聖闘士星矢 -名もなき雑兵- (間邦人)
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各章の登場人物紹介 登場人物 (城戸家編)

登場人物 (城戸家編)

 

 

 

オリ主

 

名無し (本名:城戸織政)

 

年齢

第2話時 12歳→ 第3話13歳

 

必殺技

音速拳

 

概要

聖域にて修業を行う聖闘士候補生兼雑兵の1人。聖域での厳しい修行に耐えながら日夜努力をするごく普通の少年である。

親友に、同じ師を持つ ギルティがいる。

また、魔鈴とは面識があり、彼女を助けたこともある。(名無しの一方的な飯の押し付けだが…)

13歳で小宇宙に目覚め、一応、聖闘士の闘法は会得した模様。

必殺技として、「音速拳」と言うものを体得している。これは、聖闘士にとっては基礎の基礎とも言えるもので、特に命名するようなものではないが、名無しはこの名称を好んで使っている様子。

 

※ちなみに、聖闘士の条件で音速の拳を放つことは当たり前。この技術は、最下級の青銅聖闘士の最低条件に該当する。

 

正体と過去

実は、城戸光政の実子であり城戸家の長男である。(注1

生まれた直後に母を亡くし、それが原因で父は狂ってしまうという、生まれながらにしてハードモードの人生を突きつけられる。

また、沙織を拾ってからはというもの、

父の狂気度が更に増し、ついには、

自身の100人にも及ぶ子ども達(!?)を使って聖闘士軍団を作る

という壮大な計画をおっ立てる始末。

 

そんな無慈悲かつバカげた計画を阻止し、顔も名も知らぬ弟、妹達を守るために、聖闘士となると決意を固める。(注2

 

 

注1

賢明な聖闘士星矢ファンの方は、お気付きだと思うが、この設定には少し裏がある。

「聖闘士星矢 ギガントマキア」という小説では、城戸家の嫡子は、「城戸盟」とされている。(公式…と言われればグレーな部分だが)

そのため、織政は、実質的に長男であるものの光政からは認知されていないという設定である。

つまり、城戸の姓と住む場所を与えてはいるが、公の場で織政という存在を肯定する事はない。と言うことになる。

 

これは本編で、「存在しない存在」「城戸邸から離れた小さな屋敷に住ませる」という表現をしている。

 

注2

実際、この事実を知る経緯は後ほど、本編で明かされる。

 

 

 

 

 

聖域の人々

 

 

 

 

魔鈴

 

年齢

第1話時 16歳

第2話時 8歳

 

必殺技

イーグルトゥフラッシュ

(当作品ではまだ未使用)

 

概要

原作では、主人公星矢の師匠であり、無敗を誇る鷲座の白銀聖闘士。

第2話時では、聖闘士候補生の1人として登場している。

 

第1話時での反応を見て、名無しと親しかったらしい…

なお、彼の活躍を原作終盤時で知る数少ない人物の1人。

 

 

 

 

 

ギルティ

 

年齢

推定12〜13歳

詳しい詳細は不明

 

概要

名無しの親友であり、同じ師を持つ好敵手。

本作の原作での彼とは似ても似つかないその姿に違和感を覚えた方は多数いると思う。

 

原作では、あの青銅聖闘士最強と名高い、鳳凰座の一輝の師匠。

原作を知らない方に簡潔に説明すると、

 

・我らが兄さん(一輝)を暗黒面に叩き落とした張本人

・かなり厳しく一輝を育て上げ、一輝のクールさドライさは、だいたいコイツのせい

 

などと、余罪が絶えない彼だが、

彼が何故このような変貌を遂げたのかは、後に語られることとなる。

 

彼に疑問を持たれた方はぜひ漫画での確認をお勧めします。

 

 

 

 

 

隊長(本名:アトラウス)

 

年齢

第3話時

 

概要

オリキャラの1人。

聖域にて、雑兵達をまとめる雑兵隊長を務める。(その役職が故に、本名で呼ばれることは少ない。)

小宇宙に目覚めており、名無しやギルティを始めとした雑兵達や聖闘士候補生に稽古をつけている。

また、教え子には、光政にアテナを託した黄金聖闘士アイオロスがいる。

彼の修行は、相当厳しいらしく、力に自慢のあるギルティでも身震いするレベル。

しかし、一人前と認めた教え子には、赤いバンダナを贈るなど、師としての優しさを併せ持つ。

 

 

 

 

 

城戸家の人々

 

 

 

 

 

城戸光政

 

年齢

第6話時 推定50代後半〜60代前半

織政出生時 推定40代後半〜50代前半

 

概要

聖闘士星矢を語る上で避けて通れない存在。

原作では、星矢達青銅聖闘士の実の父親であり、沙織の義祖父という存在。

原作開始時点では鬼籍に入っているが、彼の残した影響は、原作ならびに本作でも主人公達を苦しめる。

本作では、元々『沙織』と呼ばれた妻がおり、彼女の死を契機に原作での狂気染みた計画を立てたとされる。

また、アテナの化身に妻と同じ名前を与え溺愛するなど、原作よりも狂気度は格段に増している。

 

城戸家編でのラスボスのような存在。

 

 

 

 

 

アテナの化身(原作での、城戸沙織)

 

年齢

第5話時 6歳

 

概要

原作でおなじみ、アテナこと城戸沙織の事。

地上に赤ん坊として降臨した直後、教皇になりすましたサガの凶刃からアイオロスによって救われ、後に、彼の手で城戸光政に託される。

現時点では、アテナとして覚醒していない為、光政の手厚い愛情の元、ワガママなじゃじゃ馬なお嬢様として育っている。ちなみに、義兄である織政(名無し)の存在は知らなかった模様。

 

余談だが、乗馬服に身を包み、人を馬として扱う場面は原作にも存在する…

沙織お嬢様のドSな幼少期に興味を持たれた方は是非原作の方をご一読を。

 

 

 

 

 

城戸沙織(織政の母、光政の前妻)

 

概要

オリキャラの1人

元は、光政の家政婦として働いていた。

光政からのアプローチを受け次第に彼に惹かれていく。そして、縁談を機に猛アタックを仕掛けた光政の気持ちに打たれて、周囲の反対を振り切り見事、ゴールイン。

しかし、織政を身篭った直後、不治の病に侵され、それが原因で織政出産後死亡。

彼女の死を受け光政は狂い、その子である織政は人生ハードモードを強制されるなど、彼女の死によって、城戸家はとんでもないこととなってしまった。

 

 

 

 

 

じいやとばあや

 

年齢

2人とも、推定70歳後半

 

概要

城戸家に使える老夫婦。昔は、城戸家の執事長と家政婦長であり、長い間城戸家の使用人として働いている。

父、光政に愛情を示してもらえない織政を2人は一生懸命愛し育て、そのおかげで織政は捻くれた性格にはならなかった。

また、父として織政に接してもらえるよう色々取り合おうともしてくれた。

 

特にじいやは、織政が寂しい思いをしないようと老体に鞭打って外遊びに付き合ったり、ばあやは、自身の腕によりをかけて茶菓子や料理を作ったり、我が孫同然のように愛していた。

 

 

 

 

 

辰巳徳丸

 

年齢

第4話時 25歳

 

概要

現在の城戸家の執事長。

外見は坊主にガッシリとした体型と強面の男であるが、実際はまのぬけた性格をしている。原作と同じで失言や少し威圧的な態度などは変わらない。

しかし、城戸家に絶対の忠誠を誓っているなど、忠義心は熱い。

織政に対しては、少しドライに接する場面が見られたが、それは、光政の織政に対する処置を鑑みての判断であり、個人的には嫌いとは思っていない。

(ただし、織政に恨みを買うような行動をしてしまった可能性あり)

そのため、織政との関係は悪い。

 

ちなみに、本作では、邪武より先に沙織お嬢様の馬になるところであった。

 

 

 

 

 

その他

 

 

 

 

 

アイオロス

 

年齢

すでに死亡しているため 享年14

 

概要

原作での登場回数は少ない人物であるが、死してもなおその魂は、主人公である星矢達に受け継がれ、黄金聖闘士の中でも圧倒的存在感を持つ男。

本作でもすでに死亡しているため、名前のみの登場となる事が多いが、彼に関係している人物は多く、この物語の1つの鍵を持つ存在である事は確か

 

なお、本作では雑兵隊長であるアトラウスの弟子であったという設定を持つ。

 

 

 

 

 

射手座の黄金聖衣

 

概要

幾度となく星矢達のピンチを救ってきた聖衣であり、ここぞという時の頼みの綱。エリシオンでタナトスにバラバラにされるまで、とりあえずこの聖衣が来れば大概の事は何とかなった。

そんな万能最終兵器であるが、本作最初の出番は、オリ主に黄金の矢をぶっ放すというちょっと衝撃的な登場を果たした。

 

ちなみに、その時の姿は本来の姿であり、銀河戦争時のダミー姿ではない。

 

 

 

 



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序章 聖域の墓地にて…

聖闘士(セイント)

それは、この世に邪悪が蔓延る時必ずや現れると言われる希望の闘士。

その拳は空を裂きその蹴りは大地を割るという。

彼らは神話の時代より女神アテナに仕え、武器を嫌うアテナのために素手で敵と戦い天空に輝く88の星座を守護としてそれを模した聖衣と呼ばれる防具を身に纏う。

そして今やその存在は、伝説として語り継がれるのであった…

 

 

 

だが、今から語るのはそんな伝説の存在とは程遠い、ある雑兵の物語である。

その雑兵は、

弟妹達のため。

友のため。

愛するもののため。

これらを守るために自らを犠牲にし、血だらけになりながらも戦った。

しかし、それらは活躍は、聖闘士達の存在によって陰となり、決して日の目を浴びることはなかった。

 

彼の存在を活躍を知る者は少ない…

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

聖域 (サンクチュアリィ)ーと呼ばれる場所の夜空に煌々と輝く星達が広がる。

その星々は1つ1つが宝石のようであり、それが散りばめられた夜空はとても幻想的で、都会では決して見ることはできない光景。この夜空は、見たものの心を洗いそれらをとても心地よい気持ちにしてくれるであろう。

 

だが、その夜空の下には…

沢山の墓石がゴロゴロと連なっていた。

 

ここは、聖闘士の共同墓地。

その数多の墓石には、これまでの聖戦で命を散らしていった聖闘士達の名が刻まれている。

そして、今日も新たに名が刻まれていく…

 

ー MUU ー

 

ー ALDEBARAN ー

 

ー AIORIA ー

 

ー SHAKA ー

 

ー MIRO ー

 

ー DOKO ー

 

これらの名は、2日前に終結した冥王ハーデスとの聖戦との戦いにおいて、命を散らした黄金聖闘士達の名であった。

そして、それらの墓石の前には真新しい花束が山のように積まれている。これらは、彼らの死を悼んだギリシアの人々や彼らを尊敬し目標としていた聖闘士達、そして彼らの早すぎる死を悼んだ女神(アテナ)からの細やかな手向けであった。

 

 

 

 

 

コツ…コツ…

共同墓地に、ヒール靴独特の高い足音が聞こえる。その足音は亡くなった黄金聖闘士達の墓石に段々と近づいていく。

 

コツ…

足音が止まる。

月明かりが、その足音を立てていた人影を照らし出す。その人影は、少女であった。

月明かりに照らされた肢体は引き締まっており、肌は白く透き通っていた。しかし、顔は仮面で覆われており表情が窺い知れない。

少女の手には、少し萎びた花たばと真っ赤なりんごがあった。黄金聖闘士達への手向けの品であろうか?

 

だが、少女は黄金聖闘士達の眠る墓を一瞥すると、再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は聖闘士の共同墓地を越え、その奥にある深い深い谷底へと向かっていく。そこは、聖闘士になり損なったものの墓地、いわゆる雑兵達の共同墓地であった。

昼でも夜でも決して光の当たらないそこは、黄金聖闘士達や他の聖闘士達が眠る墓地とは対照的だ。加えて彼らには、手向けの品々はなく、代わりに腐った皮の防具を着せた棍棒が大量にかつ無造作に突き立てられており、その様はとても不気味で気持ち悪いものであった。

 

だが、少女はその墓地の中を歩きすすんでいく。少女は、不気味なこの空間に慣れているらしく足取りはしっかりとしているが、その手は何故か震えている。少女は、谷の相当奥に来るまで歩くことをやめなかった。ここまで来ると、周りには墓石代わりの不気味な案山子達の姿はなく、あるのは底知れない暗闇だけ…

そんな中で少女は、やっと歩くのをやめ、その場で座り込む。少女が座り込んだ先にはうっすらと墓石の輪郭が見える。そして、そっと墓石の先に手に持っていた花束とりんごを置く。

 

「ねぇ……」

少女は初めて言葉を発した。その声は芯の通った美しいものだったが、わずかに震えていた。

 

しばらくの沈黙。

 

突然。少女は顔の仮面に手を触れた。

すると、触れた手で顔を覆う仮面をゆっくりと剥がし、りんごと花束の横に置く。

 

「…こんな事になるならば…私が殺しておけばよかった…」

墓石に向かいぼそりと呟く。

 

「この仮面を…もっと早く取って…殺しておけばよかった…」

少女は、手を握りしめ腕をプルプルと震わせる。

まるでその様は、言葉1つ1つを体から絞り出しているみたいだ。

 

「……腹がたつよ…本当に…この、鷲座(イーグル)の魔鈴をここまで苦しめるのは…アナタだけよ…」

 

そういうと少女は、その墓石にもたれかかり、そこに、一滴の雫を落とした…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれぐらい経ったのであろうか、少女はその墓石から離れ、名残惜しそうにその墓石に彫られた文字をなぞる。

 

ー NANASHI ー

 

墓石にはそう彫られていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『名無し』と呼ばれる雑兵。

私は彼のことを知っている。

 

でも、一輝、紫龍、氷河、瞬をはじめとした青銅聖闘士や女神である城戸沙織は、彼のことを知らない。

 

 

私は知っている。

彼が何のために戦って何のために死んだのか。

 

でも、彼女達はそれを知らない。

 

私は知っている。

彼が何を憎み、何に苦しんでいたのか。

 

でも、彼女達はそれを知らない。

 

私は知っている。

彼がその先に何を望み何を成そうとしていたのか。

 

でも、彼女達は…

 

 

 

私…鷲座(イーグル)の魔鈴は、彼のこと…『名無し』を知っている。

 

でも、彼が守ろうとした者達は、彼のことを知らない。

 

 

 

 

 

 




…書いちゃったよ(冷や汗)

一応、優先順位は真・仮面ライダーの方なので、こちらはぼちぼちと投稿していく予定です。




話は変わりますが、告知です!!

今回、薮椿さんの企画小説の方に参加させていただくこととなりました!企画小説のお題は、ラブライブ!です。
詳しくは薮椿さんのTwitterにて!

以上!告知と宣伝でした。


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第1章 原作開始前 ー 城戸家編 ー 8年前…そして出会い。

ある屋敷の庭の一角にて…

 

「××様ー!? どこにいらっしゃいますか?もうお夕飯の時間でございますよ!」

「××様ー!日も暮れてまいりました。お外遊びは大変危のうございます。早く爺のところにお戻りになさってください!!」

 

庭に2人の老夫婦の声がこだまする。

すると、その声を聞きつけたのか、少し離れたところから少し悪戯っぽい可愛らしい声が返ってきた。

 

「 じいやー、ばあやー、ぼくはここにいるよーはやくつかまえにおいでよー 」

「まったく…では、××様…参りますぞ!」

「まぁ!?じいさん。あまり無茶せんでくださいね?」

「わ、わかっとるわい! ばあさん!」

「えへへー はやくはやくぅー。つかまえてごらん」

 

近くの生垣からひょこっと××と呼ばれた男の子が顔を出し庭の中を駆け回る。

そして、それを追いかけるじいやとそれを見守るばあや…幸せな情景がそこには映っていた。

 

 

グワァンッ

だが、突然その光景が歪み出した。

すると、じいやもばあやも××と呼ばれた男の子も全てがぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。

 

やがて…おぼろげに先程とは別の光景が映される。

 

それは、初老の男が1人の赤子を溺愛している様子であった。

扉の隙間から覗いているため、ハッキリとは分からないが、

その男は「沙織…沙織…沙織…」と口元でボソボソと呟いていた。

 

ガッシッと何かに掴まれる感覚に襲われる。

体をジタバタとさせそれから逃れようとするが、今度は首元を掴まれ、扉の前から引き剥がされる。

 

「光政様は今、忙しいのです。××様、大人しく別館へお戻りください。」

 

「離せ!辰巳! ぼくは父上に話があるんだ!父上!!父上ェェェェ!!!」

 

男の子の声が、扉の前にこだまする。その声は、先程の可愛らしいものではなく、絶望と苦しみに満ちた、悲しい声であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「父上ッ!!」

その声とともに思い切り腕をつき伸ばす。

バァッとベットにかけられていた布団が跳ね、そこで少年は我に返った。

 

「ハァハァ…何だ…夢かよ。朝っぱらから嫌な夢を見るぜ。」

そういうと、少年はつき伸ばした手を引っ込めて頭を抱える。

久々にこんな胸糞の悪くなる夢を見たな

と少年は思った。

今まで見ていたものは、自分がずっと前に封印した記憶。正直。もう二度と思い出したくも無い過去の日々だ。

 

「今更になって、これかよ…クソッ、今日は厄日かもな…」

そう少年が呟くと、それに合わせるかのように、ゴンゴンッ ゴンゴンッ と少年のいる小屋の扉が叩かれる。日も出ていない明朝、こんな時起こされるのは雑兵である少年にとっては日常茶飯事のことである。

 

「おい!名無し。飯だぞー早く起きろ!お前今日の飯炊き当番だろ? いい加減準備しねぇーとドヤされるぞー」

扉の前から男の声が聞こえてくる。

その声は、少年のよく知る人物のものだった。

 

「わかってるよ!朝っぱらからすまねぇなギルティ。今支度して調理場行くからよ、少し待っててくれねぇーか?」

「わかった。でも早くしろよー。今度ヘマやったら、俺たち隊長たちに殺されちまうぞ!」

扉越しに、親友であるギルティとそんな会話をしながら少年は、速やかに朝の支度を行う。

今まで、着ていたボロボロになったシャツを脱ぎ、部屋干ししていたシャツに着替える。そして、壁に吊り下げている革の防具を装着して急いで扉まで向かった。

少年は。バァッンとドアを荒々しく開けると、先程から扉の前で待っていた親友に声をかける。

 

「待たせたな、それじゃ行こうか。」

「おう!…ん? お前、今日はやけに機嫌が悪いな」

少年が少しイライラしていたため、扉を乱暴に開けたのを見たからか、ギルティはそう問いかけた。

 

「嫌な夢みちまったんだよ、ただそれだけだ気にすんな。」

「へー、名無し。お前が見たその嫌な夢ってどんな夢なんだ?」

その言葉を聞き少年は一瞬、余計なことを聞きやがってという顔をする。あまり過去の事は話したくないようだ。

(面倒くせぇ…)と、どうにか話をはぐらせないものかと少年が考えていると、辺りが次第に明るくなってきた。

 

「…っておい!もう日が出てきちまってやがるぜ!早く行かねぇとマジでヤバイぞ!!」

「え!? げぇ…うそだろ…走るぞ名無し!!」

日の光を見て、名無しと呼ばれる少年とギルティと言う名の親友が、聖域の険しい道を駆け抜ける。

 

これは、星矢が聖域で天馬座の聖闘士として認められる8年前の…

『名無し』と呼ばれる雑兵のある1日の始まりである。

 

 

 

しばらくして、調理場についた名無しとギルティは、無造作に置かれている野菜や雑穀を

適当に大鍋にぶち込みグツグツと煮立てていた。

 

「なぁ、名無し。もう少し丁寧に作った方が良かったんじゃないのか?」

「いいじゃねぇーか。速い、うまい、安い、の三拍子揃ってる雑穀雑炊だぞ。

それに、朝飯の時間までに作れないよりかはマシだろ?」

「まぁそれはそうだが、流石に雑炊一品というのは…」

「これ以上作るのはめんどちっーし、時間ありませんでしたーって言っときゃ何とかなるさ。」

「呆れるほど潔いな。」

 

そんな会話を交えながら2人は着々と朝飯の支度を進める。

 

気づけば朝日は完全に顔を出し、あたりはすっかり明るくなっていた。

そして次第に、調理場の周りに人が集まりはじめ、騒がしくなってきた。

 

すると、ギルティがパンパンッと手を叩く。

それの音を聞いた周囲の人間達は、ギロッとギルティの方を見据える。

 

(怖ぇぇ…やっぱりこれだけは何度やっても慣れないんだよなぁ)

そう思いながらギルティは、彼らに向かって大きく叫んだ。

 

「おはよォォォございますッッ!!

今からァァ朝ご飯の方のォォォ配給を行いまァァァァす!!」

 

その声を聞いた瞬間。

ゴォォォと人が津波の如く大鍋の方に押し寄せる。

 

「どけどけ!」「俺が先だぞ!ゴラァ」

「テメェ押しやがったな!」「おい!今日の雑炊具材が結構入ってらぁ!」「いただきまーす。」

などと、様々な声が飛び交い周りはたちまち大混乱に陥った。そんな人混みの中をギルティはやっとの思いで這い出る。

 

 

「ゼェゼェ、死ぬかと思ったぜ…」

「お疲れさん。と、言いたいところだがまだ仕事が残ってるぜ。」

 

名無しは膝に手をついてクタクタになっているギルティを引っ張り、大鍋から少し離れたところに連れて行く。

すると、名無しは大鍋に群がる人間達に見えないようサッと小鍋を取り出し、手早く器に雑炊をよそり始めた。

 

「お、俺はここで休んでていいか?流石に疲れた。」

「んなこと言ってたら、午前の訓練どうなるんだよ…まぁいいか。ちょっとそこで休んでろよ。これでも食っとけ。」

「すまねぇ」

そういい名無しは、よそった器をギルティに渡すと、小鍋を持って人混みの周りにいる子ども達の方に向かっていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

聖闘士の修行。

それは一般的に幼年の頃から行われ、その修行内容はとても厳しいものである。

自身の肉体や精神を限界まで追い詰めることにより、小宇宙(コスモ)というものを身につけるらしいのだが、名無し自身、これを会得するまでには至っていない。

 

話を元に戻すが、この朝ご飯の時間もその厳しい訓練の一環であり、あの人混みの中に飛び入り自身の食べるものを確保する

それができなかったものは朝ご飯は無し。

敗者には厳しいのである…

だが、もちろんの事。幼い子ども達は大人に勝てるはずもなく、こうしてあぶれてしまうのだ。

 

名無しの仕事というのは、このあぶれてしまった子ども達に朝ご飯をやることである。

本来、この行為は許されるべきことではないが、名無しという少年は、そんな子ども達をを見て見ぬ振りをするほど冷たくはなかった。

 

「ほれ、ガキ共。今日の朝ご飯だぜ食いな。」

その言葉にさっきまで膝を抱えて腹を鳴らしていた子ども達がワァっと集まってくる。

名無しはそんな子ども達を一列ずつに並ばせ、1人1人にちゃんと器を手渡してやる。

 

「ありがとう!お兄ちゃん!!」

そう言って子ども達はすぐさまご飯をかきこんでいく。

そんな子ども達の姿を尻目に、名無しは次々と盆から器を渡し、小鍋の中身は瞬く間に消えていった…

 

 

 

「さて、そろそろ終わったな」

名無しはうーんと背伸びをして、辺りを見回す。

(よし、腹を空かせうずくまっている子どもは見えない。)

そう確認し、鍋からあらかじめよそっていた器を取り出す。冷めてしまったが今日の分の朝ご飯だ。

 

「いっただきまーす!」

手を合わせやっとありつける飯をかきこもうとした瞬間、何かの目線を感じた。

振り向くと、そこには仮面を被った子どもが恐る恐るこちらを伺っていた。

 

「…」

「…」

互いに互いの様子を伺い言葉を発しない。

 

そして、しばらくの沈黙の後。

グルルルルゥゥゥという腹の音が鳴り響いた。

 

「 ぶっ はははは!」

その音を聞いて名無しが吹き出した。

 

すると、仮面を被った子どもは不機嫌になり

「何?…お前のでしょ?私はやってない。」

と名無しを睨みつける。

 

「はははっ お前のだろうどう考えても…

なるほど。そういやお前、配給の時いなかったなぁ。」

「!?ッ い、いたぞ!私はたしかにお前からそれを貰った!」

「ふーん。でもな残念だったな。俺は人一倍記憶力がいいんだ。はっきり覚えてるぜお前はいなかった!」

「い、いた!そ、それに、貰った!」

そこまでいうと、名無しはわざとらしく待っていた器をを指差してこう言った。

 

「へー、まぁいいや。

…あれ?なんだこの飯ぃなんかすっげぇー不味そうだなぁ。」

「!?ッ」

「それに、冷めてやがるなぁー。あーもう食べる気が失せたわー。」

「そんな見え見えの同情いらない!!」

「…食え」

「いらない!」

「食え!」

「いらない!!」

「ええい、食わんか!!」

「いらない!!!」

 

「…はぁ」

そう名無しが溜息をつくと、いきなり立ち上がりその子どもに近づいていく。

子どもは、ピクッと肩を跳ねらせ逃げようとするが、名無しにガシッと肩を掴まれ捕まえられてしまった。

 

「変な意地張るなよ…朝飯抜いたら午前の鍛錬で死んじまうぞ。」

しかし、それでも子どもはバタバタと手足を動かし逃げようとする。

 

「おい…いい加減にしねぇーとその仮面ひん剥いてでも食べさせるぞ。いいのか?」

「それは…」

「女聖闘士にとって仮面の下の姿を見られるのは自身の裸を見られることより恥ずべき事なんだろ? 嫌ならさっさと言うことを聞け。」

そういうと、子どもは徐々に抵抗しなくなり名無しに言ったとおりに従った。

それを確認した名無しは「冷めちまってるけど…」と言いつつその子供に器を渡す。

 

「じゃあな、生意気な女聖闘士さん。」

名無しは捨てゼリフを吐き、その場から立ち去ろうと背を向ける。

その時、「…んで」と、子どもが何か言いかけた。

 

「あぁん?何だよまだ何かあんのか?」

 

「…何で? 無視すればいいじゃない。私は修行…いわば生存競争に負けたのよ?」

 

「たまたまだろ?今日は大人の奴らも多かったし仕方ねぇーよ。」

 

「…うるさい…聖域では、負けたものには明日はやってこない。それなのに何故?」

 

「ふーむ。お前、ちっこいのに聖域(ここ)のシステムをよく理解しているな。まぁ、なぜ助けたかといえば、そうだな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「!?ッ み、見てない!!それに仮にそうだとしても、何でよ!弱い存在は脱落していくそうでなきゃ…」

 

「おーやだ。お前そんな風に簡単に諦めちまっていいのか?俺はそういう考えは一番嫌いだ。なーにが、弱いだの強いだの、本当に下らねぇ」

 

「…でも!」

 

「あーめんどくせぇ。んな元気があるならちゃっちゃと飯食ってくれよ…俺はもういくからさ。あばよー」

 

そういうと名無しは子どもの前から立ち去り、ギルティの待つ場所へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

これが、名無しという雑兵と仮面を被った子ども…もとい白銀聖闘士、鷲座の魔鈴との初めての出会いである。

 

 

そして、ちょうどこの時。

聖域にアテナ降臨してから5年の歳月が流れていた…

 

 




今回の主な登場人物。

名無し…謎多き雑兵。なお、1話の時点で死亡している。

ギルティ…分かる人にはわかる人。ちなみに名無しの親友。

鷲座の魔鈴…原作主人公である星矢の師匠。しかし、現時点では聖闘士ではなく聖闘士候補生。




企画小説前に4500字ほど置いていきます。

*11/19日加筆修正を行いました。


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旅立ち…そして、少年は行く。



ガチで難産だったよ…

ちなみに、原作突入するのは後3話くらい先になりそうです。
近いうちに登場人物一覧作っていこうと思っています。




 

 

ドォッンッ ドゴォォォンッッッッッ

 

ある日の夜。空に星が煌めく中、何かが砕け散るような轟音が響き渡る。

その音は、聖域(サンクチュアリィ)の外れにある険しい崖の方から聞こえてきた。そこは、そこらに穴ボコがたくさんできており、その中でも崖の中央には一際大きなクレーターのようなものができている。

 

シュゥゥゥゥッ

 

そのクレーターの中心部から何やらくすぶった音が聞こえる…よく見るとクレーターの中心には1人の少年の拳が突き刺さっていた。

 

「嘘じゃねえんだよな……」

 

その少年はそう呟くと、突き刺さっていた右手を思い切り引き抜く。瞬間、ボゴッという音を立ちクレーターに亀裂が入った。

 

「ハァ…ハァ…やっと俺は、俺は…」

 

少年はまるで、自分の会得した力を再確認するようにギュウッと音を立て、拳を握りしめる。

彼は、擦り切れたシャツに薄汚れたズボンを履き、両手には革の手甲をはめていた。

その姿は雑兵又は聖闘士(セイント)候補生を思わせるようだ。

 

 

…少年の名は、『名無し』この物語主人公である。

 

 

今から語るものは、原作主人公、星矢が聖域において天馬座聖衣を手にいれる前。つまり、原作開始からおよそ7年前の『名無し』と呼ばれた1人の少年の話だ。

 

そして、名無しの過去と因縁の物語である。

 

 

 

 

***

 

 

 

轟音が聖域に響いてから少し経ち、タンタンッと険しい山道を名無しは走っていた。

山道を駆ける彼の目は希望に満ち溢れキラキラと輝いていた。

 

「よっしゃぁぁぁあ ついに、ついに!俺はやったんだ!!」

 

走りながら、思い切り右手を前に突き出し名無しが叫ぶ。今、彼は絶頂の最中にいた。

 

…彼が走り回り喜んでいる最大の理由。

それは名無しが、聖域に来て約3年、やっと小宇宙(コスモ)に目覚めることができたからだ。

 

 

 

 

小宇宙(コスモ)

誰しもが持っている生命エネルギーの総称。

聖闘士はこれに目覚め、小宇宙を燃焼させる事で莫大な力を発揮することができる。

また、小宇宙を燃やしての攻撃は、物質の原子を砕く事を主眼に置いており、その破壊力は絶大なものである。

そのため、聖闘士の拳は空を裂き蹴りは大地を割ると形容される事もあるくらいだ。

 

そして、小宇宙に目覚めるためには、己の肉体と精神を想像を絶する程、限界まで追い詰めなくてはいけない。

無論。名無しもそれを行なったわけなのだが、彼がどのようにして、自身を限界まで追い込み小宇宙に目覚めたのか?それは、今回語るべきものでは無いので、また後の機会に語ろうと思う。

 

「へへっ やっとだぜ。これで父上に面と向かって物が言える。」

 

そういうと名無しは突き出した右手を手前に引き戻し、その手を胸に当てる。

先程、崖に大穴を開けたその拳は燃えるように熱かった。そして、その拳の熱は、今の名無しの心を象徴するかのように、おさまることはなかった。

それに合わせて走るスピードは速くなり、ダッダッと地を踏みしめる音が大きくなる。

 

名無しは、ある所に向かっていた。

それは、彼の師匠である「隊長」という雑兵の住んでいる小屋である。

 

「隊長!! 俺ついにやったよ。俺、宇宙に、小宇宙に目覚めることができたんだ!!」

 

バァッン!!

そう叫びながら、名無しは勢いよく小屋のドアを思い切り開ける。

 

「ぁぁ?…騒がしいな…誰だぁ?」

 

すると、部屋の奥から少し眠たそうな気だるい声が聞こえてくる。声から察するに少し不機嫌な様子だ。しかし、名無しは構わずテンションの高いまま部屋主に向かってギャーギャーと騒ぎ立てる。

 

「隊長。 俺だよ。俺!名無しだよ。今日やっと、やぁぁっっと目覚めたんだよ! 小宇宙に!!」

 

「…ふぅん…小宇宙に…ねぇ…」

 

…この「隊長」と呼ばれる男こそ、名無しの師匠であり、聖域の雑兵を纏め上げる総大将である。

彼は、雑兵でありながら、今の名無しと同じく小宇宙に目覚めており、その戦闘力は数多くの聖闘士からも一目置かれている。

そして、教皇からもその実績を買われ聖闘士の育成の方も行う聖域の中でも特異な人物であった。

 

それはさておき、

「隊長」と呼ばれた男は、名無しの方に背を向けてベットに横になりっており、頭をガシャガシャと掻きむしっている。

その様子を見た名無しは、口を尖らせ悪態をついた。

 

「ちぇっ なんだよ…もう少し喜んでくれると思ったのになぁ」

 

その声を聞きピクッと、隊長の肩が震える。

すると、ギギギッと音を立てて名無しの方を振り向いた。

その顔は、酷くやつれており目は充血していた…

 

「ああ…こんな夜遅く人様が寝てる時に、けたましい轟音なんか立てず、ギャースカ騒がずにいたら素直に喜べたかもなぁぁぁぁあ!!一体今何時だと思ってんだコラァァ!!」

 

「げぇっ!?」

 

隊長の怒鳴り声で、途端に冷静さを取り戻した名無しは、頭から血の気が引いた。

 

先程まで、名無しは小宇宙に目覚めた嬉しさあまりに、拳でそこら中を殴り回っていた。

聖域の外れということで、遠慮なくバカスカ殴っていたが、まさかその音が聖域まで響いているとは思わなかったのだ。

そして、その時立てていた轟音は知らず知らずのうちに、己の師匠の安眠を妨害していたらしい…

 

そんな考えをよそに、ズリ…ズリ…と、ベットから隊長が這い出して名無しに迫る。

 

やべぇ…逃げなきゃ…

名無しの脳裏に『逃走』の二文字が浮かび上がる。が、

 

「そこになおれぇぇぇ 名無しィィィッ!!」

 

「す、すみま…」

 

「謝罪よりまず、鉄拳制裁じゃぁぁあ アホッ!!」

 

隊長の怒号に、すぐさま謝罪を口にした名無しだったが、時すでに遅く、共に振り下ろされた拳骨が名無しの頭を直撃した。

 

そして、今度は聖域に、ぎゃぁぁぁぁぁぁあ という名無しの絶叫が響き渡ったのはいうまでもなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「なるほど、つまり、お前は迷惑かけんと聖域の外れまで行き、バカスカ崖を殴っていたと… そういう事は訓練の時にやれ。」

 

隊長が呆れたように名無しに声をかける。

 

「す、すみません。 でも、夜中の自主練の時に最後の確認というか、その….どうしても試したくて。」

 

「まぁ、気持ちはわからないでもないが…この時間帯は不味いだろ。というよりも、自主練できるような体力があることに驚きだ。ちゃんと日々の訓練やってんのか?」

 

「やってますよ!その上での自主練です!! …ってぇ頭に響くぅぅ」

 

そう呻きながら、名無しは頭にできたたんこぶを抑える。 その様子に、隊長は少しため息をつきながらも微笑ましく見ていた。

 

「おい。名無し…いや2人の時は"オリマサ"でいいか。お前本当に小宇宙にめざめることができたのか?」

 

「はい!なんなら今すぐにでも地面に大穴開けられる自信があります!」

 

「ほう、拳骨ひとつでは物足りんというのか?…」グッ

 

「え?い、いや、そ、そういうつもりではないです!!」

 

「ふっ冗談だよ。で、オリマサ?お前これからどうする気だ?」

 

 

隊長は拳を下ろし名無しにそう問う。その目は、己の弟子の成長をに期待するものと辛そうなものの両方を含んでいた。

 

 

 

「一旦、日本に帰ります。小宇宙に目覚めて、聖闘士の闘法を身につけられたと思うので、この成果を父上に見せに行きたいです。」

 

「そうか…途中報告みたいなものか。俺はもう少し修行してからの方がいいと思うがな。」

 

「風の噂によれば、もう、孤児の収集が始まっている… チンタラやってる暇なんてない。あの悪魔の計画を阻止するには、もう時間がないんです。」

 

そう言いながら、名無しは下を向く。

彼の表情は下を向いているため伺うことはできないが、歯をグッ食いしばり何かをこらえているようであった。

 

「悪魔の計画…か、それを阻止するのがお前の目的だもんな。」

 

隊長の言葉に名無しは顔を上げる。

 

 

「ええ、だからこそ、俺はやらなきゃ………」

 

 

 

その後に続く言葉を聞きいた隊長は、

不意に名無しと出会った3年前のことを思い出した。

何故なら、その後に続く言葉は

3年前、自身の出した問いに、答えたものと全く同じだったからだ…

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

隊長side

 

 

 

 

名無しと俺との出会いは、3年前のある晩のことだった。

 

俺は、その夜。雑兵として聖域の結界が張られているギリギリのところを警備していた。

 

…今日もう何も起きず平和だな。結局つ立ってているだけか…何かこう平和じゃない方が暇じゃなくていいよな…

 

「はぁ…」

 

本当に、人間暇だとロクな事ことを考えない。変なため息が出てしまう。

 

…うたた寝こいてたって何も起きやしねぇよな…今日も疲れた…

 

退屈過ぎるので俺は、近くの岩に屁を預け膝を抱えて寝ることにした。

 

すると、

ジャリ…ジャリ…っと人の足音のような、何かを引きずった音が聞こえてきた。その音は段々とこちらに近づいてくる。

 

俺は、その音に跳ね起き眠気も吹き飛んだ。聖域の結界は、何人たりとも認知することができない。その結界を認知できるのは、聖闘士と女神アテナだけだ。

そう、基本的に聖闘士でない以上、聖域には誰も入る事ができない…ならこの侵入者は…

敵である可能性が高い。

 

俺は恐る恐る、その足音に近づいていき岩陰から様子を伺った。

するとそこには、1人の子どもがフラフラと歩いていた。その子どもは全身傷だらけで左足を引きずっていた。

それに、衣服は所々穴が空いており、その様子は、歩いているのがやっとではないかと思えるほどズタボロであった。

少年はそれでも歩き続ける。しかし、限界が訪れたのか、急にバッタっと倒れ込んでしまった。

 

「なぁ!?お、おい! お前大丈夫か?」

 

俺が声をかけるがその子どもは軽く指を動かすもすぐに力尽きグッタリとしてしまった。

 

「起きろ!? …クッソォちょっと待ってろ!」

 

何故、聖域に迷い込んだのか?何故こんなにズタボロになっていたのか?

問いたいことは山ほどあったが、

結局俺は、その子どもを小屋へ運んで行き看病した。

 

 

…それから、その子どもが聖域に来た翌日の朝。ソイツはようやく無事に目を覚ましたのだが…

 

「ふぬぬぅ!!っいったぁぁ」

 

「おい!?バカ野郎ッ まだ安静にしてやがれ!!動くんじゃねぇーよ。」

 

ソイツは目を覚ますなり、ベットから身を乗り出し立ち上がろうとした。俺はすぐさま止めるがそんなのお構いなしと言わんばかりに動こうとする。

 

「どいて下さい!! ハッ!?まさか、あなたは…また僕から身包みを剥ごうとしているんですね!!」

 

 

…は?

 

 

「ちょぉぉっと待て!お前は寝起き一発目からとんでもない勘違いしてるぞ!」

 

俺はソイツの言葉を必死に否定する。

…ソイツの第一声で3日前ズタボロだった理由が少しわかった。

しかし、身包み剥がさせれてまず一番最初に行くのは警察だ。間違ってもここじゃない。

 

「いいか!? 俺はお前を看病してたんだよ。だから逃げる必要はねぇ!」

 

「…そ、そうだったんですか。それはとんだご迷惑をお掛けしてすみません。

ってそうじゃなくて!!離してくださいッ 僕は一刻でも早く行かなくてはいけない場所があるんです!!」

 

「おいおい!だからっと言って….」

 

「早く、聖域に、聖域に行って…僕は、聖闘士にならなくちゃいけないんだ!!」

 

そういうと、子どもは俺を押し切り立ち上がる。が、ソイツは左足が包帯でガチガチで固定されていることに気づかず、俺の目の前で思い切りすっ転んだ。

 

…ゴキっという嫌な音が聞こえた気がするが気のせいだと思いたい。

 

「ぎゃぁぁぁぁあ 足がぁぁ 取れるぅぅう」

 

ソイツは絶叫とともに左足を抑えうずくまる。ああ、やっぱダメだったみたいだ…

 

「一旦落ち着けぇ!ここがその聖域だ!だからいい加減暴れんなァッ!」

 

俺は泣き叫ぶソイツをベットまで運ぶ。

全くもって大変な朝だった。

 

 

 

 

しばらくして、左足の手当てとここが聖域であるという説明を済ませた後、俺は、昨日から色々疑問に思っていた事を聞いてみた。

 

 

ソイツは、はじめはオドオドしながらも、段々しっかりと、俺の質問に答えてくれた。

 

そして、わかった事を羅列すると…

 

・子どもの名前は、キド オリマサと言う。

・オリマサは日本有数の財閥の御曹司らしく、そのことから言葉の丁寧さにも頷ける。

 

・オリマサはどうしても聖闘士になりたいらしく、日本から遠路はるばる、しかも子どもの身でありながら単身で、ここギリシアまで来た。

で、

到着したまでは順調にだったらしいのだが、いくら探しても聖域が見つからず、困り果てていた時、親切にしてくれた人達がいたらしい…

だが、ソイツらはオリマサに親切にするフリをして身ぐるみをかっ剥いでいった。まぁ、要は旅行人専門の追い剥ぎ集団だったという。

その時、オリマサが抵抗した時にできたのが、全身の擦り傷切り傷と左足の怪我というわけだ。

そして、ボロボロになりながら彷徨っているうちに、皮肉にも目的地であるここに到着した。

 

 

…にわかには信じがたい話だが、事実。全身ズタボロであり、追い剥ぎに襲われたことはまず間違い無いだろう。それに、オリマサはその傷もまるで気にせず「聖域」「聖闘士」という単語を口にするあたり、「聖域に向かっていた」という事も肯定できる。

不確かなのは、御曹司という、ギリシアに来る前の身の上の事だが、これはさほど重要なものではない。

 

 

 

…さて、だいぶ大雑把だが、ここまでのことを整理して、一番の疑問が浮かぶ。

 

この、オリマサという少年をここまで突き動かしているものは何なのか?

 

 

「なぁ? オリマサ。何でお前そんなに聖闘士になりたいんだよ? 聖闘士になることにそこまでお前を動かす理由があるのか?」

 

俺は問う。何をもってコイツは聖闘士になろうとしているのであろうか?そして、その理由を。

 

「僕が、聖闘士になりたい理由…それは!!

 

今までの俺の質問にうつむきながら答えてきたオリマサが顔を上げる。

 

そして、オリマサ…後の名無しと呼ばれる少年は、こう答えた。

 

 

 

 

『弟達と妹達を守るため(です())!!』

 

 

 

 

回想終了

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「もう、行くのか…オリマサ?」

 

「ええ、日の出前にはここを発つつもりです。」

 

「…そうか、あのメソメソ泣いてたガキが今じゃこんなんだもんな。」

 

今、我が弟子は3年間の地獄とも言える日々を生きぬき、ついに小宇宙に目覚め、次は自身の目的を成そうとしている。

 

最後に何かできることはないか?

 

そう思った隊長は、ハッとしたように部屋の箪笥の中を漁り始めた。

不思議そうにこちらを見るオリマサを尻目に、隊長は「あ、あったぞ!」とあるものを手にした。

 

「オリマサ、コイツはまぁ、選別と言っちゃ何だがな。俺の弟子達で小宇宙に目覚めた奴らには必ず渡してるモンなんだ。受け取ってくれるか?」

 

そう言って、隊長の手から差し出されたのは、赤いバンダナであった。

 

「この赤いバンダナ…カッコいいです!」

 

「ふっ そりゃそうだろう。このバンダナはな俺の特注品だ。そうそう手に入るモンじゃねぇぞ。」

 

「凄えぇ、本当にこれ貰ってもいいんですか?」

 

「 ああ 」

 

そういうと、早速オリマサはそのバンダナを頭に巻く。その姿はとても勇ましく雄々しいものであった。

 

「似合ってるじゃねぇか…行ってこいよ。そしてお前の目的をちゃんと果たして、また聖域に戻ってこい。そした次は、聖衣(クロス)をもらえるよう更に特訓だ。」

 

「はい! 行ってきます。隊長…3年間ありがとうございました!!」

 

そういうと、オリマサは隊長に背を向ける。

そして、こちらを振り向き、少し名残惜しそうにへへっと笑うとそのまま、駆けていく。そして、その姿は次第に夜の闇の中に消えていった…

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『先生! 俺これ貰ってもいいんですか?』

 

『ああ、俺からのプレゼントだ。受け取れ アイオロス。』

 

『やった! ありがとう先生!!』

 

 

 

 

…オリマサを見送った隊長は、少し寂しさをを感じるとともに、もう一つの遠い昔の記憶を思い出していた。

 

隊長は誰にも聞こえないような声でそっと呟いた….

 

「アイオロス…もうすぐ、お前の無念を晴らしてやる。だから、どうか天から、弟弟子であるオリマサを見守っていてくれないか…

不甲斐ない俺からの頼みだが、よろしく頼む。」

 

そして、隊長は星が煌めく夜空を見上げる。

 

今は亡き我が弟子に願いを込めて……

 

 

 

 

 

 

 

 




おもな登場人物

名無し
本名が、キド オリマサ ということが判明。彼の過去については次回に詳しく。

隊長
雑兵の中でも小宇宙に目覚めている結構珍しいお方。名無しの師匠であり、今の所、聖域の雑兵達の親玉的ポジション。
昔、アイオロスという弟子が居たらしい…(すっとぼけ)



*お知らせ

こんちわ! 私のもう一つの小説の方をお読みになってくださっている読者の方はお気づきだと思いますが、この度、この小説の方ともう片方の連載小説の方で、伸び率が高いものを優先的に投稿しようと考えております。
理由としては、伸び率が作者のモチベーションを上げる一つの要因になっており、できることなら、読者の皆様方からの反応が多い方を優先的に執筆していきたいと思ったからです。

誠に勝手な理由なのですが、どうぞ皆様のご理解、ご協力の方をお願い致します。

できることならば、感想や意見などのアクションをしていただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。


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帰還…そして再開。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜昔…星矢達が生まれるよりもずっと前〜

 

 

 

 

 

都内の病院の手術室の前に1人の男が立っていた。

 

その男は、額に脂汗をかき、手術室の前をあっちへウロウロこっちへウロウロと、どうにも落ち着かない様子であった。

 

それからしばらくして、

手術中と書かれたランプの灯りが消え、手術室のドアが開く。

中からは白衣に身を包み、疲れ切った様子の執刀医が現れた。

 

すると、さっきまで手術室の前にいた男がその執刀医の肩を掴み、必死に叫ぶ。

 

「先生! 妻は…子どもは無事ですか!!!」

「 … 」

「どうなんですか!!妻は、沙織は!!無事何ですか!!!」

「 … 」

「…ええいッ 答えんか貴様ァ!!沙織は!!私の妻は無事なのかと聞いているんだッッ」

 

男の口調が急に荒々しくなり、執刀医はそれを無言で受け止める。

その態度に腹を立てたのか男は、片手で執刀医の胸ぐらを掴みもう一方の手を大きく振りかぶった。

 

「 おやめください!光政様! 」

「 どうか、どうかお鎮まりを! 」

 

そんな声とともに、どこからともなく現れた黒服達によって男は抑えられる。

そんな姿を尻目に執刀医はボソリと呟いた。

 

「 城戸様…元々無理だったんですよ。」

 

それを聞いた男は、黒服達を振り切ろうと暴れ出す。しかし、その姿は、これから突きつけられる現実から抗おうとしている風にも見える。

 

「無理だっただとは…どういうことだ!!」

「…沙織様のお身体は出産に耐えられるような身体ではなかった…もちろんそれを覆せるよう我々も全力を尽くしました。 」

「 …まさか…沙織は…」

「沙織様は元気な赤ちゃんをお産みになられました。

しかし、沙織様の方は残念ですが…心中お察しします。」

 

そう執刀医は言うとトボトボと手術室の前から立ち去った。

 

残された男はそこにヘナヘナとその場に座り込み、黒服達は何も言えず立ち尽くしている。そしてその後、病院全体に聞こえるほどの男の慟哭が響き渡った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー日本ー

 

東京のビル街は今日もガヤガヤ騒がしい。

そして、その沢山の人々が行き交う中を、オリマサは歩いていた。

 

「懐かしいな、この空気。聖域と比べると汚い空気だけど、この匂いを嗅ぐとようやく帰ってきたって実感が湧くぜ」

 

そういうと、オリマサは頭に巻いている隊長から貰ったバンダナに軽く触れる。

 

「やっと帰ってきたんだ…父上に絶対目にもの見せてやるッ 」

 

触れた手でギュッとそのバンダナを締めるとともに彼の決意はより一層固くなった。

そして、オリマサは目的の場所である「城戸邸」へと足を進めた。

 

 

 

……彼がこれから向かう「城戸邸」それは一体どんな場所であるのだろうか?

それを説明するためには、少し話を脱線させねばならない。

 

 

1970〜80年代

バブルに突入しかけていたこの国、日本では、色々な企業がその恩恵を授かっていた。

そして、それは、日本に拠点を置くアジア最大の財閥、「グラード財団」にも影響を及ぼし、より一層の富を築いていた。

更にそれに合わせて、財閥総帥である『城戸光政』という男の手腕も重なり、彼や財閥のその社会的地位は金持ちという枠組みを超え、天の人と言わしめるまでのものとなっていた。

 

つまり、「城戸邸」とはそんな勝ち組の中の勝ち組と言っても過言でもないような男、グラード財団総帥、『城戸光政』の住まう巨大な屋敷のことである。

 

さらにそこは、オリマサの実家でもあるのだった……

 

 

 

***

 

 

 

 

オリマサside

 

 

「…改めてこう見ると、バカでかいな…俺がいた時より増築されてるんじゃないか?」

 

東京の外れにある城戸邸に着いた俺は、その久しく見る屋敷の大きさに、思わず唸った。

 

それもそのはず、城戸邸の敷地面積は、俺がいた頃に比べ、かなり拡大しており

それは、グラード財団がここ数年でまた大きな利益を上げていることを示していた。

 

 

まあ、それはさておき。

 

俺は屋敷の前で悩んでいた。

なぜなら、久々の実家の成長ぶりに困惑しているのも確かだが、それ以上に気に病んでいることがあったからだ。

 

「どうしたもんかなぁ…『見せつけてやる!!』なんてカッコつけたのはいいけど、ココを家出同然で出て行っちゃった訳だし……」

 

俺は3年前、父上と喧嘩別れの形で家を出た。お互いの意見のぶつかり合い、食い違いとでもいうのか…まぁ色々あったのだ。

だが、俺としては、こちらから頭を下げる気は毛頭ない。いわば、この親子喧嘩はいまだに続いているのだ…

どのみち、父に会うにはこの門を真正面から潜らなくてはいけないのだが

それをするには中々勇気が必要だ。

 

…しばらく考えた後、俺は城戸邸に行くのは少し後にしようと決めた。

 

「やっぱ、最初に行かなくちゃいけないないのは…あそこだよな。」

 

俺はそう言い、城戸邸に背を向け辺りをブラブラと歩き始める。

しばらくして…

城戸邸から少し離れたところにポツンと建っている小さな屋敷が見えてきた。その屋敷は、城戸邸に比べるとこじんまりとしたものであり、全体的に古臭いものであった。

 

…変わってねぇな。

そんなことを感じながら屋敷に近づき、正門に手をかける。しかし、その正門は鎖で繋がれており、加えて南京錠できっちりと施錠されていた。

 

「あちゃー…施錠済みか。中に、ばあやとじいやがいるの可能性は低そうだな……いや、でも、もしかしたらいるかもしれないし、一応のぞいてみるか!」

 

そういうと、俺は屋敷の壁を軽々と飛び越えた。

…一応その壁は、低く見積もっても3メートル程の高さがあるのだが、聖域で死ぬほどの肉体修行を重ねた俺にとって、これくらいのことは造作もない事だ。

 

ドスッっと音を立て屋敷の敷地内に入ると、3年ぶりの我が家がこちら側に見える。

それは、とても懐かしく、俺をこの家の住人だった頃に戻すのに、そう時間はかからなかった。

 

ふと周りを見れば、

 

じいやと追いかけっこをした中庭

 

ばあやのお茶や手作りお菓子を食べたバルコニー

 

そして、2人と一緒に住んでいたこの小さく古ぼけた屋敷…

 

そんな幼い頃の懐かしい情景が、俺の頭の中に浮かんでくる。

 

(2人とも元気かな?会えればいいんだけど、正門が施錠されていたってことは…もう…)

懐かしさの後に、俺の心の奥底からそんな感情が込み上げて来た時

 

ガサッ…

 

後ろの方で、何かの物音がした。俺がその音に反応して後ろを振り向くと、そこには…

見覚えのある老人の姿があった。

 

「だ、誰じゃ!? ここは関係者以外立ち入り禁止じゃぞ! はよ立ち去れぃ!」

 

その老人は剪定用のハサミをこちらに向け、オリマサを睨みつける。

 

が、

瞬間

 

バァァァっと目から熱いものが溢れる。

ああ、やっと会えた。

 

「じいや? 俺だよ俺! オリマサだよ。忘れちゃったのかい?」

「ファ!?

こ、こやつ!不法侵入した挙句、泣きながら織政様の名を語るとは、な、何奴? ちょ、怖い!こっちにくるなぁぁあ」

「なんでそうなるんだよぉぉ!!

じいや!本当に俺だよぉぉ。城戸 織政だよ!!」

「く、くるなぁぁ。不審者ぁぁ!!」

 

俺は、そう必死に叫ぶがじいやと呼ばれた老人は聞く耳を持たず、剪定バサミを振り回しこちらに向かってくる。

 

実際、俺は、じいやのこの反応に相当傷ついていたのだが、後々から考えてみれば、その反応は至極当然のことだった。

 

考えてみても欲しい。

…施錠してある屋敷内に、何者かが侵入。それを確認しに行くと、そいつは目から水道の蛇口の如く涙を垂れ流し、「じいやぁぁ」と叫びながらこちらに向かってくるのだ。

そりゃ、顔を思い出すよりも先に、まず自衛に回るのが先だろう。

 

…ちょっと話が逸れたが、要は、双方ともにとんでもないすれ違いを起こしていたのだ。

 

すると、そのカオスな状況を終わらせるように、何処から聞き覚えのある怒声が聞こえてきた。

 

「こらっ! 爺さんッ あんたそんなもん振り回して何しているの!!」

「ば、ばあさん!!??」

 

屋敷の中から、老婆が現れた。じいやと同じかそれより少し若そうな雰囲気だ。

 

「それにそこのあなた! 涙と鼻水で顔中ぐしゃぐしゃじゃない。何があったか知りませんが、とりあえず顔をお拭きなさい!」

「ばあや…その声は、ばあやじゃないか!」

「ーッ!? まさかその声は…あなたは…いえ、あなた様は織政様!?」

 

咄嗟に叫んだ俺の声にばあやが反応する。

すると、さっきまで混乱状態に陥っていたじいやも声を上げた。

 

「へ? なんじゃと?織政…様?ーッ!?お、織政様ァッ!?」

「そうだよ2人とも!俺だよ。城戸織政だよ!!本当に久しぶり!会いたかったよぉぉぉお!!ただいまぁぁぁぁあ!!!!」

 

 

俺は、ぐしゃぐしゃに濡れた顔でニッコリと笑い、2人に向かってそう叫んだ。

とんでもなくひどい顔だったと思う。

でも、ずっと会いたかった2人の前で、やっと俺は…

 

「ただいま」という言葉を伝えられたんだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

しばらくして…

 

 

 

「織政様。つかぬ事をお伺いしますが、今まで、この3年の間どちらにいらしたのですか?」

 

オリマサが自身の育て親である老夫婦と3年ぶりの再会を果たした後、

ばあやがオリマサにこう尋ねた。

 

「え!?ああ…そうだね。ええっと…」

 

再開後、オリマサは涙でぐしゃぐしゃになっていた顔を拭き、ある程度落ち着きを取り戻していた。

 

だが、ばあやのその質問に言葉が詰まる。

 

それもそのはず、聖域での修行を説明するには聖闘士、聖域、小宇宙…まずこれを理解してもらわなくてはならない。

 

また、これらを説明しようにも、

これらの概念は一般人の感覚からすればお伽話同然。現実からかけ離れすぎている。

現に自分も父から話を聞いた時は、半信半疑であった。

そんなことを思いながら、オリマサは必死に頭をフル回転させる。

そして、ようやく絞り出した答えが、

 

 

 

・父からとてつもなく強い格闘家と格闘集団の話を聞き、自分もなりたいと思い修行をしに行こうと思った。

 

・しかし、その旨を父に伝えたところあまり良い顔をしなかった。

 

・なので、父や周りから止められるのが嫌で、家出のような形で家を出てしまった。

 

・そして、無事? 1人でその格闘家達の元へ向かい、そこで厳しい修行を耐え今こうして戻ってきた。

 

 

 

というものだ。

 

 

…我ながら大雑把過ぎる説明だが、仕方がない。

実際ここら辺の経緯はもっと複雑でドロドロとしたものであるのだが、これは3年前からの父との因縁だ。いくら育ての親と言えどもこれだけは言えない。

 

しかし、じいやもばあやもその話を、真剣に聞いている。

オリマサは、そんな2人に少し罪悪感を感じながらも、話を終わらせた。

 

「まぁ、そんな事が…

ですが、どうしてこのじいやばあに相談してくれなかったのです?織政様が黙って出て行かれなくてもよろしいように私達も旦那様にご理解いただけるよう協力いたしましたのに。」

 

じいやが少し悲しそうな声でオリマサに意見する。その言葉に合わせばあやも、そうと言わんばかりに首を振る。

 

「本当に、2人には迷惑をかけたと思ってる。でもね、その時の俺は、相談する余裕がなかったんだ。」

 

オリマサはそういって2人に頭を下げる。

…実際のところは、この2人を城戸家、言うなれば父、光政の闇に巻き込みたくなかったから。だからこそ、あえてオリマサはそのことを伏せておいた。

 

今日、ここで決着をつけられれば全てが終わる。そうすれば、その闇も晴れ。2人にも本当のことを話すことができるだろう。

そうオリマサは信じて3年間頑張ってきたのだ。

 

 

「それで今、此処に帰ってきたのには理由があるんだ。…それでさ。2人に頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

下げた頭を上げオリマサは、2人に問う。

その顔は聖域で「隊長」に見せた決意に満ち溢れたものだ。

 

「「ええ、何なりとお申し付けください。織政様。」」

 

「2人っきりで話がしたい相手がいるんだ。その人をここに呼んでくれないかい?」

「その人とは?……一体、誰でございますか?」

 

じいやの問いに、

オリマサは、今までの会話からは明らかに違う低いトーンの声で…静かにこう言った。

 

 

 

 

「グラード財団総帥、『城戸光政』………俺の父上をここに呼んでくれないかい?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

城戸 光政…

彼は、原作主人公である、星矢、紫龍、氷河、瞬、一輝をはじめとした10人の青銅聖闘士の父親であり

また、女神アテナを黄金聖闘士射手座のアイオロスより譲り受け「聖闘士星矢というか物語の基盤」となる人物である。

 

 

だが、城戸光政という人間は決して、聖人君子のような人間ではなかった。いや、むしろこの世の外道と言っても差し支えないだろう。

 

それは何故か?

 

実は彼には、100人を超える血の繋がった子どもがいた。

だが、その子ども達の母親は同一の人物ではなく、彼が交際してきた100人近い多くの女性である。

 

…ここまでのたった、70字にも満たない文章で彼の外道と呼ぶにふさわしい性格を感じ取っていただけたと思う。

 

そう…

聖闘士星矢という物語の基盤である、しかも「主人公"達"の父親」という重要なポジションの「城戸光政」という人物。

コイツは、言い方を変えれば、

ただの性欲にまみれた下半身大暴走ヤリ捨てジジイなのである。

 

…さらに驚くべき事に、彼の子どもたちのほとんどは孤児であるのだ。

 

最早、これは社会的倫理性云々かんぬんどころの話ではない。

星の数といっても過言ではない女性達と肉体関係を持ち、かつ、その過程で回避する事が出来ない「子ども」という存在をまるっっっきり無視し、認知すらしない。

 

…人というものはどこまで狂えばここまでの境地にたどり着くのだろうか?

 

 

後々、彼のこの行動が星矢達をはじめとした青銅聖闘士達を苦しめていくのだがそれはまだ先の話である。

 

 

 

***

 

 

 

 

「グラード財団総帥、『城戸光政』………俺の父上をここに呼んでくれないかい?」

 

 

 

オリマサ…いや改め、織政は3年ぶりに再開した老夫婦の問いにこう答えた。

 

その言葉に、2人の顔が引き攣る。じいやはまるで苦虫を噛み潰したよう表情になりばあやは無言で顔を下に向ける。

 

…やはり…か。

2人の反応を見て織政は、事態が自分の予想をはるかに超えていることを察した。

 

「…ごめんよ。やっぱり、父上の病気の方は、ますます酷くなっている様だね…」

「織政様! いくら織政様でも旦那様のことをそんな風に…」

「いや、最早あれは病気だよ…急いで来て正解だった。」

 

織政はそういうと、2人にくるりと背を向ける。すると、頭に巻いていた赤いバンダナをほどきこちらを振り向く。

 

「『沙織』…母上の名前をまだあの娘につけて、溺愛してるんだろう?それにそのせいで周りも見えなくなってきている……

父上は、あの娘を拾ってきた6年前から何も変わっちゃいないんだな。」

「織政様…どうするおつもりですか?大変申し上げにくいのですが、今の旦那様は織政に会おうとは致さないと思われます。」

 

じいやがより一層顔をしかめながらそういう。だが、織政はその答えにハッキリと答えた。

 

「だろうね…俺もそう思う。」

「ですから!織政様。また、一緒に3人で暮らしましょう!もうお辛い思いをなさられずともいいのですよ?」

 

今度は、ばあやが声をあげた。その声色は少し震えており、目尻には涙が浮かんでいる。

 

「でもさ…やらなきゃならないんだ。俺は今、ここで我を通さなきゃいけないんだ!」

「「織政様……」」

「城戸邸に着いた時さ。俺、父上にどんな顔をして会えばいいのかわからなかったんだ。それは、勝手に出て行ったから顔が合わせづらいっていうのもあったんだけど、実際は違う。」

 

本当はね…と言葉を付け加えながら、織政は真っ直ぐに2人を見る。

 

「父の狂った姿を目の前にして、どんな顔をして、俺のこの3年間で培った力と覚悟を伝えればいいのかわからなかったんだ!」

 

そういうと、織政は、解いた赤いバンダナを両手で伸ばしながら、2人の方へニッコリと笑った。

 

「でも、2人のさっきの表情を見てさようやく決意が決まったよ。こんなとこでクヨクヨしてたらダメなんだ!ここでやんなきゃ、俺の"弟"や"妹"達に、さっきのじいやとばあやの様な悲しい顔をさせてしまう。

だから、どんな形であれ、俺は俺のやってきたことを父上に伝えきる。

それで、父上が変わってくれるならもう何も思うことはないさ。」

 

ギュッッ

伸ばしたバンダナをもう一度頭に巻き直す音が響く。そして、ゆっくりと織政は視界から2人を外す。彼の向く方向の先には、小さなこの屋敷を囲う壁がある。

 

 

「ありがとう。短い時間だけど、2人に会えて本当に良かった。じゃあ…俺はもう行くね。

 

…行ってきます!」

「織政様!?」

 

ドォッン

地を蹴り織政が飛びその跳躍は壁を軽々と超える。そして、織政の姿は壁の向こうへと消えた。

 

その姿を見て、2人は腰を抜かしてしまう。

「…あら…あら…」

「あの壁を…ひとっ飛びで…一体、織政様はこの3年間何をしていたんだ?」

 

2人の老夫婦は立ち上がることができず、その場に座り込んだままだ。

 

 

 

しかし、そんな状態で、ふと、ばあやが笑う。

 

「 うふふっ 」

「何がおかしいんだ?ばあさん。」

「びっくりしたからよ。」

「そりゃまぁ、あんなものを見せられれば誰だって……」

「違いますよじいさん。」

「えっ? じゃあ一体何にびっくりしたというんだ?」

「最後に見せた後ろ姿…奥様に似ていらしたのよ。」

 

ばあやの言葉が、2人の脳裏に1人の女性の姿が浮かばせる。

それは、2人がまだ、城戸家にて執事として、家政婦として働いていた古くも懐かしい記憶だ。

 

 

 

『奥様!沙織様!やはりご出産は危険です。ここは旦那様のいう通りに…』

『ばあや、私なら大丈夫よ。』

『しかし、奥様!』

『じいやまで…

いい!よく聞いて2人とも。私はこの子を産みたいの。それが私の体が、命が危険に晒されてもね。私は…あの人との子供を産みたいのよ。

これは、もう決めたの。だからお願い!この子を産ませて!!』

 

そういうと、その女性は2人にくるりと背を向け、張ったお腹を愛おしそうに手でさする。その時の後ろ姿が、先ほどの織政の姿に重なる。

 

 

「たしかに…言われてれば…面影がある。」

じいやがそう呟くと、ばあやがその言葉に対しそっとこう返した。

「やはり、血は争えないのね…

 

奥様…今あなた様のお子はしっかりと逞しくなられましたよ…」

 

ばあやは少し晴れた青空に向かい顔を上げる。今は亡き主人へと祈りを込めて…

 

 

 

 

そして、そんな祈りの中

父と子の因縁が、交錯する。

 

 

 

 

 

 





主な登場人物紹介

城戸 織政
次回、全ての全容が暴かれる。


じいや
城戸家に使える老人。
昔、織政の世話を行なっており、今でも深い愛情を持っている。
ちょっとおっちょこちょい…

ばあや
じいやと一緒に城戸家に仕えていた老婆。
じいやと違い冷静であるが、涙脆いところもある。
織政の事を自身の孫のように大切に思っている。






告知
企画小説の方もよろしくお願いします。
詳しくはTwitterにて報告させていただいております。


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城戸邸侵入…そして少年の過去



去年最後に書いた物を読み返していて、あまりにも次の話に繋げずらかったので加筆修正を致しました。

連絡もなしに、急にやってしまったので混乱された方もあると思います。申し訳ありません。


 

 

 

 

 

 

 

今回の話を語る上で、避けて通れない話がある。

それは、織政の生い立ち。

 

何故ならば、それがこの物語の始まりでもあり、『名無し』のルーツなのだから……

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

織政の父親は、アジア最大の規模を誇る財団の総帥。名を城戸光政という。

その光政という男は、今から20年程前。

ある1人の女性に惹かれていた。

 

その女性の名は、『沙織』

 

彼女は、それまで自身の身の回りの世話をしていた、(後に織政の面倒を見ていた)老夫婦の後釜代わりに雇われた家政婦だった。

 

最初は光政自身、ただの家政婦としてしか見ていなかった。

 

しかし、いつからであろうか?

総帥として多忙な毎日を送る自分を、親身に世話してくれる彼女に段々と光政は、

「家政婦」としてではなく「1人の女性」としてみるようになっていったのだ。

 

 

…そう、彼は彼女に恋をしたという事に気づいた。

 

その後、光政は、

彼女はとても聡明かつ穏やかな性格

家政婦としておくにはもったいないほどの気品と美しさを持っている

事に気付き始め、彼は、そんな彼女にますます惹かれていた…

 

 

 

 

 

転換期が訪れたのは、その年の冬。

 

突如として、光政に複数の縁談の話が持ち込まれたのである。

これはグラード財団の有権者たちの総意として、それまで仕事一筋の光政に早く身を固めて欲しかった故の行動だった。

光政の花嫁候補の女性達は、全員世界中に名の知れた名家の出身である。

……お見合いといえば聞こえは良いが、実際のところはグラード財団のさらなる発展のための政略結婚である。

 

光政は、苦渋の選択を迫られた。

 

城戸家の発展を求め、『沙織』への思いを捨て去るか…

 

それとも城戸家の発展を投げ打ってでも、彼女に思いを伝えるか…

 

 

悩みに悩んだ末、光政がとった決断は後者であった。

 

 

光政の思いを受けた『沙織』は、とても苦しそうな表情をしていた。

それは、彼女が聡明であるが故、光政の置かれている状況を把握することができたからだ。

本来、自分はその思いを拒まなくてはいけない

…だが彼女にはそれができなかった。

そう、彼女もまた城戸光政という男に惹かれていたのだ。

 

 

かくして、2人は結ばれた。

駆け落ち同然の結婚だったが、光政の総帥という立場を乱用し、ゴリ押しでなんとか『沙織』との結婚を周りの人間に認めさせたのだ。

 

それからの2人の生活はとても幸せだった。

これからは、誰も2人を邪魔する事なく存分にお互いを愛し合えるからだ。

 

そう、2人の男女の恋物語は、ハッピーエンドで終わる……

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

 

 

 

 

…事件が起きたのは、2人が結婚して、少し経った2月頃。

 

『沙織』に、新しい命が宿った。

 

光政は大いに喜び、その月のグラード財団の株価は異常なまでの成長を見せたという。

最早、幸せの絶頂期とも言える時に、

 

 

突如として『沙織』の体に異変が起きた。

 

 

最初は、軽い立ちくらみから始まり、少し経つと寝込む事が多くなり、彼女は体調の不良を訴えていた。

誰もが、つわりだろう。そこまでの大事ではない。と言ったが、

彼女を愛してやまない光政は、すぐに国内最高の医師達が集う病院へ沙織を診させた。

 

 

 

 

すると、彼女の体は、不治の病に侵されていた衝撃の事実が発覚した。

 

 

 

 

 

その病は、現代の医学を持ってしても完治させることの難しいもので、到底、出産に耐える事が出来ないとの診断が下された。

ここで城戸夫妻に突きつけられたのは、

 

出産を諦め、『沙織』の延命に努めるか

 

『沙織』の命が危険に晒されても、出産をするのか

 

という、どちらか1つの命を必ず犠牲にしなければならないという、とても難しい選択を迫られたのだ。

 

光政は、彼女の延命を望んだ。

しかし、『沙織』は自身の命の為に我が身に宿った命を捨てる事が出来なかった。そう、彼女は後者を選んだのである。

 

光政は必死に彼女を説得しようとした。だが、『沙織』はその説得を頑に納得しなかった。

彼女の目には、自らの命を危険に晒してでもその命を守り通す意思が宿っており、結局、光政が折れることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマスに世間が湧く

聖夜の前日。

医師たちの努力もむなしく、光政の妻『城戸沙織』は、新しい命を産み落とし天に召された。

 

 

 

 

 

その子と名前を、自身の「織」という字と旦那の「政」をとった【城戸織政】と名付けて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織政が生まれ、彼女を失った光政は、狂った。その狂い様は他の者を唖然とさせるには十分なほどの酷いものであった。

 

 

彼女を忘れるため、酒に溺れ、女に溺れ…以前の勤勉なグラード財団総帥の姿はそこには無かった。

 

一方の忘れ形見である織政はと言うと、「沙織を奪った者」として、長らく城戸邸から離れた小さな屋敷に幽閉した。

 

だが、時たま正気に戻る事もあり、その時は織政の面倒を見る事もあった。

 

実に歪んだ父親である。

都合のいい時だけ、父親ヅラをして

都合が悪くなれば、勝手に狂い我が子へ憎悪をぶつける。

 

しかし、織政は、そんな父親である光政を愛していた。たとえ、父にどれほど辛く当たられようと、都合よく接されようと、父を悪く思う事はなかった。

 

何故、織政は光政を愛したのであろうか?

それは、まだ光政が正気に戻る事があり時事を愛してくれる時があったからだ。

 

だが、織政7歳の頃。

その愛情さえもへし折るある事件が発生する。

それは、光政がギリシャへの旅行中、傷だらけで聖域(サンクチュアリィ)から逃げ延びてきた射手座(サジタリアス)黄金聖闘士(ゴールドセイント)アイオロスから、女神アテナの化身を預かったということから始まった。

 

アテナの化身であるその赤子に、光政は何を思ったのか、自身の最愛の妻であった、"沙織"と言う名前を授け溺愛した。

それはもう狂うほどに…

 

やがで光政は、酷かった女遊びも、酒もピタリなりを潜めた。周りのものはその変貌ぶりを大いに喜んだが、それは仕事関係での話。

 

年に数度の頻度で訪れていた織政の所へは

一切顔を出さなくなり、それとは反対に沙織へとは一日中付きっきりで面倒を見ていた。

 

それを不憫に思った、じいややばあやを始めとした世話係が、なんとか織政の方へも振り向いて貰おうと、度々「一目会うだけでもよいから」と頼み込むが、光政はそれすら無視し通した。

 

まるで、織政という存在が元々居なかったように……

 

 

 

 

 

そして、この頃から光政は、まるで何かに取り憑かれたように、各地に散らばった100人にも及ぶ我が子達を集め始めた。

 

実は、その100人も及ぶ子ども達は、前妻、『沙織』を失った光政が、無責任にも行った女遊びによって出来た哀しい命達であった。

 

そして、光政は無慈悲にも、その集まった子ども達を使い、ある計画を実行する。

 

それは後に「聖闘士育成計画」と呼ばれる血も涙の無い、悪魔の計画の始まりであったのだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

ー城戸邸ー

 

織政が小さな屋敷を颯爽と飛び出した頃。

ここ、城戸邸の一室で、ある小さな事件が起きていた。

実際、事件というというにはあまりにも稚拙で、くだらないことであるのだが…

 

「お、お嬢様…そのお姿は?次は一体、何をなさるおつもりですか?」

「あら、辰巳。何って乗馬に決まっているじゃない。」

 

辰巳と呼ばれる強面の執事に問われ、お嬢様と呼ばれた小さな女の子がそう答える。

彼女は、新品の乗馬服に着替え、そして手には真新しい鞭が握られていた。

 

「し、しかし、お嬢様。大変申し上げにくいのですが、ここの城戸邸には乗馬用の馬がおりませぬ。ここは、一旦他のことをなさってはいかがでしょうか?」

「何を言っているの辰巳。乗馬は淑女の嗜みですよ。それに馬が居ないのであれば、そうね…貴方が馬になりなさい!」

 

女の子は、にこやかにかつ意地悪そうに口角を上げる。しかし、その姿は、決して卑しそうな印象を受けない。

逆に、ただでさえ整っている彼女の美貌を、引き立てている。

……そんな中、現在、城戸家執事、辰巳徳丸は、難しい選択を迫られていた。

 

命令を無視し、男としての意地を通すか

 

尊厳を捨て、自分の主人の愛娘の言うことを聞き忠義を通すか

 

どちらにせよ碌な結末は用意されていないだろう。

 

「お、お嬢様…正気で?」

「あら?私の言うことが聞けないのかしら辰巳?」

 

ついポロっと本音が溢れてしまい、それが墓穴を掘った。もうそろそろ覚悟を決めなくてはいけない…

 

「しょ、承知致しました。不詳、辰巳徳丸。馬を勤めさせていただきます!」

(お嬢様の馬か…。まだ手加減を知らないお嬢様は本気で鞭をお振りになる。それに執事の中ではボロボロになるまで打たれ、走り続けさせられた者もいるらしい…

くそぉぉ誰でもいいから助けてくれぇぇ)

 

そんな辰巳の悲痛な思いも裏腹に、その小さな女の子は鞭をヒュンヒュン唸らせこちらに近づいてくる。

 

…ああ、死なぬだけマシか

そう辰巳が諦めかけていた時。

 

 

ドォッンっと部屋のドアが開く。

中に入ってきたのは、黒服に黒いサングラスをしたガタイの良い男であった。すると、その男は、部屋の中央で四つ這いになっている辰巳に向かって焦った顔で叫ぶ。

 

「辰巳さん!!た、大変です!早く来てください!」

「な!? ど、どうしたんだ急にトラブルか!?」

一瞬、辰巳を助かったと思い安堵の表情を浮かべた。

 

…この時、どうにかお嬢様の無茶振りから逃げられる辰巳はそう安心しきっていた。

だが、その次に、黒服の言った言葉が、辰巳の認識の甘さをより確実なものとした。

 

「し、侵入者です!しかも、その侵入者はただのガキなのですが、滅法強いんです!!」

「侵入者だとぉ!?!?」

 

辰巳は、黒服男が発した「侵入者」という言葉に過剰に反応した。

 

それは何故か?

大豪邸であるこの城戸邸のセキリュティは、世界随一のものであり、まず、無断で侵入することは不可能だ。それに普段も特定の関係者入ることさえできない。

 

なら、関係者のものか?ありえない。

仕事関係のことなら、直接グラード財団の支部の方に行けば良いし、光政のいるこの邸用のあるものは、事前にチェックをしている。

また、急に用事のある者がどうしても邸に入ろうとする場合、必ず城戸邸正面門の検問を通らなければならないからだ。

 

だが、黒服の言葉を聞くからに、相手はその正面門の検問を突破したのだろう。

しかも、力ずくで…….

 

 

 

ドガァァァン

突如、尋常ではないほどの破壊音が屋敷に響き渡る。

辰巳は悟った。

こりゃただ事では済まされない…

とんでもないことが起きているのではないか… と

 

「な!?何の音だ!」

「や、奴です! 例のガキです!!」

 

黒服が叫ぶや否や、辰巳は先程まで自分の目の前で鞭を振っていた女の子を抱える。

そして、こう言い放った。

 

「おい!応援を呼んで何としてでも抑えろ!!私はお嬢様を避難させ次第、すぐそちらに向かう。」

「わ、分かりました! なるべく早くお願いします!!

 

げぇっ!?」

 

ドアを開け外に出るに否や黒服が変な声を上げる。そして、それと同時に、ドアの方向からある声が聞こえてくる。

 

「何が、『げぇっ!?』だよ。先に手を上げてきたのはそっちじゃない?正当防衛だよ。」

「う、うわぁぁぁぁ!!くるなぁぁぁあ」

 

黒服はドアの向こう側でへたり込んでしまい、一歩も動けそうにない。

思わず辰巳は、抱えている女の子をすぐに下ろし、身構えた。額にはハラリと汗が垂れる。ドアの向こう側で一体何が起きているのか、相手は一体誰なのか?

女の子も事の大きさにようやく気付いたのか、反射的に辰巳の後ろに隠れている。

 

ギギギッ

 

音を立ててドアが開く。

 

 

「なっ!?お、お前は!?」

「よう、久しぶりだな辰巳。 …後ろにいるのは、"沙織"か…

…ここハズレみたいだな。」

 

辰巳の目の前に現れたのは、少年であった。

その少年は頭に赤いバンダナを巻き、古代ギリシアのけんとうし達を思わせるような麻でできた服を纏っている。

あまりにも異常だ、異様な光景だ。しかし、辰巳にとってそのような事は些細な事でしかなかった。

 

「い、いやそんなはずはない。あ、アイツは死んだはずだ……お、俺は、亡霊でもを見ているのか……」

「なるほど…ここでは俺の事は、そういう事になってるのね。実の息子を死んだ扱いとは中々くるものがあるぜ。」

「な、何が目的だ!?」

 

 

辰巳は力の限り叫ぶ。だが体は震えていた。

死んだはずの人間がここに居る。

城戸織政と言う人間がここに居る。

その事実が、彼の恐怖を増大させ、言ってはならない言葉を口にしてしまった。

 

「何故…今更、"元々存在すら無かった"お前がここに居る?」

 

 

瞬間

 

 

バゴォッッ

という、破砕音が辰巳の後ろで鳴る。

振り返ると後ろにあったはずの大理石出来た壁が大きく凹んでいた。

何が起きたのかわからない、そんな顔で正面に向き直ると、今度は凄まじい爆音が辰巳を襲った。

 

バシュュゥゥゥウ

 

その爆音は同時に衝撃波を生み、辰巳は後ろの凹んだ壁に叩きつけられた。

 

「ガフゥッッ グボッ ゲホッ ゲホッ」

 

ドサッっと音を立て辰巳が壁から落ち、うずくまる。更に、肺から全ての空気が押し出され軽い呼吸困難に陥り、辰巳は地べたを這いずり回っていた。

 

「面白い冗談が言えるようになったじゃないか…今のは中々笑えたぞ。」

 

織政は冷え切った目で辰巳を見ると、こう付け加えた。

 

「何が目的だって言ったよな。

俺は、父上に話があってここにきた。それで俺が知りたいのは、父上の居場所だ。

…お前なら知ってるだろう?辰巳。」

「み、みつま ゴフッ さま…にぃ??」

 

這いずり回っている辰巳が、辛うじて声を出すが、その声は今にも死にそうだ。

だが、織政はそんな様子にお構いなく次々に辰巳を問い詰める。

 

「そうだ、お前の役目は、俺を父上の元に案内するか、父上の居場所を教えるだけでいい。

……もし万が一教えないってぇなら…」

 

ビッっと人差し指を織政が立てる。弟子の指は、吹き飛ばされた辰巳の後ろにいた少女を指差す。

…少女は震えていた。

 

「次はそこの"沙織"のドタマぶち抜くぞ?

嫌なら、さっさとしな。俺は…本気だぜ。」

 

 

その言葉を聞き、辰巳は瞬間的に跳ね起きる。そして、声にもならない声を織政の方へ向ける。

 

「わ、わわ…ゲボッ 悪かった! ゴホッ 案内するから…お嬢様だけは….グゥッ 傷つけないでくれぇぇぇ」

 

痛みにのたうちまわっていた執事はそう叫ぶと、プツリと糸が切れたようにその場に倒れた。…顔を見ると白眼をむいている。

 

「…あーあ、白眼剥いてら…こりゃダメだな。やっぱ脅しに『音速拳(おんそくけん)』はダメだったか….」

 

そう呟くと、頭を掻き辺りを見回す。

この状況で案内できる人間は……プルプルと震える少女だけ…

 

 

「…悪かったよ。"沙織"。

と言うよりも俺の事覚えてるか?…いや流石に覚えてないか…」

「あ、貴方は誰?」ズリズリ

 

"沙織"と呼んだ少女の方を見ると、後退りしながら警戒した目でこちらを見る。

更に"沙織"が自身の事を「覚えていない」という事実に織政の表情に影がかかる。

 

「…覚えちゃないと思うが、俺はお前の義理の兄だ。悪いが名前は言えないがな…

さて、大人しく城戸光政…お前のお爺さんの居場所を教えて欲しいんだが?いいか?」

「し、知りません!! それに…貴方はお爺様に危害を加えるつもりですか?それなら尚更…」

「いや、俺は話し合いに来ただけだ。別に殴り合いの喧嘩をしに来たわけじゃない。

……ただ、そこの執事には昔、少々カリがあってな。それを今ここで返しただけだ。

それに、お前にも危害を加えるつもりはないよ。」

「信用…できません。」

 

鞭を固く握り締め、キッとこちらを睨みつける"沙織"。

その様子を見て織政は、失敗したな…と感じこれ以上の情報は得られないと判断した。

 

「騒がして悪かったな…外で伸びてる連中は、死んじゃいないから安心しろ。ただ、気絶してるだけだ。

…じゃあな今度こそ、さよならだ。"沙織"。」

 

 

 

そう言い織政は、踵を返し部屋を出て行った。だが、その足取りは決して軽くない。逆に織政は、歯を思い切り食いしばり何かに耐えているようだった……

 

 

 




とりあえず、年内最後の投稿です。
皆さん良いお年を!!
来年も「名もなき雑兵」のほう、よろしくお願いします!!


追記
急な改定申し訳ありませんでした。 1月22日 間邦人


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父と子と…そして少年は"名"を捨てた

あけましておめでとうございます。

物語の構成を少し整えたため、今回は改定前の話を分割して作っています。今月は諸事情でこれ以上の投稿は行えないと思いますが、また2月から平常運転でいきたいと思います!

今年もよろしくお願いします!



 

 

 

 

コツコツ…

城戸邸の奥の間に、軽くも力強い足音が響く。その足音は、奥の間にある大きな扉の目の前で止まった。

 

「しらみ潰しに色々部屋見てきたが…ここが最後か。…さてと」

 

織政はそう呟くと扉の目の前で拳を大きく振り上げる。

そして、目をカッと開きありったけの力で叫ぶ。

 

「さぁ…もう観念して出てきてもらわないとコッチが困るんでねぇ。

……父上!!いい加減に姿を現して下さいッッ!!」

 

だが、扉は開くことはない。

織政としては、予想はしてはしてはいた事なのだが、正直。何かしらの反応はして欲しかった

 

「…なら、力ずくでいくぜ…『音速拳』ッッ!!」

 

瞬間、目にも留まらぬ速さで拳を前に突き出すと、扉が音を立てずに前方に吹っ飛んでいった。その数秒後、とてつもない衝撃音が、邸の中に響き渡る。

 

織政は、強引にぶち抜いた扉があった所ををくぐり、部屋の全貌を見渡す。

その部屋は扉の破片が散乱して、ぐちゃぐちゃに担っていたが、中央にある長机と背もたれをこちらに向けた大きな椅子は無事であった。

 

 

「誰だ…貴様?」

 

その椅子から、無機質な声が聞こえてくる。

 

そう、この無機質な声を発している男こそ、織政の父親、城戸光政その人なのである。

 

織政はその声に一瞬身震いしたが、ゆっくりと言葉を返した。

 

「…久しぶりですね。父上。僕は、貴方が今この世で最も憎んでいる息子。織政ですよ。」

「ほう…これまた懐かしい名だな…」

「今日は貴方に話が…いや、交渉があってやってきました。念のためですが、1つその前に聞きたいことがあったんです。よろしいですか?」

「……」

 

わざわざ、口調を昔のように直した織政の言葉受けて、光政は黙る。

 

 

「沈黙は肯定と捉えます。

では、…貴方は、いつまで過去に囚われて狂っているんです?

いつになったら、正気に戻るんですか…」

「心外、その一言に尽きるな。私は狂ってなどおらん。

それより、私も貴様に1つ聞かなくてはならないことがあっての…」

「…?」

 

急な光政の切り返しに、織政は戸惑った。

すると、キュイッという音を立てて椅子が回転する。

 

回転し、正面を向いた椅子には、顎髭を蓄え羽織袴に身を包んだ壮年の男が居た。

その男は、財団のボスである事を思わせるようなオーラを纏っていた。しかし、それと同時に、異様な雰囲気も持ち合わせている。

 

そして光政は、小さくほくそ笑みながら、こう言った。

 

 

 

 

 

「此処に何をしにきた?『名無し』?」

 

 

 

 

 

「なっ!?」織政は困惑した。

何故なら、自身が聖域にで使っていたその名は、光政には決して知られていないはずだからだ。

 

「何故…その名を父上が?」

「貴様が3年間何をしていたのか把握できないほど、グラード財団の情報網は甘くはない。」

 

光政は、まるで自分の行動を見透かしているかのように、そう断言する。

光政からすれば、織政にプレッシャーをかけているつもりなのであろう。

しかし、当の本人である織政は、逆にこの状況に感謝していた。

 

「…なら話が早い。父上、僕が3年間聖闘士になるために修行していたことはご存知なようですね。

では、僕が此処にきた理由は…」

 

「僕の…いや俺の100人にも及ぶ弟妹達を使って、聖闘士を作り上げることを止めに来たんだ!!

アンタの私利私欲のために、子ども達をむざむざと殺させるわけにはいかねぇッッ!!」

 

 

織政は、そう啖呵を切った。意識して直していた口調も、いつのまにか素に戻り光政に自身の思いと決意をぶつける。

 

 

「……ほう、それでどのようにして止めるつもりだ?まさか、その鍛え上げた身体と技で私を脅すつもりか?」

「いや、最初に言ったはずだぜ。これは交渉だと、話し合いで解決しようじゃないか父上。」

「フッ 交渉とは、対等なものが行うもののことを言うんだ。貴様と私では立場が違いすぎないか?」

「だから、3年間必死こいて此処まで来たんだよ。悪いが、もう俺は3年前の何も知らないガキじゃない。」

「まぁいい。貴様のくだらん交渉とやらに乗ってやっても構わん。だが、期待はせんほうがいいなぁ。」

 

お互いに言葉での牽制し合う。しかし、この状況、余裕があるのは圧倒的に光政の方であった。

 

「…っち、俺の出す品は、俺自身。そして、俺が得たいものは、弟妹達の身柄の安全と安心して生活できる環境だ。」

「…構わん、続けろ。」

「アンタは聖闘士が欲しかったんだろ?

何の目的にそれが欲しいのか俺はわからないが、なら、俺を使えばいい。……どうだ?」

 

光政にそう問いかけ、織政は様子を伺う。

織政の額には少し汗が滲んできており、彼の心臓がバクバクと音をたてて鳴っている。

 

すると、光政はこちらを見てニヤリと笑う。

だが、その目は決して笑ってはいなかった。

 

「魅力的な提案だなぁ。しかし、それでは意味がないなァッ?」

「何だと!?」

「確かに、今、戦力として貴様を手に入れれば、それはそれで良いかもしれん。だが、それでは私の気が済まん。

貴様には、もっと苦しんでもらはなくてはならないからなぁ…」

 

「それに、貴様でもなれるのであれば、他の聖闘士と言うものも、たかが知れている。やはり100人の我が子を送り込み、聖闘士として育成する事ができれば、私の計画は完璧な者となる。フフフッ…フハハハハァァ……

 

…貴様の浅知恵など何の役にも立たなかったな!!!」

 

光政の語尾が荒くなり、いきなり椅子から立ち上がる。彼の目は血走っていた。

その様子に、織政は泣きそうな目で訴えかける。

 

「何故なんだ!?何でアンタは、そうやって……まるで自分の子どもを道具みたいに扱うんだ!!

 

 

俺が…母上を……母上を、間接的に殺したからなのか!?」

 

「そうだぁ! 貴様が、『沙織』を奪ったからだぁ!!だから、貴様は苦しまなくては、貴様は苦しまなくてはいけないんだぁぁぁ

……しかも今度は、"沙織"まで奪おうとするぅ。…いや、違う…『沙織』は、"沙織"だ….沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織沙織ィィィィィィ」

 

光政は突然発狂し始め、虚ろな目でこちらを見つめる。

その瞳には、織政はおろか何も映ってはおらず、ただくぐもった眼でこちらを見つめていた。

そんな光政に対し、織政は、拳を振り上げ今にでも殴りそうな勢いでこう言った。

 

「ふざけんな!!、アンタ1人だけ勝手に狂って、逃げようなんてそうはいかねぇーぞッ!アンタは、100人にもいる子ども達の父親じゃないか!!俺に辛く当たっても構わない。だけど…だけど!!……ちゃんと親としての責務を果たせよッッ!!」

 

「親としての責務ぅ? ハッ!? 貴様がいたから"沙織』は…私は不幸になったんだ。貴様なぞ、[生まれて来なければよかったんだ]!!」

 

 

生まれて来なければよかった

 

生まれて来なければよかった

 

生まれて来なければよかった

 

 

ピキッ…ビキッィィ….

 

何かが割れるような音が響く。だが、それは決して光政には聞こえない。

織政の心の悲鳴

 

この言葉は、織政の心を粉々に砕くのに十分な威力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光政と再開したその日。

城戸織政の"名"を捨てた。そう、城戸織政としての彼は死んだのだ………

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

織政side

 

 

ー 生まれて来なければよかった ー

 

 

 

その言葉を聞き、何かが自分の中で壊れる音がした後、

俺は、ゆっくりと目の前の男にこう問いた。

 

 

 

「その言葉を、この邸にいるおよそ100人のアンタの子ども達にも同じ台詞吐けんのかよ?」

 

 

 

父…光政の表情が少し引き攣る。

すると、光政は俺に対しくるりと背を向けこう言う。

 

「…いや、奴らはこれから先、利用できる価値がある。しかし、貴様は現時点で利用する価値も無い。だからこそ、さっきの言葉を言ったまでだ。」

 

「そう…かよ…」

 

城戸光政の背中を睨みつけながら、俺はギュゥっと拳を握りしめる。

 

ここに来て、ようやく分かった。

 

父と分かり合うことは出来ないと、

袂を別つべき時が来たのだと、

 

「なぁ……父上…」

 

そう呟きながら、俺は握りしめていた拳を上げる。

 

「なんだ?」

 

光政は背を向けたまま、俺に言葉を返す。

表情は見れないが、それは俺にとって幸いだった。

何故なら、今俺の顔は、憎悪と哀しみでぐちゃぐちゃになっているはずで、到底見せられたもんじゃないからだ。

 

そして、3年間…いや

俺が今まで父親である城戸光政に対して、思っていたことを口にする。

 

「俺さ…少し、ほんの少しだけど信じてたんだよ。俺が聖闘士になれれば、母上が生きていた頃までとは言わないものの、父上が正気に戻ってくれるんじゃないかって…」

「…」

 

返答はない。

だが、俺は言葉を続ける。

 

「それに、認めて欲しかったんだ

…と思う。父上に。けど、結局はこうなっちまった。アンタは俺の3年間、それに、存在まで否定しやがった。

……別に…いいけどさ…

 

でも、俺の弟や妹を苦しめようとするのは辞めないんだよな……」

「…貴様の言い方は気に食わんが、そうはなるな。」

 

 

ギチッ ギチギチッッ

振り上げた拳から、握り過ぎて肉が破けたのか血が垂れる。

そして、意を決して俺は言う。実の父に向かって、心の底で燻っていた最後の言葉を……

 

「なら、アンタは、俺が倒さなきゃならない…邪悪、いや悪魔って言ったほうがいいか?

…聖闘士は、そういう奴らをぶっ倒さなきゃならないんだよ…

 

 

だからッッ!!」

 

血でベトベトになった拳を握り込み思い切り振りかぶりながら、俺は叫んだ。

 

「ここでくたばれッ!! 城戸光政ぁぁぁああ」

 

刹那

 

標準をピタリと光政の頭に向け、そこをブチ抜くように…

拳を前に突き出し、俺は『音速拳』を放った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

バシュゥゥゥッッ

 

織政の拳が空を裂き、光政に炸裂する寸前、

突如として2人の間に眩い閃光が走った。

 

そして、次の瞬間。

 

ドォォォォォォオオンッ

と言う音という共に、織政が放った拳圧が弾き飛ばされる。

 

…織政は何かにぶち当たった感触を拳に感じた。しかし、それは光政の頭部ではなくもっと硬い異質なものを殴った気がした。

 

それと同時に、眩い閃光が少しずつ収まるとそこに2人の間に入ってきたものが姿を現す。

そして、それは織政を驚愕させた。

 

「!?ッ …な、なんだと!?」

 

そこには煌々と煌めく、金色の聖衣があった。その姿はとても神々しく、形は射手座を象徴したものであった。

 

 

「何故…?この城戸邸に黄金聖衣が……」

 

織政が疑問を持ったのもつかの間、

その聖衣は、ジャキィッッと音を立てて織政の方向に矢をつがえる。

 

その光景に織政は混乱し、反応が遅れたのか、胸のガードが下がりガラ空きの状態である。

 

そして、瞬間。

 

射手座の黄金聖衣は矢を放ち、その矢は織政の胸の正中線上に炸裂した。

 

ガァシャァアン

音を立てて織政の体は後方に吹っ飛び、放たれた矢の衝撃波が織政を襲う。

 

それによって織政は、先程、自分がぶち抜いた奥の間の扉の外に吹き飛ばされ、城戸邸の大きな廊下に叩きつけられた。

 

叩きつけられた後、織政は、すぐ様立とうとするものの、途端に撃ち抜かれた胸に激しい痛みが走り意識が飛びかけ、その場にぶっ倒れる。

 

 

「射手座…黄金聖衣? なんで…ソイツを…まも……る?」

 

朦朧とする意識の中で、最後の力を振り絞り織政は遠く離れた射手座の黄金聖衣に問いかける。

 

が、奥の間のからは、虚しくもなんの返答も返ってこない。

 

そして、

息ができないほどの激痛と困惑を抱えながら織政は静かに意識を手放した……

 

 

 

***

 

 

「…すまない。アイオロス君。」

 

織政が黄金の矢を受け、意識を手放した後、

ゆっくりと光政が言う。

 

すると、先程まで煌々と輝いていた聖衣は途端に輝きが収まっていき暗くなる。そして、カシャッ という乾いた音を立てて弓を下ろした。

 

光政はゆっくりと織政が吹き飛ばされた方向に足を運び、衝撃波でズタズタになった部屋を進む。

 

しばらくすると、仰向けに倒れている織政の姿が見えた。

胸には黄金の矢が刺さって…

…はおらず、息もあるのを確認できた。

先程、射手座の聖衣が放った矢には、鏃が付いなかった為、織政の胸に突き刺さる事はなかったのだ。

 

「…すまない、…本当にこれだけの言葉では済まされん事をしてしまったな。"織政"」

 

光政は耐えれている息子の横に膝まずき、彼の頬を撫でる。

…息子と話しているときは一言も口にしなかった、"織政"という名前を口にしながら、光政は俯いた。

 

少しして、光政は、気絶している織政を抱える。

息子のズシリとした重みに成長を感じ取りながら、光政は先程までいた奥の間の方に声をかけた。

 

「すまない、もう終わったよ。」

「ああ…そのようだな」

 

すると、奥の間から、大きな影が姿を現わした。

 

「よく、何も言わずに見届けてくれた…感謝するよ"()()()()"君。」

「へっ()()()()()()()()が無かったら名無しの代わりに俺がアンタを殴り飛ばしてたところだけどな。」

 

大きな影すなわちギルティと呼ばれた大男は、光政に近づき織政を受け取る。

 

「そうだろうな、やはり私は父親失格だ。ぐっ……」

 

そう言うと光政はその場に頭を抱えひざまづく、その様子は何かに耐え、苦しんでいる様にも見えた。

そんな光政を尻目にギルティはしっかりと織政を抱え、最後にこう言った。

 

「俺としては、今まで起きた事に疑問がありまくってよ…できるならアンタを問いただして真実を知りたいんだが

…隊長との約束でアンタに対しては決して干渉するなと言われていてな、俺は見て見ぬ振りすることしかできねぇ。

 

でも1つだけ言わせてもらえば、アンタ本当に狂ってやがるぜ…」

 

じゃあな…

そう吐き捨てるとギルティは城戸邸から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ1人、取り残された光政は、うずくまりながら、短く呟く。

 

「本当は私だって……こんな風には……でも…もう私には……」

 

 

声なき声が、城戸邸に響くがその声を聞いたものは、誰もいなかった………

 

 






城戸家編終幕。


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ー 聖域動乱・廃棄聖衣編 ー 動乱…嵐の前の静けさ

難産回。
この章で原作前の話は終わりです。
サクサクと進めて行きたいのですが難航してしまったらごめんなさい。

城戸家編の方で説明不足だったなと思った点は、後ほど閑話として補完するつもりです。


ー 聖域 ー

 

聖域にある、黄金十二宮

神話の時代よりこれらの宮を全てを突破した者はいないとされる、難攻不落鉄壁の要塞。

その十二宮の最上部に教皇の間と呼ばれる場所があった。そこには、聖闘士を束ねる権限を持つ教皇と呼ばれる男がいるのだが…

 

今、その男はとてつもなく不機嫌かつ威圧的なオーラを放っており、側に控えている従者は震えていた。

 

「まだアテナは見つからぬか…」

 

ポツリと教皇が零す。

彼が不機嫌な理由。それは女神アテナの化身がこの世に降臨し、はや6年…アイオロスと共に脱走した後、彼女の行方が未だにわからない事である。

 

「き、教皇…それにつきましては、各地に雑兵を派遣させ必死に捜索している次第であります。どうかもうしばらくのご辛抱を…」

「そんな事は分かっている。だが、一刻も早くアテナを見つけ出さなければ、これから起こるであろう災厄に対処しようにもどうにもできんッ!!」

 

教皇の語尾が荒くなり、従者は肩をブルッと震わせる。そして、威圧的なオーラはさらに増す。

 

「それに、この聖域にアテナが存在しない事は、全聖闘士の士気にも関わってくる…

分かっておろうが、これから起こる聖戦の準備を進めなければならないのに、その総大将が居ないという事は由々しき事態だ!!」

「ご、ごもっともです。捜索の方はより一層尽力いたします。私はこれにて…失礼します教皇。」

 

従者は耐えきれなくなり、教皇の間からそそくさと出て行く。

 

 

そして、そのあと1人残った教皇は誰にも聞こえぬよう声を潜め、口の中で何かを呟いた。

その声は先程のような怒気を込めた声では無く、それよりももっと恐ろしい地の底から聞こえるような声だった。

 

「アテナを一体何処へやった?

フッ 逆賊として辱めるだけでは足りんほど憎々しいなぁ……アイオロスッ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、教皇のその言葉が薄気味悪く響く中。

コツ…コツ……と

誰かの足音が教皇の間に近づいていた………

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

教皇の間での出来事より遡る事…数日。

 

ー 聖域 雑兵自治区 ーにて…

 

 

ポタ…ポタ…

自治区には、雨が降り注いでいた。

 

ポト…ポト…

雨漏りを起こしているのか、ある小屋で水が落ちる音が聞こえる。

そして、その落ちていった雨粒は、その小屋のベッドの上で寝ている名無しの頬を濡らした。

 

 

 

ー 名無しside ー

 

 

 

「ん…んんっ………… はッ!?」

 

冷たい感触が頰に感じられ俺は起きた。

しかし、起きた瞬間とてつもない疲労感に襲われまた眠たくなる。

 

(……何で俺…ああそういえば…射手座聖衣に矢を撃たれたんだっけか? )

 

どうやらあの後俺は、気を失ってしまっていたらしい……

 

「ん……? 」

 

何か、おかしい。

 

直感的にそう感じた俺は、辺りを見回す。

目に入ってきたのは、ボロ臭い木でできた椅子や、机、壁には見慣れた革の防具が掛けられている。

 

それらを見た瞬間。さっきまでの眠気が吹っ飛んだ。

 

「!?ッ ここは、何処だ!?」

 

更に辺りを見回そうと体を起き上がらせよう

とするが、力が入らない。

 

おかしい…

 

そう思い体の方を見る。

俺の体は擦り傷や切り傷だらけで、所々に包帯を巻かれ固定されている。また、胸には厚くサラシがまかれており、無理矢理にでも力入れようとすると鋭い痛みが走った。

 

「クソ… 動けねぇ…… ん…? 足は動かせるのか。」

 

上半身は動かすことはままならないが、下肢には力を入れることができ動かすことができた。

しめた。そう思った俺は、足をジタバタと動かし近くにあった椅子をどうにかベッドに近づけた。

そして、その椅子を支えにどうにかして上半身を起こす。胸は痛んだが、そこはどうにか我慢した。

 

「うっ……やっぱまだ痛いな。 しかし、此処は一体何処なんだ? 城戸邸…ではなさそうだな。それに、内装から見るに結構ボロい部屋だな……城戸邸にこんな部屋ところあったか?」

 

椅子に寄りかかりながら、そう考えていると、外から何やら話し声が聞こえてくる。

 

(声をかけてみるか?……いや、此処は少し様子を伺ってみよう。)

 

俺は、体を扉の方に傾け聞き耳を立てた。

 

「しっかしまぁ、災難だよな。」

「ああん?誰が?」

 

聞こえてきた声は、どちらとも男の声であった。加えてそれらの声はあまり若そうな印象ではない。

 

(光政の野郎の黒服か? ……その可能性は十分だな。やはり、声をかけなくて正解だったか……)

 

「"名無し"だよ。アイツ、3日前まで日本に里帰りしてたらしいぜ。でもよ、何でか隊長に呼び戻されて聖域に帰ってくる途中、事故が何だかにあって大怪我負ったらしい。」

「あー、今、この小屋で寝てるガキのことか。隊長の帰還命令がもう少し遅ければこんなことにはならなかったのにな……可哀想に。」

 

 

(………………は???)

 

 

此処は城戸邸ではなく、聖域???

隊長の帰還命令???

 

 

あまりにも唐突すぎる事実に俺は混乱してしまった。

 

「一体全体どうなってやがんだ?

 

……クソッ!!とりあえず、外まで出なくちゃ何も始まらねぇッッ 外にいる奴らもっと詳しい事をきかねぇーと……」

 

俺は、椅子に寄りかかる力を強めどうにかして立ち上がろうとした。が、手が包帯で固定されていることを忘れていた俺は、椅子をしっかりと持つことが出来ず思い切りベッドの上から転げ落ちてしまった……

 

 

 

***

 

 

 

ガッタァッン!!

小屋の中で何かが倒れるような音が響きわたる。

先程話していた雑兵達は、その音に気がつき小屋へ近づく。すると、小屋の扉が急に開き誰かが倒れこむようにして出てきた。

 

その出てきた者とは、名無しであった。

 

 

「な、名無しぃ!?!?

お、おい? 大丈夫か?」

 

近づいた雑兵の1人が名無しに声をかける。

すると、開いた扉に寄りかかりながら名無しは弱々しく返答した。

 

「ハァ…ハァ…おい? さっき言ってた事は一体どういう事だ?」

「!?ッ さっきの事? わ、悪かった。気分を害したなら謝るから……」

「違う。 お前達がさっき話してた事、俺は一切しらねぇんだ……ぐっ… なぁ頼む詳しく聞かせてくれッ」ガバッ 

 

名無しは、雑兵にしがみつき、噛みつくような勢いで問いただす。

それに対し、聞かれた雑兵は困惑した表情で答えた。

 

「い、いや実はな俺達も詳しくは聞いてないんだけどな。

お前、里帰りしたとか何とかで聖域を出てたんだろ?

そんでもって、その時に隊長が"帰還命令"を出した…で、お前は帰る道中事故にあって気絶しちまった。それを迎えに言ったギルティが拾ってきたって話だぞ?

 

…お前まさか記憶が飛んじまったのか?」

 

心配そうにこちらを伺う雑兵達。

名無しはフラついた体を必死に支えながらこう思った。

 

(記憶が飛んだ? んなわけねぇ……

確かに、矢を放たれた後からの記憶は一切ないが、隊長の帰還命令?道中事故にあった?そんな事はねぇーぜ。

 

何で俺が、日本じゃなく、聖域に戻ってきちまってるのか、

……真実を知るには、手取り早い方法は……)

 

すると、名無しは雑兵にしがみついた手を離し、歩き始めるが、その様子は彷徨い歩く亡者の様だ。

 

 

「ど、何処行くんだ?そんなフラフラの体で…本当に大丈夫なのかよ?」

「ぁぁ…大丈夫…だ。 さっき目が覚めたからよ…寝ぼけて足元がふらついてるだけだ。」

「そ、そんな風には見えないぞ? 安静にしていないとダメんなんじゃないのか?ほら、手ェ貸してやるから小屋に戻れって…」

 

雑兵の1人が名無しを気遣い、手を差し伸べるが、名無しはその手を軽く払う。

 

「すまない…… 小屋ん中でチンタラやってる場合じゃねぇーんだ。悪りぃがどいてくれ…行くところがあるんだ。」

 

体はヨタついているが、彼の表情は鬼気迫るものであり、周りの雑兵は固唾を飲んだ。

しかし、トボ…トボ…とゆっくり名無しは進むが、5、6歩歩いたところで蹴躓いで転んでしまった。

 

「お、おい!? やっぱり寝ぼけてるとかそんなんじゃねぇーじゃねぇか!! お前らも見てないで早く手伝えって!」

「わ、わかった。

名無し!! 無理すんなよ。肩貸してやるから一旦小屋に戻ってきた休め。」

「そうだぜ名無し。無茶は良くないぜ。」

 

「うるせェッッッ!!!!」

 

「「「 !?!? 」」」

 

名無しは急に声を荒げ、雑兵達が驚く。

そして、何度も何度も倒れた体を起き上がらせようと力を入れる。

しかし、節々に感じる激痛と疲労がそれを困難にしていた。

 

すると、名無しは這いつくばりながら腕を懸命に動かし始めた。

 

「おい!?馬鹿野郎ッッ!! やめろって言ってんだ。そこまでしていかなきゃなんねぇーのかよ!!死んじまうぞ!!!」

 

その様子を見て耐えかねた雑兵が彼を抑え持ち上げる。

しかし、持ち上げられた名無しは、抑える雑兵を払いのけようとして暴れ始める。

 

「止めるんじゃねぇ。俺は、行かなきゃ…行って隊長に聞かなきゃなんねぇッッ!!!

だから、この手を離せぇぇぇ!!!」

 

名無しの考えた、手っ取り早い方法。

それは、自身に帰還命令とやらを出した隊長の元に行き、事実確認を行う事であった。

もしも、帰還命令を出した事が事実であればその理由を

嘘であるならば、何故自分が日本ではなく、聖域にいるのか?

 

それらを聞くために、残る力を振り絞り名無しは抵抗した。

 

「なッコイツ!?力強ッ… お、おい!? 抑えるの手伝ってくれッ! 何言ってんのかさっぱりだが、1人だけじゃ抑え切るのが難しいッ!」

「お、おう!? おいコラッ 名無しッ!!

大人しくしやがれッ!!」

「だったら!隊長のところに連れてけッ!!それか、ここに隊長を呼んでこいッッ!!

クソッタレめェェェェ ……うッッ!?ガァァッ!?!?」

 

暴れすぎたのか、名無しは胸を押さえ苦しみだす。射手座黄金聖衣の矢傷はまだ完全に癒えてはいないため、先ほどより鋭く激しい痛みが彼を襲った。

 

 

 

「 俺を呼んだか。名無し?」

 

その声が、名無しを取り囲んでいた雑兵達の後ろ側から聞こえてくる。

その場に居た全員が振り向くとそこには、

聖域の雑兵隊長…アトラウスの姿がそこにあった。

 

「グゥ……ハァ…やっと見つけた…ぜ。 隊…ちょ……」ガクッ

 

名無しはそういうと痛みと疲れに耐えかね、ガクリと力が抜け気を失う。

 

「た、隊長!? コイツ……」

「すまなかったなお前たち。後は俺に任せろ。とりあえず名無しを小屋の中に運んでくれないか?後、手当も頼む。」

「へ、へい。わかりました。」

 

 

 

「……さて、アイツが納得できるようどう説明したもんかな。」

 

隊長は、小屋の中に運ばれる名無しを見ながら、額を抑えながらポツリとこぼした。

 

 

 

 

***

 

 

ー 雑兵自治区内 治療小屋 ー

 

治療小屋は静かだった。

ベッドに寝かせられ、巻く包帯が追加された名無しと、そのベッドの横に座る隊長…….

 

彼らは、一言も喋らない。

 

 

先程、意識を取り戻した名無しは、目でしっかりと隊長を捉えていた。逆に隊長は苦悶の表情を浮かべている。

 

その隊長の様子を見て、名無しは少し変な感じがしていた。そしてそれを確かめる為、ゆっくりと切り出した。

 

 

「なぁ…隊長…」

「どうした。名無し。」

「何で俺、聖域にいるんだ?隊長の出したっていう帰還命令って何なんだよ?」

「…これから順を追って説明するよ。」

 

そう言うと隊長は、はぁぁ っと深くため息をつき、同時に頭を抱えた。

どうやら、何か複雑な事情がある様だ。

 

「じゃ、まず説明、と言うよりも結論から言うか……お前がこの聖域に居るのは、俺が帰還命令を出したからだ。コレは間違ってない。」

「!?ッ どうして? 何で帰還命令なんて……」

「あー、質問は少し待ってくれ。 話が脱線する。まずはこっちの話を聞いてくれ。」

 

名無しが感情的になり食いかかるも、それを軽く制し隊長は続ける。

 

「何で、帰還命令を出したか。その理由はな。教皇による命令で、お前を連れ戻さなくては行けなくなったからだ。」

「 教皇の命令? 」

「ああ、一応お前の外出は里帰りという名目で上に通しておいたんだが、お前が出てった後、教皇から任務を命ぜられちまってな。」

「くっ…」

 

聖闘士の中でもそれらを束ねる司令塔、教皇からの命令は絶対だ。

いかなる理由があれども、命ぜられたからにはそれを遂行しなくてはならない。

ならば今回の帰還命令は致し方ない事ではあるが、あまりにもタイミングが悪すぎる……そう思い名無しは、唇を噛み締めた。

 

 

「まぁ…簡潔に説明するとそうなるんだが……」

 

(……ん?)

 

歯切りが悪い話し方。そして先程からの隊長の様子から感じていた変な違和感。それを名無しは追求した。

 

「隊長…その教皇の命令、何か裏があるんですか?」

「ご明察だよ…織政。

 

それでな、それについてお前に色々と話さなくてはならないことがあるんだ。

だから、俺は聖域にお前を呼び戻した。」

 

どうやら、話の核心はここかららしい。

 

「その話さなくてはいけない事って何なんです。隊長?」

 

その一言に、より一層隊長の顔が険しくなる

そして……

 

振り絞る様に、名無しにこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「教皇は、俺たちを抹殺しようと企んでる。

 

……そして、近々俺は……教皇に対し挙兵するつもりだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お気に入り25件 UA3000越え
ありがとうございます!!!

コレからも頑張りますので応援よろしくお願いします。


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真実…そして吹き荒れる嵐


今回から原作キャラの登場回数が増えていきます。



 

 

ー 名無しside ー

 

 

「教皇は、俺たちを抹殺しようと企んでる。

……そして、近々俺は……教皇に対し挙兵するつもりだ。」

 

 

 

 

 

この言葉を聞いた時、俺は絶句する。

あまりにも現実離れした事に頭の処理が追いつかなかったからだ。

 

「……なぁ…何で、教皇が俺たちを殺そうとしてんだ?それに、挙兵って……」

「まぁ、急にこんなこと聞かされても理解できないだろうな……ハハハ……」

 

場を和ませようとしているのか隊長は少し笑う。しかし、隊長の目は決して笑ってはいな かった。

 

「ちゃんと、説明してくれよ…」

「…そうだな。

じゃあまず始めに、教皇が俺たちを殺そうとする理由からだ。

それはな、俺たちが『アテナ』の存在のカギを握っているからだ。」

「『アテナ』…?」

 

 

アテナ

それは、オリポンス十二神の1人であり、地上の愛と平和を守るとされる女神。そして、聖闘士が忠誠を誓い仕える神の名だ。

 

だが、俺は、アテナの名前こそ聞いた事はあるもののその姿を見たことはなく、カギを握っているなんて言われたものの、心当たりがなかった。

 

「心当たりがなさそうって顔だな。」

「そりゃ…」

「それもそうか…織政。お前、城戸邸で城戸沙織という少女に会わなかったか?」

「ああ、会ったけれどもそれがどうしたんだ?」

 

「その子が『アテナ』だ。」

 

………????

最初、隊長の言っている言葉の意味が分からなかった。沙織がアテナ?何を突拍子も無いことを言いだすんだこの人は……

 

そう思った俺は、今の言葉が聞き間違いでは無いかどうかを確認する。

 

「なぁ、俺の耳が悪くなきゃ俺の義妹の城戸沙織がアテナってニュアンスで聞こえたんだけど……隊長、本当なんすか?」

「ああ」

 

う、嘘だろ?

本来聖域に居るはずのアテナがなんで日本に?いや、それ以前に何故沙織がアテナなんだ?

次々に起こる疑問に俺の思考は完全に停止した。

 

「まぁ、混乱するのも無理ないか……しかしな、今は時間ないんだ織政。これから事の経緯について、簡潔に説明するちゃんと聞いておけよ。」

 

隊長は困惑する俺を気遣いながらも、話を進める。そして、この後、隊長が話した事実はどれも驚くようなものばかりだった。

詳細の説明は省くが、簡潔にまとめると

 

・6年前、アテナが教皇により殺害されそうになった事

 

・間一髪アテナ殺害を防いだ射手座の黄金聖闘士アイオロスは、アテナを連れ聖域を脱出。その後、アイオロスはアテナを城戸光政に託し息絶えた事

 

・その後、光政は、アイオロスに託されたアテナを守るため、今回の聖闘士育成計画を実行した事。

 

この3点だ。

 

 

しかし、最後に隊長はこの上記のことよりもさらに、衝撃的な事実を俺に打ち明けた。それは…………

 

 

 

 

 

 

 

光政と隊長が裏で繋がっていたという事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すまない。光政公との関係は本来、お前が日本に旅立つ前に言うべきだったんだが……お前の光政公に対する感情を知って中々言い出せなかったんだ。」

 

「……」

 

 

隊長が名無しに頭を下げ謝る。しかし、名無しはその様子を無表情で見つめている。

 

 

「………納得はしてもらえないだろうとは思っていた。」

 

「何が目的で、アイツと接触したんだ?」

 

 

当然の疑問、なぜ隊長が光政と繋がっていたのか?それを名無しが追求する。

 

 

「俺はアイオロスの反逆が信じられなかった。そして、死後も逆賊と辱められている事にとても腹が立っていたんだ。……その疑問をお前を拾うまで、抱えていた。」

「しかしな、お前を拾った後、直ぐだったか…お前と同じ"城戸"の姓を持った者から連絡があった。アイオロスの師として『真実を知りたくはないか?』とな。」

 

「……それで、簡単に信じたのかよ。」

 

「…いや、最初は疑ったさ。

でもな、奴らが持っていた情報が嘘にしては辻褄が合いすぎていてな。決定打だったのはアイオロスの持っていた黄金聖衣が城戸家にある事だった。」

 

「それで、あっちは俺の聖域での情報を手に入れ、代わりに隊長はアイオロスとアテナの情報を手に入れたってわけか……」

 

「付け足すなら、俺は教皇の情報と聖闘士育成のための情報を渡し、あちらからは、お前のある程度の過去の情報と光政公の計画していた聖闘士育成計画の詳細情報を得ていた事になる。」

 

「………………なるほどな………じゃあ俺は、隊長とあのクソ親父の手の中で踊ってたってわけか……へっ…へへ」

 

 

 

名無しの引き攣った笑声が響く。

まるで、また、大切なものに裏切られ絶望の淵に立たされているように……

その様子を見て隊長は、名無しの言葉を強く否定する。

 

 

 

「違うッ! 俺はお前が光政公と話し合えば分かり合えると思っていた。だからこそ…」

 

「日本に送り出したってか?……ふざけんなよ。知ってんならわかるだろ?あの野郎は自分の子どもの命を道具ほどにしか思ってないんだ!!」

 

「"虎穴に入らんば虎子を得ず"ということわざもあるとおり、少々強引なところもあるが、光政公は自身の子ども達を信じてこの計画を立てたはずだ……」

 

「んなもん、建前じゃないかッ!

なんだよ……自身の親としての責任を棚に上げて、聖人君子ズラかよ。ナメくさるのもいい加減にしやがれってんだッッ!!

 

アンタだってそうだ。あの計画の無慈悲さはよく分かってるはずだろ?なのに、加担すること事はないだろ!

明らかに間違ってんだろうがァッ!!」

 

「いい加減にしろ!! 誰だって好きでこんなことをやっているわけじゃないんだッッ!!

 

今や、聖域は腐ってる。

誰も今の教皇の正体と行動に疑問を持つものはいない!アテナを守り、教皇が牛耳るこの聖域をアテナのもとへ返すためには多くて50人….少なくも10人程度の聖闘士が必要になる。

 

それを考えた時、現状で練れる策はこれしかないんだ。」

 

「なんだとッ!?」

 

ギリッ ギリギリギリ

名無しの拳が硬く握り締められ、手に巻かれている包帯からは血が滲む。

すると、隊長は急に椅子から立ち上がった。

 

「……どこ行くんだよ?」

「お前は知らなくていい。」

「……そうかよ。また隠し事か?」

 

少しの沈黙……小屋には、ドアへと向かう隊長の足音しか響かない。

 

「……なぁ…織政…」

「なんだよ?」

 

名無しは、隊長の顔を見ようとせず下を向いたままそう答え、隊長は小屋のドアに手をかけ、名無しに背を向けながらこう言った。

 

「『何事も犠牲無しに、成り立つ事ものはない』

 

これの言葉の意味はまだ、お前にはわからないだろう。…でもな、人にはいくら犠牲を払ってでもやり遂げなければならないものが必ずある。

それをよく覚えておいてくれ…

 

……じゃあな織政。」

 

「何を勝手に……っておい!? ちょっと待てくれ!!」

 

ギィッ バタンッ

名無しの叫びをそのに、小屋のドアを開き隊長が小屋の外へ出て行く。

名無しは、隊長の後ろ姿に向かって動かぬ体で必死に手を伸ばすが、力尽きてベッドに倒れてしまう。

 

ダランと伸びた手から、先ほど握り込んだ血がッーと垂れる。

 

「………くそったれが……」

 

悔しいが、ボロボロの肉体では何もできない。

名無しはただ、隊長が去って行く姿に、そう口で悪態を吐くしかできなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

雑兵自治区での出来事から数日後

 

前回の冒頭……ー 教皇の間 ーにて

 

教皇の間の扉の前で足音が聞こえる。

そのことに気づいた教皇は、少し焦ったように声を上げた。

 

「ん…?誰だ!? 私に何か用か?」

 

ギィィィィイ

その声が響くと同時に、扉が開く。

 

「!?ッ き、貴様は!?」

「お久しぶりです。……教皇。」

 

現れたのは、「隊長」こと雑兵隊長アトラウスであった。

 

彼の姿を見た時、教皇は驚いていた。

何故なら、本来彼は自身が下した命により、聖域のはるか遠方にあるデスクィーン島に行っているはずだからだ。

 

「何故貴様がここにいる?命令はすでに通達されているはずだ。」

「いえ…出発する前に教皇にはちゃんとご挨拶をと思いまして……」

「ほぅ…それは良い心構えだが、それならば出発日時から逆算してやって欲しいな。……して、要件はなんだ?」

 

教皇は淡々とそう返す。

 

正直なところ、教皇はこの男を早くどうにかしたかった。

何故ならば、コイツは自身が追い込み殺したアイオロスの師であり、前教皇からも絶大な信頼を置かれていた、まさに前時代の「重臣」とも言える存在であったからだ。

殺すまでにはいかないにしろ、出来るだけ聖域から遠ざけたい不安要素の一つであることには変わりない。

 

今回の「弟子である名無し、ギルティの両名と共にデスクィーン島への出向命令」を出した理由もその一つである。

 

その為、かけた言葉には棘はないが、その実アトラウスには、この教皇の間から、いや聖域から出来るだけ早く出て行って欲しいと言う思いがあった。

 

「申し訳ありません。何せ急なご命令でしたので出発の準備が遅れてしまいましたから……時に教皇。私とのお約束を覚えていてくれていますでしょうか?」

「約束…だと?」

 

身に覚えのない『約束』と言う言葉に少しだけたじろぐ教皇。アトラウスは、その隙を見逃さなかった。

 

「ええ、確かあれは7年前でしたかな?

私が万が一、この聖域を出るようなことがあった際は、教皇自らが私の後見人をお立てになってくださると言うものです。」

「……あ、ああ、そうであったな、今思い出したぞ。して、後見人か…….」

 

…ちっ前教皇シオンめ。余計な約束事などしおって……

心の中でそう悪態を吐くも身に覚えのない約束をハッとしたように思い出すふりをする偽教皇。

それもそのはず、前教皇が生きていた時代に約束された事など、自分が知る由も無い。

ならば、トボけたふりをして無視をするのもよし、相手から聞きだせる程内容が簡単な事ならば話を合わせるのもよし。

 

今回のような、事態に対し取るべき策は当然前者ではあるが、偽教皇は、あえて後者を選んだ。

 

その理由は、上手く行けばアトラウスが所有している大規模な雑兵隊を手に入れることができる可能性があったからである。

 

「後見人か……そうだな。私は蟹座(キャンサー)のデスマスクに任せようと考えている。貴様ほどの男の後見人とするならば黄金聖闘士を起用しても文句はあるまい。」

 

ニヤリと仮面の下で教皇が笑う。

我ながらよく言ったものと教皇は思った。

 

アトラウスという男がいくら人望が厚く、雑兵達や聖闘士候補生達から信用が置かれる存在であったとしても、所詮は雑兵。

身分は聖闘士によりもはるかに下だ。

その為、彼が断りづらいよう後見人として聖闘士の中でも最上級である黄金聖闘士を置くこととした。

 

「デスマスクですか……なるほど。……それは良い考えですね。」

 

それみろ!!

これで、聖域における不安要素を排除できる。しかも、予想外にも戦力まで増強することができた!!

 

教皇がそう喜んだのも束の間。

 

 

 

バシュッッッツ

 

鋭い炸裂音が唸り、教皇の頬近くを凄まじい拳圧がかすめる。

 

カンッ カラララン……

 

被っていた冠仮面が床に落ち、乾いた音を立った。

 

「やはりな……お前は本当の教皇じゃない。城戸家から得た情報と、俺の勘は当たっていたって事だな。」

 

片膝をついた体勢で拳を突き出すアトラウスに対し、教皇は激昂する。

しかし、教皇は顔を法衣で必死に隠していた……

 

 

「アトラウス貴様ァァツ!!」

「シオン様とは、今のような約束事をした事はない。ようやく本性を現したな………………『双子座(ジェミニ)のサガ』よ。」

 

ビクッッ!!

教皇の身体が跳ね、顔を覆いながらズリズリと後退する。

 

ザッ……

アトラウスは、立ち上がり鬼のような形相で

たじろぐ教皇を見据え、こう言った。

 

 

「さぁ…サガよ。我が弟子アイオロスの無念ッッ。そして、アテナへ刃を向けた大罪ッッ。この雑兵隊長"星無し"のアトラウスが貴様を討つ!!

…………覚悟はいいなァッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖域に今、動乱の嵐が吹き荒れる。

 

 

 

 

 





聖域動乱編は次回で終幕。
廃棄聖衣編は全3話で予定してます。

4月までには前日譚を終わらせられる様、執筆してこうと思います。

追記

お気に入り登録28件、UA数4000突破!!
読んでくださった方々本当にありがとうございます。
感想やご指摘などいただけると嬉しいです。

これからも頑張っていきますので、どうぞ応援のほどよろしくお願いします!!!


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暴走する悪意…そして弱者たちの抵抗

シク…シク……

聖域の片隅で、膝を抱えて1人泣いている子どもがいる。

その子どもは、全身痣だらけであり、子どもの横には、所々欠けボロボロになった木の器とズタズタに折られた木の匙が転がっていた。

 

その子どもは、先程、配れる夕飯の奪い合いに負けた敗者であった。

全身を走る鈍い痛み、耐えきれない空腹。

そして、延々と湧き上がってくる涙。

 

……死にたい。

 

そう思ったのはこれで何度目か?

聖域での修行は、自身が想像し覚悟していたものより、遥かに厳しく苦しいものであった。今日の様に、飯にありつけないことなど日常茶飯事。自分より強い相手に一方的に嬲られ、痛めつけられる日々。

歯を食いしばり、それらの理不尽な力に立ち向かっていくが、その結果は一矢報いるどころかボロ雑巾の様になるのがオチだ。

 

カタッ

木の器に傷だらけの手が当たり虚しい音が響く。

……夜風が傷にしみる。

 

「おい!」

 

不意に後ろから声をかけられ、ビクッと子どもが跳ね上がる。

恐る恐る振り向くと、そこには自身のよく知る人物が心配そうな顔つきでこちらを見ていた。

 

「……隊長。」

「なんだ、"名無し"また、やられたのか?

全く……馬鹿正直にあいつらに突っ込んでいくからこんなになるんだよ。」

 

そう言いながら、隊長はゴツゴツとした手で俺の頭を撫でる。

 

「いってぇ……隊長…もう少し優しく…」

「お!?悪りぃ…つい強くやっちまった。」

 

そう言って慌てて俺から手を離すと、隊長は後ろに持っていた器を取り出す。

その器には、たんまりと麦飯がもられていた。

 

「ほれ!だいぶ冷めちまってるが、お前の今日の夕飯だ!!」

「!?ッ い、いいの?」

 

出された麦飯を掴み、涙目になりながら名無しが叫ぶ。それに対し隊長は爽やかに笑っていた。

その後

ガッガッと麦飯を口の中に掻き込む名無しの横で、隊長はズボンのポケットから小さい箱を取り出した。そして、その箱から少し萎れた煙草を取り出し口に咥えて火をつける。

 

「……うま」

「また煙草?」

「お前と同じで俺も一服さ。 …なぁ名無し。」

「うん?」

 

ふと、名無しの方を見てタバコを咥えながら、隊長はこう言った。

 

「うまいか?」

「うん!すっげぇうまいよ!ありがとう隊長!!」

「ダハハハ!! そうか…こりゃ取ってきた甲斐があったな。」

 

 

 

この頃からだ

少年…名無しが、「隊長」の様な大人になりたいと思い始めたのは…

 

弱い者に手を差し伸べ、その者たちを助ける。それは自身の目的である「弟、妹達を守る。」という事にも通ずる事であり、

さらに、今こうして、自身も手を差し伸べてもらえている事に対し"報いたい"という気持ちから来るものであった。

 

 

 

なのに……

 

「『何事も犠牲無しに、成り立つ事ものはない』」

 

あの時、隊長から発せられた言葉は、少年の思い描いていた理想を真っ向からぶち壊すものであった。

 

 

 

***

 

 

 

隊長が治療小屋から出て行ってから数日後。

 

名無しの容体は回復の方向へと向かっていた。まだ、小屋の外に出るほどの体力は無いが、ベットから起き上がり、辛うじて歩けるほどまでは体を動かすことが出来る。

 

しかし、顔色はお世辞にも良いとは言えなかった。

 

「チッ……またかよ。」

 

先ほどまで、寝ていた名無しは起き上がり、ベットの上で頭を抱えながら、そう悪態つく名無し。

体の方は回復しつつも、父、そして師の一件で精神的に追い込まれた彼は、未だに現実に苦しんでいた。

 

「何で….今頃になって隊長との記憶が夢になって出てくるんだよ。」

 

自身の具体的な理想像であった隊長。

弱い者を守るという信念を掲げ、それを教えてくれた己の師。

だからこそ、彼の裏切りを名無しは許せなかった。

 

頭を抱える腕を下ろし拳を握る。その時、サラッ…と手に、布の様なものが当たる。

ふと見るとそこには、自身がつけていた赤いバンダナが丁寧に畳まれ置かれていた。

名無しはそれを一瞥すると、そのバンダナをおもむろに掴み、床に叩きつけた。

 

自分と師を繋ぐ物…そんな物はもういらない。

そう思っていた矢先、叩きつけたバンダナから、ガサッと一枚の小さな紙が飛び出た。

 

「…なんだ? こりゃ……」

 

まだ少し気だるい体を動かし、その紙を拾う。するとそこには、見覚えのある字でこう書かれていた。

 

 

『ー 名無しへ ー

お前がこの手紙を読んでいる頃には、大方こちらの準備も整い。お前もある程度回復していることだろう。

 

…この間はすまなかった。

お前の気持ちも考えずに、ただ結果だけを伝える形になってしまったな。

 

俺の事を恨んでくれていい、憎んでくれたっていい……だから、せめてこれから書く事を師の最後の言葉として守ってほしい………』

 

 

その後名無しは、その紙を食い入るように見つめ読み進める。

そして、手紙を最後まで読み終えた後、彼は小屋を飛び出した……

 

その手に、しっかりと赤いバンダナを握りしめて。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

 

教皇の間にて、相対する2人。

 

1人は仮面の下の素顔を剥がれ、困惑する教皇、もとい双子座のサガ。

そしてもう1人は、教皇の正体を暴き愛弟子の仇を打たんとする隊長ことアトラウス。

2人の間には、とてつもない量の小宇宙が激しくぶつかり合っていた。

 

 

「フッ…フフ フハハハハハハッッ!!」

「何が可笑しい? 自身の行く末でも見たのかサガッッ!!」

 

高らかに声を上げて笑うサガに対し、違和感を覚えるアトラウス。次の攻撃をいつでも放てるよう構えを直し、拳をサガの喉元に向ける。

一方、サガはそんなことは一切気にせずまるで勝ち誇ったかのように、アトラウスを見据えていた。

 

「自身の行く末ぇ? 見えたさ今はっきりと!!このサガが地上を治める姿がな!!」

「血迷ったか!!覚悟しろッ!サガァァァァァァア」

 

カァッ!

アトラウスの拳が光る。凄まじい炸裂音と衝撃波がサガの喉元に突き刺ささった次の瞬間。

 

グシャァッ

 

潰れたトマトのような音を立ててサガの首が千切れ飛ぶ。

が、しかし、サガの体はそのままの体勢を保っており、あろうことかアトラウスの方に歩み始めてきた。

 

「な、何ぃ!?」

「フッフフ 貴様の剛拳もその程度か……どうしたアトラウス?ちゃんと狙って打てよ。」

「こ、小癪なァァア」

 

ズドォォォン

 

次は、サガの胸を貫き、大きな風穴があく。しかし、それでもサガは止まることなくこちらに近づいてくる。

 

「さぁ、どうする。打つ手はもうないかぁ?」

「う、嘘だ。頭を弾き飛ばし、心臓さえもぶち抜いたというのに…….何故お前は生きている……ハッ!?」

 

目の前の奇妙な現象に驚きを隠せないアトラウスが、何かに気づく……

瞬きをし、もう一度サガの方を見ると、そこには、無傷のままのサガがニヤリと笑い立っていた。

 

「そ、そうか……俺は幻覚を見ていたのか。」

「フッ…ようやく気がついたか。このマヌケめ。お前じゃこの私に指一本触れることさえできない。」

「チィッ なら、当たるまでこの剛拳を叩き込むまでだ!!喰らえッ 背水闘法」

「!?ッ」

 

「"ディプラシアスモズ(倍増)"!!」

 

そうアトラウスが叫ぶと、彼の小宇宙が2倍…いや3倍程、急激に膨れ上がる。

サガは、その変化に戸惑った。何故ならその小宇宙の量は、黄金聖闘士に匹敵し、たかが雑兵如きが出せるものではなかったからだ。

 

 

ガォォォウンッッ!!

 

アトラウスの剛拳が唸り、サガを捉え、そのまま振り下ろした。教皇の間が大きく揺れ、その振動は十二宮全体に響き渡る。

 

シュウッッ

アトラウスの拳からは、熱した鉄のようなエネルギーが放出されており、その拳の威力を物語っている。

一方のサガは、モロに拳を喰らい遥か後方へと吹き飛ばされていた。

 

「さぁ……ここらで終わりにしよう。なぁ?サガッ!!」

「グッ…フッフフハハハ アトラウスよ。お前は本当に惜しい男だ。本当に……」

「最早、貴様の言葉など聞く耳を持たん。この場で死んで、天に居るアイオロスに詫びろ。…………死ねェェェェ!!!」

 

アトラウスがまた、拳を振り下ろす。。今度こそ確実にサガの命は絶たれるであろう。

そう、彼が確信した瞬間。

 

 

ビィキィィインッッ!!

 

「グッ!? ウガァァア!?!?」

 

突如として頭に激痛が走り、アトラウスが頭を抱えうずくまる。

その様子を、まるで予想していたかのように擦り切れた法衣を引きずり、サガがこちらに歩み始めてきた。

 

「何故?私が終始余裕そうにしていたと思う?アトラウス。 それは貴様が俺の魔拳にかかったからだよ。」

「な、なんだと……ッ!? グゥゥゥウァァァァァァア」

「ふぅ…まさか、貴様が小宇宙を急激に上げる特殊な技を持っていたとはな。

全く手こずらせおって……」

 

形勢逆転。

今度は悶え苦しむアトラウスにサガが不敵な笑みを浮かべ近づいてくる。

そして、アトラウスの傍に腰を下ろすと、彼の耳元でこう囁いた。

 

「何故、私の正体を知っている?そして、貴様が何を企んでいるのか詳しく聞かせてもらおうじゃないか?」

 

 

悪魔の囁きが、彼の脳髄に響き渡る。

……サガがアトラウスも知らずのうちに放っていた魔拳。

その名も、『幻朧魔皇拳(げんろうまおうけん)

相手の脳神経を支配し、幻覚を見せたり、操ったりすることが出来る恐ろしい技なのだ。

先ほどまでのアトラウスが、サガを狙って放った攻撃は全て、明後日の方向に飛んで行ったのである。

 

そして、今度は自白剤の代わりとして、サガが新たに魔拳を放ったのだ。

 

この魔拳の力によりサガは、聖闘士育成計画の情報を手に入れた。

が、しかし、それ以上の事、つまり、育成計画の詳細やアテナの居場所については、アトラウスは絶対に口を割ることはなかった。

 

「ええい! 早く吐け!!アテナは、あの忌々しい女神は今!どこにいるんだッッ!!」

「ウグッ……クガァッ!? 俺は……何も知らないッッ!!」

「チッ…やはり、なまじっか精神力が強いと自白は無理か。ならば……」

 

もう、この男を利用する価値はない。

 

スッとサガの拳がアトラウスの額に当たる。

そして、こう言った。

 

「貴様の手で、貴様が最も大切にしている部下たちを "殺せ" 1人残らずなぁッッ!!」

 

サガが、渾身の力を込め、トドメの幻朧魔皇拳を放つ。

 

そして、彼の放った拳の音を境に、教皇の間に静寂が訪れた…………

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ザァァァァッ

とてつもない量の雨が聖域に降り注ぐその中を、名無しが走る。

 

腕や足に巻かれている包帯は、全て茶色く染まり、ぐちゃぐちゃと汚い音を立てていた。

それでも、彼は行かなくてはならなかった。

 

あの手紙に書かれていたアトラウスの本心。

帰ってきた際、何故ああも自身に厳しく接したのか……

 

その答えである手紙の続きには、こう書かれていた。

 

『お前の父、光政翁が実行している聖闘士育成計画は教皇を打つためにはとても必要な物だ。だが、100人の子どもを犠牲にすることは決して許されるものではない、だからこそお前には、その子たちの兄として、師としてこの聖域で聖闘士の修行をつけて欲しい……

だが、これは俺の願いであって、お前がその子たちにアテナの聖闘士としての宿命を背負わせたくなければ、何のしがらみも囚われない聖域の外で、兄弟たちと暮らすのも良い。

それはお前の自由だ。

 

だからお前は、俺が聖域で蜂起を起こしている間、その混乱に乗じて聖域を抜け出せ。

光政翁の子どもたちは、聖域の外のアルプス山脈付近に一箇所に集めるよう手はずを進めている。

 

兄弟達を守り導くのはお前だ!!

 

…俺もその子たちを見てやりたいのは山々だが、俺には愛弟子の仇というケジメをつけなきゃならない。

 

聖域内では、こんな話はできなかったからな…本当にすまなかった。

 

強く、そして逞しく生きろ。

 

"隊長"アトラウスより。』

 

 

手紙に書かれていたことの真偽は定かじゃない。が、名無しは一つ理解していた。

 

隊長の言っていた本当の犠牲とは何か?

それは、隊長自身。

 

混乱に乗じて、自分を逃し、

城戸家にいる子どもたちを聖域外つまり、教皇の目が届かないところに集める場所に行かせるため……隊長は自らを犠牲にしたのだ。

 

 

……隊長が何故、あの時は名無しにこの真実を言わなかったのか?

 

それも今こうして走る彼は、ひしひしと感じていた。

 

……俺が、止めるのを分かっててあの人は、わざと憎まれ役を買って出たんだ……それに、もう事が始まっちまえば、俺も隊長も止まることは許されない。

 

 

不意に熱い涙が流れる。それは、雨とともに自身の顔を濡らした。

 

 

「クソォ……まだ、まだ俺は何も返しちゃいねぇんだ。隊長に…クッソォォォォォオ!!」

 

 

せめて、もう一度……

隊長と会いたかった。

最後の別れの言葉を……言いたかった。

 

 

だが、今は走らなくてはならない。

隊長の覚悟を無駄にしないためにも

 

だからこそ、そう自らを奮い立たせ走る。

 

 

 

が、

 

 

 

 

ザッッ

 

何かの影が名無しを横切った。

 

「な、なんだ!?」

 

咄嗟に避けるが、まだ完全に回復しきっていない体では体勢を崩してしまい、名無しは転んでしまった。

慌てて、立ち上がろうとするも中々、立ち上がることができない。

 

「畜生ッ! 体に力が………ったくなんなんだよ、さっきのは? 」

 

ふと、先程横切った影はどこかに消えていた。

 

「小動物かか、何かってところか…… んなこた構ってる場合じゃねぇ早くいかねぇ……と?………ッッ!?!?」

 

 

 

影は、消えたのではない。

 

豪雨のせいで前がよく見えなかったのであろうか?

その影は自身の目の前にいた。

 

そして、その影の正体見た名無しは動揺を隠すことはできなかった。

 

何故なら影の正体は……自らを犠牲にし自身に活路を切り開いてくれた人だったから……

 

 

 

だが、それは、

 

 

 

ギラギラと真っ赤に光る目と両手に持った見慣れた雑兵たちにの生首を引きずる………

化け物と化した己の師の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでの解説と補足

・隊長と光政の関係
アイオロスのアテナ誘拐の罪と死に疑問を持っていた隊長は、情報を探る途中、光政に接触。
その時、光政は聖域の状況と聖闘士育成計画に必要な具体的な情報を隊長に求めた。そして、隊長はそれを提示する代わりにアイオロスとアテナの真実を知る。
その後、アトラウスは教皇(サガ)への復讐の為、光政は沙織(アテナ)を守るため、双方ともに協力関係となる。

・隊長の名無しへの接し方と手紙の真実
アトラウスは、光政のやり方に賛同しかねていた。そして、それは弟子である名無しの願いでもある。その為、彼は自身の目的と弟子の願いを叶える為、光政の計画の穴を攻めた。
まず、光政を説得する事ができないと薄々感づいていた隊長は、ギルティに彼を迎えに行かせる。嬉しい誤算で、名無しは射手座の聖衣に気絶させられており、強制送還する事ができた。
光政には聖闘士の育成の場所を一箇所に絞りる事を提案。光政の了承を得た隊長は、本編のように名無しを誘導しそこに向かわせる。
その後のことは、全て名無しに一任し、それを教皇や聖域の連中に知られない為、自身は反乱で有耶無耶にするという計画であった。

治療小屋での接し方は、名無しにこの事を拒否させないため、そして、万が一にでもこの事を聖域の者達に知られないようにするためである。


オリ技の解説

背水闘法「ディプラシアスモズ」

己の小宇宙を2倍〜3倍にまで急激に増加させる技。
自身の攻撃力、防御力、瞬発力など、全ての体力的パフォーマンスが向上し、生身であっても並みの聖闘士以上の戦闘力を手に入れる事が出来る。
欠点として、小宇宙の消耗が激しく持続時間が短いため、この技か切れた場合、使用者は立つことすらままならなくなる。

なお、ディプラシアスモズとはギリシャ語で倍増の意を示す。





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叩きつけるような雨の中で……


投稿ペースが落ちてしまいましたが、何とか4月中には投稿できた
実は今回、大急ぎで執筆した為いつもより短めの構成となっています。……本当に申し訳ない


 

 

 

 

 

名無しと隊長が対峙する少し前…

ー 雑兵自治区 兵舎 ー

 

聖域のほぼ全ての雑兵達が、住まう自治区では、任務を終え疲れ切っている者や開放感に浸る者、飯を楽しみに待つ者など、ガヤガヤと賑やかな時間が過ぎていた。

 

 

すると…

 

 

バタッ……と、兵舎の入り口で誰かが倒れるような音が響く。

 

多くの雑兵達は、その物音すら聞こえなかったが、それに気づいたいくつかの雑兵達が、倒れた奴に駆け寄る。

 

 

「お、おい?アンタ大丈夫か?」

 

「っんだよ?ノロイ奴だなぁ 一体誰…………っって隊長ぉ!?」

 

 

その雑兵の声に、周りの雑兵達が反応する。

此処では余程の事でもない限り、兵舎でぶっ倒れるような事はまず無い。

これが新人の雑兵や聖闘士候補生であれば話は別だが、今、倒れているのは自分達をまとめ、導いてくれる存在である隊長だ。

……これがどれほど異常な事態である事は、誰しもが理解していた。

 

 

「た、隊長!!何があったんですか?……なっ!? 体の至る所に酷い怪我がある!」

 

「おい!何やってる!!早く氷と包帯もってこい!!」

 

「……うっぐぅぅう……」

 

 

駆け寄る雑兵達に気づいたのか、隊長が声にもならないような声を上げる。

 

「…早…く…」

 

「隊長! 安心して下さい。すぐに手当てしますんで。もう少しの辛抱ですよ!」

 

「今、氷と包帯持ってきました! さあ、みんな!手伝ってくれ!!」

 

彼の人望故か、周りの雑兵達が心配そうに駆け寄ってくる。そして、すぐさま隊長の手当てを始めた。

そんな中、隊長は何かを伝えようと必死に呻くように声を上げる。

 

 

「は、早く……ぅ 俺から……」

 

「隊長どうしたんですか? 何があったのかはわかりませんが、ここまでくりゃ大丈夫っすよ!」

 

「そうっす! とりあえず、今は傷の手当てが優先です。ちっと我慢してて下さいね。」

 

「離れ……ろぉ ……早くぅぅ ………グッウガァァァァァァァァァア!!!ガクガクガクッッ

 

 

突然、呻き声が叫び声へと変わり、さらに体が痙攣し始める。

手当てを行なっていた雑兵達は、一瞬何が起きたのかわからなかったが、隊長の苦しむ姿を見て、より一層緊張感が走った。

 

「みんな!! 隊長の様子が急変したッ!! 誰か医者呼んでこい!!」

 

「それに、解熱効果のある鎮痛剤の薬草もだ!!まだ倉庫にあったろ。早くしろッッ!!」

 

「それだったら、湯も沸かせ!!薬草煎じて飲ませるのに必要だ!!」

 

兵舎にいる雑兵全員が、隊長を助けるため行動する。

彼らの中で隊長に世話にならなかった者など1人もいない。それほどまでにアトラウスという男は慕われていた。

だからこそ………

教皇のかけた魔拳は最大の効力を発揮した……

 

 

 

 

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァアッッッ!!!!!!」

 

「隊長!? どうし……」グシャッ!!

 

体の痙攣がピタリと治り、途端に獣のような雄叫びを上げる。

刹那

彼の剛拳が唸り、手当てしていた雑兵の1人の首を飛ばす。辺りには、鮮血と肉の潰れる鈍い音が響き渡った。

 

 

「「「 !? !? 」」」

 

その場に居合わせた全員が固まる。

彼らは、今ここで何が起きたのか、理解できずにいた。いや、わかるはずもないだろう。さっきまで、手厚く看護していた恩人が急に暴れ出し、人を殺したのだから。

だが、この時の数秒の戸惑いがら彼らの命運を決定付けてしまった。

 

 

 

 

数分後……

 

 

 

 

 

 

「だ…カラ… 早ク……ハなレロ……トぉ言ったノニぃ…… 」

 

 

兵舎に呂律の回っていない声がこだまする。隊長は、真っ赤に染まる両腕で、頭を抱え苦しそうにうずくまる。

 

 

「まダ…マだ…足りなイ……血ガ……血ぃガァァ!!!」

 

 

最後の最後まで、魔拳の力を抑えていた精神力が音を立てて決壊していく。

そして、隊長はもう魔拳の力に抗えなくなってしまった。

ピタッピタッ……

血溜まりを踏み、水音を立てて、隊長は立ち上がり兵舎へと出て行く。

 

 

 

 

……隊長が立ち去った兵舎の中には、先程まで居た雑兵達の姿はなく。

代わりに、臓物が剥き出た無数の屍と真っ赤な血の海が広がっていた………

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

そして場面は前回に戻り……

 

ー 名無しside ー

 

ザァァァァア

叩きつけるように降る雨の中、俺は固まった。

 

 

「……隊…長?」

 

 

絞り出すように、己の師の名を呼ぶ。

その言葉に反応したのか、のっそりとこちらを見据え隊長は笑う。

 

 

「よぉ 名無し……体の方は元気になったか?」

 

「ッッ!?」ゾクッ 

 

 

抑揚のない声で、こちらを見て笑う己の師に何か背筋が凍るものを感じた。

なぜなら、その目は俺を見ているのではなく、何処か…何処か遠くへを見つめ言っていたからだ。

 

 

「なんだよ?何をそんなに怯えてる?」

 

 

隊長は俺の方へと歩み始め、両手を伸ばし俺を掴もうとする。

その際、手に持っていた生首がゴロッゴロゴロッと鈍い音を立てて転がった。

 

ザッッ!!

 

俺は、その異様な状況下の中、本能的、直感的に、攻撃の構えを取った。

 

 

「く、くるんじゃねぇ!!」

 

「ほぉ……雰囲気だけで察しやがったか…お前だけは、苦しまずに殺してやりたかったんだけどな….そう構えられちゃ…無理そうだ。」

 

 

刹那

 

 

隊長の拳が消えた。

それと同時に、ドゴォッという音ともに、俺の後ろの岩が四散する。そして、後から来る衝撃波が俺を地面に叩きつけた。

 

 

「グボッッ!!」

 

「おいおい? 何ぃ油断してやがるんだ?俺はそんな悠長な闘い方は教えちゃいないぞ? クッククク!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」ズバシュゥゥ

 

 

隊長が奇妙な笑みを上げた瞬間、俺の恐怖の感情は臨界点を突破し、気づけば声にもならない叫びをあげながら隊長の顔目掛け思い切り音速拳を放っていた。

 

ボゴォッ

鈍い音を立てて、隊長の顔面が沈む。

が、

体勢は崩れずさっきと同じまま……不意に自身の放った拳の影から外れた隊長の表情が映る。

そこには、目が充血し真っ赤な瞳でこちらを睨み、まるで氷のような冷たい表情で笑う隊長の姿が見えた。

 

でも、その姿はまるで……………

 

 

「なぁなぁしぃぃぃぃぃぃぃい!!!!」

 

 

ドゴォォォォォォッッ!!

 

が、しかしそんな事を考えている余裕はなかった。先ほどとは比べ物にならないほどの轟音と、共に、俺の体が宙に舞う。

一瞬何が起きたのか俺は理解できなかった。それもそのはず、思考よりも、腹回りにとてつもない激痛と、衝撃が俺を襲ったからだ。

 

 

「ウゴッ ゲボォォォ 」

 

 

意識が混濁する中、腹の物が逆流し自身の口から噴き出る。

だが、それだけでは終わらない、宙を舞った俺の体は、そのまま地面に激突しさらなる衝撃が俺を襲う。

 

グシャァァ!!

背中から嫌な音が聞こえ、目の前がチカチカする。

自身の脳髄が、さらなる隊長の攻撃に備えろと、危険信号をけたたましく響かせるが、それらは全て全身に走る痛みに掻き消された。

 

 

「うっ、ぐがぁ……」

 

「トドメだ……死ねぇぇぇ!!」ゴォゥ!!

 

身動きも取ることが出来ず、もがき苦しむ俺は、隊長の間髪入れずに来た追撃をモロに食らってしまった……

 

ガァァァァンッ!!

 

痛みを通り越して伝わる衝撃が俺の体を揺らし、地面へとめり込ませる。

そして俺の意識を掠めとっていた……

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ザァァァァァ

 

雨は絶え間なく降り注ぎ、2人を濡らす。

隊長は立ち尽くしたまま、動かない。

 

そんな彼に、歩み寄る一つの影があった。

 

 

「魔拳にかかりゃ、自身が愛していた部下や愛弟子をこんなにも簡単に殺せんのか……つくづく恐ろしいねぇ。教皇様の 『幻朧魔皇拳』って奴はよぉ。」

 

 

その影は黄金に輝く聖衣を身に纏っており、雨の中でも、キラキラと輝く銀髪を揺らめかせながら、隊長の前に立つ。

 

 

「こりゃ……」

 

銀髪の男は絶句した。

 

立ち尽くす隊長は白目を剥き、そこからおびただしい量の血涙を流していた。

そして、名無しに振り下ろした拳はギリギリのところで止まっている。

 

「……なるほど、土壇場の所で魔拳の支配を自身の精神力で脱したのか…が、代償にアトラウスの脳髄が壊れたのか……」

 

それに対する返答はない。

この場にいるのは、銀髪の男ただ1人。

不意に、男が人差し指を一本突き出し、隊長に向ける。

 

 

「哀れだな……黙って従ってりゃいいものを……安らかに逝かせてやるよ。

積尸気冥界波ッ!!」カッ!!

 

 

そう男が叫ぶと、彼の人差し指から一筋の閃光が走り、それに合わせて隊長が崩れ落ちる。

それを確認した後、銀髪の男は、全身血だらけで気絶している名無しを地面から引っこ抜き、乱暴に放り投げる。

そして、隊長の亡骸に対し盛大の皮肉を込めてこう言った。

 

 

「力の無い奴がどれだけ足掻こうが、所詮何も変わりゃしねぇんだよ………『力こそ正義』コレこそが真実だ。

……このガキは、その為に利用させてもらうぜ。じゃあな"逆賊の師匠"さんよ……」

 

 

 

そう言って隊長に踵を返し男……黄金聖闘士「蟹座(キャンサー)のデスマスク」は、名無しを引きずり叩きつけるような雨の中に消えて行った………

 

 

 

 

 

 

聖域動乱編 完

 

 

 

 

 

 

 






デスマスク登場。
次回から、もっと原作のキャラが出せるかも…

あと少し…あと少しでこの長い前振りも終わるので、今しばらくお待ちください。


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