半冷半燃少女は幼馴染 (セロリ畑)
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設定:轟凍夏

 
 そういえば書いてなかったなーと思ったので。
 原作や本編のネタバレを含みますのでご注意下さい。
 気にしないよ!って方はある程度今作を読んでから見て頂ければ。
 中身は順々に追加していきます。

 設定で何か書いてほしい情報があれば感想へ。加えれそうなら加えていきます。
 


●轟 凍夏(とどろき とうか)

 

誕生日:1/29(「出久の日」だと凍夏は喜んでいる)

身長:175cm

出身中学:凝山中学校

血液型:O型

ヒーロー名:ヒエン(漢字で書くと氷炎)

好きなもの:緑谷出久、身内(父除く)、蕎麦(あったかいのも冷たいのも)、カツ丼

嫌いなもの:父親、エンデヴァー、轟炎司、辛いもの

 

○イメージ画像

 カスタムキャストより作成。

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

〇人物像:ほのぼの天然マイペースなお姫様/出久好き好き少女

 

 温厚な性格で、普段はぽやぽやしている。

 感情の起伏が小さく、無表情ではないがあまり表情は変わらない方。

 驚いた時は「わ」とは言う。表情変化はほぼ無し。

 

 家の関係で礼儀作法は一通り学んでいる。和風のお嬢様。

 育ちが良いが、世間一般常識から離れているほどではない。

 周りの空気に関わらず、気になったことには口に出すタイプ。

 

 

 ……というのが、緑谷出久以外の前での彼女。

 出久の前では普段の感情の起伏の乏しさはいずこ、喜怒哀楽がとても分かりやすくなる。

 

 彼に褒められ喜んでいる時は、だらしないぐらい緩んだ笑顔。

 彼を貶され怒っている時は、エンデヴァーに匹敵する怒気。

 彼に叱られ落ち込んでいる時は、加護欲が沸くしょんぼり感。

 彼と遊んで楽しんでいる時は、万人を魅了する微笑み。

 

 おおよそ別人レベルに表情が動いているが、本人的には無意識。

 五歳の頃からこうだった為、家族や引子には出久へ恋慕を抱いているのがバレバレだった。

 年齢が上がるにつれ、この事をある程度自覚したが、直す気は全くない。

 ストレスを受けると言動が幼くなり、出久への甘えが加速する。

 

 

〇個性:半冷半燃

 右で凍らし、左で燃やす。

 威力、範囲、展開速度は自由自在。(例:炎熱や氷結で緑谷出久1/1スケールフィギュアが作れる)

 同時使用も可能。多少動きが鈍くなるが誤差の範囲内。

 副産物として、多少の温度変化を感知出来る。

 高い温度になるほど感知しやすい。特にエンデヴァーが近付いてくると本能レベルで分かる。

 

 片方だけ使いすぎると、炎側は熱が籠り、氷側は体温が下がり身体能力が低下する。

 ただし、幼少期からの特訓により呼吸する感覚で体温調整出来る為、既に弱点ではない。

 エンデヴァー曰く「未だ限界値は見えていない」 

 

 

〇必殺技

 

・不動氷陣(ふどうひょうじん)

 

 自分を基点(右手や右足)として、広範囲を氷結させる技。

 敵が居れば足から首まで好きな範囲を凍らせて動けなく出来る。

 時間を掛ければ相当に密度を上げられる。

 氷結範囲はスケートリンクのようにツルツルにも、氷河のように凸凹にも自在に変化させられる。

 拘束用としての意味合いが強いが、フィールド形成にも役立つ。

 

・氷炎舞闘(ひょうえんぶとう)

 

 半身にそれぞれ氷と炎を纏う近接技。

 身体に触れた相手を瞬時に燃やし凍らせる。

 イメージとしては、原作轟焦凍くんの初期戦闘服の右が氷になって、左から炎が出てる感じ。フレイ◯ード。

 

 装甲技とも言えるもので、近接主体の相手には絶大な効果を発揮する。

 以前はただ身体から氷結と炎熱を発生させる状態だったが、出久のワン・フォー・オール・フルカウルから着想を得て、今の形に落ち着いた。

 手に爪状の氷炎の装甲を纏い殴り合いを行う「炎爪氷牙(えんそうひょうが)」というスタイルもある。

 

 弱点として、反射で攻撃するので味方が触れた時、意識をそちらに割かなければ味方にダメージを与えてしまう。

 また、それなりの集中力を必要とする為、長時間の戦闘には向いていない。

 

・アブソリュートゼロ・プロミネンスバーン

 

 半冷半燃の同時使用、その極致。

 高出力を用いて凍結と業火を両半身から一気に撃ち出す技。

 現段階においても、雄英体育祭会場を消し飛ばせる威力がある。

 出久戦では上方へと撃つ事で、周りへの被害を抑えた。ただし空中警備のロボは全損。跡形もなく消し飛んだ。

 蒼炎を使った場合の威力は、計り知れない。

 

・蒼灼熱砲(そうしゃくねっぽう)

 

 青い炎を使った凍夏の炎技。

 父の赫灼熱拳をベースとして強化した。

 炎の温度、規模、速度が跳ね上がる代わりに、コントロールが数段難しくなる。

 炎上した円陣の中に閉じ込める「アズールフレア」(イメージは21巻の荼毘が使ってたやつ)

 赫灼熱拳ジェットバーンに更なる炎圧や爆炎を加えた「ジェットバーンインパクト」

 どれも一撃必殺級の特大火力。まだまだ練習中。

 

 

 

・穿天氷壁(がてんひょうへき)

 

 原作において轟焦凍も使う出力重視の大氷壁。

 何もかもを凍らせる氷壁を展開する、不動氷陣の出力上昇バージョン。

 所謂ぶっぱ技だが、細かい調整を加えられる。

 形も作り変えられ、三角形や四角形での展開も可能。流石にちょっと歪んだ形ではある。

 

・赫灼熱拳(かくしゃくねっけん)系統・プロミネンスバーン等

 

 みんなだいすきエンデヴァーでお馴染みの技。嫌々ながらも教わった。

 赫灼熱拳はジェットバーン、ヘルスパイダーなどの高火力なものが多い。

 体温調節出来る凍夏は、習得するのも早かった。

 かなり応用が利く、が、まだ父親ほどは扱いこなせない。

 

 




・没ネタ

 技名。
 蒼灼熱砲「アズールフレア」は「アズー〇レーン」にしようとしてた。
 意味が「蒼の行路」で業火陣と名前が良い感じに噛み合ってたから。
 没理由:言わずもがな。

綾〇「気にしなくてもいい、と思うのです」
ラ〇ィー「世の中、似てるものが多い……」



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入学編
1:隣がぷりぷりしてた入学初日。


 
 なんか書いてみました。
 基本的にオリ主一人称視点です。



 小さな女の子が泣いている。

 

 

『うぅ……ひっく……』

 

 

 左右で紅白の珍しい髪色。

 

 見覚えのあるそれで誰なのか気がついた時、これは夢なんだと意識した。

 

 

『もう、やだよぉ……』

 

 

 ひとりぼっちで蹲りながら泣く子どもは、幼かった頃の私。

 

 小さな自分には苛烈な生活で、まだまだ未熟な筈の精神をギリギリまで削りながら生きていたのをよく覚えている。

 

 そして、目の前にいるのは心が壊れる寸前に逃げ出した私だった。

 

 助けを求める事すら諦めて、独りで耐え凌ごうとしている。

 

 けれど、そんな私に駆け寄る足音が聞こえて。

 

 

『だいじょうぶ? どこかいたいの?』

 

 

 自分を心配してくれた声に、幼い私がびくりと震えながらも、顔を上げる。

 

 同い年くらいの男の子で、声と同じぐらい心配そうな表情をしていた。

 

 

 その相手をよく確認しようとした所で。

 

 視界が白く染まり、意識が遠のいていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 小鳥のさえずりがぼんやりとした頭に響く。

 微睡みに抗うべく、重い身体を無理矢理起き上がらせる。

 思考は働かないまま部屋の時計を薄目で見れば、起きるには丁度良い時間だった。

 

 それにしても、随分と懐かしい夢を見た。

 余韻に浸りたい気持ちを抑えつつ布団からのろのろと這い出た私は、辿り着いた洗面台で顔を洗う。

 冷たい水のお陰でようやく意識がはっきりしてきたので、軽く首を回すとぱきぱきと気持ちの良い音が鳴った。

 

 顔を上げると冴えた目が、鏡に映る自分を捉える。

 肩にかかる程度の長さの髪と、母親似のはっきりとした瞳は、左右で色が違う。

 

 右は母親譲りの白髪に灰色の瞳。

 

 左は父親譲りの赤髪に明緑色の瞳。

 

 左目の周辺には幼い頃の火傷の痕が残っているけど、今はもうあまり気にならなくなった。

 火傷痕を少しだけ指でなぞり、髪の毛を軽く整えてから布団を畳みに戻る。

 手慣れた作業を速やかに終えて、今日から袖を通す制服を手に取った。

 雄英高校、国内外最高峰のヒーロー科を有する超名門校の制服。

 サイズ確認以来初めて着たブレザーに、おかしな所はなさそうだ。

 

 初日なので殆ど無い手荷物を持って、居間へと足を進める。

 近づくにつれ味噌汁らしき香りが漂ってきたので、少し早足になってしまう。

 日本家屋だからか、基本的に和食が多いので必然的に食の好みもそちら寄りとなった。

 

「………居ないな」

 

 居間に近づいても温度が変化した様子は無いので、思わず声が漏れる。

 力を誇示する為に常に髭を燃やしているあの父親は、自身が気温を上げていると気づいているのだろうか。

 まあどちらにしても、私としては避けやすいので構わないんだけれども。

 

 ……朝からあんな男の事を考えても何の利益にもならない。

 人の気配のする居間に顔を出した私は、丁度料理を運んでいた女性……冬美姉さんと目が合った。

 

「あっ、おはよー凍夏(とうか)。朝ご飯できてるよ」

「おはよ、姉さん。手伝うよ」

 

 朝からにこやかに笑う姉さんに、私こと轟凍夏(とどろきとうか)も、自然に笑顔になりながら挨拶を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を終えた私は少しの食休みを入れてから、学校へ向かうべく家を出る。

 

「行ってらっしゃい、頑張ってね!」

「うん、頑張る。行ってきます」

 

 後から仕事に出る姉さんに見送られながら、今日から通学路となる道のりを歩いて行く。

 

 家から駅まで歩き。

 駅からは電車に揺られて目的の駅まで。

 目的の駅からはまた歩き。

 

 これを三年間繰り返すのかと思うと少し遠くて面倒ではあるけれど、きっとそのうち慣れてくるのだろう。

 

 ……明日からは、一緒に登校する相手もいる。退屈はしないから大丈夫。

 

 初日は自分の時間で行ってほしいと、慌て気味に言っていた声を思い出して笑みを浮かべながら歩いていると、入試以来となる雄英高校の門が見えてきた。

 

 特徴的な形の校舎(後でアルファベットのHを表しているのだと聞いた)に着き、案内板で自身のクラスである1-Aの教室を確認する。

 広い廊下を歩いていくと、バリアフリーなのかやけに大きい扉が並んでいるのが目に入った。

 その中に1-A表記の教室を見つけて、一旦扉の前で立ち止まる。

 一つ、深呼吸をしてからスライドドアを開けた。

 

 既に来ていた何人かのクラスメイトたちの視線がこちらを向く。

 よくも悪くも注目されるのには慣れているので、小さく笑顔を作って会釈をする。

 黒板に貼られている座席表を見れば、窓際から二番目の一番後ろが私の席らしい。

 何故か固まっているクラスメイトたちの反応に少しだけ首を傾げそうになりながらも、私は席に座った。

 

 同じクラスの筈の彼は、まだ来ていない。

 

 話す相手も居ないし、始業の時間までどうしようか……と考えようとして、左隣から強い視線を感じた。

 何かと思い顔を向ければ、いかにも優等生といった風な女子が、私に熱い視線を送っている。

 いや、どこかで見たような気も。

 彼女は私が見ている事に気づくと、はっとした後に申し訳なさそうな顔で頭を下げた。

 

「す、すみません。じろじろと不躾な視線を向けてしまいましたわ……」

「それは良いけど……私、何かした?」

「いいえ! ただ、推薦入試の時に貴方の印象がよく残っていましたので、やはり合格されていたのだと納得しておりました」

 

 そう言われて、この少女への既視感の理由が分かった。

 ただ、あの日は諸事情で周りを見る余裕がなかったのではっきりとは思い出せない。

 

「ごめん。私はなんとなく居たような、ぐらいにしか覚えてないかな」

「そう、ですか……いえ、実技の会場は別でしたもの。仕方ありませんわ。ええ、これから覚えて頂けば良いのです!」

「わ」

 

 少し落ち込んだようだった少女が急に元気になったのに驚く。

 ぷりぷりしてる、とでも表現出来そうな様子の彼女は、改めて私に向き直った。

 

「なので自己紹介を。八百万百と申します」

「うん、私は轟凍夏。これからよろしく」

「はい! お互いにヒーローを目指し奮励努力致しましょう!」

 

 握手の為に出した手を両手でしっかり握られて、ぶんぶんと振られてなすがままにされる。

 

 そのままにしばらく好きにさせていると、正気に戻った八百万から平身低頭に謝罪の嵐を受けた。

 ちなみに、一連の流れを他のクラスメイトたちが優しい目で見守っていたと、後に交流を深めた女子たちに聞く事になる。

 

 

 

 

 八百万と推薦入試の試験内容の話をしているうちにクラスメイトが続々と登校してくる。

 それぞれ近くの相手と交流深めたりしている中、二人の生徒の言い争いが目立ち始めている。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思う訳ねぇだろうが! どこ中だこの端役が!!」

 

 真面目そうな眼鏡の男子と不良にしか見えない爆発頭の男子。

 論点はおかしくとも、まだ言い分は眼鏡男子の方にありそうだが、どちらも煩いので周りは顔を顰めている。

 八百万も言わずもがな、特に爆発頭に対し「品のない方……」と呟いているのが聞こえた。

 かく言う私も、不愉快な気分になりつつある。

 言葉遣いが荒く煩いのもそうだが、爆発頭男子が彼がよく話していたもう一人の幼馴染なのだと気がついてしまったが故に。

 

(あれが『かっちゃん』……爆豪勝己、ね)

 

 吊り上がった目付きの凶悪な表情。

 足を机に投げ出す粗暴な振る舞い。

 人を端役呼ばわりする高圧的な態度。

 一見だけでも三重苦どころでは済まない酷さの男で、うちの父親を彷彿とさせるあれは、出来れば一生関わりたくないレベルだ。

 あいつと彼の関係を、私と同じ幼馴染なんて表現するのも嫌すぎる。

 

 けれど、あの男が彼に対して様々な意味での暴力を振るってきたと知っている身からすれば、そうも言っていられない。

 会わせてもらえなかった今までと違い、ここでなら思う存分対抗出来るのだから。

 

 と、それまで言い争いをしていた眼鏡男子が何かに気付き、入り口のドアへと向かっていく。

 

 そこには、見慣れた緑のふわふわとした髪の男子が立ち竦んでいた。

 

 眼鏡男子に話しかけられている彼は、まだこちらに気づいていない。

 けれど、そんなのは些細な事だ。

 

「と、轟さん? どうかなさいました……?」

 

 尖っていた私の雰囲気が一気に和らいだのが隣の八百万にも伝わったらしい。

 何故か顔を赤くしながら尋ねてくる彼女に、私は笑顔でなんでもないと言う。

 八百万を含め私を見ていた人たちが、更に顔を赤くして一斉に視線を背けたのも気にならない。

 

 ただ、嬉しかった。

 これから彼と同じ学校に通える。

 そう思うと、胸にぽかぽかしたものが沸き上がってきた。

 

 

「お友達ごっこがしたいなら他所へいけ」

 

 

 小汚い不審な人物が視界の隅に現れたけれど、私の意識には入らない。

 

 追い立てられるように教室に入ってきた彼が、私に気づいてくれたから。

 可愛らしい顔立ちの彼が、小さく笑みを浮かべ軽く手を振ってくれたから。

 彼が、私を見てくれたから。

 

 だから私は、彼こと幼馴染の緑谷出久に満面の笑みを返した。

 

 

 

 

 ……上機嫌な私は多くのクラスメイトたちが顔を赤くして、小汚い男が不可思議な顔で睨んでいた事を知らない。

 

 

 

 

 




クラスのみんな((((笑った顔が滅茶苦茶綺麗で可愛い!!))))
小汚い男と言われる教師(何であいつはこの空気であんなに笑顔なんだ)
出久くん(凍夏ちゃん、機嫌良さそうだなぁ)

 出久とオリ主は幼馴染ですが、オリ主と爆豪は幼馴染ではありません。


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2:二回カチンときた個性把握テスト。

 
原作との類似点
・出久と爆豪の関係性(いじめられっ子といじめっ子)。
・出久のOFA継承時期(オールマイトの個性弱体化を早めない為)。
・故に出久はOFAを制御できない。

原作との相違点
・出久は幼少期から鍛えている。
・オリ主の存在により、出久は原作ほど女の子の相手に緊張しない。
・出久の「ヒーローになる」志が原作より強い。
・爆豪は出久を下に見ている訳ではない。



 一般入試の結果が送られて来た日、合格したと涙声で電話をくれた出久から衝撃の一言を告げられた。

 

「個性が出た……!?」

『う、うん……まだ全然コントロール出来ないんだけどね』

 

 黙っててごめんと言われるけれど、そんなのはどうでも良かった。

 目に熱いものが込み上げて、ぽろぽろと溢れだす。

 

 出久は無個性で、出会った時から自身に絶望していた。

 今の社会でヒーローになるのに、無個性では不可能だと言われてしまう。

 

 それでも、彼は諦めずに今回の雄英受験へと挑んだ。

 小さな頃から私と一緒にあの男に鍛練を教わっていたのも。

 周りから何を言われてもトレーニングを続けてきたのも。

 遊ぶ時間を削ってひたすら努力してきたのも。

 ひとえに、オールマイトのようなヒーローになるため。

 現段階でも、身体能力や格闘技能では並みの個性持ちよりも強い筈で。

 

 誰よりも努力を怠らなかった彼を、神様は見捨てなかったのだと、嗚咽を漏らしてしまった。

 電話の向こうで慌てる声が聞こえるので、大丈夫だと伝える。

 詳しい話は会って聞きたかったから、出久と予定を合わせる。

 そして電話を切る前に、改めて一言。

 

「ホントにおめでとう、出久」

『っ、うんっ……ありがとう、凍夏ちゃん』

 

 貴方のヒーローアカデミアはここからだよって、心を込めて。

 

 後日、自らをも破壊する超パワーだと聞かされてまた違う意味で泣いてしまうけれど、それは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1-A担任を名乗った相澤という教師の指示の元、私たちは体操服に着替えてグラウンドへと集合した。

 そこで入学式やガイダンスを行わずに個性把握テストを行うと、相澤より知らされたクラス一同がざわめく。

 一般入試実技一位の爆豪勝己が試しのソフトボール投げを物騒な掛け声と共に実行して、705.2mの高記録を出した。

 それを見たクラスメイトたちが面白そうだのなんだのと騒いでいると、相澤が最下位は除籍処分だと宣言する。

 

 別の意味で騒然となる中、推薦組女子同士の縁で八百万と一緒にいた私は、少し離れた所にいる出久の方へと視線を向けた。

 一般入試で交流があったらしい麗らかな女子と例の眼鏡男子と一緒にいる彼は、ここからでも分かるぐらいに青ざめている。

 が、目は真っ直ぐ前を向いており、諦めの色は見えなかった。

 最近個性が発現したばかりの出久には難しい課題だと思うけれど、彼ならきっと大丈夫。

 私も、ベストを尽くせるようにしないと。

 

 

 

 

「次、轟と葉隠」

 

 最初の50m走に呼ばれたので、レーンへと進む。

 一緒に走る葉隠は、体操服だけが浮いているように見える透明な女子。

 よろしくね! と張り切った声で言うので、私は頷いてから一言だけ述べる。

 

「なるべくそっちには害がないようにするけど、気をつけてね」

「へ? あ、うん、分かった?」

 

 ……あんまり分かってなさそうだけど、私が注意すれば良いか。

 隣のレーンから離れられるだけ離れて、スタートの準備をする。

 

『位置ニツイテ、ヨーイ』

 

 記録装置がピストル音を鳴らすと同時。

 

 私は後方より勢いよく氷と炎を噴出させ、一気に飛び出した。

 

 氷で地面を凍結させながら進み、炎で推進力を上げる。

 

『3.22』

 

 うん、隣に気を遣いながらならこんなものだろう。

 一位の眼鏡男子には叶わなかったが、それなりに良い記録だと思う。

 

「すっご……あの子三秒台前半じゃん」

「てか氷と炎の二つとかチートじゃね!?」

「才能マン……いや女子だから才能ウーマンか!?」

「可愛いし出るとこ出てるし完璧だぜ……」

 

「凄い凄い! びっくりしちゃったよ!」

 

 クラスメイトたちが何か騒いでいる中、私から遅れてゴールした葉隠が興奮気味に話しかけてきた。

 

「邪魔じゃなかった?」

「大丈夫! あっ、私葉隠透! 見ての通りの透明人間だよ!」

「轟凍夏。氷と炎が出せる」

「見てたよー! 派手で綺麗な個性だね!」

「……ありがとう」

 

 下心のない声色で個性を褒められて、少し照れる。

 あの男の血縁というフィルターがかかっていない称賛は、出久や彼の母以外では久しぶりだった。

 個性柄か、存在を強く主張するように身ぶり手振りが大きい葉隠と話しながら、次の測定者へと視線を向けた。

 

 丁度スタートした片方が爆破で飛んでいき、その後ろをもう片方……出久が普通に走っている。

 記録は5.82秒。個性無しで考えればかなりの高記録だ。

 声をかけようかとも思ったけれど、集中しているようなので止めておこう。

 若干の寂しさを紛らわせるよう、次の種目に向かった。

 

 

 握力測定。

 複数の腕を持つ障子という男子の540kgと、八百万の個性で万力を造り出して最大値を叩き出したのが見所。

 私は右は氷を、左は炎を手の中に作り出して圧力を加えたのでそれなりの記録。

 

 立ち幅跳び。

 お腹からレーザーを出す男子の青山と、爆破がある爆豪が個性で飛び続けて高記録。

 私は氷を蛇のようにうねらせながら進んでみた。調整は難しいけど楽しい。

 

 反復横飛び。

 峰田という小さな男子が頭のブドウみたいなので跳ねて一位。

 今回は流石に氷も炎も使い道が無さそうなので普通にやった。

 ただ、胸が揺れを防ぐべく、腕で支えながらやっていたら数人の視線を感じたのはなんだったのだろう。

 

 上体起こし。

 八百万が頭や脚にバネを造りトップに立つ。

 これも個性は特に使えないので、素の身体能力で頑張る。

 ついでに身体を起こす時にまた視線が集まってたからそれとなく探ってみた。

 まあ、おおよそが男子だったと判明した以外に何もなかったけども。

 後、ペアの葉隠が透明なので、ちゃんと脚を支えられているか心配だった。

 

 

 そしてソフトボール投げ。

 出久と話していた麗らか系女子……麗日が浮かせる個性で∞の記録を叩き出す。

 それ以外も個性が活かせる者は活かしつつ、順番にボール投げをこなしていく。

 八百万の大砲を創るのはボール「投げ」ではないと思うけど、飛距離は麗日に次ぐ二位。

 身体から産み出す物に限度はないのかな、なんて考えつつ私の番が回ってくる。

 

「――はぁっ!」

 

 投げる直前に炎の噴射で勢い付けて、一投目が352.6m。

 ……爆豪の丁度半分だと気づきちょっと癪に触る。

 

 けれど、炎の威力を上げすぎるとボールが耐えられるとは思えない。

 なので二回目は氷でボールを包み、空気を冷やしに冷やしてから投げる瞬間に炎で熱を送り瞬間的に空気を膨張させて吹き飛ばすやり方でしようとした……けれど。

 

「危険過ぎるから止めろ」

 

 と、相澤に一喝されたので渋々諦めた。

 

 

 さて、次は出久の番。

 幼少期から鍛えた身体能力で恐らく最下位にはならない点数をとっているとはいえ、未だに個性は使っていない。

 その点が教師の目にどう映るか。

 一度目のボール投げを終えた出久の元へ、相澤が何やら話に言っている。

 内容を聞き取るべく、不自然じゃない程度に近づく。

 

「緑谷、お前ここまで個性を使ってないが、このまま使わないつもりか?」

「う……その、まだ制御が……」

「知ってる。実技の採点は俺も居たからな。つくづくあの入試は……合理性に欠くよ。お前のような奴も入学出来てしまう」

 

 溜め息を吐く教師の声色は低い。

 それに肩を震わせた出久に、相澤は冷たく言い放つ。

 

「先に言っておく。このまま個性を使わないなら、順位に関わらずお前を除籍処分にする」

「なっ……!?」

「当然だろう。これは『個性把握テスト』だ。個性を使わない奴を残す義理はない……かといって、入試のように身体をぶっ壊して動けなくなるようでも、結果がどうあれ除籍だ」

「っ!」

 

 ……なんだこの教師、というのが正直な感想だ。

 元々成績に関わらず真剣に取り組まない者を処罰する、という可能性は考えていた。

 国内最高峰のヒーロー科だ、それぐらいは当たり前だと私も思う。

 しかし、個性の調整なんて今から幾らでも特訓する機会があるのに、それすらさせないのはどういうつもりか。

 

「昔、暑苦しいヒーローが、大災害から一人で千人以上を救い出すという伝説を創った。同じ蛮勇でも……お前は一人を助けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久、お前の力じゃヒーローにはなれないよ」

 

 ……カチンときた。

 同時に、これがあの教師なりの優しさなのはなんとなく理解した。

 中途半端なヒーローになり呆気なく命を落とすなら、最初から諦めさせるのが良い、そういう事なんだろう。

 

 だけど、出久がヒーローになれない、というのは聞き捨てならない。

 この男が、出久の何を知っている。

 

 個性が無い事に悲観せず、努力してきた姿を知らない癖に。

 ヒーローになれないと十年以上周りから言われ続けても、決して折れなかった姿を知らない癖に。

 暴力を振るいかざす幼馴染なのに、ヴィランに捕まっているのを見て助けようとした姿を知らない癖に。

 

 

 絶望の中にいた小さな女の子に、手を差し伸べてくれた事を知らない癖に。

 

 

 自分の表情が険しくなっていくのを自覚しながら、一方的に言われていた出久を見る。

 

 けれど、そこには沈んだ姿などなく。

 

 

「僕は、ヒーローになります」

 

 

 少し震えながらも、はっきりとした声で彼は宣言する。

 

「投げた後に、動ければ良いんですよね」

「…………ああ」

「なら、やれます」

「……良いだろう」

 

 強い意志を感じる言葉に、相澤は若干気圧されたかのように離れていった。

 

 ……私が何かを言わずとも、出久は大丈夫。今はソフトボール投げを見守ろう。

 

 

 

 

「何か指導を受けていたのか?」

「最下位じゃない筈だけど、個性使ってないから? 大丈夫かな……」

 離れていく相澤と深呼吸をしている出久を見ながら、飯田と麗日が心配する言葉を漏らしている。

 二人とも入試で彼に思う所があったのか、なかなか出久の評価が高そうで。

 この二人とは私も仲良くなりたい、と思っていると、爆豪が憎々しげに吐き捨てる。

 

「除籍宣告だろ。個性把握テストに無個性のクソカスが居りゃそうなるわ」

 

 ……カチンときた、二回目。

 さっきまでの穏やかさを返せと言いたいレベルで最悪な気分だ。

 この汚物を詰め込んだ爆弾男、出久を無個性だという一点だけで見下している。

 接触はもう少し様子を見るつもりだったが、これは我慢ならない。

 

「無個性!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

「は?」

 

 反論、いや口論しようと汚物爆弾に近寄ろうとしたら、その前に飯田が咎めてくれた。

 そして呆けたような爆豪の声の後。

 

 

 

「SMASH!!!!!!」

 

 

 

 出久の掛け声と共に、ボールが勢いよく放たれた。

 

 目を見開いた相澤が持つ端末に、記録が表示される。

 

 

『1057.9』

 

 

 爆豪を遥かに上回る記録。

 

 出久を見れば、右手の人差し指が変色する程にぐちゃぐちゃになってしまっているが、他は無事。

 

 出力を制御出来ないなら、発動範囲を極々限定させるという荒業を成し遂げた。

 

 

「先生……! まだ、動けます!」

「こいつ……!」

 

 

 涙目ではあるが笑う出久の姿は、とても格好良い。

 

 間違いなく、今の貴方はヒーローだよ。

 

 

「やっとヒーローらしい記録だしたよー!!」

「指が腫れ上がっているぞ。入試の件といい……おかしな個性だ……」

「スマートじゃないよね☆」

 

 クラスメイトが記録に騒いだり個性に首を傾げたりする中、唖然としている者が一人。

 この短い時間でも奴がどういう反応をするのか理解したので、行動を注視する。

 そしてやはりというか、爆豪は出久へ向かって爆破しながら飛び出した。

 

 ……なるほど、そこまで暴力的なら、最早手加減は必要ない。

 

「どういうことだコラ!! ワケを言えデクてめ…………!?」

 

 

 

「煩い」

 

 

 

 空中の爆豪を氷で捕らえ、更に首から下を高密度の氷塊に閉じ込めてやる。

 

 自慢の爆破はおろか、満足に話す事も出来やしない筈だ。

 

 勿論死にはしない、なので問題なし。

 

 

 突然の個性行使に周りが驚く中、私は爆豪の横を通り過ぎて、目を丸くしている出久の元へ歩みよる。

 

「指、出して」

「え、あ、う、うん」

 

 戸惑い気味に出された出久の、赤黒くなった右手の人差し指を、私は右手で冷気を発しながら柔らかく触れる。

 そして指の周りに薄い氷の膜を張り、軽く固定した。

 応急処置にもなっていないけれど、テスト中ぐらいは多少痛みを紛れさせられると思う。

 私の意図に気づいた出久は、申し訳なさそうに、けれど笑顔でお礼を述べた。

 

「ありがとう、凍夏ちゃん」

「うん。無理しないでね」

「あはは……頑張るよ」

 

 

「……轟、そろそろ爆豪を出してやれ」

 

 何故か静まりかえっている場に、大きくない筈の教師の声が響く。

 疲れた顔の相澤が指差す方を見れば、震えて声も出せない癖にとんでもなく目を吊り上げて私を睨む爆豪が居た。

 

 敵。その文字が一瞬で頭によぎったので。

 

 

「出したら殺しに来そうなので嫌です」

 

 

「確かに」

「顔すげぇ……」

「敵でもこんなやばい顔の奴なかなか居ないぜ」

 

 クラスメイトたちも当人が話せないから好き放題に言う。

 それを聞いた爆豪の目が更に吊り上がっていくのは率直にやばい。

 相澤も否定できないのか、頭を抱えながら面倒臭そうに告げる。

 

「まだテスト中だ、何かあったら俺が止める。だから氷を溶かしてやれ」

「…………はい」

 

 先生の言葉に渋々炎を使って氷を溶かす。

 体温を上げてやる必要性は感じないので、溶かすだけ。

 自由になった爆豪はまだ身体を動かしづらいのか、ガチガチと震えながら此方を睨み続けている。

 これからのテストは結果が低くなるかもしれないけど、私の知ったことじゃない。

 鋭い視線を無視して先程までの居た位置へ戻ると、相澤がテストの再開を告げる。

 皆も私や爆豪を気にしながらも、指示に従った。

 

 

 

 

 

 

 全員が全種目を終えて、結果発表の時間。

 ディスプレイに一括で表示される結果に、緊張が走る。

 私は2位。個性で各種目に適切な物を造る八百万を抜けなかった。

 持久走でバイクを作り出したのには、誰もが開いた口が塞がらなかった。

 時間さえあれば、間違いなく無敵の個性だ。

 

「ちなみに除籍は嘘な。君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 なんて相澤は白々しく言っているけど、出久に宣言していたように真面目にやっていなければ順位に関わらず除籍処分にしていたに違いない。

 きっとクラスの皆に何かしらの見込みを感じて取り消してくれたのだろう。

 怪我をしたままやり遂げた出久も私と同じように考えているのか、他のクラスメイトたちが叫ぶ中(特に最下位の峰田は慟哭している)で引き攣った笑いをしていた。

 ちなみに彼は14位。突出した記録が一つだけの中でよく頑張ったと思う。

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない、ちょっと考えればわかりますわ」

 

 呆れたように言葉を溢していた八百万。彼女の認識を正しておくべきか。

 ……まあ出久との会話を聞いていなければ、この意見に頷いていたと思うし、余計な事は言わなくて良いか。

 

「そういう事。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目を通しとけ」

 

 八百万に便乗した相澤が出久に保健室利用の紙を渡してグラウンドから立ち去って行く。

 皆が肩の力を抜く中、私は出久の元へ駆け寄った。

 

「お疲れ、出久」

「あ、凍夏ちゃん……凍夏ちゃんもお疲れ様。それと氷の固定、改めてありがとう。助かったよ」

「どういたしまして。保健室、行くの?」

「うん……着替えたりする時間もあるし、先に行ってるね」

「分かった。また教室で」

 

 表情を柔らかく崩した出久が一足先に校舎へ早足で戻っていくのを見送り、私も着替えるべく更衣室へと向かう。

 手早く着替えて教室へ戻り、机の上に置かれたカリキュラム等の書類に目を通していると、皆も続々と戻ってきた。

 隣の八百万も戻ってきて、座ったところで声をかけてくる。

 

「はぁ、初日から少し疲れましたわね」

「うん。あ、八百万。1位おめでとう」

「ありがとうございます! 轟さんも個性の使用法がとてもお上手で素敵でしたわ」

「そう? なら良かった」

 

 にこにこと笑う八百万に釣られて私も笑顔になる。

 まだ初日だけど、彼女のような気の良い人が隣で良かった。

 

 それより、笑う度に多くの視線を感じるのは、そろそろ突っ込んだ方がいいんだろうか。

 視線を感じる方向を見渡せば、目が合ったクラスメイトたちは視線を反らしたり、曖昧な笑みを浮かべている。

 なんだろう、少しだけど反応している八百万なら分かるかもしれない。

 

「八百万、なんで私が笑うと注目されるの?」

「……ご自覚無し、でしたか……その、笑顔がとてもお綺麗だからかと思いますわ」

「綺麗? 顔、火傷の痕があるけど」

「そのアンバランスさも含めて、整っていらっしゃいますもの」

 

 首を傾げながら再び周りを見れば、おおよそ同意の頷きを返される。

 この顔で、笑顔が綺麗、か。

 

「初めて言われたな、それ」

「そうなのですか?」

「うん。中学まで友達、いなかったから」

「……………………轟さん!」

「わ」

 

 何故か涙目になり始めた八百万に、ガシッと両手を両手で握られる。

 訳が分からず戸惑っていると、そのままブンブンと手を振られる。

 

「私たちはもうお友達です!」

「そう、かな?」

「ええ! なので何か困った事があれば、すぐにおっしゃって下さいませ!!」

「うん、ありがとう」

 

 よく分からないが、八百万とはもう友達らしい。

 謎の勢いに疑問はあれど、素直に嬉しいので私は手を振られたままお礼を述べた。

 

 ……朝と似たような光景をクラスメイトたちが再び温かい目で見守っているのに、既視感と共に気がついた八百万がまた羞恥に顔を染めるまでもう少し。

 

 

 

 

 その日の帰り道。

 初日なのでと交流を深める皆を横目に、疲れ気味な出久と共に帰路につく。

 リカバリーガールに怪我を治してもらうのにはそれなりに体力を使うらしく、精神的な疲労もあわさって結構参っている状態だ。

 綺麗に治った出久の指をにぎにぎと触りながら校門辺りまで来たところで、後ろから現れた人物が彼の肩に手を置いた。

 

「指は治ったのかい?」

「わ!? 飯田くん……! うん。リカバリーガールのおかげで」

「そうか、良かった……と、そちらは轟君だったな、体力テストでは見事だった!」

「ありがとう」

 

 少し驚きながらも笑みで返答する出久に、飯田も安心した表情で頷く。

 そして今度はこちらを向き、妙に手を動かしながら称賛する。

 彼の襲来で出久に指を触っていた手をさりげなく離されたので、手持ちぶさたになった私が飯田の手の動きを何となく目で追っていると、グッと腕を引いて顎に手を当てた状態で止まる。

 

「しかし相澤先生にはやられたよ。俺は『これが最高峰!』とか思ってしまった! 教師が嘘で鼓舞するとは……」

「はは……そうだね……」

 

 今度は腕を組み直して唸る飯田に、出久が何とも言えない笑みを浮かべている。

 除籍は嘘でも冗談でもなかったんだと知っているからこそ、どうにも返せず濁した感じの笑いだ。

 それよりも私は謎の手の動きが気になる。なんであんなに動かしているんだろう。

 

「おーい! 三人とも~! 駅まで? 待って~!」

 

 私がそんな事をぼんやり思っていると、たったかたったかと駆ける足音とこちらを呼ぶ声が聞こえる。

 後ろを見ると、麗らかな女子こと麗日が私たちの方へ駆け寄ってきた。

 

「君は∞女子!」

「麗日お茶子です! えっと、飯田天哉君に轟凍夏ちゃん、緑谷……デク君! だよね!」

「で、デク!?」

 

 ∞女子なんてネーミングセンスが尖っているのが気になったが、それよりも訂正しなければならない事がある。

 

「デクじゃなくてイズク。出るに久しいで出久と読むの」

「うん……その、デクはかっちゃん……爆豪くんが小さい頃にバカにして付けたあだ名なんだ」

 

 苦笑いで述べる出久の、表情に隠された劣等感。

 彼の自己評価が低いのは十中八九あの男のせい。

 木偶の坊のデクなんて、酷いにも程がある。

 

「蔑称か」

「そうなんだ~ごめん!」

 

 けれど、次の麗日の一言。

 

 

「でも『デク』って『頑張れ!!』って感じで、なんか好きだ、私」

 

 

 それを聞いた出久は、目を見開いて。

 

 

「っ――――デクです!!」

 

 

 嫌いな筈のあだ名を、肯定した。

 

 私はそれに驚き、同時に納得する。

 

 出久にとって、今の言葉はそれほどまでに衝撃的だったのだ。

 

 きっと、木偶の坊と蔑まれた日々も無駄ではなかったと、言われた気がするぐらいには。

 

「緑谷君!? 浅いぞ、蔑称なんだろ!?」

「う、うん、けど、コペルニクス的転回が……」

「こぺ?」

「発想が180°変わるって意味だよ」

「へー、デク君も凍夏ちゃんも物知りやね!」

 

 ほわほわとうららかオーラを発する麗日にとっては、感覚的で何気無い発言。

 

 それで出久が報われたのは、とても嬉しくて。

 

 私以外が彼を救った事が、ほんの少しだけ悔しくて、寂しかった。

 

 それを誤魔化すように出久の髪を撫でると、彼は不思議そうな顔で目を瞬かせている。

 

「凍夏ちゃん、どうかした?」

「ううん、なんでも」

 

 そう言ってにっこりと笑みを向ければ、首を傾げながらも人を安心させる笑みが返ってくる。

 出久の人畜無害な笑顔は、とても好き。

 そんな私たちのやり取りを、麗日が不思議そうに見ている。

 

「デク君と凍夏ちゃんって仲良しやけど知り合い? 凍夏ちゃん教室で友達おらんかったって話が聞こえたけど」

「あ、その、幼馴染なんだ……って凍夏ちゃんそんな事言ったの!?」

「? 幼馴染は幼馴染だから、友達じゃない」

「んんっ! 何が言いたいのか分かるような分からないような!」

「ふむ、幼馴染を友人や知り合いの関係性にカテゴリーとして加えるのならば友人とは別になるのも納得だな」

「飯田君真面目や!!」

「む? 何故笑う!」

 

 口を手で押さえて吹き出す麗日に、妙な手の動きを添えた飯田が突っ込む。

 その光景を、出久は楽しそうな笑顔で眺めていた。

 友達が居なかったのは出久も同じだったから、こんな学生っぽい下校が嬉しいのだと思う。

 

 

 雄英高校での生活は、まだ始まったばかり。

 

 初日から前途多難で、この先も大変な事がたくさんあるだろうけれど。

 

 出来れば楽しく頑張れたらな、なんて思いながら、私はこれからの高校生活に思いを馳せた。

 

 




 三話以降は暫く一日一話ペースです。

 オリ主は普通に炎も使います。
 前書きで色々書いてるのは描写が大分先になりそうな部分を先に書いてるものと思って頂ければ。
 


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3:ふにふにもふもふと戦闘訓練。

 
原作との相違点
・出久の動作の前に止まる悪癖が無い(幼少期より鍛えていた為)。
・出久の体術がかなりの練度(理由同上)。
・爆豪が原作より冷静でない。



 入学二日目、約束通り出久と一緒に通学した。

 喜びを噛み締めていたから自然とにこにこしていたらしく、通学の電車内や学校までの道でやけに周りから注目されてしまった。

 出久はいつもの事だと苦笑していたけど、そんなに私は目立っているのだろうか。

 首を傾げていると、彼は少し照れながら、

 

「凍夏ちゃんはその、か、可愛い、から」

 

 なんて言うものだから私も照れてしまい、しばらくお互いに顔を赤くしていた。

 

 昔から彼に褒められるのは、嬉しいけれど恥ずかしい。

 

 

 なんて朝の一幕はさておき。

 

 ついに始まった雄英の授業は、言ってみれば普通だった。

 午前中の座学は流石に進学校で、それなりに難しい内容。

 とは言えしっかり授業を聞いていれば問題なさそうだし、真面目に受けていれば大丈夫そう。

 敢えて何かを言うなら、プロヒーローが教鞭を振るうのが出久的には嬉しいようで、凄く生き生きとしているのが背中を見ていた私にも分かった。

 

 お昼ご飯はクックヒーローのランチラッシュが経営する学食にて。

 麗日、飯田と一緒にいた出久と合流して、冷たい蕎麦を食べた。

 最終的に白米に落ち着くとはランチラッシュの談。私はどちらかと言えば蕎麦の方が落ち着くけれども。

 それを伝えると(何故か飯田と麗日はギョッとしていた。出久は苦笑い)お蕎麦も良いよね! 健康的! と親指を立てられた。

 

 そんなこんなで午後の授業。

 ヒーロー基礎学、ヒーロー科らしい授業がついに始まる訳で、クラスの空気がそわそわとしていた。

 

 

「わーたーしーが! 普通にドアから来た!」

 

 

 現れたのは、オールマイト。

 彼が現れただけで教室内はざわめき、盛り上がる。

 全体的にオールマイトが今年から雄英の教師になったという話に、改めて実感が沸いている様子みたい。

 着ているのは銀時代の戦闘服で、出久が感動に打ちのめされているのが分かった。

 

 

「私の担当はヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作る為、様々な訓練を行う課目だ!」

 

 

 この人がNo.1ヒーローで、平和の象徴と呼ばれる男。

 私にとっては、初めて憧れたヒーローで。

 出久にとっては、目指すヒーロー像の極致と言える。

 

 

「早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!」

 

「戦闘……!」

「訓練……!」

 

 「BATTLE」と書かれた札をオールマイトが突き出すと、更にざわめきが大きくなる。

 爆豪の活きが良くなっていて、出久も少し緊張していそうだけど、しっかり前を向いている。

 

 

「そしてそいつに伴って、こちら!! 入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!!」

「「「「おおお!!!!」」」」

 

 

 オールマイトが持っていたリモコンのスイッチを押すと、黒板の横から人数分のコスチュームケースが入った棚が現れた。

 一気にテンションを上げるクラスメイトたち。

 ヒーローを目指す者なら誰しも憧れる自分だけの特注の服、是非もない。

 かく言う私も、わくわくしている。

 

 

「着替えたら順次、グラウンド・βに集まるんだ!!」

「「「「はーい!!」」」」

 

 

 さて、私の戦闘服は要望通りに出来ているかな。

 

 

 

 

 

 

 更衣室に移動して戦闘服ケースを開くと、おおよそ指定した機能通りに出来上がっていた。

 出久と一緒に考えたそれは、私の個性の補助に適した装備になっている。

 耐熱性に優れ、体温調整を自動で行ってくれる服、薬品などの救助用品が入ったベルト、氷の上で滑らないようにスパイクが付いた靴。

 全体的に明るめの青緑色に統一されてはいるけれど、ヒーローとしては少し地味なデザインかもしれない。

 

 けど、これでいい。

 

 私は、地味めなのが好きだから。

 

 

 出来に満足していざ着替えるべく制服を脱いでいると、私に向けられる視線を感じた。

 視線の方向へ振り向けば、他の女子たちが驚きやら感嘆やらの感情が籠っている顔をしている。

 

「あ、ごめんごめん! いやー、昨日も思ってたんだけど轟ってすっごいスタイル良いよね!」

「そう?」

「そう! っと、私芦戸三奈!」

 

 その内の目が合った桃色の肌の女子、芦戸が私に近づきながらそんな事を言う。

 彼女の言葉に他の子も頷き、交流の無かった人も含めて皆が周りに寄ってきた。

 

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「ウチは耳郎響香。八百万もだけどこないだまで中学生だったとは思えないぐらいスタイル良すぎ……」

 

 蛙っぽい子が蛙吹。耳たぶにイヤホンプラグがある子が耳郎。 うん、覚えた。

 これで女子全員の名前を聞いたと、私が一種の達成感を感じている間に、女子たちの話は進んでいく。

 

「わかるー! やばいよね!」

「そうでしょうか?」

「二人とも背が高いし、おっぱいおっきいからね!」

「凍夏ちゃんの腰のくびれすごいよ……」

「わ」

 

 感心した様子の麗日に腰を触られて、ビクッとする。

 こういうスキンシップに慣れていないから、どう反応すれば良いか分からない。

 

「お茶子ちゃん、轟ちゃんが困っているわ」

 

 そんな私の雰囲気を感じ取ったのか、蛙吹が麗日をやんわりと窘めてくれた。

 

「あ、いきなり触ってごめんね!」

「平気。蛙吹もありがとう」

「どういたしまして。後、梅雨ちゃんと呼んで」

「梅雨ちゃん?」

「ケロケロ」

 

 言われた通りに呼ぶと嬉しそうに鳴く蛙吹……梅雨ちゃん。

 名前で呼ばれるのが好き、という気持ちは分からなくもない。

 それなら。

 

「私も凍夏で良いよ、梅雨ちゃん」

「ケロ、分かったわ凍夏ちゃん」

「えー! ずるいやずるいや! 私も名前で呼びたいし呼んでー!」

「私も私もー! 凍夏に梅雨ちゃん!」

「わわ」

「危ないわ、二人とも」

 

 葉隠と芦戸が勢い良く私と梅雨ちゃんに抱きついてきたので、びっくりした。

 距離が近いが姉さんもたまにこんな感じだし、女子的には普通なんだろうか。

 まあ、悪い気はしないや。

 

 と、そこで先に着替えを終えて、微笑ましげにこちらを見ていた八百万から声がかかる。

 

「交流も宜しいですが皆さん、早く着替えないと授業に遅れますわよ」

「「「あ」」」

 

 ……ちなみにここまで、半数近くは下着姿での出来事である。

 

 

 

 

 さして着用に手間の無い私はぱぱっと着替えを済ませた……の、だけれど。

 

(……前が短い?)

 

 少しだけ、要望と形が異なっているのに気がついた。

 タートルネックのように首まで生地を指定した筈だったのが、何故か胸元が開いているデザインに変わっている。

 代わりに首に着けるベルトのようなアタッチメントがあり、耐熱性は勿論首回りの防御力を上げる性能だと説明書に書いてあった。

 そこまで大した差異じゃないし、胸の間が見えるだけで特に問題があるわけでもない。

 ヒーローコスチュームのデザイナーによる独断の変更は多々あるとあの男が漏らしていたのを聞いた事があったけど、その類いなのかな。

 

 若干の疑問を残しつつ、グラウンド・βへと赴くとおおよその男子が揃っていた。

 個性的な衣装群の中から幼馴染はどこかと周りを見渡して、緑色の兎さんの姿を見つけた。

 私に気づいた彼は、兎耳を揺らしながらこちらに駆け寄ってくる。

 

 ……率直に言って、かわいい。

 

「凍夏ちゃ……何でそんなににこにこしてるの?」

「出久が兎さんみたいで可愛いかったから」

 

 あ、固まった。

 

「…………オールマイトリスペクトだよ! っていうか知ってるよね!?」

「うん。かっこいいよ」

「……もう、良いけどさ」

 

 不満そうだった表情を苦笑に変える出久を、改めて見つめる。

 

 緑色を中心としたジャンプスーツは、彼の母親である引子さんからプレゼントされたものが元になっている。

 被服控除のコスチュームデザインと一緒に送り、サポート会社に改良してもらった。

 増強系の個性故の近接戦闘をフォローするプロテクターが手足などに付いていて、機能的にも良さそうだ。

 オールマイトの髪を模したフードは……うん、悪いけどやっぱり兎の耳に見える。

 触ってみようと手を伸ばして、ひょいっと逃げられた。悲しい。

 

「凍夏ちゃんも要望通り……っぽいけど、だ、大分ぴっちりしてるね……」

「うん。後ちょっと前が短くて、胸の間が見えちゃってる」

「んんんんっ!?」

 

 両手を胸の上に置いて少し屈むと、出久が凄い勢いで顔を反らした。

 逆に他の男子からは、視線を感じる。

 特に出久の近くにいた紫の戦闘服を着けた小さい男子……峰田はかなりの眼力だ。

 首を傾げていると、顔を赤くした出久に肩を掴まれて姿勢を正された。

 

「ととと凍夏ちゃん……そのポーズはダメ、特に男の人には」

「そうなの?」

「そうなの! ……凍夏ちゃんが無自覚無防備なのをどうにかしなきゃいけないのは分かってるんだけど果たして本人に僕がそれを伝えて良いものなのか幼馴染とはいえ男な訳だしセクハラに成りかねないよなけど早めに教えておかないとさっきみたいに男の前でああいう事して変な誤解とかされて取り返しのつかない事態を起こさせかねないからお母さんに頼んで伝えてもらうべきかそもそも冬美さんに一度頼んだのに僕が居れば大丈夫って言われたのも訳分かんないしいやそりゃあ僕が近くに居ればどうにかするけど近くにいない場合はどうするんだって話でここは……」

 

「何この状況! デク君怖いし凍夏ちゃんマイペース!」

「へ? あっ、ご、ごめん……」

 

 幼馴染の一人考察が始まったのでさっき逃げられて触れなかった兎耳フードをふにふにしていると、宇宙感のある戦闘服の麗日が来て突っ込みを入れられた。

 彼女の声で周りから少し距離を取られている事に気づいた出久は、言葉を止めて気まずそうにしていた。

「あれに突っ込めるとか凄いな……」という呟きと頷く気配を感じたが、そんなに変な状況だったかな?

 

「てか凍夏ちゃんいつまでデク君のフード触っとるん?」

「?」

「や、何でそんな事聞くの? みたいな顔されても」

「こういう子だから……」

「わー、遠い目。天然さんなんやね」

 

 溜め息を吐く出久と納得したようにうんうんと頷く麗日。

 出久以外にはこういう事はしないから、問題はないと思うのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 全員が揃いオールマイトが授業内容の説明を始める。

 ビル群の密集している市街地として作られているらしいグラウンド・βで行うのは、ビル内での対人戦闘訓練。

 ヒーロー側とヴィラン側で2対2に分かれて、ヴィランがアジトに保有している核兵器をヒーローが回収するのが目的らしい。

 核を確保するか守りきる、または相手側を全員捕獲すれば勝利。

 

 私の場合、核がある設定ならヒーロー側にせよヴィラン側にせよ炎は使えないと考えておこう。

 とはいえ、ヒーロー側なら制圧はそんなに難しくない。

 空き時間にヴィラン側になった時を想定しなければ。

 

 チーム分けのくじはB。コンビの相手は個性把握テストの握力でかなりの値を出していた障子。

 

「よろしくね」

「ああ、よろしく頼む」

「わ」

 

 腕から分かれた触手のような部位に口が作られて、そこから声が聞こえる。

 手を複製していたのは見たけれど、口も出来るんだ。 

 

「む、済まない。驚かせたか」

「大丈夫。手とか口とかを増やすの?」

「そうだ、複製腕(ふくせいわん)という。触手の先端に身体の部位を複製出来る」

「便利そう。握力で力は見たけど、索敵も出来たりする?」

「ああ。目を増やせば視覚が広がり、耳を増やせばを音を拾える」

 

 障子は言葉とともに複製腕の先端を目や耳に変える。

 成る程、かなり使い勝手が良さそうだ。

 

「私は半冷半燃。氷と炎が使える」

「昨日見ていた。制圧能力が高そうだ」

「うん。今回は核があると考えるなら、炎は使えないけどね」

「ふむ、確かにな」

 

 

「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!!」

 

 

 障子と話している間にチーム分けが済んだらしい。対戦チームが発表される。

 最初はAコンビがヒーロー、Dコンビがヴィラン。

 Aは出久と麗日のコンビ。何かと縁が出来てる気がする。

 それから相手のDは誰か……と確認したところで、思わず固まってしまった。

 

「飯田と、爆豪」

 

 一波乱ありそうな組み合わせに出久を見てみれば、彼も固まっている。

 しかし、フードの中から覗く瞳が徐々に決意に満ちていく。

 

 なら私に出来るのは、出久を信じる事。

 

「頑張って、出久」

「……うん、頑張るよ」

 

 ステージのビルへ向かう彼を激励して、私はオールマイトに率いられながら地下のモニタールームへと向かった。

 

 

 

 

 

 私たちがモニタールームに着いて少ししてから、屋内対人戦闘訓練が開始された。

 

「さぁ、君たちも考えて見るんだぞ!」

 

 オールマイトの言葉に、皆が多くのモニターから動きのあるものを注視する。

 出久と麗日が窓から侵入している映像を見ていると、私の隣に来ていた八百万が視線をモニターに固定したまま話しかけてくる。

 

「轟さんはヒーロー側の……緑谷さん? と仲が良いのですよね」

「うん。出久とは幼馴染」

「どういった作戦でいかれると思われますか?」

「そう、だね……」

 

 初戦という事もあってか、展開の予想をしながらの観戦をするつもりらしい八百万に、少し考えてから口を開く。

 

「出久は基本的に理論を頭の中で組み立てて動くタイプ。当たり前だけど自分とコンビの出来る事、知りうる限り相手の情報を合わせて、幾つかのパターンを考えてる筈」

「そうでしょうね」

「でも、今回に限っては初撃は分かりやすいかな」

「と、言いますと?」

「あれ」

 

 一つのモニターを指差すと、爆豪がヒーローチームの居る場所まで近づいている姿が映っている。

 索敵系の個性でも無いのに真っ直ぐ向かっていくのは単純に凄いとは思うけど、表情が頂けない。

 凶悪に歪んだ敵じみた顔の爆豪を見て、誰かが「怖っ!」と漏らしていた。

 ……それより、出久に聞いていた奴の性格からすれば笑っていそうな所なのに、あの余裕の無さそうな表情は一体どういう事なのか。

 

 というか今更だけど、私たちの話にオールマイトを含めて皆が聞き耳を立てているらしい。

 別に構わないけれど、少し喋りにくい。

 

「敵側の爆豪は昨日から見てたら分かると思うけど、チームプレイなんて出来る性格じゃない。()()()()幼馴染の出久も、その事をよく知ってる」

 

 ともあれ、今の状況からあの男の行動を鑑みるに、予測できる展開は一つ。

 

 

「だから最初の邂逅は……爆豪の単独奇襲を出久が避けて終わる」

 

 

 画面内、建物の曲がり角から爆豪が出久たちに向かって爆破しながら飛び出した。

 出久が麗日を庇いながら伏せて、その奇襲を回避する。

 私の言葉通りの光景に、クラスメイトたちは沸き上がった。

 

「すげえ、轟の言う通りになったぞ!」

「つか爆豪ズッケぇ!! 奇襲なんて男らしくねえ!!」

「奇襲も戦略! 彼らは今実戦の最中なんだぜ!」

「緑くんよく避けれたな!」

「成る程、馴染みがあるからこそ相手の手は知り尽くされている訳ですわね」

「そう。しかもそれは出久側だけで、爆豪は対応出来ない」

 

 映像の中で、出久が爆豪の動きを読んで懐に入り込む。

 同時に腕を取った出久が、背負い投げるように爆豪を床に叩きつけた。

 流れで確保テープを巻こうとしていたが、流石にそれは避けられた。

 

 戦闘が一旦止まり、出久が爆豪へ何かを叫んでいる。

 その辺りで飯田が小型無線機で連絡を入れたらしく、爆豪が何かを話していたと思えば、また出久へ飛び掛かる。

 麗日を先に行かせた出久は、蹴りをかわしながら再び確保テープを巻こうとしたが、爆豪が追撃を加えようとしたので掻い潜って避けた。

 

「すげえなあいつ! 入試一位と個性使わずに渡り合ってるぞ!」

 

 渡り合ってる、か。その認識は少し違う。

 

「ううん、出久の勝ち」

「へ?」

 

 体勢を立て直した出久が、爆豪の身体を指差しながら何かを話していた。

 よく見れば、奴の胴体に既に確保テープが巻かれている。

 

 息を整えている出久。

 呆然とする爆豪。

 何が起きたか分かっていないクラスメイトたち。

 

 一拍遅れて、オールマイトが慌て気味に宣言する。

 

「ば、爆豪少年確保! 行動不能扱いなのでそこから動かないように!」

「「「「お、おおおお!!!!」」」」

 

 モニタールームに歓声が響く。

 爆豪の敗因は、冷静さを失った事で。

 出久の勝因は、努力と研鑽を怠らなかった事。

 少しやりきった表情で無線機に連絡を入れる出久を、私は誇らしい気分になりながら見つめていた。

 

「いつの間に巻いたんだ!?」

「全然気づかなかった……」

「滅茶苦茶器用じゃん! よくやるー!」

 

 皆が出久を称賛する中、八百万は考え込むように顎に手を当てていた。

 

「あの一瞬で脚にかけていたテープをたぐりよせて懐へ巻き直したなんて……咄嗟の判断力に長けている、なんてレベルを越えているじゃない……」

「5歳の頃から色々な訓練をしてたから。今回はテープを巻くだけだったし、楽な方かな」

「……訓練による努力の賜物、という訳ですか。納得ですわ」

 

 努力の賜物、まさにその通り。

 個性がなくともヒーローになるため、出久は並大抵ではない努力をしてきた。

 個性持ち相手に対抗するべく様々な戦法や捕縛術を叩き込み、多くの選択肢としてストックしている。

 うちの父親や相棒のヒーロー相手に血反吐を吐きながら……それでも弱音だけは吐かずに訓練してきたのを、私は間近で見てきたのだから。

 あの男をして、努力の天才と言わせた出久のこれまでが……今、報われている。

 

 そう感傷に浸っていると、モニター内で思いもよらない、もしくは起こるべくして起こった事態が。

 

「ちょっ、爆豪のやつ捕まったのに緑谷に掴みかかってやがる!」

「ストップだ爆豪少年! 君はもう行動不能扱いだと……あっ、ちょっ!」

 

 赤髪の少年、切島が叫んだように麗日と合流しようと背を向けようとした出久へ爆豪が掴みかかっている。

 その瞳は揺れていて、認めたくない現実を直視できていないかのようだった。

 オールマイトが静止するけれど、画面を見た限り爆豪が小型無線機を外したらしく、頭を抱えている。

 

 モニタールームがどうするんだと騒然となる中、爆豪に詰め寄られていた出久が動いた。

 

 胸ぐらを掴まれたまま、奴の溝尾に思いっきり膝を入れる。

 そのまま衝撃で手を離して踞ろうとする爆豪の背へ回り、首に腕を回し絞め落とす流れに入った。

 爆豪は暴れる間も無く、そのまま意識を失った。

 気絶した爆豪の呼吸の確認をした出久は、無線機に何かを話しかけている。

 

「あ、う、うん、済まないね緑谷少年。爆豪少年はこちらで回収するよ…………ああ分かった、訓練は続行しよう」

 

 あまりの手際の良さに唖然としていたモニタールームに、驚きを含んだオールマイトの声が響き、続いて皆の意識が戻ってきた。

 

「流れるように気絶させたぞ!?」

「個性を一切使わずに無力化させるとか凄すぎだろ!」

「爆豪は才能マンだと思ってたけど、緑谷は達人って感じのあれだ! 動きだ!」

 

 出久を褒めそやす声が上がる一方、爆豪の暴挙に眉をひそめている者も何人かいた。

 この中から障子が、オールマイトへと質問、というよりは苦言を投げかける。

 

「オールマイト。どう見ても明確なルール違反だと思うが、まだ続けるのか?」

「うむ。緑谷少年から気にせずに続けたいと言われたからね。実害を被った彼がそう言うなら、今回は構わないだろう」

「そうか……しかし同じチームの飯田が哀れだな」

 

 障子の視線の先を見れば、いつの間にか麗日と対峙していた飯田がとても苦い顔をしているのが映っている。

 一連の流れは無線機ごしに全員に伝わっていた為、あちらの二人も状況は分かっているのだ。

 飯田には気の毒だけど、今回は運がなかったと諦めてほしい。

 

 その後、出久が麗日と合流して核を持って逃げる飯田を出久の指示により挟み撃ちにして確保する事に成功。ヒーロー側の勝利となる。

 途中で気絶し、搬送用ロボに担架で回収された爆豪は保健室へと送られた。

 

 モニタールームへと降りてきた三人の顔は全体的に暗めだった。

 

 出久は無事終わった事にほっとしている一方、爆豪の件があったからか、あまり晴れた表情ではなく。

 麗日は出久を心配そうに見ていて、勝敗については気にしていない感じ。

 そして色々な意味で散々だった飯田は、分かりやすく影を背負って落ち込んでいる。

 

 三人の様子にクラスメイトたちもどう接していいか分からず、オールマイトが講評を始める宣言をするまでは戸惑ったままだった。

 

「さて、初戦からハプニングもあったが講評の時間だ! 今回のベストは誰か……まあ皆分かっているかな。緑谷少年だ!!」

「あ、ありがとう、ございます」

 

 そう言われた出久はぺこりと頭を下げて笑顔を作っていた。

 少しぎこちない笑みに、彼なりに空気を和らげようとしているのだと感じた私はぱちぱちと拍手をする。

 皆が驚いて私を見てから、意図に気づいた数人も拍手をして、クラス全体に広がるまでそう時間はかからなかった。

 それにより苦笑気味ではあるけれど、出久の笑顔からぎこちなさが消えた。

 

 暗い空気が払拭されたからか、ほっとしたオールマイトが話を進める。

 

「うんうん、仲間の健闘を称えるのは良いね! さて、各個人で良い点、悪い点があった訳だが、分かる人!」

「ハイ、オールマイト先生」

「八百万少女!」

 

 スッと手を挙げて当てられたのは八百万。

 

「緑谷さんについては、これと言った悪い点は見当たりません。作戦の立案、奇襲への対応から確保への流れ、暴走した爆豪さんを素早く行動不能にしたのも高評価ですね。その後は麗日さんと連携して室内で速さに制限のある飯田さんを上手く捕らえました。強いて悪い点らしきものを挙げるとすれば、個性を使っていない、というぐらいでしょうか。昨日のテストを見た印象では制御が拙いようなので、使っていれば逆にマイナス点になったかもしれませんが」

「は、はい」

「麗日さんは中盤に気が緩み、飯田さんに気が付かれたのはよくありませんでした。加えるならおおよその行動が受け身で、緑谷さんの指示に従うだけ。積極的に意見を述べるのも訓練の内かと」

「うー……」

「爆豪さんの行動は、見た限り私怨丸出しの独断。確保されてからも納得がいかず設定を無視して襲いかかった挙げ句、無線を外して先生からの警告を無視するなど、この訓練では最も酷いと言わざるを得ません」

 

 スラスラと言葉を紡いでいた八百万が、三人の講評を終える。

 そして飯田へと視線を向けて、少し言い辛そうに続ける。

 

「飯田さんは……その、置かれた状況下では最善を成したのではないでしょうか」

「…………ありがとう」

((((だいぶ言葉を濁した!!))))

 

 

 この場の心境が一致した瞬間だった。

 

 

 

 

「さあ! 気を取り直して次のチームだ!!」

 

 

 飯田への同情の空気を吹っ切るように、第二戦のチームが発表される。

 ヒーローチームが私と障子のBコンビ、ヴィランチームが葉隠と尻尾男子、尾白のIコンビ。

 相手には悪いけど、これはすぐに終わる。

 出久も私のやりそうな事が想像についたらしく、見送る際に「……程々にね」と言われてしまった。

 

 核を設置するヴィランチームを待つ間に、私は障子に作戦とも言えないやり方を伝える。

 ちなみに最後まで聞き終えた後の彼の反応がこちら。

 

「……えげつないな」

 

 うん、私もそう思う。

 

「けど、これが設定的にも最善だから」

「ああ、今回は索敵役に徹しよう」

「お願い」

 

 さあ、もうすぐ開始時間だ。

 出久も頑張ったのだから、私も本気でやらないと。

 

 

 

 

ー緑谷出久ー

 

 

 

「それじゃあ第二戦、スタート!」

 

 

「デク君、どっちが勝つかな?」

 

 オールマイトの開始宣言で凍夏ちゃんの戦闘訓練が始まると、麗日さんが話しかけてきた。

 少し距離感が近い事に照れそうになりながら、僕の考察……というより凍夏ちゃんが一番に取りそうな手を考えながら口を開く。

 

「多分だけど……決着はすぐに付くと思うよ」

「そうなん?」

「凍夏ちゃんが今回の設定でヒーロー側なら、一番にやれる事が、ね……」

 

 ヒーローチームが映るモニターでは、障子くんが腕に耳や目を増やして、恐らく索敵をしている。

 それが終わったら、口に変えて凍夏ちゃんへと話しかけていた。

 ヴィランチームも透明な葉隠さんが手袋や靴を脱いで遊撃へと出たらしいが……あまり意味はないだろう。

 障子くんがビルの外へ出ているのを見て、一応注意を言っておく。

 

 

「麗日さん。寒くなるから、身構えてた方が良いかも」

「へ?」

 

 

 麗日さんがぽかんとした直後。

 

 凍夏ちゃんから放たれた冷気が、ビル全体を包み込んだ。

 

 画面に見える全てが凍っていき、核の部屋にいる尾白くんや廊下に潜む葉隠さんの足が氷で固定される。

 地下のモニタールームにまで及ぶあまりの規模と寒さに全員が震えて唖然とする中、凍夏ちゃんが障子くんを呼び戻してビルを上がって行く。

 四階まで上がっていき、身動きの取れない葉隠さんをテープで確保。

 続いて尾白くんのいる核の部屋にたどり着くと、障子くんが彼を確保し、凍夏ちゃんが核へと触れた。

 

「仲間を巻き込まず、核兵器にもダメージを与えず、尚且つ敵も弱体化!」

「最強じゃねェか!!」

「ひ、ヒーローチーム、WIN!!」

 

 オールマイトが震えながら勝利を宣言すると、今度は凍夏ちゃんから熱が発されて、みるみるうちにビルの氷結が溶けていった。

 半冷半燃、氷と炎を操る個性。

 幼い頃からの特訓で、この程度なら何の負担もなく出来る。

 

 これが、轟凍夏。

 僕の幼馴染で、有名なヒーローの父を持つ、雄英高校推薦入試での合格者。

 凄すぎる彼女に対して、劣等感が無い訳ではないけれど。

 

 今の僕があるのは、凍夏ちゃんのお陰だから。

 

 ヒーローになる夢を諦めて卑屈にならずに済んだのは、彼女と出会えたから。

 

 無個性だった頃から、ヒーローになれると言ってくれた、かけがえのない人だから。

 

 嫉妬なんて感情は、とうの昔に消え去って。

 

 君とヒーローを目指す日々を、楽しみにしているんだ。

 

 

 ……ただ、モニタールームに帰ってきた凍夏ちゃんからほわほわした笑顔でVサインを向けられた事で、恨めしそうな視線を幾つも突き刺される羽目になったのは勘弁してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘訓練が順調に終わり、放課後。

 誰かが訓練の反省会をしようと言い出し、大体の人が残っていた。

 居ないのはまだ保健室にいるらしき爆豪、彼の様子見と荷物を届けに行った出久だけ。

 私も付いていきたかったけど、二人で話したい事があるから待っててほしい、と言われたので渋々断念した。

 

 少しだけしょんぼりしながらクラスメイトたちの話を聞いていると、私の話題が中心になり始める。

 

「しっかし凍夏ちゃんにはしてやられたよー! 何も出来ずに終わっちゃった!」

「本当にね……勝負にすらならないなんてな……」

「緻密な操作だけでなくあれほど大規模な空間制圧も出来るなんて、流石ですわ」

「ありがとう。けど二人の場所が分かったのは障子のお陰。正確な索敵は心強かった」

「そう言ってもらえるとありがたい」

「場所がバレてたなんて私の立場が無くなっちゃう! 靴に手袋まで脱いだのに!!」

「かといって全裸はどうかと思うよ、葉隠さん……」

「索敵タイプの個性は便利だよなー。このクラスじゃ障子と耳郎か?」

「ウチ、音を拾うのには自信あるよ」

「俺もそれなりには」

 

 わいわいと私の周りに集まる皆の勢いに押されながらも、今まではなかった交流を楽しく感じる。

 知ってか知らずかは分からないけれど、あの父親の娘というフィルターがかけられずに接してもらえるだけで、雄英に来た甲斐があったと思う。

 帰ったら姉さんにも話そうと考えていると出久が戻ってきて、皆が彼の元へと寄って行った。

 

「緑谷戻ってきた!! お疲れ!!」

「一戦目から凄かったぜ!!」

「よく避けたよー!」

「わわわ……!?」

 

 周りに人が集まってきてチヤホヤされる出久は、慣れていない状況にあわあわしている。

 さっきまでの私と似た光景に、笑みが溢れてしまう。

 皆に自己紹介をされながら色々と聞かれている光景は、私としても嬉しい。

 これまでの出久の努力が形を成して、皆に認められている証拠だから。

 ……胸の奥に少しの寂しさが沸いたのは、あまり良い感情ではないかもしれないけれど。

 一旦解放されたらしい出久が肩を落としながら席に座ったので、寂しさを埋める意味も含めて彼の近くへと歩み寄る。

 

「お疲れ?」

「ああ、うん……こういう感じ、慣れてないからね……」

「私も。肩揉んであげる」

「えっ……い、いやいや、悪いよ!」

「……嫌?」

「嫌じゃないけどそうじゃなくて!」

「なら遠慮しないで」

 

 何故か言い訳を探すように慌てている出久の肩に手を添えて、少しずつ力を入れていく。

 もみもみと凝り気味の筋肉を解していくにつれ、徐々に抵抗が無くなってきた。

 出久は力を抜いている、というよりはぐったりしている意味で脱力している気がするが、どうしたのだろう。

 

 そういえば、いつの間にか教室が静かだ。

 皆の方を見れば、おおよそ全員が何故かこちらをガン見していた。

 顔を赤くしている子もいるけれど、なんだろう。

 

「あー、えっと、ちょっといいかな」

 

 その中から尾白が私たちへ声をかけてきた。

 他のクラスメイトたちから、まるで魔王へ立ち向かう勇者のような視線を向けられている。

 

「どうかした?」

「ずっと気になってたんだけど、その、二人は付き合ってるのか?」

 

 どんな質問が来るのかと思えば、なにか妙な事を言われた。

 

「付き合うって、何に?」

「は? いやだから、恋人、なのかな、って……」

 

 余程不思議そうな目をしていたのか、尾白の声は徐々に小さくなっていく。

 恋人。

 尾白には……というかクラスメイトたちには私と出久が男女の仲に見えるらしい。

 頭を傾げながら、私は私たちの関係を言葉にする。

 

「私と出久は幼馴染って、言ってなかったっけ?」

「それは聞いたけど…………えっと、付き合ってない、のか?」

「うん。ね、出久」

「そうだね……うん、やっぱりこれ、おかしいんだ……」

 

 出久へと言葉を向ければ、何とも言えない表情で呟きながら頭を抱えていた。

 私たちの答えに、クラスメイトたちは一瞬間を空けて。

 

「「「「はああああ!!??」」」」

 

 絶叫とも言える叫びを上げた。

 

「えっ、嘘だろ!? これで付き合ってねえの!?」

「幼馴染でも男女でその距離感は近すぎるだろ!!」

「いやでも付き合ってないだけで凍夏の一方的なLOVEの可能性も!!」

 

 芦戸の言葉に、皆がはっとしたように私を見る。

 けど、注目されても困る。

 

「……?」

「駄目だ! これ分かってない感じだ!」

「じゃあ逆に緑谷は!?」

 

 首を傾げる私は放置されて、今度は出久に注目が集まる。

 しかし出久も出久で俯いたまま。

 

「かっちゃんが真っ当な幼馴染じゃなかったから気にしてなかったけど一般的には凍夏ちゃんの距離感はおかしいんだいや僕も度々おかしいとは思ってたけどお母さんや冬美さんが問題ないみたいに言ってたから僕もそうだと思い込まされていただけなんだ二人ともどういうつもりなんだまさかそういう意味で僕と凍夏ちゃんをどうこうしたくて接させてた訳でもないだろうにでもかといってスキンシップを凍夏ちゃんが止めるかと言ったらそうでもないんだろうけどというか末っ子気質の強い彼女にお願いされたら断れないんだよなあ自分の願いを通す天才とでも言えば良いのか直す直さないとかじゃないし……」

 

「デク君のこれ通常運転なんやね」

「考えをまとめる時はこんな感じ。あんまり反応ないから気にせず触れるよ」

「そうなんや」

((((緑谷怖いし轟も大分マイペースなのに気にせず話せる麗日凄い!!))))

 

 ブツブツと呟く出久の髪に顔を埋めながら、一人近づいてきた麗日にそう答える。

 

 もふもふした緑の髪は柔らかくて、何度触れても癖になる感じ。

 

 ほんのりと滲む汗は、彼と鍛練をしている時によく嗅ぐ匂い。

 

 もっと出久を感じたくて、抱きしめるように腕を回した。

 

 とても落ち着いて、けれどどこか胸が疼くようなこの気分は……

 

 

「お前らいい加減にしとけ」

 

「うぎゅ」

「へっ……あだっ!?」

 

 何か頭に衝撃を感じて痛みで思わず出久から離れれば、彼も頭をクリップボードの横で叩かれている。

 その行為者……担任の相澤は私と出久に睨むような視線を向けていた。

 

「別に生徒同士の関係に口を出す気はない。が、風紀を乱すのは止めろ。他のやつらの目の毒だ」

 

 彼の指し示す方を見れば、先程より顔を赤くして目を背けるクラスメイトたちがいた。

 いや、麗日は口笛を吹くような顔でそっぽを向いているだけか。

 多分先生の接近から見捨てた事を誤魔化そうとしているんだろう。

 

「分かったら返事。他のやつらもそろそろ帰れ。もうすぐ下校時刻だぞ」

「は、はいっ!」

「「「「失礼します!」」」」

 

 相澤が鋭い視線でクラスを見渡すと、皆は慌てて帰る準備をして教室を後にする。

 私も何が起きたかいまいち理解しておらず返事だけしていた出久を促して、共に帰路へと着いた。

 

 

 以降、私たちが一緒にいる時に限り、私と出久との関係に口を出さないようにするという暗黙の了解が出来上がったと、後にこっそり麗日より聞かされた。

 

 私は内心ほっとして、心の中で温めている想いに意識を向ける。

 

 芦戸の指摘を誤魔化した時、私は首を傾げただけで。

 

 好きか嫌いかの疑問には、一言も答えてない。

 

 つまりは、そういう事。

 

 

 ――私は、出久に恋をしている。

 

 

 これは二人が最高のヒーローなるまでの物語であると同時に。

 

 轟凍夏が緑谷出久に、最高の想いを伝える物語でもある。

 

 

 




 オリ主の戦闘服は明るめのシアン色で原作焦凍くんと現見ケミィさんの戦闘服を合わせた感じだと思って頂ければ。つまり結構パツパツ。
 今回の場合、オリ主が要望をきっちり書いてる割に地味すぎるから、デザイナーの勝手で少しでも派手さを追求した感じです。
 ヒーローのコスチュームデザイナーは見た目も機能も重視したいこだわりを感じると同時に、エロ親父疑惑も感じている作者です。

 あと爆豪の扱いが酷い感じで爆豪ファンの方ごめんなさい。
 原作と違い爆豪は出久がずっと鍛えているのを知っている(出久は知らないと思ってる)ので、ある程度出久を認めていたが故の暴挙です。
 爆豪視点での思いもいずれ。


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4:涙目(目薬)からの委員長決め。

 
 感想・評価などありがとうございます。
 各話のサブタイトルは話を書き終わった後のインスピレーションなので、あまりお気になさらず。



 戦闘訓練の翌日の朝。

 オールマイトが雄英高校の教師になった影響で校門の前にマスメディアのカメラやマイクが山のように集まっていた。

 気づかれずに通り抜けるのは無理そうだったので、ふと思い付いた提案を出久に話す。

 もの凄く渋っている出久に時間がないと急かせば、どうにか了承をもらえた。

 

 そんな訳で、片耳ずつイヤホンをして音楽を聞きながら手を繋いで向かう。

 私たちに気づいたマスコミは一瞬驚いてから、こちらへと群がってきた。

 

「すみません、オールマイトの授業について聞きたいんですが!」

「仲良さげだけどカップルかな!? 教師としてのオールマイトはどんな感じ!?」

「少しで良いんで話を!!」

 

 さて、良い感じに集まってきたので演技をしなければ。

 

「出久、怖い……」

 

 涙目(目薬)を作って、出久の腕に抱きつく。

 それを見て少し狼狽えたマスコミに、出久は笑ってない目(実際は死んだ目)で言葉を発する。

 

「……すみませんけど彼女が怖がってるので、失礼します」

 

 流石にこの光景で引き留めようとする人はいなかった。

 途中ですれ違った相澤先生に、死んだ目の出久が気の毒に見られてたのは、多分気のせい。

 ……それにしても、ちょっと反応が酷いような。

 

「……そんなに嫌だった?」

「そうじゃないんだけど……仮にテレビに映っちゃったのをお母さんとかに見られたら……って思うとね……」

「? 問題あるの?」

「あるんだよ……! 勘違いを正すのも労力がいるし……!」

 

 がくりと肩を落とす出久に、私は首を傾げるしかない。

 別に見られても、恋人になってたのをなんで言わなかったのか、ぐらいしか言われないと思うけれど。

 

 そんなやり取りをしながらのせいでイヤホンシェアと手を繋いだままで教室に入ってしまい、皆がアルカイックスマイルになっていたのは余談。

 

 

 

 

「昨日の戦闘訓練、お疲れ。Vと成績見させてもらった」

 

 朝のHRの時間、門でマスコミの対処をしていた筈の相澤先生は遅れずに来た。

 

「爆豪、お前もうガキみてえな真似するな。焦ってるのかは知らんが能力あるんだから」

「……分かってる」

 

 昨日の暴挙の話を爆豪は静かに聞いていた。

 出久曰く、もう大丈夫だから心配の必要はないとの事。

 別に心配なんて全くしていなかったけれど、何だかんだで爆豪を気にしている出久にそうは言えなかった。

 

「で、緑谷。個性が使えないなりに地力や技術を鍛えて補っていた事は評価するが……個性の制御、いつまでも「出来ないから仕方ない」じゃ通させねえぞ」

「っ」

 

 相澤先生に睨まれて俯く出久。

 言っている事は正論なので、何とも言えない。

 

「俺は同じ事を二度言うのが嫌いだ。それをクリアすればやれる選択肢が一気に増える。焦れよ緑谷」

「っはい!」

 

 先生も先生で出久には期待してくれているらしい。

 これは彼なりの激励だと気づいた出久が、力一杯返事をした。

 

「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに……」

 

 不穏な言い方にざわめくクラス。

 そのフレーズは確か、昔出久と遊んだゲームの中だと殺し合いをさせられるのではなかったか、なんて事を思い出していたら。

 

「学級委員を決めてもらう」

「「「「学校っぽいの来たーー!!!」」」」

「わ」

 

 全然違ったし、いきなりクラス中が叫んで驚いた。

 続いて皆が皆、やりたいと主張を始めている。

 出久も控えめに手を挙げていた。可愛い。

 私はこういうのには向いていないと思うから立候補はしない。

 しかし、どうやって決めるつもりなんだろう。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

 この声は飯田。騒ぐ皆が静かになる。

 

「"多"を牽引する責任重大な仕事だぞ……「やりたい者」がやれるモノではないだろう!!」

 

 確かにそうだ。飯田の言い分も一理ある。

 ある、んだけど。

 

「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案!!」

「そびえ立ってんじゃねーか!! 何故発案した!!」

 

 自身が手を挙げていては、説得力があまりないと思う。

 まあでも実際、短時間で決めるなら投票も良い手段だ。

 私のようにやるつもりが無い人はいなくても、他に薦めたい相手がいる人はいない事はないだろうから。

 

 そして飯田が相澤先生からも了承を得た為、投票に決まった。

 さて、私は誰にしようかな。

 

 

 投票が終わり、結果発表。

 

「僕四票!?」

 

 出久が四票を獲得し、委員長に当選した。

 

「……ちっ」

 

 妙に大人しい爆豪が忌々しい……いや、苦々しい表情で舌打ちしている。

 けれどこれは昨日の戦闘訓練の影響だろうから、ある意味当然の結果。

 雄英に入ってから出久が次々と認められている現状に、頬が緩んでしまうのも当然の現象だった。

 八百万も二票と複数獲得しているので、これで委員長と副委員長が決まった。

 端で0票で落ち込んでいる飯田が何をしたかったのかと言われていた。真面目な彼らしい。

 

 そんなこんなで昼休み。

 今日は出久たちとではなく、八百万と一緒にご飯を食べる事にした。

 ランチラッシュの食堂で頼んだ蕎麦を啜りつつ、朝のHRの話をする。

 

「副委員長おめでとう、八百万」

「ありがとうございます。緑谷さんに負けて少し悔しい気持ちはありますが、精一杯務めさせて頂きますわ」

 

 ぐっと胸の前で手を握り締めている八百万を見ていると、何だか微笑ましい気持ちになる。

 

「ふふ、八百万に投票して良かった」

「えっ!?」

 

 だから、言うつもりのなかった言葉を漏らしてしまった。

 驚いた顔の八百万に、この際だからと理由も伝える。

 

「戦闘訓練の講評とか、戦闘時の創意工夫とか、きっと考えて人を引っ張るポジションに向いてると思ったから」

「轟さん……!」

 

 感極まった様子の八百万が、私の手を握ろうとした。

 

 

 その瞬間、食堂に警報が鳴り響いた。

 

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難してください』

 

 

 悲鳴が上がる学食。我先にと避難する生徒たちで瞬く間に出入口が混雑する。

 私たちはといえば、出遅れた事もあってその場から動いていない。

 

 少し唖然としていた八百万は、すぐに冷静さを取り戻して私へと情報をくれた。

 

「セキュリティ3、校内に何者かが侵入した際に発動されるものですわ」

「成る程、これからどうする?」

「この大人数です。下手に動いても避難は出来ませんし、身動きが取れなくなって逆に危険でしょう」

「そうね……」

 

 現段階で危険度は分からない。

 どんな相手が校内に侵入してきたのか。

 侵入者は今どこにいるのか。

 情報が不足している今、私たちに出来る事があるのか。

 

「皆さん、大丈ー夫!!」

 

 難しい顔の八百万と共に考えていると、最近聞き慣れてきた声が辺りに響いた。

 声の方向を見れば、出口の上に飯田が非常口のようなポーズで張り付いていた。

 

「只のマスコミです! 何もパニックになることはありません!! 大丈夫! ここは雄英! 最高峰の人間にふさわしい行動をとりましょう!!」

 

 叫びながら簡潔に状況を説明する飯田の声で、慌てていた生徒たちも落ち着いていく。

 騒動を制圧する彼は、その場で誰よりもヒーローらしかった。 

 

 

「凍夏ちゃん、八百万さんも」

「二人ともさっきのに巻き込まれてなかったんやね。流石!」

「緑谷さんに麗日さん。ご無事でしたか」

 

 胸を撫で下ろしていた私たちの所へ、出久と麗日がやってきた。

 出久の衣服が少し乱れているが、あちらも無事らしい。

 

「出久、大丈夫?」

「いやぁ、人波に流されかけて……こんな所で背が低いのがマイナスに働くなんてね……」

「出久ぐらいの身長、可愛いと思うけど」

「まさかの追い討ち……!」

 

 フォローしたつもりが、何故か出久が胸を押さえながら更に項垂れた。

 麗日と八百万に同情の視線を向けられている辺り、私が間違えたらしい。

 人を慰めるのは難しいと、改めて実感した。

 

「そ、そんなのは今どうでも良くて……八百万さん、ちょっといいかな」

「? はい、何でしょうか」

 

 少しだけ落ち込んでいると、出久が八百万に提案を持ちかけていた。

 その内容は出久らしく、それでいて筋も通っている話。

 麗日も頷いていたし、私も出久が良いなら構わないと思う。

 少し複雑な顔をしていた八百万も最終的には納得出来たようで、首を縦に振った。

 

 

 

 

 その後、午後のHRにて残りの委員決めの時間での事。

 

「やっぱり委員長は飯田くんが適任だと思います」

 

 出久は昼食時の出来事を理由に、飯田へと委員長を譲る旨を話す。

 副委員長の八百万も同意済みであり、他の皆も概ね同意の意見が出て、すんなりと飯田が委員長になるのかと思われた、のに。

 

「テメェクソデク!! この俺がわざわざ自分曲げて票入れてやったってんのに、それを蹴るたぁ良い度胸じゃねェか、ア゛ァ゛!?」

 

 夢ではないかと、思わず自分の頬をつねってしまうぐらいびっくりした。

 信じ難い事に、出久の四票のうちの一票は爆豪が入れていたらしい。

 本人もそれは知らなかったようで、目が飛び出る程驚いていた。

 

「かかかか、かっちゃんが入れてくれたのあれ!!??」

「文句あんのかゴラァ!!」

「文句はないけど!! かっちゃん熱とか無い!? もしくは頭打ったとか!!」

「んだコラどういう意味だクソナード!!!!」

「わーっ!? 授業中だから爆破はダメだって!!」

「使わねえよクソが死ね!!!!」

 

 いきなり乱闘が始まりそうな空気に、唖然としていたクラスメイトたちが慌て出す前に。

 

「昨日の今日で随分と楽しそうだなお前ら……元気があって大変宜しい……!」

「ぐえっ!?」

「んぐっ……んだこの布かてぇ……!」

 

 寝袋に入っていた相澤先生が首元の布で二人を捕縛し、そのまま席へ強制的に叩き戻した。

 いや、これって出久はとばっちりなのでは。

 

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ『捕縛武器』だからな……そのままで頭冷やしてろ」

「「っ……」」

「返事!」

「はっ、はい!!」「っす……」

「じゃあ飯田、委員長として八百万と一緒に進めていけ」

「りょ、了承しました!」

 

 ギロリと睨むだけでクラスを静まらせる様子に、恐怖政治が進行しているとか考えてしまった。

 

 気を取り直して飯田により他の委員決めが進行される中、私は縛られた二人を見る。

 むすっとした爆豪と溜め息を吐いている出久。

 昨日何があったかは知らないけど、少しでも関係が改善されるのは出久にとっても良い事だ。

 まあそれはそれとして、巻き込んだ爆豪は許さない。

 

 

 余談だが、後のタイミングで相澤先生が抹消ヒーロー「イレイザーヘッド」というアングラ系ヒーローだと判明した。

 湯水の如く彼について語り始める出久に、捕縛布をきつくして制止をかけた相澤先生の心境はどんなものだったのか、私には分からない。

 

 




原作との相違点。
・出久、爆豪の仲が多少緩和。
・相澤先生のヒーロー名判明のタイミング。

 原作より早く出久と爆豪のライバル関係(?)が築かれました。
 かっちゃん語が難しいこの頃。


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5:轟凍夏:オリジン①

 
 引き続き感想・評価などありがとうございます。
 頂いた感想の元、オリ主こと轟凍夏のイメージをキャラメイクアプリのカスタムキャストとスマホのピクチャーアプリを使って作ってみました。
 着色が雑なのにはご了承を。
 作者的にはこんな子です。

・バストアップ

【挿絵表示】


・全身

【挿絵表示】



 出久視点でオリ主が語るオリジン前編。


12/5:バストアップを少し修正したものに変更しました。


「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見る事になった」

 

 マスコミ侵入から数日後の午後の授業。

 レスキュー、人命救助訓練を行うとの事だけど、始まりの相澤先生の宣言に違和感を感じる。

 見る事に「なった」というのは、本来の予定が変わったという意味なのかな。

 出久も引っ掛かったのか、少し首を傾げている。

 大変そうやらヒーローの本分やら騒ぐクラスを一睨みした先生は、バスで移動する事とコスチュームの着用は自由な旨を伝えると、準備開始の宣言をしてさっさと出ていってしまう。

 

 何はともあれ、救助訓練は私や出久にとって最高のヒーローになるために一番必要なものだ。

 意気込みを入れて、頑張ろう。

 

 

 てきぱきと着替えて、訓練場に向かうバスの乗り場へと向かう。

 途中で出久と合流して、どんな授業かを予想しながら歩く。

 バスの前に着くと、飯田が笛を吹きながら指示を出していた。

 

「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!」

「飯田くんフルスロットル……!」

「笛、持ってたの?」

「ああ! こんな事もあろうかとな!」

 

 凄く張り切ってるらしい。

 けれど、バスに乗るとすぐその指示は無意味になっていた。

 

「こういうタイプだった! くそう!!」

「イミなかったなー」

 

 市バスなどの両サイドに席があるタイプのバスに、飯田はから回ったと落ち込んでいた。

 

 出久の右隣の席に座った私は、ゆらゆらと揺れるバスの感覚にぼんやりと意識を泳がせている。

 端的に言って、眠くなってきた。

 昔から乗り物に乗って座っていると眠くなるので、いつも道中は寝て、到着したら出久や姉さんに起こしてもらっていたっけ。

 

「凍夏ちゃん、着いたら起こすから寝てても良いよ?」

 

 そんな私の様子に気づいた出久が、柔らかい笑みでそう述べる。

 それなら、お言葉に甘えて。

 隣に頭を預けて、落ち着く匂いを感じながら私は目を閉じた。

 

 

 

ー緑谷出久ー

 

 

 僕の肩に頭を預けるように倒れてきた凍夏ちゃんは、既に小さく寝息を立て始めていた。

 小さな頃から寝付きが良かったけど、そこは今も変わっていない。

 なんとなく微笑ましく思いながら軽く姿勢を正そうとして、バス内から視線を一手に引き受けている事に気がついた。

 思わず声を出しそうになったが、何とか押し留める。

 というか約1名、視線で人を殺せそうなぐらい目が血走ってる……!

 

「え、えっと、どうかした……?」

 

 どうして見られているか分からな……くもないけど、一応聞いてみる。

 皆は顔を見合わせて、多分誰が話すかをアイコンタクトしているっぽい。

 すると僕の左隣に座っている女子、蛙吹さんがこちらへと向き直りながら話し始めた。

 

「私、思った事を何でも言っちゃうの。緑谷ちゃん」

「あ、はい。なにかな蛙吹さん……」

「梅雨ちゃんと呼んで。貴方と凍夏ちゃん、とっても仲良しよね」

「う、うん」

 

 少し気恥ずかしいが、否定はしない。

 昔それをして、凍夏ちゃんがとんでもなく落ち込んだ事があるが、あれはダメだ。

 捨てられた子犬みたいな目でずっと見てきて、しばらく離れるのさえ嫌がられてしまった。

 

「幼馴染とは聞いたけれど、ここまで心を許しているのは珍しいと思うの」

「そう、かな?」

「そうなのよ。差し支えがなければ、今までどうやって接してきたのか教えてほしいわ」

「そうだよ!! どんな徳を積めばそんな美少女に甘えられる青春を送れるんだよ!! 羨ましいにも程があるわ!!!!」

 

 あす……梅雨ちゃんの問いに被せる勢いで、先程から強い視線を送っていた峰田くんが叫ぶ。

 というか血涙流してない!? どんだけなのさ!

 

「う、うーん……そう言われても、凍夏ちゃんと初めて会った時からこんな感じだから、これといった特別なものはないんじゃないかな……?」

「そうなの?」

「うん、五歳ぐらいの時かな。公園で泣いてた凍夏ちゃんを慰めたらなつかれて、そのまま今日に至ると言いますか……」

「えー優しい! 緑谷ちっちゃい頃から紳士じゃん!」

「し、紳士って……」

 

 向かい側にいた芦戸さんが興奮気味に話に入ってくる。

 紳士とか、そういうのでは無いんじゃないかな。

 泣いてる人がいたら、きっと誰でもそうするよ。

 

「そんぐらいで美少女幼馴染が出来るならオイラだってやってるわ!! 他にも何かあんだろ!! 吐けェ!!!!」

「こええよ峰田。必死すぎだろ」

 

 峰田くんの叫びに、ツッコミを入れた切島くんだけでなくクラスの大半が引いている。

 戦闘訓練の辺りで気づいていたが、彼はそういうキャラなんだろう。

 しかし何かあったと言われても……これは話して良いのか。

 

「うぅん……」

「無理に話さなくて良いのよ、緑谷ちゃん」

「いや、その、凍夏ちゃんの事もあるし、勝手に話して良いものかと……」

「良いよ」

「あ、良いの……って、えっ!?」

 

 いつの間にか起きていた凍夏ちゃんが、僕の顔を覗き込むように見上げている。

 

「あら、起きてたの凍夏ちゃん」

「うん。まだうとうとしてただけ」

「寝ないの? 珍しいね」

「ちょっと煩かった」

「峰田のせいじゃん」

 

 ああ、あの二回の叫びは確かにちょっと煩かった。

 流石に悪いと思ったのか峰田くんは少し体を縮める、が。

 

「それはごめん……って緑谷ァ!! テメー轟っぱい押し付けられてんじゃねえか畜生が!!!!!! 許っ羨!!!!!!」

 

 慟哭と共にそんな事を言われて、再びクラスの注目を浴びる。

 起きた凍夏ちゃんに流れるように腕を組まれ、抱きつかれている現状を言っているのだろう。

 峰田くんの他、上鳴くんや瀬呂くんにも羨ましそうな視線を向けられている。

 いや、確かに柔らかい感触には滅茶苦茶ドキドキするし、視線を下げれば服から覗く肌色の山が見えそうだけど。

 それ以上に、この子のマイペースさに翻弄されてる事を知ってほしい。

 仮に今、彼女に進言したとして。

 

「凍夏ちゃん、離れてくれたりは……」

「…………」

 

((((捨てられた子犬みたいになってる!))))

 

 皆の心の声が聞こえる。

 今の凍夏ちゃんのしょんぼり具合に罪悪感を抱かないのは、よっぽどの少数意見だろう。

 

「……しなくていいよ。うん」

「んっ」

 

((((諦めた! そりゃ勝てないな!))))

 

 多くの同情の視線を集めた僕は、遠い目で呟く。

 

「……もう、慣れたよ……」

 

 

 更に同情の視線が強まったのは、気のせいじゃなかった。

 

 

 

 

「そ、それで緑谷! 凍夏とどんな幼少期を送ってきたの?」

 

 何とも言えない空気に、本題へと軌道修正をはかる芦戸さん。

 僕が口を開こうとして、その前に凍夏ちゃんが何気なく告げた一言。

 

 

「うちの父親に、一緒に拷問されてた」

 

 

 あんまりな言い方に、バスの中の空気が死んだ。

 

 いや、お父さん嫌いの凍夏ちゃんならそういう事するとは思ってたけども!

 これフォローするの僕なんだからね!? 分かってる!? 我関せずだった相澤先生まで振り向いて凄い顔してるよ!?

 

「凍夏ちゃん……省略した所をちゃんと入れて」

「?」

「と・う・か・ちゃん?」

「…………拷問ぐらいきつく、虐められてた」

「訓練で、ね?」

「……うん」

 

 凍夏ちゃんはむくれながら、僕の首元に顔を埋める。

 仮にもNo.2ヒーローなのに、ここまで軽蔑されるとはあの人も気の毒な。

 まあ自業自得と言えばそうだし、父親としてはダメダメでポンコツなのかもしれないけど。

 それよりバスの空気を放置したまま、臭いを嗅ぐのは止めてほしい。温度差が酷すぎて板挟みな僕にはキツすぎる。

 

「え、えっ、と、冗談だったんだよ、な?」

 

 凄く恐る恐る尋ねて来た切島くん。

 大丈夫だから。悪意しかない表現だったけど大丈夫だから。

 とはいえ……

 

「過剰な表現過ぎる……って訳でもないけどね。凍夏ちゃんのお父さんの事は知ってる?」

「は、はい。ヒーロービルボードチャートNo.2、フレイムヒーロー「エンデヴァー」ですわよね?」

 

 凍夏ちゃんの態度からいくらか事情を察したのか、多少深刻さが抜けた表情の八百万さんが答える。

 知らなかったクラスメイトも多いようで、目を見開いたり驚きの声を上げている人もいた。

 

「そう。メディアとかでも見ると思うけど、昔から上昇志向が高い人でね……自分の子どもの凍夏ちゃんにもそれを求めてたんだ」

「私だけ。兄さんや姉さんは失敗作扱い」

 

 ちょっ、それ話すの!?

 そこからなら深刻度が激増ししちゃうんだけど!!

 

「凍夏ちゃんどこまで暴露するつもり!?」

「全部。この際だしエンデヴァーは皆から嫌われればいい」

「えぇ……」

 

 珍しく悪い顔をしている凍夏ちゃん。

 言ったら絶対落ち込むから言わないけど、その顔お父さんにそっくりだからね。

 

 で、更に凍りついた空気を溶かさなきゃいけないんだけど、また凍夏ちゃんが自ら口を開いた。

 うん、けどこれ溶かすどころか永久凍土と化すつもりだ。

 

 

 

「個性婚って知ってる?」

 

 

 

 そして彼女は語る。自らのオリジンとも言える幼少期を。

 

 

 

 

「……第二、第三世代で問題視された、強い個性を子に継がせる為の政略結婚、という風に学んだが」

 

 少し間が空いた後、勤勉な飯田くんが重苦しい口調で答えると、凍夏ちゃんは頷きながら言葉を続ける。

 

「あの男は倫理観の欠落した時代錯誤なそれをした。氷結系の個性を持ってた母の家を言いくるめての結婚。母は私を含めて四人の子どもを産まされたの」

「……何故、そこまでして?」

 

「オールマイトを越える、ただその為だけに」

 

 

 凍夏ちゃんの声色が、どんどんとキツいものになっている。

 昔の、追い詰められていた時の気持ちを思い出しているんだろう。

 心配になって手を握れば微笑みが帰ってきたから、大丈夫だとは思うけど。

 

 

「エンデヴァーは二十歳にはNo.2に登り詰めた。けどその時に気づいたのが、No.1との間にある越えられない壁」

「オールマイトを越える事が目標から執着になって、自身に不可能ならより優秀な仔に野望を果たさせる……そういう風にねじ曲がった」

「だからあいつは家族を省みず、ただ母に自分の上位互換になる仔を産ませようとした」

 

 

「それが私、轟凍夏」

 

 

 ふぅ、と一息吐く凍夏ちゃん。

 皆は固い表情で、何も話せないまま。

 自分とは別世界の重すぎる話に、何を言えば良いのかも分からないんだろう。

 

 ……これ、訓練場に着くまでに良い感じに締めないと空気が凍ったままの救助訓練になっちゃうよね……?

 

 方向違いの心配をする僕はさておき、凍夏ちゃんは続きを話す。

 

 

「私が産まれて個性が発現した時、あの男は喜んだ」

「炎だけじゃ身体に熱が籠って倒れてしまう。氷だけじゃ体温が低くなって動けなくなってしまう。半冷半燃なら、凍らせて燃やす個性なら、お互いのデメリットを打ち消せた」

「個性を発現させた日から、私にとっての地獄が始まった」

「エリート教育という体で他の兄姉からの隔離。吐いても立たせる拷問のような鍛練。止めようとした母を突き飛ばして、あいつは私を鍛え続けた」

「泣けば鍛練がキツくなるから泣けない私と、どんどんやつれていく母は、きっと端からは見れたものじゃなかったと思う」

 

「そんなっ……そんなのって……!」

「んなのっ、ヒーローのやる事じゃねえ……!」

 

「ヒーローとしての技量と、親である技量は別だから」

 

 

 目に涙を潤ませる八百万さんと激しい怒りに震える切島くんに、淡々と告げる凍夏ちゃん。

 他の女子も涙ぐんだりしていて、男子に至ってはかっちゃんさえも顔を歪ませていた。

 ああ、これはもうA組の皆からのエンデヴァーへのヘイト値は取り消せないな。

 

 

「そして私が五歳の時、悲劇が起きた」

「精神的にギリギリだった母が、台所で実家に電話をしていた」

「私の左側が、日に日にエンデヴァーに似てきて、醜くおもえてしまうと、心の底に沈めていた感情を吐き出して精神を保っていた」

「たまたまそこに、私が通りかかってしまって、声をかけてしまった」

「母は憎しみに染まった目で、沸かしていた熱湯を……私の左側へと浴びせた」

「色々な痛みに泣く私と、錯乱した母。たまたま家にいた父は母を取り押さえて、病院の精神科に放り込んだ」

「元凶のあいつは、その時なんて言ったと思う?」

 

「『全く、この大事な時期に……』って、恨めしそうに吐き捨てたの」

 

 

 ブチッ、という音が複数聞こえた。

 何人かがキレたらしい。僕に分かるのは切島くんだけだけど。

 けどこれで、山場は越えた筈。

 

 

「心の支えを無くして、絶望に圧し潰された私は、火傷が治ると同時に家を飛び出した」

「当てもなくずっとずっと走って、もう歩くのも無理なぐらい走り続けて、たまたま休む為に立ち寄った公園で」

 

「私は、出久に出会ったんだ」

 

 

 凍夏ちゃんの心の底から嬉しそうな声で、皆の視線がまた僕に向く。

 

 その絶妙なタイミングで訓練場に着いたらしく、バスが止まった。

 

 

「……えー、じゃあ、着いたから降りろ」

「「「「タイミングが悪すぎる!!!!」」」」

 

 

 クラスが一丸となった叫びに、今回ばかりは相澤先生も目を逸らした。

 

 それよりも凍夏ちゃんが、やけにニコニコしてるけど、これはまさか……。

 

「時間計って話してたね?」

「…………ううん」

 

 嘘が下手な反応をありがとう。その才能はプレゼンとかで使うと良いよ。

 最初からエンデヴァーにヘイトを集めるだけ集めさせる目的だったんだと、僕は頭を抱えた。

 これ、後で今は大分マシになったのを話しても、効果がなさそうな感じだよなあ……。

 

 

 ちなみに、話の続きはまた後日やるつもりとは凍夏ちゃんの弁。まじでか凍夏ちゃん。

 

 ……よく考えなくともそれが僕の話になると気づいて更に頭を抱えたのは、後の事。

 

 

 

 




 オリ主に無いもの
①自分の過去を話す事への躊躇
②エンデヴァーへの遠慮
 ……②は焦凍くんにも無かったですね!うん!

 エンデヴァー好きです。
 ストイック過ぎてあれだったけど、よく見たら焦凍くんめっちゃ好きだなこいつ!って感じあるの良いと思います。

 それはそれとしてここのオリ主はエンデヴァー嫌いです。
 どちらかと言えば反抗期的な側面が強いんですけどね。
 後編も近いうちに。


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6:笑顔を作ったUSJ襲撃の始まり。

 
 日々の感想・評価ありがとうございます。
 励みにしながら執筆中。

 今週のジャンプは流石爆豪の一言。
 作者的には原作爆豪に一対一で勝てる同学年は居ないと思ってます。

 なるべく短くまとめたくても原作描写を入れないと話の流れが分からなくなりそうで怖いという。



「すっげー!! USJかよ!?」

 

 ドーム上の救助訓練の施設に入ったクラスメイトたちが思わずといった風に叫んでいる。

 私の身の上話のせいで重くなっていた空気が一時的に吹き飛ぶ程の衝撃が、この場所にあったらしい。

 バスからずっと私をジト目で見ている出久を除いて、皆の意識は施設に向いていた。 

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc. あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です」

 

 宇宙服のような格好の人物が、こちらへ近づきながら説明を始める。

 

「その名も、『ウソの災害や事故ルーム(U S J)』!!」

 

((((ホントにUSJだった!!))))

 

「その名称は大丈夫なんですか?」

 

((((聞いちゃった!?))))

 

 よく聞いたな!? みたいな視線を皆が向けてくるけど、気になったので仕方ない。

 

「大人の事情は気にしないで!」

 

((((そしてめっちゃ誤魔化された!!))))

 

 親指を立てる宇宙服の先生らしき人。

 というかこの人、テレビで見た事がある大分有名なヒーローだ。

 

「スペースヒーロー『13号』?」

「うん。災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーローだね」

「わーー! 私好きなの13号!」

「そうなんだ」

「そうなんだ!」

 

 ぴょんぴょん跳ねてテンションを上げている麗日。

 好きなヒーローに会えて嬉しくなるのは分かる、麗日にもこんな一面があるのは微笑ましい。

 ……それはそれとして、13号の解説をしていた時も私からジト目の視線を外さない出久はそろそろ許してくれないだろうか。

 冷たい目、ではないけれど、幼馴染からこういう目を向けられるのは辛い。

 エンデヴァーの悪評を流したのは反省はしていないけど、今の出久の対応に少し後悔し始めていた。

 

 けれど、彼は優しいから。

 私が落ち込みかけているのを敏感に察知したのか、溜め息を吐いて苦笑に変えた。

 それに笑顔を返せば、少し呆れられたようだ。

 

 そんなやり取りをしているうちに、相澤先生と話していた13号が皆の方へと向き直った。

 しかし動きにくそうな格好だ。コスチュームを脱いだこの人はどんな感じなんだろう。

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」

 

((((増える……))))

 

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

 出久の言葉に麗日が物凄い勢いで頷いている。酔いそう。

 

「ええ……ですが、しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう?」

 

 人を殺せる力。

 その発した言葉に皆が自分の手を見たり腕を組んで考えたりしている。

 千差万別の個性とはいえ、殺傷能力があるものはそれなりに多い。

 私の氷と炎なんかは良い例で、加減を間違えばいとも容易く相手を凍死、焼死させてしまう。

 

「超人社会は”個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます」

「しかし一歩間違えば、容易に人を殺せるいきすぎた個性を個々が持っていることを忘れないで下さい」

「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います」

「この授業では心機一転! 人命のために”個性”をどう活用するのかを学んでいきましょう! 君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。助けるためにあるのだと心得て帰って下さいね。以上! ご静聴ありがとうございました!」

 

 言い切った13号がお辞儀をして、皆から拍手喝采が沸き起こる。

 どんな個性でも使う人次第。

 それを分かりやすく表現した言葉は、私の胸にしかと響いていた。

 

「さて、そんじゃあまずは……」

 

 そして良い余韻を残したまま、相澤先生が授業を進めようと口を開いた時。

 

「「……っ!」」

 

 背筋に悪寒が走り、反射的に臨戦態勢を取った。

 出久も同じように反応し、いつでも動けるモーションだ。

 

「で、デク君? 凍夏ちゃん?」

 

 麗日が困惑した声で呼んでいるが、答えられない。

 

 私たちと、相澤先生が反応したのとほぼ同時。

 階段下の広場の噴水付近に黒いもやのようなものが現れて。

 

「っ、ひとかたまりになって動くな!!」

 

 

 ――そこから途方もない悪意が溢れ出たのだから。

 

 

 

 

 

 

 噴水前に、わらわらとガラの悪そうな輩がどんどんと現れている。

 

「13号!! 生徒を守れ!!」

 

 ゴーグルを目に掛けて構える相澤先生に、私と出久はアイコンタクトと動作で優先事項の設定を瞬時に済ませる。

 

「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

「動かないで皆。あれは本物の敵よ」

「そういう事だ!! やはり先日のはクソ共の仕業だったか……!!」

 

 眼下に広がる光景から目を離さず、個性発動待機状態で警戒しながら、戸惑うクラスメイトたちに状況を述べる。

 先生の同意により、皆に緊張と驚愕が蔓延る。

 その中で出久は携帯を取り出し学校に連絡を取ろうとした、が。

 

「駄目だ! 妨害されてるのか、電波が繋がらない!」

「そういう個性持ちがいる、か。侵入者にセンサーが反応しないのもそのせいね」

「現れたのはここだけか、学校全体か……少なくとも此処はかなり危険だ」

「校舎から離れた隔離空間、そこに少人数が入る時間割に合わせた奇襲。決して考えなしに出来る襲撃じゃない」

「何らかの目的の為に、用意周到に画策された行為に違いない!」

 

「二人とも凄い冷静だな!?」

「この状況で落ち着けるとか大物過ぎるだろ!!」

 

 出久と考えを口に出しながらまとめていると、瀬呂と上鳴から悲鳴に近いツッコミが入る。

 慌てても良い事など何もないと知っているからこそ、平常心を保つ努力をしているのだ。

 父親に連れられて、幾度となくヴィラン退治を見学した経験が役に立っていると考えるのは、少しばかり嫌ではあったけれど。

 

 そこで油断なく敵を睨んでいた相澤先生が、私と出久に言葉をかける。

 

「状況判断が早いのは良い事だ。緑谷、轟、13号主体で避難をさせるからお前らはクラスをまとめろ」

「は、はい! けど先生は!? 一人で戦うんですか!?」

 

 出久がイレイザーヘッドの戦闘スタイルでは複数相手の正面戦闘はキツい筈だと進言する。

 先生の強さを知っている訳ではないが、あの人数を一人で捌ける自信があるのだろうか。

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号! 任せたぞ」

 

 そう言って飛び出す姿に、私は勘違いしていた事に気がつく。

 相澤先生、イレイザーヘッドはヒーローなのだから、生徒たちを助ける時間を稼ぐ為に飛び出したのだ。

 見た目で偏見を持ったつもりはなかったけれど、当たり前の事を忘れていた自分に腹が立った。

 っと、自己嫌悪は後。

 

「出久」

 

 相澤先生を心配している出久に、声をかけて促す。

 

「っ……ごめん、避難だね。13号先生、僕と凍夏ちゃんが殿をやりますので先導をお願いします!」

「了解! 二人とも頼んだよ!」

「はい! 皆、先生に続いて避難して! 凍夏ちゃん、いつでも個性発動出来るようにお願い!」

「分かった」

「それと上鳴くん! 君の個性で学校に連絡出来ないか試して!」

「お、おう!」

 

 出久の指示に私と上鳴が頷き、動かず待機していた皆も動き始める。

 

「指示も判断もはええな緑谷!」

「模範的なリーダーシップだ!」

「デク君カッコいい……!」

「ああ、それに比べて委員長の僕は……!!」

「落ち込んでないで、今は避難を!」

 

 

「させませんよ」

 

 

 13号に続き避難を始めようとする私たちの前に、黒いもやが現れる。

 個性は転移系統か、イレイザーヘッドの抹消の隙を突いて、こちらに来れる判断力がある敵。

 何があってもいいよう、後ろにいたまま個性発動の待機に入る。

 

「初めまして、我々は敵連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは……平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思っての事でして」

 

 ……ふざけている、ようには全く見えない。

 こいつらは本気でオールマイトを仕留める為に、わざわざ雄英高校というヒーロー科の最高峰へと殴り込みに来たらしい。

 

「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃる筈、ですが何か変更があったのでしょうか。まぁ……それとは関係なく、私の役目はこれ」

 

 揺らぐ黒い霧に先頭の13号先生が個性の発動をしようとする。

 が、横から二つの影がもや男に殴りかかった為、静止せざるを得なかった。

 

「その前に俺たちにやられる事は考えてなかったか!?」

 

 独断専行したうち切島がそう挑発して、爆豪が鋭い目付きで睨む。

 どういう意図であれ、人を庇うように前に出る行為は立派だとは思うが、今はタイミングが悪かった。

 

「切島くんかっちゃん! 邪魔になってる!」

「駄目だどきなさい、二人とも!!」

 

 出久と13号先生の叫びに二人が気づくが、もう遅い。

 

 

「危ない危ない……そう、生徒といえど優秀な金の卵」

 

 

 黒いもやが大きく広がり、皆を包み込もうと迫る。

 これは、私の個性ではどうにも出来ないか……!

 

 

「散らして、嫐り、殺す」

 

 

 私は近くにいた葉隠を咄嗟に腕で抱き寄せて離れるように後ろに飛ぶが、間に合わない。

 

 視界の端で出久が梅雨ちゃんと峰田を引き寄せているのが見えたが最後。

 

 視界が黒く染まり、私はその場から消失した。

 

 

 

 

「わーっ!? 落ちるー!?」

「落ち着いて葉隠、掴まってて」

 

 空中から落下する感覚に、私は慌てる葉隠を庇いながら体勢を立て直して着地する。

 場所は土砂崩れが起きたような現場で、周りには敵がたくさん待ち伏せていた。

 

「へへっ、来やがったぜ! しかも女の上玉だ!」

「いいねぇ、痛めつけてから楽しめそうじゃねえか!」

 

 気味の悪い笑い方をする敵の群れ。

 腕の中の葉隠から震えるような動作が伺えたから、きっと少なからず恐怖を覚えてるんだろう。

 ねっとりとした下卑た視線は私に向けられているのであって、透明な彼女へのものではないとしても。

 

 クラスメイトを、仲間を守るために。

 

 こいつらに対して――

 

 

 

「――黙りなさい」

 

 

 

 手加減なんて、してやらない。

 

 氷結で見える範囲内全ての地面と敵を凍らせて、身動きの一切を封じた。

 

 首から下を完全に固めた今、無理に動こうとすれば……四肢が砕けてしまうだろう。

 

「な、なんだこいつ……! 移動してきた途端に……!」

「ほ、本当に、ガキかよ……いっててて……!」

「無理に動かない事をおすすめするわ…………葉隠、無事?」

「う、うん平気! てか凍夏ちゃんクソ強いな!」

「そう? けどまあ、嫐り殺すとか言ってた割に、大した事はない輩の集まりみたいだよ」

 

 抱えていた葉隠を下ろしつつ侮蔑の視線を辺りに向けてみれば、寒さで顔を震わせながら悔しそうにしている。

 

「ぐっ……さ、さみぃ……!」

「こ、こんなバケモノがいるなんて聞いてねぇぞ畜生っ……!」

 

 悪態を吐いている奴らを油断なく見回して……どうやら全員無力化出来たらしい。

 

 ……広範囲攻撃が得意な私をこんな開けた場所に飛ばすなんて、何を考えているのか。

 何も対策がなかったのは、もしや私の個性を知らなかったとか?

 生徒の個性が把握されていないなら、他の場所に飛ばされたであろう皆にも勝機はあるはず。

 

 それにしても妙だ。

 オールマイトを殺すなら、この程度のチンピラを幾ら集めたところで不可能。

 恐らくここにいるような輩は、私たち生徒用のコマでしかない訳で。

 広場に居た奴らからぱっと見たところでヤバそうだったのは、身体中に手を着けていたガリガリの男、脳味噌剥き出しの巨漢、黒いもやの男。

 そいつらの中に決定的な対策があるのか。

 

 それなら、私がすべき事は。

 

 

「ねえ、お前たち」

 

 

 目付きを鋭くして、凍った敵たちを見据える。

 癪に触るが、こうすれば父親に似た凶悪な顔になるという自覚があるから。

 

 

「そのままだとじわじわと、身体が壊死していくけど」

「ひいっ……!?」

 

 

 口元を歪めながら言えば、敵たちは恐怖の声を上げる。

 

 殺したりはしないのに、失礼な。

 

 

「私もヒーロー志望だから、そんな酷い事は……なるべく、避けたいの」

 

 

 なるべく、を強調しただけなのに、幾人かは泡を吹き始めている。

 

 

「あのオールマイトを殺せるっていう根拠……策を、教えなさい?」

「「「「はっ、はいぃぃぃ!!!!」」」」

 

 

 にっこりと笑顔を作って問いかければ、全員が知る限りの全てを吐いてくれた。

 とは言っても情報は少なく、オールマイト殺しの実行役が広間にいる事だけしか知らなかった。

 その後、後遺症が残らない程度に敵たちの氷結を溶かし、広場へと向かうべく土砂ゾーンを後にする。

 先生やクラスメイトたち、そして出久の無事を願いながら。

 

 

 走りながら葉隠に「悪の女王様みたいだったよ!」と楽しそうな声色で言われたので、頭と思わしき辺りに強めのチョップを落とした私は悪くない。

 

 

 

 

 




 悪い顔がエンデヴァーに似てる自覚があったオリ主。
 凄みがヤバそう。
 ちなみにオリ主の話し方は轟家の母、冷さんを参考にしてます。
 父と母によく似てるのは焦凍くんと一緒。


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7:緑谷出久:オリジン

 
 全編通して出久視点。
 この出久くんの原点は幼少期に。



 僕、緑谷出久の人生は、平坦とは言い難い道の上にあった。

 四歳で発覚した無個性という現実が、おおよその理由を占めている。

 オールマイトに憧れていた僕はヒーローになりたくて、けれど無個性であるだけでそれは不可能だと否定されてしまう。

 お母さんさえ謝るだけで、辛くて、現実を信じたくなくて。

 

 ふらふらと家から遠くの公園にたまたま足を踏み入れたあの日。

 

 轟凍夏という女の子に出会うまでは。

 

 

 幼い頃の凍夏ちゃんとの思い出で、印象的な事は二つ。

 

 一つは、出会ったばかりの時。

 

 

『ぐすっ……もう、やだよぉ……』

 

 

 公園のベンチに座り込みひとりぼっちで泣いている赤白の髪の女の子を見て、幼い僕は自分が失意の底にいる事も忘れて駆け寄った。

 

 

『だいじょうぶ? どこかいたいの?』

 

 

 かけられた声にびくりと震えた後、彼女は恐る恐るとこちらを見上げる。

 視線が合い、涙ぐんだ少女の目が見えた僕は、つい思った事を声を出てしまう。

 

 

『きれい……』

『え…………』

『あっ……ごごごごめんいきなり! かみのけもきれいで目もきれいとかおもわずこころのこえがでちゃってってなにいってるんだぼく! あ、こ、これハンカチ! ぼくのだけどつかってないしきれいだとおもうからよかったらつかって!』

 

 

 早口で喋る僕を、女の子はぽかんとしたまま見ていて。

 

 

『…………ふふっ』

『っ!』

 

 

 おかしそうな顔で小さく、けどしっかり微笑んでいた。

 この時の笑顔が、今でも思い出せるぐらい鮮明に記憶に残っている。

 

 

 これが一つ目。

 

 

 もう一つも、この少し後の事。

 

 

 涙をハンカチで拭いた彼女と友達になり、家に帰りたくないというので僕の家へ連れていったんだ。

 

 

『とうか。とどろきとうか。とうかってよんで』

『ぼぼ、ぼくはみどりやいずく!』

『いずく、だね』

『う、うん! とうかちゃん』

 

 

 それまでかっちゃんたち男の子としか話した事がなかった僕は、女の子の友達に緊張したりして。

 家に帰れば、お母さんに少し驚かれながらも歓迎されて、僕の部屋でオールマイトのグッズで遊んだりしながら、楽しい時間を過ごした。

 途中で凍夏ちゃんを泣かせてしまった気もするけど、何があったかは覚えていない。

 

 たくさん遊んでお昼寝をして、遅い時間まで家にいた凍夏ちゃんを、お母さんが家の人が心配するから送ると言った時。

 

 

『……もう、かえりたくない。おかあさんはいなくなっちゃったし、おとうさんはいじめるから』

 

 

 凍夏ちゃんは胸の奥に溜め込んだものを吐き出した。

 兄姉と離されて、一人で辛い訓練をさせられて、心の拠り所だった母に拒絶された事を。

 

 小さな僕には分からない話も多かったけど、凍夏ちゃんが苦しみに苦しんでいる事は分かった。

 

 同時に、この子は僕と同じなんだとも。

 

 あるか無いかの違いはあっても、個性に振り回されているんだと。

 

 

 だからか、難しい顔をしたお母さんに、僕はこんな事を言った。

 

 

『ぼくが、とうかちゃんについていく!』

 

 

 それからは必死だったからか、よく覚えていない。

 

 お母さんと一緒に凍夏ちゃんの家に行き、彼女を背に庇いながら険しい顔のエンデヴァー相手に思いのままを叫んでいた事。

 

 思い詰めたような彼に、母が何かを言っていた事。

 

 その日、僕は轟家に泊まった事。

 

 そして、笑った凍夏ちゃんから。

 

 

『いずくは、ヒーローになれるよ』

『こせいなんてかんけいないもん』

『わたしは、むこせいのいずくにたすけてもらったんだから』

『いずくはもう、わたしのヒーローだから』

 

 

『だからいずくは、ヒーローになれるよ』

 

 

 生まれて初めて、ヒーローになれるって言ってもらえた事。

 

 これがもう一つ。

 

 

 僕はただただ泣いて、慌てる凍夏ちゃんも泣き出して、泣きつかれた僕たちはそのまま一緒に眠ったのだった。

 

 

 無個性の僕がヒーローだったと、ヒーローになれると初めて肯定されて、僕が改めてヒーローを志した日。

 

 

 これが、僕のオリジン。

 

 

 その日から凍夏ちゃんとの深い交流が始まった。

 少し雰囲気の柔らかくなった気がするエンデヴァーに、ヒーローになるための稽古をつけてもらい始めたのもその頃だ。

 血反吐を吐くようなキツい訓練だって、ヒーローになるためにと頑張った。

 応援してくれた凍夏ちゃんも頑張っているのだから、弱音なんて吐かなかったし、吐くつもりもなく。

 相変わらずかっちゃんたちには馬鹿にされて虐められていたけど、心の支えがある僕には耐えられる事だ。

 

 ……いつだったかその事をぽろっと漏らしてしまい、凍夏ちゃんが激怒したのをどうにか慰めたのを覚えている。

 一度、どうしてやり返さないのかとも言われた。鍛えている僕なら、無力化するのも簡単な筈なのにと。

 

 

 けれど、ヒーローは私欲で力を使うんじゃないから。

 

 鍛えているのはヒーローになって人を助けるためで、虐めっ子にやり返す為じゃないから。

 

 

 こう言えば凍夏ちゃんには呆れられながらも、嬉しそうに『出久らしいね』と言われたっけ。

 ただこの時点で凍夏ちゃんがかっちゃんに対して完全に敵意を向けていたので、会わせてほしいと真顔でされたお願いだけは、断固として拒否した。

 

 そうしてヒーローになる努力を続けてきたお陰でヘドロ事件の時もセメントで固める発想を思いつきかっちゃんを助ける事が出来たし、オールマイトから個性を引き継ぐ為の肉体も問題がなかった。

 未だに個性を上手く使う感覚が分からなくて、制御が出来ていないんだけども。

 

 雄英に入れたとはいえ、僕はまだまだ皆から出遅れている。

 

 もっともっと頑張らないといけない。

 

 そんな志で望む筈だった救助訓練。

 

 

 これが最悪の始まりで、僕の、僕たちの波乱の幕開けだった。

 

 

 

 

 水難ゾーンに一緒に飛ばされた蛙吹さん、峰田くんと共にどうにか第一関門を突破した僕は、指の激痛に耐えながらこれからの行動についてを考えていた。

 

「緑谷ちゃん、次はどうしましょう?」

「とりあえず、救けを呼ぶのが最優先だよ。このまま水辺に沿って広場を避けながら出口へ向かおう」

「そうね。広間は相澤先生が敵を大勢引きつけてくれてるもの」

「せ、先生はあの大人数相手で大丈夫なのかよ……」

 

 心配そうに広場を見る峰田くん。蛙吹さんも顔には出していないが、同じ心持ちのようで。

 

 けれどまだ僕たちでは、先生の力にはなれない。

 敵を倒したから錯覚しそうになるが、飛ばされる前の観察で僕たちの力が通じそうにない敵が居たのを見ていたからだ。

 

「大抵はどれも個性をもて余したチンピラみたいなものだから大丈夫だと思う。ただ、明らかに格が違うのが何人かいるから、そっちが心配だね……」

「ケロ……緑谷ちゃんがそういうなら、そうなのでしょうね」

「お前ら本当落ち着きすぎだろ! てか、ま、まさか加勢するとか言わないよな……!?」

「慌てても何にもならないからね。加勢も駄目。僕たちじゃ散らばってるのには勝てても、本当に危ない奴らには、今は手も足も出ない。人質にでもなったら目も当てられないよ。だから一刻も早く救援を呼ぶのが、現状僕たちが出来る精一杯だ」

 

 僕の言葉に蛙吹さんは頷き、峰田くんも顔を青くしながら精一杯気合いを入れていた。

 

 見つからないように遠回りで出口を目指そうとした、その時。

 

 

 

「本命は、俺じゃない」

 

 

 

 背筋が凍るような声色が、やけに大きく響いた。

 

 

 

「対平和の象徴、改人『脳無』」

 

 

 

 震える身体で視線を向ければ、相澤先生が脳味噌剥き出しの巨漢の敵に組み倒されて右腕をへし折られている。

 

 

「個性を消せる……素敵だけどなんてことはないね。圧倒的な力の前ではつまり、ただの無個性だもの」

 

 

 続けて左腕も、先生が視ているにも関わらず、まるで小枝でも折るかのようにグシャリとへし折った。

 イレイザーヘッドの個性でも無効化出来ない、つまりは素の力であの怪力という事。

 そんな相手が、今あそこにいる。

 

 

「ケロ……」

「み、緑谷……ヤバいってこれ……!」

 

 

 峰田くんが声を震わせながらそう言うが、この状況ではどうする事も出来ないのは彼も分かっている。

 頼みの相澤先生が倒れた、ここからの行動をどうするか考えないと。

 

 焦りながら思考を回す僕の目に、更に絶望的な光景が広がる。

 ワープと思わしき個性の黒いもやの敵が、広場に戻ってきたのだ。

 

 

「死柄木弔」

「黒霧、13号はやったのか」

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」

 

「…………は?」

 

 

 けれどそれは朗報付きで、クラスメイトの誰かがUSJから逃げられたという報告もあった。

 可能性が高いのは足の速い飯田くん、次点で透明で隠密が可能な葉隠さんといったところか。

 

 どちらにせよ救援の見込みは立った。後は今をどう凌ぐかだ。

 

 

「はーー……黒霧お前、ワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ……あーあ……」

 

 

 主犯格らしき身体中に手を付けた不気味な男が、首をガリガリと掻きながらぼやいている。

 どう見ても子どもじみた様子は、今回の犯人像とはどうも結び付かない。

 

 ここまで大がかりな襲撃を、こんな奴が考えられるのか?

 

 

「流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない。今回はゲームオーバーだ……帰ろっか」

 

 

 ……何だって?

 

「帰る……? カエルっつったのか今!?」

「そう聞こえたわ」

「やっ、やったあ! 助かるんだ俺た……ごぼぼ……」

 

 敵の帰還宣言に喜ぶ峰田くんは、どさくさに紛れて蛙吹さんの胸を触ったらしく、水の中に沈められていた。

 

「けど、気味が悪いわ」

「うん……これだけの事をしといて、あっさり引き下がるなんて……後、蛙吹さん。今は沈めるのは止めてあげて」

「ケロ……そうね」

「ぶはぁっ!?」

 

 ゲホゲホと水を吐く峰田くんを横目に、僕は混乱していた。

 オールマイトを殺すと言っておきながら、プロが来ると知れば躊躇無く撤退を決める。

 これでは雄英の危機意識が上がるだけで、相手にとって今回の襲撃の意味が殆ど無くなってしまう。

 ゲームオーバーとも言っていたが、まさか遊び感覚でやっているのか?

 

 

 

「けどもその前に、平和の象徴としての矜持を」

 

 

 

 しかし、敵の続いた台詞を聞いて、僕は強制的に思考を打ち切った。

 

 危機を告げる信号が、頭の中で警報を鳴らしたからだ。 

 

 即座に水から上がり、左手で無事な人差し指を構える。

 

 

 

「少しでもへし折って帰ろ「SMASH!!」ぅぐっ!?」

 

 

 

 直感に従い指を弾くと、蛙吹さんに迫っていた死柄木という敵の腹に、風圧による攻撃が直撃する。

 が、それは思った程の威力にはなっておらず、相手は倒れないで後退するだけに留まっていた。

 加えて言えば、僕の人差し指も折れていない。

 

 この土壇場で力の調整が上手くいったのは嬉しいが、吹き飛ばすつもりでやったので何もこのタイミングに出来なくてもと、少しばかり恨めしく思う。

 

 

「げほっ、糞餓鬼が……スマッシュ? オールマイトのフォロワーかよ、気持ち悪ぃ……」

 

 

 死柄木は鳩尾に入ったのか少し咳き込んでいたが、すぐに呼吸を整えて僕を忌々しげに睨み付けている。

 けど、これで狙いは僕だけになった。

 

 

「蛙吹さん峰田くん!! 今のうちに逃げて!!」

「ケロ!?」

「み、緑谷ぁ!? お前を見捨てて行けって言うのかよ!?」

「良いから早く!!」

 

 

 そう言って僕は死柄木へ向かい駆け出す。

 後ろから悲鳴のように制止する声が聞こえるが、無視する。

 

 相澤先生が倒れた今、この場で動けるのは僕だけ。

 

 先生を、蛙吹さんを、峰田くんを助ける為にも、動かなきゃいけない。

 

 幸いにも、さっきまでと違い僕には手札が増えた。

 

 

(身体が壊れないワン・フォー・オールの感覚は今ので理解できた……割合で換算して、二割程……!)

 

 

 負担無く制御出来る力を、身体中に巡らせる。

 今までも発想としてはあったのだが、調整が出来なければ意味がないやり方。

 

 

(個性を使うのではなく、纏う! 身体全部にワン・フォー・オールを!!)

 

 

 全身に個性を発動させて一気に敵の前まで迫り、僕は右腕を振り抜いた。

 

 

 

「20%デトロイトスマッシュ!!」

 

 

 

「脳無」

 

 

 

 それは、死柄木に当たる直前に間に入ってきた。

 

 先生を押さえていた筈の脳無と呼ばれた敵に、僕の攻撃は思いっきり入った……というのに。

 

 

「効いてない……!?」

 

 

 ほんの少しも後退せず、壁のように立ちはだかっている。

 

 

「いい動きだが……脳無には効かない」

 

 

 厭らしい笑みを浮かべながら言う死柄木に、僕は即座に判断を変える。

 

 

「100%デトロイトスマッシュ!!!!」

 

 

 折れた指のある左手を握り締めて、個性の調整を手放した状態で全力で殴り付ける。

 左腕全体に激痛が走るが、歯を喰い縛ったまま我慢する。

 

 そしてすぐに相澤先生へ駆け寄り、右手で抱えてから遠くへと飛び退いた。

 

 

「嘘……だろ……!?」

 

 

 しかし、それでも脳無は殆ど堪えていない様子で、その場にいた。

 

 

「無駄無駄。自分の腕を折るぐらいのとんでもパワーも、ショック吸収のコイツには効かないよ」

「そん、な……!?」

 

 

 腕を壊しても全く意味がなかった事実に、僕は唖然とする。

 

 

(100%はオールマイトの力、それが通用しなかった。つまり奴らのオールマイト殺しの本命は……!)

 

 

「緑谷、逃げろ……俺は置いていって構わん……!」

 

 

 腕に抱えた相澤先生の言葉に、絶望に呑まれかけていた思考が止まる。

 

 僕は今、自分以外の命も背負っている。

 

 腕の一本を駄目にしたぐらいで、弱気になってる暇はない!

 

「聞けません。僕はヒーローになりたいんです……!」

「駄目、だ……ぐ……」

 

 

「やれ、脳無」

 

 

 死柄木がそう、指示を出すと同時。

 

 

 USJ入口の扉が、吹き飛んだ。

 

 

 

「もう、大丈夫」

 

 

 

 そこから聞こえた声は、皆に希望を与える人のものだったけれど。

 

 

「私が来た!!!!」

 

 

「オールマイトォォ!!!!」

 

 

「あー……コンティニューだ」

 

 

 

 現れた最高のヒーローは、笑っていなかった。

 

 

 




 この出久くんは幼少期からの特訓のおかげで20%ぐらいなら余裕です。
 見た目はあんまり原作と変わってないつもりなので、細マッチョって事で一つ。

 あと話には直接関係ありませんが、この世界の出久ママこと引子さんは太っていません。
 言うタイミング忘れそうなので一応。


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8:貴方を信じるUSJ襲撃の終幕。

 
 襲撃編のラスト。
 オリ主と出久くん周り以外は原作と同じ展開なので描写は省きます。



「来た! オールマイト来た! これで勝つる!」

「うん、良かった」

 

 オールマイトが現れたのを妙な言い回しではしゃぐ葉隠に同意して、私も溜め息を吐いた。

 もう私が広場に着く頃には、全てが終わっている気がしなくもない。

 けれどNo.1ヒーローを殺せる策があると聞いた身からすれば、心配があるのも事実。

 万が一を考えるなら、私が向かう意味もある。

 

「私はこのまま広場に向かうから、葉隠は先に入口の皆と合流してて」

「えっ、オールマイトが来たんだし凍夏ちゃんも……」

「念の為、策の話もしといた方が良いと思うから。それなら私一人で十分」

「……分かった! 気を付けてね!」

「勿論」

 

 手袋のおかげでサムズアップしたと分かる葉隠にサムズアップを返し、一旦別れる。

 途中でちらほら見かけるチンピラを凍らしつつ広場へ向かえば、脳味噌剥き出しの巨漢と戦うオールマイトが見えた。

 丁度バックドロップを決めたところで、爆発するように叩きつけていた。

 

 と、その奥に怪我をしたような相澤先生を担ぐ出久と峰田、梅雨ちゃんが居るのが見えた。

 ひとまずの無事にほっとして……オールマイトの状況が変わっているのに気がつく。

 バックドロップ先の地面をワープのヴィランが覆い、オールマイトの背中側に出てきた脳味噌ヴィランが彼の脇腹を掴んでいた。

 

 ピンチじゃないのかもしれない。

 

 けど、ピンチなのかもしれない。

 

 ならヒーロー志望の私が、やる事は決まっている。

 

 

「――凍れ!」

 

 

 足を起点に氷結を繰り出して、オールマイトを避けるように脳味噌ヴィランを凍らせたと同時。

 

 

「オールマイト!!」

「浅はか……」

 

 

 出久が凄い速度で黒いもやヴィランへ迫り、それに対抗しようとしたヴィランを。

 

 

「どっけ邪魔だデク! スカしてんじゃねえぞモヤモブが!!」

 

 

 爆豪が爆破をしながら、地面に押さえ付けて。

 

 

「だあー!!」

「!」

「くっそ!! いいとこねー!」

 

 

 かわされてしまったけど、切島が手だらけヴィランを殴りに行った。

 

 皆が何か言っているし、私も出久の隣に並び立ちながら一言。

 

 

「平和の象徴は、お前たち如きにやられない」

 

「かっちゃん、凍夏ちゃん、切島くん……!」

 

 

 む、なんで爆豪を先に呼ぶの。

 出久が私よりこいつを頼りにしてるみたいで、ちょっと悔しい。

 いや、そんな事を言ってる場合じゃないか。

 

 氷結で力が緩んだらしい拘束から抜け出たオールマイトが、並んだ私たちの前に立つ。

 捕まれていた脇腹からは血が流れているけど、怪我は大きくなさそうだ。

 爆豪が黒もやを確保している以上、相手は同じ手を使えない。

 散らされる前の発言からして実体があるだろう事は私も気づいていたが、爆豪もそこを突いたらしく流石のセンスと言えば良いのか。

 

 

「出入口を押さえられた……こりゃあピンチだな……」

「ぬぅっ……」

「っと動くな!! 「怪しい動きをした」と俺が判断したらすぐ爆破する!!」

「ヒーローらしからぬ言動……」

「最初からだと思う」

「黙っとけや殺すぞクソ髪に半分女ァ!!」

 

 

 こちらの呟きに反応する爆豪は、控え目に言って凶悪な敵顔だ。

 クソ髪は多分切島で、半分女はもしかしなくても私の事か。

 友達にあだ名を付けられるのは少し夢があったけど、この爆発頭にセンスの無い名で呼ばれるのは嫌だ。

 次それで呼んだら私も爆発頭って呼んでやる。

 

 

「攻略された上に緑のモジャモジャ以外ほぼ全員無傷……喋る余裕まであるとか凄いなぁ最近の子どもは……」

 

 

 妙に大人しい手だらけヴィラン。

 もうどうしようもないピンチだというのに、この落ち着きはなんなのか。

 というか言われてみれば、出久が左腕に酷い怪我をしてる!

 個性の反動だろうそれは、かなり痛そうで。

 出久が私から隠すようにしていたのもあるけど、幼馴染の怪我に真っ先に気づけないなんて……!

 

 しかし私が落ち込む間もなく、事態が動いた。

 

 

「脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ」

 

 

 脳味噌ヴィラン、脳無と呼ばれたそれが動き出したからだ。

 

 

「えっ……!?」

「身体が割れてるのに、動いてる……!?」

 

 

 氷結を気にせず、身体を崩壊させながら立ち上がったからだ。

 半身が崩れるのを気にもしないで――違う、再生している!?

 

 

「皆下がれ!! なんだ!? ショック吸収の個性じゃないのか!?」

「別にそれだけとは言ってないだろう。これは超再生だな」

「な!?」

「脳無はお前の100%にも耐えられるよう改造された、超高性能サンドバッグ人間さ」

 

 

 個性の複数持ち。

 私のような二つが一つになったものでは無く、別々に一つずつ持っているというのか。

 

 驚愕する私たちの前で、脳無はあっという間に身体を元通りにして。

 

 そして次の瞬間、爆豪が居た位置に右手を振り抜いた状態で移動していた。

 

 巻き起こる衝撃波に氷結で身体を固定させて堪えられたけど……爆豪はまさか、直撃した?

 

 あ、いや、無事だ。出久の横で尻餅をついている。

 

 

「かっちゃん!! って横!? 避けた……いや、オールマイトが!?」

「うるせえよ黙れクソが」

 

 

「ゴホッ、ゲホッ……加減を知らんのか……」

 

 

 オールマイトが飛ばされた先で血と一緒に吐き捨てた。

 私は全く見えなかったあの攻撃を、生徒を庇い尚且つガードもしていたなんて、流石としか言えない。

 

 そんな彼に対し、手だらけヴィランが両手を広げながら語り始める。

 

 

「仲間を助ける為さ、仕方ないだろ? さっきだってそこの、緑のモジャモジャ。あいつが俺に思いっきり殴りかかって来たぜ? 他が為に振るう暴力は美談になるんだ。そうだろ、ヒーロー?」

「俺はなオールマイト! 怒ってるんだ! 同じ暴力がヒーローとヴィランにカテゴライズされて善し悪しが決まる、この世の中に!!」

「何が平和の象徴!! 所詮抑圧の為の暴力装置だお前は! 暴力は暴力しか生まないのだと、お前を殺す事で世に知らしめるのさ!」

 

「滅茶苦茶だな、そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ嘘吐きめ」

 

「バレるの、早……」

 

 

 大層な演説の虚偽が一瞬でバレたというのに、にやつく手だらけ男に嫌悪感が増す。

 黒もやヴィランが解放されたとはいえ、まだこちらに有利がある。

 

 

「三対五ね」

「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた!」

「とんでもねえ奴らだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃ撃退出来る!!」

 

「ダメだ!! 逃げなさい!!」

 

 

 しかし構え直したところで、オールマイトから制止が入る。

 満身創痍ではなくとも、この人もかなりダメージを負っているように見える。

 バックドロップの時だって、私のフォローがなかったら危なかったのだと今なら分かる。

 

 だとしても、オールマイトは一人で戦うつもりなのだろう。

 

 私はこのNo.1ヒーローの()()()()()()()を前にして、少しだけムッとしながら進言する。

 

 

「私はさっきみたいにサポート出来ます。全力の氷結なら、まとめてでもいけますし」

「オールマイト、血が! それに時間だってない筈じゃ……ぁ……」

「……時間?」

 

「それはそれだ、轟少女!! ありがとな!! しかし大丈夫!! プロの本気を見ていなさい!!」

 

 

 気になる事を言う出久に視線を向けようとして、オールマイトが被せるようにお礼を言ってくる。

 

 

「脳無、黒霧、やれ。俺は子どもをあしらう……クリアして帰ろう!」

 

 

 追及する暇もなく、敵の戦闘態勢が整ったようで手だらけヴィランが詰め寄ってくる。

 やるしかない、この場の生徒全員の意志が固まった瞬間。

 

 

 オールマイトから、とんでもない圧が放たれた。

 

 

 手だらけヴィランは堪らず後退し、味方の筈の私たちも硬直してしまう。

 

 駆け出したオールマイトが、相手に向かって拳を打つ。

 脳無もそれを真っ向から受け止めるように拳を放ち、相殺される。

 そしてそのまま、真正面からの殴り合いが始まった。

 

 相手はショック吸収の個性を持っているのに、オールマイトは何故この選択をしたのだろう。

 

 殴り合いの風圧で、黒もやも近づけていないとはいえ……いや、これは。

 

 

「ショック吸収! "無効"でなく"吸収"ならば!! 限度があるんじゃないか!?」

 

 

 僅かに、しかし確実に脳無が押され始めていた。

 

 

「私対策!? 私の100%を耐えるなら!! 更に上からねじふせよう!!」

 

 

 どんどん、どんどんと脳無が後退している。

 

 やたらめったらのパンチではない、全部に全力以上の力を乗せている。

 

 

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの! 敵よ、こんな言葉を知っているか!?」

 

 

 遂にはオールマイトの力が、個性を上回った。

 

 

 これが、No.1。

 

 

 最強のヒーローの力……!

 

 

 

Plus Ultra(更に向こうへ)!!!!」

 

 

 

 雄英高校の校訓である言葉と同時。

 

 脳無がUSJの天井を突き抜けて、遥か彼方へと飛ばされていった。

 

 

「……漫画かよ。ショック吸収を無い事にしちまった……究極の脳筋だぜ」

「再生も間に合わないラッシュ、って事ね……」

 

 

 身も蓋もない言い方の切島に、私も同意するように言葉を繋げる。

 

 プロの世界を目の前で見せられ、皆が呆然する中、土煙の中から顔を出したオールマイトが呟く。

 

 

「やはり衰えた。全盛期なら五発も撃てば充分だっただろうに……300発以上も撃ってしまった」

 

 

 ……もう、何も言えない。

 

 一体全盛期とは、どんなものだったのか。

 

 少なくとも、私の理解の範疇外なのは間違いない。

 

 

「さてと敵。お互い早めに決着つけたいね」

「衰えた? 嘘だろ……完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を……チートがぁ……! 全っ然弱ってないじゃないか!! あいつ……俺に嘘教えたのか!?」

 

 

 ガリガリと首を掻く手だらけ男が、何やら重大な情報を喋っている。

 あいつ、と呼ばれる存在に、オールマイトが弱体化したと言われていたらしい。

 

 それがちょっと唆された程度の相手なら良いのだが……

 

 

「どうした? 来ないのかな!? クリアとかなんとか言ってたが……出来るものならしてみろよ!!」

「うぅうおおぉおおぉおおぉお……!!」

 

 

 再び圧をかけるオールマイトに、気圧されている敵連合。

 

 ……妙だ。相手を捕らえれば良いのに、どうしてオールマイトはそうしないのだろう。

 切島はもう自分たちの出る幕は無いと言っているが、本当にそうなのか?

 

 そういえば、出久が時間がないと言っていたような。

 

 

 例えば、彼の個性には時間制限があるとか?

 

 

 たどり着いた仮定に思わず出久を見れば、一人だけ深刻そうな顔でオールマイトを見つめている。

 

 どうやら、私の妄想ではなさそうだ。

 

 

「……出久、オールマイトには時間がないのね?」

「っ……………………うん」

 

 

 囁くように問いかければ、少しの葛藤の後、肯定を返される。

 

 何故そんな事を知っているのか、今は聞かない。

 

 

「私は何をすればいい?」

 

「……何も、聞かないの?」

 

 

 揺れる瞳でこちらを見る幼馴染に、笑顔で返答する。

 

 

 

「出久を信じてるから」

 

 

 

 貴方が言うなら、それを信じる。

 

 少なくともそれぐらいの信頼も信用も、私たちの間にはとっくにあると思っていたんだけれど。

 

 そう言えば彼は一瞬泣き笑いのような顔になりながら、それを飲み込んで私を含めたプランを話す。

 

「……敵がオールマイトを攻撃しそうなら、僕が気を引き付ける。凍夏ちゃんは隙を見て氷結で拘束してくれるかな」

「分かった」

 

「緑谷、轟。何話してるんだ? ここは早めに退いた方が……」

 

 

 切島が私たちの内緒話に気づき、声をかけてきたタイミングで。

 

 

「脳無の敵だ」

 

 

 黒もやが広がり、オールマイトの前へと現れる。

 そして、出久も緑の雷光を纏い、飛び出した。

 

 

「オールマイトから、離れろ!!」

「二度目はありませんよ!!」

 

 

 敵の意識がそちらへ向いた。

 ここで、私の出番。

 最高速で、正確に!

 

 

「出久から離れて!!」

「っ脳無を捕らえた氷結女か……!!」

「SMASH!!」

「ぐぅっ……!!」

 

 

 私の氷結は手だらけヴィランの足を繋ぎ止め、黒もやには避けられたが動きに遅れを生じさせた。

 

 出久の右のストレートが、それを見逃さずにヒットする。

 実体部分を殴られた黒もやは大きく後退して、オールマイトから引き離す事に成功した。

 

 

「な、緑谷、轟!?」

 

 

 切島の驚く声が聞こえたが、反応する余裕はない。

 

 手だらけヴィランが氷結した場所に手を触れれば、そこから氷が崩れていくのが見えていたから。

 黒もやも飛ばされながら後ろにワープゲートを作り、勢いのまますぐに戻ってきた。

 

 完全に氷結から逃れられる前に、もう一度個性を発動しようとして。

 

 銃声とともに敵に弾丸が撃ち込まれるのを確認した。

 

 

「来たか!」

 

 

「――ごめんよ、遅くなったね。すぐ動けるものをかき集めて来た」

 

 

 オールマイトの安心した声に、USJの入口へと視線を向ける。

 そこには息を切らした飯田と、その横にずらりと並ぶ大勢の大人。

 

 

「1-Aクラス委員長、飯田天哉!! ただいま戻りました!!!」

 

 

 彼らは雄英の教師、つまりプロヒーロー。

 

 待ちに待った救援が、ようやく来た。

 

 

「あーあ、来ちゃったな……ゲームオーバーだ。帰って出直すか、黒霧……」

 

 

 奴らは今度こそ、本当に逃げる気だ。

 

 逃がすまいと銃を持ったヒーローが手だらけヴィランの両腕両足を撃ち抜き、瀕死の13号先生がどうにか個性で黒もやヴィランを吸い込もうとする。

 

 けれど距離が足りないようで、ギリギリで黒もやが展開しきっている。

 

 

「今回は失敗だったけど……今度は殺すぞ。平和の象徴、オールマイト」

 

 

 手のひらヴィランは呪うような声で最後にそう告げ、転移でどこかへと消えていった。

 

 私はようやく緊張を解いて、深く息を吐く。

 

 初めて向けられた悪意に晒され続けた心は、思っていた以上に精神を削っていたらしい。

 

 けれど、ひとまず脅威は退いた。

 

 

 そこで私は出久が左腕に大怪我を負っている事を思い出して、飛び出した後にへたり込んだままの彼へと駆け寄っていく。

 

 

「出久! 大丈夫!?」

 

 

 砂煙が上がっていてよく見えないが、オールマイトもそこにいる筈。

 

 そう思いながら近づいていくと、出久が笑いながら無事な右手を振っていた。

 

 彼の下にたどり着き、改めてボロボロの左腕を見る。

 

 個性の反動とはいえ、傷ついている出久を見るのはとても悲しい。

 

 私は左腕に負担をかけないように、出久に抱きつきながら言った。

 

 

「あんまり、無理しちゃ駄目だよ」

「うん……ごめんね」

 

 

 ぽんぽんと、出久の右手が私の頭を優しく撫でてくれる。

 

 このまましばらくこうしていたいけれど、そうも言っていられない。

 早く出久をリカバリーガールのところに連れていかないと。

 

 

 名残惜しく思いながら彼から離れて、ふと視界の端に見慣れない人物が居るのに気がついた。

 

 痩せこけた骸骨みたいな見た目で、やけにボロボロで血を吐いている。

 

 というか、そこはオールマイトが居た筈の場所だったような。

 

 どういう事かと出久を見れば、真剣な顔で、けれどどこか困ったように口を開いた。

 

 

 

「凍夏ちゃん、落ち着いて聞いて。その人ね…………オールマイトなんだ」

 

 

「えっ」

 

 

 出久の言葉に、ダラダラと汗を流しているガリガリの人を凝視する。

 

 見た目、共通点は……髪色や髪型が同じ。

 

 服装、さっきまでのオールマイトと一緒。

 

 目の感じ、オールマイトっぽい。

 

 

 それからたっぷり五秒程黙った私が、彼をオールマイトと認めて発した一言に。

 

 

「オールマイト、そんなにお腹空いてたんですか?」

 

「「んんんんんっっ!!!!」」

 

 

 出久とオールマイト(空腹)が、盛大にむせていた。

 

 

 




 萎んでるオールマイトを見てオリ主がどう思うか小一時間考えた結果のオチです。
 天然半分混乱半分みたいな感じの反応。
 


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9:三人の秘密になった襲撃後。

 
前回のあらすじっぽいなにか

オリ主ちゃん「オールマイトはお腹が空いたら萎む。覚えた」
はらぺこおーるまいと「(過呼吸で息が出来ない程笑っている)」
左腕バキバキ出久くん「傷が悪化するから堪えて下さい!」



 USJ内に来た敵は雄英のヒーローたちによって無力化された。

 クラスの皆も殆ど怪我が無く、無事に乗り越えられたようで、ほっとした。

 出久だけ、左腕を自損してしまったので保健室行き。

 私も出久が心配だったので、お腹が空いて萎んだオールマイトも含めて保健室へ向かい、リカバリーガールに治療される二人の横で待機していた。

 

「ふっ……いや轟少女、お腹が空いて萎んでる訳では……くく……ないんだよ」

「いつまで笑ってるんですかオールマイト……」

「この男は人と感性が違うんだよ。なんせ平和の象徴サマだからね」

「違うのです! 少しツボに入って……くふふっ……」

 

 何だか私の言動がオールマイトを笑わせているらしいけれど、よく分からない。

 出久を見ても、微妙な顔で首を振られるだけ。

 気にはなるけど、他の話に変えよう。

 そういえばさっき、変な事を言っていた。

 

「オールマイトって壺に入る趣味があるんですか?」

「ぶふぉお!!」

「わ」

 

 すごい勢いで吐血した。内臓もやられているみたい。

 あまり話しかけない方が良さそうだ。

 

「……緑谷、このお嬢ちゃんはわざとやってるのかい?」

「いえ、これが素の反応なんです……」

「そうかい……ヴィランたちを絶妙に後遺症が残らないよう凍り付けにしたって聞いたから凄い子だと思ってたけど、スイッチが入ってない時はぽやぽやしてるんだねぇ……」

 

 リカバリーガールと出久は何か小声で話しているけど、オールマイトを見てなくて大丈夫なんだろうか。

 

 そこに警察の人が入ってきて、生徒の無事や先生たちも命に別状はない事を知らせてくれる。

 警察の人は塚内さんといってオールマイトとは旧知の仲らしく、腹ペコモードにも驚いていなかった。

 私はぼーっとしてるのもあれなので、出久の横で包帯の巻かれた彼の左腕に両手を重ねて、優しく撫でていた。

 悪意に晒された影響でか人肌が恋しいので、点滴が終わったら抱きつこう。

 何やら警察の人に温かい視線を送られていた気がしたが、気のせいだろう。

 オールマイトが敵についての詳しい話をしている時、ふと奴らが気になる事を言っていたのを思い出した。

 

 

「ねえ出久。脳無って敵がオールマイトに吹き飛ばされた後、たくさん手の付いてたヴィランが言ってた事覚えてる?」

「へ? ええっと…………そうだ! オールマイト! 死柄木ってヴィランが「あいつ」って呼んでる誰かにオールマイトの弱体化を教えられたって言ってませんでしたか!?」

「……そういえばそんな事を言っていたような……?」

「オールマイト……ギリギリだったとはいえ君より遠くにいただろう彼らが聞いてるのに……」

「うぐっ……」

 

 溜め息を吐く警察の人に、オールマイトが気まずそうにする。

 そんな彼を気にせず、出久は考察を始めていた。

 

「死柄木って敵は実力はあったけど正直作戦とかを立てられる頭までは無さそうだった自分の力を過信して相手より上にいる時は余裕を見せていたけど不利になったり自分に害が生まれた時はすぐに切れていたからどちらかといえば子どもっぽさが目立つタイプ味方で重要な立ち位置の黒霧や脳無って敵にも命令して上手くいかないと仲間だろうがバラバラにするとか怒鳴っていたし世界が自分の思う通りになるって信じてるんだろうけどそんな奴が人の言う事を簡単に信じたりするか?ましてやオールマイトの弱体化なんて知っていなければ眉唾もいいところだし適当に乗せられた可能性が高いけどもし今回の襲撃を考えた奴がバックにいたとかだったらそれはつまり……」

 

「ストップ、緑谷少年ストップ。怖いから」

「考えを口に出してまとめる子なんだな」

「お嬢ちゃん、緑谷のこれはいつもの事なのかい?」

「はい。今なら何をしても大丈夫です」

「若いって良いねえ……」

 

 ブツブツを始めた出久の点滴が終わったので、リカバリーガールが処置した後に抱き着きながら答える。

 消毒液の臭いが混ざった体臭を嗅ぐと、心が落ち着く。

 髪の毛をもふもふするのは特に好きで、ささくれだった心が安らいでいく。

 願わくば、出久からも抱きしめられたら……なんて思ったりして。

 

「ほら、その辺にしときな」

 

 リカバリーガールの声に顔を上げれば、出久成分を補給しているうちに話が終わったのか、警察の人が保健室を後にしていた。

 オールマイトが何とも言えない顔で私たちを見ていたので、離れた方がよさそうだ。

 未だ思考の海に潜っている出久の頬を、軽くぱちぱちと叩く。

 

「わっ!? ……あっ、またやっちゃってた!?」

「うん。お帰り出久」

「ただいま……次からはもう少し早く止めて頂ければ嬉しいです……」

「出久成分を補給してたから」

「ああ……また好き放題されてたのか、僕」

 

「あー、そろそろいいかな少年少女」

「あっ、は、はいっ!」「はい」

 

 項垂れて落ち込んでいた出久は、オールマイトからかけられた声にガバッと起き上がる。

 そして今まで忘れてたけど、重要な話があるって事で私は呼ばれてたんだった。

 

「さて、ようやく本題だね。まずは轟少女、さっきは改めて助かったよ。緑谷少年と二人で時間を稼いでくれていなければ、私は間違いなくやられていた」

「どういたしまして?」

「ああ。それでこの身体なんだけど、お腹が空いてこうなってる訳じゃないんだ」

 

 そう言いながらオールマイトは、シャツをめくってお腹を出す。

 

 そこには大きな古傷があり、あまりの痛々しさに息を呑む。

 

 

「五年前、敵の襲撃で負ったものだ。呼吸器官半壊、胃袋全摘。度重なる手術と後遺症で痩せこけてしまってね……これが今の私の本当の姿さ」

 

 

 並べられた内容はとんでもなく、私は言葉を失う。

 

 お腹に穴でも開けられたんじゃないかと思うぐらいの……いや、実際に開けられたレベルの重傷だ。

 

 オールマイトの弱体化は、本当だったのか。

 

 

「分かってくれているとは思うが、オフレコで頼むよ。雄英教師陣や政府などは知っているが、基本的に私の弱体化は世間には伏せてもらっているんだ」

「勿論、です……出久はこれを知ってたから、貴方を助けに行ったんですね」

「ああ。そしてもう一つ……これはもっと知る者が限られている」

 

 

 オールマイトの眼力が、私の目を射抜く。

 直感的に反らしてはいけないと思い、こちらも見つめ返す。

 

 

「緑谷少年が誰よりも信頼する君にならば……話しても構わないだろう」

 

 

 

 

「私の個性の話だ」

 

 

 

 

 そこで語られた話は、私も自分に無関係ではないもので。

 

 オールマイトの個性『ワン・フォー・オール』。

 聖火のように引き継がれて来た、他者に譲渡出来る個性。

 

 人に渡せる個性があるなんて……と驚愕するけど、同時に納得も出来た。

 出久の個性は両親どちらとも違っていて、家系にも増強系は居なかったのにと疑問に思った事があったのだ。

 恐らくは突然変異ではないかと医者は言っていたらしいし、私もそんな事もあるのかと思っていたが、そうではなかった。

 

 出久を見れば嘘を吐いてごめんとアイコンタクトされたので、気にしていないと首を振って示す。

 

 

 そんな私たちを見てオールマイトは少しだけ笑みを浮かべ、すぐに真面目な表情に戻して話を続ける。

 

 

 代々受け継がれてきた力である事。

 

 平和の象徴となる為、その力を譲り受けた事。

 

 傷を負い限界を迎えていたので、ワン・フォー・オールの後継者を探していた事。

 

 

 そして、後継者として選んだのが、出久である事。

 

 出久に、次代の平和の象徴になってもらいたい事。

 

 

「ヘドロ事件の時だ。無個性でも諦めず自らを鍛え上げ、笑顔で人を助けに行く姿に感銘を受けた。あの時の彼は誰よりもヒーローだった……この子しか居ないと思ったんだ」

「そうですか……出久はオールマイトに認めて貰ったんだね」

「うん……期待に応えられるよう、頑張るよ」

 

 ぐっと右手で拳を作る出久。

 憧れの人に見初められた彼は、今まで以上の努力をしていくのだろう。

 私も、置いていかれないように頑張らないと。

 

 けど、その前に一つ言っておかないといけない事がある。

 

「オールマイト、これだけは言わせてください」

 

「……何かな、轟少女」

 

 

 真剣な顔の私に、オールマイトが少し構えている。

 そんな彼の前で、私は出久に抱きつきながら宣言する。

 

「ちょ、凍夏ちゃ……」

 

 

「出久が誰よりもヒーローなのを知ったのは、私が一番最初ですから」

 

 

 例え貴方が相手でも、それだけは譲れない。

 出久の優しさも、出久の強さも、私が世界で初めて触れたんだから。

 

 私の言葉に、オールマイトはきょとんとして。

 

「…………そうだね、違いないよ」

 

 降参だと言いながら、優しい笑みを浮かべていた。

 腕の中の出久は、溜め息を吐いていたけれど。

 

「凍夏ちゃんってば……どこにムキになってるのさ」

「私の方が、出久の事好きだもん」

「そんなのでオールマイトと張り合わなくても……むぐっ!?」

 

 呆れた風な出久にむっとして、彼の顔を私の胸に埋めるように抱きしめ直す。

 戦闘服のままなので、出久の鼻の辺りが直接胸に触れていて少しこそばゆい。

 

「そんなのじゃないもん。出久は私がどれだけ出久を好きなのか分かってないもん」

「んむむーっ!?」

「……もう、怪我してるんだから大人しくしよ?」

 

 耳の先まで赤くしながら暴れる出久の動きを止めながら、反応に満足した私は小さく微笑んだ。

 

 

 敵の襲撃から始まり、幼馴染と平和の象徴の秘密を知った今日一日。

 

 クラスメイトたちと共に殺意を向けられる恐怖を知った最悪な日でもあり。

 

 私と出久の距離が、色々な意味で近くなれた最高の日でもあった。

 

 

 

 

「轟少女、私たちが居るの忘れてないかな……」

「若い子の青春を見守ってやるのは大人の務めだよ。結婚どころか恋愛もしてないあんたに言っても分からんだろうけどね」

「……耳に痛い話です…………」

 

 




 
 前書きとか後書きで遊ぶのが楽しい事に気づいてしまった9話の終わり。
 とにかくタイミングがあれば二人をイチャイチャさせたい。

 ……サブタイトルで三人の秘密とか言いながらリカバリーガールが居るって?
 彼女は見守ってる人なので、はい。


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10:お見舞いに行った臨時休校日。

 
 感想・評価、誤字報告ありがとうございます。
 漢字とか接続語は自分の推敲だと気づきにくいので助かります。

 体育祭前に二話程閑話。
 というか本編の話の続きです。



 USJ襲撃の次の日、雄英高校は臨時休校となる。

 当たり前と言えば当たり前の事態なんだけど、私は暇をもて余していた。

 昨日の今日でも私は普段通りのコンディションで、家にいても一人で勉強か訓練をするぐらいしかなくて。

 

 それなら折角だし、お見舞いついでに緑谷家に遊びに行こうと思い立った。

 出久に無料通話アプリでメッセージを入れてから、返信を待たずにお出かけ用の服に着替えて家を出る。

 

 服については詳しくないので、いつも冬美姉さんに選んで買ってもらったものを着ている。

 個性で体温調節が出来るから、年中好きな服が着られるのは羨ましい、なんて言われた事もあったっけ。

 言われてみれば今日の服装も、肩が出ているオフショルダーな白い服に青のショートパンツだから、普通なら少し寒いのか。

 

 それはさておき。

 

 同じ静岡県内に住んでいるとはいえ、少し距離がある幼馴染の家へ電車に揺られながら向かっていると、途中で出久から返信が来ているのに気がついた。

 来るのは勿論構わないのだが、どうやら容態を心配した麗日と飯田も来るとの事で、申し訳無いがお茶菓子などを買ってきてほしいとの事。

 引子さんが心配して家で大人しくしてるように言われたらしく、自分ではいけないようだ。

 

 二つ返事で快諾して、出久の家の近場にあるコンビニに寄って適当にお菓子を選んでいると、視界の端に尖った金髪が見えた。

 

「あ」

「あ?」

 

 思わずそっちを向いて声をあげると、相手の爆発頭こと爆豪もこちらに気がついて、眉間に皺を寄せた。

 手元のカゴにはハバネロのスナックとか辛いポテトチップスとか、やけに赤いパッケージとかが多い。

 

「んでテメェが此処に……デクの野郎か」

「遊びに行くの。爆豪は……買い出し?」

「見りゃ分かんだろクソが」

「確かに。カゴを持ってるの、壊滅的に似合わないけど」

「喧嘩売ってんのか半分女ァ!」

「わ、公共の場でもそんな感じなの」

「~~~~ケッ!!」

 

 額に青筋を浮かび上がらせて今にも叫びそうだったが、けれど流石に場所を弁えたのか手を出しては来なかった。

 

 肩をいからせながら会計に向かう爆豪から視線を外し、お菓子選びを再開する。

 麗日たちの好みが分からないので、勝手に好きそうなのを決めてレジに持っていく。

 

 買い物を終えて外に出ると、何故か爆豪が私を待つように立っていた。

 この男、人を待つとか出来るんだ。

 

「私に用事?」

「昨日の続き」

「昨日?」

 

 色々あったから、何を指しているか分からない。

 

「バスん中で話してたやつ、続き聞かせろ」

「? また今度皆にも話すつもりだけど」

 

 そもそもこんな往来で話す事ではないし。

 というか、わざわざコイツ一人に先に話す義理もない。

 

「知るか。丸顔やら眼鏡やらもデクん家来んだろうし、少なからずその話にもなんだろが」

「……麗日と飯田の事? なんで知ってるの?」

「菓子が二人で食うには多い。そもそもデクが他人に買い出しを頼む時点で他にも誰かが見舞いかなんかに来る。そんだけで分かるわナメんな」

 

 洞察力が凄い。

 さっきのちょっとした邂逅だけで、そこまで見ているものなんだ。

 上鳴が才能マンだとか言っていたのも頷ける。

 この男ならきっと、警察とか探偵にもなれるだろう。

 あ、いや、言葉遣いで駄目かもしれない。

 

 というかその言い方って、もしかしなくても。

 

「出久の家、来る気?」

「話の流れで分かれやアホが」

 

 理不尽にも程がある。

 なんで私の憩いの場所に、時限爆弾を連れていくような真似をしなければならないのか。

 

 ……けど、多分断っても無理矢理来るつもりだろう。

 

 さっきから表情は動いても、目が真剣なままだから。

 

 

 仕方ない、か。

 

 

「……暴れたら凍らすから」

「やってみろや殺すぞ!! そもそも暴れるかよ死ねカス!!」

「流れるような罵倒はどこから来るの」

「ウッッッゼ!! つか俺の前を歩くんじゃねえ!!」

「……みみっちい爆発頭」

「聞こえてんぞクソがァ!!!!」

 

 

 流れで一緒に……というか道中を共にする事になったけど、既に若干後悔。

 

 早く出久に会いたいと心から思う。

 

 

 

 

 そんなこんなで出久宅。

 

 

「かっ、かかかかかかっちゃんが来たーー!!!???」

「うるせえ黙れクソデク!! 口に辛味噌煎餅突っ込まれてぇのか!!」

「お見舞いまで持ってきてくれたー!!!???」

「うるせえっつってんだろうがクソナード!!!!」

 

 爆豪の訪問に妙なテンションの出久が叫び、それに爆豪が叫び返す。

 この二人なんだかんだで仲がいいんじゃないだろうか。

 後、出久は私を放置しないでほしい。とても悲しい。

 

「…………お邪魔します」

「あっ、ご、ごめん凍夏ちゃん! 無視した訳じゃなくて驚いてただけだから、落ち込まないで! 後買い出ししてくれてありがとう!」

「……うん。褒めて」

「犬かテメェは!! つかデクも撫でてんなよ飼い主かクソボケ!!」

「ご、ごめんつい……」

「躾られてんのはテメェの方じゃねえか!!!!」

「あながち否定できないっ……!」

 

 出久が撫でてくれてたのに爆豪のせいで邪魔をされる。

 恨めしい視線を送れば、鼻で笑われた。

 コイツ、絶対今度の訓練で凍らせてやる。

 

 と、折角出久の家にいるのだから爆豪の事なんて気にしても仕方ない。

 お菓子を渡して出久の部屋に行くと、いつものようにオールマイトのグッズが出迎えてくれた。

 いつも此処に来るとなんだかわくわくしてしまうのは、テーマパークとかに行く時の感覚だろうか。

 後から入ってきた爆豪も、嫌そうな顔はしているがよく見れば少しだけ目が輝いている。

 

「マジでナード部屋じゃねえか……あ゛!? コイツは昔この俺がわざわざ送った懸賞で外したやつ……!!」

「楽しんでるね」

「誰が楽しむか目ェ腐っとんのか紅白女ァ!!」

 

 紅白女って、髪の色で言ってるんだろうけど、ネーミングが単純すぎるのでは。

 いや、半分女も紅白女もそんなに好きな呼ばれ方ではないんだけれど。

 もしかして、名前を覚えていないとか?

 

「轟凍夏だよ」

「あぁ? ……名前ぐらい知っとるわ馬鹿にしてんのか!!?」

「人の名前は、ちゃんと呼ぶものだと思うけど」

「テメェはうちのババアか!!!!」

 

 自分の親をババア呼ばわりとは、口の悪さここに極まれり。

 爆豪の両親も似たようなものなのか、というか両親の顔が思い付かない。

 でも、間違いなく苦労してるんだろう。

 

「意外と仲良いね二人とも……」

 

 飲み物と皿に広げたお菓子を持ってきた出久が、そんな事を言いながら部屋に戻ってきた。

 待ってほしい、流石にそれは聞き逃せない。

 

「「誰がこんなやつと仲良くなんて(するか!!!)! ……被せないでよ(てんじゃねえ!!!)!」」

 

 否定の言葉が最初から最後まで思いっきりハモってしまった。

 睨み合う私たちに出久が肩を震わせている。

 その反応はとても不本意。笑わないでほしい。

 

「何笑っとんだクソデクが!!!!」

「ごっごめん。何にせよ来てくれてありがとう」

 

 にっこりと笑う出久に、爆豪は舌打ちしながらその場にどかりと座った。

 

 私は……出久のベッドに座ろう。

 他の二人が来たら座布団やらの場所が足りなくなるからの判断で、決して出久の枕に顔を埋めたい訳じゃない。

 出久がじっと見てきているけど、別にやましい事はない。

 目を反らしたのは、そういうあれじゃなくて。

 

 まだ何もしてないのに、視線が痛い気がする。

 

 少ししてから小さな溜め息とともに、視線が外れた。

 

 

「……そういえばかっちゃん、この前言ってた僕の分析ノートさ、今見る?」

「あぁ? …………俺ん所があるやつ、寄越せや」

「うん。えっと、これね。他のナンバリングは僕が興味を持って調べた順番で、ヒーローの考察とか書いてあるから」

「……あー」

 

 

 ……滞りなく会話する二人を見ていると、いじめいじめられな関係だったとは思えない。

 きっと、この状態はこの前の戦闘訓練の後から。

 

 二人は保健室で一体何を話したのか。

 

 多分だけど、これは聞いても答えてくれない気がする。

 私と出久の間に他に入れない幼馴染関係があるように、爆豪と出久の間にも他が入る余地の無い関係があるんだろう。

 今まで拗れていたそれが多少なりともましになったなら、それは間違いなく良い事だ。

 

 

「で、凍夏ちゃんはどうする? お見舞いついでに勉強道具とか持ってきてるみたいだけど」

「んー……麗日たちはいつ来るの?」

「お昼は食べてから来るって言ってたから、早かったら一時過ぎぐらいかな?」

「そっか。なら、お昼まで勉強しよう」

「分かった。あ、お母さんが昨日のカレー残してくれてるけど、お昼はそれでいい? かっちゃんも」

「うん」

「おー」

「そういえば、引子さんはどうしたの?」

「パート。また何か欲しいものがあるからって」

 

「おいデク、あの小汚ねえ担任のはどれだ」

「イレイザーヘッド? ノートNo.10の18pだよ」

「ページ数まで覚えとんのかよキメェ」

「爆豪、今のは罵倒じゃなくてお礼を言う所」

「キメェもんはキメェんだよ」

「あはは……」

 

 

 苦笑いする出久と、眉間に皺を寄せながらもノートを捲る爆豪。

 

 そんな二人を眺めながら、私は勉強道具を持って出久の隣へ席を移す。

 

 時折爆豪に口を挟まれながらの出久との勉強は、一人でやるよりもとても捗った。

 

 

 

 

 

 

 お昼ご飯を食べて、お腹がこなれた頃合い。

 麗日と飯田が同じタイミングで訪ねてきた。

 そして案の定、爆豪の存在に驚かれる。

 

「ばっ、ばば爆豪君もおるん!!?? まさかとは思うけどお見舞いに!!??」

「クソデクと似たような反応してんじゃねえぞ丸顔!!」

「まるがお!?」

「失礼だぞ爆豪君! 女性に対しての物言いではない!」

「黙れやクソ眼鏡が!! 眼鏡割られて只のクソになりてえか!!」

「最早俺の要素はどこへ行った!?」

「語彙力が凄い」

「昔からこんなんだよ、かっちゃんは」

 

 そこからしばらく爆豪と飯田の不毛な言い争いが続く。

 無駄に長かったので、途中経過は省略させてもらう。

 やっぱりこの二人、致命的に馬が合わないらしい。

 

 

「はい、二人とも飲み物」

「はぁ……はぁ……ちっ……」

「はぁ……はぁ……す、済まない……」

 

 論争、というか殆ど罵りとずれた正論の殴り合いが落ち着いた後。

 息を切らす爆豪と飯田に出久がジュースのおかわりを注いでから、横に避難していた私とお茶子(名前で呼んでほしいと言われた)の所に戻ってきた。

 

「な、なんかごめんね麗日さん。折角お見舞いに来てくれたのに……」

「いやいや、デク君の謝る事じゃないってば」

「出久は悪くない。あっちの二人が悪い。特に爆豪」

「口開く度に喧嘩売ってんじゃねえぞ半分女ァ……!!」

 

 つい口が滑った。

 

「まあ爆豪君と飯田君は合わないよね。不良と眼鏡だし!」

「だあああれが不良だ丸顔ォ!!」

「眼鏡は関係なくないか!?」

「まあまあまあまあ!!」

 

 お茶子は結構ざっくりしているタイプらしい、分からなくもないけど。

 また荒れそうになったが、そろそろ出久が仲裁のし過ぎで項垂れそうなのを皆が察し、騒ぎは収まった。

 

「はぁ……緑谷君のお見舞いに来た筈が疲れさせてしまっているとは……」

「あー……ごめんねデク君」

「あはは、大丈夫だよ。改めて来てくれてありがとう」

「良いってば! もう私たち友達だろっ!」

「その通りだ。大した事なさそうで良かったよ」

「っ……うん、そうだね!」

 

 うららかとしたお茶子と少し頬を緩めた飯田に、出久も涙ぐみそうになりながらも笑顔を返している。

 初めての友達から、友達と言ってもらえて嬉しかったのだ。

 私も自分の事のように嬉しくて、にこにこしていた。

 

 

「それにしても昨日は大変な目にあったよねー……」

「ああ、まさかヒーロー科の最高峰たる雄英高校に敵が攻め込んで来るとは……」

「飯田くんが校舎まで走ってくれたんだよね。流石委員長」

「ありがとう。しかし緑谷君の指示も的確だったぞ」

 

 出久たち三人が中心で昨日の話をし始める中、時折爆豪からの視線を感じ始める。

 恐らく誘導しろや的なあれなんだろうけど、何故私に振るのか。

 自分でやってとジト目を返せば、舌打ちが返ってくる始末。

 この爆発男、まさか私に話さない選択肢があるのを忘れているんじゃないか。

 

「敵襲撃といいバスの……い、いや、とにかく凄まじく濃い経験をした一日だったな」

「バス? 何かあった……あ……」

 

 

 ……飯田とお茶子め、このタイミングで思い出すの。

 

 そして一気に重くなってしまった空気に、出久がフォローを入れるのは言わずもがな。

 

「あれかー……いや、全部事実ではあるんだけどね。それから炎司さん……エンデヴァーの態度も少しずつ改善されていったって話を加えてほしかったな。あれじゃ一方的な悪役だし……」

「……そう、なのかい?」

 

 飯田とお茶子の視線がこちらを向く。

 知らない振りをしようとして……爆豪との約束的なものを精算するのには良いタイミングだと考え直した。

 

「まあ、その辺はまたその内ね」

「む、そうか……ならば今は聞く訳には――」

 

「今話せ、轟」

 

 

 うん、こう言えばそう来ると思った。

 爆豪の言葉を、突然の事だと思っている筈の飯田とお茶子は驚いている。

 けれど出久は私とのやり取りで爆豪が家に来た理由まで察したのか、合点がいったと言わんばかりに頷いていた。

 

 ついでに私は、爆豪から名前で呼ばれて驚いている。

 

 

「爆豪君!? 今度話してくれると言っているのに何を!?」

「……いや、良いよ飯田。爆豪はそれを聞く為に此処に居るの」

「なっ……轟君!?」

「そ、そうだったんだ……」

 

 

 今度は私に驚く顔をする二人。

 振り回して申し訳無いと思うけど、聞いてほしいと思う。

 

 少なからず、彼の背中に何かを感じたこの二人にこそ。

 

 

「だから、二人にも先に話すね。私のヒーローの……出久の話を」

 

 

 二人の友達はとっても凄い人だって、知っていてほしい。

 

 私を助けてくれた、最高のヒーローだって。

 

 

 

 

 ちなみに今更ながら続きが自分の話になると気がついて、この場から逃げようとした出久は、爆豪によって取り押さえられた。

 

 

 




 オリジン話を早めに終わらせて遠慮なくいちゃいちゃさせたい人です。
 シリアスは甘々イチャイチャのスパイス。


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11:轟凍夏:オリジン②

 
 毎日投稿は一旦ここまで。体育祭編は三日後からスタートします。

 オリ主のオリジン後編。ちょっと長め。
 幼少期の子どもたちは大体ひらがな喋りです。読みにくいのはご愛嬌ということで。



 出久と初めて出逢った日。

 彼のどこか安心できる顔に、ふと弱音を漏らしてしまった。

 

 

「かえりたく、ないの」

「そうなの?」

「おとうさんのいるいえ……やなの」

「うーん、じゃあうちにおいでよ! あそぼう!」

 

 

 父親のいる家に帰りたくないと漏らした私の手を引いて、彼は自分の家へと連れていってくれた。

 

 

「おかあさん! ともだちつれてきたよ!」

「と、とどろきとうか、です。いずくとは、さっきともだちになりました」

「まあ……! まあまあ出久ったらこんなに可愛いお友達を!!」

 

 

 招待された家は私の家よりも小さくて、見慣れないフローリングの床だったけど、家族の温かさがあるのが一目で分かる。

 喜ぶ彼の母、引子さんに撫でられて、また少し泣きそうになったのは出久の後ろに隠れる事で誤魔化した。

「恥ずかしがり屋なのね」と都合良く解釈されて、そのまま出久の部屋へと通されたら。

 自分の家には全く無かったオールマイトグッズに、目を輝かせた。

 

「オールマイトがいっぱい……! いずく! これぜんぶいずくのなの?」

「うん! オールマイトだいすきなんだ! これとかすごいんだよ!」

 

 私にグッズを渡してくれて、一つ一つがどんなものなのか説明してくれる姿は、とても生き生きとしていて。

 私も楽しく聞きながら、時に気になるものを触らせてもらったりもした。

 

 そして途中で引子さんが持ってきてくれたおやつを食べながら、休憩していた時。

 

「そういえば、とうかちゃんはどんなこせいなの?」

「っ……」

 

 私は個性を聞かれて、父と母の事を思い出してしまった。

 嫌いな父の左側の炎と、嫌われた母の右側の氷。

 けど今は関係ないと、震える口で答えた。

 

「みぎが氷と、ひだりが炎」

「えっ、ふたつ!?」

「うん……おかあさんの氷と、おとうさんの炎をもらったの」

「そうなんだ! あ、じゃあふたつじゃなくてあわせてとうかちゃんのこせいだね! オールマイトがいってた!」

「…………えっ?」

 

 出久の言葉がよく分からなくて、思わず疑問符を上げた。

 出久もきょとんとしていたので、私はどういう意味かを尋ねた。

 

 

 それが一つ目の、私を救ってくれた言葉になると知らず。

 

 

「だって、おかあさんとおとうさんのこせいをもらったんでしょ?」

「う、うん」

 

 

 

「ならそれはもう、ひとつだけのとうかちゃんのこせいだよ」

 

 

 

 私の個性。

 

 半分ずつで両親のものではなくて、自分の力。

 

 同時に思い出したのは、母とテレビで見たオールマイトの言葉。

 

 きっと出久が言ったのと同じもの。

 

 

『"個性"というものは親から子へと受け継がれていきます。しかし……本当に大事なのはその繋がりではなく、自分の血肉、自分である! と認識する事。そういう意味もあって私はこう言うのさ! 「私が来た!」ってね!』

 

 

 私の個性は、私のものなんだと。

 

 

『いやだよおかあさん……わたし、おとうさんみたいになりたくない……おかあさんをいじめる人になんて、なりたくないよ……!』

 

 そしていつか、こんな弱音を溢した時に母から言われた言葉。

 

 

『でも、ヒーローにはなりたいんでしょ?』

 

『いいのよお前は、血に囚われる事なんかない』

 

『なりたい自分に、なっていいんだよ』

 

 

 そんなに昔じゃないのに、いつの間にか忘れてしまっていた言葉。

 

 私は、父親のようなものにはなりたくなかったけど。

 

 オールマイトみたいなヒーローには、なりたかったんだ。

 

 そんな簡単な事を、忘れてしまっていた。

 

 

「と、とうかちゃん!? なんでないてるの!?」

 

 

 突然泣き出した私に、慌てる出久。

 何を気にする余裕もなかった私は、そのまま彼に抱きついて。

 

「へぇっ!? とととととうかちゃん!?」

「……り……がと」

「……えっ、と」

 

 

「ありがとっ、いずく……!」

 

 

 

 涙でぐしゃぐしゃの顔で、笑いながらお礼を言った。

 

 私が救われた日、私は私だと思えた日。

 

 母以外の前で、初めて涙を流した。

 

 

 

 その後いつの間にか泣き疲れた私は、出久に抱きついたまま眠っていたらしい。

 起きた時には目の前に滅茶苦茶どぎまぎしている出久と、すごく微笑ましそうな顔の引子さんが居て、恥ずかしくなった。

 この頃の私は同年代の子と触れ合う機会がなくて、ましてや同じ年頃の男の子に抱きつくなんて考えもしなかったから。

 引子さんは気を遣ってかすぐに部屋から出ていったけど、私の顔の熱は全く引かないまま。

 けれど、その居心地は不思議と離れたいとは思えないもので。

 鍛えられている自分よりも華奢かもしれない出久の身体が、私にはとても温かく感じられた。

 

 でもこのままだと彼に迷惑がかかるから、名残惜しさを感じつつも私は離れた。

 

 

「ごめんね、いずく」

「だだだだだいじょうぶ……とうかちゃんいいにおいだった、ってちちちがっ! なにいってんだぼく!?」

「いいにおい? よくわからないけど、もっとかいでいいよ?」

「だいじょうぶです!! とっ、とうかちゃんこそもうだいじょうぶ?」

「うん。ありがとう」

「……んんっ!!」

「わ」

 

 

 笑顔でお礼を言えば、何故か出久はキュンとして不細工な顔になった。

 感情や表情が豊かで、見ていて飽きないと思えて。

 

 それからまた二人で遊んで、それなりに良い時間になった頃。

 引子さんに「そろそろ帰らなきゃね。おうちの人も心配してるわ」と言われた私は、無意識に出久の手を握っていた。

 大切な事は思い出せたとはいえ、嫌な父親がいる家に帰る勇気は持てなかったのだ。

 そんな私に、出久が心配そうに手を握り返してくれる。

 

 俯く私を見てどう思ったのか、引子さんは私たちに対して。

 

「よかったら送っていきましょうか? 女の子の独り歩きも危ないし、出久も一緒に、ね?」

 

 なんて、優しい顔で言ってくれるから。

 

 この人たちの優しさから離れたくないなんて思ってしまったから。

 

 溜め込んでいたものが、溢れ出てしまって。

 

 

「……もう、かえりたくない。おかあさんはいなくなっちゃったし、おとうさんはいじめるから」

 

 

 私は、心の内をさらけ出した。

 

 驚愕を浮かべる引子さんと手を握ったままでいてくれる出久に、今までの嫌な事を吐き出す。

 

 厳しい父と優しい母の話。

 個性が出てから父からきつい鍛練をさせられている話。

 兄や姉と離されて、家族から疎外されている話。

 父が母に暴力を振るう話。

 

 そして母が、私を拒絶した話。

 

 最後は嗚咽混じりに漏らしていた私は、いつの間にか出久に抱きしめられていて。

 頭を撫でられる感触が、母とは違う落ち着きをくれて。

 このままずっと、ここに居たいと思ってしまった。

 

 けれど、現実にそれは無理だとも分かっている。

 出久に離してもらって、険しい顔の引子さんに頭を下げる。

 

 

「……ごめんなさい。かんけいないのに、こんなはなしをして」

「……いいえ、凍夏ちゃんの謝る事じゃないわ」

 

 

 とは言っても、彼女もどうしようもないと思っているのだろう。

 温かい人たちにそんな顔をさせてしまったと、後悔が募る。

 

 

「もう、かえります。またこれるかは、わからないけど……」

 

 

 だから、私は自分でどうにかしようと思ったのに。

 

 これ以上迷惑はかけたくなかったのに。

 

 ぎゅっと、手を握られる感覚に振り返れば。

 

 

 

「ぼくが、とうかちゃんについていく!」

 

 

 

 自分の母にそう宣言する、出久がそこにいた。

 

 

「い、出久…………でもね、他所の家庭問題で、しかもNo.2ヒーローのお宅なの。怖い人がいるかもしれないのよ?」

 

「かんけいないよ! ちいさなおんなのこをなかせるヒーローなんて、おかしいもん!」

 

 

 相手が誰でも関係ない、そう言わんばかりの剣幕で。

 引子さんが驚いた顔をしているから、こんな一面を見せたのは初めてなのかもしれない。

 出久は私に振り返って、笑顔でこう言った。

 

 

「とうかちゃんだいじょうぶ! ぜったいぼくがたすけるから!」

 

 

 助けるから。

 

 そう言われて私はようやく、自分が求めていた事を知った。

 

 

 私は、誰かに助けてほしかったんだと。

 

 

 出久はそれに世界でただ一人、気づいてくれたんだ。

 

 

 また泣きそうになったけど、ぐっと我慢して、笑顔を作る。

 

 せめてそれぐらいは、私が彼に返せるものだと思ったから。

 

 

「うん、おねがい、いずく。わたしをたすけて」

 

 

 助けを求められた彼は、力強くうなずいた。

 

 

 

 

 

 

「漸く戻ったか、凍夏」

 

 

 引子さんに連れられて、出久と手を繋ぎながら家に着いたと同時。

 存在感だけで威圧的な父が、玄関で私を出迎えた。

 気弱な引子さんは、それだけで震えている。

 いや、これは誰だってそうなるだろう。

 私だって、逃げられないと思い直してしまうほどなのだから。

 

 

「うちの娘を保護してくださり感謝する。行くぞ」

 

 

 そう言い私に手を伸ばす父。

 

 

 立ち竦み、動けない私。

 

 何も出来ない無力感に。

 

 また涙が溢れ出してきて。

 

 

 その間に、出久が入ってきたのに気がついた。

 

 

「……なんだ君は」

「とうかちゃんの、ともだちです」

「友達? 悪いがそれは特別な仔でね。友など必要……」

「No.2ヒーローの、エンデヴァーですよね」

「……そうだが」

 

 

 父が思わず言葉を止めて、出久の言葉に反応する。

 

 どこか覚悟を決めた声の出久の背中を、私は見つめる事しか出来ない。

 

 

「きょう、とうかちゃんからはなしをきくまでずっとすごいヒーローなんだとおもってました」

「何……? 凍夏、どういう」

 

 

「けど、あなたはヒーローじゃなかったんですね」

 

 

「……なんだと」

 

 

 険しい顔と声になる父に、出久は一歩も引かずに私の前に立っている。

 視界の端で引子さんがおろおろとしているが、気にする余裕はない。

 

 

「ぼくはオールマイトがすきです。どんなこまってるひとでもえがおでたすける、ちょうかっこいいヒーローだとおもってます。そんなオールマイトをこえようとしてるあなたも、すごいとおもいます」

「……そのオールマイトを越えさせる為に作った仔が凍夏だ。何を聞いて何を言いたいのか知らんが、さっさと返して」

 

「けど! あなたはオールマイトばっかりみてとうかちゃんをみてないんです!!」

 

 

 言葉を遮られ続けて、既に苛立ちを隠さない父の眉が、ぴくりと動いた。

 

 そんな状態なのに、出久の背中がとても大きく見える。

 

 

「とうかちゃんはとうかちゃんです!! あなたじゃないんです!!」

「そんなものは当たり前だろう!!」

 

 

「あたりまえなら!! なんでとうかちゃんはないてるんだ!!!!」

 

 

 小さな身体のどこからそんな大きな声が出ているのか、出久の怒声が響き渡る。

 それ以上に、今の出久にはどこかで感じたような強い気迫すら感じる。

 

 誰にも止められなかった筈の父の勢いが、止まった。

 

 

「何、を……」

「エンデヴァーはヒーローなんでしょう!! ないてるひとをたすけて、えがおをまもるのがおしごとの!!」

「……凍夏には、俺の野望を叶える義務がある」

「どうしてあなたはあきらめてるんですか!! エンデヴァーとオールマイトはちがうのに!!」

「っ…………」

「とうかちゃんをなかせて!! とうかちゃんにあなたみたいになりたくないっていわせて!! どこがヒーローなんですか!!」

「…………まれ」

「そんなのでオールマイトをこえれるとおもってるんですか!! とうかちゃんにほこれるヒーローになれるんですか!!!!」

「……黙れ! 貴様のような餓鬼に、何が分かる!!」

 

 

 怒鳴る父に、いつもの迫力はない。

 

 まるで自分を守る為に虚勢を張るような姿は、身体の大きさとは逆に小さく思えるほどで。

 

 

 

「かぞくをなかせるような!!!! おんなのこがひとりでないてるのにきづけないようなひとが!!!! オールマイトをこえられるわけないだろ!!!! ……おまえがオールマイトをあきらめてどうすんだ、ばかやろー!!!!!!」

 

 

 

 そう言い切った出久の背中に、テレビで見たヒーローの背中が重なった。

 

 同時に本能が理解する。

 

 彼はもう、ヒーローなのだと。

 

 肩で息をしている彼は、とっくにヒーローの精神を持っていたんだと。

 

 私を助けてくれた、私のヒーロー。

 

 そして、私が憧れたヒーローと同じ背中で。

 

 こんなヒーローになりたいんだと思わせてくれる、かっこいい背中。

 

 それが、緑谷出久にはあった。

 

 私の目の前の、私と年が変わらない少年に。

 

 

 

「……諦めてなど……違う、俺は、俺がしたかったのは……」

 

 

 思い詰めたように呟く父に、おろおろしていた筈の引子さんが近づいていく。

 

「……横で震えてみていただけの私が、口を出すのはおかしいかもしれませんけど、言わせてください」

「きっとエンデヴァーさんは、前ばかり見ていたせいで、家族との接し方を、間違えていただけだと思うんです」

「だから一度、ご自身の在り方を振り返ってみてはどうですか?」

「…………」

 

 

 柔らかく紡がれる言葉を、父は黙ったまま聞いている。

 

 

「出久が……この子がこんなに強い口調で怒鳴ってるのを、初めて見ました」

「気弱で、いっつも幼馴染の子の後ろを付いてくこの子が、本気で怒ってるところなんて」

「きっと、放っておけなかったんだと思います」

「事情は反対でも、個性で振り回されている凍夏ちゃんが」

 

 

 事情は反対でも。

 その言葉に、父はぴくりと反応して未だに睨み続けている出久を見る。

 

 

「…………彼は、無個性なのか」

「ええ……けどそれとは関係なく、この場の誰よりも凍夏ちゃんのヒーローだったように、私には見えました」

「…………それが俺に、無いもの、か」

 

 父は珍しく、弱く自虐的な笑みを浮かべてからそう呟くと、背中を向ける。

 そして私に向かって、威圧の消えた声で言葉をかけた。

 

「凍夏、明日からは訓練の調整をする」

「……えっ?」

「今日は時間も遅い。二人には泊まっていってもらいなさい。家政婦には言っておく」

「あ、おと……」

 

 

 声をかける間もなく家の奥へと消えていった父。

 残された私と出久、引子さんはぽかんとしたまま立ち尽くしていた。

 

 我に返ったのは、出久がその場にへたり込んだ音を聞いてからで。

 

 

「い、いずく!?」

「……………………こ」

「こ?」

「こわかったあぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

「わ」

 

 

 びゃっとすごい量の涙を溢れさせる出久。

 さっきまでの威勢は何処へ行ったのか、普通の男の子に戻っていた。

 それが何だかおかしくて、けれど会った時の出久と同じで、とても安心できた。

 泣いてる出久の頭を撫でながら、彼の母へと向き直って頭を下げる。

 

「……ごめいわくをおかけしました。おとうさんはとまっていけといってましたが、むりならだいじょうぶです」

「い、いいえ、私たちは良いんだけど……」

「なら、えんりょなさらず。いずく、いこ」

「う゛、う゛ん゛っ゛…………」

 

 涙声の出久と手を繋ぎ、家の中へ入る。

 おっかなびっくりの引子さんをすぐに来た家政婦の人に頼み、客間に案内してもらう。

 出久は、私の部屋に来てもらった。

 使う機会のなかった客用座布団を出して、そこに座ってもらう。

 私も隣に座って、ぐずっている出久をあやしていた。

 涙が収まってきた頃合いに、話しかける。

 

「へいき?」

「うん……ごめんね、ありがとう」

「おれいをいうのはわたしだよ」

 

 出久の手を私の両手で包み込むように握って、心の底からのお礼を言う。

 

 

「いずくのことばで、おとうさんがわたしたちかぞくのことをかんがえてくれるようになりそうだから…………すごく、かっこよかった」

 

 

 恥ずかしかったので照れながらの言葉に、泣き腫らした目の出久が弱々しく笑みを浮かべる。

 

「その、おもったことをいいたいだけいったみたいで、ぜんぜんおぼえてないんだ」

「そうなんだ。ひっしだったもんね」

「うん……ぼ、ぼくぶたれたりしないよね!?」

「だいじょうぶだよ。かったのはいずくだもん」

「そ、そっか…………」

 

 笑みを浮かべてそう言えば、安心したらしい出久はほっと息を吐いた。

 ようやく落ち着いた彼に私もほっとして、ふともう一つ言っておきたい事を思い出した。

 

 先程の父と引子さんの会話で、気づいた事。

 

 出久は無個性で、それ故に振り回されていると。

 

 ヒーローに憧れている様子や、オールマイトについて楽しそうに話していた様子。

 きっと彼はヒーローになりたくて、けれど無個性という事実が邪魔をしている。

 彼は、ヒーローになりたくてもなれないと言われているんだろうと。

 

 それでも、諦めたくない思いを抱えているんだと。

 

 なので出久の正面へと回り、しっかり彼を見据える。

 

 

「ね、いずく」

「な、なに?」

 

 

 不思議そうにしている彼の目をまっすぐ見て、満面の笑顔を作りながら言葉を紡ぐ。

 

 

 

「いずくは、ヒーローになれるよ」

 

 

 

「……えっ……?」

 

 

 驚く彼から目を反らさずに。

 

 今の私が出久の為に言える言葉を。

 

 思いの丈を、伝える。

 

 

「いずくはむこせいだからヒーローになれないっておもってるんだよね」

「っ……そ、そうだよ……ぼく、むこせいなんだよ。なのに、なんで」

「こせいなんてかんけいないもん。だってわたしは、むこせいのいずくにたすけてもらったんだから」

「け、けど……!」

 

 

 信じたいけど、信じられない。

 

 そんな思いの詰まった否定を、私は否定する。

 

 

「いずくはもう、わたしのヒーローだから」

 

「ーーーーっ!」

 

「だからいずくは、ヒーローになれるよ」

 

 

 言い切った私に、出久は目を潤ませて。

 

 

「あっ…………ありがっ…………とうっ……!! うぁぁぁぁ………………!!!!」

 

 

 涙ぐみながらお礼を言うと、私に抱きつきながら嗚咽を溢し始めた。

 

 先ほどとは違う、肯定された事による嬉しさでの涙は、何だかこちらも泣きそうになって。

 

 

「なか、ないで、いずく。わらって」

「うん……うんっ…………!!」

「ふふっ、へんな、かおだよっ……」

 

 

 泣きながら無理矢理笑顔を作る出久に、私も笑いとともに涙が溢れてきた。

 

 お互いに抱きしめ合いながら泣き笑う姿は、端から見れば奇妙な光景だったかもしれないけれど。

 

 私たちにとっては、とても大切な時間だったから。

 

 そのまま泣き続けた私たちは、お互いを強く抱きしめたままいつの間にか眠ってしまった。

 

 

 

 この日が、私の始まりの日。

 

 なりたい自分になっていいと、思い出して。

 

 なりたい自分の姿と同じ、小さくも大きな背中を見た日。

 

 

 これが、私のオリジン。

 

 

 泣いている小さな女の子の手を取れるような、優しくて強いヒーローになりたいと、そう決めた日だった。

 

 

 

 

 

 

「出久と会った日は、そんな感じかな」

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁ……なんで凍夏ちゃん一語一句違えず覚えてるのさぁぁぁぁ…………!!」

 

 

 終始機嫌良く話していた私と、羞恥に耳まで赤くした出久の呪詛にも近い叫びが響いていた出久の部屋。

 聞いていた側の反応もかなりすごくて、飯田やお茶子などは途中から涙を流していた。

 

 

「ぅぉぉぉぉ……緑谷くんは五つの時から立派だったのだなぁぁぁぁ…………!!」

「そんなんもぉ……むりやんかぁぁ……デク君もぉぉ…………凍夏ちゃんべたべたになるん、当然やんかぁぁ…………」

「カンベンシテクダサイ…………」

 

 

 二人に揺すられながら褒められる出久が片言で話しながら顔を覆っている。

 少しだけ申し訳なく思うけど、昔から出久は格好いい事を知ってもらえてとても嬉しい。

 

 そして話を要求した爆豪はと言えば、しかめっ面で目を瞑っていた。

 

 自分の知らない出久の話を聞き、この男は何を思うのか。

 

 私の視線を感じたのか、爆豪は目を開いて此方を見た。

 

 

「……んで、テメェとデクはエンデヴァーに鍛えられてった、って訳か」

「そう。無個性なら地力と技術を鍛えなきゃって、あいつが言ってね。それからずっと」

 

「って、ちょっと待って! ずっと不思議に思ってたんやけど、デク君個性あるよね? 無個性ってどういう事なん?」

「む、そういえば……」

 

 

 私と爆豪の間に、横からお茶子が突っ込みを入れてきた。

 言われてみれば、出久の個性が遅咲きな理由の表向きの件についても、まだ話していなかったっけ。

 同じく疑問に思ったらしい飯田にも視線を向けられた出久も、そういえばといった表情で話し出した。

 

「僕って個性の発現が遅かったんだ。具体的には、雄英の一般入試の日に分かったんだけど」

「ええっ!?」「何だって!?」

 

 驚くのも分かる。どんな確率だって話だから。

 なので信憑性を持たせる為の話を、出久は既に考えている。

 

「僕の個性って、自分もバキバキになっちゃう超パワーでしょ? それなりに身体が出来ててもこれだから、もし小さい頃に出てたら、こう、四肢が爆散しちゃってたかもしれないってお医者さんに言われてさ」

「四肢が!!」「爆散!!」

 

 合わせたように腕を押さえるリアクションを取る二人。

 こういうノリの良さは良いところだと思う。好き。

 

「だから身体が出来るまでは脳がリミッターをかけてたんじゃないか、って言うのが専門の人の予想なんだ」

「な、成る程……個性についてはまだまだ謎が多いものな……」

 

 顎に手をやり考え込む飯田は、その説明に納得してくれたらしい。

 しかしお茶子はわなわなと震えており、出久の肩を掴んで彼に顔を近づけている。

 

「って事は……もしかしてデク君、私を助けてくれたあの時が、個性使うの初めて!?」

「あ、あー、うん、そうだね」

「ーーっデク君ホント凄いよ! 私もデク君みたいなヒーローになれるよう頑張ろう、って思えるもん!!」

「おおおお落ち着いて麗日さん!!」

 

 興奮するように出久を揺するお茶子。

 

 気持ちは分かるけど、ちょっと離れてほしい。

 

 その距離は……幾らなんでも近すぎる。

 

 出久の良さは知ってほしいけど、もしも女の子として好きになられてしまったら、その、すごく困る。

 

 

「麗日君! 緑谷君が目を回してしまうぞ!?」

「あっ……ごご、ごめんデク君!!」

「う、ううん……大丈夫……」

 

 

 飯田の声でお茶子は何事もなくすんなり離れたけど、一度思い浮かんだ嫌な想像は中々頭から離れない。

 

 

 もし、他の子が出久に惚れて、出久もその子を好きになったら。

 

 

 幼馴染なだけで、あんな父親が居て火傷痕のある醜い私なんて。

 

 出久にとっての過去になって、すぐに忘れられてしまうんじゃないか。

 

 

 嫌、そんなのは嫌だ。

 

 

「凍夏ちゃん?」

 

 

 名前を呼ばれてはっと顔を上げると、出久が心配そうに覗き込んでいる。

 

 危ない、この暗い感情は表に出してはいけない。

 

 ちょっと他の女の子と触れ合っただけで、こんな事を考える重い女だと思われてしまうのは嫌だ。

 

 出久に、嫌われたくない。

 

 

「ごめん、何? ぼーっとしてた」

「……ううん、ちょっと元気が無さげに見えて、気になっただけだから」

 

 

 にっこり笑いながらそう言えば、どうにか誤魔化せた、筈。

 ……いや、此処で追及しなかっただけで、中身は分かっていなくても私が不安を感じていた事には気づかれているか。

 付き合いの長さが、悪い方向に働いてしまった。

 

 と、今まで私たちの会話を無言で聞いていた爆豪が、不意に立ち上がり部屋を後にしようとした。

 

 

「あっ、かっちゃん帰るの?」

「聞きたい事は大体聞けたからな。これ以上いる意味はねぇ」

「そっか。また明日」

「……俺のやる事は変わんねぇ。前に言った通りだ」

 

 

 それだけ言い残して、爆豪は部屋から出ていった。

 前に、というのは多分戦闘訓練後の事だろう。

 人を助けるヒーローになりたい出久の在り方が、勝利に執着している爆豪にどう影響を与えたのか、それは当人たちにしか分からない。

 

 爆豪が帰ったのを見て、時間を確認した飯田も荷物を持って立ち上がった。

 

 

「もうこんな時間か。あまり長居をしては緑谷君宅に迷惑がかかるな。もう少し話したかったが、今日はここら辺でおいとまさせてもらうよ」

「わっ、ホントだ! 私も帰るね。お邪魔しました!」

「うん。二人とも今日はありがとう。また明日学校で」

「ああ、それでは失礼する。轟君もまた」

「またね、二人とも」

「また明日から頑張ろうね! デク君、凍夏ちゃん!」

 

 

 笑顔で手を振るお茶子に手を振り返し、二人を玄関まで出久と一緒に見送った。

 ……爆豪はともかく、お茶子たちには気を遣わせてしまったらしい。

 

「凍夏ちゃんはまだ帰らなくて大丈夫?」

「……もう、ちょっとだけ」

「そっか、なら部屋に戻ろう」

 

 出久は何も聞かずに笑って、私に背を向けて自室へ歩みを進める。

 その背が離れていく光景だけで先程の不安を思い出してしまった私は、少し俯きながら後に続く。

 

 出久の部屋に戻ると、彼はベッドに腰かけた。

 私は隣に行くのを堪えて、他の場所に座ろうと思った。

 の、だけれど。

 

 

「凍夏ちゃん、おいで」

 

 

 出久が優しい顔で、手を広げながらそんな事を言うものだから。

 

 蓋をしようとした暗い感情を溢れさせた私は、涙を溜めながら出久の胸に飛び込んだ。

 

 

「よしよし、大丈夫大丈夫」

「いず、く……」

「どうしても、凍夏ちゃんには辛い話だったからね。ちょっとの事で不安定になるのも仕方ないよ」

 

 

 頭を撫でられながら、背中をポンポンと叩かれる。

 昔から私が何かに不安になったりした時は、いつも出久がこうしてくれた。

 暗い気持ちが、醜い心が、優しく支えられる事で和らいでいく。

 

 

 これは依存だ。

 

 出久が居なくなってしまったら、きっと私は壊れてしまう。

 

 あの日、出久に助けられた日から、私は彼無しでは生きられなくなってしまった。

 

 出久もなんとなく、その事に気づいているんだろう。

 

 

 それでも、私はオールマイトのような、出久のようなヒーローになりたいと憧れたから。

 

 私のように助けを待っている子がいるなら、手を差し伸べられるようになりたいと思ったから。

 

 笑顔で人々を救うヒーローになる出久を、一人で死なせない為にも。

 

 私は、最高のヒーローになる。

 

 

「……ありがと、出久。もう大丈夫」

「どういたしまして」

 

 

 そしてできれば、隣には出久が居てほしい、なんて。

 

 笑顔の彼に満面の笑みを返しながら、私はそう思った。

 

 

 

 

「と、ところで凍夏ちゃん……さっきの話、本当にクラスの皆にもするの?」

「ううん、やっぱり止めとく」

「えっ、そうなの? 僕としては過去の暴挙が知られないからありがたいけど……」

「このままエンデヴァーが嫌われてる方が良い事に気がついたから」

「んんっ、そっちかー!」

 

 

 口元に手をやりながら唸る出久には、半分だけの理由を信じてもらおう、

 

 もしも女の子に話して、出久を好きになられても大丈夫な日まで。

 

 

「……話すなら、出久と結ばれてから、かな」

 

 

「? 何か言った?」

「何でもないよ」

 

 

 




※この二人はまだ付き合っていません。

 書きたかった事は大体書けた感じです。オリ主が出久にベタ惚れの理由とか。
 オリ主が幼少期から大人びてるとか、出久が子どもなのに難しい事言ってるとか、エンデヴァーがあっさりし過ぎとか、突っ込みは多々あれどご都合主義でどうか一つ。
 出久と焦凍の二次創作とかでもよく見る展開なのもご都合主義で(ry


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体育祭編
12:にこにこと体育祭に向けて。


 
 三日後と言いましたが書けたので投稿。
 体育祭編の始まり……の始まりです。
 焦凍くん不在の中で魅せる技量が問われる所……(震え声)

 今後は2、3日に一話の投稿になりそうです。毎日投稿は私には辛すぎました。



 爆豪たちに出久の武勇伝を聞かせて、私が出久に慰めてもらった日の翌日。

 

「皆ー!! 朝のHRが始まる!! 席につけー!!」

「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」

 

 出久の話を聞いて一層はりきっている飯田が教壇で指示を出しているが、微妙にから回っていて瀬呂から冷静に突っ込みを受けている。

 ショックを受けた飯田が落ち込みつつもそそくさと席に着いたが、私は彼のああいうところは好ましいと思う。

 

 チャイムと同時に扉が開き、両腕と頭に包帯をぐるぐる巻きにしたミイラ……相澤先生が入ってくる。

 

「おはよう」

「「「「相澤先生復帰はええ!!!!」」」」

「先生! ご無事だったのですね!!」

「無事言うんかなぁアレ……」

 

 お茶子の呟きは最もだ。

 ちょっとフラフラしているし、まだ要安静なのを無理してるっぽい。

 

「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

 

 ミイラ先生の言葉に皆がざわめき出す。

 

「戦い?」

「まさか……」

「まだ敵がー!!?」

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!!!」」」」

 

 ホッとしながら騒ぎ出すという、器用なクラスメイトたちの叫びが教室に響いた。

 毎度思うけど、私が知らないところで打ち合わせでもしてるんだろうか。

 だとしたら、仲間外れは悲しい。

 

「待って待って! 敵に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

 

 誰かの言葉にそういえばと皆が相澤先生を見る。

 

「逆に開催する事で雄英の危機管理体制が磐石だと示す……って考えらしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ」

 

 げっ……と、思わず漏れてしまいそうな声を呑み込み、両手で口を押さえる。

 こういう時、もしかしなくても駆り出されそうな雄英OBの暑苦しい父親に心当たりがあったから。

 

「何より雄英の体育祭は……最大のチャンス。敵如きで中止していい催しじゃねえ」

「いや、そこは中止しよう?」

「峰田くん……まさか雄英体育祭見た事ないの!?」

 

 峰田の弱気な意見に少し賛同しそうになったが、出久が信じられないといった顔で振り向いたのでその考えは消えた。

 ただ、視界に入った私の表情で考えは読まれたらしく、呆れた顔を向けられたけれど。

 

 そこからは相澤先生の長い語りだったのでぼーっと聞いていた。

 かつてのオリンピックに代わる日本のビッグイベントの一つとか熱弁していたが、正直それほど興味はなかった。

 基本的に人を助けるヒーローを目指している私にとって、他者と優劣を争う行事はあまり積極的になる理由はない。

 いくら全国のトップヒーローたちがスカウト目的で見るにせよ、私にはNo.2の父がいるのだし。

 

 ……ここだけの話、親としてではなく、ヒーローとしてのエンデヴァーには一目置いている。

 あの男の立ち位置が伊達や酔狂で居られる場所でないのは、言われるまでもなく理解しているから。

 言葉にすれば煩いだろうから、直接言った事は一度もないけれど。

 

 それは置いといても、現在進行形で私を育てるのに熱心な父親が居るのに、という気持ちは少なからずある。

 自分の立場に甘えていると言われれば否定できないけど、この環境以上というのは難しいのではないだろうか。

 

 皆が順調に盛り上がる中、私は一人そんな事を考えていた。

 

 

 

 

 時間は飛んで昼休み。

 

「出久、ご飯行こ」

「うん。凍夏ちゃんはそんなにテンション上がってないね」

「まあね。出久もでしょ?」

「あはは……こういうのは、ちょっとね」

「君たちは普段通りだな」

 

 私と同じく普段と変わらない出久と話していると、飯田が独特なポーズで会話に入ってくる。

 謎ポーズ、そろそろ突っ込んだ方が良いのだろうか。

 

「僕たちはほら、元々あの人に鍛えられてるっていうのもあるから」

「ああ……成る程。確かに俺も兄がいるから分からなくはない……が、ヒーローになる為に在籍しているのだから、こういったチャンスは燃えてこないか!?」

「飯田ちゃん独特な燃え方ね、変」

 

 あ、梅雨ちゃんに先に言われてしまった。

 けど飯田は気にしてないみたいだ。

 

 それより、飯田には兄がいるというのがどう関係してくるのか。

 お茶子を含んだ四人で食堂に向かう途中で聞いてみると、なんと飯田の兄はヒーローをやっているとか。

 インゲニウムという名前で、私も知っている有名なヒーローだ。

 

 そんな兄のような立派なヒーローを目指しているという飯田が、なんだかとても嬉しそうに見える。

 

 

「飯田、そんな笑い方するんだね」

「あ、凍夏ちゃんもそう思った? 私とデク君も前にそれ言ったんだよ!」

「うん。お兄さんの話をしてる飯田くん、凄く生き生きとした笑顔だよね」

「そ、そう言われるとむず痒いものがあるな……」

 

 

 珍しく照れた様子の飯田に笑みが浮かぶ。

 真面目な友達の、こういう一面が見れたのはなんだか嬉しい。

 

 ほわほわした空気のまま、話の流れがお茶子のヒーロー志望の動機へと移る。

 なんでも家族が建設会社をやっているそうで、あまり儲かっていないらしい。

 だから個性使用の許可をとって会社を手伝うと言ったのだが、彼女の父はお茶子に夢を叶えてほしいと背を押してくれたそうだ。

 

 そんな優しい両親を楽にさせてあげたいと、ヒーローを目指しているお茶子。

 

 本人は私や出久、飯田のように立派な動機で無いと恥ずかしそうにしていたが、全くそんな事はない。

 

 

「凄く立派だよ。ね、出久、飯田」

「うん! 麗日さんらしい優しい目標だなって思うよ!」

「その通りだ! 親孝行の為に、というのはとても立派な事だぞ!」

「そ、そうかな……えへへ、ありがとー」

 

 

「おお!! 緑谷少年がいた!!」

「わ」

 

 照れるお茶子に皆が和んでいると、曲がり角から突如オールマイトが現れる。

 びっくりした。エンターテイメントするのは良いけどいきなりは止めてほしい。

 

「ごはん……一緒に食べよ?」

「乙女や!!!」

 

 小さな包みを片手に出久を誘う姿に、お茶子が吹き出している。

 というかあれ、もしかしてオールマイトの手作りなんだろうか。

 

「是非……三人ともごめん、また後でね」

「あ、うん」

 

 そしてそのまま連れられていく出久。一緒にご飯食べたかった。

 

 今度、私もお弁当を作ってこよう。

 

 その日は出久を除いた三人でお昼を食べる事になったが、お茶子たちにオールマイトの呼び出しはなんだったのか疑問に思われていたので、個性が似てるし気に入られてるんじゃないかとかそれらしい事を言って濁しておいた。

 

 というかあれでは個性はともかく、師弟関係を隠しているようには見えないのだけれど、オールマイトはその辺をどう考えているのだろうか。

 

 ……案外、何も考えていない気がする。

 

 それが一番しっくりくるNo.1ヒーローというのも、よく考えたら凄いと変な方向に感心してしまった。

 

 

 

 

 その日の放課後の事。

 妙に教室の前が騒がしくなっており、何事かと思えば多くの他クラスの生徒が集まっていた。

 

「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ!」

「敵情視察だろ、ザコ」

 

 喚く峰田を爆豪が一蹴する。シンプルな悪口だ。

 震える峰田を出久が慰める中、そのまま入口に進んでいく爆豪が、軽く見回しながら口を開く。

 

「敵の襲撃を耐え抜いた連中だからな、体育祭前に観ときてえんだろ」

 

 成る程。そういう集まりなのか。

 相変わらず頭の回転が早いと言えばいいのか、口の悪さを直せば普通に優等生だと思うのだけど。

 

「意味ねェからどけ、モブ共」

 

 ……口の悪さ、直らなさそう。

 

「知らない人の事とりあえずモブって言うのやめなよ!!」

 

 飯田の最もな言い分にクラスの皆が真顔で頷いている。

 と、思ったら出久だけは何故か苦笑いだ。

 その反応の意味を問う前に、観衆の一人が前に出てきた。

 

「どんなもんかと見に来たが、随分偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい? こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ」

「ああ!?」

 

 その人物の言葉にクラスの全員が真顔で首を横に振る。今度は出久も含めて。

 もし爆豪みたいなのばっかりがヒーロー科なら、そのヒーロー科は多分世紀末か何かだろう。

 

「普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構居るんだ、知ってた? 体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ……」

 

 目に隈のある男子が首を押さえながらそんな事を言う。

 

「敵情視察? 少なくとも俺は、調子のってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー、宣戦布告しに来たつもり」

 

 大胆不敵にもそう言い切った男子生徒。

 本気なのは、目を見れば分かる。

 

 そんな彼の言葉に続くように、集まりの後ろからもう一人声を上げる人がいる。

 

「隣のB組のモンだけどよぅ!! 敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!! エラく調子づいちゃってんなオイ!!! 本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」

 

 他クラスの同じヒーロー科の男子にもそう言われてしまった。

 爆豪のせいでA組全体にヘイト値が溜まってるんだけど、この爆発頭はどうしてくれるのか。

 

 A組の皆と観衆全てが爆豪に注目する。

 ……何も言わない。

 こいつ、火に油を注ぐだけ注いで放置する気だ。

 

 そんな爆豪を見かねてか、出久が溜め息を吐いて奴へと近寄っていく。

 わざわざ火中の栗を拾いに行くなんて、優しさが過ぎる。

 

「かっちゃん、言葉が足りなさすぎて僕らにまで飛び火してるんだけど」

「知るか、そもそも此処にいる時点でクソなモブ共があれで分からんなら本気でカス以下だわ」

「君って奴は……ごめんね、彼はその、こういう人だから」

「どういう意味だテメェクソデク!!」

「ちょっ!? フォローに入ろうとしてるのに掴みかかろうとしないでよ!!」

「頼んどらんわ死ねボケカス!!」

 

 出久、そいつに優しさは要らないと思う。

 

 観衆が戸惑い始めているが、多分爆豪の言葉遣いが素でこれなのに気がついたからだろう。

 どう足掻いてもヒーローの口調には聞こえないから、気持ちはよく分かる。

 

 そして爆豪は後で氷結する。絶対に。

 

「…………そいつが色んな意味であれなのは分かったよ。さっきの、ヒーロー科って一括りにしたのは悪かった」

「……うん、何かごめんね」

 

 大胆不敵系宣戦布告男子に気の毒そうに謝られて、出久もいたたまれなさそうだ。

 それはそれとして、出久は咳払いを一つした後、爆豪のフォローに入った。

 

「えっと、かっちゃん……彼が言った意味を簡単に言えば、「敵情視察に見に来たんだったら、僕たちの情報は見た目ぐらいしか分からないから来る意味がない、そんな暇があるぐらいなら体育祭まで鍛えとけ」って事。ね?」

 

「……ちっ、あれでそれ以外の意味に取る方が訳分からんだろアホが」

「「「「いや分かる訳ないだろ!!?」」」」

 

 クラスの皆と廊下に居た人たちの声がハモった。

 けど、これに関しては私も同感だ。

 何をどう聞いたらそういう意味で捉えられるのか、さっぱり分からない。

 逆に分かった出久が凄い。爆豪言語の理解が深すぎる。

 

「うん……まあ、つまり。だから宣戦布告に来た君以外、かっちゃんにとっては時間を無駄にしてるようにしか見えなかったんだよ」

「…………通訳が必要な時点でヒーロー科としてどうかとは思うけど、意味は分かったよ。とりあえず俺はそれだけ」

「あ、待って!」

 

 踵を返そうとする宣戦布告男子を、出久が呼び止める。

 視線を向けられた出久は、珍しく好戦的な笑顔を作ってから口を開く。

 

「僕たちも負けない。ヒーロー科に居る皆も、本気でヒーローを目指して此処にいるんだから」

「…………ふっ、そうかい。まあ楽しみにしてなよ」

 

 出久の返答に不敵な笑みを返した彼は、そのまま教室から離れていく。

 集まっていた他の人たちも徐々に散らばって行き、A組の教室前には殆ど人が居なくなっていた。

 

「ケッ、余計な事しやがって」

 

 クラスの皆がホッと一息吐く中、爆豪はそう吐き捨てて教室を後にする。

 出久は苦笑いしているが、本当にあのボンバーヘアーは。

 

「緑谷のお陰で助かったってのに、なんだよあいつ」

「まあまあ……僕が勝手にやった事だから」

「どんだけ人が良いんだよ緑谷……」

「けどデク君かっこよかったよ!」

「確かに! 俺も一層気持ちが引き締まったよ」

「そ、そう? 何か勝手にクラスの総意みたいに言っちゃったし……」

「勝手なんて事ないって! ねっ、皆!」

 

 お茶子の言葉にクラスメイト全員が頷いたりして賛同の意を示した。

 かくいう私もそうだから、にっこりと笑顔を向けている。

 

「なら、良かったかな。っと、B組の人にフォロー入れてなかった! 行ってこないと」

「む、ならば俺も付き合おう! 委員長の拳藤君とは面識もあるからな!」

「あ、ありがとう飯田くん」

 

 言うや否や足早に教室を出る二人に、誰も声をかける間もなく見送った。

 残された皆は少しぽかんとした後、感心したように話し出した。

 

「緑谷、見た目によらず頼りになるよなー」

「爆豪のフォローとか、俺出来る気しねぇもん……」

「それより見た目によらずは余計だろう」

「USJの時もだけど、しっかりしてるよね!」

「なんて言うか、行動がカッコいいよね。ウチも見習わなきゃって思うよ」

「ここぞって時に男らしいよな!」

「こと委員長は飯田さんに譲られましたが、多を牽引する能力は緑谷さんもかなりのものだと思いますわ」

「さっきの宣戦布告の返しも良かったし、体育祭のやる気が俄然沸いてきたよー!」

「静かに熱く燃ゆる闘志の獣、緑谷の内にも存在していたか」

「何言ってるかよく分かんねーけど、改めて体育祭頑張ろうって事だな!」

「左様」

 

「んふふー。ねっ、凍夏ちゃん。デク君が褒められてるとなんか自分の事みたいに嬉しいね!」

「うん。皆が出久を認めてくれて、凄く嬉しい」

 

 麗らかな空気を醸し出すお茶子に同意しながら、私も頬が緩んでいくのが抑えられなくなってきた。

 多分今、鏡をみたらとてもにこにこしている自分と対面できると思う。

 今なら嫌いな父とでも、笑顔で会話が弾むかもしれない。

 いや、流石にそれはないか。

 

 何にせよ、現状で出久がクラスで高評価で、本人が知らないうちに皆を良い方向に引っ張っている感じ。

 幼馴染として鼻が高いけれど、私も負けていられない。

 

 体育祭へのモチベーションはそこまで高くなかったけれど、先程の宣戦布告を聞いたのも合わせて、そうも言っていられなくなった。

 

 目指すは表彰台、上位入賞だ。

 

 もしかしたら、出久と本気で戦わなければならない機会があるかもしれないけれど。

 

 その時は、全力でやろう。

 

 

 飯田と教室に戻ってきた出久が、皆に体育祭に向けての決意表明をされて戸惑うまで、後少し。

 

 

 




 今作においては出久くんの評価がうなぎ登りに上がっていく模様。

 相澤先生の怪我は原作よりはマシです。
 出久が割って入ったので頭を叩きつけられたのは一度。
 それでも目に後遺症は残る重症ではありますけども。


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13:全力でやる体育祭、加減は抜きの障害物競走。

 
 感想・評価ありがとうございます。
 本話より体育祭編が本格的にスタート。
 氷と炎を使いこなすオリ主と、高出力のフルカウル可能な出久くんが居る体育祭は果たして。


 体育祭までの二週間はあっという間に過ぎて。

 通常授業は勿論、放課後は出久が前もって申請して借りた学校の施設を一緒に使わせてもらったりして有意義に調整が出来た。

 クラスの皆も個人個人で出来る事をして、ついに迎えた体育祭当日。

 

 1-Aの控え室にはおおよその生徒が集まり、緊張や興奮を抱えた表情でそれぞれの時間を過ごしていた。

 そんな中、飯田が険しい顔で入口と時計に視線を行ったり来たりさせている。

 その理由は、まだ姿を見せていないクラスメイトが居る事にあった。

 

「むぅ……もうじき入場なのだが、爆豪君が来ていないぞ。一体どうしたんだろうか」

「かっちゃんに限って遅れる事は無いと思うけど……」

 

 飯田の言葉に、出久も少し心配そうな声で同意する。

 二人が言った通り、あれでも時間には余裕を持つタイプの爆豪が未だ控え室に現れていない。

 私もあの男が遅れるとは思わないが、そろそろ来なければ不味い時間ではある。

 

 何かあったのかと、クラスの雰囲気がざわめきかけた時、控え室の扉が開いた。

 

 飯田がそちらへ向きながら声を上げようとして。

 

「遅いぞ! 爆豪く、ん……」

 

 

「間に合っとるわ、クソが」

 

 

 飯田の言葉が途切れたのも、仕方がない。

 

 爆豪の身体から、蒸気が上がる程の汗が。

 

 爆豪の目から、闘志や覇気などがほとばしっていたから。

 

 爆豪の全身から、これ以上にない気迫を感じられたから。

 

 

 そんな爆豪に近づいた勇者が一人。

 言わずもがな、出久である。

 

「身体を温めてたんだ……かっちゃんスロースターターだもんね。はいこれ」

「あぁ? いらん世話を焼くなやクソデク……ちっ」

 

 出久がタオルとドリンクを押し付けるように渡すと、爆豪は舌打ちしながら受け取る。

 いつもなら出久の厚意を……とか思っただろうけど。

 少しでも奴の気迫に当てられていた身からすれば、よく出久は近づけたな、という感想が先に出た。

 

 

「これで揃ったね、飯田くん」

 

「あ、ああ……よし! 皆、それでは行こうか!」

 

 

 飯田の号令で爆豪の空気に少なからず呑まれていた皆が再起動する。

 控え室を出て、出久と並びながらスタジアムへの道を歩く。

 

 っと、忘れるところだった。

 

 爆豪のインパクトでタイミングを逃していたが、伝えるなら今しかない。

 

 

「ねえ、出久」

 

「ん、何? 凍夏ちゃん」

 

 

「今日は、負けないよ」

 

 

 好戦的な笑みで出久に宣言すれば、彼は少し驚いた顔をした後に。

 

 

「……そう、僕も全力で獲りに行くから!」

 

 

 返ってきたのは、決意の籠った笑顔だった。

 

 これまでとは違う、個性を使っての全力勝負。

 

 今日、この体育祭で実現出来そうで、少しばかりの不安はあるけれど。

 

 それを上回る期待や興奮が、今は不安を飲み込んだ。

 

「うん……わっ」

「あだっ、か、かっちゃん?」

 

 そんな私たちの間に、後ろから割って突っ込んできた爆豪。

 肩をぶつけられて痛いとか、空気を読めとか言いたかったけど。

 

 

「勝つのは俺だ」

 

 

 振り向きもせず発された宣言に、私も出久も。

 

 

「爆豪にも、負けない」

「僕も君に勝つ!」

 

 

 宣言し返すのは、当然の流れだった。

 

 

『一年ステージ、生徒の入場だ!!』

 

 

 

 そして始まる雄英体育祭。

 

 勝ちに行くのは当たり前として。

 

 出来れば楽しく、やっていこう。

 

 

 

 

 プレゼント・マイク先生が話題性のあるA組を過剰に持ち上げる紹介をしているのを聞き流しながら入場した後、続々と他クラスも入ってくる。

 言っては悪いが、ヒーロー科以外はテンションが高そうには見えない。

 さっきも、自分たちが完全に引き立て役だと呟いているのが聞こえてしまった。

 宣戦布告男子のような人は少数派だったらしい、そこは少し残念で。

 こういった場では全力で競いたいと思うのは、私の身勝手だろうか。

 

 そんな事を考えている間にも、体育祭は進行する。

 

「選手宣誓!!」

 

 短い鞭のようなものを叩きながら演台の上に立つのは、かなり際どいコスチュームの18禁ヒーロー「ミッドナイト」という教師。

 一年の主審らしいが、18禁なのに高校にいてもいいんだろうか。

 

「18禁なのに高校にいてもいいものか」

「いい」

 

 同じ疑問を声に出して首を捻る常闇に、峰田が瞬間的に反応する。

 今更だけど、彼のキャラがなんとなく分かってきた。

 

「静かにしなさい!! 選手宣誓!!」

 

 ざわめく生徒たちをミッドナイト先生が、もう一度鞭を鳴らして静める。

 鞭と言えば扱うのが難しいらしいけれど、使いこなせればかなり相手にし辛い武器だ。

 きっと彼女はプロヒーローになってからも、相当訓練を積んでいるに違いない。

 

「選手代表!! 1-A、爆豪勝己!!」

「えっ」

 

 思わず声を漏らしたが、そういえば爆豪は一般入試一位通過だった。

 忘れそうになるのは言動のせいだから、私は悪くない。

 

 けれど、あいつにまともな宣誓が出来るんだろうか。

 

 演台に上がる爆豪の背中を見つつ、不安になる。

 

 

「せんせー」

 

 

 静かになったスタジアムに、爆豪の声が響く。

 

 

「俺が1位になる」

 

「絶対やると思った!!」

 

 あんまりな宣言に切島が即座に突っ込むが、周りはそれどころではない。

 

「調子のんなよA組オラァ!!」

「何故品位を貶めるような事をするんだ君は!!!」

「ヘドロヤロー!!!!」

 

 ブーイングが雨あられのように飛び交う。

 意気込みは買う。買うけれど、A組を巻き込んでの発言は本当に止めてほしい。

 今回は出久さえ頭を抱えているから、もうどうしようもなさそうだ。

 

 

「黙れ」

 

 

 けれど、続く爆豪の圧を込めた声に、一瞬で場が静まり返る。

 

 

「俺が獲るのは完膚無きまでの1位だ。舐めプのカスや、腑抜けのクソカスに勝っても意味がねえ」

 

 

 言葉遣いは最悪。

 

 しかし、何かを訴えるような言い方なのは伝わっている。

 

 

「やる気のねぇクソザコ共は論外だからさっさと死ね。やる気がある雑魚だけ来い。跳ねの良い踏み台にしてやるよ」

 

 

 それだけ言うと、爆豪は凶悪な笑顔を作ってから演台を降りて行く。

 

 これは、あれか。前に出久が通訳したように言うなら。

 

「ヒーロー科とか普通科とか関係なく、全力でかかってこい、って事?」

「そういう事かな。もうちょっと言い方を考えればいいのに……かっちゃんらしいけどさ」

 

 推測を口に出せば、出久が呆れたように肯定してくれる。

 確かに前のよりはまだ分かりやすいけれども。

 ミッドナイトにも伝わったようで、小さく溜め息を吐いてから笑みを浮かべて声を張る。

 

「口はものすごく悪いけど、全員に発破をかけたのは分かったわ!! 好み!!!!」

 

 好みってなんだ。

 改めて思ったけど、雄英は変わった先生が多い。

 まあ主審にそう言われてしまえば、ブーイングを出していた生徒たちも多少不満ながらも黙らざるを得なかったから、今は感謝するべきか。

 

 いや待った、何で爆豪の尻拭いに対して私が感謝してるんだ。巻き込まれた側なのに。

 何がどうあれ爆豪が悪いと結論づけよう。うん。

 

「それじゃあ早速第一種目、行きましょう! いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)!! さて、運命の第一種目!! 今年は……コレ!!!」

 

 ミッドナイト先生の背後に電子ディスプレイが現れて、そこに『障害物競走』と表示される。

 11クラス全員でこのスタジアムの外周を回る競技で、コースは約4kmとのこと。

 コースさえ守れば何をしたって構わないと言い切った先生は、どこか楽しそうだ。

 

 開いていくゲートの前にぞろぞろと人が集まっていく。

 そこまで広くないこの場所で上手くスタートを切る方法を考えて……私は一番後ろを陣取った。

 

 

 身体を解しながらふと横を見れば、出久と爆豪も居て。

 

 出久は屈伸を、爆豪は肩を回している。

 

 そして目が合うと、出久はぐっと拳を握り締めて、爆豪は口角を上げて歯を見せながら不敵に笑っていた。

 

 どうやら、考える事は同じらしい。

 

 スタートゲート上部のランプが消えていくのを見ながら、私たちは構える。

 

 最初が肝心、いち早く前に出る為には――

 

 

『スターーーート!!!!』

 

 

 ――スタートダッシュを決めればいい!

 

 

 個性把握テストの立ち幅跳びのように、氷結で空中に道を作りながら進んで行け!

 

 

 スタートと同時にぎゅうぎゅう詰めゲートトンネルの空いた上方を通過していると、後ろから二つの声が響いてきて。

 

 

「フルカウル――10%!!」

「爆速ターボ!!」

 

 

 ゲートを抜けると同時に、私の横に二人が並んで跳んでいる。

 

 言うまでもなく、出久と爆豪だ。

 

 緑の雷光を纏いながら壁をジグザグと蹴りながら跳んできた出久と、ウォーミングアップで汗をかいたお陰で好調な爆豪の空中爆破機動は、私の空中氷結と同等以上の速度を出している。

 

「流石!!」

「そっちこそ!!」

「てめえらだけに上手くはいかせねえよ!!」

 

 軽口を飛ばし合いながら、私たち三人はそのまま並ぶように走っていく。

 

 

『ターゲット、大量』

 

 

 が、ゲートを抜けたすぐそこに装甲の着いたロボットが大量に現れて、私たちの進行を邪魔しようとする。

 

 

『さーて実況していくぜ! 解説アーユーレディ!? ミイラマン!!』

『無理矢理呼んだんだろが……そんでもうトップ争いが始まってんぞ』

『んあ? ……ってオオッと!? 電光石火の早業で抜け出た奴等がもう第一関門に突入してるぜ!!?』

 

 

 ついでに実況の声も聞こえ始めるが、気にしない。

 

 

「邪魔!」

 

 

 一帯のロボを大規模氷結で行動不能にしながら、動かなくなったロボの間を氷結ダッシュで進んでいく。

 手加減要らずの範囲攻撃なら、調整無しのぶっぱでいいのでそちらへ割く分の意識を先に進む方に回せる。

 

 

「SMASH!!」

「スクラップになれやァ!!」

 

 

 そして好機と言わんばかりに、出久と爆豪が自分の道を開けるようにロボを壊しながら進んで来る。

 

 それなりに硬さも重量もあると思うのだが、私の氷結で止まっているのもあって二人とも難なく破壊していた。

 

 

『オォウ!? 第一関門ロボ・インフェルノ!! 紹介する間もなく、1-A轟、緑谷、爆豪の三人組が抜けていったァ!!』

『轟の氷結が間接的に周りの妨害になってはいるが……あいつら全員とにかく前に進む事だけを意識してるな』

『後ろには振り向かねェってか!! クールだな!!』

 

 

 実況の声にちょっと気が散りそう。

 プレゼント・マイク先生のテンションは実況するには良いかもしれないが、ただただ煩い。

 

 とはいえ無視できるレベルなので気にせず前に進んで行けば、次の関門らしきものが現れた。

 

 深い大きな穴に所々足場があって、それぞれがロープで繋がっている。

 

 大規模な綱渡り、とでも言える障害物だ。

 

 流石雄英と言うべきか、どうやって作ったんだろうこれ。

 

 普通に進むなら少し手間取りそうだけど、これも私には問題ない。

 

 

「はっはぁ! 俺には関係ねーー!!」

「足場と足場を跳び移れば!!」

 

 

 空中氷結でそのまま進み炎で速度も上げていると、少し遅れてきた爆豪と出久もそれぞれのやり方で個性を駆使して追い付いてくる。

 

 

『実況殺しの全力疾走!! 既にトップ三人が第二関門に踏み込んでるゥ!! けど紹介はさせてね! 落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!! 第二関門ザ・フォール!!!』

 

 

 この関門の紹介がされているところ悪いけれど、私はもう抜けそうだ。

 絶え間なく個性を発動しながら空を飛ぶ私は、全力で飛び続けるのには手に負担があるらしい爆豪や、着地に時間を使う出久よりも、僅かに速く進める。

 直線速度なら恐らく一番下の私は、今のうちに距離を稼がないといけない。

 

 

『とか言ってるうちに先頭の轟! あっちゅう間に一抜けしてんじゃねーか!!』

『全員難なく進んでいるように見える。が、轟の氷を使った空中移動、爆豪の爆破飛行、緑谷の増強での足場ごとへの跳躍、どれも緻密な調整が必要な個性の使い方だ』

『派手に見えて技巧派って事か!? すげえなイレイザーお前のクラス!! どういう教育してんだ!』

『俺は何もしてねえよ……地力を鍛え個性を伸ばし続けた奴。才能を重ね続けた奴。ただひたすらに努力し続けた奴。あいつらは全員自分で出来る事をずっと極め続けてるだけだ』

『超ストイック!! あいつらホントに高一かよ!?』

 

 

 驚愕するマイク先生の声を聞き流しながら、氷結と炎熱の勢いのままに前に進む。

 一足先に抜け出した私は、そのまま最後の関門へと足を踏み入れた。

 

 

『まだ後ろはロボを抜けた辺りなのに先頭は早くも最終関門!! かくしてその実態は一面の地雷原!!! 怒りのアフガンだ!!』

 

「雄英は何を目指してるんだろ、っと!」

 

 

 地雷原を氷結ダッシュでひたすら進む。

 この辺りで炎は抑えて、身体と周りの空気を冷やしていく。

 速度は落ちるが、この先はここぞという時への秘策がいる。

 

 

『オイオイオイ!!? 轟、地面を氷結させて地雷を無効化!!! クレバーだけど滑るとはいえ後ろに道作っちゃってんぞ!!?』

『ちまちましてたら後ろ二人に抜かれるからだ。炎を消したのは何故か知らんが……』

 

「俺には関係ねえっつってんだろ!!」

「フルカウル、20%!!」

 

 

 やっぱりあの二人には、地雷があろうと関係ないか。

 

 地雷の爆発音が聞こえる事から、出久は滑りやすい私の氷結を避けて進んでいるらしい。

 

 

『空を飛び続ける爆豪はともかく緑谷!! 地雷原をひたすら直線でダァッシュ!! 地雷が爆発してもそれを勢いに変えて進んでやがるぜクレイジー!!!』

『出来るなら合理的だろ』

『これそういう問題かぁ!!?』

 

 

 地雷原を抜ける手前で、直線距離を超スピードで進む爆豪と出久に追いつかれた。

 

 

「追いついたよ、凍夏ちゃん!」

「テメェ何炎消してやがる!! 舐めプしてんじゃねえぞ半分女ァ!!」

「抜かせないし、舐めプじゃない!」

 

『トップ3、言い争いをしながら地雷原クリア!! 後はスタジアムへの一直線での争い!! 先頭が何度も入れ替わるデッドヒート!!!! 喜べマスメディア!! おまえら好みの展開だぜええ!!!!』

 

 

 最後の勝負はもうすぐ。

 氷結で二人を妨害して、抜いたり抜かれたりしながらスタジアムに続く通路に差し掛かる。

 

 ここからゴールまでは一直線。

 

 出久も爆豪も、ラストスパートをかけにくる。

 

 だから、ここで炎を。

 個性把握テストでは止められたあれを使う。

 

 冷やした空気を一気に温めて、膨張させた空気で飛ぶ!

 

 私が何をするか察した二人も、最後の勝負に出てきた。

 

 

「いっ、けぇ!!!」

「大爆速ターボォ!!!」

「――30%!!!」

 

 

 全員が声を上げた瞬間。

 

 大きな爆発が通路に起こり、地面を揺らがす程の衝撃を感じた。

 

 色々な勢いに飲み込まれるように飛ばされた私たち。

 

 その衝撃のまま三人まとめて、ゴールのスタジアム内へと転がり込んだ。

 

 

『……何なのお前のクラス……ヤバすぎんだろ……』

『加減しろよバカ共が……』

『てかあいつら無事か!? 死んでないよな!?』

 

 

 咄嗟に氷で身体を覆ったが、結構痛い。

 

 うん、少しずつ熱が冷めてきて冷静になったけど、どう考えてもあんな閉所で使う技じゃなかった。

 相澤先生が個性把握テストで止める訳だ。

 そんな威力の技を近距離に人がいる状態で使うなんて愚行もいいところ。

 

 ……反省は後にして、土をはらいながら立ち上がる。

 出久たちは大丈夫だろうか。

 

 

「いってて……けほっ……死ぬかと思った……はぁ…………」

「クッソが…………爆破の範囲も分かんねえで適当やりやがって…………」

 

 

 煙が晴れてくると、五体満足な出久と爆豪が転がっていた。

 流石に服が破けたりはしているけど、大きな怪我はなさそうだ。

 

『無事!! 全員なんとか無事!! 雄英体育祭初の死者が出るかとヒヤヒヤしたぜェ!!!!』

『轟と爆豪、体育祭が終わったら反省文だ』

「…………はい」

『全国中継で担任に叱られてやんの!! ウケル!!』

 

 うぅ、これは甘んじて受けるしかないか。

 私が巻き込んだのに等しい爆豪は、流石に申し訳ない。

 

「はあァ!? ンで俺まで!!?」

『爆発の規模と使う場所を考えろ。さっきのはお前の爆破も相乗効果での結果だ』

「――――っクソがァ!!!!」

「…………ごめん」

「半分女テメェマジで殺す死ねクソアマ!!!!」

「まあまあまあまあ!!」

 

 謝る私に詰め寄ろうとする爆豪を出久が抑えてくれている。

 けれど今回ばかりは私に非があるので、弁明はしない。

 

「出久も、ごめんね」

「大丈夫大丈夫! 勝負だから良いって! かっちゃんもさ! ね!?」

「良かねえよクソデク!! こちとらクソアマの適当爆破のとばっちり受けとんだわ!!」

「そこは本気の勝負だったから、って事にしようよ!!」

「指図してんじゃねえぞクソナード!!」

 

 出久に飛び火してしまった。重ねてごめんをしなきゃ。

 

 ……そういえば、障害物競走の結果はどうなったんだっけ。

 

 

『おっと! 此処でカメラ判定による順位発表だ!!』

 

「っ!!」

「1位!!」

 

 

 瞬時に掴み合いを止めて反応する二人。

 私も結果が表示されるディスプレイを注視する。

 先程の爆発の後の映像が、どういう技術なのか煙を透かして映し出されていた。

 通常速度のリプレイでは全員の差が分からず、次いでスロー再生が流れる。

 

 しかしそれでも、私たちは三人同時に入ってきているようにしか見えない。

 

『んんー? 俺には完全に同着に見えるな……どうなるんだこれ?』

『こういう時の為の主審だ』

 

 相澤先生の言葉に、私たちは演台に立っているミッドナイト先生に視線を移す。

 手元の端末を面白そうな顔で見ていた彼女は、こちらへと鞭を鳴らしながら告げた。

 

 

「ただいまの勝負! 判定の結果、三人とも完全な同着と見なします! よって轟さん、緑谷くん、爆豪くん、同率1位!!!!」

 

 

 完全同着。

 

 大接戦の末の結果に会場は大いに沸き上がるが、私としては何とも言えない結果だ。

 出久は気が抜けたように笑い、大きく息を吐き出した。

 爆豪に関しても文句の一つや二つ飛んでくるかと思いきや、舌打ちだけで済ませている。

 

 しかし全員が一番なんて、小学校の運動会だけの話じゃなかったのか。

 まあ何にせよ、1位には変わりない。

 

 二人との決着は次の競技に持ち越しだ。

 

「とりあえず、お互いおめでとう?」

「はは……そうだね、おめでとう」

「んっ」

 

 出久が拳を突き出してきたので、私もグーを出してコツンと当てる。

 

「次こそは俺が単独の1位だ」

 

 そんな私たちに爆豪は背を向けて、スタジアムの壁際にもたれ掛かりながら目を閉じた。

 個性を含めた身体能力に、それをコントロールする為の集中力も全力で行使していたから、次の競技までに多少なりとも回復させるのだろう。

 私は個性上そこまで体力を使う訳ではないけれど、確実に消耗はしている。

 出久も少し息を切らしている中、全く息が乱れていない爆豪は流石のタフネスだ。

 

 さて、後ろを気にせず来たせいで後ろはようやく第二関門を突破した生徒が出てきた辺りか。

 

 モニターで観戦しながら、体力の回復に努めよう。

 

 実況が後ろの生徒たちの状況を解説するのを聞きながら、私は競技の終了を待っていたのだった。

 

 

 

 

「凍夏ァアアア!!!! 出久ゥウウウ!!!! よくやったァアアア!!!!!!」

 

 

 …………何か聞いた事があるような男の声が聞こえた気もするけど、気にせず競技の終了を待っていたのだった!

 

 ちなみに通報しようとして、出久に止められたのは余談。ちっ。

 

 




爆発さん太郎「聞いてた話と温度差ありすぎだろ」
困り顔の出久くん「意外と親馬鹿なんだよね……」
話の続きを知らないミイラマン先生「(普通に親馬鹿っぽいんだが、化けの皮を被ってるのか?)」

 オチで全部持っていきたかった。

 本編に関してはそりゃあ無双になるよね、っていう。
 本家焦凍くんにもエンデヴァーが言ってましたが、炎さえ使えば体育祭でぶっちぎりのトップになると思います。
 出久くんは個性のコントロールと上限が本家の数段上だし、爆豪もウォーミングアップして本気も本気モードなのでこれぐらいの差は出来るだろう、という思いでの展開でした。
 
 結局最後の叫びは誰なんでしょうね?(すっとぼけ)


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13.5:障害物競走:飯田・八百万の思い。

 
 感想ありがとうございます。例の人の人気にオリ主ちゃんもにっこり(ただし黒い笑み)

 早めに閑話を。三人称視点。
 タイトル通り、というより出久たち三人への評価的なもののまとめ。


 轟凍夏、緑谷出久、爆豪勝己の三人がスタートダッシュを決めてトップに躍り出ているのを、他の生徒たちは走りながらもしっかり見ていた。

 

「ってぇー!! 凍った!!」

「動けん……!! てか寒みー!!」

 

 氷を生き物のようにうねらせて進む凍夏の余波に巻き込まれてしまったものもそれなりにいて、全体的にゲートを抜けるまでに多少なりとも時間を使ってしまう。

 そんな中、巻き込まれる予測をしていたA組の面々や、他クラスの一部の精鋭は一足先に駆けていく。

 

「最初からフルスロットルかよ!!」

「やはりあの三人は判断力がズバ抜けているな……!」

「速度が落ちませんわね……っと!」

 

 トップを追いかける第二集団の先頭が、第一関門のロボ・インフェルノにたどり着いた。

 しかし、ただでさえ密集して通り抜けるのが困難だというのに、凍夏の氷や出久と勝己が破壊したロボの部品で間が埋まっていて、上手く通り道が確保できない。

 

「おっと、悪いけど俺は先に行くぜ!」

「成る程、便乗させてもらうぞ。黒影!」

「アイヨ!」

 

「皆さん! 一旦協力して道を開きましょう!」

「ああ、分かった!」

 

 しかし上を行ける者は上へ、一人での攻略が難しいと判断した者は一時的に協力して活路を開く。

 その動きが早い者は、やはりA組が多い。

 

 だが決して晴れた表情はしておらず、必死だったり真剣な表情で前に進んでいる。

 

 1-A全員の意識は、遥か先を行く三人に向けられていた。

 

 

 緑谷出久。

 柔らかい表情は少し頼りなくも見えるが、実戦となるとしっかりしている緑髪の男子。

 

 爆豪勝己。

 柄が悪く粗暴な態度だが、戦闘の才能は間違いなくクラスでトップの金髪頭の爆発系男子。

 

 轟凍夏、感情の起伏は小さめで儚げな印象とは裏腹に、氷と炎で相手を圧倒する紅白髪の美少女。

 

 

 誰も声に出してはいないが、クラスの総意としてこの三人は今の自分たちより何段階も上にいると思わせるものを持っている。

 

 

 

 始めに出久。

 自他共に認める地味な見た目とは真逆の派手な増強系の個性持ち。

 最近まで個性の制御が出来ていなかったが、USJ襲撃事件で感覚を掴んだようで、既に肉体を壊さずに使うコントロールを身に付けている。

 その事実が発覚した体育祭前の救助訓練では、ヴィラン役に扮したオールマイトを極僅かな時間だが押し留める程の制御域に達していた。

 

 そして特筆すべきは、個性以外の評価だ。

 まだ凍夏に爆豪、麗日と飯田しか知らない事実ではあるが、出久はこの春まで無個性として過ごしている。

 個性が無いハンデを補う為に、彼は今まで多くのものを積み上げてきた。

 エンデヴァー指導の元での肉体強化は勿論、組み手などで戦闘の駆け引きを学び、自分に最も合った戦闘スタイルを習得したり。

 様々な個性についての勉強を行い、考察によってその都度自分の動き方をどうするか考えたり。

 出久の頭には膨大な量の個性や戦闘に対する知識があり、かつ彼はそれを活かす事が出来るようひたすらに努力を怠らなかった。

 

 他の二人と違い、飛び抜けた才能はない。

 けれど、貪欲に努力をし続ける力だけは誰にも負けない部分だ。

 努力を意味するヒーロー名を持つエンデヴァーをして、努力の天才とまで言わしめた。

 それが彼、緑谷出久という男だった。

 

 

 次に爆豪。

 言動や立ち振舞いの悪さはA組の中どころか、下手をすれば全国のヒーロー科の中で最も酷い可能性すらある男。

 入学直後の戦闘訓練以降、とある理由より多少はマシにはなったが、それでもまだヒーローと呼ぶには程遠い輩といえる。

 そんな態度とは裏腹に、成績面で言えば常にトップクラスの実力を持っているのが爆豪なのだ。

 入学首席の座を取った事からも分かるが、非常に優秀な頭脳に身体能力、そして個性を持っている。

 

 個性「爆破」

 変異した掌の汗腺からニトロのような汗を出し、自在に爆発する力。

 一見で強力なのが分かるそれを、爆豪は圧倒的なセンスを持って使いこなしている。

 何でもないように爆破の勢いで飛行したり、大きな爆発を起こしたりしているが、どちらも体重や身体の向き、タイミングなどの調整がとても難しいものだ。

 見てから動ける反射神経も合わさり、相手の動きに即座に対応して判断出来る力がある。

 

 彼に対して才能マンという言葉を上鳴が使っているが、その表現はまさしく正しい。

 爆豪の才能はそれこそ戦闘面にのみならず、あらゆる分野で飛び抜けている。

 中でも戦闘においては一層際立っており、戦う度にどんどんと洗練されていた。

 そんな彼の凄さが言動で台無しになっているのは、本人が直す気もなさそうな以上どうしようもない。

 

 

 最後に、凍夏。

 普段はほわほわとしていて、街中を歩けば100人の通行人が男女問わず全員一度は振り向いてしまう程の儚げな美少女。

 左目周辺に大きな火傷の痕があるが、端麗な顔とのアンバランスさがむしろ調和を生み出している、とは八百万の弁だ。

 四枠しかない雄英高校推薦入学者の一枠を掴みとる程の優秀さでありながら、それを一切鼻に掛けていない。

 父親がNo.2ヒーローである為に家も裕福で、一般的にはお嬢様と呼ばれる部類に入る。

 

 そして個性の「半冷半燃」

 身体の右側で氷結を、左側で炎熱を操る。

 幼い頃から左右どちらも鍛えてきたそれは、個性把握テストで見せた精密な動作も、初の戦闘訓練で見せた広範囲に及ぶ高火力も兼ね備えている。

 派手さも強さも右に並ぶ者は居ないのではないか、とまで思わせる強個性。

 これはひとえに個性婚によるものではあるが、本人は既に自分の力だとしっかり認識しているので問題ない。

 

 更に、鍛えられているのは個性面だけではない。

 個性を十全に扱う為に肉体も鍛えており、見た目の柔らかそうな肉付きからは考えられない程、身体が引き締まっている。

 出久にも言える事だが、無駄のない筋肉の付け方は彼女の父親の指導の上手さによるものだ。

 まあエンデヴァーに良い印象を持っていない凍夏は、それを口に出して認めはしないだろうが。

 

 個性も家柄も才能も、全てを持って生まれてきた女の子、轟凍夏。

 その彼女が努力を怠らずに来た今、正面からまともに戦えそうなのは、現状のA組では出久と爆豪だけだった。

 

 

 

 三人を見据えるA組の心情は、穏やかなものではなかった。

 同じ歳で、同じ高校で、ここまでの実力がある彼女たちに敬意を示すと共に、差が大き過ぎる事にそれ以上の悔しさを感じている。

 

 それが最も顕著なのは、八百万と飯田だった。

 

 先に、八百万から。

 

 凍夏と同じ推薦入学者で、個性把握テストでは彼女たちの上に行ったものの、今の自分が三人より優れているなどとは毛ほども思っていなかった。

 個性柄、知識だけは誰にも負けない自信がある。

 それでも実戦に活かしきれているかと問われれば、即座に首を横に振るだろう。

 戦闘訓練から始まりUSJ襲撃事件まで、出久や凍夏は冷静に判断をしてワープ後も敵を無力化したり、爆豪も咄嗟に動いて敵の起点を抑えていたと聞いていた。

 八百万も動けば同じように出来る力はあっただろう。

 

 けれど、彼女は動けなかった。

 黒霧に飛ばされた先で絶縁シートを作る発想こそ出来たが、目に見える範囲の敵を倒した後に油断して上鳴を人質に取られるという愚行を犯してしまった。

 スナイプが間に合わなければ、きっと八百万は心に傷を残す程の酷い目に遭っていたに違いない。

 自身の不甲斐なさを嘆く八百万に、入学直後の自信は全く残っていなかった。

 

 実際の所、出久や凍夏はNo.2ヒーローの教えあっての動きで、爆豪に至ってはセンスよりも性格によるものなので、この差は仕方のないものではある。

 しかし、それを飲み込める程八百万は成熟していなかった。

 

 

 そしてそれは、飯田も同じ。

 

 入試の時から出久の行動に目を向けていた彼は、友として尊敬すると同時にライバル視していた。

 救助ポイントの仕組みに気づいてお茶子を救ったのだと考えていたが、初日に教室で聞けばそんな事は無く、ただ考えるより先に身体が動いていたと言う。

 試験という場なのにも関わらず迷いなく人を助けに行く出久に感銘を受け、こういった友と学べる雄英に来られた事を感謝した。

 

 しかしそれからと言えば。

 戦闘訓練では爆豪の暴挙があったとはいえ、エンジンの個性故に核を持って時間までは逃げきれるかと思っていた。

 けれど出久と彼の指示下に付いたお茶子の二人に、閉所での動きを完璧に読まれて捕獲されてしまう。

 後に聞けば直線的で分かりやすかったと言われ、精進が必要だと感じた。

 委員長決めでもやりたい自分を抑えて出久へ投票したが、昼休みのマスコミ侵入沙汰の行動を理由に委員長職を譲ってもらったというのに。

 USJ襲撃ではいち早く対応した出久と凍夏の指示に従うのみで、自分は先生や皆に促されるまで自発的な行動が出来ない始末。

 とどめに凍夏と出久の過去話を聞いて、友人たちが自分の何歩も先を進んでいるのだと、自覚せずにはいられなかった。

 

 八百万は凍夏に。飯田は出久に。

 友人がどんどん成長する中で、二人は己が不甲斐なさに下を向きそうになっていた。

 

 

 そんな彼女たちの目を覚まさせたのが、爆豪の存在だ。

 

 戦闘訓練で醜態を晒して以来、言動は変わらずともあらゆる姿勢が良い意味で前に進む方向へ変化した風に見えた。

 USJでの先制攻撃といい、普通科からの宣戦布告に対する態度といい、向上心の塊とも言える一面がどんどんと表に出ている。

 事実、今も凍夏と出久に並び立って1位を争っているのは彼だけ。

 選手宣誓もそうだ。下を向きかけていた自分たちを強制的に前に向かせるだけの勢いと圧力があった。

 

 爆豪にそんなつもりはなかったかもしれない。

 けれど結果として、八百万も飯田も早く友人の背中を追いかけて、追い付こうと強く思えるようになったのだ。

 

 ヒーローになる為に、こんなところで躓いてはいられない。

 

 

(今は、今はまだ轟さんの後ろに居るとしても!)

(俺は、僕は緑谷君に置いていかれる訳にはいかない!)

 

((最高の友人で、最高のライバルであると胸を張るためにも!!))

 

 

 まだ見えぬ背中に追い付く為にも。

 

 まずはこの関門を乗り越えていこうと、改めて気合を入れたのだった。

 

 

 途中で気合が空回ったせいで、八百万は峰田に引っ付かれたり飯田は地雷原で手こずったりしたが、そこはご愛嬌である。

 

 

 




 今作ではオリ主、出久、爆豪がA組のスリートップの立ち位置です。
 彼らの背を見て置いていかれまいと努力するクラスメイトたち。
 飯田や八百万は特に優秀なので、その想いが強いのです。


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14:らしくないけどらしい騎馬戦。

 
 感想ありがとうございます。
 当たり前ですが競技中は甘え描写が書けないので甘々不足気味。けど隙あらば甘えさせます。

 今週のジャンプの自信のある感じの出久くんが、今作出久くんのイメージとぴったりで悶えました。カッコいい!

 それでは騎馬戦回。
 


 暑苦しい父親らしきナニカの存在を記憶から消去した頃合い。

 スタジアムへ帰ってくる生徒たちがちらほらと現れだした。

 B組の男女の後に機動力の高い飯田や常闇、瀬呂などが来て、続く人もA組B組のヒーロー科がおおよその割合を占めている。

 例の宣戦布告した普通科男子の姿もあったので、やはり実力はあるらしい。

 見たところそんなに身体を鍛えているようには見えないが、個性が強力なのだろうか。

 

『さあ! トップがあれ過ぎて実況が上手くいかなかったが続々とゴールインしてるぜ!! 1位以下の順位は後でまとめるからとりあえずお疲れ!!』

『実況が上手くいかなかったのはお前がトロトロしてたからだろ』

『こいつぁシヴィー!!!!』

 

 解説の二人が漫才しているのを聞き流しながら戻ってきた生徒たちを見ていると、たったかたったかと足音が近寄ってきた。

 

「デク君、凍夏ちゃん……めっちゃ速かったね!」

「この個性で遅れをとるとは……やはり僕、俺はまだまだだな……」

「麗日さん、飯田くんも」

「お疲れ様、お茶子」

「凍夏ちゃんもおつかれさまー……やっぱ二人ともすごいねえ! 1位おめでとう!」

「ありがとう、頑張った」

「シンプルや! でも真理だよね!」

「うん……うん?」

「うん? あ、八百万さんめっちゃフラフラしとるね」

 

 麗日たちと話している途中、やけにボロボロの八百万が視界の端でフラフラとしているのが見えた。

 どうしたのかと思えば、背中……というかお尻にボコボコの峰田が頭のやつで引っ付いている。なんだあれ。

 

「一石二鳥よ! オイラ天才!!」

「くぅ……こんなハズじゃあ…………サイッテーですわ!!」

 

 ……成る程、どんな障害も安定して通れる八百万に寄生した感じか。

 それもありだとは思う。体力を使わない頭の良い方法だ。

 

 けど、それはそれとして。

 

「えい」

「えっ」

 

 八百万を巻き込まないように峰田を氷結させて、炎で彼女から分離する。

 その場に更に氷結で固定し、峰田のオブジェが完成した。

 息だけは出来るから、まあ死にはしないだろう、多分。

 

「大丈夫?」

「は、はい。申し訳ありません…………けれど轟さんの手を煩わせずとも、自分で何とかしましたのに」

「友達でしょ。手助けぐらいするよ」

「ーーっそっ、そうでしたわね! ありがとうございますっ!!」

「うん」

 

 ぱぁっと表情の晴れた八百万に、ぎゅっと手を握られる。

 こうも嬉しそうにされると、こっちも嬉しくなるから良い。

 多分出久たちにも微笑ましげに見られている事に気づいてないんだろうけど、八百万のこういう所は嫌いじゃない。

 あ、気づいて顔を赤らめた。可愛い。

 

「轟さん、()()()()()()()には溶かしてね」

「はい」

 

 ミッドナイト先生にも言われたので、()()()()()()()()あれは放置しておこう。

 

 

 それから普通科やサポート科の生徒たちも戻ってきて、何かしらでリタイアした者以外がスタジアムに揃った辺りで障害物競走の終了が告げられる。

 峰田を解凍しながら聞いていると、42位までが予選通過だと開示される。

 そういえば上位何名が第二種目に進めるかは言われてなかったっけ。

 私たち1位三名と、4位の塩崎というB組女子に始まり42位の青山までが予選通過になる。

 その青山はお腹を押さえてぷるぷる震えているけど、大丈夫なのか。

 ともあれ、A組は全員通ったらしくて良かった。

 

 さて、いよいよ次からが本選だ。

 はりきって司会進行を務めているミッドナイト先生が宣言する。

 

「さーて第二種目よ!! 私はもう知ってるけど~~~~……何かしら!?」

 

 彼女の背後のモニターからドラムロールのような音を鳴ったかと思えば、『騎馬戦』の文字が表示された。

 

 二種目は個人競技ではないらしい。爆豪が露骨に舌打ちしたのが聞こえた。

 

「参加者は2人から4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ! 基本は普通の騎馬戦と同じだけど、一つ違うのが先程の結果にしたがい各自にポイントが振り当てられる事!!」

 

 騎馬戦のルールが説明されている中、私は騎馬戦の例の図に気を取られていた。

 なんで優に200kgを越えていそうなオールマイト(後に聞いた出久ぺディアによると現在255kg。全盛期は274kgだったとか)が騎手で、13号先生とスナイプ先生、プレゼント・マイク先生が騎馬をしているんだろう。

 確かに騎手は強いかもしれないが、明らかにバランスが悪いと思う。

 突っ込みたかったけど、色々な考察でざわめく生徒をミッドナイト先生が黙らせているタイミングだったので、無理そうだ。

 

「そして与えられるポイントは下から5ずつ! 42位5ポイント、41位が10ポイント……といった具合よ」

 

 なら1位は210ポイントか。

 結構細かい計算をして騎馬を――

 

 

「そして1位に与えられるポイントは、1000万!!!!」

 

 

「えっ」

「いっ!?」

「へぇ?」

 

 ……まさかの桁が跳ね上がった。芸能クイズ番組みたい。

 

 ぽかんとする私、目を丸くする出久、面白げに口を歪ませた爆豪。

 私たち三人に、他の生徒の視線が集中する。

 

「……の、つもりだったんだけど、1位が三人という事で、一人333万ポイントに変更します!!」

 

 視線は減らなかったがポイントはちょっと減った。けど誤差の範囲内だと思う。

 1万ポイント分は無かったことにされたらしい。割り切れないから仕方ないけれども。

 

「そんな訳で、上位の奴ほど狙われちゃう……下剋上サバイバルよ!!! 上に行く者には更なる受難を! 雄英に在籍する以上何度でも――」

 

 

「待てや審判」

 

 

 説明するミッドナイト先生の言葉を遮って、爆豪が口を挟む。

 何かを企んでいる……というか良いことを思い付いたと言わんばかりの悪い顔だ。

 

「ちょ、ちょっと、まだ話の途中……」

「本来なら1位は1000万なんだな? なら話は簡単じゃねえか……デク、轟、俺の馬になれ」

 

「……えっ」

「……あー、成る程」

 

 爆豪の爆弾発言に、会場がざわめき始める。

 出久は納得したらしいが、私には意味が分からないし、爆豪らしくないとしか思えない。

 この男、さっき私たちに次は単独一位とか宣言してこなかったか。

 

「凍夏ちゃん、かっちゃんはポイントを分散するのが気に食わないんだよ」

「1位の価値が下がるよりは、テメェらと組んで格の違いを見せつけた方がマシだ」

「……そういう事ね」

 

 それなら確かに爆豪らしい。

 確実にトップに君臨し続ける気な態度に少し呆れるが、こいつの気持ちは分かった。

 馬になれ、なんて言い方と下にする前提なのが多少気に食わないけれど。

 

 その提案に乗るのは、悪くない。

 

 出久を見れば異論無さげに頷いたので、私も頷き返した。

 

 

「私は構わないよ」

「やろうか、かっちゃん」

 

「はっ! っつー訳だ審判、これで1位の騎馬は1000万で文句ねえな」

「勝手に決めないの全く…………けど、そういう青臭いのは、好み!!」

 

 決定事項のように告げる爆豪にミッドナイト先生は溜め息を吐いたが、それはそれで面白いと思ったのか笑みを浮かべながら鞭を振るう。

 今更だけど、結構主審の自由に出来るのか。

 

「という訳で、1位が全員同じチームになったので、そこを1000万ポイントとします!! あ、後一人入れるけどその場合は別にプラスになるわ!!」

 

 そういえばチームは四人までか。

 今のままだと出久が前衛で私が後衛だろうけど、騎馬を安定させる為にはもう一人ほしい所ではある。

 ただ、この間違いなく狙われるチームに入ってくれる猛者が現れるかどうかは別として。

 

 そこからミッドナイト先生が細々としたルールを語ってくれた。

 制限時間が15分。騎手はそのチームの合計ポイントの表示されたハチマキを着けてそれを奪い合う。

 0ポイントでもアウトにはならないらしいので、かなりの混戦が予想できる。

 個性もありらしいが、あくまでも騎馬戦なので悪質な崩し目的なのは一発退場になる。こら爆豪、舌打ちしない。

 

 けどまあ、だとしてもこのルールなら。

 

 

「それじゃ、これより15分! チーム決めの交渉スタートよ!」

 

 

 私たちに、敗北はありえない。

 

 

 

 

 1位チームに入れてくれという猛者は居ないと思っていた……のだけど。

 

「凍夏ー! 私も入れてよ!」

「爆豪! 俺なら倒れねえ騎馬の力になれるぜ!!」

「一位の人! 立場を利用させて下さいな!!」

 

「人気だね」

「僕はともかく、凍夏ちゃんとかっちゃんが居るしね……」

「うるせえぞ!! 散れやクソ共が!!!!」

 

 

 わらわらとそれなりに人が集まってきている。

 狙われても勝ち抜けると思われたのか、売り込みが強い。

 安全パイとはまでは言えないが、逃げ続ければ勝てる騎馬なら、それはそれで楽ではあるし。

 爆豪がそんな消極的な策を取るかは別としても。

 

 確実に私たちと組む気が無いのは……何やら私や出久に強い視線を送ってくる八百万と飯田、後はB組に例の普通科男子ぐらいか。

 

 あと出久、その自分はともかくっていう言い方は好きじゃない。

 間違いなく私や爆豪より人望があるんだから、もっと自信を持ってほしい。

 

 こほん、今はそれよりこっちだ。

 

「どうするの?」

「んーと、かっちゃん?」

「こういうのはテメェの仕事だろがクソデク……!!」

「えっ、僕が選ぶの!?」

「要りそうなのが居ればだ!! 居なきゃ殺しとけ!!!」

 

 わらわらと人に募られてカリカリしている爆豪に怒鳴られた出久は、考え込むように手を口元に当てた。

 そのままいつものブツブツが始まるのかと思いきや、少ししてすぐに顔を上げる。

 

「よし、決めた! ……麗日さん! 良かったら僕たちと組んでくれないかな?」

「えっ!? わ、私でいいの?」

「うん。麗日さんの個性なら僕たちの騎馬の不安を消せそうなんだ」

「デク君……分かった、頑張る!」

 

 出久が集団の後方で控えめに主張していたお茶子を指名した。

 私たちの騎馬の不安と言えば……ああ、成る程。

 ベストは八百万だけど、彼女が誘えないならお茶子の個性がベターだ。

 

「凍夏ちゃんもよろしくね! 爆豪君も!」

「うん。頑張ろう」

「足引っ張ったら殺す」

 

 他が少し肩を落として去る中、お茶子が私と爆豪にも麗らかに挨拶する。

 すぐに死ねとか殺すとかいう爆豪、それ系のワード禁止したら喋れなくなるんじゃないだろうか。

 そういう個性が居たら試してほしい、などと考えていたら出久が微妙な目でこちらを見ている。

 私の思考が変な方向に行ってる時によく向けられる視線だ。以心伝心みたいでちょっと嬉しい。

 あ、呆れた顔になった。

 

 

 それから作戦を話し合っていると制限時間となって、他の騎馬もチームが決まったようだ。

 

 

『さぁ起きろイレイザー! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経てフィールドに12組の騎馬が並び立った!!』

『…………なかなか面白ぇ組が揃ったな』

 

 

 と、同時に実況が復活した。

 正直存在を忘れかけてた。相澤先生も寝ていたみたいだし。

 怪我が治ってないのだから無理はしないでほしい。

 何を考えてプレゼント・マイク先生は引っ張ってきたのか……と思ったが、本人には出来ないまともな実況に必要だったんだとすぐに思い至った。

 

 

『よォーし組み終わったな!!? 準備は良いかなんて聞かねえぞ!!』

 

 

 さて、始まるようだし、意識を切り替えよう。

 

 私たちの騎馬は騎手が爆豪。

 前衛が出久、左後ろがお茶子。

 そして右後ろに私。

 

 この布陣なら、私たちは負けない。

 

 

『行くぜ!! 残虐バトルロイヤルカウントダウン!!』

 

 

「凍夏ちゃん、最初はお願い」

 

『3!!!』

 

「任せて」

 

『2!!』

 

「かっちゃんと麗日さんも、準備しててね」

 

『1……!』

 

「指図すんなわーっとるわ」「っうん!」

 

 

『START!』

 

 

 さあ、騎馬戦を始めよう。

 

 

 

 

『さァ! スタートと共に1位の騎馬が一斉に狙われて……オォオオ!!?』

『マジで加減抜きだな……』

 

 

不動氷陣(ふどうひょうじん)

 

 

 スタートの合図と同時、私は右足を中心として広範囲氷結を繰り出した。

 予測して避けようとした騎馬もいたが、私には関係ない。

 

 

「よ……容赦ねぇ…………」

「くっ……こ、これは排気筒(マフラー)どころか……」

「ゆ、指一本、動かせませんわ……!」

 

 

 騎馬戦のフィールド内に居る全ての騎馬のメンバー全員を、首の下まで氷結する。

 

 大規模氷結と精密な制御を必要とするが、周囲を囲まれた時に一気に拘束出来る、USJでも使った私の技の一つだ。

 しかもあの時より、氷の密度を高くしている。

 芦戸の酸や青山のレーザーでも暫くは突破出来ない筈。

 流石に私たちの騎馬も少し凍っているが、そこは炎で溶かせば問題なし。

 

 ちなみにそれっぽい技の名前は、個人的に考えたもの。

 後に出久から「常闇くんが喜びそうな名前だね」と言われた。どういう意味だろう。

 

 炎を調節しながら自分たちに付いた氷を溶かしきったので、皆に伝える。

 

 

「よし、動けるよ」

「うん。それじゃあ麗日さん」

「らじゃー!」

 

 

 お茶子が自分を除く三人に触れて、重力を無くす。

 これで準備は全て整った。

 

「オッケーだよ皆!」

 

 

「んじゃまあ……死にさらせや!!」

 

 

 物騒な言い方はさておいて、私たちは他のチームへと駆け出した。

 

『オイオイオイオイ!!? 爆豪チーム、轟がエリア内の騎馬どころか地面まで全部を凍らせたと思ったら、他のチームのハチマキを取りに行ったぞ!? 守りに入るどころか超攻撃的じゃねえか!!』

『選手宣誓で言ってただろうが。完膚無きまでの一位を獲るって』

『そーゆーことか!! 向上心高過ぎんだろ!!!』

 

「くっ、黒影!」

「ア、アイヨ!」

「しゃらくせぇ!!」

「ヒャン!?」

 

 幾人か動ける者が居ても、爆豪ならば心配は要らない。

 これでも、こいつの戦闘センスは認めている。

 一対一でこの男に勝てる相手は、私の見立てでは居なかった。

 

「ば、爆豪来たぜ!」

「くぅ、間に合わない……上鳴さん!」

「ぐぐぐ……む、無差別放電……130万ボルト!!」

 

 おっと、それでもこの騎馬だけは要注意だ。

 切島が騎手で、前から飯田・八百万・上鳴のチーム。

 対電気に対しては、流石に私たちも防ぎようがない。

 けど、その時の為のお茶子の個性だ。

 

「飛ぶよ! フルカウル、20%!!」

 

 出久が騎馬ごとジャンプして、広範囲の放電を避けた。

 お茶子一人分の重量なら、出久の個性で十分な高さへ飛び上がれる。

 着地は私の炎の推進力を使い、なるべく勢いを殺す。

 まだ放電の危険性はあっても、避けられるのを警戒して簡単には使えなくなった筈。

 ……いや、もう気にしなくても良さそうだ。

 

 

『圧倒的!! 爆豪チーム、凍らせた騎馬からどんどんハチマキを奪っていくゥ!!!! しかも今の上鳴の放電が氷から伝わって他の騎馬全部シビれてんじゃね!!?』

『苦し紛れの攻撃が逆に爆豪チームを有利にさせちまったな。焦った切島チームの失態だ』

『いやいや、マジで全獲りあんぞこれ!!』

『実況が遅い。見てみろ』

 

 

「ぐっ……畜生……!」

「はっはぁ!!! これで、最後ォ!!!!」

 

 絶縁シートが間に合わず、痺れた切島から爆豪がハチマキを奪う。

 

 試合時間はまだ5分と経っていない。

 けれどこれでもう、12チーム全部のハチマキが揃った。

 見渡す限り、どのチームにも動く気力は無さそうだ。

 爆豪もそう思ったのか、ミッドナイト先生へハチマキを突き出して叫ぶ。

 

「オラ審判! 俺らの勝ちで終われや!!」

「……そうね、これ以上は時間が勿体無いか。オーケー! 第二種目騎馬戦!! 爆豪チーム1位で一旦終了!!!」

「しゃあああああ!!!!」

 

 主審の宣言と爆豪の雄叫びに、どういう展開になるのかとざわめいていた会場のボルテージが一気に沸き上がった。

 こういう言い方はあまり好きではないけれど、格の違いを見せつけるような戦いばかりになってしまった。

 

『圧倒的!! もう一度言おう、圧倒的ィ!!! 第一種目に引き続き、轟、緑谷、爆豪の三名が、他を寄せ付けない圧倒的な力で最終種目進出ゥゥ!!!!』

『うるせぇ……轟、早めに氷を溶かしとけ』

「はい」

 

 先に騎馬を崩してから、凍らせた騎馬をフィールドごと熱で溶かしてゆく。

 動けるようになった皆は、一様に悔しそうな顔で項垂れていた。

 何か言おうにも、勝者の私たちに掛けられる言葉は無い。

 出久も同じ思いなのか、少し辛そうな顔をした後、私やお茶子に向き直った。

 

「凍夏ちゃん、麗日さん、お疲れ様」

「うん、出久もお疲れ」

「お疲れさまー……何か私そんなに役に立ててない気がするけど……」

「何言ってるのさ、上鳴くんの放電は麗日さん無しじゃ避けれなかったよ」

「そっ、か。うん、ありがとうデク君!」

 

 

「さて! それじゃあ爆豪チームは一抜けとして……残りの11チームでもう一度騎馬戦をやります!!」

 

 お互いの頑張りを称えあっていると、ミッドナイト先生が他の生徒たちへと宣言している。

 流石に最終種目が四人だけなのは少なすぎるから、救済措置といったところか。

 

 私たちは先に休憩に入って良いとの事で、気合いを入れ直している皆を横目にスタジアムを後にしようとした。

 

 

「おい」

 

 

 けれど爆豪に呼び止められて、出久やお茶子も振り返る。

 

「どうしたの? あ、かっちゃんもお疲れ様」

「あんな程度で疲れちゃいねえよクソが。それより、次だ」

 

 騎馬戦で圧倒した事すら歯牙にもかけず、先を見ているらしい爆豪。

 次の最終種目。内容は変われど、毎年個人戦をやっている。

 

 

「テメェら全員ぶっ倒して、そんで俺がトップだ」

 

 

 瞳をギラギラさせながらそういう爆豪に、出久も負けじと言い返す。

 

 

「僕も今までとは違う……全力でかかってこい!」

「はっ、上等だ……!」

 

 

 挑発的な笑みで告げられた出久の言葉に、凶悪な笑顔を浮かばせた爆豪。

 真っ当なライバル、そう見える二人は楽しそうだった。

 

 ちなみに私は特に何も言う気はないので、居心地が悪そうなお茶子の隣で終わるのを待っている。

 

「な、何か私、場違いだなぁ……」

「気にしなくていいと思うけど」

「う、うん……って凍夏ちゃんは気にしなよ!?」

「わ」

 

 そんなに大声で驚かなくても。

 確かにさっきから、何か言いたげな出久と爆豪の視線を感じなくもないんだけど。

 始まる時に言ったし、何度も意気込むのは性に合わない。

 

 けれどまあ、今日ぐらいはそういうのもありか。

 私は二人に向き直り、真っ直ぐ目を見て気の強い感じの笑みを浮かべる。

 

 

「私も負けな――」

 

 

 そして言葉を言いかけた所で。

 

 くぅー、と、私のお腹が鳴った。

 

 

「「「…………」」」

 

 

 出久も、お茶子も、爆豪さえも何とも言えない顔をしている。

 

 うん、流石にタイミングが悪かった。

 

 けど、とりあえず一言。

 

 

「ご飯食べに行こう」

 

 

 結構体力を使ったから、お腹が空いた。

 

 そう言うと出久と爆豪は脱力したように肩を落として、お茶子は吹き出した。

 

「まじでか凍夏ちゃん……!」

「ンだコイツ……!」

「めっちゃマイペースや!!」

 

 締まらなかったのは、反省してます。

 

 

 




 オリ主ちゃん、真面目な時もマイペースの化身。

 ちなみに実際は氷は電気を通しにくい物質らしいです。
 水の時から言える事ですが、中に混ざった不純物があるから通電しやすいというだけで、不純物が無ければ逆に通しにくいとか。
 今作では氷を通じての部分もありますが、そもそも上鳴の放電範囲が広かったのも通電の原因になってます。マイク先生の実況は半分正解半分間違いみたいな感じ。
 


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15:考察とお昼休憩/No.1とNo.2のお茶。

 
 感想・評価ありがとうございます。
 前半はオリ主視点、後半は第三者視点です。


 出久たちとお昼ご飯を食べに行く途中、皆の騎馬戦が校内のモニターに映っていたので少し見学する。

 別行動すると思われた爆豪も、一瞬たりとも見逃さないと言わんばかりに視線を固定させていた。

 出久のノートの件といい、周りをよく見るようになっている。

 

 1000万という突出したポイントがない中、切島チームや常闇チームがかなりの奮闘を見せて上位に食い込んだ。

 B組も物間という男子や、以前教室前に来ていた鉄哲という男子が頑張っていたのだが、残り一分を切った辺りで例の普通科男子……心操に無防備な状態でポイントを獲られていた。

 相手の動きを止めていたように見えたが、身体能力に干渉するタイプの個性なのだろうか。

 

「かなり強いね、心操くん」

「出久、分かったの?」

「十中八九洗脳系だよ。多分身振りじゃなくて言葉で発動するタイプだね。音声が聞き取れないから確実にとは言えないけど、B組の物間くんや鉄哲くんは何かしら言葉でのアクションをしてから無防備になってる。答えた相手の身体の自由を奪う個性、が今のところ有力かな」

 

 つらつらと推論を述べる出久だが、内容はかなりのものだ。

 一緒に聞いていたお茶子が、顔を青くしながら口を押さえて声を搾り出す。

 

「そ、そんなん初見殺し過ぎるよ!?」

「うん、敵に対してもこれ程有用な個性もそう無いね。やり方次第では、立て籠り犯相手に無血開城すらさせられる」

「成る程なァ。()()()()()()()()()()()()()()()かもしれねぇってか」

「……そうだね」

 

 人相手なら無敵に近くとも、無機物のロボには無力な可能性が高い。

 入試内容が違えば、彼はヒーロー科だった可能性もあったのか。

 

「だとしてもあのモヤシみてえなガタイじゃあな。身体資本のヒーローにゃなれねぇよ」

「かっちゃんってば……そんな言い方」

「はっ! 個性無しでヒーロー目指して血ィ吐きながら鍛えてたテメェがあのモブを庇うのかよ」

 

 嘲笑う爆豪が発した言葉に、出久が固まる。

 

 いや、私も驚いた。

 だって、それはよく聞かなくても罵倒になっていない発言で。

 

「…………かっちゃんに褒められたー!!?」

「あ? …………褒めてねぇよ馬鹿にしとんだクソが!!!!」

「照れ隠し下手くそか!」

「黙っとけや丸顔ォ!! 半分女もウゼェ顔してんじゃねえ!!」

「まあまあまあ! 落ちついて!」

 

 吹き出した麗日や温かい視線を送っていた私に、詰め寄ろうとする爆豪を出久が制止する。

 なんだか、こんなやり取りが最近増えてきたように感じる。

 爆豪が馴染んできたなら、出久にとっては嬉しい事だ。

 

 

 そんな事をしているうちに騎馬戦が時間いっぱいになり、上位3チームが決まる。

 

 1位が切島チーム。切島、飯田、八百万、上鳴。

 2位が常闇チーム。常闇、芦戸、瀬呂、サポート科の発目という女子。

 3位が心操チーム。心操、尾白、青山、B組の庄田という男子。

 

 以上の12人が勝ち上がって、最終種目への進出を決めた。

 ここまで上がってきた誰もが油断出来ない相手ばかり。気合を入れていかないと。

 

 結果を見届けた私たちは改めて食堂に向かい、ランチラッシュの美味しいご飯を食べる。

 今日は蕎麦だけでは少し物足りないと思ったので、小さなカツ丼も付けた。

 出久もカツ丼を頼んでいたので、お揃い。

 こんな小さな事でも幸せを感じるのは、少し浮かれ過ぎているのかもしれない。

 

「……なんだろね爆豪君。最近凍夏ちゃんの考えがなんとなく分かるようになってしもたわ」

「知るかよ黙って食え」

「てかそれ赤すぎちゃう? 辛くないん?」

「辛くねえつか黙ってろっつったろが!!」

 

 お茶子が何か爆豪に話しかけて怒鳴られている。

 この子もなんだかんだと度胸がある。いや、ヒーロー科なのだから当たり前かもしれないけど。

 

 それより、爆豪が一緒にご飯食べてる方が驚きか。

 まあ私が聞いたところで、怒鳴り声しか返ってこないから聞かない。

 多分、下手に知らない人と近くに座るよりは良い的な感じだろうし。

 

 二人を横目にサクサクのカツをもぐもぐしていると、競技を終えた他のクラスメイトたちも食堂にやって来た。

 皆は私たちを見つけると、周りに寄ってきながら周辺に席を取り始めた。

 

 

「あれ? 1位グループまだご飯食べてんのか?」

「うん、皆の試合見てたからさっき食べ始めたところなんだ」

「成る程な、って爆豪も!?」

「あぁ!? 文句あんのかクソ髪!!」

「いや意外だったからさ! それと切島だよそろそろ覚えろ!! つかおめーの頭もそんな変わんねーからな!?」

「五十歩百歩……」

「もしくはドングリの背比べだな」

 

「お茶子ちゃんおめでとう。圧倒的だったわね」

「浮かしただけなんやけどね……けど上鳴君対策に役立てたよ!」

「本当に……麗日さんが居なければ多少は足止めになったかもしれませんのに……いえ、それ以前に私の判断ミスなのですけれども……」

「八百万、影背負ってる?」

「さっきからこの調子だよ。凍夏たちに何も出来ずに負けたのが堪えたみたい」

「てかやっぱり凍夏ちゃんクソ強いや! 手も足も出なかったよ!」

「私の酸で溶けないってどういう事なのさー!?」

「密度を上げたの。時間を掛ければ溶けたと思うよ」

「どれぐらい!?」

「…………たくさん?」

「タクサン!」

「凍夏ちゃんそういうとこあるよね」

 

 

 人数が増えて、賑やかになる私の周り。

 体育祭のお昼休憩って感じで、なんだか楽しい。

 

 出久を見れば、彼も楽しそうにしていて。

 私の望んでいた学校生活が実現した事を、素直に嬉しく思う。

 

 ふと、出久と視線が合った。

 

 きっと笑っていた私に、彼も笑い返してくれる。

 

 午後に向けて、改めて気合が入った一時だった。

 

 

 

―第三者視点―

 

 

 雄英体育祭の昼休憩で1-Aの生徒たちが食堂で談笑していた頃。

 轟炎司……ヒーロー名『エンデヴァー』は一人でスタジアム内の通路を歩いていた。

 身体に炎を纏っている彼は威圧感があるので、話しかけてくるものは殆ど居ない。

 十年前に比べれば性格はかなり穏やかになったのだが、対外的にはそこまで圧力が抜けきれていないのが原因だろう。

 とはいえ、この場所にはそれを気にしない者がいる。

 

「よっ、久しぶりだな! お茶しよ、エンデヴァー!」

 

 聞き慣れた、とは言っても日本に住んでいる者なら誰でも聞き慣れている声に振り向けば、そこにはNo.1ヒーローが居た。

 

「……オールマイトか、良いだろう」

「……えっ、いいの!?」

 

 誘ったにも関わらず驚くようなリアクションをするオールマイトに、エンデヴァーはついカッとなる。

 

「貴様が誘ったんだろうが!! 冗談なら去れ!!」

「いやいやいや! ちょっと驚いただけさ! 行こう!」

「……ちっ」

 

 慌てたように手を振り親指を立てるNo.1ヒーロー。

 お茶目さが目立つ態度に、真逆の性格のNo.2ヒーローは眉間に皺を寄せつつも、素直に従った。

 

 筋骨隆々な男二人が並んで歩く。

 しかもNo.1と2が揃っての進撃に、他の通行人は道を開けるしかない。

 一般開放されている施設ではゆっくり出来ないからと向かった応接室に、二人の巨漢は入っていった。

 

「君と顔を合わせるのは四年振りだっけな。超久し振り!」

「互いに忙しい身だ。貴様が雄英の教師にならねば今日会う事も無かっただろうさ」

「HAHAHA! ちょっと私も後輩の育成に取り掛かろうかと思ってね!」

「ほう……その話には興味がある、が、それよりも……さっさと化けの皮を剥がさんか」

「化けの皮って……いやまああながち間違ってないんだけどさ……」

 

 ポリポリと頬を掻くオールマイトは、ボフッと煙を出しながらトゥルーフォームへと戻る。

 限られた者しか知らないこの姿を、エンデヴァーは本人より聞かされていた。

 かつて見た姿より更に痩せたオールマイトに、彼は眉を寄せる。

 

「……もうそこまで肉が落ちたか」

「まあね……あんまり食べられなくなって暫くだから、エネルギーが足りなくて」

「高エネルギー食品なら流動食などでもあるだろう」

「あれはそんなに効果がなくてね……後、美味しくないから食べたくない」

「貴様は子供か!! そして俺の前でその気色悪い動作をするな!!」

「ごめん……」

 

 人差し指をつんつんするオールマイトに青筋を浮かべてから、エンデヴァーは深く溜め息を吐いてソファーに腰掛けた。

 元来の気質として合わない相手と理解していたので、そういうものだと割り切った形である。

 エンデヴァーはオールマイトの入れたお茶に手を付けつつ、対面に座った彼を見据えた。

 

「……それで、貴様が後継を育てる話だが」

「うん。活動時間が短くなって焦ってた所を根津校長に声を掛けてもらってね。隠居の準備をしながらゆっくりヒーローの卵たちの面倒を見ようかって思ってさ」

「今の活動限界はどれぐらいだ」

「……50分前後かな。この前のUSJ襲撃で無茶が加速してね」

「っ」

 

 目を見開いたエンデヴァーに、オールマイトはHAHAHAと笑う。

 骸骨のような見た目になろうと笑顔を絶やさない姿勢は、ヒーローとしてのエンデヴァーにも、一人の人間としての轟炎司にも理解出来ないもので。

 けれど、この男のように狂ったとも言える人間は少なからず存在している事を、()()()()()()()()()

 

「……貴様の現状は、次を育てる話には関係ない。置いておくぞ」

「ああ。君の教育が良いのは娘さん……凍夏少女を見ていればよく分かるからね。次代を育てるハウツーは私より上だ」

「当たり前だ! そもそも貴様は根本的に教師に向いておらんのだ!」

「グフッ!?」

 

 直球で教師への適性を否定されたオールマイトは、吐血しながら胸を押さえた。

 これで彼に面と向かって言ったのは四人目だったりする。

 

 ちなみに残りは警察の塚内、リカバリーガール、相澤の三人だ。

 

「見なくとも分かる。どうせ時代遅れの精神論、雄英の校訓を耳障りの良いタイミングで叫んだりしてるのだろう!?」

「ぐっ……!」

「落ち込んでいる人間に見当違いの言葉を掛けたり、壁を登る人間のやる気を削ぐ気遣いやプレッシャーを掛けるようなアドバイスをする。貴様はそういう男だ!」

「うぐぅ……!!」

 

 鬱憤を晴らすように言葉を畳み掛けるエンデヴァーに、心当たりのあるオールマイトはグサグサとやられていた。

 ある程度言えてスッキリしたのか、エンデヴァーは呆れたように声を漏らした。

 

「全く、よくそれで教師をやろうと思ったものだ」

「え、遠慮無しだね……聞きたいと言ったのは私だけどさ……」

「愛娘と愛弟子を預けているのだ。当然だろう」

「……へ? 愛弟子?」 

 

 キョトンとするオールマイトに、意外そうにしたエンデヴァー。

 

 

「なんだ、聞いていないのか? 緑谷出久の事だ」

 

 

 続いた何気ない発言に、三拍程置いて。

 

 

「えぇーーーっゴフゥ!!!??」

 

「叫びながら血を吐くな!!!!」

 

 

 応接室に、二人の男の声が響いた。

 

 

 

――暫くお待ち下さい――

 

 

 

「ご、ごめんごめん。落ち着いたよ」

「エチケット袋は常に持ち歩いておけ……」

 

 

 色々な意味で落ち着いたオールマイトは、頭を掻きながら謝罪を述べる。

 エンデヴァーが疲れた顔を更に歪めているのは、吐血処理を手伝った事と無関係ではなかった。

 

「いやぁ、しかしまさか緑谷少年の師匠がエンデヴァーだったとは……いや、そういえばさっき声援を送ってたね。道理でストイックに鍛え上げてる訳だ」

「出久は最近まで無個性だった。それでもヒーローになる気だったからな、生半可な鍛え方では意味がない……まあ、遅咲きの個性が出たのだが」

 

 最後は呟くように言ったエンデヴァーは表情こそ変わっていないが、声にどこか喜色を含んでいた。

 オールマイトもそれに気がつき、笑みを溢しながら言葉を紡ぐ。

 

「何だか今日は君の知らなかった一面をよく見る日だね。その変化は、緑谷少年の影響かな?」

「……さてな。しかし、やはり貴様は彼に目を付けていたか」

「へっ!? ななっ、何の事だい?」

 

 

「誤魔化す必要はない。あの子は……()()()()()()()()()()()()()のだ。そうなるのは確定的だった」

 

 

「……!」

 

 

 エンデヴァーの真っ直ぐな視線に、慌てていたオールマイトは一瞬で頭を冷やされ、姿勢を正して向き直る。

 

 

「オールマイト。自らの意志で社会の礎となり、悪を抑制する平和の象徴となった男よ。貴様は自身が底に秘めている狂気を自覚しているな」

「……ああ。私のこれが普通じゃない事は、とっくの昔に理解しているよ」

 

 

 人助けの為に必要以上に身体を酷使しているオールマイトは、エンデヴァーの鋭い視線から目を反らさずに頷いた。

 平和の為に自分を犠牲にしている等と考えてはいない。が、それは本人のみが思っている事だとも彼は分かっている。

 

 エンデヴァーはそれを指して、オールマイトへと訴え掛けているのだ。

 

 

「あの子の胸の奥に抱えるものも、間違いなく同質のそれだ。人を助けるのに必要とあらば躊躇なく自分の手足の一本や二本を捨てる事が出来る精神性……自己犠牲の極致と表現すればまだ聞こえは良いが、言い換えれば自損への躊躇いが無いとも言える」

「…………確かに、緑谷少年にもそんな部分があるね」

 

 

 冷静に考えれば、出久の力の使い方は異端だ。

 個性把握テストでは除籍がかかっていたとはいえ、指一本を犠牲にボール投げを実行しており。

 USJではコントロール内の力では通用しないと分かれば、即座に片腕を捨ててでも敵を倒そうと判断した。

 

 言葉にすれば簡単だが、使えば自壊すると解っている力を、必要に駆られたからといって使用出来る人間がどれ程いることか。

 

 

「緑谷出久は個性(ちから)を得た。それをヒーローになる為に、人を助ける為にどんどん使っていく。幸いコントロールが効き始めているようだし、鍛えた地力と噛み合うようになれば、そこらの有象無象のプロヒーローより余程強くなっているだろう」

「まあ、そうだね」

「だが、先の襲撃のような事態が起これば、誰かを助ける為に進んで前に出る……例え貴様が苦戦したという化物が相手だとしてもだ」

 

 

 そこまで言ったエンデヴァーは、一層眼光を強くする。

 

 

「故にオールマイトよ。出久には自分を大切にするようにしかと言い聞かせろ。俺も常日頃より言い聞かせてはいるが、最たる憧れの貴様からの言葉ならば、胸の奥にまで響くだろう」

「……ああ、そうだね」

「貴様の全てを守ろうとする背中に憧れたあの子に、間違っても同じ道を歩ませようとさせるなよ」

「勿論だとも……私のような、自分を心配する人たちを省みない人間には、絶対にしないさ」

 

 

 しっかりと肯定したオールマイトに、エンデヴァーは腕を組んでフンと鼻を鳴らした。

 

「分かっているならばいい。そもそも彼には凍夏が居るのだ。娘はそんな道には目を向ける事すら許さんよ」

「ははは、傍で支えてくれる子が居るなら安心だ」

 

 親馬鹿な言葉に苦笑するオールマイト。

 彼には、肩を並べて戦えた人が居なかった。

 

 他のヒーローたちとも。

 No.2ヒーロー(エンデヴァー)とも。

 先生(グラントリノ)相棒(ナイトアイ)とも。

 

 圧倒的な強さを持つオールマイトと並ぶには、誰も彼も実力が足りなかった。

 

 

 けれど、出久には共に過ごし、遊び、鍛えてきた幼馴染が居る。

 

 時には肩を並べて。

 

 時には背を預けて。

 

 時には前を任せられる。

 

 

 オールマイトには居なかった最高のパートナー、轟凍夏が緑谷出久には居るのだから。

 

 

 彼女は決して出久を独りにはしない。

 

 お互いを助け合える二人が、最高のヒーローになる未来。

 

 彼らの周りには、同じく最高のヒーローになった友人たちも居るだろう。

 

 

「あの子が居るなら、緑谷少年は大丈夫だね」

「当たり前だ、俺の娘だぞ」

 

 

 オールマイトもエンデヴァーも、そう遠くないうちに実現しそうな光景を想像して小さく笑った。

 

 

 

 

「それとだ。出久は俺の一番弟子だからな。どれだけ気に入ろうと、貴様は二番目以降の師でしかないと覚えておけ」

「はいはい……全く、凍夏少女と似たような事を言うね」

「む、そうか……」

「おぉ、凄い嬉しそうな顔してる」

「ニヤニヤするな、気持ち悪い」

「言葉が辛辣過ぎるよ!? あ、それとさ、凍夏少女にトゥルーフォームの事バレちゃったんだよね」

「だろうな。教師になった時点で隠し通せる訳がない。その姿の貴様は大根役者にも程がある」

「ちょっ、そんなに酷いかい!?」

「元より隠し事が下手くその分際でほざきよるわ。他の生徒にバレるのも時間の問題だ」

「そ、そこまでじゃないよ……多分」

 

 

 




 
 ある意味で、エンデヴァーの株回復回。
 原作と違いエンデヴァーはオールマイトにそこまで当たりが強くないです。
 今作では出久くんのお陰でそれなりに丸くなりました。けどオールマイト越えは諦めてない感じの。
 作者的には、個人の戦闘力と人気(カリスマ)以外でオールマイトがエンデヴァーに勝ってる所って無いんじゃ……と思う事がちらほら。

 オリ主と出久くんの関係は本人たちに任せてる感じの親馬鹿パパ。


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16:ポンポンと対戦相手決め。

 
 いつも感想や評価ありがとうございます。

 今回もそんなに展開が進みませんがご容赦を。
 その分イチャイチャさせてるつもり(?)です。



「こんなものでしょうか?」

「うん、良いと思う」

 

 八百万が作ったチアの衣装の出来に頷きながら、私は渡された衣装を手に取った。

 

 お昼ご飯を食べた後、上鳴と峰田が相澤先生から預かったらしい伝言……午後からは女子全員がチアリーダーの格好で応援する、という話に従うべく、私たちは更衣室へ訪れている。

 

「うわ、結構露出高いな……」

「これ着るのかー。ちょっとハズイかも」

「まあ私のコスチュームには勝てないけどね!」

「それは殆ど裸よ、透ちゃん」

 

 微妙な表情で着替えている皆を横目に、私も着替えを始める。

 

 正直あの合理主義の塊の相澤先生がそんな事を言うとは考えられないし、やるにせよ服を用意していないなんてミスをする筈も無いと思う。

 十中八九嘘だろうなあと思いながらも、まあ良いかと気にしない事にした。

 多分皆も気づいてて付き合ってるんだろう。緊張を解す意味でも悪くはないし。

 

 それに私としてはチアリーダーの服を着るのに抵抗は無い。

 むしろ、新鮮な気持ちや好奇心の方が強いぐらいだ。

 なのでこういう格好をする機会なんて無いからと、少しわくわくさえしていた。

 

 けれど他の子はそこまで乗り気じゃないらしくて、どうやら私の感性はちょっとずれているみたい。

 育った環境が影響しているのかもしれない、ここはエンデヴァーに責任を押しつけよう。

 

 それはそれとして、初めて着たチア服は結構スースーする。

 スカートも短いしアンダースコートが無ければ下着が見えそうだ。

 これは確かに、不特定多数の見ている前でするには少し恥ずかしい格好かもしれない。

 

 

 ……私はただ、出久に変に思われないかどうか、それだけが心配なんだけども。

 

 

 少し不安な面持ちで付属のポンポンしたやつ(後で調べたら正式名称もポンポンだった)に顔を隠しながら、着替え終わった皆と一緒にスタジアムに向かった。

 

『ん? アリャ? どーしたA組!!?』

『なーにやってんだ……?』

 

 そして案の定、チアの格好なのは私たちだけだった。

 

「峰田さん! 上鳴さん!! 騙しましたわね!?」

「「ウェーイ!!」」

 

 犯人二人はどこかへ向けてサムズアップをしている。

 女子は峰田たちに憤怒したり、無表情になったりしていて、大分暗い空気だ。

 というか、これはもしかして。

 

「皆、気づいてなかったの?」

「うん……って、凍夏は分かってたの!?」

「わ」

 

 耳郎の叫びに女子全員(葉隠は多分)の視線がこちらに向いた。

 あれ、もしかしなくても気づいてたのは私だけか。

 

「だって、普通に考えて相澤先生がこんな指示する訳ないし」

「ケロ……言われてみればそうよね」

「言ってよ凍夏ー!」

「皆分かってて付き合ってるんだと思ってた」

「うぐっ……」

「轟さんは気づいていたのに……何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」

 

 ズーンと落ち込んでしまった八百万に、何だか申し訳ない気持ちになる。

 

「何にせよアイツらはアホだろ……」

 

 耳郎もポンポンを投げ捨てながら恨めしそうに言う。

 私まで罪悪感が沸いてきてしまった、ごめん耳郎。

 今度から、気づいた事は口に出そう。

 

「まァ本戦まで時間空くし、張りつめててもシンドイしさ……いいんじゃない!!? やったろ!!」

「透ちゃん、好きね」

 

 そんな中で葉隠だけはオラァァ、とやる気を出している。

 元々目立たない個性なだけに、目立てる事は嫌いじゃないのか。

 なら私も、その手伝いをしなきゃ。

 

「私もやる。氷と炎のチアガール」

「イイね! 凍夏ちゃんもやったろ!!」

「うん。あ、その前に」

 

 私は男子の方へ視線を向けて、幼馴染を探す。

 見つけた出久は峰田たちに何とも言えない視線を送っていたが、私が見ているの気がつくと少し顔を赤くしながら小さく手を振ってくれた。

 良かった、反応は悪くないから変には思われていない。

 

 ほっとしながら出久の元へ小走りで駆け寄って、彼の前に行く。

 何故か周りの視線が集まったが特に気にせず、私はポンポンで口元を隠しながら出久に尋ねた。

 

「出久、似合ってるかな」

「う、うん。か、可愛い、よ」

「……えへへ」

 

 顔を真っ赤にしながらもちゃんと褒めてくれた出久に、思わず変な声が出てしまった。

 

 だって、嬉しい。すごく嬉しい。

 

 出久がこういう反応をしてくれるのは、つまり、私を女の子として見てくれている時だから。

 

 多分今の私は、滅茶苦茶表情が緩んでる。

 

 ポンポンが無かったら、みっともない顔を晒す所だった。

 

 この服、八百万に頼んで譲ってもらおう。

 

 

「もう、隙あらばイチャついてんなコイツら……」

「轟っぱいの揺れを目に焼き付けたぜ……へへっ、緑谷だけに堪能させてたまるかよ……」

「……言ってて虚しくなんねえ?」

「なるわ!! 地味マリモの癖にモテやがって!! 畜生めぇ!!!!」

 

 

 視界の端で峰田が何かを叫んでいるけど、殆ど気にならなかった。

 

 

 と、そこで出久が何かに気づいたように固まり、何故か自分の着ていた体操服の上を脱ぎ始めた。

 そしてそれを、私に押し付けるように渡してくる。

 

「凍夏ちゃん、羽織ってて」

「? この後これで応援するつもりなんだけど」

 

 

「……駄目かな」

 

 

「……ううん、分かった」

 

 出久が、今まで見た事が無い感じの困ったような……いや、焦った顔で頼んでくる。

 どうしたのかは判らないけど、出久の頼みなら断る理由はない。

 

 着るのに邪魔になるポンポンと引き換えに出久の体操服を受け取った私は、手元のそれを少しだけ見つめてから袖を通した。

 背は私の方が大きいけど、出久も男の子なので、胸以外は丁度良いサイズ感。

 前は閉めずに着衣完了。出久からポンポンを返してもらう。

 

 ……服から出久の匂いがするので、くんくんしようとしたら本人に止められてしまった。悲しい。

 今は諦めて、後で隠れて嗅ごう。

 

 

『さァ! 仲良し男女のイチャイチャも一息吐いたところで皆楽しく競えよレクリエーションの時間だ!!』

 

 

 私たちのやり取りが終わった所で、止まっていた体育祭の進行が進む。

 わざわざ待たせてしまってたみたい。ちょっと反省。

 

 どうでも良いかもしれないけど、ここまでの私と出久のやり取りをイチャイチャと評したマイク先生の好感度が少し上がった。

 珍しく出久も反論してないし、今日は良い事が続く日だ。

 

 

『それが終われば最終種目! 進出した4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!! 一対一のガチバトルだ!!』

 

 

 スタジアムのモニターに、大きくトーナメントの図が表示される。

 去年はスポーツチャンバラだったから、今年はより戦闘が重視されるみたいだ。

 出久が決意の籠った顔に切り替わり、ぐっと拳を握った。

 

 

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ!」

 

 

 そこからは続きをミッドナイト先生が引き継いで説明に入る。

 レクリエーションに関しては進出者16人は参加しなくても良いらしい。

 私は応援に回るつもりだけど、出久はどうするんだろう。

 

 と、そこで尾白と、B組の庄田の二人がミッドナイト先生の前へと進み出た。

 

 

「「すみません。俺(僕)たち、辞退します」」

 

 

 突然の二人の発言に、周りがざわつき始める。

 

「尾白くん! B組の庄田くんも、何で……!?」

「せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」

 

 戸惑いながら皆が疑問をぶつける中、彼らは小さく笑って話を始める。

 

「騎馬戦の結果がどうあれ、最初から決めてたんだ」

「僕たちは騎馬のチーム決めの時に、彼に一本取られてしまったからね」

 

 そう言いながら二人が視線を向けた先には、普通科の心操が居た。

 注目された彼は軽く肩を落として、口角を上げている。

 その様子から、尾白たちは彼の個性の行使をされたのだと判断できる。

 これは自分たちは心操に敗北したと、認めているからこその辞退なのだろう。

 

 

「詳しくは言えないけど、俺と庄田は轟の氷結が無ければ何も出来ずに終わる所だった」

「今回此処に居られるのは偶然に偶然が重なったからだ……そんな何もしていないに等しい状態でこのトーナメントの場に上がる事は出来ないと、僕と尾白君は話し合ったのです」

 

 

 顔を見合わせて頷き合う尾白と庄田は、残念そうではありつつも後悔は無いらしい。

 周りは気にしすぎだとか本戦で成果を出せば良いとか言っているけど、撤回する気はなさそうだ。

 

「そういう青臭い話はさァ……好み!!!」

 

 そしてミッドナイト先生の主審判断(好み)により、二人の棄権が認められた。

 ついでに同じ騎馬のもう一人、青山はやるらしい。お腹は大丈夫なのか少し心配。

 空いた二枠には次点のB組の話し合いの結果、鉄哲と塩崎の二名が入る事になった。

 

 とやかくあったけど、そこからはスムーズにくじ引きが行われて。

 少しだけ時間を置いて、モニターに全ての組み合わせが表示された。

 

 

・ 上鳴vs心操

・ 緑谷vs塩崎

・ 瀬呂vs轟

・ 飯田vs発目

 

・ 芦戸vs青山

・ 常闇vs八百万

・ 鉄哲vs切島

・ 爆豪vs麗日

 

 

 対戦相手は、こんな風になっている。

 

 私の一回戦は三組目、相手は瀬呂だ。

 彼へ視線を向ければ、ひきつった顔をしている。

 あ、私が見ているのに気がついて取り繕った。

 テープの個性は拘束や移動においてとても厄介だし、もう少し自信を持っても良いと思う。

 

 まあそれでも、負けるつもりは全くないけれど。

 

 

 それより、気になるのは出久と爆豪だ。

 

 爆豪は反対のツリーにいるので、やるとしても決勝になる。

 万能型の八百万、攻防に長けた常闇や切島などの実力者が多い組なので、激戦区になりそうだ。

 初戦のお茶子には厳しい試合だけど、精一杯頑張ってほしい。

 

 そして、出久。

 順当に行けば、戦うのは準決勝になりそうだ。

 障害物競走4位のB組塩崎や、洗脳系個性と予想される普通科心操がいて、油断はできないけれど。

 

 出久なら、必ず越えてくる。

 

 気合を入れている出久の前にポンポンをふりふりすれば、苦笑気味の笑顔が返ってきた。

 

 

『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといて、イッツ束の間! 楽しく遊ぶぞレクリエーション!!』

 

 

 そんな訳で、ここから暫くは息抜きタイム。

 

 ヒーロー科とか普通科とかは関係なく、普通の高校の体育祭のようなレクリエーションが始まった。

 

 クラス別対抗だったり個人種目だったりするけど、なんだかんだで結構楽しそうに見える。

 大玉転がしでは、複製腕の障子だと安定感が違ったり。

 3対3の三角ベースでは、砂藤の全力投球がB組の物間に渾身のデッドボールとして当たったり。

 借り物競走では、峰田が背脂なんてお題を引いて絶望の顔をしていた。

 

 トーナメント進出者たちはそれぞれで、瀬呂や上鳴は普通にレクリエーションに参加していたけど、飯田や常闇、爆豪なんかは参加していない。

 

 出久も姿を見なかったので、きっとどこか精神を研ぎ澄ましているんだろう。

 

 

 私は他の女子たちと一緒に、チア服で皆を応援をして、逸る心を落ち着かせていた。

 

 お茶子も初戦から爆豪相手という緊張を、応援する事で解きほぐそうとしているように見えた。

 

 

 

 そしてあっという間にレクリエーションも終わり、いよいよトーナメントが始まる。

 

 

 




 
 ちょっとだけ組み合わせを変えました。
 影響はそれなりにあるかも。

 書く事思い付かないので、騎馬戦時に判明したオリ主の必殺技の説明でも。

○不動氷陣(ふどうひょうじん)

 自分を基点(右手や右足)として、広範囲を氷結させる。
 敵が居れば足から首まで好きな範囲を凍らせて動けなく出来る。
 時間を掛ければ相当に密度を上げられる。
 USJ時、騎馬戦時共に発動待機する時間があったので強い拘束が可能だった。
 氷結範囲はスケートリンクのようにツルツルにも、氷河のように凸凹にも自在に変化させられる。
 名前から漂う厨二感、常闇には好評だった。


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17:アピールしよう一回戦前半。

 
 いよいよ体育祭の本番とも言えるトーナメントです。
 前半、と言いつつ三組だけ。

 今日発売の本誌で出久くんの新技出たりしないかちょっとわくわくしながらの投稿。

12/17,8:30追記:出久くんの個性が不穏な空気になってまいりましたね(震え声)


「オッケー、もうほぼ完成」

『サンキューセメントス! ヘイガイズ! アァユゥレディ!? 色々やってきましたが!! 結局これだぜガチンコ勝負!!』

 

 勝負の舞台を現国担当のセメントス先生がおおよそ作り上げて、トーナメントの準備が整った。

 マイク先生のシャウトを聞きながら、私はクラスの皆と生徒用の席から観戦する。

 

 二戦目の出久は居ない。流石に間隔が短いので、控え室のモニターで見るらしい。

 

 

『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか行動不能にする、あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!!』

『ケガ上等!! こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!! 道徳倫理は一旦捨ておけ!!』

『だがまぁもちろん命に関わるよーなのはクソだぜ!! アウト! ヒーローは敵を捕まえる為に拳を振るうのだ!』

 

 

 一気にされたルール説明。

 勝ち負けはとても分かりやすい。私の場合、氷漬けにしてしまえば勝ったようなもの。

 

 

『一回戦!! スパーキングキリングボーイ! ヒーロー科上鳴電気!!』

『対! ごめんまだ目立つ活躍なし! 普通科心操人使!!』

 

 

 初戦は上鳴対心操。

 上鳴の放電は生物である限り天敵とも言える個性だけど、その前に心操の個性を食らってしまえばどうなるかは分からない。

 

 

『そんじゃ早速始めよか!! Ready……START!!』

 

 

 スタートの合図と共に上鳴が駆け出した。

 

 

「なあ、あっちの可愛い女子がお前の応援してるぞ」

「マジで!? どこぉ…………」

 

 

 ……が、その動きはすぐに止まってしまった。

 集音器が拾った言葉から考えて、やはり彼の言葉に返事をすれば発動する個性なんだろう。

 

 いや、なんで上鳴は今のに引っかかったのか。

 

「上鳴ェ……一応忠告はしといたんだけどなぁ……」

 

 尾白が頭を抱えているから、大体の個性を聞いた上で反応したようだ。

 

 ボーッとした顔になった上鳴は、そのまま場外へと歩き、線の外へ出て行った。

 

 

「……上鳴くん場外! 心操くん、二回戦進出!」

『オイオイオイ!? ヒーロー科上鳴、まさかの為す術もなく敗退!! しかもめっちゃみっともねえ負け方したぞ!!!』

『アホ……』

 

「アホだ」

「アホだな」

「クソアホ面」

「ホントヒーロー科の面汚しだよ、あのアホ」

 

 

 どこからも散々な言われようである。

 ミッドナイト先生は呆れたようだったし、相澤先生の端的な罵倒も、頭が痛そうな声の気がする。

 

 クラスメイトも何が起こったかは分かってない人が多いが、とりあえず上鳴は醜態を晒したという認識みたいだ。

 特に耳郎は、チアの件での恨みも合わさってか、かなり辛辣だった。

 

 

『てか全っっっ然目立ってなかったけど、彼、ひょっとしてやべえ奴なのか!!?』

『はぁ……だからあの入試は合理的じゃねぇって言ったんだ……』

 

 

 相澤先生は手元に持っているらしい心操の個人データを見ながら話を始める。

 

 予想通り個性は「洗脳」

 問いかけに答えた者は洗脳のスイッチが入り、心操の言いなりになってしまうとか。

 他に殆ど類を見ない強い個性だけど、人にしか効果はないようで。

 話に聞く一般入試のロボット撃破では、心操はポイントが取れずに落ちてしまった訳だ。

 

 成る程、相澤先生が合理的じゃないと言うのも分かる。

 機械が相手では、対人には強い個性が活躍の場を発揮できずに、不合格となってしまうのだから。

 

 

「……とんでもない個性ですわ。都市部などの戦闘が容易でない場所や、立て籠り系統の犯罪にはとても有用でしょう」

「ああ、彼の前ではどんな力も等しく関係ない。敵が心操君の個性を知らなければそれで終わりだ」

 

 

 理解の早い八百万や飯田は、対敵への影響をすぐさま考えているようだ。

 観戦しているプロヒーローなどからも高い評価を得ていて、彼を落とした雄英へ残念だという意見も聞こえてくる。

 心操人使、きっと彼は遠くない内にヒーロー科(ここ)まで上がってくる男だ。

 

 

 思わぬダークホースの登場に会場の興奮が冷めない中、無表情の心操と何も分からないままに敗退していて困惑している上鳴が退場していく。

 少ししてから沈んだ顔の上鳴がとぼとぼと観客席へ戻ってきた。

 

「お、アホが帰ってきたぞ」

「お疲れアホ。いや疲れてないか」

「寄んなアホ面、アホが移る」

「酷くない!? 気づいたら負けてたのよ俺!!」

「女子に応援されてるって言われて反応して負けたアンタが悪いよアホ」

「うぐぅーっ!!」

 

 最早扱いが虐めだった。

 言い返せないのか胸を押さえて蹲る上鳴が、だいぶ哀れだ。

 

 普段ならフォローに入る出久が居ない為、誰も彼を慰めない。

 一応、私が入れとこうか。

 

「あの個性相手なら、仕方ないよ」

「轟ぃ……!」

「アホか、尻尾から個性聞いてた癖にアホみてぇな嘘に引っかかるアホ面の落ち度だわアホ」

「爆豪お前アホアホ言い過ぎだかんな!? 俺だって傷つくんだぜ!?」

「寄んなっつってんだろアホ面菌!!!!」

「ヒドイ!!!!」

 

 駄目だった。爆豪に論破されてしまった。

 ぽつんと体育座りしてしまった上鳴に、なんて言葉を掛ければよかったのか。

 ……きっとその内復活するだろう、放っておくしかなさそうだ。

 

 

 

 

『お待たせしました!! 続きましてはこいつらだ!』

 

 そんなやり取りがされている内に、二戦目が始まる。

 ステージ上には、出久とB組の塩崎が上がっていた。

 

 

『ここまで成績トップの一人! なのになんだその顔! ヒーロー科A組緑谷出久!!』

『対! B組からの刺客!! 綺麗なアレにはトゲがある!? ヒーロー科B組塩崎茨!!』

 

 

 やる気十分に見える両者。

 しかしマイク先生の紹介で、塩崎が実況席へと身体を向けた。

 

「申し立て失礼いたします。刺客とはどういうことでしょう。私はただ勝利を目指しここまで来ただけであり――」

『ごっごめん!!』

 

「B組にも飯田君みたいな人がいるんだ」

「む、彼女と俺は全く似ていないぞ?」

 

 ぽつりとお茶子が溢した呟きに、聞こえていたクラスメイトたちは頷いていた。

 確かに飯田と同タイプの、真面目な子みたいだ。

 当の本人は見当違いな事を言って首を傾げていた。うん、良く似ている。

 

 それとプレゼント・マイク先生、さっきの出久の紹介はどういう意味なのか、是非とも詳しく教えてほしい。

 場合によっては、教師と言えども怒らせてもらう。

 

 

『すっ、START!!』

 

 

 あ、色々と誤魔化してスタートの合図を切った。

 塩崎は言い足りなさそうだけど、諦めて出久へと向き直る。

 苦笑していた出久も顔を引き締めて、構えをとった。

 

 

「それじゃあ、宜しくお願いします」

「ええ。どうか正々堂々と勝負をいたしましょう」

「そうだね……塩崎さん」

「はい、まだ何か?」

 

 

「正面から行くけど、気をつけて」

 

 

 言葉と同時、出久が身体に緑の雷光を纏って、左腕を構える。

 

 そして離れた距離から、塩崎に向かって拳を振り抜いた。

 

 

「40%――デトロイトスマッシュ!!」

「ぐぅっ――!?」

 

 

 拳から放たれた風圧は、ステージ自体に大きな衝撃を与えながら塩崎へとぶつかる。

 

 辛うじて反応した彼女は、トゲトゲのツル状の髪を後ろの地面に突き刺して衝撃を抑えて、正面にツルの盾を作り、場外をギリギリ免れた。

 

 

「もう、一発!!」

 

 

 けれど、出久はそこで間髪入れずに、右腕も振るっていて。

 

 同レベルの衝撃を耐えきる事は、今の状態の塩崎には出来なかったらしい。

 

 ツルごと飛ばされた彼女は空中に放り出されて、スタジアムの壁にぶつかるまで止まらなかった。

 

 

 シン、と余りの光景に会場内が静まり返る。

 

 

「し、塩崎さん場外! 緑谷くんの勝ち!!」

 

 

 いち早く復活したミッドナイト先生のコール。

 

 止まっていた空気が、大歓声に変わった。

 

 

『こいつァやべぇ!! A組緑谷、塩崎のツルもなんのその!! パンチ二発でブッ飛ばしたぁ!!!』

『緑谷は件の襲撃以降、個性の扱いが格段に上手くなったな……今のところ、A組では頭一つ飛び抜けてる内の一人だ』

 

 

 あの相澤先生からも称賛されている出久。

 

 入学当初、個性がコントロール出来ずに除籍されかけていたなんて、今の姿からは到底思えない。

 

 オールマイトから受け継いだ個性、ワン・フォー・オール。

 

 100%はまだ出せずとも、今の力は十分過ぎる程に彼を連想させた。

 

 

「コントロールされた超パワーヤバすぎだろ……」

「緑谷ちゃん、本当にオールマイトみたいだわ」

「っ……上等じゃねぇかデク……!!」

 

 A組の皆もあのレベルの力を見るのは初めてだったので、唖然としている。

 梅雨ちゃんのオールマイトみたいという発言にも、ほぼ全員が頷いていた。

 爆豪も笑っては居るが、冷や汗を流しているのを隠せていない。

 

 私は嬉しさもあるけれど……少しだけ、怖い。

 

 いつの間にか置いていかれたように感じてしまったのは、きっと気のせいではないから。

 

 

 だからこそ――私は負けられない。

 

 

 その出久はと言えば、吹き飛ばした塩崎に駆け寄って、立つのに手を貸している所だった。

 集音器の範囲外なのか、さっきの衝撃で壊れたのかは分からないけど、音が拾えていないので何を話しているかは聞き取れない。

 お互いに礼をし合っているので、悪い雰囲気ではなさそうだ。

 

 

『対戦相手を気遣う姿も合わせて、まるで小さなオールマイトォ!! 緑谷出久、圧倒的なパワーを見せつけ二回戦に進出ゥ!!!』

 

 

 小さなオールマイト、まさにそれだ。

 本人は過大な評価だと思ったのか慌ててペコペコ頭を下げているが、そんなに低姿勢にならなくてもいいのに。

 No.2に鍛えられて、No.1に見初められた事実を、もっと誇ってほしい。

 

 

 出久によって破壊されたステージを修復するのに少し時間が掛かるようで、それまでは休憩時間になった。

 

 ちょっとしてから、出久が戻ってくる。

 

「デク君お疲れさま!!」

「凄ぇよ緑谷!! マジでオールマイトみたいだった!!」

「あ、ありがとう……けどオールマイトみたいなんて、そんな畏れ多い……」

「そこはぶれないのね、緑谷ちゃん」

 

 皆からの高すぎる評価に、出久は大分恐縮しているみたいだ。

 私の隣に空けられていた席に座った彼は、ふぅと一息吐いていた。

 

「お疲れ様。二回戦進出おめでとう」

「ありがとう、凍夏ちゃ……ってあれ? 凍夏ちゃん次の試合じゃなかったっけ?」

 

 出久の言葉に、皆がはっとして私を見る。

 

「そうだよ! なんでまだここに居るの!? 瀬呂はもうとっくに行ってるよ!!」

「忘れてた……訳じゃないよね!?」

「早く控え室に向かいませんと!!」

「わ」

 

 皆が、というか女子勢がすごい勢いで詰め寄ってきた。

 いや、ここに居たのは出久の試合が見たかったからだし、流石に忘れてはいない。

 

「大丈夫。すぐに行くから」

「……って言いながらのんびりしてるけど!?」

「あー、凍夏ちゃんまさか……」

 

 慌てる皆を置いて、一人答えに辿り着いたのはやっぱり出久だった。

 考えてる事をすぐ分かってくれるのは、とっても嬉しい。

 

「そうだよ。流石出久」

「まあ、良いのかな……?」

「なになに! 以心伝心してないでどういう事!?」

「いや、うん――」

 

 

『ステージも直して次の対決!! どんどん行こうぜ!!』

 

 

 丁度良い、始まりそうだ。

 立ち上がった私は、観客席の前へと進んでいく。

 

「……俺どうやって行くか、なんとなく分かったわ」

「ウチも」

「えっ? えっ??」

 

 引きつった切島や耳郎の声や、疑問符を上げる八百万の声を後ろに聞きながら、手すりに手と、足を掛けた。

 

 そのまま勢い良く蹴って、同時に個性を発動する。

 

 

 最小限の大きさの氷で道を作りながら進んで、フィールドの上まで飛び上がった後に炎を出す。

 

 大きな羽根のような炎と氷を背中から出して、推進力を利用しながら着地する。

 

 最後に個性を解除して、会場全体にぺこりと礼をした。

 

 

 今までにない派手な登場に、多くの観客が沸き上がった。

 

 

『おおォォ!!? 轟、観客席から華麗に登場!! 容姿と個性が相まってまるで幻想世界の妖精だァ!!!!』

『何言ってんだお前。しかし、轟にそんなに目立ちたがりなイメージは無かったんだが……ああいや、何となく分かった。言わんでいい』

「出久が目立ったので、私もと」

『言わんでいいと言ったろ』

 

 

 多分睨まれてしまった。なんだか今日はよく怒られている気がする。

 まあ相澤先生には看破されてしまったけど、そういう事だ。

 

 出久が全国に実力を見せつけたなら、私もそれに続かなければならない。

 

 彼の隣に立っていても、恥ずかしくないように。

 

 

『目立つ登場の理由はさておき、次の対戦はこいつらだ!!』

『優秀!! 優秀なのに拭いきれぬその地味さは何だ! ヒーロー科瀬呂範太!!』

「ひでぇ言い種」

『対! 緑谷に引き続きトップ3の一人! 氷と炎の美少女! 同じくヒーロー科轟凍夏!!』

 

『START!!』

 

 

「轟も会場の空気持っていっちまうし……実際勝てる気はしねーんだけど……」

 

 スタートと同時、こちらが行動する前に瀬呂がテープを伸ばして私を拘束して。

 

「つって負ける気もねーー!!!!」

 

 そのまま引っ張られて、私は場外へと飛ばされそうになる。

 成る程、これは拘束かつ速攻で相手に何もさせない良い手だ。

 

 けど、それは――

 

 

『場外狙いの早技(ふいうち)!! この選択はコレ最善じゃねえか!?』

『悪くはない、が』

 

 

「残念だけど、私には効かない」

 

 

 ――相手が私じゃなければ、の話。

 

 氷と炎を同時に出現させて、テープの拘束を凍らせ燃やす。

 

 そして右の出力を一気に上げて、瀬呂に向けて発動した。

 

 規模は、スタジアムの半分を覆うレベル。

 

 ドームの上から突き出て、かつ観客には当たらないようギリギリまで展開した巨大な氷壁に、会場から一切の声が消えた。

 

 コントロールと規模の合わせ技。

 

 これが私がこの場所で出来る、氷結の最大限。

 

 

 唖然とするミッドナイト先生に視線を向ければ、慌てたように宣言される。

 

「瀬呂くん行動不能! 轟さん二回戦進出!!」

 

『まっ、またもや! またもや短期決戦!! しかもフィールドどころかスタジアムの半分を覆う大・氷・壁!!! リスナーたちに当たらねえ、絶妙な巨大さだァ!!!!』

『……緑谷のインパクトを容易く書き換えたな。それはそれとして溶かせ。はよ』

「はい」

 

 自分を起点として、炎を出さない程度の熱を会場に行き渡るように個性を発動する。

 瀬呂から始まり会場の奥まで熱が届き、氷が溶かされていく。

 ざわめいていた会場が、今度はどよめきに包まれた。

 

「や……やりすぎだろ……さみぃ……」

「ごめん。ちょっと、アピールしたかったから」

「さいで……」

 

 ガクンと肩を落とす瀬呂に、会場からドンマイのコールがされる。

 広がっていくドンマイコールに瀬呂が更に落ち込む中、私はA組が居る観客席へと視線を向けた。

 

 

 そこに居る出久と、ついでに爆豪に、不敵な笑みを送ってみれば。

 

 出久からは、強い笑みと一緒に握られた拳が突き出されて。

 

 爆豪からは、歯を剥き出しにした睨みと親指で首を切るジェスチャーを送られた。

 

 うん、出久は良いけど、爆豪は凍らせてやる。

 

 

 ともかく、実力を……出久に並べる力を全国に見せる事に成功した。

 

 これで少しは、彼に相応しいと思ってもらえるのではないか。

 

 この後の試合でも、全力で行って。

 

 轟凍夏という存在を、アピールさせてもらおう。

 

 

 会場から多くの視線を受けたまま、私は気分良く退場ゲートへと歩みを進めたのだった。

 

 

 




 大体予想できた結果。

 上鳴くんを引き立て役にしてしまったけど、良く考えたら原作でもそうでしたね。ウェーイ。
 塩崎さんはごめんなさい。出久くんの個性の威力の高さを出す為の犠牲にしてしまいました。
 原作では20%の蹴りで木の幹が剥がれてたので、その倍なら拳の一振りでもこれぐらいはなりそう。

 ちなみに許容上限はもうちょっといけます。詳細は近いうちに本編にて。


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18:お疲れ様な一回戦後半。

 
 感想・評価ありがとうございます。
 本誌で何が起きるかビクビクしながらの投稿。
 原作での今後の展開次第では、投稿が遅れていく可能性がありますのでご容赦下さい。怖い。

 後半といいつつ大体ダイジェスト。

 微妙に不穏にも思える空気を添えて。



 機嫌良く退場した私だったけれど、途中の通路に差し掛かった辺りで……機嫌が急降下していくのを自覚した。

 

 視線の先には、まだ誰も居ない。

 

 だけど、僅かな気温上昇を感じるから、この曲がり角の先には間違いなくアイツが居る。

 ここが迂回出来ない場所なのを分かって、待ち伏せしているんだろう。

 

 余計な知恵を回すあの男を腹立たしく思いながら、真顔を作りつつ角を曲がる。

 

 そこには予想通り、無駄に業火を纏う変な服の変態親父が居た。

 

 真顔の仮面で表情を隠して、口調を他所行きも他所行きな丁寧なものにする。

 

 

「こんにちはお父様……いいえ、貴方は警備に呼ばれたのでしょうし、エンデヴァー様とお呼びしましょう」

「別に他人行儀にする必要は無い。父と呼んでくれて構わんよ」

「ではエンデヴァー様。何かご用でしょうか」

「……むぅ」

 

 

 希望と逆の呼び方をすれば、少ししょんぼりとしている。

 似合わないし気持ち悪いから、止めてほしい。

 全身が燃えているガチムチな中年のしょげる様子なんて、目の毒でしかない。

 

「……試合前の激励をしようと思っていたのだが、直接向かったらしいな」

「出久が力を見せつけたので、私も目立ちつつ全力を見せつけようかと思い至っただけです」

「そうか……まあ、そんな所だろうとは思っていたが」

「お話はそれだけでしょうか。ここは本来現雄英関係者以外は立ち入り禁止ですので、早めに退去して頂けない場合は通報します」

「いや、もう一つある」

「手短にお願いしたいのですが」

 

 

「今日は、出久相手に戦えるのか」

 

 

 言われた言葉に、眉をピクリと動かしてしまう。

 

 成る程、こいつの言いたい事は分かった。

 出久に依存している私が、彼を相手にして醜態を晒さないかが心配なのだろう。

 

 確かに私と出久は、普段から組み手程度の手合わせしかやらない。

 

 個性を使ってのものなど、出久が無個性の頃から合わせても両手の指で数えられる回数だった。

 

 私自身、如何なるレベルだろうと大切な彼に大きな怪我を加える可能性を排除したかったから。

 

 

 けれど、今更その質問はとても不愉快だ。

 

 

「当たり前です。私は最高のヒーローを目指してるんですから。出久に……置いていかれる訳には、いかないの」

 

 

 それだけ言い残し、地球温暖化の一因を担っている環境破壊親父の横を通りすぎる。

 

 折角良い気分で戻ろうとしていたのが台無しになった。

 胸に言い様のないモヤモヤやイライラが溜まり、多分顔もしかめている。

 

 私のメンタルケアは、ここでは出久にしか出来ないのに。

 

 今の大事な時間を使わせてしまうのは申し訳ないけど、早く出久に甘えて回復しよう。

 

 

「――凍夏。()()()()()()()()()()()()()()だぞ……お前が彼に炎を使うなら、特にな」

 

 

 だから、私の意識はその時点で父親の事なんて忘却していて。

 

 ある意味では大事な、この一言を聞き逃していた。

 

 

 けど、仮に聞いていたとしても、今の私には関係ない話。

 

 

 だって、それは既に私にとって――

 

 

 

 

―緑谷出久―

 

 

「あっ凍夏! おかえ……り?」

「…………ただいま」

 

 飯田くんの試合が始まる前に観客席へと戻って来た凍夏ちゃんは、どこか機嫌が悪かった。

 声をかけようとした芦戸さんが、思わず躊躇したぐらいには、むすっとした顔をしている。

 その理由に心当たりがある僕は、隣に座った凍夏ちゃんの頭を撫でてあげた。

 それでもあまり機嫌は変わらず、僕の背中に腕を回して抱きついてくる。

 

 

「お疲れ様。炎司さんに会ったの?」

「んー……ストーキングされて、待ち伏せられて、虐められた」

「言い方。激励に来てくれたんでしょ?」

「やだ、あいつ嫌い。出久好き」

「はいはい」

 

 頭をぐりぐりと僕の首に擦り付ける凍夏ちゃんは、ちょっと幼児退行している。

 お父さんとの接触で何か言われたのか、結構なストレスになったみたいで。

 二人とも素直すぎるというか……自分の意見を遠慮なく伝えるから、たまにこんな感じになっちゃうんだよなぁ……。

 

 

「あの、お二人が仲睦まじいのはいつもの事ですけれど、周りを置いていかないで頂けませんか……?」

 

 なんて遠い目をしていたら、八百万さんから言葉を挟まれる。

 クラスの皆からも生温かい視線を受けているけど、この一月ぐらいでもう慣れてしまった。慣れていいのかこれ。

 

 凍夏ちゃんは……僕の匂いでリフレッシュするつもりらしい。(改めて言葉にすればどんな日本語なんだよ)

 説明役は任せる、って事かな。丸投げされたとも言うけど。

 

「ごめんね。帰ってくる時に凍夏ちゃん、お父さんにあったみたいでさ。ちょっと不機嫌モードに入っちゃった」

「轟さんのお父様というと……その、例の」

 

 ああ……そういえばまだ皆には印象最悪なままだった。

 下手に重い空気になる前に、全部人任せにして寝ようとしている凍夏ちゃんの鼻を軽く摘まんでからフォローを入れる。

 

「んにゅ」

「今はもうエンデヴァーはプライベートだと親馬鹿なパパ、って感じだから大丈夫だよ。家族関係も殆ど修復出来てるしね」

「そう、なのですか?」

「うん。障害物競走の時も1位になった凍夏ちゃんにエール送ってたよ。ね、かっちゃん」

「俺に振んなクソが…………確かに聞いた。親馬鹿丸出しで唖然としたわ」

 

 普段から言葉を濁さないかっちゃんの発言だけに信憑性があるのか、皆が納得してくれだした。

 何だかんだでフォローの手伝いをしてくれる辺り、大分刺々しさが無くなってきたなぁ、と思う。

 あ、睨まれた。余計な事は考えないようにしよう。

 

 それと凍夏ちゃん、鼻を摘まんでいた僕の指を外して咥えようとしない。犬か何かじゃないんだから。

 逃げた手でそのまま彼女のふにふにしたほっぺをむにゅっと挟んで、咥えられないようにした。

 

「うー」

「それはそれとして凍夏ちゃんがお父さん嫌いなのと、エンデヴァーの娘に対する接し方の下手さが合わさって、時々こんな風に機嫌が悪くなっちゃうんだ」

「成る程……轟さんが充電中なのはそういう訳でしたか」

「充電……うん、まあ、そうかな」

 

 認識のされ方に突っ込むのもあれだし、正直否定しきれないので曖昧に頷いた。

 ついでに凍夏ちゃんの頬から手を放してあげると、掌に頬を擦り寄せされる。

 これはたまにされるけど、改めて考えたら何だかマーキングされてる気分になってきた。

 

 

「なあ峰田……多分緑谷は真面目に話してるんだろうけど、正直轟とイチャついてるのにしか目がいかないよな……」

「緑谷めェ……奴がさっきのを止めなきゃ轟の指舐めが見れたってのによォ……!!!!」

「おぉ…………流石の着眼点だ」

 

 

 上鳴くんに峰田くん、こそこそ話してても聞こえてるからね。

 気持ちは物凄く分かるし、されてる僕が言うのはどうかと思うけど、凍夏ちゃんが甘えてるのはそういうものだと受け止めてほしい。

 あと、無防備な仕種を止めさせてて良かった。

 

 

 そろそろ飯田くんの試合が始まる。真面目に見なければ。

 

「こら、寝ないの」

「あぅ」

 

 微妙に眠そうな凍夏ちゃんの頬を軽くパチパチと叩きながら、僕は観戦の態勢を整えた。

 

 

「最後までイチャついてただけじゃねぇか畜生め!!!!」

「いや峰田それどうやって小声で叫んでんだ?」

 

 

 ……呪詛と嫉妬の視線は、とりあえず気にしない事にした。

 

 

 

 

「すみません、あなた利用させてもらいました」

「嫌いだぁあーー君ーーーー!!!!」

 

 飯田くんが対戦相手のサポート科、発目さんに10分の間広告塔にされてからは、手早い試合が並んだ。

 

 芦戸さん対青山くん。

 芦戸さんがレーザーを出す青山くんの腰のベルトを酸で故障させて、狼狽えた隙に顎へ一発で芦戸さんのKO勝ち。

 前から思ってたけど、芦戸さんの動きがかなり良い。身体能力はクラスでもトップレベルだろう。

 

 常闇くん対八百万さん。

 先手必勝、常闇くんの黒影が八百万さんが厄介なものを作る前に攻めきり、場外へと叩き出した。

 何だか八百万さんの調子が悪そうに見えたけど、気のせいだろうか。

 

 そして今は切島くん対B組の鉄哲くん。

 個性が「硬化」と「鋼」という身体が硬くなる同系統の個性のぶつかり合い。

 現時点では両者の実力に殆ど差が無いようで、真っ向からの殴り合いが続いている。

 これは男臭い根比べの勝負になりそうだと思いながらも、僕は次の試合……一回戦最後の組へと意識を向けていた。

 

 かっちゃん対麗日さん。

 既に二人とも控え室へ行っており、観客席にはいない。

 正直な所、麗日さんにかっちゃんの相手はキツい。

 戦闘能力もそうだが、個性の相性が決して良いとは言えないからだ。

 普段から飛行しているかっちゃんには、無重力は対処される可能性が高い。

 何よりの痛手は、一度騎馬戦で無重力状態を経験させてしまった事。

 それでも、浮かせてしまえば主導権が握れるのは間違いない。

 

 最初は僕も控え室へ赴き、麗日さんにエールと、かっちゃんへの対策を送ろうかと考えていた。

 雄英に入ってから、もっと言えば入試の日から彼女にはお世話になりっぱなしだったから。

 お礼という訳じゃないけど、これぐらいなら贔屓にはならないと思って。

 

 しかし、凍夏ちゃんの試合が終わった辺りから彼女の表情が麗らかではなくなっていたのに気がついて、止めておいた。

 何となく、麗日さんが何を考えているのか察しがついたから。

 それはきっと騎馬戦で1位グループに混ざったのと無関係ではなく……僕が言葉にして良いものでもない。

 

 だから代わりに、ここまで来たのは間違いなく麗日さんの実力だと気持ちを込めて、先程送り出す時に声をかけた。

 

 

『麗日さん! 決勝で会おうね!』

『っ! ……うんっ!』

 

 

 言葉に含まれた意味をしっかり受け取ってくれた彼女は、闘志の籠った笑みでサムズアップを返してくれた。

 

 ……ちなみにこのやり取りで凍夏ちゃんの表情にほんのちょっとだけ影が差していて、慰め(頭なでなで)に少々時間を取られる事になる。

 

 

 切島くんたち個性だだ被り組の戦いは引き分けになり、決着が後回しになった。

 肩を落とした飯田くんも戻ってきたので、席に着いた彼を慰めて。

 

 そしていよいよ、一回戦の最後の試合が始まる。

 

 

『トップ3の最後の一人! 中学からちょっとした有名人!! 堅気の顔じゃねぇ、ヒーロー科爆豪勝己!!』

『対! 俺こっち応援したい!! ヒーロー科麗日お茶子!!』

 

 

 プレゼント・マイク先生の偏向実況宣言を聞き流し、フィールドの二人に注目する。

 

 麗日さんは勿論、かっちゃんも真剣な表情で向き合っているから、油断なんて欠片もしてない。

 粗暴な態度が目立つかっちゃんだけど、ここまで上がってきた相手の力を認めている。

 

 

「丸顔、退く気は……ねぇよな。この先は痛ぇじゃ済まねぇぞ」

「当然! 負ける気もない!」

「良い度胸だ。じゃあ死ね!!」

 

 

『START!!!!』

 

 

 スタートの合図と共に、麗日さんが駆け出した。

 低い姿勢で向かってくる彼女に対し、かっちゃんは右の大振りで迎え撃つ。

 初撃から容赦の無い範囲攻撃を、麗日さんは避けきれずに受けてしまう。

 けれど彼女もただでは転ばず、爆風による煙を利用してかっちゃんの背後を取った。

 

 しかし、見てから動けるかっちゃんにとっては、対処できる範囲内でしかなくて。

 迎撃された麗日さんはそれでも諦めずに、果敢に向かい続けている。

 ぱっと見、無鉄砲な攻めにしか見えないけど……いや、これは。

 

「お茶子の狙いは、上に視線を向けさせない事?」

 

 静かに観戦していた凍夏ちゃんが、疑問の形で僕に確認を取る。

 視線はスタジアムの上を向いていて、麗日さんの策に気づいている。

 

「うん。低姿勢で突っ込むのを繰り返して、かっちゃんの攻撃と意識を下に集中させてるね。麗日さんが何かを狙ってるのには気づいてるから、かっちゃんも迂闊に攻め込めないんだ」

「けど、あれぐらいじゃ……」

「…………」

 

 凍夏ちゃんが飲み込んだ言葉に、見当がついていた僕も難しい顔になる。

 スタジアム上空に()()()()()()()は良いアイデアだと思う。

 けれど、今ある量では恐らく……。

 

 

「おい!! それでもヒーロー志望かよ! そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!!」

 

 

 と、どこからかブーイングが飛び始め出した。

 観客から見れば、確かにかっちゃんがヤケになった麗日さんをいたぶっているように見えるのかもしれない。

 

 けれど、それは見当違いも良いところだ。

 麗日さんは本気でかっちゃんを倒そうとしていて、かっちゃんは何かをしようとしている麗日さんを警戒して攻めに行けていないだけ。

 そのブーイングはかっちゃんはおろか、麗日さんすら侮辱しているのと同意義だと、観戦しているお客さんに思考を回せと求めるのは……流石に酷だろうか。

 

 

『今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ? シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ』

 

 

 そんな僕の思いを代弁するかのように、相澤先生が静かに怒っていた。

 かっちゃんの警戒を、麗日さんを認めるが故の本気を、圧のある声で語ってくれる。

 

「……相澤先生のこういう所、好き」

「……うん、何だかんだで僕らを、よく見てくれてるよね」

 

 ブーイングにむっとしていた凍夏ちゃんが、嬉しそうな笑顔で頷いた。

 厳しい所が多い先生だけど、それは僕たちに立派なヒーローになってほしいから。

 かっちゃんも麗日さんも今、その為に全力でやっているのだから、外からの野次が許せなかったんだ。

 

 そして、戦闘が進展する。

 麗日さんが個性を解除した事で、貯めたステージの破片がかっちゃんへ向かって降り注ぐ。

 同時に、麗日さんもかっちゃんへと向かって行く。

 

 とんでもない捨て身の策。

 

 かっちゃんはそれを――真正面から突破した。

 

 大火力の爆破を上に向けて、破片を全て消し飛ばしたのだ。

 

 しかし、あの規模の火力はかっちゃんにとってもそれなりに無茶をした筈で。

 間違いなく掌にダメージがあるから、試合への影響は確実に出る。

 

 

 だけど、その前に麗日さんが力尽きた。

 

 

 彼女は、容量重量(キャパ)をとっくに超えて戦っていたんだ。

 

 

「麗日さん……行動不能。二回戦進出、爆豪くん――!」

 

 

 まだ立とうとしている麗日さんに、様子を見ていたミッドナイト先生は難しそうな顔をしながらも、ゆっくりとかっちゃんの勝利を告げた。

 かっちゃんは一息吐いて、リカバリーガールの元へ運ばれる麗日さんを見送るとステージを後にした。

 

 ……僕の二試合目も近い、控え室へ向かおう。

 

「そろそろ下に降りてるね」

「あ、出久。私も行く」

「ん、そっか」

 

 凍夏ちゃんの提案に、頷きながら席を立つ。

 多分、麗日さんが心配で様子を見に行きたいんだろう。

 発破を掛けた手前会いづらい僕とは違い、女の子同士ならきっと話せる事もある。

 

 クラスの皆に見送られて、僕は凍夏ちゃんと控え室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けてしまった!」

 

 出久と共に控え室に行くと、お茶子は開口一番にそう言った。

 一見いつもの調子に見えるが、私からすれば無理をしているのが丸分かりだ。

 出久もよく、躓きそうになるとこういう顔をして誤魔化すから。

 

「最後行けると思って調子乗ってしまったよ、くっそー……」

「……お疲れ、お茶子」

「ありがとー、凍夏ちゃん」

 

 けど、今はにこにことしている彼女に合わせた方がいい。

 

「麗日さん……ケガは、大丈夫?」

「うん。リカバリーされた! 体力削らんよう程々の回復だから、すりキズとかは残ってるけどね」

 

 下手な気遣いはせずにケガの心配をする出久に、笑いながら答えるお茶子から少しだけ視線を逸らす。

 今の彼女を見ているのは、私にとっても辛さがあった。

 

 その調子のまま爆豪の強さを語るお茶子に、出久も声のかけ方が分からないようで言葉が途切れる。

 けれど、放送のスピーカーから引き分けだった切島対鉄哲の簡易勝負の決着が着いた旨が流れて、二回戦の開始が近いと知らされた。

 

「じゃあ、僕は行くね」

「ああごめん! 私おってデク君全然準備が……見とるね、頑張ってね!」

「行ってらっしゃい、出久」

「うん、頑張る。行ってきます」

 

 出久が小さく笑いながら控え室を出ていった。

 だから、私とお茶子の二人だけ。

 

「あ、ごめんすぐ出るね。凍夏ちゃんも次は――」

 

 それでも私を気遣おうと、出ていこうとした彼女を。

 

 

「――――へ?」

 

 

 私は、胸に抱えるように抱きしめた。

 

 

「お茶子」

「え、ちょ、ど、どないしたん凍夏ちゃん!?」

「……無理、しなくていいよ」

「――――っ」

 

 

 私の言葉に、お茶子は身体を震わせる。

 

 これは、別に私がしなくてもいい事かもしれない。

 お茶子の両親や、梅雨ちゃんたち他の女子でも良いのかもしれない。

 

 

「今は、私しか居ないから……」

「とうか、ちゃ……」

 

 

 けど、私も彼女の友達だから。

 

 友達の弱音を吐ける場所に、なってもいいんじゃないかなって、思ったから。

 

 

「……最後ね、焦り過ぎてん」

「うん」

「打開策も、何もあらへんかってん」

「うん」

「……勝ち進んで、アピール、したかってん」

「うん」

「早く、父ちゃんや母ちゃんに、ひっく、楽させて、うぅ、あげたかってん」

「うん」

 

 

 徐々に涙声になるお茶子の頭を、背中を、優しく撫でる。

 

 出久が心が不安定な私を、慰めてくれた時のように。

 

 

「わたし……わたしね……」

「…………」

「めっちゃ……悔しく、て……ぇ……!」

「……うん、頑張ったね」

 

 

 限界だったらしいお茶子が、私の胸に顔を埋めながら声を押し殺して泣いている。

 

 彼女はきっと、ここでの涙と悔しさをバネにして、良いヒーローになる。

 

 

「お疲れ様、お茶子」

「うんっ……ありがと……!」

 

 

 私はそんな未来を確信しながら、お茶子が泣き止むまで胸を貸していた。

 

 







 一足先に観客席に戻った爆豪は、クラスメイトに迎えられた。

「おーう、何か大変だったな悪人面!!」
「組み合わせの妙とはいえ、とんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん」
「うるせえんだよ、黙れ」

 瀬呂や梅雨の言葉に静かな調子で罵倒を吐く爆豪。
 皆がいつも通りだと思う中、上鳴が彼を指差しながら何でもない調子で話しかける。

「まァーしかしか弱い女の子相手によくあんな思い切りの良い――」


「今、なんつったアホ面」


 瞬間、爆豪が上鳴の胸ぐらを掴み上げた。


「ぐえっ……!?」
「ちょっ!? 何してんだお前!?」
「お、お止め下さい爆豪さん!!」

「黙ってろ」

 突然の暴挙にクラスメイトたちが彼を止めようとするが、選手宣誓の時のような威圧に固まってしまう。
 それでも比較的動じていない障子や砂藤などが二人を引き離そうとする。


「アホ面、テメェの尺でモノ言ってんじゃねぇ。あいつは、麗日はこの俺に対して本気で勝ちにきてやがった」


 けれど、続く爆豪の台詞に動きを止める。


「無茶やって倒れて、それでも立って向かって来ようとしやがった。最後は這いずってでもっつー気迫見せてな」


 彼の怒りは、上鳴の失言へと向かっていた。


「それをか弱い女の子だァ? ……フェミニスト気取って馬鹿にすんのも大概にしとけやクソが!!!!」


 それだけ言って上鳴を突き飛ばすと、一番端の空いた席へドカッと座った。

 ゲホゲホと咳き込む上鳴を横目に、思いの外早く終わった一連の流れについて、クラスメイトたちは安堵や納得、意外性を含めた溜め息を漏らしていた。

「成る程。爆豪の怒りはそういう事か」
「お茶子ちゃんも全力でやったのだもの、なのにか弱い女の子って言われたら嫌よね」
「確かに上鳴さんの発言は、麗日さんに失礼でしたわ」
「う…………すんません…………」
「上鳴ザマァ。てか爆豪、アンタそんなキャラだったっけ」
「うるせえ黙れ殺すぞ」
「ああそうそう、それでこそ爆豪って感じ」
「喧嘩売ってんのか耳……!!」
「や、ごめんって」
「爆豪ちゃん、それを直接言ってあげたらお茶子ちゃんも喜ぶと思うわ」
「態々言う事かよ。テメェらも言ったら殺す」
「そう……(でも、教えてあげた方が良いわよね)」



 少しずつ丸くなってきているかっちゃんでした。
 ちなみにお茶子は帰って来てから梅雨ちゃんに聞いて、爆豪にまとわりついてアイアンクローをかまされます。

 何か前話から上鳴の扱いが酷いですが、彼が嫌いな訳ではないのであしからず。作者はお調子者キャラは好きです。


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19:一気に二回戦。

 
 毎度ながら感想・評価ありがとうございます。
 おかげさまで累計100,000UAを越えたそうです。
 体育祭以降はのんびりペースになる予定ですが、これからも良ければよろしくお願いします。

 二回戦、というか本番までの巻きの一話。

 ついでにどうでもいい話を一つ。
 視点がオリ主じゃない時の法則。
・オリ主の精神状態が大分揺れてる時。
・↑の派生系。オリ主が寝てたり、甘えるのに忙しい時。
・その場面にオリ主が居ない時。
 大体このパターンです。


―第三者視点―

 

 

「まだ始まっとらん? 見ねば」

「うら……目を潰されたのか!!! 早くリカバリーガールの元へ!!」

「行ったよ。コレはアレ、違う。飯田君こそ、そろそろ控え室行かんでええの?」

「これが終わったら急いで行くさ」

 

 観客席に戻った麗日は、泣き腫らした目を見て勘違いした飯田に言い訳しながら、彼と常闇の間の席に着いた。

 

 凍夏はそのまま控え室に居るので、ここには戻ってこない。

 胸を借りた事を少し恥ずかしく思うが、泣いてすっきり出来た事に麗日は感謝していた。

 

「今は悔恨より、この戦いを己の糧とすべきだ」

「うん、相手は普通科の心操君だよね」

「うむ。彼の個性は強力だが、緑谷君なら問題なく攻略出来るだろう」

 

 飯田の言葉に、麗日だけでなく周りのクラスメイトたちも頷いた。

 

 心操の個性は確かに強い。しかし、詳細が判明すれば分かりやすい欠点もある。

 彼の言葉に反応するのがトリガーならば、反応しなければいい。

 ヒーローの常ではあるが、個性の種が割れると辛いのは誰も同じ訳だ。

 

 それ故、出久が欠点に気づいていない訳がないと、この場の誰もが思っていた。

 

 

『さァ! いよいよ二回戦の始まりだ!!』

 

 

 実況の言葉からすぐ、ステージ上に出久と心操が現れ、両者が向かい合う。

 

 決意に満ちた表情で、しかし笑みを浮かべる出久と、対照的に眉間に皺を寄せた心操。

 

 

『今回の体育祭トップ成績の一人! 緑谷!!』

『対! 普通科からのダークホース! 心操!!』

 

 

『START!!!!』

 

 

 開始の合図と共に、出久が個性を纏い駆け出す。

 

 一瞬で距離を詰めた彼は、心操に言葉を話させる間もなく身体にタックルをして、勢いのままに場外へと押し出した。

 

「心操くん場外! 緑谷くん、三回戦進出!」

 

『早業!! ヒーロー科緑谷、心操の個性を嫌って速攻で片を付けたァ!!』

『個性が分かっていれば、こうなるのは見えていたな』

 

 一瞬で終わった試合だったが、観客の反応は悪くない。

 出久の判断への称賛も勿論だが、ここまで来た心操を讃える声も多い。

 

 本人たちはというと、場外に腹を押さえながら転んでいる心操に出久が手を差し伸べている所だった。

 

「大丈夫? 立てる?」

「…………くそっ、やっぱこうなるか」

 

 心操はその手を取らず、自力で立ち上がってゲートへと向かう。

 背を向けられた出久は、少しだけ考えてから言葉を紡ぐ。

 

「もっとさ、身体を鍛えたら良いと思うよ」

「…………何だい、宣戦布告した癖に瞬殺された無様な敗者に、勝者の余裕でアドバイスか?」

 

 足を止めた心操は、振り向きもせずに吐き捨てた。

 

「まさか。ただのおせっかい」

「…………は?」

 

 しかし、続く出久の言葉に思わず振り返ってしまう。

 

「対人に強い個性……例えば僕たちの担任のイレイザーヘッドもそうだけど、自分の個性だけじゃどうにもならない敵っていうのは必ず居る」

「そういう時の為に、身体能力を鍛えたり特定の武器を使う練習をしたり、視野を広げるべきなんだ」

「心操くんの個性はそのままで十分強力だから、個性に頼らない部分を伸ばせば、きっと選択肢を増やす結果になるよ」

「その手始めに、身体を鍛えるのは悪くないかなって」

 

 つらつらと並べられた出久の言葉に、聞き終えた心操は不可解だと言わんばかりに眉を潜めている。

 

「…………なんで、わざわざ敵に塩を送るような事を」

「なんでって……ヒーローを目指してるから。余計なお節介だとしても、助けになるのは当然だよ」

 

 例え相手がライバルでもね、と笑顔で言う出久。

 ライバルと言われた心操は目を見開いて、それから軽く息を吐きながら肩を落とした。

 

「俺の個性、ヴィラン向きってよく言われるんだけど」

「そうなの? 殴る蹴るしか出来ない僕からすれば、敵も味方も無傷で済ませられる凄くヒーロー向きな個性だと思うよ」

「…………全く、発想も度量もとんでもない奴」

「え、えっと、ありがとう?」

「……ま、今日もやれるだけはやったんだ……ヒーローになる為に、俺のやる事は変わらないよ」

 

 心操はそれだけ言うと再び背を向けて、片手を上げてヒラヒラさせながら退場していく。

 彼の様子に何かを感じた出久も、嬉しそうな顔をしてから反対側のゲートへそそくさと消えていった。

 

 ちなみにここまでのやり取りを聞いていたミッドナイトが青臭い……! とプルプル震えていたのは余談だ。

 

 

 

 

 短時間決着による観客の沸きも収まった頃合いに、試合は進む。

 

 フィールドには、真剣な表情の凍夏と飯田。

 

 

『第二試合! お互いヒーロー家出身のエリート対決だ!!』

 

『フレイムヒーロー「エンデヴァー」の愛娘! 轟凍夏!!』

「先生、愛娘とか気持ち悪いので止めて下さい」

『えっ、ごめん……対! ターボヒーロー「インゲニウム」の賢弟! 飯田天哉!!』

「失礼します! 今の俺に賢弟など、身に余る評価ではないかと!!」

『こっちも!? ごめんって!!』

 

 

 しかし、端から聞けば問題無さそうな紹介に、両者から苦情が来る。

 流石にマイクも狼狽えながらも、素直に謝罪を入れた。

 

『俺、そんなに変な事言ったかなぁ……?』

『お前は昔から余計な事しか言わんだろ』

『オーノー! イレイザーまで!?』

『いいからはよ進めろ山田』

『本名ヤメテ!! START!!!!』

 

 

 締まらないスタートに、けれど二人は確実に反応した。

 凍夏が飯田に向かって氷結を繰り出して、飯田はスピードを駆使して横に避ける。

 氷結を防ぐ術を持っていない彼にとって、フィールドが氷で形成されてしまえば相手に有利になってしまう。

 

 飯田にとって、理想の形は短期決戦。

 そして彼には、ここまで使っていない一つの技があった。

 

 再び自身へ向かってくる氷結を、走り幅跳びの要領で飛び越えて。

 凍夏の上に来た時、飯田はそれを解禁した。

 

 無理やりトルク数を上昇させ、速度を急激にあげる裏技。

 

 麗日風に言うなら、超必。

 

 

「レシプロ……バースト!!」

「っ、くっ……!!」

 

 

 急激に上がった速度と共に繰り出された蹴りを、凍夏はギリギリの所で氷結を纏った右腕を割り込ませてガードした。

 

 しかし勢いまでは抑えきれず、そのまま蹴り飛ばされてしまう。

 背後に薄い氷の壁を重ねる事で勢いを殺して場外は防いだが、かなりのダメージが入ったように見えた。

 

『なーー!? 何が起きた!!? 速っ速ーー!! 飯田そんな超加速があるなら予選で見せろよ!!!』

『轟もギリギリ反応したな。直撃は避けてる……いや、これは』

 

 マイクが驚きのシャウトをする中、相澤は何かに気づいて飯田を見る。

 

 

「危な、かった」

「な……!?」

 

 

 そして飯田は、凍夏を蹴った左脚が凍りついている事に気がついた。

 彼女はと言えば、氷の装甲を溶かした腕をぷらぷらさせて立ち上がっている。

 少し痛そうにしてはいるが、特に問題なさそうな様子だ。

 

 

『あれェ!? いつの間にか飯田の脚が凍らされてるぜ!!?』

『今の蹴りの時だ。蹴られた瞬間にやったらしい。あの超加速を読んでいたみたいだな』

 

「あの触れた一瞬で……!?」

「レシプロバースト。インゲニウムの技で有名だし、飯田にもそういうのがあるんじゃないかと警戒してたから」

「くっ、見破られていたのか……!」

 

 

「出久には及ばないけど……私、結構ヒーローオタクだよ」

 

 

 そう言いながら凍夏から繰り出された氷結を、片脚が使えない飯田は避けきれず。

 騎馬戦の時のように首の下まで凍らされて、行動不能となった。

 

『飯田くん行動不能! 轟さんの勝ち!!』

 

 先程と同じく短期決戦ではあったが、見ごたえのあった勝負に会場の大いに湧いている。

 飯田の速度と蹴りの威力には勿論、それに対応しきった凍夏には感嘆や畏怖すら抱いた者が多い。

 

 性別差による力不足など無いかのような立ち回り。

 爆豪にも匹敵する反応速度。

 瞬間的な個性の緻密な制御など、改めて他の一年よりも抜きん出ていると認識させられたのだ。

 

 流石はNo.2の血筋。

 

 等と、飯田の氷を溶かす彼女本人に知られれば、一気に不機嫌になるような事を多くのヒーローたちは思っていた。

 

 

 そして、この時点で準決勝第一試合の組み合わせが決まる。

 

 ここまで圧倒的な快進撃を続けてきた三人のうちの二人による、一対一の勝負。

 

 

 緑谷出久vs轟凍夏

 

 

 二回戦第三試合が始まるまで、観客たちは二人の勝利予想などをして盛り上がっているのだった。

 

 

 

 

「飯田、大丈夫? まだ寒い?」

「いや、問題ない。気遣いありがとう……」

 

 試合が終わった私は、万が一にも時々焦げ臭い親っぽい物体に遭遇しないように、来た時とは反対側……飯田と一緒の通路から観客席に上がる。

 影を背負う彼と並びながら、無事に会わずに観客席へ戻れた私はクラスの皆に迎えられる。

 

「お、エリートのお二人さんが戻ってきたぜ!」

「む」

 

 上鳴は何気ない表現で言ったのかもしれないけど、その呼ばれ方は嫌。

 嫌悪感までは無いけど、血筋についてあれこれ言われるのは好きじゃない。

 落ち込んでいる飯田も、首を降りながら否定する。

 

「初見の技を破られた俺がエリートなどと……過分も過ぎる評価だ」

「私も、なるべく止めてほしいかな」

「上鳴アンタもう喋らない方がいいよ。ホントに今日醜態しか晒してないから」

「うぇい……本日はもう言葉を話さないので許して下さい……」

「そこまでしなくとも良いぞ!?」

 

 がっくり落ち込む上鳴に飯田が突っ込む。

 私は別に本人が喋らないというならそれを尊重するけど、上鳴の事だしすぐに忘れそうだとも思った。

 

 二人の茶番劇を横目に、既に定位置と認識されて出久の隣に空けられた席に座り、彼の肩に頭を預ける。

 

「お疲れ様。蹴られた所は大丈夫?」

「平気。ちゃんと受け流した」

「そっか。流石凍夏ちゃん」

「もっと褒めて」

「はいはい、凄い凄い」

「んっ」

 

 苦笑気味の出久に猫可愛がりの如く甘やかされる。

 体育祭中は触れ合いが減って寂しいから、タイミングを逃さずに接していたい。

 

「二人とも、次お互いと戦うとは思えんぐらいリラックスしとるね……」

「どちらかと言えば、凍夏ちゃんがいつも通りだからそれに緑谷ちゃんが合わせている感じかしら」

「あはは……よく見てるねあす、梅雨ちゃん」

「凍夏ちゃんは分かりやすいもの」

「確かに。デク君の前だと特にね!」

 

 お茶子と梅雨ちゃんが私の様子を見て、色々言っている。

 大体あってるけど、そんなに私は分かりやすいだろうか。

 

 ん、この頭を撫でる感触はお茶子の手か。

 

「おぉー、髪さらっさらや……」

「そう?」

「そうー。トリートメントとかどんなん使ってるの?」

「よく知らない。姉さんが選んで置いてるの使ってる」

 

 女の子は髪の毛のケアはちゃんとしなきゃ! と、冬美姉さんが熱弁していたからそれに従っている。

 特に、出久に撫でられるなら手触りが良いに越した事はないと言われたのが大きい。

 

「そっかー……そういえば凍夏ちゃん家ってお金持ちやったっけ」

「そうなの?」

「え、そうじゃないの?」

「一般的にはそうだと思うよ。それと凍夏ちゃん、そろそろ次の試合が始まるだろうから離れようね」

「んー……うん」

 

 出久に促されて、彼の肩から起き上がる。

 

 名残惜しいけど、流石に試合は真面目に見ないといけない。

 

 

 そして、次に出久と触れ合えるのは――

 

 

「……ん、どうかした?」

「……ううん、何でもない」

 

 

 ――彼との、試合が終わった後だ。

 

 

 

 

 その後、芦戸対常闇と切島対爆豪の白熱した試合が行われる。

 

 けれど、私の意識はずっと隣の幼馴染へと向けられており、観戦に集中していなくて。

 

 どんどんと近づいてくる運命の時へと、強い思いを寄せていた。

 

 

 

 

 いよいよ、私と出久の試合が始まる。

 

 

 

 




 THE・描写される事無く終わる二試合。

 原作で常闇くんがどう芦戸さんを倒したのか気になるけど多分ヤオモモと一緒で早業な感じだと想像。
 切島対爆豪は大体原作通り。強いて言えば爆豪のクレバー度が増してるぐらい。

 以下ダイジェスト的な何か。

・芦戸対常闇。

「投げ飛ばせ、黒影!」
「アイヨ!」
「わわっー!? さ、酸で空中方向転換とか……ムリーー!!」

「芦戸さん場外! 常闇くんの勝ち!!」

「強すぎだよー! 何も出来ずに終わるの悔しい!!」
「芦戸の酸は強力故、早業が良かれと考えた」

・切島対爆豪

「効かねーっての! 爆発さん太郎があ!!」
「クソ髪が……流石に固ぇだけじゃねえ。が――」
「ぐっ、爆撃連打……!?」
「――テメェの硬化は全身ガチガチに気張り続けてんだろ! なら絶え間ねぇ攻撃ならその内どっか綻ぶわ!!」
「まじ、かよ……!?」
「死ねえ!!!!」

「切島くん行動不能! 爆豪くんの勝ち!!」

「ぐ……正面、突破かよ…………」
「甘ぇよ。だが根性は認めてやる、切島」



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20:vs出久。爆豪の解説付き。

 
 
 ドキドキ、ドキドキと鼓動が高鳴ってきた。

 いざとなると、改めて緊張しているらしい。

 誰もいない控え室で、一人大きく深呼吸をする。


「すー…………はー…………」


 深く息を吐き、深く吸う。

 何度か繰り返していると、鼓動が平常と同じ速度に戻っていくのが分かった。

 落ち着いた所で、これからの対戦に思いを寄せる。


 相手は、大切な幼馴染。

 オールマイト(No.1ヒーロー)エンデヴァー(No.2ヒーロー)が認める、最高のヒーローの卵。

 私の身も心も救ってくれた、私のヒーロー。

 想いを寄せている、大好きな男の子。

 轟凍夏という女の子の中でとても、とても大きな存在……緑谷出久。


 そんな彼と、今から一対一で戦うんだ。


 この対戦は、きっと体育祭が始まった時から決まっていた。

 期待や興奮で誤魔化していたけど、不安が無い訳じゃない。

 勝敗は勿論、私と出久の個性を使った戦いがどうシミュレーションしても簡単には終わらない事も分かっている。

 けど、不愉快な父親の前で言った事も事実。

 どんどん先へ進む出久に、置いていかれる訳にはいかないから。

 隣に並び立つ為に、足を止められないから。

 だから、その為にも。


「…………頑張る」


 笑え、轟凍夏(わたし)

 笑顔で戦いに向かうんだ。


 目標であるオールマイトのように。

 道標となってくれる出久のように。


 世の中は笑ってる人が一番強いんだって、思えるぐらいに笑顔で。


 私に出来る最高の笑みを浮かべて。


 同じように笑っている筈の出久と、正面からぶつかりに行こう。
 


―爆豪勝己―

 

 

『ついに準決勝! てか実質決勝!? 観客のリスナーたちも待ち望んでいただろう二名の戦いが!! 間もなく始まるぜェ!!!』

 

 

 グラサン先公のクソウゼェクソ実況で、モブ共の歓声が死ぬほどやかましくなる。

 次のこの俺の試合がおまけみてぇな言い方が頭にきたが、これからの試合に注目してるのは違いねぇ。

 

 言葉に出して認めはしねぇが、アイツらは今の俺と同等以上の力を持ってやがるから。

 悔しい事に一回戦で見せた奴らのパフォーマンスは、俺からしてもとんでもねぇと思っちまった。

 

「ねぇねぇ爆豪君! どうなると思う? どっちが勝つかな? 私、どっち応援したらええかな!?」

「耳元で叫ぶな丸顔ォ!! 知るか揺らすな触んなクソが!!!!」

 

 俺の隣に陣取っている麗日(まるがお)が、気持ち悪ぃぐらい興奮してやがって肩を掴みながらそんな事を聞く。

 言うなっつったアホ面のクソ発言の一件を、カエル(蛙吹)がペラペラ喋りやがったせいで、無駄に馴れ馴れしくなりやがった。

 

 あれは別にテメェを庇った訳じゃねぇ、俺の対戦相手の価値を下げようとしたクソアホを殺しただけだってのに。

 

「麗日君止めたまえ! 爆豪君が酔ってしまうぞ!!」

「この程度で酔うかよ馬鹿にしとんかクソ眼鏡!!」

「凄い面倒臭いなコイツ……」

「聞こえてんぞ耳ぃ……! テメェも馴れ馴れしいんだよ……!!」

「つって手を出さないだけ丸くなったよな」

「爆豪もクラスに馴染んでる証拠だな!」

「っ~~~~!!!!!!」

 

 クソが……どいつもこいつも馴れ馴れしくなりやがって……!

 カエルのチクリにしてもそうだ。完全に俺を舐めてやがる。

 

 よォし決めた、体育祭が終わったら全員ノす。

 

 爆破予告代わりにギロリと周りを睨めば大体の奴は顔や目を逸らしたが、カエルにだけは何を考えているか分からん顔で見返された。

 

「爆豪ちゃん、私思った事は何でも言っちゃうの」

「あぁ? 言うなっつってもかァ!?」

「そっちもごめんなさい。お茶子ちゃんは知っておくべきだと思ったから」

「はぁ……? 何の話か端的に言えや!!」

 

「私、爆豪ちゃんはプロになってもキレてばっかりで人気出なさそうだと思ってたの」

 

「「「「梅雨ちゃん!?」」」」

「…………へェ、それで?」

 

 

 ここでこうも正面から喧嘩を売られるとは思わなかった。

 売られたからには買ってやる。だから最後まで話は聞いてやろう。

 

 幾つも青筋が浮かんでいる俺に周りが慌て始める気配がするが、カエルは気にする素振りも見せずに言葉を続けた。

 

 

「けど、爆豪ちゃんには爆豪ちゃんの決めた絶対的な線引きが幾つもあって、それを周りに認めさせる力もある。今日の選手宣誓とか、さっきの上鳴ちゃんの時とかね」

「……何が言いてぇ。端的に言えっつったろ」

「ケロ……要するに、爆豪ちゃんはプロになったら確実に人気になれるモノを持っているって思い直したわ、って言いたかったの。だからこっちもごめんなさい」

 

 

 簡単に締めて頭を下げるカエル。

 言わなきゃ分かんねぇ事を態々言う必要も、それに対して謝る意味も分からん。

 俺の評価は俺自身がする。他人の評価なんざ知ったこっちゃねぇんだ。

 

 だが、テメェがこの俺に正面から向かってきた事は評価してやる。

 

「はっ、当然の事を言ってんじゃねぇぞカエル。俺はオールマイトを越えるヒーローになる男だ。人気なんぞ腐る程出すわ」

「梅雨ちゃんと呼んで。それはそれとして、言葉遣いはどうにかした方が良いと思うけど」

「分かる」「それな」「暴言改めよ?」

「テメェらはうちのババァかクソ共……!!」

 

 タイミングがありゃあ馴れ馴れしく突っ込んできやがって……ちっ、まあいい。

 

 俺はそう簡単に俺を曲げるつもりはねぇ。

 自分の決めたゴール……オールマイトをも越えるヒーローになるのにも、俺が決めた道を進む。

 他所から口出しされて曲げる程度の意志で、俺のやり方を貫いてんじゃねえんだよ。

 

 委員決めでデクに票を入れるなんざ真似をしたのも、苦渋の決断だった。

 つってもあのクソボケはそれを蹴って、クソ眼鏡に譲りやがったがな。

 

 ……ちっ、思い出したら腹が立ってきた。

 諸々のイラつきは次の(常闇)との試合で発散するか。

 

 

『さあ! 雌雄を決する二人が今!! 入場だァ!!!』

 

 

 無駄な事を考える時間は終わりだ。

 

 アイツら二人のどっちかが、俺と決勝で戦う。

 

 欲を言えば両方をぶっ倒してやりたかったが、仕方ない。

 

 動作、個性、一挙一動たりとも見逃さねぇ。

 

 

 入場してきた奴らは……ケッ、似たような面しやがって。

 

 

『地味目な顔に派手な個性! 予選から圧倒的なパワーとスピードで勝ち上がってきた男!! 緑谷出久!!』

 

 

 デクはオールマイトを意識してんのか、力強い笑顔を浮かべている。

 

 

『対! 才色兼備な妖精少女!! 氷と炎の華麗な演舞! 轟凍夏!!』

 

 

 半分女はそのデクを真似た笑顔で、向き合っている。

 

 多分アイツらは互いの面構えが一緒なのに気づきながらあの顔をしてんな。クソキメェ。

 別に奴らが乳繰り合ってようがどうでもいいが、その様子を周りにばらまいてんのはどういう神経してんだか。

 

『更に聞くところによれば、緑谷はエンデヴァーの愛弟子だとか!! イレイザーこれマジ?』

 

 お、デクの口元が引きつって、半分女の眉間に皺が寄った。笑える顔だわ。

 デクに関しちゃあプレッシャーに弱いタマじゃねぇが、下手に注目されんのには慣れてねぇから止めてほしかったんだろうな。

 半分女はあれだろ、無駄に父親の功績増やして欲しくなかったんだろ。

 

 そういやエンデヴァーの姿が見えねえな、応援の一声でも上げてそうなもんが。

 ぱっと見聞きした親馬鹿具合を考えても、観戦してない筈はねえ。どこにいるのやら。

 

 ……なんで俺はどうでもいい事を気にしとんだ。

 周りを見るようになって増えた悪い癖だな、クソ。

 

『急にマジトーンになるな。障害物競走の時に叫んでただろ』

『そういえばそうだった! 意外と親馬鹿弟子馬鹿なんすね。それはそれとして弟子対娘の対決! これは面白い勝負になりそうだァ!!』

 

 思わぬ情報に会場のボルテージが更に上がる。うるせぇ。

 

 つか紹介なんぞ今更だろうが。さっさと始めろやクソグラサン。

 

 

『そんじゃあ始めるか! 準決勝第一試合!!』

 

 

 俺の睨みが通じた訳じゃねえとは思うが、ようやく試合が始まる。

 

 

「ねえ、出久」

 

 

 静かになっていく会場に、集音器に拾われた半分女の声が拡がる。

 

 この期に及んでまだ何か話すンかい。

 

 

「何、凍夏ちゃん」

 

「本気で来てね。顔とか、殴って良いから」

 

「……そ、それは、時と場合によるかな……」

 

 

 なんだそれ、もうちょっと言い方なかったんか。

 どう返すべきかデクも返事に戸惑ってんじゃねーか。

 そもそも本気でやんのと顔面殴んのは別にイコールじゃねえだろ。

 

 締まんねぇやり取りだったが、そういや半分女はそういう奴だった。

 

 

『えー……START!!!!』

 

 

 そんで締まんねぇまま、試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

穿天氷壁(がてんひょうへき)!」

 

 

 試合の開始直後、さっきのやり取りから一転して切り替えた轟が、一回戦で使った大氷壁(技名がダセェ)を展開していく。

 膨大な質量に対して、デクがどう対処するのか観察する。

 

 

「さん、じゅっ、パーセントォ!!!!」

 

 

 全身に緑光を纏ったアイツは、細かい拳のラッシュで発生する衝撃波を使って、自分に迫り来る氷を破壊している。

 それはいい。今のデクにはそれぐらい余裕で出来る。

 

 だが、今の技は……!

 

「オイオイあれ! さっき俺が爆豪にやられたのと似てねーか!?」

「クソが……真似しやがったなデク……!」

 

 クソ髪(切島)が叫んだ通り、二回戦で俺が使った絨毯爆撃と同じ発想の攻撃だ。

 ご丁寧に動きまで模倣してんのは、俺の動き方が効率的だと分かってやがるからだ。

 忌々しいが、周りを見て取り入れられるものを取り入れているアイツらしいとも言える。

 

 パンチの連打をしながら、そのまま完成した大氷壁に飲み込まれるように消えたデク。

 

 だが、氷壁がしょうゆ顔(瀬呂)ん時程の規模じゃねえ。

 轟も一発を狙っちゃいたが、仕留めきれるとは思ってなかったんだろう。

 

『轟いきなりかましたぁ!! 緑谷との接戦を嫌がったか!!』

『いや、まだだ』

 

 クソ担任の言葉と同時、会場に地響きが起こる。

 一回、二回と続き、三回目。

 

 

「……流石!」

 

「――――SMASH!!!!」

 

 

 叫び声と共に、氷山が登頂から崩壊しながら、突き破るようにデクが姿を現した。

 

 派手な破壊と轟の氷壁の攻略に、会場の歓声が一気に大きくなる。

 

 個性といい、技といい、マジでどんどんオールマイトみたいになりやがって……!

 

 

『正面突破! 緑谷、轟の大氷壁を真正面からぶっ壊したぁ!!』

『力業だが……これは敢えてサイズのでかい氷塊を残すように壊したな』

『へ? なんでわざわざ邪魔なモンを?』

『お前もちっとは考えろよ……使う為だ』

 

 

「っ、そう来るの!」

「使わせてもらうよ凍夏ちゃん!」

 

 

 デクが宣言する直前、轟が身体に炎を展開する。

 

 

「30%セントルイススマッシュ……アイスバレット!!」

 

「っ――赫灼熱拳・ヘルスパイダー!!」

 

 

 そしてデクは近くにある氷塊を、次々と蹴り飛ばして轟に撃ち込んでいく。

 轟はそれを左手の指からレーザーのような炎を幾つも展開。クモの巣状の網の形にして氷塊を受け止めるようにしながら溶かしている。

 

 成る程、さっきの大氷壁は氷の密度を高く作ったせいで、普通の炎熱じゃすぐには溶かしきれねえのか。

 

 デクのやつ、そこまで分かって氷塊を武器にしやがった。

 

 まあ、アイツは今のうちに()()()()()()()()()()()()からな。

 

 つーか轟のあの攻撃、昔エンデヴァーが使ってんのを見た記憶がある。

 どうでもいいが何だかんだで親父の技を真似してる辺り、本格的に嫌ってる訳じゃねえらしい。

 ついでにネーミングセンスの無さも親父譲りかよ。こっちはもっとどうでもいいわ。

 

「やはり緑谷君は上手いな……相手の作った物を利用して攻撃するとは」

「逆に私は自らを見直さなければならない所ですわ。創造で作った物を利用されないよう、立ち回りを気を付けないと……」

 

 クソ眼鏡(飯田)変態女(八百万)がクソ真面目に考察しながら観戦してるが、着眼点が甘ぇ。

 

 一見じゃデクが攻めてるように見えるが、この試合で分が悪いのはアイツの方だ。

 

 別に指摘してやる義理はねえが……考察を声に出してみりゃあ気づける事もあるか。

 

「デクは直接攻撃出来ねえからあれやってんだ。轟に触れりゃあ眼鏡ん時みてぇに凍らされて終わるからな」

「む、それは分かるが、彼には触れずとも衝撃を飛ばす術があるだろう。超スピードで撹乱しつつ、遠距離攻撃を狙っていけば良いのではないか?」

 

 眼鏡の指摘は分からんでもねえ、が。

 

「だとしても、簡単に撃たせてやる程、轟は甘くねぇだろ」

 

 ついでに言えば、今のデクにも弱点がある。

 

 そんでそこには、轟も気づいてる筈だ。

 

 

「不動氷陣!」

「っ、不味い! フルカウル、10%!!」

 

 

 視線の先では飛んできた氷塊を溶かしきった轟が、合間の隙を突いてフィールド全部をスケートリンクみてーにツルツルに凍らせていた。

 

 デクには跳んで避けられたが、それは想定済みっぽいな。

 

 あそこまで器用な事が出来るとは知らなかったが、あれは良い手だ。

 

 これでデクは踏ん張りが利かなくなると同時に、()()()()()()()()()()()()

 

 着地した瞬間を氷結で狙われて、滑りながらも逃げるデクに俺の考えは間違ってなかったと証明された。

 

「デクの野郎は見たとこ、まだ細かい個性の威力の切り換えが苦手だ。出力の変更や攻撃ん時にわざわざ「(なん)%」つって声に出してんのは、そうした方がやりやすいからか」

「む……言われてみれば」

「ついでに高出力の増強にも慣れきってねえ。思った通りに動けんのは大方10%まで。それ以上はまだ意識下の行動が追い付いてねえのか、直線的な動きが精々だ」

「……思い当たる節はあるな」

「そもそも、デクのパワー押しスタイルは急造もいいとこだろ。元々アイツは相手の動きや癖を考えて、素早く対処出来るように動く分析・予測型の戦闘タイプだ。個性の使い方と、身体に染み付いた型が噛み合ってなさすぎんだよ」

「そ、そこまで分かっておられたのですね……」

「今までの戦いでそんなに見破ってんのか……」

「スゲーな爆豪!」

「やっぱ才能マンだわ……」

「これぐらい気づけやバカが。そんで何喋っとんだアホ面!!」

 

 いつの間にか周りも俺の話を聞いてたらしい。盗み聞きしてんなよモブ共が。

 そんで隣の麗日、また肩を掴んで揺らそうとするんじゃねえ!

 

「でもでも! それじゃあデク君が不利って事?」

「いちいち寄んな丸顔ォ!! デクが使い慣れねえ力押ししてんのは、付き合いの長ぇ轟相手なら効果あるからだろアホが!! それでも分が悪ぃのはデクだが、轟にも突ける隙はあっからまだ分かりゃしねえよクソボケ!!!!」

「めっちゃ罵倒されてもた! っていうか凍夏ちゃんに隙って? 爆豪君いつの間に見つけたの?」

「はぁ!? てめえの方がつるんでんだろが……アイツ、今まで()()()()()()()使()()()()()()

「「「「……あっ!」」」」

 

 まじかよ……誰も気づいてなかったンかい。

 炎は移動と防御と氷解にしか使ってねえのに、よくもまあ。

 授業でも威嚇射撃に火球を撃つ程度の攻撃しか見た事ねえんだし、コイツらは気づいとかなきゃやべぇだろ。

 

 使ってねえ理由は知らんが、舐めプのつもりじゃねえのは見てりゃ分かる。

 無意識の仕業か、相手を目に見える形で傷付けんのを躊躇ってる、ってトコかね。

 轟は氷だけでも圧倒的な実力でゴリ押せてるから、使う必要がねえってのもあるかもしれんが。

 

 

 しっかしデクやエンデヴァーも気づいてるだろうに、矯正しねえ意味が分からん。

 何か都合が悪ぃのか……ちっ、止めだ止めだ。

 つかこんなん俺の考える事でも、知った事でもねえわ。

 

 何にせよ、俺と戦う時に使わねえなら殺す。理由がどうあれ使えんのに力を使わねえのは舐めプと変わらん。

 舐めプのカスに勝った所で、そんな勝ちに意味はねえからな。

 

 

 そこで、氷結から逃げ回っていたデクが思い切った行動に出た。

 

 

「――45%、マンチェスタースマッシュ!!!!」

「くっ……!?」

 

 

 軽く飛び上がり、真下に思いっきり踵落としを入れて、フィールドを氷共々バキバキに破壊している。

 

 あれなら足場は悪くなるが、滑らねえ。

 

『滑りながら逃げてた緑谷、ステージをぐっちゃぐちゃにしやがった!! 最早原形留めてねえ!!』

『本格的に場外のラインが分からんが……あの二人なら覚えてるか』

 

 だろうな、そもそも場外負けなんぞ詰まらん終わり方は許さねえ。

 

 と、デクがバランスを崩した轟にすかさず接近して、()()を掴んだ。

 

 あのままじゃ轟は投げ技を食らう。右での対応は間に合わない。

 

 

 状況を打開するには、炎を使うしかねえ。

 

 さあ、どうする。

 

 

 

 そこで轟は――笑ってやがった。

 

 

 

「――氷炎舞闘(ひょうえんぶとう)!」

 

「っ!? 危なっ!!」

 

 

 轟は両半身にそれぞれ炎と氷を纏うように展開させたので、デクは慌てて手を離して飛び下がった。

 

 身体の右半分は氷の鎧、左半分は炎の鎧を着ているような姿。

 

 ンだそりゃ。炎、攻撃に使えんのかよ。

 

 けどデクも驚いてっから、予想外の行動なのかもしれねえな。

 

 

「その技は……!」

「? 知ってるでしょ、氷炎舞闘。出久のフルカウルを見て、ちょっと改良したけど」

「あ、確かに……じゃなくて、凍夏ちゃんいつの間に炎を……!?」

「出久に、置いていかれる訳にはいかないから!」

 

 

 惚けみてえなキメェ台詞を言い切るなり、轟は氷結を重ねる移動でデクとの距離を詰める。

 

 積極的な掴みかかろうとする姿勢に変わって、デクも攻めあぐねてんのか合間合間の牽制レベルの風圧攻撃しか出来てねえ。

 

 氷炎舞闘。氷と炎を纏う技っつー事は、容易には触れられねえ訳だ。

 

 氷の方は触れれば凍結なのが既に明らかで、その理屈で行くなら炎に触れれば炎上させられる可能性が高ぇ。

 

 とどのつまり触れれば終わりの技。近接主体の奴には天敵も良いトコじゃねえか。

 

 デクもデカい一発を狙ってるみてぇだが、詰めてくる轟にそんな隙はねえか。

 

 ……なら、ある程度のダメージは覚悟して突っ込む選択肢が出て来るかもな。

 

『……当たり前のよーに必殺技使ってんなー……ヤバくね? どう思うよイレイザー』

『実況じゃなくて普通に喋るノリになってんぞ……今までの轟を見てたんなら、あれぐらいはしてくると思っとけよ』

『そっかぁ』

 

 ボーッとすんなやクソグラサン。

 仮にもプロならシャキッと実況やれや、気ィ抜ける声出すなクソが。

 

「緑谷君が防戦一方になるとは……」

「凍夏ちゃんの近接技と、緑谷ちゃんの個性じゃ相性が悪いわ」

「デク君攻められん……凍夏ちゃんのペースだ」

 

 コイツらの方が実況やってんぞ、いっそ変われや。

 

 チッ、気が散ってしゃあねぇ。試合に集中させろ。

 

 

「――行くよ!」

 

 

 お、デクがダメージ覚悟で攻めの姿勢に切り替えたか。

 

 攻勢の轟に合わせて、カウンターを入れるように右の拳をこめかみ辺りを狙って繰り出した。

 

 

「っらぁ!!」

「くぅっ……うあぁぁっ!!」

 

 

 轟はそれを炎を纏った左腕でガードするが受けきれず、眼鏡ん時よりもブッ飛んだ。

 

 眼鏡の蹴りと同レベル以上のパンチに、氷を纏える右と違って物理的な防御が無理な左側なら、ああなるのは可笑しくねえ。

 

 氷重ねて踏みとどまったが、ガードした左腕が変な方向に曲がってたのも見えた。

 多少受け流したトコで、ありゃあダメージデケェぞ。

 

 

「ぐうぅぅ……!!」

 

 

 ……が、無理に攻撃したデクの代償もかなりキテんな。

 

 殴った瞬間、右手から肩にかけて全体的に燃やされてた。

 

 すぐに個性使って振り払っちゃいたが、この距離からでも分かるぐらい酷ぇ火傷をしてやがる。

 

 使用不可って訳じゃねえだろうが、力入れた攻撃はほぼ無理だ。

 

 つーかマジで触れただけで発動かよ……反射レベルにするまで、どんだけ個性の訓練したんだか。

 

『ダメージ覚悟の緑谷の特攻!! 手痛い火傷は食らったが、轟にも重いのが入ったぞ!!』

『お前今日テンションの振り幅どうした……轟の方は折れたな。実質痛み分けだが、近接主体の緑谷の分が悪いのは変わらん』

 

 調子戻りやがったグラサンクソうるせぇ、やんならもう担任だけで実況しろや。

 

 後、ついでに加えんならデクは利き腕を使えなくなった。

 轟は氷の方が使い勝手が良いだろうし、差は歴然としてきたな。

 

 

 そんで今フィールドじゃ、火傷した右腕を庇うように立つデクと、折れた左腕を氷で固定している轟が向かい合っていた。

 

 

「このぐらい……出久の骨折に比べればっ……!」

「それ、僕が言えた事じゃないけど、比較対象がおかしいからねっ……!」

「ホント、出久が言えた事じゃないよ……!」

 

 

 ……アイツら、この場面でまだ笑ってやがる。

 

 奴らの目標とするヒーロー像を知ってる身からすりゃ、理由は分からんでもない。

 

 デクと轟は、助けるヒーローになりてえ。

 

 どんな時でも、笑顔で人々を救うヒーローに。

 

 だから奴らは、いつでも笑って戦うんだ。

 

 勝つ為に笑う俺には、理解出来ねえ話だが。

 

 ……それが奴らの強さだってのは、嫌って程知ってるからな。

 

 

「凍夏ちゃん」

 

 

 会場が固唾を飲んで展開を見守る中、デクの声が響いた。

 

 

「何、出久」

 

 

 

 

「もう、大丈夫なんだね」

 

 

 

 

 デクは、何かを確認するように問いかけている。

 

 それに対して、轟は今日一番じゃねえかってぐらい、ウゼェ笑顔を作って返した。

 

 

 

「出久に置いていかれない為になら、私は何だって出来るよ」

 

 

「……あはは、そっかぁ」

 

 

 

 返事を聞いたデクも、苦笑した後に似たような笑顔になりやがって。

 

 他が知らねえ何かを、轟が乗り越えたんだろう事は予想が付いたが。

 

 それはそれとしてイチャついてんじゃねえ。試合中だぞクソ色ボケ共。

 

 

 

「これで、決めよう」

 

「ん、加減無しだよ」

 

 

 

 改めて構え直したアイツらは、次の一撃で決着を着けるつもりだ。

 

 普通に続けりゃ轟に軍配が上がりそうだが……互いに怪我がデケェ以上、下手に長引かせるのは得策じゃねえ、か。

 

 

「身体許容、上限っ――――60%!」

 

 

 デクは今まで以上の圧と雷光を纏い、左腕を構えた。

 

 ……いや違う、左だけじゃねえ。

 右腕もかなり痛むだろうに、無理矢理力を入れてやがる。

 

 

「もっと冷たく――もっと熱く!」

 

 

 轟が身体から今までに無い勢いの炎を巻き上げた。

 

 ここまで熱が来るぐらいの、エンデヴァーのにも負けてねえ炎。

 

 

『馬鹿待てお前らっ!! セメントス!!!!』

 

 

 とんでもない惨状が生まれそうな光景に、担任が慌てて指示を飛ばす。

 

 多分抹消の個性も使ったんだろうが、一歩遅かったな。

 

 

 

「デラウェア・デトロイト・スマッシュ!!!!」

 

 

「アブソリュートゼロ・プロミネンスバーン!!!!」

 

 

 

 デクからは、二連続パンチでの衝撃波が。

 

 

 轟からは、特大規模の爆炎と氷結が。

 

 

 同時に放たれて、そして。

 

 

 

 フィールドで、とんでもねえ大爆発が巻き起こった。

 

 

 

 




 
 
「……出久も凍夏も、無茶をする」

「しかし……そうか、俺の心配は見当違いだったか」

「全く、オールマイトの事を言えんな」

「子どもの成長は早いな。大人の知らぬ間にどんどんと大きくなっている」

「……ならば俺は、せめて二人を回収するとしよう」
 


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21:過去の自分を乗り越えて。

 
 感想・評価ありがとうございます。
 ちょくちょく日刊ランキング上位に来てるみたいですね。ありがたき。

 オリ主の攻撃に炎を使わない理由の説明みたいな回。過去回想含む。



 夢を見ている。

 

 ぼんやりとした意識の中、その感覚だけははっきりとしていた。

 

 目の前には、木張りの床で仰向けに倒れている小学生ぐらいの男女の姿。

 

 というか、私と出久だ。

 

 見た目からして、十歳ぐらいの頃で。

 

 そして、今でも時折見るあの時の夢だと理解した。

 

 

 これは私が……()()()()()()()()()()()

 

 

 この日は夏休みが始まった頃で、日課の稽古で珍しく家に居た父にしごかれて、二人揃ってクタクタになって休んでいた。

 

 トレーニング室に仰向けで寝転ぶ私たちは歩くのも億劫なぐらい疲労困憊で、顔にタオルを掛けて呼吸を整えている。

 

 

「はぁ……はぁ……あー……もう、床とケッコンしたい……」

「ふぅ……ふぅ……やー……出久は、私とケッコンするのー……」

「あははー……はぁー……」

 

 

 へろへろの私が求婚したのを、出久は力無い笑いで流した。

 

 この頃はこういった二人きりの時間に、よく出久へと想いの丈をぶつけていたっけ。

 

 恐らく昔からこんな感じだったのせいで、普段の私の好意の籠った甘えが、いつもの事と認識されているのかもしれない。

 

 

「はぁ……それにしても、暑いね……」

「……わ、私の左のせい……?」

「へ……? ……いやいやちがうよ!? もう夏だからさ!」

「そ、そっか……あっ、冷やしてあげる!」

 

 

 そう言って私は転がりながら出久に近寄り、彼の腕に抱きついて右の個性を使った。

 

 ひんやりと冷気を発している筈のそれは、主観的に見ている私には感じられない。

 

 

「ひんやりー……凍夏ちゃんありがとー」

「えへー……出久に一人、轟凍夏だよー」

「あはは、何それー」

 

 

 過去の自分ながら、見ていて羨ましくなるぐらい出久に甘えている。

 

 出久に一人……多分、一家に一台みたいな事を言いたかったんだろう。

 

 この頃から出久の居ない生活なんて、全く考えていなかったんだなぁ、私。

 

 いや、勿論今もそんな未来を考えてはいないんだけど。

 

 それより、ここからだ。

 

 

「はぁー……ひえひえー……冷たいー……っていうか痛い!?」

「ふぇ? ……えっ、あっ!?」

 

 

 出久の腕に抱きついたまま寝ようとしていた私は、個性の加減を間違えて。

 

 氷の力を強くし過ぎて、彼の腕を少し凍らせてしまったんだ。

 

 

「あっ、あっ、いず、出久! ごめっ、すぐに、溶かしてっ!!」

「だ、大丈夫だよ。だからそんなにあわてなくても」

 

 

 出久がフォローしているけど、私はこの時、ただ早く氷を溶かす事しか考えてなくて。

 

 訓練後で疲れていたのもあって、また調整を間違えてしまった。

 

 

「うわあっ!!? あああ熱っっ!!?」

「あ……だ、だめっ!」

 

 

 氷を溶かして、そのまま腕まで燃やしてしまう程の火力に、私は更に慌てて炎を抑えたけど。

 

 少しだけ、でも確実に、出久の腕が火傷していて。

 

 大好きな出久に、危害を加えてしまったと。

 

 

「あ…………ああっ……や、やけどっ」

「痛た……ちょっと強すぎだよ……凍夏ちゃん?」

「ちがっ、ちがうの! 私、出久に!!」

 

 

 その事実に、まだ幼い私は耐えられなくて。

 

 

「と、凍夏ちゃ」

「や、やだ…………いやああああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 慟哭と共に、個性を暴走させてしまった。

 

 

 夢の中の未熟な私から吹き出た業火と氷結。

 

 

 二人を見ていた今の私を、それらは遠くに吹き飛ばした。

 

 

 衝撃も氷結の冷たさも、一切感じないのに。

 

 

 業火の熱さだけは、夢なのにしっかりと分かってしまう。

 

 

 今までは、ここで頭が強制的に目を覚まさせてくれた。

 

 けど、今の私はその衝動を抑え込める。

 

 自らの過ち……トラウマから、目を背ける訳にはいかないから。

 

 

 私は、炎の中に歩みを進める。

 

 

 業火に全身を焼かれるような痛みを、夢の中だと、幻痛だと、自分に言い聞かせながら前に進んで。

 

 

 何分も、何十分もそうしていたように感じる程、苦しみを耐え抜いて。

 

 

 ようやく、発生源の小さな私の元に辿り着いた時。

 

 

 泣き喚く私を、炎も氷も気にせずに優しく抱きしめるように小さな出久が現れて。

 

 

 ふと、此方を向いて、笑ってくれた。

 

 

 そこで、私の意識は真っ白に塗り潰されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ん」

 

 ぼんやりとした視界に入ってきたのは、見慣れない天井。

 薬品の臭いもする、あまり落ち着かない雰囲気。

 病院のようにカーテンレールで仕切られているベッドで、私は寝ていたようだ。

 

 ぼーっとしたまま、さっきまで見ていた夢を思い返す。

 

 あの後、出久に火傷を負わせた私は、現実逃避からか意識を失った。

 後から聞いた話では、気絶した状態でもずっと謝り続けていたらしい。

 出久が手を握ってくれている間だけはうわ言が治まったらしく、彼は火傷の治療をしながらも、私が起きるまで傍に居てくれた。

 しばらくして目を覚ました私が、再びパニックになりそうなのを、背中や頭を撫でながら落ち着かせてくれて。

 再び泣きながら眠った私は、そのまま病院へと連れていかれた。

 そこで、一つのトラウマを抱えてしまった事が発覚する。

 

 私は人相手に、炎を向けられなくなっていた。

 

 出久や姉さんは勿論、父にさえ炎を使う攻撃を躊躇ってしまう。

 使おうとすれば身体が震えて、出久に火傷させた光景がフラッシュバックしたのだ。

 体温調節や炎の発動自体には問題が無かったのは、不幸中の幸いと言えるのだろうか。

 ヒーローになるのには致命的なトラウマ(モノ)、私は絶望に飲み込まれかけた。

 一時は引き籠りかけてさえいたのを、出久や姉さんの献身のお陰で、どうにか夏休み中には精神的に立ち直れたけれど。

 それから今まで、私は炎を直接攻撃には使わずにいた。

 

 だけど、それはこの間までの話。

 

 雄英のヒーロー科に入った私は、その程度で立ち止まっている暇は無いと思い知らされたから。

 

 

 人に炎を向けるより――――出久に置いていかれる方が、もっともっと怖かったんだ。

 

 

 自問してその事実に辿り着いた時、私は攻撃に炎を使おうとしても身体が震えなくなっていた。

 

 自分の事ながら呆れる程単純で、思わず脱力してしまった程。

 

 まあでも、私らしいとも思う。

 

 恥ずかしい言い方をするなら……愛の力ってやつだから。

 

 

 

 と、その話は置いておくとして。

 

 はっきりしてきた意識に従い、ベッドに寝ていた身体を起こしながら周りを見回す。

 

 なんだか、思った以上に身体が怠い。というか、妙に疲れている。

 それに、自分の腕や顔などに包帯やガーゼがされているのに気がついた。

 

「おや、起きてたのかい」

「あ、リカバリーガール」

 

 身動きの音で気がつかれたらしく、外からカーテンを開けたリカバリーガールが近づいてくる。

 

 怠いのは彼女に治癒されたからだと気がついたけど、同時に今の状況に疑問を持った。

 

 私は体育祭の準決勝で出久と戦っていた筈なのに、どうして寝ているんだろう。

 

「その様子だと意識も大丈夫そうだね。左腕の骨折以外は大した怪我じゃなかったけど、爆発の衝撃で意識を失ってたんだよ」

「爆発…………いず、出久は!?」

 

 しかし続く言葉に直前の状況が頭の中で再生され、つい声を荒げてしまった。

 私の最大火力技と、出久の現段階の許容上限いっぱいのパンチが合わさった、とんでもない衝撃を思い出したから。

 

「落ち着いて、凍夏ちゃん」

 

 リカバリーガールに詰め寄りかけた私は、近くから聞こえた声に身体を止めた。

 半端に閉じたままのカーテンの向こう、隣のベッドに出久が居たらしい。

 

「出久!」

「こら、まだ安静にしてな。起きたばっかりだろう」

 

 ベッドから降りてカーテンを開けようとする私を、リカバリーガールが制して代わりに開けてくれて。

 そこには五体満足でベッドに寝転がる出久が居て、こちらに苦笑気味の笑顔を向けていた。

 右腕に包帯を巻いているけど、他はそんなに酷い怪我じゃなさそうだ。

 

「おはよう……って言っても、僕もちょっと前に起きた所なんだけどね」

「……はぁぁぁ…………良かった…………」

 

 出久が無事だった安心感から、私は大きな溜め息を吐く。

 本当に良かった。私は彼を必要以上に傷つけずに済んだんだ。

 乗り越えたとはいえ、誰かに……ましてや出久に怪我をさせるのは、心が痛むのに変わりはないから。

 

 そんな私を見て、何故か出久は少し怒ったような顔になる。

 

「それ、こっちの台詞でもあるからね。僕だって凍夏ちゃんが目を覚まさなかったら……って、思ったんだから」

「あ……ご、ごめんね……」

「あ、いや、謝らなくていいよ。こっちもごめん、心配させて」

「ううん、私の方こそごめんなさい。威力、ちょっとやり過ぎた」

「凍夏ちゃんは観客席に行かないように技の方向も威力も考えてたでしょ。何も考えずにぶつけた僕の方がごめんだって」

「私が――」

「僕が――」

 

「はいはい、譲り合いはその辺にしときな」

 

 呆れたようなリカバリーガールの声で、出久との謝罪合戦は終わりを告げる。

 本当に私の方が悪いと思うけど……これ以上はお互いに譲らなくなって泥沼になるかな。

 同じ事を思ったらしい出久と顔を合わせ、苦笑しあってからリカバリーガールへと向き直った。

 

「さて、緑谷にはもう話したけど、改めて二人にミッドナイトから伝言だよ」

 

 あ、そういえば試合の事を忘れてた。

 私たちはどっちもここにいるけど、勝敗はどうなったんだろう。

 出久を見れば、困った顔で微笑まれた。

 

「試合結果は引き分け。最後の技のぶつかり合いで二人とも、ステージの外に飛ばされて場外さ」

「はい」

「その時点でどっちも意識を失ってたから、お嬢ちゃんと緑谷は下に降りてきてたエンデヴァーに抱えられて此処に運ばれたんだ」

「え゛」

「決着は場の修復と次の組が終わってからだと。ちなみに今はアンタたちが跡形もなく消し飛ばしたステージの復旧作業をセメントス主体でやってる所さね」

 

 

 待って。その前に、なんて?

 

 エンデヴァーに、抱えられて、運ばれた?

 

 

「炎司さん、さっきまで居たんだよ。僕と戦って、凍夏ちゃんが不安定にならないか心配してくれてたんだ」

「…………それ、ホント?」

 

 

 あの男が待機してたのは、まあ、百歩譲って許す。

 

 けど、抱えてここまで連れてきた?

 

 わざわざアイツが出しゃばって? 輸送用ロボがいるのに?

 

 あまつさえ、多くのお客さんが見てる前で?

 

 

「………………………………出久」

「はいはい、凍夏ちゃん」

 

 

 俯く私に、全てを察してくれた出久は、少し呆れながらも私のベッドへと歩み寄る。

 

 そして両手を広げてくれている彼の胸に、しなだれるように抱きついた。

 

「すごく……つらい…………」

「よしよし……あんまり嫌ってあげないでね。炎司さんなりのお詫びだったんだから」

「やだ……もうアイツと口利かないもん…………」

「そう言わないで、ね?」

「……出久と一緒なら、話すかも」

「そんな限定的な……一人でも話してあげて」

「…………今日、出久がお泊まりに来てくれるなら」

「んんん……ホントに君って子は……まあ、良いけどさ」

「やったぁ」

 

 言質を取れて嬉しくなった私は、抱きついたまま出久の胸に頬擦りする。

 息をすれば、焦げた体操服の臭いと、出久の汗や体臭の香り。

 嗅ぐと心がほわほわする匂い。しあわせ。

 

「……緑谷、伝えなくて良いのかい」

「あー、そうですよね……凍夏ちゃん、真面目な話をしたいから、ちょっと離れてくれる?」

「ん……分かった」

 

 出久の声から真剣な空気を感じ取ったので、名残惜しく思いつつも彼から離れた。

 

 向かいのベッドに座り直した出久は、私の目を見ながら言葉を告げる。

 

「準決勝、引き分けたんだよね」

「うん」

 

 

「でもね、勝負は僕の負けだと思う」

 

 

「…………え?」

 

 

 一瞬、出久が何を言っているのか分からなくなった。

 

 私たちは場外同士で、そこに差は無いと思うんだけれど。

 

 

「さっきも言ったけど、凍夏ちゃんはあの場面でも周りに被害が出ないように個性を使ってたでしょ? 僕は許容上限をコントロールするのに手一杯で、そこまで頭が回ってなかった」

「それは、出久は個性に慣れてきたばっかりだし……」

「そこだよ。まだまだ個性に振り回されている僕と、完璧にコントロールしている凍夏ちゃんとじゃ、どうみても君が上だ」

「出久も個性以外を合わせたら!」

 

 

 私の反論を、出久は首を横に振って否定する。

 

 

「そして、一番の理由だけど……僕は、凍夏ちゃんが攻撃に炎を使ってくるって、思ってなかったんだ」

「……? それがどうしたの?」

 

 

「――これって、油断だろ」

 

 

 出久の、今まで聞いた事の無いような苦々しい声。

 

 私は目を見開いて、眉を寄せている彼を凝視する。

 

 

「ずっと一緒に居て、実力も分かってる幼馴染に対して、あろうことか僕は油断をしてたんだ……実際それで、ダメージ覚悟の攻撃とはいえ手痛い反撃を食らったしね」

「け、けど、出久は私のトラウマを知ってたし、私も驚かせようと思って黙ってたから」

「知ってるからこそ、君が克服している可能性も考えなきゃいけなかった」

「う…………」

「だから、今回は僕の完敗だよ……それを、ミッドナイトに伝えても良いかな」

 

 

 はっきりと言い切った出久に、考えは変えないという強い意志を感じる。

 

 例え私でも意志を変えられないと、付き合いの長い幼馴染だからこそ解ってしまった。

 

 こういう時の出久は、とても頑固だから。

 

 それに、もし私が彼の立場なら、きっと同じ事を述べる。

 

 要約すれば、これはプライドの話だ。

 

 尾白や庄田が、トーナメント進出を辞退したのと変わらない。

 

 なら、私が出来る事は一つだけ。

 

 

「…………分かった。それなら私は決勝に行って……ううん、優勝してくるね」

 

 

 少しだけ考えて、力強く想いを伝えれば。

 

 

「うん、応援してる」

 

 

 出久も少し固いけど、笑顔で想いを返してくれて。

 

 

 こうして私は、幼馴染の想いを背負って決勝へと進出した。

 

 




 決勝進出はオリ主ちゃんでした。
 出久くんと爆豪の戦いはまた次の機会に。

 オリ主は炎を人に向ける=傷つけるという意識を持ってました。
 火傷という結果を見たのもありますが、圧力のある父親の影響も多少なりともあったりして。ドンマイエンデヴァー。

 原作で焦凍くんが全く使わないのよりは大分炎を使ってたので、USJや体育祭で攻撃に使わなくても原作に合わせてるのとそう変わらないので、伏線としては分かりにくいものになってしまい……まあいっかと開き直りました。
 後は爆豪が出久くんに酷い事した時とかに「凍らせてやる」とは思っても「燃やしてやる」とは思ってなかったりと。うん、これじゃあ分からないですね。


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22:想いを伝えて。二人は幼馴染で――。

 


『凍夏ちゃん、また学校で告白されたんだって?』

『……姉さんから聞いたの?』

『うん、というか教えてくれた』

『姉さんってば……もちろん断ったよ、知らない人だったし』

『凍夏ちゃん、中学に入ってからも人気だね』

『全然。普段は誰も話しかけて来ないし。いつの間にか、エンデヴァーの娘っていうのが知られてるみたい』

『えっ、そうなんだ……まあどっちみち、今は僕たちにそういう余裕はないしね』

『うん。それに私、出久と結婚するから』

『…………そういうのは、小学校低学年までだって』

『む、本気だもん』

『はいはい』

『……それとも……わ、私の事、嫌い?』

『っそんな事ありえないから!!』

『っ、ご、ごめんね。変な事聞いて……』

『あ、い、いや、僕こそごめん。いきなり大きな声出して……嫌いじゃないから、安心して』

『…………ホントに?』

『幼馴染でしょ、嫌いな訳ないって』

『でも、例の『かっちゃん』は……』

『いや、凍夏ちゃんはもちろんだけど、かっちゃんの事も別に嫌いじゃないからね?』

『……そっか』

『不安にさせてごめん』

『ううん、大丈夫』



『(――――違うんだ。僕なんかじゃ……君とは、釣り合わない)』





 

 出久の思いを受け取りにこにこ微笑んでいると、こほん、と咳払いが聞こえた。

 

 言うまでもなく、リカバリーガールのものだ。

 

「そろそろ終わったかい?」

「あっ、は、はい! 何かすみません長々と……」

「あたしゃ別に構わないよ。けど、ドアの外の子たちがいつまでも入れないんじゃないかと思ってね」

「「へ?」」

 

 彼女の言葉に、出久と一緒に入口のドアへと視線を向ければ。

 お茶子をはじめ、飯田に八百万、梅雨ちゃんや峰田と何人かのクラスメイトたちが顔を覗かせている。

 

 驚きと共に彼女たちと目が合うと、微妙に気まずい表情で入室してきた。

 あ、いや、峰田だけ血涙流してる。

 

「わっ!? み、皆いつの間に!?」

「い、いやー結構前から居たんやけどねー」

「その、轟さんが緑谷さんに抱きついた辺りには既に……」

「その後も真面目な話をしていたから、入って良いのか分からなくてな……」

「つーかどこでもイチャついてんじゃねえぞ緑谷ァ……!」

「峰田ちゃん、まだ慣れてないの?」

「慣れてたまるかよ畜生!!!!」

 

 一気に室内が騒がしくなったけど、何だか嬉しい。

 多分、皆心配して来てくれたんだと思う。

 私は殆ど覚えてないけど、とんでもない爆発だった筈だし。

 

「来てくれてありがとう。私は大丈夫だよ」

「僕も。ご心配おかけしました……」

「良かったー。フィールドごと二人が吹き飛んじゃったんじゃないか、って思うぐらい凄かったよ……」

「下手したらスタジアムのお客さんごと吹き飛んでたかもしれないわね」

「うっ……」

「……ごめん」

 

 梅雨ちゃんの言葉も最もだ。

 出久との試合で、トラウマを乗り越える為とはいえ、幾らなんでも加減をしなさ過ぎた。

 力加減を把握するのも、街中で戦うのには必要な技能なのに。

 

「蛙吹さん、遠慮なしですわね……」

「ケロ、別に責めてる訳じゃないのよ。思った事は何でも言っちゃうの」

「いや……本当に蛙吹さ、梅雨ちゃんの言う通りだよ……」

「あ、そういや相澤先生が『緑谷も反省文だ……』って頭痛そうに言ってたぜ」

「うぇー、マジか……」

「あはは、ドンマイデク君」

「全力でやった結果だろうが、加減は大事だぞ!」

 

 私と爆豪に引き続き、出久まで反省文の刑になってしまった。

 何だか、どんどん人が反省文を書くきっかけになってるみたい。

 こう、内申点クラッシャー的な存在に。

 

 声に出したら絶対、出久に何言ってるんだって目で見られると思うから言わないけど。

 代わりに、もう一つ思い浮かんだ言葉を首を傾げながら呟いた。

 

「……爆豪と合わせて、反省文トリオ?」

「クソみてえなチームに入れてんじゃねえぞ半分女ァ!!」

「わ」

 

 怒声が聞こえたと思ったら、入口付近に爆豪がいた。

 部屋に入ってないだけで、来てくれていたらしい。

 入口に肘を掛けてもたれ掛かる爆豪に、出久が驚きと喜びが混ざったような反応をする。

 

「わ、かっちゃん! 来てくれたの!? でも次試合じゃなかったっけ!?」

「喜んでんじゃねえよキメェな!! テメェらが壊したステージがまだ復旧中なんだわクソが!!」

「あっ、そっか……ごめん……」

「ちっ……んなこたぁ別にどうでもいい。それよか轟、テメェだ」

「…………私?」

 

 何故か睨みと共に指名された。

 けど、爆豪に呼ばれた理由に見当が付かなくて首を傾げる。

 

 

「確認だ。炎……俺ん時に使えるんだろうな」

 

 

 ああ、それか。

 確かに爆豪になら、今まで私が攻撃に殆ど炎を使っていなかったのを気づかれていてもおかしくない。

 洞察力に関しても、この男は才能マンだった。

 

 さっきの話を聞かれてたなら、答えは分かっている筈だけど。

 

 言葉に出すのは、大切な事だから。

 

 

「大丈夫。もう、乗り越えたから」

 

「…………そォかよ。ならいい」

 

 

 私の返事を聞くと、爆豪はさっさと帰っていった。

 この確認の為に、わざわざ来てたみたい。

 

 っていうか、今のってつまり。

 

「常闇には、もう勝ったつもりなんだ」

「かっちゃんらしいけどね……」

「豪語をしてこそ爆豪君、って感じだもんね!」

「あれで口の悪さを直せば良いものの……」

「ええ……けれど言動は兎も角、自信ありきの姿は今の私も見習う必要がありますわ……」

 

 皆の爆豪への評価が大体一緒で、少しおかしくなる。

 ただ、何だか八百万が元気がないように見えるのは気のせいだろうか。

 

「そら、元気な子たちはそろそろお戻り。ああ、怪我人二人はもう少し休んでな」

 

 どうしたのか声を掛けようかと迷っていると、リカバリーガールが手を叩きながらそう告げた。

 確かに出張とはいえ保健室で騒いでいるのは、あまりよろしくない。

 

「あっ、ごめんなさい! それじゃあデク君、凍夏ちゃん、先に戻ってるね」

「ステージ修復の時間もそれなりに掛かりそうだ。ゆっくり身体を休めてくれ」

「お二人とも、お大事に」

「俺らが居なくなったからってイチャつくんじゃねえぞ緑やぶっ!?」

「しつこいわよ峰田ちゃん」

 

 結局、八百万に言及する暇もなく、皆が出ていってしまった。

 仕方ない、また今度聞こう。

 

「さ、お前さんたちは治癒で疲れてるだろうし、少しでもいいから横になってるといい。緑谷の棄権は後で伝えればいいさ」

「分かりました、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「はいはい。ほら、ペッツお食べ」

 

 リカバリーガールからお菓子を貰って、口に含む。

 ちょっとだけでも、エネルギーを補給出来るのはありがたい。

 

 

「それで? そこのバカは何時まで機をうかがってるつもりだい?」

「「へ?」」

 

 

 出久と既視感のあるシンクロをしながら、再び入口を見る。

 

 今度覗いていたのは、トゥルーフォームのオールマイトだった。

 

「オールマイト!! いつからそこに!?」

「や、やぁ、緑谷少年に轟少女。さっき来た所だよ」

「お茶子たちに見つからなかったんです?」

「それは大丈夫。私とは気づかれてないから」

「不審者だと思われてなければいいけどねえ」

「ゴフッ!!」

「わ」

 

 びっくりした、急に血を吐くのは止めてほしい。

 これじゃあ不審者というより重病患者だ。ちょっと怖いし。

 持ち歩いているらしいエチケット袋に吐いていたから血の処理は問題ないと思うけど、貧血になったりしないんだろうか。

 今はそれよりオールマイトの体調が心配だけど。

 

「あの、轟少女。そんなに心配しなくても大丈夫だからね?」

「えっ、でも」

「アンタはバカなのかい。ヒーロー志望の子に言う台詞じゃないだろ」

「っていうかヒーロー志望じゃなくても、目の前で血を吐かれたら普通心配しますよ……」

「ご、ごめん……」

 

 出久とリカバリーガールがあまり深刻な顔をしてないから、そんなに酷いものじゃないのかも。

 

 聞いてみれば、オールマイトの喀血は日常的なものらしく、慣れてしまったとの事。

 いや、日常的な喀血って大分深刻なような。

 出久に視線で訴えれば、深く考えてはいけないと返される。

 

 ……よく分からないけど、そういうものなんだと自分を無理矢理納得させた。

 

 

「コホン……兎も角、二人とも元気そうで良かった。緑谷少年も轟少女も、良い試合だったよ」

「「ありがとうございます」」

 

 

 と、流れを取り戻そうとしているオールマイトに従って、場が真面目な空気になった。

 彼の称賛に二人でお礼を言った後、出久は申し訳無さそうな声色で言葉を紡ぐ。

 

「……あの、オールマイト。実は僕――」

「勝負は君の負け、って事にするんだろ?」

「え……何で……!?」

 

 話す内容を当てられて、驚く出久。

 オールマイトはそんな出久の肩を、笑いながら叩いた。

 

「聞かなくとも分かるさ、仮にも師匠だからね」

「…………すみません。僕が来たって事を、世の中に知らしめるチャンスなのに」

 

 拳を握り俯いた出久は、自分に対する失望感とそれでも曲げたくない意志との葛藤に苛まれているように見えて。

 

 

 ここまで十分な結果を残しているのに、なんでそんな顔をしているの?

 

 

 出久の力強い姿を、気合の入った笑みを、記憶に残してくれた人はたくさんいる筈なのに。

 

 

 私がそう伝えようとすると、それより先にオールマイトが口を開いた。

 

 

「もう十分だ。個性を使いこなせなかった時から考えても、十分すぎる程に力を見せてくれているよ」

「これぐらいじゃ駄目なんです。僕は貴方から、No.1ヒーローから身に余る力を貰ったのに、それに甘えてこんな程度じゃ……!」

「甘えてなんかないよ、そんなに焦らなくて良いんだ」

 

「焦らなきゃいけないんです!!」

 

「っ」

 

 

 

 出久に、オールマイトの声が届いていない。

 

 

 声や表情に、必要以上の焦りが見える。

 

 

 どうして、何をそんなに焦っているんだろう。

 

 

 

「強い力を貰ったからって、油断するような僕は、もっともっと頑張らなきゃいけない……」

「緑谷少年……」

 

 

 

 オールマイトも、明らかに思い詰めている出久に声を掛けられない。

 

 

 ……こんなに苦しんでいる出久を、見ていたくない。

 

 

 

 

「こんなんじゃ全然、平和の象徴の後継者なんて……!」

 

 

 

 

 平和の象徴の後継者。

 

 

 

 

 そのワードに、全ての点と線が繋がった。

 

 

 

 

 責任感の強くて、誰よりもヒーローを目指している出久だからこその、強い焦り。

 

 

 自分を追い込んでいるのは、彼が元々無個性だったから。

 

 

 劣等感。出久が胸に抱える負の感情。

 

 

 スタートが遅れていると思い込んでいる出久は、今日の活躍程度では納得できないんだ。

 

 

 

 

 それを理解した同時に、私は出久に近寄って。

 

 

 

 

 

 

 パシン、と、出久の頬を叩いた。

 

 

 

 

 

 

「ちょっ、轟少女……!?」

「黙ってなバカ」

 

 

 

 オールマイトとリカバリーガールが何か言っているけど、気にする余裕はない。

 

 

 初めて、出久に対して自発的な暴力を振るった私は、そんな行動に出た自分に驚いていたし。

 

 

 

 

 それ以上に、自分を追い詰める出久が、嫌だった。

 

 

 

 

 私に叩かれて唖然とこちらを見ている出久の目を、睨むように見返して。

 

 

 

 

「一人じゃ、ないの」

 

 

 

 

 溜まっていく涙を、溢れ落ちる涙を無視して。

 

 

 

 想いの丈を、ありったけの気持ちを叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「出久は、独りでヒーローになるんじゃないの!!」

 

「凍夏、ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 泣いている私へ、恐らく無意識に手を伸ばした出久へと、衝動のままに抱きついて。

 

 

 

 悲しい道へ歩み出そうとした彼を、引きずり戻すように訴える。

 

 

 

 

 

 

「独りでヒーローになっちゃやだ……オールマイトみたいな寂しいヒーローになんて、絶対させないもん……!」

 

 

「――寂しい、ヒーロー」

 

 

 

 

 

 

 私の言葉を反復する出久に、抱きしめる力を強くする。

 

 

 

 

 

 

「心配してくれる人を、切り捨てるヒーローにならないで」

 

 

「そんな、事」

 

 

「誰にも助けを求めないヒーローにならないで……」

 

 

「ちが、僕は」

 

 

 

 

「独りで笑って、独りで死んじゃう……人を泣かせるヒーローにならないでよぉ……!!」

 

 

 

 

「――――――――っ!!」

 

 

 

 

 

 胸の内を、出久への想いを、力いっぱい抱きしめながら伝える。

 

 

 

 

 お願い、伝わって。

 

 

 

 

 貴方の道は、オールマイトとは違う。

 

 

 

 

 そっちじゃない……その道は絶対に駄目。

 

 

 

 

 出久に、自分を犠牲にする道なんて、選んでほしくないの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私を置いて、遠くへ行かないで――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ごめんね、凍夏ちゃん」

 

 

 

 

 しばらくして、静かな部屋に穏やかな声が響いた。

 

 

 

「目の前の、大好きな女の子を泣かせる僕が、最高のヒーローに……ましてや平和の象徴になんて、なれる訳ないよね」

「いずく……」

「人を助けるのは物理的な力じゃないって、僕はよく知ってた筈だったんだけどな」

 

 

 

 自嘲するように告げる出久からは、先程までの焦りは感じられない。

 

 

 背中に回された彼の手からは、いつもの優しさが伝わってきた。

 

 

 

「昔、凍夏ちゃんはエンデヴァーじゃないって言った僕が、オールマイトみたいにならなきゃいけないって、思い込んでたなんてさ」

「……出久は、出久だよ」

「うん、僕は僕だ。お陰で目が覚めたよ」

 

 

 

 そう言った出久は、私を優しく抱きしめる。

 

 

 まるで大切なものを包み込むような、いとおしさを感じる触れられ方。

 

 

 あったかくて、ふわふわとした気持ちが、出久から伝わってくるみたいで。

 

 

 なんだかいつもより、ドキドキする。

 

 

 

 少ししてから私から離れると、見守っていたオールマイトへと向き合った。

 

 

 

「ごめんなさいオールマイト。焦りすぎて、大事な事を忘れてました」

「…………気にしなくていい。そして訂正しよう」

「訂正、ですか?」

「ああ……君は、君の道を進んでくれ。その先で……私とは違う、緑谷出久の平和の象徴としての在り方を見つけるんだ」 

「っ………………はいっ!!」

 

 

 

 オールマイトの言葉に、出久は力強く頷いた。

 

 

 良かった。私の慟哭は、ちゃんと出久の心へ届けられたんだ。

 

 

 彼の辿ろうとしていた、オールマイトと同じ道へと向かう標識が、砕けた気がした。

 

 

 

「しかし、轟少女の言葉は効いたよ。私のヒーローとしての在り方を、真っ向から否定されたのは初めてだ」

「あ、あの、そんなつもりじゃ……ごめんなさい」

 

 

 苦い笑みを浮かべるオールマイトに、身体を縮めながら謝罪する。

 

 確かに、感情に任せてかなり色々言ってしまった。

 

 けれど私が謝ると同時に、何故かリカバリーガールがオールマイトの腰を杖で叩いた。

 

「痛い!?」

「悪いのは全部アンタだよオールマイト! どうせ体育祭前に緑谷に変なプレッシャーを掛けたんだろう!」

「うっ!?」

「そのせいでこの子が必要以上に追い込まれて、視野が狭くなっちまってたんじゃないか!!」

「ううっ!!?」

「お嬢ちゃんが泣いて止めたから良いものの! アンタと同じ道を選ばせるような真似をしてどうすんだいこのバカタレ!!」

「ぶふぉっ!!!」

 

 言葉と杖叩きの嵐で打ちのめされたオールマイトが、喀血と共に地に沈んだ。

 No.1ヒーローさえ頭が上がらないリカバリーガール、凄く強い。

 

 しかし、出久の不可解な焦燥はオールマイトが原因だったのか。

 地に沈む師にあわあわしてる彼には悪いけど、私も一言言っておかないといけない。

 

「オールマイト、教えるのは下手なんですね」

「ぐはっ!!!!」

「ちょっ、凍夏ちゃん!?」

「だって、ホントの事だもん」

 

 どんな発破の掛け方をすれば、出久があそこまで追い詰められるのか、逆に知りたいぐらい。

 師匠をするなら、もっとしっかりしてほしい。

 

 今の段階で、教師としてのオールマイトの評価はあの男(エンデヴァー)の数段下だ。

 努力でNo.2まで這い上がってきた父は、教えるのが上手い部類だと思うし。

 

「幾らでも言っておやり。この平和の象徴サマは教育者としては未熟も未熟なのに変に頑張ろうとして空回りしてるんだよ」

「言葉が強い…………そろそろご勘弁を…………」

「ならさっさと出ていきな。この子たちが休めないじゃないか」

「ハイ……」

「ああ、ついでに緑谷の棄権もミッドナイトに伝えておやり。弟子がゆっくり出来る時間を作ってやるのも師匠の仕事だろう」

「了解シマシタ……じゃあ二人とも、ゆっくりね…………」

「はい」

「は、はい…………オールマイト…………」

 

 とぼとぼと出ていく哀愁の漂うNo.1ヒーロー。

 

 ただでさえ細い背中が、更に頼りなく見えた。

 

 ある意味でレアな姿のオールマイトに、出久が涙を流している。憐憫で。

 

 

「……さ、改めておやすみ。寝転んでるだけでも違うもんさ」

「あ、凍夏ちゃんは決勝あるもんね……ちょっとでも休まないと」

「うん」

 

 

 リカバリーガールと出久に促されてベッドに横になる。

 目を閉じると倦怠感で寝てしまいそうなので、さっき抱きしめられた感触でも思い出して幸せな気分に浸っていよう。

 あの幸福感は、寝るのが勿体ないと思える位に好きだから。

 

 

 出久とのやり取りを思い出しながら、ぼんやりとしていて。

 

 

 

 

 そこで、ふと。

 

 

 

 

 必死だったから聞き流していた、出久の台詞が脳内再生された。

 

 

 

 

『目の前の、大好きな女の子を泣かせる僕が、最高のヒーローに……ましてや平和の象徴になんて、なれる訳ないよね』

 

 

 

『目の前の、大好きな女の子を泣かせる僕が』

 

 

 

『目の前の、大好きな女の子』

 

 

 

 

 

『大好きな女の子』

 

 

 

 

 

 ――――――――はぇ?

 

 

 

 え、う、あ、あの、あれ。

 

 

 出久が、その、えっと。

 

 

 だ、大好きな、女の子、って。

 

 

 いや、いやいや、いやいやいやそんな。

 

 

 私の、聞き間違い、記憶違いかもしれない。

 

 

 

「ね、ねえっ、出久」

「んー、どうかした……って物凄く顔赤いよ!? 大丈夫!?」

「おや、熱が出てきたのかい」

「ちがっ、違うの。あの、あのね、えっとね」

 

 

 

 いや、でも、本当だったらあれだし。間違ってても恥ずかしいし。

 

 うぅ、ちょっと、怖くなってきた。

 

 

 

「……ほほう、成る程成る程」

「り、リカバリーガール! 凍夏ちゃんは一体……」

「なーに、心配要らないよ。あたしゃちょっと席を外しておこうかね」

「えっ、ちょっと――!?」

 

 

 

 でも、聞かないと何にもならないし……。

 

 ゆ、勇気を出さなきゃ。頑張れ私。ぷるすうるとら。

 

 

 ――――よし。き、聞こう。

 

 

 

「いっ、出久!!」

 

 

 

 ガバッと起き上がって、ベッドの上で女の子座りになった私は、出久へと向かい合う。

 

 いつの間にかリカバリーガールが居ないけど、気にする余裕は全く無い。

 

 

 

「え、あの、凍夏ちゃん?」

 

 

「そのね、さっきの、事にゃんらけど」

「……さっきの?」

 

 

 

 ……噛んだ。舌が回らない。

 

 普段からあんなに甘えてるのに、いざとなるとヘタレ過ぎる。

 

 ええい、落ち込んでる場合じゃないってば。

 

 言え、言うんだ、轟凍夏。

 

 

 

「……わた、私の事を……ね……?」

「凍夏ちゃんの事?」

 

 

 

 

「だっ、『大好きな女の子』って、言ったよ、ね?」

 

 

 

 

 言えた、言えたよ、頑張ったよ私。

 

 

 でも、もう無理、もう駄目。

 

 

 出久の顔が見れないぐらい、顔が熱い。

 

 

 恥ずかしすぎて、顔から火が出そう。ホントに出せるけど。

 

 

 違う、つまらない事考える余裕があるなら精神的余裕に回してよ、私のバカ。

 

 

 

 火照った頬に手を当てながら、出久の反応を待つ。

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 ………………。

 

 

 

 反応が、無い。

 

 

 えっ、なんで、どうして。

 

 

 

 チラリ、と少しだけ顔を上げて出久の様子を伺ってみると。

 

 

 

 

 

「――――――――」

 

 

 

 

 

 私に負けず劣らず、出久は顔を真っ赤にしていて。

 

 

 

 目が合った彼は、視線を泳がせながら、ぽつりと一言。

 

 

 

 

「………………そう、言っちゃってた?」

「う、うん」

 

 

 

 

「……………………まじで、かぁ…………」

 

 

 

 

 そして両腕で顔を覆いながら、唸り声のような長い溜め息を吐いた。

 

 

 えっと、つまり、あの台詞は。

 

 

 

「無意識、だったの……?」

 

「……………………ハイ」

 

 

 

 掠れるような声で肯定する出久。

 

 

 そんな彼の様子に……私の鼓動はどんどん速くなっていく。

 

 

 喜びや愛しさが溢れるように涌き出てきて。

 

 

 

 あっ、これ、もう駄目だ。

 

 

 

 出久への想いを、恋慕を、抑えられそうにない。

 

 

 

 ゆっくり立ち上がり、出久の元へ近寄って。

 

 

 

「……ね、出久」

 

「と、凍夏ちゃん、ちょっと待って! 僕、まだ、心の整理がっ」

 

 

「手、退けてほしいな」

 

 

「…………うぅ……マイペース……」

 

 

 

 私の言葉に秘められた引かない想いに気づいてか、出久は少し渋った後におずおずと腕を退ける。

 

 

 

 その奥には、耳まで真っ赤な彼の顔。

 

 

 

 さっきまでの私みたいな、羞恥でいっぱいな表情。

 

 

 

 

 ああ……すごく、すごく、いとおしい。

 

 

 

 

 私だけが、持っている訳じゃなかった。

 

 

 

 

 出久も、私にこの感情を持っててくれた。

 

 

 

 

 想いのままに、私は彼の頬に両手を添えて。

 

 

 

 

 そのまま、自分の顔を近づけていき。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ん」

 

 

 

 

 

 

 

 出久の唇に、私の唇を重ねた。

 

 

 

 

 軽く触れるだけの、柔らかいキス。

 

 

 

 

 たったこれだけの行為なのに、私の心は今まで以上に満たされている。

 

 

 

 

 ちょっとだけ出久が震えたから、びっくりさせてしまったのかもしれない。

 

 

 

 

 でも、それでも、今この気持ちを抑えるなんて出来なかったから。

 

 

 

 

 

 そして、次は私の番。

 

 

 

 

 ゆっくりと、名残惜しみながら口を離して。

 

 

 

 

 驚きと恥ずかしさとが混ざった顔をしている大好きな幼馴染に、最高の微笑みを向けて。

 

 

 

 

 

 

「私も――――出久が大好きです」

 

 

 

 

 

 

 声に、心を、想いを詰め込んで。

 

 

 

 

 十年分の恋慕の丈を、差し出した。

 

 

 

 

 

 ふわふわきらきらとした私の気持ちを、出久は少しだけ呆然とした後。

 

 

 

 

 

「…………はは。ホントにカッコ悪いや、僕」

 

 

 

 

 

 かなり照れ混じりだけど、いつもの苦笑を浮かべて。

 

 

 

 

 

 

「だけど、改めて言わせてね――――僕も、凍夏ちゃんが大好きです」

 

 

 

 

 

 

 とてもやさしくて、あったかい気持ちで受け止めてくれた。

 

 

 

 

 想いを伝えあった私たちは、真っ赤に火照った顔を付き合わせて。

 

 

 

 

 どちらからともなく、笑いあった。

 

 

 

 

 ――これは、私が最高の想いを伝えられた日。

 

 

 

 

 今日という日を、私は生涯忘れない。

 

 

 

 

 初めての雄英体育祭で、初めて全力で戦った準決勝の後。

 

 

 

 

 誰もいない、二人きりの部屋で。

 

 

 

 

 轟凍夏は――緑谷出久の恋人になりました。

 

 

 

 




○ 

 ずっと、後ろ暗い思いを抱えていた。

 隠しても、誤魔化しても、心の奥底にずっと居る。

 凍夏ちゃんの隣に立つ資格が、僕にあるのかどうか。

 無個性だった十年前から、個性を授かって今日に至るまで。

 凍夏ちゃんはいつも、想いを寄せてくれていたけど。

 例え僕が、同じ想いを持っていたとしても。

 それを受けとっていいとは、思っていなかった。


 凍夏ちゃんは、僕に救われたと言うけれど。

 僕だって、いつも彼女に救われていた。

 無個性でもヒーローになれると言ってくれたから。

 今まで諦めずに来れたんだ。

 さっきも、凍夏ちゃんが居てくれたから。

 自分の在り方を見失わずに済んだんだ。

 うっかり、無意識に心の中身を漏らしてしまったけど。

 僕に、気持ちを伝える資格なんてない――



『私も――――出久が大好きです』



 ――そう、思っていたのに。


 凍夏ちゃんのきらきらとした告白は、それがどうしたと言わんばかりに。

 理屈なんて考えないで、ただただ素直な気持ちを僕に渡そうとしてきて。


 ああ、もう、本当に。

 彼女には、敵わない。

 釣り合いなんて、僕が勝手に思い込んでいただけだって。

 そう、思わせてくれるんだから。


 完敗だ。

 僕も、腹を括ろう。

 彼女の隣に、堂々と立つ覚悟を。

 彼女と一緒に、平和の象徴の形を探す決意を。


 彼女の傍らで、恋人として歩んでいく未来を。


 さあ緑谷出久(ぼく)よ、胸を張れ。

 これからは、後ろを向く暇なんてないんだから。


 抱えていた筈の暗い気持ちは、どこかへと消えていった。



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23:束の間の逢瀬。

 
 たくさんの感想・評価ありがとうございます。
 返信しきれてませんがゆっくりやるのでご勘弁。

 ほぼイチャイチャ。閑話扱いにするか迷いましたけど本編ということで。あと短い。




おまけ、カスタムキャストで遊んでみた。


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12/29:03:19・おまけ追加。


 想いを伝えあった私たちは、同じベッドに腰掛けて、身体を寄せ合いながら穏やかな時を過ごしていた。

 

 すりすりと、出久の首元にマーキングするように頭を擦り寄せれば、彼は頭を撫でてくれて。

 

 今までと変わらない筈のスキンシップが、凄く特別な事に思えてしまって。

 

 私の一方的な恋慕だと思っていたのが、両想いだと分かったから?

 

 出久のスキンシップに、私へのあったかい想いを感じられるようになったから?

 

 ……ううん、どっちもだ。

 

 愛しい気持ちがどんどん湧き出て、私の心を満たしてくれて。

 

 いつも以上にほわほわしている私を、出久もいつも以上に穏やかな笑みを浮かべながら包み込んでくれていた。

 

 

「凍夏ちゃん。休まなきゃいけないし、ちょっと横になろっか」

「ん……一緒に?」

「違うよ!? ……凍夏ちゃんだけ、ここに」

 

 

 ポンポンと叩かれたのは、出久の膝。

 

 成る程、膝枕か。一緒に寝るんじゃなくて、ちょっと残念。

 

 まあ、学校で出久はそんな事言わないか。

 

 それはそれとして、膝枕は嬉しい。

 

 いそいそと頭を出久の膝に下ろすと、思いの外硬い感触で。

 

 けれども、出久の匂いが強く感じられて、とてもリラックス出来る場所だった。

 

 体操服のズボン越しの太ももに頬をすりすりしていると、髪の毛をさらさらと撫でられる。

 

 

「凍夏ちゃんの髪、綺麗だね」

「ん、出久に撫でられても良いように、ちゃんと手入れしてるよ」

「あはは、そんな理由でまさか………………えっ、冗談じゃなくて?」

「? うん」

「ま、まじでか…………」

 

 

 私の言葉に片手で顔を隠している出久。

 

 けど、この位置からは赤くなった頬も、にやけそうなのを堪えている口元も、全部見えている。

 

 教えてあげても良いけど、出久のこんな顔を見られるのは新鮮だし、黙っていよう。

 

 何より今までと違って、素直に反応してくれるのが嬉しいから。

 

 私は緩ませた顔を隠さずに、頭に乗せられたままの出久の手を、しばらくにぎにぎしていた。

 

 

 

 

「……凍夏ちゃんは、さ。いつから……そうだったの?」

 

 

 多少照れが収まったのか、まだ頬が少し赤い出久が問いかけてくる。

 

 これは、いつから出久を好きになったのか、って意味かな。

 

 今更な感じもするけど、ちゃんと口に出した事はなかったっけ。

 

 

「初めて会った日から、だよ」

「そ、そんなに初めから!?」

「うん。気づかなかった?」

「………………いやいや無理だよ! 会った時から、距離感が変わらなさすぎるし!」

「えへへ、ずっと近くにいたもんね」

「そこじゃないんだけどね! …………十年も、待たせちゃったんだ」

 

 

 申し訳なさそうに呟く出久。

 

 そんな事、気にしなくていいのに。

 

 でも……ちょっとだけ、わがままを言っても良いかな?

 

 出久の膝枕から起き上がって、唇に人差し指を添えながら告げてみる。

 

 

「なら、出久からキスして?」

「きっ…………キス……ですか」

「うんっ。してくれたら、許してあげる」

「こ、ここぞとばかりに来るね……!」

 

 

 また耳まで真っ赤になった出久。

 

 流石に贅沢を言い過ぎたかもと、少し反省する。

 

 恋人になれただけでも十分なのに、もうその先を願うなんて。

 

 やっぱりいい、と言おうとして……出久に肩を掴まれた。

 

 顔は赤いままだけど、真剣な表情で私を見つめている。

 

 えっ、あの、もしかして。

 

 

 

「凍夏ちゃん…………」

「あ…………」

 

 

 

 そのまま顔を近づけてくる出久に、私は速くなる鼓動を感じながら、目を潤ませて。

 

 

 

「んっ…………」

 

 

 

 口に触れた瞬間、さっきと同じか、それ以上のしあわせや喜びを溢れさせた。

 

 

 ふにふにと唇を動かせば、こそばゆくもやわらかい感触が癖になりそうで。

 

 

 出久も、少しずつ、ついばむように返してくれる。

 

 

 お互いの唇を、はむはむと堪能しあってから。

 

 

 出久から、ゆっくりと離れるようにキスを終えた。

 

 

 

「…………ど、どうでしょうか……」

「す、すごく、よかった、です……」

 

 

 

 二人して敬語になってしまった。

 

 いや、だってこれ、すごく恥ずかしい。

 

 してる間はしあわせな気持ちで包まれてるんだけど、する前とした後がダメ。

 

 胸の奥がむずむずしてきちゃって、慣れる気がしない。

 

 出久も感じている事が同じらしく、大分照れ照れしてる。

 

 あっ、目が合った。

 

 

 何となく逸らしたくなくて、じっと見つめあっていると、どうしてか可笑しくなってきて。

 

 

「「……あははっ」」

 

 

 一緒になって、笑ってしまった。

 

 

 

 

 暫く笑いあって、落ち着いた頃。

 

 再び出久の膝枕でごろごろしていると、放送が流れる。

 

 

『ステージの修復ももうすぐ終わりそうだ! 次の試合の生徒はそろそろ控え室に待機しときな!!』

 

「んー……もう、そんな時間かぁ」

「あんまり休めてないけど、大丈夫?」

「うん。後一試合だし、頑張れるよ」

「……そっか」

 

 

 寝転んだまま胸の前でぐっと拳を握れば、出久は困ったように笑みを浮かべてから撫でてくれる。

 

 これは間違いなく、体調を見抜かれてるなぁ。

 

 ……正直に言えば、出久戦での疲労やリカバリーガールの治癒に使った体力を含めて、普段の半分のパフォーマンスも維持出来ないと思う。

 

 しかも対戦相手は、恐らく勝ち上がってくるだろう爆豪。

 

 下手な手を打てば、一瞬でやられてしまうかもしれない。

 

 

 だけど、私にも絶対に負けられない理由がある。

 

 

 

「出久」

「ん、なあに?」

 

 

 

「優勝するから、応援しててね」

 

 

「――もちろん、頑張れ!」

 

 

 

 大切な幼馴染で、大好きな恋人に。

 

 

 託された思いと、送られたエール。

 

 

 それが私の身体と心に、力を与えてくれるから。

 

 

 

「うん――頑張る!」

 

 

 

 絶対に、負ける訳にはいかないんだ。

 

 

 出久と拳を合わせながら、私は力強く笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「気張るのは良いけど、膝枕しながらだと格好付いてないよ」

「「わっ!?」」

 

 

 リカバリーガールが、いつの間にか戻ってきてたらしい。

 

 恥ずかしくなるので、出来れば声を掛けてほしいです。

 

 

 

 




 恋人になっても、距離感はそんなに変わらない二人。
 出久くんからのスキンシップが多少増える程度? オリ主からすれば大きい変化かも。

 体育祭編、年内に終わらない気配。


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24:vs爆豪。遠慮なくやれる好敵手(ライバル)

 
 感想・評価ありがとうございます。
 前話の前書きにおまけを追加しました。カスタムキャストは楽しい。

 今年最後の投稿です。体育祭編も残す所2,3話ほど。


ー緑谷出久ー

 

 

閃光弾(スタングレネード)!!」

 

 

 観客席に戻った時、かっちゃんが常闇くんの後ろから爆破を利用した閃光と煙幕を張っていた。

 これは、もう決着が付く所か。

 

 煙幕が晴れた時……常闇くんの嘴をかっちゃんが掴み、片手で小さな爆破を展開していて。

 

 

「…………知っていたのか……」

「騎馬戦の時だバァカ。影の反応見りゃ分かるわ……まァ、相性が悪かったな」

「そうか…………参った……」

 

「常闇くん降参! 爆豪くんの勝利!!」

『よって決勝は! 轟対爆豪に決定だあ!!!』

 

 悔しそうに項垂れる常闇くんと、大きく息を吐くかっちゃん。

 騎馬戦の時、爆破の光で黒影が怯えていたから、光に弱いのではと考えた仮説は正しかったみたいだ。

 常闇くんには、かっちゃんや凍夏ちゃん、上鳴くんとかは天敵とも言える存在なんだろう。

 どんな強力な個性にも相性差はある、と実感できる戦いだったに違いない。

 

 うぅん、この試合を全部を観れなかったのは残念だ。後でビデオとかで見返したり出来ないかな。

 

「あっ、デク君! もう大丈夫なん?」

「麗日さん。うん、平気だよ……あれ、飯田くんは?」

 

 僕に気がついた麗日さんの隣に座りながら返事を返していたら、真面目な友達の姿が無い事に気がつく。

 問いを受けた彼女は、少し表情を曇らせながらも小さな声で告げる。

 

「あの、飯田君ね……お兄さんが、敵に襲われたって連絡が来て、早退したの」

「お兄さんって……インゲニウムが!?」

「うん……深刻な顔しとったけど、大丈夫かな……」

「…………インゲニウムは強いヒーローだから、きっと無事だよ」

 

 心配そうな顔の麗日さんに、僕もありふれた言葉しか返せなかった。

 

 飯田くんにとってお兄さんは、昔からの憧れの存在。

 

 どうか、無事な姿を弟に見せて欲しい。

 

 

 ……今は体育祭に集中しないといけない。一旦、頭の隅に置いておこう。

 

 

「お、緑谷ちゃんと生きてたか!」

「お疲れ! 最後……やばかったね!」

「正直腕の一本ぐらい飛んだんじゃないかとヒヤヒヤしてたぜ……」

「無事で何よりだ」

「決勝降りたのは勿体無い気もすっけどなー」

「緑谷が納得しての事だろ」

「てか黙ってるんじゃなかったのアホ」

「そろそろ許してくれても良くね!?」

「あはは……ありがとう皆」

 

 かっちゃんたちが退場して、僕の存在に気づいたクラスの皆が口々に安堵混じりの声を掛けてくれた。

 麗日さんたちが様子を伝えてくれてはいた筈だけど、それでも心配を掛けるレベルの攻防だったんだと再認識する。

 ……いやまあ、ステージが消し飛んだらしいからね。そりゃそうか。

 

 

『さァ、いよいよラスト!! 雄英一年の頂点がここで決まる!!』

 

 

 と、もう決勝戦が始まるのか。

 試合間隔が短い気もするけど、気のせいかな。

 

 ……もしかして、僕と凍夏ちゃんが派手に壊したせいであんまり時間の余裕が無いとか?

 うん、どうしよう。その可能性が高そうだ。

 いやまあ、かっちゃん的には身体が温まっている方が戦いやすいだろうし、問題ないよね、多分。

 

 

 そんな逃避を他所に、二人がステージへと入場する。

 

 どちらも質は違えど、笑みを浮かべていて。

 

 無駄な言葉は必要ないと言わんばかりに、ただ相手を睨んでいた。

 

 

「爆豪君と凍夏ちゃん……どっちが勝つかなぁ……」

 

 

 どこかそわそわしている麗日さんが、これからの試合の行方を気にしてか不安そうに呟いている。

 個性が強力で、身体能力や戦闘センスも申し分ないものを持っていて、何より勝利に貪欲になれる、僕の幼馴染二人の試合。

 

 どちらが勝つか、いつもの僕なら場合によると答えて考察をしていたと思う。

 

 だけど、今の僕から言えるのは一言だけ。

 

 

「凍夏ちゃんが勝つよ」

 

 

 今までとは関係が変わった、幼馴染へのエール。

 

 

「い、言い切るんだデク君」

「まあ、ね」

 

 

 それには、保健室で託した思いもあるけれど。

 

 

『決勝戦、轟凍夏 対 爆豪勝己!!!』

 

 

 例え相手がかっちゃんだとしても、今の凍夏ちゃんが本調子じゃなかったとしても。

 

 

『今!! スタート!!!!』

 

 

 彼女が負ける未来が、全く思い浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「プロミネンスバーン!!」

 

 

 試合開始の合図と同時、私は爆豪へ父親譲りの必殺技を撃ち放った。

 左半身に灼熱を溜め込み、一気に解放する攻撃。

 体温調節が可能な私にとっては、初手で放っても問題の無い高火力技だ。

 流石に最大火力ではないし、直撃しても大火傷程度で済むように調節した。

 

 今まで氷の技をたくさん見せていたから、右の力では爆豪に攻略される可能性が高い。

 

 だから不意打ちにもなると思い、炎の大技で決めに行く――

 

 

 

二重(ダブル)榴弾砲(ハウザー)!!!!」

 

 

 

 ――つもりだったけど、やっぱり爆豪は甘くなかった。

 

 プロミネンスバーンに合わせて、両手を前に突き出しながらの大爆破を放ってきた。

 

 ぶつかった二つの技は、爆発を起こしてフィールドを煙に包んだ。

 

 

『開始早々炎と爆破のぶつかり合い!! そんでまたしてもステージがぶっ壊れたァ!!!』

『まぁ、もう決勝だしな……』

『この後は知ったこっちゃねえってか!! 轟はさっきのも合わせて今年度のデストロイヤー・オブ・ザ・イヤーに決定だぜェ!!!』

『否定はせんが、止めてやれ』

 

 

 解説に付けられた不名誉な称号を聞き流しながら、私は砂塵や爆煙で悪くなった視界を注視する。

 

 威力的には私が上だったが、爆豪の狙いは煙で姿を隠す事だったか。

 

 姿の見えないアイツ程、怖いものもそうはいない。

 

 とは言え、私には問題ない。

 

 

「後ろっ!!」

「っ……クソが!!」

 

 

 ()()()()()()()()()に振り向きながら氷結を放てば、こちらに手を伸ばしていた爆豪が即座に爆破で方向転換する。

 

 流石、見てから反応できるコイツなら今のタイミングじゃ当たらないか。

 

 炎で牽制しながら氷で後ろに下がって距離を取った頃には、砂煙も大分晴れてきた。

 

 

「テメェ、個性で温度感知してんな」

 

 

 むぅ、今の攻防で確信されてしまった。

 

 私の個性、半冷半燃は氷と炎を扱えるもの。

 その副産物とも言える効果で、ある程度の温度感知も出来る。

 より正しく言うなら、温度差のある空間の変化が分かる、だろうか。

 さっきの戦闘で例えれば、私の展開していた炎の範囲に人の温度……つまり爆豪の体温が現れたので場所が分かった、という訳だ。

 

 ちなみに私がこの使い方に気がついたのは、常に燃えている父親を感知する精度が異様に高かったのに出久が疑問を持ったから。

 彼に指摘されなければ、今も知らないままだったに違いない。

 

 それを今までの試合やさっきの僅かなやり取りだけで理解した爆豪は、やっぱりとんでもない男だ。

 

 けど、素直に認めるのも悔しいので。

 

 

「出来ないなんて、一言も言ってないけど」

「上等だ温度計女ァ!!」

 

 

 挑発を加えて返してやれば、凶悪な顔を更に歪ませて爆破で飛びながら向かってきた。 

 ついでのように新しい変なあだ名を付けられたけど、いい加減にしてほしい。

 

 

「轟凍夏だって言ってるでしょ!!」

「知っとるっつっとんだろが!!」

 

 

 左手の指先から細い炎を放つ技、赫灼熱拳・ヘルスパイダーで迎え撃つ。

 ヘルスパイダーは炎の技の中でも、かなり使い勝手が良い。

 あまり言いたくないけど、流石はNo.2の父が生み出しただけの事はある。

 爆豪も器用に爆破を使いながらアクロバットに避けているが、流石に近づけていない。

 

 が、このままヘルスパイダーで追い続けていれば、炎の熱で爆豪が汗をかき、相手の能力を上げてしまう。

 かといって氷を使おうにも、この距離からでは爆豪の反応速度なら逃げ切れる。

 

 なので目指すは、炎を使った()()()

 

 その為にはまず、素早い爆豪を逃げにくくするフィールドの作成が必要だ。

 

 一旦ヘルスパイダーを解除して、左腕全体に炎を纏ってから。

 

 急に止められた攻撃に、眉をひそめている爆豪へ声をかけた。

 

 

「ねえ、知ってる?」

「ああ? 何がだよクソ」

 

「炎って、()()()()()()()()()()()

「っ……テメッ!!?」

 

 

 言葉と同時、左から出していた炎を青く変化させて。

 

 

 

蒼灼熱砲(そうしゃくねっぽう)・アズールフレア!!」

 

 

 

 そのまま腕を大きく振るって、私と爆豪を囲むように炎上しているフィールドを形成した。

 

 爆豪は咄嗟に範囲外に離れようとしたが、間に合わさせない。

 

 父の赫灼熱拳を元にした青い炎を操る技、蒼灼熱砲(そうしゃくねっぽう)

 

 炎の温度が上がると同時に、速度や規模も跳ね上げている。

 

 私は氷を好んで使うけれど……()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 二度と誰かに必要以上の怪我をさせないように、頑張って鍛えてきたのだから。

 

 

『灼熱地獄!! 轟、青い炎でステージを囲った!!』

『轟は消耗戦を選んだか。あの状況なら汗をかくほど動きが良くなる爆豪でも、流石にキツいだろうな』

『燃え上がるフィールド! 燃え上がる闘志!! 果たしてどちらが最後まで燃え尽きずにいられるのか!!?』

 

 

 実況が煩いけど、兎も角これで爆豪の行動範囲をかなり狭められた。

 

 業火に灼かれる程の熱さが、汗をかくどころか身体からどんどん水分を奪っていく。

 

 氷で体温調節出来る私はまだしも、爆豪には辛い空間の完成だ。

 

 業火のフィールドで、爆豪は忌々しげにこちらを睨んでいる。

 

 

「っクソが……デクん時はまだ全力じゃなかったっつー訳か!」

「違うよ。青い炎は、本来試合に使える威力じゃないから」

「はっ! 結局は舐めプじゃねえか!!」

 

 私の言葉に、爆豪は鼻を鳴らしてから再びこちらへ突撃してくる。

 

 青い炎は温度が高い分、かなり加減が難しい。

 使うにしても、炎耐性がある相手でなければ、後遺症が残るレベルの怪我を負わせてしまうだろう。

 例え出久への虐めで恨み辛みのある爆豪相手だとしても、容易に使う訳にはいかない。

 

 なので舐めプと言われようと、私は身体に纏う炎を橙色に戻す。

 ヘルスパイダーで爆豪を狙いながら、移動は最小限の氷結で行う。

 この業火フィールドでは、動き回るだけでもかなりの体力を使うから。

 

 私の発生させた氷もすぐさま蒸発して、蒸気となり視界を悪くする。

 

 後は爆豪の隙を作るように……っと!

 

 

「甘ぇぞ轟ぃ!!」

 

 

 炎の間を抜けて来た爆豪が、高威力爆破で一気に距離を詰めてきた。

 

 なんて奴、まさかこの短い間にヘルスパイダーを見切るなんて……!

 

 来る、右の大振り!

 

 

「死ねぇぇぇ!!!!」

「っはああっ!!」

 

 

 瞬間的に氷結を繰り出して相殺したが、その衝撃でフィールドの炎がかき消えてしまった。

 

 私もかなり飛ばされるが、氷を重ねて勢いを殺して止まる。

 

 爆豪を見れば、あいつも衝撃で飛ばされたのを爆破で体勢を整えていた。

 

 しかし……消耗戦をしようとしたこちらの目論見が、こうも容易く破られるとは。

 

 

『なんつー力業!! 消耗戦を狙った轟に対し、爆豪は正面からの攻撃で突破したぜ!!!』

『相手のペースにさせないように動いた結果だ。戦う度にセンスが光っていくな、アイツは』

 

 

 本当に、相澤先生の言う通りだ。

 

 強力かつ繊細な個性、それを支える屈強な肉体、その全てを使いこなす突出した戦闘センス。

 

 これが、爆豪勝己という男。

 

 こうして相対すると、その凄まじさがよく分かる。

 

 

「どこまでも舐めやがって……!! チマチマ削って勝とうなんざ、俺との決勝でやってんじゃねえぞ半分女ァ!!!」

「舐めてるつもりはないんだけど……そうだね」

 

 

 両手に爆破を起こしながら叫ぶ爆豪に、少しだけ反省する。

 

 出久に優勝してくると約束したのに、ここに来て消極的な攻めをしてしまった。

 

 いや、逆に約束を重く考えすぎていたのかな。

 

 ちらりと、クラスメイトの座る客席へと視線を向ける。

 

 私たちの勝負を見守る皆の中に、出久も居て。

 

 目が合うと、笑顔でグッと拳を突き出された。

 

 

 ……うん、そうだ。

 

 難しく考えすぎなくていい。

 

 出久の時と、やる事は変わらない。

 

 全力で、勝ちを掴み取れば良い。

 

 

 燃えろ、凍夏(わたし)

 

 

 決意を、想いを、力に変えろ。

 

 

 

「なら、爆豪」

「んだこらクソが!!」

「殴り合おう」

「…………は?」

 

 

 

 一瞬呆けた爆豪の前で、私は左右に炎と氷を纏う。

 氷炎舞闘。触れた相手を右で凍らせ、左で燃やす近接技。

 

 出久の時と同じようで……少し、違うパターンで攻めよう。

 

 両手を、それぞれ炎と氷を大きな爪状の装甲にして、殴り・切り裂くスタイル。

 

 

「氷炎舞闘・炎爪氷牙(えんそうひょうが)!!」

「っ、次から次に新しい技出しやがる……!」

 

 

 技名を叫びながら、爆豪に向かって突撃する。

 奴もすぐさま構え直して、真っ直ぐ突っ込む私に爆破を放ちながら宙へ飛ぶ。

 炎で爆破を受け流しながら温度感知で爆豪を探し、氷結で宙へと追いかける。

 

 右手の氷結の爪で裂きに行けば、右手の爆破で。

 左手の炎熱の牙で殴りに行けば、左手の爆破で相殺される。

 

 攻めと攻めがぶつかり合うの近接戦の攻防は、どんどん激しさを増していく。

 

 氷と炎が爆破され、その逆もまたしかりで。

 

 お互いの動きを読んで、見切って、避けていく。

 

 

「おらあああああ!!!!」

「やああああああ!!!!」

 

 

 叫ぶ爆豪に同調するように、私も声を上げていく。

 

 相殺で起きる衝撃も気にせず、ただただ乱打しているだけにも見える戦い。

 

 

 何故だろう――凄く、気分が高揚している。

 

 身体は疲労で重くて、個性を使う集中力の維持も辛くなってきたのに。

 

 こんな気分は、今まで経験が無い。

 

 出久に告白したり、キスした時とはまた違う感じ。

 

 私の中に、強く燃え盛る何かがあるみたいに。

 

 

 

 ……そういえば、本当の意味で真正面から戦える相手は、爆豪が初めてだ。

 

 勿論出久にも加減なんてしてないけど、心の底から遠慮せずに戦う、なんて事はなかったから。

 

 

 あ、そうか。

 

 

 同じレベルの実力を持つ相手と、思いっきり戦えて。

 

 

 

 私、嬉しいんだ。

 

 

 

 自分にこんな一面があるなんて、十五歳にして初めて知った。

 

 

 それは決して、嫌なものではなくて。

 

 

 自分を高めるのには、必要な感情に違いない。

 

 

 爆炎や蒸気の合間に見える爆豪は、凶悪に笑っている。

 

 

 きっと私も、似たような顔をして笑っているんだろう。

 

 

 

『ラッシュラッシュラァーッシュ!!! 決勝まで来てこの二人、容赦の無い殴り合い!!! 炎と爆破の熱さだけじゃねえ!! 自らを燃やす魂のシャウト!!! そこに氷を添える事でチャンポンしてるぜ!!!!』

『お前テンションのままに適当な事言ってんだろ』

 

 

 

 ああ、実況や観客の歓声が遠くに聞こえる。

 

 

 極限まで高められた集中力が、不必要な情報をシャットアウトしてくれているのか。

 

 

 正直、どれぐらい殴り合っているのかも覚えていない。

 

 

 もうしばらくこうやって、本気の戦いをしていたいけど。

 

 

 

 それでも、疲労やダメージが限界に近いから。

 

 

 そろそろ、決着を付けないと。

 

 

 

 爆豪勝己。中学まで出久を虐めていたり、暴言や変なあだ名を付ける所は気に食わないままの奴だけど。

 

 

 今日から貴方は、私の好敵手(ライバル)だ。

 

 

 

 だからこれは――私なりの礼儀。

 

 

 

 ほんの一瞬の隙を見つけて氷で飛び下がり、炎を青色に変えてから、左腕に溜めるように構える。

 

 

 

 

「行くよ――――勝己!!」

 

 

 

 

 名前で呼ばれた爆豪……勝己は少し怪訝な顔をしたが、私の意図を読み取ったのか、距離を取りながら楽しそうな笑みに変えて叫び返してくる。

 

 

 

 

「良いぜ――――来いや凍夏あああ!!!!」

 

 

 

 

 距離を開けた勝己は空中に浮かび上がり、全身で渦を作るように両手で爆破を続ける。

 

 

 お茶子の時の最大火力に、回転を加えて撃つつもりだ。

 

 

 

 それに答えるのは、青い炎での高火力技。

 

 

 父お得意の、シンプルながら使いやすい技を改良したもの。

 

 

 集中して、青い炎をコントロールをしながら溜めた左腕を解放する。

 

 

 

蒼灼熱砲(そうしゃくねっぽう)――――ジェットバーンインパクト!!!!」

 

 

榴弾砲(ハウザー)(ツイン)着弾(インパクト)ォォォ!!!!」

 

 

 

 あ、インパクトが被った。

 

 

 技が交差する一瞬に、そんな事を思ったけど。

 

 

 身体は反射的に、次いで来た大爆風から身を守るように氷壁を展開していた。

 

 

 硬い氷壁を何層も重ね、破られると同時に作り上げる。

 

 

 数回、数十回と繰り返し繰り返し作り上げる。

 

 

 そして、体感で何分も経ったように思えてきた頃。

 

 

 ようやく……衝撃は収まった。

 

 

 恐らく、出久戦の時より強い衝撃だったけど。

 

 

 今度は身体も、意識も無事に乗り切った。

 

 

『……なあイレイザー、これ止めなくて良かったん?』

『……アイツらに言っても聞かねえし、聞こえてねえよ。ったく……』

 

 

 あっ、相澤先生に呆れられている。

 

 何度も同じような事をして申し訳なく思うけど、体育祭だから見逃してほしい。

 

 爆炎による煙とステージの残骸による土煙が薄れてくれば、跡形もないフィールドが現れる。

 

 

 勝己は……居た。

 

 ステージの端で、うつ伏せに倒れている。

 

 腕に大きく火傷が出来ているけど、それ以外に目立った外傷は見当たらない。

 

 わたしと違ってガード出来ないだろうし、直撃を受けてしまったと思うが、身体の前側は大丈夫だろうか。

 

 

「勝己、大じょ……う、ぶ…………っ?」

 

 

 近づこうと一歩を踏み出そうとして――がくりと膝を突く。

 

 

 ヤバい、身体が限界を迎えそうだ。

 

 

 けど、まだ、倒れる訳にはいかない……!

 

 

「…………クソが……んな状態で、俺を心配してんじゃねえ……」

「あ…………生きてた」

「殺すなボケ。あれぐらいで死ぬかよ……」

 

 

 唸るような声と共に、仰向けに転がる勝己。

 

 身体の前面も、腕以外は重傷とまではいかない程度の怪我だ。

 

 よかった……とは言えないけど、青い炎の攻撃でも思ったよりは少ないダメージで済んでいる。

 

 まあ、勝己の運動神経や防御スキルあっての結果ではあるんだけれど。

 

 

「テメェといい、デクといい…………マジで訳が分からん」

「訳が分からん、って……心配した事?」

「はっ……それ以外何があんだよ」

 

 

 鼻を鳴らす勝己に、重たい身体でどうにか立ち上がった私は、小さく首を傾げてから言葉を紡ぐ。

 

 

 

「ヒーローが、誰かを心配するのに……理由が要るの?」

 

 

 

 私と出久にとっては、例え相手が誰だろうと、それは心配をしない理由にはならない。

 

 

 私の言葉に、勝己は大きく息を吐いて。

 

 

 

「………………やっぱ理解出来ねえよ、クソ」

 

 

 

 同時に吐かれた悪態は、そういうものだと受け入れた風に聞こえた。

 

 

 その流れで痛むだろう身体を無理矢理動かして、手を使わずにゆっくりと立ち上がった勝己。

 

 さあ、試合はまだ終わっていない。

 

 どちらも動けるなら、戦わなければ。

 

 

 ……と、思ったのに。

 

 

 勝己は、私たちのやり取りを見守っていたミッドナイト先生へと視線を向けて。

 

 

 

「俺の敗けだ、審判」

「……えっ!?」

 

 

 

 淡々と、自らの敗北を告げた。

 

 

 どうして、降参なんて。

 

 

 そんな決着は、勝己が一番望んでいない筈じゃないのか。

 

 

 驚き混乱する私を他所に、ミッドナイト先生は頷きながら鞭を振るって宣言する。

 

 

 

「爆豪くん、降参! よって、轟さんの勝ち!!」

 

『――以上で全ての競技が終了!! 今年度雄英体育祭一年優勝は――――A組、轟凍夏!!!!』

 

 

 

 口を挟む間もなく、マイク先生により勝利が告げられる。

 

 一気に大歓声に包まれたスタジアムを、勝己はフラフラしながらもしっかりと歩きながら後にする。

 

 

 その背を追いかけようとして――私も、限界ギリギリだった事を忘れていた。

 

 

 意識が遠くなり、力の入らない身体ごと地面に倒れそうになる。

 

 

 けれど、私の意識が落ちる前に。

 

 

 

 

「――お疲れ様、凍夏ちゃん」

 

 

 

 

 いつも近くに居てくれた、最愛の幼馴染の声と。

 

 

 彼の力強い腕の中に、抱き留められる感触があった。

 

 

 それに安心した私は、笑顔で一言だけ告げて。

 

 

 

 

「――――ありがと、出久」

 

 

 

 

 ゆっくりと、意識を手放した。

 

 

 

 

 







 ステージを後にしていれば、後ろの歓声が妙に黄色い風に変わった。

 見なくとも理由は分かる。俺は振り返らずにさっさと歩く。


「かっちゃん」


 だってのに、声を掛けて来るお人好しな色ボケナード。

 無視してそのまま進んだってのに、気にせず隣に並びやがった。

 想像通り、腕の中にはキメェ面して寝てやがる半分女を抱いて、だ。

 ケッ……俺と違って、大した怪我もしてねえや。

 コイツが万全の状態なら、今気絶する事もなかったんだろうな、クソ。


「お疲れ様。やっぱりかっちゃんは強いね」
「煩え黙れ死ね。負けた奴に掛ける言葉じゃねえだろクソデク」
「強いよ。だって……()()()()()()()()()()()()のに、それを誰にも悟らせようとしないんだから」
「…………ちっ」


 的確にこっちの状態見抜いて来やがる。ウゼェ観察力しやがって。

 別に火傷だけならどうにでもなる。歯ァ食いしばれば動かせねえって訳じゃねえ。

 だが、掌から腕の内部に掛けての鈍く響く激痛は、精神でどうこうなるレベルはとっくに越えてる。

 轟の…………凍夏の攻撃を相殺するのに、常に全力以上の爆破を使った代償だ。

 今まで爆破を使ってきた勘だと……後一回か二回、同レベルの威力で使っていれば。


 俺は――――()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その寸前までやっても、あの炎は破れなかった。


 忌々しいが、認めざるを得ねえ。


 今の俺じゃまだ、コイツには届かねえって事を。




 だとしても、俺はここからだ。


 コイツらよりも、エンデヴァーよりも、オールマイトよりも上に行く。


 その為に、ここで終わる訳にはいかなかった。


 だから今はまだ無様晒そうが、降参なんて真似をしたんだ。


 他の奴らが俺の敗北宣言に気を取られていた中、デクだけはそれに気づいてあんな事を言いに来たんだろう。

 腹は立つが文字通り手が出せねえ以上、舌打ちだけで済ませてやった。感謝して死ね。

 それら諸々を込めた睨みを向ければ、デクの野郎はキメェ顔で笑ってやがったが。

 近い内にテメェとの決着も付けてやるから、覚悟してろ。




 その後、保健室に行ってリカバリーババアに死ぬほど叱られたのは、甘んじて受け止める。

 つーかある意味オールマイトより圧を感じたから黙らざるを得なかった。マジで何モンだあの婆さん。



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25:ぐだぐだと表彰式。

 
 あけましておめでとうございます。
 今年も宜しくお願い致します。

 体育祭編締めの一話。次の後日談で体育祭編は終わりです。


 

 

 

「それではこれより!! 表彰式に移ります!」

 

 

 ミッドナイト先生の言葉と共に、表彰台が煙幕と共に地上へと上がる。

 

 スタジアムの上空に打ち上げる花火と、観客からの大きな歓声が私たちを迎えてくれた。

 

 

 三位台には、いつもの柔らかい笑みを浮かべた出久と、いつも通りに見える顔で腕を組む常闇。

 

 二位台には、両腕をギブスで覆い三角巾で首に固定されている仏頂面の勝己。

 

 

 そして一位台には……両手に松葉杖を付いた私。

 

 

 支え無しで立つのが厳しい程度には、体力を消耗していたけれど。

 

 

 それでも、笑顔だけは絶やさないようにしていた。

 

 

 

 優勝を決めたと同時に倒れた私は、気づけばまた出張保健室の天井を見る事になった。

 ぼんやりとした意識の中、手を握られている感触に視線を横に向ければ、出久がベッドの脇に居る。

 起きた事に気づいた彼は、私に笑みを向けて頭を軽く撫でてからリカバリーガールを呼んだ。

 

 まだ頭がはっきりしない中、リカバリーガールからは無茶をし過ぎだと叱られながら診察を受けて。

 もう細かい怪我が治せないぐらいに、体力が残っていないと言われてしまった。

 実際、ベッドから起き上がるのも億劫で、出久の助けを借りてどうにか上体を起こせるレベル。

 この後の表彰式は、何かしらの支えが無ければ出られなさそうだった。

 

 逆に隣のベッドに無理矢理寝かされていた包帯グルグルの勝己はタフネスの塊だからか、両腕の治癒に全身の怪我を治しても多少フラフラする程度で済んでいたらしい。

 一体どれだけスタミナがあるのやら……とリカバリーガールは呆れていた。

 

 そこで勝己が棄権した事を思い出した私は、何故かと彼に聞いた。

 舌打ちしてそっぽを向いた勝己に代わって教えてくれた出久曰く、勝己の腕は限界ギリギリだったらしい。

 そんな素振りが一切見えなかっただけに、私の驚きも大きかった。

 全く分からなかった……と呟けば、気づかせねえようにしてたんだから当たり前だろバァカ、と嘲笑ってきたのは、ちょっとイラッとしたけれど。 

 

 

 

 なんて一幕は割愛。

 

 

 表彰台を見渡したミッドナイト先生が、間を置いてから大きく声を張り上げる。

 

 

「それではメダル授与よ!! 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

「HAーHAHAHA!!!!」

 

 

 スタジアムの上から日本人なら馴染み深い笑い声が聞こえる。

 そうか、ここ暫くで見慣れていたけど、もの凄い有名人が教師になってたんだった。

 その人、オールマイトは代名詞にもなっている台詞を叫びながら飛び降りてくる。

 

 

「私が!! メダルを持っ「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」たァ!!!!」

 

 

 あ、台詞が被った。

 プルプル震えるオールマイトに、ミッドナイトが手を合わせて謝っている。

 事前に打ち合わせとかしてなかったんだろうか。

 まあ、ある意味オールマイトらしいかも。エンターテイメントしてる。

 

 

 気を取り直して、メダル授与が行われる。

 

 まずは、三位の出久と常闇から。

 

 

「常闇少年、おめでとう! 強いな君は!」

「もったいないお言葉」

 

 

 普段と変わらない調子の常闇。

 隣の出久はオールマイトに表彰されると聞いてから笑顔が固くなってるのに、その変わらなさは凄いと思う。

 

 

「ただ! 相性差を覆すには“個性”に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば取れる択が増すだろう」

「……御意」

 

 

 わ、御意って日常生活で使う言葉なんだ。

 オールマイトに抱きしめられる常闇を見ながら、そんな事を考えてしまった。

 

 次いで、オールマイトが出久の前に立つ。

 

 

「緑谷少年、おめでとう!! 入学時と比べても素晴らしい成長だ!!」

「あああ、ありがとうございます!!」

 

 

 出久、滅茶苦茶緊張してるなあ。

 ロボットみたいにカクカクしながら、首にメダルを掛けられている。

 いつも会ってるし、さっきも言われた言葉の筈だけど、こういう場で称賛されるのはやっぱり違うんだろう。

 曲がりなりにも師匠だからか、オールマイトの声色も常闇の時より明るい気がする。

 

 

「君の場合、地力は十分に出来ている。後は個性の細かな制御の練習が必要だね」

「は、はい! 個性の訓練も、戦闘スタイルの見直しも、これからも全部頑張って……立派なヒーローになります!!」

「うむ! 期待しているぞ!!」

 

 

 ちょっと、オールマイトちょっと。

 

 明らかに常闇と態度が違う感じになってきているんだけど。

 なんで全国中継の場で、贔屓しているように見える接し方をするの。

 そこまで分かりやすい訳じゃなくても、分かる人には分かってしまうってば。

 私としては構わないと思うけど、師弟関係は隠したいんじゃなかったっけ。

 ……ついでに出久にハグするのも止めてほしい。

 出久が喜んでいるのは良いんだけど、なんだか私と抱き合った時より嬉しそうに見えてもの凄く複雑な気分だ。

 

 こほん、とわざとらしく咳払いをすれば、ようやく気づいたオールマイトが少し慌て気味に出久から離れた。

 常闇には気づかれてないっぽい。よかった。

 

 ただ――勝己が感情の読めない顔で、二人をじっと見ていたのが気になった。

 勘が良いし頭の回転も早い、これ以上何かきっかけを与えれば、バレるのも時間の問題だろう。

 ただ個人的に、彼にならば教えても良いんじゃないかとも思うけど。

 

 

 そんな勝己の前へと、オールマイトが立った。

 

 

「爆豪少年、おめでとう! 伏線回収は叶わなかったが、見事な成績だ!」

「慰めなんて要らねえよオールマイト。大見栄切って二位(した)に居んだ。この順位には、何の価値もねぇよ」

 

 

 オールマイトの称賛を淡々と否定する勝己。彼の気持ちも何となく分かる。

 勝己は他人や世間の評価など気にせず、自分の中の絶対的な基準の上を歩いているんだから。

 傲慢にも思えるそれは、彼の強さでもある。

 

 そこはオールマイトも理解しているらしく、頷きながら言葉を紡ぐ。

 

 

「うむ! 相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。自分を貫く君の姿勢は、多くの人に理解されただろうさ!」

「どうでもいいからさっさとメダル寄越せや……“傷”として、忘れねえように取っとくからよ」

「HAHAHA! そうだね!」

 

 

 負けた自分を忘れないようにと、弱さや戒めの証として持っておくつもりなのか。

 どこまでも勝己らしいと小さく笑えば、首に銀メダルを掛けられている彼に横目で睨まれてしまった。

 

 

 さて、次はいよいよ私だ。

 

 目の前に立つオールマイトに、私は笑顔を向ける。

 

 

「轟少女、優勝おめでとう!! 流石、というべきかな?」

「ありがとうございます。頑張りました」

 

 

 そう告げれば大きく頷かれて、金色に光るメダルを掛けられる。

 見た目以上のずしりとした重さは、ここまで来た証だ。

 

 

「個性も地力も申し分ない。が、時折加減を忘れている事があったから気を付けるように」

「はい。これからも精進します」

 

 

 皆と同じように講評を告げながら、オールマイトは軽く抱きしめようとする。

 

 

 ――――寸前に、それは起きた。

 

 

 

 

「オールマイト貴様ァァァ!!!! 俺の娘に不埒な真似をするなァァァ!!!!」

 

「へぇっ!?」

 

 

 

 

 どこからか、不快な不快な、声がした。

 

 

 マイクも無いのに、ざわざわした会場に響き渡ったそれは、間違いなくあの男のもの。

 

 

 オールマイトが驚き、出久や勝己が噴き出して、他の生徒や観客が唖然とした。

 

 

 

 

 ………………あんの、馬鹿親父。

 

 

 

 ここで、この最後の最後で、恥を晒すか。

 

 

 

 良いだろう、それならこっちにも考えがある。

 

 

 フラフラの体に力を入れて、貰ったメダルを首から外して。

 

 

 左手に、力いっぱい握りしめて。

 

 

 声がした方向を、しっかり見据えた。

 

 

 そして、アイツを見つけたので。

 

 

 

 

「凍夏ァ!!!! 早くそいつから離れ「恥晒しは黙ってて!!!!」ぶごぉぉ!!?」

 

 

 

 

 爆炎(青)の勢いと共に、メダルを炎上野郎の顔面にぶち込んだ。

 

 

 ん、無事に顔の中心に命中した。ナイスショット私。

 

 

 壁で頭を打って倒れてたけど、知ったことか。

 

 

 

 さ、それじゃあ静まり返った会場を元に戻さなきゃね。

 

 

 

「オールマイト、今のうちに終わらせて下さい」

「えっ!? え、エンデヴァーを!?」

「エンデヴァー? どちら様でしょうか?」

「あっ、い、いやなんでもないから! うん!!」

 

 

 

 慌てて私の意識を逸らそうとするオールマイト。

 

 

 彼がエンデヴァーを終わらせてくれるなら、それはそれで良いかもしれないけど。

 

 

 あの汚物の処理は、こっちに任せてほしい。

 

 

 

「さっきの不審者は今晩、家の庭の隅っこでパンの耳でも囓ってるでしょうし、ご心配なさらず」

「「「「止めてあげてぇ!!!!」」」」

 

 

 

 会場全体、特に大人の男性からそんな叫びが聞こえた。

 

 

 やだ。あんな男、私は知らないもん。

 

 

 

 

ー緑谷出久ー

 

 

 色々な意味で熱々なメダルの豪速球を受けて倒れたエンデヴァー……炎司さんが輸送用ロボに回収された後。

 何だか締まらない状態だったのを、オールマイトが無理矢理締め括ろうとして、更に失敗していた。

 

「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」

「ああいや……疲れたろうなと思って……」

 

 いや、確かに疲れてますけど、そこはプルスウルトラですってば。

 ブーイングを受けるオールマイトに少し呆れながら……僕は一位台に居る凍夏ちゃんの様子を伺っていた。

 

 炎司さんに親馬鹿発言されてから、ずっと怖い笑みを浮かべている。

 内心は滅茶苦茶機嫌が悪いに違いない、表彰式という場だから取り繕っているだけの表情。

 つい笑ってしまったけど、今回ばかりは僕も炎司さんが悪いと思うから、あんまりフォロー出来ないか。

 それより先に、凍夏ちゃんの機嫌を直してもらわないといけないしね。

 

 雰囲気がぐだぐだのまま、皆が体育祭の解散準備を始めようと動き出した時。

 

 

 凍夏ちゃんの身体が、ぐらついた。

 

 

 気づいたと同時、僕は個性を使い一位台へと跳び乗って。

 

 

 倒れる彼女を、腕で支えるように受け止める。

 

 

「凍夏ちゃん!」

「…………あは、ありがと、出久」

 

 

 腕の中でにへらと笑う凍夏ちゃんは、力ない感じ。

 

 そうか、元々残り少なかった体力を、さっきの豪速球で使い果たしてしまっていたのか。

 

 炎司さんへの扱いの酷さは見慣れた光景過ぎて、体力がどうとか考えてなかった。

 

 彼女の状態を把握出来ていなかった事に少しの後悔を覚えつつ、彼女の額に手を当てる。

 

 ……うん、熱はなさそうだから、極限まで疲れているような状態なんだと思う。

 

 

 僕の声と、続いて松葉杖が倒れた音で、先生方や生徒の皆も凍夏ちゃんの不調に気がついた。

 

 

「轟少女!!」

「轟さん、大丈夫!?」

「はい。ちょっと、立てないだけです」

「それは大丈夫じゃないって……無理しちゃ駄目だよ」

「私は悪くないもん、アイツのせいだもん」

「…………まあ、そうだね」

 

 

 こんな状況でも調子の変わらない凍夏ちゃんに、思わず苦笑が漏れてしまう。

 僕が炎司さんのフォローをしなかったからか、少し機嫌が良くなった。

 

 ん、首に腕を回された。このまま運べって事かな。

 

 

「すみませんオールマイト、ミッドナイト。先に凍夏ちゃんを保健室に連れて行きますね」

「ああ、頼んだよ緑谷少年」

「リカバリーガールは本棟の保健室に戻ってるからそっちにね! 青臭い青春らしくて好みよ!!」

「あはは……分かりました」

 

 

 ミッドナイトの視線が強すぎて、ちょっと怖い。

 僕は笑みが引きつらないようにしつつ、先生方に断りを入れて一位台を降りようとした。

 

 

「ね、出久」

 

 

 けど、凍夏ちゃんが甘える声で話しかけて来たので少し止まる。

 

 見れば、彼女は頬を染め、目を潤ませながら僕を見つめている。

 

 

 ……何だろう、凄く大変な事が起こる予感がしてきた。

 

 

 それなりに注目されてる今……というか、観客の人たちも何事かと僕らを見てる!?

 

 ちょっ、カメラがこっちを撮り始めたから、スクリーンに僕たちが映ってるし!

 

 これ、一挙一動を全てを見られているんじゃないかな。凄く冷や汗が出てきたんだけど。

 

 それらを一切気にしない凍夏ちゃんが、首を傾げて僕を見上げる。

 

 

「出久?」

「あ、えっと……何かな……?」

 

 

 震えそうだった声を、根性でどうにか普段通りに取り繕った。

 

 返事が返ってきて安心したらしい凍夏ちゃんは、緩んだ顔で口を開いた。

 

 

「私、優勝したよ」

「う、うん」

「約束、守れたよね」

「そう、だね」

 

 

 

「ごほうび、ちょーだい?」

 

「――――」

 

 

 

 

 待って。

 

 

 

 凍夏ちゃん、ちょっと待って。

 

 

 

 

 内容は百歩譲って良い。ここで言ったのは全く良くないけど、まだ良い。

 

 

 

 優勝した凍夏ちゃんをお祝いするのも、何かしらのご褒美をあげるのも構わない。

 

 

 元よりするつもりだった事。何の問題もない。

 

 

 だけど、その後の動きは勘弁してほしい。

 

 

 

 顔を僕の方に向けて、目を閉じて、口を近づけてくる、とても分かりやすいある行為の仕種。

 

 

 

 つまりこれは、不特定多数が、僕らを見ている前で。

 

 

 

 

 ――――キスして、って事だよね!?

 

 

 

 

 色々待ってほしい僕と君が恋人になった事はまだリカバリーガールしか知らないんだそれをクラスの皆はおろか他の一年生や先生に観客の人たち果ては全国のお茶の間の皆様の前でキスなんてしたら一気に判明してしまうんだよいや正直ここまでの僕と凍夏ちゃんのやり取りで友達以上の関係なのは既に全国に知られているとは思うけど付き合ってるとか決定的な事はしてないんだもしここでキスしてしまったら今後の活動にも影響が出かねないし僕は兎も角凍夏ちゃんがヒーローの勉強より恋人にうつつを抜かしているとか嫌な噂でも立てられるのは嫌だし相手がこんな地味な奴で男の趣味が悪いとか言われるのも凍夏ちゃんが耐えられないんじゃないかって思ったりするんだけどああいやこれすら僕の傲慢なのかもしれない…………

 

 

 

 ……なんて、一瞬の間に思考を回していたけれど。

 

 

 

 

 ふと、断った場合の凍夏ちゃんのとても悲しそうな顔が、頭をよぎった。

 

 

 

 

 …………全く、覚悟を決めたんじゃないのか、この木偶(デク)め。

 

 

 凍夏ちゃんと一緒に歩んでいくつもりなら、僕たちの関係なんて遅かれ早かれ分かる事じゃないか。

 

 

 

 ああ、情けない。

 

 

 

 我ながらなんて臆病なんだ。

 

 

 

 目の前の大好きな女の子を、また泣かせるつもりか。

 

 

 

 もう、木偶の坊のデクじゃないんだ。

 

 

 

 今の緑谷出久(ぼく)の、デクっていうあだ名は――

 

 

 

 

「凍夏ちゃん――――」

 

 

 

 

 ――頑張れ! って感じなんだから!

 

 

 

 

 彼女の名前を呼んだ僕は、腕に抱いている恋人の唇へ。

 

 

 

 

 

 自分の唇を、優しく重ね合わせた。

 

 

 

 

 

 瞬間、会場から今日一番の黄色い声が沸き上がった。

 

 

 

 あ、やばい。やっぱりこれ、恥ずかしいどころじゃないや。

 

 

 

 顔の温度がどんどん上がってる。やばい。

 

 

 

 熱さが伝わる前に口を離せば、凍夏ちゃんがトロンとした目で柔らかい笑みを向けてくれた。

 

 

「でっ、デク君と凍夏ちゃんがーー!!!!」

「緑谷よくやったよーー!!!!」

「今年一番のキュンキュン貰ったーー!!!!」

「ととととっ、轟さんと緑谷さんが、せせせせ、せっ、接吻を……!!!!」

「おおおお落ち着きなよヤオモモモモモモ」

「そう言う耳郎ちゃんも落ち着いて」

 

 

 クラスの女子たちのテンションが半端ない。

 

 っていうか恥ずかしさで何故か聴覚が敏感になってる! 聞き分けられるの辛すぎる!!

 

 

「やっぱアイツら付き合ってたんじゃねーか!!」

「うん、まあ、正直そこに関しては驚かないよね」

「ダイタン☆」

「緑谷……お前は男だ……男だ緑谷……!! 思わず涙が出てきたぜ……!!」

「何でお前が泣いてんだよ」

「泣くだろこんなん!!」

「ミドリヤ、コロス、リア充、バクハツ」

「峰田が壊れた!?」

 

 

 男子の皆は意外にも一部だけが妬みで他は祝福モードっぽい。

 けど一人、峰田くんからどす黒いオーラを感じる。

 視界に入れてないのに、ただただ怖い。

 

 

『ヒューッ!! これでコイツらは全国公認カップルだな!!』

『…………これで何かあっても自己責任だからなお前ら……』

「青春……これぞ春の嵐……っ!!」

「ちょっ、ミッドナイト!?」

 

 

 先生方ごめんなさい。特に相澤先生。

 

 反省文でも何でも書きますので、今は見逃して下さい。

 

 

 

 はあ、予想通り大変な事になってしまった。

 

 

 観客の人たちも大いに盛り上がってるみたいだし、これからを考えると大分胃が痛んでくる。

 

 心無いメディアにあることないこと書かれるかもしれない。

 

 全国の真面目に見ていた人から、クレームが入るかもしれない。

 

 

 

 けど、後悔は全くしていなかった。

 

 

 これで改めて僕の覚悟は固まったし、今後凍夏ちゃんに惚れたから告白しよう、なんて人が現れる可能性も低くなった筈。

 

 

 

 そしてなにより――

 

 

 

 

「えへへー……出久ー……」

 

 

 

 

 ――腕の中のお姫様が、こんなに嬉しそうにしているんだから。

 

 

 一緒に、最高のヒーローへの道を歩いてくれる心強い幼馴染で、僕の恋人。

 

 

 そんな彼女が喜んでくれるなら、多少の恥ずかしさなんてへっちゃらだった。

 

 

 …………流石に見栄を張りました。毎回こんな事になるのは勘弁して下さい。

 

 

 

 

 僕は羞恥に染まった顔のまま、多くの視線やクラスメイトの追及から逃れるべく。

 

 

 凍夏ちゃんを抱いたまま、足早にスタジアムを立ち去るのだった。

 

 

 どうせ教室には戻らないといけないから、問題の先延ばしでしかないんだけどね!

 

 

 

 

 

 

「敵前逃亡……」

「クソが……やるなら最後まで堂々としてろってんだ色デク」

「色デク?」

「色ボケデクの略だわ分かれや」

「…………哀れ緑谷」

 

 

 去り際にかっちゃんと常闇くんのこんな会話が聞こえた。

 

 止めてかっちゃん! 不名誉なあだ名過ぎる!

 

 

 




 大体予想されてた表彰式のやらかし。ただしエンデヴァーも含む。
 全国公認カップルになってもそんなに変わらないのがこの二人です。

 何とか体育祭を終わらせられた感。くぅ疲。
 職場体験からはのんびり投稿になりますが、よければお付き合い下さい。
























「緑谷出久……彼がオールマイトの後継者か」



「まさかオールマイトともあろう男がNo.2の愛弟子を掠め取るなんてね。ははっ、これは面白い」



「そして……そのNo.2の娘、轟凍夏」



「次代の平和の象徴に寄り添うお姫様……いや、戦姫(いくさひめ)と言った方が正しいかな」



「これは……ふむ、弔では少しばかり荷が重いか……」



「……爆豪勝己を利用した後、流れを変更する必要がありそうだ……」



「ふふふ……なら、幾つか性能の高い脳無を作らないとね」



「さあ、九代目ワン・フォー・オールの継承者、緑谷出久」



「その彼と並び立つ戦姫、轟凍夏」



「君たちは、魔王のシナリオに抗えるかな?」




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番外編:ネット掲示板の呟き①

 
 感想で話題になってたので書いてみました。いわゆるヒーローちゃんねる風ってやつです。
 作者は5ちゃんねるには触れたことがないので、検索したのを参考にそれっぽい感じにしてるだけ。
 ほぼダイジェストみたいなものなので、苦手な方は読み飛ばして頂いて大丈夫です。
 とりあえず切りのいいとこまで。



【雄英体育祭一年の部・ゆっくり版】

 

 

1 以下、名無しのヒーローがお送りします

・ここは【雄英高校体育祭一年の部・ゆっくり板】スレです。

 ゆっくりしたい方はここで体育祭を見ながら適度に観戦・考察しながらぐだぐだと駄弁りましょう。

 

 真面目な観戦・実用的な考察はこちら→【雄英高校体育祭一年の部・観戦板】【雄英高校体育祭一年の部・考察板】

 

 二年の部、三年の部はこちら。

 二年→【雄英高校体育祭二年の部・観戦板】【雄英高校体育祭二年の部・考察板】【雄英高校体育祭二年の部・ゆっくり板】

 三年→【雄英高校体育祭三年の部・観戦板】【雄英高校体育祭三年の部・考察板】【雄英高校体育祭三年の部・ゆっくり板】

 

・次スレは>>950がお願いします。 (流れが速い時は>>900)

 また、スレ立て~誘導までの間、書き込みは控えましょう。

 無理なら次の人にパスして下さい。

 乱立防止のため、スレ立て宣言も極力お願いします。

 

 ネットの更に向こうへ、Plus Ultra!

 

2 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>1 乙

 

3 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>1 おつおつ

 

4 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>1 ぷるーる!

 

5 以下、名無しのヒーローがお送りします

5get

 

6 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>4 その略称初めて聞いたぞ

 

7 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>4 略すほど長くないだろ

 

8 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>4 ちょっとかわいいと思ってしまった

 

9 以下、名無しのヒーローがお送りします

【悲報】ランチラッシュの食堂、一般開放は無し【食べたかった】

 

10 以下、名無しのヒーローがお送りします

シンリンカムイが警備に来てた!!生カムイ!!

 

11 以下、名無しのヒーローがお送りします

後ろの方の席だけど結構有名なヒーローたちがいるんだな

 

12 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>9 まじかよ……

 

13 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>9 お昼はだいぶ先なのに確認してるの笑うわ

 

14 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>10 生ビールみたいに言うなw

 

15 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>10 カムイィスゥパァドゥルァァァァイ

 

16 以下、名無しのヒーローがお送りします

ランチラッシュのご飯を食べに来た俺氏、無事死亡

 

17 以下、名無しのヒーローがお送りします

現地勢多いな

 

18 以下、名無しのヒーローがお送りします

おうちでお酒飲みながら見てるよ

 

19 以下、名無しのヒーローがお送りします

平日にお休みを取れる仕事裏山

 

20 以下、名無しのヒーローがお送りします

三年も捨てがたいけど今年は一年ステージにしよ

 

21 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>19 何時から仕事していると錯覚していた……?

 

22 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>19 自宅警備員ってお仕事があってだな

 

23 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>21 なん……だと……?

 

24 以下、名無しのヒーローがお送りします

言うてヴィランもニートみたいなもんでしょ

 

25 以下、名無しのヒーローがお送りします

Mt.レディとシンリンカムイはよく一緒にいるな

 

26 以下、名無しのヒーローがお送りします

実況はプレゼント・マイクか

 

27 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>24 ニートはそこまで迷惑かけてないから……

 

28 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>24 ニートに失礼だろ!!!!!!!!!!!!

 

29 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>28 ごめん……

 

30 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>29 ええんやで

 

31 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>28-30 和 解 成 立

 

 

 

 

 

〇〇〇〇〇〇

 

 

 

 

 

153 以下、名無しのヒーローがお送りします

そろそろ始まるっぽい

 

154 以下、名無しのヒーローがお送りします

なんか熱いなーと思ったら席の後ろにエンデヴァーが立ってた件

 

155 以下、名無しのヒーローがお送りします

やっぱA組注目株か

 

156 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>154 めっちゃ熱そう

 

157 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>154 「私エンデヴァー。今あなたの後ろにいるの」

 

158 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>154 ちょっと裏山

 

159 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>156 ただただ熱い

>>157 お帰り下さい

>>158 つらい。変わって

 

160 以下、名無しのヒーローがお送りします

今年はエンデバの娘が居るんだっけ

 

161 以下、名無しのヒーローがお送りします

インゲニウムの弟もね!

 

162 以下、名無しのヒーローがお送りします

ヒーロー家の情報漏洩してんなあ

 

163 以下、名無しのヒーローがお送りします

有名なとこだし、多少はね?

 

164 以下、名無しのヒーローがお送りします

始まった

 

165 以下、名無しのヒーローがお送りします

歓声ががが

 

166 以下、名無しのヒーローがお送りします

そしてその歓声より煩いプレマイ

 

167 以下、名無しのヒーローがお送りします

入場だけでこのテンションよ

 

168 以下、名無しのヒーローがお送りします

A組入ってきた

 

169 以下、名無しのヒーローがお送りします

女子のレベル高!!!!

 

170 以下、名無しのヒーローがお送りします

女の子少ないけど皆かわいいやん

 

171 以下、名無しのヒーローがお送りします

顔面偏差値の暴力かな?

 

172 名無しさん@お腹いっぱい。

逆に男子はぱっとしてない

 

173 以下、名無しのヒーローがお送りします

体操服が浮いてるのは透明な個性の子なのかね?

 

174 以下、名無しのヒーローがお送りします

ブドウっぽい男子ちっちゃ!

 

175 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>173 っぽい。おっぱいあるから女の子やな

 

176 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>175 透明女子……じゅるり……

 

177 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>176 通報しました

 

178 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>176 通報しますた

 

179 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>176 おかしいやつを亡くした

 

180 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>176 体育祭は独房の中で見ような

 

181 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>177-180 なんでや!!まだなんもしとらんやろ!!!!

 

182 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>181 する予定はあると

 

183 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーの娘って一番後ろの子か

 

184 以下、名無しのヒーローがお送りします

けしからんたわわ

 

185 以下、名無しのヒーローがお送りします

黒髪ポニテ女子といい勝負

 

186 以下、名無しのヒーローがお送りします

えっっっっっっr

 

187 以下、名無しのヒーローがお送りします

こないだまで中坊だったとは思えない発育の良さ

 

188 以下、名無しのヒーローがお送りします

感想が女の子のことばっかりで草生えますよ

 

189 以下、名無しのヒーローがお送りします

お前ら男子にも注目しろよな

 

 

 

 

 

 

エンデヴァーの娘ちゃんきゃわわのたわわですき

 

190 以下、名無しのヒーローがお送りします

せっかく可愛い顔なのにケロイドあるのもったいない

 

191 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>190 そこがええんやん

 

192 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>190 火傷痕が上手く調和してると思いました

 

193 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょっ、主審ミッドナイトってw

 

194 以下、名無しのヒーローがお送りします

18禁ヒーローなのに高校に居ていいのか……

 

195 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミッドナイトに勉強を手取り足取り教えてもらえるとか雄英生やべーな

 

196 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>195 手取り足取り(意味深)

 

197 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>196 (保健体育を)教えてもらえる

 

198 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミッドナイト様のペットになりたい

 

199 以下、名無しのヒーローがお送りします

選手宣誓!

 

200 以下、名無しのヒーローがお送りします

鞭って使いこなせたら立派な武器なんだよなあ

 

201 以下、名無しのヒーローがお送りします

宣誓はA組か

 

202 以下、名無しのヒーローがお送りします

爆豪って一年前のヘドロの奴?

 

203 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>203 せやで

 

204 以下、名無しのヒーローがお送りします

ヘドロ男子入試一位とかやるやんけ

 

205 以下、名無しのヒーローがお送りします

ヘドロ事件は爆豪の同級生の緑髪の子がセメントでヴィランを固めてたのが印象に残ってる

 

206 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>205 分かる。当時は馬鹿だ無謀だ言われてたけど他のヒーローが動かん中よくやったと思う

 

207 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>206 てかあの場のヒーローたちが無能過ぎたんだよなあ。あの子とオールマイトが来なかったら爆豪くん死んでたかもしれんぞ

 

208 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょwwwwwwwww

 

209 以下、名無しのヒーローがお送りします

俺 が 一 位 に な る

 

210 以下、名無しのヒーローがお送りします

自信過剰キャラかよwww

 

211 以下、名無しのヒーローがお送りします

バクゴー貴様不良であったか……

 

212 以下、名無しのヒーローがお送りします

やっぱあの時死んでたらよかったな!

 

213 以下、名無しのヒーローがお送りします

ブーイングの嵐

 

214 以下、名無しのヒーローがお送りします

ようやるな

 

215 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

216 以下、名無しのヒーローがお送りします

お?

 

217 以下、名無しのヒーローがお送りします

オイオイ一言で会場静まらせたぞ

 

218 以下、名無しのヒーローがお送りします

な、なんだこれ……圧がやべえ……

 

219 以下、名無しのヒーローがお送りします

観客席にいても感じる風格ががががが

 

220 以下、名無しのヒーローがお送りします

TV越しだと分からんけどそんなに……?

 

221 以下、名無しのヒーローがお送りします

まさに鶴の一声

 

222 以下、名無しのヒーローがお送りします

口わっっっっっる

 

223 以下、名無しのヒーローがお送りします

完膚なきまでの一位とは

 

224 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>223 他の追随を許さない一位ってことだろ

 

225 以下、名無しのヒーローがお送りします

カスとかクソカスとかこいつの口の悪さはデフォかよ

 

226 以下、名無しのヒーローがお送りします

踏み台にすんなw

 

227 以下、名無しのヒーローがお送りします

口が悪いのににじみ出る教養の良さ

 

228 以下、名無しのヒーローがお送りします

口が悪いのににじみ出る語彙力の多さ

 

229 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>227 教養は良くないような……

 

230 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>229 育ちが良い的な

 

231 以下、名無しのヒーローがお送りします

ああ普通科とかに発破かけたのね

 

232 以下、名無しのヒーローがお送りします

好みwwwwww

 

233 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミッドナイトこういうの好きなんかwww

 

234 以下、名無しのヒーローがお送りします

青春してるのがいいんだよ(適当)

 

235 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>234 それ

 

236 以下、名無しのヒーローがお送りします

自由な校風とは聞いてたけどここまで自由でいいんだ

 

237 以下、名無しのヒーローがお送りします

パンイチ登校もいいのかな

 

238 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>237 個性によってはいいんじゃね

 

239 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>238 個性は全裸。裸に近ければ近いほど強く賢くなる。

    全裸だと捕まるからパンイチならいけるかなって

 

240 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>239 結構強いのに条件が

 

241 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>239 強個性なのにデメリット大きすぎで草

 

242 以下、名無しのヒーローがお送りします

全裸も良いけど体育祭もね

 

243 以下、名無しのヒーローがお送りします

脱線してる間に第一種目発表されてるぞ

 

244 以下、名無しのヒーローがお送りします

障害物競走やで

 

245 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>242-244 失礼しました

 

246 以下、名無しのヒーローがお送りします

スタジアムの外周4kmって改めて考えるとめっちゃ広いな

 

247 以下、名無しのヒーローがお送りします

UAはおかねもち

 

248 以下、名無しのヒーローがお送りします

スタートゲート狭くない????

 

249 以下、名無しのヒーローがお送りします

ぎゅうぎゅう詰めの気配

 

250 以下、名無しのヒーローがお送りします

飛べるなら上行けばいい

 

251 以下、名無しのヒーローがお送りします

飛行個性は勝ち組

 

252 以下、名無しのヒーローがお送りします

俺が一位になる君後ろ陣取ってるぞ

 

253 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーの娘もやな

 

254 以下、名無しのヒーローがお送りします

ヘドロの緑髪くんもおるやん

 

255 以下、名無しのヒーローがお送りします

あの子雄英入ってたのか。ちょっと感動

 

256 以下、名無しのヒーローがお送りします

後ろから何するんだろ

 

257 以下、名無しのヒーローがお送りします

なんかアイコンタクトしてるな

 

258 以下、名無しのヒーローがお送りします

始まっぞー

 

259 以下、名無しのヒーローがお送りします

3!

 

260 以下、名無しのヒーローがお送りします

2!

 

261 以下、名無しのヒーローがお送りします

1!

 

262 以下、名無しのヒーローがお送りします

スタート!ってえええええええええええ

 

263 以下、名無しのヒーローがお送りします

おおおおおおおおおおおおおおおおお

 

264 以下、名無しのヒーローがお送りします

三人とも飛んだああああああああああ

 

265 以下、名無しのヒーローがお送りします

氷で飛んだあああああああああああああ

 

266 以下、名無しのヒーローがお送りします

爆発で飛んだあああああああああああああ

 

267 以下、名無しのヒーローがお送りします

壁ジャンプで飛んだあああああああああああ

 

268 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>265-267 見事に被らず

 

269 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーの娘が氷を使うなんて誰が予想出来たのか

 

270 以下、名無しのヒーローがお送りします

そもそも氷で飛ぶとは

 

271 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>270 竜とか蛇みたいに飛ぶ

 

272 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>271 なるほどわからん

 

273 以下、名無しのヒーローがお送りします

バクゴーは手のひらから爆発させる個性か

 

274 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑君は増強系だな、分かりやすい

 

275 以下、名無しのヒーローがお送りします

三人一気にトップになったな

 

276 以下、名無しのヒーローがお送りします

アイコンタクトは示し合わせてた的なやつだったのかね

 

277 以下、名無しのヒーローがお送りします

ロボ!

 

278 以下、名無しのヒーローがお送りします

でっっっっっっっっか

 

279 以下、名無しのヒーローがお送りします

巨大ロボの山やんけ!

 

280 以下、名無しのヒーローがお送りします

障害物とは一体……

 

281 以下、名無しのヒーローがお送りします

こんなん通れんやろ

 

282 以下、名無しのヒーローがお送りします

えええええええええええええええええええ

 

283 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょ、おま

 

284 以下、名無しのヒーローがお送りします

問答無用の氷で凍らせたああああああああああ

 

285 以下、名無しのヒーローがお送りします

バクゴーと緑君も難なく破壊してんだけど!?

 

286 以下、名無しのヒーローがお送りします

爆豪はともかく緑髪くん地味目の顔して強キャラなんか

 

287 以下、名無しのヒーローがお送りします

雄英生こわ……ちかよらんとこ

 

288 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーの娘さん轟っていうのね

 

289 以下、名無しのヒーローがお送りします

そら(エンデバの本名轟炎司だし)そうよ

 

290 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑髪は緑谷くんか

 

291 以下、名無しのヒーローがお送りします

てかはやいはやいはやい

 

292 以下、名無しのヒーローがお送りします

時速何十キロ出てんだあれ

 

293 以下、名無しのヒーローがお送りします

後ろまだロボの手前だぞ

 

294 以下、名無しのヒーローがお送りします

第二関門来ました

 

295 以下、名無しのヒーローがお送りします

なんやこの壮大な谷は……

 

296 以下、名無しのヒーローがお送りします

雄英の技術力こわいわ

 

297 以下、名無しのヒーローがお送りします

炎!!!???

 

298 以下、名無しのヒーローがお送りします

轟ちゃんが炎も出した!!!!!!

 

299 以下、名無しのヒーローがお送りします

氷と炎を出せる個性とか何それチート

 

300 以下、名無しのヒーローがお送りします

娘が完全にエンデヴァーの上位互換な件

 

301 以下、名無しのヒーローがお送りします

ここトドロキちゃんバクゴーは飛べるから関係ないやん

 

302 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷も足場ごとに跳んでるし

 

303 以下、名無しのヒーローがお送りします

実況殺しw

 

304 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレマイの実況追いついてないの確かに草

 

305 以下、名無しのヒーローがお送りします

轟ちゃんもう抜けるな

 

306 以下、名無しのヒーローがお送りします

速さ的にはエンデバ娘が一番?

 

307 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>306 だな。緑谷は着地のロスあるし爆豪は絶えず爆発できる訳じゃないっぽい

 

308 以下、名無しのヒーローがお送りします

抜けた!

 

309 以下、名無しのヒーローがお送りします

ザ・フォールとかいう名前負けのただの穴

 

310 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>309 こんな圧倒できるなんて予想無理だから……

 

311 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>309 一般的には無理ゲーです

 

312 以下、名無しのヒーローがお送りします

後ろもやっとロボ抜け出したな

 

313 以下、名無しのヒーローがお送りします

上から行ってるの頭いい

 

314 以下、名無しのヒーローがお送りします

てかマイクと一緒にいるの誰?

 

315 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミイラマンやらイレイザーやら呼ばれてる謎の声が良い男

 

316 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>314-315 イレイザーヘッド。メディア嫌いで有名なアングラ系ヒーローでプレマイの同期らしい。ミイラマンは例の襲撃で怪我して包帯ぐるぐるだからじゃないかと

 

317 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>316 サンガツ!アングラなのに実況やるのか……

 

318 以下、名無しのヒーローがお送りします

実況の言ってる「地力を鍛え個性を伸ばし続けた奴。才能を重ね続けた奴。ただひたすらに努力し続けた奴」って誰が誰なんだ

 

319 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>318 前の話的に多分轟爆豪緑谷の順番じゃね

 

320 以下、名無しのヒーローがお送りします

じwらwいwげwんw

 

321 以下、名無しのヒーローがお送りします

雄英やっぱ頭おかしい

 

322 以下、名無しのヒーローがお送りします

怒りのアフガンとは

 

323 以下、名無しのヒーローがお送りします

アフガンって赤ちゃん包むあれ?

 

324 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>323 怒ってるから多分違う

 

325 以下、名無しのヒーローがお送りします

轟ちゃん大体関係ないって顔で進んでますね

 

326 以下、名無しのヒーローがお送りします

ぶっちぎりにもほどがある

 

327 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷YABEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE

 

328 以下、名無しのヒーローがお送りします

いやそりゃ爆発する前に通り過ぎれば大丈夫かもしれんけども!

 

329 以下、名無しのヒーローがお送りします

地雷原を走り抜けるとか正気の沙汰じゃない

 

330 以下、名無しのヒーローがお送りします

雄英は学校もやばければ生徒もやべー奴ばっかなのか……

 

331 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>330 轟ちゃんが何をしたって言うんだ

 

332 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>331 エンデヴァーの娘

 

333 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>332 アッハイ

 

334 以下、名無しのヒーローがお送りします

330はエンデヴァーアンチ疑惑

 

335 以下、名無しのヒーローがお送りします

アンチ話は別のスレでやれ

 

336 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーさん昔より穏やかになったとはいえ高圧的だからアンチ多いのはしゃーない

 

337 以下、名無しのヒーローがお送りします

十年前ぐらいから徐々に丸くなってきたよな

 

338 以下、名無しのヒーローがお送りします

前が並んだ!!

 

339 以下、名無しのヒーローがお送りします

後はゴールまで一直線か

 

340 以下、名無しのヒーローがお送りします

氷で妨害出来るの強い

 

341 以下、名無しのヒーローがお送りします

てかトドロキちゃん炎消してる?

 

342 以下、名無しのヒーローがお送りします

温存かね

 

343 以下、名無しのヒーローがお送りします

抜きつ抜かれつの大接戦

 

344 以下、名無しのヒーローがお送りします

ゲートに入った!

 

345 以下、名無しのヒーローがお送りします

あせrh

 

346 以下、名無しのヒーローがお送りします

おおkl

 

347 以下、名無しのヒーローがお送りします

なんだなんだ

 

348 以下、名無しのヒーローがお送りします

おおおおおおおおおお

 

349 以下、名無しのヒーローがお送りします

大☆爆☆発

 

350 以下、名無しのヒーローがお送りします

スタジアムが揺れたぞ!?

 

351 以下、名無しのヒーローがお送りします

スマン揺れてノーパソ落とした拍子に誤爆った

 

352 以下、名無しのヒーローがお送りします

同じく。スマホだけど

 

353 以下、名無しのヒーローがお送りします

何が起きた

 

354 以下、名無しのヒーローがお送りします

ゲートトンネルから衝撃来たような

 

355 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレマイとイレイザーの言からすれば三人のラストスパートのせいっぽい

 

356 以下、名無しのヒーローがお送りします

ええ……(困惑)

 

357 以下、名無しのヒーローがお送りします

本格的にこわい

 

358 以下、名無しのヒーローがお送りします

あ、轟生きてる

 

359 以下、名無しのヒーローがお送りします

あの衝撃で無傷なのやばすぎでは

 

360 以下、名無しのヒーローがお送りします

爆豪と緑谷も無事!

 

361 以下、名無しのヒーローがお送りします

こいつら人間じゃねえ…………

 

362 以下、名無しのヒーローがお送りします

死んでたら死んでたで洒落にならんけどさ

 

363 以下、名無しのヒーローがお送りします

流石にお茶の間に人死は流せないから……

 

364 以下、名無しのヒーローがお送りします

反省文wwwwwwwww

 

365 以下、名無しのヒーローがお送りします

【悲報】轟と爆豪、全国中継で反省文の刑

 

366 以下、名無しのヒーローがお送りします

こんなん草生えるに決まっとるやんけ

 

367 以下、名無しのヒーローがお送りします

一位争いしてたかと思えば反省文とはこれ如何に

 

368 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷は無いのか。まあ爆発のせいっぽいしな

 

369 以下、名無しのヒーローがお送りします

主犯格が轟で助長犯が爆豪って感じか

 

370 以下、名無しのヒーローがお送りします

うわバクゴーが轟ちゃんに詰め寄ってる

 

371 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷君仲裁してるけど轟ちゃんはなんでおとなしいの

 

372 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>371 巻き込んだ自覚があるからじゃね?

 

373 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>372 それだ

 

374 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷と爆豪取っ組み合いしてるけど大丈夫かあれ

 

375 以下、名無しのヒーローがお送りします

で、一位は?

 

376 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>375 あっ

 

377 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>375 そういえば

 

378 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>375 色々衝撃過ぎて忘れてた

 

379 以下、名無しのヒーローがお送りします

お、出るか

 

380 以下、名無しのヒーローがお送りします

ビデオ判定

 

381 以下、名無しのヒーローがお送りします

煙透かしてるのどういう技術なんだ

 

382 以下、名無しのヒーローがお送りします

同時?

 

383 以下、名無しのヒーローがお送りします

同時に見える

 

384 以下、名無しのヒーローがお送りします

これじゃわからん

 

385 以下、名無しのヒーローがお送りします

スローはよ

 

386 以下、名無しのヒーローがお送りします

スロー再生マダー?

 

387 以下、名無しのヒーローがお送りします

きた

 

388 以下、名無しのヒーローがお送りします

同時やんけ!!

 

389 以下、名無しのヒーローがお送りします

スローで差が分からないのはやばいな

 

390 以下、名無しのヒーローがお送りします

超接戦

 

391 以下、名無しのヒーローがお送りします

機械の数値的なのはどうなんだろ

 

392 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミッドナイトの判定待ち

 

393 以下、名無しのヒーローがお送りします

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

394 以下、名無しのヒーローがお送りします

全員同着!!!???

 

395 以下、名無しのヒーローがお送りします

小学校の運動会かな????

 

396 以下、名無しのヒーローがお送りします

簡易決着みたいなのすればいいのに……

 

397 以下、名無しのヒーローがお送りします

主審の判断だししゃーない

 

398 以下、名無しのヒーローがお送りします

轟ちゃんが緑谷と拳コツンしてる

 

399 以下、名無しのヒーローがお送りします

微笑んでる轟ちゃんきゃわいい

 

400 以下、名無しのヒーローがお送りします

女神はここにいたのか……

 

401 以下、名無しのヒーローがお送りします

俺は緑谷があの笑みに全く動じてない事に意外性を禁じ得ない

 

402 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>401 ちょっと同意

 

403 以下、名無しのヒーローがお送りします

トドロキちゃん爆豪とはコツンしないのね

 

404 以下、名無しのヒーローがお送りします

そもそも爆豪がしてくれなさそう

 

405 以下、名無しのヒーローがお送りします

一匹狼爆豪勝己くん完膚なきまでの一位取れなかったけどどんな気持ち???

 

406 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>405 ぶっちぎりの一位ではあるから……

 

407 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>405 普通に実力は飛びぬけてたけどな

 

408 以下、名無しのヒーローがお送りします

!!!!!!!!!!!????

 

409 以下、名無しのヒーローがお送りします

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

410 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーwwwwww突然の絶叫wwwwww

 

411 以下、名無しのヒーローがお送りします

後ろのエンデヴァーがいきなり叫んで死ぬほどビビった件

 

412 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>411 貴様>>154だな

 

413 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>412 如何にも

 

414 以下、名無しのヒーローがお送りします

凍夏が娘さんの名前なのは分かるけど出久って誰さ

 

415 以下、名無しのヒーローがお送りします

って言っても緑谷しかいないよな

 

416 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーさん親馬鹿キャラは卑怯です

 

417 以下、名無しのヒーローがお送りします

何故エンデバが緑谷の応援を……?

 

418 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>417 もしや娘さんとデキてるとか

 

419 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァー親馬鹿とかファンとアンチが荒れるぞぉ

 

420 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>418

 

421 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>418

 

422 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>418

 

423 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>418

 

424 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>418

 

425 以下、名無しのヒーローがお送りします

待て待てそんなまさか

 

 

 

 

 

まって

 

426 以下、名無しのヒーローがお送りします

いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや

 

 

 

 

 

えっ

 

427 以下、名無しのヒーローがお送りします

まさか地味目でちょっと親近感沸いてた緑谷君が勝ち組……?

 

 

 

 

 

まじで

 

428 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

429 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

430 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

431 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

432 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

433 以下、名無しのヒーローがお送りします

ほ、他の生徒たちを見ながら審議!!!!

 

 

 

以下、障害物競走を片手間に出久と凍夏の様子を監視するスレ民たちの考察が続く……

 

 




 こんな感じでよければ続きます。


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番外編:ネット掲示板の呟き②

 
 感想・評価ありがとうございます。
 大体あってたみたいなのでこのノリで最後までやりきります。
 続き。レクリエーション前まで。


【雄英体育祭一年の部・ゆっくり版:Part3】

 

 

1 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

・ここは【雄英高校体育祭一年の部・ゆっくり板】スレです。

 ゆっくりしたい方はここで体育祭を見ながら適度に観戦・考察しながらぐだぐだと駄弁りましょう。

 

 過去スレはこちら→【雄英体育祭一年の部・ゆっくり版:Part2】

 真面目な観戦・実用的な考察はこちら→【雄英高校体育祭一年の部・観戦板】【雄英高校体育祭一年の部・考察板】

 

 二年の部、三年の部はこちら。

 二年→【雄英高校体育祭二年の部・観戦板】【雄英高校体育祭二年の部・考察板】【雄英高校体育祭二年の部・ゆっくり板】

 三年→【雄英高校体育祭三年の部・観戦板】【雄英高校体育祭三年の部・考察板】【雄英高校体育祭三年の部・ゆっくり板】

 

・次スレは>>950がお願いします。 (流れが速い時は>>900)

 また、スレ立て~誘導までの間、書き込みは控えましょう。

 無理なら次の人にパスして下さい。

 乱立防止のため、スレ立て宣言も極力お願いします。

 

 ネットの更に向こうへ、Plus Ultra!

 

2 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>1 乙

 

3 以下、名無しのヒーローがお送りします

2get

 

4 以下、名無しのヒーローがお送りします

まさか緑谷と轟の交際をめぐりここまで加速するとわ

 

5 以下、名無しのヒーローがお送りします

のんびり板とは

 

6 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>3 すまんな

 

7 以下、名無しのヒーローがお送りします

結局二人は付き合ってるのか分からずに障害物競走が終わりそう

 

8 以下、名無しのヒーローがお送りします

別スレで二人が幼馴染なのが判明してたぐらい

 

9 以下、名無しのヒーローがお送りします

エリート美少女と幼馴染とか勝ち組も良いところやんけ

 

10 以下、名無しのヒーローがお送りします

地味顔の緑谷君でもあのたわわなオパーイを堪能してるのにお前らときたら

 

11 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>9 俺やったら劣等感しか感じないと思うけどな

 

12 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>9 チビの時からエンデヴァーと顔見知りとか耐えられる気がしない

 

13 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>10 やめろ

 

14 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>10 ブーメランやぞ

 

15 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>10 何で急に自虐始めた

 

16 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>10 まだそういう関係と決まったわけじゃないから……

 

17 以下、名無しのヒーローがお送りします

それよりポニテ女子の尻にくっついてたブドウ野郎の話しようぜ

 

18 以下、名無しのヒーローがお送りします

インゲの弟6位か

 

19 以下、名無しのヒーローがお送りします

何気に4位5位はB組の子なのね

 

20 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>17 少ない消耗で進める合理的判断じゃね

 

21 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>20 そうかもしれんがけしからん

 

22 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>21 わかる

 

23 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>22 わかるのかよwww

 

 

 

 

 

ブドウ屋上

 

24 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

25 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょwwwwwwwww

 

26 以下、名無しのヒーローがお送りします

ブドウくん凍夏ちゃんに凍らされてるwwwwww

 

27 以下、名無しのヒーローがお送りします

セクハラ氷結ブドウはしまっちゃおうね~

 

28 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>27 氷結ブドウちょっと美味しそう

 

29 以下、名無しのヒーローがお送りします

氷のオブジェみたいになってるのホント草

 

30 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>29 汚いオブジェだな

 

31 以下、名無しのヒーローがお送りします

ポニテちゃんめっちゃ喜んでてかぁいい

 

32 以下、名無しのヒーローがお送りします

ぷりぷりしてる感じ推せる

 

33 以下、名無しのヒーローがお送りします

あの二人が並ぶと発育の暴力ですね(ガン見)

 

34 以下、名無しのヒーローがお送りします

あんなところにスイカとメロンが二つずつ

 

35 以下、名無しのヒーローがお送りします

あ、周りが温かい目で見てるの気づいて照れた

 

36 以下、名無しのヒーローがお送りします

かぁいい

 

37 以下、名無しのヒーローがお送りします

かぁいい

 

38 以下、名無しのヒーローがお送りします

そんな彼女は八百万財閥の娘だからガチ目のお嬢様らしい

 

39 以下、名無しのヒーローがお送りします

予想通り上位はヒーロー科ばっかだな

 

40 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>38 まじかよやべえな

 

41 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>38 とーかちゃんとはお嬢様友達なのか

 

42 以下、名無しのヒーローがお送りします

終わった

 

43 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

44 以下、名無しのヒーローがお送りします

普通科やサポート科の子らもよーやったよ

 

45 以下、名無しのヒーローがお送りします

俺は第一関門すら行ける気がしない

 

46 以下、名無しのヒーローがお送りします

体重200㎏の俺氏、ザ・フォールで落下死確実

 

47 以下、名無しのヒーローがお送りします

おつかれー

 

48 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>46 異形型かな?

 

49 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>48 せやで。ポケ〇ンのゴ□ーンみたいな見た目や

 

50 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>49 唐突なポケモンで草

 

51 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>50 くさタイプは こうかが ばつぐんだ !

 

52 以下、名無しのヒーローがお送りします

第二種目やるでー

 

53 以下、名無しのヒーローがお送りします

私はもう知ってるとかそりゃねw

 

54 以下、名無しのヒーローがお送りします

お茶目なミッドナイトかわいい

 

55 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>54 30超えてるけどな

 

56 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>55 歳の話は止めるんだ

 

57 以下、名無しのヒーローがお送りします

騎馬戦!

 

58 以下、名無しのヒーローがお送りします

騎馬戦か

 

59 以下、名無しのヒーローがお送りします

高校っぽいけど雄英だから油断はできん

 

60 以下、名無しのヒーローがお送りします

ほうほう

 

61 以下、名無しのヒーローがお送りします

鉢巻の奪い合いか

 

62 以下、名無しのヒーローがお送りします

ポイントがどれぐらいか

 

63 以下、名無しのヒーローがお送りします

関係ないけど凍夏ちゃんがブドウくん溶かしてあげてるな

 

64 以下、名無しのヒーローがお送りします

スクリーンの例図wwwwww

 

65 以下、名無しのヒーローがお送りします

オールマイト上とか強過ぎィ!!

 

66 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>63 ホントだ優しいw

 

67 以下、名無しのヒーローがお送りします

でもオールマイト200kgとかありそう

 

68 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>63 慈悲深い

 

69 以下、名無しのヒーローがお送りします

下から5ポイントずつね

 

70 以下、名無しのヒーローがお送りします

地味な計算いるやつやん

 

71 以下、名無しのヒーローがお送りします

ファッ!!??

 

72 以下、名無しのヒーローがお送りします

1000万wwwwwwwwwwwwwww

 

73 以下、名無しのヒーローがお送りします

芸能番組じゃねえんだからwwwwwwwwwwww

 

74 以下、名無しのヒーローがお送りします

ただの一位の取り合いやんけ!

 

75 以下、名無しのヒーローがお送りします

同着三人合わせて3000万とかインフレすぐるwww

 

76 以下、名無しのヒーローがお送りします

あ、分散した

 

77 以下、名無しのヒーローがお送りします

333万ってまた微妙な数値に……

 

78 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミッドナイトそれ大差ないからね????

 

79 以下、名無しのヒーローがお送りします

1万「僕は要らない子だった……?」

 

80 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>79 うちにおいで

 

81 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>80 お父様ーっ!!!!

 

82 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>81 パパ上とお呼びっ!!!!

 

83 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

84 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>79-82 ちょっと笑った

 

85 以下、名無しのヒーローがお送りします

まーたお前か

 

86 以下、名無しのヒーローがお送りします

どした爆豪

 

87 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミッドナイト様のお言葉を遮るなぞ万死に値する

 

88 以下、名無しのヒーローがお送りします

おお?

 

89 以下、名無しのヒーローがお送りします

おまwwwwww

 

90 以下、名無しのヒーローがお送りします

俺の馬になれwwwwww言い方wwwwww

 

91 以下、名無しのヒーローがお送りします

凍夏ちゃん爆豪の馬になってまうん……?

 

92 以下、名無しのヒーローがお送りします

てかデクって緑谷の事?

 

93 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>92 出久でデクって読んだんじゃね

 

94 以下、名無しのヒーローがお送りします

蔑称じゃん

 

95 以下、名無しのヒーローがお送りします

木偶ってあだ名にしても酷すぎる

 

96 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷普通に受け答えしてるんだけどそれでいいのか

 

97 以下、名無しのヒーローがお送りします

ポイントの分散が嫌なんかい

 

98 以下、名無しのヒーローがお送りします

【速報】緑谷は轟を「凍夏ちゃん」呼び

 

99 以下、名無しのヒーローがお送りします

流石俺が一位になる君は心構えが違う

 

100 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>98 さらっと流してたけど確かに

 

101 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>98 接し方もめっちゃ親しい

 

102 以下、名無しのヒーローがお送りします

静かになったと思いきや水面下で監視を続ける緑谷轟恋人疑惑検証陣

 

103 以下、名無しのヒーローがお送りします

個人的には爆豪をかっちゃん呼びしてる方が気になる

 

104 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>103 かっちゃんって顔じゃねえ

 

105 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>103 凍夏ちゃんより親しげな呼び方で草

 

106 以下、名無しのヒーローがお送りします

三人の関係がマジでわからん

 

107 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷が爆豪、轟と幼馴染なのは確定してるんだけどなあ

 

108 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょっと闇を感じてきた

 

109 以下、名無しのヒーローがお送りします

一位騎馬成立!!

 

110 以下、名無しのヒーローがお送りします

この爆発頭君ミッドナイト無視で進めよったで

 

111 以下、名無しのヒーローがお送りします

好み!!(二回目)

 

112 以下、名無しのヒーローがお送りします

好みで決めるなw

 

113 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミッドナイト様の仰せのままに

 

114 以下、名無しのヒーローがお送りします

結局一位は1000万か

 

115 以下、名無しのヒーローがお送りします

時々出てくるミッドナイト信者怖い

 

116 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>115 しっ

 

117 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>115 あえてスルーしてたというのに

 

118 以下、名無しのヒーローがお送りします

一位チームはもう一人入れるねそういや

 

119 以下、名無しのヒーローがお送りします

逃げれば勝てるならワンちゃん

 

120 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>119 ワンワンッワワンワン!!

 

121 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>120 人語でOK

 

122 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>121 爆豪がそんな消極的な作戦で行くとは思えないワン

 

123 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>122 思ったより真面目な考察だった

 

124 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>122 最後のワンはワンだったのかよwww

 

125 以下、名無しのヒーローがお送りします

悪質的な崩し目的の個性はダメってところでバクゴーが舌打ちしてたような

 

126 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>125 してた。やっぱあやつはチンピラですわ

 

127 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>126 ヒェッ……

 

128 以下、名無しのヒーローがお送りします

チーム決め15分!?

 

129 以下、名無しのヒーローがお送りします

短くね?

 

130 以下、名無しのヒーローがお送りします

ヒーロー科ならこんなもんでしょ

 

131 以下、名無しのヒーローがお送りします

個人戦はともかくチーム戦はどうなるか見物だな

 

 

 

 

 

〇〇〇〇〇〇

 

 

 

 

 

344 以下、名無しのヒーローがお送りします

B組の塩崎茨ちゃんを推したい

 

345 以下、名無しのヒーローがお送りします

まだ全員の顔と名前が一致しない

 

346 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>345 観戦板や考察板に載ってるぞ

 

347 以下、名無しのヒーローがお送りします

僕はヤオモモちゃん!

 

348 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょっとレスの速度が速すぎるのでは

 

349 以下、名無しのヒーローがお送りします

速すぎる男、ホークスの話してます?

 

350 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>349 自分の巣にお帰り

 

351 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>349 まじでレスが速いなホークス板の住民

 

352 以下、名無しのヒーローがお送りします

チーム決めおわた

 

353 以下、名無しのヒーローがお送りします

イレイザー寝てたんかいw

 

354 以下、名無しのヒーローがお送りします

重症患者さんは寝てて、どうぞ

 

355 以下、名無しのヒーローがお送りします

1位グループには麗日が加わったのか

 

356 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷の一声で決まったみたいだな

 

357 以下、名無しのヒーローがお送りします

麗日ちゃんも緑谷くんの事デク君呼びしてたけど大丈夫なやつなのか

 

358 以下、名無しのヒーローがお送りします

ポジティブなあだ名には聞こえんのだけど

 

359 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>357-358 本人が気にしてなさそうやしええんやろ

 

360 以下、名無しのヒーローがお送りします

八百万飯田の騎馬も強そう

 

361 以下、名無しのヒーローがお送りします

普通科の居るとこなんか変じゃない?

 

362 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>361 全体的にぼんやりしてる?

 

363 以下、名無しのヒーローがお送りします

常闇くん俺らの厨二心をくすぐってくれる個性とキャラで好き

 

364 以下、名無しのヒーローがお送りします

開始のカウントダウン!

 

365 以下、名無しのヒーローがお送りします

3!

 

366 以下、名無しのヒーローがお送りします

2!

 

367 以下、名無しのヒーローがお送りします

スタート!

 

368 以下、名無しのヒーローがお送りします

1!

 

369 以下、名無しのヒーローがお送りします

スタート!!!!

 

370 以下、名無しのヒーローがお送りします

オイオイオイオイ

 

371 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>367 戦犯

ってフィールドがああああああああああああ

 

372 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>371 ごめん

って凍ったあああああああああああああああ

 

373 以下、名無しのヒーローがお送りします

轟凍夏ちゃんに一切の容赦がない件について

 

374 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょっと一人だけ格が違いすぎますね(震え声)

 

375 以下、名無しのヒーローがお送りします

始まった一瞬であの面積を凍らせるってヤバすぎでは???

 

376 以下、名無しのヒーローがお送りします

逃げようとした騎馬の反応が追いつかないってどういうことよ……

 

377 以下、名無しのヒーローがお送りします

的確に首下まで凍らせてるコントロールやべえ

 

378 以下、名無しのヒーローがお送りします

誰も動けてないぞ

 

379 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

380 以下、名無しのヒーローがお送りします

待って待って

 

381 以下、名無しのヒーローがお送りします

まさか

 

382 以下、名無しのヒーローがお送りします

行ったあああああああああああああああああ

 

383 以下、名無しのヒーローがお送りします

突っ込んだあああああああああああああああ

 

384 以下、名無しのヒーローがお送りします

ここから全力で獲りに行くのかよ

 

385 以下、名無しのヒーローがお送りします

これにはプレマイもびっくり

 

386 以下、名無しのヒーローがお送りします

俺らもびっくり

 

387 以下、名無しのヒーローがお送りします

騎馬の速度はええ

 

388 以下、名無しのヒーローがお送りします

マジで完膚なきまでの一位やる気なんか

 

389 以下、名無しのヒーローがお送りします

向上心の塊だわ

 

390 以下、名無しのヒーローがお送りします

いや待て常闇君抵抗してる!!!!!!!!

 

391 以下、名無しのヒーローがお送りします

と思ったら瞬殺された!!!!!!!!!

 

392 以下、名無しのヒーローがお送りします

常闇ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ

 

393 以下、名無しのヒーローがお送りします

爆豪めっちゃテンションアゲアゲだな

 

394 以下、名無しのヒーローがお送りします

飯田と八百万の騎馬に行った!

 

395 以下、名無しのヒーローがお送りします

あそこならあるいは!

 

396 以下、名無しのヒーローがお送りします

放電キターーーーーー(゚∀゚)ーーーーーーー!!

 

397 以下、名無しのヒーローがお送りします

逃げたあああああああああああああああああ

 

398 以下、名無しのヒーローがお送りします

上鳴ツカエネ(゚⊿゚)

 

399 以下、名無しのヒーローがお送りします

どんだけ跳んでんだよ

 

400 以下、名無しのヒーローがお送りします

麗日の個性か

 

401 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>398 電気系は強いやろ

 

402 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>398 相手が悪かったんだ……

 

403 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>399-400 ものを浮かす個性だって

 

404 以下、名無しのヒーローがお送りします

一位騎馬以外の二次被害ががががが

 

405 以下、名無しのヒーローがお送りします

氷に放電の凶悪コンボ!

 

406 以下、名無しのヒーローがお送りします

こおりと まひは じゅうふく する

 

407 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>406 ポケ〇ンかよw

 

いやポケ〇ンだと重複しないんだけど

 

408 以下、名無しのヒーローがお送りします

今のは上鳴んとこの失策だな

 

409 以下、名無しのヒーローがお送りします

切島チームって言われて一瞬どこやねんってなった

 

410 以下、名無しのヒーローがお送りします

炎で滑空出来るとか本格的にやばい

 

411 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>409 わかる。八百万チームって認識だった

 

412 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>409 切島ェ……

 

413 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>410 エンデヴァーも炎で浮けるし多少はね?

 

414 以下、名無しのヒーローがお送りします

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

415 以下、名無しのヒーローがお送りします

ハチマキ全獲り来たーーーーーーー(゚∀゚)ーーーーーー!

 

416 以下、名無しのヒーローがお送りします

俺らの勝ちで終われやwww

 

417 以下、名無しのヒーローがお送りします

不遜すぎるけどそれだけの実力があるんだよなあ……

 

418 以下、名無しのヒーローがお送りします

一旦終わり!!

 

419 以下、名無しのヒーローがお送りします

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

420 以下、名無しのヒーローがお送りします

すげええええええええええええええええええ

 

421 以下、名無しのヒーローがお送りします

爆豪の雄たけび気持ちよさそう

 

422 以下、名無しのヒーローがお送りします

あそこだけ次元の違うやつらの集まりだな

 

423 以下、名無しのヒーローがお送りします

麗日は知らんけど他はもう並のプロより強そう

 

424 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>423 これでまだ一年

 

425 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>424 将来有望ってレベルじゃねーぞ!

 

426 以下、名無しのヒーローがお送りします

氷溶かす速度HAEEEEEEEEEEEEEEEEEEE

 

427 以下、名無しのヒーローがお送りします

炎もコントロールすごいな

 

428 以下、名無しのヒーローがお送りします

あんまり見てないけど炎の威力はどんなもんなんだろ

 

429 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>428 ヒント:エンデヴァーの娘

 

430 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>429 節子それヒントちゃう答えや

 

431 以下、名無しのヒーローがお送りします

最終種目の個人戦が楽しみだ

 

432 以下、名無しのヒーローがお送りします

騎馬戦残りでもう一回!!!!

 

433 以下、名無しのヒーローがお送りします

こんな事想定してなかったんだろうなあ……

 

434 以下、名無しのヒーローがお送りします

一位グループ先に戻ってくな

 

435 以下、名無しのヒーローがお送りします

爆豪と緑谷がなんか話してるっぽいけど聞こえん

 

436 以下、名無しのヒーローがお送りします

一旦彼らは置いときましょ

 

437 以下、名無しのヒーローがお送りします

今は他の子たちの勝負をゆっくり見ようぜ

 

438 以下、名無しのヒーローがお送りします

凍夏たそ以外がなんか項垂れてたり噴き出してたりしてた気がしたけどまあいいや

 

439 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>438 ちょっと気になる

 

440 以下、名無しのヒーローがお送りします

二回目始まるぞー

 

441 以下、名無しのヒーローがお送りします

やおy……切島チームが勝つに一票

 

442 以下、名無しのヒーローがお送りします

常闇君とこも捨てがたい

 

443 以下、名無しのヒーローがお送りします

大穴で普通科騎馬

 

 

 

 

 

〇〇〇〇〇〇

 

 

 

 

 

786 以下、名無しのヒーローがお送りします

ランチラッシュのご飯が食べたかった…………

 

787 以下、名無しのヒーローがお送りします

シンリンカムイのサイン貰えたので俺はもう死んでもいい

 

788 以下、名無しのヒーローがお送りします

アメリカからチア呼ぶとかお金の掛けどころが違うな雄英

 

789 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>787 素直に羨ましい

 

790 以下、名無しのヒーローがお送りします

レクリエーションあるのは普通の高校っぽいのにな

 

791 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>790 まともな競技とは言ってない

 

792 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>791 まだ分からないだろ!!!!(目逸らし)

 

793 以下、名無しのヒーローがお送りします

!?

 

794 以下、名無しのヒーローがお送りします

チアコスキターーーーーーー(゚∀゚)(゚∀゚)(゚∀゚)ーーーーーーーー

 

795 以下、名無しのヒーローがお送りします

どーしたA組女子www

 

796 以下、名無しのヒーローがお送りします

かぁいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

 

797 以下、名無しのヒーローがお送りします

えっっっっっっっっっっっっっっっっっっ

 

798 以下、名無しのヒーローがお送りします

実況もびっくりしてるw

 

799 以下、名無しのヒーローがお送りします

ブドウーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

 

800 以下、名無しのヒーローがお送りします

ブドウくんと上鳴くんの仕業なのwwwwwwwww

 

801 以下、名無しのヒーローがお送りします

よくやったブドウ!!!!!!!!

 

802 以下、名無しのヒーローがお送りします

雄英にもエロブドウくんみたいな欲望に忠実な男がいるんだなぁ(しみじみ)

 

803 以下、名無しのヒーローがお送りします

ブドウくん誰一人名前で呼んでないの草

 

804 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>803 ヒーロー名がブドウだから

 

805 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>804 まじかよ俺もブドウって呼ぼう

 

806 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>804-805 嘘教えちゃいかんw

 

807 以下、名無しのヒーローがお送りします

【速報】轟凍夏ちゃん、嘘と理解しながらチアコスしていた様子

 

808 以下、名無しのヒーローがお送りします

イヤホンジャックの子耳郎ちゃんだっけ、めっちゃ可愛い

 

809 以下、名無しのヒーローがお送りします

ヤオモモちゃんと凍夏ちゃん発育の暴力にも程があるぞ

 

810 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>807 !?

 

811 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>807 嘘乙

 

812 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>807 まじかよ

 

813 以下、名無しのヒーローがお送りします

マジ。集音マイクが拾ったの聞こえた

 

814 以下、名無しのヒーローがお送りします

凍夏ちゃんノリいい子なのか……最高じゃん……

 

815 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーの娘とは思えない柔軟さ

 

816 以下、名無しのヒーローがお送りします

意外と緑谷君に見せるためだったりしてな

 

817 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>815 エンデヴァーさん意外と天然だぞ

 

818 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>816

 

819 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>816

 

820 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>816

 

821 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>816 これ

 

822 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>816 アリエル

 

823 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>816 そんなまさかははははは

 

 

 

 

 

ないよね?

 

824 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょっとちょっと

 

825 以下、名無しのヒーローがお送りします

トーカちゃんがイズクくんに駆け寄っていったんだけど

 

826 以下、名無しのヒーローがお送りします

えっえっえっ

 

827 以下、名無しのヒーローがお送りします

周りとか気にしてないのかこの子

 

828 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょっと静かになった

 

829 以下、名無しのヒーローがお送りします

aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

 

830 以下、名無しのヒーローがお送りします

おまえらああああああああああああああああああああ

 

831 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷きさまああああああああああああああああああああああ

 

832 以下、名無しのヒーローがお送りします

これは付き合ってますね…………間違いない

 

833 以下、名無しのヒーローがお送りします

「出久、似合ってるかな?」

・名前呼び

・赤らめる頬

・服が似合ってるか確認しに行く

・可愛いと言われて嬉しそうに破顔する(ポンポンで隠してるけど雰囲気で分かる)

 

少なくとも凍夏ちゃんは緑谷くん好きだな

 

834 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょっと照れながら「可愛い、よ」って返す緑谷くん推せる

 

835 以下、名無しのヒーローがお送りします

まじかあああああああああああああああああああああああ

 

836 以下、名無しのヒーローがお送りします

轟あんなキャラ出すのここにきて初めてだぞ

 

837 以下、名無しのヒーローがお送りします

イチャイチャしてんじゃねええええええええええええええ

 

838 以下、名無しのヒーローがお送りします

嘘だと言ってよバーニィィィィィィィィィィィィィィィ

 

839 以下、名無しのヒーローがお送りします

体育祭だぞてめえらああああああああああああああああああ

 

840 以下、名無しのヒーローがお送りします

くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

841 以下、名無しのヒーローがお送りします

あ、上着渡してる

 

842 以下、名無しのヒーローがお送りします

彼氏緑谷、彼女轟の素肌を晒している事に気づいた模様

 

843 以下、名無しのヒーローがお送りします

相思相愛じゃねーか!!!!!!!!!!!!!!

 

844 以下、名無しのヒーローがお送りします

彼氏くんの服をくんかくんかする彼女ちゃんを幻視

 

845 以下、名無しのヒーローがお送りします

地味面なのに美少女に好かれるとか前世でどんな徳を積めばいいんだよ

 

846 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーが声援送った理由が判明してよかったよかった

 

847 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>846 何も良くない

 

848 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーに気に入られるとか緑谷やべーな

 

849 以下、名無しのヒーローがお送りします

失望しました。Mt.レディのファン辞めます

 

850 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>848 言われてみれば

 

851 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>848 あっ……

 

852 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>848 そうか、あのおっさんに認めさせたのか……

 

853 以下、名無しのヒーローがお送りします

そう考えたら緑谷凄いわ……

 

854 以下、名無しのヒーローがお送りします

何か嫉妬より尊敬が先に来てしまった

 

855 以下、名無しのヒーローがお送りします

感動しました。緑谷君のファンになります

 

856 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>849 >>855 Mt.レディは犠牲になったのだ……

 

857 以下、名無しのヒーローがお送りします

・地味な見た目だけど派手な個性

・エンデヴァーを納得させられる力の持ち主

・ここまでぶっちぎりのトップのうちの一人

・全国中継の前でも褒めてくれる度胸

 

あれ、この子めっちゃ優良物件では……?

 

858 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>857 地味な見た目がいい味出してる

 

859 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>857 実際親近感はある

 

860 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>857 言う程恨めしく思ってないしな……

 

861 以下、名無しのヒーローがお送りします

【朗報】緑谷少年、彼女持ちなのに怨嗟の声が少ない

 

862 以下、名無しのヒーローがお送りします

照れ照れしてるの微笑ましさあるしな

 

863 以下、名無しのヒーローがお送りします

爆豪だったら遠慮なく恨んでたものの

 

864 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>863 それな。なんとなく憎めない顔してる

 

865 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>864 憎めない顔わかる

 

866 以下、名無しのヒーローがお送りします

ここは我々ネット民の寛大な心で優しく見守ってあげようではないか

 

867 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>866 男前やん

 

868 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>866 で、本音は?

 

869 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>868 羨ましい

 

870 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>869 正直w

 

871 以下、名無しのヒーローがお送りします

まあもう少し様子をみよう

 

872 以下、名無しのヒーローがお送りします

付き合ってるとは確定してないしな

 

873 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレマイも「仲良し男女」って言ってただけだしな。うん

 

874 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>872-873 仲良し(意味深)

 

875 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>874 アカン(アカン)

 

 

 

以下、二人の関係性を見守る方向に移行していく…………




 内容を考えるよりテンプレのコピペや文の追加に数字をずらしていく作業にがっくりしてる作者です。


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番外編:ネット掲示板の呟き③

 
 感想・評価ありがとうございます。
 楽なツールを教えて頂いたのでだいぶ楽になりました。感謝感謝。

 無駄に長くなってるのでなんとか⑤までには抑えたい……。



【雄英体育祭一年の部・ゆっくり版:Part5】

 

 

108 以下、名無しのヒーローがお送りします

あと一歩早ければ虚閃くんにカバンを貸せたのに……

 

109 以下、名無しのヒーローがお送りします

ブドウくんの背脂何度思い出しても笑う

 

110 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>108 誤字。瀬呂くんね

 

111 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>110 どこの十刃かと思った

 

112 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>110 強そう(確信)

 

113 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>109 ラーメン屋さんが居ればワンチャン

 

114 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>113 持ってきてはないだろw

 

115 以下、名無しのヒーローがお送りします

尾白くん尻尾仲間で推してたのに本戦辞退は残念だなあ

 

116 以下、名無しのヒーローがお送りします

結局普通科心操の個性は洗脳系でFA?

 

117 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>116 ぽいな。観戦板と考察板では確定されてる

 

118 以下、名無しのヒーローがお送りします

洗脳とか強すぎるのになんで普通科なんだ

 

119 以下、名無しのヒーローがお送りします

庄田きゅんのぷにぷにおててでパンチされたい

 

120 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>118 入試実技が対ロボだったからだろ

 

121 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>118 入試がロボ無双で個性が使えなかった説が濃厚

 

122 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>120-121 なる

 

123 以下、名無しのヒーローがお送りします

ロボット相手じゃ対人には強い個性でも意味ないもんね

 

124 以下、名無しのヒーローがお送りします

Ms.ジョークみたいなヒーローもいるのに……

 

125 以下、名無しのヒーローがお送りします

雄英は入試方法を見直すべきでは

 

126 以下、名無しのヒーローがお送りします

実際ヒーローになったら機械より人相手の方が多いんだしな

 

127 以下、名無しのヒーローがお送りします

戦闘力は必要だし難しいところだよなあ

 

128 以下、名無しのヒーローがお送りします

真面目な議論が続いてておふざけを書き込みにくい空気

 

129 以下、名無しのヒーローがお送りします

そろそろトーナメント始まるし一旦終了しようぜ

 

130 以下、名無しのヒーローがお送りします

おお!?

 

131 以下、名無しのヒーローがお送りします

面白そうな試合が多いな

 

132 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>130 どしたん

 

133 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>130 何かあったんか?

 

134 以下、名無しのヒーローがお送りします

一段下の空いてた生徒用の席にA組の子たちが座った!!!!!!

 

135 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>134 !?

 

136 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>134 ええええええええええ

 

137 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>134 なんつー豪運よ

 

138 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>134 羨ましいにもほどがある

 

139 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>134 もうおらんけど俺の後ろはエンデヴァーだったのにお前ときたら

 

140 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>134 これは様子を実況してもらわねば

 

141 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>139 なんかすまん……

>>140 アイドルが目の前に居る心境だけど頑張る……

 

142 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>141 やってくれるとは……

 

143 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーが後ろにいたりA組が前にいたりお前らの運はどうなってんだ

 

144 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>143 エンデバは罰ゲームだから……

 

145 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>143 ただただ熱いし暑いだけだぞ

 

146 以下、名無しのヒーローがお送りします

No.2の扱いが酷くて草

 

147 >>134

とりあえず一目見て分かったのは凍夏ちゃんの隣は当たり前のように席が空けられております

 

148 以下、名無しのヒーローがお送りします

エンデヴァーアンチスレで親馬鹿ムーヴで人気稼ぎしてるとか言われてて笑った

 

149 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>147 あっ(察し)

 

150 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>147 そっかあ(白目)

 

151 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>147 かれぴっぴせんようなんですねわかります

 

152 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>147 クラス公認かよ

 

153 以下、名無しのヒーローがお送りします

うわっ

 

154 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレマイ声大きいのは良いから突然大音量はヤメテ

 

155 以下、名無しのヒーローがお送りします

テレビごしでも耳が痛いのやばい

 

156 以下、名無しのヒーローがお送りします

セメントス特製のステージかっけえ

 

157 以下、名無しのヒーローがお送りします

ホントに教師がプロヒーローばっかだな雄英

 

158 以下、名無しのヒーローがお送りします

ルール説明キタ

 

159 以下、名無しのヒーローがお送りします

ふむふむ

 

160 以下、名無しのヒーローがお送りします

場外ありなら楽かな

 

161 以下、名無しのヒーローがお送りします

道徳倫理は捨ておけwwwwww

 

162 以下、名無しのヒーローがお送りします

(捨て置いたら)アカン

 

163 以下、名無しのヒーローがお送りします

リカバリーガールが居てもケガするのはダメでしょ……

 

164 以下、名無しのヒーローがお送りします

そりゃ命に関わっちゃいかんよ

 

165 以下、名無しのヒーローがお送りします

障害物競走のロボとかを棚に上げてるな????

 

166 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>165 しっ

 

167 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>165 深くツッコんではいけない

 

168 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>166-167 アッハイ

 

169 以下、名無しのヒーローがお送りします

一回戦!

 

170 以下、名無しのヒーローがお送りします

上鳴くん良い意味でチャラい感じ

 

171 以下、名無しのヒーローがお送りします

スパーキングキリングボーイwww

 

172 以下、名無しのヒーローがお送りします

電気系個性だから分からんでもないけどw

 

173 以下、名無しのヒーローがお送りします

目立つ活躍なして

 

174 以下、名無しのヒーローがお送りします

偏向実況かな???

 

175 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレマイの距離からだとわからんだろうなあ

 

176 以下、名無しのヒーローがお送りします

俺らは相談できるけどプレマイはキャラ的にもね

 

177 以下、名無しのヒーローがお送りします

早速て

 

178 以下、名無しのヒーローがお送りします

いきなり始まった!!!!

 

179 以下、名無しのヒーローがお送りします

走る上鳴

 

180 以下、名無しのヒーローがお送りします

は?

 

181 以下、名無しのヒーローがお送りします

へ?

 

182 以下、名無しのヒーローがお送りします

上鳴wwwwwwwwwwww

 

183 以下、名無しのヒーローがお送りします

可愛い女子が応援してるで反応すなwwwwwwwwwwww

 

184 以下、名無しのヒーローがお送りします

あーらら

 

185 以下、名無しのヒーローがお送りします

やっぱ心操は受け答えで発動する洗脳系個性か

 

186 以下、名無しのヒーローがお送りします

アホっぽい顔になったな

 

187 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

188 以下、名無しのヒーローがお送りします

ありゃ

 

189 以下、名無しのヒーローがお送りします

場外だー

 

190 以下、名無しのヒーローがお送りします

普通科心操の勝ち!!

 

191 以下、名無しのヒーローがお送りします

これは恥ずかしい

 

192 以下、名無しのヒーローがお送りします

みっともない負け方wwwwww

 

193 以下、名無しのヒーローがお送りします

イレイザーのシンプルな罵倒に笑う

 

194 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミッドナイトも呆れとるやんけ

 

195 以下、名無しのヒーローがお送りします

A組の子らもアホアホ言ってる気がしてきた

 

196 以下、名無しのヒーローがお送りします

ここは的確な煽りをした心操を称えるべき

 

197 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>195 草

 

198 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>195 酷い偏見w

 

199 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>195 元々そういうキャラっぽさはあるけども

 

200 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>196 それな

 

201 以下、名無しのヒーローがお送りします

お、入試の話?

 

202 以下、名無しのヒーローがお送りします

じゃなくて心操くんの個性の詳細か

 

203 以下、名無しのヒーローがお送りします

ほうほう

 

204 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょっと強過ぎませんかね……

 

205 以下、名無しのヒーローがお送りします

問いかけに答えただけでかよ

 

206 以下、名無しのヒーローがお送りします

無機物には効かんと、そりゃそうか

 

207 以下、名無しのヒーローがお送りします

これは入試内容が悪い

 

208 以下、名無しのヒーローがお送りします

強いけど大勢の前でばらしちゃ不味いだろ……

 

209 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>208 コスでボイチェンすりゃいいし

 

210 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>208 変装とかで十分誤魔化せる

 

211 以下、名無しのヒーローがお送りします

何にせよヤバい個性だわ

 

212 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょっとヴィランっぽい個性だと思ってしまった

 

213 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>212 それでもあそこにいるんならヒーロー目指してるんだろ

 

214 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>213 せやな……すまん心操

 

215 以下、名無しのヒーローがお送りします

とりま心操二回戦進出オメ

 

216 以下、名無しのヒーローがお送りします

心操くんおめっとさん

 

217 以下、名無しのヒーローがお送りします

みんな電気系個性で強キャラな筈の上鳴くんの事も忘れてあげないで……

 

218 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>217 敗因:チア服の件

 

219 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>218 +アホみたいな言葉に反応した

 

220 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>219 =自業自得

 

221 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>217-220 何も反論できぬぇ……

 

222 以下、名無しのヒーローがお送りします

心操くんの活躍に期待

 

 

 

 

 

〇〇〇〇〇〇

 

 

 

 

 

302 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>300 見た目で行くならトーカちゃんとヤオモモちゃんでしょ

 

303 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>302 緑谷「CM撮影は控えてほしいな」

   凍夏「分かった♡」

 

304 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>303 やめろ

 

305 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>303 突然のリア充で的確に俺らを攻撃しないで

 

306 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>303 緑谷はそんなこと言わない

 

307 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>306 凍夏ちゃんは言いそうなんだよなあ……

 

308 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>307 わかる(白目)

 

309 以下、名無しのヒーローがお送りします

なんで妄想でダメージ受けなきゃいけないんですかね……

 

310 以下、名無しのヒーローがお送りします

次だぞおまいら(吐血処理しながら)

 

311 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>310 レバー食っとけよ

 

312 以下、名無しのヒーローがお送りします

いよいよ緑谷の試合だ

 

313 以下、名無しのヒーローがお送りします

塩崎と相性悪そうだけど大丈夫かね

 

314 以下、名無しのヒーローがお送りします

おいこらプレマイw

 

315 以下、名無しのヒーローがお送りします

なんだその顔wwwひでぇwwwwww

 

316 以下、名無しのヒーローがお送りします

確かに地味目な顔だけども!wwwwww

 

317 以下、名無しのヒーローがお送りします

綺麗なアレwwwwww

 

318 以下、名無しのヒーローがお送りします

アレってなんだよ(意味深)

 

319 以下、名無しのヒーローがお送りします

刺客てwww

 

320 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレマイの謎の語彙力嫌いじゃない

 

321 以下、名無しのヒーローがお送りします

お?

 

322 以下、名無しのヒーローがお送りします

塩崎ちゃん抗議入ったwwwwww

 

323 以下、名無しのヒーローがお送りします

そりゃ確かにここまで頑張ってきたのに刺客扱いはなあ

 

324 以下、名無しのヒーローがお送りします

真面目ちゃんなのね。好き

 

325 以下、名無しのヒーローがお送りします

これには緑谷も苦笑い

 

326 以下、名無しのヒーローがお送りします

気持ちは分かるって顔してる

 

327 以下、名無しのヒーローがお送りします

お前も抗議してええんやで

 

328 以下、名無しのヒーローがお送りします

誤魔化したwww

 

329 以下、名無しのヒーローがお送りします

そんなノリのスタートはアカンwwwwww

 

330 以下、名無しのヒーローがお送りします

茨ちゃん諦めたな

 

331 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷も構えた

 

332 以下、名無しのヒーローがお送りします

挨拶しあうのイイネ!

 

333 以下、名無しのヒーローがお送りします

正々堂々と勝負って言葉も真面目

 

334 以下、名無しのヒーローがお送りします

ん?

 

335 以下、名無しのヒーローがお送りします

正面から行く宣言

 

336 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

337 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょ

 

338 以下、名無しのヒーローがお送りします

は?

 

339 以下、名無しのヒーローがお送りします

塩崎ぶっとんだ!!!!!!!!!!!

 

340 以下、名無しのヒーローがお送りします

なに今のパンチやべえ

 

341 以下、名無しのヒーローがお送りします

もう一回来るぞ

 

342 以下、名無しのヒーローがお送りします

おわああああああああああああああああああああああ

 

343 以下、名無しのヒーローがお送りします

衝撃で風がああああああああああああああああああ

 

344 以下、名無しのヒーローがお送りします

現地勢の叫びもやべえ

 

345 以下、名無しのヒーローがお送りします

茨ちゃん一発目は瀬戸際で耐えてたけど二発目は無理だった……

 

346 以下、名無しのヒーローがお送りします

なんだよあれオールマイトかよ

 

347 以下、名無しのヒーローがお送りします

デトロイトスマッシュって叫んでたし本格的にちっちゃいオールマイトやんけ

 

348 以下、名無しのヒーローがお送りします

今40%って言ってたよな……?

 

349 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>348 聞こえた

 

350 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>348 間違いなく言ってた

 

351 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミッドナイトも唖然としとる

 

352 以下、名無しのヒーローがお送りします

あ、勝利宣言された

 

353 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

354 以下、名無しのヒーローがお送りします

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

355 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷TUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE

 

356 以下、名無しのヒーローがお送りします

今ので四割とかバケモンかなんかか????????

 

357 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>356 流石に盛ってるでしょ……

 

358 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>357 そうじゃなきゃ誰も勝てんよこんなん

 

359 以下、名無しのヒーローがお送りします

実況が個性の扱いが上手くなったって言ってるけどどういうことなの

 

360 以下、名無しのヒーローがお送りします

何をどう上手くなればこんな超パワーが出るんだ……

 

361 >>134

クラスメイト達も唖然としてるみたい

 

362 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>361 ええ……

 

363 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>361 ホントにどういうことなの……

 

364 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>361 前は違う使い方してたとか……?

 

365 以下、名無しのヒーローがお送りします

あ、塩崎ちゃんの方に行った

 

366 以下、名無しのヒーローがお送りします

やっぱ足はええ

 

367 以下、名無しのヒーローがお送りします

手差し出してる!紳士!!

 

368 以下、名無しのヒーローがお送りします

貴様凍夏ちゃんというものがありながら男前ムーヴを……!!

 

369 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>368 その前にヒーロー科やぞ

 

370 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>369 だとしてもけしからん

 

371 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷君めっちゃええ子やん……

 

372 以下、名無しのヒーローがお送りします

地味顔以外完璧かよ

 

373 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>372 別にブサイクじゃないから

 

374 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>373 本人的にはあれかもだけど可愛い系だよね

 

375 以下、名無しのヒーローがお送りします

お辞儀しあってるのちょっと萌え

 

376 以下、名無しのヒーローがお送りします

二人ともかぁいい

 

377 以下、名無しのヒーローがお送りします

こらエンデヴァーも気に入るわな

 

378 以下、名無しのヒーローがお送りします

良い子の体現みたいな少年じゃん

 

379 以下、名無しのヒーローがお送りします

これは彼女持ちも納得

 

380 以下、名無しのヒーローがお送りします

俺が勝てる部分一つもねーやはっはっは

 

 

 

 

 

あれ、おかしいな。目の前が歪んで見える

 

381 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>380 涙拭けよ

 

382 以下、名無しのヒーローがお送りします

小さなオールマイトわかる

 

383 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレマイ適当に見えて的確な事言ってるよな

 

384 以下、名無しのヒーローがお送りします

オールマイトJr.やな

 

385 以下、名無しのヒーローがお送りします

滅茶苦茶ペコペコしだしたwww

 

386 以下、名無しのヒーローがお送りします

恐縮してるw

 

387 以下、名無しのヒーローがお送りします

平和の象徴の名前と並べられたらああなる気持ちは分かるわ

 

 

 

〇〇〇〇

 

 

 

457 以下、名無しのヒーローがお送りします

努力であそこにいる緑谷を妬んじゃ俺らはおしめえよ

 

458 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>457 個性に恵まれてるのは事実

 

459 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>458 あれじゃ扱うのも大変だったって

 

460 >>134

観客席に出久くん戻ってきた

 

461 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>460 おお

 

462 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>460 どんな感じ?

 

463 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>460 クラスの反応は如何に

 

464 >>134

滅茶苦茶ちやほやされてる。本人は恐縮しっぱなしだけど

 

465 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>464 あの強さで低姿勢なのか……

 

466 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>464 流石謙虚なナイトは格が違った

 

467 >>134

そして流れるように凍夏ちゃんの隣に座る

 

468 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>467 知ってた

 

469 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>467 デスヨネー

 

470 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>467 やっぱりクラス公認カップルですやん……

 

471 >>134

ん? 皆が慌てだしたぞ

 

472 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>467 これは交際確定で良いでしょ

 

473 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>471 どしたどした

 

474 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>471 なにがあった

 

475 >>134

ああ、凍夏ちゃん次試合なのにまだここにいるからだ

 

476 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>475 あ

 

477 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>475 そういえばそうやん

 

478 以下、名無しのヒーローがお送りします

凍夏ちゃん大丈夫??忘れてたの????

 

479 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょっ、始まるぞ

 

480 以下、名無しのヒーローがお送りします

急げ急げ!!

 

481 >>134

あっ

 

482 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>481 今度はどうしtってえええええええええええ

 

483 以下、名無しのヒーローがお送りします

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

484 以下、名無しのヒーローがお送りします

飛んどるうううううううううううううううううううう

 

485 以下、名無しのヒーローがお送りします

そんなショートカットがあるなんてええええええええ

 

486 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

487 以下、名無しのヒーローがお送りします

わあああああああああああああああああああああああ

 

488 以下、名無しのヒーローがお送りします

羽根だあああああああああああああああああああああ

 

489 以下、名無しのヒーローがお送りします

綺麗

 

490 以下、名無しのヒーローがお送りします

氷と炎の翼がまるで天使と悪魔の子供の如き歪でかつ美しいコントラストを生み出している……

 

491 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>490 死ぬほど厨二臭いけど分かってしまう自分がいる……っ

 

492 以下、名無しのヒーローがお送りします

こんなん予想できんて……ふつくしい……

 

493 以下、名無しのヒーローがお送りします

これは大歓声も納得の出来事

 

494 以下、名無しのヒーローがお送りします

めっちゃ目立ちたがるやん

 

495 以下、名無しのヒーローがお送りします

wwwwww

 

496 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレマイが>>490と似たような事言ってて草生え散らかした

 

497 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレゼントマイクは分かる男だったか

 

498 以下、名無しのヒーローがお送りします

凍夏ちゃん目立ちたがりじゃないのにこんな登場したんか

 

499 以下、名無しのヒーローがお送りします

イレイザーは何を察したのか

 

500 以下、名無しのヒーローがお送りします

あっ

 

501 以下、名無しのヒーローがお送りします

そっかぁ……

 

502 以下、名無しのヒーローがお送りします

【速報】轟凍夏ちゃん、「出久が目立ったので」という理由で自分も目立つ

 

503 以下、名無しのヒーローがお送りします

知ってた

 

504 以下、名無しのヒーローがお送りします

行動理由が緑谷なのか……(困惑)

 

505 以下、名無しのヒーローがお送りします

何がすごいって凍夏ちゃんからここまでデレられてもちょっと照れてる程度の緑谷君の精神力よ

 

506 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>505 それな

 

507 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>505 理性が強靭すぎる

 

508 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>505 俺なら押し倒してるわ

 

509 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>508 エンデヴァーこの人です

 

510 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>509 ごめんなさいガチムチ炎おじさんは帰って下さいお願いします

 

511 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>510 謝ってるようで貶してるの草

 

512 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレマイさておかないで

 

513 以下、名無しのヒーローがお送りします

普通に流すの見てると普段からこの子はこんなんなんだろうね(ハナホジ

 

514 以下、名無しのヒーローがお送りします

だからさあwww

 

515 以下、名無しのヒーローがお送りします

プレマイの悪意ある紹介なんなのwwwwww

 

516 以下、名無しのヒーローがお送りします

瀬呂君ロボットとか上行ったり騎馬戦もいい感じに動いてて普通に優秀だろ!

 

517 以下、名無しのヒーローがお送りします

てか瀬呂ステージに居たんだ

 

518 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>517 酷いw

 

519 以下、名無しのヒーローがお送りします

氷と炎の美少女、言い得て妙

 

520 以下、名無しのヒーローがお送りします

この紹介文の差よ

 

521 以下、名無しのヒーローがお送りします

瀬呂が何をしたって言うんだ

 

522 以下、名無しのヒーローがお送りします

そんでまたスタート早い

 

523 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

524 以下、名無しのヒーローがお送りします

瀬呂不意突いた!!!!

 

525 以下、名無しのヒーローがお送りします

場外狙いか!

 

526 以下、名無しのヒーローがお送りします

頭良いやんけ!

 

527 以下、名無しのヒーローがお送りします

ちょ

 

528 以下、名無しのヒーローがお送りします

普通に抜けらr

 

529 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

530 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

531 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

532 以下、名無しのヒーローがお送りします

うせやろ

 

533 以下、名無しのヒーローがお送りします

でか

 

534 以下、名無しのヒーローがお送りします

さむ

 

535 以下、名無しのヒーローがお送りします

で、でけええええええええええええええええええ

 

536 以下、名無しのヒーローがお送りします

氷壁ってレベルじゃねーぞ!!!!!!!!

 

537 以下、名無しのヒーローがお送りします

会場が静まり返ってるぞ

 

538 以下、名無しのヒーローがお送りします

瀬呂生きてる!?

 

539 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>5388 肩まで凍ってるけど起きてる

 

540 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>538 生きてる。手が震えて色々ミスった

 

541 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>540 ええんやで

 

542 以下、名無しのヒーローがお送りします

ミッドナイトもまた唖然としとる

 

543 以下、名無しのヒーローがお送りします

次元が違いすぎるでしょ……

 

544 以下、名無しのヒーローがお送りします

こんなん高校生どころじゃねえ……

 

545 以下、名無しのヒーローがお送りします

緑谷といい今年の一年まじでなんなん

 

546 以下、名無しのヒーローがお送りします

これこの後二人が戦ってスタジアム大丈夫なんか

 

547 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>546 あっ……

 

548 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>546 わいはTV勢やから……

 

549 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>546 現地勢の無事を祈る

 

550 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>546 流石に大丈夫やろ(震え声)

 

551 以下、名無しのヒーローがお送りします

最早見慣れた解凍作業

 

552 以下、名無しのヒーローがお送りします

溶かすのもお手のものって感じでつおい

 

553 以下、名無しのヒーローがお送りします

るんるんと退場していったな

 

554 以下、名無しのヒーローがお送りします

スキップしそうな後ろ姿きゃわわ

 

555 以下、名無しのヒーローがお送りします

彼氏と同レベルで目立てたから嬉しいんだろ

 

556 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>555 知ってた

 

557 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>555 分かりやすいですね(白目)

 

558 以下、名無しのヒーローがお送りします

一挙一動が俺らを抉ってくるのに嫌いになれない可愛さがある

 

559 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>558 ほんそれ

 

560 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>558 いっそ嫌いになれたら楽になれるというのに

 

561 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>558 親父とはえらい違いやで

 

562 以下、名無しのヒーローがお送りします

会場の温度が下がって寒い(物理)

 

563 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>562 俺があっためてやるよ

 

564 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>563 やだイケメン

 

 

 

〇〇〇〇

 

 

 

693 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>692 ヒーローは実力が全てだしな

 

694 以下、名無しのヒーローがお送りします

どの板でも色恋沙汰云々言ってた奴らが大人しくなってて笑う

 

695 以下、名無しのヒーローがお送りします

ゆっくり板は居なかったけどね

 

696 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>694 そもそもエンデヴァーの娘が生半可な訳がなかった

 

697 >>134

凍夏ちゃん戻ってきたけど機嫌悪そう

 

698 以下、名無しのヒーローがお送りします

今年はゆっくり板の速度速いな

 

699 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>697 !?

 

700 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>697 あんなに機嫌よく退場してたのに……?

 

701 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>697 この短い間に何があったんだ

 

702 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>697 kwsk

 

703 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>697 情報はよ!(バンバン

 

704 以下、名無しのヒーローがお送りします

反応がないな

 

705 以下、名無しのヒーローがお送りします

どしたー

 

706 以下、名無しのヒーローがお送りします

気になるとこで落ちないで

 

707 >>134

ごめんちょっと死んでた。一通りの流れまとめる

 

708 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>707 死ぬな

 

709 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>707 何を見た

 

710 >>134

むすっとした凍夏ちゃんが出久くんの隣に座る→苦笑いの出久くんがなでなでする

→凍夏ちゃんが出久くんに抱きつく→あまりの流れの良さに俺氏困惑後に無事死亡

 

711 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

712 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

713 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

714 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

715 以下、名無しのヒーローがお送りします

あのさあ…………

 

716 以下、名無しのヒーローがお送りします

ただのバカップルじゃねーか!!!!!!

 

717 以下、名無しのヒーローがお送りします

人前でそれするの????二人とも正気??????

 

718 以下、名無しのヒーローがお送りします

家でやれえええええええええええええええ(血涙)

 

719 >>134

流石に何話してるかは聞こえんけどA組の子らは生温かい目で見守っております

あ、いやブドウくんは血涙流してる

 

720 以下、名無しのヒーローがお送りします

クラス公認確定

 

721 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>720 学校公認までありえる

 

722 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>721 流石にないだろ

 

723 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>718 ブドウくん説

 

724 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>723 違うけど友達になりたい

 

725 >>134

続きがあるんだけど書いたら死人出そうな予感

 

726 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>725 はよ書いて

 

727 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>725 もうキスレベルじゃないと驚かんぞ

 

728 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>725 これ以上何があるんや……

 

729 >>134

出久くんが抱きついたまま寝ようとした?凍夏ちゃんの鼻をつまむ

→凍夏ちゃんがその手を外して咥えようとする

→のを出久くんが避けて頬を挟んでぷにぷにする

→ちょっとして離れた出久くんの手に凍夏ちゃんが擦り寄る

 

→俺氏、言いようのない感情に包まれて悟りを開く

 

730 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

731 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

732 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

733 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

 

734 以下、名無しのヒーローがお送りします

※観客席での出来事です

 

735 以下、名無しのヒーローがお送りします

無言兄貴たちの気持ちがよくわかる(吐血)

 

736 以下、名無しのヒーローがお送りします

てか>>134上からなのに見えすぎじゃね

 

737 >>134

>>736 個性。多角視野って名前で視界を三次元的に捉えられる

 

738 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>737 何それ使い勝手よさそう

 

739 以下、名無しのヒーローがお送りします

 

740 以下、名無しのヒーローがお送りします

あ?

 

741 以下、名無しのヒーローがお送りします

あまああああああああああああああああああい

 

742 以下、名無しのヒーローがお送りします

糖分吐くううううううううううううううううう

 

743 以下、名無しのヒーローがお送りします

もおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

744 以下、名無しのヒーローがお送りします

もう存分にいちゃいちゃしろやああああああああああ

 

745 以下、名無しのヒーローがお送りします

さっさと結婚しろおおおおおおおおおおおお

 

746 以下、名無しのヒーローがお送りします

感情が一周回って二人を応援するムーヴになってるのホント草

 

747 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>746 そこまでイチャつかれると最早嫉妬すら起きない

 

748 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>746 轟と緑谷だからね。仕方ないね

 

749 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>746 僕も>>134同様悟り開いてしまったので

 

750 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>746 言うなれば理想の推しCPを見つけたオタクの心境です

 

751 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>750 これ

 

752 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>750 的確な表現すぎる 

 

753 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>750 覚えのある感情だと思ったら

 

754 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>750 この夏は同人誌が捗るわぁ

 

755 以下、名無しのヒーローがお送りします

優しい世界

 

756 以下、名無しのヒーローがお送りします

ここまでネットで受け入れられたカップルが未だかつてあっただろうか

 

757 以下、名無しのヒーローがお送りします)┐

実質オールマイト×エンデヴァー……(ボソッ

 

758 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>757 足が出てるぞ

 

759 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>757 腐海へお帰り下さい

 

760 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>757 おぞましい事を

 

761 以下、名無しのヒーローがお送りします

素朴な少年と素直な少女の恋の行く末を見守るのが我々の役目だな

 

 

 

 

 

それはそれとして彼女ほしい

 

762 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>761 俺の気持ちと同じレスをありがとう

 

763 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>761 Part3の>>866と同じ気配

 

764 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>763 よくわかったな

 

765 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>764 まじであってたw

 

766 以下、名無しのヒーローがお送りします

ともかく二人を見守る方向性は変わらないって事でおk?

 

767 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>766 おk

 

768 以下、名無しのヒーローがお送りします

二人の対戦がどうなることか……

 

769 以下、名無しのヒーローがお送りします

>>768 今から怖いな……

 

 

 

 

 いくつかの不安を残しつつもスレは加速していく……。

 




 炎上回避。一旦は。


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26:翌朝の轟家。

 
 感想・評価ありがとうございます。
 年始明けから風邪を拗らせていた作者は元気1/2ぐらいです。
 感想等返信出来ていませんが、ゆっくりしますのでご了承を。
 
 ちゃんねる風で微妙に詰まったので本編を書いてリフレッシュ。
 体育祭の後日談かつ轟家での一幕みたいな話。
 
 


 無事に体育祭が終わった後の話。

 放課後まで保健室で寝ていた私が、後で出久から聞いた顛末だ。

 

 表彰台の上でキスをした私たちは、恋人という関係を一気に知らしめる事となった。

 私を運び届けてから教室に戻った出久は、クラスの皆に詰め寄られたらしい。

 特に芦戸や葉隠、上鳴や峰田の追及から逃れるのに苦労したそうだ。

 何の説明も無しでは収まりがつかなさそうだと判断した出久は、準決勝後のやり取りを大分ぼかしてだけど伝えてしまったと頭を下げられた。

 私としては一向に構わないどころか、正しく認知されていく事に嬉しささえ覚えるので、謝る必要は全く無いのに。

 そう言えば少しほっとした彼に、出来れば今後は大勢の前でのああいう行為は勘弁してほしいと頼まれた。

 父親(仮)の暴挙で精神的余裕が奪われた状況とはいえ、人目を憚らずに甘えすぎたと思う。

 出久へ大きな負担を与えてしまったと落ち込んでいると、もう気にしてないと撫でられたけど。

 

 皆の追及は相澤先生の登場で一旦終わりを迎えて、始まったホームルームでは一日の労いと二日間の休日を告げられて。

 休み明けにプロからの指名がまとめられるらしく、どきどきしながら待っておけ、との事。

 私は何でも良いけど、出久にどれぐらいの指名が来ているかがとても気になる。

 多くのプロの目に留まっているだろうし、クラスでも一、二を争う票が入ってそうだ。

 

 ……後、私と出久、勝己は反省文の刑があった分は、休みの間に書いてくればいいとのお達しだ。

 出久も勝己も怪我していたし、私も倒れていたからの措置だとか。

 これについては反省点がはっきりしているから、すぐに書いて終わらせられる。

 

 ちなみに量は私、出久、勝己の順番で量が多い。

 本来、私以外の二人は同じ量だったんだけど、勝己は腕の怪我や故意的じゃなかった事を考慮して減量がされたらしい。

 私に関しては出久の三倍ぐらい。まあ、妥当な所だと思う。

 

 

 以上が、()()の学校での出来事。

 

 点滴を打たれながら寝ていたお陰で、なんとか立って歩けるぐらいには回復した私は、そのまま出久と一緒に帰宅の途についた。

 

 体調を気遣った彼が手配してくれたタクシーで、二人でゆっくりする事が出来たからか。

 

 今までの顛末や、クラスの皆の反応なんかを話しながら轟家に着いた後。

 

 気が抜けたらしい私は、家の敷居を跨ぐと同時に、再び倒れるように眠ってしまって。

 

 

「んー……あれ…………」

「あら、おはよう凍夏」

「…………おかーさん?」

 

 

 次に目が覚めたのは、翌日の朝。

 

 いつもより重い瞼をどうにか開き、ぼんやりした意識で視界に映ったのは、私のお母さん。

 

 もぞもぞと起きあがった私に、お母さんは優しい笑みを向けていた。

 

 

ー緑谷出久ー

 

 

「出久くん、座って待っててくれて良いのに」

「そうよ出久。まだ疲れてるでしょう?」

「大丈夫、せめてこれぐらいはするよ」

 

 

 体育祭の翌朝。

 轟家に泊まった僕は、朝ご飯の準備を手伝っていた。

 と言っても、僕が来た頃には配膳するぐらいしかやる事が無かったから、手伝うと言える程ではないかもしれない。

 

 料理を作っているのは、同じく泊まった僕のお母さんと、轟家長女の冬美さん。

 冬美さんは小学校の先生をしていて、普段はこの家の家事を担当している。

 忙しい時は家政婦さんに頼っているけど、家の事はなるべく自分でしたいからと張り切っている人だ。

 お母さんとも仲が良く、昔から料理を教わっていて、味付けもよく似ていたりする。

 こういうと少し失礼かもしれないけど、お袋の味って感じかな。

 

 

 で、何故僕のお母さんも泊まっているのかと言えば。

 

 昨日、凍夏ちゃんとお泊まりの約束をした後の帰宅前、お母さんからも轟家で泊まる事になった主旨の連絡をもらった。

 理由は……お察しの通り、僕と凍夏ちゃんがキスした事によって関係の変化がバレたから。

 いや、元々お疲れ会的なものをやるつもりだったらしいし、どうあれお泊まりは確定事項だったんだろう。

 凍夏ちゃんが寝てしまったので、僕一人が追及されたのは恥ずかしいやら辛いやらで大変だった。

 体育祭後なのを考慮してか、ある程度で終わってくれたのは幸いなのかもしれない。

 

 

 焼きたての鮭が乗ったお皿を渡されて、良い匂いを感じながら運んでいると、ゆっくりと歩いてくる二つの足音が聞こえてきた。

 少しして、先にひょっこりと居間に顔を出したのは、まだ眠そうにしている凍夏ちゃん。

 

「おはよう、凍夏ちゃん」

「あ、いずくー……おはよー……」

 

 お皿を配膳した僕は、ふにゃふにゃした笑顔でとてとてとこちらに来た彼女を抱き留める。

 凍夏ちゃんは朝が弱い訳じゃないから、まだ疲れが抜けてないんだろう。

 ねむねむオーラが出ている彼女を座布団へ誘導しながら座らせていると、クスクスと笑う声が聞こえた。

 

「凍夏ったら、相変わらず出久君にべったりなのね」

「冷さん……えっと、何かすみません」

「ふふ、謝る事じゃないわ」

 

 続いて居間へ入ってきた柔らかい表情で笑う白髪の女性……冷さん。

 凍夏ちゃんを起こしに行っていた彼女は、轟家のお母さんだ。

 

 精神を病んでいた彼女は五年前まで病院に入院していたが、今は復調して普段は母方の実家で過ごしている。

 轟家へは時々帰ってきて、子どもたちの様子や成長を見守っていた。

 冬美さんと同じくうちのお母さんと仲良しで、時々お茶会やお出かけをしてるのを見かける。

 昨日もこの家で二人一緒に、体育祭を観戦していたそうだ。

 

 凍夏ちゃんの隣の席に座った冷さんは、僕の肩にもたれ掛かる娘の頭を優しく撫でている。

 その姿には母親らしい慈しみがあり、何だか神々しくさえある。

 凍夏ちゃんが撫でられて嬉しそうにしていると、更に微笑みが深まってきて。

 優しい笑顔が凍夏ちゃんにそっくりで……いや、凍夏ちゃんの笑顔が冷さんにそっくり、なのか。

 

 ふわふわした親子の時間を見守っていると、冬美さんやお母さんが残りの朝食のお皿を持って戻ってきた。

 ああ、結局僕、殆ど手伝えてないな。

 

 

「おはよー凍夏。よく寝てたねー」

「おはよう凍夏ちゃん。昨日はお疲れ様」

「おはよー……」

「朝ご飯だよ。昨日は夜食べてないんだから、ちゃんと食べようね」

「んー……」

「ほら、起きて凍夏ちゃん」

「わ……うん、起きる……んーっ……」

 

 

 瞼が重そうな凍夏ちゃんの頬を軽くパチパチと叩けば、大きく伸びをしてから何度か目を瞬かせていた。

 無防備な姿がとても可愛くて、思わず頬が緩んでしまう。

 お母さんたちからも微笑ましそうに見られているのに気づいた凍夏ちゃんは、よく分かっていないのか、首を傾げていたけど。

 

 そこで、凍夏ちゃんのお腹がくぅ、と小さくなった。

 

 

「……おなかすいた」

「ふふ、可愛らしいお腹の音ね」

「凍夏ちゃんを待たせるのもあれだし、食べますか!」

 

 

 配膳を終えた冬美さんやお母さんも席に着き、食卓に皆が揃う。

 炎司さんは居ないけど……うん、仕方ないか。

 

 皆で手を合わせて……何故か僕に視線が集まった。

 あれ、僕が音頭を取る感じなのか。冷さんかお母さんじゃないんだ。

 別に拒む理由もないし、構わないんだけども。

 

 軽く周りを見渡してから、僕は口を開く。

 

 

「それじゃあ、いただきます」

「「「「いただきます!」」」」

 

 

 女性陣の明るく澄み渡った声が居間に響いてから。

 

 轟家での朝食が始まった。

 

 

 

 

 

 

 ぱくぱく、もぐもぐ、はむはむ。

 凍夏ちゃんが行儀良く、しかし黙々とご飯を食べている。

 

「おかわり」

「入れるよ凍夏」

「ん、ありがとー姉さん」

 

 冬美さんにお茶碗を渡し、いつもより多く盛られたご飯を受けとると、また黙々と食べ始める。

 盛られたご飯が卵焼きやウインナーと一緒にどんどん減っていく様子は、見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。

 それなりに早い速度だけど食べ方が綺麗で、彼女の育ちの良さが出ている。

 

「あらあら、よっぽどお腹が空いてたのね」

「よく噛んで食べるのよ」

「もう三杯目かぁ。ご飯足りるかな?」

「んく……これで最後だから、大丈夫」

 

 喋る時も、口の中のものをちゃんと全部飲み込んでからだ。

 ずっと一緒にいると意識する機会は少ないけど、やっぱりお嬢様なんだなぁ、なんて思ったり。

 普段よりいっぱい食べる凍夏ちゃんを見守りつつ、僕も朝食を食べ進めた。

 

 パリパリした鮭の皮を頬張りながら、この後は何をしようかと考える。

 日課のトレーニングは凍夏ちゃんは控えさせて、僕も軽めに済ませるつもりだ。

 その後は……体育祭の昨日の今日だし、のんびりしたい。

 色々しでかした僕たちは間違いなく時の人だから、出歩くのは勘弁したいという思いもある。

 気を遣ってか、母さんたちは昨日から居間のテレビは付けていないけど、体育祭の話題で持ちきりの可能性が高い。

 

 ……まあ、今更気にしても、か。

 

 僕も凍夏ちゃんも、覚悟は決まっている。

 

 ヒーローへの道を、二人一緒に進んでいくのは何を言われたとしても変わらないから。

 

 

 なんて改めて決心を確認しつつ、僕は美味しい朝食を食べ終わる。

 同時に凍夏ちゃんも満腹になったらしく、満足そうな顔でお茶碗を置いていて。

 

 ふとこちらを見た凍夏ちゃんも僕が食事を終えたのに気づいたらしく、パチリと視線が交差する。

 

 何となく見つめ合った後、お互いに微笑みあって。

 

 そして手を合わせ、食後の一言。

 

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

 声を揃えてそう言えば、お母さんたちには少し呆れた笑みを溢されてしまった。

 

 

 

 

「あ」

 

 二人で食後に温かいお茶を飲んでいると、凍夏ちゃんが何かに気づいたような声を漏らした。

 

「どうかした?」

「昨日、クールダウンしてないや」

「ああ……そういえばそうだね」

「うん。お風呂も入ってないし、早めに済ませなきゃ」

「あ、身体は軽くだけど、私が拭いといたよ」

「わ、ありがとう姉さん」

 

 冬美さんにお礼を言う凍夏ちゃんを横目に、それだったら……と予定を組み立てていく。

 

 激しい運動をした後はストレッチなどで身体を解さないと、筋肉への痛みが後々に響きやすくなる。

 柔軟性を伸ばす意味もあるし、早めにやっておいた方が良い。

 

 しかし、これなら僕にも手伝える事もある。

 

「クールダウン、一緒にやろっか」

「ん、良いの?」

「うん。元々軽いトレーニングはするつもりだったからね」

「そっか。じゃあ一緒にする」

 

 嬉しそうな凍夏ちゃんが、僕の腕に抱きついてくる。

 頭を首元へ寄せられ、鼓動の高鳴りを自覚ながらも優しく撫でてあげれば、彼女はほわほわとした空気を醸し出した。

 

 

 今までと変わらないようで、どこか感情が浮わついているのは、関係の変化によるものなのか。

 

 髪を撫でていた手を頬へと移動させれば、凍夏ちゃんは顔を上げてくれて。

 

 目に熱を帯びている彼女と、じっと見つめあう。

 

 そして、お互いの顔が徐々に熱くなっていくのが分かってしまった。

 

 

 理由は簡単…………ただの幼馴染だった頃とは違い、この先の行為が可能だから。

 

 

 小さく漏れてしまった吐息に、凍夏ちゃんがびくりと震える。

 

 

 瞳を潤ませていく彼女が、ゆっくりと目を閉じて。

 

 

 このまま、唇を重ね合いそうな雰囲気になった所で。

 

 

 

「二人ともー。私たち居るからねー?」

「「っ!」」

 

 

 

 冬美さんの一言で、我に返った。

 

 ぱっと顔を離して周りを見れば、冬美さんやお母さんは生暖かい目でニヤニヤとしていて、冷さんはきょとんとした目をしていた。

 

 

「出久くんってば、凍夏と同じぐらい大胆になっちゃったねぇ」

「い、いや、あああの、ええっと」

「早く孫の顔が見たいわねぇ」

「まっ……!? ななな何言ってんのお母さん!!?」

「凍夏、キスしないの?」

「さ、流石にお母さんの前じゃ無理……!」

 

 

 冷さん、天然でド直球のストレートを投げてこないで! 凍夏ちゃんが恥ずかしそうにあわあわしてる!

 そもそも家族の前で何をしてんだよ、って話でもありますけど! 

 昨日のあれでふっ切れすぎだろ! そういうプルスウルトラは要らないよ、僕!

 

 凍夏ちゃんも珍しく羞恥で困ってるし、ここはもう一つしか手がない。

 

 ヒーローとしては褒められた手段じゃないけど、仕方ない。

 

 そう、それは――

 

 

「と、凍夏ちゃん! 行こう!」

「あっ、う、うんっ!」

 

 

 ――逃げの一択!

 

 凍夏ちゃんの手を引いて、この場を立ち去るのみ。

 

 体育祭でもこんな逃げ方したけど、許してほしい。

 

 他に方法が思い付かないというか、心臓が持たないんだ。

 

 

「あらら、ごゆっくりねー」

「お昼はカツ丼とお蕎麦作るからねー」

「私、気にしないのに……」

 

 

 保護者の声を背に居間を離れる僕たち。

 

 冬美さんは含みを持たせないで、お母さんはありがとう。

 

 そして冷さん、微妙に残念そうに言わないで下さい。凍夏ちゃんも僕も気にします。

 

 

 




 お母さんズを登場させておきたかった回。
 後日談は一話の予定でしたが微妙に収まらなかったので、(掲示板回は除き)次で体育祭編は終わり。


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27:一緒に、お風呂。

 
 感想・評価ありがとうございます。
 これで体育祭編完。もう体育祭関係ないですけど。

 タイトル通り。大体察して下さい。
 


 朝食を終えて逃げるように退散した私たちは、そのままトレーニング室でクールダウンを行った。

 エンデヴァーにより組み立てられたトレーニングメニューの中にあるそれは、単体でもそこそこの運動力なので軽い運動にもなる。

 出久は追加でもう少し何かするつもりだったらしいけど、昨日たくさん怪我をしたのだからと強制的に止めさせた。

 頬を膨らませてじっと目を見つめれば折れてくれたので、今度から止める時はこうしよう。

 

 メニューは基本的に一人で出来るものばかりで、二人でやってもいいものは出久にも手伝ってもらった。

 前屈系しか二人でやれるものはないけど、一緒にやれる事に意味があるのだからそれでいい。

 

 ちなみに、私も出久も180度開脚して胸を地面に付けられるぐらい身体が柔らかい。

 学校で初めてやった時はクラスの皆には驚かれた(私は何故か峰田や上鳴にガン見された)し、幼い頃から二人で続けている成果の一つだと思うと、凄く嬉しい。

 

 

「これで、終わり……っと」

「ふぅ……お疲れ様、凍夏ちゃん。タオルあるよ」

「ありがと。出久もお疲れ」

 

 

 それなりに身体が温まった所でメニューが終わり、出久に渡されたタオルで汗を拭きながら一息吐いた。

 全身に多少の疲れは残っているが、それ以外は特に問題はないみたい。

 明後日からの学校までに疲れを癒して、いつも通りに動けるようにしないと。

 

 そんな訳で、私の癒しである出久に甘えよう。

 

 

 と、その前に。

 

 恋人になった今なら、遠慮なく誘える行為がある。

 

 

「出久、お風呂入る?」

「僕? シャワーは浴びたいと思うけど……」

「そうじゃなくて……一緒に、ね」

「………………へぇっ!?」

 

 

 わ、凄く驚いてるや。

 

 声が裏返った出久は、顔を真っ赤にして慌てている。

 中学に上がるまでは一緒に入ってたんだから、そんなに照れなくてもいいのに。

 

 いやまあ、私も出久に裸を見られるのは恥ずかしいんだけど。

 

 

 それでも、出久と一緒が良いから。

 

 折角触れ合える機会を、逃したくないと思ったから。

 

 わたわたと動かされている彼の手を握って、じっと目を見つめる。

 

 

「…………嫌?」

「い、嫌じゃないけど、そういう問題じゃ……」

「なら、一緒に入ろ……?」

 

 

 震える声色を聞いて、右往左往していた視線を合わせてくれた出久。

 

 そして、徐々に私の目が潤んでいくのを見てか。 

 

 

「………………………………うん」

 

 

 長い葛藤の後、首を縦に振ってくれた。

 

 

 

ー緑谷出久ー

 

 

 凍夏ちゃんに押し切られる形で、一緒にお風呂に入る事になった。

 先に入ってて、と言われたので、今は旅館のように広い轟家のお風呂で無心で身体を洗っている。

 早くお湯に浸かって、身体を隠したい気持ちでいっぱいだ。

 ……ホントに、幾ら恋人になったからって、初めてのイベントのハードルが高過ぎるのではないでしょうか。

 多少凍夏ちゃんとのスキンシップに慣れているとはいえ、裸の付き合いは別問題だと思うんだ。

 

 いや、確かに小学校までは時々一緒に入って洗いっことかしてたよ? 

 当時も僕は女の子とお風呂に入るなんて……と滅茶苦茶どぎまぎしていたのに、凍夏ちゃんは殆ど気にしていなかった。

 寧ろ彼女がいつも楽しそうにしていたから、どうにも断る事が出来なくて。

 流石にお互いの身体の成長が著しくなった中学生の頃には、断固として拒否させてもらった。

 凍夏ちゃんはもの凄くしょんぼりしていたけど、僕にも譲れない一線だったから。

 ……どちらかと言えば、小学校まで一緒に入ってたのがおかしいんだよね、うん。

 

 なんて、昔の距離感について考えながら髪を流していると、お風呂場の扉が開く音がした。

 お、思ったより来るのが早い。まだ身体を洗えてないのに!

 

 

「お、お待たせ、出久」

「う、ううん! まま、待ってないよ」

 

 

 少し恥ずかしそうにしているのが分かる声色に、思わずどもりながら返事をする。

 そして凍夏ちゃんがひたひたとこちらに歩いてくる音に、鼓動がどんどん速くなる。

 彼女がどんな格好をしているか分からないから、迂闊に振り向けない。

 ただ僕の後ろまで来たらしい凍夏ちゃんの気配が、そこにバスチェアを置いて座ったみたいで。

 

 

「もう、全部洗っちゃった?」

「え、い、いや、身体はまだ、だけど」

「そ、そっか……なら、身体は、私が洗うね」

 

 

 ――まあ、そうなるよね!

 

 いや、いやいや、いやいやいや。

 

 落ち着け僕、予想出来ていた流れだろ。

 

 昔はよくやってたし、何も緊張する必要はない筈。

 

 

「じっ、自分で洗うよ?」

「私が、洗ってあげたいの」

「そっ……そう、なの」

「そうなの。だから…………良い?」

「…………な、なら、お願い」

「うんっ」

 

 

 だから凍夏ちゃんの声に艶があっても、僕の背中に柔らかい手が触れても、気にしてはいけない。

 

 視界の端でボディーソープを取る彼女が、一糸纏わぬ姿だったとしても、心を乱してはならない。

 

 そのボディーソープを、自分の身体……胸の辺りで泡立てようとしている気がするのも、僕の妄想とか思い込み――

 

 

 

「……ちなみに、どうやって洗うつもり……?」

 

 

「…………私の、身体で?」

 

 

 

 ――じゃないな! 現実だなこれ!?

 

 

 

「待って待ってストップ!! それは何か違うよね!!?」

「け、けど、こうしたら出久が喜んでくれるって、前に冬美姉さんが」

「何教えてるんだあの人……!!」

 

 

 薄々勘づいてたけど、時折どこで覚えてきたんだって知識を凍夏ちゃんに植え付けてたのは冬美さんか!

 

 確かに! 確かに嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいけれども!

 

 年頃の、思春期の男子には幾らなんでも刺激が強すぎる!

 

 というか、そういう行為は恋人になった次の日にやるには段階が飛びすぎだと思うんだ!

 

 

「君の身体で洗うのは駄目です! それやるなら自分で洗うからね!!」

「…………嫌?」

「嫌じゃないけど! そういうのはまだ駄目なの!! 分かった!!?」

「……………………分かった」

 

 

 ペースを取られるものかと捲し立てれば、少し不満そうながらもどうにか止める事が出来たらしい。

 

 よかった。心の底から助かった。

 

 今回ばかりは押し切られる訳にはいかなかった、頑張ったよ僕。

 

 とりあえず、後で冬美さんには抗議しておかないと。

 

 

 

「……でも、次はさせてね」

「つ……次かぁ……」

「うん、約束。指切り」

「…………はい」

 

 

 ……それでもしっかり約束を取り付ける辺り、凍夏ちゃんらしい。

 

 次っていつだろう。ちょっと怖い。

 

 後、凍夏ちゃん。普通に指切りしてるけど、今の君は裸なんだから少しは隠して下さい。

 

 視線を顔で固定させ続けないと、色々見えてしまうんです。

 

 

 

 

 それから凍夏ちゃんにタオルで丁寧に丸洗い(前は自分でやった)された僕は、先に湯船に浸かっていた。

 うん、とりあえず女の子に身体を洗ってもらうのは色々やばい。

 詳しくは伏せさせてもらうけど、密着感が半端なかった。

 これを次は凍夏ちゃんの身体でやってもらうのか……と考えると思考回路がショートしそうなので、頭の隅に追いやっておこう。

 

 

「隣、入るね」

 

 

 一種の悟りを開きそうな精神で口元までお湯に浸かっていると、自分の身体を洗い終えた凍夏ちゃんが僕のすぐ隣に入ってきた。

 

 ちゃぷ、と足を湯船に入れる音や、お風呂の嵩が増して溢れる音がやけに鮮明に聞こえる。

 

 肩下ぐらいまで浸かった凍夏ちゃんは、小さく息を吐いていた。

 

 これで裸をあまり気にせずに接する事が出来ると横を見て……隣り合う彼女と同じ目線じゃないのが、何となく嫌で。

 

 湯船から少し身体を出して、頭を同じ高さへ並べる。

 

 その事に気づいた凍夏ちゃんは、微笑みを向けてくれた。

 

 僕の好きな彼女の優しい笑みに、少しだけ罪悪感が沸いてくる。

 

 

「……ごめんね、凍夏ちゃん」

「? 何が?」

「なんというか、こう、一人でドキドキしてて……」

 

 

 一緒にお風呂に入っていても、僕だけ変に意識しすぎている。

 

 凍夏ちゃんはきっと、純粋にスキンシップを取りたかっただけなんだろう。

 

 今まで幼馴染の時にしていた事より、深いものを求めている。ただそれだけ。

 

 なのに僕はといえば、一人で意識して、緊張していて。

 

 男だからなのかもしれないけど、少しでも不純な気持ちを持ってしまうなんて。

 

 

 そうやって、俯きかけた僕の腕を。

 

 

 

「……出久っ」

「ちょっ――!?」

 

 

 

 胸の谷間に収めるように、凍夏ちゃんは抱きついてきた。

 

 とんでもなく柔らかい感触に動揺する心臓とは別に、何故か冷静なままの意識で彼女に視線を向けると。

 

 

 

「……私も、ドキドキしてるよ」

 

 

 

 真っ赤に染めた顔で、僕を見つめていて。

 

 そう言われて、柔らかな感触の奥にある彼女の心音が、僕と同じくらい高鳴っているのに気がついた。

 

 

「出久が先に入ってからね、心を落ち着けてたの」

「…………心を?」

「うん。一緒にお風呂って言ったのはいいけど、いざとなるとドキドキしちゃって」

 

 

 聞こえてる? と首を傾げる凍夏ちゃんに、小さく頷く。

 

 そしてもたれ掛かってきた彼女は、いつものように僕の首元へ顔を埋めた。

 

 

「臆病風に吹かれそうになって、頑張って自分を奮い立たせて、やっとお風呂に入ったら……出久が居てくれたの」

「そりゃあ、居るよ」

「うん、凄く緊張してた。お陰でちょっと落ち着いちゃった」

「う……喜んでいいのかどうか……」

 

 

 人が自分より緊張してると冷静になるってやつだ。

 

 情けない姿を見せた事を不甲斐なく思っていると、凍夏ちゃんは顔を上げてから言葉を続ける。

 

 

「出久はガチガチで言葉を震わせてても、ちゃんと返事をしてくれて、私を気遣って身体を見ないようにしてくれた」

「それは、まあ……」

「近くに寄って、逞しい背中を見て……とっても格好いいって思って」

「…………」

「抱きつきたい衝動に駆られて、でもはしたないと思われたくなくて、身体を洗う建前で、触れたかったの」

 

 

 そう告げた凍夏ちゃんは僕の胸板に触れて、感触を確かめるように撫でてきた。

 

 少しくすぐったさを感じながら、されるがままになる。

 

 

「出久に抱きしめられたいって、出久に触ってほしいって、出久の身体を洗いながら、ずっと思ってたんだよ」

「そ、そう、なんだ」

「うん……だから、謝らなきゃいけないのは私の方」

「え?」

 

 

 疑問符を上げれば、凍夏ちゃんは少しだけ表情を暗くしている。

 

 

 

「ごめんね。私が無理を言ったから、出久に負担をかけちゃった」

「っ……」

 

 

 

 謝る凍夏ちゃんを見て、心が痛んだ。

 

 

 ……違う。こんな事を言わせたい訳じゃ、こんな顔をさせたい訳じゃないのに。

 

 

 彼女と一緒に、笑っていたいと思ってる癖に。

 

 

 二人きりの今、自分の羞恥心に負けた程度で、この子の笑みを曇らせるつもりか、僕は。

 

 

 その先は言わせない。どんな手を使っても止めてやる。

 

 

 

「恋人になれたからって、自分の気持ちばっかり押し付けて……私、全然出久の事を考えてない――」

 

 

 

 これ以上、僕のせいで凍夏ちゃんに暗い気持ちを抱かせてなるものか。

 

 

 俯きそうな彼女の頬に手を当て、無理矢理顔を上げさせて。

 

 

 

 

「え、いず――――んむっ!?」

 

 

 

 

 凍夏ちゃんの口を、僕の口で塞いだ。

 

 

 

 目を見開いて驚く彼女は、少しだけ抵抗するかのように動いたけど。

 

 

 優しく頭を撫でてあげれば、すぐに大人しくなり、目を瞑ってくれた。

 

 

 そして、口を塞ぐだけのキスから、少し、先に進む。

 

 

 小さく開いている凍夏ちゃんの唇の内側に、ちょっとだけ舌を当てる。

 

 

 ビクッと震えた彼女は、ほんの少しの躊躇いの後……僕の舌に、自らの舌を触れさせた。

 

 

 ぬるぬるざらざらした未知の感触に、しかし気持ち良さを感じながら、お互いの舌を絡め合って。

 

 

 僕からゆっくりと、口を離した。

 

 

「ぷはぁっ…………いずく……?」

「凍夏ちゃん」

「え……きゃっ」

 

 

 とろんとした顔で首を傾ける凍夏ちゃんを、胸の中に抱きしめる。

 

 

 同時に豊満な身体が押し付けられるけど、今は気にしない。

 

 

 

「これで、僕は君に触れたし、抱きしめたね」

「な……なんで……?」

 

 

 

 嬉しそうで、少し戸惑いながら見上げる彼女に、火照ってきて熱い顔で笑いかける。

 

 

 

「凍夏ちゃんがしたい事は、僕がしたい事でもあるんだって、分かってほしくて」

「っ」

「負担なんてかかってないよ。恥ずかしいだけで、僕も君と同じ気持ちだから」

「出久っ……」

 

 

 

 もう、そんなに嬉しそうな声を出さないでよ。

 

 

 恥ずかしさより嬉しさが勝って、もっと本音を溢してしまうじゃないか。

 

 

 

「不安にさせて、暗い顔をさせてごめん。僕は、君に笑っていてほしいんだ」

「っ――――うんっ」

 

 

 

 滅茶苦茶クサイ台詞なのに、凍夏ちゃんは潤んだ瞳で抱きしめ返してくれた。

 

 

 こんなにも愛らしい、最愛の女の子。

 

 

 僕も、抱きしめる力を強めて。

 

 

 それから、彼女の耳元で、心を込めて囁けば。

 

 

 

「大好きだよ、凍夏ちゃん」

「私も、大好きっ」

 

 

 

 凍夏ちゃんは、幸せそうな笑顔で返事をしてくれた。

 

 

 

 お互いへの愛を確かめあった、お風呂場での一時。

 

 

 とても大切な、二人だけの時間。

 

 

 後で思い返せば、死ぬほど恥ずかしくなると思うけど。

 

 

 それも含めて、凍夏ちゃんとの思い出だ。

 

 

 

 ……まあ、この後二人してのぼせたせいで、お母さんたちに生暖かい視線を向けられながら看病される事になるんだけど。

 

 

 




○おまけ


「お父さん、入るよー」
「……ああ」

 おにぎりなどの軽食を片手にした冬美は、父親の部屋を訪れていた。
 和室の部屋の中には、パソコンを前に作業をしている炎司の姿がある。

「はい朝ご飯。凍夏は出久くんとクールダウンするって」
「そうか、済まんな」
「いーえ。お昼は顔出すの?」

 冬美が何気なく問えば、炎司は微妙に眉を下げてから首を横に振る。

「……いや、昨日の今日で凍夏の機嫌を損ねるのもな……また一人、部屋の隅でパンの耳を齧るのは勘弁だ」
「あー……昨日は引子さんとお母さんが凍夏に代わって有言実行したからねぇ……」

 遠い目をする父親に、冬美は苦笑いする。

 表彰式でやらかした炎司は、帰ってきてから母親二人組に正座させられながら怒られたのだ。
 年頃の娘の前であれは無いだの、昔から炎司さんはデリカシーが無いだの、怒濤の勢いだったのを冬美は見ている。
 結果、凍夏が言った庭の隅でパンの耳の刑が科される事になった。
 青い顔の父を不憫に思った冬美のフォローにより、部屋の隅になったのはせめてもの救いか。
 部屋の隅でもそもそとパンの耳を食べる炎司に、出久が顔を引きつらせていたりして。
 そこにNo.2ヒーローの威厳など欠片もなかったと、後に彼は勝己へ語る。


 それはさておき。


 作業が終わったらしい炎司は、軽く首を回していた。

「……よし、これで一通りは良いだろう」
「お疲れ様。終わったの?」
「ああ。思っていた程昨日の一件は荒れていないらしい」

 温かい緑茶を飲む炎司の横から、冬美がパソコンの画面を覗く。
 そこにはエンデヴァー事務所とのやり取りがあり、各所への根回しについての指示が書かれていた。
 何の話かと言えば……凍夏と出久の関係についてである。

 全国放送で口付けをした二人には、意外にも讃える声が多数ではあったのだが、不純異性交遊だと非難する声も多かった。
 将来的に国民を守る立場のヒーローの卵が、恋愛にうつつを抜かすのはどうかと思うのは当然とも言える。
 それは雄英高校にも向かいかねない非難で……事が大きくなる前に手を打つ必要があった。

 故に炎司は昨日よりずっと、自らの事務所を通して二人の関係が()()()()()()主旨の説明文を各所に送ったり、雄英と対応の仕方を打ち合わせたりしている。
 本人にも責任があるからと頑張っているのだが……端から見れば親馬鹿や弟子馬鹿にしか見えない光景だったりするのはご愛嬌だ。
 余談になるが、体育祭以降のエンデヴァーのネットにおけるサジェストには「親馬鹿」「弟子馬鹿」などがトップに来るようになり、地味に支持率や支持層が拡大していたりする。

「『最強カップル爆誕! 将来のNo.1ヒーローズか!?』……これ、凍夏に教えたら喜びそうだね」
「かもな……何にせよ、あの二人が契りを結んだのは目出度い事だ」
「お父さんってば、気が早いよ。まだ高校生なんだから……」
「む、そうか……祝いの品でも見繕うつもりだったんだが」
「何それ! お父さんも変な所で抜けてるよね」
「むぅ……」

 ケラケラ笑う娘に、頭を掻く父。
 十年前は考えられなかった家族らしい光景が、轟家では見られるようになった。

「……ともあれ、凍夏と出久の仲に無粋な横槍を入れさせる訳にはいかん。飯を食べたらもう少し対応を詰めていく」
「りょーかい。食器は後で回収しに来るね」
「済まんが頼む」
「違うでしょ、お父さん」
「何?」
「謝るんじゃなくて……ヒーローなんだから、分かんない訳ないよね?」
「……そうか、ありがとう、だな」
「どういたしまして! 頑張ってね!」
「ああ」

 小さく笑った炎司に、冬美は笑顔を返しながら部屋を後にする。


 こんなやり取りも、出久のお陰で出来るようになった轟家の住人たち。

 当の本人には自覚がないが、それだけ皆が彼に感謝していた。

 なのでエンデヴァーは勿論、冬美たちも出久の為なら、協力は惜しまない。

 可愛い娘/妹を任せるだけでなく、出来る事をしてあげよう。

 そんな風に、愛されている出久であった。



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職場体験編
28:休み明け。皆の反応とコードネーム。


 
 感想・評価ありがとうございます。
 この頃よくわからない時間に寝落ちる事が増えた作者は元気です。

 職場体験編スタートです。
 オリ主ちゃんのヒーロー名決定回。
 掲示板の方が進んでませんがその内しれっと更新するのでご了承下さい。


 出久と一緒に轟家で過ごす二日間の休日が終わり、体育祭後初めての登校日。

 雨が降る中をお母さんたちに見送られつつ家を出て、相合傘で二人寄り添って雄英へ向かっていると、色々な人たちに声を掛けられた。

 

「最強カップルだ!」「相合傘してるの可愛い!」「凍夏たんかぁいい」「かぁいい」

「体育祭凄かったな!」「二人ともサインください!」「緑谷きゅんはあはあ」「はあはあ」

「朝から見せつけてくれるぜェーゥグボホォ!!」「汚ぇ!」「何吐血してんだよ」

 

「一気に有名人になっちゃったね……」

「あはは……まあ、覚悟はしてたよ……」

 

 通学路から電車の中まで休む暇がなかった私たち。

 駅などの開けた場所ならともかく、ぎゅうぎゅう詰めの電車内で騒がれるのは流石に辛いものがある。

 

 体育祭でのあれこれで有名になった私たちは、とあるメディアがネットで評した「最強カップル」の異名で知られているらしく、大体その名称で呼ばれてちやほやされた。

 思いの外応援してくれる人が大半で、老若男女問わずたくさんの人たちからエールを貰ったのは嬉しい誤算だ。

 ……時々睨んだり舌打ちしてくる人も居て、少し悲しくなったりもして。

 多くのエールの中で直接何かをしてくる事はなかったけど、少なからず反感を買ってしまう行いだったのが再確認出来てしまったから。

 

 それでも、出久はそんな人たちにも人畜無害の柔らかい笑顔を向けている。

 本当に……ここまで格好いい所を見せて、どれだけ私を好きにさせちゃえば気が済むんだ、この大好きな彼氏さんは。

 一人で悲しいなんて考えている暇があるなら、私も同じぐらい綺麗な対応をすれば良いんだ。

 だからと思い、周りに満面の笑みを向ければ、何故か一斉に顔を逸らされてしまった。悲しい。

 

 

 そんなこんなで応対しながら、人が少ない雄英付近まで来れば、ようやく一息吐ける。

 仕方ないとはいえ、朝からちょっと疲れてしまった。

 

「凍夏ちゃん、大丈夫?」

「ちょっと疲れちゃった。出久は?」

「僕もちょっとだけ。トップヒーローになったらこれが日常になるんだろうし、慣れなきゃね……」

 

 苦笑する出久に、私も小さく笑みを溢す。

 常に将来の事を考えて、糧にしようとする姿勢は彼らしい。

 私も見習わなきゃ、と気合を入れていると、後ろからバシャバシャと誰かが規則的に走ってくる音が聞こえた。

 

「何呑気に歩いてるんだ!!」

 

 続く声に二人で振り向けば、雨の中を全身に雨具を着て走る飯田の姿。

 

「遅刻だぞ! おはよう緑谷君、轟君!!」

「カッパに長靴!!」

 

 そのまま私たちを追い抜いていく彼に、何となく追走する。

 遅刻と言うけど、まだ余裕があるような。

 

「遅刻って、まだ予鈴五分前だよ?」

「雄英生たるもの十分前行動が基本だろう!!」

「あ、そういう事ね」

 

 ヒーロー科の模範であろうとする飯田らしい理由だった。

 雨の中を急いで滑ったら危ないとは思うけど、その為の長靴か。

 どこまでも真面目な友達に、小さく笑ってしまった。

 

 と、そこで走っていた飯田が何故か立ち止まり、こちらを向いた。

 

「そうだ、二人が交際を始めたと聞いたよ。おめでとう」

「あ、う、うん。ありがとう」

「ありがとう飯田。知ってたんだ」

「それはそうだ。というか、知らない人は殆ど居ないと思うが」

「まあ、ね」

 

 うん、ニュースや記事にもなっているのだし、当たり前か。

 でも……飯田が祝福してくれるのは、少し予想外。

 真面目な彼は、ヒーローを目指す者が恋愛にうつつを抜かすなど! なんて言うようなイメージがあったんだけど。

 それを問えば、飯田は小さく笑いながら教えてくれた。

 

 

「確かに一部では不純異性交遊などとも言われていたが、俺は君達の関係をそれなりに深い所まで知っているんだ。交際には何の問題も無いと思っているよ」

 

 

 ――これは、かなり嬉しい。

 つまり、私と出久なら恋人になっても勉学に影響が出ないと、心配は要らないと信頼されてるって事。

 

 本当に、私たちは良い友人を持った。

 

 

「っ……飯田君の信頼を、裏切らないようにするから!」

 

 

 出久も泣きそうな顔になりつつ、力強い笑みを浮かべていたから。

 

 

「うん。私も出久も、これからも変わらずヒーローを目指して頑張るね」

 

 

 私も、同じような笑顔でそう告げた。

 

 

「ああ! 友として仲間として、ライバルとして励んで行こう!」

 

 

 そう言って、改めて走り出した飯田に……ふと、出久から聞いて、ニュースで見た事件を思い出す。

 

 インゲニウムが、彼の兄が敵に襲われた件は、どうなったんだろう。

 

 出久も思い至ったらしく、下駄箱で靴を履き替える飯田に少し躊躇い気味に問いかける。

 

 

「あの、飯田君……その、お兄さんは」

 

「兄の件なら心配ご無用だ」

 

 

 台詞を被せるように言い切る彼は、分かりやすく作り笑顔で。

 

 

「要らぬ心労をかけてすまなかったな」

 

 

 謝罪を述べて、それ以上の追求を拒んでいたから。

 

 私も出久も、背を見せた飯田に声を掛ける事が出来なかった。

 

 

 

 

 小さな不安を残しつつも、今はまだどうしようもないと結論付けて、職員室で反省文を提出しに行く。

 受け取った相澤先生(怪我が治ったらしく、包帯が無くなっていた)は「今後、羽目を外し過ぎないように」とだけ言い、それ以上の説教は無くて。

 冬美姉さんからあの男と共に後処理の打ち合わせをしていたと聞いている私たちは、ただただ感謝を込めて頭を下げた。

 

 

「あ、来たぜ! 最強カップルのお出ましだ!」

 

 

 始業ギリギリに教室に入れば、談笑していた皆が一斉にこちらを向いた。

 その勢いのまま、私と出久の元へ皆が集まってくる。

 男子勢は出久を、女子勢は私を捕まえて周りを囲んできた。

 

「凍夏ちゃんおめでとー!!」

「緑谷から大体聞いたよー!! 恋人になれて良かったね!!」

「あ、ありがとう」

「おめでとう凍夏ちゃん。お似合いで素敵なカップルだと思うわ」

「ウチもそう思う。おめでと」

「え、えへへ、嬉しい」

「轟さん! お付き合いを始めてどういった変化があったのか、私とても気になりますの!」

「私も! 後で色々聞かせてもらうからね凍夏ちゃん!」

「う、うん、分かった……」

 

 勢いが、勢いが凄い。

 芦戸や葉隠はいつもこんな感じだからともかくとして、耳郎や梅雨ちゃんがここまでぐいぐい来るとは。

 お茶子と八百万も鼻息荒いし、正直ちょっと怖い。

 

 

 出久に助けを求めようにも、あちらはあちらで男子に囲まれているから無理だし。

 女子より人数が多い分、あっちの方が大変そうだ。

 今も上鳴と瀬呂に肩を組まれて引き気味の苦笑いを浮かべているけど、大丈夫だろうか。

 

 と、そんな私たちを救うかのようにチャイムがなる。

 流れるように席に着く皆に続き、解放された私と出久もようやく座れた。

 静かになったと同時、相澤先生が教室へ入ってくる。

 

「おはよう」

「「「「おはようございます!!」」」」

「相澤先生包帯取れたのね。良かったわ」

 

 梅雨ちゃんが明るい声で先生の復帰を喜ぶ。

 私たちを守っての怪我だったし、治ってくれて本当に良かった。

 

 ただ、右目の下に傷痕が残ってしまっているのが気になる。

 目に関する個性の相澤先生に、何か影響がなければ良いんだけど。

 

「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。んなもんより今日の“ヒーロー情報学”、ちょっと特別だぞ」

 

 先生の言葉に、教室が緊張に包まれる。

 あれ、何かこういう状況に既視感を感じる気が。

 

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

「「「「胸ふくらむヤツきたああああ!!!!」」」」

 

 

 あ、このパターンか。納得。

 っていうかなんで皆言葉を揃えて叫べるんだろう。やっぱり打ち合わせしてるのかな。

 私も混ぜてほしいのに……誰が主体でやってるのか知らないや。

 後で誰かに聞いてみよう。芦戸とか上鳴辺りに。

 

 ざわめく教室を、相澤先生が個性を使いながら一睨みして静まらせる。

 

「……というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる」

 

 そこから続く先生の話は、父からも知識として聞かされていた事で。

 

 指名が本格化するのは経験を積んで即戦力となる二、三年生からで、一年の今来た指名は将来性への期待や興味のようなもの。

 それが卒業までに削がれた場合、一方的なキャンセルなんて事もよくあるとか。

 大人は勝手だなんて峰田が溢していたが、私からすれば当たり前だと思う。

 そうは居ないだろうけど、貰った指名に満足して胡座をかく人も居るかもしれない。

 指名をハードルとして捉えられず、プルスウルトラ精神を忘れて成長を続けないようなヒーローの卵など、羽化出来る筈もないのだから。

 

 とはいえ、私と出久は卒業した後はエンデヴァー事務所に入る予定なので、あまり関係が無い。

 私たちやあの父親が曲がるとは考えられないので、言ってしまえば今更な話だ。

 

「で、その指名の集計結果がこうだ。例年はもっとバラけるんだが、今年は三人に注目が偏った」

 

 相澤先生が黒板にA組の指名件数のグラフを表示させる。

 内訳は以下の通り。

 

 

 轟 3200

 緑谷 2448

 爆豪 2032

 常闇 380

 飯田 274

 八百万 249

 上鳴 98

 麗日 70

 切島 68

 瀬呂 24

 

 

「にっ、にせんよんひゃくよんじゅうはちー!!?」

「デクの下だァ……!!?」

 

 出久と勝己が、それぞれ驚きと悔しさの混じった叫びをあげる。

 うん、彼に興味を持った2500人近くのプロは良い判断だ。

 私も結構指名を貰ってるけど、それより出久が評価された事が嬉しい。

 

「2位3位逆転してんじゃん」

「色々過激だったからっしょ。そりゃビビるわな」

「あんぐらいで過激とかビビってんなよプロが!!」

 

 爆発頭を更に爆発させるかのように勝己ががなる。

 絶対そういうところだと思うけど、言ってこっちに矛先が向いてもあれだし、黙っておこう。

 

「流石ですわ、轟さん」

「ん、ありがとう。八百万も良かったね」

「ええ……轟さんの十分の一以下ですけれどね……」

 

 たくさんの指名があったのにも関わらず、八百万は何やら重い溜め息を吐いている。

 悔しそうというか何というか、思い詰めている様子、というのか。

 私の3200は親の話題もありきでの結果だと思うし、単純な比較にはならないんだけどな。

 

 一喜一憂するクラスを見ながら、相澤先生が話を続ける。

 

 

「これを踏まえ……指名の有無に関係なく、所謂職場体験ってのに行ってもらう」

 

 

 職場体験。そのフレーズに皆がそわそわし始める。

 名前だけ聞くと楽しそうだけど、要は現場を見て来いって訳なんだろう。

 

「お前らは一足先に経験してしまったが……プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきたァ!」

「まァ仮ではあるが、適当なもんは……」

 

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 

 相澤先生の言葉を引き継ぎ、教室に一人の先生が入ってくる。

 体育祭でもお世話になった、ちょっと過激な女性ヒーロー。

 

 

「この時の名が! 世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね!」

「「「「ミッドナイト!!」」」」

 

 

 そう、18禁ヒーローのミッドナイトだ。

 ちなみに本名は香山睡(かやま ねむり)さんという。可愛い名前だと思う。

 

「まァそういう事だ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう」

 

 俺はそういうのできん、と言いながら寝袋を手に取る相澤先生。

 もしかしなくても、香山先生に丸投げして寝るつもりらしい。

 

「将来自分がどうなるのか、名を付けることでイメージが固まりそこに近付いてく。それが「名は体を表す」って事だ。“オールマイト”とかな」

 

 それだけ言い終えると教室の隅で寝袋に入る相澤先生。

 完全に引き継いだらしく、早くも目を閉じて眠りに入っていた。

 病み上がりで体力が戻ってないのかも。ゆっくりしててください。

 

 

 

 それからフリップが配布され、考える時間が与えられる。

 とはいえ私のヒーロー名は決まっているので、書いてからぼんやりと待っていた。

 

 そして15分程が経過して、香山先生が口を開く。

 

 

「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!」

 

 

 先生の言葉に、なにやらクラスがざわめき始める。

 何のざわめきかと考えている内に、トップバッターの青山が前に立つ。

 

 

「行くよ。輝きヒーロー“I can not stop twinkling”」

「「「短文!!!」」」

 

 

 長めのヒーロー名に、皆からツッコミが入る。

 私は青山のキャラに合ってると思ったけど、あれは駄目な例になるのか。

 

 

「そこはIを取ってCan'tに省略した方が呼びやすい」

「それね、マドモアゼル☆」

 

 

 ホントだ、呼びやすくなる。キャントストップトゥインクリング。

 世間から呼ばれる時は更に略されてしまうかもだけど、良い感じに変えられている。

 流石香山先生。こういうセンスもプロ的なんだ。

 

 ……何故か空気は固まっているけど。どうしたの皆。

 

 

「じゃあ次アタシね! エイリアンクイーン!!」

「2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? 止めときな!!」

 

 

 続く芦戸が発表すると、更に空気が変になった気がする。

 発表しづらい空気というか、誰も行く勇気が無い感じ。

 

 よく分からないけど、私が行っても良いのかな?

 

 

「ケロッ、じゃあ次私良いかしら」

「「「「梅雨ちゃん!!」」」」

 

 

 あ、梅雨ちゃんに先に行かれちゃった。

 

 そして壇上へ向かう彼女に、クラスの皆が勇者を見るような視線を向けている。

 本格的に私だけ何も分かってない空気だ。しょんぼり。

 

 

「小学生の時から決めてたの。フロッピー」

「カワイイ!! 親しみやすくて良いわ!! 皆から愛されるお手本のようなネーミングね!」 

「「「「フロッピー!! フロッピー!!! フロッピー!!!!」」」」

 

 

 皆の雰囲気が明るくなって、フロッピーコールが巻き起こる。

 よく分からないまま、よく分からない状態が終わってしまった。

 ……まあいっか。フロッピー可愛い。

 

 

 それから皆が次々とヒーロー名を発表していく。

 

 切島の「烈怒頼雄斗」に始まり、「イヤホン=ジャック」「テンタコル」「セロファン」「テイルマン」「シュガーマン」「ピンキー」「チャージズマ」「インビジブルガール」など、どんどん皆らしい名前が出されていって。

 

 何となくタイミングを逃した私は、少し考えてから待つ事にした。

 トリを飾りたい訳じゃないけど、残りが少ない方がゆっくり言えるだろうし。

 

 それに……どうせなら、出久と同じタイミングが良いかな、なんて。

 

 その出久も、既にヒーロー名は決めている。

 

 始まりは良くない意味で、最近良い意味に変えられた、あのあだ名。

 

 正直複雑な気持ちではあるけど、出久にとってのヒーロー名なら、あれ以上のものは無いと私も思う。

 

 

 と、その出久が行くみたいだ。

 

 教壇に上りヒーロー名を書いたフリップを出すと、皆から戸惑いの声が上がった。

 

 

「緑谷!?」

「いいのかそれで!?」

「一生呼ばれ続けるかもしれねえんだぜ!?」

 

 

「うん。このあだ名、今まであまり好きじゃなかった」

 

 

 穏やかな声で語り始める出久に、教室が静かになる。

 

 

「名前のもじりから始まって、木偶の坊って意味で使われて……でも、雄英に入学した日に意味を変えてくれた人が居たんだ」

 

 

 柔らかい声と表情で一瞬だけ、目をある人に向ける。

 

 すぐに視線を外したけど…相手は言わずもがな、麗らかなあの子で。

 

 

「それが僕には結構な衝撃で、嬉しかった……まるで、今までの僕も肯定されたような気がしたぐらいに」

 

 

 ある意味では私すら否定していた部分を肯定されたみたいな、出久にとって青天の霹靂だった事。

 

 少しだけ彼女に嫉妬を覚えて、それ以上に嬉しさを感じた。

 

 だって、距離が近かった私には出来ない方法で、あの子は……お茶子は、出久を救ってくれたんだから。

 

 大好きな人を助けてくれた、私の大切な友達。

 

 

 

「だから――これが僕のヒーロー名です」

 

 

 

 お茶子が意味を変えた、頑張れって感じの「デク」。

 

 

 未来の平和の象徴となる、最高のヒーローの名前だ。

 

 

 

 

 さて、それじゃあそろそろ私も行こう。

 

 出久と入れ違うように前に出て、フリップを教卓に出しながら口を開く。

 

 

 

「轟凍夏――ヒーロー名は『ヒエン』」

 

 

 

 氷と炎で、氷炎(ヒエン)

 

 半冷半燃をそのままに、名を体に表したもの。

 

 少し地味めかもだけど、良い感じに決めれたと思う。

 

 

「シンプルイズベストって感じね! 個性も分かりやすくて良いわ!!」

「ありがとうございます。幾つかの意味を込めてこの名前にしました」

「そうなの?」

「はい」

 

 

 ヒエン。この名前にはたくさんの思いを込めている。

 

 まず、さっきも言ったように氷と炎。私の個性、私の一部としての名前。

 

 次いで、素早く軽やかに飛ぶ燕……所謂()()のような速さで敵を倒せるように、との意気込み。

 

 

 そして最後に、寒空で泣いてる子を冷えないように……()()()ように手を差し伸べるヒーローになりたい、という信念。

 

 

 ちょっと駄洒落っぽいかもしれないけど、説明した時に笑ってもらえるぐらいが良い。

 

 なんて、少し照れながら説明すれば、皆もうんうんと頷いてくれた。

 

 

「カッコいいじゃん凍夏!」

「そんなに捻ってない感じなのにめっちゃ捻って考えてるセンスが凍夏ちゃんらしいや!」

「将来をしっかり見据えていてグッド! 素敵な名前ね!!」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 

 芦戸やお茶子、香山先生の称賛の声に、表情を崩しながら笑みを返す。

 

 自分の思いを受け入れてもらえて、素直に嬉しかった。

 

 

 

 今日より、私は「ヒエン」となる。

 

 

 職場体験は勿論これから先、ヒーロー関連の活動を行う時は、この名前がヒーローとしての自分を指し示す。

 

 

 暴れる敵から人を守ったり、捕まえるのは当たり前として。

 

 どんなに小さな助けを求める声にも、反応出来るヒーローを目指し、改めて頑張っていこう。

 

 

 そして、次期平和の象徴となる「デク」の隣に寄り添い。

 

 

 二人でどんな困難にも立ち向かい、笑顔で人々を救う――最高のヒーローになるんだ。

 

 

 席に戻る途中、にこやかな表情の出久とコツンと拳を重ね合いながら、決意を新たにしていた。

 

 

 

 







 それから皆のヒーロー名も粗方決まり、残す所一人となる。

「それじゃ、最後は爆豪くんね」
「あァ」

 ずんずんと教壇に上がった勝己は、ダン! とフリップを立て掛ける。

 書かれた名前は……「グラウンド・ゼロ」。


「爆心地! 全ての真ん中にいるって志かしら?」
「俺はオールマイトを越えるヒーローになる。どんなヴィランも俺が中心に倒してトップに立つ」


 ギラついた目で不遜に言い切る勝己。

 態度はどうあれ、上昇志向の彼らしさを表したヒーロー名だと思う。


 ……ただ、正直まともな名前が出てきてちょっと驚いてたり。

 何というか、こう……。


「勝己はもっと暴力的な名前にすると思ってた。爆殺王とか」

((((滅茶苦茶ブッこんできた!!))))

「…………どうせ却下されんだろーが」
「うん、そういうのは止めた方が良いわね」

((((マジでする気だったのか!! てかよく分かったな!!?))))


 皆が凄い顔で見てくるけど、なんだろう。

 ふと出久を見ると、引きつった笑いをしていたので、何か変な事を言ってしまったらしい。

 首を傾げながら勝己を見れば、鼻で笑われてしまった。何故。




 オリ主ちゃんのヒーロー名「ヒエン」と同時に爆豪のヒーロー名「グラウンド・ゼロ」も決まりました。
 堀越先生の初期設定で、他の二次創作でもよく使われている「爆心地」を英語に。
 そのままでも良かったんですが、英語にした方がかっこよかったのでこうしました。
 


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29:行くのはどっち?職場体験。

 
 長らくお待たせ致しました。
 本誌の展開で興奮して死んでたり現実でメンタルが死んでたりしましたが続きます。
 お待たせした割に進みが遅いですがご容赦を。



 

 ヒーロー名決めも無事終わり、もぞもぞと寝袋から這い出した相澤先生から職場体験の説明が引き続き行われた。

 

「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ。

 指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう」

 

 他の人より多いプリントの束を受け取って、話を聞きながらペラペラと目を通す。

 活動地域や得意なジャンルがヒーローによって異なるので、それを加味した上で選べとの事。

 指名表には私も知っている有名な所から、初めて聞くヒーローなどたくさんの事務所の名前があった。

 当然のように並んでいるあの男の名前はさておき、他のヒーローを調べてみるのも楽しそうだ。

 

「今週末までに提出しろよ」

「あと二日しかねーの!?」

 

 相澤先生、重要な事をついでのように言い残していかないで下さい。

 行きたいジャンルを決めてる人はともかく、決めてない人には時間が無さすぎる気がする。

 

 いや、限られた時間で情報を集めて処理するのもヒーローとしての勉強なのかも。

 流石雄英! なんて反応を飯田がしそうだと思ったけど……彼は神妙な顔でリストを見ていた。

 

 少し、嫌な予感がする。

 

 思い過ごしであってほしいけど、こういう勘は当たる事の方が多いから。

 

 手を振りながら教室を後にする香山先生に手を振り返しつつ、私は胸の中に生まれた小さな懸念が気にかかっていた。

 

 

 

 休み時間。

 出久の席付近に集まったお茶子と一緒に、職場体験先についての話をする。

 

「えっ、麗日さんはバトルヒーロー『ガンヘッド』の事務所?」

「うん、指名来てた!」

「対敵系の事務所だけど、良いの?」

 

 ガンヘッドと言えば多くの敵を取り締まっている対敵の強力な武闘派ヒーローだ。

 お茶子の目指している13号先生のような、人命救助中心ではないと思うけど、どういう心境の変化だろう。

 

「良いの! ……こないだの爆豪君戦で思ったんだ」

「あぁ?」

 

 彼女の言葉に、前の席で指名の束を捲っていた勝己が軽く後ろを振り向く。

 あ、No.4ヒーローのベストジーニストから指名が来てる。

 

「強くなればそんだけ可能性が広がる! やりたい方だけ向いてても見聞狭まる! ってね! 次に爆豪君とやる時は勝てるぐらい強くなるよ!」

「はっ、上等だ丸顔。何度やろうが俺が勝つわ」

「呼び方が戻ってる!? 麗日ですぅー!」

「丸顔じゃねーか」

「マジトーン止めて! てか人の身体的特徴であだ名付けるとか小学生か!」

「誰が小学生だゴラァ!!」

「勝己、そういう所」

「黙ってろ半分女ァ!!」

 

 私も呼び方が戻ってしまった。

 体育祭の時は名前で呼んでくれたのに、ちょっと残念。

 いや、別にコイツから積極的に名前で呼ばれたい訳じゃないけど。

 

 そのままぎゃいぎゃいと言い合いを始めた勝己とお茶子を横目に、私は苦笑している出久とリストを見せあいっこする。

 

「出久も、色んな所から来てる」

「そうだね。都市部から地方まで沢山頂いてる。戦闘がメインの事務所が多いけど、救助方面の事務所も結構あるかな」

「良かったね」

「うん」

 

 体育祭での出久は超パワーの派手さに目が行きがちだったけど、力がある個性というのはそれだけで様々な方面に役立つ。

 倒壊した建物の瓦礫を退かせたりは勿論、怪我をした人を力強く支えて運べる。

 

 それこそ――いつかテレビで見たオールマイトのように。

 

 人を助けるヒーローになる為の歩みを着実に進めている今、救助系のヒーローの目に留まったのは嬉しい事だ。

 

「……んんっ」

 

 と、私のリストを捲っていた出久が変な咳払いをした。

 

「どうかした?」

「い、いや……凍夏ちゃんも幅広い事務所から来てるなー、って」

「うん。出久と一緒のとこが多いよ」

「敢えて言葉を濁したんだけどな……!」

 

 顔を押さえて呻く出久に、首を傾げる。

 確かに私と出久の指名のうち、同じ事務所からのものが結構来ている。

 でも、これは別に恋人がどうとかじゃなくて、勝己を含めた指名数が多い三人に注目が偏った影響の一つだろう。

 私と勝己に入れた所も、出久と勝己に入れた所も同じぐらいある筈だし。

 

 それぐらい、普段の出久ならすぐに思い至るのに……どうやら、全国カップル認定のフィルターが思いの外強くかかっているようで、まだ気づいていないらしい。

 まあ彼が私を意識してくれているのが嬉しいので、構わないんだけど。

 

 

 それに、どれだけ多くの指名が来ていても、行くところは決めている。

 五十音順に並んだリストで最初の方にある見慣れた名前。

 この間全国放送で恥を晒して、世間に馬鹿さを認知された男。

 No.2ヒーローで、努力の名を持つ父親……エンデヴァー事務所が、私と出久の職場体験先だ。

 

 アイツの事だ、付きっきりで色々な経験を積ませようとするに違いない。

 

 正直、一週間も父親と行動を共にするのは物凄く嫌だけど。

 

 正式にトップヒーローのノウハウを学べる、またとないチャンスだから。

 

 多少の我慢は必要経費として、積極的に学んでいこうと思う。

 

 ……うん、出久も一緒だし、きっと乗り切れる。

 

 大丈夫。頑張れ私。ファイト。

 

 ……でも、ちょっと憂鬱になってきた。

 

 こういう時は、出久に甘えて安らごう。

 

 そう思い、私はふわふわした出久の癖っ毛を撫でながら、少しだけ荒れた心を癒していた。

 

 

 

 

 それから放課後。

 

「わわ、私が独特の姿勢で来た!!」

「ひゃ」

「わ」

 

 帰ろうとしていた私と出久の前に、体育祭前の飯田みたいなポーズのオールマイトがスライディングエントリーしてきた。

 滅茶苦茶汗をかいているけど、そんなに急いで何があったんだろう。

 

「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて……」

「ちょっとおいで、緑谷少年……轟少女も」

「? 分かりました」

 

 言われるがままに付いていき、人気のない廊下へと足を運ぶ。

 

「二人とも、多くの事務所からオファーが来ていたね」

「は、はい。ありがたい事に……」

「良かったね……そ、それでだ。追加でもう一人、君たちに指名が来ている……」

 

 微妙に震えながら告げるオールマイト。

 わざわざ一人増えたぐらいで彼が話に来るのだから、何か理由があるんだろう。

 けど、この何とも言えない雰囲気は……怯えて、いる?

 

「その方の名はグラントリノ。かつて雄英で一年間だけ教師をしていた……私の担任だった方だ」

 

 グラントリノ、そんな人が居るのか。

 けど、雄英の教師をする程のヒーローなのに、全く聞いたこと無い名前だ。

 出久に視線を向けても首を横に振られたので、彼も知らないらしい。

 

「ワン・フォー・オールの件もご存知だ。むしろその事で緑谷少年に声をかけたのだろう。轟少女は……彼とセットだから、という認識でかな」

 

 成る程、そっちの関係者なのか。

 その人にも、出久と一緒にいるのが当たり前だと思われてるのは素直に嬉しい。

 

「そんな凄い方が……っていうか“個性”の件、知っている人がまだいたんですね」

「グラントリノは先代の盟友でね……とうの昔に隠居なさってたので、カウントし忘れていたよ……」

「オールマイト、震えが酷くなってますよ?」

「きっきき、きのせいじゃないかなななな……?」

 

 いや、そんなガチガチに震えながら言われても。

 話が始まってからどんどん顔色が悪くなってるし、明らかに怖がっているように見える。

 No.1ヒーローがここまで怯える人物なのか、グラントリノ。

 

「わわ私の事は置いといて、本題なんだけど……出来れば緑谷少年には、職場体験でグラントリノの所を選んでほしいなーって……思うんだけど……」

「う、うぅん……」

 

 ああ、そういう話だった。

 出久的にはオールマイトの先生に教わるなんてレアな機会は逃したくないと思うし、(一応)師匠からの頼みだから大分悩んでるみたい。

 

 ヒーローとしての実績が分からないのが不安なのかな、と思っていたら、出久はチラリと私に視線を向けた。

 

「……凍夏ちゃんはもし僕がこっちに行ったら、一緒に来る?」

「? うん、勿論」

 

 だって、オールマイトの先生には私も興味がある。

 感覚派の彼に教育出来るぐらいだから、教育者としての能力は高い人だと予想している。

 あそこまで怯えられるぐらいだから、かなりのスパルタ先生なんだろう。

 隠居しているらしいので、プロヒーローの事務所としては得られる経験は少ないかもしれない。

 だとしても、平和の象徴を作り上げる一端を担った人なら、私たちにとって十分貴重な時間になりうると思う。

 

 ……うんまあ、一人で父親の元に行きたくないっていうのも大きいんだけど。

 

 最後の本音も隠さずに私の意見を伝えると、出久は遠い目になってしまった。

 

「…………僕たち二人ともグラントリノの所に行ったら、絶対炎司さん泣くよなぁ……」

「Oh……」

 

 エンデヴァーが泣く、と聞いてオールマイトが何とも言えない表情になっている。

 私も中年ガチムチ親父が泣いてる所なんて想像したくない。きもい。

 

「アイツの事なんて、気にしなくていいよ」

「凍夏ちゃんはもうちょっと気にしてあげて。けど、本当にどうしようか…………」

 

 難しい顔で首を捻る出久。

 どちらにも行きたいけど、どちらかにしか行けない、そんな状況。

 エンデヴァーの一番弟子としての立場と、オールマイトの後継者としての立場が彼の中でせめぎあっているみたいで。

 

 

 出久の負担を減らせるように、私も何か手がないかと考えてみる。

 

 オールマイトとエンデヴァーの双方の顔を立たせられて、出久も納得出来る打開策を。

 

 いや、現実問題として職場体験は一つの場所にしかいけないのは分かってる。

 

 一番良いやり方が私と出久が別々に分かれて、後にそれぞれの経験を擦り合わせる方法で、それを提案したくないのが我儘なのも。

 

 エンデヴァーの元に一週間も一人でいるのは相当なストレスになるけど、終わりが見えているなら耐えられなくはない。

 

 ああ、どうにかして二つの事務所に一緒に行けたりはしないかな……………………あれ?

 

 

「出久、出久」

「ん、どうしたの凍夏ちゃん」

「こういうのは、どうなんだろう?」

 

 

 思い付いた案を、出久とオールマイトに話してみる。

 

 私の話を聞いているうちに、二人は目から鱗といった様子で目を見開いて。

 

 

「……そうか。それなら確かにいけるかも……!」

「ちょ、ちょっと待っててくれ! 相澤君に確認してくるから!」

「お願いします!」

 

 

 慌てて走っていくオールマイトの背中を見送る。

 

 前例はないかもしれないけど、殆ど旨味しかない話だから間違いなく許可はおりる筈。

 

 そしてこの案が実現すれば、私たちにとって大きな利益になる。

 

 何より、出久と分かれずに済むのは大きい。

 

 

「大丈夫だったら、僕から炎司さんに連絡するね」

「あ、待って出久。もう一つ、良い?」

「もう一つ?」

「えっとね――――」

 

 

 それに加えて、ちょっとだけ我儘を言ってみる。

 

 我儘、というよりこうしたらもっと良いんじゃないか、って話かもしれない。 

 

 こっちはオールマイトとエンデヴァー、それに当事者になる()()()()の同意があれば、問題ないだろう。

 

 私の提案に、出久は少し驚いた顔をしてから。

 

 

「……うん、僕も良いと思う」

 

 

 にっこりと、肯定してくれた。

 

 ()がいれば、きっと出久にもプラスになるからって所まで見透されたみたい。

 

 私の思いを全部分かってくれている優しい笑顔に、同じぐらい想いを籠めた笑みを返す。

 

 温かい気持ちが溢れてきて、堪らず出久の腕に抱きついたら。

 

 人気の無い廊下だからか彼は私を離れさせずに、苦笑しつつも頭を撫でてくれた。

 

 

「それじゃあ、諸々の連絡は凍夏ちゃんにお願いした方が良いかな」

「うん、任せて……ね、出久」

「なあに?」

「楽しみだね、職場体験」

「あはは、だね。一緒に頑張ろう!」

「おー」

 

 

 ゆるい掛け声を上げれば、出久はくすくすと笑っていて。

 

 つられて笑い始めた私の声と合わせて、二人の明るい笑い声が静かな廊下に響いていた。

 

 

 朗報を持ち帰って来たオールマイトに、生温かい視線を向けられるまであと少し。

 

 

 

 

 

 

 

 それから紆余曲折あり、職場体験当日。

 全国各地のヒーロー事務所に散らばる為、新幹線の駅に赴いたA組一同は相澤先生から最後の連絡を受けていた。

 

「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」

「はーい!!」

「伸ばすな「はい」だ芦戸……くれぐれも体験先のヒーローに失礼のないように。じゃあ行け」

 

 元気な返事をした芦戸を含め、大体皆そわそわしていて。

 これから行くヒーロー事務所を楽しみにしていたり、実際に現場を見れる事へ思いを馳せている。

 

 

 ただ、一人……飯田が心配だ。

 

 インゲニウムがヒーロー殺しにやられて以降、雰囲気が固くなった彼に、私はおろか出久やお茶子も何も言えないままで。

 

 聞けば、飯田が職場体験に行くヒーロー事務所は事件があった保須市だとか。

 

 多分、これは偶然じゃない気がする。

 

 どこか遠くを見ているような目の飯田は、解散と同時に自分の乗る駅のホームへ向かっていく。

 

 

「飯田くん」

 

 

 暗い空気を纏う彼の背に、思わずといったように出久が声を掛けた。

 

 

「…………本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ」

 

 

 お茶子もその言葉にコクコクと頷き、不安げな顔を向けている。

 

 

「ああ」

 

 

 振り返った飯田は小さく返事をして、そのまま一人で行ってしまった。

 

 私も何か言うべきだったかもしれないけど、掛ける言葉が見つからなくて。

 

 代わりに、どうか早まらないでと、小さく心の中で祈った。

 

 

 ……今、私に出来る事はない。飯田の心配は一旦置いておこう。

 

 心配そうなままの出久とお茶子に、わざと明るい声で話しかける。

 

 

「そろそろ行くね」

「……っと、私も! 頑張ろうね、デク君、凍夏ちゃん!」

「……ん、頑張ろう麗日さん! 凍夏ちゃんは()()()()!」

 

 

 二人も雰囲気を変えようとした私の意図に乗ってくれて、ぎこちないながらも普段の様子に戻ってくれる。

 

 三人で軽く手を合わせてから、私たちはそれぞれのホームへと歩き出した。

 

 

 駅に着くと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もう一人のクラスメイトが待っていた。

 

 

「遅え」

「ごめん……それじゃあ行こう、()()

「けっ」

 

 

 大股で先を進む勝己に続いて、私も新幹線に乗り込んだ。

 

 あの男が無駄に張り切って私たちを待っていると思うと、少し……いや、結構憂鬱だけど。

 

 これからの一週間を最高のヒーローになる為の糧に出来るよう、気合を入れていこう。

 

 

 




 色々あってオリ主ちゃんはかっちゃんと共に職場体験へ。
 大体やりたい事は察される展開かもしれない……。


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30:エンデヴァー事務所。模擬戦と説教。

 
 またまたお待たせしました。大分スランプ気味の作者です。
 点と点が上手く線に出来ない感じですが何とか続きます。

 (サブタイトルの説教は、誰が誰にするかは言ってない)
 


 一つの仮定の話。

 

 ある地域に二つのヒーロー事務所があったとする。

 片方が主に救助系の個性が集まった事務所で、もう片方が対敵重視の戦闘タイプが多い事務所。

 方向性が違う故に仕事の取り合いになる事もなく、それぞれの得意分野で活躍していて。

 事務所同士の仲も悪くなく、盛んに交流してヒーローとしての質やレベルを上げている。

 両事務所のヒーローが居れば、おおよそ対応できない事態はほぼ無いと言える程優秀な集まりだった。

 

 そんな二つの事務所にそれぞれ、ヒーロー科の生徒が職場体験へとやって来る。

 普段からタイアップしている双方のヒーローたちは、その時も変わらず交流していた。

 結果、職場体験に来ていたヒーローの卵は二つの事務所のノウハウを教えてもらえる事になって。

 一粒で二度美味しい……なんて言えば安っぽいかもしれないけれど、事実として生徒たちはかなりの得をしたと言える。

 

 

 さて、この話を踏まえた上で一つの題を問い掛けよう。

 上の状況はあくまでも偶然の産物で起こったもの。

 なら、あらかじめ打ち合わせた二つのヒーロー事務所が職場体験に来た生徒たちに合同で教えるのは有りか無しか。

 答えは有り。相澤先生からの回答なので間違いない。

 事務所へのメリット如何やら双方への中継ぎやらを生徒自身が出来るなら、という前提は付くが、それさえ可能なら構わないとの事。

 コネや交渉を駆使して有利な場を作るのは将来的にも使える技術なのだから、積極的にやって良しと推奨さえされた。

 

 長々と話したけれど、結論として。

 

 私がエンデヴァー、出久がグラントリノの元へ行って、後ほど事務所同士で合流するという案が無事に決行されたのだった。

 

『――そんな訳なんだけど、良かったらこっちに来る?』

『行かせろ』

 

 ついでに言えば、余ったエンデヴァー事務所枠で勝己を誘ったのも私だったりする。

 出久も「勝利の権化であるかっちゃんなら、多少癪に触れても強くなれる機会を逃す筈がない」と言っていたので、聞いてみれば案の定食い気味の即答だった。

 うん、勝己のそういう所は私も好ましく思う。

 それを態度に出せば、舌打ちと睨みしか返ってこないだろうけど。

 

 後、エンデヴァーは勝己を誘う事にかなり乗り気らしく、嬉々として許可を出した。

 アイツの考えは何となく分かる。分かりたくもないのに。

 まあ、あの男の事はどうでも良い。

 

 

 斯くして無事に、職場体験へ挑む事になった訳で。

 

 出久はグラントリノ事務所に着いている頃だろうか……なんて思いを馳せつつ、私はある建物を前にして溜め息を吐いていた。

 

 

「…………もう着いちゃった」

「どんだけ嫌がってんだテメェは……」

 

 

 隣に居る勝己から呆れたような声が聞こえるけど、勘弁してほしい。

 

 私としてはここ――エンデヴァー事務所なんて、好んで来たい場所じゃないんだから。

 

 ともあれ、ぐだぐだしてても仕方ないのも事実。

 

 さっさと覚悟を決めた私は、職場体験の門を叩いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 勝己共々到着した事を事務員さんに伝えると、早々に代表室へと案内される。

 

「よく来たな凍夏、爆豪君。歓迎しよう」

「ヒエンです。職場体験なのでヒーロー名で呼んで下さい。それと格好つけなくていいです」

「む、むぅ……」

 

 腕を組んで威厳を出そうとしているポーズで待っていたエンデヴァーに率直に口撃を飛ばせば、途端にしょんぼりし始めた。

 これぐらいで落ち込まれても鬱陶しいだけなんだけど、どうしろというのか。

 あ、塩対応の私が珍しいのか、勝己がギョッとしてこっちを見てる。

 

「私、この男の前だといつもこんな感じだから」

「…………お、おう」

 

 満面の笑みを作って勝己にそう言えば、いつもの勢いはどうしたのかってぐらい控えめな返事が返ってきた。

 ついでにアイツに同情の眼差しも向けてる。別に要らないのに。

 

 

 微妙に居たたまれなくなった空気を誤魔化すように、エンデヴァーは咳払いをしてから話し始めた。

 

「……とりあえず、職場体験は出久の体験先の事務所と合流してから本格的に始める。午後には来る予定になっているのでそれまでは事務所内で待機する」

「はい」「っす」

「とは言え待っているだけでは時間の無駄だ。ヒーローについての細々とした講義をしても良いが……うむ、お前たちなら既に学習しているか」

「はい」「っす」

 

 私たちの淡々とした返事に目を閉じたエンデヴァーは小さく頷き、ならばと言葉を続けた。

 

「ヒエン、グラウンド・ゼロ。トレーニングルームへ行くぞ。この俺が直々に指導してやる」

「っ……!」

 

 不敵(私的にはウザい)に言い放たれた内容に、勝己が口元を吊り上げ、目をギラつかせた。

 ある程度分かっていた事だけど、こうして相対していると改めて理解出来た。

 

 エンデヴァーと勝己は、似た者同士だ。

 

 ただただ上を見て己を高めて、周りを気にせず自らの評価を以て前に進むタイプ。

 

 丸くなったとは言え、エンデヴァーもその根本は変わっていない。

 

 だからこそ、勝己を職場体験に呼ぶ事に積極的だったのだろう。

 体育祭で見せた自尊心の高さや絶対的な自己が、昔の自分に重なったのかもしれない。

 私としても、好敵手に成り得る勝己を強くしてくれるのは有り難い話だ。

 

 

 事務員さんに案内された更衣室で戦闘服に着替えてから、勝己と一緒にトレーニングルームへ向かう。

 地下に作られたそこに着けば、エンデヴァーがわざわざ仁王立ちして待っていた。

 

「さて……まずはグラウンド・ゼロ、かかってこい。初動でどの程度動けるのか見ておきたい」

「はっ、俺がスロースターターなのは知ってるってか」

「私が教えた訳じゃないよ」

「んなこたぁ気にしとらんわボケ」

 

 軽く柔軟しながら答える勝己。ボケじゃないし。

 態度の大きさがホントにエンデヴァーそっくりだ。もう私の代わりにアイツの息子になればいいのに。

 それで私は引子さんの娘になる。勿論出久のお嫁さん的な意味で。

 

 あ、そういえば私は嫁入りするつもりでも、出久がどう考えてるのかは知らないや。

 婿入りでも嫁入りでも構わないけど、出来れば嫁入りが良いな。

 どうしてかって言えば……うん、緑谷の名字になりたいからです。

 私は出久のものって感じが強くなって、考えるだけで凄く幸せな気持ちになる。

 

 

 緑谷、凍夏。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ………………一人で妄想して、一人で赤くなってどうするの、私。

 

 

 う、うん、一旦忘れなきゃ。

 

 

 ともかく、勝己は楽しそうな顔してるし、横から突っ込むのは止めてあげよう。

 

 No.2ヒーローの胸を借りて、自分がどこまで出来るかを確認しに行くんだから。

 

 

 

 

「この部屋は頑丈に作ってある。換気も良好だから酸欠の心配もない……故に、遠慮なく来るがいい」

「ああ。んじゃまあ――――死ねェ!!」

 

 

 その言葉と同時、戦闘が開始する。

 勝己は両手の爆破で勢いをつけてエンデヴァーに突撃する。

 

 

閃光弾(スタングレネード)!!」

「むっ……!」

 

 

 そう見せかけて、ある程度距離を詰めてから目眩ましをした。

 軽く手をかざし目を細めて状況を注視していると、勝己が突っ込んだ勢いのままエンデヴァーの後ろへ回り込んでいるのが見えた。

 私の時もそうだったけど、相手の視界を奪ってからの強襲が好きなのかな。

 

 戦闘としては合理的だけど、何となくみみっちい戦い方だとちょっと思ってしまった。

 

 そのまま後ろから右の大振りを食らわせようとした勝己。

 しかし、その腕をエンデヴァーがノールックで掴んだかと思えば。

 

 

「ぬぅん!」

「ぐっ!? がはっ……!」

 

 

 そのまま背負い投げの要領で、床に叩きつけられてしまう。

 うん、そうなると思ってた。

 けど、戦闘に対してはかなりクレバーな勝己がそんな事も分からずに突っ込む筈はないんだけど……

 

 

「狙いは悪くないが、甘い。その動きは体育祭で凍夏にも避けられているだろう」

「っづぅ…………」

()()()()()()()、娘に出来て俺に出来ないとでも? 舐められたものだな」

「……舐めちゃ、いねえよ!!」

「!」

 

 

 あ、倒れた状態から近距離の大火力爆破を撃った。

 エンデヴァーも一瞬で反応して、炎の壁で受けきる。

 むぅ、やっぱり瞬間的な火力や炎の展開はまだまだアイツの方が上だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けど、総合的な強さは流石にNo.2ヒーローには届かないか。

 

 煙幕があるうちに距離を取った勝己はすぐに両手の爆破で飛んだかと思えば、手を交差させて爆破しながら回転を始める。

 ってあれは、私との戦いで出した最大火力を撃つ技!

 まだ身体が温まり切ってないだろうに、もう使うのか。

 格上相手だから遠慮無く、というか一気に畳み掛けるつもりらしい。

 

 

榴弾砲(ハウザー)、着――」

 

 

 そして必殺技が放たれようとした、次の瞬間。

 

 煙の中から飛び出したエンデヴァーが、勝己の腹へ拳を振り抜いた。

 

 

「甘いと言っとろうがぁ!!」

「っおごぉっ!!?」

 

 

 うわ、容赦無いというか……滅茶苦茶痛いやつだ、あれ。

 鳩尾にクリティカルヒットしたから胃の中のものは全部出てくるだろうし、暫くまともに息も出来なくなる。

 今がお昼前なのが、不幸中の幸いかな。

 

 口から胃液を吐きながら吹き飛ばされた勝己は壁に衝突して、床に崩れ落ちる。

 まともに立ち上がれず嘔吐を続けるあいつに、エンデヴァーは歩み寄っていく。

 

 

「同年代なら凍夏や出久にも匹敵する実力なのは認めている……だが、トップヒーローを相手にするならば、動きに隙が多すぎる」

「ぅぅぅ…………!!」

 

 

 えずいたままの勝己は、その言葉に悔しそうに顔を歪める。

 

 

「癖になっている右の大振り。爆破する動作の予兆。相手が対応出来ないだろうという動き方の読みやすさ。一流以下ならば通じようが、今のままでは超一流には届かん」

「っ…………!!」

 

 

 ……アイツの言いたい事は分かる。

 高い理想があるならそれなりの実力では駄目だと、戦闘の癖は直さないと駄目だと伝えているつもりなんだろう。

 

 だけど、ちょっと待って。

 

 

「高校一年にしては仕上がっていようとも、オールマイトを越えるヒーローになるならば――――」

 

 

 ――言い方に、幾らなんでも遠慮が無さすぎるでしょうが。

 

 

「れいとうぱーんち!」

「ぬごぉっ!?」

 

 

 暴言の嵐を投げつけているエンデヴァー(バカ)の背後へ忍び寄り、後頭部に氷を纏った右手をゆるい掛け声と一緒にグーで叩き入れた。

 それなりに本気で殴ったから、大分痛いと思う。

 

 頭を抑えて膝を突いたダメダメな父親をスルーして、踞ったまま唖然としている勝己へと近寄る。

 

「大丈夫? 立てる?」

「っ…………その言い方、止めろやクソが……心配要らんわ……」

「そう。ならもうちょっと休んでて」

 

 いつもと変わらない調子の勝己を大丈夫そうだと判断した私は、くるりと振り返る。

 

 その瞬間から蔑んだ目と凄んだ笑みを顔に貼り付けて、こちらを涙目で睨む髭燃やし中年男に視線を合わせた。

 

「な、何をする凍夏……!」

「こっちの台詞です。模擬戦闘に関しては別に口出しする気はありませんし実際何も言うつもりは無いですけど、実力を計る段階で不用意な言葉の刃で無駄に心を折りに行く意味が分かりません」

「俺はただ事実を述べただけだ!」

 

 …………ふぅん、まだそんな事言うんだ。

 

 これは、徹底的に分からせないと駄目かな。

 

 

「そういう遠慮の無い言い方はせめて身内だけにしろって言ってますよね。貴方は昔から人との距離の取り方が壊滅的に下手くそなんですからもっとオブラートに包んでいかないと駄目なんですよこの駄目ンデヴァー」

「うぐっ……」

「そんなんだから下手な接し方でファンサービスをしようとして子どもに泣かれて女性や子どものファン層が減ってアンチに叩かれたりするの分かってる? お母さんはそういう不器用な所が可愛く見えるとか時々トチ狂った事言うけど私にはただただウザい。っていうかお母さんは病んだ影響が残ってるとしか思えない。人とのコミュニケーションについては私も褒められるレベルじゃないけどその私から見ても酷い。そもそもこの前の体育祭でもそうだけど――――」

 

 

 この際だからと、日頃から溜め込んでいるエンデヴァーへの鬱憤を晴らすべく、言いたい事を全部吐き出す。

 年頃の娘に対しての扱いがなってないとか、私抜きで出久とご飯に行くのズルいとか、お母さんとデートするならもうちょっと変装を上手くしろとか、同性だからって出久に愚痴ったりして甘えすぎだとか、引子さんに娘との接し方を相談するのは止めろとか、出久を晩酌に付き合わせるのは止めろとか、冬美姉さんに家を任せっきりにするのはどうなのかとか、夏雄兄さんの様子を見に行くのにお忍びで行くなとか、燈矢兄さんが――――――とか。

 途中から丁寧口調を止めた私に言われたい放題のエンデヴァーがいつの間にか正座の姿勢で俯いていたけど、気にせずクドクドネチネチと続けた。

 

 

 

――――――暫くお待ち下さい――――――

 

 

 

「――――そんな不器用拗らせた所が良いってコアなファンが一定数居るのも知ってるしホークスさんとかその典型だけど彼らみたいな人は少数なんだから…………っと」

 

 小一時間程説教を続けていた事に気がついて、話を止める。

 個人的はもっと続けたいけど、今は職場体験に来ているのだし無駄な時間を増やしてはいけない。

 すっかり縮こまったエンデヴァーを一瞥して、軽く溜め息を吐いた。

 

「時間を使い過ぎたしここまでにするから。ほら、ヒーローに戻って」

「……………………うむ」

 

 凄くテンションが低い。ちょっと言われたぐらいでそこまで落ち込むものなの?

 時間を浪費した事には反省はしてる、けど後悔はしてない。

 

 ローテンションなNo.2を放置して、壁際で座って待たせてしまった勝己へと声をかける。

 

「ごめん。時間取らせた」

「……親子喧嘩は他所でやれや、ボケ」

「うん、次からはそうする」

 

 こっちも妙に疲れた顔してた。本当に待たせてごめん。

 もうお昼に近いし、何かする時間は殆ど無い。

 模擬戦の続きをやるにせよ他の事をするにせよ、ご飯を食べてからかな。

 

「それじゃ勝己、ご飯に行こう」

「あぁ? ……ちっ、んな時間かよ」

「近くの蕎麦屋さんで良い? この辺に来る時に出久と一緒に行くの」

「流れるように惚けんな色ボケ女」

「わ、まだ新しいあだ名を増やすの」

「ウゼェ! どこでも良いからさっさと行くぞクソが!!」

 

 ずんずん先に歩いていくけど勝己、場所知ってるんだろうか。

 その後を追いかける……前に、漸く立ち上がっていたエンデヴァーへ一言言っておく。

 

「それじゃあ、一時間以内には戻って来ますから」

「……ああ、代金は俺名義で領収書を切ってくれて構わん。ヒーロースーツも着たままで良い」

「はい。ではまた」

 

 そう言い残して、今度こそ私はトレーニングルームを後にした。

 

 午後には出久も来るし、蕎麦を食べて気合を入れないとね。

 

 

 

 

「エンデヴァーさん、俺たちもお昼行きましょう」

「…………ああ」

「娘さんも多感な時期ですから、そう落ち込まず!」

「…………ああ」

「ほらほら、ここのお店はデザートの葛餅が美味しいらしいですよ!」

「…………ああ」

 

 

 ……その後、監視カメラで見守っていた事務所の相棒(サイドキック)たちに慰められるエンデヴァーの姿があったらしいけど、私は知らないし興味もなかった。

 

 




●お昼の道中のやりとり。

「勝己、籠手だけ外したら?」
「たりめぇだ。飯食うのに付けとく訳ねぇだろアホ」
「アホじゃないし。次アホボケ言ったらバカツキって呼ぶよ」
「だぁれがバカツキだ殺すぞクソカス!!」
「そこでアホとボケ以外の罵倒を選んでる所がみみっちいって言われる所以だと思う」
「っーーーー!!」
「わ、ヒーローとは思えない凶悪顔だ」
「もうテメェは喋んな黙っとけクソが!!!!」

 意外と仲良し(?)な二人。


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