間違った青春ラブコメの終わらせ方 (富永悠太)
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1話

 駆けつけた俺は部室で雪ノ下と話すことになった。

 

「なぜ来たの?」

 

 その質問にはあえて答えず質問で返す。

 

「学校側がプロム中止を決定したんだって?」

 

「・・・・・・ええ」

 

「そして俺には伝えるなと平塚先生に頼んだらしいな」

 

「今回はあなたにも由比ヶ浜さんにも頼らず一人でやると決めたもの・・・・・・」

 

「ここから巻き変えす案はあるのか?」

 黙ってうつむく雪ノ下を見ながら踏み出すことを決めた。

 

「お前からの依頼な・・・・・・最後を見届けるのは良い、でもその前の諦めたいってなんだよ」

 そう、それはプロムではなくあの水族館の帰りに受けた依頼。

 目を見開く雪ノ下を見ながら言葉を続ける。

 

「今回も諦めるのか?」

 

「・・・・・・それとこれは別よ」

 

「同じだろ。母親に対峙するのは」

 ずっと違和感を覚えていた。

 

「諦めることが前提なんて雪ノ下らしくない。」

 

「私らしくって、あなたが私の何を知っていると言うの?」

 極寒の眼差しで睨みつけてくる。

いつもならひるむが今回だけは譲れない。

 

「お前は軽い挑発に負けて脱衣ゲームですら受けてしまうくらい負けず嫌いだ。

 そういう所は姉の真似でも誰の真似でもなく、紛れも無く『雪ノ下雪乃』のものなんじゃないのか?」

 

「それは・・・・・・」

 

「なんで負けることが前提なんだ。最初から諦めていたら勝てる訳がないだろう?

 押して駄目なら諦めろは俺の座右の銘だ。俺の真似か?」

 

「っ・・・・・・違うわ。比企谷くん、あなたは私の質問に答えてないわ。なぜ来たの?」

 

「もう一つ依頼を受けていたからだ。・・・・・・いつかお前を助けるって、そのいつかが今だと思った」

 

「そう・・・・・・でも」

 最後まで言わせたくなくて勢いで言ってしまう。

 

「なあ雪ノ下、お前の家族のことを教えてくれ」

 

「え?」

 

「お前は嫌かもしれないが、交渉相手が実の親というのはアドバンテージにもなる」

 

「今まで家族の問題だとか心の中で言い訳ばかりして雪ノ下の事情を何も聞こうとしなかったし

 話題にもしなかった。俺たちは肝心なことを・・・・・・色々なことをずっと誤魔化し続けてきたんだ」

 

「それにお前は俺に頼らず一人でと言うけど、俺でも由比ヶ浜でも誰でも使いまくって、成し遂げて

 見せるのが本当の成長なんじゃないのか? ずっとボッチで人を寄せ付けなかったお前が、人を上手く

 使えるというのは何よりも成長の証になると思うぞ」

 

 陽乃さんは俺に頼るのは意味がないみたいなこと言ってたけど、あの人は平気で嘘もつくだろう。

 上手く誘導させられたのかもしれん。あの人の意図はよくわからんからな。

 

「それに最後まで見届けさせたいなら近くに居させてくれよ。遠く離れたところからじゃよく見えねえよ」

 

「ふふ、比企谷くん・・・・・・あなたでもそんな事言うのね」

 

 

 気が付いているか? 雪ノ下。

俺たち奉仕部は個別に依頼を受けるとろくな事にならない。

依頼を受けるなら3人じゃなきゃ駄目なんだよ俺たちは。

 

「春には平塚先生が他校に異動になる可能性が高い。最悪奉仕部は春に廃部になる。

 もしかするとこれが奉仕部としては最後の依頼になるかもしれないんだ。

 最後の依頼を一人でっていうのはずるいだろ、しらんけど」

 と照れ隠しにそっぽ向きながら言ってみる。

「子供みたいなこと言うのね。あきれたわ」

 そう言いながらも今日はじめて雪ノ下はやわらかな微笑みを見せた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「夢か・・・・・・2年以上前のことなのによく覚えているな」

 

 最近、当時を思い出す事が多いせいかあの頃の夢を見る。

確かあの後、家族のことを聞いたんだったか・・・・・・少し胸糞の悪くなる酷くくだらない話を。

 

 雪ノ下とその家族に決定的なミゾが出来たのは、そのくだらない事がきっかけだった。

雪ノ下が小学生の時、有力者だかの家族が集まるパーティーがあった。

そこで酔った勢いもあったのだろうが、雪ノ下さんのお嬢さんとうちの息子を許婚にとかいう話が出た。

そうすると色々な人間が家も家もと言い出して、婚約者候補というよくわからんものに落ち着いたそうだ。

半ば冗談半ば本気のような婚約者候補選びが始まった。

 

 まあほとんどの人間は余興のつもりだったんだろう。

雪ノ下のお嬢さんは2人いる、どちらが良いか別室で自分の子供に選ばせた。

 

 その結果、全員が陽乃さんを選んだ。

 

 そこには葉山も居た。葉山も陽乃さんを選んだ。

結果的にいじめを助長してしまった当時の葉山と雪ノ下の関係を考えると

消去法で選んだだけなのかもしれない。

 

「それでも、俺は選ばない、なにも。」

 みんなの葉山隼人を辞められない葉山が、マラソン大会の時に言っていた言葉を思い出した。

 

「・・・・・・雪乃ちゃんは、また選ばれないんだね」

 花火の時はその言葉の真意がわからず、その後は両親に選ばれなかった妹のことを慮って

言っていたのだと思い込んでいた。

 

 やっと点と線がつながった感じがした。

 

 小学生の女の子には酷な結果だ、プライドの高い雪ノ下は酷く傷ついただろう。

それがあったからこその留学と一人暮らしかと腑におちた

あの母親が高校生の一人暮らしを反対しつつも最後に折れて認めたのは、負い目があったからだろう。

よく考えれば中学生の留学を許した理由もそれかもしれない。

 

 ただそんな事がわかっても交渉の材料には弱かったが、なんとか交渉のテーブルにつくことはできた。

途中あの母親が娘の隣にいる俺の悪評にターゲットをしぼって崩しにかかってきた。

主に悪名高い文化祭、そしてどこから聞きつけたのか修学旅行の嘘告白だ。

 

 やはり平塚先生が言った通り、俺のやり方では本当に助けたい誰かに出会ったとき、助けることが

出来ないのかと自分を呪った。過去の自分の行いがまわりまわって自分に返ってくるなんてな。

 

 誤解も解だと嘘ぶく前に少しでも誤解を解く努力をすべきだったのかと、後悔しても遅い。

 

 そんな時助けに入ったのはなんとあの相模と葉山だ。

 

 俺の悪評は自分の依頼から始まったんだと、全部洗い浚いぶちまけた。

 

 それからも揉めに揉めたが、なんとかプロムの開催にこぎつけることが出来た。

 

 

 

 

 

「明日も早いしもう寝るか」

 

 約束の日はもうすぐそこまで迫っている。




 最後は駆け足になってしまいました。

 かつての敵やライバルが土壇場で味方になり、ラスボスを倒すのは王道ですよね。
相模や葉山が最後に助けてくれる気がします。


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2話

 3月になり、プロム当日になった。すべては順調だった。

公開告白も断られたり、成功したりその度に盛り上がった。

 

 だがある時、3年男子の一人が告白相手にパートナーの女性ではなく

雪ノ下雪乃を指名したのだ。

 

 パートナーの女性も了承してるらしく、応援にまわっている。

 

 そうなると俺も俺もと他の3年男子や手伝いのはずの2年や1年男子まで

半分くらいは悪ノリだろうが、雪ノ下への告白に参加した。

 

 その時葉山が俺をじっと見つめた後、葉山までもが告白に参加した。

会場は盛り上がってはいるが、運営側は困惑の表情をうかべている。

 

 三浦にいたっては顔面蒼白で「隼人、なんで・・・・・・」と崩れ落ちそうになっている。

 

 

 プロムは卒業生のためのイベントだ。

 みんなの葉山隼人が悪ノリを上手く治めるならともかく、自ら参加するなんて誰も想定していない。

 

 一人づつ男子が手を替え品を替え、様々な告白を行うも氷の女王の前に撃沈していく。

 土下座を敢行したり、明らかに受け狙いに走るヤツも居て空気が少しづつ弛緩していった。

 結局、余興の一つで終わりそうという安堵に満ちた空気になりつつも

 最後に葉山が待っている事がいまだ緊張感を持続させている。

 

 

 そうして最後、いよいよ葉山の告白の番になった。

 

 

「あえて『雪乃ちゃん』と昔の呼び方で呼ばせてくれ。

 俺と雪乃ちゃんは幼馴染で、昔はいつも一緒に居た。

 でも小学生の時、俺の行動が発端となって雪乃ちゃんはいじめられ

 最終的に見捨てるような形になってしまった。

 

 その後も俺は雪乃ちゃんじゃなく、陽乃さんを選んだ時もあった。

 でも、ずっと後悔していたんだ。

 

 その後悔から俺は・・・・・・誰も、何も選ばない日々を送ってきた。

 でももう俺は、みんなの葉山隼人を辞める。

 雪乃ちゃんの葉山隼人でありたい。

 

 好きだ。俺と付き合ってほしい」

 

 

 雪ノ下が目を見開き動揺する。

 他の男子にどんな告白を受けても、揺るぎもしなかった表情が崩れかかっている。

 

 そしてほんの一瞬、俺と由比ヶ浜の方を見て、1歩づつ葉山の元へ歩いていく。

 

 ああそうだ。文化祭の時と同じように、俺は眩しいステージには立てない。

あの時のように飛び跳ねるアリーナに混じれず、振られた奴らのように賑やかしにもなれない。

光のある舞台に近づく事すらできない。

結局俺は、隅でただ眺めているだけの傍観者だ。

 

 自分の今の感情がわからない。

 

 

 「葉山くん・・・・・・あなたの告白を受け」

 

 

 

 「待って!」

 突然、由比ヶ浜が声をあげた。

 

 「由比ヶ浜さん・・・・・・」

 「・・・・・・結衣」

 

 雪ノ下と葉山が少し驚いているが、周りもざわついている。

 

 

 「嘘つき!・・・・・・ゆきのんは嘘つきだったんだね」

 

 「・・・・・・」

 

 「ゆきのんは自分の気持ちに嘘をついてまで、全部諦めてヒッキーをあたしに譲るの?

  バカにしないでよ!

 

  あたしはヒッキーが好き!初めて会った時からヒッキーはあたしのヒーローで

  でも本当のヒーローみたいに強くないから、いつもヒッキーは傷ついて・・・・・・

  だからもうヒーローじゃなくて良いから、ただ傍に居て欲しかった!

 

  でも嘘が大嫌いな親友に、嘘をつかせてまで欲しくない!」

 

 「私は比企谷くんのことなんて・・・・・・」

 

 「何とも思ってない?」

 

 「それは・・・・・・」

 

 「あたし引越しの手伝いした時、見ちゃったんだ。

  ディスティニーのスプライドマウンテンのヒッキーとゆきのんのツーショット写真

  なんとも思ってない人の写真を、お金を出して買ったりしないよ・・・・・・」

 

 「違うの!・・・・・・あれは、気の迷いよ」

 

 「うん。あたしが聞いたら絶対否定すると思ってた」

 

 「依存とか気にしてるの?誰にも何にも依存してない人なんているの?

  もし居るならその人はとても強いけど、ひとりぼっちの寂しい人だよ。

 

  ヒッキー・・・・・・あたしからの依頼だよ、ゆきのんに告白して本当の気持ちを聞いてきて」

 

 「・・・・・・由比ヶ浜、ごめん。あと、ありがとうな」

 

 「そっか・・・・・・うん」

 

 「おかげで目が覚めたわ。行ってくる」

 

 「うん。いってらっしゃい」

 

 歩き出す直前に、うつむいた由比ヶ浜の「やっぱ格好良いなぁ」

 というかすれるようなつぶやきは聞こえないことにして歩き出す。

 

 雪ノ下の前に立つ。足が震える。でも、もう逃げられない。

 

 

 

 「雪ノ下、俺は最初お前に俺と近いものを見出していたんだ。

  その完璧な超人性は俺が目指して会得せんとしたものだった。

 

  孤高を貫き、己が正義を貫き、理解されないことを嘆かず、理解することを諦める。

  常に美しく、誠実で、嘘を吐かず、依る辺がなくともその足で立ち続ける。

  その凍てつく青い炎のような、綺麗で悲しいまでに儚い立ち姿に俺は憧れていたんだ。

  そしてそんなお前を守りたいと思っていた。

 

  でも、失望した。幻だったんだそんな姿は。

  『憧れは理解から最も遠い感情だよ』とは良く言ったもので

  勝手に理想を押し付けて、勝手に理解した気になって、勝手に失望した。

 

  事故のことを隠し通していた雪ノ下雪乃を許容できない、自分自身に失望した。

 

  雪ノ下は完璧な超人じゃなかった。

  ただ必死で、姉の影を追ってそう在ろうと、取り繕っていただけだった。

 

  届かない理想を追い求めて、無様に足掻き続ける、負けず嫌いで挑発に乗りやすい

  体力の無いパンさんが大好きな、ただの女の子だった。

 

  でもやっぱりそんな姿も綺麗で、守りたいと思った。

 

  俺達の関係は共依存だとお前の姉に言われた。

  お前は俺に頼り甘え、もたれかかかり

  俺は頼られる事で気持ち良くなり、自分の存在意義を確かめていたと。

 

  ある面では正しい分析なのかもしれない。

  こじつければ悪し様になんとでも説明できる。

 

  でも共依存は仕組みだ、気持ちじゃない。

  感情はロジックじゃないんだ。 

 

  俺達の間には依存心以外、何もなかったのか?

  依存を取り払った時に何も残らないのか?

 

  あの時、スプライドマウンテンでお前が「いつか、私を助けてね」

  そう言った時、俺は雪ノ下雪乃に恋をした。正確には恋を自覚した。

 

  歪かもしれないが、歪なら正せば良い。

 

  その恋が歪だとしても、間違いだったとしても

 

  間違っているなら、何度でも直せば良い。

 

  俺はたぶん、本物が欲しかったんじゃない。

  本物を一緒に見つけに行ってくれる人を求めていたんだ。

 

  俺は雪ノ下雪乃をもっと知りたいんだ。理解したい。

 

  この大切な女の子を守りたい。

  他の誰に任せることなく、俺が守ってあげたい。

 

  それが好きという感情なら、俺は雪ノ下の事が好きなんだ。

 

 

  雪ノ下、俺と付き合ってほしい」

 

   夢中で言葉を紡いでいた。支離滅裂だったかもしれない。

  伝わらなかったかもしれない。でも言いきった。

 

  

 

  真っ直ぐに俺の目を見て、雪ノ下が答える

 

 「たぶん、比企谷くんに甘えてしまうわ」

 

 「由比ヶ浜が言った通り依存自体が悪いんじゃないと思う。

  それを自覚せず、向き合わない事が駄目なんだ」

 

 「私は面倒くさい女よ?」

 

 「面倒くささなら、俺だって負けてねえよ」

 

 「比企谷くん。私もあなたや由比ヶ浜さんに憧れていたわ。

  憧れは理解から最も遠い感情・・・・・・確かにそうね。

 

  理解したつもりで、自分で勝手に決め付けて・・・・・。

 

  私の出来ないことをあっさり出来てしまう

  あなたに嫉妬したり、尊敬したり。

 

  私を守ろうとしてくれるのは嬉しかったけど

  その度にあなたが傷つくのが本当につらくて

  でもその姿がとても愛おしくて。

 

  好きよ。比企谷くん、たぶんずっと前から。

 

  私と付き合って下さい」

 

  「ああ。よろしく頼むわ」

 

  気の利いた事も言えず、雪ノ下を抱きしめる。

 

  そして会場は爆発したような大盛り上がりに。

 

 

  「その、葉山くんごめんなさい」

 

  「いや、勝算の低い賭けなのはわかっていたんだ」

 

  「比企谷、やっぱり俺は君のことが嫌いだ」

 

  「気が合うな。俺もだ」

 

 

 

  「ゆきのん! ヒッキー! おめでとう!」

 

  「由比ヶ浜さん・・・・・・ありがとう」

 

  「ほらカップル成立したら記念写真でしょ?」

 

  「そうだったわね」

 

  「いや、いいだろそれは」

 

  「またヒッキーそんな事言って、本当ひねくれてるなぁ」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 プロムで撮った写真を眺め、懐かしく思いながらタバコの煙を吐き出す。

 

 プロムから程なくして、雪ノ下雪乃は転校した。




 原作を見ているとガハマさんが全力で動かないと
 八幡と雪乃は付き合えない気がします。
 
 葛藤がありつつも親友の背中を押すガハマさんを見れば
 2人も気持ちを吐き出すでしょう。

 ここまでしても大団円にならなそうなのが俺ガイル。
 渡航先生はここからでも1つか2つは波乱を入れてきそう。

 3話で終わる予定が4話くらいまで続くかもしれません。


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3話



 ご無沙汰しております。ちょうど1年ぶりの更新です。すみません。
 なかなか更新できなかった理由は1話と2話を書いたのは13巻が出る前なので
その後だと原作の展開が頭から離れずどうにも難しかった事とHDDがぶっとんでデータが消えたことですね。

 14巻が発売する前に書かなきゃ意味ないよと超特急で書き上げたので色々拙い部分が多いと思います。
 ダイジェスト風でもよろしければご覧ください。


 

 雪ノ下から話があると奉仕部に呼び出された。

 なんとなくいつものようにで定位置に座り、雪ノ下が煎れてくれた紅茶を飲む。

 

「転校することにしたわ」

 

「は?」

 

 何を言ってるのかわからなかった。危なく紅茶を吹き出すところだ。

 

「やっぱり不安なのよ。あなたに依存してるかもしれないとずっと考えながら付き合うことが」

 

 混乱した頭をなんとか平静に保ちつつ雪ノ下の言いたい事を整理するとこういう事らしい。

 

・依存を解消するには物理的に離れるのが1番

・気持ちを確かめるためにも私たちはしばらく離れたほうが良い

・転校を言い出したのは自分からで誰にも強制されてはいない

・転入先は県内の女子高で会おうと思えばいつでも会える

・しかし八幡とは会わない

 

「もちろん由比ヶ浜さん達とは会うわ」

「はぁ、……もう決めたんだな」

 

 本当に面倒くさい女だ。

 でもそんな女に惚れたからには受け入れなきゃいけないのか?

 

 再会は成人式の日だと言う。

 ある意味区切りとしては良いのか?

 

「これから3年近く会わないことになるわ。

 でも2人の想いが変わらなければ、それこそ本物でしょう?」

 

「3年は長いな……」

 

「ええ、長いわ。だからもし心変わりしたら、他の人に惹かれたら遠慮なく付き合えば良いわ。

 私もそうするから」

 

 邪気の無い笑顔で言われたら何も言えない。

 

「由比ヶ浜さんにはもう話してあるの。彼女の助けが無ければあなたに気持ちを伝えることなんて

 できなかった。うまく言えないのだけれど、譲られたような気がするのよ」

 

 俺の目をじっと見つめながら雪ノ下は堂々と宣言する。

 

「これは勝負よ。彼女があなたを振り向かせるか、私が繋ぎとめられるかの」

 

「わかった、降参だ。……成人式の日に会うなら連絡先交換しないとな」

 

「私達、連絡先も交換してなかったのね。順序が滅茶苦茶だわ」

 

「俺達らしいんじゃないか、知らんけど」

 

 なにか異種返しなようなものがしたくて、冗談めいた口調で何度か口にしたセリフを言ってみる。

 

「もし、万が一だがお互い心変わりしたらその時は友達に「それは無理」またそれかよ」

 

「だって私はあなたと友達になりたいわけじゃないもの」

 

「そう、だな」

 

「ええ。そうよ」 

 

 

 こうして俺と雪ノ下は奉仕部で出会ってから1年近く経って、ようやく連絡先を交換した。

 

 

「会えなくてもメールやラインで近況は報告するわ」

 

「電話はどうする?」

 

「そうね……緊急時以外は1ヶ月に1回にしましょう」

 

「了解」

 

 

 そろそろ帰ろうかと連れ立って扉をあけようとすると、雪ノ下がいきなり抱きついてきた。

 

「なっ」

「知ってると思うけど私、負けず嫌いなの。負けさせないで、ね?」

 

 そう言うと唇を塞がれた。

 

 そっと名残惜しそうに離れる。

 

「これは呪いよ。他の人とキスしたら比企谷くんは苦しんで死ぬわ」

 

 照れ隠しに早口で伏目がちにほほを染めてそんな事を言ってくる。

 

「反則だろそれは。色々な意味で」

 

 可愛すぎるその姿を見ながら微笑んだ。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 そして成人式の日。

 ありきたりだが、3年近い時間は長いようであっという間だった。

 

 

 

「その……久しぶりね」

 

「あ、ああ」

 

 久しぶりに見た雪ノ下雪乃はまたさらに綺麗になっていた。

 

「早速だけど、その……答えを聞かせてもらえるかしら?」

 

「俺の気持ちは変わらない。雪乃が好きだ」

 

「私も変わらなかったわ。好きよ八幡」

 

 

 お互い自然と抱きあってキスをしていた。

 

 

「タバコ、吸うとは聞いていたけれど」

 

「嫌か?」

 

「身体に悪いわ」

 

「やめるように前向きに善処いたします」

 

「それ、やめる気ないわね」

 

 

 手を繋ぎ歩き出す。

 

 こうして長い時間をかけて俺達は恋人同士になった。

 

 俺は思い出していた。

 

 『高校生活を振り返って』というテーマの作文を。

 

 奉仕部の部室で再提出の作文を書き直した時、俺は最後にこう書いた

 

「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」

 

 でも今思えば間違っていたって良いと思う。

 何も間違えず生きる事なんてできない。

 

 あの時、作文を書いた自分にこう言いたい。

 

 こんな面倒なやり方でしか答えを出せなかった俺の青春ラブコメはまちがっていたのだろう。

 

 でも間違えたとしても何度でも問い直せば良い。

 

 まちがえるのが青春だ。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「お先に失礼します」

 

「おっ比企谷、今日は早いな」

 

「今日、結婚記念日なんですよ」

 

「そういや去年の今頃だったな。いや結婚式で見たお前の嫁さん美人だったなぁ」

 

 うらやましそうに上司が言う。うらやましいか、やらんぞ。

 

「田中さん。新婚引き止めちゃ悪いですよ」

 

「ああそうだな。お疲れさま」

 

「お疲れ様です」

 

 ナイスアシストだ中村。

 

 

 俺は大学卒業後、とある出版社になんとか採用され編集者になった。

 

 材木座も夢をかなえてライトノベル作家となり、なんの因果かうちの会社から出版している。

 今まではとある先輩が材木座を担当していたが、会社を辞めるため今度俺が担当になることが決まった。

 編集者は結構入れ替わり激しい。その先輩編集者は別の出版社に移るらしい。

 

 それはともかく俺は結婚した。結婚して1年だからまだまだ新婚気分が抜けない。

 

 自宅マンションに着きインターフォンを押し、帰った事を告げる。

 

 出迎えてくれるこの瞬間がたまらなく好きだ。

 

 ガチャっとドアが開く。

 

 

 

 

「おかえり! ヒッキー!」

 

 

 

 

 花が咲くような笑顔で出迎えてくれた。

 

「そのクセ直らないな。もうお前もヒッキーだろ?」

 

「えへへ」と俺の妻がいつものように照れ笑いをする。

 

 俺は1年前、由比ヶ浜結衣と結婚した。

 

 今は比企谷結衣だ。

 

 

「それにしても良かったのか? 洒落たレストランで祝っても良かったんだぞ」

 

「ううん、いいの。おうちで2人きりで祝いたかったし」

 

「そっか」

 

「そうだ」

 

 

 結衣は料理がかなりうまくなった。

 ガハママにそうとう特訓させられたらしい。

 今は安心して食べられる。ありがとうお義母さん。

 

「それに、……来年からは2人きりじゃなくなるし」

 

「え?」

 

「それって、もしかして」

 

「うん。今日病院行ったらおめでただって!」

 

「マジか! あっ大丈夫か? ソファに座ったほうが」

 

「いきなりおおげさだ! もう、まだまだ大丈夫だよ」

 

「そっか……そのなんていったら良いかわからないけどその、嬉しい。ありがとう」

 

「うん。あたしもすごく嬉しいよ! あたしとヒッキーの赤ちゃんだもん。絶対かわいいよ」

 

「お義父さんやお義母さんには報告したのか?」

 

「ううん、まだ。ヒッキーに1番に言いたくて」

 

 可愛いことを言う妻の頭をなでる。

 目を瞑りされるがままになる結衣が可愛い。

 

「あっそういえば病院行く前にゆきのんから連絡きてね。今日本に帰ってきてるんだって」

 

「そうか」 

 

 雪乃とはあれから社会人1年目までは付き合っていたが色々あって別れた。

 

 雪ノ下の家からも俺からも離れて、今はアメリカに渡り仕事をしている。

 

 ある意味、彼女が自立した女性になれた結果なのだろう。

 

「ね、ゆきのんのことまだ好き?」

 

「んなわけないだろ」

 

「たまーにだけど、あたしを1番に愛してくれるならゆきのんの事好きなままでも良いのになって考えちゃうんだ」

 

「あほ。俺がそんな器用な人間なら高校の時あんなに悩まずにすんだろうに」

 

「あはは。それもそうか」

 

なんとなく抱き寄せてキスをする。

 

「お腹さわっていいか」

 

「うん。でもまだ何も変わらないよ?」

 

「……みんなでしあわせになろうな」

 

「うん。愛してるよヒッキー」

 

「俺もだ。……愛してる」

 

 これからも俺は間違う度に何度も問い直し続けるのだろう。

 

 家族と一緒ならたいていの事は乗り越えていけると楽観的になれる。

 

 俺の青春ラブコメはこうしてしあわせな終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 






 なんとか14巻発売前に完結する事ができました。
 前回13巻が出る前に書いた2話あとがきでガハマさんが全力で動かないと
八幡と雪乃は付き合えないと書きましたが、13巻の最後で全てガハマさんに委ねられました。
 ガハマさんが動く状況は完璧に整ったので八雪で終わる可能性が高いと思います。

 ただし原作者様もぶっちゃけ八幡同様ひねくれているので、八雪で本編終わってエピローグで八結ENDとかやるかもと思いつき後半を書きました。
 
 それでも原作は八雪ENDですんなり終わる可能性が高いとは思いますが、個人的には八雪でも八結でもどちらでも良いと考えています。
 どんな終わり方をするのか色々考察して楽しめるのもあとわずかです。
 少しさびしいですね。

 13巻は驚きましたね。ラスボスだと思ってたママのんが八幡にデレてるし。
 あれだと雪乃と付き合うとなっても「比企谷さんなら良いでしょう」ってあっさり認めそうです。

 はるのんが葉山と重度の共依存関係だと暗に示され、変に共依存にこだわる理由がわかり
 雪ノ下家の問題ってのも今まではるのんがさも深刻そうに仄めかしてただけで特に何もなかった。
 はるのんの言動は八幡達と読者に対するミスリードというか、彼女はあくまでかき回す役割だった感じですね。

 これでディスティニーランドで雪乃が「救いたい」って言ってたのははるのん(+葉山)だとわかったけど14巻で決着つくのかな?
 アニメ3期放送時にアンソロとサイドストーリー(14.5巻?)発売だとニュースで見たからそこで補完しそうですね。

 99.9%無いだろうけど夢オチだけは勘弁してほしい!
 気がついたら病院のベッドの上で高一の事故直後に見た夢だったとかね。
 登場人物の名前の多くが回文ばかりなのが夢っぽいとか。
 回文関係ない八幡と小町そして材木座だけが現実でも存在するというオチは嫌だw


 ではお目汚し失礼いたしました。


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