると彼女は男の微笑みに見とれていた

 

「今お主が自分で言っていたでござる。自分にもっと力があったら、自分がもっと強かったらと、この言葉はこれから自分がやるべき事を見据えていなければ出てこないでござる。」

「………」

「この後お主がどの様な選択をするか、拙者には皆目検討もつかぬが、なーに!何も心配することはござらんよ。」

「どうして、解るんですか?」

「勘でござる。ささっ!こんなところで油を売っている暇はないでござるよ!鍛練あるのみ!」

「あぅわぁ!」

 

男は可奈美の頭をわしゃわしゃと荒っぽく撫で背中を押して立たせた

 

「まずは思い切り今まで遅れていた分を取り戻す事でござるな、先程の剣の振り方を見るに少し間が空いているように思うでござるがどうかな?」

「はい…お兄ちゃんが倒れてから暫く御刀を振ってなくて」

「なら、まずは御刀を振り込むことでござるな!なーにその気になれば人間不可能は無いでござる。」

「…はい!ありがとうございます!それとすみません。会ったばかりなのに私の話に付き合わせてしまって」

「なんの事は無いでござる。半ば拙者が促したようなものでござるからな、それでは拙者はもう行くでござるよ、向かう場所が変わったでござるからな」

「あの!」

「ん?」

 

可奈美は立ち去ろうとする男を呼び止める

男も振り返り可奈美を見た

 

「私、衛藤可奈美って言います!貴方のお名前を教えてください!」

「…名乗るほどの者ではござらんが、抜刀斎とこの名で通っているでござる。」

「抜刀斎さん…ありがとうございます!」

 

可奈美は男が見えなくなるまで礼を続けた

そして足音が聞こえなくなると「よしっ!」と道場に走っていった

 

道場

 

「可奈美ちゃん、大丈夫かな…」

「舞衣、可奈美が心配?」

「うん、可奈美ちゃんがあんなに塞ぎ混んでるところなんて初めて見たから…」

 

道場では休憩中に舞衣達が可奈美を心配して話していた

 

「確かに一番辛いのは可奈美だろうな、でも立ち直って貰わねーと困る」

「そうですね、でもきっとカナミンなら大丈夫デース!」

「あぁ、可奈美なら必ず乗り越えるさ、そうでなければ困る」

 

「お父さん!!!!」

 

その時道場の扉が音を立てて勢い良く開き、肩で息をしている可奈美が立っていた

そして可奈美はそのまま一刀に歩み寄り彼を見上げた

その場の全員の視線が父娘に集中した

 

 

「お父さん、私と立ち合って…」

「…解った」

 

二人は適当な間合いを開け、構える

 

「力強い良い瞳だ、今までの体たらくが嘘みたいだな」

「全力で行くよ…セイッ!!」

「剣のキレ、動きのキレ申し分なし!だが!!」

「うぐぅっ!!」

「動きが単調すぎる!そんなんじゃカウンターの餌食だぞ!」

 

可奈美は攻めに徹するあまり動きを読まれ反撃を食らい吹き飛ばされたが即座に態勢を立て直す

 

 しかし、可奈美に何があった?今回の出来事は可奈美一人で乗り越えるには荷が勝ちすぎていた

 だから俺は可奈美の友達に任せようと干渉せずにいたが、皆の様子を見るに何かをしていたわけでもなさそうだ

 

一刀が周囲を見渡すと全員が可奈美の動きに目を見開いていた、その表情からは驚きが見て取れた

それを察知した一刀は可奈美に問いかける

 

「今まで塞ぎ込んでた奴の動きじゃねーぞ、何があった?」

「ある人に背中を押してもらったから、初めて会った人だけど、私の話を聞いて私がやるべきことを示してくれたの」

「へぇどんな人だった?親として一言礼を言いたいんだけどな?」

「名前は教えてくれなかったけど通り名は教えてくれたよ、その人は自分のことを抜刀斎って言ってた」

「は?」

「さぁ!どんどん行くよ!お父さん!!」

「いやちょっ!まっ!」

 

一刀は可奈美の言った名を聞いて驚愕していたが静止を聞かず全力で斬りかかって来る娘と剣を合わせる事に手を取られて

その後は剣戟が続いてしまった。

 

打ち合いが終わると可奈美は気絶するように眠ってしまったため一刀は話を聞くことは出来なかった

しかしその寝顔は安らかだった

 

 

 

「いやー!本当によく食べますねぇ」

「美味いんだからしょうがないじゃないっすか!後で漬物の漬け方とか聞いていいですか?」

「それはアタシと一緒に住んでる方が漬けた物です。後で来ると思いますからその時にでも聞いてみてください。さぁおかわりもまだありますからドンドン食べてください!」

「はい!!」

 

勇刀は勉強部屋で食事をしていた、修行の日々はまだまだ続く

 



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25話 道の途中

|д゚)

ドウモオヒサシブリデス

ヨウツウモチデス

オマタセシテゴメンナサイ

マダガンバッテイキマスノデヨロシクオネガイシマス!!!


浦原商店地下勉強部屋

「ほらほら~!どんどん動きが鈍って来てますよ~!集中しないとホントに殺しちゃいますよ~!」

 

「くっ!このっ!!」

 

「おっと!」

 

浦原は攻撃直後の一瞬の隙きを突いた反撃を身を翻して回避すると勇刀と間合いを空けた

今日も今日とて修行と称した死合いが繰り広げれている

 

しかし何の成果も得られないまま、時間だけが過ぎていた、スクナが再び動き出すまで猶予は無くなっていた

 

「ん~、それにしてもまったくと言っていいほどなんの進歩も成果も出ないっすねぇ」

 

「はぁはぁ!くそっ!時間がねえってのに!」

 

「しかし大したものだ、貴方と同じ歳の子はもうとっくに音を上げてますよ。まさしく鋼の精神力、不屈の心ってヤツっすね」

 

「…俺は俺がやるべきことをやってきただけだ、そんな大層もんじゃねーよ」

 

「つくづくその歳には見合わない力をお持ちだ…色々合点がいきましたよ。」

 

そう言うと浦原は懐から手袋を取り出した

 

「浦原さん、その手袋は?」

 

「今のままでは埒があきませんから手法を変えます。ここからは勇刀サン次第ですから頑張ってくださいね〜」

 

「えっ?それってどう…い……」

 

浦原が手袋をはめた手を勇刀の目の前にに翳すと勇刀は意識を失い倒れてしまった。

 

「なるはやでお願いしますよ…」

 

勇刀の意識は暗い海のようなところに沈んでいた、そして気が付くといつかの平原へとやってきていた

空は相変わらず紅く浮かぶ雲も黒く、踏みしめる大地は枯れた木々が点在する殺伐とした、あの平原だった

しかしいつもと違うのは既に目の前に黒ずくめの男が立っていた

 

「勇刀、お前にとって恐怖とはなんだ?」

「は?」

「恐怖とは敵ではない、恐怖とは戦いの中で無くてはならない物だ、勇刀、恐怖を捨てるな、恐怖を恐れるな、恐怖を恥じるな」

「…なんだよそれ、久し振りに会ったと思ったらそんなことかよ…俺は母さんと約束したんだ、妹を…可奈美を護るって!だから俺は恐怖を棄てたんだ!強くなるために!可奈美を護るために!それを今頃になって!!!!」

「なぜ憤る、奴と対峙した時お前は感じた筈だ、脚が竦み、身体が強張り、心が凍てつくような恐怖を、それはお前が恐怖を捨てきれていなかったことの確たる証明だ。」

 

男は憤る勇刀に諭すように語りかける

しかし一方で勇刀は鎮まるどころか益々苛烈さを増していった。

 

「違う!俺は!俺は!!!!」

 

勇刀はいつの間にか右手に握っていた御刀を男に向けて振るうが、御刀は男の手の甲に当たっただけで砕け散った

 

「っ!?」

 

「何故お前の刃がこれ程までに脆いか、わかるか?」

 

「………」

 

「それは何も詰まっていないからだ、信念も覚悟も感情も…ただ刀の外見を模しているだけの鈍だ」

 

「っ!!!ふざけるなぁあああああああああああああああ!!!!!!!」

 

勇刀は、怒りに任せて御刀を振るう

その度に刃は砕けたが、次に振るうときには元通りになっていた

しかし、それでも男は引くこともなく、臆する事も無く自身へ振るわれる刃を受け止め、砕き続けた

勇刀の叫びと空を切る音が、殺風景な丘に響いた

 

 

 

 

平城学館道場

 

稽古中の休憩時間に可奈美は道場の外壁に寄りかかって座り、ドリンクをラッパ飲みしていた

 

「ぷはぁーーー!生き返る~~~~~」

「可奈美、行儀が悪いぞ」

「えぇ~~良いじゃん!姫和ちゃんもやってみなよ気持ち良いよ!」

「遠慮しておく」

「そっか……」

 

会話が途切れた二人の間を沈黙が支配する

両者とも会話をするでもなく

目線を合わせるでもなく

ただお互いに思い思いの場所を見ていた

 

「可奈美」

「ん?なーに?」

「もう大丈夫なのか?」

「……正直、まだ辛いよ」

「………」

「でも、もう俯かないって決めたから…今度は私がお兄ちゃんを護る」

 

この言葉を聞いて姫和は微笑みながら

お前らしいなと呟くが吹き抜けた風がその声を掻き消していった

姫和は立ち上がり道場へ戻っていく

 

「え?姫和ちゃん何か言った?」

「大したことじゃないさ、戻ったら私と立ち合ってもらうぞ」

「本当に!じゃぁ早く戻ろう!早く早く!!」

 

彼女の言葉を聞くや否や可奈美は目を輝かせて姫和の背中を押して道場へと戻って行った

道場からは少年少女達の活気ある声が響いていた

決戦の日は確実に近づいていたが、その事を知る者はまだ居なかった

 

 

男は地に倒れ伏す勇刀を見つめて、言葉を投げかける

既に勇刀は死に体で生きているのか怪しいほどだった

それでも男は勇刀に語りかける、彼を信じて、必ず立ち上がると

 

「勇刀よ、お前は知らねばならない、幼き日から常勝無敗、最強を誇ったが故に師の他に知る事が無かった敗北という物を命のやり取りにつき纏う恐怖という物をお前は、知るべき時が来たのだ」

 

彼は動かない、しかしそれでも男は続けた

 

「これから先お前が乗り越えるべき壁は更に高く、今以上に厚く硬い強固な岩壁だ、猶予は無いぞ」

 

人は弱いからこそ、強くあろうと志し歩みを進める

時に挫け倒れる、しかしまた立ち上がり前を向き歩み始める

これを繰り返していく内に人は強く逞しくなっていく

誰もがそうであるように

 

彼も…衛藤勇刀もまた、この歩みの最中(さなか)にいる、続く道は何処までも果てしなく険しい

だが、必ずや勇刀はこの道を踏破するといことを男は無意識のうちに確信していた、

 

 

そして男は逞しく強くなった勇刀の背中を夢想した、力強くなった彼が自分をその手に携え戦う姿を

 




次回「胸の内」


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26話 胸の内

ドウモミナサン
約二年ぶりの投稿です。
ヨウツウモチデス

すこーし、すこーしずつまた投稿していきますのでよろしくお願いします。


俺は…どうすれば良かったんだ、どうするべきだったんだ…俺は、母さん

 

勇刀はあれから例の男との戦いの日々を過ごしていた

目覚めては立ち向かい、打ちのめされまた立ち向かうを繰り返していた

 

「可奈美をお願いね…お兄ちゃん」

 

母さんゴメン、俺っ

 

「でも一人で頑張り過ぎないでね、辛くなったら可奈美と二人で力を合わせて、頑張んなさい!」

 

勇刀の脳裏に在りし日の母、美奈都と交わした言葉が蘇ってきた

 

あぁ…そうだ、俺ずっと忘れて、一人で抱え込んでたんだ…

ふっ、俺も姫和ちゃんに偉そうな事なんて言えないな

 

(勇刀と可奈美なら大丈夫!アタシの自慢の息子と娘なんだから自信持ちなさい!)

 

うん、そうだ…俺は一人じゃない、可奈美がいる、皆がいる、俺には仲間がいる!!アンタがいる!

 

「・・・・・・・・・・」

 

「覚悟は決まったか、勇刀」

 

男は立ち止まり目の前に立つ男の眼を見た

その眼には今までの弱弱しさや怯えは一切無くなっていた、男の眼は力強く自分を捉えていた

 

「あぁ…決まったぜ、さぁ続きと行こうぜ」

 

「…いや、その必要はない」

 

「は?」

 

「お前は私が欲している物をもう手に入れている、今のお前になら私の名が聞こえるはずだ、さぁ行け勇刀」

 

男はそういって目の前から消えた

 

「あぁ、行こうぜ二人で…」

 

男が消えたのを見送ると勇刀は自分の胸に手を当て精神世界の空を見上げた

 

そして勇刀が目を閉じ、再び目を開けると布団で寝かされていた

 

「おはようございます。衛藤さん」

 

「浦原さん、俺はどれくらい寝てた?」

 

勇刀が目を覚ますと丁度浦原が部屋に入って来たところだった

 

「まる3日と言ったところでしょうか、それよりもお腹が空いたでしょう、今テッサイさんにお願いして食事の用意をしてもらいますから、少し待っていてください。」

 

そう言って部屋を出ようとした時、部屋へ駆け寄ってくる足音と共に「店長ーーーーーー!!!」という声が聞こえてきた、そして襖が勢い良く開け放たれたと同時に

 

「大変です!リョウメンスクナノカミが出現しました!!」

 

「っ!!」

 

起き抜け一発目に聞かされるにはあまりにも重い情報だった

 

 

 

 

勇刀が去った後の精神世界に人影があった

 

 

 ったくあの野郎、ノロノロやりやがって

 

 ……………

 

 おい、なんか言えよ、気まずいだろうが

 

 俺が言うべき事など何もない、俺はただ彼の行く道が安寧であることを祈るばかりだ

 

 はっ、ありえねぇな…それはお前が一番理解してる事のはずだろうが

 

 それでもだ、それでも俺は祈らずにはいられないんだよ

 

 そうかよ

 

 

 



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27話 分かち合う物

スマホからの初投稿!
読みにくかったらすみません!



 

平城学館の学長室には六刃将を筆頭に可奈美達と調査隊で編成されたリョウメンスクナノカミ討伐隊が集結していた

 

「皆も聞いてると思うけど、リョウメンスクナノカミが現れました。観測した結果は前回現れた時と同じという結果が出ました。」

 

五條学長が全員を見据えて緊張感のある面持ちで告げる

そしてその言葉を聞きその場の緊張が更に高まる

 

「しかしこの結果を全て鵜呑みにしないでください」

 

「は?どういうことだよつぐみ?」

 

「前回の観測結果があの荒魂の全力だという保証が無いからです。まだ余力を残しているという前提でいてください。」

 

「潘さんの言う通りや、今回、コチラの戦力は勇刀君を欠いているとはいえ前回を上回っとる、でもだからといって油断や慢心は命取りや、この事はしっかり肝に銘じておいてな?」

 

呼吹の問につぐみが簡潔に答えて五條学長が念を押すが、誰一人楽観も油断も慢心もしていなかった

 

【出撃準備が整いました。討伐隊メンバーはヘリポートへ】

 

「それじゃぁ、皆気をつけてな」

 

『了解!!!!』

 

そしてそのまま全員は部屋を出ていった

 

 

浦原商店

一見するとただの2階建ての昔ながらの駄菓子屋

しかし店の奥には外見とは相容れない様な機械が置かれた部屋があった

そこに浦原とテッサイと勇刀は居た

 

「前回彼が現れた時と相違点は?」

 

「ほぼ同じです。しかし‥」

 

「ん~、少々反応に前回には見られなかった物がありますね。」

 

「なぁ!そんな事より俺達も速く行こうぜ!!」

 

「まぁ衛藤さん落ち着いてください。」

 

「これが落ち着いていられるか!!俺は先に行くぞ!」

 

「そんなに慌てなくても準備ができたらすぐ出発しますよ、それともそんなに仲間を信じられませんか?」

 

観測装置の情報に釘付けの二人に我慢できなくなったのか、勇刀が二人を催促するがそれでも動こうとしない二人を置いて行こうとするが浦原の一言で踏みとどまる

 

(そうだ、俺は何を焦ってんだ…俺は一人じゃない、皆が居るんだ、アイツらは大丈夫だ)

 

「これはチャンスっすよ、今日あの場所でなら彼を倒せます。」

 

「本当か!?」

 

「えぇそれにはまずそれ相応の準備と貴方の力が必要です。行けますか?」

 

「あぁ、問題ない」

 

「ならすぐ出発しましょう!テッサイさん!」

 

「準備は万端です!!」

 

「早っ!?」

 

「それじゃぁ、行きましょう!」

 

いつの間にか準備を終わらせていたテッサイを引き連れて浦原と勇刀は店の裏手にある山へ向かった

 

「これは、煙突?」

 

「これを使って目的地へ飛んで行きます。さぁどうぞ中へ入って入って」

 

「えっ!?ちょっ何の説明も無しかよ!?」

 

「早く現場に到着したいなら今はこれが最速なんすよ」

 

勇刀は浦原に急かされて10mはあるであろう煙突の根本にある入り口から中に入ると

床には円が描かれておりその中心に設置されている台に丸い水晶の様な物が置かれていた

 

「それじゃぁ衛藤さん、この玉に手を置いてください。」

 

「わかった、うぉお!?なんだこれ!?浮いた!?」

 

「いいですか?何があってもその玉から手を離さないで下さいね?」

 

勇刀が水晶に掌を当てると水晶が輝き、水晶を中心に光の壁が形成され中に浮いた

 

「店長、準備完了です。」

 

「ハイハイ!それじゃぁ始めちゃって下さい!」

 

「承知!」

 

そしてテッサイは持ってきていた荷物の中かから巻物を一本取り出し、何かを唱え始めた

 

「彼方!赤銅色の強欲が36度の支配を欲している!!72対の幻、13対の角笛、猿の右手が星を掴む、25輪の太陽に抱かれて砂の揺篭は血を流す!花鶴射法二番!拘咲!!」

 

その瞬間、今まで自分達が立っていた場所が爆発し、三人は夏の風物詩の代表格〈花火〉の様な音と共に空高く打ち上げられて行った

 

 

 

討伐隊Side

 

「もうすぐ到着します!第一撃目はブリーフィングで伝えた通り!勇仁君!益子さん!これで終わらせるぐらいのつもりで打ち込んで下さい!!」

 

「おう!!」

 

「任せとけ!!」

 

尊の指示に二人が気合の入った声で返す

 

「そして着地後は素早く陣形を整えて下さい!」

 

『了解!!』

 

「間もなく目的地上空に到着します。皆さん準備を!」

 

「もう少し高度を上げてください!そして作戦開始後は作戦空域から速やかに離脱してください。」

 

「了解です!」

 

「見えた…」

 

沙耶香がヘリから身を乗り出して見つめる先には悠然と大地に立つ、大荒魂に向けられていた

 

「あれが…リョウメンスクナノカミ」

 

「あんなのに勇刀さんは一人で…」

 

初めて目の当たりにする強敵にメンバーは飲み込まれてしまっていた

そんな時

 

「臆するな!!俺達は一人じゃない!今まで共に戦ってきた信頼の置ける仲間がいる!」

 

「和人君」

 

「兄さん」

 

「俺は勇刀程口が上手くないから、皆を勇気づけたり、背中を押したりする事は出来ない、でもこれだけは言える」

 

「アイツを倒すために皆の力を貸してくれ!!!」

 

そう語る和人の眼にその場にいた全員が確たる覚悟を見た

 

「はっ!ンなこと言われるまでもねぇ!!」

 

「此処にいる全員の目的は最初から一つだ、オレ達で一発かましてやるから絶対勝つぞ」

 

「目標上空に到着しました!」

 

「じゃあ先行くぞ、勇仁遅れるなよ?」

 

「姉貴こそ、タイミング外すなよ?」

 

そう言って益子姉弟が写シを張ってヘリから降下した

 

「良い鼓舞でした、誰にでも出来る事ではありません。」

 

「はい、私も和人君の言葉に勇気を貰えました。一緒に頑張ろうね!」

 

次発の柳瀬兄妹が同じ様にヘリから飛ぶ

 

「和人…絶対、勝とう、私も、頑張る」

 

「さぁーて!頑張っちゃうよー!和人兄ちゃんもガンガン行こうね!」

 

第三陣に糸見姉弟が飛び出す

 

「さぁて勇刀さんにいいお土産話が出来るように頑張りますか!」

 

「そうデスネ!さぁ一発かましに行きマスヨーー!」

 

第四陣に古波蔵姉弟が

 

「さぁてお兄ちゃんに良い報告が出来るように頑張らなきゃ!行こう美炎ちゃん!」

 

「うん!!十条さん、さっきの言葉凄く頼もしかったです!一緒に頑張りましょう!成せばなる!!」

 

「気合入ってんなーみほっちの奴、まぁアタシも違う意味で気合入ってるけどな、今行くぜ!荒魂チャン!!」

 

「二人とも!先走っちゃダメだからね!十条さん!私も皆さんの力になれるように頑張ります!一緒に勝ちましょう!!」

 

「さぁ!バンバン指示してくださいね!ミルヤさん!これ以上可愛い子達の沈んだ顔は見たくないので!!十条さんのお兄さんも気張って行きましょう!!」

 

「私達も行きましょうか、ミルヤ」

 

「えぇ、十条和人、先程の鼓舞は見事でした。正直私も内心奴の姿を見た時に気持ちが切れてしまいそうになっていました。ですが貴方の声が、言葉が私達の心と気持ちを繋ぎ止めてくれた、これは奴と直接相対した者にしか出来なかった事でしょう。間近であのプレッシャーを殺気を肌で感じ取った貴方の言葉だったからこそ成しえた事です。」

 

「そうね、私も少し弱気になってしまっていたの、でも和人君の言葉が私達の心を支えてくれた、この言葉は絶対に無駄にはしないから」

 

そう言って可奈美と調査隊の面々が続々と飛び出していった

先に行った面々は和人の肩に手を置いて飛び出して行った

それを最後まで見届けてると、今まで和人の後ろに控えていた姫和が和人の隣に立ち和人の右手を自身の両手で優しく包み込むように握った

 

「姫和?」

 

「兄さん…震えなくて大丈夫だ。」

 

「っ!バレていたか」

 

「いつから兄さんの妹をやっていると思っているんだ?…兄さん」

 

「何だ?」

 

「私にも兄さんが今背負ってるものを分けてくれ。私だけじゃなく可奈美達へも同じ様に、一人で抱えられなくても皆で分け合えば立ち上がれる。これは私達全員の戦いだから私達にも一緒に背負わせてくれ」

 

(そうか、だから皆は俺の肩に…「あぁ、なら頼んでも良いか?」

 

「勿論!絶対勝とう!」

 

「行こう姫和!!」

 

二人は同時にヘリから飛び降りていった

 

闘いが始まった

 



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28話 Shout My Name 前編

新年明けましておめでとうございます!
今年も出来る限りの頻度で更新していきますのでよろしくお願い申し上げます。
そして前後編です!
切り処が難しい!!


リョウメンスクナノカミは晴れ渡る空をぼんやり見上げていた、

身体に止まる小鳥にも意識を向けていなかった

しかし、上空にヘリが現れた瞬間

 

「来タカ、刀使ドモ!」

 

スクナから発せられた負の神性の波動に大地に亀裂が入り木々は揺れ、鳥達は飛び去って行った

 

「「ぉぉぉおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」」

 

「真上カラトハナァ!」

 

「キィエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」

「轟けっ!!!天譴ッ!!!!」

 

「受ケテタァアアアアアアアアアツ!!」

 

真上から落ちてきた二人の振り下ろす刃をスクナは避ける素振りもなく、両の腕で受け止めると衝撃波が発生し、周囲は土煙が舞い上がり視界が塞がれた

 

「ンゥ、コレハ中々ノ馬鹿力ダ」

 

スクナは攻撃を防いだ箇所を見ると深くは無いものの切れ込みが入っていた

 

「サァ、次ハ…ン?」

 

未だ晴れぬ土煙の中を周囲を見渡していると、花びらがひらりひらりと舞っていた

 

「散れ、千本桜」

 

「ッ!ダガコノ程度ッ!」

 

無数の花びらを模した刃がスクナに襲いかかり傷跡が刻みつけられる

 

「舞衣!」

 

「はいっ!!沙耶香ちゃん!!!!」

「うん」

 

「小癪ナァアアアアッ!ンヌッ!?」

 

「させないよ!氷輪丸!!!!」

 

尊が千本桜を操り、刃の壁に隙間を作りそこから、舞衣と沙耶香が神出鬼没に現れ攻撃を加えていく

スクナは自分の周囲を薙ぎ払うため、両腕を振り上げようとするが、それを海翔が氷輪丸の氷で腕と地面を繋げて動きを封じた

 

「ナイス!海翔君!射殺せ!神鎗!!」

 

「グゥッ!!マサカ小奴等ハッ!!」

 

「姉さん!!」

 

「行きますヨォ!ハァッ!」

 

「コウモ立テ続ケニ上カラトワ!!」

 

「脳天殴殺!金剛武荒拳デースッ!!」

 

(クッ!コノ俺ガコレホドマデニ直撃ヲ喰ライ続ケルトハッ)

 

氷で動けないスクナの身体の中心に神鎗が突き刺さり貫通すると、突き抜けた切っ先側から神鎗の腹を踏み台にエレンが空高く飛び上がり、空中から金剛身で硬化させた拳に八幡力を全身に発動させ思い切り振り下ろし、スクナの頭部へ直撃させた

 

「今だ!たたみかけろ!」

「行くぜぇ!荒魂チャン!!」

「ここで決めるよ!美炎ちゃん!」

「うん!可奈美!!」

「私達も合わせるわ!!」

「はい!知恵さん!」

「私も混ぜて下さーい!頑張っちゃいますよー!」

 

『はぁあああああああああああああああああああああ!!!!!』

 

そこへ間断無く可奈美と調査隊のメンバーが四方八方から切りかかる

それぞれの斬撃は致命傷とはならなくとも、確実にダメージを与える事ができていた

 

(クッ俺トシタコトガ、長イ時ヲ封ジラレ見誤ッタカ)

 

「シカシ!コノ程度デハマダ足リン!コレシキデハ俺ハ倒レンゾ!!」

 

「「おい!!」」

 

「ッ!!」

 

『俺達/私達を忘れるなっ!!』

 

「ガハッ!!」

 

可奈美達の総攻撃を受けてよろける寸でのところで堪えて態勢を立て直した直後、真正面から和人と姫和の突きが深々と突き刺さった

 

「姫和!!」

 

「はいっ!!」

 

姫和は和人の掛け声でスクナから御刀を引き抜き距離を取った

 

「ン゛ン゛ッ!!マダ控エヲ伏セテオッタトワ!!」

 

「控えだと?これが本命だっ!!」

 

「何ッ!!」

 

「万象一切灰燼と成せ!流刃若火!!」

 

「グォオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

「燃え尽きろ…」

 

和人は斬魄刀を突き刺したまま流刃若火を開放し、刀身から発火した炎でスクナを焼き尽くした

 

 

「はぁはぁはぁ手筈通りっ上手く決まりましたね」

 

「オレは順調に決まりすぎて怖い位だけどな」

 

「全員!流刃若火の炎が消えるまで気を抜くな!!!」

 

「当然!これで終わっちまうなら逆に拍子抜けもいいとこだ!」

 

 

クククッ!イヤハヤ中々ニ楽シマセテクレルジャナイカ

 

『ッ!!!!!』

 

燃え盛る炎の中からスクナの楽しげに弾んだ声が響いた、その声を聞いた和人達は一斉に構えた

 

ソウダ、研ギ澄マセロ、神経ヲ張リ巡ラセロ、決シテ緩メルナ、デナケレバ

 

『…………』

 

「楽シム間ガ無イカラナァ!!」

 

『ッ!!』

 

「天譴!!」

 

「ホォ!ヨクツイテコレタモノダ!」

 

「テメェの忠告のおかげでなっ!!」

 

全員が気を抜いていた瞬間は1秒たりとも無かった、それでもスクナは全員の認知をすり抜け、背後に回り込みいつ振り上げたかもわからない燃え盛る拳を振り下ろした。

しかしそれをギリギリ反応した勇仁が天譴で迎え撃った

 

「くっそアチィな!おい和人!あの炎どうにかなんねーのかよ!」

 

「今の炎は発動した後は俺もどうにもできん、そもそも燃え移った物が燃え尽きるまで消えることはないからな」

 

「フム、ソウイウ物ナノカ、確カニコレデハチト暑イカラナ……フゥン!!!!」

 

スクナがその場で独楽のように回転しただけで、轟々と燃え盛っていた炎が最初から何も無かったかのように消し飛んだ、

その光景を目にした一同は総じて苦虫を噛み潰したような表情をしていた

 

「化け物め…」

 

「フハハ!サァ続キト行コウカ刀使共ヨ!!」

 

 



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29話 Shout My Name 後編

後編だぁ!
そしてここまで長くかかってしまったっ!!
不甲斐なし!!


普段は静寂に包まれ、穏やかな時が流れているはずだった

しかし、今は轟々と炎が燃え上がり、氷雪が吹き荒れ、刃が舞い踊り、轟音と叫び声が木霊していた

 

「オオオオッ!!」

 

「きゃああああっ!!」

 

「清香ぁっ!」

 

「くっ!六角さんをカバーして!勇仁君!和人君!敵の注意を引き付けて!」

 

リョウメンスクナノカミ討伐戦は熾烈を極めていた、無尽蔵の行動力で間断無く戦闘を続けられる能力を有していた

それに対して討伐隊メンバーは常に極限まで集中力を高め、尚且つ一撃も直撃を受けてはならないというプレッシャーも相まって

体力面と精神面での消耗が激しかった

 

(これじゃジリ貧だ、皆動きが鈍って来てる、何か何か手を打たないと!)

 

尊は現状とメンバーの状況を分析すると、

余裕のあるメンバーの方が少ない状況まで追い込まれていた

 

「柳瀬尊、この状況をどうみますか?」

 

「最悪一歩手前と言ったところでしょうか」

 

「最悪の場合、君達だけでも離脱させます。最後は僕等だけで奴を刺し違えてでも倒します。」

 

「しかしそれではっ!」

 

「オォ、悠長ナコトダ、俺ト対峙シテ、オ話トハナァ!!」

 

「危ない!!」

 

尊は振り下ろされるスクナの拳からギリギリミルヤを抱き上げて上空へ回避した

 

「くっ!すみません。」

 

「いいえ、間に合って良かった」

 

「おい!尊!上だ!!」

 

「えっ?」

 

「逃ゲ切レタ、ト思ウタカ?」

 

「ぐあっ!!」

 

尊は逃げ切ったと思ったスクナに更に上を取られ、地面に叩きつけられたがミルヤは身を挺して地面との衝突から護ったが

立ち上がる事が出来なくなっていた

 

「ぐっ…うっ…」

 

「柳瀬尊!しっかり!」

 

「兄さん!」

 

「クソがっ!!」

 

「オソイ!!」

 

「ぐっ!!」

 

「きゃぁっ!」

 

「氷輪丸!!皆!今のうちに!!」

 

「海翔君ありがとう!!」

 

海翔は振り下ろされる寸前だった拳を凍らせて拘束し、その隙きに倒れている仲間を助けだした

 

「海翔君…ありがとう」

 

「中々ニ楽シマセテクレルデハナイカ」

 

「このバケモンが……もとからバケモンだったわ」

 

「ボケてる場合じゃないでしょ!!真面目にやってよ!」

 

「俺はいつでも大真面目だっての!!」

 

「二人共ふざけてる場合じゃありませんヨ!!」

 

(駄目だ、皆の消耗が激しくなってきてる、このままじゃジリ貧だ!)

 

尊は極度の消耗で正常な判断ができなくなっている仲間をみて

体中に走る痛みに耐えながら必死に頭を回していた

 

(考えろ!考えろ!頭を回せ!相手も無傷じゃない!倒せないまでも撃退さえできれば)

 

「フム、貴様モシヤ私ヲ撃退デキレバ等ト思ッテイルノデハアルマイナ?」

 

「っ!!」

 

「ンだとコラぁ!舐めてんじゃねぇぞ!」

 

「何ヲ言ウ、ソノ判断ハ何モ間違ッテハオラン、ソレガ不可能ダトイウ事ヲ除ケバナ」

 

「何を…言っている…」

 

「イツ『コレガ私ノ全開ダト』言ッタ?」

 

その言葉にその場にいた全員が凍りついた、

そしてその言葉と同時にスクナが唸り声を上げると、巨大だった体躯が更に巨大に膨れ上がった、その大きさは今までとは比較にならない程巨大だった

 

「何…これ」

 

「こんなの勝ってこないよ…」

 

「これまでか………」

 

「…………」

 

「コノ一撃デ終イダ、中々ニ楽シメタゾ刀使共ヨ」

 

総ての刀使達が絶望し数人が御刀を手から滑り落とした

 

そしてスクナの拳が振り下ろされようとした時

 

ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜!!

 

ッバァン!!!

 

「ゴバァッ!?!?!?」

 

花火のような音と炸裂音と同時にスクナが吹き飛ばされた

あまりに唐突な出来事に、その場にいた全員が口を開けて呆然としていると

烟る視界の先に人影があった

 

「ふぅ、間一髪ギリギリセーフだったな」

 

その影から聞こえた声にその場にいた全員が目を見開いて驚愕した

 

「悪い遅くなった」

 

煙が晴れた場所に立っていたのは衛藤勇刀その人だった

彼は優しい笑顔を自分達に向けて、スクナとの間に立ちはだかっていた

 

「お兄…ちゃん?」

 

「おう、心配かけてゴメンな可奈美」

 

「う~…」

 

可奈美は安心したのか、その場にへたりこんでしまった

他の面々もどこか安心したような表情をしていた

 

「皆大丈夫そうでよ「エトウユウトオオ!!」うるさっ」

 

「待チワビタゾ!サァ!思ウ存分死合オウゾ!!」

 

「なんだよお前テンションたけーな、俺は別に長々とやりあう気はねぇよ」

 

勇刀は歩きながら背負っている御刀の柄を握り駆け出すと次の瞬間にはスクナの後ろにいた

 

「ッ!!」

 

「速攻で終わらせる」

 

そして勇刀が着地した瞬間、スクナの腕の肘から先が切り落とされていた、それも折れたままの御刀によって

 

(斬ラレタト言ウノカ?私ガ折ッタアノ鈍二?)

 

「よぉ、良いのかよ?呆けたままで、本当に終わらせちまうぞ?」

 

「ッ!!タカガ一度腕ヲ切リ落トシタ程度デ図二乗ルナヨ!!衛藤勇刀!!」

 

自身の腕を切り落とされた事に動揺を隠せず立ち尽くしていると、勇刀に煽られると即座に勇刀に向き直り右腕を再生し、殴りかかるがそれを頤とも容易く回避し的確に反撃しダメージを与えていた

 

「凄い、折れた御刀であんなに…」

 

「勇刀さんに一体何が」

 

「見て!勇刀さんの御刀が!!」

 

「フハハハ!!遂二砕ケタナ!コレデ終イダ!!」

 

スクナと互角のやり取りをしていた勇刀だったが突如御刀が柄を残して砕けてしまった。

それを見てスクナは勝利を確信し腕を振り上げた、しかし勇刀はそれを見ても柄を見つめて身動き一つとろうとはしていなかった

 

(負ける気がしない、恐怖もない、柄だけでもアイツを斬れる気がする、けどそれじゃぁ違うもんな、俺はアンタと二人で戦うんだ)

 

勇刀は咄嗟に居合の構えをとり

 

 そうだ前を見ろ、敵は一人、私達は二人、何を恐れる事がある、今のお前になら聞こえるはずだ

 退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ!叫べ!!我が名は!!!

 

「斬月!!!」

 

叫ぶと同時に柄を振り抜いた瞬間、光の奔流がスクナを押し戻し後退させた

 

「グオオオオッ!……!?」

 

そしてスクナの目に写ったのは、柄は無くただ布が巻かれ鍔も無い刀と言うにはあまりにも剥き出しで無骨な大刀を担いだ勇刀だった

 

(ナンダアレハ、アレガ、アンナ物ガ斬魄刀ダト?アレハマルデ…ッ!?)

 

スクナが勇刀の斬魄刀[斬月]を見て思考を巡らせている時、突如勇刀から莫大な神力が噴出した

 

「悪いな、見ての通り初めて扱う力なんだ、だから手加減出来ねぇぞ!!」

 

「良イダロウ!!ソノ一撃、真正面カラ打チ砕イテクレル!!」

 

勇刀は高々と振り上げた斬月を渾身の力で振り下ろすと、解放時に放った物とは比べ物にならない程の巨大な光が、大地を抉りスクナさえも飲み込んだ

 

そして跡に残ったのは縦に切り裂かれたスクナとスクナと共に割られた山だったものだけだった

 

「まさか、山まで斬れるとは…流石に予想外だわ」

 

「ソレハコチラノ台詞ダ、誠末恐ロシイ奴ヨ」

 

「っ!?まだ動けんのかよ!?」

 

「安心シロ、サシモノ私デモココマデ気持チ良ク両断サレレバ、風前ノ灯ダ、ジキニコノ身体モ崩レ落チテ、消滅スルダロウ」

 

その言葉通り、スクナは消え行く意識を何とか維持し勇刀と会話していた

 

「そうか、で?何か用か?」

 

「用ト言ウ程ノ事デハナイガ、次相対スル事アレバ手加減ハセヌ、覚悟シテオケ」

 

「上等だ、返り討ちにしてやるよ、鬼神リョウメンスクナノカミ」

 

「楽シミニシテイルゾ、器ノ子、衛藤勇刀」

 

身体が全て崩れ落ちると同時に勇刀も意識を手放し前のめりに倒れた、その顔は晴れやかな笑顔だった

 




勇刀が介抱されているのを浦原達は離れた木陰の中から見守っていた

「いやぁ~準備してきた物全部無駄になっちゃいましたねぇ」

「そうですな、しかし封印であればいつかまた同じ事態が起こっていたかと、それを今回で終らせる事が出来たのは僥倖でしたな、店長」

「そうっすね、しかし衛藤サン、貴方は本当に恐ろしい子供だ、一振で地形さえ変えてしまう程の斬撃とは」

浦原の目の前には勇刀の斬撃によって出来上がった谷が広がっていた

「さぁーて後の事は管理局に任せて僕等は帰りましょうか、貴方はどうします?もし良ければ送って行きますよ。
緋村サン」

「いやぁ助かるでござるよ、喜助」

「いえいえ、困った時はお互い様ッスから、でどうでした?愛弟子の成長は?」

「拙者の想像以上でござる、まさか一振でここまでとは、これを自在に扱えるようになった時の勇刀と飛天御剣流が今から楽しみでござるよ」

「そうっすね、それじゃさっさと行きましょう、帰ったらまずご飯ッスね」

そう言って浦原達は森の中へ消えて行った


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30話 朝起きた瞬間に体が重いとその日の気分を上げるのは大変

投稿を予約するのを忘れていました!


「………」

 

どうも皆さん、先日メチャクチャ巨大な大荒魂を討伐してからはや数日

その間爆睡してた衛藤勇刀です。

 

「んぅ〜…」

「zzzzz」

「すぅすぅすぅ」

「ゆぅゆぅ〜」

「おにぃ…ちゃん」

 

「なにこの状況…」

 

今の俺の状況は俺が寝ている個人の病室の無駄に広いベッドの上に可奈美、エレン、沙耶香ちゃん、美炎、薫が雑魚寝の用に眠っていた

 

そしてベッドの脇に置いてあるソファに舞衣ちゃんが横になっていた

 

「これは起こす順番が鍵だな」

 

と天井を見ながら思案していると

 

「んっ…ん〜……」

 

「あっ舞衣ちゃん、おはよ〜早速でごめんなんだけどk「勇刀さんっ!!」うぉっ!?」

 

俺の希望通り、舞衣ちゃんが最初に起きてくれたのは良かったけど、すごい勢いで抱きついてきて、その衝撃でベッドの端に寝ていた子たちが床に落ちた

 

「勇刀さんっ勇刀さんっ!」

 

(舞衣ちゃん!舞衣ちゃん!タップタップ!苦しいから!)

 

舞衣ちゃんは俺の顔に自身の豊かな双丘を遠慮なく押し付けてくるので俺は呼吸をするのが難しくなっていた

 

「良かったっ勇刀さんっ無事で本当に良かったっ」

 

舞衣ちゃんは俺を抱きしめたまま涙を流していた

俺は舞衣ちゃんの背中を撫でて宥めていると他のメンツも目を醒まし始めた。

 

そしてまた俺は揉みくちゃにされてそれを収束させてくれたのは騒ぎを聞きつけてきた看護師の人だった

騒ぎが落ち着いたあと程なくして俺は検査を受けるために病院をあちこち移動し、全てが終わったのはお昼が過ぎていた頃だった

 

「あーつかれた、起きた途端あんな大騒ぎになるとは思ってなかったわ」

「私も可奈美ちゃんも皆もそれだけ心配していたんですよ。もちろん兄さん達だって」

深く息を吐いて話す勇刀に彼の検査に付き添っていた舞衣が俯きながら告げると、

勇刀は目線を逸しながら気不味そうに言葉を濁す

「あー、まぁ…うん」

「……」

 

二人の間を気まずい空気が支配し静まり返る

しかしその沈黙を破ったのは他ならぬ舞衣だった

 

「私達、今回の事で改めて誓ったんです。」

 

舞衣は勇刀の手を自分の両手で包み込むように握り、掌を自身の頬へ当てる

 

「っ!!?」

 

その舞衣の表情は今まで見たことが無い程に艶やかで色気のある年不相応で舞衣の女性らしさを強調した表情に、勇刀の心臓は早鐘を打った

 

「もう勇刀さんを一人で闘わせないって、そのためにもっと強くなろうって、だから…」

(待て待てまて待て!えっ!?今目の前にいるのって舞衣ちゃんだよね!?どこぞの女優さんじゃないよね!?エッ!?色っpじゃなくて!、元々同年代の子達と比べて大人びてる子だけど、こんなエrでもなくて!ストップストップ!舞衣ちゃん顔近いって!)

 

気がつくと舞衣の顔が勇刀のすぐ目の前にまで迫っており、唇が触れる寸前のところで

 

『舞衣ちゃ〜ん?/舞衣〜?、なーにーしーてーるーのー?』

 

「きゃぁっ!?」

「うあぁ!?」

 

突如二人が座っていたベンチの背もたれの裏から現れた、瞳のハイライトが消えた可奈美と美炎によって接触は阻止されたが、勇刀と舞衣は驚きのあまりベンチから飛び上がって落ちてしまった。

 

「かっ可奈美ちゃん!?美炎ちゃん!?」

「おおおお前ら!急に出てくるなよ!びっくりするだろ!」

「いや〜、二人ともなんだか良い雰囲気だったから思わず声かけちゃった」

「も〜舞衣ちゃんったらおませさんなんだからぁ、カナのお兄ちゃんに変な事したらメッだよ?」

「っ////」

 

舞衣は二人の言葉で我に返り、自分の行動を思い返して赤面する顔を両手で覆い隠し、口をパクパクさせていた

そんな状態の彼女に二人は追い打ちをかける

 

「舞衣ちゃんてこういう事には奥手だと思ってたけど意外と積極的なんだね」

「本当だよね~、勇刀さんに誰が付き添うかで揉めてる内に抜け駆けするんだもん、策士だよねぇ~」

「うぅっ、だって看護師の人も困ってたし、それに勇刀さんにもし何かあったら…」

「それなら私達に一声かけてくれても遅くは無かったんじゃな~~い?」

「あぅぅ…」

 

二人の容赦ない口撃と黒いオーラに当てられて、ドンドン追い詰められて小さくなっていく舞衣を見るに見かねて勇刀は行動に出る

 

「二人とも!」

「きゃっ!」

『!?』

「これ以上舞衣ちゃんを苛めるなら、二人の稽古は見てあげないよ?」

 

勇刀は舞衣を抱き寄せ、二人にクリティカルヒットするであろう一言を告げると

舞衣は赤面し可奈美と美炎はムンクの〈叫び〉のような表情になっていた

 

「二人が俺のことを心配してくれてたのは理解してるし嬉しいけど、今のは言い過ぎだよ」

「うぅごめんなさい」

「反省します」

 

二人を諫めた後、一つため息を吐いて舞衣を見ると

 

「きゅ~~~~~……」

「あっ…気絶してる」

(羨ましい)

(いいなぁ…)

 

勇刀は舞衣を背負い病室に戻った

 

 

 

 

 

「ん………あれ、私いつのまに寝ちゃってたんだろう、ここって勇刀さんの病室」

 

私はいつの間にか眠ってしまっていた様で、勇刀さんの病室で目を覚ました。

 

「確か勇刀さんの検査と診察に付き添った後、勇刀さんとベンチでお話しして…それで」

 

眠る前のことを思い出そうとしても記憶に靄がかかったようなって朧げにしか思い出せない、その感覚が凄く気持ち悪くて、胸騒ぎがした

そこで私はこの部屋に居なければならない人の事を思い出した。

 

「勇刀さん…勇刀さん!今日は安静にしてって言われてるのに、一体どこへ…」

 

部屋の中に気配は無くて、その事が私に焦りを生み出していた

そして居ても立っても居られなくなった私は病室を飛び出して、勇刀さんを探しに出た

他の病棟も、中庭も、さっき迄居たベンチも、私が思いつく場所は全部まわった、私が思いつきそうもない意外な所も

虱潰しに探してみたけど全部外れだった

 

「ハァはぁ…何処にもいない、勇刀さん一体どこに…」

 

病院中を走り回って息を切らせていた私は落ち着くために、勇刀さんの病室に戻ってきた

 

「入れ違いになるといけないし、ここで待たせてもらおう、勇刀さんなら大丈夫、だってあんなに元気だったんだもん、大丈夫…大丈夫」

 

私はベッドに腰かけて、不安をなくすように何度も唱えて落ち着こうとするけど、治まってくれない、少しでも落ち着きたくて身体を倒して眼を閉じたとき

 

「衛藤さん!!しっかりしてください!衛藤勇刀さん!!聞こえますか!?」

 

部屋の前を勇刀さんを呼ぶ声とストレッチャーが通り過ぎる音が聞こえた

私は全身が凍りつくような悪寒と共に跳ね起きて後を追いかけた

 

「勇刀さん!!…なっなに…これ…」

 

追いついた私の目に映ったのは身体の半分が白く染まり、ノロのような物が固まってゴツゴツした鎧の様な物に変質し、顔は半分以上が角の生えた面に覆われている勇刀さんだった

 

「これは#!!#$&”#%$だ!、速やかに処理をしなければ」

「先生!勇刀さんをどうするおつもりですか!?、先生!!」

 

私がいくら呼びかけても看護師の人も医師の先生も誰一人答えてくれなかった

そしてそのまま真っ暗な部屋へ入ると、そこには兄さんたち六刃将の皆が揃っていた

 

「兄さん!勇刀さんが大変なんです!先生も誰も答えてくれなくて、勇刀さんに何が起きてるんですか!?これから勇刀さんに何をするんですか!?」

「………」

「にい…さん?」

「それではお願い致します。」

 

私の質問に兄さんも他の皆も答えることなく、先生がストレッチャーを兄さんたちの前に止めると、皆が一斉に御刀を抜いて勇刀さんに振り下ろした

 

 

 

「ダメェーーーーーー!!!、っ!はっはっはっ!」

 

舞衣が目を覚ましたのは勇刀の病室だった、彼女は自分が眠って居たことを認識するとベッドから飛び降り部屋から飛び出した、そして夢の中で自分がまわった所を全て確認したがそこ勇刀の姿は無かった

 

「ハァ!ハァ!ハァ!…勇刀さんっ…そういえば」

 

舞衣は焦りを隠すことも忘れ、駆けまわる事を止めずに居たことの反動が一挙に訪れ、芝生の上に座り込んでしまった

そんな時、ふと見上げた空に向けた視界の端に映った場所があった、それは屋上だった、夢の中でもそこにだけは行っていなかった事を思い出した時には、既に走り出していた、それこそ今までよりも速く、そして

 

バン!!!

 

「ハァッ!!ハァッ!!ハァッ!!」

 

勢いよく開け放たれた扉の先にはたくさんのシーツが干されていた

それを舞衣はゆっくりと避けながら進んでいく

不思議と今まで感じていた焦りや焦燥感や不安は嘘の様に感じなくなっていた

それどころ、一歩一歩進むごとに心は落ち着き平静を取り戻していた

そして何も干されていない場所に辿り着くと、そこには人が立っていた

 

「ゆうと…さん」

「ん?あぁ舞衣ちゃんか、起きたんだねおはよう」

「ゆうとさんっ…勇刀さん!!

「おぉっと…舞衣ちゃん?どうしたの?」

「今まで何処で何をしていたんですか!?お医者さんに今日は安静にしてって言われたじゃないですか!」

 

舞衣は涙を流しながら、困惑する勇刀に力一杯抱きついて問いただす。

 

「いやー、数日も寝たきりだと体が鈍っちゃうし、皆の稽古に支障をきたしちゃマズイでしょ?だから少しでも身体を動かしときたくて…」

「こんな時ぐらいご自分の心配をしてください!いつもいつも自分のことは二の次で!

私達の中で一番重症なのに無茶して!!あの時だって!!っ!?」

「ごめんね舞衣ちゃん、心配かけちゃって…でもこれが俺だからさ、母さんを亡くしたあの日から…これからも皆を最優先にするよ、皆には悪いと思うけど」

「っ!!……うぅ、ひっく、うぁあっ!」

 

舞衣は自分がどんなに頑張っても変えることのできない最愛の人の意志の硬さと優しさと己の無力さに感情が高まり泣いてしまった。

 

(ありがとう、こんな不器用な男のために泣いてくれて、でも俺はもう大切なものを失くしたくないんだ)

 

勇刀は舞衣を落ち着かせるために優しく抱き締める

舞衣も落ち着いたのか、泣き止んではいるものの勇刀から離れようとしなかった

 

「そろそろ病室に戻って大人しくしてますか」

「勇刀さん…少しワガママを言っても良いですか?」

「うん、いいよ」

「もう少しの間だけこうしていたいです。」

「もちろん良いよ、でもちょっと失礼」

「きゃぁ!?」

 

勇刀は舞衣をお姫様抱っこで抱きげて近くのベンチに座り、彼女を自分の足の上に置いた

自分から言い出したこととはいえ、流石に恥ずかしいのか勇刀の腕の中で顔を赤くしながらもピッタリと身体を密着させている舞衣だった

そんな彼女をみて甘えベタなところは長女ってかんじだなぁと思ったそうな

そして翌日、晴れて退院する事ができた勇刀だった

 

 




恋愛模様って難しい…


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31話 兄、再配置

「ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!」

 

勇刀は鎌倉の管理局本部から程近い砂浜で平城から戻って早々素振りをしていた、その理由は帰りの移動中浦原からの助言にあった

(衛藤さん、取り敢えずスクナに撃ったあの技、いつでも使えるようになっといてくださいね〜)

「とは言われたもののどうすりゃ良いんだ?あの時の感覚ほとんど覚えて無いんだよなぁ」

 

勇刀の斬魄刀【斬月】は初陣においてひと振りで、地形を変えるほどの威力を持つ斬撃を放つ能力を有している事を、まざまざと見せつけた。

浦原はその斬撃をいつでもどこでも、威力を調節して自在に使えるようになれと言っているのだった

しかし勇刀は初めて撃った時の感覚を何一つ憶えていなかった、なので海に向かって素振りをしてなんとかしようともがいていた

 

「はぁ〜、撃った後爆睡してたのが駄目だったのかぁ?」

 

勇刀は砂浜に腰を下ろして考えるが何も浮かばず、そのまま寝転んだ

そして空をじーっと見上げえいると

 

「お兄ちゃんみーつけた!」

「可奈美か、どうしたんだ?」

「もうすぐお昼だから、一緒に食べようと思って探してたんだ」

「そっかもうそんな時間か、、、よしっ食堂行くか!」

「うん!」

 

可奈美がひょこっと顔を出してきた

 

「あっそういえば朱音様達に挨拶行ってなかった」

「えっ!?お兄ちゃんまだ行ってなかったの!?」

「あぁ、だから先に行って食べてていいぞ」

「ヤダ!カナも行く!」

「さいですか、んじゃ行くぞ」

「はーい!」

 

二人は並んで歩き、可奈美は勇刀の腕に抱き着いてご満悦の様子だった

そして局長室に着いて朱音に迎え入れられた

 

「衛藤勇刀、任務より帰還しました。」

「はい、ご無事で何よりです。お帰りなさい」

「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。」

「いいえ、とんでもありません。私はもちろん特祭隊の全員が貴方を信じていましたよ」

「ありがとうございます。」

 

その後少々雑談を交えていると思い出したように朱音が話し始めた

 

「そういえば、お伝えしなければならないことがありました。こちらをご覧ください」

「六刃将五箇伝再配置計画?」

「はい、現在日本各地で荒魂の出現率は上昇しています。それにより市民の皆さんの不安も高まり、不満も噴出しているんです。」

「まぁ原因は…俺かぁ」

「えぇ、私達の報道規制をすり抜けて、先のリョウメンスクナノカミ戦での勇刀さんの敗北が速報で報じられてしまったのです。」

 

先の戦いで最終的には勇刀がリョウメンスクナノカミに勝利したが、その過程で報じられた衛藤勇刀敗北の一報は世間に多大な衝撃と不安を与えた

彼ら六刃将の強さ特に、衛藤勇刀の異次元とも言える強さと戦闘力は何度も報道され、漏洩事件前と比べ、荒魂の出現率が高まった昨今市民の心の拠り所は彼の強さ以外に無かった

 

平時の荒魂討伐で一度勇刀が出たならば、余計な封鎖や予防線を張る必要無く、最低限の交通規制で事足りる、何故なら彼が御刀を振るえば荒魂は暴れる事無くノロとなるからだ

そしてこの強さが首都圏に住む一般市民の心の支えになっていた

 

しかしこの大きすぎる安心感が仇となってしまった。

そう、衛藤勇刀の敗北という一報が、彼によって支えられていた平穏と安心という足場が、脆くも崩れ去ってしまったのだ

 

そしてその不安は地方に住む人々にも波及した、「もしかしたら自分達の住んでいる場所にも大荒魂が封じられているのではないか」と考える、そうなると話は六刃将の平時の配置に及ぶのに時間はかからなかった、あがった声の大部分は六刃将が首都圏に集中している事だった

 

これに対し刀剣類管理局上層部と政府高官はまず第一に衛藤勇刀は本部に置くことで合意した

 

そして勇刀以外のメンバーを各五箇伝へ配置する運びとなった

 

 

まず本部及び鎌府女学院へ衛藤勇刀と糸見海翔

美濃関学院は柳瀬尊

平城学館は十条和人

長船女学園は古波蔵綾人並びに益子勇仁

 

※綾小路武芸学舎は諸事情により今回の計画からは除く

 

配属日◯月◯◯日

 

「んーと?これは俺こっちに引越してくるみたいな感じになるんですかね?」

「はい、そういう事になります。」

「そうなると学校の方は…」

「そちらに関してもこちらで手配をしています。勇刀さんには特例で鎌府女学院高等部へ編入していただきます。周りが女生徒だけという環境は何かと不便とは思いますが、何かあれば遠慮なく仰って下さいね。」

 

一通りの説明を聞き、息を吐きながら背もたれに持たれかかり天井を見上げる

そして組織に属する者として、次に自分が取るべき行動をつぶやく

 

「そしたら、一度帰って荷物まとめて学校に挨拶行かなきゃな〜」

「それとこちらで滞在していただく寮に関しては、現在鎌府寮の隣に六刃将の皆さん専用の寮を建設中ですので、完成までは本部の来客用の宿泊室を使用して下さい。」

 

「了解です…って配属日明後日じゃん!!すぐに帰って家の掃除と挨拶回り行かないと!」

「ならカナも一緒に帰ってお手伝いするよ!」

「はい、そうしてあげて下さい。部隊編成に関してはこちらで調整しておきます。」

「それじゃぁ朱音様、本部長失礼します!」

「失礼します!」

 

二人はドタバタと出されていたお茶を慌ただしく飲み干し部屋を出ていった

 

 

「本当に仲の良いご兄妹ですね」

「多少妹からの好意が強すぎる気がしないでもないが、そこは衛藤兄がなんとかするでしょ」

「ねぇ紗南ちゃん、今回の再配置計画の事、どう思う?」

「…世論を鑑みれば真っ当な計画に映りはするが、どうもきな臭さが拭えない、特に綾小路がこの計画から除かれている所が…」

「表向きは長船女学園との位置関係による所が大きいということだけど」

「伏見先輩の意図が読めないわね」

「何も…無ければ良いのだけど」

「………」

 

そう言ってバタバタと部屋を出ていった勇刀と可奈美を見送った二人は今回の計画の不自然な部分を見た

今回の計画は朱音を含めた管理局上層部と首相を含めた政府高官達により立案されたものだった、当然朱音達管理局側は五箇伝全てが含まれるべきと考えていたが、政府側の意向により綾小路は今回の計画からは除かれることを前提にされていた、これは朱音達がいくら異を唱えようとも覆ることは無かった、その事を不審に思っていたが為の会話だった

 

局長室の窓から走って本部を出ていく勇刀達を朱音は憂い気な表情で静かに見つめた

その表情に込められる思いは…

 



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32話 求める者、案ずる者

|д゚)チラッ
新年明けましておめでとう御座います。
新しい年度がそろそろ始まりますね。
新生活、新しい学校、新しいクラス
自分に合うか、馴染めるか、後ろ向きな思いはその場に置いといて前を向いて楽に行きましょう。


六刃将に配置転換が告げられてから数週間が経ち、それぞれが配属先の雰囲気にも慣れてきた頃

 

長船女学園の敷地内に急遽建設された、古波蔵綾人と益子勇仁の男子寮に一人と一匹が訪れていた

 

「おーい、勇人〜起きてるか〜迎えに来てやったぞ〜」

「ねねねーー」

 

しかし呼びかけた部屋の主からの返答はなく静まり返った

 

「勇仁の奴まだ寝てるのか?くそぅ折角姉が迎えに来てやったというのに出迎えもせずに爆睡とは…許せん!」

「ねね〜〜」

 

すると隣の部屋の扉が開くと綾人が出てきた

 

「あれ?薫さん、勇仁のお迎え?」

「綾人か、そのつもりで来たんだが、まだ寝こけてるみたいなんだ」

「あぁ、勇仁君なら…」

「朝っぱらから人の部屋の前で何してんだ、姉貴」

 

綾人の言葉を遮り後ろからお目当ての人物の声が聞こえて振り返ると、そこにはジャージ姿で汗だくになっている勇仁が立っていた

 

「おま、朝っぱらからそんな汗だくで何してんだ!?」

「日課にしてる朝の走り込みと筋トレだよ、スタミナと筋力つけてどんな荒魂でもひと振りで仕留められるようにすんだよ」

「お前……実は偽物だったりする?」

「なんでやねん!そこは頑張ってる弟に対して労いの言葉の一つや2つねぇんかい!」

「いやだって、あの勇仁だぞ?昔から稽古をサボりにサボってやる気のなかった勇仁がいきなり、毎朝走り込みに筋トレなんて…信じられ「ねー」」

「てめぇ…」

「まぁまぁ、薫さん、最近勇仁君頑張ってるんですよ、この朝のトレーニングだって随分続いてるんだよ」

 

散々な言われように怒りでワナワナと震えている勇仁を綾人がフォローする

 

「ほ〜ん、まぁ勇刀から良い影響を受けたんだなぁ」

「そうだよ、いつまでも勇刀におんぶに抱っこじゃいられねぇんだよ」

「そうか…なら姉も一肌脱いでやろう、朝以外の稽古に付き合ってやる」

「朝はやらないんだ」

「朝は寝るに決まってんだろJK」

「姉貴…それもう古いぞ」

「……マジか」

 

「ヘーイ!アヤト!迎えに来ましたヨー!」

 

薫の死語の間を救うかのように元気な声でエレンが現れたのを機に、勇仁は着替えるために自室へ戻り、シャワーを浴びて食堂へ向かった

 

=食堂=

 

長船女学園の食堂で注目を集めているテーブルがあった

そのテーブルには到底一人で食べきれる量ではない程の料理が並んでいた

 

「おい、勇仁そんなに喰って大丈夫か?」

「ワタシも流石に食べすぎだと思いマース」

「うっせーな、いつも通りの量だから気にすんな、使った分の栄養とカロリー摂らねぇと逆に身体が持たねーんだよ」

 

そういって姉達の食事の倍以上の量の食事を完食していく勇仁を見てエレンと薫は若干引いていた

そこへ長船女学園の米村孝子と小川聡美がやってきた

 

「益子さん、弟くん大丈夫なの?食べ過ぎは体に毒だと思うんだけど」

「あぁ米村先輩か、気にしないで大丈夫だ、本人の気が済むようにさせてやってくれ」

「食べざかりなのはわかるけど、ちょっと心配よね」

 

二人の心配をよそに黙々と食事を続けていた勇仁はすべての皿を空にして満足そうに顔の前で手を合わせて食器を片付けて食休みを始めた

その光景を見た、孝子と聡美は苦笑を浮かべていた

 

「ふぅー食ったぁ〜」

 

「君、少しは自制した方が良いわよ?」

 

「んな必要ねーっての、つか俺からしたら女子の食事の量のほうが少なすぎると思うけどな、あんな量でよく足りるよな」

 

「ふふ、心配してくれてありがとう、でも私達、特に年長組は色々経験してきてるから、あと女の子だからそっちにも配慮して今の量に落ち着いているの」

 

「あっそ、なら構わねぇけど、さーて授業まで屋上でのんびりしますかね、んじゃ姉貴、放課後ちょっと付き合えよ」

 

「自分から言い出した手前断りづらいな、仕方ない付き合ってやるか」

 

「なら私も行きマース!」

 

「マジ?なら格闘術教えてくれよ、俺の斬魄刀と相性良さそうでさ!」

 

「OH!ウェルカムデース!手とり足取り指導しちゃいますヨー!」

 

「よしっ!なら放課後外の訓練場でな!」

 

そう言って勇仁は食堂を出ていった

その背中を見守る面々の表情はそれぞれ悲喜こもごもと言ったところだった

 

 

 

数日後

 

「てな事があってから毎日稽古に付き合わされてるんだ、勇刀よ助けてくれ…」

 

「ほー勇仁がねぇ、俺としては向上心が右肩上がりで嬉しいことなんだけどな、薫は勇仁の何を心配してんの?オーバーワーク?それとも精神的なもの?」

 

「両方だ…スクナとの戦いの後から、少し変わった気がするんだ、多分オレしか気づいてないだろうけど」

 

「薫だから気づけたか…流石、お姉ちゃんってところか?」

 

「やめろよ!オレがお姉ちゃんなんてガラじゃないだろ!?」

 

「何言ってんだよ、弟の些細な変化を見逃さずに弟を心配して行動する、薫は十分すぎるくらいのお姉ちゃんだよ、勇仁も良い姉を持ったよ…」

 

薫は電話で最近の勇仁の事を勇刀に相談していた

電話口で薫の声を聞いた勇刀は薫から聞いた勇仁の近況を聞いて少し考えていた

 

(確かに薫からの話だけじゃ難しいな勇仁は体力あるし、体格にも俺達の中じゃ一番恵まれてる、だが精神的にはまだ幼い所もあるから危ういけど、そこまで深刻になり過ぎるのもお節介か?)

 

「勇刀?どうかしたか?」

 

「あぁ、悪いちょっと考え事…まぁまだ大丈夫なんじゃないか?話だけしか聞いてないけど現状そこまで深刻になる程でも無いと思う、男の子なら誰しもが通る道だしな、でも今以上に自分を追い込んだり思い詰めたりしだすようなら話は別だ、すぐに行くから連絡してくれ」

 

「おう、ありがとな、話聞いてくれてスッキリした」

 

「どういたしまして、薫もあんまり無理すんなよ、疲れた時は素直に休めよ」

 

「その言葉、そっくりそのまま勇刀に返すぞ、時々可奈美からお前が構ってくれないって愚痴られてんだ、たまには休んで可奈美の相手してやれよ」

 

「あいつ、そんな事してんのかよ…はぁ善処するよ、それじゃぁなおやすみ薫」

 

「おう、またな」

 

「ふぅ…」

 

通話が切れたことを確認すると一息ついて、窓の外に広がる夜空を見上げる

視線の先の雲一つ無い空に満月が輝いている

それを一瞥して部屋の方へ振り返ると、六刃将としての自分にあてがわれた執務室にあるデスクの上には、大量の書類が積み上げられていた

 

「休めねぇ理由がこんなに積み上がってんだよ、本部長と朱音様にあの件を打診してみるか」

 

 

 




大変な日々ですが、毎日少しずつ積み重ねて進んでます。
また出来上がったら更新します。
気が向いたら読みに来てくださいね


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