天元突破インフィニット・ストラトス (宇宙刑事ブルーノア)
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第1話『お前の剣は、天を斬り裂く剣なんだよ!!』


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第1話『お前の剣は、天を斬り裂く剣なんだよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の名前は織斑 一夏………

 

俺には両親が居ない………

 

いや、正確に言えば、分からないと言った方が良いかもしれない………

 

俺の両親は、俺が物心つく前に、俺と俺の姉………織斑 千冬を捨てたらしい………

 

以来………

 

俺はずっと千冬姉と2人で暮らして来た………

 

千冬姉は、そんな俺を気遣ってか、俺を鍛えようとしてくれた………

 

でも、まだ幼かった俺には、それが理解出来なくて、千冬姉の事を恨んだ………

 

ある日、千冬姉の稽古に嫌気が差した俺は、千冬姉の前から逃げ出した………

 

けど、行く宛てもなくて、近所をウロウロとしていた………

 

後悔で俯いて歩いていた俺は、前に人が居るのに気づかず、そのままぶつかった………

 

「上を向いて歩け、一夏!」

 

俺がぶつかった相手は、俯いていた俺にそう言って来た。

 

「あ、神谷………」

 

「神谷じゃねえ! アニキって呼べ!!」

 

 

 

 

 

 

それは天上 神谷(てんじょう かみや)………

 

近所に住む、2つ年上の幼馴染だった。

 

 

 

 

 

「俺と神谷は兄弟じゃないし………」

 

「そういう事じゃねえ! 魂のブラザー! ソウルの兄弟って事じゃねえか!!」

 

神谷は………アニキは俺と同じで、両親が居なかった………

 

オマケに俺と違って姉や兄も居ない………

 

本当に天涯孤独だった………

 

でも、アニキは1人で逞しく生きていた。

 

俺と2つしか違わないなんて思えない程、アニキは堂々としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………成程。剣の稽古が嫌で逃げ出したってか」

 

「千冬姉は厳しいんだよ………俺は千冬姉みたいになれないよ」

 

「確かになあ………お前はアイツにはなれねえ」

 

「だろ? アニキだってそう思うよね?」

 

「そう! お前はお前だ! お前にはお前自身の強さがある筈だ!!」

 

「ア、アニキ?………」

 

「一夏! お前の剣は、天を斬り裂く剣なんだよ!!」

 

天を指差し、俺にそう言って来るアニキ。

 

「………如何して?」

 

「俺には分かる! 理由は聞くな!」

 

「説明………できないんだ………」

 

アニキは何時も無茶苦茶だった………

 

でも………

 

不思議と俺は、そんなアニキの言葉が信じられた………

 

何時しか俺は、アニキを本当の兄の様に慕う様になっていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日………

 

千冬姉が、アニキを呼び出した………

 

アニキは近所や学校では、札付きの不良だと思われていた………

 

そんなアニキが俺に近づいているのが許せなかったらしい………

 

千冬姉はアニキに、2度と俺に近づくなと言った………

 

当然アニキは拒んだ………

 

そして………

 

2人は何故か夕日の河原で殴り合いを始めた………

 

自慢じゃないけど、俺の姉さんは強い………

 

篠ノ之 箒って言う幼馴染の姉・篠ノ之 束が開発したパワードスーツ………

 

『インフィニット・ストラトス』、通称『IS』の世界大会………モンド・グロッソで、優勝した事もある………

 

それにアニキよりもずっと年上だし………

 

俺はアニキが負けると思っていた………

 

 

 

 

 

けど………

 

 

 

 

 

アニキはそんな千冬姉と互角に渡り合っていた………

 

ISを使ってないとは言え、千冬姉をあそこまでボコボコにしたのは、アニキが初めてだった………

 

勿論、アニキもボロボロにされていたけど………

 

結局、日が落ちる頃には、2人とも大の字になって力尽きていた………

 

「ヘッ、やるじゃねえか………」

 

「お前こそ………良いパンチだったぞ」

 

そして、そう言いながら起き上がり、ガッチリと握手を交わした………

 

俺はその日、昔の少年漫画の様な光景を現実で目撃する事となった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局………

 

千冬姉はアニキの事を認めたけど………

 

何かあると、兎に角俺を連れ出すんで、何時しか頭痛と神経性胃炎を抱える事になった………

 

連れ出された俺も俺で………

 

色々と大変な目に遭わされたりした………

 

「アニキ! 無理だよ!! 高校生の不良グループを全員叩きのめすなんて!!」

 

「バカ野郎! 無理を通して道理を蹴っ飛ばすんだよ! それが俺達、グレン団のやり方だろうが!!」

 

「でも………」

 

「良いか、一夏! 自分を信じるな!」

 

「えっ?………」

 

「俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ!!」

 

何時もこんな感じで、俺はアニキの無茶に付き合わされた………

 

でも、俺は益々アニキを慕って行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

セカンド幼馴染の凰 鈴音が故郷の中国へ帰国して間も無くの頃のある日………

 

俺は何者かに誘拐された………

 

丁度その日は、第2回モンド・グロッソ決勝戦当日であり………

 

誘拐犯は多分、千冬姉を優勝させたくない連中だったんだろう………

 

アニキと一緒に、色々な奴と喧嘩を繰り広げて来た俺だったけど、流石にこの時ばかりはもう駄目だと思った………

 

流石のアニキも今回ばかりは無理だと………

 

 

 

 

 

でも………

 

アニキは来た………

 

 

 

 

 

「やいやいやいやいやい! 人の可愛い弟分を誘拐するたぁ、ふてえ野郎だ!! この泣く子も黙るグレン団の鬼リーダー! 神谷様が成敗してやるぜ!!」 

 

全身に切り傷や銃傷を負って、血塗れの姿で俺の前に現れ………

 

何時もの様に啖呵を切ってみせた………

 

如何見ても死に体だった………

 

でも………

 

その姿は、俺にはどんなヒーローよりもカッコ良く見えた………

 

結局、その後に駆け付けて来た千冬姉の助けもあって、俺は無傷で解放された………

 

けど………

 

その時逮捕された誘拐犯の1人が、アニキを見て妙な事を口走った………

 

「貴様………天上博士の息子か………」

 

アニキは珍しく驚きを露わにしていた………

 

死んだとばかり思っていた父親の名前が、俺を誘拐した連中の口から出た事に………

 

後で知った話だけど………

 

アニキの父親は、束さんにも匹敵する天才科学者だったらしい………

 

それ以上詳しい事は分からなかったけど………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして………

 

アニキは突然旅に出ると言って来た………

 

理由は、父親を探す為だそうだ………

 

「親父は生きている………そして何かヤベー事に関わってやがる! 息子の俺には………それを知る義務がある」

 

突然の事に俺は戸惑った………

 

必死に行かないでくれとアニキに泣き付いた………

 

その頃には、千冬姉はあんまり家に帰らなくなっていて、箒も鈴ももう居なかった俺には………

 

アニキまでもが居なくなると言う事に耐えられなかった………

 

「バカ野郎! 何時までも俺の背中を追ってんじゃねえ!! お前はお前の道を行く時が来る!! そして! 俺は俺の道を行く時が来たのさ!!」

 

「アニキ………」

 

「ホラよ、一夏。コレ、やるよ」

 

そう言ってアニキは、いつも掛けていたV字型の赤いサングラスを俺に手渡した。

 

「コレ、アニキの………」

 

「忘れるなよ、一夏。お前を信じろ。俺が信じるお前でもない。お前が信じる俺でもない。お前が信じる………お前を信じろ!!」

 

そう言って、アニキは何時もの様に天を指差した。

 

「俺達の道は、何れ天で再び交わる!! それが俺とお前の再会の時だ!! それまで………あばよ、ダチ公」

 

「アニキーッ!!」

 

こうして………

 

アニキは俺の前から去って行った………

 

けど………

 

俺は立ち止まらなかった………

 

立ち止まったら、もうアニキとは2度と会えない………

 

アニキは言っていた………

 

俺達の道は、何れ天で再び交わる………

 

それが俺とお前の再会の時だって………

 

その時までに、アニキに恥ずかしくない様な………

 

立派な男になると………

 

アニキの様な………

 

デッカイ男になると………

 

どんな事があっても、決して挫けない奴になる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………でも、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレが織斑 一夏くんよ」

 

「世界で唯一、男でISを動かしたって言う」

 

「結構………カッコ良いかも」

 

俺に突き刺さる何十人もの女子の好奇の視線………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アニキ………

 

流石にコレはキツイよ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




どうも。
初めましての人は初めまして。
前作を読んでいてくれた人は再びよろしくお願いします。
宇宙刑事ブルーノアです。

前作であるガールズ&パンツァーの二次創作である『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』が一先ず完結し、最終章の全話公開が済むまでの繋ぎも兼ねて、今週から過去作であるこの作品………
『天元突破インフィニット・ストラトス』を投稿させて頂きます。

結構前に書いた作品ですので、今見返すと恥ずかしいところもあるのですが、頭を空っぽにして楽しむには持って来いの作品だと思っております。
ただ、読む人は選ぶかも知れませんが………

第1話はプロローグ的な感じで、一夏の1人称でお送りしましたが、次回からは通常通りの3人称に戻ります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第2話『お、俺を誰だと思ってやがる!!』

※2018年12月9日 午前9時45分追記

うっかりログインユーザー以外からの感想受付をオフにしていてしまいました。

申し訳ありません。

設定し直しましたので、非ログインでも感想を受け付けられます。

ご迷惑をお掛けしました。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第2話『お、俺を誰だと思ってやがる!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インフィニット・ストラトス………

 

通称『IS』………

 

天才科学者、篠ノ之 束が開発したマルチフォーム・スーツ………

 

当初は、宇宙空間での活動を想定した、宇宙開発の為の発明であったが………

 

ISの発表から1ヶ月後………

 

日本を射程範囲内とするミサイル基地のコンピューターが一斉にハッキングされ………

 

2341発以上のミサイルが発射されると言う事件が発生した………

 

この在り得ない事態に、各国は日本の最期を予感した………

 

しかし………

 

その時現れた謎のIS『白騎士』が、全てのミサイルを迎撃した………

 

その後、その『白騎士』捕獲もしくは撃破しようと各国が大量の戦闘機や艦船を送り込んだものの………

 

『白騎士』はそれ等を全て退けた………

 

しかも、1人の人命も奪う事無く………

 

この事件により、ISは世界最強の兵器として認識された………

 

しかし、強大な兵器は世界のパワーバランスを崩す事となる為………

 

ISの軍事利用を禁止する『アラスカ条約』が締結された………

 

現在ISは、スポーツ競技の一部となっている………

 

だが、それでもISが世界最強の兵器であるという事実は変わらない………

 

更に、製作者に如何なる意図が有ったのか不明だが………

 

ISは女性にしか使えない、と言う特性を持っていた………

 

その為、徐々にながらも男女平等を実現してきていた社会は………

 

一瞬にして女尊男卑の世界となった………

 

そんな中………

 

世界で初めて、ISを起動させた男性………

 

『織斑 一夏』が現れた。

 

世界が彼の謎を知りたいと思う中………

 

当の本人は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・1年1組の教室………

 

「…………」

 

複数の女子の好奇の視線に曝され、冷や汗を流しまくっていた………

 

(どうしてこんな事に………)

 

自問自答する一夏。

 

(私立藍越学園を受験する筈が………間違ってIS学園の試験会場に入ってしまい………偶然間違えて入った部屋にあった受験者用のISを起動させてしまうなんて………)

 

一夏は、IS学園に来る事になってしまった経緯を思い出す。

 

しかし、それで状況が変わるワケもなく、相変わらず好奇の視線が突き刺さって来ている。

 

「織斑 一夏くんかぁ………うん、イケメンだね」

 

「うんうん、ホントホント」

 

「まさか男でISを使えるなんて………何か秘密が有るのかな?」

 

ヒソヒソと小声で話し始める女子達。

 

「でも………何だろう? あの背中のマーク?」

 

と、女子の1人が、そう指摘した。

 

現在一夏が来ているのは、特注されたIS学園の男子用制服である。

 

しかし………

 

その背中に、後付けされたと思われる奇妙なマークが入っていた。

 

そのマークとは………

 

『燃え上がる炎に見立てた髑髏が、V字型のサングラスを掛けているマーク』という物だった。

 

「皆さん、入学おめでとう。私は副担任の『山田 真耶』です」

 

と、そこで………

 

教壇に立った、小柄ながらも豊満なバストをしたグリーンのショートヘアーで眼鏡を掛けた女性………

 

副担任の『山田 真耶』が、そう自己紹介をする。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

しかし、クラス全員の視線は相変わらず一夏に注がれており、ノーリアクションだった。

 

「あ、え………きょ、今日から皆さんは、このIS学園の生徒です。この学園は全寮制。学校でも、放課後も一緒です。仲良く助け合って、楽しい3年間にしましょうね」

 

真耶はそれに戸惑いながらも、挨拶を続ける。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

しかし、生徒達は相変わらずノーリアクションである。

 

「じ、じゃあ、自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で………」

 

真耶は若干泣きそうになりながらも、如何にか話を進行させる。

 

(クソッ! しっかりしろ、織斑 一夏! お前は男だろ!! いや、男だからこそ、この状況が困っているんだが………いや、そうじゃなくて!!)

 

そんな中でも、考えが頭の中を堂々巡りする一夏。

 

(アニキ………俺………如何したら………)

 

「………斑くん。織斑 一夏くん!」

 

「!? ハッ!? ハイッ!?」

 

と、そこで真耶の声が耳に飛び込んで来て、思わず上擦った声を出してしまう一夏。

 

女子達がクスクスと笑い声を漏らす。

 

「あの~、大声出しちゃってゴメンなさい。でも、『あ』から始まって、今『お』なんだよねえ。自己紹介してくれるかな? 駄目かなあ?」

 

「いや、その………そんなに謝らなくても………」

 

真耶にそう言いながら、一夏は席を立ち上がる。

 

「え~と………織斑 一夏です。よろしくお願いします」

 

そして自己紹介をする。

 

すると………

 

クラス全員の視線が、好奇から期待へと変わった。

 

(グウッ!? こ、こんな時………アニキだったら………)

 

それに戸惑いながらも、如何すれば良いのかと頭を巡らせる。

 

そして、準備を整えるかの様に大きく息を吸い込んだ。

 

クラス全員の期待が、更に高まる。

 

「………お、俺を誰だと思ってやがる!!」

 

一夏はクラス中に響き渡る様に、そう叫んだ!!

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

途端にクラス全員が、唖然とした表情を浮かべた。

 

正に、『何を言っているんだ? コイツ?』状態である。

 

「あ、アレ?………」

 

思った反応と違い、困惑する一夏。

 

すると………

 

一夏の脳天に、突如拳骨が見舞われた!

 

「ぐふっ!?………イツツツツ………!? げえっ!? 千冬姉!?」

 

激痛を感じながら一夏が視線を挙げるとそこには、彼の唯一の肉親である姉、『織斑 千冬』の姿が在った。

 

しかし………

 

千冬は今度は出席簿(角)で、一夏の脳天をブッ叩いた。

 

「~~~~~っ!?」

 

悶絶しそうになる痛みが一夏を襲う。

 

「学校では織斑先生だ………全く………あの男から要らぬ影響ばかり受けおって………」

 

そんな一夏に向かってそう注意する千冬。

 

「先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田くん。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

真耶とそう会話を交わすと、彼女と代わる様に教壇に立つ千冬。

 

「諸君! 私が担任の織斑 千冬だ! 君たち新人を1年で使い物にするのが仕事だ」

 

そして、生徒達全員に向かってやや高圧的にそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

途端に、クラス中から黄色い悲鳴が挙がった。

 

「千冬様! 本物の千冬様よ!」

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

 

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

「毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ………私のクラスにだけ集中させてるのか?」

 

そんな黄色い悲鳴を挙げる女子達に、千冬はうんざりしているかの様にそう言葉を続ける。

 

「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って!! 罵って!!」

「でも時には優しくして!!」

「つけあがらないように躾をして~!!」

 

しかし、黄色い悲鳴は収まるどころか益々強くなる。

 

(千冬姉が………担任?)

 

そんな中で一夏は、姉が担任になるという事実に困惑していた。

 

「………で? 挨拶も満足に出来んのか、お前は?」

するとそこで、千冬は一夏に向き直り、拳を握りながらそう言って来た。

 

「い、いや、千冬姉。俺は………」

 

それに対して、一夏が何か言おうとしたところ………

 

「!? うがっ!?」

 

思いっきり頭を机に叩き付けられた。

 

「織斑先生と呼べ」

「………ハイ、織斑先生」

 

(え? 織斑くんって、あの千冬様の弟?)

 

(それじゃあ、世界で唯一男でISを使えるっていうのも、それが関係してるって事?)

 

その光景に、またも生徒達はヒソヒソ話を再開する。

 

「静かに!!」

 

と、千冬がそんな生徒達を一喝する。

 

「諸君等には、これからISの基礎知識を半年で覚えてもらう。その後実習だが………基本動作は半月で身体に染み込ませろ。良いか? 良いなら返事をしろ! 良くなくても返事をしろ!!」

 

「「「「「「「「「「ハイ!!」」」」」」」」」」

 

千冬の有無を言わせぬ迫力の前に、生徒達は反射的にそう返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、少し時間は流れ………

 

1時間目が終了し、休み時間に入ると………

 

世界で初めてISを動かした男性である一夏を見ようと他のクラス、そして上級生までもが、1年1組へと詰めかけていた。

 

(誰かこの状態から助けてくれ………)

 

一夏にしてみれば、この状況は苦痛以外の何ものでもなかった………

 

と、そんな一夏の前に………

 

最前列の窓際の席に座って居た長い黒髪とポニーテールが特徴で、平均的な女子の身長でありながら長身を思わせる少女………

 

『篠ノ之 箒』が立った。

 

「ちょっと良いか?」

 

「えっ?」

 

一夏は戸惑いながらも、箒に連れられて、好奇の視線が突き刺さってくる教室から抜け出し、屋上へと向かった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・屋上………

 

「何の用だよ?」

 

「うん………」

 

一夏の問いに沈黙する箒。

 

「6年ぶりに会ったんだ。何か話があるだろう」

 

そんな箒に、一夏はそう言葉を続ける。

 

「…………」

 

しかし、箒は何やら照れ臭そうにしており、何かを話そうとしては止めると言う仕草を繰り返す。

 

「ふう~~………そう言えば」

 

「な、何だ?」

 

一夏は後頭部を掻きながら、自分の方から話を始めた。

 

「去年、剣道の全国大会、優勝したってな………おめでとう」

 

「!? 何でそんな事知ってるんだ!?」

 

「何でって………新聞で見たし………」

 

「何で新聞なんか見てるんだ?」

 

「ああ、後………」

 

「!?」

 

箒の頬が朱に染まる。

 

「久しぶり、6年ぶりだけど、箒ってすぐ分かったぞ」

 

「えっ………?」

 

その言葉に、箒は一瞬、嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「ホラ、髪型一緒だし」

 

「よ、よくも覚えているものだな………」

 

「いや、忘れないだろ。幼馴染の事ぐらい」

 

「………!!」

 

一夏の言葉に、照れている様な仕草を見せる箒。

 

「そ、そう言えば………神谷は如何した? 元気か?」

 

と、そこで箒は照れ隠しの様に、もう1人の幼馴染で、一夏が最も慕っている人物の名を挙げる。

 

「ん? ああ、アニキなら、1年位前に旅に出て行ったよ」

 

「!? 何っ!?」

 

箒は、一夏のその答えに、驚きの表情を浮かべる。

 

「何か父親が生きているかもしれないって言うから、探しに行くんだって」

 

「探しにって………当てはあるのか?」

 

「無いさ。当てが有ろうが無かろうが、1度決めたら突き進んで行く………アニキはそう言う人だったろ」

 

まるで自分の事を自慢するかの様に箒に向かってそう語る一夏。

 

「………そうだな」

 

その様子に、箒は一転して不機嫌そうになる。

 

「今頃………何処で何をしてるのかな………アニキ」

 

しかし、一夏はそれに気づかず、屋上の手摺りに寄り掛かり、思い出に浸るかの様に遠くの景色を眺めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

IS学園を目指して進む、1人の男の姿が在った………

 

その男の姿は、異様と言って良かった………

 

180近くは有ろうかと言う長身に、一昔前のロボットアニメの主人公の様な彼方此方がとんがった黒髪の髪型………

 

上半身は裸で、腹の部分には晒を巻いており、裾がボロボロの紅いマントを羽織っている。

 

そしてそのマントの背中には、一夏と同じ『燃え上がる炎に見立てた髑髏が、V字型のサングラスを掛けているマーク』が入っていた。

 

長刀を肩で担ぐ様に持ち、V字型の赤いサングラスを掛けている。

 

………と、男は刀を持っていない方の手に握っていた新聞の1面の記事を見やる。

 

そこには、世界で初めてISを起動させた男………一夏がIS学園に入学したという見出しが出ていた。

 

「ちょっくら日本に帰って来てみれば………一夏の奴………こんな事になりやがるとはな………ど~れ、ちょいと挨拶しに行くとするか」

 

男はその記事を見てそう言うと、更にIS学園への道を進んで行った。

 

………その首からは、金色に輝く親指大の小さなドリルが、ペンダントの様に掛けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・1年1組………

 

授業中………

 

「ではココまでで質問のある人~」

 

滞り無く授業が進み、真耶が質問は有るかと生徒に尋ねる。

 

(このアクティブなんちゃらとか、広域うんたらとか、如何いう意味何だ!? まさか全部覚えないといけないのか!?)

 

全員が質問は無いと言う表情をしている中、一夏は大量の脂汗を顔中に浮かべていた。

 

「織斑くん、何か有りますか?」

 

と、真耶がそんな一夏に声を掛ける。

 

「あっ!? えっと………」

 

「質問が有ったら聞いて下さいね。何せ私は先生ですから」

 

自信満々にそう言う真耶。

 

「………先生」

 

「ハイ、織斑くん」

 

「殆ど全部、分かりません」

 

「えっ!? 全部ですか?」

 

しかし、一夏のその言葉で、戸惑いの表情を浮かべる。

 

「い、今の段階で分からないっていう人は、どのくらい居ますか?」

 

真耶は他の生徒にもそう尋ねるが、返って来たのは沈黙だった。

 

全員分かっている様である。

 

「織斑………入学前の参考書は読んだか?」

と、その様子を見ていた千冬が、一夏に近づきながらそう問い質す。

 

「え~~………あっ! あの分厚いやつですか?」

 

「そうだ。必読と書いてあっただろう?」

 

「いや~………古い電話帳と間違えて掃除の際に捨てました………グハッ!?」

 

と、その言葉を聞いた途端、千冬の出席簿攻撃が、一夏の頭にクリーンヒットした。

 

「後で再発行してやるから、1週間以内に覚えろ。良いな?」

 

「いや! 1週間であの厚さはちょっと………それに参考書なんて見なくたって、気合で!!」

 

千冬に向かってそう反論しようとした一夏だったが………

 

「………やれと言っている」

 

「うう!?………ハイ、やります」

 

殺気すら感じられる千冬の鋭い視線を受けて、頷かざるを得なかった………

 

「全く………そんな所まで『あの男』に似なくて良い。そもそもお前は………」

 

千冬が一夏に、更に説教をしようとしたところ………

 

「失礼します。織斑先生、ちょっと宜しいですか?」

 

守衛をしている職員が、そう言いながら教室へ入って来た。

 

「? 如何かしたんですか?」

 

「何ですか? 授業中ですよ」

 

首を傾げる真耶と、凛とした態度を崩さない千冬。

 

「すみません………ですが、今学園の入り口に奇妙な男が来ていて………織斑 一夏に会わせろって騒いでいるんです」

 

「奇妙な男?」

 

「大方、何処かの国の機関のエージェントか、企業のスカウトマンでしょう………IS学園は如何なる国家や組織の干渉も受けません。追い返して下さい」

 

「それが………そう説明したんですけど、頑として聞き入れないんです」

 

「しつこい奴ですね………一体どんな奴なんですか?」

 

千冬は呆れた様な様子を見せながら、騒いでいる男について尋ねる。

 

「えっと………結構な長身の方で、昔のアニメの主人公みたいなツンツンした髪型をしていて………上半身裸で、お腹に晒を巻いて、ボロボロの紅いマントを羽織った格好をしています」

 

「………何………だと………?」

 

男の風体を聞いた千冬は、彼女を知る者からすれば、珍しく驚愕の表情を浮かべ、手に持っていた出席簿を落とした。

 

そんな千冬の姿に、生徒達もざわめき立つ。

 

「それって………まさか………」

 

一方、一夏も………

 

男の風体を聞いて、1人の人物を思い浮かべていた。

 

「それから、片手に長刀を持っていて、V字型の赤いサングラスを掛けて………そうそう、『俺を誰だと思ってやがるっ!!』って口癖みたいに言っていました」

 

その言葉を聞いた途端………

 

一夏は椅子を蹴り飛ばす様に立ち上がり、教室から飛び出して行った。

 

「!? 織斑くん!?」

 

「オイ! 一夏!!」

 

真耶と千冬が呼び止めるのも聞かず、一夏は学園の入り口を目指して全力疾走する。

 

(間違い無い! そんな恰好でそんな事を言うのは………俺の知っている限り、世界に只1人だ!!)

 

一夏の胸には、高まって行く期待感が溢れていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・正門………

 

「だ~から、一夏に会わせろっつってんだろうが!!」

 

「ですから! 許可無く部外者を学園内に入れるワケには………」

 

「部外者じゃねえ! 俺を誰だと思ってやがるっ!!」

 

「それが分からないから困ってるんじゃないですかぁ!!」

 

正門で守衛の職員と押し問答を繰り広げている紅いマントを羽織った男。

 

騒ぎが大きくなったので、念の為に警備用のIS部隊も展開しているが、男が一切怯まないので、如何すれば良いのかと対応に苦慮している。

 

と、そこへ………

 

「アニキッ!!」

 

正門の向こうの方から、そう言う声が聞こえて来た。

 

「おっ?」

 

守衛の職員達が困惑しながら振り返る中、男はその声の主を見て、笑みを浮かべる。

 

「やっぱりアニキだ! アニキだよな!?」

 

その声の主は一夏だった。

 

教室から全力疾走して来たので、息は上がっており、大量に汗も掻いているが、それでも嬉しそうに男の姿を見ていた。

 

「一夏ぁ! 久しぶりじゃねえか!!」

 

男の方も、一夏を見て、嬉しそうな声を挙げる。

 

「アニキ!!」

 

一夏はそう言い、更に男に近づく。

 

守衛の職員達は状況が分からず、困惑するしかなかった。

 

「…………」

 

そんな中、男は目の前に立った一夏の姿を、笑みを浮かべたままジッと見据えている。

 

「アニキ、俺………うわっ!?」

 

すると不意に、一夏の頭に手を置き、ガシガシと乱暴に撫でた。

 

「背ぇデカくなったじゃねえか………良い面構えしてるぜ………兄弟!」

 

男は一夏に向かってそう言った。

 

「ア、アニキ………」

 

その言葉に、一夏は嬉しそうな表情を浮かべる。

 

と、その時………

 

「かああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーみやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

雄叫びと表現しても良い叫び声が、その場に居た一同の耳に飛び込んで来た。

 

「「「「「!?」」」」」

 

一夏と守衛の職員が驚きながら振り向くと、そこには………

 

ISのブレードを生身で持ち、男に向かって突撃して来る千冬の姿が在った。

 

「ち、千冬姉!?」

 

「お、織斑先生!!」

 

その迫力に慄く一夏と守衛の職員。

 

「何だ、ブラコンアネキ! お前もこの学校に居たのかよ!?」

 

しかし、男だけはそんな千冬に向かって、挑発するかの様な言葉を投げ掛けた。

 

「問答無用!! 死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

千冬はそう叫ぶと跳躍し、男に向かってブレードを振り下ろした!!

 

「「「「「キャアアアッ!?」」」」」

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

巻き込まれると思い、慌ててその場から離れる守衛の職員と一夏。

 

「へっ………」

 

しかし、男だけはそんな千冬の姿を見て、不敵な笑みを浮かべていた。

 

そして、千冬のブレードが男に叩き込まれた瞬間!!

 

凄まじい衝撃波で土煙が舞い上がり、2人の姿を覆い隠した。

 

「ア、アニキ!?」

 

「織斑先生!?」

 

一夏と守衛の職員は、惨劇な光景を想像する………

 

だが………

 

段々と土煙が晴れてきたかと思うと、そこには………

 

「………久しぶりの再会だからって、随分と情熱的な挨拶じゃねえか」

 

長刀を僅かに鞘から抜き放ち、千冬のブレードを受け止めている男の姿が在った!

 

「貴様………」

 

そんな男の姿を見て、千冬は苦々しげな表情を浮かべる。

 

「お、織斑先生!?」

 

「見て! 千冬お姉様が誰かと戦ってる!!」

 

「誰!? あの男!?」

 

とそこへ、千冬を追いかけて来た真耶と生徒達が姿を見せる。

 

「!? あの男は!?」

 

その中に居た箒は、千冬のブレードを受け止めている男の姿を見て、驚愕の表情を浮かべる。

 

「ほらよっ!!」

 

と、そこで男が千冬を弾き飛ばす。

 

「チイッ!!」

 

弾き飛ばされた千冬は、後方宙返りを決めて着地すると、ブレードを男に向けて構える。

 

「どら! 久々に一戦………交えてみるかぁ?」

 

男はそう言いながら、長刀を完全に鞘から抜き放った。

 

鞘を背中に背負う様にしまうと、左手で千冬に挑発を送る。

 

「舐めるなぁ!!」

 

千冬は叫びながら、男に向かってブレードを振るう。

 

「おっと!!」

 

男は千冬の1撃を、長刀で受け止めた。

 

「あらよっ!!」

 

そして力任せに弾き返す。

 

「ぐうっ!?」

 

「おりゃああっ!!」

 

そのままがら空きになった千冬の胴に、横薙ぎの一閃を繰り出す。

 

「何のぉ!!」

 

しかし千冬は跳躍してそれを回避。

 

そのまま男の頭上を飛び越えながら前方宙返りをし、男の背中を斬り付けようとする。

 

「シェアッ!!」

 

だが男は素早く反応し、背中に向かって来ていたブレードの刃を、長刀で防いだ。

 

「クッ!!」

 

千冬はブレードを振った際の反動で距離を取る。

 

「せええいりゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

すると今度は、男の方が千冬に仕掛けた。

 

かなり長い長刀を、まるで小枝でも振るうかの様に軽々と扱っている。

 

その太刀筋は、型の無い喧嘩殺法ではあるものの、非常に洗練されており………

 

言うなれば実戦慣れしている太刀筋だった。

 

「くううっ!! 更に出来る様になったな!!」

 

予測不能な太刀筋に苦い顔を浮かべながらも、次々に捌いて行く千冬。

 

「へっ! テメェーが鈍ったんじゃねえのか!? こんなとこで燻ってやがるからよぉ!! ブラコンアネキ!!」

 

「それを言うなああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

男の言葉に怒りを露わにする千冬。

 

そのまま2人は、更に激しく斬り結ぶ。

 

「織斑先生と互角に戦っている!?」

 

「嘘! あの第1回モンド・グロッソの優勝者、『ブリュンヒルデ』のお姉様と!?」

 

「何なの、あの男!?」

 

千冬と互角に立ち回る男の姿に、在り得ないモノを見る目で男を見る真耶と生徒達。

 

「スッゲェ………相変わらずスゲェぜ、アニキ!」

 

一方の一夏は、その光景を見て、まるで少年の様に目を輝かせている。

 

しかも、肉親である筈の千冬よりも、アニキと呼ぶ男の方に肩入れしている様だ。

 

「オイ、一夏。あの男は………」

 

とそこで、一夏の傍に立った箒が、一夏にそう問いかけて来た。

 

「ああ………天上 神谷(てんじょう かみや)………魂の絆で結ばれた………俺のアニキだ!!」

 

すると一夏は、箒に向かってまるで自慢するかの様にそう語った。

 

と、その瞬間!!

 

ガキィンッ!!という甲高い音が響いたかと思うと………

 

千冬の持っていたブレードと、男………神谷が持っていた長刀が互いに弾かれ、宙に舞っていた。

 

回転しながら舞い上がって行ったブレードと長刀は、やがて重力に引かれて落下を始め、2人が居る場所からやや離れた地面に突き刺さった。

 

「クッ!」

 

「チイッ!!」

 

千冬と神谷は、互いに手が痺れている様な様子を見せている。

 

「あ、相打ち?」

 

「嘘………」

 

「千冬お姉様と互角なんて………」

 

真耶と生徒達は、またも在り得ない光景を見る様な目で2人を見やる。

 

「「…………」」

 

得物を失った2人は、互いに睨み合いを始める。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その緊迫した風景に、一夏と箒、真耶と生徒達も釣られる様に沈黙し、辺りは緊迫の空気に包まれる。

 

「………フ………フフフ………」

 

「………へへへへ」

 

と、不意に2人の口から笑い声が漏れ始めた。

 

「フフフフフ………ハハハハハハハハッ!!」

 

「ハッハッハッハッハッハッ!!」

 

やがて、互いに高笑いを挙げ始めた。

 

「「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」」

 

突然高笑いを挙げ始めた2人の様子に困惑する真耶と生徒達。

 

やがて2人は、ガッチリと握手を交わした。

 

「変わらんな、神谷………憎たらしい程に」

 

「オメェはちょいと腕が落ちたんじゃねえか? ブラコンアネキ」

 

「だから、それを言うなと言っているだろうが」

 

ブラコンと言う言葉に怒りを示す千冬。

 

「な、何なの………このノリ?」

 

生徒の1人が、そんな2人のノリに付いて行けず、思わずそう呟くと、他の生徒達もそれに無言で同意した。

 

「あのノリを見るのも久しぶりだが………未だに慣れんな………」

 

「そうか? 俺はもう見慣れたけど?」

 

頭を抱えている箒に、一夏はそう言う。

 

 

 

 

 

………と、その時!!

 

 

 

 

 

突如爆発音が聞こえて来たかと思うと、グラウンドの方から火柱が立ち上った!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「!? 何だ!?」

 

「何事だ! 状況を報告せよ!!」

 

一夏と箒、真耶と生徒達、そして神谷は何が起こったのかと慌てるが、千冬は冷静に通信回線を開き、状況を調べる。

 

[お、織斑先生! 大変です!! グラウンドに、突然謎の集団が現れて、生徒達を襲っています!!]

 

「何だと!?」

 

「そんな!? IS学園を襲撃するなんて!? 一体誰が!?」

 

職員からの報告に驚きを露わにする千冬と真耶。

 

如何なる国家や組織であろうと、IS学園に干渉する事は許されていない。

 

ましてや襲撃する等、以ての外である。

 

そんな事をすれば、その国・組織は、国際テロリストの烙印を押され、全世界を敵に回す事になる。

 

「クッ!! 教師部隊は直ちにISを装着してグラウンドへ!! 私もすぐに行く!! 山田くん! 生徒達の避難を頼む!!」

 

千冬は通信回線に向かって怒鳴る様にそう言うと、グラウンドを目指して走り出した。

 

「あ! 織斑先生!! えっと………貴方達はすぐに避難して! 私が誘導します!!」

 

一瞬戸惑いながらも、真耶は頼る事になるとは思わなかった緊急時のマニュアルに従い、生徒達を避難誘導させ始める。

 

「な、何が起こってるんだよ!?」

 

「一夏! 今は兎に角、避難するんだ!!」

 

突然の状況に頭が付いて行けてなかった一夏がそう言うと、箒がそう叫ぶ。

 

「あ、ああ………アニキ! アニキもすぐに避難を!!………」

 

その言葉でハッと我に返った一夏が、神谷にそう呼び掛けようとしたが………

 

先程まで在った神谷の姿が、何処にも居なくなっていた………

 

「ア、アレ? アニキ?」

 

「神谷!? 何処へ行ったんだ!?」

 

慌ててその姿を探す2人だったが見つからない。

 

「!? まさか!?」

 

不意に、ある予感が頭を過ぎった一夏が、グラウンドを目指して駆け出した!!

 

「一夏!? 待て! 何処へ行く!?」

 

慌ててその一夏の後を追いかけて行く箒。

 

「織斑くん!? 篠ノ之さん!?」

 

真耶が呼び止めるが、彼女は生徒達の避難誘導に手一杯であり、追い掛けられなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・グラウンド………

 

「キャアアアァァァァーーーーーッ!?」

 

「助けてえぇっ!!」

 

悲鳴を挙げて逃げ惑っている生徒達。

 

「へっへっへっへっ! 怖がれ怖がれ!!」

 

「貴様等人間達は、俺達が始末する!!」

 

全身が黒い毛むくじゃらの人間………

 

いや、獣であろうか?

 

言うなれば………『獣人』とでも呼ぶべき輩達が、我が物顔で暴れ回っていた。

 

兎に角、目に付く物がアレば手に持っている棍棒で破壊し、人間を視界に入れればしつこく追い回すと言う、獣そのものの暴れっぷりであった。

 

「止まりなさい!!」

 

「貴方達は完全に包囲されています!! 大人しく武器を捨てなさい!!」

 

と、そこでISを装着した教師部隊が現れ、獣人達に向かってそう警告を送った。

 

「何だと! 人間のくせに、俺達に意見するのか!?」

 

「生意気だ! やっちまえ!!」

 

しかし、獣人達は大人しくするどころか、ますます暴れ出し、教師部隊にまで襲い掛かり始めた!!

 

「えっ!? ちょっ!? !! キャアアアッ!?」

 

「く、来るなー! 来るなー!!」

 

教師部隊は止むを得ず応戦するものの、人間では無い獣人を相手に戸惑いが広がってしまい、満足に戦えずに居た。

 

幸いにも、ISには装着者の生命を守る為に、『絶対防御』と呼ばれる防御装置が備え付けられており、シールドエネルギーによるバリアも有る為、怪我こそ負っていないが防戦一方だ。

 

「ひゃはははははっ!! 汚物は消毒だぁーっ!!」

 

と、教師部隊の包囲網を抜けた獣人が、逃げ遅れていた生徒に向かって世紀末のチンピラの様な台詞を言いながら、棍棒を振り下ろそうとする。

 

「キャアアアアァァァァァーーーーーーッ!!」

 

恐怖で縮こまり、悲鳴を挙げる生徒。

 

と、次の瞬間!!

 

「!? グハッ!?」

 

銀色の閃光が走ったかと思うと、生徒に襲い掛かろうとした獣人が、胸に袈裟懸けの傷を出現させて倒れた。

 

「無事か?」

 

その傷を付けた主………ISのブレードを構えた千冬が、生徒に向かってそう尋ねる。

 

「千冬お姉様! は、ハイ! 大丈夫です!!」

 

「なら早く逃げろ!!」

 

「は、ハイ!!」

 

千冬の言葉に、慌てて逃げ出す生徒。

 

「あああああ………」

 

と、その時………

 

千冬が斬り捨てた獣人が息絶えたかと思うと、その骸がまるでコールタールの様な黒い液体に変わり、そのまま白い煙を上げて蒸発してしまった。

 

「!? 何だ………コイツ等は………」

 

その異様な光景に、背筋に冷たい汗が流れるのを感じる千冬。

 

「ああ! 仲間がやられたぞ!!」

 

「オノレェ!! よくも仲間をぉ!!」

 

とそこで、仲間をやられた事に怒った他の獣人達が、教師部隊を押し退け、千冬へと殺到した。

 

「!! クウッ!!」

 

戸惑いながらも、ブレードを振るって、次々に斬り捨てて行く千冬。

 

「ぐあああっ!?」

 

「何だ!? この女、強いぞ!! 人間のくせに!!」

 

「怯むな!! 俺達の方が数は上だぁ!!」

 

しかし、応戦しているのが千冬1人と言う状況に対し、獣人達は数10人近くおり、如何に千冬と言えど、現役を退いて久しい彼女には多勢に無勢であった。

 

(クソッ! 数が多い!! このままでは!!)

 

そう思いながら、目の前に居た獣人に向かって、ブレードを振り下ろす千冬。

 

「おっとぉ!!」

 

しかし、獣人は棍棒でその攻撃を受け止めてしまう。

 

「!? 何っ!?」

 

「隙有りぃ!!」

 

その瞬間、驚いて動きが止まってしまった千冬の背後から、別の獣人が棍棒を振り被って殴り掛かる。

 

「!? しまっ………」

 

慌ててブレードを斬り返そうとする千冬だったが、間に合わない。

 

あわや絶体絶命か!?

 

………と思われたその時!!

 

「俺を誰だと思ってやがるキイイイイイイィィィィィィィックッ!!」

 

と言う叫び声が木霊したかと思うと、千冬に殴り掛かろうとしていた獣人に、神谷の飛び蹴りが叩き込まれた!!

 

「アバアッ!?」

 

「!?」

 

千冬が驚いていると………

 

「そいつを倒すのは俺の役目だパアアアアアアァァァァァァァンチッ!!」

 

更に続けて、神谷は千冬のブレードを受け止めていた獣人にパンチを叩き込む。

 

「おぼあっ!?」

 

ブッ飛ばされる獣人。

 

他の獣人達も、突如現れた援軍の前に、戸惑いの色を浮かべて動きを止めた。

 

「苦戦してるじゃねえか、ブラコンアネキ」

 

「神谷!? 何をしている! 早く避難しろ!!」

 

「馬鹿言うんじゃねえよ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

神谷はそう言うと、背負っていた鞘から、長刀を抜き放つ。

 

「おうおうおうおう! この人か獣か曖昧野郎共! 耳の穴かっぽじって良ぉく聞きやがれぇ!!」

 

そして、獣人に向かって啖呵を切り始めた。

 

「世界に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

「貴様………」

 

「貸しにしとくぜ、千冬」

 

「………良いだろう」

 

そして2人は、並び立って長刀とブレードを構えた。

 

「ぐううっ! 人間のくせになまいきなぁ!! 皆! やっちまえっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

獣人達は、2人の雰囲気に若干気押しされながらも、再び襲い掛かって行く。

 

「舐めるな!!」

 

「俺達を誰だと思ってやがる!!」

 

それに対して、千冬と神谷も、獣人向かって突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、一夏、待て! 待つんだ!!」

 

「ハア………ハア………アニキ!!」

 

箒の静止も聞かず、グラウンドを目指して走り続ける一夏。

 

そしてとうとう、グラウンドの端まで到着する。

 

「アニキ!!………!?」

 

「一夏!! 如何したんだ!?………コレは!?」

 

そして、グラウンドを見た2人は言葉を失った。

 

「おらおらぁっ! 束になって掛かって着やがれ!!」

 

「目だっ! 耳だっ! 鼻っ!!」

 

そこには、長刀とブレードを振り回す神谷と千冬が、襲い掛かって来る獣人達を片端から斬り捨てていると言う光景が広がっていた。

 

「「…………」」

 

余りの衝撃に、一夏と箒は呆然と佇んでしまう。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

最初に駆け付けた教師部隊も、2人が余りにも強いので手が出せず、如何して良いのかとオロオロとしていた。

 

「こ、コイツ等! ホントに人間か!?」

 

「俺達とココまで戦うなんて………」

 

「クソッ! 話が違うぜ!!」

 

とうとう残った獣人は、3体だけとなった。

 

「さ~て、残るはお前達だけだな」

 

「命乞いでもしてみるか? 許しはしないがな?」

 

その3体の獣人達に向かって、長刀とブレードを向け、そう言い放つ神谷と千冬。

 

「ど、如何するんだ?」

 

「このままじゃヤバいぞ」

 

「しょうがない………『アレ』を使うぞ!!」

 

すると、獣人の1人がそう言いながら、顔の様な形をしたバッジを取り出した。

 

他の2人の獣人もそれに倣う様に、同じ様なバッジを取り出す。

 

「? 何だぁ?」

 

「何をする積りだ?」

 

と、神谷と千冬が首を傾げた瞬間………

 

「「「来おおおぉぉぉぉいっ! 『ガンメン』!!」」」

 

獣人達がそう叫んで、そのバッジを掲げた。

 

その瞬間、獣人達を光が包み込み………

 

その光が弾けた瞬間………

 

そこには獣人ではなく………

 

巨大な顔から手足が生えているという、不格好な姿をしたマシン達の姿が在った!!

 

「!? 何っ!?」

 

「IS!? いや、違う! あのマシンは一体!?」

 

その不格好なマシンを見て驚く神谷と千冬。

 

「覚悟しやがれ! 人間共!!」

 

「こうなったら俺達はもう止まらねえぞぉ!!」

 

「皆殺しにしてやるぜぇ!!」

 

不格好なマシン達………『ガンメン』がそう言い放つ。

 

「喰らえぇっ!!」

 

そして、3体の中心に居たガンメン………ウシ型ガンメン『ゴズー』が、腕の装甲を展開したかと思うと、そこからミサイルを発射して来る!!

 

「!? うおっ!?」

 

「くうっ!?」

 

至近距離に着弾し、爆風で吹き飛ばされる神谷と千冬。

 

「オラオラッ!!」

 

「逆らう奴は殺す!! 逃げる奴も殺す!!」

 

そして、残り2体のガンメン………ドクロ型ガンメン『アガー』と、カエル型ガンメン『ングー』も、教師部隊へと襲い掛かる。

 

慌てて応戦する教師部隊だったが、ガンメン達は殺す積りで来ており、いかに世界最強の兵器のISを装着していようと、実戦経験………『殺し合い』の経験の無い教師陣は、相手の気迫に圧倒される。

 

「チキショー! やってくれるじゃねえか!!」

 

そう言いながら、身体に付いた土埃を落としつつ、ガンメン達を見据える神谷。

 

「全員、一時撤退しろ!!」

 

とその時、千冬が教師陣に向かってそう命令を下した。

 

「!? オイ、千冬! オメェ何言ってやがる!?」

 

「実戦経験の無い教師陣では無理だ。ココは一旦退いて態勢を立て直すのが………」

 

「バッキャロウッ! 男が敵に後ろを見せられるかよ!!」

 

「神谷! お前は!!」

 

思わず言い争いを始めてしまう神谷と千冬。

 

「ア、アニキ! 千冬姉! そんな事してる場合じゃ!!………」

 

「ん~~!? まだ人間が居たのか? お前も死ねぇっ!!」

 

一夏が、神谷と千冬に向かってそう叫ぶが、その行為がガンメンの気を引く事となってしまい、ゴズーは一夏達に向かってミサイルを放った!!

 

「「!?」」

 

硬直してしまう一夏と箒。

 

ミサイルはそんな2人に向かって無慈悲に迫る。

 

「!! 一夏ぁ!!」

 

と、それを見た神谷が、ミサイルと一夏達の間に、己の身体を割り込ませた!!

 

「!? アニキ!?」

 

「「神谷!?」」

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

一夏達の声が挙がる中、神谷は気合でミサイルを受け止めようとする。

 

「馬鹿め! 貴様が先に死ねぇ!!」

 

しかし、そんな事が出来る筈は無い………

 

神谷の人生はココで終わってしまうのか………

 

 

 

 

 

と、その時!!

 

 

 

 

 

神谷が首から下げていた小さなドリルから、緑色の光が溢れ、神谷を包み込んだ!!

 

ゴズーが放ったミサイルは、その緑色の光に阻まれて、爆発する。

 

「!? ん何ぃ!?」

 

ゴズーが驚きの声を挙げる。

 

「「!?」」

 

アガーとングーも、驚いて動きが止まる。

 

「アニキ!?」

 

「神谷!?」

 

「な、何が起こっているんだ!?」

 

一夏、千冬、箒も、その光から目を守りながらも、驚きの声を挙げる。

 

やがて、光が弾けたかと思うと、そこには………

 

 

 

 

 

まるで鎧武者の様な姿をした、三日月状の兜を被った、真紅と黒のカラーリングをしたマシンが佇んでいた。

 

良く見ると、本来顔があるべき頭部の他にも、ボディにも顔があり、目の部分に黒いサングラスを装着していた。

 

 

 

 

 

「………ん?………ん?………!? な、何だこりゃあっ!?」

 

すると、そのマシンから、神谷の驚いた声が挙がった。

 

「!? ア、アニキ!? アニキなのか!?」

 

「何だと!?」

 

「神谷!? その姿は一体!?」

 

「んなもんコッチが教えて欲しいぜ! 何なんだ、こりゃあっ!?」

 

戸惑う一夏達だったが、1番戸惑っていたのは他ならぬ神谷だった。

 

「まさか………それはISか!? 一夏の他にもISを使う男が!?」

 

千冬がそう言った瞬間………

 

「あ、アレはガンメン!?」

 

「馬鹿な!? 如何して人間がガンメンを!?」

 

ガンメン達から、そんな声が挙がった。

 

「ええいっ! 兎に角叩き潰すまでだぁ!!」

 

と、考える事が面倒になったのか、ングーがそう言いながら紅い全身装甲(フルスキン)のIS(?)を装着した神谷に向かって行った。

 

「ええい! 何だか分からねえが! やってやらあぁっ!!」

 

神谷はそう言いながら、向かって来たングーに対して、右の拳を突き出した。

 

その瞬間!!

 

その右手が、ドリルへと変わり、高速回転しながらングーを貫いた!!

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

ドリルに貫かれたングーは、そのまま爆散した!!

 

「おおっ! ドリルか!! へっ! いかにも俺向きな武器だぜ!!」

 

ドリルと化した右手を見ながらそう言う神谷。

 

「オノレェ! よくも仲間をぉ!!」

 

「貴様ぁ! 一体何者だぁ!?」

 

と、残り2体のガンメンが、神谷に向かってそう叫ぶ。

 

「ん? そうだな………グレンラガン………そう! コイツの名は、『グレンラガン』だ!!」

 

神谷はそう叫び、見得を切る様なポーズを取った!!

 

「グレン………」

 

「ラガン………」

 

その名前を半分ずつ反復する千冬と箒。

 

「カ、カッコイイ………」

 

そして、そのカッコ良さに痺れている一夏だった。

 

「クソがぁっ!!」

 

と、そこでアガーが、グレンラガンに向かって突撃して行った。

 

「喰らえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!?」

 

そして、グレンラガンに向かって、拳を振るう。

 

「おおっと!!」

 

しかし、グレンラガンはその拳をアッサリと受け止めると、そのままアガーを投げ飛ばした!!

 

「おわああああっ!?」

 

グラウンドの上を、転がる様に滑って行くアガー。

 

「お前にはコイツだぁ!!」

 

すると、グレンラガンは胸に装着されていたサングラスを剥がし、ドリルから戻した右手に持った。

 

そして、アガー目掛けて突撃して行く。

 

「男の情熱ぅっ!」

 

そのままアガーを斬り付け、空中へと打ち上げる!!

 

更に追撃し、空中で両手で構えたサングラスを振り下ろす!!

 

「燃焼斬りぃぃぃっ!!」

 

アガーは空中で真っ二つに斬り裂かれた。

 

「うがああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

断末魔の叫びが木霊する中、サングラスを胸に戻し、再び見得を切る様なポーズを取るグレンラガン。

 

「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

と、そこでゴズーがグレンラガンに一気に接近し、飛び掛かりながら棍棒を振るった。

 

「無駄無駄無駄ぁっ!!」

 

だが、グレンラガンは棍棒を腕でガードしたかと思うと………

 

何と、棍棒の方が砕けてしまった!!

 

「何ぃっ!?」

 

「お前で最後だ!!」

 

すると、グレンラガンは腕の部分から、細長いドリルを2本出現させる。

 

「必殺! グレンラガン・スーパー・アッパアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

そして、その2本のドリルで、ゴズーを突き刺す様にアッパーカットを繰り出した!!

 

「うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

ゴズーは身体に風穴を空けられ、空高く舞い上げられたかと思うと、そのまま爆散した。

 

「決まったぜ………」

 

アッパーカットを出し切ったポーズのまま、神谷はそう呟くのだった。

 

「スゲェッ! スゲェよ! 流石アニキだ!!」

 

そんな神谷の大活躍に、一夏は手放しで喜んでいる。

 

(獣人が使っていたあのマシン………明らかにISでは無い………そもそも獣人とは一体何なのだ?………それに………グレンラガン)

 

しかし千冬は、グレンラガンを見ながら、言い様の無い不安を心に感じていた。

 

「一体………何が起こっているんだ………」

 

その千冬の呟きに気づいた者は、誰も居なかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

いよいよ本編開始となります。
原作通りにIS学園に入学させられた一夏ですが、所々に神谷の影響が出てます。
その神谷も満を持して登場。
初っ端から千冬と大バトルを繰り広げます。

そして更にそこへ獣人とガンメンが登場。
この作品では、ガンメンは獣人が使うパワードスーツ的な物と言う事になります。
それを『グレンラガン』となって退けた神谷。
一体グレンラガンとは何か?
そして獣人とガンメンとは?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第3話『へっ………弱い犬ほどよく吠えるとは言ったもんだぜ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第3話『へっ………弱い犬ほどよく吠えるとは言ったもんだぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

その場所には、まるで螺旋を描く様に高くなっている台座があり、その上に設置された玉座の肘掛けに、肘を衝いて頬杖をして座って居る巨大な体躯の男が座って居た。

 

ただ座って居るだけだと言うのに、その身体から発せられている迫力は凄まじく、並みの人間であれば彼を目にした瞬間に気絶してしまうだろう。

 

そして、その螺旋を描いている台座の下には、4人の獣人が片膝を衝いて畏まっていた。

 

「御報告致します………IS学園に送った獣人達がやられました」

 

その中の1人………ゴリラ型の獣人『チミルフ』が、玉座の男に向かってそう報告した。

 

「…………」

 

チミルフの報告を受けても、玉座の男は無表情のままであり、何の反応も示さなかった。

 

「ほほう? 奴等には確か、ガンメンも与えて置いた筈。それで失敗したとは………ブリュンヒルデが出て来たか」

 

すると、玉座の男に代わる様に、アルマジロの獣人『グアーム』がそう言う。

 

「いや………それが妙な事になっておる………奴等のガンメンから送られてきた最後の映像を再生するぞ」

 

チミルフがそう言うと、空中にモニターが展開し、映像が映し出される。

 

[必殺! グレンラガン・スーパー・アッパアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!]

 

そこには、ガンメン・ゴズーがトドメを刺される瞬間に見たもの………

 

グレンラガンの姿が映し出されていた。

 

「!? コレは!?」

 

「まさか!? グレンラガン!?」

 

グレンラガンの姿を見た、ほぼ若い人間の女性そのもので、帯と肩まで露出した着物を着用しており、サソリの様な尻尾を持つ獣人『アディーネ』と………

 

孔雀の様な派手な羽ととさかを持つ獣人『シトマンドラ』が驚きの声を挙げる。

 

「ほう………」

 

そこで初めて、玉座の男が反応を示した。

 

グレンラガンの姿を見てニヤリと笑い、感心したかの様な声を漏らした。

 

「その通り………そして装着者は恐らく………天上博士の息子かと」

 

チミルフが、更にそう報告を続ける。

 

「オノレェ、天上博士め………」

 

「我々の下から逃げ出し、我々の計画を散々邪魔しただけでは飽き足らず、グレンラガンを自分の息子に託すとは………忌々しい奴」

 

アディーネとシトマンドラが、苦々しげにそう言う。

 

「フッフッフッフッ………」

 

と、そこで玉座の男が笑い声を漏らした。

 

「? 螺旋王様?」

 

「「「??」」」

 

突然笑い声を挙げた玉座の男に、4人の獣人達………螺旋四天王は首を傾げる。

 

「面白い………天上………貴様の息子が何処まで出来るか………見せてもらおうか?」

 

モニターに映るグレンラガンの姿を見ながら、玉座の男………『螺旋王 ロージェノム』は、不敵に笑ってそう言い放った。

 

「どれ………先ずは小手調べと行こうか………IS学園に新たなガンメンを送り込め。序に織斑 一夏なる小僧の情報も取って来い」

 

「「「「ハッ! 畏まりました! 螺旋王様!!」」」」

 

ロージェノムがそう言うと、螺旋四天王は畏まった姿勢を取る。

 

「失礼致します、螺旋王様、四天王様」

 

するとそこで………

 

その場に、ネコ科の様な鋭い目付きをし、鮫のような歯と異形な手をし、右眼を隠すようにした金髪が特徴的で、人間に近い姿をした獣人が姿を見せた。

 

「畏れながらその任………このヴィラルに引き受けさせて頂けないでしょうか?」

 

ロージェノムと螺旋四天王に畏まりながら、獣人………『ヴィラル』はそう申し上げる。

 

「ヴィラル、貴様! 我等に意見する気か!!」

 

シトマンドラが、ヴィラルを叱りつける。

 

「いえ、その様な積りは………私はただ、そのグレンラガンなるものと戦ってみたいと思っただけです」

 

「フン………お前らしいな、ヴィラル」

 

そんなヴィラルの態度に、呆れる様な言葉を漏らすグアーム。

 

「螺旋王様、宜しいですか?」

 

と、チミフルがロージェノムに向かってそう尋ねる。

 

「好きにしろ………」

 

ロージェノムは無表情のままそう答える。

 

「ありがたき幸せ………アディーネ様。『ダイガンカイ』をお借り致します」

 

「構わないよ………ただし! 傷つけるんじゃないよ」

 

「御意!」

 

アディーネにそう言うと、ヴィラルは一瞬で姿を消す。

 

「グレンラガン………我が野望………止められるものならば止めてみるが良い」

 

ロージェノムはそう言い、再び不敵に笑うのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

神谷がグレンラガンとなり、ガンメン達を倒した日の夜………

 

IS学園・研究室………

 

「如何だ? 山田くん?」

 

「ハイ………ISと似通ったところはありますが………やっぱりまるで別物です」

 

「そうか………」

 

そう言って視線を移す千冬。

 

その視線の先には、スキャンやら何やらに掛けられているグレンラガンの姿が在った。

 

 

 

 

 

あの後………

 

騒ぎを聞きつけてやって来た野次馬やマスコミ、政府関係者からグレンラガンをなんとか隠し通した千冬。

 

現在、世界の軍事バランスはISの存在によって大きく崩されており………

 

もしそこへ………

 

IS並みの性能を持つ新たな兵器が現れたとなれば………

 

各国は挙ってそのデータを入手したがるだろう………

 

そう考えた千冬は、グレンラガンの存在を隠し、独自に調査を行った。

 

なお、学園を襲撃した獣人、そしてガンメンについても各国に問い合わせたが、どの国も関与を否定していた。

 

学園側としては更なる追求をしたかったが、獣人の死体は謎の蒸発で無くなっており、ガンメンは自爆装置で完全に吹き飛ばされており、確たる証拠が無かった為それ以上は追及できなかった。

 

 

 

 

 

(コレだけのマシンを造れる人物と言えば………やはり………)

 

と、千冬がそう思案していた時………

 

「ふわあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~………」

 

佇んでいたグレンラガンが、大きな欠伸をすると共に、伸びを行った。

 

「オイ千冬。もういい加減にしてくれよ。退屈でしょうがねえぜ」

 

そして、神谷の声で話し出すグレンラガン。

 

「ああ、そうだな………もう良いぞ、神谷」

 

「アイヨッ」

 

千冬がそう言うと、グレンラガンが緑色の光に包まれ、神谷の姿となった。

 

最初は待機状態の小さなドリル………『コアドリル』の状態で調べようとした千冬達だったが………

 

どのような解析に掛けても、返って来る答えが『解析不能』であった為、起動させて調べようとしたのだが………

 

如何いうワケか、グレンラガンは神谷にしか起動させる事が出来なかったのだ。

 

仕方なく、神谷にグレンラガンを装着してもらい、その状態で調べを進めていたのである。

 

「神谷………お前はそれを何処で手に入れたんだ?」

 

神谷の胸元に光るコアドリルを見ながら、そう質問をぶつける千冬。

 

「コイツは………親父から貰ったのさ」

 

神谷はコアドリルを握りながらそう答える。

 

「!? 親父!? 会ったのか!? 父親に!? 天上博士に!?」

 

その答えに、千冬は驚きを示す。

 

「天上博士って………! あの篠ノ之 束に並ぶ天才科学者と言われていた、あの天上博士ですか!?」

 

それを聞いていた真耶も、驚きの声を挙げる。

 

「それで、今何処に居るんだ?」

 

「………死んだよ」

 

「「………えっ?」」

 

「親父は死んだ………コイツを俺に託してな………」

 

神谷は怒りの形相で、コアドリルを握り直した。

 

「………如何言う事なんだ?」

 

「分からねえ………あの日………俺は親父が生きているかもしれないと言う話を聞いて………親父を探す旅に出た………世界中彼方此方を回って親父の痕跡を探した………」

 

(一夏が誘拐された時か………)

 

「そしてやっと見つけたと思った時には………親父は何者かに襲われ、虫の息だった」

 

語っている神谷の拳が、キツく握り締められる。

 

「そして、最後の力を振り絞ってこのコアドリルを俺に託し、日本………IS学園に行けと言い残した」

 

「IS学園に? 何故だ?」

 

「さあな………ただ………自分の償いに俺を巻き込んじまうのが心残りだ………最期に親父はそう言っていた」

 

「償いだと………」

 

千冬は表情を険しくする。

 

「そして、親父の言葉に従ってこの学園来てみりゃ………あのケダモノ野郎共と出くわしたワケだ」

 

「偶然………とは考え難いな」

 

「ああ………多分、親父がコイツを造ったのは………アイツ等と戦う為だ。俺はそう思う」

 

再びコアドリルを見ながら、神谷はそう言った。

 

「そうか、分かった………ところで、神谷。今後のお前の処遇だが………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

1年1組の教室にて………

 

「え~………皆さんに編入生を紹介します」

 

真耶が、若干言葉に詰まりながらそう言う。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

生徒達も、言葉を失っていた。

 

「「…………」」

 

箒と一夏も、驚きを露わにしており、特に一夏など目が点になっている。

 

それもその筈………

 

真耶が紹介しようとしていた編入生とは………

 

神谷の事だった。

 

IS学園の特注した男子用制服に身を包んでいる神谷だったが………

 

着ているのはズボンと上着だけで、その上着の前は全開に開かれており、晒を巻いているだけの上半身が露出していた。

 

しかも、その制服の上からトレードマークの1つである紅いマントを羽織っていた。

 

「えっと………それじゃあ、自己紹介を………」

 

「おうおうおうおう! テメェ等! 耳の穴かっぽじって、よ~く聞きやがれ!!」

 

と、真耶が神谷に自己紹介を促そうとしたところ、神谷の方からそう言葉を切り始めた。

 

「IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

目の前に有った一夏の机の縁に片足を掛けて、右手の親指で自分の事を指差しながら、神谷はクラス中に響き渡る声でそう言い放った。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

再び呆気に取られる生徒達。

 

「え、え~と………」

 

「………ハア~」

 

真耶は困惑し、千冬は呆れた様な溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

あの後………

 

千冬は神谷を、IS学園に編入させる事にした。

 

グレンラガンがIS並みの性能を持つ兵器だと言う事を露見させない為まだ情報公開は行っていないが、彼を世界で2人目にISを起動させた男として、グレンラガンをIS扱いにした。

 

尚、神谷は17歳の為、本来ならば上級生になる筈なのだが………

 

実は神谷は高校に行っておらず………と言うか、小中学校すら真面に行っていない為、1年への編入としたのだ。

 

また、自分の目の届くところで監視しておきたい、と言う思惑も有ったと思われる。

 

 

 

 

 

(2人目の男子………だけど………)

 

(馬鹿だ………大馬鹿だ)

 

(何か汗臭そう………)

 

(ちょっと不良っぽいかも………)

 

(そうかな? 私は良いと思うけど………)

 

(今時珍しい、熱血漢って奴だね)

 

(アレ? あのマントに描かれてるマークって………織斑くんと同じだ)

 

生徒達の間で、そんなヒソヒソ話が始まる。

 

女の園であるIS学園に、2人目となる男子の入学であったが………

 

割とイケメンタイプな一夏と違って、神谷の見た目は所謂男臭さと不良っぽさを感じさせる為、万人に受け入れられるタイプではなかった。

 

「静かにしろ!………神谷、お前の席は一夏の右隣だ」

 

「おう!」

 

千冬がヒソヒソ話をしていた生徒達を一喝すると、神谷に着席を促す。

 

神谷は指定された席に行くと………

 

机の上に両足を投げ出して、腕組みをして座った!!

 

その態度に悪びれている様子は微塵も無く、寧ろコレが自然体だと言わんばかりに堂々としている。

 

「………ハア~~………山田くん、授業を始めてくれ」

 

「え、ええっ!? わ、分かりました………」

 

神谷を注意する様子を見せない千冬に、真耶は若干混乱しながらも、授業を始めるのだった。

 

「アニキ………」

 

と、一夏が神谷に声を掛けると、神谷は視線だけを一夏に向ける。

 

「一夏………色々と積る話も有るが、取り敢えずは後だ。休み時間にゆっくりと聞かせてやるよ」

 

「あ、ああ………」

 

そう言われて正面を向く一夏。

 

しかし、その顔には何処か嬉しさが浮かんでいた。

 

(アニキがIS学園に………しかも同じクラスだなんて………)

 

「………フンッ」

 

そんな一夏の姿を見て面白くない様な顔をすると、窓の外に視線を向ける箒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業中………

 

「ですから、この場合は、この様に………」

 

(あ、相変わらず何を言っているのかサッパリ分からん………)

 

相変わらず真耶の授業にちっとも付いて行けていない一夏。

 

再発行してもらった参考書に目を通してはみたが、そう簡単に覚えられる内容ではなかった。

 

(でも、千冬姉から1週間で覚えろって言われてるからなぁ………覚えられなかったら殺される………)

 

一夏は千冬の厳しい顔つきを思い出し、顔を青くする。

 

と、その時………

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~………」

 

教室内に、イビキが響き渡って来た。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

それに戦慄する生徒達。

 

この教室の担任は千冬………モンド・グロッソの優勝者でブリュンヒルデの彼女である。

 

その彼女が担任を任されて、居眠りをするなど考えられなかった。

 

一体誰がと、一同の視線がイビキが聞こえて来る地点へと向けられる。

 

(………アレ? 何か、俺のすぐ傍から聞こえる様な………って、まさか!?)

 

一夏がとある予感を感じながら右横を見ると、そこには………

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~………」

 

堂々と椅子の背凭れに凭れ掛かって居眠りをしている神谷の姿が在った!!

 

(ア、アニキイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーッ!?)

 

その余りに堂々とした姿に驚愕する一夏。

 

(ちょっ!? 天上くん、居眠りしてる!?)

 

(凄いイビキ………)

 

(って言うか、マズイんじゃない!? 千冬お姉様の前で!!)

 

他の生徒達も小声でそう言い合う。

 

と、その時………

 

「…………」

 

教室の端で待機していた千冬が、出席簿を手に神谷に近づいた。

 

(あっ!? 死んだ!!)

 

(天上くん………グッドラック!)

 

(千冬お姉様の前で居眠りなんて………何て命知らずな)

 

生徒達がそう思っていた瞬間………

 

「!!」

 

千冬の持っていた出席簿が、神谷の脳天に思いっきり叩き付けられた!!

 

バギャッ!!と言う、まるでコンクリートに角材を叩き付けて圧し折ったかの様な音が教室内に響き渡る。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

驚愕に包まれる生徒達。

 

そして、次の瞬間………

 

神谷を引っ叩いた千冬の出席簿が………

 

真ん中の辺りから、真っ二つに折れてしまった………

 

「………んあ? 終わったのか?」

 

そして、神谷がごく普通そうに眼を覚ました。

 

((((((((((ええええぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!?))))))))))

 

本日何度目とも知れぬ驚きに包まれる生徒達。

 

千冬が口よりも先に手が出る性格な事は知られており、その制裁も容赦が無い事は周知の事実だったが………

 

まさか真面に喰らってビクともしないと言うのは予想外だった。

 

しかし………

 

ココから更に、予想外な展開を目撃する事となった。

 

「天上………」

 

「あん?」

 

「………居眠りするなとは言わん。だがイビキは掻くな。迷惑だ」

 

「善処するぜ………」

 

そう言うと、神谷は再び目を閉じて寝始めた。

 

「………ハア~~」

 

それを見た千冬は、本日何度目になるかの重い溜息を吐いて、所定の位置に戻って行った。

 

((((((((((ええええぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!?))))))))))

 

またまた驚愕に包まれる生徒達。

 

(ウソッ!? 千冬お姉様が居眠りを黙認!?)

 

(って言うか、公認!?)

 

(何なの、あの人!?)

 

クラス全員の好奇の視線が、一斉に神谷へと注がれる。

 

(スゲェ! 流石アニキだ!!)

 

そんな中只1人、一夏だけは、神谷の図太さに尊敬の念を抱いていた。

 

一方、授業中に堂々と居眠りをされている真耶は、涙目になっていた。

 

 

 

 

 

千冬が神谷の居眠りを黙認するワケ………

 

それは、幼少の頃からそう言う奴だと言う事を熟知している他に、もう1つ有った………

 

神谷が使っているグレンラガンは、建前上はISと言う事になっているが、ISではない………

 

その為、運用ノウハウがISとはまるで異なるのだ。

 

しかも、神谷にしか動かせないとなると、マニュアルもクソもなかった。

 

尚、神谷に如何やってグレンラガンを動かしたのかと聞いたところ………

 

頭の中に直接動かし方が流れ込んで来た、との事である(本人はこの事を、『要は気合ってこったろ!』と称したそうだ)。

 

神谷をIS学園に入れたのは飽く迄グレンラガンのデータを各国に渡さない為であり、IS操縦者にする積りではない………

 

つまり言ってしまえば、例え授業を真面に受けなくとも神谷がIS学園に居てくれさえすれば良いのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休み時間………

 

「スゲェよ、アニキ! まさか千冬姉に居眠りを黙認させるなんて!!」

 

「当たり前だ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

先程の偉業を褒め称える一夏と、当然だと言わんばかりの態度の神谷。

 

「ちょっと宜しくて?」

 

と、そんな2人に声を掛ける人物が居た………

 

「へっ?」

 

「あん? んだよ?」

 

「まあ!? 何ですの、そのお返事!? 私に話し掛けられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

いきなり高圧的な態度で接して来る縦ロールのある長い金髪に透き通った碧眼を持つ少女。

 

「あ、いや、その………」

 

「おうおうおうおうおう! いきなり随分なご挨拶してくれるじゃねえか!! 何様の積りだ!?」

 

一夏が何か言おうとしたところ、それを遮る様に神谷が少女に向かって啖呵を切った。

 

「なっ!? 私を知らない!? 『セシリア・オルコット』を!? イギリス代表候補生にして、入試主席のこの私を!?」

 

「知らねえな!! そっちこそ覚えておけ! IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

少女………イギリス代表候補生『セシリア・オルコット』に向かって、自己紹介の時にした名乗りを挙げる神谷。

 

「ぐうっ!?」

 

その良く分からない迫力に押されて黙り込むセシリア。

 

「あ、あの………ちょっと質問良いか?」

 

と、そこで一夏が、セシリアに向かってそう言った。

 

「!? え、ええ、良いですわよ。下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

その言葉で落ち着きを取り戻し、気取った様なポーズを取りながらそう言うセシリア。

 

「………代表候補生って、何?」

 

「食えんのか?」

 

ドドドドドッ!という音が聞こえて来て、3人の話に聞き耳を立てていた生徒達が芸人の様にずっこけた。

 

「あ、ああああ………」

 

セシリアも、呆れで肩を震わせている。

 

「「あ?」」

 

「信じられませんわ! 日本の男性というのは、皆これほど知識に乏しいものかしら!? 常識ですわよ! 常識!!」

 

「………で、代表候補生って?」

 

セシリアに向かって重ねてそう尋ねる一夏。

 

その瞬間、セシリアは目を光らせて、自慢げに語り出す。

 

「国家代表IS操縦者の、その候補生として選出されるエリートの事ですわ。単語から想像したら分かるでしょう?」

 

「そう言われればそうだ」

 

「そう、エリートなのですわ! 本来なら、私の様な選ばれた人間とクラスを同じくするだけでも奇跡! 幸運なのよ!」

 

背後にバラが咲いている様なイメージを見せながら、セシリアはそう言葉(自慢)を続ける。

 

「その現実をもう少し理解していただける?」

 

そう言って、再び一夏と神谷の方を見やるセシリア。

 

しかし………

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~………」

 

神谷は何時の間にか寝息を立てていた。

 

「そうか………そりゃラッキーだ」

 

一夏の方も、反応が薄い。

 

「バ、バカにしていますの!!」

 

怒りの様子を露わに、机を叩くセシリア。

 

「うわっ!?」

 

「んあ?」

 

一夏が驚き、神谷が目を覚ます。

 

「んだよ………難しい話するから寝ちまったじゃねえか………」

 

「ああああ、貴方と言う方は!!」

 

神谷の態度で、更に怒りのボルテージを上げるセシリアだったが………

 

そこで休み時間終了を告げるチャイムが鳴った。

 

「!! 話の続きは、また改めて! よろしいですわね!?」

 

セシリアは神谷と一夏を指差すと、自分の席へ戻って行った。

 

「何だったんだ?」

 

「さあ?」

 

その後で、2人揃って首を傾げる神谷と一夏だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして授業が始まろうとした時………

 

千冬が教壇に立ち、生徒全員を見据える。

 

「これより、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」

 

そして、そう話を切り出し始めた。

 

「クラス代表者とは対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会の出席等………まぁ、学級委員長と考えてもらって良い。自薦他薦は問わない。誰か居ないか?」

 

そう言って、再びクラス全体を見やる千冬。

 

「ハイ。織斑君を推薦します」

 

すると、1人の生徒が、一夏を推薦した。

「えっ!?」

 

「ハイ。私もそれが良いと思います」

 

「ええっ!? お、俺!?」

 

「他には居ないのか? 居ないのなら、無投票当選だぞ」

 

戸惑う一夏を他所に、千冬は一夏をクラス代表に任命しようとする。

 

「ちょ、ちょっと待った! 俺なんかじゃとても無理だよ!!………! そうだ! アニキ!! アニキがやってくれよ!!」

 

一夏は立ち上がり、隣の席の神谷を見ながらそう言う。

 

「バカ野郎! 一夏! 推薦されたのはお前だろ! 弟分の晴れ舞台を横取りするなんて、この神谷様に出来ると思ったか!!」

 

しかし、神谷は立ち上がると一夏を見ながらそう言う。

 

「で、でも………俺、無理だよ!!」

 

「無理を通して道理を蹴っ飛ばすんだよ! それが俺達、グレン団のやり方だろうが!! 忘れたのか、一夏!!」

 

「!?」

 

その言葉でハッとする一夏。

 

(全く………妙なところで良い影響を与えているから性質が悪い………)

 

そんな2人の様子を見て、頭痛がするのを感じる千冬。

 

「わ、分かったよ、アニキ………俺、やって………」

 

と、一夏が決意を固め、そう言おうとした瞬間………

 

「納得が行きませんわ!!」

 

突如声を張り上げる人物が居た。

 

「!?」

 

「あん?」

 

「その様な選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!」

 

セシリアだった。

 

一夏が推薦された事に噛み付いて来ている。

 

「このセシリア・オルコットに、その様な屈辱を1年間味わえと仰るのですか!? 大体、文化としても後進的な国に暮らさなくてはいけないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛で………」

 

「へっ………弱い犬ほどよく吠えるとは言ったもんだぜ」

 

すると、そんなセシリアを見ていた神谷がそんな事を口走った。

 

「なっ!? 何ですって!? もう1度言って御覧なさい!!」

 

「何度でも言ってやるぜ。弱い犬ほどよく吠える………人様の国のこと扱き下ろして、ギャーギャー喚くのがイギリスのやり方かよ。そんなんじゃ高が知れるぜ」

 

「! 貴方! 私の祖国を侮辱しますの!!」

 

「先に喧嘩売って来たのはテメェだろうが! 言いたい事があるんだったら、拳で語ってみろ!!」

 

「!! 決闘ですわ!!」

 

そこでセシリアは、神谷を指差してそう言い放った。

 

「へっ! 最初からそう言やあ良かったんだよ!」

 

「態と負けたりしたら、貴方を小間使い………いえ、奴隷にして差し上げますわ!!」

 

「上等だ!! 良し!!………任せたぞ! 一夏!!」

 

「え、ええええっ!? 俺!?」

 

急に振られて戸惑う一夏。

 

「なっ!? 逃げるのですか!? 卑怯者!!」

 

「バカ言うな! この神谷様が逃げるかよ! テメェがなりてぇのはクラス代表だろう! なら、一夏を倒すのが筋ってもんよ!!」

 

無茶苦茶な理論を展開する神谷。

 

「一夏は俺の弟分だ! 弟分の負けは兄貴分の負け! もし一夏がお前に負けたら、俺も一夏も好きにして良いぜ!!」

 

「ちょっ!? アニキ、勝手に!!………」

 

「良いですわ! 貴方の自慢の弟分………叩きのめしてあげますわ!!」

 

「話は纏まったな。それでは勝負は次の月曜………第3アリーナで行う」

 

「ちょっ!?」

 

一夏の意見を無視して、話が進行して行く。

 

「織斑とオルコットは其々準備をしておく様に………」

 

「何でこうなるんだああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

一夏の叫びが、虚しく木霊するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

獣人達の親玉………螺旋王ロージェノムと螺旋四天王が登場。
その目的は一体?
そして、新たな刺客として放たれたヴィラルの実力は?

一方神谷は、千冬の思惑でIS学園に編入。
しかし、相変わらずのゴーイングマイウェイぶりを見せる。
そして原作最初のバトル、クラス代表戦が始まります。
神谷の誇りまで背負う事になった一夏の運命は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第4話『俺は世界で最高の姉さんと、アニキを持ったよ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第4話『俺は世界で最高の姉さんと、アニキを持ったよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本人の意思とは外れたところで………

 

イギリス代表候補生のセシリアと戦う事になってしまった一夏………

 

嗾けた張本人である神谷は、根拠無しに『一夏なら勝てる』との一点張りであった。

 

戸惑う一夏だったが、退く事を周りの状況が許さず………

 

また自分は兎も角、アニキである神谷に恥を掻かせたくないと思い………

 

渋々ながらも、腹を括ったのだった………

 

 

 

 

 

そして、代表決定戦の開催が決まった次の日の休み時間………

 

再び千冬が、教壇に立った。

 

「織斑、お前のISだが………準備まで時間が掛かるぞ」

 

「へっ?」

 

突然そう言われて戸惑う一夏。

 

「予備の機体が無い………だから、学園で専用機を用意するそうだ」

千冬のその言葉に、生徒達がざわめき出した。

 

「専用機? 1年のこの時期に?」

「つまりそれって………政府から支援が出るって事?」

「凄いな~! 私も早く専用機欲しいな~」

 

口々に羨望の声を挙げる生徒達。

 

「専用機が有るって………そんなに凄い事なのか?」

 

しかし、まだISの知識に乏しい一夏は、専用機の事について良く分からず、首を傾げるばかりだった。

 

と、そんな一夏の前に、セシリアが何の前触れも無く立った。

 

「うわっ!?」

 

「それを聞いて安心しましたわ。クラス代表決定戦、私と貴方とでは勝負は見えていますけど………流石に私が専用機、貴方が訓練機ではフェアではありませんものね」

自慢げにそう語って来るセシリア。

 

「お前も………専用機ってのを持ってるのか?」

 

「御存じ無いの? よろしいですわ! 庶民の貴方に教えて差し上げましょう!」

 

そのままセシリアは、自分が専用機を持っている事………

 

世界にISが467機しかない事………

 

その中でも専用機を持つ者は全人類の中でもエリート中のエリートである事を自信満々に語る。

 

 

 

 

 

ISの中核を成しているISコアは、開発者である篠ノ之 束にしか作れないブラックボックスである。

 

しかし、束はコアを一定数以上造る事を拒絶。

 

更には行方を晦している………

 

国家・企業・組織機関では、割り振られたコアを使用して、研究・開発・訓練を行うしかないのが現状だ。

 

 

 

 

 

「本来なら、IS専用機は国家、或いは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意される………理解出来たか?」

 

そこで千冬が、一夏にそう問う。

 

「な、何となく………」

 

「あの先生………篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」

 

と、その時………

 

ふとその事に気づいた生徒が、そう千冬に尋ねた。

 

「そうだ。篠ノ之はアイツの妹だ」

 

隠していても何れバレる事だと思ったのか、千冬はそう言ってしまう。

 

「「「「「「「「「「ええ~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

クラス中から驚きの声が挙がる。

 

「嘘! お姉さんなの!?」

 

「篠ノ之博士って、今行方不明で………世界中の国や企業が探してるんでしょう?」

 

「何処に居るか、分からないの?」

 

「あの人は関係無い!!」

 

と、そんなざわめき立つ生徒達を制する様に、箒はそう大声を挙げた。

 

「………私はあの人じゃない………教えられる様な事は何も無い」

 

何処かウンザリとした様な様子を見せながら箒はそう言い、クラスメイト達から目を背ける様に窓の外を見遣った。

 

「………山田先生。授業を」

 

「!? ハ、ハイ!!」

 

そこで、千冬が空気を読んだ様に、真耶に授業開始を促した。

 

「………すいません。ちょっと待って下さい」

 

しかし、ふと教室の一角を見るとそう言った。

 

「えっ?」

 

「オイ、織斑………天上は何処へ行った?」

 

困惑する真耶を尻目に、一夏にそう聞く千冬。

 

そう………

 

本来ならば神谷が居るべき席が、空席となっていたのだ………

 

「えっ? えっと………アニキだったら、『天気が良いから屋上で昼寝する』って言って出て行きました」

 

恐る恐ると言った様子でそう答える一夏。

 

その答えを聞いた途端に、千冬はワナワナと小刻みに震え出した。

 

「………あんのぉ、バカ者はああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー………!? うぐっ!?」

 

と、突然千冬は、胃の辺りを押さえて蹲った。

 

「!? 織斑先生!?」

 

「千冬様!?」

 

「お姉様!?」

 

突然崩れた千冬に動揺する真耶と生徒達。

 

「ううう………胃が………胃がキリキリと………」

 

蹲った千冬は、胃の辺りを押さえながらそう呟く。

 

(ああ………千冬姉の神経性胃炎が再発した………)

 

そんな姉の姿に、一夏は同情の眼差しを送るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

その神経性胃炎の原因である神谷はと言うと………

 

「空が青いぜぇ………ふわあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~…………」

 

屋上の芝生の上に寝転び、大欠伸をすると、寝息を立て始めたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、昼食の時間となり………

 

一夏が、箒を強引に昼食へと連れ出し、食堂に来ていた。

 

向かい合う様に席に座り、黙々と昼食を取っている2人。

 

「………なあ、箒」

 

と、不意に一夏が、箒へと話し掛けた。

 

「何だ………?」

 

「ISの事、教えてくれないか? このままじゃ、何も出来ずにセシリアに負けそうだ」

 

「あんな男の弟分などやってるからだ!」

 

「!! アニキを馬鹿にするな!!」

 

と、それを聞いた一夏が激昂した様に大声を挙げ、テーブルを両手で叩いて立ち上がった!

 

「!? 一夏!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

箒は驚き、他の生徒も何事かと注目する。

 

「箒………お前だって、アニキが如何いう男かは知ってるだろう。アニキは決して口だけの男じゃない! 無茶苦茶で滅茶苦茶だけど、1度口にした事は決して覆さない、真の漢だ! お前を苛めてた奴等をブチのめしたのだって、アニキだったじゃないか!」

 

「それは!………確かにそうだが………」

 

思わず一夏から視線を外す箒。

 

実は苛めっ子から守ってもらっていた時、箒は一夏の事しか見てなかったので、アニキはややアウト・オブ・眼中だったのだ。

 

恋する乙女の盲目である。

 

「箒………頼む! この通りだ!!」

 

と、一夏は箒に向かって土下座した。

 

「!? ちょっ!? 一夏! 止めろ!!」

 

突然の一夏の態度に戸惑う箒。

 

「織斑くんが土下座してる!?」

 

「篠ノ之さん………一体何言ったんだろう?」

 

注目していた生徒達も騒ぎ出す。

 

「止めろ! 止めるんだ、一夏! 恥ずかしくないのか!?」

 

「俺が恥を掻くのは良い………けど! アニキの顔に泥を塗る様な真似だけはしたくないんだ! 頼む! 箒!!」

 

一夏はそう言って土下座を続ける。

 

「ぐう………分かった! 教えてやる!! だから頭を上げろ!!」

 

その空気と周りの視線に耐え切れなくなった箒はそう言った。

 

「!! 本当か!! ありがとう、箒!!」

 

途端に、嬉しそうな顔をして、箒の両手を自分の両手で包み込む様に握る一夏。

 

「あ、ああ………」

 

突然両手を握られて、顔を赤くしながら箒は辛うじてそう返事をする。

 

「流石、持つべきものは幼馴染だぜ!!」

 

そんな箒の様子に気づく様子は見せず、一夏は嬉しそうにそう声を挙げるのだった。

 

尚………

 

この1件は、暫く学園内で有名な噂話になった………

 

『篠ノ之 箒が、織斑 一夏を跪かせた』と………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、アッと言う間に時は流れ………

 

クラス代表を決める月曜日が訪れた………

 

第3アリーナには、見物の生徒が多数訪れており、一夏とセシリアの試合を、今か今かと待ち構えていた。

 

既にセシリアの方は、IS専用機を装着して、アリーナの空中に待機している。

 

一方、一夏の方はと言うと………

 

 

 

 

 

ISスーツに身を包み、アリーナのピットで、専用機の到着を待っていた。

 

傍には箒と、神谷の姿も在る。

 

更に、アリーナの管制室には千冬の姿が在り、3人の姿を見下ろしていた。

 

「アレがアイツの専用機か………」

 

と、一夏がモニターを展開させ、IS専用機を装着しているセシリアの姿を映し出す。

 

「なあ、箒………大丈夫なのか? 俺この1週間………ISの事を教えてくれるって言われて、剣道の稽古しかしてないんだけど………」

 

と、そこで不安そうに箒にそう尋ねる一夏。

 

「それは………」

 

「ビビッてんじゃねえ、一夏! 箒の奴はつまり、こう言いたかったに違いねえ!………ISの操縦は肉体の延長線上だ! 己の肉体を鍛える事が、ISで強くなる事に繋がると!!」

 

何か言おうとした箒の言葉を遮って、神谷がそう叫んだ。

 

「そっか………つまり、『考えるな! 感じるんだ!!』って事か!! 成程、そう言う感覚を身に着けさせようとしてくれたんだな! ありがとう、箒!」

 

「あ、ああ………そうだな」

 

真実は違うのだが、一夏が嬉しそうにそう言って来たので、言うに言えない箒だった。

 

[織斑くん! 織斑くん!!]

 

とそこで、慌ててアリーナの管制室に飛び込んで来た真耶から声が掛けられた。

 

[来ました! 織斑くんの専用IS!!]

 

「!!」

 

「おっ!? 来たか!!」

 

「へっ! 弟分の専用IS………どんなもんか拝ませてもらおうじゃねえか」

 

それに反応する箒、一夏、神谷。

 

[織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用出来る時間は限られているからな。ブッつけ本番で物にしろ]

 

続いて千冬がそう言って来たかと思うと、ピット内にあった搬入口が開き始めた。

 

そしてそこから、1体の鈍い色に光るISが姿を現した。

 

[コレが織斑くんの専用IS………『白式』です!!]

 

「コレが………俺の………」

 

感慨深そうに、そのIS………『白式』を見上げる一夏。

 

「ほ~う………ちょいと地味だが、結構イカスじゃねえか」

 

神谷も、白式を見てそう感想を呟くのだった。

 

[すぐに装着しろ。時間が無いから、初期化(フォーマット)と最適化(フィッティング)は実戦でやれ]

 

「…………」

 

千冬にそう言われながら、一夏は白式に手を触れてみた。

 

「………アレ?」

 

と、そこで違和感を覚える一夏。

 

「? 如何した?」

 

「一夏?」

 

その様子に首を傾げる箒と神谷。

 

(初めてISに触った時と、感じが違う………)

 

入試試験会場で、間違ってISに触れて起動させてしまった時の事を思い出し、そう思う一夏。

 

[大丈夫ですか? 織斑くん]

 

その様子を心配した真耶が声を掛ける。

 

「あ、ハイ………(大丈夫だ………馴染む………理解出来る………コレが何なのか………何の為にあるのか………分かる)」

 

それに問題無いと返事を返し、一夏は自分でも分からぬ感覚を感じながら、白式に搭乗し始めた。

 

[背中を預ける様に………そうだ、座る感じで良い………後はシステムが最適化をする]

 

千冬の声を聞きながら、搭乗を完了させる。

 

「白式………コレが白式か………」

 

[セシリアさんの機体は、ブルー・ティアーズ。遠距離射撃型のISです]

 

そこで、真耶がセシリアのISについて教えて来る。

 

「ブルー・ティアーズ………」

 

[ISには絶対防御という機能が有って、どんな攻撃を受けても最低限操縦者の命は守られる様になっています。ただその場合、シールドエネルギーは極端に消耗します。分かってますよね?]

 

[織斑、気分は悪くないか?]

 

「当たり前だろ! 俺を誰だと思ってやがるんだ!」

 

すっかり戦意高揚した様子で、千冬の問い掛けにそう答える一夏。

 

[クッ………とっとと行け!]

 

そんな一夏の様子に苦々しい顔を浮かべると、突っぱねる様にそう言う千冬。

 

「箒、アニキ」

 

「な、何だ!?」

 

「おう!」

 

と、一夏は今度は箒と神谷に話し掛ける。

 

「行って来る」

 

「あ、ああ………勝って来い」

 

「頑張れよ! 一夏!! 忘れるな! お前を信じろ! 俺が信じるお前でもない。お前が信じる俺でもない。お前が信じる………お前を信じろ!!」

 

「ああ!!」

 

一夏は自信満々の笑顔で答えると、カタパルトでピットから飛び出して行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピットから飛び出した一夏は、空中でセシリアと対峙する。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

現れた一夏に向かってそう言うセシリア。

 

「チャンスって?」

 

「私が一方的な勝利を得るのは自明の理………今ここで謝ると言うのなら、許してあげない事もなくってよ」

 

「ふざけるな! 俺を誰だと思ってやがる!! 神谷のアニキの弟分、織斑 一夏だ!! 敵に後ろは見せねえ!!」

 

「そう………残念ですわ。それなら………」

 

と、セシリアがそこまで言った瞬間、白式が警告を発して来た。

 

「お別れですわね!!」

 

そう言う台詞と共に、セシリアは主力武器であるレーザーライフル………『スターライトmkⅢ』を発砲した!!

 

「!! グアアッ!?」

 

咄嗟に防御する一夏だったが、そのまま墜落する。

 

「「!!」」

 

「「…………」」

 

それにヒヤッとする箒と真耶に対し、千冬と神谷はジッと様子を見据えている。

 

「!! クウッ!!」

 

一夏は、地面に叩き付けれる寸前で姿勢を立て直し、何とか着地する。

 

しかしその後も、次々にスターライトmkⅢを発砲して来るセシリア。

 

「クソッ! 俺が白式の反応に追い付けて行けてない!?」

 

何とかかわしている一夏だったが、それは白式を操縦していると言うより、白式に振り回されていると言う様子だった。

 

「さあ、踊りなさい。私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

「クッ! 装備! 装備は………」

 

シールドエネルギーが減少して行くのを確認しながら、武器を検索する一夏。

 

しかし、白式が装備していた武器は………

 

近接ブレードが1本だけだった。

 

「コレだけ!? ええい! 男は度胸!!」

 

素手でやり合うよりはマシだと思い、一夏はブレードを出現させる。

 

「遠距離射撃型の私に、近距離格闘装備で挑もうなんて、笑止ですわ!!」

 

「うるせえっ! 無理を通して道理を蹴っ飛ばす! それが俺達グレン団のやり方だ!!」

 

そう叫ぶと、一夏はブレードを構えて、セシリアのブルー・ティアーズに突撃して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

その戦いをアリーナに居る者以外で見ている者が居た………

 

IS学園近くの海の底に沈んでいる巨大な影………

 

エビやサソリ、カブトガニを思わせる異形の怪獣の様な潜水艦………

 

潜水母艦型ガンメン『ダイガンカイ』だ。

 

その艦長席に座って居るヴィラルは、モニターに映っている一夏とセシリアの戦いの様子を、興味深そうに見ていた。

 

「アレが世界で唯一ISを使える男………織斑 一夏か」

 

そう言って、一夏に視線を集中するヴィラル。

 

やがて、モニターに映る一夏は、セシリアが繰り出した機体名の由来にもなっているビット型の武器『ブルー・ティアーズ』をブレードで斬り捨て始めた。

 

「成程………まだ未熟だが、凄まじいセンスを持っているな………あのブリュンヒルデの弟なだけはある」

 

その一夏の姿に、ヴィラルは笑みを浮かべる。

 

それは、獲物を目の前にした獣の攻撃的な笑みだった。

 

「螺旋王様は織斑 一夏のデータも欲していた………丁度良い………その力! このヴィラル自身が見極めてくれる!!」

 

と、ヴィラルがそう叫んだかと思うと、突如として彼の姿が艦外へと射出された!!

 

海の中へと放り出されたヴィラルだったが、そのまま難なく海面まで泳いで行ったかと思うと、海面から水柱を上げて勢い良く飛び出した!!

 

そして何と!!

 

そのまま海面を凄まじいスピードで水飛沫を上げながら疾走し始めた!!

 

「待っていろ! 織斑 一夏!! そして待っていろ! グレンラガン!! このヴィラルが! 今行くぞぉ!!」

 

そう叫びながら、海面を走って行くヴィラル。

 

明らかに人間が出来る技ではない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の一夏は………

 

遂に周りを飛び交っていたブルー・ティアーズ4基を撃墜し、セシリアに斬り掛かろうとしていた。

 

「距離を詰めればコッチが有利だ!!」

 

(掛かりましたわ!)

 

内心でそう思い、残っていた2基のミサイルを発射するブルー・ティアーズを一夏に見舞おうとするセシリア。

 

[!! 一夏ぁ!! 左だぁ!!]

 

と、その時!!

 

ピットで試合の様子を見ていた神谷が、アリーナのスピーカーを使い、上空の一夏にそう声を送った!!

 

「えっ!?」

 

「!?」

 

突然聞こえて来た声に、一夏もセシリアも促されるままにその方向を見やる。

 

と、その次の瞬間!!

 

アリーナに張られていた安全の為の遮断シールドをガラスの様に突き破り、ヴィラルが一夏目掛けて、文字通り飛んで来た!!

 

「!? うわああっ!?」

 

咄嗟に防御姿勢を取った一夏に、ヴィラルの蹴りが叩き込まれた。

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

衝撃で墜落する一夏。

 

今度は真面に地面に落下して、派手に土煙を上げた!

 

[な、何だ今のは!?]

 

[す、素手でISをブッ飛ばした様に見えましたけど!?]

 

[バカな! そんな事が有り得るか!!]

 

余りにもブッ飛んだ事態に、箒も、真耶も、そして千冬さえも事態の把握が出来ていなかった。

 

「な、何が起こったんだ!?………!? グフッ!?」

 

仰向けに倒れていた一夏が起き上がろうとしたところ、何者かがその胸を踏み付けて来て、再び倒した。

 

「!?」

 

やがて土煙が晴れて、その姿が露わになる。

 

一夏の胸を踏み付けていたネコ科の様な鋭い目付きをし、鮫のような歯と異形な手をし、右眼を隠すようにした金髪が特徴的で、人間に近い姿をした獣人………ヴィラルだった。

 

「…………」

 

獰猛な笑みを浮かべて、一夏を見下ろしているヴィラル。

 

[な、何だアイツは!?]

 

[獣人!?]

 

[まさか、この前の奴の仲間か!?]

 

その姿を見た箒、真耶、千冬がそう言う。

 

「な、何アレ!?」

 

「今、アリーナのシールドを突き破って来たよね!?」

 

「って言うか、生身でISを蹴り飛ばした!?」

 

観客として来ていた生徒達も騒ぎ始める。

 

「お、お前は!?」

 

「弱い………弱過ぎるぞ………織斑 一夏………世界で唯一ISを使える男の実力とは………この程度のものかぁ!!」

 

と、ヴィラルは一夏にそう言い放ったかと思うと、その首根っこを掴んで、アリーナの壁に向かって放り投げた!!

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

そのまま弾丸の様にブッ飛んで行った一夏は、遮断シールドを突き破ってアリーナの壁に叩き付けられ、アリーナの一角を破壊した!!

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そこでやっと、事態の深刻さに気付いた観客の生徒達が、悲鳴を挙げながら逃げ出し始めた。

 

客席の防護シャッターも閉じ始める。

 

「ぐ、う………クソッ! 一体何なんだ!?………!? うわっ!?」

 

とそう言いながら起き上がった一夏の前に再びヴィラルが立ち、連続で蹴りを叩き込んで来た!!

 

「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

その蹴りの威力は凄まじく、ブルー・ティアーズとの戦いで減っていたシールドエネルギーが、更にガリガリと削られて行く。

 

「如何した、如何した!! まともに反撃も出来ないのか!? その程度でISの操縦者とは! 笑わせてくれる!!」

 

小馬鹿にする様にそう言い、更に連続で蹴りを見舞って行くヴィラル。

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

「………ハッ!? 貴方! いきなり乱入して来て、一体何ですの!!」

 

とそこで、あまりのブッ飛んだ事態に茫然としていたセシリアが、我に返ると地上に降り立ち、一夏を嬲っているヴィラルに向かって、スターライトmkⅢを構えた。

 

[イカン! セシリア! 止せ!!]

 

「フンッ! 貴様は引っ込んで居ろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

千冬が止めるが時既に遅く、それに気づいたヴィラルは、一瞬にしてセシリアの元まで跳躍。

 

セシリアのブルー・ティアーズを思いっきり殴りつけた!!

 

「!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

ヴィラルに殴られた衝撃でブッ飛ばされ、満タン近く有ったシールドエネルギーを大きく削られて物理的にも背中を削りながらアリーナの壁に叩き付けられるセシリア。

 

アリーナの壁が、防護シャッターごと砕け散る!

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

まだシャッターの閉じたアリーナの客席内に居た生徒達が逃げ惑う。

 

「うう………」

 

セシリアは無事だが、凄まじい衝撃を受けて、動けなかった。

 

[う、ウソ………]

 

[何て奴だ………]

 

ヴィラルの常識破りな暴れっぷりに、真耶と千冬は言葉を失う。

 

「フン、他愛も無い………さて………」

 

セシリアが動かなくなったのを見て興味を無くすと、ヴィラルは再び一夏に向き直った。

 

「!? うわぁっ!?」

 

先程までヴィラルに甚振られる一方だった一夏は、ヴィラルの姿を見て、思わず怯えた様子を見せてしまう。

 

「螺旋王様はデータを取れと仰っていたが………コレではその価値も無いな………一思いに殺してやろう」

 

そんな一夏に向かってヴィラルはそう言い放つと、ゆっくりと一夏に向かって歩き出した。

 

「あ、あああ………」

 

恐怖に震える一夏は動けない。

 

[一夏! 逃げろ! 逃げるんだ!!]

 

ピットの箒からそう通信が送られてくるが、一夏の耳には届かない。

 

「終わりだ………」

 

ヴィラルの目つきが更に鋭くなる。

 

 

 

 

 

 

………と、その時!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テリャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

突如現れた人影が、一夏にトドメを刺そうとしていたヴィラルに長刀で斬り掛かった!!

 

「!? チイッ!!」

 

咄嗟に後方へと飛び退くヴィラル。

 

「やいやいやいやい! ケダモノ大将! 俺の弟分の試合に乱入するたぁ、ふてぇ野郎じゃねえか! だがな! これ以上に無法は、この神谷様が許さねえぜぇ!!」

 

その人影の正体は勿論、神谷だった。

 

[天上くん!?]

 

[神谷!?]

 

[あの………馬鹿が!!]

 

真耶、箒、千冬からそう声が挙がる。

 

「ほう………貴様がグレンラガンの装着者か………成程………天上博士にそっくりだな」

 

と、神谷の姿を見たヴィラルが、そんな言葉を呟く。

 

「!? テメェ!? 親父の事を知ってんのか!?」

 

それを聞いた神谷が目の色を変え、ヴィラルにそう問い質す。

 

「これから死ぬ貴様に教える義理は無い!!」

 

しかし、ヴィラルはそう言い放つと、前回学園を襲撃した獣人達が持っていたのと同じ様な、顔の様な形をしたバッジを取り出した。

 

「来い! エンキィ!!」

 

ヴィラルがバッジを掲げてそう叫んだかと思うと、その姿が光に包まれ………

 

白と灰色の機体色で、人型に近いフォルムをしているが、頭部には兜が被せられているだけで顔が無く、代わりにボディの部分に顔があり、両脇腰に1本づつ、計2本の刀を携えたガンメンの姿が現れた。

 

[! やはり奴もこの間の連中の仲間か!!]

 

[で、でも………前のと違って、人型に近い形をしていますよ!?]

 

ガンメンとなったヴィラルの姿を見て、千冬と真耶がそう言う。

 

「コレが私のガンメン………『エンキ』だ! さあ! グレンラガンを出せ!!」

 

ヴィラル改め『エンキ』は、神谷に向かってそう言い放つ。

 

「へっ! エンキだか、ペンキだか知らねえが! 名指しで喧嘩を売られたとあっちゃ、男として引き下がれねえなぁ!!」

 

神谷はそう言うと、長刀を背の鞘に戻し、首から下げていたコアドリルを右手に握り、天に掲げる様に構えた!

 

「グレンラガン! スピンオンッ!!」

 

そう叫ぶと、コアドリルから緑色のエネルギーが溢れ、神谷を包み込む!

 

そして、そのエネルギーが弾けたかと思うと、グレンラガンが姿を現した!!

 

「男の魂、燃え上がる! あ、度胸変身! グレンラガン!! 俺を誰だと思っていやがる!!」

 

見得を切る様なポーズを取り、神谷がそう言い放つ。

 

「グレンラガン………貴様の持つ螺旋の力………試させてもらうぞおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

するとすぐさま、エンキから左ストレートが繰り出された!!

 

「ワケの分からねえ事抜かしてんじゃねえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

反射的に、グレンラガンも右ストレートを繰り出した!!

 

互いの拳が、相手の頭部の横っ面に叩き込まれた!!

 

「ク、クロスカウンター!?」

 

胸熱な展開に、思わず吠える一夏。

 

「グウッ!?」

 

「チイッ!!」

 

エンキとグレンラガンは、お互いに1歩下がる。

 

「おりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

先に仕掛けたのはグレンラガン。

 

再び右の拳を握り、エンキに殴り掛かろうとする。

 

「甘い!!」

 

たが、突っ込んで来るグレンラガンに向かって、エンキは右腕を向ける様に構えたかと思うと、そこからニードルガン………エンキカウンターが発射された!!

 

「!? うおっ!?」

 

防御姿勢を取るものの、動きを止められてしまうグレンラガン。

 

「セアアアアッ!!」

 

そのグレンラガンに、エンキは両手を組んでのハンマーパンチをお見舞いする!

 

「ぐあっ!?」

 

「フンッ!!」

 

そして、グランラガンの下がった上体に、追撃の蹴りを叩き込む。

 

「おわあっ!?」

 

軽くフッ飛ばされるグレンラガン。

 

「!? アニキ!!」

 

「チッ! テメェ………中々やるじゃねえか」

 

一夏の悲鳴の様な叫びが木霊する中、フッ飛ばされた際に上がった土煙の中でグレンラガンは立ち上がる。

 

「だが! まだこれからよ!!」

 

神谷がそう声を挙げると、グレンラガンは胸部の顔の目の部分に装着されていたサングラス………『グレンブーメラン』を外し、右手に握る。

 

「面白い………この俺に剣で挑むか!!」

 

それを見たエンキは、両脇腰にあった鞘から、刀を抜き放ち、両手に二刀流で構えた。

 

「行くぜぇ! 男の情熱ぅ!!」

 

叫びと共に、空へと跳び上がるグレンラガン!

 

「燃焼斬りぃぃぃっ!!」

 

必殺の、『男の情熱燃焼斬り』を繰り出す。

 

「それが貴様の必殺技か!?」

 

だが、ヴィラルがそう言ったかと思うと、エンキは右の刀で、グレンラガンが振り下ろして来たグレンブーメランを弾く!

 

「!? 何っ!?」

 

「チエアアアアッ!!」

 

そして、左の刀でグレンラガンに横薙ぎの1撃を叩き込んだ!!

 

「おわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

ブッ飛ばされて、地面の上を転がるグレンラガン。

 

「チイッ! おりゃああっ!!」

 

だが、素早く態勢を立て直すと、エンキに向かってグレンブーメランを投擲した!!

 

勢い良く回転しながらエンキに向かって行くグレンブーメラン。

 

「フンッ」

 

しかし、エンキは高速で迫って来ていたグレンブーメランを、アッサリと弾き返してしまう。

 

「クソッ!!」

 

悪態を吐きながら、戻って来たグレンブーメランをキャッチするグレンラガン。

 

「フッ………如何やら貴様はまだ、グレンラガンの力を使いこなせていない様だな」

 

「!? 何だと!!」

 

ヴィラルの挑発する様な言葉に怒りを露わにする神谷。

 

「グレンラガンを使える人間が現れたと聞いて来てみれば………この程度か。期待外れも良いとこだ」

 

「このケダモノ野郎! 好き放題言いやがって!!」

 

神谷がそう叫ぶと、再びグレンラガンは、エンキに向かって突撃して行く。

 

[イカン! 神谷! 冷静になれ!!]

 

「その勢いの良さは………」

 

千冬がそう叫ぶが、エンキは突っ込んで来たグレンラガンが繰り出した右拳を躱すと、伸び切った腕を脇で挟んで捕まえる。

 

「褒めて! やるよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そしてそのままグレンラガンをスイングすると、思いっきりアリーナの壁に向かって投げ付けた!!

 

「おわあああっ!?」

 

アリーナの壁に勢い良く叩き付けられるグレンラガン。

 

「アニキィッ!! このままじゃ、アニキが………」

 

助けに行こうとする一夏だったが、先程の恐怖が残っており、身体が震えて言う事を聞かない………

 

「だ、駄目だ………」

 

思わず諦めかける一夏。

 

と、その時!!

 

「何をしている! 一夏!!」

 

ピットに居た箒が、アリーナの射出口へと姿を現した!!

 

「!? 箒!? 馬鹿! 危ないぞ! すぐに戻れ!!」

 

「一夏! お前は何をやっている!?」

 

一夏がそう叫ぶが、箒は聞かずにそう言葉を続ける。

 

「お前が兄と慕う男が、今必死になって戦っているんだぞ!! なのに弟分のお前がその様で如何する!! 立て! 立つんだ、一夏!! 自分を信じろ!!」

 

「!?」

 

箒のその言葉にハッとする一夏。

 

(お前を信じろ! 俺が信じるお前でもない。お前が信じる俺でもない。お前が信じる………お前を信じろ!!)

 

1年前に………そしてアリーナに出る前にも聞いた神谷の言葉が思い起こされる。

 

「チッ! 煩い人間め………目障りだ!!」

 

と、そこで箒の存在に気付いたエンキが、頭部の兜の角飾り部分に、赤色のエネルギーをチャージし始めた。

 

狙いは勿論、箒だ。

 

「!?」

 

「死ねえぇっ!!」

 

箒が驚いた瞬間!!

 

エンキから、必殺の破壊光線『エンキ・サン・アタック』が放たれた!!

 

「!! 箒いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

その瞬間!

 

一夏は、自身の身体を箒とエンキ・サン・アタックの間に割り込ませた!!

 

そしてそのまま、エンキ・サン・アタックの直撃を受け、爆炎に包まれた!!

 

「!! 一夏あぁ!!」

 

[織斑くん!?]

 

[!?]

 

箒から悲痛な叫びが挙がり、真耶と千冬も慌てる。

 

だが、次の瞬間………

 

その爆炎が弾けて………

 

 

 

 

 

中から、白いISを装着した一夏の姿が現れた!!

 

 

 

 

 

「!? 何っ!?」

 

「一夏!?」

 

「へへっ………漸く終わったみたいだな」

 

目の間に表示されている『フォーマット、フィッティング完了』の文字を見て、ニヤリと笑いながらそう言う一夏。

 

「まさか………一次移行(ファーストシフト)………あ、あの人、私との戦いでは初期設定だけの機体で戦っていたと言うの!?」

 

それを見たセシリアが、そう驚きの声を挙げた。

 

「何だか良く分からねえけど………コレで漸く白式(コイツ)は俺のモンになったってワケだ!!」

 

そう言う一夏の右手には、先程まで握っていたブレードとは違うブレードが握られていた。

 

そして目の前に、『近接特化ブレード『雪片弐型』使用可能』の文字が浮かび上がった。

 

「雪片弐型?………雪片って、千冬姉が使ってた武器だよな? フッ………俺は世界で最高の姉さんと、アニキを持ったよ」

 

一夏がそう言うと、雪片弐型が変形し、エネルギーの刀身を作り出した!!

 

「でもそろそろ、守られるだけの関係は終わりにしなくちゃな………コレからは、俺が家族を守る!」

 

「ええい! 貴様! 何をゴチャゴチャと!!」

 

そこでヴィラルがそう声を挙げる。

 

「聞けっ! 獣人野郎!!」

 

すると一夏が、雪片弐型でエンキを指し、そう言い放った!!

 

「!?」

 

「剣を振るなら天を斬る!! 刃折れても振り抜いて、斬り捨てたなら俺の勝ち!! 俺を誰だと思っている!? 俺は織斑 一夏!! 俺の剣は………天を斬り裂く剣だぁっ!!」

 

そして、そう言い放つと、エンキに向かって突撃した!!

 

「クウッ! くたばれえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

エンキは、突っ込んで来る一夏に向かって、エンキ・サン・アタックを放った!!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

向かって来るエンキ・サン・アタックに対して、雪片弐型を振るう一夏。

 

すると、エンキ・サン・アタックが斬り裂かれ、霧散した!!

 

「!? 何だと!?」

 

「でりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そしてそのまま、エンキに向かって斬り掛かる!!

 

「グウウッ!?」

 

両手に持っていた刀を交差させる様に構えて受け止めるエンキ。

 

だが、徐々に刀にヒビが入り始める。

 

「な、何故だ! 姿が変わった途端にコレほどのパワーを発揮するとは!! コレが織斑 一夏の力なのか!?」

 

「行っけええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

一夏が叫びながら、更に雪片弐型を押し込むと、遂にエンキの刀が完全に砕け散った!!

 

「!! チイッ!!」

 

しかしその瞬間、エンキは僅かに後退すると、ボディの顔の部分の装甲を展開!!

 

そこからミサイルや機関銃と言った重火器の発射口が出現する!!

 

「!?」

 

「この至近距離では躱せまい!!」

 

そう言って、全火器をブッ放そうとするエンキ。

 

だが、その時!!

 

「俺が居る事を忘れるんじゃねえキイイイイィィィィィックッ!!」

 

グレンラガンの飛び蹴りが、エンキに炸裂した!!

 

「ぐああああっ!?」

 

それを真面に喰らったエンキは、地面の上を転がって行く。

 

「アニキッ!」

 

「すまねえ、一夏。助かったぜ。流石は俺の弟分だな」

 

一夏に向かってそう言う神谷。

 

「グウウッ! グレンラガン!!」

 

その間に、エンキが起き上がる。

 

「良し、一夏! 一気に決めるぜ!!」

 

「おうっ!!」

 

神谷の言葉に、力強く返事を返す一夏。

 

すると………

 

グレンラガンが、そんな一夏を白式ごと持ち上げ、投げ飛ばそうとしている様なポーズを取った!

 

「ア、アニキ!?」

 

神谷が何をするのか分からず、困惑する一夏。

 

「トドメはお前だ! 根性入れろよ、一夏!! 喰らえっ! 必殺!! 男の魂完全燃焼!! キャノンボールアタックゥッ!!」

 

直後に、グレンラガンは一夏をエンキに向かって思いっきり投げつけた!!

 

[[「馬鹿アアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」]]

 

箒、真耶、千冬が揃ってそう叫ぶ。

 

「無茶苦茶なんですけどおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

投げ飛ばされた一夏も気が気でなく、涙目になってそう叫ぶ。

 

「バカめ! そんな攻撃が当たるか!!」

 

ヴィラルがそう言い、エンキがサイドステップを踏む。

 

このままでは外れてしまう………

 

と、その時!!

 

「や、やるしかないでしょうがあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

一夏が覚悟を決めて、何としてもエンキにブチ当たろうとした瞬間………

 

偶然にもISのある技が発動した。

 

その機能とは………『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』

 

ISの後部スラスター翼からエネルギーを放出し、それを内部に一度取り込み、圧縮して放出する事によって、その際に得られる慣性エネルギーを利用して爆発的に加速する、という技である。

 

如何にかしてエンキにブチ当たろうとして、身体がエンキの方へ向いていたので、一夏は空中で直角に曲がる様に軌道修正。

 

改めてエンキに突撃して行った!!

 

「!? 何っ!?」

 

まさか曲がって来るとは思っていなかったヴィラルは慌てて動けない。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

動きが止まったエンキに向かって、一夏は雪片弐型を横薙ぎに振るった!!

 

ガキャアアンッ!! という甲高い音がアリーナに木霊したかと思うと………

 

エンキの兜を被っていた頭部に斬れ目が入り………

 

そのまま爆発した!!

 

「クッ! 浅かったか!?」

 

そのエンキの背後に着地し、エンキの方を振り返りながらそう言う一夏。

 

「わ、私の兜が!?………貴様あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

兜が破壊されてしまった事に怒りを露わにし、再び戦闘を開始しようとするエンキ。

 

と、そこへ………

 

[ヴィラル! 退け!!]

 

チミフルから、撤退命令が下った。

 

[!? チミフル様! しかし!!]

 

[コレは螺旋王の命令である!!]

 

[ぐうっ!!………]

 

反論しようとしたヴィラルだったが、螺旋王の命とあっては逆らえなかった。

 

「おのれ、織斑 一夏! おのれ、グレンラガン!! この屈辱は何れ晴らしてくれるぞ!!」

 

ヴィラルがそう叫ぶと、エンキは再びボディの顔の部分の装甲を展開して重火器を手当たり次第に発砲!!

 

アリーナ一帯が爆煙に包まれた!!

 

「うわっ!?」

 

「うおっ!?」

 

至近距離にも着弾し、思わず腕で顔を覆う一夏とグレンラガン。

 

やがて爆煙が収まったかと思うと………

 

エンキの姿は、何処にも無くなっていた。

 

「あっ!? しまった!!」

 

「逃げられたか………畜生!!」

 

地団太を踏む様な仕草を見せるグレンラガン。

 

(アイツ………親父の事を知ってやがった………それに、前に現れた獣人もグレンラガンを知っている様な素振りを見せた………一体何の関係が有るんだ?)

 

考えが頭の中で堂々巡りする神谷。

 

「アニキ! 大丈夫!? 怪我してない!?」

 

とそこへ、一夏が心配した様子を見せながら近づいて来た。

 

「ん? あ、ああ、心配要らねえよ。俺を誰だと思ってやがる」

 

「良かった~」

 

神谷が無事で安堵の息を吐く一夏。

 

「………一夏、あんがとよ。助かったぜ」

 

「えっ?」

 

「お前が来てくれたお蔭で、奴を倒す事が出来た」

 

「そ、そんな! 俺、そんなに活躍は………」

 

「何言ってやがる! 今日の戦いはまぎれも無くお前の手柄だぜ! さっきの口上………中々胸にガツンッと来たぜ!!」

 

「アニキ………」

 

一夏とグレンラガン(神谷)はそう言い合って、勝利を喜ぶかの様に、拳と拳を合わせ合ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ウチの千冬は某忍術学園教師並みのストレス性神経性胃炎持ちです(笑)

それはさておき、遂に始まったクラス代表戦。
だがそこへヴィラルが乱入してきます。
そしてトンでもない暴れっぷりを見せてくれました。
丁度これを書いてた頃、第2次スーパーロボット大戦Zが発売されて、真マジンガーに触れていた頃でして。
ヴィラル大暴れのシーンは、真マジンガーのあしゅら男爵のパロディです。
今後もこの様な今川泰宏監督の様な演出が多々入るので、しっかりと付いてきて下さい(爆)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第5話『ココはどーんと胸を借りる積りで来やがれ!!』

今年度最後の投稿となります。

来年もよろしくお願いします。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第5話『ココはどーんと胸を借りる積りで来やがれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏とセシリアのクラス代表を決める戦いは………

 

ヴィラルの乱入により、御流れとなった………

 

アリーナの損傷も酷かった為、再試合はアリーナの修復が終わってからとなった。

 

しかし、その後………

 

セシリアがクラス代表候補から降りると宣言………

 

その為、自動的に一夏がクラス代表へと就任する事になった。

 

 

 

 

 

その夜………

 

IS学園の食堂にて………

 

「織斑くん、クラス代表決定おめでとーう!!」

 

「「「「「おめでとうーっ!!」」」」」

 

一角の席を借り切り、一夏のクラス代表就任を祝うちょっとしたパーティが行われていた。

 

「あ、ありがとう………」

 

「オラ、一夏! もっと堂々としろ!! お前はクラスの代表! 言わば、コイツ等のリーダーになったんだぞ! リーダーがそんな態度じゃ、子分達は付いて来ねえぞ!!」

 

恐縮している一夏と、その左隣に座って堂々としろと言っている神谷。

 

「………フンッ」

 

そして、そんな2人の姿を見て、面白くなさそうな表情を浮かべる箒。

 

「でも………セシリア、本当に良かったのか? 俺がクラス代表になっても?」

 

と、そこで一夏は、箒の更に隣に座って居たセシリアにそう声を掛けた。

 

「うふふ………確かにあのまま戦っていれば、私の勝ちは確実だったでしょう」

 

「んだとぉ!? 一夏が負けるかよ!!」

 

「アニキ、押さえて………」

 

立ち上がると得意そうにそう語り出すセシリアに、神谷が摑み掛かって行きそうになったが、一夏が押さえる。

 

「ですが、一夏さん」

 

「あ、ハイ………」

 

不意に呼ばれて、思わず敬語で返事をしてしまう一夏。

 

「あの謎のマシンを退けた時の腕前………正直、感嘆致しましたわ。私、今まで男はだらしなくて駄目で頼りない存在だと思っていましたけど………」

 

(それは俺も最初はそう言う風に見られてたって事か?)

 

セシリアの言葉に、一夏は心の中でそうツッコむ。

 

「ですが、一夏さん………貴方は違いました。あの敵を相手に逃げずに戦い、勝利した………あんな度胸がある殿方は初めてみました。あの口上が今でも私の耳に残っていますわ」

 

「そ、そりゃあ、どうも………」

 

褒められているので悪い気はせず、若干照れた様子を見せる一夏。

 

「…………」

 

そんな一夏を見て、箒は更に面白くなさそうな顔をする。

 

「そして………神谷さん」

 

「あん?」

 

急に話し相手が変わり、神谷は気の無い返事を返す。

 

「貴方の、あの敵に迷わず向かって行った勇気にも感嘆させられましたわ。何度打ちのめされても立ち上がるその根性にも」

 

「へっ、打ちのめされたは余計だよ」

 

そう言いながらも、ニヤリとした笑みを浮かべている神谷。

 

「流石は一夏さんの兄貴分なだけは有りますわ。貴方が口だけの人間じゃないという事は良く分かりました」

 

「高飛車女………いや、セシリア。お前も見る目が有るじゃねえか」

 

「当然ですわ! 私を誰だと思っているのです!?」

 

と、セシリアはそう言って腕組みをしたポーズで仁王立ちした。

 

その様子に、パーティーに参加していた生徒達が一瞬呆気に取られる。

 

「気に行ったぜ! お前にもグレン団メンバーの称号をやるぜ!!」

 

「グレン………団? 何ですの、ソレ?」

 

「熱い魂の在り処だ!」

 

「成程………光栄ですわ」

 

そう言い合って、互いにニヤリと笑い合うセシリアと神谷だった。

 

(セシリアって、あんなキャラだったけ?)

 

(天上くんと織斑くんの熱血ぶりが移ったのかな?)

 

(このまま行くと………クラス全員が熱血漢に!?)

 

(それはやだな~。何か汗臭そう~)

 

(良いな~。私もグレン団に入りたいなぁ~)

 

そんな様子を見て、そうヒソヒソと話し合う生徒達だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

IS学園・1年1組の教室にて………

 

今、教室内では1つの噂が飛び交っていた。

 

「おはよー。ねぇ、聞いた? 転校生の噂?」

 

「あん?」

 

「転校生? 今の時期に?」

 

教室に着いて、席に座った一夏と神谷に、クラスメイトの1人がそう言って来た。

 

「そう、何でも中国の代表候補生なんだってさ」

 

「あら? 私の存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

 

その話を聞いていたセシリアが、相変わらず様になっている腰に手を当てるポーズを取ってそう言う。

 

「このクラスに転入して来るワケではないのだろ? 騒ぐ程の事でもあるまい」

 

先程まで自分の席に居た箒が、何時の間にか一夏の傍に来てそう言う。

 

「どんな奴なんだろうな?」

 

「へっ、喧嘩を売って来たら返り討ちにしてやるぜ」

 

時期外れの転入生に興味を抱く一夏と、好戦的な台詞を吐く神谷。

 

「もうすぐクラス対抗戦だもんね。織斑くんには頑張ってもらわないとね」

 

「フリーパスの為にも」

 

「今のところ専用機持ってるクラス代表って1組と4組だけだから、余裕だよ」

 

と、クラスメイト達がそう言い合っていると………

 

「………その情報、古いよ」

 

そう言う声が、教室の入り口辺りから聞こえて来た。

 

「「「「「?」」」」」

 

一同がその声に釣られる様に、教室の入り口に目をやると、そこには………

 

肩出しの改造制服を着た、小柄でツインテールの少女が佇んでいた。

 

「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから!」

 

ツインテールの少女は、1組の生徒全員に聞こえる様にそう言い放つ。

 

「鈴?………お前、鈴か!?」

 

「おおっ!? 何だよ、チャイナ娘! 久しぶりじゃねえか!!」

 

その少女の姿を見た一夏が驚いた様子で、神谷が懐かしい顔に会ったと言う顔で席から立ち上がった。

 

「そうよ! 中国代表候補生、凰 鈴音(ファン リンイン)! 今日は宣戦布告に来たって訳………って、神谷!? 何でアンタまでこの学園に居るのよ!?」

 

ビシッと人差し指を立てた右手を1組の教室に向ける様に構えて、高らかにそう言い放つ少女………凰 鈴音(ファン リンイン)だったが、神谷の姿を見てその高らかな態度が1発でフッ飛ぶ。

 

「フッ………愚問だな!! 弟分の一夏が居る学園に兄貴分の俺が居る!! 当然の事だろう!!」

 

「説明になってないわよ!! 何っ!? アンタもISを操れるってワケ!?」

 

そのまま神谷と言い争いに突入する鈴。

 

………と言うより、鈴が一方的に神谷に突っ掛かってると言う感じだ。

 

「だ、誰ですの? 神谷さんは兎も角、一夏さんと親しそうに………」

 

「…………」

 

その様子に、若干戸惑いを浮かべているセシリアと箒。

 

「ああ、もう! 兎に角!! 一夏! 今日はアンタに宣戦布告を………」

 

と、鈴が改めて一夏に宣戦布告を言い渡そうとしたところ………

 

突然後ろから頭を小突かれた。

 

「!? イッターッ!?………何すんの!?………!? ふわっ!?」

 

振り向いて、小突いて来た人物に噛み付く鈴だったが、その人物………

 

千冬の姿を見て表情を変える。

 

「もうSHRの時間だぞ」

 

「ち、千冬さん………」

 

「織斑先生と呼べ。サッサと戻れ。邪魔だ」

「す、すいません………また後で来るからね! 逃げないでよ、一夏! ついでに神谷! アンタもね!」

 

千冬の迫力に圧倒された様に道を譲ると、そう捨て台詞を残して、鈴は去って行った。

 

「アイツが………代表候補生?」

 

「へっ………面白くなってきたじゃねえか」

 

若干の戸惑いを浮かべている一夏と、何やらワクワクしている様な様子を見せる神谷だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、昼食の時間となり………

 

一夏、神谷、鈴が、同じ席で昼食を取っていた。

 

その隣の席では、箒とセシリア、そして同じクラスの生徒達が、その様子を注視していた。

 

「で? 何時代表候補生になったんだよ?」

 

「アンタこそ、ニュースで見た時、ビックリしたじゃない………神谷が居た事にはもっと驚いたけど」

 

「当然だ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

「またそれ! いい加減、耳に胼胝が出来るほど聞いたんだけど!!」

 

「バッキャロウ! 男の決め台詞ってのは、言わば魂の言葉なんだよ!!」

 

「だから意味が分かんないって言ってんでしょ!!」

 

またも神谷に突っ掛かっている鈴。

 

「アハハハハッ! こうしてると、あの頃を思い出すなぁ………」

 

そんな2人の様子を見て、一夏は昔を懐かしむ様に楽しそうな表情を浮かべる。

 

と、その時!!

 

「一夏! 神谷! そろそろ説明して欲しいのだが………」

 

「そうですわ、一夏さん! 神谷さん! その人は誰ですの!?」

 

と、そこで………

 

横のテーブルで見ていた箒とセシリアが、そう言いながら一夏と神谷………主に一夏の方に詰め寄って来た。

 

「ま、まさか、一夏さん! こちらの方と、つ、つつつ、付き合ってらっしゃるの!?」

 

「!? べ、べべべ、別に私は………」

 

セシリアの付き合っているのか、という質問に動揺する鈴だったが………

 

「そうだぞ。只の幼馴染だよ」

 

一夏がアッサリとそう言い放った。

 

「むうう………」

 

それを聞いた鈴は不機嫌そうな顔になる。

 

「ん? 如何かしたか?」

 

「何でも無いわよ!」

 

一夏が問い掛けると、そう言ってそっぽを向いてしまう鈴だった。

 

「幼馴染?」

 

その言葉に箒が驚いた表情を見せる。

 

「そういや、箒。お前とは入れ違いに来たんだっけな」

 

「ああ、そう言えば………」

 

神谷の言葉に、一夏も同意する。

 

「こいつは篠ノ乃 箒。前に話しただろ? 箒はファースト幼馴染みで、お前はセカンド幼馴染みと言った所だ」

 

「ファースト………」

 

ファーストと言う言葉に、箒は頬を赤らめる。

 

「ふ~~ん、そうなんだ………初めまして、これからよろしくね」

 

「ああ、こちらこそ………」

 

そう言い合う鈴と箒の視線が交差した瞬間、火花が散った様に見えた。

 

「ん、んん! 私の存在を忘れてもらっては困りますわ。わたくしはセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生ですわ。一夏さんとは、先日クラス代表の座を掛けて、熱い戦いを………」

 

「アンタ、1組の代表になったんだって?」

 

「ああ、まあ………半ば成り行きみたいなもんだけどな」

 

セシリアが語り始めているのを無視して、鈴は一夏を会話を続ける。

 

「へえ~、意外ねえ。神谷が居るんだったら、てっきりアンタがなるとか言い出すと思ったんだけど………」

 

「オイオイ、鈴。見くびってもらっちゃ困るなぁ。この神谷様が弟分の晴れ舞台を邪魔すると思ってんのかよ」

 

「あ、そう………まあ、別に良いけど………一夏。良かったらアタシが見てあげようか? ISの操縦」

 

「ああ、そりゃ助かる」

 

「………って、ちょっとぉ! 聞いてらっしゃるのぉ!?」

 

とそこで、無視されている事に気づいたセシリアが、鈴に迫る。

 

「ゴメン………アタシ、興味無いから」

 

しかし、鈴はそう言って、バッサリと斬り捨てる。

 

「言ってくれますわね………」

 

「一夏に教えるのは私の役目だ!!」

 

と、そこで箒もそう言って、鈴に迫った。

 

「貴方は2組でしょ。敵の施しは受けませんわ!」

 

「アタシは一夏と話してるの。関係無い人達は引っ込んでてよぉ」

 

「「むう!!」」

 

鈴の挑発する様な態度に、箒とセシリアは表情を強張らせる。

 

「ど、如何したんだ?」

 

「ハハッ、あの生意気な性格も変わってねえな………」

 

何やら険悪な雰囲気になっている3人の様子に困惑する一夏と、旧友の変わらぬ様子を懐かしんでいる神谷。

 

「貴女こそ………後から出て来て、何を図々しい事を!!」

 

「後からじゃないけどね。アタシの方が付き合いは長いんだし」

 

「それを言うなら、私の方が早い! 一夏は! 何度もウチで食事している間柄だ!」

 

「それなら、アタシもそうだけど?」

 

「「!?」」

 

と、鈴のその言葉に箒とセシリアの表情が変わる。

 

が………

 

「おう! そう言やそうだな! オメェん家の中華料理屋の飯は旨かったからなぁ!!」

 

神谷が雰囲気を読まないでそう言い放ってしまった。

 

「ちょっ! 神谷! アンタ、余計な事を………」

 

「何だ、店なのか………」

 

「お店なら、別に不自然な事は何1つありませんわね」

 

「…………」

 

安堵する箒とセシリアの様子を見て、不機嫌そうになる鈴。

 

「そう言えば、親父さん、元気にしてるか?」

 

と、そこで一夏がそう話題を振った。

 

「あ、うん………元気だと思う」

 

しかし、そう言った鈴には、今までの歯切れの良さが無かった。

 

「??」

 

その事を怪訝に思う一夏だったが、そこでチャイムが鳴った。

 

「あ! じゃあ一夏、放課後に………そっちの練習が終わった頃に行くから。時間空けといてよね」

 

「ああ………」

 

食器を片付けに向かう鈴を見送りながら、一夏はやや生返事を返す。

 

「相変わらずオメェにべったりだな、アイツも」

 

「「…………」」

 

そんな一夏に神谷がそう言うと、箒とセシリアが不機嫌そうな表情を浮かべるのだった。

 

そして午後の授業が開始された………

 

当然、神谷はサボタージュを決行していたが(千冬の胃がストレスでマッハである)………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、放課後………

 

修復が完了した第3アリーナにて………

 

一夏にISの訓練をさせようとやって来た箒とセシリアだったが………

 

「神谷さん! 如何言う事ですの、コレは!?」

 

「神谷! 一体如何言う積りだ!!」

 

そう声を荒げる2人。

 

今、2人の目の前には………

 

白式を装着している一夏と………

 

その一夏と対峙する様に、伝統と信頼のガイナ立ちをしているグレンラガンの姿となった神谷の姿が在った。

 

「な~に、偶には弟分の喧嘩の腕を見てやるのも兄貴分の務めだと思ってな………と言うワケで、来い! 一夏!!」

 

神谷はそう言い放つと、グレンラガンに構えを取らせた。

 

「そ、そんな!! 無理だよ! 俺じゃアニキには敵わないよ!!」

 

一夏はとんでもないという様子で、神谷にそう反論する。

 

「何言ってんだ! 昔は良くやっただろうが! 兄貴分が直々に喧嘩の指導してやるってんだ! ココはどーんと胸を借りる積りで来やがれ!!」

 

「アニキ………分かったよ!」

 

しかし、神谷の言葉で戦意が高まったのか、雪片弐型を実体剣モードで構えた。

 

(くうっ! 折角の一夏さんとの時間が!!)

 

(せっかくこの為に『打鉄』の使用許可を取ったと言うのに!!)

 

そんな2人の様子を見て、やきもきするセシリアと箒だったが、男の友情の熱さに負け、介入出来ずに居た。

 

「行くぜえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

と、そんな中で、グレンラガンが動いた!!

 

一夏に向かって、勢い良くダッシュして突撃して行く。

 

「!!」

 

身構える一夏。

 

「おりゃああっ!!」

 

と、一夏の眼前まで迫ったグレンラガンが、不意に跳躍した。

 

「!?」

 

すぐにその姿を目で追う一夏だったが………

 

跳躍したグレンラガンが太陽を背にした為、太陽光を真面に見てしまう。

 

「!? うわっ!?」

 

一瞬目が眩む一夏。

 

「燃える男のぉ!!」

 

するとその間に、グレンラガンは空中で前方宙返りを決めると、右足を一夏に向かって伸ばし、突っ込んで行った!!

 

「火の車キイイイイィィィィィックッ!!」

 

炎に包まれたグレンラガンの飛び蹴りが、一夏に叩き込まれる!!

 

「!? うわああっ!?」

 

咄嗟に実体剣モードの雪片弐型で受け止めたが、大きくシールドエネルギーを削られる。

 

「ぐうううっ! でりゃああああぁぁぁぁぁっ!!」

 

だが、すぐに気合を入れて、グレンラガンを弾き飛ばす。

 

「!! おおっと!!」

 

グレンラガンは後方宙返りを決めながら着地。

 

「まだまだ行くぜぇ!!」

 

その後、片手に2本、両腕で計4本のドリルを出現させたかと思うと、それを腕ごとアリーナの地面に突き刺した!!

 

そして何と!!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

アリーナの地面を、巨大な岩石として持ち上げた!!

 

「うえええっ!?」

 

まさかそんな事をするとは思っていなかった一夏は、思わず珍妙な声を挙げてしまう。

 

「喰らえぇ! グレンラガン・超・ウルトラ・デラックス・岩石投げぇ!!」

 

その持ち上げた岩石を、一夏目掛けて思いっきり投げつけるグレンラガン。

 

巨大な影が、一夏に掛かる。

 

「うわあああっ!? ちょちょちょ、ちょっとぉ!!」

 

慌てながらも、素早く雪片弐型をエネルギーブレード状態にし、岩石を斬り裂いた!!

 

斬り裂かれた岩石はバラバラになり、一夏の周囲に降り注ぐ。

 

「やるなぁ! 一夏!! なら、コイツは如何だ!!」

 

神谷はそう言うと、胸のグレンブーメランを取り外した。

 

「そらよっ!!」

 

そして、一夏に向かって投擲する。

 

「何のっ!!」

 

雪片弐型を使い、弾き返す一夏。

 

「もらったぁっ! レーザーアイ!!」

 

だが、その直後!

 

グレンラガンのボディ部分にある顔の目から、一夏目掛けてレーザーが発射された!!

 

「え!? うわあっ!?」

 

続く1撃を防げず、直撃を受ける一夏。

 

シールドゲージがまた減少する。

 

「うおおおおおっ!!」

 

戻って来たグレンブーメランを回収しながら、再度一夏に向かって突撃するグレンラガン。

 

「うりゃああっ!! 超電磁パアアアアァァァァァンチッ!!」

 

よろけて態勢が崩れていた一夏に、電磁を纏った拳が繰り出される。

 

「!! クウッ! まだだ!!」

 

しかし、一夏は肩部のスラスターを展開して急上昇。

 

グレンラガンの超電磁パンチを躱す。

 

「むっ!?」

 

「アニキの真似で! 火の車キイイイイィィィィィックッ!!」

 

そして、真下に来たグレンラガンに向かって急降下し、飛び蹴りを見舞った!!

 

「おわっ!?」

 

ガードしたものの、ブッ飛ばされるグレンラガン。

 

そのまま地面の上を滑って行ったが、ある程度滑ってところで、バック宙する様に起き上がる。

 

「「…………」」

 

そのまま睨み合いとなる2人。

 

「へへっ………楽しいな、一夏」

 

すると、不意に神谷が、一夏にそう呼び掛けた。

 

「ああ………俺も楽しいよ、アニキ」

 

その言葉に、一夏も笑いながらそう返す。

 

「こうしてやり合ってると………昔を思い出すぜ」

 

「ああ………アニキに喧嘩の稽古をつけてもらって………そんで他校の不良集団との喧嘩に明け暮れたっけ………」

 

「良い思い出じゃねえか」

 

「俺はちょっと後悔してるけどね………」

 

「へっ………」

 

「ふっ………」

 

そう言い合って、また笑い合う2人。

 

「行くぜぇ! 稽古はこれからだぁ!!」

 

「望むところだぜ! アニキ!!」

 

そして2人は、また熱くブツかり合う。

 

「コレが噂に聞く………日本の男の友情なのですね」

 

「いや………違うと思うぞ」

 

そんな目の前の光景に、若干羨望の眼差しを送っているセシリアと、呆れた様子で突っ込みを入れる箒だった………

 

………結局、神谷の喧嘩稽古は日が落ちるまで続けられ、セシリアと箒は2人の戦いの様子を見物しているだけで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

屋上………

 

「ふう~~………今日は一段と燃えたぜ」

 

そう言いながら、寮の自分の部屋………

 

………と言う名の、屋上に置かれたプレハブ小屋へと帰室する神谷。

 

神谷をIS学園に置く際に、最も困ったのがその住居である。

 

寮に空き部屋はあるものの、一夏と違って神谷を寮の部屋に入れるのは、色々な意味で危険だと千冬は判断。

 

しかし、監視が行き届く範囲内に留めたい………

 

一夏と相部屋にする方法も考えたが、そうなると箒の移動先の部屋を早急に考えないといけない………

 

紆余曲折を経て、寮の屋上にプレハブを建て、そこに住まわせると言う手段を取ったのだ。

 

あんまりな待遇に思えるが、ちょっと前まで世界中を旅しており、野宿する事も多かった神谷にとっては、住居とは雨風さえ凌げればそれで良いと考えており、特に不平を言う事は無かった。

 

根無し草生活が長かった為、部屋には私物らしい私物は無く、小ざっぱりとしていた。

 

「よっ、と」

 

トレードマークのマントをスタンドに掛け、ゴミ捨て場から失敬してきた畳の上に敷かれた千冬の唯一の厚意で渡された支給品の布団の上に寝転ぶ神谷。

 

そのまま、胸に下げていたコアドリルを摑んで、目の前に持って来るとジッと見つめる。

 

「…………」

 

そこで神谷は、難しい顔となった。

 

(この間現れた獣人の奴は、親父の事を知っている様な素振りを見せた………やっぱり親父は獣人と関わりを持ってたのか? 償いってのは一体何なんだ?)

 

彼是と考えてみる神谷だったが、どれも決定的な証拠が無い為に断定できず、考えは堂々巡りした。

 

「ああ、もう! 止めだ! 止めだ!! 考えたってしょうがねえ! アイツ等をブッ倒して行けば、何時か分かんだろ!!」

 

とうとう神谷は考える事を放棄し、そう叫んだ。

 

と、その時………

 

「最低っ! 女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて、男の風上にも置けない奴!! 犬に噛まれて死ね!!」

 

鈴のものと思われる罵声が、床………下の部屋から聞こえて来た。

 

「? 何だぁ?」

 

神谷が困惑しながら半身を起こすと………

 

「馬に蹴られて死ね!」

 

今度は箒のものと思われる罵声が聞こえて来た。

 

「………何かあったなぁ」

 

神谷はそう言うと完全に身を起こし、プレハブ小屋の隅の方に行ったかと思うと、床板を外した。

 

更に、その下にも有った板も外したかと思うと、そこから下の階の部屋………

 

一夏と箒の部屋の天井から、逆さまに顔を出した。

 

実は、神谷のプレハブ………

 

一夏と箒の部屋の丁度真上に立てられており、それを知った神谷は即座の自室の床と、一夏と箒の部屋の天井を貫通させ、専用通路を作った。

 

当然、千冬、そして箒からは怒りの声が挙がったが、神谷は何処吹く風だった。

 

一夏は喜んでいたが………

 

「どした、一夏?………って、何だ? その顔は?」

 

部屋の天井から、逆さまになって顔を出した神谷が見たものは、左頬に紅葉を作っている一夏と、不機嫌そうにしている箒の姿だった。

 

「あ、アニキ」

 

「神谷………だから、天井から来るのは止めろと言ってるだろう?」

 

神谷の存在に気づく一夏と、無駄だと分かっていながらも、一応そう注意してみる箒。

 

「さっき鈴の罵声が聞こえたが………お前、何かしたのか?」

 

部屋からロープを垂らし、戻り道が出来ると、一夏と箒の部屋に降りて来てそう尋ねる神谷。

 

「いや、それが………」

 

一夏が困惑しながら状況を説明し始める。

 

曰く、一夏と箒が一緒の部屋になっている事を知った鈴が、箒と部屋を代わろうと言って来た。

 

曰く、案の定言い争いになり、その最中に鈴は一夏に昔交わした約束を覚えているかと尋ねて来た。

 

曰く、鈴の料理が上がったら毎日酢豚を奢ってくれるって約束だろうと答えた途端、鈴が怒り出した。

 

曰く、そのまま売り言葉に買い言葉で、来週のクラス対抗戦で、勝った方が負けた方に何でも1つ言う事を聞かせられるという約束を交わしてしまった。

 

………との事である。

 

「成程な………」

 

「全くワケが分かんないだろ? コッチはちゃんと約束を覚えてたってに、急に怒り出して………」

 

心底不思議そうな顔をしてそう言う一夏。

 

………もし世の男達がコレを聞いたら、間違いなく彼は殴られているだろう。

 

(昔っからこういう所は変わらねえなぁ………まあ、あのブラコンアネキのせいで本人は自覚してないが、シスコンが入っているところがあるからなぁ………)

 

そんな一夏の姿を見て、内心でそう思う神谷。

 

因みに神谷は、空気は読めない………と言うか、基本読まないが、恋愛ごとに関してはそれなりに機微を理解している。

 

「(ま、コレばっかりは俺がどうこう言って如何にかなる問題じゃねえからな………本人の自覚を待つしかねえか)一夏」

 

「? 何だよ、アニキ?」

 

「取り敢えず、後ろから刺されない様に気を付けとけ」

 

「何で!?」

 

神谷の言葉の意味が理解出来ず、ますます困惑する一夏だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

螺旋王と螺旋四天王は………

 

???………

 

「全く! 何て様だ、ヴィラル!!」

 

「申し訳ございません………」

 

厳しく叱りつけて来ているシトマンドラに、只々頭を下げているヴィラル。

 

「大口叩いておいてこの体たらくとは………貴様それでも獣人か!!」

 

「その辺にしておけ、シトマンドラ。螺旋王様の御前であるぞ」

 

更に責め立てようとするシトマンドラを、チミフルがそう言って押さえた。

 

「チイッ!」

 

シトマンドラは不満そうにしながらも、黙り込んだ。

 

「…………」

 

一方のロージェノムは、そんな喧噪なぞ興味が無い様に、ヴィラルが撮って来た白式を操る一夏の映像を無表情で眺めていた。

 

「織斑 一夏………如何やら、私達が思っている以上に厄介な存在かもしれないね………」

 

そこでアディーネがそう呟く。

 

「ふむ………そういう芽は、早い内に踏み潰しておくに限る………螺旋王様。『例のアレ』を使う許可を貰えますかな?」

 

「『アレ』を使うか………」

 

グアームがそう言うと、ロージェノムはグアームに視線だけを向けてそう言った。

 

「亡国企業(ファントム・タスク)の連中が持ってたあの玩具か? 使えるのか?」

 

チミフルが疑問の声を挙げる。

 

「ISを持ってISを制する………それはあの篠ノ之 束本人も言っていた事だ。仮に壊されたとしても、我々には何の痛手も無かろう」

 

「それもそうだね………あの女の玩具が幾ら壊れようが、アタシ達にとっちゃ寧ろ願ったり叶ったりだね」

 

グアームの言葉にそう賛同するアディーネ。

 

「良いだろう、グアーム。その件はお前に任せる………それと………今宵は、祝いの酒を用意しておけ」

 

「祝いの酒?………!? と仰られますと、つまり!?」

 

ロージェノムが言った言葉に、シトマンドラが反応する。

 

他の四天王とヴィラルも、表情を引き締めた。

 

「そうだ………いよいよ我等が存在を世に知らしめる時が来た………」

 

「おおおっ! 遂に!!」

 

「この日が来たのでございますね………」

 

「ふむ、いよいよか………」

 

「このシトマンドラ。螺旋王様の為ならば、喜んで働きましょう」

 

ロージェノムがそう言うと、四天王は一気に高揚した様子を見せる。

 

「愚かなる人類に変わり………我等がこの星の頂点に立つ………それを阻むものは、天上………貴様の息子であろうと、叩き潰すまでだ」

 

そう言って、ロージェノムはニヤリとした笑みを浮かべるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

クラス代表戦が終わり、新たなるヒロイン『凰 鈴音(ファン リンイン)』が登場。
そして一夏との悶着から、クラス対抗戦での勝負となります。
しかし、例によってまた介入者が現れます。
そしていよいよロージェノムが本性を見せるのも近いです。

尚、今回グレンラガンが使ったレーザーアイや超電磁パンチという技は、DSゲームのグレンラガンでの技です。
今後もDSゲーム版の技やキャラが登場する予定なので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしています。


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第6話『『アレ』っつったら決まってんだろ! 『合体』だ!!』

新年あけましておめでとうございます。

今年も『天元突破インフィニット・ストラトス』をよろしくお願い致します。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第6話『『アレ』っつったら決まってんだろ! 『合体』だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏と鈴の騒動から1週間………

 

遂に、クラス対抗戦の日が訪れた………

 

何と2人は1回戦からブチ当たる事となり、試合会場の第2アリーナは、既に通路までもが見物の生徒で埋め尽くされていた。

 

既に鈴は、アリーナにISを装着して待機している。

 

一方の一夏は………

 

 

 

 

 

第2アリーナ・ピット内………

 

「1回戦から鈴が相手か………」

 

ピット内で待機していた一夏がそう言うと、目の前にモニターが展開して、鈴のISの情報が映し出された。

 

傍らに居た神谷、箒、セシリアも注目する。

 

[アチラのISは『甲龍(シェンロン)』。織斑くんの白式と同じ、近接格闘型です]

 

そして、真耶のそう言う説明が聞こえて来る。

 

「シェンロンか………どんな願い事も1つだけ叶えてくれるって龍でも出てくんのか?」

 

「アニキ、それは違うから」

 

鈴のISの名前を聞いた神谷がそんな事を言い、一夏が突っ込みを入れる。

 

「私の時とは勝手が違いましてよ。油断は禁物ですわ」

 

「固くなるな。練習の時と同じ様にやれば勝てる」

 

「ああ………」

 

セシリアと箒の言葉を聞くと、一夏はモニターの映像を切り替え、アリーナの鈴の姿を見遣る。

 

「アレで殴られたら、スゲー痛そうだな………」

 

「バカ野郎、一夏! 殴り殴られてこそ喧嘩だろ!? それに殴られた時の心配なんかしてちゃ、勝てる相手にも勝てないぜ!?」

 

「俺はアニキみたいに頑丈じゃないんだよぉ」

 

神谷のアドバイスとも取れぬ言葉に、思わず溜息を吐く一夏。

 

[それでは両者、規定の位置まで移動して下さい]

 

と、アナウンスがそう告げ、いよいよ試合が開始されようとする。

 

「…………」

 

それを聞いた一夏は、カタパルトに着く。

 

「一夏!」

 

と、そこで神谷が一夏に声を掛けた。

 

「!」

 

「とことんやり合って来い。そうすりゃ分かり合える」

 

そう言ってサムズアップして見せる神谷。

 

「………ああ! 行って来るよ、アニキ!!」

 

一夏はそう答えると、ピットから飛び出して行った。

 

「………さ、私達は管制室から試合の様子を見ましょう」

 

「ああ………」

 

「おう」

 

それを見送った後、千冬や真耶と一緒に試合の様子を見守ろうと、3人は管制室に移動を始めた。

 

と、その時………

 

「………ん?」

 

胸の辺りに違和感を感じた神谷が、ふと目をやると………

 

首から下げていたコアドリルが、緑色の光を放って点滅していた。

 

「? 何だ? コアドリルが反応している?」

 

思わずコアドリルを手に取り、凝視する神谷。

 

コアドリルは、まるで何かを警告する様に点滅を繰り返している。

 

「…………」

 

と、神谷はそのコアドリルを握り締める。

 

(嫌な予感がしやがる………頭の後ろがチリチリとする感じだ………)

 

そんな予感を感じると、一夏が出て行った射出口を見やる。

 

(一夏………気を付けろよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、鈴と戦う一夏は………

 

空中で激しく斬り結んでいた。

 

だが、鈴の近接武装『双天牙月』に押され気味であった。

 

(クッ! このままじゃ消耗戦になる………そうなると俺が不利だ)

 

鈴の攻撃を防ぎながら、内心でそう思う一夏。

 

彼の白式は雪片弐型が唯一の武装であり、この雪片弐型は相手のシールドバリアーを斬り裂いて相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えられる、と言う特殊能力がある。

 

その為、1撃入れる事が出来れば相手は必然的に絶対防御を発動する事になり、シールドエネルギーを大きく削ぐ事が出来るのだ。

 

しかしこの攻撃は、自身のシールドエネルギーを変換して放つ為、下手をすれば自分の方が先に力尽きてしまう、と言う諸刃の剣なのだ。

 

つまり………

 

今の一夏にとって、消耗戦を挑まれるのはそれだけで敗北フラグなのだ。

 

(一旦距離を取って………)

 

鈴から距離を放そうとする一夏。

 

すると………

 

「甘いっ!!」

 

鈴がそう言ったかと思うと、甲龍の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)である棘付き装甲(スパイク・アーマー)が展開。

 

その中心に現れた球体が光ったかと思うと、何か見えない塊の様な物が一夏を掠める様に命中した!!

 

「のあっ!?」

 

バランスを崩して失速する一夏だったが、如何にか空中で持ち直す。

 

見えない塊は、アリーナの遮断シールドに命中し、爆発した!!

 

(何だ今のは!? 見えない砲弾に掠められたみたいだったぞ!?)

 

鈴の使った武装の正体が分からず、困惑する一夏。

 

「今のはジャブだからね」

 

すると、そんな一夏を見て優越感を醸し出している様な鈴がそう言い放った。

 

そして、今度は両肩の装甲が展開して光を放った!!

 

「!?」

 

その次の瞬間!!

 

一夏はまるで鉄球クレーンの直撃を喰らったかの様な衝撃を受け、アリーナの地面に墜落。

 

地面を抉りながら転がった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ・管制室………

 

「何だ!? 今の攻撃は!?」

 

「衝撃砲ね。空間自体に圧力を掛けて、砲弾を撃ち出す武器です」

 

箒の驚きの声に、真耶がそう答える。

 

「要するに、トンでもねえ空気銃って事か?」

 

「多少語弊はあるが、まあそんなものだ」

 

その兵器を空気銃に喩える神谷と、呆れながらもそう答える千冬。

 

「私のブルー・ティアーズと同じ、第3世代兵器ですわね」

 

セシリアもそう呟く。

 

と、モニターの先で漸く起き上がった一夏に、再び鈴が衝撃砲を見舞う。

 

だが、一夏は直感的に回避。

 

何とか全て躱す事に成功する。

 

[良く躱すじゃない! この『龍咆』は、砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに………]

 

そんな一夏に、鈴が得意気にそう語る。

 

「しかも………あの衝撃砲は、砲身の斜角がほぼ制限無しで撃てる様です」

 

「つまり、死角が無いと言う事ですの?」

 

「そう言う事になりますね………」

 

(一夏………)

 

真耶の説明に、箒は不安げな表情を浮かべた。

 

一方、神谷も難しい顔をしているが、それは一夏を心配してでは無かった………

 

(段々点滅が早くなってきてやがる………まるで何かが近づいて来てるみたいだ………)

 

先程から点滅を繰り返しているコアドリルが、更に激しく点滅する様になっていたからだ。

 

それと同時に、神谷が感じている嫌な予感も強まって行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ内………

 

(クソッ! 益々防戦一方だ!!)

 

鈴が次々と繰り出す龍咆の攻撃をかわしながら、何か手はないかと模索する一夏。

 

(と言っても、射撃武器の無い俺の機体じゃ遠距離戦は出来ない………手詰まりか!?)

 

思わず一夏の心に諦めの文字が浮かぶ。

 

だが、その次の瞬間には神谷の顔が浮かんだ。

 

(!! いや、まだだ! こんな事で諦めてたら………アニキに笑われる!!)

 

そう思い直し、フッと笑うと上空へ鈴の方へ向き直った。

 

「アラ? 観念したの?」

 

その様子を見た鈴が、そう言って来る。

 

「観念? それはお前がするんじゃないのか、鈴?」

 

だが、一夏は不敵に笑ってそう言い放った。

 

「!! 何ですって!?」

 

「聞きやがれっ!!」

 

「!?」

 

怒る鈴だったが、続く一夏の大声で思わず怯む。

 

「1度兄弟の契りを交わしたからにゃ、負けねえ、退かねえ、悔やまねえ! 前しか向かねえ、振り向かねえ! ねえねえ尽くしの男意地! グレン団の一夏様が相手になってやっから、そう思え!!」

 

そして、鈴に雪片弐型の切っ先を向けると、そう啖呵を切った!!

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

一瞬アリーナが静まり返ったかと思うと、歓声が巻き起こった。

 

[へっ! 流石だぜ一夏! それでこそ俺の弟分だ!!]

 

[ああ、一夏が不良になって行く………]

 

神谷がその様子を褒め、千冬は頭痛を感じて頭を押さえる。

 

「な、何よぉ! 一夏のくせに!!………生意気ぃ!!」

 

何処かのガキ大将の様な台詞を吐き、双天牙月2基を連結させて振り回すと、一夏に向かって斬り掛かる鈴。

 

すると………

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

次の瞬間、一夏も鈴に向かって、雪片弐型を構えて突撃した!!

 

「!? なっ!?」

 

まさか突撃を掛けた自分に突撃し返してくるとは思わなかった鈴は虚を衝かれ、一瞬動きが止まってしまう。

 

「もらったあぁっ! チェストオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!」

 

その鈴を、独特な気合の声と共に斬り捨てようとする一夏。

 

………と、その時!!

 

突如、アリーナの上空を覆う遮断シールドが壊され、巨大な爆音が響き渡った!!

 

そして、遮断シールドを突き破って現れた『何か』が、アリーナの地面に爆発と共に着地した!!

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

両者は動きを止め、落ちて来たその『何か』を見遣る。

 

「!? まさか!?」

 

一夏は、また獣人やガンメンが乱入して来たのかと思い、身構える。

 

すると………

 

[試合中止! 織斑! 凰! 直ちに退避しろ!!]

 

管制室の千冬からそう通信が送られてきたかと思うと、客席の防御シャッターが下り始めた!!

 

(やっぱり………敵襲!!)

 

千冬からの通信とその様子で、一夏は何者かが乱入して来た事を確信する。

 

「一夏! 試合は中止よ! すぐピットに戻って!!」

 

そこで鈴からも、そう通信が送られてくる。

 

「鈴! お前が先に戻れ! 俺は………」

 

と、一夏がそう言い掛けた瞬間………

 

目の前に『警告』と書かれたモニターが展開した。

 

『ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックオンされています』と。

 

「!? IS!? 獣人やガンメンじゃないのか!?」

 

相手がISである事を知って驚く一夏。

 

「一夏! 何やってるの!! 早くピットに………」

 

と、そんな一夏に鈴がそう言いかけた瞬間!!

 

もうもうと上がる爆煙の中から、桜色のビームが、鈴目掛けて放たれた!!

 

「!?」

 

「危ない!!」

 

咄嗟に鈴を抱き抱えて掻っ攫う様にする一夏。

 

先程まで鈴が居た場所を、桜色のビームが通り過ぎて行く。

 

「ビーム兵器かよ………しかもセシリアのISより出力が上だ」

 

一夏は目の前に表示された情報を見ながらそう言う。

 

「ちょっ! ちょっと、バカ! 放しなさいよぉ!!」

 

と、抱き抱えられていた鈴が、放せと言って暴れる。

 

「静かにしてろ!!」

 

「!!」

 

しかし、一夏の怒鳴り声で大人しくなる。

 

そしてそこで………

 

爆心地点にいた謎のISの正体が明らかになった。

 

深い灰色をしており、手が異常に長く、つま先よりも下まで伸びている。

 

首というものがなく、肩と頭が一体化しているような形をしている全身装甲(フル・スキン)。

 

腕を入れると2mを越す巨体であり、頭部には剥き出しのセンサーレンズが不規則に並んでいる。

 

「(何だコイツ? コレでもISなのか?)お前は何者だ!!」

 

内心でそう疑問を感じながらも、その謎のISへそう問い掛ける一夏。

 

しかし、謎のISは反応を返さない。

 

「答えろ! お前は何者だ!? 何が目的だ!?」

 

再度そう問い掛けるが、その瞬間!!

 

謎のISは、腕に有ったビーム砲を向け、発砲して来た!!

 

「!? チイッ!! 問答無用ってワケかよ!!」

 

それを回避すると、鈴を放り出す一夏。

 

「ちょっ!? 一夏!?」

 

「誰だか知らないが! 売られた喧嘩は買ってやる!! それがグレン団の魂だ!!」

 

驚く鈴を尻目に、一夏は謎のIS………『ゴーレムⅠ』に突撃して行った!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ管制室………

 

「織斑くん! 何をしているんですか!! すぐに逃げて下さい! 今先生達がISで鎮圧に向かいますから!!」

 

「あのバカ………教師部隊が到着するまで、鈴と生徒達が逃げる時間を稼ぐ積りか!?」

 

一夏の様子を見ていた真耶と千冬がそう叫ぶ。

 

「先生! 私にISの使用許可を!! すぐに出撃出来ます!!」

 

と、セシリアが千冬にそう言う。

 

「そうしたいのは山々だが………コレを見ろ」

 

しかし、千冬はそう言うと、小型モニターを展開させた。

 

そこには、アリーナの遮断シールドがレベル4に設定されていると報告が映っていた。

 

「遮断シールドが………レベル4に設定?」

 

「しかも、扉が全てロックされて………あ!? あのISの仕業」

 

「その様だ………コレでは避難する事も救援に向かう事も出来ない………」

 

箒、セシリア、千冬がそう言い合う。

 

「でしたら! 緊急事態として、政府に救援を!!」

 

「やっている………だが、如何いうワケか、非常回線である政府との連絡も通じない。現在も3年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除出来れば、すぐに部隊を突入させる」

 

「結局………待ってる事しか出来ないのですの………」

 

歯噛みするしかないセシリア。

 

(ん? そう言えば………この状況下で、やけに神谷が大人しいな?)

 

とそこで、さっきから神谷の声がしない事に気づいた千冬が、神谷の居た方を見遣る。

 

しかし………

 

そこに神谷の姿は無く………

 

特殊合金で覆われている管制室の床に、大穴が空けられている光景が在った………

 

「…………」

 

一瞬事態が理解出来ず、間抜けた顔を浮かべてしまった千冬だったが………

 

「………あんのブワカワアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

すぐに状況を理解すると、絶叫にも似た怒声を挙げた。

 

「キャアッ!? 織斑先生!?」

 

「うわっ!? 何ですか、この穴!?」

 

「まさか………神谷!?」

 

その絶叫でセシリア、真耶、箒も神谷の姿が無い事に気づき、床に空いた大穴を見て驚きの声を挙げるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、アリーナ内………

 

「でりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

雪片弐型で、ゴーレムⅠに斬り掛かる一夏。

 

しかし、ゴーレムⅠはその巨体からは想像も出来ない様な機動性でかわす。

 

そして、反撃とばかりにビームを放って来る。

 

「ぐうっ!!」

 

一夏は雪片弐型で斬り払い、如何にかダメージを防ぐ。

 

しかし、既にシールドエネルギーの残りは2ケタに近くなっていた。

 

「クソッ! デカい図体して、何て機動性だ!!」

 

「一夏、何やってんの!! コレで何度目の失敗なの!!」

 

と、そこで鈴が援護に龍咆を放つ。

 

「クッ! スマン、鈴!!」

 

その間に一旦離脱する一夏。

 

と、ゴーレムⅠはそんな2人に向かって、腕のビーム砲を乱射して来る。

 

「如何するのよ! 何か策が無くちゃ、アイツには勝てないわよ!!」

 

「策ならある!!」

 

「ホント!? 何よ!!」

 

「気合だ! 気合でアイツを倒す!!」

 

「そう言うのは策って言わないのよ!! 馬鹿!!」

 

と、一夏のあんまりと言えばあんまりな言葉に、鈴は思わず動きを止めてしまう。

 

その瞬間を見逃さず、ゴーレムⅠが鈴へビーム砲を向けた!!

 

「!? しまっ………」

 

「鈴!!」

 

一夏は咄嗟に、鈴を庇う様に間に割り込んだ!!

 

しかし、残り少ないシールドエネルギーでは、あのビーム砲を防ぐのも切り払うのも無理だ。

 

無情にもビーム砲は一夏目掛けて放たれようとする。

 

「クウッ!!」

 

「一夏ぁっ!!」

 

鈴の悲鳴にも似た叫びがアリーナに木霊する。

 

………と、その時!!

 

突如、ゴーレムⅠの足元の地面から腕が生え、その足を摑んだ!!

 

ゴーレムⅠは突然足を摑まれた事でバランスを崩し、一夏に発射しようとしていたビーム砲は真上に発射され、遮断シールドに当たって爆発した!!

 

「!? 何っ!?」

 

「あの腕は!?」

 

驚く鈴と、その腕に見覚えを感じる一夏。

 

ゴーレムⅠの足を摑んでいた腕は、そのままゴーレムⅠを地中へ引き摺り込もうとする。

 

引き摺り込まれまいと飛行するゴーレムⅠだが、腕の力は半端では無く、徐々にそのボディが地中へと引き摺り込まれて行く………

 

すると、ゴーレムⅠは足元の地面に向かって、全ビーム砲を発射した!!

 

巨大な爆炎がゴーレムⅠを包み込み、その足元のアリーナの地面を吹き飛ばす!!

 

「おおっと! 危ねえ、危ねえ」

 

と、その爆炎の中から紅い機体………グレンラガンが飛び出して来て、アリーナの地面の上に着地した!!

 

「アニキ!!」

 

「アニキって………ええっ!? アンタ、神谷なの!?」

 

喜びの声を挙げる一夏と、グレンラガンとなった神谷の姿を見て驚く鈴。

 

「一夏! 鈴! コイツは俺に任せろ!! 叩き潰して、スクラップにしてやるぜ!!」

 

神谷がそう言い放つと、グレンラガンは両手の指の骨をバキバキと鳴らした。

 

[神谷!?]

 

[何で地面に下から!?]

 

[! そうか! 幾らアリーナに遮断シールドが張られているとは言え、それは地上だけの話………地面の下からなら、アリーナに簡単に侵入する事が出来る!!]

 

[一応地面の中にも特殊合金を敷き詰めてあった筈だが………アイツめ]

 

管制室に居る箒、セシリア、真耶、千冬がそんな声を挙げる。

 

と、次の瞬間!!

 

ゴーレムⅠは、最優先標的をグレンラガンへと変えたのか、その巨体を跳躍させ、襲い掛かって来た!!

 

巨大な右拳が、グレンラガン目掛けて振り下ろされる!!

 

「あ、危ない!!」

 

鈴が思わずそう叫ぶが………

 

「へっ! しゃらくせえぇっ!!」

 

神谷がそう言うと、グレンラガンは迫り来る巨大な拳を迎え撃つ様に、自らも右拳を繰り出した!!

 

すると、その拳から2本のドリルが出現!!

 

ゴーレムⅠの巨大な拳とブチ当たったかと思うと、そのまま粉砕した!!

 

右腕が砕かれ、ゴーレムⅠが大きく仰け反る。

 

「もう1丁! グレンファイヤーッ!!」

 

続いて神谷がそう叫ぶと、グレンラガンの胸の顔に掛けられていたサングラスが赤く発光。

 

そこから熱線が発射された!!

 

直撃を受けたゴーレムⅠは、装甲が溶け始める。

 

しかし、僅かに溶けた辺りで、ゴーレムⅠは至近距離からレーザーを発射!!

 

「うおっ!?」

 

直撃を喰らってブッ飛ぶグレンラガン。

 

「この野郎! 小賢しい真似しやがって!! ミサイルドリル!!」

 

と、受け身取って立ち上がったグレンラガンは、右腕に再び2本のドリルを出現させると、その右腕を左腕で支える様にして構えた。

 

すると、右腕の2本のドリルがミサイルとなり、ゴーレムⅠ目掛けて発射された!!

 

ミサイルドリルは、1発がゴーレムⅠの頭部、もう1発は腹部へと命中!

 

巨大な爆発を起こし、ゴーレムⅠの姿が黒煙で見えなくなった。

 

「如何だ!! 見たか!!」

 

仕留めたと思い、そう言って見得を切るグレンラガン。

 

「アニキッ!!」

 

「神谷!!」

 

と、そのグレンラガンの元へ、一夏と鈴がやって来た。

 

「おう、一夏、鈴。無事か?」

 

「ああ、アニキのお蔭で助かったよ」

 

「ちょっと! それがアンタのISなワケ!? 一体何なのよ、ソレ!! 大体、武器がドリルって、そんなのアリなの!?」

 

お礼を言う一夏とは対照的に、鈴は神谷を質問攻めする。

 

「バッキャロウ! ドリルは男の魂なんだよ!!」

 

「うんうん」

 

「答えになってないわよ!!」

 

気合満タンにそう言い放つ神谷と、それに頷いている一夏だったが、当然鈴は納得しないのだった………

 

と、その時………

 

黒煙の中から、ガシャンッ!と言う音が聞こえて来た!!

 

「「「!?」」」

 

その音に身構える一同。

 

その後も、ガシャンッ! ガシャンッ!と断続的に音が聞こえて来たかと思うと………

 

ボディと頭部が罅割れ状態となっているゴーレムⅠが、センサーレンズを不気味に発光させながら姿を現した。

 

「野郎! まだやるってのか!?」

 

「そんな!? アレだけのダメージを受けたら、エネルギーが残ってたとしても、操縦者はもう限界の筈よ!!」

 

構えを取り直すグレンラガンに対し、鈴がまだ動くなんて在り得ないと言う。

 

と、次の瞬間………

 

罅割れていたゴーレムⅠの頭部が、スパークを発して爆発を起こし、装甲の一部が剥がれ落ちた!!

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

「な、何よアレ!?」

 

その装甲の下に現れたモノを見て驚愕する神谷達。

 

[[[[!?]]]]

 

管制室の千冬達も驚きを露わにしていた。

 

本来であれば、そこに在るのは装着者の顔である筈だった………

 

しかし、ゴーレムⅠの剥がれた装甲の下から現れたのは………

 

コードで繋がれた回路や、光を放っている基盤………

 

つまり、無機質な機械だった!!

 

「アイツ………まさか機械!?」

 

「ロボットだったって事か………」

 

「そんな!? 在り得ないわ!! だって! ISは人が乗らないと絶対に動かない! そう言う物の筈よ!?」

 

目の前の現実を受け止める一夏と神谷だが、鈴だけは未だに信じられないと言う。

 

と、次に瞬間!!

 

グガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

今まで無言で戦闘を続けて来ていたゴーレムⅠが、突如として獣の様な咆哮を挙げたかと思うと、装備されていたビーム砲を全て発射し始めた!!

 

「!? うおわっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

神谷達の近くにもビームが着弾し、思わず声が挙がる。

 

だが、ビームはアリーナの彼方此方に着弾しており、このままでは遮断シールドが破壊されてしまうのも時間の問題だった!!

 

グガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

ゴーレムⅠはまたも獣の様な咆哮を挙げ、ビームを乱射し続ける。

 

「野郎! 急に暴れ出しやがった!!」

 

「ど、如何したんだ!? さっきまでと様子が違うぞ!?」

 

「まさか!? さっきの攻撃でAIがやられて暴走してるんじゃ!?」

 

グガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

鈴の言葉を肯定するかの様に、ゴーレムⅠは咆哮を挙げて飛び上がると、地上とアリーナを薙ぎ払う様にビームを放った!!

 

「キャアッ!?」

 

「おわっ!?」

 

「うおっ!? テメェ! いい加減にしやがれ!!」

 

と、業を煮やした神谷が、グレンブーメランを空中のゴーレムⅠ目掛けて投げつけた!!

 

グガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

しかし、ゴーレムⅠは迫って来たグレンブーメランをアッサリと躱す。

 

「野郎! コイツは如何だ!!」

 

戻って来たグレンブーメランをキャッチして胸に戻すと、今度はミサイルドリルを発射するグレンラガン。

 

だが、ミサイルドリルは、ゴーレムⅠが放ったビーム砲を受けて撃墜されてしまう。

 

その後、ゴーレムⅠは空中を飛び回りながら、3人に爆撃の様にビームを浴びせようとしてきた。

 

「!? 危ない!!」

 

「クッ!!」

 

「!! うおわっ!?」

 

鈴と一夏は如何にか躱したが、神谷のグレンラガンは直撃を受けてしまう。

 

「ちょっと! 神谷! アンタもちゃんと飛んで避けなさいよ!!」

 

「へっ………それが出来りゃあ苦労しねえよ」

 

鈴の叫びに、珍しく愚痴る様な返事を返す神谷。

 

「!? アニキ! まさかグレンラガンって………」

 

「ああ、飛べねえ」

 

「ええっ!? 如何言う事よ、ソレ!?」

 

ISと互角の性能を持つと言われていたグレンラガンだが、たった1つだけISに劣っている点があった。

 

それは、飛行能力の欠如である。

 

空を飛べる相手と飛べない相手では、言うまでも無く飛べる方が遥かに有利である。

 

つまり、現状グレンラガンは地上戦なら兎も角、空中戦に於いてはISに勝てないのだ。

 

と、そんなグレンラガンに向けて、ゴーレムⅠは全てのビーム砲を向け、一斉に放って来た!!

 

「!! チイッ!!」

 

躱そうとするグレンラガンだが、地上を走っての回避では間に合いそうにない………

 

「アニキィッ!!」

 

と、その瞬間!!

 

一夏がビームとグレンラガンの間に割り込んだ!!

 

「!? 一夏!!」

 

「バカ! 一夏!!」

 

鈴がそう叫んだ瞬間に、ゴーレムⅠが放ったビームは一夏を直撃した!!

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

黒煙の尾を引いて、背中から墜落する一夏。

 

辛うじてシールドエネルギーは持った様だが、既に残り1ケタ。

 

こうなってしまっては、雪片弐型で攻撃する事は出来ない………

 

「クソォ」

 

「大丈夫か! 一夏!?」

 

傍に駆け寄って来たグレンラガンが、一夏を助け起こす。

 

「あ、ああ、アニキ。大丈夫だよ………でも、もうエネルギーが………」

 

グガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

何も出来なくなった一夏を嘲笑うかの様に、ゴーレムⅠは咆哮を挙げ、またも手当たり次第にビームを放ち始める。

 

次第に、アリーナの遮断シールドにヒビが入り始めた。

 

「また暴れ出した!! このままじゃ皆が………」

 

「如何する一夏? 尻尾撒いて逃げ出すか?」

 

するとそこで、神谷が一夏に問い質す様にそう言った。

 

「逃げる?………そんな事出来るワケないだろう! 此処には………守らなきゃいけない人が居るんだ!!」

 

一夏はそう叫ぶ様に言った。

 

「[[!?]]」

 

守らなきゃいけない人、の部分で、鈴、セシリア、箒が反応する。

 

「良く言ったぜ 兄弟!! こうなったら最後の手段だ! 『アレ』、やるぞ!!」

 

「『アレ』? 何だよ、『アレ』って?」

 

神谷の言う『アレ』というのが分からず、困惑する一夏。

 

「バカ野郎! 『アレ』っつったら決まってんだろ! 『合体』だ!!」

 

「『合体』!?」

 

「が、『合体』!?」

 

[『合体』だと!?]

 

[『合体』ですって!?]

 

神谷の『合体』と言う言葉に、一夏、鈴、箒、セシリア(台詞順)が驚きを示す。

 

[そ、そんな神谷くん………男同士で合体だなんて………で、でも! 男女でも、それはそれで問題で………]

 

そして、『合体』と言う言葉に、別のナニかを想像する真耶。

 

[馬鹿も休み休み言え。そんな事が出来るワケないだろう]

 

そんな中、千冬が1人冷静にツッコミを入れる。

 

「やってみなくちゃ分かんねえだろ! 立て、一夏ぁ!!」

 

「お、おう!!」

 

神谷に言われるがままに立ち上がる一夏。

 

すると、グレンラガンが右手をドリルに変え、一夏の背中に正拳突きを仕掛ける様に構えた。

 

「えっ!? ア、アニキ!?」

 

「どりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

戸惑う一夏を無視し、グレンラガンは右手のドリルを、思いっきり一夏の背中へ突き刺した!!

 

「ぐはっ」

 

一夏の口から、断末魔の様な声が漏れる。

 

[[[[「何やってんだ、あのバカわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」]]]]

 

途端に、箒、鈴、セシリア、千冬、終いには真耶からも、そんな罵声が挙がった。

 

 

 

 

 

………だが、その次の瞬間!!

 

 

 

 

 

ドリルを突き刺されていた一夏と白式、そして突き刺していたグレンラガンと神谷が、緑色の光に包まれた!!

 

「な、何ぃっ!?」

 

グガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?

 

アリーナに居た鈴はその際に発生した衝撃波に吹き飛ばされそうになり、暴走していたゴーレムⅠもあまりの異常事態に動きを止めた!!

 

[こ、この光は!?]

 

[な、何が起こっているんですの!?]

 

[山田先生!!]

 

[お、織斑くんと天上くんが居た場所から、凄まじいエネルギーが観測されています! な、何このエネルギー量!? 既存のどんなエネルギーも上回ってる!?]

 

管制室に居た箒、セシリア、千冬、真耶からもそう声が挙がる。

 

やがて、その光が弾けたかと思うと、そこには………

 

まるで、『グレンラガンが白式を装着している』様な姿のマシンが居た。

 

「ん? んん………!? 何だ!? 如何なったんだ!?」

 

と、グレンラガンが白式を装着している様な姿のマシンの、ボディ部分の顔が動き、一夏の声が響いて来た。

 

「!? 一夏!? 一夏なの!?」

 

と、その声を聞いた鈴が、近くに寄って来る。

 

「鈴? 俺如何なって………!? って、何じゃあこりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

鈴に気づいた後、自分の今の状態を見て、某刑事ドラマの刑事が殉職時に挙げた絶叫を挙げてしまう一夏(?)

 

「一夏、聞こえるか?」

 

すると、今度は頭部の顔が動き、神谷の声が聞こえていた。

 

「!? アニキ!? まさか俺達!?………本当に合体したのか!?」

 

「如何やらそうらしいな!!」

 

「そうらしいなって………アンタ、適当にやってたの!?」

 

一夏と神谷の会話を聞いて、思わずそう叫んでしまう鈴。

 

グガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

今まで空気を読んでいたかの様に黙っていたゴーレムⅠが、地面に着地して来るとまたもや咆哮を挙げた。

 

「キャッ!?」

 

「へっ! 奴さんもお待ちかねの様だな………」

 

と、神谷がそう言ったかと思うと、グレンラガンが白式を装着している様な姿のマシンは、ゴーレムⅠに向かって悠然と歩を進め始めた。

 

そしてそのまま、身体をぶつけ合った!!

 

「!? アイダッ!?」

 

ボディの顔に意識があると思われる一夏が、ブツかった際に思わずそう声を挙げる。

 

「見たか、デカブツ野郎! コレでタッパもテメェーと一緒だぜ!!」

 

それが聞こえていないのか、神谷はゴーレムⅠとグレンラガンが白式を装着している様な姿のマシンに、額と額を合わせ合っている姿勢………

 

所謂、不良のガン付け合いの様な姿勢を取った!!

 

グガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

やがてゴーレムⅠは、グレンラガンが白式を装着している様な姿のマシンに向かって、残っていた左腕で振り抜いた!!

 

「無駄無駄無駄無駄あああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

それに対応する様に、グレンラガンが白式を装着している様な姿のマシンも、右の拳を繰り出した!!

 

互いの拳が火花を散らして擦れ合い、互いの顔面へと叩き込まれた!!

 

またもやクロスカウンターだ!!

 

しかし、引き分けに終わったヴィラル(エンキ)の時とは違い、今度はグレンラガンが白式を装着している様な姿のマシンの勝利だ!

 

グレンラガンが白式を装着している様な姿のマシンの拳を打ち込まれたゴーレムⅠの頭部には、更に無数のヒビが入る。

 

「覚えておけ! 機械野郎!! 合体ってのは、気合と気合のぶつかり合いなんだよ!!」

 

と、神谷がそう言った瞬間!!

 

グレンラガンが白式を装着している様な姿のマシンは右手を開き、罅割れていたゴーレムⅠの頭部を摑んだかと思うと、そのまま握り潰した!!

 

頭部を握り潰されたゴーレムⅠは、そのまま仰け反り、仰向きに倒れる。

 

「男の魂、燃え上がる! あ、度胸合体! 『白式ラガン』!!」

 

すると、グレンラガンが白式を装着している様な姿のマシン………命名『白式ラガン』は、そう見得を切り始めた!!

 

「俺を誰だと思っていやがる! 覚えとけ! コイツの名前は! 『白式ラガン』だ!!」

 

[白式………]

 

[ラガン………]

 

「まんまね………」

 

その名前を半分づつ反復する箒とセシリアに、まんまな名前に突っ込みを入れる鈴。

 

[ま、まさか………本当に合体した!?]

 

[えええっ!? こ、コレって、一体如何言う魔法ですか!?]

 

千冬と真耶は、最早状況の理解を諦めたくなっていた。

 

グガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

と、そこで!!

 

倒れていたゴーレムⅠが立ち上がり、左腕のビーム砲を連続発射で白式ラガンに見舞う。

 

頭部をも失い、その攻撃は最早出鱈目だった。

 

「チッ! しぶとい野郎だぜ………一夏ぁ! 一気に決めるぞ!!」

 

「な、何だか良く分かんないけど………分かったよ、アニキ!!」

 

と、神谷がそう言い、一夏がそう返事を返すと、白式ラガンの右手に、雪片弐型が出現した!!

 

そして、胸のグレンブーメランが、独りでに外れる。

 

そのグレンブーメランを白式ラガンが、左手でキャッチしたかと思うと………

 

「必殺!!」

 

ゴーレムⅠ目掛けて思いっきり投げつけた!!

 

高速回転しながらゴーレムⅠに向かっていたグレンブーメランが、途中で2つになる!!

 

2つになったグレンブーメランは、何度もゴーレムⅠにブチ当たり、その巨体を宙に浮かせたかと思うと、そのままゴーレムⅠを空中に固定した!!

 

直後に、白式ラガンが雪片弐型を持った右手を掲げる様に構えたかと思うと、雪片弐型が展開し、エネルギーの刃が形成される。

 

だが、そこに形成された刃は、いつもの剣の様な刃では無く………

 

まるでドリルの様な形状の刃だった!!

 

「ドリルゥゥゥッ! スラアアアアァァァァァッシュッ!!」

 

そのドリル状の刃を形成した雪片弐型………『雪片突型』を両手で握ると、両肩の白式のスラスターでゴーレムⅠに向かって急上昇!

 

ゴーレムⅠに肉薄したかと思うと、雪片突型を大上段に振りかぶり、一気に振り下ろした!!

 

そのまま、雪片突型を振り切った姿勢で着地すると、雪片突型を閉じて刃を消し、見得を切る様にポーズを決める白式ラガン。

 

背後の空中で、真っ二つになっていたゴーレムが爆散!!

 

その爆発の中から、1つになったグレンブーメランが戻って来て、白式ラガンの胸に再装着された。

 

[………やったのか?]

 

管制室の千冬がそう呟く。

 

[敵のエネルギー反応ゼロ………目標、完全に沈黙しました!]

 

[やりましたわ!!]

 

[やったぞ!!]

 

真耶がそう報告を挙げると、セシリアと箒が歓声を挙げた。

 

「一夏! 神谷!」

 

と、地上に仁王立ちしていた白式ラガンに鈴が近づく。

 

「鈴!」

 

「やったじゃない! 一夏!! それにしても………一体如何やって合体しての?」

 

一夏にそう言いながらも、白式ラガンの合体の仕組みが気になる鈴。

 

「そんなの決まってんだろ! なあ、一夏!!」

 

「えっ? えっと………あ、ああ、そうだね」

 

「何? 一体何なの?」

 

興味深そうにしている鈴に向かって、神谷と一夏は当然の様に言った。

 

「「『気合』だ!!」」

 

「…………」

 

その答えに沈黙し、呆れた様な顔をする鈴。

 

「? 如何した、鈴?」

 

「んだ? 埴輪みてえな顔しやがって………」

 

「アンタ達は………ハア~~、もうやだ………」

 

キョトンとする一夏と神谷に、鈴は心の底から疲れた様な溜息を吐いた。

 

「にしても………何だったのかしら、アイツ………」

 

燃えているゴーレムⅠの残骸を見やり、そう呟く鈴。

 

と、その時………

 

『ゴーレムを退けたか………中々やるな………小僧共』

 

「「「!?」」」

 

何処からとも無く、そう言う声が聞こえて来て、神谷達は思わず身構えた。

 

「だ、誰!?」

 

「何処に居る!?」

 

「隠れてないで出て来やがれ!!」

 

鈴、一夏、神谷がそう言い放つと………

 

アリーナの上空に、巨大なモニターが展開。

 

古代ギリシャ人の様な白い布の様な服を纏った巨大な体躯で、スキンヘッドで逞しい顎髭を生やした男の姿が映し出された。

 

「!? お前は!?」

 

『我が名は螺旋王………ロージェノム』

 

空中に出現した大型モニターに映る男………螺旋王ロージェノムは、まるで宣言するかの様にそう言い放って来たのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

クラス対抗戦が開幕し、初っ端から鈴と当たる一夏。
しかしそこで、謎の無人IS『ゴーレムⅠ』が乱入。
火力に圧倒される一夏達だったが………
なんと、グレンラガンと白式が合体!
『白式ラガン』となって、逆転勝利を収めるのだった。

今回明らかになったグレンラガンの弱点。
しかし、コレは後々克服されます。
そしてもう1つ明らかになった新機能、『合体』!!
やっぱりグレンラガンと言えば合体ですからね。
この設定は作品を考えた時点で既に出来ていました。
そして、白式と合体したという事は即ち………

遂に神谷の前に姿を見せたロージェノム。
その恐るべき野望と強さが明かされます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第7話『出来るか如何かじゃねえ………やるんだ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第7話『出来るか如何かじゃねえ………やるんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第2アリーナ………

 

「「「…………」」」

 

神谷、一夏、鈴は、無言でアリーナの上空に展開したモニターを凝視していた。

 

『…………』

 

モニターに映る男………螺旋王ロージェノムは不敵な笑みを浮かべており、まるでモニター越しに神谷達を見下しているかの様だった。

 

[アレは………]

 

[一体………誰ですの?]

 

[お、織斑先生………]

 

[…………]

 

管制室に居る箒、セシリア、真耶、千冬も突如現れた男に戸惑いの様子を浮かべている。

 

「………聞こえるか、ロージェノムとやら。私はIS学園教員の織斑千冬だ」

 

とそこで、千冬が神谷達の前にモニターを展開させ、ロージェノムに向かって話し掛けた。

 

『………ブリュンヒルデか。学園に居るとは聞いていたが、まさか教師をしているとは思わなかったぞ』

 

ロージェノムは不敵な笑みを浮かべたままそう言い放つ。

 

「その呼び名は余り好きではない………それよりも答えてもらおう。今回のこの謎のIS………そして以前の獣人やガンメンと呼ばれる者達の襲撃はお前の仕業か?」

 

そんなロージェノムに対して、千冬はそう問い質す。

 

『そうだ………』

 

アッサリと白状するロージェノム。

 

いや、と言うよりも………

 

それが如何したとでも言わんばかりの態度だ。

 

「貴様、正気か? このIS学園は如何なる国家、企業、組織の干渉を受けない。逆に言えば、この学園に干渉すると言う事は、世界を敵に回す事だぞ?」

 

『それが如何した?』

 

「なっ!?」

 

ロージェノムの意にも介していない様子に、千冬は驚きの声を挙げる。

 

(コイツは何を考えているんだ!? まさか本気で世界中を敵に回す気か!?)

 

「おうおうおうおう! さっきから聞いてりゃ、上から目線で見下ろしやがって!! 何様の積りだ、テメェ!!」

 

と、千冬がロージェノムの真意を測りかねていると、白式ラガン姿のままの神谷が、モニターのロージェノムに向かってそう啖呵を切った。

 

「ア、アニキ………」

 

融合している一夏は、若干気後れしている様子を見せている。

 

『………貴様が天上の息子か………成程………父親同様に勇ましい奴だな………』

 

と、ロージェノムは千冬から白式ラガンに視線を移すとそう言い放った。

 

「!? 親父を知ってんのか!?」

 

『ああ、良く知っているよ………奴はワシの夢にとって、1番の障害だった男だったからな………しかしまさか………今度はその息子が立ちはだかって来るとは思わなかったぞ………』

 

「障害?………!? まさか!! 親父を殺したのは!?」

 

『そうだ………天上は………ワシが殺した』

 

「「「「[[[!!]]]」」」」

 

その言葉に、全員が驚愕を露わにした。

 

「テ、テメェが親父を………」

 

白式ラガンの手が、血が出んばかりに握り締められる。

 

『奴もとことん邪魔をしてくれる………余程ワシの夢を阻みたいと見える………全く………死んでからも手を焼かされる男だ』

 

「るせぇっ!! 何が夢だ!! その為に親父を殺したってのか!! 一体どんな夢だってんだぁ! 言ってみやがれ!!」

 

不敵な笑みを浮かべたままそう言うロージェノムに向かって、神谷はそう叫んだ。

 

「………『世界征服』」

 

「!? 何ぃ!?」

 

「世界………征服だと?」

 

ロージェノムの語る夢が、余りにも単純明快にして壮大なものであると知り、神谷と一夏が驚きの声を挙げる。

 

「はあっ!? アンタ! 頭おかしいんじゃないの!?」

 

しかし、鈴は誇大妄想だとばかりにそう言い放つ。

 

『…………(ギロリ)』

 

途端に、ロージェノムは鈴を睨み付けた。

 

「!? ひいっ!?」

 

悲鳴を挙げる鈴。

 

ロージェノムが放つ迫力と眼力は半端では無く、モニター越しだと言うのに鈴は心臓を冷たい手で鷲摑みにされた様な感覚に襲われた。

 

「貴様………そんな漫画の様な事が本当に出来ると思っているのか?」

 

と、そこで千冬がロージェノムにそう言い放った。

 

確かに、世界征服など空想の中でしか実現できぬ絵空事であると考えるのが普通だ。

 

加えて、この世界にはISと呼ばれる最強の兵器が存在している。

 

『勿論だ………』

 

しかし、ロージェノムが相変わらず不敵な笑みを浮かべてそう言ったかと思うと………

 

彼が映っていた巨大モニターの周囲に、新たな小型のモニターが4つ展開した。

 

そこには、炎に包まれているオーストラリア、インドネシア、南アフリカ共和国、トルコの様子が映し出されていた。

 

「なっ!?」

 

[[[「「「!?」」」]]]

 

その光景に驚愕する一同。

 

やがて小型モニターの映像が切り替わり、螺旋四天王の姿が映し出された!!

 

『こちらチミルフ。オーストラリア軍、殲滅致しました』

 

『アディーネです。インドネシア軍は完全に沈黙。残存戦力もありません』

 

『このシトマンドラの手に掛かれば、南アフリカ共和国軍など赤子も同然!』

 

『トルコ軍も、このグアームが片付けましたじゃ』

 

チミルフ、アディーネ、シトマンドラ、グアームから、次々にその国の軍隊を全滅させたという報告が挙げられる。

 

『御苦労………ISコアは回収したか?』

 

『『『『ハッ! ココに!!』』』』

 

ロージェノムがそう問うと映像が再び切り替わり、小型モニターが4つとも積み上げられたISコアへと変わった。

 

『ふっ………』

 

それを見て、更に不敵に笑うロージェノム。

 

「そ、そんなバカな………」

 

信じがたい光景に、あの千冬さえも言葉を失う。

 

『コレで分かったかな? ワシが本気だという事を?』

 

そんな千冬に向かって、ロージェノムは見下しながらそう言い放つ。

 

『何れは世界が我が手の中に落ちる………残り少ない平和な日々を………精々謳歌するが良い』

 

最後にそう言い残し、ロージェノムと螺旋四天王が映っていたモニターは消えた。

 

「!? 待ちやがれ!! テメェにはまだ聞きたい事が………」

 

と、神谷がそう言い、白式ラガンが前に出た瞬間………

 

「「うっ!?」」

 

神谷と一夏から、同時にそんな声が漏れたかと思うと………

 

白式ラガンが光に包まれ、グレンラガンと白式を装着した一夏の姿に分離。

 

更にグレンラガンは神谷の姿に戻り、一夏の方もISの装着が解除され、アリーナの地面の上に前のめりに倒れた。

 

「!? 一夏!? 神谷!?」

 

それを見た鈴が、慌てて傍に駆け寄る。

 

「!? 救護班!! 第2アリーナだ!! すぐ来てくれ!!」

 

更に、千冬が慌てながら救護班へと連絡を入れるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕刻………

 

IS学園・保健室………

 

「う………?」

 

全身に痛みを感じながら、一夏が目を覚ました。

 

「おう、一夏。気が付いたか?」

 

「一夏!」

 

「一夏さん! 大丈夫ですか!?」

 

「一夏! 目を覚ましたの!?」

 

そこで、横から声が聞こえて来たのでその方向へ視線をやると、神谷、箒、セシリア、鈴の姿が在った。

 

「アニキ………皆も………」

 

一夏はそう言いながら、半身を起こす。

 

「!? つうっ!?」

 

すると、全身を鈍い痛みが走った。

 

「! 一夏!!」

 

「一夏さん! まだ寝てなくては駄目ですわ!!」

 

「そうよ! アンタ、全身筋肉痛なのよ!!」

 

箒達がそう言って、再び一夏を寝かし付ける。

 

「此処は………保健室か?………俺………どうなったんだ?」

 

視線だけを箒達の方に向け、そう尋ねる一夏。

 

「あの後、気を失って倒れたのよ」

 

「保健の先生の話では、極度の疲労だそうです」

 

「全身筋肉痛なのも、その影響だ」

 

「そっか………合体したせいなのか?………!? アイタタタタタタッ!?」

 

箒達の説明に、一夏がそう返事を返すと、再び身体を鈍い痛みが襲った。

 

「オイ、大丈夫か? 一夏」

 

「イッテェ………アニキは大丈夫だったの?」

 

「おうよ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

「コイツも気絶してたんだけど、保健室に連れて来られた直後に目を覚ましたのよ………」

 

「しかも、身体には一切異常は無しだそうだ………」

 

「人間とは思えませんわね」

 

一夏とは対照的に、ピンピンとしている神谷がそう言い、箒達が呆れの言葉を漏らした。

 

「ハハッ、流石アニキだ………! そうだ! あのロージェノムとか言う奴は如何したんだ?」

 

「「「!?」」」

 

「…………」

 

一夏が続いてそう尋ねると、箒達は言葉に詰まり、神谷も険しい表情を浮かべた。

 

「? 如何したんだよ?」

 

「奴は本気で………世界を征服する積りだ」

 

一夏が首を傾げると、そう言う台詞と共に、千冬が真耶を伴って、保健室内に姿を現した。

 

2人供、険しい表情を浮かべている。

 

「あ、千冬………織斑先生」

 

千冬姉と言い掛けて、慌てて訂正する一夏。

 

「織斑………コレから大事な話をする。そのままで良いから心して聞け」

 

「あ、ああ………」

 

千冬の言葉に戸惑いながらも、心の準備を整えて話を聞く一夏。

 

しかし………

 

千冬の口から語れたのは………

 

衝撃的な現実であった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2アリーナをゴーレムIが強襲したのと時を同じくして………

 

国連非加盟国を含めた世界204ヵ国全てに………

 

IS学園を襲ったのと同じ『獣人』と『ガンメン』が多数出現!

 

都市部に対し、破壊行為を開始した。

 

各国軍は直ちに出動。

 

ISをも投入して、これの鎮圧に当たった。

 

ISの存在もあり、戦況はすぐに各国の軍側に傾くと思われていた………

 

しかし………

 

各国の軍は獣人とガンメンの部隊の前に、次々と敗北………

 

ISの撃墜も確認された………

 

獣人の戦闘力は現代歩兵を、ガンメンの戦闘力は現代のあらゆる兵器を上回っていたが………

 

単純に比べて、ISはそのどちらもの上を行く性能であった。

 

………にも関わらず、苦戦を強いられたのは何故か?

 

それは数の違いである。

 

ISはその中核となるコアと呼ばれる部品が、現状467しかないのだ。

 

それを不公平の無い様に世界各国に振り分け、更に研究用と軍事用に分けた結果………

 

大国であったとしても、軍事利用されているISは精々10数機と言う状況だった。

 

ISは最強の機動兵器ではあったが、無敵でない………

 

稼働させているエネルギーには限りがあり、エネルギーが尽きれば只のガラクタと化す。

 

コレはIS以前の現代兵器にも通じる事であり、補給や整備と言った後方支援が有って、兵器は初めて機能するのである。

 

しかし、それでも………

 

1機で1つの国の軍事力を賄える程の性能がある。

 

だが、ISは敗北した………

 

何故なら、IS1機辺りに対して………

 

ロージェノム軍は実に、100万体近くの数で戦ったのである。

 

某機動戦士に出て来る敵国の3男坊も言った通り、結局のところ戦いは数であり………

 

100万と言う数の波には、ISも抗いきれなかったのだ。

 

しかもコレはIS1機に倒して向けられた戦力………

 

各国の軍隊を襲撃したロージェノムの軍勢の数は、小国でも軽く10億を超えていた。

 

辛うじて、アメリカやロシア、中国、イギリス、フランス、ドイツ等と言った世界の上位国は持ち堪えたものの、大きく戦力を削がれた。

 

そして、最悪な事に………

 

467のコアの内………

 

実に3分の1以上である170のコアが、ロージェノム軍の手によって回収されたのだ。

 

これにより只でさえ驚異的な戦力を誇っていたロージェノム軍に、世界最強の兵器の源が多く渡った事になる。

 

ロージェノム軍は小国の幾つかを壊滅させ、大国にも甚大な被害を与えた後、姿を消した。

 

そしてその後、各国に向けてIS学園でしたものと同じ………『世界征服宣言』を行った。

 

この瞬間………

 

人類は歴史上初めて………

 

『共通の敵』と対峙する事になった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・保健室………

 

「………以上が、今現在の世界の情勢だ」

 

「…………」

 

一夏は言葉が出なかった………

 

気を失う間際、ロージェノムが国を焼いていた描写は見ていたが、それがほんの一部に過ぎない事を思い知らされた。

 

「世界は混乱の渦に呑み込まれている。無理もない話だがな………最強の兵器だと言われて、信じて疑わなかったISが敗北し、国という存在がまるごと焼かれたんだ」

 

そう言う千冬の声も、少し震えていた。

 

「あ、あの、織斑先生………俺達はコレから如何するんですか?」

 

と、漸く我に返った一夏が、千冬にそう尋ねた。

 

「………現状維持だ」

 

「えっ?」

 

しかし、千冬から返って来た言葉が予想だにしなかったもので、一瞬混乱した。

 

「取り敢えず、クラス対抗戦は中止だ。第2アリーナは修復が終わるまで使用禁止だ。それ以外は通常通り授業を行う………」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 千冬姉!! 世界征服を企む連中が暴れてるんだぞ! 授業なんかしてる場合じゃ………」

 

「お前に何が出来る!?」

 

「!?」

 

食い掛かって来た一夏を、千冬は一喝する。

 

「相手は、本気で世界征服を企む強大な軍勢だぞ………ただの訓練生に過ぎないお前に、一体何が出来ると言うんだ!?」

 

「それは………!?」

 

そう言われて言葉に詰まる一夏。

 

「織斑くんの気持ちは分かりますが、事は極めて国際的な問題です………私達が出る幕は………」

 

真耶が諭す様にそう言って来たが………

 

「出来るか如何かじゃねえ………やるんだ」

 

神谷が腕組みをしながらそう言って来た。

 

「!? 天上くん!?」

 

「アニキ!?」

 

「神谷! 貴様また………」

 

「ロージェノムだか何だか知らねえが………あんな奴等を野放しにして良い訳がねえ! 何が世界征服だ! 笑わせんじゃねえ!!」

 

何時もと同じ様にそう言い放つ神谷。

 

だが、その表情は真剣そのものだ。

 

「それにアイツ等は親父の仇だ! 放って置けるかよ!!」

 

「だからと言ってどうする積りだ!? コチラは敵に対する情報は殆ど持っていないんだぞ! 奴等が何処に居るかも分からないで、一体何をすると言うんだ!?」

 

「へっ! 簡単な事よ!! アイツは俺の事を世界征服の障害と見ていた! つまり!! コレからも奴の所から俺に対して刺客が送られてくるに違いねえ! そいつ等を片っ端から倒していきゃ、痺れを切らして出て来るに違いねえ!!」

 

「アニキ! それはそうかもしれないけど………」

 

神谷の言う事にも一理有る………

 

しかし、同時にそれは………

 

果てしなき戦いに身を投じると言う事でもあった………

 

「無理だよ、アニキ! そんな事!!」

 

「一夏! 忘れたのか!! 無理を通して、道理を蹴っ飛ばす!!」

 

「!!」

 

神谷の言葉にハッとする一夏。

 

(そうだ………そうだよな………アニキはそういう男だ………やると言った事はトコトンやり抜く………それが俺の憧れているアニキだ!)

 

「そう! それが俺達!!………」

 

「グレン団のやり方だ!!」

 

何時の間にか一夏は、身体の痛みを忘れる程に気分を高揚させ、ガッツポーズを作りながらそう言い放った。

 

「あ、あのですね、天上くん、織斑くん………」

 

そんな2人に向かって、真耶が何か言おうとするが………

 

「………分かった。好きにしろ」

 

それよりも早く、千冬がそう言い放った。

 

「お、織斑先生!?」

 

「コイツは昔っから、言い出したら聞かない奴だったからな………ただし、神谷」

 

「あん?」

 

「お前は死んでも良いが、一夏だけは守れ」

 

千冬は何とも身も蓋も無い言葉を、神谷に投げ掛ける。

 

「ちょっ!? 千冬姉!?」

 

「へっ! 当然だ!! 一夏は俺の弟分! 兄貴分が弟分を守るのは当然の事よ!!」

 

一夏は千冬の言葉に抗議しようとしたが、神谷はそう言い放つ。

 

「はあ~、分かってれば良い………」

 

動じない神谷に、千冬は頭痛を感じながら、そう言った。

 

そんな千冬を尻目に、神谷は夕暮れの窓の外の景色を見遣った。

 

「来るなら来やがれ、ロージェノム………テメェーの野望は………この神谷様が打ち砕いてやるぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

「螺旋王様、お持ちいたしました………ISコアです」

 

山の様に積まれたISコアを、ロージェノムに献上する様に畏まっている螺旋四天王。

 

「コレで世界に存在するISコアの内、3分の1が螺旋王様の物となりましたな」

 

「………足りぬ」

 

シトマンドラがそう言うと、螺旋王は無表情でそう言った。

 

「はっ?」

 

「この程度では足りぬ………世界中、全てのISコアを人間共から取り上げ………奴等を絶望の底へ叩き落としてやるのだ」

 

アディーネがその言葉の意味が分からずに居ると、ロージェノムはそう言葉を続けた。

 

「心得ております。残りのコアも近い内に必ずやご献上致しましょう」

 

するとチミルフが、ロージェノムに向かってそう言上した。

 

「ISさえ取り上げれば、人間共は為す術もありませんからなぁ」

 

グアームが人間を見下している様子でそう言う。

 

「と、なると………目下の障害は………」

 

「グレンラガン………そして、天上 神谷」

 

「織斑 一夏の強さも侮れん………それにIS学園には、各国の最新鋭機が揃っておる」

 

「それですが、ロージェノム様。1つ面白い情報を手に入れました。ご覧下さい」

 

グアーム、アディーネ、チミルフがそう言うと、シトマンドラがそう言って、ロージェノムの前にモニターを展開させた。

 

そのモニターには、何かの計画書と思われるものが記載されていた。

 

「『VTシステム』………か」

 

「ドイツを攻めた際に、ある隠し研究所から入手しました。しかも、それを搭載したISが装着者ごとIS学園に配属になると………」

 

「良かろう………シトマンドラ、この件はお前に任せる」

 

そこまで聞くと、ロージェノムはシトマンドラに向かってそう言った。

 

「ハハッ! 螺旋王様の為に!!」

 

シトマンドラはそう言うと、ナチス式敬礼の様なポーズを取るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

IS学園・学生寮………

 

一夏と箒の部屋を、真耶が尋ねて来ていた。

 

「お引越しでーす」

 

「「ハイ?」」

 

「あん? 引っ越し?」

 

部屋の主である一夏と箒、そして当然の様に入り浸っていた神谷は首を傾げた。

 

「部屋の調整が付いたんです。篠ノ之さんは別の部屋に移動です」

 

すると、そんな一同に説明する様に、真耶はそう言葉を続けた。

 

「ま、待って下さい! それは、今すぐでないといけませんか!?」

 

と、そこで箒は思わずそう言ってしまう。

 

「はっ?」

 

(確かに………箒にしてみりゃ、この状況を続けてぇよなぁ)

 

そんな箒の心情を相変わらず理解していない一夏と、理解しているが口には出さない神谷。

 

「それは、まあ、そうです。何時までも年頃の男女が同室で生活をすると言うのは問題ですし、篠ノ之さんも寛げないでしょう?」

 

「いや、私は………」

 

言葉に詰まり、一夏を見遣る箒だったが………

 

「俺の事なら心配するなよ。箒が居なくても、ちゃんと起きれるし、歯も磨くぞ」

 

箒の心情など、これっぽっちも理解していない一夏は、笑顔を浮かべてサムズアップまでしてそう言ってしまう。

 

「~~~っ!! 先生! 今すぐ部屋を移動します!!」

 

すると箒は、態度を一変させ、真耶に向かってそう言い放った。

 

「あ、ハイ………」

 

箒の豹変に戸惑いながらも、引っ越しの手伝いを始める真耶。

 

「あ、えっと………俺も手伝おうか?」

 

「要らん!!………私がこうまで気に掛けているのにお前という奴は………」

 

一夏の手伝いを拒絶すると、箒はいそいそと荷物を纏め、引っ越して行ったのだった。

 

(アチャー………またやったか)

 

弟分の失態を内心で呆れる神谷。

 

「ア、アニキ。箒の奴、一体何を怒ってたのかな?」

 

「それに気づかない内は………お前は一生半人前だ」

 

「な、何だよソレ!?」

 

神谷の言葉も、一夏には全く理解が付かないのだった。

 

「やれやれ………俺は寝るぜ」

 

「あ、じゃあアニキ。良かったら此処のベッドを使ってくれよ。快適だと思うぜ」

 

「そうだな………偶にはベッドで寝るのも悪かぁねえ」

 

と、そんな事を言い合って、一夏と神谷は就寝しようとしていたところ………

 

コンッコンッ、と部屋のドアをノックする音が聞こえて来た。

 

「? ハイ」

 

一夏が出迎え様と玄関に近づき、ドアを開けた。

 

「…………」

 

そこに居たのは、先程引っ越して行った筈の箒だった。

 

腕組みをして、ムスッとしたと表現するのが相応しい顔をして、ドアの前に仁王立ちしている。

 

「何だよ? 忘れ物か?」

 

「は、話が有る………」

 

何やら頬を紅潮させながら、箒はそう言い放つ。

 

「何だよ、改まって?」

 

「来月の………学年別個人トーナメントの事だが………わ、私が優勝したら………」

 

そこで言葉に詰まった様な様子を見せる箒だったが、やがて意を決した様に口を開く。

 

「つ、付き合ってもらう!!」

 

「………ハイ?」

 

一夏は思わず、間抜けな表情を浮かべた。

 

(思い切ったなぁ、箒………だが、果たしてその言葉の意味が一夏に正しく伝わってるのか………怪しいもんだな)

 

そして神谷は、そんな2人の様子を見ながら、1人内心でそう思っていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂に神谷達の前に姿を見せたロージェノム。
何と、神谷の父親を殺したのは奴だった。
その目的は………『世界征服』!
今時、フィクションでも見られなくなったストレートな悪の野望ですが、本気度合いは半端ではありません。
国が幾つも壊滅し、ISも撃墜されるなど、その戦力は強力かつ強大です。
果たして、グレン団はロージェノムの野望を阻止出来るのでしょうか?

そして次回!
遂にメインヒロインが登場!
神谷のお相手は彼女となります!
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第8話『ダチ公同士で遠慮なんかすんじゃねえよ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第8話『ダチ公同士で遠慮なんかすんじゃねえよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロージェノムによる世界征服宣言がなされてから、数日の時が流れた………

 

初戦に於いて圧倒的な物量により、多数の小国を滅ぼし………

 

世界中に存在するISコアの3分の1以上をその手に納めたロージェノム軍。

 

現在は残っている大国と小規模な交戦を繰り返しており………

 

世界は辛うじて均衡状態を保っていた。

 

この戦いに於ける死傷者は、軍・民間を問わず、世界中で既に約10億人にまで達しようとしていた………

 

各国は今まで以上に新型ISの開発を進め、それと同時に縮小していた通常兵器の再配備を進めた。

 

ISの数に限りがあり、敵が物量で攻めて来る以上、人類側も物量で対抗しなければならない為である。

 

これによりISの登場以来、姿を消し始めていた戦闘機や戦車、戦闘艦等が再び数を増やし始め………

 

女尊男卑の風潮で、軍を退役したりクビにされていた男性軍人が、次々に復役し始めた。

 

世界が変わりつつある中………

 

その風は、IS学園にも影響を及ぼしていた。

 

現在のところ、日本でロージェノム軍の襲撃が確認されたのはIS学園だけだった。

 

この事から、ロージェノム軍はIS学園を狙っていると推測された。

 

となれば、通常はIS学園を防衛する為に、戦力を派遣するのが道理だが………

 

各国軍どころか、運営及び資金調達を行っている日本すらも、IS学園を防衛する戦力を派遣する事を拒否したのだ。

 

曰く、IS学園防衛の為に戦力を集中させ、その隙に本国を攻められる可能性がある為、との事であるが………

 

実際のところは、自国民なら兎も角、他国の生徒や代表候補生も居るIS学園を守るのを嫌ったのである。

 

他国のIS乗りは将来の危機になる………

 

ならば今の内に居なくなってくれた方が、各国としても都合が良かったのだ。

 

愚かにもこんな時にまで、各国は其々の思惑を振り払いきれなかった………

 

IS学園もIS学園で、親の意向や本人の自主的な退学者が続出していた。

 

ISが兵器である事は認識していたものの、実際に戦いに出される事になるとは思っていなかった生徒達は、事態の重さに付いて来れなかったのである。

 

退学者の中には本国へ帰国したり、戦中の様に田舎へ疎開する者まで居た。

 

中には故郷を滅ぼされ、難民として保護扱いになった生徒も居る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・1年1組………

 

そんな中でも様々な思いを抱えて残っている生徒の為に………

 

今日も、IS学園は平常通りに運営されていた………

 

「ねえ、聞いた?」

 

「聞いた聞いた!」

 

「えっ? 何の話?」

 

ロージェノムの世界征服宣言も何処へやら………

 

1年1組の生徒達は噂話に華を咲かせ、何時もと変わらぬ日常を送っていた。

 

神経が図太いのか、何も考えていないのか………

 

「何だぁ? 今日は随分と騒がしいな?」

 

「やっぱり、皆気にしてるんじゃないかな? ロージェノムの世界征服を?」

 

自分の席に居た神谷と一夏がそう言い合う。

 

知らぬが仏、とはよく言ったものである。

 

「席に着け。HRを始める」

 

とそこで、真耶を伴った千冬がそう言いながら教室へと入って来た。

 

それを聞いた途端に、生徒達は一斉にお喋りを止め、自分の席へと着いた。

 

統率力だけならば軍隊並みである。

 

「今日は何と! 転校生を紹介します!」

 

すると、教壇に立った真耶が、生徒達に向かってそう言った。

 

「ええっ?」

 

「転校生?」

 

「しかもこんな御時勢に?」

 

転校生という言葉を聞いた生徒達がざわめき立つ。

 

「では、どうぞ!」

 

「失礼します」

 

真耶が促すと、1人の生徒が教室に入って来た。

 

「「「「「…………」」」」」

 

それまでヒソヒソ話をしていた生徒達が、一斉に黙り込んだ。

 

「おっ?」

 

「あっ」

 

神谷と一夏も、軽く驚きの声を挙げた。

 

現れたのが、金髪の長い髪を後ろで束ねた少年………

 

つまり、男子だったからだ。

 

「『シャルル・デュノア』です。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします」

 

金髪の少年………『シャルル・デュノア』はそう言って、ニッコリと微笑んだ。

 

「お、男?」

 

「ハイ。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を………」

 

と、シャルルがそう言いかけた瞬間………

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

神谷、一夏、箒、セシリアを除く生徒全員が、黄色い声を挙げた。

 

「うわっ!?」

 

「っるせえな、オイ!」

 

思わず耳を塞ぎながらそう言う一夏と神谷。

 

「えっ?」

 

「男子! 3人目の男子!!」

 

「しかもうちのクラス!」

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

「同じ宇宙に生まれて良かったあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!!」

 

戸惑うシャルルの様子にもお構いなしに騒ぎ立てる生徒達。

 

「騒ぐな。静かにしろ」

 

しかし、千冬がそう言うと、一瞬で静まり返った。

 

………やはり素晴らしい統率力だ。

 

「今日は2組と合同でIS実習を行う。各人はすぐに着替えて、第2グラウンドに集合。それから織斑と天上」

 

「あ、ハイ!」

 

「おう!」

 

「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子同士だ………では、解散!!」

 

千冬がそう言うと、一夏と神谷を除いた生徒達が、着替えの準備を始めた。

 

「君達が織斑くんと天上くん? 初めまして、僕は………」

 

「ああ、良いから良いから。アニキ」

 

「しゃーねえな………移動すっぞ」

 

シャルルが改めて自己紹介をしようとしたところ、一夏と神谷はそれを遮って席を立った。

 

「ホラ、モタモタすんな! 行くぜ!」

 

神谷はそう言い、シャルルの手を取って、一夏と共に移動を始めた。

 

「!? ふわっ!?」

 

手を摑まれた瞬間、シャルルが一瞬赤面した様だったが、2人には分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・廊下………

 

「俺達はアリーナの更衣室で着替えるんだ。実習の度にこの移動だからな。早めに慣れてくれよな」

 

「ったくよぉ、いっその事、一緒に着替えちまえば良いのによぉ」

 

「アニキ、それは駄目だよ………」

 

堂々とそう言う神谷に突っ込みを入れる一夏。

 

「う、うん………」

 

しかし、相変わらず神谷に手を引かれているシャルルは、若干頬を紅潮させ、落ち着かない様子を見せていた。

 

「? 如何した? そわそわして?」

 

「便所か?」

 

「ち、違うよぉ………うん?」

 

と、不意に足を止めるシャルル。

 

「噂の転校生、発見!!」

 

「しかも織斑くんと一緒!」

 

「天上くんが居るのが余計だけど………」

 

3人の前方に、別の学年・クラスの生徒達が行く手を遮る様に現れたのだ。

 

「な、何?」

 

「ったく、急いでるってのによぉ」

 

戸惑うシャルルと愚痴る様に言う神谷。

 

「居たっ! こっちよ!!」

 

「者共! 出合え、出合え!」

 

まるでパンダを見に来た客の如く、一夏とシャルル、序に神谷に群がる生徒達。

 

彼女達に捕まれば質問攻めにされ、次の授業に遅れるのは必然である。

 

「アニキ、如何しよう?………前も後ろも塞がれてるよ」

 

一夏が神谷にそう言う。

 

「チッ! しゃーねえなぁ………よっと!」

 

「うわっ!?」

 

「おわっ!?」

 

そう言うがいなや、神谷はシャルルを右肩に、一夏を左肩に担ぐ様に抱えた。

 

「しっかり摑まってろよ!!」

 

2人にそう言うと、神谷は廊下の窓に向かって突撃した。

 

「ちょっ!? アニキ!?」

 

「な、何する気!?」

 

「おりゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

そして!!

 

そのまま窓を蹴破って、宙に躍り出た!!

 

「えええっ!?」

 

「ちょっ!? 此処3階!?」

 

見物していた生徒達が、慌てて割れた窓から下を覗き見る。

 

「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」

 

一夏とシャルルの悲鳴が、ドップラー効果を効かせながら小さくなって行く。

 

やがて、地面に近づいたかと思うと………

 

「むんっ!!」

 

神谷は両足を踏ん張り、着地を決めた!!

 

3人分の体重を急激に掛けられたコンクリートの地面が、神谷の足の位置を中心に罅割れた。

 

「んんっ!? イ、イテェ………ちょっと高かったかも………2人共、大丈夫か?」

 

若干顔を歪ませながらそう呟くと、神谷は担いでいた2人に声を掛けた。

 

「大丈夫じゃねえよ! なまら恐かったよ!!」

 

「きゅう~~~~………」

 

思わず大○洋になりながら怒りを露わにする一夏と、可愛い声を挙げて目を回して気絶しているシャルル。

 

「兎に角行くぞ。遅れるとあのブラコンアネキが煩いからな」

 

それを特に気にした様子は見せず、神谷は一夏を下ろすと、シャルルを肩に担いだまま走り出した。

 

「全くもう………」

 

一夏は呆れながらもその後に続いた。

 

「………ウソ」

 

「天上くんって………人間なのかな?」

 

取り残された生徒達は、ただ茫然とするだけだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの更衣室………

 

「ハアア~~~、ビックリした~~~」

 

漸く目を覚ましたシャルルが、大きく息を吐きながらそう言った。

 

「すまない、シャルル。大丈夫か?」

 

「う、うん………何とか………」

 

「ったく! 情けなねえぞ、金髪! それでもキ○タマ付いてんのか!?」

 

「キ、キ○タッ!?」

 

神谷の言葉にボボッと赤面するシャルル。

 

「アニキは無茶苦茶過ぎるんだよ」

 

「へっ! 道なんてもんはなぁ! 俺の通った後に出来るモンなんだよ!!」

 

「い、意味が分からない………」

 

「気にしないでくれ。アニキは何時もこうだから」

 

神谷節に付いて行けないシャルルにそう言う一夏。

 

「そうなんだ………」

 

「それじゃあ、改めて自己紹介させてもらうな。俺は織斑 一夏。一夏って呼んでくれ。で、コッチが………」

 

「IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

一夏がシャルルに神谷を紹介しようとしたところ、神谷はそれを遮って、お決まりの口上を並べた。

 

「あ、アハハ………よ、よろしく………僕の事もシャルルで良いよ」

 

戸惑いながらも、シャルルはそう返すのだった。

 

「! おわっと! アニキ! 時間ヤバいよ!!」

 

とそこで、更衣室に有った時計を見て、授業開始まで時間が無い事に気づいた一夏がそう声を挙げた。

 

「おっと! そいつはいけねえな! 良しっ! パッパッと片付けちまうか!!」

 

「おう!」

 

神谷がそう言うと、一夏が急いで服を脱ぎ始めた。

 

「!? うわぁっ!?」

 

途端に、シャルルは顔を真っ赤にして、目を隠して後ろを向いた。

 

「? 如何した?」

 

「早く着替えないと遅れるぞ? ウチの担任はそりゃあ、時間に煩い人で………」

 

その様子に不思議がる神谷と一夏。

 

「う、うん、き、着替えるよ………でも、その………アッチ向いてて。ね」

 

「いや、まあ、着替えをジロジロ見る気は無いが………」

 

「ったりめえだ。どうせ見るんなら、女の着替えの方が良いに決まってる」

 

「!?」

 

「アニキ………そう言う事は思ってても言わないでよ」

 

神谷の言葉に何やら反応した様な様子を見せたシャルルだったが、2人は後ろを向いていたので気づかなかった。

 

「何でも良いけど、急げよ」

 

と、そこで一夏がそう言いながら一夏が再びシャルルの方を向くと………

 

「な、何かな?」

 

そこには既にISスーツへ着替えたシャルルの姿が在った。

 

「………着替えるの超早いな。何かコツでもあるのか?」

 

「え、いや………別に………アハ、アハハハ」

 

一夏の問いに、乾いた様な笑い声を上げるシャルル。

 

「コレ、着る時に裸ってのが何か着辛いんだよなぁ。引っ掛かって………」

 

「一夏。そりゃあお前の男が大きい証拠だぜ」

 

「ひっ、引っ掛かって!?………男が大きい証拠!?………ほおお………」

 

そこでまたも赤面するシャルル。

 

「ん? そのスーツ、着易そうだな」

 

シャルルのISスーツを見てそう言う一夏。

 

「デュノア社製のオリジナルだよ」

 

「デュノア? お前の苗字もデュノアだよな?」

 

「父が社長をしてるんだ。一応、フランスで1番大きいIS関係の企業だと思う」

 

「何だよ、お前ボンボンか? さぞ良い暮らししてんだろうな」

 

根っからの雑草な神谷が、シャルルの家の事を聞いてそんな感想を漏らす。

 

「…………」

 

しかし、その言葉にシャルルは表情を曇らせた。

 

「ん? 如何し………」

 

「一夏。何時まで着替えてんだ? 早く行こうぜ」

 

と、そこで着替える手が止まっていた一夏に、神谷がそう言って来た。

 

その姿は、頭部のみを除いてグレンラガンとなっていた。

 

「うわぁっ!?」

 

「あ、ゴメン、アニキ!」

 

グレンラガンの姿になりかけている神谷を見て驚くシャルルと、慌てて着替えを済ませる一夏。

 

「も、もうISを装着してるの? 幾ら何でも早過ぎない?」

 

シャルルはグレンラガンになりかけている神谷に向かってそう言う。

 

「ああ、俺のは正確に言うとISじゃないからな。ホントのところは、ISスーツ着る必要がねえんだ」

 

「えっ? ISじゃないって………如何言う事?」

 

「そいつは………」

 

「うわぁっ! 駄目だよ、アニキ! それは千冬姉から口止めされてるじゃないか!?」

 

思わずグレンラガンの事について話し出そうとした神谷を止める一夏。

 

前回のクラス代表戦乱入事件で、神谷のグレンラガンに疑問を抱いた一夏達は千冬を問い詰め、その正体について教えてもらっている。

 

しかし、本来これは秘匿されるべき事であり、一夏達には機密保持が命令された。

 

だが、当の本人がついポロリッと言ってしまいそうになった事が度々あるので、一夏達は気が気でなかった。

 

「ああ? 良いじゃねえかよ、別に。教えたって………」

 

「駄目だって! さあ、早く行くよ!!」

 

一夏はそう言うと、グレンラガンになりかけている神谷の手を引っ張った。

 

「お、オイ! そんなに引っ張んなって!!」

 

「あ、待ってよぉ!」

 

引き摺られる様に連れて行かれるグレンラガンになりかけている神谷と、慌ててその後を追うシャルルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第2グラウンド………

 

神谷を除いたISスーツ姿の1年1組と2組の生徒達が、白いジャージ姿の千冬の前に整列していた。

 

「本日から実習を開始する」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

「先ずは戦闘を実演してもらおう。凰! オルコット!」

 

「「ハイ!」」

 

鈴とセシリアが揃って返事をする。

 

「専用機持ちなら、すぐに始められるだろう。前に出ろ!」

 

「メンドイな~………な~んで私が………」

 

「ハア~………何か、こういうのは見世物の様で気が進みませんわね………」

 

あまり気が乗らないでいる2人。

 

「お前等少しはやる気を出せ………アイツに良い所を見せられるぞ」

 

すると千冬は、後半の方は一同には聞こえない様にそう言った。

 

「やはり此処はイギリス代表候補生、私セシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「実力の違いを見せる良い機会よね! 専用機持ちの!」

 

2人は途端に、180度態度を変えてやる気を見せる。

 

(如何したんだ? アイツ等、急にやる気出して?)

 

その態度の源である一夏は、ただ首を傾げるだけだった。

 

「それでお相手は? 鈴さんとの勝負でも構いませんが………」

「こっちのセリフ………返り討ちよ」

 

「慌てるなバカ共。対戦相手は………」

 

と、千冬がそう言いかけた時………

 

空から落下音の様な音が聞こえて来た。

 

「わわわぁ~~~~~~っ! ど、退いて下さいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ~~~~~~~~!」

 

続いて悲鳴が聞こえて来たかと思うと、ISを装着した真耶が落下して来た。

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

生徒達は慌てて蜘蛛の子を散らした様に逃げ出すが、一夏は反応が遅れた。

 

真耶は、一夏への直撃コースを落下して来る。

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

あわや大激突かと思われた瞬間!!

 

「一夏ぁ! 頭下げろぉ!!」

 

「!? アニキ!?」

 

突如聞こえて来た神谷の声に、一夏は言われるがままに頭を下げた。

 

その直後、その一夏の傍に、完全にグレンラガンの姿となった神谷が立った。

 

その手には、グレンラガンサイズのバットが握られていた。

 

「グレン! ホオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーームランッ!!」

 

そしてそのバットを使い、一本足打法で、落下して来た真耶を思いっきり打ち返した!!

 

「キャアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?………」

 

真耶の姿は空の彼方へ消えて行き、とうとう昼間に煌めく星となった。

 

「よっしゃあ! 宣言通りホームランだ!!」

 

「このバカ者がぁ!! 教師をブッ飛ばして如何するぅ!?」

 

自慢げにそう言う神谷に、千冬は血管が切れるのではないかと思わせる様な怒声を挙げたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10数分後………

 

「ハア………ハア………ゴメンなさい。お待たせして」

 

如何にか帰って来た真耶が、そう言って生徒達に笑顔を向けた。

 

海に落ちたのか、その姿はびしょ濡れで水滴が滴っており、頭の上には昆布が乗っていた。

 

「山田先生はこれでも元代表候補生だ。侮っていると痛い目を見るぞ」

 

「昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし………」

 

「え? あ、あの………2対1で?」

 

「や、流石にそれは………」

 

実力があると言われても、流石に2対1で戦う事を躊躇うセシリアと鈴。

 

「安心しろ。今のお前達なら、すぐ負ける」

 

「「!!」」

 

千冬のその発言に思わずムッとするセシリアと鈴。

 

「では………始め!!」

 

そう言って、千冬が右手を振り下ろすと、セシリア、鈴、真耶が、第2グラウンドの上空へと昇って行った。

 

やがて、一定高度に達したかと思うと、静止した。

 

「手加減はしませんわ!!」

 

「さっきの見る限り、元代表候補生だなんて信じられないしね!」

 

「い、行きます!!」

 

真耶がそう言うと、セシリアと鈴が動いた。

 

先ず最初に動いたのはセシリア。

 

ブルー・ティアーズを射出し、次々に射撃を見舞う。

 

しかし、真耶は無駄の無い最小限の動きでそれを躱す。

 

「クウッ!!」

 

今度は鈴が、肩アーマーを展開させ、龍咆を見舞った。

 

真耶は、冷静に1射目を躱すと、2射目を物理シールドで防いだ。

 

「デュノア。山田先生の使っているISの解説をして見せろ」

 

とそこで、地上に居た千冬が、シャルルにそう問題を出した。

 

「あ、ハイ! 山田先生のISはデュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第2世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは初期第3世代にも劣らないものです。現在配備されている量産ISの中では、最後発でありながら、世界第3位のシェアを持ち、装備によって、格闘、射撃、防御といった全タイプに切り替えが可能です」

 

まるで教科書を読んでいるかの様な説明が、シャルルの口からスラスラと語られる。

 

その間でも、上空では戦いが繰り広げられており、真耶が2人を圧倒している一方的な展開となっていた。

 

やがて連携の取れていなかったセシリアと鈴は空中で激突。

 

そこへ真耶が、グレネードランチャーを見舞った!

 

放たれたグレネードは、狙いを過たず2人に命中。

 

「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」」

 

2人の姿が爆煙に包まれたかと思うと、やがて縺れ合う様な体勢で落下して来た。

 

派手な土煙を巻き上げてグラウンドに墜落する2人。

 

「う、ううう………まさかこの私が………」

 

「あ、アンタねぇ! 何面白い様に回避先読まれてんのよ!?」

「鈴さんこそ! 無駄にバカスカと撃つからいけないのですわ!!」

 

互いに詰り合いを始めるセシリアと鈴。

 

「これで諸君にも教員の実力は理解出来ただろう。以後は敬意を持って接する様に」

 

真耶が降りて来る中、生徒達に向かってそう言い放つ千冬。

 

「次にグループになって実習を行う。リーダーは専用機持ちがやる事。では分かれろ!………ああ、そうだ。天上。お前はコッチに来い」

 

「あん? んだよ?」

 

名指しで呼ばれた神谷は、首を傾げながら千冬の傍に寄る。

 

「「「「「??」」」」」

 

他の生徒達も、何故神谷だけが名指しで呼ばれたのかが気になる。

 

「天上………お前、授業に来る前に何かしなかったか?」

 

神谷に向かってそう尋ねる千冬。

 

………その声色は恐ろしくなるほど冷たい。

 

「ああ、別のクラスの女子共に囲まれそうになったが、それが如何かしたのか?」

 

しかし、神谷は平然としながらそう言い放った。

 

「貴様、その際に………廊下のガラスを割っただろう」

 

「ああ、そういやそんな事したなぁ」

 

「………そのせいで私の所に学年主任から苦情が来たんだ!! お蔭で私は始末書を書く羽目になったぞ!!」

 

そこで、怒りを爆発させた様にそう言い放つ千冬。

 

「そっか。そりゃ悪かったな」

 

だがそれでもなお神谷は、軽い調子で謝罪をした。

 

「か~~~み~~~~~や~~~~~~っ!!」

 

すると千冬は、地の底から聞こえてきそうな声を挙げたかと思うと、着ていた白いジャージを脱ぎ捨てた!!

 

その下から出て来たのは、ISスーツだった。

 

更にその次の瞬間!!

 

千冬は学園で使っている量産型IS・打鉄を展開し、装着した。

 

「お、織斑先生!?」

 

「千冬姉!?」

 

突如ISを展開した千冬に驚く真耶と一夏。

 

他の生徒達も戸惑いを浮かべている。

 

「貴様には私が特別に個人指導を付けてやる………実戦形式でな!!」

 

日本刀型の近接ブレードを抜き放つと、切っ先を神谷に付き付けてそう言い放つ千冬。

 

その目は完全に本気である。

 

「へっ! 面白れぇ!! 返り討ちにしてやるぜ!!」

 

神谷はそう言うと、再び完全にグレンラガンの姿となり、右手に2本のドリルを出現させた。

 

「ISファイトォッ! レデイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

「ゴオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

まるでガ○ダムファイトでも開始するかの様な掛け声を発して、2人は衝突した。

 

その後はもう、神谷と千冬の戦いに全員が目を奪われ、授業どころではなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ………

 

昼休み………

 

一夏達は、校舎の屋上に集まっていた。

 

芝生の上に、輪を描く様に座り込んでいる。

 

「イツツツツッ………チキショー、あのブラコンアネキ………良いヤツ入れてきやがって………」

 

若干腫れ上がっている左頬を押さえながらそう言う神谷。

 

「大丈夫? ハイ、コレ、ハンカチ」

 

それを見たシャルルが、水で濡らしたハンカチを差し出してくる。

 

「おお、サンキュー………ああ~~、冷たくて気持ち良いぜ」

 

それを受け取ると、腫れ上がった左頬に当ててそう言う神谷。

 

 

 

 

 

結局、グレンラガンVS千冬(打鉄)の戦いは、引き分けに終わった………

 

当初はグレンラガンが飛行できない弱点を衝き、ヒットアンドアウェイ戦法で千冬が押していたが………

 

ブリュンヒルデである千冬の操縦に、量産型である打鉄が付いて来れず、オーバーヒートを起こしたのだ。

 

現役時代であればしなかったミスだったが、引退して以来久しいISの操縦であり、尚且つ頭にかなり血が昇って居た千冬は、使っている機体の事にまで頭が回らなかったのだ。

 

オーバーヒートにより飛行が出来なくなった打鉄で、千冬は止むを得ず地上戦を展開。

 

だが、地上ならばこっちのものとばかりに、グレンラガンが反撃を開始。

 

アッと言う間に互角に持ち込まれ、ブレードも折られてしまう。

 

だが、グレンラガンがトドメを刺そうとしたところへ、千冬は渾身の右ストレートを繰り出した。

 

グレンラガンもそれに呼応するかの様に左ストレートを繰り出し、2人は互いの顔にクロスカウンターを打ち込む形となって崩れたのだ。

 

尚、この1件で結果的に打鉄を1機駄目にした千冬には、更なる始末書が追加された。

 

現在千冬は、職員室で痛む胃を押さえながら始末書を書いている。

 

合掌………

 

 

 

 

 

「アンタも相変わらずねえ」

 

「おうよ! 俺は喧嘩には絶対負けねえ!!」

 

呆れる様に言う鈴に、神谷は自信満々にそう言い放つ。

 

「ところで一夏………如何いう事だ? 私が食事に誘ったのはお前だけの筈だ」

 

と、そこで箒が、一夏だけを誘ったのに、セシリアや鈴、挙句に神谷やシャルルまでも居る事にそう突っ込む。

 

………不機嫌そうに。

 

「大勢で喰った方が美味いだろ? それにシャルルは転校してきたばっかで右も左も分からないだろうし」

 

「そ、それはそうだが………」

 

箒は一夏のその答えを聞くと、セシリア、鈴と視線を交差させ、火花を散らす。

 

3人の手元には、其々弁当がある。

 

如何やら、一夏に食べてもらおうと思って作って来たらしい。

 

「ええと………本当に僕が同席しても良かったのかな?」

 

その空気を察したシャルルが、一夏にそう言うが………

 

「いやいや。男子同士、仲良くしようぜ。今日から部屋も同じなんだし」

 

そんな空気など微塵も感じていない一夏は、笑顔でそう言い放った。

 

「その通り! 俺たちゃもうダチ公だろ! ダチ公同士で遠慮なんかすんじゃねえよ!!」

 

神谷も、シャルルに向かってそう言い放つ。

 

「ありがとう。一夏って優しいね。神谷も、見た目とは違って良い人なんだね」

 

「オイオイ、随分はっきり言うじゃねえか………見た目とは違って、とはな」

 

「えっ? あ! ゴメン! そんな積りじゃ………」

 

先程までの印象もあり、思わず『見た目と違って』などと言う言葉が出てしまった事を謝罪するシャルル。

 

「だが気に入ったぜ! シャルル! お前もグレン団に入れてやる!!」

 

だが、神谷はニヤリと笑ってそう言い放った。

 

「グ、グレン団? 何それ?」

 

「熱い魂の在り処よ! お前もコイツ等と同じ様に、俺が命張って守ってやらぁ!!」

 

「ちょっ!? コイツ等って!?」

 

「私達もグレン団のメンバーにカウントされているのか?」

 

『コイツら』と言う神谷の言葉に、鈴と箒は何時の間にか自分達がグレン団のメンバーにされている事に抗議の声を挙げる。

 

「当たり前だろ! 昔は俺と一夏に連んで色々やっただろうが!?」

 

「ああ、そう言えばそんな事もあったっけ。懐かしいなぁ」

 

神谷の言葉を聞いた一夏が、懐かしそうな顔をする。

 

「私はお前達が無茶しないか見張っていただけだ!!」

 

「アタシだってそうよ!!」

 

しかし、箒と鈴は納得が行かない様で、そう声を挙げる。

 

「えっ? 箒と鈴って、そんな積りで俺達に付き合ってたのか? それはちょっと悲しいなぁ………」

 

すると、一夏がそう言いながら、しょんぼりした。

 

「「ううっ!?」」

 

その顔を見て罪悪感を感じる箒と鈴。

 

「し、仕方ないな! 取り敢えずはグレン団のメンバーという事にしてやる!!」

 

「ア、アタシも! 別に構わないわ!!」

 

やがて折れたかの様にそう言った。

 

「おお! 流石箒と鈴だぜ!!」

 

一夏は屈託無い笑顔を見せながらそう言う。

 

「「!!」」

 

その笑顔を見て、顔を赤くする箒と鈴。

 

「………一夏って、何時もああなの?」

 

「ホントに、いつか後ろから刺されないかが心配だぜ………」

 

そんな一夏の様を見て、小声でそう言い合うシャルルと神谷。

 

「ったく、もう………コレだから……」

 

とそこで、鈴がそう言いながら、弁当の蓋を開けた。

 

「おお! 酢豚だ!」

 

その中身が酢豚である事を確認した一夏がそう声を挙げる。

 

「そう。今朝作ったのよ。食べたいって言ってたでしょ?」

 

「ん、んん! 一夏さん。私も今朝は偶々、偶然早く目が覚めまして、こういうものを用意してみましたの」

 

と、そこでセシリアも『偶然』という部分を強調する様に言いながら、持って来ていたバスケットを持ち上げた。

 

空いている蓋から、中身のサンドイッチが見えていた。

 

「あ、ああ………そうか………」

 

しかし、それを見た一夏は顔を青くする。

 

実は、セシリア………

 

料理の腕はからっきしなのである。

 

見た目は美味しそうなのだが、その見た目の為に味が犠牲になっているのだ。

 

「んだよ、一夏。折角のセシリアの厚意だぞ。男ならありがたく受け取れ! つーワケで、俺も貰うぜ」

 

「むう………仕方ありませんわね」

 

若干不満そうにしながらも、神谷にサンドイッチを一切れ渡すセシリア。

 

「あぐっ!!」

 

そして神谷は、大きく口を開け、そのサンドイッチを一飲みにした。

 

「ア、アニキッ!!」

 

思わず慌てる一夏。

 

「「!?」」

 

事情を知っている箒や鈴も慌てる。

 

しかし………

 

「んぐ………んぐ………うん! 中々面白い味じゃねえか。悪くねえ」

 

「フフフ、当然ですわ」

 

(((ええ~~~~~っ!?)))

 

至って平気な様子の神谷を見て、内心で驚愕する一夏、箒、鈴。

 

「シャルルさんも如何ですか?」

 

「あ、じゃあ1つ………」

 

と、そこでシャルルも1つ受け取り、一口頬張る。

 

神谷の反応から、不味いとは思っていないらしい。

 

しかし………

 

「!??!」

 

食べた途端に、シャルルは顔色を変えた。

 

(な、何コレ?)

 

そんな感想だけがシャルルの頭を埋め尽くす。

 

 

 

 

 

神谷には、“不味い”と言う味覚が欠如しているのである。

 

勿論、美味いものを食べれば美味いと言うが、基本的に食べ物は何でも食うタイプであり………

 

早い話が、【悪食】なのである。

 

 

 

 

 

「如何ですか?」

 

セシリアが自信満々の笑顔で聞いてくる。

 

「う、うん………美味しいよ………」

 

若干顔を引き攣らせながら、シャルルはそう答える。

 

「あ、あははは………ほ、箒のはどんなのだ?」

 

一夏は乾いた笑い声を挙げながら、これ以上犠牲者を出さない為に、箒へと話を振った。

 

「わ、私のはコレだ………」

 

箒はそう言い、弁当の蓋を開けた。

 

そこにはシンプルながらも、美味しさを感じさせる献立が並んでいた。

 

「おお! 凄いなぁ! どれも手が込んでそうだ!」

 

「つ、ついでだ、ついで! 飽く迄、私が自分で食べる為に時間を掛けただけだ」

 

一夏に褒められ、照れ隠しの様にそう言う箒。

 

「そうだとしても嬉しいぜ。箒、ありがとう」

 

「フ、フン!」

 

素っ気ない態度を取る箒だったが、その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「じゃあ、まあ、頂きま~す」

 

一夏はそう言い、箒の弁当から取った唐揚げを食した。

 

「…………」

 

その様子をジッと見つめる箒。

 

「うん! お~、美味い! コレって結構、手間が掛かってないか?」

 

「味付けは、生姜と醤油、おろしニンニク、それと予め胡椒を少しだけ混ぜてある。隠し味には大根おろしが適量だな」

 

美味しいと言う一夏の言葉を効いた途端、良い笑顔になって自慢げにそう語る箒。

 

「「~~~~~っ!!」」

 

鈴とセシリアが、その様子を睨む。

 

「本当に美味いなぁ。箒、食べなくて良いのか?」

 

「失敗したのは、全部自分で食べたからな………」

 

「ん?」

 

「あ、あああ!? 大丈夫だ! まあ、その何だ………美味しかったのなら良い」

 

慌てて取り繕う様に言う箒。

 

「箒も食べてみろよ。ホラ」

 

と、一夏はそう言うと、唐揚げを箸で抓み、箒の口元に差し出した。

 

「「あああぁぁぁぁ~~~~っ!!」」

 

鈴とセシリアから羨望の声が挙がる。

 

「な、何………」

 

やられた箒も箒で、戸惑うばかりだった。

 

「ホラ。食ってみろって」

 

「そ、そうか………それでは………」

 

再度促されて、箒は照れながらも、眼前に差し出された唐揚げを頬張った。

 

「良い………良いものだな」

 

「だろう。美味いよなぁ、この唐揚げ」

 

うっとりとした表情で言う箒に、分かっていない一夏はそう言う。

 

「唐揚げではないが………うん、良いものだ」

 

「ああ! コレってもしかして、日本ではカップルがするって言う『ハイ、あ~~ん』っていう奴なのかな? 仲睦まじいね」

 

そこで、シャルルが突っ込みを入れる様にそう言った。

 

「何でコイツ等が仲良いのよ!!」

 

「そうですわ! やり直しを要求します!!」

 

勿論、そんな光景に鈴とセシリアは黙っちゃいない。

 

2人揃って食って掛かる。

 

「ギャーギャー喚くな。そんなに一夏に食わせて欲しかったら、交代でやってもらえば良いじゃねえか」

 

すると神谷が、その場を収める様にそう言った。

 

「ん? まあ、俺は良いぞ」

 

相変わらず分かっていない一夏はそう言い放つ。

 

「ま、まあ………一夏が良いって言うならね」

 

「私は、本来ならばその様なテーブルマナーを損ねる行為は良しとは致しませんが、『郷に入っては郷に従え』、ですわね」

 

「じゃあ早速! は~い、酢豚食べなさいよ、酢豚!」

 

「一夏さ~ん! サンドイッチもどうぞぉ!!」

 

「ちょっ!? 落ち着けって!!」

 

迫って来る勢いの鈴とセシリアに、戸惑うばかりの一夏だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

IS学園・学生寮………

 

一夏の部屋にて………

 

同じ男子同士という事で、一夏と同じ部屋にされたシャルルは、引っ越し作業を終えて、一夏が淹れた緑茶で一服していた。

 

「ふう~~、男同士ってのは良いもんだなぁ」

 

この学園に来て以来、気兼ね無く接する事が出来る人物が神谷しかいなかった一夏にとって、シャルルの存在は大きかった。

 

「紅茶とは随分違うんだね。不思議な感じ………でも美味しいよ」

 

一夏の入れてくれた緑茶にそんな感想を言うシャルル。

 

と、そこで………

 

「一夏~、邪魔するぜぇ」

 

天井から神谷のそう言う声が聞こえて来たかと思うと、一部の天井板が外され、ロープが垂れたかと思うと、神谷が降りて来た。

 

「あ、アニキ」

 

「うええっ!? 神谷!? 何で上から!?」

 

平然と迎える一夏と、突然天井から現れた神谷に驚くシャルル。

 

「ああ、アニキの部屋。この上だから」

 

「えっ? でもこの上って、確か屋上………」

 

「細かい事は気にすんな! 一夏! 俺にも茶くれ!」

 

「ハイハイ、今淹れるよ」

 

そう言うと、一夏は神谷の分の茶を淹れに行く。

 

「………神谷って本当に自由だね」

 

「おうよ! 俺はいつだって自分に正直に生きてる! 自分を誤魔化して生きるのは御免だからな!!」

 

「そっか………良いな」

 

そんな神谷の様子を見て、シャルルは若干羨ましそうな感じでそう言った。

 

「? どした? 何か暗いぞ?」

 

「あ!? ううん!! 何でもないよ!!」

 

慌てて取り繕う様に言うシャルル。

 

「そうか………ま、悩みが有ったら遠慮無く言いな。お前ももうグレン団の一員だ。団員の悩みを聞くのもリーダーの役目だからな!」

 

そう言うと、神谷はシャルルの頭をガシガシと乱暴に撫でる。

 

「アイタタタタ! 痛いよ、神谷ぁ!」

 

シャルルは若干痛そうにしながらも、何処か嬉しそうにそう言う。

 

「アニキー。お茶入ったよ」

 

とそこへ、一夏が神谷の分の茶を持ってくる。

 

「おう! サンキュー!」

 

それを受け取ると、神谷はじっくりと味わい始める。

 

「そう言えば、一夏と神谷は、いつも放課後にISの特訓してるって聞いたけど………そうなの?」

 

「ああ。俺は他の皆から遅れているからな………クラス代表務めてる奴が弱いんじゃ、恰好がつかないからな」

 

「僕も加わって良いかな? 専用機もあるから、役に立てると思うんだ」

 

「おお! 是非頼む。アニキも良いよね」

 

「おう! 明日からよろしくなぁ、シャルル」

 

「うん、任せて」

 

こうして、シャルルがやって来た1日目の夜は更けて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

IS学園・1年1組………

 

朝のHRにて………

 

教室はざわめき立っていた。

 

「えっと………きょ、今日も嬉しいお知らせがあります。また1人、クラスにお友達が増えました」

 

教壇に立っていた真耶が、戸惑いながらそう言う。

 

そう………

 

昨日シャルルが転校してきたばかりだと言うのに、また新たな転校生がこのクラスにやって来たのだ。

 

「ドイツからやって来た転校生の、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』さんです」

 

そしてその転校生………長い銀髪で左目に眼帯をした小柄な少女、ドイツ出身の『ラウラ・ボーデヴィッヒ』は、教壇の横で目を閉じて仁王立ちする様に沈黙していた。

 

制服の改造具合と佇まいから、軍人である事が感じ取れる。

 

「如何言う事?」

 

「2日連続で転校生だなんて………」

 

「幾ら何でも変じゃない? あんな事件の後じゃ余計に………」

 

2日続けての転校生に、生徒達からも疑問の声が挙がる。

 

「オイオイ、最近は転校が流行ってんのか?」

 

神谷もそんな声を挙げた。

 

「み、皆さん、お静かに! まだ自己紹介が終わってませんから」

 

真耶がそんな生徒達を鎮める様に言うが、その間もラウラは沈黙を保ったままだった。

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

 

「ハイ、教官」

 

千冬がそう言うと、初めて声を挙げるラウラ。

 

(教官?………って事は………千冬姉が、ドイツに居た頃の………)

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ!」

 

一夏がそう思っていると、ラウラはそう言い放つ。

 

「…………」

 

しかし、それ以上の言葉は出て来なかった。

 

「あ、あの………以上、ですか?」

 

「以上だ」

 

ラウラはそう言ったかと思うと、一夏の方を見た。

 

「貴様が………」

 

「えっ?」

 

そう呟いたかと思うと、ラウラは一夏の眼前に寄り、右手を振り上げて、逆平手打ちを一夏に放った!

 

しかし………

 

「!? うおっ!?」

 

一夏は、咄嗟にボクシングのスウェーの様に身体を仰け反らして、ラウラの逆平手打ちを躱した!

 

「!?」

 

躱された事に驚くラウラ。

 

「いきなり平手打ちとは………随分なご挨拶だな。喧嘩売ってんなら………買ってやるぜ!」

 

一夏は怒りを露わに立ち上がると、ラウラを見下ろしながらそう言い放つ。

 

「貴様………」

 

そんな一夏を右目だけで睨み付けるラウラ。

 

「止めんか、馬鹿者共! 授業を始めるぞ!!」

 

一触即発の状態になったが、千冬がそう言って止める。

 

「チッ!!」

 

ラウラは不機嫌そうな顔をしながら自分の席へ向かった。

 

「私は認めない………貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

去り際にそう一夏に言う。

 

「随分な言い様じゃねえか。一夏は紛れも無く、あのブラコンアネキの弟だぜ。まあ、その前に俺の弟分でもあるがな」

 

すると、神谷がラウラに背を向けたままそう言い放った。

 

「………そうか………貴様が天上 神谷か」

 

足を止めると神谷の方を見ながらそう言うラウラ。

 

「ほう? 見ず知らずの女に覚えてもらえてるとは………俺も有名になったもんだぜ」

 

「貴様の事も認めない………教官を堕落させる元凶め」

 

「だーれが認めろっつったよ」

 

神谷は更に挑発の言葉を重ねる。

 

「席に着け!!」

 

そこで千冬が、更にそう言い、ラウラは不機嫌顔のまま席に向かって行った。

 

(如何やら………また風が吹きそうだな………)

 

そんな事を思いながら、またもワクワクとした様子を見せる神谷だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

遂にこの作品のメインヒロインのシャルが登場です。
アニメ放送で一気にファンを増やしたシャル。
私もアニメ見てやられましたねえ(懐)

そんなシャルに気安く接する神谷。
男と思っているせいで色々と遠慮してません。
まあ、女でも遠慮しないでしょうが(笑)

そしてラウラも登場。
次回の騒動は彼女がメインとなるので、そこにも注目です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第9話『オメェがどっかに行く必要なんざねえ! 此処に居やがれ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第9話『オメェがどっかに行く必要なんざねえ! 此処に居やがれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園………

 

シャルルとラウラが転校して来て数日経ったある日の土曜日………

 

神谷と一夏、そして箒にシャルル達は自主練の為に、アリーナに集まっていた。

 

休日には自主練する生徒の為に、アリーナが全開放されるので、彼方此方に他の生徒達の姿も見える。

 

そんな中で、一夏は彼の実力を見たいと言うシャルルと模擬戦を行った。

 

コレまで箒達に習った事や、神谷直伝の喧嘩殺法を駆使して善戦した一夏だったが………

 

シャルルの専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』の大容量の拡張領域を活用した………

 

事前に武装の呼び出しをせずに戦闘と同時進行で武装を呼び出すシャルルの特技『高速切替(ラピッド・スイッチ)』によって攪乱され、シールドエネルギーがゼロになって敗北した。

 

 

 

 

 

「クッソーッ! 負けたーーっ!!」

 

負けた事を悔しがっている白式を装着したままの一夏。

 

「そう腐るな、一夏。良い勝負だったぜ」

 

そんな一夏を慰める様に肩を叩く、頭部を除いてグレンラガンとなっている神谷。

 

「いや~、驚いたよ。一夏って、型に嵌らない戦い方するから………シールドを使わずに装甲で攻撃を防いで無理矢理近づいて来たり、1本しかない得物を投擲して来たりさ」

 

ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを装着しているシャルルが近寄って来てそう言う。

 

「ああ、アニキ直伝の喧嘩殺法さ。昔っから喧嘩には結構強かったからな」

 

「おうよ! 一夏はグレン団の斬り込み隊長だからな!!」

 

「成程、喧嘩殺法かぁ………型に嵌まった戦い方をして来る人にだったら意表を衝いて勝てるかもね」

 

楽しそうに話す一夏と神谷を見てそんな事を言うシャルル。

 

「「「…………」」」

 

その傍では、箒、セシリア、鈴の3人が不機嫌そうな様子でそれを見ていた。

 

「でも今後の事も考えると、射撃武器の練習もしといた方が良いんじゃないかな? 射撃武器の特性を知るって事は、近接戦に持ち込み易くなるって事だから」

 

「そうだな………じゃあ、教えてもらおうかな」

 

「飛び道具か………面白そうだな。俺にも教えてくれよ」

 

「うん、良いよ」

 

シャルル、一夏、神谷はそう言うと、射撃練習に移った。

 

遠方に、射撃用のダーツの様な標的が出現する。

 

「じゃあ、取り敢えず撃ってみて」

 

シャルルはそう言うと、自分のISの武器である五五口径アサルトライフル『ヴェント』を差し出す。

 

「え? 他の奴の装備って、使えないんじゃないのか?」

 

「普通はね。でも、所有者が使用許諾(アンロック)すれば、登録してある全員が使えるんだよ。使用許諾を発行したから試しに撃ってみて」

 

「へえ~~」

 

その後一夏は、シャルルに補助してもらいながら、射撃の練習を行った。

 

そして、無難な点数を叩き出す。

 

「如何かな?」

 

「う~~ん………悪いけど、あんまりしっくり来ないな………やっぱり俺には喧嘩や剣を振ってる方が性に合ってるよ」

 

「よ~し! んじゃ次は俺だな!!」

 

と、一夏と代わる様に、完全にグレンラガンの姿になった神谷が一夏からヴェントを受け取る。

 

と、その時………

 

「ねぇ、ちょっとアレ………」

 

「見て」

 

アリーナに居た生徒達がざわめき立った。

 

「「「??」」」

 

神谷達が何事かと思って生徒達の視線を追うと、そこには………

 

アリーナの射出口に立っているISを装着したラウラの姿が在った。

 

「ウソッ!? ドイツの第3世代型じゃない!」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど………」

 

「…………」

 

生徒達のヒソヒソ話が聞こえる中、ラウラは一夏達を見遣った。

 

「ラウラ………ボーデヴィッヒ」

 

「何!? アイツなの!? 一夏を引っ叩こうとしたドイツの代表候補生って!!」

 

「くうっ!!」

 

この間の1件もあり、ラウラを警戒するセシリア、鈴、箒。

 

「………織斑 一夏」

 

「何だよ?」

 

「貴様言っていたな………喧嘩を売る気ならば買ってやると?」

 

「ああ、言ったぜ。何だよ、やろうってのか?」

 

「ちょっ、一夏。落ち着いて」

 

ラウラに摑み掛って行きそうな一夏を押さえるシャルル。

 

「………その通りだ!!」

 

と、その瞬間!!

 

ラウラはいきなり、右肩に装備されていた大口径レールカノンを一夏に向けた!!

 

「なっ!?」

 

まさかいきなり撃ってくるとは思わず、硬直する一夏。

 

「えっ!?」

 

シャルルも驚く。

 

現在の位置では、彼も巻き添えを喰らってしまう。

 

「フンッ」

 

だが、ラウラはそんな事は気にも留めず、大口径レールカノンを発射しようとする。

 

「一夏! シャルル!」

 

と、その時!!

 

シャルルのヴェントを持ったままだったグレンラガンが、咄嗟にそれをラウラに向け、気合を込めて引き金を引いた。

 

その瞬間!!

 

バゴオンッ!!と言う、まるで80センチ砲が火を噴いた様な轟音が鳴り響き、ヴェントから緑色に輝く弾丸が発射された!!

 

「「「!?」」」

 

思わず耳を塞ぐ箒、セシリア、鈴。

 

「!? 何っ!?」

 

ラウラは迫り来る緑色の弾丸を見て、本能的にその場から飛び退いた!!

 

緑色の弾丸は先程までラウラが居た場所を通り抜け、アリーナの実況席に直撃!!

 

爆発と共に、実況席を粉々に吹き飛ばした!!

 

「「…………」」

 

あまりの光景に、思わず目が点になる一夏とシャルル。

 

「おわっ!シャルル、コレ危なくねえか?」

 

神谷自身もその威力に驚き、シャルルにヴェントを返す。

 

「そ、そんな!? ヴェントにあんな威力は無い筈だよ!! 何かしたの、神谷!?」

 

シャルルはそれを受け取りながらも、明らかにカタログスペックを上回っているヴェントの威力にそう言う。

 

「いや、俺は気合入れて撃っただけだぜ………」

 

「貴様!! よくも!!」

 

神谷がそう弁明していると、空中に居たラウラがそう言って、再び一夏達に襲い掛かろうとするが………

 

[そこの生徒ぉ! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!]

 

騒ぎを聞き付けてやって来た教員が、アナウンスでそう呼び掛けた。

 

「チッ! この借りは何れ返すぞ………」

 

止むを得ず、ラウラは退いて行った。

 

「へっ! 一昨日来やがれ!!」

 

去って行くラウラの背に、神谷はそう投げ掛けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナの更衣室………

 

「ったく! 何なんだ!?あの眼帯女は!」

 

一夏の着替えを待っている神谷が、先程のラウラの事を思い出し、悪態を吐く。

 

「まあまあ、アニキ。押さえて、押さえて………」

 

そんな神谷を宥めながら、着替えを続けている一夏。

 

なおシャルルは先に着替えてくれと言い、今は居ない。

 

偶には一緒に着替えようと言った一夏だったが、本人が頑なに拒否し、神谷に急ぐぞと言われて先に着替えている。

 

「しかしよぉ、一夏。アイツはお前を目の敵にしてやがる。何れは決着を着けなけりゃならないぜ」

 

そこで真剣な表情になると、神谷は一夏に向かってそう言った。

 

「………ああ、分かってるよ、アニキ………アイツの憎しみの原因が俺に有るとしたら………それは多分、俺が片付けなきゃいけない問題だ」

 

一夏も真剣な表情になってそう言う。

 

と、その時………

 

「あのー? 織斑くんかデュノアくん、若しくは天上くんは居ますか?」

 

更衣室のドアの向こうから、そう言う真耶の声が聞こえて来た。

 

「はい? あー、俺とアニキだけは居ます」

 

その声にそう返事を返す一夏。

 

「入っても大丈夫ですかー? まだ着替え中だったりしますかー?」

 

「大丈夫です。俺もアニキも着替えは終わってます」

 

「そうですかー。それじゃあ失礼しますねー」

 

そう言うと、真耶は更衣室の中に入って来た。

 

「どした、メガネ姉ちゃん? また生徒に苛められたのか? だらしねーぞ」

 

「なっ!? 違いますよぉ! 天上くん! 教師をからかっちゃいけません!!」

 

「ヘイヘイ、すいませんでした」

 

あまり反省の色の見えない謝罪をする神谷。

 

「オホン! え~とですね………今月下旬から、大浴場が使える様になります。結局、時間帯別にすると色々と問題が起こりそうだったので、男子は週に2回の使用日を設ける事になりました!」

 

「本当ですか!?」

 

風呂好きの一夏は歓喜する。

 

「ありがてえな、やっと使える様になったのか。あんまり使えねえと、その辺掘って温泉掘り出してやろうかと思ってたぜ」

 

(それを言ったから織斑先生が慌てて手を回したんだと思うんだけど………)

 

神谷の言葉に、真耶は今回の事に尽力した千冬の事を思い出す。

 

………彼女もこれ以上の胃痛の種を増やしたくなかった様だ。

 

「うっし、一夏! 風呂が使える様になったら、久々に男同士! 裸の付き合いでもするか!!」

 

「うん! そうだね、アニキ!!」

 

「お、男同士の裸の付き合い!! はああ~~!!」

 

神谷と一夏がそう言って喜びを分かち合っている中、男同士の裸の付き合いと聞いて、またも変な想像を爆発させる真耶。

 

と、そこへ………

 

「………神谷? 何してるの?」

 

そう言うシャルルの声が聞こえて来た。

 

神谷と一夏が振り返ると、何やら不機嫌そうなシャルルが立っていた。

 

「おう、シャルル………んだよ? 何でそんな不機嫌そうな面してんだ?」

 

「別に………それより、何してたの?」

 

不機嫌な理由を尋ねる神谷だったが、シャルルはそれには答えず、重ねて質問して来た。

 

「ああ、シャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいぞ」

 

「そう………」

 

嬉しそうに話す一夏だったが、シャルルはまだ不機嫌なままだった。

 

「ああ、そう言えば織斑くんと天上くんには、もう1件ずつ用件があるんでした」

 

「へっ? まだ有るんですか?」

 

「俺にもか?」

 

「ハイ。織斑くんは、白式の正式登録に関わる書類をちょっと書いて欲しいのと、天上くんは先程の1件で織斑先生が職員室まで出頭する様にと………」

 

「あ、ハイ。分かりました」

 

「あ~ん? メンドクセェな………フケちまうか」

 

素直に頷く一夏と、めんどくさそうにして堂々とそう言う神谷。

 

「だ、駄目ですよぉ! 連れて行かないと私が怒られます~!」

 

涙目になった真耶がそう訴える様に言って来る。

 

「アニキ、流石に山田先生が可哀そうだよ………」

 

「チッ! しゃーねえなぁ………」

 

「じゃあ、シャルル。長くなりそうだから、今日は先にシャワー使っててくれよ」

 

「………うん。分かった」

 

相変わらず不機嫌そうなシャルルが、短くそう答える。

 

「じゃあ、山田先生。行きましょうか。ホラ、アニキも」

 

「分かった、分かった」

 

そう言い合って、一夏と神谷は更衣室を後にして行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

一夏とシャルルの部屋………

 

「………ハアァ~~ッ」

 

部屋に帰るなり、シャルルは重い溜息を吐いた。

 

(何をイライラしてるのかな、僕………)

 

自己嫌悪する様に、先程の更衣室での態度を反省する。

 

一夏を交えて、真耶と楽しそうに談笑していた(シャルル視点)神谷の姿を見た途端に、自分の中に自分でも制御し切れない感情が生まれ、あの様な態度を取ってしまったのだ。

 

そして今も、胸が締め付けられる様に痛かった。

 

(………シャワーでも浴びて気分を変えよう)

 

シャルルはそう思い、クローゼットから着替えを取り出すと、シャワールームへ向かった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時刻は夕方………

 

漸く書類書きと説教から解放された一夏と神谷(反省の色無し)は、寮の自室へと帰宅した。

 

「ただいまー」

 

「邪魔するぜぇ」

 

そう言いながら自室へ入る一夏と、当然の様にお邪魔する神谷。

 

「ん? シャルルの野郎は何処行った?」

 

と、部屋の中を見た神谷が、シャルルの姿が無い事に気づいてそう言った。

 

すると、シャワールームから水音が聞こえて来た。

 

「ああ、シャワー中みたいだね」

 

「そうか………」

 

「そう言えばアニキ。部屋の掃除ってしてる?」

 

「ああ? そう言やしてねえな………」

 

「やっぱり………そういう所は千冬姉と似てるんだから」

 

「俺とアイツを一緒にすんじゃねえ!」

 

一夏の言葉に、若干怒る様にそう言う神谷。

 

「しょうがないな………俺が掃除しとくよ」

 

一夏はそう言うと、天井から垂れ下がっていたロープを摑み、神谷の部屋へと移動した。

 

「お前も相変わらず家事好きだな。良い嫁さんになるぜ」

 

「やめてくれよ、アニキ。散々それでからかわれたんだから」

 

一夏の部屋に居たままそう言って来た神谷に、一夏は声だけでそう返す。

 

神谷は部屋の掃除が終わるまで待とうと、椅子に腰掛ける。

 

「あ、そうだ! アニキ! 確かボディーソープが切れてた筈だから、シャルルに渡してくれないかな? クローゼットにあるから」

 

すると神谷の部屋を掃除していた一夏が、神谷にそう言って来た。

 

「ん? ああ、分かった」

 

掃除してもらっている恩もあり、それを了承するとクローゼットからボディソープを取り出し、シャワールームの洗面所に入り込む。

 

「オイ、シャルル。ボディソープの代え、持って来てやったぞ。ありがたく使………」

 

と、神谷がそう言った瞬間………

 

シャワー室の扉が開き………

 

「えっ?」

 

金髪の『少女』が姿を見せた。

 

「………あ?」

 

これには神谷も、思わず呆然となってしまった。

 

「「…………」」

 

そのまま数秒、無言で見つめ合う2人。

 

「!! キャアッ!!」

 

その後我に返った少女が、慌てて両腕で身体を隠す様にした。

 

「………おはようございます」

 

しかし、それで返って胸が強調される形になり、神谷はそう声を挙げた。

 

「アニキ? 如何し………って!? シャルル!?」

 

とそこで、神谷の部屋を掃除していた一夏が異変に気づき、神谷に部屋から降りて来て洗面所を覗き込むと、同じ様に金髪の少女を目撃してしまい、そう声を挙げる。

 

「あ? シャルル?」

 

一夏がそう言ったのを聞いて、神谷は改めて少女の事を見遣る。

 

確かに良く見れば、その金髪の少女は………

 

シャルルその人だった。

 

「で、出てってよーっ!!」

 

またも見つめられ、シャルルはそんな悲鳴を挙げる。

 

「! ア、アニキ!! 早く出て!!」

 

「おわあっ!?」

 

それを聞いた一夏は神谷の腕を摑んで、シャワールームから引っ張り出し、扉を閉めた。

 

「…………」

 

残されたシャルルは、自分の身体を抱き締める様にして、縮こまっていた。

 

 

 

 

 

神谷をシャワールームから引っ張り出した一夏は、部屋の奥へと移動していた。

 

「「…………」」

 

そのまま無言で立ち尽くす2人。

 

「………見たか?」

 

「………ああ………見ちゃったよ、アニキ………如何してシャルルの奴、あんな………」

 

「ありゃ多分Cくらいあったぞ。いや、ひょっとしたら、もっと………」

 

「って、そこぉ!?」

 

見当違いな事を言っている神谷に突っ込みを入れる一夏。

 

「いやいや! そこじゃないよ、アニキ!!」

 

「何っ!? それ以外に何を見ろってんだ!?」

 

「そうじゃなくて!!」

 

と、そのまま漫才の様な遣り取りをしていると………

 

シャワールームの扉が、音を立てて開いた。

 

「「!?」」

 

「あ、上がったよ………」

 

2人が振り向くと、ジャージ姿のシャルルが、髪をタオルで拭きながら出て来た。

 

しかし、その胸には、以前には無かった膨らみが有る。

 

「お、おう………」

 

「…………」

 

気まずそうに返事を返す一夏と、黙ってシャルルを見ている神谷。

 

「…………」

 

シャルルもシャルルで、気まずそうに沈黙している。

 

「と、取り敢えず、座れよ」

 

「! う、うん………」

 

一夏がそう言って道を開けると、シャルルは自分のベッドに腰掛けた。

 

一夏も、シャルルと向かい合う様に自分のベッドに腰を下ろす。

 

そして神谷は、腕組みをして壁に寄り掛かった。

 

「…………」

 

「えっと………シャルル、聞いても………」

 

「止せ、一夏」

 

と、シャルルに問い質そうとした一夏を、神谷が制した。

 

「!?(神谷………)」

 

「で、でも、アニキ………」

 

「確かに色々と聞きてえ事はあるが………その、何だ………あんまり人の趣味について突っ込むのはなぁ」

 

何時もと違って、妙に言葉の歯切れが悪い神谷。

 

「!? ちょ、ちょっと待って!! 神谷………ひょっとして、僕が趣味であんな格好してたと思ってるの?」

 

「? 違うのか?」

 

神谷は本気でそう思っていたという顔でそう聞き返す。

 

「ち、違うよぉ!!」

 

シャルルは顔を真っ赤にして立ち上がり、神谷に向かってそう叫んだ。

 

「えっと………じゃあ、如何して、男のフリなんかしてたんだ?」

 

神谷が的外れな事ばかり言うので、却って冷静になれた一夏が、シャルルにそう問い質した。

 

「そ、それは………」

 

「ああ、いや。言い難い事だったら………」

 

「ううん………ここまで来たら、もう皆話しちゃうね」

 

そう言うと、シャルルは覚悟を決めた様な顔となり、再びベッドに腰掛けた。

 

「僕が男子のフリをしてたのは………実家の方から言われたからなんだ」

 

「実家って………デュノア社か?」

 

「そう………僕の父がそこの社長………その人からの直接の命令でね」

 

「親父の命令だぁ? 益々分かんねえな………一体何で、オメェーの親父はそんな事を言いやがったんだ?」

 

ワケが分からないと言う様に首を傾げる神谷。

 

すると、シャルルの口から、衝撃的な事実が語られ始めた………

 

「僕はね………父の本妻の子じゃないんだ………愛人の子なんだよ」

 

「!?」

 

「…………」

 

シャルルのその告白に、一夏は驚き、神谷は険しい表情を浮かべた。

 

「引き取られたのが2年前………丁度、お母さんが亡くなった時にね、父の部下の人がやって来てね。それで色々と検査をする過程で、IS適応が高い事が分かって、非公式であったけれど、デュノア社のテストパイロットをやる事になってね」

 

「「…………」」

 

「父に会ったのは2回くらい。会話をしたのは数回くらいかな………普段は別邸で生活してるんだけど、1度だけ本邸に呼ばれてね………あの時は酷かったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『この泥棒猫の娘が!』ってね」

 

(親父だけじゃなくて、お袋までクソッタレじゃねえか………)

 

神谷は怒りを湧き上がらせる。

 

無意識の内に拳を、血が出るまで握り締めていた………

 

「参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね………それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったの」

 

「えっ? だってデュノア社って、量産型ISのシェアが世界第3位だろ?」

 

一夏が如何してと言う顔でそう問う。

 

「そうなんだけど………結局リヴァイヴは第2世代型なんだよ。現在ISの開発は第3世代型の開発が主流になってるんだ。セシリアさんやラウラさんが転入して来たのも、その為のデータを取る必要からだと思う。それでデュノア社も第3世代型の開発に着手してるんだけど………」

 

「出来なかった………ってところか?」

 

壁に背中を預けたまま、神谷がそう言って来る。

 

「うん………中々形にならなくて………しかも、この間のロージェノム軍による騒動の後、更に第3世代の開発が急がれる様になって………このままだと、開発許可が剥奪されてしまうんだ」

 

「それとお前が男のフリをしてるのと、如何関係が有るんだ?」

 

デュノア社が経営危機に陥った経緯は分かったものの、シャルルが男装していた事には結び付かず、そう尋ねる一夏。

 

「簡単だよ………注目を浴びる為の広告塔………それに………同じ男子なら、日本の出現した特異ケースと接触し易い………その使用機体と、本人のデータも取れるかも、ってね」

 

「それって、俺と………」

 

「俺の事か」

 

一夏と神谷がそう言う。

 

「そう………一夏と神谷のデータを盗んで来いって言われてるんだよ………僕はあの人にね………」

 

シャルルはそう言って俯いた。

 

ロージェノム軍の世界征服宣言により、IS学園を獣人が襲撃した事が公になった際、グレンラガンの存在も露見した。

 

幸い、千冬の情報操作で新型のISであると言う事にされており、全く違う新兵器だと言う事は露見していない。

 

だが、装着者が男子である事は知られてしまい、一夏同様、世界からは秘密裏に注目を浴びているのである。

 

「はあ~~………ホントのこと話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと………今までウソをついていてゴメン」

 

シャルルはそう言って、神谷と一夏に頭を下げた。

 

「………それで? お前、コレから如何すんだ?」

 

すると神谷は、そんなシャルルに向かってそう尋ねた。

 

「如何って………女だって事がバレたから、きっと本国に呼び戻されるだろうね。後の事は分からない。良くて………牢屋行きかな」

 

諦めている様な態度でそう言うシャルル。

 

その瞬間………

 

「バッキャロウ! 何が牢屋行きだ! んなもんはクソくらえだ!!」

 

神谷がそう怒声を張り上げ、シャルルに近づいた。

 

「キャッ!? 神谷!?」

 

「良いか、シャルル! お前はお前だ!! 親父の道具じゃねえ!! お前の生き方は、お前だけのモンなんだよ!! 誰かに言われたままに生きてるなんて………そりゃ生きてるっちゃ言わねえんだよ!!」

 

突然挙げた大声に驚くシャルルに構わず、神谷は彼女の肩を摑んでそう言い放つ。

 

「お前だって! そんな事はホントはやりたくねえんだろ!?」

 

「そ、それは………そうだけど………」

 

「じゃあやる必要なんかねえ! やめちまえ!! そのクソ親父が何か言って来たら………ブン殴って追い返してやれ!!」

 

「そんな! 無理だよ! 僕にはそんな事出来ないよ!!」

 

「じゃあ俺がやってやる!!」

 

「ええっ!?」

 

神谷のトンでも発言にまたも驚くシャルル。

 

「テメェのガキを道具にしか思えねえ親父なんか、親父とは言わねえ! ただのクソヤローだ!! そんな奴の1人や2人! この俺がブッ飛ばしてやる!!」

 

「………如何して? 如何してそこまでしてくれるの?」

 

自分の為にここまで怒りを見せている神谷に、シャルルはそう尋ねる。

 

「決まってんだろ! お前はグレン団の一員だ!! 俺が面倒を見る!! 俺はお前の為に生命を張る!! だから、お前の生命は俺が預かる!!」

 

「む、無茶苦茶だよ………」

 

「うるせえ! 無理を通して道理を蹴っ飛ばす! それが俺達グレン団のやり方だ!! だからシャルル! オメェがどっかに行く必要なんざねえ! 此処に居やがれ!!」

 

「神谷………」

 

シャルルは自分の胸が熱くなるのを感じた………

 

神谷の言っている事は荒唐無稽であり、何の根拠も筋道も無い………

 

だが………

 

その言葉には、自分を安心させてくれる『何か』が有った………

 

「そうだぜ、シャルル。それにバレたって言っても、俺達にしか分かってないんだから、知らないふりしちまえばそれで済む話さ」

 

と、そこで更に、一夏もそう言って来た。

 

「一夏………」

 

「それに………IS学園特記事項第21。本学園における生徒はその在学中に於いて、ありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない………つまり、この学園に居れば、少なくとも3年間は大丈夫だ。その間に何か方法を考えれば良い」

 

何時の間にか手に持っていた生徒手帳を見ながらそう言う一夏。

 

「良く覚えてたね。特記事項って、55個もあるのに………」

 

「こう見えても勤勉なんだよ、俺は」

 

「ま、そう言う事だ………居ろよ、此処に………」

 

神谷も改めてそう言う。

 

その顔には、優しく、力強い笑みが浮かんでいた。

 

「神谷………」

 

するとシャルルは思わず立ち上がり、そのまま神谷に抱き付いた。

 

「おっ、と………」

 

「ありがとう………神谷………一夏もありがとう」

 

そしてそのまま、神谷と一夏にお礼を言う。

 

「いや、俺は大した事はしてないって。アニキがシャルルを引き留めてくれたからだよ」

 

「何言ってやがる、一夏。お前も大手柄だぜ」

 

確かに、神谷だけではIS学園の特記事項にまで頭は回らなかっただろう。

 

一夏が上手く神谷をフォローした形だ。

 

「………お前のそういう所が、俺を救ってくれるんだ」

 

「えっ? 何か言った? アニキ?」

 

「いや、何でもねえ!」

 

呟く様に零れた言葉を誤魔化す神谷だった。

 

「にしても………悪くねえ、いや寧ろ良い感触だぜ」

 

「「?」」

 

と、続いて漏らした神谷の言葉の意味が分からず、首を傾げるシャルルと一夏。

 

「シャルル………中々良いもん持ってるじゃねえか」

 

「えっ?」

 

そう言われてシャルルは、ふと自分の状態を思い出す。

 

現在シャルルは、胸を隠すコルセットを着けておらず、そして神谷に抱き付いている。

 

その為、露わになっている胸の膨らみが、神谷の身体に押し当てられていた。

 

「!? うわぁっ!?」

 

慌てて神谷から離れると、腕で胸を隠す様にするシャルル。

 

「………神谷のエッチ」

 

顔を赤くして抗議する様にそう言うシャルルだったが………

 

「何言ってやがる! 男は皆スケベな生き物なんだよ! なあ、一夏!!」

 

「お、俺に振らないでくれよ! アニキ!!」

 

神谷は悪びれた様子も無く、一夏にそう話を振って、呵々大笑と言った具合に笑っていた。

 

「…………」

 

そんな神谷に、熱っぽい視線を向けるシャルル。

 

と、その時………

 

部屋のドアがノックされた。

 

「一夏さ~ん、いらっしゃいますか~? 夕食をまだ取られていない様ですが、御加減でも悪いのですか?」

 

そして、セシリアの声が聞こえて来た。

 

「あん? セシリアか?」

 

「!? マ、マズイよ、アニキ!! 鍵掛けるの忘れてた!! もしセシリアが入って来たら!!」

 

「あっ!?」

 

慌てるシャルル。

 

今のシャルルの状態をセシリアに見られたら、1発で女子だと言う事が分かってしまう。

 

「チッ! 一夏! 出迎えて時間を稼げ!!」

 

「わ、分かった!」

 

「シャルル! 来いっ!!」

 

「! うわぁっ!?」

 

一夏がセシリアの出迎えに向かい、神谷はシャルルをベッドに寝かせると、布団を掛けた。

 

「一夏さん、入りますわよ」

 

とその瞬間に、セシリアがドアを開けて、部屋に入って来た。

 

「あ、ああ、セシリア。態々どうも」

 

それを出迎える一夏。

 

「まあ。お出迎えしてくるなんて、感激ですわ………ところで、シャルルさんの姿が見えない様ですが?」

 

一夏が出迎えてくれた事に感激しながらも、シャルルの姿が無い事を不審がるセシリア。

 

「あ、いや、それは………」

 

「よう、セシリア。悪いな。シャルルの野郎、如何も風邪引いたみてぇでな」

 

すると、神谷がそう言って、部屋の奥から姿を見せた。

 

「ゴホッ! ゴホッ!」

 

奥の方のベッドから、若干ワザとらしい咳が聞こえて来る。

 

「それはお気の毒ですわね………一夏さんをお連れしてもよろしいですか?」

 

「ゴホッ! ゴホッ! どうぞ!」

 

「私も偶然夕食がまだなんですのよ。御一緒しませんこと?」

 

若干モジモジしながらそう言うセシリア。

 

「お、おう………」

 

「一夏、先行ってろ。俺はもうちょいシャルルの様子を見てから行く」

 

「わ、分かった」

 

「神谷さんって面倒見がよろしいんですわね。それじゃあ、行きましょう、一夏さん」

 

セシリアはそう言うと、一夏の腕を取って、食堂へと向かったのだった。

 

「………ふう~~、如何やらバレなかったみてぇだな」

 

一夏とセシリアが居なくなったのを確認するとそう言う神谷。

 

「ゴメンね、迷惑掛けちゃって………」

 

シャルルがベッドから上半身を起こしてそう言う。

 

「気にすんな。これもグレン団リーダーの務めよ………取り敢えず病人が歩き回ってたら不自然だからな。そこで寝てろ。飯は持って来てやるよ」

 

「う、うん、ありがとう………」

 

そう言うと、神谷は一夏達に続く様に部屋を後にした。

 

「…………」

 

残されたシャルルは、本当に風邪を引いたかの様に、若干高くなっている体温を鎮める様に、再びベッドに横になったのだった………

 

 

 

 

 

尚、神谷が一夏に合流した時………

 

何故か箒まで来ており、一夏は両手に花状態だった事を付け加えておく(本人は歩き難い等とほざいていたが)………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間程して………

 

「お~う、持って来てやったぜ」

 

神谷がそう言いながら、食事が乗ったトレイを片手に、一夏とシャルルの部屋へと帰還した。

 

「あ、お帰り………アレ? 一夏は?」

 

シャルルが身を起こして迎えるが、一夏の姿が無い事に気づいてそう言う。

 

「食堂で箒とセシリアと鈴相手に四苦八苦してるぜ」

 

「相変わらずだね………」

 

「全く………アイツの女関係だけは未だに安心出来ねえぜ。此処置くぜ」

 

愚痴る様に言いながら、持ってきた食事をテーブルの上に置く神谷。

 

「ありがとう………あ」

 

シャルルがベッドから起きるとテーブルの方に寄って来たが、トレイの上に乗っていた食事………焼き魚定食を見て、表情を固めた。

 

「? どした?」

 

「う、うん………」

 

神谷の問いに曖昧な返事を返しながら、椅子に座ると、割り箸を割るシャルル。

 

そして手に持つと、定食に手を付けようとするが、その持ち方と手つきはかなり怪しい………

 

「んだよ? 箸使えねえのか?」

 

「練習してはいるんだけどね………」

 

「まっ、外人じゃしょうがねえか………ちょっと待ってろ。フォークでも持って来てやる」

 

「えっ!? い、良いよ、そんな………」

 

「言っただろう。これもグレン団リーダーの務めよ。俺はお前を助ける。だからお前も俺を助けろ。それがグレン団よ」

 

「う、うん………じゃあ、えっと………リーダー………お願いがあるんだけど………」

 

モジモジしながら、若干まだ遠慮気味にそう言うシャルル。

 

「おう、何だ? 遠慮無く言え!」

 

「えっと………神谷が食べさせて………」

 

古来よりの女子の必殺武器である『上目使いでのお願い』が炸裂した!!

 

「あん? 俺が?」

 

「だ、駄目?」

 

更に続けて、雨の日にダンボールに入れられて捨てられている子犬の様な目で神谷を見るシャルル。

 

「いや、駄目っちゃ言わねえが………ガキみてぇな奴だな、お前も」

 

神谷には利かなかったものの、願いは聞き入れられて、シャルルは思わず小躍りしたい衝動に襲われたのだった。

 

 

 

 

 

「んじゃ行くぜ。あ~んってな」

 

「あ~~ん………」

 

シャルルから箸を受け取った神谷は彼女の正面に座り、まるで雛鳥に餌を与える親鳥の様に、シャルルに食事を摂らせ始めた。

 

「如何だ? うめぇか?」

 

鰆の身を咀嚼しているシャルルにそう尋ねる神谷。

 

「うん、美味しい」

 

身を飲み込むと、シャルルは笑顔でそう言った。

 

「だろう? やっぱ日本人は焼き魚よ!」

 

「僕フランス人だけど………」

 

「細かい事は気にすんな!」

 

「アハハハ。神谷、面白ーい。次は御飯が良いな」

 

「ハイよ。ほら、口開けな」

 

「あ~~ん」

 

今度は、御飯をシャルルに頬張らせる神谷。

 

「おっ?」

 

と、そこで何かに気づいた神谷が声を挙げた。

 

「えっ? 何?」

 

「飯がついてっぞ」

 

そう言うと神谷は、シャルルの口の端に付いていた御飯粒をヒョイッと取ると、自分の口に入れた。

 

「!!」

 

それを見て顔を真っ赤にするシャルル。

 

「? どした? ホントに風邪か?」

 

「………な、何でもない!!」

 

神谷に尋ねられて、慌ててそう否定するシャルル。

 

2人の仲睦まじい光景は、一夏がやっとの思いで食堂から帰って来るまで続いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

シャルの身バレイベント。
このイベントでシャルに転んだ人も多い事でしょう。
そして、神谷の男気炸裂!
子分の為に身体を張ってこそのリーダー。
皆の兄貴です!

さて、次回はラウラVSセシリア&鈴のイベントですが、そこで一気にVTシステム発動まで進みます。
神谷の影響を受けたセシリアと鈴の奮戦にご注目です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第10話『よこせ! 力を!………比類無き最強を!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第10話『よこせ! 力を!………比類無き最強を!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神谷と一夏がシャルルの秘密を知った後日………

 

再び朝のHR前………

 

1年1組の教室は、相変わらずある噂で持ち切りだった………

 

「そ、それは本当ですの!?」

 

「ウソついてないでしょうね?」

 

セシリアと隣のクラスから来ていた鈴が、そう声を挙げる。

 

「本当だってば! この噂、学園中で持ち切りなのよ!」

 

「今月の学年別トーナメントで優勝したら、織斑くんと付き合える事になってるらしいの!!」

 

そう………

 

学年別トーナメントでの優勝者は、織斑 一夏と付き合えると言う噂だ。

 

「それは、一夏さんも承知していますの?」

 

「それがねえ………如何も本人は良く分かってないみたい」

 

セシリアの質問にそんな答えを返す生徒。

 

「どう言う事?」

 

「女の子の中だけの取り決めって事らしいのよ」

 

「おはよう!」

 

「オッス!!」

 

更にヒソヒソ話を続けていたところ、噂の本人である一夏が神谷、シャルルと共に登校して来た。

 

「何の話してるの?」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!」」」」」

 

シャルルがそう尋ねると、クラスメイト達は蜘蛛の子を散らす様に散らばって行った。

 

「じゃあ、アタシ、自分のクラスに戻るから」

 

「そうですわね。私も席に付きませんと………」

 

鈴とセシリアも、逃げる様に去って行く。

 

「? 何なんだ?」

 

「さあ?」

 

「おかしな連中だぜ」

 

一夏、シャルル、神谷がそう呟く。

 

「…………」

 

そんな中、噂の発端である箒は、複雑そうな視線でその様子を見ていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、SHRが終わり、更に授業が終わった後の休み時間………

 

(何故だ………何故こうなった………)

 

箒は屋上に上がり、手摺に寄り掛かる様にしながら空を見上げてそう独りごちた。

 

(優勝したら一夏は私と付き合う筈だった………それが如何して………)

 

虚空にそう質問を投げ掛けるが、答えは返って来ないままだ。

 

(と、兎に角だ………私が優勝すれば良いだけの話だ………うん!!)

 

やがて自分でそう答えを出す箒。

 

(だが………専用機の無い私が………本当に優勝など出来るのだろうか………ん?)

 

ふとそこで、神谷やシャルルの存在が頭を過った。

 

(そう言えば、彼等が優勝してしまった場合は如何なるんだ?)

 

そう思った箒は、思わず………

 

(一夏! 俺と付き合え!!)

 

(分かったよ! アニキ!!)

 

等と言う様な、所謂や○いな関係の一夏と神谷を想像してしまう。

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

自分で想像しておいて恐ろしくなり、慌てて頭を振ってその想像を振り払う箒。

 

「それだけは阻止せねば!!」

 

何時しか想像と現実がこんがらがり、そう闘志を燃やすのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

そんな想像をされていた一夏と神谷は………

 

学園内のとある通路で………

 

「!? ううっ!?」

 

「? どした、一夏?」

 

「いや、何か急に寒気が………」

 

原因不明の寒気を感じて、思わず震える一夏。

 

「気を付けとけよ。もうすぐトーナメントなんだかんな」

 

「分かってるよ………にしても、何でトイレに行くのにこんなに歩かなきゃいけないんだ」

 

愚痴る様にそう言う一夏。

 

IS学園は元々女子校なので、男子が使えるトイレが3箇所しかないのだ。

 

その為、休み時間に行く場合、かなり急がないと次の授業に間に合わなくなるのだ(サボタージュの多い神谷にはあまり関係無いが)。

 

「何故こんなところで教師なぞ!」

 

「やれやれ………」

 

とそこへ、分岐路の片方から、そういう声が聞こえて来た。

 

「あん?」

 

「この声は………ラウラと千冬姉」

 

その声が聞こえて来た方向を見遣ると、千冬に何かを問い質しているラウラの姿が在った。

 

「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」

 

「このような極東の地で、何の役目があると言うのですか!?」

 

静かに返している千冬に対し、ラウラは感情を露わにそう叫ぶ様に言っている。

 

「アイツ………」

 

一夏は、思わず通路の陰に隠れて様子を覗き見ようとしたが………

 

「何だぁ? 随分と険悪な雰囲気じゃねえか」

 

何と神谷がそう言いながら、堂々とその会話の中へと参加したではないか!!

 

(ちょっ!? アニキ!?)

 

「神谷………」

 

「! 貴様は!?」

 

声は挙げずに仰天する一夏と、普通に接する千冬。

 

そして、敵意を剥き出しにして神谷を睨むラウラ。

 

「へっ………随分嫌われたもんだな」

 

だが、そんなラウラの視線を神谷は軽く受け流す。

 

「クッ! 今はお前に構っている暇は無い! お願いです、教官! 我がドイツで再びご指導を。此処では貴方の能力は半分も生かせられません」

 

ラウラは神谷を無視し、千冬にそう言う。

 

「ほう………」

 

「大体、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません」

 

「確かに、コイツに教えてもらう事なんざぁ、別にねえな」

 

茶々を入れる様にそう口を挟む神谷。

 

「神谷………少し黙っていろ」

 

と、千冬が真面目な話だと言う様に威圧感を発した。

 

「ヘイヘイ」

 

あまり効いてはいなかったが、神谷は敢えて黙り込んだ。

 

「ご覧になったでしょう、教官! この男の様に、この学園の連中は、意識も甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。その様な程度の低い者達に教官が時間を割かれるなど………」

 

「………そこまでにしておけよ、小娘」

 

とそこで、千冬は神谷に向けていた以上の威圧感を、ラウラへと向けた。

 

「うっ!?」

 

「少し見ない間に偉くなったな。15歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ、私は………」

 

ラウラはその威圧感に押され、言葉が出なくなる。

 

「………さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れよ」

 

「ッ!!」

 

千冬が続けてそう言うと、ラウラは顔を背けて去って行った。

 

「フンッ、口ほどにもねえ奴だぜ」

 

「お前が威張るな………それと、そこの男子。盗み聞きか? 異常性癖は感心しないぞ」

 

「うえっ!? バ、バレてた?」

 

千冬の声で、通路の陰に隠れていた一夏が姿を現す。

 

「やっぱオメェ絡みなのか? アイツのあの態度はよぉ?」

 

とそこで、神谷は千冬にそう質問を投げ掛けた。

 

「ああ、そうだ………アイツはドイツで教官を務めていた時、私の事を最も尊敬していたからな………」

 

そのまま千冬は、ラウラに『どうしてそこまで強いのですか?』と尋ねられた事………

 

その際に『私にも弟がいる』と答えた事………

 

ラウラが真の強さの意味を理解していない事を語る………

 

「そう言う訳だ………」

 

「アイツ………そんなに千冬姉の事を………」

 

一夏は何か思う所が有る様にそう呟く。

 

「んだよ………要するに、そりゃお前の教え方が足りなかったって事じゃねえか。その尻拭いを弟にさせようったあ、姉貴が聞いて呆れるぜ」

 

だが、神谷は千冬の事をバッサリとそう斬り捨てた。

 

「ぐうっ!!」

 

反論しようとした千冬だったが、なまじ真実なだけに言い返せない………

 

「ア、アニキ………俺は良いから………」

 

「まっ、心配すんな。オメェの弟はオメェが思ってるよりつえーから、今度の事も立派に解決するだろうぜ。お前は指咥えて見てな。じゃあな」

 

神谷はそう言うと、千冬の元から去って行った。

 

「ゴメン、千冬姉。兎に角、ラウラの事は何とかするから………」

 

一夏も千冬に謝り、神谷の後を追った。

 

「アイツめぇ~~………! アイタッ! イタタタタタタッ!!」

 

2人を見送った後、またも神経性胃炎が痛み出し、その場に蹲る千冬だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、放課後………

 

IS学園の入り口にて………

 

1台のトレーラーが、学園に入ろうとして守衛に止められていた。

 

「ですから、許可無く学園に入られるのは困ります」

 

「堅い事言わないでよぉ。ちょっと届け物をしに来ただけなんだから」

 

運転席に居た厚化粧でオネエ言葉の人物が、守衛にそう言う。

 

「そう言われましても………」

 

「あんまりしつこいと……食べちゃうわよ?」

 

オカマ特有の得体の知れない迫力を出し、守衛を脅す様に言う人物。

 

「!? ヒイイイィィィィィーーーーーーッ!?」

 

守衛は慌てて逃げ出した。

 

「あ~ら? ちょっと脅かし過ぎたかしら? まあ良いわ。早く『コレ』を『グレンラガン』に届けてあげなくちゃね」

 

そう言うと、トレーラーはIS学園の敷地内へ入って行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

第3アリーナでは………

 

「「あ………」」

 

鉢合わせしたセシリアと鈴がそう声を挙げる。

 

「奇遇ね。アタシはこれから、学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど?」

 

「奇遇ですわね。私も全く同じですわ」

 

互いに奇遇だと言い合う鈴とセシリア。

 

勿論、急に特訓をし始めたのは、あの噂を聞いたからだ。

 

「丁度良い機会だし。この前の実習の事も含めて、どっちが上かはっきりさせとくってのも悪くないわね」

 

「あら? 珍しく意見が一致しましたわね。どちらの方がより強く、より優雅であるか、この場でハッキリさせましょうではありませんか」

 

そう言い合ったかと思うと、2人はISを展開し、ぶつかり合………

 

「「!?」」

 

わなかった。

 

突如横から飛んで来た砲弾が、2人の戦いを中止させた。

 

「フッ………」

 

砲弾を放った主………ラウラは驚く2人を見て、薄ら笑いを浮かべていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ………」

 

「どういう積り!? いきなりぶっ放すなんて、良い度胸してるじゃない!!」

 

「中国の甲龍に………イギリスのブルー・ティアーズか。フッ、データで見た時の方が、まだ強そうではあったな」

 

鈴の質問には答えず、ラウラは挑発するかの様な台詞を投げ掛ける。

 

「何? やるの? わざわざドイツからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね! それとも、ジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」

 

「アラアラ、鈴さん。コチラの方はどうも共通言語をお持ちでない様ですから、あまり苛めるのは可哀そうですわよ」

 

そんなラウラに、鈴とセシリアはそう挑発し返す。

 

「貴様達の様な者が、私と同じ第3世代の専用機持ちとはな………数くらいしか能の無い国と、古いだけが取り柄の国は、余程人材不足と見える」

 

「「!!」」

 

だが、ラウラは更に挑発を重ねる。

 

「この人は! スクラップがお望みみたいよ!!」

 

「その様ですわね………」

 

その言葉で鈴とセシリアは、ISの最終安全装置を解除する。

 

「フンッ! 2人がかりで来たらどうだ? 下らん種馬を取り合う様なメスに、この私が負けるものか!!」

 

「! 今なんて言った!! アタシの耳には、どうぞ好きなだけ殴って下さいって聞こえたけど!!」

 

「この場に居ない人間の侮辱までするなんて、その軽口! 2度と叩けぬ様にして差し上げますわ!!」

 

「フッ、とっとと来い」

 

「「上等!!」」

 

そして、一夏が馬鹿にされたのを切欠に、セシリアと鈴は、ラウラに突撃して行った!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

IS学園・通路………

 

神谷、一夏、シャルルが、放課後の訓練に行こうと歩いていた。

 

「一夏、今日も特訓するよね?」

 

「ああ。トーナメントまで日が無いからな………」

 

「そうだね………そう言えば、神谷は特訓とかしたりしないの?」

 

これまで、一夏を鍛える事はあっても、自分が訓練をしたりするのはあまり見た事がないシャルルが、神谷にそう尋ねた。

 

「オイオイ、シャルル。虎は何で強いか知ってるか?」

 

「えっ? えっと………何で?」

 

「元から強いからだ!!」

 

当然の様にそう言う神谷。

 

「…………」

 

「傾いてるねぇ、アニキ」

 

若干唖然としているシャルルと、苦笑いしながらそう言う一夏。

 

と、その時………

 

「第3アリーナで、代表候補生3人が模擬戦やってるって!」

 

傍を通り抜けて行った生徒達の中に居た1人が、そんな声を挙げた。

 

「「えっ!?」」

 

驚く一夏とシャルル。

 

「一夏! シャルル! 行くぞ!!」

 

神谷が、いの1番に駆け出す。

 

「あ! アニキ!!」

 

「ま、待ってよぉ!!」

 

2人もすぐさまその後を追い、第3アリーナへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3アリーナ………

 

既に話を聞き付けた多数の生徒が集まっており、アリーナの席はちらほらと埋まっていた。

 

「喧嘩の場所は此処かぁ!!」

 

とそこへ、神谷達も到着する。

 

「何が起こっている!」

 

更に、箒も姿を見せた。

 

「箒………!?」

 

一夏がそれに気づいて声を挙げると、アリーナ内で一際大きな爆発が上がった!!

 

やがて、その爆発の煙が晴れたかと思うと、そこには………

 

膝を着いているセシリアと鈴に………

 

そんな2人と対峙して、仁王立ちしているラウラの姿が在った!

 

「! 凰さんとオルコットさんだ!!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒも」

 

シャルルと箒がそう声を挙げる。

 

「何やってるんだ? アイツ等?」

 

「こりゃ如何みても喧嘩だろう」

 

一夏の声に、神谷がそう言う。

 

「喰らえぇっ!!」

 

と、その瞬間!!

 

立ち上がった鈴が、龍咆をラウラ目掛けて放った!

 

「無駄だ! このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな!!」

 

しかし、ラウラがそう言って右手を前に翳したかと思うと、そこに空間が歪む様なエフェクトが発生し、龍咆が止められて爆散した!

 

「!? 龍咆を止めやがった!!」

 

その光景に驚く一夏。

 

「『AIC』だ………」

 

「そうか。アレを装備していたから、龍咆を避けようともしなかったんだ!」

 

空間が歪む様なエフェクトを見たシャルルと箒がそう声を挙げる。

 

「A、I、C?」

 

「何だそりゃ?」

 

AICと言う言葉の意味が分からなかった一夏と神谷がそう尋ねる。

 

「シュヴァルツェア・レーゲンの第3世代型兵器。アクティブ・イナーシャル・キャンセラー」

 

「慣性停止能力とも言う………」

 

「ふ~~ん………」

 

「分かっているのか!?」

 

気の無い返事をした一夏に箒がそう言う。

 

「おうよ! 要するに、スッゲェバリアって事だろ!!」

 

「うん、まあ、そうなんだけど………」

 

余りにもシンプルに言う神谷に、苦笑いを浮かべるシャルル。

 

その間にも、セシリア&鈴VSラウラの戦いは続いている。

 

上空へ飛んだ鈴が、龍咆を連射するが、全て躱され、或いはAICで防がれる。

 

「クッ! ここまで相性が悪いなんて!!」

 

鈴がそう言った瞬間、ラウラは『ワイヤーブレード』を4本射出して来た!

 

先端に刃が取り付けられたワイヤーが、空中に居る鈴に迫る。

 

回避行動を取る鈴だったが、その内の1本が左足に巻き付き、振り回される!!

 

「わあっ!?」

 

「この程度の仕上がりで第3世代型兵器とは、笑わせる」

 

嘲笑うかの様なラウラに、今度はレーザービットのブルー・ティアーズからの射撃が見舞われる!

 

だが、ラウラは即座に回避行動へ移行。

 

セシリアは今度はミサイルのブルー・ティアーズを見舞う。

 

ラウラは回避行動を続けるが、そこへレーザービットのブルー・ティアーズが迫った!!

 

「クッ!!」

 

AICを展開させてレーザービットのブルー・ティアーズを停止させるラウラ。

 

「動きが止まりましたわね!」

 

その瞬間、動きが止まったラウラに、スターライトmkⅢを向けるセシリア。

 

「………貴様もな」

 

だが、ラウラは即座に大口径レールカノンをセシリアに向けた!!

 

両者は同時に火を噴き、互いに相殺し合った。

 

「フッ!!」

 

「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

そこでラウラは、ワイヤーブレードで捕まえたままだった鈴を、セシリアに叩き付けた!!

 

「キャアッ!?」

 

そのまま地面に叩き付けられる2人。

 

アリーナの地面が大きく抉られる。

 

「く、う………」

 

「うう………」

 

絶対防御を貫通して伝わって来たダメージに呻くセシリアと鈴。

 

「ふん………この程度か………」

 

そんな2人を見下ろしながら、ゆっくりと降下して来るラウラ。

 

「………鈴さん………このまま負けるのと、私と協力するの………どっちが癪ですか?」

 

すると、セシリアが鈴に向かってそう尋ねた。

 

「………どっちもお断りよ………って言いたいとこだけど、このまま引き下がれないわ」

 

鈴はそう返事を返す。

 

「では………」

 

「やってやろうじゃない………」

 

そして、ヨロヨロとながらも起き上がる。

 

「何だ? まだやる気か? 結果は目に見えいると思うがな………」

 

「煩い! 黙れ!!」

 

「無理を通して道理を蹴っ飛ばす! それが私達! グレン団のやり方ですわ!!」

 

見下した様に言って来るラウラに向かって、2人はそう言い放ったかと思うと………

 

「「私(アタシ)達を! 誰だと思っていますの(んの)!!」」

 

神谷がいつも言っている口癖を吠えた!!

 

「! アイツ等………」

 

「へっ! それでこそグレン団よ!!」

 

驚く一夏とフッと笑う神谷。

 

「貴様等………」

 

一方ラウラは、そんな2人の様子に不快感を露わにしていた。

 

「良いだろう! 望み通りにここで潰してやる!!」

 

そしてそう叫ぶと、大口径レールカノンを2人に見舞った!!

 

弾丸は地面に着弾し、派手に爆煙を巻き上げる。

 

するとその中から、レーザービットのブルー・ティアーズが向かって来た!

 

「フッ! 同じ事を………」

 

四方八方から繰り出されるレーザービットのブルー・ティアーズの攻撃を軽々と躱していくラウラ。

 

そして、制御の為にまだ爆煙の中に居るであろうと思われるセシリアに、再び大口径レールカノンを見舞おうとする。

 

だが、その瞬間!!

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

爆煙の中から鈴が飛び出して来た!!

 

………セシリアを肩車して!!

 

「!? 何っ!?」

 

珍妙な姿に一瞬驚くラウラ。

 

「喰らえっ!!」

 

そんなラウラに向かって、鈴が龍咆を放つ。

 

「!! クウッ!!」

 

寸前でAICを発動させ、防御に成功するラウラ。

 

だがその瞬間!!

 

背後からレーザービットのブルー・ティアーズが攻撃して来た!!

 

「!? グハッ!?」

 

レーザーがラウラの背中を直撃する!!

 

「鈴さん! 見ました!?」

 

「ええ! やっぱりあのバリア………1方向か、意識を向けている方向の攻撃しか防げないみたいね!!」

 

「左に追い込みます! 攻撃は任せますわよ!!」

 

「了解よ!!」

 

そう言い合うと、セシリアを肩車したまま移動する鈴。

 

その間に、レーザービットのブルー・ティアーズが、ラウラを誘い込む様に攻撃を加える。

 

「クッ! この!!」

 

向かって来たレーザービットのブルー・ティアーズを、AICで停止させるラウラ。

 

「貰ったわ!!」

 

途端に、背後に回り込んでいた鈴が、龍咆を放った!!

 

「ぐはあっ!?」

 

ラウラは再び背中に攻撃を受ける。

 

「やった!!」

 

「凄い………ブルー・ティアーズを動かしている間は無防備になるオルコットさんを凰さんが抱えて動く事で多面的な攻撃を可能にしてる」

 

「無茶苦茶だが、有効な攻撃手段だ」

 

「よおし! セシリア! 鈴! 一気に行けぇっ!!」

 

一夏、シャルル、箒、神谷からそう声が挙がる。

 

「クウッ! 調子に………乗るなあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

だが、ラウラがそう叫んだ瞬間!!

 

シュヴァルツェア・レーゲンに装備されていた全てのワイヤーブレードが伸び、レーザービットのブルー・ティアーズを撃墜した!!

 

「!? マズイ!!」

 

「しまっ………」

 

た、とセシリアが言い切る前に、伸びて来たワイヤーブレードが、2人の首に巻き付いた!!

 

「くうっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「ハアアアアッ!!」

 

そしてそのまま、2人を地面に叩き付けるラウラ。

 

「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」」

 

派手に土煙を上げて地面に叩き付けられる2人。

 

「許さん………許さんぞ、貴様等!!」

 

ラウラは怒声を挙げると、2人を肉薄。

 

起き上がろうとした鈴を殴り飛ばすと、まだ倒れていたセシリアを蹴り飛ばした!!

 

そのまま、碌に抵抗も出来ない2人を、一方的に嬲って行く。

 

攻撃されるがままの2人のISは、生命維持警告域を超過する。

 

「酷い! アレじゃシールドエネルギーが持たないよ!」

 

「もしエネルギーが切れ、ISが強制解除されたら、2人の命に関わるぞ!!」

 

シャルルと箒がそう声を挙げる。

 

「セシリア! 鈴!」

 

「一夏ぁ! 行くぞぉ!!」

 

と、一夏が慌てていると、神谷がそう叫んだ!!

 

その手にはコアドリルが握られている。

 

「! おうっ!!」

 

それを見た一夏も、即座に右腕の装着されているガントレット………待機状態の白式を構えた!!

 

次の瞬間には、神谷の姿がグレンラガンに変わり、一夏も白式を装着した状態となる!!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

エネルギーブレードの雪片弐型で、アリーナの遮断フィールドの切れ目を入れる一夏。

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そこへ更に、グレンラガンがドリルに変えた右腕で突貫!!

 

そのまま遮断フィールドを突き破った!!

 

「神谷!?」

 

「一夏!?」

 

シャルルと箒が驚いていると、グレンラガンと一夏は、ラウラに向かって行った!!

 

「その手を離せええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

先に仕掛けたのは一夏。

 

雪片弐型を、ラウラに向かって振るう。

 

「!!」

 

しかし、ラウラが一夏の方を向き、右手を翳したかと思うと………

 

一夏の動きが、まるで時間を止めたかの様に止められてしまった。

 

(な、何だ!? 身体が………動かない!?)

 

声を出す事も出来ず、そのまま固まる一夏。

 

その直後に、鈴とセシリアのISが強制解除され、2人は地面に倒れた。

 

「感情的で直線的………絵に描いた様な愚か者だな………」

 

しかし、ラウラは既に2人への興味を無くしており、一夏へ侮蔑の視線を向けながらそう言い放つ。

 

(くうっ!!)

 

「やはり敵では無いな。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、有象無象の1つでしかない! 消えろ!!」

 

ラウラはそう言いながら、一夏に大口径レールカノンを向ける。

 

と、その瞬間!!

 

「ドリルビイイイイィィィィィーーーーーームッ!!」

 

何時の間にか背後に回っていたグレンラガンが、額の部分から出現させたドリルの先端から緑色のビームを放った!!

 

「!? グハッ!?」

 

背中に直撃を受け、体勢が崩れるラウラ。

 

「! 動ける!!」

 

AICも解除され、一夏は離脱する。

 

「へっ! お前のそのバリアの弱点は、さっき見てんだよ!!」

 

「貴様!!」

 

怒りの形相でグレンラガンを睨むラウラ。

 

「2人とも、大丈夫?」

 

「え、ええ………何とか………」

 

「クッ………やられたわ」

 

その間に、ISを展開したシャルルが、セシリアと鈴を救出していた。

 

「シャルル! 2人を頼む!!」

 

「コイツは俺達が相手をする!!」

 

「分かった!!」

 

一夏と神谷がそう言うと、シャルルは2人を抱えて、ピットへと向かった。

 

「ふん………他人を気にしている余裕があるのか? 貴様等の様な屑に………」

 

「黙りやがれ! 良いか! 良く聞け!!」

 

再び見下した言葉を吐こうとしたラウラを遮り、神谷がそう叫ぶと………

 

「燃える太陽この手で掴みゃ、凄く熱いが我慢する! 意地が支えの男道! 神谷様たぁ、俺の事だ!! 覚えておきやがれ!!」

 

ラウラに向かってそう啖呵を切ったのだった。

 

「! 戯言を!!」

 

その良く分からない迫力に若干押されながらも、ラウラはグレンラガンに向かって、ワイヤーブレードを2本伸ばした!!

 

「むうっ!?」

 

グレンラガンがガードの姿勢と取ると、ワイヤーブレードはその両手に巻き付く。

 

そのままワイヤーブレードを巻き取り、グレンラガンを手繰り寄せようとするラウラ。

 

だが!!

 

「舐めんなよ!!」

 

神谷がそう叫ぶと、グレンラガンの両腕がドリルへと変わり、ワイヤーブレードを細切れにした!!

 

「!? くうっ!?」

 

急に支えを失う形になり、ラウラはバランスを崩す。

 

「喰らえぇっ!!」

 

グレンラガンはそのまま、両腕のドリルを構えて突撃する。

 

「馬鹿め! 私にはAICが有る事を忘れたか!!」

 

しかし、ラウラは突撃して来たグレンラガンに手を翳し、AICでその動きを止めてしまう。

 

(グウッ!?)

 

「死ねぇっ!!」

 

ラウラは動きを止めたグレンラガンに大口径レールカノンを向けるが………

 

「お前こそ忘れたのか!? 俺達は2人居るんだぞ!!」

 

その瞬間、一夏がラウラの背後から、雪片弐型を振り下ろした!!

 

「!?」

 

咄嗟に直撃は避けたものの、大口径レールカノンが斬り裂かれ、暴発する!!

 

「ぐうっ!?」

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

更に、その際にAICを解除してしまったので、グレンラガンが再び動き出し、両腕のドリルを叩き込んだ!!

 

「!? ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

真面に喰らってしまい、ぶっ飛ばされるラウラ。

 

「グッ!!」

 

そのまま何度かアリーナの地面をバウンドしたかと思うと、体勢を立て直す!!

 

そして、両手にプラズマ手刀を出現させる!!

 

「貴様等ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

激昂している様子を露わに、グレンラガンと一夏に向かって突撃して行く。

 

大口径レールカノンがやられたので、接近戦を仕掛ける積りの様だ。

 

「貴様じゃねえ! 神谷様と!!」

 

「織斑 一夏だっつってんだろがあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

それに対して、グレンラガンと一夏もそう叫び、ドリルと雪片弐型を構えて突撃して行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

IS学園・職員室では………

 

「第3アリーナで喧嘩!? 相手は誰ですか!?」

 

「ドイツ代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒと、織斑 一夏………それと例の天上 神谷です!!」

 

「何ぃっ!? またアイツか!! 何かというと騒ぎの中心に居るな!!」

 

第3アリーナの異変を察知し、教師達が大慌てて対応していた。

 

「兎に角、止めないと!!」

 

「し、しかし………相手は全員専用機持ちです! 教師陣全員で行って勝てるか如何か………」

 

「なら織斑先生だ! 織斑先生ならばあの騒ぎを鎮められる筈だ!!」

 

学園の非常事態においては、実質的な最高指揮権を有している千冬に、白羽の矢が立てられるが………

 

「山田先生! 織斑先生は!?」

 

「えっと………医務室です」

 

真耶が申し訳なさそうにそう答える。

 

「い、医務室!? 何故!?」

 

「その………持病の神経性胃炎が悪化したみたいで………」

 

「何いいいいぃぃぃぃぃーーーーーーっ!?」

 

「如何するんですか!? 織斑先生が居なきゃ、一体誰が騒ぎを止めるんですか!?」

 

てんやわんやとなる職員室内だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び第3アリーナ………

 

「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

ラウラの両手のプラズマ手刀と、グレンラガンのドリルと化した両腕がぶつかり合い、激しく火花を散らしている。

 

「どりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

やがてパワー差から、ラウラの方が押され始めた!!

 

「グッ! このぉっ!!」

 

ラウラはグレンラガンに肉薄した状態から、残っていた4本のワイヤーブレードを射出。

 

グレンラガンに攻撃しようとしたが………

 

「させるかよ!!」

 

グレンラガンの背後から飛び出した一夏が、ワイヤーブレードを全て斬り捨てた!!

 

「織斑 一夏ぁ!!」

 

「余所見してんじゃねえぞ!!」

 

思わず一夏に視線が向いてしまったラウラに、グレンラガンの喧嘩キックが繰り出される。

 

「ガフッ!?」

 

ボディにまともに蹴りが入り、ラウラの上体が下がる。

 

「むんっ!!」

 

すると、グレンラガンはそのラウラの下がった上体に、背中側から両腕で摑み掛かると、そのままラウラをISごと逆さまにする様に持ち上げた!!

 

「!?」

 

「グレンラガン・ドライバアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そしてそのままパイルドライバーを繰り出し、脳天を地面に叩き付けた!!

 

「!? グハッ!?」

 

絶対防御が発動したものの、衝撃が脳を揺さぶり、シールドエネルギーも大きく削られる。

 

「グウッ! このぉ!!」

 

すぐに起き上がるラウラだが、まだ脳が揺れており、視界が定まらない!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

そこへ、一夏が雪片弐型を蜻蛉に構えて、ラウラへ突撃して来た!!

 

「織斑 一夏ぁ!!」

 

AICで本人ごと静止させようとしたラウラだったが、脳が完全に機能していない為、多大な集中力を要するAICの展開が遅れる。

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

そんなラウラに、一夏は雪片弐型での袈裟切りを繰り出す!!

 

「!? グアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

衝撃が身体を揺さぶり、シールドエネルギーが残り1ケタまでに減る。

 

「ぐううっ!?」

 

ラウラはそこで、膝から崩れて、地面に両手を付いた。

 

「如何だ? まだやるか?」

 

「もう止めろ、ラウラ。あの2人に謝るんなら、もう許してやる」

 

そんなラウラを見て、神谷と一夏はそう言い放つ。

 

「ふ、ふざけるな! 私は負けられない! 負ける訳には行かない!!」

 

ラウラはそう言い返すが、その思いと裏腹に、彼女の身体とISは動かなかった………

 

(負ける………私が負ける?………よりによってコイツ等に!?)

 

絶対に負けたくない相手に負けてしまうと言う現実に、ラウラの感情は一気に沸騰状態になる。

 

(力が………欲しい!!) 

 

その瞬間………

 

ラウラの頭の中に、声が響いて来た………

 

(願うか? 汝、より強い力を欲するか?)

 

その言葉に、ラウラは一も二もなく頷いた!!

 

(よこせ! 力を!………比類無き最強を!!)

 

そう答えた途端に、ラウラの眼帯で隠された金色の瞳に、奇妙な文字の羅列が浮かび上がった!!

 

Damage Level………D

Mind Codition………Uplift

CertifiCation………Clear

Valkyrie Trace System………boot

 

「!? うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

途端に、シュヴァルツェア・レーゲンからスパークの様な青白い稲妻が発せられ始め、ラウラが悲鳴の様な叫びを挙げた!!

 

異常事態を察し、アリーナの防御シャッターが閉じて行く。

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」」」」」

 

まだ見物を続けていた生徒も、慌てて逃げ出して行く。

 

「!?」

 

「何だ!?」

 

戸惑う一夏と神谷の前で、シュヴァルツェア・レーゲン………いや、シュヴァルツェア・レーゲンだったものが変化して行く。

 

金属である筈の装甲が、まるで粘土の様にグニャグニャと変形を始め、ラウラを取り込んで行った。

 

「ラウラ!?」

 

「一体何が起こってやがんだ!?」

 

と、神谷と一夏がそう言った瞬間………

 

粘土の様になっていた機体が、ある形を作り始めた。

 

それはまるで、ISを纏った女性の様な姿をした『何か』だった。

 

右手には、雪片弐型に似た武器が握られている。

 

「!? アレは!?」

 

「オイオイ、冗談だろ………」

 

一夏が驚愕を露わにし、神谷も驚きを隠そうとしなかった。

 

何故ならそれは………

 

第1回モンド・グロッソで優勝した時の千冬の姿だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

セシリアと鈴VSラウラの戦い。
原作では無念に敗北してしまった2人ですが、この作品では神谷からの影響を受けて、気合で一矢報いています。

そこへ一夏と神谷が乱入。
AICの弱点を看破したことで、有利に戦いを進めますが、そこでVTシステムが発動します。

この状態のラウラと如何戦うのか?
そして、謎のオカマの正体は?(笑)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第11話『火事場泥棒が大層な名乗り上げんじゃねえか!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第11話『火事場泥棒が大層な名乗り上げんじゃねえか!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第3アリーナ………

 

グレンラガンとなっている神谷と、白式を装着している一夏は、『シュヴァルツェア・レーゲンだったもの』と対峙している………

 

『シュヴァルツェア・レーゲンだったもの』の現在のその姿は………

 

第1回モンド・グロッソで優勝した時の千冬の姿そのものである。

 

「コイツは………」

 

「!!」

 

神谷が思わずそう呟いた瞬間、一夏は雪片弐型を構えていた。

 

と、その途端!!

 

一夏の闘気を感じ取ったかの様に、千冬の姿をした黒いISも腰を落としたかと思うと………

 

一瞬で距離を詰めて、一夏に手に持っていたブレードでの横薙ぎの攻撃を繰り出して来た!!

 

「!?」

 

「一夏ぁっ!!」

 

と、咄嗟にグレンラガンが一夏を突き飛ばす。

 

身代わりとなったグレンラガンに、黒いISの横薙ぎが叩き込まれる!!

 

「!? うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?」

 

真面に喰らったグレンラガンは、まるで野球ボールの様にぶっ飛び、アリーナの防御シャッターに叩き付けられた!!

 

防御シャッターが大きくヘコんで変形する。

 

「!? アニキ!!」

 

「イッテエ~~~~ッ! やってくれたじゃねえか!!」

 

一夏が叫ぶが、幸い大したダメージは無かった様で、グレンラガンは頭を擦りながらも起き上がる。

 

「!? 一夏! 後ろだぁ!!」

 

と、グレンラガンがそう叫んで、グレンブーメランを投擲する!!

 

「!?」

 

一夏が振り返るとそこには、自分に向かってブレードを振り下ろそうとしている黒いISの姿が在った!!

 

しかし、振り下ろす直前にグレンラガンが投げたグレンブーメランがブレードに当たって軌道がずれ、一夏も回避を取っていたので外れる。

 

「あの剣技! やっぱり! 俺が最初に千冬姉に習った最初の技だ!!」

 

「やっぱりか………どっかで見た事あると思ったら、ブラコンアネキの技か」

 

そう言う一夏に、戻って来たグレンブーメランを回収しながら近づいて来ていた神谷がそう呟く。

 

「コイツ………千冬姉の真似しやがって!!」

 

思わず頭に血が上る一夏だったが………

 

そこでグレンラガンが拳骨を叩き込んだ!!

 

「アダッ!?」

 

「落ち着け、一夏。熱くなるのは良い。だが、焦んな………喧嘩に勝つには熱いハートとクールな頭脳だ」

 

痛がっている一夏に向かって、神谷はそう言った。

 

「アニキ………」

 

「良いか、一夏。俺がアイツの動きを止める。その間にお前がアイツに必殺の1撃を叩き込め」

 

「俺が!?」

 

「アイツの中には眼帯女が居る。俺の武器じゃあの女ごとアイツを貫いちまう。アイツを助けられるのはお前だけだ!」

 

驚く一夏に、神谷はそう言う。

 

「………分かったよ、アニキ!」

 

「良し! んじゃトドメは任せたぞ! 兄弟!!」

 

「おう!………でも、動きを止めるって、如何やって?」

 

「決まってんだろ! 気合でだぁ!!」

 

そう言うと、グレンラガンは黒いISへと突撃して行く!!

 

「クールな頭脳は何処に有るのぉ!?」

 

その姿に、一夏は思わずそんなツッコミを入れてしまう。

 

「うおりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

黒いISに向かって行くグレンラガン。

 

黒いISは、向かって来るグレンラガンに対し、ブレードを横薙ぎに振るう。

 

「! おっと!!」

 

しかし、グレンラガンはその瞬間スライディング!!

 

黒いISが振るったブレードは、先程までグレンラガンの頭が在った位置を通過する。

 

「おりゃあぁっ!!」

 

そして、スライディングを繰り出したグレンラガンは、そのまま黒いISの足に自分の足を絡ませて、転倒させた!!

 

「ふんっ!!」

 

転倒させた黒いISのマウントポジションを取ると………

 

「オラオラオラオラオラァッ!!」

 

そのまま顔面に連続で拳を繰り出す!!

 

殴られるままだった黒いISだが、やがてグレンラガンの背中に蹴りを入れ、引き剥がす!

 

「うおっ!?」

 

地面の上を転がりながらも、素早く態勢を立て直すグレンラガン。

 

そこへ黒いISは、ブレードを上段から更に振り被っての振り下ろしを繰り出す!!

 

「おっと!!」

 

しかし、グレンラガンはそのブレードの刃を両手で挟んでキャッチ!

 

所謂、真剣白刃取りで止めた!!

 

「ぬぬぬぬぬぬっ!!」

 

押し込もうとして来る黒いISに必死で抵抗するグレンラガン。

 

やがて黒いISは力比べを止め、グレンラガンが摑んだままのブレードを素早く横に振った!!

 

「!? うおっ!?」

 

急にブレードを振られて、グレンラガンは横っ飛びする様に飛ばされ、地面の上を滑った!!

 

チャンスとばかりに、黒いISは倒れたままのグレンラガン目掛けてブレードを振るう!!

 

「!! この野郎!!」

 

グレンラガンは咄嗟に、迫り来るブレードに向かって蹴りを繰り出した!!

 

すると!!

 

その蹴りを繰り出した足がドリルに変わり、黒いISが振り下ろして来たブレードと激突!!

 

一瞬火花を散らしたかと思うと………

 

ガキィンッ!!と言う甲高い音を立てて、黒いISのブレードが弾かれた!!

 

弾かれた黒いISのブレードは、そのままアリーナの地面に突き刺さる。

 

得物を失った黒いISが、怯んだ様な様子を見せる。

 

「! 今だぁ!!」

 

グレンラガンはドリルになっていた足を素早く戻すと、立ち上がると共に跳躍。

 

黒いISの背後を取り、そのまま羽交い絞めにした!!

 

「一夏ぁ! やれえぇ!!」

 

暴れる黒いISを必死に抑え込み、神谷は一夏に向かってそう叫ぶ。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

雪片弐型を構えた一夏が、黒いIS目掛けて突撃する!!

 

「縦! 一文字斬りいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

どこぞの勇者特急の様な技を繰り出し、黒いISのボディ部分に、縦一文字の傷を付けた!!

 

一瞬の沈黙の後………

 

黒いISからスパークが走り、一夏が付けた傷が広がって、ラウラが押し出される様に出て来た。

 

「あ…………」

 

その際に、ラウラの眼帯が外れ、金色の瞳が露わになる。

 

「お、っと………」

 

押し出されてきたラウラを、優しく抱き留める一夏。

 

黒いISは、まるで泥人形が崩れる様に形を失って行った………

 

「やったな! 一夏!!」

 

「ああ………ありがとう、アニキ。アニキのお蔭だよ」

 

神谷にそう返し、一夏は自分の腕の中で眠っている様に気絶しているラウラに視線を落とす。

 

「………ホントは1発ブン殴ってやろうかなと思ってたんだが………こんな顔見せられちゃ出来ないな………勘弁してやるよ」

 

そんな事を呟き、一夏はフッと笑うのだった。

 

「アレ!? もう終わったの!?」

 

「一夏!! 無事か!?」

 

とそこへ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを装着しているシャルルと、打鉄を装着している箒が現れた。

 

「おう、シャルル! 見ての通りさ!」

 

「箒。ああ、俺は大丈夫だよ」

 

「そうか、良かった………何故その女を抱き抱えている?」

 

一夏が無事であった事を喜ぶ箒だったが、一夏がラウラを抱き抱えている事に気づくと、途端に不機嫌な顔になった。

 

「いや、気絶してるんだからしょうがないだろう………ところで、お前こそ、その打鉄は如何したんだよ?」

 

いきなり不機嫌になった箒に戸惑いながらも、一夏は逆に、箒が打鉄を装着している事にツッコむ。

 

「こ、コレは………そ、そうだ! 非常事態だから失敬して来たんだ!!」

 

「それって、つまり………無断使用だよね?」

 

「うぐっ!?」

 

シャルルにそう言われて言葉に詰まる箒。

 

「箒………お前、アニキに似て来たな?」

 

「なっ!? こんな奴と一緒にするな! 一夏!!」

 

「こんな奴とは何だ!?こんな奴とは!?」

 

箒のこんな奴発言に、神谷が食って掛かる。

 

「アハハハ………ん? アレは?」

 

とその時、黒いISの残骸を見やったシャルルが、何かを発見する。

 

それは、シュヴァルツェア・レーゲンのコアだった。

 

(あ、コアは無事だったんだ。良かった………回収しておこう)

 

神谷達が言い合っている間に、コアを回収しようとするシャルル。

 

と、いざコアに伸ばした瞬間!!

 

「ケエエエエアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

甲高い怪鳥の様な叫びが響き渡り、突然横切った影が、コアを掠め取った!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

思わずシャルルは尻餅を付いてしまう。

 

「!?」

 

「何だ!?」

 

「何事だ!?」

 

神谷達も気づき、コアを掠め取った影を追う。

 

影はそのまま、アリーナの実況席の上に着地した。

 

それは、細身のシルエットで、まるで鳥を思わせる様な姿をしたガンメンだった。

 

「ケケケケケケケッ! コイツは頂くぜぇ!!」

 

そのガンメンが、片手にコアを持ちながら、神谷達を見下ろしてそう言い放つ。

 

「!? ガンメン!!」

 

「何時の間に!?」

 

「野郎! 火事場泥棒みたいな真似しやがって!!」

 

その姿を見た一夏、箒、神谷がそう声を挙げる。

 

「シュヴァルツェア・レーゲンのコアを如何する積り!?」

 

両手にマシンガンを構えて、シャルルは鳥型のガンメンにそう問い質す。

 

[それは私が教えてやろう!!]

 

とその時!

 

そう言う声が響いて来たかと思うと、アリーナ全体に影が掛かり始めた………

 

「? 何だぁ?」

 

「「「??」」」

 

神谷達が空を見上げると、そこには………

 

巨大な顔を持つ艦橋部を中心に、内縁に3段式の大型飛行甲板、外縁に2段式の小型甲板を左右1基ずつ、計4基を放射状に配置。

 

艦底には3連装主砲2基と副艦橋を備える空中空母とも言うべき巨大艦が浮かんでいた!!

 

「な、何だありゃあ!?」

 

「デ、デカい………」

 

「あんなものが空を飛ぶなんて………」

 

その巨大空中空母に驚きを露わにする一夏、箒、シャルル。

 

「野郎………この俺に此処までデカい影を落としやがったのは、お前が初めてだぜ!」

 

逆に神谷は、空中空母の姿を見て、闘志を燃え上がらせていた。

 

と、次の瞬間………

 

その空中空母から映像が照射され、空中に巨大なモニターが展開したかと思うと、シトマンドラの姿が映し出された!

 

「!? お前は!?」

 

[螺旋王ロージェノム様の忠実なる僕! 螺旋四天王が1人、シトマンドラ! またの名を『神速のシトマンドラ』よ!! そしてこの艦は螺旋王様より頂きし空中母艦『ダイガンテン』!!]

 

映像に映っていたシトマンドラが、そう名乗りを挙げる。

 

「螺旋四天王の1人………」

 

「神速のシトマンドラ………」

 

箒とシャルルが険しい表情を浮かべる。

 

ロージェノムの戦力は未だに良く分かっていないが、四天王などと名乗るからには、相手は幹部クラス。

 

それが空中空母を率いて現れたのだ。

 

萎縮してしまうのも無理はない。

 

「けっ! 四天王だか、獅子唐だか知らねえが! 火事場泥棒が大層な名乗り上げんじゃねえか!!」

 

だが、神谷だけは恐れを微塵も見せず、モニターのシトマンドラに向かってそう言い放つ。

 

[ケッ! ほざくな! 人間如きが!!]

 

シトマンドラは露骨に不快感を露わにしてそう言い返す。

 

「んだとぉ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

「神谷! ちょっと待って!………さっきの質問の続き! シュヴァルツェア・レーゲンのコアを如何する積り!?」

 

更に言い返そうとする神谷を制して、シャルルがそう問い質した。

 

[フンッ! 決まった事………我等が螺旋王様の為に役立てるのよ!!]

 

「役立てるだと?………」

 

[そう! このコアに装備されているVTシステム………これを使えば、世界最強のIS操縦者の戦力を無限に作り出す事が出来る!! その戦力を使えば、螺旋王様の世界征服もより捗ると言うもの………]

 

シトマンドラは得意げに自らの計画を聞かせる。

 

「!! そんな事………させてたまるかよ!!」

 

当然一夏が噛み付く。

 

彼にとって、それは許しがたい行為であった。

 

[ふふふ………貴様等如きに何が出来る! ヘブンズソード! コアを持って帰還しろ!!]

 

「ハハッ! シトマンドラ様!!」

 

シトマンドラはそう言い、コアを奪ったガンメン………『ヘブンズソード』にそう言い放つ。

 

ヘブンズソードは飛び上がると、空中空母『ダイガンテン』へと帰還しようとする。

 

「! 行かせないよ!!」

 

「コアを返してもらう!!」

 

それを追って、シャルルと箒も宙に舞った!!

 

「アニキ! ラウラを頼む!!」

 

そして一夏も、ラウラを神谷に預けると、2人の後に続く様に飛び上がった!

 

「お、オイ! 一夏ぁ!!」

 

飛べない為に置いてけぼりをくらうハメになった神谷は、ラウラを抱えたまま、上昇して行く一夏達を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コアを持って、ダイガンテンを目指すヘブンズソード。

 

「………ん?」

 

しかし、追撃して来る一夏達の姿に気づくと、その足を止めた。

 

「チッ! しつこいガキ共だ………ちょっと遊んでやるか!?」

 

そう言って、ヘブンズソードは踵を返すと、一夏達へ向かって行った!!

 

「カトラ隊とモウキーン隊を出せ。あの煩い蝿共を叩き落とせ!!」

 

「ハッ!!」

 

更に、ダイガンテンからも飛行型ガンメン『カトラリーダー』と『カトラゲイ』、爆撃型ガンメン『モウキーン』が多数発進する。

 

「キエエエエエアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

「うわっ!?」

 

「くうっ!?」

 

「のあっ!?」

 

奇声を挙げて突っ込んで来たヘブンズソードを、どうにかギリギリで躱すシャルル、箒、一夏。

 

「ガキ共! 貴様達に教えてやるぜ………身の程ってやつをなぁ!!」

 

一夏達の方を振り返ると、ヘブンズソードはそう言い放つ。

 

「このぉ!!」

 

シャルルが、そんなヘブンズソードに向かって両手のマシンガンを発砲するシャルル。

 

「ハハハハハッ! 遅い遅い!!」

 

だが、ヘブンズソードは余裕で回避してみせる。

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

と、回避先を読んだ箒が、日本刀型ブレードを構えて斬り掛かる。

 

「ハッ! 見え見えなんだよ!!」

 

箒の攻撃を、片足で受け止めるヘブンズソード。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

すると今度は、一夏が後ろから雪片弐型で斬り掛かって来るが………

 

「うらぁっ!!」

 

「うわぁっ!?」

 

ヘブンズソードは、箒を片足で抑えたまま、裏拳で一夏を叩き落とす!!

 

「一夏!?」

 

「人の心配してる場合か!?」

 

叩き落とされた一夏に目が行ってしまった箒を、ヘブンズソードは弾き飛ばす。

 

「うわあぁっ!?」

 

「喰らえぇっ! 銀色の足いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

弾き飛ばした箒に向かって、ヘブンズソードが足を振ったかと思うと、そこから真空波が放たれた!!

 

「!? あああっ!?」

 

防御姿勢を取った箒だったが、右側の非固定浮遊部位が砕け散った!!

 

「貰ったぁ!!」

 

と、武器を両手ともマシンガンから六二口径連装ショットガン『レイン・オブ・サタディ』に持ち替えたシャルルが、連続で散弾を見舞う。

 

面で攻撃し、機動力を削ぐ作戦の様だ。

 

しかし………

 

「チイッ! しゃらくせぇ!!」

 

ヘブンズソードがそう言ったかと思うと、その姿が変形!!

 

完全な鳥の姿になったかと思うと、今まで以上の速度と機動で、レイン・オブ・サタディを躱してしまう!!

 

「!? そんな!?」

 

「目障りな奴だ! ヘブンズダートッ!!」

 

と、ヘブンズソードがそう叫んだかと思うと、翼の先端の羽になっていた部分が、次々にシャルル目掛けて放たれた!!

 

「!? うわあああああっ!?」

 

シャルルは物理シールドを構えて防御したものの、シールドエネルギーを大きく削られる。

 

「キエエエエエアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

と、爆煙が治まらぬ内に鳥形になったヘブンズソードは、シャルルに突撃。

 

その両足の鋭い爪で、シャルルを拘束した!!

 

「あっ!? し、しまった!?………!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

ヘブンズソードは、そのままシャルルを爪で締め上げ始めた!!

 

「このまま捻り潰してやるぜ!! ハハハハハハッ!!」

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

悲鳴を挙げるシャルルを見て、心底楽しそうな笑い声を挙げるヘブンズソード。

 

「シャルル!!」

 

「待ってろ! 今助けに!!………」

 

と、体勢を立て直した一夏と箒が、シャルルの救出に向かおうとする。

 

しかしそこへ………

 

ダイガンテンから発進したカトラリーダーとカトラゲイ部隊によるミサイル攻撃が浴びせられた。

 

「うおわあああっ!?」

 

「ぐああああっ!?」

 

無数に放たれたミサイルの爆炎が、2人を包み込む!!

 

更に、頭上からモウキーン部隊が爆弾を投下して来た!!

 

「クソッ!? これじゃ近づけない!!」

 

「デュノア!!」

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

一夏と箒がそう言う中、シャルルの悲鳴と共に、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの装甲にドンドンと罅が入って行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルル! 一夏! 箒!」

 

地上に居るラウラを抱えたグレンラガンにも、その光景は見えており、神谷は思わず声を張り上げた。

 

「チキショウ! 俺が飛べさえすれば………」

 

1人飛べない自分を情けなく思う神谷。

 

このままでは一夏達を見殺しにする事になる………

 

神谷にとってそれは、己の死よりも辛い事である………

 

………と、そこへ!!

 

「なら飛ばしてあげるわよ」

 

「!? 何っ!?」

 

突然聞こえて来た声に、神谷が正面を向くと、そこには………

 

あのトラックに乗っていた、厚化粧でオネエ言葉の人物の姿が在った!!

 

「何だお前は!?」

 

「『リーロン・リットナー』よ。ま、今はそんな事は如何でも良いわ………グレンラガン、飛びたいのなら呼びなさい………貴方の翼を!」

 

厚化粧でオネエ言葉の人物………『リーロン・リットナー』は、神谷に向かってそう言った。

 

「!? 翼だと!?」

 

リーロンの言葉に驚く神谷。

 

「グレンラガンは貴方の力………貴方が望めば、その望む形の力が手に入る………そして今貴方は空を飛びたいと願った………なら呼びなさい! グレンラガンの翼! 『グレンウイング』を!!」

 

「『グレンウイング』………」

 

「その子は私が預かっておくわ。だから行きなさい………貴方を待つ子達のところへ!」

 

そう言って、グレンラガンの腕からラウラを受け取ろうとするリーロン。

 

「………ああ、頼んだぜ」

 

神谷はそう言い、ラウラをリーロンに託した。

 

普通ならば信じられない光景である………

 

いきなり現れた見ず知らずの怪しい人物にラウラを預けるなど………

 

だが、神谷は確信していた。

 

目の前の人物は自分達の味方であると。

 

理屈では無い………

 

神谷は本能で、目の前の人物が敵か味方かを見極めたのである。

 

「いっくぜええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

と、神谷がそう雄叫びを挙げたかと思うと、いきなりダッシュし始めた。

 

「来やがれ! グレンウイイイイイイイィィィィィィィィーーーーーーーーーングッ!!」

 

そして腹の底から呼んだ。

 

己が望む力………

 

天翔ける翼………『グレンウイング』を!!

 

その瞬間………

 

アリーナ近くに停めてあったトレーラーの荷台が展開!!

 

中から漆黒の翼………『グレンウイング』と、発射台が現れた。

 

グレンウイングの後部にあった球体の様なノズルから、青い光が溢れ出したかと思うと………

 

緑色の炎を噴出しながら、射出された!!

 

風切り音を響かせながら、グレンウイングが飛翔する!!

 

そして、アリーナの上空へ姿を現したかと思うと………

 

「どりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンがタイミングを合わせて大ジャンプ!!

 

グレンウイングで空中でクロスする!!

 

「ウイングクロース!!」

 

神谷の叫びが響き渡った瞬間!!

 

グレンウイングは、グレンラガンの背中に張り付き、グレンラガンが出現させたドリルによって、固定された!!

 

緑色の炎の噴射が一際大きくなり、グレンラガンは宙に舞った!!

 

「成功よ!!」

 

それを見ていたリーロンが、そう声を挙げた!!

 

グレンウイングを装備したグレンラガンは無敵だ!!

 

グレンウイングとグレンラガンが十字となる時、グレンラガンは空を飛ぶ!!

 

高く! 早く! 強く!!

 

完全無欠のスーパーマシンとなる!!

 

行け! グレンラガンッ!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

神谷の雄叫びが響き渡り、グレンラガンは一気に上昇して行く!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!?」

 

白式の左腕の装甲が吹き飛び、一夏が悲鳴を挙げる。

 

「!? 一夏!?」

 

「大丈夫だ!………でも………マズイな」

 

心配して来る箒に、血が流れる左腕を押さえながらそう答える一夏。

 

2人の周囲は、完全に飛行型ガンメンによって取り囲まれており、脱出は不可能だった………

 

「クッ! ここまでなのか………」

 

「箒………すまない………」

 

諦めの言葉が口に出る箒と、謝罪を口にする一夏。

 

そんな2人の様子を見た飛行ガンメン隊が、トドメを刺そうと一斉に襲い掛かる!!

 

 

 

………だが、その瞬間!!

 

 

 

緑色の風が、飛行ガンメン隊の中を吹き抜けて行ったかと思うと………

 

飛行ガンメン隊が一斉に爆発!!

 

一瞬にして全滅した!!

 

「な、何だ!?」

 

「!? アレは!?………まさか!?」

 

驚く箒と、吹き抜けて行った緑色の風を見やり何かを思い浮かべる一夏。

 

 

 

 

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「へへへ、そろそろ終わりにしてやる………」

 

一方、ヘブンズソードは、シャルルにトドメを刺そうとしていた。

 

シャルルを捕まえている両足に力を籠める。

 

「死ねえぇっ!!」

 

と、ヘブンズソードがそう叫んだ瞬間!!

 

その顔に拳が叩き込まれた!!

 

「あえっ?」

 

一瞬意識が飛びかけ、シャルルを解放してしまうヘブンズソード。

 

「あうっ!?」

 

「わりぃ………ちょっとモタついちまったぜ」

 

解放されたシャルルを、拳を叩き込んだ人物………グレンラガンの姿となっている神谷が受け止めた。

 

「!? 神谷!?」

 

「と、飛んでやがるだと!?」

 

ヘブンズソードが、殴られて罅割れ状態になった顔を押さえながら驚愕の様子を見せる。

 

[馬鹿な!? グレンラガンが空を飛んでいるだと!?]

 

ダイガンテンのシトマンドラも、狼狽した様子を見せている。

 

「後は俺に任せな!!」

 

「う、うん………神谷! お願い!!」

 

神谷の力強い言葉に若干頬を染めながら、言われた通りに後退するシャルル。

 

「さあ! 覚悟しやがれ、この鳥野郎!! フライドチキンにしてやるぜ!!」

 

それを確認すると、グレンラガンはヘブンズソードを指差し、そう言い放った!!

 

「チイッ! 舐めるなよぉ! 俄仕込みの飛び方で!! この俺様に勝てると思ったか!!」

 

ヘブンズソードはそう叫ぶと、グレンラガンの周りを高速で飛び始める!!

 

「如何だ! 俺の動きが見えるかぁ!? ハハハハハハッ!!」

 

その状態のまま、空中に静止しているグレンラガンに向かってそう言い放つヘブンズソード。

 

だが………

 

「へっ! 舐めんなよ! 俺を誰だと思ってやがる! 速くて捉えられないなら!!」

 

神谷がそう言い、グレンラガンが力を溜める様なポーズを取ったかと思うと、その身体から緑色の光が溢れ始めた。

 

そして、全身至る所にあったドリルの出現口から、無数の小さなドリルのミサイルが出現!!

 

「ありったけ撃ち出すだけよっ!!」

 

全方位に向かって、まるでレーザービームの様に放たれる!!

 

「!? な、何ぃっ!?」

 

ヘブンズソードは躱しきれず、幾つものドリルのミサイルが、その身体を貫いた!!

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

悲鳴を挙げていると、その手からシュヴァルツェア・レーゲンのコアが離れた!!

 

「ぬあっ!? しまっ………」

 

と、それが空中にある内に、グレンラガンが掠め取った!!

 

「コイツは確かに返してもらったぜ」

 

左手に持ったコアを見せながら、そう言う神谷。

 

「オノレェ!! 喰らえぇっ!! ハイパー銀色の脚スペシャルウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!!」

 

ヘブンズソードは、グレンラガン目掛けて最強の必殺技を繰り出す。

 

だが………それは無意味な行為であった。

 

「終わりだ! 鳥野郎!!」

 

神谷がそう叫んだ瞬間!!

 

グレンラガンは緑色の光を発して、全身からドリルを生やした状態………『フルドリライズ状態』となった!!

 

そして、胸のグレンブーメランが独りでに外れたかと思うと、それを右手に握るグレンラガン。

 

「必殺!!」

 

グレンブーメランを、ヘブンズソード目掛けて投げ付ける!!

 

すると、そのグレンブーメランが2つになり、ヘブンズソードを連続で斬り付けた!!

 

そしてそのまま、グレンブーメランはヘブンズソードを空中に磔にする様に拘束した!!

 

「ギガァッ!!」

 

と、グレンラガンが右手を掲げる様に構えたかと思うと………

 

「ドリルゥゥゥッ!」

 

その右手に、全身に生えていたドリルが集まり、超巨大なドリルを作り出した!!

 

「ブレエェェェェェイクッ!!」

 

超巨大ドリルが回転を始めると、グレンラガンはヘブンズソードに向かって、全力で突撃!!

 

大空に、まるで星が渦巻く銀河の様なエフェクトが映し出される中、ギガドリルブレイクを喰らったヘブンズソードは、ボディに巨大な風穴を空けられた!!

 

ヘブンズソードを突き抜けた背後で静止し、グレンラガンは見得を切る様にポーズを決める。

 

「ウガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

途端に、ヘブンズソードの断末魔が木霊し、その身体が爆散!!

 

爆発の中から、1つに戻ったグレンブーメランが飛び出して来て、グレンラガンの胸に再装着される。

 

[ヘ、ヘブンズソードが!? オノレェ!!]

 

[シトマンドラよ………退け]

 

と、怒りを露わにするシトマンドラに元に、ロージェノムからの通信が入った。

 

[螺旋王様!? しかし!!]

 

[我が命令が聞けぬか? シトマンドラ………この螺旋王、ロージェノムの命が?]

 

反論しようとしたシトマンドラに、ロージェノムは冷たい声でそう言葉を続けた。

 

[ぐうっ! 了解しました………覚えていろ! グレンラガン!!]

 

シトマンドラはお決まりの台詞を吐くと、そのままダイガンテンを撤退させ始めたのだった………

 

「野郎! 逃がすか!!」

 

[待ちなさい。追撃はしない方が良いわよ]

 

それを追おうとするグレンラガンだったが、リーロンからそう通信が入って来た。

 

「何だよ、止めんなよ!!」

 

[まだ空を飛ぶのにそんなに慣れてないでしょ? それに、シュヴァルツェア・レーゲンのコアをちゃんと返さないと駄目でしょ?]

 

止めるなと言う神谷だったが、リーロンはそう諭す様に言う。

 

「チッ! 分かったよ………」

 

その言葉が正論だった為か、はたまた違う理由か、神谷は素直にそれに応じたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、夕方………

 

IS学園・医務室………

 

「う、ぁ………」

 

目を開けたラウラの視界に飛び込んで来たのは、見知らぬ天井だった。

 

「私は………」

 

「気が付いたか?」

 

すると、左側からそう声が聞こえて来た。

 

ラウラが顔を左に動かすと、隣のベッドに半身を起こしている千冬の姿が在った。

 

「教官………何故ベッドに?」

 

「ああ、いや、コレは………気にするな」

 

「??」

 

神経性胃炎で倒れたとは言えず、誤魔化す千冬だった。

 

「………何が………起きたのですか………?」

 

ラウラは首を傾げたものの、すぐに質問へと移る。

 

「ふぅ………一応、重要案件である上に機密事項なのだがな。VTシステムは知っているな?」

 

「ヴァルキリー・トレース・システム………」

 

「そうだ。IS条約で、その研究はおろか、開発・使用、全てが禁止されている。それがお前のISに積まれていた」

 

「…………」

 

ラウラは沈黙する。

 

「精神状態、蓄積ダメージ、そして何より………操縦者の意思………いや、願望か………それ等が揃うと発動する様になっていたらしい」

 

「私が………望んだからですね?」

 

思わずラウラは、布団のシーツを握り締めた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「!? ハ、ハイ!!」

 

急に呼ばれて、ラウラは戸惑いながらも返事を返す。

 

「お前は誰だ?」

 

「私は………」

 

「誰でも無いなら丁度良い。お前はコレから、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

千冬はそう言うと、ベッドから降りて立ち上がった。

 

「えっ?」

 

「それから………」

 

そして、医務室から出て行こうとしたところで再びラウラの方を振り返る。

 

「お前は私になれないぞ………お前は誰でもない………お前自身になれ………と、イカンな………ついアイツの様な事を言ってしまった」

 

そう言って苦笑いすると、医務室から出て行く。

 

「………フッ、フフフ………ハハハハハ!!」

 

誰も居なくなった医務室で、ラウラは笑い声を挙げ始めた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・研究室………

 

「すまない、遅れた………」

 

そう言って千冬が研究室に入って来ると、そこには………

 

神谷とシャルル、一夏に箒、真耶、そしてあの謎の人物『リーロン』の姿が在った。

 

「揃ったわね。じゃあ始めましょうか………質問タイムをね」

 

千冬が来たのを見たリーロンが、そう話を切り出した。

 

「では先ず教えてもらおう………お前は誰だ?」

 

「如何してグレンラガンをパワーアップさせるパーツを持っていたんですか?」

 

千冬と真耶が、リーロンにそう質問する。

 

「そうね………それじゃあ先ず、自己紹介から始めましょうか」

 

リーロンはそう言うと、一同に向かって驚きの自己紹介をした。

 

「私はリーロン・リットナー………かつて天上博士の助手をしていたの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

見事なコンビネーションでVTシステムを撃破した神谷と一夏。
しかしそこへ、螺旋四天王のシトマンドラが配下ヘブンズソードが強襲。

空を飛べない為、一夏達の事を見ていることしか出来なかった神谷だが、謎の人物『リーロン』の持ってきたグレンウイングにより、遂に空を飛びます。
見事ヘブンズソードを撃破し、コアを回収します。

そしてリーロンの正体は神谷の親父の助手!?

今回登場したヘブンズソードは、勿論Gガンダムのヘブンズソードです。
これからも他作品のロボットがガンメンとして登場したりしますのでご了承ください。
次回、リーロンの口から一部の謎が語られます。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第12話『僕を誰だと思ってるの?』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第12話『僕を誰だと思ってるの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・研究室………

 

「!? 何だと!?」

 

「親父の………助手を?」

 

リーロンが言った言葉に、千冬と神谷が驚きの声を挙げる。

 

「驚くのも無理は無いわね。天上博士は世間的には、ずっと前に死んだと思われてたんですもの」

 

リーロンは冷静に言葉を続ける。

 

「天上博士………姉さんに並ぶ天才と言われていた人………」

 

天上博士の名を聞いた箒がそう呟く。

 

「なあ、千冬ね………織斑先生。アニキの親父が天才科学者だってのは聞いてたけど………一体何の研究をしていたんだ?」

 

とそこで、一夏が千冬にそう尋ねた。

 

「私も詳しくは知らん。天上博士は他人の研究に協力する事は有っても、自分の研究はあまり語らなかったそうだ………だが、聞くところによれば、天上博士が研究していたのは生命の進化についてだと言う話だ」

 

「生命の………進化?」

 

千冬の言葉を、シャルルが反芻する。

 

「そう、天上博士は人間………いや、生命が進化しようとするのには、何かしらかの力が働いているからだと思っていた………そして突き止めたの。進化のエネルギー………『螺旋力』を!」

 

すると、リーロンがそう言い放った。

 

「『螺旋力』?」

 

真耶がその言葉を繰り返す。

 

「そう。生命が持つ『進化しようとする力』、生体エネルギーの一種………その正体は、“人間の意志”で引き出された銀河のエネルギーらしいわ」

 

「銀河のエネルギー!?」

 

「何だか急に話が壮大になって来たな………」

 

箒が驚き、一夏がそんな感想を漏らす。

 

「それは本当なのか?」

 

「さあ? 残念だけど、私が携わっていたのは、その螺旋力を使用するマシンの開発の方だったから………螺旋力が銀河のエネルギーって事が真実が如何かは分からないわ」

 

千冬がリーロンにそう尋ねるが、残念ながらリーロンはその答えを持っていなかった。

 

「螺旋力を使用するマシン………!? それってひょっとして!?」

 

「勿論、グレンラガンの事よ」

 

「成程………グレンラガンを調べた時、動力らしき物が無かったのはそういう事だったのか………操縦者自身が動力でありエネルギーであると言う事か」

 

リーロンの説明に納得した様な表情になる千冬。

 

「その通り。グレンラガンは装着者の螺旋力によって動く。そして螺旋力が強ければ強い程、グレンラガンの強さも上がって行くわ」

 

「ISと同じく、進化するマシンと言う事か………」

 

そこで千冬は神谷を見遣るが………

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~」

 

神谷は器用に、立ったまま寝ていた。

 

「「「「「ダアアアァァァァーーーーッ!?」」」」」

 

そんな神谷の姿を見て、思わずズッコける千冬、真耶、一夏、箒、シャルル。

 

「アラアラ? 話が難しかったかしら?」

 

リーロンはそんな神谷の姿を見てそう言う。

 

「起きんか、貴様ぁ!!」

 

神谷の脳天に拳骨を見舞う千冬。

 

「んあ!? んだよ………俺は難しい話が苦手なんだ。もっと分かり易く言ってくれ」

 

目を覚ました神谷が、リーロンに向かってそう言う。

 

「~~~~~っ!!」

 

その隣では、千冬が殴った手を痛そうに押さえている。

 

「そうね。貴方に分かる様に言うと………要するに、グレンラガンは気合で強くなるって事よ」

 

「おおっ! 成程!! 最初っからそう言えよ!!」

 

リーロンがそう言うと、神谷は理解した表情となった。

 

「そ、それで良いんですか!?」

 

「概念としては間違っていないわ。螺旋力と気合は表裏一体、と言っても良い代物だしね」

 

真耶が戸惑った様に言って来るが、リーロンはあっけらかんと返す。

 

「あの、それで………天上博士はどうしてグレンラガンを開発したんですか? やっぱり、螺旋力の兵器転用を考えて?」

 

とそこで、今度はシャルルがリーロンにそう質問した。

 

「いいえ。博士自身は螺旋力を兵器として使おうなんて思ってはいなかったわ。けど、それを許さない連中が居た………」

 

「許さない連中?」

 

「『亡国企業(ファントム・タスク)』って知ってるかしら?」

 

リーロンは、千冬と真耶に向かってそう言う。

 

「『亡国企業(ファントム・タスク)』………」

 

「裏の世界で暗躍する秘密結社………第二次世界大戦中に生まれ、50年以上前から活動していると言われながら、組織の目的や存在理由、規模などの詳細が一切不明の謎のテロリストですね」

 

「そう。そして博士はその亡国企業(ファントム・タスク)に目を付けられ、拉致されたの」

 

「!? じゃあ、俺を誘拐した連中がアニキの親父の事を知っていたのは!?」

 

と、それを聞いていた一夏がそう声を挙げた。

 

「誘拐だと!? 何の事だ、一夏!?」

 

事情を知らない箒がそう尋ねるが………

 

「篠ノ之、それは後でゆっくり聞け。ああ、そうだ………あの時お前を攫ったのは亡国企業(ファントム・タスク)の一味だ」

 

「そうだったのか………」

 

一夏は怒りの表情を浮かべる。

 

自分を攫い、千冬の経歴を傷付ける事となった原因を作り出した連中が分かったのだ。

 

無理も無い。

 

「亡国企業(ファントム・タスク)は博士に螺旋力を兵器転用しろと強要したわ。博士は最初こそ拒んだけど、無差別テロをするって脅されてね………螺旋力を兵器転用せざるを得なかった」

 

「貴方もそれに?」

 

「そっ。私も元はちょっとは名の知れた科学者だったんだけどね………それで目を付けられて、奴等に拉致されたわけ。そして天上博士と協力して、グレンラガンの開発を開始したの………けど、その後、亡国企業(ファントム・タスク)の連中にとって、予想外の出来事が起こったの」

 

「予想外の出来事?」

 

「アタシや天上博士の他にも、亡国企業(ファントム・タスク)内には世界中から拉致されて来た科学者やエンジニアが居たんだけど………その中に1人、危険な野心を持つ男が居たのよ」

 

「危険な野心?」

 

「そう………『世界征服』って野心をね!?」

 

「!? まさか!?」

 

『世界征服』と聞いて、とある考えが頭を過る千冬。

 

「お察しの通り………その科学者の名はロージェノム………今まさにその『世界征服』を実現しようとしている人物よ」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

全員が驚きを露わにした。

 

まさかロージェノムの正体が、亡国企業(ファントム・タスク)に拉致された科学者であろうとは………

 

誰が予想出来ただろうか?

 

「天上博士とアタシから技術を奪ったロージェノムは、それを元に戦闘兵器『ガンメン』を製造………更に専門分野だったクローニング技術を使って『獣人』を生み出し、亡国企業(ファントム・タスク)に反旗を翻したの」

 

「と言う事はつまり………ガンメンに使われている技術は元は天上博士の技術だったって事ですか?」

 

「そう言う事になるわね………」

 

「それで、その後どうなったんですか!?」

 

一夏がリーロンにそう尋ねるが………

 

「ゴメンナサイ。私はその時、他の科学者やエンジニアと一緒に天上博士がドサクサに紛れて逃がしてくれたから………その後の事は分からないわ」

 

「親父が、アンタを?」

 

「そう。まだ未完成だったグレンウイングを託してね。けど、天上博士はこう言っていたわ………『恐らくこの覇権争いはロージェノムが勝つ。だが、それは世界に地獄が訪れるという事になる。奴の作ったガンメンに私の技術が使われているのなら、私はそれを止めなければならない』ってね」

 

「そうか………あの時、親父が言っていた償いってのは、そういう事だったのか………」

 

手に持ったコアドリルを見ながら、神谷はそう呟く。

 

「そして天上博士は完成したばかりだったグレンラガンで、ロージェノムに戦いを挑んで行ったわ。多分、天上博士は自分が無理だった時には、誰かにその意思とグレンラガンを託そうと思ったんでしょうね………それが自分の息子になるとは夢にも思わなかったでしょうけど」

 

「親父………アンタはアンタなり………男としてのケジメを着けようとしたんだな………」

 

そう言って、神谷はコアドリルを握り締める。

 

「神谷………」

 

シャルルが、そんな神谷に視線を送る。

 

「………以上で、アタシの知ってる事は全部かしら」

 

「分かった。ありがとうございます………リットナーさん」

 

「リーロン、若しくはロンで良いわよ。あ、なんだったら、ビューティフルクイーンでも良いわよ」

 

「いえ、それは止めて下さい………それでリーロンさん。貴方の処遇なのですが………」

 

「分かってるわよ。この学園に居てもらうってんでしょ?」

 

千冬の言葉を察したリーロンがそう言う。

 

「ええ、グレンラガンの事を知る人を、どの国の政府にも渡すワケにも行かないので………待遇と身分は保障致します」

 

「OKよ。私もその積りで来たんだからね。一応、ISの事もある程度は整備や改造ぐらい出来るから………じゃあ、コレからもよろしくね。と・く・に」

 

と、リーロンが不意に一夏に近寄った。

 

「!? な、何ですか?」

 

「貴方とは仲良くやりたいわ、織斑 一夏くん。男の子なのにISを動かせるなんて、すっごく興味深いわ。それに良く見ると好みかも」

 

「あ、あの………貴方、男の人ですよね?」

 

「男の様な女の様な………何だったら確かめてみる?」

 

「ヒイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーッ!?」

 

一夏は思わず、壁に張り付くほど後ずさった!!

 

「一夏に近づくな! 変態!!」

 

箒も、何処からか真剣を取り出し、リーロンに斬り掛かった。

 

「いや~ね~、冗談に決まってるじゃな~い」

 

それをクネクネとした動きで躱しながら、リーロンはそう言う。

 

(目が一瞬本気だった様な………)

 

そう思いながらも、口には出さない真耶だった。

 

「はあ~………取り敢えず、今日はもう解散とする。VTシステムの事については機密事項に付き口外禁止を言い渡す。それからトーナメントは中止するが、個人データ収集の為に1回戦だけは行う。準備はしておけ」

 

千冬が呆れた様に溜息を吐き、済し崩し的にその場は解散となったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーロンの話が終わった頃には、日はすっかり暮れており………

 

神谷達は食堂で夕食を取る事にした。

 

「(ガツガツガツガツ!!)美味い! おばちゃん!! カレーライスとカツ丼! それからエビフライとオムライス追加で!!」

 

カウンター席に座り、ハヤシライスときつねうどん、お好み焼きと焼きそばを平らげた神谷が、食堂のおばちゃんに向かってそう追加注文する。

 

「あいよ! 良い食いっぷりだね~! 作ってる方としても嬉しいよ!」

 

「よ、よく食べるね………」

 

食堂のおばちゃんから威勢の良い声が返って来ると同時に、右隣に座って居たシャルルが、神谷の食いっぷりを見て額に冷や汗を浮かべながらそう言う。

 

「色々あって疲れたからよ~。たっぷり食っとかねえとな」

 

「アハハハハ………」

 

「…………」

 

あっけらかんと答える神谷に、左隣に座って居た一夏が乾いた笑い声を漏らし、その一夏の隣に座って居る箒は、何故か沈んだ表情になっていた。

 

「………ん?」

 

とその時、後ろから視線を感じた神谷は振り返る。

 

シャルルと一夏も、釣られる様に振り返ると………

 

そこには、数人の女子達の姿が在った。

 

「優勝………チャンス消えた………」

 

「交際、無効………」

 

「うわああああぁぁぁぁぁ~~~~~~んっ!!」

 

何やら一夏達の方を見ながら小声で言い合って居たかと思うと、やがて1人が泣き声を挙げ、それに続く様に他の女子達も泣きながら走り去って行った。

 

「んだ?」

 

「さあ………?」

 

わけが分からず、首を傾げるしかなない神谷とシャルル。

 

「………ん?」

 

と、そこで一夏が、隣に座って居た箒の表情が沈んでいる事に気づく。

 

「………あ、そうだ、箒。この前の約束だけど」

 

「!? ふえっ!?」

 

突然言われて、箒は珍妙な声を挙げてしまう。

 

「付き合っても良いぞ」

 

「!? 何っ!?」

 

「おっ?」

 

箒が驚きの声を挙げると、神谷達もその様子に気づき、注目する。

 

「だから、付き合っても良いって………」

 

「本当か!? 本当に、本当なのだな!?」

 

そこまで言った瞬間、箒は一夏の制服の上着の襟元を引っ摑み、自分の方に引き寄せた。

 

「お、おう………」

 

「………何故だ? 理由を聞こうではないか」

 

そこで頭が冷えた箒は、一夏に改めてそう問い質す。

 

「お、幼馴染の頼みだからな。付き合うさ」

 

乱れた襟元を正しながらそう答える一夏。

 

「そ、そうか!」

 

(一夏………オメェ、遂に………)

 

嬉しさを顔中に浮かべる箒と、漸く朴念仁を卒業かと思うと神谷だったが………

 

「買い物ぐらい」

 

「フンッ!!」

 

(んなわけねえか………)

 

続いて出た一夏の台詞を聞いて、箒は一夏の顔面にストレートを決め、神谷も頭を抱えた。

 

「そんな事だろうと思ったわ!! フンッ!!」

 

「ぐほあっ!?」

 

椅子から転げ落ちて、蹲っていた一夏の腹に、箒は追撃の蹴り上げを喰らわす。

 

「フンッ!!」

 

そしてそのまま、一昔前の漫画の様にプンプンと怒りを表しながら、去って行った。

 

「一夏って、態とやってるんじゃないかって思う時があるよね………」

 

「絶対いつか刺されるぞ………後ろからバッサリ」

 

ピクピクと痙攣している一夏を見下ろしながら、シャルルと神谷はそう言い合う。

 

「織斑くん、デュノアくん、天上くん! 朗報ですよ!………って、織斑くん、如何しました?」

 

とそこへ、朗報と言う言葉と共に真耶がやって来たが、痙攣している一夏を見てそう尋ねる。

 

「い、いえ、大丈夫です………気にしないで下さい」

 

一夏は痙攣しながらもそう返した。

 

「そ、そうですか………」

 

「それで山田先生。朗報って何ですか?」

 

戸惑っている真耶に、シャルルが改めてそう尋ねる。

 

「あ、そうでした。何とですね! ついについに! 男子の大浴場使用が解禁です!!」

 

「おおっ! 遂にか!!」

 

神谷が歓声を挙げる。

 

「やったね、アニキ!」

 

復活した一夏も、神谷にそう言う!

 

「おうよ! コレでドラム缶を探してこなくて済むってもんだ!!」

 

「えっ? ドラム缶?」

 

「あ、あの、天上くん? ドラム缶で一体何をする積りだったんですか?」

 

真耶が恐る恐ると言った様子で神谷に尋ねる。

 

「な~に、これ以上風呂が使えなかったら、ちょいとドラム缶風呂でも作ろうかと思ってな。屋上から夜空を見ながらドラム缶風呂も乙なもんだと思ってよ」

 

「止めて下さい~~! 寮で火災を起こす気ですか~~っ!?」

 

涙目になってそう叫ぶ真耶。

 

この時彼女は、心底大浴場を使える様にして良かったと思ったそうだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

大入浴場………

 

「あ~~、生き返る~~」

 

「良い湯だぜ………と、くりゃあっ」

 

一夏と神谷は、大浴場で湯に浸かっていた。

 

「やっぱり風呂は最高だね、アニキ」

 

「ああ、オマケに月も見えるときてやがる」

 

神谷は、大浴場の窓から見えている月を見上げてそう言う。

 

「…………」

 

と、不意に一夏が黙り込んだ。

 

「? どした、一夏?」

 

「なあ、アニキ………リーロンさん言ってたよな………亡国企業(ファントム・タスク)はロージェノムに乗っ取られたって」

 

「ああ、そういやそんなこと言ってたな………」

 

「あの時、俺が誘拐なんかされなければ、千冬姉は大会2連覇が達成できたし、ラウラもあんな事にはならなかった………」

 

無意識の内に、一夏は拳を握り締める。

 

「自分の無力さも許せないけど、あの事件を起こした連中も許せなかった………でも、その連中がもう居ないかもしれないって聞いて………何て言うか………憤りを感じちゃったと言うか………」

 

「一夏………」

 

と、神谷は一夏の頭を片手で摑んだかと思うと………

 

そのまま湯船に沈めた!!

 

「!? ガボボボボボボボボッ!?」

 

「な~に小難しいこと考えてやがんだ! お前がそんな柄か、オイ!!」

 

「ガボッ! ガボッ!………ブハッ!! アニキ!! マジで溺れるって!!」

 

漸く神谷の手から逃れると、一夏はそう抗議の声を挙げる。

 

「テメェは何だ? その何とかタンスとか言う連中に復讐してやりたかったのか?」

 

それを無視する様に、神谷はそう言葉を続けた。

 

「亡国企業(ファントム・タスク)だよ………別にそう言う訳じゃないけど………」

 

「なら良いじゃねえかよ………なあ、一夏。人は何で前に目があるか知ってるか?」

 

「えっ?」

 

「遠くの景色を見る為にゃあ、前に進むしかないからだ」

 

「前に進む………」

 

「そうだ………後ろに目があると生まれた故郷が離れていくのしか見えねぇ。それじゃあ人は前には進めねぇ。目が前にありゃあ、歩いて行けば遠くの景色が近づいて来る。だから人は前に進める」

 

「アニキ………」

 

神谷の言葉に聞き入る一夏。

 

「今俺達が前に進んでやんなきゃならないのは、あのロージェノムとか言う連中のふざけた野望を阻止する事だ」

 

「………そうだな。ゴメン、アニキ。何かちょっとナイーブになってたみたいだ」

 

「気にすんな。お前が倒れそうになったら俺が支える。だから、俺が倒れそうになった時にはお前が支えてくれ、一夏」

 

「ああ!!」

 

一夏は力強く返事を返した。

 

「じゃあ、アニキ………俺そろそろ上がるよ」

 

「おう。俺はもう少しこの風呂を堪能してから行くぜ」

 

「じゃ、御先に………」

 

一夏はそう言って湯船から上がり、脱衣所に向かった。

 

「ふう~~~」

 

残された神谷は、リラックスした様子で、湯船の端に寄り掛かり、天井を仰ぎ見る様な姿勢を取った。

 

と、その時………

 

脱衣所に続く扉が、ガラガラと音を立てて開いた。

 

「ん? 何だ、一夏? 忘れもんか?」

 

一夏が戻って来たのかと出入り口の方を見やる神谷だったが………

 

「お、お邪魔します………」

 

そこに居たのは一夏ではなく、スポーツタオルを身体の前に当てているだけのシャルルだった。

 

「…………」

 

思わず、シャルルを見たまま固まる神谷。

 

「あ、あんまり見ないで………神谷のえっち………」

 

「…………」

 

顔を真っ赤にしてそう言うシャルルだったが、神谷はシャルルを凝視する。

 

「ううう………」

 

シャルルは恥ずかしそうにして、逃げる様に湯船に身体を沈めた。

 

入浴剤が入っているので、緑色に濁っている湯で、シャルルの身体が薄らとしか見えなくなる。

 

しかし、それはそれで扇情的な光景である。

 

「………オメェも結構大胆な事するな」

 

やっとの事で我に返った神谷が、シャルルに向かってそう言う。

 

「い、言わないでよ………し、死ぬほど恥ずかしいんだから………」

 

「…………」

 

『んじゃ、やるなよ』という言葉が喉まで出た神谷だったが、辛うじて飲み込む。

 

そのまま神谷は前を向くと、窓から夜空を見やった。

 

「「…………」」

 

そのまましばし沈黙が続く………

 

「………んで、如何したんだ? 態々男の居る風呂場くんだりまで来て?」

 

やがて痺れを切らしたかの様に、神谷がシャルルに向かってそう聞く。

 

「ぼ、僕が一緒だと………イヤ?」

 

「寧ろ大歓迎だ!!」

 

シャルルの言葉に、神谷はサムズアップし、『良い笑顔』でそう言い放った。

 

「…………」

 

その言葉と『良い笑顔』に、シャルルは呆れた様な表情を浮かべる。

 

「………フフフ………アハハハハッ! 神谷ってホント、正直だよね!」

 

だが、次の瞬間にはそう言って笑い声を挙げた。

 

「ハア~~、何だか変に緊張してたのが馬鹿らしくなっちゃった………」

 

「ハハハハハッ! んで? 如何したんだ?」

 

緊張が解けた様子のシャルルに、神谷は改めて問い質す。

 

「うん………話があるんだ。大事な事だから、神谷にも聞いて欲しくて………」

 

「…………」

 

シャルルのその言葉を聞いて、神谷は沈黙する。

 

如何やら、聞く姿勢を取った様だ。

 

「前に言ってた事なんだけど………」

 

「ああ………此処に残るって話か?」

 

「そう、ソレ………僕ね………此処に居ようと思う。神谷が居るから、僕は此処に居たいと思えるんだよ。神谷が此処に居ろって言ってくれたから」

 

「そうか………まあ、お前の人生はお前のモンだ! 好きにすれば良い! 生きるなら自分の思う通りに生きてみんのが男だろ!」

 

「ぼ、僕は女の子だよ!!」

 

抗議の声を挙げるシャルル。

 

「おっと。そういやそうだったな」

 

「むう………」

 

神谷のその態度に納得が行かない様子のシャルル。

 

「神谷………ちょっとそっち向いて」

 

「ああ? んだよ?」

 

「良いから向いて!」

 

「!? お、おう………ったく、何だってんだよ………」

 

シャルルがいきなり強い態度に出た為、神谷はブツブツ言いながらも思わず従ってしまう。

 

「…………」

 

一瞬、逡巡している様な様子を見せたシャルルだったが、やがて意を決した様な表情になると、神谷の背中に抱き付いた。

 

「!?」

 

またも固まる神谷。

 

「ど、如何? 女の子でしょ?」

 

神谷の背中に胸を押し当てて、シャルルはそう言う。

 

「………ああ、確かに」

 

神谷はやっとの事でそう返す。

 

「「…………」

 

そのまま2人揃って固まってしまう。

 

暫しの間沈黙していた2人であったが………

 

「あ、あとそれからね………もう1つ決めたんだ」

 

「お、おう! 何をだ!?」

 

神谷は思わず、上ずった声が出てしまう。

 

「僕の在り方をだよ………神谷………僕の事はこれから、シャルロットって呼んでくれる?」

 

「シャルロット?」

 

「うん………僕の名前………お母さんがくれた本当の名前………」

 

「分かったぜ………」

 

神谷はそう言ってフッと笑った。

 

「神谷………」

 

「ま、色々あんかも知れねえが………これからもよろしく頼むぜ! シャルル!!」

 

「ズコッ!?………だからシャルロットだってぇ!!」

 

「ああ、スマンスマン。こっちで呼びなれちまったもんでな。ハハハハハッ!」

 

「もう~~」

 

呵々大笑と言った感じで笑う神谷に、シャルル改めシャルロットは、呆れる様に呟く。

 

しかし………

 

その顔には、屈託無い笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

朝のHRにて………

 

「アニキ………シャルルの奴、如何したのかな?」

 

「さあな?」

 

間も無く授業開始だが、教室にシャルル………

 

もといシャルロットの姿が無い………

 

神谷と一夏とは、朝食を摂る時までは一緒だったのだが、その後『先に行ってて』との本人からの言葉を受け、神谷と一夏は先に教室へ向かった。

 

そして、未だに姿を見せていない。

 

ラウラの姿も見えないが、こっちは昨日の件での事情聴取だと思われる。

 

「み、皆さん………お早うございます………」

 

とそこで、矢鱈とフラフラしている真耶が姿を現し、教壇に立った。

 

「んだよ、メガネ姉ちゃん? 随分疲れてるみてぇじゃねえか? 風邪か?」

 

そんな真耶の姿を見た神谷がそう言い放つ。

 

「ち、違いますよぉ! え~と………今日は皆さんに転校生を紹介します」

 

神谷にそう反論すると、真耶はそう話を切り出す。

 

「えっ?」

 

「ああ? またかよ?」

 

一夏と神谷がそう声を挙げ、クラスの生徒達もざわめき出した。

 

「転校生と言いますか………既に紹介が済んでると言いますか、ええと………」

 

何やら言葉の歯切れが悪い真耶。

 

「じゃあ、入って下さい」

 

「失礼します」

 

(アレ? この声って………)

 

「ああ?」

 

真耶が入室を促すと、扉の向こうから聞こえて来た声に、一夏と神谷は聞き覚えを感じる。

 

そして、扉が開いて教室に入って来たのは………

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

女子用の制服に身を包んだ姿のシャルロットだった。

 

そして、その制服の左胸には、グレン団のマークが縫い込まれていた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

一夏と神谷だけでなく、クラス全員が驚きの表情を浮かべた。

 

「ええと、デュノアくんはデュノアさんでした………と言うことです………はあぁ~、また寮の部屋割りを組み直す作業が始まります………」

 

真耶は深く溜息を吐く。

 

「え? デュノア君って女………?」

 

「おかしいと思った! 美少年じゃなくて美少女だったわけね!!」

 

「って、織斑くん! 同室だから知らないって事は………」

 

「織斑くんの部屋に入り浸ってる天上くんも知らない筈は………」

 

「って言うか、あの左胸のマークって、織斑くんや天上くんと同じ………」

 

生徒達のざわめきが大きくなり、一夏と神谷に視線が集まる。

 

「ちょっと待って! 昨日って確か、男子が大浴場使ってたわよね!?」

 

と、クラスメイトの1人がそう言った瞬間………

 

教室のドアが吹き飛んだ!

 

比喩でも何でもなく、本当に吹き飛んだのである!

 

「一夏ぁっ!! ついでに神谷!!」

 

立ち上る粉煙の中から現れたのは、甲龍を装着している鈴だった。

 

「ま、待て、鈴!! 俺は関係無いんだ!!」

 

「死ねえぇっ!!」

 

慌ててそう叫ぶ一夏だったが、鈴は聞く耳持たずと龍咆を一夏と神谷目掛けて放った!!

 

(あ、死んだ………)

 

一夏はまるで他人事の様にそう感じる。

 

と、その瞬間………

 

一夏の間に割り込み、龍咆を防いだ者が居た………

 

「!? ラウラ!?」

 

驚きの声を挙げる一夏。

 

それは、シュヴァルツェア・レーゲンを装着したラウラの姿だった。

 

AICで、鈴の龍咆を防いだ様だ。

 

「助かったぜ、サンキュ………て言うか、お前のISもう直ったのか? すげえな」

 

「………コアはかろうじて無事だったからな。予備パーツで組み直した」

 

「へー。そうなん………むぐっ!?」

 

と、そこでラウラが一夏の方を振り向いたかと思うと、そのまま顔を近づけて、キスをした。

 

「!?!?!?!?!?」

 

混乱する一夏。

 

ラウラは口を放すと、頬を染めた顔で、一夏に向かってこう言った………

 

「お、お前は私の“嫁”にする! 決定事項だ! 異論は認めん!!」

 

「………ハアッ!?」

 

暫し呆然としていた一夏だったが、やがてワケが分からないと言う様な顔になる。

 

途端に………

 

「「「一夏(さん)!!」」」

 

鈴に加えて、セシリアもISを展開し、更に箒が日本刀を抜いて、一夏に襲い掛かった!!

 

「う、うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!? 俺が何をしたってんだああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一夏は白式を展開し、そのまま教室から飛び出して行く。

 

「「「「待てええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」」」

 

その後を追って行く箒、セシリア、鈴、ラウラ。

 

一方、神谷は………

 

「ふ~~、危なかったぜ………」

 

床に散乱していた瓦礫を押し退けて、床に空いた穴から神谷が顔を出した。

 

如何やら、龍咆が放たれた瞬間、グレンラガンとなって床に穴を掘って退避した様だ。

 

「大丈夫だった? 神谷?」

 

床の穴から這い出して来た神谷に、シャルロットがそう声を掛ける。

 

「ああ、大丈夫だ………にしても、オメェも思い切ったな」

 

服に付いた埃を払いながら、シャルロットにそう言う神谷。

 

「えへへ、まあね………僕を誰だと思ってるの?」

 

シャルロットはそう言いながら笑った。

 

「…………」

 

神谷は一瞬呆気を取られた様な表情になったが、すぐにニヤッ笑う。

 

「それでこそ、グレン団の一員だぜ」

 

「えへへ………」

 

遠くから聞こえる一夏を追い回す箒達の喧騒を聞きながら、2人は互いに笑みを浮かべてたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

リーロンの口から語られた天上博士の真実と、ロージェノムの正体。
ロージェノム軍は亡国企業を母体としており、この作品では既に組織としての亡国企業は壊滅しています。
しかし、オータムが残党で登場する予定です。
さらに、Mこと織斑マドカも亡国企業とは関係ない役で登場します。
お楽しみに。

そしてシャルル改めシャルロット登場!
ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!
………失礼しました。
早速次回からイチャラブイベントをてんこ盛りでお送りします。
お楽しみに。
歯磨けよぉ(糖度的な意味で)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第13話『神谷! 起きろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第13話『神谷! 起きろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この泥棒猫の娘が!!」

 

そう言う女性………デュノア社・社長の本妻の罵声と共に、シャルロットが平手打ちを喰らって殴り飛ばされる。

 

「…………」

 

その傍では、デュノア社の社長………シャルロットの父親がモノを見る様な目で見下ろしていた。

 

(ああ………またこの夢か………)

 

殴り飛ばされたシャルロットはそう思う。

 

これは何時も見ている夢だと………

 

デュノア家に引き取られた時の事………

 

シャルロットは時たま、この時の事を悪夢として夢に見る。

 

最初は苦しんでいたシャルロットだったが、何時しかただの夢だと割り切り、夢から覚めるまで只管耐えると言う諦めにも似た対応を取る様になっていた………

 

「立ちなさい! こんなものじゃ済まされないわよ!!」

 

本妻がシャルロットを無理矢理立たせて、再び引っ叩こうとする。

 

「…………」

 

シャルロットはただ無抵抗に立ち上がらせられる………

 

 

 

 

 

と、その瞬間!!

 

 

 

 

 

「俺を誰だと思ってやがるキイイイイイイィィィィィィィックッ!!」

 

突如現れた神谷が、本妻に飛び蹴りを噛ました!!

 

「キャアアッ!?」

 

漫画の様にブッ飛んで行く本妻。

 

「えええっ!?」

 

突然様変わりした夢の様子に、シャルロットは驚きの声を挙げる。

 

「よくも俺の可愛いシャルロットをパアアアアアアァァァァァァァァンチッ!!」

 

「うおわぁっ!?」

 

神谷は続いて、社長を殴り飛ばした。

 

社長も夫人と同じく、漫画の様にブッ飛んで行く。

 

「か、神谷!?」

 

戸惑いながらも、シャルロットは神谷へと声を掛ける。

 

「シャルロット! お前はグレン団の一員だ!! 俺が面倒を見る!! 俺はお前の為に生命を張る!! だから、お前の生命は俺が預かる!!」

 

神谷はそんなシャルロットに向かって、笑顔でそう言う。

 

「神谷………」

 

「行くぜ! 俺達グレン団の伝説の幕開けだ!!」

 

と、神谷がそう宣言した瞬間………

 

その背後に、グレン団のマークの入った旗がはためいた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

シャルロットとラウラの部屋………

 

「はわっ!?」

 

そこでシャルロットの目が覚め、朝日の差し込む自室の天井が視界に入る。

 

「…………」

 

少々呆然となりながらも、ベッドの上で身を起こすシャルロット。

 

「………ハア~~………変な夢見ちゃったな~」

 

やがてそう呟きながら溜息を吐いた。

 

「でも………」

 

とそこで、グレン団のマークが入った旗をバックにポーズと笑顔を決めている神谷の姿を思い出す。

 

「………良い夢だったな」

 

夢の内容を思い出して、シャルロットはうっとりとする。

 

「うふふふ、でも夢の中まであんな調子だなんて………まあ、神谷らしいか」

 

そこでシャルロットは、隣のベッドに居る筈の同室になったラウラを見遣る。

 

「アレ? 居ない?」

 

しかし、そこにラウラの姿は無く、使われていないと思われるベッドだけが在った。

 

「何処行ったんだろ?………まあ、良いや」

 

ベッドから降りると、シャルロットは着替えを始める。

 

本日は休日であるが、臨海学校が近くに迫っており………

 

水着を持っていなかったシャルロットは、神谷に付き添ってもらって、買い物に出掛ける予定なのだ。

 

所謂、デートである。

 

(えへへ………断られたら如何しようかと思ったけど………勇気を出して誘ってみてよかったぁ………)

 

昨晩、神谷を誘った時の事を思い出し、またも赤面するシャルロットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同寮内・一夏と神谷の部屋………

 

シャルロットが女子である事が露見した事件後………

 

またも一夏の部屋割りが組み直され………

 

晴れて神谷と同室となった。

 

結局のところ、コレが無難な組み合わせであり、尚且つ問題が出ないからだ。

 

「う………う~~ん………」

 

と、寝ていた一夏が、何か違和感を感じて目を覚ます。

 

そして………

 

自分に密着している何者かの存在に気づく。

 

「!? うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

一夏は慌てて飛び起きる。

 

そして、すぐさま掛け布団を翻して、何者かの存在を確かめる。

 

「う~~ん」

 

それはまるで猫の様に丸まって、気持ち良さそうに寝ているラウラの姿だった。

 

更に………

 

何故かラウラは全裸であり、身に着けているのは眼帯と待機状態のISだけである。

 

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

一夏は絶叫を挙げる。

 

「う~~ん………何だ………もう朝か?」

 

その声でラウラも目を覚まし、寝ぼけ眼を擦りながら、ベッドの上に座り込む様に起き上がる。

 

「何時の間に入って来たんだ!?」

 

と、一夏がそう尋ねた瞬間………

 

ラウラの身体に掛かっていた掛布団が落ち、ラウラのあられもない姿が露わになる。

 

「!? うわぁっ!? 馬鹿馬鹿! 隠せぇっ!!」

 

「夫婦とは互いに包み隠さぬものだと聞いたぞ」

 

慌てて手で顔を覆い、そう言う一夏だったが、ラウラは意にも介さない。

 

「ましてやお前は、私の嫁………」

 

「な、何なんだよ! この間から!!」

 

「日本では気に行った相手を、『俺の嫁』とか『自分の嫁』とか言うそうだが………」

 

「お前に間違った知識を吹き込んでいる奴は誰なんだ!?」

 

そう言って、ラウラを右手で指差す一夏だったが、その瞬間にラウラにその手を取られ、腕挫十字固めを掛けられた。

 

「!? イデデデデデデデッ!?」

 

「お前はもう少し、寝技の訓練をすべきだな」

 

「つ、つええ………ア、アニキ! 助けてぇ!!」

 

思わず隣のベッドで寝ている神谷に助けを求める一夏だったが………

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~~………」

 

神谷はベッドの上に下半身だけを乗せて、上半身を床に着けている上下逆さまと言う凄い姿勢で気持ち良さそうに寝ている。

 

大分寝相が悪い様だ。

 

「あ、アニキーッ!!」

 

「寝技を磨きたいと言うなら、わ、私が相手になってやらんでもないぞ」

 

一夏の悲痛な叫びも届かず、神谷は爆睡を続け、ラウラは照れながら一夏にそう言う。

 

「何故そこで赤くなる!?」

 

一夏はそう叫んで、如何にかラウラから逃げ出そうとする。

 

しかし、そこで………

 

更に状況を悪化させる出来事が起こる。

 

「私だ、一夏! 朝稽古を始めるぞ!!」

 

部屋のドアがノックされたかと思うと、箒のそう言う声が響き渡り、返事も待たずにドアが開いた。

 

「日曜だからと言って、弛んではイカ………」

 

そう言いながらズカズカと入って来た道着姿で竹刀を携えた箒は、ベッドの上で組み合っている一夏とラウラの姿を目撃する。

 

「んなあっ!?」

 

「あっ!?」

 

「うん?」

 

3人ともそのまま固まる。

 

「…………」

 

箒の手から、持っていた竹刀が落ちる。

 

「不作法な奴だな。夫婦の寝室に」

 

「夫婦~っ!?」

 

ラウラの一言を聞いた途端、箒の身体から赤いオーラが立ち上り始める。

 

「待て箒! これは誤解………」

 

「天誅~~~~~~~っ!!」

 

一夏の言い訳も聞かず、箒は竹刀を拾い直すと、一夏に斬り掛かった!!

 

「!?」

 

その瞬間!!

 

「!? うわっ!?」

 

一夏は信じられない力でラウラの拘束から逃れ、ベッドの上を転がって箒の1撃を躱す!

 

「!? 何っ!?」

 

「うわああっ!?」

 

躱されるとは思っていなかった箒が驚きで固まっている間に、一夏はその背後を擦り抜け、部屋の外へと脱出する!

 

「!? 待て! 一夏!!」

 

「コラ! 嫁を置いて何処へ行く!?」

 

箒とラウラがすぐさま後を追う。

 

ラウラが全裸のままだった為、一夏が逃げた先からは奇妙な悲鳴が挙がっていた。

 

「………今のって、箒とラウラだよね? また一夏絡みかな?」

 

と、その2人と入れ違いになる様に、シャルロットが一夏と神谷の部屋を訪れた。

 

「神谷、起きてる?」

 

開け放たれたままだった扉をノックするシャルロット。

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~~」

 

返事の代わりに、部屋の奥からイビキが聞こえて来た。

 

「あ、まだ寝てるんだ………神谷、入るね」

 

シャルロットはそう言うと、部屋の中へと入る。

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~~」

 

そして、凄い格好で寝ている神谷の姿を発見する。

 

「うわっ、酷い寝相………神谷。神谷。起きてよ、神谷」

 

その寝相に呆れながらも、神谷の傍に寄ると、その身体を揺さぶる。

 

「んが………んがんぐ………」

 

反応した神谷だったが、まだ目は覚ましていない。

 

「神谷。今日は買い物に行くって約束でしょ。起きてよ」

 

シャルロットはそれを見て、今度はやや強く揺さぶる。

 

すると………

 

「んん~~~………出やがったなぁ………獣人にガンメン野郎~」

 

神谷がそんな寝言を呟いたかと思うと、突如自分の身体を揺さぶっていたシャルロットの手を摑み、自分の方へ引き倒した。

 

「うわっ!?」

 

そしてそのまま、抱き締めるかの様に拘束する。

 

「えっ!? ちょっ!?」

 

「喰らえ~~………グレンラガン・ブリーカー………」

 

そしてそのまま、ベアハッグを掛ける神谷。

 

しかし、寝惚けているので、力が余り籠っておらず、精々少し強めに抱き締めている様な状態となる。

 

「ちょっ!? 神谷!! 寝ボケてないで起きてよぉ!!」

 

慌てて離れようとするシャルロットだが、ガッチリ捕まっている為、離れられない。

 

「一夏~! 居る~~!!」

 

「一夏さ~ん! 今日のご予定はどうなっていますか~?」

 

するとそこへ………

 

一夏をデートに誘いに来た鈴とセシリアが現れる。

 

「あっ!?」

 

「「えっ!?」」

 

開け放たれたままの扉から、お互いの姿を見て固まるシャルロットに、鈴とセシリア。

 

神谷は現在ズボンは履いているが、上半身は晒だけしか巻かれておらず、半裸の状態である。

 

そしてシャルロットの方も、神谷から逃れようとしている内に、着衣が少し乱れていた。

 

十中八九、誤解される光景である。

 

「「し、失礼しました~~~っ!!」」

 

鈴とセシリアは真っ赤になってそう言うと、一瞬にしてその場を去って行く。

 

「ちょっ!? 待って、2人共!! 違うよ~~~っ!!」

 

シャルロットが慌ててそう叫ぶが、既に2人には届いていなかった。

 

「ハハハハ………参ったかぁ?………獣人野郎~………」

 

そしてそんな喧噪があってもなお、神谷はまだ夢の世界に居る。

 

「神谷! 起きろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

堪忍袋の緒が切れた様に、シャルロットは如何にか片腕を自由にすると、神谷のにやけた顔目掛けて、平手を振り下ろした!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間後………

 

神谷とシャルロットは、目的地であるショッピングモール『レゾナンス』へ向かうモノレールの中に居た。

 

「おかしいな………何か起きてから妙に顔がヒリヒリすんだよなぁ………」

 

顔に薄らと紅葉を浮かべている神谷が、不思議そうにそう呟く。

 

「気のせいじゃないの?」

 

そんな神谷に不機嫌そうな様子でそう言うシャルロット。

 

「………何でお前はそんなに不機嫌なんだ?」

 

「………知らない!」

 

シャルロットはそう言ってそっぽを向く。

 

「?? 益々分からねえぜ………」

 

神谷は首を傾げるしかなかった。

 

(もう! 神谷ってば………でも………やっぱり神谷って男の子なんだなぁ………力は有るし、胸板なんて逞しかったし………)

 

と、そこでシャルロットは、神谷に抱き締められた時の感触を思い出す。

 

(って!? うわあああっ!? 何考えてるの、僕は!?)

 

慌てて手をバタバタとさせて、その感触を振り払う様にする。

 

「ところでよぉ、『シャル』」

 

するとそこで、何の前触れも無く、神谷がシャルロットの事をそう呼んで来た。

 

「うええっ!? シャ、シャル!?」

 

「? 何驚いてんだよ?」

 

珍妙な声を挙げて驚いた様子を示しているシャルロットに、神谷はそう言う。

 

「え、えっと………そ、その『シャル』って………僕の事?」

 

「おうよ、シャルルだか、シャルロットだか紛らわしくて覚えられねえからな。ならいっそシャルで良いだろうと思ってな。これからそう呼ぶぞ」

 

「う、うん! 分かったよ!」

 

シャルロット改めシャルは、嬉しそうな様子を隠そうともせずにそう返事をした。

 

(シャル………シャルかぁ………うふふ………コレって………ちょっとは特別な存在って事だよね)

 

現在シャルの頭の中はお花畑状態であり、小人さんの様なシャルが数人で踊っている状態である。

 

「オイ、シャル?」

 

「えへへへへ………」

 

神谷が声を掛けているのにも気づかず、シャルはそのまま緩み切った笑顔を浮かべていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして………

 

モノレールは目的のショッピングモールがある駅に到着した。

 

休日だけあって、駅内も人で混雑していた。

 

「わあ、凄い人………」

 

「オイ、シャル」

 

その人波の様子に、シャルが驚いていると、神谷が声を掛けて来た。

 

「ん」

 

見ると、神谷が左手をポケットに入れ、肘を付き出す様なポーズを取っていた。

 

「えっ!? え~と………」

 

「何やってんだ? 早く来いよ」

 

そのポーズの意味を理解したシャルが、一瞬戸惑ったが、神谷が催促をする。

 

「! う、うん」

 

シャルは恥ずかしそうにしながらも、神谷の手をポケットに入れたままの腕に抱き付いた。

 

所謂、腕組みというやつである。

 

「この辺はまだ慣れてねえだろ。逸れると面倒だからな」

 

「神谷は来た事あるの?」

 

「ああ、授業がつまんねぇ日なんかに、学校を抜け出してな」

 

「………アハハハ、神谷らしいね」

 

あっけらかんと言う神谷に少々呆れた様な笑みを浮かべるシャル。

 

2人はそのまま腕組みをした状態でショッピングモールを目指して行く。

 

尚、混雑していた人波は………

 

神谷の異様な風体を見ると、まるでモーゼの十戒の様に割れて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま2人は目的地であるショッピングモール『レゾナンス』へと辿り着いた………

 

「わああ~~~~」

 

シャルはレゾナンスの様子に目を輝かせている。

 

「………ん?」

 

すると、不意に神谷が足を止めた。

 

「? 如何したの、神谷?」

 

「アレ、一夏じゃねえのか? それにアイツ等は………」

 

「えっ?」

 

神谷がそう言ったの聞いて、シャルは神谷の視線の先を見遣る。

 

そこには、見知らぬ赤髪の少女と話している一夏の姿が在った。

 

更にその傍には、赤髪の少女と似ている一夏と同じくらいの少年の姿も在る。

 

「あ、ホントだ。でも、あっちの人達は?」

 

「よう、弾! 久しぶりだな! 蘭も元気だったか!?」

 

シャルがそう言っている間に、神谷はその輪の中へと入って行く。

 

「あ、アニキ!」

 

「!? アニキ!? 神谷のアニキじゃないか!!」

 

「えっ!? 神谷さん!?」

 

一夏がそう言うと、赤毛の少年と赤毛の少女が、驚いた様子で神谷を見やった。

 

「神谷、知り合いなの?」

 

「ああ、五反田 弾とその妹の蘭。昔馴染みでグレン団の1員だ」

 

シャルに、神谷はその兄妹………五反田兄妹を紹介する。

 

「あ、どうも、初めまして。『五反田 蘭』と言います」

 

「『五反田 弾』です。一夏や神谷のアニキとは中学からの付き合いです」

 

「あ、どうも。シャルロット・デュノアです。よろしくね」

 

『五反田 蘭』、『五反田 弾』と挨拶を交わすシャル。

 

「って言うかアニキ。日本に帰ってたんなら言ってくれよぉ。この間一夏から聞いて驚いたんだぜ」

 

「いや、ワリィワリィ。色々とゴタゴタとしててよ」

 

弾の言葉に、神谷は頭を掻く。

 

「暇があったら顔出すぜ。お前んとこの定食も久しぶりに食いてえしな」

 

「ああ、是非来てくれよ。爺ちゃんも喜ぶからよ」

 

「んで? 蘭、オメェも相変わらず一夏にホの字………」

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

と、神谷が蘭にそう言いかけた瞬間………

 

蘭の正拳突きが、神谷のボディに叩き込まれる!

 

「!? オイ、蘭!?」

 

「アニキ!?」

 

「神谷!?」

 

突然拳を繰り出した蘭に驚く弾と、喰らった神谷を心配する一夏とシャル。

 

しかし………

 

「ハッハッハッ! 良いパンチだぜ!!」

 

蘭の拳は、神谷の腹筋で止められており、効いていなかった。

 

「さ、流石アニキ………」

 

「無茶するなぁ………」

 

その様子に、一夏は尊敬の眼差しを送り、シャルは呆れる様に呟く。

 

(ちょっ! 神谷さん! 本人の前でそんな事言わないで下さい!!)

 

拳の効果が無いと知ると、蘭は神谷にそう小声で言う。

 

(分かった、分かった………だがアイツを狙うんなら、いっそ正面からガツンッと言った方が良いぞ。只でさえ色んな奴のアプローチ受けて気づかずに居る奴だからな)

 

(えっ? 色んなって………やっぱり一夏さんモテるんですか!?)

 

(ああ、少なくても明確に好きだって連中が4人………あと男がアイツしか居ねえ事もあって殆どの女はアイツに注目してんな)

 

(うう、やっぱり………)

 

「如何したの?」

 

「何話してんだ?」

 

と、小声で話し合う2人の様子を怪訝に思ったシャルと一夏がそう尋ねて来る。

 

「!? い、いえ! 何でもありません!!」

 

「気にすんな」

 

慌てて誤魔化す蘭に対し、神谷は別に如何って事は無いと言う様に返事をする。

 

「? そうか?」

 

「…………」

 

不思議そうにしながらもそれ以上は追及しない一夏と、内緒にする神谷にちょっと不機嫌そうになるシャルだった。

 

「ところでよぉ、一夏。お前1人で来たのか?」

 

「いや、実はこの前の事(学年別トーナメントの約束)の事もあるから、箒を誘って来ようと思ったんだけど………今朝の一件で台無しになっちまって………」

 

困った顔をしてそう呟く。

 

「んじゃあ、セシリアでも鈴でも誘ってやらぁ良かったじゃねえか?」

 

「いや、アイツ等もう水着持ってるらしいし………」

 

(馬鹿野郎………)

 

相変わらずの唐変木っぷりに、神谷は頭を抱える。

 

その後、神谷は弾と少し昔話に花を咲かせた後、一夏とも別れて、シャルと共に買い物へと戻った。

 

なお、別れた一夏の後ろを、セシリア、鈴、ラウラが追っていたのが見えたが、敢えて見ないふりをしたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レゾナンス・水着売り場………

 

「やっぱりコレだな………」

 

神谷はそう言って、『とある物』を手にする。

 

「すみませ~ん。コレください」

 

と、レジの方から聞こえた声に振り向くと、神谷と『同じ物』を購入している一夏の姿が在った。

 

「えっ!? ええと………コチラをですか?」

 

一夏が持って来た物を見て困惑するレジの女性店員。

 

「? 何ですか?」

 

それに一夏は、真顔でそう返す。

 

「い、いえ………お、お預かり致します………」

 

女性店員は恥ずかしそうにしながら、一夏が購入した物を包装し、代金を受け取る。

 

(へっ! 分かってるじゃねえ、一夏………男の水着はソレよ!!)

 

一夏が去った後、神谷もレジへ向かい、同じ物を購入する。

 

レジの女性店員は同じ様に恥ずかしそうにしていたが、すぐに包装し、代金を受け取った。

 

「うっし!」

 

「神谷。もう終わったの?」

 

とそこで、自分の水着を選んで居たシャルが現れる。

 

「ああ。オメェはもう決まったのか?」

 

「あ、ううん………ちょっとね………神谷に選んでほしいなぁって思って」

 

「? 俺に?」

 

シャルの言葉に、神谷は首を傾げる。

 

「う、うん………駄目かな?」

 

「別に悪かねえが………俺が如何こう言えるもんじゃねえと思うんだがなぁ」

 

「そ、そんな事ないよ! すっごく参考になるよ!」

 

「そうか? まあ、分かったよ」

 

「うん、じゃあ!」

 

とそこで、シャルは視界の端に、一夏を追うセシリアと鈴、ラウラの姿を捉えた!

 

「神谷! ちょっと来て………」

 

するとシャルはそう言うと、神谷の腕を取り、そのまま試着室へと連れ込んだ。

 

(一夏を追って来たんだよね?………どのみち、バレたらからかわれる………)

 

「? オイ、シャル? 何してんだ?」

 

カーテンの隙間からセシリア達の様子を見てそう考えているシャルに、神谷が声を掛ける。

 

「ほ、ほら、水着って実際に着てみないと分かんないし………ね?」

 

「は?」

 

「す、すぐ着替えるから待っててっ!」

 

そう言うと、シャルはいきなり上着を脱ぎ出す。

 

「!?」

 

神谷の顔が驚きで固まる。

 

(ううっ………勢いでこんな事しちゃったけど、どうしよう………)

 

一方、シャルもシャルで、上着を脱いだ所で手が止まってしまう。

 

「オイ、シャル………」

 

「うえっ!? な、何、神………」

 

と、シャルがそこまで言うと、神谷がシャルが背にしている試着室の壁に手を付いて、ズイッと顔を近づけた。

 

壁ドンである。

 

「!?!?」

 

「………誘ってんのか?」

 

そのまま悪そうな笑みでシャルにそう言う神谷。

 

「!? うえええっ!? えっと、その………」

 

その言葉の意味を理解したシャルの脳は一瞬で沸騰し、呂律が回らなくなる。

 

「………フッ、冗談だよ………早く着替えちまえよ」

 

と、そんなシャルの様子を見ると、神谷はそう言って近づけていた顔を離し、後ろを向いた。

 

「…………」

 

そんな神谷の姿に、シャルは一瞬呆気を取られる。

 

(神谷って紳士なのか、エッチなのか、分かんない時があるなぁ………)

 

そんな事を思いながら、幾分が緊張が解けたシャルは、着替えを続ける。

 

(………保つか?………理性………)

 

だが、神谷は背後から聞こえる布が擦れる音で、そんな事を思っている………

 

やはりスケベだ。

 

「もう、良いよ………」

 

と、そこで背後からそう声が聞こえた。

 

「!?」

 

少し驚きながらも振り向くと、そこには………

 

太陽を思わせるイエローの、セパレートとワンピースの中間に位置し、分離している上下を背中でクロスさせて繋げている水着を着たシャルの姿が在った。

 

「ほう………」

 

その姿に、神谷は思わず顎に手を当てて唸る。

 

「変………かな?」

 

「いやあ、中々グッとくる水着じゃねえか」

 

恥ずかしそうに聞いてくるシャルに、神谷は顎に手を当てたままそう答えた。

 

「そ、そう? じゃあ、コレにするね」

 

と、その時………

 

「お客様?」

 

「うえっ!?」

 

「あん?」

 

突如試着室の外から店員の声がして、シャルと神谷は思わず声を挙げてしまう。

 

「………今の声」

 

すると、今度は聞き覚えのある声が響く。

 

そして、試着室のカーテンが開け放たれる。

 

そこには店員を連れた千冬と真耶の姿が在った。

 

「うわぁっ!?」

 

千冬の姿を見て、シャルは思わず悲鳴にも似た声を挙げる。

 

「て、て、て、天上くん!? デュノアさん!?」

 

「何をしている、馬鹿者共」

 

顔を真っ赤にしている真耶と、呆れ顔の千冬。

 

(マ、マズイよ! このままじゃお説教コース………)

 

と、シャルがそう思った瞬間………

 

「行くぞ! シャル!!」

 

「えっ!?………うわぁっ!?」

 

神谷がそう言ったかと思うと、水着姿のままのシャルをお姫様抱っこで抱き上げ、拾っておいた元の服をその腹の上に乗せる。

 

そして膝を軽く曲げたかと思うと跳躍し、千冬達の頭上を飛び越える!!

 

「ふえっ!?」

 

「!? しまった!!」

 

千冬達が慌てて後ろを振り向いた瞬間には、神谷は駆け出していた。

 

「お、お金! 此処に置きます!!」

 

その途中でレジの前を通過した際、シャルが水着の代金を投げ置く。

 

「神谷! 逃げ切れると思っているのか!?」

 

と、千冬がもの凄いスピードで追って来て、2人を捕まえようとする。

 

「逃げるんじゃねえ! 明日に向かうだけだ!!」

 

しかし、それに神谷が不敵に笑いながらそう返したかと思うと………

 

その姿が緑色の光に包まれ、グレンラガンへ変わった。

 

「うええっ!?」

 

「!? 何っ!?」

 

そしてグレンウイングを展開したかと思うと、ブースターを噴射し、そのまま飛行する。

 

「うわっ!? 神谷ぁ!! 貴様ぁ!!」

 

「ハハハハハッ! アバヨ~、とっつぁ~ん!!」

 

「誰がとっつぁんだ!?」

 

まるで三代目の大泥棒の様な捨て台詞を残し、グレンラガンとなった神谷はシャルを抱き抱えたまま、レゾナンスから文字通り飛び出して行った!!

 

後日、この1件で………

 

千冬がまた始末書を書く事になったのは言うまでも無い………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、少しして………

 

「此処までくりゃあ、もうだいじょぶだろ」

 

レゾナンスから大分離れた街並みが見下ろせる丘の上に降り立つグレンラガン。

 

辺りはすっかり、夕暮れになっていた。

 

「もう~、神谷、やり過ぎだよぉ。後で怒られるよ」

 

グレンラガンの腕の中から降りると、シャルは来ていた服を抱えながらそう言う。

 

「そん時はそん時だ!」

 

そう言って、グレンラガンの姿から戻ると、神谷は呵々大笑と笑う。

 

「はあ~、全く………」

 

「それよりシャル。早く着替えちまえよ」

 

「えっ?………!? うわぁっ!?」

 

と、神谷に指摘されて、シャルは自分が水着姿のままの事を思い出す。

 

慌てて、近くにあった茂みの中へ逃げ込む。

 

「の、覗かないでよ………」

 

「そう言われると覗きたくなるのが男の性………」

 

「駄目だって!!」

 

堂々と覗きに行こうとする神谷を、シャルは押し留める。

 

「ヘイヘイ、分かったよ………」

 

若干残念そうにしながら、神谷はシャルが居る茂みから離れる。

 

「もう~~」

 

愚痴る様にそう呟きながら、いそいそと着替えを済ますシャルだった。

 

「終わったか?」

 

「うん………」

 

少しして神谷が声を掛けると、着替え終わったシャルが茂みから出て来る。

 

「ホント………神谷と居ると、いつも凄い事が起きるよね」

 

神谷の隣に並び立つと、シャルはそう言って来る。

 

「良い事じゃねえか。刺激のねえ人生なんざ、退屈なだけだぜ」

 

「アハハ、刺激が在り過ぎても疲れそうだけど………」

 

シャルは苦笑いしながらそう言う。

 

「おっと、そうだ………」

 

と、そこで神谷が、マントの内側をゴソゴソとし出した。

 

「? 如何したの?」

 

「え~と………お! 有った、有った!」

 

少しマントの中をゴソゴソとしていた神谷だったが、やがて綺麗にラッピングされた小箱を取り出す。

 

「ホラよ、シャル。やるよ」

 

「うわっ、と!?」

 

神谷はその小箱をシャルに投げ渡す。

 

「コ、コレ、ひょっとして!?………プレゼント!?」

 

「まあそんなもんだ」

 

腕組みをしながらそう言う神谷。

 

実はこの小箱………

 

弾が去り際にコッソリと神谷に渡してきたの物である。

 

(アニキ! 可愛い彼女にはプレゼントの1つもあげないといけませんよ! コレ良かったら、どうぞ! ダチに頼まれて買ったんスけど、生憎フラれたみたいで………)

 

(弾の奴………気い遣わせちまったか?)

 

今度弾に会った時にお礼をしなければと神谷が思っていると………

 

「あ、開けても良いかな?」

 

「ああ、良いぞ」

 

シャルがそう言って、小箱の包装を解く。

 

中から出て来たのは、銀色のブレスレットだった。

 

「うわあ~~!」

 

感激しながらそのブレスレットを取り出すシャル。

 

銀色のブレスレットが夕日の光を反射し、金色に輝く。

 

「わあ~~」

 

その様にまたも感激しながら、シャルはブレスレットを左手首に填めた。

 

「ありがとう、神谷………大切にするね」

 

シャルは眩い笑顔を浮かべて、神谷にお礼を言う。

 

その頬が赤いのは夕日に染まっているからではない………

 

「気に入ったんなら良かったぜ………さて、そろそろ帰るか」

 

照れ隠しか、少々素っ気なく言うと歩き出す神谷。

 

「あ、待ってよ!」

 

それを追って走り出したかと思うと、シャルは神谷の左腕に抱き付く。

 

「へっ………」

 

神谷はそんなシャルを見て、フッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人はそのまま………

 

夕暮れの中を………

 

腕を組んで帰って行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

臨海学校前の神谷とシャルのデート模様をお伝えしました。
ラブコメは楽しいですねぇ(真理)

次回から序盤の山場、臨海学校編に突入します。
最初はギャグ話となりますが、銀の福音戦はかなりの激戦になるかと。
更にスペシャルゲストも登場しますのでお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第14話『俺たちゃ無敵のグレン団よ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第14話『俺たちゃ無敵のグレン団よ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海っ! 見えたぁっ!!」

 

トンネルを抜けたバスの中でクラスの生徒達が声を挙げる。

 

臨海学校初日………

 

天候にも恵まれ、無事快晴。

 

窓の外に見える海は太陽光を反射して煌めいており、窓を開けると潮の香りが漂って来た。

 

「やっぱ海ってのは良いぜ。いつもデッカくってよぉ」

 

「う、うん? そうだねっ」

 

神谷がそう言うと、隣に座って居たシャルが若干気の無い返事を返す。

 

「んだよ? そんなに気に入ったのか?」

 

「えっ!? あ、うん………ま、まあ、ね。えへへ………」

 

先程からシャルの視線は自分の左手首………神谷がプレゼントしたブレスレットに注がれている。

 

「えへへへ」

 

再びブレスレットに視線を注ぎ、シャルは夢見心地と言った様子になる。

 

(こうなると、貰いもんだってのが後ろめてぇなぁ………)

 

そんなシャルの様子を見て、神谷は若干申し訳無さを感じる。

 

一方、一夏は………

 

早くも彼のラヴァーズの争奪戦に巻き込まれていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから程なくして………

 

バスは目的地である旅館………

 

『くろがね屋』へと辿り着いた。

 

4台のバスから降りた生徒達が整列すると………

 

「いらっしゃいませ~」

 

『歓迎 くろがね屋』と言う文字が掛かれた垂れ幕を持った幽鬼の如き長身をポンチョとソンブレロで包んだ男………『ジャンゴ』

 

「ようこそ、くろがね屋へ」

 

顔面に十字の縫い傷がある禿頭の巨漢………『クロス』

 

「IS学園さん御一行、ご案な~い」

 

ティアドロップ型の黄色いサングラスを掛けたヤ○ザ風な男………『イタチの安』

 

「まあまあ、遠い所からようこそ」

 

短躯の老女………『菊ノ助』

 

「…………」

 

板長姿の無口な男………『先生』

 

「ようこそ、くろがね屋へ。私、当旅館の女将の『錦織 つばさ』です」

 

そして最後に、くろがね屋の七代目女将………『錦織 つばさ』が挨拶をする。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

明らかにカタギには見えない旅館の従業員達の姿を見て、生徒達は沈黙する。

 

(あ、あの………織斑先生?)

 

(何も言うな、山田くん………私もまさかこんな宿だったとは………)

 

と、真耶と千冬が小声でそう話し合っていると………

 

「お久しぶりね、女将さん」

 

リーロンが女将のつばさにそう挨拶を送った。

 

「ああ、久しぶりだね、リーロン。相変わらず男だか女だかハッキリしないね」

 

つばさはリーロンにそんな言葉を返す。

 

「良いじゃない別に~。些細な問題だし」

 

「ふふふ、確かにね………」

 

((((((((((いや、全然些細じゃないんですけど!?))))))))))

 

口には出さず、心の中でそうツッコむ生徒達。

 

(何故こんな事に………)

 

頭痛を感じ、千冬は頭を押さえる。

 

当初、臨海学校で泊まる旅館は、IS学園が毎年利用していた旅館を使う積りであったのだが………

 

その旅館はロージェノム軍の世界征服作戦の影響で客足が遠のき、現在営業休止状態になっていたのである。

 

近場の他の宿も同じ様な状態であり、如何したものかと悩んでいたところ………

 

リーロンから馴染みの秘密旅館を紹介され、止むを得ずそこに宿泊する事を決定したのである。

 

(ちょ~っと授業員が変わってるけど、温泉も有って、料理は美味しいし、良い旅館よ)

 

(アレが『ちょっと変わってる』ってレベルか?)

 

明らかに普通ではない、くろがね屋の従業員の姿を見てそう思う千冬。

 

「………んで? そいつ等がグレンラガンを操る男と、世界で唯一ISを使える男かい?」

 

と、そこでつばさが、神谷と一夏の姿を見てそう言った。

 

「ええ、そうよ」

 

「天上 神谷と! その弟分、織斑 一夏だ! 覚えておきな!!」

 

「よ、よろしくお願いします………」

 

強面の従業員達を前にしても、物怖じせずにそう言い放つ神谷に対し、一夏は逆に思いっきりビビっている。

 

「ふふふ………威勢が良い様だね………気に入ったよ」

 

そんな神谷の姿を見て、つばさは不敵に笑う。

 

「さて………それじゃあ皆さん。お部屋の方へどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられる様になっていますから、そちらをご利用なさって下さいな。場所が分からなければ、何時でも従業員に聞いて下さいまし」

 

接客モードへ戻り、生徒達にそう言うつばさ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

生徒達は未だに従業員達を見たショックから立ち直れず、無言のままに其々の班ごとに部屋へと向かい出す。

 

「一夏! さっさと着替えて海へ行くぜ!!」

 

「お、おう!」

 

初日は終日自由時間となっており、2人はすぐにでも海へ行きたい気持ちでいっぱいだった。

 

「ね、ね、ねー。おりむ~、かみや~ん」

 

「えっ?」

 

「おう、何だ?のほほん」

 

と、そんな2人に異様に遅いスピードを近寄って来てそう尋ねて来る袖丈が異常に長い制服のクラスメイトの『布仏 本音』、神谷曰く『のほほん』。

 

数少ない、神谷と普通に接している生徒である。

 

「おりむーとかみやんの部屋何処~? 一覧に書いてなかったー。遊びに行くから教えて~」

 

「いや、俺も知らない。廊下にでも寝るんじゃねえの?」

 

「俺は断然屋根の上だな! 星空を眺めながら寝るのは気持ち良いぞ~!」

 

「わ~~、私もそれが良いな~」

 

「オイ、男子共」

 

と、神谷と一夏が、のほほんとそう話していると、千冬が声を掛けて来た。

 

「お前達の部屋はコッチだ。付いて来い」

 

「あ、ハイ………じゃあ、また後で」

 

「またな」

 

「バイバ~イ」

 

袖を振りながら神谷と一夏を見送るのほほん。

 

そのまま2人は千冬に付いて行くと………

 

「此処だ」

 

千冬は、教員室と書かれた張り紙がしてある部屋の前で立ち止まり、そう言う。

 

「え? 此処って………」

 

「んだよ、ブラコンアネキ。女共から一夏を取り上げて1人占めか? 相変わらずのブラコンだな~」

 

「…………最初は個室という意見も有ったが、絶対に就寝時間を無視した女子が押しかけてくるだろうという事と、神谷………お前は目を離すと何をし出すか分からないからこうなったんだ」

 

若干怒りを帯びた口調でそう言う千冬だったが、神谷は意にも介していない。

 

「ま、んな事がどうでも良い。一夏! 海行くぞ!!」

 

「合点だ、アニキ!!」

 

そして、ズカズカと教員室に入り込むと荷物を置き、海水浴用の荷物だけを持ち出して、別館へと向かって行く。

 

「………アイツ等………!? イツツツツツツツッ!! く、薬………」

 

そんな2人の姿を見た千冬は最早持病となった神経性胃炎に襲われ、バッグから薬を取り出すと、慌てて飲み干すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別館へと向かっていた一夏と神谷は、その途中で箒と合流した。

 

そして改めて別館を目指していたのだが………

 

その途中の渡り廊下から見える庭で、『ある物』を見つける。

 

その『ある物』とは………

 

『地面から生えているウサミミ』だった。

 

しかも御丁寧に『引っ張って下さい』と書かれた看板まで建てられている。

 

「久しぶりだな、このパターンも」

 

神谷は、そのウサミミを見て、懐かしそうな顔をしてそう呟く。

 

「なあ、コレって………」

 

「知らん、私に訊くな。関係ない」

 

一夏は箒に向かって何か言おうとしたが、箒は突っ慳貪にそう返し、そのままスタスタと行ってしまった。

 

「あ、箒………」

 

「何だ? アイツ姉貴と喧嘩でもしたのか?」

 

その様を見た神谷が、一夏にそう尋ねる。

 

「うん………如何もそうみたいなんだ。詳しい原因までは分からないけど」

 

「そうか………まっ、アイツ等の事だ。すぐにでも仲直りすんだろ!」

 

そう言って神谷は笑い飛ばす。

 

「ハハハハ………それじゃあ、抜いてみるね」

 

一夏はそんな神谷を見て苦笑いすると、地面から生えていたウサミミを引っこ抜こうとする。

 

「待て、一夏。それじゃまどろっこしいだろ」

 

「えっ?」

 

神谷の言葉に一夏が振り返ると、そこには………

 

グレンラガンの姿となり、右手をドリルにして回転させている神谷の姿が在った。

 

「ええっ!?」

 

「退いてろ、一夏!!」

 

驚く一夏にそう言い、グレンラガンは右手のドリルを振り被る。

 

「!? うわぁっ!?」

 

逃げる様に飛び退く一夏。

 

そして次の瞬間には、グレンラガンのドリルが、ウサミミが生えていた地面に突き刺さった!!

 

土が凄い勢いで巻き上げられる。

 

「ちょっ! アニキ! ストップ! ストップ!!」

 

「………ん?」

 

一夏が止めると、神谷も違和感を感じてドリルを止めた。

 

ウサミミが生えていた地面は大きく抉られているが、何かが埋まっていた様子は無い………

 

「ア、アレ?」

 

「んだ?」

 

「一夏さん? 神谷さん? 何をなさっているんですか?」

 

首を傾げている一夏と神谷に、声を掛ける人物が居た。

 

海水浴用の道具を携えたセシリアである。

 

「おう、セシリア」

 

「いや、束さんが………」

 

神谷が挨拶をし、一夏が答えようとしたところ………

 

上空から、何かが高速で降って来た!!

 

「えっ!?」

 

「な、何ですの!?」

 

慌てる一夏とセシリア。

 

落下して来る物体は、2人への直撃コースを取っている。

 

「うわぁっ!?」

 

「キャアッ!!」

 

「チイッ!!」

 

すると、グレンラガンが2人を守る様に立ちはだかる。

 

そして………

 

「グレン! ホオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーームランッ!!」

 

何処からか取り出したバットで、落下して来た物体………

 

巨大な機械仕掛けの人参をホームランした!!

 

[きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?]

 

巨大な機械仕掛けの人参は、女性のものと思われる悲鳴を響かせながら、空の彼方へ帰って行く………

 

「お~、飛んだ飛んだ」

 

「って言うか、大丈夫かな? 束さん?」

 

「あの女が、この程度でくたばるタマかよ?」

 

「………それもそうだね」

 

飛んで行った巨大な機械仕掛けの人参を見上げながらそう言い合う神谷と一夏。

 

「………一体全体何ですの?」

 

セシリアは状況に付いて行けず、そう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸………

 

水着姿のIS学園生徒達が、思い思いに燥いでいる。

 

まさに男から見れば、今この海岸はパラダイスで有った。

 

「ねえ、一夏見なかった?」

 

と、そんなパラダイスビーチの中で、一夏の姿を探している鈴。

 

「ううん。見てないけど………」

 

「そう言えば天上くんも居ないね?」

 

「一緒にビーチバレーしようと思ったのに………」

 

鈴の言葉で、一夏と神谷の姿がビーチに無い事に気づく生徒達。

 

「全く………何処で油売ってんのよ?アイツ」

 

「ホントですわ。折角サンオイルを塗ってもらう予定でしたのに………」

 

ビーチパラソルの下に敷いたビニールシートの上に寝そべっていたセシリアがそう愚痴る。

 

「………それならアタシが塗ってあげるわよ。それそれ!!」

 

と、そんな良い思いはさせないと言う様に、鈴がセシリアのサンオイルを引っ手繰ると、そのまま寝そべっていたセシリアの背に塗り出す。

 

「キャアッ!? つ、冷たい! や、止めて下さい! 鈴さん!!」

 

冷たいサンオイルを塗られて、セシリアは悲鳴を挙げる。

 

「あ、鈴にセシリア。此処に居たんだ」

 

とそこで、2人の姿を見つけたシャルがそう言いながら近寄って来た。

 

「あ、シャルロット………!? うえっ!?」

 

「シャルロットさん?………!? キャアッ!?」

 

シャルの方を見て悲鳴を挙げる鈴とセシリア。

 

何故ならその隣に………

 

「…………」

 

全身バスタオルに包まった、ミイラの様な人物が居たからだ。

 

「だ、誰よ、アンタ!?」

 

鈴がその人物に向かってそう尋ねる。

 

「ホラ、大丈夫だよ」

 

シャルはその人物の肩を摑んで、揺さぶりながらそう言う。

 

「だ、大丈夫か如何かは私が決める………」

 

「!? その声………ラウラさんですの!?」

 

その人物から聞こえた声が、ラウラのものであると気づき、セシリアは驚く。

 

「アンタ………何珍妙な格好してんのよ?」

 

「それがね………一夏に水着姿を見られるのが恥ずかしいんだって」

 

「! シャル!! 私は別に、その様な事は………」

 

アッサリとネタばらししたシャルに、ラウラが抗議の声を挙げると………

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

突如、ビーチに居た生徒達から、黄色い悲鳴が挙がった。

 

何事かとシャル達が視線を遣ると、そこには………

 

黒い水着に身を包んだ千冬が、悠然と佇んでいる姿が在った。

 

傍には同じく、水着姿の真耶の姿も在る。

 

「織斑先生、モデルみたい~」

 

「カッコイイ~~」

 

羨望の眼差しが、千冬へと注がれる。

 

「お前達………天上と織斑を見なかったか?」

 

と、集まって来た生徒に向かって、千冬はそう尋ねる。

 

「えっ? いえ、見てませんけど………」

 

「おかしいですね? 誰よりも先に出て行ったと思ったのですが………」

 

「全く………アイツ等、一体何処に……?」

 

真耶の言葉に、千冬がそう言いかけた時………

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

またも生徒達から悲鳴が挙がる。

 

しかし、今度の悲鳴は千冬の時の黄色いものではなく………

 

心底の恐怖から出ている悲鳴だった。

 

「!? 何だ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

その悲鳴を聞いた千冬とシャル達が悲鳴が挙がった方向を見やる。

 

するとそこには………

 

「荒ぶる怒涛が圧し掛かろうと! ドンと踏みしめ両の足!!」

 

「焼け付く砂に足裏が真っ赤っ赤に燃えようと!!」

 

「「ビーサン無用の漢の意地よっ!!」」

 

焼け付く砂のビーチを素足で踏み締め、仁王立ちしながら啖呵を切っている神谷と一夏の姿が在った。

 

まあ、それ自体は問題では無い………

 

問題なのは、2人の恰好である………

 

今、神谷と一夏は………

 

お揃いのV字型の赤いサングラスを掛け………

 

そしてそのサングラスと同じ色をした………

 

六尺褌を身に着けた姿………

 

 

 

 

 

即ち!!

 

『赤ふん』姿だったのである!!

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

近くに居た生徒達が、悲鳴を挙げて逃げ惑う。

 

「海ってのはでっかくて激しくて! いつ来ても良いもんじゃねえか、一夏!!」

 

「全くだね! アニキ!!」

 

しかし、そんな周りの喧騒も聞こえていないかの様に、神谷と一夏はごく普通に振舞っている。

 

「何が良いものだ! 貴様等! 何て格好をしてるんだ!?」

 

そこで漸く、千冬が2人に向かってそうツッコミを入れる。

 

その後ろでは、シャル達が手で目を覆っている。

 

………ちゃっかり指の間から覗き見ているのはご愛嬌。

 

「あ、千冬姉………」

 

「んだよ? 男の水着姿にケチ付ける気か?」

 

水着姿の千冬を見て、若干見蕩れる様な様子を見せる一夏と、楽しもうとしていたところへ水を差されて不満そうな声を挙げる神谷。

 

「当たり前だ! 六尺褌なぞと………貴様等、何時の時代の人間だ!?」

 

「馬鹿野郎! 真っ赤に燃えるこの褌こそ! 漢の魂の色よ!!」

 

「その通り!!」

 

そこで神谷と一夏は、ボディービルダーの様にポージングを決めた。

 

その際、褌姿なので、露出している臀部が晒される。

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

またも生徒達が逃げ惑う。

 

「着替えろ、馬鹿者共!! そんな恰好で彷徨く………」

 

と、千冬が説教を重ねようとした瞬間………

 

その頭に『何か』が命中した!!

 

「ゴフッ!?」

 

油断していた千冬は真面に喰らってしまい、砂浜に倒れた。

 

「!? 千冬姉!?」

 

「織斑先生!?」

 

「「「「「お姉様!?」」」」」

 

一夏、真耶、生徒達が慌てて駆け寄る。

 

千冬の頭からは、赤い液体が流れている。

 

「!! 千冬姉ぇっ!!」

 

「血、血がこんなに!?」

 

「いやああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ! お姉様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

途端に生徒達から悲鳴が発せられる。

 

しかし………

 

「………アレ? コレって………スイカじゃないですか?」

 

そこで、シャルがそう声を挙げた。

 

「えっ?」

 

真耶が驚きながら良く見てみると………

 

確かに、千冬の頭から流れていた赤い液体は血では無く………

 

スイカの果汁であった。

 

如何やら、先程千冬に命中した物体の正体は、スイカだった様だ。

 

その証拠に、飛び散った破片が、辺りに散らばっている。

 

「と言う事は………」

 

生徒の声で、真耶が慌てて千冬の状態をチェックすると………

 

「………ハア~~、良かった。気絶しているだけです」

 

そんな安堵の声を挙げ、生徒達も取り敢えず安心した様子を見せる。

 

「でも、如何してスイカが………?」

 

と、シャルがそう言った瞬間!!

 

今度はシャル目掛けてスイカが飛んで来た!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

しかし、シャルに命中する直前で、神谷の手が伸び、飛んで来たスイカをキャッチする!!

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん………ありがと、神谷」

 

「何でスイカが飛んで来んのよ!?」

 

そこで、鈴がそうツッコミを入れると………

 

「スイカと言えば夏と海の華! ソイツを投げ付けるってのは! 喧嘩を売られたって事よっ!!」

 

「「「「はあっ?」」」」

 

神谷の無茶苦茶な理論に、シャル達が呆れる様な声を挙げたが………

 

「その通り!!」

 

その瞬間、何処からとも無く、いかにもチャラ男と言った水着の集団が、スイカを携えて現れた!

 

「この辺の海は俺達の縄張りよ! 使うんなら許可を取ってもらおうか!!」

 

「へっ! 何言ってやがる! 海はテメェ等みてぇなチャラい奴等のもんじゃねえ! 太陽よりも熱い漢の故郷よ!!」

 

「面白い。ここいらで俺達、棲鋳寡(スイカ)団に逆らって、生きていた連中はいねえぜ!!」

 

瞬く間に喧嘩へと突入する棲鋳寡団と神谷。

 

「何が棲鋳寡団だ! 俺たちゃ無敵のグレン団よ!! 行くぞ、一夏! シャル! セシリア! 鈴! ラウラ! ついでにメガネ姉ちゃんもだ!!」

 

「おう!」

 

「何だか良く分からないけど………この人達が邪魔なのは分かるよ」

 

「ちょっ!? 私達もですか!?」

 

「諦めなさい、セシリア………ああなったらもう巻き込まれる事は決定よ」

 

「教官にスイカをぶつけるとは………許せん!!」

 

「え、ええっ!? 私もですか!?」

 

神谷が呼び掛けると、多種多様な返事を返しながら、一夏達も立ち上がった。

 

「フフフフ、覚悟しろ!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そのままグレン団の面々は、棲鋳寡団とスイカの投げ合いを開始したのだった………(使ったスイカは、後でスタッフが美味しくいただきました)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間は夕方まで流れた………

 

ビーチから少し離れた、切り立った崖の上に佇む1つの人影………

 

「…………」

 

それは、水着姿の箒であった。

 

ただ只管に、夕日が沈む水平線を眺めている箒。

 

「こんな所に居たのか………何をしている?」

 

と、そんな箒に声を掛ける人物が現れる。

 

「あ、千冬………織斑先生」

 

振り返ると千冬の姿が目に入り、思わず昔の様に呼んでしまおうとした箒だったが、すぐに訂正する。

 

が………

 

「………如何したのですか? そのコブは?」

 

千冬の頭には、まるで漫画の様なコブが出来ており、箒は思わずそう尋ねる。

 

「………何でも無い。気にするな」

 

明らかに気にしない事は出来ないレベルなのだが、千冬の顔が不機嫌を現している事を察した箒は、それ以上追及しなかった。

 

「気もそぞろと言った様子だな………何か心配事でもあるのか?」

 

「それは………」

 

千冬の問いかけに、箒は言葉に詰まる。

 

「束の事か?」

 

「!」

 

「先日、連絡を取っているな?」

 

そう………

 

実は箒………

 

実姉であるISの開発者、篠ノ之 束に連絡を取っていた。

 

現在、各国が精鋭を挙げて捜索している束だが、実は実妹である箒、そして親友である千冬とは何時でも連絡が取れる様になっており、本人達の目の前に現れる事も少なくなかった。

 

相次ぐ一夏を巻き込むトラブルの発生と、ロージェノム軍の襲来に………

 

これまで専用機を持たない箒は苦い思いをしており………

 

このままではいけないと思い、苦肉の策で、現在あまり仲が良いとは言えない姉の束に、専用機の開発を依頼しようとしたのだ。

 

尤も、束は既に箒の専用機を用意しており、すぐにでも届ける積りである。

 

「ラウラのVTシステムの一件は、無関係だそうだ………尤も、ロージェノム軍の工作員の仕業、と言う可能性が浮上したがな」

 

「ハイ………」

 

千冬にそう言うと、箒は再び夕日の沈む海原を見遣る。

 

「明日は7月7日だ………姿を見せるかもしれんな………アイツ」

 

「…………」

 

千冬の言葉に、箒は無言で頷く。

 

(勿論、用意してあるよ。最高性能にして規格外。そして白と並び立つもの! その機体の名前はぁ!!)

 

「『紅椿』………」

 

束に教えられた自分の専用機の名前を呟く箒だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

神谷達は………

 

「チ、チキショウ………覚えてやがれぇ!!」

 

棲鋳寡団の頭らしき人物がそう捨て台詞を残すと、スイカの果汁塗れの姿で退散して行く棲鋳寡団。

 

「へっ! 一昨日来やがれ!!」

 

「か、勝った………ハア、ハア………」

 

勝ち誇る神谷の後ろで、一夏は息を切らして座り込んでいる。

 

「あ~も~、ベトベトですわ~」

 

「やだ~、もう~」

 

「大丈夫? 2人共?」

 

スイカを何発か喰らい、果汁塗れの姿で愚痴るセシリアと鈴に、無傷なシャルが心配そうに声を掛ける。

 

「…………」

 

「脈拍、心拍数、正常………問題無いな」

 

そして、大量のスイカを浴びて気絶している真耶と、それをシャルと同じく無傷なラウラが診察していた。

 

「あ~………何時の間にか、もう日暮れか………」

 

「全く………何で初日からこんな目に遭わなきゃならないのよ……?」

 

水平線の向こうへ沈み行こうとしている夕日を見てそう言う一夏と、愚痴る鈴。

 

「何不満そうにしてやがんだ!? 俺達は喧嘩に勝ったんだぞ!? もっと誇らしげにしろ!!」

 

「お蔭で自由行動の時間が潰れてしまいましたわ!!」

 

不満そうにしている一同に神谷がそう言うが、セシリアがそう反論する。

 

彼女の言う通り、間も無く自由時間は終わりであり、ビーチに残っていた生徒達は、皆疲れた表情をしながら、旅館へと引き上げて行く。

 

多かれ少なかれ、グレン団と棲鋳寡団の被害を被っており、思い通りな自由時間が過ごせなかった様だ。

 

「男が細かい事気にすんな!!」

 

「「「女ですわ〈よ、だよ〉!!」」」

 

「我々も引き上げるぞ」

 

と、神谷達の中でも、ラウラが最初にそう言い………

 

真耶を背負って旅館へと引き上げて行く。

 

「はあ~、もう疲れましたわ~」

 

「温泉入ってゆっくりしよう………」

 

もう気力も残り少ない様子で、セシリアと鈴も引き上げて行く。

 

「さてと………」

 

神谷も旅館へ戻ろうとすると………

 

「あ、神谷。ちょっと良いかな?」

 

シャルがそう言って、神谷を呼び止めて来た。

 

「あ? んだよ?」

 

「アニキ。俺、先に戻ってるね」

 

神谷が立ち止まると、一夏がそう言う。

 

「ああ、分かった」

 

「それじゃあ………(箒の奴、如何したんだろうな?)」

 

一夏はビーチに姿を見せなかった箒の事を気に掛けながら、旅館へと戻って行く。

 

何時の間にか、夕焼けに染まるビーチには、神谷とシャルだけが残される。

 

「んで? 一体何の用だ? シャル?」

 

「え、ええと、その………」

 

改めて問い質す神谷だが、シャルは何やら赤面しながら神谷に視線を合わそうとせず、明後日の方向を見遣りながら口籠る。

 

(うう………やっぱり直視出来ないよ………)

 

赤ふん姿の神谷を直視出来ないシャル。

 

スイカ合戦の間は意識している暇が無かったが、イザ2人っきりとなった瞬間に意識が行ってしまい、思考が定まらなくなっていた。

 

「んだよ? ハッキリ言えよ」

 

「う、うん………えっとね………スイカ合戦中に色々と助けてくれたよね? 改めてお礼を言っておこうと思って………」

 

神谷の言葉で、どうにか落ち着きを取り戻したシャルがそう言う。

 

そう………

 

シャルが無傷だったのは、本人の才能も有るが、危ないところで常に神谷が助けていたからなのだ。

 

「何だ、んな事か。気にすんな! 大事な団員を守るのもリーダーの役目よ!」

 

神谷はサムズアップして屈託無い笑顔でそう言う。

 

「団員か………」

 

と、団員という言葉に、シャルは若干不満そうな様子を見せる。

 

「? どした?」

 

「あ!? う、ううん! な、何でも無いよ!!」

 

しかし、神谷に尋ねられると、そう誤魔化す。

 

「? 変な奴だな………さて、とっとと帰って飯にすっか!」

 

神谷はそう言うと、シャルに背を向けて旅館の方に歩き出した。

 

「う、うん………そうだね」

 

シャルは少しその場で佇んでいたかと思うと………

 

「………えいっ!」

 

やがて、先に歩き出していた神谷を追い掛け、その腕にしがみ付く。

 

「っと、何だよ?」

 

「僕もちょっと疲れちゃった………連れてって、神谷」

 

シャルは神谷の腕を抱き締めながら、上目遣いでそう言う。

 

「ったく、しょうがねえなぁ………」

 

そう言うと神谷は、シャルに腕に抱き付かれたまま歩き出す。

 

「えへへ………」

 

その状態で、凄く幸せそうな笑みを浮かべるシャルだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させれいただきました。

臨海学校編、開幕です。
初日の様子はギャグで飛ばしてみました。
束をホームランするグレンラガン。
赤ふん姿の男2人。
そしてスイカ合戦。
青春でですなぁ(どこが!?)

スペシャルゲストとして、真マジンガーのくろがね屋一向に出演していただきました。
この人達はきっとISを生身で倒せます(今川だからしょうがない)

次回は束が本格登場。
果たしてどんなキャラになるかお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第15話『………ゴメンね』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第15話『………ゴメンね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館・くろがね屋………

 

波乱の初日を終えた生徒達は、全員浴衣に着替えて、現在大広間3つを繋げた大宴会場で夕食を摂っていた。

 

「うん、美味い! 美味いな、この刺身!」

 

一夏は夕食に出された刺身の美味さに舌鼓を打つ。

 

「当然ですぜ、兄さん。何せ先生が捌いたんですからねぇ」

 

近くに控えていたイタチの安がそう言って来る。

 

「…………」

 

その先生は、現在生徒達の目の前で、魚を一瞬にして刺身に捌いている。

 

と、先生が刺身にした魚の骨を、横に置いておいた水槽の中へ入れたかと思うと………

 

何と!!

 

骨だけの魚が泳ぎ出したではないか!!

 

まるで斬られた事に気づいていないかの様に………

 

「「「「「「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

それを見た生徒達から驚きの声が挙がる。

 

「嘘っ!? 如何やったの!?」

 

「これ何の手品!?」

 

「ハッハッハッ! 相変わらず先生の刃物捌きは素晴らしいね~」

 

「ハ、ハハハハハ………」

 

イタチの安は先生の腕を褒めるが、一夏は戦慄を覚えていた。

 

「さあさあ、どうぞどうぞ」

 

そう言いながら、菊ノ助は生徒のコップに飲み物を注ぐ。

 

「あ、ありがとうございます………」

 

「すみませ~ん! こっちに飲み物の御代わりお願いしま~す!」

 

と、そこでやや離れた席に居た生徒が、菊ノ助にそう声を掛ける。

 

「ハイ、ただいま………」

 

菊ノ助がそう返事を返したかと思うと、一瞬で飲み物の御代わりを持ってその生徒の前に現れた。

 

(!? 今、一瞬で目の前に!?)

 

「ささ、どうぞどうぞ」

 

驚いている生徒のグラスに、菊ノ助は飲み物を注ぐ。

 

そんな中で神谷は………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「ぬううううううううんっ!!」

 

クロスと腕相撲で対決していた。

 

どちらも互角の力を見せている。

 

「や~るね~、お兄さん。クロスと力比べで対等に渡り合うたぁ」

 

審判を務めているジャンゴが、神谷に向かってそう言う。

 

「へへっ! 当たり前だ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

「中々やるなぁ、兄さん。なら………ちょいと本気を出させてもらうぜ!」

 

と、神谷がジャンゴにお決まりの台詞を返していると、クロスがそう言って更に力を上げた!!

 

「!? おわっ!? こなくそおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

一瞬腕を倒されそうになった神谷だが、気合で持ち直す。

 

「神谷! 頑張って!!」

 

セコンドの様な位置に付いていたシャルが、神谷へ声援を送る。

 

「あたぼうよ! うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「ハハハハッ! 無理すんな、兄さん! 降参しちまえよ!!」

 

「馬鹿言うな! 男は死んでも喧嘩には負けねえ!!」

 

「面白い………捻り潰してやるぜ!!」

 

「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」

 

更に白熱した戦いが展開される。

 

何時の間にか、生徒達の注目も2人に集まっている。

 

………と!

 

バギャッ!!と言う音がしたかと思うと、神谷とクロスが腕を乗せていた台がバラバラになってしまった!!

 

「おわっ!?」

 

「うおおっ!?」

 

急に支えを失い、神谷とクロスは倒れる。

 

「イテテテテテ………」

 

「むう、こりゃ参ったな………」

 

頭の後ろを擦りながら起き上がる神谷と、やられたという顔になるクロス。

 

「こりゃ~、引き分けだな~」

 

審判を務めていたジャンゴがそう判定を下す。

 

「煩いぞ! お前達は静かに食事する事が出来んのか!?」

 

と、そこで………

 

千冬がそう言いながら、宴会場に乗り込んで来た。

 

「お、織斑先生………」

 

「んだよ、折角楽しんでるところに水差すなよ」

 

生徒達は沈黙するが、神谷だけはそう反論する。

 

「神谷………またお前か。何度騒ぎを起こしたら気が済むんだ?」

 

神谷に向かって説教を始めようとする千冬だったが………

 

「そう叱らないでおくんなせえ、先生」

 

「遊びに誘ったのはこっちでしてね~」

 

「そうですぜ! 折角の臨海学校! 野暮な事は言いっこ無しにしましょうや!」

 

「そうそう」

 

クロス、ジャンゴ、イタチの安、菊ノ助がそう弁護して来た。

 

「ううっ!?」

 

強面のくろがね屋従業員の面々に迫られて、流石の千冬も1歩下がる。

 

「すみませんね~、先生。ウチの従業員が迷惑をお掛けした様で………」

 

と、何時の間にか現れた女将のつばさが、そんな千冬にそう言って来る。

 

「(!? 何時の間に!?)い、いえ、別にそんな事は………」

 

「お詫びと言ってはなんですが………当旅館自慢のお酒を用意させて頂きました。宜しければどうぞ」

 

「じ、自慢の酒………」

 

その言葉に、千冬は一瞬笑みを浮かべそうになる。

 

「………ハッ!? と、兎に角! 余り騒ぎを起こすな! 鎮めるのが面倒だ!!」

 

しかし、生徒の前である事を思い出すと、すぐに取り成してそう言い残すと去って行った。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

残された生徒達は、呆れた様な表情を見せながらも、説教は喰らいたくないと思い、大人しく食事を続ける。

 

………神谷以外。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

食事も終わり、生徒達は其々の部屋で自由時間となっていた。

 

持って来ていたゲームをする者達………

 

恋バナに華を咲かせている者達………

 

青春のお約束、枕投げに興じる者達………

 

皆、思い思いに自由時間を楽しんでいる。

 

そんな中………

 

教員室へと向かう人物の姿が在った………

 

「うっ、うっ………酷い目に遭いましたわ………」

 

セシリアだ。

 

何やら疲れた様子を見せながらも、教員室………

 

即ち、一夏の部屋を目指して行っている。

 

実は先程の宴会の際………

 

セシリアは多大な労力を使い、一夏の隣の席を確保したものの………

 

慣れない正座をしていた為、足の痛みが酷く、碌に会話も出来なかったのだ。

 

すると一夏は、そんなセシリアを不憫に思ったのか、後で自分の部屋に来いと誘ったのある。

 

男が女を自分の部屋に誘うと言うのは、所謂『そういう意味』にも取れる事なのだが、一夏の事である………

 

そんな積りは微塵も無いだろう。

 

だが、それを『そういう意味』だと捉えたセシリアは、ちゃっかり用意して来た所謂勝負用の下着を身に着け、高級な香水をして一夏の部屋へ向かおうとしたのである。

 

しかし、その直前に同じ部屋の、のほほん達を含めた生徒達にその事を気づかれてしまい、色々と揉みくちゃにされたのである。

 

「でも、これでやっと一夏さんに会えますわ………ん?」

 

と、教員室の前まで来たセシリアは、あるものを発見する。

 

「「「「…………」」」」

 

それは、教員室のドアの前に座り込み、聞き耳を立ててると思われる、箒、鈴、シャル、ラウラの姿だった。

 

「如何なさいましたの?」

 

思わず集まっていた一同にそう尋ねるセシリア。

 

「しっ!」

 

すると、鈴が黙っていろと促す。

 

「千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?」

 

そこで、教員室から一夏の声が聞こえて来た。

 

「そんな訳あるか、馬鹿者………んっ! す、少しは加減をしろ………」

 

今度は千冬の声が聞こえて来る。

 

「はいはい。んじゃぁ………ここは………と」

 

「くあっ! そ、そこは………やめっ、つぅっ!」

 

「すぐに良くなるって。大分溜まってたみたいだし………ね」

 

「あぁぁぁっ!」

 

そのまま一夏と千冬の会話が続く。

 

それはどう聞いても………

 

所謂『アレ』な会話だった。

 

「こ、こ、これは一体、何ですの?」

 

それを聞いたセシリアは、顔を真っ赤にしながら一同と同じ様に聞き耳を立てる。

 

「「「「…………」」」」

 

箒達の顔も真っ赤に染まっている。

 

そして更に良く聞こうと襖に寄り掛かる。

 

すると………

 

5人分の体重に耐え切れなくなった襖が、中へ向かって倒れた!!

 

「「「「「わああああぁぁぁぁぁっ!?」」」」」

 

当然、襖に寄り掛かっていた5人は、そのまま教員室の中へ雪崩れ込んで行く。

 

「………何をしている、お前達?」

 

そんな5人に怒りの籠った千冬の声が掛けられる。

 

「…………」

 

一夏も驚きの表情で固まっている。

 

………因みに、一夏が千冬にしていたのは、マッサージだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、千冬は5人を正座させ、説教を喰らわせていた。

 

「マッサージだったのですか………」

 

「しかし良かった。てっきり………」

 

そんな中で、声の正体がマッサージだった事に安堵の息を吐くセシリアとラウラ。

 

「何やってると思ったんだ?」

 

「それは勿論、男女の………」

 

「「「「ストップッ!!」」」」

 

一夏の疑問に、ラウラが答えようとしたところ、他のメンバーが慌てて口を塞ぐ。

 

「べ、別に………」

 

「特に何と言うワケでは………」

 

「オ、オホホホホホ………」

 

「?」

 

誤魔化す様な鈴、箒、セシリアに、一夏が首を傾げる。

 

「あ、あの、織斑先生………神谷は如何したんですか?」

 

と、そこでシャルが、同じ部屋に居る筈の神谷の姿が無い事を尋ねる。

 

「…………」

 

その事を尋ねられた瞬間に、千冬は更に不機嫌そうな顔になる。

 

「「「「「!?」」」」」」

 

マズイ事を聞いたかと、思わず固まる一同。

 

「………神谷の奴なら夜の散歩だとか抜かして出て行ったぞ」

 

「えっ?」

 

「出て行ったって………許可したのですか?」

 

「出すワケないだろう!! アイツめ! 人がマッサージを受けている隙を突いて、堂々と出て行ったわ!! ええい! 思い出しても腹が立つ!!」

 

箒の問いに、千冬は怒りながらそう言ったかと思うと、部屋に備え付けられていた冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

 

「んぐっ!! んぐっ!! んぐっ!! んぐっ!!」

 

そして蓋を開けると一気に飲み干す!

 

「ちょっ! 千冬姉! そんなに一気に飲んだら駄目だよ! それに生徒の前で!」

 

それを見た一夏が慌てて止めるが………

 

「これが飲まずにいられるか!!」

 

千冬は聞き入れず、新たな缶ビールを取り出すと、蓋を開けて再び一気に飲み干す!!

 

「プハーッ!! オイ、一夏!! 女将に言って酒を貰って来い!!」

 

「ええっ!?」

 

「早くしろ!!」

 

弟とはいえ、仮にも生徒に自分が飲酒をする酒を持って来いと言う千冬に戸惑う一夏だったが、千冬は有無を言わせぬ口調でそう言い放つ。

 

「わ、分かりました!」

 

その迫力に負け、一夏は慌てて女将の元へと向かったのだった。

 

「んぐっ!! んぐっ!! んぐっ!! んぐっ!!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

一夏が去った後も、凄い勢いで缶ビールを飲み干して行く千冬に、箒達は唖然とする。

 

「プハーッ! ところでお前等!!」

 

「「「「「!? ハ、ハイ!!」」」」」

 

と、突然話を振られて、箒達は思わず背筋を正す。

 

「お前等一体、アイツの何処が良いんだ?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

千冬の問いに戸惑う一同。

 

アイツとは箒、セシリア、鈴、ラウラにとっては一夏。

 

そしてシャルにとっては神谷の事に他ならない。

 

「わ、私は別に………以前より腕が落ちている不甲斐ない姿が腹立たしいだけですので」

 

「アタシは、腐れ縁なだけだし………」

 

「わ、私はクラス代表としてしっかりしてほしいだけですわ」

 

「じ、自分は………アイツの中に未熟ながら『漢』というものを見ました」

 

箒、鈴、セシリア、ラウラがそう答える。

 

「ふむ、そうか………ではそう一夏に伝えておこう」

 

「「「「言わなくていいです!!」」」」

 

思わず声を揃えてそう言う箒達に、千冬は思いっきり笑いながら、新しいビールを飲み干した。

 

「………で、デュノア。お前は如何なんだ?」

 

「え、ええっ!? 僕もですか!?」

 

「当たり前だ。しかし何だ………お前の場合、ホントにあんな男の何処が良いんだ?」

 

千冬は心底不思議そうにそう尋ねる。

 

「アイツは馬鹿だぞ。オマケに向こう見ずな上に無鉄砲………アイツのせいで一夏が不良の道に………」

 

千冬は手に持っていた缶ビールの空き缶を握り潰しながら愚痴る様に言う。

 

「神谷はそんな人じゃありません!」

 

と、そこでシャルが立ち上がり、千冬に向かって抗議した!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

シャルの思わぬ反応に千冬と箒達は驚く。

 

「確かに神谷は何時も滅茶苦茶で無茶苦茶ばっかりしてるかもしれません………でも! 神谷は何時だって自分が言った事を曲げない! それを現実にして来た!! そう言う漢なんです!!」

 

そのままシャルは、神谷に付いて熱弁する。

 

「まあ、確かに………口先だけの男ではないな………」

 

「アイツに助けられた事って、結構有るわね………」

 

「あの方と一緒に居ると、時々私達の心まで熱くなる様な感覚が致します………」

 

「もし奴が只の無鉄砲な奴だとすれば、とっくの昔に死んでいる筈だ………」

 

そんなシャルの言葉に、箒達も自分達から見た神谷の感じを述べ始める。

 

「………ハア~~、分かった、分かった………悪かった」

 

その言葉に、千冬は折れた様に謝罪する。

 

「まあ、確かに………アイツは今時珍しい大した男だ。だがな、デュノア………気を付けろ」

 

「えっ?」

 

「ああいう男は1人で勝手に走って行ってしまう奴だ。待っているだけでは疲れるぞ。追い掛けて行くぐらいの気骨で行かんとな………」

 

ニヤリとした笑みを浮かべながら、千冬はそう言う。

 

「しかしな………そいつの後ろを追い掛けて走っていると………いつの間にか見た事もない景色が見られる様になる」

 

「………ハイ」

 

千冬の言葉に思う所があり、シャルは頷く。

 

「しかし、まあ、なんだ………お前達もアレだ………まどろっこしい事するくらいなら、いっそのこと押し倒してやったらどうだ?」

 

「「「「「!? ええええっ!?」」」」」

 

突然の千冬のトンでも発言に狼狽する箒達。

 

「馬鹿者ぉっ! 女だったら惚れた男は実力でモノにしろぉ!! それぐらいできなくて、何が女かぁ!?………ヒック」

 

「「「「「ヒック!?」」」」」

 

良く見れば、千冬の顔が真っ赤に染まっている。

 

そして足元には、何時の間に空けたのかと思う程の、大量のビールの空き缶が転がっていた。

 

「ただいま~………って、千冬姉!? 何時の間にそんなに飲んだの!?」

 

と、そこで酒を持った一夏が帰って来たが、既に出来上がっている様子の千冬を見て驚愕する。

 

「おお~~、帰ったか~、一夏~………酒寄こせ」

 

開口1番にそう言う千冬。

 

「だ、駄目だよ! それ以上飲んだら、飲み過ぎ………」

 

「煩い! 良いから酒を寄こせ!!」

 

一夏の忠告も聞かず、千冬は一夏から強引に酒を奪い取る。

 

結局千冬は、更に酒を飲みながら、延々と愚痴(主に神谷の事)を言い続けた。

 

一夏と箒達は、千冬が酔い潰れて眠るまで、その愚痴に付き合わされたのだった………

 

尚、この過度の飲酒が後に発覚し………

 

千冬は3ヶ月の減俸処分を受ける事となった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その千冬がヤケ酒を呷る原因となった神谷は………

 

「オラオラ! グレン団の鬼リーダー! 神谷様が相手だぁ!!」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「やるね~、お兄さん」

 

「ほっほっほっ、やっぱり若い人は凄いね~」

 

「こりゃ俺達も負けてらんねえな」

 

「おうよ! いっちょ派手に行くぜ!!」

 

「!!」

 

くろがね五人衆と共に、旅館を襲撃に来たヤ○ザ相手に大立ち回りを演じていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

臨海学校2日目………

 

本日は午前中から夜まで、丸1日を使ってISの各種装備試験運用と、データ取りが行われる。

 

「良し、全員………うっぷ!!………揃ったな………うぶっ!!………これより………おぶっ!!………各班ごとに振り分けられた………おえっ!!………ISの装備試験を行う様に………うえっ!!」

 

何度か吐きそうになりながら、千冬が生徒達にそう言う。

 

完全に二日酔いで状態である………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そんな千冬の姿に言葉が出ない生徒達。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

事情を知っている一夏達は目を逸らす。

 

「あ、あの、織斑先生………大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫だ………問題無い………おぼっ!!」

 

心配して尋ねて来た真耶にそう返す千冬だが、返事をしただけでも吐きそうになる。

 

「んだよ、頼りねえな………ブリュンヒルデの名が泣くぞ、千冬」

 

事情を知らない神谷は、そんな千冬の姿を見てそう言い放つ。

 

(誰のせいでこうなったと思っている!?)

 

そう声を挙げたかった千冬だったが、口を開くと吐いてしまいそうになるので、声に出せずに居た。

 

「と、取り敢えず、皆さん! 迅速に行動して下さい!」

 

千冬に代わる様に、真耶がそう言った。

 

その言葉で、生徒達はそれぞれに行動を始める。

 

「あ、ああ、そうだ………篠ノ之。お前はちょっとコッチに来い」

 

「? ハイ」

 

打鉄の装備を運ぼうとしていた箒が、千冬に呼ばれて戸惑いながらもそちらへ向かう。

 

「お前には今日から専用………」

 

「ちーちゃ~~~~~~~んっ!!」

 

と、千冬が何かを言いかけた瞬間………

 

それを遮る様な声が聞こえて来た。

 

全員がその声が聞こえて来た方を向くと、そこには………

 

凄まじいスピードでこちらに向かって来る人影が在った。

 

まるで世界を縮める最速のアルター使いの男を思わせる速度である。

 

「………束」

 

その人影を見て呆れる様に呟く千冬。

 

そう………

 

その人影の正体は、ISの生みの親………

 

稀代の天才と称される『篠ノ之 束』その人であった。

 

「やあやあ! 会いたかったよー! ちーちゃん! さぁ、ハグハグしよ! 愛を確かめよう!!」

 

そう言いながら、束は千冬に抱き付く。

 

「うぐっ!?」

 

その瞬間………

 

辛うじて堪えていた千冬のダムが………

 

決壊した………

 

「? ちーちゃん?」

 

何時もならアイアンクローを掛けて止めて来る千冬が、アッサリとハグさせた事に疑問を感じた束が千冬の顔を見上げた瞬間………

 

千冬の口から(千冬さんの女性としての尊厳を守る為、伏せさせていただきます)が『発射』された。

 

「!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

束の悲痛な悲鳴が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くお待ち下さい…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………御免なさい、ちーちゃん」

 

洗浄と着替えを終えた束が、千冬に向かってそう謝罪する。

 

「………いや、良いんだ………寧ろ忘れてくれ………」

 

同じく洗浄と着替えを終えた、げっそりとした様子の千冬が力無くそう言って来る。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一夏を含めた生徒達と真耶も、無言で千冬から目を逸らしていた。

 

「よう、ウサミミ女! 久しぶりだな!!」

 

とそこで、空気を読まない神谷が、束に向かってそう挨拶をした。

 

「あ、ああっ! かみやん! 久しぶりー!!」

 

すると束は、気まずいこの空気を変える様に、陽気な様子に戻ってそう挨拶を返す。

 

「相変わらずみてぇーだな。まあ、逆に安心したぜ」

 

「うっふっふ~! この束さんがそう簡単に変わるワケないでしょお! それよりかみやん! 昨日はいきなり酷いじゃな~い! 折角派手に登場しようと思ったら、問答無用でホームランするなんて!!」

 

「馬鹿野郎! いきなり落ちてきたらホームランすんのが男の道だろう!!」

 

「そっか~………男の道じゃあ、しょうがないね~」

 

そのまま神谷と束は、2人だけしか分からない会話を展開する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

生徒達は全員ポカ~ンとしており、「何言ってるんだ、コイツ等?」、「俺に分かる様に説明しろ!!」状態になっている。

 

と、そこで、束は今度は箒の方を向いた。

 

「やあ!」

 

「………どうも」

 

フレンドリーに話し掛ける束に対し、箒の態度は何処か他人行儀だった。

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ? おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが………」

 

と、そこで束の手つきが怪しくなった瞬間………

 

箒は何処かからか取り出した木刀で、束をどつく!!

 

「殴りますよ」

 

「な、殴ってから言ったぁ! 箒ちゃん酷~い!! ねえ、いっくん酷いよねえ?」

 

「は、はあ………」

 

突然話を振られた一夏は、戸惑いながら気の無い返事を返す。

 

「オイ、束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒が困っている」

 

「あ~、ハイハイ~」

 

千冬がそう言うと、束は生徒達の方へ向き直った。

 

「………?」

 

その様子に違和感を覚える千冬。

 

彼女が知る束は、自分の興味の無い事にはとことん無関心になる性格で、それは人間の場合も例外ではなく箒・一夏・千冬・神谷の4人だけに関心を持っていて、後はかろうじて両親を「身内」として判別できるくらいであった。

 

それ以外の人間には興味がないらしく、身内以外から話し掛けられると非情に冷淡な態度で明確な拒絶の意思を示す筈だったが………

 

目の前の束は、確かに身内にフレンドリーだが、他人を拒絶している様子は無い………

 

「どうも~! 皆さん初めまして~! 私が天才の束さんだよ~! ハロ~~!………ハイ、終わり!」

 

生徒達にそう挨拶する束。

 

簡潔な内容ではあったものの、そこに他人を拒絶している様な様子は見受けられない。

 

「束って………」

 

「ISの開発者にして、天才科学者の!?」

 

「篠ノ之 束?」

 

鈴、シャル、ラウラがそう驚きの声を挙げる。

 

「ふっふ~ん………さあ! 大空をご覧あれ!!」

 

するとそこで、束は目を光らせた後、大空を指差してそう言い放つ。

 

その瞬間………

 

突如、銀色のクリスタルの様な塊が、一同の眼前に降って来た!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然の出来事に驚く一同。

 

「じゃじゃ~ん! これぞ箒ちゃん専用機こと、『紅椿』!!」

 

束がそう言って、リモコンらしき物のスイッチを押すと、そのクリスタル状の物体が展開し、真紅のISの姿となる。

 

「全スペックが現行ISを上回る、束さんお手製の第4世代ISだよ~!」

 

束は嬉々として、トンでもない事をサラリと説明する。

 

「何たって、紅椿は………!? うっ!?」

 

とその時………

 

説明を続けようとした束がフラつく。

 

「? 束?」

 

「如何かしたのですか?」

 

「う、ううん………何でも………!? ゴハッ!?」

 

千冬と箒がそう尋ねた瞬間!!

 

突如束は、口から大量の血を吐き出した!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一夏達と生徒達が驚愕に包まれる!

 

「!? 束!?」

 

「!! 姉さん!?」

 

「あっ………」

 

千冬と箒の悲鳴が挙がると、そのまま倒れそうになる束。

 

「姉さん!!」

 

しかし、間一髪のところで、箒が受け止めた。

 

「姉さん! しっかり!!」

 

「う、うう………箒ちゃん………御免なさいね」

 

「えっ?………」

 

突然の謝罪に、箒は困惑する。

 

「私がISを開発したせいで………箒ちゃんにはいつも苦労を掛けちゃったね………多分私が死んでも………その苦労はずっと箒ちゃんに付きまとう………」

 

「姉さん!? 何を言っているんですか!?」

 

「けど心配しないで………紅椿がある限り………箒ちゃんは強いわ! 世界一!」

 

「世界一!?」

 

「そう! 世界一だよ! 箒ちゃん!! 貴方は紅椿を手に入れたたった今から人間を超える! 貴方は超人よ! いや! それ以上の者よ!!」

 

狂気に取り憑かれたかの様に、束はそう語り出す。

 

「箒ちゃん! 貴女は!………神にも悪魔にもなれる!!」

 

「か、神にも………悪魔にも………」

 

「そうよ! 神となって人類を救う事も! 悪魔となり世界を滅ぼす事も! 貴女の自由だよ! 貴女が選べる!!」

 

「わ、私が………世界を………」

 

「貴女の好き勝手に世界を手玉に取るが良いわ! ISの怪物! 紅椿が!! 貴女の望み通りに力を貸してくれるわ!!」

 

束はそこで立ち上がり、紅椿の姿をバックに、両腕を広げるポーズを取ってそう箒に向かって語った。

 

「あ~はっはっはっはっはっ!! 篠ノ之 箒!! 世界は貴女の物よぉ!!………ぐっ!?」

 

そこで束は、バタリと倒れた。

 

「姉さん!!」

 

慌てて駆け寄り、助け起こす箒。

 

「た、只1つの心残りは………紅椿を操縦する箒ちゃんの勇姿を見れない事………」

 

「姉さん!? 嫌だ!! 死なないで!!」

 

「箒………ちゃん………」

 

と、最後にそう呟いて、束は瞳を閉じた………

 

「!? 姉さああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!」

 

「束えええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

箒と千冬は、束の死に涙を流して悲しむ。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一夏達や他の生徒も、戸惑いながらも沈痛な表情を浮かべている………

 

………と、

 

「………オイ、もういんじゃねえのか? 束」

 

神谷が束の亡骸に向かってそう声を掛けた。

 

「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」

 

その言葉に一同が戸惑いの声を挙げた瞬間………

 

「………そうだね!」

 

死んだと思われていた束がムクリと起き上がる。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一同の顔が、今度は驚きで固まった!!

 

「あちゃ~~、着替えたのにまた汚しちゃったなぁ~」

 

そう言いながら束は、服に付いた吐血の血………いや、血糊を拭く。

 

「ね、姉さん………」

 

「束~~~」

 

余りにも質の悪い冗談に、箒と千冬の怒りが頂点に達する。

 

「おりょ? 如何したの箒ちゃん、ちーちゃん? あ~! そっか!! 私の才能に嫉妬したんだね!! フッ………天才は辛いな~」

 

本格的にボコッてみました………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

箒と千冬にボコボコにされ、最早誰だか分からない顔になった束が、紅椿のフィッティングとパーソナライズを行っていた。

 

「全く~~ちょっとしたジョークじゃな~い」

 

ボコボコの顔でそう愚痴る束。

 

「ジョークでも、やって良い事と悪い事がある」

 

しかし、千冬がピシャリとそう言い返す。

 

「全く………心配した私が馬鹿だった」

 

紅椿を装着している箒がそう呟く。

 

「メンゴだよ~、箒ちゃん………ハイ! フィッティング終了~。超速いね。流石私」

 

束が箒に謝罪すると同時に、紅椿のフィッティングが終了した。

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの? 身内ってだけで」

 

「だよねぇ。何かズルいよねぇ」

 

と、その様子を見ていた生徒達から、思わずそんな声が挙がる。

 

「…………」

 

すると、その声が聞こえたのか、束が視線を向ける。

 

「「「「「!?」」」」」

 

思わず身構える生徒達だったが………

 

「………ゴメンね」

 

束は一瞬、涙が零れそうなくらい悲しそうな顔をしてそう言った。

 

「「「「「!?」」」」」

 

思いも寄らぬ言葉に、驚きを示す生徒達。

 

「………そんじゃあ、箒ちゃん! 試運転も兼ねて飛んでみてよ! 箒ちゃんのイメージ通りに動く筈だから!!」

 

しかし、すぐにいつもの明るい調子に戻り、箒にそう言う。

 

「ええ………それでは試してみます」

 

すると箒は目を閉じて、意識を集中させ始めた。

 

その次の瞬間………

 

紅椿は、凄まじい速度で上昇する!!

 

「おわっ!?」

 

「ヒューッ」

 

その際の衝撃波で舞った砂から目を守る一夏と、その様を見て口笛を吹く神谷。

 

「何コレ? 速い!!」

 

「コレが………第4世代の加速………と言う事は?」

 

その凄まじい速度に、鈴とシャルがそう呟く。

 

「どうどう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょう?」

 

上空を飛び回っている箒に、束はそう通信を送る。

 

「え、ええ、まあ………」

 

「じゃあ、刀使ってみてよ。右のが雨月(あまづき)で、左のが空裂(からわれ)ね。武器属性のデータを送るよ~!」

 

束が空中に指を躍らせたかと思うと、箒は2本の刀を抜き放ち、空中で静止した。

 

「雨月、行くぞ! ふっ!!」

 

そう言って先ず、右の刀・雨月を振るう。

 

すると、刀身から赤いレーザーが放たれ、そのまま雲を突き抜けて、更に上空へと消えて行った………

 

「おお………」

 

放った箒自身も、驚きに目を見開いている。

 

「良いね、良いね! 次はコレを撃ち落としてみてね!! は~いっ!!」

 

と、束がそう言ったかと思うと、その隣に鉄の箱………

 

ミサイルポッドが出現!!

 

そこから紅椿目掛けて多数のミサイルが放たれた!!

 

白煙の尾を引いて紅椿を装着した箒に迫るミサイル群。

 

「エイッ!!」

 

迫るミサイル群に向かって、空裂を振るう箒。

 

すると今度は、斬撃がエネルギー波となってミサイル群を直撃。

 

全てのミサイルを1撃で撃墜した!!

 

「やるな………」

 

「スゲェ………」

 

「ううん! 良いね、良いねぇ! うふふふふ!!」

 

ラウラと一夏がそんな感想を漏らす中、束は自慢げに笑い声を挙げる。

 

「…………」

 

だがその姿に、千冬は良く分からない違和感を感じていた。

 

「やれる………この紅椿なら!」

 

箒は紅椿のスペックにそう感嘆の声を漏らす。

 

と、その時………

 

「た、大変です!!」

 

突然真耶が、そう大声を挙げた!!

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「如何した?」

 

「こ、コレを!!」

 

真耶はそう言って、小型端末を千冬に手渡す。

 

「特命任務レベルA………現時刻より対策を始められたし…………」

 

それを見た千冬は厳しい顔となり、真耶と何やら会話を繰り広げ始める。

 

「何だ?」

 

「何か事件が起こったっぽいなぁ………」

 

その光景に首を傾げる一夏と、どこかワクワクしている様子の神谷。

 

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務へと移る! 今日のテスト稼動は中止! 各班はISを片付け旅館へ戻れ! 連絡があるまで各自室内待機する事! 以上だ!」

 

すると、生徒達の方に向き直った千冬がそう言い放った。

 

突然の中止命令に、生徒達から戸惑いの声が挙がるが………

 

「とっとと戻れ! 以後、許可無く室外に出た者は、我々で身柄を拘束する!! 良いな!!」

 

千冬の重ねての一喝で、慌てて片づけを始める。

 

「専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒ! それと篠ノ之も来い! あと神谷! お前もだ!!」

 

「はい!!」

 

「おう!!」

 

降りて来た箒と、神谷が威勢良くそう返事を返す。

 

一夏達も、戸惑いながらも指示に従うのだった。

 

「…………」

 

そんな中、只1人………

 

思い悩んでいる様な様子を見せている束の姿が在ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

遂に登場した原作の中核人物の束。
この作品では、所謂白い束になります。
ただ、真実を話すのは矢鱈と勿体ぶります。
今川監督作品の人物みたいに(笑)

そして遂にあの任務が発動します。
しかし、思わぬ事態でグレン団は最大のピンチを迎える事に!?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第16話『俺とした事が………ドジ踏んじまったぜ………』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第16話『俺とした事が………ドジ踏んじまったぜ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館・くろがね屋………

 

予定が中止され、専用機持ちと神谷が旅館の一番奥にある宴会用の大座敷へと集められていた。

 

座敷の中は、教師陣と様々な機材が運び込まれており、まるで作戦司令室の様になっている。

 

「では、現状を説明する」

 

千冬がそう言い、話を切り出した。

 

照明が消されて薄暗い部屋の中に、作戦図の様に大型の空中投影ディスプレイが浮かび上がっており、神谷達はその周りに座り込んで話を聞いている。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼動中だったアメリカ・イスラエル共同開発の第3世代の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御を離れて暴走。監視空域より離脱した、との連絡が入った」

 

千冬のその言葉に、シャル達は緊張した面持ちを見せるが、事情が分からない一夏と箒は戸惑う。

 

「…………」

 

一方神谷は、何やらワクワクしている様な様子を見せる。

 

「情報によれば、無人のISと言う事だ」

 

「無人………」

 

千冬の言葉に、一夏は何時ぞや戦ったゴーレムIの事を思い出す。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2㎞先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後………学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処する事になった」

 

「お、俺達が!?」

 

IS乗りとは言え、学生の身分の自分達が、こんな実戦に参加させられるとは思ってはいなかった一夏が驚く。

 

「この件にはロージェノム軍の関与が疑われている………現在日本に居る戦力で、ロージェノム軍と真面に戦って勝利を得ているのはお前達だけだ。それを見込んでの要請らしい」

 

「へっ! 分かってるじゃねえか! ケダモノ野郎共が関わってるとなりゃあ、放っとくわけにゃあ行かねえな!!」

 

千冬の言葉に、そう威勢の良い返事を返す神谷。

 

「教員は学園の訓練機を使用して、空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

「それと、グレンラガンにもね」

 

教員の中に交じって、大座敷に運び込まれたコンパネ付きのディスクの1つに着いていたリーロンがそう言う。

 

「それでは作戦会議を行う。意見が有るものは挙手する様に」

 

「ハイ!」

 

千冬がそう言うと、セシリアが手を上げた。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「うむ………だが、決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と、最低でも2年の監視が付けられる………特に神谷。お前は注意しろ」

 

「ヘイヘイ」

 

千冬は名指しでそう注意するが、当の神谷は分かっているのかいないのか、そう返事を返す。

 

そんな神谷の態度に少々辟易しながらも、千冬は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のデータを投影する。

 

「広域殲滅を目的とした、特殊射撃型………私のISと同じく、オールレンジ攻撃を行える様ですわね」

 

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね………厄介だわ」

 

「この特殊武装が曲者って感じはするね。連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「このデータでは格闘性能が未知数だ………偵察は行えないのですか?」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のスペックを見たセシリア、鈴、シャル、ラウラがそれぞれにそう意見を挙げる。

 

「それは無理だな………この機体は超音速飛行を続けている。アプローチは………1回が限界だ」

 

「それにロージェノム軍が関わっているかもしれないとなると、ガンメンが待ち構えている可能性もあるわ。迂闊に近づいたら待ち伏せを喰らうかもしれないわ」

 

千冬がそう返し、リーロンがそう補足して来た。

 

「1回きりのチャンス………と言う事は、やはり1撃必殺の攻撃力を持った機体で当たる、しかありませんね」

 

「そう。つまり………」

 

「………俺か?」

 

千冬の言葉に、一夏が呟いた。

 

「それとグレンラガンもよ」

 

「おう!」

 

更にリーロンがそう言い、神谷が威勢の良い返事を返す。

 

「リーロンさん、グレンラガンと銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が戦った場合の勝率は?」

 

「五分五分ってところね………神谷の気合が強ければ圧勝かもしれないけど」

 

「あたりめぇだ! あんなひょろっちい奴なんかに、俺とグレンラガンが負けるかよ!!」

 

「いや、アニキ。アレはアメリカのIS技術の粋を集めた第3世代………」

 

根拠も無しに自信満々で言う神谷に、一夏がそうツッコミを入れる。

 

「教官。福音のコアについては?」

 

「両国共に、回収が不可能な場合は破壊して構わない、と言っている。これ以上コアをロージェノム軍に渡すワケには行かんのだろう」

 

ラウラの質問にそう返す千冬。

 

少し前までなら考えられなかった事だが、ロージェノム軍との戦況は膠着状態が続いており、この様な措置もやむを得ないと来ている。

 

「良し。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)との接触までは、グレンラガンが一夏を運んで………」

 

「待った、待~ったぁ!!」

 

とそこで、そう言う声が響き渡る。

 

一同が驚きながら声のした方向を見やると、そこには………

 

「その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」

 

天井裏から逆さまに顔を出している束の姿が在った。

 

「忍者みてぇなやろうだな………」

 

そんな束の姿を見て、神谷はそんな感想を漏らす。

 

「と~うっ!!」

 

束は天井裏から飛び出すと、猫の様に空中回転を決めて着地し、千冬に擦り寄った。

 

「ちーちゃん、ちーちゃん! もっと良い作戦が私の頭の中にナウプリーティングゥ!!」

 

「………出て行け」

 

相変わらず遣りたい放題な親友に、千冬は辟易した様子を見せる。

 

「聞いて聞いて! ココはだ~んぜん、紅椿の出番なんだよ!!」

 

しかし、そんな千冬の様子を無視して、束は高らかにそう言った。

 

「何?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

その言葉に、千冬と一夏達は驚く。

 

「紅椿に装備されている『展開装甲』を使えば、パッケージ無しで超音速飛行が可能なんだよ!」

 

「『展開装甲』?」

 

「うんうん! 分かり易く言えば、雪片弐型が進化した形かな? 紅椿はそれが全身に装備されているからね!」

 

「成程………」

 

束のその説明に頷く神谷。

 

「神谷? 分かってるの?」

 

シャルがそう尋ねると………

 

「全く分からん!!」

 

神谷は然も当然の様にそう返した。

 

「だよね~」

 

それを見てシャルは、呆れた笑みを浮かべる。

 

「うむ………」

 

千冬は悩む素振りを見せる。

 

「何が起こるか分からない以上、手数は多いに越した事はないわ。許可してあげたら?」

 

すると、そんな千冬を後押しする様に、リーロンがそう言って来た。

 

「………仕方がない。それで行く。では本作戦では織斑・篠ノ之、そして天上による目標の追跡及び撃墜を目的とする。作戦開始は30分後。各員、直ちに準備にかかれ!」

 

千冬が折れた様にそう言うと、一夏達と教師陣は、作戦の為の準備に取り掛かるのだった。

 

「にゃははははは」

 

その様を、束は楽しそうな様子で見ている。

 

すると………

 

「貴女も辛いわね………」

 

そんな束に、リーロンがそう言う。

 

「………うん………でも、自分で選んだ事だから」

 

すると束は、準備に勤しむ一同には見えない様に、一転して悲しそうな表情を浮かべたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから時は流れて………

 

時刻は午前11時半………

 

作戦開始の時刻となり、一夏と箒が、出発地点の海岸へ現れた。

 

「「…………」」

 

互いに1度目を見合うと頷き合う。

 

「来い! 白式!!」

 

「行くぞ! 紅椿!!」

 

そしてISを展開。

 

宙に舞い上がった。

 

「気合十分みてぇーだな!」

 

すると上空に居たグレンラガンとなった神谷が、伝統と信頼のガイナ立ちポーズで舞い降りて来る。

 

「アニキ!」

 

「フッ………当然」

 

グレンラガンの姿を見て声を掛ける一夏と、得意気に笑う箒。

 

「?」

 

と、神谷はそんな箒の笑みに妙な違和感を感じる。

 

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

 

「本来なら、女の上に男が乗るなぞ、私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

箒がそう言ったのを聞くと、一夏が箒の背中側に移動する。

 

白式は、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)撃墜の為に、エネルギーを残して置かなければならず、その為に紅椿を装着した箒が、一夏を銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の元まで運ぶ方法が取られたのだ。

 

「良いか、箒。コレは訓練じゃない。十分に注意して………」

 

「無論分かっているさ。心配するな。お前は、ちゃんと私が運んでやる。大船に乗った積りで居れば良いさ」

 

一夏の言葉を遮って、箒はそう言う。

 

「…………」

 

その姿で、一夏も違和感を感じる。

 

何と言うか、今の箒は………

 

舞い上がっているかの様に思えた。

 

やっと専用機を手に入れられた事が、彼女の心に自分でも気づかぬ慢心を生んでいるのだろうか………

 

[織斑、篠ノ之、天上。聞こえるか?]

 

とそこで、3人の耳に、千冬からの通信が聞こえて来た。

 

「! ハイ!」

 

「良く聞こえます」

 

「聞こえてるぜ」

 

[今回の作戦の要は、一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ。討つべきは………銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)………以後、『福音』と呼称する]

 

3人の返事を聞くと、千冬はそう作戦を復習させる。

 

「「了解!」」

 

[また、天上はロージェノム軍の出現等のイレギュラーが発生した場合、そちらを優先して対処せよ。福音は織斑と篠ノ之が中心となって当たれ]

 

「任せとけ!」

 

一夏、箒、神谷が力強く返事を返す。

 

「織斑先生。私は状況に応じて、一夏のサポートをすれば宜しいですか?」

 

[そうだな………だが無理はするな。お前は、紅椿での実戦経験は皆無だ。突然何かしらの問題が出るとも限らない]

 

「分かりました………ですが、出来る範囲で支援をします」

 

[…………]

 

その会話で、千冬も箒に違和感を感じた。

 

[織斑]

 

「!? ハ、ハイ!!」

 

[これはプライベート・チャネルだ。篠ノ之には聞かれない]

 

思わず返事をしてしまう一夏だったが、千冬が通信を送って来たのはプライベート・チャネルの方だった。

 

[どうも篠ノ之は浮かれてるな。あんな状態では、何かを仕損じるやもしれん。イザという時は、サポートしてやれ]

 

「分かりました。意識しておきます」

 

[頼むぞ]

 

千冬はそう言って、プライベート・チャネルを終了する。

 

[では! 始め!!]

 

そして、千冬が号令を掛けて、作戦が開始された!!

 

一夏が箒の肩を摑む。

 

「行くぞ!」

 

「おう!」

 

そしてそう言い合った瞬間………

 

紅椿は、一瞬にして高度300メートルまで上昇した!!

 

そのスピードは正に桁違いである。

 

更にそのまま上昇して、目標高度である500メートルに達する。

 

「ヒューッ………はええじゃねえか………だが! 俺様も負けちゃいないぜ! グレンブースターッ!!」

 

と、置いてけぼりを喰らったかの様なグレンラガンだったが、次の瞬間には背中のブースターから緑色の噴射を挙げて、紅椿にも負けぬスピードでその後を追って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館・くろがね屋………

 

大座敷(作戦司令室)では………

 

「始まりましたわね………」

 

「気をつけなさいよ、一夏………」

 

「篠ノ之の奴の事も気になるな」

 

待機しているセシリア、鈴、ラウラがそう呟く。

 

「「「…………」」」

 

千冬と真耶、リーロンも固唾を呑んで作戦の様子を見守っている。

 

なお、束は紅椿の調整を終えた後、忽然と姿を消しており、此処には居なかった。

 

「神谷………」

 

心配そうに、手を祈る様な形で組むシャル。

 

すると………

 

突如、パキーンッ!と言う何かが割れる様な音が響き渡った。

 

「えっ!?」

 

シャルが驚きの声を挙げる。

 

それは………

 

神谷から貰ったブレスレットが割れた音だった………

 

「そ、そんな!?」

 

「如何した?」

 

「「「「??」」」」

 

シャルの慌てた様子に気づいた千冬や他のメンバーの視線が、シャルに注がれる。

 

「か、神谷から貰った………ブレスレットが………」

 

シャルは狼狽しながら、何の前触れも無く割れたブレスレットを見せる。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

それを見て言葉を失う一同。

 

嫌な沈黙が、作戦司令室を支配したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事が起こっていたと露知らず………

 

一夏と箒、グレンラガンは………

 

箒が暫時衛星リンクで確認した銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の位置へと向かっていた。

 

「! 見えたぞ、一夏! 神谷!」

 

そして遂に………

 

紅椿のハイパーセンサーが、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の姿を捉える。

 

「アレが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)か………」

 

「へえ~~、結構綺麗じゃねえか」

 

一夏と神谷が、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の姿を見て、そんな感想を漏らす。

 

「加速するぞ! 目標に接触するのは10秒後だ!!」

 

箒がそう言うと、紅椿は更に加速した。

 

「オイ! 待てよ!!」

 

グレンラガンも速度を上げてそれを追う。

 

「クッ!!」

 

やがて、一夏が飛翔する箒の紅椿の上に立ちあがり、零落白夜を発動させて雪片弐型を構えた。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

そしてそのまま、こちらに気づいている様子が無い銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に斬り掛かる!!

 

だが!

 

直前で銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は一夏達に気づき、向きを変えたかと思うと急上昇した。

 

「クッ!!」

 

箒は慌てて軌道修正してそれを追う。

 

「野郎! 逃げんじゃねえ!!」

 

すると、グレンラガンがそんな銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に向かって、額に出現させたドリルからドリルビームを見舞った!!

 

コレも躱されてしまうが、一瞬動きが鈍る銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)。

 

「箒! このまま押し切る!!」

 

「分かった!!」

 

その瞬間を狙って、箒と一夏は一気に突撃した!!

 

「ハアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そして、エネルギー刃の雪片弐型が銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に叩き込まれる………

 

かと思われた瞬間!!

 

突如回転しながら飛来した鎌状の物体が、一夏と箒に命中した!!

 

「!? うわあああっ!?」

 

「あああっ!?」

 

「!? 一夏! 箒!」

 

すぐに2人の元へ向かおうとするグレンラガン。

 

すると、一夏と箒を弾き飛ばした物体がまるでブーメランの様に軌道を変えて、今度はグレンラガンに襲い掛かって来る!

 

「!? チイッ!!」

 

グレンラガンは、右腕に2本のドリルを出現させると、その鎌状の物体を弾き飛ばす。

 

「フッ………久しぶりだな………ハダカザル!!」

 

すると、弾き飛ばされた物体は、雲の中に隠れていたガンメンの手にキャッチされる。

 

そのガンメンは、かつてクラス代表決定戦を襲撃したガンメン………

 

ヴィラルのエンキだった!!

 

「テメェは!? 何時かのケダモノ野郎!!」

 

「ヴィラルだ。覚えておいてもらおう………貴様を地獄へ叩き落とす男の名だ!!」

 

そう言い放つと、改修されエンキ………『エンキドゥ』は、新たな武器………ウ○トラセブンのア○スラッガーの様なブーメラン………エンキラッガーを振るって来た!!

 

「チイッ!!」

 

迎え撃つ様に、グレンラガンも胸のグレンブーメランを外し、エンキラッガーを受け止める。

 

「アニキッ!」

 

一夏がグレンラガンの援護に行こうとするが………

 

「来るんじゃねえ、一夏!! オメェは箒と一緒にその銀色野郎を倒せ!!」

 

エンキドゥと鍔迫り合いをしながら、神谷はそう言い放つ。

 

「でも!!」

 

「馬鹿野郎! テメェの目的を履き違えるんじゃねえ!! お前が倒さなきゃならねえのはそいつだろ!!」

 

「一夏! 何をしている!?」

 

するとそこで、1人で銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の相手をしていた箒からそう声が挙がる。

 

「クッ! アニキ! 気を付けて!!」

 

一瞬苦そうな顔をしながらも、一夏は箒の救援に向かった。

 

「余裕だな………その慢心が命取りになるぞ」

 

「舐めんじゃねえ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

ヴィラルの挑発に、グレンラガンは力を入れて、エンキラッガーを弾く。

 

「クウッ!!」

 

「でりゃあああっ!!」

 

そして、バランスの崩れたエンキドゥにミドルキックを叩き込む。

 

「グアッ!?」

 

引き剥がされるエンキドゥ。

 

「そらよっ!!」

 

グレンラガンはそのエンキドゥに向かって、グレンブーメランを投擲する。

 

「チイッ!!」

 

エンキドゥは一旦エンキラッガーを戻すと、両腰に会った刀を抜き、グレンブーメランを弾く。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

だがその間に、グレンラガンはエンキドゥ目掛けて突撃して来ていた。

 

「超電磁パアアアアァァァァァンチッ!!」

 

電磁を纏った右拳が、エンキドゥに繰り出される。

 

「ぬうっ!!」

 

刀を交差させて受け止めるエンキドゥ。

 

「もう一丁! ブーストキイイイイイィィィィィィックッ!!」

 

そこで続けて、グレンラガンは足裏のブースターを噴かしての高速蹴り、ブーストキックを繰り出す。

 

「グアッ!?」

 

エンキドゥはまたもブッ飛ばされる。

 

「如何した? ケダモノ大将!! 前より弱くなったんじゃねえのか!?」

 

そんなエンキドゥに、神谷は挑発をし返した。

 

「クッ! この男………以前よりも螺旋力が上がっている!?」

 

ヴィラルは短期間で大きく腕を上げた神谷に驚きを示す。

 

「………だが、まだまだ甘いな、ハダカザル」

 

「? 何ぃっ!?」

 

「この場に居るのが俺だけだと思ったか?」

 

「何だと!?………!? しまった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンラガンとエンキドゥが熱戦を繰り広げていた頃………

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と戦っていた一夏と箒は………

 

正に弾幕と言うべき武装………銀の鐘(シルバー・ベル)の前に、苦戦を強いられていた。

 

無数のレーザーが、ある時は雨の様に降り注ぎ………

 

ある時は誘導ミサイルの様に追尾して来る………

 

そして相手は無人機………

 

その攻撃は正確無比であった。

 

「クッ! 一夏!! 私が動きを止める!!」

 

「分かった!!」

 

と、箒がそう言うと、再び展開装甲を展開させ、背部の2機の部分をエネルギー刃付きのビットとして射出した!!

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

そして、箒自身も雨月と空裂を構えて突撃して行った。

 

ビットは1機目がかわされるものの、2機目が命中。

 

姿勢が完全に崩れた銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に、箒が斬り掛かる!!

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は避ける事が出来ず、箒の攻撃を受け止める。

 

そのまま銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を押し込む箒。

 

「一夏! 今だ!!」

 

「おう!!」

 

動きが止まった銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に、一夏が雪片弐型で斬り掛かる。

 

「貰ったぁっ!!」

 

完全にそう思った一夏だったが………

 

「ヒャア~ハッハッハッ! そうは行かねえなぁ!!」

 

そう言う声と共に、一夏の背後に突然影が現れた!!

 

「!?」

 

「ソレェッ!!」

 

その影が、手に持っていた巨大な両刃の剣を振るって来る。

 

「うわぁっ!?」

 

「一夏!?………おわっ!?」

 

一夏は弾き飛ばされ、箒も銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)からの反撃に遭う。

 

「クソッ! 何だ!?」

 

如何にか姿勢を取り直すと、自分を斬り付けて来た者の正体を見やる一夏。

 

「ヒャハハハハハハッ! ざ~んね~ん! もうちょっとでその首、落としてやれたってのによぉ!」

 

下衆な笑いを響かせそう言う新たな襲撃者………

 

白いウナギに手足と翼が生えたかの様なデザインをした某汎用人型決戦兵器の量産機を思わせるウナギ型ガンメン………『ナギーウ』がそう言って来た。

 

「! ガンメン!!」

 

「まだ居たのか!!」

 

身構える2人。

 

「一夏!! 大丈夫か!?」

 

そこへ、グレンラガンが合流する。

 

「アニキ!」

 

「コレで3対3だな………」

 

すると、エンキドゥも現れ、其々に敵・味方に分かれて集結する形となった。

 

「クッ!!(マズイ………もうエネルギーが残り少ない)」

 

一夏は再び苦い表情を浮かべる。

 

またも白式の弱点である燃費の悪さが出てしまい、既にエネルギーの残りは150を切っていた。

 

零落白夜で攻撃出来るのは、後1撃が限度である。

 

「如何するハダカザル? 跪いて許しを請うてみるか?」

 

「そりゃあ良いぜ、ヴィラルの旦那!! オイ、ガキ共! 跪けよ!! ヒャハハハハハハッ!!」

 

ヴィラルの尻馬に乗る様に、ナギーウがそう言って再び下衆な笑いを響かせる。

 

「チッ………」

 

そんなナギーウに、ヴィラルは不快感を露にする。

 

「ふざけんじゃねえ! この神谷様が許しなんか請うかよ!!」

 

当然、神谷はそう反論する。

 

「貴様如きに負ける私達ではない!」

 

箒もそう言い放つ。

 

「ヒャハハハハハッ! 強気だね~、お嬢ちゃん。新しい玩具を手に入れて、強くなった積りかい?」

 

「!? 何っ!?」

 

「お前なんか何を使おうが、この俺には勝てねぇっての!!」

 

「!! 貴様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

その瞬間、箒は怒りの形相でナギーウへ突撃して行った!!

 

「!? 箒!?」

 

「あの馬鹿!!」

 

一夏と神谷が慌てるが、時既に遅く………

 

「ハアッ!!」

 

「おおっと!!」

 

ナギーウに斬り掛かる箒だったが、アッサリと躱される。

 

するとそこへ、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)からの銀の鐘(シルバー・ベル)が放たれる。

 

「!! クウッ!!」

 

箒は何とか躱す。

 

「フンッ!!」

 

そこへ今度は、エンキドゥのエンキラッガーが投擲される。

 

「ハアッ!!」

 

箒は雨月で弾く。

 

だが………

 

「ヒャハハハハハッ!! 掛かったな!!」

 

何時の間にか、ナギーウ、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)、エンキドゥによって、周りを取り囲まれてしまっていた。

 

「!? し、しまった!?」

 

慌てる箒。

 

いつもの彼女ならしなかったであろうミスだが………

 

念願だった専用機を手に入れ、自分でも分からぬ心の慢心が生まれてしまい、そこを衝かれたのだ。

 

「箒! マズイ!!」

 

「一夏! 俺が隙を作る! その間にアイツを連れて逃げろ!! 敵に背え向けんのは癪だが………仕方ねえ!!」

 

「分かった!!」

 

一夏は箒に向かって飛ぶ。

 

「うおおおおおっ! ドリラッシュッ!!」

 

その次の瞬間に、グレンラガンは全身からミサイルドリルを発射。

 

ナギーウ、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)、エンキドゥで次々に爆発させ、辺りを爆煙で包み込んだ!!

 

「うおっ!? オノレェ!! 何処だ!?」

 

エンキドゥと銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が、箒の姿を探す。

 

「箒! 一時撤退だ!!」

 

その間に、爆煙を突っ切った一夏が、箒と合流する。

 

「一夏!? 何を言う! 私はまだやれる!!」

 

だが、これでは今までと同じではないかと思った箒は、思わず一夏にそう反論する。

 

「馬鹿! 状況を考えてものを言え!!」

 

思わず箒に向かってそう怒鳴る一夏。

 

と、その時………

 

「ヒヒヒヒヒ………丸見えだぜぇ~、お嬢ちゃん、僕ちゃん!」

 

爆煙の隙間から、2人の姿を確認していたナギーウが、そう言いながら手に持っていた諸刃の剣を投擲した。

 

すると!!

 

その諸刃の剣が、粘土の様に形を変え、先が二又に分かれた槍となる!!

 

「「!?」」

 

2人が気づいた時には、既に至近距離までに槍が迫っていた。

 

駄目だ、躱せない………

 

一夏と箒がそう思った瞬間………

 

その間に割り込み、自らの身体を盾にして、その槍を受け止めた者が居た………

 

グレンラガンだ………

 

槍は背中まで貫通し、グレンラガンは完全に串刺し状態となった。

 

「ゴフッ!?」

 

グレンラガンは、口から盛大に血を吐く。

 

「ア、アニキ………?」

 

「神谷?」

 

目の前の光景が理解出来ず、茫然となる一夏と箒。

 

「馬鹿めぇ! 他人の事なんか庇いやがってよぉ~~~~~っ!!」

 

それを見たナギーウが、グレンラガンにトドメを刺そうとする。

 

「!! うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

すると、死に体かと思われたグレンラガンが雄叫びを挙げ、身体に突き刺さっていた槍を、自ら抜き放つ!!

 

「!? 何っ!!」

 

「でりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そして、その槍をナギーウが目掛けて投げつける!!

 

「!? ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

投げ返された槍は、ナギーウの左の翼に突き刺さった!!

 

「グッ!?」

 

だがその瞬間………

 

槍を抜き放ったグレンラガンの身体から、真っ赤な血が噴き出す。

 

「へっ、俺とした事が………ドジ踏んじまったぜ………」

 

と、神谷がそう呟いた瞬間………

 

グレンラガンは糸の切れたマリオネットの様に力を失い………

 

海へと落下して行った………

 

「!? アニキイイイイイイイィィィィィィィィーーーーーーーーーーッ!!」

 

「神谷あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

一夏と箒は、慌ててその後を追う。

 

だが間に合わずに、グレンラガンの姿は海中へと没した………

 

「アニキィッ!!」

 

「神谷ぁっ!!」

 

2人は構わず、そのまま海中へ突入する。

 

「………グレンラガン」

 

何やら複雑そうな様子で、その様を見ていたヴィラルが呟く。

 

「チキショーッ! あの野郎! 許さねえぞぉ!! お前の仲間にも浮き出て来た瞬間にトドメを刺してやる!!」

 

と、翼を傷付けられたナギーウが、怒りの様子を露わに、一夏達が浮かび上がって来るのを待ち構えるが………

 

「………行くぞ」

 

そんなナギーウに向かって、ヴィラルがそう言い放つ。

 

「ああ!? 何言ってんだよ!?」

 

「作戦の第1段階は終了した………第2段階へと移行する」

 

「ふざけんじゃねえよ! まだアイツ等に!!」

 

と、ナギーウがそう言った瞬間………

 

その首筋に、エンキドゥの刀が突き付けられた。

 

「貴様………部隊長の俺に逆らうのか?」

 

「ヒイイッ!? すいませんでしたぁ!!」

 

途端に平伏するナギーウ。

 

「奴等の事なぞ放っておけ。グレンラガンが居なければ………所詮、烏合の衆だ。行くぞ、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)」

 

ヴィラルがそう言って、エンキドゥがその場から離脱を始めると、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)がその後に続く。

 

「ああ! ちょっと!? 待ってくだせえ!!」

 

ナギーウも、慌ててその後に付いて行く。

 

そして3体が完全に去って行った後………

 

「プハアッ!!」

 

「プハッ!!」

 

グレンラガンの姿から戻った神谷を抱き抱えた一夏と箒が、海面に這い出した。

 

「アニキ! アニキ!! しっかりしてくれ!! アニキ!!」

 

「神谷!! オイ、神谷!!」

 

必死に神谷に呼び掛ける一夏と箒。

 

「…………」

 

しかし、神谷は死んだ様に目を閉じ、グッタリとしてピクリとも動かなかった………

 

周囲の海が、彼の血で赤く染まって行く。

 

「アニキ! アニキイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーーッ!!」

 

一夏の悲痛な叫びが………

 

虚しく海上に響き渡るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

暴走した無人ISの福音の撃墜を依頼されたグレン団。
神谷と一夏、そして箒がその任務に当たるが………
慢心を衝かれた箒が窮地に陥り、助けようとした一夏も庇って、神谷が………
果たして、彼の命は………

ウナギ型ガンメン・ナギーウは、まんまエヴァ量産機です。
神谷抜きのとなるグレン団は、この敵を倒せるのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第17話『俺を此処から出しやがれ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第17話『俺を此処から出しやがれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋から近い病院………

 

その病院の手術室の前に、一夏達が集まっている。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

しかし、一同の表情は暗く………

 

会話も出来ない程の重苦しい雰囲気が漂っていた。

 

「神谷………」

 

シャルなどは今にも泣き出しそうな様子であり、ジッと顔を伏せている。

 

「アニキ………」

 

だが、それ以上に酷いのが一夏だ………

 

目からは光が完全に消えており、影が落ちている不気味な無表情は、まるで死人か幽鬼を思わせる………

 

あの後………

 

重傷を負った神谷は、一夏と箒によって運ばれ………

 

陸地へ戻ると同時に、待機していた医療班の応急処置を受け、そのままこの病院へと搬送された。

 

手術室へ運ばれ、緊急手術が開始されたが………

 

日が傾いて来た今でさえなお、終わっていない………

 

彼是もう数時間以上経過している大手術だ。

 

それだけ………

 

神谷が負った傷が深かった事を物語っている。

 

と………

 

そこで点灯しっぱなしだった手術室のランプが、消えた!!

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

一同がビクリと反応すると、手術着を血で染めたままの執刀医が姿を見せる。

 

「先生!!」

 

「アニキは!? アニキは如何なんですか!?」

 

途端に、シャルと一夏が執刀医に詰め寄った。

 

箒達も集まって来る。

 

「手術は終わりましたが、まだ予断の許さない状況です………」

 

と、執刀医がそう答えると………

 

奥の方から、ストレッチャーに寝かされて運ばれてくる神谷の姿が在った。

 

人工呼吸器が付けられ、点滴まで打たれている。

 

正に重傷者と言う雰囲気だった。

 

「! アニキ!!」

 

「神谷!!」

 

「「「「!!」」」」

 

それに気づいた一夏とシャルが駆け寄り、遅れて箒達も集まる。

 

「…………」

 

神谷はまるで死んだ様に眠っている………

 

何時ものあの大声も聞けない………

 

力強く、爽やかな笑みも無い………

 

信じられない神谷の姿だった。

 

「アニキ! 俺だ! 一夏だ!! 目を覚ましてくれよ!!」

 

「神谷! 起きてよ! からかってるんでしょ! 本当はそんな傷、如何って事ないんでしょ!? そうだって言ってよ!!」

 

「落ち着いて下さい! 重傷者なんですよ!!」

 

思わず神谷の身体に手を伸ばそうとした一夏とシャルを止める看護師。

 

神谷はそのまま、集中治療室へと運ばれて行った………

 

「………天上さんはご家族は居られないのでしたね?」

 

とそこで、執刀医が残された一夏達にそう言って来た。

 

「………ハイ」

 

一夏がそれだけ返す。

 

「そうですか………では、貴方達に伝えておきます………天上さんの状態は非常に危険です。もし運良く命が助かったとしても………2度と目を覚まさないかもしれません」

 

「!?」

 

それを聞いたシャルが膝から崩れ、倒れそうになる。

 

「! ちょっ! ちょっと!?」

 

慌てて鈴が駆け寄って支える。

 

「そ、そんな………嘘だ………」

 

「手は尽くしたのですが………残念です」

 

狼狽する一夏に、執刀医は頭を下げると、そのまま去って行く。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

残された一同は、ただ茫然とその場に立ち尽くした。

 

「…………」

 

拳を血が出んばかりに握り締める一夏。

 

「い、一夏………」

 

そんな一夏の様子を見た箒が、恐る恐る話し掛ける。

 

神谷を助ける為に海に突っ込んだ際にリボンを無くしており、黒い長い髪を下ろしており、印象が変わっている。

 

と………

 

「………お前のせいだ」

 

「えっ?」

 

「箒! お前のせいだぞ!!」

 

戸惑いの声を挙げる箒の両肩に、一夏が摑み掛かりながらそう叫んだ!!

 

その表情は、様々な感情が入り混じったグチャグチャな表情だった。

 

「あの時、お前が素直に逃げて居れば! アニキはあんな事にならなかった!! お前がアニキをあんな目に遭わせたんだ!!」

 

「!?」

 

一夏のその言葉に、箒はショックを受ける。

 

「一夏さん!?」

 

「一夏! 言い過ぎだぞ!!」

 

セシリアとラウラがそう言って一夏を箒から引き剥がそうとするが………

 

「煩い! 邪魔だ!!」

 

一夏は乱暴に2人を振り払った!!

 

「!? キャアッ!?」

 

「おわっ!?」

 

セシリアとラウラは、床に尻餅を着いてしまう。

 

「い、一夏………」

 

シャルを支えていた鈴が、驚愕の表情を浮かべる。

 

箒に八つ当たりの様な言葉を吐いたり、セシリアやラウラを乱暴に振り払うなど、普段の一夏からは想像も出来ない様な振る舞いだ。

 

………それ程までに、一夏の心は闇に沈んでいたのだ。

 

「わ、私は………」

 

箒の目から涙が零れ始める。

 

「………そこまでにしておけ。クソガキが」

 

とそこで、そう言う声が響き渡る。

 

「!?」

 

一夏が振り返ると、そこには憮然とした表情を浮かべている千冬の姿が在った。

 

傍には、オロオロとした様子の真耶も居る。

 

「千冬姉………」

 

「全く………女に当たるとは………情けないぞ、一夏。何時からそこまで堕ちた」

 

千冬は、一夏に向かって容赦無くそう言い放つ。

 

「お、織斑先生!!………」

 

「煩い! 黙れえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

と、真耶が千冬を止めようとした瞬間………

 

何と、一夏が箒を解放し、今度は千冬に殴り掛かって行ったのだ!!

 

「!!」

 

しかし、千冬は一夏を軽く往なし、そのまま足を掛けて転ばせる。

 

「ガッ!?」

 

「病院で殴り掛かって来る奴があるか!? お前達もすぐに旅館に帰れ! 待機だと命じただろう!?」

 

一夏を一瞥すると、今度は箒達に向かってそう言い放つ。

 

「お、織斑先生………」

 

「福音に対しての命令は、まだ解除命令が出ていません。再度の作戦もあるかも知れません。専用機持ちの皆さんには待機してもらわないと………」

 

戸惑うセシリアに、真耶がそう補足する様に言う。

 

「尤も………そのザマでは如何にもならんだろうがな………」

 

千冬は倒れたままの一夏に向かって、冷たくそう言い放つ。

 

「………千冬姉………前に言ったよな………アニキに………お前は死んでも良いけど、俺の事は守れって」

 

とそこで、一夏が起き上がりながらそう言って来た。

 

「………ああ、言ったな」

 

一夏に背を向けたままそう言い放つ千冬。

 

「だからアニキはあんな事をしたんだ………俺達を庇って自分が………」

 

「今度は私に当たる積りか? いい加減にしろ! 貴様が不貞腐れていれば神谷は目を覚ますのか!? とっとと宿に戻れ!!」

 

「…………」

 

千冬がそう言うが、その言葉は一夏に届いていない様で、一夏はどこまでも虚ろで目の焦点も定まっていないまま、フラフラと歩き出した。

 

「…………」

 

「箒さん、行きますわよ………」

 

それに続く様に、涙目で立ち尽くしていた箒を、セシリアが連れて行く。

 

「ホラ、シャルも………」

 

「…………」

 

鈴もシャルに肩を貸して歩き出す。

 

「………失礼します、教官」

 

最後にラウラが、千冬に向かって敬礼した後、去って行った。

 

「…………」

 

「織斑先生………」

 

残された千冬に声を掛ける真耶。

 

(馬鹿者め………死ぬんじゃないぞ………お前はそんな事で死ぬ男ではないだろう………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某・海上にて………

 

そこに、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は居た………

 

海上から200メートルの上空で、まるで胎児の様な姿勢を取ってジッとしている。

 

「…………」

 

その更に上空では、エンキドゥが腕組みをして空中に仁王立ちしている。

 

「なあなあ、部隊長さんよ~。何時までこうしてりゃ良いんだ?」

 

と、その近くで浮遊していたナギーウが、エンキドゥに向かって退屈そうに言う。

 

「奴が第2形態に移行するまでだ………」

 

ヴィラルは、腕組みをしたままそう答える。

 

「何でそんなまどろっこしい真似をすんだよぉ! このまま街へ行って、人間共を一気に殺しまくってやろうじゃねえか!!」

 

「貴様………螺旋王様の命令に逆らう積りか?」

 

ヴィラルは、若干声に凄みを効かせてそう言う。

 

「べ、別にそんな積りはねえさ………分かった。分かりましたよ」

 

ナギーウは不満そうにしながらも待機を維持する。

 

(グレンラガン………天上 神谷………よもやお前との決着がこんな形で着くとはな………だが、私は螺旋王様のに仕える戦士………個人の決着よりも、螺旋王様の計画を遂行するのが任務だ)

 

そしてヴィラルは、まるで自分自身に言い聞かせる様に、そんな事を考えていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋………

 

夕日がほぼ沈みかけている中、縁側に座り込んでいる者達が居た………

 

セシリア、鈴、ラウラだった………

 

「「「…………」」」

 

重苦しい沈黙を続けながら、3人してジッと縁側に座り込んでいる。

 

「如何………する?」

 

ふと唐突に鈴が、2人に向かってそう尋ねた。

 

「如何………と言われましても………」

 

セシリアが戸惑った様な返事を返す。

 

「教官は指示あるまで待機………そう言っていた。ならばそうするべきだ」

 

軍人のラウラが冷静な様子でそう言う。

 

「じゃあ、何でアンタ、アタシ達と一緒に居るのよ?」

 

「そ、それは………」

 

しかし、鈴にその事を指摘されると、戸惑った様子を見せる。

 

「「「…………」」」

 

その後、再び沈黙する3人。

 

と、そこへ………

 

「あ、皆………此処に居たんだ」

 

そう言いながら、シャルが姿を見せた。

 

「!? シャルロット!?」

 

「シャルロットさん!? 大丈夫なんですか!?」

 

「無理をするな」

 

シャルの姿を見た3人が、口々に心配する様な言葉を掛けて来るが………

 

「平気だよ。何時までも落ち込んでたら、神谷に笑われるからね」

 

シャルはそう言って笑みを浮かべる。

 

しかしそれは………

 

明らかに無理をしている笑顔だった。

 

「「「…………」」」

 

だが、3人には今のシャルに掛ける言葉が見つからない………

 

「その通りだ………」

 

すると、今度はそう言う言葉と共に、箒が姿を見せた。

 

「!? 箒!!」

 

「負けたまま終われるか………アイツをあんなにした原因が私なら………この問題は私がケリを着ける」

 

箒は、拳を握り締めてそう語る。

 

こっちの表情も、危うい表情であった。

 

「………どの道、このままジッともして居られないわね」

 

「そうですわ。やるなら、トコトンやりましょう」

 

「その方が気も紛れるというものか」

 

それを見た鈴、セシリア、ラウラが立ち上がる。

 

2人が銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)にリベンジをしようとしているのは目に見えていた。

 

しかし、こんな危うい2人を放っておくワケにはいかない。

 

無理矢理入らされた様なものだが、自分達はグレン団………

 

仲間なのだ。

 

こんな時こそ助け合わなければならない。

 

そう言う気持ちが、3人の中に燃え上がって来ていた。

 

皮肉にも神谷が倒れた事が、彼女達の中に更なる仲間意識を持たせたのだった。

 

 

 

 

 

その後、箒達は近くの海岸へ集結………

 

箒を除いた一同は、今日の午前中に送られて来ていたISの追加パッケージをインストールし、ISを強化する。

 

そして、ラウラがドイツの軍事衛星を使って、海上で浮遊している銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の姿を発見した。

 

いざ出陣せんとしたその瞬間………

 

「俺も………その喧嘩に混ぜろよ………」

 

そう言う台詞と共に、一夏が姿を見せた。

 

「「「「「!? 一夏〈さん〉!?」」」」」

 

突然現れた一夏の姿に戸惑う5人。

 

「アイツにリベンジするんだろ………なら俺も連れて行けよ」

 

そんな5人の戸惑いなど知らず、一夏は淡々とそう言い放つ。

 

その表情は変わっておらず、どこまでも虚ろで、目の焦点も定まっていないままである。

 

「「「「「…………」」」」」

 

だが、5人は一夏が付いて来る事を拒否出来なかった。

 

いや………

 

例え拒否したところで、一夏は勝手に付いて来るだろう………

 

ならせめて、自分達の目の届く範囲に置いて、何かあればフォローするしかないだろうと考えた。

 

しかし………

 

この考えが………

 

どれだけ甘いものだったか………

 

この時、彼女達は気づかなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某・海上200メートル………

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は、相変わらず同じポーズで沈黙を続けている。

 

「…………」

 

「あ~、暇だ暇だ~」

 

それをジッと見守っているエンドゥと、露骨に退屈そうな様子を見せているナギーウ。

 

「………ん?」

 

するとそこで、エンキドゥが何かに気づいた様な様子を見せる。

 

「? どしたぁ?」

 

ナギーウがそう言った瞬間………

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

雄叫びと共に突撃して来た白式を装着した姿の一夏が、エネルギーブレード状態の雪片弐型で、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に斬り掛かった!!

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はブッ飛ばされ、海面に叩き付けられるが、すぐに姿勢を取り直す。

 

「一夏さん! 先行し過ぎです! もっと連携を!!」

 

「煩い! 先手必勝だ!! アニキならそうする!!」

 

遅れてやって来た一同の中で、セシリアが一夏にそう言うが、一夏はそれに応じず、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を更に追撃しようとする。

 

「あ~ん? アイツ等、性懲りも無くまた来たのか? しかも今度は団体で?」

 

「それが人間と言うものだ………何度踏み潰しても雑草の様に伸びて来る………螺旋王様がそう仰っていた」

 

ナギーウが呆れる様に呟き、ヴィラルがそう言う。

 

「まあ良いさ。それなら………2度と立ち上がって来れない様に………此処で殺してやるぜぇ!! ヒャッハーッ!!」

 

すると、ナギーウは世紀末を思わせる叫びを挙げながら、遅れて来ていた箒達に襲い掛かって行く。

 

最初に狙いを定めたのは、シャルだった。

 

「!? うわっ!?」

 

シャルは、追加パッケージである防御パッケージ『ガーデン・カーテン』………実体シールド2枚、エネルギーシールド2枚の内、実体シールドで、ナギーウの諸刃の剣を受け止める。

 

「お前が………神谷を………」

 

と、シャルはナギーウの姿を見て、怒りを露わにする。

 

「あ~ん? お前、あの馬鹿な男の恋人かぁ? ヒャハハハハッ!! そりゃ悪かったな!! お前もすぐ同じ場所に送ってやるよぉ!!」

 

「!! 煩い! 黙れぇっ!!」

 

ナギーウの言葉に激昂し、シャルは諸刃の剣を弾き返すと、レイン・オブ・サタディを両手に構え、ナギーウ目掛けて発砲した。

 

「ヒャハハハハッ!! 当たらねえよぉ!!」

 

しかし、ナギーウは高速で飛び回って弾丸を躱す。

 

「シャルロット!………!? クウッ!?」

 

援護に向かおうとした箒を、エンキラッガーが掠める。

 

「貴様は俺の相手をしてもらおうか………」

 

「獣人ヴィラル………」

 

「如何した? 怖気づいたか? まあ、あんな大失態を演じた後では無理も無かろうがな」

 

「! 貴様あああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

と、箒は怒りを露わにしてエンキドゥに斬り掛かって行った。

 

「ちょっと!? 箒さん!!」

 

「マズイ………全員バラバラだ! 連携が取れん!!」

 

セシリアがそう叫び、ラウラが苦い顔をしながら言い放つ。

 

「クッ! 仕方ないわ………其々にフォローするわよ! ラウラはシャルロットに! セシリアは一夏! アタシは箒にフォローに回るわ!」

 

と、鈴が咄嗟にそう判断を下す。

 

「分かりましたわ!」

 

「了解した!!」

 

すぐにセシリアが一夏、ラウラがシャルの元へと飛んだ。

 

「全く………こんな事になるなんて………」

 

鈴もそう呟き、箒の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋・大座敷………

 

一夏達が再び銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)達に戦闘を挑んだのは、すぐにも判明した。

 

「あ、あの子達!?」

 

「クッ! 馬鹿共が………山田くん! すぐにアイツ等を呼び戻せ!!」

 

「ハ、ハイ!!」

 

真耶がすぐに、一夏達へと通信を送ろうとする。

 

しかし………

 

「だ、駄目です! 妨害電波です!! 通信が繋がりません!!」

 

「ならば! 封鎖を行っていた教師部隊を向かわせて………」

 

「それも無理よ」

 

千冬の言葉を遮り、リーロンがそう声を挙げる。

 

「今連絡が入ったけど、封鎖を行っていた教師部隊をガンメン達が襲撃してるって。とても手一杯で一夏くん達の方には回れないそうよ」

 

「何だと!?」

 

「そんな!?」

 

千冬が驚き、真耶が悲鳴の様な声を挙げる。

 

「クッ! こうなれば私が出る!!」

 

と、千冬がそう言うと、作戦司令室を後にしようとする。

 

「止めなさい。幾らブリュンヒルデの貴女でも、専用機が無いんじゃ無理よ」

 

しかし、リーロンがそう言って千冬を止めた。

 

「じゃあ如何すれば良いんだ!?」

 

千冬は珍しく、焦りと苛立ちの籠った声でそう言う。

 

「………賭けるしかないわね」

 

「賭ける? 一体何にだ!?」

 

「神谷によ………」

 

リーロンは、不敵に笑いながらそう言った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

「ん?」

 

神谷が意識を取り戻したかと思うと、周囲全てが暗闇の空間の中に居た。

 

「何処だ? 此処は?」

 

神谷は自分が置かれている状況が分からず、混乱する。

 

「確か俺は………銀色野郎とガンメン野郎達と戦ってて………」

 

意識を失う前の事を思い出そうとしている神谷。

 

「それで、一夏と箒の事を庇って………ひょっとして………俺は死んだのか?」

 

そこで神谷は、そういう考えに至る。

 

「そうか………やれやれ………短い人生だったぜ」

 

神谷は溜息を吐きながらそう呟く。

 

死んだかもしれないと言うのに、あまり悲壮感や絶望は感じられなかった。

 

「まっ、悪くはなかったな………一夏やシャル、色んな連中とも出会えたしよ………散り際は潔くってのが男ってもんだ」

 

フッと笑ってそう言う。

 

すると………

 

『うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!』

 

神谷以外誰も居ない筈の空間に、何者かの声が響いて来た。

 

「!? この声は!?………一夏!?」

 

そこで神谷が驚きの声を挙げると………

 

『一夏さん! 落ち着いて下さい! もっと冷静に!!』

 

『煩い! このぐらいアニキならなんとかしてたさ!!』

 

目の前に、一夏とセシリアが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と戦っている様子が映し出される。

 

しかし、その様子は劣勢そのものだった。

 

無闇矢鱈と突撃を繰り返す一夏の白式はどんどんボロボロになって行き、フォローしているセシリアのブルー・ティアーズの損傷も酷い。

 

「あの馬鹿! 何やってやがるんだ!? しっかりしろ! 一夏!!」

 

その様子を見た神谷が思わずそう声を挙げるが、一夏には聞こえていないらしく、無謀な突撃を繰り返す。

 

するとそこで、映像が切り替わり………

 

今度は、ナギーウとエンキドゥに苦戦しているシャル、ラウラ、箒、鈴の姿が映し出される。

 

「!? アイツ等まで! オイ! お前等!!」

 

とそこで、神谷がその映像に向かって手を伸ばすと、映像は煙の様に消えてしまい………

 

神谷の手は、何も無い空中を摑む。

 

「!? チキショーッ! オイ! 誰か居ねえのか!? 俺を此処から出しやがれ!!」

 

神谷がそう騒ぎ立てる。

 

と、その時………

 

「………神谷」

 

突如として今度は、自分を呼ぶ声を聞こえて来た。

 

「!?」

 

神谷は驚愕を露わにする。

 

何故なら………

 

その声は、自分が良く知る人物の声だったからだ。

 

「こ、この声は!?………まさか!?」

 

神谷が驚きの声と共に、声が聞こえて来た後ろの方向を振り返ると、そこには………

 

「神谷………」

 

そこには、白衣を来た神谷と良く似た中年位の男の姿が在った。

 

「お、親父………」

 

神谷は驚愕したまま、漸くの思いでそれだけ呟く。

 

そう………

 

今神谷の目の前に居るその男は………

 

死んだ筈の神谷の父親………

 

あの篠ノ之 束と並ぶ天才と評された世界的な権威………

 

『天上 譲二』博士の姿だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

瀕死の重傷を負った神谷。
屋台骨を失ったグレン団は空中分解寸前。
特に一夏など、ヒロイン達に当たり散らすなど、カミナを失った直後のシモンよりも酷い状態です。
箒に関しては後でフォローしますので、どうかココは寛大な目で見てやってください。

神谷抜きでリベンジに挑んだグレン団だったが、チームワークはバラバラ。
そして生死の境を彷徨う神谷の前には………
死んだ親父の姿が………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第18話『ワリィな、親父………もう行くぜ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第18話『ワリィな、親父………もう行くぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

謎の空間の中で………

 

死んだ筈の父親と再会を果たした神谷。

 

流石の神谷も、この状況に茫然となっていた。

 

「親父………」

 

神谷はフラフラと父親である譲二の方へと歩いて行く。

 

「神谷………」

 

そんな息子を迎え入れるかの様に、譲二の腕が動いた………

 

………かと思われた瞬間!!

 

「てりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

気合の叫びと共に、譲二の拳が神谷の顔面に叩き込まれた!!

 

「!? ゴボアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

神谷は錐揉みしながらブッ飛ばされ、床で顔を擦りながら倒れた。

 

「フハハハハハハッ! 甘い! 甘いぞ、この馬鹿息子がぁ!! だぁからお前は阿呆なのだああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

まるで何処ぞの巨大ロボットを素手で破壊する師匠の様な台詞を、倒れたままの神谷に向かって言い放つ譲二。

 

「ぐ、う………このクソ親父! 何しやがるぅ!?」

 

対する神谷も、起き上がるや否やドロップキックで反撃!!

 

「ぐおおっ!? ええい! 馬鹿息子がああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

すると譲二はドロップキックを喰らいながらも、その神谷の両足を摑み、ジャイアントスイングを掛けた!

 

「おわああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

暫く回された後、放り投げられる神谷。

 

「クウッ! クソ親父!!」

 

「馬鹿息子がぁ!!」

 

「クソ親父!!」

 

「馬鹿息子がぁ!!」

 

「クソ親父!!」

 

「馬鹿息子がぁ!!」

 

そして暫くの間、お互いに罵声を浴びせながら、殴り合いを展開するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼエ………ゼエ………ゼエ………ゼエ………」

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

やがて互いに力尽き、大の字になって寝転んでいた。

 

「フフフ………やるな………流石我が息子だ」

 

「うるせぇ………いきなり殴って来やがって………一体何だってんだよ………」

 

寝転んだまま不敵に笑ってそう言う譲二に、神谷は呆れた様な言葉を漏らす。

 

「何だってんだよ、か………そう言う貴様は一体何をしているんだ?」

 

「えっ?」

 

「お前の仲間達が危機に陥っているのだぞ。それなのに、そのお前がこんな所で何をしている?」

 

「それは………」

 

神谷は言葉に詰まった。

 

「早く行け。お前の事を待っている連中が居るだろう?」

 

「…………」

 

神谷は黙り込む。

 

その脳裏には、一夏やシャル達の姿が思い起こされる………

 

「………そうだな………俺は………こんな所でグズグズしているワケには行かねえんだ!!」

 

そう叫びを挙げた瞬間!!

 

その姿が緑色の光に包まれて、グレンラガンとなった!!

 

そして、閉じていたグレンウイングを展開する!!

 

「ワリィな、親父………もう行くぜ」

 

「フンッ………とっとと行けと言っているだろうが、この馬鹿息子が」

 

そう言う来る神谷に、譲二はぶっきら棒にそう言い放つ。

 

「言ってくれるぜ………じゃあな、親父」

 

神谷が苦笑いすると、グレンウイングから緑色の炎を吹き上げ、真上へと飛んで行った。

 

「………スマンな、神谷………お前には苦労を掛けてばかりだ」

 

と、グレンラガンの姿が小さくなると、譲二は呟く様にそう言う。

 

「だが、この世界を守れるのは………お前達しかいないんだ………頼んだぞ………息子よ」

 

上昇して行くグレンラガンを見送りながら、譲二の姿は光に包まれて消えて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋から近い病院………

 

突如として、病院内に振動が走った!!

 

「キャアアッ!?」

 

「何事だ!?」

 

看護師や医師達が慌てる。

 

「せ、先生! 大変です!! 天上さんが!!」

 

とそこで、集中治療室に入れられている神谷の担当看護師がそう声を挙げた。

 

「!? 如何かしたのか!?」

 

先程の振動で容体が急変したのかと、慌てて集中治療室に駆け付ける担当医師。

 

すると、そこには………

 

ベッドに寝ている筈の神谷の姿が無く………

 

集中治療室の壁に、大穴が開いている光景が広がっていた………

 

「…………」

 

駆け付けた医師は、状況が理解出来ず………

 

ただ、茫然となるしかなかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋・大座敷………

 

「まだ通信は回復しないのか!?」

 

「だ、駄目です! ECCMも効果がありません!!」

 

作戦司令室は相変わらず喧騒に包まれている。

 

一夏達との通信は相変わらず繋がらず、教師部隊も次々に現れるガンメンの攻撃に曝され、救援に向かえずに居た。

 

(このままでは、一夏達が………)

 

千冬の心にドンドンと焦りが募って行く………

 

と、その時………

 

真耶が座って居る席の通信機が鳴り響いた。

 

「あ、ハイ! IS学園………!? ええっ!?」

 

それを受けた真耶が驚きの声を挙げる。

 

「? 如何した? 山田くん?」

 

「た、大変です! 織斑先生!! て、天上くんが!! 天上くんが病院から消えたそうです!!」

 

「!? 何っ!?」

 

真耶の報告に、千冬は驚きの声を挙げる。

 

「馬鹿な! アイツは動ける様な状態じゃないぞ!! 消えたと言うのは如何言う事だ!?」

 

「わ、分かりません! 病院からは消えたとだけしか………」

 

混乱する千冬と真耶。

 

「………やっぱりね………あの子は天上博士の息子よ………」

 

すると、リーロンが1人冷静にそう呟いた。

 

「!? リーロンさん!?」

 

「何を言っているんだ!?」

 

「見なさい」

 

戸惑う真耶と千冬に、リーロンは戦略モニターを指差す。

 

するとそこには………

 

一夏達の元へと凄まじいスピードで向かっている1つの光点が在った。

 

IFFには味方と表示され、グレンラガンの文字が浮かんでいる。

 

「!? グレンラガン!!」

 

「まさか!?」

 

「それでこそ………螺旋の戦士よ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某・海上の小島………

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の攻撃を真面に喰らった一夏が墜落し、近くにあった小島の海岸へと落下した。

 

「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

更に続いて、セシリアも墜落して来る。

 

「うわぁっ!?」

 

「ぐうっ!?」

 

「あああっ!?」

 

「キャアアアッ!!」

 

更に、シャル、ラウラ、箒、鈴と、立て続けに墜落して来た。

 

「呆気無い………呆気無さ過ぎるぞ………」

 

「んだよ、つまらねえな………もっと抵抗してみせろよ」

 

そんな一夏達を見下しながら、エンキドゥとナギーウが同じ海岸に着陸して来る。

 

上空には銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)も待機している。

 

すると………

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が突如光を放ち始めたかと思うと、全身からエネルギーの翼の様な物が生えている姿へと変化した。

 

「!? まさか!? 二次移行(セカンドシフト)!?」

 

「そんな!?」

 

ラウラとセシリアの顔に絶望の色が浮かぶ。

 

「ほう………如何やら、お前達との戦いが良い経験となって、二次移行(セカンドシフト)が早まった様だな。礼を言うぞ」

 

一夏達を皮肉る様に、ヴィラルはそう言う。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

そんなヴィラルに何も言い返せない一夏達。

 

「フン………言い返す気力すら無いか………やはりあの男が居なければ、所詮貴様等は烏合の衆に過ぎんか………」

 

「「!?」」

 

ヴィラルの言葉に、一夏とシャルが反応する。

 

「ヒャハハハハッ! ホントにアイツも救い様の無い馬鹿だぜ! テメェの命失いそうになってまで仲間助けたってのに、結局皆殺される事になるんだからよぉ!!」

 

と、ナギーウがそう神谷を嘲笑うかの様に言った瞬間………

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

シャルが近接ブレード『ブレッド・スライサー』を抜き、ナギーウに斬り掛かった!!

 

「!? 何っ!?」

 

不意打ち気味に繰り出されたその攻撃を、ナギーウは躱せず、顔面に直撃を受ける!!

 

「!? 何っ!?」

 

「やった!?」

 

ヴィラルが驚きの声を挙げ、鈴が思わずそう声を挙げるが………

 

「ざ~んね~ん」

 

ナギーウから陽気な声が挙がる。

 

シャルが放ったブレードの1撃は、ナギーウの歯に挟まれて、止められていた。

 

「!? そ、そんな!?」

 

「フンッ!!」

 

シャルが驚きの声を挙げた瞬間、ナギーウはブレードの刃を噛み砕いてしまう!!

 

「!? あうっ!?」

 

そして更に、諸刃の剣を持っていない左手で、シャルの首を摑んだ!!

 

「! シャルロット!!」

 

「動くな!!」

 

箒が助けに向かおうとするが、ナギーウが叫んで制する。

 

「動いたらこの小娘の首………圧し折っちゃうよ~」

 

ナギーウはそう言い、シャルの首を握る力を上げる。

 

「あ!………う!………」

 

シャルの顔から、見る見る内に血の気が引き、青褪めて行く。

 

「くうっ!!」

 

それを受けて、箒はおろか、他のメンバーまで動けなくなる。

 

しかし………

 

「…………」

 

そんな中で立ち上がり、ナギーウ達に向かって行く者が居た。

 

「アニキになるんだ………俺がアニキになるんだ………」

 

一夏だ。

 

焦点の定まっていない目で、ブツブツと呟いた虚ろな様子で、ドンドンとナギーウ達の方へ歩を進めて行く。

 

「んん? オイ、お前。今言ったのが聞こえなかったのか?」

 

「アニキになるんだ………俺がアニキになるんだ………」

 

そしてそのまま、雪片弐型を構える。

 

「オ、オイ!?」

 

「!? まさか!?」

 

その様子にナギーウが狼狽し、ヴィラルも驚きを示す。

 

「!? まさか!?」

 

「一夏さん!?」

 

「一夏!?」

 

「一夏! 駄目だぁ!!」

 

ラウラ、セシリア、鈴、箒からも慌てた声が飛ぶ。

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、一夏はシャルが居るのにも構わず、雪片弐型をナギーウ目掛けて振るおうとした!!

 

「チイッ! このイカレポンチがぁ!!」

 

ナギーウはそう言い、シャルを盾にする。

 

このままではシャルが!?

 

………と、その時!!

 

「一夏あぁっ!!」

 

突如、一夏を呼ぶ声が響き渡った。

 

「………えっ!?」

 

その声に反応した一夏が動きを止める。

 

「!? 何っ!?」

 

「何だと!?」

 

ヴィラルとナギーウも驚きを示す。

 

「!? この声は!?」

 

「そんな!? 嘘でしょ!?」

 

「ありえん!!」

 

「しかし、この声は!?」

 

セシリア、鈴、ラウラ、箒も驚愕の様子を示す。

 

「………神………谷………?」

 

そして、意識が飛びかけていたシャルがそう呟いた時………

 

海面を斬り裂きながらの低空飛行で、一夏達の方へと猛スピードで飛んで来る緑色の光の塊が姿を現した!!

 

「!? 何だ!?」

 

「ああんっ!?」

 

その光の塊に慌てるヴィラルとナギーウ。

 

その間にも光の塊はスピードを上げ、シャルを摑んでいるナギーウと、その眼前で静止していた一夏の元へと迫る。

 

「えっ!? えっ!?」

 

一夏が戸惑いを露わにした瞬間………

 

「歯ぁ食いしばれぇっ!!」

 

その光の塊の中から腕が飛び出して来て、一夏を思いっきり殴り飛ばした!!

 

「!? ぶべはあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

何か光る物を撒き散らしながら、錐揉み回転しながら飛んで行く一夏。

 

「せりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

更に空かさず、今度は黒い『くの字』物体を握った腕が飛び出して来て、シャルの首を握っていたナギーウの腕を斬り落とす!!

 

「!? ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

切断面からオイルと血を撒き散らし、ナギーウは悲鳴を挙げる。

 

「あ………」

 

そして解放されてシャルを、その腕が受け止めた瞬間………

 

緑色の光が弾けて、中から………

 

グレンラガンが姿を現した!!

 

「!! グレンラガン!!」

 

その姿を認め、ヴィラルは驚きの声を挙げる。

 

「! やっぱり!!」

 

「まさか!? ホントに!?」

 

「そんな馬鹿な!?」

 

「神谷!!」

 

鈴、セシリア、ラウラ、箒も驚きの声を挙げる。

 

「ア、アニキ………?」

 

「神谷………?」

 

殴り飛ばされた一夏と、その腕に抱き抱えられているシャルなど、驚愕の余り目が点になっていた。

 

「おう! お前等………待たせたな!」

 

グレンラガン………神谷は、そんな一同にそう言い放った後、一夏の方を見る。

 

「一夏………目ぇ覚めたか?」

 

「えっ?」

 

「お前が迷ったら、俺が必ず殴りに行く。だから安心しろ………お前の傍には俺が居る!!」

 

「! そうか………そうだったな………ゴメンよ、アニキ! 俺………如何かしてたぜ!!」

 

一夏はそう言うと、不敵に笑いながら立ち上がった。

 

「か、神谷………あの………そろそろ放してくれないかな?」

 

とそこで、抱えられたままだったシャルがそう言う。

 

「おっと! すまねえな!」

 

そう言うとシャルを放す神谷。

 

「あ………」

 

放される一瞬、シャルがちょっと残念そうにしていたのは多分見間違いではないだろう………

 

「神谷!」

 

「神谷さん!!」

 

「貴様! 何故此処に!?」

 

そこで、鈴、セシリア、ラウラが神谷の集まって来る。

 

「神谷! お前………怪我は!?」

 

最後に寄って来た箒がそう尋ねると………

 

「気合を入れたら治った!!」

 

「「「「「「えええええぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」」」」」」

 

神谷はさも当然の様にそう返し、一同は混乱に包まれたが………

 

「いや、まあ………アニキだったアリか………」

 

「そうだね………神谷なんだし………」

 

「確かに………アンタならしかねないわね………」

 

「何故か納得してしまいますわ………」

 

「信じ難いが………信じるしかないな………」

 

「まあ、神谷だしな………」

 

何故かすぐに納得した様子になるのだった。

 

「テメェ等ぁ!! 何時までくっちゃべってんだぁ!!」

 

とそこで、腕を斬り落とされたナギーウが、そう絶叫を挙げる。

 

「あん?」

 

そのナギーウの声に、神谷は気怠そうな様子で答える。

 

「んだよ? まだ居たのか?」

 

「貴様ぁっ! 完全に舐めているなぁ!?」

 

激昂するナギーウだったが、神谷は何処吹く風だ。

 

「とっと帰れば見逃してやったのによぉ」

 

「ふざけるなぁ! 何様の積りだ貴様ぁ!?」

 

と、ナギーウがそう怒鳴った瞬間………

 

「ヘッ! 何様の積りかって? そんなに聞きたきゃ教えてやるぜ!! 行くぜ、お前等!!」

 

「「「「「「!? おうっ!!」」」」」」

 

突然呼ばれ、一瞬戸惑った一夏達だったが、すぐにグレンラガンの傍に集まり、仁王立ちした!!

 

「無茶で無謀と笑われようと!」

 

「意地が支えのケンカ道!」

 

セシリアと鈴が叫ぶ!

 

「壁があったら殴って壊す!」

 

「道が無ければ、この手で造る!」

 

ラウラと箒も、続く様に吠える!

 

「心のマグマが炎と燃える!」

 

「俺たちゃ無敵の!」

 

「グレン団!!」

 

そして、シャル、一夏、神谷がそう見得を切る!!

 

「俺を!」

 

「「「「「俺(私、わたくし、アタシ、僕)達を!!」」」」」」

 

「「「「「「「誰だと思っていやがるっ!!」」」」」」」

 

最後の全員がそう声を張り上げた瞬間………

 

その背後に火山の噴火が見えた気がした。

 

「うううっ!?」

 

その迫力の前に、ナギーウは怯む。

 

無人機である筈の銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)も、まるで恐怖している様な様子を見せる。

 

「フ、フフフ………ハハハハハ………アハハハハハハッ!!」

 

しかし、只1人………

 

ヴィラルだけは、そんなグレンラガンの姿を見て、笑い声を挙げ始めた。

 

「!? ぶ、部隊長?」

 

「それでこそだ! それでこそだぞ、グレンラガン!! そうでなければ倒し甲斐が無い!!」

 

戸惑うナギーウを尻目に、ヴィラルは実に楽しそうな様子でそう言い放つ。

 

「言ってくれるじゃねえか! ケダモノ大将!………いや! ヴィラル!! だがな!………俺はテメェー達には絶対に負けねぇ!!」

 

それを聞いた神谷は、ヴィラルに向かってそう言い返す!!

 

「面白い! 行くぞぉ!! 神谷ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

ヴィラルがそう咆哮を挙げると、エンキドゥは両手に剣を握り、グレンラガンに向かって斬り掛かって来た!!

 

「上等だぁ!!」

 

神谷もそう叫び返し、グレンラガンは片手に2本づつ、計4本のドリルを出現させ、エンキドゥへ突撃する!!

 

「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」

 

ドリルと剣がぶつかり合い、激しく火花と散らす。

 

そのままの状態で、グレンラガンとエンキドゥは、真上に向かって上昇し始めた!!

 

「ええいっ! こうなりゃヤケクソだぁ!! とことんやってやらぁ!! シャクーッ!!」

 

するとその直後、ナギーウがそう叫んだかと思うと………

 

「「「「「「「「「「シャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

海中からサメ型ガンメン『シャクー』が次々に飛び出して来た!!

 

「!? 何っ!?」

 

「シャクー軍団! そいつ等を噛み殺せぇっ!!」

 

一夏が驚いている間に、ナギーウはそう言い放ち、上空へと上昇。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)も、それを追う様に上昇して行く。

 

「あっ!? 待て!!」

 

箒が追い掛けようとした瞬間………

 

「「「「「「「「「「シャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

シャクー軍団が一夏達に襲い掛かって来た!!

 

「クウッ!!」

 

迎え撃とうとシャルがガルムを両手に握ったが………

 

その瞬間に、先行して来ていた3機のシャクーが………

 

其々、青いレーザー、赤い炎を纏った弾丸、音速で飛んで来た砲弾に貫かれ、爆散した!!

 

それを見て、後続のシャクー軍団が動きを止める。

 

「此処は私達にお任せを!!」

 

「アンタ達は神谷の援護と決着を着けに行きなさい!!」

 

「任せるぞ!!」

 

そしてそう言いながら、セシリア、鈴、ラウラの3人が、一夏達の前に出た。

 

「大丈夫なのか!?」

 

「言った筈ですわよ」

 

「アタシ達を誰だと思ってるの?」

 

「此処は任せて………早く行け!!」

 

一夏がそう言うが、セシリア、鈴、ラウラは不敵に笑ってそう返す。

 

「! 頼んだぞ!!」

 

「すまない! 任せた!!」

 

「気を付けて!!」

 

それを聞いた一夏、箒、シャルは、神谷とヴィラル達を追って、上昇して行く。

 

「「「「「「「「「「シャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

シャクー軍団はそんな一夏達を追おうとするが………

 

「そうはさせませんわ!」

 

「アイツ等を追いたかったら………」

 

「私達を倒して行くんだな」

 

セシリア、鈴、ラウラがそう言って、その前に立ちはだかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンラガンVSエンキドゥ………

 

「ぬううううううっ!!」

 

「うぐぐぐぐぐぐっ!!」

 

未だに両手のドリルと剣をぶつけ合った状態で力比べをしているグレンラガンとエンキドゥ。

 

「「!!」」

 

すると不意に………

 

両者は弾かれる様に距離を取った!!

 

「シェアッ!!」

 

左の刀を鞘に戻すと、エンキドゥはエンキラッガーを投擲する。

 

「喰らうかよっ!!」

 

しかし、グレンラガンは右手のドリルでエンキラッガーを弾く。

 

「チイッ!!」

 

帰って来たエンキラッガーを再度装着するエンキドゥ。

 

「グレンサンダアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

すると、その間に接近して来ていたグレンラガンが、稲妻を纏った連続蹴りを叩き込んで来た!!

 

「グウウウッ!!」

 

エンキドゥは、右手に持っていた剣の峰に左手を添えて、ガードする。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

だが、グレンラガンは構わずに蹴りを出し続ける。

 

そして遂に、エンドゥの剣にヒビが入り始める。

 

「何っ!?」

 

「うおりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そしてラストの回し蹴りで、エンキドゥの剣は完全に砕かれたしまった!!

 

「うおわあっ!?」

 

衝撃でブッ飛ばされるエンキドゥ。

 

「もう1丁! グレンシュートッ!!」

 

するとグレンラガンはそのエンキドゥに、サッカーボールを蹴る様に、螺旋エネルギーの塊を蹴り放つ!!

 

「!? おうわぁっ!?」

 

エンキドゥは直撃を受けて、錐揉みしながら失速する。

 

「クウッ! まだだぁ!!」

 

しかし、姿勢と取り直すと、再びエンキラッガーを投擲した。

 

「無駄だってっつってんだろ!?」

 

グレンラガンは、ドリルを出現させた右手で弾く。

 

「如何かな!?」

 

しかしそこで、エンキドゥは弾かれたエンキラッガー目掛けてエンキカウンターを発射!

 

エンキラッガーが弾かれて軌道が変わり、再度グレンラガンへと向かった!!

 

「!? 何っ!?………!? おうわっ!?」

 

意表を衝かれ、今度は喰らってしまうグレンラガン。

 

「ヘッ! やるじゃねえか………ヴィラル!!」

 

姿勢を取り直すと、口の端を拭う様な仕草を見せて、ニヤリと笑う。

 

「勝負はまだこれからだぞ! 神谷ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

ヴィラルがそう叫ぶと、エンキドゥが残り1本となった剣を両手で握り、グレンラガンより高度を取ったかと思うと、上段に構えてから一気に急降下して斬り掛かって来た!!

 

落下速度と合わせた剣撃が、グレンラガンに迫る………

 

「…………」

 

だが、グレンラガンは回避する素振りを見せない。

 

「!? 何故避けん! 諦めたか!?」

 

ヴィラルは驚きながらも、グレンラガン目掛けて渾身の一振りを繰り出す。

 

と、その瞬間!!

 

「! そこだぁっ!!」

 

グレンラガンがそう叫んで、迫る剣の刀身を両手で左右から挟み込む様に押さえ付けて受け止めた!!

 

真剣白羽取りだ!!

 

「!? 何ぃっ!!」

 

「貰ったぜ!!」

 

更にその次の瞬間には、両腕をドリルに変えて、刀身をバラバラにする!!

 

「ぬうあっ!?」

 

「ダブルドリルクラアアアアァァァァァッシュッ!!」

 

体勢を崩したエンキドゥに、グレンラガンは両手のドリルを思いっきり叩き込んだ!!

 

「!? グアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

ヴィラルの悲鳴が挙がったかと思うと、装甲が弾け飛ぶエンキドゥ。

 

「グウウッ!!」

 

しかし、黒煙を上げながらも、体勢を立て直す。

 

だが、戦闘の継続は不可能であった。

 

「グウッ! オノレ、グレンラガン! またしても!! 何時のか必ず………俺は貴様を倒す!!」

 

そして、ヴィラルはそう捨て台詞を残し、撤退して行く。

 

「ヘッ! 何度来たって返り討ちにしてやらぁ!!」

 

そのヴィラルの背中に向かって、神谷はそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏&箒VS銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)………

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に、一夏はエネルギーブレード状態の雪片弐型で斬り掛かる。

 

しかし、二次移行(セカンドシフト)し、速度の増している銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は、アッサリとその攻撃を躱す。

 

「でやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

すると、その回避先を読んでいた箒が、雨月と空裂で斬り掛かる。

 

だがそれも、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は刀身を摑んで受け止めてしまう!!

 

「!?」

 

動きを封じられる箒。

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はそのまま、至近距離から銀の鐘(シルバー・ベル)の攻撃を喰らわせようとする。

 

「!!」

 

「箒!!」

 

だが、直前で一夏が銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に体当たり!

 

箒から引き剥がす。

 

だが、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は素早く態勢を立て直すと、一夏に向かって集束させた銀の鐘(シルバー・ベル)を放つ!!

 

「!! でりゃあああっ!!」

 

眼前まで迫った集束型銀の鐘(シルバー・ベル)を、一夏は雪片弐型で斬り捨てる。

 

集束型銀の鐘(シルバー・ベル)は雲散するが、同時に白式もエネルギーが急激に減り、とうとう雪片弐型がエネルギーブレード状態を維持出来なくなった。

 

「クソッ! またエネルギー切れかよ!?」

 

悪態を吐く様に一夏が言った瞬間、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が突撃して来る!!

 

「!? マズイ!!」

 

「やらせん!!」

 

だが、箒が放ったビット攻撃で弾かれる。

 

その間に、箒が一夏の前に出る。

 

「箒!」

 

「私はもう間違えない………力の使い方を………今此処でそれを再び誓う!! そして………一夏と共に戦う! 一夏の背中は私が守る!!」

 

と、箒がそう叫んだ瞬間………

 

紅椿が金色の輝きを放ち始めた。

 

「!? コレは!?」

 

箒が驚いていると、目の前にディスプレイが展開して、『絢爛舞踏』と言う文字が表示される。

 

そして、減っていたエネルギーがみるみる回復し、一気に満タンになった!!

 

「エネルギーが回復!? 『絢爛舞踏』………コレが、紅椿の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)!!………一夏! 受け取れ!!」

 

箒がそう叫んで、一夏に向かって手を伸ばす。

 

「!? お、おう!!」

 

戸惑いながらもその手を取る一夏。

 

すると、紅椿を通じて、回復したエネルギーが流れ込んだ!

 

「!? エネルギーが!?」

 

白式のエネルギーが、満タンにまで回復する!!

 

「凄い………凄いぜ、箒!!」

 

「当然だ! 私を誰だと思っている!?」

 

と、一夏と箒がそう言っていると………

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が再び、銀の鐘(シルバー・ベル)を発射して来る。

 

「!?」

 

「箒! 今度は俺が守る番だ!!」

 

すると一夏が、そう言って箒の前に出て、再びエネルギーブレード化した雪片弐型で、銀の鐘(シルバー・ベル)を掻き消す!!

 

「そうだよ………昔も言われたっけ………俺はアニキじゃない! 千冬姉でもない! 俺は俺だ! 織斑 一夏だ!!」

 

そして、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に向かってそう啖呵を切った。

 

その瞬間………

 

今度は、白式が金色に輝き出した………

 

「一夏!?」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ! ハアッ!!」

 

箒が驚きの声を挙げた瞬間、一夏の気合の声が響き渡って光が弾け………

 

白式は、第2形態移行(セカンド・シフト)した姿………『雪羅』へと姿を変えた。

 

「!? 第2形態移行(セカンド・シフト)!!」

 

と、箒がそう叫んだ瞬間………

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が、一夏目掛けて集束させた銀の鐘(シルバー・ベル)を放って来る。

 

「…………」

 

だが一夏は慌てずに、第2形態移行(セカンド・シフト)で左手に発現した新武装………多機能武装腕『雪羅(せつら)』を構えた。

 

集束させた銀の鐘(シルバー・ベル)は、その雪羅に命中すると、そこで弾かれる。

 

すると更に………

 

雪羅の手の部分が、金色に輝き出した!!

 

「福音………お前が銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)なら、俺は黄金の指(シャイニングフィンガー)!!」

 

そしてそのまま、増設されて更に増えたスラスターを全て全開に噴かして、集束させた銀の鐘(シルバー・ベル)を掻き消しながら突撃する!!

 

「必殺っ! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そして完全に集束させた銀の鐘(シルバー・ベル)を掻き消すと、黄金に輝く雪羅の手の部分で、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の頭を鷲摑みにした!!

 

エネルギーの稲妻が迸る!!

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は逃げ出そうと藻掻くが、全く外れない!!

 

「ハアアアアアッ! ハッ!!」

 

そして一夏が気合を入れた瞬間!!

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の頭が握り潰された!!

 

そして残った身体も、連鎖して爆散した!!

 

残骸が海へと落下して行く………

 

雪羅の手から輝きが消え、放熱での湯気が上がる。

 

「ISファイト国際条約第1条………頭部を破壊された者は失格となる」

 

「いや、そんな条約無いぞ………」

 

キリッとした表情でそう言う一夏に、そうツッコミを入れる箒だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルVSナギーウ………

 

「ヒャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

「グウッ!?」

 

諸刃の剣の斬撃が、ラファールの実体シールドの1枚を斬り裂く。

 

「このぉっ!!」

 

斬り裂かれたシールドをパージすると、反撃にとヴェントを構えて発砲するシャル。

 

「アハハハハハッ! 何処狙ってやがる!!」

 

しかし、ナギーウは3次元的な飛行で躱す。

 

「ハアアッ!!」

 

そして、シャルに向かって諸刃の剣を投擲する!!

 

すると、諸刃の剣が二又に分かれた槍に代わる!!

 

「!!」

 

残ったもう1枚の実体シールドを構えると、更にエネルギーシールド2枚を展開させる。

 

だが、二又に分かれた槍は、エネルギーシールドをアッサリと貫通する!!

 

「!?」

 

シャルは咄嗟に残り1枚のシールドも切り離して、シャルは離脱する。

 

その直後に、二又に分かれた槍は実体シールドをも貫通。

 

バラバラに砕かれたシールドの破片が海へと落下する。

 

「コイツ………態度と性格は最悪だけど………強い」

 

シャルは冷や汗を掻きながらそう呟く。

 

「ヒャハハハハハッ! 斬り刻んでやるぜええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

戻って来た二又に分かれた槍を諸刃の剣に戻すと、シャルに斬り掛かろうとするナギーウ。

 

「!!」

 

シャルはマシンガンを構えて迎え撃とうとする。

 

と………

 

「稲妻キイイイイィィィィィックッ!!」

 

稲妻を纏ったグレンラガンの蹴りが、ナギーウに叩き込まれた。

 

「!? おごあっ!?」

 

ナギーウは勢い良くブッ飛ばされ、海に突っ込む。

 

「! 神谷!!」

 

「苦戦中か? シャル」

 

「うん………アイツ、見た目と違って手強くて………」

 

神谷とシャルがそう言い合っていると………

 

「ダバアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ! やりやがったなぁ!!」

 

ナギーウが口から勢い良く海水を吐き出しながら、海中から飛び出して来た。

 

「しつこいなぁ」

 

「良し、シャル………こうなったら、『アレ』をやるぞ!!」

 

するとそこで、神谷がシャルにそう呼び掛ける。

 

「えっ? ア、『アレ』? 何? 『アレ』って?」

 

「決まってんだろ! 『合体』だ!!」

 

「え、ええっ!? が、『合体』!?」

 

『合体』と言われて戸惑うばかりのシャル。

 

「来い! シャル!!」

 

そんなシャルに向かって、グレンラガンは右手を伸ばした。

 

「! うん!!」

 

それを見たシャルは、迷いを捨てグレンラガンの右手を取る。

 

その瞬間………

 

グレンラガンとシャルの姿が、緑色の光に包まれた!!

 

「!? な、何だぁっ!?」

 

ナギーウが動きを止める。

 

そしてその光が弾けた瞬間………

 

『グレンラガンがラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを装着している』様な姿のマシンが現れた!!

 

「男の魂、炎と燃えりゃあ!!」

 

「疾風乱れ、吹き荒れる!!」

 

「「熱風合体!!」」

 

そこで『グレンラガンがラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを装着している』様な姿のマシンがポーズを取る!!

 

「「『ラファールラガン』!!」」

 

「俺を!」

 

「僕を!」

 

「「誰だと思っていやがる(るの)!!」」

 

神谷とシャルの叫びが木霊する。

 

「ぬぐうっ!?」

 

その気迫の前に、ナギーウは僅かに怯む。

 

「す、凄い!? ホントに合体した!?」

 

『グレンラガンがラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを装着している』様な姿のマシン………『ラファールラガン』のボディの顔の口が動き、シャルの声が発せられる。

 

「当然だろ!! 俺とグレンラガンに不可能って文字はねえっ!!」

 

頭部の顔の口からは神谷の声が発せられる。

 

「前に一夏からチラッと聞いたけど………まさかホントだったなんて」

 

まだ信じられない様な様子を見せるシャルだったが………

 

(………アレ? ちょっと待って?………冷静に考えると………僕………凄い事してる………?)

 

やがてそんな考えに至り始める。

 

(だ、だって! 僕今………神谷と………が、『合体』してるんだもん!!)

 

身体中の血液が一気に沸騰するかの様な感覚に襲われるシャル。

 

「あう、あう、あう………」

 

シャルの口から、意味不明な言葉が漏れ始める………

 

「ええい! ハッタリをぉっ!!」

 

とそこで、ナギーウがそう言って、諸刃の剣で斬り掛かって来る。

 

「フッ」

 

だが、ラファールラガンは、諸刃の剣の刃を右の掌で摑んで受け止める。

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「ハッタリか如何か………今見せてやるぜぇ!!」

 

神谷がそう叫んだ瞬間!!

 

ラファールラガンの左手にレイン・オブ・サタディが出現!!

 

そして、至近距離から散弾を連射で浴びせた!!

 

「!? ぐぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

忽ち身体中蜂の巣にされるナギーウ。

 

至近距離で散弾………しかも弾丸1発1発に螺旋力が籠められているのだ。

 

堪ったものではない。

 

「コイツウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!!」

 

距離が離れたナギーウは、怒りのままに諸刃の剣を投擲する。

 

諸刃の剣は、二又に分かれた槍へと変化する。

 

「無駄無駄無駄ああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

だが、ラファールラガンがそう叫んで右の拳を繰り出すと、その拳がドリルと化し、二又に分かれた槍を粉々にした!!

 

「ぬがあぁっ!?」

 

「シャル!! トドメ、行くぞぉ!!」

 

「! う、うん!!」

 

神谷にそう言われて、漸く我に返るシャル。

 

その瞬間、ラファールラガンの胸のグレンブーメランが外れた!

 

「必殺っ!!」

 

ラファールラガンは、そのグレンブーメランを摑むと、ナギーウ目掛けて投擲する。

 

高速回転しながらナギーウへと向かっていたグレンブーメランは、途中で2つに分離。

 

そのままナギーウを連続で斬り付け、空中に磔にした。

 

すると、ラファールラガンが両手にレイン・オブ・サタディを構え、拘束されているナギーウに向かって全弾叩き込む!!

 

続けて両手をガルムを持ち替えたかと思うと、これまた全弾叩き込む!!

 

更に、ヴェント、マシンガンと持ち替え、同じ様に全弾を叩き込む!!

 

「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」

 

そして、神谷とシャルが雄叫びを挙げ、右腕を掲げる様に構えた瞬間………

 

右手にラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの最強兵器………

 

『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』、通称『盾殺し(シールド・ピアース)』と呼ばれるパイルバンカーが出現する!!

 

その瞬間!!

 

灰色の鱗殻(グレー・スケール)のバンカーが緑色の光に包まれ………

 

ドリルパイルバンカーとなった!!

 

「「ドリル・テムペートッ!!(ドリルの嵐)」」

 

そして、全弾を叩き込んだナギーウに、トドメとばかりに突撃し、腹部目掛けてアッパーカットの要領で思いっきり叩き込んだ!!

 

「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

ドリルパイルバンカーが、ナギーウの身体を貫通し、ナギーウは大爆発・四散する。

 

やがて、その爆発が晴れると、無傷のラファールラガンがアッパーカットを繰り出した姿勢でポーズを取っていた。

 

その姿が緑色の光に包まれると、グレンラガンとラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを装着したシャルの姿となる。

 

「やったな! シャル!!」

 

「うん!!」

 

ガッツポーズを取るグレンラガンに、笑顔で答えるシャル。

 

「アニキ!」

 

「神谷!」

 

とそこへ、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を片付けた一夏と神谷がやって来る。

 

更に、シャクー軍団を片付けたセシリア、鈴、ラウラの姿も姿を見せる。

 

全員が笑顔で頷き合う。

 

そこで………

 

日の出が始まり、朝日がグレンラガン達の姿を照らし出し始めた。

 

「終わったな………」

 

「ああ………漸くな」

 

箒と一夏がそう言い合う。

 

「………うっし………帰るか!!」

 

「「「「「「おうっ!」」」」」」

 

そして、神谷がそう言い………

 

グレンラガンと6機のIS達は………

 

ウイング隊形を組み、白い飛行機雲を引きながら、くろがね屋へと帰還して行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

東方不敗の様な親父の激で、神谷復活!
ピンチのシャル達の前に颯爽と駆け付けます。

そして今回の事で目が覚めた一夏は、箒の絢爛舞踏に呼応する様にセカンドシフト。
必殺のシャイニング・フィンガーを決めます。
原作で雪羅が追加されたのを見て、コレ絶対シャイニング・フィンガー出来るだろと思いやっちゃいました。

そしてグレンラガンの新たな合体!
ラファールラガンの誕生です!
今回の話を見て、ピンときた方も居るでしょう。
そう………
まだ合体は残されています!
今後登場する合体形態もお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第19話『俺らしく行動で示させてもらうぜ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第19話『俺らしく行動で示させてもらうぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋………

 

玄関前………

 

「作戦完了!………と言いたいところだが、お前達は独自行動により重大な違反を起こした」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)達との戦闘から帰って来た一夏を迎えたのは、千冬の説教だった。

 

「「「「「「ハイ!!」」」」」」

 

「帰ったらすぐ反省文の提出と懲罰用の特別トレーニングを用意してやるから、その積りでいろ」

 

「「「「「「分かりました!!」」」」」」

 

千冬の姿を真っ直ぐに見据えながら、一夏達は揃って返事を返す。

 

その様には、反省の色は見えているが間違った事をしたと言う様な様子は無く、全員が堂々と胸を張っている。

 

「………ハア………悪びれた様子も無しか」

 

「あの~、織斑先生。もうそろそろこの辺で………皆、疲れてる筈ですし」

 

とそこで、横で様子を見守っていた真耶がそう言って来た。

 

「………まあ………良くやった………と褒めておいてやるよ。全員、良く帰って来たな。今日はゆっくり休め」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

そこで一夏達が一斉に驚いた顔をする。

 

「? 何だ?」

 

それに気づいた千冬がそう言うと、一夏達は後ろを向いて円陣を組む。

 

(あの千冬姉が人を褒めるなんて………)

 

(オマケに妙に優しいわ………)

 

(これは何か起こるしれん………)

 

ヒソヒソとそんな事を話し合う一夏達。

 

しかし、その声は千冬に丸聞こえだった。

 

「何だその態度は!? 私だって褒めるぐらいの事はする!!」

 

「「「「「「すいませんでしたーっ!!」」」」」」

 

千冬の怒りの声が挙がり、一夏達は一斉に頭を下げる。

 

「クウッ! ホントにお前等は………天上から要らん影響ばかり受けおって………ん?」

 

そこで千冬は、一夏達の中に神谷の姿が無い事に気づく。

 

「オイ、天上は如何した?」

 

「ま、まさか!? 傷が開いて、また病院に!?」

 

真耶が心配の声を挙げたが………

 

「………アニキは………『腹が減った』って言って、朝飯を食べに行きました」

 

一夏が気まずそうにそう言い、シャル達も千冬から視線を逸らす。

 

その瞬間に真耶はズッコけ、千冬は怒りで身体を小刻みに振るわせ始めた!!

 

「………アイツはあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

その神谷はと言うと………

 

「(ガツガツガツガツ!!)御代わり!!」

 

「ハイハイ、ただいま………」

 

差し出された神谷の茶碗を取ると、新たに御飯をよそい始める菊ノ助。

 

(天上くんって確か………入院してたんじゃ?)

 

(それが、もう退院したらしいよ。お医者さんも驚いてたって………)

 

(気合があれば怪我も治る、って言ってたけど………もうそれ人間じゃないよぉ)

 

そんな神谷の姿を見て、同じく朝食を摂っていた生徒達は、そんなヒソヒソ話を交わす。

 

と、その時。

 

廊下を何者かが走って来る音が響いて来た………

 

「神谷ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そして怒声と共に大座敷の襖が開いて、怒りの形相を浮かべた千冬が姿を見せた。

 

「よう、ブラコンアネキ。何やってんだ? 早くしねえと、オメェの分も食っちまうぞ?」

 

常人ならば裸足で逃げ出すところだが、神谷はそんな千冬の姿を見ても、堂々としながらそう言い放つ。

 

「貴様はああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「お、織斑先生!!」

 

「千冬姉! 落ち着いて!!」

 

今にも暴れ出しそうになった千冬を、後から追い掛けて来ていた真耶と一夏が止める。

 

「「「「「「…………」」」」」

 

箒やシャル達は、大座敷の襖からトーテムポールの様になって、その様子を覗いている。

 

「お前はいつもいつもぉ!!………!? うっ!?」

 

と、千冬がそう叫んだ瞬間………

 

突然糸が切れた操り人形の様にガクリとなった。

 

「!? 織斑先生!?」

 

「千冬姉!?」

 

真耶と一夏が、慌てて千冬の状態を調べる。

 

千冬は白目を剥き、ピクピクと小刻みに痙攣している。

 

如何やら、怒りのあまり気絶をしてしまった様だ。

 

「織斑先生ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

「オイ何やってんだ? そんなとこで寝ると風邪引くぞ?」

 

「いや、アニキのせいだから………」

 

思わず叫ぶ真耶、突然倒れた千冬に首を傾げる神谷、それにツッコミを入れる一夏………

 

朝食の場は、一瞬で混沌と化した。

 

千冬はそのまま、神谷と入れ替わる様に緊急入院したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

朝食が終わった後、今日は予定を変更して終日自由行動となった………

 

総責任者である千冬が倒れてしまったので、「止むを得ず」との事である………

 

「ふゃあああぁぁぁぁ~~~~~………」

 

神谷は旅館の屋根に昇り、そこに寝転んで大きな欠伸をする。

 

他の生徒達は再び海へと向かったので、神谷も向かおうとしたところ、全員から泣いて止められたので、仕方なく旅館でのんびりとする事にしたのだ。

 

「今日も空が青いぜ………」

 

神谷は空を見上げながらそう呟く。

 

すると………

 

「神谷………」

 

「ん?」

 

自分を呼ぶ声が聞こえたので、視線を向けると、そこには………

 

「やあ………」

 

屋根の縁から上半身だけ出して、神谷の方を見ているシャルの姿が在った。

 

「おう、シャルか」

 

「そっち行っても良いかな?」

 

「おう、良いぜ」

 

神谷がそう言うと、シャルは屋根の上によじ登り、寝ている神谷の隣に腰を下ろす。

 

「「…………」」

 

そしてそのまま沈黙する2人。

 

暫くその状態が続く………

 

「………オイ? 如何したんだ? 何か用でもあんのか?」

 

やがて痺れを切らした様に、神谷が起き上がってそう尋ねた。

 

「…………」

 

その言葉で、シャルは神谷の方を見るが、まだ口を開かない。

 

「シャル?………!?」

 

再びシャルの名を呼び………

 

神谷は驚愕する。

 

シャルの目から、ボロボロと涙が零れ始めたからだ。

 

「な、何だよ、オイ!?」

 

突然泣き出したシャルに、流石の神谷も慌てる。

 

「!!」

 

と、その瞬間!!

 

シャルは神谷に抱き付いた!!

 

「!? オ、オイ!?」

 

「馬鹿! 神谷の馬鹿馬鹿! 心配したんだからね!!」

 

神谷に抱き付いたままそう言うシャル。

 

「あんな事になって………死んじゃうかもしれないって言われた時! 僕がどんな気持ちだったか分かる!?」

 

「…………」

 

それを聞いた神谷は何も言えなくなる。

 

「ホント………ホントにもう………」

 

シャルは神谷に抱き付いたまま嗚咽を漏らし始めた。

 

「…………」

 

そんなシャルの身体を抱き締める神谷。

 

「その………何だ………スマン」

 

「………もう良いよ………その代わり………」

 

「??」

 

「暫く………このままにさせて………」

 

「…………」

 

神谷は了承を現すかの様に、抱き付いているシャルの頭をポンポンと撫でるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして………

 

「グスッ………ゴメンね、急に泣き出しちゃって………」

 

落ち着きを取り戻したシャルが、赤くなった目を擦りながらそう言う。

 

「全くたぜ、勘弁してくれよ………女の涙ほど苦手なモンはねえぜ」

 

「へえ………やっぱり神谷でも女の子の涙には弱いんだね」

 

気まずそうに後頭部を掻いている神谷に、シャルは笑いながらそう言う。

 

「まあな………特に相手がお前の場合だとな」

 

「えっ!?」

 

その言葉で、シャルの顔が紅潮する。

 

「そ、それって………ど、如何言う意味!?」

 

「そりゃあ、お前………」

 

と、そこで言葉に詰まる神谷。

 

「…………」

 

そしてそのまま、身体がむず痒い様な様子を見せたかと思うと………

 

「………止めだ」

 

そう言ってまた寝転んでしまった。

 

「ええーっ!? 何で!?」

 

途端に、シャルは不満の声を挙げる。

 

「柄じゃねえんだよ、そう言うのは………」

 

「そんな~! そんなのないよ~!! ちゃんと言ってよ~~!!」

 

ぶっきら棒にそう言う神谷だったが、シャルは納得が行かず、寝ている神谷の身体を揺さぶる。

 

「オイ! 止めろって! 揺らすな!!」

 

「じゃあちゃんと言ってよ!!」

 

両者1歩も譲らず意地を張り合う。

 

「あ~もう! 分かった、分かった!」

 

やがて、神谷が折れたかの様にそう言って身を起こして胡坐を掻いた。

 

「じゃ、じゃあ、言ってよね………」

 

イザとなると、やはり緊張するシャル。

 

しかし………

 

神谷はシャルの予想を上回る事をしでかすのであった………

 

「悪いが、やっぱりそういうのを口で言ったりすんのは柄じゃないんでな………俺らしく行動で示させてもらうぜ」

 

「えっ?」

 

神谷の言葉の意味が分からず、シャルが戸惑いを浮かべていた瞬間………

 

神谷の手が伸び、シャルの後頭部に当てられたかと思うと、そのままシャルを引き寄せ、唇を合わせ合った。

 

所謂、キスである。

 

「!?!?」

 

途端に、シャルは真っ赤になって湯気を上げる。

 

「………如何だ?」

 

そんなシャルから唇を放すと、神谷はそう問い質す。

 

「!? かかかかかか、神谷!! いきなり何するの!?」

 

「嫌だったか?」

 

「い、嫌じゃないけど………」

 

逆に問われて、シャルはモジモジとする。

 

「今のが俺の心だ………で? お前は如何なんだ?」

 

そこで神谷がそう問い質す。

 

「!! 僕は………」

 

シャルは一瞬逡巡した様な様子を見せたが………

 

今度は自分の方から、神谷へと口付けた。

 

「!?」

 

神谷は驚きで目を見開く。

 

「………僕も行動で示させて貰ったよ」

 

シャルは照れながらもそう言って、悪戯っ子の様に笑う。

 

「お前………やってくれるじゃねえかよ」

 

呆然としていた神谷だったが、やがてそう言ってニヤリと笑った。

 

「えへへへ」

 

「フッ」

 

互いに笑い合うと、神谷は再び寝転がり、シャルはそんな神谷を見やりながら、隣に座るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ………

 

夜………

 

くろがね屋からちょっと離れた海に面した崖の上………

 

「最初の試練は突破したみたいだね………箒ちゃんは絢爛舞踏を発動させたし、いっくんは白式を第2形態移行(セカンド・シフト)させた………」

 

そこには束の姿が在った。

 

崖の縁に腰掛け、足をブラブラさせながら、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)との戦いで進化した紅椿と白式のデータを見ている。

 

その表情は、何時もと同じ笑みに見えるが………

 

何処か影が在る様に思えた。

 

「グレン団の皆の結束も固まったみたいだし………何より………」

 

と、束がそう言うと、映し出されていた映像が、グレンラガンとラファールラガンの姿へと切り替わった。

 

「かみやんも、螺旋の戦士としてまた成長した………新しい合体を編み出す程に………」

 

「束………」

 

そこへ、千冬が姿を見せる。

 

「あ! ちーちゃん!!………如何したの? 顔色悪いよ?」

 

千冬が現れた事に喜ぶ束だったが、振り返って確認したその千冬の顔色が悪いのを見てそう尋ねる。

 

「気にするな………と言うか、聞くな」

 

不機嫌そうな様子で、それ以上の質問は許さないと言った雰囲気を出しながら、千冬はそう言う。

 

「そ、そう………」

 

その迫力に押されて、束はそれ以上追及する事はしなかった。

 

「ところで、一体如何したの、ちーちゃん? 私に用事?」

 

何時もの調子に戻ってそう尋ねる束。

 

「………束………お前一体如何した?」

 

しかし、千冬は真剣な様子でそう束に尋ね返す。

 

「ふえ? 何がぁ?」

 

「恍けても無駄だ………私には分かる………今のお前が、私の知っているお前らしくない事ぐらいはな………」

 

「…………」

 

そう言われて束は黙り込むと、千冬から視線を反らし、再び海の方を向いた。

 

「………敵わないなあ、ちーちゃんには」

 

「お前は自分の興味のない事にはとことん無関心になる性格で、それは人間の場合も例外ではない。私と一夏と箒、そして神谷以外に関心を示さなかったお前が、生徒にゴメンなどと言うとは………如何いう心境の変化だ?」

 

「…………」

 

「まあ、普通ならば別にそれは良い変化だと思うから問題無い………だがお前は場合は別だ………ISを世に認めさせる為に白騎士事件を起こした様なお前がな」

 

束に向かって、千冬はそう言う。

 

そう………

 

白騎士事件の際、日本に向かってミサイルを放つ様に、各国の軍事コンピューターをハッキングした犯人は………

 

世間一般では、謎とされているが………

 

千冬は、それが束の仕業だと確信していた。

 

何故なら………

 

今でこそ最強の兵器として世間に浸透しているISだが………

 

発表された当初は、宇宙開発用と言う目的もあり、見向きにされていなかったのだ。

 

だから、千冬は束がISの存在を認めさせる為に白騎士事件を起こした………

 

そう思っている。

 

「束………ひょっとして一夏が男でありながらISを動かせた事も、お前が関わっているんじゃないのか?」

 

「………それは私の仕業じゃないよ」

 

「本当にか?」

 

「うん………誓って言うよ………」

 

「そうか………なら質問を変えよう………一夏がISを動かせた事について、何か知っているのか?」

 

「…………」

 

その問いに束は沈黙したが………

 

「………知ってるよ」

 

やがてそう短く千冬に反応を返す。

 

「そうか。なら………」

 

「ゴメン………まだ教えられないんだ」

 

問い質そうとした千冬を制して、束はそう言った。

 

「束………」

 

「ねえ、ちーちゃん………何で私がISを造ったか………覚えてる?」

 

「確か………無限に広がる星の向こうへ行ってみたい………そう思ったからだったか?」

 

「そう………だから………今私は………白騎士事件を起こした事………後悔してるんだ………アレは私の罪………そして罪を犯した者は………それを償わなきゃいけない」

 

「何っ? 如何言う事だ?」

 

それを聞いた千冬が、顔色を変えて束にそう問い質すが………

 

「ゴメンね………」

 

束はそう言うと、何と崖下へと飛び降りた!!

 

「!? 束!?」

 

慌てて崖の縁まで駆け寄ると、断崖を覗き込む千冬。

 

だが、そこに束の姿は無かった………

 

「束………」

 

千冬は断崖を覗き込んだままそう呟く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

くろがね屋近くの海水浴場にある岩場にて………

 

「ふう………」

 

一泳ぎ終えた水着姿(赤褌)の一夏が、岩場に腰掛けて一休みしている。

 

くろがね屋から抜け出し、こっそりと泳ぎに来ていたのだ。

 

「い、一夏………」

 

「ん?」

 

声を掛けられた一夏が振り返ると、そこには水着姿の箒の姿が在った。

 

「箒………お前も泳ぎに来たのか?」

 

「あ、ああ………少し頭を冷やそうと思ってな」

 

「そうか………そう言えば、この間の自由時間の時、見かけなかったけど………」

 

とそこで、一夏は改めて箒が水着姿なのを思い出し、マジマジと見つめてしまう。

 

「あ、あんまり見ないで欲しい………お、落ち着かないから………」

 

「ス、スマン」

 

箒にそう言われて、慌てて視線を反らす一夏。

 

「…………」

 

箒は無言のまま一夏の傍に寄り、その傍に腰を下ろす。

 

「「…………」」

 

そのまま2人とも沈黙してしまう………

 

箒は最初の作戦で足を引っ張ってしまった事で………

 

一夏は神谷が重傷を負った時に箒に当たってしまった事で、気まずくなってしまっているのだ。

 

「「…………」」

 

気まずい沈黙が続く。

 

「あ、あのさあ………」

 

とそこで、一夏の方がその沈黙を破った。

 

「な、何だ?」

 

「そのリボン………してくれたんだな」

 

一夏がそう言って、箒がしているリボンを示す。

 

神谷を助ける際に海に突入した時、リボンを無くした箒だったが、本日7月7日は彼女の誕生日であり、一夏から新しいリボンをプレゼントされたのである。

 

「あ、ああ………お前からのプレゼントだからな」

 

「正直、貰ってくれないかと思ったよ………俺………お前に酷いこと言っちまったからな………すまない、箒」

 

「な、何を言うんだ! 当然の事だ! 私のせいで神谷は重傷を負ったんだ!! 私は………責められて当然だ!!」

 

そう言って、箒は表情に影を落とす。

 

「もう良いって、箒………結局アニキも大丈夫だったんだし………俺が悪かったんだ」

 

「いや違う! 私が!!」

 

「いや、俺だって!!」

 

「私が!!」

 

「俺が!!」

 

先程までの沈黙がウソの様に、互いに自分がと言い始める一夏と箒。

 

「「ハア………ハア………ハア………ハア………」」

 

やがて互いに言い過ぎて、息を切らせる。

 

「………フフフフ」

 

「ハハハハ………」

 

そして、どちらからとも無く笑い始めた。

 

「何か………馬鹿みたいだな。俺達」

 

「そうだな………神谷の馬鹿が伝染したのかもしれんな?」

 

「あ、箒! そりゃ幾ら何でも………!?」

 

と、そこで一夏が急に固まる。

 

「? 一夏?」

 

「ほ、箒………その………離れないか? 当たってるんだが?」

 

「?………!?」

 

と、そこで箒は、一夏にかなり接近していた為、胸を押しつけていた事に気づき、慌てて飛び退く。

 

「お、お前は!!………」

 

「えっと………スマン」

 

何故だか分からないが、罪悪感を感じた一夏は箒に謝る。

 

「その………何だ………意識するのか?」

 

と、不意にそこで箒がそう尋ねた。

 

「? ハイ?」

 

その質問の意図が分からず、一夏は首を傾げる。

 

「だ、だからだな!」

 

すると箒は、一夏の手を取り、自分の胸の谷間に押し当てた!!

 

「うおっ!?」

 

「私を………異性として意識するのかと、訊いているのだ………」

 

「あ、ああ………まあ、な………」

 

頬を染めばがら、勢いに押される様に一夏は答える。

 

「そうか………そう、なのだな………」

 

箒は、噛み締めるかの様にそう呟く。

 

そのまま2人は再び沈黙した………

 

月明かりが岩場に座り込む1組の男女の姿を、幻想的に映し出す………

 

「…………」

 

やがて、向かい合っていた2人の内、一夏が箒に顔を近づかせ始めた………

 

しかし………

 

「ん?」

 

ゴツンッ、と一夏は、自分の額に何かが当たるのを感じて顔を上げる。

 

そこに在ったのは………セシリアのブルー・ティアーズのビットの方のブルー・ティアーズだった。

 

「!? ぬあああああっ!?」

 

一夏は仰け反った瞬間、ブルー・ティアーズからビームが放たれた。

 

前髪が少し焼き切れる。

 

「姿が見えないかと思えば………何をしている、一夏?」

 

「よし………殺そう」

 

「ふ………ふふふふふ………」

 

何時の間にか、2人の近くの空には、ISを装着したラウラ、鈴、セシリアの姿が在った。

 

全員、一様に殺気だっている………

 

特に鈴とセシリアがヤバい………

 

鈴の方は目のハイライトが消えており………

 

セシリアは不気味な笑い声を漏らしている………

 

「うええっ!? ほ、箒! 逃げるぞ!!」

 

「えっ!? う、うわあっ!?」

 

そう言うや否や、一夏は箒をお姫様抱っこで抱き抱え、逃げ出す。

 

「「「待てえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」」」

 

それを鬼気迫る表情で追う3人。

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

月夜の海辺に、一夏の悲鳴が響き渡ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

神谷とシャルはと言うと………

 

「男の魂完全燃焼! キャノンボールスマアアアァァァッシュッ!!」

 

「何のぉっ!! ラファール(疾風)返しいいいいぃぃぃぃぃっ!!」

 

「そらそら! 兄さんも嬢ちゃんも頑張りなぁ!!」

 

くろがね屋で、仲良くイタチの安に審判をしてもらって、卓球を楽しんでいたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

福音を撃破して帰還したグレン団。
残る臨海学校を楽しむ中………
遂に神谷とシャルが告白し合い、正式に付き合う事になりました。

一方、何やら色々と知っている様子の束。
しかし、多くは語らずに去って行ってしまいます。
今川作品お約束の、『真実を知っていて矢鱈勿体ぶる人』と『罪と罰』です。
この謎は追々明かされていきます。

さて次回はギャグ回です。
神谷の男らしさがダメな方向に発揮されます。
そして遂にくろがね屋の面々が………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第20話『見てぇもんは見てぇんだ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第20話『見てぇもんは見てぇんだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロージェノム軍による銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)強奪未遂というハプニングがあったものの………

 

IS学園の臨海学校は無事終了した………

 

生徒達は皆学園に戻り、残り僅かな1学期を過ごして、そのまま青春の夏休みに突入する………

 

………筈だった。

 

何故か、臨海学校は終わった筈なのに………

 

神谷達グレン団の一同と千冬、真耶は、くろがね屋に残っていた………

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の件で、神谷達は命令違反を犯しており………

 

当初千冬は、学園に帰ってから処罰を下す積りでいたが………

 

神谷の性格からして、学園に帰った途端にバックレると踏んだ千冬は、くろがね屋に残って補習を行う事にしたのだ。

 

一夏達も、ついでと連帯責任と言う事で、補習に付き合わされる。

 

頭を使う補習は神谷には無意味だと悟った千冬は、身体を使う補習で神谷を扱く積りである。

 

ドイツ軍で教官をしていた経験もある千冬は、そりゃあもう軍隊さながらの訓練を神谷達に科した。

 

 

 

 

 

くろがね屋近くの海岸………

 

「1、2ー!」

 

「「「「「「そーれ!!」」」」」」

 

「1、2ー!」

 

「「「「「「そーれ!!」」」」」」

 

迷彩服姿で、本物と同じ重量の装備を持たされ、砂浜を整列して揃ってランニングしている一夏達。

 

「もっと声を出さんかーっ!! 貴様等それでも軍人かぁーっ!!」

 

御丁寧に千冬も鬼軍曹の様な格好をして、腕組みをして仁王立ちのポーズで佇んでいる。

 

「お、織斑先生………軍人じゃなくて、生徒達ですよ………」

 

その横に居た、千冬によって無理矢理迷彩服を着せられた真耶がそう弱々しく言う。

 

千冬の迫力に押されて、強く出れない様だ。

 

「な、何故………私がこの様な事を………」

 

「コレも全部神谷のせいよ………」

 

只でさえ暑い夏の砂浜を、軍隊のフル装備で走っている為、既に滝の様な汗を掻いているセシリアと鈴が、恨みがましそうにそう呟く。

 

「この感じ………あの頃を思い出す」

 

ラウラは、千冬がドイツで教官をしていた頃を思い出し、懐かしそうな顔になる。

 

「い、一夏………流石にコレはキツイぞ………如何にかならないか?」

 

「無理だよ………千冬姉がああなったら誰にも止められないよ………」

 

苦しいを通り越して青褪めた表情で訴える箒に、同じ様な表情で力無くそう答える一夏。

 

「オイ、如何した!? もっと気合入れろ!!」

 

「神谷は元気だね………僕もう死にそう………」

 

体力馬鹿な神谷はピンピンしているが、隣のシャルは死にそうな表情になっている。

 

「ほう………元気が有り余っているな………よ~し! もう100往復追加だ!!」

 

そんな神谷の姿を見て、千冬はそう指示を出す。

 

「「「「「ええええぇぇぇぇぇ~~~~~~っ!?」」」」」

 

「ハイ! 教官!!」

 

「へっ! 上等だぜ!!」

 

悲鳴を挙げる一夏達とは対照的に、ラウラと神谷はまだまだ余裕そうなのであった。

 

訓練開始時には上り始めていた太陽が………

 

今は水平線の向こうへ落ちかけているのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

くろがね屋の一室では………

 

「あの坊や達は如何してる?」

 

「織斑先生に扱かれてるわ。先生ったら、日頃の恨みとばかりに神谷に厳しい訓練を課してるみたいね」

 

リーロンがパソコンの様な機械を弄りながら、つばさの問いにそう返す。

 

「アハハハ、巻き込まれてる生徒さん達は可哀そうだね」

 

「全くね………けど、何やかんや言って、結局は神谷に付いて行く子達だしね。大丈夫よ」

 

「そうかい………ところで? そいつは何だい?」

 

と、そこでつばさは、今度は先程からリーロンが弄っているパソコンの様な機械に映し出されている『グレンラガンに良く似たマシンの設計図』について尋ねる。

 

「ああ、コレ? グレンラガンを元にした量産機の設計図よ」

 

「ほう………グレンラガンの量産機かい」

 

「ええ。世界とロージェノム軍との戦況は今のところ五分五分だけど………ISの数に限りがある以上、何れはジリ貧よ。ISに代わる兵器を用意しないと」

 

「それでグレンラガンの量産機を………って事かい?」

 

「ええ、そうよ。コレはまだ試作段階だから、神谷程でないにしても螺旋力がある程度無いと駄目だけど、何れは誰にでも使える様にする積りよ」

 

「造ったら造ったでまた面倒な事が起こりそうだけどねぇ………」

 

共通の敵を前にしても、未だに纏まりきっていない世界の情勢を顧みて、つばさは皮肉る様にそう言う。

 

「それでも必要な事よ………もしこの戦いに負ければ、人類の明日は奴隷か絶滅よ………」

 

だが、リーロンは真剣な顔で、グレンラガンの量産機のデータを創り上げて行くのだった。

 

「そうだね………先ずは人類が生き残らない事には始まらないね」

 

と、つばさがそう言った時………

 

ドタドタという、大人数が廊下を走って来る様な音が聞こえて来る。

 

「?」

 

「何だい?」

 

それを聞いたリーロンとつばさが、廊下の方に視線を向けると………

 

廊下の襖が蹴破られ、銃を手にしているウサギ型の獣人達が雪崩れ込んで来た!!

 

「動くな!!」

 

「大人しくしてもらおうか!!」

 

銃をリーロンとつばさに付き付け、ウサギ型獣人達はそう言い放つ。

 

「アララ………」

 

「騒がしいね、全く………」

 

しかし、無数の銃口を突き付けられていると言うのに………

 

リーロンとつばさの顔には………

 

余裕の笑みが浮かんでいたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事態が起こっているとは露知らず………

 

神谷達がくろがね屋へと帰還して来た………

 

神谷と一夏の部屋………

 

「はああぁぁぁぁ~~~~………疲れた~~~~」

 

部屋に帰るなり、一夏は倒れ込む様に畳の上に倒れる。

 

未だに着ている迷彩服は汗でびっしょりである。

 

生徒達は先に帰ってしまったので、現在部屋割りは男子と女子で分けられており、千冬と真耶は女子達の部屋の方で、そちらの方を監視しているという態勢を取っている。

 

補習まで一夏は兎も角、神谷と同じ部屋に居たくないと言う思いも有ったのかもしれないが………

 

「如何した、一夏! 気合が足りねえぞ!!」

 

疲労困憊な一夏とは対照的に、神谷の方はまだ元気そうであった。

 

「アニキ~………体力有り過ぎるよ~………」

 

倒れたまま神谷に視線を向けながら、一夏はそう言う。

 

「男は体力だろ! それぐらいで根を挙げて如何する!!」

 

そんな一夏に向かってそう言い放つ神谷。

 

(………こりゃ明日は今日以上の地獄かも)

 

訓練終了の際に、余り疲れた様子を見せなかった神谷を見て、千冬が悔しそうな表情を浮かべていたのを思い出して、一夏はそう思う。

 

「はあ~~………取り敢えず………俺、汗を流したいから、温泉に行くよ」

 

「そうか。んじゃ、俺も行くとするか………」

 

そう言い合うと、神谷と一夏は浴衣と代えの下着を持ち、温泉へと向かったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋・温泉………

 

男湯………

 

「アレ? 安さんが居ない?」

 

温泉に入った一夏が、何時も居る筈のイタチの安の姿が無い事に気づいて、そう声を挙げる。

 

「ああ? 何処行ったんだ? アイツ?」

 

神谷もそれに気づいてそう声を挙げる。

 

「………まあ良いや。アニキ、俺が背中流すよ」

 

「おう! んじゃ頼むぜ!!」

 

しかし、他の仕事の手伝いをしているのだろうと思い、一夏と神谷は互いに背中を流し合いながら身体を洗うと、湯船に浸かったのだった。

 

「ああ~~~………生き返る~」

 

「年寄りくせぇぞ、一夏」

 

「ううっ!? 言わないでよ、アニキ~」

 

気にしている事を指摘された一夏が、抗議の声を挙げる。

 

「…………」

 

しかし、神谷はそんな一夏の抗議の声など聞こえていないかの様に、湯船の縁に寄り掛かり、天を仰いでいた。

 

すっかり日は暮れ、空には満月と無数の星々が浮かんでいた。

 

「? アニキ?」

 

「キレーなもんじゃねえか………なあ、一夏」

 

首を傾げた一夏に、神谷はそう言う。

 

「えっ? ああ、うん………確かに、此処だと星が良く見えるね………」

 

神谷の言葉に、一夏は同じ様に星空を見上げながらそう答える。

 

「なあ、一夏………何時かあの星の向こうまで行きてぇな」

 

「? 星の向こうに? 宇宙に? 幾ら何でも、それは………」

 

「馬鹿野郎!!」

 

と、神谷はそう言って湯を波立たせながら立ち上がると、湯船の縁に片足を突いて仁王立ちした。

 

「無茶を通して道理を蹴っ飛ばすのが、俺達グレン団だろうが。その俺達が、今まで行くと言って行けなかった所が在ったか?」

 

「アニキ………」

 

そんな神谷の姿を見た後、再び星空を見上げる一夏。

 

「そうだね………うん! 行こうよ、アニキ! 何時かあの星の向こうまで!!」

 

「おう!!」

 

男2人が、まだ見ぬ果ての景色に思いを馳せていた。

 

………と、その時!

 

「あン!」

 

「「!?」」

 

隣………女湯から聞こえて来た色っぽい声に、一夏と神谷は反応する。

 

「ふぁ、凰さん! ヘンなところに触らないで下さい~!」

 

「オノレェ! このデカチチが! デカチチがぁ~!」

 

「教官………どの様にすれば、教官の様な素晴らしいスタイルになれるのでしょうか?」

 

「ラウラ、落ち着け………目が据わってるぞ………」

 

「………メロン」

 

「いえ、スイカですわ………」

 

「!? おま、お前達! 何処を見て何を言っている!?」

 

それは、女湯に入っている真耶、鈴、ラウラ、千冬、シャル、セシリア、箒の男にとって非常に悩ましい声だった。

 

「ア、アニキィ!?」

 

「おおおおお、落ち着け一夏ぁ!!」

 

顔を真っ赤にしている一夏と鼻息の荒い神谷。

 

「も、もう許しませんよぉ! えいっ!!」

 

「キャアッ!? ちょっ、ちょっと! 何処揉んでるのよ~!!」

 

「教官、まさか………一夏との所謂禁断の愛で………」

 

「貴様! 一体何処からそんな知識を仕入れて来るんだ!?」

 

「僕も結構あると思うんだけどなぁ~………」

 

「わ、私だって!!」

 

「だから何処を見て言っている!!」

 

そんな一夏と神谷の思いなぞ知らず、更に悩ましい会話が女湯から聞こえて来る。

 

「ブフッ!? ア、アニキ………コレ以上はマズイよ! 退散しよう!!」

 

耐え切れなくなった一夏が鼻血を噴くと同時に、神谷にそう呼び掛ける。

 

しかし、その隣に神谷の姿は無かった………

 

「? アニキ?」

 

神谷の姿を探して、一夏がキョロキョロとすると………

 

「クソッ! 足りねえ………オイ、一夏! もっと桶と椅子を集めろ!!」

 

風呂桶と座椅子を集め、高い敷居を超えようとしている、腰にタオルを巻き付けた神谷の姿が在った。

 

「な、何してるの!? アニキ!?」

 

「ああん? 決まってんだろ! 女湯を覗くんだよ!!」

 

悪びれた様子も無く、神谷は当然の様にそう言い放つ。

 

相変わらず自分に正直な男である。

 

悪い意味でも………

 

「だ、駄目だよ、アニキ! 覗きは犯罪だよ!! それに後でどんな目に遭うか………」

 

当然止めようとする一夏だったが………

 

「馬鹿野郎!! 良いか、一夏! 星の向こうも良いが、その前によ………男が辿り着かにゃならねぇフロンティアが在るだろう?」

 

そこで神谷は、一夏と肩を組み、そう言って来た。

 

「男の道ってのはなぁ………何だ、一夏? 山あり谷あり………ロマンありだ。違うか? なぁ、見たはねぇのかい? 美しい山やキワどい谷をよぉ」

 

神谷は、真面目なかつ真剣な顔でそう語る。

 

傍から見ればカッコイイのだが、やろうとしている事は結局覗きである。

 

様は純度100%の下心だ。

 

「う、美しい山や………キワどい谷………!? うぐっ!?」

 

思わず想像してしまった一夏の鼻から、またも鼻血が噴き出す。

 

「そうだろ、一夏! 男ならそうだろ!!………で? 誰のが1番楽しみだ? セシリアか? ラウラか? 鈴か? メガネ姉ちゃんか? まさかブラコンアネキって事はねえよな?」

 

神谷は、早口でそう捲し立てる様に言う。

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ、アニキ! 俺は………」

 

「やっぱり箒か!?」

 

「!?」

 

と、神谷の口から箒の名が出た途端に黙り込む一夏。

 

脳裏に、転校初日に箒と同じ部屋にされた際に見てしまったバスタオル1枚だけの姿が思い起こされる。

 

そして注目点は、同年代の女子と比べて豊満に育っている胸に移り………

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

そこで一夏は、慌てて手をバタつかせて妄想を振り払う。

 

「お、俺は!! 俺は!!」

 

葛藤している様子を見せながら、一夏は黙り込む。

 

「良し! 届いたぁ!!」

 

と、その間に更に風呂桶と座椅子を集めていた神谷は、遂に女湯が覗けそうな位の高さに積み上げる事に成功した!

 

「いざ行かん! 約束の地! 男のフロンティアへ!!」

 

そして遂に………

 

神谷は女湯を覗き込む………

 

と、その瞬間!!

 

突如激しい震動が走り、くろがね屋の風呂場が崩壊し始めた!!

 

「な、何だぁ!?」

 

「!? おわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

その震動で足場が崩れ、神谷は湯船へと落下する。

 

「アニキ!!」

 

「お、男のフロンティアが~~~~~っ!?」

 

また言っている………

 

と………

 

やがて震動が更に激しくなり、女湯側の地下から、超巨大ガンメン………温泉型ガンメン『イタミループ』が姿を現した!!

 

「!? ガンメン!! しかもデカい!?」

 

「プハァッ!! 許さねえぞ、ガンメン野郎!! 男のロマンを粉々にしやがった罪!! 100億万倍にして返してやるぁあ!! グレンラガン! スピンオン!!」

 

と、湯船から飛び出した神谷が、恨みの籠った叫びと共に首から下げていたコアドリルを掲げる様に構えて吠えた。

 

その姿が緑色の光に包まれて、グレンラガンとなる!

 

「クッ! 白式ぃっ!!」

 

一夏も白式を呼び出し、白い光に包まれて装着する!!

 

「行くぞぉ! ガンメン野郎!!」

 

「待てぇいっ!!」

 

そしていざ掛かって行こうとした瞬間、イタミループがそう声を挙げた。

 

「「!?」」

 

「コイツ等が如何なっても良いのか?」

 

思わずグレンラガンと一夏が動きを止めると、イタミループの頭の上に、檻の様な物が現れ、目から映像が投影される。

 

そこには………

 

身体の部分をモザイクで隠されたシャルや箒達の姿が映し出された。

 

「!?」

 

「箒!? クソッ! 人質か!?」

 

それを見て動きを止めるグレンラガンと一夏。

 

「一夏!!」

 

「神谷ぁっ!!」

 

箒とシャルが2人に向かって叫ぶ。

 

「何でISが展開出来ないよの!?」

 

「この檻から奇妙なエネルギー波が出ている………」

 

「それがISの展開を妨害しているんですの!?」

 

ISを展開しようとしている鈴だが、如何いうワケか展開せず、ラウラが分析し、セシリアが驚きの声を挙げる。

 

「お、織斑先生………」

 

「クソッ! この私が………油断した」

 

完全に狼狽えている真耶と悔しそうな表情を浮かべている千冬。

 

「女共の命が惜しかったらグレンラガンとISを解除してもらおうか!」

 

イタミループが、グレンラガンと一夏を指差してそう言い放つ。

 

「罠だよ!!」

 

「罠だ一夏! そんな話に乗るな!!」

 

「アニキ! 罠だ! 如何するの!?」

 

あからさまな罠にシャル、箒、一夏がそう声を挙げる。

 

「…………」

 

神谷は少しの間沈黙していたかと思うと………

 

「オイ………もし俺が解除したら………」

 

「んん?」

 

「見えそうで見えねぇそのモザモザした奴を外してもらうぜ!!」

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

その瞬間………

 

その場に居た誰もが呆れ返った………

 

「そ、そんなので良いのか?」

 

「おうよ!!」

 

「うん、分かった………」

 

戸惑いの声を挙げるイタミループにも、迷わずそう答えるグレンラガン。

 

「ア、アニキ!? 何言って………ブバッ!?」

 

思わず傍に寄って来た一夏に裏拳を喰らわせて黙らせる。

 

「許せ………兄弟」

 

そしてそう言ったかと思うと、グレンラガンから神谷の姿へと戻った!!

 

「さあ解除してやったぞ! そっちも約束を守りやがれぇーっ!!」

 

イタミループを指差し、神谷はそう言い放つ。

 

「ククク………良いだろう」

 

そして、イタミループがそう言って指を鳴らすと、箒達の映像に掛かっていたモザイクが解除される。

 

そこに映っていたのは………

 

身体にタオルを巻いている箒達の姿だった!!

 

「…………」

 

暫し呆然とする神谷。

 

やがて………

 

「ふざけんなああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

涙まで流してそう絶叫した!!

 

「許さん許さん許さんぞーっ!! テメェ等全員ギッタギタのバッキバキに………」

 

神谷が激怒の様子を露わにしていると………

 

「それはこっちの台詞だ! 馬鹿神谷あああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

「そんなのは罠に決まっているだろう!!」

 

「てゆーか! 何で交換条件がアタシ達じゃなくてモザイクなのよ!!」

 

「脳みそが沸いてるのですか! このエロザルモンキー!!」

 

「神谷! 貴様は最低だ!!」

 

千冬、箒、鈴、セシリア、ラウラが、神谷にそう非難と罵声を浴びせて来た。

 

当然である………

 

「て、天上くん! エッチなのはいけないと思いまーす!!」

 

真耶もどっかのメイドさんの様な台詞を口走る。

 

「スマン! お前等!!」

 

すると神谷は、意外にもすぐに箒達に向かってそう謝罪する。

 

「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

 

意外な神谷の反応に驚く箒達だったが………

 

「だが! 見てぇもんは見てぇんだ!!」

 

最低な事を一片も恥じる事なく、神谷はそう宣言する。

 

駄目な方向に凄く男らしい………

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

箒達は再び言葉を失う。

 

「き、貴様という奴は………」

 

怒りで握った拳が震え始める千冬。

 

すると………

 

「だったらそう言えば良いじゃないか! 神谷の馬鹿ぁ!! そんなに見たいんだったら何時でも見せてあげたのにー!!」

 

シャルがトンでもない事を口走った。

 

「!? 何っ!?」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

即座に反応する神谷と、シャルに視線を集める箒達。

 

「!? あ、いや、その………」

 

自分が口走った事を思い出し、真っ赤になって縮こまるシャルだった。

 

「ええいっ! 何をゴチャゴチャと言っているぅ! とっとと死ねえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

と、そこで痺れを切らしたイタミループが、神谷を踏み潰そうと足を振り上げる。

 

「う………ううん………アニキ! いきなり何すん………」

 

「潰れろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

目を覚ました一夏が見たものは、自分と神谷に向かって足を振り下ろしてくるイタミループの姿だった。

 

「!? うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

「うおおおっ!?」

 

為す術も無く、2人はイタミループの足に踏み潰される!!

 

「一夏ぁっ!!」

 

「神谷ぁっ!!」

 

箒とシャルの悲痛な叫びが木霊する。

 

「アハハハハハッ! やったぞ!! グレンラガンを倒したぞおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

そんな箒達とは対照的に、勝利の雄叫びを挙げるイタミループ。

 

と、その時………

 

神谷と一夏を踏み潰した筈のイタミループの足が、持ち上がり始めた!

 

「!? 何っ!?」

 

「ゼエエエエエェェェェェェーーーーーーットッ!!」

 

イタミループが驚きの声を挙げた瞬間に、そう言う雄叫びが響き渡る。

 

そのまま更にイタミループの足が持ち上がって行き………

 

その下から、イタミループの踏み潰し攻撃を受け止めていたクロスの姿が露わになった!!

 

「!? 番頭さん!?」

 

「クロス!?」

 

「大丈夫か、2人共」

 

クロスは余裕のある笑みで、イタミループの足を支えながらそう言い放つ。

 

「ば、馬鹿な!? 何て怪力だ!? コイツ!? 人間か!?」

 

ゴツイ体格をしているとはいえ、人間が巨大な自身を支えているという事が信じられないイタミループ。

 

するとその瞬間!!

 

イタミループの身体を、何者かが駆け上がった!!

 

駆け上がった誰かは、箒達が捕えられている檻の前に躍り出る。

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

驚く箒達。

 

「…………」

 

それは、口元を布で隠し、和服に袴と言う侍の様な格好をして刀を持った先生の姿だった!!

 

「!!」

 

先生はそのまま、腰に構えていた刀を居合いの様に抜き放ち、箒達を捉えている檻を斬り裂く!!

 

鋼鉄製の檻が、まるで紙の様に切断される!!

 

「!! 今だ!!」

 

「「「「!!」」」」

 

箒がそう声を挙げた瞬間、専用機持ち達はISを展開。

 

千冬と真耶を抱えて脱出した!!

 

「…………」

 

それを見た先生も離脱する。

 

「!? ああっ!? オノレ、逃がすか!!」

 

離脱しようとしていた箒達に、イタミループが手を伸ばすが………

 

ドゴンッ!! と言う凄まじい発砲音がしたかと思うと………

 

箒達に向かって伸ばされていたイタミループの腕に風穴が空き、火を噴いた!!

 

「うわおあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

「そ~うはさせないんだな~」

 

旅館の屋根の上で、対物ライフルを構えたジャンゴがそう言い放つ。

 

「貴様ぁ!?」

 

「ホラホラ、油断してるんじゃないよ」

 

イタミループの視線がジャンゴに向けられた瞬間………

 

凄まじいスピードで接近してきた菊ノ助が、イタミループの左腕に、鋼糸を巻き付けた!!

 

「ホイッ! っと!!」

 

そして菊ノ助がその鋼糸を引くと………

 

イタミループの左腕が、ハムの様に輪切りにされた!!

 

「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

両腕を破壊され、イタミループは悶える。

 

「無様だね………ガンメンさんよ」

 

「人質を取った時点で、貴方の負けは決まっていたのよ」

 

とそこで、旅館の屋根の上に現れたつばさとリーロンが、イタミループに向かってそう言い放った。

 

「!? き、貴様等!? 獣人特殊部隊が始末した筈では!?」

 

イタミループはその2人の姿を見て驚きを露にする。

 

「獣人特殊部隊?………ああ! あのウサギちゃん達ね!」

 

「残念だったね。自慢の特殊部隊とやら、ウチの連中が皆片付けちまったよ………くろがね屋の従業員を舐めるんじゃないよ」

 

つばさがキセルを吹かしながらそう言い放つ。

 

「ば、馬鹿な!? オノレエエエエエエェェェェェェーーーーーーーッ!!」

 

イタミループは怒りを露わにして、旅館ごとリーロンとつばさを押し潰そうとする。

 

「………安」

 

「アイヨ! 女将さん!!」

 

そこへ、イタチの安がボールの様な物を持って現れる。

 

「そらっ!!」

 

そのボールの様な物を、イタミループに向かって投げつけたかと思うと………

 

巨大な爆発が発生した!!

 

「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

イタミループは、大きく仰け反って後退る。

 

「ドチクショウがぁっ!!」

 

「さあ、もう終わりだよ」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「上を見てみな」

 

「!?」

 

つばさの言葉を受けて、イタミループは思わず上を向いてしまう。

 

するとそこには………

 

満月をバックに、グレンブーメランを構えているグレンラガンの姿が在った。

 

「覚悟しろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

怒りと逆恨みが混じった神谷の声が響き渡る。

 

「ぬおおっ!?」

 

「男の恨みぃ! 炸裂斬りいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

そして必殺の『男の恨み炸裂斬り』が繰り出された!!

 

縦一文字に振り下ろされたグレンブーメランが、イタミループを脳天から股間に掛けて真っ二つに斬り裂く!!

 

「歯ぁ磨けよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

どっかの超有名コメディアンの様な断末魔を挙げ、イタミループは爆発・四散したのだった。

 

「………男のロマンを踏み躙った罪は重いぜ」

 

「何カッコつけてんのよ!!」

 

と、決めながらそう言っていたグレンラガンに、鈴が蹴りを叩き込んで来る!!

 

「おわっ!? 何しやがる!!」

 

「うっさい! このエロ神谷!!」

 

「乙女のピンチに色欲を優先させるなど! 言語道断ですわ!!」

 

「そこに直れ! 斬り捨ててやる!!」

 

「お前を殺す!」

 

「神谷………覚悟しろ!!」

 

ISを装着したままの鈴、セシリア、箒、ラウラ、そして何処からか持って来た真剣を構えている千冬がグレンラガンを取り囲む。

 

「上等!!」

 

だがグレンラガンの神谷は怯むどころか、その一同に向かってフルドリライズ状態となって突っ込んで行った。

 

「あわわわわわ」

 

「こ、コレは如何したら?」

 

「放って置くしかないんじゃないですか………」

 

4人の専用機持ち&ブリュンヒルデVSグレンラガンの戦いに、戦慄する一夏と、その様子を見ておたおたする真耶。

 

そして、呆れながらその光景を眺めているシャルであった。

 

「元気が良いねぇ」

 

「それが取り柄みたいものだからね」

 

くろがね屋の屋根の上に居たつばさとリーロンも、そんな事を言い合って笑う。

 

周りでは、くろがね五人衆も、同じ様に笑い合っている。

 

結局………

 

グレンラガンと千冬達の戦いは夜明けまで続き………

 

日が昇る頃には、全員疲労困憊で倒れていた………

 

こうして………

 

くろがね屋で行われた補習は………

 

グダグダのまま終わったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

宣言した通り、今回はギャグ回………または風呂回です。
ダメな方向への男らしさ全開だった神谷。
今回はいつも以上に勢いで押し切った感じですかね。

さて、原作だとこの後は夏休み編になるのですが………
原作でのエピソードは箒の夏祭りイベントに神谷、シャルカップルをお邪魔させるという形のものだけにして、残りはオリジナルエピソードが入ります。
予めご了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第21話『シャル………ここは俺に任せておけ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第21話『シャル………ここは俺に任せておけ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くろがね屋での補習が終わり………

 

IS学園に帰還した一同は間も無く………

 

夏休みを迎えていた。

 

世界の状況は混沌に包まれているが、そんな状況だからか家族の無事を確かめる様に帰郷する生徒達も居た。

 

そんな中、神谷は………

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

一夏と神谷の部屋………

 

「お祭り?」

 

「おうよ。箒の奴の生家の神社でな………毎年この時期に祭りやってんだ」

 

もう1人の部屋の主である一夏の姿は無く、神谷と彼が招待したシャルがそんな会話を交わす。

 

「へえ~、そうなんだ………」

 

「でよぉ、シャル。そいつに行かねえか?」

 

「えっ!?」

 

神谷の言葉に驚きを示すシャル。

 

「そ、それって、ひょっとして………デートのお誘い?」

 

「まあ、有り体に言っちまえばそうだな」

 

照れながらそう尋ねるシャルに、神谷はあっけらかんとそう返す。

 

「昔は一夏や弾の野郎を誘って大暴れしてたんだがな………弾の奴は用事があるみてえでな。一夏も今年は祭りの祭事を箒の奴が手伝うらしいからな………別行動だ」

 

「2人っきりにさせてあげるの?」

 

「まあな。他の連中には悪いが、俺はやっぱアイツには箒の奴が似合いだと思うんでな」

 

「神谷らしいね」

 

そう言う神谷の言葉を聞いて、シャルは笑う。

 

「うん、それじゃあ………行こうかな」

 

「決まりだな。んじゃ、今週末に現地集合って事で頼むぜ」

 

「楽しみにしてるよ、神谷」

 

互いに笑みを浮かべてそう言い合う神谷とシャルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

シャルとラウラの部屋にて………

 

(えへへへ………神谷からデートのお誘い………あ~んもう! 今から胸がいっぱいだよ~~!!)

 

この間ラウラと出かけた際に買った、白猫の着ぐるみパジャマに身を包んで浮かれた様子のシャルが、枕を抱き締めたままベッドの上でゴロゴロとしている。

 

実はこのパジャマを買いに行った際にとある騒動に巻き込まれたりしたのだが、それは別の話………

 

「シャル?………何をやっているんだ?」

 

とそこで、シャワーを終えたラウラが現れ、そうツッコミを入れて来た。

 

「!? ラ、ラウラ!? う、ううん!! 何でも無いよ!!」

 

慌てて照れ隠しの様に、シャルはそう取り繕う。

 

「そうか? なら良いが………」

 

ラウラは引っ掛かる様なものを感じながらも、それ以上追及する事はなかった。

 

「そう言えば………日本ではこの時期には『夏祭り』と言うものが開かれるらしいな」

 

「えっ? ラウラも知ってたの?」

 

お揃いの黒猫の着ぐるみパジャマに着替えているラウラがそう言ったのに、シャルは驚く。

 

「ああ、クラリッサが教えてくれてな」

 

「クラリッサって………前に言ってた、ラウラの所属してる部隊の副隊長さん?」

 

「そうだ。一夏の事を嫁と呼ぶ様に教えてくれたのもアイツだ。本当に頼りになる」

 

自慢するかの様に誇らしげに語るラウラだが、その人物………『クラリッサ・ハルフォーフ』が得ている日本の知識とは、少女漫画やアニメと言った………

 

所謂、サブカルチャーの知識なのである。

 

一般的な知識とは違うのだが、生憎ラウラも教えているクラリッサ本人もそれに気づいていないから困ったものである。

 

「そ、そうなんだ………」

 

シャルも日本の事をそれ程詳しく知っているワケではないが、明らかに間違っていると思われるラウラの日本観を聞いて苦笑いを浮かべる。

 

「それでクラリッサ曰く………『夏祭り』は男女の仲深める定番イベントの1つらしい」

 

「ひょっとして………一夏を誘う気?」

 

そこでシャルはラウラにそう尋ねる。

 

そうなると、一夏と箒をデートさせるという神谷の計画が台無しになってしまうと危惧した。

 

「いや、残念ながら肝心の夏祭りなるものが何処でやっているか分からないのでな………無念だ。やっている場所さえ分かれば、嫁と一緒に行ったのに………」

 

悔しそうな表情で拳を握りながらそう言うラウラだったが、黒猫の着ぐるみパジャマ姿では迫力が無い。

 

寧ろ可愛いだけである。

 

「そうなんだ………(良かった………ラウラには悪いけど、今回は箒に譲ってあげないとね)」

 

心の中でそう思うシャル。

 

「そう言えば………クラリッサは、夏祭りには『浴衣』が付き物だとも言っていたな」

 

「? 『浴衣』?」

 

「日本の伝統的な衣装だそうだ。夏祭りにそれを着て行くと、男を喜ばす事が出来るらしい。確か映像データが在った筈だが………」

 

クラリッサからの知識を語ると、ラウラは部屋の端末を弄り出す。

 

「………有ったぞ。コレが『浴衣』だ」

 

「どれどれ………」

 

やがてお目当ての映像を見つけるとそう声を挙げ、それに反応したシャルが、その映像を覗き込んで来る。

 

そこには、夏祭りの場を共に浴衣姿になって練り歩いているカップルの写真が在った。

 

当然の様に手は繋がれている。

 

「コレが浴衣………」

 

「何とも簡易な服だ。これでは武器を隠し持つ事も出来んぞ」

 

浴衣に目を奪われるシャルと、ミリタリー点を考察するラウラ。

 

何とも対照的である。

 

(夏祭りにそれを着て行くと、男を喜ばす事が出来るらしい)

 

(僕がコレを着てったら………神谷、喜ぶかな?)

 

先程のラウラの言葉を思い出し、シャルはそんな事を考える。

 

そして脳内に、妄想が展開して行く………

 

 

 

 

(シャル、似合ってんじゃねえか)

 

(そ、そう? ありがとう、神谷)

 

(シャル………)

 

(えっ? か、神谷!?)

 

(もう辛抱堪らん!!)

 

(キャアッ!!)

 

 

 

 

 

(!? わあ~~っ!? 何考えてるの~!? まだ早いよ~~!!)

 

シャルはそこまで妄想して、真っ赤になった顔に手を当ててブンブンと頭を振る。

 

………『まだ』?

 

「オイ、シャル………大丈夫か?」

 

ラウラは、突然奇行に走り出したルームメイトを心配そうな目で見る。

 

(良し! 明日浴衣を買いに行こう!!)

 

しかし、シャルはそんなラウラの事など気にせず、そう決意を固めるとグッと拳を握ったポーズを取る。

 

「………寝よう」

 

ラウラは諦めた様にベッドに向かい、そのまま横になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時はあっと言う間に流れ………

 

夏祭り当日………

 

篠ノ之神社・境内前………

 

「わああ~~~っ! コレが日本のお祭りかあ」

 

鳥居から神社に繋がる通路の両脇に、連なって出店している出店を見て、シャルが感嘆の声を漏らす。

 

道行く人と出店の店員は皆活気に溢れており、絶えず聞こえる祭り囃子が更に場を盛り上げている。

 

「如何だ、シャル。良いもんだろ」

 

祭りの様子に目を奪われているシャルに向かってそう言う神谷。

 

因みにその格好は………

 

足は地下足袋で、下半身は白いステテコ。

 

晒だけを巻いた上半身に、背中に『祭』と書かれた真っ赤な法被を羽織り、それを止めている半纏帯の後ろ腰にはこれまた『祭』の文字が書かれた団扇を差している。

 

トレードマークの赤いV字型のサングラスに加えて、頭には白い捻り鉢巻きを巻いている。

 

何処からどう見ても、立派なお祭り野郎の恰好だった。

 

「カッコイイね、神谷」

 

そんな神谷の姿を見て、シャルは純粋にそういう感想を漏らす。

 

「サンキューな。お前もその浴衣、似合ってるじゃねえか」

 

「そ、そう? あ、ありがとう………」

 

神谷にそう言われて、照れるシャル。

 

今の彼女は、オレンジの布地に、多数のヒマワリが模様としてあしらわれた浴衣を着て、黄色い兵児帯をリボン結びで締めていた。

 

足元は足袋と草履で決められている。

 

手には浴衣とお揃いの柄の巾着が握られている。

 

(頑張って着方覚えて良かった………)

 

「しかし、浴衣なんて何時の間に用意したんだ?」

 

「いや、ホラ、えっと………日本のお祭りは浴衣で行くのが定番だって聞いたから」

 

「まあ、間違っちゃいねえな………」

 

シャルの言葉に神谷は頷く。

 

「おっし! 今日は心行くまで祭を満喫するぜぇっ!!」

 

「おーっ!」

 

神谷がそう宣言すると、シャルもそれに同意する様に手を上げる。

 

「んじゃ、行くか」

 

「あ、待って!」

 

歩き出そうとして神谷の手を、シャルが取った。

 

「? 如何した?」

 

「もう~、気が利かないな~。こういう時は手を繋ぐものだよ、だって僕達………こ、恋人同士なんだから」

 

「そうだっけか?」

 

「か、神谷~!!」

 

「ハハハッ! 冗談だって!! そんな怒んなよ」

 

「もう~」

 

シャルはハムスターの様に頬を膨らませる。

 

「そら、行くぞ」

 

だがそれに構わず、神谷はシャルの手を引いて、境内へと足を踏み入れた。

 

「あっ!?」

 

一瞬慌てながらもすぐに歩き出すシャル。

 

「さ~て、先ずは何から行くとするか………」

 

神谷は品定めをするかの様に出店をキョロキョロと見回す。

 

「…………」

 

その子供の様に無邪気な笑みを浮かべる神谷の横顔を見て、シャルは頬を紅潮させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2人は、思うがままに祭りを楽しみ出した………

 

神輿担ぎに神谷が飛び入りで参加したり………

 

くじ引きでシャルが特賞を引き当てたり………

 

輪投げでどっちが多く景品を取れるか競い合ったり………(2人共1歩も譲らず景品をゲットし続けた為、店員が泣きを入れて来て引き分けで終わった)

 

綿菓子と杏子飴を2人で食べさせ合ったりと………

 

心底祭りを楽しんでいた。

 

そして今は、休憩所で一息吐いていた………

 

「アグッ! んぐっ! ガツガツッ!」

 

焼きそばにタコ焼き、ベビーカステラにチョコバナナ、フランクフルトにお好み焼きと、屋台で買い漁った食品を次々に平らげていく神谷。

 

「うっ!? 来た!!」

 

その隣で、かき氷を食べていたシャルは、アイスクリーム頭痛を起こした頭をトントンと叩いていた。

 

「んぐっ! んぐっ!………プハーッ! 食った食ったぁ!!」

 

最後にラムネを流し込み、神谷は満足そうにそう言う。

 

「神谷。この後は如何しようか?」

 

「ん~~、そうだな~………まだ花火まで時間があるしなぁ………」

 

シャルにそう言われて、この後の事を考える神谷。

 

「おっ! そうだ!! 一夏達の事でも冷やかしに行くか!!」

 

そこで、まるで悪戯っ子が悪戯を思いついた様な笑みを浮かべてそう言う。

 

「ええっ? 良いの?」

 

「構わねえよ。どうせ一夏(アイツ)の事だ。2人っきりだってのに頓珍漢な事やってるに違いねえ」

 

「うわっ、リアルに想像出来るなぁ、それ………」

 

その光景が容易に想像出来て、シャルは苦笑いを浮かべる。

 

「良し! アイツ等探してみるか!!」

 

神谷はそう言って、シャルと共に、一夏と箒を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

「………何で蘭の奴まで居るんだ?」

 

一夏と箒の姿を発見したものの………

 

そこに五反田 蘭の姿までも在る事に困惑する。

 

「一見すると、両手に花状態なんだけど………」

 

「一夏の野郎はそう思ってねえみたいだな」

 

事実上、浴衣姿の美女を2人も引き連れている一夏。

 

周りの男から羨望と嫉妬の入り混じった視線が送られているのだが、一夏は全く気付いていない。

 

と、その時………

 

一夏の右隣を歩いていた蘭が、通行人にぶつかり、一夏の方へ倒れ掛かった。

 

一夏はそんな蘭を自分の胸で受け止める。

 

蘭は一夏の腕の中に居るという事態に軽くパニックを起こし、アタフタとし出す。

 

そして、咄嗟に射的の屋台を指差した。

 

それを見た一夏は皆で射的をやろうとし出す。

 

すると………

 

「アレ?………ひょっとして、アニキ?」

 

(!? ヤベッ!!)

 

神谷の長身が災いして、一夏に姿を見つけられてしまう。

 

(如何するの? 神谷?)

 

(逃げたら逃げたで怪しまれる………しゃあねえ、合流すっぞ)

 

シャルと小声でそう言い合うと、神谷は止むを得ず、一夏を合流するのだった。

 

「「…………」」

 

合流の際に、箒と蘭が恨めしそうな視線を送って来る。

 

(そんな目で見るんじゃねえよ………)

 

その視線に流石の神谷も、若干居た堪れない思いを感じる。

 

「ああ、シャルも一緒だったのか。浴衣似合ってるな」

 

「あ、うん。ありがとう………」

 

若干苦笑いを浮かべながらそう答えるシャル。

 

「ところでよぉ………箒は分かるとして、何で蘭まで此処に居るんだ?」

 

とそこで、合流したならばと神谷がその疑問を一夏に問い質した。

 

「ああ、学校の友達と秋の学園祭でのアイデアを探しに来たらしいんだけど、何か友達は急に帰っちゃって………ふざけるのが好きな子達だったみたいでさあ」

 

(そりゃ気を遣ったんだよ………)

 

気づけよ、と神谷は心の中でツッコミを入れる。

 

「オイ、兄ちゃん姉ちゃん達。店の前で話し込まれると困るんだがなぁ………やるのか? やらないのか?」

 

とそこで、射的の屋台の大将が痺れを切らした様にそう言って来た。

 

「あっと、すみません」

 

「まあ、良いか………親父、やるぞ」

 

それを聞いた一夏と神谷達は、射的の屋台の大将に金を払う。

 

「おっ! そっちの兄ちゃんは兎も角、坊主、女の分まで払うたぁ、甲斐性があるじゃねえか。今時のガキにしちゃあ珍しい………よっし! オマケは無しだ!!」

 

「ええっ!? 何で!?」

 

「決まってるだろう! モテる奴は男の敵だからだ! ガハハハハハッ!!」

 

戸惑う一夏に向かって、大将は豪快に笑う。

 

「…………」

 

先ず最初にコルク銃を構えたのは蘭。

 

その表情は真剣そのもので、まるでプロのスナイパーを思わせる。

 

纏っている空気は、触れれば切れるという事を主張していた………

 

(アイツ………射的得意だっけ?)

 

しかし、一夏と同じくらい蘭との付き合い神谷は、そんな疑問を感じていた。

 

(緊張している………きっと本当は得意じゃないんだ)

 

射撃戦を得意とするシャルも、蘭の様子からそれを感じ取りそう思う。

 

そのままの状態が続いていた蘭だったが………

 

不意に緊張していた表情が緩み、頬が若干紅潮する。

 

すると、良い具合に力が抜けて、その瞬間に引き金が引かれた。

 

放たれたコルク弾は、重そうな鉄の札の支点を捉え、バタリと倒す!

 

「お」

 

「おお?」

 

「おおおっ!?」

 

一夏、箒、大将からそう声が挙がる。

 

「えっ?」

 

だが、撃った本人である蘭は、状況が理解出来ずに困惑する。

 

「そ、その鉄の札を倒すとは………! え、液晶テレビ当たり~~~~~っ!!」

 

「えっ? えっ? え?」

 

如何やら無意識に撃った弾が、最強難易度の景品を落とした様で、一夏達と大将、観客達が一気に沸き立った。

 

「すげえな、お嬢ちゃん。絶対に誰にも倒せない様にして………ああ、いや。何でもない」

 

「は、はあ………」

 

若干狼狽し、思わず本音を漏らしかけた大将に、気の無い返事を返す蘭。

 

「液晶テレビを狙うなんて、すげえな。しかもゲットしてるし。いや、驚いた」

 

一夏が本当に感心した様に拍手をすると、周囲に居た観客達も拍手を送り始めた。

 

「がっはっはっ! 赤字だ赤字! チクショウ、持ってけ~!!」

 

「ど、どうも………」

 

大きめながらもギリギリ持てる大きさの包みを、蘭は大将から受け取る。

 

「良かったな」

 

「そうでしょうか………」

 

「?」

 

大金星を挙げたというのに、浮かない顔をしている蘭に、一夏は首を傾げる。

 

(ありゃりゃ………)

 

(運が良いんだか、悪いんだか………)

 

その射撃が彼女の本意で無かった事を見抜いていたシャルと神谷は、心の中でそう同情した。

 

「ぐっ………」

 

と、そこで………

 

箒の悔しそうな声が聞こえて来て、一夏達がそちらを見やると………

 

そこにはコルク弾を全弾使い切った箒の姿が在った。

 

「箒、相変わらず下手だなぁ」

 

「う、煩い! ゆ、弓なら必中だ!!」

 

そう言って来た一夏に、箒が言い返す。

 

「いや、それ景品壊れるだろ、絶対………ったく、しょうがねぇなあ」

 

一夏はそう言いながら、自分の残弾を箒にあげると、既に装填してあったコルク銃も渡す。

 

「大体、構え方がおかしいんだよ、お前の場合。こうやって、腕を真っ直ぐにしながら、射線に対して真っ直ぐに視線を置いてだな………」

 

そう言いながら、一夏は箒の身体を触って射撃姿勢を取らせる。

 

箒は仏頂面だったが、内心は大慌てだった。

 

(わああああっ!? ち、近っ、近いっ!? て、ててっ、手がっ、体に触れてっ!? うううっ、い、息が顔に掛かる………離れ………て欲しくは、ないけど)

 

「アイツ………」

 

「一夏ってば、また………」

 

ナチュラルに女心を擽る事をしている一夏を見て、神谷とシャルが呆れる様に小声でそう言い合う。

 

「こんな感じだな。うん、如何だ? 分かったか?」

 

「う、うむ」

 

「じゃあ撃ってみろよ。ちゃんと狙えよ」

 

「わ、分かっている!」

 

つい語調を強くしてそう言い返した瞬間、引き金に指が触れて、コルク弾が発射された。

 

「お! ぬいぐるみが当たったな!!」

 

放たれたコルク弾は、クッションとしても使えそうな、少し大きめの1頭身のデフォルメされたペンギンに命中し、落下させた。

 

「おー、嬢ちゃんも上手い事やったな。がっはっはっ、今日は大損だ!!」

 

大将がまたも豪快に笑いながらぬいぐるみを箒に渡す。

 

「………隣の達磨が良かったのだが………」

 

「うん?」

 

「いえ、何でも………」

 

その際に箒がそう呟いたが、慌てて誤魔化す。

 

狙っていた景品とは違った様だが、受け取った際の顔は何だか妙に嬉しそうだった。

 

(ま………及第点って、とこか)

 

そんな様子を見て、神谷はそう思う。

 

「えいっ! ああ、駄目か………」

 

と、そこで、シャルのそう言う声が聞こえて来た。

 

見れば、コルク銃を構えたシャルが、必死に『とある景品』を落とそうとしている。

 

それは、イミテーションだと思われるが、ケースに入って本物そっくりの輝きを放っている指輪だった。

 

「今度こそ………えいっ!………ああ、また………」

 

ISでは射撃戦を得意とするシャルだが、普通の銃とは違うコルク銃を扱い倦ねている様である。

 

そうこうしている内に、弾が尽きてしまう。

 

「ああ………」

 

「ハハハハッ! 嬢ちゃんはイマイチだったみたいだな!」

 

落ち込むシャルに大将が笑いながらそう言う。

 

と、そんなシャルの肩に、神谷の手が置かれた。

 

「シャル………ここは俺に任せておけ」

 

そして神谷が力強く微笑みながら、シャルにそう言う。

 

「神谷………」

 

そんな神谷の姿に頬を染めるシャル。

 

と、そこで………

 

何を思ったのか、神谷は自分の分のコルク弾を全部手で握る。

 

「…………」

 

それを右手だけでお手玉して弄ぶと、シャルが狙っていたケースの入っている指輪を見据える。

 

「兄ちゃん?」

 

「神谷?」

 

「「「??」」」

 

大将もシャルも、そして一夏達も神谷が何をするのか分からず困惑していると………

 

「………そりゃっ!!」

 

何と神谷は、サイドスローで手に持っていたコルク弾を1つ投げ、見事ケースに入った指輪を叩き落とした!!

 

「んなっ!?」

 

「「「「!?」」」」

 

神谷の常識破りの射的に、大将も一夏達も目を丸くして驚いた。

 

「よっしゃあっ! 大当たりだな!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、兄ちゃん!? そんなのアリか!?」

 

「何だよ? ちゃんとコルク弾を当てて落としたろ? 文句あんのかよ?」

 

ツッコんで来た大将に、シレッとそう答える神谷。

 

「た、確かにルール上は問題無いかもしれないけど………」

 

「相変わらず常識に捉われん奴だ………」

 

「スゲェ! スゲェぜ! アニキ!!」

 

常識外れの神谷の射的に呆れる蘭と箒に、対照的に神谷に羨望の眼差しを送る一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

当たった液晶テレビが、やはり荷物として邪魔になった蘭は、兄の弾に引き取りに来てもらう為に、境内を出たところの道路まで行った。

 

一夏と箒も、途中までそれに付き添って行き、もう少し出店を回りたかった神谷とシャルとは別れたのだった。

 

「漸く一夏と箒も2人っきりになれそうだな」

 

一夏と別れてから暫くして、神谷がそう呟く。

 

「そうなの?」

 

その言葉に首を傾げるシャル。

 

「ああ、多分あのシスコンの弾の事だ。荷物を引き取りに来たところで、蘭の奴を連れ帰るに決まってるさ」

 

「そうなんだ………大変だね、その蘭って子も、お兄さんの弾さんも」

 

「ま、一夏に惚れちまったのが運の尽きってヤツだな………おっと! 忘れるところだったな………ホラよ、シャル」

 

とそこで、神谷は先程取ったケースに入った指輪を、ケースごとシャルに投げ渡した。

 

「うわっ、と!?」

 

「お望みの品、確かに渡したぜ。この前やったブレスレット、壊れちまったんだろ? ニセモンで悪いが、改めてプレゼントだ」

 

「あ、ありがとう、神谷」

 

照れながらケースを開けて、中に入っていた指輪を見遣る。

 

「…………」

 

若干頬を紅潮させながら、その指輪をケースから取り出すと、やや躊躇いがちに左手の薬指の填めた。

 

(………何時かは………本物の指輪をこの指に………!! わあ~~っ!? 何考えてるの僕~~!!)

 

思わずパパパパーンッ!な妄想を展開してしまい、シャルは慌ててそれを振り払う。

 

と、その時!!

 

石畳の僅かな段差に足を取られ、シャルの姿勢が前滑りになった。

 

「!? あっ!?」

 

「おっと!!」

 

だが危機一髪、気づいた神谷が支える。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん………ありがとう………! あ!?」

 

と、神谷に支えられながら足元に目をやったシャルが、何かに気づく。

 

「? 如何した?」

 

それに釣られる様に、神谷がシャルの足元を見やると………

 

シャルの右足の草履の鼻緒が切れてしまっていた。

 

「あ~、鼻緒がぁ………」

 

「あちゃ~、やっちまったなぁ」

 

「如何しよう………」

 

途端に困った顔になるシャル。

 

すると………

 

「ホラよ」

 

何と、神谷がシャルの前で背中を向けて座り込んだ。

 

「えっ?」

 

「何やってんだ? 早く乗れよ」

 

「え、ええっ~~~~っ!?」

 

シャルは思わず、驚きの声を挙げてしまう。

 

それで只でさえ集まっていた通行人の視線が、更に2人へと注がれる。

 

「ホラ、如何した?」

 

しかし、神谷はそんな視線など何処吹く風と言う様に、シャルに重ねてそう言う。

 

「う、うん………お、お邪魔します」

 

微妙に間違っている事を言いながら、シャルは覚悟を決めた様に、神谷の背に負ぶさった。

 

「よっ、と!」

 

それを確認すると、神谷はしっかりとシャルを支えて立ち上がる。

 

「「「「「おお~~~っ!!」」」」」

 

ギャラリーと化していた通行人達が、冷やかす様に拍手を送って来る。

 

「ううう………」

 

「んじゃ行くぞ」

 

恥ずかしそうにしているシャルを他所に、神谷はそのまま歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

一夏と箒は………

 

神谷の予想通り、蘭は荷物を引き取りに来た弾によって半ば強制的に帰宅させられる事となり、一夏と箒は再び2人っきりとなっていた。

 

「おー、変わってないな。此処も」

 

現在2人は、花火を見る為の秘密の穴場………

 

神社裏の林の中の一角に来ている。

 

高い針葉樹の林の中には、1ヶ所だけ天窓の様に開けている場所があり、一夏と箒、千冬に束、そして神谷だけが知る秘密のスポットなのである。

 

一夏はワクワクしながら花火が始まるのを待っているが、箒はまたもそれどころではなかった………

 

(い、今は、一夏と私しかいない………そ、それに、その、何だ………ふ、雰囲気も、良い………)

 

悶々としている様子で、そう考えている箒。

 

(こ、こ、これは、こっ、ここっ、告白のっ、チャンスではないだろうかっ!?)

 

祭りの喧騒も聞こえず、虫の音色しか聞こえないこの場所で、自分の心音がヤケにハッキリと聞こえる様な気がした。

 

(いや! でも! しかし! もし………もし断られたら………いや! そんな事はない筈だ! しっかりしろ! 篠ノ之 箒!! お前は自分を誰だと思っている!!)

 

無意識の内に、箒の思考内が神谷の言動の様になり始める。

 

(箒! 自分を信じろ!! 私が信じる、私自身を!! そして!!………私が信じる………織斑 一夏を!!)

 

やがてキッと決意を固めた表情となり、一夏を見やる箒。

 

既にその顔は湯気が出そうなくらい真っ赤っ赤である。

 

「い、一夏!!」

 

「ん?」

 

「わ、私は、お前がっ、すっ………」

 

好きだ………と箒が言おうとした瞬間!!

 

ドーーーンッ!!という、大きな音が轟いた。

 

「おおっ!? 始まったな、花火!」

 

一夏がそう言いながら空を見上げる。

 

如何やら、打ち上げ花火は始まった様だ。

 

「す、す………」

 

肩透かしを喰らわされてしまった箒は、一気に頭が冷えて行く………

 

「ん? 如何した、箒?」

 

一夏はそんな箒を怪訝そうな目で見る。

 

「…………」

 

それに答えず、箒はただ、両手をギュッと握って俯いた。

 

(ううっ………花火などに邪魔されるとは………今日は諦めよう………はあ~)

 

箒は一気に脱力し、心の中で溜息を吐いた。

 

「あ! そうだ」

 

するとそこで、一夏が突然、今まで寄った出店等で買ったり得たりした代物を入れていた紙袋を漁り出す。

 

「?」

 

何だ? と箒が首を傾げた瞬間………

 

「ハイ、箒」

 

一夏がそう言って、紙袋から取り出した物を、箒に差し出す。

 

それは、あの射的屋で箒が本当に狙っていた代物………達磨だった。

 

「!? コレは!?」

 

「本当はそれが欲しかったんだろ? ホラ」

 

驚く箒の手に、一夏は達磨を握らせる。

 

「………如何して?」

 

「ん? それは………っと」

 

何か言いかけて口を閉じる一夏。

 

(アニキが実は取ってたんだけど………その事は言うなって言ってたからなぁ………さて何て言おう………)

 

「一夏?」

 

急に黙って一夏に、箒は怪訝な目を向ける。

 

「うん、まあ、何だ………箒の事だったら、何でも分かるさ」

 

そこで一夏は咄嗟にそう答える。

 

………咄嗟でそんな言葉が出て来る辺りが天然誑しの所以だ。

 

「!?!?」

 

当然、そんな台詞を聞いた箒は、ボッボッボッと言う音と共に顔を真っ赤に染める。

 

「あう、あう、あう………」

 

そのまま意味不明な言葉が口から漏れ出す。

 

「ほ、箒? 大丈夫か?」

 

思わず一夏が心配する様にそう言う。

 

「い、一夏………」

 

真っ赤な顔を見せたくない様に、俯いて一夏の事を呼ぶ箒。

 

「お、おう?」

 

「その………ありがとう」

 

そう言いながら少し顔を上げて、箒は呟く様に言った。

 

その瞬間に、また花火が天に咲き誇り、その光で頬を上気させた箒の、はにかんだ上目遣いな顔が照らし出される。

 

「!?(ドキッ!?)」

 

その顔を見た瞬間、一夏の胸が一際大きく高鳴った。

 

(ア、アレ!? ほ、箒………だよな?)

 

一瞬目の前の少女が箒だと信じられず、一夏は内心で狼狽する。

 

「き、綺麗だな! 花火!!」

 

そんな内心の狼狽を鎮める様に、一夏は若干大声を挙げて、花火の方に向き直った。

 

「ああ………」

 

箒も、まだ頬を染めたまま、一夏から貰った達磨を抱き締める様にして花火に向き直る。

 

(うう~~っ!? 如何しちまったんだぁ、俺!?)

 

未だに狼狽が治まらず、一夏はガシガシと右手で頭を掻く。

 

すると………

 

「…………」

 

何と箒が大胆にも、一夏の左腕にそっと自分の腕を絡めてきた!!

 

「!?」

 

「…………」

 

硬直する一夏。

 

箒も箒で、何も言葉が出ずにいる。

 

結局………

 

2人は花火が終わるまで、無言でその状態を続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

時間は花火開始の時刻まで戻り………

 

草履の鼻緒が切れてしまったシャルを背負った神谷は、帰路に着いていた………

 

「おっ? 始まったか………」

 

すると、背後の空で轟音と共に閃光が煌めいたのを見て、足を止めると振り返る。

 

「わあ~………綺麗だね」

 

夏の夜空に色取り取りに咲き誇る花火を見て、そう感嘆の声を漏らすシャル。

 

「だな………やっぱ夏祭りのシメは花火よ」

 

神谷も、夜空に咲く一瞬の芸術に感心する。

 

「あの、神谷………ホントにゴメンね。僕が慣れない草履なんかで来たせいで迷惑掛けちゃって………」

 

「馬鹿野郎。迷惑なんて幾らでも掛けやがれ。幾らでも笑って許してやるよ」

 

またも申し訳無さそうにするシャルに、神谷は力強く笑ってそう言う。

 

「神谷………」

 

「それに………コイツはコイツで結構役得だしな」

 

「??」

 

「う~ん、柔らけえな~」

 

神谷は何かの感触を確かめる様にそう言う。

 

「?………!? あっ!?」

 

そこでシャルは、神谷が感じているのは、彼の背中に当てている自分の胸の感触である事に気づく。

 

「か、神谷のエッチ!」

 

「言っただろう。男は皆スケベな生き物だってな!」

 

「も~う………」

 

頬を膨らませて抗議する様にそう怒るシャル。

 

「…………」

 

しかし、すぐにフッと笑うと、神谷の首に手を回して抱き付く。

 

「………ありがとう、神谷」

 

「へっ」

 

耳元で呟かれた言葉に、神谷はニヤッと笑って見せる。

 

そのまま神谷は、シャルを背負ったまま、花火の明りに照らされて帰路に就いて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

夏祭り編の夏祭りイベントに、神谷とシャルをお邪魔させてお送りしました。
前にも言いましたが、この作品の一夏のメインヒロインは箒で行きます。
今回以後、彼女への優遇措置が取られる事が多くなると思いますので予めご了承ください。
夏祭りイベントはホント定番ですね。

さて次回からはオリジナル夏休みエピソードとなります。
バトル物の話となります。
ヒントは、『東映まんがまつり』です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第22話『このくらげの出来損ない野郎! シャルを放しやがれ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第22話『このくらげの出来損ない野郎! シャルを放しやがれ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園の夏休みも中頃まで過ぎた頃………

 

太平洋側の日本近海で、異常事態が発生していた………

 

日本に輸入する予定だった石油を積んだタンカーが、次々に原因不明の事故に遭ったのである。

 

そのどれもが、船体が粉々に成る程の強い衝撃を受けており、乗組員の多くが死傷した。

 

しかし、不思議な事に………

 

運ばれていた筈の原油が海に漏れた形跡は無く、綺麗さっぱりと無くなっていたのである。

 

そして、生き残った僅かな乗組員は、皆口を揃えてこう言っていた。

 

『怪獣に襲われた』………と。

 

この怪事件に、日本政府は首を捻るばかりである。

 

しかし、手を拱いているワケには行かず、海上自衛隊と航空自衛隊が共同で、日本近海の太平洋の徹底調査に打って出たのだった。

 

 

 

 

 

太平洋側の日本近海………

 

海上自衛隊の海洋観測艦隊と音響測定艦隊が、護衛艦隊に護衛されて、海上及び海中の調査を行っている。

 

上空には、空自のF-15とF-4の編隊が飛び交っており、海上でも海自の哨戒機及び対潜哨戒機が飛行している。

 

更に海中にも潜水艦隊が居り、正に蜘蛛の子1匹見逃さない調査が行われていた。

 

「こちら護衛艦ひゅうが。各艦、定時報告を行え」

 

艦隊の指揮をしていたひゅうがの艦長が、通信機で全艦にそう呼び掛ける。

 

「こちら海洋観測艦わかさ。異常無し」

 

「音響測定艦はりま。同じく異常は見られず」

 

「こちらは潜水艦おやしお。異常無し。本日も海は穏やかです」

 

「哨戒ブラボー1。全く異常は見受けられず」

 

「対潜哨戒機アイダホ1。レーダー及びセンサーに影は見られず」

 

調査を行っている艦艇や哨戒機から、次々に異常無しの報告が返って来る。

 

「艦長。航空自衛隊も、異常は発見出来ていないそうです」

 

「うむ………」

 

通信士の報告を受けて、艦長は唸る。

 

(アレだけの事件が起きて………コレだけの調査をしているのに何も発見出来ないとあっては、自衛隊どころか日本政府のメンツは丸つぶれになってしまう………)

 

そんな危惧が、艦長の心に生まれ始めていた。

 

と、その時………

 

「まきしお! まきしお! 如何した、まきしお!? 応答せよ!!」

 

通信士が突然声を荒げる。

 

「!? 如何した?」

 

「ハッ! 潜水艦まきしおとの連絡が取れません!」

 

「何?」

 

「まきしお、応答せよ! まきしお! まきしお!」

 

艦長に報告すると、応答が無い潜水艦まきしおに向かって更に呼び掛ける通信士。

 

「1番近くに居る潜水艦は?」

 

「あ、ハイ! あらしおが1番近くに居ます!!」

 

「すぐにまきしおを確認に向かわせろ!!」

 

「了解!!」

 

すぐに艦長の命令を潜水艦あらしおに伝える通信士だった。

 

 

 

 

 

海中………

 

潜水艦・あらしお………

 

「ただいま深度1500………間も無く、まきしおの反応が途絶えた地点です」

 

「うむ、ソナー手。音に気を配れ」

 

「了解!!」

 

あらしおが、まきしおの姿を探し求める。

 

すると………

 

「!? 左前方30キロ地点に金属反応探知!!」

 

ソナー手が、そう声を挙げた。

 

「取舵。反応が在った地点に向かえ」

 

「と~りか~じ!!」

 

艦長の指示に、操舵手は復唱すると同時に取舵を取る。

 

そしてそのまま30キロ地点に差し掛かる。

 

「反応があった地点です」

 

「うむ………海底の映像を出せるか?」

 

「水中カメラを起動します」

 

艦長の声に、レーダー手が水中撮影用のカメラを起動させ、海底の様子を映し出す。

 

合わせてサーチライトも点灯され、暗がりの海底が鮮明に映し出される。

 

現在あらしおが居る場所の海底は巨大な岩礁が多く、下手をすれば接触してしまう危険もあった。

 

「岩礁が多いな………」

 

「まきしおは岩礁に衝突したんでしょうか?」

 

「その可能性もある」

 

艦長と副長がそう言っている間にも、まきしおの捜索は続く。

 

すると………

 

「!? 発見しました!!」

 

ソナー手がそう声を挙げた瞬間、海底を映していたモニターに、座礁しているかの様なまきしおの姿が映し出された。

 

「おおっ!!」

 

艦長が思わず声を挙げる。

 

あらしおが座礁していると思われるまきしおへと近づく。

 

………と、その時!!

 

海底に無数に存在していた岩礁と堆積していた泥を押しのけて、巨大な『何か』が、姿を現した!!

 

「!?」

 

「な、何だ、アレは!?」

 

突如出現した巨大な『何か』に驚く艦長と副長。

 

『何か』の姿は、出現した際に舞い上がった泥で、良く確認出来ない………

 

すると、その泥の中に居る『何か』から………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!×7

 

龍の様な姿をした怪物が、7匹飛び出して来た!!

 

「!? か、怪物だ!!」

 

「まさか! コイツが一連の事件の犯人か!?」

 

と、艦長がそう声を挙げた瞬間………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

龍の様な姿をした怪物の1匹が、座礁していたまきしおに、体当たりを喰らわせ、破壊した!!

 

「!? まきしおが!?」

 

「クソッ!! 魚雷発射!!」

 

艦長がそう命ずると、あらしおは怪物の1匹目掛けて魚雷を放つ。

 

しかし、発射された魚雷は怪物の身体に減り込み、そのまま飲み込まれてしまった。

 

「!? 魚雷が爆発しない!?」

 

「艦長! 怪物がコッチに!!」

 

ソナー手の悲鳴の様な声が挙がり、あらしおは怪物の1匹に巻き付かれる。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

そのまま怪物は身体を締め、あらしおを押し潰しに掛かる。

 

深海の水圧にも耐えられる筈の潜水艦の頑強な艦体が、ペットボトルの様にへこんで行く。

 

「こ、こちらあらしお! 海中に!! 海中に巨大な怪物が!!」

 

艦長が通信機を引っ摑み、海上の艦艇へそう連絡を送った瞬間………

 

あらしおの艦体は完全に捻り潰され、爆散した!!

 

 

 

 

 

一方、海上………

 

護衛艦・ひゅうが………

 

「あらしお如何した!? 応答せよ!! あらしお!! あらしお!!」

 

まきしおに続いて連絡が途絶えたあらしおに、通信士が慌てて呼び掛ける。

 

「海中に怪物だと?」

 

艦長はあらしおの艦長が最後に送って来た通信の意味が分からず、首を傾げる。

 

「か、艦長! アレを!!」

 

とそこで、望遠鏡を持って海上を観測していた観測員が、驚きの声を挙げながら海上の一角を指差した。

 

「? 如何した?」

 

そう言いながら、艦長が観測員が指差した場所を見遣るとそこには………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!×7

 

海面を激しく波立たせて顔を出す、龍の様な怪物達の姿が在った!!

 

「!? アレは!?」

 

艦長が驚きを示した瞬間、怪物の1匹が海洋観測艦すまに体当たりを喰らわせた!!

 

すまは艦体中心部から真っ二つになり、轟沈した。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!×7

 

気を良くした様に咆哮を挙げる怪物。

 

「!! 調査艦隊は緊急退避!! 護衛艦隊前へ!! 怪物に対し攻撃開始!!」

 

その咆哮で我に返った艦長は、即座に全艦隊にそう命令を下す。

 

それを受けて、調査艦艇達が後退を始め、それを守る様に護衛艦隊から怪物へ、速射砲やミサイルでの攻撃が見舞われる。

 

哨戒ヘリコプターSH-60Jに、SH-60Kからも魚雷やミサイルが発射される。

 

しかし、放たれた砲弾やミサイル、魚雷は怪物の身体に減り込み、そのまま飲み込まれてしまった。

 

「攻撃! 効果ありません!!」

 

「何て奴だ………」

 

ひゅうがの艦長が戦慄しながらそう呟いた瞬間、SH-60J1機が怪物に噛み潰され、護衛艦すずなみが体当たりを喰らって轟沈する。

 

「クッ! 全軍撤退! 撤退しろ!!」

 

艦長は通信回線を通じてそう命令を下し、護衛艦隊は退避行動に入る。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!×7

 

そんな護衛艦隊を逃がさんとばかりに、怪物達は咆哮を挙げて追いかけて来る。

 

するとそこで、航空自衛隊の戦闘機部隊が、怪物に向かってミサイルを放つ。

 

やはり爆発せずに身体の中へ吸い込まれてしまったが、怪物の注意が戦闘機部隊へ向いた。

 

「今の内に退避を!!」

 

戦闘機部隊から、ひゅうがにそう通信が送られる。

 

「すまない! 全艦反転180度! 緊急離脱!!」

 

艦長はそれを受けて、全艦に退避を命じる。

 

「偵察機隊! 怪物の写真を撮れ!! 恐らくコイツが一連の事件の犯人だ!!」

 

「了解!!」

 

戦闘機隊の隊長が、偵察機隊にそう命令する。

 

偵察機RF-4EとRF-4EJ部隊が、偵察用のカメラで怪物の写真を撮り始める。

 

と、その時………

 

7匹の龍の様な怪物達が姿を見せていた海面が大きく盛り上がり………

 

まるで巨大なクラゲの傘の部分の様な姿をした、凶悪な顔つきの怪物が姿を現した!!

 

良く見れば、龍の様な怪物達の身体は、その巨大なクラゲ状の怪物に繋がっている。

 

「!? あの龍の様な怪物は触手だったのか!?」

 

偵察機のパイロットが驚きの声を挙げながらも写真撮影を続ける。

 

やがて自衛艦隊が退避完了すると………

 

怪物は逃げる様に海底に姿を消したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

日本の防衛省では………

 

日本近海の太平洋に出現した怪物に対しての緊急会議が開かれていた。

 

「如何ですか? 教授?」

 

防衛大臣が、偵察機隊が撮影した怪物の映像を生物学者の博士に見せている。

 

「コレは………間違いありません。『ドラゴノザウルス』です」

 

「『ドラゴノザウルス』?」

 

「古代に海中に生息していた恐竜の1種です。とっくの昔に絶滅したと思っていましたが、まさか生き残りが居たとは………」

 

海上自衛隊幕僚長にそう答えると、生物学者は興味深そうにドラゴノザウルスの写真を眺めている。

 

「古代の恐竜が生き残っていたなんて………そんな事があり得るんですか?」

 

「確かに驚きの事ですが、あり得ない事と断ずる事も出来ません。あのシーラカンスでさえ、現代に生きている事が発見されたのですから」

 

今度は陸上自衛隊幕僚長の問いにそう答える生物学者。

 

「その疑問はこの際措いておくとして………問題は何故、ドラゴノザウルスは石油タンカーばかりを狙って襲っているか、という事です」

 

「残念ながら、その辺の事は私にも分かりかねます………ただ、個人的意見ですが、ドラゴノザウルスが出現した事と何らかの関係があると考えています」

 

最後に航空自衛隊幕僚長がそう尋ねるが、その質問は生物学者にも分かりかねるものであった。

 

「それでドラゴノザウルスは今は?」

 

そこで防衛副大臣が、幕僚長達にそう尋ねる。

 

「ハッ! 調査艦隊を攻撃した後、姿を消したドラゴノザウルスは三陸沖に出現し、航行中だったタンカーを襲撃しました」

 

「駆け付けた我が航空自衛隊が攻撃を行いましたが、残念ながら目標にダメージを与える事は出来ませんでした」

 

「このままでは被害が増える一方ですな………」

 

海上、航空、陸上の幕僚長達が口々にそう言う。

 

「もしこのまま石油が日本に入って来なければ、何れ日本は燃料不足で干上がってしまう。何としてもドラゴノザウルスを撃破しなければ………」

 

そう言うと、防衛大臣は頭を抱えて考え込む。

 

ドラゴノザウルスを放置すれば、日本の死活問題となる………

 

しかし、自衛隊ではドラゴノザウルスには歯が立たない………

 

そのジレンマが防衛大臣の背中に重く圧し掛かる。

 

すると………

 

「大臣………私から1つ提案があるのですが」

 

今まで会議の成り行きをジッと傍観する様に黙っていた統合幕僚長が、不意にそう言って口を開いた。

 

「提案?」

 

「ハイ………IS学園にドラゴノザウルス討伐を依頼すると言うのは如何でしょう?」

 

「IS学園に?」

 

統合幕僚長のその提案に、防衛大臣と副大臣、陸海空の幕僚長の視線が集まる。

 

「ハイ。IS学園には各国に加え、篠ノ之 束が直接開発した専用機持ちが集結しており、更にはあのグレンラガンも居ます」

 

「うむ………」

 

「何より、コレまであったロージェノム軍の襲撃を悉く撃退しており、先月の『福音事件』を解決したのも彼等と彼女達です」

 

唸る防衛大臣に、統合幕僚長はそう言葉を続ける。

 

「しかしそれでは、日本政府がIS学園に借りを作る事に………」

 

「日本の死活問題と比べれば些細な事と考えますが」

 

「むうっ」

 

更に渋る様な防衛副大臣の言葉をそう言って封じる。

 

「………至急総理に連絡を。日本政府としてIS学園に正式に任務を依頼して欲しい、と」

 

「大臣! しかし」

 

「事は一刻を争う。急ぎたまえ」

 

「! ハッ! 了解しました!!」

 

なお渋る防衛副大臣に、防衛大臣はそう言い放つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

日本政府の依頼を、IS学園側は受諾。

 

福音事件で活躍した、一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラの専用機持ち。

 

そしてグレンラガンの装着者である神谷。

 

更に、指揮官と補佐役として、千冬、真耶、リーロンの3人を加えた一行は、海上自衛隊の輸送用ヘリコプターMCH-101に乗せられ、洋上に居る護衛艦ひゅうがへと向かっていた。

 

「………まさか怪獣退治の依頼が来るとは思わなかったな~」

 

ローター音がけたたましく響く機内で、一夏がそう呟く。

 

これまでロージェノム軍と何度も交戦したが、まさか怪獣の退治をする事になるとは、流石に予想出来なかった様である。

 

「面白れぇじゃねえか! 我が物顔で暴れ回るその怪獣野郎に見せてやろうじゃねえか! 日本にゃあ、俺達グレン団が居るって事をなぁ!!」

 

戸惑いの色を浮かべている一夏とは対照的に、神谷はまるで子供の様に燥いでいた。

 

「怪獣じゃなくて恐竜の生き残りでしょ、全く………」

 

「しかし、また私達がこんな任務に関わる事になるとは………」

 

「恐らく、福音事件での功績を評価しての事ですわ。まあ、私の実力なら当然の事ですが」

 

燥ぐ神谷にツッコミを入れる鈴と、再びの軍事作戦参加に若干戸惑っている箒。

 

そして、何故か自慢げな言葉を吐いているセシリアだった。

 

「ワンダバ、ワンダバ、ワンダバダバダバダ」

 

「ラウラ? 何口ずさんでるの?」

 

「日本では怪獣を対峙しに向かう時、『ワンダバ』と口ずさむのが恒例らしい」

 

「………またクラリッサさんって人から聞いたの?」

 

「そうだ」

 

そう言って再び『ワンダバ』を口ずさみ始めるラウラに、シャルは苦笑いを浮かべる。

 

「お前達! 遠足に行くのではないぞ!!」

 

大事な作戦前だと言うのに、緊張感が見られない神谷達を見た千冬がそう叱り付ける。

 

「お、織斑先生! 穏やかに! 穏やかに!」

 

「良いじゃないの。下手に緊張されてるよりは事が進め易いわよ」

 

真耶が千冬を押さえるが、リーロンの方は今の方が良いと言う。

 

「クッ! 全く………」

 

「間も無く、護衛艦ひゅうがに到着します。降りる準備をお願いします」

 

千冬が愚痴る様に呟いた瞬間、ヘリの操縦士がそう告げた。

 

「おおっ! スゲェ!! 本物のひゅうがだ!!」

 

と、窓の外を覗いて、ひゅうがの姿を確認した一夏が歓声に似た声を挙げる。

 

ミリオタというワケではないが、やはりああいう物は男の子の心を擽る様だ。

 

「ふむ………アレが日本の自衛隊のひゅうがか………」

 

現役ドイツ軍人であるラウラも興味を示す。

 

やがてヘリは、ひゅうがの甲板へと着陸した。

 

ローターの回転が収まって行くと、後部のランプ・ドアが開き始める。

 

ドアが完全に開くと、千冬、真耶、リーロンの教師陣が先立って降り、続いて神谷と専用機持ち達が降りる。

 

「うん! あ~~~~っ!! 潮風が気持ち良いぜ!!」

 

長い間狭い機内に閉じ込められていたので大きく伸びをした神谷が、顔に心地の良い潮風を感じてそう言う。

 

「お待ちしておりました。IS学園の皆さん。当艦、ひゅうがの艦長です」

 

とそこで、予め待っていたひゅうがの艦長が千冬達の姿を見て、敬礼を送りながらそう言って来た。

 

「どうも、初めまして。IS学園の教諭の織斑 千冬です」

 

「お、同じく! 山田 真耶です!!」

 

「リーロン・リットナーよ。メカや専門的な事を担当してるわ」

 

それに対し、慣れた様子で挨拶を交わす千冬と、やや緊張している様子を露わにする真耶。

 

そして、何時もと同じ調子のリーロン。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

背後に居た一夏達も、艦の責任者と対峙していると言う事で、全員気を付けをしていた。

 

軍人であるラウラに至っては答礼をしている。

 

「へえ~、アンタがこの船の船長さんか」

 

只1人、神谷だけは不敵な態度でそう言い放つ。

 

「神谷! 貴様!!」

 

「ああ、いえいえ、構いませんよ。今回我々はアナタ方にお願いをする立場なのですから」

 

神谷の不遜な態度を叱りつけ様とした千冬だったが、艦長がそう言って制す。

 

「それじゃあ、早速本題に入りましょうか?」

 

そこでリーロンが、そう話を切り出す。

 

「ドラゴノザウルスの現在位置は?」

 

「ハッ、先程空自から連絡があり、房総半島沖で再びタンカーを襲撃。空自の攻撃を物共せず、再び海中に姿を消した、との事です。現在の詳しい位置は、残念ながら分かっていません」

 

真耶の質問に、艦長はそう答える。

 

「房総半島沖か………」

 

「段々と日本に近づいて来てる感じね」

 

艦長の言葉に、千冬とリーロンが推察する。

 

「教官。進言致します」

 

とそこで、話を黙って聞いていたラウラが、そう言いながら1歩前に出た。

 

「何だ、ラウラ?」

 

「ハッ! コレ以上の被害拡大を防ぐ為にも、我々も哨戒任務に加えさせて頂けないでしょうか?」

 

千冬が尋ねると、ラウラは休めの姿勢からそう進言を行う。

 

「確かに………ISのハイパーセンサーなら、海中に潜んでいるドラゴノザウルスを見つけるのも訳ないかもしれませんね」

 

真耶も、そう言ってラウラの意見を支持する。

 

「確かにな………よし、分かった。早速だが、お前達には任務に就いてもらう。各自ISを展開し、ドラゴノザウルスの捜索に当たれ。ただし、目標を発見しても単独で手出しはするな。連絡を行って仲間の到着を待て。コレは命令だ。良いな!」

 

「「「「「了解!!」」」」」」

 

「あいよ!」

 

決して1人で手出しをするなと言う千冬の命令を聞き、一夏達はISを展開し、神谷もグレンラガンの姿となった。

 

そしてそのままひゅうがの甲板から飛び立つ。

 

「それじゃあ、分かれて捜索しよう。その方が効率が良いし」

 

「そうだな………」

 

「よっしゃあ! 誰が1番最初に見つけるか、競争だな!!」

 

「言っとくけど、神谷。アンタには負けないわよ」

 

「私の事も忘れてもらっては困りますわね」

 

「皆、熱くなるのは良いけど、連絡を取り合う事は忘れないでね」

 

「よし、では行くぞ!」

 

一夏、箒、神谷、鈴、セシリア、シャル、ラウラはそう言い合って散開。

 

其々にドラゴノザウルス捜索へと繰り出した。

 

「頼もしいですな………流石はIS学園の専用機持ち達と言ったところですか」

 

「まだまだ未熟な連中ばかりですよ」

 

その姿を見た艦長がそう言うと、千冬はフッと笑いながらそう返す。

 

「では、こちらへ………本艦のCICへご案内致します」

 

艦長がそう言い、千冬達は一夏達の指揮を執る為、CICへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、神谷達グレン団がドラゴノザウルス捜索に加わって小1時間余りが経過………

 

グレン団の一同が来るまでは、比較的活発に活動していた筈のドラゴノザウルスであったが、突然鳴りを潜めてしまった。

 

まるでグレン団の面々が来た事を感知したかの様に………

 

一夏達の必死の捜索も虚しく、只々時間ばかりが過ぎて行っていた………

 

そんな中………

 

浦賀水道の入り口付近を捜索していたシャルは………

 

「こちらシャルロット。現在浦賀水道入り口付近を捜索中。現在のところ、ドラゴノザウルスの姿は発見できず」

 

一通り哨戒を終えると、シャルはひゅうがに居る千冬へと通信を送る。

 

[了解した。他のメンバーからも現在ドラゴノザウルス発見の知らせは入っていない。引き続き捜索を続けろ]

 

「了解」

 

千冬からの応答を聞き、シャルは更に捜索を続行する。

 

「ん? アレは?」

 

すると、海上に何かを発見したシャルは、望遠を使ってそれを拡大。

 

目の前に映し出す。

 

それは、釣りに来ていたと思われる、個人のクルーザーだった。

 

如何やら、故障を起こしているらしく、燃料が海へと漏れ出しているのが確認出来る。

 

「個人のクルーザーか。故障してるみたいだけど………」

 

放っておくワケにも行かず、助けに行こうとシャルは高度を落とし始めた。

 

すると………

 

故障しているクルーザーを、海中から見据えている巨大な影が在る………

 

その影は、海中からドンドンと浮上して来て、やがて海面にその巨大な姿を現した!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ドラゴノザウルスだ!!

 

「!! ドラゴノザウルス!!」

 

その姿を確認したシャルが、驚いて動きを止める。

 

「こちらシャルロット! ドラゴノザウルス発見! ドラゴノザウルス発見!!」

 

すぐに千冬と神谷達にそう連絡を入れ、到着を待とうとする。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

しかし、ドラゴノザウルスは咆哮を挙げ、クルーザーへと襲い掛かろうとした。

 

「!! 危ない!!」

 

それを見たシャルは、ガルムを呼び出し両手に握ると、ドラゴノザウルスに攻撃を加える。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ガルムの弾丸が、ドラゴノザウルスの身体に吸い込まれてしまい、効果は無かったが注意を惹く事には成功する。

 

(クルーザーから引き離さないと………)

 

そのままドラゴノザウルスの注意を惹き続け、クルーザーから遠ざけようとする。

 

だが………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

突如として、シャルの背後の海中から、ドラゴノザウルスの先が龍の様な姿をした触手の1本が飛び出した!!

 

「!? しまった!?」

 

慌てて離脱しようとしたシャルだったが間に合わず、下半身にドラゴノザウルスの先が龍の様な姿をした触手が噛み付く。

 

「うわあっ!?」

 

絶対防御のお蔭で怪我こそしなかったが、捕まってしまうシャル。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

するとドラゴノザウルスは、本体の大きな口を開き、先が龍の様な姿をした触手に噛み付かれたシャルをその口元へと持って行く。

 

「!?(まさか!?………僕を食べる気なの!?)」

 

慌ててブレッド・スライサーを取り出し、下半身に噛み付いている龍の様な姿をした触手に斬り付けるが、龍の様な姿をした触手はシャルを放さない。

 

と、そこへ………

 

「居たぞ! ドラゴノザウルスだ!!」

 

一夏達が駆け付け、ドラゴノザウルスの姿を見た箒がそう声を挙げた。

 

「!? シャルロットが危ないぞ!!」

 

更にラウラが、食べられそうになっているシャルの姿に気づき、そう声を挙げる。

 

「シャルロット!!」

 

「このくらげの出来損ない野郎! シャルを放しやがれ!!」

 

一夏と神谷が、ドラゴノザウルス目掛けて突っ込んで行こうとするが、

 

「ちょっと! 2人共落ち着きなさい!!」

 

「ドラゴノザウルスはその柔らかい身体で、実弾兵器を無力化してしまうのですわ」

 

鈴とセシリアがそう言って2人を止める。

 

「となると、ビームやレーザーでの攻撃。若しくは刃物を使っての切断攻撃しかないか………」

 

「兎に角攻撃だ! シャルロットを助けるんだ!!」

 

ラウラがそう考察していると、箒が雨月から刺突攻撃でレーザーを放出した!!

 

「喰らいなさい!!」

 

「コレで!!」

 

更にセシリアもスターライトmkⅢを発砲し、鈴も龍砲を放つ。

 

「雪羅!!」

 

「レーザーアイ!!」

 

更に一夏も左手の雪羅から荷電粒子砲を見舞い、グレンラガンも胸のグレンブーメランを外すと、ボディの目の部分からレーザーを放つ。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

レーザーやビームでの一斉攻撃に、自衛隊の攻撃ではビクともしていなかったドラゴノザウルスが、初めて苦悶の咆哮を挙げる。

 

「クウッ! この! このぉ!!」

 

しかし、それでもまだドラゴノザウルスはシャルを放さず、シャルは噛み付いている龍の様な姿をした触手をブレッド・スライサーで斬り付け続ける。

 

だが、シャルが付けた傷は端から再生されてしまい、ダメージを与えられていなかった。

 

ドラゴノザウルスは、シャルを更に本体の口元へと近付ける。

 

「シャル! この野郎! グレンブーメラン!!」

 

と、そこでグレンラガンが、シャルを捕まえている龍の様な姿をした触手に向かって、グレンブーメランを投げ付ける。

 

シャルを捕まえている龍の様な姿をした触手に向かうグレンブーメラン。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

しかし、その途中で、別の龍の様な姿をした触手が海中から飛び出し、グレンブーメランによって首を切断された!!

 

グレンブーメランの軌道が変わり、グレンラガンの手元に戻ってしまう。

 

「クソッ! シャルーッ!!」

 

神谷は悪態を吐くと、シャルが捕まえられている龍の様な姿をした触手の元へ飛んだ。

 

「神谷ーっ!!」

 

シャルが向かって来るグレンラガンに向かって必死に手を伸ばす。

 

「シャルッ!!」

 

グレンラガンも、そのシャルの手を摑もうと手を伸ばす。

 

だが………

 

「! うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

あとちょっとで触れ合ったと言う瞬間に、シャルは完全にドラゴノザウルス本体の口の中へと放り込まれてしまった。

 

ドラゴノザウルスは、そのままシャルを飲み込む。

 

「!? シャル!!………!? おわぁっ!?」

 

思わず空中で静止したグレンラガンに、龍の様な姿をした触手が叩き付けられる。

 

「アニキッ!? このおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

と、そこで一夏が実体剣状態の雪片弐型で、グレンラガンを弾き飛ばした龍の様な姿をした触手の首を斬り落とす!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

「セヤアッ!!」

 

更にラウラも、プラズマ手刀で別の龍の様な姿をした触手の首を斬り落とした!!

 

「こちら箒! 非常事態発生! シャルロットがドラゴノザウルスに飲み込まれました!!」

 

[何だと!?]

 

[シャルロットさんが!?]

 

箒が慌てて千冬に報告を送ると、通信回線に千冬と真耶の驚きの声が響く。

 

と、その次の瞬間!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ドラゴノザウルスが咆哮を挙げたかと思うと、斬り落とされた龍の様な姿をした触手の先端が、まるでトカゲの尻尾の様に再生した。

 

「!? ウソッ!?」

 

「再生した!?」

 

それを見た鈴とセシリアが驚愕を露わにする。

 

アレほど巨大な触手の先端を、一瞬にして再生させるとは………

 

恐るべき再生能力である。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

と、ドラゴノザウルスは再び咆哮を挙げたかと思うと、一瞬にして海中へと潜ってしまった。

 

「!? あっ!? しまった!?」

 

「シャルゥーッ!! チキショウ!!」

 

グレンラガンが慌ててそれを追って海中へと飛び込もうとする。

 

「アニキ! 駄目だ!!」

 

しかし、一夏がそんなグレンラガンを羽交い絞めにして止める。

 

「放せ、一夏! シャルの奴が!!」

 

「駄目だよ、アニキ! 水中はアイツのホームグラウンドなんだよ!! 下手に飛び込んだらコッチがやられちまうよ!!」

 

一夏がグレンラガンを押さえている間に、ドラゴノザウルスの影はドンドンと薄くなって行き、とうとう海中深くへと消えてしまったのだった………

 

「シャル! シャル! クッソオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!」

 

穏やかになった海上に、神谷の叫びが虚しく響き渡る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。
平成最後の更新となります。

予告していた東映まんがまつり………
『グレンダイザー ゲッターロボG グレートマジンガー 決戦!大海獣』からドラゴノザウルスが登場です!
スパロボで此奴に苦戦させられた人は多いでしょう。

さて、シャルがボスボロットよろしく捕食されてしまいましたが………
果たして無事なのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第23話『アイツの中にはシャルが居るんだぞ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第23話『アイツの中にはシャルが居るんだぞ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、日本近海の太平洋に出現した、太古の生物『ドラゴノザウルス』

 

石油タンカーを目の敵の様に狙い、日本に入る筈だった石油を奪い去った。

 

自衛隊の攻撃も寄せ付けないドラゴノザウルスの討伐に………

 

福音事件での功績を買われ………

 

神谷や一夏達、グレン団が駆り出される。

 

しかし、そんな中………

 

ドラゴノザウルスに襲われそうになったクルーザーを助けようとしたシャルが………

 

ドラゴノザウルスに食べられてしまった。

 

救出を試みた神谷達だったが、無情にもドラゴノザウルスは………

 

シャルを飲み込んだまま、海底深くへと姿を消してしまった。

 

現在、海上自衛隊と航空自衛隊が懸命な捜索を続けているが、未だにその姿は発見出来ていない………

 

 

 

 

 

神奈川県・横須賀市………

 

海上自衛隊の横須賀基地………

 

その会議室にて………

 

「「「「「…………」」」」」

 

一夏達が、沈痛な面持ちで沈黙している。

 

皆、ドラゴノザウルスに飲み込まれてしまったシャルの事を思っているのだ。

 

「まさか………デュノアさんが………うっぐ………」

 

真耶も悲しみの表情を浮かべ、溢れる涙を拭う。

 

「チキショウがぁ!!」

 

神谷は苛立ちを露わにして、会議室の壁を殴り付ける!!

 

「………何時までも悲しんでは居られんぞ。ドラゴノザウルスは未だに健在なんだ。対策会議を始めるぞ」

 

と、そんな一同に向かって、千冬が冷静そうな様子でそう言う。

 

しかし、その手は血が出んばかりに握り締められていた。

 

「シャル………オメェの仇は必ず俺が取ってやる!!」

 

ドラゴノザウルスへの闘志を募らせる神谷。

 

と、その時………

 

[ちょっと、神谷ぁ! 勝手に殺さないでよぉ!!]

 

突然会議室に、そう言うシャルの声が響き渡った!!

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

その声に千冬を含めた一同は固まる。

 

「い、今の声って?………」

 

「シャルロット………さん?」

 

「馬鹿な!?」

 

「ま、まさか………」

 

「成仏出来なくて、幽霊に!?」

 

鈴、セシリア、ラウラ、箒、一夏が次々にそう声を挙げる。

 

「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

真耶は悲鳴を挙げて、会議室に在った椅子の下へ潜り込んだ。

 

「落ち着け! そんなワケがあるか!!」

 

動揺を露わにしている一同を鎮める様に、千冬がそう叫ぶ。

 

[だから生きてるんだってば~~っ!!]

 

再び、会議室にシャルの声が響き渡る。

 

「!? 通信端末から!?」

 

自分の傍から声が聞こえた気がした真耶が、通信端末を取り出すと、シャルからの通信を受信している事に気づいた。

 

「貸せっ!!」

 

即座に神谷がその通信端末を引っ手繰る!

 

「シャル! シャル! 生きてたのか!!」

 

[そうだよ、神谷! 僕まだ生きてるよ~!!]

 

神谷が声を荒げて通信端末に向かってそう叫ぶと、シャルの声が返って来た!

 

「! シャルロット!!」

 

「無事だったのか!!」

 

一夏と箒達も、そう声を挙げて、神谷の周りに集まって来る。

 

「デュノア、状況を報告しろ」

 

と一足遅れて傍に寄った千冬が、シャルにそう問い質す。

 

[あ、織斑先生。分かりました………僕は今、ドラゴノザウルスの胃袋の中に居ます。中には石油が充満していて、タンカーの残骸が此処彼処に転がっています]

 

「石油が?」

 

ドラゴノザウルスの胃の中が石油で満たされているという報告に、千冬が首を捻る。

 

「まさか………石油を食ってるワケ?」

 

「まさか!? 微生物でもないのに、石油を食用している生物なんて聞いた事ありませんわ」

 

鈴が思わずそんな事を口走るが、セシリアがそう言って否定する。

 

「だが、そうだとすれば………今までドラゴノザウルスがタンカーばかりを狙って襲っていた理由も納得が行く」

 

しかしラウラが、今までのドラゴノザウルスの行動を顧みてそう述べる。

 

「デュノア。そこから脱出出来るか?」

 

[無理です。胃の中は石油が充満していて、火器やスラスターを使用すれば引火で大爆発してしまいます………!? うわああぁぁっ!?]

 

と、更に千冬に向けて報告を続けていたシャルから悲鳴が挙がった!!

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「!? デュノア! 如何した!?」

 

[そ、装甲が!! リヴァイヴの装甲が溶け始めました!!]

 

「何だと!?」

 

何と!!

 

ドラゴノザウルスの強力な胃液が、ISの装甲をも溶かし始めたのである!!

 

[た、助けて! 箒! 鈴! セシリア! ラウラ! 一夏! 神谷あああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!………]

 

シャルは最後の神谷の名を思いっきり叫び、通信端末からノイズだけが返って来る様になった。

 

「シャル! シャル! 返事しろ!! シャル!! コンチキショウッ!!」

 

神谷は、ノイズしか返って来なくなった通信端末を、思いっきり床に叩き付ける。

 

「わ、私の通信端末~~!!」

 

通信端末はバラバラになり、真耶が涙目で声を挙げた。

 

………合掌。

 

「待ってろ、シャル! 今俺が助けに行くぞ!!」

 

「神谷、待………」

 

「待ってよ、アニキ!」

 

飛び出して行こうとした神谷を、千冬が止めようとしたが、それよりも先に一夏が止めた。

 

「何で止めやがる!? 一夏!!」

 

「落ち着いてよ! シャルロットを助けたいのは俺も一緒だよ! けど!! 皆の力を合わせなきゃ、あのドラゴノザウルスは如何にか出来ないよ!!」

 

「ええいっ!!」

 

一夏のその言葉で、神谷は押し止まる。

 

「…………」

 

神谷を止めそこなった千冬は、行き場の無い怒りに不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

と、そこへ………

 

「皆、ドラゴノザウルスについて分かった事があるわ」

 

グレンラガンに付着していたドラゴノザウルスの身体の一部を分析していたリーロンが、そう言いながら会議室へ姿を現した。

 

「!? 何っ!?」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

その言葉に千冬が反応し、神谷達もリーロンに注目する。

 

「ええ、細胞を調べた結果………奴は石油を常食として成長している事が分かったわ」

 

「やっぱり石油を食べていたのか………」

 

「そっ。んで、コッチが重要なんだけど………如何やらこのドラゴノザウルス………何者かに遺伝子操作を受けているわ」

 

「!? 何だと!?」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

リーロンの口から語られた意外な言葉に、一同は驚きを露わにする。

 

「自然界の生物であんな生命力や戦闘力を持ったものが生まれ出るとは考え難いわ。ましてや、石油を常食に成長するなんてね………そして、そんな事を考える輩と言えば………」

 

「! ロージェノム!!」

 

「ピンポーン! 正解!!」

 

ロージェノムの事を思い浮かべた神谷を指差し、リーロンはそう言う。

 

「また奴等の仕業か………」

 

「狙いは恐らく、日本の石油を断って、エネルギー問題を引き起こす事でしょうね」

 

千冬が苦々しげに呟き、リーロンがそう推察した瞬間………

 

横須賀基地に警報が鳴り響いた!!

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

[ドラゴノザウルスが浦賀水道に出現! 現在、東京湾を目指して北上中!!]

 

一同が驚いた瞬間、そう言うアナウンスが流れる。

 

「!? 東京湾だと!?」

 

「如何やら、タンカーだけでは飽き足らず、東京湾付近にある石油コンビナートにも目を付けたみたいね」

 

「そんな事をされたら、日本は本当に干上がっちまう!!」

 

「皆さん! 此処でしたか!!」

 

と、慌てる一同の元に、今度はひゅうがの艦長が現れた。

 

「艦長さん!」

 

「自衛隊の動きは!?」

 

「既に航空自衛隊が先行してドラゴノザウルスへ攻撃を開始しています。我が海上自衛隊も東京湾に集結中。更に沿岸部にも陸上自衛隊の部隊が展開し、ドラゴノザウルスを東京湾で撃滅する作戦です」

 

「ちょっと待てよ! アイツの中にはシャルが居るんだぞ!!」

 

と、自衛隊の作戦を聞いた神谷が、艦長へと食って掛かる。

 

「………IS1機と1人の人命で日本が助かるなら安い犠牲だ………政府はそう判断した様です」

 

「!! テメェ! ふざけんじゃねえ!!」

 

艦長のその言葉を聞いた途端、神谷は艦長の胸倉を摑み上げた!!

 

「アニキ!! 駄目だ!!」

 

慌てて一夏が神谷を羽交い絞めにする。

 

「何が安い犠牲だ!! んな考えクソ喰らえだ!! 俺はシャルを助ける!!」

 

一夏に羽交い絞めにされたままそう言って暴れる神谷。

 

「………10分です」

 

「あんっ!?」

 

「えっ!?」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

と、不意に出た艦長の言葉の意味が理解出来ず、首を傾げる神谷達。

 

「10分間だけ、私が何とか攻撃を遅らせます。その間にアナタ方の仲間を救出して下さい」

 

制服を正しながら、艦長はそう言葉を続けた。

 

「!? 艦長さん!!」

 

「アンタ………」

 

「私は自衛官です。自衛官の使命は………国を守り………そして人を助ける事です」

 

驚く一夏と神谷に向かって、艦長は芸術的で色気すら感じられる見事な敬礼を送る。

 

「………ありがとよ。良し! 行くぞお前等!!」

 

「「「「「おうっ!!」」」」」

 

艦長にそう礼を言うと、神谷は会議室から飛び出して行き、一夏達もそれに続いた。

 

「い、良いんですか?」

 

真耶が心配そうに艦長にそう尋ねる。

 

確かに、艦長がやろうとしている事は明らかな命令違反であり、良くて降格………

 

下手をすれば免職処分も有り得る事である。

 

「私も昔はやんちゃでしてね………ああいう若者を見ると、つい応援したくなるのです」

 

それに対し、艦長は制帽の唾を下げながら、フッと笑ってそう言った。

 

その顔に、後悔や躊躇いの様なものは見えない。

 

「………ありがとうございます」

 

そんな艦長の顔を見て、千冬は頭を下げる。

 

「さて………後はあの子達次第ね………」

 

そしてリーロンは、飛び出して行った神谷達を見ながらそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京湾内………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

[クソッ! 駄目だ!! ミサイルが効かない!!]

 

[弾薬が尽きる………止むを得ん! 一旦退却だ!!]

 

航空自衛隊の攻撃を物共せず、ドラゴノザウルスは東京湾内を驀進。

 

真っ直ぐに海岸近くの石油コンビナートを目指している。

 

その横暴を止める者は居ないのか………

 

「見つけたぜ! ドラゴノザウルス!!」

 

いや!!

 

此処に居た!!

 

グレンラガン率いる、グレン団が!!

 

「一夏! 俺がシャルを助けに行く! その間、お前達は奴を足止めしておいてくれ!!」

 

「分かった! 気を付けて、アニキ!!」

 

「任せておけ!!」

 

一夏達にそう言うと、グレンラガンがドラゴノザウルス目掛けて突っ込んで行く!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

それに気づいたドラゴノザウルスが、本体の大口を開けて咆哮を挙げる。

 

「今だ! ウイングオフッ!!」

 

とその瞬間!!

 

グレンラガンはグレンウイングを分離させ、ドラゴノザウルスの口内へと飛び込んだ!!

 

「!? 飛び込んだ!!」

 

「アニキ!!」

 

相変わらず無茶苦茶な行動に出た神谷に、箒と一夏が驚く。

 

「一夏! 神谷の奴を信じなさい!!」

 

とそこで、鈴がそう言って、連結した双天牙月を投擲し、龍の様な姿をした触手を1本切断する!!

 

「あの方は何時、どんな状況でも、必ず何とかして来た方です!!」

 

続いてセシリアがそう言い、ドラゴノザウルス本体の顔面にスターライトmkⅢを撃ち込む!!

 

「今はアイツに言われた通りに、コイツを足止めするんだ!!」

 

最後にラウラがそう言い、ワイヤーブレードで龍の様な姿をした触手を2本纏めて斬り落とす!!

 

「そうだな………任せたぞ、神谷!!」

 

「アニキ! 頼んだよ!!」

 

それを受けて、箒と一夏も、雨月・空裂と雪片弐型を構えてドラゴノザウルスへ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

ドラゴノザウルスの体内へと飛び込んだグレンラガンは………

 

「おわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

食道内をゴロゴロと転がりながら、ドンドンと胃の方へと近付いて行く。

 

「おわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

やがて胃へと到達し、食道の出口から胃の中に溜まっていた石油の中に落下する。

 

「プハッ!! あ~、クソッ! ヌルヌルしやがる………」

 

油面の上に出ていたタンカーの残骸の上に攀じ登り、身体に着いた石油を払いながら、愚痴る様に神谷はそう言う。

 

「此処がコイツの胃の中か………油臭せぇなぁ、オイ」

 

胃の中に充満する油の臭いを嗅ぎながら、シャルの姿を探すグレンラガン。

 

「シャルーッ! 何処だーっ!? 何処に居やがるーっ!!」

 

大声でそう呼び掛けるが、シャルからの返事は返って来ない。

 

「まさか溶かされちまったって事はねえだろうな………冗談じゃねえぞ、オイ!!」

 

一瞬嫌な想像をしてしまい、神谷は焦りながら、油面から出ているタンカーの残骸から残骸へと跳躍し、シャルの姿を探し出す。

 

「シャルーッ!! 返事しろーっ!!」

 

「神谷っ!?」

 

するとそこで、グレンラガンが居る位置から右前方のタンカーの残骸の中から、シャルの声が聞こえて来た。

 

「! そこか、シャル!!」

 

すぐさま、グレンラガンはその残骸へと跳躍する。

 

「シャル!! 無事か!?」

 

「だ、駄目! 来ないで、神谷!!」

 

神谷がそう言うと、残骸の陰に居ると思われるシャルから、そんな声が返って来た。

 

「ああ!? 何言ってんだ!? 早く脱出するぞ!!」

 

そう言ってグレンラガンは、残骸の陰を覗き込もうとする。

 

「だ、駄目ぇっ!!」

 

「シャル!!」

 

シャルの制止も聞かず、残骸の陰を覗き込んだグレンラガンが見たものは………

 

「み、見ないで~~っ!!」

 

悲鳴の様な声を挙げて縮こまっている、全裸のシャルの姿だった!!

 

「!? ブホッ!?」

 

思わぬサービスシーンに、グレンラガンの鼻から血が噴き出す。

 

「お、オメェ! ISとISスーツは如何したんだよ!?」

 

グレンラガンは鼻血を流す鼻を押さえながら、シャルにそう問い質す。

 

「エ、エネルギーが無くなっちゃって………装甲も溶かされる一方だったから、コアが溶かされる前に解除したんだよ~。そしたら今度はISスーツが溶かされちゃって………」

 

シャルは顔を真っ赤にしながらそう説明する。

 

「と、兎に角、脱出するぞ!!」

 

そう言いながらシャルに近付くグレンラガン。

 

「駄目! 近付かないで!!」

 

シャルは近付いて来たグレンラガンの顔を手で抑える。

 

「むぐっくっ!? んな事言ってる場合か!? 大体、寮の風呂で散々見せただろうが!?」

 

「あの時とは違うんだよ~!!」

 

「ええいっ! 埒が明かねえ!!」

 

と、グレンラガンがそう言った瞬間………

 

その姿が緑の光に包まれて、神谷の姿に戻った。

 

「神谷? うわっ!?」

 

首を傾げたシャルに、神谷がいつも羽織っていたマントが掛けられる。

 

「そいつで隠しとけ! それなら良いだろう!」

 

「う、うん………」

 

神谷に渡されたマントを、身体を隠す様に巻き付けるシャル。

 

「よっし! 脱出するぞ!!」

 

そう言って神谷は、再びグレンラガンの姿となり、シャルをお姫様抱っこで抱き上げた。

 

(………神谷の匂いがする)

 

抱き上げられたシャルは、コッソリとマントに染み込んでいた神谷の香りを堪能している。

 

「確り捕まってろよ、シャル!」

 

「!? う、うん!! でも、神谷。一体如何やって脱出するの?」

 

「決まってんだろ!! ブチ破るんだ!!」

 

と、シャルにそう答えたかと思うと、グレンラガンの額の部分にドリルが出現。

 

「行くぜぇ、シャル!!」

 

「うん!!」

 

そう答えると、シャルはグレンラガンに確りとしがみ付く。

 

「ギガドリルトルネエエエエエェェェェェェーーーーーーードッ!!」

 

それを確認すると、グレンラガンは大跳躍!!

 

そのまま、ドラゴノザウルスの胃の壁にブチ当たり、体内を掘り進んで行った!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

外でドラゴノザウルスを足止めしている一夏達は………

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

気合の縦一閃で、ドラゴノザウルスの龍の様な姿をした触手を1本、唐竹割りにする。

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

箒も、雨月と空裂からレーザーとエネルギー刃を飛ばし、ドラゴノザウルスの本体に喰らわせる。

 

[聞こえるか、お前達。ドラゴノザウルスを東京に上陸させてはならない。何としても海上で食い止めろ]

 

とそこで、漸く駆け付けたひゅうがのCICで指揮を執っていた千冬から、一夏達全員にそう通信が送られて来る。

 

「了解。でも、織斑先生………!? うわっ!?」

 

それに答えていたところで、龍の様な姿をした触手に襲われ、慌てて逃げる一夏。

 

「一夏! 危ない!!」

 

とその瞬間、一夏を追っていた龍の様な姿をした触手を、鈴が連結した双天牙月を投擲して斬り落とす。

 

「ハアッ!!」

 

更にセシリアが、ドラゴノザウルス本体に向かってスターライトmkⅢを発砲する。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

怯んだ様子を見せたドラゴノザウルスだったが、次の瞬間には斬り落とされていた触手を再生させる。

 

「クッ! また触手が………コレではキリが無いぞ!!」

 

それを見たラウラが、愚痴る様に叫ぶ。

 

「も~う! 神谷の奴は何をグズグズしてんのよ!?」

 

と、鈴がそう声を挙げた瞬間………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

突如、ドラゴノザウルスが苦しみ出した。

 

「!? 何だ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

その只事ではない様子を感じ取った一夏達は、一旦ドラゴノザウルスから距離を取った。

 

その次の瞬間!!

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

威勢の良い叫び声と共に、ドラゴノザウルスの背中を突き破って、シャルを抱き抱えたグレンラガンが飛び出した!!

 

「!! グレンラガン!!」

 

「アニキ!!」

 

「グレンウイーングッ!!」

 

箒と一夏がそう声を挙げると、グレンラガンは上空で待機していたグレンウイングを呼び出す。

 

「ウイングクロース!!」

 

そして空中で十字となり、緑色の噴射を上げて飛翔する。

 

「待たせたな、お前等!! シャルもこの通り無事だぜ!!」

 

「皆! 心配掛けてゴメン!!」

 

一夏達に向かって、神谷とシャルがそう叫ぶ。

 

「シャルロット! 良かった~!」

 

「良くぞ御無事で………」

 

「これで遠慮する必要は無くなったな」

 

それを聞いた鈴、セシリア、ラウラがそう声を挙げる。

 

[神谷! お前はシャルをひゅうがへ連れて来い!! そのままでは戦えんだろ!!]

 

「了解っと!」

 

千冬からの通信にそう答えると、グレンラガンはひゅうがへと飛んだ。

 

「よおし! シャルロットを助け出せたんなら、もう容赦しないぜ!!」

 

「一斉攻撃を掛けるぞ!!」

 

「「「おう(ハイ)!!」」」

 

一夏と箒がそう言い、鈴、セシリア、ラウラは其々に得物を構えた!!

 

と、その瞬間!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

先程グレンラガンに空けられた背中の傷を再生させると、ドラゴノザウルスが咆哮と共に海面から大きく跳躍する!!

 

「!? 危ない!!」

 

「「!?」」

 

「「!? うわあっ!?」」」

 

一夏の声で、セシリアと鈴が退避するが、箒とラウラは回避が遅れ、ドラゴノザウルスの体当たりを喰らって弾き飛ばされる。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

そして何と!!

 

ドラゴノザウルスはそのまま空を飛び、一夏達に襲い掛かって来た!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「ドラゴノザウルスが!?」

 

「飛んだ!?」

 

驚く一夏達。

 

まさかドラゴノザウルスに飛行能力までもが有るとは、流石に思ってはいなかった。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ドラゴノザウルスは、そのまま一夏達目掛けて一直線に飛んで来る。

 

「!? うわっ!?」

 

「コイツ!!」

 

「喰らいなさい!!」

 

一夏は離脱したが、鈴が龍咆、セシリアがスターライトmkⅢを向かって来るドラゴノザウルスに向かって放つ。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

龍の様な姿をした触手の1本が千切れたが、ドラゴノザウルスは別の龍の様な姿をした触手を2人に向かって伸ばす!!

 

「チイッ!!」

 

「クウッ!!」

 

慌てて離脱しようとする2人だったが、1歩間に合わず、鈴が左足、セシリアが右足を噛み付かれ、摑まえられてしまう。

 

「!?」

 

「しまっ………」

 

するとドラゴノザウルスは、2人を摑んだまま振り回し始めた!!

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

振り回されている鈴とセシリアから悲鳴が挙がる。

 

「鈴! セシリア! うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

一夏は、2人を掴まえている龍の様な姿をした触手を、雪片弐型で斬り裂く!!

 

「「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」

 

振り回されていた2人は、そのままブッ飛んで行き、東京湾の波止場に叩き付けられた!!

 

「2人共! 大丈夫か!?」

 

と、一夏が2人にそう呼び掛けていると………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ドラゴノザウルスが高度を取り、龍の様な姿をした触手を全て扇風機の羽の様に回転させ始める!!

 

すると、ドラゴノザウルスの下部から、凄まじい爆風が吹き荒れる!!

 

「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

台風以上の爆風に、一夏は飛行を維持できず、そのまま吹き飛ばされて、海面に叩き付けられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

シャルを連れたグレンラガンは………

 

戦闘区域からやや離れた位置に居たひゅうがへと辿り着き、甲板へ着地しようとしていた。

 

「デュノア!!」

 

「デュノアさん! 大丈夫ですか!?」

 

艦橋から飛び出す様にやって来た千冬、真耶、リーロンの内、千冬と真耶がシャルにそう言って来た。

 

「は、ハイ、何とか………」

 

グレンラガンの腕から降ろされたシャルが、戸惑いながらもそう答える。

 

「格納庫にエネルギー補給機と予備パーツを用意して置いたわ。そこで補給と整備をして。それとコレ………予備のISスーツよ」

 

そこでリーロンがそう言いながら、シャルの予備のISスーツを差し出した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

シャルはそれを受け取ると、神谷のマントで身体を隠したまま着替えを始める。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

と、そこでドラゴノザウルスの咆哮が聞こえて来て、一同が振り向くと、空を飛んで暴れ回り、一夏達を蹴散らしているドラゴノザウルスの姿が飛び込んで来た。

 

「!? と、飛んでる!?」

 

「奴め………飛行能力まで兼ね備えているのか」

 

「マズイわね。アイツの中には石油が充満してるんでしょ? もし爆発でもしたら………」

 

その様を見た真耶、千冬、リーロンが戦慄した様子を見せながらそう言う。

 

すると………

 

「石油?………! それだ!!」

 

神谷が何かを思いついた様に大声を挙げた。

 

「うわっ!? 如何したの、神谷?」

 

突然大声を挙げた神谷に、シャルが驚きながら尋ねる。

 

千冬達の視線も、グレンラガンに集まる。

 

「奴の腹が石油で一杯なら、そこを徹底的に叩きゃあ、アッと言う間に大爆発して一気にカタが着く、ってワケだ!」

 

「! 成程、確かに………」

 

神谷のその発想に、千冬も納得が行った様な表情になる。

 

「で、でも! あんな巨大な生物の胃袋が何処に在るのか、外から見ただけじゃ………」

 

「いえ、例えどんな生物でも、基本的な構造は変わらないわ………胃袋は背中には無いわ」

 

「! そう言えば!!」

 

真耶はそう疑問を呈するが、リーロンがそれに答える。

 

「よおしっ! 見てろよ! クラゲの出来損ない野郎め! 今にデッケェ花火を打ち上げてやるぜ!!」

 

神谷がそう叫ぶと、グレンラガンは閉じていたグレンウイングを再展開。

 

緑色の噴射を挙げて、空へと舞い上がった。

 

「あ! 神谷!! 急がないと………」

 

それを見て、ISスーツへの着替えを終えたシャルも、急いでエネルギーの補給と予備パーツの組み立てへ向かった。

 

「山田くん、CICへ戻るぞ。織斑達に作戦の説明をしなければ」

 

「は、ハイ!」

 

「ココからが本当の戦いね」

 

そして千冬達もそう言い合って、ひゅうがのCICへと戻って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京湾・上空………

 

「このぉっ!!」

 

ラウラが、ドラゴノザウルス目掛けてレールカノンを放つ。

 

普通の弾丸ならば、ドラゴノザウルスの体内に埋もれてしまうが………

 

ラウラはそれの対策として、弾丸を近接信管仕様に変えており、放たれた弾丸はドラゴノザウルスに命中する寸前で炸裂し、爆風を浴びせた!!

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

更に箒が、再び雨月と空裂からレーザーとエネルギー刃を見舞う。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

だが、ドラゴノザウルスは怯むどころか、更に暴れ回る。

 

「クッ! 駄目か!!」

 

「このままではコッチが消耗する一方だ………」

 

苦い声がラウラと箒から漏れる。

 

どれだけの攻撃を加えても、ドラゴノザウルスはその傷を瞬時に再生させてしまい、結果グレン団の方が一方的に消耗させられるという事態になっていた。

 

奴を倒すには、再生能力を上回る程の火力で一気に吹き飛ばすしかないのだが、専用機と言えど、あれほど巨大なドラゴノザウルスを跡形も無く消し飛ばす程の火力を有している者は居ない………

 

手詰まりかに思えた瞬間………

 

「ピアススティンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

威勢の良い声が響き渡り、ドラゴノザウルスの右目に、グレンラガンの右手から伸びて来た細長い2本のドリルが突き刺さった!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

目を潰されたドラゴノザウルスは、悶え苦しむ様な様子を見せる。

 

「お前等! 俺に作戦が有る!!」

 

そしてその隙に、箒達に合流したグレンラガンがそう言い放つ。

 

「アニキ! 作戦って!?」

 

漸く海から上がって来た一夏が、グレンラガンにそう問い質す。

 

[お前達、良く聞け。これから作戦を説明する]

 

とそこでタイムリーな、千冬からの通信が送られて来る。

 

そして、神谷が考えた作戦が、全員に伝えられる。

 

[………と言うワケだ。ドラゴノザウルスを東京湾上空から海上へ誘き出せ! そこで奴の腹へと集中攻撃を行い、撃破するんだ!!]

 

「「「了解!!」」」

 

「任せとけ!!」

 

千冬の説明を聞き、一夏達と神谷がそう返事を返す。

 

「お待たせ!!」

 

とそこで、エネルギーの補給と予備パーツの組み立てを終えたシャルが駆け付けた。

 

「アタシ達の事も!」

 

「忘れてもらっては困りますわ!」

 

更に、波止場へ叩き付けられていた鈴とセシリアも現れる。

 

2人共ガスタンクを抱えて!

 

「鈴!? セシリア!? 何持って来てるんだ!?」

 

トンでもない物を持って現れた鈴とセシリアに、一夏が驚きの声を挙げる。

 

「ガスタンクよ!!」

 

「コレをドラゴノザウルスに飲ませて、引火力を強め、起爆剤にするのですわ!!」

 

「良いアイデアだぜ、鈴! セシリア!」

 

鈴とセシリアは得意げに語り、グレンラガンもそんな2人にサムズアップを送った。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

とそこで、ドラゴノザウルスが咆哮を挙げながら、グレン団に迫って来た。

 

「来たぞぉ! 行くぜ!!」

 

「「「「「「おう(ハイですわ)(ああ)!!」」」」」」

 

グレン団はドラゴノザウルスの注意を惹きながら、東京湾から離れた海上へと移動し始めた。

 

ドラゴノザウルスはそれを追い、同じ様に東京湾から離れた海上へと移動して行く。

 

「来た来た。今に面白いものを見せてやるぜ」

 

自分達の考えも知らず、ノコノコと追い掛けて来るドラゴノザウルスを見ながら、一夏がそんな声を漏らす。

 

やがて一同は、東京湾から十分距離を取った海上へと到達。

 

「良し! この辺で良いだろう!」

 

「鈴! セシリア! お願い!!」

 

「了解!!」

 

「お任せになって!!」

 

ラウラがそう声を挙げ、シャルが2人に呼び掛けると………

 

鈴とセシリアは、ドラゴノザウルスの方を振り返って空中に静止し、ガスタンクを投げる様に構えた。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ドラゴノザウルスは、動きを止めた2人に迫るが、2人はギリギリまで引き付ける。

 

「1!」

 

「2!」

 

そして2人は、タイミングを合わせるかの様にカウントダウンを始める。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ドラゴノザウルスが咆哮を挙げ、口が大きく開かれる!!

 

「「3!!」」

 

その瞬間!!

 

鈴とセシリアは、持っていたガスタンクを、ドラゴノザウルスの口の中目掛けて放り込んだ!!

 

そのままガスタンクを飲み込むドラゴノザウルス。

 

「よおし、今だ!! 一気に行くぜぇっ!! グレンファイヤアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

その瞬間、グレンラガンがドラゴノザウルスの腹目掛けて、胸部のサングラスから熱線を見舞った!!

 

「喰らえっ!!」

 

「ハアアッ!!」

 

「コレで!!」

 

「行けえっ!!」

 

「シュートッ!!」

 

「フォイヤッ!!」

 

更に、一夏が左腕の雪羅から荷電粒子砲。

 

箒が雨月と空裂からのレーザーとエネルギー刃。

 

セシリアがレーザービットのブルー・ティアーズとスターライトmkⅢの射撃。

 

鈴が両肩の龍砲。

 

シャルが両手に構えたガルム。

 

ラウラが右肩の大型レールカノンで、ドラゴノザウルスの腹に一斉攻撃を開始した!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

この一斉攻撃の前に、流石のドラゴノザウルスも苦悶の咆哮を挙げる。

 

しかし、まだその勢いは衰えず、龍の様な姿をした触手を一夏達に伸ばして来る。

 

「散れっ!!」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

神谷の合図で、一斉に散開する一夏達。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

その後、ドラゴノザウルスは神谷達の狙いに気づいたのか、全ての龍の様な姿をした触手で腹を覆い尽くす。

 

「クッ! 駄目だ!! 腹が覆われたぞ!!」

 

「まだそんな元気があるのか!!」

 

「一夏! 合体だぁ!!」

 

ラウラの言葉に、一夏がそう言うと、グレンラガンが一夏にそう呼び掛けた!!

 

「! よっしゃあっ!!」

 

それを聞いた一夏は、グレンラガンに向かって飛ぶ!!

 

「「兄弟合体!!」」

 

そして、グレンラガンと一夏の姿が太陽を背に重なった瞬間!!

 

「「白式ラガン!!」」

 

緑色の光に包まれて、白式ラガンが現れた!!

 

「箒! シャル! お前達は上から攻めろ!!」

 

「その隙に俺達が腹を攻撃する!!」

 

「分かった!」

 

「任せて!」

 

白式ラガンから神谷と一夏の声が響き渡ると、箒とシャルが、ドラゴノザウルスの上面から攻撃を加える。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

最初は我慢しているかの様な様子を見せたドラゴノザウルスだったが、やがて耐え切れなくなったのか、龍の様な姿をした触手を伸ばし、箒とシャルを追い払おうとする。

 

その瞬間、覆われていた腹が露わになる!!

 

「アニキ! 今だ!!」

 

「グレンブーメランッ!!」

 

その瞬間、白式ラガンは胸に装着されていたグレンブーメランを外し、投げ付ける。

 

更に………

 

「舞えっ! 飛燕の如く!!」

 

一夏がそう叫んだかと思うと、白式ラガンの手に雪片弐型が現れる。

 

雪片弐型が展開して、エネルギーの刃を展開するが………

 

その形が、いつもの剣の刃の様な形でなく、ククリ刀の様な形になった。

 

「雪片! 大! 車! りぃぃぃぃん!!」

 

暑苦しい迄の咆哮と共に、そのククリ刀状になった雪片弐型を振り回し、ドラゴノザウルス目掛けて投擲した!!

 

高速で回転するグレンブーメランと、ククリ刀状になった雪片弐型が、ドラゴノザウルスの腹目掛けて飛ぶ!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

それに気づいたドラゴノザウルスの、龍の様な姿をした触手が1本立ち塞がるが………

 

グレンブーメランとククリ刀状になった雪片弐型が、それを物共せずに両断し、ドラゴノザウルスの腹を引き裂いた!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

ドラゴノザウルスが苦悶の咆哮を挙げたかと思うと、頭の部分から貫通したグレンブーメランとククリ刀状になった雪片弐型が飛び出す!!

 

斬り破られた腹からは、石油が噴水の様に溢れ出ている。

 

「今だ!!」

 

「皆! 頼む!!」

 

「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

神谷と一夏がそう叫んだ瞬間!!

 

箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラは、その石油が噴き出している部分目掛けて一斉攻撃を見舞った!!

 

その攻撃で石油が引火!!

 

更に引火させた火が、腹の中まで到達し、先程セシリアと鈴が呑み込ませたガスタンクを爆発させた!!

 

後は爆発が爆発を呼んで連鎖して行き、ドラゴノザウルスの身体の彼方此方が破れて、火柱が挙がる!!

 

やがて、一際大きな爆音を響かせて、ドラゴノザウルスは遂に大爆発!!

 

無数の肉片となって、海中へ没して行った………

 

「「「「「「「ゼエ………ゼエ………ゼエ………ゼエ………」」」」」」」

 

大激戦の後で、誰もが乱れた息を整えるのに、必死になっていた。

 

[やった………のか?]

 

[ドラゴノザウルスの生体反応ゼロ………完全に沈黙したわ]

 

[やった! やりましたよ、天上くん達がやりました!!]

 

ひゅうがCICに居る千冬達からも、通信機のスイッチを入れっ放しなのか、そう言う声が聞こえて来る。

 

沿岸に配置されていた陸上自衛隊、海上の艦に居る海上自衛隊、そして空に居る航空自衛隊の面々からも歓声が挙がる。

 

こうして………

 

石油を食う現代に蘇った怪物………

 

ドラゴノザウルスは………

 

神谷達、グレン団の活躍により………

 

再び海底で眠りに就いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方………

 

神奈川県・横須賀市………

 

海上自衛隊の横須賀基地………

 

護衛艦の係留港に停泊しているひゅうがの甲板にて………

 

「今回、ドラゴノザウルスを倒す事が出来たのは貴方方のお蔭です。本当にありがとうございました」

 

帰りのヘリに乗り込もうとしている神谷達に向かって、ひゅうがの艦長がお礼を言いながら敬礼を送った。

 

「いえ、我々は与えられた任務を果たしたに過ぎません………」

 

「そうそう! 気にすんなよ! ロージェノム軍と戦うのは、グレン団の使命だぜ!!」

 

千冬が改まって答えていると、神谷がそう口を挟んで来る。

 

「神谷………お前は黙っていろ」

 

「………あの、皆さん。実は今回の作戦に関わった自衛官達が皆さんにお礼を言いたいと言っていまして………」

 

と、そんな神谷に千冬が辟易していると、ひゅうがの艦長がそんな事を言って来た。

 

「えっ? いえ、我々は別に感謝されたいから戦ったワケじゃ………」

 

「そう言わずに受け取って貰えませんか? 何分、自衛官と言うのは………堅苦しい連中が多いのですが………」

 

「気をつけえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

ひゅうがの艦長がそう言った瞬間、港の方から声が聞こえて来た。

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

神谷と一夏達が驚きながら港を見やると、そこには………

 

「此度の件に於いて! その身の危険も顧みず! ドラゴノザウルス討伐に尽力を尽くされたIS学園の勇敢なる戦士達に! 敬礼!!」

 

今回の作戦に参加した海上自衛隊と陸上自衛隊の自衛官達が、神谷に向かって一斉に敬礼を送って来ていた。

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

その圧巻と言える光景に、一夏達は言葉を失う。

 

そこで、更に………

 

空の方からも轟音が聞こえて来たかと思うと、航空自衛隊の戦闘機が敬意を示す編隊飛行で飛んで来た。

 

「へへっ………ワルかぁねえな」

 

そんな一連の光景を見て、流石の神谷も少々照れた様な様子を見せながらそう呟く。

 

「本当に………ありがとうございました!!」

 

最後に、ひゅうがの艦長が再び敬礼を送って来た。

 

一夏達は戸惑いながらも、その敬礼に自分達も敬礼を返す。

 

そして、その後………

 

一同はヘリに乗り、IS学園へと帰還して行った………

 

ひゅうがの艦長と作戦に参加した自衛官達は、そのヘリの姿が見えなくなるまで、敬礼を続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ドラゴノザウルスに食われたシャルでしたが、神谷の決死の突入で無事救出されました。
しかし、ドラゴノザウルスは健在であり、その戦闘力は恐るべきものだった。
そこで神谷は、ドラゴノザウルスの胃の中に石油が充満しているのを逆手に取り、大爆破作戦を執る。
作戦は見事成功。
ドラゴノザウルスは葬り去られ、神谷達は自衛官達に見送られて帰路につくのでした。

さて、次回は夏休み編最後のオリジナルエピソード。
ギャグ回です。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第24話『集まったかぁ! グレン団の野郎共!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第24話『集まったかぁ! グレン団の野郎共!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴノザウルスの騒動から暫し日が経ち………

 

IS学園の夏休みも、残り僅かとなっていた。

 

生徒達は残り少ない休みをエンジョイする者と、溜めていた宿題を大慌てで片付ける者に分かれ、残る休みを過ごしている。

 

帰省していた生徒達も、次々と寮へと戻り始めている。

 

中には帰省して、そのまま退学した者達も少なからず居たが………

 

そんな中………

 

学園に居る生徒達の間で………

 

ある噂が持ち切りとなっていた。

 

その噂とは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

食堂………

 

「幽霊船?」

 

一夏が冷やし中華を食べている手を止めてそう言う。

 

「ガツガツ! んがんが!」

 

その隣では、10杯目となるカツ丼を平らげようとしている神谷の姿も在った。

 

因みにその隣にはシャルが居り、一夏の方も箒を中心にセシリア、鈴、ラウラが集まっている。

 

「そうなんだよ~。私は見た事無いけど、皆は見たって~」

 

その一同と一緒の席に居る本音ことのほほんが、ゆったりとした口調でそう言う。

 

「わ、私、そう言うお話はちょっと………」

 

「ぼ、僕も………」

 

その手の話が苦手なのか、セシリアとシャルが怖がっている様な様子を見せながらそう言う。

 

「どうせ何かの見間違いでしょ?」

 

「非科学的だ」

 

対照的に、その噂をそう一刀両断する鈴とラウラ。

 

「ホントだよ~! 私の友達も見たって言ってるし~!」

 

(友達が見た、っていうのって、怪談話の常套句だよな………)

 

のほほんは手をバタバタさせながらそう言うが、一夏は内心でそう思ってしまう。

 

「一体どんな噂なんだ?」

 

とそこで、箒が改めてそう尋ねる。

 

「え~とね………草木も眠る丑三つ時に、IS学園が面している海の沖合に………何の前触れも無く霧が掛かって、巨大な船が現れるそうなの」

 

「益々眉唾物ね………」

 

のほほんは思いっきり怖い迫力を出しながら語るが、その姿は全然怖くなく、寧ろ鈴から呆れの声が挙がった。

 

「む~! 少しは怖がってよ~~!………あ、そう言えば………その幽霊船には、スッゴイお宝が積まれてる、って噂もあるんだよ」

 

「………お宝?」

 

と、今までマイペースに食事を続けていた神谷が、お宝と言う単語に反応して動きを止める。

 

「? アニキ?」

 

「フッフッフッ」

 

首を傾げる一夏の横で、神谷は不気味な笑いを響かせるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その深夜………

 

IS学園が面している海の波止場にて………

 

「集まったかぁ! グレン団の野郎共!!」

 

「お、お~」

 

「「「「「…………」」」」」

 

波止場の船止めに足を掛けている神谷が、集合している一夏達にそう声を掛けるが、返事が返って来たのは一夏だけだった。

 

箒、セシリア、鈴、ラウラは不機嫌そうな表情を浮かべており、シャルも苦笑いを浮かべている。

 

「良いかぁ! 不敵にもこのグレン団様が居るIS学園の海に! 幽霊船の野郎が現れやがった!!」

 

そんな一同の様子も気にせず、神谷は演説する様にそう言葉を続ける。

 

「学園の連中を怖がらせている幽霊船を放ってはおけねえ!! 一丁、俺達グレン団が悪霊退治と行こうぜ!! ついでに幽霊船のお宝も頂いちまおう!!」

 

「アンタの目的はソッチでしょうが!?」

 

お宝と言う単語が出た瞬間、鈴がそう指摘する。

 

「くだらん………幽霊など非科学的だ。存在する筈が無い」

 

「夜更かしは美容の大敵なんですわよ。私、帰らせていただきます」

 

ラウラとセシリアがそう言い、寮に帰ろうとする。

 

「ちょちょちょちょ! 待ってくれよ! ラウラ! セシリア!」

 

一夏が慌てて止める。

 

「一夏! お前からも神谷に何か言ってやれ!!」

 

「コッチには夜中に叩き起こされて、いい迷惑なのよ!!」

 

しかし、そんな一夏に箒と鈴が食って掛かった。

 

「い、いやだって………アニキがああなったら止まらないのは2人が良く知ってるだろ?」

 

「「だからと言って限度があるぞ!!(わ)」」

 

「うひぃっ!?」

 

ステレオで怒鳴られ、一夏は思わず怯む。

 

「シャルロットさん! 貴女も何か言ってやりなさい!!」

 

「そうだぞ、シャルロット」

 

「え、えっと~」

 

セシリアとラウラも、シャルにそう言って同意を呼び掛ける。

 

シャルは如何したものかと困惑する。

 

すると、その時………

 

「ヒヒヒヒヒヒヒ………」

 

突然、不気味な笑い声が辺りに響き渡った。

 

「!? ちょっと一夏! 変な声出さないでよ!!」

 

「えっ!? いや、俺何も言ってないぜ?」

 

鈴が一夏に抗議するが、一夏は何も言っていないと言う。

 

「何っ?」

 

と、箒が驚きの声を挙げた瞬間………

 

神谷達が居る波止場から見える沖合に………

 

何の前触れも無く、突然霧が掛かった!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラが驚く。

 

「ア、アニキ!!」

 

一夏も狼狽しながら神谷に声を掛ける。

 

「出やがったな」

 

只1人神谷は、待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

やがて、沖合に立ち込めていた霧の中に………

 

巨大な船の様なシルエットが浮かび上がった!!

 

「「「「で、出たああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」

 

箒、セシリア、鈴、シャルが悲鳴を挙げる。

 

そして即座に、箒、セシリア、鈴が一夏の後ろ。

 

シャルが神谷の後ろに隠れた。

 

「レーダーにもセンサーにも反応が無いだと………馬鹿な………こんなにハッキリと見えているのに………」

 

一方ラウラは、ISのセンサー部分だけを展開して、霧の中に浮かんでいる船の正体を確かめようとしたが………

 

こんなにもハッキリとシルエットが浮かんでいるにも関わらず、レーダーやセンサーには何の反応も浮かんでいなかった。

 

「ま、まさか………本当に幽霊船が………」

 

「あの中にお宝が有るのか………よっしゃあっ!!」

 

震えている一夏とは対照的に、神谷はワクワクを100倍にするとパーティーの主役になろうとするが如く、波止場から飛び降りて、下に停めてあった大きめの手漕ぎボートに乗り込む。

 

「!? 神谷!?」

 

「ちょっ!? アニキ!? 何する気だよ!?」

 

シャルと一夏が、慌ててそう問い掛ける。

 

「決まってんだろ! あの幽霊船の幽霊どもを退治して、お宝を頂戴するのよ!!」

 

ボートを係留していたロープを外しながら、神谷はそう言う。

 

「そんな! 無茶苦茶だよ!!」

 

「そうだよ神谷! 本当に幽霊が出て来たら如何するの!?」

 

一夏とシャルは、そう言って止めようとしたが………

 

「決まってんだろ! ブン殴るまでよ! 幽霊と喧嘩が出来るなんざ、滅多にねえ機会だから!!」

 

神谷は当然の様にそう言い返した。

 

この男に怖い物なんてあるのだろうか?

 

「アニキ!?………ああ、もう!!」

 

とそこで、一夏が髪を掻き毟ると、神谷の乗っているボートに飛び乗る。

 

「!? 一夏!!」

 

「一夏さん!?」

 

「「一夏!?」」

 

そんな一夏の行動に驚く箒、セシリア、鈴、ラウラ。

 

「俺も行くよ、アニキ。アニキだけ行かしたとあっちゃあ、弟分の名が廃る!」

 

「そう来ると思ったぜ、一夏!」

 

一夏と神谷は、そのまま2人で出港準備に入る。

 

「ええい、全く! お前等という奴は!!」

 

「神谷! 僕も行くよ!!」

 

とそこで、箒とシャルがボートに飛び乗る。

 

「箒!? シャル!? ああ、もう!!」

 

「わ、私も!!」

 

「嫁が行くのなら、私もだ!」

 

そして更に続いて、鈴、セシリア、ラウラがボートに飛び乗った。

 

「おわっ、ととっ!? 乗り過ぎだよ!?」

 

次々にボートに乗り込まれた為、危うく転覆しそうになり、一夏が思わずそう言う。

 

「さあ、行くぜ、一夏!! グレン団の船出だ!!」

 

と、船首の片足を掛け、腕組みをしたポーズを取って、神谷がそう言い放つ。

 

「! お、おう!!」

 

それを聞いた一夏は、オールを手に取り、ボートを漕ぎ始めた。

 

そのまま、沖合に出現した霧の中を目指して行く。

 

「待ってろよ~! 幽霊船!! グレン団の鬼リーダー! 神谷様が相手になってやるぜ!!」

 

海風にマントを棚引かせながら、神谷がそう言う。

 

「ア、アニキ………手伝ってよ………」

 

と、1人必死にオールを漕いでいる一夏がそう呟く。

 

「しっかりしなさい、一夏! 男でしょ!?」

 

「ファイトですわ、一夏さん!」

 

「私の嫁なら、それぐらい1人で如何にかしろ。でないと戦場で生き残れんぞ」

 

「一夏! 何時もの気合で如何にかしてみせろ!!」

 

「頑張って、一夏」

 

鈴、セシリア、ラウラ、箒、シャルが無慈悲にもそう一夏に言う。

 

「う、うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

すると一夏は、自棄になったのか、凄まじいスピードでオールを漕ぎ始めた。

 

神谷達の乗るボートは、凄まじいスピードで進み出す。

 

「うおっ、と!? 流石だぜ、兄弟! もっとスピードを上げろい!!」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

神谷はそれに気を良くしてそう言うと、一夏は更にスピードを上げた。

 

ボートは霧の中へと突っ込む。

 

すると………

 

その眼前に、巨大な影が立ち塞がった!!

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

一夏を除く一同が、その巨大な影を見上げる。

 

それは、ボロボロの船体に、同じくボロボロの帆を差して、風も無いのに進んでいる巨大帆船………

 

幽霊船の影だった!!

 

「ゆ、幽霊船!!」

 

「まさか………本物ですの!?」

 

「信じられん………」

 

幽霊船の実物を目にした鈴、セシリア、ラウラが驚きの声を挙げる。

 

「このままではぶつかる! 一夏! ボートを止めろ!!」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

と、ボートが一直線に幽霊船へと衝突コースを取っている事に気づいた箒が一夏に停止を促すが、熱くなっている一夏の耳には届かない。

 

「ぶ、ぶつかる!?」

 

シャルが叫んだ時、既にボートは衝突を回避できない距離まで近づいていた。

 

「チイッ!!………!? アレだ!!」

 

と、そこで神谷が、何かを見つけた様に声を挙げた。

 

その次の瞬間!!

 

ボートは幽霊船の船首に激突!!

 

そのまま転覆し、幽霊船に押し潰される様に沈没して行った………

 

「………ふう~~~、あっぶねえとこだったぜ」

 

それを見ていた神谷が、そう声を挙げる。

 

間一髪のところで、幽霊船の錨が半分降りている事に気づいた神谷が、その錨を繋いでいる鎖目掛けて跳躍し、しがみ付いたのである。

 

そして、それに倣う様に、シャル達も跳躍して、鎖へとしがみ付いたのだ。

 

「一夏! この馬鹿者が!」

 

「ボート沈めちゃって如何すんのよ!!」

 

「うう………ゴメンナサイ………」

 

箒と鈴の、ダブル幼馴染の罵倒に、一夏はシュンとなる。

 

「仕方ありませんわ。帰りはISを使って帰りましょう」

 

「止むを得ないな。非常事態だ」

 

帰りの足について、セシリアとラウラがそう言い合う。

 

「兎に角! 幽霊船に着いたんだ!! 早速お宝を探すぜ!!」

 

と、そこで神谷がそう言って、鎖を登り始めた。

 

「あ、神谷! 待って!」

 

その下に居たシャルがすぐに神谷を追う。

 

「取り敢えず、この船に乗り込むか………」

 

そして、一夏達もそれに続いて、船に乗り込んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽霊船の甲板………

 

船体がボロボロな幽霊船は、やはり甲板もボロボロであり、所々に穴が開き、床板が腐っていた。

 

「へっ! いかにもな雰囲気じゃねえか」

 

「ほ、本当にコレ………幽霊船なの?」

 

ワクワクしている神谷と対照的に、ビクビクしている鈴がそう言う。

 

「何だぁ、鈴? ビビッてんのか?」

 

「ビ、ビビッてなんかいないわよ! ビビッてなんか!!」

 

神谷のからかう様な言葉に、そう反論する鈴だったが………

 

「うらめしや~~~」

 

そこで一夏が、持って来ていた懐中電灯で、顔を下から照らしてそう言った。

 

「!? ぎにやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

鈴は奇天烈な悲鳴を挙げて、近くに居たセシリアにしがみ付く!!

 

「アハハハハハッ! いや~、そんなに驚いてもらえるとはなぁ」

 

それを見た一夏が、満足そうに笑う。

 

「~~~~~っ!!」

 

途端に、鈴はセシリアから離れると、一夏の弁慶の泣き所を蹴っ飛ばした!!

 

「#$%&*+@?!」

 

声にならない悲鳴を挙げて、一夏は足を押さえて転げ回る。

 

「さいってい! 死ね、馬鹿!!」

 

「一夏さん、今のは感心しませんわよ」

 

「そうだよ、一夏。女の子を怖がらせるなんて」

 

「全くだ」

 

「猛省しろ………」

 

鈴、セシリア、シャル、ラウラ、箒から容赦無く罵声が浴びせられる。

 

「す、すみませんでした………」

 

自分に非が有るだけに、反論は出来ず、素直に謝罪する一夏だった。

 

「オイ、何時までも遊んでないで、さっさとお宝探しに行くぜ」

 

とそこで、仕切り直す様に神谷がそう言う。

 

「うむ。宝は措いておくとしても、こんな不審な船を放っておくワケにはいかんな。徹底的に調査すべきだ」

 

軍人であるラウラが、生真面目に考えてそう言い放つ。

 

「アイテテテ………しかし、コレだけデカい船となると、手分けして捜索した方が良いんじゃないか?」

 

と、やっとの事で痛みが引いて来た一夏が、立ち上がりながらそう言う。

 

「確かにな………よ~し! 手分けしてお宝を探すぞ!!」

 

「いや、アニキ。お宝も良いけど、この幽霊船の正体も調べてね………」

 

相変わらずお宝探しに燃えている神谷に、一夏はそうツッコミを入れる。

 

一方、箒達はと言うと………

 

((((………一夏〈さん〉〈嫁〉と一緒に!!))))

 

一夏と一緒のチームになる事という思惑を浮かべていた。

 

(………神谷と一緒だったら良いな~)

 

そしてシャルも、そんな期待に胸を膨らませる。

 

その後………

 

公平を期す為に、じゃんけんによる組み分けが行われ、結果は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏&箒チーム………

 

「うう~………やっぱり不気味だな」

 

幽霊船の船内を、恐る恐ると言った様子で歩いている一夏。

 

「一夏。何を怖がっている。それでも男か?」

 

対照的に、その前を行く箒は堂々としており、微塵も怖がってはいなかった。

 

「そう言ってもさ~………(箒の奴、良く平気だな………こういうの得意なのか?)」

 

愚痴る様に呟きながら、一夏はそんな箒の様子に感心する。

 

だが………

 

(ま、まさか本当に一夏と2人っきりとなるとは………イカン! 落ち着け! 落ち着くのだ、篠ノ之 箒! 何時も通りに振舞えば良い!!)

 

実は、内心一夏と2人っきりになれた事が物凄く嬉しくて、舞い上がりたい気分なのだが、持ち前の性格がそれを許さず、高揚した気分のまま何時も通りの振る舞いを見せているのだ。

 

つまり、今の箒の心には、恐怖と言う感情が入る隙が無いのである。

 

「さあ行くぞ。この船の正体を突き止めるんだ」

 

そう言うと、そのまま物怖じせず、ズンズンと歩を進め出す箒。

 

「あ、オイ、箒! ちょっと待ってくれよ!!」

 

慌てて一夏がその後を追う。

 

(しかし、何だ……こういう状況では………手、手を繋いだ方が良いのか?)

 

と、箒が内心でそう思った瞬間………

 

箒の右手を、冷たい手が握って来た。

 

(ひゃあっ!? な、何だ、一夏の奴………分かってるじゃないか)

 

その冷たい手に驚きながらも、一夏の行動に満足げな笑みを浮かべる。

 

「しかし、一夏。随分と手が冷たいな。冷え症か?」

 

「えっ? 箒? 何言ってんだ?」

 

箒がそう指摘すると、後ろから一夏の声が聞こえて来た。

 

「えっ?」

 

箒が驚きながら振り返ると、一夏は自分の後ろの少し離れた位置に居て、自分と手を繋げる状態ではない。

 

「で、では………この手は?」

 

恐る恐る箒は、自分の右側を確認する。

 

そこには………

 

「ヒヒヒヒヒヒヒッ………」

 

骸骨の様な顔に、青白く丸っこい身体で、足が無い物体………

 

所謂、漫画やアニメ等で描かれる幽霊(ゴースト)の姿が在った。

 

「「…………」」

 

箒と一夏は、一瞬思考が停止する。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒッ………」

 

そして、幽霊が再び不気味な笑い声を挙げた瞬間………

 

「「!? ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」

 

悲鳴を挙げて、来た道を戻り始めた!!

 

「出た! 出た出た出た出たああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「幽霊~~~~~~~っ!!」

 

大慌ての様子で疾走している一夏と、泣きながら走っている箒。

 

強がっていてもやはり女の子………

 

幽霊とかには弱かった様である。

 

「!? あうっ!?」

 

と、その時!!

 

腐りかけた床板を踏み抜いてしまい、箒が転ぶ!!

 

「!? 箒!!」

 

それを見た一夏が、すぐに引き返し、箒を助けようとした瞬間………

 

通路の床全体にヒビが入り、そのまま崩壊した!!

 

「「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」

 

一夏と箒は、悲鳴と共に暗闇の中へと落下して行く。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒッ………」

 

幽霊は、2人が落ちて行った暗闇を見遣りながら、不気味な笑い声を響かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

別の組………

 

セシリア、鈴、ラウラチームは………

 

「ん?」

 

「如何しました? ラウラさん」

 

「今、一夏の悲鳴が聞こえた気がしたのだが………」

 

突然足を止めたラウラに、セシリアが尋ねると、そういう答えが返って来た。

 

「一夏さんの? それって………」

 

「んも~~っ! 如何してアイツが一夏と一緒なのよ~~!!」

 

セシリアが言葉を続けようとした瞬間、イライラしていた様子の鈴がそう声を挙げる。

 

如何やら、一夏が箒と一緒のチームになったのが気に入らない様だ。

 

「あの女~、夏休みに何か距離縮めてた感じがしてたけど………まさかこの機に乗じて一気に既成事実にまで持ち込む気なんじゃ」

 

「き、既成事実!?」

 

「有り得るかもしれんな………好都合な事に、今は2人っきりの状態だ」

 

鈴がブッ飛んだ考えに至り、狼狽するセシリアを尻目に、ラウラが肯定的な意見を返す。

 

そんな事は有り得ないのだが、一夏絡みとなるとこの3人は目の色が変わる。

 

「そうだとしたら、のんびりとはしていられないわ! とっとと捜索なんて終わらせて、一夏を連れ戻すわよ!!」

 

と、鈴がそう言いながら、手近に有った船室へのドアを開く。

 

如何やらそこは食堂だった様であり、ボロボロのテーブルクロスが掛かった長いテーブルに、罅割れている食器が置かれっ放しになっていた。

 

「此処は食堂みたいですわね………」

 

セシリアがそう言う中、3人はその船室へと入り込む。

 

すると………

 

突然、セシリア達が入って来たドアが、独りでに閉じられた!!

 

「!? ドアが!?」

 

「ちょっと!? 如何なってるのよ!?」

 

鈴がすぐに、ドアを開けようとするが、ノブを回す事が出来ない。

 

「退いていろ!!」

 

すると、ラウラが拳銃を取り出し、ドアノブを破壊しようと試みる。

 

その瞬間!!

 

突如飛んで来た皿が、拳銃を持ったラウラの手に命中した!!

 

「!? ッ!?」

 

思わず拳銃を落としてしまうラウラ。

 

その次の瞬間………

 

食堂に置かれていたテーブル、椅子、食器等が、宙に舞い始めた!!

 

「!?」

 

「ポ、ポルターガイスト現象!?」

 

「何っ!?」

 

宙に舞った品々は、驚いていた鈴、セシリア、ラウラへと襲い掛かる。

 

「キャアッ!?」

 

伏せたセシリアの頭の上を通り過ぎ、壁にブチ当たって砕け散る食器。

 

「ちょっ!? 冗談じゃ! ないわよ!!」

 

弾丸の様に飛んで来る椅子を、鈴は軽業師の様な身の熟しで回避する。

 

「クウッ!!」

 

凶器となって襲い掛かって来るナイフやフォークを、ラウラはコンバットナイフで叩き落とす。

 

だが、3人は気づかなかった………

 

宙に舞っている品々が、自分達を1箇所に集め始めている事に………

 

「「「!?」」」

 

やがて飛んで来る物をかわしている内に、1箇所に集められた3人は、背中をブツけ合ってしまう。

 

その瞬間!!

 

ボロボロのテーブルクロスが、3人に覆い被さって来た!!

 

「!? キャアアッ!?」

 

「何よ、コレ!?」

 

「グウッ!?」

 

急に視界を塞がれ、混乱しながらもテーブルクロスを外そうとするセシリア達だったが、次の瞬間!!

 

その姿が、パッと消えてしまった!!

 

暴れていたテーブルクロスが床に落ちて広がる………

 

「ヒヒヒヒヒヒヒッ………」

 

誰も居なくなった船室に、不気味な笑いが木霊するのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

神谷&シャルチームは………

 

「ううう………」

 

ビクビクとした様子で、シャルは神谷の腕にしがみ付いている。

 

「オイ、シャル。歩き難いぞ」

 

「だ、だってえ~~」

 

神谷がそう言うが、シャルは心細そうな声を発して、神谷の腕から離れようとしない。

 

「ぼ、僕、こういうの苦手で………」

 

「何言ってんだよ。もう何度も獣人野郎を相手に戦ってるじゃねえか」

 

「ああいうのとは、怖さのベクトルが違うんだよ~」

 

と、シャルがそう言った瞬間………

 

バキッ!と言う音が響き渡った!!

 

「!? キャアッ!?」

 

シャルは可愛らしい悲鳴を挙げて、更に神谷へ抱き付く。

 

「何だ? 何か居るのか?」

 

一方神谷は、その音がした方向へズンズンと歩いて行く。

 

「ちょっ! 神谷! 確かめに行くの!? 本当に幽霊だったら如何するの?」

 

「そうだな………動物園にでも売り飛ばすか!」

 

ニヤリと笑いながら、神谷はそう言い放つ。

 

『恐いもの知らず』とは、この男の為に有る様な言葉だ。

 

「ちょっ! 神谷~!………!? うわっ!?」

 

すると、神谷の腕に抱き付いたままだったシャルが、突然転ぶ。

 

「!? オイ、大丈夫か? 何で転んだんだ?」

 

「アイタタタタ………な、何かが足を摑んで………」

 

と、シャルが転んだまま自分の足を見遣ると………

 

床から飛び出した骨の腕が………

 

シャルの足を摑んでいた。

 

「えっ?」

 

そうシャルが声を挙げた瞬間………

 

「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

地の底から聞こえてきそうな怨念の声と共に、ボロボロの服を纏った骸骨が飛び出して来た!!

 

「!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

悲鳴を挙げるシャルに、骸骨は奇声と共に襲い掛かる。

 

と、その途端!!

 

「オラアッ!!」

 

「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

骸骨は神谷のハイキックを受けて、バラバラになった!!

 

「えええっ!?」

 

あまりの光景に、シャルは思わず驚きで目が点になる。

 

と、バラバラになった骸骨の頭が、2人の傍に落ちて来たかと思うと、そのまま顎をカタカタと鳴らし始めた。

 

「ひいっ!?」

 

「な~にがカタカタだ、コラ」

 

その骸骨の頭を、神谷は鷲摑みにして持ち上げる。

 

「オイ、お宝は何処にあんだ?」

 

神谷の問いに、骸骨は顎をカタカタと鳴らす。

 

しかし、それは相手を恐怖させる動きでは無く、自分が恐怖している為に出ている動きだった。

 

「チッ! 喋れねえのかよ………ったく」

 

そう言うと神谷は、その頭を無造作に放る。

 

骸骨の頭はそのまま通路の端に転がった。

 

「………神谷って、本当に怖い物知らずだね」

 

「あったりめえよ」

 

呆れながらそう言って来るシャルを、立たせてやる神谷。

 

そのまま2人は、通路を進んで行く。

 

そして、1つのドアの前に行き着く。

 

「此処は………船長室みたいだね」

 

「船長室か………お宝の匂いがプンプンするぜ」

 

神谷は何の躊躇いも無く、船長室の扉を開け放つ。

 

「あ、待って!」

 

シャルも慌ててその後に続く。

 

船長室内も、他の場所と同様にボロボロであり、カビの臭いが漂っていた。

 

「うう、カビ臭い………」

 

「何処だ? お宝は?」

 

カビ臭さに怯むシャルとは対照的に、神谷は船長室内を家探しし始める。

 

すると………

 

「立ち去れ~」

 

何処からとも無く、そう言う声が響いて来た………

 

「!? ひゃああっ!?」

 

「あん?」

 

シャルと神谷がその声が聞こえた方向を向くと、そこには………

 

「立ち去れ~此処から立ち去れ~」

 

額縁に入れられて、壁に掛けられていた絵が、口を動かしながらそう呟いていた。

 

「え、絵が喋ってる!?」

 

「立ち去れ~此処から立ち去れ~」

 

シャルが震えると、額縁の絵は畳み掛ける様にそう言って来る。

 

「オイ、お宝は何処だ?」

 

と、神谷がその絵に向かってそう問い質す。

 

「立ち去れ~此処から立ち去れ~」

 

「だから、お宝は………」

 

「立ち去れ~此処から立ち去れ~」

 

「………アチャアーッ!!」

 

と神谷は、いきなりその額縁の絵に向かって、パンチを繰り出した!!

 

額縁の絵はブチ抜かれ、物理的に沈黙する。

 

「ちょっ!? 何やってるの、神谷!?」

 

「だってよ~、コイツが人を無視して喋るからよぉ」

 

またも驚くシャルに、神谷は相変わらずシレッとそう言い放つ。

 

と、神谷が手を引くと、額縁の絵が外れる。

 

その後ろに隠し棚が有り、宝箱が鎮座していた。

 

「おおっ!? コイツは!?」

 

「ホントに有ったの!? お宝!?」

 

驚くシャルを他所に、神谷は嬉々として宝箱を棚の中から取り出す。

 

「へへへ、何が入ってるのかな~」

 

そして、そのまま宝箱を開けようとした瞬間………

 

「アニキーーーーーーーッ!!」

 

一夏の声が響き渡って来た。

 

「!? 一夏!?」

 

「甲板の方から聞こえたよ!」

 

「チッ! 何かあったのか!?」

 

神谷は宝箱を開けるのを中断すると、それを手に持ってシャルと共に甲板目指して駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幽霊船・甲板………

 

「一夏ーっ! 何処だあーっ!!」

 

甲板に出るや否や、そう叫ぶ神谷。

 

「!? 神谷! あそこ!!」

 

するとシャルが、頭上のメインマストを指差す。

 

「!?」

 

神谷が見上げると、そこには………

 

ロープで縛られ、メインマストから吊り下げられている一夏達の姿が在った!

 

「アニキーッ!!」

 

「神谷!!」

 

「シャルロットさ~ん!!」

 

「早く助けなさ~い!!」

 

「クッ! 不覚を取った………」

 

吊り下げられている一夏達が、そう声を挙げる。

 

「皆!」

 

「待ってろ! 今助けてやるぞ!!」

 

と、神谷がそう言った瞬間………

 

「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

床板をブチ抜いて、またも動く骸骨が出現した!!

 

「うわぁっ!? また出た!!」

 

「!!」

 

と、神谷がその飛び出した骸骨の両肩を摑む!!

 

「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

そしてそのまま、飛び出して来た穴へと押し戻す………

 

「って! 帰るかぁ! アホンダラァッ!!」

 

と、その次の瞬間!

 

骸骨は、そう怒りの声を挙げて飛び出す。

 

「何だよ、ノリ悪いなぁ………」

 

ウンザリしている様な表情で、そう言う神谷。

 

「うぬうっ!!」

 

「舐めやがってぇっ!!」

 

「幽霊舐めるなよ、コラァッ!!」

 

「ウラアアッ!!」

 

「ホワチャーッ!!」

 

するとその途端!

 

怒りの声と共に、無数の骸骨達が甲板の床を勢い良くブチ破って次々に登場した。

 

「………こんなに生き生きしてるの? 幽霊って?」

 

そんな活きの良い幽霊を見て、何だか怖がっているのが馬鹿らしくなり、シャルは呆れながらそう呟いた。

 

「大人しくその宝を置いて行け~~っ!!」

 

「然も無いと呪い殺してやるぞぉ~~~~っ!!」

 

生き生きながらも不気味な様子を醸し出し、骸骨達はそう訴え掛ける。

 

「へっ!冗談じゃねえ! この神谷様が、一度手にしたモンをそう易々と手放せるかよ!?」

 

神谷は、宝箱を片手で掲げる様に持ってそう言い放つ。

 

「小癪なぁ! 掛かれぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

甲板に現れた骸骨達が、一斉に神谷とシャルに向かって行く。

 

「うわぁっ!?」

 

「シャル! コレ持って伏せてろ!!」

 

と、シャルが驚いていた瞬間、神谷が宝箱を渡して来た。

 

「神谷!?」

 

シャルが宝箱を受け取りながら神谷を見遣ると、その瞬間神谷はグレンラガンの姿となった。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そして気合を入れて螺旋力を高めたかと思うと、フルドリライズ状態となる。

 

「!!」

 

それを見た瞬間、シャルは宝箱を抱えて床に伏せる。

 

「グレン! ハリケエエエエエェェェェェェーーーーーーーンッ!!」

 

神谷の叫びと共に、グレンラガンは全身のドリルを高速回転させて、アッパーカットを繰り出す様なポーズを取った。

 

「「「「「「「「「「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

途端に、凄まじい突風が甲板一体に吹き荒れ、骸骨達はバラバラになって吹き飛んだ!!

 

しかし………

 

「ちょっ!? マストが!?」

 

「倒れる!?」

 

やり過ぎたのか、メインマストが根元から折れ、倒れそうになる。

 

「!? やっべ!?」

 

グレンラガンは慌てて先回りし、倒れそうになっている方向から支える。

 

「うおっ!? お、重い!!」

 

しかし、かなりの大きさを誇るメインマストだけに、グレンラガンは支えるだけで精一杯となる。

 

「オノレエエエエエェェェェェェーーーーーーーッ! 現代っ子めええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

と、その瞬間!!

 

微妙に間違った怒り方をしながら、バラバラになった骸骨達が1つに纏まり、巨大な骸骨となった。

 

「うええっ!? ちょっ! タンマ!!」

 

メインマストを支えていて動けないグレンラガンはそう言うが、骸骨がそれに応じる筈も無く、容赦無く襲い掛かって来る。

 

「おわあっ!?」

 

グレンラガン大ピンチ!!

 

と、その瞬間!!

 

「このぉっ!!」

 

何時の間にかISを展開したシャルが、骸骨に向かって両手からガルムを発砲した!!

 

「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

巨大骸骨の頭蓋骨が消し飛ぶ!

 

「おおっ! ナイスだ! シャル!!」

 

「き、効いた………幽霊にも攻撃って効くんだ………」

 

歓声を挙げるグレンラガンに対し、攻撃が効いた事に驚いているシャル。

 

「よし、今の内に一夏達を………」

 

「その必要は無いわ」

 

と、一夏達の救出に向かおうとしたところ、ISを展開した鈴達が降りて来る。

 

「!? お前等!」

 

「幽霊だと思って、正直ビビっちゃったけど………」

 

「攻撃が効くのなら、別に怖がる事はありませんわ」

 

「全くだ………」

 

鈴、セシリア、ラウラがそう言って、頭の無い巨大骸骨に、龍砲、スターライトmk-Ⅲ、大型レールカノンを向ける。

 

「!?」

 

「私達はIS専用機持ちだ」

 

「運が悪かったね………幽霊さん!」

 

巨大骸骨が驚いている様な様子を見せると、箒が雨月・空裂、一夏が雪片弐型と雪羅を構える。

 

「「「「「成仏しろ〈しなさい〉!!」」」」」

 

全員がそう言ったかと思うと、一斉攻撃が骸骨目掛けて叩き込まれた!!

 

「アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!? これだから最近の若い奴はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

またも微妙に間違った断末魔を挙げて、巨大骸骨は粉々に吹き飛んだ!!

 

しかし、勢い余ったのか幽霊船まで吹き飛び始める!!

 

「! やっばっ! やり過ぎた!?」

 

「逃げるぞ!!」

 

「「「「!?」」」」」

 

一夏がそう言うと、神谷がそう叫び、一同は慌てて幽霊船から離れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園が面している海の波止場………

 

一夏達が波止場に着陸すると、幽霊船は真っ二つに折れ、そのまま沈没して行った………

 

「幽霊船が沈む………」

 

(可哀そうに………アニキの前に現れなきゃ、こんな事にはならなかったのに………)

 

箒がそれを見ながらそう呟き、一夏が内心で幽霊船の幽霊達に同情する。

 

「へっへっへっ! いよいよお宝が拝めるぜ!」

 

しかし、船を沈める事になった大元の原因である神谷は、沈む幽霊船に全く興味を示さず、宝箱の開封に掛かっていた。

 

そして、遂に宝箱が開け放たれる。

 

「よっしゃあ!!」

 

嬉々として蓋を開ける神谷だったが………

 

宝箱の中に入っていたのは、黒い小さな粒ばかりだった。

 

「な、何だこりゃあ!?」

 

その黒い粒の正体が分からず、神谷は困惑する。

 

「(ペロッ)………コレは胡椒だ」

 

と、その黒い粒を指に付けて、少し舐めてみたラウラがそう言う。

 

「胡椒~っ!?」

 

「そうか………昔は胡椒が金と同じ価値が有る時代が有ったから………」

 

「何だよ! 骨の折り損のくたびれ儲けかよ!!」

 

神谷はそう言って、波止場に寝転んだ。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

すると、そんな神谷を一夏達が驚いた表情で見据えている。

 

「? んだよ?」

 

「アニキが難しい言葉を使ってる………」

 

「明日は嵐か?」

 

首を傾げた神谷に、一夏と箒のそう言うヒソヒソ声が聞こえて来る。

 

「ズコッ!? テメェー等はなあ!!」

 

ズッコけながら、神谷は大声を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

IS学園を騒がせた幽霊船騒動は………

 

何ともお粗末な結果を残して終息したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

夏休み編、最後という事で、夏らしく肝試し的な話をお送りする………
………筈だったのですが、いつの間にか神谷無双になってしまいました(笑)

さて、次回から2学期編。
あの生徒会長が登場します。
次回のエピソードから、オリジナル要素が強くなります。
その辺を予めご了承ください。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第25話『人間と言ったら人間だ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第25話『人間と言ったら人間だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

「カナダ戦線に居た部隊より連絡が入りました。カナダの全ての軍事力を無力化したと」

 

「韓国のISコアも全て回収しました。間も無くコチラに送られてきます」

 

「…………」

 

チミルフとシトマンドラが、螺旋王にそう報告するが、当の螺旋王は興味無さ気に頬杖を突いている。

 

それもその筈………

 

世界征服を志す彼にとって、制圧が上手く行くのは当然の事であり、揺るぎ無い事実だからだ。

 

しかし………

 

そんな事実を悉く覆している者達が居る………

 

「螺旋王様。先日東京に送った部隊ですが………自衛隊にある程度損害を与えましたが、グレン団によって壊滅させられました」

 

アディーネが恐る恐ると言った様子でそう報告する。

 

そう………神谷達が率いるグレン団だ。

 

「…………」

 

しかし、ロージェノムはやはり興味無さ気にしている。

 

「やはりグレン団の連中は厄介だわい………奴等のお蔭で、日本制圧の作戦だけが遅々として進まん………」

 

グアームが苦々しげにそう呟く。

 

「オノレェ………忌々しいグレン団め………」

 

「奴等も最近力を付けて来ている………」

 

「例の織斑 一夏ってISを使える男に関しては、愛機を第二形態移行(セカンドシフト)させたそうじゃないかい………益々手が付けられないよ」

 

チミルフ、シトマンドラ、アディーネが愚痴る様にそう呟く。

 

「どれ………ココは1つ、搦め手で言ってみるかのぅ」

 

すると、グアームが咥えていたキセルを吹かしながら、そう言った。

 

「!? グアーム! 何か策があるのか?」

 

「フフフ………正面から攻めて無理ならば内側から攻める………所謂、獅子身中の虫と言うヤツよ」

 

チミフルが問うと、グアームが不敵に笑いながらそう呟く。

 

「!? 成程………IS学園にスパイを送り込むのかい」

 

「その通り。内側から撹乱すれば、どんな連中も脆いものよ………」

 

「しかし、一体誰を送り込む積りだ?」

 

アディーネが策を察し、シトマンドラがそう疑問を呈する。

 

「フッフッフッ………そう言った任務に打って付けな奴がおる部隊が有るじゃろうが」

 

「! 成程………遊撃部隊のアイツか」

 

「確かに………アイツなら上手く人間共の中に溶け込む事が出来るかもしれないね」

 

「それに失敗したところで、屑を処分出来てコチラに損害は無しというワケだ」

 

非情な笑みを浮かべて、四天王はそう言い合う。

 

「螺旋王様、作戦の許可を貰ってもよろしいですかな?」

 

「………好きにしろ」

 

グアームの問いに、ロージェノムは素っ気なくそう言い放つ。

 

「では、早速取り掛かるとするかのう………」

 

それを聞いたグアームは、再びキセルを吹かして、作戦の準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長かったIS学園の夏休みも終わり………

 

2学期が開始された。

 

ロージェノム軍の世界征服は相変わらず続いているが、今日も今日とてIS学園は平常運転である。

 

 

 

 

 

IS学園・1年1組の教室………

 

「皆さん。今日から2学期が始まります。何時までも夏休み気分で居ては駄目です。気持ちを切り替えて、2学期も真面目に学問に、運動に取り組みましょう」

 

「「「「「「「「「「ハ~イ!!」」」」」」」」」」

 

教壇に立つ真耶の言葉に、生徒達は行儀良く返事を返す。

 

「ZZZZZZZzzzzzzzz~~~~~~~~~」

 

だがそんな中………

 

1人だけ2学期開始初日から爆睡している者が居る。

 

そう、他でもない神谷だ。

 

「あ、あの、神谷くん? 起きて下さ~い。今日から2学期ですよ~」

 

「ZZZZZZZzzzzzzzz~~~~~~~~~」

 

真耶の呼び掛けに、神谷はイビキを返す。

 

「ううう………」

 

真耶は涙目になる。

 

(新学期早々飛ばしてるな~、アニキ)

 

そんな神谷の姿を、一夏が尊敬の眼差しで見ている。

 

「「「「…………」」」」

 

箒、セシリア、シャル、ラウラが呆れた視線を送っているが………

 

「気、気を取り直しまして………実は皆さんに嬉しいお知らせが有ります」

 

と、真耶は諦めたか開き直ったかの様に、教壇に戻ってそう話し始める。

 

嬉しいお知らせと言う話に、生徒達はざわめきたつ。

 

「実は何と! 2学期から新しいお友達が増えます!!」

 

「新しいお友達?」

 

「って事は………」

 

「また転校生?」

 

真耶の言葉に、生徒達の間でそんな言葉が飛び交う。

 

「あ? 転校生だと?」

 

すると、寝ていた神谷が目を覚ました。

 

如何やら、面白そうな匂いを嗅ぎ付けた様だ。

 

「それでは、入って来て下さい」

 

「ハ~~イッ!!」

 

真耶がそう言うと、教室の前側の扉が勢い良く開き………

 

IS学園の制服に身を包み、褐色の肌をした、茶髪で帽子を被り、首に猫の首輪の様な鈴が付いたチョーカーを巻いた少女がスキップ気味に入って来た。

 

「スペインから来ました、『ティトリー・キャッツ』で~す! 皆! ギガンチョよろしく~!!」

 

その少女………『ティトリー・キャッツ』が、元気良く挨拶をする。

 

「スペインの人なんだ………」

 

「陽気そうな人だね」

 

「何で室内で帽子被ってるんだろ?」

 

ティトリーの姿を見た生徒達は、小声でそう話し合う。

 

「元気が良いのが転校してきたな。まるで鈴みたいだよな、アニキ」

 

一夏も、ティトリーのテンションを見て、神谷にそう言う。

 

「…………」

 

しかし神谷は、何やらジッとティトリーを見据えている。

 

「? アニキ?」

 

その様子に首を傾げた一夏が、言葉を続けようとしたところ………

 

「ね、ね、ね! 君が織斑 一夏くん?」

 

教壇の横に居た筈のティトリーが、何時の間にか一夏の前まで来て、そう話し掛けて来た。

 

「うわっ!? あ、ああ、そうだけど………」

 

驚きながらも、一夏はティトリーにそう返す。

 

「うわ~っ! 世界で初めてISを動かした男の子! よろしく! 仲良くしてね!!」

 

笑顔でそう言うティトリー。

 

「あ、ああ、よろしく………!?」

 

と、そんなティトリーに挨拶を返した瞬間!!

 

一夏は、箒、セシリア、ラウラからの殺気を感じた。

 

更に、2組の方でも鈴が何かの予感を感じ取っていたらしい。

 

(!? ア、アイツ等、何で殺気立ってるんだ!?)

 

その殺気に縮こまりながらも、一夏は何故殺気を出されているのかが皆目見当が付かない。

 

「…………」

 

「あ! コッチは噂のグレンラガンの装着者! 泣く子も黙るグレン団の鬼リーダー! 天上 神谷だね!! ギガンチョよろしくね!!」

 

「ああ………」

 

と、神谷の姿を見ると、ティトリーはそちらにも元気良く挨拶をするが、神谷は珍しく、簡単に返事を返す。

 

(? アニキ?)

 

その神谷の様子を、一夏が疑問に思っていると………

 

「静かにしろ! 授業を始めるぞ!! 2学期はもう始まっているんだ! いつまでも夏休み気分でだらけている奴は容赦しないからその積りで居ろ!!」

 

怒声に近い声と共に、千冬が教室に姿を見せた。

 

途端に生徒達は静まり返り、ティトリーも慌てて自分の席へ向かう。

 

こうして、1人の転校生と共に、IS学園1年1組の2学期は始まったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は流れ、昼時………

 

神谷と一夏は、何時ものメンバーにティトリーを加えて、食堂で昼食を取っていた。

 

「お魚! お魚!」

 

幸せそうな様子で、ティトリーは焼き魚定食を頬張っている。

 

「魚、好きなのか?」

 

そんなティトリーの様を見た一夏が、そう尋ねる。

 

「うん! ギガンチョ大好き!!」

 

ティトリーは無邪気な笑顔を浮かべてそう答える。

 

「それにしても凄いね~」

 

「? 何がだ?」

 

「だって、此処に集まってるのって、皆専用機持ちなんだよね?」

 

一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラを見回しながら、ティトリーはそう言う。

 

「ああ、そう言えばそうだな………」

 

「良いよね~、専用機~。アタシも欲しいな~」

 

ニコニコ笑いながらそう言うティトリー。

 

(………アレが白式かぁ)

 

その視線が、一夏の右腕に装着されている白式に注がれている事に、一夏達は気づいていない。

 

「「「「…………」」」」

 

そんな中、ご機嫌そうなティトリーとは対照的に、箒、セシリア、鈴、ラウラは不機嫌そうな表情を浮かべている。

 

何故なら、ティトリーがちゃっかりと、一夏の左隣を確保して座って居るからだ。

 

因みに、右隣は神谷が座って居る。

 

(うっ!? さっきから箒達の視線がキツい………俺、何かしたかな?)

 

そして一夏は、相変わらずその視線の意味が理解出来て居ない。

 

「…………」

 

一方、何時もなら騒がしい神谷は、如何いうワケか今日は随分と大人しく、まるでティトリーを観察する様に見ている。

 

「? 神谷? 如何したの? さっきからずっとティトリーの事を見てるみたいだけど?」

 

「ん? いや………何でもねえよ」

 

シャルにその事を指摘されると、神谷は珍しく誤魔化す様な返事を返す。

 

「…………(そんなにティトリーの事が気になるの?)」

 

そんな神谷の様を見て、シャルの中に嫉妬の気持ちが生まれ、不機嫌そうな顔になる。

 

「ところでさあ、ティトリー。ずっと気になってたんだけど………如何して帽子を被ったままなんだ?」

 

とそこで一夏は、彼女を見た時から感じていた疑問について本人に問い質した。

 

「え? えっと、それは………」

 

するとティトリーは言葉に詰まる。

 

「? 如何したんだ?」

 

「え~と………ア、アタシもう行くね!!」

 

と、一夏が更にそう問い質すと、ティトリーは慌てて席を立ち、食器を返却すると逃げる様に食堂から去って行った。

 

「あ、ティトリー?」

 

「? 何よ、アイツ?」

 

「あからさまに怪しいですわ………」

 

「挙動不審だったな………」

 

一夏、鈴、セシリア、箒がそう声を挙げる。

 

「うむ………如何にも奴からキナ臭い感じがするな」

 

更にラウラは、軍人として磨かれた危機意識が、彼女に対し何かしらかの警鐘を鳴らしていると訴える。

 

「…………」

 

そんな中、神谷は只黙って立ち去ったティトリーの先を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

職員室にて………

 

「本当ですか? 織斑先生?」

 

「まだ物証や確証は無いが………生徒会長が疑っているそうだ」

 

真耶と千冬が、ある書類を見ながら、何やら話し合っている。

 

その間には、不穏な空気が漂っている。

 

「あの『更識家』が動いているんだ………全くのシロと言う事は考え難い」

 

「でも、書類に不審な点はありませんし、何よりスペイン政府も確かだって証言しているんですよ」

 

「だが、何か引っ掛かる点が有る事も確かだ………兎に角、この件は『更識家』に任せよう。我々は生徒達に悟られない様にしなければ………さあ、午後の実習授業に行くぞ」

 

「あ、ハイ」

 

そう言い合うと、2人は見ていた書類を机の上に放り、午後の授業の準備へと向かう。

 

その書類は………

 

ティトリーの個人情報が書かれた書類だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

ティトリーは………

 

「ハア………ハア………危なかったぁ」

 

食堂から逃げる様に飛びだしたティトリーは、校舎の外端に居た。

 

「バレてないよね………もしコレ以上失敗したら………アタシ………本当に処分されちゃうよ………」

 

そう呟くティトリーは、それまでの陽気で元気そうな様子がウソの様に、暗い表情を浮かべている。

 

「っと、イケナイ! 午後の授業は実習だった! 早く行かないと………」

 

「その前に、私とお話しない?」

 

「!?」

 

突然後ろから声を掛けられて、ティトリーは驚きながら振り返る。

 

「フフフ………」

 

そこには、扇子を口元に当てて不敵に微笑む、IS学園の制服を身に纏い、2年生用のリボンを巻いた1人の美少女の姿が在った。

 

「だ、誰!?」

 

「このIS学園で最強のIS乗り………かな?」

 

不敵な笑みを浮かべたまま、少女はティトリーにそう言う。

 

「さ、最強のIS乗り?」

 

「上手く化けたね………書類の偽造やスペイン政府のデータバンクを改変してまで………でも、『更識』の目は誤魔化せないよ」

 

「な、何の事? 全然分からないんだけど………」

 

「アラ? 惚けるの? じゃあ、言い逃れ出来ない様にしてあげる」

 

と、少女がそう言った瞬間!

 

その手に持っていた扇子が、ティトリー目掛けて投げ付けられた!!

 

「!? ニャアアッ!?」

 

回転しながら迫って来た扇子を見て、ティトリーは猫の様な悲鳴を挙げると、腰砕けになる。

 

その瞬間!!

 

少女が投げた扇子が、ティトリーの帽子を弾き飛ばした。

 

「ああっ!?」

 

慌てるティトリー。

 

帽子が弾かれて、露出した頭部からは………

 

猫の耳がピョッコリと生えていた。

 

更に、手が猫の肉球の様な手に変わり、スカートの裾からも猫の尻尾が飛び出している。

 

「やっぱり………獣人だったのね」

 

「ニャアッ!?」

 

ティトリーは慌てて、両手で頭の上の押さえ付ける様にして隠す。

 

「もう遅いわよ………何が目的でこの学園に潜入してきたのかは知らないけど………運が悪かったわね………この学園には暗部に対する暗部………『更識』が居るのよ」

 

と、少女がそう言った瞬間!

 

その姿が光に包まれ、ISを纏った姿となった!!

 

そのISは、アーマーの面積が全体的に狭くて小さいが、それをカバーするかの様に、透明の液状のフィールドが形成されており、宛ら水のドレスを纏っている様である。

 

中でも目を引くのは、左右に一対の状態で浮いている、結晶状のパーツ………アクア・クリスタルであり、そこから水のヴェールが展開されており、まるでマントの様に少女を包んでいる。

 

そして、得物である巨大なランスにも、表面に螺旋状に水が流れて回転しており、まるで水のドリルの様だった。

 

「気の毒だけど………此処でお終いね」

 

少女はそう言って、ランスを構え、ティトリーに突きを繰り出す。

 

「!? ニャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

ティトリーは悲鳴を挙げて、目の前の現実から逃避する様に目を瞑る。

 

だが、次の瞬間!!

 

ガキィンッ!!という甲高い音が響き渡った!!

 

「!? なっ!?」

 

直後に、少女の驚きの声が挙がる。

 

「?!」

 

如何したのだと思ってティトリーが目を開けると、そこには………

 

「………テメェ………何してやがる」

 

何と!!

 

何の前触れも無く現れた神谷が、愛用の長刀で少女のISのランスを受け止めていた!!

 

「!? 神谷!?」

 

(な、何故神谷くんが此処に!? って言うか、ISの攻撃を生身で受け止めた!?)

 

ティトリーが驚きの声を挙げ、ISを装着している少女も、表には出していないが内心では驚愕している。

 

「!? ハワワワッ!?」

 

と、そこでティトリーが、獣人の姿のままなのに気づき、慌てて手と尻尾を隠し、帽子を拾って被り直す。

 

「か、神谷! 今のは、その………」

 

「何やってんだ、ティトリー! 早く授業に行け!」

 

「えっ!?」

 

てっきりバレたと思っていたティトリーは、神谷のその言葉で呆気を取られた様な表情となる。

 

「次はブラコンアネキの実習授業だぜ。遅れたら大目玉だぞ!」

 

そんなティトリーに向かって、神谷はニヤリと笑いながらそう言う。

 

「う、うん! 分かった!!」

 

ティトリーは戸惑ながらも、その場から駆け出した。

 

「! 待ちなさい!」

 

「待つのはお前だぜ、辻斬り女」

 

ISを装着した少女が、慌ててその後を追おうとしたが、神谷が立ちはだかる。

 

「!? 何故邪魔をするの!?」

 

「お前こそ何で邪魔すんだよ? アイツは真面目に授業に出ようとしてるだけだぜ? ま、俺は今日はサボる積りだから如何でも良いけどよ」

 

「あの子は獣人よ! 貴方も見たでしょ!!」

 

神谷に向かってそう言うISを装着した少女だったが………

 

「何言ってやがる………アイツは人間だぜ」

 

神谷は当然の様にそう言い返した。

 

「!? 君こそ何を言ってるの!? 見たでしょ!! あの子のあの姿を!!」

 

「うるせぇっ! 俺が人間と言ったら人間だ!!」

 

「貴方にとっても獣人は敵でしょう! それを如何して!?」

 

「………敵って何だよ?」

 

「えっ?」

 

急に声のトーンが変わった神谷に、ISを装着した少女は戸惑いを浮かべる。

 

「お前にとって敵ってのは何なんだ? アイツは獣人だからってだけで敵なのか?」

 

「それは………と、兎に角! そこを退きなさい! 退かないなら………」

 

と、ISを装着した少女がそう言ってランスを構え直すと………

 

「ヘッ! 最初っからそうしろよ………その方が分かり易いぜ! グレンラガン! スピンオンッ!!」

 

神谷は長刀を納刀し、コアドリルを掲げると、グレンラガンの姿となる!!

 

「クッ! この分からず屋!!」

 

「うるせぇっ!!」

 

2人はそう言い合うと、ランスとドリルに変えた右腕をぶつけ合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

IS学園・第2グラウンドでは………

 

「オイ、天上とキャッツは如何した?」

 

既に千冬の授業が始まっており、神谷とティトリーが姿を見せていない事に気づいた千冬が、一夏にそう問い質す。

 

「さ、さあ? 如何したんでしょう?」

 

一夏は戸惑いながらそう答える。

 

神谷は昼食の後に分かれたきりであり、その後如何しているかは彼の与り知るところではない。

 

(如何したんだろ、アニキ? 身体動かすのは嫌いじゃないから実習の授業をサボった事は無かったのに………)

 

肉体派の神谷が、実習の授業に出て来ない事に一夏も疑問を感じる。

 

「まあ、神谷は良いとしても………キャッツの奴め………転校早々私の授業をサボるとは………良い度胸だ」

 

神谷に関しては諦めているが、ティトリーまでもが居ない様子に、千冬は納得が行かない様な表情を見せる。

 

すると………

 

「すみませ~ん! 遅れました~!」

 

そう言いながら、ISスーツ姿だが相変わらず帽子を被ったままのティトリーが姿を現した。

 

「遅いぞ! 転校初日から遅刻とは良い度胸だな!!」

 

「ア、アハハ、ゴメンなさい! 勘弁して下さい!」

 

少し引き攣った笑みを浮かべながら、ティトリーはそう言う。

 

「………まあ良い。それより、ティトリー。神谷を見なかったか?」

 

とそこで千冬は、念の為にと神谷について尋ねる。

 

「えっ!? えっと………神谷なら………」

 

と、ティトリーが言葉に詰まっていると………

 

校舎の方向から爆発音が聞こえて来て、黒煙が上がった!!

 

「!?」

 

「な、何事ですか!?」

 

千冬が驚き、真耶が慌てる。

 

生徒達も動揺している。

 

「まさか!? またロージェノム軍が!?」

 

と、一夏がそう言った瞬間………

 

その立ち上る黒煙の中に、2つの光が煌めいた。

 

「!? アレは!?」

 

シャルがそう声を挙げた瞬間!!

 

「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

「うおわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

叫び声を響かせながら、その2つの光………

 

ISを装着した少女と、グレンラガンがブッ飛んで来て、グラウンドへと叩き付けられた!!

 

「!? グレンラガン!? 神谷!?」

 

「アニキ!?」

 

突然現れたグレンラガンの姿に、シャルと一夏が驚きを示す。

 

「!? アイツは!?」

 

一方千冬は、ISを装着している少女の方を見て驚きの声を挙げる。

 

「イツツツツツツ………やるじゃねえか!」

 

(クッ! この男………正直、只猪突猛進な奴かと思ってたけど………トンでもない奴ね)

 

何処か楽しげに言う神谷に対し、ISを装着している少女は内心焦っていた。

 

「このぉっ!!」

 

と、ISを装着している少女はランスを向けると、内蔵されていた4連装ガトリング・ガンをグレンラガン目掛けて発砲する。

 

「おおっ!!」

 

しかし、グレンラガンは大きく跳躍。

 

ガトリング・ガンの弾丸を躱す。

 

「!?」

 

「ニークラッシャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

そして、右足の膝からドリルを1本出現させたかと思うと、ISを装着している少女目掛けて、その右膝でニー・ドロップを繰り出して来た!!

 

「クウッ!!」

 

ISを装着している少女は、水のヴェールでそれを防ぐが、その際にヴェールに使っていた水がドリルによって撒き散らされる!!

 

「まだまだぁっ!!」

 

着地を決めると、更に追撃を浴びせようとするグレンラガン。

 

しかし………

 

「掛かったわね!!」

 

そう言って、ISを装着している少女が指を鳴らしたかと思うと………

 

グレンラガンの右足に掛かっていた水が爆発した!!

 

「!? おうわっ!?」

 

グレンラガンはバランスを崩して転倒する。

 

「!? 何だ今の!?」

 

「グレンラガンの足に掛かっていた水が爆発した!?」

 

「あの水………只の水ではないぞ」

 

それの光景を見ていた一夏、箒、ラウラがそう声を挙げる。

 

「この野郎!! 妙な真似を………うおっ!?」

 

立ち上がろうとしたグレンラガンが、再度バランスを崩して転倒する。

 

見れば、爆発した右足の装甲が完全吹き飛び、内部構造がショートして火花を散らしていた。

 

「それじゃあもう動けないでしょ………勝負ありよ」

 

「何が言ってやがる! たかが足1本くらい使えなくしたぐらいで! 勝った積りになるんじゃねえ!!」

 

神谷がそう叫び、グレンラガンはグレンブーメランを支えにしながら無理矢理立ち上がる。

 

「強がりは止めた方が良いよ。痩せ我慢は身体に毒よ」

 

勝利の余裕からか、ISを装着している少女は構えを解いてそう言う。

 

「へっ! 痩せ我慢が出来なくて、男が名乗れるかよぉ! うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

と、その瞬間!!

 

グレンラガンから目に見える程の螺旋力が溢れた!

 

その緑色の光が、損傷した右足を包み込んだかと思うと………

 

何と!!

 

あれ程の損傷が、まるで最初から無傷であった様に修復された!!

 

「!? 嘘っ!?」

 

「再生した!?」

 

「そんな!? ISにもある程度の自己修復機能はありますけど、あんな一瞬で損傷を再生させるなんて異常ですわ!!」

 

ISを装着している少女、一夏、セシリアが驚きを露にする。

 

「グレンファイヤアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

と、グレンラガンはそんな喧噪になぞ構わず、ISを装着している少女目掛けて、胸に再装着したグレンブーメランから熱線を放射する!!

 

「!? キャアアッ!?」

 

辛うじて、水のヴェールを使って防いだISを装着している少女だったが、グレンファイヤーの熱量の前に、その少女が纏っていたISの水が全て蒸発した!!

 

「!? そんな!? 『ミステリアス・レイディ』の『アクア・ナノマシン』を!?」

 

驚いたISを装着している少女が、思わずそう声を挙げる。

 

「貰ったぁ!!」

 

すると、グレンラガンは先程損傷した際に飛び散った装甲の破片を拾い上げると、ボディの顔の口に放り込む!!

 

ボディの顔の口が、装甲を噛み砕いたかと思うと、グレンラガンの右腕にガトリング砲の様に銃口が現れる。

 

「男のやせ我慢ショオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーット!!」

 

グレンラガンはそこから、ISを装着している少女目掛けて、装甲から変換した弾丸を連射する!!

 

「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

水のヴェールを無くした少女のISに、次々に着弾する弾丸。

 

少女の装着していたISは、一瞬でボロボロにされる。

 

「クッ! 私とした事が………油断したよ! 一先ず此処は………戦略的撤退!!」

 

しかし、撃破には至らなかった様で、ISを装着している少女は急上昇して離脱する。

 

「あっ! 待ちやがれ………!? うっ!?」

 

逃げた少女を追おうとしたグレンラガンだったが、途端に急激な疲労が襲い掛かり、そのまま膝を突いたかと思うと、神谷の姿に戻ってしまう。

 

「ハア………ハア………クソッ! 情けねえぞ、神谷………この程度で息切れとは………」

 

「! アニキ!!」

 

「神谷!!」

 

滝の様な汗を流している神谷に、一夏とシャルが近づく。

 

「お、織斑先生! 如何して更識さんと神谷くんが!?」

 

「分からん………私の方が教えて欲しいぐらいだ」

 

困惑しながらそう尋ねる真耶に、千冬は頭痛を感じる頭を押さえながらそう返した。

 

(アイツめ………毎度毎度トラブルばかり起こしおって………しかし今回ばかりは相手が悪いぞ………如何する積りだ? 神谷)

 

一夏とシャルに助け起こされている神谷の姿を見ながら、千冬は内心でそう思う。

 

「…………」

 

一方、困惑している生徒達の中で………

 

只1人、ティトリーだけが辛そうな表情を浮かべているのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園に転校して来たスペインのIS乗り、ティトリー・キャッツ。

 

しかし、彼女の正体は獣人のスパイだった。

 

だが………

 

そんな彼女を、更識なるIS乗りから守った神谷。

 

一体彼は何を考えているのか?

 

そして、更識なるIS乗りの正体は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

2学期編、スタートとなりましたが、早くも波乱の予感です。

今回登場してティトリーは、ニンテンドウーDSのグレンラガンのゲームに登場したキャラクターです。
グレン団にスパイとして潜り込んでくるのですが、そんな彼女に何かを感じたカミナが獣人と知りながら迎え入れるというストーリーが展開されます。
この作品でも、それをリスペクトする事になると思います。

そして遂に登場した生徒会長。
しかし、この作品では彼女も神谷に振り回される事になるかと。
次回の本格的接触をお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第26話『勝手に決めんじゃねえっ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第26話『勝手に決めんじゃねえっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神谷と謎のISを装着した少女との戦いから数日が経った………

 

一夏達はあのISを装着した少女は誰かと神谷に問い質したが………

 

当の神谷も、正体を知らないので分からないとしか答えようがなかった。

 

千冬や真耶が何か知っている様子だったが、機密事項だと言い、答えてはくれない。

 

様々な謎を残したまま、一夏達はSHRと1時間目を使っての全校集会の場に居る。

 

今月中頃に行われる学園祭について、生徒会長から話があるらしい。

 

「ふわああああぁぁぁぁぁ~~~~~………ったく、メンドクセェーなぁ、オイ」

 

生徒達が生徒会長が現れるまでの間に喧しく話し合っている中で、こういった事が苦手な神谷は、気怠そうに欠伸をする。

 

「まあまあ、アニキ。仮にも生徒会長の話なんだから、聞いておいた方が良いよ」

 

一夏が神谷を宥める様にそう言う。

 

「それでは、生徒会長から説明をさせていただきます」

 

と、生徒会の一員らしき生徒がそう言うと、檀上に1人の生徒が上がる。

 

その途端に、生徒達は今までの喧しさがウソの様に静まり返る。

 

「!? あっ!?」

 

「アイツは!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「ニャアッ!?」

 

その生徒会長の姿を見た一夏、神谷、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、そしてティトリーが驚きを露にする。

 

何故なら、その生徒会長こそが………

 

数日前に神谷と激戦を繰り広げた、ISを装着した少女その人であったからだ。

 

「やあ。皆お早う」

 

そんな神谷達の驚きなど露知らず、生徒会長は生徒達に向かってそう挨拶をする。

 

「生徒会長………あの人が?」

 

一夏がそう呟きながら、生徒会長の姿を見遣る。

 

「ふふっ」

 

「!?」

 

と、目が合ったと思った瞬間に微笑まれ、一夏は動揺する。

 

「…………!?」

 

「…………」

 

しかし、その傍に居た神谷の姿を見た瞬間には、口元を開いた扇子で隠し、敵愾心の籠った目で見据えた。

 

「ヘッ」

 

だが、そんな敵愾心が宿った視線を受けた神谷は、怯むどころか笑い飛ばす。

 

「!!………さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね」

 

それを見た生徒会長は一瞬苦々しげな表情を浮かべたが、すぐに気持ちを切り替え、生徒達への話を始める。

 

「私の名前は『更識 楯無』。君たち生徒の長よ。以後、よろしく」

 

生徒達全員に向かって、生徒会長………『更識 楯無』は、微笑みを浮かべてそう挨拶をする。

 

その様を見た生徒達の多数から、熱っぽい溜息が漏れる。

 

「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容と言うのは………」

 

と、楯無がそう言葉を続けたかと思うと、空間投影ディスプレイが展開した。

 

「名付けて、『各部対抗織斑 一夏争奪戦』!」

 

楯無がそう言った瞬間、展開したディスプレイに、デカデカと一夏の姿が映し出される。

 

「え?………えええええっ!?」

 

一夏が驚きで大声を挙げる。

 

当たり前だ………

 

この企画、一夏絡みのクセに当の本人には一切知らされていないのだ。

 

だが、そんな一夏の叫びは、生徒達全員の叫び声で掻き消されてしまう。

 

「静かに。学園祭では毎年各部活動ごとに催し物を出し、それに対して投票を行って、上位組には部費に特別助成金が出る仕組みでした」

 

騒ぎ出した生徒達を鎮めると、楯無は更にそう説明を続ける。

 

「しかし、今回はそれではつまらないと思い………織斑 一夏を1位の部活に強制入部させましょう!」

 

そう言って、楯無は一夏を閉じた扇子で差した。

 

「うおおおおおおおおおっ!」

 

「素晴らしい! 素晴らしわ会長!!」

 

「こうなったらやってやる………やぁぁぁってやるわ!」

 

「今日からすぐに準備を始めるわよ! 秋季大会? ほっとけ、そんなん!!」

 

その言葉で、生徒達のテンションは最高潮に達する。

 

「ちょっと!? 俺の意思は!?」

 

一夏がそう叫ぶが、その叫びは喧騒に掻き消される………

 

しかし!!

 

「勝手に決めんじゃねえっ!!」

 

そんな生徒達のけたたましい喧騒も吹き飛ばす程の大声が響き渡った!!

 

あまりの声量に、校舎の窓ガラスが次々に割れ、近くに居た生徒達が木の葉の様に宙に舞う!!

 

「ぐああっ!?」

 

「こ、鼓膜が………」

 

「あ、あの………馬鹿………」

 

神谷の凄まじい大声を真面に聞いてしまった箒、セシリア、鈴がダメージを受けている様子を見せる。

 

「か、神谷………」

 

「何と言う声量だ………」

 

「にゃ~、耳がキンキンする~」

 

辛うじて耳を押さえたものの、少々のダメージを受けたシャルとラウラ、ティトリーがそう呟く。

 

「………天上 神谷」

 

と、生徒会のメンバーが吹き飛ばされている中で、唯一平然としていた楯無は、神谷の姿を見て、今度はハッキリと苦々しい表情を浮かべる。

 

「…………」

 

すると、神谷がザッと前に出て行く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

行く手に居た生徒達がスーッと道を譲る。

 

その光景はモーゼの十戒の様だった。

 

「…………」

 

更に、楯無も檀上から飛び降りると、神谷を待ち構えるかの様な態勢を取る。

 

「「…………」」

 

やがて2人は、目と鼻の先と言う程の距離までに近づく。

 

「「…………」」

 

既に激しいメンチの斬り合いが始まっている。

 

「おう!」

 

「!」

 

「おうおうおう!」

 

「貴方………」

 

ドンドン険悪な雰囲気になって行く2人。

 

生徒達も教師陣もただ困惑するばかりだ。

 

「あわわわわわわ………」

 

「全く、アイツは………アイタタタタタ………」

 

完全に狼狽えている真耶と、その隣で胃痛がする胃を押さえている千冬。

 

「………勝手に決めるな、って如何いう事かな?」

 

「一夏はもうグレン団のメンバーだ。それを俺に何の断りも無しに強制入部させるたぁ、気に入らねえな」

 

「織斑くんが部活に入っていない事で各部から生徒会には苦情が来てるの………コレは公平に決めさせる為の平等な提案よ」

 

「何が平等な提案だ。部活なんざやりてぇ奴がやりゃ良いんだ! 人に言われて無理矢理やるもんじゃねえだろ!!」

 

遂に楯無と神谷は舌戦を始める。

 

いや………最早啖呵の斬り合いと言ってもいいだろう。

 

「これは生徒会として決定よ!! つまり生徒会長権限なの!!」

 

「何が生徒会長権限だ! テメェがそんなに偉いのかよ!!」

 

「当たり前よ! 私を誰だと思ってるの!?」

 

「テメェこそ俺を誰だと思ってやがる! IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

「私はIS学園生徒会長! 更識 楯無なのよ! 分かってるの!!」

 

「………子供の喧嘩ね」

 

と、その様子を見ていた鈴がそう呟く。

 

箒やシャル達も、呆れた視線を、神谷と楯無に送っている。

 

結局その後………

 

お互いに1歩も引かずに主張をぶつけ合い、そのまま時間切れで全校集会が終わったのだった………

 

ところで………

 

この騒動の中心に居る筈の一夏は………

 

「きゅう~~~」

 

神谷が挙げた大声を至近距離で聞いてしまった為、目を回して気絶してたのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日の放課後………

 

1年1組の教室にて………

 

特別HRを開いて、クラス毎の出し物を決めに掛かっていた。

 

1組の生徒達が提案したものは………

 

『織斑 一夏のホストクラブ』、『織斑 一夏とツイスター』、『織斑 一夏とポッキー遊び』、『織斑 一夏と王様ゲーム』、etc………

 

等といった具合に、殆ど………と言うよりも全てが一夏絡みの出し物となっていた。

 

「却下」

 

クラス代表として、意見を纏める立場に居る一夏は、当然の様に全ての提案を却下する。

 

「「「「「えええええぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」」」」」

 

途端に、1組の生徒達からは精一杯の抗議の声が挙がる。

 

「当たり前だ! 誰が嬉しいんだ、こんなもん!!」

 

「私は嬉しいわね! 断言する!!」

 

「そうだそうだ! 女子を喜ばせる義務を全うせよ!!」

 

「織斑 一夏は共有財産である!」

 

「他のクラスから色々言われてるんだってば! うちの部の先輩も煩いし!」

 

「助けると思って!」

 

「メシア気取りで!!」

 

一夏も抗議の声を挙げるが、生徒達からは次々に不満の声が挙がる。

 

「じゃあ、コレを採用するならアニキにも俺と同じ役割をやってもらう! それでも良い!?」

 

すると、一夏は生徒達に向かってそう叫んだ!!

 

途端に………

 

「あ、えっと………ならいいです」

 

「織斑くんは兎も角、天上くんも一緒だと………」

 

「それは寧ろご褒美より拷問だわ………」

 

「すみません、調子こいてました」

 

「お前等、失礼だな」

 

次々に沈黙し始めた生徒達を見て、神谷は憮然とした表情を浮かべる。

 

「兎に角、もっと普通な意見をだな………」

 

「メイド喫茶は如何だ?」

 

と、一夏がそう言うと、何と意外も意外、ラウラがそんな意見を挙げた。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

クラスの生徒全員と、一夏の視線がラウラに注がれる。

 

「客受けは良いだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える。確か、招待券制で外部からも入れるのだろう? それなら、休憩場としての需要も少なからずある筈だ」

 

淡々と冷静な意見を繰り広げるラウラだったが、キャラ的に似合わない意見に、クラスの一同は神谷を除いてポカンとしている。

 

「え、えーと………皆は如何思う?」

 

一夏は取り敢えずと生徒達に賛否を尋ねるが、生徒達はまだ状況が理解出来ておらず、茫然としている。

 

「良いんじゃないかな? 一夏には執事か厨房を担当してもらえばオーケーだし、神谷も力仕事や客引きなんかについてもらえば良いんじゃないかな?」

 

するとそこで、シャルが援護する様にそう言う。

 

クラスの一同は、その言葉………

 

特に一夏が執事をするという部分に一気に惹かれた。

 

「織斑くん執事! 良い!」

 

「それでそれで!」

 

「メイド服は如何する!? 私演劇部衣装係だから縫えるけど!」

 

先程までの沈黙がウソの様に、1組生徒達は一気にボルテージを上げる。

 

(まあ、変わった衣装の喫茶店だと思えば良いか………)

 

一夏も、自分が中心で無く皆でやる企画の為、妥協を見せる。

 

「メイド服ならツテがある。執事服も含めて貸してもらえるか聞いてみよう」

 

するとラウラが、またもそんな声を挙げた。

 

クラス全員が「えっ?」という表情でラウラを見つめる。

 

「………ごほん。シャルロットが、な」

 

すると、流石に照れ臭かったのか、ラウラは咳払いしてシャルに話を振った。

 

「え、えっと、ラウラ? それって、先月の………?」

 

「うむ」

 

先月のとは、例の白猫の着ぐるみパジャマを買いに行った時の話である。

 

実はその時、シャルとラウラはふとした事からメイド喫茶の女店長と知り合い、1日アルバイトをしたのだ。

 

色々とあった波乱のバイトとなったが、まあそこは今は関係無いので割愛する。

 

「き、聞いてみるだけ聞いてみるけど、無理でも怒らないでね」

 

「「「「「怒りませんとも!!」」」」」

 

シャルの不安げな声に、クラスの生徒達は声を揃えてそう言う。

 

かくして、1年1組の出し物はメイド喫茶改め『ご奉仕喫茶』に決まり………

 

「ちょっと待ったぁっ!!」

 

かに思われたが、そこで神谷がちょっと待ったコールを掛けた。

 

「!? アニキ!?」

 

「神谷!?」

 

まさかちょっと待ったコールが出るとは思わず、一夏とシャルが困惑する。

 

他の生徒達も、空気読めよという視線を送っている。

 

「何だ、神谷? 貴様メイド喫茶に不満があるのか?」

 

提案者であるラウラが、不機嫌そうにそう言うが………

 

「いや、メイド喫茶自体に問題はねえぜ。寧ろ大歓迎だ!」

 

相変わらず欲望丸出しで神谷はそう言う。

 

「じゃあ、何が?」

 

「だがな! 今時只のメイド喫茶なんざぁ、在り来りってもんだぜ!!」

 

ラウラの言葉を遮り、神谷はそう言い放つ。

 

「何?」

 

「それじゃイマイチパンチがねえ! そう此処は………」

 

神谷はそう言って、言葉を溜める様な様子を見せる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

クラス全員の視線が、神谷に注がれる。

 

その瞬間!

 

神谷はクワッと目を見開いたかと思うと………

 

「プラス猫耳で、猫耳メイド喫茶で如何だぁ!!」

 

お馴染みの天を指差すポーズを決めて、堂々とそう言い放った!!

 

「えっ!?」

 

その提案にティトリーが驚く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

しかし、他の生徒達は、神谷に冷たい視線を向ける。

 

「いや、アニキ………流石にそれは………」

 

一夏はやり過ぎだと言おうとしたが………

 

「馬鹿野郎! 良いじゃねえか! 猫耳の1つや2つ! 減るもんじゃねえだろ!!」

 

神谷は頑として退く様子を見せない。

 

「で、でも………」

 

何とかして説得を試みる一夏だったが………

 

「わ、私は良いと思うよ!」

 

そこで、ティトリーがそう声を挙げた。

 

「!? ティトリー!?」

 

「か、神谷の言う通り、良いんじゃないかな? 猫耳の1つや2つくらい………」

 

若干挙動不審でそう言うティトリー。

 

(ティトリー………まさか、ティトリーも神谷の事を………)

 

すると、その様子を見て、勘違いを起こしたシャルが………

 

「僕も良いと思います!!」

 

血迷った様に賛成の意見を挙げる。

 

「!? シャル!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

まさかシャルまで賛成するとは思っていなかった一夏と生徒達は一斉に驚きを示す。

 

結局そのまま………

 

神谷と2人の勢いに押されるかの様に、次々に賛同者が増え………

 

1年1組の出し物は、メイド喫茶改め『ご奉仕喫茶』更に改め………

 

『猫耳ご奉仕喫茶』となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

職員室前の廊下………

 

「失礼しました~」

 

出し物が決まった事を、千冬に報告し終えた一夏が職員室から出て来る。

 

なお、千冬は出し物が『猫耳ご奉仕喫茶』に決まった事を、神谷が絡んでいると見抜いたが、クラス生徒が大半賛成していると言う事実もあって反対できず、苦々しげな表情で了承のサインを書いていた。

 

(千冬姉の気持ちも分かるな~)

 

神谷が強引なのはいつもの事だが、今回はいつにも増してゴリ押しであった事を、一夏も僅かに疑問を感じている。

 

すると、そこへ………

 

「やあ」

 

何の前触れも無く、楯無が現れ、一夏へ声を掛けた。

 

「!? 貴女は!?」

 

突然目の前に現れた楯無を見て、一夏は飛び退く様に距離を取ったかと思うと、構えを取る。

 

更に白式を、何時でも呼び出せる状態にまでしている。

 

「………そこまで露骨に警戒されると流石にヘコむんですけど」

 

「…………」

 

楯無はヘコむ様な様子を見せてそう言うが、一夏は警戒を解かない。

 

「ハア~………嫌われちゃってるねえ。お姉さんは悲しいよ」

 

「………何か御用ですか? 生徒会長さん」

 

と、楯無が殺気を見せないので、一夏は警戒したままながらも、そう尋ねる。

 

「え~とね………織斑 一夏くん。今度の学園祭の事なんだけど………」

 

「ああ、俺を景品にするあの話ですか? 別に良いですよ。そっちが勝手にやって、勝手に盛り上がれば良いじゃないですか。俺は一切関知しませんから」

 

「あ~、いやね。流石にそれは悪いかなと思ってるんだよ。だからね………交換条件として、これから当面、私が君のISコーチをしてあげる。それで如何?」

 

「生憎ですが、間に合ってます………じゃあ、失礼します」

 

一夏は楯無の言葉をバッサリとそう叩き斬り、立ち去ろうとする。

 

「うーん、そう言わずに。何せ私は生徒会長なのだから」

 

「はっ?」

 

「アレ? 知らないのかな? IS学園の生徒会長って言うと………」

 

と、楯無がそう言いかけた瞬間………

 

「覚悟おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

一夏が立ち去ろうしていた方向から、粉塵を上げる勢いで走って来た生徒が、手に持っていた竹刀で楯無に斬り掛かった!

 

だが………

 

「迷いの無い踏み込み………良いわね」

 

楯無は余裕の笑みを浮かべて、扇子を取り出したかと思うと、その扇子で竹刀を受け流し、生徒の首元に左手で手刀を叩き込む!

 

と、その直後!!

 

今度は傍にあった窓ガラスが破裂!!

 

楯無の顔に向かって、次々に矢が飛んで来る!!

 

見れば、隣の校舎の屋上に、和弓を射る袴姿の生徒の姿があり、矢は彼女が射たものらしい。

 

「ちょっと借りるよ」

 

すると楯無は、飛んで来る矢を躱しながら、先程倒した生徒が使っていた竹刀を足で蹴り上げ、キャッチすると同時に投擲。

 

割れた窓から飛び出した竹刀は、弓女の眉間にヒット。

 

弓女はそのまま倒れた。

 

「もらったああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

その直後!!

 

今度は廊下の掃除用具入れのロッカーから、両手にボクシンググローブを填めた生徒が飛び出し、猛ラッシュを繰り出して来た。

 

「ふむん。元気だね………織斑 一夏くん」

 

その猛ラッシュを余裕で躱しながら、再度一夏に話し掛ける楯無だったが………

 

「…………」

 

一夏は既に、遠くの方まで立ち去っていた。

 

「!? ちょっ!? 待って! 織斑 一夏くん!! ああ、もう! 邪魔!!」

 

その光景を見て、楯無は初めて慌てた様な様子を見せると、ボクシング女にランスの様なソバットをお見舞いし、再び掃除用具入れのロッカーにボッシュートする。

 

「待って! 待ってってばぁ!!」

 

「………まだ何か用が有るんですか?」

 

一夏はウンザリしている様子を隠そうともせずにそう言う。

 

(うぐっ! 手強い子ね………こんな子は始めてだわ………)

 

楯無は、表面上は冷静を装いながらも、内心で今まで相手にした事がないタイプである一夏を扱い倦ねていた。

 

彼女は、天性のカリスマと才能で、他人を自分のペースに巻き込む事が得意な性分である。

 

生徒会長の座に就いているのも、その才能による恩恵が大きい。

 

が、今回ばかりは相手が悪かった。

 

一夏からすれば、楯無より神谷のカリスマが圧倒的に強いと思っている。

 

更には、楯無がその神谷と戦っていた事で、彼女に対し強い不信感を抱いている。

 

オマケに、神谷が唯我独尊な性格な為、弟分の一夏も少なからずその影響を受けていたのだ。

 

幾ら楯無が流れを摑もうとしても、そもそも一夏はその流れに乗っておらず、自分のペースで自分の思う様に進んでいる。

 

会話が成立しないのは、ある意味当然の事であった。

 

「さ、さっきの子達は、何で私を襲って来たのか、知りたくない?」

 

「いえ、別に………」

 

「聞いてよ!!」

 

一夏があんまりにもつっけんどんな態度を取るので、とうとう楯無は地団太を踏んでそう叫ぶ。

 

「ハア~~………分かりました。で? 何でですか?」

 

仕方なく、一夏は楯無にそう尋ねる。

 

「フフフ、それはねえ………生徒会長、即ち全ての生徒の長存在は、最強たれ。つまり、IS学園において、生徒会長という肩書きは、ある1つの事実を証明しているんだよね」

 

「へえ~~」

 

あまり興味が無さそうにそう返事を返す一夏。

 

「それでね。最強である生徒会長は何時でも襲って良いの。そして勝ったなら、その者が生徒会長になるの」

 

「凄いですね~」

 

「………真面目に聞いてる?」

 

一夏の態度があんまりなものであり、楯無は思わずそう言う。

 

「聞いてますよ~………アレ? って事は?」

 

「? 如何したの?」

 

「貴女確か………アニキと戦って負けてましたよね?」

 

「!? うぐっ!?」

 

思わぬ点を指摘され、楯無は言葉に詰まった。

 

「って事は………生徒会長の座はアニキに?」

 

「あ、アレは違うよ! 寧ろ天上 神谷くんは私の仕事を邪魔したんだよ!!」

 

「でも負けたのは事実ですよね?」

 

「ううっ!? わ、私のシマじゃノーカンだから! アレ!!」

 

「貴女は何処のブロンティストですか?」

 

すっかりたじたじの楯無に、一夏は畳み掛ける様にそう言う。

 

「うぐぐぐぐぐ………」

 

「もう良いですか? じゃあ、俺、そろそろ………」

 

一夏はそう言うと、楯無の前から立ち去ろうとしたが………

 

「…………」

 

途端に、楯無はボロボロと涙を零し始めた。

 

「!? ちょっ!?」

 

「うわあああぁぁぁぁ~~~~んっ! 織斑 一夏くんが苛める~~っ!! うわあああぁぁぁぁ~~~~んっ!!」

 

慌てる一夏を他所に、楯無はまるで子供の様に泣き始める。

 

「何? 何?」

 

「アレって生徒会長じゃ?」

 

「傍に居るのは織斑くんじゃ?」

 

途端に、その泣き声を聞き付けた生徒達が集まって来る。

 

「(!? マズイ!!)すみませんでした、生徒会長!! 俺が悪かったです!! 許して下さい!!」

 

このままでは学園内での自分の立場が悪くなると思い、慌てて楯無に謝る。

 

「ヒッグ………じゃあ、ちょっと生徒会に来てくれる?」

 

「行きます! 行きますから泣き止んで下さい!!」

 

涙目でそう尋ねる楯無に、一夏は反射的にそう答えてしまう。

 

「OK! じゃあ行こうか!!」

 

すると、楯無は一瞬にして泣き止み、一夏に向かって笑顔でそう言った。

 

「…………」

 

その様に呆気に取られた様な表情となる一夏。

 

「ん? 如何したの?」

 

そんな一夏を見て、楯無は春風の様に微笑みながらしれっとそう言い放つ。

 

(や、やられた!! クソッ! まさかウソ泣きに掛かるとは!!)

 

内心で迂闊であった自分を責める一夏だったが………

 

良く見れば、楯無の目が紅くなっていた。

 

(………あ、マジ泣きだったんだ)

 

如何やら、生徒会長殿は切り替えが早い様である。

 

「それじゃあ、行こうか?」

 

そう言って、楯無は歩き出す。

 

(! どちらにせよ、マズイ! このままじゃ、終始この人のペースだ!!)

 

泣かれた手前、素直に付いて行こうとは思う一夏だが、このまま楯無にペースを握られては碌な事にならないと思い、必死に脳をフル回転させる。

 

「あ、あの! 生徒会には行きますけど、1つ条件があります!!」

 

「ん? 何かな?」

 

「えっと………」

 

そして、一夏が思いついた案とは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

お互いにメンチを斬り合ったまま歩いている神谷と楯無。

 

彼是ずっとこのままであり、雰囲気は険悪そのものである。

 

(………何故こんな事に………って言うか、俺のせいなんだけど………)

 

その後ろを歩いていた一夏が、頭を抱えて自己嫌悪している。

 

あの後………

 

生徒会に顔を出す条件として、一夏は神谷も同行させる事を求めた。

 

楯無は渋面をしたが、一夏を引っ張る方が重要だったのか、渋々ながらも承諾。

 

そして、現在に至るのである。

 

「「…………」」

 

2人は顔を合わしてからずっとメンチ切りを続けており、互いに一言も言葉を交わしていない。

 

(く、空気が重いってレベルじゃないぞ、コレは………)

 

この時初めて………

 

一夏は千冬の思いを僅かに理解した。

 

「あ、あの! 此処じゃないんですか!? 生徒会室!?」

 

とそこで、生徒会室の前を通りかかったのに、気づかずそのまま歩き続けそうになっていた2人に、一夏がそう言う。

 

「………そうね。どうぞ、一夏くん………ついでに天上 神谷くんも」

 

「おう………邪魔するぜ」

 

露骨に嫌な顔をしてそう言う楯無に、神谷も露骨に敵対心を見せながら、生徒会室に入って行く。

 

「お帰りなさい、生徒会………長………」

 

帰って来た楯無を、メガネを掛けて髪を三つ編みにしていると言う、一昔前の漫画に出て来る委員長タイプの生徒が迎えたが、神谷と険悪な雰囲気である事を見て、閉口する。

 

「わ~~………おりむーとかみやんだ~………」

 

すると、その後ろに居たのほほんが、2人の険悪な雰囲気など気にせず、そう話し掛けて来た。

 

「アレ?」

 

「んだよ? のほほんじゃねえか?」

 

一夏と神谷は、凡そ生徒会と言う仕事には不向きそうなのほほんの姿が在るのを見て、若干首を傾げる。

 

「まあ、そこに掛けなさい。お茶はすぐに出すわ………貴方にもね」

 

「客に茶出すのは当然だろうが………」

 

そう言って来た楯無に、神谷はそう言い返すと、近くに在った椅子を引いて座り、長テーブルの上に足を組んで投げ出し、腕組みをした!!

 

「!!」

 

神谷の態度に若干怒りの様子を滲ませながらも、如何にか平静を装って定位置に座る楯無。

 

(やっぱり、アニキ呼んだのはマズかったかな?)

 

一夏は2人の険悪な雰囲気を見て、益々自分の判断を後悔する。

 

「ど、どうぞ………」

 

そんな楯無と神谷、そして一夏の前に、メガネを掛けた髪を三つ編みの少女が、おっかなびっくりと言う様子で紅茶を置いた。

 

「あ、どうも………」

 

「サンキュ」

 

畏まってお礼を言う一夏とは対照的に、神谷はふてぶてしい態度のまま礼を言う。

 

「い、いえ………」

 

メガネを掛けた髪を三つ編みの少女は、逃げる様に神谷の傍を離れる。

 

「お姉ちゃ~ん。怖がり過ぎだよ~。かみやんは不良だけど、良い人なんだよ~」

 

そんな少女の姿を見て、のほほんがそう言う。

 

「ふ、不良なのに良い人って、微妙に矛盾してない?」

 

「アニキは不良って言うより、ツッパリとか番長タイプだと思うけど………っていうか、お姉ちゃん?」

 

2人の会話にツッコミを入れる一夏だったが、そこでのほほんがメガネを掛けた髪を三つ編みの少女をお姉ちゃんと呼んでいた事に気づく。

 

「あ、ああ、初めまして、織斑 一夏くん。妹が何時もお世話になってるわね。私は『布仏 虚』。本音の姉よ」

 

するとそこで、メガネを掛けた髪を三つ編みの少女………『布仏 虚』がそう自己紹介した。

 

「(のほほんさんの本名って、布仏 本音だったのか)えっ? 姉妹で生徒会に?」

 

内心で微妙に失礼な事を思いながら、一夏はそう疑問を呈する。

 

「むかーしから、更識家のお手伝いさんなんだよー。うちは、代々」

 

「生徒会長は最強でないといけないけど、他のメンバーは定員数になるまで好きに入れて良いの。だから、私は幼馴染の2人をね」

 

すると、のほほんがそう言い、楯無がそう説明して来た。

 

「お嬢様にお仕えするのが私共の仕事ですので」

 

虚が礼儀正しい態度でそう言う。

 

その姿は、まるで秘書かメイド長を思わせる。

 

「さて………じゃあ、話をさせてもらっても良いかな?」

 

一夏と神谷を見据えながら、楯無がそう言って来た。

 

「ハイ………」

 

「早く始めろよ」

 

改まっている一夏とは対照的に、神谷は出された紅茶を飲みながら、ふてぶてしくそう言う。

 

「…………全校集会の時も思わず口走っちゃったけど、一夏くんが部活動に入らない事で色々と苦情が寄せられているの。それで生徒会としては君を何処かに入部させないとマズイ事になっちゃったのよ」

 

その態度に嫌悪感を露にする楯無だが、グッと堪えて話を始める。

 

「そうですか………ですが、申し訳ないんですけど、俺は部活に入る気はありません。まだ自分の特訓で精一杯ですし、女子しかいないこの学園の部活に入るには無理があると思います」

 

一夏は冷静にながらも、自分の意見を主張した。

 

「まあまあ、そう言わずに………だからその代わりに、これから学園祭までの間、私が鍛えてあげるのよ。ISも、生身もね」

 

「別に要りません。コーチは沢山いますから、コレ以上増やす積りはないですし、アニキも居てくれますから」

 

「そういうこった」

 

楯無の提案を、やんわりながらもキッパリと断る一夏に、それを見てニヤリと笑う神谷。

 

「くうっ! でもあなた弱いじゃない!!」

 

「ええ、確かに俺は弱いですよ。だから日々強くなろうとしています。それをいきなり横からしゃしゃり出て来て、強くしてやるなんて、何様の積りですか?」

 

「それは………!?」

 

「大体、貴女アニキに負けてたじゃないですか? アニキより弱い人に教わる事なんて無いと思いますけど」

 

「うぐうっ!?」

 

楯無は言葉に詰まる。

 

やはりこの間、グレンラガンに敗北した姿を見られたのが足を引っ張っている様だ。

 

「…………」

 

そんな楯無の姿を見て、神谷はニヤニヤと笑っている。

 

(………ムカつく!!)

 

「え~っ!? 会長負けちゃったの~?」

 

「そんな!? ホントですか!?」

 

そんな神谷の姿を見て、楯無が内心で腹を立てていると、のほほんと虚が驚きの声を挙げる。

 

「と言う事は、学園規則に則り………天上さんが生徒会長に!?」

 

「うわ~! 面白そ~う!」

 

狼狽している虚とは対照的に、のほほんは楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「ま、負けてないわ! 負けてないもん!!」

 

(もん、って………)

 

「見苦しいぜ。生徒会長さんよぉ。素直に負けを認めたら如何だ?」

 

子供の様な口調になった楯無に呆れる一夏と、勝ち誇った笑みを浮かべてそう言う神谷。

 

「な、なら! 私と勝負よ!!」

 

するとそこで、楯無は一夏を指差してそう言い放つ。

 

「貴方が私に有効打を一撃でも入れられたら、今回の件は全て諦める! でも! 私が勝ったら、今回の件を全て受け入れてもらうわ!!」

 

「………だとよ? 如何する、一夏?」

 

神谷は紅茶を飲みながら、隣の一夏に尋ねる。

 

「良いですよ………喧嘩ならあらゆる事が万事解決するってもんだ」

 

絶対有り得ないが、一夏はそう確信している目でそう言い放った。

 

「後悔しないでよ」

 

「その台詞………リボンでも付けて返してあげますよ」

 

苦々しい顔を浮かべている楯無に、一夏は神谷と同じ様に不敵な笑みを浮かべてそう言う。

 

「何か面白い事になってきたね~」

 

「本音………今日ばかりは貴女の性格が少し羨ましいわ………」

 

ワクワクしているのほほんと対照的に、虚は頭を抱えていた。

 

「オイ、茶菓子ねえのか?」

 

そして、そんな空気など知った事かと言う様に、マイペースに紅茶を啜り、挙句に茶菓子を要求する神谷であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

遂に登場、楯無生徒会長。
しかし、ティトリーとの一件で神谷とは険悪な雰囲気………
そのせいで一夏との件も原作通りに進みません。
遂には喧嘩を売る形になってしまいます。

原作では合気道で対決していましたが、この作品ではISで戦います。
学園最強を相手に一夏は分が悪いですが………
思わぬ手を繰り出すことに?
更に楯無と箒に悲劇が?………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第27話『それでこそ倒し甲斐が有るってものだ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第27話『それでこそ倒し甲斐が有るってものだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第3アリーナ………

 

その空中では、楯無が自分の愛機………『ミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)』を装着した状態で浮かんでいた。

 

観客席には、例によって一夏と楯無が戦うと言う情報を入手した生徒達が、ギャラリーとして集まっている。

 

「さ~て、面白い事になったぜ………」

 

そんなギャラリーの中に混じっていた神谷は、購買で購入したポップコーンを片手に、試合が始まるのを待っていた。

 

「アハハ………何でこんな事になっちゃったんだろうね?」

 

ちゃっかりその隣に腰掛けているシャルが、苦笑いを浮かべながら、同じ様に集まって来ていた箒、セシリア、鈴、ラウラに向かってそう言う。

 

「あのバカが………」

 

「一夏さんったら、もう………」

 

「アイツ、最近益々神谷に似て来てる気がするわ………」

 

「全くだ………」

 

箒達は一夏の無謀とも言える行為に、憮然とした表情を浮かべていた。

 

「あっ! 一夏が来たよ!」

 

とそこでティトリーがそう声を挙げる。

 

一同の視線がアリーナの射出口に注がれると、そこからカタパルトを使って、白式を装着した一夏が飛び出した。

 

「遅かったね。レディーも待たせるなんて、紳士失格だよ」

 

楯無が挑発する様に、一夏に向かってそう言うが………

 

「生憎、生まれてこの方、紳士なんて言葉には縁が無くてね。不良とかって言われた事はあるけど」

 

一夏は気にした様子も無く、シレッとそう言い返す。

 

「(カチンッ!)ふ、ふ~んそう………じゃあ、お姉さんが教えてあげるよ………紳士な男の子の在り方ってものをね!!」

 

楯無はそう言うと、水を螺旋状に纏ったランス………蒼流旋(そうりゅうせん)に内蔵されていた4門のガトリングガンを向けて発砲する。

 

「! ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

しかし一夏は、雪片弐型を身体の前で構えると、両手でプロペラの様に高速回転させた。

 

ガトリングガンの弾丸は、回転する雪片弐型の刃に当たって、斬り落とされる。

 

「フッ!!」

 

弾丸を全て斬り落とすと、雪片弐型を右手に構え直し、楯無に向かおうとしたが………

 

「!? いない!?」

 

先程まで楯無が居た場所に楯無の姿が無く、一夏は慌ててハイパーセンサーをチェックする。

 

だが………

 

「遅い!!」

 

楯無のそう言う声が響いたかと思うと、一夏の背中に衝撃が走った!!

 

「!? ぐああっ!?」

 

一夏が悲鳴を挙げると、シールドエネルギーが減少する。

 

「くうっ!!」

 

反射的に、後ろを振り向きながら雪片弐型を振るう。

 

「よっ、と」

 

しかし、楯無は軽々と躱してしまう。

 

「まだまだぁっ!!」

 

だが、一夏は雪羅から荷電粒子砲を見舞う。

 

「甘い!」

 

しかし、荷電粒子砲は、ミステリアス・レイディの水のヴェールに防がれる。

 

「如何したの? 今のじゃ有効打って認められないよぉ~」

 

「舐めるなぁ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

楯無の台詞に、一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で、一気に楯無との距離を詰める。

 

「………その台詞………嫌いだよ!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そう言うと、楯無は一夏が振り下ろしてきた雪片弐型の刃を、蒼流旋で受け止める。

 

「でりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一夏はそのまま楯無を連続で斬り付けて行くが、楯無はその全てを軽く往なしてしまう。

 

「一夏の攻撃を全て往なしている………」

 

「ランスでは、懐に入られれば不利の筈ですのに………」

 

「やるわね………」

 

「学園最強の名は伊達ではないと言う事か………」

 

箒、セシリア、鈴、ラウラが、その様子を見てそう呟く。

 

「へえ~~、やるじゃねえか、生徒会長の奴」

 

しかし神谷は、呑気にそう言いながら、相変わらずポップコーンを頬張っていた。

 

「神谷、やっぱり無茶だったんじゃない? 生徒会長は学園最強なんだし………」

 

シャルが、一夏の事を心配して、そんな事を言うが………

 

「馬鹿野郎! 相手が最強だとか名乗ってるんなら、そいつを乗り越えて進むのが漢ってもんよ!!」

 

神谷はそう反論する。

 

「でも………」

 

「それに俺が勝てたんだ! 弟分の一夏が勝てねえ筈がねえ!!」

 

「如何言う理論!?」

 

相変わらずの神谷節に、思わずツッコミの声を挙げるシャル。

 

「ま、そう心配すんなって………食うか?」

 

カッカッカッと言った具合に笑うと、神谷は持っていたポップコーンをシャルに差し出す。

 

「あ! 頂きまーす!」

 

すると、後ろの席に居たティトリーから手が伸びて、ポップコーンを摑んだ。

 

(むうっ)

 

それに若干ムッとしながらも、シャルも神谷からのポップコーンを頂いたのだった。

 

その間にも、一夏と楯無の攻防は続いている。

 

(クソッ! 攻撃が全て往なされる! 何て人なんだ!!)

 

楯無に斬撃を出し続けながらも、一夏は内心で戦慄する。

 

先程から、一夏の攻撃は全て蒼流旋で受け止められては逸らされ、場合によってはキックで逸らされる事もあった。

 

「フフフ、一夏くん。コレで分かって貰えたかな? IS学園生徒会長の強さが?」

 

そんな一夏に向かって、楯無は勝ち誇る様に言って来る。

 

「ああ、認めるよ………貴女は強い………」

 

楯無に向かって攻撃を繰り出し続けながら、一夏はそう呟いた。

 

「なら!」

 

「それでこそ倒し甲斐が有るってものだ!!」

 

だが、何か言おうとした楯無を遮って、一夏はそう吠える。

 

「…………」

 

そんな一夏の言葉に、楯無は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。

 

「生意気な子は………お姉さん、嫌いだよ!!」

 

そして、不意打ち気味に、一夏に向かって前蹴りを繰り出した!!

 

「!? グハッ!?」

 

楯無の繰り出した前蹴りが腹に命中し、一夏は大きく後ろにブッ飛ぶ。

 

「ゲホッ! ゲホッ! クソッ!!」

 

咳き込みながら如何にか静止し、体勢を立て直そうとする一夏。

 

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、楯無はそんな暇は与えないとばかりに、蒼流旋で突きを繰り出して来た!!

 

「!!」

 

(さあ、如何する、一夏くん!? 避けようとしても無駄だよ。全ての回避パターンは予測済み。如何逃げても当てられるよ!!)

 

驚く一夏を見ながら、楯無は内心でそう思う。

 

だが、一夏が選んだ行動は………

 

「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!!」

 

避けるでも防ぐでも無く………

 

『迎え打つ』だった!!

 

「!? 何っ!?」

 

「必殺っ! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

迫り来る蒼流旋での突きに向かって、黄金に輝く雪羅の手の部分を繰り出す!!

 

蒼流旋での突きとシャイニングフィンガーが真正面から激突!!

 

激しいエネルギーのスパークが、辺りに迸る!!

 

一部はアリーナのバリアにまで到達。

 

神谷達の眼前でも激しい火花を散らした!!

 

「キャアッ!?」

 

「ニャアッ!?」

 

目の前で散るスパークに、シャルとティトリーが思わず声を挙げる。

 

「「「「!?」」」」

 

箒達も驚きを示す。

 

「おお、綺麗じゃねえか」

 

しかし、神谷は1人平然と構えて、花火でも見ているかの様にしていた。

 

「ぐうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」

 

「くうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」

 

拮抗する一夏と楯無のぶつかり合い。

 

やがて、蒼流旋が纏っていた水の螺旋が、シャイニングフィンガーの熱で蒸発し始める!!

 

「!? うそっ!?」

 

「このまま押し切る!!」

 

楯無が驚いたのを見て、一夏はそのまま押し切ろうとする。

 

「くうっ! 神谷くんと言い、君と言い! 本当に驚かさせてくれるね!!」

 

だが、楯無はそう言うと、両手で握っていた蒼流旋から左手を離し、その手に蛇腹剣………ラスティー・ネイルを出現させる!!

 

「せやあっ!!」

 

そして、押し合っていた一夏に、不意打ち気味に伸ばした刃を叩き込んだ!!

 

「ぐはっ!?」

 

火花を散らしてぶっ飛ばされる一夏。

 

「クウッ!!」

 

そのままアリーナの地面に叩き付けられそうになったが、回転して着地する。

 

「けど、そんな戦い方して、シールドエネルギーは大丈夫かな? 私にはまだ有効打を入れられてないけど?」

 

「クッ!!」

 

楯無の言葉を聞いた一夏が、苦い表情を浮かべる。

 

彼女の言う通り、白式のエネルギーは既に残り少なくなっていた。

 

第二形態移行(セカンドシフト)し、パワーアップした一夏の白式だが………

 

雪羅の使用や、スラスター増設による副作用で、益々エネルギー消費が悪くなっている。

 

只でさえ、零落白夜が自機のエネルギーを攻撃に転用する技なだけに、燃費については以前より悪くなったと言っても良いかも知れない。

 

(エネルギーは残り僅か………何としても楯無さんに有効打を入れないと………けど、有効打を与えるには零落白夜を使うしかない………楯無さん、それを知ってか、まるっきり隙を与えてくれない………)

 

一夏は冷静に今の状況を分析する。

 

神谷が熱さに任せて突っ走るタイプな為、そんな神谷のフォローに回る事が多かった一夏は、本人も知らぬ内に冷静な思考と分析力が身に付いていた。

 

(………待てよ?………有効打って事は、別に零落白夜を使わなくても………真面な1撃を喰らわせれば良い、って事だよな?)

 

ふと一夏の脳裏に、そんな考えが思い浮かぶ。

 

(何か………何か手は?)

 

そこで、一夏は白式の機能について再チェックを掛ける。

 

(!? コレは!?)

 

すると、とある機能に目が行く。

 

「ボーッとしてて良いのかな!?」

 

とそこで、痺れを切らしたかの様に、楯無が突っ込んで来た!!

 

ラスティー・ネイルを戻し、再び蒼流旋に水の螺旋を纏わせての突撃!!

 

「!?」

 

一夏は驚きながらも、先程の機能の事を思い出す。

 

「………一か八かだ!!」

 

すると、一夏はその場で仁王立ちする!!

 

「!? 一夏!?」

 

「何をやっていますの!?」

 

「アイツ! 気でも狂ったの!?」

 

「避けろ! 一夏!!」

 

それを見た箒、セシリア、鈴、ラウラが慌てて叫ぶ。

 

「アイツ………何かする積りだな」

 

しかし、神谷だけは分かっているかの様にそう呟いた。

 

「神谷!? 一夏は何を考えてるの!?」

 

「神谷は分かるの!?」

 

シャルとティトリーが、そう尋ねて来るが………

 

「まあ、黙って見てな」

 

神谷はそんな答えを返す。

 

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一夏目掛けて迫り来る蒼流旋。

 

「…………」

 

それを見ても、なお仁王立ちを続ける一夏。

 

「諦めたの!? だったら終わりにしてあげるよ!!」

 

その瞬間に、楯無は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動。

 

残っていた距離を一気に詰めた!!

 

蒼流旋が一夏に命中する!!

 

「!? 今だ!!」

 

………かと思われたその瞬間!!

 

一夏は僅かに身体を左へとずらす。

 

蒼流旋は直撃せず、一夏の右脇腹を抉る様に命中!!

 

シールド状で火花を散らす!!

 

「ぐあああっ!?」

 

シールドで防がれてはいるが、衝撃は一夏の身体に伝わり、悲鳴が出る。

 

「! うおおおおっ!!」

 

だが、一夏はそれをやせ我慢し、蒼流旋を右腕と脇で挟み込む様に抑え込んだ!!

 

激しく火花を散らしていた蒼流旋だが、やがて完全に止められ、楯無の動きが止まる!!

 

「!? 嘘っ!? けど、シールドエネルギーは大きく削られた筈! その状態じゃ、零落白夜は………」

 

「零落白夜なくても………俺にはコレが有る!!」

 

楯無は驚きながらもそう言うが、一夏はそう叫んで拳を握った雪羅を楯無に向ける!!

 

その瞬間、轟音が響いたかと思うと………

 

楯無の身体がブッ飛ばされ、地面に倒れた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

アリーナに居た観客に生徒達は、何が起こったのか分からず呆然となる。

 

「「「「「「「!?」」」」」」

 

箒達も、何が起こったのか分かっていない。

 

「一夏の野郎………中々燃える事してくれるじゃねえか」

 

しかし、神谷は一夏が何をしたのか見えていた様で、そんな事を呟く。

 

その視線の先には………

 

アリーナの地面に拳の部分を突き刺す様に埋まっている………

 

雪羅の姿が在った。

 

では、その瞬間を今一度見てみよう………

 

それは、一瞬の出来事だった!!

 

白く、堅く、強い!!

 

その威風堂々たる巨大な拳が、全てのケリを着けた!!

 

誰もが思いもしなかった出来事………

 

ISの基礎機能の応用!!

 

一夏がそれに気づいた瞬間!!

 

白き騎士は構えた………

 

己が左腕を………

 

楯無生徒会長が驚く!

 

だが、時既に遅し!!

 

何故なら、まだ未熟な一夏の、本人も知らぬ未知なる力が、無意識にその巨体を構えさせた!!

 

そして!

 

放たれる1撃! 必殺の力!!

 

その名を!

 

その名を!!

 

その名を!!!

 

その名を!!!!

 

その名を!!!!!

 

その名を!!!!!!

 

「ロケットォ! パアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーンチッ!!」

 

爆発と共に射出された白式の左腕………雪羅が、楯無の身体に真面に命中!!

 

「!? ぐはあっ!?」

 

まさか腕がブッ飛んで来るとは思っていなかった楯無は、その攻撃………

 

漢ならば、1度は誰もが使ってみたいと思う、必殺武器………

 

己の魂を込めた拳を、ブッ飛ばすロマンの兵器………

 

『ロケットパンチ』の直撃を受けた!!

 

楯無はそのまま地面に叩き付けられ、雪羅はアリーナの地面に減り込んだ。

 

「………やった………やったぞぉ!!」

 

一瞬呆然としていた一夏だったが、やがて自分の勝利を確認し、ガッツポーズを決めながら叫びを挙げる。

 

「ちょ、ちょっと待って! そんなの有り!? パーツパージ機能を攻撃に使うなんて!?」

 

喰らった楯無も呆然としていたが、一夏の叫びを聞いて、慌てて身を起こしながらそう言って来た。

 

そう、実は一夏の使ったロケットパンチ………

 

本来は攻撃用ではない機能を使っての攻撃だったのである。

 

ISは万が一量子化システムが故障し、装着者がISを装備したままの状態となってしまうという事態を想定し、パーツを其々にパージする事が出来る機能が有るのだ。

 

本来ならば、緊急時の非常用措置としての機能なのだが、一夏はこれを攻撃に転用したのである。

 

当然の事だが、パーツをパージすれば、そのパーツが担っていた機能は使えなくなるし、射出したパーツが破壊されてしまうと言う恐れもある。

 

普通の人ならば、思い付いたとしても先ずやらない行為である。

 

しかし、一夏は普通では無かった。

 

神谷と一緒に喧嘩に明け暮れ、勝つか死ぬかのロージェノム軍との戦いを経験してきた一夏にとって、思い付いた手段は即座に実行するものである。

 

命の遣り取りの中で迷って居ては、命が幾つあっても足りないからだ。

 

「何言ってるんですか? パーツパージ機能を攻撃に使用してはならないってルールはありませんでしたよ?」

 

一夏はシレッと楯無にそう言い放つ。

 

「そ、それはそうだけど………」

 

「取り敢えず、楯無さんに1撃喰らわせたから、勝負は俺の勝ちって事で良いですね?」

 

何とか言い包め様とした楯無だったが、何か言う前に一夏がそう言葉を続けた。

 

「い、いや、でも………」

 

「アレ? まさか生徒会長ともあろう方が、約束を違えるんですか?」

 

「うぐうっ!?」

 

言葉に詰まる楯無。

 

暫しの間沈黙していたかと思うと………

 

「………分かったわ………ルール上………私の負けね」

 

苦い顔を浮かべながら、そう呟いた。

 

「いよっし!!」

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

それを聞いた一夏が、再びガッツポーズを決めると、ギャラリーの生徒達が歓声を挙げた。

 

「…………」

 

その歓声に律儀にも答えている一夏を尻目に、楯無は逃げる様にアリーナを後にして行く………

 

「ハッハッハッハッ! 流石一夏! それでこそ俺の弟分だぜ!!」

 

一夏の勝利に満足そうにしながら、神谷は空になったポップコーンの袋を丸める。

 

「アイツめ………」

 

「まさかあんな攻撃手段を思いつくなんて………」

 

「普通やらないわよ、あんな事………」

 

「しかし、だからこそ敵の虚を衝く事が出来たと言えるな………」

 

箒、セシリア、鈴、ラウラも、一夏が使った意外な攻撃手段に、舌を巻いていた。

 

「凄かったねえ、ティトリー」

 

シャルも驚きを露わにしたまま、ティトリーに話し掛ける。

 

しかし、先程までいた筈のティトリーの姿は、何処にも無かった………

 

「アレ? ティトリー?」

 

「何時の間に?」

 

「アイツ………時々唐突に姿を消すわよね」

 

シャル、ラウラ、鈴がそう声を挙げる。

 

「…………」

 

そんなシャル達を見ながら、神谷は何やら考えている様な顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

そのティトリーはと言うと………

 

アリーナの裏手、人気の無い場所で………

 

[首尾は如何だ?]

 

「中々難しいよぉ~。一夏も神谷も、他の専用機持ちも、中々隙を見せないし………」

 

チョーカーに付いた鈴に向かって何やらボソボソと話していた。

 

如何やら、鈴が通信機になっている様だ。

 

[そうか、分かった。お前はこのまま任務を継続しろ。くれぐれも獣人だとばれない様にな]

 

通信先の相手がそう言って来る。

 

「う、うん………分かってるよ」

 

ティトリーはその言葉に、若干詰まりながら返事を返す。

 

何せ既に楯無に見破られており、神谷にも知られているのだ。

 

[? 如何した?]

 

「えっ!? う、ううん!! 何でも無い!!」

 

それに気づかれて、ティトリーは慌てて誤魔化す。

 

(でも………如何して神谷はアタシを獣人と知りながら、庇ってくれるんだろ………?)

 

心の中に、そう疑問が湧き上がる。

 

[ティトリー………]

 

すると再び、通信先の相手から声が響いて来た。

 

「えっ!? な、何っ!?」

 

ティトリーは若干慌てながら返事をする。

 

[この任務、何としても成功させるんだぞ。そうすれば、螺旋王様も四天王様もお前を処分しようと言うのは思い留まって下さる筈だ]

 

「! う、うん………分かってるよ」

 

通信先の相手からその話を聞いた途端、ティトリーは表情を曇らせた。

 

[では、余り長話をしていたも怪しまれるな。これで定時報告は終えるぞ]

 

「了解………」

 

通信先の相手とそう言い合い、ティトリーは通信を切断した。

 

「…………」

 

そのまま、曇った表情のままで呆然と立ち尽くしているティトリー。

 

「やるしかないんだ………だって、アタシは………獣人なんだから」

 

そしてその表情のままでそう呟き、その場から立ち去ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

IS学園・学生寮………

 

神谷と一夏の部屋………

 

「やるじゃねえか、一夏! 生徒会長の奴のあの悔しそうな顔ったらなかったぜ!!」

 

神谷は改めて、楯無に勝利した一夏を褒めていた。

 

「いや、アレは運が良かったんだよ。俺の実力じゃ………」

 

「何言ってやがる! 運も実力の内! 流石は俺の弟分だぜ!!」

 

「アニキ………」

 

神谷に褒めちぎられ、一夏の気分は最高潮まで達しようとしている。

 

「よっしゃあっ! 今夜は飲めや歌えやの大宴会だ!!」

 

「いや、それはマズイよ。千冬姉に怒られる」

 

しかし、止める所は止めるのであった。

 

「何だよ、ノリワリィなぁ」

 

「アニキは何でも無いかもしれないけど、千冬姉に怒られる事ほど、俺に取って憂鬱な事は無いんだよぉ」

 

幼き頃から千冬の折檻を受けている一夏にとって、千冬は尊敬する姉であると同時に恐怖の対象である。

 

「ったく、情けねえなぁ………分かったよ、取り敢えず、祝いは後だな」

 

「ゴメンね、アニキ。その代わり、今日は先にシャワー使って良いから」

 

「おっ! そうか、すまねえな! じゃあ遠慮無く」

 

一夏にそう言われて、神谷は着替えとバスタオルを用意するとシャワールームへ入って行った。

 

「フウ~~」

 

残った一夏は、椅子に腰掛けると、備え付けの机の方に向き直る。

 

(それにしても………そもそも如何して楯無さんはアニキと戦ってたんだ? それに、俺にあんなに拘りを見せて………)

 

そこで、楯無についての疑問を思い浮かべる。

 

戦いにこそ勝ったものの、結局は多くの謎が残されており、釈然としない気持ちが、一夏の心を埋め尽くしていた。

 

(正直、戦ってみて分かったけど、楯無さんがそんなに悪い人だとは思えない………けど、アニキは理由も無く喧嘩を売る様な男じゃない………一体、2人の間に何があったんだ?)

 

考えを巡らせるが、堂々巡りであり、答えが見つけられない。

 

(うう~~ん、一体何が………)

 

それでも必死に頭を回転させ、答えを見つけようとしている一夏。

 

(不良と生徒会長の対立………ってな感じじゃなかったしな~)

 

「だ~れだ?」

 

するとそこで不意に、一夏の視界が塞がれ、そう言う声が聞こえて来た。

 

「うわっ!? た、楯無さん!?」

 

「ピンポ~ン! 正解!!」

 

一夏はその声を聞いて、楯無の物であると判断したものの、楯無は正解だと言いながらも、一夏の視界を塞いだままである。

 

「もう、一体何ですか、楯無………さ~~んっ!?」

 

視界を塞いでいる楯無の手を外しながら、一夏は振り返り、そのまま叫びを挙げた。

 

「なぁに? 一夏くん?」

 

楯無はそんな一夏に向かって微笑みながらそう言う。

 

「何じゃありませんよ! 何って格好してるんですか!?」

 

一夏は慌てながら更に叫ぶ。

 

現在の楯無の恰好は………

 

所謂、『裸エプロン』の姿だったのだ。

 

「うふふ………」

 

すると、楯無は微笑んだまま、一夏に背を向ける。

 

「うわあぁっ!?」

 

益々慌てる一夏だったが………

 

「じゃん! 水着でした~」

 

楯無はケラケラと笑ってそう言う。

 

その言葉通り、裸エプロンかと思われた楯無の恰好は、実は水着エプロンだった。

 

………それはそれで素晴らしいが。

 

「…………」

 

「んふ。残念だった?」

 

「そ、そんなワケないでしょう!」

 

「あは。顔赤いわよ?」

 

「うっ………い、一体何の用ですか!?」

 

徐々に楯無のペースに持って行かれそうになり、一夏は慌ててそう尋ねた。

 

「…………」

 

それを聞いた楯無は、真面目な表情になると、再び一夏の方に向き直る。

 

「一夏くん。神谷くんは何を考えているの?」

 

そして、一夏にそう尋ねて来た。

 

「えっ?」

 

「神谷くんは獣人のスパイ………ティトリー・キャッツを庇ったわ。一体何の考えが有ってそんな事をしたの?」

 

「!? ティトリーが獣人のスパイ!?」

 

楯無の言葉に、一夏は驚きを示す。

 

「そうよ。巧妙な偽装がされていて、書類上でも見破れなかったけどね………でも私は確かに見たわ。あの子が獣人だって事を。そして………神谷くんもね」

 

「…………」

 

「でも彼は彼女を庇った。一体如何して!? 彼にとっても獣人は憎むべき敵の筈よ!」

 

「確かにロージェノムはアニキの父さんの仇さ。でも………アニキは憎しみだけで戦ってるんじゃないと思う」

 

「えっ?」

 

一夏の思わぬ言葉に、今度は楯無が驚きを露わにする。

 

「上手く言えないけど………アニキはどんなに大変な目に遭ったって、いつも笑ってた。何ていうか、アニキは………」

 

「底無しの馬鹿って事?」

 

「………そうかも知れないな。けど、馬鹿ってのは許せないな」

 

楯無を若干睨みながらそう言う一夏。

 

「だから獣人と知ってても庇うって言うの? 彼女を信じるって言うの? 有り得ないわ」

 

「確かにそうだ。でも………アニキはそう言う男だ。そして………アニキが信じるなら、俺も信じる。ティトリーは俺達の友達だ」

 

「………兄弟揃って本当に馬鹿ね! そんな甘い考えが通じると思ってるの!?」

 

今度は楯無が一夏を睨みながらそう言うが………

 

「いや、あの………そんな恰好で言われても、イマイチ説得力が無いんですが………」

 

そこで一夏は、楯無から目を逸らしながらそう言う。

 

「うぐっ!?(私のペースに持ち込む為にして来た恰好が裏目に出たわね………)」

 

言葉に詰まり、内心で己の失策を責める楯無。

 

と、その時………

 

「オイ、一夏。誰と話してるんだ?」

 

シャワーを浴びていた神谷が、一夏達の話し声に気づいて、シャワールームから出て来た。

 

………全裸で。

 

長身に引き締まった肉体が惜しげも無く晒され、更に股間には男の象徴たる巨大な『ドリル』が、天高く隆々とそそり立っている。

 

「ちょっ!? アニキ!?」

 

「!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

迫力のある『ドリル』を直に見てしまった楯無は、悲鳴を挙げて、そのまま気絶してしまった。

 

「た、楯無さん!?」

 

「あ? 何で生徒会長が居るんだよ?」

 

慌てる一夏とは対照的に、神谷は不思議そうに首を傾げている。

 

「ア、アニキ! 取り敢えず、パンツを!!」

 

「一夏! 神谷! 何だ今の悲鳴は!?」

 

一夏が慌てながらそう言おうとしたところ、今度は玄関の扉の向こうから、箒の声が響いて来る。

 

稲荷寿司を作ったので、一夏に食べてもらおうと持ってきたところ、楯無の悲鳴を聞いてしまった様だ。

 

「ほ、箒!? だ、駄目だ! 今は入るな!!」

 

そう叫ぶ一夏だが、時既に遅し!

 

扉は開かれ、慌てた様子の箒が飛び込んでくる!!

 

「一夏!」

 

「よお」

 

そして、部屋に飛び込んだ箒が最初に見たものは………

 

シャワールームから全裸で出て来ていた神谷と、その股間の巨大なドリルだった。

 

「#$%&¥@+*?!」

 

声にならない悲鳴を挙げて、箒もそのままバタリと倒れてしまう。

 

「わあ~~っ!? 箒~っ!?」

 

「何だってんだよ? 2人して………」

 

「アニキーッ! 兎に角パンツを穿いてくれ~~~~っ!!」

 

ワケが分からずキョトンとしている神谷に向かって、一夏は疲れた様子を見せながらそう叫ぶのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日………

 

余りにショックな出来事だった為か………

 

楯無と箒の記憶から、この1件はポロリと消え去っており………

 

無理に思い出そうとすると酷い頭痛に見舞われる様になったそうだ。

 

まあ………

 

それが彼女達にとって、1番良いのかも知れない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

一夏VS楯無の戦い。
学園最強の名は伊達ではなく、苦戦する一夏だったが、男のロマン兵器『ロケットパンチ』で一発逆転を掴む。

その夜に、楯無からティトリーが獣人のスパイである事を聞かされる一夏だったが、神谷が信じるものを彼も信じると返す。

段々と熱血になってきた一夏の成長具合が見れた回だったかと思います。
そして楯無と箒はトラウマが………(笑)

次回から学園祭開幕。
あのキャラやあのキャラも登場しますので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第28話『お前等さあ、それでも男か? カッコ悪いぞ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第28話『お前等さあ、それでも男か? カッコ悪いぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティトリーや楯無の騒動から時は流れ………

 

とうとうIS学園の学園祭が開催された。

 

一般公開はされていないので花火は上がらないが、生徒達の盛り上がりっぷりは半端では無かった。

 

そして、神谷と一夏が居る1年1組の出し物………

 

『猫耳ご奉仕喫茶』だった。

 

「嘘!? 1組であの織斑くんの接客が受けられるの!?」

 

「しかも執事の燕尾服!」

 

「プラス犬耳!!」

 

「それだけじゃなくて、ゲームもあるらしいわよ?」

 

「しかも勝ったら写真を撮ってくれるんだって!! ツーショットよ、ツーショット!! これは行かない手はないわね!!」

 

いや、正確にはそこで働く一夏が人気なのである。

 

何せ一夏は学園に2人しか居ない男の片方な上、見た目で敬遠されがちな神谷と違い、顔もそれなりにハンサムだ。

 

それが執事姿で接客してくれるのである。

 

しかも、ネコ耳喫茶ながら、一夏にはコッチの方が似合うと犬耳にされている

 

女子としてこんなチャンスを放って置く手は無かった。

 

「いらっしゃいませニャン! こちらへどうぞ、お嬢様」

 

接客担当班の中で、一際楽しそうにしているシャル。

 

何せ彼女は、以前成り行きからメイド喫茶のアルバイトをした事があるのだが………

 

男装が似合うと言う理由で執事服を着させられてしまい、メイド服を着れなかったのである。

 

幾ら男装が似合うと言ってもシャルも女の子。

 

可愛いものが好きな女子として、メイド服には憧れが有った。

 

それが念願叶って着られたのである。

 

喜びも一入だった。

 

「ティトリーちゃんの猫耳、すっごく良く出来てるね?」

 

「ホントホント、何処で買ったの?」

 

そして、猫耳メイドの姿が1番良く似合っているティトリーには、クラスメイトや客から質問が飛んでいた。

 

「え、えっと………これはその………自前で………」

 

「あ~、自前なんだぁ」

 

「ティトリーちゃんってこだわり派だったんだね~」

 

「ニャ、ニャハハハハハ………」

 

クラスメイト達の声に苦笑いを浮かべるティトリー。

 

勿論、この耳は本物である。

 

だが、周りには自分と同じ猫耳の少女が沢山居る為、結構手が込んでいる作り物として見られており、本物だと気づく人物は居なかった。

 

(ティトリー………)

 

楯無から事情を聞いていた一夏を除いて………

 

(まさかアニキ………ティトリーの為に猫耳メイド喫茶にしようなんて………)

 

一夏がそんな事を考えていると………

 

「お~い、繁盛してるかぁ?」

 

客引きに出ていた、当の神谷が戻って来た。

 

その恰好は、下半身は裾がボロボロになっているドカン、足には下駄。

 

上半身は晒を巻いた上に、袖が肩口から無くなっている長ラン。

 

頭にはつばがギザギザになっている学帽を被って、その上にどら猫の様なボロボロのネコ耳を付け、口には先の方に葉っぱが付いた茎を咥えていると言う………

 

ネコ耳の部分を除いて、まるで漫画からそのまま飛び出して来た様な『番長』の恰好をしていた。

 

「あ、アニキ! お疲れ!!」

 

「おう。繁盛してるみてぇだな」

 

「アニキが客引きしてくれてるお蔭だよ、きっと」

 

繁盛している様子を見てそう言う神谷に、一夏はそう返す。

 

出し物を決めた際に、神谷は接客など出来そうにないというクラス全員の意見と本人の弁もあり、接客では無く客引きの仕事に就いていた。

 

実際、神谷の恰好が目立つものであったのと、神谷自慢の強引な誘いで、客引きはそれなりに上手く行っている。

 

「しかし、何でお前は番長スタイルなのだ?」

 

「知らねえよ。衣装を届けに来た奴が俺を見るなりこっちの衣装を寄越しやがったんだ。まあ、気に入ったけどな」

 

ラウラに尋ねられて、神谷はそう返事を返す。

 

「良いな~、アニキ。俺もそっちが良かったなぁ」

 

と、一夏がポツリとそう漏らすと………

 

「「「「「「「「「「それだけは絶対に止めて!!」」」」」」」」」」

 

1組の生徒達と、客として来ていた他のクラスの生徒達が、声を揃えて一斉にそう言って来た。

 

「うわっ!?」

 

その声に一夏は驚く。

 

(神谷くんは似合ってるし、本人も気に入ってるから別に良いけど………)

 

(一夏くんのあんなダサい格好なんて見たくないわ!!)

 

困惑する一夏を尻目に、小声でそう話し合う生徒達だった。

 

「何だってんだよ?」

 

「ちょっと、そこの執事。テーブルに案内しなさいよ」

 

すると、そんな一夏にそういう声が掛けられた。

 

「おう、鈴………何してるの、お前?」

 

振り返った一夏は、鈴の姿を見てそう言う。

 

鈴の現在の恰好は、チャイナドレスを纏った姿だったからだ。

 

「う、う、煩い! うちは中華喫茶やってんのよ!!」

 

「そうなのか。飲茶って奴だな」

 

「アタシがウェイトレスやってるってのに、隣のアンタのクラスのせいで全然客来ないじゃない! って言うか、何よネコ耳ご奉仕喫茶って!? 誰よ、こんな馬鹿な企画考えたの!!」

 

「馬鹿とは何だ、馬鹿とは!? 前衛的なサービスに溢れた独創的な店じゃねえか!!」

 

鈴の発言に、神谷が噛み付く。

 

「神谷!? アンタなの!? とうとう脳がイカレちゃったの!?」

 

「んだと、コラァ!? やんのかぁ!?」

 

「上等じゃない! 掛かって来なさい!!」

 

すると、鈴は何処からともなくヌンチャクを取り出し、構えを取る。

 

「吐いた唾飲むんじゃねえぞ!!」

 

神谷も神谷で、何処からとも無く愛用の長刀を取り出した。

 

「ちょっと! アニキ、ストップ!! 鈴も止めろって!!」

 

慌てて止めに掛かる一夏だったが………

 

「良いぞ良いぞ~!」

 

「やれやれ~!!」

 

「ええっ!?」

 

如何やら客は、店の演出と思っている様で、無責任に囃し立て始めている。

 

「ど、どうすれば………?」

 

「ホラホラ、鈴。折角来たんだから、座って座って。神谷も一休みに来たんでしょ? 今お茶淹れるから待ってね」

 

一夏が戸惑っていると、シャルがそんな2人の雰囲気など気にせず、そう言って来た。

 

「ちょっと! 邪魔しないでよ、シャルロット!!」

 

「まあまあ、鈴………」

 

収まりが効かなそうな鈴だが、シャルはそんな鈴に近づき………

 

(『執事にご褒美セット』を頼むと、一夏が食べさせてくれるサービスがあるよ)

 

(!?)

 

それを聞いた鈴は………

 

「一夏! 何やってんの!? 早く注文聞きに来なさい!!」

 

「!? 何時の間に!?」

 

何時の間にか席に着席し、一夏に注文を催促したのだった。

 

「一夏! 早く!!」

 

「わ、分かったよ! 今行くよ!!(シャルロットの奴………何言ったんだ?)」

 

一夏は、どうやってシャルが鈴を収めたのか気になりながらも、鈴の注文を伺いに行く。

 

「チッ! 何だよ、拍子抜けさせやがって………」

 

「まあまあ、神谷。今日はお祭りなんだからさ」

 

不完全燃焼で、イマイチ煮え切らなかった神谷は、長刀を背の鞘に戻しながらそう呟き、そんな神谷をシャルが宥める。

 

「それもそうだな………」

 

「と、ところでさぁ、神谷」

 

「ん?」

 

「ぼ、僕のこの恰好………如何………かな?」

 

シャルは自分が着ているメイド服と、装着しているネコ耳について神谷に尋ねる。

 

「ふむ………」

 

神谷は、ジッとシャルを足の爪先から頭頂部まで観察する様にジッと見る。

 

「ど、如何?」

 

「良いじゃねえか。このまま持って帰りたくなっちまうぜ」

 

「ふえええっ!? お、お持ち帰りぃ!?」

 

神谷のその発言に、シャルは顔を真っ赤に染める。

 

「そ、そんな、神谷………駄目だよ。僕達まだ高校生なのに………」

 

照れながらそう呟くシャルだったが………

 

「ねえねえ、神谷! アタシは如何かな!?」

 

「おう! オメェもスゲェ似合ってるぜ! ハマリ役だな!」

 

「ニャハハハッ!!」

 

「…………」

 

神谷がティトリーにもそんな事を言っているのを見て、一瞬で不機嫌になった。

 

「………フンッ!」

 

するとシャルは、神谷の足を踏み付けた!

 

「アイダッ!? 何だよ!?」

 

「べっつに~」

 

突然足を踏み付けられ、困惑する神谷と、頬を膨らませてそっぽを向くシャル。

 

((((((((((………他所でやれ、バカップル))))))))))

 

そしてそんな2人の様子に、口から砂糖を吐きそうになる1組生徒と客達だった。

 

「お熱いね~、御2人さん。あんまりお熱いと此処の居る人達、皆砂糖吐いちゃうよ~」

 

すると、それを直に2人に言い放つ者が現れる。

 

「!? 貴女は!?」

 

「んだよ? またお前か?」

 

シャルが驚き、神谷がうんざりした様な表情を浮かべる。

 

「楯無さん!? 何でメイド服!?」

 

と、一夏もその姿を見つけ、楯無がメイド服姿である事を突っ込む。

 

「気にしない、気にしない。あ、私にもお茶くれる?」

 

そんな一同の視線を華麗に無視すると、楯無はそう言いながら席に腰掛けた。

 

「………手伝う気は無いんですね。分かりました」

 

一夏が呆れた様に呟きながら、楯無からの注文を受け付ける。

 

と、そこへ………

 

「どうもー! 新聞部でーす! 話題の織斑執事を取材しに来ましたー!!」

 

そう言いながら、新聞部のエース『黛 薫子』が店内に姿を見せる。

 

「あ、薫子ちゃんだ! やっほー」

 

「わお! たっちゃんじゃん! メイド服も似合うねー。あ、どうせなら、織斑くんとツーショット頂戴」

 

「いえい!」

 

薫子がそう言うと、楯無は既に立ち上がり、一夏の傍に行き、ピースサインを決めていた。

 

しかし………

 

それが呼び水になったかの様に………

 

一夏のラヴァーズが、挙って自分も一夏とツーショットを取りたいと言い出し………

 

店内は一時、撮影所状態となる。

 

 

 

最初に権利を得たのはセシリア。

 

他の一同に見せつけるかの様に、腕を絡ませてのツーショットを撮影してもらった。

 

 

 

続いてはラウラ。

 

身長差がそれなりにある為、抱っこして欲しいと一夏に強引に強請り、漸く抱っこしてもらった際には、実に幸せそうな表情となり、その瞬間を見逃さずにシャッターが切られる。

 

 

 

続いては鈴。

 

その場に居合わせたので、勢いで一緒に取って貰える事になったのである。

 

ポーズについては、彼是揉めた末………

 

一夏の背中に飛び付いた瞬間を撮影して貰い、実に満足気な表情を見せた。

 

 

 

そして、最後は箒である。

 

「…………」

 

「如何したんだ? さっさと写真撮っちまおうぜ」

 

何やら沈黙していた箒に、一夏がそう声を掛ける。

 

「こ、この様な恰好の写真が残るのは避けたいのだが………」

 

如何やら、メイド服+ネコ耳姿の写真を撮られる事に抵抗がある様だ。

 

「何だよ。俺だって似た様なもんなんだから………」

 

「似ていない! 全然違う! 大体お前は!………」

 

「はいはい、分かったから。お店も忙しいし、早くやっちゃおうぜ」

 

何か言おうとした箒を遮り、一夏は箒の手を取る。

 

「て、て、手を握るなっ!」

 

いきなり手を握られた箒は、振り解こうと暴れる。

 

「あ、暴れるなよ!!」

 

「うっ、煩い! 煩い!」

 

激しく抵抗する箒。

 

すると………

 

握っていた一夏の手がすぽ抜け、支えを失った箒の身体が倒れそうになる。

 

「あっ?」

 

「! 箒!!」

 

その瞬間、一夏は自分でも驚く程の反応とスピードで、倒れそうになっていた箒の傍に寄ると、そのまま背に左腕を回し、浮き上がりかけていた足の膝裏に右腕を差し込んで、お姫様抱っこで抱き上げた。

 

「「………えっ!?」」

 

「シャッターチャンスッ!!」

 

一夏と箒が同時に驚きの声を挙げた瞬間、薫子がカメラのシャッターを切った。

 

「ありがとう、一夏く~ん。お蔭で良い写真が撮れたよ~」

 

「え、あ、ああ、そうですか………」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!!」

 

呆然としている一夏に対し、トンでもない写真を撮られた箒は、慌てて薫子に詰め寄る。

 

「大丈夫、大丈夫。校内新聞には使わないであげるから」

 

「そういう問題じゃないんです! 今の写真は無しです! 消して下さいー!!」

 

箒は、必死に薫子からカメラを奪おうとするが、薫子は華麗に回避する。

 

「それじゃあ、次はシャルロットちゃん、行ってみようかぁ?」

 

そして色んな意味で疲れ果てた箒を尻目に、薫子は今度はシャルロットにそう声を掛けた。

 

「あ、ハイ。えっと………僕は、神谷とで良いですか?」

 

「えっ? 神谷くんと?………ま、まあ、シャルロットちゃんがそれで良いなら良いけど………」

 

「ハイ! 神谷、お願い!」

 

「おうよ! そんじゃ、ポーズはこんなんで如何だ?」

 

「!? うわぁっ!?」

 

と、そう言うや否や、神谷はシャルを抱き上げたかと思うと、そのまま右肩に座らせて担いた。

 

「まあっ!?」

 

「何とっ!?」

 

セシリアとラウラが驚きの声を挙げる。

 

「相変わらず無駄に馬鹿力ね………」

 

「全くだ………」

 

鈴と箒は呆れる様な声を漏らす。

 

「スゲェ! 流石だぜ、アニキ!!」

 

只1人、一夏は相変わらず尊敬の眼差しで神谷を見ていた。

 

「おおう!? これは迫力有るねえ! それじゃ、ハイ、チーズ!!」

 

「ブイッ!!」

 

「あううう………」

 

ノリノリでVサインを出す神谷と、終始照れた表情を浮かべるシャル。

 

「いや~、思った以上に良い写真が撮れたよ~。じゃあ、最後はティトリーちゃんね」

 

「あ、あの………」

 

薫子がそう言うと、ティトリーは何か言いたげな表情をする。

 

「ん? 如何したの?」

 

「ア、アタシはその~………ツーショットとかより、皆と一緒の写真を撮りたいなぁ~って」

 

遠慮しがちにそう言うティトリー。

 

「あ~、成程ね~。うん、それも良いね。じゃあ皆! 集まって~!」

 

すぐさま薫子は神谷達にそう呼び掛ける。

 

「貴様、退けぇ!!」

 

「貴女こそお退きなさい!」

 

「ちょっ!? お前等、引っ張るな!!」

 

一夏の隣を争って、一夏を左右から引っ張り合う箒とセシリア。

 

「ちょっと! 何デレデレしてんの!?」

 

「お前は私の嫁だろうが!!」

 

更に後ろからはチョークスリーパーを掛ける様に鈴がしがみ付いて来て、ラウラも前から抱き付いて来る。

 

「ぐううぅぅぅぅ………」

 

色んな意味で限界な状況に、一夏の顔が青褪めて行く。

 

「ハ~イ。織斑くんが限界になる前に、皆さんポーズをお願いしますね~」

 

しかし、薫子は笑顔を浮かべたまま撮影準備を整える。

 

「ホラ、オメェも来い、生徒会長!」

 

「あ、ちょっと!?」

 

「ティトリー! オメェはそこで生徒会長とだ!!」

 

「ええっ!?」

 

そして神谷は、何を思ったのか楯無とティトリーを並ばせている。

 

「ア、アハハ………どうも」

 

「…………」

 

苦笑いしているティトリーに対し、楯無は複雑そうな表情を浮かべる。

 

「ホラ、シャル。もっと寄れ。写らねえぞ」

 

「う、うん………」

 

そして、嗾けて置いて放置し、神谷はシャルを傍に寄せていた。

 

「それじゃ行くよーっ! ハイ、チーズ!!」

 

そしてそのまま、カメラのシャッターは切られのだった。

 

 

 

 

 

その後、楯無が手伝いをすると名乗り出てくれたので、一夏は少し休憩を取り、招待券で招待した悪友の弾を迎えに行く。

 

神谷も、再び客引きへ行く序にと付いて行く。

 

「ちょっと良いですか?」

 

すると、そんな一夏に声を掛ける人物が居た。

 

「はい?」

 

「失礼しました。私、こういう者です」

 

一夏が若干戸惑いながら振り返ると、スーツ姿の女性が名刺を差し出して来る。

 

「えっと………IS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当・巻紙 礼子………さん?」

 

「ハイ。織斑さんに是非、我が社の装備を使っていただけないかと思いまして」

 

(ああ………またこういう話か………)

 

一夏は平静を装いながらも、内心で「またか」という気持ちになる。

 

世界で唯一ISを動かせる男性である一夏の元には、宣伝の為に自社の製品を使って欲しいと言う依頼が殺到しているのだ。

 

なお、グレンラガンはISであると世間には公表してる神谷にも同じ事が言えるかもしれないが………

 

そちらへの取り次ぎは、全て千冬が(物理的にも)シャットアウトしている。

 

まだグレンラガンがISでないと世界に知られるワケにはいかないのだ。

 

しかし、白式のコアが後付けの武器を拒絶している為、実質武器の装着は不可能なのである。

 

雪羅は以前一夏がシャルのライフルを借りて射撃を行った経験から、白式が独自に作り出したものであると推測されている。

 

「いや、あの………」

 

「何やってんだ、一夏! 弾の奴が待ちくたびれちまうぞ!!」

 

一夏が何か言おうとしたところ、神谷が一夏の腕を摑んで強引に連れ始めた。

 

「うわぁっ!? す、すみません!!」

 

「あ、ちょっと!」

 

礼子が呼び止める間も無く、一夏と神谷は去って行ってしまう。

 

「………チッ」

 

すると、2人の姿が見えなくなった後………

 

礼子は苦々しげな表情で舌打ちをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・正面ゲート前………

 

「ふ、ふ、ふっ」

 

弾は、込み上げそうになる笑いを必死に押し殺していた。

 

「遂に、遂に、遂にっ! 女の園! IS学園へと………キタ━━ッ!!」

 

しかし、堪え切れずにどこぞのスイッチで変身する宇宙ライダーの様な声を挙げる弾。

 

実は遡る事、3日前………

 

弾は一夏から、外部の者がIS学園の学園祭に参加する事が出来る招待券を貰っていたのである。

 

招待券を貰えると一夏から言われた際の弾は、正に天元突破せん程のテンションとなっていた。

 

精一杯決めた恰好をして、今は招待してくれた一夏を待っている。

 

「しっかし………」

 

弾はふと、ゲートから学園内を見やる。

 

「「「…………」」」

 

数人の生徒と目が在ったが、その内の何人かがサッと逃げ出す様な態度を取った。

 

「………何か俺、変なのかな?」

 

その様子が気になり、自分の恰好をチェックする弾が、特におかしな所は見当たらない。

 

………いや。

 

本人は全くおかしくないと思っているが、1つだけ生徒達が彼を敬遠する理由を作っているモノがあった。

 

それは………

 

私服の背中に堂々と刻まれている、グレン団のマークである!

 

IS学園の不良として名を通らせている神谷は、入学からかなり経った今でも、その容姿や言動、行動から嫌っている生徒がかなり多い。

 

その為、彼と同じマークをしている弾を警戒しているのだ。

 

「はあ~~、何かヘコむな~………」

 

弾は肩を落として溜息を吐く。

 

「いい加減にして下さい!!」

 

するとそこで、凛とした声が聞こえて来た。

 

「??」

 

弾が、その声が聞こえて来た方向を見やると、そこには……

 

「い~じゃねえかよ~、ちょっとぐらい」

 

「招待券の無い人を学園内に入れるワケには行きません!」

 

「固い事言うなよ~、姉ちゃん」

 

正面ゲートで入場客の受付をしていた虚が、6人ぐらいの不良かチンピラと思わしき男達に絡まれていた。

 

如何やら、招待券が無いにも関わらず、学園に入れろといちゃもんを付けているらしい。

 

(アッチャ~、最近また増えたよなぁ~、ああいう連中………)

 

その連中を見ながら、弾が内心でそんな事を思う。

 

ISの登場で女尊男卑の風潮が広まっていたこの世界だったが、ロージェノム軍の登場でISが何度も撃墜され、通常兵器の再配備と男性軍人の復帰が進むと、勘違いして幅を利かす男が出始めていた。

 

「じゃあよ~、姉ちゃんが俺達の相手してくれよ。それで勘弁してやるぜ」

 

「ふざけないで下さい! いい加減にしないと警察を呼びますよ!!」

 

不良達のいちゃもんや誘いにも、凛とした態度を崩さない虚。

 

「まあまあ、そんな事言うなよ~」

 

と、不良の1人がそう言いながら、虚の腕を取る。

 

「! 触らないで下さい!!」

 

そこで我慢が限界に達したのか、虚はその手を振り払うと、そのままその不良に平手打ちを見舞った!

 

「イテッ!?」

 

「あっ!?」

 

やってしまってから、「しまったっ!?」と後悔する虚だったが、時既に遅し。

 

「この………クソアマァッ!!」

 

逆上した不良は、拳を振り被って、虚を殴り付けようとする。

 

「キャアッ!?」

 

虚は思わず目を閉じる。

 

「グアアッ!? イデデデデデデッ!?」

 

「? えっ!?」

 

しかし、衝撃が来るかと思われたが、来たのは不良の悲鳴であり、驚いた虚が目を開けると………

 

「お前等さあ、それでも男か? カッコ悪いぞ」

 

弾が、虚を殴ろうとしていた不良の腕を摑んで、後ろ手に捻っていた。

 

「な、何だ、テメェは?」

 

「お前等こそ、俺を誰だと思ってやがる? 俺はグレン団の特攻隊長、五反田 弾様だぜ」

 

痛がりながら問い質す不良に、弾はそう言う。

 

「えっ!? グレン団!?」

 

グレン団と言う単語を聞いた虚が驚きを示す。

 

「離れてて下さい。危ないですよ」

 

と、そこで弾が、虚に向かってそう言う。

 

「! ハ、ハイ!」

 

その言葉で、虚は不良達と弾から距離を取った。

 

「よっ、と」

 

それを確認すると、弾は後ろ手に腕を固めていた不良を解放する。

 

「イデデデデッ!? チキショウーッ! ふざけやがって!! やっちまえっ!!」

 

「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」」」

 

腕を固められていた不良がそう言うと、5人の不良達が弾に向かって行った。

 

「へっ」

 

だが、弾はフッと笑うと、最初に掛かって来た不良が繰り出して来たストレートパンチをしゃがんで躱し、そのまま踏み込んで不良のボディに強烈なボディブローを見舞う!

 

「ゴハッ!?」

 

胃液を吐き出してノックアウトされる不良。

 

「せりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

続く不良が、今度はハイキックを繰り出して来たが、弾はそのキックを難無く受け止める。

 

「そりゃっ!!」

 

そしてそのまま、ドラゴンスクリューで投げ飛ばす!

 

「ガフッ!?」

 

不良は地面に叩き付けられて動かなくなる。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

 

続く不良が、まだ地面に寝たままだった弾の顔面目掛けて足を振り下ろして来たが………

 

「おっと!」

 

弾は背中を地面に付けたまま、駒の様に回転して躱し、そのまま不良の足を水面蹴りで払った!

 

「うおっ!」

 

不良が頭から地面に叩き付けられるかと思われた瞬間に、回転の勢いに乗って立ち上がった弾が、浮いていた不良の足を摑み………

 

「ほいっ!!」

 

その後から殴り掛かろうとして来ていた不良目掛けて投げ付けた!

 

「「ぐばあっ!?」」

 

投げ飛ばされた不良は、ぶつけられた不良と折り重なって倒れる。

 

「うがああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

「!!」

 

最後の不良が摑み掛ろうとして来たが、弾は跳躍すると、月面宙返りを決めながら、不良の肩の上に肩車される様に着地。

 

「そらっ!!」

 

そのままフランケンシュタイナーで地面に叩き付ける。

 

「ガフッ!?」

 

「何だ、もう終わりか? 歯応えがねえなぁ………」

 

首の骨を鳴らしながら、倒れている不良達に向かって、弾はそう言い放った。

 

「テ、テンメェ………」

 

すると、虚を殴ろうとしていた不良が、ポケットから折り畳み式ナイフを取り出した!!

 

「! 危ない!!」

 

「あん?」

 

「死ねえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

虚の叫びで、残っていた不良の1人が、ナイフを持って突っ込んで来ている事に気づく弾。

 

そのまま不良が、弾にぶつかる!

 

弾と不良の間の地面に、血がポタリと垂れる………

 

「!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

弾が刺されたと思って、虚は悲鳴を挙げる。

 

何時の間にか集まってギャラリーと化していた生徒達の顔も青褪める。

 

しかし………

 

「………残念だったな」

 

次の瞬間には、弾は不敵に笑ってそう言った。

 

「ひ、ひいいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!?」

 

不良が、ナイフを手放して尻餅を着く。

 

そこで漸く状況が露わになる。

 

何と!!

 

弾はナイフの刃を素手で摑んで受け止めていた!!

 

当然、受け止めている右の掌が切れて、血が流れているが、弾は痛がっている様子は見せていない。

 

「う、うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

と、自分で刺しておいて恐ろしくなったのか、逃げ出す不良。

 

「へ、ヘッドォッ!」

 

「待ってくだせえ~!」

 

弾にやられた不良達も次々に起き上がり、逃げた不良の後に続く。

 

「やれやれ………ビビるんなら、最初から凶器なんか使うんじゃねえよ」

 

握っていたナイフを捨てると、弾は愚痴る様にそう言う。

 

「あ、あの!!」

 

そこで、虚が弾に声を掛ける。

 

「ん? ああ、大丈夫でしたか?」

 

「それはコッチの台詞です!!」

 

弾が笑顔で虚にそう言うと、虚からそう言うツッコミが帰って来た。

 

「ああ、もう! こんなに血が!!」

 

「大丈夫ですよ、唾付けとけば治りますから」

 

「そんな怪我じゃないでしょう! 取り敢えず、コレで………」

 

と、虚はポケットからハンカチを取り出すと、血を流していた弾の手に巻き付ける。

 

「あ、いや、そんな事をしてもらう必要は………」

 

「ちょっとジッとしていて下さい!」

 

弾の声を聞き流し、虚はしっかりとハンカチを包帯代わりに巻き付けて行く。

 

(うわっ………良く見ると、この人………スッゲェ、美人………いや、可愛い!)

 

結果的に虚の顔を至近距離で見る事になってしまった弾は、虚の美しさと可愛らしさを見て、思わず頬を染める。

 

「これで良し。後は保健室で………」

 

と、そこで虚が弾の顔を見て、赤くなっている事に気づく。

 

「? 如何したんですか?………あ?」

 

そう尋ねた瞬間、自分が弾の手を握ったままなのに気づく虚。

 

「す、すみません!!」

 

「ああ、いや、こちらこそ!!」

 

虚が慌てて飛び退き、互いに謝罪し合う形となる2人。

 

「え、えっと、その………あ、ありがとうございました………」

 

「あ、いや………何て事無いッスよ、アレくらい」

 

虚は顔を伏せたままそう言い、弾は左手で頭を掻く。

 

と、そこへ………

 

「おーい、弾!」

 

「何かあったのか?」

 

騒ぎを聞き付けたかの様に、一夏と神谷が姿を見せた。

 

「あ、一夏! アニキも!」

 

「アレ? 虚さん?」

 

「あん? オメェ、確かのほほんの………」

 

と、そこに虚の姿までが在って、一夏と神谷は驚く。

 

「ど、どうも………」

 

一方の虚は、神谷の姿を見た瞬間、若干退く。

 

「それで、何があったんだ?」

 

「いや、馬鹿な不良が居たから、ちょいと捻ってやったんだけど………油断して怪我しちゃってさぁ」

 

一夏の問いに、右手に巻かれたハンカチを見せながらそう言う弾。

 

「オイオイ、大丈夫か?」

 

「大した事無いって」

 

「何言ってるんですか! さ、来てください! 保健室へ案内しますから!」

 

そこで虚が、思い出した様にそう叫び、弾を保健室へ連れて行こうとする。

 

「あ、いや、ちょっと待ってもらえませんか!? 一夏とアニキに………」

 

「弾。俺は良いから、ちゃんと治療してもらって来い」

 

するとそこで、神谷が弾にそう言う。

 

「アニキ。でも………」

 

「良いから、良いから………」

 

と、神谷はそう言うと、弾の耳元に近づき………

 

(折角のチャンスじゃねえか。その女、しっかりとものにしてみな)

 

(!? アニキ!?)

 

そう言われて、弾は驚いた表情で神谷を見遣る。

 

「フッ」

 

神谷は不敵に笑って、虚からは見えない様にサムズアップする。

 

「………ありがとう、アニキ」

 

「おう!」

 

弾は神谷に礼を言うと、虚に連れられて保健室へと向かったのだった。

 

「弾の奴、ついてないな………折角IS学園の学園祭に来たってのに、イキナリ保健室行きだなんて………」

 

「そうでもねえさ。あの野郎、良い思いしてんじゃねえか」

 

弾を憐れむ一夏だったが、神谷はそう言い返す。

 

「えっ? 如何言う事、アニキ?」

 

「そいつは自分で考えな。自分と………あと、箒達の為にもな」

 

首を傾げる一夏に、神谷は学ランの裾を翻すと、そのまま正面ゲートから立ち去り始めた。

 

「ちょっ!? 待ってよ、アニキ! 如何言う事なのさー!!」

 

ワケが分からないまま、アニキの後を付いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

いよいよ始まった学園祭。
神谷の提案した猫耳メイド喫茶は、意外にも大好評です。

そんな中姿を見せた巻紙 礼子………
ご存じの通り、彼女です。
詳細は後に語りますが、彼女は残党としてロージェノム軍とは別の勢力として活動してもらう予定です。
更に、『彼女』にも出番が………

そして今回、ISで地味に好きな弾×虚のカップリングが描写出来ました。
このカップル好きなんですよね。
今後も色々と見せてくれるカップルになりますので、応戦してやって下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第29話『良く言ったぜ! 生徒会長さんよぉ!!』

遂にガルパン最終章第2話公開!

今日見に行きます。

1年半……長かったなぁ。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第29話『良く言ったぜ! 生徒会長さんよぉ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神谷や一夏と一緒にIS学園の学園祭を一緒に見て回る予定であった弾が、トラブルで保健室行きとなってしまった。

 

尤も………

 

本人は虚とフラグを立てられた様で御満悦の様子であったが………

 

その後、ネコ耳ご奉仕喫茶から、一夏が居ないと言う苦情が続出しているとの連絡が入る。

 

一夏が居なくなった後、ヘルプで手伝ってくれていた楯無が、生徒会の仕事があると急に立ち去ってしまったらしい。

 

何とも無責任な話である。

 

止むを得ず、一夏は店へと戻り、神谷は再度の客引きに向かう事にしたのだった。

 

 

 

 

 

IS学園・敷地内………

 

「1年1組名物! ネコ耳ご奉仕喫茶だ! 寄って行って損はねえぜ! 今なら特別サービスをしてやらねえ事もねえぞ!!」

 

若干怪しげな宣伝文句を謳いながら、看板を片手に客引きをして回っている神谷。

 

「あ、あの! それって、織斑くんもネコ耳を付けてるんですか!?」

 

と、1人の生徒が、神谷に恐る恐ると言った様子でそう聞いて来る。

 

「いや、一夏は犬耳だぜ」

 

神谷は、そんな生徒の様子を気にする事も無くそう答える。

 

「行きます! すぐ行きます!!」

 

それを聞いた生徒は、そう言うや否や1年1組の教室まで走り出したのであった。

 

「やれやれ、時々アイツのモテっぷりは異常じゃねえかと思うぜ」

 

走って行った生徒を見送りながら、神谷は客引きを続ける。

 

その後も似た様な事を訊いてくる生徒が続出し、その度に走って1年1組の教室を目指して行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

「あ~、疲れたぜ………ちょいと一休みするか」

 

広大なIS学園の敷地内を6周近くした神谷は、額に少し浮かんだ汗を拭うと、休憩所を見つけてそこへ駆け込んだ。

 

「んぐっ………んぐっ………プハーッ!」

 

水飲み場で水を飲むと、ベンチに腰掛ける神谷。

 

「ふわああぁぁぁ~~~~………何だか眠くなってきやがったな………一眠りするか」

 

と、そのままベンチに寝転び、学帽を顔に被せる。

 

「………ZZZZZZzzzzzzz~~~~~~~~」

 

暫くすると、規則正しい寝息が聞こえて来た。

 

すると………

 

神谷が寝ている休憩所の近くの茂みが、ガサガサと音を立てる。

 

「………ニャ」

 

そして、メイド服姿のティトリーが顔を出した。

 

「…………」

 

ティトリーは、そ~っと神谷の傍に近づいてくる。

 

その視線は神谷の胸元………

 

首から下げられているコアドリルに注がれている。

 

(………コレを螺旋王様に届ければ………アタシは処分されずに済む………)

 

そう思いながら、ティトリーはコアドリルへと手を伸ばす。

 

しかし、いざコアドリルを摑もうとした瞬間、手が止まってしまう。

 

「…………」

 

複雑な表情で、ティトリーは神谷を見遣る。

 

(でも………でも、神谷は………)

 

楯無から自分を庇ってくれた神谷の姿が脳裏に甦る。

 

と、そこへ………

 

「神谷~!」

 

「!?」

 

神谷を呼ぶ声が聞こえて、ティトリーは慌てて再び茂みの中へ隠れた。

 

「神谷! 駄目だよ、こんな所で寝てたら!」

 

声の主のネコ耳メイド服姿のシャルは、寝ている神谷の姿を発見すると、身体を揺さぶって起こそうとする。

 

「ん? んん~………ああ、何だ、シャルか………」

 

目を覚ました神谷が、シャルの姿を見てそう呟きながら起き上がる。

 

「もう、駄目だよ。こんな所でサボっちゃ」

 

「ちょいと休憩だよ。お前こそ店は如何したんだよ?」

 

「こっちも休憩。ずっとお客さんラッシュだったからね。1時間ほど休憩して、体勢を立て直すんだって」

 

「そっか………んじゃ、どうせだし、2人で学園祭を見回るか」

 

「うん、良いね! 行こう、行こう!」

 

それを聞くや否や、シャルは神谷の手を取って、やや強引に引っ張り出した。

 

「お、オイ、シャル! 落ち着けって!!」

 

そんなシャルの浮かれ具合に若干苦笑いを浮かべながらも、神谷は連れられて行く。

 

「………ギガンチョ失敗しちゃった」

 

2人の姿が見えなくなった後、茂みから出て来たティトリーがそう呟く。

 

「仕方ない………一夏の方を狙ってみよう」

 

そう言うと、神谷達が向かった方向とは反対の方向に歩き出す。

 

その顔は残念がっている様にも………

 

安堵している様にも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、学園祭デートへ洒落込み始めた神谷とシャルは………

 

料理部の出し物を見に来ていた。

 

「料理部か………何か美味いもんでも食わしてくれるのか?」

 

「パンフレットによると、日本の伝統料理を作ってるらしいよ。折角だから作れる様になりたいなぁ」

 

「そりゃ良い。やっぱ何だかんだで和食が1番うめぇからな」

 

「そう言えば、神谷世界中を旅してたって言ってたよね。やっぱり、彼方此方の料理食べたりしてたの?」

 

「まあな。どっちかってえと、サバイバルして野草や野生動物を仕留めて食ってた事の方が多かったけどな」

 

「そ、そうなんだ………」

 

神谷のワイルドな旅の様子を想像し、シャルは思わず苦笑いを浮かべる。

 

そんな事を言い合いながら、2人は料理部が使っている調理室へと入って行った。

 

「あ! 1度は男子だったと噂のデュノアくんと………ゲッ!? 天上 神谷!?」

 

料理部部長がシャルを見て笑みを浮かべた後、神谷の姿を見て驚愕する。

 

「何ですって!? 天上 神谷!?」

 

「い、命ばかりはお助けをぉ!!」

 

「お父さん、お母さん………先立つ不孝をお許し下さい………」

 

他の部員達も、次々に慌てふためき出す。

 

「ハハハ! モテる男は辛いぜ!」

 

「この状況見て良くそんな事が言えるね、神谷」

 

呵々大笑する神谷と、そんな神谷に呆れた様な声でツッコミを入れるシャル。

 

「あ、あの! これ良かったらどうぞ!!」

 

すると、料理部部長は、まるで許しを請うかの様に販売していた惣菜を差し出して来た。

 

「おっ! くれんのか!? あんがとよ!!」

 

「あの、後でお金払いますね」

 

神谷はそれに遠慮無く手を付け始め、シャルがフォローを入れる。

 

「ガツガツ、モグモグ………カーッ! うめぇな、オイ!」

 

肉じゃが、おでん、煮物に焼き物、和え物が乗っている大皿が、凄い勢いで空になって行く。

 

「「「「コレ何て手品!?」」」」

 

その光景を見た料理部の部員達が、思わずそんなツッコミを入れる。

 

「あ、ホント、美味しい………」

 

その隣でちゃっかりと自分も手を付けていたシャルが、そう感想を漏らす。

 

「! デュノアくん! 良かったらウチに入らない!? もっと色々と美味しい料理の作り方とか教えてあげるよ!!」

 

と、そんなシャルの姿を見た料理部部長が、隙を見逃さずと言った具合に勧誘してくる。

 

「料理部かぁ………ね、ねえ、神谷? 神谷は僕の料理が美味しいと嬉しい?」

 

隣で相変わらず次々に惣菜を平らげている神谷に、シャルはそう尋ねる。

 

「ああ? 当たり前だろ、そんなもん!」

 

神谷は手は止めずに惣菜を頬張りながらそう返事を返す。

 

「そ、そう。そうなんだ。そっかぁ………へへへ」

 

それを聞いて、シャルはニコニコとし出す。

 

((((………リア充、爆発しろ))))

 

そしてそんな2人の様子を見て、内心でそう邪念を飛ばす料理部の部員達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、すっかり惣菜を平らげた(主に神谷が)2人は、そろそろ休憩時間も終わりと言う事で、教室へと戻る。

 

しかし、大盛況だった筈の1年1組は、すっかり客が居なくなって静まり返っていた。

 

見れば、接客を担当していた一夏達の姿が居なくなっている。

 

「何だぁ? 豪く寂れちまってるじゃねえか?」

 

「何があったの?」

 

神谷とシャルが、残っていた生徒にそう尋ねる。

 

「ああ、デュノアさん………それがね………」

 

「また生徒会長が突然やって来て、織斑くん達を掻っ攫って行っちゃったの………」

 

「生徒会の演劇に出すんだって………」

 

残っていた生徒が、一夏を持って行かれたショックからか、意気消沈した様子でそう答える。

 

「んだよ、またあの生徒会長か?」

 

「生徒会の演劇って………何処でやってるの?」

 

神谷が呆れた声を挙げ、シャルが続けてそう尋ねる。

 

「確か………第4アリーナだって言ってたよ」

 

「ったく、仕方ねえ………取り返しに行くか」

 

それを聞いた神谷は、楯無から一夏を取り返そうと、第4アリーナへ向かう。

 

「僕も行くね、神谷」

 

シャルもそんな神谷に付いて行く。

 

「「「「「頑張って~!!」」」」」

 

一夏を取り返してくれるという事から、普段神谷を敬遠している生徒までもが、背中に向かってそう声を掛けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

第4アリーナでは………

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!? 助けてくれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「待てええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」」」

 

アリーナ内一杯に造られたセットの上を、王子様の恰好をした一夏が、ドレス姿の箒、セシリア、鈴、ラウラから必死に逃げ回っていた。

 

何故こんな事になっているかと言うと、話は少し遡る………

 

 

 

 

 

楯無によって、生徒会の演劇へ強制参加する事になってしまった一夏。

 

演目はシンデレラであり、一夏は王子様役を任される。

 

そこまでは問題無い………

 

原因はこの後である。

 

「昔々、あるところに、ジンデレラと言う少女が居ました」

 

ナレーションを務める楯無がそう言い、劇が開始されたのだが………

 

その直後!!

 

「否、それは最早名前では無い。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵を薙ぎ倒し、灰燼を纏う事さえ厭わぬ地上最強の兵士達。彼女等を呼ぶに相応しい称号………それが『灰被り姫(シンデレラ)』!!」

 

等と言う、とても一般人が知るシンデレラとは思えぬナレーションを楯無は開始。

 

「今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる。王子の冠に隠された隣国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女達が舞い踊る!」

 

最後にそう言った瞬間………

 

舞台上に現れた一夏は、飛刀を構えた鈴、スナイパーライフルを携えたセシリア、タクティカル・ナイフを両手に握ったラウラ、そして日本刀を構えた箒という、物騒極まりないシンデレラ達に追い回される事になった。

 

普段から何かと一夏には攻撃的な彼女達だが、この時は更に殺気立っている。

 

それもその筈………

 

実は劇が始まる前に楯無より、生徒会長権限で………

 

『一夏が被っている王冠をゲットした者に、一夏との同室同居の権利を与える』

 

という、彼女達からしてみれば、正に夢の提案とも呼ぶべき賞品が提示されたのだ。

 

勿論、一夏本人には何も知らされていない。

 

箒達は互いに鎬を削りながら、一夏の王冠の奪取を狙う。

 

だが、この王冠………

 

頭から離れると電流が流れる仕組みになっており………

 

一度箒達の狙いに気づき、一夏が王冠を捨てて逃げようとしたところ、電流で黒焦げになりかけるという事態が起こっている。

 

止むを得ず、一夏は王冠を被ったまま、事情を知らない殺気立つ4人のシンデレラから逃げ回るしかなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

「何故僕がこんな目にあうのママン! 何も悪い事してないのに、皆が僕を苛めるよママン!!」

 

ショックの余り、一夏はどこぞの人間台風(ヒューマノイド・タイフーン)のガンマンの様な台詞を言い始める。

 

すると、そんな一夏に、更に追い打ちを掛ける様な事態が発生する………

 

「さあ! 只今からフリーエントリー組の参加です! 王子様の王冠目指して頑張って下さい!!」

 

楯無の、そう言うアナウンスと共に………

 

「織斑くん! 大人しくしなさい!!」

 

「私と幸せになりましょう! 王子様!!」

 

「そいつを………寄こせえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

鬼気迫る様な表情を浮かべたシンデレラ達が、一斉にステージ上に現れ、一夏に群がった!!

 

「や、ヤバい!? コイツはヤバいぞ!?」

 

箒達と挟み撃ちにされ、一夏が慌てふためく。

 

「アハハハハハッ! 盛り上がってるねぇ、一夏くん」

 

するとそこで、陽気な笑い声を響かせながら、ナレーターをしていた筈の楯無が、シンデレラの恰好で一夏の傍に現れた。

 

「!? 楯無さん!? 止めて下さい!! 幾ら何でも、こんなの無茶苦茶です!!」

 

「無茶苦茶しても良いじゃない。生徒会長なんだから」

 

一夏の言葉に、楯無は何故かみ〇お風に返す。

 

「ああもう! この人は!!」

 

「ハハハハハッ! さあさあ、逃げないと駄目だよ。一夏くん」

 

と、楯無が笑いながらそう言った瞬間………

 

突如、アリーナ内に爆発音が響き渡った!!

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

「!? 何ごと!?」

 

突然響いて来た爆発音に、生徒達は悲鳴を挙げ、楯無も慌てる。

 

[更識! 聞こえるか!!]

 

するとそこへ、楯無の元へ千冬からの通信が送られてきた。

 

「織斑先生! 何があったんですか!?」

 

[ロージェノム軍の襲撃だ!! 海上と陸地に出現した戦艦タイプの巨大ガンメンから、次々に獣人とガンメン達が射出されて来ている!! 奇襲攻撃で教師部隊の発進が遅れている!! すぐにそこに居る生徒を地下シェルターに避難させるんだ!!]

 

状況の説明を求める楯無に、千冬は早口でそう説明する!!

 

「クッ! 何て事!!………皆! すぐに地下シェルターに避難を!!」

 

と、楯無がステージ上と観客席に居る生徒に向かってそう叫んだ瞬間………

 

「人間は皆殺しだぁ!!」

 

「逆らう奴は殺す! 逃げる奴も殺す!!」

 

アリーナの客席出入り口、更にはISの射出用カタパルトを経由して、アリーナ内にも次々に獣人が姿を現し始めた!!

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

忽ち生徒達はパニック状態となる。

 

「殺せ殺せぇ!!」

 

「螺旋王様の命令だ! 1人も生かして帰すなぁ!!」

 

そんな生徒達は、獣人の恰好の獲物であった。

 

棍棒や石斧と言った原始的な武器や、マシンガンやロケットランチャーと言った近代兵器までバラエティ豊かに装備した獣人達が、生徒へ襲い掛かる。

 

「アイツ等!!」

 

「そうはさせん!!」

 

一夏と箒達は、すぐに自分のISを展開しようとする。

 

するとそこで………

 

「止めなさい! この汚らわしい獣人共!!」

 

アリーナ内に設置されたスピーカーを通して、楯無のそう言う声が響き渡った。

 

見れば、楯無は何時の間にか片手にマイクを握っており、それを通してアリーナ全体に自分の声を響かせたらしい。

 

「何だぁ? 人間のクセに生意気な!」

 

「貴様から先に始末してやる!!」

 

注目を集めてしまった楯無に、獣人達が殺到する。

 

「楯無さん!!」

 

「「「「!?」」」」

 

「折角の学園祭を邪魔して! 何様の積り!! さっさと消えなさい!! このケダモノ共!!」

 

慌てる一夏達だったが、当の楯無は獣人達に群がられても凛とした態度を崩さず、そう言い放つ。

 

「な、何だ、コイツ!?」

 

「お、俺達の事が怖くないのか!?」

 

全くビビる様子を見せない楯無に、獣人達の間に戸惑いの色が浮かぶ。

 

「貴方達! 私を誰だと思っているの!?」

 

そんな獣人達に向かって、楯無は啖呵を切る様にそう叫ぶ。

 

「私は更識 楯無!! 更識家17代目当主であるIS学園最強の生徒会長!! この学園の生徒は皆、私の大切な人!! それを傷付けさせはしないわ!!」

 

IS学園生徒会長としての彼女のプライドが、獣人への恐怖を大きく上回っているのだ!!

 

「良く言ったぜ! 生徒会長さんよぉ!!」

 

するとそこへ、楯無とは別の勇ましい声が聞こえて来る。

 

「!? この声は!?」

 

「!? 天上 神谷!?」

 

一夏と楯無が驚きを露わにした瞬間………

 

アリーナ内に造られたセットに仕込まれていたスモーク装置が作動し、アリーナ一体が煙幕に覆われた。

 

「キャアッ!?」

 

「な、何だぁっ!?」

 

突然噴き上がった煙に、生徒達も獣人達も驚いて動きが止まる。

 

「えほっ! えほっ! 何だ、コレは!?」

 

「楯無さんは!? 楯無さんは無事か!?」

 

箒が噎せている中、一夏がそう叫ぶと、徐々に煙幕が晴れて行く………

 

そこに広がっていたのは………

 

「やいやいやいやい! 獣人共!! これ以上の悪行! 天が見逃しても、この俺が許しちゃおけねえ!!」

 

神谷が、楯無を守る様に獣人達の前に立ちはだかり、番長の恰好から何時もの赤マント姿となり、長刀を天に向かって掲げる様に構えている光景だった。

 

「「「「「えええぇぇぇぇ~~~~~っ!?」」」」」

 

思わぬ展開に、一夏達は口を大きく開けて驚きを露わにする。

 

「あ、貴方………」

 

「天に煌めく星々に! 誓った夢こそ違えども! 同じ星見るその瞳………あ! 守って見せよう、男意地! 天下に轟くグレン団の神谷様たぁ、この俺の事よ!!」

 

驚いている楯無を尻目に、神谷は口上を述べる!

 

「シャル! のほほん! もっと俺にスポットを集めろ!!」

 

「ほ~い! でゅっちー、そっちの照明、もうちょっと右ね」

 

「あ、うん………何でこんな事やってるんだろう?」

 

神谷がそう言うと、ステージの上に居たのほほんとシャルが、神谷に照明を集める。

 

「やいやい、獣人共! 刀の錆になりたい奴から、掛かって来い!!」

 

「ぬううっ!? 奴が噂のグレンラガンか!?」

 

「ええい! ビビるな!! 数なら俺達が上だ!!」

 

神谷の啖呵に、獣人達は怯む様な様子を見せるが、数の有利もあって踏み留まる。

 

だが………

 

「そうはさせるか! 白式!!」

 

「紅椿!!」

 

「ブルー・ティアーズ!!」

 

「甲龍!!」

 

「シュヴァルツェア・レーゲン!!」

 

そこで一夏達が、其々に自分のISを起動。

 

光に包まれたかと思うと、ISを装着した状態で獣人達の前に立ちはだかる。

 

「こ、コイツ等!? 専用機持ちか!?」

 

「マズイ! 本当にマズイぞ! IS専用機の強さは一騎当千だ!!」

 

「ええい! 一旦退くぞ!!」

 

すると獣人達は忽ち分が悪くなったと感じ、アリーナから撤退を始めた。

 

「へっ! 口程にもねえ奴等だぜ!」

 

「貴方………如何して? 私の事を嫌ってたんじゃないの?」

 

それを見た神谷がフッと笑い、楯無がそう言う。

 

先日は獣人の少女のティトリーを自分から庇い、そして今はその自分を獣人から庇っている。

 

神谷の行動理念がまるで理解出来ず、困惑する。

 

「別に嫌ってなんざいねえさ」

 

「えっ?」

 

そこで、神谷から齎された意外な言葉に、楯無は目を丸くした。

 

「オメェも俺と同じだろ。俺はグレン団のリーダーだ。団員達の命は死んでも守ってみせる。お前にとっては、この学校の生徒達全員がそうなんだろ! 楯無!!」

 

そこで神谷は初めて、楯無の名前を口にする。

 

「天上………神谷」

 

楯無もそう言われて、フッと笑みを浮かべた。

 

「如何やら貴方………私が思っている以上に大馬鹿で………大きな男だったみたいね」

 

「へっ! 馬鹿は余計だっての」

 

「神谷!」

 

とそこで、照明を担当していたシャルも、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを装着した状態で降りて来る。

 

「良し、お前等! 獣人共を学園から追い出すぞ!!」

 

「「「「「「おおぉーーーーーっ!!」」」」」」

 

神谷の声に、威勢の良い返事を返すと、一夏達は学園の彼方此方へと散らばって行く。

 

「俺も行くぜ!!」

 

神谷もグレンラガンの姿となり、グレンウイングを展開すると、大空に舞い上がった。

 

「私も負けてらんないね………本音!」

 

「ハイハ~イ」

 

楯無が呼び掛けると、ロープを使って降りて来たのほほんが返事をする。

 

「貴女はこのアリーナに居る生徒を地下シェルターに避難させて。私は、獣人達を片付けに行くから!」

 

そう言うと、楯無はミステリアス・レイディを展開する。

 

「りょ~か~い! 会長~! 気を付けてね~~!」

 

「ええ」

 

余っている袖をブンブンと振るのほほんに、楯無は笑みを返すと、神谷達と同じ様に学園中に散らばっている獣人達の排除に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・西方面………

 

森林地帯………

 

「セリャアアッ!!」

 

気合の掛け声と共に袈裟懸けに振るった雪片弐型で、ガンメン・メズーを斬り裂く一夏。

 

「獣人に栄光あれえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

斬り裂かれたメズーは、そう断末魔を挙げると爆発・四散する。

 

「ハア………ハア………大分倒したな………」

 

若干荒くなった呼吸を整えて、一夏はそう言う。

 

見れば、周りには彼が倒したと思われるガンメンの残骸が、無数に転がっていた。

 

「クソッ! またエネルギーが………パワーアップしたけど、白式(コイツ)は相変わらず燃費が悪いからな………」

 

既に残り少なくなり始めているエネルギーを見て、一夏は愚痴る様にそう呟く。

 

「愚痴っててもしょうがないか………次の場所へ………」

 

「ちょっと待って下さい」

 

と、次の場所へ向かおうとした一夏に、声を掛ける人物が居た。

 

「えっ!?」

 

一夏が驚きながら振り返ると、そこには………

 

巻紙 礼子の姿が在った。

 

「!? 巻紙さん!?」

 

意外な人物の登場に、一夏は驚きを露わにする。

 

「危ないですよ! 今この学園はロージェノム軍の襲撃されてるんです! こんな所で何やってるんですか!?」

 

一夏は慌てながら、礼子を避難させようとする。

 

「ええ………これを機会に、白式を頂こうと思いまして」

 

「えっ?………!?」

 

礼子が言った言葉の意味が分からず困惑する一夏だったが、続いて発せられた殺気を感じて、慌てて飛び退く!!

 

すると、先程まで一夏が居た場所の地面が抉れた!!

 

「チッ! ガキのクセに良い感してるじゃねえか!!」

 

礼子はそれを見て、蛇を思わせる切れ眼を、邪悪に歪める。

 

何時の間にかその姿はISを纏ったものとなっており、背中から蜘蛛の様な8つの装甲脚が生えていた。

 

「お前! 何者だ!! ロージェノム軍か!?」

 

雪片弐型を油断無く両手で構え、一夏は礼子にそう言う。

 

「ロージェノム!? あんなクソ生意気な連中と一緒にすんじゃねえ!! 私は亡国企業(ファントム・タスク)のオータム様だ!!」

 

ロージェノムの名を聞いた礼子改め、オータムは逆ギレした様な様子を見せて、一夏に向かってそう言い放った。

 

「!? 亡国企業!? そんな馬鹿な!? 亡国企業はロージェノム軍に乗っ取られた筈じゃ!?」

 

相手が亡国企業であると聞いて、一夏は驚く。

 

「うるせぇ! あんなケダモノ野郎共に乗っ取られたままで終わる亡国企業だと思ったのか!? 今一度同志と戦力を集めて、奴等に復讐を果たす!!」

 

「要するに残党って事か………」

 

「うるせぇっ! ガキが生意気ヌカすんじゃねえっ!!」

 

オータムはそう言うと、自分が装着しているIS………『アラクネ』の背中に装着されている8つの装甲脚の砲門から、実弾射撃を見舞って来た!!

 

「チッ!!」

 

一夏は上昇し弾丸の雨を躱す。

 

「逃がすかぁ!!」

 

しかし、オータムは手からエネルギー・ワイヤーを伸ばして来る。

 

エネルギー・ワイヤーは、上昇していた一夏の右足に巻き付く。

 

「!? しまっ………」

 

「オラアッ!!」

 

一夏が雪片弐型で切断しようとするよりも早く、オータムが腕を振り下ろし、一夏を地面に叩き付ける!!

 

「ガハッ!?」

 

肺の空気が一気に吐き出され、一夏は咳き込む。

 

「ガホッ! ガホッ! クソッ!!」

 

「シェエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーッ!!」

 

倒れたままだった一夏に、オータムは両手にカタールを握って跳躍し、奇声と共に急降下して、一夏を串刺しにしようとする。

 

「!!」

 

一夏は咄嗟に、雪羅から荷電粒子砲を放つ!!

 

「ぐうっ!?」

 

あまりダメージを与えられなかったが、落下速度を一時止めた事で、一夏は離脱に成功する。

 

「ムンッ!!」

 

すると一夏は、近くにあった大木を根本から切断。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

それを摑むと、オータム目掛けて投げつける。

 

「効くかぁ! そんなもん!!」

 

飛んで来た大木を、装甲脚で破壊するオータム。

 

「クソッ!(あの装甲脚が厄介だな………慎重に行かないと………)」

 

それを見て、再び雪片弐型を構え直すと、オータムを見据える。

 

「へえ、意外と臆病だな。あん時は結構抵抗してくれたのによぉ」

 

「? あの時?」

 

オータムがふと言った言葉に、一夏は反応する。

 

「オイオイ、忘れちまったのか? 第2回モンド・グロッソ決勝戦の時の事だよ!」

 

「!?」

 

それを聞いた一夏の心に、激情が湧き上がってくる。

 

「まさか、お前………」

 

「そうさ! あん時の作戦の指揮を執ってたのは私さ!! あの忌々しいクソガキさせ来なければ、ロージェノムに足元を掬われる事も無かったってのによぉ!!」

 

「!! テメエエエエエェェェェェェーーーーーーーッ!!」

 

それを聞いた途端、一夏は先程までの慎重さを捨てて、真正面からオータムに斬り掛かって行った!!

 

「ああん!? テメェ、馬鹿か!? こんな安い挑発に乗りやがってよぉ!!」

 

突っ込んで来た一夏にそう言い、オータムは再びエネルギー・ワイヤーを放つ。

 

エネルギー・ワイヤーは、一夏の眼前で網状となり、一夏を雁字搦めにした!!

 

「し、しまった!?」

 

「ホラよ、喰らえぇっ!!」

 

その瞬間、オータムが4つの足を持つ謎の装置を投げ付ける。

 

謎の装置は一夏に張り付くと、電流に似たエネルギーを放った!!

 

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

悲鳴を挙げる一夏。

 

すると、その身体が光に包まれ………

 

白式が解除された、ISスーツだけの状態となる。

 

「ガハッ!?………し、白式が!?………」

 

一夏は、先程の電流のダメージが大きかったのか、そのまま俯せに倒れて、苦しそうにしながらそう呟く。

 

「お前の探し物は此処に有るぜ!」

 

と、そう言うオータムの手にはひし形をしたクリスタル………白式のコアが在った。

 

「な、何で………」

 

「さっきの装置はなぁ! 『剥離剤(リムーバー)』っつうんだよ! ISを解除出来るって秘密兵器だぜ! 生きている内に見れて良かったなぁ!!」

 

辛うじて動く首を動かしてそれを見遣り驚く一夏に、オータムは得意気にそう言い放ち、トドメを刺そうと装甲脚の1本を振り被る。

 

「クッ………ソォ………」

 

一夏の口から悔しそうな声が漏れた瞬間、装甲脚が振り下ろされる!

 

しかし、続いて聞こえて来たのは………

 

金属が柔らかい肉を貫く音では無く………

 

金属同士がぶつかり合った様な甲高い音だった。

 

そして………

 

一夏を貫こうとしていた装甲脚の先端が宙に舞い、やや離れた地面に突き刺さる。

 

「!? 何っ!?」

 

「………?」

 

オータムも一夏も、何が起こったのか理解出来ない。

 

すると………

 

再び甲高い音が響いて、別の装甲脚が、今度は根元から切断された!!

 

「!? 何だってんだ!?」

 

そこでオータムは、装甲脚を破壊したと思われる物を発見する!

 

それは、緑色の小さな円盤に、黄色と黒の突起がくの字状に付けられているブーメランだった!

 

そのブーメランが、まるで意思が有るかの様に飛び、オータムと倒れている一夏の間に割って入って来たかと思うと、オータム側を向く様にして空中で回転。

 

やがてその回転が止まったかと思うと、何も無い空間に人間のものらしき目が浮かび上がった!!

 

ブーメランは、その目の上にあり、まるで角の様になっている。

 

そして、そこに………

 

「この雑魚めが………」

 

カーキ色の軍用風のトレンチコートを纏い、黒・赤・金のドイツ国旗色の覆面をした少女が現れた!!

 

「!?」

 

「テメェ!? 何モンだぁ!?」

 

一夏が驚き、オータムがそう問い質す。

 

「我が名は………『シュバルツ・シュヴェスター』」

 

覆面の少女………『シュバルツ・シュヴェスター』は、静かにそう名乗るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

今回は怒涛の展開の連続です。

学園祭デートを楽しむ神谷とシャルの裏で葛藤しながら暗躍するティトリー。

一夏を演劇に参加させるが、ロージェノム軍の襲撃を受ける楯無。

そのピンチに颯爽と登場する神谷。

そして遂に正体を見せたオータムと、謎の覆面少女。


神谷が楯無の前に現れるシーンは、第2次スーパーロボット大戦Z破界編で、シェリルのコンサートにカミナが乱入するシーンへのオマージュです。
あのシーンは未だによく覚えています。

そして多分今回の最大の驚きポイント………
ネオドイツのゲルマン忍者の登場。
恐らく皆さん予想はついているでしょうが、正体は彼女です。
この作品で彼女はこういうポジションになります。
活躍をお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第30話『俺の弟分の物を取り上げるたぁ、ふてぇ野郎だ!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第30話『俺の弟分の物を取り上げるたぁ、ふてぇ野郎だ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・西方面………

 

森林地帯………

 

「だ………誰………?………」

 

一夏は薄れ行く意識の中で、突如現れた謎の覆面の少女………

 

『シュバルツ・シュヴェスター』を見ながらそう呟く。

 

「織斑 一夏。この場は私に任せろ」

 

しかし、シュバルツは一夏の疑問には答えず、アラクネを装着しているオータムを見据えながらそう言う。

 

「う………あ………」

 

まだ何か言おうとした一夏だったが、そこで遂に気絶してしまう。

 

「このクソガキ! 私に逆らおうってのかい!?」

 

「その積りだ………」

 

威圧する様に言うオータムの言葉にも微塵も臆する様子を見せず、シュバルツはそう返す。

 

「ハッ! ふざけんじゃねえ! テメェに何が出来るってんだよぉ!!」

 

生身でISの前に立ちはだかったシュバルツを嘲笑い、オータムは残っていた装甲脚のうち2本を、シュバルツ目掛けて振り下ろす!!

 

だが、次の瞬間………

 

オータムは驚くべき光景を目撃する事となる………

 

「むんっ!!」

 

「!? ん何ぃっ!?」

 

目を見開くオータム。

 

シュバルツは何と………

 

繰り出された装甲脚を………

 

素手で受け止めたのだ!!

 

そのままISのパワーに拮抗するシュバルツ………

 

いや、それどころか………

 

逆にオータムを押し返し始めた!!

 

「馬鹿な!? コイツ、人間か!?」

 

(このままでは一夏が巻き添えを食ってしまう………もう少し離れなければ………)

 

驚愕しているオータムを、シュバルツはドンドン押して行く。

 

「チキショウがぁ! 調子に乗るなぁ!!」

 

しかし、ある程度押されたところで、オータムはマシンガンを取り出し、そのまま至近距離でシュバルツに弾丸を浴びせた!!

 

「!?」

 

全身を穴だらけにされて、シュバルツはバタリと倒れる。

 

「ヘッ! 死ぬ事は死ぬのか………化け物め、驚かせやがって………」

 

そう言いながら、オータムは蜂の巣となったシュバルツの死体を蹴って、仰向けにする。

 

しかし、それはシュバルツではなく、シュバルツと同じコートを着せられた藁人形だった。

 

「!? 何っ!!」

 

「ハッハッハッ! 変わり身の術だ!!」

 

驚くオータムの耳に、得意気な笑い声が聞こえて来たかと思うと、前方に木の葉が舞い散って、シュバルツの姿が現れる。

 

「こんのぉ! 奇妙な真似しやがって!!」

 

オータムが怒りの声を挙げながら、装甲脚を2本向け、実弾を放とうとする。

 

「しぇあっ!!」

 

だが、発砲しようとしたその瞬間!!

 

シュバルツが装甲脚の銃口目掛けてクナイを投擲!!

 

クナイは銃口にスッポリと収まり、装甲脚が暴発する!!

 

「うおおおっ!?」

 

「隙有り!!」

 

その瞬間、シュバルツはオータムの右手を狙って手裏剣を投げ付ける。

 

手裏剣はオータムが握っていた白式のコアを弾き飛ばした!

 

遥か後方の地面の上に落ちる白式のコア。

 

「!? あっ! しまった!!」

 

「させんわぁ!!」

 

慌てて拾いに行こうとしたオータムだったが、そこでシュバルツが先に分銅が付いた鎖を伸ばし、オータムを縛り上げる!!

 

「ぐあっ!? チキショウがぁ!!」

 

鎖を外そうと藻掻くオータムだが、特殊合金で出来ているのかビクともしない。

 

「観念しろ! 亡国企業!!」

 

「ウルセェ!! テメェみてぇな変人にやられてたまるかぁ!!」

 

観念しろというシュバルツだが、オータムが聴き入れる筈は無い。

 

「そうか………ならば仕方ない!!」

 

それを聞いたシュバルツは、鎖を更に締め上げる!!

 

「ぐぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

身体がバラバラになりそうな圧力がオータムを襲う。

 

まだ絶対防御が効いているが、エネルギーが切れた瞬間にスプラッタな事になるのは間違いない。

 

すると………

 

突如として上空からレーザーが振って来て、オータムとシュバルツの間に伸びていた鎖に命中。

 

鎖を融解させて、切断した!

 

「!? 何っ!?」

 

驚きながらも、シュバルツはすぐに距離を取る。

 

すると上空から、何時ぞやの無人IS………ゴーレムIが3機現れた!!

 

「無人ISだと!?」

 

「クッ! おせぇーぞ、お前等ぁ!!」

 

身体に纏わり付いていた鎖を外しながら、ゴーレムI軍団に向かってそう言うオータムだが、無人ISのゴーレムIは何も返さない。

 

「チッ! まあ良い………そいつを足止めしろ! 私はその間に白式を回収する!」

 

オータムがそう命じると、ゴーレムI達はシュバルツを囲む様に布陣する。

 

「クッ!」

 

覆面で窺えないが、シュバルツは苦い表情を浮かべる。

 

「精々そいつ等と遊んでな。さて、白式を………」

 

オータムはそう言って、地面に転がっていた白式を回収しようとするが………

 

先程まで後方の地面に落ちていた筈の白式のコアが無くなっていた。

 

「!? 何っ!? 何処だ!? 白式のコアは何処へ行った!?」

 

慌てて白式のコアを探すオータム。

 

「ん?」

 

すると、遠くの方に………

 

走り去って行くメイド服姿の少女を発見した。

 

「!? まさか!? ええい、逃がすか!!」

 

オータムはすぐにその少女を追う。

 

「待て!!」

 

シュバルツが慌てて追おうとしたが、ゴーレムI達が阻む。

 

「チイッ! 傀儡如きが!! 出ろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーッ! シュピーゲルゥッ!!」

 

シュバルツがそう叫ぶと、その身体が光に包まれ………

 

フリント型ヘルメットの様な頭部カバー装甲の付いた、両腕にトンファーの様にブレードの付いた、黒色の全身装甲(フルスキン)IS………

 

『シュピーゲル』の姿となった!!

 

「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

右腕のトンファーの様なブレード・シュピーゲルブレードを構えると、シュバルツはそのままゴーレムIを1機縦一文字に斬り裂く。

 

切断面から左右に真っ二つになると、そのまま爆散するゴーレムI。

 

すると、別のゴーレムIが右腕をシュバルツに向け、ビームを放つ。

 

「ハアッ!!」

 

しかし、シュバルツは跳躍して回避。

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

そして、ビームを撃ったゴーレムI目掛けて、クナイを次々に投げ付ける。

 

全身にクナイが突き刺さり、ゴーレムIはハリネズミ状態になる。

 

その次の瞬間!!

 

ゴーレムIの全身に刺さっていたクナイが爆発!!

 

ゴーレムIは木端微塵に消し飛んだ!!

 

最後の1機のゴーレムIが、空中のシュバルツに向かって、両腕を合わせてビームを放つ。

 

両腕から放たれたビームが1つに絡み合い、シュバルツに向かう。

 

だが、そのビームがシュバルツに当たったかと思われた瞬間………

 

シュバルツの姿が煙の様に消えてしまう。

 

ゴーレムIが慌てて索敵を開始すると………

 

「此処だぁ!!」

 

足元の地面から飛び出して来たシュバルツが、シュピーゲルブレードを両腕に展開し、ゴーレムIの両腕を肩口から斬り飛ばした!!

 

ゴーレムIは、切断面から激しく火花を散らして悶える。

 

「トドメだぁ!!」

 

するとシュバルツは、シュピーゲルブレードを展開したまま両腕を交差させる様にして左右水平にブレードの切っ先が飛び出す姿勢を取ったかと思うと………

 

そのまま駒の様に高速回転し始めた!!

 

「シュトゥルム! ウント! ドランクウウウウウゥゥゥゥゥゥーーーーーーーッ!!」

 

そう叫ぶと、腕の無くなったゴーレムIに突撃して行く。

 

高速回転するシュバルツが、ゴーレムIに触れた瞬間………

 

ゴーレムIの身体が細切れになって行く!!

 

そして遂に、完全にバラバラとなった!!

 

「良し! オータムを追わねば………しかし、一夏を………」

 

それを確認するとISを解除し、オータムを追おうとするシュバルツだったが、倒れたままの一夏を放って置く事も出来ず、逡巡する。

 

すると、そこへ………

 

「一夏!? 如何した!?」

 

偶然上空を通り掛かった箒が、倒れている一夏を見て、慌てて降りて来た。

 

「篠ノ之 箒か。良いところへ来た」

 

「な、何だお前は!? 見るからに怪しいぞ!!」

 

シュバルツがそう言うが、箒はシュバルツの見るからに怪しい風体を見て警戒する。

 

「そんな事は如何でもいい! 一夏を頼んだぞ!!」

 

しかし、そんな箒を他所に、シュバルツは一方的にそう言って、オータムの後を追って行った。

 

「お、オイ! 待て!!」

 

「う………うう………」

 

「!? 一夏!? ええい!!」

 

慌ててシュバルツを追おうとした箒だったが、一夏が呻き声を漏らしたのを聞いて、止むを得ず彼の救助を優先したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

白式のコアを持ち去ったメイド服姿の少女………

 

ティトリーは………

 

「やった! 遂にやった!! コレを持って帰れば………私は………」

 

白式のコアを持って、必死に走っている。

 

その顔は、思い詰めている様にも見える。

 

と、その時!!

 

走っていたティトリーの足元に、銃弾が撃ち込まれた!!

 

「ニャアッ!?」

 

驚いて足を縺れさせ、ティトリーはそのまま転んでしまう。

 

「見つけたぜ、クソガキ! よくも大事なISコアを掻っ攫ってくれたな………」

 

追い付いたオータムが、ティトリーの前に降り立ちながらそう言い放つ。

 

その顔には激怒の様子が浮かんでいる。

 

「ヒイッ!!」

 

そんなオータムの顔を見て、顔を引き攣らせると、慌てて白式のコアを隠す様にするティトリー。

 

「ほう、そうかい。大人しく渡す気は無いってか………なら」

 

そんなティトリーを見て、オータムはそう言うと、手にマシンガンを出現させ、ティトリーへと向ける。

 

「殺して奪い取るとするか!!」

 

「ヒイッ!?」

 

ティトリーは思わず目を瞑る。

 

その瞬間!!

 

回転しながら飛んで来たグラサン型のブーメランが、丁度オータムの顔面を捉え、命中した!!

 

「ぐがっ!?」

 

仰け反る程の衝撃を受け、オータムはぶっ飛ばされる。

 

「えっ!?」

 

ティトリーはそのオータムの声で目を開け、何が起こったのかを確認する。

 

「そこまでだ! この悪党!!」

 

そこでそう言う声が響いて来たかと思うと、上空からグレンラガンが現れ、着地する。

 

そして、オータムに当てたグレンブーメランを回収し、再び胸に装着する。

 

「まさか生き残りが居たとはね………亡国企業」

 

更に、楯無も現れてオータムの姿を見ながらそう言う。

 

「か、神谷!? コ、コレはその………」

 

グレンラガンの登場に、一瞬安堵の表情を浮かべたティトリーだったが、すぐに自分が白式のコアを持ったままである事に気づき慌てる。

 

だが………

 

「ティトリー! 誘導作戦、御苦労だったな!!」

 

「えっ!?」

 

突然神谷が言った言葉の意味が理解出来ず、ティトリーは困惑する。

 

「後は俺に任せておけ! そいつは俺が預かっておくぜ!!」

 

神谷は構わずそう続けると、ティトリーから白式のISコアを取る。

 

「あ! 神谷!」

 

「良いから、早く逃げろ!」

 

「! う、うん!!」

 

そう言われてティトリーは、神谷達から離れて行った。

 

「貴方………」

 

「理屈じゃねえんだよ………理屈じゃ」

 

何か言おうとした楯無に、神谷はそう言う。

 

「………そうね。理屈じゃ説明出来ない事もあるわね」

 

それを聞いて、楯無はフッと笑った。

 

「さて………俺の弟分の物を取り上げるたぁ、ふてぇ野郎だ! この神谷様が一夏に代わって成敗してやるぜ! 覚悟しやがれぇ!!」

 

そしてそこで、神谷はオータムに向き直り、ビシッと指を指すと、そう言い放つ。

 

「チイッ! 次から次に邪魔しやがって………まあ、良い。噂のグレンラガン! お前も頂くぞ!!」

 

顔を押さえながら立ち上がったオータムは、グレンラガンを見ながらそう言い返す。

 

「覚悟しろ! 私の顔を傷付けた代償は大きいぜ!!」

 

「何言ってやがる。大した顔でもねえくせに」

 

オータムのその言葉に、神谷は挑発する様にそう言い放つ。

 

「!! 殺す!!」

 

途端に、オータムは激怒した様子を見せ、マシンガンを構え、発砲する。

 

「おっと!」

 

そこで楯無がグレンラガンの前に出ると、水のヴェールでマシンガンの弾丸を受け止める。

 

「おらぁっ!!」

 

すると、白式のコアをボディの口の中にしまい、グレンラガンは楯無を飛び越える様に跳躍。

 

そして、再びグレンブーメランを外して、手に持って構えると………

 

「男の情熱! 燃焼斬りいいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!!」

 

必殺の男の情熱燃焼斬りを繰り出す。

 

「チイッ!!」

 

オータムは舌打ちする様に言うと、バックステップで距離を取る。

 

グレンラガンの攻撃は、地面を大きく爆ぜさせるだけで終わる。

 

「喰らいやがれ!!」

 

オータムはそこで、残っていた4本の装甲脚を全て展開し、グレンラガン目掛けて一斉射撃を見舞う。

 

「何のぉ!!」

 

だが、グレンラガンが右腕を突き出す様に構えたかと思うと、その腕がドリルに変わり………

 

更にそのドリルが傘の様に開いて楯となり、オータムの一斉射撃を防いだ!!

 

「何ぃっ!?」

 

ドリルの思いもしない使い方に、オータムが驚きを示す。

 

「オラ、喰らえぇっ! 超電磁パアアアアァァァァァーーーーーーンチッ!!」

 

そこでグレンラガンは、左手に持ったままだったグレンブーメランを胸に再装着すると、右手をドリルから戻し、電磁波を纏わせてオータムに叩き込んだ!!

 

「!? ぐああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

絶対防御は貫けなかったが、大きなダメージを与える事に成功し、オータムは大きく後退る。

 

「ハイッ!!」

 

更に、楯無が左手に持ったラスティー・ネイルの刃が伸びて来て、装甲脚を1本斬り飛ばした!!

 

「クソッ! あの覆面野郎から喰らったダメージさえなけりゃあ、こんな奴等!!」

 

シュバルツから喰らったダメージが大きかったのか、終始押され気味なオータム。

 

「トドメよ! 亡国企業!!」

 

そんなオータムにトドメを刺そうと、楯無がラスティー・ネイルを戻し、蒼流旋を両手で構えて突撃する。

 

「クソがぁ!!」

 

悪態を吐くオータムだが躱せそうにない。

 

と、その時!!

 

「!! あぶねぇ! 避けろぉ!!」

 

突然グレンラガンが、楯無に向かってそう叫んだ。

 

「えっ?」

 

楯無がその言葉の意味を理解出来ず、首を傾げた瞬間………

 

凄まじい火炎攻撃が、オータムと楯無を包み込んだ!!

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

悲鳴を挙げるオータムと楯無。

 

「楯無! 大丈夫か!?」

 

火炎が収まると、グレンラガンはすぐに倒れそうになった楯無に駆け寄り支える。

 

「え、ええ、何とか………」

 

幸い、ミステリアス・レイディの特徴である水のヴェールが守ってくれた様で余りダメージは無い様だが、それでも装甲が一部融解を起こしていた。

 

「グアアアアァァァァァーーーーーーッ!? 熱い!! 熱い! 熱いいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!!」

 

とそこで、オータムの絶叫が聞こえて来る。

 

如何やら絶対防御が一部貫かれたのか、煙を上げている顔の左半分を手で抑えて苦しんでいた。

 

「居たぞ! グレンラガンだ!!」

 

「さっきのお返しをたっぷりしてやるぜ!!」

 

そんな一同の元へ、第4アリーナで神谷が気迫で追い払った獣人達が現れる。

 

「チッ! またテメェ等か………今取り込んでんだ! 後にしろ!!」

 

「知るかそんな事!!」

 

「貴様の首を螺旋王様に捧げるのだ!! 行け!! ゴーストファイアーV9!!」

 

神谷がそう叫ぶと、獣人達はそう叫び返し、左右に広がる様に道を開けた。

 

するとそこから………

 

古代ギリシアの戦士を思わせる恰好で、両腕の先が棘付きの鉄球になっており、頭頂部に炎が噴き出ている鶏冠を持ったロボットが姿を現す!!

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

そのロボットが、獣の様な咆哮を挙げる。

 

「機械獣ゴーストファイアーV9! 貴様の火炎と鉄球でグレンラガンを倒せ!!」

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

獣人がそう命じると、ロボット………『機械獣ゴーストファイアーV9』は、グレンラガンと楯無に向かって行った。

 

「! うおっ!!」

 

「キャッ!?」

 

すぐに、2人別々な方向へと躱す。

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

するとゴーストファイアーV9は、グレンラガンの方に狙いを定め、すぐに追い縋って来た。

 

「! 野郎!!」

 

突っ込んで来たゴーストファイアーV9に組み付いて押し留めるグレンラガン。

 

そのまま両者は力比べに突入する。

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

しかし、ゴーストファイアーV9は頭部の炎の鶏冠を向けたかと思うと、そこから凄まじい火炎を浴びせて来た!!

 

「!? うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?」

 

グレンラガンはその火炎の勢いで吹き飛ばされ、木に叩き付けられる。

 

叩き付けられた木が乾いた音を立てて倒れ、グレンラガンに覆い被さる。

 

「神谷くん!!」

 

それを見た楯無が、蒼流旋を構えてゴーストファイアーV9に突撃する。

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

だが、ゴーストファイアーV9はそれに気づくと、両手の棘付き鉄球を手から外し、鎖で腕と繋がった状態にする。

 

そして、勢い良く回転させると、楯無目掛けて放り投げて来た!!

 

「!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

蒼流旋を楯にして直撃を防いだものの、凄まじい衝撃を受けて、楯無は地面に叩き付けられる。

 

「クソッ! 私の顔がぁ! しかし、退くには今しかない………覚えていろ! グレンラガン!! ケダモノ共!! 必ず貴様等に復讐してやる!!」

 

とそこで、完全に顔の左半分が焼け爛れたオータムがそう声を挙げ、2人がゴーストファイアーV9と戦っているドサクサに紛れて撤退して行く。

 

「!? 待ちなさい!!」

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

楯無が追おうとするが、ゴーストファイアーV9が貴様の相手は俺だと言わんばかりに立ちはだかる。

 

「クッ! このぉ!!」

 

楯無は蒼流旋に内蔵されていた4門のガトリングガンからの弾丸を浴びせる。

 

しかし、弾丸はゴーストファイアーV9の装甲で弾かれ、全て地面に落ちてしまう。

 

「クッ! 何て装甲なの!?」

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

その瞬間、再び頭部からの火炎放射を見舞うゴーストファイアーV9。

 

「!!」

 

楯無が回避すると、火炎放射は森へと直撃。

 

一瞬にして森林火災を引き起こす!!

 

「!! ハアッ!!」

 

それを見た楯無は、慌ててミステリアス・レイディの水のヴェールの一部を霧状にして散布。

 

火災を消し止める。

 

しかし、それによって消耗していた水のナノマシンは、更に残り少なくなる。

 

「クッ! マズイ! このままじゃ………」

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

楯無が思わずそう呟いた瞬間、ゴーストファイアーV9の腕の鉄球の鎖が、楯無の足に巻き付いた!!

 

「!? しまっ………」

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

た、と楯無が言う前に、ゴーストファイアーV9は腕を振り上げ、楯無の身体を上空へと投げ飛ばす!!

 

「!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

そしてそこから、一気に地上目掛けて叩き落とした!!

 

「!? ガハッ!?」

 

身体に走った衝撃で、楯無は吐血する。

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

そのまま、地面に倒れている楯無にトドメを刺そうと、ゴーストファイアーV9が近づいてくる。

 

「ぐうう………」

 

必死に起き上がろうとする楯無だが、ダメージが大きく、身体が思う様に動かない。

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

ゴーストファイアーV9は、楯無に鉄球を見舞おうと腕を振り回す。

 

だが、そこで………

 

「俺を忘れるんじゃねえぇっ!!」

 

下敷きにしていた大木を弾き飛ばし、グレンラガンが飛び出した!!

 

「グレンバスタアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

そして、両腕に2本づつドリルを出現させると、ゴーストファイアーV9の背中に突き刺す!!

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

背中から串刺しにしたゴーストファイアーV9を持ち上げると、そのままドリルを伸ばし、上空へと運ぶグレンラガン。

 

そしてそこでドリルを引っ込め、ゴーストファイアーV9を叩き落とす!!

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?

 

遥か上空から叩き落とされ、ゴーストファイアーV9は地面に派手なクレーターを作って墜落する。

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

だがすぐに、グレンラガン目掛けて、頭部から火炎放射を見舞って来る。

 

「!? うおおおっ!?」

 

咄嗟にガード姿勢を取ったものの、ゴーストファイアーV9の火炎放射は続けられ、グレンラガンは炎に包まれる。

 

「良いぞ! そのままグレンラガンを焼き尽くしてしまえ!!」

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

獣人の声に、ゴーストファイアーV9は立ち上がりながら、更に火炎放射を続ける。

 

「うぐおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

神谷の声が挙がる中、徐々にグレンラガンの身体が溶け始める。

 

「こなくそぉっ!!」

 

だが、グレンラガンはその状態で、炎の中を進み始めた。

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

ゴーストファイアーV9の火力が更に上がる。

 

「…………」

 

だがグレンラガンは歩みを止めず、1歩、また1歩と炎の中を突き進んでゴーストファイアーV9に接近して行く。

 

その様に、ゴーストファイアーV9は狼狽える様な様子を見せる。

 

そして遂に………

 

グレンラガンはゴーストファイアーV9の眼前にまで接近!!

 

「むんっ!!」

 

両腕を伸ばし、ゴーストファイアーV9の両肩を摑んで捕まえる。

 

慌てて振り解こうとするゴーストファイアーV9だったが………

 

「ドリルヘッドバットォッ!!」

 

それよりも早く、グレンラガンが額にドリルを出現させ、ゴーストファイアーV9に頭突きを繰り出した!!

 

ドリルの頭突きが、ゴーストファイアーV9の頭部を粉々に粉砕する!!

 

頭部が無くなった事で火炎放射も止まり、頭の無くなったゴーストファイアーV9は数メートル後退る。

 

だが、その状態で両手の鉄球を、グレンラガン目掛けて放つ!!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

だが、迫り来る鉄球に向かって、グレンラガンはドリルに変えた両腕を叩き込んだ!!

 

ドリルとブツかった鉄球は粉々に砕け散る。

 

全ての武器を失ったゴーストファイアーV9。

 

「ぐうっ!?」

 

しかし、グレンラガンの方も無理が祟ったのか、膝を付いてしまう。

 

そこで、武器を無くしたゴーストファイアーV9が、最後の手段とばかりに体当たりを敢行して来る。

 

膝を付いたグレンラガンは避けられない………

 

だが!!

 

「頼んだぜ………楯無」

 

グレンラガンがそう言った瞬間………

 

「OK!」

 

楯無が、ラスティー・ネイルでゴーストファイアーV9を縛り付け、動きを止めた!!

 

「特別大サービス! 遠慮せずに! 全部持って行って良いよ!!」

 

そして、残っていたアクア・ナノマシンを、全てゴーストファイアーV9に噴き付ける!!

 

「清き熱情(クリア・パッション)ッ!!」

 

楯無がそう言って、指を鳴らした瞬間………

 

ナノマシンが発熱し、水を瞬時に気化。

 

その衝撃や熱で大爆発が起こり、ゴーストファイアーV9は粉々に消し飛んだ!!

 

辺り一面に、ゴーストファイアーV9の部品が降り注ぐ。

 

「ゴ、ゴーストファイアーV9がやられた!?」

 

「うわああっ!? 逃げろぉ!!」

 

それを見た獣人達は、忽ち逃げ出し始める。

 

「ハア………ハア………危なかった………」

 

その直後に、楯無がへたり込む。

 

既にアクア・ナノマシンは底を突き、シールドエネルギーも2ケタまで減っていた。

 

「大丈夫か? 楯無」

 

と、若干無理矢理立ち上がったグレンラガンが、楯無の傍に寄ると手を差し出す。

 

「貴方こそ………随分無茶したじゃない」

 

「へっ! この程度! 如何って事ねえよ!!」

 

「強がっちゃって………」

 

そう言いながらも、楯無はグレンラガンの手を取って立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ………如何やら要らぬ心配をしてしまった様だな」

 

その光景を、やや離れた高い木の天辺に片足立ちして見ているシュバルツ。

 

「だが、一夏………お前の方はまだまだ未熟だ………その腕では仲間どころか己の身さえ守れん………それを理解するのだな………」

 

そしてそう呟いたかと思うと、シュバルツの身体が旋風に包まれる。

 

その旋風が止んだかと思うと………

 

シュバルツの姿は忽然と消えていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから間もなく………

 

グレンラガンと専用機持ち、学園教師・上級生部隊の反撃を受けたロージェノム軍は大損害を被り、完全に撤退。

 

IS学園には再び静寂が戻っていた。

 

そんな学園の校舎前にて………

 

「ホラよ、一夏」

 

神谷がそう言って、白式のコアを一夏に投げ渡す。

 

「白式! 良かった………」

 

受け取ったコアを大事そうに握り締める一夏。

 

すると、コアが光を放って、再びガントレットの形になり、一夏の右腕の装着される。

 

「ティトリーに感謝しとけよ、一夏。コイツがお前の白式を守ってくれたんだからな」

 

そういう神谷の隣には、彼が半ば強引に連れて来たティトリーの姿が在った。

 

「ありがとう、ティトリー! お蔭で助かったよ!!」

 

「う、うん………」

 

ティトリーの手を取って感謝の意を伝える一夏だったが、対するティトリーは何処か気不味そうであり、視線を合わせていない。

 

しかし、白式を取り戻した嬉しさからか、一夏はそんなティトリーの様子に気づいてない。

 

「「「「…………」」」」

 

そして、自分に殺気の籠った視線を送っている箒、セシリア、鈴、ラウラの存在にも………

 

「織斑先生から連絡が入ったよ。残っていたガンメンは全て撤退したって」

 

そこで楯無が、千冬からの通信を受け、改めてそう報告する。

 

「そうか………コレで一安心だな」

 

「それにしても………一夏を助けた覆面の女性って………一体誰なんだろ?」

 

安堵の息を吐く一夏だったが、そこでシャルがそう疑問を挙げた。

 

「見るからに怪しい奴だったのは確かだな………」

 

シュバルツの恰好を思い出し、箒がそう呟く。

 

「確か………『シュバルツ・シュヴェスター』って名乗ってた気がする」

 

一夏が朧気な記憶を如何にか思い出しそう言う。

 

「『シュバルツ・シュヴェスター』?」

 

「ドイツ語だな。意味は………『黒い姉妹』だ」

 

鈴が首を傾げ、それがドイツ語である事に気づいたラウラがそう訳す。

 

「黒い姉妹?」

 

「ひょっとして………織斑先生?」

 

セシリアが首を傾げ、シャルがもしかしてとそう発言する。

 

「そう言えばあの声………千冬姉に似てた気が………」

 

一夏も、朧気な意識の中で聞いた声が、千冬のものと似ていた事を思い出す。

 

「ええ、まさか………千冬さんってそんな趣味があったの?」

 

「きょ、教官が………」

 

鈴が呆れる様な声を漏らし、ラウラがショックを受けた様な様子を見せる。

 

「いや、私は直接姿を見たが、千冬さんとは身長が違ったぞ」

 

「それに織斑先生はずっと学園の職員室で指揮を執っていたわ。山田先生も一緒だったし」

 

しかし、箒と楯無がそう反論した。

 

「じゃあ、アレは一体………?」

 

一夏は首を傾げる。

 

ロージェノム軍は退けたものの、また新たな疑問が出て来ていた。

 

「ま! 良いじゃねえか! そいつのお蔭でお前は助かったんだし、白式も何とかタンスとか言う連中に渡さずに済んだ!! それで良いじゃねえか!!」

 

しかし、神谷が細かい事は気にするなと言い、そのまま呵々大笑する。

 

「神谷………」

 

「神谷、アンタはもう………」

 

「フフフ………神谷らしいね」

 

そんな神谷の姿に呆れる箒と鈴、そして笑みを零すシャル。

 

「それもそうね………それじゃあ、学園祭の仕切り直しといきましょうか!!」

 

とそこで、楯無がそう宣言する。

 

「ええっ!? 学園祭………続けるんですか!?」

 

その言葉に、一夏が驚く。

 

「当然よ! 今回の襲撃で生徒の皆は恐怖に震えているわ。そして獣人達は自分達が大きな戦果を挙げたと思っている………そんな生徒達の恐怖を払拭し、獣人達に私達が何とも思っていない事を示す意味でも! 学園祭は最後までやるわ!!」

 

楯無はそう啖呵を切る様に叫ぶ。

 

「言うじゃねえか、楯無。流石はIS学園最強の生徒会長だな!」

 

「フフフ、貴方の活躍も素晴らしかったわよ………グレン団の鬼リーダー」

 

「ヘッ!」

 

「フフフ………」

 

神谷と楯無は、互いに顔見合わせて笑い合った。

 

「………如何なってるのコレ?」

 

「何時の間にか仲良くなっている………」

 

鈴と箒が、唖然としながら驚きの言葉を漏らす。

 

知り得る限り険悪な雰囲気であった筈の2人が、この数時間で何があったのか、凄まじく仲良くなっている。

 

「多分、アリーナの一件で、お互いを認め合ったんだよ。アニキは本気で頑張ってる人が好きだから」

 

「成程………神谷らしいね」

 

一夏がそう言うと、シャルが納得が行った表情となる。

 

「さあ! 学園祭のやり直しよ! 皆で思いっきり盛り上がりましょう!!」

 

「………また王子役は勘弁して下さい」

 

生徒会の劇が再開される事を懸念した一夏が、懇願する様に楯無にそう言ったが………

 

「ふふふ、如何しようかな~?」

 

「ちょっ! マジ勘弁して下さいって~~~っ!!」

 

微笑む楯無に、一夏の心からの叫びが炸裂するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

謎の覆面少女、シュバルツ強し。
果たして、その正体は一体誰なのか?(爆)

そして今回から登場のロージェノム軍の新戦力・機械獣。
獣人がいるから、機械獣がいてもいいかなと思いまして。
今後も様々な敵が出てきますので、そちらもお楽しみに。

さて、共闘するほどに打ち解けた神谷と楯無。
次回、そんな楯無が思わぬことを?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第31話『グレン団を我が校の正式な部活として認める事にしました!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第31話『グレン団を我が校の正式な部活として認める事にしました!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波乱の学園祭から3日が過ぎ………

 

生徒達が落ち着きを取り戻した頃………

 

生徒会からの重大な知らせがあるとの事で、緊急の全校集会が行われる事となった。

 

集合場所に全校生徒が集まり、生徒会長である楯無の登場を待っている。

 

一夏達も1組の生徒と共に集合し、楯無を待っているのだが………

 

「オイ、一夏。神谷の奴は如何したんだ?」

 

「それが、何か用があるから先に学校へ行けって言われて、寮で別れたきりなんだ」

 

箒と一夏が、小声でそう言い合う。

 

そう………

 

1年1組の列の中に、神谷の姿が無いのだ。

 

遅刻自体は彼がそういった行為の常習犯である為、然程気にする事でもない事だが………

 

一夏の話によれば、用事が有って一夏を先に登校させたと言うのが気になる。

 

「あ! 来た!」

 

と、クラスメイトの1人がそう声を挙げると、楯無が檀上に立った。

 

ヒソヒソ話がピタリと止み、全校生徒の視線が楯無に集まる。

 

「さあ、皆。お早う。昨日はよく眠れたかな?」

 

楯無は生徒達の緊張を解す様に、微笑みながらそう挨拶をする。

 

「さて、早速本題に入らせてもらうけど………この間の学園祭は大変だったねぇ」

 

そう言葉を続けると、生徒達は互いに顔を見合わせる。

 

「けど、獣人達の攻撃にも負けず、私達は祭を続けた。何故だと思う? それは学園祭を中止する事が、私達の真の敗北だからだよ」

 

楯無がそう言うと、生徒達がざわめき始めた。

 

「ロージェノム軍は今も世界各国で猛威を振るってる。こうしている間にも、新たに戦火が広がっている場所が出ている………けど! 人類は決して敗北したワケじゃない!! 決してロージェノム軍に屈したりはしない!!」

 

段々と言葉に熱が入り始める楯無。

 

まるで演説をしているかの様な熱気が、この全校集会の場にはあった。

 

「そして! 我がIS学園も決してロージェノム軍に屈したりはしないわ! 人類は必ず勝利する!! その時まで! この学園の平和は、この私!! IS学園生徒会長! 更識 楯無が守ってみせるわ!!」

 

そう楯無が宣言した瞬間、全校生徒達から歓声と共に拍手が巻き起こる。

 

「楯無さん………」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

そんな楯無の姿に、一夏と箒達が見惚れる。

 

すると………

 

「さて………実は今日皆に集まって貰ったのは大事な話があるからなんだ」

 

そこで楯無は、先程までの熱の入った態度とは違い、楽しそうな笑みを浮かべてそう言って来た。

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

突然変わった楯無の様子に、全校生徒は首を傾げる。

 

「実はね………さっきは私がこの学園を守るなんて言っちゃったけど………正直に言うと、私1人じゃキツいと思うんだよね」

 

そして、先程の宣言を打ち消すかの様な弱気な言葉に、全校生徒達は更に困惑する。

 

すると楯無は、その様子に満足げな表情を浮かべ、ニヤリと不敵に笑った。

 

「そこで! 私は生徒会長として! ある団体に正式に学園を守って欲しいと頼んだわ!! 今日はその団体の代表を皆に紹介したいと思います! どうぞ!!」

 

と、楯無がそう言うと、1人の人物が壇上に姿を現す。

 

「!? んなぁっ!?」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「「「「「「「「「「?!!?!?」」」」」」」」」」

 

思わず一夏が素っ頓狂な声を挙げ、箒達も驚愕を露わにし、全校生徒達は言葉を失った。

 

何故なら、壇上に現れた人物は………

 

神谷だったからだ!!

 

「おうおうおうおう! テメェ等! 耳の穴かっぽじって、よ~く聞きやがれ!!」

 

呆気を取られている全校生徒達に向かって、神谷は楯無に代わる様に立ち、そう言い放つと右手を真上に掲げて、天を指差すお決まりのポーズを決める!

 

「IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

そして、お決まりの口上を並び立てた。

 

「御存じの人も多いと思うけど、彼が音に聞くグレン団の鬼リーダー、天上 神谷よ。今まで学園を襲撃して来たロージェノム軍は、彼と彼が率いるグレン団の活躍で退けられていたわ」

 

すると楯無が、神谷の横に立ったままそう言って来る。

 

「そこで私はその功績を称え! グレン団を我が校の正式な部活として認める事にしました!!」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一瞬、楯無が何を言ったのか理解出来ない全校生徒達。

 

「「「「「「「「「「えええぇぇぇぇ~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

やがて漸く理解出来た瞬間、誰もが驚愕の声を挙げた!!

 

しかし、彼女達にとって最も驚くべき事態はこの後に発生する!!

 

「それに伴い! 獣人襲撃で無効のままとなってしまった織斑 一夏の所属を、グレン団のものとする事を決定しました!!」

 

「「「「「「「「「「えええぇぇぇぇ~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

全校生徒達の顔に、驚愕と共に絶望の色が浮かぶ。

 

「彼は元々グレン団の団員であり、そのグレン団の活動が部活動の一環として認められた以上、そこに所属するのは自明の理です」

 

「つーワケだ! ワリィな、お前等! 一夏はグレン団の団員だ!! ま、如何してもって言う奴が居たら、俺に頼み込めば貸してやらない事もないぜ!!」

 

そんな生徒達に向かって楯無と神谷はそう言い放つ。

 

「! 頼み込めば貸してくれる!?」

 

「いや、でも、それって………あの天上 神谷に直接言わなきゃいけないんでしょ?」

 

「正に虎穴に入らずんば虎子を得ずね………」

 

途端に生徒達はざわめき立つ。

 

一夏は是非とも借りたい………

 

だがその為には、あの神谷にお願いしなければならない………

 

何とも言えない葛藤が、生徒達の心の中で渦巻いていた。

 

「なら、早速だけど、生徒会に貸してくれないかしら? 副会長の椅子を用意してるんだけど?」

 

するとそこで楯無が、何の躊躇も無く、神谷にそう頼み込んだ。

 

「ほう? 悪くねえな………良いぜ、貸してやるよ」

 

「ちょっ!? アニキ!?」

 

自分を無視して勝手に進んで行く事態に、一夏が声を挙げるが、それは生徒達の喧騒の中に掻き消される。

 

「天上 神谷………コレからは共に守って行きましょう! この学園の平和を!!」

 

「フッ、そいつは違うぜ、楯無。俺達は………世界の平和を守るのさ!!」

 

「成程………目標は大きくって事ね!」

 

「そう言うこった!!」

 

そして、楯無と神谷はそう言い合い、ガッチリと握手を交わす。

 

「あわわわ!? 何だか勝手に話が………良いんですか、織斑先生!?」

 

勝手に色々な事が決まって行き、慌てる真耶が千冬に声を掛けるが………

 

「………フ………フフフ………フハハハハハ」

 

当の千冬は、何故か笑い声を挙げ始める。

 

「お、織斑先生………?」

 

「もう限界だぁっ!! 私はIS学園を辞めるぞ! ジョジョーッ!!」

 

そしてそう言い放つと、懐から石仮面………ではなく、辞表を取り出した!

 

「お、織斑先生! 落ち着いて下さいっ!! ジョジョって誰ですか!?」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーっ!! WRYYYYYYYYY!!」

 

吸血鬼になったかの様なテンションの千冬を、真耶は必死に止めるのだった。

 

斯くして、この全校集会にて………

 

グレン団はIS学園の正式な部活として承認され………

 

名実共にIS学園の守り手となった!!

 

そして………

 

一夏も生徒会副会長への就任が決まったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後………

 

IS学園・生徒会室にて………

 

「それでは~! グレン団の正式な部活への承認並びに、織斑 一夏くんの生徒会副会長就任を祝いまして~………乾杯!!」

 

「「乾杯~~~っ!!」」

 

「「「「「「「「か、乾杯~?」」」」」」」」

 

楯無の音頭に、ノリノリで答える神谷とのほほんに、やや戸惑いを浮かべながら合わせる一夏達。

 

「それそれ~! 飲め! 食え! 歌え! 騒げ~!!」

 

「じゃあ私、歌うね! 『続く世界』!!」

 

神谷がそう言うと、のほほんがカラオケ機のマイク(楯無が生徒会運営費用で購入)を手に取り、歌い始める。

 

「ヒューッ! ヒューッ! 良いぞ良いぞー!!」

 

そんなのほほんを、楯無が囃し立てる。

 

「………何故こんな事に?」

 

馬鹿騒ぎの中、一夏は困惑を隠せずにそう呟いた。

 

「あら、一夏くん。如何したの? まさか副会長の椅子じゃ不服だとか? 流石に生徒会長の椅子は渡せないわよ」

 

そんな一夏の姿を見た楯無がそう言って来る。

 

「い、いや………アニキと楯無さんが仲良くなったのは良いけど………昨日の今日でこんな共謀をされるとは………」

 

「共謀だなんて心外だな~。私は神谷くんの事を対等だと認めたから、今回の措置を取ったんだよ」

 

「そうだぜ、一夏! これからは生徒会長さんのお墨付きで暴れられるってんだ! 良い事じゃねえか!!」

 

「まあ、あんまり派手に暴れられ過ぎても困るけどね~」

 

以前の険悪な雰囲気は何処に行ったのやら………

 

神谷と楯無は、ノリノリな様子でそう会話を交わしている。

 

「何か今の楯無さんって、神谷に似てる様な気がするね………」

 

「結局は似た者同士の衝突だったワケね………」

 

「ぶつかり合って意気投合か………まるで漫画だな」

 

シャル、鈴、箒が、そんな神谷と楯無の姿を見てそう呟く。

 

「実質、神谷が2人になった様なものか………」

 

「私、ちょっと眩暈がして来ましたわ………」

 

ラウラとセシリアは、これからも2人に振り回されるであろう光景を想像し、深い溜息を吐いた。

 

「俺は早くも大変だよ………いきなり生徒会の副会長を務めなきゃいけないなんて………」

 

一夏も深い溜息を吐き、用意されていた紅茶を啜る。

 

「心配すんな、一夏! お前はグレン団の斬り込み隊長! その事は変わっちゃいねえよ!!」

 

「いや、そう言う問題じゃないんだけど………」

 

相変わらず的外れな事を言って来る神谷に、一夏は苦笑いを浮かべる。

 

「まあ………仕方ないか………」

 

だが、神谷がこうなってはもう如何にもならない事は良く知っている為、諦めたかの様に今の自分の立場を受け入れるのだった。

 

「あ~! もう! こうなりゃ自棄よ!! ジャンジャン持って来なさい!!」

 

「飲んでないとやってられませんわ!!」(注:飲んでるのは紅茶です)

 

と、いい加減困惑しっぱなしと言うのにも飽きたのか、鈴とセシリアがそう声を挙げ、無理矢理騒ぎ始める。

 

「えっと………箒、こんな時どうすれば良いのかな?」

 

「………笑えば良いと思うぞ」

 

「ハア~~」

 

無理矢理テンションを挙げて騒いでいる鈴とセシリアを見て困惑して箒に尋ねるシャルに、力の無い回答を返す箒。

 

そして、ラウラは深い溜息を吐く。

 

「…………」

 

そんな中、このカオスな生徒会室の中で、1人上の空な虚の姿が在った。

 

「………ハア~~」

 

彼女は何やら、生徒会室の窓から徐々に秋となり、高くなって行く空を見上げながら、溜息を吐く。

 

「? 虚さん? 如何したんですか?」

 

そんな虚の様子に気づいた一夏が声を掛ける。

 

「!? えっ!? ああ、ううん! 何でも無いわ!」

 

「お姉ちゃんね~。この間の学園の時に助けてくれたおりむーの友達の事がね~。好きになっちゃみたいなの~」

 

取り繕おうとした虚だったが、のほほんの暴露でそれは無駄な努力に終わった。

 

「ちょっ! 本音!?」

 

「アラアラ~! そうなの~! 詳しく教えてよ~!!」

 

慌てる虚に、いの1番に食いついた楯無がそう問い質してくる。

 

「お、お嬢様! 私は、その………」

 

「もう~! お嬢様は止めてって言ってるでしょう~! で、如何なの!? その子良い男なの?」

 

「当たり前だぜ! 何せグレン団特攻隊長の弾だぞ! 気に入らねえワケがねえだろ!!」

 

戸惑う虚を楯無が更に問い詰めると、それを聞いていた神谷がそんな事を言って来た。

 

「えっ? 何!? 虚先輩、あんな奴に惚れたの? 信じられないわね………」

 

と、一夏と神谷の他に弾を知る鈴が、信じられないと言う表情を浮かべて虚を見遣る。

 

「「「「…………」」」」

 

良く見ると、箒やシャル達も、何時の間にか虚に視線を集中させていた。

 

やはりこの年頃の女の子は、自分の恋愛の他に他人の恋愛にも興味津々の様である。

 

「そ、そんなに注目しないで下さい!」

 

「さあさあ! 正直に白状しちゃいなよ~! 良い男なの!?」

 

赤面する虚に、楯無が更に迫る。

 

「う、うう………何を持って良い男と言うか如何かは分かりませんけど………少なくとも、強くて優しい人だとは思いました………不良に絡まれた私を、自分が怪我をしてまで助けてくれましたし………獣人の襲撃があった時も、ずっと私を守っててくれましたので」

 

「あの弾が!? 益々信じられないわね………」

 

「馬鹿野郎! 弾は一夏と同じく俺の弟分! その俺が認めた兄弟分が情けねえ奴のワケがねえだろ!!」

 

虚の話を聞いて、鈴がまたも信じられないと言うが、神谷がそう言って鈴の言葉を否定する。

 

「ふ~ん、そうなんだ~………それで? その子とは?」

 

「えっと………別れ際に携帯の番号とメールアドレスを交換しまして………その………こ、今度の休みに一緒に出掛けませんか?って誘いを受けました」

 

「おお~! マジィ!? デートのお誘いじゃん! 凄いよ、虚ちゃん!!」

 

「べ、別にデートと言うワケでは………だた休日に一緒に出掛けてその日を共に過ごすだけです!」

 

「世間じゃ、それをデートって言うんじゃないかな~?」

 

楯無の台詞に慌てる虚に、追い打ちを掛けるかの様にのほほんがそう言う。

 

「ほ、本音ぇ!! いい加減にしなさい!!」

 

「わあ! お姉ちゃんが怒った~!!」

 

「待ちなさ~い!!」

 

生徒会室の中で、のほほんを追い回す虚。

 

「アハハハハッ!!」

 

「オラオラ、のほほん、頑張れぇ! 追い付かれるぞぉ!!」

 

その光景を見て、楯無は大爆笑し、神谷は囃し立てる。

 

「へえ~、虚さんが弾とか~………上手く行くと良いな。親友として、恋の成就を祈っとくか」

 

((((お前は先ず、私〈アタシ、わたくし〉の思いに気づけ〈きなさい、いて下さい〉))))

 

そして呑気に親友の恋の成就を祈る一夏と、そんな一夏に先ず自分の事を如何にかしろと心の中でツッコミを入れる箒達。

 

「? アレ?………ティトリーは?」

 

ふとそこで、シャルが先程までいた筈のティトリーの姿が無い事に気づく。

 

「? そう言えば………」

 

「つい先程まで居らっしゃった筈ですが………」

 

その言葉で、他の一同もティトリーの姿が無い事に気づく。

 

「な~に、便所にでも行ってるんだろ。暫くしたら戻ってくるさ」

 

「アニキ、それセクハラ………」

 

そんな一同に向かって神谷はそう言い、そんな神谷にツッコミを入れる一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・校舎………

 

屋上………

 

太陽が水平線の向こうに沈みそうになっている中、ティトリーは人気の無い屋上で、作戦失敗の報告を行っていた。

 

[そうか………失敗したか………]

 

「ご、ゴメンナサイ………でも! まだやれるよ! 次こそはグレンラガンか専用機を!!」

 

[いや、次は俺が出る]

 

「え、ええっ!?」

 

通信先から聞こえて来た言葉に、ティトリーは驚きを示す。

 

「ま、待って!! 『ジギタリス』のおっさん!!」

 

[心配するなティトリー。別に今回の作戦が失敗した事の咎では無い………寧ろ、四天王様からはバレていないのなら任務を続けろ、とのご命令が来ている]

 

「………えっ?」

 

作戦に失敗した自分が処分されるとばかりに思っていたティトリーは、通信先の相手………『ジギタリス』と呼ばれた相手の話を聞いて戸惑った。

 

[コレは俺の個人的な行動だ………噂のグレンラガン………そして、天上 神谷と言う男に興味が湧いてな]

 

「で、でも………」

 

[安心しろ。お前の任務の邪魔はせん………俺は、俺の意思でグレンラガンと戦いたいのだ]

 

「『ジギタリス』のおっさん………」

 

[………長話し過ぎたか。確かパーティーの途中だと言っていたな? あまり場から離れていても怪しまれる。そろそろ戻れ]

 

「う、うん………」

 

ティトリーはそう返して通信を切ると、未だに神谷達が騒いでいる生徒会室へ引き上げて行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

「………ティトリー………お前はもしや………」

 

何処ぞと知れない場所で、ティトリーが通信を交わしていた獣人………ジギタリスが唸っていた。

 

「いや、仮にそうであったのならばそれでも構わん………それがお前の生き方だと言うのならばな………」

 

独り言の様にそう呟いていると、やがて眼前にモニターを展開し、グレンラガンと神谷の姿を映し出す。

 

「グレンラガン………天上 神谷………貴様がどれ程の男か………この獣人遊撃部隊戦闘隊長であるジギタリスが見極めてやろう!」

 

映像のグレンラガンと神谷に向かって、ジギタリスはそう宣言するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神谷と楯無の蟠りは氷解し………

 

学園祭の開催中を衝かれたロージェノム軍の襲撃。

 

そして亡国企業の残党をも退けたグレン団。

 

しかし、ティトリーの上司であるジギタリスが………

 

グレンラガンと神谷を狙い、牙を研いでいた。

 

そして、謎の覆面IS乗り………

 

『シュバルツ・シュヴェスター』とは何者なのか?

 

グレン団とロージェノム軍の戦いは、まだ果てしなく続く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

グレン団、IS学園の部活となる!
神谷と楯無はすっかり意気投合。
早速一夏達を振り回し始めます。

しかし、そんな神谷達を謎の獣人・ジギタリスが狙います。
次回よりキャノンボール・ファスト編、スタートです。
セシリアの活躍と、シュバルツの登場をお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております


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第32話『考えるのだ! 己のISの名に込められた意味を!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第32話『考えるのだ! 己のISの名に込められた意味を!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・食堂………

 

「えっ? 一夏の誕生日って今月なの?」

 

夕食を摂っていた神谷、一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、ティトリーのグレン団メンバーの中で、シャルがそう声を挙げた。

 

「ああ」

 

「そういや、そうだったな………もうそんな時期か」

 

一夏が返事を返し、神谷も思い出したかの様にそう言う。

 

「何時?」

 

「9月の27日だよ」

 

「おお! 御誂え向きに日曜じゃねえか!」

 

神谷が食堂の壁に掛かっていたカレンダーで確認し、そう声を挙げる。

 

「一夏さん、そういう大事な事はもっと早く教えてくださらないと困りますわ」

 

とそこで、一夏の隣に座ってビーフシチューを食べていたセシリアが、パンを置いて話し掛けて来た。

 

「い、いや、自分の誕生日なんか教えたら、何かあからさまにプレゼントが欲しいって言ってるみたいで、心象悪いかなぁと思って………」

 

「水臭えこと言ってんじゃねえよ、一夏! 俺たちゃグレン団!! 魂の絆で結ばれた仲間だろうが!! その仲間に、遠慮なんかすんじゃねえよ!!」

 

そう言う一夏の肩を摑み、神谷はそう言って来る。

 

「アニキ………」

 

「そうそう! 仲間として誕生日を祝うのは当然っしょ!」

 

感激している一夏に、ティトリーもそう言って来る。

 

「しかし、知っていて黙っていた連中も居る様だな………」

 

「「うっ!?」」

 

嬉々として純白の革手帳の予定表の9月27日の欄に2重丸を描いているセシリアの横で、ラウラが箒と鈴をジト目で見ながらそう言う。

 

当の箒と鈴は、ラウラの視線を受けて固まる。

 

「べ、別に隠していたワケではない! 聞かれなかっただけだ!」

 

「そ、そうよそうよ! 聞かれもしないのに喋るとKYになるじゃない!」

 

「いや、すまねえなぁ! てっきり俺は、そんな事とっくに問い質してると思って言ってなかったぜ!」

 

やや言い訳染みた事を言う箒と鈴に対し、神谷も後頭部を掻きながら、余り悪びれた様子も無くそう言って来た。

 

「兎に角! 9月27日! 一夏さん、予定を空けておいて下さいな!」

 

「あ、ああ………あ、でも、当日ってアレがあるから………夕方か夜からだな」

 

「『キャノンボール・ファスト』か………」

 

 

 

 

 

『キャノンボール・ファスト』………

 

言うなればISを使ったレースである。

 

本来は国際大会として行われるものだが………

 

IS学園では、市との特別イベントとして開催されるモノに参加する形となる。

 

勿論、専用機と訓練機では性能差が在り過ぎるので、其々に分かれて行われる。

 

 

 

 

 

「ん? そう言えば、明日からキャノンボール・ファストの為の高機動調整を始めるんだよな? アレって具体的には何をするんだ?」

 

「ふむ。基本的には高機動パッケージのインストールだが、お前の白式には無いだろう」

 

「その場合は、駆動エネルギーの配分調整とか、各スラスターの出力調整とかかなぁ?」

 

首を傾げた一夏に、ラウラがプチトマトを頬張りながら、シャルが白身魚のフライを齧りながらそう言う。

 

「ふうん。確か、高機動パッケージっていうと、セシリアのブルー・ティアーズには有るんだったよな?」

 

「ええ! 私、セシリア・オルコットの駆るブルー・ティアーズには、主に高機動戦闘を主眼に据えたパッケージ『ストライク・ガンナー』が搭載されていますわ!」

 

一夏がそう言うと、セシリアはお決まりの腰に手を当てるポーズを決めながらそう語る。

 

(最近、何か元気なさそうだったけど、問題は解決したのだろうか?)

 

そんなセシリアを見ながら、一夏は内心でそう思う。

 

実はその原因が、一夏自身に有るとは夢にも思っていないだろうが………

 

元々白式は、エネルギー兵器を無効化する能力を持っており、第2形態移行(セカンド・シフト)してからはそれが防御にも使える様になり、ビーム兵器主体のセシリアのブルー・ティアーズは、模擬戦に於いて負け越している。

 

他の者がそれなりの戦いを繰り広げる中、自分だけは置いて行かれている様に思えたセシリアのプライドは、酷く傷ついていた。

 

本国(イギリス)に実弾兵器を送って欲しいとも陳情したが、元々ブルー・ティアーズはBT兵器の実働データのサンプリングを目的に建造された為、敢え無く却下されている。

 

BT兵器の稼働率が最大になれば、ビーム自体を自在に操れるらしいが、現在の稼働率は37%前後………

 

最大稼働など、夢のまた夢であった。

 

セシリアは毎日皆が帰った後も特訓を続け、BT兵器稼働率を上げようと頑張っているのだが、結果は芳しくなかった。

 

「それだとセシリアが有利だよな。今度超音速機動について教えてくれよ」

 

「………申し訳ありません。それはまた今度。ラウラさんにお願いして下さい」

 

一夏の願いを微笑みながらも断るセシリア。

 

今はまだ、自分の事で手一杯の様だ。

 

「そっか………分かった。じゃあラウラ、教えてくれ」

 

「良いだろう。最近はあの女にかまけてばかりいるお前を、私が教育してやろう」

 

あの女とは、楯無の事である。

 

学園祭の1件以来、楯無は神谷とすっかり意気投合しており、そんな彼女を神谷がグレン団に入れるのに時間は掛からなかった。

 

それに伴い、楯無は忙しい時間を割いてまで、放課後のグレン団による一夏の特訓に顔を出す様になる。

 

学園最強のIS乗りの教えは分かり易いものだったが、特訓内容は他の誰よりも厳しい。

 

必然的に一夏は楯無から多く教えを受ける様になり、それが箒達をやきもきさせる事になった。

 

「つうか、有利だって言うならアンタも同じでしょうが。白式のスペック、機動力だけなら高機動型に引けを取らないわよ。ま、それを言うなら、紅椿もだけどね」

 

鈴がそう言うと、話題はそのまま、キャノンボール・ファストに向けて、其々のISを如何調整するかに入る。

 

セシリアと鈴は、高速機動パッケージを装着する。

 

一夏と箒は、機体出力を調整。

 

シャルとラウラは、スラスターを増設する調整を行うと言い合った。

 

そして、神谷は………

 

「アニキは………」

 

「俺は勿論! 気合で勝つに決まってんだろ!!」

 

「………だよね~」

 

当然の様にそう返した神谷に、一夏は苦笑いを浮かべる。

 

グレンラガンはISでない為、パッケージの装着はおろか、スラスターの増設をする事も出来ない。

 

となると、機体出力の調整という事になるのだが………

 

前にも言った通り、グレンラガンの動力は神谷自身の螺旋力である。

 

つまり神谷の気合次第で上下するので、理論上、神谷が気合を出せば出す程、機体速度も上がる事になる。

 

「前から思ってたけど、アンタの機体ってホント便利よね………取り敢えず気合さえあれば、細かい調整なんて一切要らないんだから」

 

「何言ってやがる! お前等だってもっと気合を出せば強くなれるぜ!!」

 

「いや、アニキ。ISは気合じゃ強くならないから」

 

羨ましがる様に言って来た鈴に、神谷はそう返し、一夏が冷静なツッコミを入れるのだった。

 

「良いな~、専用機持ちは~」

 

と、ティトリーが更に羨ましそうにしている発言を繰り出す。

 

「あ、そっか。ティトリーは量産機での部門だっけ」

 

「細かい事は気にすんな! それにお前だって何時かは自分の相棒が持てる日が来る! 俺が保証してやる!!」

 

(相変わらず根拠も無しに自信満々だ………)

 

一夏が思い出したかの様に言うと、神谷がそうティトリーを励まし、シャルが内心で神谷お決まりの根拠無い自信にツッコミを入れる。

 

「そう言えば、一夏。結局『あの話』、如何なったの?」

 

「? 『あの話』って?」

 

「アンタを他の部活に貸し出すって話よ」

 

鈴が言っているのは、先日グレン団がIS学園の正式な部活として、楯無から認可を受けた時の事である。

 

あの時神谷は、一夏を貸して欲しければ直接俺に言いに来いと良いっていた。

 

当初は、神谷の見た目や噂を怖がり、頼みに来る様な者は居なかったのだが………

 

ここ最近になって、覚悟を決めた猛者が現れる様になったのだ。

 

皆そんなに一夏を自分が居る部活へ誘いたいのだろうか?

 

まあ、女の園の学園に神谷を除いて1人しかいない男である。

 

しかも結構なイケメンで朴念仁である事を除けば性格も悪くない。

 

優良株である事は間違いないだろう。

 

「ああ、今生徒会の方で抽選と調整をしてくれるそうだから」

 

「生徒会が?」

 

「ああ………」

 

何故生徒会が一夏の貸し出しの調整をするのかと疑問に思った鈴だが、一夏はそんな鈴の思惑を察したのか、耳打ちする様に小声で言って来る。

 

(アニキに任せてたらスケジュールが破綻するだろうから、生徒会の方で調整してあげるって、楯無さんが言ってくれてな)

 

(成程ね………)

 

それを聞いた鈴が納得の行った表情になる。

 

確かに、神谷がスケジュールや予定を立てる様な人物には見えない。

 

適当に貸し出す部や順番を決めたら、決死の思いで頼み込んで来た生徒達に申し訳が立たない。

 

そう思っての判断だろう。

 

「そう言えば、皆部活に入ったんだよな?」

 

そこで一夏が、また思い出した様にそう言う。

 

「私は最初っから剣道部だ」

 

当然とも言える箒だが、当初の頃は一夏の特訓に時間を割いており、幽霊部員状態であった。

 

学園祭で、一夏と一緒に回っていた時に、一夏が強引に剣道部へ連れて行った事で、部長に幽霊部員な事を釘を刺され、今はよく顔を出す様になったらしい。

 

「アタシはラクロス部ね。入部早々期待のルーキーなんて言われて、参っちゃうわ」

 

イメージからして運動が得意そうな鈴は、期待通りに運動系の部活である。

 

専用機持ちな為、身体能力も他の生徒と比べて一線を画しているので、早速活躍している様だ。

 

「僕は、その………料理部に」

 

シャルは頬を染めて、神谷の事をチラリと見ながらそう言う。

 

部長に誘われたからというのもあるが、1番の理由はやはり神谷に美味しい手料理を食べさせたいからだ。

 

頑張れ、恋する乙女。

 

「私は英国が生んだスポーツ、テニスですわ。一夏さん、よろしければ今度ご一緒に如何ですか? 私が直接教えて差し上げてもよろしいですわよ? と、特別に」

 

一夏を見て、微笑みながらそう言うセシリア。

 

この時ばかりは悩みの事を忘れている様だ。

 

「因みに私は、茶道部だ」

 

日本文化好きであり、しかも顧問が千冬である。

 

ラウラが入らない理由はなかった。

 

「あ~、アタシはまだ何処にも………」

 

1人、まだ部活に入っていないティトリーが気まずそうにそう呟くが………

 

「何言ってやがる、ティトリー! お前はグレン団だろ!!」

 

神谷がそんなティトリーにそう言う。

 

「えっ!? で、でもアタシ、専用機持ちじゃないし………」

 

「馬鹿野郎! 専用機持ちだとかそんな事は関係ねえ! 熱い魂を持ってりゃ、そいつはもうグレン団の一員だ!!」

 

戸惑うティトリーに、神谷は続けてそう言う。

 

「お前等も分かってんな!? お前達の一の所属はグレン団だ! 学園と世界を守る正義の軍団だ!! 助っ人の部活に託けて、グレン団の活動を蔑ろにするんじゃないぜ!!」

 

そこで神谷は、今度は一夏達の方を見ながらそう言った。

 

「分かってるよ、アニキ!!」

 

「ア、アハハハ………」

 

「「「「…………」」」」

 

一夏は素直に返事をし、シャルは苦笑いを浮かべ、箒、セシリア、鈴、ラウラは憮然として黙り込む。

 

その後も、神谷が会話でも一同を振り回し、楽しい夕食の時間は過ぎ去ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第5アリーナ………

 

学園内に建設されているアリーナ内で、唯一夜間も使用可能なアリーナに、1人の人物が姿を見せる。

 

好き好んで夜間戦闘訓練を行う者はこの学園には少ない。

 

その理由は………

 

「寝不足はお肌の大敵だから」

 

と言う、何とも女子らしい理由だ。

 

だが、今宵この場に現れたのは、そんな事も気にしない者である。

 

「………ブルー・ティアーズ!」

 

静かに愛機………ブルー・ティアーズを呼び出すセシリア。

 

そして、射撃用のターゲットを出現させたかと思うと、ビット連動の高速ロール射撃を開始する。

 

(曲がりなさい!)

 

射撃の度に撃ったレーザーに曲がれと念じるが、レーザーはただ直進するばかりだった。

 

「くうっ! まだ駄目ですの!?」

 

悪態を吐く様にそう言いながらも、セシリアはBT偏向制御射撃(フレキシブル)の特訓を続ける。

 

意識を集中し、水のイメージを連想して引き金を引くが、やはりビームは真っ直ぐ進むだけであり、一向に曲がる気配を見せなかった。

 

「ハア………ハア………駄目ですわ………」

 

徐々にセシリアに、疲労と共に焦燥が募って行く。

 

「何故ですの………何故上手く行かないんですの………」

 

「知りたいか? セシリア・オルコット」

 

と、不意に呟きを漏らした瞬間、アリーナ内にセシリア以外の声が響き渡った。

 

「!? 誰ですの!?」

 

慌ててアリーナ内を見回すセシリア。

 

しかし、アリーナ内には自分以外は見当たらない………

 

だがそこで、曇りであった空が晴れ始め、月明かりがアリーナを照らし始めると………

 

実況席の上の方に、妙な影が映っている事に気づく。

 

「!?」

 

慌ててセシリアが実況席を見上げると、そこには………

 

「漸く気づいた様だな………」

 

腕組みをして悠然と佇む、シュバルツ・シュヴェスターの姿が在った。

 

「!? 貴方は………シュバルツ・シュヴェスター!?」

 

一夏から聞いていた人物像と目の前の人物の恰好が一致し、セシリアが驚きながらも身構える。

 

(ハイパーセンサーに全く反応が無い!? こんなにハッキリと姿を捉えているのに!?)

 

「セシリア・オルコットよ。お前は自分のISの名前に込められている意味を考えた事が有るか?」

 

そんなセシリアの戸惑いの様子など気にせず、シュバルツはそう問い掛ける。

 

「えっ? 名前の………意味?」

 

シュバルツの質問の意味が分からず、セシリアは更に困惑する。

 

「それが分からぬ内は幾ら特訓を重ねたところで、BT偏向制御射撃(フレキシブル)を使う事など、出来はせんぞ」

 

「なっ!? いきなり現れて、何を偉そうに………」

 

「考えるのだ! 己のISの名に込められた意味を!! そして解き放て! 螺旋の魂を!!」

 

いきなりの叱咤に、セシリアは反論しようとしたが、それよりも早くシュバルツがセシリアに向かってそう叫んだ。

 

「名に込められた意味………螺旋の魂………」

 

何故かその言葉が心に響いて来て、セシリアは反芻する。

 

「その意味が分かった時………お前のISは真の意味でお前の物となる」

 

「真の意味で? 如何言う事ですか!?」

 

「それは己で考える事だ………さらば!」

 

肝心な質問には答えず、シュバルツは煙と共に消えてしまう。

 

「あっ!? ちょっと!?」

 

セシリアは困惑するしかなかったが、するとそこで………

 

「よう! 調子は如何だ?」

 

今度は、良く聞き慣れた声が、アリーナに響き渡る。

 

「!?」

 

セシリアが驚きながら振り向くと、そこには当然の様に佇んでいる神谷の姿が在った。

 

「神谷さん!? 何故此処に!?」

 

「特訓してるんだろ? 俺も手ぇ貸してやるよ」

 

「!? ど、如何してそれを!?」

 

「オイオイ、俺を誰だと思ってやがる! グレン団の鬼リーダー、神谷様だぜ! 団員の悩みが分からねえ様じゃ、リーダーなんざやっちゃいねえぜ!」

 

ニヤリと笑いながら、神谷はセシリアにそう言う。

 

「で、ですが、コレは私の問題で………」

 

「何言ってやがる! お前の問題はグレン団の問題! それを解決するのはリーダーである俺の役目ってもんだ!!」

 

「…………」

 

そこでセシリアは、神谷をジッと見遣る。

 

「………フフフ、貴方と言う方は………ホントに不思議な方ですわね」

 

やがてそう言いながら笑みを零した。

 

「さっ! とっとと特訓を始めるぜ!!」

 

そこで神谷は、グレンラガンの姿となる。

 

「ええ、よろしくお願いしますわ!」

 

セシリアはそう答え、神谷と共に特訓を再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ外の林の中………

 

「これで当面の心配は要らんか………若き獅子達は、共に己を鍛え合うのが一番………」

 

目の前に投影されているアリーナの映像を見ながら、木陰に隠れているシュバルツはそう呟く。

 

「さて………天上 神谷よ………お前は今度の試練を如何乗り切る? じっくりと見させてもらうぞ」

 

そしてそう言ったかと思うと、その姿は忽然と消えるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

IS学園・学生寮の廊下………

 

「ふう~~………良い汗掻いたぜ」

 

セシリアとの特訓を終え、アリーナのシャワールームでシャワーを浴びるセシリアと別れ、神谷は寮に戻っていた。

 

「しかっし、セシリアの奴………結構悩んでやがったかと思ったが、意外と元気だったな………何かあったのか?」

 

シュバルツから叱咤を受けていた事を知らない神谷は首を捻る。

 

すると………

 

「あ! 神谷!!」

 

後ろから声がして振り返ると、風呂帰りと思われるシャルがコチラに向かって駆けて来ていた。

 

まだ若干湿っている髪と、ほんのりと赤くなっている肌が、何とも色っぽい。

 

「おう、シャル! 風呂帰りか?」

 

「うん、神谷は如何したの?」

 

「何、ちょいと身体動かしてきただけさ」

 

セシリアの心境を考え、神谷はホントを事は伏せる。

 

「そっか………」

 

と、そこでシャルは、何やらモジモジとし始める。

 

「? どした?」

 

「え、えっと、その………」

 

そのシャルの態度に神谷は首を傾げるが、シャルは相変わらずモジモジとしたままだ。

 

「んだよ? 言いたい事があるならハッキリ言え」

 

そう言った煮え切らない態度が嫌いな神谷が、急かす様にそう言う。

 

「!? う、うん!! ちょ、ちょっと待ってね! す~~~~………はあ~~~~」

 

シャルはそこで深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。

 

「えっとね、神谷………今度の週末に、一緒に駅前に行かない?」

 

「駅前?」

 

「う、うん………ホラ、一夏の誕生日がもうすぐでしょ? 一緒に選ぼうかなと思って」

 

「成程な………」

 

そう言われて、神谷は顎に手を当てた。

 

「だ、駄目かな?」

 

不安そうに、神谷を上目遣いで見遣るシャル。

 

「別に駄目とは言っちゃいねえぜ」

 

しかし、神谷はそんなシャルの不安を吹き飛ばす様に笑う。

 

「ホント!? 良かった~………じゃあ、約束だよ」

 

そう言うとシャルは、小指を立てた右手を神谷に差し出す。

 

「ん?」

 

その手の意味が分からず、神谷が首を傾げていると………

 

「ホラ、指切りだよ」

 

シャルがそう説明して来た。

 

「あ! な~るほど………しかし、オメェも子供っぽい事すんなぁ」

 

「むう………せめて恋人同士の微笑ましい光景とか思ってよ」

 

「ハハハ! ワリィワリィ」

 

神谷は笑いながら謝罪する。

 

「もう………まあ良いや。それじゃ約束だよ」

 

「おう! 男は約束事は死んでも守るぜ!!」

 

そう言って神谷は、シャルの手の小指に、自分の手の小指を絡ませる。

 

「指切りげんまん、嘘吐いたら………」

 

「ドリルでどてっぱらに風穴開ける!!」

 

「ええっ!?」

 

クラスター爆弾呑ますと言おうとしたシャルは、神谷のトンでもない罰に驚きの声を挙げる。

 

………クラスター爆弾と言うのもかなり物騒だが。

 

「約束も守れねえ奴はそうなって当然だろ」

 

「う、うん………そうだね」

 

当然の様にそう言う神谷に、シャルは苦笑いするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

キャノンボール・ファスト編、開幕です。
今回はセシリアにスポットが当たる回でもあります。
シュバルツに助言を受けるセシリア。
彼女はこんな感じにちょくちょくグレン団メンバーを助ける様な事をしてきます。
そして一夏に………

次回、シャルとのデート模様と、例の獣人が襲来します。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第33話『グレンラガンは何処に居る?』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第33話『グレンラガンは何処に居る?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はアッと言う間に流れて週末………

 

IS学園・学生寮………

 

「さて、行くか」

 

お馴染みの赤いマントを翻し、自室から出て来る神谷。

 

因みに弟分の一夏は、キャノンボール・ファストに向けて白式を調整中である。

 

元より彼の誕生祝いのプレゼント選びの為、詳しくは言っていなかったが、神谷は悟られない様に外出した。

 

と、そして階段に差し掛かったところで………

 

「アラ、神谷さん。お早いですね」

 

今日も今日とて特訓に明け暮れようとしていたセシリアと出会す。

 

「おう、セシリアか。ちょいと用事が有ってな。オメェは今日も特訓か?」

 

「ええ。今日こそBT偏向制御射撃(フレキシブル)をものにして見せますわ」

 

セシリアは、グッと拳を握って決意を示す。

 

「そうか。ワリィが、今日は手ぇ貸してやれねえからな」

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、何時までもリーダーに頼りっきりでは団員として申し訳がありませんから。今日は私1人で十分ですわ」

 

「そうか………ま、頑張れよ」

 

「ええ。それではご機嫌よう」

 

そう言うとセシリアは階段を下りて行き、アリーナへと向かったのだった。

 

「思い詰めちゃあいない様だな………ま、一安心ってとこか」

 

セシリアの様子を見て、神谷はそう判断すると、再びシャルと待ち合わせをしている駅前へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駅前………

 

(髪、変じゃないかな? もう1回見ておこう)

 

約束の45分も前に到着していたシャルは、そわそわした様子で、12回目となる前髪のチェックを行う。

 

手鏡を見ながら、前髪を右へ左へとちょんちょんと弄る。

 

その仕草はとても可愛らしく、何人かの通行人が思わず通り掛かりに見遣る程だった。

 

(でも流石に早く来すぎたかなぁ?)

 

腕時計を確認すると、約束の時間までまだ40分以上もある。

 

すると………

 

「ねえねえ、カーノジョっ♪」

 

「今日ヒマ? 今ヒマ? どっか行こうよ~」

 

いかにもチャラ男と言った風体の2人が、シャルにそう声を掛けて来た。

 

「悪いけど、チャラ男に興味は無いよ。僕を誘いたかったら、もっと『漢』を磨いてから出直して来てね」

 

シャルは『イイ笑顔』を浮かべてバッサリとそう言い放つ。

 

神谷と比べれば、目の前の男など塵にも等しかった。

 

「な、何だと、このアマァ!?」

 

「良い度胸してんなぁ!!」

 

途端にチャラ男達は、シャルに対し怒りを露わにし、殴り掛かろうとする。

 

「!!」

 

CQCで迎え撃とうとしたシャルだったが………

 

それよりも早く、チャラ男達の後ろに現れた人影が、後ろからチャラ男達の頭を鷲摑みにして持ち上げる!

 

「イデデデデデッ!?」

 

「あ、頭が割れるううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!?」

 

かなり強く摑まれているのか、チャラ男の頭蓋骨からはミシミシという音が聞こえて来る。

 

「俺の女に手ぇ出すとは………良い度胸してんなぁ、お前等」

 

人影………神谷がチャラ男を持ち上げたままそう言い放つ。

 

「神谷!」

 

神谷の姿を見たシャルが、嬉しそうな表情を露わにする。

 

(凄い! 王子様みたい………てのは流石に無理があるか。神谷だし………でも………お、俺の女って………)

 

先程の神谷の台詞を思い出し、頬を赤く染めるシャル。

 

「か、神谷!?………!? まさか!? あの天上 神谷か!?」

 

「何っ!? 天上 神谷!? 不良高校で有名だった黒進高校の不良共を1日で全員叩きのめし、200人の暴走族チームをたった1人で潰した、あの!?」

 

「この辺り一帯を仕切ってる銀狼会を壊滅させて、中国マフィアにも喧嘩を売ったって言う、あの天上 神谷!?」

 

と、神谷の名を聞いたチャラ男達が、そんな事を話し始める。

 

「へっ! 俺も有名になったもんだぜ」

 

「ええっ!? ホントなの!?」

 

神谷のトンでも武勇伝を聞いて、シャルが驚きの声を挙げると、神谷はチャラ男達を解放する。

 

「さて………お前等、覚悟は出来てるんだろうな?」

 

神谷がそう言って指の骨を鳴らすと………

 

「「すいませんでしたーっ!!」

 

チャラ男達は芸術的とも思える程の綺麗な土下座を決めて、神谷に謝罪したのだった。

 

 

 

 

 

「………何も金目の物を置いて行かなくても」

 

あの後、チャラ男達は必死になって持っていた金目の物を掻き集め、神谷の前に置いたかと思うと、慌てて車に乗って逃げて行ったが………

 

先程、チャラ男達の車が走り去って行った方向からサイレンが聞こえて来ており、如何やら慌てて逃げようとして事故った様である。

 

ご愁傷様とはこの事である。

 

「神谷、如何するの?」

 

「しゃーねえ。交番にでも届けるか」

 

流石にそんなヤバい金に手を付ける気にはなれず、神谷は近くの交番へと落し物として届けたのだった。

 

 

 

 

 

「さて、気を取り直して、今日は如何すんだ?」

 

チャラ男達が勝手に置いて行った金目の物を落し物だと言って交番に届けた神谷は、改めてシャルにそう尋ねる。

 

「えっと………取り敢えず、駅前のショッピングモールを回ってみて、一夏へのプレゼントを見つけようか?」

 

「だな………んじゃ行くか」

 

神谷はそう言うと、自然な動作でシャルに向かって手をポケットに突っこんだままの腕を差し出した。

 

「あはっ!」

 

シャルは嬉しそうに、その神谷の腕と自分の手を組む。

 

そしてそのまま、ショッピングモールを目指して歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

IS学園・第3アリーナにて………

 

「集中………集中………」

 

念じる様にそう呟きながら、スターライトmkⅢでの射撃を繰り返しているセシリア。

 

しかし、相変わらずレーザーは曲がる気配を見せない。

 

「クウッ! まだ駄目ですの………」

 

その様子を見て、セシリアは若干落ち込む様な素振りを見せる。

 

(私のISの名に込められた意味………そして螺旋の魂………やはり、シュバルツ・シュヴェスターの言う通り、それの意味が分からなければ、BT偏向制御射撃(フレキシブル)を使う事は無理と言う事なんですの?)

 

そこで、シュバルツから言われた言葉の意味を、改めて考え始める。

 

と、その時………

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

他のアリーナを使用していた生徒達から悲鳴が挙がった!!

 

「!? 何ですの!?」

 

セシリアが驚きながら、悲鳴が聞こえた方向を見遣ると、そこには………

 

「…………」

 

顔に×の字の傷を持ち、露出している上半身の彼方此方にも傷痕のある巨大な体躯の獣人が、悠然と佇んでいた。

 

「!? 獣人!! 皆さん! 下がってください!!」

 

すぐにセシリアは、他の生徒を下がらせ、その獣人の前にスターライトmkⅢを構えて立ちはだかる。

 

「…………」

 

しかし、その獣人は、スターライトmkⅢを突き付けられていると言うのに、まるで動じる様子を見せず、悠然と佇み続けている。

 

(!? 何ですの!? コイツ!?)

 

その獣人の様子に、セシリアは得体の知れない恐怖を感じる。

 

「………何処に居る?」

 

すると、そんなセシリアに向かって、獣人がそう問い質して来た。

 

「えっ?」

 

「グレンラガンは何処に居る?」

 

突然の質問に首を傾げたセシリアに、獣人は重ねてそう問い質す。

 

「!? グレンラガンに何の用ですの!?」

 

「知れた事………グレンラガンは我等が王、螺旋王ロージェノム様の敵………故に倒しに来たまでよ」

 

「そう………なら残念ですわね………グレンラガンより先に………私が貴方を片付けて差し上げますわ!!」

 

セシリアはそう言うや否や、スターライトmkⅢを獣人目掛けて発砲した。

 

ビームが一直線に獣人へと向かう。

 

だが………

 

「ふん………」

 

迫り来るビームを、獣人は鼻で嗤ったかと思うと、片手を掌を翳す様に構えた。

 

そしてビームがその掌に当たると、拡散して雲散してしまう。

 

「!? そんな!?」

 

まさか生身で防がれるとは思っていなかったセシリアが、驚愕を露わにする。

 

すぐに反撃に備えるセシリアだったが………

 

「貴様では話にならん………グレンラガンを出せ! それまで此処で待っててやる………」

 

何と獣人は、そのままその場へと腰を下ろすと、胡坐を掻いて座り込む。

 

「えっ? ええっ!?」

 

獣人の思わぬ行動に、セシリアは困惑して、如何して良いか分からなくなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し戻り………

 

グレンラガンこと神谷は………

 

駅前のショッピングモールで、一夏への誕生日プレゼント選びに勤しんでいた。

 

「こんなのは如何だ? シャル」

 

神谷がそう言って見せたのは、黒地に真っ赤な色で『漢』と筆字でプリントされているTシャツである。

 

「そ、それはちょっと………」

 

「んじゃこっちの方が良いか?」

 

シャルが苦笑いを浮かべると、神谷は今度はプリントの字が『魂』と書かれたバージョンのTシャツを見せる。

 

「そ、それも如何かな?」

 

「え~? 何が駄目なんだよ?」

 

(色々とだと思うけど………)

 

自分のセンスに駄目出しされて不満げな神谷に、シャルは相変わらず苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「え~と………あ! そうだ! 小物なんて如何かな? 例えば腕時計とか?」

 

神谷に任せていては埒が明かないと思ったシャルは、必死に頭を回転させると、そういう答えを導き出す。

 

「腕時計か………睡眠薬が入った針が飛び出す奴か?」

 

「いや、そう言うのじゃなくて、普通のだよ」

 

どっかの小学生にされた高校生の探偵が使うバーローな腕時計を思い出す神谷と、そんな神谷にツッコミを入れるシャル。

 

「取り敢えず、時計店へ移動よ」

 

「そだな………」

 

2人はそう言い合うと、服屋を後にする。

 

すると………

 

「アッ! アニキ!!」

 

「デュノアさん?」

 

店を出たところで声を掛けられ、神谷とシャルが振り返ると、そこには………

 

弾と私服姿の虚の姿が在った。

 

「おっ! 弾じゃねえか!」

 

「虚さん? 如何して此処に?」

 

平然としている神谷に対し、シャルは意外な人物に出会して軽く驚いていた。

 

「あ、えっと………」

 

「ホラ、今月一夏の誕生日があるじゃないっすか。それでプレゼント選びも兼ねてデートをと思ってさあ」

 

「だ、弾くん!!」

 

恥ずかしがってデートだとは言えなそうだった虚を尻目に、弾は堂々とデートだと言う事を宣言する。

 

「そうか、奇遇だな。実は俺達もその口でな」

 

「おおっ! アニキもっすか!! じゃあ如何っすか!? 此処は4人で協力してプレゼント選びしながらダブルデートに洒落込むってのは!!」

 

「ナイスアイデアだ! 弾!!」

 

そのまま、神谷と弾は2人だけでドンドン盛り上がって行く。

 

「ちょっ! 神谷!!」

 

「だ、弾くん!?」

 

「行くぞ! シャル!!」

 

「行きましょう! 虚さん!!」

 

戸惑うシャルと虚の手を取ると、神谷と弾は、ショッピングモールの中を驀進し始める。

 

「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」

 

宙に浮かぶ程のスピードで走られ、シャルと虚は悲鳴を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

暴走しかけた神谷と弾を如何にか押さえ、何とか真面な一夏へのプレゼントを買ったシャルと虚だったが………

 

その際に、神谷と弾がチンピラ達に因縁を付けられてしまい………

 

現在絶賛喧嘩の真っ最中である。

 

仕方なくシャルと虚は、喧嘩が終わるまで近くのベンチに腰掛け、自販機で購入していたジュースを呷っていた。

 

「全くもう~………神谷ってば、何時もああなんだから………」

 

「大変ね、デュノアくん」

 

喧嘩の様子を遠目に見ながら、シャルが愚痴る様に言うと、虚が慰めるかの様な言葉を言って来る。

 

「もう結構慣れちゃいましたけどね………やっぱり、その………神谷の事、好きだから………虚さんもそうでしょう?」

 

「え、ええ………」

 

と互いの恋人の事を話し始めると、赤面し合う2人。

 

「神谷ってば、何時も突っ走ってばかりで、それで無茶苦茶で………でも、そんな神谷だから………僕は好きになったんです」

 

「………私も、弾くんの勢い任せなところに戸惑ってしまうけど………でも、それ以上に優しくて、強いあの人が好きよ」

 

「「…………」」

 

そう言い合うと、シャルと虚はお互いに手を取り合う。

 

「お互い、頑張りましょうね、虚さん」

 

「ええ、そうね。デュノアさん」

 

そしてニコリと笑い合ってそう言うのだった。

 

「待たせたな、シャル!」

 

「すいません、虚さん。お待たせしちゃって」

 

とそこで、神谷と弾が帰って来る。

 

「あ、神谷」

 

「弾くん、終わったの?」

 

「ああ、やっと片付いたぜ」

 

「しつこい連中だったぜ」

 

そう言い合う神谷と弾の背後には、伸されたチンピラ達が、漫画の様に積み上げられていた。

 

「「うわぁ………」」

 

その光景を見て、思わず苦笑いを浮かべるシャルと虚。

 

「しかし、アニキ! アニキの螺旋パンチは相変わらず凄かったぜ!!」

 

「何言ってやがる! お前の飛竜三段蹴りのキレも中々のもんだったぜ!!」

 

そんな2人の様子など知らず、神谷と弾は互いに奮戦を称え合っている。

 

「あ、そうだアニキ! 実はちょっと相談があるんだけど………」

 

と、そこで弾が、不意に相談を持ち掛けて来る。

 

「何だ? 遠慮無く言えって! 俺とお前の仲だろ!!」

 

「ホラ、今度の一夏の誕生日の日って、確か………キャノンボール・ファストってイベントの日だろ?」

 

「ああ、そう言やそうだったな」

 

「それでさあ、アニキ………蘭の奴にそのチケットって貰えないかな?」

 

「ああ? 蘭に?」

 

そこで首を傾げる神谷。

 

「いや、俺は虚さんからもらったんだけど………蘭の奴が俺だけが学園祭に行った事を知った途端、凄い剣幕で襲い掛かって来てさぁ」

 

「成程な………それで今度は蘭の分もって事か」

 

「出来るかな? アニキ?」

 

「任せておけ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

神谷はそう言って、ドンと胸を叩く。

 

「サンキュー、アニキ! これで蘭に殺されなくて済むぜ!」

 

「じゃあ話も纏まったところで、そろそろ行きましょうか」

 

と、虚がそう言って腰を上げた瞬間………

 

突如として、神谷が非常時の連絡手段として千冬に持たされていた携帯電話が鳴った。

 

「あ? んだよ………ハイ、もしもし?」

 

[神谷か? 今何処に居る?]

 

神谷が気怠そうに受信ボタンを押すと、千冬の声が響いてくる。

 

「んだよ、ブラコンアネキ? 今日は休みだぞ?」

 

[そうも言っていられん事態が発生した………先程第3アリーナに獣人が現れた]

 

「!? 何っ!?」

 

獣人と聞いて顔色を変える神谷。

 

「「「!?」」」

 

傍で聞いていた3人も、思わず聞き耳を立てる。

 

[それで如何言うワケだか、お前を出せと喚いて座り込んでいる]

 

「へえ………俺に名指しで喧嘩売ろうってのかい?」

 

[ワケが分からん奴だが………セシリアの報告によれば、素手でビームを掻き消したらしい。並みの相手じゃないぞ]

 

「何処の誰で、どんな奴だろうと関係ねえ! 売られた喧嘩は買うのがグレン団の流儀よ!!」

 

[兎に角、すぐに戻って来い!]

 

そう言うと千冬は電話を切った。

 

「ワリィな、シャル。デートはココまでだ」

 

「うん! 獣人が出たんなら、放って置けないね」

 

神谷がそう呼び掛けると、表情を引き締めたシャルがそう返して来る。

 

「ゴメンね、弾くん。念の為に、私も戻らないと」

 

「良いですよ。気にしないで下さい」

 

虚も、弾とそう言い合う。

 

「行くぞ! シャル!!」

 

「うん!!」

 

「今度また埋め合わせするから!」

 

そう言うと、神谷、シャル、虚の3人は学園に向かって走り出した。

 

「………やっぱり激しいんだな………ロージェノム軍との戦いは………チキショウ………俺にもアニキや一夏みたいな力が有れば………」

 

残された弾は、こういう時に役に立てない自分の身に歯痒さを感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再びIS学園・第3アリーナ………

 

突如現れ、グレンラガンを出せと言って座り込んだ獣人………

 

ファーストコンタクトでセシリアの攻撃が防がれた事から、教師部隊に加えて、専用機持ち達も集合して、獣人を取り囲んでいるが………

 

獣人はセシリアの攻撃を防いで以来、ただジッと座り込んでいるだけで、何の動きも見せなかった。

 

この奇妙な獣人を、教師部隊も専用機持ち達も扱い倦ねる。

 

やがては逃げ出した生徒達が、獣人を間近で見ようとアリーナの客席に集まり出す始末だった。

 

「…………」

 

そんな中でも、獣人は動きを見せず、ただジッとグレンラガンを持っている。

 

「アイツ………如何言う積りなんだ?」

 

その獣人の周りを取り囲んでいた教師部隊と専用機持ちの中で、一夏がポツリと漏らした。

 

「ずっとああして座ってるだけじゃないの」

 

それに返事を返す様に、鈴がそう言う。

 

「やはり、グレンラガン………神谷を待っているのか?」

 

「態々敵地へ乗り込んで来てか? 奇怪な………」

 

箒がそう言うと、ラウラが否定的な言葉を返して来る。

 

と、そこで………

 

「お待たせ!」

 

「待たせたなぁ!!」

 

そう言う声と共に、アリーナのピットからISを装着したシャルと、グレンラガンが飛び出して来た!!

 

「! シャルロットさん! 神谷さん!」

 

「待ってたよ! 神谷くん!!」

 

セシリアと楯無がそう言っていると、シャルは包囲網の中に加わり、グレンラガンは獣人と対峙する。

 

「………貴様がグレンラガンの天上 神谷か」

 

と、グレンラガンの姿を確認した獣人が立ち上がる。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

それを見た一夏達と教師部隊が一斉に警戒する。

 

「態々俺に名指しで喧嘩売るたぁ良い度胸だな………何モンだ!!」

 

と、グレンラガンが獣人に向かってそう問い質すと………

 

「良くぞ聞いてくれたものよ! そのちっせぇ耳の穴かっぽじって、よ~~く聞きやがれぇ!!」

 

獣人は大声でそう口上を言い始めた!

 

「親兄弟も知らずに生まれ、育った故郷の想いも捨てて、残すは体の傷跡一つ! それがケモノの漢(おとこ)道!! 黙る子も思わず泣く獣人遊撃部隊長!! ジギタリスたぁ!! 俺様の事だぁっ!!」

 

獣人………『ジギタリス』が声を張り上げる度に周りの空気が震え、一夏達は衝撃波に襲われる。

 

「ほぅ………良いねぇ。獣にしちゃ良い啖呵だ! ならこっちの名もよ~く覚えておいてもらおうか!!」

 

だが、グレンラガンはその啖呵を聞いて、衝撃波を受けても怯まず、逆に名乗り返し始めた。

 

「IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

「成程………流石は音に聞こえたグレンラガンの天上 神谷………良い気風だな」

 

ジギタリスは、そんなグレンラガン(神谷)の姿を見て、感心する様な素振りを見せる。

 

「コレまで悉く我等ロージェノム軍の軍勢を打ち倒し、ヴィラルさえ退けただけの事はある」

 

「何だ、お前………ヴィラルの仲間か?」

 

「仲間………と言う程のものではないが………我等遊撃部隊は独自の任務遂行権を与えられたその名の通り遊撃部隊。噂のグレンラガンを片付けに来たまでだ」

 

「面白れぇ………返り討ちにしてやるぜ!!」

 

グレンラガンはそう言うと、構えを取る!

 

(あ、アレは!? 間違いない………ジギタリスのおっさん!! まさか本当にグレンラガンと!?)

 

と、ギャラリーの生徒の中に混じっていたティトリーが、ジギタリスの姿を見て内心で驚愕する。

 

(ど、如何しよう!? ギガンチョヤバい!!)

 

そのまま引き続き内心でアタフタするティトリーだったが、それで状況が変わる筈もなかった………

 

「では行くぞ! おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そう言うや否や、ジギタリスはその巨体からは想像も出来ないスピードで、グレンラガン目掛けて突っ込んで行く!!

 

(!? はえぇっ!?)

 

「むんっ!!」

 

そしてそのまま、グレンラガンにタックルを喰らわせる!!

 

「うおおおっ!?」

 

そのままグレンラガンは、ジギタリスに押されて行く。

 

「!? アニキ!?」

 

「神谷!!」

 

そこで漸く我に返った一夏やシャル達が声を挙げ、教師部隊も驚きを示す。

 

「コノヤロウォッ!!」

 

と、グレンラガンは両足を踏ん張りブレーキを掛け始める。

 

徐々にスピードが落ちて行き、やがて止められるジギタリス。

 

「! 俺の突進を受け止めるか!」

 

「おりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

そしてグレンラガンは、動きの止まったジギタリスをダブルアーム・スプレックスで投げ飛ばす!!

 

「ぬおおおっ!?」

 

ジギタリスは背中から地面に叩き付けられる。

 

「神谷! 援護するぞ!!」

 

するとそこで、ラウラがそう言いながら、大口径レールカノンを向けるが………

 

「手ぇ出すんじゃねえ!!」

 

「なっ!?」

 

グレンラガンはそう言って、ラウラを制した。

 

「コイツのご指名は俺だ。俺が相手をする」

 

「貴様! ふざけているのか!? コレは喧嘩ではないんだぞ!!」

 

「うるせぇっ! 手ぇ出しやがったら、テメェの方からボコッてやるからな!!」

 

軍人として対応するラウラを、グレンラガンはそう一喝する。

 

[全員そのまま待機しろ]

 

すると、申し合わせたかの様なタイミングで、千冬からそう通信が入って来た。

 

「!? 教官! しかし」

 

[本人がやると言っているんだ。やらせてやれ]

 

食い下がるラウラだったが、千冬は重ねてそう言い放つ。

 

[神谷………引き受けるからには必ず勝てよ]

 

そして、グレンラガンの方にもそう通信を送った。

 

「任せておけって! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

「良いのか? 取り囲んだまま戦えば勝率も上がるぞ?」

 

それに返事を返していると、ジギタリスがそう言って来る。

 

「へっ! オメェが俺の事を指名しやがったんだろうが………なら俺が相手してやんのが筋ってもんだろ」

 

「フッ、益々気に入ったぞ、天上 神谷。アイツが惹かれるのも分かる」

 

「? アイツ?」

 

「………お喋りが過ぎたな。改めて行くぞ!」

 

不意にジギタリスの口から零れた言葉に首を傾げるグレンラガンだったが、ジギタリスはそれには答えず、構えを取った。

 

「へっ! 来やがれ!!」

 

それを見て、グレンラガンも構えを取る。

 

「ぬおおおああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

と、そこでジギタリスは、拳を地面に叩き付けた!!

 

拳を叩き付けられた地面から地割れが起き、グレンラガンの足元を崩す!!

 

「!? うおおおっ!?」

 

「貰ったあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

バランスを崩したグレンラガンに、ジギタリスが飛び掛かる。

 

「何のぉっ!!」

 

だがグレンラガンは、ジギタリスが眼前に迫った瞬間に、自ら仰向けに倒れて行き、ジギタリスの両腕を摑み、そのまま片足を腿の付け根に当てて、巴投げで投げ飛ばす!

 

「ぬううっ!?」

 

だがジギタリスは空中で姿勢を整え、着地を決める。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

着地を決めたジギタリスに、グレンラガンは左ストレートを繰り出す。

 

「甘い!!」

 

ジギタリスは繰り出された左ストレートに自分の右腕を横から押し当てる様にして逸らして躱す。

 

だが!!

 

「どっちがぁ!!」

 

左ストレートがかわされた瞬間、ジギタリスの眼前まで接近していたグレンラガンは、そのまま右腕でボディーブローを繰り出す!!

 

「ぐふおっ!?」

 

鋭い右のボディーブローが、ジギタリスの腹に突き刺さる様に決まり、身体がくの字に曲がる。

 

「オノレェ!!」

 

だがジギタリスは素早く両手を組んでのハンマーパンチをグレンラガンの背中に浴びせた!!

 

「ゴハッ!?」

 

肺に空気が全部押し出される様な感覚に襲われ、ジギタリスの足元にそのまま俯せに倒れるグレンラガン。

 

「ぬあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

ジギタリスはそのまま片足を振り上げ、グレンラガンの頭を踏み潰そうとする。

 

「!!」

 

しかし、寸前でグレンラガンは転がって躱す。

 

「トオォッ!!」

 

そのまま距離を取ると、大きく跳躍した!!

 

「燃える男のぉ!!」

 

「!!」

 

「火の車キイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーックッ!!」

 

そしてジギタリス目掛けて、燃える男の火の車キックを繰り出す!!

 

「むうっ!!」

 

向かって来るグレンラガンに対し、ジギタリスは腕を交差させて防御姿勢を取る!!

 

「おりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

キックが直撃し、そのままジギタリスを押して行くグレンラガン。

 

「ぬうううああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、ジギタリスが両腕を広げる様に振るうと、グレンラガンは弾き飛ばされる。

 

「うおおっ!?」

 

そのままバック宙を決めると、グレンラガンは着地を決める。

 

「………やるじゃねえか。ジギタリスとやら」

 

「貴様こそ、噂に違わぬ強さだな………如何やらこのままでは少々キツイな」

 

と、ジギタリスはそう言ったかと思うと、顔の様な形をしたバッジ………ガンメンバッジを取り出した。

 

「こっから本気って事か? 良いぜ………全力で来やがれ!!」

 

「その言葉………後悔するなよ!!」

 

ジギタリスはそう叫ぶと、ガンメンバッジを掲げ、光に包まれたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

一夏への誕生日プレゼントを選ぶためのデートで、弾と虚に出くわした神谷とシャル。
そのままダブルデートにしゃれ込む。

だがその頃………
IS学園には奇妙な獣人・ジギタリスが出現。
グレンラガンを名指しし、勝負を挑む。
生身でもかなりの強さを誇るジギタリスだが、遂にガンメンを起動。
しかし、そのガンメンが………
どういう事なのかは次回をお楽しみに。

これからも、よろしくお願いします。


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第34話『目が真っ赤だぞ?』

皆さんもご存じだと思われますが………

昨日、京都アニメーションの第1スタジオが放火され、多数の死傷者が出ました………

とても痛ましい事件であり、アニメ業界にとっても多大な損失です………

現在アニメイトに於いて、支援募金が始められております。

亡くなった方々に哀悼の意を表すと共に、我々もアニメファンとして、少しでも出来る事を致しましょう。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第34話『目が真っ赤だぞ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如としてIS学園に現れ、グレンラガン………

 

神谷に名指しで戦いを挑んだ獣人『ジギタリス』

 

その心意気に応えるかの様に、グレンラガン(神谷)は単独で相手を務めていたが………

 

グレンラガンの実力を認めたジギタリスは本気となり………

 

遂に自分のガンメンを持ち出した。

 

果たして、素の状態でもグレンラガンと互角に戦って見せたジギタリスのガンメンとは………

 

どんな物なのか?

 

 

 

 

 

「来るかぁ!」

 

ジギタリスを包み込んだ光が弾けるのを待ち構えるグレンラガン。

 

「あの獣人のガンメンって………どんなの何だ?」

 

「分からん………だが、素の状態でさえ、あのグレンラガンと互角に戦って見せた奴のガンメンだ」

 

「相当の高性能機である事は間違いありませんね」

 

「神谷………油断しないで」

 

その光景を見ていた専用機持ちの中で、一夏、箒、セシリア、シャルがそう呟く。

 

「! 出るわよ!!」

 

と、鈴がそう言った瞬間、光が弾け………

 

ジギタリスのガンメンの姿が露わになった。

 

それは………

 

「あっ! 燃ゆるハートは天真爛漫!!」

 

白と赤のカラーリングに………

 

「んっ! 誰が呼んだか通り名は!!」

 

黄色2つの大きな目と………

 

「はっ! 修羅の遊撃部隊長!!」

 

2本の長い耳が特徴的なガンメン………

 

「そのジギタリス様が愛機!! 『ザウレッグ』の雄姿!!」

 

『ウサギ型』のガンメンだった!!

 

「とくと見よおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

ウサギ型ガンメン………『ザウレッグ』の姿となったジギタリスが堂々と名乗りを挙げる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

グレンラガンを含めたその場に居た全員が、言葉を失った。

 

「フフフ………恐ろしくて声も出ないか?」

 

ザウレッグが自信満々にそう言って来るが………

 

「な………何だ、それは?」

 

それに対し、グレンラガンが漸くの思いでそう問うた。

 

「ザウレッグだ! どうだ! 身の毛もよだつ恐怖を象徴するかの様なこのフォルム!! 恐ろしいだろ!?」

 

ザウレッグは相変わらず自信満々でそう言うが………

 

「………可愛い」

 

「ああ………可愛いな」

 

その姿を見た楯無とラウラがそう呟いた。

 

「た、楯無さん?」

 

「ラウラ?」

 

その呟きを聞いた一夏とシャルがギャグ汗を流す。

 

「何が恐ろしいか!? このウサピョン野郎! 何が恐怖の象徴だ!? 可愛さで言えばキ〇ィちゃんとタメ張ってるじゃねえかっ!!」

 

グレンラガンの口からも、若干ヤバい言葉が漏れる。

 

「何おう!? このザウレッグを捕まえて!! 事もあろうに『可愛い』なぞと!! 獣人にとってこれ以上の屈辱はない!!」

 

ザウレッグは怒りの声を漏らすが………

 

「可愛いわよね?」

 

「ええ………可愛いですわ」

 

見物していた鈴とセシリアも、小声でそんな事を言い合っていた。

 

「そこに直れ!! 成敗してくれる!!」

 

「望むところだ!! テメェに少しでも男気を感じた俺が馬鹿だった!! 純な俺のハートを踏み躙りやがって!! 許さん!! ギッタンギッタンに伸してやる!!」

 

「………何だ、コレは?」

 

目の前で繰り広げられようとしている珍妙な戦いに、箒は思わずそうツッコミを入れる。

 

「一気に片付けてやる! 超電磁パアアアアアァァァァァァーーーーーーンチッ!!」

 

ザウレッグに向かって、電磁を纏った右の拳を叩き付けようとするグレンラガン。

 

「ふっ! 甘いわぁ!!」

 

しかし、ザウレッグの目から怪音波が発せられる!!

 

「!? うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!?」

 

グレンラガンの防音機能を持ってしても防ぎ切れない音波に、グレンラガンは思わず耳を押さえて苦しむ。

 

「うわああああっ!?」

 

「な、何だ、この音波は!?」

 

「あ、頭が割れちゃう~~!!」

 

傍で見ていた一夏達にもその音波の余波が襲い掛かり、耳を押さえて苦しむ。

 

「隙有り! キャロットボンバーッ!!」

 

するとザウレッグは、両手にニンジン型爆弾を出現させ、グレンラガン目掛けて投げ付けた!!

 

「!? うおわあっ!?」

 

真面に喰らったグレンラガンは、地面を転がる。

 

「この野郎!!」

 

「まだまだ行くぞぉ!!」

 

と、グレンラガンが立ち上がると、ザウレッグは続けて、耳から電撃を放って来た!!

 

「!? うおっ!?」

 

咄嗟に真上に跳躍して躱すグレンラガン。

 

「んなろー! グレンキイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

そのまま、ザウレッグにドリルの様に回転しながら両足で蹴り付けるキック・グレンキックを繰り出す。

 

「ぬううううんっ!!」

 

すると何と!!

 

ザウレッグは向かって来るグレンラガンに対し、拳を繰り出した!!

 

グレンキックとザウレッグの拳がぶつかり合う。

 

「うおっ!?」

 

「ぬうっ!?」

 

そして互いの攻撃が相殺され、両者は弾かれる様に距離を取った。

 

「………成程な………如何やら見掛けと違って中身はあるみてぇだな」

 

「ふん! 漸く気づいたか」

 

「悪かったな! さっきの言葉は訂正するぜ! 確かにオメェのガンメンは恐ろしい!!」

 

「!? アニキが………間違いを認めた?」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

一夏が驚きの声を挙げ、箒やシャル達も信じられないモノを見る様な目でグレンラガンを見ている。

 

「だがな………それでも勝つのは俺だ!!」

 

しかし、すぐにそう言い、構えを取り直した。

 

「フフフ………それでこそだ、グレンラガン………そうでなければ………倒し甲斐が無い!!」

 

と、ザウレッグはそう吠えたかと思うと、耳の間に電流が迸り、グレンラガン目掛けて発射される!!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、グレンラガンは電撃が直撃する前にダッシュ!

 

電撃は先程までグレンラガンが居た地面に命中し、霧散する。

 

「ぬうっ!?」

 

「そらよ!」

 

そして、グレンラガンはザウレッグ目掛けてグレンブーメランを投擲する。

 

「ふんっ! こんなものぉ!!」

 

拳を振るい、グレンブーメランを弾き飛ばすザウレッグ。

 

「もう一丁!!」

 

するとグレンラガンは、続けて背中に有ったグレンウイングを取り外して投擲してきた!!

 

「!? 何っ!? うおあぁっ!?」

 

立て続けの攻撃を防げず、ザウレッグは直撃を喰らってぶっ飛ばされる。

 

「ドリラッシュッ!!」

 

更に続けて、グレンラガンはドリラッシュを繰り出す!!

 

多数のドリルミサイルがザウレッグに襲い掛かる。

 

「小癪なぁ! でやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

と、ザウレッグは迫り来るドリルミサイルに向かって目からの怪音波を浴びせる。

 

怪音波を浴びたドリルミサイルは、コントロールを失って、ザウレッグの周りの地面に突き刺さり、爆発した。

 

その際に発生した爆煙で辺りが覆われる。

 

「ぬうっ! しまった!!」

 

これでグレンラガンが何処に居るのか分からないザウレッグは小刻みに向きを変えて全方位を警戒する。

 

しかし………

 

「何処見てやがる! 俺は此処だぁ!!」

 

そう言う台詞が響いたかと思うと、ザウレッグの足元から、右腕のドリルで地面の中を掘り進んでいたグレンラガンが姿を現す。

 

そしてそのまま、ザウレッグにドリルの右腕でのアッパーを喰らわせる!

 

「ぬぐあっ!?」

 

装甲から火花を散らしてブッ飛ぶザウレッグ。

 

「チイッ! キャロットボンバー!!」

 

と、着地したザウレッグが、未だ空中に居るグレンラガンに、キャロットボンバーを投げ付ける。

 

だが!!

 

「よっ! ほっ!」

 

グレンラガンはアクロバティックな動きをしながら、投げ付けられたキャロットボンバーを手でキャッチする。

 

「何っ!?」

 

「そらよ! 返すぜ!!」

 

そして、ザウレッグ目掛けて投げ返した!!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

投げ返されたキャロットボンバーが直撃し、ザウレッグは地面の上を転がる。

 

「クウッ!」

 

少々装甲に罅割れが出来たが、ザウレッグはまた立ち上がる。

 

「ココまでとは………恐るべし、グレンラガン」

 

「へっ! 今更気づいても遅いんだよ!!」

 

グレンラガンの実力を認識し、ザウレッグがそう声を挙げると、グレンラガンは得意そうにそう言う。

 

「如何やら………アレを出すしかない様だな」

 

「? アレ? 何だアレって?………ヘ、ヘンなモン出すんじゃねえぞ!」

 

「何を言っている貴様! アレと言ったら決まっているだろう! 見て驚け! 聞いて驚け! 地獄の炎で焼かれた、赤き眼!! これがザウレッグの!! レッドアイモードだ!!」

 

と、そう言った瞬間!!

 

ザウレッグの黄色かった瞳が、真っ赤に染まった!!

 

「!? 目の色が変わった!?」

 

「益々ウサギっぽくなったわね………」

 

軽く驚く一夏と、冷めた感じでそう言い放つ鈴。

 

「オイオイ、目が真っ赤だぞ? それが何だって………」

 

と、グレンラガンがそう言い掛けた時………

 

突如その身体に衝撃が走った!!

 

「ぐほっ!?」

 

肺の空気が一気に押し出され、グレンラガンはアリーナの壁に叩き付けられた!!

 

「えっ!?」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

一夏は元より、箒やシャル達も、何が起こったのか理解出来ない。

 

やがて、先程までグレンラガンが居た場所に………

 

白い湯気が立ち上っている拳を構えたザウレッグ(レッドアイモード)の姿が在る事に気づく!

 

「!? 何時の間に!?」

 

「まさか!? 今のはアイツの攻撃か!?」

 

ラウラと箒がそう声を挙げると………

 

「ゲホッ! ゴホッ! チキショー! 何だってんだ………」

 

咳き込みながら、グレンラガンが立ち上がる。

 

その途端!!

 

先程まで遠くにいた筈のザウレッグは、一瞬にして間合いを詰め、グレンラガンの至近距離に出現する。

 

「!?」

 

驚くグレンラガンに、ザウレッグのアッパーカットが叩き込まれる!

 

「ガハッ!?………この野郎!!」

 

激痛を堪えながら、反撃の右パンチを繰り出すグレンラガン。

 

しかし、ザウレッグは左手だけでそのパンチを受け止める。

 

「まだまだぁっ!!」

 

グレンラガンは続け様に左パンチを繰り出す。

 

しかし、そのパンチもザウレッグの右手で受け止められてしまう。

 

「ぐうっ! コイツゥッ!!」

 

そのまま力比べへと移行する両者だったが………

 

「うおっ!? ぐああっ!?」

 

グレンラガンがパワー負けし、腕を捻られる。

 

「!? そんな!? グレンラガンがパワー負けしてる!?」

 

「如何やらあのレッドアイモードって、ただ目の色が変わってるだけじゃないみたいね」

 

シャルが驚きの声を挙げ、楯無がそうザウレッグを分析する。

 

「クソォ~! 舐めんじゃねえぞぉ!!」

 

と、グレンラガンはザウレッグの不意を衝く様に、頭突きを繰り出した!!

 

「ぬうっ!?」

 

不意を衝かれて真面に喰らったザウレッグは、頭を押さえて後退る。

 

「とりゃああっ! ニークラッシャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

グレンラガンは飛び上がり、左膝からドリルを出現させると、そのドリルを向けてザウレッグ目掛けて降下した!!

 

「!!」

 

だが、ザウレッグはサイドステップを踏んで回避。

 

「喰らえぇっ!!」

 

そしてそのまま、耳からの電撃を見舞う!!

 

「!? ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

電撃が直撃し、全身から黒煙を上げるグレンラガン。

 

「ぐうっ!?」

 

そのまま片膝を地に着く。

 

「神谷さん!!」

 

「もう見てらんない! 助太刀するわよ!!」

 

セシリアが叫ぶと、鈴がそう言って、ザウレッグに向かって行く。

 

「俺も!」

 

「僕も!!」

 

一夏とシャルがそれに続き、他の一同も続いた。

 

しかし………

 

「来るんじゃねえ!!」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

神谷がそう言って、一同を制した!!

 

「アニキ! 何言ってんだよ!?」

 

「そうだよ、神谷! それ以上はもう無理だよ!!」

 

「馬鹿にすんな! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

一夏とシャルが叫ぶが、グレンラガンはお決まりの台詞を返す。

 

「コイツは俺が買った喧嘩だ………俺がケリを着ける!」

 

そしてそのまま、気合を入れながら一気に立ち上がる。

 

「見上げた心意気だ………だが! それだけではこの状況は好転せんぞ!!」

 

だが、ザウレッグは無情にも再び一瞬でグレンラガンとの距離を詰めると、拳を叩き込んで来た!!

 

「ぐはっ!?」

 

グレンラガンの口から吐血が飛ぶ。

 

「!? 神谷ぁ!!」

 

シャルから悲痛な叫びが挙がる。

 

しかし!!

 

「まだ! まだぁ!!」

 

倒れそうになったグレンラガンは踏み留まり、額にドリルを出現させる。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そしてそのまま、目の前に居たザウレッグ目掛けてドリル頭突きを繰り出す!!

 

「!? ぬうううっ!?」

 

虚を衝かれたが、ギリギリでバックステップし、躱すザウレッグ。

 

グレンラガンはそのまま地面にドリル頭突きを叩き込む事となる。

 

「隙有りだ!!」

 

当然その隙を見逃さず、攻撃を仕掛けて来るザウレッグだが………

 

「ぬおああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

何とグレンラガンは首の力だけで身体を浮かせ、ドリルを回転させると、両足回し蹴りを繰り出した!!

 

「!? ぬああっ!?」

 

今度こそ完全に不意を衝かれ、ザウレッグはよろける。

 

「今だぁ! グレンバイトォッ!!」

 

と、そのザウレッグより先に体勢を立て直したグレンラガンが突撃し、体の顔の口を大きく開きながら、ザウレッグに飛び掛かった!!

 

「むんっ!!」

 

「むおぉっ!? し、しまった!?」

 

グレンラガンの体の口は、ザウレッグの左腕を捉え、噛み付く!

 

これによりザウレッグはグレンラガンから離れられなくなった。

 

「ええい! 放せ! 放さんかぁ!!」

 

当然ザウレッグはグレンラガンを引き剥がそうと、残った右腕で何度も殴り付ける。

 

「へっ! そうは行くかよ!!」

 

しかし、グレンラガンはどんなに強く殴られようとも、ザウレッグを放そうとしない。

 

そして、頭部の三日月を思わせる角飾りの間に、電光が迸りし始める。

 

「!? 貴様まさか!?」

 

「死なば諸共よ! 喰らえぇっ!! グレンサンダアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そしてそのまま、零距離でグレンサンダーを発射した!!

 

「ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

至近距離から電撃を喰らい、ザウレッグが感電する。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!?」

 

しかし、零距離で浴びせている為、電撃は当然グレンラガンにも通電し、同様に感電する!

 

「アニキ!?」

 

「神谷ぁ!!」

 

一夏とシャルが悲鳴の様な声を挙げるが、激しい電撃のせいで近寄る事が出来ない。

 

「き、貴様!? 正気か!? このままでは貴様も死ぬぞ!!」

 

「さあ如何かな!? 生憎と俺は頑丈なのが取り柄でな!! オメェがくたばるのが先か! 俺がくたばるのが先か! 男の我慢比べと行こうぜ!!」

 

そのままグレンラガンはザウレッグを放さず、グレンサンダーの放射を続ける。

 

とうとう両者の装甲の隙間から黒煙が上がり始める。

 

「い、イカン! このままでは!!」

 

するとその瞬間!!

 

ザウレッグがキャロットボンバーを取り出し、グレンラガンに押し当てる様にぶつけた!!

 

「!? うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!?」

 

「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!?」

 

キャロットボンバーが爆発し、両者はその爆風によって引き剥がされて倒れる。

 

「チキショウが………」

 

彼方此方から黒煙が上がる状態で上体を起こすグレンラガン。

 

「よもはやココまでするとは………如何やら見くびっていたのは俺の方だった様だな………」

 

その反対側で、ザウレッグもそう言いながら、フラフラと立ち上がる。

 

「まあ良い………今日のところはこのくらいにしておいてやる!」

 

「テメェ! 逃げんのか!!」

 

「決着は何れまたの機会だ! それまで首を洗って待っておけ! さらばだ!!」

 

と、ザウレッグがそう言った瞬間!!

 

装甲の隙間から、黒煙とは別に煙幕が放射された!!

 

その量は半端では無く、アリーナ内一体を覆い尽くしてしまう。

 

「キャアッ!?」

 

「ちょっ!? 煙幕!? 勘弁してよ!!」

 

「奴は!? 奴は何処へ行った!?」

 

セシリア、鈴、ラウラがそう声を挙げる。

 

やがて煙幕が晴れて来たかと思うと………

 

ザウレッグの姿は、もうアリーナの何処にも無かった………

 

「!? 居ない!?」

 

「教師部隊の皆さん! すぐに手分けして学園一帯の封鎖を!!」

 

箒が驚きの声を挙げ、楯無が教師部隊にそう指示を出す。

 

教師部隊は慌てて、学園の彼方此方に散らばって行った。

 

「決着はまたの機会だと………ふざけやがって………ぐうっ!?」

 

とそこで、立ち上がろうとしていたグレンラガンが崩れ落ち、神谷の姿へと戻る。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

全身汗塗れであり、息苦しそうな様子の神谷。

 

「アニキ!!」

 

「神谷!!」

 

慌てて一夏とシャルが傍に寄り、ISを解除すると、神谷を両側から担ぎ上げる様にする。

 

「すまねえな、一夏、シャル」

 

「気にしないでくれよ、アニキ」

 

「それより、神谷。あの獣人、また来るって………」

 

「へっ! そしたら今度こそアイツの言う通りに決着を着けてやるまでよ!!」

 

心配そうに言うシャルに、神谷はニヤリと笑いながらそう返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園地下………

 

リーロンの研究室………

 

夏休みの間を利用して、リーロンが(私的に)建設したこの研究室では、学園全体の様子をモニター出来る、まるでアニメか特撮の秘密基地の様な設備が備え付けられていた。

 

「如何やら、今回も無事に退けられたみたいね」

 

「はあ~、良かった~」

 

「全く………相変わらず危なっかしい戦い方をしおって………」

 

グレンラガンとザウレッグの戦いの様子を見ていたリーロン、真耶、千冬がそう声を漏らす。

 

「それにしても、あのガンメン………目が赤くなった途端にパワーアップしたわね………あの目はエネルギータンクみたいなものかしら?」

 

「それが気懸かりだな………おっと、失礼………」

 

と、3人が話し合っていると、千冬の通信機が鳴り、2人に断りを入れて、千冬は受信ボタンを押した。

 

「私だ………そうか………分かった。全員引き上げて下さい」

 

「さっきの獣人………取り逃がしちゃったの?」

 

千冬の会話を聞いていたリーロンがそう問うて来る。

 

「如何やらその様です」

 

「また来るって言ってましたよね?」

 

「うむ………」

 

真耶の言葉に、千冬は珍しく不安そうにする。

 

「心配ないわよ。神谷なら何があっても、最後にはきっと勝つわ」

 

それを察したリーロンがそう言って来る。

 

「そうだな………」

 

その言葉で千冬の顔から不安は消える。

 

(それにしても気になるわね。あのガンメン………何か足りてない気がするって言うか………)

 

リーロンはザウレッグの事を思い出し、そんな事を感じるのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ジギタリスのガンメンは何とウサギ型。
可愛らしさに毒気を抜かれた神谷達でしたが、このザウレッグ………
かなりの強者!
レッドアイモードではグレンラガンを追い詰めるほどです。
しかし、ザウレッグにはまだ秘密が…………
果たしてジギタリスが再戦を仕掛けてくるのは何時か?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第35話『男と男の真剣駆けっこ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第35話『男と男の真剣駆けっこ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獣人ジギタリスと彼の操るガンメン・ザウレッグとの襲撃から数日が過ぎ………

 

遂にキャノンボール・ファストの日が訪れた。

 

会場である市のISアリーナには、多くの見物客が詰め掛けている。

 

しかし、空いている席もチラホラと目立っている………

 

本来ならばこの大会には、IS産業関係者や各国政府関係者も来る予定になっていたのだが………

 

日に日に激化するロージェノム軍との戦いで、政府関係者は自国を離れられず、または国自体を壊滅させられたところも少なくない。

 

IS産業関係者は新たなIS・武装の開発等に追われ、不参加という状況だ。

 

なお、プログラムとしては………

 

先ず2年生のレースが行われ、その後に1年生の専用機持ちのレース。

 

次に1年生の訓練機によるレースで、最後に3年生によるエキシビジョンレースとなっている。

 

「へへっ! 盛り上がってんじゃねえか」

 

観客席を眺めながら神谷がそう言う。

 

元からお祭り騒ぎが好きな彼は、この大舞台に気分が昂っている様だ。

 

(そう言えば蘭の席って何処だっけ? 弾の奴も来てるんだよな?)

 

ふと一夏は、弾や蘭が来ている事を思い出し、観客席にその姿を探すが………

 

「!? いててててててててっ!?」

 

突然耳を引っ張られる。

 

「一夏! 何をやっている! さっさと準備をしろ!!」

 

耳を引っ張っている相手………箒は一夏にそう言い放つ。

 

「ほ、箒! ストップ! ストップ!! 耳が千切れる!!」

 

「早く来い! お前が来ないと私が叱られるんだからな!!」

 

そう言うと一夏を解放し、ピットへと向かう。

 

「いてててて………全く、箒の奴………」

 

一夏も愚痴る様に呟きながら、渋々と言った様子でピットへと向かった。

 

「神谷。僕達も行こう」

 

「おう、そうだな………」

 

神谷もシャルに連れられ、ピットへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

一夏が探していた五反田兄妹はと言うと………

 

「えっと、Fの45………Fの45………」

 

「この先だな。ホラ行くぞ」

 

チケット片手にマップと睨めっこしている蘭を尻目に、弾はドンドンと進んで行く。

 

「あ! ちょっと待ってよ馬鹿兄貴! ホントに分かってんの!?」

 

「当たり前だ! 男なら悩む前に行動だ!!」

 

「それ分かってないって事じゃない!!」

 

弾の言葉にそうツッコミを入れる蘭だったが、弾が進んで行った先の席は自分達の席だった。

 

「嘘………」

 

「見たか! 男は黙って勘頼りよ!!」

 

唖然とする蘭を尻目に、弾は自分の席に座る。

 

「………何か納得行かないんだけど」

 

蘭も愚痴りながら、自分の席へと着く。

 

(ま、いっか………生でISを使ってる一夏さんが見れるんだから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、最初の2年生のレースが終わり………

 

いよいよ神谷や一夏達、1年生専用機持ちのレースとなった。

 

「へっ………ワリィが、お前等………優勝はこの神谷様が頂くぜ」

 

昂る気持ちを抑えるかの様に準備運動をしていた、頭を除いてグレンラガンの姿となっていた神谷が、一夏達に向かってそう言う。

 

「アラ? 残念ですが神谷さん。優勝は私が貰いましてよ」

 

高速機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装着したブルー・ティアーズを展開しているセシリアが、微笑みながらそう言い返す。

 

「何言ってんのよ。アタシが優勝すんに決まってんでしょ!」

 

それを聞いた高速機動パッケージ『風(フェン)』を装着した甲龍を展開している鈴がそう声を挙げる。

 

「フッ………悪いがそれは無いな。優勝するのは………この私だ」

 

背部に3基の増設スラスターを装備したシュヴァルツェア・レーゲンを展開しているラウラも、負けじとそう言い放つ。

 

「僕だって負けないよ」

 

ラウラと同じく3基の増設スラスターを、両肩と背中に装着した状態のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを展開しているシャルもそう言って来る。

 

「一意専心………最早私の目には優勝以外無い」

 

展開装甲を展開している箒もそう宣言する。

 

「俺だって負けないよ、アニキ! 男と男の真剣勝負だ!!」

 

そして、白式を最高の状態に仕上げて来た一夏が、神谷を見ながらそう言う。

 

「へへっ、良いぜぇ、この感じ………戦いの前のピリピリとした空気はよぉ。如何だ! ただ勝負したんじゃ面白くねえ! 此処は1つ、優勝した奴が他の連中に何でも命令出来る権利を得るってのは如何だ?」

 

そんな勝負前の緊張した空気を楽しんでいるかの様な神谷は、皆の闘争心を煽るかの様にそんな提案をした。

 

「「「「!?」」」」

 

それを聞いた途端、箒、セシリア、鈴、ラウラが目の色を変えた。

 

「ははっ、良いねソレ! 俺は良いぜ! 皆は如何だ?」

 

と、一夏が笑いながらそう言い、箒達に尋ねると………

 

「「「「望むところだ〈ですわ〉!!」」」」

 

妙に力の入った表情で、そう返して来た!!

 

「おわっ!? 皆ホントに気合入ってるな………」

 

何故箒達が凄まじい気合を見せているのか理解出来ていない一夏はそう言う。

 

(優勝した者が何でも命令出来る権利を得る………)

 

(それは即ち………)

 

(一夏とのデートも思いのままって事!!)

 

(いや、デートだけではなく! あ、あんな事やこんな事も!!)

 

((((何が何でも優勝してみせる!!))))

 

一夏への想いが、只でさえ昂っていた彼女達の闘争心を、燃え尽かんとばかりにまで燃え上がらせる!!

 

(何でも命令できる権利か………僕だったら………)

 

そしてシャルも、妄想を展開して行く………

 

「!?!?」

 

何を妄想したのか、一瞬にして茹蛸の様に真っ赤になり、頭から湯気を上げた。

 

(キャア~~~ッ! やだもう~~~!!………絶対に優勝する!!)

 

そして、箒達と同じ様に、密かに闘争心を更に燃え上がらせる。

 

[皆さ~ん、準備は良いですか~? スタートポイントまで移動しますよ~]

 

そこで、真耶の若干のんびりとした声が響いて来て、一同はスタート位置へと着く。

 

「いよいよだな………」

 

頭部も装甲で覆い、完全にグレンラガンの姿となった神谷が、クラウチングスタートの姿勢を取ってそう呟く。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

一夏達もスタート態勢を取りながら、緊張した面持ちとなる。

 

[それでは皆さん! 続きまして、1年生専用機持ちによるレースを行います!!]

 

そう言うアナウンスが響いたかと思うと、一同はスラスターに火を入れる。

 

そして、シグナルが点滅を始める。

 

3………

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

2………

 

一同の緊張感は極限にまで達する。

 

1………

 

そして、遂にスタートの合図が告げられようとした時に………

 

ゴ………

 

『そいつ』はやって来た!!

 

突如として風切り音を響かせた物体がアリーナの上空に現れ………

 

そのままスタートを切ろうとしていたグレン団の一同の前に派手に粉煙を巻き上げて着地した!!

 

「!?」

 

「うわっ!?」

 

「な、何ぃっ!?」

 

突然の事に、スタートを切ろうとしていた一夏達は身構える。

 

やがて、舞い上がっていた粉煙が徐々に収まって来たかと思うと………

 

そこには………

 

「天上 神谷! 何時ぞやの決着! 着けに来てやったぞ!!」

 

堂々とそう言い放つ、ザウレッグの姿となっているジギタリスの姿が在った!!

 

「!? あのガンメンは!?」

 

「確か………ジギタリスのザウレッグ!!」

 

「嘘でしょ!? このタイミングで!?」

 

それを見た一夏、シャル、鈴がそう声を挙げる。

 

「う、うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!? ガンメンだぁっ!!」

 

「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!! 助けてえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

と、ザウレッグの姿を見た観客達が、我先にと逃げ出し始める。

 

「チッ! ウサピョン野郎! 折角のイベントを邪魔しに来るとは………良い度胸じゃねえか!!」

 

グレンラガンはこれから始まる筈だった勝負に水を差され、怒りを込めた声でザウレッグにそう言い放つ。

 

「ふんっ! 貴様等人間の都合など、我等の知った事では無い! それとも………そんな言い訳をして勝負から逃げる積りか? ならば俺様の不戦勝だな」

 

しかし、ザウレッグはそこで挑発を返して来る。

 

「何をぉ!? ふざけんじゃねえ! 俺とグレンラガンは、テメェのウサピョンなんかに負けねえ!! 強さも! 速さも!! 麗しさも!! ぜってぇ負けねえ!!」

 

そんなザウレッグに、グレンラガンはそう言い返す。

 

「良い度胸だ! それでこそ俺様が見込んだ人間!! だがしかーし!! 貴様は『速さも負けない』と豪語したな!! それをこのザウレッグの前で口にするとはな………笑止千万!!」

 

「うるせぇ! テメェみてぇなドンくせぇガンメンに、俺とグレンラガンが負けるかよ!!………何なら、競争してみるか!?」

 

「!? アニキ!? 何言ってるの!?」

 

そこで一夏がグレンラガンにツッコミを入れる。

 

「御誂え向きに、此処はキャノンボール・ファストのレース会場だ! 速さ比べにはもってこいだぜ!!」

 

しかし、グレンラガンはそれを無視して、ザウレッグに更にそう言葉を続ける。

 

「ぬぬぬぬ! 言わせておけば!! 良いだろう!! ならばこの競技場をどちらが先に1周するかで勝負だ!! 先にゴールした方が勝ち!! それで如何だ!?」

 

「………良いぜ! 乗った!!」

 

「ちょっと! ちょっとちょっと!!」

 

「何でこう馬鹿げた展開になる!?」

 

グレンラガンとザウレッグとの間で勝手に話が進んで行き、シャルと箒がツッコミを入れる。

 

「うるせぇ! 女は引っ込んでろ! これは………男と男の真剣駆けっこ!!………なんだよ!!」

 

そんなシャルや箒を、グレンラガンは一喝する。

 

かくして………

 

IS学園と市のイベントであったキャノンボール・ファストは………

 

何故かグレンラガンとザウレッグによる………

 

男と男の真剣駆けっこ勝負となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~、それでは、これより………神谷のアニキと、獣人ジギタリスによる、男と男の真剣駆けっこ勝負を始めたいと思います」

 

「おう!」

 

「ふふふ………」

 

スタート役をしている一夏の声に、威勢の良い返事を返すグレンラガンと、不敵な笑いを零すザウレッグ。

 

「………何よコレ?」

 

「理解出来んな………」

 

ギャラリーに徹している鈴とラウラはすっかり呆れ顔だ。

 

「何でも命令出来る権利が………」

 

「………クッ」

 

セシリアと箒は、ザウレッグの乱入のせいで勝負が無効になり、敗者に何でも命令できる権利を失った事を心底悔しがっている。

 

「神谷~! 頑張って~~!!」

 

そしてシャルは、神谷に向かって声援を送っている。

 

「それでは、位置に着いて………」

 

一夏がそう言って右腕を上げると、グレンラガンはクラウチングスタートの姿勢を取り、ザウレッグはスタンディングスタートの姿勢を取る。

 

「よ~い………ドンッ!!」

 

「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」

 

スタートの合図と共に、一夏の右腕が振り下ろされると、両者は雄叫びを挙げながらスタートダッシュを切った!!

 

最初に前に出たのはザウレッグ。

 

その1頭身の身体からは信じられない様なスピードで、グレンラガンを引き離して行く。

 

「チイッ!!」

 

「ハハハハハハッ! 見たか!! コレがザウレッグのスピードよ!! 如何にグレンラガンと言えど! このザウレッグの前を走る事など出来はせんわぁ!!」

 

舌打ちをするグレンラガンに、ザウレッグは挑発の言葉を投げ掛ける。

 

「何をぉ! 負けるかぁ!! 気合だああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、グレンラガンがそう雄叫びを挙げると、螺旋力が高まり、グレンラガンのスピードがアップする。

 

「ぬうっ! やりおるな!! だがまだまだああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

それに合わせる様にザウレッグもスピードを上げる。

 

グレンラガンとザウレッグとの間は、少しだけ縮まったが、その後再び付かず離れずの状態となる!!

 

(チイッ! 差が詰まらねえ!!)

 

前を走るザウレッグを見ながら、グレンラガンはそう思う。

 

(クッ! 差が拡げられん!!)

 

しかし、その前方を走るザウレッグもそう思っていた。

 

正に両者互角の勝負である。

 

「行けーっ!! アニキーッ!! 負けるなーっ!!」

 

すっかり避難が終わり、ガランとしていた観客席に、唯一残っていた弾がグレンラガンに声援を送る。

 

「ちょっ! 馬鹿兄貴! 何やってんのよ! 早く逃げるわよ!!」

 

蘭がそう言って、弾の服を引っ張るが………

 

「うるせぇ! アニキが男の勝負をしてるってのに、俺だけ逃げられるかよ!! 俺は最後まで見届ける!!」

 

弾は梃子でも動かないと言う様にドッカリと座り込んでいた。

 

「あ~、もう! 如何して私の周りの男って、一夏さん以外皆こんななのぉ!?」

 

蘭が愚痴る様にそう叫ぶ。

 

しかし蘭よ………

 

一夏も大概だと思うぞ………

 

「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」

 

そんな五反田兄妹の様子など露知らず、グレンラガンとザウレッグは雄叫びを挙げながらキャノンボール・ファストのコースを全力疾走している。

 

ある意味シュールな光景だ………

 

「ぬううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!! 負けん! 負けんぞおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「お前に足りないものぉ! それはぁ!! 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さぁ!! そして何よりもおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!! 速さが足りない!!」

 

自分を鼓舞するかの様な叫びを挙げるザウレッグと、スピードを出し過ぎて別のアニキになっているグレンラガン。

 

「す、凄い対決だ!!」

 

「一夏………アンタそれ本気で言ってるの?」

 

目の前のグレンラガンとザウレッグの駆けっこの様子に感激にも似た感情を感じている一夏。

 

そんな一夏を、鈴は呆れた目で見遣る。

 

そして遂に、グレンラガンとザウレッグが横に並ぶ!!

 

「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」

 

両者はそこから更に加速して行く。

 

この勝負………

 

最早どちらが勝ってもおかしくない………

 

いよいよ最後のゴールまでの直線に入る両者。

 

と、その時!!

 

突如、上空から『何か』が落下して来て、ゴール寸前だったグレンラガンとザウレッグの前に落ちた!!

 

「!? うおわあああっ!?」

 

「ぬおおおおおぉっ!?」

 

衝撃波でブッ飛ばされるグレンラガンとザウレッグ。

 

「!? アニキ!?」

 

「何事だ!?」

 

一夏と箒が驚きの声を挙げる。

 

やがて、舞い上がって来た粉煙が収まって来ると………

 

「ふふふふ………」

 

抑揚が無い不自然な声色の笑い声を響かせている、巨大な2つの盾を左右に装備した円盤状のバックパックを背負って、死神の様な鎌を持った人型に近いガンメンが姿を現した!!

 

周囲には、カノン・ガノンやホーダインマックスと言った、砲撃戦型のガンメン達の姿も在る。

 

「!? 援軍!?」

 

「コラ、お前! 卑怯だぞ!! タイマン勝負だとか言っておいて、援軍を呼ぶなんて!!」

 

シャルが驚きの声を挙げると、一夏がザウレッグに向かってそう叫ぶ。

 

「ち、違う! 俺は援軍など呼んでいない! お前達! 如何いう積りだ!!」

 

ザウレッグは慌てた様子で、砲台型ガンメンを引き連れた、人型ガンメン………『フォビドゥン』にそう問い質す。

 

「………うぜぇな」

 

「何!?」

 

「うぜぇんだよ………くだらねえ事ばかりしてやがって………何が男の駆けっこ勝負だ………人間共は有無を言わせず皆殺し………それが………獣人の掟だろうがぁ!」

 

と、フォビドゥンはそう言い放つと、グレンラガン目掛けて両腕内蔵の大口径機関砲・アルムフォイヤーを放つ。

 

「! チイッ!!」

 

グレンラガンは舌打ちすると、右腕をドリルに変え、そのドリルを傘の様に開いて銃弾を防ぐ!!

 

「行け、お前等………ただし、俺の邪魔はするな」

 

「ハッ!」

 

「専用機持ちを叩き潰せ!!」

 

そこで更に、周囲に控えていた砲台型ガンメン達も、一夏達へ襲い掛かる。

 

「キャアッ!?」

 

「蘭! 逃げるぞ!! 流石にコイツはヤベェ!!」

 

アリーナのシールドに流れ弾が当たり、流石にヤバい空気を感じ取った弾は、蘭を抱えて避難する。

 

「クッ! 結局こうなるのか!!」

 

「獣人なんて、やっぱケダモノね!!」

 

ラウラと鈴は、悪態を吐きながらも砲台型ガンメン達を迎え撃つ。

 

「一夏! 私達も!!」

 

「おう!」

 

箒は一夏に呼び掛けると、砲台型ガンメン達の中へ突っ込んで行こうとする。

 

しかし………

 

「貴様達の相手は私だ!!」

 

そう言う声が響き渡ったかと思うと、アリーナの地面を突き破って、巨大な4足歩行型で、4門の砲門と2本の長く巨大な角を携えたガンメン………『グランド』が姿を現した!!

 

「うおっ!?」

 

「くっ! またか!?」

 

「喰らえっ!!」

 

驚く一夏と箒に、グランドは2本の角の間に発生させた電撃・グランドサンダーを見舞って来る!!

 

「一夏さん! 箒さん!」

 

「お前は俺の相手してくれよ」

 

援護に向かおうとしたセシリアに、フォビドゥンが手に持つ巨大な鎌・重刎首鎌(じゅうふんしゅれん)「ニーズヘグ」で斬り掛かる!!

 

「!?」

 

咄嗟に滅多に使わない近接ショートブレード・インターセプターを呼び出し、ニーズヘグを受け止めるセシリア。

 

「セシリア!………!? キャアッ!!」

 

セシリアの援護に行こうとしたシャルには、砲台型ガンメン達からの砲撃が襲い掛かる!!

 

「テメェ等! シャルに何しやがる!!」

 

それを見たグレンラガンが、シャルに砲撃を行っていた砲台型ガンメンの部隊の中に飛び込み、フルドリライズで一気に刺し貫いた!!

 

しかし、直後!!

 

「!? うおっ!?」

 

別の砲台型ガンメンの部隊の砲撃を浴びてしまう。

 

「距離を取れ!! グレンラガンは近接戦闘を得意とする!! 絶対に近寄らせるな!!」

 

部隊の部隊長はそう言い放ち、グレンラガンに絶え間ない砲撃の雨を浴びせる。

 

「クソッ! 動けねぇ!!」

 

凄まじい砲撃の前に動きを封じられるグレンラガン。

 

すると………

 

「キャロットボンバー!!」

 

その砲撃を見舞っていた砲台型ガンメンの部隊に、ニンジン型の爆弾が投げ込まれた!!

 

「ぬおおおっ!?」

 

突然の爆発に、砲撃が中止される。

 

「き、貴様! 如何いう積りだ!? 螺旋王様を裏切る積りか!!」

 

その攻撃を加えた者………ザウレッグをそう怒鳴りつけるガンメン部隊長。

 

しかし………

 

「俺は奴と男の勝負していたのだ………奴とのケリは俺が着ける! 貴様等に邪魔はさせん!!」

 

ザウレッグは怯む事なくそう言い張った。

 

「ジギタリス………」

 

「天上 神谷よ………貴様に貴様の誇りが有る様に………俺にも俺の誇りが有る! 貴様との決着は! この様な形であってはならない!!」

 

驚いていたグレンラガンに向かって、ザウレッグはそう言う。

 

「ええい! 何が誇りだ! 邪魔をするならば貴様も纏めて消し飛ばしてくれる!!」

 

そこで部隊長がそう言い放ち、グレンラガンとザウレッグに部隊の全砲門を向ける。

 

「へっ! 上等!! 行くぜ、ジギタリス!!」

 

「俺に命令するな!!」

 

グレンラガンとザウレッグはそう言い合うと、砲撃型ガンメンの部隊の中へ突っ込んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

遂に迎えたキャノンボール・ファスト。
しかし、イベントは潰されるの法則により、ジギタリスのザウレッグが再戦を挑んできます。
何故か駆けっこで勝負をする事になったグレンラガンとザウレッグですが、更なる乱入者で勝負は無効に。
己の誇り故に、ジギタリスは一時的にグレンラガンと組む。
果たして混沌とした戦場の行方は?

今回出たガンメンは、ガンダムSEEDとGガンダムに登場した2体が元ネタとなっています。
何故この2体をチョイスしたかは次回で明かされます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第36話『私とした事が、グレン団の魂を失念しておりましたわ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第36話『私とした事が、グレン団の魂を失念しておりましたわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市のISアリーナ………

 

キャノンボール・ファストの日に、ザウレッグことジギタリスが神谷とグレンラガンに再戦を仕掛けて来た。

 

紆余曲折の末、何故か駆けっこ勝負をする事になった両者。

 

互いに全力疾走し、互角の勝負を繰り広げたが………

 

突如として、ジギタリスの意思とは関係無い獣人達の増援部隊が出現する。

 

止むを得ずグレンラガンと一夏達はコレを迎え撃つが、その最中………

 

自らの誇りを傷付けられたジギタリスは、増援に現れた獣人部隊を攻撃するのであった………

 

 

 

 

 

セシリアVSフォビドゥン………

 

「喰らいなさい!!」

 

セシリアはフォビドゥンに向かって、ストライク・ガンナーパッケージ時の主力武装・大出力BTライフル「ブルー・ピアス」を放つ。

 

「はん」

 

しかし、フォビドゥンは円盤型バックパックを上半身に被る様に装着したかと思うと、左右に付いていたシールドを構えた。

 

すると、セシリアが放ったビームが、そのシールド状で逸れてしまう。

 

「!? ビームを逸らした!?」

 

「無駄だよ………このゲシュマイディッヒ・パンツァーの前では、ビームなんか無意味さ」

 

驚くセシリアにフォビドゥンがそう言ったかと思うと、円盤型バックパックを上半身に被った状態のまま、バックパック先端部に内蔵された高出力ビーム砲・誘導プラズマ砲「フレスベルグ」を放つ。

 

「クッ!」

 

回避運動を取るセシリアだが………

 

「逃げても無駄だよ………」

 

フォビドゥンがそう言ったかと思うと、ゲシュマイディッヒ・パンツァーから磁場が発せられ、フレスベルグが湾曲。

 

「!? キャアアアアァァァァァーーーーーーッ!?」

 

直撃は辛うじて避けたものの、至近距離をビームが霞め、シールドエネルギーが大きく削られる。

 

「クウッ!!」

 

姿勢を取り直しながら、再びブルー・ピアスを発砲するセシリアだが、そのビームは全てフォビドゥンのゲシュマイディッヒ・パンツァーによって逸らされてしまう。

 

「無駄だって」

 

相変わらず抑揚の無い声でフォビドゥンがそう言ったかと思うと、バックパック両側に設置された可動式レールガン「エクツァーン」を放つ。

 

「クウッ!」

 

またも辛うじて回避するセシリアだったが、内心で手詰まり感を感じていた。

 

現在、彼女のISであるブルー・ティアーズは、高機動パッケージ「ストライク・ガンナー」を装着している状態であり、この状態ではビットのブルー・ティアーズは全て推進力に回されており、使用出来ないのだ。

 

つまり彼女は今の状態では、ブルー・ピアスとインターセプターしか使う事が出来ないのだ。

 

だが、仮にビットのブルー・ティアーズを使えたとしても、相手はビームを屈折させるシールドを持っているのだ。

 

光学兵器主体の彼女のISとは、トコトン相性が悪いのだ。

 

「それでも………引き下がるワケには行きませんわ!!」

 

しかし、セシリアは自分を奮い立たせる様にそう言い、ブルー・ピアスを発砲する。

 

「ウゼェ」

 

だが、その攻撃も、ゲシュマイディッヒ・パンツァーで逸らされてしまう。

 

「いい加減落ちろよ」

 

フォビドゥンはそう言い、両腕内蔵の大口径機関砲「アルムフォイヤー」を放つ。

 

「そう簡単に………このセシリア・オルコットはやられませんわ!!」

 

それをバレルロールの様な動きで回避しながら、セシリアはフォビドゥンに接近し、インターセプターで斬り掛かる。

 

「チイッ!!」

 

フォビドゥンはニーズヘグで受け止め、そのまま鍔迫り合いとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、アリーナ内の別の場所では………

 

一夏&箒VSグランド………

 

「喰らえッ!!」

 

グランドに向かって、雪羅からの荷電粒子砲を放つ一夏。

 

「フンッ!」

 

しかし、荷電粒子砲はグランドの装甲の表面を少し焦がしただけで終わる。

 

「クソッ! 何て装甲だ!!」

 

「デヤリャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

すると今度は、箒が雨月と空裂で斬り付ける!

 

だが、コレもグランドの装甲でガキィンッ!と甲高い音を立てて弾かれる。

 

「クウッ! 駄目か!!」

 

若干手に痺れを感じながら一旦離脱する箒。

 

「ウオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

と、グランドは咆哮を挙げたかと思うと、箒目掛けて肩の4門の砲門から砲弾を放つ!!

 

近接信管式の砲弾だったのか、箒の至近距離まで接近すると、独りでに爆ぜる砲弾。

 

「グウッ!?」

 

爆発に囲まれ、箒は身動きが取れなくなる。

 

「ウオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

すると、グランドは再び咆哮を挙げ、背中の2本の角を箒目掛けて伸ばした!!

 

「!? うわあぁっ!?」

 

辛うじて躱したものの掠られ、箒は錐揉みしながら墜落する。

 

「箒!! この野郎おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

それを見た一夏が、怒りの様子を見せながらグランドへと突撃する。

 

「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!! 必殺っ! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そして、瞬間加速(イグニッション・ブースト)も合わせて、雪羅のシャイニングフィンガーを繰り出す。

 

凄まじい速度でグランドに迫った一夏は、そのまま頭を鷲摑みにしようとする。

 

(取った!!)

 

眼前までグランドの姿が迫り、そう確信する一夏だったが………

 

突如として目の前に壁の様な物が現れ、一夏を弾き飛ばした!!

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

そのままアリーナの壁に叩き付けられる一夏。

 

「クッ!? な、何が……?」

 

一夏はダメージに苦しみながらも、グランドの姿を確認する。

 

すると、一夏を弾き飛ばしたのは………

 

グランドの前足である事に気づく。

 

いや………

 

前足では無く『腕』であると。

 

何と!!

 

グランドは後ろの足で立ち上がり、前足を腕に変形させ、2足歩行形態となった!!

 

「むうううううんっ!!」

 

気合を入れる様に雄叫びを挙げ、足を踏み出すグランド。

 

自重でアリーナの地面が凹む。

 

「コイツ!? 人型にもなれるのか!?」

 

一夏が驚いていると、グランドの2本の角・グランドホーンの間に電流が迸り、一夏目掛けて発射された!!

 

「!?」

 

一夏はすぐに立ち上がると、雪片弐型を実体剣モードに戻し構える。

 

グランドの電撃・グランドサンダーは、その実体剣モードの雪片弐型の刀身に落ち、帯電する。

 

「むうっ!?」

 

「返すぜ! ホラよ!!」

 

そして、一夏がその帯電していた雪片弐型を振るうと、帯電していた電撃が、グランドへと放たれる。

 

「ぬあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

自分が放った電撃を浴び、痺れるグランド。

 

「隙有り!!」

 

更にそこで、関節の隙間に、紅椿のビットが突き刺さる!!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?」

 

ビットが突き刺さった場所から、激しく火花が飛び散る。

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そしてそこで、箒と一夏が同時に斬り掛かって行くが………

 

「ぬおあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

グランドが気合の雄叫びを挙げると、突き刺さっていた紅椿のビットが弾き飛ばされ、衝撃波が一夏と箒を襲う。

 

「うわっ!?」

 

「くうっ!?」

 

態勢を崩され、2人は一旦距離を取る。

 

「ぬうううううぅぅぅぅぅぅ」

 

そんな2人を低い唸り声の様な声を挙げて見据えるグランド。

 

「何て奴だ………」

 

「だが見た目通りに機動力は無い。速さならコチラに分が有る。そこを衝くぞ、一夏」

 

「ああ、分かったぜ、箒」

 

一夏と箒はそう言い合うと、スピードを活かしてのヒットアンドアウェイ戦法へと戦い方を切り替えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、セシリアVSフォビドゥンの戦いの場では………

 

「エイッ!!」

 

「無駄だって言ってるだろう………」

 

セシリアが放ったビームを、ゲシュマイディッヒ・パンツァーで逸らしたフォビドゥンは、セシリアに向かってそう言い放つ。

 

「クッ!」

 

セシリアの心に焦りが募る。

 

ビームによる射撃は逸らされ、接近戦でも得物の差で圧倒される………

 

戦いは終始フォビドゥンの優勢で進んでいた。

 

(このままでは………せめて、あの盾が無い場所から攻撃出来れば………)

 

セシリアはそう考えると、スラスターとして使用されているビットのブルー・ティアーズを見遣る。

 

(やはり………この手しかありませんわね………)

 

そして、意を決した様な表情を見せる。

 

「お前ウザイな………殺しちゃうよ?」

 

「どうぞ。出来るものでしたらね!」

 

と、そう言った瞬間、セシリアは瞬間加速(イグニッション・ブースト)を発動。

 

一気にフォビドゥンの懐に飛び込んだ!!

 

「!?」

 

「貰いましたわ!!」

 

そう言って、インターセプターを振るうセシリア。

 

「おっと………」

 

だが、フォビドゥンはニーズヘグの柄で、インターセプターの刃を受け止めしまう。

 

「残念………」

 

嘲る様にそう言うフォビドゥンだったが………

 

「まだですわ! ブルー・ティアーズ!!」

 

セシリアがそう叫ぶと、スラスターとして使われていたビットのブルー・ティアーズが、一斉にビームを発射!!

 

スラスターとして固定していた部品を吹き飛ばし、起動した!!

 

「!?」

 

驚いて一旦距離を取ろうとしたフォビドゥンだったが………

 

「逃がしませんわ!」

 

セシリアがインターセプターとブルー・ピアスを投げ捨て、フォビドゥンの両腕を摑んで引き留める。

 

(お願い! ブルー・ティアーズ!!)

 

ビットのブルー・ティアーズは、そのままゲシュマイディッヒ・パンツァーが回らない位置から攻撃しようとする。

 

………しかし!!

 

「ウゼェんだよ!」

 

初めて抑揚の付いた声を発したかと思うと、バックパックを一旦背中に戻すフォビドゥン。

 

そしてそのまま、フレスベルグを放つ。

 

すると、ゲシュマイディッヒ・パンツァーから磁場が発せられ、フレスベルグが湾曲。

 

ブルー・ティアーズを撃ち落とそうとする。

 

「!? 危ない!?」

 

セシリアは咄嗟にブルー・ティアーズをばらけさせ、回避させる。

 

しかしそれは、フォビドゥンに反撃を与える隙を作ってしまう事となった。

 

「死ねッ!!」

 

フォビドゥンは至近距離で、セシリアにエクツァーンを連射する!!

 

「!? あああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

全弾真面に喰らってしまったセシリアは、ビットのブルー・ティアーズを無理矢理起動させたせいで半壊していたISのパーツを撒き散らしながら墜落し、地面に背中から叩き付けられる!

 

「!? セシリア!! クソッ!! シャル! ジギタリス! 此処は任せるぞ!!」

 

と、その様子を目撃したグレンラガンが、砲台型ガンメンの相手を近くに居たシャルとザウレッグことジギタリスに任せ、セシリアの救援に向かった!!

 

「任せて! 神谷!!」

 

「貴様の命令を聞く積りは無いが………良いだろう」

 

シャルとザウレッグはそう言い、グレンラガンを追撃しようとする砲台型ガンメンを阻止する。

 

「ぐ、うう………」

 

一方、地面に叩き付けられたセシリアは、痛む身体を無理矢理起こそうとするが………

 

「ふんっ」

 

そんなセシリアに向かって、フォビドゥンはニーズヘグを投擲。

 

ニーズヘグは、刃の部分をセシリアの右の二の腕と地面に突き刺し、柄でセシリアの身体を固定した!!

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

耐え難い苦痛に、セシリアの口から悲鳴が挙がる。

 

「お前………消えちゃえよ」

 

フォビドゥンは再びバックパックを被ると、セシリアにフレスベルグの砲口を向ける。

 

「………お願い………ブルー・ティアーズ………」

 

と、セシリアは朦朧とした意識の中、辛うじて動く左手をフォビドゥンへと向ける。

 

すると、セシリアの心の中で、蒼い雫が落ちた。

 

水面に落ちた雫は、静かに波紋を広げる………

 

(!? コレは!?)

 

(考えるのだ! 己のISの名に込められた意味を!! そして解き放て! 螺旋の魂を!!)

 

その瞬間、セシリアの脳裏に、シュバルツ・シュヴェスターの言葉が甦って来る。

 

(ああ、そうか………そうでしたの………ブルー・ティアーズとは、つまり………)

 

何かを悟り、セシリアはゆっくりと微笑みを浮かべた。

 

「………バーン」

 

そして、左手で銃の形を作ると、フォビドゥンに向かって撃つ様な仕草を見せる。

 

すると!!

 

今まで操作を受信していなかった為、空中を漂っていたビットのブルー・ティアーズが突然息を吹き返し、フォビドゥンに向かってビームを放った!!

 

「!? 悪足掻き!!」

 

しかし、フォビドゥンは驚きながらも、ゲシュマイディッヒ・パンツァーでビームを逸らす。

 

だが………

 

逸らされたビームが軌道を変えて、再びフォビドゥンへと襲い掛かった!!

 

「なっ!? ぐああああっ!?」

 

流石のフォビドゥンも、この攻撃を防ぐ事は出来ず、遂にビームの直撃を受ける!!

 

BTエネルギー高稼働率時にのみ使える偏向射撃(フレキシブル)。

 

セシリアはこの土壇場で物にしたのである。

 

「この………屑野郎おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、流石にその1撃だけでフォビドゥンを倒す事は出来ず、フォビドゥンはセシリアに向かってフレスベルグを放つ。

 

(これまでですわね………でも、一矢報いましたわ)

 

潔い諦めの顔をするセシリア。

 

しかし………

 

「ドリルシールド!!」

 

その間に割って入ったグレンラガンが、ドリルを傘の様に開いたドリルシールドで、フレスベルグを受け止めた!!

 

「!?」

 

「!? 神谷さん!?」

 

その姿を見て、セシリアの飛びかけていた意識が急激に覚醒する。

 

「何満足した顔してやがる! セシリア!!」

 

と、グレンラガンはセシリアを押さえ付けていたニーズヘグを外しながらそう言う。

 

「えっ………?」

 

「まだアイツに勝ってねえだろ! お前もグレン団の一員なら、一矢報いたぐらいで満足すんじゃねえ!! 岩に噛み付いてでも勝利を奪い取りやがれ!! それがグレン団魂だ!!」

 

グッと拳を握ったポーズを取りながらそう言い放つグレンラガン。

 

「…………」

 

すると、それを聞いていたセシリアの心に、再び闘志が燃え上がる。

 

「申し訳ありません、リーダー………私とした事が、グレン団の魂を失念しておりましたわ」

 

セシリアは今度は不敵な笑みを浮かべて、血を流す右腕を押さえながら立ち上がる。

 

その姿は如何見ても満身創痍だが、とても美しく見えた………

 

「ウザイ………ウザイウザイウザイウザイウザイ………ウザイんだよーっ!!」

 

とそこで、フォビドゥンが痺れを切らしたかの様に、2人へと襲い掛かる。

 

「行くぜ! セシリア!!」

 

「ハイ! 神谷さん!!」

 

とグレンラガンとセシリアはそう言い合い、腕を交差させた!!

 

すると!!

 

緑色の光が、グレンラガンとセシリアを包み込む!!

 

「!? うわっ!?」

 

その眩しさに思わず動きを止めるフォビドゥン。

 

「!? コレは!?」

 

「まさか!?」

 

「嘘っ!? まさかセシリアとも!?」

 

それを目撃したシャル、ラウラ、鈴が驚きの声を挙げる。

 

やがて光が弾けると、そこには………

 

『グレンラガンがブルー・ティアーズを装着している』様な姿のマシンが在った!!

 

「紅蓮の炎が空を焦がし!!」

 

「蒼き雫が水面を打つ!!」

 

「「水炎(すいえん)合体!!」」

 

『グレンラガンがブルー・ティアーズを装着している』様な姿のマシンは、そこでポーズを取る。

 

「「『ラガンティアーズ』!!」」

 

「俺を!」

 

「私(わたくし)を!」

 

「「誰だと思っていやがる〈おりますの〉!!」」

 

『グレンラガンがブルー・ティアーズを装着している』様な姿のマシン………『ラガンティアーズ』から、神谷とセシリアの叫びが木霊する。

 

「………ウザイって言ってんだろ!!」

 

だが、そんな名乗りも聞いていないかの様に、フォビドゥンはニーズヘグを拾い上げると、ラガンティアーズに斬り掛かる。

 

「フンッ」

 

だが、ラガンティアーズはそのニーズヘグの刃を片手で受け止める!!

 

「!?」

 

「ウザイ、ウザイだ、馬鹿の1つ覚えみたいに言いやがって………熱い魂の分からねえテメェに………」

 

「負けはしませんわ!!」

 

神谷とセシリアの声が、再び響き渡ると、ラガンティアーズはニーズヘグの刃を握り潰した!!

 

「なっ!?」

 

「オラァッ!!」

 

驚くフォビドゥンに、ラガンティアーズは喧嘩キックを叩き込む!!

 

「グハッ!!」

 

「行くぜ! ブルー・ティアーズ!!」

 

と、神谷のそう言う叫びが響き渡ったかと思うと、ラガンティアーズからビットのブルー・ティアーズが分離した!!

 

「効かないんだよ!!」

 

偏向させてやろうと、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを構えるフォビドゥン。

 

しかし何と!!

 

ラガンティアーズから放たれたビットのブルー・ティアーズは、自らゲシュマイディッヒ・パンツァーへとぶつかって来た!!

 

「!? 何っ!?」

 

フォビドゥンが驚きを示した瞬間………

 

ビットのブルー・ティアーズが高速回転!!

 

ドリルとなってゲシュマイディッヒ・パンツァーに減り込んで行き、遂には粉々に打ち砕いた!!

 

「嘘だ!? ビットにそんな使い方なんて!?」

 

「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」

 

驚愕していたフォビドゥンに、ラガンティアーズの拳が叩き込まれる!!

 

「ガフッ!?」

 

「「スカルブレイク!!」」

 

ラガンティアーズは拳を叩き込んだ瞬間に腕のドリルを出現させる必殺パンチ『スカルブレイク』を炸裂させ、フォビドゥンのボディの装甲を粉砕する!!

 

「がああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「神谷さん! 一気に決めますわ!!」

 

「おっしゃあっ!!」

 

と、セシリアと神谷の声が響き渡ると、ラガンティアーズの胸に装着されていたグレンブーメランが外れ、ラガンティアーズの右手に納まる。

 

「必殺っ!!」

 

そのグレンブーメランを、フォビドゥン目掛けて投げ付けるラガンティアーズ。

 

高速回転しながらフォビドゥンへと向かっていたグレンブーメランは、途中で2つに分離。

 

フォビドゥンを連続で斬り付け、空中に磔にした。

 

そこで、ラガンティアーズが右腕を掲げる様に構えたかと思うと、その手にスターライトmkⅢが出現する。

 

するとビットのブルー・ティアーズが集まって来て、スターライトmkⅢに合体!!

 

合計5つの銃口を持つ、超巨大レーザーライフルと化した!!

 

ラガンティアーズが、その超巨大レーザーライフルを磔にされているフォビドゥンに向かって両手で構えたかと思うと、銃口に螺旋力がチャージされ始める。

 

そして、チャージが満タンに達したかと思うと………

 

銃口の先に、巨大なドリルの形のビーム弾を造り上げた!!

 

「「ドリル! シュウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーートッ!!」」

 

神谷とセシリアの叫びと共に、超巨大レーザーライフルの引き金が引かれると、その巨大なドリル形のビーム弾が、ビームの尾を曳きながら放たれた!!

 

巨大なドリル形のビーム弾はそのままフォビドゥンへと命中。

 

「うがああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

断末魔の叫びを残し、フォビドゥンは爆発・四散。

 

ラガンティアーズはその爆発に背を向け、超巨大レーザーライフルを構え直してポーズを決めると、爆発の中から戻って来たグレンブーメランが、胸へと再装着されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏&箒VSグランド………

 

「「デリャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

グランド相手に、スピードを活かしてのヒットアンドアウェイ戦法で果敢に攻める一夏を箒。

 

しかし、相手の装甲の厚さもあり、余りダメージを与えられずに居た。

 

「クッ! まだ倒れんのか!?」

 

「クソ! もうエネルギーが………箒! 絢爛舞踏だ! エネルギーの補給を頼む!!」

 

と、エネルギーが残り少なくなっていた一夏が、箒に向かってそう叫んだ!!

 

「!? ま、待ってくれ、一夏! アレはそう簡単には使えんのだ!!」

 

それを聞いた箒が焦った様な声を挙げる。

 

機体のエネルギーを増幅させる紅椿の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)だが、箒は未だにその力を扱い倦ねていた。

 

使えないワケではないのだが、まだ自由自在に発動出来るまでには至っていないのである。

 

「絢爛舞踏を使うには、まだ全ての意識を集中させねばならん。今の状況では………」

 

「なら! 俺がその集中の時間を稼ぐ! その間に頼む!!」

 

「!? 馬鹿な!? 危険過ぎる!!」

 

「舐めるなよ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

危険だと言う箒に、一夏はそう言い返す。

 

「………分かった。頼む一夏!」

 

「任せとけ! さあ来い! ウスノロ野郎! 俺はコッチだ!!」

 

一夏はグランドの周りを飛び回り、注意を惹く。

 

「…………」

 

それを見た後、箒は目を閉じて意識を集中させ始める。

 

(あの時と同じ気持ち………私は………私は一夏と共に戦いたい………力になりたい………応えろ! 紅椿!!)

 

と、まるで念じる様に心の中でそう呟いた瞬間!!

 

紅椿が金色の光を放ち始めた!!

 

「! 良し!! 一夏ぁっ!!」

 

「待ってたぜ! 箒!!」

 

箒の声を聞くと、一夏はグランドの顔に、荷電粒子砲を撃ち込んで隙を作る!

 

「ぬううっ!?」

 

「箒ぃっ!!」

 

「受け取れ! 一夏!!」

 

一夏が箒に向かって手を伸ばしながら飛び、箒も一夏へ手を伸ばしながら飛ぶ。

 

そして、あとちょっとでその手が触れ合おうとした瞬間………

 

2人に、巨大な影が覆いかかった。

 

「「??」」

 

一夏と箒が上空を確認すると、そこには………

 

自分達目掛けてその巨体を落として来るグランドの姿が在った!!

 

「「なっ!?」」

 

2人が驚きの声を挙げた瞬間に、4足歩行形態となっていたグランドの前足が、一夏と箒を押し潰す様に圧し掛かる!!

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「ぬうううううううんっ!!」

 

そのまま自重を掛け、一夏と箒を押し潰そうとするグランド。

 

絶対防御で守られているが、凄まじい圧力が2人の身体に襲い掛かる。

 

「ク、クッソォッ!!」

 

「い、一夏………手を………」

 

しかし、そんな状況で、箒は一夏にエネルギーを供給しようと必死に手を伸ばして来る。

 

「!? 箒!!」

 

それに気づいた一夏も、必死に箒へと手を伸ばす。

 

「! ぬううううううんっ!!」

 

それに気づいたグランドは、一気に2人を押し潰そうと更に自重を掛ける。

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「い、一夏あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

悲鳴を挙げながらも、2人は必死に相手へと手を伸ばす。

 

そして、遂に触れ合える距離まで迫った瞬間………

 

「あ…………」

 

遂に耐え切れなくなったのか、箒が気を失い、寸前まで伸びていた手がダランッと落ちる………

 

「!? 箒!!」

 

ギリギリのところでその手を摑み、箒へと呼び掛ける一夏。

 

「…………」

 

しかし、気を失った箒は返事を返さない。

 

「!?」

 

その瞬間に、紅椿のエネルギーが白式へ流れ込んで来たが………

 

それと同時に、一夏の中で、『何か』が切れた………

 

「うおわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

凄まじい雄叫びを挙げたかと思うと、信じられないパワーでグランドの前足を押し始める一夏!

 

そして何と!!

 

そのままグランドを持ち上げたではないか!!

 

「!? ぬううっ!?」

 

流石のグランドも、その状況に驚きを隠せなかった。

 

「でりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一夏はそのまま、グランドをアリーナの観客席目掛けて投げ飛ばす!!

 

「うおおおおおっ!?」

 

グランドはアリーナのバリアを突き破って観客席に叩き付けられる!!

 

「ちょっ!? 何事!?」

 

「何が起こった!?」

 

「一夏!?」

 

鈴、ラウラ、シャルがそれで一夏達の様子に気づく。

 

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

と、一夏が気合を入れるかの様な声を挙げていると………

 

白式から、まるで絢爛舞踏を発動させた紅椿の様に金色の光が放たれ始める。

 

「………うっ………!? 一夏!?」

 

その光で目を覚ました箒が、一夏の状態を見て驚きの声を挙げる。

 

「許さない………お前だけは………絶対に! 許さなああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーいっ!!」

 

グランドを睨みながら、一夏は怒りの咆哮を響かせる。

 

その瞬間!!

 

白式の装甲部分の彼方此方が展開し、金色の粒子を放ち始めた!!

 

「!? アレはまさか!? 展開装甲!?」

 

驚きの声を挙げる箒。

 

その機能は、紅椿の展開装甲と酷似している。

 

更に変化は続き、ISスーツが紺色から彼の怒りを表すかの様な赤色へ………

 

そして白式のアーマー自身も、金色に染まり出した!!

 

「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ! トアアァッ!!」

 

雪片弐型にエネルギーの刃を展開すると、一夏は演武の様な動きを取り、ポーズを決める。

 

彼の凄まじい怒りの力に反応し、白式が見せた新たなる姿………

 

『白式・スーパーモード』だ!!

 

「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!!」

 

お馴染みの台詞と共に、一夏は雪片弐型を両手で握る。

 

「喰らえっ! 愛と怒りと悲しみの!! シャイニングフィンガーソオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーードッ!!」

 

すると、シャイニングフィンガーの全エネルギーが雪片弐型に送り込まれ、エネルギーの刃が巨大化する!!

 

「メンッ! メンッ! メエエエエエエエェェェェェェェェーーーーーーーーーンッ!!」

 

そしてそのまま、観客席に半分埋もれていたグランドを真っ向から縦一文字に斬り付ける!!

 

「うおわあああああああっ!?」

 

グランドの巨体がいとも容易く斬り裂かれ、爆散した。

 

それと同時に、白式は通常の状態へと戻る。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

顔中に脂汗を浮かばせた一夏が、荒くなった呼吸を必死に整えようとする。

 

「………今のは………一体?」

 

白式のスーパーモードの力に、箒は軽い戦慄を覚える。

 

やがて、フォビドゥンとグランドがやられたのを見た残りのガンメン達は撤退を開始。

 

すっかりボロボロになったアリーナに、漸く静寂が戻ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ビームを屈折させるフォビドゥンに苦戦するセシリア。
偏向射撃(フレキシブル)で一矢報いたかに思えましたが、そんな事で満足するなと神谷の叱咤が飛び、新たな合体『ラガンティアーズ』が誕生です。

一方、グランドに苦戦していた一夏と箒は、一夏の新たな力『スーパーモード』で切り抜ける。
しかし、Gガンダムをご存じの皆さんは分かっていると思いますが、これは怒りのスーパーモード………
これではいけません。
なので次回、『アイツ』が一夏に今川流の活を入れます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第37話『ならばその強さ………試してやろう!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第37話『ならばその強さ………試してやろう!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャノンボール・ファストの日の夜………

 

一夏と千冬の家………

 

即ち織斑家のリビングにて………

 

「せーのっ!」

 

「「「「「一夏、お誕生日おめでとうっ!!」」」」」

 

シャルの声を合図に、一夏の誕生日を祝いに駆け付けた一同は、一斉にクラッカーを鳴らした。

 

「お、おう。サンキュ………でも、この人数は何事だよ……?」

 

若干照れた様子を見せる一夏だが、かなり集まった人数に思わずそう呟く。

 

因みに、今居る人物は神谷、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、楯無、のほほん、虚、弾、蘭等など………

 

それ程広くないリビングは、パンク寸前だった。

 

「馬鹿野郎! 一夏!! 折角お前の誕生日を祝おうと集まってくれた連中だぞ!! 先ず礼を言うのが先だろうが!?」

 

と、そんな事を呟いた一夏に、神谷がそう言い放つ。

 

「ああっと、そうだった…………皆、今日は本当にありがとう」

 

そう言われて一夏はハッとし、皆に向かって深々と頭を下げる。

 

「もう、一夏さん。主役がそんなに頭を下げないで下さい」

 

そんな一夏の姿を見たセシリアがそう言って来る。

 

「ああ、ワリィ………ところでセシリア。本当に怪我は大丈夫なのか?」

 

「ええ、この通り大丈夫ですわ」

 

服の袖を捲ると、傷1つ付いてない右腕を見せてそう言うセシリア。

 

「そっか………なら良かった」

 

そう言うと、一夏は安心した表情を見せる。

 

フォビドゥンとの交戦中に負傷したセシリアだったが、ラガンティアーズから分離した際に、何故が怪我が治っていたのである。

 

それだけでは無く、激しく損傷していた筈のブルー・ティアーズも、まるで新品同様に修復されていた。

 

リーロン曰く、グレンラガンと合体した際に螺旋力を浴びた影響だと思われる、との事である。

 

「それにしても………まさか獣人の捕虜が出るなんて、思いも寄らなかったな」

 

「確かにそうだな………」

 

一夏の呟きに、ラウラが同意する。

 

実は昼間の襲撃の後………

 

ジギタリスがグレン団に投降したのである。

 

曰く、誇りの為とは言え、自軍に刃を向けたケジメだそうだ。

 

千冬や真耶は困惑し、当初は日本政府に引き渡す事も考えたが………

 

「アイツを如何にかするんなら! この天上 神谷様に断わってからにしてもらおうか!!」

 

と言う神谷が強引に押し通し、止むを得ずリーロンが特設した檻に鎖で拘束して放り込む事にした。

 

「これで少しでもロージェノム軍の情報が得られると良いんだけど………」

 

シャルがそう呟くと………

 

「オイオイ、お前等! 今日は誕生祝いなんだぞ!! そんな話は置いておけ!! 今日は兎に角騒ぐぞぉ!!」

 

神谷が、誕生日会で何小難しいこと話してやがると、そう言って来た。

 

「か、神谷ぁ」

 

「ま、確かにそうだな。昼間大変だったし、それを忘れる意味でも騒ごうか。皆ー! 今日は無礼講で行こう!!」

 

「「「「「おーっ!!」」」」」

 

そのまま一同は、昼間の騒ぎを忘れるかの様に騒ぎ始める。

 

そして馬鹿騒ぎが盛り上がって来たところで、一同から一夏へのプレゼントが贈られ始めた。

 

蘭からは、手作りケーキ。

 

鈴からは、手作りラーメン。

 

セシリアからは、イギリス王室御用達のメーカー『エインズレイ』の高級ティーセットと彼女が普段から愛飲している一等級茶葉。

 

シャルからは、神谷と一緒に選んだゴールドホワイトのフルスペック腕時計。

 

ラウラからは、彼女が愛用していた軍用ナイフ。

 

弾からは、ロボットアニメ大集合シミュレーションゲームの最新作。

 

楯無からは、お姉さんの抱擁(他のメンバーに嫉妬の目で睨まれたのは言うまでも無い)

 

そして箒からは、(こっそり自分とお揃いにした)着物をプレゼントされた。

 

と、用意されたプレゼントが全て渡されたと思った瞬間………

 

「一夏! 実は俺も独自にプレゼントを用意して置いたんだ! 受け取れ!!」

 

神谷が、シャルと共同で選んだ腕時計の他にも、コッソリと用意しておいたサプライズを渡して来た。

 

「えっ? アニキから!?」

 

「神谷が!?(だ、大丈夫かな?)」

 

驚く一夏と、彼のセンスを知っている為若干心配になるシャル。

 

一夏がプレゼントの包装を解いてみると、中から出て来たのは………

 

「!? コレ!! アニキのマント!?」

 

出て来たのは、神谷が普段から身に着けている背中にグレン団のマークが入った、炎を思わせる模様をした紅蓮のマントだった。

 

「おうよ! 作れるって仕立て屋を見つけるのには苦労したぜ!!」

 

「ほ、ホントに良いの!? アニキ!?」

 

思い掛けないプレゼントに、一夏は思わず小刻みに震え出す。

 

「当たりめえだろ! 一夏! お前は自分を誰だと思ってやがる!?」

 

「ありがとう! アニキ!! 本当に嬉しいよ!!」

 

一夏は今までのどのプレゼントよりも喜びを露わにする。

 

「「「「「…………」」」」」

 

そんな一夏を、箒、セシリア、鈴、ラウラ、蘭はジト目で睨み付けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

IS学園・地下にて………

 

「…………」

 

鎖で縛られ、特設された檻に入れられたジギタリスは、薄暗い中でまるで瞑想しているかの様に目を閉じている。

 

と、そこへ………

 

「オッサン!」

 

そう言う声が響いたかと思うと、獣人の状態のティトリーが姿を現した。

 

「………ティトリーか」

 

それに反応し、目を開けるジギタリス。

 

「何だよ、オッサン!! 何やってんだよ!?」

 

「見ての通りだ………俺は誇りの為にロージェノム様への背信行為を行った………そのケジメを着けたまでだ」

 

「な、何言ってるんだよ!? そんなのオッサンと神谷の勝負に割り込んで来たアイツ等が悪いんじゃないか!! あの勝負だってオッサンが………」

 

「いや………あのまま戦っていても、俺は負けていただろう」

 

「ええっ!?」

 

ティトリーはジギタリスの言葉に驚きを露わにする。

 

「天上 神谷………四天王様が懸念されていた通りの奴………そして敵ながら見事な心意気を持った男だ。お前が惹かれているのも分かる」

 

「なっ!? ア、アタシは別に………兎に角! そんな檻! オッサンならすぐ出れるだろう! 監視はアタシが何とかしといたから、早く逃げて!!」

 

「………逃げて如何する?」

 

「!? ど、如何するって………」

 

「どの道、ザウレッグではグレンラガンに歯が立たん。今は機を待つとしよう………お前の『メガヘッズ』が完成するまでな」

 

「!? 『メガヘッズ』が!?」

 

『メガヘッズ』と言う言葉を聞いたティトリーの顔色が変わる。

 

「『メガヘッズ』と………『あの機能』が完成すれば………グレンラガンにも対抗できるやもしれん。今は耐えるのだ………さ、もう行け」

 

「オッサン………クッ!」

 

ティトリーは一瞬複雑な表情を浮かべると、ジギタリスの前から去って行く。

 

「………益々人間の様になったな、ティトリー」

 

そんなティトリーを見送ったジギタリスの表情も、嬉しさと寂しさが入り混じった複雑な表情であった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑家の最寄の自動販売機前………

 

(えーと、楯無さんが缶コーヒーで箒がお茶。鈴がウーロン茶でシャルがオレンジジュース。ラウラがスポーツ飲料でセシリアが紅茶。そんでアニキと弾が牛乳っと………)

 

一夏が、足りなくなったジュースを補給している。

 

当初は主役にそんな事はさせられないと他の面子が行こうとしていたが、幾ら主役でも一方的に世話になるのは男としてのプライドが許さなかった一夏は、自主的に志願したのだ。

 

「よ~し、こんなモンかな」

 

一通り飲み物を買うと、家へ戻ろうとする一夏。

 

「………織斑 一夏よ」

 

するとそこで突然、自分を呼ぶ声が聞こえて来る。

 

「!? 誰だ!?」

 

一夏は驚きながら周りを見回すが、何処にも人影は見えない………

 

「? 誰も居ない………?」

 

「此処だ、織斑 一夏」

 

と、再びそう言う声が響いたかと思うと、自販機の灯りで出来ていた一夏の影の中から、シュバルツ・シュヴェスターが現れた!

 

「うわぁっ!? シュ、シュバルツ・シュヴェスター!?」

 

とんでもない場所から現れたシュバルツに、一夏は驚愕する。

 

「織斑 一夏………お前は今日の戦いで、新たなる力を目覚めさせたな」

 

しかし、そんな一夏の驚きに構わず、シュバルツはそう問い質してくる。

 

「お、おう………アンタも見ててくれたのか? 凄かったろう、俺のスーパーモード」

 

一夏は自慢気にそう言う。

 

本人の才能に加え、様々な実戦経験や箒達の特訓もあり、ISを使い始めてまだ半年も経っていないと言うのに、一夏の腕はそんじょそこらのIS乗りよりも上がっていた。

 

だが………

 

「愚か者が! あの様な力! 力とは呼べんわ!!」

 

シュバルツは得意気になっていた一夏に向かってそう言い放つ。

 

「なっ!?」

 

思わぬシュバルツの言葉に、一夏が驚いていると………

 

「只怒りに任せ力押しする………そんな事は猪にでも出来る!!」

 

シュバルツは一夏をビシッと指差しながら、そう言葉を続けた。

 

「な、何だよ!! いきなり出て来て、何を知った風な事を言ってるんだ!!」

 

流石の一夏もこの言葉にはカチンッと来てそう反論するが………

 

「織斑 一夏。今のお前は人より僅かに抜きん出た己が腕に溺れているに過ぎない。そんな様ではロージェノム達を倒すどころか、お前の尊敬する姉………ブリュンヒルデの織斑 千冬に勝つ事さえ夢のまた夢よ」

 

シュバルツは重ねて更にそう言い放つ。

 

「! 巫山戯るな!! 俺は強くなったんだ!! 千冬姉や箒達を守れる様に!!」

 

「ならばその強さ………試してやろう!!」

 

と、シュバルツがそう言ったかと思うと、その姿が光に包まれて、シュピーゲルを装着した状態となった!!

 

「!?」

 

「シエアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そのまま、左腕のシュピーゲルブレードを展開し、横薙ぎの一閃を繰り出して来る!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

慌てて横に転がる様に回避する一夏。

 

シュピーゲルが繰り出した1撃は、自動販売機をまるで豆腐の様に一刀両断した!!

 

「クッ! アンタ! 一体何なんだ!? この前は助けてくれたと思ったら、今度はいきなり襲い掛かって来るだなんて!!」

 

「問答無用!! さあ、白式を呼び出せ!! さもなくば死ぬ事になるぞ!!」

 

一夏の問い掛けを無視し、シュピーゲルは両腕のシュピーゲルブレードを展開させて構えを取る。

 

「クソッ! 白式ぃっ!!」

 

言われるがままに、一夏は白式を呼び出して装着。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そして、エネルギー刃を展開させた雪片弐型で、連続斬りを繰り出す。

 

「フッ」

 

しかし、シュピーゲルは涼しげな様子で、全ての斬撃を紙一重で躱して見せる。

 

「クソッ!!」

 

舐められている事に、一夏の心には怒りが湧き上がって来る。

 

「むんっ!!」

 

と、その隙を衝き、シュピーゲルは両腕のシュピーゲルブレードを交差させる様に振るい、一夏の胸を×の字に斬り付けた!!

 

「!? ぐあああっ!?」

 

「如何した!? 隙だらけだぞ!!」

 

挑発するかの様にシュピーゲルがそう言い放ったかと思うと、飛び蹴りを繰り出して来る。

 

「!?」

 

咄嗟に防御姿勢を取り、腕で防ぐ一夏だったが………

 

「ウララララララララララァーーーーーーーーッ!!」

 

シュピーゲルはそのまま両足での連続蹴りを繰り出して来る。

 

「うわあああぁっ!?」

 

腕に鈍い痛みが連続で走り、一夏は後ろへ押されて行く。

 

「らあぁっ!!」

 

と、シュピーゲルは最後の蹴りを一夏の横っ面に叩き込む!!

 

「ぐうっ!? このおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「フッ」

 

その瞬間に、雪羅で拳を繰り出す一夏だったが、シュピーゲルは身を屈めて回避。

 

そしてそのまま一夏の懐に飛び込み、鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ!!

 

「ゴブオッ!?」

 

思わず吐きそうになる一夏だったが、気合で持ち堪える。

 

「フッ………一夏! スーパーモードは如何した!?」

 

「そ、そうだ………スーパーモードだ………俺のスーパーモードォッ!!」

 

一夏は怒りを滾らせ、スーパーモードを発動させようとする。

 

しかし、白式は何の反応も返さない。

 

「!? 如何したんだ、白式!! 如何してスーパーモードが発動しないんだ!?………!? うわっ!?」

 

戸惑う一夏に、シュピーゲルは爆弾を仕込んだクナイ・メッサーグランツを次々に投げ付ける。

 

「如何した、如何した!! 御自慢のスーパーモードは如何した!? 早く出してみろ!!」

 

そう言って更に一夏を挑発するシュピーゲル。

 

「お、俺の怒り………俺のスーパーモードよ………」

 

シュピーゲルの攻撃に耐えながら、一夏は念じる様にスーパーモードを発動させようとしている。

 

だが、一向に発動する気配は無かった。

 

「さあ見せろ! 見せて見ろぉ!!」

 

「俺の………怒りのパワーよ………頼む!! 出てくれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

悲痛な叫びと共に、一夏は零落白夜を発動させた雪片弐型と、雪羅のシャイニングフィンガーで、シュピーゲルに特攻する!!

 

「フッ! 只のシャイニングフィンガーと零落白夜など………何になるうううううぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!!」

 

しかし、シュピーゲルがそう叫び、上下に合わせた両掌を向けたかと思うと、そこから鋼鉄製の網・アイアンネットが放出された!!

 

「!? 何っ!?」

 

一夏はそのアイアンネットに両腕を絡め取られ、背後に在った塀に磔にされる!!

 

そしてその瞬間には、接近して来ていたシュピーゲルのシュピーゲルブレードが、首筋に突き付けられていた。

 

「あ、ああ………」

 

「勝負有ったな………私がロージェノムの一味であったなら、貴様の命は此処で潰えていただろう」

 

打ち拉がれる一夏にそう言い、シュピーゲルは首筋に突き付けていた刃を放すと、シュバルツの姿へと戻った。

 

その瞬間に、白式もエネルギーが底を突き、強制的に解除され、一夏は磔状態から解放される。

 

「う、うう………クソオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

悔しさを露わにし、地面を拳で殴りつける一夏。

 

「コレで分かったか。己の未熟さが」

 

そんな一夏に追い打ちを掛けるかの様に、シュバルツはそう言い放つ。

 

「怒りの力では敵に勝つ事は出来ん………」

 

と、そこでシュバルツは一夏に背を向けたかと思うと、その手に鞘に納まっている日本刀を出現させた。

 

「??」

 

「見ろ! 一夏!!」

 

何をする気だと一夏が首を傾げていると………

 

シュバルツはその日本刀を居合の様に一閃。

 

そして再び鞘に納め、独特の音を立てて納刀したかと思うと、何と!!

 

彼の前に在った街路樹の幹が切断され、地面に倒れた!!

 

「!?」

 

「己の腕がどれ程のものか、この刀に尋ねるが良い。私の言葉が誤りだと思うのなら、何時でも向かって来い。相手になってやる」

 

そう言うと、シュバルツはその刀を一夏に投げ渡し、その場から走り出す。

 

「ま、待て!!」

 

一夏が後を追おうとしたが、シュバルツは煙と共に姿を消してしまう。

 

「クウッ!!」

 

「一夏!!」

 

「オイ、何があった!?」

 

と、そこで………

 

騒ぎを聞き付けた箒や神谷達が、慌てて駆け付けて来た。

 

「!? コレは!?」

 

「一夏さん! 一体何がありましたの!?」

 

「…………」

 

ラウラが驚きの声を挙げ、セシリアがそう尋ねて来るが、一夏はシュバルツが残した刀を見ながら、憮然とした表情を浮かべている。

 

「クソ! クソ! クソォッ! アイツは一体………何だってんだぁ!!」

 

とそこで、自棄になったかの様に、刀を鞘から抜くと、シュバルツが倒した街路樹の隣に在った街路樹へと斬り掛かって行った。

 

だが、一夏の振るった刀は、僅かに街路樹の幹に食い込んだだけで止まってしまう。

 

「なっ!?」

 

一夏が驚きの声を挙げる。

 

それもその筈。

 

何故なら、シュバルツが残したその刀の刃は………

 

錆付いている上に刃毀れしてボロボロだった!!

 

「何? その刀?」

 

「そんな刃では木どころか大根も斬れはせんぞ」

 

それを見た鈴と箒がそう言って来る。

 

「ア、アイツは………アイツは本当にこんな刀で………」

 

シュバルツの底知れぬ実力を知り、一夏は戦慄する。

 

「一夏?」

 

「一体全体如何したってんだよ?」

 

シャルや神谷の問い掛けにも答えず、一夏はただボロボロの刀を持って立ち尽くしていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

捕虜となったジギタリス。
しかし、それは次の手への伏線の様です。
果たして、その次なる手とは?

そして案の定、シュバルツに叩きのめされた一夏。
真のスーパーモードに目覚める為、いざ明鏡止水の特訓です!

そして次回からはタッグマッチ編。
後期人気ヒロインの簪が登場しますが………
ウチの簪は一味も二味も違う簪となっています。
って言うか、粗別人です。
どういう事かは次回からのお楽しみ。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第38話『その………妹をお願い!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第38話『その………妹をお願い!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャノンボール・ファストが行われた日………

 

そして、一夏の誕生日の翌日の夕方………

 

「シュバルツ・シュヴェスターに襲われただと!?」

 

「ああ、如何もそうらしいな」

 

寮の食堂で夕食を摂っている一夏を除いた一同の中で、一夏から昨日何があったのかを聞いた神谷から事情を聞いた箒が、そう驚きの声を挙げる。

 

他の一同も大なり小なり驚きを露わにしていた。

 

「如何言う事よ! アイツ味方じゃなかったの!?」

 

「いや、抑々正体不明に奴だ………信用する方が間違っていたのだ」

 

鈴が意味が分からないと言う様に声を挙げ、ラウラは声に若干殺気が籠る。

 

「ですが………私にはあのお方が理由も無く一夏さんを襲う様な真似をするとは如何しても思えませんわ」

 

だが、シュバルツから助言を受けているセシリアは、信じられないと言う意見を挙げる。

 

「それに、シュバルツさんは別に一夏の命を取る様な事はしなかったんだよね?」

 

シャルもそう意見を言って来る。

 

「それは………そうもかもしれんが………」

 

「それで、肝心の一夏は?」

 

ラウラが言葉に詰まっていると、ティトリーがそう尋ねて来た。

 

「シュバルツの野郎から渡されたボロボロの刀で木を斬ろうと躍起になってるぜ。完敗したのがよっぽど堪えたみてえだな」

 

「早朝や昼休みにも同じ事やってたよ………お昼ご飯も食べないで」

 

神谷がそう言うと、シャルも思い出した、そして心配する様な声を挙げる。

 

「こうしちゃ居られないわね………アタシも一夏の特訓を手伝って来るわ!!」

 

「! な、なら私も!!」

 

「私もだ!!」

 

と、鈴、セシリア、ラウラが食事も半ばに一夏の特訓を手伝いに行こうとする。

 

「止めとけ」

 

だが、神谷がそれを止めて来た。

 

「!? 神谷さん!?」

 

「何故だ!?」

 

「そうよ、如何してよ!? 大体アンタも、兄貴分のクセに知らんぷりしてるって如何いう事よ!!」

 

それを聞いたセシリア、ラウラ、鈴は、神谷に向かって抗議の声を挙げるが………

 

「男にゃなぁ………どんなに不利でも、1人で戦わなきゃならねえ時がある………今一夏は自分自身と戦ってるんだ。他人が如何こう言ってやれる問題じゃねえ。少し吹っ切れるまでは放っておいてやれ」

 

神谷は夕食の牛丼を頬張りながらそう返す。

 

「「「「…………」」」」

 

しかし、箒、セシリア、鈴、ラウラは理解はしたが納得はしていない表情となる。

 

「…………」

 

と、そんな中で、ふとティトリーが食事の手を止めて、ボーッとし出す。

 

「? ティトリー? 如何したの?」

 

「ニャッ!? な、何が!?」

 

シャルに声を掛けられて、ティトリーは驚きの声を挙げる。

 

「いや、何かボーッとしてたみたいだったけど」

 

「べ、別に! な、何でも無いよ! ニャハハハハハッ!!」

 

ティトリーは明らかにバレバレの誤魔化しをする。

 

「………そう。なら良いんだけど」

 

しかし、その姿にシャルは男装していた頃の自分の姿を重ね、深くは追及しなかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夕食が終わり………

 

箒達は特訓から帰って来た一夏をもて成そうと、其々に手料理を作って、彼と神谷の部屋に集まって、一夏の帰りを待っていたが………

 

夜の10時を回っても一夏は帰って来ず、仕方なく手料理を備え付けの冷蔵庫へと入れ、其々の部屋へと帰って行った。

 

そしてそれから2時間近くが経過し、時計の針が深夜の0時を指そうとしていたところ………

 

「…………ただいま」

 

すっかり草臥れた様子の一夏が、シュバルツから渡された刀を片手に戻って来た。

 

「おう、一夏。帰ったか。箒達の奴がお前の為に飯作って来てくれてたぞ。冷蔵庫に入ってるぜ」

 

ベッドに寝っ転がっていた神谷が、一夏を見ながらそう言うが………

 

「ゴメン、アニキ………明日食べるよ………ZZZZZZZzzzzzzzz~~~~~~~~~」

 

一夏は自分のベッドの脇に刀を立てかけたかと思うと、そのままベッドに倒れ込み、すぐに寝息を立て始めた。

 

「………大分参ったみたいだな」

 

そんな一夏を見て、神谷はそう言うとベッドから起き上がる。

 

そして、一夏の制服を上着だけ脱がしてやると、大雑把ながら掛布団を掛けてやる。

 

と、そこへ………

 

「じゃじゃ~ん! 楯無お姉ーさん参上!!」

 

そう言う声と共に、部屋のドアを開け放って楯無が姿を現した。

 

「シーッ、静かにしろ」

 

「アレ? 一夏くん、寝ちゃってるの?」

 

神谷が静かにしろと言うと、楯無は一夏が寝ている事に気づく。

 

「ついさっきまで特訓してたみてぇでな………疲れ果てて倒れるみてぇに寝ちまったよ」

 

「もう、頼みたい事があったのに………一夏く~ん! 起きて~!」

 

すると楯無は、一夏の耳元で叫んで起こそうとする。

 

「ZZZZZZZzzzzzzzz~~~~~~~~~」

 

しかし、一夏は爆睡まっしぐらだった。

 

「駄目だな。こうなったら例えブラコンアネキにだって起こせねえぜ」

 

「むうう………」

 

神谷の話を聞いた楯無は、悔しそうな表情を浮かべる。

 

「ふう~、仕方ないか………神谷くんに話すから、明日にでも一夏くんに伝えて」

 

「内容次第だな。お前の頼みっつうと碌な事じゃない気しかしねえからな」

 

止むを得ず、神谷に話そうとする楯無だったが、コレまでの事を踏まえ、神谷はそう釘を刺して来た。

 

「もう! 真面目な話なんだよ! お願いだから聞いて!!」

 

その言葉に怒る様な様子を見せる楯無だったが、それでもお願いと言って話している辺り、如何やら本当に真剣な話の様である。

 

「………一体どんな話だ」

 

それを感じ取った神谷は、話を聞く姿勢を取った。

 

「実はね、その………」

 

何やら言葉に詰まる楯無。

 

何時もの神谷と同じ唯我独尊な彼女らしくない。

 

「? んだよ? ハッキリ言え」

 

煮え切らない楯無の態度に、神谷は急かす様にそう言う。

 

「その………妹をお願い!!」

 

「ハアッ?」

 

そして、漸く楯無から出た言葉を聞いて、神谷は首を捻るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、オメェに妹が居たのか?」

 

「そう。名前は『更識 簪』。あ、コレが写真ね」

 

互いに椅子に座って向かい合いながらの状態に移った神谷と楯無の内、楯無がそう言って、携帯電話の写真を神谷に見せて来た。

 

そこには、楯無に良く似ているが、特徴的な髪飾りを付けて、メガネを掛けた、何処と無く陰りのある少女が写っている。

 

「へえ? 流石姉妹、似てるな………で? その妹が如何したんだ?」

 

まどろっこしい話は苦手な為、神谷はスパッと本題に入る。

 

「実はね………昨日のキャノンボール・ファストでの襲撃を受けて、各専用機持ちのレベルアップを図る為に、今度全学年合同のタッグマッチを行うのよ」

 

「へえ………楽しそうじゃねえか」

 

イベント好きな神谷は、その話を聞いてワクワクしているかの様な様子を見せる。

 

「それでね………そのタッグマッチで、一夏くんか神谷くんが簪ちゃんと組んで欲しいの」

 

「俺か一夏が? 何でだよ?」

 

「その、えっとね……実はその、私の妹って………」

 

楯無はまたも言葉に詰まる。

 

と言うよりも、言葉を選んでいる感じだ。

 

「性格がちょっとネガティブって言うか………暗いのよ」

 

「本当にお前の妹なのか?」

 

楯無の性格からはイメージ出来ない彼女の妹の性格に、神谷は思わずツッコミを入れる。

 

「いや、その………そうなったのにはワケがあるって言うか………」

 

「ワケ?」

 

神谷が首を傾げると、楯無はボソボソと語り出し始める。

 

「あの子ね………私にコンプレックスを感じてるみたいで?」

 

「コーンフレーク?」

 

「そうそう、牛乳掛けて食べると美味しい、サイコガンの宇宙海賊のパワーの源………って違~う! コンプレックス! 劣等感よ! 劣等感!」

 

1人ボケ、1人ツッコミをする楯無だが………

 

「劣等感………って何だ?」

 

そこで更に神谷はボケ倒す。

 

「………まあ、貴方そんなモノ感じた事なさそうだもんね」

 

呆れる様に、楯無は溜息を吐きながら頭に手を当てた。

 

「まあ、何て言うか………私って何でもそつなく熟すし、才能もあるでしょう? それで姉と比べて自分は駄目な子だって思ってるのよ」

 

「くだらねえな。楯無は楯無、妹は妹じゃねえか」

 

「それはそうだけど………世の中、神谷くんみたいに芯の強い人ばかりじゃないのよ」

 

あっけらかんと言う神谷に、楯無はそう返す。

 

「…………」

 

そこで、神谷は何やら考える素振りを見せる。

 

そして………

 

「OK、良いぜ。取り敢えず、一夏の方は明日話してからだが、俺の方は引き受けた」

 

「ホント!? ありがとう。流石グレン団の鬼リーダー………」

 

「但し! 1つ条件が有るぜ!!」

 

「えっ? 条件?」

 

引き受けてくれた事に感謝する楯無だったが、神谷がすぐにそう言ったのを聞いて、驚いた表情になる。

 

「オメェも妹に歩み寄る努力をしな」

 

「えっ!?」

 

「当たり前だろ。要するにオメェは拗れてる妹との仲を改善したいと思ってんだろ? ならお前が直接出るのは当然だろ」

 

「で、でも、私には生徒会や更識としての仕事が………」

 

「今までにそれに感けてたから妹との仲が拗れたんじゃないのか?」

 

「うぐっ!?」

 

核心を付いた神谷の正論に、楯無は何も言えなくなる。

 

「嫌なら、この話は無かった事にするぜ………」

 

神谷はそう言うと横を向き、机の上に足を投げ出して、両手を頭の後ろで組む姿勢を取る。

 

「ううう………」

 

楯無は、暫く思い悩む様な様子を見せていたかと思うと………

 

「………分かったわ。その条件を飲むわ」

 

やがて観念したかの様にそう言う。

 

「交渉成立だな」

 

「全く………IS学園の生徒会長を手玉に取るなんて、貴方ぐらいなものよ」

 

「当たり前だ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

呆れる様にそう言う楯無だったが、神谷からはお決まりの台詞が帰って来た。

 

「じゃあ、話はコレでお終いね。ふぁああ~~~………流石に夜更かしし過ぎたわね。それじゃあ、明日一夏くんに宜しくね」

 

時刻は既に深夜2時を回ろうとしている。

 

コレ以上は流石に明日の授業に響くと思った楯無は、そう言うと引き上げて行った。

 

「さて、俺も寝るか………」

 

楯無が引き上げて行ったのを確認すると、神谷は自分のベッドに横になる。

 

「ZZZZZZzzzzzzz~~~~~~~~」

 

そして程なく、イビキを立て始めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

すっかり寝過ごし、大遅刻をしてしまった神谷と一夏は、千冬からこっ酷い説教を受ける事になる。

 

縮こまる一夏に対し、神谷は説教中にも爆睡。

 

千冬の胃を更にストレスで痛め付けたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間目の休み時間………

 

「やっほー。織斑くん。篠ノ之さん」

 

1組の教室に、薫子が姿を見せる。

 

「あれ、如何したんですか?」

 

2組からやって来ていた鈴を含めた何時ものメンバーで屯っていた一夏達の内、一夏が薫子の姿を認めると、そう尋ねて来た。

 

「いや~、ちょっとね………織斑くんと篠ノ之さん………それとデュノアくんと天上くんに頼みたい事があって」

 

「頼み? 私と一夏にですか?」

 

「僕と神谷にも?」

 

自分と一夏に頼みと聞いた箒とシャルがそう尋ね返す。

 

(何だか妙に頼み事されるな………)

 

そして神谷は、昨日の楯無の一件を思い出し、内心でそう思う。

 

「うん、実はね………私の姉って出版社で働いているだけど、専用機持ち達と噂のグレンラガンに独占インタビューさせてくれないかな? あ、コレが雑誌ね」

 

そう言うと薫子は、姉が勤めている出版社が発行しているティーンエイジャー向けのモデル雑誌を取り出し、一夏達に見せて来た。

 

「えっと、あのー………この雑誌、ISと関係なくないですか?」

 

「ん? ひょっとして、こういう仕事初めて?」

 

「如何いう事だよ?」

 

神谷がまどろっこしい言い方してないでスパッ言えとの感じで言う。

 

「えっとね、専用機持ちって普通は国家代表かその候補生のどちらかだから、タレント的な事もするのよ。国家公認のアイドルっていうか、主にモデルだけど。あ、国によっては俳優業もするみたいだけど」

 

「そうなのか? 箒」

 

「わ、私に聞くな! 知らん!」

 

お互いに芸能関係には疎い一夏と箒はそう言い合う。

 

「そう言や、前にセシリアが国でモデルしてるって話したなぁ」

 

と、そこで神谷が思い出す様に、セシリアの方を見ながらそう言う。

 

「ええ、コレも代表候補生の務めの一環ですわ」

 

「うむ、私も広報課にポスターのモデルにされた事があるぞ」

 

セシリアが答えると、ラウラもそう言って来た。

 

「はあ~、良い御身分なこって………シャル、オメェはそう言うのあるのか?」

 

「あ、ううん。僕はホラ、性別を偽って代表候補生になってたから、そう言うのはやらなかったんだ」

 

「そうか………」

 

あんまり話したくない話だろうと思い、神谷はそこで会話を打ち切る。

 

「何よ、一夏。モデルやった事ないワケ? 仕方ないわね、アタシの写真、見せてあげる」

 

「いや、いい」

 

「何でよ!!」

 

鈴は自分がモデルを務めた写真を一夏に見せようとしたが、即座に断られて、思わず一夏の頭を引っ叩いた!!

 

そして、携帯を開き、自分がモデルを務めた写真を見せようとする。

 

「でも、日本出身で何処の代表候補生でもない一夏や箒、それに神谷の取材は兎も角、フランスの代表候補生の僕にも取材したいって言うのはちょっと………」

 

と、それを横目で見ながら、シャルが薫子にそう言う。

 

「あ、デュノアくんと神谷くんには、それはもっと上の方からの要請が来てるの?」

 

「もっと上?」

 

その言葉に首を傾げるシャル。

 

「うん、日本政府と国連から」

 

「ええっ!?」

 

薫子の口から語られた上の方と言うのが、まさか日本政府と国連だったとは思っていなかったシャルは、驚きの声を挙げた。

 

「いや、ホラね………世界中彼方此方、今もロージェノム軍との戦いが続いてるじゃない? 一応戦況は今のところ五分五分らしいけど、長期戦になったら人類側は不利だって言われるのよ」

 

今まで、IS学園延いては日本を襲撃してきたロージェノム軍は、神谷達グレン団の活躍で倒されている。

 

しかし………

 

世界全体の戦況は膠着状態であり、長期化した場合、人類側が圧倒的に不利だと推察されている。

 

その為、近頃では軍・民間を問わず、不安が蔓延し、一部では士気崩壊や暴動を起こしているらしい。

 

「それで、ロージェノム軍相手に連戦連勝しているグレンラガンの事をもっと知らせて、不安を和らげようとしてるみたい」

 

「それは分かりましたけど………益々何で僕まで選ばれたのかが分からないんですけど………」

 

「アラ? デュノアくん知らないの? グレンラガンの後ろ盾さん」

 

「グレンラガンの後ろ盾?」

 

薫子の口から出た聞きなれない言葉に、シャルはまたも首を捻る。

 

「デュノアくんって、結構有名なのよ。何時もグレンラガンの背中を守って戦ってるから、そんな何時の間にかそんな渾名が付いてるのよ。他にも守護天使だとか、盾の女神だとか言われてるわよ」

 

「て、天使!? 女神!? 僕が!?」

 

あまりと言えばあまりな持ち上げぶりに、シャルは照れた様子を見せる。

 

「天使に女神か………成程な。お似合いだぜ、シャル」

 

一方の神谷はそれを聞いて、ニヤニヤと笑いながらシャルにそう言う。

 

「か、神谷まで! もう止めてよ~!!」

 

益々顔を赤く染めて照れ捲るシャル。

 

「ハイハイ、御馳走様。そういうワケなんだけど、協力してくれるかな?」

 

と、薫子がそう言った瞬間に、休み時間終了を告げるチャイムが鳴り響く。

 

「あ、もう時間か………ゴメンね! 放課後でまた聞きに来るから、考えといて!! じゃ!!」

 

そう言い残すと、薫子は颯爽と去って行った。

 

その後、一夏に写真を見せるのに夢中になっていた鈴が千冬に引っ叩かれ、神谷に天使や女神の名がお似合いだと言われたシャルは、その言葉が脳内で延々とリピートされ、授業にならなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その放課後………

 

薫子は、取材を受けてくれる報酬に豪華1流ホテルのディナー招待券(ペア用)を用意していた。

 

当初は、今は修行に忙しいから断わろうとしていた一夏だったが、ペアのディナー招待券と言う報酬に箒が飛び付き、神谷や千冬にも煮詰め過ぎるのは良くないと言われた為、半ば無理矢理参加させられる事になる。

 

勿論、神谷とシャルも特に断る理由が無かった為、引き受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

専用機持ちの全学年合同タッグマッチの件が、SHRで正式に発表された。

 

その日の4時間目が終わっての昼休みに………

 

「神谷! 一夏! 食堂行こう!」

 

シャルが昼食に神谷と一夏を誘う。

 

「あ、悪い、シャルロット」

 

「今日はちょいと野暮用が有るんでな」

 

しかし、簪を専用機限定タッグマッチのパートナーに誘いに行く予定だった2人は断る。

 

「えっ? そうなの? 何野暮用って?」

 

「それがなぁ………」

 

「ちょっ!? アニキ! 話しちゃうの!?」

 

事情を説明しようとし始めた神谷に、一夏が驚きながらそうツッコミを入れる。

 

「別に良いだろう。口止めされてるワケでもねえし」

 

「あ、それもそうか………」

 

しかし、神谷のその言葉で、一夏も別に口止めされていない事を思い出し、シャルに簡単に事情を説明するのだった。

 

「楯無さんの妹と………」

 

「そうなんだ。だから、これから誘いに行こうと思って」

 

「ふ~ん」

 

一夏とそう遣り取りすると、神谷の方に向き直るシャル。

 

「神谷………本当に楯無さんに頼まれたから、その妹さんと組むの?」

 

「ま、しゃーねえだろ。あの生徒会長が頭下げて頼んで来たんだ。引き受けなかったら男が廃るってもんだぜ」

 

ティトリーの事もあり、若干浮気の気を疑っていたシャルは、神谷にそう問い質すが、神谷は堂々とそう返す。

 

その言葉に他意は感じられなかった。

 

「あ、うん………そうだよね………」

 

その言葉で、シャルは逆に神谷を疑った自分に自己嫌悪する。

 

「………ゴメン」

 

「あ? 何で謝るんだ?」

 

突然謝られて、神谷は首を傾げる。

 

「いや、その………何となく」

 

「んだよそりゃ? ま、いっか………ああ、そうそう。簪って奴には俺か一夏の内どちらかが組めば良いんだ。向こうさんが一夏と組みたいって言ったら、俺はシャルと組むぜ」

 

「えっ!? 本当!?」

 

「ああ。お前も一夏と同じで、俺が安心して背中を預けられる奴だからな」

 

神谷はニヤリと笑って、シャルにそう言い放つ。

 

(安心して背中を預けられる!! 神谷はそんなに僕の事を!!)

 

その言葉に、シャルは天にも昇る様な気持ちとなった。

 

「えへへへ………」

 

「アニキ、そろそろ………」

 

「おっと、そうだな。じゃあ、シャル。悪いが、俺たちゃもう行くぜ」

 

「うん………頑張ってね………」

 

若干惚けた顔でそう言い、教室を出て行く神谷と一夏を見送るシャル。

 

「はわ~~」

 

「でゅっちー。一緒にお昼行かない?」

 

とそこで、のほほんがシャルを昼食に誘う。

 

「はわ~」

 

「でゅっちー?」

 

返事が無かったので、再度のほほんはシャルへと声を掛けるが………

 

「はわ~」

 

シャルは、惚けた表情のままボーッとしており、のほほんが目の前で手を振っても、全く反応を示さなかった。

 

「ありゃりゃ~、ま~た自分の世界に入ってるのかな~」

 

それを確認したのほほんがそう呟く。

 

良く有る事なので、のほほんはそのまま友達と一緒に食堂へと向かう。

 

結局………

 

シャルが正気に戻ったのは、それから10分後だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、神谷と一夏は………

 

途中で一夏をパートナーにしようとした鈴に出会すと言うトラブルに見舞われながらも………

 

シャルと同じ様に事情を説明して切り抜けようとしたものの、シャルとは違い、鈴は承服しかねた。

 

だが、神谷が強引に押し通し、結局半ば強行突破する形で、如何にか1年4組の教室へ辿り着く。

 

「ふう。やっと4組に着いた」

 

と、一夏がそう漏らすと………

 

「ああっ! 1組の織斑くんだ!!」

 

「え! 嘘々! 何で!?」

 

「よ、4組に御用でしょうか?」

 

途端に、その姿を発見した4組の生徒達が群がって来るが………

 

「よう!」

 

「「「「「ゲェーッ!? 天上 神谷!?」」」」」

 

神谷の姿を見るがいなや、蜘蛛の子を散らす様に踵を返して行った。

 

「俺は悪魔超人か何かか?」

 

「まあまあ、アニキ………」

 

憮然となる神谷に、一夏が宥める様に言う。

 

「あ、あのさ………更識さんって居る?」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

一夏が若干遠巻きになって見ていた生徒達にそう尋ねると、生徒達は驚きの声を挙げた。

 

「更識さん、って………」

 

「『あの』?」

 

と、その瞬間に、一夏と神谷の進路を開ける様に生徒達は左右に広がり、クラスの1番後ろ、窓際の席が見える様になる。

 

「…………」

 

楯無と良く似ているが、若干幼さがあり、特徴的なアクセサリーとメガネを身に付けた生徒………簪の姿がそこに在った。

 

購買で買ったパンを端に置き、空中投影ディスプレイを見ながら、一心不乱にキーボードを叩いている。

 

「へえ………アイツか」

 

(暗い子だって聞いてたけど………何だ。結構活動的じゃないか)

 

その姿を確認してそう呟く神谷と、内心で若干失礼な事を考える一夏。

 

「えっと………もしかして、朝のSHRで説明された、専用機持ちのタッグマッチの相手として、更識さんを選んだ………とか?」

 

「まあ、そう言うこった」

 

恐る恐ると言った具合に尋ねて来た生徒に、神谷があっけらかんと答える。

 

「え?………だってあの子、専用機持ってないじゃない」

 

「今までの行事、全部休んでるしさぁ」

 

「それに、あの子が専用機持っているのって、お姉さんの………」

 

すると、生徒達からは陰口の様な台詞が発せられ始める。

 

「ああん?」

 

しかし、そう言った陰口の様な行為が嫌いな神谷は、思わず生徒達を睨み付ける。

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

途端に、生徒達は我先にと教室から逃げ出した。

 

アレほど人が居た教室には、神谷と一夏、そしてコレだけの喧騒が有ったにも関わらず、未だにキーボードを叩き続けている簪だけが残される。

 

「ア、アニキ。やり過ぎだよ」

 

「ヘッ! 俺は陰口なんて叩く奴が大嫌いなんだよ! 言いたい事があんなら正面から堂々と言や良いじゃねえか!!」

 

若干慌てる一夏だったが、神谷は平然とそう言い放ち、残っていた簪へと近付いて行く。

 

「あ! アニキ!」

 

一夏も慌ててその後を追う。

 

「よう!」

 

そう言いながら、簪の正面の席に後ろ向きに座る神谷。

 

「…………」

 

しかし、簪は無視してキーボードを叩き続ける。

 

「こ、こんにちは………」

 

「…………」

 

続いて一夏が右隣の席に座って話し掛けるが、やはり反応は返って来ない。

 

「おうおう。いきなり無視してくれるたぁ、良い度胸じゃねえか」

 

「アニキ! それじゃ喧嘩腰みたいだよ!」

 

若干言葉使いに問題が有ると思い、神谷を止める一夏だが………

 

「…………」

 

やはり簪の反応は無い。

 

彼女からは独特の雰囲気が感じられる………

 

まるで盗まれた過去を探し続けて、見知らぬ街を彷徨う感じだ。

 

若しくは、炎の匂いが染み付いて………

 

 

 

 

 

むせる

 

 

 

 

 

…………様な雰囲気である。

 

「あ、あのさ………せめて返事ぐらいはしてくれないかな?」

 

そこで、一夏が簪の肩を摑む。

 

「!? キャアッ!?」

 

すると簪は、可愛らしい悲鳴を挙げて、椅子から滑り落ちた!

 

「!? ちょっ!?」

 

「オイオイ? 大丈夫か?」

 

慌てて立ち上がり、倒れた簪の姿を確認する2人。

 

「………だ………誰?………何時の前に………?」

 

簪は倒れたまま2人を見上げてそう尋ねて来る。

 

「えっ?」

 

「ひょっとして………今まで気付いていなかったのか?」

 

一夏と神谷が呆れる様な表情になる。

 

如何やら、あまりにも作業に没頭していた為、一夏と神谷の存在に全く気づいていなかった様だ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪のモノローグ………

 

コレが、私と織斑 一夏と天上 神谷との初めての出会い………

 

そしてこの日を境に………

 

私の運命は劇的に変わって行く事となる………

 

その時私は、頭の片隅でそんな予感を感じていた………

 

今はまだ予感に過ぎない………

 

けどこの2人に付いて行けば、きっと行き着く………

 

私はそれを信じる事にした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

タッグマッチ編、開幕です。
シュバルツからの渡された刀で修業に励む一夏。
そんな中で、取材の依頼に加えて、楯無の妹・簪を任される。
独特な雰囲気を持つ簪。
果たして、タッグマッチでは何が待ち受けているのか?

さて、前回の後書きにて、簪が別人と言う事を言っていましたが、今回の話でどういう感じなのか分かった最低野郎の方は多いでしょう。
そう………
ウチの簪は、『むせる』んです!
当然、250憶分の1の確立にも当選しています。
ぶっちゃけ、楯無が思い込んでるだけで、彼女より強いです。
何故こんなキャラ付けをしたのかは次回で語ります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第39話『俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第39話『俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・1年4組の教室………

 

「…………」

 

神谷と一夏の存在に気づいて驚いた後、簪は再び机に座り直し、再度キーボードを叩く作業に没頭し始めていた。

 

「えっと………改めて自己紹介するけど、初めまして。俺、1組の織斑 一夏。で、コッチが………」

 

「IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

一夏が改めて自己紹介し、神谷を紹介しようとしたところで、神谷はお馴染みの天を指差すポーズを取って、お決まりの口上を述べる。

 

「ア、アハハハ………」

 

「…………」

 

何時もの事とは言え、思わず苦笑いする一夏に対し、簪は相変わらず涼しい顔で作業を続けている。

 

「………知ってる」

 

とそこで、作業の手を止めずにそう呟く。

 

「…………」

 

しかし、それだけ言っただけで、後は再びの無言であった。

 

(か、絡み難い………)

 

取り付く島も無しの簪の態度に、一夏はギャグ汗を浮かべる。

 

「よ~し! それなら話ははえぇ。更識 簪! 今度の専用機持ちタッグマッチで、俺か一夏と組め!!」

 

だが、唯我独尊な神谷は、そんな簪の態度など気にせず、単刀直入にそう言う。

 

「イヤ………」

 

(うわ、即答………)

 

簪は即座に断わり、一夏はまたもギャグ汗を浮かべる。

 

「遠慮すんな! 俺か一夏と組めば、優勝は間違いなしだぜ!」

 

神谷は気にせずにそう言葉を続ける。

 

「………嫌よ。それに貴方達、組む相手には………困っていない………」

 

「俺と一夏はお前と組みたいと思ってんだよ」

 

そんな2人の話し合いは、思いっきり平行線だった。

 

「………如何して?………ひょっとして………姉さんに頼まれたの?」

 

とそこで、簪は睨み付けるかの様な視線を2人に向ける。

 

「そ、それは………」

 

「まあ切欠はそうだな」

 

口籠る一夏だったが、神谷はアッサリとバラしてしまう。

 

「!?」

 

それを聞いた途端、簪は怒っている様な表情となり、椅子を倒しながら立ち上がる。

 

「ちょ! アニキ!!」

 

「帰って………私は貴方達の………『あの人』の力は借りない………」

 

静かだが、ハッキリとした言い方でそう言う簪。

 

(姉さんを『あの人』呼ばわりか………やっぱり姉妹仲悪いんだな………)

 

そんな簪の姿に、一夏は箒の姿を重ねる。

 

「まあ、話は最後まで聞け。楯無の野郎はお前と仲直りしたいと思ってるんだ。だが、切欠が摑めなかったもんだから、先ず俺達を使って、お前が姉貴の事を如何思ってるか探ろうとしたワケだ」

 

しかし、神谷はそんな簪の態度も気にせず言葉を続ける。

 

「………嘘」

 

「嘘なんもんかよ。あの楯無の野郎が態々頭下げてまで頼んで来たんだぜ」

 

「………もし………仮にそうだったとしても………貴方達とは組まない………」

 

簪はハッキリと拒絶の意思を示す。

 

「そりゃそうだろな。お前、姉貴の事………嫌いなんだってな」

 

それでも尚、神谷は引き下がる様子を見せない。

 

「!!」

 

そう言われて、簪は再び黙り込んだ。

 

「何でも、楯無の野郎が優秀過ぎるからコーンフレークを感じてるとか………」

 

「アニキ、コンプレックスだよ」

 

神谷の言葉の間違いにツッコミを入れる一夏。

 

「んなくだらねえ事は良いんだよ」

 

「! くだらない………?」

 

その言葉を聞いた簪の表情が、更に怒りに染まる。

 

「貴方に何が分かるの?………物心付いた時から何時も目の前に居て………何をしても比較され………私の行く先行く先で幻の様に付き纏う………ただあの人の妹に生まれたという理由だけで………」

 

静かだが、ハッキリを怒気を含んだ声で、簪はそう言う。

 

(簪さん………)

 

それを聞いた一夏は、簪に対し同情の様な思いを感じる。

 

彼もブリュンヒルデである姉・千冬を持ち、コンプレックスとまでは行かないが、何かと比較される様な事は何度も有った。

 

最初は気にしていた事もあった一夏だが、神谷の影響もあり、今では笑い飛ばせる様な些細な事である。

 

だが、もし神谷と出会っていなければ、自分も簪の様になっていたかも知れない………

 

そんな思いが湧き上がる。

 

「簪さん………楯無さんが優秀なのは俺も良く知ってるよ。けど、簪さんは簪さんだろ? 楯無さんじゃない」

 

気が付くと、一夏は簪に向かってそう言っていた。

 

(! 一夏………)

 

それを聞いた神谷は、一瞬驚いた様な表情をしたが、すぐに笑みを浮かべる。

 

弟分の成長を喜んで………

 

「それに楯無さんにだって出来ない事もある。逆に、簪さんにしか出来ない事だってある」

 

「そんな………綺麗事………」

 

「綺麗事じゃない!」

 

そこで一夏も、簪と視線を合わせる様に椅子から立ち上がる。

 

「俺には分かる………簪さんには素晴らしい力が有る!!」

 

「わ、私には………そんな力は………」

 

一夏が余りにも自信満々な態度な為、先程までの勢いは何処へ行ったのやら、簪は萎縮し始める。

 

「馬鹿野郎! 良いか、簪さん! 自分を信じるな!!」

 

「えっ?」

 

「俺を信じろ! お前を信じる俺を信じろ!!」

 

簪に向かって、一夏は自分を親指で指しながらそう言い放つ。

 

それは、嘗て………

 

一夏が神谷に言われた言葉だった。

 

「…………」

 

当の本人は、一夏がその言葉を言った事にニヤッとした笑みを浮かべている。

 

「…………」

 

簪は、当然と言えば当然だが、呆気に取られた表情で固まっていた。

 

とそこで、昼休み終了間近を告げるチャイムが鳴る。

 

「あ! もうこんな時間か」

 

見れば、逃げ出していた4組の生徒がチラホラと戻り始めており、教室の出入り口に固まっておっかなびっくり様子を窺っている。

 

「アニキ、一旦引き上げよう」

 

「しゃーねえな………また来るぜ」

 

一夏と神谷はそう言うと座って居た席を立ち、教室から出て行った。

 

出入り口に居た生徒達は、ササッと道を譲る。

 

「…………」

 

残された簪は、呆然とその場に立ち尽くしていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後………

 

IS整備室にて………

 

「…………」

 

簪は1人で黙々と、自分の専用機を組み立てている。

 

元々彼女の専用機は、日本の倉持技研が開発を進めていたのだが………

 

一夏と言うISを扱える男子が登場した途端、急遽白式を建造する事となり、開発やデータ収集に全ての技術者を取られてしまったのだ。

 

その為、彼女はまだ組み立てられてもいなかった自分の専用機の部品を全て学園に送って貰い、自分で組み立てる事にしたのである。

 

彼女の姉である楯無も、機体データを元に、1人で今使っているミステリアス・レイディを組み上げたと言われており、彼女も自分1人で自分の専用機を組み上げる事で、コンプレックスを解消しようとしている。

 

だが、それはとても困難な道であった………

 

実は白式に取られたのは技術者だけでなく、部品もだったのである。

 

一夏の専用機があれほど早く完成したのは、簪の専用機から部品を貰っていたからでもあるのだ。

 

組み上げる為には圧倒的に部品が足りない………

 

だが、代わりの部品の発注は滞っている………

 

ロージェノム軍の攻撃の影響で、毎日の様に軍属のISが損傷しており、部品は全てそちらに優先されて配送されているのである。

 

現在の戦況を考えれば、仕方の無い措置とも言えるが………

 

「………駄目………やっぱり部品が足りない………」

 

と、簪は不意に組み立ての手を止めるとそう呟く。

 

(でも………新しいパーツは入って来ない………如何すれば………)

 

悩む簪だが、今の彼女に如何にか出来る問題では無かった。

 

「………今日はココまでにしよう」

 

結局、今日の作業はココまでだと打ち切り、帰宅しようと自分の専用機に背を向ける。

 

と、その時………

 

「へえ~、コイツがオメェの専用機か?」

 

「打鉄やラファールに似てるけど、色々と違うなぁ」

 

「!?」

 

後ろからそう言う声が聞こえて来て、驚きながら振り返ると………

 

自分の専用機をペタペタと触っている神谷と、それを見ている一夏の姿が在った。

 

「な、何してるの!?」

 

簪は一瞬吃りながらも、2人に向かってそう叫ぶ。

 

「やあ、簪さん」

 

「ちょいとオメェの専用機がどんなモンか気になってな………しかしこりゃ、色々と物が足りてねえんじゃねえか?」

 

片手を上げて簪に挨拶する一夏と、相変わらず簪の専用機をペタペタと触っている神谷。

 

「! 触らないで!!」

 

簪はそう声を挙げると、神谷と自分の専用機の間に割って入り、神谷を引き剥がす。

 

「とと………何だよ。いいじゃねえか、別に。減るモンじゃねえし」

 

「…………」

 

そう言う神谷に、簪は睨み付ける様に視線を送る。

 

「やれやれ」

 

しかし、それを受けても、神谷は対して気にした様子も無く、肩を竦めるだけだった。

 

「コレ………自分1人で組み立ててるのか?」

 

とそこで、簪の専用機を見ながら、一夏がそう尋ねる。

 

「………だったら………何?」

 

「いや、凄いなぁと思って………自分のISを1から組み立てるなんて、俺には真似出来ないしさ」

 

「この程度の事………あの人もやっていた………」

 

「あの人って………楯無さんも?」

 

「…………」

 

無言で肯定の意を返す簪。

 

(そう言えば、前にそんな事を聞いたな………)

 

以前本人から聞いた事があった事を、一夏は思い出す。

 

「しかっしコリャ、全然出来てねえ様に見えるがなぁ」

 

神谷が碌に組み立てられてもいない簪の専用機を見て、ズケズケとそう言う。

 

「なあ、良かったら手伝おうか? そしたら、タッグマッチで俺かアニキと組んでくれよ」

 

するとそこで、一夏がそんな事を提案した。

 

「要らない………この機体は………私1人で組み上げる………」

 

だが、簪はそうキッパリと拒絶する。

 

「遠慮すんなって。こまけえ事は分からねえが、力仕事なら手伝えるぜ」

 

だが、神谷は相変わらず気にした様子も無くそう言う。

 

「要らないって言って………」

 

「まあまあ。そう言わないでよ、簪ちゃん」

 

「!?」

 

突然背後から聞こえて来た声に、簪は驚きながら振り返る。

 

「や、やあ………どうも………」

 

「やっほ~、かんちゃん」

 

「こんにちは、簪様」

 

そこには若干気まずそうにしている楯無と、陽気そうに挨拶をするのほほん、そして何時もと変わらぬ態度の虚の姿が在った。

 

「………何か用?」

 

簪は楯無を冷たい目で睨みながらそう言う。

 

「うう………」

 

「かんちゃんのISの組み立て、手伝ってあげようと思って!!」

 

その視線を受けて、楯無は若干怯んだ様な様子となるが、のほほんが気にせずにそう言う。

 

「………施しの積り?」

 

だが、簪は楯無を睨み付けたままそう言い放つ。

 

「うっ!」

 

「簪様、違います! お嬢様は純粋に簪様の事を手伝おうと………」

 

「…………」

 

楯無は更に怯み、虚は決してそんな事では無いと言うが、簪は楯無を睨み付けたままである。

 

「簪ちゃん………」

 

実妹にそんな態度を取られて、流石の楯無の目にも涙が………

 

「コラコラ! 姉貴に向かってそんな顔する奴があるか!!」

 

浮かび上がりかけた瞬間!!

 

簪の背後に立った神谷が、簪の両頬を手で摘まんで軽く引っ張った!!

 

「!? ふみゅ!?」

 

簪の口から珍妙な悲鳴が漏れる。

 

「「!?!?!?!?」」

 

楯無と虚は仰天を通り越して意味不明な叫びを挙げてしまう。

 

「ホレホレ、笑え笑え!!」

 

「うみゅみゅみゅみゅっ!?」

 

頬を摘まんだまま、簪に無理矢理笑顔を浮かばせようとする神谷と、相変わらず珍妙な悲鳴を挙げてしまう簪。

 

「は、離し………て!!」

 

しかし簪は、身体を捻って無理矢理神谷の手から逃れる。

 

「おっ?」

 

「!!」

 

そして驚いていた神谷の頬に、平手打ちを見舞った!!

 

だが………

 

「!?!?」

 

平手打ちを見舞った簪の方が、見舞った手を押さえながら痛そうにし出す。

 

「ああ! 素手でアニキを殴るなんて、無謀な!!」

 

それを見た一夏が、慌てて駆け寄り、簪の手を握って状態を見る。

 

「!?!?」

 

イキナリ手を握られて、簪は赤面する。

 

「う~ん………赤くなってるけど、大した事はないな。うん、大丈夫だ」

 

そんな簪の様子など気にせず、一夏は手の状態を見てそう言う。

 

「は、離して!!」

 

と、簪は強引に一夏に摑まれていた手を放す。

 

「うわっ、と!?」

 

「…………」

 

そして、赤面した表情のままで一夏を睨み付ける。

 

「? どしたんだ? 顔赤いけど………風邪か?」

 

しかし、その心情を一夏が理解出来る筈も無く、そんな言葉を投げ掛ける。

 

「!!………何でも………無い………」

 

「??」

 

簪はプイッと顔を背け、一夏は益々ワケが分からないと言った具合に首を傾げるのだった。

 

「ま、兎に角………タッグマッチまで時間がねえんだぞ。参加する積りなら、急いで組み上げちまった方が良いだろう」

 

とそこで神谷が、簪に向かってそう言う。

 

「それは………」

 

神谷の言葉は曲がり形にも真実を衝いている為、簪は反論出来ずに黙り込む。

 

「簪さん、一先ず俺かアニキと組むって話は置いといてくれて良いから。簪さんだってタッグマッチに出たいだろ? 今までのイベントだって、ずっと出れず終いだったんだし………」

 

そこで一夏も、神谷を援護する様にそう言って来る。

 

「…………」

 

簪は黙り込み、考え込む様な様子を見せた。

 

「簪ちゃん………」

 

「簪様………」

 

楯無と虚が、そんな簪の様子を固唾を呑んで見守る………

 

そして………

 

「………分かった」

 

やがて簪は、諦めた様に大きく息を吐き、肩を落としてそう言った。

 

「じゃあ!!」

 

「やったー! かんちゃんのお手伝いが出来る~!!」

 

「やりましたね! お嬢様!!」

 

「うん!!」

 

喜びの様子を示す一同。

 

「けど!」

 

だがそこで、簪は楯無を睨み付ける。

 

「貴女の手だけは………借りない」

 

「えっ!?」

 

簪の言葉に、楯無は驚きを露にする。

 

「!? 簪様!!」

 

「オイオイ! へそ曲がりも大概にしろよ!!」

 

そんな簪の態度に、虚と神谷が抗議をしようとしたが………

 

「………うん、分かったよ」

 

楯無は諦めたかの様な笑みを浮かべてそう呟いた。

 

「! お嬢様!!」

 

「オイ、楯無!!」

 

「良いよ、別に。私の事は気にしないで」

 

虚と神谷が何か言おうとしたが、楯無自身がそれを遮る。

 

「お嬢様………」

 

「楯無………」

 

「じゃあ、邪魔者は消えるね………皆、後はよろしくお願いするわね」

 

そのまま楯無は、しょんぼりとした様子で、整備室を後にする。

 

「楯無さん………」

 

「…………」

 

一夏は残念そうな顔をするが、簪はスッと踵を返し、再び自分の専用機の傍に寄った。

 

(………こりゃ、仲直りさせるのは一筋縄じゃ行きそうにないな)

 

神谷は頭を掻き、更識姉妹の仲の修復が簡単には行かない事を悟る。

 

(ま、やるしかねえか………)

 

そして、長期戦になる事を密かに決意するのだった。

 

「取り敢えず、何から始めれば良い?」

 

「やはり、部品集めでしょうか?」

 

と、そこで既に一夏と虚は、簪の専用機の組み立てに入っている。

 

「でも~、確か今、ISの部品って、前線で使われている方に優先的に回されてて~、学園のとかは発注が滞ってるんだよね~?」

 

「…………」

 

のほほんがそう言うと、簪も分かっているので専用機の前で沈黙している。

 

「部品か………! そうだ! 良い手が有るじゃねえか!!」

 

と、それを聞いていた神谷が、ポンッと手を打って何かを思い付いた様に言う。

 

「? アニキ? 良い手って?」

 

「まあちょいと待ってろ。すぐ戻るからな」

 

と、尋ねて来た一夏へ返事もそこそこに、神谷は整備室から出て行った。

 

「あ、かみやん!」

 

「如何したのかしら?」

 

突然出て行った神谷を、のほほんと虚は首を傾げて見送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

残された簪、一夏、のほほん、虚は………

 

4人で簪の専用機の組み立てを進めていたが………

 

やはり部品が足りない事には如何にもならず、作業は僅かに進んだだけでまた止まってしまった………

 

「やっぱ部品がないと駄目か………」

 

「…………」

 

愚痴る様に一夏が呟き、簪も悔しそうな表情を浮かべる。

 

と、そこへ………

 

「オーイ! 待たせたなー!!」

 

そう言いながら、整備室から姿を消していた神谷が戻って来た。

 

その手には縄が握られており、その縄は神谷の背後に在った移動用のローラー付きのコンテナに結ばれている。

 

「あ! かみや~ん!!」

 

「何処へ行ってたんですか?」

 

手を余っている袖ごとブンブンと振るのほほんと、そう尋ねる虚。

 

「ホラよ、持って来てやったぜ」

 

それに答える様に神谷はそう言うと、コンテナを一同から見える位置へと置く。

 

神谷が引いて来たコンテナの中には………

 

溢れんばかりに積まれたISのパーツが有った!!

 

「!?」

 

「うわ~! いっぱい有るね~!」

 

それを見た簪が驚きを露わにし、のほほんがそう声を挙げる。

 

「アニキ! コレ如何したの?」

 

「良く見れば専用機用の特注パーツまで………!? まさか盗んで来たんじゃ!?」

 

一夏がそう尋ね、虚が持って来た部品の中に専用機で使われている特注パーツがあるのを見て、そんな事を思い浮かべる。

 

「ヘッ! ゴミを持って来たところで、誰も怒りゃあしねえよ!」

 

「ゴ、ゴミ………?」

 

神谷から出た言葉の意味が分からず、困惑する虚だったが………

 

「アレ? 何か此処に在る部品って………古臭い様な………」

 

「それに壊れてるのもいっぱい有るよ~」

 

とそこで、神谷が持って来た部品を良く見ていた一夏とのほほんが、そんな事に気付く………

 

「………ひょっとして、コレって………廃棄部品?」

 

「その通り。スクラップ置き場からチョイと失敬して来たのさ」

 

気づいた簪の事を指差しながら、神谷はそう言う。

 

「! 廃棄部品! つまり………捨てられてた部品って事!? アニキ!!」

 

「どうせ要らないって思われて捨てられたモンだ。俺達が如何使おうが勝手だろう」

 

驚く一夏にそう言いながら、神谷は廃棄部品をコンテナから出し始める。

 

「それはそうかも知れないけど………」

 

「でも! スクラップからISを組むなんて、聞いた事ありません!」

 

一夏が戸惑い、虚がそう声を挙げる。

 

「なら、コイツはその第1号になるワケだ」

 

だが、神谷はあっけらかんにそう返す。

 

「神谷さん!!」

 

「虚さん………良い………」

 

と、更に抗議の声を挙げようとして来た虚を、簪が制した。

 

「! 簪様! でも………」

 

「もうこの際………動かせる様になれば………それで良い………」

 

簪はそう言うと、自らスクラップ部品を手に取り、自分の専用機の方に運ぼうとする。

 

「うっ!」

 

しかし、予想以上に重かった様で、途中で床に着けてしまう。

 

「ああ、もう、無理するなよ。コレからは俺達も手伝うんだから。なっ?」

 

見かねた一夏が、代わってスクラップ部品を取り、運ぶ。

 

「よ~し! それじゃあ一丁! やりますか!!」

 

「全く………スクラップからIS………しかも専用機を組み立てようなんて………前代未聞ね」

 

ノリノリで作業に掛かるのほほんと、愚痴りながら作業に入る虚。

 

「…………」

 

簪はそんな一同の様子をジッと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪のモノローグ………

 

自分でも焼きが回ったと思う………

 

スクラップからIS専用機を造ろうなんて………

 

けど、私の機体を完成させるにはもうこの手しかない………

 

こんな機体………最早ISとは呼べない………

 

呼ぶならば、そう………

 

『ボトムズ(最低野郎)』だ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

簪に『むせる』を取り入れた理由………
それは彼女の機体が組み上げ途中だったという点から思いつきました。
丁度この頃に、第2次スパロボZが発売されて、初参戦したボトムズにはまり出したんですよね。
それで見たOVAのラストレッドショルダーで、ATをスクラップから組み上げるシーンがあったのを見て、これを簪の機体を組み上げるところで使ってみたいと思いまして。

なので、彼女の機体は打鉄弐式ではなくなっています。
出来上がるのは、彼女の言葉通り………『ボトムズ』です。
後々にあの遣り取りも出ますのでお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第40話『ったく、動き難くてしょうがねえぜ………』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第40話『ったく、動き難くてしょうがねえぜ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪の領域へ、お馴染みの強引さで踏み込んで行った神谷。

 

そんな神谷に影響されていた一夏も、嘗て神谷に言われた言葉を、そのまま簪へと投げ掛けた。

 

まだタッグマッチのパートナーとしては認められていないが、簪の心に大きな影響を与える事には成功している。

 

そして、嘗て姉がそうした様に、1人で自分の専用機を組み立てていたのを手伝いに入る。

 

相変わらず姉である楯無には拒絶の意思を示しているものの、神谷は長期戦を覚悟し、時間を掛けて簪の心を変える事を密かに決意する。

 

部品の発注が滞り、深刻な部品不足となっていた簪の専用機を組み上げる為に………

 

神谷は何と!

 

スクラップから使える部品を流用すると言う手段に出る。

 

この型破りな方法に戸惑う一夏達だったが、簪自身がそれを受け入れた事により………

 

世界でも類を見ないスクラップを使ったIS専用機の組み立てが開始されたのだった………

 

 

 

 

 

その作業が続く中、とある休日………

 

以前、薫子か受けていた取材の仕事の日取りが決まり、一夏と箒、そして神谷とシャルは、薫子の姉が勤める編集部へと向かっていた………

 

「う~ん、国連と国からの取材かぁ~………緊張するな~」

 

私服姿のシャルが、緊張している様子でそう言う。

 

専用機持ちとしての取材のされ方は、デュノア社に居た頃に一通り受けていたが、依頼主が日本政府と国連とあっては、流石に緊張せざるを得なかった。

 

「気にすんなシャル! 相手が何処の誰だろうが、俺達は無敵のグレン団!! 恐るるに足らずだ!!」

 

一方の同じく私服姿(と言っても、素肌の上に晒を巻いて同じマントを羽織っている状態)の神谷は、相変わらず根拠の無い自信を炸裂させている。

 

「神谷~………ハア~、ホント、神谷見てると、細かい事で悩んでたのが馬鹿らしくなるよ」

 

呆れる様な溜息を吐きながらも、シャルは笑顔を浮かべてそう言う。

 

神谷の根拠の無い自信程、頼りになる物はないのだ。

 

「ハッハッハッ! 昔っから言うだろ! 細かい事は気にすんなって!!………ところで、取材って何すんだ? 美味いモンが食えたりすんのか?」

 

「ええっ? 其処から!?」

 

ノリノリで引き受けた割に、取材の事に関して一切分かっていなかった神谷に、シャルは1から丁寧に教える。

 

………因みに、2人は現在、ナチュラルに腕を組んで居る。

 

(アイツ等………平気で腕など組みおって………)

 

その後ろで、私服姿の一夏と横並びになって歩いていた私服姿の箒は、羨ましそうな視線を送っている。

 

「箒? 如何したんだ? 何かさっきからアニキとシャルロットの事を睨み付けてるみたいだけど………」

 

そんな箒の様子に、一夏がツッコむ様に言って来る。

 

(お前は分からんのか!? 一目瞭然だろうが!!)

 

一夏の方に向き直ると、若干理不尽な思いを浮かべる箒。

 

恋する乙女とは多かれ少なかれ理不尽なものである。

 

(いや………相手はあの一夏なのだ………やはりココは私から動かなければ………)

 

だが、何とか思考回路を冷却し、そういう考えに至らせる。

 

「い、一夏!」

 

「ん?」

 

「きょ、今日は、な、何だか冷えるな!」

 

「ああ、そう言えばそうだな。取材の時間まではまだ余裕あるし、あそこのコーヒーショップで何か買うか?」

 

箒のその言葉を聞いた一夏は、近くに在ったコーヒーショップを指差しながらそう尋ねる。

 

「い、いや! そうではなくてだな………」

 

「じゃあ何だよ? ハッキリ言えよ」

 

(貴様は~~~~っ!!)

 

そんな一夏の態度に、箒は心の中で理不尽な怒りを募らせて行く。

 

「さ、さ、寒いのならば、て、て、手を繋げば良い!!」

 

決心したかの様にそう言う箒だったが、直後に恥ずかしさで赤面し、俯き加減となる。

 

「ああ、それは良いな。んじゃ、そうしよう」

 

だが、そんな箒の心情などこれっぽっちも理解出来ていない一夏は、ヘラヘラと笑いながら箒の手を取る。

 

「!?」

 

箒は驚き、無言となる。

 

「さ、行こうぜ」

 

一夏はそんな箒の様子も知らず、手を引いて行く。

 

(アイツ………)

 

(一夏………箒が可哀そうだよ………)

 

そんな一夏の姿を振り返りながら見ていた神谷は呆れ、シャルは箒への同情を感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雑誌『インフィニット・ストライプス』の編集部………

 

一同は地下鉄を利用し、漸く薫子の姉が勤める雑誌『インフィニット・ストライプス』の編集部へ辿り着き、取材用の部屋へと通される。

 

「どうも、私は雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長やっている『黛 渚子』よ。今日はよろしくね」

 

薫子の姉………『黛 渚子』が、一夏達に向かってそう挨拶する。

 

「あ、どうも、織斑 一夏です」

 

「篠ノ之 箒です」

 

「初めまして、シャルロット・デュノアです」

 

3人が渚子に向かって挨拶を返す。

 

「そして俺が言わずと知れたグレン団の鬼リーダー! 天上 神谷様よ!!」

 

最後に神谷が、自分の事を親指で指して、ビシッとポーズを決めながらそう言った。

 

「おおっ! シャッターチャンス!!」

 

すぐにそのポーズの写真を撮る渚子。

 

「ア、アハハハハ………」

 

「ま、こうなるよね~」

 

「…………」

 

神谷の予想通りの態度に、一夏は苦笑いを浮かべ、シャルは何処か悟った様な顔になり、箒は憮然として黙り込む。

 

「と、ゴメンなさい。天上くんがあんまりにも良いポーズしてくれるものだから、つい写真を撮っちゃったけど、先にインタビューから始めさせてもらうわね。写真撮影はその後」

 

と、そこで渚子は一旦カメラをテーブルの上に置くと、ペン型のICレコーダーを取り出し、手の中でクルンと1回転させる。

 

「じゃあ、先ず織斑くんから。女子校に入学した気持ちは?」

 

「いきなりそれですか………」

 

「だってぇ、気になるじゃない。読者アンケートでも君への特集リクエスト、すっごく多いのよ?」

 

呆れる様な一夏に、渚子は重ねて問い質す。

 

「え~と………使えるトイレが少なくて困ります」

 

「ぷっ! あは、あははは! 妹の言ってた事、本当なのね! 異性に興味の無いハーレム・キングって!!」

 

「は、ハーレム・キング?」

 

「アハハハハッ! 因みに、天上くんはどんな気持ちですか?」

 

一頻り笑うと、渚子は今度は神谷にも同じ事を問う。

 

「悪かぁねえな。右を見ても左を見ても女ばかりだからな。良い目の保養だぜ」

 

「そ、そう………」

 

一夏と違い、露骨な神谷には、流石の渚子も少し戸惑う。

 

「むぅ~! 神谷! 何時も女の子の事、そんな目で見てたの!?」

 

途端に、シャルは嫉妬の声を挙げるが………

 

「何だ、シャル? 妬いてんのか?」

 

神谷はニヤリと笑いながらそう返す。

 

「べ、別に、僕は………」

 

「ハッハッハッ! 今のお前も良い目の保養だぜ!」

 

赤面するシャルに向かって、神谷はそう言い放つ。

 

「も、もう~! 神谷~!!」

 

「ハッハッハッ!!」

 

(((………余所でやってくんないかな)))

 

当の本人達は楽し気だが、見せ付けられている3人は堪ったモノじゃない。

 

「あ~、えっと………じゃあ、次は篠ノ之さんに質問ね」

 

やがて耐え切れなくなった様に、渚子は箒へと質問を振った。

 

「えっと、篠ノ之さんにはお姉さんの話を………」

 

と、渚子がそう言った瞬間、箒は座っていた椅子をガタッと鳴らして立ち上がる。

 

やはり姉の事に関して触れられたくないらしい。

 

「………ディナー券あげないわよ」

 

「うっ!」

 

しかし、渚子のその言葉を聞くと、少し逡巡する様子を見せた後、諦めたかの様に椅子に座り直す。

 

「良い子。うふふ、素直な子って好きよ………それで、お姉さんから専用機を貰った感想は? 何処かの代表候補生になる気はないの? 日本は嫌い?」

 

「紅椿は、感謝しています………今のところ、代表候補生には興味ありません。世界の情勢が情勢ですから………日本は、まあ、生まれ育った国ですから、嫌いではないですけど………」

 

矢継ぎ早にされた質問を、丁寧に1つずつ答える箒。

 

(そう言えば………姉さん………あの時………生徒達にゴメンって………)

 

ふとそこで、紅椿を貰った時、束が生徒達に謝罪していた姿を思い出す。

 

あの時は紅椿を貰った事と、束の悪戯芝居に怒っていた事もあって深く気に掛けなかったが、今にして思えば、信じ難い光景だった………

 

箒と一夏、千冬に神谷以外の人間にはまるで興味を持たなかった束が、見ず知らずの他人である生徒達に謝罪する………

 

彼女の知る束の性格からは考えられない光景である。

 

良く思い出せば、あの時の束は、とても悲しそうな顔をしていた………

 

(姉さんは………変わろうとしているのか………?)

 

「ふむふむ、成程………ありがとうね。それじゃあ、次は天上くんに質問ね」

 

「おう! 待ちかねたぜ!!」

 

と、箒がそんな事を考えていると、今度は神谷が渚子に話を振られ、待ってましたと言う様な様子を見せる。

 

「知っての通り、今年の春頃に出現したロージェノム軍は世界征服宣言をして、各国に攻撃を仕掛けたわ。小国の幾つかは滅ぼされ、大国との戦闘は膠着状態。日本も自衛隊が少なからず被害を受けているわ」

 

コレまでのロージェノム軍の動きを振り返る様に、渚子は解説する。

 

「そして貴方達が居るIS学園も襲われている。でも! そんなロージェノム軍の快進撃を食い止めたのが………」

 

「この俺! 天上 神谷様とグレンラガンよ!!」

 

と、そこで神谷は椅子から立ち上がると、テーブルの上に片足を乗っけて、ビシッと右手の親指で自分を指差す。

 

「うんうん、良いね良いね~。今まで日本を襲ったロージェノム軍の殆どがグレンラガンと貴方が言うグレン団のメンバーが撃退してるけど………根本的な質問で申し訳ないけど、グレンラガンって何処の誰が作ったISなの?」

 

「何言ってやがる? グレンラガンは………」

 

「「「わ~っ! わ~っ! わ~っ!!」」」

 

と、何か言い掛けた神谷の口を、一夏、箒、シャルが一斉に塞ぐ。

 

「な、何!? 如何したの!?」

 

その様子に驚く渚子。

 

「い、いや~! 何でも無いです! アハハハハ!!」

 

(駄目だってアニキ!!)

 

(グレンラガンの情報は機密扱いだと言うのを忘れたのか!?)

 

シャルが誤魔化す様な笑いを挙げ、一夏と箒が神谷に小声でそう言う。

 

(ああ、そういやそうだったな………すっかり忘れてたぜ)

 

神谷は悪びれた様子も無く、あっけらかんとそう言い放つ。

 

(千冬さんが懸念する筈だ………)

 

そんな神谷の姿に、箒は千冬に同情する。

 

本来ならば、グレンラガンや神谷に対する取材等は、IS学園………と言うよりも千冬がブロックしているのだが、日本政府は兎も角、国連からの要請は断れず、神谷に取材を受ける事を許可した。

 

勿論、千冬は心配からまた胃を痛めている………

 

「えっと、グレンラガンは………あ! そうそう束さん………もとい篠ノ之博士が作ったんです」

 

とそこで、一夏がそうフォローを入れる。

 

「篠ノ之博士が?」

 

「ええ、実はアニキは篠ノ之博士とも幼馴染で、仲が良かったんです。それで博士が直々に………」

 

「成程ね~。篠ノ之博士って人付き合いが嫌いな事で知られてるけど、仲の良かった幼馴染だったって言うなら納得かな~」

 

渚子は手帳を取り出すと、メモを取る。

 

「さて、次はデュノアさんに質問ね………今更かも知れないけど、天上 神谷との関係は?」

 

「ええっ!?」

 

渚子の質問に、シャルは赤面する。

 

「え、えっとその………こ、ここ、こここ………恋人同士です」

 

そしてモジモジしながら、呟く様にそう言う。

 

「やっぱりね………それじゃあ、付き合う様になった経緯は? 告白はどっちから?」

 

「えっと、経緯はちょっと込み入った事情があるので言えませんけど………告白は………神谷の方から」

 

「因みに、どんな告白のされ方だったのかな?」

 

「そ、それ本当にインタビューする内容なんですか!?」

 

まるでゴシップ記事のネタでも訊かれている様な気分になり、シャルはそう言う。

 

「勿論よ。まあ、半分は私の趣味も入ってるけどね」

 

「な、渚子さん!!」

 

「ハイハイ。あんまり弄ると可哀そうだから、この辺にしておきましょうか」

 

「も~う」

 

悪びれた様子の無い渚子に、シャルは頬を膨らませて抗議するのだった。

 

その後も一夏達への質問は続き、一夏達は時折機密事項をアッサリと話してしまいそうになる神谷に慌てながらも、如何にかインタビューを終了。

 

いよいよ写真撮影へと入る為に、男女に別れ、スポンサーの服に着替えに行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒&シャルサイド………

 

「…………」

 

「箒、早く着替えないと………撮影スタッフの人達が待ってるんだよ」

 

「わ、分かっている! 分かっているが………」

 

箒は、用意された衣装を前に、1人苦悩している。

 

用意されていた衣装と言うのが、かなり大胆に胸元が開いたブラウスに、フリルが可愛らしいミニのスカート、それにショート丈のジーンズアウターという一式である。

 

普段の箒ならば絶対に着ない服であり、箒は如何するべきかと固まっていた。

 

因みに、シャルは既に同じ衣装の色違いに着替え終えている。

 

「覚悟を決めなよ。それに良い機会かも知れないよ。一夏にそういう服も似合うんだ、ってのを教えてあげたら如何かな?」

 

「い、一夏に!?」

 

シャルのその言葉を聞いた箒は、きっかり2分間程考える素振りを見せていたかと思うと………

 

「よし! 着るぞ!!」

 

まるで戦いに赴くかの様にそう決意したのだった。

 

「やれやれ………」

 

着替えている箒に見えない様に、シャルは両手を広げて肩を竦める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10数分後………

 

撮影場所で、化粧をされ、準備が整った箒とシャルが、一夏と神谷を待っていた。

 

(い、一夏はまだか? この恰好、スースーして落ち着かないのだが………)

 

「箒。少しは落き着きなよ」

 

居心地が悪そうにしている箒に、シャルがそう言う。

 

しかし、彼女の気持ちも良く分かった。

 

着飾った美女2人を前にして、アシスタントカメラマンを含めた男性スタッフが、先程から何度も熱っぽい溜息を吐いているのである。

 

(あ~、神谷早く来ないかな~)

 

(い、一夏が褒めてくれたら、今日の夕食は外で一緒に取ろう。わ、私から誘うんだ。私から………私から………)

 

神谷の登場を待ち焦がれているシャルと、内心でそんな計画を立てている箒。

 

すると………

 

「すみませーん! 遅れましたー! 織斑 一夏くん! 天上 神谷くん! 入りまーす!!」

 

通路のメイク室から、スタジオスタッフのそう言う声が響いて来た。

 

(い、一夏が来る………!一夏が来る………!)

 

(神谷達はどんな恰好なんだろう………?)

 

箒はそれに胸を高鳴らせ、シャルは神谷達の恰好がどんなものかを気にする。

 

「う~ん、何かコレ変じゃないですか?」

 

「ったく、動き難くてしょうがねえぜ………」

 

すると今度は、一夏と神谷の声が聞こえて来た。

 

「ぜーんぜん! 超似合ってるわよ! 10代の子のスーツ姿っていうのも良いわね。それと天上くん。それでもかなり妥協したんだからね。文句言わない」

 

続いて、渚子のそう言う声が聞こえて来る。

 

(ス、スーツだと!?)

 

(神谷にスーツ? ファッションモデルにジャージ着せるぐらいミスマッチだよ)

 

一夏がスーツ姿であると言うのを聞いて、益々動悸を早まらせる箒と、若干失礼な事を考えるシャル。

 

そして、遂に本人達が姿を現す。

 

カジュアルスーツをキッチリと着こなしている一夏と、対照的に上着どころかシャツのボタンも全開にして晒を巻いた上半身を露わにしており、挙句に袖を肘の辺りまで捲ると言うワイルド系な着こなし方をしている神谷。

 

共通して言えるのは………

 

どちらも似合っていてカッコイイと言う事だ。

 

「い、一夏………」

 

「お、おう。待たせたな、箒」

 

「う、うむ………」

 

箒と一夏は、お互いに言葉に詰まる。

 

(うわ………箒………すっげぇ可愛い………)

 

だが一夏は、普段の彼女なら絶対にしないであろう服装を見て、そんな思いを抱いていた。

 

「に、似合っているな………そ、その何だ。わ、悪くないぞ」

 

「お、おう。サンキュ。箒も、その………可愛いぞ」

 

「か、かわっ………!?」

 

そこまで言うと、2人は互いに黙り込んでしまう。

 

「神谷」

 

「おう、シャル。中々グッと来る恰好じゃないか」

 

「ありがとう。神谷もスーツって聞いた時は無理があると思ったけど、そういう着方なら案外似合ってるね」

 

「そうかぁ? 俺としちゃあ、動き難くてしょうがねえぜ………」

 

一方、シャルと神谷は自然に会話しており、神谷は慣れないスーツに窮屈さを感じていた。

 

「はーい、それじゃあ撮影を始めるわよー。時間押してるから、サクサク行っちゃいましょう」

 

とそこで、渚子が手を叩きながらそう指示を出し、いよいよ写真撮影に入る。

 

神谷、シャル、一夏、箒の4人はポーズを変え、立ち位置を変え、時には写る人数と組み合わせを変えて、次々に写真を撮られて行く。

 

(さっきはびっくりしたなぁ………まさか、箒があんなに変わるとは………メイクって凄いな)

 

そんな中、一夏は箒の姿が脳裏に焼き付いており、撮影中、箒を見ない様にしていた。

 

(いつもの箒なら絶対に着なさそうだよな………何だろう? いつもと違って大人びているって言うか、その………駄目だ。適当な言葉が見当たらない)

 

「織斑くん。篠ノ之さんともっとくっついて。もっと」

 

と、一夏がそんな事を悶々と考えていると、不意に渚子からそう声を掛けられた。

 

「えっ!? あ、は、ハイ! こうですか?」

 

と、一夏は思わず若干高い声を出してしまったが、すぐに取り繕って指示に従う。

 

「あー、ダメダメ。もっと、もっと!」

 

「え!? いや、その、これ以上は………」

 

「一夏、何やってんだ? 男だったらドーンと決めろ!!」

 

煮え切らない態度の一夏に、神谷からそんな声が飛ぶ。

 

そんな神谷は、現在………

 

シャルを右腕だけで片腕抱きして持ち上げていると言う、何ともワイルドなポーズを決めている。

 

「…………」

 

抱き抱えられているシャルは、顔を真っ赤にして照れ捲っている。

 

(ア、アニキ………)

 

そんな神谷の姿に、一夏はギャグ汗を掻く。

 

その後、怒っているであろうと予想していた箒の様子を確かめるが………

 

「…………」

 

箒は怒るどころか、顎を引いた弱々しい上目遣いで、懇願する様に一夏を見つめていた。

 

(ううっ!?)

 

そんな箒の様子に、一夏は内心で狼狽する。

 

気持ちを如何にか落ち着かせながら、一夏は箒の更に傍に座り直す。

 

「あっ………」

 

と、その際に腕が僅かに触れ合い、箒が普段からは信じられないくらいに可愛い声を出す。

 

(!! ぐあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!)

 

自分でも良く分からない衝動に襲われながら、一夏は必死に気持ちを落ち着かせようとする。

 

「うーん、何か並んで座ってるだけって絵にならないわねー。織斑くん、篠ノ之さんの腰を抱いて」

 

と、そんな一夏の行為を台無しにするかの様に、渚子はそんな事を言って来る。

 

「………は?」

 

「こ・し・を・だ・い・て。早く!」

 

「は、ハイ!!」

 

渚子の剣幕に押され、一夏は思わず何も考えずに箒の腰に手を回して、自分の方に抱き寄せた。

 

「「!?」」

 

突然腰に手を回された箒と、ふと我に返った一夏が、思わず顔を見合わせ合う。

 

「「…………」」

 

そのまま、僅か10センチ足らずの距離で見つめ合い、互いに顔を赤面させる2人。

 

「うわぁ………」

 

「ひゅう~」

 

それを見たシャルは自分も再び赤面し、神谷は冷やかす様な事を言って来る。

 

と、その瞬間にカメラのシャッターが切られた。

 

「んん~。良い絵が撮れたわ。ナイスリアクションよ、2人共」

 

「「!!」」

 

渚子の言葉で、2人は漸く自分達の状況を理解し、パッと距離を取り合う。

 

「ハイ! お疲れ様! じゃあ4人共パパッと着替えちゃって。あ、服はそのままあげるから、持って帰っちゃって」

 

「は、はぁ………」

 

「わ、分かりました………」

 

「やれやれ………漸くこの恰好から解放されるぜ」

 

「お疲れ様でした」

 

一夏達は多種多様な返事をしながら、撮影の疲れを感じる。

 

「えーと、ディナー券は携帯電話にデータ転送してあげるから、帰る前にアドレス教えてね。それじゃあお疲れ!!」

 

渚子はかなり軽いフットワークで、既にカメラから画像データを抜き出して、携帯端末で確認しながらそう言っていた。

 

「ん! あ~~~! さて、帰るか」

 

「うん、そうだね」

 

神谷が伸びをするとそう言い、シャルが返事を返す。

 

「「…………」」

 

一方、一夏と箒はまだ若干呆然としていた。

 

「オイ、一夏。何やってんだ?」

 

「箒、行くよ」

 

そんな2人に、神谷とシャルは呼び掛ける。

 

「あ、ああ………」

 

「今行く………」

 

力無く返事を返すと立ち上がり、互いに無言のまま、其々の更衣室へと向かう一夏と箒。

 

「「…………」」

 

そんな2人を見送ると、神谷とシャルは顔を見合わせ、呆れた様に肩を竦め合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

取材と撮影を終えた一同の中で、箒は一夏に夕食を外食で済ませようとの誘いを出す。

 

特に深い意味で考えなかった一夏はそれを了承。

 

そのまま所謂、『恋人同士のディナー』を楽しもうとしたが………

 

神谷は用が有ると言い、学園への帰路に就いた。

 

神谷が帰ると言う事で、シャルもそれに付き合い、一夏と箒は2人で夕食を楽しもうとしたのだが………

 

色々あって、箒は撮影での幸せが吹っ飛んでしまう様な思いをしたのである………

 

 

 

 

 

一方………

 

学園へと帰った神谷の用とは………

 

ジギタリスへの尋問だった。

 

グレン団に投降し、IS学園に監視された状態で拘束されているジギタリスだが………

 

未だにロージェノム軍に関する有益な情報は得られていない。

 

彼が遊撃部隊隊長と言えども、獣人の中では末端に近い事もあり、詳細を知らされていないと言うのも有るが、それ以上に彼が尋問に口を割らなかったのである。

 

投降したのはケジメを着ける為であり、貴様達の元に下ったのではないと言うのが彼の言い分である。

 

千冬やリーロンは辛抱強く何度も尋問を行ったが、ジギタリスの態度は変わらない。

 

そこで千冬は、今回は彼と直接勝負を繰り広げた仲である神谷も交えての尋問を行う事にした。

 

 

 

 

 

IS学園・地下施設の一角………

 

「如何しても情報を教える積りは無いのか?」

 

「くどい………俺が此処に居るのはケジメの為だ。ロージェノム様への忠節まで売った覚えは無い」

 

千冬の問いに毅然としてそう返すジギタリス。

 

「お手上げね………」

 

リーロンはお手上げのポーズを取る。

 

「…………」

 

今回その尋問に同席した神谷は、そんなジギタリスの姿をジッと見ていたが………

 

「なあ、ジギタリスよぉ………何でそんなにあの禿親父に義理立てんだ?」

 

不意に、ジギタリスに向かってそう質問を投げ掛けた。

 

「ロージェノム様への侮辱は許さんぞ!………俺達獣人はロージェノム様が創られたモノ。つまり、我等獣人にとって螺旋王様は創造主………創造主に逆らう者なぞ居るか………例えば、神谷よ………石を持った手を離したら、石は如何なる?」

 

「まあ、下に落ちるな」

 

「そうだ………だが………石が下の落ちる事に………それ自体に理由が有るか?」

 

「…………」

 

その言葉を聞いて、神谷は沈黙する。

 

「俺達獣人にとって、螺旋王様に忠誠を尽くすと言う事は………その石が落ちる事に近い」

 

「つまり………当たり前だと言う事か?」

 

そこで千冬がそう口を挟む。

 

「そうだ………石は落ちる………獣人は螺旋王様に尽くす………ただ、それだけだ………」

 

ジギタリスは諦めにも似た感情が混じった声でそう返す。

 

「………何だか良く分からねえ話だな。まあ良い! 俺のドリルは天を衝く! 一夏の剣は天を斬り裂く! そして………無理を通して道理を蹴っ飛ばす! それが俺達グレン団なんだよ!!」

 

とそこで、神谷が何時もの様に啖呵を切り始めた。

 

「石ころが地面に落ちる事が道理だったとしても………関係ねぇ!!」

 

「…………」

 

ジギタリスは、黙ってその啖呵に聴き入っている。

 

(やはりこの男の言う事………ロージェノム様の御言葉と並ぶ程の価値を感じる………ティトリーよ………それがお前がこの男に惹かれる理由か?)

 

「アラ? 何か考え事?」

 

今度はジギタリスの方が黙り込み、リーロンがそんな言葉を投げ掛ける。

 

「まぁ………そんなところだ………」

 

「そう………今日はこれぐらいにしましょう」

 

「そうだな………」

 

と、リーロンは今度は千冬に向かってそう言い、今日の尋問はこれで終える事となる。

 

「ふぁあぁ~~~………ねみぃから俺はもう寝るぜ」

 

神谷も大きく欠伸をすると、気怠そうにしながら、ジギタリスの前から去って行った。

 

「全くアイツは………」

 

「まあまあ、怒らない怒らない。じゃないとまた胃に穴が開くわよ」

 

「それを言わないで下さい………」

 

リーロンと千冬も、愚痴を言いながら去って行く。

 

「…………」

 

1人残されたジギタリスは、静かに目を閉じると、まるで瞑想しているかの様なポーズを取り、そのままジッと動かなくなるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させていただきました。

今回はちょっとむせるから離れてラブコメをお届けしました。
イチャイチャな神谷&シャルと、初々しい一夏&箒。
良い対比になったかと。

そしてジギタリスとの尋問。
何故獣人が螺旋王に従う理由は、それが当たり前だから………
だが、そんな当たり前を蹴っ飛ばすのが神谷のやり方。
果たして、それが彼にどの様な影響を与えるのか?

次回からはまたむせる全開でお届けします。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第41話『………ターンピックが冴えないわね』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第41話『………ターンピックが冴えないわね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神谷と一夏が、簪と出会ってから1週間が経過した………

 

タッグマッチのタッグ申込みは目前にまで迫っている。

 

にも関わらず………

 

2人は相変わらず、虚とのほほんと共に、簪の専用機の組み立てを続けている………

 

 

 

 

 

IS学園・IS整備室………

 

「お姉ちゃ~ん。この配線は何処へ繋げば良いのぉ?」

 

「もう、本音。さっき教えたでしょ。その配線はB回路へよ」

 

内部の配線の組み立てをやっていた虚とのほほんがそう言い合う。

 

「アニキ、そっちを抑えてて貰える?」

 

「おう! 任せておけ!!」

 

神谷は装甲板を持ち上げて抑え、その隙に一夏が溶接で装甲板同士を繋ぎ合わせる。

 

「…………」

 

そして簪は黙々と機体制御用のOSを組んで居た。

 

「本音、コネクターを切り替えて」

 

「どれ?」

 

「もう早くして。電源の傍よ」

 

「だからどの電源?」

 

「アニキ、あのパーツを持って来て貰えるかな?」

 

「ホイ来た」

 

そんな簪の前で、虚にのほほん、一夏に神谷は和気藹々と言った感じに組み立てを続けている。

 

「…………」

 

ふと簪は、OSを組む手を止めて、その光景を見遣る。

 

神谷達の協力により、漸く基礎が組み上がった簪の専用機だが、その姿はかなり歪だった………

 

使っているパーツは元はスクラップであり、しかも様々なISの部品である。

 

その為、見た目は思いっきりアンバランスであり、打鉄のパーツが有るかと思えば、ラファールのパーツが有ったり、他人の専用機パーツも有れば、まるで見た事もないパーツまで有る………

 

例えるならば、その姿はフランケンシュタインの怪物である。

 

(ま………私にはお似合いかもね………)

 

そんな自らの専用機の姿に、簪は心の中で1人ごちた。

 

「う~ん………如何するかなぁ………」

 

「困ったね~」

 

と、そうしている内に、一夏達の作業の手が止まり、何か悩む様な様子を見せている。

 

「………如何したの?」

 

「簪様、それが………」

 

「バーニアの出力が足りないんだよ~」

 

簪の問いに、虚が答え難そうにしていると、のほほんが代わる様にそう言う。

 

「足りない………?」

 

「ええ………元がスクラップの部品ですから………機体を飛行させるまでの出力が得られないんです………」

 

「これじゃあ飛べたとしても、精々ジャンプが良いとこだな………」

 

簪の専用機のバーニアを見ながら一夏がそう言う。

 

「そう………」

 

簪は、自分の専用機に近付くと、バーニア部を撫でる様に触る。

 

「如何する、簪さん?」

 

そこで一夏がそう尋ねる。

 

「………仕方がない………飛行能力を………捨てる………」

 

「「えっ!?」」

 

「なっ!?」

 

簪の言葉に、虚とのほほん、そして一夏は驚きの声を挙げた。

 

IS同士の戦いの場合、当然ながらそれは空中戦となる。

 

だが、簪は飛行能力を捨てると言った。

 

それはつまり、完全な陸戦用のISを組み上げると言う事である。

 

局地戦を目的として開発するのなら兎も角、普通に考えればデチューンでしかない。

 

空を自在に飛べる者と、地上を動くしかない者では、空を飛べる方が圧倒的に有利であるからだ。

 

「ちょっと待ってくれ、簪さん。それじゃあ………」

 

「空を飛べる事は………有利になると言う事だけど………勝利の絶対条件では無い………」

 

何か言おうとした一夏に、簪はそう返し、機体から飛行機能を司るパーツを取り外し始める。

 

「いや、ちょっと………」

 

「ならコイツを代わりに使うかぁ?」

 

と、そう言いながら神谷がISの脚部パーツを持って来る。

 

しかし、それは只の脚部パーツでは無く、足の裏にローラーとキャタピラの様な推進装置が付いている脚部だった。

 

「アニキ? そのパーツは?」

 

「スクラップに中に混じってたぜ」

 

「………じゃあ………その脚部パーツに………換装して………」

 

簪はそのパーツを少しの間だけ見ていたかと思うとそう言う。

 

「アイヨ!」

 

「それと………機動性を重視したいから………装甲をギリギリまで削って………」

 

「簪様! それは危険過ぎます!!」

 

虚がそう声を挙げる。

 

如何にISが何があっても操縦者を守る絶対防御を備えているとは言え、そのシールドはエネルギーに依存している。

 

エネルギーが無くなれば絶対防御も無くなり、ISはガラクタと化す。

 

全身装甲(フルスキン)とまでは行かないでも、装甲にはある程度は厚さを持たせたのを多めに装着するに越した事はないのだ。

 

「良いからやって………」

 

しかし、簪は譲らぬ様子でそう繰り返す。

 

「簪様!!」

 

「まあ、良いじゃねえか。コイツの専用機なんだ。コイツが造りてぇ様に造らせてやろうぜ」

 

虚が食い下がろうとするが、今まで付いていた脚部パーツを外し、ローラーダッシュ機能の付いた脚部パーツを新たに取り付けに掛かっている神谷がそう言う。

 

「………分かりました」

 

虚は根負けしたかの様にそう言い、工具を持つと、簪の専用機の装甲を削って薄くして行き、軽量化して行く。

 

「…………」

 

その様子を見ながら、簪は再び機体のOS組みに掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

「かんちゃ~ん! 基礎組みが終わったよ~!!」

 

「そう………」

 

のほほんがそう声を挙げた瞬間に、簪も機体用のOS組みを終えた。

 

「…………」

 

そして、改めて基礎組みが完了した自分の専用機を見遣る。

 

相変わらず全体的なフォルムは少々歪だが、神谷達が塗装してくれたお蔭で、大分見栄えは良くなっている。

 

緑色と象牙色の組み合わせは、質実剛健であり、正に兵器と言った感じを醸し出していた。

 

「………悪くない」

 

「簪様………今一度尋ねますが、装甲を限界まで落としましたけど、本当に宜しいのですね?」

 

「そうだよかんちゃ~ん。最大でも14ミリって、幾ら何でも薄過ぎない~?」

 

虚が食い下がる様にそう言い、のほほんも心配そうにそう言う。

 

彼女の注文通りに機動性を重視する為、装甲を薄くして行ったところ………

 

最大でも何と14ミリと言う紙の様な装甲となってしまったのだ。

 

下手をすれば拳銃で撃たれても貫通するレベルである。

 

「構わないわ………」

 

と、簪は冷めた様子でそう言い、専用機を待機状態のクリスタルの指輪に変えると、右手の中指に填めた。

 

「それがお前のISの待機形態か………そう言や、ソイツの名前は何てんだ?」

 

「名前………?」

 

そこで簪は、まだ自分の専用機の名前を考えていなかった事を思い出す。

 

「…………」

 

少しの間、右手の中指に填めた待機状態の専用機を見ていたかと思うと………

 

「………ドッグ」

 

「あん?」

 

「ドッグ………『スコープドッグ』………それがこの子の名前よ」

 

一同に聞こえる様にそう言った。

 

「スコープ?」

 

「ドッグ?」

 

顔を見合わせるのほほんと虚。

 

「へえ~、可愛い名前だな」

 

一夏はそんな感想を言う。

 

「………アリーナで試運転してみる………」

 

と、簪はそう言うと、整備室を後にしようとする。

 

「あ、オイ、待てよ!」

 

慌てて一夏がその後を追って行く。

 

「俺達も行くか」

 

「ほ~い」

 

「そうですね………」

 

それに続く様に神谷、のほほん、虚も整備室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5アリーナ………

 

そこにはタッグマッチに向けての調整を行っている箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、楯無の姿も在った。

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

「良いよ箒ちゃん! もっと打ち込んで来て!!」

 

箒は、楯無を相手に模擬戦闘を行っている。

 

「照準を右に+2修正………」

 

「トリガーの引き金がちょっと硬いかな………?もう少しバネを調整しなきゃ………」

 

射撃を行いながら、細かな調整を付けているセシリアとシャル。

 

「フッ! ハアッ!!」

 

「フンッ! トアッ!」

 

そして、鈴は中国拳法の型を取っており、ラウラもCQCの型を取っている。

 

「皆~、良い感じだよ~」

 

と、ピットの出入り口でクリップボードを手に記録を取っていたティトリーからそう声が挙がる。

 

「? アレ? 神谷に一夏だ」

 

「!? 何!?」

 

「「「「!?」」」」

 

と、ティトリーが向かい側のピットの出入り口に目を遣った瞬間に、神谷達の姿を発見してそう言ったかと思うと、箒達が一斉に動きを止めて反応。

 

同じ様に一夏と神谷………

 

そして簪と布仏姉妹の存在も確認する。

 

「簪ちゃん………」

 

簪の姿を見て、楯無は表情を曇らせる………

 

「えっ? じゃあ、アレが楯無さんの妹さん?」

 

それを聞いたシャルが、視線を神谷から簪へと移す。

 

他の一同も同じ様に、視線を一夏から簪へと移した。

 

「…………」

 

だが、簪はそんな箒やシャル達、そしては楯無の事も、まるで最初から居ない様に思っているかの様に気にせず、無言でスコープドッグを呼び出す。

 

緑色と象牙色の迷彩を思わせるカラーリングに、様々なISのパーツを継ぎ接ぎした様なデザインのスコープドッグは、他のISに比べて、かなり無骨であった。

 

その中でも目を引くのは、目の部分に付けられたバイザー状のパーツであり、そこにはスリットが入っており、そのスリット上を移動する回転ターレット式3連カメラが装着されている。

 

その視界補助カメラ・ターレットレンズが回転すると光が灯る。

 

「白式!」

 

と、それと同時に、その隣に居た一夏が、白式を呼び出して装着する。

 

「………完成したんだ………簪ちゃんの専用機………」

 

楯無がそう言った瞬間、スコープドッグを装着した簪が、ピットの出入り口から飛び降りた。

 

そのままアリーナの地面に着地するが、その際に衝撃を緩和する為、脚部を変形させて装着者の身体の部分を前方に沈み込む姿勢………『降着姿勢』を取り、少し土煙を巻き上げる。

 

一夏も宙に舞い上がると、アリーナの地面の上に降りた簪の傍に寄る。

 

神谷と布仏姉妹は、ピットの出入り口から、そんな2人を見守っている。

 

「…………」

 

と、キュイイイィィィィィンッ! と言う耳障り………いや、心地良い音が聞こえて来たかと思うと、簪の足元から火花が散り始め、機体が前進する。

 

そのままローラーダッシュで、アリーナ内を自在に走り回る簪。

 

「? おかしいですわね?」

 

「ちょっと………アイツ何で飛ばないのよ?」

 

その様子を見ていたセシリアが違和感を感じ、鈴がそう声を挙げた。

 

「トラブルか?」

 

「オイ、一夏。聞こえるか?」

 

ラウラがそう呟くと、耐えかねた箒が一夏に尋ねようと通信を送る。

 

「あ、箒」

 

「あ、箒、じゃない。その………簪だったか? 何故ソイツのISは飛行しないのだ?」

 

「何かトラブル?」

 

箒が一夏にそう尋ねると、シャルもそう口を挟んで来た。

 

「いや、トラブルじゃなくて………簪さんのISは、最初から飛べない様になってるんだ」

 

「何っ!? 如何言う事だ!?」

 

「そんな!? ISは基本空戦兵器だよ!! それを完全な陸戦使用にするなんて………デチューンもいいところじゃない!!」

 

一夏からの回答を聞いた箒が驚きの声を挙げ、横でコッソリと聞いていた楯無も、思わず口を挟んで来る。

 

「いやでも………簪さんがそうするって聞かなくて………」

 

「何を考えてるのよ、ソイツ?」

 

「織斑 一夏………」

 

と、鈴がそう言った瞬間、今まで黙々と機体の動作チェックをしていた簪が、通信回線に割り込んで来た。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「うわぁっ!? な、何だい、簪さん!?」

 

「火器管制のテストも………平行して行いたいの………仮想標的を………出してくれる?」

 

突然通信回線に割り込んで来た簪に、箒達と一夏は驚くが、簪は特に気にもせず、一夏にそう要望する。

 

「あ、ああ、分かった………今やるよ」

 

一夏は若干焦りながら、アリーナに仮想標的を出現させた。

 

「…………」

 

簪はローラーダッシュ移動で攪乱する様な機動を取りながら、手近な仮想標的に接近。

 

そして右腕を構えたかと思うと、ローラーダッシュでの突撃と共に仮想標的に向かって突き出す。

 

その瞬間!!

 

右腕装甲から炸裂音が聞こえたかと思うと、右腕が伸びて、仮想標的に命中。

 

まるで杭打機の様に、仮想標的を破壊した!!

 

「………『アームパンチ』………問題無し………」

 

薬莢が排出されて、右腕が元に戻ると、簪は手を閉じたり開いたりしてチェックを終了する。

 

「…………」

 

続けて簪は、その右手にスコープドッグの基本武装………レーザー照準器付きアサルトライフルを拡大した様な形状のGAT-22・30㎜べヴィマシンガンを出現させる。

 

ターレットレンズを再び回転させると、先ずは足を止めての射撃を開始。

 

単射で正確無比な狙いで、仮想標的を撃ち抜いて行く。

 

そして、不意にローラーダッシュをし始めたかと思うと、今度は移動しながらの射撃を開始。

 

止まっていた時と変わらない精密射撃で、仮想標的が次々に減って行く。

 

「す、凄い………」

 

「何と言う正確な射撃だ………」

 

まるでマシーンの様な簪の戦いぶりに、シャルとラウラが舌を巻く。

 

と、移動しての射撃を繰り返していた簪は、アリーナの壁に接近していた。

 

「…………」

 

簪は脚部パーツの踝の部分に付いている可動式のスパイク・ターンピックを起動させ、地面にスパイクを撃ち込むと、急激に向きを変えようとする。

 

だが………

 

「………!?」

 

ターンピックは打ち出されたものの、地面には浅くしか刺さらず、ターンの軌道が狂う。

 

途端に簪はバランスを崩し、背中からアリーナの壁に突っ込んだ!!

 

アリーナの壁は破壊され、簪は瓦礫に埋まる。

 

「!? 簪さん!!」

 

「簪ちゃん!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一夏と楯無が慌てて倒れた簪に駆け寄り、遅れて箒達も駆け寄り、神谷もピットの出入り口から飛び降りて、簪の元へと向かった。

 

「…………」

 

簪は無言のまま、自分の上に乗っかっていた瓦礫を退かして起き上がる。

 

衝突したせいで、装甲の薄い簪のスコープドッグは、所々がひしゃげてグチャグチャになっていた。

 

「大丈夫か!? 簪さん!?」

 

「簪ちゃん!!」

 

一夏と楯無がそう言って来るが………

 

「………ターンピックが冴えないわね………それに制御系もおかしいみたい………」

 

簪は淡々と、スコープドッグの問題点を記録し始める。

 

「あ~………大丈夫そうだな」

 

「やれやれ、元気な野郎だぜ………」

 

こんな時でも淡々とした様子の簪に、一夏と神谷が呆れる様な声を挙げる。

 

「…………」

 

それを聞き流しながら、簪はピットへと戻ろうとする………

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

と、その簪を鈴が呼び止めた。

 

「…………」

 

簪は足を止めると鈴の方を振り返る。

 

「アンタねえ、一夏達が心配してるのに、その態度はないでしょ! 今回の事情は知っているから、アンタと一夏が組む事になっても別に恨みはしないけど………それでもその態度は如何なのよ!!」

 

胸の内に抱えていたモノを吐き出す様に、鈴は簪に向かってそう言い放つ。

 

「そうだぞ! 折角人の嫁を貸し出してやってると言うのに………」

 

「ちょっとラウラさん! 前々から言いたかったのですけど………一夏さんは貴女のお嫁さんではありませんわよ!」

 

「そうだぞ! 一夏は男だぞ!!」

 

そこへ、ラウラ、セシリア、箒が参加して来て、話は何時の間にか簪から一夏の事へと移っていた。

 

「一夏! やはりタッグマッチでは私と組め!!」

 

「一夏さん! タッグマッチの件、どうか御再考を!!」

 

「やっぱりアタシと組みなさい! 一夏!!」

 

「やはりお前のパートナーは私しか居ない様だな」

 

「ちょっ! ちょっと待ってくれよ!!」

 

すっかり楯無との約束の事など忘れ、タッグマッチで自分と組めと一夏に詰め寄る箒達。

 

「説明しただろう。今回俺は簪さんと組む事になるかも知れないって」

 

「皆、お願い………私からも頼むわ」

 

一夏がそう返し、楯無もそう言って頭を下げる。

 

「「「「うっ………」」」」

 

生徒会長に頭を下げられて、箒達は流石に黙り込む。

 

「あの………盛り上がってるところ悪いけど………当の本人が聞いてないみたいなんだけど………」

 

とそこで、シャルがそう口を挟む。

 

見れば、先程まで足を止めていた簪が、一同にすっかり興味を無くした様に、再びピットへと引き上げていた。

 

「ちょっ!? 待ってくれよ、簪!!」

 

一夏が慌てて後を追うが、簪は立ち止まるどころか振り向きもしない。

 

「何よアレ! これだけやられて無視なんて、図太い神経してるわね!」

 

「いや、違うよ………多分、最初から僕達の話に全く興味が無かったみたい………」

 

鈴が怒る様にそう言うと、シャルが簪の様子からそんな事を推察する。

 

「やれやれ………無愛想も極まってんな………」

 

「本当にゴメンナサイ。ウチの妹が………」

 

神谷がそう言うと、楯無が一同に向かって再び頭を下げる。

 

「い、いえ、そんな………」

 

「何も生徒会長が頭を下げなくても………」

 

「いえ………私は生徒会長として頭を下げてるんじゃないわ。あの子の姉として頭を下げてるの」

 

セシリアと箒が、若干恐縮していると、楯無はそう言い放つ。

 

「まっ、気にすんな、楯無。妹の方は暫く俺達に任せておきな」

 

そんな楯無に、神谷はそう言いながら片腕を上げた。

 

「………お願い」

 

「おう」

 

楯無がそれだけ言うと、神谷は短く返事を返し、簪と一夏達が消えたピットへと引き上げて行く。

 

「…………」

 

それを見ていた一同の中で、箒が再び楯無を見やる。

 

仲の良くない姉妹………

 

その姿に、自分と束の境遇を重ねる。

 

束がISを開発したと言う事で、箒は人生を狂わされた。

 

しかし、彼女には自分の専用機を貰った恩が有る。

 

それに………

 

臨海学校の時、生徒達に向かってゴメンと言った束の姿が、箒の脳裏に甦る。

 

昔は人嫌いで、自分と千冬、そして一夏と神谷以外の人間には興味を示さず、親の事も辛うじて認識できる程度だった彼女が、生徒達に向かってゴメンと言った………

 

その意味は分からないが、端的に箒は、束が変わっている………

 

そして変わろうとしている事を感じ取っていた。

 

それと同時に、今まで避ける様にして来た束の事を、もっと知りたいを思う様になったのである。

 

だから、目の前の自分と似た境遇の姉妹………更識姉妹を放って置く事が、彼女には出来なかった。

 

「楯無さん………妹さんとの仲直り………私も協力させていただけませんか?」

 

「!? 箒ちゃん!?」

 

「「「「!?」」」」」

 

箒のその言葉に、楯無とシャル達が驚いた様に視線を向ける。

 

「御存じだと思いますが、私にも姉が居ます………楯無さんと同じ様に、今は少し疎遠になっているのですが………前に会った時に………私は姉が変わろうとしているという事を感じました」

 

そんな楯無に、箒はそう語り出す。

 

「そんな姉の姿を見て………私はまた前見たいに仲良くなりたいと思いました。結局、話をする前に、姉はまた何処かへ行ってしまったのですが………だから、楯無さんにも妹さんと仲良くして欲しいんです」

 

「箒ちゃん………」

 

楯無は驚いた表情のままで箒の事を見つめる。

 

「じゃあ、僕も協力するよ」

 

と、それに続く様に、今度はシャルがそう言って来た。

 

「!? シャルちゃん!?」

 

「神谷は兎も角………アイツに一夏を独り占めされるのは癪ね」

 

「仕方ありませんわ………ココは一時休戦と致しましょう」

 

「異論は無い」

 

「あ~! じゃあアタシも~!!」

 

更に続けて、鈴、セシリア、ラウラ、そしてピットの出入り口に居たティトリーもそんな事を言って来る。

 

如何やら、彼女達も手伝ってくれる積りらしい。

 

「皆………ありがとう」

 

「気にしないで下さい、楯無さん。僕達は………グレン団の仲間じゃないですか」

 

と、シャルがそう言ったかと思うと、自分のISに何時の間にかマーキングしてあった、グレン団のマークを見せる。

 

「アンタ、それ何時の間に?」

 

「この前の整備の時にちょっとね………」

 

「呆れたな………」

 

鈴の問いにシャルがそう答えると、ラウラがそう呟いた。

 

「さて、行くか………」

 

箒がそう言うと、一同は簪達を追って、アリーナを後にし出す。

 

と、最後尾を行っていた楯無がふと立ち止まると、それに気付かず箒達はティトリーを加えて、ピットの中に消えて行く。

 

「仲間か………」

 

先程シャルに言われた事を思い出す様に呟く楯無。

 

楯無は更識家の当主であり、IS学園の生徒会長である。

 

幼馴染の友達である布仏姉妹は居たが、自身の優秀な能力も有って、並び立って共に事に当たる仲間と呼べる者は余り居なかった………

 

だが、シャル達はそんな彼女を仲間だと言ってくれた。

 

その事がとても嬉しい。

 

と………

 

「仲間のありがたさを知ったか? 更識 楯無」

 

「!?」

 

突然後ろから聞こえて来た声に、楯無が驚きながら振り返るとそこには………

 

腕組みをして悠然と佇むシュバルツ・シュヴェスターの姿が在った。

 

「シュバルツ・シュヴェスター!?(何時の間に!?)」

 

対暗部用暗部としての訓練を受けている自分にさえ気取らせずに背後を取ったシュバルツに、楯無は驚くと共に警戒する。

 

報告によれば、彼女は一夏達に味方していたらしいが、この前は一夏に襲い掛かったのである。

 

正体が不明な以上、立場上も警戒せざるを得なかった。

 

「更識 楯無………お前は何をしている?」

 

「えっ?」

 

しかし、シュバルツはそんな楯無の警戒を無視し、そう問い質して来る。

 

「お前の事を仲間と認めてくれた者達は、お前の為に必死になろうとしている………だが、そのお前は如何だ?」

 

「だ、だって………簪ちゃんは私の事を………」

 

シュバルツの得体の知れない迫力に押され、思わず素直に答えそうになる楯無だったが………

 

「愚か者ぉっ!!」

 

「!?」

 

覆面を被っている顔で唯一露出している目をクワッと見開き、シュバルツは楯無にそう言い放つ。

 

「1度の拒絶で諦めるとは………貴様それで良く更識の当主だ、IS学園最強の生徒会長だと名乗れたものだな………」

 

「あ、う………」

 

一見すると無茶苦茶な理屈なのだが、シュバルツが言い放った言葉は有無を言わせぬ説得力が有り、楯無は狼狽する。

 

「更識 楯無………貴様が本当に恐れているのは、妹を傷付ける事では無く、自分が傷付く事ではないのか?」

 

「!?」

 

その言葉に、楯無は自分の心を見透かされた様な気持ちになる。

 

「己が傷付く事を恐れる者に………真の絆は芽生えはせんぞ………」

 

シュバルツがそう言い、楯無に背を向けたかと思うと立ち去り始め、途中でその姿が幻の様にスーッと消えてしまう。

 

「…………」

 

残された楯無は、只その場に佇んでいるだけだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

???………

 

「よろしいですかな? 螺旋王様?」

 

グアームがロージェノムに向かって畏まりながらそう言う。

 

「………何用だ? グアーム」

 

相変わらず頬杖の姿勢を崩さず、ロージェノムは無表情のままでそう尋ねる。

 

「ハッ、先程ヨーロッパ戦線の連中から面白い報告が入りまして………螺旋王様の耳に入れておこうかと………」

 

「………言ってみろ」

 

「ハッ」

 

ロージェノムに許可されると、グアームはその『面白い報告』について申し上げる。

 

「………との事です。如何為さいますか?」

 

「貴様に任せる………」

 

「ハハッ! ではその様に………」

 

それだけ言うと、グアームは再び前線任務へと向かう。

 

「………人間とは実に愚かな生き物よ………それ程までに我が身が可愛いものか………」

 

グアームが消えた後………

 

ロージェノムはまるで嘲笑するかの様な笑みを浮かべて、そう呟いたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ボトムズの名台詞が飛び出しました。
次回はあの名台詞も出ますので、お楽しみに。

そして仮組が出来上がった簪のIS………
最低野郎の棺桶『スコープドッグ』
早速テストするもまだまだ調整の余地あり。
遂に箒達も簪の世話焼きに参加してきます。

一方、ロージェノム軍の方では何やら不穏な動きが………
ヨーロッパで何があったのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第42話『コイツの肩は赤く塗らないのか?』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第42話『コイツの肩は赤く塗らないのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・IS整備室………

 

先程の試運転で早速スコープドッグの欠陥が発覚し、簪は早速調整に掛かっていた。

 

一夏と神谷、布仏姉妹もそれを手伝う。

 

「おりむー、配線繋げて見て」

 

「了解」

 

のほほんにそう言われて、一夏はスコープドッグの装甲を外した脚部の内部機器の配線の1つを繋ぐ。

 

すると、足裏のローラーとキャタピラが回転を始め、ターンピックが飛び出す。

 

「………信号が来てないわ。コレじゃターン出来ない筈よ」

 

と、脚部の信号確認ランプが点いていないのを確認した虚がそう言う。

 

「もう少しスピードと機動性が欲しい………あと火力の強化も………」

 

プログラムの方を調整していた簪が、整備をしている一夏達に向かって言う。

 

「オーイ! 新しい部品、調達して来たぞ!」

 

とそこへ、神谷が新たなスクラップ部品が入ったコンテナを牽きながら、姿を現した。

 

「ああ、かみや~ん! 待ってたよ~~!!」

 

早速のほほんが、スクラップ部品を漁り、使えそうなパーツを持ち出す。

 

「しかし簪様。火力と機動力を両立させるとなると、扱いは相当ピーキーになると思いますが………」

 

と、そこで虚が、先程簪から言われた注文を実行するに当たっての懸念事項を口にするが………

 

「………それは………」

 

簪は、神谷が持って来たスクラップ部品の中に、とあるパーツを発見して、表情を変える。

 

それは、何かの補助コンピューターの様にも見えるパーツだった。

 

「簪、それは?」

 

「………『ミッションディスク・システム』」

 

「『ミッションディスク・システム』?」

 

簪の言った単語の意味が分からず、一夏は首を捻る。

 

「基本動作プログラムが書き込まれている………『ミッションディスク』によって………ある程度の操縦自動化が………出来るシステム………」

 

「ええっ!? そんな便利な物が在ったのか!?」

 

「『ミッションディスク』は………自分で組まないといけないから………普通のIS乗りの間では………普及してない」

 

便利な物が有ると思った一夏だが、簪はそんな一夏の想いを打ち消す様にそう言う。

 

そして、ミッションディスク・システムをスクラップ部品の中から取り出すと、スコープドッグに搭載。

 

続けて、肝心要のミッションディスクの作成に取り掛かる。

 

「コレが有れば………操縦面での問題は………クリアされる………」

 

「じゃあ~、後は火力と機動力だね~」

 

「火力は武装の装備で如何にかなるけど………機動力は………」

 

笑顔でそう言うのほほんとは対照的に、虚は首を捻る。

 

普通のISならば、スラスターの装着・増設で機動力を上げる事が出来るが、スコープドッグの場合は飛行不可能だという事がネックになっている。

 

「空が飛べない以上………スラスターを付けてもデッドウェイトになるだけ………かと言って、ブースターとして使うとしても、上半身に付けてはバランスが悪くなる可能性が………」

 

「ならこうすりゃ良いじゃねえか」

 

と、虚が悩んでいると、神谷がスラスターパーツを、スコープドッグの足の裏側に付けようとし出す。

 

「ちょっ!? 天上くん! 何を!?」

 

「何をって………コイツはローラーダッシュで走るんだろ。だったら、足にブースターを付けりゃスピードアップするってワケだ」

 

「子供の工作じゃないのよ!!」

 

虚はそう怒鳴るが………

 

「それ………頂き………」

 

当の簪が、そのアイデアを気に入ったのか、神谷を指差してそう言って来た。

 

「簪様!?」

 

「よ~し、決まりだな。オイ、一夏! コイツを足の裏に付けろ」

 

「お、おう!!」

 

神谷に言われて、一夏はスコープドッグの足の裏にスラスター部品を取り付け始める。

 

と、そこへ………

 

「「「「一夏〈さん〉!」」」」

 

「「神谷!」」

 

箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、ティトリーの、グレン団メンバーが姿を見せた。

 

「! 箒! セシリア! 鈴! ラウラ!」

 

「シャル! ティトリー! 何だよ、手伝いに来てくれたのか?」

 

「うん、そうだよ」

 

「私達にも手伝わせてくれ」

 

一夏と神谷がそう言うと、シャルと箒がそう返す。

 

「でも、良いのか? 自分達の機体の調整とかもあるだろう?」

 

一夏が心配する様にそう言うが………

 

「御心配には及びませんわ」

 

「アタシ達の方はもう大体仕上がってるわよ」

 

「少しぐらい他人に手を貸しても罰は当たらんだろう」

 

「アタシは元々皆の補助だしね」

 

セシリア、鈴、ラウラ、ティトリーがそう言って来る。

 

「でも………」

 

そこで一夏は、簪の様子を窺う様に彼女を見る。

 

「…………」

 

簪は少しの間、無言の圧力を発していたが………

 

「………好きにして」

 

やがて折れたかの様にそう呟いた。

 

「良し! 先ずは何からすれば良い?」

 

「火器管制なら、僕に任せて」

 

「私にもですわ」

 

「近接戦闘用のプログラムはアタシが組むわ」

 

「なら私はマニューバの入力だな」

 

「えっと、アタシは………色々!!」

 

箒、シャル、セシリア、鈴、ラウラ、ティトリーは多種多様な返事を返し、作業に取り掛かる。

 

「こら、俺達も負けてらんねぇぞ、一夏!」

 

「分かってるよ、アニキ!」

 

「盛り上がって来たね~、お姉ちゃん」

 

「本音………貴女はホント気楽ね………」

 

神谷、一夏、のほほん、虚も負けじと作業に戻る。

 

人数が大幅に増えた事もあり、スコープドッグは見る見る内に組み上がって行く。

 

「…………」

 

その光景を、簪は複雑そうな表情で見ていた。

 

(結局………これだけの人の手を………借りる事になってしまった………なのに………如何して………嫌な気持ちがしないの………?)

 

当初の自分1人で組み立てると言う思惑は完全に崩れ去っていたが、簪の胸には不思議と嫌悪感が湧いてこない。

 

それどころか、今のこの空気を心地良いとまで感じ始めていた。

 

(………私は………)

 

と、簪が己の心を理解出来ずに居ると………

 

「………簪ちゃん」

 

「!?」

 

不意に後ろから聞こえて来た声に、簪は驚きながら振り返る。

 

「や、やあ………」

 

そこには、何やら風呂敷に包まれた幾重にも重ねられた重箱を持ち、若干気不味そうにしている楯無の姿が在った。

 

「………貴女の手は借りないって言ったわ」

 

途端に、簪はそう言って、楯無を睨み付ける。

 

「え、えっとね………差し入れを作って来たんだけど、食べてくれないかな?」

 

楯無はその視線に若干怯みながらもそう言って風呂敷に包まれた重箱を差し出す。

 

「………要らない。持って帰って」

 

「そんなこと言わないで………」

 

簪はプイッと楯無に背を向けるが、楯無は諦めずに食い下がろうとする。

 

と………

 

「! いい加減にして!!」

 

簪は突然そう叫んだかと思うと、再び楯無の方を振り返りながら腕を振るった!

 

重箱が弾き飛ばされ、床に落ちそうになる。

 

「! あぶねぇっ!!」

 

しかし、間一髪それに気付いた神谷が、スライディングする様にして重箱をキャッチした。

 

「! 簪ちゃん!!」

 

「貴女は私を何処まで馬鹿にすれば気が済むの!? もう私に構わないで!!」

 

涙目になり掛けていた楯無に、簪はそう叫ぶ。

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

その一連の騒動に、箒達は固まってしまう。

 

しかし………

 

「簪!」

 

「!?」

 

只1人動いた一夏が、簪の肩を摑んで自分の方を振り向かせたかと思うと、その頬を打った(無論、手加減はしている)。

 

「!? 一夏!?」

 

「一夏さん!? 何を!?」

 

その光景に、鈴とセシリアが驚きの声を挙げると………

 

「食べ物を粗末にしてはいけません!!」

 

一夏は引っ叩かれた頬を押さえて呆然となっていた簪に向かってそう言い放った!

 

「「「「「「ズコーーーッ!?」」」」」」

 

途端に、神谷とのほほんを除いた一同が、漫画の様に一斉にズッコける。

 

「ア、アイツはお母さんか………」

 

最初に立ち直った箒が、そんな事を呟く。

 

「作った人間が嫌いでも食べ物には敬意を払え。悪感情を食べ物に持ち込むな。こういう言葉もあるんだぞ、簪」

 

一夏はそんな箒達の様子なぞ気にせず、簪に向かって説教する様に言う。

 

「…………」

 

簪は呆然と一夏の言葉に聞き入っている。

 

「分かったか?」

 

「…………」

 

「返事!!」

 

「!? ハ、ハイ!!」

 

得体の知れない迫力に押されて、思わず返事を返してしまう簪。

 

「良し!………じゃあ、休憩にしようか!」

 

それを聞いた途端、先程までの迫力は雲散し、一夏は笑いながら箒達にもそう呼び掛けた。

 

その変貌ぶりに付いて行けず、またも箒達はズッコケてしまう。

 

「? 何やってんだ? 皆?」

 

「い、一夏~! お前は~!」

 

「心なしか、最近益々神谷に似て来ている様な気がする………」

 

「奇遇ね………アタシもそれ思ってたわ」

 

「わ、私もですわ………」

 

首を傾げる一夏に、ズッコケたままでそう言い合うラウラ、箒、鈴、セシリアだった。

 

「ア、アハハハハ………」

 

「ニャハハハハハ………」

 

シャルとティトリーは、苦笑いを浮かべている。

 

「休憩~休憩~! 御飯が美味しい!」

 

「本音………貴女ってホント、マイペースね」

 

そんな雰囲気の中で1人だけマイペースを保っているのほほんと、そんな彼女の姿に呆れる虚。

 

「ホラ、お前等! 何時までもズッコケてないで、飯にすっぞ!」

 

そして神谷は、1人整備用に置かれていたブルーシートを引っ張り出し、床に広げると、靴を脱いで上に胡坐を掻いて座り込み、重箱を開いていた。

 

一同は戸惑いながらも、済し崩し的に楯無の持って来た差し入れを頂き出す。

 

 

 

 

 

「ガツガツ! バクバク!」

 

「神谷………そんなにがっつかなくても」

 

遠慮無しに、次から次へと料理を平らげて行く神谷に、シャルがツッコミを入れる。

 

「お魚! お魚!」

 

そして、その正面で、魚料理ばかりを中心に摘まんでいるティトリー。

 

「…………」

 

そんな神谷とシャルの隣では、簪が無表情で食事を頬張っている。

 

「ア、アハハハハ………」

 

如何にか隣に座ったものの、苦笑いする事しか出来ない楯無。

 

「簪、そんな顔したまま飯食うなよ。折角の飯が不味くなるだろ」

 

「………この顔は………生まれつき………」

 

一夏が態度を軟化さえようとそう言うが、簪はバッサリと斬り捨てる。

 

「そんなこと言わずに。ホラ、このチキン南蛮、美味いぞ。食ってみろ」

 

と、そこで一夏は、重箱の中にあったチキン南蛮を一切れ箸で摑み、簪の目の前に差し出した。

 

「!?」

 

然しもの簪も、この事態には動揺を見せる。

 

「「「「…………」」」」

 

当然一夏は、箒、セシリア、鈴、ラウラから嫉妬と殺気の籠った視線を向けられるが、本人はまるで気づいていない。

 

「ホラ、あ~ん」

 

「…………」

 

一夏がそのまま目の前にチキン南蛮の一切れを差し出したままにするので、やがて簪は諦めた様にそのチキン南蛮を頬張った。

 

「な? 美味いだろ?」

 

「………うん」

 

一夏の言葉に、短くそう言って、簪は頷く。

 

(ホラ、楯無さん! 俺に続いて!)

 

と、そこで一夏は目で楯無にそう合図する。

 

「か、簪ちゃん! この卵焼きも如何?」

 

それを察した楯無は、目の前にあった重箱の中の卵焼きを指す。

 

「…………」

 

簪はそんな楯無の事をジッと見据える。

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

そんな空気を察したかの様に、一同は沈黙してしまう。

 

「…………」

 

(あうう………)

 

尚も簪は楯無の事を見据え、楯無は柄にも無く逃げ出したい衝動に駆られる。

 

(作った人間が嫌いでも食べ物には敬意を払え。悪感情を食べ物に持ち込むな)

 

と、そこで簪の脳裏に、先程の一夏の言葉が甦る。

 

「………貰うわ」

 

そして、楯無に向かってそう呟く様に言った。

 

「!! じ、じゃあ、ハイ!!」

 

楯無は卵焼きを1つ箸で取ると、簪の前に差し出す。

 

「…………」

 

簪はその卵焼きを頬張ると、ゆっくりと咀嚼する。

 

「ど、如何………かな?」

 

楯無は緊張した様子でそう尋ねる。

 

「…………」

 

暫く咀嚼を続ける簪。

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

楯無だけでなく、神谷とのほほんを除いた一同が緊張感に包まれる。

 

そして………

 

「………美味しい」

 

「そ、そう………」

 

((((((((ハアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!))))))))

 

その一言で、楯無は安堵し、一夏達も溜めていた息を思いっきり吐き出した。

 

「………ありがとう、姉さん」

 

「!? 簪ちゃん!?」

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

と、そこで更に簪が漏らした言葉に、楯無と一夏達が驚愕する。

 

「…………」

 

良く見れば、簪の顔には微笑が浮かんでいた。

 

「! くうっ!?」

 

思わず泣きそうになってしまい、顔を背ける楯無。

 

(良かったですね、お嬢様………)

 

虚の方も、熱くなっている目頭を押さえている。

 

「一件落着かな~?」

 

「ま、そう見て良いじゃねえか?」

 

そしてそんな間も、次々に重箱を空にしているのほほんと神谷が、そんな更識姉妹の様子を見てそう言い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから程無くして………

 

休憩は終わり、一同は再びスコープドッグの組み立てに戻ろうとする。

 

「少し………良い?」

 

しかし、簪がそれを制した。

 

「? 如何したんだ? 簪?」

 

「「「「「「「「「??」」」」」」」」」

 

一夏が尋ね、他の一同も怪訝な顔をする。

 

「ちょっと………待ってて………」

 

そう言い残すと、簪は整備室から出て行った。

 

「? 何だろう?」

 

突然の簪の行動に、一夏達は首を傾げる。

 

((………まさか))

 

そして、楯無と虚は嫌な予感を感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして………

 

簪は再び整備室へと戻って来た。

 

人数分のコーヒーが入ったトレーを持って………

 

「簪、それは?」

 

「私が淹れたコーヒー………食後の………一服に………どうぞ………」

 

尋ねて来た一夏に、簪はコーヒーが乗ったトレイを差し出しながらそう言った。

 

「おお、そうか。サンキュ」

 

「食後の一服か。悪くねえな」

 

「うむ、もらおう」

 

「私は紅茶党ですが………偶にはコーヒーも悪くないですわ」

 

「遠慮無く貰うわよ」

 

「頂きます」

 

「どれ………」

 

「いただきま~す!」

 

一夏、神谷、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、ティトリーは、次々にトレーからカップに入ったコーヒーを取って行く。

 

「さ………姉さん達も………」

 

簪はそう言って、楯無と布仏姉妹にもコーヒーを差し出す。

 

「わ~い、ありがとう~」

 

「あ、ありがとう………」

 

「い、頂きますね、簪様………」

 

笑顔で受け取るのほほんに対し、楯無と虚は表情を引き攣らせている。

 

「んじゃ、頂きまーす」

 

一夏がそう言って最初に口を付け、他の一同も続く様に簪が淹れたコーヒーに口を付けた。

 

そして………

 

「「「「「「「!? ゴホッ!? ゲホッ!?」」」」」」」

 

神谷とのほほん以外が全員………

 

 

 

 

 

むせる

 

 

 

 

 

「な、何だコレ!?」

 

「に、苦い………」

 

「いえ、苦い何てものじゃないですわ………」

 

「最早味の暴力よ………」

 

「う~………舌が痺れる………」

 

「コ、コレは………」

 

「みぎゃあ~~~~っ!」

 

全員が渋面を浮かべて顔を見合わせる。

 

「私のオリジナルブレンド………『ウドのコーヒー』………如何?………美味しい………?」

 

簪は、自身もそのコーヒーを飲みながらそう尋ねて来る。

 

その様には不味そうにしている様子は無い。

 

「中々面白れぇ味じゃねえか」

 

只1人、悪食な神谷だけが、平気な顔をして飲みながらそう返事を返す。

 

「そう………良かった………」

 

そう言って簪は笑みを浮かべるのだった。

 

(災難だったわね、一夏くん、皆)

 

(心中、お察し致します)

 

とそこで、同じ様にコーヒーに口を付け、渋面を浮かべていた楯無と虚が小声でそう話し掛けて来る。

 

(楯無さん………コレは一体?)

 

(あの子、昔からコーヒーに凝っててね………けど、如何にも苦いのが好きみたいで………苦味を追及している内に出来たのがコレなのよ………)

 

(私達も昔から良く飲まされて………むせてました)

 

小声で尋ねて来た一夏に、楯無と虚はそう返す。

 

「やあ~、おりむー良かったね~。かんちゃんがコーヒー振舞ってくれるって事は、皆の事を信頼した証だよ~」

 

とそこへ、自分の分のカップを片手に、のほほんがやって来て、そう言って来た。

 

「そ、そうなのか?」

 

「うん。かんちゃんがコーヒー振舞うのって、よっぽど仲の良い人か、心底信頼した人にだけだもん」

 

戸惑う一夏にそう返すのほほん。

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

そこで一夏達は再び持っている『ウドのコーヒー』に視線を遣る。

 

殺人的な苦さを誇るこのコーヒー………

 

しかし………

 

コレは彼女が信頼の証として振舞ってくれてた代物………

 

残すワケには行かない………

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

一夏達は目尻に涙を浮かべ、そのコーヒーを更に飲み続ける。

 

尚、神谷と同じ様に平然と飲んでいた様に見えたのほほんだが………

 

「う~~ん? まだちょっと苦いかな~?」

 

自分はちゃっかりと、砂糖とミルクを入れて飲んでいたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから作業は再開され………

 

数時間後………

 

「出来たぞーっ!!」

 

遂に、簪の専用機『スコープドッグ・ターボカスタム』が完成した!!

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

油に塗れた顔で、完成したスコープドッグ・ターボカスタムを見上げている簪達。

 

脚部の裏側にスラスター部品が取り付けられて機動力が増した他にも、ミッションディスク・システムにより操縦性の向上が図られている。

 

火力面でも、背部にミッションパックと呼ばれる機能拡張モジュールを装備し、右の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)に7連装ミサイルポッド。

 

左脇に13㎜ガトリングガンが装備されている。

 

右脇には2連装ミサイルポッドが装備され、右手にはお馴染みのヘヴィマシンガンが握られている。

 

更に、特殊兵装として、左非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)に3連装スモークディスチャージャーが装備されている。

 

「漸く終わったなぁ………」

 

「…………」

 

神谷は一仕事終えた感じにそう言うが、虚だけはそのスコープドッグ・ターボカスタム(以下TC)に不満げな表情を向けている。

 

「お姉ちゃ~ん。そんなにこの機体が気に入らないの~?」

 

「宛てにならない部品がザッと50は有るわ」

 

のほほんがそう問い質すと、虚は憮然とした様子でそう返す。

 

そう、このスコープドッグ・TC………

 

見てくれこそは立派だが、元はスクラップ部品の寄せ集め………

 

その為、組み込まれた部品の中には、信頼性が置けない物も多々有ったのである。

 

「気にしたら切りが無いよ~。それに、かんちゃんは満足してるみたいだけど?」

 

そう虚に言うのほほん。

 

彼女の言う通り、簪はスコープドッグ・TCを満足そうな目で見上げていた。

 

「ハア~~………簪様もお嬢様とは別の意味で手を掛けさせられる方ですね………」

 

その簪の姿を見た虚は、力無く溜息を吐き、額に手を当てる。

 

「それにしても………何だか無骨なISね………」

 

と、鈴がスコープドッグ・TCを見ながらそう言う。

 

確かに、箒達の専用機と比べると、スコープドッグ・TCは元の部品が部品な事はあるが、量産機に近く、カラーリングもまるで迷彩の様で、かなり無骨な印象を受けた。

 

「じゃあ何かパーソナルマークでも入れたら如何かな? 僕みたいにさ」

 

すると、自らのISにグレン団のマークを入れていたシャルがそう提案する。

 

「パーソナルマークか………『レッドショルダー』の様にか?」

 

「? 『レッドショルダー』?」

 

と、それを聞いたラウラが謎の単語を発し、箒が首を傾げる。

 

「ルーマニア軍の特殊IS部隊だ。凄まじい戦闘能力を誇るが、色々と黒い噂の絶えない部隊でな………生き残る為には仲間の血を吸い、死人の肉さえ喰らうと言われている。地獄からでも這い戻って来る連中らしい」

 

「聞いた事ありますわ………その名の通り、右肩が赤く塗られたISを使っているのですが、その赤は敵の血潮で染められた暗い赤だと………人呼んで、吸血部隊………」

 

ラウラの話を聞いて、セシリアも思い出した様にそう言う。

 

「こ、怖いニャ~」

 

怪談染みたレッドショルダーの噂に、ティトリーは思わずそう呟く。

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

悍ましい話を聞いて、他の一同も思わず沈黙するが………

 

「へえ~、吸血部隊かぁ~。何かカッコイイな、そう言うの」

 

レッドショルダーを中2病的なモノと捉えてしまった一夏が、空気を読まずにそんな事を言う。

 

そして、スコープドッグ・TCを見上げると………

 

「コイツの肩は赤く塗らないのか?」

 

そう尋ねてしまう。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

途端に、神谷を除いた一同が、一夏を睨み付ける。

 

「織斑くん………貴方、塗りたいの?」

 

楯無が底冷えする様な声で一夏にそう言う。

 

「!?………へっ、冗談だよ」

 

そこで漸く空気を察した一夏は、慌ててそう誤魔化すのだった。

 

「まあ、取り敢えず完成したんだ。先ずはそいつを喜ぼうじゃねえか」

 

と、流石に不憫に思ったのか、神谷がフォローするかの様にそう言う。

 

「………ありがとう………皆のお蔭で………この子は………完成させる事が………出来た………」

 

「あ、いや、大した事ないよ」

 

簪の言葉に、一夏がそう答えると、他の一同も気にするなと言う表情を見せる。

 

「…………」

 

と、そこで簪は一夏の事を見据える。

 

「な、何かな………?」

 

地獄を潜り抜けて来た様な目をしている簪に見詰められ、一夏は若干戸惑う。

 

「織斑 一夏………タッグマッチ………貴方となら………組んでも良いわ………」

 

「えっ!?」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

(ほう?)

 

その言葉に、一夏と箒達は驚き、神谷も内心で軽く驚く。

 

「ホ、ホントか!? で、でも如何して急に………?」

 

「私は………これでもクソ真面目な女でね………借りは………返すわ………」

 

無表情のまま、簪はそう言う。

 

「そ、そうか………取り敢えず、ありがとな! 早速申し込みに行こうぜ!!」

 

一夏は簪の手を取ると、タッグマッチの申し込みに職員室へと向かうのだった。

 

「………今回の件は承諾済みだったが………」

 

「やはりどこか納得行きませんわね………」

 

と、それを見送った後、箒とセシリアがそう言い合う。

 

「ゴメンね、皆」

 

「ああもう! こうなったらタッグマッチでアイツと当たったら思いっきりブン殴ってやるんだから!!」

 

「それぐらいはせんとコッチの気が収まらんな………」

 

楯無が一同に向かって謝ると、鈴とラウラが若干殺気を醸し出しながらそんな事を口にする。

 

「ありゃ~、これはタッグマッチで血の雨が降るかな~」

 

「一夏くん………死なないでね」

 

その光景を見て、他人事の様にそう言うのほほんと、一夏を心配する虚だった。

 

「皆頑張ってね!………あ~、誰を応援しよう………」

 

1人専用機持ちで無いティトリーは、皆に激励を飛ばすが、誰を応援するかで悩む。

 

「簪の奴………一夏と組む方を選んだか………」

 

「ね、ねえ神谷………約束だよ」

 

「分かってるって。タッグマッチ、お前と組ませて貰うぜ」

 

「アハッ! やった!!」

 

そして、簪が一夏と組む事にした為、フリーになった神谷は、シャルと組む。

 

「背中は任せたぜ、シャル」

 

「勿論だよ、神谷」

 

迫るタッグマッチに向けて、2人は早くも闘志を燃やし始めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪のモノローグ………

 

私の運命を歪ませた姉は、もう私の敵ではなかった………

 

益々泥沼に引き摺り込まれる様な予感に怯えながら、一方、私は驚いていた………

 

自分がこれ程までに願った事があるだろうか?

 

もっと人と関わりたいと………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

遂に出ました、コイツの肩は赤く塗らないのか?
この遣り取りは、最低野郎なら1度はやりたい遣り取りです。

そしてレッドショルダーがISの世界に実在!
果たして、どう絡んでくるのか?

いよいよ組み上がったスコープドッグ・TCと、一夏と組むことにした簪。
次回はいよいよタッグマッチですが………
イベントは襲撃されるのがISのお約束。
果たして………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第43話『大丈夫………私は………そう簡単に………死なない』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第43話『大丈夫………私は………そう簡単に………死なない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏が簪と組み、タッグマッチに参加する事が決まり………

 

残っていたメンバーもバタバタとペアを決めて行った。

 

シャルは当然神谷と組み、箒は楯無と組む。

 

セシリアは鈴と組み、ラウラは何と真耶と組む事にしたらしい。

 

学園に居る専用機持ちは、厳密には違う神谷を含めて11人な為、1人溢れてしまう者が出てしまう為の措置との事である。

 

それから時間はアッと言う間に流れ………

 

タッグマッチトーナメントの当日となった。

 

開会の挨拶の際、楯無が生徒会公認で賭けを行うと言うサプライズが有ったりもしたが、開会式自体は滞りなく行われ、トーナメント表が発表される。

 

記念すべき1回戦の組み合わせは………

 

一夏・簪ペアVS箒・楯無ペアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4アリーナの一夏・簪ペアのピット………

 

そこで一夏はISを装着した状態で1人、簪を待っている。

 

「遅いな~………簪さん、何やってるんだろう?」

 

未だに姿を見せない簪に、内心焦りを感じる一夏。

 

ピット内には、彼女のスコープドッグ・TCだけが、寂しく降着姿勢を取っている。

 

スクラップの部品を寄せ集めたとは言え、彼女の機体も専用機。

 

普通ならば待機形態にして持ち運ぶべきなのだが………

 

機体の開発に時間を取られてしまった簪は、一夏と共に前日の夜遅くまで激しい特訓に明け暮れていた。

 

その為、エネルギーが無くなりかけており、現在ピットの設備で補給中なのである。

 

[一夏。簪の奴、まだ来ねえのか?]

 

とそこで、別アリーナのピットに居た神谷がそう通信を送って来る。

 

「ああ、アニキ。うん、まだみたいだ………」

 

[如何したんだろうね? 簪さん]

 

一夏が答えると、シャルも割り込んで来て、心配そうにそう言う。

 

「まさか、イキナリ楯無さんと戦う事になって、緊張の余り逃げちゃったとか?」

 

[一夏! アイツがそんな玉じゃねえ事は分かってるだろうが!]

 

思わずそんな事を考える一夏に、神谷がそう言い放つ。

 

「そ、そりゃ勿論………」

 

と、一夏がそう言った時………

 

突如アリーナ内に激しい振動が走った!!

 

「うわぁっ!?」

 

通信は強制的に切断され、一夏は震動で思わず床に倒れ込む。

 

「な、何だ!?」

 

慌てながらも状況を確認しようとすぐに起き上がる。

 

すると………

 

先程の衝撃で上がった粉煙の中に揺らめく、赤い『何か』の姿が、目に飛び込んで来た………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

リーロンの研究室………

 

「何が起こった! 状況は!?」

 

千冬が、学園全体の様子を映しているモニターを見ながら、リーロンにそう問い質す。

 

「学園内の至る所に所属不明機(アンノウン)が出現したわ」

 

「またロージェノム軍か、はたまた亡国企業か………」

 

「アラ? 所属不明機(アンノウン)には何れもISのエネルギー反応が有るわ」

 

「なら、また例の無人ISか?」

 

クラス対抗戦や、学園祭の際に姿を見せた無人ISの事を思い浮かべる千冬。

 

「いえ、ちょっと待って………コレは………」

 

しかし、リーロンは何かに気づいた様に声を挙げる。

 

「如何した?」

 

「………コレは厄介な事になったかもしれないわ………所属不明機(アンノウン)ISにIFF反応ありよ」

 

「!? 何っ!?」

 

リーロンの報告に千冬は驚きの声を挙げる。

 

IFFが確認されたIS………

 

即ちそれは、公式に登録されているコアを持つ、列記とした国の軍隊のISだと言う事だ。

 

それが学園を襲撃している………

 

形骸化しながらも、外部不干渉と言う不文律を持つIS学園を………

 

「何処の国のISですか!?」

 

「ちょっと待ってね………出たわよ。でもコレは………」

 

すぐにリーロンは学園を襲撃しているISの所属を割り出す。

 

だが、割り出された所属は、更に驚くべきモノだった。

 

「!? ルーマニア軍第10師団トランシルバニア方面軍第24戦略機甲歩兵団特殊任務班X-1………レッドショルダーだと!?」

 

「悪名高き吸血部隊ね………」

 

狼狽する千冬を尻目に、リーロンはまるで他人事の様に冷静にそう言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レッドショルダーがIS学園を襲撃するちょっと前………

 

簪は如何していたかと言うと………

 

「ゴメンね、かんちゃ~ん。試合も近いのに手伝って貰っちゃって~」

 

「簪様、申し訳ありません」

 

「いい………気にしないで………自分の事だし………」

 

布仏姉妹と共に、学園で使用するIS格納庫へ向かっていた。

 

実は、前述した通り、簪は前日の深夜まで一夏とタッグマッチに向けた特訓を行っており、そのせいで専用機のスコープドッグ・TCは現在第4アリーナのピットでエネルギー補給中である。

 

だが、しかし………

 

スコープドッグ・TCの全ての武器が実弾である事をうっかり失念していたのほほんが、弾薬の補給を忘れてしまっていたのだ。

 

つい先程になってそれを思い出し、第4アリーナに向かおうとしていた簪の元へ、虚と共に向かい、事のあらましを伝えて、弾薬を取りに格納庫へと向かっている、と言うワケである。

 

「全く………コレが仕事だったら厳罰ものよ、本音」

 

「ゴメンナサ~イ」

 

流石に今回のミスは堪えたのか、虚の言葉にのほほんは項垂れて謝罪する。

 

「………私は………気にしてない………」

 

しかし、簪はそんなのほほんにそう言い放つ。

 

そうこう言っている内に、IS格納庫へと辿り着く。

 

「着いた………」

 

簪は許可を貰って受け取っていた鍵を使い、格納庫の扉を開錠すると、扉をスライドさせて中に入る。

 

「え~と、弾薬は~」

 

「もう、場所くらい把握しておきなさい」

 

「…………」

 

布仏姉妹が出入り口の傍を探し、簪は奥の方へと向かって行き、姿が見えなくなる。

 

すると………

 

突然轟音が響き、格納庫の屋根が崩れ、『何か』が格納庫内に侵入してきた!!

 

「!? キャアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

「!? 何っ!?」

 

布仏姉妹が驚きの声を挙げると、徐々に粉煙が治まってきて………

 

「? んだ? 人が居るぞ?」

 

「オイオイ、予定外だぞ」

 

右の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が血の様に赤く染められ、闇の様に黒いIS………『ブラッドサッカー』を装着している女性2人の姿が露わになった。

 

「!? IS!?」

 

「その赤い右肩………まさか!? レッドショルダー!?」

 

現れた存在がISである事に驚くのほほんと、そのISの右の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が赤く染められている事から、ラウラが言っていたレッドショルダーの事を思い出す虚。

 

「へえ~、良く知ってるじゃねえか」

 

「その通りよ。私達は人呼んで吸血部隊………レッドショルダーだ!」

 

レッドショルダーの2人は、女性ながらも荒んだ口調で話す。

 

それが彼女達が熟練のIS乗りである事………

 

そして、真面な人間でない事を証明していた。

 

「あ、貴女達はルーマニア軍のIS部隊の筈です! 何故IS学園を襲うのですか!? これは立派な国際問題ですよ!!」

 

虚は恐怖で身体を振るわせながらも、のほほんを庇いながらレッドショルダーの2人に向かってそう叫ぶ。

 

「国際問題~?」

 

「ギャハハハハハハッ!!」

 

虚の言葉に、レッドショルダーの2人の内、片方は馬鹿にした様な言い方をし、片方は嘲笑う。

 

「な、何がおかしいんですか!?」

 

「馬鹿かお前!! ルーマニアはとっくにロージェノムによって壊滅させられたんだよ!!」

 

「つまり、もうルーマニアなんて国は存在しないんだよ!!」

 

「なっ!?」

 

レッドショルダーの2人から齎された情報に、虚は驚愕する。

 

「な、なら如何して!?」

 

「決まってんだろ!!」

 

「アタシたちゃ、ロージェノム軍に鞍替えしたのさ!!」

 

「「!?」」

 

この言葉には、虚だけでなくのほほんも驚愕した。

 

彼女達は祖国を………

 

いや、人類そのものを裏切ったのである。

 

「ど、如何して………!?」

 

「ああ? お前、今の戦況が分かってんのか?」

 

「このまま行っても、人類は何れ負けるに決まってるわ。なら、ISって言う最強の兵器を引っ提げてロージェノムの元に下るってのが賢い選択じゃん!!」

 

一片も恥じる様子は無く、そう言い放つレッドショルダーの2人。

 

要するに、我が身可愛さに人類を裏切ったのだ。

 

最低という言葉は、こういった連中にこそ相応しい………

 

「そ、そんな………」

 

「さて………此奴等、如何する?」

 

虚が信じられないと言う様な表情をしていると、レッドショルダーの片方が、もう片方にそう問い質す。

 

「へへっ………ブッ殺せ!!」

 

片方はそう言うと、手に持っていたマシンガン・ブラッディライフルを布仏姉妹へ向けた。

 

「! 本音!!」

 

「お姉ちゃん!!」

 

虚とのほほんは、互いの身体を抱き合い、その場に座り込む。

 

「へへっ」

 

下種な笑みを浮かべ、レッドショルダーの2人はブラッディライフルの引き金を引こうとする。

 

と、その時!!

 

布仏姉妹の後ろに整列させて置いたあった学園の授業で使う量産機のラファール・リヴァイヴが横に弾き飛ばされたかと思うと………

 

その後ろに置いてあった、修理中と思われる打鉄が、ホバー移動で突撃!!

 

布仏姉妹を股下に通して躱すと、レッドショルダーの2人に組み掛かった!!

 

「!? 何っ!?」

 

「まだ居やがったのか!?」

 

戸惑うレッドショルダーの2人を、力任せに押して行く打鉄。

 

そのまま、格納庫の壁をブチ破って外に飛び出す!!

 

飛び出した先は、芝生の生えた斜面となっており、レッドショルダーの2人の内、片方はその斜面上を転がり、片方はずり落ちて行く。

 

只1人、打鉄だけが見事にバランスを取り、立ち状態を維持しながら滑り降りていた。

 

「ぐあっ!? クソがぁ!!」

 

やがて斜面をずり落ち切ると、レッドショルダーの片方が悪態を吐きながら起き上がろうとしたが………

 

そこへ打鉄が、再び地面に叩き付けるかの様に右アームでの拳を顔面に叩き付ける!!

 

「がはっ!?」

 

「コイツゥッ!!」

 

と、その隙にもう1人のレッドショルダーが態勢を立て直し、打鉄に後ろから襲い掛かろうとするが………

 

打鉄は高速超信地旋回を行い、背後から襲い掛かろうとしていたレッドショルダーに、左アームでのパンチを叩き込んだ!!

 

「!? かんちゃん!?」

 

「!? 簪様!!」

 

とそこで、格納庫から出て来た2人が、斜面の上の方から打鉄を見下ろし、その操縦者が簪である事を確認する。

 

すると………

 

ボンッ! という音を立てて、簪が装着している打鉄の左アームパーツが強制自切された!

 

如何やら修理中の機体である事もあり、先程のターンしながらのパンチで無理が祟った様である。

 

「…………」

 

それでも簪は冷静に、倒れているレッドショルダーの2人に警戒を払っていると………

 

突如そのレッドショルダーの2人を巻き込んで、簪に弾幕が浴びせられる!!

 

「こちらキャシー。学園のISを発見した。繰り返す。学園のISを発見した」

 

その弾幕を浴びせている者………空中に現れたキャシーと言う名のレッドショルダーは、そう通信を送る。

 

[キャシー、戦闘中か?]

 

と、通信先からそう言う言葉が返って来た時、簪はホバー移動で弾幕の中から離脱。

 

すると、先に居たレッドショルダーの2人の内、片方の機体が弾幕によってエネルギーが切れ、ISが解除された。

 

「量産機1機が抵抗しているが問題無い。間もなく制圧する」

 

そう返信すると、逃げる簪を追う様にブラッディライフルを発砲するキャシーだが、簪はホバー移動だけで躱して行く。

 

しかし………

 

切り返しの為に一瞬足を止めた瞬間………

 

「捕まえたぜ!!」

 

残っていたレッドショルダーが、後ろから組み付いて、動きを封じた!!

 

「良くやった! そのまま抑えて居ろ!!」

 

キャシーは動けなくなった簪にブラッディライフルの弾丸を浴びせる。

 

良い的にされている簪だったが………

 

「!? ぐあああっ!?」

 

何と、簪を抑えていたレッドショルダーの方が、先にエネルギーが尽きて吹き飛ばされてしまった!!

 

地面の上を転がると、ISが解除されるレッドショルダー。

 

「!? 何っ!?」

 

キャシーは驚愕する。

 

如何やら、『偶然』にも弾が逸れて、後ろで抑えていたレッドショルダーの方にばかり命中してしまい、先にエネルギーが尽きてしまった様である。

 

「コノォッ!!」

 

ムキになった様にブラッディライフルを連射するキャシー。

 

「…………」

 

しかし、簪は棒立ちしているにも関わらず、キャシーが放つ弾丸は多くが外れている。

 

更に当たったとしても、『偶々』全て装甲の厚い所に当たるか、浅い角度で跳弾しているのだ。

 

「コイツ………不死身か!?」

 

簪の得体の知れない恐ろしさを感じ取り、戦慄するキャシー。

 

すると、その時………

 

銃撃の振動で、簪が体当たりで飛び出した時に斜面の上に落としていたブラッドサッカーのブラッディライフルが滑り、斜面を転がり始めたかと思うと………

 

『運良く』簪の手元に転がって来た。

 

「!?」

 

キャシーが驚いた瞬間!!

 

「…………」

 

簪は残っていた右アームでそのブラッディライフルを摑むと、空中に居たキャシー目掛けて単射発砲!!

 

放たれた弾丸が、キャシーのブラッドサッカーに命中したかと思うと………

 

「!? ぐあああっ!?」

 

キャシーの全身にスパークが走り、ブラッドサッカーは墜落。

 

そのまま装着が解除された!!

 

「!? ええっ!? 1発で!?」

 

「まさか!? さっきの攻撃が………ISコアに!?」

 

のほほんが驚愕し、虚がまさかという顔になる。

 

実は、世界最強の兵器と言われるISだが………

 

たった1つだけ、致命的とも言える弱点が存在するのだ。

 

それは………

 

『心臓であり頭脳であるISコアに直接攻撃を受けた場合、一時的に全機能が麻痺してしまう』と言う弱点である。

 

致命的な弱点であるが、ISコアは通常攻撃を受け難い場所に装備され、尚且つ厚い装甲に加えて、コア自体もシールドエネルギーで守られている為、この点は今まで問題視されなかった。

 

だが、先程簪が放った弾丸は、ブラッドサッカーのコアが狙い易い場所にあり、尚且つ軽装甲機であり、更に不具合でシールドが働かなかった事で、『奇跡的にも』ISコアを直接狙い撃ったのである。

 

「…………」

 

と、そこで打鉄のエネルギーが尽き、簪は乗り捨てる様に打鉄から降りる。

 

「かんちゃん!」

 

「簪様!!」

 

そこで、我に返った布仏姉妹が、慌てて簪に駆け寄る。

 

「本音………虚さん………怪我は無い………?」

 

何時もの様に無表情で尋ねる簪。

 

その身体は清々しいまでに『無傷』である。

 

「簪様こそ大丈夫なんですか!?」

 

「大丈夫………」

 

「相変わらず無茶な戦い方するね~」

 

のほほんが呆れた様にそう言う。

 

「兎に角………先生に連絡を………この人達を………拘束………」

 

と、簪がそこまで言った瞬間!!

 

突如、倒れていたキャシーを含めたレッドショルダー達が次々に爆発した!!

 

「「!? キャアッ!?」」

 

「!?」

 

布仏姉妹が蹲り、簪が驚きを露にする。

 

爆発地点には炎と共に黒煙が上がっており、レッドショルダー達は肉片1つ残さず消し炭になっていた。

 

「コ、コレは………」

 

「ひ、酷い………」

 

「如何やら………失敗した時の………措置の為に………ISに自爆装置が………取り付けられていたみたいね………」

 

狼狽する布仏姉妹と、冷静にそう分析する簪。

 

(………他の皆は………姉さんは………無事なの………)

 

と、そこで一夏達と楯無の事が頭を過ぎる。

 

「…………」

 

簪は斜面を駆け上がり、再び格納庫へ飛び込む。

 

「あ!? かんちゃん!?」

 

「簪様!?」

 

布仏姉妹が慌てて後を追って格納庫内に入ると、簪は既にラファール・リヴァイヴを装着し、スコープドッグ・TC用の弾薬を詰めたコンテナを持っていた。

 

「簪様! 如何するお積りですか!?」

 

「他の皆が………心配………応援に………行く………」

 

「無茶だよ~、かんちゃん~!」

 

淡々と言う簪に、のほほんが何時もの様に間延びした言い方ながらも止めに入る。

 

「大丈夫………私は………そう簡単に………死なない………2人も………早く逃げて………」

 

そんなのほほんに、簪はフッと笑みを向けたかと思うと、PICを起動して飛び上がり、取り敢えず一夏と楯無が居る第4アリーナへと向かう。

 

「簪様ー!!」

 

「かんちゃーん!!」

 

布仏姉妹は、簪が飛んで行った方向に向かって叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4アリーナ内………

 

「ホラホラ! 如何した!? 豚みたいに鳴きながら逃げ回ってみやがれ!! ヒャハハハハハッ!!」

 

「クソォッ!!」

 

悪態を吐きながらも、ロケットランチャー・HRAT-23 ハンディロケットガンを持つレッドショルダーのロケット弾から逃げ回る一夏。

 

「アタシにもやらせてよ!!」

 

とそこで、バズーカ砲・SAT-03 ソリッドシューターを持った別のレッドショルダーが、一夏目掛けて砲弾を放つ。

 

「!? うおっ!?」

 

一夏は咄嗟に錐揉みして砲弾を躱す。

 

外れた砲弾は、無人のアリーナ観客席に直撃し、爆発する。

 

「あ、あっぶねえ………」

 

「ヒャアアアァァァァーーーーーッ!!」

 

思わずそう呟いた一夏に、奇声を挙げながらハンディロケットガンを持つレッドショルダーが左腕を構えて襲い掛かる。

 

「!?」

 

自分に向かって振り下ろされるハンディロケットガンを持つレッドショルダーの左の拳に、一夏は咄嗟に雪片弐型(実体剣モード)を構える。

 

すると、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーの左の拳は、簪のスコープドッグ・TCと同じ様にアームパンチ機構を持っていたらしく、命中した瞬間に腕内部で火薬が破裂し、左手が前に押し出される!!

 

「!? うわあぁっ!?」

 

衝撃を殺し切れず、一夏は背中からアリーナの観客席に叩き付けられる。

 

「ぐうう………」

 

「死ねぇっ!!」

 

「ヒャッハーッ!!」

 

その一夏に向かって、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーと、ソリッドシューターを持ったレッドショルダーが同時に射撃を開始する!

 

「!? うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

 

一夏は叫びを挙げると、アリーナの観客席の上を転がって回避して行くのだった。

 

一方、同じアリーナに居た箒と楯無も………

 

「オラオラオラオラオラッ!!」

 

両手に大口径ハンドガン・GAT-49 ペンタトルーパーを握ったレッドショルダーが、箒と楯無に向かって大口径弾を見舞って来る。

 

「くうっ!!」

 

楯無が前に出て、水のヴェールを使って防ぐ。

 

構わずに射撃を続けていた両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーだったが、やがてペンタトルーパーはカシンッ、カシンッという乾いた音を立てて弾切れを起こす。

 

「貰ったあぁ!!」

 

その隙を見逃さず、楯無の陰に隠れていた箒が、雨月と空裂で斬り掛かって行く。

 

しかし………

 

「!? 箒ちゃん! 避けて!!」

 

「!?」

 

楯無の警告に従い、箒が突撃を中止して急停止すると………

 

すぐ眼前に、エネルギーの柱が降り注いできた!!

 

エネルギーの柱は地面に命中し、派手に爆発を起こす!!

 

「うわあぁっ!?」

 

爆風で後退させられる箒。

 

「チッ! 外したか………運の良い奴め」

 

そこで上空から、エネルギー弾を放つ大型対艦火器・GAT-35 ロックガンを持ったレッドショルダーが姿を現した。

 

「確り狙え! このクズ!!」

 

「ああ!? んだとぉ!? テメェから先にブチ殺してやろうかぁ!?」

 

両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーと、ロックガンを持ったレッドショルダーと口汚い言い争いを始める。

 

「クッ! コイツ等!!」

 

「箒ちゃん、落ち着いて! あんな奴等でも、腕は確かよ………迂闊に仕掛けたら危険よ」

 

その口汚い口論に耐えかねた箒が、斬り掛かって行きそうになったが、楯無が止める。

 

「チイッ! さっさと片付けるぞ!!」

 

「ヘイヘイ、了解!!」

 

と、両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーと、ロックガンを持ったレッドショルダーは何の前触れも無く口論を止め、箒と楯無に向かって再装填したペンタトルーパーとロックガンで攻撃する。

 

「「!?」」

 

突然再び襲い掛かって来た事に戸惑いながらも、2人はその攻撃を回避する。

 

「箒! 楯無さん!!」

 

「人の心配してる場合かぁ? 僕ちゃんよぉ!!」

 

そちらの光景に視線をやってしまった一夏が、ソリッドシューターを持ったレッドショルダーから攻撃を受ける。

 

「!?」

 

慌てて回避する一夏だったが………

 

「貰ったぁっ!!」

 

回避先を読まれていた為、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーが放ったロケット弾が、連続で命中する。

 

「!? うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

シールドエネルギーが大きく削られ、一夏は黒煙の尾を曳きながら落下して行く。

 

「ぐうっ!?」

 

しかし、今度は地面に叩き付けられる直前で姿勢を立て直し、軟着陸する事に成功する。

 

「そらそらそら!!」

 

「踊れ踊れ踊れ!!」

 

と、地上の一夏に向かって、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーとソリッドシューターを持ったレッドショルダーが、絶え間無く弾幕を張る!!

 

「! クソォッ!!」

 

ホバー移動で地上を滑って回避行動を取る一夏だが、頭上を押さえられてしまい、飛行出来なくなっていた。

 

(マズイ! このままじゃジリ貧だ………何か手は!?)

 

何か手はないかと頭を回転させる一夏だが、良い手は何も思い浮かばない。

 

「ハハハハハハハッ! こりゃ良いぜ!!」

 

「噂の世界初の男のIS操縦者も大した事ないねぇ!」

 

そんな一夏をまるで嬲るかの様に、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーとソリッドシューターを持ったレッドショルダーはそう言い放つ。

 

「まあ、精々逃げ廻りな!」

 

「飽きたら殺してやるからよぉ! ヒャハハハハハハハッ!!」

 

「チ、チクショウ………」

 

悔しがる一夏だが何も出来ない………

 

と、その時!!

 

「ん?」

 

ハンディロケットガンを持つレッドショルダーが、ハイパーセンサーに反応がある事に気づく。

 

「? 如何した?」

 

「南西から1機………ISが来るぞ」

 

「何?」

 

その言葉で、ソリッドシューターを持ったレッドショルダーも、南西の方角を見遣る。

 

やがて、南西の空の一点に、黒い影が現れる。

 

「…………」

 

それは、ラファール・リヴァイヴを装着し、スコープドッグ・TC用の弾薬の入ったコンテナを持った、簪の姿だった!!

 

「!! 簪!!」

 

「!? 簪ちゃん!?」

 

一夏が声を挙げると、楯無も簪に気づく。

 

「チッ! キャシーの奴………格納庫を抑えるのに失敗しやがったな………」

 

「退け! アタシが片付けてやる!!」

 

と、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーが前に出ると、向かって来る簪に向かって、ロケット弾を連射した!!

 

白煙の尾を曳きながら簪に向かって行くロケット弾。

 

「…………」

 

しかし、何を考えているのか、簪は躱そうとする様子を見せない。

 

「!? 簪! 何やってるんだ!!」

 

「簪ちゃん! 逃げてぇ!!」

 

一夏と楯無が叫ぶが、簪は構わず突っ込んで行く。

 

そして、遂に!!

 

ロケット弾は全弾、簪に命中!!

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

簪は悲鳴を挙げ、黒煙に包まれて、アリーナのピットへと墜落!!

 

ピットの屋根を破壊して、内部へと落下!!

 

その直後に、ピット全体が吹き飛んだ!!

 

「簪いいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!!」

 

「嫌あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「そ、そんな………」

 

一夏と楯無が悲痛な叫びを挙げ、箒も動揺する。

 

「ハハハハハッ! 心配するな! すぐにお前達も後を追わせてやるよ!!」

 

そんな一夏達を楽しそうに見ながら、ロックガンを持ったレッドショルダーがそう言う。

 

「ハンッ! 勢い良く出て来たわりには、呆気無いもんだったな………」

 

「所詮は学生………アタシ等みたいに戦場を知ったIS乗りには敵わないさ」

 

ハンディロケットガンを持つレッドショルダーとソリッドシューターを持ったレッドショルダーは、黒煙の上がるピットを見下ろしながらそう言い合う。

 

「ど~れ。マヌケな学生さんの死体でも拝んでやるかぁ」

 

と、ソリッドシューターを持ったレッドショルダーが、そう言いながら高度を下げ始めた。

 

………その瞬間!!

 

黒煙の中から銃弾が連続で放たれ、ソリッドシューターを持ったレッドショルダーの全身を襲った!!

 

「!? ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

全身に絶え間無く銃弾を浴び、アッと言う間にシールドエネルギーが尽きたソリッドシューターを持ったレッドショルダーは、そのままアリーナの地面に落下。

 

地面に叩き付けられると共にISが解除され、自爆機能が働いて消し飛んだ!!

 

「「「なっ!?」」」

 

「「「!?」」」

 

レッドショルダー達と一夏達が驚愕する。

 

やがて、燃え盛るピットの跡地から………

 

機械音の混じった足音を響かせて、炎の中に1つの影が浮かぶ。

 

それは、専用機であるスコープドッグ・TCを装着した………

 

簪の姿だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪のモノローグ……

 

飛び交う銃弾と炎、目眩………

 

きな臭い雰囲気………

 

私はこの時、戦場に立っていた………

 

ボトムズと共に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

タッグマッチ開幕ですが、例によってイベントは襲撃されます(笑)
しかし、今回はやや深刻な事態に………
何と!
前回噂されていたレッドショルダーが、人類の裏切り者としてロージェノム側に付いたのです。
口汚いながらも凄腕のレッドショルダーを相手に苦戦する一夏達。

しかし、レッドショルダー達は既に最大に過ちを犯していた………

そう………

簪を敵に回すと言う過ちを………

今回の話は、ボトムズの劇場版『孤影再び』を知っているとより楽しめるかと思います。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第44話『………私には………素晴らしい仲間が………居るじゃない………』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第44話『………私には………素晴らしい仲間が………居るじゃない………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーマニア軍のIS部隊………

 

ルーマニア軍第10師団トランシルバニア方面軍第24戦略機甲歩兵団特殊任務班X-1・レッドショルダー。

 

通称・吸血部隊の襲撃を受けたIS学園。

 

我が物顔で学園を蹂躙するレッドショルダーは、一夏達専用機持ち達にも襲い掛かる。

 

そんな混乱の中で………

 

簪は、IS格納庫を襲撃して来たレッドショルダーを退け、そのまま格納庫に在った量産機を使ってアリーナへと向かい………

 

アリーナに居たレッドショルダーに一杯食わせる事で、専用機への搭乗に成功………

 

遂にスコープドッグ・TCが………

 

初の戦闘を経験する事となったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第4アリーナ………

 

「…………」

 

炎が燃え盛るピットの跡地の中で、スコープドッグ・TCを装着した簪は佇んでいる。

 

その姿は正に………

 

むせる

 

「………ハッ!? コ、コイツゥ!!」

 

と、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーが漸く我に返り、炎の燃えるピット跡地に佇む簪に向かって、ロケット弾を放つ!!

 

「………!!」

 

その瞬間、簪はスコープドッグ・TCの脚部裏側の装甲を展開。

 

バーニアを出現させたかと思うと、そのまま一気に加速し、半壊したカタパルトから飛び出した!!

 

ハンディロケットガンを持つレッドショルダーが放ったロケット弾は、先程まで簪が居たピットの跡地を完全に吹き飛ばす。

 

カタパルトから飛び出した簪はそのままアリーナの地面に降下。

 

着地の際に衝撃を緩和する為、降着姿勢を取ると再び立ち上がる。

 

「チイッ!!」

 

「…………」

 

ハンディロケットガンを持つレッドショルダーはロケット弾を撃ち続けるが、簪はローラーダッシュでバックしながら回避して行く。

 

「…………」

 

そして、バイザーにあるターレットレンズを回転させたかと思うと、左脇腰の13㎜ガトリングガンを、ハンディロケットガンを持つレッドショルダー目掛けて発砲する。

 

「そんな攻撃に!!」

 

ハンディロケットガンを持つレッドショルダーはアッサリと回避するが………

 

「丸見えね………」

 

回避先を呼んでいた簪は、ヘビィマシンガンを2連射する。

 

「!?」

 

咄嗟に身体を捻るが、ヘビィマシンガンの弾丸は、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーの左の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)に命中。

 

「チイッ!!」

 

ハンディロケットガンを持つレッドショルダーが被弾したパーツをパージすると、パージされたパーツは爆散する。

 

「このアマァ! よくもやりやがったなぁ!!」

 

そう言い放つと、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーは接近戦を仕掛けようと地上に着地。

 

そのままホバー移動で簪に突撃して行く。

 

「…………」

 

それに対し、簪の方もハンディロケットガンを持つレッドショルダーに向かって、ジェットローラーダッシュで突撃する。

 

「馬鹿め! 死ねぇ!!」

 

向かって来る簪を恰好の獲物と思ったハンディロケットガンを持つレッドショルダーは、ロケット弾を見舞う。

 

「!!」

 

だが、そのロケット弾が命中するかと思われた瞬間!!

 

簪はターンピックを使い、ターンする様に回転してロケット弾を避け、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーの背後を取った!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「…………」

 

そして、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーが反応するよりも早く、ヘビィマシンガンを連射する!!

 

「!? グアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

容赦無く弾丸を全身に浴びせられ、ハンディロケットガンを持つレッドショルダーのシールドエネルギーが見る見る削られて行く。

 

「…………」

 

そして最後にトドメとばかりに簪は突撃し、アームパンチを叩き込んだ!!

 

「グギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

ハンディロケットガンを持つレッドショルダーはぶっ飛び、完全にシールドエネルギーが0になってISが解除されると、自爆装置が作動して消し飛ぶ!!

 

「…………」

 

その爆発で上がる炎を、ターレットレンズ越しに簪は見据える。

 

「す、凄い………」

 

「何て無駄の無い動きだ………」

 

「簪ちゃんにアレほどの強さが………」

 

その光景を見ていた一夏、箒、楯無には、戦慄にも似た驚きが走っていた。

 

「アイツ! 並みのIS乗りじゃないぞ!!」

 

「チッ! 応援を呼べ! 取り囲んで一気に潰すぞ!!」

 

と、同じ様にその光景を見ていた、箒と楯無の相手をしていた両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーとロックガンを持ったレッドショルダーが仲間へと通信を送る。

 

「その前に………片付けさせて………もらうわ………」

 

だが、そうはさせまいと、簪は両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーとロックガンを持ったレッドショルダーへ、ヘビィマシンガンの弾丸を浴びせる。

 

「! チイッ!!」

 

「クソがぁ!!」

 

その攻撃を回避すると、両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーとロックガンを持ったレッドショルダーは、簪を挟み撃ちにする様に射撃を浴びせ始める。

 

「…………」

 

ジェットローラーダッシュで地上を疾走し、攻撃を回避する簪。

 

そのまま撹乱する様に連続ターンを決めながらヘビィマシンガンでの攻撃を加える。

 

「チイッ!? ちょこまかとぉ!!」

 

「………うん?」

 

両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーは苛立ちを露にするが、ロックガンを持ったレッドショルダーはその簪の姿に違和感を感じる。

 

「オイ、妙だぞ」

 

「ああ? 何がだ?」

 

「何で奴はずっと地上を動いている? 飛んでコッチを追撃すれば、ケリが着くのは早い筈だ」

 

相変わらず地上移動を続ける簪を見ながら、ロックガンを持ったレッドショルダーはそう言う。

 

「そう言えば………」

 

「もしかして、アイツ………飛べないのか?」

 

そう言い合うと、両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーとロックガンを持ったレッドショルダーはニヤリと笑い合う。

 

「高度を取れ! 奴は空へ追って来れない!!」

 

「上から嬲り殺しにしてやるぜ!!」

 

そして、2人して飛行高度を上げ、そのまま距離を保ったままの射撃攻撃に専念し始めた。

 

(………気づかれた………思ったより………早い………)

 

一方の簪も、その様子からスコープドッグ・TCが飛行不能な事を見抜かれたのに気づくが、かと言って何か手が有るワケでもなく、只一方的な攻撃を避け続けるしかない。

 

「簪!!」

 

「簪ちゃん!!」

 

とそこで、一夏と楯無が援護に入る。

 

「一夏! 楯無さん! クッ!!」

 

2人に遅れて、箒も援護に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

神谷とシャル、ラウラと真耶が居るアリーナでは………

 

「ヒャハハハハハハッ!!」

 

「クウッ!!」

 

下賤な笑い声と共に、ブラッディライフルを連射して来るレッドショルダーに対し、シャルは実体シールドを構えて銃弾を防御する。

 

「死ねぇっ!!」

 

と、そんなシャルを、背後から手持ち式の9連装大型ミサイルランチャー、SMAT-38 ショルダーミサイルガンポッドを持ったレッドショルダーが狙う。

 

「!?」

 

「させるかぁ! レーザーアイ!!」

 

だが、そうはさせないとグレンラガンが胸のグレンブーメランを外し、胸部の顔の目からレーザーを放つ。

 

「!? チイッ!!」

 

ショルダーミサイルガンポッドを持ったレッドショルダーは射撃を中止し、後退する。

 

「ありがとう、神谷!!」

 

シャルはそう言うと、デザート・フォックスを呼び出し、ブラッディライフルを持ったレッドショルダーに反撃する。

 

「ぐああっ!? チイッ! ミッションディスクが焼き付きやがったか!?」

 

如何やら、レッドショルダーのISにもミッションディスク・システムが使われているらしく、今の攻撃で焼き付いたらしい。

 

しかし、撃破には至らなかったらしく、ブラッディライフルを持ったレッドショルダーは一旦シャルから距離を取る。

 

「目障りな奴だ!!」

 

と、ショルダーミサイルガンポッドを持ったレッドショルダーが、グレンラガンに向かって連続でミサイルを放つ。

 

「ドリラッシュッ!!」

 

迫るミサイルに向かって、グレンラガンはドリラッシュを繰り出す。

 

グレンラガンの全身から放たれたミサイルドリルが、ショルダーミサイルガンポッドを持ったレッドショルダーのミサイルとぶつかり合い、相殺される。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

 

すると、何と!!

 

その爆炎の中を突っ切って、ショルダーミサイルガンポッドを持ったレッドショルダーが突撃して来た!!

 

「!? 何っ!?」

 

「くたばりなっ!!」

 

そのまま、ショルダーミサイルガンポッドを持ったレッドショルダーは、グレンラガンにアームパンチを浴びせる。

 

「うおおっ!?」

 

大きくブッ飛ばされるグレンラガン。

 

「神谷!」

 

「大丈夫だ、シャル………しかし、爆炎の中を突っ切るなんざ………普通の奴がやる事じゃねえぜ」

 

如何にか制動を掛けると、シャルが心配して寄って来るが、グレンラガンは爆炎の中を突っ切って来た為、装甲が所々焦げているショルダーミサイルガンポッドを持ったレッドショルダーを見ながら、呆れる様にそう言う。

 

「ハッ! 所詮私達は戦争の犬だ!!」

 

「生死を掛けた殺し合いにしか………己の存在意義を見い出せないのさ!!」

 

とそこで、ブラッディライフルを持ったレッドショルダーが再び連射を浴びせて来る。

 

「キャッ!?」

 

「チイッ!!」

 

シャルとグレンラガンは、散開して躱す。

 

一方、同じアリーナの別の場所でも………

 

「地獄に落ちな!」

 

ソリッドシューターを持ったレッドショルダーが、ラウラ目掛けて砲弾を放つ。

 

「甘いっ!!」

 

しかし、ラウラはAICを発動。

 

砲弾はラウラに命中する寸前で止められ、爆散する。

 

「燃え尽きな!!」

 

だが、そこで反対側から、火炎放射器を持ったレッドショルダーが、火炎を放って来た!!

 

「!?」

 

背後を衝かれ、反応が遅れるラウラ。

 

「ボーデヴィッヒさん!!」

 

しかし、危機一髪のところで、真耶が抱き付く様に掻っ攫い、回避させる。

 

「ぐああああああっ!?」

 

すると、何と!!

 

外れた火炎がソリッドシューターを持ったレッドショルダーを直撃!!

 

ソリッドシューターを持ったレッドショルダーは炎に包まれ、そのまま爆散した!!

 

「!? 何っ!?」

 

「み、味方を!?」

 

「チッ! 外したか………」

 

驚くラウラと真耶だが、火炎放射器を持ったレッドショルダーはまるで気にしていない様子で2人に向き直る。

 

「貴様! 自分の仲間を!!」

 

「ああん? 知るかそんな事! トロくせぇアイツが悪いんだろうが!! 黒いウサギちゃんは仲間思いなんでしゅね~」

 

「! このぉっ!!」

 

小馬鹿にする様な火炎放射器を持ったレッドショルダーの言葉に、ラウラは激昂しながら突撃する。

 

「ボ、ボーデヴィッヒさん! 冷静に!!」

 

そう声を挙げると、慌ててフォローに周る真耶。

 

そのまま一進一退の攻防が続いていたが………

 

「!? ああん!? 応援要請!?」

 

「並じゃないIS乗りが居る?」

 

「ヘッ………楽しめそうだな」

 

突然レッドショルダー達は、何かの通信を受け、アリーナを後にし出す。

 

「? 何だぁ? 急に引き上げやがったぞ?」

 

「何か有ったのかな?」

 

突然引いたレッドショルダーに、グレンラガンとシャルは怪訝な顔となる。

 

[グレン団! 聞こえるか!!]

 

とそこで、グレンラガン達の耳にも、千冬からの通信が響いて来た。

 

「織斑先生!」

 

「何だ、ブラコンアネキ! 如何かしたのか!?」

 

[すぐに第4アリーナへ向かえ! レッドショルダーの連中はそこへ集結し始めている!! 狙いは一夏達だ!!]

 

グレンラガンとシャルが問い返すと、千冬は若干慌てた様子でそう言い放つ。

 

「!? 何だと!?」

 

「織斑くんが!?」

 

同じ様にその通信を聞いていたラウラと真耶が驚きの声を挙げる。

 

「チッ! させるかよ! 行くぞ、シャル!!」

 

「うん!!」

 

グレンラガンとシャルが、すぐに第4アリーナへと向かおうとする。

 

しかし………

 

「そうはさせんぞ! グレンラガン!!」

 

「貴様は此処で死ねぇっ!!」

 

そう言う台詞と共に、上空から多数のガンメン達が現れ、グレンラガンの居るアリーナの彼方此方に着地する!!

 

「!? ガンメン!!」

 

「チッ! このタイミングで増援かよ!!」

 

「狙えぇっ!!」

 

グレンラガンが悪態を吐く様に言うと、ガンメン達は一斉に射撃武器の狙いを、グレンラガン達に付ける。

 

「撃………」

 

と、それが発砲されようかとした瞬間!!

 

突如ガンメン達にクナイの様な刃物が次々に突き刺さった!!

 

そして次の瞬間には、その突き刺さっていたクナイの様な刃物が爆発!!

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

大半のガンメン達が吹き飛ばされた!!

 

「!?」

 

「えええっ!?」

 

「何っ!?」

 

「何だぁっ!?」

 

シャル、真耶、ラウラ、グレンラガンが驚きを示すと………

 

一同の眼前の景色の一部が揺らめき、シュピーゲルを装着したシュバルツが姿を現した。

 

「此処は私に任せろ! お前達は一夏の元へ行け!!」

 

「!? 貴方は!?」

 

「シュバルツ・シュヴェスター!?」

 

突然現れたシュバルツに驚きを見せる真耶とシャル。

 

「早く行け!!」

 

「おう! 分かった!!」

 

「待て!!」

 

グレンラガンは素直にそれに従い、一夏の元へ向かおうとするが、ラウラはレールカノンをシュバルツへ向けた。

 

「!? ラウラ!?」

 

「貴様………一夏を襲ったそうだな………学園祭の時は助けたそうだが、一体如何いう積りだ? 貴様の目的は一体何だ?」

 

驚くシャルを尻目に、ラウラはシュバルツにそう問い質す。

 

軍人である彼女としては、謎が多い………と言うよりも、謎ばかりのシュバルツを信用する事が出来ない様だ。

 

だが、シュバルツから返って来たのは………

 

「そんな事は如何でも良い!!」

 

「なっ!?」

 

問いに対する答えでもなければ、誤魔化しでもなく………

 

只の一蹴だった!!

 

「今お前達がするべき事は私の正体を確かめる事か!? グズグズせずにとっとと行けぇっ!!」

 

「くうっ!!」

 

正論と得体の知れない迫力によって、ラウラは言い返す事が出来ない。

 

「そいつの言う通りだ、ラウラ! 今は一夏の所へ急ぐぞ!!」

 

グレンラガンもそう言い、改めて一夏の居る第4アリーナへと飛ぶ!!

 

「あ、待って、神谷!!」

 

シャルもそれに続く。

 

「ボーデヴィッヒさん! 行きましょう!!」

 

「クッ!!」

 

真耶に促され、ラウラも苦々しげな顔をしながら、第4アリーナへと向かう。

 

「よし………後は………」

 

「ペシャンコにしてやるぅっ!!」

 

と、そこでシュピーゲルに、ガンメン・ゴズーが跳躍し、棍棒で殴り掛かって来る。

 

「セエエヤッ!!」

 

だが、シュバルツはシュピーゲルブレードの一閃で斬り裂く!!

 

「や、やられたっ!!」

 

真っ二つになり、爆散するゴズー。

 

「貴様等を片付けるだけだ!!」

 

シュバルツはそう言うと、両腕にシュピーゲルブレードを展開し、ガンメン達の中へ突撃して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、第4アリーナにて………

 

「そらそらそらぁ!!」

 

両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーが、簪に向かって次々に弾丸を見舞う。

 

「クッ………」

 

回避を続けている簪だが、先程から何発かが装甲を掠め、苦しげな声が漏れる。

 

「ハンッ! ISのくせに、空を飛べないとは………御笑い種だね!!」

 

両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーが、気を良くした様に発砲を続ける。

 

「このおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

と、その両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーに、一夏がエネルギーの刃を展開した雪片弐型で斬り掛かる。

 

「おっと! 危ない危ない………」

 

しかし、両手にペンタトルーパーを握ったレッドショルダーは、アッサリと回避する。

 

すると、雪片弐型のエネルギーの刃が消滅した。

 

「クソッ! エネルギー切れか!! 箒! 頼む!!」

 

「分かった!!」

 

一夏にそう言われると、箒は絢爛舞踏を発動させ、一夏の白式にエネルギーを供給しようとする。

 

「させるかよ!!」

 

だが、その瞬間を好機と見た、ロックガンを持ったレッドショルダーが、エネルギー弾を放つ。

 

「「!?」」

 

「させない!!」

 

しかし、間一髪のところで、楯無が間に割り込み、水のヴェールを使って攻撃を防ぐ。

 

「チッ! 邪魔しやがって………」

 

ロックガンを持ったレッドショルダーが悪態を吐いている間に、一夏はエネルギーのチャージを終える。

 

「良し! コレで!!………」

 

再び簪の援護に向かおうとする一夏だったが………

 

「オイ! 如何した!?」

 

「救援要請だなんて………らしくもねえ事しやがって」

 

そう言う台詞と共に、多数のレッドショルダー達が第4アリーナへと集結して来た。

 

「!? レッドショルダー!?」

 

「クッ! 増援が来てしまったか!?」

 

集まって来たレッドショルダーを見て、驚きの声を挙げる一夏と、苦々しく呟く箒。

 

「ガキ共相手に手間取るとは………それでもレッドショルダーか!?」

 

「何ぃっ!?」

 

「そう言ってやるなよ。何せ相手は専用機持ち………」

 

「オマケにその中の1人は、噂の男IS乗り………」

 

「ふっ………上々の獲物だな!!」

 

レッドショルダー達は、一夏達を見ながらそんな事を言い合う。

 

「お前達………何をやっている?」

 

とそこへ、新たなレッドショルダーが1人現れる。

 

しかし、そのレッドショルダーが装着しているIS・ブラッドサッカーは如何やら指揮官機らしく、大型の通信用ブレードアンテナが装着されている。

 

「! 所長!」

 

「ラミアー所長! すみません! 厄介な連中が居まして………」

 

レッドショルダー達は、その女性………レッドショルダー部隊の隊長である『ラミアー』にそう言う。

 

「…………」

 

ラミアーは何処までも冷たい視線で一夏や簪達を見据える。

 

「良し………あの地上の虫は私が始末する。お前達はあのガキ共を始末しろ」

 

「へへっ! 了解!!」

 

「行くぜぇっ!!」

 

レッドショルダー達は一夏達へと向かって行き、ラミアーは地上に降り立ち、簪と対峙する。

 

「!?」

 

ラミアーにヘビィマシンガンを向ける簪。

 

「学生にしては良い腕を持っている様だな………だが、ココまでだ!!」

 

そう言い放つと、ラミアーは簪にブラッディライフルを連射する。

 

「!? クッ!?」

 

数発喰らいながらも、簪は回避運動に入る。

 

「甘いっ!!」

 

だが、回避先を呼んでいたラミアーは、ブラッディライフルを一旦後ろ腰にしまうと突撃し、右脚部に装着して置いたリニアパイルバンカーを右腕に装備し、簪に繰り出した。

 

「!? ふあああっ!?」

 

絶対防御が貫通され、簪がしていた特徴的な髪飾りの片方が弾き飛ばされる。

 

「クッ………!!」

 

しかし、簪は頭から血を流しながらも、即座に至近距離で13㎜ガトリングガンを発砲する!

 

「クッ!?」

 

腰の装甲の一部を抉られながらも、ラミアーは左の拳を簪に叩き込む!!

 

更にアームパンチで追い打ちを掛ける!!

 

「ガフッ………!?」

 

衝撃で吐血し、後ろに下がりながらも、簪はヘビィマシンガンを発砲する。

 

「良い反応速度だ………だが、それだけだ!」

 

ラミアーはターンしながらの後退で、ヘビィマシンガンの弾丸を躱す。

 

そして、再びブラッディライフルを握り、簪に発砲する。

 

「ふあっ!?」

 

咄嗟に左腕を構えて防御するが、左腕パーツが穴だらけにされ、強制パージされる。

 

「クッ!!」

 

しかし、怯まずに回避行動を取りながらヘビィマシンガンの発砲を続ける。

 

「ぐあっ!?」

 

その内の何発かがラミアーに命中。

 

絶対防御は貫けなかったが、衝撃が襲い掛かる。

 

「ええい! 死なぬ筈があるか! 死なぬ筈が!!」

 

そう叫びながら、ラミアーも簪への発砲を続ける。

 

互いに移動しながらの射撃戦となる簪とラミアー。

 

「ぐうっ………!?」

 

と、ブラッディライフルの弾丸の1発が、簪の右肩に命中。

 

装甲パーツが弾け飛び、弾丸が肩を貫通して血が流れる。

 

「ぐっ………!!」

 

それでも簪は激痛に耐え、ヘビィマシンガンを手放さずに発砲を続ける。

 

「必ず死ぬ筈だ! 人間ならば!!」

 

ラミアーもそう言いながら、簪への発砲を続ける。

 

「クッ………!」

 

と、ヘビィマシンガンの弾丸が尽き、簪はリロードの隙を作ろうと、右脇の2連装ミサイルポッドのミサイルを発射する。

 

「チイッ!!」

 

白煙を曳きミサイルがラミアーに向かうが、ラミアーは到達する前にブラッディライフルで撃ち落とす。

 

「………!!」

 

爆煙が発生すると簪は更にオマケにと、左からの3連装スモークディスチャージャーから煙幕弾を発射する。

 

爆煙と煙幕で、アリーナ一体が煙に閉ざされる。

 

「…………」

 

その隙に、ヘビィマシンガンから空になった弾倉を外し、腰パーツに付けてあった予備弾倉を装着する。

 

そしてまだ立ち上る煙の中で、油断無くヘビィマシンガンを構える。

 

しかし………

 

如何いうワケか、ラミアーのISの位置が感じ取れない。

 

煙幕により視覚やセンサー系は元より、音すらも聞こえない。

 

聞こえて来るのは、一夏達が交戦していると思われる音ばかりで、ラミアー機のものと思われる音が拾えない………

 

(何処に居るの………?)

 

ターレットレンズを細かに切り替え、神経を尖らせる簪。

 

すると………

 

煙の中から、ラミアー機のモノと思われるホバー音が聞こえて来た。

 

「!? 其処っ!!」

 

すぐさま簪は、音がした方向へ弾丸を叩き込む。

 

しかし、手応えは無かった………

 

(違う!? 何処に………)

 

「コッチだ!!」

 

背後からそう言う声が聞こえて来たかと思うと、リニアパイルバンカーを装備したラミアーが襲い掛かって来る!!

 

「!?」

 

咄嗟に身を捻る簪だが、ラミアーのリニアパイルバンカーでの一撃は、空になった右脇に装備していた2連装ミサイルポッドを弾き飛ばした!!

 

「グフッ………!?」

 

その際、脇腹も一部抉られ、簪は苦悶の声を挙げる。

 

バランスを崩した簪はそのまま倒れそうになる。

 

「貰ったぞっ!!」

 

その簪に容赦無くトドメを刺そうとするラミアー。

 

「クッ………!!」

 

だが、簪は咄嗟に、倒れそうになっていた方向の地面にヘビィマシンガンを発砲!!

 

その反動で態勢を立て直す!!

 

「!? 何っ!? ブースタンドだと!?」

 

簪の思わぬ動きに、ラミアーは呆気に取られる。

 

その隙に簪は距離を取り、右肩部の7連装ミサイルポッドのミサイルを4発叩き込む!!

 

「くおっ!?」

 

直撃弾と至近弾を同時に喰らうラミアー。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

その間に、簪は乱れた呼吸を整えようとする。

 

しかし………

 

ミサイルの爆煙の中から、何の前触れも無く銃弾が飛んで来る!!

 

「!? ふおおあああっ!?」

 

数発の直撃弾を受け、左足大腿部に喰らった1発が絶対防御を貫通。

 

貫通銃創が出来、溢れ出した血がISの装甲の上を流れる。

 

「貴様は死なねばならん! 死なねばならんのだ!!」

 

そして、爆煙の中から、左の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)と、ブレードアンテナと右脚部装甲の一部を失ったラミアーが飛び出して来る。

 

「クッ!!」

 

足に走る灼ける様な痛みを無視し、簪は再び回避行動を取り始める。

 

やがて、アリーナを覆っていた煙幕が晴れ始める………

 

「! 簪!!」

 

「簪ちゃん!!」

 

上空でレッドショルダー達と戦っていた一夏と楯無が、ボロボロの簪の姿を見て悲鳴にも似た声を挙げる。

 

「…………」

 

だが、今の簪にそれを気にしている余裕は無い………

 

7連装ミサイルポッドに残っていた3発のミサイルを、全てラミアーに叩き込む。

 

「小癪なっ!!」

 

しかし、ラミアーは連続ターンの撹乱機動を取り、回避する。

 

「クッ………」

 

撃ち終えた7連装ミサイルポッドをパージすると、簪は再びジェットローラーダッシュ移動を開始する。

 

「逃がさんっ!!」

 

ラミアーもそれを追う様にホバー移動する。

 

そして、簪に向かってブラッディライフルを連射する。

 

と、足元を掠めていた内の1発が運悪く命中してしまい、ジェットローラーダッシュ様に装着していたブースターが破壊されてしまう!!

 

「!? しまった!?」

 

バランスを崩し、今度こそ転倒する簪。

 

「終わりだ! 小娘!!」

 

ラミアーは倒れた簪に、リニアパイルバンカーを構えて突撃!!

 

トドメを刺そうとする。

 

「!?」

 

コレまでかと覚悟する簪だったが………

 

「簪いいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!!」

 

一夏が相手にしていたレッドショルダーを弾き飛ばし、簪とラミアーの間に割り込んだ!!

 

「!? 一夏!?」

 

「ええい! 邪魔をするな!!」

 

ラミアーはそのまま、一夏へとリニアパイルバンカーを叩き込んだ!!

 

「!? グアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

リニアパイルバンカーは絶対防御を貫き、一夏の左肩へと突き刺さる!!

 

「一夏くん!!」

 

「一夏ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

楯無と箒から悲鳴の様な声が挙がる。

 

「う、うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、一夏は左肩にリニアパイルバンカーが刺さったまま、雪片弐型を右腕だけで振り被る。

 

「!? チイッ!!」

 

ラミアーは咄嗟に、右腕パーツをパージして離れる。

 

一夏の一振りは、残っていた右腕パーツを斬り裂く。

 

「一夏………!?」

 

「う………うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

簪が驚きながらも態勢を立て直していると、一夏は左肩に突き刺さったままだったリニアパイルバンカーを気合の叫びと共に抜き放つ。

 

肩からはドクドクと血が流れ出る。

 

「一夏………如何して………」

 

「如何してって………俺はお前のパートナーだろ。パートナーの危機を助けるのは当然だろうが」

 

肩の傷を押さえながら、一夏は激痛に顔を歪ませながらも、笑いながらそう言う。

 

「一夏………でも………」

 

「言っただろう、簪さん………俺を信じろ! お前を信じる、俺を信じろ!!」

 

初めて会った時に口にした、神谷に言われた事を再び簪にそう言い放つ一夏。

 

「…………」

 

その言葉に、簪は目を見開く。

 

「一夏………」

 

「一夏くん………」

 

そして、箒と楯無は、一夏のその姿に惚れ直していた。

 

「………うふふ」

 

やがて、簪は肩の力が抜けたかの様に、フッと笑う。

 

(そうだ………1人でやる必要なんて………無いんだ………私には………素晴らしい仲間が………居るじゃない………)

 

内心で簪はそう思う。

 

「ありがとう………一夏………」

 

「言っただろう………当然だって」

 

そう言って、一夏もニヤリと笑う。

 

………と、その時!!

 

白式の装甲各所が独りでに展開!!

 

そのまま金色の粒子を放ち始めたかと思うと、白式はスーパーモードとなった!!

 

「!? スーパーモードが!? 如何して!? 怒ってもいないのに!?」

 

一夏自身も、突如発動したスーパーモードに戸惑いを感じる。

 

「一夏………今は………アイツを………」

 

だが、簪は今は目の前の敵だと促す。

 

「あ、ああ!!」

 

その言葉で一夏は、改めてラミアーに向き直る!!

 

「一夏………このパターン通りに………動いて………」

 

するとそこで、一夏の白式に、簪のスコープドッグから、何かのデータが送られて来る。

 

「!? コレは!?」

 

「私が考えた………コンバット・パターン………この通りに………動いて………」

 

「良し、分かった!!」

 

「行くよ………!」

 

簪はそう言うと、ローラーダッシュを開始。

 

一夏もホバー移動で続く。

 

「ええいっ! お前等、援護しろ!!」

 

とそこでラミアーは、レッドショルダー達にそう命令する。

 

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」

 

それを受けて、レッドショルダー達がラミアーの援護に向かおうとする。

 

「! イカン!!」

 

「させないわよ!!」

 

箒と楯無が食い止めようとするが、相手は手練れな上に数が多く、食い止め切れない。

 

すると………

 

「超・ドリラッシュッ!!」

 

何処からとも無く飛んで来た無数のミサイルが、レッドショルダー達に着弾した!!

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

次々にエネルギーが尽きて自爆装置が作動し、吹き飛ぶレッドショルダー。

 

「!?」

 

「! 今のは!!」

 

「待たせたなぁ!!」

 

驚く箒と楯無の前に、グレンラガンが見得を切る様なポーズと共に現れる。

 

「神谷!!」

 

「お待たせ!!」

 

「遅れたな………」

 

「皆さん! 大丈夫ですか!?」

 

更に続く様に、シャル、ラウラ、真耶が姿を見せる。

 

「山田先生達も!!」

 

「篠ノ之さん! 状況を簡単に報告して!」

 

「今、一夏と簪が敵の指揮官を仕留めに掛かっている!!」

 

シャルがそう言うと、箒がそう返す。

 

「良し! んじゃ指揮官は一夏と簪に任せて良いな!!」

 

「我々は周りの雑魚を叩くぞ!!」

 

それを聞いたグレンラガンとラウラがそう言い合う。

 

「テメェ! 私達を雑魚だと!?」

 

「私達はレッドショルダーだぞ!!」

 

その会話を聞いていたレッドショルダー達が、憤慨した様子を見せるが………

 

「へっ! 何がレッドショルダーだ!! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

グレンラガンはお決まりの台詞を言い放ち、自らその中へと突っ込んで行く。

 

「あ、神谷、待ってよー! フォローする方も考えてよねー!!」

 

その後にシャルが続き、愚痴りながらもグレンラガンをフォローする。

 

「私達も行きましょう!!」

 

「「「ハイ!!」」」

 

そして、真耶の呼び掛けて、箒、ラウラ、楯無も突っ込んで行くのだった。

 

一方………

 

地上の一夏と簪は………

 

「ええいっ! 何の積りだ!!」

 

苛立ちながらブラッディライフルを発砲してくるラミアーの攻撃を躱しながら、互いに逆回りにラミアーの周囲を回る様に移動している。

 

「………! 今!!」

 

「おうっ!!」

 

と、不意に簪が叫んだかと思うと、一夏が雪羅から荷電粒子砲を放つ。

 

「! チイッ!!」

 

ラミアーは舌打ちしつつも後退する様に回避する。

 

「やはり………そう避けた………」

 

すると、回避先を呼んでいた簪が、脚部パーツを狙ってヘビィマシンガンを連射。

 

ラミアーのブラッドサッカーの脚部パーツが蜂の巣にされる!!

 

「うおおっ!?」

 

脚部パーツが撃ち抜かれ、ラミアーの動きが止まる。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

そこで一夏が突撃し、右腕1本だけで雪片弐型を振るう。

 

「!? ぐがあああっ!?」

 

エネルギーを大きく削られるものの、完全に削り切る事は出来なかった。

 

「く、首の皮1枚で繋がっ………」

 

「てないよ………」

 

首の皮1枚で繋がったと言おうとしたところ、簪が左肩でショルダータックルを仕掛ける!!

 

「!? ぐおおっ!?」

 

「まだ………終わりじゃない………」

 

そこで簪は続けて、ヘビィマシンガンを左手に持ち替えると、残っていた右腕パーツのアームパンチを2発叩き込む!!

 

そして、一旦離れたかと思うと、ターンしながらヘビィマシンガンを構え直し、ターレットレンズ越しに映るラミアーをロックオン!!

 

トドメの4点バーストを叩き込んだ!!

 

「き、貴様等は人間では無い! 人間などでは!!」

 

と、ラミアーがそう叫んだ瞬間、ISが解除され、自爆装置が作動。

 

その身体は木端微塵に消し飛ぶ!!

 

「しょ、所長!?」

 

「ラミアー所長がやられた!!」

 

「コ、コイツ等、化け物だ!!」

 

「に、逃げろぉ!!」

 

と、隊長機がやられた瞬間に、残っていたレッドショルダー達も逃げ出し始める。

 

戦争の犬と自称していても、元々は我が身可愛さに寝返った連中である。

 

強敵と対峙し、命を懸けてまで戦う様な肝の座っている者など居る筈も無かった。

 

「! 待て!」

 

「逃がさんぞ!!」

 

箒とラウラが追撃しようとするが………

 

「!? ぐうっ!?」

 

「うっ………」

 

その瞬間に、一夏と簪のISが解除され、一夏は顔を歪めて蹲り、簪は力尽きた様に俯せに倒れる。

 

「! 一夏!!」

 

「簪ちゃん!!」

 

グレンラガンと楯無が駆け寄る。

 

「箒! ラウラ! 今は一夏とラウラを!!」

 

「! 一夏!!」

 

「一夏!!」

 

シャルに呼び掛けられて、箒とラウラも一夏の様子に気づいて、慌てて其方へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

前回が孤影再びで、今回は野望のルーツをお送りました(爆)
レッドショルダーの指揮官と交戦した簪。
このボロボロになりながらの泥臭い戦いこそ、ボトムズの華です。
一夏との協力で指揮官を倒しましたが、力尽きた様に倒れた2人。
果たして安否は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第45話『お蔭で………助かったって言ったの』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第45話『お蔭で………助かったって言ったの』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園を、ルーマニア軍のIS部隊………

 

いや、正確には『元』ルーマニア軍第10師団トランシルバニア方面軍第24戦略機甲歩兵団特殊任務班X-1・レッドショルダーが襲撃した。

 

人類側から裏切り者………

 

しかもISの装着者が裏切ったと言う事態は、IS学園だけでなく世界各国に衝撃を与えた。

 

現在、ロージェノム軍と人類側との戦況は膠着状態でジワジワ押されて行っている状況である。

 

既に多数のISの撃墜が確認されているものの、それでもISが現在の戦線を維持出来て居る一端である事も事実である。

 

そのISの装着者がロージェノム側に着く様な事があれば、現在の戦線は一気に崩壊しかねない上に、民衆にも動揺が走る。

 

各国政府と国際IS委員会は、この事実を隠蔽しようとしたが………

 

何とロージェノム軍側がこの情報を各国へ公表。

 

民衆、そして前線で戦う兵士に大きな動揺を与える事となる。

 

もしかしたら、自分の国のIS装着者も裏切るかもしれない………

 

前線ではIS装着者部隊内のみならず、他の部隊との間にも亀裂が生じ………

 

一部の政治家達はISを全面凍結すべきだと言う過激論を唱え始め、政治的混乱を起こす………

 

そんな疑心暗鬼に駆られた人々に、ロージェノム軍が付け込まない筈がなかった………

 

今まで以上の攻勢に出たロージェノム軍は、連携を失った前線部隊を虫の様に踏み潰し………

 

政治的に混乱に陥っていた国は、炎に焼かれて消滅した………

 

戦場が更なる地獄と化す中、国連と各国政府は必死に混乱の収拾を目指す………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

レッドショルダーに襲撃されたIS学園は………

 

これまで幾度となくあった獣人達の襲撃よりも多大な被害を受け、復旧が急ピッチで進められていた。

 

しかし、レッドショルダーの人類裏切りの件で………

 

実際にISを凍結し始める国も出ており、それに伴い援助費を打ち切られて退学や本国に帰国する生徒が出始めている。

 

今や、IS学園の全校生徒数は今年度開始時に比べ、半分にまで減っていた………

 

 

 

 

 

その保健室にて………

 

「う、ううん………」

 

「一夏! 気が付いたか!?」

 

寝ていた一夏が覚醒すると、視界に箒の顔が飛び込んで来る。

 

「一夏! 大丈夫!?」

 

「一夏さん!」

 

「一夏!」

 

続いて、鈴、セシリア、ラウラが覗き込んで来る。

 

「箒………鈴………セシリア………ラウラ………」

 

視界に映った者達の名を呼びながら、まだ半分覚醒していない頭を徐々に目覚めさせる一夏。

 

「一夏、目が覚めた?」

 

「良かった~。心配したニャ」

 

「何か前にもこんな事があったなぁ」

 

すると、視界の外からも、シャルとティトリー、神谷の声が聞こえて来た。

 

「シャルロット………ティトリー………アニキ………!? ぐあっ!?」

 

その声に反応して身を起こす一夏だったが、途端に左肩に激痛が走る。

 

「一夏! まだ起き上がっては駄目だ!!」

 

「そうですわ、一夏さん!!」

 

「アンタ、左肩に穴開けられたのよ!!」

 

「安静にしていろ!」

 

途端に、箒、セシリア、鈴、ラウラは、一夏を再び寝かし付けようとする。

 

「だ、大丈夫だよ、これぐらい………!? そうだ! 簪は!? アイツもかなりの怪我だった筈だろう!?」

 

と、痩せ我慢で額に脂汗を浮かべながらそう言う一夏。

 

「えっ? あ~」

 

「アイツはね~」

 

「「…………」」

 

途端に箒と鈴が言葉に詰まり、セシリアとラウラも無言で目を逸らす。

 

「? 如何したんだ?………!? まさか!?」

 

最悪な展開が一夏の脳裏を過ぎるが………

 

「皆………コーヒー淹れて来たよ………あ………一夏………目が覚めた………?」

 

次の瞬間、普段と同じ調子で、コーヒーが入ったカップの載ったトレーを手に、簪が楯無と布仏姉妹を連れて保健室に入って来た。

 

「か、簪!?」

 

平然とした様子の簪を見て、一夏は呆気に取られる。

 

「?………如何したの?………そんな顔して………?」

 

「い、いや………お前………怪我は!? バリバリ撃たれてたじゃないか!!」

 

一夏が心配する様にそう言うが………

 

「撃たれた?………ああ………コレとか………?」

 

簪は首を傾げた後、スカートを捲って左足大腿部を見せた。

 

「ブッ!?」

 

「おおっ!? 良い脚線美!!」

 

一夏は思わず赤面し、神谷は食い付く。

 

「「「「一夏〈さん〉!!」」」」

 

「!? ぐぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

途端に一夏は箒達に制裁を喰らう。

 

しかも、よりによって負傷している左肩に………

 

「か、神谷! 脚線美だったら、僕も自信有るんだよ!!」

 

そしてシャルは、対抗するかの様に自分もスカートを捲って大腿部を見せる。

 

「おお! オメェも良い脚線美してんなぁ!」

 

「何やってるのよ、貴方達は?」

 

そんなシャルの足を見てそう言う神谷に、楯無がツッコミを入れる。

 

「にゃ、にゃはははは………」

 

そして、そんな一同の様子を見て、苦笑いを浮かべるティトリーだった。

 

「………って、アレ? 傷が………」

 

とそこで一夏が、激痛の走る左肩を押さえながら、簪の大腿部の銃創がほぼ塞がっている事に気づく。

 

確かに銃で撃たれた痕跡はあるものの、もう既に治っていると言って良い。

 

「ああ、私も最初に見た時は信じられなかったが………」

 

「コイツ、アタシ達が保健室に運び込んだ時には、既に傷が全部治りかけてたのよ」

 

「今思い出しても信じられませんわ」

 

「人間の回復力ではなかったぞ………」

 

それを聞いた箒、鈴、セシリア、ラウラがそんな事を言い合う。

 

「私………昔っから………怪我の治りが………早かったから………」

 

「いやいや、そう言うレベルじゃないよ!!」

 

簪が微笑みながら事も無げに言うと、一夏がそうツッコム。

 

「アレか? 毎朝コーンフレークを山盛り2杯食べてたのか?」

 

「何処の宇宙海賊ですか………」

 

「ヒューッ!!」

 

神谷がそう言うと、虚がツッコミ、のほほんが口笛を吹く様に囃し立てる。

 

「気にしたら負けよ、一夏くん。簪ちゃんのこの体質は生まれつきだから」

 

すると、楯無がツッコムだけ無駄だと言って来る。

 

「はあ………」

 

「そんな顔………しないで………ハイ………コーヒー………」

 

疲れた様な様子を見せる一夏と、そんな一夏を見ながら、一同にコーヒーを配って行く簪。

 

「あ、あの………コレって………ウドのコーヒー?」

 

「勿論………」

 

シャルの恐る恐ると言った問いかけに、簪が『良い笑顔』で返事をする。

 

「ア、アハハハハ………」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

一夏は乾いた笑いを挙げながら受け取り、箒達もこの世の終わりの様な顔で自分の分を受け取った。

 

「「…………」」

 

楯無と虚も、絶望しきった表情を浮かべている。

 

「おさっとう~、ミルク~」

 

そして、のほほんが今回もちゃっかり、自分の分の砂糖とミルクを用意していた。

 

「サンキュな、簪」

 

只1人、神谷は顔色を一切変えずに美味そうに飲んでいる。

 

他のメンツは、飲んだ途端に渋面となっている………

 

と、そこで………

 

「一夏さん!!」

 

「オイ、一夏!! 大丈夫か!?」

 

五反田兄妹が、慌てた様子で保健室に入って来た。

 

「弾!? それに蘭も!!」

 

「うわっ!? 酷い怪我!!」

 

「オイオイ、一夏。大丈夫かよ?」

 

一夏が驚いていると、五反田兄妹は身体が包帯グルグル巻きにされている一夏を見て、心配する。

 

「あ、ああ………大した事ないって………それより、お前等、如何して此処に?」

 

「いや、アニキからお前が大怪我したって聞いて………コイツが居ても立っても居られなかったもんだからよぉ」

 

「一夏さん! ホントに! ホントに大丈夫なんですか!?」

 

「だ、大丈夫だって………ホラ、この通り!!………!? イデェッ!!」

 

蘭があんまりにも心配して来るので、元気に振舞おうとして左腕を動かして見せる一夏だったが、途端に激痛が走って思わず声を挙げてしまう。

 

「ああ、無理しないで下さい!!」

 

「一夏! 楽にしろ!!」

 

蘭と箒にそう言われ、一夏は再び寝かし付けられた。

 

「安静にしてなさい。養護教諭も2、3日は入院だって言ってたんだから」

 

「えっ!? 2、3日!?」

 

そこで楯無がそう言うと、一夏は驚きの声を挙げる。

 

「当たり前よ。肩に穴開けられてるのよ。寧ろその程度で済んだのが奇跡よ」

 

「いや、でも………明日には、蘭の学校の学園祭に行って………夜は箒とディナーを………」

 

一夏はそう言って、箒と蘭を見遣るが………

 

「私の事は気にしないで下さい、一夏さん」

 

「そうだぞ。お前は先ず、自分の身体を治す事を考えろ」

 

蘭と箒はそう言って来る。

 

彼女達としても、一夏に無理をしてまで自分の事を優先して欲しくはないのだ。

 

「蘭………箒………ゴメン………この埋め合わせは必ずするよ」

 

申し訳なさそうにそうにしながらも、2人の心遣いをありがたく思う一夏。

 

しかし………

 

「ちょっとお待ち下さい、一夏さん………」

 

「蘭の方は100歩譲って良いとして………」

 

「篠ノ之とディナーとは如何言う事だ?」

 

セシリア、鈴、ラウラが、箒とのディナーの約束発言に食い付く。

 

「えっ? い、いや、それは………」

 

一夏がマズイ予感を感じ取ったが、時既に遅し。

 

「「「一夏〈さん〉!!」」」

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

合掌………

 

「そう言うところは相変わらずだな………一夏」

 

「イテテテテテテ………そういうところって何だよ………アレ? そう言えば、弾。良く学園の中に入れたな?」

 

とそこで、一夏が思い出したかの様にそう言う。

 

IS学園は全寮制であり、余程の事が無い限り、部外者を入れる事はないのである。

 

「守衛さんに止められなかったのか?」

 

「いや、それが………守衛さん、居眠りしたんで」

 

「居眠りぃ!?」

 

弾の言葉に驚く一夏。

 

「それじゃあ守衛の意味が無いじゃない」

 

「おかしいわね………守衛さんの事は良く知ってるけど、居眠りする様な人じゃない筈よ」

 

鈴が呆れる様に言い、楯無は信じられないと言う。

 

「そういやぁ………アレは寝てたって言うより………気絶してたって言った方が良かったかな?」

 

「気絶してた?」

 

「それに………何か殴られた様な跡もあった気が………」

 

「「「「「「「「殴られた跡?」」」」」」」」

 

蘭のその言葉を聞き、一夏達は神谷を見遣った。

 

五反田兄妹を呼んだのは、確か神谷である。

 

「~~~~♪~~~~♪」

 

その神谷は、ワザとらしく目を逸らし、口笛を吹いている。

 

((((((((((………絶対、アニキ〈神谷〈さん〉〉の仕業だ))))))))))

 

それで、守衛を気絶させたのが神谷であると確信する一同。

 

………勿論、この件の責任は千冬が被る事となり、彼女の連続始末書記録が更新され、ストレスで胃は更にボロボロとなるのだった。

 

「あっと………ゴメンナサイ………貴方達の分の………コーヒー………用意するの………忘れてた………」

 

と、そこで簪が、五反田兄妹の分のコーヒーが無い事を思い出し、用意しに向かおうとする。

 

「あ、どうも………」

 

「すみません、気を遣わせちゃって………」

 

簪に礼を言う五反田兄妹。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一方、簪の入れる殺人的な苦さのコーヒーを知っている一夏達は、五反田兄妹にその事を言うべきが言わざるべきかを葛藤し、結局黙り込んでしまう。

 

「………一夏………姉さん………それに………皆………」

 

と、出て行こうとして、簪は一夏達に背を向けたまま呟く。

 

「ん?」

 

「何? 簪ちゃん?」

 

一夏と楯無が返事を返し、他の一同も簪に注目したかと思うと………

 

「今回は………本当に………ありがとう………お蔭で………助かったわ………」

 

簪は一夏達に背を向けたままそう言う。

 

「えっ?」

 

「な、何か言った? 簪ちゃん?」

 

一夏が呆然となり、楯無が思わず聞き返すと………

 

「お蔭で………助かったって言ったの」

 

簪はそう言うと、逃げる様に保健室から去って行った。

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

残された一同は、暫く呆然としていたが………

 

「あ、あははは………流石楯無さんの妹………不意打ちが上手いですね」

 

やがて漸く我に返った一夏が、楯無に向かってそう言う。

 

「あ、当たり前じゃない! 何たって、私の妹なんだから………」

 

「つい最近まで疎遠だったんだけどね~」

 

「ちょっ! 本音!?」

 

自慢する様に言う楯無だったが、のほほんにそう言われて一気に威厳が崩壊するのだった。

 

(………私も………何時か………姉さんと………)

 

そして箒は、更識姉妹の様に自分も姉の束と………昔の様に笑い合いたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、保健室から出て行った簪は………

 

「…………」

 

先程の行為が、自分でもらしくなかったと思っているのか、早足に給湯室を目指している。

 

しかし………

 

その顔には、微笑が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

簪のモノローグ………

 

仲間か………

 

何やら照れ臭い。

 

けど、久しぶりに私の胸は、温かいものに満たされていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談となるが、数日後…………

 

怪我が完治し、退院した一夏を祝おうと、神谷と楯無の提案で、生徒会室を使ってのちょっとした宴会が開かれた。

 

主役そっちのけで皆が飲めや食えや歌えの騒ぎに興じていると………

 

自分にマイクが回って来た簪が………

 

酒焼けした様な渋い声で、『鉄のララバイ』を歌い出した時には………

 

神谷とのほほんを除いた一同から、ドン引きされたのだった。

 

尤も………

 

本人は一切気にせず、気持ち良さそうに歌っていたが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レッドショルダーの襲撃………

 

即ち、タッグマッチの翌日の夜………

 

「ったく! アイツ等ふざけやがって!!」

 

「いや、神谷も悪いと思うよ………」

 

夜の街並みを神谷が憤慨した様子で歩き、隣のシャルが宥めている。

 

先程、薫子の姉の渚子の取材を受けた報酬に貰ったディナー券で、ホテル『テレシア』の最上階レストランで食事を取ろうとしたのだ。

 

当初は一夏と箒の事もあり、自分達は行くのを止めようとしていた神谷とシャルだったが、本人達に自分達の事は気にせず行ってくれと言われ、その厚意に甘える。

 

しかし………

 

高級レストラン故か、入店の際には男はスーツかタキシード、女はドレスでなければお断りと言われたのだ。

 

しかも、ロージェノム軍の登場で変わりつつあるが、今は女性優遇の社会………

 

シャルには店側からドレスを貸し出すと言ってきたが、神谷には自分で買って来いと言い放たれる。

 

当然、神谷は納得が行かず、入店を止めた若い男性………所謂、飼い慣らされたウェイターの胸倉を摑んで持ち上げた。

 

慌てて止めるシャルだったが時既に遅し………

 

その光景を目撃した店のオーナーである女性が、神谷を摘まみ出そうとガタイの良い従業員………

 

所謂、荒事対応用の店員達を呼び出す。

 

だが、それで神谷が引き下がる筈も無かった。

 

荒事対応用の店員達を相手に大立ち回りを演じ、結果店を半壊させる………

 

腰を抜かして呆然となっていた店長に、『2度と来ねえよ』との捨て台詞を残し、悠々とその場を去って行った。

 

レストランは暫く営業停止状態となり、勿論、この件の責任は全て千冬に(以下略)………

 

「あ~! けったくそわりぃ!!」

 

まだ怒りが治まらない様子の神谷がそう言っていると、前から歩いて来た人物とぶつかる。

 

「おわっ!? テメェ、何処に目え付けてやがる!!」

 

「ああん!? テメェがブツかって来たんだろうが!!」

 

「んだとぉ!?」

 

「やるかぁ?」

 

そのまま神谷は、ブツかった人物と睨み合いになる。

 

「ちょっ!? 神谷!?」

 

慌てるシャル。

 

止めたい気持ちは山々なのだが、神谷がブツかった相手は如何見ても一般人とは思えなかった……

 

一言で言うなら、『獣が人間の皮を被っている』………

 

神谷と言い争っている青年は、そんな雰囲気を醸し出していた。

 

「「ぬぬぬぬぬぬ」」

 

互いの胸倉を摑んで睨み合う神谷と青年。

 

「あわわわ」

 

シャルは最早気が気でない。

 

「………あん? オメェ………竜馬か?」

 

「ああん? 何で俺の名前を………って、神谷じゃねえか!?」

 

と、神谷と青年は、突然そう言い合って手を止める。

 

「えっ?」

 

「何だよ、オイ! オメェだったのか!!」

 

「そらコッチの台詞だ! 如何したんだ、一体!?」

 

「それがよぉ、今しがたけったくそワリィ目にあってよぉ!」

 

「え、ええっ!?」

 

突然仲良さ気に話し始めた神谷と青年の姿に、シャルは戸惑うばかりである。

 

「えっと………神谷! その人、知り合い?」

 

「おっと、わりぃわりぃ。コイツは竜馬。俺のダチだ」

 

と、漸くと言った様子で、シャルが神谷にそう尋ねると、神谷はその青年………竜馬を紹介した。

 

「んん? オイ、神谷。誰だ、このカワイコちゃんは?」

 

「俺の女のシャルだ」

 

「何ぃっ!? お前にこんなカワイコちゃんの彼女だとぉ!! 嘘吐け!!」

 

シャルが神谷の恋人だと聞いて、竜馬は信じられないと言う。

 

「ホントだっての。なあ?」

 

「う、うん………」

 

平然としている神谷に対し、シャルは頬を染めながら呟く。

 

「かぁ~っ! マジかよ!! チクショー! 世も末だぜ!!」

 

「オメェは先ず、その極悪面から変えねえと駄目だな。そんな顔じゃ鬼だって逃げ出すぜ」

 

「るせぇっ! ほっとけっ!!」

 

ニヤニヤと笑う神谷に、竜馬は悪態を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

「じゃあ、2人はその時に知り合ったんだ」

 

「おうよ。俺が路地裏でヤ〇ザに絡まれてたところをな」

 

「その後、余計な事しやがってと襲い掛かって来やがったがな」

 

神谷とシャルは、竜馬に連れられ、彼の馴染みに居酒屋に向かっている。

 

何でも、腐れ縁の連中と合って飲み合うらしく、折角だから来いと言う竜馬の誘いを受けたのだ。

 

「そう言や、竜馬。もうヤ〇ザに借りた金は返したのか?」

 

「ば~か。俺がそんな金持ってるワケねえだろ………踏み倒してやったぜ」

 

神谷の問いに、竜馬は獣の様な獰猛な笑みを浮かべてそう答える。

 

「だろうな」

 

「ア、アハハハハ………(ヤ〇ザの借金を踏み倒すって)」

 

満足そうに笑う神谷と、竜馬の恐ろしさに内心で戦慄するシャル。

 

そうこう言っている内に、目的の居酒屋………『早乙女屋』へと辿り着く。

 

「おう、此処だ此処だ。オイ、ジジイ! 隼人達は来てるかぁ?」

 

暖簾を潜って扉を開けるや否や、竜馬が店主らしき老人………早乙女へと声を掛ける。

 

「相変わらず煩い奴だ………奥に居る」

 

何処と無くマッドサイエンティストを思わせる老人は、ぶっきら棒にそう言い、店の奥の座敷席を示す。

 

「遅いぞ、竜馬」

 

「もう先に始めてるぜぇ」

 

「早くしないとお前の分が無くなるぞ」

 

その奥の席には、既に酒盛りを始めている3人の男………隼人、武蔵、弁慶の姿が在った。

 

「あ! テメェ等! 何勝手に初めてやがんだ!! 久しぶりに集まろうって言ったのは俺だぞ!!」

 

竜馬はそう言いながら、その奥の座敷席へと上がる。

 

「フン………遅刻するお前が悪い」

 

「んだとぉ!?」

 

「おっと! 2人ともその辺にしときな!!」

 

「今日は殺し合いに来たんじゃねえ。飲み明かしに来たんだろ。血の味がする酒は御免だぜ」

 

今にも喧嘩を始めそうになった竜馬と隼人を、武蔵と弁慶がそう言って諫める。

 

「フン………」

 

「チッ、しょうがねえな………オイ、ジジイ! 俺にも酒だ!!」

 

「叫ばんでも聞こえとるわい………」

 

店主の早乙女は、凡そ客に対する態度とは思えない様子で竜馬の分の酒を用意する。

 

「邪魔するぜ」

 

「お、お邪魔します」

 

と、その席へ、堂々と混ざる神谷と、戦々恐々と言った様子で混ざるシャル。

 

「ん? 竜馬。誰だ、この兄ちゃんと嬢ちゃんは?」

 

武蔵が2人を見ながら竜馬にそう尋ねる。

 

「ああ、片方は前にも言っただろう、天上 神谷だ。んで、コッチはその女の………」

 

「シャ、シャルロット・デュノアです」

 

シャルはそう自己紹介するが、その身体は震えていた。

 

(み、皆強面………って言うか悪人面だよぉ~~)

 

内心ではそんな事を考えている。

 

失礼かもしれないが、彼等の場合は真実である………

 

「ほう? お前さんがあの天上 神谷か………」

 

「噂は聞いてるぜ。暴れ回ってるみてぇじゃねえか」

 

爬虫類を思わせる様な笑みを浮かべる隼人と、殺人的な笑みを浮かべている武蔵。

 

「まあな………それより! 今日はトコトン飲もうぜ!!」

 

「「「オオーッ!!」」」

 

「フッ………」

 

神谷の掛け声に、竜馬、武蔵、弁慶は歓声を挙げ、隼人はニヒルそうに笑う。

 

「ちょっ! ストップ!! 駄目だよ、神谷!! 僕達まだ未成年でしょ!!」

 

「固い事言うなって、シャル!!」

 

「そうだぜ、嬢ちゃん。此処は居酒屋だ! 飲まにゃあ損ってもんだ!!」

 

公然と飲酒をしようとしている神谷を止めようとするシャルだが、神谷は止まりそうになく、弁慶もそんな事を言う。

 

「駄目だってばあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!!」

 

それでも必死に止めようとするシャルであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

「ふみゅ~~~」

 

「オイ、シャル。大丈夫か?」

 

真っ赤な顔をして、可愛らしい声を挙げているシャルが、神谷に背負われて帰路に着いている。

 

「うみゅ~~~」

 

「駄目だ、コリャ………まさかこんな事になるとはなぁ………」

 

相変わらず可愛い声を漏らすシャルを見ながら、神谷は愚痴る様に呟く。

 

あの後、何とか神谷が飲酒する事を防いでいたシャルだったが………

 

そんなシャルに、竜馬が無理矢理酒を飲ましてしまったのだ。

 

しかも、結構アルコール度数が高いヤツを………

 

途端にシャルは目を回してブッ倒れてしまう。

 

止むを得ず、神谷はシャルを背負って、竜馬達の宴会から切り上げる事にした。

 

神谷が去る際も、竜馬達は宴会を続けていたので、恐らく本当に一晩中飲み明かす積りであろう。

 

今頃は、仲良くガチの殺し合い(日常茶飯事)でもしているのではないだろうか………

 

「………神谷~~………」

 

と、神谷に背負われていたシャルが、不意に名を呼ぶ。

 

「あ? んだよ?」

 

神谷は歩きながら振り返り、尋ねると………

 

「………大好き………」

 

「…………」

 

シャルがそう言ったのを聞いて、神谷は思わず足を止めた。

 

「………シャル………オメェ、実は酔い冷めてるだろ?」

 

「…………」

 

神谷がそう言うと、シャルは返事の代わりに、神谷の背中にギュッと抱き付く。

 

「………ったく………ホントにしょうがねえ奴だぜ、お前は………」

 

口ではそう言いながら、神谷はニヤリと笑い、再びIS学園目指して歩き出すのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

レッドショルダーを退けたグレン団ですが………
IS装着者が人類を裏切ったという事態は、世界に混乱を与えます。
お陰で膠着していた戦況はロージェノム側に傾きだします。
果たして、人類は立ち直れるのでしょうか?

一方で、簪の異能の力を更に目撃する事になった一夏達。
敵に回せば恐ろしいですが、味方としてはとても頼もしい簪が加入して、グレン団はますます強くなります。

そしてむせる話が続いたので、ちょっと味替えに神谷×シャルのラブコメをお届けしました。
原作で一夏と箒が行ったレストランでのディナーイベントですが、神谷にそんな雰囲気は似合わないと思い、特別ゲストでゲッターチーム(OVA版)の皆さんに出演して貰って、居酒屋で宴会しました。
この方が神谷らしいと思ったので。

さて、大事なお知らせですが………
ここまでで、IS原作の6巻までの流れを書いてきましたが………
次回以降はオリジナルのストーリー展開となります。
この作品は初期のMF文庫J版6巻まで出ていた時点で書き始めて完結させたので。
なので、7巻以降のストーリー展開や設定などは反映しない形になります。
改めてご了承ください。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第46話『なら歌えば良いじゃねえか』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第46話『なら歌えば良いじゃねえか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

専用機限定タッグマッチが中止されて数週間後………

 

秋も深まる中でIS学園は今、1つの話題で持ち切りとなっていた………

 

 

 

 

 

IS学園・1年1組………

 

「ねえねえ! 聞いた?」

 

「聞いた聞いた! 本当なの!?」

 

「間違いないわ! 確かな筋で確認済みよ!!」

 

クラスの生徒達が、集団で固まって何かを話し合っている。

 

「お早う………ん? 何だ?」

 

「朝っぱらから騒がしいな、オイ」

 

とそこへ、登校して来た一夏と神谷が、集まっている生徒達を見てそう言う。

 

「一夏」

 

「一夏さん」

 

「一夏さん」

 

「神谷」

 

と、一夏と神谷の姿を見た箒、セシリア、ラウラ、シャルが声を掛けて来る。

 

「ああ、箒、セシリア、ラウラ、シャル。お早う」

 

「アイツ等、何話してんだ?」

 

箒達の姿を見て挨拶する一夏と、固まって話している生徒達は何を話しているのかと尋ねる神谷。

 

「うむ、私も詳しくは知らんのだが………」

 

「何でも、今日この学園にアイドルがいらっしゃるそうですわ」

 

「アイドル?」

 

箒とセシリアの話を聞いて、一夏は首を傾げる。

 

「うむ、『初音 ミク』という名前らしい」

 

「神谷、聞いた事ある?」

 

「いや、知らねえな」

 

ラウラがその学園に来るアイドルとやらの名前を言い、シャルがそう尋ねて来るが、神谷は知らないと言う。

 

「え~! かみやん達、ミクの事を知らないの~?」

 

と、一同の話を聞いていたのほほんがそう言って来る。

 

「いや、俺はアイドルとか、あんまり興味無いし………」

 

「俺もそうだな………」

 

一夏と神谷はそう言い返す。

 

「も~う………『初音 ミク』って言えば、日本で知らない人の方が少ないトップアイドルだよ~。今じゃ世界からも注目されてるんだから」

 

「へえ~、そんなに凄いアイドルなのか~」

 

「そうだよ~。何たって、世界で唯一のISを持ってるアイドルだからね」

 

「!? ISを持ったアイドルだと!?」

 

「「「!?」」」

 

のほほんのその言葉に、箒が思わず声を挙げ、シャル達も驚きを示す。

 

「そうそう。国際IS委員会から直々に専用機を与えられた、言わばISアイドルなんだよ」

 

「オイオイ、アイドルがIS………しかも専用機を持ってんのか?」

 

神谷が呆れた様に言う。

 

「ホラ~、この前、人類を裏切ったルーマニアのIS部隊が学園を襲ったじゃない~」

 

「レッドショルダーか………」

 

一夏は、タッグマッチの日に学園を襲撃して来た元ルーマニアのIS部隊………レッドショルダーの事を思い出す。

 

「それでね~、今各国とIS委員会は揺れに揺れてるらしいよ~。一部じゃ~、ISを凍結すべきだって意見も出てるらしいし~」

 

「だが、ISを凍結してしまっては、戦況は一気に人類側が不利になるぞ」

 

現在の世界各国の戦況を知るラウラは、反論する様にそう言う。

 

「そうなんだよね~。だから~、そう言う事は無いと思うんだけど~………その裏切った人のせいで、ISのイメージがドンドン落ちてるらしいよぉ~」

 

のほほんは相変わらず間延びした口調で言う。

 

コレまで、ISは女性達にとって羨望の的………永遠の憧れの存在であった。

 

しかし、その力が人類側に向けられた今………

 

今まで忘れられていた最強の兵器であるという認識を、再確認させる事となる。

 

それにより、ISの操縦者や操縦者になろうとしていた者が、次々にISから遠ざかろうとし始めている。

 

只でさえ、ISは女性にしか使えないという欠陥があるのに、操縦者が居なくなる様な事態は各国政府やIS委員会にとっても想定外だった。

 

日本でも、玩具感覚でISを使っていた女性自衛官が、次々に退官し始めているそうである。

 

今やISは憧れの存在では無く………

 

『危険な兵器』と認識されていた。

 

「それでね~。アイドルをIS操縦者にして、ISのイメージアップを図ろうとしてるみたいだよ~」

 

「成程………」

 

「態々貴重なISをアイドルに渡すワケが分かりましたわ」

 

箒とセシリアが、納得の行った表情となって頷く。

 

「要するに人気取りか………御苦労なこった」

 

「まあまあ、神谷。向こうはそれが仕事なんだし………」

 

益々呆れる神谷に、シャルは宥めるかの様に言う。

 

「なあ、ティトリーは如何思う?」

 

と、そこで一夏が、自分の席に居たティトリーに向かってそう尋ねた。

 

「…………」

 

しかし、ティトリーは何かを考え込んでいる様な表情で沈黙している。

 

「? ティトリー?」

 

「!? ニャッ!? な、何!? 一夏!?」

 

再度声を掛けられて、漸く我に返ったティトリーが、慌てながら一夏に問い返す。

 

「大丈夫か? 何か思い詰めてるみたいに見えたけど?」

 

「え、えっと~」

 

ティトリーが返答に困っていると………

 

「席に着け!!」

 

千冬が教室に姿を見せるや否や、そう言い放つ。

 

途端に、教室中に散らばっていた生徒達は、一斉に自分の席に着く。

 

只1人、神谷だけが平然と立ち尽くしていた。

 

「神谷………席に着け」

 

「ヘイヘイ………」

 

千冬が神谷にそう言うと、神谷はそう言いながら席に着き、何時もの足を机の上に投げ出すポーズを取る。

 

「…………ハア~~」

 

そんな神谷の姿を見て、千冬は疲れた様に重々しい溜息を吐いて、教壇の横へと移動する。

 

「皆さ~ん。お早うございま~す」

 

とそこで、今度は真耶がそう言いながら教室に入って来た。

 

「さて、皆さん。もう知っている人も居ると思いますが………実は今日、この学園に………素敵な人が来ています!」

 

教壇に立った真耶が、生徒達に向かってそう言うと、「やっぱり!」、「本当だったんだ!」といったざわめきが起こる。

 

「しかも何と! ウチのクラスに来てくれる事になりました!!」

 

「「「「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」」」」

 

しかし、続いて出た真耶の言葉で、一斉に驚きの声を挙げて沈黙する。

 

それと同時に、教室の後ろ側にカメラを抱えた人間や、集音マイクを持った人間と言った、所謂放送スタッフ達が現れ、バタバタと撮影の準備をする。

 

「それじゃあ、入って来て下さい………初音 ミクさん!」

 

「ハ~イ!」

 

そして、真耶がそう言うと、透き通る様な声と共に、教室の前側の出入り口から………

 

青緑色でくるぶしまで届く長さのツインテールの髪型をした、IS学園の制服に身を包んだ少女………ISアイドル・初音 ミクが姿を現した。

 

「初音 ミクです。今日1日、皆さんと一緒に勉強させてもらいます。よろしくお願いしますね」

 

そう言ってミクは、ニッコリと笑って頭を下げる。

 

「キャアアアアァァァァァーーーーーーッ!!」

 

「本物! 本物の初音 ミクちゃんよ!!」

 

「いやん! 可愛い~~~っ!!」

 

「ミクちゃ~ん! 私よ~~!! 妹になって~~~~っ!!」

 

途端に、生徒達は一斉に騒ぎ始める。

 

「うわっ!?」

 

「うるせえなぁ………」

 

その声の大きさに驚く一夏と、煩そうに耳を塞ぐ神谷。

 

「静かにしろ!!」

 

しかし、千冬の怒声が挙がると、ピタリと静まり返った。

 

「ア、アハハハハ………」

 

「ご、ゴメンね、ミクちゃん。ウチのクラス、元気の良い子が多いから………」

 

ミクが苦笑いを漏らすと、真耶がそう謝罪する。

 

「い、いえ、大丈夫です。ちょっとビックリしただけですから………それにしても、流石ブリュンヒルデさんですね。一声で全員を静まらせるなんて」

 

ミクは真耶にそう言いながら、千冬に尊敬の眼差しを送る。

 

「あまりその名は使わないでくれると助かる………好きじゃないんだ」

 

「あ、ゴメンなさい………」

 

「まあ、良い………初音 ミク。君の席は一夏の隣だ」

 

「あ、ハイ」

 

千冬に言われて、ミクは一夏の隣の席へ着く。

 

前には別の生徒が使っていた机だが、その生徒は退学した為、今は空席となっていた。

 

「君が織斑 一夏くん? ニュースで見たよ。世界で初めてISを動かした男性って」

 

と、ミクは隣の席の一夏に、ニッコリ微笑みながらそう声を掛ける。

 

「あ、ど、如何も………」

 

思わず照れながら返事を返す一夏。

 

「「「…………」」」

 

途端に、箒、セシリア、ラウラから殺意の籠った視線が向けられる。

 

(ううっ!?)

 

一夏は思わず身震いする。

 

しかしまあ、今回に限って彼の気持ちも分からないではない………

 

何せ、初音 ミクは世界からも注目されているアイドルなだけあって、かなり可愛い容姿をしている。

 

そんな美少女にニッコリ微笑まれながら挨拶されれば、一夏でなくても照れてしまうだろう。

 

「あ、そっちの方は………」

 

「………気に入らねえな」

 

と、ミクは今度は神谷に挨拶しようとしたが、それを遮る様に神谷がそう言う。

 

「えっ?」

 

「ちょっ!? アニキ!?」

 

神谷の思わぬ言葉に、ミクは戸惑い、一夏は慌てる。

 

「そんな作り笑い浮かべて………楽しいのかよ?」

 

「!?」

 

そして続いて神谷から出た言葉で、ミクは驚いた様な様子を見せる。

 

「…………」

 

神谷は無言で立ち上がると、堂々と教室を後にする………

 

「ちょっ!? て、天上くん!?」

 

「山田くん、放って置け。何か言うだけ無駄だ………」

 

真耶が慌てるが、千冬は頭を抱えて諦めた様な様子でそう言う。

 

「え、ええ~~」

 

千冬にそう言われ、真耶は情けない声を挙げる。

 

「ちょっと!? 何よあの態度!?」

 

「ミクちゃんに向かって~!」

 

「天上 神谷! 許すまじ!!」

 

生徒達は、ミクへ暴挙とも取れる行動を取った神谷に批判の声を挙げる。

 

教室後方に居た撮影スタッフも、戸惑って撮影を止める。

 

「すみません、皆さん。彼の事は気にせず撮影を続けて下さい」

 

と、そんなスタッフ達に向かって、千冬がそう言う。

 

それを受けて、スタッフ達は若干戸惑いながらも、撮影を再開する。

 

「ミクちゃん! あんな奴の言う事なんか気にしないで良いよ!」

 

「そうそう! 何時もあんな感じだから!!」

 

「う、うん………」

 

生徒達はミクをフォローする様にそう言うが、ミクは若干表情を曇らせていた。

 

それでも、カメラが向けられるとそんな様子はおくびにも出さなかったのは、流石にプロである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れて昼休み………

 

ミクは、一夏達専用機持ちのメンバーに囲まれて、屋上で弁当を食べようとして、移動中だ。

 

勿論、一同の後ろからは撮影スタッフが尾いて来ている。

 

「わおっ! 本物のミクじゃないの!!」

 

「きゃあ~~、可愛い~~!!」

 

途中で合流した鈴と楯無は、ミクの姿を見て、テンションが上がりっ放しである。

 

「…………」

 

只1人、簪だけが興味無さ気だった。

 

「鈴、お前は初音 ミクの事を知ってたんだな」

 

と、一夏が何気なくそう言うと………

 

「何言ってんのよ!? 寧ろ知らないアンタ達がおかしいんでしょうが!!」

 

「そうだよ、一夏くん!! 初音 ミクちゃんだよ! 初音 ミク!!」

 

鈴に加えて、楯無までもがそう言って来る。

 

「お、おう………ゴメンナサイ」

 

その迫力に、一夏は思わず謝ってしまう。

 

「凰さん、更識さん。そんなに織斑さんを責めないで下さい。私、気にしてませんから」

 

しかし、当の本人であるミクが、ニッコリと笑いながらそう言う。

 

「そう?」

 

「まあ、ミクちゃんが良いって言うなら………」

 

それを聞いて、鈴と楯無は素直に引き下がる。

 

「ひえ~~………ありがとう、ミクちゃん」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

そう言ってニッコリとした笑顔を一夏に向けるミク。

 

「!?」

 

それを見て、一夏はまたも照れる様子を見せる。

 

「「「「…………」」」」

 

途端に、箒、セシリア、鈴、ラウラからは殺意の視線が送られるのだった。

 

そうこうしている内に、漸く屋上へと辿り着く。

 

「? アレ?」

 

するとそこで、シャルが何かに気づく。

 

「? 如何した? シャルロット?」

 

「ねえ、何か聞こえない?」

 

一夏がそう聞くと、シャルは一同にそう問い質した。

 

「何か?」

 

「「「「「「??」」」」」」

 

と、そこで一夏と箒達も耳を澄ませる。

 

「!? コレは!?」

 

そこで、ミクが驚きを露にする。

 

聞こえて来ていたのは、ミクの持ち歌『ワールドイズマイン』だった。

 

「誰が聞いてるんだろう?」

 

「もしかして………」

 

一同は屋上の芝生エリアへと踏み込む。

 

そしてそこには………

 

「…………」

 

神谷が芝生の上に寝っ転がり、携帯から『ワールドイズマイン』を流していた。

 

「神谷!」

 

「アニキ!」

 

「おう、お前等。もう昼休みか」

 

神谷は、一夏達の姿を見ると、身体を起こす。

 

「ちょっと神谷! アンタミクちゃんに暴言を吐いたって聞いたわよ!!」

 

「なのにそのミクちゃんの曲を聞いてる………如何いう了見!?」

 

鈴と楯無が、神谷へと食って掛かって行く。

 

「聞いた事なかったからな。中々良い歌じゃねえか」

 

しかし、そんな2人を軽く流しながら、神谷はそう言い放つ。

 

「あ、あの、えっと………私の歌、聞いてくれたんですね。ありがとうございます」

 

ミクは戸惑いながらも、自分の歌を聞いてくれた神谷に感謝の意を示す。

 

撮影スタッフも良い絵だと言う様にカメラを寄せて来る。

 

「兎に角………アニキもミクの良さを分かったみたいだし、それで良いじゃないか」

 

「別はそうは言ってねえぞ」

 

コレ以上は不毛な議論になると思い、一夏がその場を纏めようとしたが、神谷はそこでまたも爆弾を投げ込んで来た。

 

「え!?」

 

「ちょ!? アニキ!?」

 

「アンタ! 何様の積り!?」

 

「一体如何言う事か説明してくれるかな?」

 

ミクは再び驚き、一夏が戸惑っていると、鈴が神谷に食って掛かり、楯無も笑みを浮かべてのプレッシャーを掛ける。

 

「お前さん………何で作り笑いなんかしてんだ?」

 

すると、神谷はミクに向かってそう言い放った。

 

「!?」

 

それを聞いたミクが仰天する。

 

「作り笑いって………」

 

「アンタ、何適当なこと言って………」

 

「………如何して分かったんですか?」

 

鈴が再び噛み付こうとしたが、その前にミクがそう言って来た。

 

「!? ミクちゃん!?」

 

「まさか………ホントなの!?」

 

戸惑う鈴と楯無。

 

撮影スタッフも若干混乱している。

 

「まあな………で? 如何してだよ?」

 

「それは………」

 

神谷の問いに、ミクは答え辛そうにしている。

 

と、その視線が撮影スタッフに向けられる。

 

「………カメラにゃ映せねえってか?」

 

「………すみません、スタッフさん。暫くオフレコにしてくれませんか?」

 

神谷がそう言うと、ミクはスタッフにオフレコにしてくれと言う。

 

「え? いやでも………」

 

「そりゃ困るよ、ミクちゃ~ん。お昼の談笑の光景なんて、撮影するに値する良い絵になるに決まってるじゃな~い」

 

渋る撮影スタッフ。

 

「お願いします」

 

「そう言われてもね~」

 

尚もお願いするミクだが、スタッフは相変わらず渋る。

 

と………

 

「口で言って分からないなら………コレと話す?」

 

簪がそう言うと、懐から矢鱈ゴツい拳銃を取り出し、撮影スタッフに突き付けた!!

 

「「「「!? ヒイイイイィィィィィーーーーーーッ!?」」」」

 

撮影スタッフは忽ち悲鳴を挙げて逃げ出した!!

 

「…………」

 

それを確認すると、簪は肘を曲げて銃口を天に向ける。

 

「か、簪? その銃は?」

 

冷や汗を掻きながら、一夏が簪に尋ねる。

 

「バカラ・メタル社製………バハウザーM571………アーマーマグナム………私が独自に研究して造り出したISの絶対防御を貫ける徹甲弾が装填されてるわ………」

 

サラッととんでもない事を言いながら、簪はゴツい銃………アーマーマグナムを懐に戻す。

 

「うむ、良い銃だ」

 

軍人であるラウラは、簪の持っていた銃にそう言う評価を下すものの、神谷を除いた他の一同はドン引きしていたのだった………

 

「え、えっと、それでミクちゃん。アニキが言ってた事………本当なのかい?」

 

と、そこで一夏が空気を変える様に、ミクにそう尋ねる。

 

「あ、ハイ………私、最近………ずっと心から笑った事なんて無くって………」

 

「如何してよ!? ミクちゃんは誰もが認めるトップアイドルじゃない!! しかもIS持ちの!!」

 

鈴が、信じられないと言う様にそう言うと………

 

「………そのISが問題なんです」

 

ミクから、思いがけない言葉が出て来た。

 

「? ISが問題って………」

 

「一体如何言う事なんですの?」

 

ミクの言葉に、楯無とセシリアが首を傾げる。

 

「………私がアイドルになったのは、色んな大勢の人に自分の歌を聞いてもらって、元気になってもらいたいと思ったからなんです」

 

ミクはポツリポツリと語り出す。

 

「最初は勿論上手く行かなかったけど………でも………頑張ってレッスンに励んで、仕事に打ち込んで………我武者羅に頑張ったんです」

 

「…………」

 

「そうしたら、1人………また1人ってファンの人が出来て来て………今じゃトップアイドルなんて言われる様になって………」

 

「勿論! ミクちゃんは今や誰もが認めるトップアイドルよ!!」

 

鈴がまるで自分の事の様にそう言うが………

 

「でも………IS委員会が私にISをくれてから………皆の私を見る目が変わったんです」

 

「変わった?」

 

シャルが首を傾げる。

 

「皆私の歌より………私がIS乗りだって事に注目する様になったんです」

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

「ISを持つ世界で一番強いアイドルだって………皆私にIS乗りである事を求める………私はアイドルだから、皆が求める姿には答えなくちゃいけない………だから………来る日も来る日も薄っぺらい笑みを浮かべて仕事を熟して………」

 

「ミク………」

 

箒がそんなミクを哀れむ様な目で見る。

 

「私は別にISなんか欲しくなかった………ただ私の歌を聞いてもらいたかっただけなのに………」

 

そこで、堪えていたものに耐えられなくなったのか、ミクはポロポロと涙を流し始めた。

 

「ミ、ミクちゃん!?」

 

「ちょっ!?」

 

泣き出してしまったミクに、一夏達はアタフタとする。

 

と………

 

「なら歌えば良いじゃねえか」

 

そんなミクに向かって、神谷は遠慮無しにそう言う。

 

「ちょっ!? アニキ!!」

 

「神谷! アンタねぇ!!」

 

一夏が驚き、鈴が摑み掛かって行きそうになるが………

 

「お前の歌がホンモンなら、歌ってりゃあ聞いてくれる奴は居る筈だぜ………その為にISが邪魔だってんだら、いっそ利用してやれ!! 目の前の壁ってのは打ち破る為に有るんだ!!」

 

神谷は、お得意の熱血根性論をミクに叩き付ける。

 

「ISを利用………目の前の壁を打ち破る………」

 

「ああ、もう、ミクちゃん。コイツの言う事は聞き流して良いから」

 

「そうそう。ISを持っていてもいなくても、少なくとも私達はミクちゃんのファンだよ」

 

神谷の言葉に感じ入るものがあったミクだったが、鈴と楯無がそう言って来る。

 

結局、また話そうとしたところで、逃げ出した撮影スタッフが戻って来てしまい、話はそれまでとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして再び時は流れて放課後………

 

ミクの緊急コンサートが開かれる事となり、会場として選ばれた第1アリーナには、全校生徒が集結している。

 

「「「「「「「「「「ミーク!! ミーク!! ミーク!! ミーク!!」」」」」」」」」」

 

大合唱のミクコールが、地響きとなって地面を揺さぶる………

 

「皆ー! ありがとうー!! 今日は心行くまで楽しんで行ってねー!!」

 

ステージ上のミクがそう言うと、曲が流れ始め、ミクはダンスを披露しながら踊り始める。

 

「キャーッ! ミクちゃ~~ん!!」

 

「う~~ん! 私もう死んでも良い!!」

 

鈴と楯無は、最早興奮の絶頂に居た。

 

「改めて見ると、本当に魅了されるな~」

 

「トップアイドルって言うのも頷けるね~」

 

一夏とシャルも、歌って踊るミクの姿を見てそんな感想を呟く。

 

箒達もミクの迫力に黙り込んでいる。

 

(やっぱり良い歌歌うじゃねえか………)

 

神谷も心の中でそう思っていた。

 

と、その時………

 

突如学園内に警報が鳴り響く!!

 

「!? えっ!?」

 

ミクは思わず歌うのを止めてしまい、生徒達も戸惑いの様子を見せる。

 

「!? コレは!?」

 

「まさか!?」

 

一夏と箒がそう言った瞬間………

 

[ロージェノム軍襲来!! 全校生徒は直ちにシェルターへ避難せよ!! 繰り返す!! ロージェノム軍襲来!! 全校生徒は直ちにシェルターへ避難せよ!!]

 

千冬の声でそうアナウンスが流れた。

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

途端に生徒達は、アリーナから逃げ出し始める。

 

「チッ! こんな時にかよ………」

 

「オノレェ! ロージェノム軍!! ミクちゃんのコンサートを中止させるなんてぇ!!」

 

「この恨み! 晴らさでおくべきかぁ!!」

 

神谷が愚痴る様にそう言うと、鈴と楯無が恨みが籠った怒りの声を挙げる。

 

[神谷! 一夏くん! 他の皆も聞こえる!?]

 

とそこで、神谷には通信機に、一夏達には待機状態のISからリーロンの声が響いてくる。

 

「リーロンさん!」

 

「状況は如何なっている!?」

 

[敵は例の飛行母艦よ。海上の方から飛行ガンメン部隊を展開して学園の方に向かって来てるわ。如何やら、爆撃でもする積りみたいね]

 

ラウラに状況の報告を求められると、リーロンはそう言う。

 

「そうはさせるかってんだ! 行くぞ、お前等!!」

 

「おうっ!!」

 

神谷の声に、一夏が返事を返して待機状態の白式を構え、他の者も同じく待機状態のISを構えた。

 

「グレンラガン! スピンオンッ!!」

 

そして神谷も、コアドリルを握った右手を天に掲げる様に構えたかと思うと………

 

螺旋力の光に包まれ、グレンラガンの姿となった!!

 

一夏達も光に包まれ、ISを装着した状態となる。

 

「行くぜ!!」

 

グレンラガンがそう言って、グレンウイングを展開すると、空へと舞い上がる。

 

一夏達もそれに続き、飛行出来ない簪はジェットローラーダッシュで地上からその後を追って行く。

 

「神谷さん………一夏さん………皆さん………」

 

「ミクちゃん! 早く逃げるんだよ!!」

 

ミクがその後姿を見送りながら呆然としていたところ、スタッフに手を引かれて、シェルターへと連れて行かれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

今回からオリジナルストーリーが始まります。
その1発目は、あの電子の歌姫・初音ミクにゲスト出演して頂きました。
アイドルが学園に来るってのは昭和の作品なんかだとお約束ですよね。

そしてISらしく、ISを持ったアイドルにしてみました。
しかし、その事が苦悩の原因となっているミク。
そんな中で、お約束の襲撃。
戦いに赴く神谷達を見て、ミクは………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第47話『私の歌を聴けえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第47話『私の歌を聴けえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界からも注目される、ISを持ったアイドル………

 

『初音 ミク』が、IS学園にやって来た。

 

だが彼女は突然与えられたISを、内心快く思っていなかったのである。

 

そんな中、ミクのコンサート中を狙ったかの様にロージェノム軍が学園を襲撃。

 

神谷達グレン団は、すぐさま迎撃へと出たのだった。

 

 

 

 

 

アリーナから飛び出し、数分後………

 

神谷達グレン団は、既に学園敷地内の端の方の森林地帯で爆撃を開始していた飛行ガンメン部隊と接触する。

 

背後の空中には、ダイガンテンが我が物顔で控えている。

 

「そこまでだ! ケダモノ野郎共!! コレ以上の無法は! 天が見逃しても、このグレン団の神谷様が見逃さねえ!!」

 

飛行ガンメン部隊とダイガンテンに向かって見得を切りながら、グレンラガンが参上する。

 

一夏達もその背後で控え、地上に簪も到着する。

 

[現れたか! グレンラガン共!! 今日が貴様達の最期の日だ!!]

 

グレンラガン達の姿を確認したダイガンテンのシトマンドラが、外部スピーカーを使ってそう言って来る。

 

「へんっ! 悪党の決まり文句みたいな台詞を言いやがって!!」

 

「最期になるのはそっちの方よ!!」

 

「私達の怒り! 思い知らせてやるわ!!」

 

一夏が呆れる様にそう返すと、怒りの炎を滾らせている鈴と楯無が、双天牙月と蒼流旋を突き付けながらそう言い放つ。

 

「凄い………鈴と楯無さんが燃えてる」

 

怒りの様子が炎となって具現化して見えた様な気がしたシャルが、思わずそう呟く。

 

[フフフ………その活きが何処まで続くかな? 全軍! 攻撃開始ぃっ!!]

 

だが、シトマンドラは微塵も動揺した様な様子は見せずそう言い放つと、飛行ガンメン部隊が一気に襲い掛かって来た!!

 

「上等だ!! その自慢の戦艦を粉々にしてやるぜぇ!!」

 

それに対し、グレンラガンがそう言い放つと、魁ける様に突っ込んで行く。

 

「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」

 

「攻撃を開始する………」

 

一夏達もそれに続き、地上の簪も戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

学園地下の緊急避難用シェルターでは………

 

「キャアッ!?」

 

断続的に聞こえて来る爆音に、生徒の1人が悲鳴を挙げる。

 

「如何なってるのかな?」

 

「いつもみたいにグレン団が迎撃に向かったみたいだけど………」

 

不安を紛わすかの様に、ヒソヒソと小声でお喋りを始める生徒達。

 

これまでも学園がロージェノム軍に襲撃されて、地下シェルターに避難する事は多々あったが、コレばかりは何回経験しても慣れるものではない………

 

(神谷さん達………大丈夫かな………?)

 

その中に撮影スタッフと共に混じっていたミクは、戦っている神谷達を心配する。

 

「ホントに映るの?」

 

「多分………前に配線の工事手伝ったから………」

 

すると、シェルターの片隅で、整備課の上級生達が何やらゴソゴソと動いている。

 

(? 何だろう?)

 

それが気になったミクは、コッソリとその上級生達の方に近づき、後ろから様子を覗き込む。

 

「コレと………この配線を繋げて………」

 

上級生達の中の1人が、シェルターの壁の一部を外して、中に在った配線を手持ち用の小型モニターに繋げている。

 

「良し! コレで………」

 

やがて配線を繋ぎ終えたかと思うと、モニターの電源を入れる。

 

すると、点灯したモニターには、グレン団とロージェノム軍との戦闘の様子が映し出された!

 

如何やら、学園の監視システムの配線を引き込んだらしい。

 

「映った! 凄い!!」

 

「えへへ、やっぱり気になるもんね………」

 

上級生達はそう言ってグレン団の戦闘の様子を見始める。

 

それに気付いた周りの生徒達も集まって来る。

 

 

 

 

 

戦況はグレン団側が優勢だった。

 

一夏が雪片弐型で、箒が雨月と空裂を使って、カトラゲイを斬り裂く。

 

セシリアがスターライトMkⅢで、ラウラが大型レールカノンで、モウキーンを撃ち落とす。

 

鈴は龍砲で、楯無は清き熱情(クリア・パッション)を使って、飛行型シャクーの軍団を纏めて爆散させる。

 

簪はジェットローラーダッシュで攪乱する様に移動しながら、隙を衝いての精密射撃で隊長機であるカトラリーダーだけを狙って撃ち落としている。

 

シャルはそんな簪のフォローに廻っており、簪に爆撃を見舞おうとしていたモウキーンを、デザート・フォックスで撃墜している。

 

「燃える男の火の車キイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

そしてグレンラガンは、炎を纏った飛び蹴りで敵軍の中を通り抜け、次々に爆散させる。

 

正に無双状態だった。

 

 

 

 

 

「うわあぁっ! 凄い!!」

 

「ホント、こういう時は頼りになるって思うよねえ、天上 神谷って」

 

その光景を見て、生徒達はそんな事を言う。

 

(神谷さん………凄い)

 

ミクも心の中でそう思う。

 

 

 

 

 

「よっしゃあっ! このまま一気にあのデカブツを沈めてやるぜ!!」

 

と、グレンラガンがそう叫んだかと思うと、その右腕が巨大なドリル………ギガドリルへと変わる!!

 

「覚悟しやがれ! 鳥野郎!! 焼き鳥にしてやるぜぇ!!」

 

そのギガドリルを構え、ダイガンテンへと突撃するグレンラガン。

 

だが………

 

[掛かったな! グレンラガン!!]

 

シトマンドラがそう言い放ったかと思うと、ダイガンテンの甲板上に、幾つもの巨大なスピーカーが出現する。

 

「? 何だか知らねえが! そんなモンで俺を止められると思うなぁ!!」

 

グレンラガンは構わず、ダイガンテンにギガドリルブレイクをブチかまそうとする。

 

しかし………

 

[喰らえっ! 殺人音波!!]

 

シトマンドラがそう叫んだ瞬間、ダイガンテンの甲板上に出現したスピーカーから強烈な殺人音波が放たれ始めた!!

 

「!? グアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

防音機能を物共せず、脳に直接響いて来る様な音波に頭が割れそうになり、技を中止して両手で耳の辺りを抑えるグレンラガン。

 

「!? うわあああぁぁぁぁっ!?」

 

「こ、コレは!?」

 

「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

その殺人音波は一夏達の方にも届いており、グレンラガンと同じ様に耳を抑える。

 

「クウッ………妙な搦め手を………」

 

地上の簪も同じであり、耳を抑えている。

 

[今だ! グレンラガン共の動きが鈍ったぞ!! 一気に叩き潰してしまえぇっ!!]

 

[うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ! 今までお前にやられた仲間の恨みぃ!!]

 

[今此処で晴らしてやるぜぇ!!]

 

その光景を見たシトマンドラがそう言うと、飛行ガンメン部隊が一斉にグレンラガン達に襲い掛かる!!

 

「チキショウ! 舐めんじゃねえぁっ!!」

 

襲い掛かって来たカトラゲイに、スカルブレイクをかまして撃墜するグレンラガンだったが………

 

そこで再び殺人音波が襲い掛かる。

 

「ぐああっ!?」

 

動きが止まってしまった瞬間、モウキーン部隊の爆撃が襲う。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?」

 

グレンラガンの周りで連続して爆発が起こる。

 

「アニキ!!………!? うわっ!?」

 

「神谷!!………!? キャアッ!?」

 

助けに行こうとした一夏とシャルにも、カトラゲイとシャクーのミサイル攻撃が見舞われる。

 

更に、ダイガンテンからも殺人音波攻撃が続く。

 

「「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」」

 

「「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」」

 

「くうっ!?」

 

グレンラガンと一夏達から悲鳴が挙がり、動きが止まる。

 

その瞬間を狙って、飛行ガンメン部隊が攻撃を仕掛ける。

 

真面に動けないグレン団は何発も直撃弾を貰ってしまう。

 

 

 

 

 

「ああ! 一夏くん達が!?」

 

「如何しよう!? グレン団が負けちゃう!?」

 

不利になったグレン団の様子を見て、生徒達の間に動揺が走る。

 

(神谷さん!!)

 

ミクも食い入る様な表情でその様子を見守る。

 

(お前の歌がホンモンなら、歌ってりゃあ聞いてくれる奴は居る筈だぜ………その為にISが邪魔だってんだら、いっそ利用してやれ!! 目の前の壁ってのは打ち破る為に有んだ!!)

 

ふとその脳裏に、神谷の言葉が思い起こされる。

 

(ISを利用………目の前の壁は………打ち破る為に有る!!)

 

と、ミクは何かを決意した表情になると立ち上がり、そのままシェルターから出て行った!!

 

「ちょっ!? ミクちゃん!? 何処行くの!? うわあぁっ!?」

 

慌てて追おうとする撮影スタッフだったが、再びシェルター内に走った振動で転倒してしまう。

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ダイガンテンの殺人音波に苦しめられているグレン団は………

 

「チキショウ! 妙な攻撃してきやがって!!」

 

「アニキ、駄目だ!! あの音を何とかしないと!!」

 

「でも! あんなに響かされてたんじゃ近づけないよ!!」

 

グレンラガン、一夏、シャルが耳を抑えながらそう言い合う。

 

その間にも飛行ガンメン部隊の攻撃は続いており、グレンラガンはボロボロにされ、一夏達のISのシールドエネルギーも見る見る内に減って行く。

 

「クッ! 万事休すか!?」

 

「こんなところで………終わるワケには行きませんわ!!」

 

箒がそう言い、セシリアがそう吠えるが、状況を打開する手立ては無い。

 

と、その時………

 

「!? 6時方向から新たな機影が接近しているぞ!?」

 

「敵の増援!?」

 

ラウラが上げた声に、鈴が驚きながらそう尋ねる。

 

「いや、待て………この反応は………!? ISだと!?」

 

と、ラウラがそう叫んだ瞬間………

 

真っ赤なカラーリングに、エレキギターを手に持ったIS。

 

ミクの専用機『ファイヤーバルキリー』が姿を現した!!

 

「ミクちゃん!?」

 

「な、何で!?」

 

「此処は戦闘空域だ! 早く逃げろぉ!!」

 

楯無と鈴が驚きの声を挙げ、箒がそう怒鳴るが、ミクは構わずダイガンテンの方へと突っ込んで行った。

 

(今の私の目の前に立ちはだかっている壁………それは!!)

 

そして、エレキギターを構えたかと思うと、ファイヤーバルキリー左右の非固定浮遊部位が展開。

 

そこからスピーカーが姿を現した!!

 

[何だ、あのISは? ええい、目障りだ! 殺人音波を浴びせてやれ!!]

 

突如乱入して来たミクのISに、シトマンドラは気分を害され、そう命じる。

 

殺人音波のスピーカーが空気を震わせる………

 

だが、その瞬間!!

 

「私の歌を聴けえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

ミクの叫びと共に、ファイヤーバルキリー左右の非固定浮遊部位のスピーカーから大音量で音楽が流れ始めた!!

 

「!? コレは!?」

 

「『突撃ラブハート』!?」

 

楯無と鈴が、その音楽がミクの持ち歌である突撃ラブハートである事に気づく。

 

そのままミクは、ISを操縦しながら、尚且つギターを弾いて歌うという離れ業を披露し始めた!!

 

[な、何だ、この歌は!?]

 

[シトマンドラ様! 奴の歌で殺人音波が掻き消されています!!]

 

突然歌い出したミクに戸惑っていると、ダイガンテンのブリッジ担当獣人からそう報告が挙がる。

 

[な、何だと!?]

 

「! 音が止まったぞ!!」

 

「!? ホントだ!?」

 

「コレって………ミクちゃんの歌の力!?」

 

シトマンドラが驚きの声を挙げると、グレンラガンや一夏達が、次々に回復して行く。

 

[ええいっ! 全部隊、あの赤いISに攻撃を集中させろ!! 撃ち落とすのだ!!]

 

激昂した様子でシトマンドラはそう命じる。

 

途端に、飛行ガンメン部隊はミクへと殺到する。

 

「!!」

 

ミクは歌うのも演奏も止めず、只管に飛行ガンメン部隊の攻撃を躱して行く。

 

だが、余りの数の前に徐々に追い詰められて行き、とうとう1発のミサイルが至近距離で爆発する!!

 

「!? ううっ!?」

 

シールドのお蔭で損傷・怪我は無かったが、ミクは歌うのを中断してしまう。

 

更にその瞬間!!

 

飛行ガンメン部隊の一斉攻撃が襲い掛かる!!

 

大量のミサイルが、白煙の尾を曳いてミクに向かう!!

 

(!? 駄目! 避けられない!!)

 

思わず目を閉じて身を固くするミクだったが………

 

「ドリルシールド!!」

 

その間に割って入ったグレンラガンが、ドリルシールドで飛行ガンメン部隊の一斉攻撃を受け止めた!!

 

「!? 神谷さん!?」

 

「助かったぜ、ミク! 戦場に出て来て歌うなんざ、良い度胸してるじゃねえか!!」

 

「………コレが私の戦いです! 私は………壁を超える!!」

 

ニヤリッと笑い掛けて来たグレンラガンに、ミクはそう返す。

 

「気に入ったぜ! 思う存分歌え、ミク!! お前は俺達が守る!!」

 

グレンラガンがそう言った瞬間、ミクの周りを一夏達が取り囲み、彼女を守る様に得物を構えた!!

 

「…………」

 

地上の簪も、空を見上げて頷いていた。

 

「! ハイ!!」

 

ミクは元気良く返事を返すと、再び『突撃ラブハート』を熱唱し始めた!!

 

「へへっ! 良いじゃねえかよぉ、この歌は! 腹の底のズシンッと来やがるぜ!!」

 

「アニキ! 俺、何だか燃えて来たぜ!!」

 

その歌を聴いたグレンラガンがそんな感想を言った瞬間、一夏がそう叫ぶ。

 

すると………

 

白式が金色に輝き始め、スーパーモードとなった!!

 

「!? スーパーモード!? 如何して………いや、今はそんな事は如何でも良い!!」

 

戸惑う一夏だったが、今はこのノリに乗った方が勝ちだと思い、余計な考えを捨てる。

 

「よっしゃあっ! 行くぜぇっ!!」

 

「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」

 

そしてグレンラガンの声で、グレン団のメンバーは一斉に戦闘を再開したのだった。

 

 

 

 

 

「ミクちゃんの歌が聞こえる………うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ! 漲ってきたあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

矢鱈ハイテンションになった鈴が、龍砲を最大出力でブッ放す。

 

カトラゲイの軍団が、まるでプレス機で潰されたかの様に変形し、爆散する。

 

「今日のお姉さんは絶・好・調!! 惑星だって砕いてみせるわぁっ!!」

 

何処ぞの御大将か、宇宙海賊の様な台詞を言い放ち、アクア・ナノマシンを津波の様にモウキーン部隊にブチまけながら、清き熱情(クリア・パッション)で次々に爆発させて行く。

 

ミクのファンだと言う2人のテンションは、最早天元突破せんばかりの勢いであった。

 

 

 

 

 

「何故だ? この歌を聴いていると、士気が高揚して行く」

 

ラウラは、ミクの歌で自分の気持ちが高まって行く事に戸惑いながらも、全てのワイヤーブレードを巧みに操り、次々にカトラリーダーを叩き斬っている。

 

「ラウラさん。こういう時は考えた方が負けですわ。今は只! この心の燃えるままに! 戦うのみですわ!!」

 

そんなラウラにそう言いながら、スターライトmkⅢを発砲するセシリア。

 

放たれたビームが飛行型シャクー軍団の中で幾重も曲がりくねり、次々に敵ガンメンを爆散させて行く。

 

「フッ! 良いだろう!! そうするとしよう!!」

 

その言葉にラウラはフッと笑い、突っ込んで来たカトラゲイをAICで停止させると、プラズマ手刀で斬り裂くのだった。

 

 

 

 

 

「如何なってんだ!? アイツ等、急に動きが戻りやがったぞ!?」

 

「あの女だ! あの女の歌が原因だ!!」

 

突然動きが戻ったグレン団の面々に戸惑うガンメンを操っている獣人に、別のガンメンを操っている獣人がミクを指差しながらそう言う。

 

「チキショー! アイツから先に片付けてやる!!」

 

ガンメンを操っている獣人がそう言ってミクに向かうと、他のガンメン達も次々にミクへと向かう。

 

だが………

 

「そうはさせんぞ!!」

 

箒の叫びが響くと、その手に持つ雨月と空裂からレーザーとエネルギー刃が放たれ、ミクに殺到しようとしていた飛行ガンメン部隊を薙ぎ払った!!

 

「ええいっ! 負けるかぁ!!」

 

だが、しぶとく生き残った1機のシャクーが、尚もミクへと向かう。

 

「貰ったぁっ!!」

 

そしてそのまま、その巨大な口を開き、ミクに噛み付こうとする。

 

「させないよ!!」

 

だがその瞬間に、シャルが割り込んで来て、大きく開かれていたシャクーの口に、灰色の鱗殻(グレー・スケール)を叩き込んだ!!

 

「ゴハッ!?」

 

「ブッ飛べええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

そのままバンカー打突用の火薬を次々に炸裂させ、シャクーの口内を何度も串刺しにする。

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

断末魔の叫びが挙がると、シャクーは爆散した。

 

「ミクちゃん! 君は僕達が守るよ!!」

 

「だから遠慮無く歌ってくれ!」

 

「…………」

 

シャルと箒の言葉に頷いて見せ、ミクは更に声高らかに歌う。

 

 

 

 

 

「戦いの場で歌うか………普通に考えれば信じられない行為ね………」

 

右手で保持していたソリッドシューターを、上空のモウキーンに向かって放つ簪。

 

直撃を受けたモウキーンは、粉っぽい爆発を挙げて消し飛ぶ。

 

「でも………」

 

「スクラップにしてやるぜぇ!!」

 

とそこで簪に、地上スレスレを水平飛行しながら、カトラゲイが突っ込んで来る!!

 

「…………」

 

簪はローラーダッシュ機能を使い、その場で高速超信地旋回を行い、勢いに乗せた左拳を突っ込んで来たカトラゲイに叩き込み、アームパンチを炸裂させる!!

 

「ギャアアッ!?」

 

機体が大きく変形し、地面に落ちるカトラゲイ。

 

そのカトラゲイに向かって、簪はトドメのソリッドシューターを叩き込む!!

 

「獣人万ー歳っ!!」

 

断末魔の声と共に、カトラゲイは粉っぽい爆発を挙げて吹き飛ぶ。

 

「こういうのも悪くは無いわね………この歌は………嫌いじゃないわ」

 

ターレットレンズを回転させながら上空で歌うミクを見上げると、簪は対空援護を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その光景は当然シェルターで監視カメラの映像をハッキングして見ていた生徒達にも届いており………

 

「ミクちゃんが戦場で歌ってる………」

 

「凄い………グレン団の皆の動きが復活した」

 

絶望が降り掛かっていた生徒達の心に、再び希望が灯り始める。

 

「頑張れ! ミクちゃん!!」

 

「グレン団も負けるなぁ!!」

 

何時しか、皆揃ってモニターの向こうのミクとグレン団に、声援を送り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[何故だ!? 先程までは、我々がグレン団を追い詰めていた筈だ!! それが何故!?]

 

シトマンドラは、先程までの優勢が一転し、再び快進撃を見せ始めたグレン団の様子に、動揺を見せる。

 

[あの歌か!? あの歌のせいなのか!?]

 

そこでシトマンドラは、再び歌っているミクへと視線を向ける。

 

[だ、だが!! この歌は!!………ゾクゾク美!!]

 

[シ、シトマンドラ様! お気を確かに!!]

 

軽く錯乱するシトマンドラを、部下が宥める。

 

[ああ!? グレンラガンが!?]

 

[!? 何っ!?]

 

と、その報告で我に返ったシトマンドラが目を向けると、ダイガンテンに向かって突っ込んで来るグレンラガンと一夏の姿が飛び込んで来た。

 

[う、撃てぇっ! 近寄らせるなぁ!!]

 

慌ててそう叫ぶと、ダイガンテンの各所から対空砲火の弾幕が放たれる。

 

「そんなモンでえぇっ!!」

 

「俺達を止められると思うなあぁっ!!」

 

だが、グレンラガンと一夏は構わず突っ込んで行く。

 

「時空断裂!! 大回転キイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーックッ!!」

 

グレンラガンがそう叫びを挙げ、ダイガンテンに両足を合わせて向けたかと思うと、そのまま高速回転を始め、螺旋エネルギーを纏って突っ込んだ!!

 

螺旋の竜巻と化したグレンラガンは、ダイガンテンの艦体を、上部から下部に掛けて貫く!!

 

[!? ぬおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?]

 

艦体に走る振動に、シトマンドラは悲鳴を挙げる。

 

「まだ終わりじゃないぜ!!」

 

と、そこで一夏がそう叫んだかと思うと、両手で雪片弐型を握り、全エネルギーを送り込んで、エネルギーの刃を巨大化させる!

 

「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!! 喰らえっ! 愛と怒りと悲しみの!! シャイニングフィンガーソオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーードッ!!」

 

お約束の台詞と共に、シャイニングフィンガーソードを構える一夏!

 

「メンッ! メンッ! メエエエエエエエェェェェェェェェーーーーーーーーーンッ!!」

 

気合の掛け声と共に、シャイニングフィンガーソードを振り下ろす。

 

振り下ろされたシャイニングフィンガーソードの刃は、ダイガンテンの左外縁の2段式の小型甲板の根元を斬り裂き、2段式の小型甲板を斬り落とした!!

 

[ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?]

 

再び艦体に走った衝撃に、シトマンドラはとうとう耐え切れず、床に転がる。

 

[メインエンジン損傷!! 出力低下!!]

 

[左舷2段甲板脱落!! 損傷甚大!! シトマンドラ様! このままでは!!]

 

ブリッジ要員の獣人からは、次々に損害重大の報告が挙がる。

 

[オ、オノレオノレオノレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーッ!! グレンラガン!! そして人間共!! この屈辱は忘れんぞぉっ!!]

 

シトマンドラの心底悔しそうな叫びを響かせて、ダイガンテンは高度を上げて撤退して行った。

 

「チッ! 逃がしちまったか………」

 

「今回は仕方ないよ、アニキ」

 

仕留めきれなかった事を悔やむグレンラガンに、一夏がそう言う。

 

 

 

 

 

その後………

 

残存ガンメン部隊の掃討を終えたグレン団は、ミクと共に簪が居る地上へと降り立つ。

 

「あんがとよ、ミク。お前のお蔭で助かったぜ」

 

「お礼を言うのは私の方ですよ、神谷さん。貴方のお蔭で、私は目の前に立ちはだかっていた壁を超えられたんです」

 

救援となったミクにお礼を言うグレンラガンだが、逆にミクはそう言って来る。

 

「何言ってやがる! 壁を超えたのは、紛れも無くお前の力だぜ! お前の歌………確かに響いたぜ! 俺の魂にな!!」

 

「ホント! お姉さんもう燃え燃えだったよぉ!!」

 

「ミクちゃんサイコーッ!!」

 

グレンラガンがそう言うと、まだ興奮冷めやらぬ様子の楯無と鈴が、ミクの手を握りながらそう言って来る。

 

「! ハイ! ありがとうございます!!」

 

ミクはそう言って、満面の笑みを浮かべるのだった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

箒、セシリア、シャル、ラウラ、簪達も、笑みをミクに向ける。

 

「取り敢えず、一件落着かな………」

 

と、最後に締めるかの様に一夏がそう言った瞬間………

 

グレンラガンの背後に、突如影が現れた!!

 

「!? アニキ!? 後ろ!!」

 

「!? 何っ!?」

 

一夏の声に、グレンラガンが驚きながら振り返ると、気合の籠った拳がグレンラガン目掛けて振られて来る!!

 

「チイッ!!」

 

咄嗟に両腕を交差させて防御姿勢を取るグレンラガン。

 

襲撃者の拳は、グレンラガンの交差させた腕に命中する。

 

その瞬間、衝撃波が発生!!

 

「!? うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

「「「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」」」

 

「!?………」

 

グレンラガン以外のメンバーがぶっ飛ばされた!!

 

「ぬううっ!?………おりゃあっ!!」

 

と、気合の声を挙げて、グレンラガンは襲撃者を弾き飛ばす。

 

「…………」

 

襲撃者の正体は、屈強そうな両腕を持った亀型のガンメン………

 

『メガヘッズ』だった。

 

「てんめぇ! 不意打ちとはやってくれるじゃねえか!! 今更何の用だってんだ!!」

 

メガヘッズに向かって、グレンラガンはそう言い放つ。

 

「…………」

 

しかし、メガヘッズはその質問には答えず、口を開いたかと思うと、そこから火炎放射を見舞って来た!!

 

「!? 舐めんなぁっ!!」

 

だが、グレンラガンは腕から2本のドリルを出現させて回転させると、迫り来る炎に向かってフック気味のパンチを繰り出す。

 

ドリルの回転により炎が吹き飛ばされ、火炎放射は雲散する。

 

「如何だ!?」

 

「…………」

 

見得を切るグレンラガンだが、メガヘッズはノーリアクションだった。

 

「…………」

 

そして、不意に踵を返したかと思うと、そのまま撤退する。

 

「あっ!? オイ待て!?」

 

追おうとするグレンラガンだったが、亀型のガンメンの割にその足は速く、アッと言う間に見失ってしまう。

 

「チイッ! 逃げ足の速い野郎だ!!」

 

「何だったんだろう? あのガンメン?」

 

悔しがるグレンラガンと、突然現れて突然消えて行ったメガヘッズに首を傾げる一夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

初音ミクは、ISを使って歌うパフォーマンスを積極的に取り入れ………

 

益々人気のアイドルとなった。

 

後にこの事が、グレン団を大きく救う事になろうとは………

 

この時まだ………

 

グレン団は愚か………

 

ミク本人も思ってもいなかったのだった………

 

そして………

 

謎のガンメン『メガヘッズ』を操る者の正体は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

メカ×歌と言えば、やはりマクロス。
私はマクロスシリーズの中では7が1番好きです。
なので、このネタはいつかやりたいと思っていました。

何とかロージェノム軍を退け、ミクも自信を取り戻しましたが、最後の最後でまた謎が。
謎のガンメン『メガヘッズ』の正体とは?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第48話『楽しませてもらうよ………』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第48話『楽しませてもらうよ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

リーロンの研究室………

 

「漸く形になったわね………」

 

リーロンが一仕事終えた様にそう呟く。

 

その視線の先には………

 

以前、くろがね屋で組んで居た『グレンラガンに良く似たマシンの設計図』(第20話参照)通りに組み上げられている、2機のマシンが在った。

 

片方は青いカラーリングで、頭部の角が1本。

 

もう片方はピンク色のカラーリングで、頭部の角が2本と言う、微妙な違いがある。

 

「コレが………グレンラガンの量産機ですか?」

 

立ち会っていた千冬と真耶の内、真耶の方がそのグレンラガンに良く似たマシン達を見てそう言う。

 

「そう………名付けて、『グラパール』よ。尤も、これはまだ試作機だから、ある程度螺旋力が無いと動かせないけど………何れはコレを元に改良を加えて、誰にでも使える様にする積りよ」

 

「『グラパール』………」

 

リーロンがそう言うと、千冬が目の前のグレンラガンに良く似たマシン達に視線を遣り、複雑な表情を浮かべる。

 

レッドショルダーの裏切り事件以来、世界各国とロージェノム軍との戦況は、徐々にではあるがロージェノム軍側が優勢に立ち始めていた。

 

現在では混乱は収まって来ているものの、状況は依然として不利である。

 

更に前線で戦う者達も、IS装着者が裏切るのではないか?という疑心暗鬼に駆られている。

 

その為、国によってはISに代わる新兵器の開発に力を入れるところもあるが、現行兵器を様々な点で上回っているISに代わる兵器の開発は当然ながら難航する。

 

これまで、ISに依存レベルで頼りっ切りとなっていた事のツケが回ってきた形である。

 

しかし今此処に、ISに代わるやも知れぬ新たな兵器………『グラパール』が完成した。

 

まだ試作機な為、誰にでも使えると言うワケではないが、完全な量産型が完成した暁には、そのデータは世界中に回される予定である。

 

だが、共通の敵を前にしても、未だに人類は国という括りを捨て切れずに居る。

 

このグラパールが、新たな人類同士の争いの火種になってしまうと言う可能性も十分にある。

 

(それでも………人類が生き残る為にはコイツに頼るしかないのか………)

 

そう思い、無理矢理自分を納得させようとする千冬。

 

例えそうであっても、今は先ず、人類自体が生き残る術を持たなくてはならない。

 

事態は待ってくれる時間を与えてくれそうにないのだ。

 

「それで………この試作機は誰に与えるんですか?」

 

千冬がリーロンにそう尋ねると………

 

「それを決めるのは私じゃないわ。この子達よ」

 

リーロンは2体のグラパールを見遣りながらそう言う。

 

「? 如何言う事ですか?」

 

「そのうち分かるわよ」

 

その言葉に真耶は首を傾げるが、リーロンは思わせ振りな顔をするだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

IS学園の正門にて………

 

そこには、神谷と一夏を筆頭にグレン団の面々が集合している。

 

「もうそろそろかな?」

 

一夏が腕時計を見ながらそう呟くと………

 

「一夏さ~~ん!!」

 

「アニキ~ッ!!」

 

そういう声を響かせながら、五反田兄妹が走って来た。

 

「おう、蘭! それに弾も!」

 

「よく来たな、お前等!!」

 

その五反田兄妹を出迎える一夏と神谷。

 

「ハア………ハア………すみません! 遅れちゃって!!」

 

「いや、丁度時間ピッタリだよ。そんなに急がなくても良かったのに………」

 

走って来た為、若干息を切らせている蘭に、一夏はそう言う。

 

「コイツ、お前が案内してくれるって聞いてからズッと楽しみにしててよぉ。昨日なんか、興奮して眠れなかった………」

 

「フンッ!!」

 

「!? おおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?」

 

不用意な発言をした弾の弁慶の泣き所を、蘭が思いっきり蹴っ飛ばし、弾は脛を押さえて跳ね回る。

 

「イッテ~~~~」

 

「ハハハハハハッ! 相変わらず妹にはよええな、弾!」

 

脛を押さえて痛がっている弾を見て、神谷は思わず笑う。

 

「もう! 1人で良いって言ったのに!!」

 

「馬鹿野郎! IS学園は危険なんだぞ!! 分かってんのか!?」

 

「只のオープンキャンパスでしょ! 何も危険なんか無いわよ!!」

 

口論に発展する五反田兄妹。

 

そう………

 

今日は、IS学園のオープンキャンパスが行われる日なのだ。

 

良く見れば、五反田兄妹の他にも見学者と思われる者達が、生徒達や教師に案内されている。

 

普段閉鎖的なIS学園の中を覗ける数少ない機会だが、ISを使えるのが女性だけと言う事もあり、当然ながら見学者は女性ばかりである。

 

一応、付き添いを数名付けられるらしいが、大抵は友達同士で行くと言うのが普通である。

 

「ばっか、お前!! 今までIS学園が何度ロージェノム軍に襲われたと思ってるんだ!?」

 

若干声を荒げる弾。

 

彼の言う事も尤もであり、IS学園はこれまで幾度となくロージェノム軍の攻撃に曝されている。

 

勿論、その全ては神谷達グレン団の活躍によって退けられているが、そんな事が立て続けにあって不安がらない者は居なかった。

 

更に、IS自体のイメージダウンの事もあり、現在のIS学園入学希望者の数は、前年度の4分の1にまで落ち込んでいる………

 

「もう! お兄は心配性なんだから………」

 

「まあまあ、2人共。折角のオープンキャンパスなんだ。仲良く行こうぜ」

 

呆れる蘭を宥める様に、一夏がそう言う。

 

「ハイ、一夏さん! 今日はよろしくお願いします!!」

 

それを聞くと、蘭は先程までの弾への態度が嘘の様に素直な返事を返す。

 

「蘭………俺はホントに同い年の弟なんざ欲しかぁねえぞ………」

 

「…………」

 

小声でそう呟きながら頭を抱える弾の背中を、神谷がポンポンと叩いて慰める様にするのだった。

 

(それにしても………)

 

とそこで、一夏には気づかれない様に、箒達に視線を遣る蘭。

 

「「「「…………」」」」

 

箒達は無言の圧力(プレッシャー)の様なモノを、蘭に向かって放っている。

 

(ううっ!………一夏さんが案内してくれるって聞いた時、神谷さんは付いて来るかと思ってたけど………まさか鈴以外に箒さん達まで付いて来るなんて)

 

その圧力(プレッシャー)に若干怯みながら、蘭はそう考える。

 

一夏がオープンキャンパスで蘭を案内すると聞いた瞬間、箒達も自分も案内すると強引に捩じ込んで来たのだ。

 

オープンキャンパスを取り仕切っている生徒会は却下しようとしたものの、箒達の怒涛の迫力に押され、遂には許可してしまったのである。

 

正に無理を通して道理を蹴っ飛ばす、グレン団らしいやり方だった。

 

「それじゃあ、早速行きましょうか!!」

 

しかし、これが千載一遇のチャンスである事には変わりなく、蘭は一夏の手を取って学園の中へと向かう。

 

「オイオイ、そんなに引っ張るなよ」

 

一夏は苦笑いしながら、蘭に連れられて行く。

 

「「「「…………」」」」

 

箒達はそんな一夏の姿を睨みながらそれに続く。

 

「だ、大丈夫かな?」

 

「血の雨が降らなきゃ良いがな………」

 

「一夏………お前、ホント命知らずだよなぁ………」

 

そんな光景を見ていたシャル、神谷、弾は、そんな感想を抱くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、オープンキャンパスは滞りなく行われる………

 

教室で模擬授業を実施し、実際に受けてみたり………

 

図書館で希少著書を拝見したり………

 

サービスの無料券を使って、学食の料理の味を堪能したり………

 

ブラスバンド部やチアリーダー部、軽音楽部等の実演等があったりした。

 

そして、いよいよ………

 

最大の目玉であるISへの見物へと突入して行く。

 

 

 

 

 

最初に連れられたのは、整備室だった………

 

「此処が整備室さ。学園や各国の専用機は大抵此処で整備されるな」

 

「へえ~~、そうなんですか~」

 

一夏の説明を聞きながら、事前に渡されていた資料と読み比べる蘭。

 

「あ、おりむ~、かみや~ん!」

 

とそこで、間延びした声が聞こえて来て、ハンガーに納められているスコープドッグ・TCの傍に立っているのほほんが手を余っている袖ごと振って来る。

 

スコープドッグ・TCの傍らでは、簪と虚が整備を行っている。

 

「あ、のほほんさん」

 

「一夏さん、お知り合いですか?」

 

「ああ、クラスメイトで、同じ生徒会の布仏 本音さん。通称のほほんさんだよ」

 

「よろしくね~」

 

のほほんは何時ものニッコリした笑みを浮かべて、蘭の間延びした挨拶をする。

 

(………この人も一夏さんの事が好きなの?)

 

しかし蘭は、一夏ラバーズの存在もあり、のほほんを若干警戒する。

 

「あ、弾くん。来てたんだ」

 

「! 虚さん!!」

 

と、虚が顔を挙げ、弾の存在に気付いて声を掛けると、弾はすぐさま駆け寄って行く。

 

「ゴメンナサイね。本当は出迎えたかったんだけど、こっちの仕事が手が離せなくて………」

 

「いや、良いんですよ。気にしないで下さい。俺は、こうして会えただけでも満足ですから」

 

「弾くん………」

 

「虚さん………」

 

そのまま良い雰囲気で見詰め合う虚と弾。

 

「「「「「オホンッ! オホンッ!」」」」」

 

「「!?」」

 

しかし、蘭と箒達が態とらしく咳き込み、2人は我に返る。

 

「お熱いわね、お兄………」

 

「そう言うのはもう少し人目を憚ってやんなさいよ、全く………」

 

蘭がジト目で睨みつけ、鈴が呆れる様に言う。

 

「す、すいません………」

 

「ゴ、ゴメンナサイ………」

 

その得体の知れない迫力に、2人は素直に謝ってしまう。

 

(((私も一夏(さん、嫁)と………)))

 

そして、箒、セシリア、ラウラは、先程の光景を脳内で自分と一夏に置き換えていた。

 

「………アレ?………お客さん………?」

 

とそこで、スコープドッグ・TCの整備に夢中だった簪が、漸く一夏達の存在に気付く。

 

「よう、簪」

 

「一夏………」

 

一夏が片手を上げて挨拶すると、簪は微笑を浮かべる。

 

(この人は確か………簪さんだったわね)

 

その瞬間、蘭は乙女の直感で、簪が一夏に多少なり共気が有る事を見抜く。

 

(この女は………要注意ね)

 

自然と、簪を見る目が鋭くなるが………

 

「………!?」

 

その気配を殺気と勘違いした簪が、アーマーマグナムを抜き放ち、蘭の方に突き付けた!!

 

「!? キャアアッ!?」

 

驚きの声と共に尻餅を付いてしまう蘭。

 

「蘭!?」

 

弾は咄嗟に、簪と蘭の間に立ち、蘭を守る様にする。

 

「あ………ゴメンナサイ………」

 

その姿を見て、簪はアーマーマグナムをしまう。

 

「簪様!? 何をしているのですか!?」

 

「殺気の様なものを感じて………つい」

 

「殺気って………」

 

「殺るか、殺られるか………この気配を感じ取る事だけが………私の取り得よ」

 

簪はシレッとそう言い放つ。

 

「はあ~、全く………」

 

「かんちゃん、相変わらず凄いね~」

 

そんな簪の姿に、虚は呆れ、のほほんは無邪気に称賛するのだった。

 

「大丈夫か? 蘭?」

 

その間に、一夏が転んでしまった蘭を立たせる。

 

「い、一夏さん! 本当に、お知り合いなんですか!?」

 

「ああ、勿論………前にあったイベントでタッグを組んで貰った事があるんだ。良い人だよ」

 

「そ、そうですか………」

 

先程、銃を突き付けられた際の鋭い視線がトラウマになり掛けている蘭。

 

「ゴメンナサイ………後でコーヒー淹れてあげるね………」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

コーヒーと言う単語に、神谷とのほほんを除いた一同が固まる。

 

((コーヒーって………まさか『アレ』?))

 

以前タッグマッチで負傷した一夏を見舞いに来た際に体験した2人も、若干顔を青くする。

 

「そうそう………エキシビジョン・マッチ………もうすぐ始まるよ」

 

「ああ、そうか。もうそんな時間か………」

 

「確か、姉貴の奴と対戦すんだったな?」

 

簪がそう言うと、一夏と神谷がそう返事を返す。

 

今回のオープン・キャンパス最大の目玉………

 

IS学園最強と謳われる楯無VS簪のエキシビジョン・マッチが行われるのだ。

 

「楯無さんと試合か………」

 

「アンタ、勝算あるの?」

 

楯無の強さは良く知って居る箒と鈴は、簪にそんな言葉を投げ掛ける。

 

「姉さんは………確かに最強だけど………決して………無敵ではない」

 

すると簪はそう返して来た。

 

「成程な」

 

「頑張ってくれよ。にしても、どっちを応援すれば良いのかなぁ?」

 

神谷がニヤリと笑いながら頷き、一夏はエキシビジョン・マッチでどちらを応援すれば良いのかと悩む。

 

[間も無く、IS学園オープン・キャンパスのエキシビジョン・マッチが始まります。御観覧希望の方は、第1アリーナへお集まり下さい]

 

とそこで、エキシビジョン・マッチが始まるという校内放送が流された。

 

「あ、もう始まるのか」

 

「じゃあ………アリーナで会いましょう………」

 

一夏がそう言うと、簪は整備の終わったスコープドッグ・TCを待機形態の指輪にし、アリーナのピットへと向かう。

 

「じゃあ、蘭。俺達も行くぞ」

 

「ハイ!」

 

「弾くん、私達も行こうか?」

 

「ハ、ハイ! 虚さん!」

 

そして一夏達グレン団と五反田兄妹も、虚とのほほんと共に、アリーナの観客席へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第1アリーナ………

 

観客席には、学園の生徒達と、オープン・キャンパスに来た少女達の姿が並んでいる。

 

[大変長らくお待たせいたしました! 只今より! オープン・キャンパスのエキシビジョン・マッチ! IS学園生徒会長の更識 楯無と、その妹・更識 簪の試合を行いたいと思います!!]

 

実況席に居る実況者と思われる生徒がそう言うと、観客席からワッと歓声が挙がる。

 

「始まるぞぉ」

 

「いよいよ動いてるISが見れるんですね………」

 

神谷がそう呟くと、蘭は若干ワクワクしている様な様子を見せる。

 

切欠は一夏絡みだったとは言え、彼女はIS簡易適性試験でA判定を出している。

 

動いているISを自分の目で見られる事に、興味津々の様だ。

 

[え~! 赤コーナーより入場! IS学園最強の生徒会長!! さああああああらしなぁっ! たあああああああてなしいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーっ!!]

 

実況者は、まるで格闘技のリングコールの様に、熱く楯無の名を読み上げる。

 

すると、ピットからミステリアス・レイディを装着した楯無が飛び出す。

 

そしてアリーナ内を、パフォーマンスであるかの様にアクロバット飛行する。

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ! 生徒会長おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

途端に、客席の生徒達から黄色い悲鳴が挙がる。

 

オープン・キャンパスに訪れた女子達も、彼女のISの名の通り、淑女を思わせるその姿にうっとりとしていた。

 

「相変わらず凄い人気だなぁ………」

 

「へっ! 悲鳴だったら俺だって負けちゃいねえぜ!!」

 

「神谷が浴びてる悲鳴は違うと思うんだけど………」

 

そう呟いた一夏に、神谷が張り合う様に言い、それにツッコミを入れるシャル。

 

[続いて、青コーナーより入場! その生徒会長の妹! さああああああらしなぁっ! かあああああああんざしいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーっ!!]

 

実況者が続けて、簪の名をコールすると………

 

楯無が飛び出して来たのとは正反対側に在ったピットから、キュイイイィィィィィンッ!と言う、ローラーダッシュの音が聞こえて来て、スコープドッグ・TCを装着している簪が姿を現す。

 

ピットのカタパルトから勢い良く飛んだかと思うと、そのまま重力に引かれて落下し、降着姿勢を取って衝撃を吸収し、アリーナの地面に降り立つ。

 

そして再びローラーダッシュを開始すると、所定の位置に着く。

 

楯無の様なパフォーマンスをする様な事はなかったが、ただそれだけの動作にも関わらず、簪の動きには一切の無駄が無く、機械ではないかと思える程に洗練されていた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

そして、その身体から発せられる独特の雰囲気が、アリーナ全体を包み込むと、先程まで楯無に黄色い悲鳴を送っていた生徒達でさえ、一瞬にして黙りこくってしまう。

 

オープン・キャンパスに訪れた女子達も同じで、得体の知れない迫力を持つ簪に、何時の間にか視線を集めていた。

 

「もう~、簪ちゃ~ん。折角オープン・キャンパスに来てくれた子達にそれは無いんじゃない?」

 

「私は………何時も通りにしているだけよ………」

 

苦笑いしながらそう言って来る楯無に、簪は何時もの様に平坦な様子でそう返す。

 

「相変わらず、独特の雰囲気持ってるね………簪さん」

 

「まるで幾つもの戦場を潜り抜けて来た戦士の様だ………」

 

「ゲホッ! ゴホッ! な、何だか、急に喉の調子が………」

 

そんな簪の様子を見て、シャルとラウラはそんな事を呟き、セシリアは何故か………

 

むせる

 

[さあ! それでは両者!! 開始位置に付いて下さい!!]

 

とそこで、実況者がそう告げて来る。

 

「りょーかい、りょーかーい」

 

「…………」

 

簪は最初から開始位置に付いていた為、パフォーマンスをしていた楯無が、開始位置に付く。

 

「フフフ………此処で良いとこ見せて、来年の入学希望者を増やさないとね………簪ちゃん、勝たせてもらうよ」

 

と、蒼流旋を両手で構えながら、簪に向かってそう言う楯無。

 

「姉さん………悪いけど………勝負事には手を抜かないよ………それに………」

 

と、そこで簪はヘビィマシンガンを楯無に向け、ターレットレンズを回転させると………

 

「久しぶりの………姉さんとの模擬戦だから………楽しませてもらうよ………」

 

そう言って、口の端に微笑を浮かべる。

 

「………言ってくれる様になったね~、簪ちゃん」

 

「多分………あの人達の………影響?」

 

「成程………納得」

 

楯無が、一瞬グレン団の姿を見遣り、呆れる様な様子を見せると………

 

[それでは! ISファイトォッ!!]

 

実況者が試合開始の合図を出す!!

 

「レデイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

「………GO!!」

 

そして、更識姉妹がそれを継ぐ様にそう叫んだ瞬間!!

 

両者は同時に動き出した!!

 

「行くよ! 簪ちゃん!!」

 

先に仕掛けたのは楯無。

 

空から、蒼流旋に内蔵されていた4門のガトリングガンを簪目掛けて発砲する!!

 

「…………」

 

簪は冷静に、急ターンや急バック等の回避運動を取り、躱す。

 

そして、反撃にとヘビィマシンガンを向け、連射する。

 

「おっと!!」

 

楯無は水のヴェールを使って、ヘビィマシンガンの弾丸を防ぐ。

 

「そらそら! どんどん行くよ!!」

 

そこで楯無は、ミステリアス・レイディ最大の特徴である、アクア・ナノマシンを簪に吹き付けて来る。

 

「…………」

 

ローラーダッシュでの高速移動で躱して行く簪だが、外れたアクア・ナノマシンはアリーナの地面を濡らす。

 

「貰った!!」

 

その瞬間、楯無は指を弾き、清き熱情(クリア・パッション)を発動!!

 

アリーナの地面に撒かれていたアクア・ナノマシンが爆発し、簪の姿が爆炎に包まれる。

 

「やった!!」

 

簪のISの装甲が薄い事は知っており、これだけの爆発を浴びせたのだから機能停止していると考えた楯無。

 

だが………

 

爆炎を突っ切って、多数のミサイルが楯無目掛けて飛んで来た!!

 

「!? キャアアアアァァァァァーーーーーーッ!?」

 

油断していた楯無は、何発か直撃弾を貰ってしまい、地上に落ちる。

 

「………油断大敵だよ………姉さん………」

 

そこでそう言う声が聞こえて来て、炎の中に影が揺らめいたかと思うと………

 

手持ちの武器をショルダーミサイルガンポッドに代えていた簪が姿を現した。

 

「くうっ! やったなぁ!!」

 

楯無はラスティー・ネイルを左手に出現させ、簪目掛けて刃を伸ばす。

 

「…………」

 

簪は撃ち終えたショルダーミサイルガンポッドを捨ててローラーダッシュで横移動。

 

伸ばされたラスティー・ネイルの刃は、簪が捨てたショルダーミサイルガンポッドを真っ二つのする。

 

「戦い方は………体に染み付いている」

 

と、そこで簪はローラーダッシュでの横移動を続けながら、再び右手にヘヴィマシンガンを出現させ、楯無目掛けて連射する。

 

「クッ!!」

 

楯無は向かって来た弾丸を回避しながら、再び上を取ろうと上昇する。

 

「………見え見えだよ」

 

だがそれを読んでいた簪は、楯無の機体をロックオン!

 

右脇の2連装ミサイルポッドのミサイルが放たれる!!

 

「!? キャアアアアァァァァァーーーーーーッ!?」

 

再び直撃弾を受け、シールドエネルギーが大きく削られると、楯無は失速して再び地面に落ちる。

 

「姉さん………私のISが飛べないから………自分は飛んで優位に立とうとしたみたいだけど………私に言わせて貰えば………動きが見え見えになってるわ………」

 

そんな楯無に向かって、簪はフッと笑いながらそう言う。

 

「! 成程………上を取ろうとすれば、逆に動きを読まれるって事ね………良いわ! だったら地上戦で! 簪ちゃんと同じ土俵で戦ってあげるよ!!」

 

「無理はしない方が………良い」

 

「黙らっしゃいぃ! 掛かって来るがよろしい!!」

 

楯無はそう叫ぶと、ホバー移動しながら、蒼流旋のガトリングガンを発砲する。

 

「…………」

 

簪はジェットローラーダッシュで、楯無とは反対の方向に移動して、ガトリングガンの弾丸を躱しつつ、左脇の13㎜ガトリングガンを発砲。

 

両者はそのまま、互いに円を描く様な機動を取りながら、撃ち合いを続けた!!

 

外れた弾丸と、ホバー移動とジェットローラーダッシュにより、徐々に土煙が巻き上がって行く。

 

「………今」

 

と、簪が不意にそう呟いたかと思うと、ターンしながら左の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)に装備されていた3連装スモークディスチャージャーを発射。

 

巻き上がっていた土煙と煙幕が合わさり、両者は完全に相手が見えなくなる。

 

「甘いよ、簪ちゃん! ハイパーセンサーを使えば、こんな煙幕………」

 

そう言って、ハイパーセンサーの感度を上げようとする楯無だったが、その瞬間に立ち止まってしまう。

 

すると!!

 

突然楯無の前方の煙が揺らめいたかと思うと、簪が姿を見せた!!

 

「えっ!?」

 

「…………」

 

驚く楯無に、そのままアームパンチを叩き込む!!

 

「ガフッ!?」

 

凄まじい衝撃を受けて、楯無は大きく後退する。

 

「ゲホッ! ゴホッ!」

 

肺の中の空気が全て押し出された為、激しく………

 

むせる

 

「バルカンセレクター」

 

と、そのチャンスを見逃さず、簪は予めミッションディスクに入力しておいたコンバット・プログラム『バルカンセレクター』を音声起動。

 

予備弾装を手持ちのヘヴィマシンガンに装填し、フルオートで楯無に向かって掃射する!!

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

多数の弾丸が楯無を襲う。

 

しかし、ギリギリでシールドエネルギーは残る。

 

「姉さん………ちょっと鈍ったんじゃないの?」

 

「か、簪ちゃんこそ………強くなったんじゃないの?」

 

簪は余裕の笑み、楯無は苦笑いを浮かべてそう言い合う。

 

やがて煙幕が晴れて来て、2人の姿が再び露わになる。

 

「でも! まだまだ負けないよ!!」

 

「私も………」

 

2人はそう言い合うと、またも射撃戦を展開するのだった。

 

「す、凄い戦いですね………」

 

「何か俺………むせてきたな………」

 

そんな更識姉妹の戦いの様子を見て、蘭は驚き、弾は喉の調子を悪くする。

 

「凄いな、簪の奴………楯無さんを相手にあそこまで戦うなんて………」

 

「何だかんだ言って姉貴だからな。手の内は見えてるんだろ」

 

一夏が簪の奮戦ぶりに驚いていると、神谷がそう言う。

 

「だが、勝負は分からんぞ。簪のISは防御力が絶望的なまでに無い。僅か数発の被弾が命取りともなる」

 

「まだ簪さんが優勢とは言えないワケですわね………」

 

続いてラウラがそう分析し、セシリアもジッと試合の行く末を見守る。

 

「ティトリーも何処かでこの試合見てるのかな?」

 

と、不意にシャルが、今この場に居ないティトリーの話題を挙げる。

 

「アイツ最近付き合い悪いわわよね~」

 

「それに何か落ち着かない様子だったな………」

 

その話題に反応する様に、鈴と箒がそう言い合う。

 

「おおっ!? 勝負に出るみたいだよ!!」

 

「お嬢様………簪様………」

 

と、そこでのほほんがそう声を挙げ、虚が思わず固唾を呑む。

 

「これなら如何! 簪ちゃん!!」

 

楯無は簪に向かって、ミステリアス・レイディ最大の技であるミストルテインの槍を放とうとする。

 

常時は防御用に装甲表面を覆っているアクア・ナノマシンを一点に集中、攻性成形することで強力な攻撃力とする一撃必殺の大技だが、自身も負傷しかねない上、模擬戦で使うには物々しい為、10分の1の威力に抑える。

 

「…………」

 

相変わらず無表情の簪だが、内心では若干焦っていた。

 

ミストルテインの槍は小型気化爆弾4個分の破壊力を持つ。

 

例え10分の1に抑えられているとは言え、装甲が無きに等しい簪のスコープドッグでは、掠っただけで致命傷になりかねない。

 

「これで!」

 

そこで簪も勝負に出た!

 

ミッションディスクを起動させ、アサルト・コンバットを発動。

 

ミストルテインの槍を放とうとしている楯無に向かって、ジェットローラーダッシュで突撃する。

 

如何やら、寸前でミストルテインの槍を躱し、反撃の猛攻撃を叩き込む算段らしい。

 

「うふふ! そう上手く行くかな?」

 

「…………」

 

楯無が不敵に笑うが、簪は構わず突撃を続ける。

 

「行くよ!!」

 

「…………!」

 

そして遂に、ミストルテインの槍が放たれ様とし、簪はタイミングの見極めに掛かる。

 

と、その瞬間!!

 

アリーナ上方のシールドに砲弾が着弾!!

 

シールドがまるで何処ぞの研究所のバリアの様に、パリーンと割れた!!

 

「「「「「「「「「「!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

途端に、生徒達とオープン・キャンパスに来ていた生徒達から悲鳴が挙がる。

 

「!? 何っ!?」

 

「!?」

 

楯無と簪も、戦闘を中止する。

 

と、シールドが割れた場所から、複数の影がアリーナ内に侵入して来る。

 

「降下と同時に攻撃開始!! 兎に角目に付く物は全て破壊しろ!!」

 

「ヒャッハーッ! 戦争だぁっ!!」

 

それは、獣人のガンメン部隊と、レッドショルダー部隊だった。

 

「!? ロージェノム軍!!」

 

「レッドショルダーも………」

 

楯無は驚き、簪もレッドショルダー達をスコープ越しに睨み付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

IS学園オープンキャンパス編です。
そして今回の主役は五反田兄妹………
特に弾の方がメインとなるかと。

やっと完成した量産型グレンラガンの『グラパール』の試作機。
原作ではギミーとダリーが乗っていた奴です。
そして悉くイベント時に現れるロージェノム軍。
果たして、今回の狙いは?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第49話『楽しみは独り占めするもんじゃねえぜ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第49話『楽しみは独り占めするもんじゃねえぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第1アリーナ………

 

IS学園のオープン・キャンパスが行われ、そこでエキシビジョン・マッチとして、楯無と簪の試合が行われていたのだが………

 

突如その場に、ロージェノム軍のガンメン部隊。

 

そして、人類の裏切者であるレッドショルダー部隊が現れたのだった。

 

「殺せぇっ! 人間共は皆殺しだぁ!!」

 

「死ね死ねーっ!!」

 

ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は、アリーナ内に居た更識姉妹を無視し、観客席へと攻撃を開始する。

 

当然、両部隊の攻撃は、観客席を守っているシールドにぶつかって防がれるが………

 

ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は数を頼りに飽和攻撃を続ける。

 

アリーナのシールドが如何に強固であろうと、ずっと攻撃を受け続けていれば何時かは破られてしまう。

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

観客席に居た生徒達とオープン・キャンパスに来ていた女子達が悲鳴を挙げて慌てて逃げ出すと、アリーナの防御シャッターが降り始める。

 

「! アイツ等ぁ!!」

 

「………!」

 

楯無がその光景に怒りを燃え上がらせると、簪は直ぐ様ヘヴィマシンガンをガンメン・メズー1体に向かって発砲!

 

「!? や、やられたーっ!?」

 

マヌケな断末魔を挙げて、蜂の巣にされたメズーは爆散する。

 

「ええい! 邪魔をするなぁ!!」

 

「貴様等から殺してやる!!」

 

途端にガンメン部隊とレッドショルダー部隊は、更識姉妹に狙いを変え、一斉に襲い掛かって来る!!

 

「! このおぉっ!!」

 

飛び掛かって来たゴズーを串刺しにする楯無。

 

「…………」

 

簪も、ブラッディライフルを連射して来たレッドショルダー隊員の攻撃を躱しながら、7連装ミサイルポッドのミサイルを3発叩き込む!!

 

「ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

直撃を受けたレッドショルダー隊員は、余りのダメージでISが解除され、自爆装置が作動して爆散した。

 

そのまま、楯無と簪はガンメン部隊とレッドショルダー部隊の攻撃を躱しつつ合流。

 

背中合わせの態勢となって、互いに敵に睨みを利かせる。

 

「この前大分やっつけたと思ったけど、レッドショルダーってこんなに居たの? 皆IS持って」

 

「多分………ロージェノム軍が………鹵獲したISコアを利用して………新しく機体を………建造している………」

 

楯無と簪がそう言い合って居ると、

 

「螺旋王様に逆らう愚か者共め!!」

 

「ガキがぁ! ブチ殺してやるわぁ!!」

 

ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は、2人を取り囲む!!

 

「う~~ん、殺されるのは勘弁かな?」

 

「生憎だけど………私はそう簡単に死なないよ………」

 

だが、楯無と簪は慌てること無く、余裕の笑みを浮かべて、両部隊にそう言い放つ。

 

(姉さん………無理はしないで………エネルギー………残り少ないんでしょ?)

 

(削ったのは簪ちゃんじゃな~い)

 

だが、其々に得物を構えた瞬間には、プライベート・チャネルでそう言い合う。

 

何せ2人は先程まで模擬戦を行っており、特に被弾ばかりしていた楯無の方は、エネルギーがもう限界に近かった。

 

(まあ、でも、そこは気合で持ち堪えてみせるよ!!)

 

(やっぱり………姉さんも………グレン団だね)

 

(簪ちゃんもそうでしょ?)

 

(そうね………)

 

そう言い合って、2人はフッと笑い合う。

 

「何を笑っている!?」

 

「死ねぇっ!!」

 

そこで、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は、一斉に更識姉妹へ狙いを付ける。

 

「「!!」」

 

身構える更識姉妹だったが、次の瞬間!!

 

ガンメン部隊とレッドショルダー部隊の一角から爆発が上がった!!

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

両部隊の人員達が、木の葉の様に宙に舞う。

 

「「!?」」

 

一瞬何が起こったのかと思った更識姉妹であったが………

 

「その喧嘩………俺達も混ぜな!!」

 

次の瞬間、そういう声が聞こえて来て、爆煙が晴れて来たかと思うと………

 

グレンラガンの姿となっている神谷と、ISを装着している一夏達が姿を現した!!

 

「! 神谷くん!!」

 

「一夏………!」

 

「楯無! 楽しみは独り占めするもんじゃねえぜ」

 

「普通に見て多勢に無勢なんだ。今更増えたって、文句は無いよな?」

 

更識姉妹が驚いていると、グレンラガンは指の骨を鳴らしながら、一夏は実体剣状態の雪片弐型の切っ先を突き付けながら、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊にそう言い放つ。

 

「現れたな! グレンラガン!!」

 

「チッ! 専用機持ち共か!!」

 

ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は、グレンラガンと一夏達の姿を見て、苦々しげにそう声を挙げる。

 

「楯無さん! 今の内にエネルギーを!!」

 

と、絢爛舞踏を発動させていた箒が、楯無に向かって手を伸ばしながらそう言う。

 

「ありがとう!!」

 

「…………」

 

動揺しているガンメン部隊とレッドショルダー部隊の隙を衝き、更識姉妹はグレン団へと合流。

 

楯無の方は、箒からエネルギーを受け取り、シールドを回復する。

 

「行くぜ、お前等! 一気に蹴散らすぞ!!」

 

「「「「「「「おう!!」」」」」」」

 

「………了解」

 

それを確認すると、グレンラガンがそう言い放ち、グレン団の一同は、一斉に敵両部隊へと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

「うおおっ! 狩りだ! 破壊だぁ!!」

 

ガンメン・ゴズー達が、ラウラ目掛けて腕からミサイルを撃ち込む。

 

「甘いっ!!」

 

だが、ラウラはAICを展開。

 

ミサイルは眼前で止められる。

 

「ヘッ! そいつは一方にしか展開出来ないってのは知ってんだよ!!」

 

しかしそこで、背後からガンメン・アガー1体が殴り掛かって来る!!

 

「そうはさせないわよ!!」

 

だが、そのアガーに向かって、鈴が龍咆を発射!!

 

「や、やられた!!」

 

情けない断末魔と共に消し飛ぶアガー。

 

「テメェッ!!」

 

と、ラウラにミサイルを撃ち込んだゴズー達が、今度は鈴に狙いを定めるが………

 

「そこだ!!」

 

その瞬間、ラウラはワイヤーブレード6本を全て伸ばし、ゴズー達を全て斬り裂いた!!

 

「「「「「ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

断末魔が挙がると、ゴズー達は爆散する。

 

「サンキュッ!」

 

「フッ、コレで貸し借りは無しだぞ」

 

そう言い合って、ニヤリと笑い合う鈴とラウラだった。

 

 

 

 

 

「そこですわ!!」

 

「来世で仕返ししてやるーっ!!」

 

スターライトmkⅢを構えると、正確な狙いでガンメン・ングー1体を撃ち抜くセシリア。

 

「撃て撃てぇっ!!」

 

と、そのセシリアに狙いを定め、左手のガトリングガンを発砲するガンメン・メズー達。

 

「…………」

 

多数のガトリングガンから放たれた弾幕をセシリアは飛び回って回避する。

 

「如何した!? 避けるので精一杯か!?」

 

だがメズー達はそのまま弾幕を張り続け、セシリアに反撃の隙を与えない。

 

「そらそら! 逃げろ逃げろ!!」

 

「…………」

 

無言のまま回避を続けるセシリアに気を良くしたメズー達は、ガトリングガンの連射を続ける。

 

と、その時………

 

「? ん? 何だ?」

 

足元に違和感を覚えたメズー1体が、視線を下げると………

 

メズー達が居る地面が、水浸しになっている事に気付く。

 

「何だ? この水は?」

 

と、メズー1体がそう言った瞬間………

 

「グッドラック!」

 

何時の間にかそのメズー達の後方に立っていた楯無が、掲げる様に構えていた左手の指を鳴らした!

 

その瞬間!!

 

メズー達の足元の水………アクア・ナノマシンが高熱を発生!!

 

水が瞬時に気化して爆発!!

 

メズー達を一気に吹き飛ばした!!

 

「「「「「獣人に栄光あれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「「…………」」

 

メズー達の残骸が降り注ぐ中、セシリアと楯無は互いに笑みを浮かべ合う。

 

 

 

 

 

「…………」

 

ジェットローラーダッシュで移動しながら、ヘヴィマシンガンを単射モードで、正確にレッドショルダーのブラッドサッカー達へと叩き込んで行く簪。

 

「ク、クソがぁっ!!」

 

「うおわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

次々にISが機能停止し、自爆装置が作動して吹き飛んで行くレッドショルダー達。

 

「アイツ! 並みのIS乗りじゃないぞ!!」

 

「クソがぁ! 調子に乗るなよ!!」

 

レッドショルダー達もやられてばかりでなく、ブラッディライフルを簪目掛けて発砲する。

 

「…………」

 

だが、簪は(バイザーで窺えないが恐らく)涼しい顔をして、繰り出される弾丸を躱す。

 

「チイッ! 1発直撃させればケリが着くってのに!!」

 

「取り囲め! 周り中から一斉に弾丸を浴びせれば奴だって………」

 

そこでレッドショルダー達は、簪を取り囲んだ弾幕を浴びせようと考えたが………

 

「見え透いた手ね………」

 

簪はそう呟いたかと思うと、右足のターンピックを地面に撃ち込む!

 

そしてその場で360度高速回転!!

 

そのままヘヴィマシンガンをフルオートで発砲し、次々にブラッドサッカー達へ弾丸を命中させる!!

 

「な、何ぃっ!?」

 

「ば、馬鹿なぁっ!?」

 

次々に爆散して行くレッドショルダー達。

 

しかも恐ろしい事に、一見無作為に発砲しているだけに見えるが、その狙いは正確無比であり、外れている弾丸が殆ど………

 

と言うよりも全然無い!

 

「…………」

 

爆散したブラッドサッカー達の残骸が炎を上げ、簪はその中に無言で佇む。

 

その姿は正に、地獄から来た者と評するに相応しかった………

 

 

 

 

 

「ゼアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

「天国に行けるかなぁーっ!?」

 

気合の一閃で、ゴズーを斬り裂く一夏。

 

「この野郎!!」

 

と、ロックガンを構えたレッドショルダーが、一夏目掛けてエネルギー弾を放つが………

 

「雪羅!!」

 

一夏は迫り来るエネルギー弾に向かって左手の雪羅を構える。

 

零落白夜のバリアシールドが展開され、ロックガンのエネルギー弾が打ち消される!!

 

「何っ!?」

 

「せやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

驚くロックガンを装備していたレッドショルダーを、箒が雨月と空裂の二刀流で斬り付ける!!

 

「グアアッ!? 貴様ぁっ!!」

 

「!!」

 

しかし、撃破には至らず、ロックガンを装備していたレッドショルダーは、ターンしながら左手をロックガンより離し、アームパンチを打ち込んで来たが、箒は大きく距離を取って躱す。

 

「人間めぇ! 死ねぇっ!!」

 

と、そこで今度は、カノン・ガノンがキャノン砲からエネルギー弾の砲撃を見舞って来る。

 

「当たるか!!」

 

「グアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

箒は上昇して躱すが、射線上に居たロックガンを装備していたレッドショルダーは巻き添えを喰らい、爆散する。

 

「チッ! 屑が!! 邪魔しやがって!!」

 

「相変わらず反吐が出る連中だな………お前達の様な奴等を! 私は許さん!!」

 

仲間を撃っておいてそんな台詞を吐くカノン・ガノンに、箒は嫌悪感を露わにしてそう叫ぶと、雨月から刺突攻撃でレーザーを放出する!!

 

「何の! こちとら100ミリの装甲だ! そんなもんじゃビクともしねえぞ!!」

 

しかし、このカノン・ガノンは如何やら装甲を強化しているらしく、何発かの直撃を受けたにも関わらず、ピンピンとしている。

 

「喰らえぇっ!!」

 

そして、両手のガンポッドから、レーザーバルカンを見舞おうとしたが………

 

「!? うごあっ!?」

 

突然苦しげな声を挙げると、そのまま痙攣する様な様子を見せるカノン・ガノン。

 

そして、その次の瞬間!!

 

カノン・ガノンのボディを突き破って、金色に輝く手が飛び出した!!

 

一夏のシャイニングフィンガーだ!!

 

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁ………ハアッ!!」

 

一夏が気合を入れる様に叫んだ瞬間!!

 

シャイニングフィンガーに貫かれていたカノン・ガノンは、爆発・四散した!!

 

「大丈夫か!? 箒!?」

 

「あ、ああ………助かった」

 

尋ねて来た一夏に、頬を染めながらそう答える箒。

 

(さっきの一夏の顔………凛々しかったな………)

 

「何ボーッとしてんだ? 敵はまだ居るんだぞ!」

 

「! わ、分かっている!!」

 

思わずそんな事を考えてしまう箒を、他ならぬ一夏自身が現実へと引き戻し、箒は顔を赤くしたまま雨月と空裂を構え直すのだった。

 

 

 

 

 

「アースバーストォッ!!」

 

グレンラガンがそう叫びながら、2本のドリルを出現させた腕を、地面に叩き付けたかと思うと………

 

グレンラガンを中心に地面が罅割れ、地割れを起こす!!

 

「「「「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」

 

ガンメン達がその地割れに呑まれ、次々に爆散する。

 

「グレンラガン! 覚悟ぉっ!!」

 

だが、生き残ったゴズー1体が、技を出し終えた直後のグレンラガンにミサイルを放つ。

 

「させないよ!!」

 

しかし、シャルが間に割って入り、物理シールドを構えてミサイルを防ぐ!!

 

「このぉ! 邪魔をするな!!」

 

再びミサイルを放とうとするゴズーだったが………

 

「そこっ!!」

 

その瞬間シャルは、そのゴズーの腕から出現したミサイルポッド目掛けてマシンガンを発砲!

 

弾丸が発射寸前だったミサイルに命中する!

 

「そ、そんなのありかよ!?」

 

恨み言を呟きながら、ゴズーは爆散する。

 

「流石だな! シャル!!」

 

「神谷! 細かい事は僕がやるよ!! だから!!」

 

「おう! 大雑把な事は俺に任せな!!」

 

何とも2人らしい遣り取りを交わすグレンラガンとシャル。

 

と、そこで!!

 

見覚えのある、ブーメラン状の刃が飛んで来た。

 

「!? 居合い斬り! 梅!!」

 

咄嗟にグレンラガンは、胸のグレンブーメランを居合い斬りの様に振るい、ブーメラン状の刃を弾き飛ばす!!

 

「久しぶりだな! グレンラガン!!」

 

そう言いながら、戻って来たブーメラン状の刃をキャッチし、ボディにセットし直すエンキドゥことヴィラル。

 

「ヴィラル! またテメェーか!!」

 

「今日こそ、その命………螺旋王様の為に貰い受ける!!」

 

エンキドゥはそう叫ぶと、両手にエンキソードを握り、グレンラガンに斬り掛かる!!

 

「隊長! 援護を!!」

 

同時に、他のガンメン部隊も、エンキドゥを掩護しようとするが………

 

「神谷の戦いの邪魔はさせないよ!!」

 

シャルが、両手にガルムとヴェントを握り、ガンメン達に弾幕を張るのだった。

 

「セエエアッ!!」

 

「うおおおおっ!!」

 

気合の声と共に、グレンラガンの2本ずつドリルを出現させた両腕と、エンキソードがぶつかり合う。

 

そのまま激しく火花を散らし、押し合いとなる。

 

「テメェ等も懲りねえ上にワンパターンな連中だな!! いい加減諦めやがれ!!」

 

度重なるIS学園への襲撃に、グレンラガンは飽き飽きした様な風に言い放つ。

 

「そうはいかん! 螺旋王様の為! そしてこの俺の戦士としてのプライドに賭けて!! 貴様を葬り去る!!」

 

だがエンキドゥはそう言い放ち、グレンラガンを押し始める。

 

「うおっ!? 舐めるなぁ!!」

 

しかし、そこでグレンラガンは、エンキドゥの左足にローキックを叩き込む!!

 

「!? ぐうっ!?」

 

バランスを崩すエンキドゥ。

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「ぬおわっ!?」

 

そのエンキドゥを、グレンラガンは勢い良く投げ飛ばす!!

 

「チイッ!!」

 

だが、エンキドゥは空中で姿勢を整えて着地。

 

「喰らえっ!!」

 

そして、両肩に出現させたランチャーからミサイルを撃ち出す。

 

「何のぉ! ミサイルドリル!!」

 

迫り来るミサイルに向けて、グレンラガンもドリルをミサイルとして発射。

 

エンキドゥのミサイルと、グレンラガンのドリルは互いに衝突し、相殺し合う。

 

「エンキラッガー!」

 

「グレンブーメラン!」

 

続いて今度は、エンキラッガーとグレンブーメランを投擲し合うが、これも互いにぶつかり合って、其々持ち主の手元に返って行く。

 

「男の情熱! 燃焼斬りいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

「チイッ!!」

 

続けて繰り出された男の情熱燃焼斬りを横にステップを踏んで躱すエンキドゥだったが、グレンラガンが放った斬撃は地を走り、多くのガンメン部隊とレッドショルダー部隊を斬り裂いた!!

 

「おわっ!? やり過ぎたか!?」

 

(この男! 更に螺旋力が増している!!)

 

若干慌てるグレンラガンと、内心で軽い戦慄を覚えているエンキドゥ。

 

「だが! それでこそ戦士として戦い甲斐が有ると言うものだ!!」

 

しかし、自分を鼓舞する様にそう叫ぶと、再び両手に構えたエンキソードで斬り掛かる。

 

「上等だぁっ!!」

 

向かって来るエンキドゥに、グレンラガンはドリルと化した右の拳を叩き込む!!

 

「くあっ!?」

 

「ぐうっ!?」

 

互いの攻撃がぶつかり合い、両者は弾かれる様に距離を取った。

 

と、その時………

 

[神谷! 聞こえるか!?]

 

グレンラガンに、千冬の慌てた通信が入って来た。

 

「んだよ!? 今手が離せねえんだ! 後にしてくれ!!」

 

エンキドゥの動きに注意しながら、千冬にそう言うグレンラガンだったが………

 

[マズイ事になっているんだ! 敵の別働隊が現れた!! しかも地下施設の中にな!!]

 

「!? 何だと!?」

 

千冬のその報告で、驚きの声を挙げる。

 

(別働隊だと? そんな話は聞いていないぞ………)

 

しかし、その遣り取りが聞こえていたエンキドゥのヴィラルも困惑する。

 

別働隊の存在は、彼自身も知らなかったのだ。

 

[学園の地下施設には様々な機密が存在する! このままではそれを敵に奪われてしまう! 何とかそっちをすぐに片付けて向かってくれ!!]

 

「気楽に言ってくれるぜ!!」

 

グレンラガンは愚痴る様に叫びながらも、ドリルと化した右腕を構え、エンキドゥへと向かって行く。

 

(何故この様な作戦を………いや! 作戦の真意が如何あれ、今は目の前の敵を打ち砕くのみ!!)

 

エンキドゥも、自分にすら知らされていなかった作戦に困惑しながらも、今は只目の前の好敵手との戦いに集中するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ガンメン部隊とレッドショルダー部隊がアリーナの攻撃を始めた瞬間、生徒やオープン・キャンパスに来ていた女子達と共に、地下に在るシェルターへと向かっていた五反田兄妹と布仏姉妹は………

 

「アレ~? 行き止まりだ~?」

 

「行き止まりだ~?………じゃないでしょ! 本音! シェルターの場所ぐらいチャンと覚えておきなさい! じゃないと死ぬわよ!!」

 

先頭を行っていたのほほんがそう言いながら行き止まりに辿り着き、虚が怒りの声を挙げる。

 

「お、お兄………如何しよう?」

 

「心配すんな、蘭。きっと大丈夫だ」

 

珍しく不安がり、弾の服の裾を握り締めている蘭に、弾はそう言う。

 

最初こそ、他の生徒達と同じ様に避難していた4人だったが、避難の最中に蘭が逸れてしまい、探しに戻ったところ、完全に遅れてしまったのだ。

 

そして、のほほんが誘導を買って出てシェルターへと向かい、今に至る。

 

「全く………最初から私が誘導すれば良かったわ」

 

そう言いながら虚は、近場に在った端末で、現在位置を割り出そうとする。

 

と、その時!!

 

五反田兄妹と布仏姉妹が居る通路に振動が走った!!

 

「!? キャアッ!?」

 

「虚さん!!」

 

思わず倒れそうになった虚を、弾が受け止める。

 

「な、何っ!?」

 

「地震~?」

 

慌てる蘭と、こんな時でもマイペースなのほほん。

 

と、次の瞬間!!

 

行き止まりの壁が、粉砕されて、音を立てて崩れた!!

 

「「「「!?」」」」

 

4人が驚きながら、崩れた壁に注目すると………

 

「良し! 通路に出たぞ!!」

 

「学園の機密は何処にあるんだ?」

 

そんな事を言いながら、モグラ型ガンメン・モグーの部隊が現れる!!

 

「!? ガンメン!?」

 

「んん~っ!? 人間が居るぞ!?」

 

虚が思わず驚きの声を挙げると、モグー部隊もその存在に気づく。

 

「人間だとぉ!?」

 

「殺せ殺せ!! 人間は皆殺しだぁ!!」

 

途端にモグー部隊は、獣人の本能に任せて、五反田兄妹と布仏姉妹に襲い掛かる!!

 

「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」

 

悲鳴を挙げて、床に上に蹲る虚、のほほん、蘭。

 

しかし………

 

「飛竜! 三段蹴りいいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!!」

 

雄々しい雄叫びが響いたかと思うと、モグー部隊の先頭に居た隊長機に、3連続の飛び蹴りが叩き込まれた!!

 

「!? ぐあああっ!?」

 

撃破する事は出来なかったが、モグー隊長機は大きくブッ飛び、他のモグー達に激突!

 

モグー達はまるでボーリングのピンの様に散らばる!

 

「えっ!?」

 

「弾………さん?」

 

「お兄!?」

 

のほほん、虚、蘭が驚きの声を挙げる。

 

何故なら、モグーの隊長機をぶっ飛ばしたのは………

 

他ならぬ弾だった!!

 

「舐めるなよ………俺はアニキや一夏みたいなマシンは持っちゃいないが………グレン団の特攻隊長! 五反田 弾様だ!!」

 

モグー達に向かって構えを取りながら、弾はそう言い放つ!!

 

「敵を前に………怯えは見せねえ!! 俺を誰だと思っていやがる!!」

 

そして、神谷や一夏が決まり文句としている、あの台詞を言い放つのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

例のよってロージェノム軍の襲撃を受けるIS学園。
久しぶりに現れたヴィラルとも激戦を繰り広げるグレン団。
しかし、何と機密のある学園地下に別動隊が!?
運悪くその別動隊と出くわしてしまった虚達。
だが、そこで………
弾が勇敢に立ち向かいます。
いよいよ彼にスポットが当たる時が来ました。
乞うご期待。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第50話『意地が有るんだよぉ! 男の子にはぁっ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第50話『意地が有るんだよぉ! 男の子にはぁっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オープン・キャンパスが行われていた日に襲撃を受けたIS学園………

 

神谷達グレン団が迎撃に出たが………

 

ヴィラルのエンキドゥと含めたガンメン部隊と、レッドショルダー部隊を相手にしていた最中、別働隊が出現!!

 

IS学園の機密を狙い、直接地下施設を襲撃して来たのだ。

 

運悪く避難し損ない、別働隊と鉢合わせてしまった五反田兄妹と布仏姉妹。

 

そんな一同を護る様に………

 

弾がその身をガンメン達の前へと躍らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

IS学園・地下施設の一角………

 

ジギタリスが拘束されている檻にて………

 

(………騒がしいな………この振動は………我が軍が地下施設を攻撃したのか?)

 

時折檻を揺らして走る振動に、ジギタリスはそう推察する。

 

すると………

 

「おっさん!」

 

ティトリーが、ジギタリスの前に姿を現した。

 

「ティトリーか………メガヘッズは如何だ?」

 

「う、うん、バッチリ………この前、グレンラガンに仕掛けてみたけど、問題無かったよ」

 

「そうか………で? 俺を助けに来たのか?」

 

「うん。やっぱり放っとけなくて………正直、まだ如何すれば良いか分かんないよ………でも………」

 

何やら思い詰めている様な表情を見せるティトリー。

 

「でもこのままじゃ、どっちにも居場所が無くなりそうで………自分でも怖いんだ………」

 

「………獣人としての本分を思い出した………そう受け取って良いな?」

 

そんなティトリーに、ジギタリスはそう問い質す。

 

「…………」

 

ティトリーはただ無言になる。

 

だが、ジギタリスはそれを肯定の意と受け取ったのか………

 

「むんっ!!」

 

身体に巻かれていた鎖を容易く引き千切ったかと思うと、続けて檻を紙の様に破壊した!!

 

「ぎゃ~~~~~~っ!?」

 

突然行動したジギタリスに、ティトリーは驚きのリアクションを見せる。

 

「そう! 例え人間が何であろうと!! 俺様は………寝た子は起き、泣く子は黙る! 特別遊撃部隊長だ!!」

 

そんなティトリーを尻目に、ジギタリスはそう言い放つ。

 

「行くぞ、ティトリー! メガヘッズを出せ!!」

 

「う、うん!」

 

その言葉で、ティトリーは戸惑いながらも、ポケットから顔の様な形をしたバッジを取り出す。

 

そのバッジの顔は………

 

以前グレンラガンを襲撃したカメ型のガンメン………メガヘッズのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

避難中に迷い………

 

運悪く地下施設を襲撃して来たガンメン・モグーの部隊と出くわしてしまった五反田兄妹と布仏姉妹………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

床に転がっていた鉄パイプを拾い上げ、モグー1体に殴り掛かる弾。

 

「弾くん!!」

 

「お兄!!」

 

「蘭! 虚さん! 本音さん! 此処は俺が食い止めます!! 早く逃げて下さい!!」

 

弾はそのまま鉄パイプを振り回し、モグー達を牽制しつつ、蘭と布仏姉妹にそう言う。

 

「そんな!?」

 

「馬鹿な事を言わないで弾くん!! 只の人間がガンメンに立ち向かえるワケないわ!!」

 

「ダンダン!」

 

蘭と布仏姉妹が、何を馬鹿な事を、と言う感じで返した瞬間………

 

「人間如きが! 生意気だぞ!!」

 

モグー隊長機が、弾から鉄パイプを取り上げる。

 

「あっ!?」

 

「こんな物は………こうだ!!」

 

そして、まるで飴細工の様に容易く折り曲げてしまう。

 

「!?」

 

「そら! 喰らえいっ!!」

 

そして、弾に向かって腕を振って来る。

 

「!? ぐああっ!?」

 

咄嗟に両腕でガードする姿勢を取ったものの、弾はブッ飛ばされて、壁に背中から叩き付けられる。

 

「! お兄!!」

 

「弾くん!!」

 

「ダンダン!!」

 

慌てて蘭と布仏姉妹が駆け寄って来る。

 

「だ、大丈夫ッス………こんなの全然大したこと無いッスよ」

 

「強がってんじゃないわよ、お兄!!」

 

心配させまいとそう言い笑みを浮かべる弾だったが、その笑みは激痛で歪んだ笑みだった。

 

「安心しろ、人間共」

 

「全員纏めて仲良くあの世に送ってやるからよー」

 

そんな弾達に向かってそう言うモグー部隊。

 

如何やら、完全に嬲る積りらしい。

 

「そうは………させるかってんだよ………」

 

しかしそこで弾が無理に起き上がり、再びモグー達に向かって行こうとする。

 

「! お兄! もうやめて!!」

 

「弾くん! 駄目です! 死んでしまいますよ!!」

 

慌てて蘭が右腕、虚が左腕を摑んで止める。

 

「ダンダン! 如何してそこまで頑張るの!?」

 

そしてのほほんは、そんな弾に向かって問い質す。

 

「へっ………自分可愛さに………女の子を見捨てて逃げるなんて真似が出来るかよ………?こう言う時………盾になるのが男ってもんだろ?」

 

その問いに、弾はニヤリと笑ってそう返す。

 

「ましてや、その女の子が自分の恋人とその妹………そして実の妹ってんなら、尚更だろ」

 

「馬鹿! 相手はガンメンなんだよ!?」

 

「もう止めて、弾くん! 本当に死んでしますわ!! 意地を張らないで!!」

 

蘭と虚は、最早懇願するかの様にそう言うが………

 

「すいません、虚さん………コレばっかりは譲れませんよ………俺は男です………そう………」

 

そこで弾はモグー部隊を睨み付け………

 

「意地が有るんだよぉ! 男の子にはぁっ!!」

 

そう吠えた!!

 

………そして、その瞬間!!

 

弾の身体から、緑色の光が溢れた!!

 

「!? キャアッ!?」

 

「お兄!?」

 

「弾くん!?」

 

驚くのほほん、蘭、虚。

 

「な、何だコリャアッ!?」

 

当の本人である弾も困惑する。

 

「こ、コレは………!?螺旋力!?」

 

「まさか!? あの男も螺旋力を!?」

 

モグー部隊は、その光………螺旋力を見て狼狽する。

 

そして………

 

その時、不思議な事が起こった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

リーロンの研究室………

 

「A部隊はCブロックへ! B部隊はDエリアに向かえ! 何としても施設からロージェノム軍を追い出すんだ!!」

 

学園全体の様子が分かるモニターを見ながら、千冬がアレコレと指示を出している。

 

戦況は一進一退であり、千冬は気が休まる暇が無い。

 

すると………

 

「!? コレは!?」

 

突然、コンソールパネルを操作していたリーロンが驚きの声を挙げる。

 

「!? 如何しました!? また敵の増援ですか!?」

 

千冬が若干慌てながらそう問い質す。

 

コレ以上敵が増えれば対処し切れない………

 

いよいよ終わりか?と僅かに思った瞬間………

 

「シェルター近くの施設から螺旋力反応よ! 誰かが螺旋力に目覚めたみたい!!」

 

「!? 何ですって!?」

 

リーロンの思いも寄らぬ報告で、千冬は驚きを露にする。

 

と、そこに………

 

背後の方から、緑色の光が漏れて来る。

 

「? 何だ?」

 

振り返った千冬が見たのは………

 

その緑色の光を放っているモノ、グラパール(青)の姿であった。

 

「!? グラパールが!?」

 

と、千冬がそう声を挙げた瞬間………

 

グラパール(青)は、緑色の光の玉となり、床を突き抜けて、何処かへと向かう!!

 

「なっ!?」

 

「如何やら………アッチのグラパールは、主を選んだみたいね」

 

驚愕する千冬の横で、リーロンは飄々とした態度でそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、五反田兄妹と布仏姉妹の方では………

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

弾の身体から溢れ返る螺旋力。

 

とそこへ………

 

緑色の光の玉が、壁を擦り抜けて現れる。

 

「!!」

 

それを見た弾が、右腕を掲げる様に構えたかと思うと………

 

緑色の光の玉は、弾の右腕に停まる。

 

そして光が弾けたかと思うと、顔の様な飾が付いたブレスレットと化した!!

 

「グラパアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーールッ!!」

 

頭の中に浮かんで来た単語を、思いっ切り叫ぶ弾。

 

その瞬間!!

 

弾の身体に装甲の様な物が装着されて行き………

 

その姿は、グラパール・弾へと変身した!!

 

「!? えええーーーーっ!?」

 

「お、お兄ぃっ!?」

 

「だ、弾くん!?」

 

突然姿を変えた弾に、のほほん、蘭、虚は驚愕する。

 

「ア、アレは!? グレンラガン!?」

 

「いや、違う! しかし!! アイツは一体!?」

 

モグー部隊も、突如現れたグレンラガンに酷似したマシン………グラパールの姿を見て動揺する。

 

「………た………」

 

とグラパール・弾となった弾が、何かを呟いた。

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

途端に、虚達もモグー達も身構える。

 

すると………

 

グラパール・弾は身体を縮こませる様な動きをしたかと思うと………

 

「螺旋力、キターーーーーーーッ!!」

 

バッと身体と両腕を広げるポーズを取り、そう叫んだ。

 

どこぞの宇宙スイッチライダーの様に。

 

「「「ズコーッ!?」」」

 

その台詞を聞いた虚達は、思わずズッコケてしまう。

 

「ぬぬぬ………良く分からないが、凄まじい迫力だ」

 

「コイツはかなりの強敵だぞ」

 

しかし、モグー部隊の方は、その行動に威圧感を感じ、そんな事を言い合う。

 

(………獣人って結構頭悪いのかしら?)

 

虚は内心でそんな事を考える。

 

「何が何だか良く分からねえけど………コレで漸く真面に戦えるワケだ!!」

 

「ええい! 小癪な!! このグレンラガンモドキめ!! 喰らえいっ!!」

 

と、グラパール・弾がそう言った瞬間!!

 

モグーの1体が、そう言ってグラパール・弾目掛けてミサイルを発射した!!

 

白煙の尾を引いて、一直線にグラパール・弾へと向かうミサイル。

 

「おっと!!」

 

しかし、グラパール・弾は慌てず、右手にハンドガンを出現させる。

 

そして、迫り来るミサイルに向かって発砲して、撃ち落とした!!

 

「チッチッチッ………」

 

挑発するかの様に舌打ちし、左手を人差し指を立ててモグー達に翳すと、左右に数回振る。

 

「オノレェ! 俺達を舐めやがって!!」

 

「思い知らせてやる!!」

 

アッサリとその挑発に乗り、一気にグラパール・弾へと突っ込んで行くモグー達。

 

「グラパールブレード!!」

 

するとグラパール・弾は、今度は右腕に固定される様な形で、ブレード・グラパールブレードを出現させる!!

 

「ハアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

気合の雄叫びと共に、横に一閃!!

 

「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

先頭を行っていたモグーが、真っ二つに斬り裂かれて、爆散する!!

 

「ひ、怯むなぁ! 一斉に掛かれぇ!!」

 

隊長機がそう言うと、モグーはグラパール・弾へと群がる。

 

「甘めえっ!!」

 

しかし、グラパール・弾は突然逆立ちをしたかと思うと………

 

「オラオラオラオラオラオラァッ!!」

 

そのまま両腕で身体を回転させて、まるでカポエラの様な連続回転蹴りを繰り出す!!

 

「「「「「所詮雑魚ですからあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

情けない断末魔と共に、モグー達は次々に通路の壁に叩き付けられ、爆散する。

 

「キャアッ!?」

 

「す、凄い………」

 

「アレ………本当にお兄なの?」

 

グラパール・弾の活躍ぶりに、のほほん、虚、蘭は呆然となる。

 

「ば、馬鹿な………こんな事が………」

 

とうとうモグー部隊は、隊長機1機だけとなる。

 

「残るはお前だけだな」

 

そのモグー隊長機を見据えながら、グラパール・弾はそう言い放つ。

 

「チキショウッ! このグレンラガンモドキがああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

自棄になったかの様に、モグー隊長機はグラパール・弾へと突撃。

 

その鋭い爪の手で、殴り掛かる!!

 

「グレンラガンモドキじゃねえっ! グラパールだああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

するとグラパール・弾は、その拳に向かって、自分も拳を繰り出した!!

 

「!? お兄! 馬鹿!!」

 

「弾くん! 危ない!!」

 

グラパール・弾の暴挙に、蘭と虚が思わず声を挙げる。

 

だが………

 

モグー隊長機の爪と、グラパール・弾の拳が命中し合った瞬間………

 

砕け散ったのは、モグーの爪だった!!

 

「!? もぐおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

モグー隊長機は驚きながらも、すぐに反対の爪を繰り出す。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

それに対し、グラパール・弾も逆の腕での拳を繰り出す!!

 

再び砕け散ったのは、モグー隊長機の爪だった。

 

「のうわぁっ!?」

 

「トドメだ!?」

 

とその瞬間、グラパール・弾は両腕にグラパールブレードを出現させる。

 

すると、ブレードの刀身が螺旋力によって緑色に輝き出す。

 

「せえええええりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そして、そのグラパールブレード二刀流で、モグー隊長機を×の字に斬り裂いた!!

 

「螺旋王様、万歳ーーーーーーっ!!」

 

モグー隊長機の身体に、緑色に輝く×の字の斬撃痕が出現したかと思うと………

 

そのまま爆発・四散する!!

 

「やったぜっ!!」

 

グラパール・弾がガッツポーズを決めたかと思うと、その姿が緑色の光に包まれ、弾へと戻る。

 

「凄い凄~い! ダンダンカッコイイ~~~ッ!!」

 

「…………」

 

「お兄………」

 

のほほんは無邪気に弾を褒めるが、虚は言葉を失い、蘭も呆然となっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

IS学園・第1アリーナの方は………

 

「ドリラッシュッ!!」

 

「甘い!!」

 

グレンラガンが繰り出したドリラッシュを、エンキソードで次々に叩き落とすエンキドゥ。

 

「死ねぇっ! グレンラガン!!」

 

エンキドゥはそのまま跳び上がり、グレンラガン目掛けて両手のエンキソードを振る。

 

「そう簡単に死んでたまるかよ! ドリルモウル!!」

 

しかし、グレンラガンはその場で高速回転を始めたかと思うと、そのまま地面に潜った。

 

「!? 何っ!?」

 

驚きながらエンキドゥは着地する。

 

「クソッ!? 何処だ!?」

 

周囲を見回し、グレンラガンの姿を探すエンキドゥ。

 

しかし、それらしき痕跡は見付けられない。

 

「ぬうっ」

 

若干苛立ちながらも、何時来ても良い様に、エンキソードを防御姿勢で構える。

 

すると、エンキドゥの足元の地面から削岩音が聞こえ始めた!!

 

「!? 下かぁっ!!」

 

直ぐ様エンキドゥは、エンキソードを2本とも振り被り、足元の地面目掛けて突き刺す。

 

「手応え有り!!」

 

手応えを感じ、エンキソードを地面から引き抜くが………

 

「!? なっ!? ドリルだけだと!?」

 

出て来たのは、グレンラガンのドリルだけだった。

 

「ならば!? 本体は………!?」

 

「コッチだぁ!!」

 

エンキドゥがそう言った瞬間、背後の地面が爆ぜ、グレンラガンが飛び出す!!

 

「! しまっ………」

 

「ドリ掌底えええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

そして掌にドリルを出現させての掌底打ち………ドリ掌底が叩き込まれる!!

 

「ガハッ!!」

 

「まだまだぁ!! グレンキイイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

更に続けて、回転しながらの両足蹴り………グレンキックを叩き込む!!

 

「ぐおああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

装甲の破片を撒き散らしながら、ブッ飛ばされるエンキドゥ。

 

「な、何故だ! 何故俺は奴に勝てない!!」

 

エンキソードを杖代わりに起き上がりつつ、悔しさからそう吠える。

 

と、その時………

 

「!? 撤退命令だと!? クソッ!!………グレンラガン! 今度こそ俺が勝つぞ!!」

 

撤退命令が入り、エンキドゥはそう言い放って煙幕を放出。

 

残っていたガンメン部隊とレッドショルダー部隊も次々に煙幕を放出。

 

アリーナ一帯が煙幕に包まれる。

 

「うおわっ!?」

 

「えほっ! えほっ! またコレかよ!?」

 

視界を塞がれた上に、咳き込むグレン団。

 

やがて煙幕が晴れた頃には、エンキドゥ達の姿は無くなっていた。

 

「あ、チキショー! また逃がしちまった………」

 

「それよりアニキ! 別働隊の方を何とかしないと!!」

 

「織斑先生! 別働隊は如何なりましたか!?」

 

悔しがるグレンラガンに一夏がそう言い、楯無が千冬へと通信を送る。

 

[ああ、その件だが………粗方上級生と教師部隊が撃破した。一部が機密が有るエリアに侵入したんだが………その………何だ………]

 

と、通信先から妙に歯切れの悪い千冬の報告が返って来る。

 

「? 如何したんですか?」

 

[いや、何だ………また厄介な事になっていてな………!? アイタタタタタタッ! い、胃が………]

 

「??」

 

最早持病となった神経性胃炎に襲われ、悲鳴を挙げる千冬の様子に、楯無は首を傾げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!! スゲェッ!! スゲェぜ、弾!!」

 

グラパール・弾の姿となっている弾の姿を見て、一夏は興奮した様子でそう言う。

 

「へへへ………如何よ、コレ?」

 

「やるじゃねえか、弾! それでこそグレン団の特攻隊長だぜ!!」

 

グラパール・弾も自慢するかの様にそう言い、グレンラガンもそんなグラパール・弾を褒める。

 

「盛り上がってるね~」

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

一方、男3人で盛り上がっている男性陣とは対照的に、のほほんを除く女性陣は呆然としていた。

 

「………アレは………グレンラガンの量産型………?」

 

と、只1人冷静だった簪が、呆然となっていた虚にそう尋ねる。

 

「あ、ハイ、簪様………リットナー先生の話では、そうらしいです」

 

その質問で我に返った虚がそう説明を始める。

 

他の一同も、虚に注目する。

 

「ですが、まだ試作型らしく………天上くん程じゃなくても、ある程度の螺旋力が無いと動かせない仕様だったそうです」

 

「それを弾が動かしたって事は………?」

 

「恐らく………その螺旋力と言う力を持っていたからではないか、と………」

 

鈴の質問に、虚はそう返す。

 

「お兄に………螺旋力って力が?」

 

「俄には信じ難いが………一夏と同じく、あの神谷の認めた男だ」

 

「ええ………何故か納得が行ってしまいますわ」

 

蘭は信じられないという顔をするが、ラウラとセシリアは何処か納得が行った様な表情となる。

 

「それにしても………グレンラガンの量産型かぁ………」

 

「まさかそんな物を造っていたとは………(リットナー先生はウチの姉さん並みの科学者なのか?)」

 

シャルが再びグラパール・弾を見遣りながらそう呟き、箒はリーロンの技術力に内心驚く。

 

「でも、グレンラガンの量産機だなんて………また世界が混乱しない?」

 

とそこで、楯無が心配そうにそう言う。

 

嘗てISが史上最強の兵器として認められるに至った『白騎士事件』

 

その事件以来、世に出た直後は見向きもされていなかったISが世界中から注目され、様々な混乱が起きた。

 

その後、現在はロージェノム軍の存在の所為で再び変わりつつあるが、女尊男卑の世界を創り上げ、混乱は一応は収拾する。

 

だが………

 

此処にまた、新たに強力な力を持つ兵器が誕生した。

 

しかもそれは、誰にでも使える様になるらしい………

 

もしIS程の性能が無いしても、現行兵器を上回り、更には誰にでも使えて数に限りが無いとすれば、世界各国はそちらを採用するだろう。

 

女尊男卑の風潮の所為で、男と女の間にはかなりの亀裂が生じている。

 

グラパールが量産され、世界中に配備されたとしても、今度は虐げられていた男性側が、現在の女性達と同じ事をするかもしれない。

 

ISというアドバンテージが無くなる以上、数で勝る男性が有利となるのは目に見えている。

 

「それはリットナー先生も懸念されておりました………ですが、今は人類そのものが生き残る事を考えなくてはならない、と仰っていました」

 

「確かに………混乱は起きるかもしれないけど………その前に………人類自体が滅びてしまっては………意味が無い………」

 

虚の言葉に同意する簪。

 

そう………

 

例え混乱が起こるとしても、人類そのものが滅びてしまっては意味が無いのだ。

 

ロージェノム軍と人類側との戦闘は、日に日に悪化して行っている。

 

人類に時間は余り残されていないのだ………

 

「確かに………そうね」

 

楯無はそう呟き、無理矢理納得する。

 

「「「「「…………」」」」」

 

箒やシャル達も、複雑な表情を露にする。

 

と………

 

[神谷! 聞こえるか!? 緊急事態だ!!]

 

グレンラガンに、千冬が慌てた様子で通信を送って来た。

 

「あ? 何だよ、ブラコンアネキ。男同士の語らいを邪魔するたぁ、無粋じゃねえか」

 

[ジギタリスが脱走した!!]

 

「!? 何っ!?」

 

突然の千冬からの通信で、一夏を交えてグラパール・弾と語り合っていたグレンラガンは不満そうに返したが、次の知らせを聞いて驚きの声を挙げる。

 

[先程の騒ぎのドサクサに紛れたらしい! 今教師部隊と上級生部隊が探している!! すぐにお前達も探しに向かえ!!]

 

「いや………その必要はねえぜ」

 

そう指示を下す千冬だったが、グレンラガンはそう返す。

 

[? それは如何言う………]

 

「分かっているな! グレンラガン!!」

 

千冬が問い返そうとしたところ、そう言う声がアリーナ内に響き渡る。

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

一夏達が驚きながら、声のした方向を見やると、そこには………

 

アリーナの放送席の上に仁王立ちするザウレッグの姿が在った。

 

「!? ジギタリス!!」

 

「あっ! 燃ゆるハートは天真爛漫!! 誰が呼んだか通り名は!! 修羅の遊撃部隊長!! そのジギタリス様が愛機!! 『ザウレッグ』の雄姿!! 今一度見よおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

一夏が驚きの声を挙げると、ザウレッグはお決まりの口上を述べる。

 

「やっぱり俺の前に現れやがったか………」

 

そんなザウレッグの姿を見て、グレンラガンはそう言う。

 

「天上 神谷……貴様に貴様の誇りが有る様に………俺にも遊撃部隊長として!! そして獣人としての誇りが有る!!」

 

ザウレッグはビッとグレンラガンを指差す。

 

「その誇り故に………俺は貴様と戦わねばならぬ!!」

 

「ま、待ってくれよ! お前は………」

 

「一夏! 何も言うんじゃねえ!!」

 

ザウレッグに対し、一夏が何か言おうとしたが、グレンラガンが制する。

 

「! アニキ! でも!!………」

 

「口で言って聞く相手かよ………男だったら………拳で語るまでだぜ!!」

 

尚も何かを言おうとする一夏だったが、グレンラガンは更にそう言う。

 

「ハハハハハッ! お前ならばそう言うと思っていたわ!! それでこそだぞ! 天上 神谷!!」

 

「へっ! 良く考えりゃ、お前との決着は曖昧なままだったからな!! 今度こそキッチリとケリを着けてやるぜ!!」

 

「それは如何かな?………メガヘッズ!!」

 

と、そこでザウレッグがそう叫んだかと思うと………

 

「…………」

 

隣にもう1機のガンメン、メガヘッズが現れた!!

 

「!? アレはあの時の!?」

 

シャルがメガヘッズを見てそう言う。

 

「何だ? そいつはオメェの仲間だったのか? まあ、1体だろうが2体だろうが、叩き潰してやるぜ!!」

 

怯む様子は見えず、そう言うグレンラガンだったが………

 

「フッフッフッフッ………大きな口が叩けるのも今の内だぞ………行くぞメガヘッス!!」

 

とそこで、ザウレッグの口から不敵な笑いと共に、驚くべき言葉が飛び出す………

 

「『合体』するぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

遂に誕生!
グラパール・弾です。
機体のイメージは、原作でギミーが使っていた方のグラパールです。
遂に弾が戦闘メンバーの仲間入り。
これからの活躍に乞うご期待です。

そして更に………
謎のガンメン・メガヘッズの正体も判明!
更に脱走して再戦を挑んできたジギタリスから驚愕の言葉が!?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第51話『合体は俺達の十八番だぜ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第51話『合体は俺達の十八番だぜ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第1アリーナ………

 

「!? ん何ぃっ!?」

 

グレンラガンが驚きの声を挙げる。

 

「が、合体だって!?」

 

「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」

 

一夏も驚愕を露わにし、他のメンバーも動揺する。

 

「ふふふふ! 良~~く見ておけ!! 行くぞぉ!!」

 

「!!」

 

ザウレッグがそう声を挙げた瞬間に跳躍し、それを追う様にメガヘッズも跳躍する。

 

そして、2機の影が空中で交差したかと思うと………

 

地響きと共に、1機のマシンが着地した!!

 

力強さを感じさせる太い腕と、俊敏さを感じさせる細長い足………

 

そしてグレンラガンの様に、顔が2つ有り………

 

頭部の顔にはメガヘッズ。

 

ボディの顔には、ザウレッグが収まっていた。

 

「見よぉ!! コレがメガヘッズとザウレッグの真の姿!! その名も!! 『ザガレッズ』よぉ!!」

 

合体したメガヘッズとザウレッグ………『ザガレッズ』から、ジギタリスのそう言う声が響いてくる。

 

「ホ、ホントに合体した………」

 

「んなろー! ふざけやがって!! 合体は俺達の十八番だぜ!!」

 

一夏は驚きを露わにそう言うが、グレンラガンはそう噛み付く。

 

「さあ来い! グレンラガン!! 今日が貴様の命日となるのだ!!」

 

ザガレッズはそう言うと、グレンラガンを挑発するかの様に、チョイチョイと手招きをする。

 

「舐めやがって!!」

 

その挑発にアッサリ乗り、ザガレッズへと突っ込んで行くグレンラガン。

 

「ア、アニキ!?」

 

「神谷!!」

 

「あの馬鹿!!」

 

一夏、シャル、鈴がそう声を挙げると………

 

「うおりゃあぁっ!!」

 

「むううんっ!!」

 

グレンラガンとザガレッズは、互いにガッチリと組み合った!!

 

「ぐうううううぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!!」

 

ザガレッズを押し切ろうとするグレンラガンだったが、

 

「フハハハハハッ! その程度かグレンラガン!!」

 

そう言い放つと、ザガレッズはグレンラガンを押し始める。

 

「うおおっ!? コイツ!!」

 

押し返そうと踏ん張るグレンラガンだが、そのまま押されて行く。

 

「グレンラガンが力負けしているだと!?」

 

「何と言うパワーだ………」

 

その光景に、箒とラウラが驚きを示す。

 

「この野郎………調子に乗んじゃねえぞぉ!!」

 

しかしそこで、グレンラガンは不意に踏ん張るのを止めて、ザガレッズの力を利用して巴投げで投げ飛ばす。

 

「ぬうっ!?」

 

ザガレッズは空中で体勢を整えて着地を決める。

 

「グレンシュウウウウウゥゥゥゥゥゥーーーーーーートォッ!!」

 

グレンラガンは、そのザガレッズに向かって螺旋力のエネルギーボールを蹴り飛ばす、グレンシュートを放つ!!

 

「ふんっ!!」

 

だが、ザガレッズは飛んで来たグレンシュートを片手で受け止めたかと思うと、そのまま握り潰した!!

 

「! 野郎! スカルブレイクッ!!」

 

と、続けてグレンラガンは、スカルブレイクを喰らわせようと、肘関節の部分にドリルを出現させ、ザガレッズに突撃する。

 

「おりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

そして、そのままザガレッズに拳を繰り出すが、グレンラガンの拳が命中するかと思われた瞬間に、ザガレッズの姿が突然消える。

 

「!? 消えた!?」

 

「何処を見ている!?」

 

と、驚くグレンラガンの背中側に現れたザガレッズが、その俊敏さを感じさせる細長い足で、グレンラガンの背を蹴り付けた!!

 

「!? うおわっ!?」

 

腹を地面に擦りながら、グレンラガンはブッ飛ばされる。

 

「こなくそぉっ!!」

 

すぐに起き上がり、ザガレッズの方を向くが………

 

「ザガレッズラッシュッ!!」

 

既にグレンラガンに再肉薄していたザガレッズは、その太い両腕で連続パンチを叩き込んで来る!!

 

「!? うおおおっ!?」

 

防御姿勢を取るグレンラガンだが、ザガレッズは容赦無くパンチを叩き込んで来る。

 

徐々にグレンラガンの防御している両腕が罅割れ始める。

 

「! アニキ!!」

 

とそこで一夏が、雪片弐型を構えて、ザガレッズに突撃する。

 

「!? 一夏!?」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

箒が叫んだ瞬間、グレンラガンにラッシュを見舞っているザガレッズに向かって、一夏は雪片弐型を実体剣モードで振り下ろす!!

 

しかし、ガキィンッ! と言う甲高い音が響いたかと思うと、一夏の1撃はザガレッズの腕で受け止められていた。

 

「!? 何っ!?」

 

「貴様の出る幕では無い! 引っ込んで居ろ!!」

 

驚く一夏にザガレッズがそう言ったかと思うと、両腕を振り上げ、両脇の下に発射口を出現させる。

 

そしてそのまま、一夏に至近距離からミサイルを叩き付けた!!

 

「!? うわあぁっ!?」

 

爆発と共にブッ飛ばされ、地面の上を転がる一夏。

 

「一夏!!」

 

「「「「一夏〈さん、くん〉!!」」」」

 

箒、セシリア、鈴、ラウラ、楯無が声を挙げる。

 

「!!」

 

と、そこで簪がヘヴィマシンガンを発砲する。

 

「引っ込んで居ろと言った筈だ!!」

 

だが、ザガレッズはまたしても腕で防ぐと、両手を組んで地面に振り下ろした!!

 

途端に、振り下ろした場所から地割れが発生!!

 

簪へと向かって行く!!

 

「!?」

 

ローラーダッシュで移動し、躱そうとする簪だったが………

 

地割れはまるで意思が有るかの如く、簪に向かって来る。

 

「!?」

 

遂に簪は、足を取られて転倒する。

 

「テメェ!!」

 

「むんっ!!」

 

「ぐおああっ!?」

 

グレンラガンが隙有りと反撃を叩き込もうとしたが、その前に裏拳によってブッ飛ばされてしまう!!

 

「クウッ!!」

 

そこで今度は、セシリアがビットのブルー・ティアーズを射出。

 

ザガレッズを取り囲んで一斉射を喰らわせようとしたが………

 

「そんなものぉ!!」

 

ザガレッズはそう言い、急にダンスを始めた。

 

すると、そのダンスに合わせて怪音波が発生。

 

それをビットのブルー・ティアーズが浴びたかと思うと………

 

何とビットのブルー・ティアーズは、セシリアのコントロール下を離れ、狂った様にセシリア自身を攻撃し始める!!

 

「!? キャアッ!? そ、そんな!? 私のブルー・ティアーズが!? キャアッ!?」

 

自身のISの武器で動きを封じられる事となったセシリア。

 

「ならば!!」

 

と今度はラウラが、全てのワイヤーブレードを伸ばし、ザガレッズを斬り付けようとする。

 

「フンッ! ハアッ! トリャアッ!!」

 

しかし、ザガレッズは気合の声を挙げながら、次々にワイヤーブレードをキャッチしてしまう。

 

「!? 馬鹿な!?」

 

「ぬううううんっ!?」

 

ラウラが驚いた瞬間、ザガレッズはそのままラウラをジャイアントスイングの様に振り回し始める!!

 

「!? ぐううっ!?」

 

「ぬうううおおおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そしてそのまま、アリーナの客席目掛けて投げ飛ばす!!

 

「ガハッ!?」

 

客席に背中から叩き付けられ、ラウラは吐血する。

 

「こんのぉっ!!」

 

と、そこで鈴が、龍砲を連続で叩き込み始める!!

 

「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃうりゃあああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

エネルギーの残量なぞ気にせず、只管撃ちまくる鈴。

 

やがてアリーナの地形が変わり始めたところで、漸く連射を止める。

 

「………やったの?」

 

と、鈴がそう呟いた瞬間………

 

爆煙の中から余り損傷を受けていないザガレッズが飛び出して来た!!

 

「!?」

 

驚く鈴に向かって、その巨大な拳が振るわれる!!

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

鈴は人形の様にブッ飛ばされ、地面を転がる。

 

「でえええええええいっ!!」

 

箒が雨月と空裂で、縦切りを繰り出す。

 

「ぬんっ!!」

 

だが、ザガレッズは振り下ろされてきた二刀を両手で受け止めると………

 

「ふんっ!!」

 

そのまま、力任せに刀身を砕いてしまった!!

 

「!? 何だと!?」

 

「ちぇいやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

反撃のハイキックが、箒に叩き込まれる。

 

「ガッ………!?」

 

地面に叩き付けられる様に倒れる箒。

 

「クウッ!」

 

今度はシャルが、次々に銃器を取り出しながらザガレッズ目掛けて乱射する。

 

「こそばゆいわ!!」

 

しかし、ザガレッズはそれを物共せずにシャルへと突撃する!

 

「!?」

 

肉薄された瞬間に、実体シールドを構えるシャルだったが………

 

「むんっ!!」

 

ザガレッズの拳は、実体シールドを豆腐の様に砕く。

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

シールドの破片を撒き散らしながら、シャルはブッ飛ばされる。

 

「この野郎おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

と、グラパール・弾が叫びと共に大きく跳躍したかと思うと、

 

「うおりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

ザガレッズ目掛けて跳び蹴りを繰り出す!!

 

「グレンラガンモドキが!!」

 

だが、ザガレッズはその蹴りを片手で受け止めると、

 

「ぬうううううううんっ!!」

 

渾身の力で、グラパール・弾を地面に叩き付けた!!

 

「ゴバッ!?」

 

グラパール・弾の口から鮮血が飛ぶ。

 

「弾くん!?」

 

「お兄!?」

 

離れて見ていた虚と蘭が悲鳴を挙げる。

 

「そんな………グレン団のメンバーが全然敵わない………」

 

流石ののほほんも、この事態に深刻な表情を浮かべる。

 

「まだだよ!!」

 

しかしそこで、楯無がミストルテインの槍(5分の1)を放とうとする。

 

「ぬうっ………」

 

流石にアレを喰らっては危ないと判断したのか、回避行動に移るザガレッズだったが………

 

「逃がすかぁ!!」

 

足元に倒れていたグラパール・弾が、ザガレッズの足にしがみ付いて、動きを封じる。

 

「!? コイツ!?」

 

「今だぁ! やれぇっ!!」

 

「!!」

 

グラパール・弾の声が響き渡った瞬間!!

 

楯無はミストルテインの槍(5分の1)を投擲した!!

 

「ぐうっ!!」

 

そしてその瞬間にザガレッズの足を離し、転がって離脱するグラパール・弾。

 

「!?」

 

ザガレッズが防御姿勢を取った瞬間!!

 

ミストルテインの槍(5分の1)が直撃!!

 

ザガレッズは再び大爆発に包まれた。

 

「流石にコレは効いたでしょ………」

 

爆煙に向かってそう言い放つ楯無だったが………

 

「ああ………確かにな………」

 

「!?」

 

そう言う台詞と共に、爆煙の中から、全身至る所が罅割れたザガレッズが姿を見せる。

 

ダメージは目に見えてあるものの、未だに健在であった。

 

「そんな!?」

 

「喰らえっ!!」

 

ザガレッズは反撃とばかりに、脇の下からのミサイル………ザガレッズインパクトを連続発射する!!

 

「!? きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

全弾が楯無に命中し、楯無は黒煙を上げながら地面に倒れる。

 

「やはり………所詮人間なぞこの程度か………」

 

ザガレッズは、興醒めしたかの様にそう呟く。

 

すると………

 

「舐めた事………抜かしてんじゃねえ!!」

 

そう言う叫びと共にグレンラガンが、

 

「俺達はまだ………」

 

「負けちゃあいないぜ………」

 

続くその声で、一夏とグラパール・弾が若干膝を震わせながら起き上がる。

 

「………フフフ、それでこそだ」

 

そんなグレンラガン達の姿を見て、ザガレッズは何処か嬉しそうな声を挙げる。

 

「一夏! こうなったら、アレをやるぞ!!」

 

「OK! アニキ!!」

 

と、グレンラガンと一夏がそう言い合ったかと思うと、互いに跳躍。

 

「「兄弟合体!!」」

 

そして、両者の姿が、太陽を背に重なった瞬間にそう叫び、白式ラガンの姿となって、再びアリーナ内へと降り立つ!!

 

「「白式ラガン!!」」

 

ザガレッズに向かって、白式ラガンは見得を切る様なポーズを取る。

 

「来い!!」

 

それに対し、ザガレッズもそう言い放つ。

 

「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」

 

白式ラガンは全ブースターを噴かしてザガレッズに突撃する。

 

そして、左手の雪羅の指にエネルギーを纏わせると、クロー攻撃を繰り出す。

 

「そんなものでぇっ!!」

 

アッサリと弾き飛ばすザガレッズだったが………

 

「「心目!! 後ろ回し蹴りぃっ!!」」

 

白式ラガンは、クロー攻撃の勢いに乗せて身体を回転させ、後ろ回し蹴りを繰り出す。

 

「ぐうっ!?」

 

其方の方は避けられず、ザガレッズは直撃を受ける。

 

「捕まえたぜ!!」

 

そこで、背後に回ったグラパール・弾が、ザガレッズを捕まえる。

 

「ぬうっ!? しまった!?」

 

「錐揉みシュートッ!!」

 

そして気合で持ち上げ、頭上で回転させたかと思うと、思いっきり投げ飛ばす!!

 

「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!?」

 

回転しながら投げ飛ばされ、地面に叩き付けられるザガレッズ。

 

「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」

 

とそこで白式ラガンが、地面に両腕を突っ込んだかと思うと、巨大な岩盤を持ち上げた!!

 

「「岩石投げぇっ!!」」

 

気合の叫びと共に、その巨大な岩盤をザガレッズ目掛けて投げ付ける!!

 

「!! 何の! こんなものぉっ!!」

 

迫り来る岩盤に向かって、ザガレッズは渾身の拳を繰り出す!!

 

ザガレッズの拳が命中した場所から、岩盤にヒビが入り、そのまま粉々に砕け散る!!

 

「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」

 

だが、その砕けた岩盤の陰から、実体剣状態の雪片弐型を握った白式ラガンが飛び出して来る!!

 

「!? 何っ!?」」

 

「「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

驚くザガレッズを、白式ラガンは思いっきり斬り付ける!!

 

「ぐおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

ザガレッズのボディに、斜め一文字に切り傷が走る。

 

「ええいっ! まだまだぁ!!」

 

だが、ザガレッズは間髪入れず、反撃の蹴りを繰り出して来る。

 

「「!? うおわぁっ!?」」

 

咄嗟に実体剣状態の雪片弐型を構えて防御するが、白式ラガンは大きく弾き飛ばされる。

 

「コイツゥッ!!」

 

そこでグラパール・弾が、ザガレッズに殴り掛かろうとするが………

 

「ザガレッズインパクト!!」

 

ザガレッズは向かって来たグラパール・弾に対し、脇の下からのミサイルを連続発射!!

 

「!? うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

自らミサイルにぶつかりに行ってしまう事となったグラパール・弾は、全弾直撃を受け、アーマーの破片を撒き散らしながら、そのまま地面に倒れた。

 

「弾!!」

 

「一夏!! 一気に決めるぞ!!」

 

「! おうっ!!」

 

と、大技で一気にケリを着けようとし出す白式ラガン。

 

胸のグレンブーメランが独りでに外れ、白式ラガンの右手に納まる。

 

「「必殺!!」」

 

神谷と一夏の叫びと共に、白式ラガンはグレンブーメランを投擲する!

 

高速回転しながらザガレッズに向かっていたグレンブーメランが、途中で2つに分離!!

 

「ぬうううううぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!?」

 

2つになったグレンブーメランは、何度もザガレッズにブチ当たり、その巨体を宙に浮かせたかと思うと、そのままザガレッズを空中に固定した!!

 

白式ラガンが雪片弐型を持った右手を掲げる様に構えたかと思うと、雪片弐型が展開し、ドリルの様な形状のエネルギー刃が形成される。

 

「「ドリルゥゥゥッ! スラアアアアァァァァァッシュッ!!」

 

空中に固定されたザガレッズ目掛けて、ドリルの様な形状のエネルギー刃が形成された雪片弐型を振り被り、跳躍する白式ラガン。

 

だが………

 

「ぬがあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ! 舐めるなああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

ザガレッズがそう吠えたかと思うと、何と!!

 

自身を拘束していたグレンブーメランを無理矢理引き剥がす!!

 

「!? そんな!? グレンブーメランの拘束から抜け出した!?」

 

「構うかぁ!! このまま行くぜ!!」

 

一夏が驚きの声を挙げるが、神谷はそう言い、白式ラガンはドリルの様な形状のエネルギー刃が形成された雪片弐型をザガレッズに振り下ろそうとする。

 

「貰ったぞ! グレンラガン!!」

 

ザガレッズはそう言い放つと、巨大な腕を白式ラガン目掛けて振るい、カウンターを繰り出そうとする。

 

………その瞬間!!

 

「飛竜三段蹴りぃっ!!」

 

動けなくなったと思われていたグラパール・弾が根性で起き上がり、ザガレッズの腕に飛び蹴りをかました!!

 

「!? 何っ!?」

 

思わぬ攻撃に僅かに動揺するザガレッズ。

 

「セリャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そこでグラパール・弾は、蹴った反動を利用して反転し、再度飛び蹴りを見舞う。

 

「ぬううっ!?」

 

「もう一丁おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

更にもう1撃見舞おうとしたが………

 

「えいいっ! そうは行くかぁ!!」

 

ザガレッズは、タイミングを見切り、グラパール・弾をその巨大な腕で迎撃する!!

 

「ガハッ!?」

 

グラパール・弾は地面に思いっきり叩き付けられる。

 

「………へっ」

 

しかし、その口の端には笑みが浮かんでいた………

 

「アニキ! 一夏! 今だ!!」

 

「!? しまっ………」

 

ザガレッズが、グラパール・弾の狙いに気づいた時には既に手遅れ!!

 

「「うおおおおおおりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」

 

白式ラガンの渾身の力を籠めた雪片弐型が、ザガレッズ目掛けて振るわれた!!

 

「!? ぬおわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

装甲の破片を撒き散らしながら、ザガレッズは大きくブッ飛ばされる。

 

そして地面を転がっていると………

 

合体が解除されて、メガヘッズとザウレッグへと戻る。

 

そして更に、ザウレッグはジギタリスの姿となり、メガヘッズも………

 

「ニャアッ!!」

 

獣人状態のティトリーの姿となった。

 

「!? ティトリー!?」

 

「あの姿は!?」

 

「まさか!?」

 

「そ、そんな!?」

 

「アイツ! 獣人だったの!?」

 

それを見たシャル、箒、ラウラ、セシリア、鈴がそう声を挙げる。

 

「!? あ………あ、あ………」

 

それに気づいたティトリーが狼狽する。

 

「「…………」」

 

事情を知る楯無と一夏は沈黙している。

 

「………!」

 

と、そこで簪が、ヘヴィマシンガンをティトリーに向ける。

 

その瞬間………

 

「動くな!!」

 

ジギタリスが何を思ったのか、ティトリーを人質に取る様に拘束した!

 

「!?」

 

何事かと思い、ヘヴィマシンガンの銃口を外し、ターレットレンズが付いたバイザーもオープンする簪。

 

「………此奴は人間だ………獣人ではない」

 

「!? えっ!?」

 

ジギタリスの言葉に、ティトリーが驚く。

 

「………だろうな。見りゃ分かる」

 

すると、白式ラガンの神谷までもがそんな事を言う。

 

「!? 神谷!?」

 

「貴様! 何を………」

 

シャルと箒が驚きの声を挙げるが………

 

「分かってるんだったら、とっとと返しやがれ!」

 

それを無視して、神谷はジギタリスにそう言い放つ。

 

「………そうは行かん………人質として預からせて貰う」

 

だが、ジギタリスはそんな神谷にそう返した。

 

「人質!? おうおうおう! このデカブツ野郎!! ちょっと見ねぇ内に随分と卑屈になったもんだな!!」

 

「…………」

 

「テメェみてぇな奴は嫌いじゃなかったんだがな………がっかりだぜ!」

 

「やかましいわ!! 貴様に言われんでも、らしくない事くらい、自分でも分かっとるんじゃーっ!!」

 

と、ジギタリスがそう叫んだかと思うと、ティトリーを捕まえたまま、アリーナの外縁まで一気に跳躍。

 

「次は………負けん! 覚悟しておけ!! 行くぞ、ティトリー!!」

 

「えっ!? やだ!!………あ!? やだじゃなくて、えーとそのー………」

 

「さらばだ!!」

 

「あ~れ~!!………さ、攫われる~~~!!」

 

そしてそのまま、アリーナの外へと消えて行った………

 

「攫われたんじゃなくて、帰っただけじゃない」

 

直後に、鈴がそう言い放つ。

 

「…………」

 

白式ラガンの合体が解除され、更にグレンラガンから戻った神谷は、ただ無言で佇んでいる。

 

「………ちっ! 面白くねえ………」

 

やがて悪態を吐く様にそう呟く。

 

「アニキ………」

 

そんな神谷の姿を、複雑な表情で見ている一夏。

 

(………獣人って………ホントに皆悪い奴なのか………?)

 

やがて一夏の胸中に、そんな思いが湧き上がり始めた………

 

「やっぱり………こんな事になっちゃったわね」

 

とそこで、神谷の傍に立った楯無が、そんな事を言う。

 

「参ったわね………」

 

「別に参らねえよ! 尻尾が有ろうと何だろうと、グレン団の一員なんだよ!!」

 

しかし、神谷は楯無にそう言い返す。

 

「何故そうなる!?」

 

「アンタ見たでしょ! アイツは獣人なのよ!?」

 

そこで、ラウラと鈴が、神谷に噛み付いてくる。

 

「そうですわ、神谷さん!」

 

「アイツは私達の敵だぞ!!」

 

セシリアと箒もそう言って来るが………

 

「………ま、そう言うなって。俺自身、根拠があって大丈夫って思ってるワケじゃねえ。だが、あんまり敵、敵言われても、正直困っちまうんだよな………」

 

「『男の勘』って奴? かみやん?」

 

そこで今まで戦いを遠巻きに見ていたのほほんが寄って来て、そんな事を尋ねる。

 

その背後では、弾が虚と蘭に肩を貸して貰って起き上がっていた。

 

「そうだな………ま、そんなところで落ち着かせてくれや!」

 

「「「「…………」」」」

 

神谷節の説明に、箒、セシリア、鈴、ラウラは閉口する。

 

(………神谷)

 

だが、シャルだけは何か思う事があったのか、ジッと神谷を見詰める。

 

「…………」

 

そして相変わらずの無表情で、心底が窺えない簪。

 

(………ジギタリス………ティトリー………お前等………本当は如何したいんだ………?)

 

そんな中で神谷は、ジギタリスとティトリーが消えた方向を見詰め、心の中でそう問い掛けたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

合体ガンメン・ザガレッズ登場!
その強さはグレン団のメンバー全員を蹴散らすほど!

しかし、白式ラガンと弾の活躍で、どうにか退けます。
けれども遂に………
ティトリーの正体が露見してしまう。
ジギタリスに人質として連れていかれたティトリー。
果たして彼女は………

暫くティトリーは離脱となります。
勿論再登場しますので、楽しみにしていて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第52話『式は何時執り行うのですか?』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第52話『式は何時執り行うのですか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロージェノム軍との戦闘で、徐々に押されつつある人類側の切り札として………

 

リーロンが兼ねてより開発を進めていたマシン………

 

グレンラガンの量産型である『グラパール』

 

その試作機2機が完成した。

 

試作機である故か、神谷程でないにしろ螺旋力が必要とされたが………

 

何と妹の蘭の付き添いで、偶々学園に来ていた一夏の親友、五反田 弾が螺旋力に覚醒。

 

2機のグラパールの内、青い機体に選ばれ、その装着者となる。

 

しかし、そんな中………

 

ジギタリスが檻より脱走。

 

以前グレンラガンを襲撃したカメ型のガンメン・メガヘッズを引き連れて、グレンラガンに3度目となる戦いを挑んで来た!!

 

ジギタリスのザウレッグと合体し、合体ガンメン・ザガレッズとなったジギタリスの前に、グレン団は大ピンチに陥る。

 

しかし、根性の底力で、逆転勝利をもぎ取る事に成功する。

 

だが、そこで驚愕の事実が明らかになる………

 

何と、メガヘッズの正体はティトリーだったのだ。

 

装着が解け、獣人の姿をグレン団の前に曝してしまったティトリー。

 

とうとう彼女が獣人である事が、神谷や楯無、一夏以外にも知り渡ってしまったが………

 

ジギタリスがそんなティトリーを庇うかの様に人質に取り、人間だと言い放った。

 

そんなジギタリスの言葉を、神谷は素直に受け取る。

 

そしてジギタリスは、ティトリーを人質として攫っていってしまう。

 

こうして………

 

グレン団は、特攻隊長である弾がパワーアップを果たしたが………

 

ティトリーを連れ去られてしまう事になったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オープン・キャンパスから数日後の朝………

 

IS学園・1年1組の教室………

 

副担任の真耶が教壇に立ち、出席を取っている。

 

「鶴谷さん」

 

「ハイ!」

 

「鶴見さん」

 

「ハイ!」

 

真耶の呼び掛けに、元気良く返事を返して行く生徒達。

 

「ティトリーさん」

 

とそこで真耶が、ティトリーの名を呼ぶ。

 

途端に、クラスが静まり返った。

 

「!? あ、ゴ、ゴメンナサイ!」

 

真耶は慌てて謝罪する。

 

「…………」

 

一夏は空席となっている、ティトリーの席だった場所に視線を遣る。

 

(………ティトリー)

 

先日の光景を思い出し、一夏は複雑な表情となる。

 

「………チッ!」

 

神谷も面白く無さ気に、両足を机の上に投げ出し、背を仰け反らせて天井を仰ぎ見た。

 

(………神谷………)

 

そしてシャルは、そんな神谷の姿を見て、複雑な表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れて昼休み………

 

昼食を摂ろうと、グレン団の面々は食堂へと集まる。

 

「い、一夏さん………いらっしゃいませ」

 

「おう、一夏に神谷! 良く来たな!!」

 

そんなグレン団の面々を出迎えたのは、エプロン姿の蘭と、彼女の祖父である五反田 厳だった。

 

「ハイ! オムライスとコロッケ定食お待ち!!」

 

「お待たせ致しました。こちら焼き魚とフライの盛り合わせ定食と豪華野菜炒め定食です」

 

テーブルエリアの方でも蘭と同じくエプロン姿の弾と、彼と蘭の母親である五反田 蓮が、注文された料理をテーブルへと運んでいる。

 

「よう、弾!」

 

「あ! アニキ! それに一夏! 虚さんも!」

 

「アラ、神谷くんに一夏くん。それに皆もお揃いで………ちょっと待ってね。コッチの席が空いてるわ」

 

神谷が弾に声を掛けると、弾は神谷達に気付き、続いて蓮もそれに気付くと、神谷達を空いている席へと案内する。

 

神谷達は蓮に案内された席へと着く。

 

「ハイ、ご注文は?」

 

「あ、俺は餃子定食で」

 

「私はエビフライ定食を」

 

「ハンバーグ定食をお願い致します」

 

「アタシは麻婆豆腐定食ね」

 

「僕は………天ぷら定食で」

 

「豚肉生姜焼き定食を1つ………」

 

「私、唐揚げ定食」

 

「鯖味噌煮定食~」

 

「うどん定食をお願いします」

 

「………蕎麦定食………」

 

蓮が伝票を手にそう尋ねると、一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、楯無、のほほん、虚、簪が順に自分の注文を述べる。

 

「ハイ………神谷くんは、今一夏くん達が言ったのを全部で良いかな?」

 

「おう、よろしく頼むぜ!」

 

「ハイ、確かに承りました………」

 

最後に神谷とそう遣り取りを交わすと、蓮は厨房に居る厳に注文を伝えに行ったのだった。

 

 

 

 

 

何故、五反田一家がIS学園の食堂で働いているのか………

 

話は、ティトリーが居なくなったIS学園のオープン・キャンパスの日まで遡る。

 

あの日、偶発的とは言え、螺旋力を覚醒させ、グレンラガンの量産試作機であるグラパールを起動させてしまった弾。

 

リーロンは完全な量産型が完成した暁には、全世界にその設計図と技術を公表する予定であるが、予てよりISに代わる新兵器を求めていた各国にとって、弾以外に使えないとは言え、グラパールは非常に魅力的な存在であった。

 

仮に弾が何処かの国に誘拐され、その国がグラパールを解析し、更に量産に成功したりすれば、その国はグラパールの技術を独占する事になる。

 

人類自体が危機的状況にあると言うのに、人類間の争いが再燃してしまえば、最早ロージェノム軍と戦うどころの話ではない。

 

そこで千冬は、IS学園の学園長である轡木 十蔵(表向きは彼の妻がIS学園の学園長となっている)に働き掛け………

 

弾を、家族ごとIS学園で保護する事にしたのだ。

 

神谷の場合、天涯孤独と言う事もあったが、弾の場合は家族を人質に取られる可能性を懸念しての措置である。

 

最初は蘭共々、神谷の様に学生として受け入れるべきかとも考えたが、グラパールはグレンラガンと同じくISではない為、運用ノウハウが無いので教えられる事が無く、神谷の様に学校へ行っていなかったのなら兎も角、無理に転校させるのも可哀そうだと思い………

 

現在通っている学校の方に便宜を図ってもらい、通常の教育を此方で受けさせると言う事で、特別休学扱いにしてもらった。

 

尤も………

 

弾、蘭の両在学校共、ロージェノム軍の影響で田舎に疎開する為に転校する生徒が相次いでおり、近々休校になる予定だったそうである。

 

そして現在、五反田一家は元が定食屋であった事を活かして、IS学園の食堂の手伝いを任されている。

 

「あ~~、念願叶って女の園のIS学園に入れたと思ったのに、ココでも食堂の手伝いかよ~!」

 

普段から五反田食堂で手伝いをやらされたりしていた弾は、愚痴る様にそう言う。

 

「オイ、弾! 愚痴言ってる暇が有ったら、コイツを向こうのテーブルへ運べ!!」

 

そんな弾に、厳が怒鳴る様にそう言い、出来上がった料理を差し出す。

 

「! ハ、ハイ! 只今!!」

 

それを聞いた弾は、一瞬ビクリとしながらも、出来上がった料理を急いで注文した学生の元へ運ぶ。

 

「弾くん。頑張ってね」

 

すると、そんな弾に虚が微笑みながらそう言う。

 

「う、虚さん………」

 

その微笑みを見た途端、弾の螺旋力がグングンと上昇して行く。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ! 俺の螺旋力が沸騰するぜえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

何処ぞのスポーツ選手ロボットの様な台詞を叫ぶと、弾は先程までとは比べ物にならない働きを見せる。

 

「………スゲェ」

 

「ハハハハハッ! 惚れた女の笑顔が何よりの癒しってかぁ!!」

 

「…………」

 

一夏がそんな弾の姿に驚き、神谷が呵々大笑しながらそう言うと、虚が恥ずかしそうに赤面する。

 

「ヘイ! お待ち!!」

 

「お待たせしました」

 

「ハイ、どうぞ」

 

と、そこで神谷達が着いていたテーブルにも、注文した定食が並べられて行く。

 

「それじゃ………」

 

「「「「「「「「「「頂きま~す!」」」」」」」」」」

 

一夏が音頭を取り、全員が礼儀正しく手を合わせてそう言うと、定食へと有り付いたのだった。

 

談笑しつつ、食事を進めて行く一夏達。

 

そんな中で神谷は相変わらずの食欲を見せ、数人分の定食を次々に平らげている。

 

「ガツガツ! バクバク! モグモグ! ムシャムシャ!」

 

「ア、アハハハハハ………」

 

一夏達は、時折そんな神谷の事を見ながら、苦笑いを零す。

 

と、そんな中………

 

「? ん?………私だ………ああ、クラリッサか」

 

ラウラの軍用無線機が鳴り、受信ボタンを押したラウラが応答するとそう言う。

 

如何やら相手は、彼女がドイツ本国で率いているIS配備特殊部隊、『シュヴァルツェ・ハーゼ(黒ウサギ)』の副隊長、『クラリッサ・ハルフォーフ』の様だ。

 

ラウラの母国・ドイツから、しかも彼女の部隊の副隊長からの通信と言う事で、ラウラに一同の視線が集まる。

 

「それで? 如何したんだ?………うむ………ふむふむ………何?………そうか………分かった。何時頃になる?………うむ………了解した。出迎えは任せろ………遠慮は要らん。では空港でな」

 

そのままラウラは何かを言い合ったかと思うと、通信機を切った。

 

「如何したんだ? ラウラ」

 

気になった一夏が、ラウラにそう尋ねる。

 

「うむ、私の部隊の副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフ大尉が日本に来る事になった」

 

「ああ、ラウラに日本の事を教えてくれてるって言う」

 

ラウラの言葉を聞いたシャルがそう言う。

 

「日本の………(って事は、そいつがラウラに間違った日本の知識を植え付けている根源って事か………)」

 

それを聞いた一夏は、内心でそう思う。

 

「ちょっと。アンタのとこって、確か精鋭部隊って聞いたわよ。その部隊の隊長と副隊長が抜けちゃって良いワケ?」

 

「確かに………現在の情勢を見ると………あまり良くない………?」

 

鈴がそう言うと、簪も同意するかの様な台詞を言う。

 

「いや、上層部から正式に休暇を出されたらしい。今まで働き詰めだったそうだからな」

 

「そうなの?」

 

「まあ、そう言う事でしたら………」

 

ラウラがそう言うと、シャルとセシリアは納得が行った様な表情となる。

 

「一夏」

 

「ん?」

 

と、そこでラウラは、今度は一夏へと声を掛ける。

 

「クラリッサは今度の日曜に来日する。出迎えに付き合ってくれんか?」

 

「ああ、別に構わないけど、良いのか? 俺なんかが一緒に行って?」

 

「お前は私の嫁だろう。当然だ。クラリッサに紹介もせねばならんしな」

 

涼しい顔でサラッとそう言い放つラウラ。

 

「ボーデヴィッヒさん! 前々から仰ってますけど、一夏さんは貴方のお嫁さんではありませんわ!!」

 

「そうよそうよ!!」

 

「納得が行かん!!」

 

当然、セシリア、鈴、箒が噛み付いてくる。

 

「一夏は私の嫁だ」

 

しかし、ラウラもそんな3人を正面から見据えてそう返す。

 

「一夏! 大体お前がハッキリとしないから!!」

 

「一夏のせいよ!!」

 

「一夏さん! この際ハッキリと仰って下さい!!」

 

「ちょっ!? 矛先早くも俺!? 大体ハッキリしないって何がだよ!?」

 

やがて怒りの矛先は一夏へと向き、一夏は相変わらず、自分では全く分かっていない己の罪に気づかずに居た。

 

「じゃあ此処は間を取って、一夏くんは私の物って事で」

 

とそこで、楯無が火に油を注ぐ様に箒達をからかい始める。

 

「ちょっ!? 楯無さん!?」

 

「「「「「一夏〈さん〉!!」」」」」

 

当然、箒達、新たに参戦してきた蘭は、更に激しく一夏に迫り始める。

 

「!?」

 

遂に一夏が身の危険を感じ始めた瞬間!

 

ドギュオンッ!!と言う轟音と共に、食堂の天井に穴が開いた!!

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

何事かと一夏達が硬直すると………

 

「………食事中は………静かに………」

 

アーマーマグナムを天井に向かって撃った簪が、低い声でそう言う。

 

「「「「「「スイマセンでしたーっ!!」」」」」」」

 

途端に一夏達は、揃って簪に向かって頭を下げる。

 

「かんちゃんもやるね~」

 

「と言うか、やり過ぎですよ、簪様」

 

そんな簪の姿を見て、何時も通りに笑みを浮かべているのほほんと、簪の過激なやり方に冷や汗を掻く虚だった。

 

「天井に穴開いちゃったけど………如何しよう?」

 

「俺のせいだって言って、ブラコンアネキにでも言やあ良いだろう。大体の苦情はアイツのとこ持ってく事になってんしよぉ」

 

シャルが天井に開いた穴を見ながらそう呟くと、神谷がそんな事を言う。

 

千冬、涙目である。

 

その後、結局………

 

クラリッサの出迎えは、グレン団全員で行く事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はあっと言う間に流れて、日曜日………

 

東京国際空港………

 

ターミナルで、クラリッサの到着を待っているグレン団。

 

只でさえ、美女揃いの集団で注目を浴びている彼等だが、更に神谷が『熱烈歓迎! クラリッサ・ハルフォーフ!!』と書かれた大きなプラカードを掲げている事で、更に注目を浴びていた。

 

「俺達………今スッゲー目立ってんな………」

 

「だな………」

 

一夏と弾が、先程から他の空港利用客や、空港職員の注目を浴びまくっている事で、萎縮している様子を見せる。

 

「こんだけ目立ってりゃ、クラリッサとか言う奴もすぐに見付けてくれるってもんだろが!」

 

しかし、一番目立っているプラカードを掲げている神谷が、何を縮こまってるんだと言う様に2人に話し掛ける。

 

ロージェノム軍の出現以来、出国したり入国する人の人数は減る一方だったが、それでも休日と言う事もあり、ターミナル内は多くの人でごった返していた。

 

そこで、クラリッサがすぐにラウラ達を見つけられる様にと、神谷が一計を案じたのである。

 

「しかし………これは………」

 

「居心地悪いったらありゃしないわね………」

 

神谷は相変わらず堂々としているが、箒と鈴も、不特定多数の視線を浴びているので、若干居心地が悪そうにしている。

 

「まあまあ、皆。気にしない。気にしない」

 

「…………」

 

そんな中で、何時も生徒達の注目を浴びている為、視線には慣れている楯無と、そう言ったモノを一切気にしない簪が平然としている。

 

「あ! あの方じゃありませんか?」

 

するとそこで、セシリアが入国ゲートが有る方向から、トランクケースを牽きながらコチラに向かって来る、黒い軍服を着て軍帽を被った、ボブカットの女性を見付け、そう声を挙げる。

 

左目に、ラウラと同じ様に眼帯をしている。

 

「ああ、そうだ………クラリッサ! コッチだ!!」

 

「! 隊長!!」

 

ラウラが呼び掛けると、その女性………クラリッサ・ハルフォーフは、ラウラの方へ駆け寄って来て、目の前で気を付けすると、ビシッと敬礼する。

 

「クラリッサ・ハルフォーフ大尉、本日只今を以ちまして来日致しました。態々御足労頂き、誠に申し訳ありません」

 

「気にするな、クラリッサ。仲間を迎えるのは当然の事だ。それと今は休暇中だろう。敬礼は止せ」

 

「ハッ! 了解しました!!」

 

ラウラにそう言われると、クラリッサは敬礼を解く。

 

「ところで………そちらの方々が、例の………」

 

と、そこでクラリッサが、ラウラの背後に居るグレン団の面々を見ながらそう言い掛けると………

 

「おうおうおう! 耳の穴かっぽじって、よ~く聞きやがれ!! IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

神谷が、何時ものノリでクラリッサにそう自己紹介をする。

 

「ちょっ!? 神谷ぁ!!」

 

只でさえ注目を浴びていた他の空港利用客や空港職員達に更に注目され、シャルが何か言おうとしたが………

 

「貴方がグレン団の………噂は兼ね兼ねお伺いしております。お会い出来て光栄です」

 

クラリッサは、神谷の独特なノリを気にした様子も無く、普通に挨拶を返して来た。

 

「流石ドイツ軍人。狼狽えないね~」

 

「本音、それは………」

 

のほほんが有名漫画の台詞を言い、虚が窘めようとしたが………

 

「その通り! ドイツ軍人は狼狽えない!!」

 

他ならぬクラリッサ自身が乗って来る。

 

「…………」

 

それを見て、呆れた様な表情を見せる虚。

 

(流石………ラウラに色々と間違った知識を吹き込んだ元凶………)

 

そんなクラリッサを、一夏は呆れた表情で見遣る。

 

「ん?」

 

と、そんな一夏の視線に気付いたクラリッサが、一夏を見遣る。

 

「あ、いや、その………」

 

「ああ、貴方が織斑 一夏殿ですね?」

 

と、一夏は気不味くなったが、逆にクラリッサの方は、喜びの笑みを浮かべる。

 

「え? あ、ハイ………」

 

「隊長より話は聞き及んでおります。どうか隊長をよろしくお願い致します………して、式は何時執り行うのですか?」

 

「? 式? 式って、何の式ですか?」

 

「またまた、御冗談を………隊長と織斑殿の結婚式に決まっているではありませんか」

 

「ブウッ!?」

 

丁寧な挨拶をしながらのクラリッサからのキラーパスに、一夏は思わず吹き出してしまう。

 

「「「…………」」」

 

当然、箒、セシリア、鈴の3人は、一夏を睨み付け始める。

 

(な、何なのこの人!? い、一夏さんが、け、結婚って!!)

 

蘭も、内心で戦慄していた。

 

「…………」

 

簪も、何時もと同じ無表情に見えるが、若干眉が不機嫌そうにピクピクと動いている。

 

「なななな、何言ってんですか、貴女は!?」

 

「織斑殿は隊長の嫁なのでしょう。ならば式を挙げるのは当然の事ではないですか」

 

慌てる一夏だが、クラリッサは至って当然の様に話を進め始める。

 

「いや、だから………!? ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

釈明をしようとした一夏の背中を、箒、セシリア、鈴が抓りあげる。

 

「ちょっ!? 箒! セシリア! 鈴! 一体何………!? ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

何をするんだと言おうとした瞬間に、更に一夏の背中を抓る3人。

 

その表情は不機嫌を通り越して殺気すら感じる。

 

(隊長………あの少女達が、隊長と同じく織斑 一夏殿に好意を寄せている者達ですか?)

 

(ああそうだ………特にあの黒髪の女………篠ノ之 箒等は最近油断がならなくなっている………)

 

そんな一夏を他所に、クラリッサはラウラと小声でヒソヒソ話をしている。

 

(成程………隊長の御苦労、お察し致します………ですが、御安心下さい! この休日の間は、私がより隊長の魅力が織斑殿に伝わる様に全力でお手伝いさせて頂きます!)

 

(おお、頼もしいぞ、クラリッサ!)

 

「何話してるの?」

 

と、そこでヒソヒソ話に気付いたシャルがそう声を掛ける。

 

「いや、何………ちょっと今後の部隊運営の事でな」

 

「ええ………」

 

そう誤魔化す2人だったが、その顔が思いっきり澄まし顔だった為、却って分かり易かった。

 

(………分かり易いなぁ………)

 

心の中でそうツッコミを入れるシャル。

 

「それでクラリッサ。この後の予定は如何なっているんだ?」

 

「ハイ。滞在先のホテルに荷物を置いたら、前々から是非行ってみたい場所がありまして」

 

「そうか………」

 

「良おし! 今日は1日中遊び倒すとしようぜ!! オイ、お前等! 何時までやってんだ!? 行くぞ!!」

 

と、ラウラとクラリッサがそう言い合うと、神谷が仕切る様にそう言う。

 

「フンッ」

 

「まあ、これくらいにしておいてあげますわ」

 

「アンタってホント最低よね………」

 

「お、俺が………何をした………」

 

背中を抓っていた箒、セシリア、鈴は、一夏を漸く解放し、一応満足気な表情を浮かべていた。

 

「一夏………お前、何時か死ぬぞ、きっと………」

 

そんな親友の相も変らぬ姿に、弾は苦笑いする。

 

その後、クラリッサを加えたグレン団の一同は、クラリッサの滞在先のホテルへと向かった後………

 

クラリッサが日本に来たら、是非共行ってみたいと思っていた場所に向かった。

 

その場所とは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京・秋葉原………

 

「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

目をキラキラに輝かせて感激しているクラリッサ。

 

彼女が日本に来たら、是非共行ってみたいと思っていた場所とは………

 

何を隠そう、日本一の電気街………

 

そしてオタクの聖地!!

 

『秋葉原』だった!!

 

「此処が………聖地………グスッ………」

 

感激のあまり、クラリッサの目に涙が零れ始める。

 

「ど、如何した!? クラリッサ!?」

 

突然涙を流し始めたクラリッサを見て、ラウラが慌てる。

 

「す、すみません、隊長………感激のあまり………ちょっと………」

 

「そうか………そんなに来たかったのか………良し! 私が許す! 今日は思う存分この『秋葉原』と言う街を堪能しろ!!」

 

「ハイ!!」

 

そう言って来たラウラに、クラリッサはガッツポーズを取りながらそう返す。

 

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

しかし、そんなクラリッサとラウラとは対照的に、一夏、弾、箒、セシリア、鈴、蘭、虚は若干引く様子を見せている。

 

「やっぱり………クラリッサさんって、ソッチの方の人だったんだ?」

 

「? そっちって何だ? シャル?」

 

「いや、それはその………」

 

神谷に如何説明すれば良いのかと悩むシャル。

 

「へえ~~、此処がアキバか~。楽しそうなとこだね」

 

「…………」

 

初めて来た秋葉原に興味津々な様子の楯無と、簪は相変わらず読めない無表情を浮かべている。

 

「あ、新刊出るの今日だったっけ~。序に買って行こう~」

 

………のほほん! お前もか!?

 

「では………クラリッサ・ハルフォーフ! 突貫します!!」

 

そして、何処ぞのガンダムパイロットの様な台詞を言うと、クラリッサは秋葉原の街へと繰り出して行く。

 

「一夏! 何をしている!! 私達も行くぞ!!」

 

するとラウラが若干引いていたメンバーの中に居た一夏の手を握り、クラリッサの後を追って行く。

 

「!? おわぁっ!? ちょっ!? 待っ………」

 

抗議の声もそこそこに、一夏はラウラに引っ張られて行く。

 

「! 一夏!!」

 

「一夏さん!!」

 

「一夏!!」

 

「一夏さん! 待って!!」

 

そこで慌てて、箒、セシリア、鈴、蘭が、その一夏を追い掛けて行く。

 

「オイ、蘭! 待てって!!………虚さん! 行きましょう!!」

 

「えっ!? あ、ちょっと………!?」

 

続いて、弾が虚の手を取って走り出す。

 

「あ、コラ! テメェ等!! 俺より先を行こうだなんて、良い度胸じゃねえか!!」

 

「アハハハハハ………」

 

それを見た神谷が、一夏達を追い抜かさんと駆け出し、シャルも苦笑いしながらその隣を走る。

 

「やれやれ~。皆元気だね~」

 

「姉さん………その台詞………若干年寄り臭い………」

 

そんな一同の姿を見ていた楯無がそう言うと、簪がそうツッコミを入れて来た。

 

「ちょっ!? 簪ちゃん!?」

 

「ふふっ………」

 

慌てる楯無に簪は微笑むと、逃げる様に一夏や神谷達の後を追って行く。

 

「コ、コラー! 待ちなさーい!!」

 

慌ててそれを追う楯無。

 

こうして………

 

グレン団の秋葉原珍道中が開始されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尚、いの一番に突貫していったクラリッサだが………

 

最初に駆け込んだのが女性向け商品の置いてあるとらのあな秋葉原店Bだった為………

 

ラウラに引っ張られる形で一緒に突っ込んだ一夏が、彼女共々多大なショックを受けて戦略的撤退し………

 

箒、セシリア、鈴、蘭、楯無、虚は年齢の事もあり、店の外で待機していたが、時折興味深そうに店舗内を覗き見たりしており………

 

同じく年齢制限で入れなかった神谷は、シャルにどんな店なのかを尋ねて、シャルは弾に無茶振りする。

 

そしてのほほんは、興味無さげな簪を尻目に、堂々と入店し、クラリッサと共に女性向け商品を買い漁ると言う………

 

何とも混沌(カオス)と化した状況を創り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ティトリーが去った後のIS学園。
皆色々と思うところがありながらも、時間は無情に進む………

そんな中、ラウラの部隊の副隊長・クラリッサが来日。
オタクの聖地でグレン団と珍道中を巻き起こします。
更に次回はあのマシンがロージェノム軍として登場するのでお楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第53話『………ありがとうございます』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第53話『………ありがとうございます』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京・秋葉原………

 

とらのあな秋葉原店Bで、戦利品を多数ゲットしたクラリッサが、次にグレン団の面々を引き連れて向かったのは………

 

「如何だ? クラリッサ?」

 

「とても良くお似合いです! 隊長!!」

 

そう嬉々と答えるクラリッサの前には………

 

某戦国スタイリッシュアクションゲームの伊達 政宗の恰好をしたラウラの姿が在る。

 

そう、コスパだった。

 

早速ラウラにコスプレをさせて、その恰好を自前のカメラで撮影している。

 

敢えて言おう。

 

この人は病気だ。

 

「隊長! では次は、刀を構えてLet’s Partyと言って下さい!!」

 

「うむ、分かった………Let’s Party!!」

 

クラリッサに言われるがままに、ラウラは腰に片方3本ずつ、計6本差していた模造刀の内の1本を抜くと、構えを取ってそう言い放つ。

 

「くあああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~っ! 最高です! 隊長!!」

 

興奮した様子で、クラリッサはカメ娘の如く、コスプレしたラウラの写真を撮り捲る。

 

「やはりラウラ隊長は至高の存在です。そう思いませんか? 織斑殿?」

 

「いや、そんな急に言われても………って言うか、何で俺達までコスプレしてるんですか?」

 

突然話を振られて戸惑う一夏。

 

そして彼も、クラリッサの手により、ラウラと同じ某戦国スタイリッシュアクションゲームの真田 幸村の恰好をさせられていた。

 

「何を仰るのですか。折角聖地アキバへ来たのです! コスプレをせずして何をすると言うのですか!?」

 

「いや、色々有ると思いますけど………」

 

熱弁する様なクラリッサに、それでも抗議する様に言う一夏だったが、当然その言葉はスルーされる。

 

「クッ! 何故私までこんな恰好を………」

 

恥ずかしそうに顔を赤くしている箒は、某大正浪漫の作品のメインヒロインのコスプレを………

 

「何故かこの服………しっくり来ますわ」

 

何故か衣装が妙にしっくり来ていると感じているセシリアは、某傭兵組織の潜水艦艦長の天才少女のコスプレを………

 

「ま、悪くないかもね………」

 

満更でもない様子の鈴は、某広告を背負ったヒーローが出て来るアニメのボーイッシュ少女ヒーローのコスプレを………

 

「…………」

 

無言で顔を伏せている虚は、某宇宙戦艦の技師長のコスプレをしていた。

 

「お姉ちゃ~ん。恥ずかしがる事ないよ~。良く似合ってるよ~」

 

そんな虚にそう言うのほほんは、某同人弾幕シューティングゲームのかぐや姫をモデルにしたキャラクターのコスプレをしている。

 

「へえ~、結構面白れぇじゃねえか」

 

コスプレをそう評する神谷のコスプレは、某少年漫画の主人公として書かれた天下御免の傾奇者・前田 慶次である。

 

(………ピッタリだな、神谷)

 

そんな神谷の姿を見て、普段から傾いている神谷にはピッタリのコスプレだと内心思う、カンテレを持った某戦車道少女のコスプレをしているシャル。

 

「アニキ! 如何っすか、コレ?」

 

神谷にそう尋ねる弾は、某超有名バトル漫画の主人公やその他のキャラが着用している山吹色で背中に亀の文字が入った道着を着ている。

 

「おおっ!! 良いじゃねえか、弾」

 

「あ~そんなのあったのか~ 俺もそっちが良かったなぁ~」

 

そう感想を述べる神谷と、そのコスプレ衣装を見て羨ましそうにしている一夏。

 

「い、一夏さん! わ、私は如何ですか!?」

 

そう一夏に尋ねる蘭は、埼玉を聖地にした萌える癒し系4コマ漫画に出て来る神社の双子の巫女姉妹の妹の方のコスプレをしている。

 

「ああ、何のキャラかは良く分からないけど………良いんじゃないか? 可愛いぞ、蘭」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

一夏がそう褒めると、蘭は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「「「「…………」」」」

 

お約束で、箒、セシリア、鈴、ラウラからは殺気を飛ばされる事となったが………

 

「やあやあ皆~ 楽しんでる~?」

 

と、そう言いながら現れた楯無は、某有名ラノベのタイトルともなっているSOS団々長のコスプレをしていた。

 

(((((((………何でだろう………凄くピッタリな気がする)))))))

 

その楯無の姿を見た一夏、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、虚がそう思う。

 

「団長~、じゃなくて会長~ かんちゃんは~?」

 

と、そこでのほほんがそう尋ねると………

 

「あ、あ~~………簪ちゃんはね~………」

 

何やら楯無が口籠りながら後ろを振り返ったので、一夏達もその楯無の視線の先を見遣ると、

 

「…………」

 

赤い耐圧服に、ゴーグルと酸素ボンベが付いたヘルメットを被った人物の姿が在った。

 

………むせる

 

「ど、どちら様ですか!?」

 

一夏は思わず、その赤い耐圧服姿の人物にそう尋ねてしまう。

 

「………私よ………一夏」

 

と、その赤い耐圧服の人物がそう言いながらゴーグルを上げたかと思うと、バイザー越しに簪の顔が露わになった。

 

「や、やっぱり簪か………」

 

「何処に有ったのよ、ソレ………」

 

「と言うより、凄く精巧に出来てるね………」

 

耐圧服姿の簪を見て、一夏、鈴、シャルがそう言い合う。

 

「もう~ 私が散々可愛いコスプレをさせようとしたのに………簪ちゃん、コレが良いって言い張るんだよ~」

 

「? 黒い方が良かった?」

 

楯無が愚痴る様に言うと、簪が真顔でそう聞いてくる。

 

「いや、そう言う問題じゃないから」

 

そんな簪に、一夏はそうツッコミを入れる。

 

「皆さんも素晴らしいです!」

 

そんな中でも、クラリッサは只管マイペースに、ラウラを中心に一同の写真を撮る。

 

その後も、クラリッサはラウラや他のメンバーを散々コスプレさせて写真を撮ると、何着かのコスプレ衣装を買って、店を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋葉原・某メイド喫茶………

 

「お待たせしました、ご主人様、お嬢様。ご注文の品です」

 

「あ、ありがとうございます………」

 

店員のメイドが注文の品を運んで来たのを見て、思わず畏まってしまう一夏。

 

「オイ、一夏。何畏まってんだ?」

 

「いや、だって、学園祭じゃ似た様な事したけど、まさかリアルなメイド喫茶に来る事になるなんて思わなかったから………」

 

そんな一夏に弾がそう言うと、一夏は緊張している様子を見せる。

 

「くうう~~~………まさかメイド喫茶にまで来れるとは………このクラリッサ・ハルフォーフ! 最早感無量であります!!」

 

そんな一夏とは対照的に、クラリッサは感激の余りに、拳を握って身体を小刻みに震わせている。

 

「良かったぁ、クラリッサ。素晴らしい休暇になった様で」

 

「コレも全て隊長のお蔭であります! 本当にありがとうございます!」

 

ラウラに向かって礼を言うクラリッサ。

 

「ホント、面白い人だね~ クラリッサさんって~」

 

「う~~ん………ウチの学校の先生に欲しいかも」

 

「ア、アハハハハハ………」

 

のほほんが相変わらず呑気そうにそう言い、続く様に楯無がそんな事を言うと、シャルが渇いた笑い声を挙げる。

 

「「「「「…………」」」」」

 

そして、慣れない場所を散々引っ張り回された箒、セシリア、鈴、蘭、虚は、すっかり疲れた様子で、注文した飲み物や料理を機械的に食している。

 

「………苦味が足りない」

 

只1人、相変わらずブレた様子を見せずに食後のコーヒーを啜り、イマイチさを感じている簪。

 

「おう、姉ちゃん! 御代わりだ!!」

 

「ハ、ハイ………畏まりましたご主人様………」

 

そんな中、神谷は何時もの様に旺盛な食欲を見せ、ドンドンと料理を平らげては御代わりを要求している。

 

「………スマン。ちょっと席を外すぞ」

 

と、そこで不意にラウラが立ち上がる。

 

「? 如何したんだ? ラウラ?」

 

突然席を立ったラウラを怪訝に思った一夏がそう尋ねる。

 

「いや、その、何だ………ホラ、アレだ」

 

するとラウラは、妙に歯切れの悪い様子を見せる。

 

「?………アア、トイレか」

 

と、察した様にそう言った瞬間!!

 

「!!」

 

「「「「一夏〈さん〉!!」」」」

 

顔を真っ赤にしたラウラ、そして箒、セシリア、鈴、蘭から一斉に制裁を喰らった!!

 

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!? な、何故………?」

 

そう最後に呟き、テーブルに突っ伏す一夏。

 

「この馬鹿者がぁ!!」

 

「一夏さん! デリカシーが無さ過ぎますわ!!」

 

「アンタってホント馬鹿ね!!」

 

「一夏さん! 今のは無いと思います!!」

 

そんな一夏に、箒、セシリア、鈴、蘭がそう言い放つ。

 

「…………」

 

そしてラウラは、顔を真っ赤にしたままトイレへと向かったのだった。

 

「お~、イテテテ………」

 

とその直後、テーブルに突っ伏していた一夏が痛がりながら起き上がる。

 

「お前、最近回復早くなったなぁ」

 

「全然嬉しくないよ………」

 

「一夏ぁ………さっきのは俺も駄目だと思うぞ」

 

その一夏に、神谷と弾がそう言う。

 

「………ありがとうございます」

 

とそこで、不意にクラリッサが真面目な表情となり、一夏達にそう言って来た。

 

「えっ?」

 

「あ? んだよ、急に?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

突然のクラリッサからのお礼に、一夏と神谷が首を傾げ、他の一同も多少戸惑いの表情を浮かべる。

 

「嘗て隊長は、『ドイツの冷氷』と呼ばれ、冷徹で感情に乏しく、人を寄せ付けない孤高の人物でした。部隊内でさえ、良く不和を起こしていました」

 

(………確かに、出会ったばかりの頃は、千冬姉の事とかで色々あったからなぁ)

 

一夏は、出会って早々自分に平手打ちを噛まそうとして来たラウラの姿を思い出す。

 

「ですが、この学園に来て………そして織斑殿達と出会われて、変わられました」

 

「確かに、何て言うか………険が取れたって感じがするね」

 

ラウラとは個人的な付き合いも多いシャルが、クラリッサの言葉に同意するかの様にそう言う。

 

「「「…………」」」

 

箒、セシリア、鈴も思う所が有る様な顔をする。

 

「ハイ、その通りです………隊長の身の上に付いては御存じでしょうか?」

 

「ええ、まあ………本人から聞いては居ますけど………」

 

「隊長は遺伝子強化試験体として生み出された試験管ベビーであり、戦う為の道具としてありとあらゆる兵器の操縦方法や戦略等を体得し、優秀な成績を収めてきました」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

クラリッサの真剣な様子に、一同は話に聞き入る。

 

「ですが、ISの登場後、ISとの適合性向上の為に行われたナノマシンの移植が失敗し、それまでのエリート扱いから一転して出来損ないの烙印を押されてしまいました。一時期は自身の存在意義すら見失っていたそうですが、それを救ったのが………」

 

「ドイツに教官に行った千冬姉ですか?」

 

「その通りです。織斑千冬教官のお蔭で、隊長は再び部隊でのトップに返り咲きました」

 

「それで、あのブラコンアネキをあんなに尊敬したってワケだ。あの時は苦労したぜ」

 

「まあまあ、神谷」

 

千冬の事を尊敬する余り、暴走していたラウラの事を思い出し、神谷が愚痴る様にそう言うと、シャルが宥めて来る。

 

「しかし、それでも隊長が孤独であると言う事は変わりませんでした………ですが、最近は連絡をくれる度に今日は織斑殿や友人とこんな事をした。学園でこんな事があったと楽しそうに語ってくれるのです」

 

傍から聞けばそれは他愛の無い会話かもしれないが、兵器………物も同然に扱われ、遂には自ら心を閉ざしてしまったラウラの事を顧みると、正に年頃の少女らしい様子だった。

 

「皆さん………如何かコレからも、隊長の事をよろしくお願いします」

 

とそこで、クラリッサはそう言い、神谷達に向かって深々と頭を下げる。

 

「ちょっ!? そ、そんなに頭を下げないで下さいよ!!」

 

「当然だろう! アイツはもう立派なグレン団の一員! 仲間を守んのは当たり前のこった!!」

 

一夏は戸惑うが、神谷は何時もの調子でそう言い放つ。

 

「グレン団………ですか。羨ましいですな。私も是非入れて欲しいです」

 

クラリッサは頭を上げると、笑顔を浮かべながらそう言う。

 

「何言ってやがる! オメェ、ラウラの部下なんだろう!? そしてラウラはグレン団の一員! つまり!! お前はもうグレン団のメンバーなんだよ!!」

 

と、此処で神谷節が炸裂。

 

「ちょっ! アニキ!!」

 

「神谷! そんな勝手に………」

 

それに何か言おうとした一夏とシャルだったが………

 

「! 成程!! 確かに!!」

 

「「「「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」」」」

 

何とクラリッサは、その提案に納得した様子を見せた!

 

「ありがとうございます、天上さん!! いえ! アニキさん!!」

 

「おうよ! オメェ中々分かってるじゃねえか!!」

 

クラリッサと神谷はそう言い合い、ハッハッハッハッと呵々大笑する。

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一方の一夏達は、クラリッサの独特なノリの良さに閉口してしまうのだった。

 

………と、その時!!

 

突如爆発が聞こえたかと思うと、店全体に振動が走る!!

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

店員であるメイド達と、客の悲鳴が木霊する。

 

「な、何だぁ!?」

 

「トイレの方から聞こえたが………」

 

一夏が驚きの声を挙げ、箒がそう指摘すると、

 

「!! 隊長!!」

 

先程トイレに向かったラウラの事を思い出し、クラリッサが駆け出した。

 

「ちょっ!? クラリッサさん!!」

 

シャルが止めようとしたが、その瞬間に店の店員や客が一斉に逃げ出し始め、他のメンバー共々、その波に押されてしまう。

 

「ちょっ!? ちょっと!?」

 

「ああ、クソッ! お前等、邪魔だぁ!!」

 

神谷がそう言い、強引に進もうとするが、中々上手くいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

ラウラを心配してトイレへと繋がっている通路へと飛び込んだクラリッサは………

 

「! あそこか!!」

 

目の前に女子用トイレの扉を見つけてそう声を挙げる。

 

その瞬間!!

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

悲鳴と共にその扉を壁ごと突き破って、シュヴァルツェア・レーゲンを装着しているラウラが飛び出して来た!

 

「! 隊長!!」

 

「!? クラリッサ!? イカン! 下がっていろ!!」

 

クラリッサの姿を見たラウラが慌ててそう言った瞬間、トイレの奥の方から、白い包帯の様な布が多数伸びて来て、ラウラとシュヴァルツェア・レーゲンに巻き付く!!

 

「ぐうっ!?」

 

抑え込まれるラウラ。

 

そして、粉塵が待っていたトイレの奥の方から、まるでミイラ男か透明人間の様に、全身を包帯に巻かれた人型の物体が姿を見せる!

 

一応人の形をしているが、ISを装着しているラウラと同等の大きさ、そして動く度にする駆動音が、その人型の物体が生物で無い事を裏付けている。

 

「クウッ! 何なんだ、コイツは!?」

 

そう言いながら、身体に巻かれている包帯を引き千切ろうとするラウラだったが、包帯はまるで鋼鉄で出来て居るかの様に、まるで千切れそうにない。

 

全身を包帯に巻かれた人型の物体………『マミー』は、そのまま包帯を巻き戻し、ラウラを引き寄せる。

 

「うわっ!?」

 

耐えようとするラウラだが、マミーの巻き取る力は半端では無く、徐々に引き寄せられて行く。

 

「隊長!!」

 

とその瞬間!!

 

クラリッサが自分のIS………シュヴァルツェア・レーゲンの姉妹機『シュヴァルツェア・ツヴァイク』を展開。

 

「ハアアッ!!」

 

プラズマ手刀で、ラウラを拘束していた包帯を焼き斬る!!

 

マミーはバランスを崩し、数歩後退る。

 

「隊長! 御無事ですか!?」

 

「スマン、クラリッサ! 助かった!!」

 

と、クラリッサとラウラがそう言い合って居ると、マミーの全身包帯姿の中で唯一露出している目が光り輝く。

 

「「!?」」

 

咄嗟に危険を感じた2人が、左右に分かれる様に回避運動に入った瞬間!

 

マミーの目から赤い光線が放たれた!!

 

光線は店の壁にぶつかると、壁を融解させ、大爆発を起こす!!

 

「うわあっ!?」

 

「ぬうああっ!?」

 

爆風で別の壁に叩き付けられるラウラとクラリッサ。

 

「クウッ! コイツゥッ!!」

 

しかし、クラリッサの方がすぐに態勢を立て直し、マミーに右手のプラズマ手刀で斬り掛かる!!

 

だが、その攻撃は、マミーの左手で受け止められてしまう。

 

「くうっ!」

 

すぐに離れようとしたクラリッサだったが………

 

そこで突如!!

 

クラリッサの右手を押さえていたマミーの左手が、プロペラの様に回転し始めた!!

 

「!? 何っ!?」

 

驚くクラリッサの目の前で、マミーは押さえていたシュヴァルツェア・ツヴァイクの右手パーツを粉々にしてしまう!!

 

「ぐあっ!?」

 

クラリッサが怯んだ瞬間!!

 

今度はマミーの右手が回転!!

 

その右手を丸鋸の如く、クラリッサに叩き込む!!

 

「!? ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

クラリッサが悲鳴を挙げ、シュヴァルツェア・ツヴァイクは装甲の破片を撒き散らしながら、シールドエネルギーをガリガリと削られて行く。

 

「クラリッサ!………!? うわあぁっ!?」

 

助けに行こうととしたラウラだったが、マミーの目から再び光線が放たれ、ラウラに命中する。

 

「ぐ………あ………」

 

とうとうエネルギーが尽きてISが強制解除され、クラリッサは床に倒れた。

 

その途端、マミーの身体に巻かれていた包帯が剥がれ始める。

 

包帯の中から現れたのは………

 

『巨大な前腕の途中から細い上腕が付いている』という特異なシルエットをした赤いロボットが現れた!

 

「! き、貴様は………!?」

 

床に倒れたままのクラリッサが驚きの声を挙げ、そのロボット………『ビッグデュオ』を見て、驚きの声を挙げる。

 

と、その瞬間!!

 

ビッグデュオは、マミーの状態の時に身体に巻き付けていた包帯を、クラリッサに向かって伸ばす!

 

包帯がまるで生き物の様に動き、クラリッサに巻き付いて行く。

 

「た、隊長!? うぐぅっ………!?」

 

ラウラの事を呼んだ瞬間に、顔まで包帯に覆い尽くされ、クラリッサは包帯で完全にパッキングされてしまう。

 

「ク、クラリッサ………」

 

必死に手を伸ばすラウラだが、光線………アーク・ラインの直撃が堪えたのか、動く事が出来ない。

 

と、ビッグデュオは包帯でパッキングしたクラリッサを片手で摑み上げると、もう片方の腕を上向きにする。

 

すると、上向きにした手の部分がプロペラとなり、上腕よりも下に有る肘部分からロケットが噴射された!!

 

そしてそのまま天井を突き破り、空の彼方へと消えて行くビッグデュオ。

 

「ま、待………て………」

 

そこでラウラは気を失ってしまい、ISの装着も解除される。

 

「! ラウラ!!」

 

「オイ、大丈夫か!?」

 

とそこで、漸くグレン団の一同が駆け付ける。

 

しかし彼等が見たものは、粗全壊しているメイド喫茶のトイレだった場所と、気絶しているラウラだけだった。

 

「ラウラ! ラウラ!! しっかりしろ!!」

 

一夏はラウラを抱き起こして呼び掛けるが、ラウラから返事は返って来ない。

 

「そう言えば………クラリッサさんは!?」

 

そこでシャルが、先に向かった筈のクラリッサの姿が無い事に気付く。

 

「一体………何があったんだ?」

 

遠くから聞こえるパトカーのサイレン音を聞きながら、神谷はそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

更にアキバを満期するクラリッサと神谷達。
そんな中で、クラリッサはラウラの保護者の様な側面も見せる。

しかし、お約束のロージェノムの襲撃!
THEビッグオーから、ビッグディオがゲスト出演です。
誘拐されたクラリッサは果たして無事なのか?
そして次回、新たな合体が!!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第54話『私はお前を助ける!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第54話『私はお前を助ける!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如としてラウラを襲い、居合わせたクラリッサを誘拐した謎のロボット・ビッグデュオ。

 

その正体は何なのか?

 

一先ず神谷達は、負傷したラウラを学園へと連れ帰り、回復を待って事情を聞く事にした。

 

 

 

 

 

IS学園・医務室………

 

「う………ううん………」

 

「気が付いたか? ラウラ」

 

意識が回復したラウラが最初に見たのは、自分の事を覗き込んでいる一夏の顔だった。

 

周りには、神谷を始めとしたグレン団の面々の姿も在る。

 

「一夏………私は………!? そうだ! クラリッサ!!………っ!?」

 

気絶する直前の事を思い出し、ラウラは飛び起きるが、その途端身体に鈍い痛みが走る。

 

「オイ! 無理すんな!!」

 

「まだ寝てなきゃ駄目だよ!」

 

「私の事は良い………それより! クラリッサ!! クラリッサが奴に!!」

 

一夏とシャルが再び寝かし付けようとするが、ラウラは興奮した様子でそう尋ねる。

 

「一体何があったんだ?」

 

とそこで、神谷が改めてラウラにそう問い質す。

 

「クウッ!………突然奇妙なロボットに襲撃された………クラリッサはその時に………そいつに攫われて………」

 

「奇妙なロボット?」

 

「それはコイツの事か? ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

とそこで、そう言う台詞と共に、リーロンと真耶を引き連れた千冬が、医務室に入って来た。

 

先頭に立つ千冬の右手の上にはモニターが展開しており、そこにビッグデュオの姿が映し出されている。

 

「千冬ね………織斑先生」

 

「! そいつです! そいつがクラリッサを!!」

 

千冬達に気付いて声を挙げる一夏と、そのモニターに映るビッグデュオの姿を見てそう声を挙げるラウラ。

 

「やはりか………」

 

「何者なのですか? そのロボットは?」

 

「やっぱりロージェノム軍の物なんですか?」

 

1人納得した様子になる千冬に、セシリアと楯無がそう尋ねる。

 

「その通りよ。名前はビッグデュオ………ドイツを中心にヨーロッパの方で暴れていたマシンらしいわ」

 

「先程ドイツ軍から連絡が来ました」

 

千冬に代わる様に、リーロンと真耶がそう説明する。

 

「恐ろしい空戦能力を持っていて、IS部隊でも手を焼かされていたそうよ。でもこの間、シュヴァルツェ・ハーゼ………クラリッサ・ハルフォーフが交戦して引き分けたそうよ」

 

「! クラリッサと!? そうか………それでビッグデュオを知っている様な素振りを………」

 

「じゃあ、そいつを追って態々日本まで来たってワケ?」

 

リーロンの言葉にラウラが驚き、鈴がそう推論を述べる。

 

「そうかも知れんな………」

 

と、千冬がそう言った瞬間………

 

医務室の窓ガラスが割れ、『何か』が飛び込んで来る!!

 

「!? 何だ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

飛び込んで来た『何か』を見て、身構える一同。

 

それは、黒いボールの様なものだった。

 

と、そのボールの一部が開いたかと思うと、空中に立体映像が映し出され始める。

 

そこに現れたのは、鎖で十字架の様な物に架けられているクラリッサの姿だった。

 

「! クラリッサ!!」

 

[ラウラ・ボーデヴィッヒ。そしてグレン団の一同とIS学園の者に告げる]

 

ラウラが驚きの声を挙げると、合成音声でそう言う声がボールから響いて来る。

 

[クラリッサ・ハルフォーフは我々が預かっている。返して欲しくば、ラウラ・ボーデヴィッヒ………貴様のISを持って今日の午前0時までに地獄谷に来い]

 

「地獄谷!?」

 

「確か………IS学園から北西の方角に………100キロ近く行った所にある谷ね………」

 

何とも物騒なネーミングの谷の名前に弾が驚きの声を挙げると、簪が補足する様にそう言う。

 

[必ず貴様1人で来い。要求に従わなかった場合………クラリッサ・ハルフォーフの命は無いと思え]

 

「!?」

 

その言葉にラウラが目を見開いた瞬間、ボールの様な物体はボンッと爆ぜる。

 

「キャッ!?」

 

「野郎………ふざけやがって!!」

 

それに驚きの声を挙げる蘭と、怒りを露わにし、足元に転がって来たボールの部品を踏み潰す神谷。

 

「クラリッサ! 待っていろ! 今………」

 

「待て! ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

 

布団を跳ね除け、今すぐ飛び出して行こうとしたラウラを、千冬が止める。

 

「! 教官! 何故止めるのですか!?」

 

「頭を冷やせ、馬鹿者。如何見ても罠だろうが。そんな要求に従う事は出来ん」

 

「そうですよ、ボーデヴィッヒさん」

 

「ラウリ~、落ち着いて~」

 

千冬がそう言い放つと、虚とのほほんも、ラウラを宥めようとする。

 

「しかし! クラリッサを見殺しにするワケには!!」

 

「奴も軍人だ………覚悟はしているだろう」

 

「!?」

 

千冬の言葉に目を見開くラウラ。

 

確かに千冬の言っている事は、残酷な様だが正論である。

 

以前のラウラならば、千冬の言葉と言う事もあって、アッサリと引き下がっただろう………

 

「………納得出来ません!!」

 

しかし、ラウラは千冬に噛み付いた。

 

「教官! 貴女は軍人だから死んでも良い………本気でそう思っているのですか!?」

 

「ボーデヴィッヒさん!………!? 織斑先生………」

 

今にも、千冬に摑み掛かって行かんばかりの勢いのラウラを真耶が宥めようとしたが、他ならぬ千冬が止める。

 

「クラリッサは私の大切な部下であり………仲間です!! 見殺しにする事等出来ません!!」

 

「その通りだぜ! ブラコンアネキ!!」

 

とそこで、更に神谷が参戦。

 

「アイツもグレン団の一員だ! 仲間を見捨てる様な真似なんざ、俺は死んでも御免だぜ!!」

 

「そうだよ! 千冬姉!! クラリッサさんを助けようよ!!」

 

千冬に向かってそう言い放ったかと思うと、一夏もそう言って来る。

 

「お願いします! 織斑先生!!」

 

「千冬さん! 私からもお願いします!!」

 

「私からもですわ!!」

 

「見殺しになんか出来ないわよ!!」

 

「助けられる命なら………助けてあげるのが筋でしょう」

 

「お願いしやす!!」

 

更に、シャル、箒、セシリア、鈴、楯無、弾もそう言い、千冬に向かって頭を下げる。

 

「…………」

 

簪も無言で、千冬に強い視線を送っていた。

 

「…………」

 

「如何するの、織斑先生? 如何やらこの子達………やる気みたいよ?」

 

その様子を無言で見ていた千冬に、リーロンがそう言う。

 

「………ハア~、全く………揃いも揃って反抗的な生徒になりおって………フッ」

 

すると千冬は、溜め息を吐きながらそう言った。

 

しかし、最後の方では口の端を緩めて笑みを浮かべる。

 

「良いだろう………そこまで言うのなら、やってみろ」

 

そして、神谷達に向かってそう言い放つ。

 

「! 千冬姉!!」

 

「教官!………ありがとうございます!!」

 

それを聞いて笑みを浮かべる一夏と、千冬に向かって頭を下げるラウラ。

 

「おっし! んじゃ早速! クラリッサを助け出せ大作戦を練るぞ!!」

 

「神谷………そのネーミングセンスは如何にかならないの?」

 

神谷は作戦を練り始めるが、シャルがそのネーミングセンスにツッコミを入れる。

 

「なら………1つ良い作戦が有るわよ」

 

するとそこで、リーロンがそう言って来た。

 

「!? 本当ですか!?」

 

「リーロン先生………一体どんな作戦?」

 

「貴方達に………と言うよりも、グレンラガンにしか出来ない作戦よ」

 

「あ? 俺に?」

 

突然名指しされ、神谷が首を傾げる。

 

「その通り………グレンラガンの武器は何だったかしら?」

 

「!? 成程! その手が有ったか!!」

 

リーロンのその言葉で、神谷は全てに合点が入った様な表情となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

空はすっかり暗くなり、無数の星と三日月が瞬いている。

 

そんな中、IS学園から北西の方角に100キロ近くの地点………

 

地獄谷では………

 

まるで採石場の様に、地面から大小様々な岩石が剥き出した状態となっている。

 

その一角に、鎖で十字架に架けられたクラリッサと、それを取り囲む獣人達の姿が在った。

 

(クッ! 駄目だ!! やはりISが起動しない………こんな連中如きに後れを取るとは………このクラリッサ! 一生の不覚!!)

 

「もうすぐ0時か………」

 

「遅いな………何やってんだ?」

 

ラウラが中々姿を見せない事に、獣人達がそんな事を言い合う。

 

「言った筈だ! 隊長は軍人だ! たかが部下1人の為、大局を見失う様な真似はせん! 無駄な事だとな!!」

 

と、そこでクラリッサが、獣人達を挑発する様にそう言い放つ。

 

「何だとぉ!?」

 

「貴様! 生意気なぁ!!」

 

途端に獣人達は怒りの様子を見せ、手にしていた武器をクラリッサに向ける。

 

「殺すなら殺せ! 私は軍人だ!! 死ぬ覚悟は当に出来て居る!!」

 

しかしそれでも尚、クラリッサは挑発を続ける。

 

「コイツ~~っ!!」

 

「オイ、待て! コイツは用が済むまで生かしておく必要がある!!」

 

思わずクラリッサに手を掛けようとしていた獣人を、別の獣人が止める。

 

「チイッ! 覚えてろよ………用が済んだら、すぐにブチ殺してやるぜ!」

 

「だから無駄だと言っているだろう。隊長は来ない………」

 

と、クラリッサがそう言い掛けた瞬間………

 

空の向こうから、ISの飛行音が聞こえて来る。

 

「!?」

 

「おっ!? 漸く来たみたいだな」

 

クラリッサが驚きを露わにし、獣人の1人がそう言った瞬間………

 

獣人達とクラリッサの前に、ISを装着したラウラが降り立つ。

 

「来たか………ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「隊長!」

 

「クラリッサ! 無事か!?」

 

クラリッサに呼び掛けるラウラ。

 

「隊長! 何故ですか!? 何故来たんですか!?」

 

「お前を見捨てるワケには行かないからだ」

 

「私は軍人です! 死ぬ覚悟は当に出来て居ます!! シュヴァルツェ・ハーゼの副隊長にだって、私の代わりは………」

 

「馬鹿を言うな!!」

 

「!?」

 

と、そこでラウラは、クラリッサの台詞を遮る。

 

「クラリッサ………すまないな………私のせいでお前には本当に迷惑ばかりを掛けていた………」

 

「た、隊長?」

 

「だが、そんな私の悩みに………お前は快く相談に乗ってくれた………本当に感謝している………実を言うとな………お前の事………心の何処かで………姉の様に思った事がある」

 

「そんな………私は………」

 

「だから! 私はお前を助ける! 私の部下であり! 仲間であり! そして………大切な姉であるお前を!!」

 

ラウラはそう啖呵を切る。

 

「隊長………クウッ………!」

 

感激の余り、クラリッサの目から涙が零れる。

 

「お涙頂戴はそこまでだ!!」

 

しかし、そんな空気をブチ壊す様に、獣人の1人がクラリッサに武器を向けた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ………貴様のISを此方に渡してもらおうか?」

 

「そうすればコイツは返してやるぞ」

 

そして、ラウラに向かってそう言い放つ。

 

「………本当だな?」

 

「隊長! いけません!! 罠に決まっています!! コイツ等、私達を無事に帰す気なぞ………」

 

「黙れ!!」

 

クラリッサが叫ぶが、獣人が武器を押し付けて無理矢理黙らせる。

 

「さあ、如何する! ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」

 

「…………」

 

獣人の問い掛けに、暫しの間沈黙していたラウラだったが………

 

やがてその身体がパアッと光を放ったかと思うと、ISが解除され、ISスーツ姿となる。

 

そして、右腿の黒いレッグバンド状となっていた待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを外す。

 

「! 隊長!!」

 

「物分かりが良いな………さあ! そいつをコッチに渡せ!!」

 

「ああ、分かった………受け取れ!!」

 

と、ラウラはそう言うと、待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを思いっ切り投げる。

 

待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンは、獣人達とクラリッサの上を飛び越え、背後のやや離れた地面に落ちる。

 

「あ!? コイツ!!」

 

「放っておけ。只の悪足掻きだ」

 

その渡し方に怒りを覚える獣人も居たが、只の悪足掻きだと言い、リーダー格の獣人が抑えて、待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを拾いに行く。

 

「フフフ………コレで螺旋王様もお喜びになる」

 

リーダー格の獣人が、そう言いながら待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを拾い上げようとする。

 

………と、その瞬間!!

 

地面に穴が開き、待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンがその穴の中に落ちた!!

 

「!? 何っ!?」

 

リーダー格の獣人が驚きの声を挙げた瞬間!

 

「!? うわぁっ!?」

 

今度はクラリッサが架けられていた十字架が刺さっていた地面に大穴が開き、クラリッサの姿が地中に消える!!

 

「!? 何だ!?」

 

「急に穴が!?」

 

周りに居た獣人達が、慌てた様子でクラリッサが落ちた穴の中を覗き込むと………

 

「おりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

雄叫びと共に、ドリルに変えた右腕を突き上げながら、グレンラガンが飛び出す!!

 

「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

その際に発生した衝撃波によって撃破される獣人達。

 

「!? グレンラガン!!」

 

「だけじゃないぜ!!」

 

と、リーダー格の獣人が驚きの声を挙げると、今度はそう言う声が響いて来て、グレンラガンが飛び出して来た穴から、ISを装着した一夏達が次々に姿を現した!

 

「き、貴様等!?」

 

「へへっ………流石に地中から接近して来るだなんて、思ってもみなかったみたいだな!」

 

「そりゃそうよ………普通地中を移動するってのは時間が掛かる事なのよ」

 

驚くリーダー格の獣人に、一夏が自慢する様にそう言い放ち、楯無がツッコむ様にそう言う。

 

「それをこの短時間で、IS学園から此処まで掘り進んで来たなんて………」

 

「改めてグレンラガンの凄さを知った様な気がするよ」

 

鈴とシャルも、そう驚きを露わにしていた。

 

「ホラよ! ラウラ!!」

 

と、そこで穴から飛び出して空中に居たグレンラガンが、ラウラに向かって待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンを投げる。

 

「………形勢逆転だな」

 

ラウラは、それをキャッチすると、再びシュヴァルツェア・レーゲンを展開してそう言い放つ。

 

「お、オノレエエエエェェェェェーーーーーーーッ!!」

 

「た、隊長! 如何するんですか!?」

 

リーダー格の獣人が怒りを露わにしていると、別の獣人が指示を求める様にそう尋ねて来る。

 

「ええい! こうなれば!! イッヒデュオ、エスキプツ・ショウツタイツ!!」

 

と、リーダー格の獣人がそう叫んだかと思うと、三日月に影が掛かり、ビッグデュオが降りて来た。

 

「ビッグデュオ! そいつ等を皆殺しにしろ!!」

 

リーダー格の獣人がそう言い放つと、ビッグデュオは目を怪しく発光させる。

 

更に獣人達も、ガンメンの姿へと変わる。

 

「出やがったな!」

 

「簪! 弾! 2人はクラリッサさんを頼む!!」

 

「………了解」

 

「任せておけ!!」

 

穴の中で、クラリッサを十字架の拘束から解いているグラパール・弾と、それを守る様にしている簪がそう返事を返す。

 

「良し! 行くぞ!!」

 

「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」

 

そして、グレンラガンの掛け声で、全員が一斉に戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

「必殺っ! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

光り輝く左手の雪羅で、ゴズーを鷲摑みにする一夏。

 

「獣人に栄光あれーっ!!」

 

断末魔の叫びと共に、ゴズーは握り潰されて爆散する。

 

「「死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」

 

その直後に、背後からングーとアガーが襲い掛かって来るが………

 

「一夏はやらせん!!」

 

箒がフォローに入り、雨月と空裂でングーとアガーの攻撃を受け止めると、そのまま2機を弾き飛ばす!!

 

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」

 

そして空かさず二刀を振るい、ングーとアガーを斬って捨てる。

 

「サンキュー、箒!」

 

「ふ、ふん! お前は何時も危なっかしいんだ!!」

 

笑顔で礼を言って来る一夏に、箒は戦闘中にも関わらず、頬を染めてしまうのだった。

 

 

 

 

 

「そこっ!!」

 

メズー1体に狙いを付け、セシリアはスターライトmkⅢの引き金を引く。

 

「おわっ!? あぶねっ!?」

 

ギリギリのところで回避するメズーだったが………

 

「甘いですわ」

 

セシリアがそう言ったかと思うと、スターライトmkⅢから放たれたビームが曲がり、メズーの背後から襲い掛かった。

 

「来世で仕返ししてやるーっ!!」

 

獣人の断末魔の叫びと共に、メズーは爆散する。

 

「喰らえっ!!」

 

とそこで今度は、アルマジロ型のガンメン・マジローが、高速で転がって来ながらの体当たりを見舞って来る。

 

「くっ!」

 

突撃して来るマジローに向かって、スターライトmkⅢを連射するセシリアだったが、マジローの高速回転の所為でビームが弾かれてしまう。

 

「そらあっ!!」

 

そのままセシリアに回転したまま体当たりを掛けるマジロー。

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

直撃を受けてしまい、セシリアは地面に墜落する。

 

「今だ! 奴を仕留めろ!!」

 

「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

その隙を見逃さずマジローがそう叫ぶと、ガンメン部隊が一斉にセシリアに群がる。

 

だが!

 

「させないよ!!」

 

シャルが、セシリアに迫っていたガンメン部隊に向かって、両手のデザート・フォックスで弾幕を張る。

 

一斉に群がろうとしていたガンメン部隊は、蜂の巣にされて爆散して行く。

 

「オノレェ!!」

 

それを見たマジローが、再び高速回転体当たりでシャルに突撃する。

 

「おっと!」

 

しかしシャルは、実体シールドを使ってマジローの突撃を受け止めると………

 

「セイッ!!」

 

そのまま押し返した!!

 

「うおおっ!?」

 

マジローはバランスを崩し、空中で隙を晒す。

 

「貰った!!」

 

そこをシャルは、右手のデザート・フォックスをガルムに代えて撃ち抜く!

 

「サラダバーッ!!」

 

何処かで聞いた様な断末魔を挙げて爆散するマジロー。

 

「セシリア! 今の内に態勢を立て直して!!」

 

「すみません! シャルロットさん!!」

 

シャルの援護で、態勢を立て直す事に成功するセシリアだった。

 

 

 

 

 

「そおりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

連結した双天牙月を、敵の集団目掛けて投げ付ける鈴。

 

連結された双天牙月は、回転しながら敵の中を突き進み、多数のガンメンを薙ぎ払う。

 

「せえええええいっ!!」

 

楯無も、回転しながら蒼流旋を振るい、周辺に居たガンメン達を薙ぎ払う。

 

「ええいっ! クソがぁ!!」

 

「喰らえいっ!!」

 

と、距離を取っていたゴズーとメズーが、ミサイルとガトリング砲を放つ。

 

「甘い!!」

 

「喰らわないよ!」

 

しかし、ミサイルは龍咆に撃墜され、ガトリング砲の弾丸は水のヴェールで防がれる。

 

「チイッ! 駄目か!!」

 

「ん?」

 

そこでメズーの方が、自分達の足元が何時の間にか水浸しになっている事に気付く。

 

「!? しまっ………」

 

「残念。手遅れだよ」

 

メズーが慌てた瞬間に、楯無が指を弾き、清き熱情(クリア・パッション)を発動。

 

ゴズーとメズーの足元に広がっていたアクア・ナノマシンが大爆発し、2体は一瞬にして蒸発した!

 

「「イエーイ!!」」

 

それを確認すると、鈴と楯無はハイタッチを交わす。

 

 

 

 

 

「クッソ! この鎖、思ったより頑丈だな………」

 

穴の中で、クラリッサを十字架に拘束している鎖を解くのに四苦八苦しているグラパール・弾。

 

「………弾さん………急いで………」

 

その穴の中に居るグラパール・弾とクラリッサを守っている地上の簪が、近づいてくる敵にヘヴィマシンガンの弾丸を浴びせながらそう言う。

 

「ヒャッハーッ!!」

 

と、一瞬意識が2人の方に向いてしまった瞬間に、カメレオン型ガンメン・メレオーンが飛び掛かって来る。

 

「!?」

 

そのままメレオーンに圧し掛かられ、転倒する簪。

 

「死ねぇっ!!」

 

メレオーンは両足でスコープドッグの両腕パーツを押さえて、簪に元になった生物の様に長い舌での攻撃を見舞おうと口を開ける。

 

「………!」

 

だが、簪は咄嗟に右アームパーツから右腕を引き抜く。

 

引き抜いた右手には、アーマーマグナムが握られていた。

 

そのアーマーマグナムをメレオーンに突き付ける簪。

 

「なっ!?」

 

メレオーンが驚きの声を挙げた瞬間に、アーマーマグナムの引き金が引かれ、弾丸が発射される!!

 

放たれた弾丸がメレオーンを貫通。

 

メレオーンは簪に覆い被さる様に動かなくなる。

 

「くうっ………」

 

右腕を右アームパーツに差し直すと、メレオーンの残骸を自分の上から退かす。

 

「ひょ~~~~っ!!」

 

だが、その隙に、ネズミ型ガンメン・ネズーが穴へと向かってしまう。

 

「! しまった!………弾さん!………ガンメンが1機そっちに!」

 

簪は慌ててグラパール・弾に通信を送る。

 

「ああもう! ホントに固いな、この鎖!!」

 

しかし、グラパール・弾はクラリッサの鎖を外すのに夢中になっているのか、気付いていない様子だ。

 

「くたばれー! このグレンラガンモドキー!!」

 

と、そういう台詞と共に、ネズーが穴の中へと飛び込もうとする。

 

「! 五反田殿!!」

 

クラリッサが思わず声を挙げた瞬間………

 

「うるせぇっ!!」

 

グラパール・弾はまるで西部劇のガンマンの様な早撃ち(クイックドロウ)で、ハンドガンを抜き放って撃った。

 

「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

勇ましく突っ込んで行ったネズーは敢え無く玉砕。

 

木端微塵に爆散した。

 

「…………」

 

「ええい、チキショー! とっとと外れろってんだよ!!」

 

唖然とするクラリッサを尻目に、グラパール・弾は鎖を外す作業を続ける。

 

「………無駄な心配だったみたいね」

 

その光景を見ていた簪はフッと笑うと、新たな敵集団の中に7連装ミサイルポッドのミサイルを叩き込むのだった。

 

 

 

 

 

そして………

 

ビッグデュオと対峙しているラウラとグレンラガンは………

 

「グレンブーメランッ!!」

 

先制を掛けたのはグレンラガン!

 

胸のサングラス・グレンブーメランをビッグデュオ目掛けて投擲する!

 

しかし、ビッグデュオは空へと飛び上がり回避する。

 

「逃すか!!」

 

ラウラがワイヤーブレードを1本伸ばし、飛び上がったビッグデュオの足を絡め取る。

 

「良し!」

 

そのまま力任せに地上に引き摺り下ろそうとするラウラだったが………

 

ビッグデュオの目からアーク・ラインを放ち、ワイヤーブレードのワイヤーを切断してしまう。

 

「うわっ!?」

 

思わず尻餅を着いてしまうラウラ。

 

「この野郎!!」

 

と、そこでグレンラガンが、ビッグデュオを追って宙に舞う。

 

そのまま後ろからビッグデュオを追うが、ビッグデュオのスピードは凄まじく、追い付けない。

 

「チキショー! 何て速さだ!! だが負けるか! 気合全開!!」

 

そこでグレンラガンが気合を入れる様に叫び声を挙げると、そのボディから緑色の光が立ち上り、背のブースターの炎が一気に吹き上がる!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

徐々にビッグデュオとの距離を詰めて行くグレンラガン。

 

「捕まえたぜ!!」

 

そして遂に目と鼻の先にまで迫ったビッグデュオに、グレンラガンが摑み掛かる。

 

しかし、グレンラガンがビッグデュオを捕まえると思われた瞬間に、ビッグデュオの姿が煙の様に消えてしまう。

 

「!? ん何っ!?………!? おうわっ!?」

 

驚くグレンラガンの背中に、弾丸が次々に命中する。

 

何時の間にかグレンラガンの背後に周っていたビッグデュオが、巨大な前腕に装備されていたガトリング・ライフルで攻撃して来ていた。

 

「グウッ! 野郎!!」

 

すぐさま後ろを振り返るグレンラガンだったが………

 

ビッグデュオは、右手をプロペラからマニピュレーターへと変えたかと思うと、そのままグレンラガンの頭を鷲摑みにする!!

 

「うおわっ!?」

 

そのまま地面目掛けて降下し、グレンラガンを叩き付ける。

 

「ぐがあああっ!?」

 

地面が凹む程の勢いで叩き付けられ、グレンラガンから思わず声を挙がる。

 

しかし、ビッグデュオはまだマニピュレーターを離さず、そのままグレンラガンに圧し掛かって動きを封じると、マニピュレーターのパワーを上げて行く。

 

グレンラガンの頭部から、ミシッミシッという嫌な音が鳴り始める。

 

「ぐああああっ!! こ、このぉ!! 放せぇっ!!」

 

両手でビッグデュオの右腕を摑み、引き剥がそうとするグレンラガンだが、ビッグデュオのパワーは凄まじく、逃げられない。

 

とうとうグレンラガンの頭部にヒビが入り始める。

 

「ヤ、ヤベェッ!?」

 

「神谷から離れろ!!」

 

一瞬焦った声を挙げるグレンラガンだったが、その瞬間に背後からラウラがレールカノンをビッグデュオ目掛けて放つ。

 

直前で飛び上がられて回避されてしまうが、グレンラガンから引き剥がす事に成功する。

 

「すまねえ、ラウラ。助かったぜ………う! クッ!?」

 

ビッグデュオから逃れたグレンラガンはすぐに立ち上がるが、頭を鷲摑みにされた影響か、直後に膝を突いてしまう。

 

「オイ! 大丈夫か!?」

 

ラウラが思わず駆け寄った瞬間!

 

空中に居たビッグデュオが、2人目掛けて胸部のガトリングミサイルを見舞って来た。

 

「!? うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

その名の通り、ガトリング砲の様に連続で放たれてくるミサイルによって、グレンラガンとラウラはボロボロにされて行き、更に動きまで封じられてしまう。

 

2人の居る場所が、爆煙でドンドン見えなくなって行く。

 

やがて、ミサイルが無くなったのか、ビッグデュオが射撃を止める。

 

そして、爆煙が晴れて来ると………

 

「イデデデデデ………やってくれるじゃねえか………」

 

「クッ!………損傷レベルBを突破………されど………戦闘継続可能」

 

すっかりボロボロになったグレンラガンと、ラウラの姿が露わになる。

 

ビッグデュオはそんな2人にトドメを刺さんと急降下。

 

その両足が変形したかと思うと、膝から巨大なミサイル・メガトンミサイルが出現する。

 

そのメガトンミサイルが、2人目掛けて発射される!

 

白煙の尾を引いて2人に迫るメガトンミサイル。

 

「クウッ!!」

 

だが、ラウラが痛む体を無理矢理動かし、AICを起動。

 

メガトンミサイルは、寸前のところで停止する。

 

しかし直後に、ビッグデュオはアーク・ラインを放つ。

 

「!?」

 

驚愕するラウラ。

 

AICはエネルギー兵器には効果が薄い。

 

しかもビッグデュオが放ったアーク・ラインの狙いは先程自身が放ったメガトンミサイル。

 

このままでは、AICを解除すればメガトンミサイルは着弾して爆発。

 

解除しなくてもアーク・ラインによって爆発させられてしまう。

 

機体の脚部スペースの殆どを使って収められていたミサイルだ。

 

その威力は計り知れない。

 

ダメージの酷いラウラとグレンラガンでは恐らく耐えられないだろう。

 

だが………

 

「こんな所で………」

 

「終われるかってんだよ!!」

 

ラウラにもグレンラガンにも諦めの色は見えない。

 

「「負けてたまるかああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」

 

2人がそう叫んだ瞬間!

 

その身体が緑色の光に包まれた!!

 

その直後!!

 

アーク・ラインがメガトンミサイルに命中!!

 

夜にも関わらず、まるで昼間の様に空が明るく見える程の巨大な爆発が巻き起こる!!

 

「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「クウッ!?………」

 

「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

その爆発の衝撃波に、一夏や箒達、更にはビッグデュオの味方である筈のガンメン部隊までぶっ飛ばされて行く。

 

「な、何だあぁーっ!?」

 

「隊長!!」

 

唯一、穴の中に居た為、その衝撃波を浴びずに済んだが、凄まじい震動で穴が埋まりそうになり悲鳴を挙げるグラパール・弾と、ラウラの身を案じるクラリッサ。

 

空は10数秒近く白に染まっていたが、やがて光が収まり出し、元の夜空へと戻る。

 

「ぐ………み、皆!? 無事か?」

 

「あ、ああ………」

 

「何とかね………」

 

「頭がクラクラしますわ………」

 

「身体中が痛いよ………」

 

一夏が雪片弐型を杖代わりに起き上がると、周りに居た箒、鈴、セシリア、シャルがそう声を挙げながら起き上がる。

 

「簪ちゃん? 大丈夫?」

 

「ありがとう………姉さん」

 

吹き飛ばされた際に、咄嗟に防御力が1番低い簪を庇った楯無がそう尋ねると、簪はそう礼を言いながら起き上がり、楯無を助け起こす。

 

ガンメン部隊の方は、衝撃波に吹き飛ばされた際に、大概は衝突し合ったり、地面に叩き付けられたりして全滅している。

 

「おわっ!? 何だこりゃあっ!?」

 

と、半分埋まり掛けていた穴から這い出て来たグラパール・弾が、爆心地点を見てそう声を挙げた。

 

その声で、一夏達が同じ様に爆心地点を見遣ると………

 

「「「「「「「なっ!?」」」」」」」

 

一斉に言葉を失う。

 

何故なら、爆心地点は………

 

直径50メートル近くは有ろうかと言う、巨大なクレーターと化していた!!

 

中心付近からはまだ黒煙が立ち上っている。

 

クレーターの真上には、ビッグデュオが勝ち誇るかの様に悠然と浮遊している。

 

「ア、アニキ………まさか………」

 

「そんな!? 神谷!!」

 

「隊長!! 返事をして下さい! 隊長!!」

 

一夏とシャル、そして漸く拘束が解け、グラパール・弾と同じく穴から這い出て来たクラリッサが、思わずそう声を挙げる。

 

だが、その声に反応したのは神谷でもなければラウラでもなく、ビッグデュオだった。

 

一夏達の姿を確認すると、弱っている彼等にトドメを刺そうとする。

 

「! クウッ!!」

 

「チキショウ!!」

 

咄嗟に、一夏とグラパール・弾が一同を庇う様に前に出る。

 

「! 一夏!!」

 

「五反田殿!!」

 

箒とクラリッサが声を挙げた瞬間!

 

ビッグデュオは2人に狙いを定め、突撃しようとする!!

 

 

 

 

 

と、その時!!

 

クレーターの中心から立ち上っていた黒煙の中から、黒煙を吹き飛ばして緑色に光る球体が現れた!!

 

 

 

 

 

「!?」

 

「!? 何だ!?」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

その光の眩しさに、思わず腕で目を庇う一夏達。

 

ビッグデュオも異変に気付き、突撃を中止してインメルマンターンで振り返り、光の球体を見据える。

 

やがて光が弾けたかと思うと、そこには………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グレンラガンがシュヴァルツェア・レーゲンを装着している』様な姿のマシンが現れた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「! アレは!!」

 

一夏がそう声を挙げた瞬間!!

 

「魂の色は紅蓮の炎!!」

 

「敵打つ姿は黒き雨!!」

 

「「炎雨(えんう)合体!!」」

 

『グレンラガンがシュヴァルツェア・レーゲンを装着している』様な姿のマシンがポーズを決める。

 

「「『ラガンレーゲン』!!」」

 

「俺を!」

 

「私を!」

 

「「誰だと思っていやがる〈る〉!!」」

 

『グレンラガンがシュヴァルツェア・レーゲンを装着している』様な姿のマシン………『ラガンレーゲン』から、神谷とラウラの声で、そう叫び声が挙がる!!

 

「! やっぱり! アニキ!!」

 

「隊長! 御無事でしたか!? しかしソレは一体!?」

 

歓喜の声を挙げる一夏とクラリッサ。

 

しかし、グレンラガンとISの合体を初めて見るクラリッサは、その様子に目を丸くする。

 

「フッ、クラリッサ………これが日本のお家芸………『合体』だ!!」

 

すると、ラガンレーゲンのボディの方の顔の口が動いて、ラウラの声でクラリッサにそう言う。

 

「! 何と!! コレが『合体』!! 日本のロマンサイエンス!!」

 

「その通り!」

 

「『合体』はロマンだぜ!!」

 

クラリッサが目を輝かせてラガンレーゲンを見上げていると、一夏とグラパール・弾も同意して来る。

 

「「「「「…………」」」」」

 

そして否定したいが、既に前例が何件もあり、余り強くは否定出来ずに居る箒達。

 

「フッ………悪くないわね」

 

そしてラガンレーゲンを見上げて、実はロボット好きな簪はそんな感想を抱くのだった。

 

と、その時!!

 

事の成り行きを見守っていたビッグデュオが、ラガンレーゲンに向かって突撃する。

 

「お喋りはそこまでだ………来やがったぜ!」

 

頭部の方の顔の口が動き、神谷の声が発せられる。

 

「フッ………良いだろう」

 

ラウラの声がそう言うと、ラガンレーゲンは突っ込んで来るビッグデュオを、腕組みした仁王立ちで待ち構える。

 

そんなラガンレーゲンに、ビッグデュオはガトリング・ライフルで先制攻撃を掛ける。

 

「そんなもん! 避けるまでもねえ!!」

 

と、神谷の声がそう響いたかと思うと、ラガンレーゲンの前方にAICが展開!!

 

ガトリング・ライフルが不可視の壁に阻まれ制止する!!

 

するとビッグデュオは、今度はアーク・ラインを発射!!

 

今度はラガンレーゲンに直撃し、爆発が挙がったが………

 

「言った筈だぞ………そんなもの! 避けるまでもないとな!!」

 

ラウラの声がそう響いたかと思うと、全く無傷のラガンレーゲンが姿を現す!!

 

それを見たビッグデュオは急旋回すると、一旦ラガンレーゲンから距離を取ろうとする。

 

「「逃がすか〈さん〉!!」」

 

だがその瞬間に、ラガンレーゲンから先端がドリルに代わったワイヤーブレード改め『ワイヤードリル』が1本伸び、離脱しようとしていたビッグデュオの足を絡め取った!

 

またもアーク・ラインで切断しようとするビッグデュオだったが………

 

「そらよ!!」

 

何と、そのワイヤードリルの先端からAICが展開され、ビッグデュオの動きを封じた!!

 

「おおおおおりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そして、ラガンレーゲンはワイヤーを摑むと勢い良く引っ張り、完全に動きの止まったビッグデュオを地面に叩き付ける!!

 

派手な土煙と共に、地面に叩き付けられるビッグデュオ。

 

関節からギギギギッという不協和音を立てながら起き上がろうとするが………

 

「オラァッ!!」

 

神谷の叫びと共に、その隙に接近していたラガンレーゲンが、アッパーカットを見舞う!!

 

衝撃で、ビッグデュオは無理矢理立ち上がらせられる。

 

「ハアッ!!」

 

今度はラウラの叫びが聞こえたかと思うと、ラガンレーゲンはローキックを繰り出す。

 

そして、ビッグデュオがバランスを崩すと、右手で頭を鷲摑みにする!

 

「「喰らえっ!!」」

 

神谷とラウラ両方の声が響くと、ラガンレーゲンの手からプラズマ手刀が出現!!

 

そのままビッグデュオの頭を貫き、爆散させる!!

 

頭を失ったビッグデュオは、頭部が在った場所から黒煙を上げながら後退る。

 

と、不意に両腕を上に向けたかと思うと、マニピュレーターをプロペラにして回転させ、肘からもロケットを噴き出す。

 

そのまま垂直に上昇して行き、離脱しようとし出す。

 

「逃がすか!!」

 

と、神谷のそう言う声が響くと、ラガンレーゲンの胸のグレンブーメランが独りでに外れ、ラガンレーゲンの右手に納まる。

 

「必殺っ!!」

 

そのグレンブーメランを、ビッグデュオ目掛けて投げ付けるラガンレーゲン。

 

高速回転しながらビッグデュオへと向かっていたグレンブーメランは、途中で2つに分離。

 

ビッグデュオを連続で斬り付け、空中に磔にした。

 

そこで、ラガンレーゲンの全身から、全てのワイヤードリルが出現する!

 

「「ドリル・ルフトシュピーゲルング(蜃気楼)!!」」

 

そのワイヤードリルが、四方八方からビッグデュオを貫く!!

 

ドンドン穴だらけにされていくビッグデュオ。

 

やがて蜂の巣状態になったかと思うと………

 

突然拘束していたグレンブーメランが外れ、ワイヤードリルの攻撃も収まって落下。

 

その落下地点には、ラガンレーゲンがガイナ立ちで大口径レールカノンを真上に構えて待ち受けていた。

 

その大口径レールカノンの先端に、ビッグデュオが引っ掛かった瞬間!!

 

轟音と共に砲弾が発射され、ビッグデュオを貫いた!!

 

ビッグデュオは上半身と下半身を分離させられ、爆発・四散!!

 

直上での爆発を物共せず、ガイナ立ちを続けていたラガンレーゲンの元に、戻って来たグレンブーメランが再装着される!!

 

「やったぁっ!!」

 

「アニキの勝ちだ!!」

 

「神谷!!」

 

「隊長!!」

 

それを見た一夏、グラパール・弾、シャル、クラリッサが一斉に駆け出す。

 

その中で、ラガンレーゲンは再び緑色の光に包まれ、グレンラガンとシュヴァルツェア・レーゲンを装着しているラウラの姿に分離。

 

「へっ………」

 

「ふっ………」

 

並び立っていた2人は、互いに不敵に笑い合うと、拳を合わせ合った。

 

その後、駆け寄って来た一夏達によって、2人共揉みくちゃにされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後………

 

クラリッサの帰国の日が訪れ、一同は出迎えの時と同じく、全員で見送りに来ていた。

 

 

 

東京国際空港のターミナルにて………

 

「では、隊長。コレで失礼致します」

 

トランクケースを牽くクラリッサが、ラウラに向かって敬礼する。

 

「うむ、また暫くの間、シュヴァルツェ・ハーゼを頼むぞ」

 

ラウラもそのクラリッサに敬礼を返す。

 

「すみません、クラリッサさん。折角の休暇を、大変な事にしちゃって………」

 

一夏がビッグデュオ達、ロージェノム軍との戦闘に彼女を巻き込んでしまった事を気に病み、そう謝罪するが………

 

「何を仰いますか、織斑殿。今回の休暇は、私にとって最高のものでしたよ!」

 

しかしクラリッサは気にするどころか、そんな事を言って来た。

 

「えっ?」

 

「音に聞くグレン団の活躍を間近で見る事が出来ました。民間人に日々あの様な戦いを見せられては、軍人として奮起せぬワケにはいかぬでしょう」

 

と、キリッとした表情で語るクラリッサ。

 

「クラリッサさん………」

 

「それに………」

 

しかしそこで一瞬にして表情がだらしなくなったかと思うと、

 

「新刊ゲットに加えて、隊長のあ~んな姿やこ~んな姿の写真を撮る事も出来ましたから………えへへへ」

 

女性が浮かべる笑みでは無い笑みを浮かべて、そんな事を漏らした。

 

((((((((((うあっ………)))))))))

 

そんなクラリッサの姿に、一夏達は思わず心の中で引く。

 

(やっぱこの人………駄目な人なんじゃ………)

 

と、一夏がそう思った瞬間、クラリッサが乗る飛行機が間も無く出発すると言うアナウンスが流れて来た。

 

「おっと! もう時間の様ですね………それでは皆さん、またお会いしましょう」

 

「おう! オメェも元気でな!!」

 

「ドイツにもグレン団の魂を布教しちゃってー!」

 

神谷とのほほんが、クラリッサにそんな事を言う。

 

「必ずや!!」

 

それにクラリッサはキリッとした表情をしてそう答える。

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

その様子に一夏達は苦笑いを浮かべる。

 

「………フッ」

 

只1人、様子を遠巻きに見ていた簪だけが、微笑を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京国際空港の第2旅客ターミナル・展望デッキ………

 

グレン団の一同が見守る中、クラリッサが乗った飛行機は無事離陸。

 

そのまま空高く舞い上がって行った。

 

「………行っちまったな」

 

「疲れる人だったけど………楽しい人だったな、クラリッサさんって」

 

神谷がそう言うと、一夏が皆に言う様にそう言う。

 

「…………」

 

と、ラウラが若干寂しそうな顔をして、既に小さくなっているクラリッサが乗った飛行機を見ている。

 

「………寂しいの? ラウラ」

 

そんなラウラに、そう声を掛けるシャル。

 

「………いや、私はアイツの上官だ。心配は掛けられないさ」

 

しかし、その瞬間にはラウラは寂しそうな表情を消し、シャルにそう答えた。

 

「ラウラ………」

 

「それに………今の私には嫁が居るからな」

 

と、そこで一夏の手を取るラウラ。

 

「「「「!!」」」」

 

途端に、箒、セシリア、鈴、蘭から殺気が飛ぶ。

 

「ちょっ!? オ、オイ、ラウラ………」

 

被害が及ぶ前に何か言おうとした一夏だったが………

 

「ああ、そう言えば、一夏」

 

先にラウラが、懐から1枚の紙を取り出し、一夏に渡した。

 

「? コレは?」

 

「クラリッサが別れ際に、お前に渡してくれと言って渡して来たものだ」

 

「俺に?」

 

一夏が首を傾げながらその紙を受け取る。

 

「「「「「「「「??」」」」」」」」

 

他の面々も、何かと一夏の後ろから覗き見る。

 

紙を広げる一夏。

 

そこに書かれていたのは………

 

『婚姻届』という文字だった!!

 

「なっ!?」

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

驚きの声を挙げる一夏と驚愕する箒達。

 

「ほほう? クラリッサめ………気の利いた事をしてくれる。行くぞ、一夏」

 

それを見たラウラは、即座に一夏の手を取り、歩き出した。

 

「い、行くって、何処へ!?」

 

「決まっているだろう。その書類を提出にだ」

 

「ちょっ!………」

 

「「「「一夏〈さん〉!!」」」」

 

途端に、箒、セシリア、鈴、蘭が一夏へと飛び掛かる。

 

「ちょっ!? 何で俺!?」

 

「貴様等ぁ!」

 

ラウラが振り払おうとした瞬間、その手から婚姻届が消える。

 

「!? 何っ!?」

 

「ゴメンね~、ラウラちゃ~ん。お姉さんもちょ~と、興味有るんだよね~」

 

ラウラが驚くと、婚姻届を持った楯無が、春風の様に微笑んでいた。

 

「貴様! 返せ!!」

 

「嫌で~す!」

 

そのまま追い駆けっこに発展する2人。

 

当然箒達も参加し、一同は展望デッキを所狭しと走り回る!

 

「あ~あ~」

 

「またやってるよ」

 

その光景に呆れた声を挙げる神谷とシャル。

 

「一夏………如何してお前はそう鈍いんだ」

 

「鈍感ってホント罪ですね」

 

弾と虚もそんな事を言い合う。

 

「アハハハハ! 皆頑張れ~!」

 

そして1人、呑気そうに追い駆けっこを応援しているのほほんだった。

 

 

 

 

 

 

結局、最後は………

 

風に舞った婚姻届を、簪がアーマーマグナムで撃ち抜いて、事態は終結したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ロージェノム軍に囚われたクラリッサの救出作戦。
グレンラガンお得意のドリルで、見事に成功させます。
しかし、ビッグディオの前には大苦戦。
そこで新たな合体IS!
ラガンレーゲンの誕生です!

次回は季節イベントをお送ります。
ヒントは秋です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第55話『俺は正直な感想しか言わねえぜ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第55話『俺は正直な感想しか言わねえぜ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月も末に迫ったIS学園にて………

 

また新たなイベントが行われる事となった。

 

そのイベントとは………

 

 

 

 

 

IS学園・生徒会室にて………

 

「織斑くんはやっぱりドラキュラよね」

 

「うんうん! ぴったりだね~」

 

楯無とのほほんが、そんな事を言いながら、ドラキュラの衣装を用意している。

 

見れば生徒会室の至る所に、オレンジ色のカボチャを刳り貫き、刻み目を入れ、内側から蝋燭で照らしたもの………『ジャック・オー・ランタン』が翳されている。

 

グレン団と生徒会の面々も、衣装選びやジャック・オー・ランタン作りに従事している。

 

そう………

 

IS学園が新たに行うイベントとは、ズバリ『ハロウィン』である。

 

ロージェノム軍やレッドショルダーの裏切りの所為で、多数の留学生が学園を去って行ったが、まだ残っている生徒達の為にも、このイベントは通常通りに行われる事となった。

 

と言っても、本来の意味でやるのではなく、全校生徒で仮装してワイワイやるという、コスプレパーティーに近い内容になっている。

 

「ドラキュラかぁ………まあ、悪くはないかな?」

 

「虚さん。俺は何が良いかな?」

 

一夏がそう感想を述べると、同じ様にハロウィンの準備をしていた虚に、弾がそう尋ねた。

 

「う~~ん、弾くんだったら、そうね………フランケンシュタインなんて如何しら?」

 

「おおっ! 良いッスね~」

 

「ハロウィンまでやるとはなぁ。中々面白そうじゃねえか」

 

虚と弾がそう会話していると、窓の外で校舎や学園全体の飾り付けをしている生徒達の姿を見ながら、神谷がそう言う。

 

「まあね。日本じゃあんまり馴染みの無いイベントかもしれないけど、留学生の多いこの学園じゃ恒例行事だよ」

 

「ここのところロージェノム軍の襲撃も無いし、少しは羽根を伸ばせると良いね」

 

楯無が神谷にそう答えていると、シャルがそう言って来る。

 

「だな………」

 

そう返すと、再び窓の外を見遣る神谷。

 

すると………

 

ヒヒヒヒヒヒヒ………

 

窓の外に、ジャック・オー・ランタンの姿が現れた。

 

「!?」

 

流石の神谷も思わず目を擦る。

 

そして改めて窓の外を見遣ると、そこには何も無かった………

 

「??」

 

「? 神谷? 如何したの?」

 

怪訝そうに窓の外を眺めている神谷に、シャルがそう尋ねる。

 

「ああ、いや………何でもねえ(気の所為か………)」

 

そう思うと、神谷は自分も飾り付けの手伝いを始めるのだっだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時はアッと言う間に流れ………

 

10月31日・ハロウィン当日の夕暮れ………

 

「「「「「「「「「「トリック・オア・トリートッ!!」」」」」」」」」」

 

生徒達の言葉と共に花火が上がり、ハロウィンは開催された。

 

既に全校生徒達は教師まで含めて仮装しており、開かれた出店を廻ったりして思い思いに楽しんでいる。

 

「おお~~、毎度の事と言えば毎度の事だけど、盛り上がってるなぁ」

 

「こういう時の女子のテンションってスゲェよなぁ」

 

「良いじゃねえか! 祭りってのは騒いだモン勝ちよ!!」

 

その中を練り歩いている一夏、弾、神谷のグレン団の男3人衆。

 

其々にドラキュラ、フランケンシュタイン、大魔神の仮装をしている。

 

「見て見て! 織斑くんよ!!」

 

「キャーッ! カッコイイ!!」

 

「私の血なら何時でも吸って良いよ!!」

 

ドラキュラに仮装している一夏の姿を見て、生徒達がそんな声を挙げる。

 

「五反田くんも居る!」

 

「織斑くんも良いけど、五反田くんも優良株だよね~」

 

「あ~、虚先輩が羨ましいな~」

 

更にフランケンシュタイン姿の弾にも、そんな声が掛けられる。

 

「アハハハ………」

 

「いや、参ったな~」

 

照れる様子を見せる一夏と弾。

 

「モテモテだな、お前等」

 

その後ろの大魔神姿の神谷がそんな事を言う。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」

 

一方生徒達は、大魔神姿の神谷を見て言葉を失っている。

 

無理も無い。

 

普段から生徒達に良い印象を持たれていない神谷が、大魔神に仮装をしているのだ。

 

オマケに、顔には憤怒の表情のお面が掛かっている。

 

目撃した生徒の中には、思わず逃げ出す者の姿まで在った。

 

「ハハハハッ! 俺様の迫力に恐れを為したか!!」

 

しかし、当の神谷はその様子に満足そうな様子である。

 

「「ア、アハハハハ………」」

 

そんな神谷の様子に、一夏と弾は思わず苦笑いを漏らす。

 

「一夏!」

 

「弾くん!」

 

「神谷!」

 

とそこで、再び一夏と弾に声を掛けられる。

 

3人が振り向くとそこには、仮想した箒やシャル達の姿が在った。

 

「あ、箒! 皆!!」

 

「虚さん!」

 

「よう! シャル!!」

 

其々に返事をすると、彼女達の傍へ近寄って行く一夏達。

 

「何よ、一夏は吸血鬼? 結構似合ってんじゃん」

 

そう言う鈴は、キョンシーの仮装をしている。

 

「ホント、カッコイイですわ」

 

妖精の仮装をしているセシリアもそう言って来る。

 

「フフ、流石は私の嫁だな」

 

自分の部隊に因んだのか、黒ウサギの仮装をしているラウラもそう言う。

 

「素敵です! 一夏さん!!」

 

そう声を挙げたのは、座敷童に仮装している蘭である。

 

「そうか? サンキュ。鈴にセシリア、それにラウラに蘭も似合ってるぞ」

 

「「「「!!」」」」

 

一夏にそう言われると、4人は頬を染めて俯く。

 

「い、一夏………」

 

「ん?」

 

続いて一夏の前に現れたのは、真っ白な着物に身を包んだ箒だ。

 

如何やら、雪女の仮装らしい。

 

「おう、箒?」

 

「わ、私は如何だ? その………雪女の仮装なのだが………」

 

照れながらそう一夏に尋ねる箒。

 

「ん~~」

 

そう言われて、一夏は改めて箒の姿を見遣る。

 

元々着物姿の似合う日本美人である彼女に、白い着物は良く似合っており、幻想的な美しさを醸し出している。

 

「そ、そうだな………良く似合ってるよ」

 

「そ、そうか………」

 

それだけ言い合うとモジモジと黙り込んでしまう2人。

 

「あ~ら、初々しいね~、2人共~」

 

とそこで、楯無がそう言いながら、一夏に背後から抱き付いた。

 

「うわっ!? た、楯無さん!?」

 

驚きながら楯無の姿を見遣る一夏。

 

如何やら、彼女はネコの妖精=ケット・シーの仮装をしている様だが、その衣装の露出はかなり高い。

 

「ちょっ!? 何て恰好して抱き付いて来てんですか!?」

 

「んふふ~、似合ってる?」

 

「似合ってるって………兎に角離して下さいよぉ!!」

 

「い~や~」

 

相変わらず楯無にからかわれる一夏。

 

「「「「「…………」」」」」

 

その光景を見ている箒、セシリア、鈴、ラウラ、蘭の目にはドンドン殺気が宿って行っている。

 

「一夏の奴………如何してアイツはあんなにモテるんだ?」

 

その友人の謎のモテっぷりに弾が首を傾げていると………

 

「ホラホラ、お姉ちゃ~ん。恥ずかしがらずに~」

 

「ちょ、ちょっと待って本音! 幾ら何でもコレは………!?」

 

「ん?」

 

と、布仏姉妹の声が聞こえて来たので、弾が振り向くと、そこには………

 

「だ、弾くん!?」

 

「ジャジャ~ン!」

 

まるでうる〇やつらに出て来るヒロインの様に、虎縞模様のビキニとロングブーツ姿の鬼の仮装をした虚を、真っ白なシーツを被ってゴーストに仮装しているのほほんが押して来ていた。

 

「…………」

 

その虚の姿を見て言葉を失う弾。

 

「こ、コレはその! お嬢様が無理矢理………」

 

「虚さん、1つ良いですか?」

 

と、そこで弾は虚の肩を摑んで、真剣な顔でそう言う。

 

「えっ!? あ、あの………何ですか?」

 

「………『ダーリン好きだっちゃ!』って言ってくれますか!?」

 

「え、ええっ!?」

 

「お願いします!!」

 

赤面して戸惑う虚だったが、弾は相変わらず真面目な表情でそう言う。

 

「え、えっと………ダーリン好きだっちゃ!」

 

御丁寧にポーズまで取ってそう言う虚。

 

途端に!!

 

「グハッ!?」

 

弾は吐血と共に地面に倒れた!!

 

「だ、弾くん!?」

 

「わ、我が人生に………一片の悔い無し!!」

 

慌てて虚が傍に座り込むと、弾は天に向かって拳を突き出し、そう言い放ったかと思うと力尽きる。

 

「弾く~~~んっ!!」

 

「効果抜群だったみたいだね~」

 

「………何処の世紀末覇者?」

 

のほほんはそう感想を漏らし、その横で魔女の仮装をしている簪はそうツッコミを入れる。

 

尚、簪の魔女のコスプレだが………

 

彼女の容姿やキャラクターも相俟って、某SOS団の無口クール美女がコスプレした姿に酷似している。

 

「アイツ等も大概だぜ」

 

そんな一夏と弾の様子を見ながらそう評する神谷。

 

「神谷」

 

「ん?」

 

とそこで、そんな彼に声を掛けて来たのは………

 

天使の仮装をしたシャルだった。

 

純白の羽根の舞い散る翼。

 

高潔さを現すかの様な白い布の様な衣装。

 

そして頭の上に輝く金色の輪。

 

どれもこれもが、彼女の美しさ、そして可愛さを引き立てている。

 

敢えて言おう!!

 

シャルちゃん、マジ天使!!

 

「ど、如何かな? に、似合う?」

 

はにかんで、頬を赤く染めながら、シャルは神谷にそう尋ねる。

 

「おおっと! コイツは何処の天使様が地上に舞い降りて来たのかと思ったぜ!!」

 

そんなシャルに向かって、神谷は呵々大笑しながらそう言う。

 

「も、もう~、褒め過ぎだよ~」

 

その言葉に、シャルは益々頬を赤く染めてモジモジとし出す。

 

………益々可愛い!!

 

「ガハハハハッ! 俺は正直な感想しか言わねえぜ!!」

 

神谷はそんなシャルの肩に手を置き、そう言う。

 

「………ありがとう」

 

シャルは上目遣いで神谷を見ながらそう呟く。

 

 

 

 

 

………そんなグレン団の一同の様子を、林の中の暗闇から見詰める者が居た。

 

闇の中に在り、その姿は窺えないが………

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

ただ、不気味に光る眼と大きな牙が生えている様に見える口が、確実にグレン団の一同を捉えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

グレン団の一同の中で、弾と虚、神谷とシャルのカップル達は、一夏を取り合う箒達とは別行動を取り、其々にハロウィンを見学し始めた。

 

 

 

 

 

弾×虚………

 

「ホラホラ、虚さん。皆仮装してるんっすから、そんなに気にしなくても大丈夫っすよ」

 

「う、うん………」

 

未だに衣装に慣れない様子の虚の手を引き、喧騒の中を進んでいる弾。

 

周りに居る生徒は、2人………特に虚に注目している様だが、虚本人は兎も角、弾は気にも留めていない。

 

「………!!」

 

と、遂に耐えられなくなったのか、虚は弾の手を振り解くと、森の中へ飛び込んでしまう。

 

「あ! 虚さん!!」

 

直ぐ様弾はその後を追う。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

暫く進み、ハロウィンの会場が見えなくなると、虚は息を切らせながら足を止める。

 

「如何したんすか? 虚さん」

 

そこへ弾が追い付いてくる。

 

「ゴ、ゴメンなさい、弾くん………わ、私、もう………」

 

虚は顔どころか全身真っ赤になって縮こまる。

 

「…………」

 

それを見た弾は………

 

「! あ!?」

 

無言で自分の上着を彼女に掛けた。

 

「弾くん………」

 

「すんません………俺、何か浮かれちゃってたみたいで………帰りましょうか?」

 

そう言うと、再び虚の手を取り、帰路に就き始める。

 

「………ゴメンナサイ」

 

「いや、良いんすよ。悪いのは俺ですから」

 

「………あ、あのね………弾くん」

 

「ん?」

 

「か、仮装とかでこういう恰好するのは無理だけど………ふ、2人っきりの時とかにだったら、べ、別に構わないからね」

 

「えっ………?」

 

虚の言葉に、弾は言葉を失う。

 

「…………」

 

言った虚も虚で、コレ以上ない程真っ赤になっている。

 

と、その時、2人は気づかなかった………

 

自分達が次に踏み出そうとしている地面が、黒い影の様な状態になっている事に………

 

その影の様な地面に踏み出してしまった瞬間!!

 

その影の様な地面に、2人の足が埋まった!!

 

「!? うわっ!?」

 

「キャアッ!? な、何っ!?」

 

バランスを崩して倒れ込むと、影の様な地面はそのまま2人を呑み込み始める。

 

「な、何コレ!?」

 

「で、出られねえ!?」

 

藻掻く2人だが、暴れれば暴れる程に沈む速度が増して行くだけだった。

 

「グ、グラパー………」

 

遂に弾が、グラパールを起動させようとしたが、その瞬間に完全の影の中へと呑まれてしまう。

 

やがて、地面に広がっていた影が1箇所に集まったかと思うと、人型を成す。

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

人型となった影が、不気味に光る眼と大きな牙が生えている様に見える口を光らせて、不気味な笑い声を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

一夏達は………

 

「ハアアアアア~~~~~~疲れた~~~~~~」

 

重々しい溜息と共に、噴水の縁に腰を落とす一夏。

 

散々取り合いされた一夏だが、皆で一緒にという楯無の提案で、多大な労力と引き換えに、如何にか身の安全を得る。

 

しかし、問題の原因が分かっていないので先送りしたに過ぎず、寧ろ今後のハードルが上がる事となったのを、今の一夏は知る由もなかった。

 

「もう~、だらしないよ~、一夏くん」

 

その隣に、楯無が座る。

 

「全くだぞ、一夏」

 

そしてそう言いながら、箒がちゃっかりと逆隣を確保する。

 

(((((クッ! 出遅れた(ましたわ)!!)))))

 

その光景に内心で悔しそうにしながら、セシリア、鈴、ラウラ、蘭も腰掛ける。

 

「かんちゃん、如何? クエント産の砂モグラの肉の串焼きは?」

 

「………悪くない」

 

そして、のほほんと簪も、出店で買ったクエント産の砂モグラの肉の串焼きを頬張りながらそう言い合う。

 

「そういや、アニキや弾達は如何しているかな?」

 

神谷や弾の事が気になり、そう言う一夏だったが………

 

「まあまあ、一夏くん。それは気にするだけ野暮ってもんでしょう」

 

楯無がそんな一夏にそう言う。

 

「? 何で?」

 

しかし、一夏はその言葉の意味を理解出来ない。

 

((((((………コイツ(この人、子)は))))))

 

思わず心の中で頭を抱えてしまう箒、セシリア、鈴、ラウラ、楯無、蘭。

 

「??」

 

一夏は相変わらずワケが分からず、首を捻るしかなかった。

 

と、その時!

 

「………!?」

 

簪が何かを感じ取ったかの様に後ろを振り返る。

 

しかし、そこには流れ出る噴水以外、何も無かった。

 

「? 如何したの? かんちゃ~ん」

 

「ううん………何でも………」

 

気のせいかと思い、再び前を向く簪。

 

だが、その瞬間………

 

噴水の水が、黒く染まり始めている事に、簪はおろか一夏達も気付いていなかった。

 

他の生徒達も、ハロウィンに夢中で気付いていない。

 

と、次の瞬間!!

 

黒く染まった水が、まるでアメーバの様に膨れて、一夏達に覆い被さろうとする!!

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

一夏達がそれに気付き、簪がアーマーマグナムを構えた時には、既に手遅れだった!

 

黒いアメーバ状の水は、一夏達を飲み込み、そのまま再び噴水へと戻る。

 

一瞬の出来事であり、周りに居た生徒達は全く気付かなかった。

 

そして、水の色が徐々に戻って行き………

 

完全に元に戻ったと思った時には、噴水は前と同じ装いとなる。

 

一夏達だけを消し去って………

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

他のグレン団メンバーがそんな事になっているとは露知らず………

 

神谷とシャルは………

 

「ガツガツ! バクバク! ンガンガ!!」

 

凄まじい勢いで、目の前に積まれたジャック・オー・ランタンを模して作られたパンケーキを平らげて行く神谷。

 

ジャック・オー・ランタンを模しているのでかなりの大きさが有るのだが、神谷は1つ5秒くらいのハイペースで食べ進めている。

 

「す、凄い勢い!?」

 

「アレだけ有ったパンケーキが、もう………!」

 

その様子を見物していた生徒達がそう言っている間に、ジャック・オー・ランタンを模して作られたパンケーキの山はドンドン低くなって行き、そして………

 

「ゲップ!!」

 

とうとう完食されてしまった。

 

「そ、そこまで!!」

 

「ま、まさか………ホントに全部食べるなんて………」

 

「くう! 負けたわ!! 約束通り、代金はタダで良いわ!!」

 

ジャック・オー・ランタンを模したパンケーキを作った、料理部のメンバーが悔しそうな様子を見せる。

 

「凄いよ、神谷! まさか本当に全部食べるなんて………」

 

その中に居たシャルも、そんな事を言って来る。

 

事の発端は数10分前………

 

料理部の出店を訪れた神谷とシャルが、ジャック・オー・ランタンを模したパンケーキを発見。

 

神谷が旨そうだと呟いたところ、料理部の部長が勝負を持ち掛けて来た。

 

このパンケーキの山を1人で完食出来たら代金は要らない、と。

 

勝負事に目が無い神谷はコレを受諾。

 

シャルは何度も部長に止めた方が良いと進言したが聞き入れられず、勝負は開始され………

 

結果はご覧の通りである。

 

「………なあ、部長さんよ」

 

とそこで、神谷が部長に声を掛ける。

 

「な、何?」

 

「もう2、30個くらいねえか?」

 

「「「「「まだ食う気か!?」」」」」

 

神谷のその台詞に、料理部の生徒達が一斉にツッコミを入れるのだった。

 

「ア、アハハハハハ………」

 

シャルはその光景に、苦笑いする。

 

 

 

 

 

「アガ! んぐんぐ!!」

 

その後、別の出店で購入したホットドッグを頬張りながら、ハロウィンの学園を歩き回る神谷とシャル。

 

「神谷ってホント良く食べるよねぇ」

 

「食える時に食っとかねえとな」

 

そう言いながら、神谷はホットドックと一緒に買ったオレンジジュース(LLサイズ)をズゾゾゾゾゾと飲み干す。

 

「ハア、全く………結婚したら苦労しそうだな」

 

そんな神谷に呆れる様にそう呟くが、続けてそんな事を呟くシャル。

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「!? う、ううん!! 何でも無い!!」

 

「? そうか?」

 

そんな会話を交わす2人の空気は当然甘い。

 

他の生徒達は、『リア充爆発しろ!』的な視線を向けている者も居る。

 

とその時、神谷の携帯が鳴った。

 

「ん? 誰だ?」

 

通話ボタンを押すと電話に出る神谷。

 

[あ、神谷? 良かった、通じたみたいね]

 

携帯からは、リーロンの声が聞こえて来る。

 

「んだ、リーロンか。如何かしたのか?」

 

「リーロン先生から?」

 

シャルがそう言って、神谷を見上げる。

 

[あ、その声はシャルちゃん? 彼女も無事なのね]

 

「無事って………何かあったのか?」

 

[それがねえぇ、織斑くん達と連絡が取れないのよぉ。他の子も同じで連絡が取れなくなっててねぇ]

 

「一夏達が?」

 

そこで神谷は、顔色を変える。

 

「分かった。俺の方でも探してみる」

 

[そうしてくれると有り難いわ。ただ気を付けてね………如何もさっきから、学園の監視システムの調子がおかしいの。只の故障だったら良いんだけど………]

 

「あんがとな」

 

そう言うと、神谷は携帯を切る。

 

「如何か、したの?」

 

「一夏達が行方不明らしい」

 

「ええっ!? 一夏達が!?」

 

「如何にもきなクセェ臭いがして来たな………」

 

と、神谷がそう呟いた時………

 

「!?」

 

正面の森の中に、何かを見付ける。

 

ヒヒヒヒヒヒヒ………

 

あの時、生徒会室の窓の外に見た、ジャック・オー・ランタンだ。

 

まるで神谷を誘う様に、ランタンを光らせながら、森の奥へと消えて行く。

 

「! 待ちやがれ!!」

 

神谷は本能的に、そのジャック・オー・ランタンを追う。

 

「あ! 神谷待って!!」

 

シャルも、慌ててその後を追って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園で開催されたハロウィン。

 

神谷達も仮装して楽しんでいる中………

 

不気味な影が暗躍を始めた。

 

果たして、その正体は何か?

 

捕らわれの身となった一夏達は無事なのだろうか?

 

そして!

 

神谷達の前に現れたジャック・オー・ランタンの正体は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

秋のイベント………
それはハロウィンでした。
日本では某所でのバカ騒ぎのせいで若干敬遠されてますが………

それはさておき、イベントにトラブルはつきもの。
謎のジャック・オー・ランタンと影………
果たして、その正体は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第56話『義理堅い奴だぜ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第56話『義理堅い奴だぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園で行われたハロウィン………

 

その最中、一夏達が忽然と姿を消す事件が発生した。

 

如何やら、招かれざる客がハロウィンに紛れ込んだらしい。

 

一夏達を探し始めた神谷とシャルの前に現れたジャック・オー・ランタン。

 

奴がこの事件の元凶なのか?

 

 

 

 

 

IS学園の敷地内・ハロウィン会場脇の林の中………

 

ヒヒヒヒヒヒヒ………

 

不気味な笑い声を挙げながら、木々を摺り抜けてドンドンと林の奥の方へと逃げて行くジャック・オー・ランタン。

 

「待ちやがれ~っ!!」

 

それを追う神谷だが、生い茂る木々に邪魔され、中々距離を詰められずに居る。

 

「か、神谷………ゼエ………待って………ハア………」

 

それを追うシャルは、若干息を切らせている。

 

慣れない恰好な上に、足場の悪い林の中を、神谷に置いてかれない様に全力疾走していた為、流石の代表候補生のシャルも体力的にきつかった様である。

 

「チイッ! 面倒だ!!」

 

と、神谷はそう声を挙げたかと思うと胸のコアドリルを摑み、グレンラガンの姿となる。

 

「むんっ!!」

 

そして右手をドリルへと変えると、地中に潜った!!

 

ヒヒヒヒヒヒヒ………?

 

と、後ろを振り返ったジャック・オー・ランタンが、神谷の姿が無い事に気付いて、首を傾げながら足を止める。

 

その瞬間!!

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

振り返ったジャック・オー・ランタンの背後の地面から、グレンラガンが飛び出す。

 

!?

 

「捕まえたぜ!!」

 

慌てて逃げようとしたジャック・オー・ランタンに、グレンラガンは覆い被さる様に圧し掛かって確保する。

 

!?!?

 

「おっと、逃げんな!」

 

ジャック・オー・ランタンは逃れようと藻掻くが、グレンラガンは逃がさぬ様にしっかりと押さえ付ける。

 

「ハア、ハア………やっと追い付いた………」

 

と、そこでシャルが追い付き、荒くなった呼吸を整える。

 

「オイ! オメェ何モンだ? 一夏達が居なくなった騒ぎはテメェの仕業か?」

 

ジャック・オー・ランタンの首根っこを摑み、ネコの様に持ち上げるとそう問い質すグレンラガン。

 

ヒ、ヒヒヒヒヒヒ………

 

ジャック・オー・ランタンは、笑い声が戸惑っている様な様子となる。

 

「笑ってねえで何とか言ったら如何なんだ、コラ!?」

 

その態度が気に入らなかったのか、グレンラガンはジャック・オー・ランタンの首根っこを摑んだままガクガクと揺さぶる。

 

ヒヒヒヒヒヒッ!?

 

ジャック・オー・ランタンは、今度は笑い声が戸惑った様なモノとなる。

 

「ちょっ! 神谷!! やり過ぎだよ!!」

 

それを見たシャルが、グレンラガンを止めに掛かる。

 

「シャル、しかしよぉ………」

 

シャルに言われて、グレンラガンがジャック・オー・ランタンを揺さぶるのを止めると、その瞬間!!

 

ヒヒヒヒヒヒッ!!

 

ジャック・オー・ランタンは、グレンラガンの手から逃れてシャルへと向かった!!

 

「!?」

 

「あ!? テメェ!!」

 

シャルに襲い掛かるのかと思い、両腕をドリルに変えるグレンラガンだったが………

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

予想に反して、ジャック・オー・ランタンはシャルの背中に隠れる。

 

そして、グレンラガンの様子をおっかなビックリと言った様子で見ている。

 

「あん?」

 

予想と違う行動を取られ、グレンラガンは呆気に取られる。

 

「ホラ、すっかり怖がってちゃってるよぉ。もう大丈夫だからね~」

 

シャルはそう言って、ジャック・オー・ランタンの頭を優しく撫でてやる。

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

するとジャック・オー・ランタンは、笑い声に嬉しそうな色を醸し出す。

 

天使に撫でられて喜んでいるジャック・オー・ランタンと言うのも、中々シュールな光景である。

 

「ったく、んだよぉ………俺が悪モンみてぇじゃねえか」

 

グレンラガンはバツが悪そうにそう言うと、神谷の姿へと戻る。

 

「神谷は乱暴過ぎるんだよ………ねえ、君? 一夏達を知らない?」

 

ヒヒヒヒヒヒ?

 

シャルの質問に、ジャック・オー・ランタンは小首を傾げる様な動きを見せる。

 

「えっと、ね。僕達の友達が居なくなっちゃったんだ? 疑うみたいで悪いんだけど、君が犯人?」

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

続いての質問には、首を横に振る。

 

「本当?」

 

「嘘吐いたら承知しねえぞ、コラ」

 

!?

 

神谷が脅す様に言うと、ジャック・オー・ランタンは再びシャルの影に隠れてしまう。

 

「もう、神谷! 駄目だって!」

 

「ああ、もう、悪かったよ」

 

シャルに言われて、神谷が頭を掻きながらそう言うと、ジャック・オー・ランタンは恐る恐ると言った様子で、シャルの背から出て来る。

 

と、そこで神谷の携帯が鳴る。

 

「ん? おう、俺だ」

 

[神谷。ポイントN-5地区に、妙なエネルギー反応が出てるわ。監視システムじゃ様子が確認出来ないの。見て来てくれる?]

 

神谷が携帯を取り出し、通話ボタンを押すと、リーロンのそう言う声が聞こえて来た。

 

「分かった。すぐに行く………行くぞ、シャル」

 

それだけ答えると、神谷はシャルに呼び掛ける。

 

「あ、うん」

 

「と、それと………」

 

すると神谷は、今度はジャック・オー・ランタンに近付く。

 

ヒヒヒヒヒヒ?

 

「神谷?」

 

「ホラよ」

 

戸惑うジャック・オー・ランタンに、神谷はロリポップを手渡した。

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

「色々迷惑掛けちまったからな。まあ、詫びだとでも思って受け取っといてくれ」

 

ジャック・オー・ランタンが首を傾げると、神谷はそう言う。

 

「ふふふ………優しいね、神谷」

 

そんな神谷の姿を見て、シャルは微笑みながらそう言う。

 

「るせぇ、行くぞ!」

 

神谷は照れ隠しの様にそう言い、踵を返すと走り出した。

 

「じゃあ、またね」

 

シャルもジャック・オー・ランタンに手を振ると、神谷を追って走り出す。

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

ジャック・オー・ランタンは、神谷から貰ったロリポップを手に持ったまま、暫くその場で佇んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

ポイントN-5地区………

 

そこには、黒紫色のオーラが立ち上る、如何にも怪しげな洋館風の館が在った。

 

「んだ? こりゃ?」

 

「こ、こんな建物、学園内には無かったよ?」

 

その館を見上げてそう呟く神谷と、若干怖がっている様な様子を見せるシャル。

 

「こんばんわ~! 誰か居ますか~!」

 

と、神谷は何の躊躇も無く、その館の正面玄関のドアをノックする。

 

「ちょっ!? 神谷!?」

 

シャルはそんな神谷の様子に驚きながらも、ISのハイパーセンサーだけを展開し、館をスキャンする。

 

しかし、返って来た答えは『解析不能』であった。

 

「そんな!? ISのハイパーセンサーでも分析出来ないなんて………」

 

益々その正体の謎を深めて行く館に、シャルは背中に冷たいモノを感じる。

 

「オイ、シャル。何やってんだ!?行くぞ!」

 

しかし、そんなシャルの様子を他所に、既に神谷は館の扉を開け、中へと入り込んでいた。

 

「か、神谷ぁ………」

 

心臓に毛が生えているどころか、鋼鉄で出来て居そうな神谷の度胸に、シャルは呆れながらも一緒に館の中へと入り込む。

 

 

 

 

 

不気味な洋館風の館の内部………

 

館の内部は真っ暗であり、神谷とシャルが入る際に開けっ放しにした正面玄関からの月明かり以外に、灯りが一切なかった。

 

「うう………」

 

「何か陰気くせぇなぁ」

 

またも怖がるシャルに、そんな感想を呟く神谷。

 

と、その時!!

 

開けっ放しにしていた正面玄関が、何の前触れもなく、突然閉まる!!

 

「「!?」」

 

神谷とシャルが驚いた瞬間、館の彼方此方に在った燭台の蝋燭に、次々と独りでに灯が灯り始めた。

 

「何か居やがるな………この館」

 

その様子を見て、神谷はそう言い放つ。

 

「神谷! 玄関が開かないよ!!」

 

と、閉まった玄関のドアのノブを弄っていたシャルがそう言って来る。

 

「しゃあねえ。取り敢えず、この家の中を調べるぞ」

 

「ええっ!? 此処の!?」

 

「他にする事もねえだろう」

 

「それは、そうだけど………」

 

「行くぜ」

 

気後れしているシャルを尻目に、神谷は館の更に内部へと踏み込み始める。

 

「あ! ま、待ってよぉ!!」

 

シャルは慌てて神谷を追うと、その腕にしがみ付くのであった。

 

 

 

 

 

怪しげな館の1階の奥………

 

「此処は書斎になってるみたいだね………」

 

多数の本が収められた本棚が並んでいるのを見て、シャルがそう呟く。

 

「みてぇだな………」

 

神谷はそう呟くと、シャルと共に部屋の奥の方まで踏み込んで行く。

 

と、そこで!

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

何処からとも無く、不気味な笑い声が聞こえて来た。

 

「ヒイッ!? な、何っ!?」

 

「出やがったか!?」

 

シャルが神谷にしがみ付き、神谷がそう言い放つと………

 

突如本棚の本の幾つかが、独りでに本棚から抜け出て開いたかと思うと、そこに鋭い牙を生やして襲い掛かって来る!!

 

「うわぁっ!?」

 

「野郎!!」

 

驚くシャルと、腰に差していた剣を抜き放つ神谷。

 

牙を生やした本達は、一斉に神谷とシャルに襲い掛かって来る!

 

「んなろーっ!!」

 

最初に飛び掛かって来た牙の生えた本達を、横薙ぎの一閃で斬り捨てる神谷。

 

斬り捨てられた本達は床に落ちると、青白い炎を上げて消し炭になる。

 

と、そこで続けて来た牙の生えた本が、神谷の左腕の小手に噛み付く。

 

「うおっ!?」

 

神谷が驚きの声を挙げると、左腕の小手に噛み付いた牙の生えた本は、バリバリと音を立てて鎧を噛み砕き始める。

 

「こなくそっ!!」

 

咄嗟に神谷は、左腕の小手から腕を抜く。

 

腕が抜かれた小手は、重力に引かれて、噛み付いていた牙の生えた本ごと地面に落ちる。

 

「そりゃあっ!!」

 

そしてそのまま、小手ごと牙の生えた本を串刺しにする!!

 

串刺しにされた牙の生えた本から青白い炎が上がり、消し炭と化す。

 

しかし、牙の生えた本は次々に本棚から出現し、キリが無かった。

 

「クソッ! 次から次へと!!」

 

「これじゃキリが無いよぉ」

 

思わずそう声を挙げる神谷とシャル。

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

それに気を良くしたかの様に、何処からとも無く、あの不気味な笑い声が聞こえて来る。

 

「チキショー! 何処に居やがるんだ!!」

 

その声の主に向かってそう問い質す神谷だったが、答えの代わりに返って来たのは、牙の生えた本達だった。

 

 

 

 

 

????………

 

一方、そんな神谷達の姿を見せられている者達が居る。

 

「危ない、アニキ! 後ろだ!!」

 

「右だ! 右から来てるッス!!」

 

捕らわれの身となっている一夏達だ。

 

現在彼等は、真っ暗闇の中に居り、1人1人鳥籠の様な檻に捕らわれている。

 

「クッ! ISが起動しない!!」

 

「如何してですの!?」

 

箒とセシリアは、ISを起動させようとしているが、如何言うワケか待機状態のISはウンともスンとも言わない。

 

「クッ! 駄目か! 一体何で出来ているんだ、この檻は!?」

 

コンバットナイフで檻を抉じ開けようとしていたラウラが、ナイフの刃がボロボロになってしまったのを見てそう言う。

 

「…………」

 

無言で1人物静かにしている簪だが、彼女も先程アーマーマグナムを檻に向かって撃っていたが、ビクともせずに弾が切れてしまい、今は大人しく外部からの救援を待っている。

 

と、その時………

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

神谷達の元にも響いている、あの不気味な笑い声が聞こえて来たかと思うと、一夏達の前に不気味に光る眼と大きな牙が生えている様に見える口を光らせている、粘土の様な身体を持った人型の影が現れた。

 

「!? キャアッ!?」

 

「何!? 何っ!?」

 

その影の姿を見て、虚とのほほんが驚きを示す。

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

「こ、怖い………」

 

影の不気味な姿に、恐怖を感じる蘭。

 

「ちょっと! アンタ!!」

 

「これは貴方の仕業?」

 

と、その影に向かって、鈴と楯無がそう問い質すが………

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

影は不気味な笑いを挙げるだけで、2人の質問には答えなかった。

 

「何とか言いなさいよ!!」

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

そんな影に、鈴は更にそう問い詰めるが、影は相変わらず不気味な笑い声を挙げるだけだった。

 

「貴様………舐めるなよ!!」

 

その様子を見ていたラウラが、影に向かってナイフを投擲する。

 

しかし、ナイフは影に突き刺さったかと思うと、そのまま身体の中に呑み込まれてしまう。

 

「!? 何っ!?」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

その瞬間、一夏達は相手が人間でも獣人でもない事を悟る。

 

何かもっとこう………得体の知れないモノであると。

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

そんな一夏達を嘲笑うかの様に、影は不気味な笑い声を挙げながら、牙の生えた本に襲われている神谷達を見遣るのだった。

 

 

 

 

 

「この! この!」

 

次々に襲い掛かって来る牙の生えた本を、剣で斬り落としている神谷。

 

既に彼方此方に噛み付かれたのか、着ていた大魔神の鎧は所々無くなっている。

 

「キャアッ! キャアッ!」

 

シャルも、悲鳴を挙げながらも火の点いた蝋燭が載っている燭台を振り回し、近付く牙の生えた本達を振り払っている。

 

しかし、幾ら斬り落としても、牙の生えた本達は次々に本棚から出現し、一向に絶える気配が無かった。

 

「だ、駄目だよ、神谷! 一旦退こう!!」

 

「馬鹿言うな! 敵に後ろ見せられっか!?」

 

「そんな事言ってないで~!!」

 

退こうとしない神谷に向かって、シャルは怒る様にそう言うが、その瞬間!!

 

1冊の牙の生えた本が、動きの止まったシャル目掛けて襲い掛かる!!

 

「!?」

 

思わず硬直してしまうシャル。

 

「危ねえ、シャル!!」

 

しかしそこで、神谷がシャルと牙の生えた本の間に、自らの身体を割り込ませた!

 

牙の生えた本は、そのまま神谷の左肩に噛み付く。

 

既に左肩部分は鎧が無くなっており、牙の生えた本は、そのまま神谷の肉を食い千切らんとする。

 

「!? ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

左肩に走る激痛に、流石の神谷も、声を挙げ倒れる。

 

「! 神谷!!」

 

慌てて、神谷の左肩に食らい付いている牙の生えた本を引き剥がそうとするシャルだったが、牙の生えた本の牙は神谷の肉体に深く食い込んでおり、下手に外せば肉ごと持って行ってしまう。

 

かといってこのままでも、神谷の肩が食い千切られてしまう。

 

「ど、如何すれば!?」

 

焦るシャル。

 

しかし、妙案は浮かんでこない。

 

その間にも、牙の生えた本は神谷の肩を食い千切ろうとする。

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「か、神谷ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

と、シャルが悲鳴を挙げた瞬間………

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

何処からとも無く笑い声が響いて来たかと思うと、ジャック・オー・ランタンが現れた。

 

「!? 君は!?」

 

シャルが、突如現れたジャック・オー・ランタンに驚きを示すと、

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

ジャック・オー・ランタンは、右手に持っていたランタンを掲げる様にした。

 

すると、ランタンから眩い光が放たれ始める。

 

ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

途端に、牙の生えた本達が、白煙を上げて消滅し始める。

 

ジャック・オー・ランタンが持つランタンの炎は、死沼へ誘う鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)。

 

その光に導かれ、冥府へ落ちて行った様だ。

 

神谷の左肩に噛み付いていた牙の生えた本も、白い煙を上げて消滅する。

 

「ぐうっ!?」

 

「神谷!!」

 

すぐに神谷を助け起こすシャル。

 

「お前は………」

 

何で助けたんだと言う様な顔を、神谷がジャック・オー・ランタンに向けると………

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

ジャック・オー・ランタンは、笑い声と共に左手に神谷があげたロリポップを出現させた。

 

「あ! ソレ………」

 

「態々ソイツの礼に来たのか?」

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

神谷がそう言うと、肯定するかの様に笑い声を挙げるジャック・オー・ランタン。

 

「義理堅い奴だぜ。気に入ったぞ」

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

そこでジャック・オー・ランタンは、更に死沼へ誘う鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)を光らせる。

 

 

 

 

 

アアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?

 

その光は、神谷達の様子を覗き見ていた影にも届き、影は身体から白い煙を上げて苦悶の悲鳴を挙げ始める。

 

「な、何だ!?」

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

その様子に驚く一夏達。

 

そしてその次の瞬間!

 

景色が一瞬にして回転する!!

 

「「う、うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」

 

「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、黒紫色のオーラが立ち上っていた館は消滅。

 

神谷達と一夏達が、館が存在していた場所の地面に投げ落とされた!

 

「イダッ!?」

 

「アダッ!? イッテェ~」

 

頭を振りながら起き上がる神谷。

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

そして、悠然と浮遊しているジャック・オー・ランタン。

 

「! アニキ!!」

 

「! 一夏!!」

 

「皆! 大丈夫!?」

 

一夏達の存在に気づいた神谷とシャルが駆け寄り、助け起こす。

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

「「!?」」

 

とそこで、あの影の怪人が現れた。

 

あからさまに敵意が籠った視線で、神谷達を睨み付けている。

 

「アレがこの騒ぎの元凶!?」

 

「シャル! 一夏達を連れて下がってろ!!」

 

と、シャルがそう言うと、神谷がそう言いながら、一同の前に出た。

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

「何モンかぁ知らねえが、随分と好き勝手にやってくれたみてぇじゃねえか。お返しはタップリとさせてもらうぜ! グレンラガン! スピンオン!!」

 

と、神谷はそう言う台詞と共に、コアドリルを掲げ、グレンラガンの姿となる!!

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

対する影の怪人は、その粘土の様な質感の身体の両腕を、刃へと変える。

 

「ハッ! 上等だ!!」

 

それに対抗する様に、グレンラガンも、腕に細長いドリルを2本ずつ、計4本のドリルを出現させる。

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

不気味な笑い声を響かせたかと思うと、大きく跳躍する影の怪人!

 

「トアアッ!!」

 

それに対抗する様に、グレンラガンも跳躍する!

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

「ゼエリャアッ!!」

 

三日月をバックに、2つの影の怪人とグレンラガンが火花を散らして交差する。

 

そのまま互いが居た位置へと着地する両者。

 

「うおっ!!」

 

先に仕掛けたのはグレンラガン。

 

両腕のドリルを回転させながら、影の怪人に突っ込んで行く。

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

と、影の怪人はグレンラガンの方を振り向いたかと思うと、刃に変えたままの両腕を伸ばして来る。

 

「このぉっ!!」

 

迫って来た刃の両腕を、グレンラガンは両腕のドリルで粉砕する!!

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

「貰ったぁっ!!」

 

そのまま、両腕を失った影の怪人に飛び掛かるグレンラガンだったが………

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

何と、両腕を失った影の怪人の胸部から第3の巨大な手が生えた腕が伸びて来た!!

 

「!? 何っ!? ぐあっ!?」

 

避ける間も無く、その巨大な手に捕まえられるグレンラガン。

 

「クソッ! しまった!!」

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

影の怪人が、そのままグレンラガンを握り潰そうとする。

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

「アニキ!!」

 

「やらせるか!!」

 

「「「「「「「!!」」」」」」」」

 

一夏と弾が、ISとグラパールを展開しようとし、シャルや箒達も同じくISを展開させようとしたが、

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

影の怪人の口から、黒紫色の炎が吐かれ、一夏達の元に着弾する!!

 

「!? うわあああっ!?」

 

「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」」」

 

その黒紫色の炎で、一夏達は忽ち動きを封じられてしまう。

 

ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ………

 

「ぐああっ! クッソォッ!!」

 

そのまま一気にグレンラガンを握り潰そうとする影の怪人だが、グレンラガンも抵抗する。

 

しかし、徐々に影の怪人の力は上がって行く。

 

と、そこで!!

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

ジャック・オー・ランタンが、再びランタンの光を影の怪人に浴びせた!!

 

アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?

 

途端に、影の怪人は苦悶の声を挙げて、身体から白い煙を上げて苦しみ出す。

 

「! しめた!!」

 

その瞬間に拘束が弱まり、グレンラガンは抜け出す事に成功する。

 

「サンキュー、カボチャマン! 今度は俺の番だ!!」

 

そう言うとグレンラガンは、胸のグレンブーメランと、背のグレンウイングを取り外す。

 

「ダブルブーメラン! スパイラル!!」

 

そして、その両方をブーメランとして影の怪人目掛けて投擲した!!

 

身体から白煙が上がっていた影の怪人は避ける事が出来ず、そのまま2つのブーメランの連続斬り付けを喰らう!!

 

そしてその勢いで、宙に舞い上げられた!!

 

「今だ! 喰らえっ!!」

 

と、グレンラガンが戻って来たグレンブーメランとグレンウイングを回収すると、額から1本のドリルを出現させ、胸に再装着したグレンブーメランを発熱させる。

 

「ドリルビーム!! アンド! グレンファイヤー!!」

 

額のドリルの先端からのビーム・ドリルビームと、胸部のサングラスからの熱線・グレンファイヤーが同時に放たれる!!

 

アアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?

 

ドリルビームとグレンファイヤーの同時直撃を受けた影の怪人は、風船の様に身体が膨らんで行き、やがて限界に達した瞬間!!

 

木端微塵に大爆発した!!

 

破片も空中で燃え尽き、黒い灰となって、辺りに降り注ぐ。

 

「やったぜ!!」

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

グレンラガンがそう言ってガッツポーズを決めると、ジャック・オー・ランタンも嬉しそうな笑い声を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局………あの影の怪人は何者だったのかしら?」

 

先程まで、黒紫色のオーラを立ち上らせていた館が在った場所に居るグレン団の中で、鈴がそう言う。

 

「最後まで分からず終いだったな………」

 

「得体の知れないモノだと言うのは感じたが………」

 

箒とラウラもそう意見を出し合う。

 

「ひょっとしたら………悪霊の類だったのかも知れないわね」

 

「悪霊?」

 

とそこで楯無が挙げた意見に、シャルが首を傾げる。

 

「ハロウィンが行われる10月31日は………死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていたわ………」

 

「だから、本当に悪霊が出たと?」

 

「俄には信じられませんわね………」

 

簪がそう述べると、虚とセシリアがそう言う。

 

「でも~、確かにアレは悪霊ぽかったよね~」

 

「うう~、怖かったです~」

 

そう言い合うのほほんと蘭。

 

「まあ、でも、世界征服を企む悪の獣人と戦ってる時点で俺達も十分非常識だし」

 

「世の中、科学や常識で説明出来ない事なんてごまんと有るぜ」

 

するとそこで、一夏と弾があっけらかんとそう言い放った。

 

「サンキュウな、お前のお蔭で助かったぜ」

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

一方神谷は、今回の功労者であるジャック・オー・ランタンに礼を言っている。

 

「そう言えば、君も一体何者なの?」

 

そこでシャルが、ジャック・オー・ランタンにそう疑問を投げ掛けた。

 

今まで色々とあった為に聞きそびれていたが、このジャック・オー・ランタンの存在もかなり怪し気なものである。

 

ヒヒヒヒヒヒ………

 

しかし、ジャック・オー・ランタンはその質問には答えず、スーッと上昇して行ったかと思うと、

 

トリック・オア・トリート!

 

ハロウィンでお決まりの台詞を残して、夜空に溶け込む様に消えてしまった。

 

「き、消えた………」

 

暫しの間、茫然と夜空を見上げる一夏達。

 

「ひょっとしたらアイツ………ハロウィンの精霊だったりしたのかもな」

 

するとそこで、神谷がそんな事を言う。

 

「そう………かもしれないね」

 

シャルがそれを聞くと、少し考える様な素振りを見せた後、笑みを浮かべてそう言う。

 

他の一同も戸惑いながらも、やがて神谷の言葉を信じ、そう思い込む事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハロウィンの夜に起きた、ちょっと不思議な物語。

 

もし、皆さんの前に、こんなジャック・オー・ランタンが現れたら………

 

恐がらずに、お菓子を渡して挙げて下さいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ハロウィン編後編。
今回はロージェノム軍ではなく、謎の存在と戦いました。
ジャック・オー・ランタンも合わさり、ちょっぴり不思議な話に仕上がっています。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第57話『あのデカブツを止めてみせるぜ!!』

今年度最後の更新です。

来年も『天元突破インフィニット・ストラトス』をよろしくお願いします。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第57話『あのデカブツを止めてみせるぜ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本のとある山中………

 

草木も眠る真夜中の山の上を、空自のRF-4EJが飛んでいた。

 

「こちらウッドペッカー1。ポイントB45地区を飛行中。現在のところ異常無し」

 

[こちら本部。了解、ウッドペッカー1。引き続き、ポイントC36からG79までの哨戒を続けよ]

 

「了解」

 

RF-4EJのパイロットは、通信でそう遣り取りをすると、哨戒任務を続ける。

 

ロージェノム軍の出現以来、空自の哨戒任務は前にも増して行われる様になっていた。

 

彼等の必死の努力にも関わらず、ロージェノム軍は日本の防衛網を易々と突破し、日本各地………

 

特に、IS学園を中心に襲撃している。

 

それでも、彼等の任務が全く意味を成していないか?と問われれば、答えは否である。

 

彼等が進軍中のロージェノム軍を発見した事により、グレン団の面々が戦闘を有利に行えた事も多々ある。

 

彼等の様な縁の下の力持ちが居るからこそ、日本は比較的平穏を保っていられるのである。

 

と、そうこうしている内に、RF-4EJは次の哨戒地点へと到着する。

 

だが、そこで彼等は、驚くべき光景を目撃する事となる。

 

「ん? 何だ?」

 

RF-4EJのナビゲーターが、地上で何かが動いているのを捉える。

 

レーダーにも、動体反応がしっかりと出ていた。

 

確認の為に、RF-4EJは高度を落とし、旋回する。

 

そして彼等は、驚くべき光景を目にする。

 

「!? なっ!?」

 

「や、山が動いている!?」

 

驚愕するRF-4EJのパイロットとナビゲーター。

 

彼等の目の前では、黒い山が地響きを立てながら動いていたのだ。

 

「い、いや違う!? 何か………何か巨大なモノが動いている!?」

 

しかし、よくよく確認すると、それは何か巨大なモノが動いている事に気づく。

 

するとそこで、夜空に掛かっていた雲が途切れ、月明かりがその動く巨大な何かの姿を映し出す。

 

それは………

 

「!? せ、戦艦!? 戦艦が陸上を進んでいる!?」

 

RF-4EJのナビゲーターは、またも驚愕の声を挙げる。

 

月明かりに照らし出された動く「巨大な何か」の姿は、正しく戦艦であった。

 

しかし、地響きと共に山中に生えていた木々を薙ぎ倒し、そして山を砕いて更地と化すその姿は、怪物と表現するのが相応しかった。

 

「こ、こちらウッドペッカー1! 非常事態発生!! ポイントC45地点に! 巨大な! 巨大な陸上戦艦が!!」

 

と、そこで漸く我に返ったRF-4EJのパイロットが、慌てて本部へ通信を送る。

 

だが、その瞬間!!

 

陸上戦艦が、RF-4EJに気付いたのか、凄まじい数の対空砲火を放って来た。

 

その様子は、正に弾幕の嵐である。

 

「「う、うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」

 

避ける間も無く、弾幕の嵐に飲み込まれたRF-4EJは蜂の巣にされ、爆発・四散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

IS学園・1年1組………

 

「ですから、この場合は国際IS委員会の定めたこの規約が適用されます。それに伴い………」

 

平和に授業が行われているIS学園。

 

しかし、1年1組の教室でも退学者や転校者の空席が結構目立つ様になっており、一抹の寂しさを感じさせる。

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~」

 

そして今日も爆睡街道まっしぐらの神谷。

 

1時間目の授業だと言うのに、既にイビキを立てている。

 

「ですのでこの場合、IS学園の規則では………」

 

しかし、真耶も既に慣れたのか、最早気にも留めてない。

 

一夏を含めた他の生徒も、当然の光景として見ている。

 

慣れとは時に恐ろしいものである。

 

と、その時………

 

「山田くん。今日の授業は中止だ」

 

千冬がそう言いながら、1組の教室に入って来た。

 

突然現れ、授業の中止を言い放って来た千冬に、生徒達はざわめき立つ。

 

「あ、織斑先生。中止って、如何言う事ですか?」

 

真耶が首を傾げながら、千冬にそう尋ねる。

 

「説明は後でする。これより全校生徒は、各自必要な荷物を纏め、1時間後に港に入港する海上自衛隊の護衛艦へ乗艦。IS学園を離れろ!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然学園を離れろと言って来た千冬の言葉を理解出来ず、生徒達は目を白黒させて呆然となる。

 

「聞こえなかったのか!? 各自避難の準備だ!!」

 

すると千冬は、今度はキツい口調でそう怒鳴った!!

 

「「「「「「「「「「!? ハ、ハイ~~~~~~ッ!!」」」」」」」」」」

 

その言葉で、呆然としていた生徒達は、一斉に行動へ移る。

 

「それから、織斑、篠ノ之、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、そして天上。以上の者は学園地下のリットナー先生の研究室へと集合せよ」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「………んあ?」

 

千冬に呼ばれて一瞬緊張の色を見せる一夏達と、目を覚ます神谷。

 

彼等グレン団メンバーが呼ばれたと言う事は即ち、ロージェノム軍の襲来だと言う事を表していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

リーロンの研究室………

 

神谷、シャル、一夏、箒、セシリア、ラウラが研究室兼作戦室へと集合してから程なくして、鈴、楯無、簪、弾のメンバーも集まり、グレン団の戦闘メンバーが集合した。

 

現在彼等は、コの字型に組まれた長テーブルの席に着き、司令官的立場である千冬達を待っている。

 

「全員集まったな」

 

そしてそこで、真耶とリーロンを引き連れて、当の千冬が姿を見せた。

 

「オイ、ブラコンアネキ。一体如何したんだ? 自棄に仰々しいじゃねえか」

 

と、千冬の姿を見た神谷がそう言い放つ。

 

「仰々しくもせねばならん………今回の敵は一筋縄では行かんぞ」

 

千冬は何時もと同じキツい目付きの表情で、神谷にそう言い返す。

 

「? 如何言う事ですか?」

 

「それは………」

 

千冬の言葉の意味が分からず、シャルがそう質問し、真耶が答えようとしたところ、

 

「説明するより、見せた方が早いだろう。リットナー先生」

 

「ハイハイ、っと」

 

それを遮る様に千冬がそう言うと、リーロンがリモコンの様な物を取り出し、ボタンを押した。

 

すると、神谷達全員から見える位置の空中に、投影ディスプレイが表示される。

 

するとそこには………

 

空高く土煙を舞い上がらせ、木々を薙ぎ倒し、小山を砕いて驀進している、巨大な鉄の城が映し出された!

 

「!? コレは!?」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

その巨大な鉄の城を見て、一夏は驚きの声を挙げ、箒達も驚愕を露にする。

 

「ほう………」

 

只1人、その動く鉄の城を見ても、不敵な笑みを浮かべている神谷。

 

「…………」

 

そして簪も、何時もと変わらぬ冷静そうな様子で居た。

 

「ち、千冬ね………織斑先生! コレは一体!?」

 

やがて最初に我に返った一夏が、千冬に向かってそう尋ねる。

 

「コイツの名は『天岩戸(あまのいわと)』」

 

「旧日本軍が、アメリカ・ソ連との本土決戦に備えて建造していたとされる移動要塞よ」

 

それに対し、千冬がそう答え、リーロンが補足する。

 

「!? 旧日本軍が!?」

 

「そんな馬鹿な!? 当時の! しかも敗戦間近だった日本に、こんな物を造る力なんて!!」

 

「目の前の光景が現実だ」

 

投影ディスプレイに映し出されている動く城・『天岩戸(あまのいわと)』が旧日本軍によって造られたと言われ、信じられないと言う楯無だったが、千冬はバッサリと切り返す。

 

「当時の旧日本軍も何を考えていたのか、コイツのスペックは最早化け物と言っても良いわ」

 

と、リーロンがそう言いながら、天岩戸の詳しいデータを映し出す。

 

 

 

名前:天岩戸

 

正式名称:本土決戦用移動式防衛要塞零号『天岩戸』

 

所属:大日本帝国軍(陸・海軍共同開発)

 

起工:1944年1月

 

完成:1945年8月

 

全長:15.8キロメートル

 

全幅:7.3キロメートル

 

全高:9.6キロメートル

 

重量:5000万トン

 

乗員数:12万人

 

速度:時速120キロ

 

航続距離:500万キロ

 

主砲:84㎝(67口径)砲3連装41基123門

 

副砲:52㎝(41口径)砲3連装25基75門

 

49㎝(37口径)単装砲153基153門

 

対空兵装:六式20㎝連装高射砲127基254門

 

40㎜3連装機銃592基1776門

 

40㎜単装機銃475基475門

 

35㎜連装機銃361基722門

 

その他:28㎜57連装噴進砲694基

 

装甲:金剛合金製 正面及び後面・2000㎜ 側面・1600㎜ 甲板・1200㎜ 底面・1400㎜

 

機関:試作型零号式超蒸気機関520基

 

1200万馬力

 

 

 

「………コレなんて中二病の産物?」

 

そのスペックを見た一夏が、最初に発した言葉がそれだった。

 

「織斑、コレは現実だと言っただろう」

 

だが千冬が、またもバッサリとそう言う。

 

その中二病の産物の様なスペックを、天岩戸は実際に持っている。

 

これは紛れも無く、現存する兵器なのだ。

 

「………この際、その天岩戸が旧日本軍が造ったモノだとか、そのスペックについては置いておきましょう」

 

「問題は、何故コレが今になって動き出したか?と言う事だ」

 

そこで、漸く冷静さを取り戻して来たセシリアとラウラがそう言う。

 

「それについてもハッキリしてるわ………と言うか、こんな事する連中なんて決まってるでしょう」

 

と、リーロンがそう言うと、天岩戸を真上から捉えた衛星写真を映し出す。

 

そのまま、その写真を拡大して行き、ハリネズミの様に武装が施された上部を映し出す。

 

すると、武装の隙間にあるものが映っていた。

 

「! 獣人!!」

 

鈴がそう声を挙げる。

 

そう。映し出されている写真に映っていたのは、紛れも無く獣人の姿だった。

 

「と言う事は………」

 

「そうだ。天岩戸は現在、ロージェノム軍によって運用されている」

 

千冬がそう言うと、投影ディスプレイの映像が再び切り替わる。

 

そこには日本地図が映し出され、天岩戸と表示されている赤い光点が、青い光点に向かって来ている事を表している。

 

「ちょっ!? あの青い点って………まさか!?」

 

「その通りだ」

 

「天岩戸は現在、このIS学園を目指して進軍して来ています」

 

弾が嫌な予感を感じてそう言うと、千冬がそう答え、真耶が補足した。

 

そして、地図上の青い点にIS学園と言う表示が加えられる。

 

「天岩戸が現在の速度を維持し続けた場合、5時間後にはIS学園を主砲の射程内に収めるわ。そして、更にその5時間後には、奴自体がIS学園に到達するわ」

 

「先程、航空自衛隊の戦闘機部隊と、陸上自衛隊の機甲師団。そしてIS部隊が、天岩戸に対し総攻撃を掛けました」

 

リーロンと真耶がそう言うと、またも投影ディスプレイが切り替わり、自衛隊の攻撃の様子が動画で再生される。

 

だが、その内容は惨澹たるものだった。

 

先陣を切ってミサイル攻撃を天岩戸に浴びせる航空自衛隊の戦闘機部隊だったが、ミサイルが天岩戸に近付くと、突然在らぬ方向へと曲がり、直撃弾を浴びせられない。

 

そして反撃に撃ち出された隙間無い対空砲火によって、戦闘機隊は次々に蜂の巣にされ、墜落して行く。

 

陸上自衛隊の機甲師団も、果敢に戦車砲や迫撃砲、榴弾砲にロケット弾、そしてミサイルで天岩戸を攻撃する。

 

しかし、戦闘機隊の攻撃の時と同じく、ミサイルは在らぬ方向へ飛んで行ってしまい、その他の攻撃は天岩戸のブ厚く堅牢な装甲を貫けず、表面で爆発を起こすか、弾かれるばかりだった。

 

そして、天岩戸からの反撃の砲撃とロケット弾を受け、機甲師団の装甲戦闘車輌は玩具の様に壊されて行く。

 

中には退避が遅れ、その巨体で踏み潰されるモノも居た。

 

そしてISも、天岩戸の前には全くの無力であった。

 

ミサイルは命中せず、レーザーやビーム、実弾の攻撃はやはり天岩戸の装甲を貫けず、反撃の嵐の如き対空砲火で、蠅の様に叩き落とされている。

 

「酷い………」

 

その凄惨な様に、シャルは思わずそう呟く。

 

「映像の通り、展開していた部隊はほぼ全滅。天岩戸は自衛隊の攻撃を全て跳ね除け、速度を落とさぬままIS学園を目指している」

 

「もうこうなったら、貴方達が最後の希望ってワケよ」

 

千冬とリーロンが、グレン団の面々を見ながらそう言う。

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

最後の希望………

 

そう言われて、グレン団の面々は緊張の様子を見せる。

 

「よっしゃあっ! 任せとけ!! 俺が必ず! あのデカブツを止めてみせるぜ!!」

 

只1人、神谷だけが闘志を燃やしている。

 

「全く………お前のその根拠の無い自信も、こういう状況では頼もしく思えるな」

 

そんな神谷を見て、千冬はフッと笑いながらそう言う。

 

「ではコレより、対天岩戸攻略作戦を始めるわよ」

 

リーロンがそう言うと、投影ディスプレイがまた切り替わり、天岩戸の全体図の3Dモデルが表示される。

 

「コレが今までに取れたデータを元に作成した、天岩戸の3Dモデルよ」

 

「リットナー先生………さっきの自衛隊の攻撃の時………ミサイルが無力化されている様に見えたけど………アレは?」

 

とそこで、簪が先程の自衛隊が天岩戸に攻撃を掛けた時の映像を思い出し、ミサイル攻撃が無力化されていた点について尋ねた。

 

「ええ。如何やら敵は、強力なジャミング装置を装備してるみたいね。コレは多分、ロージェノム軍によって後付けされた物だと思われるわ」

 

「となると………誘導兵器が使えないか………」

 

リーロンの説明を聞き、簪は顎に手を当てる。

 

「そもそも、あんな巨大要塞を………如何やって破壊すれば良いんだ?」

 

「一夏! そんなもん決まってんだろ!! 魂を込めた漢の1撃を叩き込んでやれば良いんだよ!!」

 

「いや、アニキ。今回ばかりは流石にそれは無茶だよ」

 

天岩戸の巨大さを前に尻込みしているかの様な一夏に、神谷がそう言い放つが、弾からのツッコミが入る。

 

「だが、その大きさが付け入る隙となる」

 

「アレだけ巨大な要塞です。一旦取り付いてしまえば、どんな火力を持っていようと役に立ちません」

 

「つまり、内部へ突入して、内側から破壊する、と?」

 

千冬と真耶がそう言うと、ラウラがそう推察を述べる。

 

「その通りだ。お前達は天岩戸に突入し、先ず主砲を使用不能にしろ。それでIS学園が砲撃に晒される危険性を回避する」

 

投影ディスプレイの、天岩戸の全体図の3Dモデルの主砲部分に、赤い×点が印される。

 

「然る後に、艦橋を制圧。若しくは動力を破壊し、天岩戸を無力化する」

 

千冬がそう言うと、今度は天岩戸の艦橋と内部に、×点が印される。

 

「問題は、このハリネズミの様な天岩戸の武装の攻撃を掻い潜って、如何やって内部へ突入するか?ね………」

 

楯無がそう指摘する。

 

そう。この作戦の最大の問題点は、『如何にして天岩戸の内部へ入り込むか?』である。

 

ISすら蠅の様に叩き落とす対空砲火。

 

誘導兵器を完全に無力化するジャミング装置。

 

戦車砲等の直撃を何1000発喰らおうともビクともしない強固な装甲。

 

その守りは、正に鉄壁と評するのが相応しく、全く以て隙が無い様に思える。

 

「「「…………」」」

 

如何やら、千冬達もその点については理解しているらしく、良い手が無い様で沈黙する。

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

一夏達も、何か良い案はないかと頭を捻る。

 

と、そこで!

 

「良い手が有るぜ!」

 

神谷が事も無げにそう言い放った。

 

「!? 本当!? 神谷!!」

 

「ああ、コイツなら確実にあのデカブツに取り付く事が出来る!!」

 

尋ねて来たシャルに、神谷は自信満々にそう返す。

 

「それで………どんな手だ?」

 

神谷にそう問い質す千冬。

 

「名付けて! 『人間ロケット作戦』だ!!」

 

神谷は、ガッツポーズをしながらそう言い放つ。

 

それを聞いていた一夏達は………

 

(((((((((嫌な予感しかしない………)))))))))

 

一抹の不安を露わにしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後………

 

とある山中………

 

木々を薙ぎ倒し、そして山を砕いて更地と化しながら、天岩戸はIS学園を目指して突き進んで居る。

 

既に自衛隊は撤退し、天岩戸を阻む者は居ない。

 

我が物顔で、天岩戸は山を平地に変えて行く。

 

IS学園がその主砲の射程距離内に収まるまで、後3時間を切っている。

 

 

 

天岩戸・艦橋………

 

天岩戸の大きさが大きさなだけに、艦橋の広さも半端では無く、中でちょっとしたスポーツが出来そうな位の広さが有った。

 

「IS学園、主砲の射程内まで残り2時間50分を切りました」

 

「自衛隊は完全に撤退した様です。現在天岩戸周囲に動体反応無し」

 

「フン、腰抜け共め。それで良く国の守り手を名乗れたものだ」

 

艦橋要員の獣人の報告を聞き、指揮を執っていたヴィラルがそう皮肉る様に言う。

 

(やはり………我等に対抗出来るのはアイツ等だけか………)

 

と、内心でそう思っていたところ!

 

「! レーダーに感! 前方に展開中の陸上自衛隊部隊を確認!!」

 

「また無駄な事をしに来たか………」

 

ヴィラルはウンザリしているかの様にそう呟いたが………

 

「ヴィ、ヴィラル様! アレを!!」

 

「如何した?」

 

艦橋要員の1人の獣人が、そう言って艦橋の窓から前方に展開していた自衛隊の部隊を指差したので、ヴィラルが視線を向ける。

 

すると其処には!

 

巨大なロケット弾の様な物・計9つが、天岩戸に狙いを定めていた!!

 

その大きさは中にISを展開した人間が入って居られそうな程に有る。

 

「うわああっ!? 超巨大なロケット弾だ!?」

 

「狼狽えるな!! フッ、知恵を絞った作戦がそれか。敵が大きければ巨大な武器を使えば良い。単純な発想だな」

 

狼狽える艦橋要員の獣人を一喝し、ヴィラルは設置されている巨大なロケット弾を小馬鹿にする。

 

と、その瞬間!!

 

ロケット弾の後部から火の手が上がり!!

 

発射装置から勢い良く発射され、天岩戸に向かった!!

 

「うわあぁっ!? 来たぞ!?」

 

「落ち着け! 全機銃及び高射砲照準!! 叩き落としてしまえ!!」

 

ヴィラルがそう命じると、天岩戸にハリネズミの様に装備された機銃と高射砲から、一斉に射撃が開始される。

 

爆音と共に撒き散らされる弾丸が、巨大ロケット弾に襲い掛かる。

 

しかし、巨大ロケット弾は防弾処理を施されているのか、機銃と高射砲の弾丸は、巨大ロケット弾に命中すると弾かれ地面に落ちる。

 

「だ、駄目です! 弾丸が弾かれてしまいます!!」

 

「ならば副砲で迎撃しろ。砲弾装填!」

 

すると今度は、副砲である3連装52㎝41口径砲が、迫り来る巨大ロケット弾に向けられる。

 

「方位、240! 仰角50度! 誤差修正!!」

 

「撃てぇっ!!」

 

そして、ヴィラルの号令と共に轟音が挙がり、副砲が発射された!!

 

放たれた副砲の砲弾は、正確な照準で巨大ロケット弾に次々に命中!!

 

流石に52㎝砲の砲撃には耐え切れず、巨大ロケット弾は爆発し・四散してしまう!!

 

「目標撃墜!!」

 

「フン………呆気無いものだな」

 

再び皮肉る様な台詞を口にするヴィラル。

 

だがしかし!!

 

「!?」

 

そこでヴィラルは、背中にゾワリとした感覚を感じた!!

 

「この感覚は………まさか!?」

 

と、ヴィラルがそう声を挙げた瞬間!!

 

「ヴィ、ヴィラル様! 撃墜地点に螺旋力! 及びISのエネルギー反応が!!」

 

艦橋要員の獣人の1人が、そう声を挙げた!!

 

「!?」

 

それにヴィラルが驚愕の表情を浮かべると、巨大ロケット弾が爆発した際の爆煙の中から………

 

グレンラガンを先頭に、ISを装着した一夏達が飛び出す!!

 

「よっしゃあっ!! 一気に行くぜぇっ!!」

 

「やっぱり無茶苦茶な作戦だったぁっ!!」

 

「人間ロケット弾って、ホントに名前の通りの作戦だったんだ………」

 

「アイツに付き合っていると、命が幾つ有っても足りんな」

 

先頭を行くグレンラガンがそう叫ぶが、一夏からは愚痴の様な悲鳴が挙がり、シャルは呆れ顔をしており、箒は皮肉気味な台詞を言い放つ。

 

「けど、此処まで来たら、もう腹括るしかないぜ!!」

 

「確かに、天岩戸へ接近する事には成功しましたわ」

 

「後は取り付くだけだ!!」

 

「もうこうなったら自棄よ!!」

 

続いて、グラパール・弾、セシリア、ラウラ、鈴からそう声が挙がる。

 

とそこで、天岩戸からグレン団目掛けて、対空砲火が放たれ始める。

 

「クッ! 撃って来た!!」

 

「構わないわ………此処まで来れば………後は強行突破あるのみ」

 

水のヴェールで弾丸を防ぐ楯無に、簪がそう言う。

 

尚、彼女の機体は飛行不能な為、ミッションパックからパラグライダーの様な落下傘を展開し、滑空しながら天岩戸に降下している。

 

当然ながら、他のメンバーと比べて、その飛行機動は限定される。

 

と、1発の銃弾が運悪く簪のパラグライダーに命中!!

 

パラグライダーに穴が開く!!

 

「!? クッ!!」

 

それにより軌道が変わり、簪は天岩戸から逸れて行ってしまう。

 

「!? 簪ちゃん!!」

 

と、楯無が思わず声を挙げた瞬間!!

 

「………!」

 

簪は、自らパラグライダーをミッションパックから切り離した!!

 

そして、ミッションパックの左側に今回の作戦の為に装備して来たウインチガンを発射!!

 

ワイヤーで繋がれたフックが、天岩戸の出っ張りに引っ掛かり、簪は側面側にぶら下がりながら両足を着く!

 

そして、ジェットローラーダッシュで天岩戸の側面を駆け上がる!!

 

しかし、引っ掛かりが不十分だったのか、途中で外れてしまう。

 

「…………」

 

簪は、冷静にウインチを巻き戻してワイヤーとフックを回収すると、そのままジェットローラーダッシュの出力を上げて、一気に天岩戸の側面を駆け上がった!!

 

そしてそのまま天岩戸の甲板に乗ると、グレン団を狙っている対空砲塔の幾つかを狙って、ミッションパック右側に装備していた9連装ロケット弾ポッドからロケット弾を放つ!

 

ロケット弾は次々に対空砲塔へ命中。

 

混乱から一時対空砲火が止まる。

 

「今だ! 取り付けぇっ!!」

 

そこでグレンラガンの声が響いたかと思うと、残りのメンバーが一気に天岩戸に取り付いた!!

 

「ハアーッ! し、死ぬかと思った………」

 

短時間ながら、凄まじい対空砲火の中に曝され、生きた心地がしなかった一夏が、大きく息を吐きながら、自分がまだ生きている事に驚く様にそう言う。

 

「人間………中々死なないものよ」

 

そんな一夏に向かって、簪が撃ち終えた9連装ロケット弾ポッドをパージしながらそう言う。

 

………君と他の人を同列で考えてはいけない気がする。

 

「兎に角! 作戦の第1段階は無事成功した!!」

 

「次は主砲の無力化ですわ!」

 

そこで、ラウラとセシリアがそう言う。

 

「じゃあ予定通り、少人数に分かれて行動だね」

 

「ああ。誰か1人でも主砲を無力化出来れば、他のメンバーは動力炉か艦橋へ向かうのだったな」

 

シャルと箒も、作戦内容を確認する様にそう言う。

 

「………今回ばかりは生きて帰れるかしらね」

 

「決死の作戦ね………」

 

と、鈴と楯無が、今回の作戦が今までにない過酷なものである事への恐怖からか、そんな事を口走る。

 

「オイオイ、何言ってんだ、鈴? お前らしくも無い」

 

「その通りよ! 俺達は必ず勝つ!!」

 

「そして全員で生きて帰るんだ!!」

 

しかし、そんな恐怖を振り払うかの様に、グラパール・弾、グレンラガン、一夏の男性メンバーが勇ましい声を挙げる。

 

(神谷………)

 

(一夏………)

 

そんな男性メンバーの内、密かにグレンラガンに惚れ惚れしているシャルと、一夏に惚れ惚れしている箒。

 

「全く………アンタ達見ていると、ビビッてんのが馬鹿らしくなるわね」

 

「そうだね………皆で生きて帰ろうね!」

 

その言葉で、鈴と楯無の恐怖が消える。

 

「よし! 行くぞ、お前等ぁっ!!」

 

「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」

 

「…………」

 

そしてグレンラガンのその声で、一夏達は其々少人数に分かれて、天岩戸の内部へと突入して行くのだった。

 

 

 

 

 

天岩戸・艦橋………

 

「グ、グレン団です!! グレン団の連中が、天岩戸内に侵入しました!!」

 

「フ、フフフフフフフ………フハハハハハハハッ!!」

 

艦橋要員の獣人の報告を聞いたヴィラルが、突然笑い声を挙げる。

 

「ヴィ、ヴィラル隊長?」

 

「やはり! やはり来たか! グレン団!! 嬉しい! 俺は嬉しいぞ!! やはり俺の前に立ちはだかるのは、天上 神谷!! お前でなくてはならん!!」

 

艦橋要員の獣人が戸惑っていると、ヴィラルは続けてそう言い放つ。

 

「全部隊を侵入者迎撃に向かわせろ! 小煩いネズミ共を生かして帰すな!!」

 

「ハ、ハイッ!!」

 

ヴィラルがそう指示を出すと、艦橋要員の獣人は慌てて通信機を取り、侵入したグレン団の迎撃を通達するのだった。

 

「奴等の狙いは先ず主砲だな。そしてこの艦橋か動力炉と言ったところか………」

 

と、ヴィラルはそう呟いたかと思うと、動力炉に通信を繋ぐ。

 

「聞こえるか、ジギタリス?」

 

[ヴィラルか。先程の衝撃は、ひょっとすると………?]

 

「ああ、その通りだ………グレン団の連中が来た」

 

[やはり来たか………]

 

何と、この天岩戸にはジギタリスも乗っている様だ。

 

そしてジギタリスが居ると言う事は、ティトリーも………

 

「奴等は恐らく主砲を無力化した後、艦橋か動力炉へ向かう筈だ。動力炉へ向かった場合は………分かっているな?」

 

[承知している。俺にも獣人としての矜持がある]

 

「ならば任せたぞ」

 

と、ヴィラルはそう言うと一方的に通信を切る。

 

「さあ………来るなら来い! グレンラガン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

元号も令和へと変わり、最近は見かけなくなりましたが………
昭和の作品なんかでよく使われた、『旧日本軍の秘密兵器』ネタです。
鉄人28号しかり、轟天号しかり、メタルダーしかり………
ロマンです(笑)

そしてジギタリスも再登場。
当然彼女もいます。
いよいよ決着をつける事になるかと。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第58話『そんなにコイツが大事か?』

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第58話『そんなにコイツが大事か?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

リーロンの研究室………

 

「如何やら、無事突入出来たみたいね」

 

「その様だな………」

 

モニターに映る僅かに黒煙を上げている天岩戸の姿を見て、リーロンと千冬がそう言い合う。

 

「天上くん、織斑くん、篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさん、更識さん達、五反田くん………必ず、無事に帰って来て下さい」

 

真耶が祈る様なポーズを取りながら、グレン団メンバーの名を呟く。

 

「弾くん………」

 

「お兄………一夏さん………」

 

更に、何故か研究室に居る虚と蘭も、不安そうな表情で、モニターに映る天岩戸の様子を見ていた。

 

「お茶入ったよ~」

 

とそこで、のほほんが緑茶が入った人数分の湯呑をお盆に載せて姿を見せる。

 

「ああ、頂こう」

 

「ありがとう」

 

「どうもね」

 

千冬、真耶、リーロンが先ず受け取る。

 

「ハ~イ、お姉ちゃんと蘭ちゃん」

 

続いて虚と蘭に湯呑を渡すのほほん。

 

「………お前達。今からでも遅くは無い。避難したら如何だ?」

 

千冬は、虚とのほほん、蘭に向かってそう言う。

 

既に、彼女達を除いた生徒達は海上自衛隊の手によって洋上に避難している。

 

教師達も避難し、今IS学園に残っているのはこの場に居るメンバーだけだった。

 

「いえ、私は此処に居たいんです………弾くん達と一緒に戦う事は出来ないけど、せめて帰って来た時に1番に出迎えてあげたいんです」

 

すると、虚がそう言って来る。

 

「でも、学園が攻撃を受けないと言う保証は………」

 

「大丈夫だよ~。かみやん達なら、きっと学園を守ってくれるよ~」

 

真耶が心配する様に言うと、のほほんがいつもと同じ間延びした口調でそう言う。

 

(この子達も立派なグレン団のメンバーね)

 

そんな虚とのほほんの姿を見て、リーロンは心の中でそう思うのだった。

 

「…………」

 

しかし、只1人蘭だけが、複雑そうな顔をして居る。

 

彼女も勿論、一夏達の事を信じている。

 

だが、『もしかしたら』

 

そんな思いがつい頭を過ってしまう。

 

(私………一体何やってるんだろう………思わぬ形だったとは言え………折角一夏さんと同じIS学園に居るのに………その一夏さん達が戦っている時に何も出来ないなんて………)

 

そこまで思った時、グラパールを手にした兄・弾の姿が脳裏を過る。

 

(私にも………私にも、あんな力が有れば………)

 

と、蘭がそう思いながら拳を握り締めていた時………

 

研究室の片隅に置かれていたグラパール〈ピンク〉が、ポウッと淡い緑色の光を放った様に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天岩戸………

 

少々無茶苦茶な作戦を取りながらも如何にか天岩戸へと取り付き、その内部へ突入する事に成功したグレン団。

 

少人数の班に分かれ、先ずは主砲の無力化へと向かった。

 

しかし、天岩戸がIS学園を射程内に収めるまで、既に3時間を切っている。

 

果たして、グレン団の一同は間に合うのだろうか?

 

 

 

 

 

突入班1、鈴&グラパール・弾………

 

「侵入者だ!! グレン団の面々が艦内に侵入したぞ!!」

 

「発見次第殺せ!! 生かして帰すな!!」

 

物騒な事を口走りながら、ガンメン部隊が通路を進んで行く。

 

と、その一団が通り過ぎたかと思うと、脇道の通路から鈴とグラパール・弾がスーッと顔を覗かせた。

 

「行ったみたいね………」

 

「一々戦ってらんねえからな」

 

通り過ぎて行ったガンメン部隊の事を思いながらそう言い合う鈴とグラパール・弾。

 

「それにしても………適当に分かれたら、まさかアンタと組む事になるなんてね」

 

「一夏じゃなくてすまねえな」

 

鈴が若干ガッカリしている様にそう言って来たので、グラパール・弾はそんな返事を返す。

 

「この際そんな事言ってらんないわよ。コイツを止めないと、IS学園そのものが危ないんだから」

 

「そうだな………とっとと終わらせて虚さんのとこへ帰るぜ」

 

「………それは私に対する当て付け?」

 

そう言ったグラパール・弾を、鈴がジト目で睨み付けていると………

 

「居たぞ! あそこだ!!」

 

別のガンメン部隊が、鈴とグラパール・弾の背後から現れ、2人の姿を見るなり襲い掛かって来る!!

 

「!? ヤベッ! 見つかった!!」

 

「慌てんじゃないわよ!!」

 

グラパール・弾が一瞬慌てると、鈴がそう言い放ち、ガンメン部隊が向かって来る通路に向かって龍砲を放った!!

 

「「「「「!? うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

通路が崩れ、ガンメン部隊はその瓦礫に押し潰される。

 

「ザッとこんなもんよ」

 

ドヤ顔でそう言う鈴であったが、

 

「ナイスだ、鈴………と言いたい所だが」

 

「爆発音がしたぞ!!」

 

「コッチの方だ!!」

 

その爆発音を聞き付けたガンメン部隊が、次々に駆け付けて来る。

 

「余計に状況悪化したぞ!!」

 

「う、煩いわね! アタシだって失敗ぐらいするわよ!!」

 

グラパール・弾と鈴はそう言い争い合いながらも、ガンメン部隊に応戦しつつ、その場から退却して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突入班2、セシリア&ラウラ………

 

「コッチだ」

 

そう言うと、迷わず通路を突き進んで行くラウラ。

 

「待って下さい、ラウラさん! そんなに突き進んで、主砲部分に行けるのですか?」

 

そんなラウラの姿を見て、セシリアが思わずそう尋ねるが、

 

「問題無い。外見構造から大体の予想は付いている」

 

ラウラは自信満々にそう返す。

 

(こういう所は、流石に現役の軍人ですわね)

 

セシリアは内心で感心を示す。

 

と、その時!!

 

「! ラウラさん!!」

 

セシリアが不意にラウラに呼び掛けたかと思うと、即座にスターライトmkⅢを構えて発砲。

 

放たれたビームが、ラウラの横を通り過ぎて、彼女が曲がろうとしていた角へと飛び込んだ。

 

すると!!

 

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

悲鳴と共に、身体の中心を撃ち抜かれたアガーが倒れ込んで来て、爆散する。

 

「チイッ! バレたぞ!!」

 

「こうなったら一気に行けぇっ!!」

 

すると、更にそう言う声が聞こえて来て、曲がり角からガンメン部隊が姿を現す。

 

「チッ! 先を急いでいると言うのに………此処を迂回するとかなりのタイムロスになる」

 

通る予定だった通路に敵がひしめき、ラウラは愚痴る様にそう言う。

 

「ならば………突破するまでですわ」

 

と、セシリアはそう言うと、左手に近接ショートブレード・インターセプターを握る。

 

「それしかないな」

 

ラウラもそう言うと、両手にプラズマ手刀を出現させる。

 

「フフフ………私達、知らない間に大分神谷さんの影響を受けてしまっている様ですわね」

 

「全く………認めたく無いがな」

 

そこで2人は、不敵に笑いながらそう言い合う。

 

「「行くます(ぞ)!!」」

 

そして2人一緒に、通路にひしめく敵ガンメン部隊へ突撃して行く!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突入班3、楯無&簪………

 

「! エレベーターだよ!!」

 

共に進んでいた更識姉妹の内、楯無が前方に金網で囲まれている物資移送用と思われるエレベーターを発見する。

 

「見つけたぞ! 侵入者め!!」

 

「生きて帰れると思うな!!」

 

すると、楯無と簪から見て、エレベーターの右側に、レッドショルダーが2人現れる。

 

「このっ!!」

 

すぐに蒼流旋を構えて、ガトリングガンを発砲しようとした楯無だったが、

 

「姉さん………本命は左」

 

簪がそこで、ターレットレンズをスリット上で移動させながら、最初に現れたレッドショルダー2人が注意を惹いている間に、歩いての移動で気配を消しながら現れていたレッドショルダー2名が、エレベーターの左側に居る事に気づく。

 

そして、更識姉妹目掛けてブラッディライフルを発砲して来る。

 

「くうっ!!」

 

装甲に弾が当たって火花が散りながらも、楯無は最初に狙いを定めていたレッドショルダー2人をガトリングガンで蜂の巣にする。

 

「「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」

 

装甲が飛び散ったかと思うと、床に倒れて爆散するレッドショルダー達。

 

「…………」

 

その爆炎を突っ切って、簪がエレベーターへと乗り込む。

 

右側に居たレッドショルダー2名が、簪にブラッディライフルで弾丸を叩き込むが、エレベーターを囲っている金網の所為で上手く命中しない。

 

と、そこで簪がアームパンチで金網に穴を開けると、そこから今回の作戦用に持って来たGAT-22-C ヘヴィマシンガン改を突き出し、発砲する。

 

ヘヴィマシンガン改の弾丸を浴びたレッドショルダー2名は忽ち爆発・炎上した。

 

このヘヴィマシンガン改は、通常のヘヴィマシンガンに比べ、銃身の短縮とストックの省略が施されている。

 

その為、射程や命中精度では劣るが、重量が軽く取り回しが良い。

 

簪は今回、閉所での戦闘になる事を想定し、コチラのヘヴィマシンガン改を持って来ていた。

 

「ナイス、簪ちゃん」

 

「エレベーターを動かすわ………下に行くよ」

 

称賛しながら乗り込んで来た姉・楯無への対応もそこそこに、簪はエレベーターのコンパネを弄り、エレベーターを下降させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突入班4、一夏&箒………

 

「此処は如何だ!?」

 

通路の途中に在ったハッチを蹴破って、内部へと突入する一夏。

 

「うおっ!? 侵入者か!?」

 

「ええい! 排除しろ!!」

 

そこは副砲塔の中だった様で、砲身に付いていた獣人達が、一夏の姿を見て襲い掛かって来る!

 

「一夏! 伏せろ!!」

 

「!!」

 

と、背後の箒からそう言われて、一夏は反射的に床へと伏せる。

 

「吠えろ! 空裂!!」

 

その瞬間に、箒は空裂を横薙ぎに振るった!!

 

斬撃からエネルギー刃が生み出され、一夏に襲い掛かろうとしていた獣人達を、全て一刀の下に斬り捨てる!!

 

「「「「「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

獣人達は断末魔の叫びを挙げると床の上に落ち、死体は黒い液体に代わったかと思うと蒸発した。

 

「サンキュウ! 箒!」

 

「さて、此処は如何やって破壊する?」

 

礼を言って来る一夏に対し、箒は副砲塔内を見回してそう言う。

 

「簡単さ。コイツを使って………」

 

すると、一夏は弾倉に並んでいた副砲の砲弾の幾つかを取り出した。

 

「??」

 

何をする気だと箒が首を傾げていると、何と一夏は砲弾の弾頭を外して、中に詰まっていた火薬を抜き始める。

 

その火薬をまだ弾倉に装填されていた砲弾がある場所にばら撒くと、まるでラインを引くかの様に床に引き始めた。

 

そのまま、その火薬のラインを副砲塔の外まで引く一夏。

 

「良し………箒!! そこに居ると危ないぞ!!」

 

「! 成程。そう言う事か」

 

そこで一夏の意図を理解した箒は、すぐに副砲塔内から出る。

 

とそこで!

 

「居たぞ! 侵入者だ!!」

 

ガンメン部隊が一夏と箒を発見。

 

直ぐ様走り寄って来る。

 

「ちょっと遅かったな」

 

しかし、一夏は不敵に笑ったかと思うと、雪羅の荷電粒子砲を火薬のラインに向かって放つ!

 

すると、火薬に火が着き、花火の様に火花を散らしながら、ライン通りに副砲塔の中を目指して行く。

 

「なっ!? 貴様、何て事を!?」

 

「逃げるぞ! 箒!!」

 

「承知した!!」

 

ガンメンの1機が驚きの声を挙げた瞬間、一夏と箒は副砲塔の場所から離脱し始める。

 

「ま、待て!!」

 

「馬鹿! 今は消火が先だ!!」

 

慌ててガンメン1機が追おうとしたが、隊長機がそれよりも副砲塔内に続いている導火線を消すのが先だと言い、すぐに消火しようとする。

 

しかし、そのガンメン部隊の目の前で、導火線の火は副砲塔の中へ飛び込み、そして!!

 

一瞬間が開いた後、副砲塔が大爆発!!

 

ガンメン部隊は巻き込まれ、一瞬で蒸発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突入班5、グレンラガン&シャル………

 

「ドリルタックル!!」

 

「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

通路に立ち塞がっていたガンメン部隊に向かって、肩からドリルを出現させてのショルダータックル・ドリルタックルで一気に蹴散らすグレンラガン。

 

「神谷! 後ろからもドンドン来てるよ!!」

 

と、その後ろで両手にヴェントとガルムを握って弾幕を張っていたシャルが、次々に現れるガンメン部隊を見てそう言う。

 

「雑魚には構うな! 大砲を使えなくして、一気に本丸に攻め込むぜ!!」

 

グレンラガンはそう言うと、撃破したガンメン達の残骸を踏み越えて、通路を進んで行く。

 

「あ! 神谷、待ってよ~!!」

 

一瞬焦った声を挙げながらも、シャルはガルムの砲弾を天井に叩き込み、通路を瓦礫で封鎖した。

 

「良しっ!!」

 

そしてすぐに、グレンラガンの後を追って行くのだった。

 

少し進むと、やや大きめな分厚い鉄の扉が2人の行く手を遮る。

 

「神谷! あの扉の向こうは、ひょっとして………」

 

「稲妻キイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

シャルが何か言う前に、グレンラガンがその分厚い鉄の扉に、稲妻を纏った飛び蹴りを叩き込んだ!!

 

頑丈そうだった鉄の扉が、木の葉の様にブッ飛ぶ。

 

「………頼むから、もう少し人の話聞いてよぉ」

 

問答無用で扉をブチ破ったグレンラガンに、シャルはブーたれる様にそう言う。

 

「アハハハハハハッ! ワリィワリィ!」

 

余り反省の色が見えていない様子でそう謝罪するグレンラガン。

 

「もう~………!? コレは!?」

 

その様子に若干不満を感じながらも、シャルはグレンラガンがブチ破った扉の部屋を見て驚きの声を挙げる。

 

そこには、人間が入れそうなくらいの巨大な砲弾が所狭しと置かれていた。

 

「コイツは………」

 

「主砲の砲弾だよ………って事は、此処は弾薬庫だね」

 

グレンラガンとシャルは、手近に在った巨大砲弾を見遣りながらそう言い合う。

 

「よっしゃっ! だったらとっととブッ壊しちまおうぜ!!」

 

「待って! 慎重にやらないと………これだけ大きな砲弾となると、入ってる火薬の量もトンでもないだろうし………」

 

すぐにブッ壊そうとするグレンラガンを制し、シャルは安全な砲弾の破壊方法を模索するが………

 

「見つけたぞ! グレンラガン!!」

 

「此処は行き止まりだ!! 逃げ場は無いぞ!!」

 

そこで別ルートを取って来たガンメン部隊が到着。

 

弾薬庫の唯一の出入り口を押さえられてしまう。

 

「! ああ! しまった!! 出入り口が!!」

 

「おうおう、団体さんのお出ましだな」

 

それに焦るシャルに対し、グレンラガンは余裕の様子を見せる。

 

「フンッ! その強がりが何時まで続くかな! コレでも喰らえっ!!」

 

と、ガンメン部隊の中に居たメズーが、そう言って左腕のガトリングガンを向ける。

 

「馬鹿! 止めろ!! 砲弾に誘爆したら如何する!!」

 

しかしそこで、隊長機のガンメンがそう言って止める。

 

「おおっと!? そうだった………危ないところだったぜ」

 

メズーはそう言うと、ガトリングガンの発射を中止する。

 

すると………

 

「お~い! そんなにコイツが大事か?」

 

グレンラガンの砲弾の1発をポンポンと叩きながらそう尋ねて来た。

 

「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~っ!? 貴様何をやっているぅっ!?」

 

砲弾を粗雑に叩くグレンラガンの姿を見て、隊長機も他のガンメン達も仰天する。

 

「か、神谷! 爆発しちゃうよ!!」

 

シャルもそんなグレンラガンの姿を見て慌てる。

 

しかし、グレンラガンは大人しくするどころか、更なる暴挙へと出た!!

 

「よっ、と!」

 

何と!!

 

砲弾をバッと持ち上げたではないか!!

 

「「「「「なあっ!?」」」」」

 

「ちょっ!?」

 

グレンラガンのトンでもない行動にガンメン部隊とシャルは驚愕する。

 

「お、とっとっとっとっ!?」

 

と、砲弾が重かったのか、グレンラガンがよろけ、砲弾の弾頭が床にぶつかりそうになる。

 

「「「「「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「神谷ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

ガンメン部隊とシャルはすんごい叫び声を挙げる。

 

「よっ、とぉっ!!」

 

しかし、グレンラガンは持ち直し、とうとう砲弾を掲げ上げる。

 

「「「「「ほっ………!!」」」」」

 

「あううう…………」

 

思わず安堵の息を吐くガンメン部隊と、その場に座り込んでしまうシャル。

 

「フフフ………」

 

するとそこで、グレンラガンは不敵な笑いを零した。

 

「「「「「!?」」」」」

 

「か、神谷?」

 

ガンメン部隊とシャルは、急激に嫌な予感を感じる。

 

そして!!

 

「んああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ! 死なば諸共おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

何とグレンラガンは、掲げていた砲弾をガンメン部隊目掛けて投げ付けた!!

 

「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「神谷の馬鹿あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

ガンメン部隊の悲鳴と、シャルの罵声が響き渡った瞬間!!

 

砲弾が着弾!

 

そのまま大爆発を起こして、弾薬庫の中に在った他の弾薬を次々に誘爆させる!

 

そして!!

 

天岩戸に大穴が開く程の大爆発を起こすのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天岩戸・艦橋………

 

「!? のうわっ!?」

 

「「「「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

突然艦全体に走った凄まじい振動に、ヴィラルは倒れ、艦橋要員の獣人達も次々に担当の席から投げ出された。

 

「クッ! 何だ今の振動は!? 報告しろ!!」

 

「ハ、ハイッ!!」

 

ヴィラルがそう言いながら起き上がると、艦橋要員の獣人達もすぐに自分の担当席に座り直して行く。

 

と、ヴィラルは報告を待たずに、艦橋の窓から見える艦の状態を調べる。

 

「なっ!?」

 

そして驚愕した表情を浮かべた。

 

天岩戸の前部殆どが吹き飛び、甲板に大穴が開いていたのである。

 

更に、側面装甲の一部も破れている。

 

「コ、コレは………」

 

「ヴィラル様! 第3弾薬庫にグレンラガンと他1名が侵入! 弾薬庫を爆破したとの事です!!」

 

「その爆発で天岩戸の前部甲板は大破!! 主砲、副砲、及び対空機銃にロケット砲の半数が沈黙しました!!」

 

そこで、艦橋要員の獣人達からそう報告が挙がった。

 

「やはり奴の仕業か! オノレ、グレンラガン!! だが、それでこそだ!!」

 

それを聞いたヴィラルは、一瞬悔しそうな表情を浮かべたが、続いて猛獣の様な獰猛な笑みを浮かべる。

 

「さあ! 早く来い、グレンラガン!! 今度こそ決着を着けてやる!!」

 

「ヴィ、ヴィラル様! 侵入者がこの艦橋に向かって来ています!!」

 

とそこで、申し合わせたかの様に、艦橋要員の獣人からそう報告が挙がる。

 

「ほう、もう来たのか、グレンラガン」

 

逸る気持ちを感じるヴィラルだったが………

 

「いえ、違います。艦橋に接近して来ているのは白式と紅椿………織斑 一夏と篠ノ之 箒です」

 

艦橋要員の獣人からは、続いてそう報告が挙がる。

 

「何っ? グレンラガンではないのか?」

 

それを聞いたヴィラルは、一瞬落胆した様な表情をする。

 

(しかし、あのブリュンヒルデの弟と第4世代ISの使い手………何よりグレン団の仲間ならば、少しは楽しめるかもしれんな)

 

だが、一夏と箒がグレン団のメンバーである事を思い出し、一抹の期待を掛ける。

 

「良し! 天岩戸の操縦を自動に切り替えろ! こうなればコイツをそのままIS学園に突っ込ませる!! お前達は俺と共に織斑 一夏と篠ノ之 箒の迎撃に向かうのだ!!」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

ヴィラルはそう命令を下し、天岩戸を自動操縦に切り替えると、艦橋要員の獣人達を引き連れて、一夏と箒の迎撃に出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

弾薬庫の大爆発に巻き込まれたかと思われたグレンラガンとシャルは………

 

「シャル! オイ! しっかりしろ!!」

 

そう言う台詞と共に、自分の頬をペシペシと叩いている存在が居る事を感じるシャル。

 

「う………ううん?」

 

「気が付いたか?」

 

目を開けると眼前には、グレンラガンの姿が在った。

 

「神谷………!? ハッ!? 此処は!?」

 

一瞬ぼんやりとしてしまうシャルだったが、すぐに敵地へ来ていた事を思い出すと飛び起きる。

 

すると、今自分とグレンラガンが居る場所は、所々から蒸気を噴出している大型の機械が在る場所である事に気づく。

 

「如何やら此処が動力室みてぇだな」

 

そう言いながらグレンラガンも立ち上がる。

 

「如何してそんな所に?」

 

先程弾薬庫の爆発に巻き込まれたかと思ったら、次の目的地点であった動力炉に到達していた事に、シャルは首を傾げる。

 

「な~に、砲弾が爆発した瞬間にお前を抱えて両足をドリルにして床板を掘り進んだワケよ! 爆発で脆くなってたからな! 掘るのは簡単だったぜ!!」

 

自慢する様にそう語るグレンラガン。

 

しかし、それは爆発のタイミングを僅かでも間違えれば、命は無かった危険な手段である。

 

「そうだったんだ………」

 

「おうよ! 如何だ、俺の見事な作戦は………!? アダッ!?」

 

そこまで言った瞬間、シャルがグレンラガンの頭を引っ叩いた!

 

「何しやがんだ!?」

 

「馬鹿! 神谷の大馬鹿!! 1歩間違えたらコッチまで危なかったじゃないか!! 馬鹿馬鹿馬鹿~~~っ!!」

 

余程怖かったのか、シャルはまるで駄々っ子の様に拳をポカポカとグレンラガンに叩き付ける。

 

「ちょっ!? おま! 止めろって!!」

 

防御姿勢を取ってそれに耐えるグレンラガン。

 

傍から見れば、恋人同士のじゃれ合いにも見えなくもないが、シャルの方がISを装着している為、ダメージは馬鹿にならない。

 

と、そこで………

 

「敵地で随分な余裕だな、グレンラガン」

 

「「!?」」

 

そう言う声が聞こえて来て、グレンラガンとシャルが振り返ると、そこにはジギタリスの姿が在った。

 

「か、神谷………シャル………」

 

更に、そのやや後ろにはティトリーの姿も在る。

 

「ジギタリス………」

 

「ティトリー………」

 

ジギタリスを見て表情を引き締めるグレンラガンと、ティトリーを見て悲しそうな顔をするシャル。

 

「「「「…………」」」」

 

その後互いに沈黙し、暫しそのまま時が流れる。

 

「来ると思っていたぞ」

 

やがて、ジギタリスの方からそう沈黙を破る。

 

「へっ! 当然だろ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

そんなジギタリスに、グレンラガンはお決まりの台詞を返す。

 

「………最早言葉は要るまい。我等がするべき事は! 己の全てを賭けて戦い合う事だ!!」

 

と、ジギタリスはそう言い放ち、ガンメンバッジを手に握った!!

 

「!!」

 

それを見たグレンラガンも構えを取る。

 

「ティトリー………君もそうなの?」

 

と、シャルの方はティトリーへとそう語り掛ける。

 

「シャルロット………」

 

「僕は今でも君の事をグレン団の仲間だと思ってるよ。学園に居た時、神谷や皆と一緒に居た君は、本当に楽しそうに笑ってたじゃないか!」

 

ティトリーと戦いたくないシャルは、まるで説得するかの様にティトリーにそう語り掛けるが、

 

「ア、アタシは………獣人なんだ………獣人なんだよ!!」

 

そう叫び、ティトリーはガンメンバッジを取り出した!

 

「ティトリー!!」

 

「シャル! お前の魂をアイツに伝えたいんなら戦え!!」

 

戸惑うシャルに、グレンラガンがそう言う。

 

「神谷! でも!!」

 

「それが今! 俺達に出来る事だ!!」

 

グレンラガンはそう断言する。

 

「…………!!」

 

逡巡する様子を見せたシャルだったが、やがて両手にマシンガンを構えた。

 

「それで良い………行くぞ! グレンラガン!! 今日こそ雌雄を決しようではないか!!」

 

ジギタリスがそう言い放つと、その姿はザウレッグへと変わる。

 

その後ろ隣に居たティトリーも、メガヘッズへと変わる。

 

「「「「…………」」」」

 

互いに構えを取り合い、睨み合いとなるグレンラガンとシャル、ザウレッグとメガヘッズだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新年最初の新話、投稿させて頂きました。

順調に天岩戸を攻略するグレン団。
艦橋にいたヴィラルとは一夏と箒が………
そして動力室では神谷達がジギタリス達と激突します。
果たして勝負の行方は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第59話『偶にはカッコつけさせてくれよ』

ちょっとお知らせがあります。

詳しくは後書きにて書きますので、よろしければ最後までお読み下さい。

お願いします。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第59話『偶にはカッコつけさせてくれよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園へと迫るロージェノム軍によって現代に蘇させられた旧日本軍の本土決戦用移動式防衛要塞零号『天岩戸』

 

その侵攻を阻止する為に、グレン団のメンバーは天岩戸の内部へと突入する作戦を執った。

 

厚い装甲に守られている天岩戸を、外から破壊する事は難しい。

 

そこで、内部から破壊工作で撃破する作戦に出たのだ。

 

そして、神谷ことグレンラガンとシャルの活躍で、弾薬庫の破壊に成功。

 

主砲の大半が無力化され、指揮を執っていたヴィラルは、天岩戸をIS学園に突っ込ませる作戦に出る。

 

そのヴィラルが居る艦橋に、一夏と箒が斬り込んだ。

 

一方、同じ頃………

 

動力炉へと到着していたグレンラガンとシャルは、ジギタリスとティトリーと対峙する。

 

果たして、彼等は天岩戸を止める事が出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天岩戸内………

 

突入班1、鈴&グラパール・弾………

 

「オイ! さっきの爆発音と震動は!?」

 

曲がり角に身を隠しながら、通路の先で弾幕を張っているカノン・ガノン部隊にハンドガンで攻撃しているグラパール・弾が、グレンラガンが弾薬庫を吹き飛ばした爆発音と震動に気づいてそう言う。

 

「分からないけど、相当だったわね………弾薬庫でも爆発しのかしら?」

 

そのグラパール・弾の後ろで、双天牙月を握り締めている鈴がそう推察する。

 

「一体誰が………って、あんな派手な事すんのは決まってるか」

 

「神谷ね………」

 

そして2人共、先程の爆発が神谷の仕業だと確信する。

 

「でも、弾薬庫を爆破したって事は、主砲を無力化出来たって事よね?」

 

「なら、後は艦橋か動力室に向かうだけか」

 

「通信が全く通じないのが痛いわね………」

 

そう言いながら通信回線を開く鈴だったが、スピーカーからはノイズしか返って来ず、画面も砂嵐状態だった。

 

ミサイルを無力化する為の強力なジャミング装置が、通信回線にまで影響を及ぼしているのである。

 

「仕方ねえ。俺達は俺達で動くしかねえな」

 

「なら動力室に行きましょう。派手な花火を挙げるには持って来いじゃない」

 

「良い提案だな」

 

「じゃあ! 行くわよ!!」

 

と、そこで鈴がバッと角から飛び出すと、カノン・ガノン部隊に向かって、龍砲を連射する!!

 

直撃を貰ったカノン・ガノンの何体かが吹き飛ぶ!!

 

「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」

 

そして、まだ爆煙が晴れぬ内に、鈴とグラパール・弾は、双天牙月とグラパールブレードを構えて一気に突撃するのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突入班2、セシリア&ラウラ………

 

「そこっ!!」

 

曲がり角目掛けてスターライトmk-Ⅲを発砲するセシリア。

 

「「「「「ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

放たれたビームが角を曲がり、先の通路へと飛び込んだかと思うと、待ち伏せていたガンメン部隊を吹き飛ばす。

 

「進路、クリアですわ!!」

 

「良し! 行くぞ!!」

 

背後から迫る敵に対し、AICを展開してセシリアの背を守っていたラウラに、セシリアはそう言うと、2人は共に先の通路へと進んで行った。

 

「逃がすな!!」

 

「追え追え!!」

 

すぐに背後から迫っていたガンメン部隊は追撃する。

 

そして、2人が曲がった角を、ガンメン部隊も曲がった瞬間………

 

「掛かったな」

 

「お待ちしておりました」

 

先へと進んだと見せかけて実は待ち構えていたラウラとセシリアは、大型レールカノンとスターライトmk-Ⅲ、そしてビットのブルー・ティアーズで一斉射撃を見舞う!!

 

「「「「「獣人万ざーーーーーいっ!!」」」」」

 

一斉射撃を受けたガンメン部隊は一気に爆散。

 

更に爆発の余波で通路が崩れて塞がる。

 

「コレで追撃は防げるな」

 

「ですが、別に脱出経路を探し出さなければならなくなりましたわ」

 

と、ラウラとセシリアがそう言い合っていると、

 

「居たぞ! あそこだ!!」

 

先へ向かう通路の方から、新たなガンメン部隊が現れた。

 

「今、先の事を気にしても仕方あるまい」

 

「そうですわね………先ずはこの場を切り抜けると致しましょう!!」

 

ラウラとセシリアはそう言い合って、プラズマ手刀とインターセプターを構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突入班3、楯無&簪………

 

エレベーターで下層へと降りた更識姉妹は、再び通路を移動していた。

 

すると、背後から弾丸が飛んで来る。

 

「「!?」」

 

「逃がさねえぞ! このクソガキ共!!」

 

そう言いながら、1人のレッドショルダーが更識姉妹を追って通路を進んで来る。

 

更にその背後から、もう1人が続いて来る。

 

「ヤッバ! 後ろ取られちゃった!?」

 

「チッ………」

 

背後を取られてやや慌てる楯無と、即座に反転するとバックしながらヘヴィマシンガン改を構えて発砲して応戦する簪。

 

「チイッ! このぉっ!!」

 

ヘヴィマシンガン改の弾丸が装甲部分に当たって火花を散らしながらも、レッドショルダーは構わずにブラッディライフルを発砲して来る。

 

「!? クッ!?」

 

と、その内の1発の弾丸が、簪の左足に命中!!

 

角度が浅かったので装甲で弾かれたが、簪はバランスを崩し、右の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)を右肩ごと壁に擦り付ける状態となる。

 

右の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)と右肩の装甲が火花を散らして削れて行く。

 

「簪ちゃん!!」

 

「!!」

 

だが、簪はそのままヘヴィマシンガン改を構えて発砲!!

 

「!? ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

その弾丸が運良くISコアに直撃し、追って来ていたレッドショルダーのブラッドサッカーは機能停止。

 

自爆装置が作動し、更に後ろから追って来ていたレッドショルダーを巻き込んで爆散する!!

 

「ナイス! 簪ちゃん!!」

 

「………先を急ぐよ」

 

簪を褒める楯無だったが、簪は特にリアクションを見せず、体勢を立て直すと再び前進。

 

楯無を追い越して進んで行った。

 

「あ! ちょっ!? 待ってよ~~!!」

 

若干情けない声を出しながら、その後を追う楯無であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

艦橋部分へと突入した突入班4・一夏&箒は………

 

「必殺! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

目の前に立ち塞がっていた鋼鉄製の隔壁に向かって、雪羅でのシャイニングフィンガーを繰り出す一夏。

 

シャイニングフィンガーが隔壁に命中すると、そのまま隔壁が熱で赤く染まり始め、最後には弾けて巨大な穴が開く。

 

「来たぞ!!」

 

「此処から先へ行かせるなぁ!!」

 

と、隔壁の先で待ち構えていたガンメン部隊が、隔壁を溶かして姿を見せた一夏に一斉攻撃。

 

「むんっ!」

 

しかし、一夏は雪羅から今度はエネルギーシールドを展開。

 

最初の一斉射を防いだかと思うと、

 

「イグニッション! ブウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーストッ!!」

 

エネルギーシールドを発生させたまま、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動!

 

ガンメン部隊の中に居たゴズーへと突撃する!!

 

「!? ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

ゴズーはそのままエネルギーシールドに押されて行き、反対側の壁に挟まれプレスされたかと思うと、爆散した!!

 

「!?」

 

「貴様ぁっ!!」

 

すぐに突破されたガンメン部隊が振り返り、一夏の背中を狙うが、

 

「させん!!」

 

そこで溶けた扉の影に隠れていた箒が飛び出し、雨月と空裂でガンメン部隊を斬り裂く。

 

「!? しまった! もう1人居たのか!?」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

更にそこで、実体剣モードの雪片弐型を構えた一夏もガンメン部隊に斬り掛かる。

 

結果的に挟み撃ちされる形となったガンメン部隊は瞬く間にスクラップと化した。

 

「良し!! 後は艦橋まで一直線だ!!」

 

「それは如何かな?」

 

と、一夏がそう言ったところで、そう言う台詞と共に、ヴィラルことエンキドゥが姿を現す。

 

「! エンキドゥ………ヴィラルと言う奴か」

 

エンキドゥの姿を見た箒がそう言う。

 

「織斑 一夏、そして篠ノ之 箒か………グレンラガンでないのが残念だが、まあ良い」

 

そこで、両手にエンキソードを握るエンキドゥ。

 

「世界唯一の男性IS使いでブリュンヒルデの弟と、篠ノ之 束の妹であり世界で唯一の第4世代IS使い………貴様等も何れ我等の脅威となろう。今此処で潰させてもらう」

 

「そう簡単に行くと思うな!」

 

「その通りだ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

エンキドゥの挑発的な言葉に、箒はそう言い返し、一夏もお決まりの文句を言い放つ。

 

「ふっ、その台詞を貴様が言うか?」

 

神谷と同じ台詞を言い放つ一夏を小馬鹿にする様にエンキドゥはそう言い放つが、

 

「舐めるなぁ!! うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そこで一夏は、実体剣モードの雪片弐型を上段に構え、エンキドゥに突撃して行く!!

 

「一夏!?」

 

「馬鹿め! 挑発にまんまと乗るとはな!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

箒が驚きの声を挙げ、エンキドゥがそう言うが、一夏は構わずに実体剣モードの雪片弐型を振り下ろす。

 

「そんな見え見えの剣筋なぞ!!」

 

両手のエンキソードを交差させて、実体剣モードの雪片弐型を受け止めようとするエンキドゥだったが………

 

「………へへっ」

 

何とそこで一夏は不敵に笑ったかと思うと、上段からの振り下ろしを態と空振る。

 

「!? 何っ!?」

 

「うりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

そして振り下ろし切ったかと思われた瞬間!

 

そのまま同じ速度で斬り上げを繰り出した!!

 

「!? チイッ!?」

 

エンキドゥは咄嗟に飛び退くが、エンキラッガーの一部が斬り裂かれ、欠片が床に落ちる。

 

「アレは!? 燕返し!?」

 

箒が驚きの声を挙げる。

 

それは、嘗て巌流島の決闘で宮本 武蔵に敗れた剣豪・佐々木 小次郎の得意技と言われる剣技・燕返しだった。

 

「貴様!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

怒りの声を挙げるエンキドゥに、一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で突撃!!

 

「!?」

 

エンキドゥはガードしたものの、突進の勢いを殺し切れず、そのまま一夏と共に壁を突き破って行った!!

 

「! 一夏!!」

 

呆然としていた箒がそこで我に返り、慌てて後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、動力炉では………

 

グレンラガンとシャルVSザウレッグ&メガヘッズの戦いが繰り広げられていた。

 

「せりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンとザウレッグの拳がぶつかり合う。

 

「ぐぐぐぐぐぐぐ………」

 

「ぬぬぬぬぬぬぬ………」

 

そのまま、拳同士をぶつけ合った状態で力比べへと突入するグレンラガンとザウレッグ。

 

「「!?」」

 

と、やがて互いに弾かれる様に距離を取る。

 

「キャロットボンバー!!」

 

そこで、ザウレッグはキャロットボンバーをグレンラガン目掛けて投擲する!

 

「何のぉ! ブーストキイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

だが、グレンラガンはブーストキックでキャロットボンバーを蹴り飛ばす。

 

蹴り飛ばされたキャロットボンバーは、在らぬ方向へ飛んで爆発する。

 

「チイッ! 喰らえぇっ!!」

 

とそこで、ザウレッグは怪音波攻撃を繰り出す。

 

「おおっと!!」

 

しかし、グレンラガンは寸前で跳躍し、ザウレッグの背後へと回る。

 

「むうっ!?」

 

「その手はもう喰わねえぜ!! 超電磁パアアアアアァァァァァァーーーーーーーンチッ!!」

 

そして、ザウレッグが振り向いた瞬間に、超電磁パンチを喰らわせる!!

 

「ぐおあぁっ!?」

 

真面に喰らった様に見えたザウレッグだったが、その瞬間にカウンターで蹴り上げを繰り出す!!

 

「ガッ!?」

 

顎を蹴り上げられ、グレンラガンはよろけ、数歩後退る。

 

「チイッ! やってくれるじゃねえか!!」

 

口の端から流れた血を拭いながら、ザウレッグに向かってそう言い放つグレンラガン。

 

「貴様こそ………益々腕を上げたな」

 

装甲が罅割れなながらも、ザウレッグはグレンラガンにそう返す。

 

「だが! まだまだやられはせんぞ!!」

 

「上等だ!!」

 

と、互いにそう言い合うと、ザウレッグとグレンラガンは再び激しくぶつかり合うのだった。

 

一方、メガヘッズと戦っているシャルの方も………

 

「ええーいっ!!」

 

「クウッ!!」

 

メガヘッズのショルダータックルを、シャルは実体シールドで受け止める。

 

衝撃で少々後退ったが、何とか防ぎ切る。

 

「このっ!!」

 

そこで右手にマシンガンを出現させると、メガヘッズ目掛けて発砲する。

 

「当たらないよ!」

 

しかし、やはり友達であるティトリーと戦うのに躊躇しているのか、若干狙いが甘く、躱されてしまう。

 

「ヤアアッ!!」

 

とそこで、メガヘッズが口を大きく開けたかと思うと、火炎放射を見舞って来る。

 

「!!」

 

再び実体シールドを構えるシャルだったが、火炎放射の余りの熱の前に、実体シールドが融解を始める。

 

「!? 嘘っ!?」

 

慌てて溶け掛けた実体シールドをパージし、離脱するシャル。

 

パージされた実体シールドは、完全に炎に呑まれ、溶けた鉄の塊と化す。

 

「クウッ! ティトリー………」

 

その様に戦慄しながらも、悲しみの籠った瞳をメガヘッズへと向けるシャル。

 

「…………」

 

メガヘッズも、そんなシャルの瞳を見て、一瞬動きを止める。

 

「………気合パンチ!!」

 

だが、すぐに再び動き出し、気合パンチを見舞って来る!!

 

「!? うわああっ!?」

 

真面に喰らってしまったシャルはブッ飛び、動力室に在った機材に背中から突っ込む。

 

「アイタタタタタ………」

 

「ヤアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

後頭部を擦りながら、シャルが起き上がると、大口を開けたメガヘッズが飛び掛かって来る。

 

「!?」

 

シャルは慌てて、転がる様に移動してメガヘッズの飛び掛かりを躱す。

 

メガヘッズはそのまま、先程までシャルが居た場所に噛み付き、半壊していた機材の一部を咬み千切る!

 

「………やっぱり………戦うしかないの!?」

 

シャルはそう言いながら、右手にヴェント、左手にブレッド・スライサーを構える。

 

そして、ヴェントの方を発砲しながら、メガヘッズへと突撃する。

 

「ニャアッ!?」

 

ガード姿勢を取り、ヴェントの銃撃に耐えるメガヘッズ。

 

「ええいっ!!」

 

その間に接近して来ていたシャルが、左手のブレッド・スライサーを横薙ぎに振るう!!

 

「!!」

 

メガヘッズは咄嗟に跳躍し、横薙ぎに振られたブレッド・スライサーを飛び越える!!

 

「貰った!!」

 

と、そこで空中で身動きが取れなくなったメガヘッズに、シャルはヴェントの銃口を突き付ける。

 

「!?」

 

一瞬硬直するメガヘッズだったが、シャルの指が引き金に掛けられた瞬間!

 

「ガブッチョッ!!」

 

何と!!

 

ヴェントの先端に噛み付いた!!

 

「うええっ!?」

 

シャルが驚きの声を挙げた瞬間、

 

「うがああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

メガヘッズはそのまま、ヴェントの銃身を咬み砕く!!

 

「!? うわっ!?」

 

衝撃で後ろに飛ばされるシャル。

 

「クウッ!!」

 

しかし咄嗟に、吹っ飛ばされながらも、左手に持っていたブレッド・スライサーをメガヘッズ目掛けて投げ付ける!

 

「!? ニャアアッ!?」

 

投擲されたブレッド・スライサーは、メガヘッズの装甲の一部を火花と共に斬り裂き、弾かれる。

 

「フッ!」

 

そしてシャルは、受け身を取って着地する。

 

とそこで!

 

「ぬおわぁっ!?」

 

メガヘッズの傍に、ブッ飛ばされたザウレッグが転がって来た!

 

「!? おっさん!!」

 

「如何した!? それで終わりじゃねえだろ!?」

 

メガヘッズが慌てて助け起こすと、ザウレッグと戦っていたグレンラガンがそう言い放って来る。

 

「チイッ! やりおるわ!! それでこそグレンラガンよ!! 良いだろう! 遊びは終わりだ!! ティトリー!!」

 

「!!」

 

と、ザウレッグがそう言った瞬間、メガヘッズと重なり合う。

 

そして、合体ガンメン・ザガレッズとなった!!

 

「おもしれぇっ! シャル! コッチも合体だ!!」

 

「! う、うん!!」

 

それを見たグレンラガンが、シャルにそう呼び掛けると、2人の姿が重なり、緑色の光に包まれる。

 

そして、光が弾けると!!

 

「「熱風合体!! ラファールラガン!!」」

 

合体したグレンラガンとシャル・ラファールラガンが姿を現した!!

 

「行くぞぉっ!!」

 

「おおう!!」

 

ジギタリスと神谷の声が響くと、両者は互いに突撃し合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ヴィラルことエンキドゥと戦っている一夏と箒は………

 

「うおわあっ!?」

 

「ぬうあっ!?」

 

艦内の壁を幾つも突き破った一夏とエンキドゥは、とうとう外へと繋がるハッチをブチ破り、天岩戸の後甲板へと出た!!

 

「うわっ!? ガッ!?」

 

「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

階段状に設置されていた対空機銃座の上をバウンドしながら転がって行く一夏と、転げ落ちて行くエンキドゥ。

 

「一夏! 無事か!?」

 

と、遅れて出て来た箒が、一夏の方を助け起こす。

 

「イテテテテテ………頭打った………」

 

一夏は左手で頭を擦りながら起き上がる。

 

と、そこで!!

 

一夏と箒に銃弾が襲い掛かって来た!!

 

「!? うわっ!?」

 

「ぬうっ!?」

 

「人間如きが! 舐めた真似を!!」

 

エンキドゥが対空機銃座の1つに着き、一夏と箒目掛けて発砲する。

 

防御用の装甲板に隠れる2人だったが、機銃の威力の前に、装甲板がドンドン凹んで行く。

 

「クウッ! このぉ!!」

 

とそこで箒が、背部の展開装甲2つを切り離し、ビットとして飛ばす。

 

「! チイッ!!」

 

エンキドゥが飛び退くと、ビットは先程までエンキドゥが付いていた機銃座に突き刺さり、爆散させる。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そこで一夏が飛び出し、実体剣モードの雪片弐型を横薙ぎに振るう。

 

「甘いっ!!」

 

だが、ヴィラルは跳躍して躱したかと思うと、そのまま前転して一夏の頭部に踵落としを叩き込んだ!!

 

「ガハッ!?」

 

「喰らえっ!!」

 

そして更に、着地すると同時に装甲内部の武装を展開!

 

そのまま至近距離から全弾一夏に叩き込む!!

 

「おわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

ブッ飛ばされた一夏は、そのまま副砲塔の側面に叩き付けられる。

 

副砲塔の側面が放射状に凹む。

 

「まだまだ行くぞ!!」

 

更にそこで、エンキラッガーを投擲するエンキドゥ。

 

「!?」

 

「やらせん!!」

 

だが、ビットを回収した箒が間に割り込み、雨月でエンキラッガーを弾き飛ばす。

 

「チイッ! 邪魔をしおって!!」

 

エンキラッガーを回収しながらそう言うエンキドゥ。

 

「一夏! 今の内にエネルギーを!!」

 

「お、おう!!」

 

箒がそう言って絢爛舞踏を発動させ、一夏はエネルギーを回復する。

 

「やはり厄介だな、貴様の紅椿のその能力………世界で唯一の第4世代ISなだけはある」

 

と、その様子を見ていたエンキドゥがそう呟く。

 

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

とそこで、白式へのエネルギー供給が終わり、今度は箒が両手の雨月と空裂で斬り掛かる。

 

「フンッ!!」

 

それをエンキソードで受け止めるエンキドゥ。

 

「ぐぐぐぐぐぐ………」

 

そのまま鍔迫り合いへと突入する。

 

雨月と空裂、エンキソードの刃がぶつかり合って火花を散らす。

 

「でえええええいっ!!」

 

とそこで、箒の背後から一夏が飛び出し、雪羅をエンキドゥに向け、荷電粒子砲を見舞おうとする。

 

「甘いっ!!」

 

だが、エンキドゥは肩にミサイルランチャーを出現させ、一夏へミサイルを見舞う。

 

「!? うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

全弾直撃し、甲板の上に落ちる一夏。

 

「!? 一夏!?」

 

「他人に気を取られて隙を見せるとは………まだまだ未熟!!」

 

その瞬間、一夏に気を取られてしまった箒に、エンキドゥは体当たりを見舞う!!

 

「!? ぐうっ!!」

 

「セイリャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

箒の体勢が崩れたところで、エンキソードを振るう。

 

「!!」

 

咄嗟に雨月と空裂で防御しようとしたが、

 

「馬鹿め! それが狙いだ!!」

 

エンキドゥはそう叫んだかと思うと、雨月と空裂の僅かに見えていた柄の部分を斬り裂いた!!

 

柄を斬り裂かれた雨月と空裂の刀身が、金属音を立てながら地面に落ちる。

 

「なっ!? 雨月と空裂が!?」

 

「セイヤァッ!!」

 

更にそこで、エンキドゥは箒の腹に、前蹴りを叩き込む!!

 

「ガハッ!?」

 

ブッ飛ばされて、甲板の上を背中で滑って行く箒。

 

「ガッ………ハッ………」

 

一瞬吐きそうになりながらも如何にか耐える。

 

「あ、雨月と空裂が………」

 

起き上がりながら、柄だけになってしまった雨月と空裂を見て箒は呆然となる。

 

「勝負あったな………」

 

「! まだだ!! まだ私は!!」

 

しかし、エンキドゥにそう言われると、再び突撃。

 

展開装甲を展開している状態の脚部で蹴りを繰り出す。

 

紅椿の展開装甲は、展開中は常にその場所にエネルギーの幕が出来ており、言わば全身にエネルギーの刃を纏っていると言える。

 

その最たる例が、背部の2基をビットとして飛ばせる点であろう。

 

その展開装甲のエネルギー刃を使って、箒はエンキドゥを斬ろうとしただが………

 

「おっと」

 

その蹴りは、エンキドゥにアッサリと躱される。

 

「そらっ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

そして、逆にエンキドゥの蹴りを喰らってしまう。

 

「クウッ! このっ!!」

 

すると箒は、一旦距離を取り、再びビットを飛ばす。

 

エネルギー刃を展開してビット2基が、エンキドゥへと向かうが、

 

「見切ったぞ!!」

 

エンキドゥは、一旦エンキソードを鞘へと戻すと、エンキラッガーをサイドスローで投擲!!

 

横回転しながら弧を描く様に飛んだエンキラッガーがビットの側面から当たり、粉々にしてしまう!!

 

「!? 何っ!?」

 

「コレで貴様の武器は無くなったな!!」

 

エンキドゥはそう言い放つと、エンキカウンターを箒目掛けて放つ!!

 

「っ!?」

 

咄嗟に防御姿勢を取る箒。

 

エンキカウンターはシールドに弾かれて床に落ちるが、徐々にシールドエネルギーを削って行く。

 

(イ、イカン! このままでは!!)

 

と、箒がそう思った時!!

 

荷電粒子砲が、エンキドゥに直撃する!!

 

「!? ぐあああああっ!?」

 

身体から黒煙を上げて数歩後退るエンキドゥ。

 

「俺を………忘れてもらっちゃ困るぜ」

 

そこには、ミサイルを全身に浴びた為、装甲が所々罅割れている一夏の姿が在った。

 

「! 一夏!!」

 

「箒、此処は俺に任せろ。お前が援護してくれ」

 

そう言いながら一夏は箒の前に出る。

 

「しかし、一夏………!!」

 

「武器が無いのに無理すんな。それに………」

 

そう言いながら、一夏は箒の方を振り返る。

 

「偶にはカッコ付けさせてくれよ」

 

そしてフッと笑って見せる。

 

「!?」

 

その瞬間、箒は戦闘中にも関わらず胸の高鳴りを覚え、一瞬で頬を紅潮させる。

 

「ば、馬鹿者! 何を言っている!?」

 

「ええい! 貴様ぁ!! 舐めた真似をぉ!!」

 

と箒が怒鳴り声を挙げると同時に、エンキドゥも怒りの声を挙げて来た。

 

「行くぜ!!」

 

それを見た一夏は、エンキドゥに突撃して行く!!

 

「オイ! 一夏!! エエイ!!」

 

箒は悪態を吐く様にそう言いながらも、そんな一夏の援護に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

リーロンの研究室………

 

「天岩戸がIS学園を射程内に収めて1時間が過ぎたわ」

 

リーロンが、コンパネを叩きながらそう報告する。

 

「だが砲撃は無い………と言う事は」

 

「天上くん達が成功したんですね」

 

それを聞いた千冬と真耶がそう声を挙げる。

 

「ええ。でも、まだ天岩戸自体は止まっていないわ。このままだと、後4時間後にはIS学園に突っ込んで来るわ」

 

しかし、リーロンは続けてそう報告して来る。

 

「「…………」」

 

それを聞いて、千冬と真耶は苦い表情を浮かべる。

 

(一夏さん………)

 

(弾くん………)

 

その後ろの方で、只管に思い人の無事を祈っている蘭と虚。

 

(かみやん………私………グレン団の事、信じてるからね)

 

只1人、のほほんだけがまるで全てを悟っているかの様な表情で、のんびりを茶を啜っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

いよいよ因縁の対決の幕開け。
動力部で戦う神谷達とジギタリス達。
甲板で戦う一夏達とヴィラル。
天岩戸がIS学園に突っ込むまであと4時間。
果たして、勝負の行方は?



さて、前書きに書いたお知らせという話ですが………

実は新作を考え付きまして。

ズバリ!

新サクラ大戦×ウルトラシリーズのクロスオーバーです。

実は私、サクラ大戦を好きになってオタクの道に踏み込んだんですよね。

新サクラ大戦は残念な所が目立つかも知れませんが、決して良い所が無い作品ではないので、楽しむ事が出来ました。

で、これで1つ作ってみたいと思いまして。

詳しくはまた後日にでも発表しますが、新サクラ大戦の主人公・神山 誠十郎がウルトラマンゼロと一心同体になります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第60話『漢は約束を死んでも守るもんだ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第60話『漢は約束を死んでも守るもんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天岩戸・動力炉………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「つえああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

気合の雄叫びと共に、ラファールラガンの右拳と、ザガレッズの左拳がぶつかり合う!!

 

両者が纏っているエネルギーがスパークを起こし、動力炉中に飛び散る。

 

「ぬうっ!?」

 

「チイッ!!」

 

やがて両者は弾かれる様に距離を取る。

 

「ザガレッズインパクト!!」

 

ザガレッズの両脇下からミサイルを放つ。

 

「何のぉっ!!」

 

だが、ラファールラガンはレイン・オブ・サタディを取り出し、ミサイルを撃ち落とす。

 

「チイッ! ならばこれで如何だ!?」

 

ザガレッズは続けて、素早いハイキックを見舞って来る。

 

「それぐらい! ブーストキイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

だがそれに対し、ラファールラガンもブーストキックを繰り出す。

 

ザガレッズのハイキックと、ラファールラガンのブーストキックがぶつかり合い、またもスパークが飛び散る。

 

と、余りのスパークの量に、遂に爆発が起きる!!

 

「ぬううああっ!?」

 

「ニャアッ!?」

 

「うおわっと!?」

 

「わああっ!?」

 

ジギタリス、ティトリー、神谷、シャルの声が響き渡り、ザガレッズとラファールラガンは互いにブッ飛び、機材へ背中から突入する。

 

「イデデデデデ………」

 

と、ラファールラガンが後頭部を擦りながら起き上がると、

 

「ぬおああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

先に体勢を立て直していたザガレッズが、片手に長い鉄骨を持ち、ラファールラガンの上を取っていた。

 

「!?」

 

咄嗟にラファールラガンが横に転がると、先程までラファールラガンが居た位置に、ザガレッズの持っていた鉄骨が槍の様に突き刺さる!!

 

「ぬううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーんっ!!」

 

ザガレッズはそのまま、長い鉄骨をまるで棒術の棒の様に振り回して来る。

 

「うおっ!? テメェッ! そりゃ卑怯だろ!!」

 

右手にグレンブーメラン、左手にブレッド・スライサーを握って受け流しながら、ラファールラガンの神谷がそう言い放つ。

 

「如何した、天上 神谷! この程度で弱音を吐くとは情けない!」

 

「! んだとぉ!?」

 

「ちょっ! 落ち着いて、神谷! 挑発だよ!!」

 

挑発にアッサリと乗ってしまいそうになった神谷を、シャルが制する。

 

「隙有り!!」

 

その一瞬の隙を見逃さず、ザガレッズは手近に有ったタンクを摑むと、床から引っ剥がし、ラファールラガンに向けて投げ付ける。

 

「!? なろぉっ!!」

 

避けられないと思った神谷は、グレンブーメランでそのタンクを斬り裂く。

 

すると、タンクの中に在った燃料と思われる液体が飛び散り、ラファールラガンと床一帯にブチ撒けられる!

 

「おわっ!?」

 

「!? マ、マズイよ! 神谷!!」

 

神谷が一瞬怯み、その状況にシャルが慌てた時には既に遅し!

 

「ザガレッズインパクトッ!!」

 

ザガレッズが、再びザガレッズインパクトを放った!!

 

ミサイルはラファールラガンの手前に着弾。

 

そのまま、一気にばら撒かれた燃料に爆発的に燃え移り、ラファールラガンに襲い掛かる!!

 

「「!?」」

 

ラファールラガンは、一瞬にして炎に包まれた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ヴィラルのエンキドゥと戦っている一夏と箒は………

 

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

雨月・空裂を喪失してしまった為、展開装甲の展開部分に形成されているエネルギーを刃にして、徒手空拳の様にエンキドゥへと攻撃を仕掛けている箒。

 

「如何した!? そんな動きでは蠅が止まるぞ!!」

 

しかし、慣れない攻撃方法の所為か、エンキドゥには掠りもしない。

 

「くうっ!!」

 

「そうらっ!!」

 

反撃に、エンキドゥからヤクザキックが繰り出される。

 

「ぐあっ!?」

 

咄嗟にガードしたものの、衝撃までは殺し切れず、甲板の上を足裏から火花を散らして退がる。

 

「シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

と、そこで今度は一夏が、雪羅からのシャイニングフィンガーをエンキドゥに仕掛ける。

 

「フッ」

 

しかし何と!!

 

エンキドゥは、迫り来るシャイニングフィンガーに対し、自ら左腕を掲げてガードし、態と左腕を摑ませた!!

 

そして、右手にエンキソードを握り、左腕を摑んでいる雪羅を突き上げる!!

 

「!? 雪羅強制自切!!」

 

と、一夏は咄嗟に、雪羅を強制パージして捨てる。

 

雪羅はエンキソードに貫かれ、爆発する。

 

その爆発でエンキソードが片方折れたが、エンキドゥは残ったもう1本を再び右手に握る。

 

「これで、貴様の獲物はその刀だけだな」

 

左腕からオイルと血の混じった様な液体を垂らしながらも、エンキドゥはまるで堪えていない様子でそう言って来る。

 

「何て奴だ………自分の腕を盾にして………」

 

「貴様とは覚悟が違うのだ! 覚悟がなあぁっ!!」

 

そう叫んだかと思うと、エンキドゥは右手1本だけでエンキソードを振るい、襲い掛かって来る。

 

「!!」

 

エンキドゥからの絶え間無い攻撃を、実体剣モードの雪片弐型で往なしながら、防戦一方となる一夏。

 

エンキソードの刃と、実体剣モードの雪片弐型の刃が触れ合う度に激しく火花が飛び散る。

 

「如何した! 防ぐだけで精一杯か!?」

 

「クソッ! 隙が無い!!」

 

反撃したい一夏だが、隙が中々見つからず、相変わらず防戦一方である。

 

「一夏! クウッ!!」

 

援護したい箒であったが、格闘しか攻撃手段の無い今の彼女では、介入しても却って一夏の邪魔をしてしまうと思い、躊躇する。

 

(クッ! 紅椿!! お前が私のISだと言うなら応えろ!! 一夏を助ける手段を!! 私に!!)

 

と、心の中で念じる様にそう思う箒。

 

すると!!

 

紅椿の両肩の展開装甲が変形!!

 

まるでクロスボウの様なブラスター・ライフルとなった。

 

「!? コレは!?」

 

箒が驚きの声を挙げると、眼前の投影ディスプレイに、武器の3D図と『穿千(うがち)』と言う名前、そして詳細データとスペックが表示される。

 

「穿千………それがコイツの名前か?」

 

そう呟きながら、箒は穿千のグリップを握る。

 

「良し! コレで!!」

 

そしてそのまま、エンキドゥへと狙いを定める。

 

「! そうはさせん!!」

 

だが、それに気づいたエンキドゥは、一夏と至近距離での斬り合いを始めた!!

 

「うわっ!?」

 

「一夏!?」

 

「フフフ、下手に撃てばこの男に当たるぞ? もうシールドエネルギーも大分少ない筈だ。防ぎ切れるかな?」

 

「貴様!!」

 

エンキドゥの機転に、箒は吠えるが、それで状況が変わる筈も無い。

 

「さあ、如何した? 撃たないのか?」

 

「クウッ………」

 

「箒! クッソォッ!!」

 

何とかエンキドゥを引き剥がそうとする一夏だが、エンキドゥはピタリと張り付いて来て、まるで離れない。

 

(駄目だ………下手に撃てば、一夏に当たってしまう)

 

遂に、穿千を構えるのを止めてしまうかに見えた箒だったが………

 

「箒! 良いから撃て!!」

 

「!? 一夏!?」

 

他ならぬ一夏がそう言って来た。

 

「し、しかし! 下手をしたらお前に!!」

 

「何言ってるんだ! 夏祭りの時に言ってただろ! 弓なら必中だってよ!!」

 

「!?」

 

その言葉に、箒は驚く。

 

あの時の他愛も無い会話の一部だった話を覚えていてくれた事に。

 

「し、しかし、コレは弓では………」

 

「似た様なもんだろ! 撃て箒!! 撃つんだ!!」

 

「ええい! 黙れ!!」

 

戸惑う箒を叱咤する様にいう一夏を目障りに思ったのか、エンキドゥの攻撃が激しさを増す。

 

「! クウッ!!」

 

それを見た箒は、再び穿千を構える。

 

だが、やはり狙いが定まらず、引き金を引く事が出来ない。

 

「クッ! 駄目だ! 私には撃てない!!」

 

「箒! 自分を信じるな!!」

 

「!? えっ!?」

 

「俺を信じろ!! お前を信じる俺を信じろ!!」

 

箒に向かって、嘗て自分が神谷に言われた言葉を叫ぶ一夏。

 

「………!!」

 

その言葉を聞いて箒は目を見開き、やがて集中するかの様に目を閉じる。

 

視界が真っ暗になると、耳から聞こえて来る音も徐々に遠ざかって行く。

 

やがて、その真っ暗闇の空間の中に………

 

静止画の様に一夏とエンキドゥの姿が浮かび上がった。

 

「! 見切った!!」

 

目を開くと同時に、箒は穿千のトリガーを引く。

 

熱線が、一夏とエンキドゥ目掛けて放たれる。

 

「死ねぇっ!!」

 

丁度その時、エンキドゥは一夏に向かってエンキソードで突きを繰り出していた。

 

「!?」

 

反応が遅れた一夏は避けられず、エンキソードの刃は一夏の胸を貫………く寸前で穿千の熱線が通り過ぎ、エンキソードの刃を一瞬で蒸発させる!

 

「!? 何っ!?」

 

エンキドゥが驚きの声を挙げた瞬間!!

 

「! 貰ったぁっ!!」

 

一夏が素早く雪片弐型を上段に振り被り、縦一文字にエンキドゥ目掛けて振り下ろす!!

 

「!? グアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

エンキラッガーが砕け、ボディにも縦一文字の傷を付けられるエンキドゥ。

 

「ぐうっ!!」

 

しかし、それでも致命傷には至らなかった様で、少し後退ると止まり、片手で傷を押さえる。

 

「!? 何てタフな奴だ………」

 

エンキドゥのタフさに驚きを示す一夏。

 

「ぐう、まさか………ISを使えるだけの只の人間にこうまでやられるとは………誤算だった………天上 神谷に拘ったのが仇となったか」

 

しかし、やはりダメージは大きい様で、戦闘継続は不可能だった。

 

「織斑 一夏………この借りは何れ返すぞ!!」

 

そう言い放つと、エンキドゥは煙幕を放出。

 

そのまま撤退する。

 

「逃げたか………」

 

「一夏!!」

 

と、一夏がそう呟くと、箒が傍に寄って来る。

 

「箒………ありがとうな」

 

「一夏、本当に大丈夫か? 私の攻撃は当たっていなかったろうな」

 

心配そうに一夏にそう尋ねる箒。

 

「大丈夫だって。掠りもしてないよ。俺は箒の事、信じてたからな」

 

屈託の無い笑顔で、一夏は箒にそう言った。

 

「!?」

 

途端に箒の頬が紅潮する。

 

「? 如何した!?………!? うわっ!?」

 

それに気づいた一夏が尋ねた瞬間、箒に突き飛ばされる。

 

「ば、馬鹿者!! 何を言うんだ、貴様は!!」

 

「イテテテ………何だよ箒?」

 

そっぽを向いて怒鳴る様に言う箒に、尻餅を着いた一夏は愚痴る様に言うのだった。

 

と、その時!!

 

突然天岩戸に震動が走ったかと思うと、続いて爆発音が響く。

 

「!?」

 

「何だ!?」

 

箒と一夏が驚きを示した瞬間、天岩戸の彼方此方から火の手が上がり始める!!

 

更に砲塔に有った弾薬等にも誘爆し始めているのか、次々に小爆発が起こる!!

 

「コレは!?」

 

「誰かが動力炉を破壊したんだ! このままでは天岩戸が吹き飛ぶぞ!!」

 

一夏が戸惑っていると、箒がハイパーセンサーを展開して状況を把握する。

 

「「「「「「一夏〈さん、くん〉!!」」」」」」

 

とそこで、内部に突入していた筈の鈴、グラパール・弾、セシリア、ラウラ、楯無、簪が姿を現した。

 

「皆!!」

 

「艦内で………彼方此方から火の手が上がったから………慌てて撤退して来たわ」

 

「如何やら動力炉を破壊したのはアニキとシャルロットさんらしい!」

 

「神谷が!?」

 

「全く………ホントにアイツはいつも良いとこを持ってくわよね」

 

「兎に角脱出よ! 此処に居たら巻き込まれるわ!!」

 

「しかし! 神谷さんとシャルさんがまだですわ!!」

 

セシリアが、動力炉を破壊した本人である神谷とシャルがまだ出て来ていない事を指摘する。

 

「でも………モタモタしている時間は無い」

 

簪が冷静そうな様子でそう言う。

 

天岩戸の爆発は断続的に続いているが、段々小爆発と小爆発の間の間隔が短くなって来ている。

 

このままでは、間も無く大爆発を起こすだろう。

 

「戻って探している時間は無いぞ」

 

「ったく! あの馬鹿!! 何やってんのよ!?」

 

ラウラがそう言うと、鈴がそう悪態を吐く。

 

「………皆、脱出しよう」

 

するとそこで、一夏がそう言って来た。

 

「!? 一夏!?」

 

「一夏さん!? ですが………」

 

「アニキなら大丈夫だ! きっとシャルロットを連れて帰って来る!!」

 

「そうそう! アニキがこんな所でくたばるかよ!!」

 

驚く箒とセシリアに、一夏はそう言い、グラパール・弾もそう言って来る。

 

「………皆、此処は一夏くんや弾くんの言う通り、神谷くんを信じましょう。私達は脱出よ!」

 

そこで楯無が一同を見ながらそう言い放つ。

 

「「「「「…………」」」」」

 

一同は顔を見合わせて黙って頷くと、天岩戸から脱出して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天岩戸が爆発を起こす少し前………

 

天岩戸・動力炉にて………

 

「………やったか?」

 

燃え盛る炎を見て、ザガレッズはジギタリスの声でそう呟く。

 

爆発的に燃え上がった燃料の炎の中に、ラファールラガンは消えていた。

 

「如何に合体したグレンラガンと言えど、これ程の炎に包まれては、只では済むまい………」

 

「………神谷………シャル………」

 

と、今度はティトリーが、神谷とシャルの名を呟く。

 

「………ティトリー」

 

それを聞いたジギタリスの声色に、複雑な感情が垣間見える。

 

すると!!

 

「呼んだか? ティトリー?」

 

「「!?」」

 

何処からとも無く、神谷の声が響いて来た。

 

「神谷!?」

 

「馬鹿な!? 何処に!?」

 

ザガレッズが声の主を探す様な動きを見せた瞬間!

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

足元の床を突き破って、右腕をドリルに変えたラファールラガンが飛び出す!!

 

「!? ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

「ニャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーっ!?」

 

そのドリルでのアッパーカットを喰らって、ザガレッズは装甲から火花を散らしてブッ飛ばされる。

 

「ぐおあっ!?」

 

「ミャアッ!?」

 

そのまま床の上に背中から叩き付けられるザガレッズ。

 

「へへっ! アレ位でこの神谷様がくたばると思ったのか!?」

 

「まあ、実際ヒヤリとしたけどねぇ………死ぬかと思ったよ」

 

着地したラファールラガンから、神谷とシャルの声が響いて来る。

 

「ぐぬぬ………そうか………貴様の武器がドリルであると言う事を失念していたわ」

 

ジギタリスのそう言う声と共に、ザガレッズが起き上がる。

 

今の1撃が大分効いたらしく、全身にスパークが走っている。

 

しかし、ラファールラガンのダメージの方も決して軽くは無かった。

 

完全に爆発と炎から逃れられたワケでは無く、装甲が一部融解している。

 

両者共に満身創痍。

 

(次で決めねえと………)

 

(こちらの負けか………)

 

神谷とジギタリスも、それが分かっているのか、互いに最高の1撃を繰り出そうとする。

 

右手に出現させた灰色の鱗殻(グレー・スケール)を構えるラファールラガンと、右拳にエネルギーを集中させるザガレッズ。

 

「「…………」」

 

その状態で、互いに睨み合いとなる。

 

互いに摺り足で微妙に横移動して相手の隙を窺う。

 

そのまま1分、2分と時間だけが経過して行く………

 

動力炉内は、動力炉の駆動音と燃え盛る炎の音だけが静かに響いていた。

 

と、その時!!

 

炎が動力炉の機材に引火したのか、小さな爆発が起こる。

 

「!?」

 

その爆発に、ラファールラガンが一瞬気を取られる。

 

「貰ったぞぉっ!!」

 

当然その隙を見逃さず、ザガレッズは突撃する!!

 

「! チイッ!!」

 

後れを取ったラファールラガンは、突撃して来たザガレッズを迎え撃つ様に灰色の鱗殻(グレー・スケール)を装備した腕を振るった!!

 

灰色の鱗殻(グレー・スケール)のバンカーと、ザガレッズのエネルギーを集中させた拳がぶつかり合う!!

 

そのままスパークと火花を散らし始める両者!!

 

「ぬうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

気合の叫びを挙げ、両者互いに相手を押し切ろうとする。

 

だがその瞬間!!

 

灰色の鱗殻(グレー・スケール)のバンカーにヒビが入り始める。

 

「!? 神谷!!」

 

「黙ってろ!!」

 

シャルが慌てた声を挙げるが、神谷は一喝する。

 

「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、次の瞬間!!

 

ジギタリスの気合の雄叫びと共に、灰色の鱗殻(グレー・スケール)が完全に砕け散った!!

 

「ああっ!?」

 

「勝った!!」

 

狼狽するシャルと、勝利を確信するジギタリス。

 

しかし!!

 

「まだだぁっ!!」

 

神谷がそう叫びを挙げたかと思うと、ラファールラガンの左手には、何時の間にかブレッド・スライサーが握られていた!!

 

「!? 何っ!?」

 

「!?」

 

「うおりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

そのブレッド・スライサーをザガレッズ目掛けて振るうラファールラガン。

 

「ええいっ!!」

 

そして、ザガレッズの拳がラファールラガンのボディに叩き込まれた瞬間………

 

ラファールラガンの握ったブレッド・スライサーも、ザガレッズを斬り付ける!!

 

そのまま互いに硬直するラファールラガンとザガレッズ。

 

そして………

 

「ぬうあっ!?」

 

「ニャアッ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

ジギタリス、ティトリー、神谷、シャルの声が響いたかと思うと、ラファールラガンとザガレッズは互いに弾かれる様にブッ飛び、合体が解除される。

 

更に、ザウレッグとメガヘッズの方は、ジギタリスとティトリーの姿へと戻る。

 

「イツツツツツ………シャルゥ、大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃないよ、イタタタタタ………」

 

一方、グレンラガンとシャルの方は、共に損傷して痛がっている様子を見せているが、まだ健在であった。

 

「見事だったぞ………グレンラガン」

 

「オッサン!」

 

立ち上がろうとしているジギタリスの傍に駆け寄るティトリー。

 

と、その時!!

 

2人の真上の天井が爆発!!

 

瓦礫が2人目掛けて落ちて来た!!

 

「ニャアッ!?」

 

「!!」

 

それを見たジギタリスが、ティトリーを突き飛ばす!!

 

「ミュアッ!?」

 

「ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

瓦礫はそのまま、ジギタリスの上に降り注いだ!!

 

「オ、オッサン!!」

 

「ジギタリス!?」

 

「!?」

 

ティトリーが慌てて再度駆け寄り、グレンラガンとシャルも駆け寄る。

 

「ぐ、むう………」

 

幸いと言って良いか分からないが、ジギタリスはまだ生きていた。

 

しかし、その上には大量の瓦礫が圧し掛かっている。

 

と、更にそこで、動力炉の彼方此方で爆発が起こり始める。

 

「!? マズイ! 炎が彼方此方に誘爆してるよ! このままだと大爆発が起きるよ!!」

 

「オッサン! しっかりして、オッサン!!」

 

シャルがそう声を挙げる中、ティトリーはジギタリスを助けようと、瓦礫の撤去に掛かっている。

 

しかし、獣人と言えど見た目は完全に10代の少女。

 

持ち上げられそうな瓦礫は高が知れていた。

 

「ティトリー………逃げろ」

 

「!? な、何言ってるのさ!?」

 

「………グレンラガン………いや、天上 神谷。恥を忍んでお前に頼む………ティトリーを頼む」

 

「!? 何っ!?」

 

ジギタリスの言葉に、グレンラガンは驚きを示す。

 

「我等獣人は全て螺旋王様によって生み出された………貴様等の言う親、兄弟………家族の概念等は無い………だが、ティトリー………俺はお前を………何時の間にか娘の様に思っていた」

 

「お、おっさん………」

 

「頼む、天上 神谷………後生の頼みだ………ティトリーを………娘を頼む」

 

息も絶え絶えに、グレンラガンにそう頼み込んで来るジギタリス。

 

「…………」

 

そんなジギタリスの姿を、グレンラガンは黙って見詰めていた。

 

とそこで、動力炉から上がっている爆発が更に激しさを増す。

 

「! 神谷! コレ以上は危険だよ!!」

 

「………シャル。ティトリーを連れて先に脱出しろ」

 

シャルがそう言うと、グレンラガンはそう返す。

 

「!? 先にって、神谷は如何するの!?」

 

「決まってんだろ。俺は………」

 

そう言うと、グレンラガンはジギタリスの上に乗っかっている瓦礫に手を掛けた。

 

「!? 神谷!!」

 

「! 貴様、何を!?」

 

「無理だよ、神谷! 時間が無いよ!!」

 

驚くティトリーとジギタリスに、時間が無いと言うシャル。

 

「直ぐに済ませる」

 

「じゃあ! 僕も手伝うから………」

 

「駄目だ。オメェはティトリーを連れて行け」

 

「神谷!!」

 

「俺を信じろ!!」

 

「!?」

 

短く、簡潔な言葉………

 

だが、その言葉は、何よりもシャルの心に響いた。

 

「………分かった。必ず帰って来てね」

 

「安心しろ。漢は約束を死んでも守るもんだ」

 

「………さ、ティトリー」

 

それを聞くと、シャルはティトリーを抱き抱える。

 

「ま、待って、シャルロット!」

 

ティトリーの抗議には耳を貸さず、シャルはそのまま踵を返すと、動力炉から脱出して行った。

 

「おっし!」

 

それを確認すると、グレンラガンは再びジギタリスの上に乗っかっていた瓦礫の撤去に掛かる。

 

「む、ぐっ! ぐぐぐぐぐぐ………こなくそぉ!!」

 

しかし、先程までのザガレッズとの戦いの消耗が響いているのか、パワーが上がらず、撤去は思う様に進まない。

 

「何をしている。お前も早く逃げろ」

 

「ああ、逃げるぜ………お前を助けてからな」

 

そう返すと、更に瓦礫の撤去を続けるグレンラガン。

 

「情けを掛ける積りか?………見損なうな。俺には獣人としての誇りが有る………」

 

「その誇りってのは、ティトリーへの親心より重いのかよ?」

 

「何………?」

 

グレンラガンからの思わぬ言葉に、ジギタリスが驚きを示す。

 

「俺には親は居ねえ………いや、正確には親父の方は最近まで生きてたんだが、会った途端に死に別れちまった」

 

「…………」

 

「一夏だってそうだ。ブラコンアネキは居たが、ガキの頃に親に捨てられちまったそうだ。箒も、セシリアも、鈴も、シャルも、ラウラも、親が居ないか、居ても何時でも会えるワケじゃねえし、碌な奴じゃなかったりしやがる」

 

「…………」

 

ジギタリスは、ただ無言のまま、グレンラガンの言葉に耳を傾けている。

 

「アイツ等だけじゃねえ。最近は人間だって碌な親もやれねえ奴が増えてやがる。けどオメェは、獣人でありながら、ティトリーの事を娘だって言うじゃねえか」

 

そう言って、ジギタリスの上に乗っかっていた鉄骨を1本放り投げるグレンラガン。

 

「だったら生きろ! 生きて………アイツに色々と教えてやれ! アイツにはまだオメェが必要だ!!」

 

「………天上 神谷」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

雄叫びを挙げて、グレンラガンは鉄塊の除去に掛かる。

 

だが、その時!!

 

天井で再度爆発が発生!!

 

燃え盛る新たな瓦礫が、グレンラガンとジギタリスに向かって降り注いで来る。

 

「!?」

 

「! こなくそおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

更に叫びを挙げるグレンラガン。

 

すると、その身体が螺旋力に包まれる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

先に天岩戸から脱出した一夏達は、やや離れた見晴らしの良い崖の上で、天岩戸から次々に火の手が上がって行く様子を見ていた。

 

「………もう大爆発するのも………時間の問題よ………」

 

天岩戸の様子を見ていた一同の中で、簪が冷静にそう呟く。

 

「クッ! 神谷はまだか!?」

 

「あの馬鹿! 何モタモタしてんのよ!?」

 

箒と鈴が、苛立っている様な声を挙げる。

 

((アニキ………))

 

一夏とグラパール・弾も、流石に心配になって来ている。

 

と、その時!

 

「ん!? アレは?」

 

ラウラが、天岩戸から何かが飛び出すのを捉え、カメラを望遠にしてその何かを映し出す。

 

「! シャルロットさんですわ! ティトリーさんを連れておられます!!」

 

と、同じく望遠カメラでその姿を確認したセシリアがそう声を挙げる。

 

「シャルロット!!」

 

一夏が声を挙げると、シャルは彼等の元へ舞い降りて来る。

 

「皆! 無事だったんだね!!」

 

「あ、あの………」

 

一夏達が無事なのを見て喜びの声を挙げるシャルと、気不味そうにしているティトリー。

 

「ティトリー………」

 

「「「「…………」」」」

 

一夏達も、ティトリーに何と言って良いか分からず、沈黙する。

 

「ちょっと待って! 神谷くんは!?」

 

とそこで、楯無が脱出して来たのがシャルだけである事に気付いてそう声を挙げる。

 

「!? そうだ! シャルロット! アニキは!?」

 

「え、えっと、神谷は………ジギタリスを助けるって言って、未だ中に………」

 

「!? 何だって!?」

 

「馬鹿な! もう時間が無いぞ!!」

 

と、箒がそう声を挙げた瞬間!!

 

天岩戸が一瞬光を放ったかと思うと、大爆発を起こして木端微塵に吹き飛んだ!!

 

「「!? うわあっ!?」」

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「「!?」」

 

強烈な爆風が一夏達が居る位置まで吹いて来て、一夏達は地面に倒れる。

 

「イタタタタタ………!?」

 

頭を擦りながら起き上がった一夏が、天岩戸が在った場所が巨大なクレーターとなっているのを見て驚愕する。

 

「コレは………」

 

「危ないところだったわね………」

 

箒と楯無も、思わずそう呟く。

 

「オイ! アニキは!? アニキは如何なったんだ!?」

 

とそこで、グラパール・弾がそう声を挙げる。

 

「「「「「!?」」」」」

 

そこで一同は一斉にハイパーセンサーを展開。

 

グレンラガンの反応を探す。

 

しかし、どれだけ探しても、反応は出て来なかった。

 

「まさか………」

 

「そんな………」

 

ラウラと鈴の脳裏に、最悪の想像が過る。

 

「神谷!!」

 

と、シャルがそう声を挙げた瞬間!!

 

彼女のISのハイパーセンサーが、グレンラガンの反応を捉えた!!

 

しかも、如何言うワケか、自分達が今居る場所にだ。

 

「えっ!?」

 

如何いう事か分からず、シャルが首を傾げた瞬間!!

 

突如一同の目の前に、緑色の光が溢れた!!

 

「!? キャアッ!?」

 

「な、何ですの!?」

 

「!? コレは!?」

 

楯無、セシリア、簪が驚きの声を挙げると!!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

その光を突き破る様に、中からグレンラガンがゆっくりと姿を現す。

 

片腕でジギタリスを抱えながら。

 

「!? アニキ!!」

 

「神谷!!」

 

「おっさん!!」

 

一夏、シャル、ティトリーがそう声を挙げた瞬間!!

 

グレンラガンは光の中から完全に飛び出し、一同の前に着地する!!

 

「ぐうっ!?」

 

そして、そのまま神谷の姿に戻り、ジギタリス諸共前のめりに倒れた。

 

「! アニキ!!」

 

「神谷!!」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

慌てて一夏とシャルを先頭に、一同は神谷の傍に駆け寄る。

 

「おっさん!!」

 

ティトリーも、ジギタリスの傍に駆け寄る。

 

「アニキ! しっかり!!」

 

「神谷! 大丈夫なの!? 神谷!!」

 

一夏とシャルが神谷へと呼び掛ける。

 

すると…………

 

ぐぎゅおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~

 

まるで獣の咆哮の様な音が、神谷の腹から聞こえて来た。

 

「「「「「「「「「………えっ?」」」」」」」」」

 

「腹減った………」

 

一同が唖然とすると、神谷は絞り出す様な声でそう呟く。

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

呆然となる一夏達。

 

「ク、クフフフ………アハハハハ! ハハハハハハハッ! もう~! 神谷ったら~! アハハハハハハハハッ!!」

 

やがて、シャルが堪え切れなくなった様に笑い出し始める。

 

「プッ! ハハハハハハハッ!!」

 

一夏もプッと噴き出して笑い出す。

 

「「「「「「アハハハハハハハッ!!」」」」」」

 

他の一同も、そんな2人に釣られる様に笑い始める。

 

「…………」

 

簪も、一見何時もと同じ無表情に見えるが、笑いたいのを必死に我慢しているのが見て取れた。

 

「おっさん! おっさん! しっかりして! おっさん!!」

 

と、一方ティトリーは、傷だらけのジギタリスに呼び掛けを続けている。

 

「………う………ううむ………」

 

すると、ジギタリスが僅かに声を漏らす。

 

「! おっさん!!」

 

「………死に損なってしまった様だな」

 

目を開くと、ティトリーの姿を見て、優しく微笑みながらそう言うジギタリス。

 

「! おっさん!!」

 

ティトリーはそんなジギタリスにしがみ付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦開始から6時間39分………

 

天岩戸はグレン団の手により破壊される。

 

これにより、IS学園壊滅の危機は、回避されたのであった。

 

数日後………

 

グレン団はIS学園学園長から直々に表彰される事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

まるで何かの研究室の様な施設の中に居た束は、目の前にモニターを展開させており、先程までのグレン団の天岩戸攻略作戦の様を見ていた。

 

「一時的にとは言え、螺旋界認識転移システムを作動させるなんて………流石かみやんだね。何時も私の予想の上を行くんだから」

 

シャルや一夏達に揉み苦茶にされている神谷を見ながら、束は嬉しそうにそう言う。

 

「それにしても、ロージェノム軍があんな物まで持ち出すなんて………やっぱりこっちも建造を急がないと………」

 

と、束がそう呟いた瞬間、

 

「失礼します」

 

そう言う台詞と共に、研究室に1人の少女が入って来た。

 

背は低く、体躯はかなり華奢であり、年齢は12歳くらいに見える。

 

何より目を引くのは、流れる様な銀色の髪で、腰まであるそれを太い三つ編みにしている。

 

何処となくラウラに似ている様に見える。

 

「ああ、くーちゃん。如何? 状況は?」

 

少女の事をくーちゃんと呼び、束はそう尋ねる。

 

「建造状況は現在60%と言った所です。武装及び内部設備の艤装も順調ですが、反重力エンジンの搭載がやや難航しています」

 

「分かったわ。そっちは私が何とかするから、くーちゃんは他の作業を急がせて」

 

「分かりました」

 

くーちゃんと呼ばれた少女は、それだけ告げると、踵を返して研究室から出て行った。

 

「急がないと………『インフィニット・ノア』の建造を………」

 

決意を秘めた表情で、束はそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

天岩戸攻略最終戦。
箒への信頼で、見事ヴィラルに文字通り一太刀浴びせた一夏。
彼も強くなったものです。

そして動力炉で戦っていた神谷達も決着。
ティトリーだけは助けようとしたジギタリスですが、勿論神谷が見捨てる筈もなく、見事彼も救出してみせます。
この2人の今後に付きましては次回の冒頭にて説明します。

そしてその次回は、私が好きな戦隊ヒーローの神回のオマージュ・リスペクトとなっています。
主役は弾です。
彼の活躍にご期待ください。

それと、先週話した新作………
新サクラ大戦とウルトラシリーズのクロスについてですが、活動報告の方に大まかなプロットと第1話の次回予告を掲載しますので、そちらをご覧ください。
ご意見などあればそちらにお寄せください。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第61話『ロージェノム軍の仕業か!?』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第61話『ロージェノム軍の仕業か!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・1年1組………

 

「え~と………皆さんに転校生を紹介します」

 

何度目とも知れぬ、困惑した様子での転校生のお知らせをする真耶。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

しかし、今回ばかりは生徒達も一様に困惑の表情を浮かべている。

 

「ニャ、ニャハハハハ………如何も」

 

何故なら、その転校生と言うのは、ティトリーの事だったからだ。

 

(如何してティトリーちゃんが?)

 

(彼女確か、獣人だったんだよね?)

 

(えっ? 私、獣人に攫われたって聞いたけど?)

 

(私は獣人のスパイだって)

 

本人を前にしてヒソヒソ話を始める生徒達。

 

と、その瞬間!!

 

ドスッ! と言う何か固い物に固い物を突き刺した様な鈍い音が、教室内に響き渡る。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

生徒達が驚いてその音がした方向を見遣ると、そこには長刀を机に突き刺して刃を光らせている神谷の姿が在った。

 

「オイ………アイツに付いて何か言いたい事があるなら俺に言え………何時でも聞いてやるぜ?」

 

凄みを効かせ………と言うか殺気を醸し出しながら、生徒全員にそう言い放つ神谷。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そんな殺気を当てられて、生徒達はただ沈黙する。

 

神谷にしてみれば単なる脅し程度だったが、彼女達からしてみれば本気で殺しに来ると思っているのだ。

 

「じゃ、じゃあ、え~と………ティトリーちゃん。前と同じ席でお願いね」

 

「あ! ハ、ハイ!」

 

とそこで、その空気を察した真耶がティトリーに言い、ティトリーは以前自分が座って居た席へ向かう。

 

「お帰り、ティトリー」

 

と席に着くと、隣の席のシャルが笑顔でそう言って来た。

 

「! シャルロット………」

 

「フフフ………」

 

戸惑うティトリーに、シャルはただ微笑み掛ける。

 

「………えへへ」

 

やがてその笑みに釣られる様に、ティトリーも笑みを浮かべる。

 

「フッ………」

 

その様子を見ていた神谷も、満足そうな笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間はアッと言う間に流れて放課後………

 

生徒会室にて………

 

「それでは~! ティトリーちゃんのグレン団復帰を祝って! 乾杯!!」

 

「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」

 

何度目とも知れぬ、グレン団メンバーによる宴会が開かれていた。

 

「それっ! 飲めや食えや歌えいっ!!」

 

「イエーイ!!」

 

「1番! 織斑 一夏!! 『勝利者達の挽歌』! 歌います!!」

 

「2番! 五反田 弾!! 2リットルペットボトルを一気飲みします!!」

 

最早グレン団メンバーも慣れたもので、場を盛り上げる者、その盛り上がった雰囲気に乗って楽しむ者、マイペースにその様子を見て楽しんでいる者と、其々差異は有れど、思い思いに宴会を楽しんでいる。

 

「………あ、あの………」

 

そして、主役である筈のティトリーは、完全に置いてけぼりを喰らっている。

 

「ホラ、ティトリーちゃん! 何しんなりしてるの!?」

 

「そうそう! 今日はティトリーが主役なんだから!!」

 

楯無とのほほんが、そんなティトリーに声を掛ける。

 

「で、でも………」

 

「どした、ティトリー! 何辛気くせぇ顔してやがんだ!?」

 

「神谷、燥ぎ過ぎだよぉ」

 

ティトリーが戸惑っていると、更に神谷とシャルも傍に寄って来る。

 

「………本当に良いの?」

 

「あ?」

 

「本当に私が此処に居ても良いの?」

 

真剣な表情でそう尋ねるティトリー。

 

「それにおっさんがまだ寝てるのに、アタシだけこんな思いして………」

 

「ティトリー………」

 

「「…………」」

 

それを聞いて、シャル、楯無、のほほんも真面目な表情となる。

 

 

 

 

 

前回の天岩戸との戦闘後………

 

シャルと神谷が助けたティトリーとジギタリスは、再びIS学園が預かる事となった。

 

当然千冬は反対したが、神谷が強引に押し切り、更に一夏達の懇願も有って、渋々ながらも了承し、ティトリーは再び学園の生徒となる。

 

そしてジギタリスだが………

 

あの時に負った傷が想像以上に深かったのか、あの後に気を失ってしまい、今も目覚めていない。

 

現在は、リーロンの研究室の一部を改装して造られた集中治療室に収容されている。

 

意識は戻っていないが、怪我の回復は順調らしい。

 

 

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

そのまま沈黙を続けていたシャル、楯無、のほほん、ティトリーだったが、

 

「何つまんねえ事言ってやがる!?」

 

神谷がそう言って、ティトリーの背中を引っ叩いた!!

 

「!? ブッ!?」

 

その勢いで、ティトリーは目の前に置かれていたホールケーキへ顔から突撃する。

 

「「「あっ!?」」」

 

思わず揃ってそんな声を挙げるシャル、楯無、のほほん。

 

「俺が気にすんなって言ってんだ! だから気にすんじゃねえ!!」

 

そんなティトリーに向かって、神谷はお得意の神谷節を決める。

 

「うう~~、ベタベタ~」

 

それを聞きながら、起き上がると顔に付いたクリームを指で取るティトリー。

 

「ハハハハハッ! お似合いだぜ!!」

 

「むうっ! このぉっ!!」

 

それを見て大笑いした神谷に、ティトリーは手近に有ったパイを投げ付けた。

 

「ブッ!?」

 

パイは見事に神谷の顔に命中。

 

土台の紙皿がずり落ちると、クリームで真っ白になった神谷の顔が現れる。

 

「アハハハハハハハッ! のっぺらぼう~!!」

 

それを見たティトリーが、先程の仕返しの様に大笑いする。

 

「テメェッ! やったな!!」

 

と、反撃に別のパイを投げ付ける神谷。

 

「おっと!?」

 

「ギャッ!?」

 

しかし、ティトリーは身を反らして躱し、パイは射線上に居た鈴の横っ面に命中する。

 

「ちょっと! 何すんのよ!? 馬鹿神谷!!」

 

「ああ、ワリィワリィ。間違った」

 

「それで済むと思ってるワケェッ!?」

 

鈴はそう叫ぶと、自分もパイを投げ返す。

 

「ほっ!!」

 

「キャアッ!?」

 

しかし、神谷がそれを避けると、鈴の投げたパイはセシリアに命中した。

 

「り、鈴さん~~~~~!!」

 

「わ、私のせいじゃないわよ!? 神谷の奴が避けるのが悪いのよ!!」

 

「問答無用ですわ!!」

 

慌てる鈴に向かって、セシリアは同じ様にパイを投げ返す。

 

「おお! パイ投げだね!! バラエティーみたい!!」

 

「よ~し! 負けないぞ~~!!」

 

そこで楯無とのほほんがそう声を挙げ、生徒会室内でバラエティー宛らのパイ投げが開始された。

 

飛び交うパイのクリームで、部屋も人もドンドン白く染まって行く。

 

「コラ、お前達! 幾ら何でも羽目を外し過ぎだぞ!!」

 

「全く………くだらない事に何をムキになっている」

 

真面目な箒が止めようとし、俗世的な事にはあまり関心が無いラウラがそう一蹴するが………

 

その途端に、2人にもパイがぶつけられた!!

 

「「…………」」

 

一瞬沈黙する箒とラウラ。

 

「貴様等ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「もう許さんぞ!!」

 

そしてそのまま、2人共パイ投げへと乱入する。

 

「キャアッ! キャアアッ!!」

 

悲鳴を挙げて、蘭は机の下に避難している。

 

「頂き!………ブッ!?」

 

「ハハハハハッ! 甘いよ、一夏くん!!」

 

楯無の隙を衝こうとして返り討ちに遭う一夏。

 

「虚さん! 危ない!! ぶべっ!?」

 

「弾くん!?」

 

虚に当たりそうになったパイを、弾が己の身を盾にして防ぐ。

 

「オラオラオラオラッ!」

 

「何でこんな事になっちゃったんだろ?」

 

只管パイを投げ捲っている神谷に、その後ろで縮こまり、何故こうなったのかと思い悩むシャル。

 

「…………」

 

そしてそんな騒ぎの中、簪は平然と椅子に座り、飛んで来るパイを最小限の動きで躱しながらコーヒーを堪能している。

 

良くも悪くも大盛り上がりなグレン団の面々。

 

と、その時、生徒会長室のドアが開かれる。

 

「すみませ~ん。新聞部の黛 薫子ですけど、ちょっとお話を………」

 

そして、薫子が入って来た瞬間!

 

彼女に無数のパイが集中!!

 

「ブッ!?」

 

全身にパイを浴びてしまう事となった。

 

「あっ………」

 

「「「「「「「「あっ………」」」」」」」」

 

一夏がそれに気付いて声を挙げると、他の一同も気付く。

 

そして全身パイ塗れになっていた薫子は、そのままバタリと倒れる。

 

「わあっ!? 黛さん!?」

 

「ちょっ!? 大丈夫!?」

 

一夏と楯無が駆け寄り、慌てて助け起こす。

 

「………ヤレヤレ」

 

その光景を見て、簪は他人事の様にそう呟き、再びコーヒーを啜るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しして………

 

薫子の介抱を終えた一同は、生徒会室の掃除と着替えを済ませて再び集まっている。

 

「あ~~、酷い目に遭ったわ~」

 

「ゴメンね~、薫子ちゃん」

 

「「「「「ゴメンナサイ」」」」」

 

楯無が手を合わせて謝り、箒やシャル達も頭を下げている。

 

「いや、良いわ、気にしないで。宴会の最中に割り込んじゃった私も悪いんだから」

 

「んで? 一体何の用だ? 言っとくが、ティトリーの事を面白おかしく書こうなんてゴシップな事考えてんなら………」

 

背に背負っていた長刀の柄に手を掛ける神谷。

 

「ああ、いや! 別にそう言う事は考えてないから!! うん!!」

 

それを見た薫子は、慌てて否定する。

 

「そうか………」

 

「もう~、神谷ぁ。神経質になり過ぎだよ」

 

シャルが神谷に、そうツッコミを入れる。

 

「アハハハ………えっとですね。それで今回取材したいのは、布仏 虚先輩と五反田 弾くんについてなの」

 

「えっ?」

 

「あっ? 俺もっすか?」

 

意外や意外。

 

まさか自分達が話題に上がるとは思っていなかった虚と弾は驚きの声を挙げる。

 

「ハイ。整備課の白百合と呼ばれる布仏先輩を落とした彼氏の正体を詳しく知りたいって人が多く居ましてね」

 

「結局ゴシップじゃない!!」

 

薫子が『イイ笑顔』でそう言うと、虚がツッコミを入れる。

 

「それでは五反田 弾くん。布仏先輩とは何時、何処でどんな風な出会いを?」

 

「学園祭の時、入り口で虚さんがチンピラに絡まれているのを俺が助けて………」

 

「だ、弾くん!?」

 

虚のツッコミを無視して、薫子が弾に質問すると、弾がペラペラと話し始めたので、虚が慌てて止めに入る。

 

「何話してるの!?」

 

「えっ? いやだって、話しても減るもんじゃないし………」

 

「精神的に減るのよ!!」

 

弾と虚は漫才の様な遣り取りをしながら、時折薫子が質問をぶつけると弾がアッサリと答えてしまうと言う状態が続く。

 

「弾の奴………ナチュラルに惚気てるなぁ」

 

「アレでも、まだマシになった方ですよ。虚さんと交際を始めた頃は、そりゃもう目も当てられませんでしたから」

 

一夏がそんな弾の姿を見てそう呟くと、蘭がそんな事を言って来る。

 

「そうなのか?」

 

「ええ………IS学園の学園祭から帰って来て、妙にニヤニヤしてるから、如何したのって訊いたら………」

 

「訊いたら?」

 

「そこまで訊いてないのに、凄く美人で可愛い人と御近付きになったとか、今度デートに誘うとか、延々と惚気られましたから」

 

その時の事を思い出し、やや窶れた様な様子を見せる蘭。

 

「は、はははは………大変だったな」

 

一夏も、思わず乾いた笑い声を挙げる。

 

「成程。OK! 大体分かりました!! そう言った経緯が有ったんですね!! ご協力ありがとうございます!! 今度の学園新聞、楽しみにしていて下さいね!!」

 

と、聞き出したい事を全て聞き終えたのか、薫子がそう言って、メモを取っていた手帳を閉じて立ち上がる。

 

「ああ!? ま、待ってぇっ!!」

 

「それじゃあ! 失礼しました~!!」

 

虚が慌てて止めようとするが、薫子は風の様なスピードで去って行った。

 

「お姉ちゃんもすっかり有名人だね~」

 

「ああ~もう! 如何しよう~!? 私、恥ずかしくて死んじゃう!!」

 

のほほんがのんびり口調でそう言うと、虚は赤くなる顔を両手で押さえる。

 

「………やっぱり人間って良く分からないなぁ」

 

そして、その光景を見ていたティトリーは、そんな事を呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃………

 

何処ぞの洋風結婚式場にて、1組のカップルの結婚式が執り行われている。

 

ISの登場で、女尊男卑の風潮が強い世の中だが、そんな世情でも真の愛を貫く者達は居る。

 

今、祭壇の前に居る新郎と新婦も、そんなカップルだ。

 

「それでは、誓いの口付けを………」

 

と、神父がそう言うと、新郎と新婦は互いに向かい合い、新郎が新婦のベールを上げる。

 

「「…………」」

 

親族や関係者が見守る中、そして互いに見詰め合い、遂に距離が縮まろうとした瞬間………

 

「!? あっ!?」

 

新婦が、突然短く悲鳴を挙げたかと思うと、そのままバタリと倒れてしまった。

 

「!? 如何したんだ!?」

 

「何だ何だ!?」

 

「何が起こったんだ!?」

 

突然新婦が倒れ、式場内に居た親族や関係者達はざわめき立つ。

 

新郎は新婦に必死に呼び掛けているが、新婦はまるで死んだ様に目を覚まさない。

 

と、その時誰も気づいていなかった。

 

式場の端の、僅かに開けられた扉から、掃除機の様な物が出て行くのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

弾と虚の事を大々的に取り上げた学園新聞が発行され、噂の整備課の白百合の恋人の事が暴露。

 

お蔭で虚の所には、クラスや整備課の同級生、果ては後輩までもが詰め掛け、大騒ぎである。

 

 

 

3年・虚のクラス………

 

「見たわよ、虚ちゃん!」

 

「あの新聞に書かれた事って本当!?」

 

「まさか食堂の手伝いしているあの子が!?」

 

「って言うか、お堅そうな虚の彼氏があんな不良っぽい子ってのが驚きなんですけど」

 

「五反田 弾って、確か織斑の友達なんだよね!?」

 

「え、ええと………」

 

虚は新聞を見て詰め掛けた生徒に質問攻めにされ、如何して良いか分からずに居た。

 

(きょ、今日は疲れる1日になりそう………)

 

内心で諦めにも似たそんな感情を抱く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

食堂の弾も………

 

(何だか今日はヤケに視線を感じるな?)

 

仕事を手伝っていた弾は、何時もより多い視線に戸惑いを感じていた。

 

(アレが五反田 弾ね………)

 

(結構イケメンじゃん)

 

(そうかな? 私は織斑の方が良いなぁ)

 

(あのマーク………やっぱりあの人もグレン団の一員なんだ)

 

新聞を見た生徒達が、弾に注目を集めている。

 

しかし、神谷と似た香りのする弾には近寄り難いのか、全員遠巻きに見ているだけで、直接質問をぶつけようと言う勇気の有る者は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後………

 

グレン団の面々は、何時もの様に生徒会室へ集合。

 

今日はそこに、薫子の姿も在る。

 

「いや~、お蔭で今回の学園新聞は大好評でしたよ!」

 

「お蔭で私はすっかり疲れたわよ………」

 

満面の笑みを浮かべている薫子とは対照的に、虚は思いっ切り疲れが顔に出ている。

 

「成程。今日が学園新聞の発行日だったのか。早いっすねぇ」

 

一方弾は、マイペースにそう呟く。

 

「フフフ、情報は新鮮さが命だからね!!」

 

「にしても、1面で取り上げるなんて、凄いなぁ………」

 

一夏が薫子から貰った学園新聞のコピーを見ながらそう言う。

 

「全くだね………ん?」

 

その新聞を後ろから覗き込んでいたシャルが、何かに気付く。

 

「如何した? シャルロット」

 

「ねえ、この記事………」

 

それに気づいたラウラがそう尋ねると、シャルは新聞の片隅に小さく記載されている記事を指差す。

 

それは、IS学園の外での出来事を扱う、時事記事だった。

 

「『怪事件続発? 結婚式場にて、挙式中に突如花嫁が意識不明となる怪現象が頻発』」

 

「『原因は何れも不明であり、警察では事件の可能性も有ると見て捜査を進めている』」

 

箒と鈴が、その記事を声に出して読む。

 

「ああ、それはお姉ちゃん経由で入って来た情報でね。ちょっと時事ネタが乏しかったから、使わせてもらったんだ」

 

それを聞いた薫子が、そう説明する。

 

「まあ? 結婚式の最中に意識不明となってしまうなんて………」

 

「正に幸せの絶頂から一気に失意のどん底に叩き落とされる気分ね」

 

セシリアと楯無がそんな感想を漏らす。

 

「ねえ、のほほん。結婚式って何?」

 

「結婚式って言うのはね~。愛し合っている男女が夫婦になる神聖な儀式の事だよ~。女の子の憧れの1つでもあるかな~」

 

そして結婚式の事が良く分からないティトリーに、のほほんがそう説明する。

 

「結婚式の最中に突然花嫁が意識を失う………」

 

とそこで、神谷が何やら考え込む様な素振りを見せる。

 

「? 神谷?」

 

「!? もしや………ロージェノム軍の仕業か!?」

 

シャルが声を掛けると、神谷は確信に満ちた顔でそう言う。

 

「「「「「「「「えっ………?」」」」」」」」

 

しかし、当然と言えば当然だが、他のメンバーは『何言ってんだこの人?』と言う顔になる。

 

「いや、アニキ。幾ら何でもそれは無いよ」

 

「バッキャロウッ! じゃなきゃ、誰がこんな事するってんだ!?」

 

一夏がやんわりと神谷の意見を否定しようとするが、神谷は間違い無いと語る。

 

「いや、そんな………」

 

「風が吹けば桶屋が儲かるだぞ」

 

シャルと箒も、否定的な様子を見せる。

 

「よおし! すぐに調べに行くぞ!!」

 

だが、神谷はそれ以上論争はせず、街へと調査に繰り出す。

 

「ちょっ!? アニキ!!」

 

「如何するんだ?」

 

一夏が慌てると、ラウラが一同にそう問い質す。

 

「アイツ1人放って置いたら、何仕出かすか分かったもんじゃないわ」

 

「仕方ありません………私達も行きましょう」

 

そして鈴とセシリアがそう言い、グレン団の一同は神谷を追って行く。

 

「………スクープの予感!!」

 

更に薫子も、記者の勘でスクープの匂いを感じ、グレン団を追って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街へと繰り出したグレン団の面々は、早速調査を開始する。

 

そしてそんな中で………

 

弾が偶然にも、丁度結婚式が行われている式場を発見していた。

 

「おめでとう!」

 

「おめでとうー!!」

 

祝福のライスシャワーを浴びている1組の新郎と新婦。

 

弾は、その様子を遠巻きに見守っている。

 

「ホントにロージェノムの仕業なのか? まあ仮にそうだったとしても、そう上手く現場に出会したりは………」

 

「キャーッ!!」

 

と、愚痴る様に呟いて居ていたその瞬間!

 

式場の方から悲鳴が聞こえて来た。

 

「!?」

 

驚きながら、弾が再び式場へと視線を移すとそこには………

 

意識を失っている新婦を抱き抱えている新郎と、その周りに集まって騒ぎ立てている式参加者の姿が在った。

 

「!? まさか本当に!?」

 

弾がそう声を挙げた時………

 

式場の影から、スルスルと巻き戻されて行く掃除機のホースの様な物を発見する。

 

「!? アレは!?」

 

すぐにそのホースを追う弾。

 

しかし、ホースは凄まじいスピードで巻き取られており、徐々に離され始める。

 

「クッ! このぉっ!!」

 

そこで弾は、思い切ってそのホース目掛けて跳躍した!!

 

「おりゃあっ!!」

 

そのままホースに圧し掛かる様にして捕まえる。

 

「うおおっ!!」

 

そしてそのまま、ホースを思いっ切り引っ張る。

 

如何やら、ホースは地面に僅かに開いていた穴から飛び出していたらしく、その先に何かが居て、引っ掛かる。

 

「デリャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

だが、弾は構わず更にホースを引っ張る!!

 

「むおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

すると、土片を巻き上げて、何かが地面の中から飛び出す!!

 

「ぐあっ!? オノレェッ!!」

 

それは、まるで掃除機の様な姿をしたガンメンであった。

 

「! ガンメン!! って事は………ホントにロージェノム軍の仕業だったのか!?」

 

ガンメンの存在と、神谷の勘が当たっていた事に驚きの声を挙げる弾。

 

「むんっ!!」

 

とそこで、掃除機の様なガンメンが、弾が押さえている自分の口の部分に繋がっているホースを手に持つと、一気に引っ張る!!

 

「!? うおわっ!?」

 

そのパワーの前に、弾は宙に舞いながら掃除機の様なガンメンの元へ引き寄せられる。

 

「ハアッ!!」

 

そして、掃除機の様なガンメンは、目の前に飛んで来た弾の顔を殴り付ける。

 

「うわっ!?」

 

弾はホースを手放し、地面を転がる。

 

その間に、掃除機の様なガンメンはホースを完全に巻き戻し、口の様な状態にする。

 

「クッ! こちら弾! ガンメンが現れた! すぐに来てくれ!! 場所は2丁目にある式場の近くだ!!」

 

起き上がりながら、右腕のグラパールブレスレットで通信を送る。

 

「アニキ達が来るまで………俺が食い止める!!」

 

「むううんっ!!」

 

弾がそう言って構えを取ると、掃除機の様なガンメンはそんな弾を迎え撃つかの様に構えを取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ティトリー、IS学園に復学。
ジギタリスも一応保護されました。

そんな中で起きた怪事件。
神谷の直感が的中し、ロージェノム軍の仕業と判明します。

前回、戦隊ヒーローのリスペクトと予告しましたが………
詳しい方なら掃除機と結婚式のキーワードでピンと来たでしょう。
そう、あの戦隊のエピソードが元ネタです。
弾のカッコいい活躍にご期待です。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第62話『力づくで愛を奪うなんざぁ、モテねえ野郎のする事だぜ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第62話『力づくで愛を奪うなんざぁ、モテねえ野郎のする事だぜ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結婚寸前だった新婦が突然意識不明に陥ると言う怪事件が、ロージェノム軍の仕業であると確信した神谷は、グレン団を率いて、街へ調査へと繰り出した。

 

そしてその最中、偶然にも弾がロージェノム軍の犯行現場を目撃!

 

犯人である掃除機の様なガンメンと対峙する。

 

 

 

 

 

街の某結婚式場近くの広場………

 

「トアアッ!!」

 

掃除機の様なガンメンに向かって飛び蹴りを繰り出す弾。

 

「むんっ!!」

 

しかし、掃除機の様なガンメンは、弾の飛び蹴りを受け止めると、そのまま跳ね返す。

 

「おわっ!?」

 

だが、まだ弾のターンは終わらず、跳ね返されて逆さまになると、そのまま両手で着地し、掃除機の様なガンメンの顎を蹴り上げる!

 

「ぐうっ!?」

 

「おりゃあっ!!」

 

掃除機の様なガンメンが地面を転がると、弾は再び肉薄し、右のハイキックを繰り出す。

 

「クッ!」

 

「テリャアッ!!」

 

それが受け止められると、素早く右足を戻し、再び右足での後ろ回し蹴りを繰り出す。

 

「ぐっ!?」

 

衝撃で身体が回転する掃除機の様なガンメン。

 

「オリャアッ!!」

 

そこへ追撃の左ミドルキックを繰り出す弾だったが、

 

「むんっ!!」

 

掃除機の様なガンメンは、そのミドルキックを受け止めると、両腕で弾の首を締め上げて来る。

 

「うわっ!? がっ!?」

 

呼吸が出来なくなり、苦しむ弾。

 

「むううんっ!!」

 

掃除機の様なガンメンは、そのまま弾を振り回したかと思うと、右腕を外してボディブローを叩き込む。

 

「ぐふっ!?」

 

「ふんっ!!」

 

そして体勢が崩れた所で、続けて横っ面を殴り飛ばす!!

 

「うおわああっ!?」

 

衝撃でブッ飛ばされた弾は、広場に在ったベンチの上に落ち、そのままベンチを破壊して地面に叩き付けられる。

 

「むんっ!!」

 

その弾に追い打ちを掛ける様に、右手から火花の様なロケット弾を連射する。

 

「うおわあああっ!?」

 

周りにロケット弾が次々に着弾し、爆発が上がり、弾は思わず声を挙げる。

 

「フフフフ………」

 

そのまま弾にトドメを刺そうと、悠然と歩み寄って行く掃除機の様なガンメンだったが、

 

「待てっ!?」

 

「むっ!?」

 

突然聞こえて来た声に反応して、その方向を向くと、

 

「うりゃあっ!!」

 

「ハアッ!!」

 

「アチョーッ!!」

 

神谷、一夏、鈴が、トリプルキックを見舞って来た!!

 

「!? ぐうあっ!?」

 

直撃を受けた掃除機の様なガンメンはブッ飛ばされ、地面を転がる。

 

「フッ!」

 

「ハッ!」

 

「とっ!」

 

そのまま着地を決める神谷、一夏、鈴。

 

「弾くん! 大丈夫!?」

 

「お兄! しっかり!!」

 

「大丈夫!?」

 

「しっかりするニャ!」

 

そこへ更に、弾の傍に虚、蘭、のほほん、ティトリーが駆け寄る。

 

「! ガンメン!!」

 

「まさか!? 本当にロージェノム軍の仕業だったのですか!?」

 

「そうみたいだね」

 

「信じられんな………」

 

「兎に角! 今はアイツを!!」

 

「…………」

 

神谷達の傍にも更に、箒、セシリア、シャル、ラウラ、楯無、簪が並び立つ。

 

「おお! 噂のグレン団の戦闘の様子が生で撮れるなんて………」

 

そして、ちゃっかりと離れた物陰から、カメラを手にその様子を撮影している薫子の姿も在った。

 

「う、うううう………」

 

と、起き上がった掃除機の様なガンメンが、何やら苦しそうな声を漏らす。

 

「? 如何したんだ?」

 

「あ、愛だ! 愛をくれぇっ!!」

 

一夏が疑問に思うと、掃除機の様なガンメンは突如そう叫ぶ。

 

「ハアッ!?」

 

「あ、愛!?」

 

首を傾げる鈴と、思わず顔を赤く染めてしまうシャル。

 

「何ワケの分かんねえこと言ってやがる!! 行くぞぉっ!!」

 

神谷がそう言い放つと、長刀を抜き放ち、掃除機の様なガンメンに向かって突撃して行く。

 

「ふおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

すると掃除機の様なガンメンは、口となっている吸引口から風を逆噴射して来た!!

 

「!? うおわっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

忽ち吹き飛ばされる神谷達。

 

しかし、吹き飛ばされたのは神谷達ばかりでなく、辺りに落ちていた枯葉や小枝も舞い上がる。

 

更には鉄製のベンチや、置石までもが宙に舞い、植えてあった木が根元から倒れ、街頭までもが圧し曲がる!

 

「ふ、吹き飛ばされてしまいます~!」

 

「何コレーッ!!」

 

「す、凄い風だ!!」

 

「コレでは近づけんぞ!!」

 

「イダダダダダダダッ!? 腕が千切れる!!」

 

吹き飛ばされそうになっているセシリア、鈴、箒、ラウラの手を片手で摑み、もう片方の手で鉄柵を摑んで逆噴射に耐えている一夏が悲鳴を挙げる。

 

それでも箒達を摑んでいる手を離そうとしない辺り、見上げたものである。

 

「チキショウッ! 味な真似しやがって!!」

 

「神谷ーっ!!」

 

長刀を地面に突き刺して支えにしている神谷と、その神谷にしがみ付いているシャル。

 

「キャーッ!!」

 

「ニャーッ!!」

 

「と、飛ばされる~~~~っ!?」

 

「伏せろ! 身を低くするんだ!!」

 

「何で私までこんな目にぃーっ!!」

 

虚、ティトリー、のほほん、弾、蘭は地面に伏せて、如何にか突風に耐えている。

 

「簪ちゃん!!」

 

「クッ………!」

 

楯無も、簪に覆い被さる様にして守りながら、突風に耐えている。

 

「! そこっ!!」

 

とそこで、簪がアーマーマグナムを取り出し、掃除機の様なガンメン目掛けて発砲する。

 

「!? うぐおわぁっ!?」

 

アーマーマグナムの弾丸は、掃除機の様なガンメンのボディに風穴を開ける。

 

それと同時に、逆噴射が止まる。

 

「キャアッ!?」

 

「おわっ!?」

 

それと同時に、宙に舞いそうになっていた箒達が地面に落ちる。

 

「う、腕が………」

 

そして、腕の筋がイカれ掛けた一夏が、悶え苦しむ。

 

「うう………オノレェッ!!」

 

とそこで、掃除機の様なガンメンは神谷達に向かって、再び右手からロケット弾を放つ。

 

「!? うおわっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

爆煙で周りが見えなくなる神谷達。

 

やがて爆煙が晴れたかと思うと、掃除機の様なガンメンの姿は何処にも居なくなっていた。

 

「あ、クソッ!! 逃がしちまったか!!」

 

神谷が悔しそうな声を上げながら、長刀を背の鞘に納める。

 

「でも、本当にロージェノム軍の仕業だったんだね………」

 

「しかし、一体何が目的でこんな事をしているんだ?」

 

シャルがそう言うと、箒がそう疑問を呈する。

 

「兎に角、一旦引き上げましょう。弾くんも怪我してるみたいだし………議論は帰ってからね」

 

「しゃーねえな………」

 

しかし、楯無が弾が負傷しているのを見て、その場を纏める様にそう言うと、グレン団は一旦IS学園へと引き上げ始める。

 

「あ!? ちょっと待ってーっ!!」

 

物陰から戦闘の様子を撮影していた薫子も、慌ててその後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

「あ、愛だ! もっと愛をくれぇっ!!」

 

引き上げて来た掃除機の様なガンメンが、螺旋王と四天王が居る間に現れるや否や、膝を衝いて苦しそうにしながらそう叫ぶ。

 

「作戦は大成功だな」

 

「うむ。『ゴミスーイ』は人間の愛、特に女の男へ向ける熱いハートが大好物じゃからのう」

 

その掃除機の様なガンメン・『ゴミスーイ』の姿を見たシトマンドラとグアームがそう言い合う。

 

「愛を奪えば、人間共は結婚出来なくなり、子孫は絶滅!」

 

「最後には地球は愛に飢えた老人で溢れ返る」

 

アディーネとチミルフも、そんな事を言う。

 

如何やら、それが今回のロージェノム軍の作戦らしい。

 

「愛なぞと言う下らない感情を持ち合わせたのが間違いよ………人間共に、いやこの宇宙にそんな物は必要無い」

 

更にロージェノムも、無表情で玉座で頬杖を付いた状態のままそう言う。

 

「来い、ゴミスーイ。傷を治したらすぐに再出撃じゃ! 地球から、愛という愛を全て吸い尽くしてしまえ!!」

 

グアームはそう言い、ゴミスーイをラボへと連れて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

IS学園・生徒会室………

 

「アイタタタタタッ!?」

 

「あ、ゴメンナサイ! 大丈夫?」

 

負傷した弾の手当て中、傷口を消毒していた虚だったが、消毒液が染みたのか、弾が声を挙げる。

 

「だ、大丈夫ッス! 五反田 弾は男の子っす!」

 

しかし、男は痩せ我慢、と無理をして我慢する弾。

 

「如何やら、ロージェノム軍は女性から恋愛的な感情を奪って、人類の絶滅を狙っているみたいね………」

 

「んなアホな………」

 

楯無がロージェノム軍の狙いにそう推測を立てるが、内容が内容だけに、一夏がそうツッコミを入れる。

 

「でも、考え様によっては、凄く恐ろしい作戦だよね………」

 

「ああ、全くだ」

 

「女性から恋愛感情を奪うだなんて………」

 

「正に女の敵よ! ソイツ!!」

 

「許せんな………」

 

だが、自身も恋する乙女であるシャル、箒、セシリア、鈴、ラウラは、ゴミスーイに怒りの感情を募らせる。

 

「でも如何するの?」

 

「また式場を彼方此方当たってあのガンメンを探すの~?」

 

と、そこでティトリーとのほほんがそう言う。

 

コレまで戦って来たロージェノム軍は、多かれ少なかれ、IS学園やグレン団を標的にしている作戦を執っていた為、多少なり共対策が立てられたが、今回は完全にグレン団を標的外にしている。

 

対策を立てるのは難しい。

 

「敵も搦め手を使って来る様になった………厄介ね」

 

アーマーマグナムを手入れしながら、簪がそう言う。

 

「こうなったら仕方ないね………囮作戦で行こう」

 

すると、楯無がそう提案して来た。

 

「囮作戦?」

 

「そう。偽の結婚式を開いて、あのガンメンを誘き出すの」

 

首を傾げる一夏に、楯無はそう言う。

 

「成程。そいつは良い手だな」

 

「でも、結婚式って………誰がやるの?」

 

神谷が顎に手を当てながらそう言うが、続いてシャルがそう言った瞬間………

 

「決まっているだろう。私と一夏だ」

 

ラウラがそう声を挙げる。

 

それが、何度目とも知れぬ一夏争奪戦の火蓋を切った。

 

「ちょっと待ちなさいよ!! 何でそうなるのよ!?」

 

「私は軍人だ。あらゆる事態に対して対応出来る様に訓練を受けている。それに何れはする事だからな」

 

食って掛かる鈴に、ラウラは挑発的な笑みを向けながらそう返す。

 

「納得が行きませんわ!! ならば私と一夏さんの方がお似合いで適任ですわ!!」

 

「貴様も何を言っている!? 此処は私と一夏に任せろ!! 勝手知ったる幼馴染の方が気が楽だろう!!」

 

「ならアタシだってそうよ!!」

 

「な、なら私も負けてません!!」

 

ドンドンとヒートアップして行く箒、セシリア、鈴、ラウラ、蘭。

 

「え、えっと、あの皆。俺の意見は?」

 

置いてけぼりを喰らっていた一夏が、そう口を挟むが、

 

「「「「「一夏〈さん〉は黙ってろ〈て下さい〉!!」」」」」

 

すぐにそう一蹴された。

 

「ええ~~~っ!?」

 

「じゃあ、間を取って、此処は私と一夏くんが新婦と新郎役って事で」

 

一夏が困惑の声を挙げると、楯無が後ろから一夏の両肩を摑みながらそう言う。

 

「「「「楯無さん(会長)!!」」」」

 

途端に箒達は楯無へと食って掛かる。

 

「ちょっ、ちょっ!? 待ってくれって………!何で俺が新郎役って決定してるんだ?」

 

そう言う一夏だったが、その声は相変わらず無視されている。

 

(一夏………相変わらずのハーレムだな)

 

そんな親友の姿に、弾は内心でそう思う。

 

「ちょっと待って………」

 

とそこで、簪がそう声を挙げる。

 

「? 簪様?」

 

「如何したのかんちゃ~ん?」

 

「私達はロージェノム軍側に大分顔が知られてる………今回の作戦の囮としては………大分難が有る」

 

虚とのほほんが尋ねると、簪はそう返して来る。

 

「「「「「「あっ!?」」」」」」

 

途端に意気消沈した様子を見せる箒達。

 

「織斑先生か山田先生に頼んでみる?」

 

シャルがそんな意見を挙げる。

 

「いや、そいつも駄目だ」

 

しかし、神谷がそう言って否定する。

 

「神谷? 如何して?」

 

「メガネ姉ちゃんは兎も角………あのブラコンアネキの相手役やろうって物好きな男は居ねえだろ?」

 

(((((((誰もが口の奥底に秘めて言い出さない事をおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!)))))))

 

身も蓋も無い神谷の発言に、一夏達が心の中でそう叫びを挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・職員室………

 

数名の職員が残っている夜の職員室に、突如バギャッ!!と言う何かが壊れた様な音が響いた!

 

「ヒャアッ!?」

 

「な、何っ!?」

 

何の音だと周りを見回す教師達。

 

その音の発生源は、千冬である。

 

千冬が、手にしていたボールペンを圧し折り………否、握り潰していた!

 

「お、織斑先生! 如何したんですか!?」

 

近くに居た真耶が、慌ててそう尋ねる。

 

「………いや、何でも無い。ただ、無性に神谷を殴りたくなっただけだ」

 

怒りを露わにした顔で、千冬はそう答える。

 

「は、はあ………(天上くんがまた何かやったのかなぁ?)」

 

毎度の事と言えば毎度の事であるが、神谷が何か問題を起こす度に責任を被っている千冬に同情する真耶。

 

「あの、ところで織斑先生。その書類………」

 

「? 書類?」

 

真耶に言われて、千冬が手元に視線を遣ると、机の上に乗っていた書類数枚が、千冬が握り潰したボールペンのインクで真っ黒になっていた。

 

「!? あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

途端に悲痛な叫びを挙げる千冬。

 

「よ、4時間も掛けて作成した書類が………明日の朝一の会議で使うのに………」

 

真っ黒になった書類を、震える手で持ってそう呟く。

 

「えっと………栄養ドリンク買って来ますね」

 

今夜は徹夜になると思われる千冬の為を思い、そしてとばっちっりを食わない様に、真耶はそう言って千冬の傍を離れる。

 

「おのれ、天上 神谷ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

千冬は天を仰いで、何処ぞの世界の破壊者ライダーを目の敵にする正体不明の男の様な叫びを挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、IS学園・生徒会室………

 

(………今、千冬姉の恨みの声が聞こえた様な)

 

「う~~ん、如何したもんかね~~?」

 

「囮作戦は良いとして、新郎と新婦役が決まらないんじゃねえ~」

 

一夏が千冬の気配を感じている間に、楯無とのほほんがそう言いながら頭を捻る。

 

「何言ってやがる。此処に丁度良いアベックが居るじゃねえか?」

 

すると神谷が、そんな事を言う。

 

「(アベックって………)それって誰と誰の事?」

 

アベックと言う言い方に少々呆れながらも、シャルがそう問い質す。

 

「ふふん………」

 

すると神谷は、不敵な笑みを浮かべながら、まだ虚に手当てを受けている弾の方を見遣った。

 

「「………えっ?」」

 

突然振られた神谷の視線に、弾と虚は戸惑いを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

街中のとある教会………

 

「「…………」」

 

祭壇の前に、真っ白なタキシードを着込んだ弾と、純白のウェディングドレスを着込んだ虚が並び立っていた。

 

グレン団として戦闘に参加して日が浅い為、まだ素性が余り知られていないと思われる弾と、非戦闘要員の虚のカップルなら怪しまれない、と言うのが神谷の案である。

 

2人共ガチガチに緊張しているのが、傍から見ても一目瞭然である。

 

「ホラ、2人共。そんなに緊張しないで。コレは飽く迄作戦の内よ」

 

牧師役を務めているリーロンが、そんな2人に向かってそう言う。

 

「い、いや、でも………」

 

「…………」

 

しどろもどろな弾と、緊張の余り顔を真っ赤にして何も言えなくなっている虚。

 

(弾の野郎………中々様になってんじゃねえか)

 

と、長椅子の影からその様子を窺っていた神谷が、小声でそう呟く。

 

((((私〈アタシ〉も、何時かは一夏〈さん〉と………))))

 

箒、セシリア、鈴、ラウラは、脳内で2人の姿を自分と一夏に置き換えている。

 

(綺麗だなぁ、虚さん………僕も何時か神谷と………キャーッ! やだもうー!!)

 

シャルも同じ様に、脳内で2人の姿を自分と神谷に置き換え、妄想に悶えていた。

 

(コレは良い絵ですよ~!)

 

そして、今回もちゃっかりと同行し、タキシード姿の弾とウェディングドレス姿の虚の姿を、カメラに納め捲っている薫子。

 

(しかし、あのガンメン………本当に来るのかな?)

 

(大丈夫よ。学園長と更識家に協力してもらって、この辺り一帯の結婚式を止めて貰っているから)

 

(必ず………餌に釣られて………現れる)

 

と、一夏、楯無、簪がそう言い合っていると、

 

「では、神の御前にて、誓いの接吻を」

 

囮結婚式は滞りなく進んでおり、とうとう誓いのキスのところとなる。

 

(え、ええっ!? や、やっぱりやらなくちゃ駄目ですか………?)

 

(本格的にやらないと、リアリティが出ないわよ。囮だと気付かれたら意味無いのよ)

 

まだ戸惑っている虚に、リーロンはあっけらかんとそう言い放つ。

 

(で、でも………)

 

「う、虚さん!!」

 

すると、弾が少々テンパっている様な様子を見せながら、虚を自分の方へと振り向かせる。

 

「えっ!? だ、弾くん!?」

 

虚が戸惑いの声を挙げていると、弾は黙って虚の顔に掛かっていたベールを上げ、肩を摑んでゆっくりと顔を近付けて行く。

 

(オ、オイ!?)

 

(ちょっ!? まさか!?)

 

((((!?))))

 

((おおっ!?))

 

その様子に、一夏達が驚き、楯無も注目し、薫子はここぞとばかりシャッターを切る。

 

(良し! 行け、弾!!)

 

1人囃し立てる神谷。

 

「あ、だ、弾くん………」

 

「虚さん………」

 

弾と虚の顔の距離は徐々に縮まって行き、遂に唇が触れ合おうとしたその瞬間!!

 

突如、式場の壁が破壊される!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一斉に破壊された壁に注目する一夏達。

 

「あ、愛だぁっ! もっと愛をくれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

そこに居たのは、ゴミスーイだった。

 

空気が読めるのか、読めていないのか………

 

「現れやがったなぁ!!」

 

「罠に掛かったわね!!」

 

途端に、神谷と楯無が物陰から飛び出し、ゴミスーイの前に立ちはだかる。

 

遅れて、一夏達のその周りに並び立つ。

 

「グレンラガン! スピンオン!!」

 

「来い! 白式!!」

 

「紅椿!!」

 

「ブルー・ティアーズ!!」

 

「甲龍!!」

 

「リヴァイヴ!!」

 

「シュヴァルツェア・レーゲン!!」

 

「おいで! レイディ!!」

 

「…………」

 

其々に愛機の名を呼び(簪は無言で)、グレンラガンとISを装着した状態となる。

 

「リーロンさん! 虚さんを!!」

 

「ええ! さ、コッチよ!!」

 

「弾くん!!」

 

「トアアッ!!」

 

弾も、虚をリーロンに任せると、ゴミスーイの方へと跳躍し、空中でグラパール・弾の姿となって、グレン団の中へと降り立つ。

 

「テメェ、覚悟しろ!! 良い所だったのを邪魔しやがって!!」

 

若干私情が混じった台詞を、ゴミスーイに向かって言い放つグラパール・弾。

 

「邪魔をするなぁ!!」

 

と、ゴミスーイはそう叫んだかと思うと、再び掃除機のノズルとなっていた口から、強烈な突風を放って来る!!

 

「キャアアッ!?」

 

「うおっ!? またコレかよ!!」

 

手近な物にしがみ付き、踏ん張るグレン団。

 

「クッ! このぉっ!!」

 

とそこで、グラパール・弾がハンドガンを左手に出現させ、ゴミスーイに向かって発砲した!!

 

「うおわっ!?」

 

身体から火花を伴った爆発を挙げて後退るゴミスーイ。

 

「おりゃあああっ!!」

 

グラパール・弾は、そこで更に追撃を仕掛ける。

 

跳躍して、ゴミスーイに向かってキックを見舞う。

 

「ぐうっ!?」

 

「グラパールブレード!!」

 

そして着地すると、右腕からグラパールブレードを出現させ、ゴミスーイに斬り掛かって行く。

 

「小癪なぁっ!!」

 

だが、ゴミスーイは掃除機のパイプ部分の様な物を左手に握り、グラパールブレードを受け止める。

 

そして、右手をグラパール・弾の身体へと押し付けたかと思うと、そのまま至近距離からロケット弾を放つ。

 

「!? うおわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

身体から連続で小爆発を挙げるグラパール・弾。

 

「ふああっ!!」

 

そして、そのまま掃除機のパイプ部分の様な武器で横っ面を殴られ、ブッ飛ばされる。

 

「うおわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

グラパール・弾は、そのまま背中から教会内の椅子の上に落ちて叩き付けられる。

 

「野郎っ!!」

 

グレンラガンがすぐさまゴミスーイに向かって行こうとするが、

 

「ふああああっ!!」

 

ゴミスーイからは再び逆噴射攻撃が放たれる。

 

「うおっ!? こなくそぉっ!!」

 

グレンラガンは咄嗟に両腕に2本ずつドリルを出現させると、それを床に打ち込み、そのまま両腕を交互に前に出しながらゆっくりと近付いて行く。

 

「ぬううっ!?」

 

それを見たゴミスーイは、逆噴射の力を強める。

 

「!? おわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」

 

後ろで物にしがみ付いて耐えていた一夏達が、摑まっていた物ごと吹き飛ばされ始める。

 

「ぐぐぐぐぐ………」

 

逆風に顔が歪んでいる様な感覚を感じながらも、グレンラガンは少しずつゴミスーイに近付いて行く。

 

「あ、ツゥ………」

 

一方、ゴミスーイにブッ飛ばされたグラパール・弾は、相当ダメージを受けたのか、瓦礫と化した椅子の上で悶えている。

 

「! 弾くん!!」

 

それを見ていられなかったのか、リーロンと共に物陰に隠れていた虚が飛び出した。

 

「ちょっ!? 待ちなさい!!」

 

リーロンが慌てて止めようとするが、虚はグラパール・弾の傍に駆け寄ってしまう。

 

「弾くん! しっかりして! 弾くん!!」

 

「!? 虚さん!? 駄目だ! 逃げるんだ!!」

 

突然現れた虚に、グラパール・弾が驚きながらそう言い放つ。

 

「おおっ! 愛だ!! 我慢出来ん!!」

 

だが、その時には既にゴミスーイは虚の姿を捉え、逆噴射攻撃を止めると、虚の方にノズルを向け、吸い込みを開始した!

 

すると、虚の身体から、ハート型の光が抜け出し、ゴミスーイに吸い込まれる。

 

「あ………」

 

途端に、虚は短く声を挙げたかと思うと、そのまま意識を失ってしまった。

 

「! 虚さん! 虚さん!!」

 

慌てて虚を抱き抱えて呼び掛けるグラパール・弾だったが、虚は何の反応も返さない。

 

「ああ、美味かった」

 

そんなグラパール・弾の気持ちなど知らぬ様に、ゴミスーイはそんな感想を述べる。

 

すると!!

 

「オラアッ!!」

 

そこでグレンラガンのショルダータックルが見舞われた!!

 

「ぐおあああっ!? ええい! 目的果たした!!」

 

破壊した壁の穴から外へと押し出されて、地面を転がったゴミスーイは、そう言い放つとその場から離脱を始める。

 

「待ちやがれ! 一夏! 何やってんだ! 追うぞ!!」

 

「お、おう!!」

 

グレンラガンがそう言い、ゴミスーイを追うと、逆噴射で吹き飛ばされていた一夏達も気を取り直し、直ぐ様ゴミスーイを追跡して行く。

 

「虚さん! 虚さん!! 目を開けてくれ、虚さん!!」

 

一方、グラパール・弾は、意識不明となっている虚への呼び掛けを続ける。

 

「無駄よ………コレまでアイツに愛を奪われた人達は何をやっても目覚めなかったそうよ」

 

そこへリーロンが近寄って来て、グラパール・弾にそう言う。

 

「そんな………」

 

それを聞いたグラパール・弾は、ガックリと顔を下げ、絶望した様子を見せる。

 

「絶望している暇が有ったら、やるべき事をやりなさい」

 

するとリーロンは何時もの同じ口調だが、まるで叱咤するかの様にそう言って来た。

 

「!? やるべき事………?」

 

「恐らくあのガンメンは見た目通り、掃除機の様に奪った愛を身体に溜め込んでいるわ。つまり、奴を倒せば………」

 

「! 虚さんも愛を奪われた人達も目を覚ます!」

 

「飽く迄可能性の話だけどね………」

 

そう言うリーロンだが、既にグラパール・弾の表情は、決意を固めたモノとなっている。

 

「リーロンさん………虚さんをお願いします」

 

「ええ………行って来なさい」

 

そして、リーロンとそう遣り取りを交わすと、直ぐにグレンラガン達と同じ様に、ゴミスーイを追って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

グレン団に追われているゴミスーイは………

 

「待ちやがれぇーっ!!」

 

「ええい! しつこい連中だ!!」

 

何処までも喰らい付いて追い掛けて来るグレン団の面々に苛立つゴミスーイ。

 

すると、何時の間にかゴミスーイは、カップルに人気のスポットとなっている広場へと躍り出る。

 

「おおっ! こんな良い所が在ったとは!! フアアッ!!」

 

追い掛けられているにも関わらず、複数のカップルの姿を目撃したゴミスーイは、すぐさまカップルの女性達から愛を奪い始める。

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

途端に逃げ惑うカップル達。

 

「逃がさんぞぉ!!」

 

ゴミスーイは、カップル達を追い、次々に愛を奪って行く。

 

「あの野郎! また!!」

 

「それ以上はやらせないよ!!」

 

すぐに阻止しようとするグレン団だったが………

 

「グレン団!!」

 

「我々の作戦の邪魔はさせんぞ!!」

 

増援に駆け付けたガンメン部隊が現れ、グレン団の行く手を遮った。

 

「! ガンメンか!!」

 

「クソッ! こんな時に!!」

 

一夏が悪態を吐くが、ガンメン部隊は捨て身でグレン団に突撃して来ており、纏わり付かれたグレン団は動きを封じられる。

 

「チイッ! お前等邪魔だ!!」

 

「コレじゃアイツに近づけないよ!!」

 

「うわはははははははっ!!」

 

グレンラガンとシャルがそう声を挙げる中、ゴミスーイは高笑いを挙げながら次々に愛を奪って行く。

 

と、その時!!

 

「待てぇっ!!」

 

「ぬうっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突如響き渡った声に、ゴミスーイとグレン団、ガンメン部隊が注目を集める。

 

そこに居たのは、弾だった。

 

「力尽くで愛を奪うなんざぁ、モテねえ野郎のする事だぜ!!」

 

弾はゴミスーイに向かってそう言い放つと、悠然と歩き出し始める。

 

「ぬうっ!?」

 

得体の知れない迫力を弾から感じたゴミスーイが一瞬怯むと、ガンメン部隊の一部がゴミスーイを守る様に前に展開する。

 

「…………」

 

それでも弾は、悠然と歩を進める。

 

そして、その身体が緑色の光に包まれたかと思うと、グラパール・弾の姿へと変わった。

 

「螺旋王様の為にーっ!!」

 

と、ゴミスーイの前に展開していたガンメンの内、1体のゴズーがそう叫びながらグラパール・弾へと襲い掛かる。

 

「邪魔だ!!」

 

しかし、グラパール・弾は直ぐ様鋭いフックの様なパンチを打ち込む!!

 

「ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーっ!?」

 

ゴズーは地面の上を転がったかと思うと、そのまま爆散する。

 

「ぬうっ!? ええい! 掛かれぇーっ!!」

 

その様子に一瞬動揺しながらも、ゴミスーイはそう命令する。

 

「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

その命令に忠実に従い、グラパール・弾へと群がるガンメン達。

 

「ムッ!!」

 

グラパール・弾は構えを取ったが、その時!!

 

「トロイデルバーストッ!!」

 

グレンラガンがそう叫んで、細長い2本のドリルを出現させている右手を地面に叩き付けると、地割れが起きてガンメン部隊を飲み込んだ!!

 

「「「「「獣人に栄光あれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

断末魔の叫びと共に、地割れに呑み込まれたガンメン達が爆発して行く。

 

「! アニキ!!」

 

「弾! 露払いを俺達がしてやる!! オメェがアイツを仕留めろ!!」

 

残っていたガンメンの1体にヘッドロック(ガンメンの構造上、ベアハッグに近い?)を掛けながら、グレンラガンがそう言う。

 

一夏達も、雑魚ガンメンの相手に従事している。

 

「! すんません!! トアアッ!!」

 

すぐにそれを察したグラパール・弾は、ゴミスーイに飛び掛かる。

 

「ハアッ!!」

 

しかし、ゴミスーイは飛び掛かって来るグラパール・弾に、逆噴射攻撃を見舞う。

 

「!? うおわっ!?」

 

フッ飛ばされたグラパール・弾だったが、月面宙返りの様に空中で態勢を立て直すと、街灯を蹴って再びゴミスーイに向かう。

 

「グラパールショット!!」

 

そして、アクロバティックなポーズを決めながら、ゴミスーイに向かってハンドガンからエネルギー弾を見舞った。

 

「!? うおわあっ!?」

 

直撃を受けたゴミスーイが、地面を転がる。

 

「グラパールブレード!!」

 

続いてグラパール・弾は、ハンドガンを収納すると、右腕にグラパールブレードを展開。

 

ゴミスーイを縦一文字に斬り付ける。

 

更に続けて、横薙ぎの一閃を見舞い、右袈裟斬り、左袈裟斬りと連続で斬り付ける。

 

「ぬおわああっ!?」

 

「おりゃあっ!!」

 

怯んだゴミスーイへ、グラパール・弾は突き蹴りを見舞う!!

 

「ぐおわあっ!?」

 

再び地面を転がったゴミスーイだったが、すぐに起き上がると、口となっている掃除機のホースを伸ばし、グラパール・弾の首に巻き付けた!!

 

「ぐうっ!?」

 

「むううんっ!!」

 

そのままホースを手で摑み、グラパール・弾を振り回すゴミスーイ。

 

「ぐうっ!?」

 

左へ引っ張られたかと思うと、すぐに右手へと引っ張られ、グラパール・弾はベンチの背凭れ部分の上を転がる。

 

「むんっ!!」

 

「うおわああっ!?」

 

ゴミスーイが勢い良くホースを引っ張ると、グラパール・弾は宙に舞い、地面に背中から叩き付けられる。

 

「ふああっ!!」

 

「うおわあああっ!?」

 

再び勢い良くホースを引っ張られ、再度中に舞うと、今度は街路樹の幹に叩き付けられるグラパール・弾。

 

「むううんっ!!」

 

そこでゴミスーイは、右手からのロケット弾を見舞う!!

 

「うおわあっ!? うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

グラパール・弾の周りで次々に爆発が上がったが、グラパール・弾はグラパールブレードを構えて、その爆発を突っ切ってゴミスーイに突撃して行く。

 

「うりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

ゴミスーイも、そんなグラパール・弾を迎え撃つかの様に、掃除機のパイプ部分の様な武器を左手に握って突撃する。

 

そして、両者が互いを肉薄したと思われた瞬間に、其々の獲物を振るう。

 

グラパール・弾が一瞬早かった様で、ゴミスーイの身体から火花が上がった!!

 

「ぐうっ!?」

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

振り返ると同時に、再びゴミスーイを斬り付けようとしたグラパール・弾だったが、今度は掃除機のパイプ部分の様な武器にグラパールブレードを絡め弾かれ、がら空きになったボディに袈裟斬りと横薙ぎを喰らってしまう。

 

「うおわあっ!?」

 

そこでグラパール・弾は片膝を衝いてしまう。

 

「死ねぇっ!!」

 

トドメを刺そうと、掃除機のパイプ部分の様な武器をグラパール・弾の頭目掛けて振るうゴミスーイだったが、

 

「ぬんっ!!」

 

ギリギリのところで、グラパール・弾はグラパールブレードで受け止める。

 

そして左手に再びハンドガンを出現させると、ゴミスーイの身体に押し当てた!!

 

「!? しまっ………」

 

「グラパールショットッ!!」

 

そのままハンドガンからエネルギーが照射され、ゴミスーイはそのエネルギーに押される様に後退って行き、身体から火花を伴った爆発を挙げた。

 

「トドメだ!!」

 

と、そこでグラパール・弾がそう叫んで、グラパールブレードを構えて跳躍する!!

 

「!?」

 

「グラパアアアアアァァァァァァーーーーーーール! フィニッシュッ!!」

 

そして、螺旋力を込めた×の字斬りをゴミスーイに喰らわせた!!

 

「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

ゴミスーイは、身体中から火花を挙げ始める。

 

「…………」

 

それを確認したグラパール・弾は、グラパールブレードを収納すると、ゴミスーイに背を向けて歩き出す。

 

その背後で、ゴミスーイはスローモーション映像の様にゆっくりと倒れ、そのまま大爆発した。

 

「やった!!」

 

「決まったな、弾」

 

ガンメン部隊を片付けたグレン団の中で、一夏とグレンラガンがそのグラパール・弾の姿を見てそう言う。

 

すると、ゴミスーイの爆心地点から、無数のハート型の光が飛び出し、彼方此方へと散って行く。

 

「!? アレは!?」

 

「多分、奪われた愛だよ。有るべき所へ戻って行くんだね」

 

驚きの声を挙げる箒に、シャルがそう言う。

 

[弾くん? 聞こえるかしら?]

 

「!? リーロンさん!!」

 

とそこで、グラパール・弾の元に、リーロンからの通信が入る。

 

[虚ちゃん、目を覚ましたわよ。意識不明になっていた人達も、次々に覚醒しているらしいわ]

 

「! そうっすか………良かった」

 

リーロンのその報告に、グラパール・弾は光に包まれると弾の姿へ戻り、安堵した表情で青空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼休み………

 

「いや~、でも、一時は如何なる事かと思ったけど、解決して良かったなぁ」

 

昼食を摂りに来ていたグレン団の面々の中で、中華丼を食していた一夏が、昨日の事件について思い出しながらそう言う。

 

「全くだ」

 

「愛を奪うなんて、想像しただけで恐ろしくなりますわ」

 

「ホント、嫌なガンメンだったわね」

 

「うむ」

 

箒、セシリア、鈴、ラウラは、ゴミスーイへの明らかな嫌悪感を露わにする。

 

「おっちゃん! 天津飯と餃子、あと親子丼とラーメン追加な!!」

 

「まだ食べるの、神谷ぁ?」

 

「変わってないニャア」

 

「良く食べるねえ~」

 

相変わらず大量の料理を次々に平らげている神谷と、そんな神谷の姿に苦笑いを零すシャル、ティトリー、のほほん。

 

「まあ、何にせよ、解決して良かったねえ」

 

「…………」

 

焼き魚定食を頬張りながらそう言う楯無の横では、簪が何時もの様に読めない表情で食後のコーヒーを飲んでいる。

 

「へい、虚さんお待ち。野菜炒め定食です」

 

「ありがとう、弾くん」

 

虚の元へ注文の品を届ける弾。

 

「いや~、目が覚めて良かったっす」

 

「ええ。コレも弾くんのお蔭よ。ありがとう」

 

「虚さん………」

 

「弾くん………」

 

そのまま見詰め合う2人。

 

「ちょっと、お兄! 仕事中にイチャつかないでよ!!」

 

と、そんな弾に蘭がそうツッコミを入れる。

 

「!? わ、ワリィ!」

 

「ご、ゴメンナサイ!」

 

途端に、弾と虚は顔を真っ赤にして離れる。

 

と、その時!!

 

食堂の入り口の方から、ドドドドドドッ!!と言う地響きの様な音が聞こえて来る。

 

「?」

 

「何だ?」

 

グレン団の面々が入り口に注目すると………

 

「「「「「虚さ~~~んっ!!」」」」」

 

「「「「「お姉様~~~っ!!」」」」」

 

現れたのは、虚のクラスメート達と、整備課の後輩達だった。

 

「うおっ!?」

 

「な、何っ!?」

 

虚達の戸惑いを気にする様子も見せず、クラスメートと後輩達は虚の元へ群がる。

 

「虚さん! コレ!!」

 

「如何言う事なんですか!?」

 

クラスメートと後輩達がそう言って突き出して来たのは、学園新聞だった。

 

「? 学園新聞?………!?」

 

首を傾げる虚だったが、その新聞の内容を見て赤面する。

 

何故ならその1面のトップには………

 

弾と虚の囮結婚式の写真が、デカデカと掲載されていた!!

 

しかも、キスする直前の場面の!!

 

「虚さんがまさか学生結婚だなんて!!」

 

「ズルいです! お姉様!!」

 

「チキショウ、リア充め! 祝ってやる!!」

 

「五反田 弾くん! 虚さんを幸せにしなさいよ!!」

 

「泣かせたら許さないんだからね」

 

クラスメートと後輩達は、口々に虚と弾に向かってそう言い放つ。

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

「待ってくれ! 誤解だぁ!!」

 

必死に弁明しようとする虚と弾だったが、完全に勢いに呑まれていた。

 

「薫子さんの仕業か………」

 

「ハハハハハッ! こりゃ良いぜ!!」

 

額にギャグ汗を浮かべる一夏と、呵々大笑する神谷。

 

結局、この騒ぎは昼休みが終了しようとしても収まらず、現れた千冬の一喝によって漸く収まる。

 

そしてその後暫く………

 

弾と虚は、IS学園中の生徒から祝われ続けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

タイトルの台詞でピンときた方………
貴方はブラックコンドル好きですね。
私も大好きです。

今回のエピソードは、スーパー戦隊第15作目『鳥人戦隊ジェットマン』の第20話『結婚掃除機』が元ネタとなっています。
子供の頃、初めて見た戦隊物がジェットマンでして。
そのブラック、結城 凱が好きでした。
子供心に、ヒーローらしからぬ反道徳的な彼の姿に知らず知らずに憧れていました。
ゴーカイジャーでゲスト出演された時の感動は忘れられません。
そんな彼が主役だったエピソードの話を、弾に演じてもらいました。
興味があれば、ぜひ元ネタの話もご覧になってみて下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第63話『悩むのは若人の特権よ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第63話『悩むのは若人の特権よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日も、ロージェノム軍が日本に出現。

 

陸上自衛隊の補給を断とうとしたロージェノム軍は、陸上自衛隊関東補給処が在る霞ヶ浦駐屯地を襲撃。

 

防衛大臣からの要請を受け、IS学園はグレン団を援軍として派遣。

 

奮戦あって、被害は最小限に抑えられた。

 

グレン団は救助活動を手伝った後、IS学園へと帰還。

 

すっかり日が落ちた中、夕食を摂ろうと寮の食堂へ集まる。

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮の食堂(五反田食堂・IS学園店)………

 

「ここのところ、連続だよなぁ………ロージェノム軍が現れたのって」

 

若干疲れが見える様子の一夏が、たぬきうどんを啜りながらそんな事を呟く。

 

「うむ………」

 

「それに、手口も段々と複雑になって来ていますわ」

 

「今までは数に任せての単純な押しの一手だったが、今日の襲撃の様に、補給基地を叩こうとする等、搦め手を使って来る様になった」

 

「厄介ね………私達は連戦連勝してるけど、人類全体で見れば、ロージェノムに負け越してるしねぇ」

 

それを聞いた箒、セシリア、ラウラ、鈴もそんな事を呟く。

 

ロージェノム軍相手に、連戦連勝を決めているグレン団。

 

しかし、世界全体の戦況は、相変わらずロージェノム軍側が優勢を維持している。

 

開戦当初だけで3分の1近く奪われていたISコアは、壊滅した国家が増えた事で更に増え、今では半数以上がロージェノムの手に渡っている。

 

更に、人類側からの裏切り者がレッドショルダーとなって人類に牙を向けている。

 

コレまでグレン団は、人類の裏切り者であるレッドショルダーを次々に打ち破って来たが、レッドショルダーが使用しているISには全て自爆装置が仕込まれており、ISコアは回収するどころか喪失されてしまっている。

 

ロージェノム軍側からすれば、ガンメンと言う戦力が多数に存在する為、例え奪ったISを失おうとも痛くも痒くも無い。

 

逆に人類側は、裏切り者であるレッドショルダーと戦えば戦う程、人類を守る筈であった最強の兵器ISを永遠に失う事となる。

 

裏切り者が出た件で見直しを迫られているとは言え、物量戦で圧倒的に負けている以上、数の不利をある程度は覆せるISの存在はまだ人類にとって必要不可欠だ。

 

だが、ISは467しか存在しない。

 

そして、その内の幾つかは完全に喪失してしまっている。

 

正に真綿で首を絞めるが如く、ロージェノム軍は人類を押して行っているのだ。

 

「せめて敵の拠点が分かれば………こちらから打って出る事が出来るのに………」

 

コーヒーが入ったカップを片手に持ちながら、簪がそんな事を呟く。

 

人類がロージェノム軍に対し防戦一方な最大の理由は、奴等の本拠地が全く分かっていない事だ。

 

壊滅させられた国家を占領し、拠点として利用しているのは確認されているが、本拠地の位置は開戦から大分立った今も分かっていない。

 

とある戦線では、やっとの思いで敵軍を壊滅させたと思ったら、翌日にはそれと同等がそれ以上の増援部隊が何時の間にか現れたと言う報告もある。

 

「ねえ、ティトリーさん。貴女は何か知らないの?」

 

「うん………私は占領したスペインの拠点で生まれたから、ロージェノム軍の本拠地までは知らないんだ」

 

そこで虚が、元ロージェノム軍であるティトリーにそう尋ねるが、彼女は占領された国家の拠点で生まれたらしく、加えて末端の兵士に過ぎない為、余り重要な情報は教えられていない様だ。

 

「そうですか………」

 

「ゴメンね、役立たずで………」

 

「ティトリーが気にする事じゃないよ」

 

「そうそう~。誰もティッチーの事を役立たずだなんて思ってないよ~」

 

落ち込むティトリーを、シャルとのほほんがそう言って励ます。

 

「シャル………本音………」

 

「兎に角、その事は私達が気にしても仕方がないわ。各国の諜報機関もロージェノム軍の情報収集に躍起になってるわ。何れ必ず分かるわよ」

 

ティトリーがそんな2人の姿に感動していると、楯無が纏める様にそう言う。

 

「その通りだ! 飯時に小難しい話すんじゃねえよ! 食欲が落ちるぜ!! おっちゃん! 焼肉定食追加!!」

 

「あいよ!!」

 

神谷もそんな事を言い、20回目となる追加の注文を厳に頼んでいた。

 

((((((………どの口が言うか〈言いますの〉))))))

 

そんな神谷の姿を見て、一夏達は呆れながら心の中でツッコミを入れる。

 

「ヘイ、アニキ! 焼肉定食お待ち!!」

 

とそこで、出来上がった焼肉定食を弾が運んで来た。

 

「おう、サンキュウ。そう言や弾。今日のオメェの活躍は光ってたなぁ!」

 

「えっ? そうっすか?」

 

と、神谷がそう言ったのを聞いて、弾は尋ね返す。

 

「ああ、危ういところをありがとうな。お蔭で助かったよ」

 

一夏も、弾に向かってそんな事を言う。

 

「へへっ、一夏。コイツは貸しだからな」

 

「分かってるって。必ず返すぜ」

 

そんな事を言いながら、弾はナチュラルに今日の戦闘の事を振り返るグレン団の中に混ざる。

 

「…………」

 

と、その光景を、蘭が複雑そうな表情で見ていた。

 

(一夏さん………お兄………)

 

やがてその視線は、一夏と兄である弾に注がれる。

 

(私も………私も戦えたら………)

 

そんな思いが頭を過る蘭。

 

最近彼女は、一夏達グレン団に対し、疎外感を感じる様になっていた。

 

勿論、一夏達が彼女を蔑ろにしていると言うワケではなく、彼女が一方的にそう感じているのである。

 

それは、彼女がグレン団の役に立っていないという思いから来ている。

 

兄の弾が、偶発的にグラパールを動かす事に成功し、五反田一家はIS学園で保護される事となった。

 

だが、事件や襲撃の度に、一夏達と共に出撃している弾と比べて、蘭は何時も留守番役である。

 

当然と言えば当然の事であり、他にも布仏姉妹やティトリーが居るのだが、彼女達はISの整備が出来る為、言わば後方支援要員と言える。

 

それに比べて、この前の事件では(第61話、第62話)、調査の手伝いに参加する機会を得たが、戦闘となれば彼女は安全な場所から見ているだけだった。

 

せめてもの役に立ちたいと思い、リーロンからコッソリとISの整備を習っているが、物になるにはまだ時間が掛かると言われている。

 

「でよぉ、それでさあ」

 

「ええ~? ホントかよぉ?」

 

「ハハハハハハッ!!」

 

そんな蘭の気持ち等知らず、弾や一夏達は何時の間にか楽しそうに談笑している。

 

「…………」

 

蘭は知らず知らずの内に、拳を握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

IS学園の地下・リーロンの研究室………

 

「………出来ました!!」

 

何やら複数の機械を組み立てていた蘭が、組み立てを終えるとそう声を挙げる。

 

「………3分42秒。うん、大分早くなったわね」

 

ストップウォッチを持っていたリーロンが、記録を見てそう言う。

 

「…………」

 

しかし、蘭はその結果に納得が行っていない様子だ。

 

今彼女が行っていたのは、IS整備の基礎訓練の様なものなのだが、通常ならば平均で2分。

 

早い者ならば1分で終えられる作業である。

 

蘭のタイムは平均にすら届いていない。

 

初期の頃は5分程は掛かっていたので、それから見てみれば大きく進歩していると言えるが………

 

「もう1回お願いします!」

 

「いいえ。今日は此処までにしましょう」

 

リーロンにそう言う蘭だったが、断わられてしまう。

 

「えっ!? でも………」

 

「余り根を詰めるのは良くないわ。そんなに直ぐ上手くなるものじゃないわよ。それに………何か知らないけど、そんなに焦ってちゃねえ」

 

「!?」

 

自分の内心を見透かされた気がして、蘭は驚く。

 

「ま、好きなだけ悩みなさい。悩むのは若人の特権よ」

 

「………ハイ」

 

「じゃあ悪いけど、私は織斑先生達と会議が有るから」

 

リーロンはそう言うと、研究室から出て行く。

 

「…………」

 

残された蘭は、暫くその場でボーッとしていた。

 

やがて、その視線は研究室の隅に置かれていた、ピンク色のカラーリングのグラパールに行き着く。

 

「…………」

 

立ち上がると、そのピンク色のカラーリングのグラパールの前に歩み寄る蘭。

 

「ねえ………貴方、私に力を貸してくれない?」

 

物言わぬグラパールに向かって、蘭はそんな事を言う。

 

「お願いよ! 私もお兄みたいに、一夏さん達と一緒に戦いたいの!!」

 

懇願するかの様な言葉を、ピンク色のカラーリングのグラパールへと投げ掛ける。

 

しかし、当然と言えば当然だが、ピンク色のカラーリングのグラパールは何も答えなかった。

 

「………駄目か………如何してお兄だけ………」

 

蘭は愚痴る様に呟くと、研究室を後にする。

 

すると、無人となった研究室の中で、ピンク色のカラーリングのグラパールが、ポウッと淡い緑色の光を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第1アリーナ………

 

グレン団の貸切状態となっているこのアリーナで、グレン団の面々は模擬戦を行っている。

 

「シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

「超電磁パアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーンチッ!!」

 

一夏の雪羅でのシャイニングフィンガーと、グレンラガンの超電磁パンチがぶつかり合う。

 

両者の技同士がぶつかり合うと、スパークが辺りに飛び散る。

 

「クッ!?」

 

「おっと!?」

 

やがて、両者は互いに弾かれる様に距離を取った。

 

「グレンブーメラン!!」

 

空かさずグレンラガンは、胸のグレンブーメランを摑むと、一夏目掛けて投擲する。

 

「何の!!」

 

雪片弐型で、飛んで来たグレンブーメランを弾く一夏。

 

しかしその影に隠れて、グレンウイングが飛んで来ていた事には気づかなかった。

 

「!? うわっ!?」

 

ブーメランとなっていたグレンウイングが、一夏を直撃する。

 

「とああっ!!」

 

そこでグレンラガンは大きく跳躍。

 

空中で戻って来たグレンブーメランとグレンウイングを両手に握る。

 

「グレンラガン! 二刀両断!!」

 

グレンブーメランとグレンウイングを振り被ったかと思うと、両方同時に振り下ろす。

 

「!! とあああっ!!」

 

すると、それを見た一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動。

 

振り下ろされようとしていたグレンブーメランとグレンウイングに、自ら突っ込んで行った、

 

「!? 何っ!?」

 

「でりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

そして、グレンブーメランとグレンウイングが完全に振られて勢いを付ける前に、雪片弐型で弾く!!

 

「うおあっ!?」

 

「取ったぁっ!!」

 

グレンブーメランとグレンウイングを弾かれ、完全に隙を晒したグレンラガンに、一夏は突きを繰り出す。

 

しかし!

 

「甘いな!!」

 

何と、グレンラガンはボディの顔の口で、雪片弐型の刃を噛んで受け止めた!!

 

「!?」

 

「おりゃあっ!!」

 

驚く一夏に、グレンラガンは蹴りを叩き込む。

 

「うおわっ!?」

 

一夏は弾かれるが、空中で姿勢を整えると地面に着地する。

 

グレンラガンも着地を決めると、グレンブーメランとグレンウイングを胸と背に戻す。

 

「へへっ」

 

「ハッ」

 

ふと、不意に一夏が楽しそうな笑みを零すと、グレンラガンも同じ様に笑う。

 

「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」

 

その直後に、両者は再び激しくぶつかり合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人共………模擬戦だって事、分かってるのかなぁ?」

 

模擬戦にも関わらず、白熱した戦いを繰り広げているグレンラガンと一夏の姿を見て、シャルが呆れる様にそう言う。

 

とそこへ、銃声と共に多数の弾丸が飛来する。

 

「!?」

 

咄嗟に、実体シールドで弾丸を受け止めるシャル。

 

受け止めた弾丸・ペイント弾は、シールド上で弾けて、赤いペンキをぶち撒ける。

 

実体シールドが所々赤く染まる。

 

「訓練中に、余所見は………駄目よ」

 

ヘヴィマシンガンを構えた簪が、ターレットレンズ越しにシャルを見ながらそう言う。

 

「ゴメンゴメン! 行くよ!!」

 

シャルはそう謝罪すると、ガルムを構え、簪に向かってペイント砲弾を連射して撃ち込む。

 

「…………」

 

すると簪は、ターンピックを巧みに使い、ペイント砲弾を躱すと同時に、横へのスライド移動で爆風圏内から逃れると言う離れ業を披露する。

 

「ううっ!? 相変わらずプロ並みの操縦テクニックだね!!」

 

簪の操縦テクニックに舌を巻くシャル。

 

「…………」

 

その間に簪はシャルに肉薄。

 

左手のアームパンチを叩き込んで来る!

 

「クウッ!?」

 

シャルは、またも実体シールドで防御する。

 

しかし、前にペイント弾の直撃を受けていた実体シールドにアームパンチが命中した為、模擬戦モードだった機体は、実体シールドが限界ダメージを受けたと判断し、実体シールドを収納してしまう。

 

「まだまだっ!!」

 

アームパンチの衝撃で距離を取ったシャルは、ガルムをしまうと、デザート・フォックスを両手に持ち、腰だめ撃ちで発砲する。

 

「…………」

 

ジェットローラーダッシュで回避運動を取る簪。

 

時折、ペイント弾が至近距離を掠めたりしているが、眉一つ動かさない。

 

(簪さんの一番恐ろしいところは、あの冷静沈着さだなぁ………)

 

その簪の姿を見て、シャルはそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おりゃあっ!!」

 

気合の叫びと共に、グラパール・弾がラウラに向かって、飛び蹴りを繰り出す。

 

「むっ!!」

 

腕を使ってその飛び蹴りをガードするラウラ。

 

しかし、グラパール・弾はキックした反動を利用して、再び宙に舞う。

 

「!? 何っ!?」

 

「グラパール反転キイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

そして再びラウラに飛び蹴りを繰り出した!!

 

「ぐうっ!?」

 

2度の連続キックに、衝撃を殺し切れず、ラウラは大きく後退させられる。

 

「チイッ!!」

 

だが空かさず、レールカノンをグラパール・弾目掛けて発射する。

 

「!? うおわっ!?」

 

するとグラパール・弾は、まるで某アクション映画の様に上半身を大きく仰け反らせて回避する。

 

「!? ぐえっ!?」

 

しかしそのまま、頭を地面に打ち付けてしまう。

 

「アダダダダダダダッ!?」

 

余りの痛みに、グラパール・弾は頭を押さえて転がる様に悶える。

 

「何をやっとるんだ、貴様は?」

 

その光景に、ラウラが呆れた声を漏らす。

 

「イデデデデデ………いや~、失敗失敗」

 

頭を擦りながら起き上がるグラパール・弾

 

「全く、訓練と言えど気を抜くな。今のが実戦だったら、貴様は死んでいるぞ?」

 

「生憎、渋とさには自信が有るんでね。そう簡単には死なねえさ」

 

「ほう? 流石嫁の親友だな。大きく出たな」

 

「そりゃどうも」

 

ラウラとグラパール・弾は、そう言い合うと模擬戦を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこっ!!」

 

「おっと!!」

 

セシリアのスターライトmkⅢから放たれたビームを、楯無は回転する様に躱す。

 

「まだまだですわ!」

 

しかし、放たれたビームは軌道を変えて、楯無の背から襲い掛かる。

 

「予測済み」

 

だが、楯無はそう言って不敵に笑うと、背中に水のヴェールを回し、ビームを防ぐ。

 

「でしたら!!」

 

するとセシリアは、ビットのブルー・ティアーズを起動。

 

本体から分離したビットのブルー・ティアーズが、四方八方から楯無にビームを見舞う。

 

「おおっと!!」

 

全方からの攻撃に、楯無は回避に専念する。

 

「…………」

 

その楯無を、スターライトmkⅢのスコープ越しに見ながら、狙いを付けようとしているセシリア。

 

そして、遂に絶好のタイミングが訪れる。

 

「今度こそ!!」

 

「!? えいっ!!」

 

と、セシリアが引き金を引こうとした瞬間!

 

楯無は蒼流旋を、セシリア目掛けて投擲した!!

 

「!? キャアッ!?」

 

直撃は逃れたものの、セシリアは攻撃チャンスを潰され、更に意識が逸れた事でビットのブルー・ティアーズも停止し、隙を晒してしまう。

 

「チャンスッ!!」

 

楯無は即座にラスティー・ネイルを手に握り、セシリアに斬り掛かる。

 

「接近戦! 貰ったぁっ!!」

 

「そうは行きませんわ!!」

 

しかし、寸でのところで、セシリアはインターセプターを取り出し、楯無のラスティー・ネイルを受ける。

 

「むむっ!?」

 

「ハアッ!!」

 

そして、気合の叫びと共に弾き飛ばす。

 

「ととっ!?………接近戦は苦手じゃなかったの?」

 

「コレでも私は代表候補生ですわ。苦手分野を、何時までも苦手なままにしておくとお思いですか?」

 

「ふふん~、良いね~。お姉さん、ちょっとテンション上がって来たかも」

 

不敵に笑うセシリアに、楯無は微笑みながらそんな事を言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それっ!!」

 

突っ込んで来る箒に向かって、鈴が龍咆を放つ。

 

「むんっ!!」

 

だが、箒は不可視である龍咆の砲弾・圧縮空気を、雨月と空裂で斬り裂く。

 

「んなっ!?」

 

「テヤアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

驚く鈴に、そのまま斬り掛かる箒。

 

「ッ!?」

 

鈴は連結させた双天牙月で、雨月と空裂を受け止める。

 

「随分と出鱈目な事してくれるじゃない。龍咆の砲弾を斬り裂くなんて」

 

「今まで何度お前の戦いを見ていたと思うんだ。発射のタイミングさえ見極めれば、そう難しい事ではない!」

 

鍔迫り合いをしながら、鈴と箒は互いに不敵に笑いながらそう言い合う。

 

「言ってくれるじゃない!!」

 

と、鈴はそう言い放つと同時に、雨月と空裂を弾き、距離を取ろうとする。

 

「逃がさん!!」

 

しかし、箒は両肩の展開装甲をクロスボウ状に変形させた穿千を構える。

 

穿千から熱線が発射され、離れようとしていた鈴に向かう。

 

「!? キャアアアッ!?」

 

辛うじて直撃は避けたが、バランスを崩して失速する鈴。

 

「クウッ!!」

 

しかし、その状態で連結した双天牙月を投擲する。

 

「!? グアッ!?」

 

アーマー上を掠り、火花を挙げる双天牙月に、箒は短く悲鳴を漏らす。

 

「よっ!!」

 

その間に鈴は体勢を立て直すと、戻って来た双天牙月をキャッチする。

 

「フッ、やるな………」

 

「アンタこそ………」

 

両者は再び不敵に笑い合うと、互いに突撃して、激しくぶつかり合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ~! 皆凄~い!」

 

「お嬢様達の実力、ここ数か月で格段に伸びてるわね」

 

「こうなると、反応速度の調整を見直す必要が有りそうだね」

 

その模擬戦の様子を、ピットの入り口で見ながら、機体データを取っていたのほほん、虚、ティトリーがそう言い合う。

 

「…………」

 

とそこで、アリーナの観客席の方に、蘭が姿を見せる。

 

自然と視線は一夏、そしてグラパール・弾を追う。

 

「…………」

 

知らず知らずの内に、拳を握り締める蘭。

 

と、その時!

 

[神谷! それに一夏! 他の連中も聞こえるか!?]

 

グレンラガン達へ、千冬から緊急通信が入る。

 

「!? 織斑先生!」

 

「如何した、ブラコンアネキ! またロージェノムの奴か?」

 

[その通りだが、少し厄介な事になっている………兎に角、直ぐにリーロンの研究室に来てくれ!]

 

一夏とグレンラガンがそう答えると、千冬はそう言って通信を切った。

 

「皆! 聞いたわね!? 模擬戦は中止!! リーロンさんの研究室に集合よ!!」

 

楯無が纏める様にそう言うと、グレン団の一同は次々にピットに引き上げ始める。

 

「ん? 蘭?」

 

とそこで、グラパール・弾が蘭の姿に気づく。

 

「あ!? お、お兄ぃ! えっと………」

 

「何やってんだ! 非常招集だぞ! 直ぐに研究室に集合だ!!」

 

戸惑う蘭に、グラパールから弾の姿に戻るとそう言い、研究室へと向かう。

 

「う、うん………」

 

蘭は少し表情に陰を落としながら、研究室へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園の地下・リーロンの研究室………

 

作戦室と化した研究室へ集合するグレン団。

 

既に千冬、真耶、リーロンの姿が在る。

 

「織斑先生、一体何が有ったんですか?」

 

「うむ………コレを見ろ」

 

シャルの問いに、千冬は一同から見える位置に空中投影ディスプレイを展開させる。

 

そこには、襲撃を受けている陸上自衛隊の十条駐屯地と、木更津駐屯地の映像が映し出される。

 

「!? コレは!?」

 

「2箇所同時に?」

 

ラウラと楯無が驚きの声を挙げる。

 

今まで、日本を襲ったロージェノム軍は、IS学園を中心に襲撃していたと言う事もあるが、基本は戦力を一点集中で送り込んで来ていた。

 

だが、今回は2箇所を同時に攻撃すると言う作戦を執っている。

 

「今回も、敵は自衛隊の補給処を狙って攻撃を仕掛けて来た。十条駐屯地には陸上自衛隊補給統制本部が、木更津駐屯地には航空自衛隊第1補給処が在る」

 

「防衛省からは、既にIS学園に救援要請が出されています」

 

「十条駐屯地にはレッドショルダー、木更津駐屯地にはガンメンを中心とした部隊が展開しているわ」

 

千冬と真耶、リーロンが一同に向かってそう説明する。

 

「2箇所同時だなんて………今まではこんな事無かったのに………」

 

「同時攻撃で………こちらの戦力を分断するのが狙い?」

 

一夏がそう言うと、簪がそんな推測を立てる。

 

「考えててもしょうがねえ! 直ぐに行くぞ! これ以上アイツ等の好きにさせるワケには行かねえ!!」

 

「残念だけど、神谷の言う通りよ。敵の猛攻の前に自衛隊は苦戦を強いられてるわ。このまま補給処が破壊されてしまったら、自衛隊の機能がマヒしてしまうわ」

 

神谷が考えていても仕方ないと言い、リーロンもその時間が無い事を告げる。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

グレン団の面々は敵の目的が分からず、一抹の不安を抱えながらも、出撃準備に入る。

 

そして、十条駐屯地には楯無、簪、セシリア、鈴、ラウラ。

 

木更津駐屯地には神谷、シャル、一夏、箒、弾が向かう事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時………

 

今後巻き起こる事態を………

 

誰もが予想だにしていなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

今回から蘭編です。
いよいよ彼女の参戦が秒読みとなります。
果たして、思い悩む蘭に転機は訪れるのか?
そして、2面作戦に出たロージェノム軍の意図は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第64話『誇り高く戦うべきだわ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第64話『誇り高く戦うべきだわ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロージェノム軍が、陸上自衛隊の補給統制本部が在る十条駐屯地と、航空自衛隊第1補給処が在る木更津駐屯地を襲撃。

 

これまで、日本では単独での作戦を展開していたロージェノム軍だったが、此処へ来て2拠点同時侵攻と言う、2面作戦を展開する。

 

救援要請を受けたグレン団は、戦力を分散せざるを得なかった。

 

斯くして、十条駐屯地には楯無、簪、セシリア、鈴、ラウラ。

 

木更津駐屯地には神谷、シャル、一夏、箒、弾が向かう事となる。

 

だが、やはりそれは、ロージェノム軍の罠であったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十条駐屯地………

 

「撃て撃てぇーっ!!」

 

土嚢を積んで防壁としながら、自衛官達が進撃してくるレッドショルダー部隊に、89式5.56㎜小銃や5.56㎜機関銃MINMIで攻撃している。

 

「ハハハハハッ!!」

 

しかし、レッドショルダー部隊はローラーダッシュ移動で、弾幕の間を擦り抜ける様にして躱してしまう。

 

仮に命中したところで、幾ら装甲の薄いブラッドサッカーと言えどIS。

 

絶対防御が、小銃弾程度で貫ける筈もなかった。

 

「そらっ! 消し飛べ!!」

 

そう言って、レッドショルダーの1人が、ブラッディライフルを発砲する。

 

同じ小銃と言えど、こちらはISサイズ。

 

生身の人間からすれば、実質大砲である。

 

土嚢で作られた防壁が、呆気無く吹き飛んで行く。

 

「うわあっ!?」

 

「クッ! 全軍後退! 後退しろ!!」

 

負傷者を引っ張りながら自衛官達は後退して行く。

 

「おっと! 逃がすかよ!!」

 

「ハハハハッ! 狩りの始まりだぜ!!」

 

レッドショルダー達は、そんな自衛官達を弄るかの様にゆっくりと追い詰めて行く。

 

まるで虐殺を楽しむかの様に………

 

「退け退けぇっ! 火達磨にしてやるぜ!!」

 

とそこで、火炎放射器を持ったレッドショルダーが、防壁に隠れている自衛官達に砲口を向ける。

 

「「「「「!?」」」」」

 

「ヒャッハー! 汚物は消毒だぁーっ!!」

 

そう叫びながら、引き金を引こうとした瞬間!!

 

突如上空から弾丸が降って来て、レッドショルダーの火炎放射器に命中!

 

火炎用の燃料タンクが爆発し、レッドショルダー自身が炎に包まれた!!

 

「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

醜い悲鳴を挙げながら暴れ回る、火達磨になったレッドショルダー。

 

やがて自爆装置が作動し、装着者諸共木端微塵と化す。

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

他のレッドショルダー達が驚きの声を挙げると………

 

「…………」

 

その眼前に、スコープドッグを纏った簪が、降着姿勢を取って着地。

 

「「!?」」

 

「…………」

 

目の前に居たレッドショルダー2人の内、簪から見て左に居た方にアームパンチを打ち込む!!

 

「ゴハッ!?」

 

「なっ!?」

 

そして、右に居たレッドショルダーに、ヘヴィマシンガンを至近距離から連射する!!

 

「!? ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

装甲部分は穴だらけにされ、シールドエネルギーも一気に霧散したレッドショルダーはそのまま爆散した。

 

「!?」

 

「コイツゥッ!!」

 

とそこで、その2人より後方に居たレッドショルダー達の中の1人が、簪目掛けてブラッディライフルを連射する。

 

「…………」

 

「ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

簪が、直ぐにそこへスライドする様にローラーダッシュ移動して躱し、ブラッディライフルの弾丸はアームパンチを受けて倒れていたレッドショルダーに命中。

 

自爆装置の作動したレッドショルダーが爆散した。

 

「このぉっ!!」

 

「撃て撃てっ!!」

 

突如現れた乱入者に、レッドショルダー達は一斉に狙いを定め、ペンタトルーパー、ハンドロケットランチャー、ソリッドシューター、ショルダーミサイルガンポッド等々の攻撃を加える。

 

「…………」

 

だが、簪は巧みな操縦でレッドショルダー達の攻撃を躱して行く。

 

「このぉ! ちょこまかと!!」

 

と、レッドショルダーの1人がそう声を挙げた瞬間!

 

何処からとも無く伸びて来た、蛇腹剣の刃とワイヤーブレードが、次々にレッドショルダー達を斬り付ける!!

 

「「「「「ウギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

次々に爆散して行くレッドショルダー達。

 

「ウチの妹に手荒な真似は止めてくれないかしら?」

 

「IS乗りの………いや、人類の恥め! 覚悟しろ!!」

 

そう言う台詞と共に、楯無とラウラが姿を見せる。

 

「チッ! グレン団かっ!!」

 

「ブッ殺せぇっ!!」

 

すぐに2人に向かって武器を構えて行くレッドショルダー達だったが………

 

「!? ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

突如、レッドショルダーの1人にビームが直撃。

 

自爆装置が作動して、木端微塵となる。

 

「!? 何っ!?」

 

「グギャアッ!?」

 

別のレッドショルダーの1人が驚きの声を挙げると、また別のレッドショルダーにビームが命中し、爆散する。

 

「! 狙撃兵が居るぞ!!」

 

「チキショー! どっから狙ってやがる!?」

 

レッドショルダー達は戦闘機動を取り、ビームの狙撃から逃げる。

 

「ぐあああっ!?」

 

「! あそこだ!!」

 

と、またも1人がやられたのを見て、別のレッドショルダーが、やや離れた駐屯地施設の屋上を指差す。

 

「…………」

 

そこには、某不吉の数字を名前に持つプロの殺し屋よろしく、スターライトmkⅢをスコープを覗き込みながら構えて居るセシリアの姿が在った。

 

「ふざけやがって! 死ねぇっ!!」

 

ソリッドシューターを持ったレッドショルダーが、セシリアに照準を合わせるが、その瞬間!!

 

別方向からビームが飛んで来て、ソリッドシューターを持ったレッドショルダーに直撃する!!

 

「!? うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「!? まだ居たのか!?」

 

爆散したソリッドシューターを持ったレッドショルダーを見て、他のレッドショルダー達が慌てると………

 

更に別の場所からビームが放たれて来て、レッドショルダーの1人に命中した!

 

「あぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「チキショウ! 一体何人の狙撃兵を潜ませてやがるんだ!?」

 

四方八方から飛んで来るビームに、レッドショルダーの1人が悪態を吐く。

 

「!? 馬鹿! そっちに行くなっ!!」

 

「えっ!?」

 

とそこで、回避行動を続けていたレッドショルダー数体が、1箇所に固まる形となる。

 

「もう遅いわ!!」

 

その瞬間に、そう言う声が響いたかと思うと、駐屯地施設の影から鈴が飛び出して来て、龍咆を放つ!!

 

固まっていたレッドショルダー達は、断末魔を挙げる暇も無く消し飛んだ。

 

「ふふん、アイツにしては考えたわね」

 

鈴は狙撃を続けているセシリアを見遣り、そんな事を呟く。

 

実は、あの四方八方からの狙撃は、全てセシリアの物だったのである。

 

簪、楯無、ラウラが敵の注意を惹いている間に、鈴が駐屯地の彼方此方に、ビットのブルー・ティアーズを固定設置。

 

ビットのブルー・ティアーズを操っている間は、セシリア自身は行動が出来ないと言う弱点を、ビットのブルー・ティアーズを敢えて固定砲台とする事で解決したのだ。

 

セシリアが偏向制御射撃(フレキシブル)をマスターしたからこそ出来る芸当である。

 

「セシリアァ! 確り援護頼むわよぉ!!」

 

「…………」

 

鈴の声に、セシリアは左手でサムズアップを返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木更津駐屯地………

 

「そらそらぁっ!!」

 

「ブチ壊せぇっ!!」

 

航空自衛隊第1補給処の在るエリアを、手当たり次第に破壊しているガンメン部隊。

 

陸上自衛隊駐屯地の自衛官達が駆け付け、応戦しているが、戦況は不利である。

 

「そこまでだ! 獣人共ぉっ!!」

 

とそこで、勇ましい声が、駐屯地内に響く。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

何事かと、ガンメン部隊と自衛官達が声のした方向を見遣ると、そこには………

 

駐屯地施設の屋上に、ガイナ立ちで仁王立ちし、ガンメン部隊を見下ろしているグレンラガンの姿が在った。

 

「それ以上の無法は! 例え天が許しても、このグレン団の神谷様とグレンラガンが許しゃあしないぜぇっ!!」

 

グレンラガンはガンメン部隊をビッと指差し、そう言い放つ。

 

「グレンラガンだ!!」

 

「うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ! ブッ倒せぇっ!!」

 

途端に、ガンメン部隊はグレンラガンに向かって一斉射撃を見舞った!!

 

「!? オイ! ちょっと待て!?」

 

グレンラガンが慌ててそう言った瞬間、ガンメン部隊の一斉射撃が足元の施設へと直撃!

 

施設が音を立てて崩れ始める。

 

「うおおおっ!?」

 

そのまま自由落下しつつも、着地を決めるグレンラガン。

 

「ッ~~~~~! テメェ! 人が口上を決めてる時に!!」

 

高所からの落下で足がツピーンとなりながらも、怒りの声をガンメン部隊に浴びせる。

 

「グレンラガン!」

 

「その首、貰ったぁっ!!」

 

しかし、ガンメン部隊は意に介さず、接近戦を仕掛けて来る!!

 

「! 舐めるなぁっ!!」

 

グレンラガンがそう吠えた瞬間!!

 

その身体から螺旋力が溢れ、フリドリライズ状態になったかと思うと、全身のドリルが槍の様に伸びる!!

 

接近戦を仕掛けて来たガンメン部隊は、次々に貫かれる。

 

そして、グレンラガンがドリルを引っ込めたかと思うと、ワンテンポ遅れて次々に爆散した!!

 

「ぬうっ! おのれ、グレンラガン!!」

 

「怯むなぁっ! 掛かれぇっ!!」

 

残った居たガンメン部隊は一瞬怯むが、部隊長の号令で再びグレンラガンに群がろうとする。

 

「させないよ!!」

 

「はあああっ!!」

 

しかしそこで、上空に現れたシャルと箒が、両手に構えたヴェントでの射撃と、空裂からの薙ぎ払う様なエネルギー刃を見舞った!!

 

弾丸の雨で蜂の巣にされ、エネルギー刃で真っ二つにされたガンメン達が次々に爆発する。

 

「おりゃあっ!!」

 

「シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

グラパールブレードでメズー1体を斬り裂くグラパール・弾と、雪羅のシャイニングフィンガーでカノン・ガノンを貫く一夏。

 

「ぬううっ! 恐るべし、グレン団!!」

 

「何という強さだ!!」

 

ガンメン部隊は、グレン団の強さに慄く様な様子を見せる。

 

「ヘヘッ! 如何した! ガンメン共!! ビビってんのか!?」

 

そんなガンメン達に向かって、グレンラガンは挑発する様にそう言い放つ。

 

「神谷! 油断するな!!」

 

「そうだよ、神谷。コレがただの2面作戦だとは思えないよ。きっと何か罠が有る筈だから、油断しないで」

 

そんなグレンラガンに、箒とシャルが注意する。

 

と、その時!!

 

「! 今だ! やれ! ノナカーゴH2!!」

 

ガンメン部隊の部隊長がそう叫んだかと思うと、何処からともなく電撃が飛来!!

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

そのままシャルへと命中した!!

 

「!? シャル!?」

 

「シャルロット!?」

 

「「!?」」

 

グレンラガン達が慌てた瞬間、電撃に拘束されたシャルがISごと持ち上げられると、電撃が放たれている方へと引き寄せられる。

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

そこには、卵の様な身体を半分に分離している機械獣『ノナカーゴH2』の姿が在った!!

 

ノナカーゴH2は、電撃で拘束していたシャルを、そのまま自分のボディの中へと閉じ込める!!

 

「シャル! テメェッ!!」

 

直ぐ様右手をドリルに変えて、ノナカーゴH2に突撃するグレンラガンだったが………

 

「動くな! グレンラガン!! 妙な素振りを見せたら、ノナカーゴH2は即座に自爆するぞ!!」

 

そのグレンラガンに向かって、ガンメン部隊の部隊長がそう叫んだ!

 

「!? 何っ!?」

 

「メガトン級の爆弾だ。如何に絶対防御を備えるISと言えど、耐えきれるものではないぞ!!」

 

驚くグレンラガンに向かって、ガンメン部隊の部隊長は更にそう言葉を続ける。

 

「クソッ!」

 

仕方無く、グレンラガンはドリルを引っ込めて、構えを解いた。

 

「ふふふ、物分かりが良いな………貴様達もだ!! 妙な真似はするなよ!!」

 

ガンメン部隊の部隊長は、更に一夏達にもそう言い放つ。

 

「クウッ!」

 

「むう………」

 

「クソッタレが………」

 

一夏達は苦い顔をしたり、悪態を吐きながら、構えを解いて行く。

 

「よ~し! それで良い! グレン団め! 今まで貴様等にやられた同胞達の恨み! 晴らしてくれる!! 出でよ!! ストロンガーT4!!」

 

と、ガンメン部隊の部隊長がそう叫んだかと思うと!

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

地面を突き破って、新たな機械獣『ストロンガーT4』が現れた!!

 

「やれ! ストロンガーT4!! グレン団を叩きのめせ!!」

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

ストロンガーT4は咆哮を挙げると、その身体の大部分を占めている巨大ファンを回転させ始める!!

 

途端に、台風並みの強風が吹き荒れ、グレンラガン達に襲い掛かった!!

 

「!? うおわぁっ!?」

 

「ぬあっ!?」

 

「ぐうっ!?」

 

「うおおっ!?」

 

その強風に耐え切れずに吹き飛ばされるグレンラガンと一夏に、吹き飛ばされた瓦礫が命中する箒とグラパール・弾。

 

そのまま4人共、地面に叩き付けられる。

 

「まだまだ! 我等獣人の恨みをとことん味あわせて、じわじわと嬲り殺しにしてやる!!」

 

そんなグレンラガン達の姿を見て、ガンメン部隊の部隊長がそう言い放つと、ストロンガーT4がグレンラガンと一夏に近付く。

 

そして、鞭の両手を2人に巻き付けて持ち上げた。

 

「ぐうっ!?」

 

「な、何だっ!?」

 

グレンラガンと一夏がそう声を挙げた瞬間!!

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

ストロンガーT4は、咆哮と共に2人を持ち上げて、地面に叩き付けた!!

 

「!? ぐあああっ!?」

 

「ガッ!?」

 

そして再び持ち上げると、またも地面に叩き付ける。

 

それを何度も何度も繰り返す。

 

「い、一夏!」

 

「テメェッ!!」

 

箒とグラパール・弾が、2人の救助に向かおうとするが………

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

ストロンガーT4は再び身体のファンを回転。

 

巻き起こった突風が、箒とグラパール・弾を飲み込む!!

 

「ぐうっ!?」

 

「のうわっ!?」

 

再び吹き飛ばされて、地面に叩き付けられる箒とグラパール・弾。

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

更にそこへ追い打ちを掛けるかの様に、グレンラガンと一夏を投げ飛ばすストロンガーT4。

 

「ぐあっ!?」

 

「ぐうっ!?」

 

「おうわっ!?」

 

「ガッ!?」

 

一夏は箒へ、グレンラガンはグラパール・弾へと叩き付けられる。

 

「よーし、今だ!! 全軍! 一斉攻撃ぃっ!!」

 

そしてそこで、残っていたガンメン達がありったけの火力を、グレンラガン達目掛けて撃ち込んだ!!

 

連続して起こった爆煙で、グレンラガン達の姿が完全に見えなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園の地下・リーロンの研究室………

 

「弾くん!!」

 

「おりむー! かみやん!」

 

「箒!! シャル!!」

 

その光景を学園地下のリーロンの研究室に有るモニターで見ていた虚、のほほん、ティトリーが悲鳴を挙げる。

 

「織斑先生! このままでは天上くん達が危険です!! 教師部隊を援軍に出撃させましょう!!」

 

「駄目だ………」

 

真耶が千冬に向かってそう言うが、千冬は真耶の発案を切り捨てる。

 

「!? 何故ですか!!」

 

「敵の作戦が2面だけとは限らない。ひょっとしたら、教師部隊を差し向けた隙を衝いてIS学園を襲撃するという3面作戦かも知れん。それが分からぬ以上、迂闊な動きは取れん」

 

「ですが! このままでは天上くん達が!!」

 

「アイツ等なら大丈夫だ。殺しても死にそうにない連中ばかりだからな」

 

「! 織斑先生! 貴女は!!………!?」

 

まるで他人事の様にそう言う千冬に、真耶は思わず非難の声を挙げようとしたが、そこで千冬の手が、血が出る程に握り締められているのを見て、ハッとする。

 

(織斑先生………貴女は………)

 

彼女も本当は辛いのだ。

 

本当なら、今直ぐにでも援軍を、いや自分自身が駆け付けたいに決まっている。

 

だが彼女は、一夏の姉であり、神谷の友である前に、IS学園の防衛を担う教師なのである。

 

IS学園、そして在学する生徒を守る為に、非情にならざるを得ないのだ。

 

「こんな事だったら、開発したばかりの新兵器を持たせておくんだったわ」

 

とそこで、リーロンがそんな事を呟く。

 

「? 新兵器?」

 

「ええ………」

 

それに反応したかの様に声を挙げた千冬に答える様に、リーロンはモニターに銃の様な物が書き記されている設計図を表示させる。

 

「トルネードシールドガンよ。螺旋力をエネルギーとして発射し、命中した対象の周囲にバリアを展開して包み込む事が出来るわ」

 

「こんな物が………」

 

「備えてはおいたんだけど、この局面で必要になるとはねえ………」

 

流石のリーロンも、今回ばかりは苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

 

「…………」

 

と、一連の光景を黙って見ていた蘭が、拳を握り締める。

 

(このままじゃ………一夏さん達が………私が………私が戦えたら………)

 

またも内心にそんな思いが持ち上がる。

 

と、その時………

 

「リーロンさん! アタシが行くよ!!」

 

ティトリーが突如そう声を挙げた!

 

「!?」

 

「キャッツさん!?」

 

思わず蘭は注目し、真耶も驚きの声を挙げる。

 

「打鉄かラファールを貸して! アタシが神谷達を助けに行く!!」

 

「馬鹿を言うな! お前は整備課だろ! それに量産機では機械獣に対抗出来んぞ!!」

 

ティトリーに向かってそう言う千冬。

 

「なら私も行くよ!」

 

「私もです! 3人で掛かれば!!」

 

「本音さん!? 虚さんまで!?」

 

すると、更にそこへティトリーに続く様にのほほんと虚がそう声を挙げる。

 

「お前達まで………神谷の馬鹿に感化されたか!? お前達のIS適正は揃ってC以下だろうが! 行った所で命を捨てる様なものだぞ!!」

 

「それで良いんだよ!!」

 

「!? 何っ!?」

 

ティトリーの思わぬ反論に、千冬は僅かに狼狽した。

 

「かみやんもおりむーも、他の人達も………グレン団の皆は、私達や日本。そして世界を守る為に必死になってる!」

 

「誰かに頼まれたワケでもなく、称賛を受ける事もなく、それでも今日まで戦い続けてきました。何の見返りも無いのに」

 

するとのほほんと虚も、真剣な表情でそう言って来る。

 

「そんな神谷達を助けるのに! 命を賭けないでいられるワケがないよ!!」

 

「その通り!!」

 

「グレン団は何れ世界の希望になります………理屈じゃありません」

 

「「「アタシ(私)達の魂が! そうだと告げているんです!!」」」

 

3人揃ってそう言い放つティトリー、のほほん、虚。

 

「うぐっ!?」

 

その良く分からない迫力の前に、千冬は1歩退く。

 

(世界を守る為に………)

 

と、その言葉で蘭は………

 

急に今までの自分が恥ずかしくなった。

 

(………そうよ。一夏さんも、お兄も、神谷さんも………皆世界の平和の為に戦ってるんじゃない。ティトリーさん達だって、例え戦う事は出来なくても、一夏さん達と同じ様に世界を守るって決意を持ってる………なのに私ったら………)

 

ただ一夏の傍に居たい、兄である弾に負けたくない、仲間外れにされたくない………

 

そんな思いから戦いたいと思っていた自分が情けなくなる蘭。

 

(そうだ! 私だってグレン団の一員! 戦うのなら………一夏さん達みたいに………誇り高く戦うべきだわ!!)

 

と、蘭がそう思った瞬間!!

 

研究室の片隅に置かれていたピンク色のグラパールが、緑色の輝きを放ち始める!!

 

「「「「!?」」」」

 

「な、何ですか!?」

 

「コレは!?」

 

「あらあら? ひょっとして………」

 

一同が驚きの声を挙げると!

 

ピンク色のグラパールは緑色の光球となって、蘭の元へと飛ぶ!!

 

「!? キャアッ!?」

 

思わず両腕で身体を守る様な姿勢を取る蘭だったが、緑色の光球はその蘭の右腕に止まる!

 

そして光が弾けたかと思うと、蘭の右腕には、顔の様な飾りが付いたブレスレットが装着されていた!

 

「!? コレって!?」

 

「全く………運命ってのはホント数奇ね」

 

驚く蘭を見ながら、リーロンはそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木更津駐屯地………

 

「おうわっ!?」

 

ストロンガーT4の鞭の様な腕に殴られ、瓦礫に叩き付けられるグレンラガン。

 

その全身は、既にボロボロであった。

 

「あ、アニキ………ぐうっ!!」

 

そんなグレンラガンの姿を見ている一夏も、装着している白式がボロボロになっており、雪片弐型を杖代わりに如何にか膝立ちしている状態である。

 

「ぐ、う………」

 

「あ、が………」

 

その傍では、同じ様にボロボロな箒とグラパール・弾が、完全に地面に横たわっていた。

 

「ハーッハッハッハッハッ!! 良い様だな! グレンラガン!!」

 

そんなグレンラガンの姿を見て、ガンメン部隊の部隊長は愉快そうに笑う。

 

「へっ………如何した? それで終わりか?」

 

しかし、グレンラガンはダメージを痩せ我慢して立ち上がり、ガンメン部隊の部隊長に挑発するかの様な言葉を吐く。

 

「フンッ! 口の減らない奴め………ストロンガーT4! そろそろトドメを刺してやれ!!」

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

と、ストロンガーT4が咆哮を挙げると、両腕でグレンラガンを縛り上げる。

 

「むうっ!?」

 

そして身体のファンを回転させ始める。

 

しかし、今度は今までの様に強風を起こすのではなく、まるで掃除機の様に吸い込み始めた!!

 

「!? うおおおっ!?」

 

その吸引力の前に、グレンラガンが引っ張られて行く。

 

「こなくそぉっ!!」

 

足を踏ん張るグレンラガンだが、徐々にストロンガーT4の方へと吸い込まれて行く。

 

「フフフ、何時まで持つかな?………おお! そうだ!! ノナカーゴH2!!」

 

とそこで、ガンメン部隊の部隊長が何かを思いついた様にノナカーゴH2に声を掛けたかと思うと、ノナカーゴH2がボディを開いた。

 

「ううう………」

 

電流で拘束されたままのシャルの姿が露わとなる。

 

「貴様にも良く見せてやろう。グレンラガンの最期をな」

 

「えっ!?………!? 神谷ぁっ!!」

 

その言葉で顔を上げたシャルは、グレンラガンの状況を見て悲鳴にも似た叫びを挙げる。

 

ゆっくりとストロンガーT4の方へと吸い寄せられていくグレンラガン。

 

「ぐううううう!!」

 

「ア、アニキィッ!!」

 

助けに行きたい一夏達だったが、ダメージで身体が思う様に動かなかった。

 

遂にストロンガーT4が、グレンラガンの眼前にまで迫る。

 

グレンラガンの命運もコレまでか?

 

と思われたその時!!

 

風切り音と共に飛んで来た砲弾が、ストロンガーT4へと直撃する!!

 

「!? しめた!!」

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?

 

ファンの回転が止まり、その際に鞭の様な両腕も緩んで、グレンラガンは脱出する。

 

「何っ!? オノレェ!! 何者だ!!」

 

ガンメン部隊の部隊長はそう叫び、砲弾が飛んで来た方向を見遣る。

 

そこに居たのは………

 

巨大なバズーカ・スパイラルボンバーを構えているピンク色のグラパール。

 

「コレ以上………貴方達の思う様にはさせないわ!!」

 

『グラパール・蘭』の姿だった!!

 

「!? その声は!?」

 

「蘭!? お前、蘭か!?」

 

その声を聞いた一夏とグラパール・弾が驚きの声を挙げる。

 

「何っ!? グレンラガン擬きがもう1体だと!? ええい! 計算外だ! しかし! こちらにはまだ人質が………」

 

「トルネードシールド! 展開!!」

 

と、ガンメン部隊の部隊長がそう言った瞬間、グラパール・蘭はスパイラルボンバーを捨て、トルネードシールドガンをノナカーゴH2に向かって撃った!

 

すると、トルネードシールドガンから放たれた光線が、ノナカーゴH2の眼前で広がる様に展開し、電撃で拘束されていたシャルを包み込んだかと思うと、バリアで包み込む!!

 

途端に、彼女を拘束していた電撃が弾かれ、シャルはノナカーゴH2のボディから抜け出す。

 

「な、何っ!?」

 

「!? しめた!!」

 

バリアが消えると、シャルは即座に離脱する。

 

「オノレェ! こうなれば死なば諸共!! 自爆しろ!! ノナカーゴH2!!」

 

ガンメン部隊の部隊長がそう叫ぶと、ノナカーゴH2の身体から光が溢れ出し始める。

 

如何やら、自分達諸共、グレン団をメガトン級の自爆に巻き込む積りらしい。

 

「「「「!?」」」」

 

グレンラガン達が身構えるが、

 

「させないわ!!」

 

グラパール・蘭がそう言ったかと思うと、再びトルネードシールドガンをノナカーゴH2に向けて放った!!

 

今度はノナカーゴH2を包み込む様にバリアが展開。

 

その直後にノナカーゴH2が自爆。

 

しかし、そのメガトン級の爆発は、全てバリアに抑えられ、外部へは全く漏れない。

 

やがて爆発エネルギーが完全に消滅すると、バリアが消える。

 

「ば、馬鹿な………」

 

唖然とするガンメン部隊の部隊長。

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!

 

と、まだ諦めていないのか、ストロンガーT4がファンを回転させようとしたが、

 

「スカルブレイクッ!!」

 

そのボディに、グレンラガンのスカルブレイクが炸裂!!

 

ファンは粉々となり、ドリルがストロンガーT4のボディを貫通して、背中から出現する!!

 

グワガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?

 

「散々甚振ってくれたな………お返しさせてもらうぜ! 箒!!」

 

と、グレンラガンは貫いたままのストロンガーT4を持ち上げ、箒に向かって投げ飛ばす。

 

「セイヤァッ!!」

 

飛んで来たストロンガーT4に、雨月と空裂を振るう箒。

 

閃光が走ると、ストロンガーT4の手足が斬り落とされ、達磨となる。

 

「一夏ぁっ!!」

 

と、その達磨となったストロンガーT4を、グラパール・弾がレシーブの様に上空へと弾く。

 

「…………」

 

弾かれた先の上空には、一夏が雪片弐型を上段に大きく振り被って待機していた。

 

そして、ストロンガーT4が眼前まで上がって来た瞬間!!

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

気合の雄叫びと共に雪片弐型を振り下ろし、真っ二つにする!!

 

一夏が着地を決めると、真っ二つになったストロンガーT4は、空中で爆発・四散する!!

 

「ス、ストロンガーT4まで!? ええい! 退け! 退けぇっ!!」

 

ストロンガーT4がやられたのを見るや否や、残っていたガンメン部隊も撤退を始めた。

 

「一昨日来やがれってんだ………それにしても」

 

その背に向かってそう言い放つと、グレンラガンはグラパール・蘭に向き直る。

 

直ぐに一夏達も集まる。

 

「蘭! お前、何やってんだよ!?」

 

真っ先に声を挙げたのは、他ならぬ兄の弾である。

 

「お兄、一夏さん。私も戦う」

 

すると、グラパール・蘭は、一同を見据えながらそう宣言した。

 

「!? ええっ!?」

 

「本気か!?」

 

その宣言に一夏と箒が驚きの声を挙げる。

 

「馬鹿! お前、何言って………」

 

「私だって世界を守りたい! 何より、お兄や一夏さんを守りたいの! 私だって………グレン団なんだから!!」

 

何か言おうとしたグラパール・弾の言葉を、グラパール・蘭はそう言って遮る。

 

「ら、蘭………」

 

「良いじゃねえか、頼もしい仲間が増えたじゃねえか」

 

グラパール・弾の肩に手を置き、グレンラガンがそう言う。

 

「アニキ………」

 

「如何しても不安だってんなら、兄貴のお前が守ってやれよ」

 

「………蘭。無茶だけはするなよ」

 

グレンラガンの言葉に、グラパール・弾は折れたかの様に、それでも念を押す様に、グラパール・蘭にそう言う。

 

「分かってるって」

 

[天上、織斑、篠ノ之、それに五反田達も良くやった。十条駐屯地のレッドショルダー達も撤退を始めた。お前達も帰還しろ]

 

グラパール・蘭が返事を返すと、学園の千冬から一同にそう通信が入る。

 

「アイヨ! んじゃ、帰るか! 蘭の参戦記念パーティーもしてぇしな!!」

 

「おっ! 良いね、ソレ!!」

 

「こうなりゃヤケだ! 今日はトコトン騒ぐぞぉ!!」

 

グレンラガンの提案に、一夏とグラパール・弾はノリノリな様子を見せる。

 

「またか、お前達………」

 

「お兄! 節度は守ってよ!!」

 

事ある毎に宴会を開く一夏達に呆れる箒と、グラパール・弾に向かってそう言うグラパール・蘭だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

2面作戦に対応する為、戦力を分散したグレン団だったが、新型機械獣の出現によって、神谷達がピンチに陥る。
しかし、土壇場で戦い事の意義を見出した蘭に、残る1機のグラパールが答えます。
遂に蘭も参戦。
ますます戦力強化のグレン団。
しかし、戦いもより激しくなっていきます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第65話『こりゃ恰好の獲物だと思ってよ!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第65話『こりゃ恰好の獲物だと思ってよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園から大分離れた山奥………

 

この日、IS学園は野外学習を実行。

 

生徒達は山岳地帯でキャンプを行う事となった。

 

しかし、そこはISの事を教えるIS学園………

 

キャンプはキャンプでも只のキャンプではなく、ISの山岳地帯での戦闘訓練でもあるのである。

 

生徒達は其々に量産機ISを装着し、訓練を開始していた。

 

 

 

 

 

森林の中………

 

「「「…………」」」

 

打鉄を装着している生徒2人とラファールを装着している生徒1人の3人組が、トライアングルを描く様な配置で、森林の中をゆっくりと進んでいる。

 

打鉄を装着している生徒2人の手にはアサルトライフル。

 

ラファールを装着している生徒の手にはショットガンが握られている。

 

「「「…………」」」

 

3人とも緊張した面持ちで、歩調を合わせながら、ゆっくりと森林の中を進んで行っている。

 

とその時!

 

3人から見て右側の茂みの方で、ガサッと言う何かが動く音がした。

 

「「「!?」」」

 

3人は、直ぐ様持っていた得物を向ける。

 

しかし、再びガサッと言う音が鳴ったかと思うと、茂みからは野兎が飛び出して来る。

 

「兎………」

 

「ふう~~」

 

「驚かさないでよ~」

 

3人は安堵の息を吐く。

 

と、その時!!

 

突如、3人の背後の木の上から、人影が降りて来た!!

 

「「「!?」」」

 

「えへへ………」

 

驚く3人に、降りて来た人影………シャルは笑みを浮かべる。

 

そして、その身体が光に包まれたかと思うと、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを装着した状態となる。

 

「「「!!」」」

 

慌てて得物を向けようとした3人だが時既に遅し!!

 

それよりも早く、シャルの両手に出現したデザート・フォックスから吐き出されたペイント弾が、3人の身体とISを赤く染めた。

 

[そこまで! 訓練終了!!]

 

「あ~~! やられた~~!!」

 

「トホホホ………」

 

打鉄を装着した生徒1人と、ラファールを装着した生徒からそう声が挙がる。

 

「シャルロット~、ISを展開しないで隠れてるなんて、卑怯だよ~」

 

もう1人の打鉄を装着した生徒が、シャルに向かってそう抗議する様に言うが………

 

「ゴメンね。でも、コレが本当のゲリラ戦だったら、君達死んでたよ」

 

シャルは笑顔を浮かべて、サラッとそんな言葉を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土と岩石が露出した山肌………

 

山肌の上部に陣を張った生徒達と、下側から攻めて来ている生徒達が交戦している。

 

山肌に陣を張った生徒達は、地の利を活かして、攻撃役側の生徒達を一方的に攻撃している。

 

「弾幕張って! 近寄らせないで!!」

 

「悪いけど、勝ちは貰うよ!!」

 

山肌に張られた陣の中に居た打鉄とラファールを装着している生徒がそんな事を言った瞬間………

 

何処からとも無くビームが飛んで来て、陣地の1つに直撃。

 

その陣地に居た生徒達のISが、訓練用に設定されていたダメージを超過し、システムダウンした。

 

「!? 狙撃!?」

 

「一体何処から!?」

 

慌てて狙撃地点を探す山肌に陣を張った生徒達。

 

すると、隣の山の木々の中で何かが光ったかと思うと、別の陣地が吹き飛ばされる。

 

「隣の山肌から!?」

 

「セシリアだよ! きっと!!」

 

攻撃でビームだと言う点と、狙撃された距離から生徒達は、スナイパーの正体がセシリアであると判断する。

 

その直後に、再び別の陣地が吹き飛ばされる。

 

「何か反撃出来る武器は無い!?」

 

「実弾のライフルじゃ届かないよ! ロケット弾かミサイルじゃないと!!」

 

直ぐにミサイルポッドやロケット弾ポッドを構える生徒達だったが、その瞬間!

 

山の上部の方から、水が流れて来た。

 

「!? コレは!?」

 

「マズイ!?」

 

生徒達が慌てて陣地から離脱しようとした瞬間!

 

「残念。手遅れだよ」

 

セシリアの狙撃による撹乱の間に、陣地よりも高い位置に昇っていた楯無が、放流したアクア・ナノマシンを爆破!!

 

陣地を築いていた生徒達のISは、次々にシステムダウンした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

河川………

 

湿地戦仕様に改造されている打鉄やラファールを装着している生徒達が、輸送船に見立てた船を護衛している。

 

「右、異常なーし!」

 

「左、異常なーし!」

 

声を出し合って報告し合っている護衛組の生徒達。

 

と、その時!!

 

突如河川の両側に広がっていた森の中から、弾幕が展開される!!

 

「! 敵襲ーっ!!」

 

「船を守れぇーっ!!」

 

直ちに輸送船を守る様に応戦を始める護衛組の生徒達。

 

「クソッ! 何処から撃ってるの!?」

 

「構わないから、兎に角撃ちまくるのよ!!」

 

襲撃組の生徒は、ISを迷彩カラーに染めて、御丁寧にISスーツも迷彩色の物を着ている為、完全に森林の中に溶け込み、護衛組からその姿は窺えなかった。

 

護衛組の生徒達は兎に角弾幕を張って、数撃ちゃ当たる作戦で、敵を近付けさせない様にする。

 

と、その時!

 

突如、輸送船の行く手の水面が盛り上がったかと思うと………

 

「………隙有り」

 

湿地戦仕様に改造したスコープドッグ………『マーシィドッグ』を纏った簪が姿を現した。

 

そして、手にしていたヘヴィマシンガン改を、輸送船目掛けて発砲する。

 

忽ち、穴だらけにされて爆発する輸送船。

 

「!? しまった!?」

 

「今まで潜って隠れてたの!?」

 

輸送船を破壊された事と、何とも辛抱強い待ち伏せをしていた簪に、護衛組の生徒が驚きの声を挙げる。

 

「…………」

 

簪は、それには特にリアクションを見せず、燃え上がる輸送船をターレットレンズ越しにジッと見据えている。

 

と、その時!!

 

炎に包まれていた輸送船から轟音が響き、半壊していた船体が更に弾けた!!

 

「!?」

 

簪は、咄嗟にエアバージとハイドロジェット機構を使い、横へ移動する。

 

直後に、先程まで簪が居た場所が大きく爆ぜる。

 

「………衝撃砲………」

 

「御名答!!」

 

簪がそう呟くと、破壊された輸送船から、鈴が飛び出して来た!!

 

「私も居るぞ!」

 

更に続いて、ラウラも飛び出す。

 

「罠に掛けた積りだろうが、そうは行かんぞ」

 

「簪! アンタは厄介だからね! 此処で潰させて貰うわ!!」

 

水面にホバリングしながら、鈴とラウラは簪に向かってそう言い放つ。

 

「…………」

 

それに対し、簪は特にリアクションを見せる様な事はせず、只無言でヘヴィマシンガン改を構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

一夏はと言うと………

 

「せいやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

ISスーツ姿で滝壺に浸かり、シュバルツから貰った錆びた日本刀を、滝に目掛けて横薙ぎに振るう。

 

「!? うわっ!?」

 

しかし、滝の勢いに勝てず、刀を手放して転び、水没する。

 

「!? ああっ!?」

 

その様子を見てた制服姿の箒が、思わず声を挙げる。

 

「………ブハッ!」

 

だが、少しすると、一夏は刀を握った状態で再び浮上した。

 

「ふうぅ」

 

その様子に、安堵の息を吐く箒。

 

「ハア………ハア………ハア………」

 

一方、一夏は荒くなった息を整えている。

 

最近ロージェノム軍相手に連勝を続けている一夏だったが、未だにシュバルツに課せられたこの修行だけは上手く行っていなかった。

 

タッグマッチの時と、ミクの来校時には、怒らずしてスーパーモードを発動させる事に成功している一夏だが、それは本人にも分からない力の作用である。

 

未だに、一夏はスーパーモードを自在に発動出来てはいない。

 

そこで、この山岳訓練を利用して、山籠もりにも似た修行を展開しているのである。

 

と、その様子を、崖の上からシュバルツが見ていた。

 

「一夏よ。その刀を使いこなす事が出来なければ、スーパーモードはお前のものにならんぞ」

 

「タアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

シュバルツが居る事等気付きもせず、一夏は特訓を続けている。

 

「一夏………」

 

そんな一夏の事を気に掛けながらも、声を掛けられず見守る事しか出来ない箒。

 

と、その時………

 

ウキウキ

 

「ん?」

 

足元から聞こえて来た鳴き声に、箒が視線を下げると、そこには野生のものと思われる子猿の姿が在った。

 

「何だ? 野生の猿か? スマンが、餌を遣るわけには行かんのでな。こんな所に居ても良い事は無いぞ。早々に立ち去れ」

 

子猿を見て、箒は優しく微笑みながらそう言う。

 

ウキ~?

 

それを聞いた子猿は、首を傾げる様な仕草をする。

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

そんな箒の様子等知らず、一夏は只管滝に向かっての打ち込みを続けている。

 

「ぐうっ!?」

 

今度は刀を手放したり、倒れたりはしなかったものの、刀が弾かれてしまう。

 

「クソッ!」

 

「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

「!? 箒!?」

 

今までに聞いた事の無い、箒の女の子らしい悲鳴に、思わず振り返る一夏。

 

するとそこには、

 

「な、何をするか貴様~っ!!」

 

ウッキ~

 

子猿にスカートを捲られている箒の姿が在った。

 

「!?」

 

途端に一夏は赤面する。

 

ウッキ~

 

やがて子猿は満足した様に、箒から離れて去って行く。

 

「ええい! あのエロ猿め!!………うん?」

 

そこで箒は、一夏が自分の方を見ながら赤面して固まっているのに気付く。

 

「………見たのか?」

 

赤面しながら、睨む様にしてそう問い質す。

 

「へっ? あ、ああ~~………」

 

一夏は赤面したままアタフタとし出し、

 

「!? うわっ!?」

 

やがて勝手に足を滑らせて、水中へと没した。

 

「修業が足りんぞ、一夏」

 

そんな一夏の姿を見ていたシュバルツはそう呟く。

 

「フンッ!」

 

箒もそっぽを向き、その場から離れて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、昼食の時間となり、訓練は一旦終了。

 

生徒達はキャンプ場へと集合する。

 

「良し! 全員集まったな!」

 

千冬が、集まった生徒達を前にしてそう言う。

 

「織斑先生ー! 天上くんが居ませ~ん!」

 

すると、生徒の1人がそう声を挙げる。

 

「はあ~、またアイツか………」

 

いつもの事と言えばいつもの事の為、千冬が呆れた様に溜め息を漏らす。

 

「デュノアさん。一緒じゃなかったんですか?」

 

真耶が、シャルを見ながらそう尋ねる。

 

「あ、いえ。神谷とは、訓練開始前に別々に行動してまして………ただ」

 

「? 何ですか?」

 

「確か去り際に何処へ行くのって尋ねたら………『昼飯を調達して来る』って言ってました」

 

「? 昼食を?」

 

「如何言う事だ?」

 

真耶も千冬の意味が分からず困惑する。

 

とその時、近くの茂みからガサガサという音が鳴った。

 

「ん? 神谷か?」

 

「アニキ?」

 

しかし、千冬と一夏の問い掛けに答えは返って来ず、ガサガサと言う音だけが鳴り続けている。

 

「? 何でしょう?」

 

「おかしい………全員下がれ」

 

真耶が首を傾げた瞬間、千冬が嫌なモノを感じてそう言う。

 

と、その瞬間!!

 

グアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!

 

茂みから咆哮と共に、4メートル近くは有るかと言う、巨大な熊が姿を現した!!

 

「「「「「「「「「「!? く、熊ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

熊の姿を見た生徒達は、我先にと逃げ出そうとする。

 

「逃げるな!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

しかし、千冬の一喝で全員が足を止める。

 

「熊は逃げるモノを本能的に追う習性が有る! 背を見せて逃げるな! 襲われるぞ!!」

 

千冬のその言葉で、生徒達は熊と見詰め合った態勢で動けなくなる。

 

「お、織斑先生………」

 

「しっかりしろ、山田くん。隙を見せたら、その瞬間に襲われるぞ」

 

震える真耶をそう叱咤する千冬。

 

「…………」

 

と、簪がコッソリとアーマーマグナムを取り出す。

 

その次の瞬間!!

 

グアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!

 

熊は突進を繰り出して来た!!

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

「!!」

 

一夏達はISを展開しようとし、千冬もIS用ブレードを生身で構える。

 

だが………

 

キャイン! キャイン!

 

熊は一夏達には目もくれず、まるで逃げる様に去って行った。

 

「アレ?」

 

「「「「「「??」」」」」」

 

思っていた展開と異なる展開になり、思わず一夏達は拍子抜けする。

 

するとそこで、

 

「待てぇーーーーっ! 昼飯ぃーーーーーっ!!」

 

右手に長刀を握り、左手に大量の魚を持った神谷が、茂みから飛び出して来た。

 

「!? 神谷!?」

 

「アニキ!?」

 

「おう! シャル! 一夏!」

 

シャルと一夏に声を掛けられて停止する神谷。

 

「神谷………お前、一体何をしていたんだ?」

 

千冬が、若干胃の痛みを感じながらそう尋ねる。

 

「いやよぉ、折角キャンプに来たんだから天然の食材をたっぷりゲットしようと思って先ずは川に行って魚を獲ってたんだよ。そしたら熊が現れてよぉ」

 

「熊って………まさか、さっきの!?」

 

驚きの声を挙げる一夏だが、次の神谷の一言で更に驚愕する事になる。

 

「んで、こりゃ恰好の獲物だと思ってよ! 仕留めに掛かったんだが………逃げられちまったみてぇだな」

 

「「「「「「「「「「………えっ!?」」」」」」」」」」

 

一瞬、神谷の言った言葉の意味が分からず、一夏達と生徒達は困惑する。

 

(今何て言った?)

 

(格好の獲物だと思って?)

 

(仕留めに掛かった?)

 

(4メートル近くあった熊を?)

 

鈴、セシリア、ラウラ、楯無が信じられないと言う様に顔を見合わせる。

 

「すご~い。かみやん、熊と戦えるんだ~」

 

唯一、のほほんだけが感嘆の台詞を言う。

 

「まあな。アメリカを旅してた時は、グリズリーを5、6匹纏めて仕留めて食った事があるぜ! 中々美味かったぞ!!」

 

すると神谷は、自慢げにそんな話をする。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

この日から、神谷は本人の与り知らぬ所で、『熊殺しの神谷』と呼ばれる様になった。

 

「お、織斑先生………熊って食べられるんですか?」

 

「アイツは………イツツツツツツツッ!!」

 

混乱から的外れな質問をしてしまう真耶と、毎度お馴染みとなった神経性胃炎に見舞われる千冬。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山中………

 

IS学園生徒達のキャンプ場………

 

彼方此方にテントが張られており、その傍で訓練に参加していなかった整備課の生徒達が其々に昼食の準備をしている。

 

「ハッハッハッハッハッ! アニキ、流石っすよ!! もう、サイコー!!」

 

一夏達と一緒の班で、昼食作りに従事していた弾は、神谷が熊を昼食の食材にしようとしていた件を聞いて大笑いする。

 

「笑い事じゃないぜ、弾」

 

「ホント、神谷さんには驚かされてばかりですね」

 

一夏がそう返し、弾と同じく昼食作りに従事していた蘭もそう言う。

 

「う~ん、良い匂いだぜ」

 

その当の神谷はと言うと、熊の事なぞすっかり忘れた様で、獲って来た魚を串刺しにして、焼き魚にしている。

 

「アハハハ。ホント、神谷と居ると退屈しないよね」

 

大分慣れて来たのか、恋故の盲目か、シャルが笑いながらそんな事を言う。

 

「まあそうね………」

 

「千冬さんの胃が心配だがな………」

 

救護テントに運び込まれた千冬の姿を思い出しながらそう呟く鈴と箒。

 

「ところで弾。昼食の献立は?」

 

「オイオイ、一夏。キャンプと言ったらカレーしかねえだろ?」

 

とそこで一夏がそう尋ねると、弾は何を言っているんだと言う様にそう返す。

 

「あの、弾くん………私、辛いの苦手なんだけど………」

 

すると虚が、申し訳なさそうにそう言って来るが、

 

「大丈夫っす! ちゃんと辛さ控え目にしてあるっすから!」

 

弾は虚の方を見て、サムズアップしながらそう言った。

 

「そ、そう? ありがとう、弾くん」

 

「何言ってんすか、当然ですよ」

 

「弾くん………」

 

「虚さん………」

 

そのまま2人はジッと見詰め合う。

 

心無しか、2人の周りの空間がピンク色に見える。

 

(((((((食事前に御馳走様を言わせる気か?))))))))

 

そんな弾と虚の姿を、呆れ半分で見ている一夏達。

 

いつもの事なので、もう文句を言う気も失せたらしい。

 

訓練でありながらも和気藹々な様子で、一夏達はキャンプを楽しんでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが………

 

その様子を離れた崖の上から、双眼鏡で覗いている人物が居る。

 

「見つけたぜ………グレン団」

 

顔に包帯を巻き付け、ミイラの様な姿をしたオータムだ。

 

学園祭で顔に重度の火傷を負い、再び地下に潜伏していた彼女だったが、満を持して再襲撃を掛ける積りらしい。

 

「楽しそうにしやがって、ガキ共が………アタシの顔をこんなにしてくれた恨みはキッチリと晴らしてやるぜ」

 

実際に、彼女の顔をこんな状態にしたのはロージェノム軍だったが、彼女は完全にグレン団を逆恨みしていた。

 

と、その背後に、数機の黒い影が現れる。

 

無人ISだ。

 

しかし、以前彼女が引き連れていた鉄の巨人といった体躯のゴーレムIと違い、その無人ISはISを装着している女性そのものである。

 

言うなれば、鋼の乙女だろうか。

 

「おお、戻ったか。ちゃんとセットして来たんだろうな?」

 

オータムがそう尋ねると、鋼の乙女………ゴーレムⅢは、返事を返すかの様に頷いた。

 

「よおし、上出来だ。あの人形(ゴーレムI)よりは役に立つ所を見せて見ろよ」

 

そう言いながら、山向こうの空を見遣るオータム。

 

そこには薄らとだが、黒い雲が浮かんでいる。

 

「ククク………山の天気は変わり易い。今夜は大雨だ」

 

そこでオータムは、この周辺の地図を広げる。

 

その地図上で、一夏達がキャンプを張っている地点に黒い×印が、その地点より上の方にある川のカーブを描いている部分に赤い×印が付けられている。

 

「雨水が流れ込んだ川は一気に増水する。そこでこの場所を爆破すれば、鉄砲水が一気に流れ込み奴等は全員溺れ死ぬって寸法だ。仮に気付いたとしても、鉄砲水のスピードと勢いは並じゃない。人間如きが如何にか出来るものじゃない」

 

オータムの脳内には、濁流に呑まれて行く一夏達の姿が浮かんでいる。

 

「クフフフフフ………アーハッハッハッハッハッ!! 良いザマだ!! 良いザマだぜぇ! 織斑 一夏!!」

 

最早当初の目的であった一夏のISを奪う積りなど更々無く、只一夏達を殺すと言う狂気に取り憑かれているオータム。

 

そんなオータムの心情を表すかの様に、遠くの空に浮かんでいる黒雲から、ゴロゴロという雷の音が鳴る。

 

そして一夏達は、そんなオータム達と黒雲の様子に気づく事無く、楽しそうに昼食のカレーと、神谷が獲って来た魚を頬張っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

野外学習、キャンプにやってきたIS学園の面々。
山岳地帯での訓練に励む傍ら、久々の学園行事に羽を伸ばす。

相変わらず修行を続けている一夏。
しかしそこで、久しぶりにオータム登場。
すっかり狂った復讐鬼と化した彼女の策略を防げるのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第66話『キャンプファイヤーしてぇだろ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第66話『キャンプファイヤーしてぇだろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園で行われたキャンプ………と言う名の山岳戦の訓練。

 

生徒達が其々に戦闘訓練をする中、一夏は未だに自在に発動させる事が出来ぬスーパーモードの修業を続けていた。

 

山と言う環境を利用して、山籠もりの様な苦行に身を置く一夏。

 

だが、そんな一夏達を狂気に取り憑かれたオータムが狙う。

 

土石流で一夏達を呑み込もうと言う作戦を立てたオータムであったが、果たして一夏達が気付く事が出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園のキャンプ地………

 

すっかり日は暮れ、夕食を済ませた生徒達は、食器の片付けに入っていた。

 

「よおし! 後片付けは終わったな! 明日も朝から訓練だ! 用の無い火は直ちに消火し、就寝せよ!!」

 

後片付けが大体終わったのを見た千冬が、生徒達にそう呼び掛ける。

 

「馬鹿な事を………聞いたか、弾? あんな事言ってやがるぜ。火を消すってよ」

 

「仕方ねえっすよ、アニキ。千冬さんは今まで真面目一直線に生きて来た人………知らないだけっすよ」

 

すると、そんな千冬の言葉を聞いた神谷と弾がそう呟く。

 

「? 何だ? 何の話だ?」

 

話が見えない千冬が、困惑した様子を見せると、

 

「キャンプファイヤーしてぇだろ!? 普通!!」

 

「キャンプの夜は、例え命尽き果てようとも、キャンプファイヤーだけはしたいのが人情~~!!」

 

神谷と弾は、千冬に向かってそう訴え掛けた!!

 

「馬鹿は貴様等だ!! いい加減にしろ!! このキャンプが只のキャンプで無い事ぐらい、貴様等も知っているだろう!?」

 

「知らん!!」

 

千冬の言葉に、神谷は堂々とそう返す。

 

「我々は遊びで来ているのではないのだぞ!! このキャンプの目的はだなぁ!!」

 

と、千冬が神谷に向かって説教を始めようとしていたところ、

 

「アニキーッ!!」

 

一夏が、神谷に呼び掛けて来る。

 

「織斑! お前もこの馬鹿に何か言って………」

 

助けが来たと、千冬は一夏にそう呼び掛けるが………

 

「組木はこんなもんで良いかな?」

 

そこに居た一夏は、既にキャンプファイヤー用の組木を済ませていた姿であった。

 

「貴様もやる気満々かぁ!?」

 

思わず怒声のツッコミを入れる千冬。

 

「ええっ!? やらないんですか!? キャンプファイヤー!?」

 

と、そこで真耶が驚きながら千冬を見遣る。

 

「や、山田くん………」

 

「「「「「「「「「「「織斑先生~!」」」」」」」」」」

 

更に、箒やシャル達、他の生徒達もやりたいと言う雰囲気を訴えていた。

 

「ううっ!? ええい! お前等!! こんな時だけ団結しおって!!………好きにしろ!!」

 

やがて雰囲気に負けたかの様に千冬はそう言うと、その場から去って行く。

 

「それじゃあ! キャンプファイヤーと行きましょうか!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

残った真耶が仕切る様にそう言うと、生徒達は握り拳を突き上げながら歓声を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

そして開始されたキャンプファイヤー………

 

燃せ盛る炎の周りで、フォークダンスと洒落込んでいる。

 

最初は『マイム・マイム』で始まり、全員が炎を囲う様に輪になって踊る。

 

「イエ~イ! 乗ってるか~い!?」

 

「「「「「「「「「「サイコー!!」」」」」」」」」」

 

音楽担当でギターを弾いている弾がそう問い掛けると、生徒達からはノリノリな返事が返って来る。

 

「弾くん。踊らなくても良いの?」

 

と、その弾の隣で同じく音楽を担当していた虚が、弾にそう尋ねる。

 

「いや、俺は良いっすよ。ギター弾くのも楽しいですし。それに………」

 

「? それに?」

 

「イベントとは言え、虚さんの前で他の女子と手を繋ぐってのもちょっと気が引けるんで」

 

「!! も、もう! 弾くんったら!!」

 

あっけらかんと言う弾に、虚は顔を赤くする。

 

((((((((((リア充、爆発しろ!!))))))))))

 

そんな弾と虚の様子に、踊っていた生徒達の大多数がそう心で念じたのだった。

 

「この音楽聞いてると、マ〇ミヤのCMを思い出すな~」

 

「一夏さん………それは………」

 

「古いぞ、一夏」

 

マイム・マイムの曲を聞いて、懐かしいCMを思い出している一夏に、その一夏の左手を握っている蘭と、右手を握っている箒がそうツッコミを入れる。

 

「「「…………」」」

 

一夏と手を繋ぎ損ねたセシリア、鈴、ラウラは、その光景を恨めしそうに見ている。

 

「それそれ~! 踊れや踊れ~!!」

 

「イエ~イ!!」

 

「ニャエ~イ!!」

 

そして、神谷と手を繋いでいるシャルとティトリーは、大分ノリノリな様子となっている。

 

「ホラホラ! かんちゃんも盛り上がって、盛り上がって~」

 

「大丈夫………十分盛り上がってるから………」

 

「なら、せめて表情くらいは変えて欲しいな~」

 

同じくノリノリな様子なのほほんが簪にそう言い、簪がそう返すと、何時ものと変わらぬ無表情な事に楯無が苦笑いを漏らすのだった。

 

その後、曲目が『オクラホマミキサー』に変わり、一夏と手を繋ぐ事が出来たセシリア、鈴、ラウラは漸く満足気な表情を見せる。

 

鈴とラウラ、そして蘭は身長差から若干踊り難そうであったが………

 

更に、演奏者を神谷と一夏に交代し、弾と虚もダンスに参加。

 

周囲から冷やかしが飛び、虚が照れていると、調子に乗った弾が薔薇を咥えてタンゴを踊り出す、と言う一幕もあった。

 

しかし、そんな楽しいキャンプファイヤーは………

 

唐突に終わりを告げる事となった。

 

「ん?」

 

最初に気付いたのは一夏。

 

顔に水滴が当たったのを感じ、空を見上げる。

 

すると、キャンプファイヤーの灯りで周りが明るかった事もあって気付かなかったが、先程まで満天の星空と満月の浮かんでいた空に、全てを呑み込みそうな黒い雲が掛かっている。

 

「! 空が………」

 

「何だぁ? 急に天気が変わりやがったな?」

 

一夏が声を挙げると、神谷もその様子に気付き、生徒達も空を見上げた。

 

すると次の瞬間!!

 

轟音と共に稲妻が煌き!!

 

バケツを引っ繰り返したかの様な豪雨が降り出す!!

 

「うわっ!?」

 

「何コレっ!?」

 

「物凄い雨だ!!」

 

突然の集中豪雨に見舞われる生徒達。

 

その勢いは、キャンプファイヤーの火が完全に消えてしまう程であった。

 

「皆! 直ぐにテントに戻って!! 急いで!!」

 

真耶が慌ててそう言い、生徒達は我先にと自分達のテントへと引き上げ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

IS学園のキャンプ地から上方にある川のカーブを描いている部分にて………

 

集中豪雨によって、川の水は一気に増水し、濁流となって流れていた。

 

そして、その濁流と化した川を眺める者が1人。

 

「フフフフ………予想通り、いやそれ以上の大雨だ! コレなら間違い無くIS学園の連中を皆殺しに出来るぜ!!」

 

ゴーレムⅢを引き連れたオータムである。

 

アネクラを装着した状態で川の上空に浮遊し、川がカーブしている地点を見下ろしている。

 

その手には、スイッチが1つ付いたリモコンの様な物が握られている。

 

「ヒヒヒヒ。今頃奴等は何も知らずに夢の中か? そのまま悪夢を見せてやるぜ! 死ねぇっ!!」

 

と、オータムは叫ぶ様にそう言ったかと思うと、リモコンのボタンを押した。

 

すると、川のカーブしている部分に仕掛けてあった爆薬が爆発!!

 

地形が変わり、濁流と化していた川の水が、土石流となってIS学園のキャンプ地へと流れ始める!!

 

「ヒャハハハハハハッ!! 良いぞ! 計画通りだ!!」

 

その様子を見て、満足そうな笑い声を挙げるオータム。

 

「しかし、アイツ等は妙に勘が良いからな………気付かないとも限らねえ。行くぞ! お前等!!」

 

そしてそう言うと、ゴーレムⅢ達にそう言い、土石流を追う様に飛び始める。

 

ゴーレムⅢ達は、無言のままにその後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、IS学園のキャンプ地………

 

相変わらずバケツを引っ繰り返した様な雨が続いており、生徒達は自分達のテントの中に入ったままジッとしている。

 

 

 

神谷・一夏・弾のテント………

 

「酷い雨だなぁ………」

 

「山の天気は変わり易いからな。こんな事は珍しくもねえ」

 

散々たる雨の様子に一夏がそう呟くと、神谷がそう返す。

 

「にしてもタイミング悪いっすよねえ。折角キャンプファイヤーで盛り上がってたのに」

 

弾が、テントの屋根に溜まっていた水を落としながら愚痴る。

 

「全くだ………ん?」

 

とその時、神谷が何かに気付いた様にテントの外を見遣る。

 

「? アニキ? 如何したの?」

 

「今、何か聞こえなかったか?」

 

「えっ? いや、雨音以外は何も………」

 

「いや、確かに聞こえたぞ。爆発音だ」

 

「爆発音!?」

 

神谷が漏らした思わぬ言葉に驚きの声を挙げる一夏。

 

「気の所為じゃないっすか? 雷の音とか………」

 

「………ちょいと見て来る」

 

弾がそう否定するが、如何しても気になった神谷は、テントの外へと出る。

 

「あ! アニキ!!」

 

一夏が声を挙げた瞬間に、神谷はグレンラガンの姿となり、背のブースターから炎を挙げて飛翔する。

 

「追うぞ! 一夏!!」

 

と、それに続く様に弾が飛び出したかと思うと、グラパール・弾の姿となって宙に舞う。

 

「ああっ!? ま、待ってくれよぉ!!」

 

それを見て、一夏も慌てて飛び出すと、白式を展開して2人の後を追い掛けて行く。

 

「ん? 一夏?」

 

「神谷? 何処へ行くんだろ?」

 

「お兄ったら、また………」

 

その光景を目撃していた箒、シャル、蘭はそんな声を挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かコッチの方から聞こえたな………」

 

雨の中を飛ぶグレンラガンは、音が聞こえて来たと思われる山の上方を目指し、飛んでいた。

 

「!? アニキ! アレ!!」

 

すると一夏が、何かに気付いた様に前方を指差す。

 

「!? アレは!?」

 

そこには、キャンプ地を目指して突き進んで行く土石流の姿が在った。

 

「土石流!? しかも超特大の!?」

 

その余りの規模の土石流に、グラパール・弾が思わずそんな声を挙げる。

 

「マズイ! このままじゃキャンプ地が呑み込まれちまう! 直ぐに知らせるんだ!!」

 

「分かった!!」

 

グレンラガンがそう叫ぶと、一夏が箒達に通信を送ろうとする。

 

しかし!

 

「そうはさせねえよぉ!!」

 

そういう叫びと共に、一夏に向かって砲弾が飛んで来た。

 

「!? うわっ!?」

 

危機一髪のところで回避する一夏。

 

その直後に、3人の周りを取り囲む様に、ゴーレムⅢ達が展開する。

 

「何だコイツ等!?」

 

「無人IS!?」

 

「ん何ぃっ!?」

 

グラパール・弾、一夏、グレンラガンが驚きの声を挙げると、

 

「久しぶりだな! クソガキ共!!」

 

アネクラを装着しているオータムが姿を現す。

 

「!? テメェは!!」

 

「久しぶりだな! 織斑 一夏! そしてグレンラガン! 見慣れねえ奴も1人居る様だが、まあ良い。纏めて地獄へ送ってやるぜ!!」

 

オータムはそう言い放つと、背の8本の装甲脚を展開させる。

 

だが………

 

「………誰だっけ?」

 

次のグレンラガンのその台詞を聞いた途端、一夏、グラパール・弾共々空中でズッコケてしまう。

 

「ア、アニキ! 亡国企業の残党だよ! ホラ! 学園祭で俺を襲った!!」

 

そこで気を取り直した一夏が、神谷にそう言う。

 

「ああ! そう言や居たな、そんなの」

 

「そ、そんなのって………」

 

如何やらボケでは無く、本当に忘れていたらしい。

 

神谷にとって、亡国企業の残党であるオータムなど、記憶に留める必要も無い存在だった様だ。

 

「テ、テメェ! ふざけやがって!! アタシの顔をこんなにしておいて!!」

 

オータムは包帯の巻かれている自分の顔を示しながら、そう怒りを露わにする。

 

「るせぇなぁ。オメェが怪我したのはロージェノム軍の所為………つうよりも自業自得だろう。それに、今の顔の方が似合ってるぜ」

 

そんな怒りをサラッと流し、グレンラガンはそう言い放つ。

 

「黙れぇっ! 貴様等が大人しくISを渡していれば、こんな事にはならなかったんだ!!」

 

「ヒッデェ逆恨み………」

 

「一夏………オメェもケッタイな奴に狙われちまったなぁ」

 

一夏が愚痴る様にそう呟き、グラパール・弾が同情する様にそう言う。

 

「ウルセェッ! 男が女に逆らうんじゃねえ!! テメェもIS学園の連中同様、地獄へ送ってやるぜ!! 掛かれぇっ!!」

 

とそこで、オータムが痺れを切らしたかの様に叫んだかと思うと、ゴーレムⅢ達が一斉に一夏へ襲い掛かる!!

 

「クッ!!」

 

「チイッ!!」

 

慌てて雪片弐型を構える一夏と、グラパールブレードを展開する弾。

 

すると!!

 

「フルドリライズ!!」

 

グレンラガンの叫びが木霊し、その身体が緑色の光を放ってフルドリライズ化し、迫って来ていたゴーレムⅢ達を串刺しにした!!

 

「むんっ!!」

 

気合の声と共に、グレンラガンが通常状態となると、ドリルに貫かれていたゴーレムⅢ達が次々に爆散する!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

一瞬にしてゴーレムⅢの大半がやられた事に、オータムは驚愕を露にする。

 

「! アニキ!!」

 

「一夏! 弾! コイツ等は俺に任せろ!! お前達はキャンプ場へ戻って、この事を知らせろ!!」

 

一夏とグラパール・弾に背を向けたまま、グレンラガンはそう言う。

 

「!? アニキ!?」

 

「何を!?」

 

「さっきから通信を送ろうとしてんだが、全く通じねえんだ。誰かが言って知らせてやらなきゃならねえだろ!?」

 

驚く一夏とグラパール・弾に、グレンラガンはそう言う。

 

如何やらジャミングが行われているらしく、先程まで通じていた通信が繋がらなくなっている。

 

土石流は凄まじい勢いでキャンプ場へと向かって行っている。

 

早く知らせなければ大変な事となる。

 

通信が使えない以上、誰かが行って知らせるしかない。

 

「なら! せめて俺は残って………」

 

「駄目だ。キャンプ場に居る奴等を皆逃がすには人手が要る。好きな時にISが使える専用機持ちは多い方が良い」

 

せめて自分は残ろうと言う一夏に、グレンラガンはそう返す。

 

「心配すんな。俺がそう簡単にやられねえ男だってのはオメェ等が良く知ってんだろ?」

 

「「アニキ………」」

 

「行け! アイツ等の事は頼んだぞ!!」

 

「「…………」」

 

グレンラガンのその言葉を聞くと、一夏とグラパール・弾は互いに頷き合い、キャンプ場に引き返して行った。

 

「野郎! 逃がすか!!」

 

オータムがそう言うと、残っていたゴーレムⅢ達が一夏とグラパール・弾を追おうとするが、

 

「オメェ等の相手は俺がしてやるぜ! ありがたく思いな!!」

 

グレンラガンがその前に、ガイナ立ちで立ち塞がる。

 

「チイッ! ブチ殺せぇっ!!」

 

オータムの命令で、一気にグレンラガンに殺到するゴーレムⅢ達。

 

「やってみろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

その一団に、グレンラガンは右腕をドリルに変え、自ら突っ込んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

IS学園のキャンプ場の方では………

 

土石流の轟音が聞こえて来る様になり、異変を感じて起きた生徒達が豪雨の中にも関わらず、テントの外へ飛び出していた。

 

「何なの、この音!?」

 

「何が起こってるの!?」

 

徐々に大きくなってくる土石流の音に、生徒達は混乱する。

 

「神谷! 神谷!………駄目だ! 繋がらないよ!」

 

「コッチもだ!」

 

「ノイズしか返って来ないわ」

 

シャル、箒、鈴は、飛び出して行った神谷達に連絡を取ろうとしたが、通信先からはノイズしか返って来なかった。

 

すると………

 

「皆ー!!」

 

「大変だぁーっ!!」

 

一夏とグラパール・弾が、慌てた様子で戻って来る。

 

「一夏!」

 

「弾くん! 何処へ行ってたの?」

 

「話は後だ! 兎に角すぐに避難を!!」

 

「土石流が迫ってるんだ!! 早いところ、高台へ!!」

 

箒と虚への返事もそこそこに、一夏とグラパール・弾はそう叫ぶ!!

 

「「「「「「「「「「ど、土石流!?」」」」」」」」」」

 

それを聞いた生徒達の表情から血の気が引く。

 

そして、我先にと近くの高台へ避難し始めた!!

 

「皆! 避難を手伝ってくれ! 専用機を持ってる俺達が中心になるんだ!!」

 

「分かりましたわ!!」

 

「任せろ!!」

 

一夏のその言葉で、セシリアとラウラがISを展開。

 

他のグレン団メンバーも同じ様にISを展開する。

 

するとそこで………

 

土石流から先行していた水が辿り着き、キャンプ場一体が、生身の人間の足首辺りまで水に覆われる。

 

「!? 水が!?」

 

「急いで寝ている生徒達を起こさないと!」

 

「…………」

 

シャルが声を挙げ、楯無がそう言うと、簪が直ぐ様行動に出る。

 

「! そうだ! 千冬さんは!?」

 

とそこで、グラパール・蘭がこう言う時には指揮官になる立場である筈の千冬の姿が無い事に気づく。

 

「織斑先生! 織斑先生!! 起きて下さい!!」

 

すると、千冬と真耶の教師陣用テントの中から、真耶の声が響いて来る。

 

「! 山田先生! 如何したんですか!?」

 

一夏がすぐにテントへと駆け付けると………

 

「織斑先生!! 織斑先生!!」

 

「うう~~………神谷め~………許さんぞぉ~~~………」

 

真耶が、一升瓶を抱えて眠りこけている千冬を、必死になって起こそうとしていた。

 

如何やら、またも神谷の暴走に嫌気が差したらしく、ヤケ酒を呷って眠ってしまった様だ。

 

その証拠に、テント内はアルコールの臭いが充満している。

 

「ち、千冬姉………」

 

流石に一夏も、この光景には一瞬呆然となる。

 

その後、バケツに汲んで来た水を顔に浴びせると言う暴挙に近い強引な酔い覚ましを行い、目を覚ました千冬に指揮を執って貰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

オータムとゴーレムⅢ達と交戦していたグレンラガンは………

 

「ドリ掌底っ!!」

 

掌に出現させたドリルの掌底で、ゴーレムが1機貫かれ、爆散する。

 

その隙を衝いて、別のゴーレムⅢが背後からグレンラガンに迫ったが、

 

「心眼蹴りいいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンは素早く後ろ回し蹴りを繰り出し、ゴーレムⅢの頭部を粉砕!!

 

頭の無くなったゴーレムⅢは、失速する様に落下し、やがて爆散した。

 

とそこで、距離を取っていたゴーレムⅢ3機が、左腕の超高密度圧縮熱線をグレンラガン目掛けて発射する。

 

1機につき4門。

 

計12門の砲門から放たれた熱線が、絡み合って1つの巨大な熱線となり、グレンラガンに向かう。

 

「おりゃああぁぁぁっ!!」

 

するとグレンラガンは、その熱線に向かってドリルに変えた右腕を突き出す。

 

そして何と!!

 

ドリルに熱線を吸収させてしまった!!

 

「オラよ! 返すぜ!!」

 

再びグレンラガンが、ドリルの腕を距離を取っていたゴーレムⅢ3機に向けたかと思うと、そこから先程吸収した熱線が放たれる。

 

距離を取っていたゴーレムⅢ3機は、自分達が放った熱線を浴びて、跡形も無く融解する。

 

「良し! 今ので機械野郎は最後か?」

 

周りを見回し、ゴーレムⅢの姿が無いのを確認すると、グレンラガンがそう呟く。

 

「せえええやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

とそこで、両手にカタールを握ったオータムが、グレンラガン目掛けて突撃して来る。

 

「!? おおっと!?」

 

驚きながらも、身を翻す様に回避するグレンラガン。

 

「オノレェオノレェ! グレンラガン!!」

 

「おーおー、如何にも三下の悪党が吐きそうな台詞を………」

 

怒りの形相を見せるオータムに、グレンラガンは更に挑発するかの様な台詞を浴びせる。

 

「黙れええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

その台詞に更に怒りのボルテージを上げたオータムは、両手のカタールを振り回し、グレンラガンに迫る。

 

「おっ!! と、とっ!!」

 

繰り出されるカタールの斬撃を、右手に持ったグレンブーメランで往なすグレンラガン。

 

「男のクセしやがって! アタシをコケにしやがってええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

「小せえな」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「男だ女だって事に拘って時点でテメェの器は知れてるぜ。喧嘩に勝てるか如何かは男か女かは関係ねえ! どちらのハートがより熱く燃えてるかだ!!」

 

「ウルセェッ!! 戯言をおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

とそこで、オータムは手からエネルギー・ワイヤーを放った。

 

「おおっと!?」

 

グレンラガンは、そのエネルギー・ワイヤーに絡め取られてしまう。

 

「ヒャハハハハハッ! 油断したな!!」

 

オータムはそんな姿のグレンラガンを嘲笑うと、背の装甲脚を全て展開する。

 

「終わりだ! 死ねぇっ! グレンラガン!!」

 

そして、一斉にグレンラガン目掛けて振り下ろす!!

 

「舐めるなああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

だが、その瞬間に、グレンラガンは再びフルドリライズ化!!

 

しかも、細いドリルが飛び出すフリドリライズではなく、ギガドリル並みのドリルが全身を覆い尽くすタイプ………『ギガドリルマキシマム』だ!!

 

「なっ!? ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

エネルギー・ワイヤーや装甲脚どころか、その攻撃はオータム自身にも襲い掛かり、アネクラの装甲が豆腐の様に砕け散る。

 

「テ、テメェッ!!」

 

それでもオータムは激情に駆られるまま、グレンラガンへ近付こうとする。

 

その瞬間!!

 

遅れて伸びて来たドリルが、装甲が砕け散ったオータムの左肩に命中!!

 

左肩が抉られ、左腕が鮮血と共に宙に舞った!!

 

「!? ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

形容し難い悲鳴を挙げるオータム。

 

「腕がぁっ! アタシの腕がぁ!!」

 

肩口から無くなった左腕を押さえ、夥しい流血を撒き散らしながら、オータムは悶える。

 

「チ、チキショウがぁ!! 覚えてやがれ!! 必ず殺してやるっ!!」

 

凄い表情を見せながら、オータムは煙幕弾を投擲。

 

グレンラガンは煙幕に包まれる。

 

「うおっ!? 小賢しい真似しやがって!!」

 

右腕をドリルに変えて、掲げる様に構えると、ドリルの回転によって生じた風圧で、煙幕を吹き飛ばす。

 

しかし、煙が晴れると、オータムの姿は何処にも無かった。

 

「逃げられたか………まあ良い。今はコッチだ!!」

 

グレンラガンはそう言うと、キャンプ場へと引き返して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園のキャンプ場………

 

「さ! 摑まって!!」

 

「ありがとう、デュノアくん!!」

 

逃げ遅れていた生徒を抱き上げ、高台まで運ぶシャル。

 

「もう大丈夫ですわ」

 

「安心して」

 

セシリアや楯無も、同じ様に逃げ遅れた生徒を高台へ運んでいる。

 

「急げ! 土石流が来るまで時間が無いぞ!!」

 

「グレン団の皆さん! 頑張って下さい!!」

 

千冬と真耶は、高台からグレン団の面々を指揮している。

 

既に先んじて流れて来ている水の量は、生身の人間の膝上まで到達しようとしていた。

 

テント等は流され始めている。

 

と、その時!!

 

その流れに乗って、大量の流木が押し寄せて来た!!

 

「! 流木が!?」

 

「マズイ! このままでは未だ避難が終わっていない者達が巻き込まれてしまう!」

 

虚とラウラがそう声を挙げる。

 

と、そこで!!

 

「…………」

 

マーシィドッグを纏った簪が、ターレットレンズを回転させながら、ヘヴィマシンガンを構える。

 

通常ならば、流水の影響で照準は困難の筈だが、簪は恐ろしい程の精密射撃で、流木を破壊して行く。

 

「凄~い! 流石かんちゃん!!」

 

高台でその光景を見ていたのほほんがそう歓声を挙げる。

 

と、次の瞬間!!

 

遂に土石流が到達!!

 

凄まじい量の水が、全てを押し流さんとばかりに迫って来る!!

 

「!? 来た!!」

 

「こんのぉっ!!」

 

未だ避難が完了していないのを見た鈴が、咄嗟に土石流に向かって龍砲を最大出力で発射!!

 

津波の様な水の塊が、一瞬最大出力の龍砲と拮抗し、そして弾け飛んだ!!

 

だが、その水に流されていた岩石は、そのまま落石となってキャンプ地に襲い掛かる。

 

「蘭!!」

 

「分かってるっ!!」

 

しかしそれも、ハンドガンを構えたグラパール・弾とグラパール・蘭が、次々に撃ち落とす。

 

「さあ、急ぐんだ!!」

 

「摑まって!!」

 

「う、うん!!」

 

「ありがとう!!」

 

その間に、残っている生徒達が、箒と一夏によって高台へ運ばれる。

 

「コレで全員!?」

 

生徒の数が揃ったところで、ティトリーがそう声を挙げた。

 

とそこで!!

 

遂に土石流の本命と思われる、まるで津波の様な大量の水が押し寄せて来る!!

 

「!! 流石にアレは防げないわね!!」

 

そう言って鈴が離脱し、簪と五反田兄妹も高台へと上がった。

 

しかし………

 

「!? 大変!! 相川が居ないわ!!」

 

一夏達のクラスメートが、同じく一夏達のクラスメートである相川 清香の姿が無い事に気づいて悲鳴の様に声を挙げる。

 

「!? 何っ!?」

 

「馬鹿者! 何故確認しなかった!?」

 

千冬が怒鳴り声を挙げるが、既に土石流はキャンプ場まで残り僅かな距離まで迫っていた。

 

「! 相川 清香のテントはどれだ!!」

 

「えっ!?」

 

突然そう尋ねて来た箒に困惑するクラスメート。

 

「どれだと聞いている!!」

 

「え、えっと! あの赤いテント!!」

 

箒の気迫に押される様に、クラスメートは流され掛けている赤いテントを指差す。

 

「!!」

 

それを聞くや否や、箒はそのテントに向かって飛んだ!!

 

「!? 篠ノ之さん!」

 

「篠ノ之! 危険だ! 戻れっ!!」

 

真耶と千冬が声を挙げるのも聞かず、箒はそのまま赤いテントの前に着地。

 

テントを破いて、中に居た相川清香を引っ張り出す。

 

しかし、その瞬間には、土石流が箒達を飲み込もうとしていた。

 

「!?(駄目か!!)」

 

「箒いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

するとその瞬間!!

 

一夏が飛び出した!!

 

箒を守る様に、迫り来る土石流にその身を晒す!!

 

「!? 一夏!?」

 

「「「「「「一夏〈さん、くん〉!!」」」」」」

 

箒と、高台に居たセシリア達も悲鳴に似た声を挙げる。

 

そして無情にも、土石流は一夏を飲み込もうとする………

 

(箒は………俺が守る!!)

 

だが、その瞬間!!

 

白式が金色の光を放ち、スーパーモードとなった!!

 

「シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そして、迫り来る土石流に向かって、シャイニングフィンガーを繰り出す!!

 

すると!!

 

土石流はシャイニングフィンガーによって分断され、一夏とその後ろに居る箒と相川 清香を避けて行く!!

 

「なっ!?」

 

「嘘!?」

 

「土石流を………」

 

「分断したぁ!?」

 

千冬、真耶、セシリア、鈴が驚きの声を挙げる。

 

「す、凄い………」

 

「何と………」

 

「信じられない………」

 

「あわわわ………」

 

「一夏さん………」

 

シャル、ラウラ、楯無、虚、グラパール・蘭は目の前の光景が信じられない様子だ。

 

「…………」

 

簪も何時もと変わらぬ無表情だが、ターレットレンズ越しでは無く、直接その目で一夏の姿を見遣っている。

 

「すっご~い! おりむー!!」

 

「スゲェ! 流石だぜ!!」

 

「一夏カッコイイー!!」

 

そして、のほほん、グラパール・弾、ティトリーは純粋に一夏を褒め称えていた。

 

やがて土石流は収まり、水が引いて行くと、白式のスーパーモードは解除される。

 

「こ、これが俺の力!?」

 

自分でやった事が信じられず、茫然と己の手を見遣る一夏。

 

「良くやった、一夏」

 

「!? 今の声は!?」

 

突然聞こえて来た声に驚いていると、暗雲の隙間から覗いた三日月をバックに、シュピーゲルを装着したシュバルツが一夏を見下ろしていた。

 

「ふっふっふっふっふっふっふっふっ。如何やら私が手を貸す必要は無かった様だな。だが! 本当の修行はこれからだ!!」

 

「何ぃ!?」

 

「自分の好きな時、自分が必要な時に! 果たして使いこなせるか如何か………それが問題だ!」

 

「うっ………」

 

「一夏! 貴様の修行! これからも楽しみに見させてもらうぞ! ふっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」

 

そう言い残すと、シュバルツは木の葉を舞い散らせて姿を消す。

 

「…………」

 

シュバルツが去ると、一夏は再び己の手を見遣る。

 

(あの時俺は………ただ箒を守りたいと思った………他に余計な事など一切考えていなかった………なのに如何してスーパーモードを発動させる事が出来たんだ?)

 

一夏はただ、己の手を握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

IS学園のキャンプは、波乱の内に幕を閉じた。

 

しかし………

 

グレン団の戦いは明日をも続く。

 

戦えグレン団!!

 

何時の日か、世界に平和が訪れるその日まで!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました

キャンプの夜はキャンプファイヤー。
盛り上がるIS学園の一同でしたが、そこで天気が急変して豪雨に。
そして満を持して行われるオータムの企み。

しかし、当の本人はグレンラガンにアッサリと撃退され、作戦も一夏達の奮戦で打ち砕かれます。
哀れ。

さて次回から鈴のエピソードです。
それはつまり………
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております


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第67話『そっから逆転して見せろ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第67話『そっから逆転して見せろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・1年2組………

 

朝のホームルーム前に、ざわ付いている生徒達。

 

「鈴、聞いた? 今日転校生が来るんだって」

 

「あ? 転校生?」

 

クラスメートの情報に反応する鈴。

 

「物好きねぇ。こんな情勢の中で態々IS学園に来るなんて………」

 

鈴は呆れる様にそう言う。

 

ロージェノム軍の侵略が開始されて以来、度々ターゲットにされているIS学園の生徒の数は減る一方。

 

こんな情勢の中で態々転校して来るなど、余程の物好きか、命知らずに思えたのだ。

 

「皆ー、ホームルームを始めるわよ~。席についてー」

 

とそこで、担任の教師が教室に姿を見せ、皆にそう言って来る。

 

それを聞いた生徒達は、自分の席へと戻り、着席する。

 

「さて。聞いている子も多いと思うけど………今日このクラスに転校生が来ます」

 

教壇に立った担任がそう言うと、生徒達がざわめく。

 

「それじゃあ、どうぞ」

 

そして担任がそう言うと、1人の女の子が、教室の前側のドアから入って来た。

 

「!? なっ!?」

 

その女の子の姿を見た鈴が、驚きの声を挙げる。

 

「!? 鈴!?」

 

「如何したの?」

 

突然声を挙げた鈴に、クラスメートは首を傾げる。

 

「ア、アイツ………」

 

しかし鈴はそれに答えず、驚きの表情のまま転校生の女の子を見つめている。

 

「………フッ」

 

そんな鈴の様子に気付いた転校生は、嘲笑するかの様な笑みを浮かべたかと思うとチョークを取り、黒板に自分の名前を書き始めた。

 

黒板に白い文字で、『楊 紅麗』と言う漢字が書かれる。

 

「初めまして、皆さん。中国から来ました楊 紅麗(ヤン ホンリィ)です。どうぞよろしくお願いします」

 

そう言って転校生………『楊 紅麗(ヤン ホンリィ)』は、クラスの生徒達に笑みを向ける。

 

「…………」

 

しかし、鈴だけは驚きの表情のまま固まっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間はアッと言う間に流れて休み時間………

 

次の授業の準備をしている紅麗の前に、鈴が立つ。

 

「アンタ………」

 

「アラ、鈴音さん。ご無沙汰しておりましたわね。ご機嫌如何でしょう?」

 

鈴が声を発すると、紅麗は丁寧な返事を返す。

 

だが………

 

その目は、完全に鈴を見下していた。

 

「如何いう事よ!? 何でアンタがIS学園に!?」

 

思わず声を荒げる鈴。

 

他の生徒達が何事かと注目する。

 

「如何と言われましても………鈴音さん、聞いていらっしゃらないんですか? 甲龍の後継機が完成し、それに伴い私も代表候補生として選抜されましたのよ」

 

「!? 何ですって!?」

 

「嘘だと思うのでしたら、本国に問い合わせてみては如何ですか?」

 

見下した態度のまま、紅麗は鈴にそう言い放つ。

 

「! アンタねえ!!」

 

と、鈴が続けて何かを言おうとしたところで、休み時間終了を告げるチャイムが鳴る。

 

「クッ! また後でね!!」

 

「ええ、お待ちしておりますわ………」

 

立ち去る鈴に、紅麗は挑発するかの様な笑みを向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後………

 

最早日課となった、第1アリーナを借り切っての演習を行っているグレン団………

 

「じゃあ、本国に問い合わせてみたら、その紅麗って子が言ってる事は本当だったの?」

 

「ええ、そうよ………」

 

シャルの質問に、鈴は素っ気なく答える。

 

「まあ、別に国家代表や代表候補生は1国家に付き1人ってワケじゃないからね」

 

「それに、ロージェノム軍の事もある。優秀なIS乗りを増やす事は国家としても急務なのだろう」

 

楯無とラウラがそう言い合う。

 

「それはそうなんだけど………」

 

「? 何かご不満でもありますの?」

 

何か引っ掛かる言い方の鈴に、セシリアがそう尋ねる。

 

「実は………あの楊 紅麗って奴。アタシが代表候補生に選ばれる前は国家代表に最も近いと言われていたエリートだったの。成績優秀、運動神経抜群。おまけに容姿端麗で品行方正」

 

「正に絵に描いた様な完璧超人だな」

 

次々に美辞麗句を並び立てる鈴に、一夏が皮肉る様にそう言う。

 

「まあね。アタシも最初会った時は正にその通りだって思ってたわ。けど………」

 

「? けど?」

 

「当時開発されたばかりだった甲龍への適正値が、アタシの方が高かったの。それで軍上層部の一声で、アタシが甲龍の装着者になる事になったわ」

 

「ならば、紅麗はお前を恨んでいるかも知れないと言う事か?」

 

鈴の言葉を聞いた箒がそう言う。

 

「ええ………普通に考えれば十分考えられるわ。何せエリートの中のエリートが、国が用意したISへの適正が低かったって事で、代表候補生から外されたんだから」

 

難しい顔をする鈴。

 

「セイッ! ソリャッ!!」

 

「良いぞ! もっと打って来い!!」

 

と、そんな話に微塵の興味も無いグレンラガンとグラパール・弾は、ミット打ちに励んでいた。

 

「…………」

 

簪も無言で、射撃訓練を続けている。

 

「神谷さん、お兄………少しは聞いてあげたら如何なの? 簪さんも」

 

そんな姿に呆れたグラパール・蘭が、耐えかねた様にそう言う。

 

と、そこで………

 

「ふふふ………私の噂をしていらっしゃった様ですね」

 

「「「「「!?」」」」」

 

突如響いて来た声に、一夏達がアリーナのピットを見遣ると、そこには………

 

甲龍に良く似たISを装着している紅麗の姿が在った。

 

色は甲龍に比べて黒の部分が濃く、手には双天牙月の様な青龍刀ではなく、フィクション等で呂布が使っていたとされる武器『方天画戟』に似ている槍を持っている。

 

甲龍の後継機『黄龍』である。

 

「紅麗………」

 

「まあ、あの方が?」

 

鈴がそう呟くと、セシリアがそう声を挙げる。

 

「…………」

 

一方の紅麗は、相変わらず鈴を見下す様な目で見ている。

 

「………嫌な目だな」

 

その姿に、嘗て一夏や神谷を敵視していた自分を重ねたラウラがそう呟く。

 

「ちょっと君。悪いけど、このアリーナは私達が借り切ってるの。関係無い人は出て行ってもらえるかな?」

 

とそこで、楯無が紅麗に向かってそう言い放つ。

 

「アリーナは学園生徒皆のものではないのですか?」

 

「そうだけど………グレン団は実質、世界で1番ロージェノム軍との戦闘を経験している人達ばかりだからね。特例が許されているの」

 

「成程………理解しました。ならば、私もその一団に加えていただけませんか?」

 

「!? 何ですって!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

紅麗の思わぬ提案に、鈴が仰天の声を挙げ、一夏達も驚きを示す。

 

「悪い提案では無い筈ですよ? 貴方方としても、戦力は有るに越した事はありませんでしょう」

 

「それはそうだけど………」

 

「ご心配無く。鈴音さんよりは活躍して見せます」

 

「! 喧嘩売ってんの!? アンタ!!」

 

紅麗のその物言いに、鈴は当然の如く反論する。

 

「アラ? 漸く気づきましたか? 鈴音さん?」

 

そんな鈴に微笑みながら、紅麗は当然の様にそう返す。

 

「!! 上等じゃない!! 相手になってやるわ!!」

 

激怒した鈴は、双天牙月を構える。

 

「止せ、鈴! 落ち着け!!」

 

「止めないでよ! 一夏!!」

 

一夏が止めるが、鈴は収まらない。

 

「貴様、IS学園に於いてISを使っての私闘は禁じられているのを知らんのか!?」

 

「アラ? そうでしたか………うっかりしていましたわ」

 

箒にそう言われて、紅麗は引き下がるかの様な様子を見せたが、

 

「では織斑教諭にでも許可を取り、模擬戦という形で決着を着けましょう。鈴さんもそれで良いですか?」

 

次の瞬間には、そんな言葉を鈴に投げ掛けた。

 

「上等よ!!」

 

「では、今日もコレで失礼致しますわ。ご機嫌よう、鈴さん。そしてグレン団の皆さん」

 

紅麗はそう言うと、踵を返して、ピットの中へ消えて行く。

 

「一方的に自分の言い分だけ言って帰って行ったな………」

 

「何かまたメンドクセェ事になってるみてぇだな」

 

「…………」

 

とそこで、騒ぎを聞いて漸く訓練を中断したグラパール・弾にグレンラガンと簪が、一夏達の傍に寄って来る。

 

「弾、アニキ。それに簪」

 

「気に入らねえな………」

 

とそこで、グレンラガンがそう呟く。

 

「えっ?」

 

「あの女………如何にも気に入らねえな」

 

「でしょ、神谷! アンタもそう思うわよね!?」

 

珍しく意見が合い、鈴は神谷に向かってそう言う。

 

「アイツ………何か股に一物持ってやがんな」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

グレンラガンのその言葉を聞いた箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラが顔を赤くする。

 

「神谷くん………それを言うなら、腹に一物じゃない?」

 

「言葉っ尻は如何でも良い。兎に角、俺のカンがそう言ってんだよ」

 

苦笑しながらツッコミを入れる楯無に、グレンラガンはそう返す。

 

「う~ん、アニキの勘は良く当たるからなぁ………」

 

「こりゃ何か有るかも知れないな」

 

普通ならば、“根拠にならない根拠”として切り捨てるところだが、長い付き合いから神谷の直感の的中率の高さを知るグラパール・弾と一夏は、顎に手を当てながらそう呟く。

 

「鈴。油断しないで」

 

「誰に言ってんのよ!? 覚悟しなさい、紅麗! 模擬戦でボコボコにしてあげるわ!!」

 

グラパール・蘭がそう言うと、鈴は早くも紅麗への闘志を燃やし始めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日………

 

第2アリーナにて………

 

早くも鈴と紅麗の模擬戦が行われる事となる。

 

千冬が、2組の担任から鈴と紅麗の折り合いが悪い事を聞き及んでおり、いっそぶつかり合った方が双方スッキリするだろう、と判断してのスピード決定である。

 

既に、鈴と紅麗は互いにISを装着した状態でアリーナの空中に浮かび、睨み合いに入っている。

 

「…………」

 

「フフフ………」

 

と言っても、睨み付けているのは鈴の方だけで、紅麗はやはり見下した目で笑みを浮かべている。

 

「!!」

 

その目を見ているだけで、鈴の中には怒りの感情が湧き上がって来る。

 

一方、客席の方には毎度の様に情報を聞きつけた生徒達が、見物に集まっている。

 

勿論その一角には、グレン団の姿も在る。

 

「いよいよだな………」

 

「鈴の奴、大丈夫か? あの紅麗って奴に、大分怒ってるみたいだったけど………」

 

一夏は、紅麗への怒りに燃える鈴を心配する。

 

「始まるぜ………」

 

と、神谷がそう言った瞬間、いよいよ試合が始まりそうになる。

 

[それでは鈴音さん。紅麗さんも準備は宜しいですね?]

 

アリーナの管制室に居る真耶が、スピーカーを通じて鈴と紅麗にそう尋ねる。

 

「当然!!」

 

「何時でも構いません」

 

鈴と紅麗は、それにそう返す。

 

[分かりました。では、ISファイト………レディ! GO!!]

 

真耶がそう言ったかと思うと、アリーナの空中に、GOと言う文字が点灯した!!

 

「先手必勝!!」

 

と、鈴はその言葉通り、試合開始と同時に龍咆をブッ放す。

 

「フフフ………」

 

しかし、紅麗は薄笑いを浮かべたまま、方天画戟を片手で回転させる。

 

すると、龍咆は回転する方天画戟に命中し、そのまま防がれた。

 

「!? 何ですって!?」

 

「如何しました、鈴さん? まさかそれで終わりと言うワケではありませんよね?」

 

驚く鈴に向かって、紅麗は挑発の言葉を浴びせる。

 

「! 舐めんじゃないわよ!!」

 

鈴は今度は、双天牙月を両手に握り、紅麗に突撃する。

 

「セヤッ! おりゃあっ! とりゃあっ!!」

 

そのまま二刀流で、紅麗を連続で斬り付けて行く。

 

「フフフ………」

 

だが、これまた紅麗は、涼しい顔で連続斬撃を次々に躱して行く。

 

「何で当たらないのよ!?」

 

「鈴! 落ち着け!!」

 

余裕のまま攻撃を躱されて行く事で、鈴の中で焦りが生じ、それが動きに粗を生んで行く。

 

一夏が叫ぶが、熱くなり過ぎている鈴の耳には届かない。

 

「このおぉっ!!」

 

「隙有りです」

 

思わず鈴が、双天牙月を大きく振り被った瞬間、紅麗は方天画戟の石突きの部分を、鈴の鳩尾に叩き込んだ!!

 

「ガフッ!?」

 

一瞬意識が飛ぶ鈴。

 

「ゲホッ! ゴホッ!」

 

咳き込みながら一旦紅麗から離れる。

 

「では………今度はコチラから行かせていただきます」

 

とそこで、紅麗は方天画戟を両手で握る。

 

「!!」

 

直ぐに身構える鈴だったが………

 

「ハイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

一瞬にして目の前に紅麗が現れ、方天画戟での突きを繰り出して来る!!

 

「!?」

 

咄嗟に左腕で防ぐが、装甲が1撃で罅割れ状態となる。

 

「ぐうっ!?」

 

「ハイハイハイハイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーッ!!」

 

そのまま、目にも止まらぬ連続突きが繰り出される!!

 

「ぐううっ!?」

 

両腕で防御姿勢を取る鈴だったが、防いでいる両腕の装甲は次々に罅割れて、一部欠損を起こす。

 

「ハイイイイイイイィィィィィィィィーーーーーーーーーッ!!」

 

と、決めの1撃か、一旦方天画戟を引き、勢いを付けた1撃を繰り出す。

 

「! 甘いっ!!」

 

だが、鈴はその方天画戟を一旦引いた瞬間に、紅麗を飛び越える様に移動。

 

逆さまになる様にして紅麗の後ろを取った。

 

「貰ったわ!!」

 

そのまま龍咆を放とうとした鈴だったが、

 

「ええ………コチラが」

 

紅麗が首だけ振り向いた状態で鈴にそう言ったかと思った瞬間!!

 

黄龍の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の後ろ側が展開し、そこから衝撃砲が発射される!!

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

直撃を喰らってしまい、鈴は黒煙を上げながら頭からアリーナの地面に墜落する。

 

「鈴!!」

 

「何だ!? 今アイツ、振り向かずに攻撃したぞ!?」

 

一夏と弾が驚きの声を挙げる。

 

「如何やらあの黄龍には、非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の後ろ側にも衝撃砲が搭載されている様だな………」

 

「って事は、迂闊に背後にも回れないって事か………」

 

ラウラとシャルは、先程の攻撃が衝撃砲である事を見抜き、そう推察する。

 

「グウッ!!………やってくれたわね!!」

 

とそこで、頭に付いた土片を落としながら、鈴は起き上がる。

 

「まだまだこれからですよ」

 

しかしそこへ、紅麗は今度は、非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の前側から衝撃砲を放つ。

 

「!!」

 

慌てて地上をホバーしての回避運動に入る鈴だったが………

 

「逃がしません」

 

何と紅麗は衝撃砲をマシンガンの様に連射しながら、逃げる鈴を狙い撃つ。

 

「衝撃砲にも改良が加えられているみたいだね………」

 

「威力………射程………効果範囲………どれも大きく向上している」

 

「オマケに、連射速度に関しては桁違いです」

 

楯無、簪、虚が黄龍の衝撃砲を見てそう言う。

 

「リンリン! しっかり!!」

 

「鈴さん! 落ち着いて下さい!!」

 

「相手の動きを良く見るんだ!!」

 

そして、のほほん、セシリア、箒は鈴へそう声援を飛ばす。

 

「クッ! 気楽に言ってくれて!!」

 

しかし、今の鈴には、その声援に応える程の余裕が無かった。

 

「こんのおぉっ!!」

 

隙を作り出そうと、双天牙月2基を連結させると、紅麗に向かって投げ付ける!

 

「…………」

 

飛んで来た双天牙月を軽く躱す紅麗だが、その際に攻撃が止まる。

 

「今の内!!」

 

そしてその間に、鈴は再び飛翔し、帰って来た双天牙月を回収する。

 

「当然そう来るでしょうね」

 

しかし、紅麗はその行動を読んでいたかの様に、左アームパーツから分銅付きの鎖を発射。

 

その鎖が、鈴の左足に絡まる。

 

「!? しまっ………」

 

「高圧電流………放電!」

 

鈴が声を挙げようとした瞬間!

 

鎖に高圧電流が流された!!

 

「キャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

悲鳴を挙げる鈴。

 

「フフフ………」

 

そんな鈴の姿を見て、紅麗は薄ら笑いを浮かべると、そのまま鈴を振り回し、観客席の方へ投げ飛ばす!!

 

「ガハッ!?」

 

「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

鈴がシールドの背中から叩き付けられ、シールドからスパークが走り、見物の生徒達が思わず悲鳴を挙げる。

 

「グウッ………!?」

 

「遅いです」

 

立ち直ろうとした瞬間に、鈴の腹部に紅麗のキックが叩き込まれる。

 

「!? ガハッ!?」

 

絶対防御を抜いて伝わって来たダメージに、鈴は思わず吐血した。

 

「フフ………」

 

と、そんな鈴の横っ面に、方天画戟を持っていない方の手でフックの様なパンチをお見舞いする紅麗。

 

「ガフッ!?」

 

飛び散った血がアリーナのシールドに付着し、一瞬で蒸発する。

 

「フフフフフ………ハハハハハハハ!! アッハッハッハッハッハッ!!」

 

すると突然!!

 

紅麗はキックした足で鈴を押さえ付けながら、狂った様な笑いを挙げて、方天画戟を持っていない方の手で鈴の顔を繰り返し殴り付け始めた!!

 

まるで嬲るかの様に。

 

「ガッ!? グフッ!? ゴッ!?」

 

殴られる度に飛ぶ血飛沫が、アリーナのシールドに当たっては蒸発する。

 

「ううっ………」

 

「も、もう嫌!!」

 

「うえええ………」

 

その凄惨な光景に、ある生徒は青褪め、ある生徒は目を背ける。

 

そしてある生徒は耐え切れずに嘔吐する。

 

「如何ですか鈴音さん!? 手も足も出せずに一方的にやられる気分は!? アハハハハハハハハッ!!」

 

先程までの物静かそうな紅麗の姿は何処にも無く、そこに居たのは、只相手が苦しむ様を見て楽しむサディストの姿だった。

 

「「ううっ!?」」

 

グレン団の中でも、蘭とティトリーが思わず顔を背けた。

 

「アイツ!!」

 

「もう許せねえ!!」

 

思わず、一夏と弾が飛び出して行きそうになる。

 

しかし………

 

「手ぇ出すんじゃねえ!!」

 

「「!?」」

 

何と!!

 

他ならぬ神谷が止めた!

 

「アニキ! 如何してだよ!?」

 

「そうだよ神谷! あのままじゃ鈴さんが危険だよ!!」

 

一夏とシャルは、思わず神谷に食って掛かるが………

 

「まだ鈴の奴はアイツに1発も入れちゃいねえんだ………そいつをしねえ内に助けんのは、アイツのプライドが許さねえさ」

 

神谷は2人に向かってそう返す。

 

「でも! このままじゃ………!!」

 

食い下がる一夏だったが、そこで神谷がスクッと立ち上がる。

 

「鈴! 何手子摺ってやがる!! そんな奴! お前にとっちゃ何て事ねえだろ!! そっから逆転して見せろ!!」

 

そして、鈴に向かってそう叫ぶ。

 

「煩い事………こんな状態の鈴音さんに何をしろって言うのかしら………これだから不良は………」

 

その声を鬱陶しく思い、神谷に見下した視線を向ける紅麗。

 

とその時、紅麗の足が摑まれる!!

 

「!?」

 

「全く………アイツったら、ホント………人の気も知らないで勝手な事ばっかり言うんだから………」

 

先程まで嬲られていた鈴が、紅麗の足を摑んで捕まえていた。

 

その顔は酷く腫れて居るが、不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「!? そんな!?」

 

「でも! 今回ばかりはその通りだけどね!!」

 

紅麗が驚きの声を挙げた瞬間!!

 

鈴は紅麗の足を摑んだまま、龍咆を最大出力でブチ噛ました!!

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

最大出力を至近距離で喰らい、紅麗は装甲の欠片を撒き散らし、黒煙を曳きながらアリーナの地面に叩き付けられる!!

 

「ゲホッ!………やっぱり至近距離で最大出力撃ちなんてするもんじゃないわね」

 

漸く解放された鈴だが、至近距離で龍咆を最大出力でブッ放した為、自機の損傷も決して軽い物では無かった。

 

「あ、貴女………正気な頭をしているの!? 至近距離で龍咆を最大出力で放つなんて………自殺行為も良い所だわ!!」

 

鈴のやった行動が信じられないと言いながら態勢を立て直す紅麗。

 

「ハンッ! 無理を通して道理を蹴っ飛ばす! それがアタシ達………グレン団のやり方よ!!」

 

そんな紅麗に向かって、鈴はそう言い返す。

 

「何がグレン団ですか! そんな馬鹿馬鹿しい一団にまで加入して………!!」

 

「馬鹿馬鹿しいとは、馬鹿馬鹿しいわね!!」

 

紅麗の言葉を遮る様に叫ぶ鈴。

 

「アタシを誰だと思ってんの!?」

 

そして、今やグレン団お決まりの台詞となりつつある言葉を叩き付ける。

 

「へっ」

 

それを聞いた神谷は、ニヤリと笑う。

 

「小賢しい! 所詮はくたばり損ないの戯言よ!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

紅麗は方天画戟を構えて、鈴は連結した双天牙月を構えて突撃し合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

中国から新たにやって来た代表候補性『楊 紅麗』
彼女は鈴と浅からぬ因縁のある人物だった。

出会い頭から鈴を挑発し、模擬戦に持ち込む。
そしてその中でサディストの姿が表に出る。
一方的にボコボコにされた鈴だったが、ここからが本当の戦いです。
そして、紅麗の真の姿も明らかに………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第68話『戦いに神聖もクソも有るかぁ!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第68話『戦いに神聖もクソも有るかぁ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1年2組に転校して来た、鈴と同じ中国人の『楊 紅麗(ヤン ホンリィ)』

 

実は彼女は、鈴が選ばれる前までの代表候補生の候補であったのだが………

 

中国が開発したISである甲龍に適合出来ず、代表候補生の候補から降ろされたという過去を持っていた。

 

だが、彼女は甲龍の後継機である黄龍を引っ提げ、IS学園へ現れる。

 

目的はやはり………

 

自分を差し置き、代表候補生となった鈴への復讐である。

 

遂に鈴を模擬戦へと駆り出し、持ち前の腕と黄龍の性能を使い、一方的に嬲る紅麗。

 

だが、神谷の魂の叫びで刺激された鈴は………

 

遂に反撃を開始する!!

 

 

 

 

 

IS学園・第2アリーナ………

 

「さて………こっからが本領発揮よ!」

 

「減らず口を! ハアッ!!」

 

鈴の双天牙月と、方天画戟で鍔迫り合いをしていた紅麗だったが、気合の声と共に鈴を弾き飛ばす。

 

「クッ!!」

 

「ハイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

そして、バランスの崩れた鈴に、突きを繰り出す。

 

「何の!!」

 

しかし、鈴は僅かに横へ移動し、方天画戟は鈴の左脇を掠める。

 

「ぐうっ!? ええいっ!!」

 

横腹に走った衝撃に、一瞬苦悶の表情を浮かべる鈴だが、そのまま左腕で方天画戟を抑え込む。

 

「!? 何っ!?………!? ガハッ!?」

 

驚く紅麗の顎を、鈴は蹴り上げた!!

 

「ガハッ!?」

 

顎を攻撃された事で、衝撃が脳に伝わり、クラクラとする紅麗。

 

「てやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

その隙を見逃さず、鈴は双天牙月を左手に持つと、空いた右手で拳を握り、紅麗の腹にボディーブローを叩き込む!!

 

「ゴフッ!?」

 

紅麗の頭が下がった瞬間!!

 

「おりゃあっ!!」

 

鈴はその頭目掛けて、頭突きを繰り出す。

 

「ガッ!?」

 

紅麗が今度は仰け反ったかと思うと、

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

双天牙月を両手で握り直し、左斬り上げを繰り出す!!

 

「グガッ!?」

 

大きくシールドエネルギーを削られる紅麗。

 

「クウッ! このぉっ!!」

 

直ぐに反撃に転じようとする紅麗だったが………

 

「てええいっ!!」

 

そこで鈴は、連結していた双天牙月を投擲する。

 

「舐めるな!!」

 

方天画戟で、飛んで来た双天牙月を弾き飛ばす紅麗。

 

しかしその影から、鈴が弾丸の様に飛んで来ていた。

 

「なっ!?」

 

「でええええええいっ!!」

 

そのまま鈴は、頭から紅麗の腹に突っ込む!!

 

「ガハッ!?」

 

胃液が逆流して口から飛び散り、紅麗はそのまま地面に背中から墜落した。

 

「ゲホッ! ゴホッ!」

 

胃液と一緒に酸素も吐き出してしまったので、激しく咳き込む。

 

「な、何ですか、その戦い方は!? まるでチンピラの喧嘩の様に………」

 

「そりゃそうでしょ! 何たって、神谷に巻き込まれて喧嘩に付き合わされていた時に使ってた喧嘩殺法なんだから!」

 

口元の胃液を拭いながら言う紅麗に、鈴はそう言い放つ。

 

「喧嘩殺法!? 貴女! 神聖なるIS戦を路地裏の喧嘩等と同列に考えているのですか!?」

 

「戦いに神聖もクソも有るかぁ! 有るのは勝つ事だけよ!!」

 

怒りの様子を見せる紅麗に、清々しい程に堂々とそう言い放つ鈴。

 

「でやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

そこで、戻って来た双天牙月をキャッチして青龍刀状態へと戻すと、地上の紅麗目掛けて斬り掛かって行く!

 

「チイッ!!」

 

紅麗は紙一重のところで回避し、外れた双天牙月の刃が地面に突き刺さる。

 

「ふふっ」

 

だがその瞬間、鈴はニヤリと笑ったかと思うと、何と双天牙月の刃で地面を掘り返し、土片を紅麗の顔に浴びせた!

 

「ブッ!?」

 

シールドのお蔭で、目や口に入る事は無かったが、視界が一瞬塞がる紅麗。

 

「でりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

すかさず鈴は、紅麗の顔にハイキックを見舞う!!

 

「ガハッ!?」

 

紅麗はブッ飛ばされて、地面の上を滑る。

 

「貴様ぁっ!!」

 

「スカしてちゃアタシには勝てないわよ! 紅麗!!」

 

益々怒りの形相を深める紅麗に、鈴はそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

一方、その戦いぶりを客席から見ていたグレン団の面々は………

 

「あんな戦い方してる鈴を見るのは久しぶりだな」

 

「そう言えば、中学の時以来見てなかったなぁ」

 

「そりゃあ、アイツの喧嘩は、女だから体格や腕力で劣るのをカバーする為の戦い方だったからな」

 

神谷、一夏、弾が、喧嘩スタイルで戦う鈴を見て、思い出話に花を咲かせている。

 

「「「「「「「「ア、アハハハハハ………」」」」」」」」

 

一方、他のメンバーは如何コメントして良いか分からず、苦笑いを浮かべるばかりである。

 

「りんりん凄いね~」

 

「………有効な戦法ではあるわね」

 

唯一、のほほんは天然で、簪は戦法面で、鈴を褒めている。

 

「このぉ! 調子に乗るな!!」

 

とそこで、紅麗の衝撃砲が展開される。

 

「!!」

 

双天牙月で斬り掛かろうとしていた鈴は、紅麗の眼前まで迫っており、最早回避は間に合わない。

 

「死ねぇ! 凰 鈴音!!」

 

紅麗の衝撃砲が放たれようとする。

 

しかし!!

 

「まだまだぁ!!」

 

そこで何を思ったのか、鈴は双天牙月を投げ捨てると、両手で紅麗の衝撃砲を摑んだ!!

 

「!? 何っ!!」

 

「アームパーツ自切!!」

 

そしてそのまま、両アームパーツを分離させ、その反動で離脱!!

 

甲龍のアームパーツに発射部分を摑まれた状態で衝撃砲が放たれる。

 

当然暴発を起こし、黄龍の正面衝撃砲は爆発する!!

 

「ガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

紅麗の悲鳴が挙がる中、甲龍のアームパーツと、黄龍の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)のパーツが飛び散る。

 

「ぐうっ!? ま、まさか………アームパーツを捨て駒にするとは!?」

 

「もうこの辺にしない? 引き分けって事で良いじゃない」

 

頭から流血している紅麗に向かって、鈴はそう言う。

 

既に鈴も紅麗も満身創痍であり、コレ以上の戦闘継続は困難だった。

 

引き分けと言うのは、鈴のせめてもの妥協である。

 

だが………

 

「ふざけるな! この私が貴様如きに! 引き分けて堪るかぁ! 私は勝たねばならんのだぁ!!」

 

紅麗がそう叫んだかと思うと、突如黄龍がスパークを発し始めた。

 

「!? な、何っ!?」

 

鈴が驚きの声を挙げた瞬間!!

 

黄龍が、粘土の様に変形し始める。

 

「!? アレは!?」

 

「まさか!?」

 

その光景にデジャブを感じた一夏とシャルが驚きの声を挙げる。

 

「VT………システム………」

 

中でも1番の驚きを示しているのはラウラである。

 

何故なら、今黄龍が発動しているのは、嘗て彼女のシュヴァルツェア・レーゲンに極秘裏に装備されていたシステム………

 

『VTシステム』だったからだ。

 

黄龍、いや黄龍だったものはドンドン変形して行き、ISを纏った女性の様な姿をした形に固まる。

 

以前ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが変化したものと似ているが、顔の部分が変わっておらず、紅麗の顔のままだった。

 

「アハハハハハハッ!!」

 

高笑いを挙げる紅麗。

 

[緊急事態発生! 観客席に居る生徒は直ちにシェルターへ避難せよ!!]

 

そこで緊急事態と判断した千冬が客席の防御シャッターを下ろし、アナウンスで生徒に避難を呼び掛ける。

 

「………覚悟しなさい、鈴音さん。こうなってしまっては………手加減は出来ませんよ!!」

 

と、紅麗がそう言ったかと思うと、まるで瞬間移動したかの様な速度で鈴の眼前に迫る。

 

「!?」

 

咄嗟に身体を捻り、繰り出された斬撃を躱す鈴。

 

しかし、完全には回避し切れず、右の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が半分斬り裂かれた!!

 

「グッ!! このぉっ!!」

 

鈴は無事だった左の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の龍咆を放つ。

 

「フッ………」

 

だが、その攻撃は紅麗の左の掌で受け止められ、雲散させられてしまう。

 

「!?」

 

「今更そんな物が通じると思っていたのですか!?」

 

紅麗はそう叫ぶと、左手で鈴の首を摑む。

 

「ゲホッ!?」

 

そのままドンドン鈴の首を締め上げて行く紅麗。

 

「ぐ………あ………」

 

鈴の顔から血の気が引き、青褪めて行く。

 

「あ、アンタ………如何して、VTシステムを………」

 

意識が薄れて行く中、鈴は紅麗に向かってそう問い質す。

 

「フフフ、こんな素晴らしいものを禁止にするなんて、世間の連中はホントに愚かとしか言いようがないわ。誰にでも素晴らしい力が得られると言うのに」

 

見下した笑みを浮かべながら、紅麗はそう言い放つ。

 

「それにこのVTシステムは私が改良を加え、完全に制御可能としているのよ。言わば、『スーパーVTシステム』とでも言うべき物!」

 

「ハッ………ネーミングセンス無いわね」

 

鈴が皮肉る様にそう言った瞬間、ボディに紅麗の膝蹴りが叩き込まれた。

 

「ガフッ!?」

 

「自分の立場が分かっていない様ですね………」

 

血を吐く鈴を、不機嫌そうな眼差しで見据える紅麗。

 

「ゴホッ! ゴホッ!………随分な扱いしてくれるじゃない………次の質問だけど………その禁止されているVTシステムのデータを如何やって手に入れたの?」

 

しかし鈴は、口の端から血を垂らしながらも、不敵に笑いながら続けてそう問い質す。

 

「フフフ………私やドイツの様に、VTシステムに興味を持っていた方がいらっしゃいましてね。その方に黄龍のデータと引き換えに譲っていただきましたの」

 

「VTシステムに?………!? まさか!? ロージェノム軍!?」

 

鈴はそこで、まさかと言う顔になる。

 

「御明察」

 

「………何でよ………何がアンタをそこまで駆り立てたって言うのよ!?」

 

思わずそう叫ぶ鈴だったが、

 

「何が………ですって」

 

その途端に、紅麗の顔が強張り、鈴の首を絞めている手の力が強まる。

 

「ぐ!? あっ………!?」

 

「私はいつもトップだった! 出世でも誰にも負けなかった! その私が! 中国の代表候補生になれなかった!! 国が用意したISに適合出来ないと言うだけの理由で!!」

 

彼女の凄まじい怒りと憎悪を表すかの様に、彼女の顔に黒い血管の様な紋様が浮かび上がる。

 

「全ての面で劣っているお前に代表候補生の座を奪われ! 私のプライドはズタズタにされてしまった!! 貴女と! 私を選ばなかった中国を! 生かしておく事なぞ出来ない!!」

 

「………安いプライドね」

 

「!? 何ですって!?」

 

「そんなプライド、犬にでも食わせちゃいなさいよ」

 

ココへ来て、鈴は更に紅麗を挑発する。

 

「貴様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

怒り狂った紅麗は、鈴の首を一気に握り潰そうとする!!

 

「ア!? がっ!?(一夏!!)」

 

思わず心の中で一夏の名を叫ぶ鈴。

 

すると!!

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

何者かの叫びが響いたかと思うと、鈴の首を摑んでいた紅麗のアームパーツが斬り裂かれた!!

 

「!? 何っ!?」

 

「うわっ!?」

 

衝撃で弾き飛ばされる紅麗と鈴。

 

すると、鈴の方は何者かに受け止められる。

 

「大丈夫!? 鈴!!」

 

鈴を受け止めたグラパール・蘭がそう問う。

 

「コレ以上はやらせるかぁ!!」

 

更に、紅麗のアームパーツを斬り裂いた一夏も、エネルギーの刃を展開した雪片弐型を構えて、鈴の前に立つ。

 

「一夏!」

 

「助太刀するぜ、鈴。こうなっちまったら仕方ねえ」

 

更にそこへ、そう言う台詞と共にグレンラガンが姿を見せ、グレン団のメンバーも集まる。

 

「神谷! 皆!!」

 

「オノレェ………邪魔をするなぁ!!」

 

とそこで、紅麗がそう叫んだかと思うと、斬り裂かれていた左アームパーツの切断面が粘土の様に変形し始め、再生した!

 

「!? 何っ!?」

 

「再生した!?」

 

それを見た一夏とシャルが驚きの声を挙げるが、

 

「驚くのはまだ早いぞ!! はああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

紅麗が更に叫びを挙げたかと思うと、今度は全身のパーツがブクブクと膨れ上がる様に変形し始め、やがて2つの塊が分離する。

 

そして、分離したその塊が人型となって行き、以前ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンが変化した黒いISと同じ形となる。

 

「なっ!?」

 

「分裂………だと?」

 

セシリアとラウラが驚愕を露わにする。

 

「行けっ!!」

 

紅麗が声を挙げると、その分裂した黒いIS2機は、一夏達に襲い掛かる。

 

「うわあぁっ!?」

 

「一夏!?」

 

「死ねぇ!! 凰 鈴音!!」

 

思わず一夏達の方へ注意が向いてしまった鈴に、紅麗が襲い掛かる。

 

「!?」

 

「四の五の言わずに食らっとけキイイイイィィィィィックッ!!」

 

しかしそこでグレンラガンが、突っ込んで来た紅麗に飛び蹴りを喰らわせる。

 

「ガッ!?」

 

不意打ちを食らった形となり、後退する紅麗。

 

「神谷! コイツはアタシが!!」

 

「無茶すんな。その様じゃ真面に戦えねえだろ」

 

「うっ………」

 

グレンラガンの言う通り、甲龍のダメージはかなりのものであり、シールドエネルギーも残り少ない。

 

まだ戦えないワケではないが、単独での戦闘は余りにも危険過ぎた。

 

「仕方ないわね………手伝わせてあげるわよ」

 

「へっ! お前らしい言い方だな」

 

グレンラガンはそう言うと、右手に2本のドリルを出現させた!!

 

「ええい! 邪魔をするなら貴様も纏めてあの世に送ってくれるうううううぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!!」

 

体勢を立て直した紅麗が、グレンラガンと鈴目掛けて突撃する。

 

「お決まりの台詞吐いてんじゃねえぞ!!」

 

グレンラガンもそう叫び、鈴と共に紅麗へと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、紅麗のISから分裂した黒いISに襲われた一夏達は………

 

セシリア、ラウラ、楯無、簪………

 

「クッ!!」

 

突撃して来る黒いISに対し、スターライトmk-Ⅲを発砲するセシリア。

 

しかし、黒いISは右手のブレードの刃で、スターライトmk-Ⅲのビームを次々に弾いてしまう。

 

そのままセシリアに斬り掛かろうとする黒いISだったが、

 

「させん!!」

 

間にラウラが割り込み、プラズマ手刀でブレードを受け止める。

 

しかし、受け止めた瞬間に、黒いISは蹴りを繰り出して来る。

 

「ガッ!?」

 

黒いISの蹴りが、脇腹に食い込む様に命中し、ラウラは思わず苦悶の表情を浮かべる。

 

すかさず、黒いISはラウラを斬り捨てようと、ブレードを振り上げる。

 

しかし、背後から伸びて来た関節剣の刃が、黒いISのブレードを持った腕に巻き付く。

 

「フンッ!!」

 

ラスティー・ネイルの柄を握っていた楯無が、そのまま一気に引っ張る。

 

黒いISはバランスを崩し、地面に墜落する。

 

「…………」

 

転倒したままの黒いISに、簪が容赦無くヘヴィマシンガンの弾丸を浴びせる。

 

連続した着弾で、土煙が上がり、黒いISの姿が見えなくなる。

 

だが、次の瞬間には、土煙を突っ切って、黒いISが簪目掛けて突っ込んで来る。

 

「…………」

 

だが、簪は慌てずにターンピックを使い、回転する様にして紙一重で回避。

 

そのまま黒いISの背中を取り、アームパンチを叩き込んだ!!

 

再び転倒する黒いIS。

 

直ぐに起き上がろうとしたが、突如として動けなくなる。

 

「捕まえたぞ!」

 

ラウラがAICを展開し、動きを止めたのだ。

 

「貰いましたわ!!」

 

すかさずセシリアが、ビットのブルー・ティアーズを射出。

 

2基ずつに分かれさせ、黒いISの腕部を狙ってビームを放つ!

 

AICで動きを止められていた黒いISに、ビームは狙いを違えず命中。

 

腕部が肩口から吹き飛び、黒いISは両腕を無くした状態となる。

 

「コレで!!」

 

「………トドメ」

 

そしてその次の瞬間、上空の楯無がミストルテインの槍(30%の威力)、地上の簪が7連装ミサイルポッドのミサイルを全て黒いISに叩き込む!!

 

大爆発が発生し、黒いISは木端微塵となって吹き飛んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏、箒、シャル、グラパール・弾、グラパール・蘭………

 

「この千冬姉の偽物野郎!!」

 

そう言う台詞と共に、エネルギーの刃を展開した雪片弐型を振るう一夏。

 

黒いISは右手のブレードで受け止める。

 

「フッ!!」

 

だが、一夏はそのまま雪片弐型をブレードの上を滑らす様に振り切る。

 

「でやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

驚いた様な様子を見せる黒いISに、一夏はそのまま横薙ぎの1撃を繰り出す。

 

黒いISはその横薙ぎを上空へと飛んで躱す。

 

「必殺必中!!」

 

だが、その回避先を呼んでいた箒が、穿千から熱線を放った!!

 

黒いISは、迫り来る熱線にブレードの刃を盾にする様に構える。

 

すると、熱線がブレードの刃に斬り裂かれ、黒いISを避ける様に拡散する。

 

やがて熱線を全て防ぎ切ると、黒いISは箒に狙いを定める。

 

「やらせないよ!!」

 

だがそこで、シャルがレイン・オブ・サタデイを撃ちながら黒いISへ突っ込んで行く。

 

黒いISは標的をシャルに変更し、ブレードを振り被る。

 

「!!」

 

実体シールドで防ごうとするシャルだったが、何と!!

 

黒いISの攻撃は、実体シールドごとシャルを斬り裂いた!!

 

………かに見えたが!

 

斬り裂かれたのは実体シールドだけであり、シャルの姿は無い。

 

「コッチだよ!!」

 

黒いISの真上から降って来るシャルの声。

 

そう、シャルは実体シールドを目眩ましに、黒いISの頭上に廻っていたのだ。

 

「喰らええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

残っていたシールドをパージし、灰色の鱗殻(グレー・スケール)を出現させると、黒いISの脳天に打ち込む!!

 

途端に、黒いISはガクガクと痙攣するかの様な動きを見せ、スパークを発する。

 

「フッ!」

 

そこでシャルが離脱すると、

 

「「グラパールダブルキイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」」

 

グラパール・弾とグラパール・蘭のダブルキックが、黒いISに叩き込まれた!!

 

装甲の欠片を撒き散らしながら、黒いISは地面に叩き付けられる。

 

直ぐに起き上がる黒いISだが、

 

「そこだぁ!!」

 

そこへ、箒がビットを飛ばす。

 

飛翔したビットが正面と背後から、黒いISを貫く!!

 

スパークを発し、倒れそうになる黒いIS。

 

だが、ブレードを杖代わりにして如何にか踏ん張りを入れる。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

だがそこで一夏が、雪片弐型を蜻蛉に構えて突撃して来る。

 

黒いISは最後の力を振り絞るかの様に、突き刺さっていたビットを無理矢理弾き飛ばし、突撃して来た一夏に向き直る。

 

「でりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一夏は構わずに雪片弐型を振り下ろす。

 

黒いISはその軌道を見切り、紙一重で躱す。

 

そして、隙を見せた一夏を、ブレードで斬り捨てようとする。

 

しかし!!

 

その時黒いISは見た!!

 

一夏の左腕の雪羅が、光り輝いているのを!!

 

「必殺っ! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

本命のシャイニングフィンガーを、黒いISの頭部目掛けて叩き込む一夏!!

 

黒いISもブレードを振るっていたが、シャイニングフィンガーを一瞬先に食らった事で狙いが反れ、地面に突き刺さる。

 

「うおおおおおおっ! ハアッ!!」

 

そして、一夏が気合の雄叫びを挙げると、黒いISの頭は握り潰され、残った身体も爆散したのだった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンラガン&鈴VS紅麗………

 

「!? 馬鹿な!? 改良を加えたスーパーVTシステムを搭載した無人機が!?」

 

一夏達の相手をしていた黒いISがやられた事に、紅麗は動揺を示す。

 

「けっ! 何がスーパーVTシステムだ! 所詮は只の猿真似じゃねえか!!」

 

紅麗のブレードを、右手の2本のドリルを絡める様にして受け止めていたグレンラガンがそう言い放つ。

 

「!? 何ですって!?」

 

「俺達は常に前を目指して突き進んでる! 明日を目指して前に向かってる! その俺達に! データなんていう昨日の力が通用するかぁ!!」

 

と、神谷がそう叫んだ瞬間!

 

紅麗のブレードにヒビが入り、砕け散った!!

 

「!? ぬあっ!?」

 

「喰らえっ!!」

 

更に間髪入れず、鈴が龍咆を放つ!!

 

「!? ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

直撃を受けた紅麗のISのアーマーが、破片となって飛び散る。

 

「チイッ! こんな損傷!!」

 

しかし、紅麗がそう叫ぶと、ISのアーマーがまたも粘土の様に変形し、損傷個所を修復してしまう。

 

「また再生!?」

 

「チッ、鬱陶しい奴だぜ」

 

鈴が驚きの声を挙げ、グレンラガンが呆れる様にそう言う。

 

「黙れぇっ! ハアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

紅麗が叫びを挙げたかと思うと、右手のブレードに黒色のオーラが宿って行く。

 

「ハアッ!!」

 

そのオーラを、斬撃波として鈴に飛ばす紅麗。

 

「!!」

 

「鈴!!」

 

損傷の大きい鈴のISでは耐え切れないと思ったグレンラガンが掩護防御に入り、斬撃波を受け止める。

 

「ぐおおおおおおっ!! ハアッ!!」

 

大きく両腕を広げる様に振るうと、斬撃波を掻き消す。

 

「しえあああっ!!」

 

だがそこで、その間に接近してきていた紅麗が、逆袈裟懸けに斬り付けて来る!!

 

「うおっ!?」

 

「ハイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

更に間髪入れず、今度は突きが繰り出される!

 

「!?」

 

紅麗の繰り出した突きが、グレンラガンのボディに突き刺さる!

 

「! 神谷ぁ!!」

 

「あ、アッブねえ………」

 

しかし、危機一髪。

 

グレンラガンはブレードの刃を、ボディの顔の口で噛んで受け止めた。

 

「貰った!!」

 

だが次の瞬間!!

 

ブレードを通じてエネルギーが送られ、グレンラガンはスパークを発する!!

 

「!? うおわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

「このぉっ!!」

 

思わず声が挙がるグレンラガンだったが、そこで鈴が龍咆を放つ。

 

「グウッ!!」

 

再びダメージを受けて後退する紅麗。

 

「ク~~ッ! やってくれんじゃねえか!!」

 

所々に焦げ跡を作ったグレンラガンが、紅麗に向かってそう言い放つ。

 

その間に、紅麗のISはまたも再生してしまう。

 

「コレじゃキリが無いわ」

 

「なら一気にケリを付けてやるぜ! 鈴! 『アレ』やるぞ!!」

 

その様子を見て苦々しげな顔をした鈴に、グレンラガンがそう呼び掛ける。

 

「『アレ』って………まさか、『アレ』の事!?」

 

「それ以外に何があるってんだよ!? 行くぜ!!」

 

戸惑う鈴に、グレンラガンは再度そう呼び掛ける。

 

「チッ! しょうがないわね………やってやるわよ!!」

 

「何をゴチャゴチャと!! そろそろトドメを刺してやる!!」

 

とそこで、紅麗がそう叫ぶと、ブレードを振り被る。

 

そして再び、ブレードにオーラが宿って行く。

 

「行くぜ! 鈴!!」

 

「おうっ!!」

 

すると、グレンラガンと鈴は、まるでバ○ムクロスの様に、互いの右腕をクロスさせた!!

 

「死ねぇっ!!」

 

その瞬間に、紅麗のブレードのオーラが斬撃波となって放たれる!

 

そして、グレンラガンと鈴が緑色の光に包まれたかと思われた瞬間に命中し、爆煙を上げる!!

 

「アーハッハッハッハッハッ! やった! 遂にやったわ!! 凰 鈴音を倒したわ!!」

 

狂った様な笑い声を挙げる紅麗。

 

たが、次の瞬間!!

 

爆煙を吹き飛ばす程の突風が吹き荒れる!!

 

「!? キャアッ!? な、何が!?………!?」

 

そこで紅麗が見たものは………

 

『グレンラガンが甲龍を装着している』様な姿のマシンの姿であった!!

 

「吐き出す息吹は悪を焦がす炎!!」

 

「天空翔けるその姿は鋼の龍!!」

 

「「龍炎(りゅうえん)合体!!」」

 

神谷と鈴の声が響き渡り、『グレンラガンが甲龍を装着している』様な姿のマシンがポーズを決める!

 

「「『甲龍ラガン』!!」

 

「俺を!」

 

「アタシを!」

 

「「誰だと思ってやがる(んの)っ!!」」

 

グレンラガンの新たなる合体形態………『甲龍ラガン』の誕生だ!!

 

「甲龍ラガンだと!? ええい! 虚仮威しを!!」

 

紅麗はそう叫び、甲龍ラガンへと突撃すると、ブレードを振るう。

 

しかし、甲龍ラガンは振られたそのブレードを、右手でアッサリと受け止める。

 

「!? 何っ!?」

 

「むんっ!!」

 

神谷の気合の声が響くと、ブレードの刃が握り潰される!!

 

「アチョオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

そして今度は鈴の声が響いたかと思うと、ハイキックが叩き込まれる。

 

「ガッ!?」

 

唯一露出している頭部に攻撃を喰らい、怯んだ様子を見せる紅麗。

 

「ええい! 小賢しい!!」

 

だが、そう叫んだかと思うと、折れたブレードを再生させる。

 

「全く………馬鹿の1つ覚えみたいに再生して………」

 

「なら速攻で決めてやるまでだ」

 

「やってみろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

鈴と神谷の会話に、紅麗は怒りを露わに突っ込んで行く。

 

「むんっ!!」

 

とそこで、甲龍ラガンは胸のグレンブーメランを右手に握ったかと思うと

 

「おりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

野球のバッターの様にフルスイングし、紅麗を空高く打ち上げる!!

 

「ぐがっ!?」

 

「まだまだ!!」

 

更にそこで、今度は左手に連結させた双天牙月を出現させたかと思うと、何とグレンブーメランと合体させる!!

 

「せいりゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

巨大な十字手裏剣の様な形となったグレン牙月を、紅麗目掛けて投げつける。

 

「がああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

グレン牙月は何度も紅麗にぶつかり、アーマーの破片を撒き散らさせる。

 

「よっと!」

 

やがて、戻って来たグレン牙月をキャッチする甲龍ラガン。

 

「さ、再生を………」

 

直ぐに損傷を再生させようとさせるが、

 

「決めるわよ! 神谷!!」

 

「おう!!」

 

鈴と神谷がそう言ったかと思うと、グレン牙月を分離させ、グレンブーメランを右手に握る。

 

「必殺っ!!」

 

そして、そのグレンブーメランを紅麗目掛けて投げ付ける。

 

途中で2つに分離したグレンブーメランは、高速回転しながら紅麗を何度も斬り付ける!!

 

そのまま、紅麗を空中に磔にする様に拘束する!!

 

そこで、甲龍ラガンの両肩の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が展開。

 

龍咆が発射態勢に入ったかと思うと、両肩に螺旋力で作られたドリルが出現する!!

 

その螺旋力で作られたドリルが、紅麗目掛けて放たれる。

 

その後を追う様に、連結した双天牙月を握った甲龍ラガンが飛ぶ!!

 

先ず、先行した螺旋力で作られた2つのドリルが、紅麗のアーマーを抉る!!

 

そして、アーマーがボロボロになった紅麗に向かって、甲龍ラガンが連結した双天牙月を振り被る。

 

「「ドリル・クロスアタアアアアアァァァァァァーーーーーーーックッ!!」」

 

そのまま双天牙月で十文字斬りを決め、着地する!!

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

アーマーが完全に砕け散る紅麗。

 

甲龍ラガンはそのまま紅麗を通り越して、背後の地面に着地。

 

その後、紅麗を拘束していたグレンブーメランが外れ、1つに戻ると、甲龍ラガンの胸に再装着される。

 

気絶した紅麗が、その背後にドサリと落ちる。

 

「決まったな」

 

「ま、ザッとこんなもんね」

 

「アニキー!!」

 

と、神谷と鈴がそう言い合って居ると、一夏達が近寄って来る。

 

「スゲェや! 遂に甲龍とも合体したんだ!!」

 

甲龍ラガンの姿を見て、興奮気味にそう語る一夏。

 

「へへへっ! 当然よ!」

 

「アタシ達を誰だと思ってるの」

 

神谷と鈴はそう返す。

 

「グレン団の皆さん。御苦労様でした」

 

とそこへ、真耶が率いる教師部隊が到着した。

 

「山田先生」

 

「よお、メガネ姉ちゃん」

 

一夏と神谷がそう挨拶する中、真耶と教師部隊は気絶している紅麗を取り囲む。

 

「楊 紅麗さん………アラスカ条約違反により、中国本国より貴女のIS及び代表候補生身分の剥奪が決定されました。以後、貴女の身柄は国際IS委員会の監視下に置かれます………連行して下さい」

 

「「「「「ハイッ!!」」」」」

 

真耶が、近くに落ちていた黄龍のコアを拾い上げると、気絶している紅麗にそう言い放ち、教師部隊に連行させた。

 

「…………」

 

少し複雑な表情をした後、真耶自身もその後を追う。

 

「紅麗………ホント、馬鹿ね………そんなにまでしてまで………守るプライドだったって言うの………?」

 

連行される紅麗の背を見ながら、鈴はそんな言葉を投げ掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

紅麗になぶられた鈴だったが、かつての喧嘩殺法で逆転。
しかし、紅麗はロージェノム軍と通じて入手したVTシステムを使用!
大暴れする彼女に対抗する為………
新たなる合体形態が誕生!!
その名は『甲龍ラガン』!!
見事逆転勝利を納めます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第69話『やあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーってやるニャッ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第69話『やあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーってやるニャッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

リーロンの研究室………

 

「失礼します」

 

「リットナー先生。量産型グラパールの開発状況は如何ですか?」

 

真耶と千冬がそう言いながら、リーロンの研究室に入って来る。

 

「アラ、いらっしゃい。ちょっと待ってね。今手が離せないの」

 

デスクに付き、パソコンと睨めっこしていたリーロンは、一瞬千冬達の方を見ると、再びパソコンの画面に向き直って、カタカタとキーボードを叩く。

 

「ハイ、っと。コレで良し」

 

やがて、作業が一段落したのか椅子から立ち上がる。

 

「ちょっと待っててね。今コーヒー淹れるから」

 

そして、千冬達を持て成すべく、備え付けのコーヒーメーカーの元へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

「結論から言わせてもらうと………グラパールの量産型は9割方完成してるわ。後は細かい調整だけね」

 

「そうか………」

 

「コレでロージェノム軍との戦いも楽になると良いんですけど………」

 

リーロンが用意したコーヒーを飲みながら、千冬と真耶はそう言い合う。

 

「けど、発表のタイミングは見計らわないとね………ロージェノム軍の妨害も警戒しなければならないけど、技術を独占しようとする国も出て来るだろうから」

 

「そうですね………」

 

リーロンのその言葉を聞いて、真耶が表情を曇らせる。

 

人類全体の危機だと言うのに、未だに国家同士は纏まり切れていない。

 

果たしてこんな状態でグラパールを完成させて、上手く行くのだろうか?

 

それを考えると不安で仕方なかった。

 

「それは私達が考えていても仕方あるまい。今は只信じるだけだ………人類がそこまで愚かでは無いと言う事をな」

 

そんな真耶に、千冬がブラックコーヒーを飲みながらそう言う。

 

「そうですね………」

 

真耶は複雑な表情をしながらも、千冬のその言葉に頷くのだった。

 

その後も、重要な要件を2、3話し合うと、千冬と真耶は研究室を後にしようとする。

 

「あ、そうそう。放課後になったら、ティトリーちゃんに研究室に来てくれる様に言ってくれる?」

 

すると去り際、リーロンがそう言って来た。

 

「? キャッツさんを?」

 

「何かあるのですか?」

 

「それは放課後に教えてあげるわ。フフフ………楽しみにしてて」

 

リーロンはそう言って、ウインクする。

 

((うう………))

 

そのウインクを見て、若干鳥肌の立つ千冬と真耶であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、放課後………

 

「お邪魔しまーす」

 

「よう、リーロン。ティトリーに用事って、何だよ?」

 

リーロンの研究室に、何故かティトリーだけでなく、神谷達グレン団も姿を現す。

 

「すまない、リットナー先生………」

 

「キャッツさんに話をしていたら、無理矢理従いて来てしまって………」

 

「別に構わないわよ。こうなるとは予想してたし」

 

申し訳なさそうにしている千冬と真耶だったが、リーロンは予測済みだったのか、特にリアクションを見せない。

 

「あ、あの………アタシ、何かした?」

 

若干おっかなびっくりという様子で、ティトリーはリーロンにそう尋ねる。

 

「違うわよ。今日は貴女にプレゼントが有るの」

 

「? プレゼント?」

 

「そっ。ポチッとな」

 

とそこで、リーロンは備え付けのパソコンのエンターキーを押した。

 

すると、床の一部が開いて、そこから人型の物体が迫り上がって来る。

 

「ニャニャッ!?」

 

「コイツは!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

ティトリーと一夏が声を挙げ、箒達も驚きを表情に表す。

 

迫り出して来たのは、黒いカラーリングで、白いブースターウイングを背にしており、所々に獣の意匠が凝らされており、そして何と言うか………

 

『バリっている』マシンだった。

 

「おおっ!? カッケーじゃねえ! リーロン! 何だコイツは!?」

 

神谷は早速興味を持ったのか、まるで新発売の玩具を目の前にした子供の様に、ペタペタとそのマシンを触り捲る。

 

「そのマシンの名前は『ダンクーガ』………ISとガンメンの技術を合わせて作ったハイブリット機よ」

 

「!? ISとガンメンの、ハイブリットだと!?」

 

「えええっ!?」

 

リーロンがサラッと発表した事が、余りにも突き抜けた技術の事だったので、千冬と真耶は思わず驚きの声を挙げる。

 

「そんな事が可能なんですか?」

 

と、同じ技術関係から、虚が興味深そうに尋ねる。

 

「可能と言うか、出来たと言うか………今まで、学園を襲撃したガンメンとかの残骸を幾つか回収してあったでしょ? それと預かってたティトリーとジギタリスのガンメンを調べている内に、ガンメンとISを組み合わせて、全く新しいマシンを作れないかと思ったの」

 

「確かに、鹵獲した敵兵器を研究して新しい兵器を作るってのは、兵器開発の基礎だね」

 

リーロンがそう言うと、楯無がそんな意見を挙げる。

 

「その通りよ。それでこの機体のパイロットなんだけど………ティトリーちゃん。貴女に務めて欲しいんだけど」

 

「えっ?………ええっ!? ア、アタシ!?」

 

驚きの声を挙げるティトリー。

 

「ええ。実はこのダンクーガ………作ったのは良いんだけど、ガンメンの技術を流用した所為で、普通の人間には動かせなくなっちゃって………」

 

「と言いますと?」

 

「如何やらガンメンは、獣人だけが持つ特殊な生体エネルギーで動いてるみたいなの」

 

「特殊な生体エネルギー?」

 

「ええ。人間には失われ掛けている獣としての本能………言うなれば、『野生』の力って言った所かしら」

 

「『野生』の力………」

 

そこで一同はティトリーを見遣る。

 

「ニャ、ニャア………」

 

その視線に、若干プレッシャーを感じるティトリー。

 

「ハッハッハッハッ! 良いモン貰ったじゃねえか! ティトリー!!」

 

と、そんな事なぞ露知らず、神谷は呵々大笑しながらティトリーの背中をバシバシと叩く。

 

「イタッ! イタッ! イタッ!?」

 

「ちょっ! 神谷! やり過ぎだよ!!」

 

痛がるティトリーを見て、シャルが慌てて神谷を止める。

 

「それじゃあ、第1アリーナまで上がってくれる? ダンクーガのテストをしたいから」

 

「テストするんですか?」

 

「当然よ。試作型のグラパールはしょうがないとは言え、イキナリ実戦投入しちゃったんだから。本来ならテストは欠かせないんだから」

 

「ですよね」

 

リーロンの言葉に、メカニックの虚は同意する。

 

「よっし! んじゃ、ティトリーの新しい相棒の御披露目を見物するとすっか」

 

神谷がそう言って研究室を後にすると、一夏達もその後に続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1アリーナ………

 

そのピットの入り口には、ティトリーが立っており、客席には神谷達が座って居る。

 

[それじゃ、ティトリーちゃん。よろしく頼むわね]

 

とそこで、アリーナ内にリーロンの声でそう言うアナウンスが流れる。

 

「りょ、了解!!」

 

そのアナウンスに、ティトリーはやや緊張している様子で返事を返す。

 

「ティトリー! もっとリラックスしてー!!」

 

「大丈夫だぁ! オメェなら出来る!!」

 

シャルがそう声援を送り、神谷もお馴染みの根拠の無い自信を見せる。

 

「よ、よ~~し」

 

まだ少し緊張の様子は残っているが、その言葉で励まされたティトリーは、待機状態のダンクーガ………鳥を象ったエンブレムを掲げる。

 

「ダンクーガ! やあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーってやるニャッ!!」

 

ティトリーがそう叫ぶと、その身体が光に包まれ、ダンクーガとなる!!

 

「い、行きます!!」

 

ダンクーガとなったティトリーは、そのまま背部のウイングと足裏のブースターを噴かし、飛翔する。

 

[OK。それじゃあ先ずは、小手調べって言った所かしら]

 

リーロンがそうアナウンスしたかと思うと、アリーナの空中に飛行機の様な仮想ターゲットが出現する。

 

そして、その飛行機型の仮想ターゲットが、ダンクーガへと向かって行く。

 

[それじゃあ、先ずはパルスレーザーと連装キャノン砲のテストからお願い]

 

「ハイ! 行けぇっ!!」

 

ダンクーガが叫ぶと、胸部のパルスレーザーの砲門からレーザーが発射されて、飛行機の様な仮想ターゲット1機を撃ち落とす。

 

続けて、背部のウイングに装備されていたキャノンが肩に掛かる様に変形し、ビームが発射される。

 

最初の1機に後続で続いて来ていた飛行機の様な仮想ターゲットが次々に撃墜され、爆散する。

 

[OK! 良いわよ。次は断空砲と断空砲フォーメーションね]

 

「了解っ!!」

 

ダンクーガが返事を返すと、以前学園に現れたゴーレムIを模した大型のターゲットが出現する。

 

ゴーレムIを模したターゲットは、ダンクーガに向かって腕からビームを放つ。

 

「クッ!!」

 

ダンクーガはまだぎこちない動きながら、そのビームを躱す。

 

「断空砲!!」

 

そしてそう叫んだかと思うと、背部から巨大な砲が迫り出して来て、前方を向いたかと思うと、強力なビームが発射される!!

 

何機かのゴーレムIを模したターゲットがそのビームに呑み込まれて蒸発するが、残っていたターゲット達が、格闘戦を仕掛けようとダンクーガに突撃して行く。

 

「断空砲フォーメーション!!」

 

するとそこで、ダンクーガがそう叫んだかと思うと、全砲門が展開。

 

その全砲門から一斉にビームが放たれ、1つの巨大なビームとなってゴーレムIを模したターゲットを呑み込んだ!!

 

「うわっ!?」

 

「眩しい!?」

 

余りの光量に、思わず客席の一夏と弾が目を覆う。

 

やがて光が収まると、ゴーレムIを模したターゲットは全て消滅していた。

 

「す、凄い………」

 

「何と言う火力だ………」

 

シャルとラウラが、ダンクーガの火力に舌を巻く。

 

[良いわよ良いわよ~。じゃ、残りはダイガンと断空剣、それに格闘戦のテストね。よろしく頼むわ]

 

「ハイッ!!」

 

そこで今度は、戦闘機の様なターゲットと、ゴーレムIを模したターゲットが同時に出現する。

 

戦闘機の様なターゲットとゴーレムIを模したターゲットは、同時にダンクーガへと襲い掛かる。

 

「ハアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

だが、ダンクーガが咆哮と共に拳を繰り出すと、先行していたゴーレムIを模したターゲットが腹に鉄拳を喰らって真っ二つになり、更にその勢いを利用して戦闘機の様なターゲットを次々に叩き落とした。

 

「うわっ、とっとっとっと!? ダイガン!!」

 

勢いが乗り過ぎて素っ転びそうになったが、如何にかブースターを噴かして姿勢を取り直すと、ダンクーガは左手に大型のライフル・ダイガンを出現させ、発砲。

 

射線上に居たゴーレムIを模したターゲットが撃ち抜かれ、爆散する。

 

すると、別のゴーレムIを模したターゲットが、ビームを撃ちながら突撃して来るが、

 

「断空剣!!」

 

ダンクーガがそう叫ぶと、剣の柄の様なパーツが射出される。

 

それを右手で握ったかと思うと、柄からエネルギーが溢れ、銀色の刀身を形成した。

 

「ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーいっ!!」

 

気合の叫びと共に、突撃して来ていたゴーレムIを模したターゲットに自ら突っ込んで行き、横薙ぎの一閃で腹から真っ二つにするダンクーガ。

 

真っ二つになったゴーレムIを模したターゲットは、その背後で爆発する。

 

「ヒューッ! カッケェじゃねえか!!」

 

「何か、動いている様で動いていないメリハリが付いた動きが良いね~」

 

その光景を見て、神谷とのほほんがそう声を挙げる。

 

「………ん?」

 

とそこで簪が、何かに気付いた様に目を細めた。

 

「如何したの? 簪ちゃん?」

 

「………ブースターから………黒煙が上がってない?」

 

それに気付いて尋ねて来た楯無に、簪はそう返す。

 

「えっ!?」

 

そう言われて、楯無がダンクーガの姿を見直すと、確かに背部のブースター部分から黒煙が上がっていた。

 

「ちょっ!? 煙噴いてるわよ!?」

 

「あ、危ないんじゃ!?」

 

鈴と蘭がそう言った瞬間!!

 

ボンッ!! と言う破裂音と共に、ダンクーガの背部ブースターは爆発!!

 

「!? えっ!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

突如推進力を失ったダンクーガは、重力に引かれて落下を始める!

 

「! ティトリー!!」

 

「危ない!!」

 

箒とセシリアがそう声を挙げた瞬間!!

 

「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」

 

一瞬で、グレンラガンの姿となった神谷とISを装着した一夏、そしてグラパールの姿となった弾が、シールドをブチ破ってシールド内に突入!!

 

「神谷!?」

 

「一夏!?」

 

「弾くん!?」

 

「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」

 

シャル、箒、虚が驚きの声を挙げる中、3人は雄叫びを挙げて落下しているダンクーガ目指して突っ込んで行く。

 

「「「間に合ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」」

 

そしてそのまま、ヘッドスライディングの様に落下地点へ突っ込んだ!!

 

ダンクーガはその場所へと落下し、派手に土煙を挙げる!

 

「「「「「!?」」」」」

 

如何なったと箒達が注目していると、徐々に土煙が晴れて行く………

 

上から順に、グレンラガン、グラパール・弾、一夏がクッションとなり、ダンクーガを受け止めていた。

 

「大丈夫か? ティトリー?」

 

「う、うん………ありがとう、神谷、一夏、弾」

 

1番上のグレンラガンがそう問い質すと、ダンクーガがそう答える。

 

「ふ~~、間に合ったぜ」

 

「は、早く退いてくれぇ~! 重い~~~!!」

 

グラパール・弾が冷や汗を拭っていると、1番下になっていた一夏が悲鳴の様な叫びを挙げる。

 

[大丈夫? ティトリー?]

 

そこで、リーロンの声がアナウンスで響いてくる。

 

「あ、ハイ。大丈夫です」

 

[う~~ん、飛行ユニットにはISの方の技術が使われてたんだけど、ガンメンの技術との噛み合わせが悪かったのかしら? ゴメンナサイね。直ぐに改良に入るわ。一旦研究所に戻って来て]

 

「分かりました」

 

リーロンからのアナウンスを聞くと、グレン団は一旦リーロンの研究室へと引き上げて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、リーロンの研究室………

 

「う~ん………弱ったわねぇ」

 

珍しく困った様な表情をして、コンソールのキーボードを叩いているリーロン。

 

その眼前に展開されているモニターには、ダンクーガの設計図らしきモノが映っている。

 

「やっぱり難しいんですか? ガンメンとISの技術のハイブリットと言うのは?」

 

「そうね………でも、私もメカニックよ。出来ないかと言われたら、出来ると答えるのが仕事よ」

 

虚がそう言うと、リーロンはキーボードを叩きながらそう言う。

 

「早いとこ頼むぜ。やっとこさ出来たティトリーの専用機なんだかんな」

 

「分かってるわよ。なるべく早く使い物になる様にするわ」

 

そこで、突如研究室内に警報が鳴り響いた!!

 

「「「「「!?」」」」」

 

[緊急連絡! 緊急連絡! 富士山麓の東富士演習場にロージェノム軍が出現!! 演習中だった陸上自衛隊が攻撃を受けています! 防衛大臣より正式に救援要請が出ました!! グレン団の皆さんは直ちに出動して下さい!!]

 

グレン団の面々が驚きを露わにすると、真耶の声でそうアナウンスが流れて来る。

 

「アイツ等! また性懲りも無く!!」

 

「行くぞ、お前等!! グレン団、出陣だ!!」

 

「「「「「おうっ!!」」」」」

 

神谷がそう言うと、グレン団の前線メンバーは、研究室を飛び出し行く。

 

「全く………タイミングが悪いわねぇ。よりによって、ダンクーガが調整中なのに」

 

それを見送った後、リーロンは愚痴る様にそう言う。

 

「神谷………」

 

そしてティトリーは、嫌な胸騒ぎを感じて、出撃して行った神谷達に不安そうな視線を送っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富士山麓・東富士演習場………

 

「人間は皆殺しだぁ!!」

 

そう言う台詞と共に、カノン・ガノンがキャノン砲を放ち、90式戦車1輌を爆散させる。

 

「そらそらそらぁ! 逃げろ逃げろぉ!!」

 

「「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

ショルダーミサイルガンポッドを持ったレッドショルダーが、塹壕を掘って応戦していた歩兵部隊を塹壕ごと吹き飛ばす。

 

「ヒャッハー! 人間狩りだぁ!!」

 

世紀末の様な叫びを挙げて、カトラゲイがミサイルを放ち、地上部隊を援護していたAH-64Dが木端微塵になる。

 

「死ねぇっ!!」

 

汚い台詞と共に、ブラッディライフルを87式自走高射機関砲に向かって発砲するレッドショルダー。

 

蜂の巣にされた87式自走高射機関砲は、一瞬の沈黙の後、爆発・四散する。

 

「そこまでだ!! 獣人共!!」

 

とそこで、そう言う叫びと共に、グレン団の面々が姿を現す。

 

「おお! グレン団だ!!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

「此処は俺達に任せて、逃げて下さい!!」

 

「すまない!! 感謝する!!」

 

シャルと一夏にそう言われ、生き残っていた陸上自衛隊の自衛官達は、謝罪と感謝の言葉を残し、撤退して行く。

 

「来たなぁ! グレン団!!」

 

「今日こそお前達をあの世に送ってやるぜ!!」

 

グレン団の姿を見たガンメン部隊と、レッドショルダー達がそう言い合う。

 

「けっ! 毎度毎度、同じ様な台詞をご苦労なこって!!」

 

「地獄へ行くのはお前達だ!!」

 

グレンラガンがそんなガンメン部隊とロージェノム軍を嘲笑し、一夏がビシッと指差してそう言い放つ。

 

「フッフッフッフッ」

 

「そんな減らず口を叩けるのも今の内だぜ」

 

しかしそこで、ガンメン部隊とレッドショルダー達は不敵な笑いを零す。

 

(? 何? この違和感?)

 

(コイツ等………何か企んでいるのか?)

 

その様子に、シャルと箒は違和感を感じる。

 

「ゴチャゴチャうるせぇ! 直ぐに叩き潰してやるぜ!!」

 

とそこで、グレンラガンが右手に2本のドリルを出現させ、ガンメン部隊とレッドショルダー達に向かって突撃して行く。

 

「ちょっ! 神谷!!」

 

「神谷さん! 迂闊です!!」

 

思わず鈴とセシリアがそう叫んだ瞬間………

 

何処からとも無く飛んで来たビーム砲弾が、グレンラガンの眼前に着弾した!!

 

「!? うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

直撃はしなかったものの、爆風で吹き飛ばされるグレンラガン。

 

「! 神谷!!」

 

「アニキ!!」

 

シャルと一夏が、慌てて転がって来たグレンラガンを助け起こす。

 

「今の砲撃は!?」

 

「! アレを見て!!」

 

ラウラがそう声を挙げると、楯無が何かを発見した様に指を指す。

 

そこには、下部の多数の足で虫の様に移動して来る、ドーム型の要塞ダイガン………『ダイガンド』の姿が在った。

 

「な、何アレ!?」

 

「移動要塞………」

 

グラパール・蘭が驚きの声を挙げ、簪がそう呟く。

 

[ククク、お初にお目に掛かるな、グレン団とやら。ワシは螺旋四天王のグアーム。またの名を『不動のグアーム』]

 

そこで、ダイガンドから投影モニターが展開され、グアームが姿を見せた。

 

「! 四天王の1人!!」

 

「ケッ! 態々出向いてくれたんなら好都合だ! ブッ倒してやるぜ!!」

 

グラパール・弾がそう声を挙げると、グレンラガンがそう言い放つ。

 

[吠えるな、ちっぽけな人間風情が………貴様等如きでは、このダイガンドには傷1つ付けられんぞ]

 

しかし、モニターの中のグアームは、不敵な笑みを浮かべて、煙管を吹かしながらそう言い返す。

 

「舐めんなよ! 俺達を誰だと思ってやがる!! 行くぞ、お前等ぁっ!!」

 

「「「「「おう!!」」」」」

 

グレンラガンはお決まりの台詞と共に、一夏達と共に一斉に戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ティトリーの新たなる力………ダンクーガが登場です。
ISとガンメンのハイブリッドですが、まだまだ調整が必要な様子。

しかし、敵は待ってくれない………
四天王の1人、グアームが遂に前線へ。
果たして、ダンクーガは間に合うのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第70話『見せてもらおうじゃねえか!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第70話『見せてもらおうじゃねえか!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富士山麓の東富士演習場に出現したロージェノム軍を倒す為に出撃したグレン団。

 

しかしそこには、何時ものガンメン部隊とレッドショルダー達に加え………

 

螺旋四天王が1人、『不動のグアーム』の駆る要塞型ダイガン・ダイガンドの姿が在った。

 

強固な装甲と凄まじい火力を誇るダイガンドを、グレン団は撃破出来るのであろうか?

 

 

 

 

 

富士山麓・東富士演習場………

 

「…………」

 

手近に居たゴズーに、アームパンチを叩き込む簪。

 

「ゴハッ!?」

 

「うおわっ!?」

 

ゴズーはぶっ飛び、背後に居たアガーに激突する。

 

「…………」

 

そこで簪は素早くヘヴィマシンガンを発砲!!

 

「「螺旋王! バンザーイ!!」」

 

纏めて蜂の巣にされたゴズーとアガーは、そのまま爆散する。

 

と、そこで!

 

「捕まえたぜ!」

 

「………!?」

 

背後の足元に飛び出して来たモグーが、簪の脚部パーツにしがみ付き、動きを封じた!

 

「今だ!!」

 

「やっちまえ!!」

 

ペンタトルーパーを持ったレッドショルダーと、ハンドロケットランチャーを持ったレッドショルダーが、そんな簪に襲い掛かる。

 

「…………」

 

簪は先ず、レッドショルダーの方を片付けようと、ヘヴィマシンガンを構えようとしたが、

 

「そうはさせないよ!!」

 

そう言う台詞と共に、空中に居た楯無が、ラスティー・ネイルの刃を伸ばして来た!!

 

「ぐあっ!?」

 

「がっ!?」

 

撃破する事は出来なかったが、真面に攻撃を喰らい、レッドショルダー達の動きが止まる。

 

「………!!」

 

その瞬間!

 

簪は脚部裏側のブースターを展開し、炎を上げさせた!!

 

「!? ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

簪の脚部パーツにしがみ付いて動きを止めていたモグーは、当然その炎を真面に浴びてしまい、装甲表面が焼け焦げる。

 

「…………」

 

そこで簪はターンピックを使って回転し、モグーに向き直ると、左腰の13㎜ガトリングガンの弾丸を叩き込む!!

 

「獣人に栄光あれえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

断末魔の叫びと共にモグーが爆散したのを確認すると、今度はレッドショルダー達に7連装ミサイルポッドのミサイルを叩き込む。

 

「「ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」」

 

自爆装置の爆発と相俟って、木端微塵に消し飛ぶレッドショルダー。

 

「簪ちゃ~ん! 大丈夫!?」

 

格闘を仕掛けて来たカトラゲイを斬り裂きながら、空中の楯無が問い質す。

 

「…………」

 

簪はそれにサムズアップで答えると、別の敵を探しに行くのだった。

 

 

 

 

 

「そこだ!!」

 

固まっていた敵軍の中へ、大型レールカノンを叩き込むラウラ。

 

「「「「「獣人バンザーイ!!」」」」」

 

爆発と共に、多数のガンメンが消し飛ぶ。

 

「オノレェ!」

 

そこで空中のモウキーン達が、ラウラ目掛けて爆弾を投下する。

 

「フッ!!」

 

ラウラは慌てずにAICを上方へ展開。

 

爆弾は不可視の壁に止められ、そこで爆発する。

 

だがそこで、ラウラの四肢に舌の様な物が巻き付き、動きを封じた。

 

「!?」

 

「ヒャッハッハッハッ! 油断したな!!」

 

ラウラが驚いていると、周囲から姿を消していたメレオーン達が現れる。

 

「不覚!」

 

「このまま引き千切ってやる!!」

 

そのまま引っ張り、ラウラの身体を引き千切ろうとするメレオーン達だったが………

 

そこで何処からとも無く飛んで来たビットのブルー・ティアーズが、メレオーン達に突き刺さる様に命中!!

 

「ガッ!?」

 

「うげっ!?」

 

「ごっ!?」

 

「あっ!?」

 

メレオーン達から悲鳴の様な声が挙がったかと思うと、そのままビットのブルー・ティアーズからビームが発射され、メレオーン達を貫通した!!

 

「クッ!」

 

ラウラは、メレオーン達の爆発から身を守ると、手足に巻き付いたままだった舌を外す。

 

「余計にお世話でしたかしら?」

 

モウキーン1体を撃ち落としながら、空中に居たセシリアがそう言って来る。

 

「いや………助かったぞ」

 

ラウラは不敵に笑いながらそう言うと、プラズマ手刀を展開し、地上に展開していたガンメン部隊へ突っ込んで行くのだった。

 

 

 

 

 

「そらそらそらっ!」

 

「えい! えい! えい!」

 

空中で背中合わせとなり、回転しながらハンドガンを連射しているグラパール・弾とグラパール・蘭。

 

ハンドガンの光弾で撃ち抜かれたガンメン達が、次々に爆散して行く。

 

「このぉ! 調子に乗るなぁ!!」

 

とそこで、飛行型のシャクーが、その鋭い牙が生えた口を大きく開き、グラパール・弾とグラパール・蘭に噛み付こうとしてくる。

 

「「!!」」

 

しかし、グラパール・弾とグラパール・蘭は、互いに離れて回避。

 

そして、シャクーを挟み込む様に展開する。

 

「むむっ!?」

 

何をする気だとシャクーが思った瞬間!

 

「行くぜ、蘭!」

 

「OK、お兄!!」

 

グラパール・弾とグラパール・蘭は、互いに右腕を構えた。

 

そして、シャクー目掛けて突撃する。

 

「クロオオオオオォォォォォォーーーーーーースッ!!」

 

「ボンバアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

そのままシャクーを挟み込む様に、ラリアットを喰らわせる!!

 

「ゲェーッ!?」

 

挟み込まれる様にラリアットを喰らったシャクーは、錐揉みしながらブッ飛び、地面に叩き付けられると、爆散した。

 

「やったな! 蘭!!」

 

「流石ね、お兄!!」

 

グラパール・弾とグラパール・蘭は、互いに健闘を称えサムズアップし合う。

 

だがそこで、周辺で次々に爆発が巻き起こる。

 

「!? うわっ!?」

 

「キャアッ!!」

 

「オノレェ! 目障りなグレンラガン擬きめぇ!!」

 

「撃て撃てぇーっ!!」

 

地上に展開していたカノン・ガノンの部隊が、2人目掛けて砲撃を浴びせて来ていたのだ。

 

「チキショウ! これじゃ動けねぇ!!」

 

「お兄! 何とかしてよぉ!!」

 

激しい弾幕の前に、動きが取れないグラパール・弾とグラパール・蘭。

 

「良いぞ! このまま撃ち続けろぉっ!!」

 

調子に乗ったカノン・ガノンの部隊は、更に弾幕を厚くする。

 

とそこへ!!

 

回転しながら飛んで来た何かが、次々にカノン・ガノン達を斬り裂く!

 

「!? 何っ!?………!? おわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

生き残ったカノン・ガノン達も、押し潰される様に変形して爆散した。

 

「油断してんじゃないわよ、2人共」

 

戻って来た連結した双天牙月をキャッチした鈴が、グラパール・弾とグラパール・蘭に向かってそう言い放つ。

 

「鈴か。すまねえ、助かった」

 

「もう! お兄!! 鈴に借り作っちゃったじゃない! 如何してくれるの!?」

 

素直に感謝するグラパール・弾に対し、グラパール・蘭は不満を口にする。

 

「ちょっと! 助けてあげたのに、その言い草は何よ!?」

 

「別に助けて欲しいなんて言ってないわよ!」

 

「何よ!?」

 

「やる気!?」

 

途端に、交差させている視線から火花を散らし始める鈴とグラパール・蘭。

 

「アチャー、また始まった………」

 

グラパール・弾は、その光景を見て呆れた様子を見せるのだった。

 

 

 

 

 

「ダブルブーメラン! スパイラル!!」

 

グレンブーメランとグレンウイングを同時に投げ付けるグレンラガン。

 

高速回転する2つのブーメランが、地上の敵陣へと飛び込むと、ガンメンとレッドショルダーを次々に斬り付ける!!

 

敵陣の中に、爆発の華が咲き誇った。

 

「薙ぎ払え! 穿千!!」

 

更に箒も、穿千を空中のガンメン部隊とレッドショルダー目掛けて放つ。

 

熱線が青空に突き刺さるかの様に伸びて行くと、次々に爆発が巻き起こる。

 

「これで!!」

 

左手のブレッド・スライサーで、ゴズーを斬り付けると、今度は右手のレイン・オブ・サタデイから散弾を見舞うシャル。

 

「死んじゃうのねーっ!!」

 

真っ二つにされ、蜂の巣となったゴズーは、断末魔の叫びと共に爆散する。

 

「おりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

気合の叫びと共に、一夏は雪羅での拳をングーに叩き込む!

 

「ガッ!?」

 

「一刀! 両断!!」

 

怯んだ隙に、実体剣状態の雪片弐型を叩き込む!!

 

「んぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

断末魔の叫びと共に、ングーは真っ二つとなり爆散する。

 

「オラオラ! 束になって掛かって来やがれってんだ!!………!? うおわっ!?」

 

と、グレンラガンがそう叫んだ瞬間!

 

突如飛来したビーム砲弾が至近距離に着弾!!

 

爆風で吹き飛ばされた!!

 

「! 神谷!!………!? キャアッ!?」

 

「シャルロット!?………!? うわっ!?」

 

「一夏!?………!? のわっ!?」

 

更に、シャル、一夏、箒の至近距離にもビーム砲弾が着弾。

 

3人は爆風で吹き飛ばされる。

 

[調子に乗るのもそこまでじゃ! グレン団!!]

 

と、グアームのそう言う声が響いて来たかと思うと、砲台を出現させたダイガンドが、グレン団に向かって砲撃をお見舞いして来ていた。

 

その砲撃は恐ろしく正確であり、ガンメン部隊やレッドショルダー達には命中せず、グレン団だけを狙い撃って来ている。

 

「キャアッ!?」

 

「クウッ!? 敵要塞からの砲撃か!?」

 

セシリアとラウラの方にも、ダイガンドからのビーム砲撃が襲って来て、シールドエネルギーを削られる。

 

「アブネッ!?」

 

「うわあっ!?」

 

「ああもう! 鬱陶しいわね!!」

 

着弾の爆風を伏せて躱すグラパール・弾とグラパール・蘭に、上空へと飛んで回避する鈴。

 

「クウッ!!」

 

「………!!」

 

楯無は直撃しそうになったビーム砲弾を水のヴェールで防ぎ、簪はターンピックを駆使しての撹乱ターン移動で、砲撃を避ける。

 

「…………」

 

そして簪が、一瞬の隙を衝いて右腰の2連装ミサイルポッドのミサイルを発射する。

 

白煙の尾を曳きながら飛んで行ったミサイルが、ダイガンドに直撃する。

 

しかし、ダイガンドは無傷であった。

 

「固い………」

 

「なら!!」

 

「コイツで!」

 

「如何ですの!!」

 

と簪が呟くと、今度は鈴の龍咆、ラウラの大型レールカノン、セシリアのスターライトmk-Ⅲでの一斉攻撃が見舞われる。

 

次々に攻撃が直撃し、爆煙に包まれるダイガンド。

 

だが!

 

[ハッハッハッハッ! 今何かしたのかのう?]

 

それでも、ダイガンドは無傷を保っていた。

 

「!? そんな!?」

 

「何て装甲だ………」

 

「私達の攻撃がまるで通じないなんて………」

 

その光景に、鈴、ラウラ、セシリアは僅かに動揺を表す。

 

[ぬあはっはっはっはっ! 貴様の攻撃なぞ! このダイガンドには通用せんわい!!]

 

「おもしれぇ! 本当に通用しねえか、見せて貰おうじゃねえか!!」

 

するとそこで、グレンラガンがダイガンド目掛けて飛翔した。

 

「!? アニキ!!」

 

「神谷!!」

 

「馬鹿! 迂闊だぞ!!」

 

一夏、シャル、箒からそう声が飛ぶが、グレンラガンは構わずに突っ込んで行く。

 

「ギガァ! ドリルゥ! ブレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーイクッ!!」

 

グレンラガンの右腕に、巨大なドリル・ギガドリルが出現すると、緑色の噴射炎と共にダイガンドに突っ込んで行く。

 

[ダイガンド! 殺人回転木馬ぁ!!]

 

しかし、グアームのそういう声が響き渡ったかと思うと、ダイガンドが高速で回転をし始める。

 

すると、ダイガンドの上部に、紫色の竜巻が発生した。

 

「んな虚仮威しが効くかあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンは構わず、ギガドリルを構えた状態で、その竜巻とぶつかり合う!!

 

両者がぶつかり合い、激しく火花を散らす!!

 

「ぐうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」

 

[フッフッフッフッ………]

 

踏ん張る様な声を出しているグレンラガンに対し、グアームは余裕の笑いを零す。

 

そして次の瞬間!!

 

「!? おうわぁっ!?」

 

グレンラガンが勢い良く弾き飛ばされた!!

 

「神谷!!」

 

「そんな!?」

 

「ギガドリルブレイクが………破られた!?」

 

シャル、グラパール・弾、一夏達が驚きの声を挙げる。

 

「グハッ!?」

 

弾き飛ばされたグレンラガンは、派手に土煙を上げながら地面に叩き付けられる。

 

「神谷! 大丈夫!?」

 

「クッソー! やってくれるじゃねえか!!」

 

シャルが慌てて傍に寄ると、グレンラガンは土片を撒き散らし、頭を振りながら起き上がる。

 

とそこで、辺り一面を途轍もない暴風が襲った!!

 

「キャアッ!?」

 

「おうわっ!?」

 

咄嗟にドリルを地面に突き刺し、飛ばされそうになったシャルの手を摑むグレンラガン。

 

「何コレー!?」

 

「何と言う暴風だ!?」

 

「と、飛ばされてしまいますー!!」

 

「ぐううっ!?」

 

「またかよ! イテテテテテテッ!!」

 

一夏は片腕で地面を摑み、もう片方の手でまたも飛ばされそうな鈴、ラウラ、セシリア、箒と手を繋ぎ、また両腕が千切れそうになっている。

 

「キャアアアッ!!」

 

「伏せろ、蘭!!」

 

グラパール・蘭を地面に伏せさせ、自分も地面に伏せるグラパール・弾。

 

「あの防御力に加えて………この竜巻攻撃………正に攻防一体ね………」

 

「冷静に分析してる場合じゃないよぉー! 簪ちゃん!!」

 

簪は自衛隊が使っていた塹壕へと避難し、同じ場所に飛び込んだ楯無は、簪の冷静な様子にツッコミを入れる。

 

[ハーハッハッハッハッ! さあ、回れ回れ! これがワシとダイガンドの殺人回転木馬!!]

 

ダイガンドの操縦席で回転しているグアームがそう言い放つ。

 

それと同時に、竜巻の勢いと大きさが増して行く。

 

「うおわあっ!?」

 

「だ、駄目だぁ! 吹き飛ばされない様にするので精一杯だよぉ!!」

 

グレンラガンとシャルからそんな声が挙がる。

 

その間にも、竜巻の勢いと大きさは、更に増して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園地下・リーロンの研究室………

 

「マズイよ~! かみやんとおりむー達がピンチだよぉ~!」

 

「弾くん!!」

 

イマイチ緊迫感が伝わってこない口調でそう言うのほほんと、心配そうな表情を浮かべている虚。

 

「山田くん! 一旦引き上げだ!! グレン団に撤退命令を!!」

 

「駄目です! あの竜巻の影響で、あらゆる通信回線が使用不能です!!」

 

千冬はグレン団を一時撤退させようとするが、真耶がそう報告を挙げて来る。

 

「皆………リーロン先生! ダンクーガはまだ使えないの!?」

 

「今必死にやってるんだけど、飛行機能の調整が如何しても上手く行かないのよぉ!」

 

ティトリーがそう叫ぶと、珍しく焦っている様な声を挙げるリーロン。

 

「じゃあ、もうこの際飛行機能は別にして良いから、今直ぐ出撃させて!!」

 

ティトリーも焦っているのか、そんな事を言い放つ。

 

「飛行機能を………別にする?」

 

と、その言葉を聞いたリーロンの手が止まる。

 

「? リーロン先生?」

 

「それよ!!」

 

次の瞬間には、指を鳴らしてティトリーを指差したかと思うと、再びキーボードを叩き始める。

 

すると、専用モニターに映っていた設計図が、ダンクーガとブースターユニットから、ダンクーガと鳥の様なマシンに切り替わる。

 

「!? コレは!?」

 

「そうよ………飛行機能自体が上手く行かないのなら………最初から飛行型のマシンを作ってそれと合体させれば良いのよ!!」

 

「む、無茶苦茶です………」

 

サラッとトンでも理論を展開するリーロンに、虚がそうツッコミを入れる。

 

「自動工作マシン! スイッチオン!!」

 

と、それをスルーし、リーロンがそう言ってキーボードのエンターキーを押すと、研究室の壁や床、天井からマニュピレーターの様な物が次々に出現。

 

そして床から資材らしき物が入ったコンテナが迫り出して来たかと思うと、それを凄い勢いで組み立て始めた!

 

「は、速い!?」

 

「何時の間にこんな物を………」

 

自動工作マシンの恐るべきスピードに驚愕する真耶と、何時の間にこんな設備を備え付けたんだと呆れる千冬。

 

「出来たわ!!」

 

その間に、マシンは完成する。

 

それは、黒いカラーリングをした、鳥の様なマシンだった。

 

「名付けて『ブラックウイング』! そして!!………」

 

リーロンがそう言うと、そのマシン………『ブラックウイング』がマニュピレーターで持ち上げられ、ダンクーガの背中へと合体させられる!

 

「コレがダンクーガの最終形態! 『ファイナルダンクーガ』よ!!」

 

「ファイナル………ダンクーガ」

 

遂に完成したダンクーガ………『ファイナルダンクーガ』を見据えるティトリー。

 

それに反応したかの様に、ファイナルダンクーガは赤い目を発光させる。

 

「さあ! 行きなさい、ティトリー!! ダンクーガの力を見せる時よ!!」

 

「! ハイ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、富士山麓・東富士演習場………

 

「も、もう………駄目だぁ………」

 

「飛ばされちゃう~!」

 

今にも吹き飛ばされそうなグラパール・弾とグラパール・蘭からそう声が挙がる。

 

「クウッ!(スーパーモードが使えれば!!)」

 

箒達と繋いでいる手を離さずに居ながらも、未だに自在にスーパーモードを発動させられない事へもどかしさを感じる一夏。

 

「こうなりゃ一か八か! 玉砕覚悟で!!」

 

「だ、駄目だよ、神谷!!」

 

破れかぶれで突っ込んで行こうとするグレンラガンを、シャルが慌てて止める。

 

[ハーハッハッハッハッ! このまま綺麗サッパリ! 人間共を一掃してくれよう!!]

 

グアームは余裕の笑いを零し、益々ダイガンドの回転数を挙げる。

 

最早コレまでか!?

 

と思われたその時!!

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

龍の様な形をしたビーム砲撃が、ダイガンドに直撃した!!

 

[!? ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?]

 

その威力の前に、ダイガンドは揺さぶられ、吹き飛ばされる!!

 

「な、何だぁ!?」

 

「あの巨大な移動要塞をブッ飛ばした!?」

 

「何!? 今の攻撃は!?」

 

それを目撃したグレンラガン、一夏、シャルから驚きの声が挙がる。

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

他のメンバーも驚きを露にする。

 

すると、そこへ!!

 

「皆! 遅れてゴメン!!」

 

そう言う台詞と共に、ファイナルダンクーガの姿となっているティトリーが、一同の前に派手に着地して現れた!!

 

「! ティトリー!!」

 

「ダンクーガの調整が終わったのか!?」

 

「アレ? でも、微妙に何か変わってない?」

 

鈴、ラウラ、シャルがそう言い合う。

 

「コレが完成したダンクーガの最終形態………ファイナルダンクーガだよ!!」

 

そんな一同に向かってティトリー………ダンクーガはそう言い放つ。

 

「ファイナル………」

 

「ダンクーガ………」

 

[ええい! オノレェ! 裏切り者の小娘かぁ!! 貴様も捻り潰してくれるわぁ!!]

 

と、楯無と簪がそう呟いた瞬間、態勢を立て直したダイガンドが、竜巻と共に突進して来る!!

 

「キャアッ!?」

 

「クッソ! またかよ!!」

 

再び周囲に暴風が吹き荒れ、グラパール・弾とグラパール・蘭がそう悲鳴を挙げる。

 

「! 断空剣!!」

 

しかし、ダンクーガは両足をしっかりと地面に着いて踏ん張り、断空剣を出現させ、両手で握る。

 

そしてそれを正眼に構えたかと思うと、出撃直前にリーロンの言葉を思い出す。

 

(良い、ティトリー? ダンクーガを動かすのはガンメンと同じ獣人の野生の力………それは即ち、生き物としての本能の力よ)

 

(本能の力………)

 

(野生を縛る理性は要らないわ。只思うが儘に力を引き出しなさい!)

 

(思うが儘に………力を!)

 

[死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!]

 

ダンクーガを押し潰そうと突進して来るダイガンド。

 

「愛の心にて、悪しき空間を断つ………名付けて! ファイナル断空光牙剣!!」

 

と、その瞬間!!

 

ダンクーガが断空剣を振り被ったかと思うと、断空剣から桜色に輝くエネルギーが伸び、それが刀身となって、巨大な断空剣………ファイナル断空光牙剣を形成した!!

 

[!? 何ぃっ!!]

 

「やああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーってやるニャアァッ!!」

 

気合の雄叫びと共に、そのファイナル断空光牙剣をダイガンド目掛けて振り下ろすダンクーガ。

 

振り下ろされたファイナル断空光牙剣は、ダイガンドの上部に展開されていた竜巻を斬り裂き、そのままダイガンドへと命中する。

 

[ぬおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!! ま、未だだぁっ!!]

 

竜巻は消滅し、回転も止められたものの、ダイガンドは構わず突き進み、ダンクーガを押し潰そうとする。

 

「ぐうううううぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっ!(後もう少しだけ………力が足りない!!)」

 

ダンクーガは精一杯踏ん張っているものの、後1歩だけ力が及ばない。

 

と、その時!!

 

「ティトリー! オメェにばかり良い格好はさせねえぜっ!!」

 

何時の間にか上空へと飛んでいたグレンラガンが、右手に再びギガドリルを出現させてそう叫んだ!

 

「!? 神谷!?」

 

[グレンラガン!? し、しまった!?]

 

「ギガドリルブレイク・アグレッシブウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!!」

 

グレンラガンは、そのままファイナル断空光牙剣の刃が命中している部分へ突っ込む。

 

高エネルギーに曝されている部分の装甲を、ドリルが火花を散らして抉る!!

 

そして遂に!!

 

ダイガンドの堅牢な装甲を、グレンラガンは突き破った!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「ぬおおおっ!?」

 

そのままグアームを掠めて、ダイガンドの下部から地中へと抜けて行ったグレンラガン。

 

「トアアッ!!」

 

やがて、再び一夏達の前に姿を現したかと思うと、ダイガンドから大爆発が挙がった!!

 

[上部から下部に掛けて深刻なレベルの損傷発生! グアーム様!!]

 

[ええい! オノレェ!! 少し甘く見ておったわ! 撤退じゃ!!]

 

部下の獣人からの報告に、グアームは苦々しげにそう言うと、ダイガンドが再び回転を始め、地中へと潜って行った。

 

「チッ………惜しかったぜ。後1歩で四天王の1人を仕留められたってのによぉ」

 

「ふにゃあ~~~」

 

グレンラガンがそう言った瞬間、ダンクーガが気の抜けた声を発し、尻餅を着いたかと思うと、ティトリーの姿へ戻る。

 

「! ティトリー!」

 

「大丈夫!?」

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

一夏とシャルが駆け寄り他のメンバーも集まる。

 

「つ、疲れた~~」

 

そう言うティトリーの顔は汗塗れであり、一目で疲労の様子が感じ取れる。

 

「ティトリー」

 

とそこで、グレンラガンがティトリーに近寄る。

 

「あ、神谷………」

 

「サンキューな。お前のお蔭で助かったぜ」

 

「えへへ………大した事ないよ」

 

グレンラガンの言葉に、笑みを浮かべるティトリー。

 

「よ~し! 今日のヒーローを胴上げだぁ!! それぇっ!!」

 

「ええっ!?………ニャアッ!?」

 

「「「「「「「「「「ワーショイッ! ワーショイッ!」」」」」」」」」」

 

グレン団の一同により、胴上げされるティトリーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティトリーの新たなる力………

 

超獣機神ファイナルダンクーガ。

 

その力は獣を超え、人を超え、そして神をも超える。

 

新たなる力を得たグレン団の戦いは明日も続く!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ダイガンドを前に大苦戦のグレン団。
しかしそこへ、遂に完成したダンクーガ………
『ファイナルダンクーガ』が駆け付けます。
獣を超え、人を超え、そして神をも超えるその力で、見事ダイガンドを撃破します。

さて次回からは学園物の定番イベント、修学旅行編です。
実際にIS原作で修学旅行が行われてますが、それより前にこの作品は書いたのですが、行先は同じ京都。
やっぱり修学旅行と言えば京都が定番なのですね。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第71話『飛び降りるのが漢だろうが!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第71話『飛び降りるのが漢だろうが!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11月も終盤に差し掛かったこの日………

 

IS学園の一同は、学生生活一大イベントの1つ、修学旅行へと旅立っていた。

 

行き先は多くの留学生を抱えるIS学園の事情と、留学生達自身からのリクエストも有り、若干ベタながら京都である。

 

本来ならば学年ごとに旅行が有り、別々の場所に行く予定だったのだが………

 

退学者を多数出し、生徒数が減ってしまった為、合同で行われる事となった。

 

五反田兄妹も特別に参加を許されて、同行する事になっている。

 

現在生徒達は、東京駅から新幹線に乗り、京都へと向かっている。

 

 

 

 

 

京都行きの新幹線の席の中………

 

「諸君! 今回の修学旅行はISとは一切関係の無い、学校行事としてのものである! だが! IS学園の生徒である以上! 規律を守って行事を行って貰う!!」

 

生徒達が座って居る椅子から見える位置に立つ千冬が、生徒達に向かってそう言い始める。

 

「如何にISの訓練ではないと言っても、私の指示無しに勝手な真似をする事は許さん! 規律を犯した者は厳罰に処するから、その積りで居る様に!!」

 

生徒達に向かって、毅然とした態度でそう言い放つ千冬。

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~」

 

しかしその直後、盛大なイビキが聞こえて来た。

 

生徒達は思わずズッコけ、千冬も米神に青筋を浮かべる。

 

一体誰がイビキを………いや、あの千冬の話の最中にイビキを掻く奴なぞ、世界に只1人しか居ない。

 

「か~み~や~!!」

 

怒りの咆哮と共に、千冬は神谷の座って居る席へ向かう。

 

「ZZZZZZZZzzzzzzzzz~~~~~~~~~~」

 

しかし、当の神谷は、殺気が溢れ出ている千冬がすぐ隣に立っても、爆睡街道まっしぐらである。

 

「起きんかぁっ!!」

 

思わず、渾身の拳骨を神谷の脳天に叩き込む千冬。

 

その次の瞬間、ボキャッ!と言う、何かが折れた様な音が聞こえたかと思うと、

 

「………んあ? 着いたのか?」

 

神谷がごく普通に目を覚ました。

 

「~~~~~~~っ!?」

 

一方、拳骨を見舞った千冬は、殴った手を押さえて、声も挙げずに悶絶している。

 

「お、織斑先生!? 大丈夫ですか!?」

 

真耶が慌てて駆け寄り、千冬の手の状態を見る。

 

「!? コ、コレ………折れてますよ!?」

 

そして、神谷を殴った千冬の手の指が、在らぬ方向に曲がっているのを見て、思わずそう叫ぶ。

 

「き、貴様~~! 最近益々頑丈になりおって………」

 

「そんな事より、織斑先生! 早く手当てを!!」

 

恨み言を呟く千冬を、真耶が連れて行く。

 

「やれやれ。折角の修学旅行早々に怪我するたぁ、ツイてねぇなぁ」

 

((((((((((お前の所為だろ!))))))))))

 

連れて行かれる千冬にそんな言葉を投げ掛ける神谷に、他の生徒達がそうツッコミを入れる。

 

「ふわあぁ~~~」

 

「眠いの? 神谷?」

 

と、そんな生徒達の心情等知らず、神谷が大欠伸を漏らすと、隣に座って居たシャルがそう尋ねる。

 

「ああ………昨日はワクワクしちまって眠れなくてな………」

 

「ふふふ。神谷ったら、子供みたい」

 

目を擦りながら神谷がそう答えると、シャルはクスクスと笑う。

 

「ふわああぁぁぁ~~~~、駄目だ………ねみぃ………」

 

「もう1回寝てたら? 京都に着いたら起こしてあげるから」

 

「おう、ワリィな………ZZZZZzzzzzz~~~~~~~」

 

そう答えるや否や、神谷は再び眠り始めた。

 

「わっ、もう寝ちゃった………」

 

某ネコ型ロボットに世話されている小学生の如き就寝の速さに、シャルが軽く驚く。

 

「よ~し………コレだ!!………ゲッ!?」

 

「ハハハハッ! ありがとよ、一夏。ババ引き受けてくれて」

 

「一夏にババが行ったわよ。気を付けなさい」

 

一夏達は、電車での時間潰しの定番・トランプでババ抜きをやっている。

 

(良し! これで後は一夏にババを持たせたまま………)

 

(私が1番に上がれば………)

 

(一夏に何でも命令出来る!!)

 

やや殺気立った様子で箒、セシリア、ラウラが内心でそう考えている。

 

実はこのババ抜き………最初に上がった者が、ビリになった者に何でも命令出来ると言う、王様ゲーム的な様子をルールに盛り込んでいるのだ。

 

当然彼女達は一夏をビリにして、自分が1番に上がろうと水面下で鎬を削っている。

 

「白熱してるね~」

 

「と言うよりも殺気が飛んでいる様な………」

 

そんな様子の箒達を見て、のほほんと虚は対照的な感想を漏らす。

 

(負けられない………絶対に負けられない)

 

「う~ん………中々揃わないな~」

 

蘭も密かに闘志を燃やしており、何も知らないティトリーは純粋にババ抜きを楽しんでいる。

 

と………

 

「ハイ! 上がり~! 悪いね、皆!」

 

何と、楯無が最初に上がりを宣言した。

 

「んなっ!?」

 

「何だと!?」

 

鈴と箒が、驚きの声を挙げる。

 

「んふふ~、悪いね~。皆~」

 

扇子を開いて、勝利と書かれた文字を見せる楯無。

 

「何て事ですの………」

 

「と言うよりも、何故2年の貴様が1年の車両に居る?」

 

セシリアが崩れそうになり、ラウラはそうツッコミを入れる。

 

「細かい事は気にしちゃ駄目駄目。兎に角、コレで一夏くんがビリになれば、私のお願いを聞いて貰えるワケだ」

 

「いや、俺がビリになること前提ですか!?」

 

楯無の言葉にツッコミを入れる一夏だが、楯無は愉快そうに笑っている。

 

しかし!

 

「ちょっと待って………姉さん………」

 

そこで不意に、簪が楯無の腕を摑んだ。

 

「!? な、何? 簪ちゃん?」

 

腕を摑まれた楯無は、一瞬動揺する。

 

「…………」

 

すると簪は、楯無の腕を捻る様に下へ向ける。

 

「イタタタタタッ!?………アッ!?」

 

楯無が痛がると、袖口から大量のトランプがボロボロと零れて来た。

 

「「「「「…………」」」」」

 

それを見た箒、セシリア、鈴、ラウラ、蘭が、ジト目で楯無を睨み付ける。

 

「あちゃ~~」

 

「お嬢様………」

 

「イカサマ?」

 

弾と虚とのほほんも、呆れた視線を向ける。

 

「私の前でイカサマしようだなんて………良い度胸ね………姉さん」

 

メガネのレンズを光らせながらそう言う簪。

 

「え、え~と………ア、アハハハハハハッ!!」

 

「「「「「笑って誤魔化すな(さないで下さい)!!」」」」」

 

「ゴメンナサ~イ!!」

 

箒達に一斉に怒鳴られ、流石の楯無も平謝りする。

 

「盛り上がってるねぇ」

 

「ZZZZZzzzzzz~~~~~~~」

 

そしてその様子を他人事の様に眺めているシャルと、相変わらず爆睡街道まっしぐらな神谷。

 

結局、その後………

 

楯無が全員に駅弁を奢る事でその場は収まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数時間後………

 

遂に一同は、目的地・京都へと辿り着く。

 

今日は全員で清水寺を見学した後、宿へと向かう予定だ。

 

 

 

清水寺………

 

「おお~~! 此処が清水寺かぁ~」

 

「写真や何かで良く見るけど、実物はやっぱり迫力が違うな~」

 

清水寺の本堂の舞台に立った一夏と弾が、その迫力の前にそんな感想を漏らす。

 

「ほう。此処があの飛び降り自殺者で有名な清水の舞台か」

 

「ラウラ………間違っていないが、間違っているぞ」

 

清水の舞台を見てそんな事を呟くラウラに、箒がそうツッコミを入れる。

 

「え~と………本来は本尊の観音様に能や踊りを楽しんでもらう為の装置で、国宝にも指定されています」

 

「有名な『清水の舞台から飛び降りた積りで………』の言葉通り~、江戸時代に実際に234件の飛び降り事件が記録されてるんだって~。でも、生存率は85%で、意外と高いんだって~」

 

虚とのほほんが、パンフレットを見ながら、説明する様にそう言う。

 

「へえ~、そうなんだ~」

 

「まあ、ですが流石に、実際に飛び降りようなんて思う方は居らっしゃらないでしょうね」

 

ティトリーが頷き、セシリアがそう呟く。

 

「あのさ………その、実際に飛び降りようとしているバカが居るわよ」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

と、鈴が不意にそう言い、一夏達が改めて舞台を見遣ると………

 

「駄目だってばぁ~! 神谷~!!」

 

「ウルセェッ! 清水の舞台に来たら飛び降りるのが漢だろうが!!」

 

柵に足を掛けて、正に清水の舞台から飛び降りようとしている神谷と、その神谷の腰にしがみ付いて止めているシャルの姿が在った。

 

「アニキ………」

 

「まあ………予想通りと言えば予想通りだな」

 

苦笑いする一夏と、呆れる様に溜息を吐く箒。

 

「皆~! そろそろ先に行かな~い!?」

 

「この先に………恋占いで有名な………地主神社があるわ」

 

とそこで、やや先に行っていた楯無と簪が、そう呼び掛けて来る。

 

「!? 恋占い!?」

 

「「「「!?」」」」

 

真っ先に蘭が反応し、箒、セシリア、鈴、ラウラも露骨に顔に思惑を出す。

 

「一夏さん! その神社に行きましょう!!」

 

「一夏! 行くわよ!!」

 

蘭が一夏の左腕、鈴が右腕を摑んでそう促す。

 

「オ、オイ!?」

 

「さあさあ、一夏さん!」

 

「行くぞ! 一夏!!」

 

一夏が戸惑っていると、今度は左後ろからセシリアが、右後ろからラウラが背を押す。

 

「おわっ!? った!? 何だよ!?」

 

「黙って尾いて来い!!」

 

最後に、箒が襟首を掴んで先導する様に引っ張り出す。

 

「うわっ!? ちょっ!? 待ってくれ~~~っ!!」

 

叫びも虚しく、一夏は箒達に強制連行されて行ったのだった。

 

「モテモテだね~、おりむー」

 

「ったく、アイツは………」

 

「じゃあ、私達も行きましょうか」

 

マイペースに笑うのほほんと、呆れる弾に、虚がそう言って、3人もその後を追う。

 

「神谷~! シャル~! 次行くよ~!」

 

「ホラ、神谷! 皆行くって言ってるよ!?」

 

「チッ! しゃあねえな………」

 

ティトリーがシャルと神谷に呼び掛けると、飛び降りを止めて一夏達の後を追って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地主神社・境内………

 

「あ! 皆~! 見て見て~!!」

 

と、先頭を行っていた楯無が、何かを発見して皆にそう呼び掛ける。

 

一同が集まると、そこに在ったのは、10メートル程離れて置かれている2つの石だった。

 

良く見れば、注連縄が巻かれて紙垂が垂れており、恋占いの石と書かれた板がぶら下がっている。

 

「何だコレは?」

 

「コレは恋占いの石………コッチの石から向こうの石まで………目を瞑ったまま辿り着く事が出来れば………恋が叶うとされているわ」

 

ラウラが尋ねると、簪がそう答える。

 

「「「「「!?」」」」」

 

途端に、キュピーンッ!という音が聞こえそうな感じで、箒達が反応する。

 

「それじゃあ、誰か挑戦する人は………」

 

「「「「「ハイ! ハイ! ハイー!!」」」」」

 

楯無の言葉に、一も二もなく飛び付く箒達。

 

「よ~し! それじゃあ皆でやろうかぁ!!」

 

そしてそのまま、一夏ラヴァーズによる、恋占いの石ゲームが開始されるのだった。

 

開始位置となる方の石に、箒、セシリア、鈴、ラウラ、楯無、簪、蘭が集結する。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

既に楯無と簪以外のメンバーは、視線を交差させて、激しい火花を散らしている。

 

「アイツ等、妙に殺気立ってるな。そんなに成就させない恋をしてるのか?」

 

「一夏ぁ………」

 

「頑張れ~! 皆~!!」

 

「頑張れ~!」

 

そんな修羅場な様子など気にせず、無邪気に声援を送るのほほんとティトリー。

 

「ね、ねえ、弾くん………お守り、買わない?」

 

「あ、ああ、良いっすねぇ!」

 

虚と弾の方は、神社の方で仲良くお守りを買っている。

 

「オメェはやんねぇのか? シャル」

 

「だってアレ、恋が叶うおまじないでしょ? 僕の恋は………叶ってるから」

 

「成程………そりゃそうだな」

 

「はわわっ!?」

 

そして神谷とシャルは、そんな事を言い合い、神谷がナチュラルにシャルの肩を抱くのだった。

 

他の観光客も何事かと足を止め、石の間を開けて見物している。

 

「それじゃあ行くよぉ~!」

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

楯無の号令で、箒達は一斉に目を閉じる。

 

「位置に着いて~、よ~い………ドン!」

 

「「「「「「うおわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」」」

 

そして一斉に、もう一方の石目掛けて全力疾走し始めた!!

 

「おお~っ! いきなり脇目も振らずの全力疾走~!!」

 

「気合が感じられるニャ~」

 

そんな箒達の姿を見て、のほほんとティトリーはそんな感想を漏らす。

 

「って言うか、大丈夫なのか? アレ? 目を瞑ったまま全力疾走だなんて………」

 

一夏のこの懸念は、直後に実証される事となる………

 

もう1つの恋占いの石目掛けて全力疾走する箒達。

 

と、やがて箒が、持ち前の身体能力で頭1つ抜きん出る。

 

(良し! このまま行けば、私が!!)

 

周りの雑音の状況から、そう判断する箒だったが………

 

「ほっ!!」

 

その足が、突如払われた。

 

「!? ぐあっ!?」

 

箒はバランスを崩すが、意地から目が開けられず、そのまますっ転ぶ。

 

「あ~ら、ゴメンナサ~イ」

 

そこへ耳に、鈴のワザとらしい声が聞こえて来る。

 

「オ、オノレェ! 鈴!!」

 

箒は目を閉じたまま、怒りの咆哮と共に立ち上がる。

 

「へっへ~ん! いただき!!」

 

そのまま真っ直ぐ、もう1つの石目掛けて走って行く鈴。

 

良く見れば、薄らと目を開けている様にも見える。

 

それは流石にズルいぞ、鈴。

 

「貰ったぁっ!!」

 

「させませんわ!!」

 

目の前まで来た石に、鈴は手を伸ばすが、そこでセシリアが体当たりを見舞って来る。

 

「ガハッ!? せ、セシリア!?」

 

「死なば諸共ですわ!!」

 

そのまま両者は、縺れ合って倒れた!

 

「この隙に!!」

 

その間に、ラウラが石へと辿り着こうとしたが………

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

蘭が叫びと共に、ラウラにタックルを繰り出す。

 

「!? ぬおわっ!?」

 

腰に抱き付かれ、ラウラもバランスを崩して転倒する。

 

(フフフ、案の定皆互いに潰し合ってるみたいだね。この隙に………楯無流、心眼!!)

 

とその間に楯無が、心眼で石の場所に見当を付け、倒れている箒達を避けながら近付く。

 

(貰った!!)

 

そして遂に、石に手が届くかと思われた瞬間!!

 

突如楯無は後ろから押さえられ、更に首に手を回され、締め上げられた!!

 

「ぐえっ!?」

 

「落とす………」

 

楯無の首を絞めている人物………簪がそう言い、更に締め上げる。

 

「か、簪ちゃん!? ぐえっ!?」

 

簪の思わぬ行動に驚く楯無だが、その間にも簪は更に楯無の首を締め付ける。

 

(ヤ、ヤバイ!? マジだ!!)

 

そこで簪が本気である事を悟った楯無は、慌てて簪の腕と首の間に手を捻じ込んで、コレ以上締め上げられるのを防ごうとする。

 

戦いは膠着状態へと陥った。

 

「何やってんだか………」

 

「ア、アハハハハ………」

 

神谷が呆れる様に呟き、シャルも乾いた笑いを漏らす。

 

そして、周りで見ていた観光客達は、美少女達のキャットファイトに歓声を挙げ始める。

 

「ええい! 貴様! 邪魔をするなぁ!!」

 

「そっちこそ邪魔すんじゃないわよ!!」

 

「排除する!!」

 

「望むところですわ!!」

 

「一夏さん! 私! 頑張ります!!」

 

「落とす………」

 

「ちょっ!? 簪ちゃん! それ以上はマジヤバイって!!」

 

とうとう乱戦となり、ラヴァーズ達は徐々に1箇所に集まり出す。

 

すると!

 

「!? あっ!?」

 

「キャッ!?」

 

箒が転倒し、それに巻き込まれる様に鈴も転倒。

 

「!? 何っ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「何ですの!?」

 

「!?」

 

「うわぁっ!?」

 

そして、ラウラ、蘭、セシリア、簪、楯無が次々に巻き込まれた!!

 

「「「「「「「わああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」

 

そのまま、団子の様に丸まって、もう1つの石の方へと転がって行く。

 

「あっ!?」

 

一夏がそう声を挙げた瞬間に、団子状になっていた箒達は石に激突し、派手に土煙を上げた!

 

「皆!!」

 

「如何なったんだ!?」

 

シャルと神谷が駆け寄り、他のメンバーも集まる。

 

するとそこには………

 

「「「「「「「きゅう~~~~~………」」」」」」」

 

箒が石に寄り掛かった状態で、他のメンバーがその周りに散らばる様に伸びていた。

 

「オイ! 何の騒ぎだ!?」

 

と、騒ぎを聞き付けたのか、千冬が怒鳴り声と共に様子を見に来る。

 

「千冬先生だ!!」

 

「あわわっ!? マズイよ!!」

 

「一夏! 弾! 手ぇ貸せっ!!」

 

「わ、分かった!!」

 

「あいよ!!」

 

ティトリーとのほほんの声を聞くや否や、神谷が簪とラウラ、一夏が箒とセシリア、弾が蘭と鈴を担ぎ上げる。

 

「お嬢様! しっかり!!」

 

そして虚も、のほほん、ティトリーと協力し、楯無を持ち上げる。

 

「良し! 逃げろ!!」

 

「ああ、待ってよ~!」

 

そして神谷の号令で、一斉にその場から逃げ出すのだった。

 

 

 

 

 

その後………

 

箒達を担いだまま、一夏達は音羽の滝を訪れる。

 

「はあ~~、危ないところだった~」

 

「クッ! スマン、一夏………私とした事が、つい我を忘れて………」

 

何とか千冬から逃げ切った一夏が安堵の息を吐くと、箒がそう謝罪して来る。

 

「いや、気にすんなよ。別にお前の所為だなんて思っちゃいないからさ」

 

「一夏………」

 

爽やかに笑いながらそう言う一夏に、箒は思わず頬を赤らめる。

 

「むっ? アレは何だ?」

 

とそこで、ラウラが音羽の滝の存在に気づき、そう声を挙げる。

 

「アレは音羽の滝だよ、ラウラちゃん」

 

「何でも、あの水を飲むと~、健康~、学業~、縁結びが成就するって~」

 

「「「「「縁結び!?」」」」」

 

虚とのほほんが説明していると、縁結びと言う単語を聞いた途端、箒、セシリア、鈴、ラウラ、蘭が駆け出す。

 

「またかよ………」

 

「懲りないね~」

 

その光景に、思わず苦笑いを漏らす弾とティトリー。

 

「アレ? 神谷は?」

 

と、神谷の姿を見失ったシャルが、探す様にキョロキョロとすると………

 

「コイツはコイツで悪かぁねえが………次は桜が咲いてる時にでも来てぇな」

 

神谷は甘味処の外の座席に座り、舞い散る紅葉を肴に徳利を杯に傾けていた。

 

「ちょっ!? 神谷! 駄目だよ!! お酒なんか飲んじゃあ!!」

 

「甘酒だよ。堅い事言うな」

 

「いや、でも! 一応団体行動中なんだから………」

 

「おっ! そうだ、シャル! 折角だから一緒に飲むか!?」

 

「神谷~~」

 

相変わらず自分のペースで全く動じない神谷に、シャルは呆れる様に呟く。

 

結局、その場面を千冬に目撃され、神谷は説教を喰らう事となったが………

 

千冬の説教は、神谷の耳を右から左へ突き抜けて行き、只々彼女の胃が血塗れになって行くばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

IS学園の修学旅行初日の午後は過ぎて行く………

 

だが、翌日………

 

グレン団の一団は、古都・京都にて………

 

思いも寄らぬ敵と戦う事になる事を………

 

この時の彼等は、まだ知る由も無かったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

修学旅行編スタート。
初日は和気藹々として楽しく過ごせました。
一夏のラヴァーズが色々と暴走してましたが………

しかし、次回からは風雲急を告げます。
ロージェノム軍とは別に、京都ならではの敵が出現します。
果たしてその敵とは?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第72話『いっぺん戦ってみたかったなぁ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第72話『いっぺん戦ってみたかったなぁ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜・京都のとある旅館………

 

1日目の団体行動、清水寺の見学を終え、IS学園の一同は旅館へと到着していた。

 

「あ~、サッパリしたぜ」

 

「やっぱり天然の温泉は良いよな~」

 

「相変わらず爺むさいなぁ、一夏」

 

風呂上がりと思われるホテルの浴衣姿の神谷、一夏、弾の3人が、未だ若干身体から湯気を上げながら、部屋へと戻っている。

 

「ん?」

 

とその途中、神谷が何かを見付けて足を止める。

 

「? アニキ?」

 

「如何したんだ?」

 

其れに気付いた一夏と弾も立ち止まると、神谷は或る絵画へと視線を注いでいた。

 

その絵画には、昔の京都の街並みの様子と逃げ惑う人々………

 

そして、天狗と鬼を合わせた様な妖怪の姿が描かれている。

 

「何だ、コレ?」

 

「お客様、『天狗鬼』に興味が御有りで?」

 

するとそこで、通り掛かった旅館の老仲居が声を掛けて来た。

 

「『天狗鬼』?」

 

「ハイ。その昔、夜の都に度々現れては悪さを働いた妖怪ですじゃ」

 

老仲居はそのまま、『天狗鬼』について説明を始める。

 

「『天狗鬼』はその名の通り、天狗と鬼の間に生まれた妖怪で、鬼の剛力と天狗の妖術を併せ持つ途轍もない妖怪なのです」

 

「鬼と天狗の力って………何だよ、その無駄なハイブリット」

 

「何人もの武士(もののふ)が退治しようと挑んで行ったのですが、悉く敗れ去ったそうです………しかし、ある時、『錦田小十郎景竜』と言う旅の侍が現れ、天狗鬼を倒し、その亡骸を2度と甦る事の無い様に地中に埋め、その上に社を立て、自ら刀を封印として奉納したのですじゃ」

 

「まあ、良くある妖怪伝説だな」

 

老仲居の話を聞いて、弾はそんな感想を漏らす。

 

「天狗鬼かぁ………いっぺん戦ってみたかったなぁ」

 

そして神谷は、天狗鬼の絵画を見て不敵に笑いながらそう言う。

 

「ちょっ!? アニキ、勘弁してよぉ~」

 

「流石に妖怪退治だなんて、無理だって………そう言うのは鬼○郎の仕事じゃないかな?」

 

そんな神谷の言葉を聞いて、一夏と弾は思わずそう呟く。

 

「フォッフォッフォッ、頼もしいですなぁ。まるで本物の景竜様の様ですじゃ」

 

老仲居は、意味深な言葉を呟くと、踵を返して持ち場へと戻って行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

京都市内の某山中にて………

 

観光用のルートから外れ、密林の生い茂った場所に、まるで人目を憚るかの様に1つの社が建っている。

 

この社こそが、錦田小十郎景竜が自らの刀を奉納し、天狗鬼を封じたとされる社である。

 

その大切な社に近づく、3つの影が在った。

 

「なあ………やっぱり止めないか?」

 

「ウルセェ! 今更ビビッてんじゃねえ!!」

 

「そうだそうだ!!」

 

全員黒尽くめで、御丁寧に黒い目出し帽を被っている如何にもな連中である。

 

其れもその筈。

 

彼等は古美術品泥棒なのだ。

 

天狗鬼と錦田小十郎景竜の伝説を聞き、その社が実在すると知った彼等は、其処に納められていると言われている景竜の刀を狙ったのである。

 

「今まで散々罰当たりな事して来ただろうが!」

 

「其れはそうだけど………今回ばっかりは何かヤバそうな気がするんだ」

 

「へっ! 臆病風に吹かれたってのかよ!」

 

3人組の内、1人は乗り気でない様子だが、他の1人は罰当たりなぞ今更、と言った様子で社に辿り着くと、扉に掛かっていた頑丈そうな鍵を、持って来ていたハンマーで叩き壊す!

 

扉が開くと、中には鞘に納められている刀が置かれていた。

 

「おお~~」

 

感嘆の声を挙げながら、リーダー格の男がその刀を手に取る。

 

そして、鞘から抜き放つと、銀色に輝く刀身が露わになる。

 

「スゲェ………本当に大昔に奉納された代物かよ? まるで新品みたいだぜ」

 

「って言うか、本物何すか? ソレ?」

 

輝く刀身に満足げな表情を見せるリーダー格の男だが、ビビッていない方の手下が、そう疑問を呈する。

 

「当たり前だろ! 今まで俺が間違った事があったか!?」

 

「い、いえっ!!」

 

それを強引に納得させると、リーダー格の男は刀を再び鞘に納め、社の中から持ち出す。

 

「大丈夫かな~」

 

一方、ビビッている手下の方は、未だに不安そうな表情を見せる。

 

「何時までビビッてんだ!? 行くぞ!!」

 

しかし、リーダー格の男がそう言い放ち、刀を持ったままその場所から立ち去って行く。

 

「あ! ま、待ってくれ~!」

 

「へへっ! 今回も大儲けだな!!」

 

手下の2人も、それに続いて社を後にするのだった。

 

そして、古美術品泥棒達が社を後にして暫くすると………

 

突如地震の様に地面が揺れ動き、地割れが起こって社が呑み込まれてしまう!!

 

その社が呑み込まれてしまった地割れからは、おどろおどろしい気配が立ち昇って来る。

 

と、次の瞬間!!

 

その気配の中から、黒い羽根を撒き散らし、何かが飛び出す!!

 

「蘇った………蘇ったぞぉ!!」

 

そう叫びを挙げる天狗と鬼を合わせた様な妖怪………『天狗鬼』!

 

「フハハハハハッ! 久しぶりの外の空気は美味いのぉ~! さて………アレから大分時が流れた様だな。今の京の都が如何なったか、見てみるとするか! フハハハハハハッ!!」

 

天狗鬼はそう言うと、黒い羽根を撒き散らして、夜の闇へと消えて行く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日………

 

そんな事があった等露知らず、神谷達グレン団は、2日目から自由行動に入っていた。

 

初日の午後こそ団体行動だったが、其処は流石に色々と自由なIS学園。

 

2日目から即座に自由行動となり、生徒達は仲良しグループに分かれて、其々の目的地へと出発している。

 

そして、グレン団の一団も………

 

 

 

 

 

嵐山・嵯峨野………

 

「此処が嵐山かぁ~」

 

「紅葉が綺麗だなぁ~」

 

一夏と弾が、紅葉に染まっている嵐山を、渡月橋の上から眺めながら感嘆の声を漏らす。

 

「うむ、見事なものだ………」

 

「ホント、綺麗ですわ」

 

箒とセシリアも、2人と同じ様に感嘆の声を漏らす。

 

「綺麗だね、神谷………アレ? 神谷?」

 

シャルも、隣に居ると思われた神谷にそう声を掛けるが、返事が返って来ないのを不審に思って振り向くと………

 

「テメェ! やんのかコラァ!!」

 

「上等だ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

他校の修学旅行生に喧嘩を売られている神谷の姿が飛び込んで来た。

 

「ちょっ! 神谷ぁ!!」

 

「またアイツは………」

 

「何かと言うと喧嘩を仕掛けられるな、奴は」

 

シャルが慌てて駆け出し、鈴とラウラが呆れる様に呟く。

 

「まあ、かみやんは目立つからねぇ~」

 

「あの外見では、他の不良の人に絡まれるのはある意味必然ですね」

 

のほほんと虚が、その光景を見ながらそう言う。

 

「まあ、神谷らしいと言えば神谷らしいねぇ」

 

「ホントホント」

 

苦笑いしながら言うティトリーと、ケタケタ笑いながら言う楯無。

 

「…………良い写真が撮れた」

 

「貴女もマイペースですね………」

 

そして、簪は1人マイペースの紅葉を写真に収め、蘭はそんな簪にツッコミを入れる。

 

結局、喧嘩の方は神谷の名が出た途端に相手が退く結果となった。

 

神谷の悪名は京都にまで轟いていたらしい………

 

 

 

 

 

その後………

 

グレン団の一同は、嵐山名物の1つである保津川下りを楽しもうと、トロッコ嵯峨駅からトロッコ列車に乗り込み、トロッコ亀岡駅を目指している。

 

「ったく………名前にビビるくらいなら、最初から喧嘩仕掛けて来んな、ってんだよ」

 

「まあまあ、神谷。折角の修学旅行なんだからさ。今回くらいは喧嘩無しで行こうよ、ねっ?」

 

先程の不良との一件で不完全燃焼気味な神谷が愚痴る様に言うと、隣に座って居るシャルが宥める。

 

「にしても、やっぱり良い景色だな~」

 

と其処で一夏が、車窓の外に広がる保津川と紅葉の嵐山を見て、また感嘆の声を漏らす。

 

「おっ、見ろよ! 川下りの舟が来たぜ!!」

 

とそこで、弾が保津川を下って来る舟を発見し、そう声を挙げる。

 

一同が其れに反応して眼下へ視線を向けると、其処には急流の中を、船頭の巧みな舵捌きで進んで行っている舟の姿が見える。

 

「おお! 素晴らしいな!」

 

「ジャパニーズ風流ですわね」

 

「ちょっと違う気がするけど、そんな感じね」

 

箒、セシリア、鈴がそう声を挙げる。

 

「ふむ、この流れなら水上輸送には十分だな………補給路としても申し分無い」

 

ミリタリー視点でやや的外れな注目をしているラウラ。

 

「うんうん、凄い迫力だね~」

 

「…………」

 

楯無も感嘆の声を挙げ、簪は無言でシャッターを切る。

 

「ホラ、神谷。舟だって」

 

「どれどれ? へえ~~、見事なもんだ」

 

シャルも神谷にそう呼び掛け、神谷は眼下に広がる保津川へと視線をやる。

 

「ん?」

 

しかし、直ぐに何かを感じた様に視線を上に向ける。

 

「? 如何したの? 神谷」

 

「いや………何か見られてる様な気がしたんだがな?」

 

シャルが尋ねると、神谷は相変わらず上方を見ながらそう返す。

 

「気の所為じゃないですか?」

 

「そうだよ~。こんな渓谷の何処で誰が見てるってのさ~」

 

そんな神谷に、虚とのほほんがそう言う。

 

「まあ、確かにな………」

 

「気にし過ぎだよ、神谷。あ、八つ橋食べる?」

 

「お! 良いね~!」

 

何処か腑に落ちない神谷だったが、ティトリーにそう言われて八つ橋を差し出され、食欲を優先させたのだった。

 

しかし………

 

確かに神谷が感じた通り、グレン団を見ている者が居る………

 

「フッフッフッフッ………美味そうな娘っ子達じゃわい」

 

天狗鬼が、木の天辺に立ち、神谷達………

 

と言うよりも箒達を見ていた。

 

天狗鬼は、若い娘の肉を好んで食べるのである………

 

 

 

 

 

その後………

 

トロッコ亀岡駅に到着したグレン団の一同は、早速乗船場へと向かい、川下りの舟へと乗り込んだ。

 

乗船の際、誰が一夏の隣に座るかで、もう何度目とも知れぬ争奪戦が発生したが、結局箒と蘭が競り勝つ。

 

「お客様に申し上げます。急流を下りますので、舟は大きく揺れます。予めご注意下さい」

 

「い、一夏さん………船頭さんもああ言ってますので………その………つ、摑まって良いですか!?」

 

船頭が出発前の注意を促すと、蘭が一夏にそう尋ねる。

 

「ああ、良いよ。しっかり摑まってな」

 

「し、失礼します………」

 

一夏が如何いう事か分からず了承すると、蘭は遠慮がちに一夏の腕にしがみ付いた。

 

「ムッ………い、一夏! 私も良いか!?」

 

其れを見た反対側に座って居た箒が、一夏にそう言う。

 

「お、おう、良いけど………」

 

「…………」

 

一夏が戸惑いながら返事を返すと、箒はムスッとした顔(本人にしてみれば照れ顔)で、蘭とは逆の一夏の腕にしがみ付く。

 

「何怒ってるんだ?」

 

「怒ってなぞいない!」

 

一夏に問われて、素っ気無くそう返す箒。

 

「「「…………」」」

 

一方で、その後ろに座って居るセシリア、鈴、ラウラは、一夏達に邪念が籠った視線を向けているのだった。

 

「!? ううっ!?(何か寒気が!?)」

 

その視線を感じて、一夏は寒気を覚える。

 

「だ、弾くん………しっかりお願いね」

 

「任せといて下さい! 虚さんは俺が守ります!」

 

そして、虚と弾の方は、聞いてる方が恥ずかしくなる遣り取りを交わしている。

 

「アハハハ、虚ったら、相変わらずラブラブだね~」

 

「…………」

 

ケタケタと笑う楯無の横で、無言で写真を撮り続けている簪。

 

「お姉ちゃん良いな~」

 

「のほほんもやっぱり彼氏とか欲しいの?」

 

「そりゃ欲しいけど~、出合いが無いからね~。おりむーは競争率高いし」

 

のほほんとティトリーは、ガールズトークに花を咲かせている。

 

「いよいよだな~。ワクワクして来たぜ」

 

「僕はドキドキしてるよ~」

 

そして、ナチュラルに肩を組みながらそんな会話を交わしている神谷とシャル。

 

「では、出発します」

 

と其処で船頭がそう言い、舟が船着き場から離れ、川を下り始めた。

 

川を流れ始めた船は徐々にスピードを上げて行き、そのまま渓谷へと進む。

 

そして両脇の山の森林には、綺麗な紅葉が広がっており、落ち葉が川の中に流れて色を付けていた。

 

「わあ~~、凄~い」

 

「ああ、絶景かな、絶景かな」

 

シャルが何度目とも知れぬ感嘆の声を漏らし、神谷は天下の大泥棒の台詞を言う。

 

やがて舟は、先程神谷が視線を感じた場所………

 

天狗鬼が待ち構えている場所へと辿り着く。

 

「フフフ………どれ、仕掛けるか」

 

と、川を下って来た舟に箒達の姿を確認すると、天狗鬼は左手に葉団扇を出現させたかと思うと、其れを一閃する。

 

途端に、竜巻の様な突風が出現し、グレン団の乗る舟へと襲い掛かった。

 

「!? な、何だ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「急に風が!?」

 

突然の突風に、戸惑う一夏達。

 

と、次の瞬間!!

 

舟が止まったかと思うと、そのまま竜巻の様な突風に巻き上げられて、宙に浮かび始める!!

 

「!? 何っ!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

信じ難い出来事に思わず声を挙げる弾と鈴。

 

「ハハハハッ! 人間共め! 驚いておるわ!!」

 

その様子を天狗鬼は満足そうに見ている。

 

「クソォッ! 白式!!」

 

と、緊急事態だと判断した一夏は、咄嗟に白式を展開!

 

水面から持ち上がった舟の下に回り込むと、そのまま持ち上げる様に抱えて竜巻から脱出する。

 

「むっ!? 何じゃアレは!?」

 

天狗鬼は、初めて見るISに、驚きを露にする。

 

その間に、一夏は舟を川岸へと下ろす。

 

「皆! 大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫です、一夏さん」

 

「助かりましたわ」

 

一夏が尋ねると蘭とセシリアが返事を返す。

 

「しかし今の風………明らかに自然に吹いたモノではないぞ」

 

「一体何だったの?」

 

ラウラと鈴は、先程の竜巻の様な突風に疑念を抱く。

 

「チイッ! 人間め………少し見ない間に妙な鎧を作りおって………まあ良い。軽く捻ってくれるわ!」

 

と其処で天狗鬼は再び葉団扇を振るう。

 

またも竜巻の様な突風が発生し、一夏を包み込む!

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

そのまま一夏は、空高くへと舞い上げられた!

 

「!? 一夏ぁ!!」

 

箒が声を挙げる中、一夏の姿は遥か上空へと舞い上げられる。

 

「フッフッフッフッ………」

 

天狗鬼はそれを確認すると、その後を追う様に、背の黒い翼を広げ、黒い羽根を撒き散らして飛翔するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、遥か上空へと巻き上げられた一夏は………

 

「ぐうううっ!? でえええええいっ!!」

 

気合の叫びと共に、自身を包んでいた竜巻を吹き飛ばす。

 

「ハア………ハア………何だったんだ? 今のは?」

 

「何じゃ………まだ小僧ではないか」

 

戸惑う一夏の前に、天狗鬼が姿を現す。

 

「!? な、何だ!? 妖怪!?」

 

天狗鬼の姿を見て、一夏は驚きの声を挙げる。

 

「やれやれ、久々に人間との戦が楽しめるかと思えば、こんな小僧が相手とはのう………」

 

まるで小馬鹿にする様な台詞を一夏に向かって吐き、落胆した様な様子を見せる天狗鬼。

 

「! 小僧、小僧って………黙って聞いてりゃ! 好き放題言ってくれるじゃないか!!」

 

その台詞に怒った一夏は、右手に雪片弐型を出現させると、エネルギーの刀身を出現させ、正眼に構える。

 

「ほう? 少しは剣の心得があるようだのう………しかし、まだまだ未熟だのう」

 

その構えを見て、一夏に剣の心得が有る事を察する天狗鬼だったが、相変わらず小馬鹿にした様な言い回しを続ける。

 

「! この野郎ぉっ!!」

 

途端に、一夏は雪片弐型で天狗鬼に斬り掛かる。

 

しかし、雪片弐型のエネルギー刃が当たると思われた瞬間!

 

天狗鬼の身体は木の葉となって砕け散る!

 

「!?」

 

「コッチじゃコッチ」

 

背後から聞こえて来た声に、一夏が振り向くと、其処には余裕綽々と言った様子で空中で足を組み、頬杖を衝いている天狗鬼の姿が在った。

 

「! このぉっ!!」

 

再び斬り掛かる一夏だったが、天狗鬼の身体はまたも木の葉となって砕け散り、背後に空中で寝そべった姿勢で現れる。

 

「ふわああああぁぁぁぁぁ~~~~~~」

 

退屈そうに大欠伸を掻く天狗鬼。

 

「! この野郎おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

3度目の正直を狙う一夏だったが、天狗鬼はまたも木の葉となって砕け散る。

 

「くうっ!?」

 

「やれやれ………未熟だとは思っておったが、これ程とはのう」

 

一夏が焦っているかの様な声を挙げると、天狗鬼は腕組みをした状態で姿を現す。

 

「このぉっ!」

 

またも斬り掛かって行こうとする一夏だったが、

 

「つまらぬ奴じゃ………引っ込んでおれ! 青二才!!」

 

天狗鬼がそう言って、葉団扇を振るうと、突風が吹き荒れる!

 

そして、その突風に乗って飛んで来た木の葉が、まるで手裏剣の様に一夏へと命中する!

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

ガリガリとシールドエネルギーを削られる一夏。

 

「くううっ! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そこで一夏は、手裏剣の様な木の葉の混ざった突風にシャイニングフィンガーを繰り出す!

 

左手の雪羅から放出されたエネルギーが、木の葉を焼き尽くす。

 

「ハア………ハア………」

 

「ほほう? 良く耐えたな? 如何やら思ったよりは出来る様だな」

 

一夏が頬を伝う血を払いながら乱れた呼吸を整えていると、天狗鬼がそう言う。

 

最も、その態度は相変わらず余裕綽々だった。

 

「テメェ………いい加減に! しろおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

その瞬間に、一夏の怒りは最高潮に達する!

 

白式の装甲が金色に輝き出し、ISスーツが赤く染まる。

 

怒りのスーパーモードだ!

 

「むっ!? 何だ!?」

 

そこで天狗鬼は、初めて驚いた様な様子を見せる。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

怒りの咆哮を挙げると、天狗鬼に向かって二段階加速(ダブルイグニション)で突撃する一夏。

 

「!? むおっ!?」

 

其れまでと違う動きに、天狗鬼は戸惑いながらも回避に成功する。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、一夏は再び咆哮を挙げると素早く斬り返し、天狗鬼に向かって連続で雪片弐型を振るう。

 

「ぬううっ!? 怒りで力を高めているのか!! 成程、面白い事をする! だが!!」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

天狗鬼の台詞が耳に入っていないのか、一夏は咆哮を挙げながら雪片弐型を振り下ろす。

 

しかし、天狗鬼の姿はフッと消えたかと思うと、一本歯下駄で雪片弐型のエネルギーの刃の上に乗っかる。

 

「!?」

 

「少々驚いたが、そんな怒り任せの隙だらけの攻撃など! 躱す事は容易じゃ!!」

 

そう言い放つと、天狗鬼は驚いていた一夏の顔に蹴りを叩き込む!!

 

「!? ガハッ!?」

 

血を吐いて態勢を崩す一夏。

 

「どれ………そろそろ仕舞いにするかのう」

 

と、天狗鬼がそう言った瞬間、右手に己の身の丈以上は有る巨大な金棒を出現させる。

 

「そうれいっ!!」

 

そしてその金棒を片手で軽々と振り回し、一夏目掛けて叩き下ろす!!

 

「!?」

 

一夏は咄嗟に、雪片弐型を横に構える様にして防御しようとしたが………

 

天狗鬼の巨大金棒の1撃は、雪片弐型を呆気無く粉々にし、一夏へと命中!!

 

「!? ガハッ!?」

 

反射的に頭を反らした事で、脳天へと直撃は避けたが、巨大金棒は一夏の左肩に食い込む様に命中!

 

アーマーを粉々にし、ISスーツをも斬り裂いた!!

 

絶対防御が発動し、一瞬にして白式は機能停止。

 

私服姿へ戻った一夏は血を吐いて気を失い、そのまま頭から落下して行く。

 

「フハハハハハッ! 人間なぞ所詮はこの程度よ!!」

 

落下して行く一夏を見遣りながら、そう高笑いを挙げる天狗鬼だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

地上の神谷達は………

 

「一体何が起こっているのだ!?」

 

「一夏さんは如何なったのですか!?」

 

突然の事態に混乱し、只々一夏が吹き飛ばされた上空を見上げている。

 

「チッ! こうなりゃ俺が様子を………!!」

 

「!? 何か落ちて来るよ!!」

 

業を煮やした神谷が、直接確認に向かおうとコアドリルを取り出した瞬間、シャルが上空を指差してそう叫ぶ。

 

落ちて来る何かの影は徐々に大きくなって行き………

 

頭から落ちて来る一夏の姿となった。

 

「!? 一夏!!」

 

「一夏さん!?」

 

「一夏ぁ!!」

 

箒達が悲鳴を挙げる中、一夏はそのまま保津川へダイブする。

 

「チイッ! 弾!!」

 

「おうさっ!!」

 

すかさず神谷と弾が、マントと上着を脱ぎ捨て、保津川へと飛び込む。

 

一夏が落下した地点まで泳ぐと、息を大きく吸って潜る。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

一同が心配気な表情をして見守る中、10数秒程して………

 

「「プハッ!!」」

 

神谷と弾が再び水面に姿を現し、一夏を引き上げた。

 

そのまま、神谷と弾は一夏を引っ張ったまま泳ぐと、岸へと上がる。

 

「一夏!!」

 

「「「「一夏〈さん〉!!」」」」

 

慌てて一夏へと駆け寄る箒達。

 

「う、ああ………」

 

しかし、ボロボロの一夏は気絶したまま、呻き声を漏らすだけだった。

 

「姉さん、ドクターヘリの要請………」

 

「もう済ませてあるよ」

 

簪と楯無は、ドクターヘリの要請を行う。

 

「本音! 応急処置用の医療キット! 有ったわよね!?」

 

「うん!!」

 

そして布仏姉妹は、緊急医療キットを持ち出し、一夏の応急処置に掛かる。

 

「!?」

 

と其処で、神谷が上空からの視線を感じ顔を上げると、此方を悠然と見下ろしている天狗鬼を見付ける。

 

「アイツは!?」

 

「フッ………」

 

天狗鬼はそんな神谷達を一笑に付すと、そのまま飛び去って行く。

 

(アリャ天狗鬼………まさか、この世に蘇ったってのか? 上等だ! 俺の弟分を痛め付けてくれた礼はたっぷりとしてやるぜ!!)

 

飛び去って行く天狗鬼を見ながら、神谷はそう決意を固めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

京都ならでは敵………妖怪・鬼天狗出現。
その力はISを装着した一夏を蹴散らす程。
果たして、この未知の敵に対し、グレン団は打つ手はあるのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第73話『んじゃ先ずはその刀から探すとするか!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第73話『んじゃ先ずはその刀から探すとするか!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園生徒が宿泊している旅館………

 

天狗鬼との戦いで負傷した一夏を、如何にか宿へと連れ帰ったグレン団の一同。

 

幸い命には別状無く、左肩もギリギリのところで砕かれていなかった。

 

しかし、暫くは安静が必要とされ、今は自分の部屋で医療補助器を着けられて眠っている。

 

混乱を防ぐ為に、他の生徒への説明は為されず、情報統制が敷かれた。

 

一体誰にやられたのかと尋ねて来た千冬に、神谷は天狗鬼の仕業だと説明する。

 

最初は信じられなかったものの、一夏の白式の映像記録にその天狗鬼の姿がハッキリと映っており、神谷の言っている事が真実であると裏付けられる。

 

 

 

 

 

旅館の某一室………

 

「俄には信じられんが………まさか本当に妖怪の仕業だとは………」

 

映写されている天狗鬼の映像を見ながら、千冬が信じ難いと言う様に呟く。

 

「よ、妖怪………」

 

真耶は真耶で、初めて目にするオカルト的な存在に、何処か怖がっている様な様子を見せる。

 

「まさか天狗鬼が実在したなんて………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

老仲居から伝説を聞いていた弾も信じられない様であり、箒達も戸惑いを露わにしていた。

 

「けっ! 天狗だが鬼だが知らねえが! 弟分の一夏をあんなにされて、黙っちゃいられねえぜ!!」

 

しかし、只1人神谷だけは、映像の天狗鬼を睨み付けながらそんな事を言い放つ。

 

「か、神谷! 落ち着いて………」

 

「そうですわ。相手は第3世代のISを圧倒する程の力を持っているのですわよ!」

 

一夏と天狗鬼の戦闘記録は開示されており、その中で一夏が終始圧倒されていたのを思い出したシャルとセシリアが、神谷にそう言う。

 

(束や各国の首脳や軍部が聞いたら仰天するだろうな………)

 

其れを聞いた千冬が、まるで他人事の様にそう思う。

 

何せ、最近ロージェノム軍に負け越しているとは言え、最強の兵器と言われたISが、一夏が怒りに囚われていたとは言え、妖怪等と言うオカルトな輩に完敗したのだ。

 

この事が各国首脳や軍部に伝われば、彼等が頭を抱える光景が容易に想像出来る。

 

「けっ! それが如何した!! 大体アイツは人に悪さを働く妖怪だって話じゃねえか!! このまま放っておけるか!!」

 

「其れはそうだが………」

 

「でも! 実際問題、如何やって戦うのよ!?」

 

弟分の一夏がやられた手前、やや血が上っている神谷だが、ラウラと鈴がそう言い放つ。

 

と、其処で………

 

「失礼します………」

 

突如何の前触れも無く、昨夜神谷達に天狗鬼の事を説明した老仲居が部屋に姿を見せた。

 

「ちょっ!? ちょっと!? 困りますよ!! 関係者以外は立ち入り禁止ですよ!!」

 

其れを見た真耶が、慌てて老仲居を部屋の外へ連れ出そうとする。

 

「天狗鬼を倒すのでしたら、景竜様の刀をお使いになると良いでしょう」

 

しかし、老仲居は真耶の事等気にせず、神谷達に向かってそう言い始める。

 

「景竜の刀?」

 

「嘗て景竜様が使った刀は霊験あらたかな刀で、景竜様が天狗鬼の封印に使ったのもその霊力故だったと言う伝承が御座います。その刀を使えば、再び天狗鬼を葬り去る事も可能でしょう」

 

首を傾げる弾に、老仲居は更に言葉を続ける。

 

「成程………で? その刀は何処にあんだ?」

 

「如何やら、盗人に持ち去られた様でして………京の何処かにあるのは確かですが………」

 

「んじゃ先ずはその刀から探すとするか!!」

 

神谷は其れだけ聞くと立ち上がり、部屋から出て行く。

 

「あっ! ちょっと、神谷ぁ!!」

 

「アニキ!!」

 

直ぐ様、シャルと弾がその後を追って行く。

 

「オイ! お前達!! 待て!!」

 

「あ~もう! 如何してそうノリで行動するの!?」

 

「仕方無いよ~」

 

「そうそう………神谷なんだし」

 

「弾くん! 待って!!」

 

「あの馬鹿お兄!」

 

「………やれやれ」

 

続いて、箒、楯無、のほほん、ティトリー、虚、蘭、簪がそう言い合うと、全員が部屋を後にする。

 

「ちょっ! 皆さん!!」

 

「貴様! 一体何の目的であんな事を!!」

 

真耶が慌て、千冬が老仲居に向かってそう怒鳴ったが………

 

老仲居は、何時の間にか姿を消していた………

 

「ア、アレ!? 何時の間に!?」

 

(あの仲居………一体何者だ?)

 

妙に景竜の伝説に詳しい老仲居の正体に、千冬が疑念を抱くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

景竜の刀を探して、京の街へと繰り出した神谷達は………

 

「待ってよ、神谷!」

 

「アニキ! 刀を探すって言っても、宛ては有るんすか?」

 

神谷に追い付いたシャルと弾が、神谷に向かってそう尋ねる。

 

「んなもん有るワケねえだろ!!」

 

何故か自信満々にそう言う神谷。

 

「「やっぱり………」」

 

シャルと弾はそれを見て呆れる。

 

「やっぱし………アンタ勢いだけで飛び出してたのね………」

 

「全く………お前と言う奴は………」

 

其処でやっと追い付いた他のメンバーの内、鈴と箒がそう呟く。

 

「まあ、仕方無いよ。コッチには全く情報が無いんだから」

 

「手分けして………虱潰しに………探して行くしかない………」

 

だが、現状では他に有効な手も無く、楯無と簪がそう言い、手分けして虱潰しに探す事を提案する。

 

「其れしか有りませんわね………」

 

「仕方有るまい………」

 

「よ~し、頑張ろ~!」

 

「本音………ホント、貴女は何時も気楽ねぇ」

 

「まあ、それが本音だからね」

 

「が、頑張ります!」

 

セシリア、ラウラ、のほほん、虚、ティトリー、蘭がそう言うと、グレン団の一同は2人1組を作り、彼方此方へと散らばって行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒&鈴………

 

京都の某質屋………

 

「刀?」

 

「ハイ。最近売りに来た者等は居ないでしょうか?」

 

箒と鈴が先ず当たったのは、質屋や骨董屋等といった店舗である。

 

幾ら伝説の刀と言えど、其れ自体は金では無い。

 

美術品泥棒と言うのは、そう言った物を売っ払って金に換える事で利益を得ているのである。

 

質屋や骨董屋を当たれば手掛かり、若しくは刀其の物が有るのではないか?と踏んだのだ。

 

「う~~ん、いや居ないね~………」

 

「じゃあ、他のお店から、かなり年期が入った刀を売りに来た奴が居たとか言う話は聞いてない?」

 

箒に続けて、鈴が質屋の主人にそう尋ねる。

 

「いや~、聞いてないね~」

 

「そう………」

 

「ありがとうございました」

 

其処まで聞くと、箒と鈴は質屋を後にする。

 

「此処も駄目ね………」

 

「仕方が無い………次の店に行くぞ」

 

そしてまた、新たな質屋や骨董屋を探しに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア&ラウラ………

 

京都府警察本部………

 

「警察にも目ぼしい情報は無しか………」

 

「一応捜査本部は置いている様ですが………まあ、泥棒の対応に其れ以上のものを求めると言うのも酷ですわ」

 

ラウラとセシリアは警察署を訪ね、IS学園とグレン団、そして代表候補生の身分を盾に、美術品泥棒の情報を得ようと考えたが………

 

手配中や前科者リストだけでも膨大な量の情報が有り、却って犯人の特定が困難となった。

 

「まさか、妖怪が出たから早く刀を見付けてくれと言ったところで、真面に取り合っては貰えんだろうな」

 

「仕方有りませんわ………こうなれば、この前科者リストと手配書の人物を片っ端から見付けて捕まえていきましょう」

 

「ふっ………それも一興か………」

 

そのまま、セシリアとラウラによる………

 

京都一帯を舞台にした大捕物が開始されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無&簪………

 

「そりゃ多分、最近この辺りで活動を始めた新参の窃盗団の仕業で間違いないですなぁ」

 

「そう………」

 

「その連中の根城は………?」

 

路地裏で、情報屋から情報を得ている楯無と簪。

 

「いや~、其処まではちょっと………」

 

「そう………ありがとう。もし知ってるって仲間が居たら、教えて頂戴」

 

楯無はそう言うと、情報屋のポケットに数枚の紙幣を入れた。

 

「毎度どうも………」

 

情報屋はペコリとお辞儀をすると、そそくさと去って行く。

 

すると其処で、楯無と簪の周りに、忍者の様な恰好をした連中が音も無く現れる。

 

「如何だった?」

 

「申し訳有りません。目ぼしい情報は未だ………」

 

楯無が尋ねると、忍者の様な恰好をした連中の纏め役と思しき人物がそう返す。

 

彼等は更識家に仕える者達だ。

 

楯無の要請で駆け付け、方々に散らばって情報を集めていた様だが、目ぼしい情報は集められなかった様である。

 

「分かったわ。引き続き情報収集を続けて」

 

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

楯無に返事を返すと、忍者の様な恰好をした連中は一瞬で方々に散らばって行く。

 

「姉さん………私達も………」

 

「ええ、行きましょう」

 

簪がそう言うと、楯無も別の伝手を当たりに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティトリー&のほほん&蘭………

 

「あの~、すみませ~ん」

 

「この辺りで怪しい人とか見掛けませんでした?」

 

街行く人々に、片っ端から声を掛けてそう尋ねるのほほんとティトリー。

 

「いや~、見て無いな~」

 

「知らないな~」

 

しかし、道行く人々の反応は芳しくない。

 

「ニャ~………中々情報が手に入らないね~」

 

「そりゃあ、簡単に居場所が分かる様じゃ直ぐに捕まってるわよ」

 

疲れた様に溜息を吐くティトリーに、蘭がそう言う。

 

「まあまあ~、もう少し頑張ろうよ~」

 

のほほんが1人抹茶を啜りながら、マイペースにそう言う。

 

「気楽ですね………って言うか、何飲んでるんですか!?」

 

「まあまあ、ちょっと休憩しようよ。あ、わらび餅食べる?」

 

1人抹茶を啜っていたのほほんに蘭がツッコミを入れると、ティトリーがそう言ってわらび餅を差し出して来る。

 

「(お、美味しそう………)い、いただきます」

 

誘惑に負け、わらび餅に手を付ける蘭。

 

そのまま3人は、暫しの小休止を取るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

神谷&シャルと、弾&虚は………

 

京都市内のとある路地裏………

 

「オラァッ!!」

 

「ガハッ!?」

 

神谷が蹴り飛ばしたチンピラが、ゴミ置き場に突っ込み気絶する。

 

「おりゃあっ!!」

 

「ゲハッ!?」

 

そして、弾が投げ飛ばしたチンピラが、電柱にぶつかって気絶する。

 

良く見ると、周りには同じ様に気絶させられたチンピラが、何人も伸びている。

 

「クソッ! 何やってやがる!? 相手はたったの2人だぞ!!」

 

未だ2人の周りを取り囲んでいるチンピラのリーダーが、そう言い放つ。

 

「如何した? もう終わりか?」

 

「遠慮は要らないぜ。もっと掛かって来い」

 

其れに返礼するかの様に、神谷と弾はチンピラ達に向かってそう言い放つ。

 

「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

其れを聞いたチンピラ達は、一斉に神谷と弾へと襲い掛かって行く。

 

そして………

 

そのままドンドンと蹴散らされるのだった………

 

「ズズ~~……未だ掛かりそうだね」

 

「そうですね」

 

表通りの方の茶屋で、お茶を飲みながらその光景を見ていたシャルと虚がそう呟く。

 

最早この2人も慣れたもので、路地裏で大立ち回りを演じている神谷と弾を、涼しい顔で見ている。

 

「グハッ!?」

 

すると、2人の前に1人のチンピラが投げ飛ばされて来る。

 

「うん?」

 

「あら?」

 

「こ、このガキャァッ!!」

 

ダメージが不十分だったのか、ナイフを取り出して再び神谷と弾に襲い掛かろうとしたが………

 

「えいっ!」

 

「ゴハッ!?」

 

シャルが思いっ切り後頭部を蹴飛ばし、気絶させた。

 

「神谷~! 気を付けてよ~!!」

 

「おう! ワリィワリィ、シャル!!」」

 

シャルがそう言うと、神谷は持ち上げていたチンピラを投げ飛ばしながらそう返事を返す。

 

数分後………

 

神谷と弾以外に、路地裏に立つ者は居なくなっていた………

 

「ゲホッ!!………そ、そう言えば………最近街外れの空き家を根城にしている窃盗団が居るって話聞いた様な………ガハッ!!」

 

「成程………そいつ等か………」

 

と、叩きのめしたチンピラの1人を締め上げ、その話を聞き出す神谷。

 

蛇の道は蛇………裏の連中を追うには、同じ裏の連中に聞いた方が早いと考えた神谷は、適当にこの辺りのチンピラ達をシメて、遂にその居場所を突き止める事に成功した。

 

「良し! 行くぞお前等!!」

 

「「「おう!(はい!)」」」

 

居場所を聞き出すと、最早用は無いとばかりに、神谷は弾達を連れて、窃盗団の隠れ家へと向かう。

 

………余談となるが、その後暫く京都の裏界隈では、赤いマントを羽織った悪魔と言う噂が立ち上る事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都の街外れ・某空家………

 

「「「「「神谷〈さん〉!!」」」」」

 

「おっ! 何だ? お前等も此処に辿り着いたのか?」

 

其々のやり方で情報を収集している内に、やはりこの場所へ行き着いたのか、神谷達が到着すると同時に、箒達も姿を見せた。

 

「………中に人間のモノと思われる熱源が3つ在るわ………多分………間違いない」

 

スコープドッグのターレットレンズ部分だけ展開し、細かく切り替えながら空き家をサーチした簪がそう言う。

 

「よ~し、取り囲んで一気に決めるぞ」

 

神谷がそう言うと、全員が無言で頷き、空き家の彼方此方から中へと侵入した………

 

入って直ぐに、台所と思われる場所から声が聞こえて来る。

 

「…………」

 

音を立てないよう、静かにリビングの方へと向かう神谷達。

 

そして、台所を覗き込むと、其処にはあの窃盗団の3人の姿が在った。

 

テーブルの上には、盗んだ影竜の刀が無造作に置かれている。

 

「ほとぼりが冷めたら、この刀売っ払って、次の獲物を探しに行くぞ」

 

カップ麺を啜りながら、リーダー格の男がそう言う。

 

「………なあ、やっぱりあれ、返しに行かないか?」

 

「お前、未だそんな事言ってるのか?」

 

と、部下2人の内、ビビっていた方がそう言い、もう1人が呆れた様に言う。

 

「だってよぉ、何か嫌な感じがするんだぜ………」

 

「馬鹿野郎! 今更ノコノコ返しに行ったらパクられに行く様なもんだろうが!! 良いから! お前は黙って俺に従ってろ!!」

 

尚も食い下がる部下だったが、リーダー格の男はそう言って一喝するのだった。

 

(神谷くん………一気に突っ込むわよ)

 

と其処で、楯無が神谷にそう合図する。

 

コチラに未だ気付いておらず、油断している状況を狙い、一気に勝負を付ける算段の様である。

 

(おっし)

 

神谷はそう言って、他の一同と顔を見合わせる。

 

「「「「「…………」」」」」

 

其れに無言で頷く一同。

 

(1………)

 

(2の………)

 

「「「「「さっ!!………」」」」」

 

3と言って飛び出そうとした瞬間!!

 

突如轟音と共に、空き家が崩れ始めた!!

 

「「「「「!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

「何だぁっ!?」

 

突然の事態に、グレン団と窃盗団は空き家の瓦礫に埋まってしまう。

 

やがて、完全に空き家が潰れ、瓦礫の山となったかと思うと………

 

「ブハッ! 無事か!? お前等!!」

 

グレンラガンの姿となった神谷が、ドリルで瓦礫を破壊して這い出て来る。

 

「あ、ああ………」

 

「何とか………」

 

続いて、箒やシャル達が、専用機を展開させた状態で這い出て来る。

 

「虚さん! 怪我は有りませんか?」

 

「ええ、ありがとう、弾くん」

 

「大丈夫?………本音?」

 

「ありがと~う、かんちゃ~ん」

 

虚とのほほんも、グラパール・弾と簪に庇われて無事であった。

 

「な、何なんだ、一体………」

 

「な、何だテメェ等は!?」

 

と、そこで這い出して来た窃盗団が、グレンラガン達の姿を見て驚く。

 

「フハハハハハッ! 人間にしては知恵を回した様じゃが、そうは行かんぞぉ!!」

 

しかし其処で、上空からそう言う声が降って来る。

 

「「「「「!?」」」」」

 

一同が見上げると、其処には天狗鬼の姿が在った。

 

「! 天狗鬼!!」

 

「な、何だありゃあ!?」

 

「ば、化け物だ!!」

 

その姿を認めると、グレンラガンと窃盗団は驚きの声を挙げる。

 

「貴様等が影竜の刀を探し出そうとするなど、当に見抜いておったわぁ! じゃが事はそう上手く行かんものじゃ!! むんっ!!」

 

天狗鬼はそう言い放つと、葉団扇を振る。

 

すると、先程まで快晴だった空に真っ黒な雲が掛かり、雷が迸ったかと思うと、暴風雨が降り注いだ!!

 

「うわあぁ~! 何だコリャ~ッ!?」

 

「た、崇りだぁ~!!」

 

「ヒイィ~~ッ!?」

 

その途端に、窃盗団は我先にと逃げ出す。

 

「ア!? アイツ等………」

 

「弾! 今はコッチに集中しろ!!」

 

其れを追おうとしたグラパール・弾に、グレンラガンがそう言う。

 

「フハハハハハッ! 貴様等男2人を始末したら、そっちの娘っ子共は1人残らず食ってやるわい!!」

 

暴風雨の中に悠然と浮かびながら、天狗鬼はそう言い放つ。

 

「食っ!?」

 

「流石は妖怪………人食いは当たり前と言う事か………」

 

セシリアが驚きの声を挙げるが、迷信深い箒は冷静にそう言う。

 

しかし、雨月と空裂を握っているその手は、若干震えている。

 

何せ相手はオカルトな存在とは言え、一夏を圧倒した相手だ。

 

油断は出来ない。

 

と………

 

「お前等! 刀を探せ!! アイツ等の相手は俺と弾がする!!」

 

そんな箒達の前に、グレンラガンがそう言って立つ。

 

「うっし!!」

 

グラパール・弾も、そんなグレンラガンの隣に並び立つ。

 

「!? 神谷!?」

 

「ちょっと! 何言ってんのよ、アンタ!?」

 

シャルが驚き、鈴が怒鳴る様にそう言うが………

 

「アイツを倒せるのは影竜の刀だけだ!!」

 

「其れにアイツ、お前等の事を食うって言ってるんだぜ? なのに戦わせられるかよ」

 

グレンラガンとグラパール・弾はそう返す。

 

「弾くん!!」

 

「無謀だ! 2人で敵う相手では無いぞ!!」

 

「だったら、早く刀を見付けろい!!」

 

虚とラウラがそう叫ぶが、グレンラガンはそう言い返す。

 

「ティトリー!」

 

「OK!!」

 

と其処で、のほほんとファイナルダンクーガが瓦礫を掘り返し始める。

 

「姉さん………」

 

「全く仕方無いわね………無茶しちゃ駄目よ!!」

 

更に、簪と楯無も刀の捜索に入る。

 

其れに続く様に、箒やシャル達も、瓦礫を掘り返して、影竜の刀を探し始めるのだった。

 

「うっし! 気合入れよ、弾!!」

 

「アイよ! アニキ!!」

 

其れを確認すると、グレンラガンとグラパール・弾は、天狗鬼に向かって構えを取る。

 

「フン! 無駄な事を………どの道貴様等は死に、小娘共はワシの腹に収まるのじゃ」

 

「如何かな!?」

 

「テメェ自分で言ってただろうが! そうは上手くは行かないモンだってよぉ!!」

 

天狗鬼の挑発するかの様な台詞にそう返し、グレンラガンとグラパール・弾は、暴風雨の空へと飛翔する。

 

 

 

 

 

一方、影竜の刀を探す箒やシャル達は………

 

「有った!?」

 

「コッチには無いよ~!」

 

「コッチもだよ!!」

 

虚の声に、のほほんとファイナルダンクーガがそう返事を返す。

 

「ぬぐぐぐぐぐぐ………如何?」

 

「駄目だ………無いな」

 

鈴が大きな瓦礫を持ち上げ、ラウラがその下を覗き込んでそう言う。

 

「クウッ! こう瓦礫が多くては………」

 

「愚痴を言っている暇が有ったら手を動かせ!」

 

思わず愚痴を言うセシリアに、箒がそう言い放つ。

 

「まさかこんな事になるとはね~」

 

「…………」

 

苦笑いを零している楯無と、黙々と瓦礫を掘り起こしている簪。

 

「刀、刀、刀………」

 

「見つからないよ~」

 

グラパール・蘭とシャルも、必死に刀を捜索しているが、未だ見付けられない。

 

すると其処へ、空の方から轟音が聞こえて来る。

 

「「「「「!?」」」」」

 

一同が見上げると、其処には天狗鬼に苦戦しているグレンラガンとグラパール・弾の姿が在った。

 

「神谷!!」

 

「弾くん!!」

 

一瞬手が止まるシャルと虚だったが、直ぐにまた瓦礫を掘り始める。

 

(何処に………一体何処に有るんだ?)

 

必死になって瓦礫を退かし、刀を探すシャル。

 

すると………

 

瓦礫で埋まっている奥の方で、何かが光った。

 

「!?」

 

シャルは直ぐ様、その場所に向かって瓦礫を掘り進める。

 

そして最後の瓦礫を退かした瞬間………

 

其処から、影竜の刀が現れた!

 

「! 有った!!」

 

 

 

 

 

一方………

 

天狗鬼と戦うグレンラガンとグラパール・弾は………

 

「「ダブルキイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」」

 

天狗鬼に向かってダブルキックを繰り出すグレンラガンとグラパール・弾。

 

「ハアッ!!」

 

しかし天狗鬼が葉団扇を振るうと、竜巻のバリアが展開され、グレンラガンとグラパール・弾を弾き飛ばす!!

 

「おうわっ!?」

 

「おわっ!? クソォッ!!」

 

素早く立ち直ったグラパール・弾が、グラパールブレードを右腕に出現させて天狗鬼に斬り掛かる。

 

「てやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

天狗鬼に向かって振り下ろしを繰り出すグラパール・弾。

 

「フン………」

 

しかし、天狗鬼は巨大金棒を取り出すと、グラパールブレードを受け止める。

 

「! このぉっ!!」

 

そのまま連続でグラパールブレードを振るうグラパール・弾だが、全て巨大金棒に防がれてしまう。

 

「青二才が! 引っ込んでおれ!!」

 

と、一瞬の隙を衝き、巨大金棒を横薙ぎに振るう天狗鬼。

 

「!?」

 

グラパール・弾は、咄嗟にグラパールブレードを構えて受け止めようとしたが………

 

巨大金棒の1撃は、グラパールブレードの刀身を粉々にしてしまう。

 

「お、折れたーっ!?」

 

「むんっ!!」

 

驚くグラパール・弾に、天狗鬼は蹴りを叩き込む!

 

「!? うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

バランスを崩し、失速して行くグラパール・弾。

 

「弾!!」

 

「人の心配をしている余裕が有るのか?」

 

グレンラガンが其れに目を奪われていると、何時の間にかグレンラガンの目の前に立っていた天狗鬼が、巨大金棒を振り下ろす。

 

「!?」

 

グレンラガンは咄嗟に、両腕を交差させて巨大金棒を受け止める。

 

凄まじい衝撃がグレンラガンの両腕に走り、アーマーが罅割れる。

 

「グアッ!?」

 

「ほう? やりおるわい。ワシの金棒を受け止めたのは貴様が初めてじゃわい」

 

「へ、へへ………頑丈さが違うんだよ………」

 

両腕に激痛が走っているが、ヤセ我慢して不敵な笑みを浮かべ、グレンラガンは天狗鬼にそう言い放つ。

 

「ふん、じゃが………頑丈さだけではワシは倒せんぞ!!」

 

と、そこで天狗鬼は一旦巨大金棒を引いたかと思うと、今度は突きを繰り出して来た!!

 

「!? ガハッ!?」

 

真面に喰らってしまい、グレンラガンの口から血が零れる。

 

「グウッ! なろぉっ!! スカルブレイクッ!!」

 

反撃にと天狗鬼に向かってスカルブレイクを繰り出すが………

 

「無駄じゃ………」

 

天狗鬼に命中したかと思われた瞬間に、天狗鬼の身体が無数の木の葉となり、飛び散る。

 

「!?」

 

「こっちじゃ」

 

驚くグレンラガンの背後に出現すると、葉団扇を振るう天狗鬼。

 

突風が吹き荒れ、其れによって生じた鎌鼬が、グレンラガンに襲い掛かる。

 

「!? グアアアッ!?」

 

防御姿勢を取るものの、彼方此方のアーマーが斬り裂かれるグレンラガン。

 

攻撃が神谷の身体まで到達したのか、損傷個所から血が流れる。

 

(チイッ! 今回ばかりはちょいとマズイかもな………)

 

まるで他人事の様に、グレンラガンがそう思った瞬間!

 

「神谷ぁっ! 受け取ってぇっ!!」

 

地上に居たシャルが、何かをグレンラガンに向かって投げた!!

 

「!?」

 

影竜の刀である!

 

「!? 馬鹿な!? 見付けたのか!? ええい! させんぞ!!」

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

天狗鬼とグレンラガンは、直ぐ様影竜の刀を確保しようとする。

 

全速力で刀目指して飛ぶグレンラガンと天狗鬼。

 

だが、天狗鬼の方が僅かに速い!

 

「ハハハハハハッ! 貰ったーっ!!」

 

「チイッ!!」

 

必死に刀に向かって手を伸ばすグレンラガン。

 

するとその瞬間、天狗鬼が止まる。

 

「むおっ!? 何っ!?」

 

「アニキィッ! 今だぁ!!」

 

弾き飛ばされていたグラパール・弾が復帰し、天狗鬼の足を押さえたのだ!!

 

「グッ! 小僧!!」

 

「ぐあっ!?」

 

直ぐ様グラパール・弾を弾き飛ばす天狗鬼。

 

だが、その一瞬の隙は、グレンラガンにとって十分過ぎる時間だった。

 

「貰ったぜ!!」

 

影竜の刀をキャッチするグレンラガン。

 

「!? し、しまった!?」

 

狼狽する天狗鬼の目の前で、グレンラガンは鞘から刀身を抜き放つ。

 

その瞬間!!

 

刀に宿っている霊力が、神谷の螺旋力に反応し、刀身から白色のオーラが立ち昇り始める。

 

「むんっ!!」

 

グレンラガンは、そのまま刀を蜻蛉に構える!

 

鎧武者を彷彿させるデザインをしているグレンラガンに、日本刀は似合っていた。

 

と其処で、グレンラガンの背後に雷が落下!!

 

稲妻が逆光となって、グレンラガンの姿を引き立たせる!!

 

「ぬうっ!?」

 

その姿に得体の知れない迫力を感じ、天狗鬼は僅かに後退った。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

その瞬間、グレンラガンは雄叫びを挙げて天狗鬼に斬り掛かる!!

 

「!?」

 

またも身体を木の葉に変えて避けようとする天狗鬼だったが………

 

「シエヤアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

独特の掛け声と共にグレンラガンが刀を振り下ろしたかと思うと、天狗鬼の左腕が葉団扇を持ったまま、肘下辺りから宙に舞った!!

 

「!? があああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

切断面から、紫色の血液が噴き出す。

 

「おおっ!? 流石は霊験あらたかな影竜の刀………良い切れ味じゃねえか」

 

その切れ味の良さに、グレンラガン自身も驚く。

 

「ぐううっ!? 貴様ああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

其処で、残っていた右手に握っていた巨大金棒を振るう天狗鬼。

 

「!!」

 

だが、グレンラガンは刀を使って受け止める。

 

質量差から考えて、刀の方が折れてしまう筈だが、何故か影竜の刀は折れなかった。

 

「ぬううっ!?」

 

「何のっ!!」

 

再度振り下ろしを見舞う天狗鬼だが、グレンラガンは今度は刀を使って弾く。

 

「ぐううっ!? ええい!! 死ねぇっ!!」

 

其処で天喜鬼は、再び巨大金棒での突きを繰り出す。

 

「!!」

 

すると、グレンラガンは刀を正眼に構え、そのまま上段に振り被ったかと思うと、

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

一気に迫り来る巨大棍棒に向かって振り下ろした!!

 

すると!!

 

巨大棍棒がまるでチーズの様に真っ二つにされて行く!!

 

「な、何っ!?」

 

「せいやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

天狗鬼が驚愕した瞬間!!

 

グレンラガンは刀を素早く引き、そのまま片手で突きを繰り出す!!

 

繰り出された突きは、天狗鬼の額を捉えた!!

 

「!? ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

眉間に刃が突き刺さり、悲鳴を挙げる天狗鬼。

 

「むんっ!!」

 

其処でグレンラガンは、刀を引いて刃を抜いたかと思った次の瞬間!!

 

「紅蓮斬りぃっ!!」

 

グレンラガンはそう叫び、天狗鬼に袈裟斬りと逆袈裟斬りを叩き込む!!

 

「ぬおああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

天狗鬼は斬られた場所から、白い炎を上げる。

 

そしてそのままその白い炎に包まれ、消滅して行った………

 

「…………」

 

グレンラガンはその光景を背に、刀を鞘へと納刀する。

 

「またつまらねぇモノを斬っちまった」

 

そう言った瞬間、荒れていた天気がピタリと治まり、雲が晴れ、再び青空が姿を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

例の窃盗団は全員逮捕され、一夏は無事に目を覚ます。

 

影竜の刀は、再建された社に再び奉納された。

 

斯くして京都を舞台に繰り広げられた妖怪とのバトルは幕を閉じる。

 

しかし………

 

あの謎の老仲居の正体は、結局最後まで分からなかった………

 

余談となるが………

 

ティトリーが、あの老仲居に狸の様な尻尾が生えていたのを見た、と言う証言を残している………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

天狗鬼を倒せる唯一の手段………
景竜の刀を探し求めて京都を走り回るグレン団。

そして天狗鬼との対決。
苦戦したグレンラガンでしたが、景竜の刀のお陰で形勢逆転。
天狗鬼を葬り去るのでした。

次回は京都観光の仕切り直し。
ある場所で大はしゃぎします。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第74話『義によって助太刀致す!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第74話『義によって助太刀致す!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都にて………

 

封印を解かれて現代に蘇った妖怪・天狗鬼を、苦戦しながらも倒す事に成功したグレン団。

 

そして、修学旅行も本日が最終日。

 

無事に目を覚ました一夏は、寝込んでしまった時間を取り戻すかの様に、神谷達と共に京都の街を満喫しに出掛ける。

 

 

 

 

 

京都の街中………

 

「一夏。本当にもう大丈夫なのか?」

 

「そうよ! 暫く安静にしてろって言われてたじゃない!」

 

起き上がったばかりの一夏の体調を心配し、箒と鈴がそう言う。

 

「平気平気! ホラ! もうこの通りだって!!」

 

一夏は笑いながらそう返すと、特に怪我が酷かった筈の左腕をグルグルと回して見せる。

 

其処には痩せ我慢している様な様子は無く、極自然な様子であった。

 

「むう………そうか」

 

「アンタも、神谷に負けず劣らず頑丈になって来たわね………」

 

その一夏の姿を見て、箒と鈴は引き下がる。

 

「2人共、心配してくれてありがとな」

 

一夏は箒と鈴にそうお礼を言う。

 

「! べ、別に!! お前の心配をしたワケではない!!」

 

「そ、そうよ!! 集団行動中に倒れられでもしたら迷惑だから釘を刺して置いただけよ!!」

 

途端に箒と鈴は照れ隠しで、素っ気ない態度を取ってしまう。

 

ツンデレ、乙。

 

「ハハハ、分かってるって」

 

そして、その言葉の真意に気付かない一夏。

 

唐変木、乙。

 

(頑丈………そんな言葉で済まされる怪我では無かったぞ)

 

(其れが僅か一晩で回復するなんて………明らかに異常よ)

 

しかしラウラと楯無は、一夏の怪我の回復速度が、通常では有り得ない程である事に若干戦慄していた。

 

医者の見立てでは、少なくとも全治1週間の怪我だ、と言う診断結果が出ている。

 

それが一晩で治る等と………

 

「如何したの? 姉さん?………難しい顔して?」

 

と其処で、楯無が難しい顔をしている事に気付いた簪が声を掛けて来る。

 

((………そう言えば、この子〈コイツ〉もそういう体質だったわね(な)))

 

途端に、簪も怪我が治り易い体質であった事を思い出し、有り得なくも無いかと思い始めてしまう2人。

 

「??」

 

話し掛けた瞬間に難しい顔を止めたラウラと楯無に、簪は首を傾げるのだった。

 

「其れで今日は如何する? 最終日なんだし、何処行こうか?」

 

「ねえねえ、此処なんて如何かな?」

 

其処でティトリーがそう言うと、のほほんが観光案内のとあるページを見せながら皆に呼び掛ける。

 

「おっ! 映画村かぁ」

 

観光案内を覗き込んだ弾がそう声を挙げる。

 

のほほんがリクエストに挙げたのは、京都に在る撮影所を改造したテーマパークだった。

 

時代劇の殺陣ショーや俳優のトークショー・撮影会・握手会等の他、特撮のキャラクターショー、殺陣講座等の体験企画をやっている、京都でも人気の観光スポットである。

 

「うわぁ、楽しそうだね」

 

「うん、良いですね」

 

「私、最近日本の時代劇に興味を持っていましたので、丁度良いですわ」

 

シャルと蘭、セシリアが、観光案内の紹介文を読んで、そう声を挙げる。

 

「それじゃあ、映画村で良いかしら?」

 

「「「「「賛成~!」」」」」」

 

虚がそう言うと、全員から賛成の声が挙がり、グレン団は映画村へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

グレン団は映画村へと到着。

 

「此処が映画村かぁ~」

 

「おお~! 早くも江戸時代の町並みが………」

 

一夏と弾は、目の前に広がる江戸時代を再現した街並みに早速目を奪われている。

 

「コイツは良い迫力だなぁ」

 

神谷も、映画村の様子に満足気だ。

 

「映画村に来た記念に、時代劇扮装は如何ですか~」

 

と、とある建物の前で、腰元に扮しているスタッフが、そう呼び込みを行っている。

 

如何やら、時代劇の登場人物に扮装できる施設の様だ。

 

「おっ!? 面白そうだな………行くぞ、お前等!!」

 

早速神谷が飛び付き、ズカズカとその施設へと入って行く。

 

「あ、神谷!!」

 

「アイツ、また勝手に………」

 

シャルと鈴がそう言うと、

 

「まあまあ皆!」

 

「面白そうだし、行ってみよ~!」

 

楯無とのほほんがそう言って、一同の背を押して行く。

 

「ちょっ!? 楯無先輩!?」

 

「本音!?」

 

箒と虚が声を挙げるが、抵抗する間も無く、一同は神谷に続く様に、扮装施設へと入らされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、小1時間後………

 

「如何だ? 決まってるか?」

 

浪人に扮装した神谷がそう尋ねる。

 

「すっごい決まってるよ! アニキ!!」

 

そう言う一夏は、新撰組隊士に扮している。

 

「おお~、2人共決まってんなぁ~」

 

そして弾は、め組の火消しへと扮している。

 

「「神谷~!」」

 

「「「「一夏〈さん〉~!」」」」

 

とそこで、漸く扮装が終わった女性陣が現れる。

 

箒は、振袖若衆に扮して女剣士。

 

セシリアは、十二単衣を纏った姿。

 

鈴は、くノ一に扮している。

 

シャルは、和風のお姫様姿。

 

ラウラは、柳生 十兵衛に扮装を。

 

楯無は、芸者に。

 

簪は、某ゲームの主人公を思わせる風来人。

 

蘭は、町娘の恰好を。

 

布仏姉妹は、揃って舞妓に扮している。

 

そしてティトリーは、何と女ねずみ小僧の恰好をしていた。

 

「おお~! お前等ぁ! 決まってんじゃねえか!!」

 

その姿を見た神谷がそう感想を言う。

 

「か、神谷……ど、如何かな、僕? 変じゃない?」

 

と、お姫様に扮したシャルが、そう言いながら神谷の傍に寄る。

 

「あん? 誰だ、テメェ?」

 

「え、ええっ!? 何言ってるの神谷!? 僕だよ! シャルロットだよ!!」

 

神谷から思い掛けない言葉を言われたシャルは、狼狽しながらそう言う。

 

「何っ!? 本当か!? 何処のお姫様かと思ったぜ!?」

 

すると神谷は、オーバーリアクションをしながらそう返す。

 

「! も、もう! 神谷~!!」

 

其れが神谷の芝居であると気付くと、シャルは顔を真っ赤にして怒鳴るのだった。

 

「いや~、綺麗っすね~、虚さん」

 

「あ、ありがとう………弾くんも素敵よ」

 

「えっ? そうっすか?」

 

一方、弾と虚の方も、お互いの扮装を褒め合い、はにかんで顔を赤らめている。

 

「ヒュ~ヒュ~! お熱いね~! 御2人さ~ん!」

 

のほほんが、そんな姉と弾の姿に冷やかしを飛ばす。

 

「い、一夏………その………」

 

「おう、箒。女剣士とは、お前らしいな………似合ってるよ」

 

箒が一夏に何か言おうとすると、先んじて一夏がまたナチュラルにそんな台詞を言う。

 

「!! そ、そうか………」

 

それを聞いた箒は、赤くなった顔を見せまいと、プイッとそっぽを向いてしまう。

 

(アレ? 怒らせちゃったかな?)

 

其れを見て、またもや朴念仁スキルを発揮する一夏だった。

 

「一夏さん! 私は如何ですか!?」

 

「一夏! アタシの恰好は如何なのよ!?」

 

「如何だ!? クラリッサが以前から私に似合いそうだと教えてくれていた恰好だぞ!?」

 

「い、一夏さん! アタシも!!」

 

途端に、箒に遅れを取ってはならじと、セシリア、鈴、ラウラ、蘭が詰め寄る。

 

「ちょ、ちょっ!? 待ってくれよ!!」

 

「うふふ~、相変わらずモテモテね~、一夏くん」

 

そんな一夏を見て、楯無が笑う。

 

「楯無さ~ん! 助けて下さいよ~!」

 

「うふふふ………」

 

情けない声を挙げる一夏に、楯無は愉快そうな笑いを挙げるだけだった。

 

「…………」

 

そして簪は、そんな一同の様子を、三度笠の鍔を上げて見つめている。

 

「ささ、皆! そろそろ行こうよ!」

 

と其処へティトリーが、映画村の中へ行こうと促す。

 

「おっし! 行くか!!」

 

神谷がそう言うと、一同は映画村の中へと繰り出して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、グレン団の一同は………

 

芝居小屋で役者達のチャンバラを見物したり………

 

忍者屋敷の迷路に迷ったり………

 

手裏剣投げのコーナーで、のほほんの手からスポ抜けた手裏剣が一夏の頭に命中するというハプニングがあったり(作り物でなければ危なかった)………

 

お化け屋敷で、シャルや虚が、神谷や弾に抱き付いたのを見て、箒達が一斉に一夏に抱き付こうとして一夏が潰されたり………

 

よくある鬼に見立てた的にボールを投げるアトラクションで、神谷が勢い余って的を破壊してしまったり………(当然、責任は千冬が負わされた)

 

主に一夏(あと千冬)が被害を受けたりしながらも、映画村を満喫していた。

 

「中々楽しいところじゃねえか、此処は」

 

一服しようと寄った茶屋で、神谷が茶を啜りながらそう言う。

 

「そうだね、神谷………あ、この最中美味しい」

 

そんな神谷の隣で、最中をハモハモと食べているシャル。

 

ヤバイ、可愛い………

 

「虚さん、ア~ンってやってくんないっすか?」

 

「! だ、駄目よ! 弾くん! そ、そう言うのはもっと人目を憚ってやらないと………」

 

(人目を憚ってはやるのね………)

 

イチャついている弾と虚に、そんな2人に心の中でツッコミを入れる蘭。

 

「何かスッゴイ疲れた………」

 

一夏は色々あって、疲れた様子を見せている。

 

「だらしないよ~、一夏くん。それでも男?」

 

そんな一夏に、楯無がからかう様に肩を寄せて来るが、今の一夏には振り払う気力も無かった。

 

「「「「…………」」」」

 

その光景に、箒、セシリア、鈴、ラウラは嫉妬の視線を向ける。

 

「美味しいね~」

 

「うん、ホントホント」

 

わらび餅や最中、団子、八つ橋をパクパクと食べながら笑みを零しているのほほんとティトリー。

 

「…………」

 

そして1人静かに茶を啜っている簪だった。

 

と、その時………

 

「オーイ! 向こうで時代劇のショーをやってるってよ!」

 

「嘘っ! ホント!?」

 

道を歩いていた客達がそんな声を挙げ、移動し始める。

 

「時代劇のショー?」

 

「面白そうだな………見に行ってみっか!」

 

シャルがそう呟くと、忽ち神谷が興味を示し、バッと立ち上がると、他の客達が向かって行った先へと走り出した。

 

「あ! ちょっと! 神谷ぁ!!」

 

「アニキ! 待ってくれよ!!」

 

「アイツ! また勝手に!!」

 

慌てながらも、直ぐにその後を追うグレン団の一同。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茶屋から少し離れた場所にて………

 

「貴様等………拙者が武士と知っての狼藉か?」

 

「ええい、黙れ! 掛かれい!!」

 

1人の武士が、編み笠を被って顔を隠している暗殺者達に取り囲まれ、刀を向けられている。

 

「是非も無し………」

 

武士はそう言うと、自分も刀を抜き放ち、正眼に構える。

 

「斬れい! 斬り捨ていっ!!」

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

暗殺者の纏め役がそう言うと、暗殺者の1人が武士へと襲い掛かる。

 

「むんっ!!」

 

しかし、武士は斬り掛かって来た暗殺者を受け流すと、その背中を斬り付ける!

 

「あああっ!?」

 

ややオーバーなリアクションと共に倒れる暗殺者。

 

「ええい! やれい! やってしまえい!!」

 

「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」」」

 

其れを見た暗殺者の纏め役がそう言い、残っていた暗殺者は一斉に掛かって行く。

 

そして、息も吐かせぬチャンバラアクションがスタートする。

 

「良いぞ良いぞー!」

 

「やれやれー!」

 

野次馬と化している客達は、間近で繰り広げられているチャンバラアクションに興奮する。

 

「おっ! アレか!?」

 

「スッゲー! 生のチャンバラをこんな間近で見れるなんて!!」

 

其処へ神谷達が辿り着き、間近で繰り広げられているチャンバラアクションに感嘆の声を漏らす。

 

「むんっ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

そうしている内にも、またも暗殺者を1人斬り捨てる武士。

 

「チィエアアアアッ!!」

 

するとその瞬間!!

 

背後に居た暗殺者がその隙を狙って斬り掛かった。

 

勿論コレはショーの予定通りであり、この後振り向かずに背後から掛かって来ていた暗殺者を斬り捨てる予定である。

 

しかし………

 

「! 危ねえっ!!」

 

チャンバラアクションに熱くなっていたのか、神谷がそう言って飛び出し、扮装の際に貰った模造刀で暗殺者を斬り捨てた!!

 

「ぐあっ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

突然の乱入者に、武士と暗殺者………映画村俳優スタッフ達は仰天する。

 

「ちょっ!? 神谷!?」

 

「あの馬鹿!!」

 

シャルが驚きの声を挙げ、鈴が思わずそう叫ぶ。

 

しかし、其処はプロの映画村俳優スタッフ。

 

「お主、何者でござるか?」

 

「グレン団の鬼リーダー、神谷様よ! 義によって助太刀致す!!」

 

「忝い神谷殿! 感謝致す!!」

 

直ぐ様アドリブで誤魔化し、神谷をショーへと組み入れてしまう。

 

「おおっ! 傾いた兄ちゃんが出て来たぞ!!」

 

「やれやれ! どっちも頑張れ!!」

 

観客達は完全にショーの演出だと思い込み、更に盛り上がる。

 

「流石プロのスタッフ………」

 

「神谷の乱入を完全にショーの一部にしてるな………」

 

その様子に、一夏と箒は感嘆の声を漏らす。

 

「オノレェ! 何処のどいつかは知らぬが! 我々の邪魔はさせん!!」

 

と、暗殺者の纏め役がそう叫んだかと思うと、今度は街並みのセットの彼方此方から黒い衣装に身を包んだ人物………

 

忍者達が登場して来た!!

 

「オー! ジャパニーズニンジャーッ!!」

 

「ビューティフルッ!!」

 

観客の中に居た外国人観光客がそんな歓声を挙げる。

 

現れた忍者達は、手裏剣やクナイを構えると、武士と神谷目掛けて投擲して来る!!

 

「ムッ!?」

 

「おおっと!?」

 

それを刀で弾く武士と神谷。

 

2人の周りに弾いた手裏剣とクナイがボトボトと落ちる。

 

すると忍者達は一斉に忍者刀を逆手に構えて、セットの上や影から飛び出すと、神谷と武士を取り囲む。

 

そして、一斉に掛かって行こうとしたが………

 

「アニキ、危ない! 御用改めである!!」

 

「喧嘩だ喧嘩だ! 火事と喧嘩は江戸の花よぉ!!」

 

何と其処へ更に!!

 

一夏と弾がそう言って乱入した!!

 

「一夏!?」

 

「弾くん! 此処は江戸じゃなくて京都よ!?」

 

「虚………ツッコむところ違うわよ」

 

箒が驚きの声を挙げ、間違ったツッコミを入れる虚に、楯無が呆れながらそう呟く。

 

「おおっ!? 今度は新撰組とめ組が出て来たぞ!!」

 

「ヒューヒュー! 良いぞー!!」

 

またも現れた乱入者に、観客達は更にヒートアップする。

 

「ええい! 次から次へと! 構わん!! 皆斬り捨てい!!」

 

暗殺者の纏め役がまたもアドリブでそう繋ぎ、ショーは続行される。

 

「ああ、もう滅茶苦茶………」

 

「でも盛り上がってるよ~」

 

鈴が呆れて呟くと、のほほんが呑気にそう言う。

 

 

 

 

 

程無くして、暗殺者と忍者………斬られ役の面々は、全員地に伏せていた。

 

「危ないところを助けていただき、誠に感謝致す」

 

「気にすんなって! お互い様よ!!」

 

刀を鞘に納めると深々と頭を下げる武士に、神谷はそう返す。

 

「忝い。では拙者は武者修行の旅の途中ゆえ、これにて、ゴメン」

 

武士はそう言うと、踵を返して、映画村の中へと消えて行った。

 

途端に、観客達から惜しみない拍手が送られる。

 

「えへへへへ」

 

「あ~、どうも、ありがとうございます」

 

拍手の嵐に照れる一夏と、ペコペコと頭を下げる弾。

 

「へっ」

 

そして神谷は、其れに応えるかの様に刀を抜いて、天に向かって掲げるのだった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

箒達は他人のふりで、関わろうとしない………

 

余談だが………

 

この大立ち回りが受けたらしく………

 

映画村には、あの3人が出るのは何時だと言う問い合わせが殺到したとの事である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、時間がアッと言う間に過ぎて………

 

IS学園の修学旅行は、遂に終わりを告げた。

 

帰りの新幹線に乗り込んだ生徒達は、心から京都を満喫したのか、全員楽しそうに眠りこけている。

 

「皆良く寝てますね」

 

「全く………行く時はあんなに元気だった癖に」

 

真耶と千冬は、そんな生徒達を優しい笑みを浮かべて見ている。

 

「アラ? 織斑先生、アレアレ」

 

と、真耶が何かに気づいて千冬に声を掛ける。

 

「ん?」

 

千冬が、真耶の指し示す先を見ると、其処には………

 

「う~ん………う~ん………」

 

箒、セシリア、鈴、ラウラ、蘭、楯無、簪に寄り掛かられて寝られ、寝苦しそうに呻き声を漏らしている一夏の姿が在った。

 

「むにゃむにゃ………虚さ~ん………」

 

「うう~ん………弾く~ん………」

 

更に手を繋いで、寝言でまで互いの事を呼びあっている弾と虚の姿。

 

「「スー、スー………」」

 

仲良く互いに寄り掛かい合っているのほほんとティトリー。

 

「神谷~~………むにゃむにゃ………」

 

「ZZZZZzzzzzz~~~~~~~………シャル~………まだ食べられるぞ~………」

 

そして、幸せそうな顔をして寝ているシャルと、そんなシャルに膝枕をしてもらって、彼らしい寝言を言っている神谷の姿が在った。

 

「うふふ、微笑ましいですね」

 

その光景を見て、微笑みながらそう言う真耶だったが………

 

「神谷………眠って居ればこんなにも大人しいというのに………」

 

普段、神谷に苦労を掛けられっぱなしな千冬は、恨めしそうな顔で眠っている神谷を見ている。

 

「お、織斑先生………」

 

掛ける言葉が見つからず、真耶は苦笑いするしかない。

 

「ええい! 腹立たしい………油性マジックで、額に『肉』と書いてやろうか………」

 

と、日頃の恨みか、油性マジックを取り出すとそんな事を言い放つ。

 

「ちょっ!? 駄目ですよ、織斑先生!!」

 

「フフフフ………神谷め………私の怒りを思い知れ………」

 

真耶が止めるのも聞かず、油性マジックを手に、神谷へと近付く千冬。

 

その姿には、最早ブリュンヒルデどころか教師として威厳すらない………

 

と、遂に千冬が神谷へと迫った瞬間!

 

「グレンラガン! アッパーッ!!」

 

「ガホッ!?」

 

寝惚けた神谷が鋭いアッパーカットを繰り出し、其れが千冬の顎にクリーンヒットした!!

 

そのまま千冬はノックアウトさて、床に転がる。

 

「お、織斑先生ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?」

 

真耶の叫び声にも、疲れて爆睡している生徒達は、誰1人起きる事はなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして………

 

波瀾万丈だったIS学園の修学旅行は幕を閉じる………

 

そしてまた明日からは………

 

ロージェノム軍の標的とされ、戦々恐々な日々始まるのだろうか?

 

戦え、グレン団!

 

IS学園の平和は、君達の背に掛かっている!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

京都旅行最終日。
やってきたのは映画村!
復活した一夏と共に全力で満喫するグレン団。
そして帰りの新幹線で眠りこけるお約束………

相変わらず憐れ枠の千冬。
この作品で彼女に安息の時は無い(無常)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第75話『………如何しても駄目か? 一夏?』

新作に関してアンケートを実施したいと思います。

是非皆様のご協力をお願い致します。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第75話『………如何しても駄目か? 一夏?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・剣道場………

 

「メエエエエェェェェェーーーーーーンッ!!」

 

気合の掛け声と共に、対戦相手から面を奪う箒。

 

「1本! それまで!!」

 

審判役の生徒がそう言うと、箒と対戦相手は向かい合う様に立ち直し、互いに礼をし合う。

 

「ふう………」

 

箒は大きく息を吐くと共に、面を取る。

 

そして頭に巻いていた面手拭いを取ると、長い黒髪が飛び出すが、そのまま汗を拭う。

 

「お疲れ、篠ノ之さん」

 

と其処へ、剣道部の部長が声を掛けて来る。

 

「あ、部長。お疲れ様です」

 

部長の姿を見ると、箒はペコリと頭を下げる。

 

「いや~、篠ノ之さんが練習に参加してくれる様になって、他の部員達もやる気が出て来てくれて助かってるわ」

 

「そんな、私は別に………」

 

幽霊部員だった事もあり、部長の言葉に若干気不味くなる箒。

 

「まあ、残ってる部員がそんなには居ないんだけどね………」

 

しかし、次の瞬間には寂しそうに剣道場を見遣る。

 

今剣道場を使用している生徒の数………即ち剣道部員の数は、両手の指で数えられそうな数だけだった。

 

剣道部に限った話ではないが、退学や転校する生徒が相次ぎ、必然的に部員の数も少なくなっているのである。

 

中には同好会に格下げされた部や、廃部となった部活まであるらしい。

 

更に主だった部活の大会も、中止や延期が相次いでいる始末である。

 

ロージェノム軍の侵略は、学生達の日常生活をも変えているのだ。

 

「心配は要りません。ロージェノム軍は必ず私達が倒します。そうすれば、去って行った生徒も戻って来るでしょうし、大会も再開されるでしょう。今はその日を目指して精進有るのみです」

 

落ち込む様子を見せる部長を、箒はそう励ます。

 

「箒ちゃん………ありがと~~~うっ!!」

 

余程感激したのか、部長は笑みを浮かべて箒へと抱き付く。

 

「うわっ!? ちょっ!? 止めて下さい!!」

 

姉の束に良く抱き付かれていた事を思い出す箒だが、身内である彼女と違って、相手は部活の部長の上に上級生。

 

迂闊に振り払う事も出来ず、されるがままな箒だった。

 

「そんな箒ちゃんに! 部長からのサプライズプレゼント!!」

 

と、不意に部長は箒から離れると、何やら封筒の様な物を取り出す。

 

「? 何ですか? コレは?」

 

「うふふ、開けてみて」

 

部長にそう言われて、箒が封筒の封を開くと、中に入っていたのは………

 

「アミューズメントパークの………ペアチケット?」

 

遊園地のペアチケットだった。

 

「そ! この御時世、営業を続けてる貴重なアミューズメントパークなんだ。織斑くんを誘って行ってきなよ」

 

「!? なっ!?」

 

部長の言葉に、箒は顔を真っ赤にする。

 

「な、何故一夏と何ですか!?」

 

「アレ? じゃあ、他に誰か一緒に行きたい人が居るの?」

 

「それは………」

 

そう言われると反論できない箒。

 

「織斑くんのあの唐変木ぶりは筋金入りよ。コッチからガンガン攻めて行かないと、振り向いて貰えないわよ」

 

「ガ、ガンガン………」

 

部長の言葉に、箒は違う何かを想像する。

 

「ま、精々他の子達に気付かれない様にしなさい。今の世の中、男も女も度胸が命よ」

 

「度胸が命………」

 

箒は知らず知らずの内に、貰ったチケットを握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜………

 

IS学園・学生寮………

 

一夏と神谷の部屋の前………

 

「…………」

 

箒は思い悩んだ顔で、一夏と神谷の部屋の前を行ったり来たりしている。

 

その手には、部活時に部長から貰ったチケットが有る。

 

「(度胸が命………)ええいっ!!」

 

やがて、意を決した様に部屋のドアをノックする。

 

「は~い」

 

部屋の中から呑気な声が聞こえて来たかと思うと扉が開き、部屋着姿の一夏が現れる。

 

「何だ、箒か。如何したんだ?」

 

「(ええい! 私の気も知らずに呑気そうにしおって!!)何だとは何だ。私がお前を尋ねてはイカンのか?」

 

内心でそんな理不尽な怒りを沸かせながら、一夏に向かってそう言う箒。

 

「いや、別に悪くはないけど………って言うか、何の用だ?」

 

「う、うむ………」

 

箒は一呼吸置いて落ち着きを取り戻すと、部屋の中を覗き込む。

 

其処には相部屋である神谷の姿は無く、一夏1人だけであった。

 

「1人か、一夏? 神谷は如何した?」

 

「アニキなら、シャルロットが料理部の活動でお菓子作ったらから、食べに来てって誘われて、シャルロットの部屋に行ってるよ」

 

(相変わらずのイチャつきぶりだな………)

 

内心神谷とシャルの事を羨ましがる箒。

 

「まあ良い。此処では何だ………部屋に入れて貰って良いか?」

 

「ああ、どうぞ」

 

箒がそう言うと、一夏は彼女を部屋の中へ誘う。

 

「一寸待っててくれな。今お茶淹れるから」

 

「べ、別に其処までしなくても良い!」

 

「遠慮すんなって」

 

箒を椅子に座らせると、一夏はそう言って簡易キッチンへと向かう。

 

「アイツめ………如何してそういう事“だけ”には気が回るんだ………?」

 

一夏に聞こえない様に、箒はブツブツと小声で不満を言う。

 

「お待たせ~」

 

程無くして、湯気の立つ湯呑みを2つ載せたお盆を持って、一夏が戻って来る。

 

「ホイ。熱いから気を付けろよ」

 

「子供じゃないんだぞ」

 

そう言いながら、自分の分の湯呑みを受け取ると、そのまま一口啜る箒。

 

「………うん、美味いな」

 

「そうか、そいつは良かった………」

 

一夏も、箒の向かいに腰掛けると、自分の分の茶を一口啜る。

 

「それで? 一体何の用なんだ? 箒?」

 

と其処で、一夏は改めて箒に訪問の理由を問い質す。

 

「う、うむ………その事なんだ………」

 

途端に箒は、頬を締めて動揺している様な様子を見せるが………

 

「ゴ、ゴホンッ!!」

 

咳払いを1つし、気持ちを落ち着かせる。

 

「い、一夏………今度の日曜は暇か?」

 

「日曜? いや、特に予定も無いから、修行をしようかと思ってたけど………」

 

「そ、そうか! な、ならば、その………」

 

そこで口籠る箒。

 

「? 如何したんだ?」

 

そんな箒の姿を、一夏は怪訝な目で見遣る。

 

「だから、その………ええい! 一夏!!」

 

とそこで箒は大声を挙げる。

 

「な、何だよ!?(何々だ!? 一体!?)」

 

突然怒鳴られた(と思った)一夏は、狼狽しながら箒の次の言葉を待つ。

 

「こ、今度の日曜は………わ、私と此処に行かないか!?」

 

箒はそう言うと、部長から貰ったペアチケットを一夏に見せる。

 

「? コレって………遊園地のチケット?」

 

そのチケットを手に取った一夏は、そう呟く。

 

「あ、ああ、そうだ………剣道部の部長がくれてな。無駄にするのも悪いと思ってな」

 

照れ隠しからかそんな事を言う箒。

 

「う~~ん、でもなぁ………もう少しでスーパーモードのコツが掴めそうな気がするんだよなぁ………悪いけど箒。友達とでも行ってくれよ」

 

しかし、空気の読めない一夏は、そんな言葉を箒に投げ掛ける。

 

「なっ!?」

 

途端に箒は愕然とする。

 

しかし………

 

(無理を通して道理を蹴っ飛ばせ!!)

 

其処で神谷が良く口にしている言葉が頭を過る。

 

(!? ええい! こんな時にアイツのアドバイスが浮かぶ事になろうとは!!)

 

こんな時に、まさか神谷の言葉が思い浮かぶとは思わなかった箒が、一瞬苦々しげな表情を浮かべながらも、それを実践に移す。

 

「一夏! あんまり根を詰めるのも良くないぞ! それでは修行の意味が無い!!」

 

「いや、ここんとこイマイチだったから、尚の事しようと思ってたんだけど………」

 

「ツベコベ言うな! 日曜は私に付き合え!!」

 

「んな無茶苦茶な!?」

 

強引に一夏を誘おうとする箒だが、一夏は譲らない。

 

(クッ! まだ駄目か!!………! そう言えば、以前虚先輩が………)

 

すると箒は、今度は虚が弾に頼み事をしていた時の光景に出会した事を思い出す。

 

(ええい! 一か八かだ!!)

 

そう思うと、不意に黙り込む箒。

 

「ん? 分かってくれたか?」

 

それを見てそう思う一夏だったが………

 

「………如何しても駄目か? 一夏?」

 

其処で箒は、潤んだ目で一夏の顔を上目遣いに覗き込んだ。

 

「!?」

 

箒の攻撃!!

 

上目遣いのお願い!!

 

急所に当たった!!

 

効果は抜群だ!!

 

「わ、分かった………良いよ」

 

「! 本当か!?」

 

「あ、ああ………(其処までされちゃあ、断れないよなぁ)」

 

箒に返事をしながら、内心でそう思う一夏。

 

「うむ! では、今度の日曜日、駅で待ち合わせだ! 良いな!!」

 

「ああ、分かったよ………」

 

箒はその後も、予定を2、3話すと、一夏の部屋から出る。

 

「では、一夏………日曜日を楽しみにしているぞ」

 

「ああ、おやすみ、箒」

 

そう言って、一夏は扉を閉める。

 

「…………」

 

箒は平静を装い、一夏の部屋の前から離れて行く。

 

「…………」

 

しかし、徐々にその足が速まって行く。

 

「…………」

 

そしてとうとう『走る』というスピードに到達したかと思うと………

 

「いやったぞおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

歓声と共に跳び上がり、ガッツポーズを取った。

 

「遂に! 遂に! あの一夏を!! デ、デ、デ………デェトに誘ったぞ!! いやったあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

キャラ崩壊かと思われる程に舞い上がっている箒。

 

すると………

 

「………何やってんだ? お前?」

 

「!?」

 

突然声を掛けられて、箒は固まる。

 

ギギギギギギッ、と油の切れた機械の様な不協和音を立てて声のした方を見遣ると、其処には………

 

怪訝な顔をして立っている神谷の姿が在った。

 

「か、かかかかか、神谷!?」

 

「………箒」

 

と、其処で神谷は、真剣な顔をして箒の両肩を摑む。

 

「オメェも色々と苦労する事が有んだろう………何か有ったら、遠慮無くリーダーである俺に相談しろ。俺じゃ話し難かったらシャルにでも良い。兎に角………あんまり思い詰めるなよ?」

 

コレまでに聞いた事の無い、優しい………と言うより、気を遣っているかの様に言う神谷。

 

如何やら、所謂その………

 

頭が、『アレ』になったと思われた様だ。

 

「!?~~~~~っ!!」

 

箒は羞恥の余り、一瞬で完熟トマトの様に真っ赤になる。

 

「う、うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そして神谷を振り解くと、目から光るモノを撒き散らしながら、走り去って行った。

 

「ア! オイ!………何なんだ? アイツ?」

 

全くワケが分からない箒の態度に、神谷は益々怪訝な顔をする。

 

「ま、いっか。アイツも色々有んだろう………それよりも日曜に備えねえとな」

 

と神谷はそう言うと、自室へと戻って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた日曜日………

 

IS学園近くの街の駅………

 

(す、少し早く来過ぎてしまったか!?)

 

約束の時間より1時間も早く待ち合わせ場所に来てしまった箒が、時計を見ながら高鳴る胸の鼓動を必死に抑えに掛かっている。

 

(お、落ち着け! 落ち着くのだ、篠ノ之 箒!! お前は自分を誰だと思っているのだ!?)

 

必死に自分を落ち着かせようとしている箒。

 

何時もよりめかし込んでおり、普通ならばナンパな奴に声を掛けられてもおかしくはないのだが、彼女から立ち上っている奇妙なオーラが、ナンパ野郎を寄せ付けなかった。

 

「(そうだ! こう言う時は深呼吸だ!!)スーーーーーーーッ!!」

 

と其処で、箒は深呼吸をしようと思いっ切り息を吸い込む。

 

「!? ゲホッ!! ゴホッ!! ガホッ!?」

 

しかし、吸い過ぎたのか、逆に咳き込んで噎せてしまう。

 

(し、しまった!! 何たる不覚! い、息が………)

 

そのまま酸欠へと陥って行く。

 

「オイ、箒! 大丈夫か!?」

 

と其処で、そんな声と共に箒の背中が擦られる。

 

「!! ハア………ハア………」

 

其処で箒は漸く落ち着きを取り戻し、乱れた息を整える。

 

「落ち着いたか? 箒?」

 

背を擦った人物………私服姿の一夏は、箒にそう尋ねる。

 

「あ、ああ、一夏………すまない………助かった………」

 

「大丈夫か? 調子が悪いんなら、今日はもう帰った方が………」

 

箒の身を心配し、そう言う一夏だったが、

 

「いや! 大丈夫だ! 何の問題も無い!!」

 

その言葉を聞いた途端、中止になぞされて堪るかと言う様に、箒はそう捲し立てる。

 

「そ、そうか? ホントに大丈夫か?」

 

「大丈夫だ! 問題無いと言っている!! さあ、行くぞ! 一夏!!」

 

コレ以上何か言われる前に、箒は一夏の手を取って、駅のホームへと向かう。

 

「ちょっ!? ちょっと待てって、箒!! 切符買わないと!!」

 

引っ張られながらそんな事を言う一夏であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アミューズメントパーク行きの電車の中………

 

休日と言う事も在ってか、電車の中は混雑しており、一夏と箒はドアから直ぐの場所に立っている。

 

「ほ、箒………大丈夫か………?」

 

「な、何とかな………」

 

アチラコチラから押されて、少々窮屈な思いをしている一夏と箒。

 

すると………

 

その満員の乗客の中から、スーッと手が伸びて来て、箒の尻に向かう。

 

痴漢だ。

 

「クッ、う………」

 

箒は満員電車の乗客に圧迫され、気づいていない。

 

(うふふふふ………)

 

伸ばしている手の主である中年親父は、脂ぎった笑みを浮かべて、遂に箒の尻に手を伸ばす。

 

が、次の瞬間!!

 

ガッ! と足が伸びて来て、痴漢の手を蹴り飛ばす。

 

(ガッ!? この………!!)

 

蹴って来た相手を睨み付けようとした中年親父だったが………

 

「…………」

 

その視線よりも鋭い視線を、蹴った主………一夏は中年親父に向けた。

 

(ヒイッ!?)

 

その視線を浴びた中年親父は、乗客の犇めく車内を無理矢理移動して、逃げる様に去って行く。

 

(全く………)

 

「ん? 一夏? 如何かしたか?」

 

「いや、何でも無いよ、箒」

 

一夏の様子に気付いた箒が声を掛けて来るが、一夏は心配させまいとそう言う。

 

「そうか………!? うわっ!?」

 

と其処で電車が大きく揺れ、箒は乗客の圧力に押し潰されそうになる。

 

「! 箒!」

 

すると、一夏は見かねたのか、箒の傍へ移動すると箒をドア側へ移動させ、自分が間に入り、ドアに手を付いて、箒を乗客から守る様にする。

 

「! 一夏!」

 

「これぐらい男として当然だよ。な~に、鍛えてるから如何って事無いさ」

 

驚く箒に、一夏は笑いながらそう言う。

 

「す、スマン………」

 

必然的に一夏と密着する形となった箒は、赤くなって縮こまってしまう。

 

(ん? 何か良い匂いが………)

 

と其処で、一夏が何やら良い匂いが漂って来るのを感じる。

 

(箒から?………香水か?)

 

やがてその匂いの発生源が箒である事に気付き、香水かと推測する。

 

(良く見ると………箒の奴………化粧してるのか?)

 

そして箒を良く観察していると、薄くだが化粧をしている事に気付く。

 

途端に、箒の事が眩しく見えてくる一夏。

 

(ア、アレ!? 何だ!? おかしいぞ!? 何か急に動悸が早く………)

 

自分で分からないまま、動悸が早くなり、頬が紅潮する。

 

(マズイ! 箒の顔………真面に見れない!)

 

そんな顔を箒に見せるワケには行かず、顔を背ける一夏。

 

「…………」

 

しかし、箒の方も箒の方で、赤くなって縮こまっていた為、そんな一夏の様子に気付く事は無い。

 

「「…………」」

 

結局、アミューズメントパークの最寄駅に着くまでの間………

 

2人は互いに赤面したまま顔を背け合い、一言も会話を交わさなかったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アミューズメントパーク………

 

そんなこんな有りつつも、漸くアミューズメントパークへと到着した。

 

「つ、着いたな………」

 

「そ、そうだな………」

 

先程の電車での事が頭から離れないのか、何処かぎこちない2人。

 

園内は、数少ない営業を続けているアミューズメントパークと言う事もあってか、人でごった返している。

 

家族連れの他に、デートと思われる若い男女の姿も在る。

 

(や、やはり、カップルで来ている者達も居るのだな………私と一夏もそういう風に見えるのだろうか………そ、その………カ、カップルに………)

 

心の中で1人悶々とした思いを抱える箒。

 

「………き………うき………箒!」

 

「!?」

 

そこで一夏の声が聞こえて来て、箒はハッとする。

 

「さっきから呼んでたのに………如何したんだ?」

 

怪訝そうな顔で、一夏が尋ねて来る。

 

「い、いや! 何でも無い! 少し考え事をな………」

 

少々強引に誤魔化す箒。

 

「そうか………ま、いっか。じゃ、箒。最初は何に乗る?」

 

そんな箒に少々疑問を抱きながらも、一夏はそう尋ねる。

 

「そ、そうだな………」

 

そう言われて箒は、園内を見回す。

 

「あ、アレなんか如何だ!?」

 

そう言って箒が指差したのは………

 

ジェットコースターだった。

 

「ジェットコースターかぁ………まあ、定番だな」

 

「行くぞ、一夏」

 

「ああ………」

 

2人はそのまま、ジェットコースターの方へと進んで行くと、並んでいる人達の列へと入る。

 

 

 

 

 

そして暫し時間が経ち、2人の順番が回って来る。

 

幸か不幸か、一夏と箒が座らされた席は………

 

最前列だった。

 

「よりによって最前列か………」

 

「何をだらし無い事を言っている、一夏。こんな物、ロージェノム軍との戦いに比べれば、何て事は無いだろう?」

 

若干ビビッている様子を見せる一夏に、箒がそう言う。

 

「そういう怖さとは、別のベクトルの怖さなんだよなぁ。こう言うのは………」

 

「ええい! 言い訳をするな! それでも男か!?」

 

若干煮え切らない一夏の態度に、箒は思わず怒鳴る。

 

[発車致しま~す!]

 

と其処で、係員からのアナウンスが響いたかと思うと、コースターが動き出した。

 

「うおっ!? いよいよか………」

 

一夏がそう呟く中、コースターはガタゴトと音を立ててレールを登って行く。

 

「結構高いなぁ………」

 

最初の落下の為の山が高い事に、一夏がそう言う。

 

「…………」

 

箒も緊張して来たのか、黙り込んでしまう。

 

そして遂に、コースターはスタート用の山を登り切り、いよいよ自由落下へと入ろうとする。

 

「「…………」」

 

目の前のバーを握り、息を呑む2人。

 

その次の瞬間!!

 

遂にコースターは自由落下を開始する!!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?」

 

「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

悲鳴を挙げる2人。

 

しかし、コースターは無情にもドンドンとスピードを上げて行くのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

「ゼエ、ゼエ、ゼエ………箒………大丈夫か?」

 

「ハア、ハア、ハア………何とかな………」

 

漸くジェットコースターから降りた2人は、早くもヘトヘトになっている。

 

「まさか宙返り100連発なんて物があるとは思わなかった………」

 

「未だに天地が引っ繰り返っている様な気がする………」

 

此処のジェットコースターには何と!

 

宙返り用のループが100個連続で備え付けられており、その100回転を味合わされた一夏と箒は、心身共に疲労していた。

 

「にしても………ふふふ」

 

「? 何だ? 急に笑って?」

 

「いや~、まさか箒があんな可愛い悲鳴挙げるとは思わなかったからさ」

 

「なっ!?」

 

最初の自由落下の際に思わず挙げてしまった悲鳴を思い出し、箒は赤面する。

 

「わ、忘れろぉっ! 忘れるんだぁっ!!」

 

箒は思わず、一夏の記憶を消そうと、両手で頭を押さえて握り潰そうとする。

 

「イダダダダダダダッ!? 潰れる! マジ潰れるって! トマトみたいに!!」

 

堪らず悲鳴を挙げる一夏だが、箒は一夏の頭を離そうとしない。

 

(マ、マズイ!? 意識が………)

 

段々と意識が遠くなって行く一夏。

 

今までの思い出が、走馬灯の様に脳裏を過り始める。

 

すると其処で………

 

ある1つの思い出が頭に浮かんだ。

 

「ア、アレッ!? そう言えば、箒!! 前にも1度遊園地に行った事無かったっけ!?」

 

「えっ!?」

 

その台詞で、箒は漸く一夏を解放する。

 

「ハア! ハア! 助かった………」

 

「前にも………1度だと?」

 

「ああ、確か………箒が転校する少し前位じゃなかったかな?」

 

「転校する少し前………」

 

そう言われて箒は、記憶を思い起こす。

 

そして箒の脳裏に、ある1つの思い出が浮かぶ。

 

「! そう言えば………前に1度、一夏と私………そして姉さんと千冬さん。そして神谷と一緒に」

 

「そうそう。いや~、俺もすっかり忘れてたけど、今思い出したよ」

 

懐かしそうな顔で語り出す一夏。

 

「確かあの時………箒が迷子になったんだけど、自分が迷子じゃないって意地張って、迷子センターに行かなかったんだよなぁ。園内放送で呼び掛けても無視してさ」

 

「う、煩い! 私が迷子になったのではない! 一夏達が迷子になったんだろう!?」

 

恥ずかしい思い出を穿り出され、箒は赤面しながら怒鳴る。

 

「オイオイ、未だ言うのかよ………あの時は見付けるのに苦労したんだぜ?」

 

「!!」

 

と其処で、箒は再び思い出す。

 

迷子になった自分を最初に探し出してくれたのが、一夏だった事を………

 

「そう言えば………あの時、最初に見付けてくれたのはお前だったな………」

 

「ああ………何度放送で呼び出しても来ないから、アニキが痺れを切らせて探しに出ちまったから、俺もそれに続いてさ」

 

「…………」

 

箒は、段々とその時の事を鮮明に思い出す。

 

自分を見付け出してくれた一夏に、箒はプライドから余計な事を怒鳴ってしまっていた事を………

 

(でも、本当は………嬉しかった………寂しくて寂しくて………泣き出しそうだった時に………一夏は現れた………)

 

段々と頬が紅潮して行く箒。

 

「………その………一夏」

 

「ん?」

 

「あの時は言えなかったが………ありがとう、見付けてくれて」

 

紅潮した表情のまま、箒は一夏にそう言う。

 

「! お、おう………」

 

そんな箒の姿を見た一夏に動揺が走る。

 

(ま、まただ………また動悸が早く………何なんだよ、コレ………)

 

原因不明の症状に襲われ、内心で若干焦る一夏。

 

彼がその症状が何なのか知る日は来るのだろうか?

 

「じ、じゃあ箒! 次のアトラクションに行くか!?」

 

「う、うむ………」

 

一夏がそう言って立ち上がると、箒も続いて立ち上がり、次のアトラクションに向かって行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

この作品ももう1組の注目カップル、一夏と箒のデート回です。
スーパー朴念仁一夏とツンデレ箒の組み合わせ………
その様子はご覧の通りです。

しかし、今回で大分接近したのも事実。
次回は彼等も合流して、更に波乱が………

アンケートなのですが、漸く新作の新サクラ大戦×ウルトラシリーズが形になってきまして………
タイトルは『新サクラ大戦・光』です。

そろそろ投稿開始しようかと思うのですが………
この天元突破ISは過去作を再投稿している状態なので、新作の方と同時投稿する事が出来ます。
しかし、1度に2作品読むのは大変かなと考え、新作の方は別の日に投稿する方が良いかなと思いまして、皆様にアンケートを取らせて頂きます。
因みに、別の日の場合、天元突破ISの1日前の土曜日、時間は同じ午前7時としようかと思います。
もしその外に日時が良いと言う意見が多かった場合は、再度アンケートを行います。
ご協力の程、よろしくお願い致します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第76話『誰がニセモンだぁ、コラァッ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第76話『誰がニセモンだぁ、コラァッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひょんな事から剣道部の部長より、アミューズメントパークのペアチケットを貰った箒。

 

部長の励ましも有り、箒は有りったけの勇気を振り絞って、一夏をデートへと誘った。

 

そして迎えたデート当日………

 

道中から何とも甘酸っぱい青春を繰り広げながら、一夏と箒は順調にデート(一夏がそう思っているかは怪しいが)を楽しんでいる。

 

懐かしく大切だった思い出も互いに思い出せ、今のところは順調だった。

 

しかし………

 

その後2人のデートは、思わぬ方向へと進む事になる………

 

 

 

 

 

アミューズメントパーク・園内某所………

 

「美味いなぁ、このソフトクリーム」

 

「うむ………」

 

売店で購入したソフトクリームを、ペロペロと舐めている一夏と箒。

 

「あ、箒」

 

「? 何だ?」

 

「クリーム着いてるぞ」

 

突然話し掛けられて、箒が一夏の方を向くと、一夏は箒の口の端に着いていたクリームをヒョイッと指で掬い、自分で舐める。

 

「!?!?!?」

 

「子供みたいだったな………って? 如何した? 顔真っ赤だぞ?」

 

一瞬で茹蛸の様になる箒に向かって、一夏はいけしゃあしゃあとそう言い放つ。

 

「~~~~っ!! お前はぁっ!!」

 

その態度に怒った箒は、持っていたソフトクリームを、一夏の顔に叩き付ける。

 

「ブッ!? な、何だよ、箒ぃ。何怒ってんだ?」

 

「フンッ!!」

 

箒はそのまま、そっぽを向いてしまう。

 

「あ~あ、勿体無い………」

 

そして一夏は、顔に着いたクリームを手で掬っては舐めて行くのだった。

 

 

 

 

 

その後、顔を洗ってスッキリした一夏は、箒と共にアトラクション巡りを再開する。

 

コーヒーカップで、どちらがより長く回転に耐えられるか勝負し、終了後2人仲良く(自主規制)したり………

 

回転ブランコで、ISとは違う空を飛ぶ様な感覚を体験し………

 

「次はアレなんて如何だ? 箒?」

 

ふと其処で一夏が指差したのは、メリーゴーランドだった。

 

「ば、馬鹿者! あんな物に乗れるか!?」

 

本当は乗ってみたい箒だが、プライドからそう言ってしまう。

 

「ええ、そうか? 結構楽しいと思うぞ?」

 

「お、男のクセに! メリーゴーランドに乗りたいのか!? お前は!?」

 

「まあまあ、そんな事言わず、物は試しで」

 

「あ! オイ! 引っ張るな!!」

 

一夏はそう言うと箒を引っ張って、半ば強引にメリーゴーランドへと連れて行くのだった。

 

 

 

 

 

「お~! 結構動くなぁ?」

 

「…………」

 

呑気にしている一夏に対し、箒は真っ赤になって縮こまっている。

 

何故なら、メリーゴーランドは混み合っており、一夏と箒は、2人で1つの木馬に跨る事になってしまったからだ。

 

具体的に言うと、箒が前に乗り、それを後ろから一夏が抱えていると言う状況である。

 

(死、死ぬ! 死んでしまう!!)

 

恥ずかしさの余り、箒の頭からは湯気が噴き出す。

 

「アハハハハ! 楽しいなぁ、箒」

 

しかし、そんな箒の様子等気付かずに一夏は楽しんでいる。

 

………爆発しろ。

 

暫くして、メリーゴーランドは停止。

 

2人は係員の誘導に従って、出口から出て行く。

 

「結構面白かったなぁ、箒」

 

「…………」

 

箒に向かってそう言う一夏だが、箒は真っ赤になったまま沈黙している。

 

「? 箒? 如何したんだ?」

 

「………お前のそう言う所が恨めしい」

 

「??」

 

箒の言葉の意味が分からず、首を傾げる一夏だった。

 

と其処で、子供のものと思しき歓声が聞こえて来る。

 

「?」

 

「何だ?」

 

箒と一夏が、その歓声の聞こえて来た方向を見遣ると、其処には………

 

日曜日の朝に活躍していそうな恰好をした連中が、子供達相手に握手をしていた。

 

「ハハハハハッ、ありがとう」

 

「俺達のショーはこの後直ぐにステージでやるからな。見逃すんじゃないぞ!」

 

黄色の女戦士と、青の男戦士が子供達にそう言う。

 

如何やら、ヒーローショーの宣伝らしい。

 

「へえ~、ヒーローショーもやってるのか………」

 

(やはり一夏も男だな………)

 

興味津々な一夏と、そんな一夏を見遣る箒。

 

すると………

 

「偽物だーーーーっ!!」

 

突如、1人の男の子がそう声を挙げた。

 

「このレッドに入ってる奴、本物じゃないぞぉ! 見たもん俺! 隙間から見えた目、違う奴のだったもん!!」

 

如何やら、覗き穴からスーツアクターの姿が見えてしまい、偽物だと言っている様である。

 

「むっ?」

 

「アチャ~、最近ああいう生意気な子供増えたよなぁ~」

 

その様子に箒は不快感を表し、一夏は苦笑いする。

 

「嘘ぉ………嘘だろ、兄ちゃん」

 

と、その男の子の隣に居た、その男の子の弟が泣き出し始める。

 

「バッカ、一弘! 俺見たもん!!」

 

しかし、兄は構わずそう言い張る。

 

すると………

 

「誰がニセモンだぁ!?コラァッ!!」

 

赤い男戦士が、その男の子に向かって怒鳴った!!

 

「!?」

 

「えっ!? あの声………」

 

すると箒と一夏は、その声に聞き覚えを感じる。

 

「見ろ! 弟泣いてるじゃねえか!! オメェ兄貴だろ!? 兄貴だったらなぁ!! 弟の夢、壊すんじゃねぇ!!」

 

「「…………」」

 

男の子と弟、そして他の子供達とその保護者達も、突如豹変した赤い男戦士に目が点になっている。

 

「だ、駄目っすよ、アニキ………じゃなかった! レッド!!」

 

「お、落ち着いて! 神谷………じゃない! レッド!!」

 

それを見て青の男戦士と黄色の女戦士が、赤い男戦士を止めに掛かる。

 

「ウルセェッ!!」

 

しかし、赤い男戦士は収まらない。

 

遂には園内のスタッフまでもが寄って来て、赤い男戦士を引っ張って行ったのだった。

 

「…………」

 

「な、なあ、箒………さっきの赤いヒーローの声って………」

 

「馬鹿な! そんな事が有る筈が無い!!」

 

一夏が何か言う前に否定する箒。

 

「いや、でも………アレは確かに、アニキだった気が………」

 

しかし、一夏は重ねてそう言う。

 

「だとしても! 何故神谷があんな格好をして! こんな場所に居るのだ!?」

 

「いや、分からないけど………俺ちょっと行って来る!!」

 

しかし、一夏は如何しても気になったのか、赤い男戦士が連れて行かれた先へ向かう。

 

「オイ! 一夏!! クウッ!!」

 

仕方無く、箒もその後に続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アミューズメントパーク・ステージ横の控室………

 

「ったく! 最近のガキは可愛気が有りゃしねえ!!」

 

ヘルメットを脱いだ赤い男戦士………神谷が愚痴る様にそう言う。

 

「だからって、ムキになり過ぎだよ、アニキ」

 

「そうそう。子供達、ビックリしてたよ?」

 

同じ様にヘルメットを脱いでいる青の男戦士と黄色の女戦士………弾とシャルが、そんな神谷にそう言う。

 

「だってそうだろ!? 態々ニセモンだなんて抜かしやがって! それでも兄貴か!?ってんだよ!!」

 

未だ怒りが収まっていない様子の神谷だったが………

 

其処で控室の扉がノックされた。

 

「あ、ハイ。どうぞ」

 

「失礼します………」

 

シャルが返事を返すと、恐る恐ると言った様子で一夏が入って来る。

 

「一夏!?」

 

「あん? 一夏?」

 

弾が驚きの声を挙げ、神谷も出入り口を見遣る。

 

「アニキ! やっぱりアニキだったんだ! それに、弾にシャルロットまで!?」

 

一夏も、神谷達の姿を認めて驚きの声を挙げる。

 

「…………」

 

その後ろでは、デートを中断された箒が、不機嫌そうな様子で立っている。

 

「如何して、一夏が此処に居るの?」

 

其処でシャルが、一夏にそう尋ねる。

 

「ああ。箒の奴が、剣道部の部長から此処のチケット貰ってな」

 

(((成程、そう言う事か………)))

 

一夏の言葉と、その後ろで不機嫌そうにしている箒の姿を見て、察しが付く神谷達。

 

「其れで、アニキ達は如何して此処に? しかも、そんな格好して」

 

「ああ。実は俺は、此処のヒーローショーを取り仕切ってる剣友会の会長とちょいとした縁が有ってな………」

 

神谷によると、大事な番組の収録と今回のヒーローショーの日程が重なってしまったらしい。

 

しかも、主力の殺陣師達は番組の方へ行ってしまうので、ヒーローショーの方が人手が足りなくなる。

 

其処で会長は、高い身体能力を持ち、顔見知りである神谷に、ヒーローショーのスーツアクターの代役をしてくれないか?と依頼して来たのだ。

 

そんな面白そうな話に、神谷が飛び付かない筈も無く、知り合いのピンチと在って了承。

 

今回のヒーローショーは、所謂戦隊系のショーだった為にシャルや弾にも声を掛け、人数を揃えたのである。

 

「そうだったのか………」

 

「いや、ビックリしたぜ。アニキから話を振られた時には、最初冗談かと思ったよ」

 

「ホント、流石に予想外だったよ」

 

青い戦士のスーツに身を包んだ弾と、黄色い戦士のスーツに身を包んだシャルがそう言う。

 

「ハハハハハハッ! 良い経験だろ!?」

 

そんな2人に、赤い戦士のスーツに身を包んだ神谷は、呵々大笑しながらそう言う。

 

「まあ、確かにね」

 

「寧ろ俺は嬉しいッスよ。まさか、自分がTVのヒーローに成れるなんて思ってもいなかったからな」

 

「良いな~、3人共………」

 

そんな3人の様子を羨ましがる一夏。

 

「…………」

 

その後ろでは、箒が相変わらず不機嫌そうに立っている。

 

と、その時………

 

「皆! 大変よ!!」

 

そう言う台詞と共に、舞台袖へ続く方の扉が開き、まるで司会のお姉さんの様な格好をした虚が姿を現す。

 

「虚さん!?」

 

「先輩!?」

 

普段の彼女からは想像も出来ない格好で現れた彼女に、一夏と箒は驚きの声を挙げる。

 

「えっ!? 一夏くん!? 箒さん!? 如何して此処に!?」

 

虚の方も、何故か居る一夏と箒の姿を見て驚く。

 

「如何したんですか?虚さん」

 

と其処で、弾が先に虚の要件から聞こうとする。

 

「ああ、そうだった………今連絡が有って、敵の幹部役の人達が途中で事故に遭って、来れないそうです!」

 

「!? んだと!?」

 

「そんな!?」

 

虚からの報告を聞いた神谷とシャルが、驚きの声を挙げる。

 

「ヤバイぞ! 今からじゃ、代役の人を呼んでも間に合わない!!」

 

「如何しましょう………子供達、皆楽しみに待ってくれてるのに………」

 

弾は慌て、虚はショーを楽しみに待っていてくれている子供達に申し訳なく思う。

 

「クソッ! アクションが出来る男と女が1人ずつ居りゃあ………」

 

と神谷はそう言った瞬間、一夏と箒に目を向けた。

 

「えっ? ア、アニキ?」

 

「お前………まさか………?」

 

一夏と箒が嫌な予感を感じた瞬間!

 

「一夏! 箒! お前等、敵の幹部役で出ろ!!」

 

「「やっぱりー!!」」

 

神谷は2人に向かってそう言って来た。

 

「馬鹿も休み休み言え!!」

 

「そうだよ、アニキ! いきなり役者の真似事なんて………出来るワケないよ!!」

 

相変わらずの神谷の無茶振りに、箒と一夏は戸惑う。

 

「大丈夫だ! ヒーローショーだから、アクションが出来りゃ問題はねえ! 台詞はアドリブで構わねえ!!」

 

「無茶苦茶だ!」

 

「ウルセェッ! 無理を通して道理を蹴っ飛ばせ! 其れがグレン団のやり方だ!!」

 

「俺からも頼む! 一夏!!」

 

「箒さん! お願い!!」

 

すると其処で、弾とシャルも頭を下げて来る。

 

「弾!?」

 

「シャル!?」

 

「一夏くん! 箒さん! 私からもお願いします!! 子供達の為にも!!」

 

更に、虚も頭を下げて来る。

 

「うっ!?」

 

「うう………」

 

親友達に揃って頼まれ、首を横に振れる程、一夏と箒は薄情では無かった。

 

「わ、分かったよ………」

 

「クッ! 何で事に………」

 

「すまねえ、一夏!」

 

「ありがとう! 助かるよ、箒さん」

 

渋々ながらも承諾した一夏と箒に、弾とシャルが感謝する。

 

「よっしゃあ! 時間がねえ!! 早速稽古だ!!」

 

すると神谷は、2人を引っ張り稽古へと向かう。

 

「ちょっ!? アニキ!!」

 

「そんなに引っ張るな!!」

 

一夏と箒の抗議も聞かず、神谷は稽古へと向かうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アミューズメントパーク・ステージ………

 

「よし、神谷くん。先ずは司会者が子供達にヒーローを呼ぶ様に呼び掛ける。そしたら、幹部達と怪人、戦闘員が出て来てアクションを見せる。そして、客を襲おうとするところで、神谷くん達が其々の場所から現れて名乗りとポーズを決めるんだ」

 

「おう!」

 

殺陣師からのアクションの流れの説明を受けている神谷。

 

「弾くんは中段の左側から。シャルロットちゃんは中段右側から登場してくれ」

 

「ハイ!」

 

「分かりました!!」

 

弾とシャルも、元気良く返事を返す。

 

「虚ちゃん。準備は良いかい?」

 

「ハイ。何時でも行けます」

 

司会の進行表を頭に叩き込んでいた虚が、殺陣師の呼び掛けにそう答える。

 

「良し! 悪役も準備は良いかな?」

 

「あ、えっと………」

 

そう言われて曖昧に返事を返す一夏。

 

今彼は黒い鎧を着た騎士の様な、悪の男幹部の衣装に身を包んでいる。

 

傍には戦闘員達と、怪人の着ぐるみが控えているが、女幹部………箒の姿が無かった。

 

「アレ? 一夏くん。箒ちゃんは?」

 

「それが………」

 

一夏が申し訳無さそうに背後の舞台袖を振り返る。

 

「…………」

 

其処には、半分隠れる様にコソコソとしている箒の姿が在った。

 

「箒ちゃん? 如何かしたのかい? 衣装が合わなかったかい?」

 

「い、いえ………そ、そう言うワケではないんですが………」

 

殺陣師の問い掛けに、箒は吃りながら返事を返す。

 

「じゃあ如何したんだい?」

 

「そ、其れは………」

 

「オイ、コラ!! 何やってんだ!? ショーまで時間ねえんだぞ!? とっとと出て来い!!」

 

と、痺れを切らした神谷が舞台袖に行くと、箒の手を取り無理矢理引き摺り出す。

 

「ま、待てっ………!!」

 

箒がそう叫んだ時には、その姿が完全に露わになる。

 

彼女は今、まるでビキニアーマーの様な露出の高い衣装………悪の女幹部の衣装に身を包んでいた。

 

「うわぁ………」

 

その姿に、シャルが思わず頬を赤らめる。

 

「………!!」

 

一夏も無言で目を逸らす。

 

「こ、この衣装は如何にかならないんですか!? ろ、露出が多過ぎます!!」

 

箒は茹蛸の様に真っ赤になりながら、殺陣師にそう訴え掛ける。

 

「そう言われても困るなぁ………其れは女幹部の正式な衣装だし」

 

「そうだぜぇ、篠ノ之さん。今時其れぐらい普通だぜ」

 

殺陣師がそう言うと、弾からもそう言う声が飛ぶ。

 

「し、しかしだなぁ………」

 

「何色気付いてんだ。見せる相手はガキだぞ。其れともオメェ………まさかショタコンの気でもあんのか?」

 

尚も渋る箒に向かって、神谷がそんな事を言い放つ。

 

「! 貴様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

其れを聞いた箒は、衣装に付けられていた女幹部用の武器である鞭を手に取り、神谷に向かって振るう。

 

「おっと!」

 

難無く其れを躱す神谷。

 

「ええい! 避けるな!!」

 

「ハッ! ホッ! よっと!!」

 

そのまま連続で鞭を振るう箒だが、神谷はアクロバティックな動きを繰り返して躱し続ける。

 

「おおっ! 良いアクションだ! 箒ちゃんの方は表情の演技も抜群だ!! コリャ行けるよ!!」

 

その光景を見ていた殺陣師が、そんな歓声を挙げる。

 

(だ、大丈夫なのかな………?)

 

只1人、一夏だけが不安を抱えている。

 

程無くして、神谷と箒のコントの様な遣り取りが終わると、殺陣師は更に演技指導を続ける。

 

神谷を除いたメンバーは、スーツアクターと言う慣れない事に悪戦苦闘しながらも、やはり実戦経験が働いたのか、みるみる上達を見せた。

 

「よおし、良いぞ! 其れじゃあ、1回通しでやってみようか!?」

 

と、殺陣師がそう言い、一夏達は本番前の通し稽古を開始する。

 

 

 

 

 

通し稽古開始………

 

「皆~! こんにちは~!!」

 

「「「「「こんにちは~」」」」」

 

司会のお姉さん役の虚が、客席に座っている子供の役をやっているスタッフに向かって、マイクを片手にそう呼び掛ける。

 

「う~ん、ちょっと声が小さいかな? もう1度元気な声で! さん、ハイ!!」

 

「「「「「こんにちは~!!」」」」」

 

虚がそう言うと、スタッフ達は先程より大声で挨拶する。

 

「は~い、皆とっても元気ですね~。其れじゃあ早速! 僕達のヒーローを呼んでみよう~!!」

 

続いて虚は、ヒーロー達への呼び掛けを始める。

 

しかし、流れて来たのは禍々しいBGMだった。

 

「フンッ! 愚かな人間共め!! こんなくだらぬ遊戯施設で楽しい思いをしているなど、馬鹿馬鹿しいにも程が有る!!」

 

そして若干棒読み気味ながら、男幹部役の一夏がステージに現れる。

 

「よおく聞け! 今から此処は我等が占領する! 貴様達は全員我等の奴隷となるのだ!!」

 

続いてそう言う台詞と共に、女幹部役の箒が現れる。

 

そして、ステージの彼方此方から戦闘員がアクロバティックな動きで飛び出して来ると、最後に怪人が現れる。

 

「やれ! この世を暗黒に染めるのだ!!」

 

と、一夏がそう叫んだ瞬間!!

 

「そうはさせないぜ!!」

 

そう言う声が響き渡ったかと思うと、ステージの彼方此方からスモークが噴き出す。

 

そして、ステージ中段の左側から弾の扮する青い戦士

 

右側からはシャルの扮する黄色い戦士。

 

最後に、ステージの最上部より、神谷の扮する赤い戦士が現れる!!

 

「コレ以上! オメェ達の好きにはさせねえぜ!!」

 

「現れたな、邪魔者共! やれいっ!!」

 

神谷がそう言い放つと、箒がそう言って床に鞭を打つ。

 

途端に、戦闘員達がイーッ!とかキーッ!という奇声を挙げながら神谷達に襲い掛かって行く。

 

「行くぜっ! トオォッ!!」

 

「トオウッ!!」

 

「ハアッ!!」

 

気合の掛け声と共に、上段、中段から飛び降りる神谷達。

 

「ソイヤッ! ソイヤッ!!」

 

「チュウッ! チュウッ!!」

 

「ハイッ! ハイヤッ!!」

 

そのまま、戦闘員達を相手に大立ち回りを演じ始まる。

 

時折間を置き見得を切ったり、本当に攻撃が入った様に見えるアクションは大迫力である。

 

「ええい! 行けぃっ!!」

 

シャギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!

 

と、その様子に一夏が苦々しげな顔をすると、今度は怪人を神谷達に嗾ける。

 

「うおっ!?」

 

「くうっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

怪人相手に苦戦………する演技をする神谷達。

 

「大変! 皆ー!! 一緒にヒーロー達を応援しようー!! せーの!!」

 

「「「「「頑張れー!!」」」」」

 

そこで虚が客席に向かってそう呼び掛けると、観客役のスタッフがそう声を挙げる。

 

「! 聞こえるぜ! 皆の応援がよぉ!!」

 

「力が漲って来た!!」

 

「行っくよーっ!!」

 

途端に主題歌が掛かり、神谷達は息を吹き返した様に怪人を押し始める。

 

「「「トドメだ!!」」」

 

そして遂に、必殺技が放たれ、怪人が爆発を上げて、スモークに紛れて退場用の出入り口に消える。

 

「ぬうっ! オノレェ! またしても!!」

 

「覚えていろ!!」

 

一夏と箒も悔しそうな顔をしながら、舞台袖へと消えて行く。

 

そして神谷達は、ステージの中央に陣取り、其々に決めポーズを決める。

 

「カットッ!! 良いね~! 最高だよ!!」

 

と、そこで殺陣師からカットが掛かり、拍手をしながら舞台袖から現れる。

 

「いや、素晴らしいよ、君達! まるでプロの様なアクションだったよ! 是非、ウチに欲しいくらいだよ!」

 

「まあ、其れ程でも有るけどよぉ」

 

手放しで神谷達を褒める殺陣師と、それを受けて若干調子に乗る神谷。

 

「よし! 後は本番に備えるだけだ!! 今みたいな調子で頼むよ!!」

 

「任せとけって! 良いか、お前等!! 絶対に成功させんぞ!!」

 

「おう!」

 

「勿論!」

 

「頑張りましょうね!」

 

神谷の呼び掛けに、弾、シャル、虚は威勢の良い返事を返す。

 

「うう~、緊張して来た~」

 

「…………」

 

一夏は緊張の様子を見せ、箒はまだ羞恥で顔を赤く染めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして………

 

客席の入場が開始され、子供達とその保護者が次々に集まって来る。

 

満席になった客席で、子供達はショーの始まりを今か今かと待っている。

 

 

 

 

 

ステージ裏………

 

「ふ~~………やっぱ怪人の着ぐるみはキツイな~」

 

怪人役のスーツアクターが、スーツを脱いで待機している。

 

「でも、子供達が楽しみにしてるし………頑張らないとな」

 

やがて気合を入れると、怪人のスーツを着込もうとする。

 

と、その時!

 

スーツアクターは背後に気配を感じる。

 

「!? ガッ!?」

 

その次の瞬間には、スーツアクターは後頭部を殴られ、気を失ってしまう。

 

殴った人物は、スーツアクターの身体を引っ張ると、見つけ難そうな場所へと隠す。

 

そして、怪人のスーツを自ら纏った。

 

「…………」

 

不気味な雰囲気を醸し出しながら、怪人のスーツに入った人物は、ステージへと向かう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

デートを楽しむ一夏と箒でしたが…………
何とヒーローショーの助っ人に来ていた神谷達と遭遇。
そのまま済し崩し的に助っ人に参加する事になってしまいます。

持ち前の身体能力を何とか通し稽古をものにする一同。
いよいよ本番となりますが、そこで不穏な影が………

アンケートですが、土曜朝7時が良いという意見が1番となりましたので、
新作『新サクラ大戦・光』の投稿は、今度の土曜日の朝7時にさせて頂きます。
尚、土曜の日中はリアルの都合で逐次の感想への返信が出来ませんので、夕方以降に纏めて返信させて頂く形になります。
ご了承下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第77話『これぐらい慣れっこさ』

昨日から、新作『新サクラ大戦・光』の投稿を始めました。

よろしければそちらもご覧ください。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第77話『これぐらい慣れっこさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アミューズメントパーク・ステージ………

 

ヒーローショーの始まりを待っている子供達の前に、司会のお姉さんを務める虚が姿を現す。

 

「皆~! こんにちは~!!」

 

「「「「「こんにちは~!」」」」」

 

虚が呼び掛けると、子供達から疎らに返事が返って来る。

 

「う~ん、ちょっと声が小さいかな? もう1度元気な声で! さん、ハイ!!」

 

「「「「「こんにちは~!!」」」」」

 

虚が再度呼び掛けると、今度は多くの子供達から返事が返って来る。

 

「は~い、皆とっても元気ですね~」

 

「い、いよいよだな………」

 

「クッ! 本当にこんな格好で人前に出なければならんのか………」

 

遂にその時が訪れ、緊張の様子を見せる一夏と、未だ羞恥心が残っている箒。

 

「それじゃあ早速! 僕達のヒーローを呼んで………ア、アレ!?」

 

其処で、虚が思わず戸惑いの声を挙げる。

 

何故なら、怪人がもう登場してしまっていたからだ。

 

「!? ア、アレ!? 段取りと違うぞ!?」

 

「何だ!? 如何なっている!?」

 

一夏と箒も、先にステージに出てしまった怪人に困惑する。

 

「と、兎に角! 俺達も出て行かないと!!」

 

「クッ!」

 

仕方無く、一夏と箒もステージへと飛び出して行く。

 

「フンッ! 愚かな人間共め!! こんなくだらぬ遊戯施設で楽しい思いをしているなぞ、馬鹿馬鹿しいにも程が有る!!」

 

「よおく聞け! 今から此処は我等が占領する! 貴様達は全員我等の奴隷となるのだ!!」

 

台本通りの台詞を言うと、続いて戦闘員達がステージに登場する。

 

その戦闘員がアクロバティックな動きをして、観客の目を集めている隙に、一夏と箒は怪人の傍に寄る。

 

(ちょっ! 如何したんすか!?)

 

(台本と違うではないか!)

 

小声で怪人に向かってそう言う一夏と箒。

 

「…………」

 

しかし、怪人は何の返事も返さない。

 

(何か言ったら如何だ!!)

 

(箒! 落ち着け! あの、ホントに如何したんですか?)

 

と、思わず怒りを露わにした箒を宥めながら、一夏は重ねて怪人に尋ねる。

 

と、その瞬間!!

 

突如怪人は、一夏へと襲い掛かった!!

 

「えっ!? ちょっ!?」

 

「一夏!?」

 

一夏と箒は慌てるが、怪人は次々に攻撃を繰り出して来る。

 

「何だ何だぁ?」

 

「仲間割れか?」

 

「如何なってるの?」

 

突然怪人と、幹部役である一夏と箒が争い始め、子供達も困惑する。

 

「え、えっと………如何なってるの!?」

 

虚も、最早司会の仕事を続けられず、困惑するしかなかった。

 

「ちょっ!? 止めろって!!」

 

戸惑うばかりの一夏に、怪人は容赦無く攻撃を加える。

 

と其処で、一夏へと繰り出そうとしていた左の拳に、箒が振るった鞭が巻き付く。

 

「いい加減にしろ! 悪ふざけにしては度が過ぎるぞ!!」

 

怪人の動きを封じてそう叫ぶ箒。

 

その次の瞬間!!

 

怪人の着ぐるみの左腕が弾け飛び、中から機械仕掛けの刃の様な爪の付いた凶悪な腕が出現した!!

 

「なっ!?」

 

「!?」

 

忽ち鞭は千切れ飛び、鋼鉄の腕は一夏へと延びる。

 

「うおおっ!?」

 

紙一重で回避する一夏だったが、床に命中した鋼鉄の腕は、コンクリートを豆腐の様に砕いた。

 

「お、お前! スーツアクターの人じゃないな!?」

 

其処で一夏は、怪人の中身がスーツアクターの人では無いと悟る。

 

「何者だ!? 正体を表せ!!」

 

先程の鋼鉄の腕を見て、箒はISを展開させ、雨月と空裂を構えてそう言い放つ。

 

「フ、フフフフ………今頃気付いたのか? 相変わらずのマヌケぶりだなぁ!!」

 

と、其れを見た怪人がそう言い放ったかと思うと、背中から8本の装甲脚が飛び出して来た!!

 

「!? まさか!?」

 

其れを見た一夏が、或る予想を立てると、

 

「ヒャッハーッ!!」

 

世紀末の様な叫びと共に、怪人の着ぐるみからまるで脱皮するかの様に、アラクネを装着したオータムが姿を見せる!

 

先に姿を見せていた機械の腕は、オータムの左肩へと繋がっている。

 

如何やら、以前の戦いで失った左腕の部分にサイボーグ手術を施したらしい。

 

「! 亡国企業(ファントム・タスク)!!」

 

「お前! スーツアクターさんを如何したんだ!?」

 

「安心しろ。ちょいと眠って貰っただけだぜ………何せソイツにもコレから始まるショーの見物人になってもらうんだからな」

 

完全に機械と化している左腕の指をカシャカシャと鳴らしながら、邪悪な笑みを浮かべてそう言い放つオータム。

 

「如何だぁ? この左腕はよぉ? 顔だけじゃなくて、腕までこんなにしてくれてよぉ………テメェ等、もう殺すだけじゃアタシの怒りは収まらねえぜ」

 

「何言ってんだよ!? 自業自得だろう!!」

 

「その通りだ! 全て貴様が招いた結果だ!!」

 

「ウルセェッ!!」

 

と其処で、オータムが激昂しながら右手の指を鳴らす!

 

その途端、客席を3方から囲む様にゴーレムⅢが現れた!!

 

「!? 無人IS!!」

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

その姿を確認した客席のお客達は、悲鳴を挙げて逃げ出そうとする。

 

しかし、ゴーレムⅢは観客達を取り囲み、逃がそうとしない。

 

「良いか! 妙な気を起こすんじゃねえぞ!! 少しでも抵抗する様子を見せたら………客席が血の海になるぜ!」

 

オータムがそう言い放つと、ゴーレムⅢ達が一斉に客席へ超高密度圧縮熱線砲を向ける。

 

「「「「「!?」」」」」

 

観客達は悲鳴を挙げる事も出来ずに、ただ恐怖に震えるしかなかった。

 

「卑怯なっ!」

 

「良いねぇ、その顔………最高だぜ」

 

苦々し気な顔をする箒を見ながら、オータムはヘラヘラと笑ってそう言い放つ。

 

「貴様ぁ!!」

 

「駄目だ、箒! 堪えるんだ!!」

 

思わずオータムへ斬り掛かって行きそうになる箒だったが、一夏が押し留める。

 

「おうおう~、優等生だね~、一夏ちゃ~ん。よ~し、それじゃあ、コッチへ来い。時間を掛けてじっくりと嬲ってやるぜ」

 

オータムはそんな一夏に向かって、人差し指でコッチへ来いのジェスチャーをする。

 

「オイ! 裏のお前等も! 妙な真似はするんじゃねえぞ!!」

 

そしてその直後、ステージの方を向いてそう言い放つ。

 

(チッ! バレてたか………)

 

(マズイよ! コレじゃ下手に動けないよ!!)

 

(クソッ! 人質さえいなけりゃ!!)

 

コッソリと動こうとしていた神谷、シャル、弾が先んじて動きを封じられ、苦々しげに話し合う。

 

「…………」

 

と其処で、一夏が無言でオータムの方へと歩み寄って行く。

 

「! 一夏!!」

 

箒が声を挙げる中、遂にオータムの眼前に立つ一夏。

 

「フッフッフッフッ………漸くお前を嬲れる日が来たぜ」

 

「………観客には手を出さないと約束しろ」

 

楽し気な笑みを浮かべるオータムに、一夏は凛とした態度でそう言い放つ。

 

「あ~、約束してやるぜ………お前が最後まで倒れなかったなぁ!!」

 

とその瞬間!!

 

オータムは、サイボーグ化している左腕を一夏の鳩尾に叩き込んだ!!

 

「!?!?」

 

激痛に一夏の顔が歪む。

 

「ゴハッ!?」

 

膝から崩れそうになったが、根性で耐える一夏。

 

「一夏!!」

 

「動くんじゃねえ! 人質が居るって分かってんのか!?」

 

「くうっ!?」

 

箒が動こうとするが、オータムのその言葉で封じられる。

 

「だ、大丈夫だ、箒………こんなの、全然効いちゃいないさ」

 

足を震わせながらも、一夏は不敵に笑ってそう言い放つ。

 

「一夏………」

 

「嘘吐けよ、足が震えてるぜ。痩せ我慢野郎が」

 

オータムはそんな一夏の姿を嘲笑するが………

 

「痩せ我慢上等! 痩せ我慢こそ(オトコ)の美学だ!!」

 

一夏は、オータムに向かってそう言い放つ。

 

「チッ! そうかよ。だったら………好きなだけ痩せ我慢しやがれ!!」

 

其れにイラついた様な様子を見せたオータムは、背の装甲脚も併せて、一夏をタコ殴りにし始める。

 

「ガッ!?………グッ!?………ゲハッ!?」

 

オータムからの攻撃が命中する度に、一夏の身体は揺らめき、まるで下手なダンスでも踊っているかの様に見える。

 

「ううっ!?」

 

「い、一夏………」

 

その凄惨な光景に、虚は思わず目を背け、箒も奥歯を噛み締める。

 

「「「「「…………」」」」」

 

観客達も、言葉を失って黙り込んでいる。

 

(一夏!!)

 

(アニキ! 如何にかならないのかよ!?)

 

ステージ裏で、その光景を見ているシャルと弾も焦りを募らせる。

 

(チイッ! あの客席に居る無人機が一瞬でも隙を見せりゃあ………ん?)

 

と其処で、観客席を見ていた神谷が“何か”を発見する。

 

(オイ、シャル! 彼処見ろ!!)

 

そして、観客席の一部を指しながらシャルに呼び掛ける。

 

(えっ?………!? アレは!?)

 

そう言われて、客席を見遣ったシャルは、『あるもの』を発見する。

 

(こりゃ行けるぜ!)

 

神谷はそう呟き、不敵な笑みを浮かべる。

 

一方………

 

オータムからリンチを受けていた一夏は………

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

既に何10発と装甲脚とサイボーグ腕の攻撃を喰らい、全身ズタボロのボロ雑巾状態となっていた。

 

しかし、其れでも決して膝を折らず、片腕を押さえながらしっかりと両足で立っている。

 

「な、何てタフな野郎なんだ………生身でISの攻撃を受けて、未だ立ってられるなんてよぉ………」

 

人並み外れた一夏の頑丈さに、オータムは不気味さを感じ始める。

 

「自慢じゃないけど、今まで散々な目に遭って来たんでね………これぐらい慣れっこさ」

 

右目の上と左頬が腫れ、額と鼻から血を流しながらも、一夏は不敵に笑う。

 

「この………クソガキがあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

オータムは、サイボーグの左腕で一夏に強烈なボディブローを喰らわせる!!

 

「!? ゲボッ!?」

 

内臓がやられたのか、一夏は口から盛大に吐血する。

 

「!? 一夏!!」

 

「ま、まだまだ………」

 

しかし其れでも………

 

一夏は決して倒れなかった。

 

「クソ! クソッ! クソォッ!! 何で倒れねえんだぁ!?」

 

するとオータムは激昂し、サイボーグの左腕で一夏の右腕を摑む!!

 

「!? グウッ!?」

 

一夏の顔が歪むと、そのまま右腕を摑んだ状態で宙吊りにする。

 

「コレなら如何だあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

そして次の瞬間!!

 

サイボーグの左腕で、一夏の右腕を思いっきり握った。

 

ベキボキバキッ! と言う乾いた枝を折る様な音が響き渡る。

 

一夏の右腕の骨が砕け散る音だ!!

 

「!? ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

一夏が悲鳴を挙げ、その右腕が複雑に折れ曲がる。

 

「う………あ………」

 

流石にこの痛みには耐えられなかったか、一夏の顔が苦痛に歪む。

 

だが、其れでも尚………

 

一夏は倒れない!!

 

「チキショウッ! チキショウがぁ!!………もう良い」

 

またも激昂する様子を見せるオータムだったが、其処で急に冷めた様子になる。

 

そして、サイボーグの左腕の手で手刀を作る。

 

指が鋭い爪となっている手で作った手刀は、文字通り鋭い刃物と化す。

 

「本当は這い蹲って命乞いしたところを殺してやろうと思ったけど………止めだ。もう殺してやるよ」

 

そう言って、刃物と化した左腕の爪をペロリと舐める。

 

「! 貴様!!」

 

「動くんじゃねえ! 人質殺してぇのか!?」

 

再度動こうとした箒を、そう言って制しようとしたオータムだったが………

 

「もう………もう我慢出来ん!!」

 

箒の怒りは限界を突破しており、構わずオータムへ斬り掛かった!!

 

「なっ!? ぐあっ!?」

 

不意打ちに近かった為、オータムは真面に喰らってしまい、ステージの上に倒れる。

 

「クソがぁ! 上等だ!!」

 

と、上半身を起こしたオータムはそう叫び、直ぐにゴーレムⅢ達に観客を殺す様指示しようとする。

 

その瞬間!!

 

「今だ! 簪ぃっ!!」

 

ステージ裏から、神谷のそう言う声が聞こえたかと思うと………

 

銃声が連続で3発鳴り響き、観客席を取り囲んでいたゴーレムⅢ達の頭が吹き飛ばされた!!

 

「なっ!?」

 

オータムが驚きの声を挙げる中、電子頭脳を撃ち抜かれたゴーレムⅢ達は次々に沈黙する。

 

「やったぜ!!」

 

「流石! 簪さん!!」

 

「お蔭で助かったぜ!!」

 

次の瞬間には、ステージ裏から神谷達が飛び出して来る。

 

その視線は客席の一部………

 

銃口から硝煙の上がっているヘヴィマシンガンを構えたスコープドッグを装着している簪の姿が在った!

 

何故簪がこんな場所に居たのか?

 

其れは彼女の「趣味」が関係している。

 

実は彼女、普段のクールを通り越した寡黙な様子からは想像し難いが、アニメや漫画、特撮と言った作品に出て来るヒーローが大好きなのである。

 

今日もこのアミューズメントパークでヒーローショーが行われると言う情報を入手し、観客として来ていたのである。

 

其処で事件に巻き込まれ、如何しようかと考えていたところ、その姿を見付けた神谷達からプライベート・チャンネルへの通信が入り、隙を窺っていたのだ。

 

「か、簪様!?」

 

「虚さん………良い仕事してたわ………」

 

簪の存在に全く気付いていなかった虚は驚きの声を挙げ、簪は先程までの虚の仕事ぶりを褒める。

 

「クソがぁ!! よくもぉ!!」

 

其れに怒ったオータムが、右手にマシンガンを出現させ、簪を狙う。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

だが其処で、箒がオータムに組み付く。

 

「うおっ!?」

 

「紅椿! 出力全開!!」

 

そしてそう叫ぶと、絢爛舞踏が発動し、全展開装甲を展開。

 

まるでロケットの様なスピードで、一気に上空高くへとオータムごと舞い上がった!!

 

「!? 箒!?」

 

「あんにゃろ! 頭に血が昇ってやがる! マズイな!!」

 

シャルが驚きの声を挙げると、神谷がそう叫ぶ。

 

正直、オータム如きは今の箒の敵では無い。

 

だが、今の箒は怒りに囚われ、冷静さを失っている。

 

不意を衝かれれば危ない!

 

「箒!………うっ!?」

 

慌てて、自分も白式で追おうとした一夏だったが、其処で今までの反動が出たのか、糸の切れた操り人形の様にバタリと倒れてしまう。

 

「! 一夏!!」

 

弾が慌てて駆け寄り、助け起こす。

 

「クソッ! 弾! シャル! 一夏は任せたぞ!! 俺は箒を追う!!」

 

「分かった!」

 

神谷がそう言うと、シャルも一夏の方へと向かう。

 

「グレンラガン! スピンオン!!」

 

その次の瞬間には、神谷はグレンラガンとなり、箒とオータムを追って上空へと舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アミューズメントパーク・上空………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

「チイッ!!」

 

雲よりも高い高度で、箒とオータムは激しくぶつかり合っている。

 

装甲脚から放たれる弾丸を、空裂のエネルギー刃で迎撃し、ビットを射出する箒だったが、オータムは飛んで来たビットを右手のカタールで弾き飛ばす。

 

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

其処で箒は、瞬時加速(イグニッション・ブースト)でオータムに突撃し、二刀で斬り掛かる。

 

「ぐうっ!!」

 

咄嗟に、右手のカタールとサイボーグの左腕で受け止めるオータム。

 

「貴様ぁ! よくも! よくも一夏をぉっ!!」

 

箒はそのまま、パワーに任せてオータムを押し切ろうとする。

 

「チイッ! 何をムキになってやがる! あんなクソガキ相手によぉ!!」

 

「黙れぇっ!! 貴様に一夏を侮辱する資格は無い!!」

 

そう叫ぶと、箒は更に雨月と空裂を押し込む。

 

「ぐうっ!? クソがぁっ!!」

 

しかし、オータムが一旦退いて箒の体勢を崩すと、一気に弾き飛ばす。

 

「クッ!?」

 

空中で回転しながらも、如何にか姿勢を取り直す箒。

 

「ははん? さてはお前………あのガキに惚れてんなぁ?」

 

「!? な、何をっ!?」

 

オータムの一言に、箒の顔が紅潮する。

 

「ハッ! 図星か!? 姉が姉なら、妹も妹ってか!? あんな屑の何処が良いんだか!?」

 

オータムは吐き捨てる様にそう言う。

 

「! 黙れえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

その言葉に箒の怒りは更にヒートアップし、何も考えずにオータム目掛けて突撃してしまう。

 

「へっ! 馬鹿が!! 考え無しに突っ込んで来るとはよぉ!!」

 

するとその瞬間、オータムは右手からエネルギー・ワイヤーをネットの様にして放った!!

 

「!? しまった!?」

 

箒が避けようとした瞬間にエネルギー・ワイヤーは命中し、拘束されてしまう。

 

「ぐうっ!?」

 

「丁度良い………お前のIS、頂くぜ! 何せどっかの馬鹿が一足飛びで開発した第4世代だ。オマケに絢爛舞踏なんて便利な機能も持ってるそうじゃねえか」

 

オータムはそう言いながら、剥離剤(リムーバー)を取り出す。

 

「クソォッ!!」

 

拘束から逃れようと藻掻く箒だが、エネルギー・ワイヤーは外れない。

 

「貰ったぜ! 紅椿!!」

 

そして遂に、剥離剤(リムーバー)が箒に取り付けられようとした瞬間!!

 

突如飛来したサングラス状のブーメランが、剥離剤(リムーバー)を真っ二つにして破壊した!!

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

箒とオータムが驚いていると、

 

「燃える男の火の車キイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

炎に包まれたグレンラガンが、雲を突き破って出現し、オータムに蹴りを喰らわせる!!

 

「!? ガアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

オータムがブッ飛ばされ、同時に箒を拘束していたエネルギー・ワイヤーも外れる。

 

「神谷!」

 

「オイオイ箒。1人で突っ走んなよ。俺だって、コイツには一夏をボコボコにしてくれた礼がしたいんでな」

 

グレンブーメランを回収すると、両手の指の骨をゴキゴキと鳴らしながらそう言うグレンラガン。

 

「いや! 此奴だけは………此奴だけは私の手で倒す!!」

 

しかし、箒は引き下がらず、雨月と空裂を握り締めたままグレンラガンの前に出る。

 

「オイ! 俺にもやらせろって!!」

 

「煩い! 此奴は私が倒すんだ!!」

 

グレンラガンの予想通り、頭に血が昇って居る箒は大分危うい。

 

「チッ! 相変わらず頑固な奴だぜ! じゃあコレで文句ねえだろ!!」

 

すると其処で!!

 

グレンラガンは急上昇したかと思うと、両足を合わせて箒目掛けて急降下!!

 

合わせていた両足がドリルへと変わる!!

 

「!? なっ!?」

 

箒が驚きの声を挙げた瞬間に、グレンラガンは箒の紅椿へと突っ込んだ!!

 

………その瞬間!!

 

箒とグレンラガンが、緑色の光に包まれる!!

 

「なっ!? 何だ!? ええいっ!!」

 

オータムが目を覆いながら、装甲脚の機関銃を発砲する。

 

しかし、銃弾は全て緑色の光に阻まれて弾かれてしまう。

 

その次の瞬間!!

 

光が弾けて、その中から………

 

『グレンラガンが紅椿を装着している様なマシン』が現れた!!

 

「紅いボディは男の情熱!!」

 

「揺れる椿は女の心!!」

 

「「真紅合体!!」」

 

神谷と箒の声が響き渡り、『グレンラガンが紅椿を装着している様なマシン』がポーズを決める!

 

「「『紅椿ラガン』!!」」

 

「俺を!」

 

「私を!」

 

「「誰だと思ってやがる(いる)!!」」

 

グレンラガンの新たなる合体形態………『紅椿ラガン』が誕生した!!

 

「あ、紅椿ラガンだと!?」

 

「………ってオイ! 神谷!! 如何言う積りだ!?」

 

オータムが驚いていると、紅椿ラガンの身体の顔が動いて、箒の声が発せられる。

 

「何って、コレならどっちが倒すかで揉めなくて済むだろ?」

 

そんな箒に、神谷はあっけらかんとそう言う。

 

「無茶苦茶だぞ!!」

 

「ウルセェ! 妥協案出してやったんだから、我慢しろ!!」

 

そのまま上の顔とボディの顔とで言い争う紅椿ラガン。

 

かなりシュールな光景だ………

 

「………ハッ!? ええい!! ふざけんのもいい加減にしろ!!」

 

其処で我に返ったオータムが、再びエネルギー・ワイヤーを発射。

 

紅椿ラガンは再び拘束される。

 

「むっ!?」

 

「あっ!? し、しまった!!」

 

「ハッタリ噛ましやがって! 何が紅椿ラガンだ! 死ねぇっ!!」

 

左手で手刀を作り、紅椿ラガンへ襲い掛かるオータム。

 

だが!!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

神谷の叫びが木霊すると、紅椿ラガンの展開装甲が展開!!

 

その勢いで、エネルギー・ワイヤーを引き千切った!!

 

「!? なっ!?」

 

「おりゃあっ!?」

 

「がぐあっ!?」

 

驚くオータムに、カウンターでパンチを繰り出す紅椿ラガン。

 

オータムがブッ飛ばされると、展開した装甲部分にエネルギーの幕が出来る。

 

しかも、通常の紅椿と違いピンク色では無く、緑色に輝く螺旋エネルギーの幕だ。

 

「行くぜ! 箒!!」

 

「ええい! 仕方が無い!!」

 

神谷と箒がそう会話を交わしたかと思うと、紅椿ラガンが一瞬ブレて、次の瞬間にはソニックブームを発して加速。

 

ブッ飛ばしたオータムを追い越したかと思うと、その先で止まり、ブッ飛んで来たオータムをアッパーで打ち上げる!!

 

「ガッ!?」

 

今度は真上へと打ち上げられたオータムだったが、またも紅椿ラガンはその先へ先回り。

 

キックを噛まして、下へと蹴り落とす!!

 

「ガアッ!!」

 

そのまま、ブッ飛ばしてはその先へ先回りして再びブッ飛ばすと言う、ド○ゴンボールばりの高速戦闘を披露する紅椿ラガン。

 

「ば、馬鹿なっ!? 何て出鱈目なスピードだ!?」

 

ブッ飛ばされているオータムは碌に抵抗も出来ず、ピンボールの様に何度も何度も弾き飛ばされ、シールドエネルギーを消耗して行く。

 

「チキショウがぁ! 舐めるなぁ!!」

 

しかし其処で、装甲脚にも在るPICを全て全開にして、如何にか押し留まる。

 

「むっ!?」

 

「死ねぇ! クソガキィッ!!」

 

其処へ姿を現した紅椿ラガンに、左腕を向けて突っ込んで行く。

 

「何のぉ!!」

 

しかし其処で、紅椿ラガンの両手に雨月と空裂が出現!!

 

突っ込んで来たオータムの左腕を、雨月が斬り飛ばす!!

 

「むがっ!?」

 

「せいやあぁっ!!」

 

そして、虚を衝かれたオータムの土手っ腹に、何処ぞの黒いライダーの様に空裂を突き刺した!!

 

「!? ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーっ!?」

 

絶対防御のお蔭で、致命傷にはならなかったものの、激痛にオータムの醜い顔が更に醜く歪む。

 

「むんっ!!」

 

空裂を引き抜くと、一旦距離を取る紅椿ラガン。

 

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

オータムが夥しく血が流れる腹部を必死に抑えている。

 

「箒! トドメだ!!」

 

「分かっている!!」

 

と其処で神谷と箒がそう言い合うと、胸のグレンブーメランが独りでに外れる。

 

「必殺っ!!」

 

そのグレンブーメランを右手に握ると、オータム目掛けて投げ付ける。

 

途中で2つに分離したグレンブーメランは、高速回転しながらオータムを何度も斬り付ける!!

 

そのまま、オータムを空中に磔にする様に拘束する!!

 

すると、紅椿ラガンの展開装甲から放出されているエネルギーが更に増し、紅椿ラガンの全身を包んで行く。

 

そして、紅椿ラガンが緑色に光る光球へと変化したかと思うと………

 

その光の形が、ドリルを象る!!

 

巨大なドリルと化した紅椿ラガンは、そのままオータムへと突っ込んで行く!!

 

「「ドリル! シャインスパアアアアアァァァァァァーーーーーーークッ!!」」

 

そしてそのまま、オータムを貫く!!

 

「ギヤアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

凡そ、女のものとは思えない悲鳴が木霊し、オータムのアネクラが爆発する。

 

その爆発を背に、紅椿ラガンが空中で静止すると、爆発の中から1つに戻ったグレンブーメランが飛んで来て、紅椿ラガンの胸に装着される。

 

「やったか?」

 

「分からん。ハイパーセンサーに反応は無いが………まあ、生きていたとしても、もう何か出来る様な身体では無い筈だ」

 

紅椿ラガンが爆発の方を振り返ると、神谷と箒がそう言い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方………

 

IS学園・医務室………

 

「全身打撲に内蔵破裂………右腕は複雑骨折の上、出血多量………そう聞かされた時! 私がどんな気持ちで居たと思う!?」

 

ベッドの上に寝かされているミイラ男状態の一夏に向かって、千冬がそう言う。

 

「ご、ゴメンよ、千冬姉………」

 

その迫力の前に、一夏は謝る事しか出来ない。

 

「気にすんな、一夏! オメェのそれは名誉の負傷だぜ!!」

 

だが神谷は、無責任にそんな事を言う。

 

「神谷! 大体お前が居ながら、何故一夏がこんな目に………うっ!?」

 

と、千冬が今度は神谷に向かって怒鳴ると、突然頭を抑えて蹲る。

 

「ああ! 駄目ですよ、織斑先生! この間の健康診断で高血圧の気が有るって言われたじゃないですか!?」

 

そんな千冬を慌てて真耶が介抱する。

 

「く、薬………!? しまった!? 職員室に!?」

 

慌てて薬を服用しようとした千冬だったが、運悪く職員室に忘れて来てしまった様だ。

 

「取りに行きましょう。さ、摑まって!」

 

「ク、ウ………」

 

真耶に肩を貸して貰い、千冬はスゴスゴと退散する。

 

「アイツも大変だなぁ」

 

((((アニキ(神谷、お前、貴方)の所為だよ(ですよ、だろ)………))))

 

他人事の様に呟く神谷に、一夏達は心の中でツッコミを入れるのだった。

 

「其れにしても驚きましたよ………アレだけの怪我にも関わらず、その傷の殆どが自力で治癒し掛けているんですから」

 

其処で虚が、一夏に向かってそう言う。

 

千冬が言った通り、普通ならばICU送りでも不思議ではない怪我だったのだが、何と救急車が到着した頃にはその傷が殆ど自然治癒し掛けていたのである。

 

そのお蔭で、一夏はその立場も有りIS学園の医務室での入院で済んだ。

 

「いやぁ。俺も、最近何だか怪我の治りが早い気がしてたんだけど………まさかココまでなんて」

 

「人間なんて………案外そんなモノよ」

 

自分でも驚いている一夏に、簪がそう言う。

 

(簪さんの場合は何か違う力が働いてる気がしないでもないんだけど………)

 

其れを聞いていたシャルは、内心でそんな事を思う。

 

「まっ、兎に角。治るまで安静にしてるんだな。その間にロージェノム軍が出たら、俺達に任せておけ」

 

弾が一夏に向かってそう言う。

 

「すまない、弾」

 

「一夏………」

 

と其処で、一夏が寝ているベッドの直ぐ横に椅子を置いて腰掛けていた箒が声を掛ける。

 

「あ、箒………」

 

箒の姿を見て沈黙する一夏。

 

(………オイ)

 

(うん………)

 

すると其処で、神谷とシャルが他の一同を連れて医務室から出て行く。

 

「…………」

 

簪だけは、一瞬一夏の方を振り返ったが、箒と見詰め合っている姿を見ると、再度踵を返して医務室から出て行くのだった。

 

「「…………」」

 

夕日で赤く染まっている保健室の中で、沈黙している一夏と箒。

 

「一夏………すまない!」

 

すると突然、箒が一夏に向かって頭を下げる。

 

「えっ!? ど、如何したんだよ、箒!?」

 

突然頭を下げた箒に、一夏は困惑する。

 

「私が………私がお前を誘ったりしなければ、こんな事には………」

 

顔を伏せたまま、箒はそう言う。

 

如何やら、彼女なりに責任を感じているらしい。

 

「何言ってんだよ、箒。別にお前の所為じゃないだろう?」

 

「いや、私の所為だ! 私が浮かれていたから、お前がこんな目に………!?」

 

すると其処で、箒の頭に一夏の左手が乗せられた。

 

「気にすんなよ、箒」

 

「だ、だが………」

 

「俺が気にすんなって言ってんだ! だから気にすんじゃねえ!!」

 

「!?」

 

神谷の様な口調でそう言う一夏に、箒は驚く。

 

「如何しても気にするってんなら、そうだな………怪我が治ったら、また2人で出掛けるか?」

 

「!? 何っ!?」

 

「今日の仕切り直しって事で………如何だ?」

 

半分包帯で覆われている顔を向け、一夏は箒にそう尋ねる。

 

「あ、ああ………分かった」

 

「よっし! んじゃ、約束だぜ!」

 

そう言うと、一夏は左手を箒の頭から離して小指を立てる。

 

「………!?」

 

箒は一瞬戸惑ったものの、やがて自分の左手の小指を一夏の小指を絡ませるのだった。

 

その顔が赤く見えるのは夕日に染まっているのか、其れとも別の理由なのか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

一夏の入院を知って駆け付けたセシリア達が医務室で騒ぎを起こし、千冬に鎮圧されたのは言うまでも無い………

 

そして一夏は………

 

僅か3日後に、何事も無かったかの様にケロリと退院したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

不審者の正体は何とオータム!
観客を人質に取り、一夏をリンチしますが、偶然来ていた簪の存在で逆転。
一応、彼女のヒーロー好きって設定は生きてるって事で。

そして一夏をリンチされた箒は激昂してオータムに挑みますが、そこでグレンラガンにが乱入。
そして新合体形態『紅椿ラガン』が誕生しました。
遂に葬られたかに見えるオータムですが、果たして………

さて次回は………
東映まんがまつり第2弾です!
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第78話『会いたいって言うから来てやっただけさ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第78話『会いたいって言うから来てやっただけさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この物語は、IS学園宛てに届けられた、1通の手紙から始まった。

 

何時もの様に、東京湾から首都を奇襲しようとしたロージェノム軍を蹴散らし、夕刻にはIS学園へと帰還したグレン団。

 

そのまま食堂で食事を摂っていると、真耶が姿を現す。

 

「あ! 天上くん。此処に居たんですね」

 

「ん? 何だよ、メガネ姉ちゃん?」

 

天丼を頬張りながら、真耶の方を見遣る神谷。

 

「其れが………IS学園宛てに、神谷くんへのお手紙が来てまして………織斑先生が渡して来いって」

 

真耶は、そう言うとポケットから封筒を取り出し、神谷に差し出す。

 

「俺に?」

 

神谷は空にした天丼の丼を置くと、真耶から封筒を受け取る。

 

そして宛名を見てみるが、其処に書かれていたのは“神谷の名前”では無く………

 

『グレンラガン様へ』という宛名だった。

 

「何だこりゃ?」

 

「アニキ………と言うより、グレンラガンを名指しで?」

 

「如何言う事?」

 

神谷が首を傾げ、覗き込んで来た一夏とシャルも、怪訝な顔をする。

 

他の一同も要領を得ない。

 

「何だってんだ、一体?」

 

と其処で、神谷は封筒の封を切る。

 

そして中に有った便箋を取り出すと目の前に広げ、読み始める………

 

 

 

 

 

『拝啓、グレンラガン様。

 

突然のお手紙、驚かれている事と存じます。

 

お許し下さい。

 

ですが、如何しても貴方様に伝えたい事が有ったのです。

 

私、グレンラガン様の事を………

 

お慕い申し上げております!!』

 

 

 

 

 

「!? ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?」

 

「こ、ここここ、コレって!?」

 

「ラララララ、ラブレターですわ!!」

 

シャルが驚きの声を挙げ、鈴とセシリアが顔を真っ赤にして慌てる。

 

「おお~~っ! やるね~、かみやん!」

 

「神谷って、やっぱりモテるんだね」

 

事の重大さが分かっているのかいないのか、そんな事を言うのほほんとティトリー。

 

「ちょっ! ちょちょちょちょ、神谷!! 一体誰から!?」

 

1番動揺しているシャルが、慌てて神谷に問い質す。

 

「少しは落ち着け、シャルロット」

 

そんなシャルの姿に、ラウラが呆れながらそう言う。

 

「何々? もしよろしければ、一目だけでもお会いしたいです。下記の住所にいらして下さい………『陣内 杏子』より」

 

「アレ? この住所って………確か病院よ?」

 

と神谷がマイペースに続きを読むと、ちゃっかり神谷の後ろから便箋を覗き込んでいた楯無が、其処に書かれていた住所を見てそう言う。

 

「良し! 明日行ってみっか!」

 

「ええっ!? 行くの!?」

 

あっけらかんとそう言う神谷に、シャルが驚きの声を挙げる。

 

「だって、態々手紙まで送って会いたいって言ってるんだ。応えてやらなきゃ男が廃る、ってもんだ」

 

「で、でも! その手紙の人! 神谷の事………す、好きだって………」

 

不安を露にするシャルだったが、

 

「おう! だから()()()()断らねえとな! 俺にはシャルが居る、ってよ!」

 

またも神谷は、あっけらかんとそう言うのだった。

 

「か、神谷………」

 

途端にシャルは、熱っぽい視線を神谷に向ける。

 

((((((だから、余所でやってくれよ(れよ)))))))

 

その遣り取りを見ていた一夏達は、心の中でそうツッコミを入れる。

 

「流石っすね、アニキ!」

 

「弾くん。今のは褒める様なところなの?」

 

弾が神谷を称賛すると、虚がそうツッコミを入れる。

 

「其れにしても………神谷さんにラブレター送るなんて………どんな人なのかしら?」

 

「先ず、真面な人間では無いな」

 

其処で、蘭が首を傾げながらそう言うと、箒がそう呟く。

 

「………其れって、僕も真面じゃないって事? 箒?」

 

其れを聞いていたシャルが、ジト目で箒を睨み付ける。

 

「あ、いや………別にそう言う積りでは………」

 

「もう! 如何して皆、神谷の良さが分からないのかなぁ!?」

 

自分だけは、神谷の良さを分かっているとでも言いた気にそう言うシャル。

 

((((((………結局惚気か))))))

 

そんなシャルに、一夏達は再び心の中でツッコミを入れる。

 

「…………」

 

そして、只1人この話題には乗らず、聞き耳を立てていただけの簪は、お馴染みのウドのコーヒーを啜るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日………

 

IS学園から2駅程離れた街の総合病院の前………

 

「手紙の住所に寄ると………この病院だよな?」

 

手紙に書かれている住所を見た後、病院の建物を見上げてそう呟く神谷。

 

「間違い無いよ。確かにこの住所だよ」

 

付き添いで来ていたシャルもそう言う。

 

そして、背後にはグレン団の面々の姿が在る。

 

「って、言うか………何で皆従いて来てるんだ?」

 

「そう言うお前こそ、何故従いて来ている?」

 

一夏がそんな一同にツッコむと、箒からツッコみ返される。

 

「い、いやぁ、俺は………ホ、ホラ! アニキの弟分だし!」

 

「理由になって無いわよ」

 

若干言葉に詰まりながらそう言う一夏だったが、鈴にバッサリと斬り捨てられる。

 

「ぐうっ!………じゃ、じゃあ! 皆は如何して従いて来たんだよ!?」

 

其処で、改めて一夏は何故従いて来たのかを一同に尋ねる。

 

「其れは………」

 

「「「「…………」」」」

 

箒、セシリア、鈴、ラウラ、蘭は答えられずに沈黙する。

 

「決まってるじゃん! 面白そうだからよ!!」

 

「同じく~」

 

しかし、楯無とのほほんは明け透けにそう言い放つ。

 

「俺も面白そうだったから従いて来た」

 

「わ、私は弾くんに連れられて、無理矢理………」

 

弾もそう言い、虚が申し訳無さそうにしている。

 

「皆が行くみたいだったから………流れで………」

 

「………ノリで」

 

そして、流れとノリで従いて来たと言うティトリーと簪だった。

 

「皆~」

 

「ま、良いじゃねえか! とっとと行くぜ!!」

 

そんな一同に呆れるシャルだったが、神谷は特に気にした様子も無く、病院の中へと入って行く。

 

「あ! 待ってよ、神谷!」

 

「アニキ!」

 

シャルと一夏が慌てて其れに続くと、他の一同も続いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受付で、『陣内 杏子』の病室を訊き、其処へと向かうグレン団。

 

最初受付からは、ガラの悪い男がイケメンと美少女を引き連れて来たので何事かと思ったが、IS学園の生徒である事を明かすと、直ぐに通された。

 

無駄にIS学園の高名が役に立った様である。

 

「え~と、125号室………125号室………」

 

廊下を歩きながら、病室の名札に目を通し、手紙の送り主である『陣内 杏子』を探している神谷。

 

「あ! アニキ! 此処じゃない?」

 

すると其処で、一夏が目的の病室を発見する。

 

「ああ、間違い無え、此処だな」

 

神谷も確認すると、イキナリドアを開けようとする。

 

「ちょっ! 待ってよ、神谷! ノックぐらいしないと………」

 

其れを見たシャルが、慌てて神谷を押さえると、彼に代わる様に病室のドアをノックする。

 

すると、中から足音が聞こえて来て病室のドアが開かれた。

 

「………どちら様ですか?」

 

30代半ばくらいと思われる女性が姿を見せ、神谷達を見ると怪訝な表情をする。

 

「おうおうおう! 耳の穴かっぽっじって良ーく聞きやがれ!! IS学園に………」

 

「アニキ! 此処病院だから!!」

 

其れを聞いた神谷は、お決まりの口上を決めようとしたが、流石に病院で其れはマズイと思った一夏が止めに入る。

 

「IS学園?………!? ひょっとして、グレンラガンの!?」

 

しかし、IS学園という単語を聞いた途端、女性はそう言って驚きを露にする。

 

「おうよ。如何にも俺がグレンラガンの天上 神谷様よ。そして俺の愉快な仲間達、グレン団のメンバーだ」

 

「「「「「誰が愉快な仲間達だ(ですか、よ)!?」」」」」

 

神谷のその紹介の仕方に、箒、セシリア、鈴、ラウラ、蘭がツッコミを入れる。

 

「まさか………本当に来てくれたんですか!?」

 

「おうよ! アンタがこの手紙を書いたのか?」

 

そう言って、女性に便箋を見せる神谷。

 

「あ、いえ。其れは私の娘が書いたモノで………と、取り敢えず、入って下さい」

 

すると女性………杏子の母親はそう言いながら、神谷達に入室を促す。

 

「邪魔するぜ」

 

「「「「「「失礼します」」」」」」

 

神谷が先立って中へと入り、一夏達が其れに続く。

 

病室は個室となっており、奥の方の窓際に車椅子に乗っている人物の姿が在った。

 

「杏子! 来てくれたわよ! グレンラガンの人が!」

 

「! まあ! 本当ですか!?」

 

杏子の母親が、車椅子の人物に向かってそう呼び掛けると、車椅子の人物は後ろを向きその姿を露わにする。

 

「えっ!?」

 

「嘘っ!?」

 

「まあ………」

 

「アラ………」

 

その人物の姿を見た弾、のほほん、虚、楯無が驚きの声を挙げる。

 

何故なら、車椅子に乗っていたのは………

 

如何見ても10歳か其処らにしか見えない「少女」だったからだ。

 

「貴方が………グレンラガンの?」

 

車椅子の少女………杏子は、神谷に向かってそう尋ねる。

 

「何だ? 疑ってんのか? 良いぜ! 見せてやるよ!!」

 

其れを聞いた神谷は、直ぐ様コアドリルを握った。

 

「!? ちょっ!? アニキ!!」

 

「グレンラガン! スピンオン!!」

 

一夏が止める間も無く、神谷は緑色の光に包まれ、グレンラガンの姿となる。

 

「如何だ?」

 

「まあ! 本当ですわ! 本当にグレンラガン様なのですね!!」

 

途端に、杏子は満面の笑みを浮かべてそう言う。

 

「あちゃ~」

 

「神谷ったら………」

 

「苦情が来たら………織斑先生に回すしかないか?」

 

「また胃が荒れるわね………」

 

一夏、シャル、楯無、簪がその光景を見ながらそう呟くのだった。

 

「信用したみてぇだな」

 

「ハイ! まさか本当に来てくれるなんて、感激です!」

 

そんな一同の言葉を聞き流し、神谷が杏子にそう言うと、杏子は嬉しそうな笑顔を浮かべてそう言う。

 

「嬉しいです………私………ずっと貴方様にお会いしたいと思っておりました」

 

「嬉しい事言ってくれるじゃねえか」

 

そんな杏子の姿を見て、神谷も呵々大笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

一夏達も杏子へ自己紹介を済ますと、そのまま彼女を囲む様にして談笑を始める。

 

其れ程広くない病室は、グレン団のメンバーで埋め尽くされ、杏子の母は気を遣ったのか、外へと出て行った。

 

「んじゃ早速だが、この手紙の事についてだがよぉ」

 

杏子の前に立つ神谷が、そう言って胸ポケットから封の開いた封筒を取り出す。

 

「あ、ハイ、其れなのですが………」

 

「ワリィが、俺にはこのシャルっていう恋人が居るからな。お前とは付き合ってやれねえ」

 

杏子が何か言おうとする前に、神谷はそう言い放った。

 

「ちょっ!? 神谷!?」

 

「アンタ! もっと言い方ってモンが有るでしょう!?」

 

「神谷さん! もっとオブラートに包んで言えないんですか!?」

 

途端に、シャルが驚きの声を挙げ、鈴とセシリアが非難の声が挙がる。

 

「あ、いえ、良いんです………何となくお察ししておりましたから」

 

しかし、意外にも杏子はそんな事を言って来た。

 

「えっ?」

 

「分かってたの?」

 

「ハイ………神谷様とシャルロット様の間に有る雰囲気が、何となく独特なものでしたから………ひょっとしてと思いまして………」

 

シャルと楯無がそう言うと、杏子はそう答える。

 

(この子………鋭い洞察力ね………其れに、年に似合わず落ち着いている………)

 

壁の花となっていた簪が、杏子の言葉を聞いてそんな事を思う。

 

しかし、簪………

 

其れはお前にも当て嵌まると思うぞ………

 

「えっと、その………こう言うのも何か変だけど………ゴメンね」

 

「いえ、そんな。お気になさらないで下さい、シャルロット様。今回の事は私の思慮の足りない浅はかな行いの招いた結果です。言うなれば、因果応報というのものです」

 

(………何か、時代掛かった話し方する子だな)

 

(この子、多分………由緒正しい家とかの出身なのね)

 

杏子の言葉が、妙に時代掛かっている事が気になる一夏と、そう推察する虚。

 

「んな畏まんなよ! 恋人にゃあなってやれねえが、ダチにならなれるぜ!」

 

と其処で、神谷が杏子に向かってそう言う。

 

「ダチ?………友達の事ですか?」

 

「おうよ! ダチは良いぞ! 喜びも苦しみも分かち合って笑える! それ以上何が要る!?」

 

「出たわね、神谷節」

 

「しかし、割と良い言葉だな」

 

そう言う神谷の言葉を聞いて、鈴とラウラがそう言い合う。

 

「そうですね………ありがとうございます、神谷様。嬉しいです」

 

「俺だけじゃねえぞ! 此処に居る連中は、今日から皆お前のダチだ! そうだろ!? お前等!」

 

其処で神谷は、一夏達に向かってそう問い掛ける。

 

「「「「「「勿論!」」」」」」

 

一夏達は一瞬顔を見合わせたが、やがて笑顔になると、杏子に向かってそう言った。

 

「皆さん………ありがとうございます!」

 

感激に目を潤ませながらも、杏子も其れに返礼する様に笑みを浮かべる。

 

その後、杏子の病室はちょっとした宴会騒ぎになる。

 

神谷が自分とグレン団の武勇伝を熱く語ったり、シャルや箒達とガールズトークで盛り上がったり、一夏のスーパー朴念仁ぶりに呆れたり………

 

あんまり騒ぎ過ぎて、看護師から叱られる程だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子と楽しく語り合っていたグレン団のメンバーだったが、やがて杏子の検査の時間が来て一旦杏子を見送ると、杏子の母と共に診察室の前で待機する。

 

「皆さん、本当にありがとうございます。娘の為に態々来ていただいて………」

 

杏子を待っている間に、杏子の母親は(杏子)の為に態々出向いてくれたグレン団の面々にお礼を言う。

 

「な~に、会いたいって言うから来てやっただけさ」

 

神谷は何時もの調子でそう答える。

 

「ところで………杏子ちゃんは、如何して車椅子に?」

 

と其処で一夏が、なるべく触れない様にしていたものの如何しても気になったのか、京子の母親にその質問をぶつける。

 

「ええ、1ヶ月程前に、交通事故で………」

 

「1ヶ月? でも、そんな怪我には見えませんでしたが?」

 

其れを聞いた虚が、そう疑問を呈する。

 

「………事故の怪我自体は治ったのですが、未だに足が動かないんです」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

其れを聞いたグレン団の面々の表情に、驚きが浮かぶ。

 

「お医者様が言うには、精神的な問題だと………杏子自身にも原因が分からないそうで、時間を掛けて直すしかないと………」

 

「そうですか………」

 

意外と重かった杏子の事情に、一同は思わず黙り込んでしまう。

 

「大丈夫だ! 気合が有りゃ直ぐにでも治らあっ!!」

 

だが、只1人神谷だけが、何時もと変わらぬテンションでそう言う。

 

「神谷………お前は黙っていろ」

 

「神谷。今回ばかりは、流石に気合だけじゃ………」

 

そんな神谷に、箒が呆れながらそう言い、ティトリーも懐疑的な様子を見せるが、

 

「馬鹿野郎! 無理を通して道理を蹴っ飛ばすんだよ!!」

 

「神谷さん! 今回ばかりは道理どころか無理をも蹴っ飛ばしてます!」

 

神谷の様子は変わらず、見かねた蘭がそうツッコミを入れる。

 

「兎に角だ! アイツはもう俺達のダチだ! ダチが困ってるんなら、助けてやるのが筋ってもんだろ!?」

 

「は~い、その部分には賛成~」

 

「確かに………その通りだな」

 

のほほんと弾がそう同意する。

 

一夏達も思う所が有るのか、無言で頷いている。

 

「決まりだな! よっし! 杏子が歩ける様になるまで、毎日来て応援してやろうじゃねえか!!」

 

其処でそう宣言する神谷だったが

 

「いや、神谷。毎日こんな人数で押し掛けたら流石に迷惑だよ?」

 

シャルがそうツッコミを入れて来る。

 

「んだよ、シャル。ノッてるとこに水差すなよ」

 

「まあまあ、神谷くん。シャルロットちゃんの言ってる事も尤もよ」

 

不満気な顔をする神谷に、楯無がやんわりとそう言って来る。

 

「………2人ずつくらい………毎日交代で来る方が………杏子ちゃんにも私達にも、負担は少ないわ」

 

更に簪も、そう意見を挙げる。

 

「そうしようよ。ね? 神谷」

 

「チッ! しゃねえなぁ………」

 

シャルに念を押され、神谷は渋々ながらもその案を受け入れる。

 

「皆さん………ありがとうございます」

 

そんなグレン団の姿に、杏子の母親は深々と頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日から、グレン団は代わる代わる杏子の見舞いへ行き………

 

彼女が歩ける様になる様に応援を始める。

 

その応援の甲斐が有ってか、杏子は今まで以上にリハビリに力を入れる様になって行った。

 

杏子が僅かでも歩ける様な様子を見せると、グレン団のメンバーは我が事の様に喜び、感激する。

 

 

 

そんなグレン団の奇妙な病院通いが続いていた或る日………

 

本日病院を訪れたのは神谷とシャル………

 

天気も良いので、病院の外へ出てリハビリをしようと神谷が提案し、杏子は母親に車椅子を押して貰い、病院の庭へと出た。

 

「良し、杏子! 早速始めるか!」

 

と或る程度進むと、不意に神谷がそう言う。

 

「ハ、ハイ!」

 

「杏子、頑張るのよ」

 

そう言って車椅子を止める杏子の母親。

 

「…………」

 

そして杏子は、足掛けから足を地面に下ろすと、両腕で肘掛けを摑んで立ち上がろうとする。

 

「頑張って!!」

 

「気合! 気合入れろ!!」

 

シャルと神谷が、両脇からそう激励する。

 

「う、うう………」

 

必死に足に力を入れようとする杏子。

 

しかし………

 

「!? あうっ!?」

 

結局、そのまま車椅子からずり落ちる様に転んでしまう。

 

「! 杏子!」

 

「大丈夫!?」

 

母親が慌て、シャルが慌てて助け起こして、車椅子に座り直させる。

 

「も、申し訳ございません………」

 

「如何した、杏子!? 気合が足りねえぞ!!」

 

車椅子に座り直した杏子に、神谷がそう叫ぶ。

 

「ちょっ! 神谷!」

 

「良いんです、シャルロットさん。神谷さんの言う通りです」

 

そんな神谷を諫めようとするシャルだったが、他ならぬ杏子自身が止める。

 

「正直に言いますと………私、怖いんです………ひょっとしたらもう歩けないかも………そう思うと、如何しても足が動かなくて」

 

表情に陰を浮かべて杏子はそう言う。

 

「杏子………」

 

「杏子ちゃん………」

 

杏子の母親は悲しそうな顔をし、シャルも言葉が出なくなる。

 

「馬鹿野郎! 弱音吐いてんじゃねえ!! それでもグレン団の一員か!? だったら歩けると思いやがれ!! そうすりゃ歩けんだろ!?」

 

しかし、神谷は相変わらずの神谷節を炸裂させる。

 

「………神谷さんはお強いんですね。羨ましいです」

 

そんな神谷の言葉を聞いて、杏子は弱々しく笑う。

 

と、その時!!

 

待機状態のシャルのISと、神谷の持っていた通信機が鳴った。

 

「!?」

 

「! ハイ! シャルロットです!!」

 

[シャルロットか!? 神谷も其処に居るな!? ロージェノム軍が出現した! 既に一夏達は出撃した! お前達も直ぐに現場へ向かえ!!]

 

シャルが応答すると、千冬からそう言う通信が送られて来る。

 

「分かりました! 直ぐに向かいます!!」

 

そう言って通信を切るシャル。

 

「チッ! 毎度毎度懲りねえ奴等だ………行くぞ、シャル!!」

 

「うん! ゴメン、杏子ちゃん! 行って来るね!!」

 

神谷とシャルはそう言うと、人気の無い場所へと移動。

 

其処で神谷はグレンラガンの姿となり、シャルはISを展開する。

 

「あ!」

 

杏子が声を挙げた瞬間!

 

グレンラガンとISを展開したシャルは、大空へと飛び上がる。

 

「神谷様………シャルロット様………」

 

既に空の彼方へと飛び去った2人を見上げ、杏子は両手を胸の前で組むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

お気づきの方も居るかも知れませんが、私って昭和っぽい古めかしい話が得意でして。
今回の話も昭和っぽい感じでのを目指して作成しました。

訳ありで病院に居る子供との交流ってのはお約束のパターンですからね。
しかし、ロージェノム軍出現の報を受けて、神谷とシャルは出撃。
ですが、そこで今までにない強敵とのバトルが待ち構えています。
果たして………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第79話『俺は逃げるんじゃねえぞ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第79話『俺は逃げるんじゃねえぞ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回ロージェノム軍が現れたのは、東京・川崎・横浜を中心として広がっている日本三大工業地帯の1つ………

 

『京浜工業地帯』だった。

 

何時もの如く、破壊と混乱を振り撒くロージェノム軍だったが、今日はその中に毛色の違う奴が居た。

 

トカゲのような頭部や昆虫の如き節足………

 

そして堅牢そうな外殻で身を包んだ濃い緑色の生物………

 

他のロージェノム軍が破壊活動を続ける中、その不気味な生き物は、ロージェノム軍が破壊した工場の残骸や燃料タンク、そして生産中だった機械等を、文字通りバリバリと貪り喰っている。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

「フフフフ、良いぞギルギルガン。もっと喰らえ! 喰らい尽くしてしまえ!!」

 

そんな怪獣………『ギルギルガン』の様子を見て、ガンメン部隊の部隊長が満足気な様子を見せつつそう言う。

 

更にその間にも、ガンメン部隊やレッドショルダー達の破壊行動が続く。

 

「待てぇ! ロージェノム軍!!」

 

と其処で、そう言う声が響き、神谷とシャルを除いたグレン団の一同が戦場へと現れる。

 

「むっ! 現れたな、グレン団!………うん? グレンラガンが居ない様だが?」

 

「へっ! お前達ぐらい! 俺等で十分って事だ!!」

 

「痛い目見ない内にとっとと帰る事をお勧めするぜ」

 

それを見たガンメン部隊の部隊長が、その中にグレンラガンの姿が無いのを見てそう言うが、一夏とグラパール・弾が挑発する様にそう言い放つ。

 

「ふんっ! 貴様等のその憎たらしい姿を見るのも今日限りだ!! ギルギルガン!! グレン団を始末しろ!!」

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

とガンメン部隊の部隊長がそう命じると、工場の残骸を貪っていたギルギルガンが、グレン団へと向かう。

 

「な、何だ!? アイツは!?」

 

「うわぁっ!? 気持ち悪っ!!」

 

ギルギルガンのその異様な姿を見た箒と鈴が、嫌悪感を露にする。

 

「生体兵器の類か?」

 

「…………」

 

ラウラがそう推測し、簪も無言でヘヴィマシンガンを構える。

 

「何にせよ!」

 

「敵なら倒すだけだよ!!」

 

と其処で!

 

セシリアがスターライトmkⅢを発砲し、楯無がラスティー・ネイルの刃を伸ばす!!

 

しかし!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

スターライトmkⅢはギルギルガンの堅牢な表皮に弾かれ、ラスティー・ネイルの刃は噛み付いて受け止められる。

 

「「なっ!?」」

 

セシリアと楯無が驚きの声を挙げた瞬間!!

 

ギルギルガンはバリボリと音を立てながら、ラスティー・ネイルの刃を喰い始めた。

 

「!? うわっ!?」

 

引っ張られた楯無が、慌ててラスティー・ネイルを手放すと、ギルギルガンはそのままラスティー・ネイルを完全に噛み砕いて飲み込んでしまう。

 

「ラ、ラスティー・ネイルを………食べた!?」

 

「な、何なの!? 此奴!?」

 

その光景に、楯無とグラパール・蘭が戦慄する。

 

「クッ! このぉっ!!」

 

其処で鈴が、連結した双天牙月を投げ付ける。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

だが、ギルギルガンはその見た目から想像出来ない俊敏な動きで躱すと、口から舌を伸ばして双天牙月に巻き付け、そのままラスティー・ネイルと同じ様に喰ってしまう。

 

「ああっ!? 何すんのよ!?」

 

「………!!」

 

今度は簪が仕掛ける。

 

ローラーダッシュ移動で撹乱しながら、ギルギルガンに向かってヘヴィマシンガンを発砲する。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

しかし、ヘヴィマシンガンの弾丸は、全てギルギルガンの表皮で弾かれてしまう。

 

「だったら………」

 

其処で不意に簪は足を止めると、右脇腰の2連装ミサイルポッドのミサイルを放つ。

 

白煙の尾を曳きながら飛翔したミサイルが、ギルギルギガンへと着弾し、ギルギルガンは爆煙に包まれる。

 

「やった!!」

 

「…………」

 

一夏がそう声を挙げたが、簪は油断せずに爆煙の中を見据える。

 

と、次の瞬間!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

咆哮と共にギルギルガンが爆煙の中から飛び出し、目から簪に向かって怪光線を発射する!!

 

「!?」

 

紙一重で躱した簪だったが、左肩の装甲を持って行かれてバランスを崩し、転倒してしまう。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ギルギルガンはそんな簪を見逃さず、涎の滴る口を開きながら迫って行く。

 

「!!」

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

だが其処で、ティトリーことファイナルダンクーガが、横からギルギルガンに体当たりを仕掛ける。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

「断空剣っ!!」

 

そして断空剣の柄を射出して、右手に握ると刀身を生成し、ギルギルガンに斬り付ける!!

 

が、ガキィンッ!! と言う音と共に、ファイナルダンクーガの断空剣が弾かれてしまう。

 

「か、カッタァ~~~~」

 

手が痺れてしまうファイナルダンクーガ。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

そんなファイナルダンクーガに標的を変えたギルギルガンが、口から緑色の液体を吐く。

 

「!?」

 

「危ない!!」

 

咄嗟に一夏が間に割り込み、左腕でその液体を受け止める。

 

すると、雪羅に付着したその液体は白煙を挙げ、雪羅を溶かし始める。

 

「!? 雪羅強制切除!!」

 

咄嗟に、雪羅を強制自切する一夏。

 

雪羅は地面に落ちると、そのまま音を立てて溶けて消えてしまった。

 

「何て奴だ………ISの装甲を溶かすなんて………」

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

戦慄している一夏に、ギルギルガンが突進して来る。

 

「!? このぉっ!!」

 

驚きながらも雪片弐型からエネルギーの刃を展開すると、ギルギルガンに向かって突きを繰り出す。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

そのエネルギーの刃にも噛み付くギルギルガンだったが、途端にスパークが飛び散る。

 

「流石に此奴は食えないだろ!!」

 

そう言い放ち、出力を上げる一夏だったが………

 

突如、ガクリと白式の反応が鈍くなる。

 

「!? 何だ!?」

 

一夏が慌てて白式の状態をチェックする。

 

すると、エネルギーが急激な勢いで減っている事に気付く。

 

「何だコレ!? 零落白夜を使ってるにしても減り過ぎだぞ!?」

 

白式の急激なエネルギー低下の原因が分からず、一瞬困惑する一夏だったが………

 

「!? まさか!?」

 

其処でギルギルガンを見遣ると………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ギルギルガンは、雪片弐型のエネルギー刃から、白式のエネルギーを吸い取り始めていた!

 

「此奴!? 金属だけじゃなくて、エネルギーも食うのか!?」

 

一夏がそう言っている間に、アッと言う間に白式のエネルギーは空となり、本人の意思と裏腹に、ガクリを膝を突いてしまう。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

動けなくなった一夏に襲い掛かろうとするギルギルガン。

 

「!?」

 

「やらせん!!」

 

しかし、箒がビットを飛ばし、ギルギルガンを弾き飛ばすと、そのまま牽制しながら一夏に近付く。

 

「一夏! エネルギーを!!」

 

「すまない、箒」

 

そして絢爛舞踏を発動させると、一夏にエネルギーを譲渡する。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

とその瞬間、ギルギルガンが紅椿のビットに噛み付き、そのまま喰ってしまう。

 

「むうっ!? 意地汚い奴め………」

 

「なら、コレは如何だ!?」

 

箒がそう言うと、ラウラが大型レールカノンの照準をギルギルガンに向ける。

 

「蘭!」

 

「分かってる!」

 

更に、グラパール・弾とグラパール・蘭も、スパイラルボンバーを構える。

 

「喰らえっ!!」

 

「「ファイヤーッ!!」」

 

ラウラとグラパール・弾とグラパール・蘭の一斉攻撃が、ギルギルガンに叩き込まれる。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

其処で、初めて怯んだ様な様子を見せたギルギルガンだったが………

 

直ぐ様体勢を立て直すと、目から怪光線を放つ!

 

「ぐうっ!?」

 

「おうわ!?」

 

「キャアッ!?」

 

怪光線は3人の足元に着弾し、ラウラとグラパール・弾とグラパール・蘭は爆風で吹き飛ばされる。

 

「このぉっ!!」

 

其処で再び、ギルギルガン目掛けてスターライトmkⅢを発砲するセシリア。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

だが、ギルギルガンは向かって来るビームに対し、怪光線で対抗。

 

スターライトmkⅢのビームとギルギルガンの怪光線がぶつかり合い、押し合いとなる。

 

しかし、拮抗したのは一瞬で、直ぐにギルギルガンの怪光線に、スターライトmkⅢのビームが押され始める。

 

「!? そんなっ!?………!? キャアッ!?」

 

そして遂にスターライトmkⅢのビームは掻き消され、ギルギルガンの怪光線がスターライトmkⅢに命中。

 

スターライトmkⅢは爆散してしまう。

 

「くうっ!」

 

「こんのおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

爆風で地面に倒れたセシリアを飛び越え、鈴がギルギルガンに向かって飛び蹴りを繰り出す。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

だが、ギルギルガンは鈴の飛び蹴りを足に噛み付いて受け止める。

 

「!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

そのまま、鈴を咥えたまま振り回すギルギルガン。

 

そして遂に!

 

咥えていた甲龍の脚部パーツが外れ、鈴が吹き飛ばされる。

 

「あうっ!?」

 

工場の残骸に、派手に粉塵を上げて叩き付けられる鈴。

 

その間に、ギルギルガンは咥えたままだった甲龍の脚部パーツを噛み砕き、喰ってしまう。

 

「ハハハハハッ! 良いぞ、ギルギルガン!! そのままグレン団の連中を叩きのめせ!!」

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

その光景を見ていたガンメン部隊の部隊長が、得意気に笑いながらそう言い放つと、ギルギルガンは怪光線を薙ぎ払う様に放つ。

 

「「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」」

 

「「「「「「「「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」」」」

 

怪光線が走った後に一瞬遅れて発生した爆発で、次々に吹き飛ばされ、地面に叩き付けられるグレン団。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ギルギルガンは、そんなグレン団に襲い掛かろうとする。

 

「待ちやがれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

と其処で、そう言う叫びが響いたかと思うと、太陽の中からグレンラガンが現れ、ギルギルガンに飛び蹴りを噛ます!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

不意打ちに近い1撃に、ギルギルガンはブッ飛ばされて、工場の残骸に叩き付けられる。

 

「むうっ!? 現れたかグレンラガン!!」

 

「皆! 大丈夫!?」

 

ガンメン部隊の部隊長がそう言っている間に、続いて現れたシャルが一夏達を助け起こす。

 

「シャル! アニキ!」

 

「おうおうおうおう! このトカゲの出来損ない野郎! よくも俺の可愛い弟分達を痛め付けてくれたな! コレの礼はタップリとしてやるぜ!!」

 

一夏が声を挙げると、グレンラガンはギルギルガンに向かって啖呵を切る。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

工場の残骸の中から抜け出したギルギルガンが、そんなグレンラガンに向かって行く。

 

「行くぜぇっ!!」

 

其れを見たグレンラガンは、右腕をドリルに変えてギルギルガンに突撃する。

 

「! アニキ! 気を付けて!! ソイツは………」

 

「うおりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一夏が言い切る前に、グレンラガンは右腕のドリルをギルギルガンに叩き込む。

 

しかし!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ギルギルガンは、大きく口を開けてそのドリルに噛み付くと、そのままバリバリと噛み砕き始める。

 

「!? うおっ!?」

 

慌ててドリルを射出し、ギルギルガンから離れるグレンラガン。

 

噛み砕かれたドリルは、そのまま飲み込まれてしまう。

 

「コノヤロウ! 俺のドリルを!!」

 

と、グレンラガンがそう言った瞬間………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

突如ギルギルガンが咆哮を挙げ、ビクビクと痙攣し始める。

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

シャルが驚きの声を挙げた瞬間!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ギルギルガンの甲羅の様な身体の背中部分を突き破って、恐ろしい姿をした人型の上半身が生えて来て、ギルギルガンの体色が黄土色へ変化し、元々の姿だったトカゲの様な部分も赤茶色に変わる。

 

そして更に驚くべき事に………

 

グレンラガン達より少し大きいぐらいだった大きさが、一気に15メートルは有ろうかという巨体へと変化した!!

 

「なっ!?」

 

「お、大きくなっちゃった!?」

 

コレには、流石のグレンラガンとグレン団も驚きを隠せない。

 

「ハーッハッハッハッハッ! 如何やらグレンラガンの螺旋力の籠ったドリルを喰らった事で成長が早まった様だな! 礼を言うぞ、グレンラガン!!」

 

その様子に、ガンメン部隊の部隊長が大笑いしながらそう言う。

 

「んだと!? 如何言う事だ!?」

 

「良い事を教えてやろう! そのギルギルガンは金属やエネルギーを吸収する事によって()()()成長する! つまり! 貴様達がギルギルガンを攻撃すればする程、ギルギルガンは強く! 巨大になって行くのだ!!」

 

「な、何だって!?」

 

「冗談でしょ!? そんな化け物、如何やって倒せって言うのよ!?」

 

ガンメン部隊の部隊長の言葉に、一夏と鈴が驚きの声を挙げる。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

と其処で、第2形態となったギルギルガンが咆哮を挙げ、下半身のトカゲの様な頭の目から怪光線を放って来る。

 

成長し巨大化しただけあって、怪光線の威力も増大しており、着弾した場所から巨大な爆発が上がる!

 

「うおわぁっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「「「「「「「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

その爆風によって、彼方此方に吹き飛ばされるグレン団。

 

「チキショウがぁ!!」

 

[神谷! 聞こえるか!? 一時撤退しろ!!]

 

と、身体の上に乗っていた瓦礫を跳ね除けて起き上がったグレンラガンの元に、千冬からの通信が入る。

 

「馬鹿言ってんじゃねえ、ブラコンアネキ! 敵に後ろ見せられっか!?」

 

[馬鹿はそっちだ! 今回ばかりは無策で勝てる相手では無いぞ! 一旦退いて態勢を立て直すんだ!!]

 

「けどよぉっ!!」

 

グレンラガンが更に何か言おうとしたところ………

 

「弾! オイ、弾!!」

 

「お兄! しっかりして! お兄ぃっ!!」

 

一夏とグラパール・蘭の叫びが聞こえて来て、その方向を見やると………

 

「う、あ………」

 

爆風で吹き飛んで来た瓦礫が当たったのか、頭部パーツが割れて顔の一部が露出して血を流しているグラパール・弾の姿が在った。

 

「!? 弾!!」

 

[撤退だ神谷! 弟分を見殺しにするのか!?]

 

其処で千冬が、グレンラガンに向かってそう言い放つ。

 

「グッ!!」

 

グレンラガンは葛藤する様な様子を見せると………

 

「………引き上げだ! 全員一旦引き上げるぞ!!」

 

グレン団全員に向かってそう言い放った。

 

「弾! 摑まれ!!」

 

「お兄! しっかり!!」

 

「クッ、すまねえ………」

 

其れを聞くや否や、一夏とグラパール・蘭がグラパール・弾に肩を貸し、一緒に飛び去る。

 

「屈辱ですわ………」

 

「この借りは必ず返すぞ」

 

「覚えてなさい!!」

 

続いて、セシリア・ラウラ・鈴が飛び去る。

 

「簪ちゃん!」

 

「簪! 摑まって!!」

 

「…………」

 

そして楯無とティトリーが、飛行不能な簪に手を貸して撤退して行く。

 

「神谷! 僕達も!!」

 

最後にシャルがグレンラガンにそう声を掛け、撤退する。

 

「………逃げるんじゃねえ………俺は逃げるんじゃねえぞ!!」

 

グレンラガンは一瞬ギルギルガンを見遣りそう叫ぶと、ウイングのトビダマから炎を上げ、飛び去って行く。

 

「やった! やったぞ!! グレン団を退けた!! もう怖いものは無い!! ギルギルガン!! 思う存分暴れるが良い!!」

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ガンメン部隊の部隊長の声に、ギルギルガン(第2形態)は咆哮を挙げ、更に工業地帯を破壊し、ドンドン金属とエネルギーを吸収して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総合病院の待合室………

 

[ああ! グレン団が撤退して行きます! グレン団でもあの怪物には敵わなかった様です! 一体、日本は………世界は如何なってしまうのでしょうか!?]

 

戦いの様子を中継していたテレビ局が、撤退して行くグレン団と暴れるギルギルガン(第2形態)をカメラで撮しながら、レポーターがそんなコメントを言う。

 

「ああ! グレン団が………」

 

「グレン団が………負けちゃった………」

 

その様子に待合室に居た人々………

 

特に子供達は、絶望した様子を見せ始める。

 

(………神谷様………)

 

そしてその中に居た杏子も、両手を胸の前で組み、不安気な顔を露わにして、車椅子に座って居るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

リーロンの研究室………

 

「弾くん、ホントに大丈夫?」

 

「平気平気。コレぐらい何て事無いっすよ………アイタタタタッ!」

 

傷を心配して来る虚に、弾は大丈夫と傷を叩いて見せるが、我慢出来ずに声を漏らしてしまう。

 

「弾、無理すんなって」

 

「そうよ、お兄! 安静にしてなさいよ!」

 

「いや、そうも行かねえ………あの化け物を如何にかしない事には、落ち落ち寝ても居られねえさ」

 

一夏と蘭も、弾に向かってそう言うが、弾はそう返す。

 

「其れでリーロンさん。あのギルギルガンって生き物の事について、何か分かりましたか?」

 

其処でシャルが、神谷達の戦闘データからギルギルガンを分析していリーロンにそう尋ねる。

 

「ええ、色々とね………先ず、あのガンメン部隊の部隊長が言っていた通り、ギルギルガンは金属やエネルギーを吸収する事によって“無限に成長する性質”を持っているみたい」

 

「無限に成長………」

 

「今の段階でさえあんなに強いのに、コレ以上成長したら如何なるってのよ………」

 

其れを聞いた箒と鈴が、戦慄を表情に浮かべる。

 

「それでリットナー技術主任。奴を倒す方法は有るのか?」

 

しかし其処で、ラウラが冷静にそう尋ねる。

 

「そうね。風船を割るのと同じやり方かしら」

 

「えっ?」

 

「風船………ですか?」

 

リーロンの言った言葉の意味が分からず、困惑するティトリーとセシリア。

 

「そっ。風船にドンドン空気を入れて行けば、何れ限界を超えて割れちゃうでしょ? 其れと同じよ」

 

「つまり………短時間でギルギルガンに………許容量以上のエネルギーを与えると………」

 

簪がリーロンの言葉を意訳する。

 

「そう言う事」

 

「何だよ、簡単じゃねえか! コレであの野郎に借りを返してやれるってもんだぜ!!」

 

神谷がグッと拳を握ってそう言う。

 

「馬鹿者。そんな単純ならば苦労はせん」

 

「“短時間で”というところが、実はネックになるんです」

 

しかし其処で、千冬と真耶がそう言って来る。

 

「下手をすれば、ギルギルガンが私達の攻撃のエネルギーを吸収して、益々パワーアップしてしまうって事になるって事ですね」

 

その千冬と真耶の真意を読んだ楯無が、扇子で口元を隠しながらそう言う。

 

「なら、どれぐらいの時間で奴を倒せば良いんすか?」

 

「分析と計算の結果によれば………凡そ1分よ」

 

「い、1分!? たったの1分かよ!?」

 

弾の質問にリーロンが答えを返すと、一夏が驚きの声を挙げる。

 

「ええ。つまり、コチラが攻撃準備を整える時間を稼がなくちゃならない、って事ね」

 

「其処で、奴の好物を利用する」

 

「ギルギルガンの好物?」

 

千冬のその言葉に、蘭が首を傾げる。

 

「分析したデータによれば、ギルギルガンは『鉄』を好んで食べているそうです」

 

「鉄? 普通のですか?」

 

「そうよ。鉄の塊をエサにしてギルギルガンを誘導して時間稼ぎをするの」

 

「良し! じゃあ俺がその鉄の塊を持って動く!!」

 

「一夏!」

 

「一夏さん!!」

 

自ら進んで囮の役目を引き受けようとする一夏に、箒達は驚きの声を挙げる。

 

「いや、駄目だ。其れでは両手が塞がって、動きが制限されてしまう」

 

「じゃあ、如何すれば………」

 

「コレを使うのよ」

 

と其処で、リーロンがパソコンのキーボードを操作したかと思うと………

 

研究室の床の一部が開き、中から1機の打鉄が迫り上がって来た。

 

「? この打鉄は?」

 

「“全てのパーツ”を鉄製にした打鉄よ。コレで奴を誘き出すの」

 

「成程………ってコレ、誰が乗るんですか?」

 

納得し掛けたシャルだったが、肝心の打鉄(純鉄製)の装着者の事を思い遣り、そう尋ねるシャル。

 

「其れは………」

 

「ハ~イ! 私で~す!」

 

すると何と!

 

今までマイペースに茶を啜って皆の話を聞いていたのほほんが、陽気に手を挙げた。

 

「えっ?………ええええっ!?」

 

「本音が………?」

 

それを聞いたティトリーが驚きの声を挙げ、簪も珍しく動揺する。

 

「そんな!? 如何してのほほんさんが!?」

 

「織斑先生! 危険過ぎます!!」

 

一夏も驚きを露わにし、楯無も抗議の声を挙げる。

 

「いや………案外行けるかも知れねえ」

 

しかし、神谷だけはそんな事を言う。

 

「えっ? 如何言う事? 神谷」

 

「思い出してみろ。IS操縦授業の時の鬼ごっごで、此奴を捕まえられた奴が居たか?」

 

戸惑うシャルに、神谷はそう言う。

 

鬼ごっこと言うのはIS訓練の一環で、所謂『追跡移動訓練』の事である。

 

実は、この時のほほんは同じ量産機の生徒どころか、()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う成績を上げていたのである。

 

云わば、エスケープの達人なのだ。

 

「そう言う事~。だから~、今回の囮役は私が務めるね~。かみやん達はしっかりギルギルガンを撃破してね~」

 

笑顔でそう言うのほほんだったが、何時もだったら眠た気な様を見せている筈の瞳に、強い意思が宿っている。

 

「「「「「…………」」」」」

 

其れを見て、一夏達はもう何も言わなかった。

 

彼等も実戦を多く潜り抜けて来ただけ在って、相手の決意の程と言うものがある程度は感じ取れる様になっている。

 

「良し! 作戦は2時間後に決行する! 各員、其々に準備を整え、出撃に備えろ!!」

 

最後に千冬がそう言ってその場を纏め………

 

グレン団の一同はギルギルガン撃破に向けて、準備を整え始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

グレン団の前に立ちはだかった新たな敵。
それはグレートマジンガーVSゲッターロボに出演した『宇宙怪獣ギルギルガン』です。
金属やエネルギーを食らって無限に成長するギルギルガンを相手に、グレン団は遂に撤退を余儀なくされます。

そしてギルギルガンを撃破する作戦の為に………
何とのほほんさんが出撃!
果たして、上手く行くのでしょうか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第80話『お前の母ちゃん、デ~ベ~ソ~!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第80話『お前の母ちゃん、デ~ベ~ソ~!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京浜工業地帯に現れたロージェノム軍に操られた生体兵器『ギルギルガン』

 

あらゆる金属とエネルギーを喰らい、無限に成長する性質を持ったギルギルガンの前に………

 

グレン団は撤退を余儀無くされた。

 

リーロンの分析の結果、ギルギルガンを倒す方法は“1分間に奴が喰らい切れない程のエネルギーをぶつける”と言うものだった。

 

僅か1分であの怪物を倒す事が出来るのか?

 

だが、グレン団に選択の余地は残されていない。

 

ギルギルガンを惹き付ける囮役を志願してくれたのほほんの為にも、必ずギルギルガンを倒すと言う決意を固める。

 

そして、遂に………

 

作戦決行の時間がやって来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京浜工業地帯………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

我が物顔で暴れ回り、次々に金属やエネルギーを喰らって行くギルギルガン(第2形態)。

 

「フハハハハハッ! 良いぞ、ギルギルガン!! もっとだ! もっと喰らえいっ!!」

 

そんなギルギルガンの姿に、ガンメン部隊の部隊長は得意気な笑い声を挙げる。

 

周辺では、ガンメン部隊やレッドショルダー達が破壊活動を行っている。

 

このままでは京浜工業地帯は壊滅し、日本の工業力は甚大なダメージを受けてしまう。

 

と、その時!!

 

「ジャンジャジャ~ン!!」

 

自分で登場BGMを言いながら、打鉄(純鉄製)を身に纏ったのほほんが、ギルギルガン(第2形態)の前に姿を晒した。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

突如現れた珍妙な乱入者に、ギルギルガン(第2形態)も困惑する。

 

(頼むぜ、のほほん)

 

(上手くギルギルガンを誘い出してくれ)

 

既に待機位置に控え、のほほんの様子を見守っているグレン団メンバーとIS学園部隊の中で、グレンラガンと一夏がそう思う。

 

現在彼等は、工業地帯の中に在ったと或る鉄工所を囲う様に配置に着いている。

 

のほほんがギルギルガン(第2形態)をこの鉄工所まで誘い出し、ギルギルガン(第2形態)が鉄を喰らう為に動きを止めた瞬間に、全機で一斉攻撃を加える算段なのだ。

 

全ては、のほほんの誘導次第なのである。

 

「さ~て………行くよ!」

 

と、のほほんはそう言い放ったかと思うと………

 

「や~いや~い、ギルギルガン~! お前の母ちゃん、デ~ベ~ソ~!」

 

「「「「「「だあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」」

 

ギルギルガン(第2形態)に向かってそんな台詞を言い放ち、待機していた一夏達は思わずズッコケた。

 

「い、今時幼稚園児だって、そんな悪口言わないわよ…………」

 

「あんなんでギルギルガンを惹き付けられると思っているのか………」

 

鈴とラウラが呆れながら立ち上がり、そう言い放つが………

 

「鬼さんコチラ~。ココまでおいで~」

 

のほほんが続けてそう言い、鉄工所の方へ移動を始めると、

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

何とギルギルガン(第2形態)は、のほほんを追い掛け始めた!

 

「! 食らい付いた!!」

 

「嘘っ!? あんな挑発で!?」

 

グラパール・弾がそう言い、グラパール・蘭が驚きの声を挙げる。

 

実際の処、挑発の意味を理解したのか、其れとも目の前に現れて鬱陶しく思ったのか、はたまた打鉄(純鉄製)の匂いを感じ取ったのか、其れは定かでは無い。

 

しかし、ギルギルガン(第2形態)は予定通りに鉄工所の方へ向かって来ている。

 

後は、のほほんが上手く誘い出してくれるのを祈るばかりである。

 

「ホラ~ホラ~。こっちのて~つはあ~まいぞ~、と」

 

「良いぞ、のほほん! そのままワザと餌になる様な顔して奴を誘い出すんだ!!」

 

「其れどんな顔?」

 

グレンラガンがその様子を見てそう言うと、シャルが冷静なツッコミを入れる。

 

「ぬうっ!? 何だ奴は? ええい! あの目障りなISを撃ち落とせ!!」

 

しかし敵も馬鹿では無く、妙な動きをしているのほほんに向かってガンメン部隊とレッドショルダー部隊が攻撃を開始する。

 

「!? わわわっ!?」

 

飛んで来る銃弾に砲弾やミサイル、ビームの攻撃に珍しく慌てるのほほん。

 

(本音!)

 

(駄目よ、ティトリーちゃん! 今ココで私達が姿を晒したら、作戦は失敗よ!!)

 

(…………)

 

思わず、ファイナルダンクーガがのほほんを助けに飛び出して行きそうになるが、楯無が止める。

 

のほほんとは親友である簪も、掌を握り締めながら、感情を押し殺して必死に耐えている。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

その間にも、ギルギルガン(第2形態)はのほほんへと迫る。

 

「クウッ!!」

 

其処で、のほほんはショルダーミサイルガンポッドを取り出すと、攻撃をして来ていたガンメン部隊とレッドショルダー部隊に向かって全弾放つ!

 

「「「「「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

直撃弾は少なかったが、足止めに成功する。

 

「よっし!!」

 

撃ち終えたショルダーミサイルガンポッドを捨てると、鉄工所へと急ぐのほほん。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

しかし其処で、ギルギルガン(第2形態)が速度を上げ、一気にのほほんを捕まえようとする。

 

「マズイ!! 追い付かれてしまうぞ!!」

 

「本音さん!!」

 

箒とセシリアが声を挙げる。

 

「こうなったら!!」

 

すると、何と其処で!!

 

のほほんは、瞬時加速(イグニッション・ブースト)の体勢に入る。

 

「!? 瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使う気?」

 

「無茶よ、本音! その“純鉄製”の打鉄じゃ、瞬時加速(イグニッション・ブースト)の加速に耐えられない、ってリットナー先生が言ってたじゃない!?」

 

簪と楯無が慌てた様子を見せる。

 

そう。今彼女が纏っている純鉄製の打鉄は、装甲材質の問題から瞬時加速(イグニッション・ブースト)が使用不能なのだ。

 

いや、使える事は使えるが、反動に機体が耐えられず空中分解してしまう、と言われている。

 

「布仏 本音! 吶~喊~っ!!」

 

だが、のほほんは構わず瞬時加速(イグニッション・ブースト)を点火する!!

 

その瞬間!!

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

凄まじい反動と共に、のほほんの身体は木の葉の様にブッ飛び………

 

負荷に耐え切れなかった打鉄(純鉄製)は空中分解を起こし、バラバラになって行った。

 

「! 本音!!」

 

「クッ………!!」

 

生身となったのほほんを助けに、簪が動く。

 

ジェットローラーダッシュを起動させると、脛の裏から炎を上げてダッシュし、地面に叩き付けられる寸前だったのほほんをキャッチする!

 

「あ、ありがとう~、かんちゃ~ん」

 

「………危ないところだった………」

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

と其処で、ギルギルガン(第2形態)がバラバラになった打鉄(純鉄製)を喰らっていると、鉄工所の存在に気付く。

 

直ぐ様ギルギルガン(第2形態)は鉄工所を破壊し、中に有った大量の鉄を貪り始める。

 

「やった! ギルギルガンが食らい付いたぞ!!」

 

「今がチャンス!!」

 

「よおし! 行くぞぉっ!!」

 

其れを見た一夏・楯無・グレンラガンがそう声を挙げると、隠れて待機していたグレン団の面々が、一斉に姿を現す。

 

「各部隊展開!! 敵を包囲して下さい!!」

 

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」

 

更に続いて、真耶に指揮されているIS学園のIS部隊が現れ、手にしていた装備を一斉にギルギルガン(第2形態)へと向ける。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

ギルギルガン(第2形態)が、グレン団とIS部隊の存在に気付いた時には既に遅し!

 

「撃てえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

グレンラガンの号令で、グレン団とIS部隊は一斉攻撃を開始した!!

 

銃弾が、砲弾が、ミサイルが、ビームが、熱線が、グレネード弾が、レーザーが、次々にギルギルガン(第2形態)へと命中して行く!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

次々に巻き起こる爆発と共に、ギルギルガン(第2形態)は苦悶の咆哮を挙げる。

 

そして遂に大爆発が起きて、ギルギルガン(第2形態)の身体の一部が辺りに飛び散った!!

 

「やりました!!」

 

真耶が思わず歓声を挙げ、IS学園のIS部隊も喜びを露にする。

 

「いや! 未だだ!!」

 

しかし、グレンラガンがそう声を挙げたかと思うと………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーー………

 

爆煙が晴れた中から、弱々しく咆哮を挙げている、ボロボロのギルギルガン(第2形態)が姿を現す。

 

しかし、昆虫の様な足は殆どが千切れ飛び、人型の上半身も半分吹き飛び、全身から紫色の血を流しているその姿は、如何見ても瀕死であった。

 

「!? 未だ生きてる!?」

 

「何てしぶとい奴なの!?」

 

そんなギルギルガン(第2形態)の姿を見たグラパール・蘭が驚き、鈴が苦々し気な声を挙げる。

 

「だが、かなりのダメージを負っている」

 

「このまま押し切りますわ!!」

 

しかしラウラがそう言うと、セシリアがスターライトmkⅢを瀕死のギルギルガン(第2形態)へ向ける。

 

「そうはさせんぞ!!」

 

「ガキ共がぁ! 調子に乗るなぁ!!」

 

だが其処で、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊が追い付き、ギルギルガン(第2形態)を取り囲んでいたグレン団とIS部隊を牽制する。

 

「! クウッ!!」

 

射撃を中止し、一旦距離を取るセシリア。

 

他のグレン団メンバーとIS部隊も、砲火に曝され、後退を余儀無くされる。

 

「ギルギルガン!!」

 

その間に、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は、ギルギルガン(第2形態)を守る様に展開する。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーー………

 

弱々しい咆哮を挙げるギルギルガン(第2形態)。

 

しかし、自分の周囲に展開していたガンメン部隊とレッドショルダー部隊を見ると、ギラリと目を光らせた。

 

「止むを得ん! ココは一時撤退を………」

 

と、ガンメン部隊の部隊長がそう言いかけた瞬間!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

咆哮と共にギルギルガン(第2形態)が喰らい付く!

 

「な、何をするギルギルガン!? や、やめろおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

ガンメン部隊の部隊長がそう叫んだ瞬間!!

 

その身体は噛み砕かれ、ギルギルガン(第2形態)に喰われてしまう。

 

「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」

 

ガンメン部隊とレッドショルダー部隊が驚きの声を挙げた瞬間………

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ギルギルガン(第2形態)は、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊を次々に貪り喰らい始めた!!

 

「なっ!?」

 

「み、味方を喰ってる!?」

 

「アイツ、見境無くなってるぞ!!」

 

その様子に、箒、シャル、グラパール・弾が驚きの声を挙げる。

 

その間にも次々にガンメン部隊とレッドショルダー部隊を喰い散らかして行くギルギルガン(第2形態)。

 

ガンメンを装着している獣人の死骸は黒い液体になって蒸発して行っているが、レッドショルダー部隊の方は彼方此方に鉄屑になったISと共に肉片が転がり出すと言うスプラッタな光景が展開される。

 

「い、いやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

人が喰われると言う衝撃的な光景を目にしたIS学園のIS部隊が、次々に恐慌状態に陥る。

 

中には発狂し掛けたり、嘔吐したり、失神したりする者まで出始めていた。

 

「み、皆さん! 落ち着いて下さい!!」

 

自分も少なからずショックを受けているが、同僚や生徒の動揺を収めようとしている真耶。

 

と、その次の瞬間!!

 

全てのガンメン部隊とレッドショルダー部隊を喰らい尽くし………

 

ギルギルガン(第2形態)の身体を突き破る様にして、完全な人型をし、手足が鋼鉄製で、両脇腰に巨大な鎌を装備し、3つの尻尾を生やして、背に悪魔を思わせる巨大な翼を生やしたマゼンタ色の怪物………

 

『ギルギルガン(第3形態)』が出現した!!

 

その体躯は第2形態を更に上回り、50メートルは有ろうかと言う巨体となっている。

 

「うおわっ!?」

 

「コ、コレが………更なる進化を遂げたギルギルガン!?」

 

一夏とファイナルダンクーガが、そのギルギルガン(第3形態)の姿を見てそう声を挙げる。

 

「クッ! 山田先生! IS部隊を連れて撤退して下さい!!」

 

其処で楯無が、未だ恐慌状態に陥っている同僚や生徒達を見ていた真耶にそう言い放つ。

 

「ええっ!? しかし………」

 

「そんな精神状態じゃ戦闘は出来ないわ! 今直ぐ引き上げさせるのよ!!」

 

何か言おうとした真耶を制し、楯無はそう言葉を続ける。

 

「! わ、分かりました!」

 

「先生………お願い」

 

と真耶が頷くと、簪が保護していたのほほんを引き渡す。

 

「かんちゃん、気を付けてね」

 

「ええ………」

 

のほほんのその言葉を聞きながら、簪は踵を返してギルギルガン(第3形態)へ向かう。

 

「ヘッ! デカけりゃ良いってモンじゃねえぜ!!」

 

と、グレンラガンがそう言いながら、ギルギルガン(第3形態)の前に立ちはだかる。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

グレンラガンの姿を確認したギルギルガン(第3形態)は、咆哮を挙げる。

 

そして、両手をグレンラガンに向けたかと思うと、指先から熱線を放って来た!!

 

「グレンバーンッ!!」

 

其れに対抗する様に、グレンラガンは胸のサングラスから熱線・グレンバーンを放つ。

 

ギルギルガン(第3形態)の熱線と、グレンラガンの熱線が拮抗する。

 

やがて互いに反応し、爆発した!!

 

「喰らえっ!!」

 

其処へギルギルガン(第3形態)の右側から、一夏が雪羅で荷電粒子砲を放つ。

 

しかし、荷電粒子砲はギルギルガン(第3形態)の表皮で弾かれてしまう。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

と咆哮と共に、右脇腰の鎌を外すと、一夏目掛けて振るうギルギルガン(第3形態)。

 

「!? うわあっ!?」

 

慌てて回避する一夏だったが、ギルギルガン(第3形態)が振るった鎌は、一夏の背後に在った工場を真っ二つにし、更に地面を抉った!!

 

「喰らいなさい!!」

 

「其処だ!!」

 

今度は、鈴が龍砲を、ラウラが大型レールカノンを放つ。

 

しかし、どちらの攻撃も、やはりギルギルガン(第3形態)の表皮で弾かれてしまう。

 

「駄目! 傷1つ付かないわ!!」

 

「何て奴だ………」

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

戦慄する2人に向かって、ギルギルガン(第3形態)は持っていた鎌を投げ付ける!!

 

「!? キャアッ!?」

 

「ぐうっ!?」

 

幸い外れたものの、巨大な鎌は辺りを薙ぎ払い、更地へと変える。

 

「や、やっぱり、私達じゃ敵わないんじゃ………」

 

「弱音吐くな、蘭!! 兎に角攻撃有るのみだ!!」

 

その光景に戦意を失い掛けているグラパール・蘭を、グラパール・弾が叱咤し、スパイラルボンバーをギルギルガン(第3形態)に向かって連射する。

 

しかし、その攻撃にも効果は見られない………

 

「クッ! せめて、何か弱点でも有れば………」

 

「弱点………」

 

ファイナルダンクーガが愚痴る様にそう呟き、簪が其れを聞きながらヘヴィマシンガンを撃ち続けている。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

と其処で、ギルギルガン(第3形態)が咆哮を挙げ、背の翼を発光させたかと思うと、重力波………グラビトンウェーブを放つ!!

 

「!? キャアアアッ!?」

 

「うわあっ!?」

 

「ぐううっ!?」

 

真面に浴びてしまったセシリア、箒、楯無の3人がブッ飛ばされて、工場の跡地に叩き付けられる。

 

他のグレン団メンバーも地面を転がる。

 

そのままギルギルガン(第3形態)は飛び去ろうとし、上昇を始める。

 

「あ! テメェ、逃がすか!!」

 

「ちょっと! 神谷!!」

 

グレンラガンが其れを追う様に飛翔すると、シャルが慌ててその後に続く。

 

「喰らえ! スパイラルワンビーム!!」

 

「ええいっ!!」

 

ギルギルガン(第3形態)に追い付くと、グレンラガンが額に出現させたドリルからのビーム・スパイラルワンビームを、シャルが両手に構えたガルムでの砲撃を見舞う。

 

やはり、どちらの攻撃もギルギルガン(第3形態)に効いている様子は無い。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

だが、2人は諦めずに攻撃を続ける。

 

と、その攻撃が、ギルギルガン(第3形態)が鎌を投げ付けて、装着部分が露出していた右脇腰部分に当たった瞬間!!

 

その部分が爆発を起こし、ギルギルガン(第3形態)はバランスを崩して落下する。

 

そのまま工場の跡地に落下し、派手に粉塵を上げる。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

その粉塵を吹き飛ばして起き上がるギルギルガン(第3形態)。

 

「やったぜ!」

 

「そうか! あの鎌の付け根が弱点なんだ!!」

 

其処へ、グレンラガンとシャルが着地してそう言い放つ。

 

「成程! 承知した!!」

 

「弱点さえ分かればコチラのものですわ!!」

 

すると其れを聞いた箒とセシリアが、直ぐ様穿千の熱線とスターライトmkⅢのビームを、グレンラガンとシャルが破壊したギルギルガン(第3形態)の右脇腰のサイボーグ構造の内部が露出している部分へ叩き込む!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

初めて苦悶の咆哮を挙げるギルギルガン(第3形態)。

 

と其処で、残っていた左脇腰の鎌を箒とセシリア目掛けて投げ付ける。

 

「「フッ!!」」

 

難無く躱す2人。

 

「しめた! 弱点がもう1つ増えたわよ!!」

 

「!!」

 

楯無がそう言うや否や、蒼流旋のガトリングガンで牽制し、地上に居た簪もヘヴィマシンガンを連射する。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ギルギルガン(第3形態)はコレ以上弱点を攻撃されて堪るかと、暴れて2人を振り払おうとするが………

 

「隙有り!!」

 

2人にばかり気を取られていた為、ラウラの存在に気付かず、右脇腰の鎌の装着部分に大型レールカノンの砲弾を受けてしまう!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

表皮が弾け飛び、サイボーグの内部が露出する。

 

ギルギルガン(第3形態)は、反撃にとラウラに向かって指からの破壊光線を放つ!

 

「クッ!!」

 

回避行動を取るラウラを、ギルギルガン(第3形態)は執拗に狙う。

 

と、其処で!

 

「ええいっ!!」

 

鈴が連結した双天牙月を投擲!

 

回転しながら飛んで行った双天牙月は、ギルギルガン(第3形態)の左手の指を、根元から根こそぎ刈り払った!!

 

「断空剣!」

 

更に右手の方も、ファイナルダンクーガの断空剣により、手首から切断される!!

 

「蘭! 今だ!!」

 

「OK!!」

 

と其処で、グラパール・弾とグラパール・蘭が、ギルギルガン(第3形態)に肉薄し、至近距離から弱点目掛けてスパイラルボンバーを撃ち込む!!

 

表皮が更に大きく弾け飛び、ギルギルガン(第3形態)の右脇腰に巨大な穴が開く。

 

「ええいっ!!」

 

更に其処で駄目押しとばかりに、シャルが両手に握ったデザート・フォックスの弾丸を見舞う!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

苦悶の咆哮を挙げながら、ギルギルガン(第3形態)は出鱈目に暴れる。

 

「一夏! 行くぞ!!」

 

「おう!!」

 

すると其処で、グレンラガンが右腕をドリルに変え、一夏がエネルギーの刀身を形成した雪片弐型を突き出す様に構え、ギルギルガン(第3形態)に向かって突撃する!!

 

そしてそのまま、右脇腰に開いた穴から、ギルギルガン(第3形態)の体内へと飛び込んだ!!

 

「神谷!?」

 

「一夏!?」

 

「あの子達! 内部からギルギルガン(第3形態)にダメージを与える気!?」

 

シャルと箒、楯無がその行動に驚きの声を挙げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総合病院の待合室………

 

[グレン団の反撃が開始されています! この放送を御覧の皆様!! どうか! どうか祈って下さい!! グレン団の勝利を!!]

 

戦闘の様子を中継していたTV映像の中で、レポーターが視聴者に向かってそう呼び掛ける。

 

「「「「「…………」」」」」

 

「頑張れー! グレン団!!」

 

「負けるなー!!」

 

その様子に、大人達は静かに祈り始め、子供達はグレン団に向かって声援を送る。

 

「神谷様! 皆さん! 頑張って下さい!!」

 

杏子も、車椅子の肘掛けを強く握りながらそう声援を飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京浜工業地帯………

 

「オラオラーッ!!」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

ドリルでギルギルガン(第3形態)の体内の風通しをドンドン良くして行くグレンラガンと、雪片弐型を振り回して次々に内部機械を破壊している一夏。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

体内を攻撃され、ギルギルガン(第3形態)は苦悶の咆哮を挙げるが、自分では何も出来ない。

 

そしてその次の瞬間!!

 

「オリャアァッ!!」

 

ギルギルガン(第3形態)の胸を突き破り、グレンラガンが飛び出す。

 

「必殺っ! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

更に背中側からも、一夏がシャイニングフィンガーを使って飛び出す。

 

しかし、背中側から飛び出したのがマズかった様で、尻尾の攻撃を受けて叩き落とされてしまう。

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

「一夏!?」

 

叩き落とされた一夏は、地面に叩き付けられる。

 

「う、あ………」

 

軽い脳震盪を起こしたのか、直ぐに起き上がる事が出来ずに苦悶の声を挙げる。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

其処へ、内部機械を破壊された事で苦しんでいるギルギルガン(第3形態)が倒れ込んで来そうになる。

 

「一夏! 逃げろぉっ!!」

 

「うう………」

 

箒が悲鳴にも似た声を挙げるが、一夏は起き上がれない。

 

「!!」

 

と其処で、簪が右肩の7連装ミサイルポッドのミサイルをギルギルガン(第3形態)の側面から全弾叩き込む!!

 

「一夏!!」

 

更にグラパール・弾が、一夏の傍に着地すると、彼を抱えて移動する。

 

その直後に、ギルギルガン(第3形態)は一夏とグラパール・弾の直ぐ横に倒れ込む!

 

「グウッ!?………一夏、大丈夫か?」

 

「あ、ああ………何とかな………」

 

其処で一夏は、漸く頭を手で抑えながらも起き上がる。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーー………

 

すると、ギルギルガン(第3形態)も弱々しい咆哮を挙げながら起き上がり始める。

 

「あの野郎………まだくたばらないのか」

 

「だが、もう一息だ。行くぞ、一夏!!」

 

「おうっ!!」

 

其れを確認すると、一夏とグラパール・弾は再び飛翔する。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーー………

 

ヨタヨタと、覚束無い足取りで立ち上がるギルギルガン(第3形態)。

 

グラパール・弾の言った通り、もう一息の様だ。

 

「しぶとい奴だな! だがコイツで終わりだ!!」

 

其処でグレンラガンが両腕をドリルに変え、ギルギルガン(第3形態)の頭部目掛けて突撃する!!

 

「ショワッ!!」

 

そしてそのドリルを、ギルギルガン(第3形態)の両目へと突き刺す!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

悲鳴を挙げるギルギルガン(第3形態)の両目に、更にドリルを押し込むグレンラガン。

 

やがてドリルを根元まで突き刺したかと思うと、そのままドリルを分離して離脱する。

 

「一夏! 今だ!!」

 

「行っけええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

其処で一夏が、雪羅からの荷電粒子砲を最大出力で放つ!!

 

放たれた荷電粒子砲は、両目にドリルが突き刺さっているギルギルガン(第3形態)の頭部に命中!

 

ドリルを媒介にして、荷電粒子砲のエネルギーがギルギルガン(第3形態)の体内へと流れ込む!!

 

そして遂に、ギルギルガン(第3形態)の頭部が爆発した!!

 

「其処だ! 喰らえぇっ!!」

 

そして頭が無くなり、首の部分から露出した内部に向かって、スパイラルボンバーを全弾撃ち込むグラパール・弾。

 

ギルギルガン(第3形態)の胸部と背中に開いた穴から爆煙が上がる!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

しかし其処で、ギルギルガン(第3形態)は背の翼を展開!!

 

グラビトンウェーブを放つ!!

 

「!? うおわっ!?」

 

「うわあぁっ!?」

 

「うおおぉっ!?」

 

次々に弾き飛ばされるグレンラガン、一夏、グラパール・弾。

 

其処でギルギルガン(第3形態)は、真上に向かって飛翔し、ドンドンと高度を上げて行く。

 

「クッ! 逃がすかぁ!!」

 

だが、其処で逸早く態勢を立て直したグレンラガンが、右腕を掲げる様に構え、フルドリライズ状態を経て、ギガドリルを出現させる!!

 

「ギガァ! ドリルゥ! ブレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーイクッ!!」

 

そして、上昇して逃げようとしていたギルギルガン(第3形態)目掛けて突っ込む!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

と、ギルギルガン(第3形態)最後の抵抗か、残り全ての力を集めたグラビトンウェーブを、突っ込んで来るグレンラガンに向かって放つ!!

 

グラビトンウェーブによって突進を止められるグレンラガン。

 

「ぐうっ!? うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

だが気合を入れ、グラビトンウェーブの中を掘り進んで行く。

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

ギルギルガン(第3形態)も負けじとパワーを振り絞り、グラビトンウェーブを放ち続ける。

 

遂に両者の力は拮抗し、押し合いとなる。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!

 

グレンラガンとギルギルガン(第3形態)の咆哮が、辺りに響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総合病院の待合室………

 

[行けええええぇぇぇぇぇーーーーーーっ! 頑張れえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!! グレンラガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーンッ!!]

 

最早レポートの仕事をかなぐり捨てて、グレンラガンに必死に声援を飛ばしているレポーター。

 

「「「「「グレンラガン! グレンラガン! グレンラガン!!」」」」」

 

待合室の子供達も、口々にグレンラガンの名を叫ぶ。

 

「負けないで下さい!! グレンラガン!!」

 

そして更に!!

 

力が入った杏子が、ガバッと『立ち上がって』叫んだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京浜工業地帯………

 

「俺を………俺を誰だと思ってやがるううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンの決め台詞を言い放った瞬間!!

 

その身体から螺旋力が溢れ、緑色に光り輝く!!

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

そして、グラビトンウェーブを掻き消し、ギガドリルでギルギルガン(第3形態)の腹を貫いた!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

「コイツでトドメだ!!」

 

苦悶の咆哮を挙げるギルギルガン(第3形態)の無くなった頭の部分から、グレンラガンは再び体内へと突入!

 

「ギガドリルゥッ! マキシマムゥっ!!」

 

そしてそのまま体内でギガドリルマキシマムを発動!!

 

巨大なドリルが、ギルギルガン(第3形態)の身体の彼方此方から飛び出して来る!!

 

ギャオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?

 

そして遂に、ギルギルガン(第3形態)は大爆発!!

 

木端微塵に消し飛んだ!!

 

爆炎が晴れると、ガイナ立ちを決めているグレンラガンの姿が露わになる。

 

「まっ! ザッとこんなもんよ!!」

 

不敵に笑い、そう言い放つグレンラガンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総合病院の待合室………

 

[やったぁ!! やりましたぁ!! グレン団の! グレンラガンの勝利です!!]

 

レポーターがそう伝えた瞬間、待合室は歓声で沸き返った。

 

「神谷様………」

 

「やったわよ、杏子! グレンラガンが勝ったわよ!………アラッ!?」

 

感激していた杏子に、母親が声を掛けた瞬間、その事に気付く。

 

「杏子! 貴女………足………」

 

「えっ?………あ!?」

 

母親に指摘され、杏子は其処で初めて、自分が“自分の足で”しっかりと立っている事に気付く。

 

「立てた………立ててる………私! 立ててます!!」

 

徐々に感激が湧き上がり、身体が震え出す杏子。

 

「杏子!!」

 

「お母様!!」

 

杏子と母親は、湧き上がる待合室の中で、ガッシリと抱き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強敵を前にしても決して諦めないグレン団の闘志が………

 

傷を負っていた少女の心に勇気を与えた。

 

しかし、ロージェノム軍の野望は今だ絶える事を知らない。

 

戦え、グレン団!!

 

世界に平和が訪れるその日まで!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

東映まんがまつり第2弾完結。
作戦を成功させたグレン団だったが、ギルギルガンはガンメンやレッドショルダー達を食らって最終形態へ。
強大な力の前にあわやとなるグレン団だったが………
不屈の闘志で見事撃破!
杏子も立つことができ、全て万事解決です。

次回は季節ネタになります。
前回の季節ネタがハロウィンで、それから結構立ってる設定なので次回は………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第81話『イッテーな、チキショウ!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第81話『イッテーな、チキショウ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月も後半に差し掛かり………

 

世間はクリスマスムードに包まれていた。

 

今だロージェノム軍は猛威を振るっているが、人々はせめて聖夜だけでも平穏に過ごしたいのか、其れを忘れる様にクリスマスムードを楽しんでいる。

 

そして勿論、IS学園でも学園主催のクリスマスパーティーが開かれる事となっている。

 

 

 

 

 

IS学園・クリスマスパーティー用の特設会場………

 

「オーライ! オーライ!」

 

「そのままお願いしま~す」

 

のほほんと虚が、巨大なモミの木を吊るしているクレーン車に指示を出している。

 

2人の指示に従い、巨大なモミの木は特設会場の中心へと据え付けられる。

 

「OKで~す!」

 

「ありがとうございま~す」

 

其れを確認すると、2人はクレーン車の操縦者にお礼を言う。

 

「おおっ! 立派なモミの木だな~」

 

「コイツは飾り付けのし甲斐が有るぜ!」

 

と其処へ、そう言う台詞と共に、ツリー用の飾りが詰まったダンボール箱を抱えた一夏と神谷、グレン団一同が現れた。

 

「あ、かみや~ん、おりむー、皆~」

 

「お疲れ様です」

 

のほほんと虚がそう言うと、一同はダンボール箱を下ろし、ツリーを見上げる。

 

「デッケェーなぁ~。こんなデカいモミの木見た事無えぞ」

 

「何たって、クリスマスパーティーのシンボルだからね。半端な物じゃ困るから特注したの」

 

感嘆の声を挙げる弾に、楯無がそう言う。

 

「よ~し! 気合入れて飾り付けるわよ~!!」

 

「うふふ、鈴ったら、神谷みたい」

 

飾り付けが楽しみなのか、鈴がそんな声を挙げると、シャルがその姿に神谷を重ねる。

 

「!? んなっ!? 巫山戯んじゃないわよ!! 誰があんな奴に似てるってのよ!?」

 

「んだとコラァッ! 如何言う意味だぁ!?」

 

鈴がそう言い返すと、当然神谷が反論して来て、お馴染みの口論が始まる。

 

「ちょっ! 鈴! 落ち着きなよ~!」

 

「アニキ、その辺で。ホラ、もう直ぐクリスマスなんだからさ」

 

其処でティトリーが鈴を、一夏が神谷を止めに入る。

 

「ったく、仕方無いわね………」

 

「しゃあ無え。今日のところはサンタクロースに免じて見逃してやるぜ」

 

渋々と鈴が引き下がると、神谷がそんな事を言った。

 

「「「「「「「「「「………ハッ?」」」」」」」」」」

 

その台詞を聞いた一夏達が思わず首を傾げる。

 

「えっ、一寸まさか………?」

 

「アニキ………ひょっとしてサンタクロースを信じてるの?」

 

鈴と弾が、まさかという顔でそう尋ねる。

 

「ああ、何言ってんだ。当たり前だろ?」

 

神谷は真顔でそう返す。

 

「ふ、ふふ………フハハハハハッ!!」

 

「か、神谷さん! い、幾ら何でも、其れは有りませんわ!! アハハハハハハッ」

 

途端に笑い声を挙げ始める鈴とセシリア。

 

「クッ、クククク………き、貴様が………そ、そんな事を………お、思っても見なかったぞ………ククククク………」

 

ラウラも、大笑いしたいのを必死に堪えている。

 

「~~~~~~ッ!!」

 

箒も同じ様に、頬を膨らませて顔を背け、プルプルと小刻みに震えている。

 

「何だ、お前等? まさか“サンタクロースが居ねえ”とか言う口じゃ無えだろうな?」

 

「い、いや、アニキ。俺達もう“高校生”なんだよ」

 

その様子に不満を抱く神谷に、一夏がそう言う。

 

「何だ、一夏。テメェも信じて無ぇのか? ったく、どいつもこいつも………」

 

益々不機嫌になって行く神谷。

 

「か、神谷! 買い出しに行こうよ、買い出しに!!」

 

と其処でシャルが見かねたのか、神谷の背を押して買い出しに出掛けようとする。

 

「オイ、シャル、待て! 俺は未だ此奴等に………」

 

「良いから、良いから………」

 

納得が行かない神谷を強引に押して行き、シャルは買い出しへと出掛ける。

 

「其れにしても………あの神谷が未だにサンタを信じてたなんて………ぶふっ! アハハハハッ! あ~、駄目! 思い出したらお腹痛い! アーハッハッハッハッ!!」

 

鈴が、先程の神谷の態度を思い出し、またも笑い声を挙げる。

 

「神谷くんてば、意外にロマンチストだったのね………プククククク」

 

そう言う楯無も、笑いを堪えている。

 

「ちょっと、皆。そんなに言わなくても………」

 

「………ホントにロマンチストと言い切って………良いのかしら?」

 

と其処で、1人マイペースにツリーの飾り付けに入っていた簪が、そんな事を呟いた。

 

「「「「「「「えっ?」」」」」」」

 

「かんちゃ~ん、如何言う事~?」

 

その言葉に、一夏達は首を傾げ、のほほんはそう問い掛ける。

 

「………その人が心からそう思っていれば………其れは“真実”と言う事になるんじゃない………?」

 

一夏達にそう答え、黙々とツリーの飾り付けを進める簪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園近くの街中………

 

「チキショー、アイツ等め」

 

未だに一夏達の態度に納得が行っていない神谷が、買い出しした荷物を持ちながら、愚痴る様に呟く。

 

「神谷、やっぱり幾ら何でもアレは無いよ。サンタクロースが実在するなんて………」

 

シャルは、そんな神谷をやんわりと諭そうとする。

 

「じゃあお前、サンタクロースに会った事有んのか?」

 

すると神谷は、シャルに向かってそんな事を問い質す。

 

「えっ!? う、ううん………無いけど………でも、居ないんだから、当然じゃ………」

 

「じゃあ織田 信長に会った事有るのか? 豊臣 秀吉は? 徳川 家康には?」

 

「いや、神谷。それ歴史上の人物でしょ?」

 

神谷の言いたい事が良く分からず、困惑するシャル。

 

「そうだ。だが、誰も会った事は無えんだろ?」

 

「! あ!?」

 

其処でシャルは、神谷が言わんとしている事を漸く理解する。

 

「“会った事無いから居ない”って、誰が決めたんだよ?」

 

「そうか………そうだよね。ゴメンね、神谷」

 

シャルはそう言って笑顔を見せた。

 

「へっ、分かりゃ良い。んだよ。分かりゃあ………ん?」

 

すると其処で、神谷が何かを見付けた様に足を止める。

 

「? 如何したの、神谷?」

 

「あのガキ………」

 

「えっ?」

 

そう呟いた神谷が視線を向けている方向を見遣ると、其処には………

 

クリスマスで賑わう街の様子を、建物の壁に寄り掛かって寂しそうに眺めている少年の姿が在った。

 

「あの子………」

 

「武志く~~ん」

 

すると其処へ、誰かを探していると思われる女性が姿を現す。

 

「あ! 武志くん!」

 

「!!」

 

その女性に呼ばれた少年………武志は、女性の姿を見ると踵を返して逃げ出す様に走り出す。

 

「待って! 武志くん!!」

 

女性は慌てて追い掛ける。

 

すると武志と呼ばれた少年は、前方の横断歩道用の信号が赤だった事に気が付かず、車道へと飛び出してしまう!!

 

パッパーッ!!

 

「!?」

 

其処へ、トラックが武志目掛けて突っ込んで来る。

 

「ああっ!? 危ない!!」

 

とシャルが叫んだ瞬間!!

 

「!!」

 

神谷は荷物を放り投げて、駆け出していた!!

 

「危ねえっ!!」

 

「!? うわっ!?」

 

人間とは思えぬスピードで、武志の下へ駆け付けると彼を抱え上げ、歩道に向かって投げる!!

 

と、その次の瞬間!!

 

神谷が武志の身代わりになる様に、トラックに撥ねられた。

 

「ぐおあっ!?」

 

人形の様にぶっ飛び、近くに在ったゴミ置き場のゴミの中に突っ込む神谷。

 

「!? 神谷ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

其れを見たシャルが同じ様に荷物を投げ出し、神谷が突っ込んだゴミ置き場へ走り出す。

 

神谷の姿はゴミに埋もれ、片足だけが生える様に出て居た。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

「大変だぁ! 人が撥ねられたぞーっ!!」

 

クリスマスムードとなっていた街角が、一瞬で喧騒に包まれる。

 

「うおおっ!? やっちまった!?」

 

トラックを運転していた運転手も、トラックを停めて慌てて降りて来る。

 

「神谷ぁ!!」

 

「誰か! 誰か救急車を!!」

 

シャルが、悲痛な叫びと共に神谷の傍に駆け付けた瞬間、野次馬からそう声が挙がる。

 

すると!!

 

「オラァッ!!」

 

気合の叫び声が聞こえて来たかと思うと、神谷が至って平然とした様子で、自分に乗っかっていたゴミを弾き飛ばして起き上がった!!

 

「ええっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

シャルが驚きの声を挙げ、野次馬やトラックの運転手も、目を見開いて驚きを露わにしている。

 

「お~、イツツツ………イッテーな、チキショウ!」

 

愚痴る様に呟きながら、神谷は身体や服に付いたゴミを落としつつ立ち上がる。

 

「か、神谷? だ、大丈夫なの………?」

 

恐る恐ると言った様子で、神谷にそう尋ねるシャル。

 

「大丈夫じゃ無えよ! 見ろ! コブが出来ちまったじゃねえか!!」

 

そう言って神谷が自分の後頭部を指差して見せると、其処には漫画の様なコブが出来ていた。

 

「いやいやいやいや! 普通、トラックに撥ねられたら、コブじゃ済まないから!!」

 

手をブンブンと左右に振りながら、シャルは神谷にそうツッコミを入れる。

 

「ば~か、知ってんだろ? 俺が頑丈な事はよぉ」

 

すると神谷は、何を今更と言う様にそう返す。

 

(ええ~~~っ?)

 

シャルは更にツッコみたかったが、コレ以上は無意味だと思い、心の中で溜息を吐きながら黙り込む。

 

「あ、あの………」

 

「ん?」

 

と其処で後ろから声を掛けられ、コブを擦りながら振り返る神谷。

 

其処には、無事だった武志と彼を探していた女性の姿が在った。

 

「あ、ありがとうございます! そ、其れでその………大丈夫なんですか?」

 

女性は神谷に礼を言うと、シャルと同じ様に恐る恐ると言った様子で尋ねて来る。

 

「ああ。ちょいとイテェが、如何って事無えよ」

 

コブを擦りながら女性にそう答える神谷。

 

「ホ、ホントにですか? 救急車を呼んだ方が………」

 

「いや、要らねえよ。大袈裟だな」

 

(実際大袈裟じゃ無いんだけど………)

 

シャルが心の中でそうツッコミを入れる。

 

「じ、じゃあ、せめて手当をさせて頂けませんか? お礼もしたいですし」

 

「別に良いって。礼が欲しいから助けたワケじゃ無えよ」

 

「い、いえ、そうは行きませんよ! コチラが迷惑を掛けたのですし………」

 

礼は要らないと言う神谷だったが、女性は食い下がる。

 

結局その後も少し問答が続き、やがて神谷の方が折れて、シャルと共に女性に従いて行く事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武志を連れた女性によって連れて来られたのは、と或る孤児院………児童養護施設だった。

 

如何やら、女性は此処の児童指導員らしい。

 

神谷とシャルは職員室へと通され、其処で治療を受ける。

 

 

 

児童養護施設・職員室………

 

「痛く無いですか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

先程の女性児童指導員が、神谷の頭に包帯を巻いている。

 

「其れにしても信じられ無いわね………トラックに撥ねられてタンコブが出来ただけ、なんて………」

 

施設の責任者と思われる年配の女性が、治療を受けている神谷を見ながらそう言う。

 

「頑丈さには自信が有るんでな」

 

「ア、アハハハハ………」

 

自信満々にそう言う神谷と、苦笑いするシャル。

 

「流石、ロージェノム軍相手に戦っているグレン団さんですね」

 

施設長は神谷に向かってそう言う。

 

グレン団の戦闘の様子は何度がTV放送を通じて世間に流れており、IS学園からの機密事項を除いた情報公開も有り、世間では一寸した有名人となっている。

 

「ハイ、コレで良し、っと」

 

と其処で、手当てをしていた女性児童指導員が包帯を巻き終える。

 

「おう、サンキュウな」

 

神谷は女性児童指導員を見ながら、軽い感じでお礼を言う。

 

すると職員室の窓から、施設の庭でクリスマスの準備をしている子供達の姿が見える。

 

「ん?」

 

其処で神谷は、あの武志少年が1人寂しそうにしている光景を目撃する。

 

「アイツ………」

 

「? ああ、武志くんですか?」

 

神谷の視線に気付いた女性児童指導員がそう言う。

 

「あの………街中で見掛けた時から気になってたんですけど………あの子、如何してあんなに寂しそうにしてるんですか?」

 

その様子が気になったシャルが、思い切ってそう質問する。

 

「………武志くんは“今年の春先”にこの施設へ入所したんです」

 

「今年の春先………!? まさか!?」

 

「ハイ………武志くんのご両親は………ロージェノム軍に殺されたんです」

 

「「!?」」

 

その言葉に神谷とシャルは驚きを露にする。

 

「ご両親と一緒に海外旅行中だったところ………その旅行先の国がロージェノム軍に侵略され………武志くんのご両親は戦闘に巻き込まれて………運良くあの子だけが生き残ったんです」

 

「そう………だったんですか………」

 

「…………」

 

女性児童指導員から説明を受けて、シャルは表情に陰を落とし、神谷も拳を握り締める。

 

「イキナリ理不尽な出来事で両親を奪われた武志くんは、すっかり塞ぎ込んでしまって………」

 

「我々としても、出来得る限り気に掛けては居るのですが、中々………」

 

窓から見える、庭の片隅で寂しそうに佇んでいる武志を見遣りながら、女性児童指導員と施設長がそう言う。

 

「しかも、ご両親と今年のクリスマスに盛大なパーティーをやろうって約束していたらしくって………其れでクリスマスが近付くに連れて、ドンドン暗くなって行ってしまって………」

 

「…………」

 

シャルも、悲し気な瞳で武志の姿を見遣る。

 

今、武志が感じている悲しみは、世界中の彼方此方で起こっている悲しみである。

 

勿論、自分達は命を賭けて戦っている。

 

だが、如何しても被害者を0にする事は出来ない………

 

そう思うと、自分達の力不足を実感してしまう。

 

「…………」

 

と其処で神谷が、職員室に在った庭に繋がるドアから庭へと躍り出た。

 

「あっ!? 神谷!?」

 

シャルも慌てて、その後を追う様に庭へと出る。

 

一方、庭の片隅でポツンッと立っていた武志は………

 

「…………」

 

目の前で繰り広げられているクリスマスの楽しそうな雰囲気に耐えられなくなったのか、顔を伏せたまま何処かへと去ろうとする。

 

すると、その移動先に立っていた神谷にぶつかる。

 

「うわっ!?」

 

「上を向いて歩け! 武志!!」

 

驚いて数歩下がった武志に向かって、神谷は嘗て一夏に言った様にそう言う。

 

「あ………グレンラガンのお兄ちゃん………」

 

「男が何時までも下向いて歩いてんじゃねえ! 男は、何時だって上を向いて前向きに生きてくモンだ!!」

 

武志に向かって、お馴染みの神谷節を炸裂させる。

 

「ちょちょちょ! 神谷!!」

 

「………だって………」

 

シャルが慌てて止めに入り、武志が未だ落ち込んでいる様子を見せると………

 

「だってじゃねえ! 男だろ!?」

 

神谷はしゃがみ込み、武志と視線を合わせながらそう言う。

 

「良いか、武志。生きていりゃあ、色んな辛い事が有る。だがな! 男は其れに負けちゃならねえ! どんなに辛く苦しい目に遭ったって、歯ぁ喰い縛って耐え抜くんだ!!」

 

神谷は武志の肩を摑み、そう語り掛ける。

 

「…………」

 

しかし、武志はまた俯いてしまう。

 

「オメェの気持ちは良く分かる………俺の親父もロージェノムの奴に殺されたからな」

 

「えっ!?」

 

其処で武志は顔を上げ、驚きを示す。

 

「けどな! 俺はアイツ等には絶対負けねえ! 奴等を片っ端からブッ潰して、親父の仇を取ってやるんだ!」

 

「…………」

 

「だからオメェも負けるんじゃねえ! 武志!!」

 

「お兄ちゃん………」

 

「………()は何時も1人で戦うんだ。自分自身と戦うんだ」

 

真剣な表情で、武志へそう語り掛ける神谷。

 

「………神谷」

 

そんな神谷の姿に、シャルは何とも言えない表情となる。

 

何時も明るく熱く、何処までも突っ走って行く神谷の(オトコ)としての生き様………

 

しかし、其れが決して楽しい事ばかりで無く、楽な道でも無い事を初めて知る。

 

シャル達が知らぬ所で、神谷は常に戦っていたのだ。

 

何時もシャル達に見せている強い姿の裏に隠れた………

 

弱い己自身と………

 

其れだけでは無い………

 

今や世界の戦況は不利へと傾いている。

 

その状況は人々から希望や活力を奪い去り、絶望や無気力へと貶めている。

 

そんな中で連戦連勝を重ねているグレン団の存在は、今や日本だけでなく、世界の希望でもある。

 

だが、其れは裏を返せば………

 

“真の意味での敗北”が1度たりと許されない、と言う事だ。

 

グレンラガン、そしてグレン団の敗北は、世界がロージェノム軍に蹂躙されるという事と同義である。

 

故に負ける事は許されない。

 

只の1度でさえも………

 

シャルはこの時………

 

神谷の言う“漢の生き様”の不器用さと、自分達が背負っているモノの重さを再認識した。

 

「強くなれ、武志………其れが男だ」

 

「………うん!」

 

神谷の熱い言葉に、武志は遂に頷く。

 

「よっし! ()()の約束だ!!」

 

「うん!!」

 

そう言い合い、神谷と武志はギュッと手を合わせ合った。

 

「神谷………」

 

シャルはそんな2人の様子を、慈愛が籠った微笑で見詰めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後………

 

神谷とシャルは、少しだけ児童養護施設の子供達と遊んであげた後、買い出しの荷物を持って帰路へと就いた。

 

「神谷………」

 

「ん? 何だ?」

 

「………ううん。何でも無い」

 

途中、神谷に何か言おうとして止めるシャル。

 

武志と話している時に、少し理解した神谷の生き様に触れようとしたが、恐らく其れを言っても神谷は生き方を変えない………

 

そういう男なのである。

 

「? 何だよ、変な奴だな………」

 

「うふふ、ゴメンね」

 

「ま、良いか………そうだ、シャル! クリスマスの日は、グレン団全員であの施設に行こうぜ! アイツ等のクリスマスパーティーを盛り上げてやるんだ!」

 

「あ! それ良いね!!」

 

神谷の提案に、シャルは笑顔で同意する。

 

「よっし! 決まりだ!! 早速一夏達に支度させねえとな!!」

 

「子供達、喜ぶよ、きっと」

 

そう言い合うと、2人は足を速めて、IS学園へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、クリスマスの日………

 

神谷達、グレン団は………

 

クリスマスの奇跡を目撃する事となるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

季節イベント、クリスマス編です。
前回に続いて、また昭和っぽい展開ですみません。

ロージェノム軍との戦いの被害者である少年と出会った神谷達。
クリスマスの夜にその少年の居る児童施設を訪れようとしますが、その日に………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第82話『メリイイイイイィィィィィィーーーーーーークリスマスッ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第82話『メリイイイイイィィィィィィーーーーーーークリスマスッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマスが近付く中、IS学園で行うクリスマスパーティの買い出しへと出た神谷とシャルは………

 

ロージェノム軍の侵略によって両親を失った少年………武志と出会う。

 

今年のクリスマスは盛大なパーティーをしようと、亡き両親と約束していた武志は、クリスマスが近付くに連れてドンドン塞ぎ込んでしまっていた。

 

そんな武志の姿を見かねた神谷は、嘗て一夏にもそうした様に彼の兄貴分となり、()の生き様を説く。

 

多少強引ながらも、真剣に向き合って来た神谷の思いに、武志は励まされる。

 

そして神谷は………

 

クリスマス・イブに、グレン団一同で施設を訪れる事を思い付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスマス・イブ………

 

武志の居る児童養護施設にて………

 

庭に据え付けられた大きなクリスマスツリーを囲む様に設置されたパーティー会場に、施設の職員達と子供達が集合している。

 

ライトアップされたクリスマスツリーを囲んで、きよしこの夜を合唱している子供達。

 

「ねえ、先生。本当にグレン団が来てくれるの?」

 

「ホント?」

 

年少の子供達が、半信半疑で女性児童指導員にそう尋ねる。

 

「え、ええ、勿論よ」

 

若干躊躇いながらも、女性児童指導員はそう答える。

 

何せ彼女も、事前に電話が掛かって来て一方的に言われただけなのだ。

 

正直な所、実際に来てくれるとは思っていない………

 

と、その時!

 

何処からとも無く鈴の音が聞こえて来る。

 

「? 何?」

 

「あ! サンタさんのソリだ!!」

 

女性児童指導員がそう呟くと、年少の子供の1人が、施設の入り口を指差しながらそう言う。

 

其処には、パーティー会場に向かって来る、サンタのソリを曳く赤鼻のトナカイ………に扮した、神谷・一夏・弾のグレン団男3人衆が曳くソリが、砂煙を上げながら走って来ていた。

 

「「「メリイイイイイィィィィィィーーーーーーークリスマスッ!!」」」

 

イイ笑顔でそう言いながら、パーティー会場へ突っ込んで行くトナカイ達。

 

「ちょっ!? 神谷! ストップ! ストーップ!!」

 

「一夏ー! 止めろぉーっ!!」

 

「弾くーんっ!!」

 

ソリの荷台に乗せられているサンタの格好をしたグレン団女性メンバーの内、シャル・箒・虚がそう悲鳴を挙げる。

 

「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」」

 

しかし、3人には聞こえていないのか、益々スピードを上げて行く。

 

「!? うおっ!?」

 

と、その時!!

 

一夏が足元に在った石に蹴躓く。

 

「おわっ!?」

 

「ぬおっ!?」

 

当然、連鎖反応で弾と神谷もスッ転ぶ。

 

「「「「「!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」」」」」

 

そして3人が曳いていたソリも転倒。

 

箒やシャル達が次々に投げ出されて、地面に転がる。

 

「か、神谷………後で殺す」

 

「何で私がこんな目に………」

 

「オノレェ………」

 

「一夏ぁ………」

 

「お兄ぃ………」

 

倒れたまま神谷達への恨み言を呟いている鈴、セシリア、ラウラ、箒、蘭。

 

「大丈夫?………皆?」

 

「お姉ちゃ~ん、無事?」

 

自分達だけちゃっかり脱出していた簪とのほほんがそう尋ねて来る。

 

「簪ちゃん………この薄情者………」

 

「本音………そう思うんだったら、助けてよ………」

 

箒達と同じ様に倒れたままの楯無と虚が、恨みがましくそう呟く。

 

「シャル~、大丈夫~?」

 

「何とか………イタタタタ………」

 

投げ出された際に受け身を取っていたティトリーとシャルが、ぶつけた所を擦りながら起き上がる。

 

「お~い!」

 

「皆~! 大丈夫か~!」

 

其処へ、立ち直った一夏と弾が慌てて駆け寄って来る。

 

「一夏! 貴様はぁ!!」

 

「もう! 弾くん!!」

 

途端に、箒と虚から非難が飛ぶ。

 

他のメンバーも厳しい目を向ける。

 

「いや、アハハハ………」

 

「どうもスンマセン!」

 

苦笑いで誤魔化す一夏と、思いっ切り頭を下げる弾。

 

「神谷も気を付けてよね」

 

「ハハハハ! ワリィワリィ!!」

 

シャルも神谷に注意するが、当の神谷に悪びれた様子は見えない。

 

尤も、何時もの事と言えば何時もの事なのだが。

 

「あ、あの………」

 

と其処で、女性児童指導員が遠慮がちに声を掛けて来る。

 

「ん? おおっと! そうだったな! 待たせたな、お前等!! 天下無双のグレン団!! 聖夜に登場だぜ!!」

 

其れに気付いた神谷は、施設の子供達の方に向き直ると、ポーズを決めながらそう言い放つ。

 

格好がトナカイなのでイマイチ決まって無かったりするが、神谷は気にしていない。

 

「わあ~! グレン団だ!!」

 

「本物だぁ!!」

 

「凄~い!!」

 

途端に、子供達はまるで蟻の様にグレン団メンバーへと群がって来る。

 

「お、おおお………」

 

「コ、コレは………」

 

「凄いわね………」

 

自分達の人気ぶりに、箒、ラウラ、鈴が戸惑いの様子を見せる。

 

「私達、こんなにも人気が有ったのですね」

 

「そりゃそうでしょ。何たって、私達は悪の侵略帝国ロージェノムから地球を守っているヒーローなんだから!」

 

「………ヒーロー」

 

セシリアがそう言うと、楯無が芝居掛かった調子でそう言い、その言葉に思う処が有るのか、そう呟く簪。

 

「アハハハ………凄いなぁ」

 

「あ! 織斑 一夏だ!!」

 

一夏がそんな光景に感心していると、そんな彼の許にも子供達が群がって来る。

 

「お! 嬉しいなぁ………俺の事も知っててくれてるのかい?」

 

子供達に向かって一夏はそう言うが………

 

「うん! 知ってる! IS学園のスケコマシ!」

 

「違うよ! 女たらしだよぉ!!」

 

「ラッキースケベェ!!」

 

という子供達の反応を聞いた途端にズッコケてしまう。

 

「な、何だよそれ………俺の何処がスケコマシなんだよ!?」

 

(((((………全てだろう)))))

 

抗議の声を挙げる一夏だったが、弾達は心の中でそうツッコミを入れる。

 

「細かい事は気にすんな、一夏! 今日はめでてぇ日だ!! 大いに騒いで歌おうぜ!!」

 

「「「「「「「「「「イェーイッ!!」」」」」」」」」」

 

早くも、天性のカリスマで子供達の心を掌握し始めていた神谷がそう言い放つと、子供達も盛り上がりを見せる。

 

そして、グレン団のメンバーは子供達と触れ合いながら、聖夜のパーティーを盛り上げて行くのだった。

 

 

 

椅子取りゲームでは、白熱した一夏と弾が最後の椅子を巡って殴り合いになり掛けたり………

 

簪が子供達にせがまれて、プラモデルをプロモデラー並みに仕上げてあげたり………

 

箒はチャンバラごっこ、鈴はカンフーごっこを繰り広げる………

 

セシリアは合唱に参加し、ラウラは子供達にドイツ軍の格闘術を教えている………

 

楯無、のほほん、虚、蘭は見事なダンスを披露し、ティトリーは獣人の特徴を子供達に弄られている(本人は、子供達に怖がられていないので満足気だが)………

 

神谷は肩車タクシーを営業している………

 

 

 

そして、そんな中………

 

「皆~! そろそろケーキを食べましょ~う!」

 

「「「「「「「「「「わ~~~いっ!!」」」」」」」」」」

 

女性児童指導員がそう呼び掛けると、園児達が集まって来る。

 

「ハ~イ、特製ケーキの登場だよ~!」

 

シャルがそう言って、お手製の特大ケーキを台車に載せて運んで来る。

 

「わ~っ! すっご~い!!」

 

「美味しそう~!」

 

「一寸待っててねぇ。今切り分けるから」

 

女性児童指導員がそう言い、ケーキを切り分けに掛かる。

 

子供達はその傍で、ケーキが配られるのを今か今かと待ち焦がれている。

 

その中には、あの武志の姿も在る。

 

(元気が出たみてぇだな………其れでこそ()だぜ)

 

そんな武志の姿を見て、満足気な笑みを浮かべる神谷。

 

すると其処で、通信機からコール音が鳴った。

 

「ん? チイッ、何だよ………」

 

折角の聖夜にと、神谷は一夏達や子供達に気付かれない様に物陰へと移動し、通信機を取り出す。

 

「おう、神谷だ」

 

[神谷か?私だ]

 

通信先からは、千冬の声が聞こえて来る。

 

「んだよ、ブラコンアネキ。コッチは盛り上がってるとこなんだぞ。幾ら聖夜に1人身だからって、僻むんじゃねえよ」

 

[誰が何時そんな話をした!?]

 

気にしているのか、何時もより怒気が上がっている千冬。

 

「んで? 何の用だよ?」

 

しかし、相変わらず神谷にはスルーされる。

 

[お前と言う奴は………グッ! また胃が………まあ良い。少し前に、太平洋側を哨戒飛行中だった航空自衛隊機が、一瞬だがレーダーに国籍不明の飛行物体を捉えたらしい]

 

「ロージェノム軍か?」

 

[未だ分からん。だが、防衛省からの要請で、念の為にお前達にも調査に向かって欲しい。此の処の襲撃で、防衛省も過敏になっているらしい]

 

「…………」

 

其処で神谷は、パーティー会場の方を見遣った。

 

一夏達や子供達は、神谷の様子に気付いておらず、楽しそうにクリスマスパーティーを続けている。

 

「………ああ、分かった。俺から一夏達に話してちょいと様子を見て来らぁ」

 

[頼んだぞ]

 

そう言うと、千冬は通信を切る。

 

「さてと………」

 

神谷は通信機を仕舞うと、施設から離れて行こうとする。

 

「何処行くの? 神谷お兄ちゃん?」

 

「ん?」

 

と、不意に声を掛けられて振り返ると、其処には武志の姿が在った。

 

「ケーキ食べないの?」

 

「武志………」

 

すると神谷は、武志と視線を合わせる様にしゃがみ込む。

 

「良いか、武志。俺はコレから()()出掛けて来る。直ぐに戻るから、一夏達には何も言わないでおいてくれ」

 

「えっ!? 如何したのお兄ちゃん!? ひょっとしてロージェノム軍が襲って来たの!?」

 

「シッ! 声がデケェだろ」

 

思わず大声を挙げる武志を、そう言って制する神谷。

 

幸い、一夏達には聞こえていなかった様だ。 

 

「別にそうと決まったワケじゃ無え。ちょいと其れを“確認しに行くだけ”だ。だから俺1人で十分だ。折角の聖夜を台無しにしたく無えからな」

 

「でも、ホントにロージェノム軍だったら………」

 

「だーいじょぶだって。そうだったとしても、軽く捻ってやるよ」

 

「お兄ちゃん!」

 

「………良いか、武志。()には、“自分が損になると分かっていても、人の為に働かなきゃならん時”ってモンが有るんだよ」

 

神谷は、ジッと武志の目を見据えそう言い放つ。

 

「…………」

 

その言葉に、武志は黙り込む。

 

「分かったな? じゃ、上手く誤魔化しておいてくれよ。()()の約束だ」

 

サムズアップして見せると神谷は立ち上がり、そのまま踵を返して施設の敷地外へと出て行った。

 

「………良し!」

 

そして、周りに人が居ない事を確認すると………

 

「グレンラガン! スピンオン!!」

 

コアドリルを取り出し、グレンラガンの姿となる!

 

ウイングを展開し、トビダマから炎を挙げると、グレンラガンは聖夜の大空へと舞う!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本近海の太平洋………

 

レーダーに、一瞬だけ反応を捉えた航空自衛隊のF-4がその反応が有った地点を周回飛行しているが、レーダーに反応は無かった。

 

[此方オウル1。ポイントRを飛行中。レーダーに反応無し]

 

[やっぱり見間違いじゃ無いのか?]

 

パイロットと後席のナビゲーターがそう言い合う。

 

[其れなら其れで良いんだが………]

 

パイロットがイマイチ納得が行っていない様子で居ると………

 

「待たせたな! グレンラガン様の登場だ!!」

 

そう言う台詞と共に、グレンラガンが姿を現した。

 

[おお! グレンラガン! 来てくれたか!!]

 

[ん? グレンラガンだけか? 他のメンバーは?]

 

「何だよ? 俺だけじゃ不足か?」

 

ファントムライダー達の言葉に、そう返すグレンラガン。

 

[いや、そういうワケじゃないが………]

 

と、ナビゲーターがそう言った瞬間!!

 

コックピット内にアラートが鳴り響く!!

 

[!? ミサイルアラート!?………!? うわぁっ!?]

 

パイロットがそう声を挙げた瞬間に、『何か』がF-4の機体に命中。

 

F-4は木端微塵となった!

 

「!? 何だ!?」

 

驚きながらも、直ぐにグレンラガンは周囲を見回す。

 

すると、コチラに向かって飛んで来る飛行物体が有る事に気付く。

 

「!?」

 

グレンラガンが構えを取ると、その飛行物体………

 

まるでミサイルを無理矢理ロボットにしたかの様に、上部にガンメンが取り付けられているミサイル………『ガンメンミサイル』の姿が露わになる!!

 

「螺旋王万歳ーーーーーーっ!!」

 

そう叫びながら、グレンラガン目掛けて突っ込んで来るガンメンミサイル。

 

「! このぉっ!!」

 

咄嗟に、信管部分を避ける様にして受け止めるグレンラガン。

 

しかし、その瞬間!!

 

ガンメンミサイルは大爆発!!

 

「おうわっ!?」

 

爆風をほぼ零距離で浴びてしまう!!

 

「ぐううっ!? やってくれるじゃねえか!!」

 

「獣人に栄光あれーーーーーーーっ!!」

 

「天国行けるかなーーーーーーーーっ!!」

 

装甲が少し焦げ付いたグレンラガンがそう言い放つと、ガンメンミサイル達は次々に噴射を強めて突っ込んで来る。

 

若しこのまま日本へ通してしまえば、壊滅的な被害が出る事は目に見えている。

 

「そうは! させるかってんだあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンが咆哮を挙げると、その身体から螺旋エネルギーが発せられる。

 

そして、全身至る所にあったドリルの出現口から、無数の小さなドリルのミサイルが出現する!!

 

その小型ドリルミサイルを、伝説巨人よろしく周辺目掛けて一斉発射する!!

 

次々に緑色の光の尾を曳く小型ドリルミサイルに撃ち抜かれ、ガンメンミサイルは爆散する。

 

しかしその爆炎の中を突っ切って、新たなガンメンミサイルが姿を現す。

 

「来やがれ! 片っ端から撃ち落としてやるぜぇっ!!」

 

グレンラガンはそう吠えると、右手にグレンブーメランを握り、左腕から2本のドリルを出現させ、自らそのガンメンミサイルの中へと突っ込んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

児童養護施設………

 

「………アレ? アニキは?」

 

と其処で、漸く神谷が居ない事に気付いた一夏が、そう声を挙げる。

 

「アレ? そう言えば………」

 

「さっきから姿が見えないな………」

 

シャルと弾も、一夏のその言葉で神谷の姿が見えない事に気付き、辺りを見回す。

 

箒達もキョロキョロとして神谷を探す。

 

「…………」

 

1人事情を知るが、()()の約束で言う事が出来ない武志。

 

「ホントに居ませんわね………」

 

「何処へ行ったんだ、あの馬鹿は?」

 

「自分で企画しといて勝手に居なくなるなんて、ホント最低ね」

 

セシリアとラウラ、鈴がそんな事を口走る。

 

「!?」

 

と、其れが聞き捨てならなかったのか、武志が鈴の弁慶の泣き所(向こう脛)に、思いっ切り蹴りを噛ました。

 

「!?#$%&¥*+@」

 

声にならない悲鳴を挙げて悶える鈴。

 

「武志くん! 何をするの!?」

 

慌てて、女性児童指導員が背後から武志の両肩を摑む。

 

「…………」

 

武志は答えず、ただ鈴を睨み付けるだけだった。

 

「こ、このクソガキイィ~~~ッ!!」

 

怒り心頭の鈴は、武志に摑み掛かろうとするが、

 

「鈴! 一寸待って!!」

 

シャルが鈴を押し留める。

 

「シャルロット! 止めるんじゃないわよ!!」

 

「落ち着いてよ、鈴………ねえ、武志くん。ひょっとして神谷が居なくなった理由を知ってるんじゃない?」

 

鈴を抑えると、シャルは武志の方に向き直り、そう尋ねる。

 

「………!?」

 

その問いに、武志は顔を逸らす。

 

「やっぱり、知ってるんだね」

 

「なあ、アニキは何処へ行ったんだ?」

 

しかし、その態度は“知っている”という事を裏付け、一夏もそう詰め寄って来る。

 

「………()()の約束だから言わない」

 

だが武志はそう言って、話す事を拒否する。

 

「武志くん!」

 

そんな武志の態度を見た女性児童指導員が、武志を叱り付けようとしたが………

 

「俺が如何かしたか?」

 

そう言う台詞と共に、ボロボロな神谷がひょっこりと姿を現す。

 

「! 神谷!」

 

「アニキ!」

 

「お前、今まで何処に居たんだ?」

 

シャルと一夏が慌てて駆け寄り、神谷の様を見て箒がそう尋ねる。

 

「いや~。実はよぉ、盛り上げようと思ってこんなモン買っといたんだけどよぉ」

 

そう言って神谷が一同に見せた物は………

 

「………花火?」

 

そう、打ち上げ花火だった。

 

「ああ、コイツを打ち上げたら盛り上がるだろうなと思ったんだがな………如何も安モンを摑まされたみてぇでな。暴発しちまった」

 

ハッハッハッと笑いながら、神谷はそう説明する。

 

「な~んだ、そうだったの~」

 

「良かった~………てっきり、またロージェノム軍が来たのかと思っちゃったよ」

 

其れを聞いた楯無とティトリーがそう呟く。

 

「全く。人騒がせですわ、神谷さん」

 

「そうよ、ホントに………」

 

セシリアと鈴は、不満顔で神谷にそう言う。

 

「ハハハハ、ワリィワリィ」

 

何時もと変わらぬ軽い様で謝罪する神谷。

 

「神谷お兄ちゃん………」

 

と、武志は何かを訴え掛ける様に神谷を見上げるが………

 

「…………」

 

神谷は黙って、ただフッと笑った。

 

「…………」

 

其れに釣られる様に武志も笑い、無言で頷く。

 

「…………」

 

しかし、只1人簪だけは何かを悟った様な様子を見せる。

 

だが、其れを口にする事は無く、“神谷の秘密”は守られる。

 

すると………

 

「!? ひゃん!?」

 

突如、シャルが珍妙な悲鳴を挙げる。

 

「? 如何した? シャル?」

 

「く、首の後ろに何か冷たい物が………」

 

シャルがそう答えると、夜空から白い綿の様な物が、フワリフワリと舞い降りて来た。

 

「わあぁ~」

 

「雪ですね」

 

のほほんと虚がそう呟く。

 

「素敵………」

 

「ホワイトクリスマスだね」

 

蘭とシャルも、ドンドンと降って来る雪を見上げながらそう呟く。

 

と、その時………

 

空の彼方から、シャンシャンシャンと言う、鈴の音が鳴り響いて来た。

 

「えっ?」

 

「何だ?」

 

グレン団一同と子供達は、空を見上げる。

 

すると、雪が舞い降っている空から………

 

赤い鼻のトナカイに曳かれたソリに乗る、真っ赤な服を着た白髭の老人………

 

『サンタクロース』が姿を現した。

 

「!? サンタクロースッ!?」

 

「えっ!? 嘘っ!? マジで!?」

 

「わ、私! 夢を見てるんでしょうか!?」

 

「い、いや………コレは現実だ」

 

シャル、鈴、セシリアがそう驚きの声を挙げ、ラウラが自分の頬を抓りながらそう言う。

 

「メリークリスマスッ!!」

 

と、サンタクロースがそう声を掛け、ソリの後ろに載せていた白い大きな袋の口を開いたかと思うと………

 

其処から光の粒子が噴き出した!

 

雪と一緒に、光の粒子が辺りに舞い散る。

 

そして、その光の粒子が、其々グレン団や子供達の手元に集まって行ったかと思うと、綺麗にラッピングされたクリスマスプレゼントとなった!

 

「わあ~! プレゼントだ!!」

 

「凄~いっ!!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

子供達は大燥ぎし、グレン団一同はプレゼントを持ったまま呆然となる。

 

「ヘヘッ、ありがとうよ、サンタクロース」

 

「メリークリスマスッ!!」

 

プレゼントを抱えたまま、神谷がサンタクロースを見上げてそう言うと、サンタクロースはまたそう言い、夜空へと消えて行った。

 

「こ、こんな事が起こって良いのか?」

 

「ま、まあ、良いんじゃないかな?」

 

「そうだよ。だって今日は………“クリスマス(聖夜)”じゃない!」

 

箒が戸惑いの声を挙げると、未だ若干戸惑っている一夏がそう言い、既に事実を受け止めているシャルが、そんな事を言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

或る聖夜に起きた出来事………

 

1人の男の意地が、小さな奇跡を舞い起こした………

 

小さくも大きな出来事だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

クリスマス編、後編となります。
孤児院でどんちゃん騒ぎに興じるグレン団。
そんな中でロージェノム軍が………
しかし、クリスマスムードを壊さないために、神谷は単身出撃します。
そして、聖夜の夜に奇跡が………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第83話『運を自分で呼び込んでこその男よ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第83話『運を自分で呼び込んでこその男よ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は、クリスマスからアッと言う間に流れ………

 

大晦日をスッ飛ばして年が明けた。

 

正月である。

 

しかし、今年の年明けを“目出度い”と思う者は余りいない………

 

其れは勿論、今尚ロージェノム軍の侵攻が続いているからである。

 

既に世界の半分以上の国が壊滅・占領されており、残っている一部の国家では、物資が配給制になっている所まで在るらしい。

 

日本でも輸入品がストップしたり、物価が高騰する等と、一般市民への影響が出始める様になって来ている。

 

………余り大きな声では言えないが、未来に絶望し、自殺をする者が出始めてもいる。

 

だが、そんな中でも僅かな希望に縋るかの様に、神社へ平和祈願へ行く者達もいる。

 

そんな人々の為に、門を開け続けている神社も在る。

 

此処、道明寺神社も、そんな神社の1つである。

 

そして、その境内にある縁起物売り場に、巫女服姿の箒の姿が在った。

 

窓口に座り、参拝客が来るのを待っているが、前述の理由も有り、正月にしては参拝客は多いとは言えない。

 

(やはり………人々の生活にも影響が出始めている………このままでは………)

 

世間の様子を肌で感じ、箒は言い様の無い危機感を覚える。

 

と、その時………

 

「箒ちゃん。お守りの補充持って来た………!? キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

新しいお守りが入った箱を持って来た巫女服姿の女性が、何も無い処でスッ転ぶ。

 

顔から床に着地し、転がった箱からお守りがブチ撒けられる。

 

「イタタタタタ………! あ~! お守りがぁ!!」

 

「………ハア~~~。またですか? 歌鈴さん」

 

その様子に、箒は呆れた様に溜息を吐く。

 

女性の名は、『道明寺 歌鈴』

 

箒の実家である篠ノ之神社とは一寸した縁が有る、この道明寺神社の神主の娘で巫女である。

 

しかし、篠ノ之神社が剣術道場でもある様に、此処の神社もかなり変わっている。

 

実は何と!!

 

この道明寺 歌鈴………

 

神社の巫女でありながら、アイドルでもあるのだ。

 

曰く、偶々街を歩いていたら、

 

『ティンと来た! 君、アイドルに興味は無いかね?』

 

と言う台詞で、矢鱈色の黒い芸能プロダクションの社長と、そのプロダクションのプロデューサーにスカウトされたらしい。

 

最初は断ったものの、社長とプロデューサーが余りにも熱心に頭を下げて来たので、承諾してしまったそうである。

 

こうして、歌鈴の“奇妙な二足の草鞋生活”が始まったのだ。

 

(確かにコレじゃ、歌鈴さんの両親が心配するのも無理は無いな………)

 

床に散らばったお守りを拾いながら、箒はこの神社の手伝いをする事になった経緯(いきさつ)を思い出す。

 

彼女………歌鈴は、先程何も無い所で転んだ様に、所謂かなりのドジっ娘なのである。

 

普段はアルバイトを含めた他の巫女達がフォローしてくれていたのだが、今年はロージェノム軍の所為で、アルバイトを含めた他の巫女達が、次々に仕事を辞めて行ってしまったのだ。

 

困った歌鈴の両親は、知り合いの縁で篠ノ之夫妻に、箒を貸してくれないかと相談したのである。

 

昔から色々と世話になっていた事もあり、篠ノ之夫妻と箒は其れを承諾。

 

こうして箒は、道明寺神社で巫女のアルバイトをする事になったのだ。

 

………歌鈴のドジをフォローしながら。

 

「歌鈴さん。コッチは私がやっておきますので、境内の掃除をお願いします」

 

「あ、うん、了解。じゃあ、一寸行って来るね」

 

箒にそう言われると、歌鈴は巫女服の袖に襷掛けをし、縁起物売り場から出て行く。

 

「ふう~~………やれやれ………」

 

箒は疲れた様に溜息を吐きながら、未だ散らばっているお守りを集めに掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道明寺神社・境内………

 

「よ~し! 今度こそ頑張るぞぉ!!」

 

竹箒を手に、気合を入れる様にそう声を挙げる歌鈴。

 

境内に散らばっている落ち葉を、手際良く掃き集めて行く。

 

「………早く戦争が終わります様に………」

 

「お願いします、神様………」

 

「………?」

 

すると其処で、そんな声が聞こえて来て、拝殿の方を見遣る。

 

其処には、母親に連れられた幼い兄妹が、必死になって平和になる様に祈りを捧げていた。

 

「…………」

 

ふと其処で、歌鈴は近くに在った絵馬掛を見遣る。

 

其処に掛けられている絵馬も大半が、“平和になります様に”や、“人類がロージェノム軍に負けません様に”と言った願いばかりである。

 

「………やっぱり………厳しいのかな………ロージェノム軍との戦いって………」

 

誰に言うのでも無く、歌鈴は1人そう呟く。

 

テレビや新聞では、毎日の様にロージェノム軍との戦闘や戦況が知らされており、人々の不安は日に日に広がっている。

 

「………ううん! 箒ちゃん達グレン団だって頑張ってるだから! きっと大丈夫!!」

 

しかし、そう言って無理矢理自分を納得させる。

 

と、その時!

 

突風が吹いて、集めた落ち葉が風に舞ってしまう。

 

「ああっ!? 折角集めたのに!!」

 

慌てて掃き直そうとしたその瞬間、運悪く………

 

歌鈴の草履の鼻緒が切れてしまう!!

 

「ふえっ!?」

 

其れで転倒する歌鈴。

 

更に運が悪い事に………

 

転倒した先は、神社の石段だった。

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

歌鈴は悲鳴と共に石段から落ちて行く。

 

(し、死ぬっ!?)

 

石畳の上に叩き付けられそうになり、思わず目を瞑る。

 

しかし、次に体感したのは“石畳に叩き付けられた衝撃”では無く、何者かに受け止められた感触だった。

 

(ア、アレ?)

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「流石正月だな。巫女さんが降って来るとはな」

 

歌鈴が戸惑っていると、そう言う声が聞こえて来る。

 

其処で目を開けてみると、紋付袴姿の一夏と神谷が、歌鈴を受け止めていた。

 

「いや、神谷。正月だからって、巫女さんは空から降って来ないよ」

 

その背後に居た振袖や紋付袴姿のグレン団メンバーの内、黄色い振袖姿のシャルがそうツッコミを入れる。

 

「!? はわわわっ!?」

 

歌鈴が慌てる中、2人は彼女をゆっくりと地面に下ろす。

 

「あの、怪我とか有りませんか?」

 

「あ、う、うん、大丈夫だよ!(わっ! イケメン!!)」

 

一夏が再度そう尋ねると、面食いだったのか、内心でそんな事を考えながらそう答える歌鈴。

 

「中々派手な登場してくれるじゃねえか。随分とやるなぁ、此処の巫女は」

 

そして神谷が、呵々大笑しながらそんな事を言う。

 

「ち、違います~! アレは只転んだだけで………」

 

「歌鈴さん! 何があったんですか!? 悲鳴が聞こえましたけど!!」

 

と其処で、歌鈴の悲鳴を聞いて、縁起物売り場を飛び出して来た箒が姿を見せる。

 

「あ、箒」

 

「!? い、一夏!? 神谷達も!? 何故此処に居る!?」

 

其処で一夏達の姿を確認し、驚きの声を挙げる。

 

「いや、この神社でオメェがアルバイトしてる、って聞いてな。丁度良いから、初詣序に冷やかしてやろうと思ってな」

 

そんな箒に向かって、神谷がそう言い放つ。

 

「ええい、神谷! 貴様はぁ!!」

 

「ほ、箒ちゃん。ひょっとしてこの人達が、箒ちゃんの友達の………?」

 

と其処で、歌鈴が箒に向かってそう尋ねる。

 

「あ、ハイ………グレン団のメンバーです」

 

其処で毒気を抜かれ、箒はそう答える。

 

「やっぱり! じゃあ、貴方があの!?」

 

と歌鈴が、神谷の事を見ながらそう言うと、

 

「おうおうおうおう! 耳の穴かっぽじって、よ~く聞きやがれ!! IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

神谷は、歌鈴に向かって、お約束の口上を述べた。

 

「…………」

 

歌鈴は、その様子に呆気に取られた様になる。

 

「ま~た、アイツは………」

 

「最早お約束ですわね………」

 

「いい加減、耳にタコだな」

 

其れを聞いていた桃色の振り袖姿の鈴と、青色の振り袖姿のセシリア、黒色の振り袖姿のラウラが、呆れながらそう言い合う。

 

「んん~~~?」

 

と其処で、白い振袖姿ののほほんが、歌鈴の事をマジマジと見る。

 

「な、何ですか?」

 

のほほんの態度に、歌鈴は1歩退がる。

 

「ん~~、貴女何処かで見た様な………」

 

「あ、そう言われれば確かに………」

 

と、のほほんがそう言うと、紅紫色の振り袖姿の蘭も、歌鈴の姿に見覚えを感じる。

 

「えっ!? いや、あの………皆さんと会うのは、今日が初めてですけど………」

 

歌鈴は戸惑いながらもそう言う。

 

「う~~ん、でも………私も何処かで見た様な………?」

 

しかし其処で、のほほんと同じく白い振り袖姿の虚もそう言って来る。

 

「多分、コレじゃないかしら?」

 

すると其処で、某歌劇団のトップスタァの正月晴着の様な恰好をした楯無が、新聞の芸能記事を取り出す。

 

其処には巫女服風のアイドル衣装を着た、歌鈴の姿が在った。

 

「あ! そ、其れは………!!」

 

「あ~! 思い出した!! 今売り出し中の新人アイドル! 道明寺 歌鈴だぁ!!」

 

歌鈴が慌てると、山吹色の振袖姿をしたティトリーが、歌鈴を指差しながらそう声を挙げる。

 

「ああ………」

 

其れを聞いた、赤い耐圧服………では無く、振袖姿の簪が何処か納得が行った様な表情となる。

 

「オイオイ、マジかよ? アイドルが巫女さんやってるのか?」

 

紋付袴姿の弾が、少し驚いた様に歌鈴を見ながらそう言う。

 

「い、いえ! コッチが本業で………そ、其れに私未だ、アイドルなんて言える程、売れてひゃいです!?」

 

(((((あ、噛んだ………)))))

 

かなり慌てたのか、台詞を噛んでしまう歌鈴と、其れに心の中で一斉にツッコミを入れるグレン団。

 

「アハハハハハッ! 面白れぇ奴だな! お前!!」

 

そんな歌鈴の姿に、神谷はまたも呵々大笑する。

 

「と、取り敢えず、参拝だけでも済ませちゃおうよ」

 

と其処で、一夏が当初の目的を思い出し、皆を纏める様にそう言う。

 

「そうね。何時までも此処で屯ってても迷惑になるし、行きましょうか?」

 

楯無もそう言い、グレン団の一同は、境内へと上がって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道明寺神社・拝殿………

 

グレン団の一同は、賽銭箱に賽銭を投げ入れると鈴を鳴らし、両手を合わせて拝む。

 

「………なあ、何お願いしたんだ?」

 

と、拝み終わった一夏が、一同に向かってそう尋ねる。

 

「もう、一夏さん。そう言う事は尋ねないのがエチケットですわよ?」

 

「そうよ。ホント、デリカシーが無いわね」

 

そんな一夏に、セシリアと鈴がそう言い放つ。

 

「あ、わ、悪い………」

 

「じゃあ、罰として、一夏くんが何をお願いしたのか言いなさい!」

 

すると其処で、楯無が一夏に向かってそんな事を言う。

 

「なっ!? そ、そんな事!!」

 

「成程。妙案だな」

 

「一夏さん! 一体何をお願いしたんですか!?」

 

「さあ、吐け! 一夏!!」

 

一夏が慌てると、ラウラ、蘭、箒までもが参戦し、詰め寄って来る。

 

「う、ううっ!? わ、分かったよ! 言う! 言うから!!」

 

その迫力に押され、一夏は自分の願いを白状する事となる。

 

「俺の願いは………」

 

「「「「「「願いは…………?」」」」」」」

 

箒達の視線が、一夏に集まる。

 

「1日でも早く、世界に平和が訪れます様にさ」

 

良い笑顔をして堂々とそう言い放つ一夏。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

其れを聞いた箒達は、一瞬呆気に取られた様な表情となる。

 

「? 如何したんだ?」

 

「ああ、いや………」

 

「何でも有りませんわ………」

 

一夏がそう尋ねると、気不味そうに視線を逸らし始める。

 

当然、彼女達が願っていた事は、全員一夏との仲の進展である。

 

なのに、当の本人は真剣に世界平和の事を考えていた。

 

世界の平和よりも、自分の欲を優先させた事が恥ずかしくなった様である。

 

「? 何々だ?」

 

そしてやはり、一夏はそんな箒達の心情を理解しては居なかった。

 

「アイツは、またか………」

 

「ね、ねえ、弾くん? 弾くんは何をお願いしたの?」

 

そんな一夏の姿に弾が呆れていると、虚がそう尋ねて来る。

 

「えっ? そ、そりゃ、多分………虚さんと同じ事を………」

 

「そ、そう………」

 

そう言うと、互いに赤面して視線を逸らし合う2人。

 

傍から見ても分かり易いものである。

 

てゆーか、もう結婚しろ、お前等。

 

「ヒュー、ヒュー! 正月からお熱いねえ、御2人さ~ん」

 

そんな2人を囃し立てるのほほんだった。

 

「そう言えば、2人共。クリスマスパーティーの後、何処か行ったみたいだけど、何処行ってたの?」

 

と其処で、ティトリーが爆弾質問をぶつける!

 

「ええっ!?」

 

「そ、それは………」

 

その言葉を聞いた途端、何やら挙動不審になる虚と弾。

 

「うふふ~、2人共~。その様子だと、ひょっとして………私があげた『アレ』? 役に立ったかな?」

 

すると、楯無がニヤニヤと笑いながらそんな事を言う。

 

「「!?!?」」

 

途端に、弾と虚は赤面する。

 

「『アレ』? 楯無さん、何か2人に渡したんですか?」

 

察しの悪い一夏がそう尋ねる。

 

「ふふふ、それは勿論、コンドー………」

 

「言わせねーよ!!」

 

トンでもない事を言おうとした楯無を、一夏は何処ぞの芸人風に阻止する。

 

「何渡してんすか!? 俺達まだ学生ですよ!!」

 

「いや~ね~。只の冗談に決まってるじゃな~い」

 

怒鳴る一夏に飄々とそう返す楯無。

 

「こ、困ったわね、弾くん」

 

「ああ、そうッスね………結局足りなくて買い足したッスし」

 

「「「「「「………えっ?」」」」」」

 

弾の言葉に、一瞬一同は耳を疑う。

 

「そ、そっちじゃなくて!!」

 

「あ、ああ! すんません!!」

 

((((((まさか………))))))

 

その場は誤魔化したものの、一同の中には疑念が残ったのだった。

 

「ね、ねえ、神谷? 神谷は何をお願いしたの?」

 

と今度は、シャルが空気を変える様に神谷に向かってそう尋ねる。

 

「ああ、俺は何も」

 

しかし神谷からは、そんな返答が返って来る。

 

「えっ?」

 

「悪いが、俺は願い事を()()()叶えて貰おうなんて(ヤワ)な根性は持ち合わせちゃいねぇ。願いってのは、“自分の力で叶えるもん”だ!」

 

戸惑うシャルに、神谷節が炸裂する。

 

「………ハハハハ、神谷らしいね」

 

一瞬ボーッとしたシャルだったが、神谷らしいと思い笑い声を挙げる。

 

と其処へ………

 

「アレ? 皆さん!」

 

「何だ、お前達も初詣に来ていたのか?」

 

そう言う声が聞こえて来て、グレン団の一同が振り返ると、其処には………

 

ライトグリーンの振り袖姿の真耶と、漆黒の振り袖姿の千冬の姿が在った。

 

「! 千冬姉!」

 

「山田先生! 先生達も初詣ですか?」

 

一夏が声を挙げ、シャルがそう尋ねる。

 

「ええ、そうなんです。此処の神社の評判が良かったので………其れに、私も織斑先生も、振袖を新調したので」

 

「山田くん、余計な事は言わなくて良い………」

 

笑顔でそう言う真耶と、照れた様子で呟く千冬。

 

と………

 

「はあ~、メガネ姉ちゃんの方は兎も角、ブラコンアネキは見せる相手も居ねえのに、御苦労なこってぇ」

 

「!!(ビキッ)」

 

(((((アニキ(神谷)~~~~っ!?)))))

 

進んで地雷を踏みに行った神谷の発言に、千冬は米神に青筋を浮かべ、一夏達も心の中で一斉にツッコミを入れる。

 

「か~~~~み~~~~~~や~~~~~~~~」

 

千冬の身体から、怒りのオーラが立ち昇り始める。

 

このままではマズイ!

 

と、皆が思っていたところ………

 

「お~~い! 皆~~~~っ!!」

 

「御神籤引こうよ~~~っ!!」

 

「…………」

 

何時の間にか縁起物売り場の前に移動していたのほほん、ティトリー、簪が、そう一同に呼び掛けて来た。

 

「! よ、よっし! やるかぁ!!」

 

「必ず大吉を引き当てるぞ!!」

 

「負けませんわ!!」

 

途端に、天の助けとばかりに一夏達は縁起物売り場へと走る。

 

「ホラ! 神谷も!!」

 

「オ、オイ! んな引っ張んなって!!」

 

シャルも神谷を引っ張って、縁起物売り場へと急ぐ。

 

「…………」

 

「お、織斑先生! ホラ! 私達も行きましょう!!」

 

残された内、不機嫌な表情を浮かべたままだった千冬に、真耶がそう呼び掛ける。

 

「フンッ!」

 

不機嫌な表情を浮かべたまま、千冬も真耶と共に縁起物売り場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道明寺神社・縁起物売り場………

 

次々に御神籤を引き、吉凶を占うグレン団一同。

 

「中吉か………まあまあね」

 

「うう、小吉ですわ………」

 

「ふふん、吉だ」

 

鈴は中吉、セシリアは小吉、ラウラは吉と出た様だ。

 

「蘭は如何? アタシは吉だよ」

 

「私は中吉です」

 

ティトリーと蘭が、互いの結果を見せ合っている。

 

「やった~! 大吉~!!」

 

「私も~!!」

 

「…………」

 

大吉が出た事に喜びを表す楯無とのほほんに、小吉の御神籤をジッと見ている簪。

 

「「…………」」

 

そんな中、弾と虚が互いに赤くなって下を向いていた。

 

何故なら、2人の御神籤は()()()中吉であり、両者共結婚の運勢部分に『子宝に恵まれ、理想の家庭を築けるでしょう』と出ていたのである。

 

神様もよ~分かっとるわ。

 

「…………」

 

一方箒の方も、何やら引いた御神籤を胸元に抱えながら赤面している。

 

「…………」

 

他の者に気取られない様に、チラッと御神籤に書かれている恋愛の運勢を覗き込む。

 

『己に正直になれば、自ずと道は開ける』、そう書かれている。

 

(自ずと道は…………)

 

「箒? お前は如何だった?」

 

と其処で、その思いの矛先である一夏が、背後から声を掛けて来る。

 

「!? ひゃわぁっ!? い、いきなり話し掛けるなぁっ!!」

 

珍妙な悲鳴を挙げて飛び上がり、慌てて一夏の方に振り返る箒。

 

「お、おう、ワリィ………」

 

その驚き方に驚きながらも、直ぐに一夏は謝罪する。

 

「そ、其れより! 貴様は如何なのだ!?」

 

其処で箒は、誤魔化す様にそう質問をぶつける。

 

「おう、今見てみるよ」

 

一夏はそう言い、閉じていた自分の御神籤を開く。

 

其処には、『大凶』と言う字が書かれていた。

 

「うえぇっ!?」

 

思わず箒と同じ様に珍妙な悲鳴を挙げてしまう一夏。

 

「何々? 女難の相が出ている? マジかよ~!? 只でさえ何時もそんな目に遭ってるのに~!!」

 

一夏は愚痴の様な叫びを挙げる。

 

………コッチの事も神様はよう見とるわ。

 

「やっぱオメェはそう言う星の下に生まれて来たんだって、うん」

 

「何、納得した様な顔してるんだよ?弾」

 

うんうんと頷きながらそう誂う様に言って来た弾に、一夏はそう言い返す。

 

と………

 

「な、何だコレはああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

其処で突如、千冬の叫び声が挙がる!

 

「!? 千冬姉!?」

 

「織斑先生!? 如何したんですか!?」

 

その叫び声に反応して、千冬の方を見遣る一同。

 

「お、織斑先生! 落ち着いて!!」

 

其処には、吉の御神籤を手にした真耶に必死に宥められている千冬の姿が在った。

 

良く見れば、その手には引いた御神籤が握られており、其れを持つ腕がプルプルと小刻みに震えている。

 

何事かと思って、思わず一同は千冬が引いた御神籤を覗き込む。

 

其処には………『極凶』と出ていた!

 

「きょ、極凶!?」

 

「願望、叶わないでしょう………健康、危ういでしょう………失せ物、出ないでしょう………仕事、諦めなさい………結婚付き合い、絶望的………」

 

一夏が驚きの声を挙げ、箒が思わずその運勢の内容を読み上げてしまう。

 

「ブアッハッハッハッハッ! 極凶だなんて、聞いた事無えよ! アッハッハッハッハッ!!」

 

其れを聞いた神谷が、腹を抱えて笑い出す。

 

「か~~~~み~~~~~~や~~~~~~~~っ! 抑々、普段から私に運が無いのは貴様の………」

 

とそう叫びながら神谷に殴り掛かろうとしたところ………

 

突然、何の前触れも無く、千冬の草履の鼻緒が切れる!!

 

「!? うわっ!?」

 

バランスを崩し、倒れそうになる千冬だが、如何にか踏ん張ろうとする。

 

しかし、踏ん張ろうと足を出した先には、『何故か』バナナの皮が有り、結局千冬は盛大にスッ転ぶ!!

 

「うぐわっ!?」

 

更にその際に勢いが付いたのか、そのまま転がり始め、石段から転げ落ちて行く。

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

一番下まで転げ落ち、漸く止まるかと思われた瞬間に水溜まりへ突入!

 

自慢の振り袖が一瞬で台無しとなった。

 

「千冬姉ーーーーーーっ!!」

 

「大丈夫ですかーーーーーーっ!?」

 

まるでコントの様な一連の流れを呆然と見ていた一同の中で、逸早く我に返った一夏と真耶が、石段の上からそう呼び掛ける。

 

「神谷………何時か必ず………殺してやる………」

 

極凶の御神籤を握り締めたまま、千冬は恨みが籠った声でそう呟き、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、その後………

 

千冬は真耶が連れて帰る事となる。

 

気を失ってまでも神谷への恨み事をブツブツと呟き続けており、連れ帰る羽目になった真耶は若干涙目状態だった。

 

「やれやれ、御神籤通りにツイてねえなぁ」

 

「ア、アニキは如何だったの?」

 

と其処で、一夏は空気を変える様に神谷にそう尋ねる。

 

「おう! コレを見ろ!!」

 

すると神谷は、自分の御神籤を皆に見せる様に持つ。

 

其処には………『超吉』と書かれていた。

 

「ちょ、超吉!?」

 

「聞いた事無えよ、そんな御神籤………」

 

驚く一夏と呆れる様にそう言う弾。

 

細かい運勢も全て良好と出ており、中でも願望は天元突破等と書かれている。

 

「ハッハッハッハッ! 運を自分で呼び込んでこその男よ!!」

 

そして神谷は、お得意の神谷節を炸裂させる。

 

「皆さ~ん。結び付けのみくじ掛はコチラですよ~」

 

すると其処で、歌鈴がみくじ掛の傍で手を振りながらそう呼び掛けて来る。

 

「おっと、早く結んどくか………大凶だなんて洒落にならないからな」

 

其れを聞いた一夏がそう言い、みくじ掛へと向かうと、他の一同も続く。

 

「…………」

 

しかし、シャルだけがその場に立ち尽くして、引いた御神籤をじっと見ていた。

 

吉凶は吉であり、良いと言えるだろう。

 

だが………

 

個別の運勢で、恋愛の所に………

 

『試練を乗り越えた時、本当の愛を知る』と言う結果が出ている。

 

(試練………って、一体何だろう?)

 

御神籤のいう試練の事に、シャルは不安を感じる。

 

「どした? シャル?」

 

すると、シャルが従いて来ていない事に気付いた神谷が戻って来て、シャルにそう尋ねて来た。

 

「あ、神谷………ううん、何でも………」

 

心配を掛けまいと、そう誤魔化す様に言うシャル。

 

「結果があんま良くなかったのか?」

 

「まあ、そんな所かな………」

 

「ハッ! 気にすんな! こんな紙切れで運命を決められて堪るかよ!? 運命ってのは自分の手で切り開くモンだろうが!?」

 

引いた御神籤をピラピラとさせながら、神谷はそう言い放つ。

 

「神谷………うん、そうだよね」

 

其れを聞いたシャルは、笑顔を浮かべる。

 

「んじゃ、とっとと結んじまうか」

 

そう言って踵を返し、神谷は再びみくじ掛の方へと向かう。

 

「あ! 待って神谷!」

 

シャルが直ぐに後を追う。

 

(そうだよね………神谷だったら、そうするよね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新年が明けた………

 

しかし、グレン団にとっては………

 

この年もまた、激闘の年となる事であろう………

 

負けるなグレン団!

 

地球の明日は、君達に懸かっている!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

クリスマスが終わったので正月イベントとなります。
デレマスのキャラにゲスト出演してもらいました。

しかし、正月と言えど、ロージェノム軍との戦争のせいで雰囲気は暗い………
果たして、新年は人類が勝利できる年となるのか?
そして千冬の明日はどっちだ!?(笑)

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第84話『コレも神谷くん達のお蔭かな』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第84話『コレも神谷くん達のお蔭かな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・職員室………

 

その日、職員室に呼び出された楯無は、千冬から或る話をされる。

 

「………ロシアから特使が?」

 

「ああ、明日にも到着するらしい」

 

千冬にそう言われ、楯無は口元を扇子で隠しながら怪訝な表情を浮かべる。

 

「如何してこの時期にロシアからの特使が?」

 

「考えられる可能性としては、()()ロシアの代表操縦者であるお前に、本国へ来て貰おうという線だな。あの大国ロシアでさえ、ロージェノム軍には手を焼いているからな」

 

ロージェノム軍の侵攻は留まる事を知らず、既に世界では半数以上の国が壊滅・占領されている。

 

持ち堪えている国の多くは大国であり、常任理事国で、唯一アメリカと真面にやり合える国であるロシアもその1つだ。

 

しかしロージェノム軍は、占領した国を基盤に戦力を増強。

 

実質的には、“世界が2分されて戦っている”と言っても良い状況である。

 

その為、大国と言えどこのままでは持ち堪えられない、と言う事が何処の国にも分かっており、早急な戦力の増強が図られている。

 

中には未だ訓練生である女性を、実験機を改修して作り上げた()()のISに乗せて出撃させている国家も有る、という噂である。

 

「楯無………若し、ロシアから正式に“国家の戦力になって欲しい”と言われたら如何する積りだ?」

 

「…………」

 

千冬の問いに、楯無は沈黙する。

 

確かに、自分はロシアの代表操縦者である。

 

しかし其れは、()()である更識家がロシアと交わした密約によって得た、謂わば“契約”の様なモノ。

 

そして何より………()()自分はグレン団の一員だ。

 

共に生死を賭けて戦っている仲間達を放り出して、自分だけ他の国へ行っても良いのだろうか?

 

そんな思いが、楯無の頭を過る。

 

「………まあ、未だそうと決まったワケではない。だが、若し“そうだった場合”に備えて、ちゃんと考えておけ」

 

「………分かりました」

 

「話は以上だ」

 

「失礼します………」

 

若干声のトーンを落とし、楯無は職員室から退室する。

 

「………アイツも変わったな。やはりあの馬鹿の影響か………無駄に影響力だけは有りおって……ええい、忌々しい」

 

そんな楯無の姿に、千冬は忌々し気な表情でそんな事を呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・通路………

 

(正式にロシアに行く事になるか………そんな事にもなるとは思ってたんだけどなぁ)

 

通路を1人歩きながら、楯無はそう考え込む。

 

(今は未だ日本を離れるワケには………グレン団の一員としての義理も有るし………)

 

其処まで思考して、楯無はふと立ち止まる。

 

(フフフ………我ながら、“らしくない事”を考えるわね………これもやっぱり神谷くんの影響かな?)

 

自嘲する様に笑い、楯無はそう思い遣る。

 

神谷と同じく、唯我独尊な性格をしている楯無だが、彼とは違い、彼女は様々な枷を抱えている。

 

例えば、“更識家当主”としての枷………

 

楯無とは、本来当主を継いだ者が襲名する名であり、彼女には()()が有る。

 

幼き頃よりその才能を見い出され、対暗部用暗部としての教育を受けさせられた。

 

そして今や、自由国籍を取得しロシアの代表操縦者で、IS学園生徒会長で最強のIS乗りである。

 

尤も後者の方は、最近伸びて来ている後輩達や妹に度々奪われそうになっているが………

 

更識家の当主として、対暗部用暗部を率いなければならない………

 

ロシアの代表操縦者としては、ロシアの為に働かねばならない………

 

IS学園の生徒会長として、IS学園と生徒達を守らなければならない………

 

楯無は常に何等かの()を抱えて生きて来た。

 

そんな彼女は、自分と同じ唯我独尊な性格でありながら、自分とは違い“自由に生きている”神谷の事を、時折羨ましいと思っていた。

 

(ま、本人に言ったら、鼻で笑われそうだけどね………)

 

その光景が容易に想像出来て、楯無は思わず苦笑する。

 

「………姉さん?………如何したの?」

 

「!?」

 

と不意に背後から声が聞こえて来て、楯無が驚きながら振り返ると、其処には簪の姿が在った。

 

「か、簪ちゃん!? 何時から其処に!?」

 

「? 姉さんが苦笑した辺りからだけど………?」

 

(………全く気配を感じなかった………)

 

実の妹とは言え、背後に立たれて声を掛けられるまで存在に気付かせないとは、大したものである。

 

(簪ちゃん………我が妹ながら………恐ろしい子!!)

 

「如何したの?………そんな難しい顔して………?」

 

内心で戦慄する楯無と、首を傾げながら再度楯無にそう尋ねる簪。

 

「あ~、うん………一寸ね………」

 

楯無は曖昧な返事を返す。

 

「………そう………分かった………相談したくなったら………何時でも相談してね」

 

其れを聞いた簪は、フッと微笑み楯無の前から去って行く。

 

「…………」

 

残された楯無は、少し驚いた様子を見せている。

 

一寸前まで疎遠だった妹………

 

自分の所為で歪んでしまい、他人と距離を置く様になり、感情も乏しくなってしまっていた彼女が、“自分の心配”をしてくれた。

 

信じられぬと同時に、凄く嬉しい気持ちが込み上げて来る。

 

「………コレも神谷くん達のお蔭かな」

 

楯無はそう言って笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日・日曜日………

 

IS学園・正門………

 

楯無と、秘書役として虚が、ロシアからの特使の到着を待っている。

 

やがてIS学園に向かって、ロシア製の高級車が走って来る。

 

正門の前で停まり、運転席の傍に寄って来た守衛に、運転手が窓を開けて身分証明書を見せる。

 

身分証明書を確認すると、守衛は門を開け、車を学園内へ入れる。

 

やがて車は楯無達の近くで停まり、ドアが開いたかと思うと、2人の中年のロシア人男性が降りて来る。

 

「ようこそIS学園へ。私が更識 楯無です」

 

「本日秘書を務めます、布仏 虚です。よろしくお願い致します」

 

その2人の中年のロシア人男性に向かって、楯無と虚はそう言って挨拶をする。

 

「初めまして、更識女史。私はこの度、祖国より特命を帯びて遣わされましたゴルルコビッチです」

 

「秘書を務めます、ザドルノフです。よろしく」

 

そう言ってロシアからの特使………ゴルルコビッチとザドルノフは、流暢な日本語で楯無達に挨拶を返す。

 

そして、ゴルルコビッチは右手を楯無に向かって差し出す。

 

楯無は差し出されたその手を取り、握手を交わす。

 

「さて、本日の訪問の事なのですが、更識女史………貴女に折り入って話が有りましてね」

 

「あ、ハイ、その事ですが………」

 

「特使。イキナリでは更識女史も答え難いでしょう。如何でしょうか? 折角の機会ですし、IS学園を案内して貰うと言うのは?」

 

とゴルルコビッチが、イキナリ本題に入ろうとしたところ、ザドルノフがそう言う。

 

「ああ、コレは失礼。確かにそうですな。其れに学園に通う同志達にも会いたい。お願い出来ますかな? 更識女史」

 

其れを聞いたゴルルコビッチは、改めて楯無にそう問う。

 

「ええ、構いませんよ」

 

笑顔を浮かべてそう返す楯無。

 

正直、この提案は彼女にしてみても願ったり叶ったりである。

 

実を言うと、“ロシア本国に招かれる件”について未だに悩んでいるのである。

 

その為、2人を案内している間に、答えを出してしまおうと考えたのだ。

 

「では、どうぞ此方へ」

 

「IS学園の案内を務めさせて頂きます」

 

そして、楯無と虚はそう言い、2人を案内し始める。

 

「「…………」」

 

その際、ゴルルコビッチとザドルノフの口の端が、微かに吊り上がったのを………

 

この時楯無は見逃してしまっていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

簪の部屋………

 

「…………」

 

同室の者が不在の中、簪は机の上でアーマーマグナムの手入れを行っていた。

 

分解したアーマーマグナムの部品を机の上に広げ、1つ1つ丁寧に汚れを取り除き、破損や摩耗が無いか等をチェックする。

 

「…………」

 

やがてチェックが終わると、また部品を1つに組み上げ始める。

 

バラバラだった金属部品達が、徐々にアーマーマグナムを形作って行く。

 

「…………」

 

最後に弾倉を装填しようとした瞬間に………

 

突如、部屋のドアが蹴破られた!!

 

「!?」

 

「動くな!!」

 

直ぐに弾倉を装填しようとした簪だったが、ドアを蹴破った人物達………

 

旧ソ連の軍用迷彩服を纏い、AKを持って黒いマスクで顔を隠した男達がそう言って銃口を向ける。

 

「…………」

 

運が悪い事に、スコープドッグも整備に出していて、今は手元に無い………

 

簪は仕方無く、アーマーマグナムを机の上に置き直し、ゆっくりと手を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、楯無達はと言うと………

 

ゴルルコビッチとザドルノフを、第1アリーナへと案内していた。

 

丁度其処では、偶然にもロシアからの留学生達が学園のISを使って演習を行っている。

 

「おお、彼女達は我がロシアの生徒達ですな」

 

観客席に現れた一同の内、ゴルルコビッチがアリーナで演習しているロシアの留学生を見てそう言う。

 

「ええ、如何やら合同で演習でしているみたいですね」

 

「やっぱり、同じ国同士の方がやり易いのでしょうね」

 

楯無と虚がそう答える。

 

「いやはや、若い()達が何かに励んでいると言う姿は良いものですなぁ」

 

ザドルノフもそんな事を言う。

 

「更識女史。よろしければ、彼女達と話させて貰ってもよろしいですかな?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

と、ゴルルコビッチの願いを楯無は了承し、一同はアリーナ内へと向かった。

 

 

 

 

 

アリーナ内へ入ると、直ぐにロシア留学生達が寄って来て、楯無やゴルルコビッチと楽し気に談笑を始める。

 

ゴルルコビッチはロシア留学生達に、君達が祖国の力となる日を楽しみにしていると言い、ロシア留学生達は期待に応えてみせると約束する。

 

(何だか国の事ばかり話している気がするけど………まあ、ロシアは社会主義国ですものね)

 

先程から会話の内容が国に関わる事ばかりなのに気付く虚だったが、ロシアの政治体制を思い出して納得が行った様な表情となる。

 

「………さて、更識女史。そろそろ本題を話したいのですが、よろしいですかな?」

 

と、一仕切り会話を終えたゴルルコビッチが、楯無に向かってそう言う。

 

「!?………ええ、そうですね」

 

楯無は一瞬動揺を見せたが、直ぐに平静となり、そう答える。

 

「すみません、特使。私はもう少し留学生達に()()が有るのですが、よろしいですかな?」

 

と其処で、ザドルノフが申し訳無さそうにそう言って来る。

 

「ふむ………更識女史。構いませんか?」

 

「ええ、良いですよ。じゃあ、虚を残して行きますので………」

 

「いえ、申し訳有りませんが、ロシアの国益に関わる事ですので、出来れば私と留学生達だけで………」

 

後から追うのに虚を残そうとした楯無だったが、ザドルノフはそう言って来る。

 

「でも、其れでは………」

 

「生徒会長、大丈夫です」

 

「後で私達が案内しますので」

 

何か言おうとした楯無だったが、其処で留学生達がそう言う。

 

「そう? 其れじゃあお願いね」

 

楯無はそう言うと、その場を留学生に任せて、ゴルルコビッチと虚と共に、アリーナを後にするのだった。

 

「………さて………君達に大事な話が有る………『同志』諸君」

 

と、3人が居なくなったのを確認すると、ザドルノフは留学生達の方を振り返り、ニヤリと笑う………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、アリーナを後にした楯無達は………

 

ゴルルコビッチを応接室へと通していた。

 

「どうぞ」

 

虚が紅茶を淹れ、楯無とゴルルコビッチの前に置く。

 

「いや、どうも………それでは更識女史。本題を始めましょうか?」

 

「………ハイ」

 

ゴルルコビッチの言葉に、やや緊張した様子を見せる楯無。

 

「知っての通り、今世界は非常に危機的な状況に在ります。残念ながら、我が祖国ロシアもです」

 

「ロージェノム軍によってですね………」

 

「その通り。今や人類側からはレッドショルダーと言った裏切り者も出る始末………何処の国も戦力の増強は急務なのです。其処でロシアの代表操縦者である貴女に、祖国へ来て貰いたい」

 

「…………」

 

ゴルルコビッチの言葉に、楯無は沈黙する。

 

「考えて頂けませんか? 更識女史」

 

「………お話は良く分かります、ゴルルコビッチ特使。しかし、私にも更識家当主としての務めやIS学園生徒会長としての務めが有ります。其れを放り出して行くのは………」

 

そう答えを、ゴルルコビッチに返す楯無。

 

だが、正直言うと更識家当主や生徒会長の務めと言うのは“建前”である。

 

本当の理由は、グレン団に残りたいのである。

 

今まで公に奉仕する様に生きて来ており、年上の大人とも接する機会の多かった彼女にとって、グレン団は何の気兼ねも無く笑い合える、本当の意味での『仲間』なのだ。

 

そんな仲間の元から、離れたくない。

 

本当の理由を隠しながらも、楯無は学園への残留を決めた。

 

「………そうですか。残念です」

 

ゴルルコビッチは、落ち込んだ様な様子を見せる。

 

「ゴルルコビッチさん………」

 

楯無がそんなゴルルコビッチに何か言おうとした瞬間!

 

「………出来れば()便()()行きたかったのですが、仕方有りませんね」

 

ゴルルコビッチはそう言って、邪悪な笑みを楯無へと向けた!!

 

「「!?」」

 

其れに楯無と虚が驚いた瞬間!!

 

窓とドアを蹴破って、旧ソ連の軍用迷彩服を纏い、AKを持ち黒いマスクで顔を隠した男達が応接室へ雪崩れ込んで来る!!

 

「キャアッ!?」

 

「!? 貴方達は!?」

 

驚く虚と、そんな虚を庇いながら兵士達へ問い掛ける楯無。

 

直ぐにISを展開させようとしたが………

 

「動くな! 更識 楯無! コレを見ろ!!」

 

ゴルルコビッチが手にした拳銃を2人に向けながらそう言うと、空中に映像が投影される。

 

[…………]

 

其処には、数人の兵士に囲まれ、銃を突き付けられている簪の姿が在った。

 

「!? 簪ちゃん!?」

 

「簪様!?」

 

「妙な真似をすると、貴様の妹の命は無いぞ」

 

驚く楯無と虚に向かって、ゴルルコビッチはそう言う。

 

「クウッ!」

 

対暗部用暗部の楯無と言えど、やはり女子中学生………

 

たった1人の妹を人質に取られては、動揺せざるを得なかった。

 

「分かったら、先ずはISを外して貰おうか?」

 

「…………」

 

一瞬逡巡しながらも、楯無は待機状態のミステリアス・レイディを身体から外す。

 

「………オイ」

 

「ハッ!」

 

其れを見たゴルルコビッチが、1人の兵士に目配せをすると、その兵士が待機状態のミステリアス・レイディを取り上げる。

 

「………一体コレは如何言う事ですか? ゴルルコビッチ特使」

 

ゴルルコビッチを睨み付けながら、楯無はそう問い質す。

 

「如何もこうも無い。出来れば穏便に済ませたかったのだが、仕方有るまい。君には、是が非でも()()へ来て貰う事にする」

 

その視線を流しながら、ゴルルコビッチはそう返す。

 

「正気ですか? こんな事をして、本当に“ロシアの為”になると考えているんですか?」

 

「ロシア? 違うな………私の祖国はたった1つ………“ソビエト連邦”だ!」

 

「「!?」」

 

ゴルルコビッチの言葉に、楯無と虚はまたも驚愕する。

 

「貴方………ソ連信奉者だったんですか!?」

 

「ソビエト連邦こそが、我々の祖国の“本来在るべき姿”だ。今や我が祖国は完全に堕落した! その祖国を、我々が()()()姿()へと戻すのだよ! 既に祖国では我々の同志が行動を始めている頃だ!」

 

「馬鹿な! こんな時にクーデターを起こせば、ロージェノム軍に付け入られるだけよ!!」

 

「心配は御無用だよ。この日の為に我々はずっと計画を練っていた。電撃作戦によって首脳部は一瞬で墜ちる。そしてその瞬間に! 我が祖国ソ連が甦るのだ!!」

 

芝居掛かった口調で、高らかにそう言い放つゴルルコビッチ。

 

「更識女史………貴女は今日から“()()の代表操縦者”だ」

 

「………仮にクーデターが成功していたとしても、此処はIS学園だよ。ロシアだろうとソ連だろうと、無法な行いは許さないよ」

 

「そうです! 今に鎮圧部隊が来ます! 幾ら特殊部隊と言えど、ISには構いませんよ!!」

 

楯無と虚がそう叫ぶ。

 

「言ったでしょう? “この日の為にずっと計画を練って来た”って………」

 

するとゴルルコビッチはそう言って、簪を映していた映像を切り替える。

 

切り替わった映像に映っていたのは………

 

学園のIS部隊同士が、互いに戦闘を繰り広げている様子だった!!

 

「!? なっ!?」

 

「そんな!? ど、如何して学園のIS部隊同士で!?」

 

三度驚愕する楯無と虚。

 

[同志ゴルルコビッチ。()()は完了した。彼女達も祖国の為に働いてくれるそうだよ]

 

と其処へ、ザドルノフが映った別のモニターが展開した。

 

「御苦労。同志ザドルノフ」

 

映像のザドルノフに向かって、ゴルルコビッチはそう言い放つ。

 

「説得?………!? まさか!?」

 

其処で楯無が、改めて学園IS部隊同士の戦闘を見遣る。

 

争っている部隊の内、片方は………

 

先程アリーナで別れた、ロシアからの留学生達だった。

 

「!? 貴方! 彼女達を自分達の方へ引き入れたの!?」

 

[彼女達も同じ同志………計画の事を話したら()()()協力すると言ってくれたよ]

 

楯無の声に、モニターのザドルノフが得意気な笑みを浮かべてそう言う。

 

「何て事………」

 

「ふふふ、更識女史。更に良い事を教えてやろう。たった今、別の同志達から連絡が入った。学生寮への爆弾設置が終わったとな」

 

「!?」

 

「コレで妹だけでなく、IS学園の生徒達が人質となったワケだ。では、改めて問おう………我が祖国へ来てくれるかな?」

 

「…………」

 

ゴルルコビッチの言葉に、楯無は沈黙する。

 

最早打つ手は何も無かった………

 

楯無に出来る事は、只突き付けられた問いにYESと答えるしかないのだろうか?

 

………いや!

 

未だだ!!

 

未だ終わっていない!!

 

この学園には………

 

“アイツ等”が居る!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

食堂………

 

「オラァッ!!」

 

ソ連兵をボディスラムで床に叩き付ける神谷。

 

「クッ!」

 

別のソ連兵が銃を向けたが、

 

「チェストオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

鉄パイプを持った一夏の横薙ぎの1撃でブッ飛ばされて、壁に叩き付けられる!

 

「このぉ!!」

 

業を煮やした別のソ連兵が、手榴弾を投げ付けようとしたが、

 

「ムンッ!」

 

「ガハッ!?」

 

不意を衝いて、弾がフライパンで顔面を殴り付けた!

 

翻筋斗を打って倒れ、気絶するソ連兵。

 

「片付いたな………」

 

其処で神谷が辺りを見回しながらそう言う。

 

見れば、食堂の彼方此方にソ連兵が気絶して倒れている。

 

「蘭、爺ちゃん、お袋。もう大丈夫だ」

 

「ほ、本当?」

 

「やれやれ、肝が冷えたぜ」

 

「一体何が起きてるの?」

 

弾が厨房の奥へとそう呼び掛けると、隠れていた蘭、厳、蓮が姿を現す。

 

「「神谷!」」

 

「「「「一夏〈さん〉!!」」」」

 

と其処で、シャルとティトリー、箒にセシリア、鈴、ラウラのグレン団メンバーがやって来る。

 

「皆! 無事だったのか!?」

 

箒達の無事に、安堵の息を吐く一夏。

 

「神谷! コレは一体何が起こってるの!?」

 

「分からねえ………だが、“碌でも無え事”が起きてるのは確かだな」

 

シャルの問いに、神谷はそう答える。

 

「如何しますか、アニキ?」

 

弾が神谷にそう問い質す。

 

「決まってんだろ………何処のどいつだか知らねえが! この俺の前で無法を働くたぁ、見逃しちゃあ置けねえ!! 行くぞ、テメェ等!! グレン団、出陣だぁ!!」

 

「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」

 

神谷がそう声を挙げ、グレン団の一団は、学生寮を制圧した謎のソ連兵の排除へと出陣するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

今回から楯無編です。
ロシアへの招集を受ける楯無。
しかし、建前を言いつつも、彼女はグレン団の仲間達を置いていけないという。
だが、ロシアからの特使の正体は旧ソ連体制の信奉者。
ロシア国内でクーデターを企て、IS学園にも特殊部隊を展開し、留学生を同志に引き入れる。
この緊急事態に動けるのは………
我らがグレン団のみ!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第85話『残念………それ、フラグだよ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第85話『残念………それ、フラグだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日に日に勢いを増しているロージェノム軍に対抗する為、各国の戦力急増が進む中………

 

楯無をロシア本国へと招こうと、特使がやって来た。

 

コレまで対暗部用暗部・更識家の当主として、IS学園の生徒会長として、働いて来た楯無だったが………

 

初めて出来た対等の仲間達………

 

グレン団達との絆を思い、ロシアへ行く事を拒む。

 

だが、しかし!!

 

何と、特使であるゴルルコビッチとザドルノフは、ソ連の信奉者だった!

 

同じロシアの留学生達を説き伏せて同志に引き込み、特殊部隊によって学生寮を制圧し、簪と生徒達を人質に取るゴルルコビッチとザドルノフ。

 

更には、本国でも秘密裏にクーデターが進んでいる頃だと言い放つ。

 

ISを取り上げられ、人質を取られてしまった今………

 

楯無は彼等の要求に従うしか無いのか?

 

いや………

 

この学園には、未だ………

 

“アイツ等”が居る!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

通路………

 

「他の学生達は如何した?」

 

「全員其々の部屋に閉じ込めてある。逃げようとすれば射殺すると脅しておいたから、逃げ出そうとは思わんさ」

 

通路に居る2人のソ連兵がそう言い合う。

 

「まあ、どの道最後には全員爆弾で吹き飛ばすんだがな」

 

「同志ゴルルコビッチと同志ザドルノフはいつもやる事か過激だな。貴重なIS乗り候補を………」

 

「既にロシアの留学生は我々の同志へと引き込んでいる。他国のIS乗りなぞ、今の内に始末してしまった方が良いだろう。同志は完璧主義だからな」

 

「其れもそうだな………」

 

至って普通な様子で、恐ろしい会話を繰り広げているソ連兵達。

 

とその時、ゴトッ!という音が鳴った。

 

「「!? 誰だ!!」」

 

ソ連兵達は、直ぐに音のした方へと銃を向ける。

 

しかし、其処に在ったのは………

 

「………ダンボール箱?」

 

大きな段ボール箱だった。

 

「何でこんな所にダンボール箱が?」

 

「丁度“人1人”くらいは入れそうだな………」

 

ソ連兵達は怪訝な顔をしながらも、慎重にダンボール箱の傍へと近づく。

 

そして、片方のソ連兵が銃を構え、もう片方のソ連兵が、ダンボール箱を持ち上げようとする。

 

と、その瞬間!!

 

ソ連兵達の背後に、人影が降り立った!!

 

「!?」

 

「オラァッ!!」

 

銃を構えていたソ連兵が反応するよりも早く、背後に降り立った人物………神谷の回し蹴りが炸裂!!

 

「ガッ!?」

 

ソ連兵は壁に叩き付けられ、そのまま気を失う。

 

「な、何者だ!?」

 

ダンボール箱を持ち上げようとしていたソ連兵が、其れを中断して銃を構えようとした瞬間!!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

持ち上げようとしていたダンボール箱の中から、一夏が飛び出し、ソ連兵に背後から組み付く。

 

「な、何っ!?」

 

「どりゃあぁっ!!」

 

動きが止まったソ連兵の鳩尾に、神谷の拳が叩き込まれる。

 

「!?」

 

ソ連兵は、声も挙げられずに意識を狩り取られた。

 

「よっし!」

 

「アニキ、今の内に武器を」

 

「分かってるって」

 

神谷と一夏は、気絶したソ連兵から一通り武器を奪うと、彼等が持っていた縄で縛り上げる。

 

「終わった? 神谷」

 

「お前にしては鮮やかな手際だったな」

 

と其処で、隠れて様子を見ていたシャルや箒達が出て来る。

 

「おい、そりゃ如何いう意味だ?」

 

「まあまあ、アニキ………其れよりコイツ等、恐ろしい事言ってたな………」

 

「ああ、爆弾で皆フッ飛ばすとか言ってたよな………」

 

弾が若干顔を青褪めさせながらそう言う。

 

「そんな事させてたまるもんですか!」

 

「急いで爆弾を見つけて無力化しませんと!」

 

「しかし、奴等は何処に仕掛けたんだ? 占拠された寮の中を探し回るのは骨が折れるぞ」

 

鈴、セシリア、ラウラがそう言う。

 

「でも、グズグズしてたら、他の人達にも被害が及ぶ可能性が有るよ………」

 

「其れに、この状況を知ったロージェノム軍が好機と思って攻め込んでくるかも知れない………」

 

「如何すれば良いの………?」

 

悩む様子を見せるティトリーとシャル、蘭。

 

何時またロージェノム軍の襲来が有るとも知れない中で、この事態を長引かせるワケには行かない。

 

しかし、下手に動き回れば、他の生徒達を危険に晒す事になる。

 

「クソッ! せめて爆弾が仕掛けられている場所さえ分かれば………」

 

と、一夏がそう言った瞬間、

 

「地下だ。奴等は寮の地下室に爆弾を仕掛けている」

 

そう言う声が、何処からとも無く響いて来た。

 

「!? 誰だ!?」

 

「私だ」

 

箒がそう声を挙げると、壁の一部に隠れ身の術で隠れていたシュバルツが姿を現す。

 

「! シュバルツ・シュヴェスター!」

 

「何時も唐突に現れるわね、アンタ………」

 

一夏が驚きの声を挙げ、鈴が呆れる様にそう言う。

 

「そんな事は如何でも良い。爆弾は地下に仕掛けられている。そして仕掛けられている爆弾は………恐らくコバルト爆弾だ」

 

「!? コバルト爆弾だと!?」

 

其れを聞いたラウラが驚きの声を挙げる。

 

「ラウラ? 何だ、コバルト爆弾って?」

 

コバルト爆弾について聞いた事の無い一夏がそう尋ねる。

 

「核爆弾の一種だ………爆発するとコバルト60と言う物質を周囲に撒き散らし、強力な放射線によって人間は疎か、その爆心地を中心にした土地を長期に亘って汚染させる最悪の兵器だ」

 

「か、核!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

神谷を除いたグレン団の一同が動揺の色を見せる。

 

まさか核爆弾を使って来るとは、予想だにしていなかった。

 

下手をすれば、学生寮どころかIS学園とその周辺までもが全滅してしまう………

 

事態は一気に重い展開となる。

 

「ビビッてんじゃねえ、お前等! コバルト爆弾だか小林だか知らねえが、俺達がやる事は1つだろうが!?」

 

しかし、神谷はそう言って一同を叱咤激励する。

 

「! そうだね、神谷!」

 

「授業で爆弾の解体は習ってんだ! コバルト爆弾だろうが何だろうが、解体してやるぜ!!」

 

途端にシャルや一夏達は勢いを取り戻す。

 

(フッ………動揺しても直ぐに立ち直る………コレは単に神谷のカリスマの力だけではなく、一夏達も数々の実戦を潜り抜けて経験を積んだ事が生きているな………まあ、未だ未だ青いがな)

 

そんな一夏達の様子を見て、シュバルツは内心でそんな事を思う。

 

「良し! こっからは分かれて動くぞ! 俺と一夏とシャルに箒が地下へ向かう! お前等は更に散らばって、寮中に居る兵隊野郎を片付けろ!」

 

「「「「「「おうっ!!」」」」」」

 

そんな間に、神谷達はコレからの行動を決定する。

 

「今回ばかりは状況が状況だ。私も手を貸そう」

 

其処でシュバルツは、グレン団に向かってそう言い放つ。

 

「ホントか!?」

 

「コイツはありがてぇな! シュバルツさんが居てくれれば心強いぜ!」

 

其れを聞いた一夏と弾がそう声を挙げる。

 

「お喋りはこの辺にしとけ………行くぞ!!」

 

と、神谷がそう言って会話を打ち切り、走り出す。

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

其れに続く様に、他の一同も方々へと走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

生徒会室の楯無と虚はと言うと………

 

「…………」

 

数人の兵士に囲まれ、銃を突き付けられている簪の姿の映るモニターを前に、沈黙を続けていた。

 

「お嬢様………」

 

その楯無の様子を心配そうに見詰めている虚。

 

「更識女史。我々も忙しい。そろそろ答えをいただけませんかな?」

 

ゴルルコビッチが、そんな楯無に向かってそう言う。

 

「其れは………」

 

楯無は何か言い掛けて口籠る。

 

「ふ~、やれやれ、困った御嬢さんだ………オイ」

 

[ハッ!]

 

と其処で、ゴルルコビッチがモニターに映っている、簪を捕らえているソ連兵の1人に声を掛けたかと思うと………

 

「フンッ!!」

 

「!?」

 

その兵士はイキナリ、手に持っていた拳銃のグリップ部分で、簪の横っ面を殴り付けた!!

 

殴られた簪はブッ飛ばされ、床に倒れる。

 

「!? 簪様!!」

 

「!? 何をするの!?」

 

途端に虚と楯無が慌てる。

 

「言ったでしょう。我々も忙しい。早く答えを出して頂きたい。さもないと、大切な妹さんが目も当てられない事になってしまいますよ」

 

「貴方!!」

 

飄々と言い放つゴルルコビッチを、楯無は睨み付ける。

 

「おやおや? 如何やら、未だ状況が分かっていない様ですな………やれ」

 

[ハッ!!]

 

其れを見たゴルルコビッチが、再びモニターに映っているソ連兵達に目配せしたかと思うと、ソ連兵達の内2人が、倒れていた簪を無理矢理起き上がらせて押さえ付ける。

 

[へへへへ………]

 

そして残る1人が、下衆な笑い声を挙げ、その目の前で手の骨を鳴らす。

 

「! 止めて!!」

 

[シャエアァッ!!]

 

楯無の抗議も空しく、その拳が簪へと叩き込まれ様とする。

 

[!!]

 

だがその瞬間!!

 

簪がカウンター気味に繰り出した蹴りが、殴り付けようとして来たソ連兵の顔を捉えた!!

 

[ガッ!?]

 

仰け反って倒れるソ連兵。

 

[!?]

 

[! このアマァ!!]

 

すると押さえていたソ連兵達が、簪の身体を壁目掛けて思いっ切り突き飛ばす。

 

[………!?]

 

肺の中の酸素が強制的に吐き出され、簪はまた倒れそうになる。

 

[このぉっ!!]

 

と其処で、蹴りを喰らったソ連兵が拳銃を抜いて、簪へ向けた。

 

「! 止せ! 殺してはならん!!」

 

ゴルルコビッチがそう叫んだが、時既に遅く………

 

拳銃の引き金が引かれ、弾丸が簪へ向かう。

 

[………!!]

 

………だが!!

 

発射された弾丸は、()()()()()()に命中する。

 

[!?]

 

[馬鹿! 危うく殺すところだったぞ!]

 

[しかし、“この距離”で外すとはな………]

 

撃ったソ連兵は驚愕の様子を示し、残りのソ連兵は野次を飛ばす。

 

(外した?………いや、違う! 今、明らかに………『弾丸が此奴を避けた』様に見えたぞ!!)

 

しかし、撃ったソ連兵は身体を若干震わせながらそう思う。

 

そう………

 

先程外したと思われた弾丸だが、撃ったソ連兵には“弾丸の方が”簪を避けた様に見えたのだ。

 

[そ、そんなバカな事があって堪るか!!]

 

だが、そんな“有り得ない事”が起きた等とは認められず、撃ったソ連兵は簪を立ち上がらせ、再び拳銃を突き付ける。

 

その距離、実に眼前20㎝。

 

子供でも当てられる距離だ。

 

外す事は先ず有り得ない。

 

[オイ!?]

 

[馬鹿!?]

 

慌てて残り2人のソ連兵が止めようとしたが、其れよりも早く引き金が引かれ、弾丸が放たれる。

 

しかし!!

 

[…………]

 

目の前で発射された弾丸は、“物理法則を無視した方向”へと逸れて、簪から外れた。

 

[[[!?]]]

 

其処で残り2人のソ連兵も、異常に気付く。

 

「「「!?」」」

 

モニターでその様子を見ていた楯無や虚、ゴルルコビッチとソ連兵達も驚愕に包まれている。

 

[う、うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!]

 

そんな簪の特異性に恐懼したソ連兵はマシンガンを構え、簪に向かって発砲しようとする。

 

だが!!

 

信頼性が高い事で知られるロシア製の銃器が、突然ジャムり暴発!!

 

飛び散った部品の破片と弾丸が、撃ったソ連兵とその場に居たソ連兵達の頭を撃ち抜いた!!

 

[[[!?]]]

 

ソ連兵が絶命した瞬間、映像を送信していた装置にも被弾したのか、映像が砂嵐となる。

 

「ど、同志!!」

 

「あ、有り得ん………有り得ん事だ!!」

 

控えていたソ連兵1人に声を掛けられ、ゴルルコビッチは動揺しながらそう言い放つ。

 

(!! 今だ!!)

 

楯無も呆然としていたが、ゴルルコビッチ達よりも一瞬早く我に返り、待機状態のミステリアス・レイディを持ったソ連兵に飛び掛かった!!

 

「!? うおわっ!?」

 

そしてそのまま、ミステリアス・レイディを奪い返す。

 

「!? しまった!? ええい! 撃て撃てぇっ!!」

 

ゴルルコビッチが咄嗟にそう命じると、ソ連兵達は楯無と虚を狙って、一斉に発砲を開始した!!

 

粉塵に包まれる生徒会室。

 

一頻り撃つと、ソ連兵達は発砲を止める。

 

「………やったか?」

 

と、ゴルルコビッチがそう言った瞬間!!

 

「残念………其れ、フラグだよ」

 

粉塵の中からそう声が響いて来る。

 

「「「「「!?」」」」」

 

そして、徐々に粉塵が晴れて来たかと思うと、其処には………

 

ミステリアス・レイディを展開し、自分と虚を水のヴェールで守った楯無の姿が在った。

 

「残念だったね、ゴルルコビッチ」

 

水のヴェールを通常位置へと戻すと、蒼流旋を構えてそう言い放つ楯無。

 

「フフフ………」

 

しかし、ゴルルコビッチは未だ余裕が有る様に笑みを浮かべる。

 

「忘れたのですか、更識女史? 我々は学生寮に爆弾を仕掛けているのですよ?」

 

「!?」

 

其れを言われ、楯無はハッとする。

 

そしてゴルルコビッチは、リモコン式のスイッチの様な物を取り出す。

 

「コレが起爆スイッチだ。コイツを押せば、忽ち寮に仕掛けた爆弾が爆発し、貴様の妹も、この学園の生徒達も木端微塵だ!」

 

「クッ!」

 

楯無は苦い顔を浮かべる。

 

「(尤も、実は証拠隠滅用のコバルト爆弾だから、結局は爆発させるのだがな)さあ、ISを解除して貰おうか?」

 

と、ゴルルコビッチがそう言った瞬間………

 

「その必要は無えぜ! 楯無!!」

 

何処からとも無く、そう言う声が響いて来た!!

 

「!? な、何だ!? 誰だ!?」

 

ゴルルコビッチがそう声を挙げ、ソ連兵達も声の主を探し始める。

 

その次の瞬間!!

 

「おりゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

応接室の壁を突き破って、グレンラガンが姿を現した!!

 

「「「「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」

 

突き破った壁の破片が、ソ連兵達に降り注ぎ、下敷きにする。

 

「き、貴様は!?」

 

「天下無双! 最強無敵のグレンラガン様よ! やい! このロシア野郎! テメェが仕掛けた爆弾は、俺達が捨てさせて貰ったぜ!!」

 

驚くゴルルコビッチを指差しながら、グレンラガンはそう言い放つ。

 

「な、何だと!? 出鱈目を言うな!!」

 

「嘘だと思うんなら、そのスイッチを押してみな!!」

 

「ええい! 後悔するなよ!!」

 

グレンラガンの挑発に乗り、スイッチを押すゴルルコビッチ。

 

しかし、“何も”起きなかった………

 

「!? 馬鹿な!?」

 

何度もスイッチを押すが、やはり何も起きない。

 

「形勢逆転だね、ゴルルコビッチさん」

 

楯無が、蒼流旋を再びゴルルコビッチへと向ける。

 

「大人しくお縄を頂戴しな!」

 

グレンラガンも、両手の指の骨を鳴らしながらそう言い放つ。

 

「クウッ!」

 

連れていたソ連兵もやられ、爆弾も無力化されたゴルルコビッチは、完全に追い詰められたかの様に見えた。

 

しかし、その時!!

 

「同志!!」

 

今度は応接室の窓が破られ、打鉄を装着しているロシアからの留学生が突入して来る!!

 

「!?」

 

「!? 何っ!?」

 

「コチラへ!!」

 

「おお! スマン、同志!!」

 

そのロシア留学生に助けられ、ゴルルコビッチは応接室から脱出する。

 

「あ! しまった!!」

 

「野郎! 逃がすか!?」

 

直ぐにグレンラガンが後を追う。

 

「虚! 此処に居て! 直ぐに戻るわ!!」

 

「分かりました!」

 

楯無も虚にそう言うと、グレンラガンに続いて、応接室を飛び出して行く。

 

「ありがとう、お蔭で助かったわ」

 

「良いって事よ。ダチ公同士のこったろ?」

 

途中、グレンラガンに追い付いた楯無はお礼を言うが、グレンラガンは当然の様にそう返す。

 

「ダチ公か………良いものだよね、ホント」

 

其れを聞いた楯無は、微笑を浮かべてそう呟く。

 

「あ? 何か言ったか?」

 

「其れよりも神谷くん? 一体如何やって爆弾を無力化したの?」

 

グレンラガンに其れを尋ねられると、楯無は誤魔化す様にそう質問する。

 

「ああ、ソイツは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分前………

 

IS学園・学生寮の地下………

 

「オラァッ!!」

 

「チェストオオオオオオォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

爆弾の見張りをしていたソ連兵を難無く倒す神谷と一夏。

 

シャルと箒は、地下室の入り口で、敵の増援が来ないかを見張っている。

 

「コイツがコバルト爆弾か………」

 

ソ連兵達が守っていたコバルト爆弾を見ながら、神谷がそう言う。

 

「アニキ、退がってて。今から起爆装置を解体するから」

 

其処で一夏が、予め持って来ていた工具箱を床に置いて開き、工具を取り出すと、コバルト爆弾の起爆装置の解体に掛かる。

 

「頼むぜ、一夏」

 

「…………」

 

神谷への返答も儘ならぬまま、一夏は爆弾解体に集中し始める。

 

自分の手に、IS学園の生徒達の命が懸かっているのだ。

 

失敗する事は許されない………

 

緊張感から冷や汗を流しながらも、一夏は慎重に解体を進めて行く。

 

ネジを外し、カバーを取る。

 

衝撃センサーを無力化すると、先ずは基盤を外し始める。

 

そして複雑に絡まっているコードを、1本1本丁寧にニッパーで切断して行く。

 

「この次が黒………其れから緑………白………黄色………オレンジ………」

 

慎重に………慎重に解体を進めて行く一夏。

 

だが、その最中(さなか)………

 

紫のコードを切った瞬間!!

 

突如起爆装置からビービー!と言う警報の様な音が鳴ったかと思うと、タイマーの様な物が時を刻み始めた。

 

「!?」

 

「如何した!?」

 

「マズイ! タイマーが作動した!! このままじゃ後1分で爆発する!!」

 

「んだと!? 急げ、一夏!!」

 

「ああ! 後は、この2本のコードを………」

 

焦る一夏だが、既に解体は最終段階まで進んでいる。

 

後は、セオリー通りならば赤か青のコードのどちらかを切ればタイマーは止まり、爆弾を処理出来る筈である。

 

(どっちだ………どっちなんだ!?)

 

プレッシャーから、どちらを切るか選べずに居る一夏。

 

その間にも、タイマーは無情に時を刻んで行く………

 

「オイ、一夏! もう時間が無いぞ!!」

 

「赤か……其れとも青か……?」

 

神谷が声を掛けるが、一夏は脂汗をダラダラと流しながら、どちらを切るかの決断をしかねている。

 

そして遂に、タイマーの表示が10秒を切った。

 

(時間が無い! ええい! こうなったら!!)

 

と、遂に決断し、決めた方のコードを切ろうとしたところ………

 

「ええい! 何やってんだ、まどろっこしい!! どっち切るか分からねえんだったら、こうしちまえ!!」

 

神谷の手が横から伸びて来て、残っていた赤と青のコードを引っ摑む。

 

「えっ!?」

 

一夏が驚きの声を挙げた瞬間、

 

「おりゃああぁっ!!」

 

神谷は、赤と青のコードを思いっ切り引き千切った!!

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!? アニキの馬鹿ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一夏はそう叫ぶと、慌てて爆弾に背を向け、床に伏せる。

 

しかし………

 

予想した爆発音も、爆風も、熱すらも全く襲って来ない………

 

「………アレ?」

 

不審に思いながら、一夏が振り返ると………

 

其処には、タイマーが残りー0.1秒で止まっている爆弾が在った。

 

「見ろ。上手く行ったじゃねえか」

 

片手に赤と青のコードを握ったままの神谷が、一夏に向かってそう言い放つ。

 

「と、止まった………?」

 

一夏は信じられないと言った様子で、爆弾をマジマジと観察する。

 

「へへっ、ざっとこんなもんよ」

 

(………コレもアニキが成せる業なのかな?)

 

得意そうに笑う神谷に、一夏は心の中でそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、ワケだ」

 

「…………」

 

グレンラガンの話を聞いた楯無は、唖然とした顔になる。

 

「其れ、1歩間違えたら、貴方も生徒達も皆死んでたどころか、この辺り一帯も壊滅してた、って事よね?」

 

「馬鹿野郎! 俺がそんなヘマするかよ!?」

 

「ハアア~~~」

 

当然の様にグレンラガンはそう言い返し、楯無は溜息を吐いた。

 

「毎度毎度、ホントに貴方は………何時もコッチの予想の斜め上を行く事をしてくれるわね」

 

「そう褒めんなって………」

 

「………行くよ」

 

コレ以上は何を言っても無駄だと思い、追跡スピードを上げる楯無だった。

 

「あ、この野郎! 俺より先に行こうたぁ、良い度胸だ!!」

 

其れを見たグレンラガンも、即座にスピードを上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

IS学園を占拠した旧ソ連軍。
簪も人質に取り、楯無を引き入れるのも時間の問題かと思われたが………
彼等の計算外は、簪が異能生存体だった事と、グレン団の存在を甘く見た事です。
追い詰められた連中は次回………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第86話『そんなもんは本当の絆じゃねえ!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第86話『そんなもんは本当の絆じゃねえ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロシアから、楯無を本国へ迎え入れようと()使()としてやって来たゴルルコビッチとザドルノフ。

 

しかし、彼等はソ連の信奉者であり、今一度ソ連を復活させるべく、楯無を自分達の同志へと引き込もうとする。

 

学生寮を占拠し、妹の簪と生徒達を人質に、楯無に自分達の仲間になれと迫るゴルルコビッチ。

 

だが、グレン団の存在を失念していた事により、計画は失敗。

 

自棄となったゴルルコビッチは、仲間に引き込んだロシア留学生達と共に最後の勝負に出るのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・運動場………

 

「死ねぇ! 資本主義の犬共め!!」

 

「共産主義バンザーイ!!」

 

赤い台詞と共に弾幕を張っている、ロシア留学生達のIS部隊。

 

「クソッ! クソ赤共め!!」

 

「君達! 馬鹿な真似は止めなさい!!」

 

IS学園側のIS部隊の中に居たアメリカからの留学生がそう悪態を吐き、指揮を執っていた真耶が説得を試みるが………

 

「黙れ! 醜い豚共め!!」

 

「ぶ、豚!?」

 

ロシア留学生達は真耶に向かってそう吐き捨てる。

 

「全ては我が祖国の為に!!」

 

「今一度ソ連の世を!!」

 

「駄目だ! アイツ等、完全に理想に酔ってやがる!!」

 

アメリカの留学生がそう言った瞬間………

 

キュイイイィィィィィンッ!と言う甲高い音が聞こえて来る。

 

「!?」

 

「何だ!?」

 

その音がする方向を見たロシア留学生達が見たのは、ローラーダッシュで砂煙を挙げ、自分達に向かって突っ込んで来るスコープドッグを装備した簪の姿だった。

 

「!? 更識 簪!?」

 

「馬鹿な!? 同志達が押さえた筈では!?」

 

「ええい! 撃て撃てぇっ!!」

 

其れを見たロシア留学生達は、直ぐに標的をIS学園のIS部隊から簪に変え、弾幕を張る。

 

「…………」

 

しかし簪は、委細構わずその弾幕の中へと突っ込む。

 

集中砲火の激しい弾幕が展開しているにも関わらず、簪はまるで無人の野を行くかの如く突き進んで行く。

 

弾丸は1発も当たらず、当たったとしても『偶々』装甲の厚いところに命中し、『偶然』角度が浅かった為、全て弾かれてしまう。

 

「な、何故当たらない!?」

 

「アイツは不死身なのか!?」

 

ロシア留学生達の間に動揺が走る。

 

「…………」

 

その次の瞬間簪は、肉薄したラファールを装着していたロシア留学生にアームパンチを叩き込んだ!!

 

「ガッ!?」

 

「…………」

 

ラファールを装着していたロシア留学生が地面に倒れると、簪は容赦無くヘヴィマシンガンの弾丸を叩き込む!!

 

「があああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

過剰なまでの攻撃で、ラファールのシールドエネルギーは一瞬で無くなり、強制解除される。

 

「!!」

 

「貴様!!」

 

直ぐに、他のロシア留学生達が簪を取り囲むが、

 

「…………」

 

簪は其処で、左の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の3連装スモークディスチャージャーから煙幕弾を発射。

 

忽ち辺りは煙に包まれる。

 

「うわっ!? 煙幕か!?」

 

「クソッ! 撃て撃てぇっ!!」

 

未だ恐懼していたのか、何人かのロシア留学生達が煙幕にも関わらず発砲を始める。

 

「ガアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

当然、センサーを妨害され、視界も封じられた状況で真面に当てられるワケが無く、次々に同士討ちが始まる。

 

「馬鹿! 止めろ!!」

 

「このままでは同士討ちだ!!」

 

何人かのロシア留学生がそう叫ぶが、同士討ちは止まらない。

 

「チキショウ! 何でこんな事に!?」

 

と、打鉄を装着しているロシア留学生がそう声を挙げた瞬間………

 

前方の煙幕が揺らめき、その中にターレットレンズの光が浮かんだかと思うと、簪が姿を現す!!

 

「!? ヒッ!?」

 

「遅い………」

 

ロシア留学生がアサルトライフルを構える前に、簪はショルダータックルを喰らわせる。

 

「ガアアアッ!?」

 

「!? そっちか!?」

 

と其処で、残っていたロシア留学生達は簪の位置を摑み、其方の方向に武器を構えたが、

 

「バルカンセレクター」

 

簪はミッションディスクのコンバットパターン・バルカンセレクターを発動。

 

ヘヴィマシンガンの弾倉が交換されると、フルオートで弾がばら撒かれる!!

 

「うわっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

完全に倒す事は出来なかったが、動きが止まるロシア留学生達。

 

「…………」

 

その瞬間、簪は右の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の7連装ミサイルポッドのミサイルを全弾叩き込む!!

 

爆発が次々に上がり、煙幕を吹き飛ばす。

 

そして、ミサイルが着弾した傍には、ISを強制解除されたロシア留学生が転がっていた。

 

「簪さん!」

 

「ありがとう! 助かったよ!!」

 

其れを見た真耶や学園のIS部隊が近寄って来る。

 

「彼女達の拘束を………其れと………ミサイルの予備をくれない?」

 

「あ! ハイ! 分かりました!!」

 

簪がそう言うと、学園のIS部隊はロシア留学生達を拘束し始め、簪にミサイルを補給するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ロシア留学生の手によって脱出したゴルルコビッチを追う、グレンラガンと楯無は………

 

「待ちやがれ、コラーッ!!」

 

「待ちなさーいッ!!」

 

「クッ! しつこい連中だ!!」

 

打鉄を装着しているロシア留学生が、追い縋って来るグレンラガンと楯無を見ながらそう悪態を吐く。

 

「こうなれば仕方無い………同志、第1アリーナへ戻ってくれ」

 

「了解しました、同志」

 

すると其処でゴルルコビッチがそう言い、第1アリーナへと進路を変更する。

 

「!? 向きを変えたぞ! 何処行く気だ!?」

 

「あの先は………第1アリーナ?」

 

突如行く先を変更したのを不審がりながらも、グレンラガンと楯無は追跡を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・第1アリーナ………

 

「同志!」

 

其処には、ロシア留学生を引き込んだザドルノフの姿が在った。

 

「更識 楯無の引き込みは失敗した! こうなればIS学園を破壊し、学園のISを全て手に入れるまでだ!!」

 

連れて来て貰ったロシア留学生から離れ、ゴルルコビッチはそう言う。

 

「では、いよいよ『アレ』の出番ですな」

 

「うむ………」

 

ザドルノフとゴルルコビッチがそう言い合った瞬間、

 

「其処までだぜ! ロシア野郎!!」

 

「貴方達の陰謀も、もうお終いよ!!」

 

グレンラガンと楯無がそう言う台詞と共に、第1アリーナ内に降り立つ。

 

「クッ!!」

 

ザドルノフとゴルルコビッチを守る様に、ロシア留学生が前に出る。

 

「フフフフ」

 

「残念だが、まだ終わりではないよ。更識女史」

 

しかし、ゴルルコビッチは不敵に笑い、ザドルノフも余裕の表情でそう言い放つ。

 

「? 何ぃっ?」

 

「其れは如何言う事?」

 

グレンラガンがその様子に首を傾げ、楯無がそう問い質した瞬間!

 

「ギャロオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーンッ!!」

 

突如、ゴルルコビッチがそう叫び声を挙げたかと思うと………

 

無数の機械の部品らしきモノが、何処から共無く飛んで来た!!

 

「!?」

 

「な、何っ!?」

 

グレンラガンと楯無が驚いていると、そのパーツ達が次々に合体し始める。

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

そして、まるで咆哮の様な駆動音と共に、ブラキオサウルスの様な形状をした、黒いロボットが出来上がった!!

 

「ロ、ロボットの恐竜!?」

 

「見たか! これぞ我が祖国がISに代わる世界最強の兵器として開発したロボット兵器! 『ギャロン』だ!!」

 

驚愕する楯無に、ゴルルコビッチが得意気にそう言い放つ。

 

「さあ、同志! 行きましょう!」

 

「うむ!」

 

と、ザドルノフとゴルルコビッチがそう言い合ったかと思うと、ギャロンが頭を下げて2人の前に差し出すと、目の部分から中へと乗り込んだ。

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

2人が乗り込むと、ギャロンはまたも咆哮の様な駆動音を挙げる。

 

[更識 楯無! 我々に逆らった事を後悔しながら死ぬが良い!!]

 

ゴルルコビッチのそう言う声が響き渡ったかと思うと、ギャロンが突進して来る!!

 

「「!!」」

 

グレンラガンと楯無は、咄嗟に真上に飛んで回避する。

 

突進が外れたギャロンは、そのままアリーナの第1ピットへと衝突!

 

第1ピットが派手に粉煙を挙げ、跡形も無く崩れる。

 

「何て体当たりなの!? あんなの喰らったら、只じゃ済まないわ!!」

 

「ったく、妙なモン持ち出して来やがって………」

 

「我が祖国の為に死ねぇっ!!」

 

楯無が驚きの声を挙げ、グレンラガンが愚痴る様に言っていると、ロシア留学生が襲い掛かって来る。

 

「「邪魔だ(だよ)!!」」

 

しかし、悲しいかな………

 

コレまで実戦を多く経験した2人に、只の訓練生のロシア留学生が勝てる筈も無く、呆気無く蒼流旋とグレンブーメランでの斬撃でブッ飛ばされた!!

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

ロシア留学生は、アリーナの放送席へと墜落したかと思うとそのまま気絶して、ISが解除される。

 

[オノレェ! よくも同志を!!]

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

と、その様子にザドルノフが怒りを露わにしたかと思うと、ギャロンが再び無数のパーツへと分離!

 

まるでイナゴの大群の様に、グレンラガンと楯無に襲い掛かる!!

 

「!? おうわっ!?」

 

「キャアアアアァァァァァーーーーーーッ!?」

 

無数のパーツとなったギャロンの嵐を避け切れず、数10発の直撃を喰らい、アリーナの地面へと墜落するグレンラガンと楯無。

 

その間に、ギャロンは再び合体する。

 

[フハハハハハッ! 見たか! ギャロンの威力を!!]

 

「この野郎! 調子に乗るんじゃねえ!!」

 

しかし其処で、グレンラガンが素早く起き上がり、グレンブーメランを右手に握ったまま大跳躍。

 

「男の情熱ぅ! 燃焼斬りいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!!」

 

そのままギャロン目掛けて男の情熱燃焼斬りを繰り出す。

 

[火炎を喰らえっ!!]

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

だが、ギャロンからザドルノフの声が響いたかと思うと、ギャロンの口が大きく開く。

 

そして其処から火炎放射が放たれ、グレンラガンを包み込んだ!!

 

「!? アッチっ!? アチ!! アチチチチチチチチッ!?」

 

可燃性の液体を含んだ火炎によって、炎に包まれるグレンラガン。

 

墜落すると、炎を消そうと地面の上を転がるが、可燃性の液体から燃えている炎は中々消えない。

 

「神谷くん!!」

 

慌てて楯無が、ミステリアス・レイディのアクア・ナノマシンをブッ掛ける。

 

其処でグレンラガンに燃え移っていた炎は漸く消える。

 

「うわくっ! 助かったぜ、楯無!」

 

「火炎放射か。なら私の出番だね!」

 

立ち上がるグレンラガンを尻目に、楯無は火炎放射を使う敵ならば、自分のアクア・ナノマシンで無力化出来ると踏み、蒼流旋を構えて突っ込んで行く。

 

[馬鹿め! 喰らえいっ!!]

 

ゴルルコビッチの声が響き渡ると、ギャロンが再び大きく口を開ける。

 

「そんな火炎放射ぐらい!!」

 

水のヴェールを展開し、火炎放射を防ごうとする楯無。

 

しかし、ギャロンの口から放たれたのは火炎では無く………

 

冷却ガスだった!!

 

忽ち水のヴェールは凍り付き、ミステリアス・レイディ本体までもが凍って行く。

 

「!? 嘘っ!?」

 

[死ねぇいっ!!]

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

驚く楯無に向かって、ギャロンは尻尾を鞭の様に振り回して放つ。

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

凍結により動きが鈍ってしまっていた楯無は直撃を喰らい、砕かれた水のヴェールの破片と共に地面に落ちる。

 

[踏み潰してやる!!]

 

其処でギャロンの右前脚が上がり、楯無を踏み潰そうとする。

 

「!?」

 

「楯無ぃっ!!」

 

しかし其処へ、グレンラガンがギャロンに飛び蹴りを見舞う。

 

[!? うおおおぉぉぉぉーーーーーっ!?]

 

脚を上げた態勢だった事もあり、ギャロンはバランスを崩して派手に倒れる。

 

「大丈夫か!?」

 

「ええ、ありがとう。でも、さっきの凍結ガスでアクア・ナノマシンが大分やられちゃった………」

 

ダメージ自体は其れ程では無いが、凍結ガスを喰らった所為で、アクア・ナノマシンが大分機能不全に陥ってしまった様だ。

 

[オノレェ! 小癪なぁ!!]

 

と其処で、ゴルルコビッチの声と共にギャロンが立ち上がったかと思うと、またもや無数のパーツへと分離!

 

グレンラガンと楯無へと襲い掛かった!!

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

パーツの嵐に襲われ、装甲の破片を撒き散らしながら、地面を転がるグレンラガンと楯無。

 

[喰らえっ!!]

 

その間にギャロンが三度合体すると、火炎放射を放つ!

 

「! ドリルシールド!!」

 

しかし、起き上がったグレンラガンが、ドリルを傘の様に開いて防ぐ。

 

[チッ! 生意気な! バーナーモードだ!!]

 

とザドルノフがそう言ったかと思うと、ギャロンは炎の拡散率を下げ、まるでガスバーナーの様に炎を一点に集中して照射し始める。

 

一点集中された火力によって、ドリルシールドの一部が赤熱化し始める。

 

「!? ヤベェ!!」

 

グレンラガンがそう言った瞬間に、シールドは融解し、火炎が2人へと襲い掛かろうとする。

 

「クウッ!!」

 

すると咄嗟に、楯無はアクア・ナノマシンを展開しているアクア・クリスタルの片方を、迫る火炎に向かって放り投げた!

 

火炎がアクア・ナノマシンによって四散され、防がれる。

 

「今の内に!」

 

「おう!」

 

その間に、グレンラガンはドリルシールドを切り離すと楯無と共に離脱する。

 

その直後に、火炎を止めていたアクア・クリスタルは完全に融解。

 

火炎はアリーナの地面に命中したかと思うと、その地点を溶岩に変えた!

 

「クウッ! あんな事も出来るの!?」

 

「ビビってんじゃねえ、楯無! 俺達はグレン団だ! 敵に後ろは見せねえ!!」

 

戦慄する楯無を、グレンラガンがそう叱咤すると、自身は右腕をドリルに変えてギャロンへと突っ込む。

 

「土手っ腹に風穴開けてやらぁ!!」

 

ドリルをギャロンに突き立てようとしたグレンラガンだったが、

 

[分離っ!!]

 

その瞬間、またもギャロンは分離。

 

無数のパーツとなってグレンラガンを襲う!!

 

「うおああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

パーツ達の攻撃を受け、地面に墜落するグレンラガン。

 

その間にパーツは1つに集まり、ギャロンとなる。

 

「チイッ! 安っぽい合体しやがって!!」

 

「何? “安っぽい合体”って?」

 

グレンラガンの叫びに、楯無は思わずそうツッコミを入れる。

 

[フンッ! 噂のグレンラガンも我が祖国の力の前には無力の様だな!!]

 

[では、コレで終わりにするとしようか]

 

とゴルルコビッチとザドルノフの声が響くと、ギャロンの口が開き、冷却ガスが放たれようとする。

 

万事休すかと思われたその時!!

 

風切り音と共に飛来した2発のミサイルが、ギャロンの口内に命中した!!

 

[うおわぁっ!?]

 

[な、何っ!?]

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

ゴルルコビッチとザドルノフの声が挙がり、ギャロンが咆哮の様な駆動音を立てて倒れる。

 

「!? 今のは!?」

 

「姉さん………大丈夫?」

 

楯無が驚いていると、そう言う台詞と共にスコープドッグを装着している簪が現れる。

 

「簪ちゃん!」

 

「私が時間を稼ぐ………その間に体勢を立て直して………」

 

楯無に向かってそう言うと、簪は口から黒煙を上げて倒れているギャロンにジェットローラーダッシュで突撃する。

 

[オノレェ! 更識 簪!!]

 

[先に片付けてやる!!]

 

とゴルルコビッチとザドルノフのそう言う声が挙がり、ギャロンが起き上がる。

 

そして、損傷した冷却ガス噴射器に代わって火炎放射器を出現させ、火炎を吐き出す。

 

「…………」

 

簪は冷静沈着に火炎を避けながら、機動性を活かして撹乱しつつヘヴィマシンガンの弾丸を見舞う。

 

しかし、ギャロンの厚い装甲の前ではヘヴィマシンガンは火力不足であり、弾丸は全て表面で弾かれてしまう。

 

[ええい! ちょこまかと!!]

 

だが、注意を逸らすには十分だったらしく、ギャロンは自分の周りを動き回る簪への対応で手一杯となる。

 

「良し! 楯無!! 今がチャンスだ!!」

 

その間に、グレンラガンがそう言って立ち上がる。

 

「でも、如何するの? 今のままじゃアイツの相手にはならないよ?」

 

若干弱気に、楯無がそう言うが………

 

「なら、『アレ』で行くぜ!!」

 

グレンラガンはそう言い放つ。

 

「『アレ』?………!? ひょっとして、『アレ』の事?」

 

「如何だ? 乗るか?」

 

「フフフ、良いよ………乗ってあげる。実を言うと、前から興味が有ったんだよね」

 

「なら話は早ええ………行くぞ!!」

 

「ええっ!!」

 

「「『合体』だぁっ!!」」

 

グレンラガンと楯無がそう叫んで跳び上がり、空中で1つに重なり合う。

 

その瞬間!!

 

2人の姿は螺旋エネルギーに包まれた!!

 

[!? 何だ!?]

 

[何が起きている!?]

 

其れを見たゴルルコビッチとザドルノフからそう声が挙がり、ギャロンの動きが止まる。

 

「………フッ」

 

簪も、その様子を見てフッと笑う。

 

やがて光が弾けたかと思うと、其処には………

 

『グレンラガンがミステリアス・レイディを装着している様なマシン』が在った!!

 

「悪を許さぬ正義の炎!!」

 

「深き霧の中に揺らめく影!!」

 

「「霧炎(むえん)合体!!」」

 

神谷と楯無の声が響き渡り、『グレンラガンがミステリアス・レイディを装着している様なマシン』がポーズを決める!!

 

「「『ミステリアスラガン』!!」」

 

「俺を!」

 

「私を!」

 

「「誰だと思っていやがる〈るの〉!!」」

 

『グレンラガンがミステリアス・レイディを装着している様な姿のマシン』………『ミステリアスラガン』から、神谷と楯無の叫びが木霊する!

 

[ア、アレが噂に聞く合体か!?]

 

[ええい、怯むな同志! 所詮は虚仮威しだ!!]

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

ザドルノフとゴルルコビッチがそう言う声を挙げたかと思うと、ギャロンが咆哮の様な駆動音と共に、ミステリアスラガンに突撃して行く。

 

「「ムンッ!!」」

 

しかし、何と!!

 

かなりの重量差が有るにも関わらず、ミステリアスラガンはギャロンの突進を受け止めた!!

 

[[!? 何ぃっ!?]]

 

ゴルルコビッチとザドルノフから驚きの声が挙がった瞬間!!

 

「「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」

 

ミステリアスラガンは気合の雄叫びを挙げ、ギャロンを投げっ放しジャーマンの様に放り投げる。

 

[[おおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?]]

 

投げられたギャロンは、第2ピットの上に背中から落下。

 

ピットを破壊して、地面に叩き付けられる。

 

[オノレェ! 火炎放射ぁっ!!]

 

ゴルルコビッチは、ギャロンの首だけをミステリアスラガンへ向けると、火炎放射を放つ!!

 

「効くか! そんなモン!!」

 

と神谷のそう言う声が響いたかと思えば、ミステリアス・レイディ時のアクア・クリスタルが、ミステリアスラガンの前方に展開したかと思うと………

 

()のヴェールでは無く、()()()()()()()()が展開された!!

 

ギャロンの火炎放射は、螺旋力のヴェールに当たると雲散する。

 

[ならば! 分離攻撃だ!!]

 

ザドルノフが続けてそう言ったかと思うと、ギャロンは複数のパーツに分離して飛翔する。

 

「けっ! 馬鹿の1つ覚えかよ!! 良いか、覚えとけ!! “本当の合体”ってのは、安っぽい恋愛みたいに、直ぐくっ付いたり離れたりするモンじゃ無えんだよ!!」

 

「成程、深いね………」

 

しかし、飛翔する無数のパーツを前にしても、神谷と楯無は余裕の態度を崩さない。

 

「そんなモノは()()()()じゃねえ! 見せ掛けだけの“紛いモン”よ!!」

 

「だから見せてあげるよ………私達グレン団の“真の絆の力”を!!」

 

そして次の瞬間!!

 

アクア・クリスタルが、ミステリアスラガンの左右に展開。

 

其処から、螺旋力がまるで津波の様に放出された!!

 

[[な、何いいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!?]]

 

その螺旋力の津波の前に、ギャロンのパーツは全て押し流される。

 

螺旋力の津波は、そのまま水流を形成。

 

ギャロンのパーツはその水流の中を流れて行き、その途中で次々に爆散し始める。

 

やがて水流は消え、残ったパーツがアリーナの地面に叩き付けられる!!

 

[お、オノレェ! 再合体!!]

 

残ったパーツが集まり、ギャロンへと合体しようとしたが………

 

やはりやられたパーツが多く、組み上がったもののその姿はかなり不格好であり、まるでオブジェの成り損ないと言ったところである。

 

「よっしゃあっ!! トドメ行くぜ!!」

 

「OK!!」

 

其れを見たミステリアスラガンは、トドメの体勢に入る。

 

胸のグレンブーメランが独りでに外れ、右手に納まる。

 

「必殺っ!!」

 

そのグレンブーメランを、ギャロン目掛けて投げ付けるミステリアスラガン。

 

高速回転しながらギャロンへと向かっていたグレンブーメランは、途中で2つに分離。

 

ギャロンを連続で斬り付け、空中に磔にする。

 

其処でミステリアスラガンは、右手に蒼流旋を出現させたかと思うと、再びアクア・クリスタルから螺旋力の水流を発生!!

 

その水流に向かって蒼流旋を投げたかと思うと、その上にサーフボードの様に乗っかり、水流に乗った!!

 

そしてそのまま、螺旋力の津波と共に空中に磔にされているギャロンへと向かう。

 

「「ドリル! ビッグウエエエエエェェェェェェーーーーーーーブッ!!」」

 

蒼流旋に乗ったミステリアスラガンが、螺旋力の津波と共にギャロンを貫いた!!

 

貫いたギャロンを背後の空中に映し、蒼流旋を右手に握って着地を決めるミステリアスラガン。

 

[[ソ連バンザアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーイッ!!]]

 

ゴルルコビッチとザドルノフの叫びと共に、風穴を開けられたギャロンは大爆発する。

 

その爆発の中から、1つになって戻って来たグレンブーメランが、ミステリアスラガンの胸に装着される。

 

「うっし! 片付いたな!」

 

「ええ………そうね」

 

神谷と楯無がそう言い合うと、

 

「アニキー!」

 

「神谷ー!」

 

ISやグラパールを装着している一夏達がやって来た。

 

「おう! お前等の方も片付いたか?」

 

「ああ。学園に侵入したソ連兵達と取り込まれた留学生達は全員鎮圧したよ」

 

神谷がそう尋ねると、一夏がそう返事を返す。

 

「其れにしても………アンタ、また合体パターンを編み出したワケ?」

 

「しかも今度は更識 楯無とか………」

 

ミステリアスラガンの姿を見て鈴が半ば呆れ、ラウラが苦々し気な表情をする。

 

「ふふふ、カッコイイでしょ?」

 

そんな2人の様子なぞお構い無くボディの顔が動き、楯無の声でそう言う台詞が発せられる。

 

「お疲れ様、姉さん」

 

と其処で、簪も近くに寄って来る。

 

「あ、簪ちゃん。お疲れ」

 

「………プッ」

 

と、楯無の声を聞いた簪が突然噴き出した。

 

「え、えっ!? 何っ!?」

 

「前から思ってたけど………その光景………すっごくシュール………」

 

楯無が戸惑っていると、簪は声を殺して笑い始める。

 

「ああ~、酷い~!」

 

「クフフフ………フフフ………」

 

楯無が抗議の声を挙げる中、笑い続ける簪。

 

「お前達!!」

 

「良い気になるなよ!!」

 

すると其処で、そう言う声が響いたかと思うと、ギャロンの残骸の中から、ボロボロのゴルルコビッチとザドルノフが這い出して来た。

 

「おわっ!? 生きてたのか!?」

 

「何てシブとさなの!?」

 

「本当に人間かなぁ?」

 

其れを見たグラパール・弾とグラパール・蘭、ファイナルダンクーガ(ティトリー)がそう言い合う。

 

「言った筈だ! 今頃我が祖国ではソ連が復活していると!!」

 

「何れ我が祖国は総力を挙げてIS学園を奪取に来る! この情勢下だ!! 他国の援軍は期待出来まい!!」

 

グレン団に向かってゴルルコビッチとザドルノフはそう言い放つ。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

負け惜しみにしか聞こえないが、実際に今の情勢下で他国………しかもロシアに攻めて来られては、IS学園どころか日本が危ない。

 

一同は思わず苦々し気な表情を浮かべる。

 

「この野郎!!」

 

[グレン団、聞こえるか?]

 

思わず神谷が2人をブン殴ってやろうかと思ったところに、千冬から通信が入った。

 

「織斑先生? 如何しました?」

 

箒が応答し、他のメンバーも通信に耳を傾ける。

 

[良いニュースが有る………いや………“悪い”ニュースと言った方が良いかも知れんな]

 

妙に言葉の歯切れが悪い千冬。

 

「んだよ、ブラコンアネキ! 言いたい事が有るんならハッキリ言いやがれ!」

 

其れに痺れを切らしたかの様に神谷がそう言うと………

 

[………先程、クーデターが起きたロシアに突如としてロージェノム軍に大軍が襲来………クーデターによって混乱していたロシア軍は真面な応戦も出来ずにクーデター軍諸共全滅………ロシアは陥落した]

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

千冬が告げた言葉により、一同は戦慄に襲われた。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「我が、祖国が……!?」

 

其れを聞いていたゴルルコビッチとザドルノフも、絶望した様にガクリを膝を突く。

 

[如何やら、ロージェノム軍は以前から今回のクーデターを知っていたらしい………国内が混乱に陥ったところを衝き、一気に占拠した様だ]

 

「何て事ですの………」

 

「ロシアが………陥ちたの?」

 

セシリアとシャルが、未だに信じられないと言った様子でそう呟いた。

 

「クソッ! ロージェノムの野郎め!!」

 

悪態を吐きながら、神谷は空を見上げる。

 

その空に、不敵に笑うロージェノムの姿が映った様な気がした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

追い詰められたゴルルコビッチとザドルノフの切り札はロボット兵器『ギャロン』
鉄人28号に登場したロボットです。
ロシア関係のメカニックで何かないかと探していたらコレが出て来たので。
火炎と冷凍ガスを使い分けるというのはオリジナル設定です。

対するグレンラガンと楯無は新合体『ミステリアスラガン』で対抗!
見事ギャロンを撃破します。
しかし………
ロージェノム軍がクーデター中のロシアを奇襲し、壊滅。
遂に大国ロシアが落ちた事で、人類側の戦況は一気に不利になります。
果たして、この先どうなるのか………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第87話『空から降って来た男! 雪だるさんだ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第87話『空から降って来た男! 雪だるさんだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソ連復活を目論み、楯無をロシアへと引き込もうとしたゴルルコビッチとザドルノフ。

 

その野望はグレン団によって阻止され、2人は逮捕されたが………

 

2人の同志達がロシア国内で起こしたクーデターを察知していたロージェノム軍が、ロシアへ大部隊を進撃させた。

 

結果、クーデターで混乱していたロシア軍はクーデター軍諸共壊滅。

 

ロシアはロージェノム軍の手に落ちる。

 

不幸中の幸いと言って良いか………

 

ISの登場により、冷戦時代からロシアが保有していた核ミサイルは全て廃棄されていた為、“ロージェノム軍が核を手にする”という最悪の事態は免れた。

 

尤も、核兵器()()の兵器等、ロージェノム軍にはザラに有るのだが………

 

ロシア陥落のニュースは忽ち世界中を駆け巡り、各国の政治家と軍人、人々を驚愕させる。

 

嘗てはアメリカと世界を2分し、常任理事国でもあったロシアが壊滅………

 

既にロージェノム軍が陥落させた国は半数以上に上っていたが、其れでも“大国”は持ち堪えていた。

 

しかし、その大国の1つであるロシアが陥落したというのは、人々を更なる絶望の底へ沈ませる事となる。

 

一部の国では、絶望した人々が暴徒と化している、と言う噂も流れ始めている。

 

最早一刻の猶予も無い、とリーロンは、漸く完成した量産型グラパールのデータを、未だ陥落していない国へと公開。

 

各国は、直ぐ様グラパールの量産に手を付け始める。

 

幸いにもISから多くの技術が流用可能だった為、ISでの軍備体勢を整えていた各国は、速やかな量産化を実現する事が出来た。

 

しかし、配備が整うまでの間に、今の前線部隊が持ち堪えられるのだろうか?

 

最早、戦況は完全に人類側が不利となっていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その影響は、やはりIS学園にも出始める。

 

今まで残っていた生徒の中にも、遂に退学したり、国に緊急召集される生徒が出始める。

 

只でさえ減っていたIS学園の生徒数は更に減少………

 

教員の中にさえ辞表を提出する者が出始めていた。

 

アレ程の膨大な人数を誇っていたIS学園は、すっかり寂れてしまっている………

 

其れでも、残っている生徒達の為に、残った教員達が今日も授業を行うのだった。

 

そして、今日は校外実習の日………

 

グレン団を含めた、IS学園残留生達が向かったのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北の大地………

 

北海道である。

 

雪の降り積もる大雪山に、寒冷地装備で集合している生徒達。

 

「良し! 全員集まったな!!」

 

防寒着を着ている千冬が、雪原に集合している生徒達に向かってそう言う。

 

「これより雪中戦の訓練を行う! ISに限った話では無いが、雪中戦は非常に危険な戦闘だ。寒さは体力を奪い、精密機器の故障率を跳ね上げる。だから訓練と言っても気を抜くな! 全員私の指示に従え!!」

 

生徒達に向かってそう言い放つ千冬。

 

「あの………織斑先生」

 

「既に1人、遊び呆けている人が居ます」

 

と、生徒達が恐る恐ると言った様子でそう報告する。

 

「あ~、皆まで言うな。分かっている………」

 

千冬は顔に手を当て、苦々し気な表情をしながら、その“遊び呆けている人物”に視線を向ける。

 

「良し、出来た!! 空から降って来た男! 雪だるさんだ!!」

 

どーんっ!!と言う効果が見えそうな感じで、神谷は完成させた2メートル程は有りそうな雪達磨(神谷曰く雪だるさん)を見上げる。

 

「オイ、神谷! 何をやっている!?」

 

「おお、ブラコンアネキ! 如何だ!? カッコイイだろ!?」

 

千冬の怒鳴り声を意にも介さず、神谷は自分が作った“雪だるさん”を示しながらそう言う。

 

「馬鹿者! 我々は遊びに来ているのではないぞ! もっと緊張感を持ったら如何だ!?」

 

当然の如く、説教を始める千冬だったが、

 

「それ! 雪だるパンチ!!」

 

神谷は雪だるさんの後ろに回ると、手の部分に使っていた木の棒を後ろから叩き、ロケットパンチの様に発射した。

 

「ブッ!?」

 

放たれた木の棒は、千冬の額に命中。

 

千冬が大きく仰け反る。

 

「ハハハーッ! 見たかぁ!!」

 

笑いながらそう言う神谷だったが、次の瞬間!!

 

「貴様ぁ何をするーっ!?」

 

怒りの声と共に千冬が飛び蹴りを放ち、雪だるさんを破壊する。

 

「あーっ! 雪だるさんが!? この野郎!!」

 

神谷は雪を摑んで雪玉を作ると、千冬の顔面目掛けて投げ付ける!!

 

「ブッ!? 貴様ーっ!!」

 

反撃にと、千冬も雪玉を作って投げ付ける!!

 

「ぼっ!? やりやがったなぁーっ!!」

 

其処でまたも雪玉を投げ付ける神谷。

 

そのまま2人は、雪合戦に突入する。

 

「アチャ~、また始まった………」

 

「ああなると、神谷も織斑先生も長いんだよね」

 

その様子を見て、一夏とシャルが呆れた様に呟く。

 

「ホント、毎回飽きずに良くやるわね………」

 

「オイ! 神谷!! いい加減に………」

 

鈴も呆れた様に溜息を吐き、箒が止めようとそう言った瞬間!

 

2人の顔面に、流れ雪玉が命中した!!

 

「「ブッ!?」」

 

一瞬で顔が真っ白になる箒と鈴。

 

やがて雪が剥がれて、赤くなった顔が露わになると………

 

「「………うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」

 

2人も神谷に向かって雪玉を投げ始める!!

 

「オ、オイ! 2人共!!」

 

「一夏! 俺達も行くぞ! 踊る阿呆に見る阿呆! 同じ阿呆なら踊らにゃ損々よ!!」

 

と一夏が2人を止めようとしたところ、弾がそう言って神谷側に付いた。

 

「ちょっ!?」

 

「神谷! 今助けるからね!!」

 

更に愛故か、シャルも神谷の味方に付く。

 

人数が増えた事で、雪合戦は更に激化!

 

グレン団のみならず、他の生徒達にも次々に流れ雪玉が命中して行く。

 

「ブッ! やったなー!!」

 

「うわっ! このぉーっ!!」

 

忽ち生徒達も雪合戦に参加し始め、一大雪合戦へと発展する。

 

「み、皆さん! 織斑先生! 止めて下さーい!!」

 

必死に止めようとする真耶の声が、大雪山に虚しく響き渡るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その大雪山の山奥深くにて………

 

雪が降り積もり、真っ白な世界の中に溶け込む様に蠢いている、巨大な影が在った………

 

螺旋四天王が1人、怒涛のチミルフの座乗艦『ダイガンザン』だ。

 

山の中を歩いていたダイガンザンは、やがて或る地点に到達すると、足を止める。

 

「よーし、この辺りで良いだろう………作業に掛かれ!!」

 

「ハッ! 了解しました!!」

 

「ガンメン部隊発進! 直ちに作業に掛かれ!!」

 

ダイガンザンの艦橋で、艦長席に座って居たチミルフがそう命じると、艦橋要員の獣人が復唱と艦内放送をする。

 

すると、ダイガンザンの格納庫の扉が開き、中から何やら機材を抱えたガンメンやレッドショルダー達が発進し始める。

 

そのままダイガンザンの傍へと降りると、持っていた機材を組み上げ始める。

 

「ようし、ダイガンザンはこのまま此処で待機。レーダー感度を最大にまで上げておけ。其れから、周辺への警戒部隊も出撃させろ」

 

「ハッ!!」

 

再びのチミルフの命令を、全部隊に通達する艦橋要員の獣人。

 

[チミルフよ………]

 

すると其処で、艦橋内にロージェノムの声が響いて来た。

 

「コレはロージェノム様!」

 

音声通信にも拘らず、畏まった姿勢を取るチミルフ。

 

[大雪山凍結要塞化計画は如何だ?]

 

「ハッ! 只今、装置を設置するのに最適な場所を発見致しました。これより組み立て作業に入ります」

 

[期待しておるぞ………]

 

チミルフの返事を聞くと、ロージェノムはそう言って通信を切る。

 

「ロージェノム様が期待を………有り難き幸せ。作業を急がせろ!!」

 

「ハッ!!」

 

ロージェノムの言葉を聞いたチミルフは感動している様な様子を見せたかと思うと、艦橋要員の獣人にそう言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れから数時間後………

 

結局、訓練時間を全て雪合戦に費やしてしまったIS学園の一同は、日が暮れた事もあり、拠点としている多人数が泊まれる大型コテージへと引き上げていた。

 

 

 

その大型コテージの千冬の部屋にて………

 

「ブエックシッ!!」

 

「7度4分………完全に風邪ですね」

 

布団に入って顔を赤くし、額に氷嚢を置いて寝ている千冬の傍に居た真耶が、千冬の体温を計った体温計を見ながらそう言う。

 

雪合戦中、散々(主に神谷から)雪玉をぶつけられた千冬は、風邪を引いてしまっていたのだ。

 

「オノレェ~、神谷めぇ~~」

 

恨み言を呟くその声も、何処か弱々しい。

 

「うっ!? ゴホッ! ゴホッ!」

 

「ああ! 無理しないで下さい! 今はゆっくりと寝て下さい」

 

「すまない、山田くん………」

 

「こう言う時の副担任ですから………さ、御粥をどうぞ」

 

まるで母親の様に、甲斐甲斐しく千冬の世話を焼く真耶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

千冬が寝込む原因となった神谷はと言うと………

 

「王様ゲーーーームッ!!」

 

「いよー! 待ってたぜ、大統領!!」

 

自分と一夏と弾の宿泊部屋に、グレン団メンバーを集め、王様ゲームに興じている。

 

毎度の事と言えば毎度の事だが、まるで反省していない………

 

「って言うか、何で王様ゲーム!?」

 

「勿論! 私の発案だよ!!」

 

一夏がそうツッコミを入れると、楯無が当然の様にそう返した。

 

「やっぱり貴方ですか………」

 

「まあまあ、一夏。こう言うのは盛り上がったモン勝ちだぜ」

 

呆れる一夏に、ワクワクしている弾がそう言う。

 

「いや、何か………妙に寒気がするんだけど?」

 

しかし一夏は、コレから始まる王様ゲームに妙な不安を抱いている。

 

其れもその筈、何故ならば………

 

(((((王様を引くのは私〈アタシ〉だ!!)))))

 

既に、箒・セシリア・鈴・ラウラ・蘭の女子メンバー達が、交差させた視線から火花を散らしてヒートアップしているのだ。

 

誰が王様になったとしても、(一夏にとって)碌でもない目に遭う事は目に見えている。

 

「は~い! 其れじゃ行くよー! 皆、割り箸を………」

 

「ちょっと待って………姉さん………」

 

と、楯無がノリノリで籖である割り箸を引かせようとしたところ、簪が其れを止めた。

 

「え~、簪ちゃん~。何で止めるの~?」

 

ブー垂れながらそう言う楯無だったが………

 

「………ティトリー………籖の管理は貴女がやって………」

 

簪は気にも掛けず、楯無から籖を取り上げると、ティトリーに管理を委ねる。

 

「えっ? あ、うん………」

 

ティトリーは戸惑いながらも籖を受け取る。

 

「………姉さんがやると………どんな“不正”をするか………分からないからね………」

 

その直後に、簪は楯無を見ながらそう言う。

 

「(ギクッ!!)や、やだなぁ、簪ちゃん! 私がそんな事するワケないじゃな~い。アハハハハ」

 

笑ってそう言う楯無だったが、実を言うとその服の袖の中には、大量の籖が隠されている………

 

アンタ、修学旅行で懲りてないだろ!?

 

「じゃあ~! 改めて引こうか~!」

 

のほほんがマイペースにそう言うと、全員が籖へと手を伸ばす。

 

そして一気に引く。

 

「王様だ~れだ?」

 

のほほんがそう言うと………

 

「おっ! 当たったぜ!」

 

神谷が籖の先に赤い印が付いているのを見てそう言う。

 

「「「「「ゲッ!? 神谷ぁ!?」」」」」

 

途端に絶望し切った表情となる一同。

 

「何だよ、その顔は? そんな態度取るんだったら、如何してやろうかな~?」

 

悪い顔をしてニヤニヤと笑いながら、神谷は一同を見遣る。

 

「「「「「…………」」」」」

 

絶対に碌でもない命令が来ると思い、一同は緊迫感から息を呑む。

 

「よしっ! 決めた!! 3番のケツにタイキックを見舞ってやる!!」

 

「「「「「やっぱり~!!」」」」」

 

神谷がまるで何処ぞの笑ってはいけない番組の様な事を言うと、箒達から悲鳴の様な声が挙がる。

 

「さ~て、誰だ? 3番は?」

 

「あ、あの、アニキ………俺………3番」

 

得物を狙う獣の様な目をした神谷に、一夏がおずおずと手を上げながらそう呟く。

 

「………お気の毒様だな」

 

一瞬驚いた様な顔をした神谷だったが、すぐにニヤリと笑うと、ムエタイの様な構えを取る。

 

「えっ!? ちょっ!? 本気でやるの!?」

 

「当たり前ぇだろ! でなきゃ、罰ゲームになんねえだろ!?」

 

「ちょっ!? 止めて!!」

 

逃げようとした一夏だったが、弾が其れを押さえる。

 

「弾!?」

 

「一夏………“王様の命令は絶対”だ」

 

「裏切り者おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「ハイヤアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

一夏が絶叫を挙げた瞬間、神谷のタイキックが、一夏の尻に命中する!

 

「ギャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

コテージを揺るがす程の一夏の絶叫が響き渡った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~い! それじゃあ、2回戦に行くよ~!」

 

「お、お~」

 

相変わらずマイペースにそう言うのほほんに、尻を上げた状態で床に俯せに倒れている一夏が右手を上げる。

 

「「「「「…………」」」」」

 

「さ~て、今度の王様は誰だぁ?」

 

その所為で箒達が神谷を睨み付けているが、神谷は意に介していない………と言うより、全く気付いていない。

 

「………私」

 

すると其処で、簪が先が赤い籖を上げながらそう言う。

 

「お~! かんちゃんが王様だ~」

 

「簪ちゃん。なるべく過激なのを頼むわよ!!」

 

のほほんと楯無がそう注文する。

 

「過激………」

 

そう言われて、考え込む様な様子を見せる簪。

 

「………良し」

 

すると何かを思い付いたかの様に、荷物が入った鞄を漁り始める。

 

そして取り出したのは、何と………

 

リボルバー式の拳銃だった。

 

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

何をする気だと、箒と楯無達の顔が青褪める。

 

そんな中、簪は拳銃の弾倉から弾丸を5発抜くと、1発だけ装填した状態で弾倉を戻し、数回転させる。

 

「………5番が………ロシアンルーレット」

 

そして、リボルバーの銃身を握ってグリップを差し出す様にしながら、そう言い放った。

 

「ちょっ!?」

 

「其れは過激過ぎるでしょ!?」

 

一夏と鈴が、そうツッコミを入れる。

 

「大丈夫………装填されてるのは………ペイント弾だから………」

 

そんな2人に向かってそう言う簪。

 

しかしペイント弾と言えど、ロシアンルーレットの様に米神に当てて撃つと言う、至近距離からの当て方なぞすれば、かなりの痛みの筈である。

 

そして、簪が指定した5番のくじを持っていたのは………

 

「………うわぁ………」

 

楯無であった。

 

「………ハイ」

 

簪はそんな姉に、微笑みながらリボルバーを差し出す。

 

「簪ちゃん………最近()()性格になって来たよね………」

 

其れを受け取りながら、楯無は愚痴る様にそう言う。

 

「そう………?」

 

「ま、まあ、でも確率は6分の1! 運が良ければ生き残れる!!」

 

楯無は自らを奮い立たせる様にそう言うと、リボルバーの銃口を米神に当て、引き金を引いた。

 

その瞬間!!

 

バンッ!!という破裂音がして、楯無が赤い液体を撒き散らしながら倒れる。

 

「ちょっ!?」

 

「まさか1発目から当たり!?」

 

一夏と弾が慌てていると………

 

「………最悪」

 

自慢の水色ヘアーと身体の半分が、赤いペイント弾で真っ赤に染まった楯無が起き上がる。

 

「クククク………」

 

其れを見た簪は、必死に笑いを堪えているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いて王様になったのは鈴………

 

「よ~し! 行くわよ~!!」

 

立ち上がると、一夏達を指差しながらそう言う鈴。

 

「そうね~………うん! 6番が王様の耳掃除!!」

 

鈴が高らかにそう言い放つと………

 

「あ、6番、俺だ」

 

漸くダメージが回復した一夏がそう声を挙げる。

 

「!? マジで!?」

 

途端に鈴は、一夏に詰め寄る!

 

「あ、ああ………」

 

少々引きながら、一夏は鈴に6番の籖を見せる。

 

「(やりぃっ!!)ふふん! 王様の命令は絶対よ!!」

 

内心でガッツポーズを決めながら、鈴は一夏の膝に頭を乗せる。

 

「オイオイ………しょうが無いな………」

 

一夏は呆れる様な様子を見せながらも、綿棒を握って耳掃除を始める。

 

(ハワ~~~………良いわね………コレ………)

 

((((ギギギギギギギ………))))

 

一夏には見えない様にしながら至福の表情を浮かべている鈴と、その様子に嫉妬の炎を燃え上がらせる箒達。

 

「さ~て、盛り上がって来たな」

 

「うん。“色んな意味”でね………」

 

その様子を見て、笑いながらそう言う神谷と、冷や汗を掻きながらそう言うシャルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~い! 私だよ~!」

 

続いての王様はのほほん。

 

「んじゃあ~………1番が9番の膝に乗って、頭ナデナデして貰う~!!」

 

「ええっ!? また俺!?」

 

9番の籖を持った一夏がそう声を挙げる。

 

「フフフ………流石は私の嫁だ。空気が読める」

 

そんな一夏の前に、1番の籖を持ったラウラが仁王立ちする。

 

「ラ、ラウラ………」

 

「では、イザ………」

 

戸惑う一夏を他所に、ラウラは一夏をベッドに腰掛けさせると、その膝の上にチョコンと乗る。

 

「うう………」

 

“女子に膝の上に乗られる”と言う奇妙な感覚を感じ、困惑する一夏。

 

「オイ、一夏。何をしている?」

 

「えっ? 何って………」

 

「だから、その………あ、頭ナデナデは如何した!?」

 

台詞の後半で若干照れた様子を見せ、ラウラは怒鳴る様に一夏にそう言う。

 

「お、おう………」

 

驚きながらも、一夏はラウラの頭を優しく撫で始める。

 

「はうわっ!?」

 

途端に、ラウラは珍妙な声を挙げる。

 

「ど、如何した!?」

 

「な、何でも無い! 続けろ!!」

 

「わ、分かった………」

 

そのまま頭を撫で続ける一夏。

 

(はわわ~~~ん)

 

ラウラは、今にも蕩けて行きそうな表情を浮かべて、幸せそうにしている。

 

((((ギギギギギギギ………))))

 

そしてその様子に箒達は、嫉妬の炎を(以下略)………

 

 

 

 

 

「あ、私だ」

 

続いて王様の籖を引いたのはティトリー。

 

「ティトリーちゃん、本音が膝乗せだったんから、もっと上をお願いね」

 

未だ身体の半分が真っ赤な楯無が、ティトリーに向かってそんな事を言う。

 

「もっと上? それじゃあ………2番が5番に抱き付く」

 

「うわっ!? また俺だよ!?」

 

5番の籖を持っていた一夏がそう声を挙げる。

 

「い、一夏さん………わ、私………」

 

そんな一夏に、何やら動揺した様子を見せながら声を掛けるセシリア。

 

その手には、2番の籖が握られている。

 

「こ、今度はセシリアか………」

 

「王様の命令は!」

 

「ぜった~い!」

 

楯無とのほほんがそう言って逃げ場を塞ぐ。

 

「し、心配要りませんわ、一夏さん! 飽く迄ゲーム! ゲームなのですから!」

 

まるで自分に言い聞かせているかの様にそう言うと、未だベッドに腰掛けていた一夏の首に両腕を回し、膝に乗る様にして身体を密着させた。

 

「「ああ~~~~~っ!?」」

 

「き、貴様!!」

 

「何をしている!?」

 

途端に、箒達から抗議の声が挙がる。

 

「し、仕方有りませんわ! 座って居る人に抱き付くならこうしませんと………ねえ、一夏さん?」

 

「お、おう………」

 

セシリアの言葉に、一夏は真っ赤になった顔を背けながら曖昧に答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった! 遂に来た!!」

 

今度の王様は蘭。

 

(落ち着け、落ち着くのよ、五反田 蘭………未だ一夏さんがどの番号の籖を持っているのかは分からないのよ………)

 

逸る心を鎮めながら、蘭は必死に脳細胞(みそ)を回転させる。

 

そして、この状況で“自分が取るべき行動”を導き出す。

 

「(神様! お願いします!!)4番が王様を………お、お姫様抱っこ!!」

 

やがて、意を決した様にそんな台詞を言う。

 

「………まただよ。何か作為働いて無いか?」

 

そして、幸運にも蘭が指名した番号籖を持っていたのは一夏だった。

 

コレも主人公補正だろうか?

 

「い、一夏さん!! お、お願いします!!」

 

「ああ、分かったよ………それじゃあ、失礼して」

 

緊張感丸出しの蘭に対し、彼女を()の様に見ている一夏は特に他意も無く、ヒョイッと蘭を抱き上げる。

 

「キャッ!?」

 

抱き上げられた蘭は、咄嗟に一夏の首に腕を絡ませる。

 

「如何だ、蘭? コレで良いか?」

 

「は、ハイ………」

 

頭から湯気が昇って居る蘭は、一夏にお姫様抱っこされたまま固まってしまう。

 

((((ギギギギギギギ………))))

 

そしてその様子に箒達は、嫉妬の(以下略)………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、私ですね」

 

そう言ったのは虚。

 

その手には王様の籖が握られている。

 

「ん~と、如何しましょう………あ、其れじゃあ………1番の人が7番の人の頬にキスで」

 

「「「「「!?」」」」」

 

キスと言う単語を聞いた箒達の目の色が変わる。

 

「おお! 虚さん、大胆っすね」

 

「そ、そうかな? コレぐらい良いかなと思ったんだけど………」

 

弾と虚がそんな事を言い合っているのを他所に、箒達は自分の籖の番号を確認している。

 

(!! 1番だ!! では、7番は!?)

 

そして1番の籖を持っていた箒が、相手の7番を探す。

 

「ちょっ! 一寸待ってくれ!!」

 

そう声を挙げたのは一夏。

 

その手には7番の籖が握られている。

 

(!?)

 

其れを確認した途端に、箒の顔は一瞬でトマトの様に真っ赤になる。

 

「キース! キース!」

 

「キ~ス! キ~ス!」

 

退却は許さないと言う様に、キスコールを始める楯無とのほほん。

 

「い、一夏!!」

 

其処で、箒は一夏に近寄りその胸倉を摑み上げる。

 

「ほ、箒!? ひょっとして………」

 

一夏が何か言おうとしたところ………

 

「んんっ!!」

 

箒は勢いのままに、一夏の頬へと口付けた。

 

「!?!?」

 

流石のスーパー朴念仁一夏も、コレには顔を真っ赤にする。

 

「「「「!!??」」」」

 

其れを見ていたセシリア・鈴・ラウラ・蘭の顔も驚愕に染まる。

 

………と、次の瞬間!

 

箒が、脱力した様にそのままバタリと俯せに倒れた!

 

「ほ、箒!?」

 

「わ、我が生涯に………一片の悔い無し………」

 

まるで世紀末覇王の様な台詞と共に、箒は力尽きる。

 

「箒いいいぃぃぃぃーーーーーっ!! 死ぬなああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

いや、死んで無いから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王様キターーーーーーッ!!」

 

何処ぞの宇宙ライダーの様に叫びながら、王様の籖を皆に見せ付ける楯無。

 

「ふふふふ………覚悟してよ~、皆」

 

悪い顔をしながら、皆に向かって楯無はそう言う。

 

如何やら、未だ先程のロシアンルーレットが尾を曳いている様だ。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

碌でもない事になると確信し、神谷以外のグレン団メンバーは息を呑む。

 

「其れじゃあ………2番と8番がキッス! 勿論、口と口で!!」

 

「「「「「「!?」」」」」

 

その時、一同に電流が走る。

 

そして、一斉に自分の籖を確認し始める。

 

「さあ~! 誰だぁ!? 2番と8番は~!!」

 

そんな一同を見ながら、ノリノリでそう言う楯無。

 

「あ、俺、2番だ」

 

「わ、私………8番」

 

すると、弾と虚がそう声を挙げた。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

“色んな意味”で、弾と虚に視線が集中する。

 

「え、えっと………お嬢様、其れは流石に………」

 

「虚さん………」

 

虚が流石に無理だと言おうとしたが、弾がそんな虚の肩を摑んで自分の方に向かせる。

 

「!? 弾くん!? だ、駄目よ! こんな()()で………」

 

「良いじゃないっすか、別に()()()でも無し。見せ付けてやれば………」

 

戸惑う虚を他所に、弾はサラッとカミングアウトしながら、顔を近付けて行く。

 

「あ、ちょっ!?………ん!?」

 

そしてそのまま、唇と唇が重なる。

 

「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~っ!?」」」」

 

一部のメンバーから歓声が挙がる。

 

「失敗した………コレはコッチのダメージが大きいわ………」

 

そんな中で、口から砂糖を吐きそうになっている楯無がそう呟くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お! 今度は俺だ!」

 

傍に真っ赤になって縮こまっている虚を置きながら、王様の籖を引いた弾。

 

「う~ん、如何っすかな~?」

 

顎に手を当てながら、何を命令しようか考える。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

グレン団の一同は、再び緊迫した空気に包まれる。

 

「よ~し、そんじゃ! 良い具合に盛り上がって来た事だし………1番と2番が全力でイチャイチャする!!」

 

と其処で、ノリに乗った弾はトンでもない命令を下す。

 

「えっ!? 僕2番だけど!?」

 

2番の籖を引いていたシャルが、そう声を挙げる。

 

「じゃあ、1番は誰だ?」

 

6番の籖を持っている一夏が、他のメンバーを見ながらそう言う。

 

「んなモン決まってんだろ」

 

と、其処でそう声を挙げる神谷。

 

その手には1番の籖が握られている。

 

「か、神谷!?」

 

「そんじゃあまあ、イチャイチャするとするか………」

 

驚くシャルを見ながら、何を思ったのか、神谷はマントと上着を脱ぎ始める。

 

「えっ!? ちょっ………神谷、何で脱ぐの?」

 

「何でって………イチャ付けば良いんだろ?」

 

完全に、上半身(サラシ)だけになると、シャルの方へと迫る神谷。

 

「ちょっ!? ま、待って神谷!! ストップ!!」

 

「良いでは無いか、良いでは無いかっ!!」

 

そう言う台詞と共に、神谷はシャルに飛び掛かった!!

 

「キャアッ!? ま、未だ心の準備が~~~~っ!!」

 

「ちょっ!? アニキ!?」

 

「神谷!! 貴様ーっ!!」

 

「其れは流石に洒落(シャレ)にならないよーっ!!」

 

危うくR指定な光景になりそうなところで、一夏達が止めに入る。

 

こうして、グレン団達の夜は更けて行った………

 

………R指定になりそうだったシャルが、止められて若干“残念そうな表情”をしていたのは気の所為だ、と思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

校外学習、北の大地編。
郊外学習でロージェノム軍に鉢合わせ。
安定のエンカウント率です。

まだその存在には気づいていない為、一先ずはラブコメ模様をお届けしました。
次回から大雪山を舞台に熱い戦いが繰り広げられます。
お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第88話『不意打ちとはやってくれるじゃねえか!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第88話『不意打ちとはやってくれるじゃねえか!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪中戦訓練の為に、北海道は大雪山を訪れたIS学園の一同。

 

初日は神谷の暴走もあり、雪合戦をして終わったが………

 

2日目からは本格的に訓練が始まる。

 

しかし………

 

その大雪山の奥地では、ロージェノム軍が大雪山凍結要塞化計画なる計画を進めていた。

 

果たして、グレン団はロージェノム軍の存在に気付くのか?

 

そして、謎の大雪山凍結要塞化計画とは一体?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大雪山の雪原………

 

雪原の上を、専用のスキーを装着したIS部隊が滑走している。

 

バイアスロンさながらに、設置されている的をスキーをしながら撃ち抜いて行く。

 

「よおし、良いぞ! 雪中戦では降り積もった雪の為に距離が把握し難い! 今の感覚をしっかりと身体に覚えさせておけ!!」

 

「「「「「ハイ!!」」」」

 

千冬の声に元気良く返事を返しながら、バイアスロンさながらの訓練を続ける。

 

「皆さん、頑張ってますね」

 

と其処で、真耶が千冬の横に立ちながらそう言う。

 

「この状況下でIS学園に残ってくれている生徒達だ。其れなりに肝は据わっている様だ」

 

不敵に笑いながら、千冬はそう返す。

 

「ところで山田くん。グレン団の連中は如何している?」

 

「今、2チームに分かれて模擬戦を始めてますよ」

 

真耶がそう言って指差した先では、グレン団が2チームに分かれて模擬戦を行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレン団の模擬戦の様子………

 

セシリア・鈴・ラウラ・楯無・ファイナルダンクーガ(ティトリー)が、互いに背中合わせになる様にして得物を構えている。

 

「「「「「………」」」」」

 

全員が緊張した面持ちで、辺りに警戒している。

 

すると其処へ、雪原の一部が盛り上がり、まるでモグラの様に跡を残しながら、セシリア達へ近付いて行く。

 

「!! 其処かぁ!?」

 

其れに気付いた鈴が、向かって来る盛り上がりに向かって龍砲を放つ!!

 

雪が大きく爆ぜ、粉雪が舞い散る。

 

「おおっと!?」

 

その次の瞬間、雪の中からグレンラガンが飛び出して来た!!

 

「居たわね、神谷!!」

 

「バレバレでしたわよ!!」

 

鈴がそう言うと、セシリアがグレンラガンに向かって、スターライトmkⅢを発砲する。

 

「へへ、当然だろ」

 

しかし、グレンラガンは其れを躱しながら、不敵にそう言い放つ。

 

「!? イカン!!」

 

「皆! 神谷くんは囮だよ!!」

 

其処でラウラと楯無がそう声を挙げるが………

 

「もう遅いよ!!」

 

そう言う声が響いたかと思うと、グレンラガンが飛び出した真逆の方向の雪が弾け、両手にデザート・フォックスを構えたシャルが飛び出し、爆音と共に弾丸を吐き出す。

 

「「「「!?」」」」

 

「ミギャーッ!?」

 

慌てて散開する楯無達と、退避が遅れて弾丸を何発か浴びるファイナルダンクーガ。

 

幸い、装甲が厚いお蔭で大したダメージは無かったが、楯無達は其々孤立する。

 

「今だよ! 皆!!」

 

するとその瞬間にシャルが叫ぶと、

 

「「「「おおぉーっ!!」」」」

 

威勢の良い声と共に、楯無達の其々の回避先に、一夏、箒、グラパール・弾、グラパール・蘭が雪の中から現れる。

 

「!? 何っ!?」

 

「しまった! 此奴等! 神谷が掘った雪穴の中に隠れてたのね!?」

 

「今更気づいても、もう遅いぜ!!」

 

驚きの声を挙げるラウラと鈴に、一夏が答える様にそう声を挙げると、其々が交戦を始める。

 

セシリアはグラパール・弾と。

 

鈴はグラパール・蘭と。

 

ラウラは一夏と。

 

楯無は箒と交戦を開始する。

 

「ティトリー! 悪りぃが、お前は先に潰させてもらうぜ!!」

 

「ダンクーガの火力と装甲は厄介だからね」

 

残ったグレンラガンとシャルは、単機での戦闘能力が高いファイナルダンクーガを先に叩こうと突撃する。

 

「ニャニャッ!?」

 

未だ、先程の銃撃から体勢を立て直し切れていないファイナルダンクーガは慌てる。

 

「貰ったぜっ!!」

 

右腕に2本のドリルを出現させ、ファイナルダンクーガにスカルブレイクを咬まそうとするグレンラガン。

 

「!! 神谷! 右!!」

 

しかし其処で、シャルが何かに気付いた様にそう声を挙げる。

 

その次の瞬間!!

 

雪の中から弾丸が飛び出し、グレンラガンに命中する。

 

「!? おうわっ!?」

 

ダメージは其れ程無かったが、バランスを崩して転倒するグレンラガン。

 

「! 今だ!!」

 

その間に、ファイナルダンクーガは態勢を立て直す。

 

「クウッ! 其処ッ!!」

 

其れに歯噛みしながらも、シャルは弾丸が発射された地点に向かって、ガルムの砲弾を撃ち込む。

 

雪原から派手に爆発が上がる。

 

そして、キュイイイィィィィィンッ!と言う音が聞こえて来たかと思うと、雪が弾けて簪が姿を現す。

 

御丁寧にスコープドッグの装甲を雪迷彩にペイントし、脚部に雪中戦用の装備『アイスブロウワー』を装備している。

 

コレは、大型グライディングホイールと、除雪車の様に雪を掻き出す機構を備えるブーツの様な装備であり、雪上でも充分なトラクションを得る事が出来る上に、その特性を活かして、塹壕を掘る様にして雪に潜る事が出来るのだ。

 

「………流石」

 

簪はそう呟くと、牽制する様にヘヴィマシンガンを発砲する。

 

「んなろー! 不意打ちとはやってくれるじゃねえか!!」

 

しかし、グレンラガンは其れを装甲で弾きながら、無理矢理簪に接近する。

 

「…………」

 

簪は、冷静にアイスブロウワーを使い、雪の中へと潜り込む。

 

「うおっと! 逃がすか!!」

 

グレンラガンも、直ぐに右腕をドリルに変えて雪中へ潜行。

 

そのまま、雪中での爆発による雪柱が上がり始める。

 

「神谷!!」

 

直ぐに神谷を援護しようと、ヴェントを構えるシャルだったが………

 

「そうはさせないよ!!」

 

ファイナルダンクーガがダイガンで牽制する!!

 

「クウッ!?」

 

「でやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

回避行動を取ったシャルだが、回避先を読んでいたファイナルダンクーガは、バーニアを全開に噴かして突撃。

 

そのまま鉄拳を見舞う!

 

「!? キャアッ!?」

 

実体シールドで防御したシャルだったが、ファイナルダンクーガの拳は、実体シールドをまるで豆腐の様に砕いた!

 

「流石、やるね………」

 

「そっちこそね!」

 

2人はそのまま、互いに火器を駆使しての撃ち合いへと突入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあ~、皆凄いですね~」

 

「伊達に実戦を経験してはいない、か………」

 

グレン団の模擬戦の様子を見て、真耶と千冬がそう呟く。

 

とその時、千冬の通信機が鳴る。

 

「ムッ? ハイ、此方織斑………空自の北部方面隊司令官?………? 何ですって!?」

 

話している最中に、驚きの声を挙げる千冬。

 

「ど、如何しました!?」

 

「………分かりました。直ぐに対応させます。ハイ、では」

 

驚きの声を挙げる真耶には答えず、千冬は一通りの通信を終えると通信機を切る。

 

「グレン団! 模擬戦を中止して集まれ!! 緊急事態だ!!」

 

そして、直ぐにグレン団の方へと向き直るとそう叫んだ。

 

「あん?」

 

「緊急事態!?」

 

その言葉に、グレンラガンが雪中から姿を見せ、雪上を滑る様に移動していた一夏が立ち止まってそう声を挙げる。

 

他のメンバーにもその声は届き、模擬戦は直ちに中止されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

IS学園の一同が泊まっている大型コテージ………

 

その1室が司令室の様にされ、千冬と真耶、そしてグレン団の一同が集まっていた。

 

「諸君、先ずはコレを見ろ」

 

そう言うと、千冬は一同から見える正面の大型モニターに1枚の航空写真を映し出す。

 

其処には、雪山の中を“何かの資材”を持って移動する………

 

ガンメン部隊とレッドショルダー隊の姿が映っていた。

 

「! ガンメン!」

 

「レッドショルダーも居るわね………」

 

一夏が驚きの声を挙げ、簪もそう呟く。

 

「今朝方、大雪山上空を哨戒飛行していた空自の機体が偶然撮影に成功したものだ。詳細は不明だが、ロージェノム軍は大雪山の山奥に“()()()の機材”を運び込んでいる様だ」

 

「どうせまた、碌でも無え事でも企んでるに決まってらぁ」

 

状況を推測する千冬に、神谷は愚痴る様にそう言う。

 

「何れにせよ、奴等を放置するワケには行かない。グレン団は直ちに大雪山の山奥に向かい、ロージェノム軍の作戦を阻止せよ!」

 

「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」

 

千冬の指示に、グレン団の一同は勇ましく返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、大雪山の山奥深くにて………

 

雪景色の中に溶け込む様に停泊しているダイガンザン。

 

その艦橋にて………

 

「チミルフ様! ブリザード装置が完成したとの報告です!」

 

艦橋要員の獣人の1人が、チミルフに向かってそう報告を挙げる。

 

「おお! 完成したか! 予定よりも早いな!!」

 

その報告に、チミルフはそう言って満足気な様子を見せる。

 

「コレより、テストを開始すると同時に続けて要塞建造に入る、との事です」

 

「良し。コレで大雪山凍結要塞計画は第2段階に………」

 

とチミルフが言い掛けた瞬間、艦橋内に警報が鳴り響く。

 

「!? 何事だ!!」

 

「レーダーが、此方に向かって飛んで来る飛行物体を捉えました! この反応は………!? グレン団です!!」

 

艦橋要員の獣人がそう報告を挙げる。

 

「むう、グレン団め………とうとう我等の存在を嗅ぎ付けたか………」

 

「チミルフ様! 如何為(いかがな)さいますか!?」

 

「慌てるな。丁度良い………()()()()()()()()()()()()ではないか………ブリザード装置! 起動!!」

 

「了解! ブリザード装置、起動!!」

 

チミルフの命令を、艦橋要員の獣人が復唱したかと思うと………

 

ダイガンザンの傍に建造されていた、上部に巨大なラッパの様な放出口が設置されているマシンが稼働を始める。

 

そしてそのラッパの様な放出口から、凄まじい吹雪を放出し始めた!!

 

快晴だった空は、アッと言う間に鈍い鉛色の雲で覆い尽くされ、視界が完全に白く染まる程の吹雪が吹き荒れ始める。

 

「フッフッフッフッ………グレン団よ。今度こそお前達の最期だ。この極寒の吹雪の中で、身も心も凍り付くが良い」

 

不敵な笑みを浮かべて、チミルフはそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

グレン団の一同は………

 

全員がISとグラパールを装着した状態で、上空から一気に大雪山の山奥へと向かっている(飛行不能な簪は、ファイナルダンクーガ(ティトリー)に輸送されている)。

 

「獣人野郎共め。何を企んでるか知らねえが、この神谷様の目が黒い内は好き勝手はさせねえぜ」

 

先頭を飛ぶグレンラガン(神谷)がそう呟く。

 

「アニキ。敵の目的はまだ分かってないんだ。冷静に行動してよ」

 

「分かってるって!」

 

そんな神谷に一夏がそう言うが、グレンラガンは分かっているのかいないのか分からない返事を返す。

 

すると其処で………

 

先程まで快晴だった空が、一瞬で鉛色の曇り空となる。

 

「アラ? おかしいですわねぇ………」

 

「さっきまであんなに晴れてたのに………」

 

と、セシリアと鈴が怪訝な声を挙げた瞬間!!

 

グレン団の一同に、凄まじいブリザードが襲い掛かった!!

 

「ぬわっ!?」

 

「コレは!?」

 

突然のブリザードに、箒とラウラが声を挙げる。

 

その次の瞬間には、ブリザードの所為で至近距離に居る()の互いの姿まで確認し難くなる。

 

「コ、コレは………只の吹雪じゃないわよ!?」

 

「まさか………ロージェノム軍の新兵器………?」

 

「と、飛ばされる~!?」

 

楯無と簪がそう推測を述べ、ファイナルダンクーガが吹き飛ばされそうになりながらも必死に耐えている。

 

「!? キャアッ!!」

 

「!? 蘭!!」

 

吹き飛ばされそうになったグラパール・蘭の手を、間一髪摑む事に成功するグラパール・弾。

 

「チクショーが! 舐めやがって!!」

 

「神谷! 一旦退こう!! この状況で進むのは無理だよ!!」

 

必死に前に進もうとしているが、徐々に押し戻されているグレンラガンに向かって、シャルがそう言う。

 

だが次の瞬間、更に凄まじい突風が吹き荒れた!!

 

「「「!? うおわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」

 

「「「「「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」

 

とうとうグレン団の一同は、飛行を維持できずに墜落して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイガンザン・艦橋………

 

「チミルフ様! レーダーからグレン団の反応が消えました!!」

 

「ふむ、墜落した様だな。ブリザード装置………予想以上の威力だ」

 

艦橋要員の獣人からそう報告を聞いたチミルフは、満足気にそう言う。

 

「このブリザード装置により、大雪山を常に吹雪に包まれた極寒の地へと変え、その中に我等の要塞を建設する! 強烈な吹雪により誰も近付けぬ要塞と化した大雪山を拠点に、先ず北海道を制圧! 然る後に日本全土を制圧してくれるわ!!」

 

「グレン団への追撃部隊を出しますか?」

 

「当然だ! 奴等は我等のブリザード装置の吹雪で参っている。このチャンスを逃す手は無い! 直ちに部隊を送り込め!!」

 

「ハッ! 了解しました!!」

 

墜落したグレン団への追撃部隊を送り込む事を指示するチミルフ。

 

其れが伝わるや否や、ダイガンザンから大量のガンメン部隊と寒冷装備のレッドショルダー達が出撃を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、吹雪によって墜落したグレン団の一同は………

 

「………ブハッ!!」

 

雪の中から、一夏がモグラの様に顔を出す。

 

「一夏! 無事だったか!?」

 

其れに気付いたグラパール・弾が声を掛ける。

 

近くには、他にも箒・セシリア・鈴・ラウラ・楯無・簪・ファイナルダンクーガ・グラパール・蘭の姿が在る。

 

「弾! 皆! 此処は………?」

 

一夏は、状況を確認しようと周りを見回す。

 

如何やら、吹雪が吹いている地点から弾き飛ばされたらしく、山の斜面となっている場所に墜落した様だった。

 

やや離れた場所では、未だに吹雪が吹き荒れている様子が見える。

 

「如何やら、彼処から弾き出された様だな………」

 

「あ~、酷い目に遭ったよ~」

 

吹雪が吹き荒れている地点を見ながらそう言うラウラと、身体とISに付いた雪を払っている楯無。

 

「やっぱり………あの吹雪はロージェノム軍の仕業なのか?」

 

「ん? オイ!! シャルロットと神谷は如何した!?」

 

と、一夏がそう呟いた瞬間、箒がシャルと神谷の姿が無い事に気付く。

 

「えっ!?」

 

「ま、まさか!?」

 

其れを聞いた途端、一夏は驚きの声を挙げ、グラパール・蘭が慌てた様子を見せる。

 

「落ち着いて………ISとグレンラガンのビーコンを確認したわ………ココから直ぐ近くよ」

 

しかしそこで、簪がそう言い放つ。

 

「何だ、良かった………」

 

「全く、人騒がせなんだから。あの2人は」

 

「シャルロットさんは兎も角、神谷さんは“何時もの事”ですが………」

 

ファイナルダンクーガが安堵の声を挙げると、鈴とセシリアが愚痴る様にそう呟く。

 

「兎に角、迎えに行こうぜ」

 

其処でグラパール・弾がそう言い、一同は神谷とシャルを迎えに出る。

 

しかし………

 

其処で一夏達は、思わぬ事態を知る事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンラガンとシャルのISのビーコンが発せられている地点………

 

「この辺りの筈だけど………」

 

ターレットレンズを切り替えながら、グレンラガンとシャルの姿を探す簪。

 

「誰も居ないけど………」

 

「でも確かに、反応は()()()()()()()ね………」

 

ファイナルダンクーガが、周囲に誰も居ないのを見てそう言うが、楯無がそう言い返す。

 

「………!! まさか!?」

 

と一夏が何かを思い付き、足元の雪を掘り返し始めた!

 

「一夏?」

 

「如何したんだ、いきなり?」

 

箒とグラパール・弾が怪訝な顔をするが、一夏は構わず雪を掘り続ける。

 

すると………

 

「!! やっぱり………」

 

不意に、驚愕の表情を浮かべて固まった。

 

その視線の先には、雪の中に埋もれた………

 

()()()()()ラファールとコアドリル”が在った………

 

「!? 其れは!?」

 

「ま、まさかシャルロットさん達!?」

 

其れを覗き込んだラウラとグラパール・蘭が驚きの声を挙げ、他の一同も驚愕を露にする。

 

「マズイ………アニキとシャルが………遭難した!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

その神谷とシャルは………

 

未だに吹雪の吹き荒れている地点の中に居た。

 

「…………」

 

頭から雪の中に突っ込み、まるで“犬神家の一族(犬神 佐清)”の様な状態になっている神谷。

 

その状態で、ドンドンと雪が降り積もって行くが………

 

やがて爪先がピクピクと動き出したかと思うと………

 

「………ブハッ!!」

 

勢い良く雪を巻き上げて、神谷が起き上がる。

 

「イテテテテ………チキショー! やってくれやがったなぁ」

 

頭をぶつけたのか、頭部を擦りながら愚痴る様にそう言う。

 

其処へ更に吹雪が吹き付けて来る。

 

「うおっ!? チイッ! 北極圏も南極圏も行った事有るから寒さは平気だが、こんなトコでグズグズしてらん無えな………」

 

サラッと凄い事を言いながら、神谷はコアドリルを取り出そうとする。

 

しかし………

 

「!? 無え!! コアドリルが無え!?」

 

慌てて身体の彼方此方を探り始めるが、コアドリルは何処にも無い。

 

「さっきブッ飛ばされた時か!? クッソー! ツイて無えなぁ!!」

 

地団駄を踏む神谷。

 

と、その時………

 

「う………ううう………」

 

雪の中から、呻き声の様な声が聞こえて来る。

 

「!? 今の声は………シャルか!?」

 

神谷はその声がシャルのものである事に気付くと、直ぐ様辺りの雪を掘り返し始める。

 

「シャルゥ! 何処だぁ!?」

 

叫びながら、雪を掘り返しまくる。

 

すると其処で、雪の中に白い手を発見する。

 

「!! シャル!!」

 

直ぐにその手を取ると、一気に引き上げる神谷。

 

すると、ISスーツ姿で雪塗れになり、青い顔でガタガタと震えているシャルが姿を現す。

 

「シャル! オイ、シャル!! しっかりしろ!!」

 

神谷は慌てて抱き抱えると、頬を叩きながら、意識をハッキリとさせようとする。

 

「う………あ………神………谷………?」

 

「オイ! しっかりしろ!! 大丈夫か!?」

 

「さ………寒いよ………其れに………凄く………眠い………」

 

「馬鹿野郎! 寝るな! 寝たら死ぬぞ!!」

 

慌てて自分のマントと上着を脱ぐと、其れでシャルを包み込む神谷。

 

「気をしっかり保て! 直ぐに山を下りて………!?」

 

上着とマントで包んだシャルを抱き上げて下山を試みようとしたが、何かの気配を感じて近くに在った林の中へと隠れる。

 

現れたのは、寒冷装備をしているガンメン部隊とレッドショルダー部隊だった。

 

「居たか!?」

 

「いや、コッチには居ない!」

 

「良し! 向こうを探せ!!」

 

そう言い合うと、別の場所へと向かう寒冷装備をしているガンメン部隊とレッドショルダー部隊。

 

「アイツ等………俺達を探してやがるのか?」

 

「ううう………」

 

それを見た神谷がそう呟くが、その間にもシャルはドンドンと顔色を悪くし、唇まで紫色になりながらガタガタと震える。

 

「クソッ! 急いで山を下りなきゃならねえってのに………シャル。もう一寸だけ我慢しろよ」

 

そんなシャルに向かってそう言うと、神谷はロージェノム軍の目を掻い潜りながらの下山を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北海道は大雪山に要塞を構えようと企むロージェノム軍。

 

その野望に気付き、阻止に向かったグレン団の内、神谷とシャルは………

 

敵の新兵器『ブリザード装置』により………

 

大雪山の山中で孤立してしまう。

 

果たして、2人はロージェノム軍の包囲網を突破出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ロージェノム軍の存在に気付いたグレン団。
すぐさま大雪山へ向かうものの、ブリザード装置によってふきとばされてします。
更に、運が悪い事に神谷とシャルが遭難。
果たして、2人はロージェノム軍の追撃をかわす事が出来るのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第89話『………コレっきゃねえか』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第89話『………コレっきゃねえか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大雪山へ、雪中戦の訓練に来ていたIS学園一同とグレン団。

 

しかしその最中(さなか)………

 

大雪山の山奥にロージェノム軍の影を発見する。

 

直ぐ様その場所へと向かったグレン団だったが、ロージェノム軍の新兵器『ブリザード装置』により………

 

神谷とシャルが、コアドリルとISを失った状態で吹雪が吹き荒れる大雪山中に取り残されてしまう。

 

更に、ロージェノム軍は追撃部隊を差し向けており、正に絶体絶命のピンチに陥っていた。

 

凍えて身動きが取れなくなってしまっているシャルを連れ、神谷は決死の下山を試みる。

 

果たして、神谷とシャルは無事に生きて帰れるのか?

 

そして、大雪山を凍結要塞化しようとしているロージェノム軍の野望を阻止出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大雪山・山中………

 

高く降り積もった雪の中を、塹壕を掘る様に進んでいる影が在った………

 

簪のスコープドッグ(寒冷地帯仕様)である。

 

脚部に装備したアイスブロウワーで、塹壕を掘る様に雪を掻き分けて進んで行っている。

 

その掘った雪塹壕の道の後ろからは、一夏達が続いている。

 

本来なら空から飛んで行きたいところなのだが、この悪天候ではISと言えど飛行不可能であり、已むを得ず地上を雪を掻き分けながら進むしか無かったのである。

 

「凄いなぁ、簪のソレ」

 

アイスブロウワーの万能さに、一夏がそう呟く。

 

「………ギルガメス社に頼んで………特注したパーツだからね………」

 

そう答えながら、更に雪道に塹壕を掘り進んで行く簪。

 

「アニキ、大丈夫かなぁ?」

 

「シャルの方も無事だと良いんだけど………」

 

と其処で、グラパール・弾とファイナルダンクーガ(ティトリー)が、神谷とシャルの身を案じる。

 

「神谷は兎も角、シャルロットの方が心配ね………」

 

「この環境下でISが無い、となると………寒さでかなり衰弱している筈ですわ」

 

其れを聞いた鈴とセシリアが、そんな事を呟く。

 

「神谷の奴は“殺しても死なん奴”だから問題無いが、シャルロットは下手すれば凍死しかねんぞ」

 

「早く見付けないとね」

 

サラリと酷い事を言うラウラと、珍しく若干焦っている様子を見せている楯無。

 

流石に、彼女もこの事態に冷静では居られない様だ。

 

「心配すんなよ。アニキが付いてるんだ。きっと無事さ」

 

しかし神谷を信じている一夏は、笑みを浮かべながらそう言い放つ。

 

「頼むぞ、神谷………」

 

箒も、大雪山の山を見上げながら、虚空に向かってそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

その神谷とシャルはと言うと………

 

「チキショー! 何も見えねえ!!」

 

吹雪で視界がまるで啓けない中、只管低い方、低い方へと進んでいる神谷。

 

「ううう………」

 

その腕には、彼のマントと上着に包まれながらも、唇を紫色にしてガタガタと震えているシャルの姿が在る。

 

「シャル! しっかりしろ!!………ん?」

 

と其処で、吹雪の視界の中に、黒い大きな影が現れる。

 

「何だ?」

 

その影へと近付く神谷。

 

吹雪の中に浮かんだ影の正体は、登山者の休憩用の山小屋だった。

 

「山小屋か。助かったぜ」

 

直ぐにシャルを連れて、その山小屋へと避難する。

 

如何やら最近まで使われていたらしく、電気やガスは無いが、一通りの物が揃って居る。

 

「シャル! オイ、シャル!!」

 

「ううう………」

 

神谷は直ぐ様シャルを下ろすと、容態を確認する。

 

シャルの身体はすっかり冷え切っており、コレ以上冷えては危険な域まで来ていた。

 

「チッ、マズイな………ん? 暖炉か。其れに薪も………」

 

と其処で山小屋の中を見回した神谷は、暖炉と大量の薪が有る事に気付く。

 

コレを使えば、暖を取る事は出来る。

 

しかし、火を焚けば当然煙が出る。

 

現在この辺りには、ロージェノム軍が彷徨いている。

 

煙なぞ立てたら、“見付けてくれ”と言っている様なものである。

 

シャルを助ける為に火を起こすか、其れとも無事に下山する為に耐えるか………

 

「良し! 待ってろ、シャル! 今火を起こしてやるからな!!」

 

神谷は迷わず、火を起こす事を選択する。

 

其れが神谷と言う男である………

 

山小屋の中を引っ繰り返し、適当な木の棒と板を見付ける。

 

「よ~し、コイツで………」

 

其れを使い、揉み(ぎり)式で火起こしを始める神谷。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

気合の叫びと共に、木の棒を高速回転させて木の板に擦り付ける。

 

すると、木の板の擦られている部分から煙が立ち上り始め………

 

一瞬で火が起こった!!

 

普通こういった火起こしの場合、先ずは火種を作る事が目的なのだが、何と神谷は()()()()を起こしてしまった様である。

 

「よっしゃあっ! 火が点いた!!」

 

直ぐ様その火を暖炉に放り込むと、薪を()べる神谷。

 

直ぐに火は薪へと燃え移り、暖炉の中を炎が埋め尽くす。

 

「シャル! 火が点いたぞ! さあ、コッチだ!!」

 

再びシャルを抱き上げると、暖炉の前に座り込み、暖を取らせる。

 

「ううう………」

 

炎の熱を感じ取るシャルだが、芯まで冷え切った身体を温めるまでには至らない。

 

「シャル! しっかりしろ! クッソー、部屋全体が温まるまで未だ時間が掛かる………」

 

神谷は暖炉の炎とシャルの姿を見比べる。

 

「………コレっきゃねえか」

 

と、其処で何かを思い立ったのか、残っていた(サラシ)とズボンを脱ぎ始める神谷。

 

更に、シャルのISスーツにも手を掛け始める………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一夏達は………

 

「吹雪いて来たな………」

 

相変わらず、簪を先頭に塹壕を掘りながら雪道を進んでいたが、徐々に吹雪が強くなってきて、一夏がそう声を挙げる。

 

「なあ、本当にコッチの方角で合ってるのか?」

 

「吹き飛ばされた時の方向から計算すれば間違い無いよ。神谷くん達は必ずこの方角に居る」

 

若干心配そうにグラパール・弾がそう言うが、楯無が絶対の自信を持った答えを返す。

 

「………!?」

 

と、その時!

 

先頭を進んでいた簪が、突然足を止めた。

 

「? 如何しました? 簪さん?」

 

「シッ………!」

 

不意に足を止めた簪に首を傾げながら尋ねるグラパール・蘭だったが、簪は“静かにしろ”とジェスチャーを交えて言う。

 

そして、塹壕から頭だけを覗かせると、ターレットレンズを赤外線カメラに切り替える。

 

すると、吹雪の中から向かって来る寒冷地仕様のガンメン部隊とレッドショルダー部隊を発見する。

 

「………敵襲よ」

 

「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

其れを聞くや否や、一夏達は自ら雪中へと埋没した。

 

「…………」

 

簪もアイスブロウワーで、更に雪の中深くへと潜行を始める。

 

「んん? 何だ? この溝は?」

 

「獣道にしちゃあデケェな………」

 

と、少ししてやって来たガンメン部隊とレッドショルダー部隊が、ココまで掘って来た塹壕を発見してそう言う。

 

「むんっ」

 

1体のメズーが、詳しく調べる為に、塹壕の中へと入り込む。

 

そして、その塹壕の中にアイスブロウワーの跡を発見する。

 

「!? コレは!?」

 

と、メズーがそう声を挙げた瞬間!!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

その背後の雪の壁の中から、左手の雪羅を輝かせた一夏が飛び出して来る!!

 

「!? 何っ!?」

 

「必殺っ! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そのまま、シャイニングフィンガーでメズーを鷲摑みにして握り潰す!!

 

「! 織斑 一夏!!」

 

「このぉっ!!」

 

驚きながらも、レッドショルダーの1人が一夏に向かってブラッディライフルを向ける。

 

だがその瞬間!!

 

そのレッドショルダーの足元から弾丸が飛び出して来て、蜂の巣にされる!!

 

「!? ギャアアアアアァァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

断末魔の叫びが挙がると、爆散するレッドショルダー。

 

その爆発に巻き込まれた数機のガンメンと他のレッドショルダーも爆散する。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

何とか誘爆を避けたガンメン部隊とレッドショルダー達は、慌てて散開する様に動く。

 

「…………」

 

すると、先ず雪の中から飛び出して来たのは簪だった。

 

アイスブロウワーのお蔭で、雪上にも関わらず何時もと同じ機動を発揮する。

 

「クッソ! またお前か!!」

 

「喰らえぇっ!!」

 

「…………」

 

レッドショルダーの1人がブラッディライフルを、カノン・ガノンがガンポッドで攻撃してくるが、簪は余裕の様子で回避機動を取る。

 

と、簪の方に夢中になっていた為か、レッドショルダーとカノン・ガノンは、背後の雪の中に“光る物”が在る事に気付かなかった。

 

其れは、雪の中から上半身だけを覗かせて、スターライトmk-Ⅲを構えているセシリアである。

 

「貰いましたわ」

 

簪に夢中になっていたレッドショルダーとカノン・ガノンを、セシリアは容赦無く背中から撃ち抜く!!

 

撃ち抜かれたレッドショルダーとカノン・ガノンは、断末魔を挙げる間も無く爆散する。

 

「オノレェッ!!」

 

其れに気づいたゴズーが、セシリアが居る場所に向かってミサイルを放つ。

 

「!!」

 

セシリアは再び雪中へ潜る。

 

直後にミサイルが着弾し、辺りの雪が吹き飛ばされる。

 

「やったか?」

 

と、ゴズーがそう言い放った瞬間!

 

雪中から放たれてきた緑色のレーザーに撃ち抜かれた!!

 

「ですよねえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!?」

 

情け無い断末魔と共に爆散するゴズー。

 

「其処かぁ!!」

 

レッドショルダーの1人が、ビームが撃たれた地点にブラッディライフルを向けるが………

 

その瞬間に、背後の雪中から緑色のレーザーが発射されて命中する!!

 

「ぐああああっ!?」

 

クリーンヒットしたのか、一瞬でシールドエネルギーが無くなり、自爆装置が働いて爆散するレッドショルダー。

 

更に、此処彼処(そこかしこ)の雪中からレーザーが放たれて来る。

 

「うおおっ!? 如何なってるんだ!?」

 

アガーがそう声を挙げながら、手近な発射元の雪中目掛けてパンチを繰り出す。

 

すると、雪中からビットのブルー・ティアーズが飛び出す。

 

「野郎! ビットを雪中にばら撒きやがったのか!!」

 

カノン・ガノンがそう言い、飛び出して来たブルー・ティアーズを破壊しようとしたが………

 

正面に、鈴の双天牙月の刃の部分が出現。

 

まるでジョーズの様に、雪原を斬り裂きながらカノン・ガノンへ迫る双天牙月の刃。

 

そのまま、カノン・ガノンを縦に真っ二つにする。

 

「獣人に栄光有れえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

「やりぃっ!!」

 

カノン・ガノンの断末魔が挙がると、鈴が雪中から飛び出す。

 

「オノレェ!!」

 

ソリッドシューターを持ったレッドショルダーが、飛び出した鈴に狙いを定めるが………

 

その足元からワイヤーブレードが飛び出して来て、連続で斬り付けて来る。

 

「ぐおああっ!?」

 

「喰らえッ!!」

 

そして隙が出来たところでラウラが飛び出し、至近距離からレールカノンを発射する!!

 

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

レールカノンの砲弾に吹き飛ばされ、着弾すると同時に爆散するレッドショルダー。

 

「やあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーってやるニャッ!!」

 

気合の叫びと共にファイナルダンクーガが雪中から飛び出し、ングーに向かって鉄拳を振り下ろす。

 

「ガ、ガンメン死すとも、獣人は死なずだあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

押し潰される様に変形し、獣人の断末魔の叫びと共に、ングーは爆散する。

 

「クソがぁ!!」

 

ペンタトルーパーを持ったレッドショルダーが、ファイナルダンクーガに向かって発砲するが、銃弾はその堅牢な装甲の前に弾かれる。

 

「「貰ったっ!!」」

 

すると其処へ、別方向の雪中からグラパール・弾とグラパール・蘭が飛び出し、2人揃ってハンドガンを発砲する。

 

「チイッ! 舐めるなぁ!!」

 

しかしレッドショルダーは回避運動を取り、グラパール達からの攻撃を回避する。

 

そしてグラパール達に向き直ると、ペンタトルーパーにロケット弾を装填して見舞おうとする。

 

「やらせん!!」

 

だが、回避先の地点の雪中より箒が飛び出し、雨月と空裂で斬り付ける!!

 

「グアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

シールドエネルギーが無くなり、爆散するレッドショルダー。

 

「貴様ぁ!!」

 

直後に、シャクーが箒に噛み付こうとしてきたが………

 

またも雪中から飛び出した蒼流旋に口内を貫通される。

 

「天国へ行けるかなああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「ふふふ~ん」

 

シャクーが爆散すると共に、楯無が不敵に笑いながら姿を見せる。

 

程無くして、遭遇したガンメン部隊とレッドショルダー部隊は壊滅した。

 

「良し、片付いたな」

 

「無駄に時間を取られてしまったわ。先を急ぎましょう」

 

一夏がそう呟くと、楯無がそう言い、一同は再び簪を先頭に大雪山の更に奥へと進んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

神谷とシャルが避難した山小屋では………

 

(………アレ?………何だろう?………凄く暖かい………)

 

何やら暖かさを感じ、朦朧としていたシャルの意識が回復し始める。

 

「おっ、 気が付いたか?シャル」

 

そして、視界が回復すると同時に飛び込んで来たのは、神谷のドアップの顔だった。

 

「!? か、神谷!?」

 

驚くシャル。

 

すると其処で、身体に違和感を感じる。

 

「?………!?」

 

そして自分の状態を見て、更に驚愕する。

 

現在のシャルは全裸で、同じく全裸の神谷に抱き寄せられており、その上からマントに(くる)まっている状態だった。

 

「キャアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

衝動に駆られるままに、神谷の顔面目掛けて頭突きを見舞うシャル。

 

「ブッ!?」

 

不意打ち気味に顔面に頭突きを受け、神谷は僅かに仰け反る。

 

「か、神谷! コココ、コレは一体、ど、どど、如何言う事!?」

 

顔どころか全身真っ赤になりながら、シャルは神谷にそう問い質す。

 

「イツツツ………何って、覚えて無えのか?」

 

鼻を押さえながら、神谷はシャルにそう問い返す。

 

「覚えてって………」

 

其処でシャルは周りを見回し、此処が山小屋の中である事に気付く。

 

「あ、そうか………僕達、吹雪に吹き飛ばされて………」

 

そして、段々と自分達が如何なったのかを思い出す。

 

「そうだ。そんでオメェが雪の中に埋まってたから、必死になって掘り出して、獣人達の目を掻い潜りながら漸く此処へ辿り着いたんだぜ。んで、寒い寒いつーから火まで焚いてこうしてやったんだろうが」

 

「そうだったっけ………ゴメン、神谷」

 

神谷は自分を助けようとやってくれていたのに、其れを忘れて暴力を振るってしまった事に自己嫌悪するシャル。

 

「何、気にすんな………コレはコレで()()だしよぉ」

 

と、神谷はそう言ってシャルを抱き寄せる。

 

「ちょっ!? か、神谷!?」

 

「フッフッフッ、シャル………昨日の続きと行くか?」

 

「!?!?」

 

その言葉にシャルは再び全身真っ赤になる。

 

「な、なななな………」

 

「ハハッ! 冗談だよ。流石に、んな事してる状況じゃねえからな」

 

呂律が回らなくなっているシャルを見て、神谷はそう言い放つ。

 

「! も、もう~! 神谷の馬鹿! エッチ!!」

 

「ハハハハハハッ!」

 

神谷をポカポカと殴るシャルと、其れが余り効いておらず、呵々大笑する神谷。

 

………お前等、もう少し緊迫感を持てよ。

 

 

 

 

 

その後2人は、暖炉近くに干しておいた制服とISスーツを着直す。

 

「神谷………上着とマント、ホントに着なくて良いの?」

 

神谷の制服の上着とトレードマークのマントを羽織ったシャルがそう尋ねる。

 

「大丈夫だって。南極や北極を旅してた頃に比べりゃ、コレぐらいの寒さ、何て事無えさ」

 

ズボンと上半身(サラシ)だけの神谷が、笑いながらそう返す。

 

(………どんなんだったんだろ? 神谷が世界を旅してた頃って?)

 

その言葉に、シャルはそんな思いを抱く。

 

「!?」

 

と、その時!

 

神谷が何かに気付いた様に窓の傍に寄る。

 

「? 神谷? 如何したの?」

 

「…………」

 

シャルの問いにも答えず、神谷はジッと窓の外を見据える。

 

外では相変わらず吹雪が吹いており、視界が全く効かなかった。

 

しかしその吹雪の中にハッキリと、動く影が在る。

 

しかも、段々とコチラへと近付いて来ている。

 

近付くに連れて、その姿がハッキリとし出す。

 

其れは、寒冷地仕様のガンメン部隊とレッドショルダー部隊だった。

 

「あの小屋から煙が出てるぞ!」

 

「誰か居やがるな!!」

 

小屋の煙突から暖炉の煙が出ているのを見て、直ぐにガンメン部隊とレッドショルダー部隊は、小屋を包囲する様に展開して行く。

 

「チッ! 勘付かれたか………」

 

「如何しよう………ISも無いのに………」

 

苦い顔をする神谷とシャル。

 

その間にも、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は小屋の包囲を完成させ、徐々にその輪を縮めて行く。

 

「………しゃあ無え。シャル、俺が飛び出して奴等を惹き付ける。その間にオメェは下山しろ」

 

「!? 何言ってるの神谷!?」

 

「一夏達が必ず近くまで来てる筈だ。アイツ等を連れて来れさえすれば如何にでもなる」

 

「でも!」

 

「心配すんな。俺が“簡単に死なねえ男”なのは、オメェが一番良く知ってんだろ?」

 

神谷はそう言うと、小屋の中に有った薪割り用の斧を手に取る。

 

「………気を付けてね、神谷」

 

やがてシャルは、意を決したかの様な顔となると、神谷に向かってそう言う。

 

「任せておけって」

 

そんなシャルに、神谷は力強い笑みを浮かべてそう返すのだった。

 

 

 

 

 

山小屋の外………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

徐々に包囲の輪を縮め、山小屋を完全に囲い込むガンメン部隊とレッドショルダー部隊。

 

「へへへ………燻り出してやるぜ!」

 

と其処で、火炎放射器を持ったレッドショルダーが山小屋に銃口を向ける。

 

そして、引き金を引こうとしたところ………

 

「オラァッ!!」

 

威勢の良い声と共に、山小屋の扉が内側から蹴破られて宙に舞う!

 

「!? グアアッ!?」

 

そのブッ飛んだドアが直撃し、火炎放射器を持ったレッドショルダーが倒れる。

 

「! 天上 神谷!!」

 

「オラァッ!!」

 

驚くゴズーに向かって跳躍し、持っていた斧を振り下ろす神谷。

 

「ぐああっ!?」

 

倒す事は出来なかったが、装甲から火花を挙げさせ、怯ませる事に成功する。

 

「コッチだ、獣人に赤肩共! 追い付いてみやがれ!!」

 

そう煽り立てると、神谷はガンメン部隊とレッドショルダー部隊の包囲網を強行突破する。

 

「ああ! 逃がすな!!」

 

「追えぇっ!!」

 

直ぐ様、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は全員で包囲網を突破した神谷を追って行く。

 

そして、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊が山小屋から離れて少しすると………

 

「………よっし! 今だ!!」

 

隠れていたシャルが飛び出し、吹雪の中を下山し始める。

 

しかしその途端に、まるでシャルを阻むかの様に、吹雪が強まり始める。

 

「ううっ!?………神谷………待ってて………必ず………一夏達を連れて行くから………」

 

寒さに身震いしながらも、シャルは一夏達と合流すべく、山を下りて行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

大雪山編第3話。
遭難した神谷とシャルは山小屋へと避難。
お約束でムフフな展開もありつつも、追撃部隊に見つかりピンチに。
囮となった神谷に後ろ髪引かれつつも逃げるシャル。
果たして、無事一夏達と合流出来るのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第90話『如何やら無事の様だな、天上 神谷』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第90話『如何やら無事の様だな、天上 神谷』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大雪山に凍結要塞を築こうとしているロージェノム軍の陰謀を察知したグレン団。

 

直ちに大雪山の山奥へと出撃するが、敵の新兵器『ブリザード装置』により、神谷とシャルが雪山の中で遭難してしまう。

 

必死に追手を掻い潜り、凍え死にそうなシャルを連れて、山中に在った山小屋へと避難した我等が神谷。

 

しかし、追手は追撃の手を緩めず、凍え死にそうなシャルを助ける為に暖を取っていた山小屋は、忽ち包囲されてしまう。

 

神谷は、回復したシャルを逃がす為………

 

1人、ロージェノム軍の前にその身を晒す。

 

そしてその頃、一夏達は………

 

神谷とシャルの姿を探し、途中で敵に遭遇しながらも、必死で大雪山を登っていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大雪山を登る一夏達………

 

山の奥へ奥へと入り込む程、吹雪は厳しさを増し、人工的に作られているとは言え、自然の猛威が襲い掛かる。

 

「クソッ! 吹雪が増す一方だな!」

 

「このままでは、ISのハイパーセンサーと言えど何れ機能しなくなるぞ」

 

厳しい吹雪に一夏が愚痴る様に言うと、箒もそんな声を挙げる。

 

「うん?」

 

すると其処で突然、ファイナルダンクーガ(ティトリー)が足を止めた。

 

「? 如何したんですか? ティトリーさん?」

 

「何か………聞こえなかった?」

 

グラパール・蘭が尋ねると、ファイナルダンクーガはそう返す。

 

その言葉で、全員が耳を澄ませる。

 

「………何も聞こえないけど………?」

 

と、鈴がそう言った瞬間!

 

吹雪の豪風の中でもハッキリと聞こえる程の爆発音が聞こえて来た!!

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

「アッチだ!!」

 

一同は驚きを露わにし、グラパール・弾が爆発音が聞こえて来た方向を指差す。

 

「………急ごう」

 

と、先頭を行っていた簪がそう呟くと、スピードを上げて、爆発音が聞こえて来た方向へと進む。

 

(アニキ!)

 

(シャル!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

山小屋を脱出したシャルは………

 

「ハア………ハア………急いで………皆に………知らせないと………」

 

吹き(すさ)ぶ吹雪の中を、ISスーツの上に神谷の上着とマントを羽織って、必死に下山していた。

 

時折、神谷がガンメン部隊やレッドショルダー部隊を惹き付けて行った方角から、爆発音が聞こえて来る。

 

「神谷………」

 

一瞬、その方角を振り返りながらも、下山の足を止める事無く歩き続ける。

 

と其処で………

 

背後の方から、雪の上を滑る様な音と、キュイイイィィィィィンッ!と言う甲高い機械音が聞こえて来る。

 

「!?」

 

シャルが再び背後を振り返ると………

 

「居たぞ! 彼処だ!!」

 

「逃がすなぁっ!!」

 

専用のスキーを履いて、雪上を滑って来るガンメン部隊と、簪と同じ様に脚部にアイスブロウワーを装備しているレッドショルダー達が、シャルを追い掛けて来た!!

 

「! 見付かった!!」

 

数はそれ程多く無いが、生身では為す術が無く、粉雪を舞い上げながら、シャルは必死になって走り出す。

 

「逃がすかっ!!」

 

「死ねぇっ!!」

 

逃がさんとばかりに、1体のメズーが左腕のガトリング・ガン、レッドショルダーの1人がブラッディライフルを発砲する。

 

曳光弾が光の尾を曳きながら、逃げるシャルの近くの雪原を耕すかの様に着弾する。

 

「!? うわっ!?」

 

至近距離での被弾に驚き、シャルは転んでしまう。

 

「クウッ!」

 

しかし、雪塗れになっても直ぐに起き上がり、また走り出す。

 

「チイッ! 未だ逃げる積りか!?」

 

「退けぇっ! 私が片付けてやる!!」

 

すると其処で、ショルダーミサイルガンポッドを持ったレッドショルダーが、シャルをロックオンする。

 

「粉々になりやがれぇっ!!」

 

そして引き金を引こうとしたその瞬間!!

 

発砲音と共に、1発の弾丸がレッドショルダーが持ったショルダーミサイルガンポッドに直撃!!

 

ミサイルが暴発し、レッドショルダーは炎に包まれる!!

 

「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

そのまま自爆装置が作動し、木端微塵となるレッドショルダー。

 

「何っ!?」

 

ガンメン部隊の部隊長が驚きの声を挙げると………

 

「…………」

 

シャルが向かって居た方向の雪中から、簪が飛び出して来る!!

 

「シャル!!」

 

「シャル! 大丈夫!?」

 

続いて飛び出して来た一夏とファイナルダンクーガ(ティトリー)が、シャルを守る様に展開し、他のメンバーも即時展開する。

 

「! グレン団!!」

 

「オノレェ! 撃て撃てぇーっ!!」

 

グレン団の姿を確認したガンメン部隊とレッドショルダー部隊は、即座に弾幕を展開する。

 

「シャル! コレ!!」

 

其処で、ファイナルダンクーガがシャルを守りつつ、待機状態のラファールを差し出す。

 

「ありがとう! ラファール!!」

 

其れを受け取ると、直ぐにラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを展開させる。

 

「良くも今まで好き勝手にやってくれたね! お返しだよ!!」

 

両手にヴェントを出現させると、弾幕を張っていたガンメン部隊とレッドショルダー部隊に応戦するシャル。

 

「喰らえッ!」

 

「其処です!!」

 

更に、箒やセシリア達も、射撃武器で攻撃を開始する。

 

忽ち、グレン団側の火力がガンメン部隊とレッドショルダー部隊を圧倒。

 

次々にガンメンとレッドショルダー達は爆散して行く。

 

「うおおおっ!?」

 

退()け! 退けぇっ!!」

 

全滅寸前になったところで、僅かに残っていた連中は慌てて引き上げて行くのだった。

 

「シャルロットちゃん! 大丈夫!?」

 

「怪我は無いか?」

 

其処へ、楯無とラウラがそう言いながらシャルの傍に寄り、他のメンバーも集まって来る。

 

「うん、僕は大丈夫だよ! それより、早く神谷を!!」

 

「! アニキが如何かしたのか?」

 

シャルの言葉に、グラパール・弾がそう尋ねる。

 

「僕を逃がす為に、囮になってガンメンとレッドショルダーを惹き付けてるんだ!!」

 

「何だって!?」

 

「あの馬鹿! また無茶して!!」

 

「………急ぎましょう」

 

一夏が驚きの声を挙げ、鈴が愚痴る様にそう叫ぶと、簪が再びアイスブロウワーで塹壕を作りながら進み出す。

 

他のメンバーも、その塹壕を通って後に続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その神谷は………

 

「おうわっ!?」

 

至近距離に着弾したミサイルの爆風に吹き飛ばされ、雪斜面を転がって行く神谷。

 

「でぇっ! チキショウが!!」

 

雪塗れになりながらも直ぐに起き上がり、再び走り出す。

 

「逃がすなぁ!!」

 

「殺せ! 殺すんだ!!」

 

斜面の上に出現したガンメン部隊とレッドショルダー部隊が、神谷目掛けて銃弾やロケット弾、ミサイルにビームを見舞う。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

至近距離で火柱が上がる中を、神谷は雪に足を取られそうになりながらも、必死に走り抜けて行く。

 

「この野郎!!」

 

と、やられてばかりで居られるか!と、神谷は一瞬振り返り、手に持っていた薪割り用の斧をガンメン部隊とレッドショルダー部隊目掛けて投げ付けた!!

 

投げられた斧は、回転しながらガンメン部隊の中のアガーの脳天に命中!!

 

「アガッ!?」

 

脳天を叩き割られたアガーは、そのままバタリと倒れる。

 

「んおっ!? オノレェッ!!」

 

しかし、益々ガンメン部隊の怒りを買ってしまい、カノン・ガノンがキャノン砲を発射する。

 

「!? おうわぁっ!?」

 

着弾した際の爆風で吹き飛ばされ、雪の上に倒れる神谷。

 

「今だ! 取り囲め!!」

 

その隙を見逃さず、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は直ぐに神谷を取り囲む様に展開する。

 

「チッ! 一丁(いっちょ)前に知恵働かせやがって………」

 

「終わりだ、天上 神谷!」

 

「貴様の首をロージェノム様への捧げ物としてくれるわ!!」

 

悪態を吐く神谷に向かって、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は一斉に武器を向ける。

 

「!!」

 

「死ねぇっ!!」

 

そして引き金が引かれる………

 

かと思われた瞬間!!

 

「ハアッ!!」

 

突如、掛け声と共に一同の上空に1つの影が踊り出る。

 

「!?」

 

「!? 何っ!?」

 

「ハアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

神谷とガンメン部隊にレッドショルダー部隊が驚いていると、その影からクナイの様な物が次々に投擲される。

 

そのクナイが、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊に刺さったかと思うと、次々に爆発する。

 

「「「「「グアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「「「「「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「ハアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

断末魔が次々に挙がる中でも、影は攻撃の手を緩めず、次々にクナイを投擲し、ガンメン部隊とレッドショルダー部隊を倒して行く。

 

アッと言う間に、神谷の周りはガンメンとレッドショルダーの残骸の山だけとなった。

 

「スゲェ………」

 

爆風を避ける為に伏せていた神谷が起き上がると、周りを見回してそう呟く。

 

そんな神谷の眼前に、影が舞い降りて来る。

 

「!?」

 

「如何やら無事の様だな、天上 神谷」

 

身構える神谷だったが、影の正体は………シュピーゲルを装着しているシュバルツだった。

 

「! シュバルツ・シュヴェスター!! お前か!!」

 

「全く、お前と言い、一夏と言い………本当に世話が焼ける」

 

珍しく、シュバルツは愚痴る様にそう言う。

 

と其処へ………

 

「神谷~~~っ!!」

 

「アニキ~~~~~っ!!」

 

シャルと一夏の声が聞こえて来たかと思うと、簪を先頭に雪を掻き分けながら進んで来るグレン団の姿が見えて来た。

 

「おお! シャル! 一夏! 此処だあぁ~~~っ!!」

 

其れを見た神谷は、手を上げて振りながら呼び掛ける。

 

程無くして、グレン団の一同は神谷とシュバルツの前に辿り着く。

 

「神谷!」

 

「アニキ! 良かった、無事で………」

 

「当たり前ぇよ! 俺を誰だと思ってやがる!!」

 

心配そうに声を掛けて来たシャルと一夏に、神谷はお馴染みの台詞を返す。

 

「って、言うか、アンタ寒くないの?」

 

「現在の気温、(マイナス)10℃ですわよ………」

 

其処で、鈴とセシリアが上半身(サラシ)だけ、防寒着も着ていない神谷の姿を見てそう尋ねる。

 

「へっ! これぐらいの寒さ、気合が有りゃ如何にでもなる!!」

 

「うおおおっ! 流石アニキ!!」

 

「いやいやいや! 普通は如何にかならないわよ!!」

 

神谷の言葉に、グラパール・弾が感動している様子を見せるが、グラパール・蘭はそうツッコミを入れる。

 

「成程………コレが所謂、日本の故事で言うところの『馬鹿は風邪を引かない』か」

 

一寸(ちょ~っと)違う気もするけど………大体合っているわね」

 

またクラリッサ経由の()()を持ち出すラウラに、神谷の姿の様子を見ながら呆れている様を見せる楯無。

 

「………シュバルツ・シュヴェスター」

 

「貴方も来ていたのですか?」

 

そんな中で、簪と箒は、シュバルツに声を掛ける。

 

「グレン団。ロージェノム軍はこの先に要塞を建造しようとしている。その要塞を足掛かりに北海道を制圧………延いては日本を制圧する積りだ」

 

「ニャンと!?」

 

シュバルツがグレン団に向かってそう言い放つと、ティトリーから驚きの声が挙がる。

 

「この吹雪は、奴等の新兵器・ブリザード装置によって起きている」

 

「ブリザード装置?」

 

「人工的に吹雪を発生させる事が出来るマシンだ。大雪山要塞の守りの要だ」

 

「成程………山の中に要塞なら地上からの攻撃には強いけど、空からの攻撃には弱い………けれど吹雪によってそれを封じるって事ね」

 

楯無がそう推察する。

 

「急げ! 奴等の思い通りにさせてはイカン!!」

 

シュバルツはそう言い放つとその場で回転し、雪の中へと潜って消えた。

 

「あ! 一寸!!」

 

「相変わらず自分の言いたい事だけ言って去って行ったね………」

 

そんなシュバルツの姿に、シャルがツッコミを入れるかの様にそう言い放つ。

 

「シャル! 今はそんな事より! ロージェノムの野郎の企みを阻止すんのが先だ!!」

 

しかし其処で、神谷がそう言い放つ。

 

「! そうだね」

 

「アニキ! コレ!!」

 

そして一夏が、神谷にコアドリルを手渡す。

 

「おう、サンキュー、一夏………グレンラガン! スピンオンッ!!」

 

コアドリルを受け取った神谷は、直ぐ様グレンラガンの姿となる。

 

「よおし! 行くぜお前等!!」

 

「でも、如何するの神谷くん? この吹雪じゃ空から行くのは無理だよ?」

 

グレンラガンがそう言うと、楯無がそう言い返すが、

 

「忘れたのか? 俺達には………『コイツ』が有るだろう!」

 

すると其処で、グレンラガンはドリルとなっている右腕を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大雪山の山奥………

 

建設中の要塞の傍に停泊しているダイガンザンの艦橋にて………

 

「追撃部隊がやられただと!?」

 

「は、ハイ! その様です………」

 

チミルフの声に、おっかなびっくりと言った様子で返事を返す艦橋要員の獣人。

 

「うぬぅ………グレンラガンにグレン団め………つくづく此方の予想を上回る事をしてくれるわ」

 

「ど、如何しますか? チミルフ様?」

 

「慌てるな。例え追撃部隊を切り抜けようと、ブリザード装置が吹雪を発生させている限り、この要塞とダイガンザンには近付けんわい!」

 

不安気な艦橋要員の獣人に向かって、チミルフは自信満々にそう返す。

 

「そ、そうですね………幾らグレン団の連中でも、この吹雪の中を………」

 

と、艦橋要員の獣人がそう言った瞬間!!

 

突然ダイガンザンに振動が走り、大きく傾いた!!

 

「「「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」」」

 

「ぬおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?」

 

艦橋要員の獣人達が持ち場の席から転がり落ち、チミルフも落ちそうになったが踏ん張る。

 

「な、何事だ!?」

 

[こ、こちら第三艦橋! ダイガンザンの真下地面が突然陥没しました!!]

 

チミルフがそう言うと、第三艦橋からそう報告が入って来る。

 

「陥没だと!?」

 

チミルフがそう叫んだ瞬間!

 

今度は建造中の要塞の方から、次々と爆発が上がり始める!!

 

「!? 要塞が!?」

 

[こちら要塞建設班! 敵襲です! グレン団の連中が地中から………!? うわあああぁぁぁぁーーーーーッ!?]

 

要塞の建設をしていた獣人から報告が入るが、爆発音が聞こえて来たかと思うと、通信機はノイズしか送って来なくなる。

 

「地中だと!? しまった!! グレンラガンの武器が()()()である事を失念しておった!!」

 

そう言っている間にも、要塞からは次々に火柱が上がって行き、とうとう大爆発を起こして木端微塵に消し飛んだ!!

 

更に、爆発した際にブッ飛んだ破片が、ブリザード装置に次々に命中。

 

ブリザード装置はスパークを発したかと思うと、そのまま停止する。

 

程無く、アレ程までに荒れ狂っていた大雪山の吹雪が、ピタリと収まる。

 

「オ、オノレエエエエエェェェェェェーーーーーーーッ!! グレンラガン!! グレン団めぇ!!」

 

「チミルフ様! グレン団の連中がコチラに乗り移って来ます!!」

 

と、チミルフが怒りの声を挙げると、如何にか自分の席へと戻った艦橋要員の獣人がそう報告を挙げる。

 

見れば、正面モニターには次々にダイガンザンの甲板へと乗り移って来るグレン団メンバーの姿が映っている。

 

「このダイガンザンまで落とそうという腹か! 小癪な!! 何をしておる!! 早く艦体を立て直さんかぁ!!」

 

「ハ、ハイ!!」

 

他の艦橋要員の獣人達も慌てて自分の席へと戻り、ダイガンザンの艦体を立て直し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ダイガンザンの甲板へと飛び乗ったグレン団は………

 

一気に艦橋を制圧しようと甲板上を走っていたところ、突如として振動が走り始める。

 

「!? うおっと!?」

 

「キャアッ!?」

 

その震動に足を止めるグレン団。

 

中には尻餅を衝いてしまう者も居た。

 

振動は徐々に激しさを増して行き、傾いて擱座していたダイガンザンが、地響きを立てる様にして起き上がり始める。

 

「野郎! 動き出したか!!」

 

グレンラガンがそう言った瞬間、ダイガンザン艦橋下の格納庫ハッチが開く。

 

「グレンラガン! 覚悟ぉっ!!」

 

「よくもチミルフ様の作戦を邪魔してくれたなぁ!!」

 

そして、次々にガンメン達が出撃して来る。

 

「おうおうおう! またゾロゾロと来やがったな!!」

 

「全部叩き潰してやる!!」

 

そう言って指の骨を鳴らすグレンラガンと、エネルギーの刃を展開させた雪片弐型を構える一夏。

 

すると………

 

「グレンラガン!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突如上から降って来た声に、グレン団の一同が見上げると………

 

其処には、ダイガンザンの艦橋の上に立つ、白い人型に近い姿をして、右手に槍を握っているガンメンの姿が在った。

 

「テメェは!?」

 

「螺旋四天王が1人、チミルフ! またの名を『怒涛のチミルフ』!! そしてコイツは我がガンメン! 『ビャコウ』よ!!」

 

グレンラガンが問い質すと、その白いガンメン………

 

チミルフのカスタムガンメン・『ビャコウ』がそう言い放つ。

 

「四天王もガンメンを持っていたのか!?」

 

「オイ、何だか強そうだぜ?」

 

その姿を見た一夏とグラパール・弾がそんな事を言い合う。

 

「ヘッ! 四天王が出て来たんなら好都合だ!! ココでブッ倒してやらぁ!!」

 

しかしグレンラガンは、逆に闘志を燃え上がらせる。

 

「行くぞぉ! グレンラガァンッ!!」

 

其処でビャコウは艦橋から跳躍し、槍の先端にビーム刃を出現させると其れを構え、グレンラガン目掛けて降下して来る。

 

「上等だぁっ!!」

 

グレンラガンも、グレンブーメランを右手に握り、迎え撃つかの様に跳躍。

 

「ぬあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

両者はそのまま、空中で鍔迫り合いに突入する。

 

「アニキ!!」

 

「神谷!!」

 

一夏とシャルが、援護に向かおうとするが、

 

「チミルフ様の勝負の邪魔はさせん!!」

 

「ダイガンザン! 奴等を振り落とせ!!」

 

ガンメン部隊が立ち塞がり、更にはダイガンザンの腕が、一夏達を払い落とそうと伸びて来る。

 

「!? うわっ!?」

 

「危ねっ!?」

 

慌てて飛び上がり、空中へと退避するシャルと一夏だったが、その瞬間に今度はダイガンザンの艦体の彼方此方に多数装備されていた副砲が対空砲火を撃ち上げて来る。

 

「!? くうっ!!」

 

「クソッ! 空は駄目だ!!」

 

実体シールドと雪羅のバリアで防ぎながら、慌ててシャルと一夏は再び甲板に着地するが………

 

「その白いボディをボコボコにしてやるぜ!!」

 

「所詮は量産機に毛が生えた程度だろうが!!」

 

そうすると再びガンメン部隊と、ダイガンザンの腕での攻撃が襲って来る。

 

「うわっ!? 地上も駄目かよ!?」

 

「クウッ! 甲板から突入しようとしたのは失敗だったわね!!」

 

一夏がそう声を挙げると、楯無からもそんな声が挙がる。

 

見れば、他のメンバーも同じ様な状況にあり、タコ殴り状態であった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ビャコウと激突したグレンラガンは………

 

「おりゃああっ!!」

 

「ぬううっ!?」

 

鍔迫り合いに押し勝ち、ビャコウを弾き飛ばすグレンラガン。

 

弾き飛ばされたビャコウは宙返りしながら、再びダイガンザンの艦橋上に着地する。

 

「よ、っと!」

 

グレンラガンも、それに合わせる様に反対側へと着地する。

 

「喰らえいっ! コォンデムゥゥゥ! ブレェェェェェイズッ!!」

 

と、ビャコウがそう叫び、槍の先端をグレンラガンに向けたかと思うと、其処からビームを放って来た!!

 

「!? おうわっ!?」

 

グレンラガンは身を翻す様にして躱す。

 

外れたビームは、雪山の斜面に命中。

 

大爆発が起こり、雪が一瞬で蒸発して、焼け焦げた山肌が露わになる。

 

「オイオイ………大した威力じゃねえか」

 

「ならば、今度は貴様自身の身体で味わってみろぉ!!」

 

そう言い放つグレンラガンに、ビャコウは再び断罪の焔(コンデム・ブレイズ)を放つ。

 

「何のぉ!! キラーレーザーッ!!」

 

しかし対抗するかの様に、グレンラガンはボディの顔の目からキラーレーザーを発射。

 

断罪の焔(コンデム・ブレイズ)とキラーレーザーは正面からぶつかり合い、そのまま爆発する!!

 

「ぬおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

その爆発の爆煙を突っ切って、ビャコウが飛び出して来る。

 

「セイセイセイセイセイイイイイイイィィィィィィィィーーーーーーーーーッ!!」

 

そして、槍を両手で握っての連続突きを繰り出して来る。

 

「おっ! ほっ! よっ!」

 

その連続突きを、カンフー映画の様な動きで避けまくるグレンラガン。

 

「フンッ! 何時まで避けられるかな!!」

 

だが、ビャコウの連続突きは途絶える事無く、寧ろ更にスピードが上がって行く。

 

(チキショー! 得物が長くて近寄れねえ!!)

 

内心でそう思いながら、グレンラガンは何か手は無いかと考えを巡らせる。

 

と、その時!!

 

艦橋の上に積もっていた雪に足を取られ、グレンラガンは転倒する!!

 

「!? おわっ!?」

 

「貰ったぞぉ!!」

 

その隙を見逃さず、ビャコウは槍の先端のビーム刃の出力を最大にし、倒れたグレンラガン目掛けて渾身の突きを繰り出す!

 

「!?」

 

「終わりだ! 破軍の刃槍(アルカイド・グレイヴ)!!」

 

ビャコウの槍が、グレンラガンの身体を貫く!!

 

「むんっ!!」

 

………かに思われた瞬間!!

 

何とグレンラガンは、ビーム刃を両手で挟み込むようにして受け止めた!!

 

「!? 何っ!?」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

ビームの刃を受け止めている為、グレンラガンの掌からは黒煙が上がり始めるが、構わずビャコウを槍ごと投げ飛ばす!!

 

「ぬおおおっ!? チイッ!!」

 

投げ飛ばされたビャコウは、受け身を取って着地する。

 

「アッチチチチチチチチチッ!」

 

グレンラガンはビーム刃を押さえ付けた両手を、慌てて雪の中へと突っ込む。

 

「お~、助かった~」

 

「オノレェ………本当につくづく読めん男だ。天上 神谷!!」

 

そんなグレンラガンの姿に、ビャコウは苛立ちを募らせる。

 

「へっ! 当たり()ぇよ! お前の様な獣人に、この神谷様の男意気が分かるかよ!!」

 

「ええい! 目障りだ!!」

 

ビャコウは、再びグレンラガンに槍の先端を向け、断罪の焔(コンデム・ブレイズ)を放とうとする。

 

「させるかぁ!!」

 

ビームが発射される前にケリを着けようと思ったのか、ビャコウ目掛けて突撃するグレンラガン。

 

「馬鹿め! 遅いわぁ!!」

 

だが間に合わず、断罪の焔(コンデム・ブレイズ)が発射される。

 

一直線にグレンラガンに向かう断罪の焔(コンデム・ブレイズ)。

 

あわや直撃かと思われた瞬間!!

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンは右腕にギガドリルを出現させ、眼前まで迫って来ていた断罪の焔(コンデム・ブレイズ)にぶつける!!

 

「!? 何だと!?」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そしてギガドリルに、断罪の焔(コンデム・ブレイズ)が吸い取られて行く。

 

「馬鹿な! 断罪の焔(コンデム・ブレイズ)が!?」

 

「喰らえぇっ! ギガァッ……!! ドリルゥゥゥッ…! ブレエェェェェェイクッ!!」

 

断罪の焔(コンデム・ブレイズ)のエネルギーを吸収したギガドリルブレイクを、ビャコウ目掛けて繰り出すグレンラガン。

 

「!? ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

直撃を受けたビャコウは、空高く弾き飛ばされる。

 

そしてグレンラガンがポーズを決めると、その背後にドサリと落ちた。

 

「ぐぐぐぐ………オノレェ………」

 

だが、流石は四天王と名乗るだけはあり、ギガドリルブレイクを喰らっても尚立ち上がる。

 

「チッ! しぶてぇ野郎だぜ!!」

 

グレンラガンがそう言って、ビャコウに向き直った瞬間!

 

ダイガンザンのカタパルトアームの付け根から爆発が上がった!!

 

「!? 何だ!?」

 

「はは~ん? 一夏達だな」

 

驚くビャコウと、直ぐに一夏達の仕業だと察するグレンラガン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その推察は当たっており、時を遡る事10数分前………

 

「うおおっ!?」

 

カタパルトアームの薙ぎ払う様な攻撃を、一夏は紙一重で躱す。

 

「喰らえぇっ!!」

 

だが其処へ、ゴズーが放ったミサイルが襲い掛かる。

 

「!?」

 

「一夏!!」

 

しかしラウラが間に割って入り、AICでミサイルを止める。

 

「其処っ!!」

 

そしてミサイルを放ったゴズーを、セシリアがスターライトmk-Ⅲで撃ち抜く!

 

「死んじゃうのねーっ!?」

 

「助かったぜ、ラウラ。セシリアも」

 

「しかし、一夏! このままでは何れ全滅するぞ!!」

 

「そうですわ! せめて、あの戦艦の腕を如何にかしないと!!」

 

2人に礼を言うと、そんな言葉を返して来る。

 

先程から、グレン団はダイガンザンのカタパルトアームの攻撃に度々晒されており、其れがネックとなって苦戦を強いられていた。

 

ガンメンの攻撃に注意しながらカタパルトアームを避ける事は難しく、更にカタパルトアームから片付けようと飛行すると、副砲での対空砲火に曝される。

 

正に八方塞がりである。

 

(確かにこのままじゃ………)

 

と其処で、一夏はダイガンザンを見上げる。

 

(………やってみるか)

 

すると、何を思ったのか突然動きを止め、その場に棒立ちとなる。

 

「!? 一夏!? 何をやっている!?」

 

「一夏さん!?」

 

「馬鹿! アンタ死にたいの!?」

 

突然動きを止めた一夏に、箒、グラパール・蘭、鈴からそんな声が飛ぶ。

 

「観念したのか!? ダイガンザン! 奴を叩き潰せ!!」

 

ダイガンザンはそんな一夏を格好の標的と思い、左のカタパルトアームを思いっきり振るう!!

 

「南無三!!」

 

何処ぞの聖戦士の様な台詞を叫んだ瞬間、一夏の姿はカタパルトアームに薙ぎ払われる様に()()()

 

「! 一夏ぁっ!!」

 

箒が悲鳴の様な声を挙げるが………

 

「!? 一寸! アレ見て!!」

 

ファイナルダンクーガ(ティトリー)が何かに気づいた様に、振り切られたカタパルトアームを指差してそう叫ぶ。

 

「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

一同が注目すると、其処には………

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

カタパルトアームにへばり付いている一夏の姿が在った!

 

「一夏!?」

 

「何て無茶を………」

 

箒が驚きの声を挙げ、楯無が呆れる様に呟く。

 

「根性! 根性! ド根性おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

一夏はそう叫び声を挙げると、カタパルトアームの上を這う様にして、アームの付け根へと向かって行く。

 

ダイガンザンは、一夏を振り落とそうと腕を振り回す。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

だが一夏は必死にへばり付き、徐々にアームの付け根へと近付いて行く。

 

すると、ダイガンザンは一夏を叩き潰そうと、もう片方のカタパルトアームを振り上げる。

 

「!! やらせん!!」

 

其処へ、箒が紅椿のビットを射出!!

 

ビットは、一夏を潰そうとしていたカタパルトアームの掌に突き刺さり、カタパルトアームを持ち上げる。

 

「一夏ぁ! 今だぁ!!」

 

「おうっ!!」

 

其処で一夏は、最後のド根性を見せ、一気にカタパルトアームの付け根へと取り付いた!!

 

「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!! 必殺っ! シャアアアアアァァァァァァイニングゥ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そしてカタパルトアームの付け根に、必殺のシャイニングフィンガーを叩き込む!!

 

エネルギーを帯びた雪羅が、装甲を突き破って内部機器を破壊!!

 

爆発が上がったかと思うと、左腕のカタパルトアームがだらんとなり、動かなくなる。

 

「やった!!」

 

そう声を挙げる一夏だが、其処へ残っていた右のカタパルトアームが、紅椿のビット弾き飛ばして一夏に迫る。

 

「!?」

 

思わず硬直する一夏だったが………

 

その瞬間、右のカタパルトアームの付け根にミサイルが次々に命中!!

 

完全に破壊はされなかったが、機能が死んだのか、右のカタパルトアームからも力が抜け、だらんと垂れ下がる。

 

「………片方だけなら………これくらいは………」

 

右の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の7連装ミサイルポッドを撃ち尽くしている簪がそう言い放つ。

 

「ありがとう、簪!」

 

「よ~し! コレで気兼ねなく戦えるね!!」

 

シャルがそう言い放つと、グレン団の面々は先程までの苦戦がウソの様に、反撃を開始する。

 

「ぬうううっ!?」

 

「如何やら、完全に形成逆転みたいだな」

 

苦い声を漏らすビャコウに、グレンラガンは不敵な笑みを向けながらそう言い放つ。

 

「オノレェ!………ココでダイガンザンを失うワケにはイカン! 已むを得ん! 撃てぇっ!!」

 

と、ビャコウがそう言い放ったかと思うと、ダイガンザンの主砲が動き出し、山肌目掛けて砲弾を発射した。

 

「うおっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その爆音に驚くグレンラガンと、動きを止める一夏達。

 

放たれた砲弾は、雪の降り積もった斜面に命中。

 

爆音を立てて爆発したかと思うと………

 

まるで津波の様な雪崩が発生した!!

 

その雪崩が、ダイガンザンへと襲い掛かる。

 

「! ヤベェ! 逃げろお前等!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

グレンラガンの声で、一夏達はバーニアを全開に噴かして、一斉に上空へと退避する(簪は例によってファイナルダンクーガが抱えて)。

 

すると………

 

「グレン団! この屈辱は忘れんぞぉ!!」

 

ビャコウのそう言う声が響き渡り、何とダイガンザンがまるで波に乗る様に雪崩へと乗っかった!!

 

そしてそのまま、その勢いを利用して、一気に離脱して行く。

 

「あ! クソッ! 逃げられた!!」

 

「雪崩に乗っかって離脱するなんて………」

 

「大胆な退却方法ね………」

 

グラパール・弾、グラパール・蘭、楯無が、ダイガンザンが消えて行った方向を見遣りながらそう言い放つ。

 

「ま、良いさ。今度会った時は、必ずブッ倒してやるぜ」

 

と、グレンラガンがそう言い放った瞬間………

 

空を覆っていた暗雲が晴れ始め、すっかりが日が暮れて、満天の星空となっている空が現れた。

 

「わあぁ~~~、綺麗~~~」

 

その星空の美しさに思わずそう呟くシャル。

 

他のメンバーも、大なり小なり感嘆の表情を浮かべている。

 

「寒いと、“空気が澄むから星が見える”って言うけど、ホントだね」

 

「よおし! んじゃ星空をバックに凱旋帰還と行くか!!」

 

グレンラガンがそう言い放って飛び始めると、それに続く様に一夏達も飛び始め、グレン団は夜空に綺麗な編隊を作って帰還して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

追い詰められたかに見えた神谷でしたが、困った時のシュバルツ。
彼女によって無事救出されます。

そしてグレンラガンの持ち味であるドリルを活かして要塞を奇襲。
初の四天王ガンメンとの対決です。
残念ながら勝負は持ち越しとなりましたが、奴らの計画を阻止する事は成功しました。

さて、次回でグレンラガン原作のキャラが登場します。
しかもISのあのキャラと良い感じに?
果たして誰と誰か?
ご注意ください。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第91話『オイ、ケトーシロ!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第91話『オイ、ケトーシロ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日曜日………

 

神谷とシャル、そしてのほほんのメンバーが、街へ買い出しに出ていた。

 

例の如く、生徒会室でどんちゃん騒ぎをしていたところ、食べ物が無くなり、誰かが買い出しに行かされる事になったのだが………

 

その際のじゃんけんに負けてしまったのがこのメンバーなのである。

 

「チキショウ! じゃんけんとは言え、この俺が負けるたなぁ………情け無ぇ」

 

「まあまあ神谷。コレばっかりは時の運だよ」

 

負けた事を心底悔しがっている神谷と、そんな神谷をフォローしているシャル。

 

「ねえ~、3人で一緒に買い物するより~、1回分散して其々で揃えたら如何かな~?」

 

すると其処で、のほほんがそんな事を提案する。

 

「う~ん、そうだね………結構色々なお店行かないと揃わなそうなものばかりだし………」

 

シャルが、買い出し品のリストを見ながらそう言う。

 

「んじゃ、そうするか。2時間後に此処にまた集合だな」

 

「「OK!!」」

 

神谷が現在地を待ち合わせ場所に指定すると、3人は其々に買い物に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして2時間後………

 

「う~~ん………ちょっと早く戻り過ぎちゃったかな~?」

 

神谷とシャルよりも先に、買い出しした物が入った袋を手に持ったのほほんが集合場所に現れる。

 

2人は未だ買い出しが終わって無い様で、のほほんは仕方無くその場で神谷とシャルを待つ。

 

すると………

 

「ねえねえ、君。可愛いね~」

 

「その制服って、IS学園の子だよねえ?」

 

如何にもなチャラ男が、のほほんに声を掛けて来た。

 

「えっ? え~と………」

 

ナンパ等された事の無いのほほんは、突然話し掛けて来たチャラ男2人に戸惑う。

 

「今ヒマ?」

 

「良かったら、俺達とお茶しない?」

 

「え、え~と………友達と待ち合わせしてるから………」

 

「そんなの別に良いじゃ~ん」

 

「俺等と居た方が楽しいぜえ」

 

断わるのほほんを無理矢理連れて行こうとするチャラ男2人。

 

「あ! や、止めて!!」

 

「だ~い丈夫だって!」

 

「そうそう! ほんのちょっと一緒に居て貰いたいだけだからさ~!!」

 

「いや~!! 誰か助けて~~!!」

 

のほほんは思わず大声を挙げる。

 

すると………

 

「オイ!」

 

「あん? 何だよ………!? グアッ!?」

 

チャラ男の片方が、不意に声を掛けられて振り向いた瞬間、ケンカキックを叩き込まれた!

 

蹴られた方のチャラ男は、腰骨の辺りからゴキッ!!と嫌な音を立てたかと思うと動かなくなる。

 

「な、何だ!?」

 

残ったもう1人のチャラ男が、慌ててキックしてきた相手を確認する。

 

其処に居たのは、逆立った金色の髪をした、野性味を感じさせる青年だった。

 

「………かみやん?」

 

のほほんは一瞬、その青年に神谷の姿を重ねる。

 

「な、何だテメェは!?」

 

「おうおう、テメェ! 黒の兄妹のキタン様を知らねえのか!?」

 

「知るか、そんな奴!!」

 

もう1人のチャラ男はそう言うと、青年………キタンに拳を繰り出す。

 

「へっ」

 

だが、キタンは不敵な笑みを浮かべると、その拳を左手()()で軽く受け止める。

 

「なっ!?」

 

「オイオイ、それでパンチの積りかよ? 良いか? パンチってのはなぁ………」

 

キタンはそう言い放つと、空いていた右手で拳を握る。

 

「こうやるんだよぉ!!」

 

そして、チャラ男の顔に思いっ切りパンチを叩き込んだ!!

 

「ガハッ!?」

 

前歯と血を撒き散らし、チャラ男は地面に倒れて動かなくなる。

 

「けっ! 雑魚が………オイ、大丈夫か?」

 

「あっ!? う、うん………」

 

不意に話し掛けられて、のほほんは思わずビクッとしてしまう。

 

すると………

 

「テメェッ! のほほんから離れやがれぇっ!!」

 

そう言う台詞が響いたかと思うと、突然現れた神谷がキタン目掛けて飛び蹴りを繰り出す。

 

「!? うおおおっ!?」

 

キタンは、驚きながらも紙一重で回避する。

 

(!? 俺の蹴りを躱しやがった!?)

 

そのキタンの身の熟しに、神谷は内心で驚く。

 

「本音さん! 大丈夫!?」

 

「でゅっちー!? かみやんも!?」

 

其処へ、神谷の分の買い物袋を持ったシャルが、のほほんの傍に寄る。

 

「やいやいテメェ! グレン団のメンバーにイチャモン付けるたぁ、良い度胸してんじゃねえか!!」

 

キタンに向かってそう言い放つ神谷。

 

如何やら、先程の光景を見て誤解してしまった様だ。

 

「ああ!? 俺様がイチャモンだと!? ふざけんじゃねえ!!」

 

「テメェがふざけるんじゃねえよ! その成り! 如何見てもチンピラだろうがぁ!!」

 

「テメェ! 人の事言える恰好かぁ!?」

 

「んだとぉ!?」

 

2人は忽ち一触即発の状態に突入する。

 

「ちょっ! ちょっと待って! 誤解だよ~! その人は何もしてないよ~!!」

 

「えっ!? そうなの!?」

 

慌てて誤解を解こうとのほほんがそう言い、シャルが驚きの声を挙げた瞬間!

 

「テメェ! 掛かって来やがれ!!」

 

「上等だぁっ!!」

 

神谷とキタンは、そのまま対決に突入した!!

 

「ちょっ!? 神谷! ストップ! ストップ!」

 

「2人共~!!」

 

慌てて呼び掛けるシャルとのほほんだったが、ヒートアップしている2人の耳には届かない。

 

「おりゃあっ!!」

 

「ゴハッ!?」

 

強烈なアッパーカットを顎に見舞い、キタンの身体を浮かせる神谷。

 

「このぉっ!!」

 

だが、キタンはすかさず両手で神谷の頭を横から挟み込む様に摑んだかと思うと、全体重を載せて頭突きを見舞う。

 

「うおおっ!?」

 

脳が揺さぶられ、神谷はフラつきながら数歩後退する。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

其処で雄叫びと共に殴り掛かるキタン。

 

「!? おりゃあっ!!」

 

だが、直前で意識がハッキリした神谷は、体勢を低くしてキタンの拳を躱すと、そのまま肩車で投げ飛ばす!!

 

「うおおっ!?」

 

「おりゃああっ!!」

 

地面に倒れたキタンに向かって、追撃に踵落としを見舞う。

 

「チイッ!!」

 

だが、キタンは地面の上を転がって躱す。

 

「おりゃあっ!!」

 

そしてブレイクダンスの様な動きからの回し蹴りで、神谷の足を払う。

 

「うおっ!?」

 

神谷は驚きながらも受け身を取って倒れる。

 

そして、そのまま直ぐ立ち上がる。

 

「おりゃあっ!!」

 

其処でキタンは、下段蹴りから同じ足での上段蹴りの2連蹴りを噛まして来る。

 

「ぐうっ!?」

 

上段に喰らった蹴りの威力が凄まじく、神谷の身体が回転し、キタンに背を向けてしまう。

 

「貰ったぁっ!!」

 

チャンスとばかり組み掛かるキタンだったが、

 

「何のぉっ!!」

 

神谷は後方宙返りする様に跳躍。

 

キタンの肩に乗っかったかと思うと、そのまま変形フランケンシュタイナーを咬ます!

 

「ぐえっ!?」

 

「如何だ!?」

 

キタンより先に立ち上がり、倒れていたキタンに向かってそう言い放つ神谷だったが………

 

「未だ未だぁっ!!」

 

その瞬間にキタンは素早く神谷の足を取り、ドラゴンスクリューの様に投げ飛ばす!!

 

「うおおっ!?」

 

バウンドする程に強く、地面に叩き付けられる。

 

「おりゃあっ!!」

 

更にバウンドしたところで、キタンの蹴りが叩き込まれる。

 

「ゴハッ!?」

 

人形の様にブッ飛ばされた神谷は、ベンチに突っ込み、そのままベンチを破壊しながら倒れる。

 

「ゲホッ! ゴホッ!」

 

「喰らえぇっ!!」

 

思わず咳き込む神谷に、キタンは跳び蹴りを繰り出す。

 

「! おりゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

だが、酸欠気味なのを気合で我慢すると、キタンの跳び蹴りに対し、パンチで対抗する。

 

キタンの蹴りと、神谷のパンチがぶつかり合うと………

 

「!? おおわっ!?」

 

キタンの方が負け、弾き飛ばされる。

 

そのまま、神谷と同じ様にベンチを破壊して地面に倒れる。

 

「~~~~っ!? この野郎!!」

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

そして互いに突撃し合い、そのまま足を止めての殴り合いに発展する。

 

「あわわわっ!? 如何しよう!?」

 

「もう止められないよ~!」

 

余りにもハイレベルな()()に、シャルとのほほんは見ている事しか出来なかった。

 

と其処へ………

 

「あ! 居た! 姉ちゃん達~! 兄ちゃん居たよ~!!」

 

「本当!? キヤル!?」

 

「あ~、()()喧嘩してるの~?」

 

そう言う台詞と共に、3人の美女がその場に姿を現す。

 

「ねえ、貴女達。彼処で喧嘩してるのって、貴女達の連れ?」

 

「えっ? あ、ハイ、そうですけど………」

 

その美女達の内、グラマラスでおっとりとした感じの女性に声を掛けられ、シャルはそう答える。

 

「あ~、やっぱりそうですか………」

 

「ゴメンよ。兄ちゃんが迷惑掛けて?」

 

「兄ちゃん? それって、あの金髪の人~?」

 

メガネを掛けたのんびり屋な感じがする女性と、男勝りで活発な感じがする女性がそう言うのを聞き、のほほんはキタンの事を指しながらそう尋ねる。

 

「ええ、そうよ。彼処で貴女達の連れと喧嘩してるのは、私達の兄ちゃんのキタン・バチカ。で、私は妹で長女のキヨウ・バチカ」

 

「キノン・バチカです」

 

「キヤル・バチカだぜ! よろしく!」

 

其処でキタンの妹達、長女の『キヨウ・バチカ』、次女の『キノン・バチカ』、三女の『キヤル・バチカ』がそう自己紹介する。

 

「あ、どうも。シャルロット・デュノアです」

 

「布仏 本音です~」

 

其れに対して、シャルとのほほんも自己紹介を返す。

 

「シャルロットって………ひょっとして、フランスの代表候補生でグレン団メンバーの?」

 

すると、其れを聞いたキヨウがそう尋ねる。

 

「え、ええ、そうですけど………」

 

「やっぱり………」

 

「ああ~、道理で“どっかで見た顔”だと思ったんだよなぁ」

 

シャルが肯定すると、キノンとキヤルがそう言う。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「でりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

とその間も、神谷とキタンのガチの殴り合いは続いている。

 

「! ああ、そうだ! 止めなきゃ!!」

 

「放って置きなさいよ。その内に力尽きて止めるわよ」

 

その声で、シャルが思い出した様に止めに掛かろうとしたが、キヨウがそう言って止める。

 

「ええっ!? で、でも………」

 

「大丈夫よ。ウチの兄ちゃん、()()()頑丈だから」

 

戸惑うシャルに、キヨウはあっけらかんとそう言い放つ。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「でりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

結局、シャル達とキヨウ達は、そのまま神谷とキタンのど突き合いを黙って見ているだけなのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

「ゼエ………ゼエ………ゼエ………ゼエ………」

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

2人は、顔中を腫らした状態で息を切らせていた。

 

「う、うおおお………」

 

「でりゃあああ………」

 

そして、互いに最後の力を振り絞るかの様に拳を繰り出し、弱々しいクロスカウンターを互いに見舞う。

 

「テメェ………中々やるじゃねえか」

 

「テメェこそ………」

 

「「うわっ………」」

 

そしてそのまま、互いにバタリと倒れる。

 

「終わったみたいね」

 

「神谷!!」

 

「かみやん!!」

 

キヨウがそう言うと、シャルとのほほんが慌てて神谷の元に駆け寄る。

 

「兄ちゃん、大丈夫?」

 

「アララ~」

 

「また派手にやったな~」

 

キヨウ・キノン・キヤルの3人も、キタンの傍に寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ何だ!? 此奴はオメェが絡まれてたところに現れて助けてくれたってか!?」

 

介抱された後、のほほんから事情を聞いて、驚いた様子でそう言う神谷。

 

「そうだよ~」

 

「ったく! この勘違い野郎!! このキタン様がんな軟弱な真似すると思ったのか!?」

 

「るせぇっ! テメェの顔見りゃ、誰だってチンピラだと思うだろうが!?」

 

「んだとぉ!? テメェが言えたガラか!?」

 

「何をぉ!?」

 

「やるかぁ!?」

 

再び、互いに摑み掛ろうとする神谷とキタン。

 

「ストップ! 神谷!!」

 

「兄ちゃん、止しなさいよ」

 

しかし、シャルとキヨウに止められる。

 

「チッ!」

 

「ったく!」

 

仕方無しと言った様子で引き下がる2人。

 

「にしても運が良いよな~。あのグレン団の鬼リーダー、神谷に会えるなんて」

 

と其処で、キヤルが神谷を見ながらそう言う。

 

「おっ! 俺の名も大分売れてると見えるな。そう! IS学園に悪名轟くグレン団! 男の魂、背中に背負い! 不撓不屈の! あ! 鬼リーダー! 神谷様たぁ、俺の事だ!!」

 

其れを聞いた神谷が、お馴染みの名乗りを挙げる。

 

「可愛い!」

 

「素敵!」

 

「イケるじゃん!」

 

其れに対し、3者3様の反応を返すキヨウ、キノン、キヤル。

 

「な、何だよ、お前達!? こんな奴の味方するのか!?」

 

「ハハッ! 妹達の方が分かってんじゃねえか!」

 

妹達が、一斉に神谷側に行き戸惑うキタンに、神谷は勝ち誇る様にそう言い放つ!

 

「うるせぇ! 何がグレン団だ! 俺達は黒の兄妹だぜ!!」

 

だが、キタンは1歩も引かずにそう言い放つ。

 

「…………」

 

そんなキタンの姿を、のほほんは何処か熱の籠った目で見ている。

 

「? 本音さん、如何したの?」

 

そんな様子ののほほんに気付き、シャルがそう声を掛ける。

 

「えっ!? あ、ううん………何でも無~い………」

 

のほほんは、何時もののほほんとした笑みを浮かべて、誤魔化す様にそう言う。

 

(………若しかして)

 

しかし、其処は同じ“恋する乙女”。

 

何と無く、のほほんの気持ちを察した様である。

 

「しっかし、オメェのパンチは効いたぜ! 中々のモンだ!!」

 

「そっちこそ! 漢の拳を持ってるじゃねえか!!」

 

すると、何時の間にやら神谷とキタンはそう言い合って、ガッチリと握手を交わしていた。

 

(あ、やっぱり“似た者同士”だったんだ、この2人………)

 

何と無く、雰囲気からキタンが如何いう男かを察していたシャルは、この光景を予想してはいたものの、実際に目にするとやはり何処か呆れてしまう。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうよ、神谷。僕達ホントは買い出しの途中だったんだし」

 

「そういやそうだったな」

 

「オイ、ケトーシロ!」

 

「? 何だ、そりゃ?」

 

突然意味の分からない単語を言ったキタンに、神谷は首を傾げる。

 

「トーシロに毛が生えた奴って事だ!」

 

「へ………未だやろうってのか?」

 

「フン………黒の兄妹になりたかったら、何時でも来い!」

 

「ああん?」

 

「次に会った時は兄弟にしてやるぜ。但し、みそっかすの末っ子だぜ?」

 

「テメェこそ、男の証グレン団に入りたきゃ、何時でも声を掛けろよな!」

 

「フン、あばよ! 行くぜ、お前等!」

 

キタンはそう言って不敵に笑うと、その場から離れて行った。

 

「バイバーイ、グレン団」

 

「失礼します………」

 

「じゃあな! また何処かでな!!」

 

其れに続く様にキヨウ、キノン、キヤルの3人も去って行く。

 

「へへっ………久々に面白れぇ奴に会ったぜ」

 

「確かに、色々と愉快な人だったね」

 

黒の兄妹達が去って行った後、神谷とシャルはそう言い合う。

 

「…………」

 

しかし、のほほんだけは、ジッとキタンが去って居た方向を見据えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・生徒会室………

 

「黒の兄妹って………()()“黒の兄妹”っすか、アニキ?」

 

買い出しから戻って来た神谷達が宴会を仕切り直していた中、買い出し中に起きた出来事を話すと、弾がそんな事を言う。

 

「何だ、弾? アイツ等の事、知ってんのか?」

 

「ちょいと小耳に挟んだ程度っすが………最近、あの辺りで“無法者をシメて回ってる4人兄妹が居る”って」

 

「無法者か………最近増えたよなぁ」

 

弾の言葉に、一夏がそう呟く。

 

世界の情勢が刻々と悪化して行く中、悲しい事に暴徒とまでは行かないでも、未来に絶望し無法を働く者が増えて来ており、日本でも治安が悪化していた。

 

「早くロージェノム軍の連中を如何にかせん事には、この問題は解決しようが無いな………」

 

「その為に、私達グレン団が居るんじゃない」

 

箒が苦そうな声でそう言うと、楯無がそう言う。

 

「そうですわ」

 

「あんな奴等の好きにはさせないわよ!」

 

「世界の平和は我々が守って見せる」

 

「その通りです!」

 

セシリア、鈴、ラウラ、蘭もそう声を挙げる。

 

「…………」

 

簪も無言で頷く。

 

「うふふ………ホント、頼もしいわね、本音」

 

虚はそんなグレン団の姿を見て頼もしいと思いながら、のほほんへと声を掛ける。

 

「…………」

 

しかし、のほほんは上の空の様子で、目の前に置かれているケーキにも手を付けてなかった。

 

「? 本音? 如何したの?」

 

「う~ん? うん………」

 

虚からの問い掛けにも、何処か気の無い返事を返すのほほん。

 

「そのケーキ食べないの? なら、貰っても良いかな?」

 

すると其処でティトリーが、冗談交じりにそんな事を言う。

 

「うん、良いよ~………何だか、食欲無くて~………」

 

のほほんはアッサリとケーキをティトリーに渡す。

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

その時、一同に電流が走る。

 

シャルと神谷を除いた一同が、一斉に生徒会室の片隅に集まる。

 

(如何言う事なの!?)

 

()()本音が食欲が無い、だなんて………)

 

(天変地異の前触れ………?)

 

のほほんとの付き合いが特に長い楯無、虚、簪がやや動揺しながらそんな事を言う。

 

「ハア~~~………」

 

すると其処で、のほほんは悩まし気な溜息を吐く。

 

(!? 溜息まで!?)

 

(有り得ませんわ!!)

 

(一体如何なっている!?)

 

(あんな本音の姿なんて初めて見たよ!)

 

(まさか、()()()()何か起こるんじゃ!?)

 

(不吉だぜ………)

 

(ナンマンダブナンマンダブ、アーメン………)

 

鈴、セシリア、ラウラ、ティトリー、蘭、弾、一夏も信じられないと言った様子を見せており、特に一夏なぞは()()()両手を合わせて滅茶苦茶に祈り始めている。

 

(………まさか………アレは………)

 

しかし其処で、箒がのほほんの()()に“思い当たり”を感じる。

 

「何やってんだ、アイツ等?」

 

「ねえ、本音」

 

神谷がそんな一夏達の姿に呆れていると、シャルがのほほんに話し掛ける。

 

「な~に~、でゅっち~?」

 

「キタンって人の事考えてるでしょ?」

 

「!?」

 

シャルのその言葉を聞いた途端、のほほんは明らかに動揺する。

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

一夏達も一斉に振り向いて注目する。

 

「え、えっと~………其れは~………」

 

「そうなんでしょ?」

 

「………うん」

 

「マジで!?」

 

「本音! 貴女もなの!?」

 

「………本音」

 

やがて自覚した様にのほほんがそう認めると、いの1番に楯無と虚、簪が傍に寄って来る。

 

「良く分からないけど………あのキタンって人の事思い出すと~………何だか胸がドキドキするの~」

 

何時もと同じ間延びした声で、両手で胸の辺りを押さえながらそう言うのほほん。

 

(((((((コレは………本物だ!!)))))))

 

その様子に、女性陣は内心でそう思う。

 

「何だ、のほほん。オメェ、アイツに惚れたのか? なら、デートするしか無えな」

 

すると其処で、神谷がそんな事を言い放つ。

 

「!? ふえええっ!? で、でも………!!」

 

「馬鹿野郎! オメェもグレン団の一員だろ!? なら、突撃あるのみだ!!」

 

炸裂する神谷節。

 

「………私! 頑張る!!」

 

その言葉で、のほほんの瞳に炎が燃え上がる。

 

(コレは………)

 

(また()()()大変な事になりそうだな………)

 

そんな中で一夏とシャルは、またトンでも騒ぎが起こりそうだ、と予感しているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

予告していたグレンラガン原作かの登場キャラは………
キタン達、黒の兄妹でした。
しかものほほんがキタンに恋をした!?
これはまら波乱万丈な事になりそうです。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第92話『お前………姉ちゃんが居るんだってな?』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第92話『お前………姉ちゃんが居るんだってな?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街中で強引なナンパに遭っていたのほほんを助けた男、キタン・バチカ。

 

彼は、3人の妹、キヨウ・キノン・キヤルを引き連れ、辺りをシメている札付きの不良だった。

 

そんなキタンに、のほほんは一目惚れ。

 

其れを知った神谷は、のほほんを焚き付け、キタンとのデートを強行させようとする。

 

果たして、のほほんの恋の行方や如何に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

シャルとラウラの部屋………

 

「………と言うワケなんだけど」

 

電話を片手に、ベッドに腰掛けているシャルがそう言う。

 

[へえ~~、あの子が兄ちゃんをね~………変わった趣味してるわね]

 

受話器の先からは、キヨウの声が聞こえて来る。

 

何故、シャルが彼女と電話をしているのか?

 

実は神谷とキタンが喧嘩をしていた時、シャルとのほほんは、ちゃっかりキヤル達と連絡先の交換を行っていたのだ。

 

其れならば、のほほんが彼女達に連絡を取るのが()だろうが………

 

肝心な時になって緊張してしまい、結局シャルに代行して貰っている。

 

「そう言わないでよ。其れで、お兄さんを何とか引っ張り出して貰えないかな?」

 

[OK。やってみるわ。“人の恋路は応援する”のが女の生き様よ]

 

「ありがとう、キヤル」

 

[どう致しまして………其れじゃ、またね]

 

「うん、またね」

 

そう会話を交わすと、シャルは通話を切る。

 

「ふう~………コレで良しっと………でも、大丈夫かな?………“グレン団の皆で本音(のほほん)のデートを応援する”だなんて………」

 

シャルは天井を仰ぎ見ると、そう漏らす。

 

あの時、のほほんが決意を表明すると、グレン団の一同………主に女性陣が、のほほんの応援に回ると言い出した。

 

しかし、面子が面子だけに、かなり不安である。

 

だが同時に、止めたところで聞く様な面子でもない。

 

(まあ、なる様にしかならないか………)

 

若干投げ遣りになりつつ、そんなシャルの不安等知る由も無く、早々に寝息を立てていたラウラを一瞬見遣ると、シャルはベッドに入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時はアッと言う間に流れ、のほほんとキタンのデートの日がやって来た。

 

待ち合わせの場所は、先日キタンとのほほんが出会った場所である。

 

「…………」

 

グレン団女性メンバーによって、精一杯めかし込まれたのほほんが、珍しく緊張した様子で、ドキドキしながらキタンを待っている。

 

「あの本音が彼処まで緊張するなんて………」

 

「ホント………珍しいモノが見れた………」

 

「ま、恋にドキドキするのは“乙女の特権”だからね」

 

その様子を物陰から見ているグレン団メンバーの内、虚・簪・楯無がそんな言葉を漏らす。

 

「頑張れよ~、のほほん」

 

「ねえ、神谷………」

 

「アニキ………」

 

神谷ものほほんに向かって声援を送るが、其処でシャルと一夏が声を掛けて来る。

 

「ん? んだよ、シャル、一夏」

 

「さっきから僕等………」

 

「スッゲー目立ってんだけど………」

 

首を傾げる神谷に、シャルと一夏はそう言う。

 

そう。現在、()()()のほほんの様子を窺っているグレン団一同だが………

 

人数が人数だけに、その様子はかなり目立っていた。

 

オマケに、素性が知れて騒ぎにならない様にと、全員私服姿でサングラスやマスク等を着用したりしているので、怪しい事この上無い。

 

「ねえ~、ママ~。あのお兄ちゃんとお姉ちゃん達、何してるの~?」

 

「シッ! 見ちゃいけません!!」

 

通り掛かった通行人の母子が、そんな事を言って通り過ぎて行く。

 

((やっぱり如何見ても怪しい集団だな(だよ)))

 

其れを聞いた一夏とシャルは内心でそう思う。

 

「あ! 来たわよ!!」

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

と其処で鈴が声を挙げ、一同の視線が再びのほほんの方へと注がれる。

 

其処には、のほほんの方に向かって歩いて来るキタンの姿が在った。

 

「よう。随分とはええな」

 

「う、ううん! い、今来たとこだよ!!」

 

キタンに声を掛けられると、若干吃りながら返事を返すのほほん。

 

「? 何慌ててんだ?」

 

「な、何でも無いです! ハイ!!」

 

「そうか? しっかし、キヤル達の奴………一体何の積りで俺にお前に1日付き合ってやれなんて言ったんだ? お前何か聞いてるか?」

 

「そ、其れは………?」

 

キタンからの質問に、のほほんは視線を逸らす。

 

「ま、いっか! 男は(こまっ)けぇ事は気にしねえモンだ! 取り敢えず行くぜ!」

 

そう言うと、キタンはのほほんの手を取って歩き出す。

 

「!?!?」

 

のほほんは真っ赤になった状態で、キタンに手を引かれるがままに連れて行かれるのだった。

 

「アイツ………一夏とは()()()()()朴念仁だな」

 

「そうですわね………」

 

そんなキタンの様子を見たラウラとセシリアが、愚痴る様にそう言い合う。

 

「えっ? 何だよ? 俺が如何かしたか?」

 

其れを聞いた一夏は、相変わらずの()(とぼ)けた反応を返す。

 

((((((((………コイツ(この人)は、“自分に都合の悪い事”は聞こえない耳をしてるのか?))))))))

 

其れを聞いた箒達は、内心でそんな事を思うのだった。

 

と、其処へ………

 

「ハア~イ。また会ったわね」

 

「こんなに早く会えるとは思っていませんでしたけど」

 

「よう、お前等ぁ!」

 

キタンの妹達、キヨウ・キノン・キヤルが現れる。

 

「あ、キヨウ、キノン、キヤル」

 

「貴女達が、あのキタンさんって人の妹さん達?」

 

シャルがそう言うと、蘭がキヤル達に向かってそう尋ねる。

 

「そう、長女のキヨウよ」

 

「次女のキノンです」

 

「キヤルだぜ!」

 

「へえ~、とてもあのキタンって奴が兄貴だとは思えないな~」

 

キヨウ・キノン・キヤルが簡単に自己紹介をすると、弾がそんな感想を漏らす。

 

「アラ? そういう君も結構イケてるわよ。うっふ」

 

するとキヨウがそんな事を言いながら、弾の傍に寄る。

 

「ちょちょちょちょっ!? だ、駄目っすよ! 俺には虚さんが!!」

 

「弾くん!!」

 

途端に弾は大慌てし、虚も慌てて駆け寄って来て、弾をキヨウから引き離す。

 

「アハハハ、冗談よ。其れに“イケてる”って言っても、ウチのダーリンのダヤッカには及ばないけど」

 

「ムッ! 何ですかその言い方は! 弾くんはカッコイイ“だけじゃない”んですからね!!」

 

キヨウが笑いながらそう言うと、虚がそう反論する。

 

「アラアラ? お熱い事ねぇ」

 

「ま~た、惚気てる………」

 

其れを聞いたキヨウが笑いながらそう言い、ティトリーも呆れた様に呟く。

 

「「…………」」

 

全員に注目され、弾と虚は真っ赤になって縮こまる。

 

「姉さんったら、また………」

 

「そう言やぁ、キノン姉ちゃんは最近ロシウとは如何なんだ?」

 

その姉のキヨウの様子にキノンが呆れていると、キヤルがそんな事を尋ねる。

 

「!? ど、如何って………べ、別に………」

 

キノンは顔を赤くして小声になる。

 

(3人の内、2人が恋人持ちか………お兄さん、苦労してそうだなぁ)

 

そんなキヨウ達を見て、シャルは内心でそんな事を考える。

 

「オイ、何やってんだ? アイツ等、行っちまうぞ」

 

「追跡開始だよ」

 

しかし其処で、神谷と楯無が一同にそう呼び掛ける。

 

一同は其々に色々とありながらも、キタンとのほほんのデートを覗き………

 

もとい、()()()始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キタンとのほほんのデートは、驚く程に“普通に”進んで行く………

 

商店街でウインドウショッピングを楽しみ………

 

オープンカフェで昼食を摂ったり………

 

公園の中をブラブラと2人で散策したりと………

 

そして現在………

 

2人はその公園内にあるベンチで休憩を取っている………

 

 

 

 

 

「ホラよ」

 

「あ、ありがとう………」

 

キタンが買って来た缶ジュースを受け取るのほほん。

 

デートが始まって大分立つが、未だ緊張の色が抜けていない様子である。

 

「大丈夫か? 何か今日は始終赤くなってたみてぇだが………風邪か?」

 

「う、ううん!? そんな事無いよ~! 元気元気~~!!」

 

キタンにそう問われ、のほほんはワザとらしく元気そうな様子を見せる。

 

「そうか?」

 

疑問に思いつつも、其れ以上の追及はしないキタン。

 

「あ~、もう、何やってるの本音! もっとこう、押して押して押し捲るのよ!」

 

「何時もの、本音の“のんびりさ”が無くなってる………」

 

「其れだけ………彼に対して()()って事なんでしょう………」

 

その光景を見て、楯無・ティトリー・簪がそんな言葉を漏らす。

 

「本音………」

 

姉である虚も、心配そうな目でのほほんを見ている。

 

「…………」

 

そして、そんな虚の肩をナチュラルに抱いている弾。

 

爆発しろ。

 

「なあ、いい加減止めないか? 順調に行ってるみたいだし………コレ以上深入りして邪魔しちゃ悪いだろう?」

 

「何言ってんのよ?一夏!」

 

「そうですわ! ココからが良い所じゃないですか!?」

 

正論を吐く一夏に、鈴とセシリアが言い返す。

 

まあ、この面子で正論が通る方が珍しいが………

 

「はあ~~」

 

そんな一同の様子に、一夏は深い溜息を吐く。

 

「其れにしても、兄ちゃんのあんな楽しそうな顔、久し振りに見るわね」

 

「ホントですね………」

 

「俺もあの姉ちゃん好きだぜ! 何か一緒に居ると和みそうだし!」

 

と、キタンとのほほんの様子を見ながら、キヨウ・キノン・キヤルがそう言い合う。

 

「其れは………あの男にも脈が有ると言う事か?」

 

「ええ、そうね。そもそも気が無かったら、私達の頼みと言えど、兄ちゃんは動かないわ」

 

箒が尋ねると、キヨウはそう答える。

 

「おっ!? 何か動いたよ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

ティトリーがそう言うと、全員の視線が再びキタンとのほほんへと向けられる。

 

(あ~、如何しよう~! さっきから全然会話出来てないよ~!!)

 

心の中で、頭を抱えてブンブンと振っているのほほん。

 

実際は、其れ程会話が出来ていなかったワケでは無いが、のほほん本人は“そう思っている”らしい。

 

「そういや、お前………姉ちゃんが居るんだってな?」

 

と其処で不意に、キタンがそんな事を尋ねて来る。

 

「えっ!? あ、ハイ………」

 

「その、姉ちゃんはよぉ………お前が俺に会いに行くって言って、何か言わなかったのか?」

 

「えっ?」

 

「俺だって馬鹿じゃねえ。自分が周りから如何思われてっかくらい分かる。其れ自体は別に構わねえさ。俺が“自分で決めてやってる事”だ。でもよぉ………お前の姉ちゃんは如何なんだ? 心配したりして無えのか?」

 

「あ、うん、大丈夫だよ~。ウチの学校にも、貴方と良く似た人が居るから」

 

「神谷か………」

 

其れを聞いたキタンは苦笑する。

 

「俺も“兄貴”だからよぉ………上の奴の不安とかは何となく分かるって言うかよぉ。俺も、キヨウやキノンが男と付き合い出したって聞いた日にゃあ………」

 

と、其処で急に黙り込んだかと思うと、ブルブルと小刻みに震え始めるキタン。

 

「? キタンさん?」

 

「許さあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!! お兄ちゃんは許さんぞおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

すると突然ベンチから立ち上がり、大声で喚き始めた。

 

「ふえええっ!?」

 

のほほんは驚き、公園内の通行人達も何事か?と注目する。

 

「な、何だぁ!?」

 

「あっちゃ~~、また兄ちゃんの()()()()が発動しちゃったわねぇ」

 

コッソリ覗き見ていたグレン団の方でも、一夏がそう驚きの声を挙げると、キヨウが呆れた様にそう呟く。

 

「トラウマ?」

 

「ええ。ああ見えて、兄ちゃんてば“シスコン”なの。私とキノンが()()()()()()男と付き合っていた、って言うのがショックだったみたいで」

 

シャルが尋ねると、キヨウはあっけらかんとそう説明する。

 

「ハア、そうなのか………」

 

同じ兄の身として、弾はキタンに同情するのだった。

 

「キヨウオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ! キノンーーーーーーーーーーっ! お兄ちゃんは許しませんよおおおおぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

 

キタンは尚も叫び声を挙げる。

 

「ちょっ!? キタンさん!! 落ち着いて!!」

 

流石にコレ以上はマズイと思ったのほほんが、キタンを止めに掛かる。

 

「ハッ!? す、すまねえ………つい取り乱しちまって」

 

其処でキタンは、漸く落ち着きを取り戻す。

 

「はあ~~、ビックリした~。急に大声出すんだもん………」

 

「だってよぉ~………ちっちゃい頃から可愛がってた妹がよ~。イキナリ『彼氏出来た』って報告して来たんだぜ~。其れまで散々隠しといてよ~。泣けるだろぉ~!?」

 

若干涙声で、愚痴る様にそう呟きながら、キタンは再びベンチに力無く座り込む。

 

「ア、アハハハハ………」

 

苦笑いするしかないのほほん。

 

「だからよぉ………オメェも姉ちゃんの事は大切にするんだぞ。姉妹同士で隠し事なんかすんなよ」

 

「キタンさん………」

 

其処でのほほんは思った………

 

キタンは()()()妹達の事を思っているのだ、と。

 

人や当人である妹達からシスコンだ何だと言われても、其れは妹達への“彼なりの愛の形”なのだ。

 

彼もまた………

 

“不器用な()”である。

 

「あの、キタンさん~………今日、私と居て~………その~………た、楽しかったですか?」

 

と、そうキタンの事を理解して緊張が解れたのか、のほほんはそんな事を尋ねる。

 

「んん? あ、ああ、そりゃあ………」

 

するとキタンは言葉に詰まった………と言うよりも、照れ臭そうにガシガシと頭を掻く。

 

「…………」

 

のほほんは、期待するかの様な目でキタンを見据える。

 

「や、止めろ! そんな目で見るんじゃねえ!」

 

「如何だったんですか~?」

 

狼狽するキタンに、のほほんは更に問い質す。

 

「ああ~~~~っ!!」

 

と、キタンは大声を挙げながら、再びベンチから跳ぶ様にして立ち上がる。

 

「当たり前田のクラッカーだろうが! こんなカワイコちゃんとデートして、楽しか無えワケ無えだろが!!」

 

自棄(ヤケ)になったかの様にそう叫ぶキタン。

 

「ありゃ~、兄ちゃん自棄になってるよ~」

 

「もう~、肝心な時になると何時も()()なんだから………」

 

「お兄ちゃん………」

 

そんなキタンの姿を見て、キヤル・キヨウ・キノンがそう呟く。

 

他のメンバーもキタンの()()()()()()姿()に、笑いを堪えている。

 

「…………」

 

一瞬、呆気に取られた様な表情をしていたのほほんだが………

 

「………プッ! アハハハハハ!!」

 

やがて、我慢出来なくなったかの様に笑い出した。

 

「な、何で笑うんだよ!?」

 

「だ、だって~………キタンさん~………必死過ぎ~! アハハハハハ!!」

 

「わ、笑うなよ!!」

 

キタンが怒りながらそう言った瞬間………

 

「「「「「「「「「「ブアッハッハッハッハッハッ!!」」」」」」」」」」

 

近くの茂みの中から、大人数を思わせる笑い声が響いて来る。

 

「!? な、何だぁ!?」

 

キタンは、驚きながらも茂みの中を覗き込む。

 

「ダハハハハハハハッ! ヒーヒッヒッヒッヒッ!!」

 

「は、腹がぁ!! 腹が(よじ)れる~~~~~~~っ!!」

 

「アハハハハハッ! い、息が! 息がぁ~っ!!」

 

其処には、一斉に腹を抱えて笑っているグレン団メンバーと妹達の姿が在った。

 

「お、お前等ぁ!!」

 

その様を見て、今までずっと“見張られていた”事に気付き、憤慨し始める。

 

「! やっべっ!? 逃げろーっ!!」

 

「待ちやがれえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

一夏の号令で一斉に逃げ出し始めるグレン団とキタンの妹達に、其れを追い掛け始めるキタン。

 

突如、公園内にて集団鬼ごっこが開始される。

 

「キタンさんたら~」

 

グレン団と妹達を追い掛け回すキタンの姿を、のほほんは楽しそうな表情で眺めている。

 

その為、彼女は気付かなかった………

 

自分の背後から近付いて来る()()に………

 

その人影が、のほほんの真後ろに立ったと思われた瞬間!

 

のほほんは背後から抑え付けられ、更には口までも塞がれてしまう!!

 

「!? うっ!? う、ううう~~~~~っ!?」

 

口を塞がれている為、大声を出す事も叶わず、のほほんはそのまま何処かへと連れて行かれてしまうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数10分後………

 

「「「「「「「「「「ゼエ………ゼエ………ゼエ………ゼエ………」」」」」」」」」」

 

グレン団メンバーとキタンに彼の妹達は、全員が息切れした状態で、呼吸を荒くしている。

 

のほほんの事にも気付かず、ずっと追い駆けっこを続けていた様だ。

 

「お、お前等………ゼエ………ゼエ………逃げ回り過ぎだ…………ゼエ………ゼエ………」

 

息を切らせたまま、キタンがそう言う。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………兄ちゃんが………追い回すからでしょう………」

 

其れにキヨウがそう返す。

 

「そ、其れより………ゼエ………ゼエ………そろそろ………ゼエ………ゼエ………デートの続きに行ってあげてくれない?………ゼエ………ゼエ………」

 

其処で楯無が、他のメンツと同じ様に息を切らせながらそう言う。

 

「お、おう………そうだな………テメェー等の相手をしてる場合じゃ無かったぜ」

 

キタンはそう言うと、のほほんが居る()のベンチの方を振り向く。

 

しかし、其処にのほほんの姿は無かった………

 

「アレ? 本音? 何処行った?」

 

「便所か?」

 

「神谷………頼むから、もっとデリカシー持ってよ」

 

キタンがキョロキョロとし出すと、神谷がそう言い、シャルがそうツッコミを入れる。

 

と其処で突然、島○輔の男の○章が流れ出す。

 

「あん? んだよ、誰だ?」

 

そう言いながら、キタンが携帯を取り出し通話ボタンを押す。

 

((((((((((着信音似合い過ぎ………))))))))))

 

グレン団メンバーは、キタンの着信音設定に心の中でそうツッコミを入れる。

 

[よお~、キタンちゃ~ん、ひっさしぶり~~]

 

通話先からは、妙に馴れ馴れしい声が聞こえて来る。

 

「ああ? んだテメェは? お前なんざ知らねえぞ!」

 

全く知らない人物からの電話に、キタンはそう怒鳴り返す。

 

[知らない~? オイオイ、連れないね~、キタンちゃ~ん。俺だよ、俺。この前にお前にブッ潰された、暴走連合・臥威王(ガイオウ)総長の田代だよ~]

 

「知るか! 一々ブッ潰した相手の事なんて覚えてられっか!!」

 

[お~お~、良いのかい? そんな態度取ってぇ? コッチはお前の(スケ)を預かってるんだぜ?]

 

「ああ? 俺の女!? 何馬鹿な事言って………!?」

 

其処でキタンはハッとする。

 

「テメェ………ソイツはまさか!?」

 

[まさかキタンちゃんの彼女が、あのIS学園の生徒だとはね~。御丁寧に学生証まで持っててよぉ。何て読むんだこりゃあ? 布仏………本音かぁ?]

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その言葉を聞いたキタンとグレン団の一同が驚愕する。

 

「テメェ! ソイツは関係無えっ!!」

 

[ウルセェ! 此奴を助けたかったら、今から言う場所に()()()来い! 妙な真似したら、女の命は無いと思えっ!!]

 

慌てるキタンに、電話先の相手は怒鳴りながら指定の場所を言うと、さっさと電話を切ってしまう。

 

「オイコラ! 待てぇっ!!」

 

怒鳴るキタンだが、電話は既に切れている。

 

「クソッ!」

 

「ほ、本音が………そんな………あああ………」

 

「うわっ!? 虚さん!?」

 

のほほんが拉致されたと聞いて、気を失い掛けて倒れる虚を、慌てて弾が支える。

 

「…………」

 

キタンは携帯を握り締め、怒りに身体を震わせる。

 

「コリャマズイよ! 直ぐに助けに行かないと!!」

 

「オイ、キタン! 指定の場所ってのは何処なんだ!?」

 

一夏がそう言うと、神谷がキタンにそう尋ねるが………

 

「………!!」

 

キタンはその問いには答えず、その場から走り出した。

 

「あ!? オイ!?」

 

「マズイ! 兄ちゃん、頭に血が昇っちゃってるよ!!」

 

「1人で助けに行く気です!!」

 

「兄ちゃん! ヤバいってば!!」

 

慌てて、キヨウ・キノン・キヤルが後を追う。

 

「クソッ! 行くぞお前等!!」

 

「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」

 

其れに続く様に、グレン団の一同もキタンと3人の妹達の後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

キタンとのほほんのデート。
そしてそれを覗くグレン団と言うお約束の構図(笑)
しかし、ただデートするだけで終わらないのがこの作品。
誘拐されてしまったのほほんの運命は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第93話『禁断の必殺技! ブレーキパンチ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第93話『禁断の必殺技! ブレーキパンチ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偶然街で出会った男・キタンに一目惚れしたのほほん。

 

神谷達に焚きつけられて、デートへと繰り出す。

 

そんな2人のデートを、面白半分に覗くグレン団とキタンの妹、キヨウ・キノン・キヤル達。

 

しかし、その最中(さなか)………

 

ちょっと目を離した隙に、のほほんが何者かに拉致されてしまう。

 

拉致した相手は、嘗てキタンが潰した暴走族のリーダーだった。

 

恐らく、報復をする為に親しそうにしていたのほほんを人質に取ったのだろう。

 

頭に血が昇ったキタンは、1人指定された場所へと向かう。

 

当然、神谷達もそんなキタンの事を慌てて追い掛けたのだったが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街中………

 

「駄目だ! 見失っちゃたよ、アニキ!!」

 

「兄ちゃん………」

 

キタンの尋常ならざる足の速さの前に、グレン団とキヨウ達は完全に撒かれ、キタンの姿を見失っていた。

 

「チッ! 仕方無え! 手分けして探すぞ!! 見付けたら直ぐ連絡しろ!!」

 

「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」

 

神谷の号令で、グレン団の一同は一斉に分散。

 

街の彼方此方へと散らばって行く。

 

(キタンの野郎! 手間掛けさせやがって! 無事で居ろよ、のほほん!!)

 

キタンに悪態を吐き、のほほんの無事を祈りながら、神谷は街中を走り抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

そのキタンはと言うと………

 

「…………」

 

巨大なコンテナが多数置かれている港の埠頭を歩いていた。

 

港から出て行く船の汽笛と、飛び交うカモメの鳴き声、そして海風の音と多様な音が聞こえて来ている。

 

「…………」

 

やがてキタンは、と或る廃倉庫の前で立ち止まる。

 

潮風で錆び付いている扉を、ギギギギギギと鈍い音を立てながら開け放つと、薄暗い中へと入って行く。

 

「待ってたぜぇ………キタンちゃ~ん」

 

「!!」

 

そう言う声が聞こえて来てキタンが立ち止まると、薄暗かった倉庫の中に突然光が走る。

 

「うっ!?」

 

眩しさに一瞬目が眩むキタンだったが、徐々に目が慣れて来ると其処には………

 

爆音を響かせている改造バイクに跨った、特攻服姿の暴走族達の姿が在った!!

 

何時の間にかキタンは取り囲まれ、周りは暴走族だらけである。

 

「………コイツ等」

 

「見覚えが有るだろ~? 今までお前に潰された族やグループの残党達よ~」

 

取り囲んでいる連中に見覚えを感じたキタンに、再度そう声が掛かる。

 

すると、前方を囲んでいた連中が左右に分かれ、其処から特攻服姿でリーゼントの髪型をパンチパーマにし、丸いレンズのサングラスにマスクをした男が歩み出て来る。

 

「………テメェが田代か?」

 

「オイオイ? ()()()俺様の事を忘れちまったってのかぁ?」

 

キタンがそう言うと、特攻服の男………田代はそう問い質す。

 

「言っただろう。“潰した奴の事なんざ、一々覚えてらん無ぇ”ってな」

 

「テンメェッ!!」

 

と、キタンのその台詞を聞いた族の1人が、殴り掛かって行きそうになるが………

 

「まあ、待て」

 

田代が其れを押し留める。

 

「キタンちゃんよ~。今、自分が如何いう状況に置かれてるか………分かってるの~?」

 

「チッ!………本音は何処だ?」

 

舌打ちをしながら、キタンは田代にそう問い質す。

 

「フフフ………」

 

田代は不敵に笑いながら、仲間の1人に目配せをする。

 

すると奥から暴走族の1人が、縄で縛られて口に猿轡をさせられているのほほんを連れて来た。

 

「う! う~っ!! うう~~っ!!」

 

キタンの姿を見たのほほんが何かを叫ぶが、猿轡の所為で全く分からない。

 

「本音!………其奴は関係ねぇ! とっとと解放しろ!!」

 

「そうは行かねえな~! コイツは“お前に対する大切な人質”だからな~」

 

田代がそう言うと、のほほんを連れて来た族の1人は、ポケットからナイフを取り出し、のほほんの首に突き付けた。

 

「!?」

 

「本音!! 止めろ! テメェ等の目的は俺だろうが!!」

 

「その通りよ。それじゃあ………大人しく殴られてくれるかなぁ?」

 

下衆(ゲス)な笑みを浮かべながら、田代はキタンにそう言い放つ。

 

「若し少しでも逆らったら………」

 

田代がそう言うと、のほほんの首に更にナイフの刃が迫る。

 

「………好きにしろ」

 

と、キタンはそう言ったかと思うと、両腕をダランと下げて、その場に立ち尽くした状態となる。

 

「う~!! うう~~~っ!!」

 

「へっへっへっへっ! 良~く分かってんじゃねえか………オイ! お前等!! タップリと恨みを晴らしてやれ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

田代がそう言い放つと、族の連中がキタンを袋叩きにし始める。

 

「う~っ!! うう~~っ!!」

 

キタンが一方的にボコボコにされる姿に、のほほんは目に涙を浮かべて必死に声を挙げようとする。

 

しかし、猿轡はビクともしなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

キタンとのほほんを探し回っているグレン団の一同は………

 

「クッソッ! 何処だぁ!?」

 

街中を走り回り、時折チンピラを締め上げながらキタンの行方を追っている神谷だったが、未だに居場所は突き止められていない。

 

「神谷!!」

 

と其処で、分かれて探していたシャルと偶然合流する。

 

「おう、シャル! 如何だ!?」

 

「駄目だよ! 全然目撃情報が無いよ!!」

 

「チイッ! こうしてる間にも、のほほんとあの野郎(キタン)が危ねえってのに………」

 

流石の神谷も焦りを見せ始める。

 

「よう、お困りかい? “グレン団の鬼リーダー”さん」

 

すると其処で、神谷にそう言う声が掛けられる。

 

「ああん?」

 

神谷がその声がした方を振り返ると、其処には紺色のスーツの上にピンク色のトレンチコートを羽織り、同色の帽子を被った男が居た。

 

「よう」

 

気さくに神谷に挨拶するピンクコートの男。

 

「誰? 神谷の知り合い?」

 

男に見覚えの無いシャルは、神谷にそう尋ねる。

 

「村雨! 『不死身の村雨 健二』じゃねえか!!」

 

と、ピンクコートの男を見た神谷が、そう声を挙げる。

 

「久しぶりだな。噂は聞いてるぜ。大活躍してるそうだな」

 

ピンクコートの男………不死身の村雨 健二は不敵に笑ってそう言う。

 

「不死身の村雨 健二?」

 

「そっちのお嬢さんは、フランスの代表候補生でデュノア社社長の隠し子、シャルロット・デュノアか」

 

「!?」

 

要領を得ないでいると、健二が自分の素性をサラッと漏らした為、警戒を露わにするシャル。

 

「おっと、悪い悪い。そう警戒すんなって。俺は“国際警察機構のエキスパート”さ」

 

其れを見た健二は、手を上げながら宥める様にそう言う。

 

「!? 国際警察機構って………()()国際警察機構!?」

 

其れを聞いたシャルが驚きを露わにする。

 

国際警察機構とは………

 

その名の通り、“国の枠組みを越えた警察組織”の事である。

 

IS登場以前より活躍しており、様々な難事件を解決している。

 

噂では、“所属する人間は皆超人であり、()()()ISを撃墜した事が有る”等と(まこと)しやかに囁かれている。

 

「何だよ、オイ! 日本に来てたのかよ!?」

 

「ああ、ちょいと事件を追って、帰郷がてらな」

 

そんな、国際警察機構のエキスパート・健二と親し気にしている神谷。

 

「あ、あの、神谷………神谷って、国際警察機構の人とも親しいの?」

 

「ああ、ちょいと縁が有ってな」

 

「其れで如何した神谷? 珍しく随分と焦ってたみたいだが?」

 

と其処で、健二が逸れ掛けていた話を元に戻す。

 

「っと! そうだった!!」

 

神谷は思い出した様に、健二へ事情を説明するのだった。

 

 

 

 

 

「成程………其れなら、“関係が有るかも知れん話”が有るぞ」

 

「! 本当か!?」

 

「ああ。そのキタンに潰されたゴロツキ共の残党を、田代って男が集めているって話だ」

 

「田代って、確か………」

 

シャルは記憶を辿り、キタンに電話を掛けて来た男の名前と一緒だと思い出す。

 

「其奴等は、この先の埠頭に在る廃倉庫を溜まり場にしているそうだ。恐らく、キタンって男と本音って少女も其処に居るだろう」

 

「そうか! あんがとよ、村雨!!」

 

「フッ………(ついで)に手も貸すか?」

 

神谷が感謝を述べると、健二は不敵に笑ってそう言う。

 

「いや! コイツは俺達グレン団の問題だ! 俺達がケリを着けるぜ!!」

 

「そうか………頑張れよ」

 

「おう! 行くぜ、シャル!!」

 

そう言って走り出す神谷。

 

「あ! 待ってよ、神谷ぁっ!!」

 

シャルは慌ててその後を追うのだった。

 

「フフフッ」

 

そんな神谷とシャルの姿に、健二はまたも笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

キタンとのほほんは………

 

港の埠頭・とある廃倉庫内………

 

「…………」

 

ボロボロにされたキタンが、倉庫の床に俯せに倒れている。

 

「うう~~~っ!!」

 

涙を流しながら、猿轡されたまま叫ぶのほほん。

 

「へへへっ、ザマー見ろ」

 

「俺達を散々コケにしてくれた罰だぜ」

 

キタンを取り囲んでいる族達は、下衆な笑みを浮かべて口々にそんな事を言い放つ。

 

「オイ、キタンちゃんよぉ? 生きてるよなぁ?」

 

と其処で、田代がキタンの髪の毛を摑んで顔を上げさせる。

 

「う………うう………」

 

顔も酷くボコボコにされている状態で、キタンは呻き声を漏らす。

 

「お~、生きてたか~。結構結構………お楽しみはコレからだからなぁ~。今ココで死なれちゃ困るんだよ~」

 

芝居掛かった口調で田代は、キタンにそう言い放つ。

 

「………ペッ!」

 

そんな田代の顔に向かって、キタンは血の混じった唾を吐き掛ける。

 

「ぬあっ!? 此奴!!」

 

途端に田代は、キタンの顔面を床に叩き付ける。

 

「ガッ!?」

 

「テンメェ、フザけやがってっ!! この! このぉっ!!」

 

更に、足でキタンの頭を何度も踏み付ける。

 

「た、田代さん! 落ち着いて下さい!!」

 

「今此処で殺っちまったら、元も子も有りませんよ!!」

 

族のメンバーが、慌てて止めに入る。

 

「フーッ! フーッ!………ったく! この野郎が!! 今に泣いて許しを乞わせてやるぜ!! オイ! やるぞ!!」

 

「「「「「「「「「「ヘイッ!!」」」」」」」」」」

 

若干息を切らせた田代がそう言うと、族のメンバーがキタンを引き摺り、のほほんを連れて倉庫を出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

港の埠頭………

 

キタンは両腕を鎖で縛られ、その鎖は族の1人が乗った改造バイクに繋がれている。

 

改造バイクは、先程から頻りにエンジンを噴かしている。

 

如何やら、西部劇宜しく引き回しにするらしい。

 

「へっへっへっ………如何だい、キタンちゃ~ん? 泣いて謝るなら今の内だぜ~」

 

下衆な笑いを挙げながら、田代はキタンにそう言い放つ。

 

「…………」

 

しかしキタンは、其れに睨み付けるという形で答えを返す。

 

「へっ! そうかよ!! オイ! やれ!!」

 

「ヘイッ!!」

 

田代が、改造バイクに跨っていた不良にそう呼び掛けた瞬間!

 

遂に改造バイクが走り出した!!

 

「!? うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

思わず声が挙がってしまうキタン。

 

しかし、改造バイクに跨った族は止めるどころか益々スピードを上げ、更には左右への移動をも加えてキタンを引き摺り回す。

 

「!!」

 

痛々しい光景に、最早本音は見て居られなくなり、目を閉じて顔を逸らす。

 

「おおっと! 其奴はいけねえなぁ! 良く見ておけ!!」

 

「!?」

 

しかし、田代が無理矢理顔を向けて目を開かせ、キタンの様をのほほんに見させる。

 

「へっへっへっ! 覚悟しておけ………アイツを殺り終わったら、お前をたっぷりと()()()()()()()ぜ!!」

 

「! う、うう~~っ!!」

 

流石ののほほんも、その言葉の意味を察し身を攀じるが、彼女を拘束している縄はビクともしなかった。

 

「ヒャッハーッ! 如何だぁ、キタン! 今の気分はよぉ!!」

 

キタンを引き回している族は、段々とテンションが上がって行き、益々スピードを上げる。

 

「ヒャハハハハハッ!………ハッ?」

 

と其処で正面を向いた瞬間、族の目に人影が飛び込んで来る。

 

「…………」

 

其れは、長刀を背負った神谷の姿だった。

 

「んだ、テメェは!? 轢き殺すぞ!!」

 

改造バイクに乗っている族は、当然神谷を跳ね飛ばそうとする。

 

すると………

 

「禁断の必殺技! ブレーキパンチ!!」

 

神谷は、右にスーッと横にズレる様に動いたかと思うと左手で拳を作り、改造バイクの左のハンドルのブレーキを殴り付けた!!

 

「!? うおわぁっ!?」

 

急に前輪のブレーキが掛かり、改造バイクは前のめりになったかと思うと、乗っていた族が人形の様に投げ出され、そのまま海へと落下する!!

 

「良い子は真似すんなよ」

 

悪い子もしてはいけません。

 

「んなっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

田代も族達も、突然現れた乱入者に驚く。

 

「テ、テメェ………」

 

「オイオイ、ボロボロじゃねえか。大丈夫か?」

 

キタンの腕を縛っていた鎖を素手で引き千切る(!?)と、神谷はキタンを助け起こしながらそう言う。

 

「テ、テメェの手は借りねえ………」

 

「安心しろ。別に()()()()助けに来たワケじゃ無え。“煩くて目障りな連中”を叩き潰しに来ただけよ」

 

意地を張るキタンに、神谷はそう言い放ち立ち上がる。

 

「………へっ! “そう言う事”にしておいてやるぜ」

 

キタンもそう言って、不敵に笑うと立ち上がる。

 

「「「「「「「「「「ううっ!?」」」」」」」」」」

 

2人から立ち昇る異様な迫力の前に、族達は怯む。

 

「ええい! テメェ等! 何ビビってやがる!? 安心しろ!! コッチには未だ“人質”が居んだろうがぁ!!」

 

其処で田代が、一同にそう言い放つ。

 

「オイ! テメェ!! 何処の馬の骨だか知らねえが! 動くとコイツを………」

 

と、其処まで言い掛けた瞬間………

 

「ていっ!!」

 

ISを装着した状態で現れたシャルが、のほほんを捕らえていた族に飛び蹴りを喰らわせた!!

 

「ガバッゴハッ!?」

 

ボールの様にバウンドしながらブッ飛んで行くのほほんを捕まえていた族。

 

「んなぁっ!? “IS”!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然現れたISに、田代だけで無く族達も驚きを露わにする。

 

「本音! 大丈夫!?」

 

そんな田代達の驚きを余所に、シャルはのほほんの縄と猿轡を解く。

 

「プアハッ! でゅっちー!!」

 

今までの恐怖からか、シャルに抱き付くのほほん。

 

「良かったぁ、無事で………」

 

「な、何でISがこんな所に来るんだよぉ!?」

 

シャルが安堵の声を挙げる中、族達は狼狽え始める。

 

「オ、オイ………アレってひょっとして………フランス代表候補生のシャルロット・デュノア!?」

 

其処で族の1人が、シャルの事を知っていたらしく、そう声を挙げる。

 

すると………

 

上空から現れたISやグラパール、ダンクーガを纏った状態のグレン団の一同が族達を取り囲んだ!!

 

「お前等! 良くもキタンさんとのほほんさんを!!」

 

下種(ゲス)共が………」

 

「汚らわしい………」

 

「絶対に許さないわよ!!」

 

「万死に値する」

 

「お姉さん、久しぶりにキレちゃったよ~」

 

一夏・箒・セシリア・鈴・ラウラ・楯無から怒りの声が挙がる。

 

特に楯無等は()()()

 

笑っているにも関わらず、目が据わっている………

 

「!? げげっ!?」

 

「こ、コイツ等!? 全員、専用機持ちじゃ無えか!?」

 

族達の顔が、忽ち恐怖に歪む。

 

「テメェ等みてぇなのをなぁ………クズって言うんだよ!」

 

「私だって! 怒りを抑えられない時は有ります!!」

 

「やってやるニャッ!!」

 

グラパール・弾は拳を鳴らし、グラパール・蘭とファイナルダンクーガも怒りを露わにしている。

 

「チ、チッキショウ! 掛かれ、お前等!!」

 

「ちょっ!? 冗談じゃ無いですよ、田代さん!! ISに勝てるワケ無いじゃ無いッスか!!」

 

「うるせえ! やらなきゃ俺達はお終いなんだ! 死ぬ気で戦えぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「う、うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

最早、恐怖から正常な判断が出来なくなっていた族達は、一斉に手近なグレン団メンバーへと掛かって行こうとする。

 

と、その途端!!

 

爆音と共に銃弾が飛び、族の改造バイクを次々に撃ち抜いて行く!!

 

「ギャーッ!?」

 

「ムギョーッ!?」

 

悲鳴と爆発音と共に、宙に舞う族達。

 

「…………」

 

攻撃の主は簪だった。

 

構えたヘヴィマシンガンを、無言のままフルオートで撃ち捲り、淡々と族の改造バイクを次々に撃ち抜いて行く。

 

如何やら、親友を危険な目に遭わされたのが余程頭に来ているらしい。

 

その姿は、正に恐怖を体現している。

 

「…………」

 

唯々無言でヘヴィマシンガンを連射する簪。

 

恐い………恐過ぎる。

 

しかし其れでも、“1人の()()も出していない”辺りに、彼女の操縦技術の高さと、ISの高性能さを改めて認識させられる。

 

「行くぞぉっ!!」

 

「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」

 

更に其処へ、一夏達も参戦。

 

地獄絵図が増して行く………

 

「行けるか?」

 

「へっ! 誰に言ってやがる!!」

 

「フッ………行くぜぇっ!!」

 

「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」

 

トドメとばかりに、神谷とキタンも雪崩れ込む。

 

地獄は加速する………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

其処には、すっかりボコボコにされ、山の様に積み上げられた暴走族達の姿が在った。

 

「あ…………あ…………」

 

その1番下にされている田代は、言葉にならない声をプツプツと漏らしている。

 

「………オイ」

 

そんな田代の前に座り込み、睨みを利かせる神谷。

 

「ヒイッ!?」

 

「今度“俺の仲間”に手ぇ出してみろ………そん時にゃあ………土手っ腹と頭に風穴開けてやるぜ」

 

田代を睨み付けながら、神谷はそう言い放つ。

 

恐らく、本気(マジ)でやる積りだろう。

 

「ヒイッ! わ、分かりましたぁ!! もう2度と手ぇ出しません! だから!………助けてええええぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!………あ………」

 

田代はそう叫んだかと思うと、そのまま気を失った。

 

「ケッ! 三下が………」

 

神谷は、そんな田代に悪態を吐く。

 

「本音! 良かった~、無事で!」

 

「お姉ちゃん!!」

 

その背後では、のほほんの無事を知った虚が彼女を抱き締めている。

 

「兄ちゃん、大丈夫?」

 

「ジッとしててね………」

 

「今手当すっからな~」

 

「イダダダダダッ!? もっとそっとやれ! そっと!!」

 

その傍では、キタンが妹達に手当てを受けている。

 

「キタンさん………」

 

「あん?」

 

「ありがとうございます。妹を助けていただいて」

 

虚はそう言って、キタンに向かって深々と頭を下げる。

 

「ヘッ………気にすんな」

 

キタンは、只短くそう返す。

 

「あの~………キタンさ~ん」

 

と其処で、今度はのほほんがキタンの傍に寄る。

 

「おう、本音」

 

「ゴメンナサイ………私の所為で………」

 

「オイオイ! だから気にすんなって!!」

 

「あと………コレはお礼です!!」

 

と其処でのほほんは、キタンに顔を近付けたかと思うと、そのまま彼の頬に口付けた!

 

「!?」

 

「キャーッ!!」

 

「大胆………」

 

「おお~! やるね~!!」

 

キタンは一瞬で真っ赤になり、キヨウ・キノン・キヤルが冷やかす。

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 

一夏達も、のほほんの大胆な行動に呆気に取られている。

 

「ヒューヒューッ! お熱いね~、お2人さん!!」

 

そして神谷は、2人を冷やかす。

 

と、その瞬間………

 

真っ赤になったままのキタンがブッ倒れた!!

 

「!?」

 

「兄ちゃん!?」

 

「気絶してる………」

 

「ったく~。“変なところ”で純情(ウブ)なんだから~」

 

のほほんとキヨウが驚き、キノン、キヤルが呆れた言葉を漏らす。

 

「フハハハハハハッ!!」

 

一夏達が如何リアクションすれば良いのか分からぬ中、神谷だけは大笑いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

潰した暴走族の残党達に報復を受けるキタン。
そんなキタンを探し回るグレン団。
そこで特別出演でOVA『ジャイアントロボ 地球が静止する日』から国際警察機構のエキスパート『不死身の村雨健二』が登場。
情報の入手に成功したグレン団は乱入。
瞬く間に暴走族を血祭にあげまる(笑)
キタンとのほほんの仲も上手く行き、万々歳です。

さて、次回からいよいよクライマックスへ向けての展開となります。
と言ってもまだ30話以上ありますが、グレン団を取り巻く状況が大きく変わって行く事になります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第94話『………島が見えるぞ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第94話『………島が見えるぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???………

 

「漸く完成か………長かったなぁ」

 

「資材を手に入れるにも一苦労でしたからね………」

 

何処かの研究室らしき場所で、束とくーちゃんがそう言い合う。

 

2人の目の前に展開しているモニターには、何か“巨大な物体”が映し出されている。

 

「今や、世界の戦況はロージェノム軍側が完全に有利だからね………」

 

「コレまでにも多くのダミー研究所が破壊されています。此処が発見されるのも時間の問題かと思われます」

 

「うん。急いでかみやん達に………」

 

と、束がそう言い掛けた瞬間!!

 

突如研究室内に、けたたましい警報音が鳴り響いた!!

 

「!? 如何したの!?」

 

「ちょっと待って下さい」

 

束が慌てると、くーちゃんは冷静に目の前に投影ディスプレイを出現させて、状況を調べる。

 

「! 近くの洋上に巨大なエネルギー反応! ロージェノム軍のダイガンです!!」

 

「洋上………って事は、流麗のアディーネのダイガンカイ!!」

 

くーちゃんの報告に、束がそう声を挙げた瞬間!!

 

爆発音と共に、研究室に振動が走る!!

 

「キャアッ!?」

 

「ミサイル攻撃です! クウッ! とうとうこの場所も感付かれた様です!!」

 

「くーちゃん、急いで!! 『インフィニット・ノア』のドックまで避難するよ!!」

 

「ハイ!!」

 

束とくーちゃんはそう言い合うと、研究室を飛び出して通路を走り出す。

 

直後に研究室に直撃弾が有ったのか、天井が崩れ、炎に包まれる。

 

尚も爆発音と振動が襲い来る中、束とくーちゃんは、必死になって何処かを目指して走っている。

 

しかし、徐々に爆音と震動は激しくなり、遂に束とくーちゃんの頭上の天井が崩れる!!

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーっ!?」

 

「束様ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

2人の声が響き渡る中、その姿は瓦礫に埋もれて行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日………

 

IS学園の地下・リーロンの研究室にて………

 

「ふあああああ~~~~~んだよ、ブラコンアネキ。こんな朝早くから呼び出してよぉ」

 

早朝から千冬に呼び出されたグレン団メンバーの中で、神谷が眠そうに大欠伸をしながら、千冬にそう問い質す。

 

「………篠ノ之。良いか?」

 

もう注意する事にも疲れたのか、千冬は神谷の態度をスルーすると、箒へ呼び掛ける。

 

「………ハイ」

 

箒は、神妙な面持ちで返事を返す。

 

「うむ………」

 

千冬が頷くと、グレン団の一同からも見える様に、空中投影ディスプレイを展開させる。

 

『SOS、緊急事態発生! グレン団の一同に至急救援を請う! 場所はポイントN1! 篠ノ之 束』

 

そして、メールとして打たれたらしき物らしき電文が表示される。

 

「!? 束さん!?」

 

「オイ! こりゃ()()()()束の奴からか!?」

 

その電文を見た一夏が驚きの声を挙げ、神谷も一気に目を覚ます。

 

他の一同も、多かれ少なかれ驚きを露わにしている。

 

「間違い無い………()()だ。今朝方、篠ノ之の携帯電話に直接送られて来たそうだ」

 

「………コッチからの連絡には応じても、“自分からは()()()連絡を寄越さない”姉さんが送って来たメールだ。信頼性は高い、と思う」

 

其れに対し千冬が返答すると、箒もそう声を挙げる。

 

「オイ、箒」

 

すると、神谷が箒へ声を掛ける。

 

「? 何だ?」

 

「何だじゃねえよ。“姉貴からのメール”なんだろ? 信頼性とか何だとかよりも………()()()()()は、そのメッセージを如何思ってんだ?」

 

箒を見据えながら、神谷はそう問う。

 

「わ、私は………」

 

一瞬、逡巡するかの様な様子を見せたが………

 

「私は………あの人を………姉さんを信じたい!!」

 

やがて“迷い無き瞳”でそう答える。

 

「そうか………良し、お前等ぁっ!! 束の奴を助けに行くぞぉ!!」

 

其れを聞いた神谷は、ニヤリと笑うと一同に向かってそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

一夏達もノリ良く、勇ましい返事を返す。

 

「素晴らしい団結力ね」

 

「…………」

 

そんなグレン団の団結力を褒めるリーロンと、何と無く“疎外感”を感じる千冬。

 

「ただ、ちょっと“気になる事”が有るんです」

 

と其処で、今まで事の成り行きを見守っていた真耶がそう声を挙げる。

 

「? 山田先生。何ですか? 気になる事って?」

 

其れを聞いたシャルがそう尋ねる。

 

「ハイ。篠ノ之博士が言う『ポイントN1』と言うのは………この辺りの事なんですが………」

 

真耶はそう言うとコンパネを操作して、空中投影ディスプレイに世界地図を映し出す。

 

すると、その世界地図の“太平洋上のと或る地点”が発光する。

 

「其処は………」

 

「そうなんです。地図上では、この地点には()()()()()なんです」

 

セシリアが何かに気付いた様に声を挙げると、真耶がそう説明する。

 

「如何言う事だ?」

 

「まさか、ロージェノム軍の罠じゃ?」

 

「その可能性も十分に考えられるね」

 

ラウラ、鈴、楯無は考え込む様子を見せる。

 

「んなもん行ってみりゃ分かるだろ。今まで“世界中の連中から逃げ回ってた”束だぜ。コッソリ無人島でも造ってたのかもしんねえぞ」

 

「いや、アニキ。流石に“無人島を造る”ってのは無理が無いッスか?」

 

神谷がそう言い放つが、弾にツッコミを入れられる。

 

「いや、弾。束さんの場合、()()()()から困るんだ………」

 

「ええっ!? 本当ですか!?」

 

すると一夏がそんな事を言い、蘭が驚きの声を挙げる。

 

「「…………」」

 

そんな声に、千冬と箒は無言で視線を逸らしている。

 

「マジかよ………?」

 

その態度に、弾は一夏が言った事が真実であると悟る。

 

「兎に角………神谷の言う通り………行ってみるしか無いわね」

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ず~」

 

簪がメガネのレンズを光らせながらそう言い、のほほんもノリノリな様子でそう言う。

 

「アラ、本音、良く知ってたわね?」

 

「? 如何言う意味?」

 

そんなのほほんの姿に軽く驚く虚と、のほほんの言った言葉の意味が分からず、虚に尋ねるティトリー。

 

「簡単に言えば、“危険を冒さなければ大きな成功は摑めない”って事よ」

 

「おお! 正にグレン団の為に有る様な言葉じゃねえか!!」

 

虚が説明すると、その言葉が気に入ったのか、神谷が飛び付く。

 

「取り敢えず、今日はお前達は公欠扱いだ。私と共にこの地点の調査に向かう」

 

「えっ!? 千冬ね………織斑先生も来るんですか?」

 

千冬がそう言うと、一夏が驚きを示す。

 

「私も、束には色々と“訊きたい事”が有る。こう言うのも何だが、“()()学園に居る生徒の数”なら、残っている教員だけで対処出来る」

 

「私も同行します。今回ばかりは事が事ですから」

 

千冬がそう説明すると、真耶もそう言い放つ。

 

「よっしゃ! そうとなりゃ善は急げだ!! 直ぐ出発するぞ!!」

 

最後に、神谷がその場を纏める様にそう言い放ち、グレン団と千冬に真耶は、束の指定したポイントN1へと出発する準備に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

リーロンが密かに用意して置いたジェットエンジン式の飛行艇に乗り込み、一同はIS学園からポイントN1へと飛び立った。

 

 

 

飛行艇内………

 

「この辺りの筈だよなぁ?」

 

飛行艇の窓から、外の景色を覗き見る一夏。

 

しかし、広がっているのは何処までも続く大海原だけで、他には何も無い。

 

「見渡す限り海ばかりで、他には何も無いッスけどねぇ………」

 

隣の窓から、同じ様に外を見ていた弾もそう言う。

 

「落ち着け、馬鹿者共。未だ捜索を始めたばかりだろうが」

 

「ポイントN1と行っても、かなり広い範囲の事を示しますからねぇ」

 

そんな2人に、飛行艇の操縦席で操縦を担当している千冬と真耶がそう言う。

 

「んん?」

 

とその時、一夏や弾と同じ様に窓から外を眺めていた神谷が“何か”を発見する。

 

「神谷? 如何したの?」

 

「………島が見えるぞ」

 

シャルが尋ねると、神谷はそう返す。

 

「えっ!? ちょっと見せて!!」

 

其れを聞いたシャルは、神谷に退いて貰って、彼が覗いていた窓から外を見遣る。

 

しかし、広がっているのは何処までも青い海原だけだった。

 

「アレ? 神谷、島なんて見えないけど………」

 

怪訝な顔をしながら神谷にそう言おうとしたシャルだったが………

 

「オイ、ブラコンアネキ! 進路変更だ!」

 

既に神谷は操縦席へ行き、千冬に進路の変更を提案していた。

 

「何を言っている?馬鹿者。お前の意見だけでそう簡単に………」

 

「ああ、もう! 退きやがれ!!」

 

千冬が何を馬鹿な事をと言うと、神谷は千冬を無理矢理操縦席から押し退ける!!

 

「うわっ!? 貴様!?」

 

「其れぇ行くぜぇーっ!!」

 

そして、思いっ切り操縦桿を倒して機体を旋回させる。

 

「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

急激な旋回に、中に乗っている一夏達は振り回される形となる。

 

「ちょっ! 神谷ぁっ!!」

 

「アンタ! 免許持ってんの!?」

 

シャルと鈴が神谷にそう言い放つ。

 

「心配すんな! ○の豚とトッ○ガンは死ぬ程観たぜ!!」

 

「其れは映画だろうっ!?」

 

「其れぇ、急降下ぁっ!!」

 

箒のツッコミをスルーし、神谷は調子に乗ってアクロバット飛行を繰り出す。

 

「「「「「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

またも振り回される一夏達。

 

「シ、シートベルトを!!」

 

「神谷さんの馬鹿ーっ!!」

 

ティトリーと蘭の悲鳴が挙がる中、神谷による地獄のフライトは暫く続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

グレン団の一同を乗せた飛行艇は、神谷が見たと言った島に辿り着く。

 

「見えたぜ、あの島だ」

 

「「「「「「「「「「はらほろひれはれ~~~」」」」」」」」」」

 

神谷はそう言うが、他のメンツはアクロバット飛行の影響ですっかり伸びていた。

 

「何だ、お前等。だらし無えなぁ」

 

「か、神谷………貴様は………うっぷっ!?」

 

文句を言いたい千冬だったが、喋ると吐いてしまいそうになる為、黙り込む。

 

「そ、其れにしても………“こんな所”に島が在るだなんて………」

 

今だアクロバット飛行のダメージを引き摺りながらも、真耶が窓の外に見える“地図に載っていない島”を見てそう言う。

 

「? ちょっと待って。あの島………何だか変よ?」

 

すると其処で、窓から島の様子を見ていた楯無がそう声を挙げる。

 

「お嬢様?」

 

「変って、何処が~?」

 

虚とのほほんは、楯無にそう尋ねる。

 

「神谷くん。もっと高度を落としてくれない?」

 

「よし来た!」

 

楯無に言われて、神谷は飛行艇の高度を下げる。

 

………って言うか、ナチュラルに操縦しとる!

 

飛行艇が高度を下げて、島の周りを旋回飛行し始めると、島の概要が見えてくる。

 

島はかなり広大な面積を有しており、まるでギアナ高地の様な豊かな自然が広がっている。

 

しかし………

 

その所々に、“爆撃を受けた”かの様な跡が見受けられる。

 

「コレは………」

 

「酷いですわ………」

 

爆撃の跡を見たラウラとセシリアが、表情を険しくする。

 

「ロージェノム軍の仕業か?」

 

「だとしても………何故こんな“何も()()島”を攻撃したのかしら………?」

 

一夏の言葉に、簪がそう疑問を呈する。

 

確かに彼女の言う通り、この島には人工的な建造物は無く、人影も見当たらない。

 

“戦略上の意味”は何も無いように見える。

 

「兎に角、調べてみるしか有るまい」

 

千冬は、島の様子を見てそう判断する。

 

「よっしゃっ! 着水するぜ!!」

 

「だからお前は、操縦席から離れろ!!」

 

そして、未だ操縦席で操縦桿を握っていた神谷を如何にか退かし、着水の態勢に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名も無き無人島の砂浜………

 

広く白い砂浜の海に、グレン団を乗せた飛行艇は着水。

 

そのままその砂浜へと係留し、グレン団の一同は次々に島へと上陸する。

 

砂浜から少し行った場所には、鬱蒼としたジャングルが広がっている。

 

「まるで魔境だな………」

 

そんなジャングルの様子を見た一夏が、そんな言葉を漏らす。

 

「この島に姉さんが………」

 

箒はそう呟き、落ち着かない様子を見せる。

 

「落ち着け、篠ノ之。未だ“そう”と決まったワケでは無い」

 

と其処で、探検家の様な恰好をした千冬がそう言い、一同の前に出る。

 

「さて、お前達。取り敢えず我々はこの島を捜索する。この砂浜にベースキャンプを設置するので、此処を中心に捜索を開始する」

 

そして、当面の行動方針を話し始める。

 

「何が有るか分からん。単独では行動するな。必ず2人以上で行動しろ。良いな?」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

千冬の言葉に、ハッキリと返事を返す一夏達。

 

「お~い、束~! 居るのか~? 居たら返事しろ~!」

 

だが只1人、神谷だけはまたも“ナチュラルに”束を探して、ジャングルの中へと入って行った。

 

「っ! 人が話している傍から貴様はぁっ!!」

 

「あ、あの、織斑先生! 僕神谷に従いて行きます!! 待ってよ、神谷~っ!!」

 

そんな神谷に怒りを爆発させる千冬を見ながら、シャルは逃げる様にそそくさと神谷を追う。

 

「お、俺達も行くぞ!!」

 

更に、残ったメンバーもとばっちりを恐れて、一夏を中心に逃げる様に捜索に出て行った。

 

「全くアイツ等は………アツツツツッ!」

 

「ああ、織斑先生! ハイ、薬です!!」

 

またも神経性胃炎が再発した千冬に、同じ様な探検家姿の真耶が薬を渡す。

 

「お姉ちゃ~ん! 晩御飯はカレーが良いかな? 其れともバーベキュー?」

 

「う~ん、どっちにしようかしら?」

 

そして一連の喧騒を他所に、ベースキャンプとなるテントの設営と食事の支度を行っているのほほんと虚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探索組………

 

神谷&シャル………

 

「全く。ブラコンアネキは、煩くて仕方無えぜ」

 

「神谷ぐらいだよね。織斑先生にあんな態度取れるのは………」

 

千冬の様子を思い出し、気怠そうにしている神谷に、シャルがそうツッコミを入れる。

 

「其れにしても、神谷。よくこの島を見付けられたよね。僕が見た時は“何も見えなかった”のに」

 

「フッフッフッ! 神谷様の目に掛かりゃ、これぐらい朝飯前よ!」

 

(ホントに最近、()()()()して来てるよね。神谷………)

 

自慢気に語る神谷に、シャルは今度は“心の中で”ツッコミを入れる。

 

「束~~っ! 何処に居んだぁ~っ!! 出て来~いっ!!」

 

其処で神谷は、束への呼び掛けを再開する。

 

「って、言うか………ホントにこの島に篠ノ之博士が居るのかな?」

 

「束~!!」

 

シャルがそう言うのにも関係無く、神谷は束の事を呼び続ける。

 

と、その時………

 

シャルの近くの茂みがガサガサと音を立てた。

 

「!? まさか………篠ノ之博士!?」

 

若しやと思い、シャルは音がしている茂みへと近付くが………

 

シャアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

出て来たのは、まるで映画にでも出て来そうな、10メートルは在ろうかと言う巨大な蛇だった。

 

「へっ?」

 

“思わぬモノ”の登場に、思わずシャルは呆然となってしまう。

 

シャアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

巨大蛇は、そんなシャルに容赦無く襲い掛かる!!

 

「! シャルッ!!」

 

其処で漸く気付いた神谷は、慌ててシャルを突き飛ばす。

 

「キャッ!?」

 

「うおわっ!?」

 

シャルが地面に倒れると、神谷が彼女の身代わりになる様に巨大蛇に巻き付かれる。

 

「! 神谷!!」

 

シャアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

巨大蛇はそのまま、神谷を絞め殺そうとする。

 

「ぐぐぐぐぐ………」

 

額に脂汗を滲ませる神谷だったが………

 

「舐めんじゃ………ねえぞおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

気合の叫びを挙げたかと思うと、両腕を広げて巨大蛇をバラバラに引き千切った!!

 

「うわっ!?」

 

自分の傍にも巨大蛇の死骸の一部が落ちて来て、思わず声を挙げるシャル。

 

「大丈夫だったか、シャル?」

 

「か、神谷こそ! 大丈夫だったの!?」

 

助け起こしに来た神谷に、シャルは手を借りながらもそう問い質す。

 

「ハハハハハッ! “あんなモン”で俺がやられるかよ!?」

 

神谷は、笑いながらそう言ってのける。

 

「流石神谷………」

 

シャルは、感心するしか無かった。

 

「よっし! 取り敢えず、()()()()()が手に入ったな」

 

すると神谷が、バラバラに引き千切った巨大蛇の死骸を持ち上げようとする。

 

「!? ちょっ!? ちょっと待って!! 神谷! 其れ食べる気!?」

 

其れを聞いたシャルが、慌てて神谷を止めながらそう問い質す。

 

「? 当たり前だろうが。蛇はウメェんだぞ」

 

「いや、でも! 流石に其れは………」

 

うら若き乙女としては、蛇を食べる等と言う“何処かのダンボール好きの伝説の傭兵”みたいな事は、出来れば遠慮したかった。

 

()()()()()はいけねえぞ、シャル」

 

そう言いながら、神谷はバラバラに引き千切った巨大蛇の死骸の一部を持ち上げる。

 

「そう言う問題じゃなくて~!」

 

「………ん?」

 

と其処で、神谷は何かに気付いた様に声を挙げる。

 

「? 如何したの?」

 

「オイ、シャル。コイツを見てみろ」

 

そう言うと、神谷は持ち上げた巨大蛇の死骸の一部をシャルに見せる。

 

「!? コレは!?」

 

其れを見て、シャルは驚愕する。

 

何故なら、引き千切られた“巨大蛇の切断部分”が、()()()()()だったからだ。

 

「ロボット………」

 

「こんなモン作るのは、アイツしか居ねえぜ」

 

そう言って、神谷は脳裏に束の姿を過らせる。

 

「多分、侵入者排除用のマシンってとこだろう。アイツを狙ってる連中は多いからな」

 

「篠ノ之博士………一体何処に………?」

 

神谷とシャルはそう言い合うと、ジャングルの木々の隙間から覗いている空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

探索組………

 

一夏&箒は………

 

「束さ~~ん! 居るんですか~? 返事して下さ~い!」

 

神谷と同じ様に束の事を呼びながら、箒の前を行って道を切り開き、捜索を行っている一夏。

 

「…………」

 

箒は、その後ろを無言で従いて行っている。

 

(千冬さんから逃げる為に、そそくさと探索に出て来てしまったが………まさか一夏と一緒になれるとは………)

 

千冬から逃げる為にさっさと探索に出た箒だったが、偶然にも一夏と一緒になり、内心ドギマギしている。

 

他のメンバーは今頃、恐らくぎぎぎぎぎぎぎぎっ!な状態であろうが………

 

「なあ、箒」

 

「!? な、何だ!?」

 

と、不意に一夏から声を掛けられ、箒は若干吃りながら返事を返す。

 

「? いや、お前も束さんに呼び掛けろよ。“身内”なんだからさ」

 

怪訝に思う一夏だったが、深くは追及しなかった。

 

「そ、そうだな………(今は一夏と2人っきりだと言うのは忘れよう………先ずは姉さんだ)」

 

そう言われて、箒はそう考えを改め、束の捜索を開始する。

 

と………

 

そんな2人………と言うよりも、“一夏を見据えている瞳”が在った………

 

「オリムラ………イチカ………」

 

合成音声の様な声で、目を赤く発光させながら一夏を見据えている影………

 

果たして、その正体は?

 

そして束は、本当にこの島に居るのか?

 

インフィニット・ノアの謎とは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

謎の『インフィニット・ノア』なる物を作り上げた束。
しかし、ロージェノム軍の襲撃を受けてしまう。

束のメッセージを受け取ったグレン団はポイントN1へと向かい、未発見の無人島を見つける。
果たして束はこの島に居るのか?
そして、一夏を狙う者の正体は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第95話『何が足りないって言うんだ!?』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第95話『何が足りないって言うんだ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如舞い込んで来た、束からのSOS………

 

其れを信じたグレン団は、SOSの電文に記されていたポイントN1へと向かった。

 

そして、“海しか無い”筈のその場所に、名も無き無人島を発見する。

 

その無人島に、爆撃を受けた様な跡を発見したグレン団は、直ちに島の探索を始める。

 

しかし、そんな中………

 

一夏を見据える謎の不気味な瞳がある事を………

 

この時、一夏本人さえも気付いていなかった………

 

 

 

 

 

ポイントN1の無人島………

 

日が暮れるまで捜索を続けていたグレン団だったが、広大な面積を誇る島を1日で全て調査する事は出来ず………

 

結局、束への手掛かりは特に見付けられず、夜を迎えようとしていた。

 

 

 

海岸のベースキャンプ………

 

焚火の周りに集まったグレン団の面々は、其々の捜索の結果を報告し合っている。

 

「そうか………特に手掛かりは無しか………」

 

「だが、この島に居るのは間違い無え。“こんなモン”造るのはアイツぐらいのもんだ」

 

神谷が、例の“巨大蛇ロボット”の残骸を見せながらそう言う。

 

「実は、私達も………」

 

「“似た様なモノ”に襲われたわ」

 

「うむ………」

 

更に、セシリア・鈴・ラウラがそう言い、其々に熊ロボット・虎ロボット・大鷲ロボットの残骸を見せながらそう言う。

 

「全く束め………“侵入者避け”とは言え、こんな物を造りおって………」

 

そのロボットの残骸を見下ろしながら、千冬は愚痴る様にそう呟く。

 

「でも、若しこの島に“居る”として、篠ノ之博士は何処に居るのかしら?」

 

「今日の捜索では………発見出来なかった」

 

楯無がそう言い、アーマーマグナムを手入れしている簪もそう呟く。

 

「意外に広い島ですからね。1日の探索で全てを見るのは難しいでしょう」

 

「取り敢えず残りは明日にして、今日はもう休んで下さい。ハイ、晩御飯です」

 

真耶がそう言うと、虚がそう言いながら、一同にカレーライスを配って行く。

 

「おおっ! カレーじゃねえか!!」

 

「いっぱい有るから、ドンドン食べてね~」

 

神谷がそう声を挙げると、カレーのルーが入った鍋の前にいたのほほんがそう言う。

 

「ハイ、弾くん。お腹空いたでしょう? いっぱい食べてね」

 

「ああ。ありがとうございます、虚さん」

 

カレーの器を、弾に直接手渡しする虚。

 

リア充、爆発しろ。

 

「御代わり!」

 

「はやっ!!」

 

直ぐ様1杯目のカレーを平らげた神谷に、驚きの声を挙げるシャル。

 

「は~い、どうぞ~」

 

「あんがとよ………ガツガツガツガツ………御代わり!」

 

「だから、早いってば!!」

 

2杯目も瞬く間に平らげた神谷に、またもシャルのツッコミが入るのだった。

 

そのまま、楽しい夕食タイムは過ぎて行く………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

すっかり夜も更け、空には満天の星空が輝く中………

 

グレン団の一同は、ベースキャンプのテントの中で休息に入っていた。

 

無論、男女別々である。

 

「「ZZZZZZZZzzzzzzzzzーーーーーーーーーー」」

 

男子用のテントの中で、凄まじいイビキを掻いて寝ている神谷と弾。

 

知らない人が聞いたら、熊か何かと思われそうなイビキである。

 

「………ええい、寝てても煩い連中だ」

 

やや離れた、女子用のテントにまでそのイビキが聞こえて来て、目が覚めてしまった箒が抗議しに行こうと、テントの入り口を開ける。

 

「? 一夏?」

 

しかし其処で、一夏が男子用テントから出て行こうとしているのを目撃して、思わず隠れる。

 

「…………」

 

一夏は、そんな箒には気付かなかった様子で、シュバルツから渡された錆びた刀を持つと、ジャングルの奥へと向かって行った。

 

「アイツ………未だ“あの修行”をしていたのか」

 

最近、すっかり見掛けていなかったので、てっきり“完成”させていたと思われる修行を未だしていた事に、箒は驚く。

 

(そんな事も察してやれなかったとは………何をしているんだ、私は)

 

そして、其れに気付けなかった自分に自己嫌悪する。

 

「…………」

 

少しの間、思い悩む様子を見せていた箒だったが、やがて一夏を追う様に自分もジャングルに入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、先にジャングルへと入って行った一夏は………

 

「………この辺で良いか」

 

適当な場所へと辿り着くと、刀を背に背負う様にし、鞘から抜き放つ。

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

そして、正眼に構えると目を閉じて集中し、気合を高めて行く。

 

すると、錆びてボロボロの刀の刀身が、銀色に輝き出す。

 

「! とりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

クワッ!と目を見開いたかと思うと、目の前に在ったヤシの木の幹へ、刀を袈裟掛けに振るう!!

 

しかし刀の刃は、後少しでヤシの木の幹を切断すると思われたところで止まる。

 

「クウッ!………駄目だぁっ!!」

 

刀をヤシの木の幹に刺したまま、一夏は両膝を着いた。

 

「何故だ! 何故俺は怒りを感じなくてもスーパーモードを出せた!? 簪を守った時! ダイガンテンと対決した時! そして、其れは土石流さえも跳ね除けた! 一体俺の()が! スーパーモードへ繋がるんだぁ!?」

 

悔しさを滲ませた声で、一夏は地面を何度も殴り付ける。

 

「一夏………」

 

その様子をコッソリ覗き見ていた箒は、そんな一夏の様子に居た堪れなくなる。

 

「い………」

 

思わず一夏に声を掛けようとした箒だったが、寸前で止まる。

 

例え声を掛けたとしても、何を言って良いか分からなかったからだ。

 

更に神谷に以前、“男は1人で()()()()()()()のだ”と言われた事を思い出す。

 

「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

と其処で、一夏は刀をヤシの木の幹から抜くと、別のヤシの木の幹に向かって振るう。

 

しかし、やはり切断する寸前で刃は止まってしまう。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

一夏は再びヤシの木の幹から刀を抜くと、また別のヤシの木の幹を切ろうとする。

 

その行為を繰り返す一夏。

 

「…………」

 

そんな一夏の姿を、箒は只黙って見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

一方………

 

そんな一夏を見守っている者がもう1人居た………

 

「一夏が此処まで修行に行き詰まっていたとは………」

 

シュバルツ・シュベスターである。

 

修行を課した本人だけに、やはり成果が気になる様である。

 

「ならば仕方有るまい!」

 

しかし、行き詰まっている一夏の姿を見て、シュバルツは“何か”を決意したかの様な表情となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

すっかりバテた一夏は、刀を支えに膝を着いている。

 

周りのヤシの木々は、どれも幹が切断寸前まで斬られている。

 

「クソォッ!………一体………何が足りないって言うんだ!?」

 

「一夏! 織斑 一夏!!」

 

「!? 千冬姉!?」

 

と其処で、千冬の声が聞こえた様な気がして周りを見廻す一夏。

 

「来い! 掛かって来い! 掛かって来んかぁ! 織斑 一夏!!」

 

「いや、違う! 千冬姉じゃない! 何者だぁ!? 何処にいるぅ!?」

 

しかし、直ぐに違うと気付き、声の主に向かってそう言う。

 

すると………

 

一夏の眼前の地面に、青い鬼火の様な炎が、円を描く様に走った。

 

「!?」

 

一夏が身構えた瞬間!!

 

「フハハハハハハハッ!!」

 

お馴染みの高笑いと共に、その炎の円の中にシュバルツが姿を現した。

 

「お前はっ!? シュバルツ・シュヴェスター!?」

 

「織斑 一夏! 見事、受けてみろ! ISファイトだああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

すると、シュバルツはシュピーゲルを装着した状態となり、一夏へと襲い掛かる!!

 

「レデイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ! ゴオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

「!? うわっ!?」

 

一夏が転がる様に逃げた瞬間、彼の背後に在ったヤシの木が、シュピーゲルブレードによって切断された!

 

「良くぞ躱した!!」

 

「ま、待て! 俺はアンタと戦う理由が無い!!」

 

「問答無用ッ!!」

 

シュバルツとは戦えないと訴える一夏だったが、シュバルツは容赦無くシュピーゲルブレードを振るって来る。

 

「うわっ!? アイツ、何を考えているんだ!?」

 

「そらそらそらそらそらそらぁっ!!」

 

木々が密集しているジャングルの中にも関わらず、シュバルツは木々など存在しないかの様な動きで、次々に一夏目掛けて斬撃を見舞う。

 

「ぐぅ! 何故だ! 何故奴はこんな中で、自由に動ける!?」

 

シュバルツの息をも吐かせぬ波状攻撃に、一夏はISを展開する事さえ出来ない。

 

「!? うわっ!?」

 

と其処で、一夏は木の根に足を取られ転倒してしまう。

 

「ふっはっはっはっはっ! はっはっはっはっはっ! 観念しろ一夏! 心静かに………死ねぇっ!!」

 

倒れた一夏目掛けて、容赦無くシュピーゲルブレードを振り下ろすシュバルツ。

 

「やられる! 死ぬ………俺が死ぬ…………な、何だ、この気分は………!?」

 

死を目前にした一夏に、“不思議な感覚”が生まれる。

 

「千冬姉………セシリア………鈴………シャルロット………ラウラ………楯無さん………簪………のほほんさん………弾………蘭………虚さん………山田先生………ティトリー………リーロン先生………束さん………」

 

脳裏に、次々と家族や親友達の姿が浮かんで来る。

 

「一切が過ぎ去って行く………もう怒りも憎しみも如何でも良い………在るのは“目の前”の死………」

 

と、最後に神谷………

 

そして箒の姿が浮かんだ。

 

「! アニキ! 箒!!」

 

その瞬間!!

 

「見えるっ!!」

 

錆びていた刀の刀身が緑色の光を放ち始め、シュピーゲルブレードを受け止めた!!

 

「おおっ!?」

 

その様に、シュバルツも思わず声を挙げる。

 

「な、何だこの光は!?」

 

だが、当の一夏はその光の正体が分からず困惑する。

 

「ううっ!? 眩しい………」

 

様子を覗いていた箒も、その光に目が眩む。

 

「こ、これは一体………!?」

 

「其れが貴様の()()()だ! 織斑 一夏!」

 

「ええっ!?」

 

困惑している一夏に向かって、シュバルツがそう言い放つ。

 

「貴様に課した修行は、明鏡止水を身に付けさせるものだった」

 

「明鏡止水?」

 

(わだかま)りや(やま)しさの無い“澄んだ心”。其れが明鏡止水だ。其れが“内なる螺旋の力”を目覚めさせ、人に()()()()()()を持たせる事が出来る」

 

「其れが俺のスーパーモード………けど! 何でアンタは、俺に其れを教えてくれるんだ!?」

 

「そんな事は如何でも良い! 今は技を完成させる事に集中しろ! その力で私のISを押し返してみろ! 其れが出来てこそ! お前はスーパーモードを完成させる事が………」

 

と、シュバルツがそう言い掛けた瞬間!!

 

突如、2人の周囲に次々と爆発が起こった!!

 

「!? ぬうっ!?」

 

「コレは!?」

 

シュバルツと一夏がたじろいだ瞬間………

 

2人の周囲に、ゴーレムⅠとゴーレムⅢの混成部隊が現れる。

 

ゴーレム部隊は、一夏とシュバルツを確認すると、一斉にカメラアイを不気味に発光させる。

 

「! 無人IS!!」

 

「ええい! 後1歩で修行が完成したものを………」

 

一夏が驚き、シュバルツがそう呟いた瞬間………

 

「オリムラ………イチカ………」

 

合成音声の様な声が聞こえて来たかと思うと、ゴーレム部隊の一部が割れ、其処から1人の“ISを装着した()()”が出て来た。

 

「!? お前は、オータム!!………なのか?」

 

その姿を見て、思わずそう問い掛けてしまう一夏。

 

何故なら、一夏がオータムと呼んだその人影の姿は………

 

肥大化した巨大な機械の左腕を持ち、IS・アラクネが、“身体にくっ付いているかの様な状態”になっており………

 

中でも、頭部から顔の左半分が完全な()()になっている。

 

その他にも多くの部分が機械化しており、最早“生身の部分”を探す方が難しかった。

 

「またサイボーグ化を………」

 

「オリムラ………イチカ………コロス………コロス………」

 

やや唖然とする一夏に向かって、オータムは壊れた機械の様にそう繰り返す。

 

「サイボーグ化を進めてISと融合したのか………哀れな………無茶な改造で、最早真面な理性等残ってはいまい」

 

そんなオータムの姿を見たシュバルツが、憐れむ様にそう言い放つ。

 

「オリムラ イチカ! コロシテヤルゥッ!!」

 

その次の瞬間、オータムは一夏へと飛び掛かる。

 

シュバルツの言う通り、オータムには最早真面な思考をする“理性”は残って居なかった………

 

有るのは只、一夏を憎み、殺そうとする()()だけだ。

 

「!?」

 

慌てて白式を展開させようとする一夏だったが、ワンテンポ間に合わない。

 

「シネエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーッ!!」

 

肥大化した左腕を、一夏目掛けて振り下ろすオータム。

 

その瞬間!!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

紅椿を装着した箒が、オータムに体当たりを喰らわせる!!

 

「ガアッ!?」

 

不意打ち気味の1撃にオータムはブッ飛ばされ、ゴーレム部隊の中へと突っ込む。

 

衝撃でゴーレム部隊の数機が爆散し、オータムは爆発に巻き込まれる。

 

「一夏! 大丈夫か!?」

 

「箒!? 如何して此処に!?」

 

「そ、其れは………」

 

助けに入ったは良いが、何故此処に居たのかを尋ねられて、箒は言葉に詰まる。

 

「ウガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

獣染みた咆哮と共に、オータムが爆発の中から飛び出して来た!!

 

そして右手に握ったカタールを、箒目掛けて振り下ろす。

 

「!? クウッ!!」

 

雨月と空裂を交差させる様に構えてカタールを受け止める箒。

 

「シノノノ ホウキ………コロシテヤル!!」

 

またも合成音声染みた声で、オータムはそう言い放つ。

 

先程ゴーレム部隊の中に突っ込んだ時に、爆発で多少損傷しているのだが、何と!!

 

その損傷が、小さな粒子の様な光と共に修復されて行っている。

 

「!? 何だと!?」

 

「ナノマシンか!? 奴め、自分の身体に大量のナノマシンを投与しているな!!」

 

ゴーレムⅠとゴーレムⅢを纏めて斬り裂きながら、シュバルツがそう言う。

 

「ウガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

と、オータムから再び獣染みた咆哮が挙がると、肥大化した左腕が箒を殴り付ける。

 

「!? ガハッ!!」

 

衝撃が絶対防御を突き抜けたのか、吐血しながらブッ飛ばされる箒。

 

「! 箒!! この野郎おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

其れを見た瞬間、一夏は激しい怒りと共に白式を纏う。

 

「イカン、一夏! お前の修行は未だ完成していない! 怒りの心に取り憑かれるな!!」

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

シュバルツの叫びも虚しく、一夏はエネルギーの刃を展開させた雪片弐型で、オータムへと斬り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ベースキャンプの神谷達は………

 

「何だ何だ!?」

 

「爆発音!? 何が起こっている!?」

 

一夏達と、オータム率いるゴーレム部隊の戦闘が開始された際の爆発音で全員が飛び起き、テントの外へと飛び出す。

 

「アレッ!? 一夏の奴、何処行った!?」

 

「箒の奴も居ないわよ!!」

 

其処で弾と鈴が、一夏と箒の姿が無い事に気付く。

 

その合間にも、再び爆発音が響いて来る。

 

「! まさか!?」

 

「あの爆発音は………一夏さんと箒さん!?」

 

蘭とセシリアは、そう思い至る。

 

「クウッ! あの馬鹿共! 勝手な行動を取りおって!!」

 

「織斑先生! 今は2人を助けに行きましょう!!」

 

千冬がそう怒りの声を挙げるが、真耶がそう言って押さえる。

 

「よしっ! 待ってて、一夏! 箒! 直ぐに行く………」

 

「待って………!」

 

直ぐに爆発音が聞こえて来る方へと向かおうとしたティトリーだったが、其れを簪が止める。

 

「簪!? 何故止める!!」

 

「………何か居る」

 

ラウラがそう言い、簪がそう答えた瞬間!!

 

繋留してあった飛行艇が爆発した!!

 

「!? キャアッ!?」

 

「飛行艇が!?」

 

突然爆発した飛行艇に、のほほんが悲鳴を挙げ、虚が驚愕する。

 

すると………

 

燃え上がっている飛行艇の残骸の上に、ゴーレム達が現れる。

 

更に、海中からもまるで特殊部隊の様に、ゴーレム達が次々に現れて来る。

 

「! 無人IS!!」

 

「って事は、例のオータムって女が!?」

 

ゴーレム達の姿を見たシャルと楯無がそう言う。

 

と、その次の瞬間!!

 

破壊された飛行艇の上に居たゴーレム達が、グレン団目掛けて熱線を放つ!!

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

思わず硬直してしまうグレン団だったが………

 

「ドリルシールドッ!!」

 

一瞬にしてグレンラガンの姿となった神谷が、傘の様に開いたドリルで、ゴーレム達の熱線を受け止める!!

 

「超・ドリラッシュッ!!」

 

そして熱線が止むと、全身の至る所に出現させたドリルを、ミサイルとして射出!

 

射出されたドリルは、ゴーレム達に命中すると、次々に爆発する!!

 

「お前等! 今の内だ!!」

 

「「「「「「! おう(ハイ)っ!!」」」」」」

 

グレンラガンがそう言うと、グレン団の面々は次々にIS・グラパール・ダンクーガを装着した!

 

「お前達、コッチだ!!」

 

「私達に従いて来て下さい!」

 

「ハ、ハイッ!!」

 

「かみや~ん! 皆~! 頑張って~!!」

 

非戦闘要員である千冬・真耶・虚・のほほんは、安全な場所まで下がる。

 

そんな中、破壊されたゴーレム達に代わる様に、新たなゴーレム部隊が上陸して来る。

 

「クッ! 此奴等を倒さねば、一夏達の所へは行けんか!!」

 

「上等だぁっ! 速攻で片付けてやるぜぇっ!!」

 

ラウラが苦々し気にそう言うと、グレンラガンが先陣を切る様にゴーレム部隊の中へと突っ込んで行く。

 

「行くよ、皆!」

 

「「「「「おうっ!!」」」」」

 

其れに続く様にシャル達も武器や得物を構え、ゴーレム部隊との戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再びジャングルの中………

 

サイボーグ・オータムと戦う一夏は………

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

箒がやられた事が相当頭に来ているのか、怒りのままに零落白夜状態の雪片弐型を振り回している。

 

しかし、零落白夜は自機のエネルギーを使用する“諸刃の剣”。

 

そんなに連続で使用して、平気で居られるワケが無かった。

 

「よくも! よくも箒をぉ!!」

 

しかし怒りに囚われている一夏は、見る見る減って行く白式のエネルギーに気付かない。

 

「止めろ、一夏! 私は大丈夫だ!!」

 

「一夏! 怒りの心に囚われてはイカン!!」

 

箒とシュバルツがそう叫ぶが、一夏の耳には届かない。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒ………ハハハハハハハ………ヒャーハッハッハッハッハッ!!」

 

すると其処で、オータムが狂った様な笑い声を挙げ始める。

 

「! 何が可笑しい!………何が………可笑しいんだああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

其れは、一夏の心に更なる怒りを生み、遂に!!

 

「うおああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

一夏は怒りのままにスーパーモードを発動させた!!

 

「! スーパーモード!!」

 

「イカン!!」

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

箒とシュバルツが叫ぶ中、一夏はシャイニングフィンガーソードでオータムに斬り掛かろうとする。

 

しかし………

 

只でさえエネルギーを食う零落白夜を連続して使っておいて、この上更にエネルギー消費の激しいスーパーモードを発動させて、白式のエネルギーが保つワケが無かった………

 

シャイニングフィンガーソードの刃は、オータムに当たる寸前で雲散し、白式もガクリと動かなくなる。

 

「!?」

 

「シネェッ!! オリムラ イチカァッ!!」

 

眼前で隙を晒した一夏に、オータムは右手に握ったカタールで突きを繰り出す!!

 

そして、その瞬間………

 

カタールの刃が、()を刺し貫いた。

 

………“()の”。

 

「………えっ!?」

 

一瞬、何が起こったのか分からず混乱する一夏。

 

そう、カタールが一夏に突き刺さるかと思われたその瞬間………

 

箒が、オータムと一夏の間に割って入り、自らの身体を盾にしてカタールを防いだのだ!!

 

「ガハッ!!」

 

箒の口から、盛大な吐血が溢れる。

 

「箒………?」

 

「い、一………夏………」

 

呆然となっている一夏の方を振り返り、箒は弱々しく微笑んだかと思うと………

 

そのままドサリと地面に倒れ、ISが解除されて動かなくなった………

 

「!! 箒いいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーっ!!」

 

一夏の悲痛な叫びが、ジャングルの中に木霊する………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

謎の無人島で束を探すグレン団。
一方、一夏は修行に行き詰っていた。
最後の仕上げと襲い掛かって来たシュバルツを相手にしていた時、遂に『明鏡止水』を掴みかけた一夏だが、そこへ遂に理性を失ったオータムが強襲。
怒りに囚われた一夏を庇い、箒が………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第96話『見えたぞぉっ!! 水の1滴!! そして螺旋の力ぁっ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第96話『見えたぞぉっ!! 水の1滴!! そして螺旋の力ぁっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒の携帯へ届いた束からのSOSメールを頼りに、ポイントN1へ向かったグレン団は………

 

其処で名も無い無人島を発見する。

 

束が居るならば此処しかないと推測し、グレン団は島を捜索する。

 

そんな中………

 

後1歩のところで未だに修行を完成できていなかった一夏は、夜中にコッソリと特訓に励む。

 

其れを箒が見守る中、突如シュバルツ・シュヴェスターが出現。

 

一夏に戦いを挑む。

 

殺す気で掛かって来たシュバルツの前に、一夏は死を覚悟する………

 

だが、その瞬間!!

 

一夏が修行に使っていた錆びてボロボロの刀が緑色の光を放ち、シュバルツのISでの攻撃を受け止めた!!

 

驚く一夏に、“其れこそが()()()()()()によってお前に目覚めた螺旋力だ”と言い放つ。

 

遂に修行が最終段階を迎えた一夏だったが、其処へ身体の殆どに改造手術を施したオータムが出現。

 

狂気と殺意に突き動かされるままに、一夏を殺しに掛かる。

 

其れまで、事の成り行きを見ていた箒がその瞬間に介入したが、狂気に取り憑かれたサイボーグオータムによって負傷させられてしまう。

 

その瞬間、怒りに駆られた一夏は白式を展開して、サイボーグオータムに斬り掛かる。

 

“冷静になれ”と言うシュバルツの言葉も聞かず、零落白夜に加えて怒りのスーパーモードをも発動させた白式は、見る見る内にエネルギーを消耗。

 

遂に、シャイニングフィンガーソードを見舞おうとした瞬間にエネルギーが切れ、一夏は隙を晒してしまう。

 

其れを見逃さず、サイボーグオータムはカタールで突きを繰り出す。

 

だが、サイボーグオータムのカタールが貫いたのは一夏では無く………

 

彼を庇った箒だった………

 

 

 

 

 

謎の無人島のジャングルの中………

 

「箒ぃっ! 死ぬな! 死ぬな箒ぃっ!!」

 

半狂乱になって、エネルギーの切れた白式を力任せに動かして箒を助け起こす一夏。

 

「ガハッ!………ハア………ハア………」

 

助け起こされた瞬間、箒はまた吐血する。

 

呼吸も荒く、非常に危険な状態だった。

 

「箒ぃっ!!」

 

「オリムラ イチカァッ! シネエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーッ!!」

 

と、取り乱している一夏に、サイボーグオータムは容赦無く襲い掛かろうとする。

 

「クウッ! ハアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

其処でシュバルツが、纏わり付いていたゴーレム達を無理矢理引き剥がすと、サイボーグオータムに飛び蹴りを見舞う。

 

「ガハッ!!」

 

「ムンッ!!」

 

そして煙玉を地面に叩き付け、煙幕を発生させる!!

 

「ウウウッ!?」

 

ハイパーセンサーをも誤魔化す煙玉に、サイボーグオータムはたじろぐ。

 

更にチャフも含まれているので、ゴーレム部隊も行動に支障を来す。

 

やがて煙幕が晴れたかと思うと、其処に一夏・箒・シュバルツの姿は無かった。

 

「!? イナイ!? ウワアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ! サガセサガセサガセエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーッ!! オリムラ イチカヲサガセエエエエエエエェェェェェェェェェーーーーーーーーーッ!!」

 

狂気の咆哮を挙げ、ゴーレム部隊に命令を下すサイボーグオータム。

 

最早その姿に、人間性は欠片も感じられない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

砂浜のベースキャンプでは………

 

「男のブーメランッ!!」

 

グレンラガンがそう叫ぶと、ゴーレムⅠとゴーレムⅢに向かってグレンブーメランを投擲する。

 

ゴーレムⅠとゴーレムⅢは、互いに別々の方向に回避するが………

 

其処でグレンブーメランが2つに分割!!

 

其々、別々の方向に回避していたゴーレムⅠとゴーレムⅢに向かい、ゴーレムⅠを縦に、ゴーレムⅢを横に真っ二つにした!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

気合の雄叫びと共に、アルゼンチン・バックブリーカーで担ぎ上げたゴーレムⅢを腰の辺りから真っ二つにするグラパール・弾。

 

「目標をセンターに入れて………スイッチッ!!」

 

グラパール・蘭も、リーロンの新兵器・ロンライフルを構えて、正確な射撃でゴーレムⅠの頭を撃ち抜く!!

 

「…………」

 

ゴーレムⅢの熱線を難無く回避すると、懐に飛び込みそのままショルダータックルを見舞う簪。

 

そして、倒れたゴーレムⅢの頭に容赦無くトドメのアームパンチを叩き込む。

 

「グットラックッ!!」

 

楯無がそう言って指を鳴らすと、辺りにばら撒いたアクアナノマシンが次々に爆発。

 

ゴーレム部隊を消し飛ばして行く。

 

「ハアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

ラウラは、ワイヤーブレードで串刺しにしたゴーレムⅠをバラバラに引き裂く!

 

「クッ!」

 

ブレードで斬り掛かって来たゴーレムⅢを、インターセプターで受け止めるセシリア。

 

そのままスターライトmk-Ⅲを向けようとしたが、ゴーレムⅢの左腕に弾かれてしまう。

 

ゴーレムⅢが左腕の熱線砲を向けるが………

 

「このセシリア・オルコットを………甘く見られては困りますわ!!」

 

セシリアは、ビットのブルー・ティアーズの1基を手で摑んで分離させると、ナイフの様にゴーレムⅢに突き刺す!!

 

ゴーレムⅢが痙攣した様に動きを止めると、セシリアは距離を取り、その瞬間にゴーレムⅢに突き刺したビットのブルー・ティアーズがビームを発射!

 

零距離でビームに貫かれたゴーレムⅢが爆散する。

 

「断空砲! フォーメーションッ!!」

 

「いっけええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

断空砲フォーメーションと、最大出力の龍砲を同時に放つファイナルダンクーガと鈴。

 

多数のゴーレム達が、爆発と共に蒸発する。

 

「貰ったっ!!」

 

シャルも1体のゴーレムⅢの頭を鷲摑みにすると、そのまま灰色の鱗殻(グレー・スケール)を連続で撃ち込む。

 

首が弾け飛び、頭を失ったゴーレムⅢの身体がバタリと倒れる。

 

「行け行けぇ~! 皆頑張れ~!」

 

「コラ! 本音! ちゃんと隠れていなさい!」

 

物陰で見ていたのほほんが声援を送ると、慌てて虚が引っ張り込む。

 

「クッ、情け無い………生徒達が戦っているのを、只“見て居る事しか出来ん”とは………」

 

「こんな事なら、授業用のISでも持って来るべきでしたね………」

 

同じく物陰でグレン団の戦闘の様子を見ている千冬と真耶は、何も出来ない自分達に歯痒さを覚える。

 

「テメェで最後だぁっ!!」

 

と、そうこうしている内にグレンラガンが、最後の1機となったゴーレムⅠの頭部をスカルブレイクで粉砕する!!

 

頭部を粉砕されたゴーレムⅠは、連鎖して身体も爆発し、粉々になった。

 

「コレで片付いたな………」

 

右腕のドリルを引っ込めながら、周りに散らばるゴーレム部隊の残骸を見てそう言うグレンラガン。

 

「神谷! ひょっとして一夏や箒達もゴーレムに!?」

 

其処でシャルがそう言って来る。

 

「多分間違い無えだろ………」

 

「なら! 直ぐに助けに行きましょう!!」

 

「ちょっと待って!!」

 

セシリアがそう言うと、楯無が止める。

 

「如何した!? 急がねば一夏が!!」

 

「………さっきから爆発音が聞こえて来ないわ」

 

ラウラがそう言うと、簪がジャングルの方を見ながら、ターレットレンズを回転させつつそう言う。

 

「!? そう言えば!?」

 

「まさか、一夏の奴………」

 

「馬鹿な事言わないでよ! この馬鹿弾!!」

 

グラパール・蘭が驚きの声を挙げ、グラパール・弾が不吉な想像をすると、鈴が即座に否定する。

 

「チッ! 急ぐぞ!!」

 

と、直ぐ様グレンラガンがウイングを展開して飛翔する。

 

「あ! 神谷!!」

 

「ま、待ってよぉっ!!」

 

シャルとファイナルダンクーガが慌てて後に続き、他のメンツも其れに続く。

 

「お姉ちゃ~ん………帰りの足………如何しよう~?」

 

「………兎に角、直せるだけ直してみましょう」

 

のほほんと虚は、破壊されてしまった飛行艇の残骸を見ながらそう呟き、無駄だと思いつつも修理に掛かる。

 

「一夏………」

 

「篠ノ之さん………」

 

そして、千冬と真耶はグレン団を見送り、一夏と箒を心配するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

一夏達は………

 

シュバルツに連れられ、滝の裏側に在った洞窟へと避難していた。

 

「………良し、応急処置は終わった。しかし、早く治療しなければ危ないな」

 

箒の応急処置を終えたシュバルツがそう言う。

 

「………ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

顔中に脂汗を浮かべ、呼吸を荒くしている箒。

 

応急処置を施された腹部の包帯には、早くも血が滲んでいる。

 

「箒…………」

 

その傍に居る一夏は、すっかり打ち拉がれている。

 

「俺は………俺は一体何をやってるんだ………アニキみたいなデッカイ(オトコ)になるって………“誰かを守れる様になる”って………そう言っておきながら………()()誰かに助けられて………俺は! 俺は!!」

 

「そうだ、織斑 一夏。全ては“貴様の未熟”が招いた事態だ」

 

「!?」

 

そんな一夏を慰める処か、更に追い打ちを掛けるシュバルツ。

 

「貴様の、“守る”と言うのは、所詮“口先だけ”の言葉だったに過ぎん………その結果がコレだ」

 

呼吸を荒くしている箒を示しながら、シュバルツはそう言い放つ。

 

「…………」

 

シュバルツのその言葉に、一夏は完全に絶望した様子となる。

 

「怒りに囚われ、我を失い、“()()()()()を危険に曝した”………其れが今のお前だ!」

 

「う、ううう………」

 

遂に、一夏の目から悔し涙が流れ始める。

 

「その顔は何だ? その目は!! その涙は一体何だ!?」

 

其れを見たシュバルツが、そう言い放つ。

 

「お前のその涙で、オータムが倒せるのか? この地球が救えるのか!?」

 

「うう………」

 

「お前の仲間であるグレン団は、皆懸命に戦っている。なのに“1人挫ける自分”を恥ずかしいとは思わんか!?」

 

そう言うとシュバルツは、一夏が背負っていたボロボロの日本刀を摑み、鞘から抜き放つと一夏の目の前の地面に突き刺した。

 

「!!」

 

「今一度思い出せ。“明鏡止水の極意”を………そして、“己に秘められた()()()()”を」

 

シュバルツは一夏に向かってそう語り掛ける。

 

(………やっぱりだ………やっぱりシュバルツからは“千冬姉と同じ感じ”がする………如何してだ?)

 

そのシュバルツの姿に、千冬が重なって見える一夏。

 

と、その時………

 

爆発音が響いたかと思うと、振動が洞窟内に走る!

 

「うわっ!?」

 

「チッ! 見付かったか!………ココは私に任せろ!!」

 

一夏が蹌踉ていると、シュバルツはシュピーゲルを纏い、滝から飛び出す。

 

「………明鏡止水………螺旋の力………」

 

残された一夏は、ボロボロの日本刀を手に取る。

 

(あの時、俺は確かに“シュバルツの言う力”を使えていた………如何してだ? 其れさえ………其れさえ分かれば!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、滝から飛び出したシュバルツは………

 

カメラアイを不気味に発光させているゴーレム達と対峙していた。

 

「有象無象共め………貴様等如きに私の相手が務まるか!!」

 

そう言うや否や、シュバルツの姿が一瞬ブレて、直後に両腕のシュピーゲルブレードを振り切った状態でゴーレム達の背後に出現する。

 

その直後、シュバルツが居た場所と現在位置の直線上に居たゴーレム達に“光る切り傷”が走り、次々に爆散した!!

 

残っていたゴーレム達が慌てて振り返ると、シュバルツ目掛けてビームや熱線を乱射する。

 

しかし、ビームや熱線はシュバルツを摺り抜け、背後の景色へと命中する。

 

「それは残像だ! チエイヤアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

と、そう言う台詞と共にシュバルツが1機のゴーレムⅠの後ろに現れたかと思うと、シュピーゲルブレードで唐竹割りにする!

 

斬られたゴーレムⅠが爆散したのを見て、3機のゴーレムⅢがシュバルツに向かって行くが………

 

「ハアアッ!!」

 

その向かって来た3機のゴーレムⅢに対し、シュバルツはアイアンネットを繰り出す!!

 

忽ちビーム網に捕らわれるゴーレムⅢ達。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

そのままゴーレムⅢ達を振り回すと、アイアンネットを腕から切り離し、敵軍の中へと叩き付ける。

 

アイアンネットに捕らわれたゴーレムⅢ達と、叩き付けられたゴーレム達が次々に爆散する。

 

しかしゴーレム達は、カメラアイを不気味に発光させ、ズシスシと足音を立てながら続々と現れて来る。

 

「次から次へと………オータムは何処だ?」

 

構えを取り直すシュバルツは、そのゴーレム部隊の中にサイボーグオータムの姿が無いのを見て不審がる。

 

するとその瞬間!!

 

滝が大きく爆ぜる!!

 

しかも、その爆ぜた場所は………

 

“一夏と箒が居る”洞窟の場所だった。

 

「!? しまった!?」

 

シュバルツは、初めて驚愕と焦りを露わにするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その滝の裏の洞窟では………

 

「あ、あわわわ………」

 

「ミツケタゾォ………オリムラ イチカァ………」

 

突如地面から現れたサイボーグオータムを見て尻餅を着いている一夏に、サイボーグオータムはそう言い放つ。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒ………」

 

「ヒイッ!!」

 

サイボーグオータムが不気味な笑い声を響かせながら1歩前へと出ると、一夏は後退る。

 

(だ、駄目だ! 殺される………)

 

白式はエネルギー切れ状態であり、色を失った待機状態で一夏の右腕に納まっている。

 

いや。例えISを展開出来たとしても、“()()一夏の状態”では勝つ事は難しいだろう………

 

「コロシテヤル………オリムラ イチカァ………」

 

そんな一夏を嬲る様に、サイボーグオータムは不気味な合成音声を響かせながら、ゆっくりと歩を進めて来る。

 

「あ、あああ………」

 

するとそんな一夏の前に………

 

「ま、待て………」

 

腹の傷を押さえながら、箒が立った。

 

「わ、私が相手だ………」

 

「! 箒!!」

 

「来い! 紅つば………!? ガハッ!?」

 

紅椿を呼び出そうとした箒だったが、その瞬間に吐血して膝を着く。

 

「箒ぃ!!」

 

「ジャマダァッ!!」

 

一夏が悲鳴に近い声を挙げる中、サイボーグオータムは容赦無く箒を蹴飛ばす。

 

「ガハッ!!」

 

洞窟の奥の方へと蹴飛ばされ、地面の上を転がる箒。

 

今ので傷口が開いたのか、倒れている身体の下に血溜まりが出来始める。

 

「箒ぃっ!!」

 

「オリムラ イチカァ!!」

 

と一夏が叫んだその瞬間!!

 

サイボーグオータムはカタールを振り上げる!!

 

「!?」

 

「シネェッ!!」

 

そして遂に………

 

カタールが一夏目掛けて振り下ろされる。

 

(死ぬ!? 俺が死ぬ………)

 

一夏が死を覚悟した瞬間!

 

再び“あの時の感覚”が甦って来た!!

 

(! コレだ! ()()()()だ! 一切が過ぎ去って行く………もう怒りも憎しみも如何でも良い………在るのは“目の前の死”………)

 

「一夏ぁっ!!」

 

と其処で!

 

重傷である筈の箒が、叫び声を挙げる!

 

「死ぬなぁっ! 一夏ぁっ!! 私の………“私の知っているお前”は! ()()()()()お前は!! “こんな所で終わる漢”では無ああああぁぁぁぁぁーーーーーーいっ!!」

 

最後の気力を振り絞るかの様に、箒はそう叫ぶ。

 

「箒っ!!」

 

そしてその瞬間………

 

一夏の目の前に水の雫が1滴(したた)り、その雫によって生じた水面の波が、()()を描いて行くヴィジョンが浮かんだ!

 

「! 見えた! 見えたぞぉっ!! 水の1滴!! そして螺旋の力ぁっ!!」

 

一夏がそう叫んだ瞬間!!

 

あの時と同じ様に、握っていたボロボロに日本刀の刀身が緑色の光を放ち始め、サイボーグオータムのカタールを受け止める!!

 

「!? ナニィッ!?」

 

人間が、“()()()ISの攻撃を受け止めた”事に驚愕するサイボーグオータム。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

そのまま一夏は、サイボーグオータムを弾き飛ばす!!

 

「!? ガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

弾き飛ばされたサイボーグオータムは、そのまま仰向けに倒れる。

 

「グウウッ!!」

 

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

サイボーグオータムが苦々し気な声を挙げる中、一夏は気を高めるかの様な声を挙げる。

 

すると刀身だけで無く、一夏の身体が緑色の光を放ち始めた!

 

そして、その光が右腕に待機状態で納まっていた白式へと集まって行く。

 

やがて緑色の光………螺旋力を吸収した白式が、眩い光を放つ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、外のシュバルツは………

 

「そらそらそらそらぁっ!!」

 

次々にメッサーグランツを投擲するシュバルツ。

 

ゴーレム達が次々に爆散して行くが、一向に数が減る様子は無い。

 

「ええい! 貴様等に構っている暇は無い!!」

 

最早、一刻の猶予も無いとシュバルツは、ゴーレム達の中を強引に突き進み始める。

 

ゴーレム達は、突っ込んで来たシュバルツをその巨大な腕で殴り付け、若しくはブレードで斬り付けようとしたが、シュバルツは巧みに回避して行く。

 

しかし、如何にシュバルツと言えど、何時までも躱し切れるものでは無かった。

 

遂に、1体のゴーレムⅢがシュバルツの姿を捉え、ブレードを振り下ろす!

 

「!!」

 

シュバルツは其れを見ながらも、多少の傷を覚悟で突っ込み、強引に抜けようとする。

 

と、その時!!

 

「グレンダッシャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

螺旋力によって作り出した光の道の上を突き進んで来たグレンラガンが、シュバルツを斬ろうとしていたゴーレムⅢに体当たり!!

 

ゴーレムⅢがバラバラになって爆散した!

 

「! 天上 神谷!!」

 

「シュバルツ! “雪山での借り”は返したぜ!!」

 

シュバルツが声を挙げると、グレンラガンはそう返す。

 

すると、彼方此方で爆煙が上がり、グレン団メンバーが姿を見せる。

 

「未だこんなに居たんだ」

 

「全部叩き潰してやるニャッ!!」

 

シャルとファイナルダンクーガが中心となり、次々にゴーレム達を屠って行く。

 

増援で火力が増したお蔭で、ゴーレム達の数は見る見る内に減って行く。

 

「オイ、シュバルツ! 一夏は何処だ!?」

 

「あの滝の裏の洞窟だ! 急がねば危な………」

 

と、一夏の所在を尋ねて来たグレンラガンに、シュバルツがそう返していたところ………

 

突如!

 

滝の中から緑色の光が溢れ始めた!!

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

「何ですの!?」

 

ラウラ・鈴・セシリアが驚きの声を挙げ、その場に居た一同は全員立ち尽くす。

 

その次の瞬間!!

 

グレンラガン達をも巻き込む程の大爆発が、滝の裏の洞窟から発生する!!

 

「!? うおわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

「ぬううっ!?」

 

「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」

 

その爆風に吹き飛ばされるグレン団とシュバルツ、そしてゴーレム達。

 

やがて爆風が収まったかと思うと、其処には………

 

すっかり地形が変わり、荒野と化した光景が広がっていた。

 

「コ、コレは!?」

 

「何じゃこりゃあっ!?」

 

「何っ!? 何が起こったの!?」

 

グレンラガン、グラパール・弾、グラパール・蘭が驚きを露にする。

 

その辺りに散らばっている他のメンバーも、驚愕を露わにしている。

 

尚、ゴーレム達は先程の爆風で飛んで来た岩石を浴び、全て機能停止している。

 

「! アレは!!」

 

と其処で、簪が“何か”に気付いた様に声を挙げる。

 

一同が其れに釣られる様に簪の視線の先を追うと、其処には………

 

「! オータム!? と………一夏くん?」

 

楯無がそう声を挙げる。

 

そう、其処には………

 

「ウ、ア、アアアア………」

 

「…………」

 

完全に狼狽しているサイボーグオータムを見下ろしながら、両腕で箒を姫抱きしている一夏の姿が在った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その身体には………

 

覚醒した一夏の螺旋力を受け、本来なら有り得る筈の無かった第三形態移行(サード・シフト)を行った白式………

 

『白神(びゃくしん)』が装着されていた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

一夏、遂に覚醒です。
明鏡止水の極意を掴み、螺旋力に目覚めた彼は………
白式を第三形態移行(サード・シフト)。
白神となった彼のISはどれだけの戦闘力を見せるか。

そして次回遂に………
謎のインフィニット・ノアが出現します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第97話『インフィニット・ノア! 発進!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第97話『インフィニット・ノア! 発進!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束からのSOSを受けて、名も無き無人島へと辿り着いたグレン団。

 

しかし、束の捜索中に………

 

狂気のサイボーグと化したオータムが、ゴーレム軍団を率いて強襲して来た。

 

シュバルツから言われた修行に煮詰まっていた一夏は、怒りのままに戦いエネルギーを消耗。

 

その所為で箒に重傷を負わせてしまう。

 

再度出会したサイボーグオータムにより、その命が絶たれようとした瞬間………

 

一夏は明鏡止水の極意に開眼し、遂に自らが持つ螺旋力を呼び覚ます。

 

その螺旋力を受けた白式が、コレまでどのISも為し得無かった更なる形態移行、第三形態移行(サード・シフト)を行い………

 

新たなる姿『白神(びゃくしん)』へと生まれ変わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名も無き無人島………

 

「…………」

 

箒を姫抱きで抱え、眼前のサイボーグオータムを落ち着いた表情で見下ろしている一夏。

 

やがて、何時の間にか夜が明け、朝日が差し始めた。

 

昇り来る太陽が、白神を装着している一夏の後ろから現れる。

 

その朝日により、白神の詳細な姿が明らかとなる。

 

以前の白式や雪羅に比べ、デザインが全体的に“仏像”を思わせる流麗なラインとなっており、頭部には大小2対、計4本のブレードアンテナが装着されている。

 

第二形態移行時には左腕にしか無かった雪羅が右腕にも装着されており、雪片弐型は日本刀の様な形となり、鞘に納められた状態で左腰に差されている。

 

最大の特徴は、背部に装備されている6枚の羽根状のエネルギー発生装置だ。

 

正面から見て、左上・右上・左・右・左下・右下の6方向へ展開しており、その先端部分に円を描く様にエネルギーフィールドが発生しており、まるで“円光”の様になっている。

 

「箒………」

 

と、一夏が腕の中の箒を見遣ったかと思うと、その身体から螺旋力が溢れる。

 

その螺旋力が、箒の腹部の傷へと流れ込む様に移動する。

 

すると、箒の傷がまるで“映像を巻き戻している”かの如く、見る見る内に塞がって行く。

 

「う……あ………」

 

脂汗を顔中に浮かべ、苦悶の表情で呼吸も荒く気を失っていた箒の顔色が良くなって行き、呼吸も安定する。

 

「…………」

 

一夏は其れを確認すると、サイボーグオータムに一旦()()()()、箒を優しく地面に横たえる。

 

「ア………アアア………」

 

“絶好のチャンス”の()なのに、サイボーグオータムは動け無かった………

 

白神を装着している一夏から発せられる“得体の知れない迫力”が、サイボーグオータムの動きを封じていた。

 

「オータム………其処でそのままそうしていろ」

 

そんなサイボーグオータムに向かって、一夏は“後ろを向いたまま”そう言い放つ。

 

「! ウ、ウワアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

そう言われた瞬間!!

 

サイボーグオータムは激昂した様に、カタールを構えて一夏に突っ込んで行く。

 

「シネェッ! オリムラ イチカアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そして、一夏をカタールで斬り捨てようとしたが………

 

「!? ガアアッ!?」

 

その瞬間、一夏の右手の雪羅で顔を鷲摑みにされた!!

 

一夏は、そのままサイボーグオータムの頭を地面に叩き付けたかと思うと、バーニアを全開にして地面を引き摺る!!

 

「ガアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

「もうコレ以上! “貴様の()()に付き合う義理”は無い!!」

 

悲鳴を挙げるサイボーグオータムに、一夏がそう言い放ったかと思うと………

 

サイボーグオータムの頭を鷲摑みにしている雪羅の掌の部分が赤熱化し始める!!

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を摑めと轟き叫ぶぅっ!!」

 

そう唱えると、摑んでいた手を離し、拳を握る一夏。

 

「爆熱ゥッ!! ゴッドォッ! フィンガアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そして、必殺の『爆熱ゴッドフィンガー』が地面に半分埋まっているサイボーグオータムに向かって放たれる!!

 

ゴッドフィンガーがサイボーグオータムに命中した瞬間!!

 

その場に、炎の柱が立ち昇った!!

 

「ウワアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!」

 

その炎の中で、塵となって消えて行くサイボーグオータム………

 

狂気の復讐鬼と化した彼女の最期は、余りにも呆気無いものだった………

 

「…………」

 

そんな彼女を憐れむかの様に、一夏はサイボーグオータムが消滅した場所へ悲し気な視線を向ける。

 

「………一夏?」

 

と其処で背後から声が聞こえて振り返ると、箒が起き上がりコチラを見ていた。

 

「! 箒!!」

 

直ぐに箒の傍へと駆け寄る一夏。

 

「大丈夫か!? 箒!! 怪我は!?」

 

「あ、ああ………何故か分からんが、完治している………もう大丈夫だ」

 

箒自身も戸惑いながら、傷が無くなっている腹部を手で擦る。

 

「そうか………良かった………」

 

其れを聞いて、一夏は心の底からの安堵の表情を浮かべた。

 

「一夏………」

 

「箒………」

 

そのまま、互いに“見詰め合う形”となる箒と一夏。

 

自然と互いの距離が縮まって行くが………

 

「「「「「一夏〈さん、くん〉~~~~~っ!!」」」」」

 

そう言う声が響いて来て、セシリア達が2人の元へとやって来る!!

 

「「!!」」

 

其れを見た2人は、慌てて離れる。

 

「一夏さん! 大丈夫ですか!?」

 

「無事か!? 一夏!!」

 

そう言って一夏へと詰め寄るセシリアとラウラ。

 

「あ、ああ、大丈夫だ。()()大した事無いよ」

 

「良かったぁ………」

 

「一夏くん………白式のその姿は?」

 

一夏がそう言うのを聞いて、グラパール・蘭が安堵の声を漏らすと、楯無が白神を見ながらそう尋ねる。

 

「俺も良く分かんないんですけど………“螺旋力を受けた白式が()()()()()()(サード・シフト)した”みたいで………」

 

「第三形態移行(サード・シフト)!?」

 

「現行では………どのISも形態移行は精々第二段階まで………第三形態移行(サード・シフト)は恐らく………貴方のISが“世界で初めて”ね」

 

鈴が驚きの声を挙げ、簪がそう分析する。

 

「一夏………お前もついに螺旋力に目覚めたのか」

 

「コレで、お前も“螺旋戦士”ってワケだ」

 

そして、グラパール・弾とグレンラガンは、一夏に向かってそう言う。

 

「弾………アニキ………」

 

その言葉に、一夏は嬉しそうな表情をする。

 

「と・こ・ろ・で…………一夏ぁ………アンタさっき………箒と何しようとしてたの?」

 

と其処で、鈴が米神に青筋を浮かべながらそう言う。

 

「えっ!?」

 

「一夏さん! (ナニ)とは何ですか!?」

 

「正直に答えろ!!」

 

「如何言う事なんですか!? 一夏さん!!」

 

「お姉さんに教えなさ~い」

 

「…………」

 

途端に、セシリア・ラウラ・グラパール・蘭、楯無・簪が一夏に詰め寄る。

 

「た、助けてくれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

答える事の出来ない一夏は、悲鳴を挙げるしか無いのだった。

 

「あ~あ、また始まった………」

 

「飽きないね~、皆も」

 

シャルとファイナルダンクーガは、その“お馴染みの光景”を前に呆れ声を漏らす。

 

「モテる男は辛いなぁ、一夏! ハハハハハハハッ!!」

 

グレンラガンは、そんな光景を見て笑い声を挙げる。

 

「…………」

 

そして、その光景を離れた場所で見ていたシュバルツは、覆面の下で微笑みを浮かべたかと思うと、一同に気付かれぬ内にサッと姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

「さ~て………如何するか………?」

 

ベースキャンプを張っていた海岸に戻ったグレン団一同は、頭を悩ませている。

 

その視線は、破壊された飛行艇に向けられている。

 

「飛行艇が………」

 

「コレじゃあ、織斑先生達や本音さん達が帰れないよ」

 

シャルとティトリーがそう声を挙げる。

 

グレン団の面々は、グレンラガンやIS、グラパールにファイナルダンクーガが有るので、“自力で”帰還する事が出来る。

 

しかし、千冬達はそうは行かない。

 

“抱えて飛ぶ”と言う手段も有るかも知れないが、其れだと“スピードが出せない”上に、若し途中でロージェノム軍に襲撃されたら一溜りも無い。

 

「駄目です………」

 

「完全に修理不可能だよ~」

 

と其処で、飛行艇の修理を試みていた虚とのほほんが肩を落としながら戻って来てそう告げた。

 

「そうか………」

 

「如何しましょう?織斑先生。遠距離用の通信機も、戦闘のドサクサで破壊されてしまいましたし………」

 

力無く肩を落とす千冬と、オロオロしている真耶。

 

「こうなった以上、グレン団を先に帰還させて迎えを来させるか………束を見付け出して“帰りの足”を用意して貰うか………」

 

『なら後者をお勧めするよー! ちーちゃん!!』

 

と、千冬がそう呟いた瞬間!!

 

何処からとも無く、束の声が響いて来た!!

 

「!? 束!?」

 

「姉さん!?」

 

千冬と箒が驚きながら辺りを見回すが、束らしき姿は見えない。

 

「束さん! 何処に居るんですか!?」

 

「オーイ、ウサミミ女~! お前が呼んだから来てやったんだぞ~! 姿見せろ~!」

 

一夏と神谷も、束に向かってそう呼び掛け、他の一同も束の姿を探す。

 

『ゴメンね~。ちょっと“込み入った事情”が有って、今まで連絡が取れなくて………ま、取り敢えず今、入口を開くから其処から入って来て~』

 

「? 入口?」

 

束の言葉の意味が分からず、千冬が首を傾げた瞬間………

 

ゴゴゴゴゴゴゴッと言う地鳴りの様な音が響き始めたかと思うと………

 

グレン団の居る海岸の一部が、左右に割れる様に動き始めた!!

 

「!?」

 

「な、何ですの!?」

 

簪とセシリアが驚きの声を挙げ、他の一同も呆気に取られている中、砂浜はドンドン左右に割れて、その中から地下深くへと続く階段が現れる!

 

『さっ、皆! 其処から入って来て!!』

 

「こんな施設が在ったとは………」

 

再び束の声が響くと、千冬が呆れ声を挙げる。

 

「んじゃ、邪魔するぜ~」

 

すると其処で、神谷が先陣を切る様にその入り口へと入って行く。

 

「あ! 待ってよ、神谷!!」

 

「「アニキ!!」」

 

直ぐ様シャルと一夏、弾が続く。

 

「コラ! お前達! 勝手な行動を取るな!! 全く………行くぞ」

 

そんな神谷達に愚痴る様に呟くと、千冬はそう言い、残りの一同を率いて束が開いた入口へと入って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く、地下深くへと続く階段を下って行ったかと思うと、やがて一同はエレベーターに行き当たり、全員でそのエレベーターに乗り込んだ。

 

全員が乗り込むと、エレベーターは更に地下深くへと潜って行く。

 

「一体何処まで潜るんだ?」

 

「まるでモグラにでもなった気分ですね………」

 

千冬がそう疑念を挙げると、楯無がそんな事を言う。

 

その瞬間、エレベーターに震動が走り、下降が止まる。

 

「止まった?」

 

一夏がそう言うと、エレベーターの扉が開く。

 

一同がエレベーターから外へと出ると、其処には………

 

複数の座席とコンソールが配置され、全面に大型のモニターが備え付けられている、広い空間へと出た。

 

「何だ、此処は?」

 

「何かの部屋みたいですけど………」

 

千冬と真耶が、その部屋を見回しながらそう言う。

 

「コレは………レーダーみたいね」

 

と、座席に配置されたコンソールを調べていた虚がそう声を挙げる。

 

「コッチは~………航空機管制システム?」

 

別の座席のコンソールを調べていたのほほんからもそう声が挙がる。

 

「火器管制システム?」

 

更に別の座席のコンソールを調べていたティトリーからも、そう声が挙がった。

 

「レーダーに航空機管制システム、其れに火器管制システム………」

 

「姉さん………ひょっとして此処は………」

 

その言葉を聞いた楯無が考え込む様子を見せると、簪も何か察しが付いた様にそう声を掛けるが………

 

「コリャ船の………しかも“戦闘艦の艦橋”じゃねえか?」

 

其処で神谷がそう声を挙げる。

 

「!? 何っ!?」

 

「そんな!? まさか!?」

 

箒とセシリアが、信じられないと言った様子を見せる。

 

「だってよホラ、見てみろ」

 

そう言って、神谷は1つの座席を指差す。

 

その座席のコンソールには、まるで昔の船の様な“操舵輪”が取り付けられていた。

 

「分かり易いなぁ………」

 

「しかし、コレが軍艦だとすると、ひょっとして造ったのは………」

 

と、一夏と弾がそう言った瞬間!

 

「フッフッフッフッフッ!! その通り!!」

 

そう言う声と共に、他の部分より1段高くなった場所に設置されていたコンソール………

 

言うなれば“艦長席”の下部から、座席が迫り上がって来る!!

 

その座席………艦長席には、束が座っており、直ぐ傍にはくーちゃんが控えていた!!

 

「! 束!!」

 

「姉さん!!」

 

「やっほ~! おひさ~」

 

千冬と箒が真っ先に反応すると、束は軽い調子で挨拶する。

 

「何がおひさだ! 今まで散々姿を晦ませおいたと思えば、急に呼び出して………」

 

「其れにこの部屋は何なんですか!? 皆は“艦橋”の様だって言ってますが、まさか!?」

 

当然、千冬と箒は束に詰め寄って行く。

 

「まあまあ、落ち着いて」

 

「「コレが落ち着いて居られるか!?」」

 

落ち着けと言う束だが、2人は聞く耳を持たない。

 

「オイ、束。誰だ? この“ガキ”は?」

 

と其処で、何時の間にか2人と同じ様に傍に寄っていた神谷が、くーちゃんを見ながらそう言う。

 

「ガキではありません。私は、束様の助手をしている『くー』と言う者です」

 

するとくーちゃんは、若干不機嫌な顔をして神谷にそう言う。

 

「助手? オイ、ウサミミ女。オメェも随分と人手不足なんだな。こんなガキ助手に駆り出すとはよぉ」

 

「………やはりデリカシーの無い人ですね。こんな人がグレンラガンの装着者とは………」

 

神谷がそう言うと、くーちゃんは呆れた様子を見せる。

 

「んだとぉ? 生意気なガキだな」

 

「あ~、ゴメンね、かみやん。その子、“ちょっと()()()()”でね」

 

神谷が怒った様子を見せると、束がそう謝罪する。

 

「あの、篠ノ之博士………そろそろ教えて貰っても良いですか?」

 

「一体、貴女は今まで何をやっていて、この施設は一体何なのか、を」

 

と其処で、シャルとラウラが話を本筋へと戻す。

 

「…………」

 

すると其れを聞いた束は、今までのおちゃらけた表情から一転して、真面目な表情となる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その雰囲気を察したのか、一同も黙り込み、表情を固くする。

 

「………私は」

 

と、束が何かを言おうとした瞬間!!

 

突如、震動が襲って来た!!

 

「!? キャアッ!?」

 

「蘭!」

 

倒れそうになった蘭を弾が支えた瞬間、艦橋内に警報が鳴り響き始める。

 

「!?」

 

「何だ!?」

 

「くーちゃん!!」

 

「ビデオ・パネル、チェンジ!!」

 

一同が驚く中、束はくーちゃんにそう指示を飛ばし、くーちゃんがそう声を挙げると、正面に設置されていた大型モニターに映像が映し出される。

 

其処には、ダイガンカイを中心に陣形を組んで居る大艦隊の姿が在った。

 

「!? 四天王の要塞型ガンメン!!」

 

「アディーネ………未だ諦めて無かったのね………」

 

一夏がそう声を挙げると、束が苦々し気な表情でそう言う。

 

「あの周りに居る艦隊は………」

 

「恐らく………今までに制圧した国の………海軍の軍艦」

 

「接収して使ってるワケね………意外とセコイわね」

 

虚の言葉に簪がそう推察を立てると、楯無が皮肉る様にそう言う。

 

と、その瞬間!!

 

映像に映し出されている艦隊が、次々に砲撃とミサイル攻撃を開始する!

 

その直後、またも震動が襲って来る。

 

「!? うわっ!?」

 

「箒!」

 

倒れそうになった箒を、一夏が支える。

 

「野郎! 好き勝手しやがって!! 行くぞお前等!!」

 

神谷は、直ぐに一同を率いて出撃しようとするが………

 

「待ってよ、神谷! ゴーレム達と交戦した影響で、僕達のISはエネルギーがもう残り少ないんだよ!」

 

「真面に戦えるのは、精々1時間程ですわ」

 

シャルとセシリアが、そう言って神谷を止める。

 

「んなモン、気合で如何にかしろ!!」

 

「出来るワケ無いでしょう!!」

 

相変わらずの神谷節に、鈴がツッコミを入れる。

 

「かみやん、皆………此処は私に任せて」

 

すると………

 

艦長席に座った束が、一同に向かってそう言った。

 

「!? 束!?」

 

「姉さん? 一体何を………?」

 

「くーちゃん! 補助エンジン始動!!」

 

「補助エンジン………始動」

 

千冬と箒の問い掛けを無視し、束はくーちゃんにそう命じたかと思うと、何時の間にか下部の座席の1つに着いていたくーちゃんが、コンソールパネルを操作する。

 

すると、何処からとも無く何か“機械が動き出し始めた様な音”が聞こえて来る。

 

「何? 何?」

 

「補助エンジン出力………最大値へ到達」

 

「反重力エンジンへエネルギー注入!」

 

「反重力エンジンへエネルギー注入。閉鎖弁、オープン」

 

のほほんが戸惑いの声を挙げる中、更にテキパキと作業を熟して行く束とくーちゃん。

 

「反重力エンジン内圧力上昇。エネルギー充填80………90………100………120%」

 

「フライホイール始動!!」

 

「フライホイール始動。反重力エンジン、始動10秒前………9………8………7………6………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

くーちゃんのカウントダウンが進むと、グレン団の一同にも緊張が走る。

 

「5………4………3………2………1………反重力エンジン、始動!」

 

「インフィニット・ノア! 発進!!」

 

「インフィニット・ノア!?」

 

束の叫びに、一夏が反応した瞬間!!

 

艦橋と思われる場所に、激しい振動が走り始めた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

名も無き無人島に攻撃を加えているアディーネの率いるダイガンカイを中心とした艦隊は………

 

「有りったけ撃ち込みな! あの島を跡形も無く消し飛ばすんだよ!!」

 

ダイガンカイの艦橋でアディーネがそう命じ、艦隊は執拗なまでに島を砲爆撃する。

 

「篠ノ之 束め………この前、島を攻撃した時は反応を見せなかったから逃げたのかと思ったら、まさかグレン団を呼んでいたとはねぇ。だが好都合だよ! 貴様諸共グレン団を海の藻屑にしてやるよ!!」

 

「アディーネ様! 島の中心部に高エネルギー反応です!!」

 

すると其処で、艦橋要員の獣人の1人がそう声を挙げる。

 

「!? 何だって!?」

 

と、アディーネがそう問い返した瞬間!!

 

地響きと共に、島が崩れ始める!!

 

そして、その中から“巨大な何か”が姿を現し始める!!

 

やがて、島は完全に崩れて水没し………

 

島が在ったその場所には………

 

全長が400メートル近くは有ろうかと言う、巨大な艦船が姿を現した!!

 

と、姿を現した巨大艦船の中央上部分が、艦橋を残して左右に広がる様に展開する。

 

そして展開した部分が水平になったかと思うと、飛行甲板となる。

 

更に飛行甲板が展開した後の艦体中央部に、3連装主砲と煙突状の大型ビーム砲、そして対空レーザー砲塔が出現する。

 

その姿は正に、構想されながらも実際に運用される事は無かった“幻の戦闘艦”………

 

『航空戦艦』であった。

 

「な、何だい!? あの船は!?」

 

突如現れた巨大な()()()()に、アディーネは驚きを露わにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その航空戦艦………

 

『インフィニット・ノア』の艦橋では………

 

「コ、コレは!?」

 

「コレが………インフィニット・ノア!?」

 

千冬と一夏が驚きの声を挙げる。

 

他の一同も、同じ様に驚愕を露わにしている。

 

「おおっ! スゲェじゃねえか! ウサミミ女!!」

 

只1人、神谷だけが子供の様に燥いでいる。

 

「敵艦隊、全てインフィニット・ノアの()()()展開しています」

 

と其処で、何時の間にかレーダーが在る座席へ移っていたくーちゃんが、そう報告を挙げる。

 

「よおしっ! 一気に片付けるよ!! 反陽子砲、発射用意!!」

 

「了解。反陽子砲、回路オープン。薬室内圧力上昇。全エネルギー、反陽子砲へ」

 

束がそう言うと、くーちゃんはコンソールパネルを操作する。

 

すると、インフィニット・ノアの艦首先端部分の装甲が展開。

 

中から発射口の様な物が出現する。

 

「安全装置解除。セーフティロックゼロ。圧力、発射点へ上昇中。あと0………2………最終セーフティ解除。圧力限界へ」

 

くーちゃんがそう言うと、艦首の発射口に光が集まって行く。

 

「ターゲットスコープ、オープン!」

 

束がそう言うと、艦長席のコンソールパネルから、トリガーの様な機械が現れる。

 

其れを束が握ると、今度は照準器の様な物が出現する。

 

「電影クロスゲージ、明度20! 皆! 対ショック・対閃光防御だよ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その瞬間、艦橋窓の遮光用シャッターが閉まり、グレン団は手近な物へとしがみ付く。

 

「発射、10秒前………9………8………7………6………5………4………3………2………1………0!」

 

「反陽子砲! 発射ぁっ!!」

 

くーちゃんがカウントを終えるのと同時に、束はトリガーの引き金を引く!!

 

すると!!

 

艦首の発射口から、途轍もないエネルギーが敵艦隊目掛けて発射された!!

 

「!? 緊急潜航!!」

 

アディーネのダイガンカイだけが、慌てて水中へ潜ると………

 

反陽子砲は、残っていた敵艦隊の中央を直撃!!

 

巨大な光が広がり、敵艦隊の艦船が溶けて蒸発して行く!!

 

そして最後には、“核爆発”を思わせる様なキノコ雲を伴った巨大な爆発が起こった!!

 

やがてキノコ雲と爆発が収まると、熱湯と化した海からダイガンカイが浮上して来る。

 

「な、何て威力だい………アレだけの艦隊を一瞬で………」

 

「アディーネ様! 如何為さいますか!?」

 

「チイッ! 癪に障るけど撤退するよ!! あの船の性能は未だ未知数だ!! 此処で、(いたずら)に消耗するワケには行かないよ!!」

 

アディーネがそう言うと、ダイガンカイは再び海中へと姿を消すのだった。

 

「ダイガンカイ………撤退して行きます」

 

「ふう~~」

 

くーちゃんからの報告を聞くと、束は椅子の背凭れへと寄り掛かる。

 

「す、凄い………」

 

「何て威力ですの………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

反陽子砲の威力に、シャルとセシリアが思わずそう呟き、他の一同も絶句している。

 

「見た? コレが『宇宙空母インフィニット・ノア』の威力だよ」

 

そんな一同に向かって、束は不敵に笑いながらそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

サードシフトした白式改め白神。
モチーフはお分かりの通り、ゴッドガンダムです。
その力でオータムをアッサリと撃破。

そして遂に姿を現した束とインフィニット・ノア。
何と!
インフィニット・ノアは宇宙空母でした!!
モチーフは私のハンドルネームの元ネタでもある、『宇宙空母ブルーノア』です。
マニアックな作品ですが、登場するメカニックが好きで、個人的にお気に入りの作品なんです。

次回からいよいよ最終章第1部が開始されます。
グレン団を取り巻く環境が大きく変わって行く事になります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第98話『………もうISは作れないんだ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第98話『………もうISは作れないんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束が研究室として使っていた、太平洋の名も無き無人島………

 

だが其れは、神谷の予想通り“束が造った人工島”であり、その正体は『宇宙空母インフィニット・ノア』の建造ドックだった。

 

アディーネのダイガンカイ率いる艦隊が襲撃に現れた時………

 

唸りを挙げてインフィニット・ノアはその姿を現す!

 

必殺の反陽子砲が火を噴くと、瞬く間に敵艦隊を蒸発させる!!

 

凄まじき力を秘めた宇宙空母インフィニット・ノア。

 

果たして、束は何を思ってこんな船を造ったのか?

 

 

 

 

 

現在インフィニット・ノアは、リーロンが秘密裏に建設していた“IS学園の地下ドック”へと係留されている。

 

何時の間にこんなドックを作っていたのか?と真耶がリーロンに尋ねると、リーロンは………

 

()()()()()()()()()()、と思ってね」

 

と返したそうである。

 

其れを聞いた千冬は、又もや頭を抱える。

 

しかし気を取り直し、同行させた束に今回の件に関する事情聴取を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

リーロンの研究室………

 

「凄いわね、コレ! こんな凄い船は初めてだわ!!」

 

モニターに映っているインフィニット・ノアの全容図とスペックデータを見て、リーロンがやや興奮気味にそう言う。

 

「でしょでしょ~! 何せ、この束さんが心血を注いで建造したんだからね~!!」

 

そんなリーロンの傍で、自慢気に胸を張っている束。

 

「…………」

 

そしてくーちゃんは、そんな束の傍に控えている。

 

「オイ、束。自慢は良いから、そろそろ話を聞かせろ」

 

と、そんな束に向かって千冬がそう言う。

 

その後ろには、グレン団の面々の姿も在る。

 

「もう~、ちーちゃんったら~。そんなに焦らなくても、今説明するよ~」

 

束は何時もの様に戯けた様子を見せながら、千冬の方へと向き直る。

 

しかし、その表情に一瞬()が差した事には、誰も気付かなかった………

 

「先ず訊きたいのは………お前が今まで姿を晦ませていたのは、アレ(インフィニット・ノア)を建造していたからか?」

 

千冬は、モニターに映るインフィニット・ノアの全容図を見ながらそう問い掛ける。

 

「その通り!!」

 

そう答えると、束はまたも自慢気に胸を張る。

 

「一体何の為に?」

 

「………コレまでのグレン団の戦いぶりは、私も見させて貰っていたよ。皆、凄いね。間違い無く世界のどのIS乗りよりも活躍してるよ。束さんが保証するよ!」

 

束はグレン団の面々を見ながらそう言う。

 

「いや~、そんな………」

 

「まあ、当然の事ですわ」

 

「その通りよ」

 

真正面から褒められて照れる一夏と、調子に乗った様子を見せるセシリアと鈴。

 

「でも、苦戦した戦いも多かったんじゃないかな? 要塞型ガンメンとの戦いとか」

 

「うっ!?」

 

「そ、其れは………」

 

たが束が続けてそう言うと、鈴とセシリアは言葉に詰まる。

 

「其れに、グレン団は確かに勝ち続けてるけど、“世界全体の戦況”はロージェノム軍が圧倒的に優勢だよ」

 

「確かにな………」

 

束の指摘に、ラウラが苦い顔をする。

 

確かに、グレン団とロージェノム軍との戦闘は連戦連勝だ。

 

しかし、世界全体の戦況は悪化の一途を辿っている。

 

既に壊滅・占拠された国は4分の3に上り、人類側に残されているISも数え切れる程しか無い………

 

このままでは、敵の物量に押し潰されるのを待つばかりである。

 

「この状況を逆転する手立ては只1つ! ロージェノム軍の本拠地を見付けて、決戦を仕掛けるしか無いよ!!」

 

「ロージェノム軍の………」

 

「本拠地………」

 

「篠ノ之博士。仰る事は良く分かりますが………各国の諜報部が全力を挙げているにも関わらず、未だにロージェノム軍の本拠地は明らかになっていないのですよ?」

 

と、楯無が束に向かってそう言う。

 

「言うのは容易いけど………行うのは容易く無いわ………」

 

「姉さん。姉さんはロージェノム軍の本拠地が何処に在るのか知ってるんですか?」

 

簪がそう言うと、箒が束に向かってそう尋ねる。

 

「ゴメンね………私も全力を挙げて調べていたんだけど、未だに………」

 

束は、申し訳無さそうな顔をしてそう返す。

 

「そうですか………」

 

「でも、“思い当たる可能性”は有るよ」

 

「!? 本当か、束!?」

 

千冬が驚きの声を挙げる。

 

ロージェノム軍の本拠地が分かった。

 

其れは、全世界にとって間違い無く“朗報”である。

 

直ぐにでも知らせなければならない。

 

「飽く迄()()()だよ。確証は無いし………其れに若し、合ってたとしても………」

 

何か言い掛けて止める束。

 

「? 如何したんですか? 束さん?」

 

「ううん、何でも無いよ、いっくん」

 

一夏が尋ねると、束は取り繕う様にそう返す。

 

「だからゴメン………“確実な証拠”が無い限りは発表出来ないよ。下手したら、余計に世界が混乱しちゃうから」

 

「そうか………いや、此方こそすまない」

 

「気にしないで、ちーちゃん………兎も角、インフィニット・ノアは、“来るべきロージェノムとの最終決戦”に備えて建造した()()()()なの」

 

「決戦兵器!?」

 

束の言葉に、箒が驚きの声を挙げる。

 

「そう………そして、グレン団の“移動基地”だよ」

 

「ああ? 俺達の?」

 

「移動基地?」

 

其処で神谷と弾が、頭の上に?を浮かべた様子でそう問い掛ける。

 

「そっ。コレまでのグレン団の戦闘は、“防衛戦”という形式上、全て“()()()()()()で行われていた”でしょ?」

 

「そりゃそうですよ」

 

「でも、コレからはそうは行かなくなるかも知れないよ。ロージェノム軍に対してコチラから打って出て、“海外まで遠征しなきゃいけない”必要が出て来るかもしれないでしょ?」

 

「其れは………」

 

「確かに………そうかもしれませんね」

 

ティトリーと蘭が、顔を見合わせながら頷く。

 

「其処で私は、君達の為に“移動基地”としてこのインフィニット・ノアを建造したの!!」

 

其処で束はそう言うと、モニターに映っている全容図に向き直る。

 

「何たって、この空母は“世界で初めてISを()()()()()()運用出来る”空母だからね!」

 

「! ISを艦載機に!?」

 

真耶が驚きの声を挙げる。

 

グレン団の一同も、神谷以外が驚愕の様子を見せている。

 

ISも、従来の兵器と同じく運用の為には、整備や補給を行う施設が必要である。

 

しかし、国が保有できるISの数が決まっている為、ISは基地施設で整備・補給を行う事が通常であった。

 

勿論、当初“ISを艦載機として運用する空母”の構想自体は唱えられたが、前述の保有数の問題で計画だけで終わっている。

 

高性能ながら高々()()しか無いISを1箇所に集中させたり、其れを“艦載機として運用する事を前提とした空母”は現実的では無かったからだ。

 

空母を建造するには莫大な予算と人員、そして期間が掛かる。

 

だが束は、そのISを“()()()として運用する空母”………

 

言うなれば、『IS空母』を建造したのである。

 

見れば、インフィニット・ノアのスペックデータの中の艦内設備には、ISの運用に必要な物が揃って居た。

 

格納庫・整備室・部品製造工場・エネルギー補給装置、etc.………

 

「勿論、インフィニット・ノア“自体の戦闘能力”だって凄いんだよ~」

 

束の言葉に、一同は無言で同意する。

 

何せ、初登場した際に見せた必殺武器『反陽子砲』は、1撃で敵の大艦隊を海の藻屑に変えたのだ。

 

更に、戦艦の如き巨大な3連装主砲やレーザー砲、多数設置された対空レーザーとミサイル発射口。

 

装備されている武装のどれ1つ取っても、現代の艦船の武装の威力を大きく上回っている。

 

更に驚くべき事に………

 

このインフィニット・ノアは、“空母”でありながら()()()()()………

 

いや、其れ処か大気圏を突破し、“宇宙”にまで行く事が出来るのだ。

 

正にその名の通り、()()()()なのである。

 

極め付けに、設備を含む多くのシステムが高性能AIによって自動制御されており、“少人数での運用が可能”との事だ。

 

「スゲェじゃねえか、束! こんなモンを造っちまうなんてよぉ!」

 

「にゃはははははっ! 当たり前だよ! 何せ、この天才束様だからね!!」

 

神谷に煽てられ、得意気な表情になる束。

 

「あの………篠ノ之博士。“今の世界の状況”をご存じなんですよね? なら、もっとISを造って頂けませんか? 今の人類には、もっと“ISの力が必要”なんです」

 

と其処で、真耶が若干遠慮がちに束に向かってそう言う。

 

確かに、彼女の言う事にも一理は有る。

 

“今現在の人類”がロージェノム軍に勝つには、もっとISの数を増やすしか無い。

 

そして、そのISを開発出来るのは、世界中で只1人、束だけなのである。

 

「…………」

 

真耶からその話を聞いた束は、複雑な表情を浮かべる。

 

「束、お前が何故ISを()()()()しか造らなかったかは分からん。だが、世界の状況は一刻の猶予も無い処にまで来ている。直ぐにでもISの数を増やして欲しい」

 

千冬も、束に向かってそう頼み込む。

 

しかし………

 

「………ゴメン、ちーちゃん、皆………()()()()()()()()()んだ」

 

束は、心底申し訳無さそうにそう呟いた。

 

「!? 如何してですか!?」

 

「篠ノ之博士。貴女も“現状”は御存じの筈です。其れなのに何故?」

 

其れを聞いたセシリアとラウラがそう問う。

 

「…………」

 

しかし、束は答えない。

 

「姉さん、如何してですか!?」

 

「束さん!」

 

「ゴメンね………箒ちゃん、いっくん………」

 

箒と一夏も束に問い質すが、束は只俯くだけだった。

 

「束様………そろそろ此処に居る事も感付かれます」

 

と其処で、今まで黙っていたくーちゃんが、束に声を掛ける。

 

「りょーかい………ゴメンね、皆。もう“()()()ISを増やす事は出来ない”の。其れに………“天上博士との約束”も有るから」

 

「!? 親父とだと!?」

 

束の口から父親の名が出て、神谷が驚きを露わにする。

 

「束! お前、天上博士と知り合っていたのか!? 何時、何処で!?」

 

千冬も驚き、束に向かってそう問い質すが………

 

「ゴメン!! くーちゃん! 行くよ!!」

 

「ハイ………」

 

束がそう言うと、くーちゃんが“何か”を放り投げる。

 

煙幕手榴弾だ!!

 

煙幕手榴弾は床にバウンドしたかと思うと、凄まじい量の煙を吐き出し始める。

 

「キャアッ!?」

 

「エホッ!! エホッ!!」

 

驚く蘭と、煙を吸い込んで噎せるシャル。

 

更に、火災探知機が煙を感知してスプリンクラーから放水が開始される。

 

「うわ~~っ!? びしょ濡れ~っ!?」

 

「もう~! 何なのよ~!!」

 

ティトリーと鈴が、そう声を挙げる。

 

「………!!」

 

咄嗟に、スコープドッグのターレットレンズ部分だけを展開し、暗視レンズで煙幕の透視を試みる簪。

 

しかし、特殊な煙幕なのか、ターレットレンズを切り替えても、透視する事は一切出来なかった。

 

「大変!!」

 

と其処で、リーロンが慌ててパソコンから学園のシステムにアクセスし、スプリンクラーを止める。

 

「アニキ! 何も見えねえよぉ!!」

 

「慌てるな! 弾!!」

 

しかし、未だ煙幕は展開したままなので、弾と神谷からそう声が挙がる。

 

「ピ、ポ、パ、っと」

 

すると、リーロンは更にパソコンを操作する。

 

排煙用の換気扇が起動し、煙幕が排煙されて行く。

 

やがて全ての煙幕が排煙されると………

 

研究室内から、束とくーちゃんの姿は消えていた。

 

「!? 篠ノ之博士が居ない!?」

 

「逃げられたか………」

 

虚が声を挙げると、楯無がそう呟く。

 

「してやられたわね………」

 

「クッ! 束の奴め………」

 

「うえ~~喉が痛いよ~~」

 

リーロンが他人事の様にそう言い、千冬が愚痴る様に言う中、若干煙を吸い込んでいたのほほんが咳き込みながらそう言う。

 

「其れにしても………如何して束さんの口から、アニキのお父さんの名前が?」

 

「アイツ………親父と会った事が有んのか?」

 

一夏と神谷は、束の口から天上博士の名が出た事を思い出し、首を捻る。

 

「其れに、“もうISを造れない”って、如何言う事なんでしょう?」

 

「分からん………全てを知っているのは、他ならぬ“アイツ自身だけ”だからな………」

 

真耶が尋ねると、千冬は疲れた様な表情を見せながらそう言う。

 

「なら、待ちましょう………“姉さんが話してくれる”まで」

 

すると其処で、他ならぬ箒がそんな事を言う。

 

「箒………」

 

「篠ノ之………」

 

そんな箒の姿を見据える一夏と千冬。

 

「取り敢えず、インフィニット・ノアはコチラで預からせて貰いましょう。今日は皆、休んだ方が良いわ」

 

リーロンがその場を纏める様にそう言い、流れで解散となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後………

 

グレン団の面々は生徒会室に代わり、早速貰ったばかりのインフィニット・ノアを屯場にしている。

 

インフィニット・ノアの内部には、戦闘に関する施設の他にも、乗員のストレスケアを目的としている娯楽施設も有り、其れを聞いた神谷が直ぐ様飛び付き、他の一同も其れに続いた。

 

「そりゃそりゃっ! 10連コンボだ!!」

 

「ちょっ!? アニキ! 手加減してよ!!」

 

格ゲーのゲーム台に張り付き、対戦を行っている神谷と一夏。

 

「そりゃあああっ!!」

 

『只今のパンチ力………2トン!! 素晴らしい! 貴方は超人です!!』

 

「凄~い! 弾くん!」

 

弾はパンチングマシンに挑戦し、人間離れした記録を打ち出す。

 

そしてそんな弾の姿に、虚は何の疑問も抱かず拍手している。

 

「よっ! ほっ! イエーイ!」

 

「凄いっ! 高得点だ!!」

 

「本音にこんな特技が有ったなんて………」

 

ダンシングゲームで、リズム感良く動き回って高得点を叩き出すのほほんと、そんなのほほんの姿に感心しているシャルとティトリー。

 

「貰いましたわ! 名古屋撃ちです!!」

 

セシリアは、インベーダーゲームで名古屋撃ちを披露している。

 

懐かしいゲームも在ったものだ。

 

………と言うより、セシリア。

 

何故、名古屋撃ちを知っている?

 

「ぶっちぎりよーっ!!」

 

「負けないわよ!!」

 

レースゲームで、激しいデッドヒートを繰り広げている鈴と蘭。

 

「ああっ!? またか! オノレェ! このラウラ・ボーデヴィッヒを舐めるなよ!!」

 

ラウラは、クレーンゲームで目当ての黒いウサギのぬいぐるみが中々取れず、何度も硬貨を投入している。

 

「ホラホラ、箒ちゃん! しっかり守らないと!!」

 

「クッ! 流石は会長! 出来る!!」

 

箒と楯無は、エアホッケーで白熱した戦いを繰り広げている。

 

「…………」

 

そして簪は、1人静かにガンシューティングゲームで、画面に出て来るゾンビ達を次々に蜂の巣にして行っている。

 

「デュノアさ~ん? 居ますかぁ?」

 

すると其処へ、真耶が遊戯施設へと顔を出す。

 

「あ、山田先生」

 

その姿を確認したシャルが近寄る。

 

他のメンバーも、何だ何だと寄って来る。

 

「デュノアさんにお手紙が来てましたので、渡しておきますね」

 

真耶は、そう言うと1通の封筒を取り出し、シャルに差し出す。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「じゃあ、私はコレで………」

 

シャルが封筒を受け取ると、真耶は踵を返して、娯楽施設から立ち去って行く。

 

「誰からだ、シャル?」

 

「う~んと………」

 

神谷にそう問われ、封筒の送り主を確認するシャル。

 

「!?」

 

しかし送り主の名前を見た途端、シャルの表情が驚愕に染まる。

 

「? どした?」

 

「………()()()()からだ」

 

「!? 何っ!?」

 

シャルがそう呟いたのを聞いて、神谷は即座に封筒を引っ手繰る。

 

送り主の名は、モルガン・デュノア、アメリー・デュノア………

 

つまり、“シャルの()()()父親とその本妻”からの物であった。

 

「シャルロットの父親って言うと………デュノア社の社長の!?」

 

「何だと!? 今更何を考えているんだ!?」

 

「そうよ! “愛人”とのとは言え、()()()()を会社の道具扱いにして!!」

 

一夏が驚きの声を挙げ、箒と鈴からは怒りの声が挙がる。

 

既に、シャルの事情はグレン団の全員が知るところであり、娘を娘とも………

 

否、“人を人とも思わない”モルガン達の遣り方に激しい怒りを覚えていた。

 

そんな連中が、今まで全く音沙汰も無しだったのに、イキナリ手紙等を送って来た事に憤慨している。

 

「シャルロットさん! 読む必要は有りませんわ!!」

 

「その通りだ! そんな奴等の手紙なぞ、“ゴミ以下の代物”だ!!」

 

セシリアとラウラも、怒りを露わにシャルにそう言う。

 

「…………神谷………手紙………返して貰っても良いかな?」

 

しかし、シャルは若干葛藤している様な様子を見せながらも、手紙を持ったままだった神谷に向かってそう言う。

 

「!? シャル!」

 

「デュノアさん!? でも!!」

 

ティトリーが驚き、蘭も何か言おうとしたが………

 

「………“逃げてばかりじゃ居られない”からね………何が言いたいのかキッチリ見届けて………其れで文句を言い返すよ」

 

シャルはそう言いながら、少々翳が有る笑みを浮かべる。

 

「でゅっちー………」

 

「デュノアさん………」

 

のほほんと虚が、心配そうな眼差しで見詰める。

 

「神谷………」

 

「………嫌な事書いてあったら、直ぐに破り捨ててやれ」

 

再度シャルは神谷に呼び掛け、神谷は渋々ながらも封筒をシャルに手渡すのだった。

 

「…………」

 

シャルは封筒を再度手にすると、封を切って手紙を取り出す。

 

そして一瞬躊躇いながらも広げ、内容を読み始める。

 

「さ~て、何が書いて有るのかしらね………?」

 

「余り良い事が書かれている………予感はしないわね」

 

「…………」

 

楯無と簪がそう言い合い、弾も固唾を呑む。

 

「…………」

 

シャルは只々ただ無言で手紙を読み進めて行く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その雰囲気に釣られる様に神谷達も無言になり、遊戯施設はゲームの音だけが響き渡る状態となる………

 

「………えっ?………ええっ?………えええっ!?」

 

と、手紙を読んでいたシャルから、戸惑いの様な声が挙がる。

 

「!? 如何したの、シャル!?」

 

「やっぱヒデェ事が書いて有ったのか!?」

 

直ぐ様、ティトリーと神谷がそう声を掛ける。

 

「そ、其れが………今まですまなかったとか………1度じっくり話したいとか書いて有るんだけど………」

 

しかし………

 

シャルから返って来たのは、意外過ぎる答えだった。

 

「!? んだとっ!?」

 

其れを聞いた神谷は、再度シャルの手から手紙を引っ手繰り、内容に目を通す。

 

其処には、シャルが言った通りの内容が書かれていた。

 

「如何言う事だ!?」

 

「アレだけ足蹴にしておいて、今更にこの態度なワケ!?」

 

「虫が良過ぎますわ!!」

 

「全くだ!」

 

箒・鈴・セシリア・ラウラは、今までの事も有り、内容を信じられない様子である。

 

「でも、本当かも知れないよ~?」

 

「“明日をも知れない世の中”になって、自分の行いを省みて恥じた、という事も考えられると思いますが………」

 

しかし、のほほんと虚は頭ごなしに否定するのは良くないと言う。

 

「しかしなぁ………今までの仕打ちが仕打ちだからなぁ………」

 

「私もちょっと信じられないです………」

 

五反田姉妹は懐疑的な様子を見せる。

 

「う~~ん………コレは難しいなぁ~」

 

「ニャア………」

 

「…………」

 

楯無とティトリーは頭を捻り、簪も無言で考えている様な様子を見せる。

 

「何を考えてやがんだ………?」

 

「神谷………僕、今度の休みに………フランスに帰って、あの人と話し合ってみるよ」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

神谷も戸惑っていると、シャルからそんな言葉が発せられ、驚きの声を挙げる。

 

「ちょっ!? 本気なのか、シャルロット!?」

 

「うん………実は1度………あの人としっかり話をしておこうと思ってたんだ」

 

一夏が問い質すと、シャルはそう返事を返す。

 

「決別したって言っても、“IS学園の保護”を盾に、()()()()宣言しただけだったからね。何時かは目の前でキッパリと言ってやろうと思ってたんだ。良い機会だよ」

 

「しかしよぉ、シャル………」

 

「………ホントの事を言うと、あの人の事は僕だって信じられないよ………でも、このままじゃ“逃げてる”だけの様な気がするんだ。だから1度、キチンと向き合って話したいんだ」

 

何か言おうとする神谷を遮り、シャルはそう言う。

 

「シャル………」

 

そんなシャルの瞳を、ジッと見据える神谷。

 

その瞳に宿っている決意は固かった………

 

「………分かった。行って来い、シャル」

 

「ありがとう、神谷」

 

そう言われて、シャルは笑顔を見せる。

 

(………何だ? この()()()()()()?)

 

しかし………

 

神谷は、“言い様の無い胸騒ぎ”を感じているのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

来たるべくロージェノム軍との決戦に備えてインフィニット・ノアを建造した束。
しかし、ISの数を増やす事は否定して来た。
天上博士を知っていたかの様な束だったが、またも姿を消す。

そしてシャルに届いた両親からの手紙。
今までの事を謝りたいとの事に、シャルはフランスへ一旦帰国する事を決める。
しかし、神谷は妙な胸騒ぎを覚えていた………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第99話『世界に逆らう国賊が1匹居るだけの事だ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第99話『世界に逆らう国賊が1匹居るだけの事だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金曜日の夕方………

 

東京国際空港………

 

「じゃあ、行って来るよ、皆」

 

キャリーバックを持ったシャルが、ゲートの前でそう言う。

 

「気を付けるんだぞ、シャルロット」

 

「何か有ったら直ぐに連絡してくれ」

 

「何時でも助けに行くわよ」

 

集まっていたグレン団メンバーの内、一夏・箒・鈴がそう言う。

 

「うん、ありがとう」

 

「シャル………」

 

と其処で今度は、神谷がシャルに声を掛ける。

 

「神谷………」

 

「………気を付けるんだぞ」

 

何か言いた気な神谷だったが、結局其れだけ言うに留める。

 

「うん………それじゃあ、行って来るね」

 

シャルはそう言うと踵を返し、キャリーバックを引きながらゲートへと向かった。

 

「………やはり不安は拭えんな」

 

「大丈夫でしょうか………?」

 

「まあ、ISも持って行ったワケだし、向こうが多少強硬な手段に出ても大丈夫よ」

 

不安が拭えない様子のラウラとセシリアに、楯無がそう言う。

 

「だと良いけど………」

 

しかし、“一抹の嫌な予感”を感じている簪が、そんな呟きを漏らす。

 

「かんちゃ~ん、嫌な事言わないでよ~」

 

「そうですよ、簪様」

 

のほほんと虚が、そんな簪に苦言を呈する。

 

「シャル………」

 

「ティトリーさん………」

 

シャルを心配するティトリーと、そんなティトリーを気遣う蘭。

 

「大丈夫っすよ、アニキ。きっと無事に帰って来ますって」

 

「…………」

 

弾の方も、神谷を気遣う様な様子を見せるが、その言葉は神谷に届いていなかった。

 

(如何にも“嫌な予感”が消えねえ………何だ?………一体何が起こるってんだ?)

 

胸中に過る嫌な予感に、神谷は珍しく不安気な表情を浮かべる………

 

そして、この予感が………

 

“グレン団の運命を大きく変える出来事”として的中しようとは………

 

この時の神谷は、予想だにしていなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ………

 

月曜日の朝………

 

IS学園での授業が始まる。

 

しかし1年1組の教室に、シャルの姿は無かった………

 

本来ならば、昨日の夜には帰っている筈である。

 

其れが帰って来なかった………

 

(シャルロット………帰って来なかったな………)

 

(まさか、()()()何か有ったのか?)

 

(なら、連絡の1つぐらい有る筈ですわ)

 

(一体如何したと言うのだ………?)

 

一夏・箒・セシリア・ラウラが、帰って来なかったシャルの身を心配する。

 

「…………」

 

そして神谷は、空席となっているシャルの席の前に立ち、ジッとその席を見据えている。

 

(神谷………)

 

(かみやん………)

 

そんな神谷の姿を不安そうな表情で見詰めるティトリーとのほほん。

 

「お早うございます、皆さん」

 

「全員席に着け」

 

と其処で、真耶と千冬が教室へと現れる。

 

しかし、現れた真耶は神妙な表情をしており、千冬も憮然とした表情を浮かべている。

 

(? 何か有ったのかな?)

 

自分の席へと戻った一夏がそう思っていると、2人から衝撃的な話が飛び出す。

 

「諸君………実はデュノアの事で話が有る」

 

「デュノアさんは“御実家の方の都合”で………昨日付けでIS学園を退学する事になりました」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

「!? んだとぉっ!?」

 

一夏達が驚愕の表情を浮かべ、神谷も思わず席から立ち上がる。

 

他の生徒達もざわめき始める。

 

「静かにしろ!!」

 

「本当に突然の事ですが、もう()()()()()ですので………」

 

千冬がそんな生徒達を制し、真耶がそう言葉を続けるが………

 

「馬鹿なこと言ってんじゃねえっ!!」

 

神谷が前に出ながら、千冬と真耶に食って掛かる。

 

「実家の都合だと? フザケんな!! アイツの家が如何いうとこだか、テメェも知ってる筈だぞ! ブラコンアネキ!!」

 

「…………」

 

何時もなら神谷を制しようとする千冬だが、この時ばかりは複雑な表情を浮かべ、只“黙って神谷の言葉を聞いていた”。

 

「千冬姉! シャルロットの奴、如何したんだよ!?」

 

「そんな説明では納得が出来ません!!」

 

「織斑先生!!」

 

「教官! 本当の事を仰って下さい!!」

 

「先生!!」

 

「教えて下さい! 先生!!」

 

一夏・箒・セシリア・ラウラ・のほほん・ティトリーも千冬に詰め寄る。

 

「…………」

 

「織斑先生………」

 

沈黙を続ける千冬に、真耶も“何かを訴え掛ける様な眼差し”を向ける。

 

「………本日の授業は自習とする。天上、織斑、篠ノ之、オルコット、ボーデヴィッヒ、布仏、キャッツ………お前達は、私達と一緒にリットナー先生の研究室へ集まれ」

 

やがて千冬は決意したかの様な表情となると、神谷達に向かってそう言い、教室から出て行く。

 

其れに続く真耶の後を追うように、神谷達も続いて教室を後にするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーロンの研究室………

 

「で? 一体如何言う事なんだよ?」

 

途中で、鈴・楯無・簪・虚・弾・蘭とも合流し、グレン団のメンバーが全員集まると、神谷は千冬に向かってそう質問をぶつける。

 

「………“デュノアの実家から連絡が来た”と言うのは本当だ。父親であるモルガン・デュノアが、“()()()()()により退学させる”と言って来た」

 

「親父さんから? なら、シャルロット()()が退学を希望したワケじゃ無いのか?千冬姉」

 

「その可能性も有る………」

 

一夏の意見に、ハッキリとでは無いがそう答える千冬。

 

「なら、如何して抗議しなかったのですか!?」

 

「そうよ! IS学園の生徒の身柄は、IS学園で保護されてる筈でしょう!!」

 

直ぐ様セシリアと鈴が抗議する様にそう言うが………

 

「2人共………落ち着いて………」

 

「デュノア社から圧力が掛かったんですか?」

 

簪がそんな2人を宥める様にそう言い、楯無がそう指摘する。

 

「デュノア社()()なら、未だ何とかなったんだがな………」

 

すると、千冬はそんな言葉を漏らす。

 

「? 如何いう事ですか?」

 

箒がそう尋ねると………

 

「実は………デュノア社だけでなく、“フランス政府からも圧力が掛かった”んです」

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

真耶の言葉に、神谷を除いた一同が驚きを示す。

 

「フランス政府からだと!?」

 

「何故フランス政府が圧力を!?」

 

ラウラと虚が驚いた様子のままそう声を挙げる。

 

「分からん………1つ確かな事は………デュノア社が“政府を動かせる様な何か”を持ったと言う事だ………」

 

と、千冬がそう言った瞬間………

 

突如、研究室内に警報が鳴り響いた!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「何事です!?」

 

「ちょっと待ってね………」

 

神谷達が再び驚き、千冬がリーロンに向かってそう尋ねると、リーロンは直ぐにコンソールパネルを操作する。

 

「!? コレは!?」

 

と、目の前に展開したモニターの映像を見て、珍しく驚きの声を挙げるリーロン。

 

「リットナー先生!?」

 

「一体如何したのですか!?」

 

「………“厄介な事”になったわよ」

 

真耶と千冬がそう尋ねて来ると、リーロンは目の前のモニターに映し出されていた映像を、大型モニターに投影して皆に見せる。

 

其処には、IS学園を包囲し、取り囲んでいる………

 

()()()()()()()の姿が在った。

 

「!? 自衛隊!?」

 

「馬鹿な!? 何故自衛隊がIS学園を包囲している!?」

 

その様子に、真耶と千冬が驚きの声を挙げると………

 

「! 外部から通信が入ってるわ」

 

と其処で、通信が入って来ている事に気付いたリーロンが声を挙げる。

 

「!? コチラに回して下さい!」

 

「了解!」

 

千冬がそう言うと、リーロンは直ぐに回線を繋ぐ。

 

すると千冬の目の前に、内閣官房長官の姿が映し出された。

 

「官房長官!? コレは一体………!?」

 

[通達!!]

 

官房長官は千冬の言葉を遮る様にそう言い、懐から1枚の書類を取り出し、千冬に見せる様にした。

 

[日本国政府は、“日本及び世界各国を取り巻く諸状況”を鑑み、IS学園を政府の管理下に組み入れるものとする!!]

 

「!? 何っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

千冬も思わず驚愕し、一夏達も3度目となる驚きを示す。

 

[よって、IS学園の所有する施設、人員………そしてISは、全て日本国政府が接収する!!]

 

「馬鹿な! アラスカ条約違反だ!! 国際IS委員会が黙っていないぞ!!」

 

淡々と一方的に告げる官房長官に、千冬はそう反論するが………

 

[国際IS委員会は、先程解散した。よって、アラスカ条約も全面撤廃された]

 

「!? 何だと!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

官房長官のその言葉に、一同はまたも驚愕する。

 

[尚、天上 神谷とグレンラガンは、直ちに日本政府へと引き渡して貰う]

 

「!? んだとぉっ!!」

 

突然の名指しに、神谷は座って居た椅子から立ち上がると、官房長官を睨み付ける。

 

[コレは()()()()である。24時間以内に通告に従わなかった場合………我々は、武力を以てIS学園を管理下に置く。“ブリュンヒルデの賢明な判断”に期待する]

 

しかし官房長官はそれを無視し、更に一方的に言葉を続けると通信を切る。

 

「お、織斑先生………」

 

「クッ………まさか………こんな事になるとは………」

 

狼狽えながら千冬に声を掛ける真耶だったが、今回ばかりは千冬も冷静では居られなかった。

 

「お、俺達………如何なっちまうんだ?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

思わず不安を声にする一夏だったが、其れに答える者は誰も居ない………

 

「…………」

 

そして神谷は、1人思い詰めている様な様子を見せている………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

IS学園内は、上を下への大騒ぎであった。

 

生徒達は疎か、教職員達も動揺し、最早千冬や学園長・十蔵の指揮だけでは収まらない。

 

緊急会議で話し合われた意見の中には、日本と徹底抗戦すべきだ………要求を素直に受け入れるべきだ………全てを捨てて逃げるべきだ等、多種多様な意見が交わされた。

 

コレが以前ならば、“日本政府と徹底抗戦すべきだ”という意見が通った可能性も有る。

 

学園の保有するISの数は、自衛隊に配備されている物に比べれば圧倒的に多く、あらゆる現存兵器を凌駕するISならば自衛隊を殲滅する事も出来ただろう。

 

しかし、若し今の状況でそんな事をすれば、守り手の居なくなった日本はロージェノム軍に占拠され、IS学園も直に占拠される事になる。

 

更に、学園を包囲している自衛隊の部隊の中には、量産型のグラパールの姿も在った。

 

グラパールの性能は、元となったグレンラガンやISと比べると低いが、其れでも現存兵器を凌駕している。

 

その上、“訓練を積めば誰にでも使用可能”と言う利点も有り、かなりの数が配備されている。

 

如何にISと言えど無限に戦えるワケではなく、数を頼りに飽和攻撃に曝されれば倒される危険性は大きい。

 

其れは、皮肉にもロージェノム軍との戦争で露見している。

 

加えて、グレン団はいざ知らず、IS学園のIS乗りは(ほぼ)学生………

 

()()()()()()()()()()である。

 

その彼女達が、“実際の戦闘”に出られるか?と問われれば非常に疑わしい。

 

何より問題なのが、相手が同じ()()だと言う事だ。

 

白騎士事件の時、千冬は各国の軍を壊滅させたが、1人の死者も出していない。

 

だが其れは、千冬の技量がずば抜けて高かったからに他ならない。

 

若し、他の誰かが同じ事をしようとしても、出来る保証は無い。

 

ISは兵器である以上、人を殺す。

 

年端も行かない少女達に、そんな覚悟と業を背負わせられるものか………

 

会議は議論が平行線のまま、無駄に時間ばかりを消費して行っていた。

 

そんな中………

 

この騒動の中心に居るとも言えるグレン団の面々は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・校舎の屋上………

 

「ったく………喧しく飛びやがって」

 

弾が上空を旋回飛行している航空自衛隊の戦闘機部隊、更にIS部隊とグラパール部隊を見上げながらそんな事を呟く。

 

「わ、私達………如何なるの?」

 

「蘭、大丈夫だよ。落ち着いて」

 

コレからの事に不安を抱き、震えている蘭を、ティトリーがフォローしている。

 

「其れでお嬢様~。何か分かりました~?」

 

そんな中でも、何時もと変わらずのほほんとした様子で楯無にそう尋ねる。

 

「ええ、更識家の情報網を駆使して調べてみたんだけど………この件にはフランス政府が関わっているみたいだよ」

 

楯無が、扇子を広げて口元を隠しながらそう言う。

 

広げた扇子には『陰謀』と言う文字が書かれている。

 

「またフランス政府!? 一体如何なってんの!?」

 

「IS委員会が解散したのも………フランスが圧力を掛けたみたい………」

 

「この情勢下で、委員会自体の存在が危ぶまれていたからな………」

 

鈴がそう叫ぶ様に言うと、簪とラウラがそう言葉を続ける。

 

「詳しくは分からないわ。けど、“何か”がフランスで起こっている………丁度、()()()()()()()()()()()()()()()からね………」

 

何処か含みを持たせた言い方でそう言う楯無。

 

「クソッ! こうなったらフランスに乗り込んで………」

 

「一夏さん! 其れは無茶ですわ!!」

 

「下手をすればロージェノム軍だけではなく、世界中から狙われる事になるぞ!!」

 

一夏が血気盛んにそう言い掛けたが、セシリアと箒にそう制される。

 

もしココでグレン団の面々が“表立って”逆らう様な真似をすれば、忽ち世界の反逆者になってしまう。

 

そうなればロージェノム軍は元より、守るべき人類からも狙われる事となる。

 

「じゃあこのまま、黙って事の成り行きを見てろ、ってのか!?」

 

「織斑くん! 冷静に!!」

 

頭に血が昇った様子の一夏に、虚がそう言う。

 

「? アレ~? そう言えばかみやんは~?」

 

と其処で、のほほんが神谷の姿が無い事に気付いてそう言う。

 

「アニキだったら、あの話が終わった後、部屋に閉じ籠っちまったぜ」

 

「流石の神谷も、今回の事は堪えたみたいね………」

 

弾がそう答えると、鈴がそう続ける。

 

「心配だな………俺、ちょっと見て来る」

 

「私も行くぞ」

 

「私も」

 

一同はそのまま、神谷の元へと向かう。

 

この複雑な問題………

 

流石の神谷も、如何すれば良いのか悩んでいる、と一同は思った。

 

しかし………

 

既に、神谷は“答え”を出していた。

 

そう………

 

何とも神谷らしい、“単純且つ大胆な答え”を………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・学生寮………

 

一夏と神谷の部屋………

 

「アニキ。俺だけど、居る?」

 

一夏がそう言って、部屋の扉をノックする。

 

「おう、一夏か。入っても良いぞ」

 

すると部屋の中から、“何時もと変わらぬ感じ”の神谷の声が聞こえて来た。

 

「何よ。何時もと変わんないじゃない」

 

「心配して損しましたわ」

 

鈴とセシリアが呆れる様にそう呟く。

 

「いや、でも、無理して明るく振舞ってるんじゃ………」

 

「有り得るな………アニキ、痩せ我慢する(タチ)だし………」

 

「入るよ」

 

ティトリーと弾がそう言い合って居る中、部屋の扉を開ける一夏。

 

「よう、お前等。如何した? 雁首揃えやがって?」

 

其処には、“私物を纏めた”神谷の姿が在った。

 

と言っても、其れ程私物を持っていたワケでは無いので、荷物の量はかなり少な目である。

 

「いや、アニキこそ如何したんだよ? 荷物纏めて?」

 

「決まってんだろ。もう()()()()()()()()からさ」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

まるで、コンビニにでも出かける様な感覚で平然とそう言い放った神谷に、一同は思わず硬直する。

 

「ア、アニキ! 其れって如何いう………?」

 

「“反乱分子”が1人出るのさ………“世界に逆らう()()が1匹居る”だけの事だ」

 

神谷は、事も無げにそう言い放つ。

 

「神谷! 貴様まさか!?」

 

「そのまさかよ………日本もフランスも関係無え………俺はシャルを助けに行く!!」

 

箒に向かってそう言い放つ神谷の目には、一片の迷いも無い。

 

間違い無く“本気の目”だった。

 

「正気か、貴様!?」

 

「神谷くん! 其れは幾ら何でも無茶だよ!!」

 

ラウラが驚愕し、楯無も神谷を説得しようとする。

 

「其れに、貴方が居なくなったら、学園の皆に危険が………」

 

「コレからやる事は“俺が勝手にやる事”だ。そうすりゃ、後はブラコンアネキが適当に理屈付けて言い訳してくれるだろうよ」

 

虚も神谷を止めようとするが、神谷はそう言うと一夏達の間を擦り抜けて行く。

 

「! アニキ!!」

 

「じゃあな、お前等。達者でな」

 

通り過ぎて行った神谷を振り返って声を掛ける一夏だったが、神谷は振り返らずに手を振って別れを告げる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

残された一夏達は呆然と立ち尽くす。

 

「………如何するのよ?」

 

「如何………と言われましても………」

 

「神谷さん………本気で世界まで敵に回す気なの?」

 

やがて絞り出す様に、鈴・セシリア・蘭がそう言い合う。

 

「…………」

 

そんな中、1人思い詰める様な様子を見せている一夏。

 

「一夏?」

 

「如何した? 一夏?」

 

「…………」

 

ラウラと箒が声を掛けるが、一夏は思い詰めた表情を続ける。

 

「!!」

 

しかし、急に決意を固めた様な顔になったかと思うと、開け放たれたままだったドアから部屋に入り、自分の私物を纏め始めた。

 

「一夏!?」

 

「一夏くん!? 貴方まさか!?」

 

箒と楯無が驚愕の声を挙げる。

 

「“国に叛く反逆分子”が1人増えるだけの話さ」

 

「おりむーっ!?」

 

「一夏! アンタまで何馬鹿なこと言ってるの!?」

 

「一夏さん! 落ち着いて下さい!!」

 

事も無げに言う一夏にのほほんが驚愕し、鈴とセシリアが慌てて止めに掛かる。

 

「じゃあ、このままアニキを1人だけ行かせろって言うのか!?」

 

すると一夏は、全員に向かってそう言い放つ。

 

「! 其れは………」

 

「………俺達は“グレン団”だ。()()()()()()()()()()じゃないか。其れに俺達は………何度もアニキに助けて貰ったじゃないか」

 

一同が黙り込むと、一夏は更にそう言葉を続ける。

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

そう言われて一同の脳裏に、今までの戦い、そして学園での日々の思い出が甦る。

 

そしてどの思い出の中にも、必ず神谷の姿が浮かんだ。

 

何時も皆の中心に居て、時には強引に皆を引っ張り続けて来た神谷。

 

その神谷が仲間を置いて、1人で行こうとしている………

 

こんな時こそ、今度は自分達が神谷を引っ張って行くべきじゃないのか?

 

一同の胸中に、そんな想いが過り始める。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

苦悩する様な表情を見せる箒達。

 

「皆!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

しかし、一夏がそう呼び掛けた瞬間!

 

全員が一斉に、自分の部屋へと向かい出したのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

神谷は………

 

(待ってろよ、シャル………今行くぜ)

 

1人足音を響かせながら、学園の地下施設へ向かっている。

 

如何やら、インフィニット・ノアを奪取してIS学園から脱出する積りの様だ。

 

すると………

 

そんな神谷の背後から、ドタバタと複数の足音が近付いて来る。

 

「アニキ!!」

 

「!?」

 

そして一夏の声が聞こえ、神谷が驚きながら振り返ると其処には………

 

様々な荷物を抱えた一夏達が、自分の方へ向かって走って来ていた。

 

「お前等!? 何の積りだ!? コレは俺の………」

 

「水臭いぜ! 何言ってんだよ!?アニキ!!」

 

「俺達はグレン団………“魂の絆で結ばれた兄弟”じゃないか!!」

 

神谷の言葉を遮り、弾と一夏がそう言う。

 

「正直、今回の事には納得していなかったのでな」

 

「“世界を相手に一戦交える”ってのも面白いかもね」

 

箒と楯無も、不敵に笑いながらそう言う。

 

「お前等………」

 

「其れに、私達は“()()()代表候補生”なのよ」

 

「そうですわ。ISファイト国際条約第4条………」

 

「IS専用機乗りは、己の『専用機』を守り抜かなければならない」

 

「私達は………その条約を………忠実に守っているだけ………」

 

鈴・セシリア・ラウラ・簪もそう言う。

 

「私は獣人だし、“()()世界の敵”って事は変わらないよ」

 

「友達を助ける………其れで良いじゃな~い?」

 

「ココまで来たら………一蓮托生です!」

 

「さあ! 行きましょう!!」

 

そして、ティトリー・のほほん・蘭・虚もそう言う。

 

「…………」

 

そんな一同の姿を、神谷は見詰める。

 

「そうか………そうだったな」

 

やがて、そう呟きながらフッと笑った。

 

「行くぜ、お前等ぁっ!! 世界に反旗を翻すぜ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

神谷の号令に、一夏達は勇ましい声を挙げ、改めて地下のドッグを目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

フランスへと帰国したシャル。
しかし、彼女は戻って来なかった………

それどころか、フランス政府からの圧力で国際IS委員会が解散。
アラスカ条約も撤廃され、IS学園は自衛隊に包囲される。
世界の情勢が劇的に変わり始めた中………
グレン団は堂々と反旗を翻します!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第100話『IS学園から脱出すんのさ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第100話『IS学園から脱出すんのさ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両親に呼び出され、ケジメを着けるべくフランスへと帰国したシャル。

 

しかし………

 

彼女は帰って来なかった………

 

其ればかりか、フランス政府からの圧力によってIS学園を退学させられてしまう………

 

更に、フランス政府は日本政府にも圧力を掛け、其れに屈した日本政府は、自衛隊を使ってIS学園を包囲。

 

指揮下に組み入れようと強硬手段を取って来た。

 

最悪な事に、グレンラガンの引き渡し要求まで飛び出す。

 

遂にグレン団もコレまでか?と思われたが……

 

何と神谷は、日本政府、延いては“世界に叛旗を翻す”事を決意。

 

インフィニット・ノアを奪って、IS学園からの脱出を試みる。

 

彼にとっては、“相手”が世界だろうとロージェノム軍だろうと関係無い。

 

只、彼はシャルを助ける為………

 

そして、自分の心の赴くままに戦うのだ。

 

そして………

 

そんな神谷に、一夏達グレン団メンバーも付き従う。

 

今此処に………

 

世界を相手にした、“グレン団の大喧嘩”が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

インフィニット・ノアの係留ドック………

 

巨大なドックに、静かにその身を横たえているインフィニット・ノア。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そのドッグ内へ、決意を固めた表情のグレン団の面々が姿を現す。

 

そのまま荷物を携え、インフィニット・ノアへと乗り込もうとして行く。

 

と………

 

そんなグレン団の面々の前に、多数の人影が姿を現す。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」

 

思わず足を止めるグレン団。

 

「………何をする気? グレン団の皆」

 

そう問い質して来たのは、料理部の部長。

 

グレン団の目の前に立ちはだかったのは、グレン団のクラスメイト、部活仲間を中心とした、IS学園の生徒達だった。

 

「何だ、誰かと思えばお前等か」

 

「質問に答えて。何をする気なの?」

 

何だと言う神谷だったが、料理部の部長は神谷を見据えながら、重ねてそう問い質す。

 

「決まってんだろ! IS学園から脱出すんのさ!!」

 

「学園側は政府の通達を受け入れる事を決めた。しかし、其れに反抗した“過激な反逆者”がグレンラガンと専用機を持ったまま………」

 

「『インフィニット・ノアを奪取して逃亡しちまった』って筋書さ」

 

神谷がそう言うと、一夏と弾が言葉を続ける。

 

「…………」

 

「コレなら、()()日本政府に言い訳は立つし、時間も稼げるわ」

 

「安心して………貴女達に迷惑は掛けないわ………」

 

黙ってその言葉を聞いていた料理部の部長に、今度は楯無と簪がそう言う。

 

「…………」

 

「止めても無駄だぜ」

 

そう言って、生徒達を掻き分けて行こうとする神谷だったが………

 

「誰が()()()って言ったの!?」

 

料理部の部長が、不意にそう叫んだかと思うと、料理部の部員達が神谷達に料理を持ち寄った。

 

「コレ、持ってって! 私達が腕に縒りを掛けた料理だよ!!」

 

「!? お前等!!」

 

神谷達が驚いていると、其れを皮切りにした様に、他の生徒達もグレン団の面々に餞別の品々を渡し始める。

 

「織斑くん。ハイ、コレ」

 

薫子がそう言って一夏に渡したのは、グレン団全員で撮った写真だった。

 

「コレ、何時かの………」

 

「やっと出来上がったんだ。“お守り”代わりに持ってって」

 

「ありがとうございます、先輩」

 

一夏は、薫子に向かって頭を下げながらお礼を言う。

 

「篠ノ之さん、持って行きなさい」

 

剣道部の部長がそう言って箒に渡したのは、剣道部が大会で獲得した優勝旗だった。

 

「コレは!? こんな大事なものを受け取るワケには………」

 

「何言ってるの!? ウチがコレを獲得出来たのは、篠ノ之さんのお蔭なんだから! 遠慮無く持って行きなさい!!」

 

「部長………ありがとうございます!」

 

箒は剣道部の部長から優勝旗を受け取る。

 

「セシリア、持ってって」

 

「皆でお守りにって買ったパワーストーンだよ」

 

テニス部のメンバー達が、お守りにと買って来たパワーストーンをセシリアに渡して行く。

 

「皆さん………ありがとうございます。このセシリア・オルコット、御恩は決して忘れませんわ」

 

若干目に涙を滲ませながら、セシリアはパワーストーンを受け取って行く。

 

「ハイ、鈴! コレお守り!!」

 

「あっちこっちの神社を走り回って手に入れたんだよ!!」

 

そう言ってラクロス部のメンバー達は、鈴にお守りを次々に渡して行く。

 

「ありがとね、皆」

 

「必ず生きて帰って来てよ! 鈴が居なきゃ、今度の大会に出られないんだから!!」

 

「分かってるって!!」

 

ラクロス部なりの激励に、鈴はニヤリと笑う。

 

「ラウラさん! コレ!!」

 

茶道部のメンバーがそう言って手渡したのは、1メートル程の長さの白布に、赤い糸が1000針分くらい縫い込まれている物だった。

 

「コレは?」

 

「『千人針』よ。コレが有れば敵の弾は当たらないわ」

 

「そうか………ありがとう」

 

ラウラは笑顔を浮かべてお礼を言う。

 

「会長! お守りです! 受け取って下さい!!」

 

「私のも受け取って下さい!」

 

「私のも!!」

 

生徒達が、次々に様々な神社のお守りを楯無に渡して行く。

 

「ありがとう、皆。必ず………必ず帰って来るからね」

 

其れを全て受け取りながら、楯無は生徒達にそう約束する。

 

「簪さん、コレ受け取って」

 

そう言って、簪のクラスメート達が渡して来たのは、千羽鶴だった。

 

「皆で一生懸命折ったんだ」

 

「その………今まで簪さんの事、生徒会長の妹だとか、暗い人とか思っててゴメンナサイ」

 

「コレ、お詫びにもならないかもしれないけど………」

 

今まで余り関わろうとしていなかった事もあり、若干負い目を感じている様な様子を見せるクラスメート達だったが………

 

「…………」

 

簪は黙ってその千羽鶴を受け取る。

 

「! 簪さん!!」

 

「………ありがとう」

 

そして、クラスメート達に向かって微笑みながらそう言う。

 

「! うん!!」

 

思わず零れそうになった涙を拭うクラスメート達だった。

 

「虚さん! 荷物になるかもしれませんけど、持ってって下さい!!」

 

「本音! ISの整備は貴女と先輩が頼りなんだからね!! しっかりやるのよ!!」

 

整備課の同僚達から工具や機材を渡される虚と、激励を受けるのほほん。

 

「貴女達………」

 

「皆………」

 

感動で言葉が出なくなっている布仏姉妹。

 

「ティトリー! しっかりね!!」

 

「頑張るんだよ!!」

 

「コレ持ってって!!」

 

ティトリーも、次々に激励の言葉を掛けられ、餞別の品を渡される。

 

「皆………」

 

ティトリーは其れを受けて、何やら思い悩む様な様子を見せたかと思うと、やがて決意した様な表情となり………

 

「皆! 実はアタシ………」

 

「ストップ! 其れは“無事に帰って来てから”聞かせて貰うよ!」

 

「えっ!?」

 

決意して告白しようとした事を止められ、戸惑うティトリー。

 

「例え『何者』でも………“ティトリーはティトリー”」

 

()()()()()だよ」

 

「其れで良いじゃない」

 

そして、口々に笑みを浮かべてそう言った。

 

「! 皆………うわ~~ん! ありがと~う!!」

 

「ホラ、泣かない、泣かない」

 

思わず泣き出してしまうティトリーをあやすクラスメート達。

 

「弾!!」

 

「蘭!!」

 

「!? 爺ちゃん!?」

 

「お母さん!?」

 

弾と蘭の前には、厳と蓮が姿を見せる。

 

「コイツを持って行け!!」

 

そう言って、厳は自分が愛用していた包丁を弾に手渡す。

 

「!? コレ………爺ちゃん愛用の包丁じゃないか!? 受け取れねえよ、こんなの!!」

 

「馬ッ鹿野郎! テメェ、何年俺の手伝いしてやがった!? この先の“グレン団の飯の世話”はオメェがするんだよ!!」

 

「!? 俺が!?」

 

厳からの思い掛けない言葉に、弾は驚きを示す。

 

「オメェと蘭は、立派な“五反田食堂の跡取り”だ………だから、必ず無事で帰って来るんだぞ!!」

 

「爺ちゃん………ああ! 分かったぜ!!」

 

そう言う厳に向かって、弾はサムズアップして見せるのだった。

 

「蘭………」

 

「お母さん、その………ゴメンなさい」

 

「良いのよ………貴女が()()()()()()事なら、お母さんは何も言わないわ」

 

蓮はそう言って、蘭の頭を優しく撫でる。

 

「けど、身体にだけは気を付けて、無事に帰って来るのよ。お母さん達、何時でも待ってるからね」

 

「! お母さん!!」

 

其処で感極まったのか、蘭は蓮に抱き付く。

 

「良し! 行くぜお前等!!」

 

その後も多数の生徒達から激励を受け、いよいよグレン団は、インフィニット・ノアに乗り込もうとする。

 

しかし………

 

「『馬鹿だ馬鹿だ』とは思っていたが、ココまでとは思っていなかったぞ! 天上 神谷!!」

 

そう言う台詞と共に、千冬と真耶がグレン団の前に立ちはだかった!

 

「! 千冬姉………」

 

「千冬さん………」

 

「織斑先生………」

 

一夏達の足が止まるが、神谷だけは不敵な笑みを浮かべて千冬を見据えている。

 

「一夏………お前達は自分が何をしようとしているのか分かっているのか?」

 

グレン団の一同を睨み付けながら、迫力を醸し出しつつそう言う千冬。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その様子にグレン団の表情が強張るが、気後れしている者は1人も居なかった。

 

「IS学園の正式な決定は未だ決まって無えんだろ? なら、その間に俺達が“ノアを奪って逃亡しちまった”事にすれば良いじゃねえか」

 

そして神谷が、千冬に向かってそう言う。

 

「そんな言いワケが通じる相手だと思っているのか?」

 

「皆さん! 考え直して下さい!!」

 

そう返す千冬に、真耶も懇願する様にそう言う。

 

「山田先生………すみません」

 

「俺達ゃ、もう決めちまったんスよ」

 

しかし一夏と弾は、申し訳無さそうにしながらも、キッパリとそう言い返す。

 

「『奪われた仲間を助けに行く』………只()()()()()()よ」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そして、神谷がそう言うと一夏達は無言で頷き、同意を示した。

 

「貴方達………」

 

「チイッ!」

 

真耶は感動した様な様子を見せるが、千冬は舌打ちをしたかと思うと、懐から拳銃を取り出す!

 

「!? 千冬姉!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「今直ぐ戻れ! そうすれば“今回だけ”は見逃してやる!」

 

驚く一夏達に銃口を向け、千冬はそう言い放つ。

 

しかし次の瞬間………

 

「…………」

 

神谷が不敵な笑みを浮かべたまま、銃を向けた千冬に向かって歩き出し始める。

 

「!? アニキ!?」

 

「神谷!?」

 

「! 止まれ! 止まらんと撃つぞ!!」

 

一夏達、そして千冬が驚きながらそう言うが、神谷は歩みを止めない。

 

やがて、千冬の目の前に立ち、銃口を自分の胸………

 

心臓の位置に押し当てた。

 

今千冬が引き金を引けば、確実に神谷は死ぬ。

 

「神谷! 貴様………」

 

「如何した? 撃ってみろよ、千冬………オメェにその()()が有るんなら、撃てる筈だぜ」

 

命を握られているに等しいにも関わらず、神谷は相変わらず不敵に笑いながらそう言い放つ。

 

「くっ! うっ………!」

 

そんな神谷の姿に、千冬は激しい葛藤を見せる。

 

拳銃を握っている手が、ガクガクと震え始める。

 

今の千冬には、目の前に居る神谷の姿が、まるで巨人の様な大きさに見えていた。

 

(馬鹿な!? この私が、気圧されているだと!?)

 

千冬は、内心で神谷の気迫に驚きながらも、必死に冷静さを取り繕おうとしている。

 

するとその瞬間………

 

震える千冬の拳銃に、何者かの手が重ねられる。

 

「!?」

 

「もう良いでしょう、織斑先生………貴女の負けですよ」

 

驚く千冬にそう言ったのは、IS学園学園長・轡木 十蔵であった。

 

「!? アレは!?」

 

「用務員のおじさん!?」

 

「如何しておじさんがこんな所に!?」

 

用務員姿の十蔵しか知らない一夏達と生徒達が、戸惑いの声を挙げる。

 

「!? 学園長!? 如何して此処に!?」

 

千冬は十蔵の姿を確認すると、思わずそう声を挙げてしまう。

 

「えっ!? 学園長!?」

 

「学園長って………ええっ!?」

 

「如何言う事!?」

 

“表向きの学園長”である、十蔵の妻の姿しか知らない生徒達から戸惑いの声が挙がる。

 

「彼等の覚悟は本物です。今の彼の行動で、織斑先生にも分かっている筈ですよ?」

 

「其れは!!………しかし! 一夏達を危険な目には………!!」

 

「信じてあげなさい。貴女の実の弟とその友達なのでしょう? ()()()()も、教師にとって大切な事です」

 

「…………」

 

優しく説き伏せて来るかの様な十蔵の言葉に、千冬は黙り込む。

 

やがて………

 

拳銃を持っていた腕が、ダラリと垂れ下がった。

 

その瞬間、十蔵の登場で戸惑っていた生徒達は沈黙し………

 

やがてワアアッ!と歓声を挙げ始める。

 

「行き給え、グレン団の諸君………君達が“自分で決めた道”だ。胸を張って進み給え。後の事は私が何とかしよう」

 

「えっと………ありがとうございます! 学園長!!」

 

「あんがとな、オッサン!」

 

戸惑いながらもお礼を言う一夏と、何時もの調子で言い放つ神谷。

 

「神谷! 貴様、学園長に何て口の聞き方だ!?」

 

「ハハハハ、構わないよ、織斑先生………」

 

「よっしゃあ! 改めて行くぜ! お前等ぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

咎める千冬を十蔵が制す中、遂にグレン団の一同はインフィニット・ノアへと乗り込んで行く。

 

(天上 神谷か………ふふ、本当に父親の若い頃にそっくりだな………)

 

乗り込み用のタラップが収容される中、若き日の神谷の父・譲二の姿を知る十蔵は、神谷の姿に譲二の姿を重ね合わせていた。

 

「さて………生徒の諸君。君達にはもう少し頑張ってもらいたい」

 

と其処で、十蔵はそう言いながら、集まっていた生徒達の方を振り返る。

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

十蔵の言葉の意味が分からず、首を傾げる生徒達。

 

「我々はコレから、“学園より逃亡を計ろうとしている国賊”と必死に戦わなければならない。“すんなり見送った”と在っては()()()()()()()()だからねえ?」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

続いての言葉で“全てを理解した”生徒達は、ニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「よ~し! ()()()()を必死に鎮圧しようとするよぉ!!」

 

「「「「「「「「「「おお~~~~~っ!!」」」」」」」」」」

 

やがて料理部の部長がそう言い放つと、生徒達は一斉に動き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、インフィニット・ノアへと乗り込んだグレン団は、艦橋へと辿り着いていたが………

 

其処には、意外な人物の姿が………

 

「いらっしゃい。待ってたわよ」

 

「!? リットナー先生!?」

 

艦橋へと辿り着いたグレン団を出迎えたのは、リーロンだった。

 

「ほええ~っ? 如何してリットナー先生が?」

 

何時もと変わらぬ間延びした声で驚きを示すのほほん。

 

「あら~? “()()()メカニック”は必要無いの?」

 

「そ、其れは………」

 

「確かに、私達だけより心強いですけど………」

 

リーロンのその言葉を聞いたティトリーと虚がそう呟く。

 

「第一、こんな()()()()………見逃す手は無いでしょう?」

 

「ハハハハハッ! リーロン! オメェ分かってんじゃねえか!!」

 

続けてリーロンがそう言うと、神谷は呵々大笑しながら、ナチュラルに“艦長席”へと向かう。

 

「其れに、ひょっとしたら貴方達が変えてくれるかもしれないしね」

 

「変えるって………」

 

「何をですか?」

 

「………『何か』をよ」

 

一夏と箒の質問に、リーロンは不敵に笑ってそう言い放つ。

 

「よっしゃあ! 早速出発するぜ!! 狭いIS学園にゃあ住み飽きた!! (オトコ)は!! 世界を目指せぇっ!!」

 

其処で神谷が、艦長席でそう声を張り上げる。

 

その瞬間、インフィニット・ノアの錨が引き揚げられ、ドックからゆっくりと発進を始めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・周辺………

 

陸海空三自衛隊が、相変わらず包囲を続けている。

 

すると………

 

突如、IS学園敷地内に爆発が上がった!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

何事か?と自衛隊員達が身構えると、更に第2第3の爆発が続く。

 

そして、敷地内に在った海に面している崖が開いたかと思うと………

 

其処からインフィニット・ノアがゆっくりと姿を現す。

 

「撃て撃てぇーっ!!」

 

「反乱分子が逃走するぞーっ!!」

 

若干ワザとらしい声を挙げながら、ISを装着した生徒と教師達がインフィニット・ノアに向かって攻撃を加えている。

 

勿論コレは()()なので、インフィニット・ノアに命中弾は無く、有ったとしても全て“装甲で弾かれる”様な攻撃をしている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

余りの出来事に、自衛隊員達は呆然となる。

 

「何をしている!? 全部隊攻撃!! 脱走者を止めなさい!!」

 

すると其処で、官邸からその様子を見ていた官房長官が、慌てて自衛隊にそう指示を送って来た。

 

「航空自衛隊!! ミサイル攻撃開始!! あの艦を止めろ!!」

 

官房長官の怒声が通信回線に響く中、航空自衛隊のF-2戦闘機部隊が、インフィニット・ノアへと向かう。

 

「目標、洋上の巨大艦………全機! FOX3!!」

 

そして、F-2部隊から対艦ミサイルが発射される。

 

白煙の尾を曳いて、インフィニット・ノアに向かう対艦ミサイル。

 

しかし………

 

その全てがインフィニット・ノアには命中せず、海面に叩き付けられて水柱を立てる。

 

「馬鹿者! 何をしている!?」

 

「敵は、如何やら“強力なジャミング装置”を備えている模様! 我が方のミサイル攻撃が()()()()()います!」

 

F-2部隊の部隊長が、しれっとそう言い放つ。

 

………本当の処は、彼が“ロックオン機能(システム)”を切って撃つ様に命じていた為、全て外れたのだ。

 

自衛隊は、今までに何度もグレン団に救われた恩が有る。

 

今回の件も、国の命令の為に已むを得ず行ったが、本当の処は“()()()として納得していない”。

 

だから自衛隊は、本気でグレン団を止めるつもりは無いのだ。

 

同時に展開しているグラパール部隊とIS部隊も、態と狙いを外したり、武器や機体が故障したと言い訳をし始める。

 

やがて、インフィニット・ノアがその身を海中へと沈め始める。

 

「イカン! 潜航するぞ!! ええい、構わん!! あの艦を撃沈しろ!! 護衛艦隊!!」

 

官房長官は喚き立てながら、今度は海上自衛隊の護衛艦隊に指示を送る。

 

「全艦、対潜ミサイル発射用意」

 

艦隊司令がそう命じると、護衛艦隊が次々に対潜ミサイルをスタンバイさせる。

 

「………撃てっ!!」

 

そして発射命令が下ると、一斉にミサイルが飛翔する。

 

その瞬間には、インフィニット・ノアは完全に潜航して洋上から姿を消していた。

 

だが、飛翔したミサイルがインフィニット・ノアの居た地点に到達すると分解し、中から対潜魚雷が現れる。

 

落下傘で降下した対潜魚雷は、そのまま海中へと没すると、インフィニット・ノアを追って潜航する。

 

暫く静寂が続いていたかと思うと………

 

やがて海面が盛り上がり、巨大な爆発音と共に巨大な水柱が上がった!!

 

「………こちら護衛艦隊司令。インフィニット・ノアの撃沈を確認。繰り返します………インフィニット・ノアの撃沈を確認しました」

 

「よ~し、良くやった………こうなった以上、IS学園の管理統制化は避けられまい。IS学園め………自ら墓穴を掘る様な真似をしおって」

 

官房長官の得意気な声を聞きながら、艦隊司令………護衛艦『ひゅうが』の艦長は通信を切る。

 

「………如何だ?」

 

「指示通りに、対潜ミサイル(アスロック)の弾頭には全て()()()()()()()を装填しました。“偽装撃沈データ”もバレなかった様です」

 

「そうか………」

 

『ひゅうが』の艦長は其れを聞くと、インフィニット・ノアが消えた海の方へと向き直る。

 

「我々に出来るのはココまでです。御武運をお祈りします」

 

そう言って敬礼を送る『ひゅうが』の艦長。

 

他の艦橋に居た自衛官達や、他の護衛艦の乗組員達も、気付かれぬ様に敬礼を送っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海中………

 

光さえ届かぬ深度を、インフィニット・ノアが潜航している。

 

「………如何やら、上手いこと逃げられたみたいね」

 

自衛隊からの攻撃が止んだ事を確認し、リーロンがそう言う。

 

「コレで私達は、晴れて“世界の敵”ってワケね………」

 

「そうですね………」

 

そう言い合う楯無と一夏だが、その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

2人だけでは無く、箒達他のメンバーも、全員が無言で不敵な笑みを浮かべていた。

 

「へっ! 世界もIS学園も関係ねぇ! コレからは“俺達の戦い”よ!!」

 

其処で神谷が艦長席から立ち上がり、宣言する様にそう言い放つ。

 

「行くぜ! グレン団の伝説の幕開けだ!! 最初の進路はフランス!! シャルを助け行くぜぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおぉーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

神谷の号令に、一夏達は拳を突き上げてそう同調するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、世界を敵に回したグレン団………

 

だが、彼等は誰も後悔はしていない………

 

世界もロージェノム軍も関係無い………

 

仲間を助ける為………

 

“自らの信念”の下に戦う………

 

其れが、グレン団なのである!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

IS学園からインフィニット・ノアで脱出を計画するグレン団。
学友達に見送られ、自衛官達の手助けで、見事脱出に成功。
そして彼等は………
シャルを助ける為に、フランスを目指します。
果たして、世界の敵となった彼等の明日はどっちだ?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第101話『帰りが遅いから迎えに来てやったぜ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を空ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第101話『帰りが遅いから迎えに来てやったぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュノア社がフランス政府を操り、IS委員会を解散させ、更には日本政府に圧力を掛け、IS学園を管理下に置かせようとした。

 

其れに反抗し、グレン団一同はインフィニット・ノアを奪取して、リーロンと共にIS学園を脱出する。

 

最早、世界もIS学園も関係無い。

 

グレン団は“大切な仲間”を取り戻す為………

 

そして“自らの信念を貫く”為に………

 

ロージェノム軍と()()を相手に戦う事となったのだった。

 

今、彼等の乗るインフィニット・ノアは、深き海底を潜航しながら、一路フランスへと向かっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海底を潜航中のインフィニット・ノアの艦橋………

 

「リットナー先生、フランスまでは後どれくらいですか?」

 

「そうねぇ………明日の昼頃には着けるかしら?」

 

一夏がそう尋ねると、リーロンがそう返す。

 

「結構掛かるな………」

 

「オイ、この船飛べんだろ? 其れで一気に行っちまった方が早ええんじゃ無えのか?」

 

箒がそう呟くと、神谷もそんな事を言う。

 

「駄目よ。そんな事したら、一発で見付かっちゃうじゃない」

 

「神谷くん。今や私達は、“世界中のお尋ね者”なんだよ?」

 

「その通り。不必要な戦闘は避けるべきだ」

 

しかし、リーロンはそう言い返し、楯無とラウラもそう言って来る。

 

前回(第100話)の一件で、今やグレン団の面々は“世界に叛旗を翻した”と思われている。

 

幸い、自衛隊が撃沈を偽装してくれたので追手は掛かってはいないが、若し姿を現せば生きて居た事が知られ、忽ち各国の軍に追われる事になるだろう。

 

インフィニット・ノアが艦内工場を備え、資材さえ調達すれば無補給で戦える艦と言えど、四六時中戦い続けて居れば神谷達“人間の方に限界が来てしまう”。

 

その為、不必要な戦闘を避ける為にはレーダーやソナーの届かない海底を進むしか無いのだ。

 

「チッ! しゃあねえなぁ………」

 

不承不承ながらも神谷は引っ込む。

 

「暴れるのは………フランスに着いてから………その為に………今、のほほん達も頑張ってくれてる………」

 

そんな神谷に向かって、アーマーマグナムの手入れをしている簪がそう言う。

 

現在、のほほんと虚は艦内工場と整備設備を使い、ISとグレンラガン、ダンクーガにグラパール達を最高の状態に仕上げてくれているのだ。

 

「そう言えば、ティトリーさんは?」

 

「医務室であのジギタリスって獣人の様子見てるよ。もう怪我は完治してるから、後は目を覚ますのを待ってるだけみたいだからね」

 

其処で艦橋にティトリーの姿が無い事に気付いたセシリアがそう問うと、鈴がそう答える。

 

IS学園が占拠される事を見越していたリーロンは、予めジギタリスの身柄をインフィニット・ノアの医務室へ移していた。

 

[皆さん、食事の用意が出来ましたよ]

 

[食堂に集まってくれ。今日は良い出来だぜ]

 

と其処へ、艦内放送から蘭と弾の声が響く。

 

2人は食堂を担当しており、お蔭で神谷達は学園に居た時と同じく、五反田食堂の定食を味わう事が出来て居る。

 

「おう、やっと飯か。待ちかねたぜ」

 

神谷がそう言って、いの1番に食堂へと向かう。

 

其れに続く様に、他のメンバーも食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

フランス・デュノア社………

 

その地下の独房の様な所にて………

 

「オイ、飯だぞ」

 

マフィアのチンピラの様な男が、そう言って独房の1つに食事を入れる。

 

「…………」

 

しかし、その独房に捕らわれている人物………シャルは不機嫌な表情のまま、食事に手を付けようとしない。

 

「オイ、飯だっつってんだろ」

 

「何時まで此処に居れば良いの?」

 

苛立った声を挙げるチンピラに、シャルは不機嫌そうな表情のままそう言う。

 

「んだとぉ、テメェ………」

 

「如何した?」

 

チンピラが怒りを募らせていると、そう言う声が響いて来て、高級なスーツを着た壮年の男が現れる。

 

「あ、社長………スイマセン。コイツがあんまりにも生意気なもんですから………」

 

途端にチンピラは、その高級なスーツを着た壮年の男………シャルの()()()父親、モルガン・デュノアにヘコヘコする。

 

「………少し席を外して貰おうか」

 

するとモルガンは、独房の中のシャルを横目で見ながらそう言う。

 

「へっ? ですが………」

 

「聞こえなかったのか?」

 

「!? へ、ヘイっ!!」

 

何か言おうとしたチンピラだったが、モルガンが語気を強めてそう言うと、スゴスゴと退散して行く。

 

「………駄々を捏ねるのもいい加減にしたら如何だ? シャルロット」

 

其れを確認すると、モルガンはシャルに向かってそう言う。

 

「………モルガン」

 

「父親を呼び捨てか? シャルロット?」

 

「もうお前の事を父親だなんて思わない! 折角信じてみようと思ったのに! お前はそんな僕の気持ちを裏切った!!」

 

立ち上がると独房のドアに近寄り、格子越しにモルガンに向かってそう言い放つシャル。

 

「フン………騙されてノコノコと此処へ帰って来た貴様がマヌケだったと言う事だ」

 

だが、モルガンは薄ら笑いを浮かべてそう言い返す。

 

その手には、シャルから奪った待機状態のラファールが有る。

 

「………僕を如何する積り?」

 

そんなモルガンを睨み付けながら、シャルはそう問い質す。

 

「其れは………」

 

モルガン氏(ムッシュ・モルガン)………コチラの御嬢さんがシャルロットさんですかな?」

 

と、モルガンが何か言おうとしたところ、新たな人物が姿を見せる。

 

其れはレンズの小さな丸メガネを掛け、刃物の様に鋭い釣り目をした緑色の髪に、マントを羽織って貴族か王族を思わせる格好をしている青年だった。

 

「? 誰?」

 

「コレはコレは、ケーブ様! この様な所に………」

 

突然現れた謎の人物を不審がるシャルと、遜った(阿った)態度を取るモルガン。

 

「フフフ………初めまして、シャルロット・デュノアさん。私はケーブ・ニルガと申します」

 

青年………『ケーブ・ニルガ』はシャルに向かってそう自己紹介をする。

 

「…………」

 

そしてケーブは、まるでシャルの事を“観察する”かの様にジックリと見据える。

 

「な、何ですか?」

 

その冷たさの混じった視線に、シャルは若干たじろぐ。

 

「成程………話に聞いていた通り、美しい………“()()()()に相応しい”」

 

するとケーブは、冷ややかな笑みを浮かべながら、シャルに向かってトンでもない事を言い放った!!

 

「え?………!? えええっ!? は、花嫁!?」

 

当然シャルは動揺し、困惑した様子を見せる。

 

「シャルロット………貴様が私から逃げた後、傾き掛けた私の会社を救ってくれたのは、この御方なのだよ」

 

すると其処でモルガンがそう語り始める。

 

「この御方が送り込んでくれた研究員やテストパイロットのお蔭で我が社は急成長………今ではその財力でフランス政府を操れる程になった。そしてケーブ様は、その“見返り”として貴様を所望されたのだ」

 

「!? フランス政府を!?」

 

「その通りです。世界の国の数が減った今、大国であるフランスの発言権は前にも増して大きくなった。そんな中で、“フランス政府を動かせる力”を手にする事が如何言う事かは、分かりますね?」

 

ケーブはシャルに向かってそう言う。

 

「………今に神谷達が来てくれる」

 

何時の間にか、“圧倒的”とも言える力を付けていたデュノア社に気圧されつつも、シャルは“最後の希望が有る”と言う様にそう言う。

 

しかし………

 

「「…………」」

 

その言葉に、ケーブとモルガンは顔を見合わせたかと思うと………

 

「「アッハッハッハッハッハッ!!」」

 

シャルを馬鹿にするかの様に大声で笑い始めた。

 

「な、何が可笑しいの!?」

 

当然憤慨するシャルだったが………

 

「フフフ、失礼………“知らないと言う事は幸せな事だ”と思いましてね」

 

「? 如何言う事?」

 

「コレを見ろ」

 

すると其処で、モルガンが新聞をシャルの独房へと投げ入れる。

 

「コレは………日本の?」

 

其れは、日本で発行された新聞であった。

 

「えっと………IS学園、政府管理下へ………学園より逃亡しようとしたグレン団………!? 逃亡に使用した艦船(インフィニット・ノア)ごと撃沈される!?」

 

その記事を読み上げた途端、シャルの手がワナワナと震え始める。

 

「そ、そんな………嘘だ! 嘘に決まってる!!」

 

「残念だが、その記事は『日本政府と自衛隊から公式発表された情報』を元に作成されたもの………つまり()()だ」

 

取り乱した様にそう叫ぶシャルに、モルガンはそう言い放つ。

 

「嘘だ………そんな………グレン団の皆が………神谷が………」

 

シャルは絶望し、そのままガクリとその場に座り込む。

 

目からは完全に光が消えている………

 

「コレで未練は無くなったな………ケーブ殿との式は明日にも執り行う。其れまで大人しくしているのだな」

 

「ではシャルロットさん。式の時にお会いしましょう」

 

モルガンとケーブは、打ち拉がれているシャルにそう捨て台詞を残し、独房から去って行く。

 

「…………」

 

シャルは光の消えた目で、只その場に座り込み続けていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝………

 

インフィニット・ノアは、漸くヨーロッパへと辿り着く。

 

そのまま、ヨーロッパ各国の軍とロージェノム軍の目を掻い潜り、ジブラルタル海峡から地中海へと侵入。

 

フランス近くの海底に着底した。

 

 

 

フランス・地中海側の某海岸………

 

未だ日も昇り切っておらず、人気の無い海岸に特殊潜航艇で隠密上陸を果たすグレン団。

 

「遂にやって来たぜ! フランスによぉ!!」

 

「シーッ! アニキ、静かに!!」

 

漸くフランスに辿り着き、声を張り上げる神谷に、一夏が慌ててそう言う。

 

「“何処で誰が見てるか分からない”んだからね。行動には注意しないと」

 

「まるで特殊部隊ね、アタシ達」

 

楯無と鈴がそんな事を言い合う。

 

「!? コレは!?」

 

とその時、ISでネット回線をハッキングして情報を収集していたラウラが驚きの声を挙げた。

 

「? ラウラさん? 如何致しましたの?」

 

「コレを見ろ」

 

セシリアが声を掛けると、ラウラは一同に見える様にと或るネット新聞の記事をモニターに展開させる。

 

「何々………?」

 

「『デュノア社社長令嬢の結婚式のお知らせ』………って、何だコリャッ!?」

 

記事を読む箒と、読み終えて驚きの声を挙げる弾。

 

「デュノア社の社長令嬢って………まさか、シャルロットさんの事じゃ!?」

 

「結婚式って、一体如何言う事!?」

 

蘭とティトリーが困惑の声を挙げる。

 

「コレはきっと………“政略結婚”ね」

 

「其れ以外に考えられ無いね」

 

簪がそう言うと、楯無もそう言う。

 

「ふざけんな! 何が結婚だ!!」

 

当然、神谷が烈火の如く怒りを露わにする。

 

「全くだ!!」

 

「好きでもない相手と結婚させられる等、非道の極みですわ!!」

 

「絶対にブッ壊してやる!!」

 

「当然だ!!」

 

箒・セシリア・鈴・ラウラも怒りを露わにする。

 

女尊男卑の世の中でも、結婚は世の女性にとって“憧れの的”である。

 

其れを“政略によって決められる”と言うのが、彼女達も()()()()()()()()()のだ。

 

「こうしちゃ居られない! 直ぐにデュノア社に行こう!!」

 

「でも、目立つ移動は避けないと………フランス軍にでも見付かったら面倒な事になるよ」

 

一夏が直ぐにシャルの元へ行こうと言うが、楯無がそう懸念を表す。

 

「会長さん、忘れたんスか? 俺達には()()()()()()じゃないッスか」

 

すると其処で、弾がそう言う。

 

「ああ………成程………」

 

その言葉が、何を意味するのか悟った簪がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「待ってろよ、シャル………今行くぜ!」

 

そして、神谷はそう言いながら、コアドリルを右手で握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

フランスの首都・パリのデュノア社本社にて………

 

特設された結婚式場には、デュノア社の重役達、フランス政府要人、そしてケーブの関係者達が続々と集まって来ている。

 

そして、式場の控室には………

 

「…………」

 

純白の花嫁衣裳に身を包み、まるで人形の様に佇んでいるシャルの姿が在った。

 

その目からは完全に光が消えている。

 

「お待たせしました、シャルロットさん」

 

「式の用意が整ったぞ」

 

と其処で、控室内に白いタキシード姿のケーブと、昨日よりも更に高級そうなスーツを着込んだモルガンが入室して来る。

 

「…………」

 

しかし、やはりシャルは目の光を消したまま、何の反応も示さない。

 

如何やら、神谷やグレン団のメンバーが全員死んでしまったと思い込み、完全に絶望してしまっている様だ。

 

「やれやれ………コレではまるで()()だな」

 

「フフフ、良いではありませんか、モルガン殿。“人形には人形の良さ”が有る」

 

下衆な笑みを浮かべて、モルガンとケーブはそう言い合う。

 

「そうですな………では、式場へ参りましょうか」

 

「ええ………行きましょうか、シャルロットさん」

 

ケーブはそう言うと、シャルの手を摑む。

 

「…………」

 

シャルは只、手を引かれるまま、ケーブに連れて行かれるのだった………

 

 

 

 

 

結婚式会場………

 

「皆様、大変長らくお待たせ致しました。新郎と新婦の入場です」

 

先に式場へと戻ったモルガンが、マイクで式場に集まっている来客達に向かってそう言い放つ。

 

すると、ケーブとシャルが式場に姿を現す。

 

デュノア社の重役達、フランス政府要人達、そしてケーブの関係者達は、盛大な拍手を以て2人を迎える。

 

2人はそのまま、会場のバージンロードの上を歩いて行き、祭壇の前で止まる。

 

其処で神父が登場し、祭壇の前に立ってケーブとシャルの方に向き直る。

 

「全知全能の神よ。結婚の誓いによって結ばれる2人の上に豊かな祝福をお与え下さい。2人が真実の心で結婚を誓い、愛と誠実を以て、その約束を果たす事が出来ます様に………」

 

神父が、威厳を持ってゆっくりと厳かに歌い上げる様にして言葉を紡ぎ出す。

 

「汝、ケーブ・ニルガよ。汝はシャルロット・デュノアを妻と認め、生涯変わらず愛し続ける事を誓うか? 異議無き時は、沈黙を以て答えよ」

 

「…………」

 

神父の問いに、ケーブは僅かに頷くと不敵な笑みを浮かべたまま沈黙する。

 

其れを見た神父は頷くと、今度はシャルの方に向き直る。

 

「汝、シャルロット・デュノアよ。汝はケーブ・ニルガを夫と認め、生涯変わらず愛し続ける事を誓うか? 異議無き時は、沈黙を以て答えよ」

 

「…………」

 

元々生気を失っているシャルは沈黙を続けている。

 

式場には、パイプオルガンの音だけが響き渡る。

 

「まさかあの“泥棒猫の娘”がこんな形で役に立つなんてね………」

 

「全く、世の中何が幸いするか分からんな」

 

その様子を下衆な笑みを浮かべて眺める、モルガンとその本妻のアメリー・デュノア。

 

「コレでデュノア社の未来は安泰だ」

 

「漸くあの泥棒猫の娘も処分出来て、正に一石二鳥ね」

 

一応とは言え、親とは思えない下衆な会話が繰り広げられる。

 

「神の祝福が有らん事を………」

 

しかし、神父はそれを分かっているのかいないのか、頷くと片手を上げ、そう言った………

 

その瞬間!!

 

「異議有りだぁっ!!」

 

会場内にそう言う声が響き渡る!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「な、何だっ!?」

 

突然、何処からとも無く響き渡って来た声に、モルガンとアメリー、会場の人間達、そしてケーブが驚く。

 

「!? この声はっ!?」

 

と、その次の瞬間には、シャルの瞳に再び光が輝き、顔が生気を取り戻す。

 

何故なら、響いて来たその声は………

 

シャルが()()()()()()()()()()だったからだ。

 

「この結婚………異議有りだぁっ!!」

 

更に続けて、そういう声が響き渡ったかと思うと………

 

祭壇の下から“何か”が突き出て来て、祭壇をバラバラにする!!

 

「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!」

 

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

何か“トンでも無い事”が起こっていると理解した参加者達が悲鳴を挙げ始める。

 

「ひいいっ!?」

 

「くうっ!?」

 

神父とケーブも、慌てて祭壇の前を離れる。

 

「…………」

 

しかし、シャルだけはその場に立ち尽くし、破壊される祭壇をジッと見ていた。

 

やがて、祭壇が完全に破壊されると其処には………

 

 

 

 

 

「男の魂、燃え上がる! あ、度胸変身! グレンラガン!! 俺を誰だと思っていやがる!!」

 

祭壇を破壊したドリルを天に掲げる様に構え、ステンドグラスをバックにポーズを決め、お馴染みの台詞を言い放つグレンラガンの姿が在った!!

 

 

 

 

 

「神………谷………」

 

突然現れたグレンラガンに、シャルは呆然となりながらも、絞り出す様にそう呟く。

 

「…………」

 

その姿を見たグレンラガンはドリルをしまい、頭部だけを神谷の状態に戻したかと思うと………

 

「よう、シャル。帰りが遅いから迎えに来てやったぜ」

 

何時もの様に不敵な笑みを浮かべて、シャルにそう言った。

 

「! 神谷あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

途端にシャルは、涙を流しながら神谷の元へ駆け寄り、そのまま抱き付く。

 

「おおっと!?」

 

「神谷! 神谷! 神谷! 生きてたんだね! ホントに神谷なんだね!!」

 

ボロボロと涙を零しながら神谷にきつく抱き付き、シャルは矢継ぎ早にそう言う。

 

「当たり前ぇだろ! 俺が死んだりするかよ!!」

 

「良かった………良かったよぉ………」

 

泣きながらそう繰り返すシャル。

 

「…………」

 

やがて神谷の方も、そんなシャルの身体を優しく抱き締めるのだった。

 

「き、貴様はまさか!?」

 

と其処で、モルガンが神谷を指差しながらそう声を挙げる。

 

「おうおうおうおう! テメェ等! 耳の穴かっぽじってよおく聞きやがれぇっ!!」

 

其れを聞いた神谷は、シャルを背で庇う様にしたかと思うと、見得を切り始める。

 

「無茶で無謀と笑われようと!」

 

「「意地が支えのケンカ道!」」

 

神谷がそう叫ぶと、ISを纏ったセシリアと鈴が式場に乱入して来るなりそう叫ぶ!!

 

「「壁が有ったら殴って壊す!」」

 

「「道が無ければ、この手で造る!」」

 

続いてラウラとティトリー、楯無と簪が同じ様にISとダンクーガを纏った状態で式場に突入して来て吠える!

 

「「心のマグマが炎と燃える!」」

 

更に、グラパール・弾とグラパール・蘭も突入して来てそう叫ぶ!!

 

そして其処で、ステンドグラスに2つの影が映ったかと思うと!!

 

「「俺(私)達は無敵の!!」」

 

ステンドグラスが砕け、ISを纏った一夏と箒がそう言う叫びと共に突入して来た!!

 

「「グレン団!!」」

 

最後に神谷とシャルがそう言い放ち、グレン団の戦闘メンバー全員が式場内へ姿を現す!!

 

「俺を!」

 

「「「「「俺(私、わたくし、アタシ、僕)達を!!」」」」」」

 

「「「「「「「誰だと思っていやがるっ!!」」」」」」」

 

そして、グレン団の決め台詞が炸裂するのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュノア社を救済した謎の人物………

 

ケーブの花嫁にされそうになったシャル。

 

だが、其処へ駆け付けた我等がグレン団。

 

遂に世界をも相手にした戦いが幕を開ける。

 

しかし………

 

この時、グレン団は………

 

ケーブの()()に、未だ気付いていなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

デュノア社に囚われの身となったシャルは、無理矢理謎の権力者ケーブの花嫁にされそうになる。
グレン団が死んでしまったと思った彼女は、ただその運命を受け入れようとする。
しかし、グレン団は死んでいなかった!
結婚式へと乱入し、シャルを奪還するグレンラガン。
だが、次回………
ケーブの恐るべき正体が明らかに

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第102話『遠慮は要らねえ!! 掛かって来やがれッ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第102話『遠慮は要らねえ!! 掛かって来やがれッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュノア社の社長であり、“()()()父親”であるモルガンに捕らえられたシャル。

 

その前に現れたケーブなる謎の人物。

 

彼は、様々な研究員やテストパイロットをデュノア社へ送り込み、デュノア社を急成長させた張本人であった。

 

その見返りとして、ケーブは事も有ろうにシャルを自分の花嫁にと要求する。

 

モルガンにとって石ころ程度の価値も無いシャルの存在で、自分の会社が倒産を免れるどころか政府を操れるまでに急成長する………

 

親として………

 

いや、人の心すら持たぬ彼は2つ返事で承諾。

 

当然シャルは抵抗するが、ISを奪われた上に神谷達グレン団が全滅したという偽情報を信じ込まされてしまい、絶望する………

 

生気を失ったシャルを、ケーブとモルガン・アメリーは直ぐ様花嫁に仕立て上げ、そのまま結婚式を執り行う。

 

だが、其処へ………

 

生きていたグレン団が乱入!!

 

遂にデュノア社………

 

延いては“フランス政府との全面戦争”が始まろうとしていた。

 

しかし………

 

その裏にはやはり、『奴等』の影が在った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランスの首都・パリのデュノア社本社………

 

特設された結婚式会場内にて………

 

「グ、グレン団ですって!?」

 

「ば、馬鹿な!? 生きていたのか!?」

 

アメリーとモルガンが、式場へ乱入して来たグレン団の姿を見て、驚愕を露わにしている。

 

デュノア社の関係者達と、政府筋の人間達も、驚きの様子で固まっている。

 

「…………」

 

しかしケーブだけは、不敵な笑みを浮かべて、グレン団の面々を見据えている。

 

彼の関係者も、ジッとグレン団の姿を見据えており………

 

中には、露骨に殺気を滾らせている者も居た。

 

(………此奴(コイツ)

 

と頭部だけを装備解除し、シャルを抱き締めているグレンラガンの神谷が、ケーブの姿を見て、彼が只者ではない事………

 

そして“異様な気配”を察する。

 

「………ハッ!? き、貴様!! こんな事をして只で済むと思っているのか!?」

 

と其処で、モルガンが我に返った様にそう言い放つ。

 

「此処にはISを持った我が社のIS乗り達も居る! 何より政府筋の人間が居るのだ! 貴様等を国際指名手配犯にする事だって可能なのだぞ!!」

 

「!?」

 

其れを聞いたシャルが、ハッとした様子で顔を強張らせる。

 

今やフランス政府は、デュノア社の思うが儘の存在である。

 

その手を使えば、“神谷達の社会的な抹殺”等容易い事である。

 

「(駄目だ! 幾ら神谷でも、“世界を相手に戦う”なんて!!)神谷!!」

 

如何に神谷と言えど、世界を相手に戦う事等出来ないと思ったシャルは、神谷に何かを言おうとしたが………

 

「其れが如何したぁっ!?」

 

「!? なっ!?」

 

「ええっ!?」

 

神谷のその返答に、モルガンもシャルも呆気に取られた表情となる。

 

「指名手配結構! 俺達は“俺達がやりたい様にやる”! ()()()()()()()ってんなら………遠慮は要らねえ!! 掛かって来やがれッ!!」

 

そのまま、更にそう啖呵を切る神谷。

 

「き、貴様正気か!? 世界中を敵に回して生きて居られると思っているのか!?」

 

「上等だぁっ!!」

 

「ヒイッ!?」

 

その神谷の迫力にビビったのか、モルガンは腰砕けになって床の上に倒れる。

 

「か、神谷!!」

 

「シャル! オメェは俺達グレン団の仲間だ!! その仲間をどうこうしようって輩が居るんなら………俺はソイツと戦う!!」

 

呼び掛けて来たシャルに、神谷はそう言う。

 

「そうだぜ、シャルロット!!」

 

「我々は仲間だ!!」

 

()()()()()()事に………理由等要りませんわ!!」

 

「フランスが何よ! 世界が何よ! アタシ達グレン団は誰にも縛られないわ!!」

 

「誇り高く、何処までも自由な魂………」

 

「其れがグレン団!!」

 

「私達の前に………立ちはだかるモノは………」

 

「ロージェノムも世界も関係無え!!」

 

「私達は! 私達が信じるモノの為に戦う!!」

 

「アタイ達を誰だと思ってやがるっ!!」

 

更に、一夏・箒・セシリア・鈴・ラウラ・楯無・簪、グラパール・弾、グラパール・蘭、ファイナルダンクーガ(ティトリー)からもそう声が挙がる。

 

「………皆」

 

其れを聞いていたシャルの目から、またも大粒の涙が溢れ始める。

 

「な、なな………」

 

「………フフフ………ハハハ………ハハハハハハハハハハッ!!」

 

モルガンが呆然となっていると、突然ケーブが高笑いを挙げ始めた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

グレン団の視線が、ケーブへと集まる。

 

「流石だな、グレン団!! 世界をも敵に回して戦おうと言うのか!? 正に愚かの極みだな!!」

 

「んだとぉっ!?」

 

見下しているかの様なケーブの態度に、神谷が噛み付く。

 

「全くお目出度い奴等だ。“こんな連中に()()()()()は連戦連敗を重ねた”と言うのか………」

 

「!? 何っ!?」

 

ケーブの口ぶりに、“或る予感”を感じる一夏。

 

「貴様! まさか………?」

 

「フフフ………」

 

と箒がそう叫んだかと思うと、ケーブは両腕で顔を覆う様にした。

 

すると………

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

唸り声を発し始めると同時に………

 

ケーブの姿が、“人ならざる者”へと変わって行く!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「ハアアッ!!」

 

グレン団が驚きを露わにした瞬間、ケーブは変身を終えて“獣人となった姿”を晒した!!

 

「! 獣人!!」

 

と、楯無がそう声を挙げた瞬間!!

 

「うわあーっ!!」

 

「うがあーっ!!」

 

式場の彼方此方に散らばっていたケーブの関係者達も、咆哮を挙げながら獣人の姿となる!!

 

「うわっ!? こんなに!?」

 

「成程………“デュノア社が急成長出来た理由”が………分かったわ………」

 

グラパール・弾が驚きの声を挙げると、簪が何処か納得が行った様な様子でそう呟く。

 

「まさか、“獣人が肩入れしていた”なんてね………」

 

「そ、その通りだ! 我が社はロージェノム軍の技術を取り入れる事に成功したのだよ!! お蔭で難航していた第3世代の開発どころか、量産まで成功した!!」

 

鈴が呆れた様に言うと、気を取り直したモルガンが立ち上がり、そう言い出した。

 

「そんな………」

 

「何て事をしてくれたのですか!? 貴方の行いこそが、“人類に対する裏切り”ですわ!!」

 

「黙れ、小娘!! デュノア社を巨大企業にする為に、私がどれだけ苦労を重ねて来たのか貴様に分かるのか!? 其れが“IS第3世代を開発出来ない”と言う()()で潰されてしまうなぞ許せるものか!?」

 

シャルが唖然とし、セシリアが叫ぶが、モルガンはそう言い返す。

 

「私は“私の会社を守る為なら”何でもする!! 当然の事だ!!」

 

「その為に、娘をスパイに仕立て上げたと言うのか………」

 

「挙句の果てに、人類の敵・ロージェノム軍と手を結ぶなんて………」

 

「絶対に許せない!!」

 

ラウラ、グラパール・蘭、ダンクーガが、モルガンに怒りをぶつける!

 

「くっ! ケーブ様! お願いします!! 奴等を血祭に上げて下さい!!」

 

その気迫に怯みながら、モルガンは獣人となったケーブの傍に寄る。

 

と………

 

「モルガン………」

 

「ハイ!」

 

「貴様はもう()()()だ」

 

「へっ?」

 

ケーブは、その鋭い爪でモルガンを引き裂いた!!

 

「!? ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

噴水の様な血飛沫を上げ、床に倒れるモルガン。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「あ、貴方ぁっ!?」

 

グレン団がまたもや驚愕し、アメリーが慌ててモルガンに駆け寄ろうとしたところ………

 

「人間は皆殺しだ!!」

 

マシンガンを持った獣人が、アメリーに向かって弾丸の雨を浴びせる!!

 

「!? キャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

人の形は保っていたものの、一瞬にしてボロボロの肉塊へと変えられるアメリー。

 

「ア、アメリーッ!?」

 

辛うじて生きていたモルガンが、驚愕の声を挙げる。

 

「死ね! 人間めぇっ!!」

 

「皆殺しだ!!」

 

「殺せぇっ!! 全員殺せぇっ!!」

 

更に、獣人達は式場に居た政府関係者達、デュノア社の重役達も惨殺し始める。

 

或る者は棍棒で頭をかち割られ、或る者は鉈で首を斬り落とされ、或る者はマシンガンで蜂の巣にされ、或る者は獣人の怪力によってバラバラにされる………

 

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「ううう!?」

 

凄惨な光景に、グレン団のメンバーからも思わず悲鳴を挙げる者が出る。

 

「ケ、ケーブ様………な、何故………?」

 

虫の息のモルガンが、ケーブに向かってそう問い質す。

 

「フン、モルガン………貴様は、私が思っていたよりも遥かに愚かだな。我々獣人が、“貴様等人間に肩入れする”と()()()思っていたのか?」

 

「!? ま、まさか………!?」

 

「そう………全ては、デュノア社の技術と経済力を使い、“政府を自在に操る事でフランスを征服する”という私の作戦だったのだよ!!」

 

「そ、そんな………!!」

 

「そうとも知らずに、貴様は我々の思惑通りに動いてくれたな………礼を言うぞ、モルガン………死ねっ!!」

 

其処でケーブは、モルガンにトドメを刺した!!

 

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

断末魔の叫びを挙げると、そのまま事切れるモルガン。

 

その死体の下に、血溜まりが出来て行く。

 

「モルガン………」

 

「報いっちゃ報いだな………」

 

シャルがそう呟くと、神谷は冷たくそう言い放つのだった。

 

「フン、所詮は人間………己の欲望の為に目が曇ったか………」

 

と、ケーブはモルガンの死体を漁り始めたかと思うと、待機状態のラファールを取り出す。

 

「! あ! ラファール!!」

 

「オイ! ソイツはシャルのモンだぞ! 返しやがれ!!」

 

其れを見たシャルと神谷がそう叫ぶと………

 

「慌てるな、グレンラガン………」

 

ケーブは、アッサリと待機状態のラファールを投げ渡して来た。

 

「わっ!? わっ!?」

 

驚いて少しお手玉しながらも、シャルは待機状態のラファールをキャッチする。

 

「………如何いう積り?」

 

その行動に納得が行かず、怪訝な顔をケーブに向ける楯無。

 

「簡単な事だ………貴様等の戦力が1人増えようが、“()()()()のには何の支障も無い”と言う事だ」

 

ケーブは相変わらず見下した様な表情でそう言い放つ。

 

「コイツッ!」

 

「舐めやがってっ!!」

 

そのケーブの態度に、一夏とグラパール・弾が憤慨する。

 

「上等だ! 叩き潰せるもんなら潰してみやがれ!! 行くぞ、シャル!!」

 

「! うん!! ラファールッ!!」

 

神谷はそう叫び、頭部をグレンラガンの状態に戻し、シャルも直ぐ様ラファールを呼び出す。

 

「グレンラガン、そしてグレン団よ。今日が貴様等の最期の日だ………エンキァルッ!!」

 

と、ケーブがそう叫んだかと思うと、その身体が怪し気な光に包まれ、“()()エンキ”となった!!

 

「!? あのガンメンは!?」

 

「ヴィラルのと同じ!?」

 

「このエンキァルを、ヴィラルのエンキと同じ、と思わぬ方が良いぞ?」

 

驚くグレン団の面々に、ケーブ改めエンキァルはそう言い放つ。

 

更に、獣人達も次々にガンメンを呼び出して行く。

 

「掛かれぇっ! グレン団を血祭りに挙げろぉっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

エンキァルがそう言い放つと、トビダマを装備しているガンメン部隊が、次々に飛翔しながらグレン団へと襲い掛かる。

 

「皆! ココで戦うのは不利だよ!! 空へ行こう!!」

 

「私は………地上から援護するわ」

 

と、式場内で戦うのは不利だと判断して楯無がそう呼び掛け、簪がそう呟く。

 

「良し! 行くぞ、お前等ぁっ!!」

 

「「「「「「おおーっ!!」」」」」」

 

そしてグレンラガンの号令で、一夏達は式場の天井を突き破り、パリの上空へと飛び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリ・上空………

 

空中へと戦場を移したグレン団とロージェノム軍は、戦闘を開始。

 

花の都の上空に、爆炎が咲き誇り始める。

 

其れを目撃した人々は、忽ち逃げ惑い始める。

 

 

 

 

 

「螺旋王様の為にぃーっ!!」

 

「フッ!!」

 

棍棒で殴り掛かって来た飛行型ゴズーの攻撃を、セシリアは左手に握ったインターセプターで受け止める。

 

………と思わせておいて受け流す!!

 

「おおおっ!?」

 

「其処ですわっ!!」

 

そして、バランスを崩して離れた飛行型ゴズーに、ミサイルのブルー・ティアーズを叩き込む!!

 

「獣人、バンザーイッ!!」

 

断末魔と爆炎を挙げて、木端微塵になる飛行型ゴズー。

 

「このアマァッ!!」

 

「死ねぇっ!!」

 

と今度は、四方八方からガンメン達が一斉に突撃して来る。

 

「!!」

 

だが、セシリアは慌てずに垂直に急上昇する!

 

「ゲハッ!?」

 

「ゴバッ!?」

 

突っ込んで来ていたガンメン達は、互いに衝突する形となる。

 

「甘いですわっ!!」

 

セシリアはそう言い放つと、ガンメン達の頭上からビットのブルー・ティアーズを本体に接続したまま、ビームを放つ!!

 

4条のビームが衝突していたガンメン達を貫き、爆散させるのだった。

 

 

 

 

 

「おおおおりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

気合の掛け声と共に、連結した双天牙月を投擲する鈴。

 

「そんなもの!!」

 

「喰らうかぁっ!!」

 

しかし、ガンメン達も長い戦いで学習したのか、連結した双天牙月のコースを読んで躱して行く。

 

「今だ! 討ち取れぇーっ!!」

 

「「「「「おおおぉぉぉぉーーーーーっ!!」」」」」

 

そして得物を失った鈴に、一斉に突っ込んで行くガンメン達。

 

「………フフッ」

 

しかしその瞬間、鈴は不敵に笑う。

 

すると!!

 

「背中がガラ空きだぞ! 獣人共!!」

 

そう言う声が響いたかと思うと、現れたラウラがワイヤーブレードを1本伸ばし、回転しながら飛んでいた連結した双天牙月をキャッチする。

 

「!? しまっ………」

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

ガンメン達が其れに気づいた瞬間、ラウラは連結した双天牙月をワイヤーブレードに巻き付けたまま振り回す!

 

思わぬ攻撃に、ガンメン達は次々に斬り裂かれて行った!!

 

「「「「「螺旋王様、バンザーイッ!!」」」」」

 

「上手く行ったわね」

 

「当然だ」

 

獣人達の断末魔を聞きながら、鈴とラウラはそう言い合う。

 

 

 

 

 

「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

両肩にスパイラルボンバーを担ぎ、ガンメン達に向かって乱れ撃ちしているグラパール・弾。

 

「うおおおっ!?」

 

「散れっ! 散れぇっ!!」

 

ガンメン達は慌てて散らばり、回避行動を取る。

 

「逃がすかああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そんなガンメン達に向かって、グラパール・弾は更にスパイラルボンバーを乱射する。

 

と、やがてスパイラルボンバーの弾が切れ、カチッカチッと乾いた音を立てる。

 

「アレ?」

 

「弾切れだ!!」

 

「今だ! 殺せぇっ!!」

 

グラパール・弾が間抜けた声を挙げていると、ガンメン達が反撃とばかりに殺到する。

 

「おわわっ!? ちょっ! タンマッ!!」

 

弾切れしたスパイラルボンバーを捨てると、グラパール・弾は慌てて逃げ出す。

 

「死ねぇっ!!」

 

そんなグラパール・弾に、飛行型メズー部隊がガトリング砲を向ける。

 

だがガトリング砲が回転を始めた瞬間、エネルギー弾が飛んで来て、次々に飛行型メズー部隊を撃ち落として行く。

 

「もう! 何やってるのよ!?お兄!!」

 

ライフルを構えたグラパール・蘭が姿を現し、グラパール・弾に向かってそう言い放つ。

 

「いや、すまねぇ。助かったぜ、蘭」

 

「全く………」

 

と、グラパール・弾とグラパール・蘭がそう言い合っていると………

 

「グレンラガン擬き! 覚悟おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

大量のガンメン部隊が、2人目掛けて殺到して来た!!

 

「「!?」」

 

グラパール・弾とグラパール・蘭が直ぐ様応戦しようとしたところ………

 

「2人共! 退()いて!!」

 

「「!?」」

 

そう言う声が聞こえて来て、2人は直ぐ様その場から離れる!!

 

「断空砲! フォーメーションッ!!」

 

その直後、グラパール・弾とグラパール・蘭に殺到していたガンメン部隊に、ダンクーガの断空砲フォーメーションが叩き込まれる!!

 

「「「「「「「「「「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

直撃を受けたガンメン達は蒸発し、余波と誘爆で周囲に居たガンメン達も次々に爆散した!!

 

「やったぁっ!!」

 

「ヒュー! 相変わらずスゲー火力だぜ!」

 

「ホント………」

 

無邪気にそう声を挙げるダンクーガを見ながら、グラパール・弾とグラパール・蘭はそう言い合う。

 

 

 

 

 

「セイヤッ! ハイヤッ!!」

 

右手に握った蒼流旋で飛行型シャクーを貫き、返す刀で左手に握ったラスティー・ネイルを振るい、飛行型アガー達を次々に斬り裂く楯無。

 

「ロージェノム様の為にぃーっ!!」

 

「世界を我等獣人の手に!!」

 

だが、ガンメン達は倒されても倒されても次々に向かって来る。

 

「流石に今回は数が多いわね………簪ちゃんは?」

 

其れを清き熱情 (クリア・パッション)で迎え撃ちながら、楯無は地上の簪を見遣る。

 

 

 

「…………」

 

簪は跳躍から着地したかと思うと、そのまま石畳の道路をローラーダッシュで破片を舞い上がらせながら爆走する。

 

「上々の獲物だぜぇっ!!」

 

すると、その前方に展開していたカノン・ガノンとメズーが、簪に向かってガンポッドとガトリングガンを連射して来る。

 

「…………」

 

だが、簪は飛び交う弾丸の中を涼しい顔をしながら掻い潜り、先ずカノン・ガノンに肉薄する。

 

「うおおおっ!?」

 

「私の邪魔をしないで………」

 

そしてそのまま、カノン・ガノンにアームパンチを叩き込む!

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

勢いの乗ったアームパンチを叩き込まれ、バラバラになって爆散するカノン・ガノン。

 

「…………」

 

その勢いに乗ったまま、簪は独楽の様に回転する動きで攪乱してメズーの背後を取ると、至近距離からヘヴィマシンガンの弾丸を叩き込んだ!!

 

「天国へ行けるかなぁーっ!?」

 

獣人の断末魔を聞きながら、更に正面に展開しているガンメン部隊を確認した簪は、近くに在った建物に向かって跳躍。

 

そのままローラーダッシュで、建物の壁を斜めに昇り切ったかと思うと、三角跳びの要領で道路の反対側の建物の上に陣取る!

 

「丸見えね………」

 

そして、道路に展開していたガンメン部隊に向かって、7連装ミサイルポッドのミサイルを放つ!

 

大爆発が起こり、ガンメン部隊は全て消し飛んだ!!

 

「流石。相変わらず強いねぇ」

 

その様子を見ていた楯無は、蒼流旋の先端部分を回転させて、飛行型ガンメン部隊を纏めて斬り裂きながら、そんな台詞を呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テヤァッ! タアッ!! トアアアッ!!」

 

気合の叫びを挙げながら、次々に飛行型ガンメン達を斬り裂いて行く箒。

 

「タアアアアッ!!」

 

その勢いに乗ったまま、飛行型アガーに向かって雨月を横薙ぎに振るう。

 

「ギャアアッ!?」

 

飛行型アガーの身体に、雨月の刃が半分程食い込む。

 

と其処で勢いが止まり、雨月が飛行型アガーに食い込んだままになってしまう。

 

「!?」

 

「ハハハ! 捕まえたぞ!!」

 

雨月が半分身体に食い込んでいる飛行型アガーがそんな台詞を言い放つ。

 

「クッ!!」

 

直ぐ様空裂を使って引き剥がそうとしたが………

 

「そうはさせるかぁっ!!」

 

空裂に、飛行型ネズーがしがみ付いた!!

 

「!? しまった!?」

 

得物を完全に封じられてしまった箒。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

当然隙を晒す事になってしまい、飛行型ガンメン部隊が箒へと殺到する。

 

「クウッ!!」

 

何とか飛行型アガーと飛行型ネズーを引き剥がそうとする箒だったが、2体は必死にしがみ付いて離れない。

 

あわやと思われたその瞬間!!

 

「ゴッドスラッシュッ! タイフウウウウウゥゥゥゥゥゥーーーーーーーンッ!!」

 

白い竜巻が、飛行ガンメン部隊の中へと飛び込み、触れる者を次々に破壊して行く!!

 

「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

爆炎に包まれて墜落して行く飛行型ガンメン部隊。

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

箒と飛行ガンメン部隊が驚きを示す中、白い竜巻をその正体を現す。

 

其れは紛れも無く、第三形態移行(サード・シフト)を行った白式・白神を装着している一夏だった。

 

「一夏っ!!」

 

「おのれ、織斑 一夏ぁっ!! 殺れぇっ!!」

 

その姿を目撃した飛行型ガンメン部隊は、標的を一夏に変えて襲い掛かる。

 

「肘打ち! 裏拳! 正拳! とおおりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

と次の瞬間には、一夏の両腕に装備された雪羅での拳が連続で放たれ、飛行型ガンメン達が次々にスクラップと化して行く。

 

「ぬおおっ!? つ、強い!!」

 

「奴め!? 何時の間に彼処までの力を!?」

 

螺旋力に目覚めて白式を更に進化させた一夏の戦闘能力に、飛行型ガンメン部隊は驚愕する。

 

「ええいっ! 怯むなぁっ!! 数で押せぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

しかし、飛行型ガンメン部隊は数に任せて押し切ろうとする。

 

「…………」

 

すると一夏は、飛行ガンメン部隊から一旦距離を取る。

 

そして、左腰の鞘に納められていた雪片弐型の持ち手に手を掛け、居合いの構えを取る。

 

「「「「「「「「「「死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

「一夏ぁっ!!」

 

飛行ガンメン部隊が眼前に迫る!

 

と、その瞬間!!

 

「爆熱! ゴッドスラッシュッ!!」

 

一夏の叫びが木霊すると、その姿が一瞬ブレて、“飛行ガンメン部隊の背後に雪片弐型を振り切った状態”で現れる。

 

「ん?」

 

「あ?」

 

其れに気付いた飛行ガンメン部隊が振り返った瞬間!!

 

次々と真っ二つになり、爆発四散する!!

 

「……またつまらないモノを斬ってしまった」

 

何処ぞの石川五右衛門の子孫の様な台詞を呟きながら、雪片弐型を鞘へと納め直す一夏。

 

「一夏………強くなったな」

 

そんな凄まじい強さを誇る様になった一夏に、うっとりとした視線を向ける箒だった。

 

 

 

 

 

そして………

 

グレンラガンとシャルは、エンキァルと対峙している。

 

「フフフ………」

 

不敵な笑いを零し、グレンラガンとシャルを目の前にしても、余裕で腕組みをしているエンキァル。

 

「余裕こきやがって………腹が立つ野郎だぜ」

 

「…………」

 

そんなエンキァルの態度に悪態を吐くグレンラガンと、油断無くガルムを構えているシャル。

 

「シャルロット・デュノア………貴様は、後で()()()()()()()()に加えてやろう」

 

「? コレクション?」

 

エンキァルの言葉の意味が分からず、シャルは首を傾げる。

 

「フフフ………」

 

と、エンキァルはまたも不敵に笑ったかと思うと、パチンッと指を鳴らした。

 

するとその前にモニターが展開し、其処には………

 

剥製にされて飾られている女性達の姿が映し出される。

 

「!?」

 

「何だコリャ!?」

 

その映像に、シャルとグレンラガンは驚きを露わにする。

 

「人間は下等生物だが、“女という生き物”の中には美しい個体が存在する………私は、そう言った者達をコレクションするのが趣味でね」

 

「悪趣味極まりねえぜ、この野郎」

 

自慢する様にそう言うエンキァルに、グレンラガンは吐き捨てる様にそう言う。

 

「君をコレクションの中に入れるのが楽しみだよ、シャルロット・デュノア」

 

「!!」

 

その言葉に、シャルは寒気を覚える。

 

「ざけんなっ!! 誰がそんな事させるか! シャルは俺が守る!!」

 

だが、そんなシャルの前に、グレンラガンがそう言って立ちはだかる。

 

「神谷………」

 

そんなグレンラガンに、潤んだ瞳を向けるシャル。

 

「フッ………掛かって来るが良い。グレンラガン」

 

「上等だぁっ!!」

 

そう言い放つと、グレンラガンはエンキァル目掛けて突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

予測されている方もいましたが、ケーブの正体はやはり獣人。
オリジナルキャラではなくティトリーやジギタリスと同じく、DSゲームのグレンラガンに出たキャラです。
黒いエンキもゲームで登場しています。
用済みになったデュノア夫妻はアッサリと始末されます。
そして花の都で繰り広げられるグレン団とロージェノム軍の戦い。
そして、次回シャルが!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第103話『僕が神谷を………助けるんだああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第103話『僕が神谷を………助けるんだああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュノア社に捕らわれ、無理矢理花嫁にされようとしていたシャルを救出する為に………

 

インフィニット・ノアを奪取して、フランスへとやって来たグレン団。

 

しかし、何と………

 

シャルを花嫁にしようとしていた、デュノア社急成長の立役者・ケーブは獣人………

 

即ち今回の一件は、全てロージェノム軍の陰謀であったのだ!!

 

グレン団と対峙したケーブは、モルガンとアメリーを殺し、更に式に来ていたデュノア社の重役達と政府の要人を皆殺しにする。

 

混沌とした状況の中、グレン団はケーブとの戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランス・首都パリの上空………

 

遂にケーブが駆るエンキァルと、グレンラガン&シャルが激突する。

 

「スカルブレイクッ!!」

 

突撃しながら、スカルブレイクをエンキァルに向かって繰り出すグレンラガン。

 

「フッ………」

 

しかし、エンキァルは僅かに身を捻って躱したかと思うと、伸び切ったグレンラガンの腕を摑む。

 

「!?」

 

「ムンッ!!」

 

そしてそのまま、グレンラガンを投げ飛ばす!!

 

「うおわっ!?」

 

「フッ………」

 

グレンラガンが姿勢を整える前に、腕からエンキァルカウンターを放つエンキァル。

 

「!? うわおあっ!?」

 

グレンラガンの背中に直撃したエンキァルカウンターが次々に爆発する。

 

「このぉっ!!」

 

其処で今度は、シャルがガルムを連射する。

 

「…………」

 

エンキァルは腕のシールドを広げ、ガルムの砲弾を防ぐ。

 

そして反撃にと、両肩からミサイルを放つ。

 

「クッ!!」

 

回避行動を取るシャルだが、ミサイルの誘導性が高く、逃げ切れない。

 

「!! うわああっ!?」

 

咄嗟に実体シールドを構えて防御したものの、凄まじい衝撃でバランスを崩し、実体シールドも罅割れ状態となる。

 

「クウッ!!」

 

「遅いですね………」

 

シャルが体勢を立て直そうとした瞬間には、エンキァルが両手にエンキァルソードを握った状態で眼前に居た。

 

「!?」

 

()()()()()()には、なるべく傷は付けたくないのでね………一息で楽にしてあげましょう」

 

そのままエンキァルソードで、シャルの心臓を貫こうとするエンキァル。

 

「!?」

 

「やらせるかぁっ!!」

 

しかし其処で、体勢を立て直したグレンラガンがグレンブーメランを右手に握って、背後からエンキァルに斬り掛かる!!

 

「フッ………」

 

だが、エンキァルは振り向きもせず、右手のエンキァルソードを背に回して、グレンブーメランを受け止める。

 

「!? 何っ!?」

 

「その程度か? グレンラガン」

 

そう言いながら、エンキァルはシャルにキックを喰らわせて弾き飛ばす。

 

「!? うわあっ!?」

 

「シャルッ!!」

 

「せえあっ!!」

 

そして、シャルに気を取られてしまったグレンラガンに、左手のエンキァルソードを横薙ぎで叩き込む!!

 

「!? ぐおあっ!?」

 

ボディに横一文字の傷が入り、バランスを崩すグレンラガン。

 

あの世(地獄)へ送ってあげますよ………」

 

其処で更に、エンキァルは頭部の兜の飾りにエネルギーを充填させ、至近距離からエンキァルサンアタックを繰り出す!!

 

「!! タービネートリフレクションッ!!」

 

グレンラガンは、咄嗟に右手を前に突き出すと、螺旋エネルギーのバリアを張る。

 

エンキァルサンアタックのエネルギーは、バリアの上を滑り四散する。

 

「見事………と言いたいところだが、無事では済まなかった様だな?」

 

「ハア………ハア………」

 

如何にか防ぎ切ったグレンラガンだが、大きく息を切らせている。

 

更に、バリアを張る為に突き出していた右手の装甲も融解し、白煙を上げている。

 

「痛そうだな、大丈夫か?」

 

「ウルセェッ!! コレぐらい屁でも無えぇっ!!」

 

小馬鹿にするエンキァルに、グレンラガンは“(オトコ)の痩せ我慢”で耐え、左脚の先に3本のドリルを出現させる。

 

「喰らえっ! ドドリルキイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

その足で、エンキァル目掛けて回し蹴りを繰り出す。

 

「無駄だ………」

 

しかし、ドドリルキックが命中するかと思われた瞬間………

 

エンキァルの姿がブレて、忽然とグレンラガンの前から姿を消してしまう。

 

「!? 消えたっ!?………おうわっ!?」

 

驚いていたグレンラガンの背中で爆発が発生。

 

「フフフ………」

 

何時の間にかグレンラガンの背後に廻っていたエンキァルが、両肩からミサイルを見舞ったのだ。

 

「野郎っ!!」

 

「遅いっ!!」

 

体勢を立て直すと直ぐに振り返るグレンラガンだったが、エンキァルはその瞬間、グレンラガンのボディに蹴りを叩き込む。

 

「ゴハッ!?」

 

「そらそらそらそらそらぁっ!!」

 

そのまま両足での連続蹴りを叩き込み始めるエンキァル。

 

「うおおおおっ!?」

 

息も吐かせぬ連続攻撃の前に、グレンラガンは反撃出来ない。

 

「神谷っ!! うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

と其処で戻って来たシャルが、右腕の実体シールドをパージ。

 

灰色の鱗殻(グレースケール)を出現させると、エンキァルへと叩き込もうとする。

 

だが!!

 

「!? そ、そんなっ!?」

 

何と、エンキァルは灰色の鱗殻(グレースケール)の先端を、()()()()()()()()()()()()で受け止めたのだった!!

 

「そんなちゃちな武器でこの私を倒そうとは、舐められたものです」

 

そしてエンキァルがそう言ったかと思うと、エンキァルソードが押され、灰色の鱗殻(グレースケール)は粉々にされてしまう!!

 

「!? ああっ!?」

 

「フッ………」

 

そのままシャルをエンキァルソードで斬り付けようとしたが………

 

「フンッ!!」

 

其処でグレンラガンが、エンキァルの両足を摑む!!

 

「むっ?」

 

「シャルッ! 今だ!!」

 

「!! うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンがそう叫ぶと、シャルは右手にブレッド・スライサーを握り、エンキァルに斬り付けようとする!!

 

「フッ! 馬鹿め!!」

 

しかしエンキァルは動じず、先ず足を押さえていたグレンラガンに、左腕からエンキァルカウンターを見舞う。

 

「うおわっ!?」

 

グレンラガンを引き剥がしたかと思うと、今度は右手のエンキァルソードを、ブレッド・スライサーを見舞おうとして来ているシャル目掛けて振るう。

 

エンキァルソードの刃は、ブレッド・スライサーの刃とぶつかり合い、そのままブレッド・スライサーの刃を斬り飛ばした!!

 

「!? 嘘っ!!」

 

「せえあっ!!」

 

驚くシャルに向かって、エンキァルはボディの全武装を展開!!

 

そのまま、至近距離から全弾を叩き込む!!

 

「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

シールドエネルギーが大きく減少し、装甲も弾け飛び、ラファールは原型を留めない程に破壊される。

 

そのまま、シャルは黒煙を曳きながら地上へと真っ逆さまに落下を始める。

 

「!! シャルッ!!」

 

其れを見たグレンラガンが、直ぐ様シャルの元へと飛ぼうとする。

 

「行かせると思っているのか?」

 

だがその前に、エンキァルが立ちはだかる。

 

「退けええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンが叫ぶと、その右腕にギガドリルが出現する!

 

「ギガァッ!! ドリルゥゥゥッ! ブレエェェェェェイクッ!!」

 

そのまま、エンキァル目掛けてギガドリルブレイクを繰り出す!!

 

「フン………」

 

と、エンキァルはエンキァルソードを一刀流に持ち直したかと思うと正眼に構え、ギガドリルブレイクで突っ込んで来るグレンラガンを見据える。

 

そして、ギガドリルブレイクが眼前まで迫った瞬間!!

 

「セイヤアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

何と!!

 

エンキァルは、エンキァルソードを縦一文字に振るい、ギガドリルを両断した!!

 

「!? んなっ!?………!? ぐえっ!?」

 

驚愕に包まれたグレンラガンの喉を鷲摑みにするエンキァル。

 

「弱い………弱過ぎる………コレが、今まで散々我が軍の手を焼かせたグレンラガンか………何と呆気無い」

 

グレンラガンの喉を鷲摑みにしたまま、エンキァルは拍子抜けしたかの様にそう呟く。

 

「テ、テメェ………! ぐああああっ!?」

 

何か言おうとしたグレンラガンだったが、その瞬間にエンキァルの締め上げる力が更に上がる。

 

ミシミシと嫌な音が、グレンラガンの喉元から鳴り始める。

 

「が………あ………」

 

其れと同時に、グレンラガンの意識も遠退いて行く。

 

「終わりだ、グレンラガン………貴様を欠いたグレン団を倒すのは容易い………コレで、世界は螺旋王様の物だ」

 

エンキァルはそう言い放ち、グレンラガンにトドメを刺そうとする。

 

「………神………谷………」

 

とその光景を、意識が混濁し始め、墜落しているシャルも目撃していた。

 

(神谷が………神谷が死んじゃう………)

 

そう思った瞬間、シャルの脳裏に神谷との思い出が走馬灯の様に甦って来る。

 

(嫌だ………そんなの嫌だ!………僕はずっと………神谷に助けられてばかりだった………だから今度は………)

 

其処でシャルの心に、緑色の光が螺旋を描く光景が浮かんでくる。

 

「僕が神谷を………助けるんだああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そしてそう叫んだ瞬間!!

 

シャルの身体から緑色の光が放たれ、彼女とラファールを包み込む!!

 

「!? 何っ!?」

 

「!? シャルッ!?」

 

その光に気付いたエンキァルとグレンラガンから驚きの声が挙がる。

 

と、緑の光球となったシャルが凄まじい勢いで上昇して来たかと思うと、そのままエンキァルに体当たりを見舞う。

 

「ぐああっ!?」

 

「クッ!! ゲホッ! ゲホッ!」

 

その隙を衝いて、グレンラガンはエンキァルの手から逃れ、咳き込みながらも体勢を立て直す。

 

緑の光球となったシャルは、エンキァルを見下ろす位置に陣取ったかと思うと、其処で光が弾ける。

 

そして、中から“姿の変わったラファール”を身に纏ったシャルが現れる!

 

オレンジ色をしていたカラーリングは、鉄(くろがね)と銀を主体とした堅牢さを感じさせるカラーとなり………

 

全体的なフォルムは変わっていないが、装甲のデザインが何処と無く高貴さを感じさせるデザインとなっている。

 

何より目を引くのは、側頭部に付いている大小2本ずつ、計4本生えた“角”だ。

 

「貴様ぁっ!!」

 

「シャル! ソイツは!?」

 

その姿が変わったラファールの姿を見たエンキァルとグレンラガンがそう声を挙げる。

 

「………コレが“僕の()()()”で生まれた新しいIS………『グレンダイザー』だ!!」

 

其処で、彼女の螺旋力によって第二形態移行(セカンド・シフト)したラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ………『グレンダイザー』を装備したシャルはそう言い放ち、見得を切る様にポーズを取る!!

 

「グレンダイザーだと!? ええい! 虚仮威しをぉっ!!」

 

様変わりしたシャルのISに驚きながらも、変わらずエンキァルソードを一刀流に構え、シャルに向かって突っ込んで行くエンキァル。

 

「! 反重力ストームッ!!」

 

するとシャルがそう叫び、赤く染まっていた胸部のアーマーから、カラフルな光線を放つ。

 

「!? うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!?」

 

その光線を浴びたエンキァルが、まるで重力を遮断されたかの様に上空へと舞い上げられる。

 

「スクリュークラッシャーパンチッ!!」

 

続いてシャルはそう叫び、両腕を拳を握って前に突き出す様にしたかと思うと………

 

何と!!

 

両腕のアーマーが射出され、袖の様な三角デコレーションが起き上がって前方まで反転し、回転しながらロケット噴射でエンキァルへと飛ぶ!!

 

「!? くうっ!?」

 

エンキァルソードを構えて受け止めようとするエンキァルだったが………

 

スクリュークラッシャーパンチが命中した瞬間!!

 

エンキァルソードが粉々に砕けた!!

 

「!? 馬鹿なっ!?」

 

「スペースサンダーッ!!」

 

スクリュークラッシャーパンチを回収すると、シャルは角飾りに雷撃を滾らせ、其れを熱線としてエンキァルに見舞う!!

 

「クウッ! エンキァル! サンアタックッ!!」

 

迫るスペースサンダーに対抗する様に、エンキァルはエンキァルサンアタックを放つ。

 

しかし、スペースサンダーとぶつかり合ったエンキァルサンアタックは一方的に押され、そのままエンキァルの頭部を吹き飛ばした!!

 

「おわああああっ!?」

 

頭が在った部分から、黒煙を上げて蹌踉るエンキァル。

 

「オノレェッ!!」

 

体勢を立て直すと、怒りも露わに残っていたもう1本のエンキァルソードを握り、シャルに向かおうとするが、

 

「俺が居るのも忘れるんじゃねえぜぇっ!!」

 

其処で、グレンラガンがエンキァルの背後を取る!

 

「!?」

 

「バーニングキイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーックッ!!」

 

そしてエンキァルに、足裏のブースターで加速を付けたキック・バーニングキックを叩き込む!

 

「グアッ! グレンラガン! 貴様ぁっ!!」

 

とエンキァルがそう叫びながら、内蔵重火器を全て展開。

 

グレンラガン目掛けて一斉射を見舞う!!

 

「!? ぐうううっ!?」

 

防御姿勢を取って耐えるグレンラガンだったが………

 

その一斉射の中に混じっていたミサイルが、グレンラガンを通り過ぎたかと思うと、反転して背後から命中!!

 

グレンウイングが破壊されてしまう!

 

「!? ウイングが!? うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

翼を失ったグレンラガンは、真っ逆さまに落下を始める。

 

「貴様の最期は、水底がお似合いだ」

 

グレンラガンの落下先がセーヌ川である事を見たエンキァルがそんな事を呟く。

 

だが!

 

「神谷!! スペイザー! 神谷を助けて!!」

 

シャルがそう叫んだかと思うと、巨大な垂直尾翼と左右に補助的な翼が存在し、尾部には2基の巨大なジェットノズルを持つ円盤メカ………『スペイザー』が出現!

 

落下するグレンラガンに向かって飛ぶ!

 

「神谷! 其れに乗って!!」

 

シャルの声で、スペイザーがグレンラガンの落下先に回り込む。

 

「! ありがてぇっ!!」

 

グレンラガンは、そのままスペイザーの上に着地する!

 

スペイザーは、グレンラガンを上に乗せたまま上昇!

 

エンキァルへと向かった!!

 

「!? 何だとっ!?」

 

「変態獣人野郎! お返しだ!! キラーレーザーッ!!」

 

驚くエンキァルに向かって、グレンラガンは胸のグレンブーメランを外すと、ボディの顔の目からレーザーを放つ!!

 

「ぬうあっ!? “人間如き”がぁっ!!」

 

直撃を貰い、怯みながらもスペイザーに乗るグレンラガン目掛けてエンキァルカウンターを放つエンキァル。

 

「おおっと!!」

 

グレンラガンは、スペイザーの上でジャンプして躱す。

 

「メルトシャワーッ!!」

 

と其処でシャルがそう叫ぶと、スペイザーの上部から液体がエンキァル目掛けて放たれる。

 

「!?」

 

咄嗟に、右腕のシールドを広げるエンキァルだったが………

 

液体がシールドに掛かると、シールドが白煙を上げて右腕ごと溶けた!!

 

「!? ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

右腕が溶けて無くなり、エンキァルは悲鳴を挙げる。

 

「グレンブーメランッ!!」

 

その隙を狙い、未だ空中に居たグレンラガンが、手に持っていたグレンブーメランを投擲!

 

高速回転しながら飛んだグレンブーメランは、エンキァルの左腕を肩口から斬り飛ばした!!

 

「!? うがああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

両腕を失い、遂にエンキァルは追い込まれる。

 

「終わりだ! 変態獣人野郎!!」

 

再びスペイザーの上に着地を決めたグレンラガンが、そう叫ぶ。

 

「ダブルハーケンッ!!」

 

と続けてシャルがそう叫び、ショルダー部分に装備されていた銀色の半月状のパーツが分離したかと思うと、其れが長柄で連結されて必殺武器『ダブルハーケン』となる!

 

「ええいっ!!」

 

そのダブルハーケンを、エンキァル目掛けて投擲するシャル。

 

「そんなモノォッ!!」

 

軽々と避けようとするエンキァルだったが………

 

「時空断裂! 大回転キイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

その瞬間にグレンラガンも、エンキァルの頭上から螺旋力を纏った両足での回転蹴りを見舞って来る。

 

「!? 何っ!?」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

エンキァルがそう叫んだ瞬間、先ずグレンラガンの技が炸裂!!

 

エンキァルの身体が、上下に分断される!!

 

「がっ!?」

 

その次の瞬間には、回転しながら飛んで来ていたダブルハーケンが命中!!

 

上下に分かれていたエンキァルが、更に左右にと分断された!!

 

「!? ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

4つに分断されたエンキァルから断末魔の叫びが挙がったかと思うと、そのまま爆発・四散する。

 

「…………」

 

「やったな、シャル」

 

「うん………」

 

其れを無言で見下ろしていたシャルに、再びスペイザーの上に着地したグレンラガンがそう言う。

 

「神谷」

 

「ん?」

 

「あの、僕………」

 

と、シャルが何か言おうとしたその瞬間!!

 

風切り音が鳴り響いて来たかと思うと、パリ市内に砲弾が着弾!!

 

巨大な爆発が起こった!!

 

「「!?」」

 

グレンラガンとシャルが其れに反応した瞬間、更に無数の風切り音と共に、今度は複数の砲弾がパリ市内の彼方此方に着弾!!

 

内1発はエッフェル塔に命中。

 

頑強な鉄骨の塔が、まるで玩具の様に崩れ、無残にも倒れる………

 

一瞬にして、花の都(パリ)が地獄と化す!!

 

「コ、コレは!?」

 

「アニキッ!」

 

「シャルロットッ!!」

 

シャルが言葉を失っていると、漸く飛行型ガンメン部隊の掃討を終えた一夏達が集まって来る。

 

「クソッ! 誰だ!! こんな真似しやがるのは!?」

 

「ア、アニキ………アレ………」

 

グレンラガンが怒りの声を挙げると、グラパール・弾が慄いている様子を見せながら、正面を指差してそう呟く。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

グラパール・弾が指し示した先を見て、一夏達も驚愕する。

 

何故なら其処には………

 

今までに見た事も無い様なロージェノム軍の大軍勢が押し寄せて来ていたからだ!!

 

飛行部隊が空を覆い尽くし、余りの数に空が黒く見えている。

 

更には、地上にも同じか其れ以上の数の部隊が展開し、グレン団の所にまで聞こえる程の地響きを立てて進軍して来ている。

 

其れは宛ら、“軍隊の大津波”が押し寄せて来る様な光景であった………

 

「ロ、ロージェノム軍が………あんなに………」

 

「嘘でしょ………?」

 

一夏と鈴は戦慄した様子も露わに、絞り出す様にしてやっとそう呟く。

 

[皆! 聞こえる!? 急いでインフィニット・ノアまで戻るのよ!!]

 

と其処で、インフィニット・ノアのリーロンから慌てた口調の通信が入る。

 

「! リーロン!」

 

[ロージェノム軍が大攻勢に出て来てるわ!! 既にフランス国内の幾つかの都市や街が、焼き払われるか占領されたわ!!]

 

「そんなっ!?」

 

「フランス軍は如何したんですか!?」

 

驚愕の声を挙げるシャルと、直ぐ様そう尋ねる楯無。

 

[政府の要人達が皆()られちゃった事で、今フランス政府の機能はマヒしちゃってるわ。その煽りを受けて、軍部は混乱して命令系統がズタズタ。各部隊毎に現場判断で交戦してるみたいだけど、上からの指示が無い所為(せい)で各個撃破されてる状態よ]

 

「やられた………奴等の狙いは………最初から其れだったのね………」

 

地上の簪が、苦々し気にそう呟く。

 

「野郎! 俺が叩き潰してやる!!」

 

[馬鹿言わないの! さっきまでの戦いで消耗してるんでしょ!? 例え“万全の状態”だったとしても、アレだけの大軍と()()()()()()()のは無理よ!!]

 

立ち向かおうとするグレンラガンだが、リーロンから冷静な意見が述べられる。

 

「んなモン、やってみなけりゃ………」

 

「アニキ! 此処は一旦退()こう!」

 

「明日の為に、今日の屈辱に耐えるんだ!!」

 

グレンラガンは尚も戦おうとしたが、一夏と箒がそう説得する。

 

「クッ!………チキショーがぁっ!!」

 

悔し気な声を挙げるグレンラガン。

 

その間にも、ロージェノム軍の大軍はパリを包囲し始める。

 

「マズイですわ! 包囲網が展開され始めています!」

 

「こうなると固まって逃げるのは不利だ………一旦バラバラになって逃げるんだ! その後でインフィニット・ノアで合流するんだ!!」

 

其れを見たセシリアとラウラがそう声を挙げる。

 

「りょ、了解!!」

 

「分かったよ!」

 

グラパール・蘭とダンクーガがそう返事を返すと、他の一同も頷く。

 

「良し! 退却ううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!」

 

そして楯無のその掛け声で、グレン団は方々に散らばる様にして退却を開始する。

 

その直後………

 

ロージェノム軍の大軍は、パリへと侵攻………

 

嘗て、第二次世界大戦時にも守られた花の都は………

 

この日、無残な姿を晒す事となったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小1時間後………

 

方々に退却したグレン団のメンバーの内、ラウラは………

 

「クッ! 何処も彼処もロージェノム軍だらけではないか!………フランスは本当に陥落したのだな………」

 

敵の目を掻い潜り、徐々にだがインフィニット・ノアが居る地中海へと近付いていた。

 

現在、深い森の中に隠れ、敵の動きを確認しているが………

 

レーダーを広域に切り替えると、忽ち赤く染まっている地域が出て来る。

 

更にその地域は、徐々に範囲を広げて来ていた………

 

「急がなければ………このままではインフィニット・ノアに戻る事すら出来なくなる」

 

レーダーを閉じると、再びインフィニット・ノアを目指して進み出そうとするラウラ。

 

と、その時!

 

近くの茂みから、ガサッ!と言う音が鳴った。

 

「!? 誰だっ!?」

 

ラウラは即座にレールカノンを茂みへと向ける。

 

すると、茂みから出て来たのは………

 

「「「「「…………」」」」」

 

量産型のグラパール達だった。

 

しかも、全機がドイツ軍の国籍マークである黒十字・バルケンクロイツが刻まれている。

 

「!? ドイツ軍のグラパール隊だと!? 何故我が国の部隊がフランスに居る!?」

 

同郷の軍部隊が現れた事に驚きながらも、ラウラはそう尋ねる。

 

と、その瞬間!!

 

グラパール部隊の隊長機と思われる機体が、ラウラに向けて手にしていたグレネードランチャーの様な武器を発砲した!!

 

発射された弾丸が分解したかと思うと、その中からネットが飛び出し、ラウラに覆い被さる!!

 

「!? な、何をっ!?」

 

直ぐにネットを引き千切ろうとするラウラだったが………

 

その瞬間、ネットから高圧電流が流れた!!

 

「!? あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?………」

 

悲鳴を挙げ、気絶してしまうラウラ。

 

そのままバタリと倒れると、ISが解除される。

 

「「「「「…………」」」」」

 

グラパール部隊は、其れを確認して顔を見合わせると、気絶したラウラを何処かへと連れ去って行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

グレンラガン(神谷)とシャルは………

 

「「…………」」

 

片田舎の石造りの橋の下に隠れている。

 

その上空を、ロージェノム軍の飛行部隊が旋回している。

 

「「…………」」

 

息を潜めてジッとしているシャルとグレンラガン。

 

やがてロージェノム軍の飛行部隊は、旋回を止めて別の空域に飛んで行った。

 

「………行ったみたいだね」

 

「クソッ! この俺が敵から逃げ隠れしなきゃなんねえだなんてよぉ………」

 

逃げの一手しか打てない事に、グレンラガンは悔し気に呟く。

 

「仕方無いよ。時には“逃げる事も勇気”なんだよ、神谷」

 

「チッ………ロージェノムの野郎め………この借りは100倍にして返してやらぁ!」

 

シャルの言葉を聞きながら、グレンラガンは左の掌に右手の拳を打ち付ける。

 

「さ、行こう。また別の部隊が来るかも知れないし………」

 

そう言いながら、シャルは橋の下から出る。

 

「………アレ?」

 

と、其処でシャルが周りの景色を見回し、“何かに気付いた”様な顔をする。

 

「? どした、シャル?」

 

「此処って………」

 

グレンラガンがそう尋ねるが、シャルは応えずに再度周りを確認する様に見渡す。

 

「………そっか………逃げてる内に“()()辿り着いちゃった”のか………」

 

「オイ、何言ってんだ?」

 

要領を得ないグレンラガンが、そう質問を重ねる。

 

「………ねえ、神谷………ちょっと行きたい所が在るんだけど、良いかな?」

 

するとシャルは、グレンラガンに向かってそう言って来た。

 

「あ? 行きたい所?」

 

首を傾げながら呟くグレンラガン。

 

普通に考えれば、撤退中に“寄り道”等するべきでは無い。

 

そんな事をすれば、敵に発見されるリスクが高まるだけだ。

 

しかし………

 

「別に良いぜ。如何しても行きてぇんだろ?」

 

シャルの表情から、其れと察したグレンラガンはそう言い放つ。

 

「! ありがとう、神谷………」

 

其れを聞いたシャルは、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

そして2人は、片田舎の中を敵の目を掻い潜りながら移動し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………此処だよ」

 

そして辿り着いたのは………

 

枯れた花畑が正面に広がっている1軒の家だった。

 

大分放置されていたのか、家は痛みが進んでいる。

 

「何だ、此処は?」

 

「………()()()()()()()()だよ」

 

その家と枯れた花畑を見ながらグレンラガンがそう問うと、シャルがそう答える。

 

「! そう言う事か………」

 

その答えで察するグレンラガン。

 

即ち此処は………

 

シャルが“産みの母(実母)と住んで居た家”なのである。

 

「…………」

 

懐かしそうな顔をしながら、シャルは家の裏手に向かって歩き出す。

 

「…………」

 

グレンラガンも、無言でその後に続いた。

 

家の裏手に回って少し歩くと、1本の木が生えた小高い丘に辿り着く。

 

その丘の上には、1基の墓が立てられていた。

 

「お母さん………」

 

シャルはその墓の前に佇み、そう呟く。

 

「お袋の墓か?」

 

「…………」

 

そう尋ねて来たグレンラガンに、シャルは無言で頷いた。

 

そしてISを解除すると、座り込んで墓石に触れる。

 

「お母さん………“()()()が死んだ”よ………」

 

そのまま墓石に向かって語り始めるシャル。

 

「結局、あの人は最期まで“お金と会社の事”しか考えて無かったよ………僕の事も………()()としてしか………見てくれなかったよ………」

 

「…………」

 

シャルが墓石に語り掛けるのを、只ジッと見ているグレンラガン。

 

「でもね! 僕、全然平気だよ! だって僕にはすっごく“素敵な仲間”が出来たんだ! 自分達が汚名を着る事になっても、僕の事を助けに来てくれたとっても馬鹿で………()()()()()が!!」

 

と其処で、シャルは笑顔になってそう語り出す。

 

「だから心配しないで、お母さん………また暫く来れなくなると思うけど………僕は………もう()()()()()()から」

 

「…………」

 

其処でグレンラガンが神谷の姿に戻ったかと思うと、近くに咲いていた花を摘む。

 

そしてシャルの隣に座り込んだかと思うと、その花を墓石に供えた。

 

「神谷………」

 

「よう、シャルのお袋さん。初めましてだな。俺がグレン団の鬼リーダー。そして()()()()()()の天上 神谷様だ。よろしくな」

 

不敵な笑みを浮かべて、神谷は墓石に向かってそう語り始める。

 

「コレから色々とあるだろうが、心配すんな………シャルはこの俺が守る。必ずな」

 

短くシンプルな言葉だが、確かな決意と覚悟を決めた表情で、神谷はそう語った。

 

「…………」

 

其れを聞いたシャルは、嬉しそうな表情を浮かべて、神谷に身体を預ける。

 

「…………」

 

神谷はそんなシャルの肩を抱き寄せる。

 

そしてその後………

 

2人は墓石に向かって祈りを捧げたかと思うと、インフィニット・ノアへと引き上げ始めた。

 

その時、風が吹いて墓に供えてあった花の花弁が空に舞う。

 

と、その瞬間!

 

墓に背を向けていた神谷とシャルは気付かなかったが………

 

墓石の隣に………

 

身体が薄く透けた、シャルを大人にした様な姿の女性が現れ………

 

神谷とシャルに向かって、優しく微笑み掛けていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

今まで最強の敵、エンキァル。
グレンラガンとシャルが手も足も出せません。
絶体絶命かと思われたその時………
シャルのラファールが第二形態移行(セカンド・シフト)。
グレンダイザーへ姿を変えます。
グレンダイザーにした理由は、シャルの母国フランスで100パーセントの視聴率を叩き出したと言う伝説があるので。

見事エンキァルを撃破しましたが………
何とフランスが陥落。
グレン団はジリジリに逃げ出します。
そんな中で、ラウラがドイツ軍に拉致!?
次回からドイツ編が始まります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第104話『何を言い出すのかと思ったら、そんな事かよ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第104話『何を言い出すのかと思ったら、そんな事かよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルを助け出し、ロージェノム軍のケーブを撃破する事に成功したグレン団。

 

しかしケーブは、“フランス政府の要人を全て抹殺する”という使命を果たしていた。

 

政府機能がマヒして混乱に陥ったフランスは、ロージェノム軍の大軍勢の前に抵抗出来ず、陥落する事となる。

 

グレン団の面々も、命辛々の撤退をする事になる。

 

だが、その最中(さなか)………

 

ドイツのグラパール部隊により、ラウラが拉致された。

 

果たして彼等は何者か?

 

何を目的として、ラウラを拉致したのか?

 

そして、更に………

 

この事件が、簪にも飛び火する事になろうとは………

 

この時、誰も予想していなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地中海・フランス沖の海底………

 

暗闇の海底にその巨体を横たえ、潜んでいるインフィニット・ノア。

 

ほんの少し前、フランスは事実上陥落。

 

遂に、ロシアに続き“常任理事国の1つ”であるフランスまでもが壊滅した。

 

残る大国は、アメリカ・イギリス・中国・ドイツ、そして日本だけとなっている。

 

既にグレン団メンバーは帰還しており、後はラウラが帰還するのを待っている。

 

しかし………

 

丸1日経っても、ラウラは帰って来なかった………

 

 

 

 

 

インフィニット・ノアの艦橋にて………

 

「遅い………幾ら何でも遅過ぎるぞ」

 

中々ラウラが帰って来ない事に、一夏はそう声を挙げる。

 

「既に、フランス全土にロージェノム軍が展開………フランスは事実上制圧されたわ」

 

情報収集席に着いているリーロンが、フランスの現状の情報を収集しながらそう言う。

 

無論、政府首脳部が全滅したとは言え、フランス軍には未だ未だ健在な部隊も多い。

 

その生き残った部隊は地下へと潜り、ゲリラ戦で対抗している。

 

また、労働力として確保されていた市民達も、レジスタンスを結成してロージェノム軍に抵抗しているらしい。

 

尤も、其れが“何時まで続けられる”かは分からないが………

 

「まさか………?」

 

「敵に捕まったんじゃ………?」

 

箒とシャルが、思わずそう口にする。

 

「まさか! ()()ラウラに限って、其れは無いわよ!!」

 

「そうですわ。何せ“現役の軍人”なのですから」

 

鈴とセシリアがそう言って否定するが、其れは自分もその可能性を感じ、其れを信じたくない思いから出た言葉だった。

 

「でも………ココまで遅いとなると………」

 

「流石に、その可能性も捨て切れ無いわね」

 

簪と楯無は、状況を冷静に分析してそう言う。

 

「若し、そうだとしたら………」

 

「大変! 助けに行かないと!!」

 

蘭の呟きに、ティトリーが慌てた様子を見せる。

 

「しかし、何処に居るのかも分からない上に、こうロージェノム軍が煩いとなぁ………」

 

愚痴る様に弾が呟く。

 

(………如何にも、()()()()がしやがるぜ)

 

そして神谷は、“良く当たる”嫌な予感を感じていた。

 

とその時………

 

「あれ~? 何だろう、コレ~?」

 

通信席に座って居たのほほんが、そう声を挙げる。

 

「如何したの、本音?」

 

其れを聞いた虚が傍に寄り、他の一同の視線ものほほんの元に集まる。

 

「ロージェノム軍の通信回線を盗聴して~、ラウリーの情報が無いか調べてたんだけど~………回線に、(な~ん)か妙な信号が混じってるの~」

 

「妙な信号?」

 

のほほんの言葉に、虚は通信席のコンソールパネルを覗き込む。

 

彼女の言う通り、盗聴しているロージェノム軍やその他様々な通信回線の音波に混じって、“短音と長音を組み合わせた()()()()音波”が流れている。

 

「コレは………モールス信号だね」

 

「「「「「モールス信号?」」」」」

 

と、その音波がモールス信号である事に気付いたシャルがそう言い、一夏達も声を挙げる。

 

「って、何だ?」

 

「ハイハイ。貴方は黙ってて良いから、()()()()()に任せましょう」

 

1人神谷は、モールス信号が何であるか理解出来無かったが、リーロンがそう言って黙らせる。

 

「え~と、何々………こ・ち・ら・は………シュ・ヴァ・ル・ツェ・ハ・ー・ゼ………! シュヴァルツェ・ハーゼ!?」

 

シャルが解読に掛かると、通信の中に『シュヴァルツェ・ハーゼ』と言う単語が入っている事が分かって驚く。

 

「シュヴァルツェ・ハーゼって、確かラウラの!」

 

「グ・レ・ン・ダ・ン・ノ・ミ・ナ・サ・ン…………コ・ノ・ツ・ウ・シ・ン・ヲ・ウ・ケ・ト・ッ・タ・ラ………ド・イ・ツ・ノ・コ・ノ・バ・ショ・ニ・キ・テ・ク・ダ・サ・イ………」

 

一夏がそう声を挙げる中、シャルは更に解読を進め、そのモールス信号の中に、“ドイツのと或る地点を示す座標”が入っている事を分析する。

 

「私達宛てですの?」

 

「一体如何言う事?」

 

シュヴァルツェ・ハーゼが、自分達宛て………

 

しかも態々()()()()()()で通信を送っている事に、セシリアと鈴は首を傾げる。

 

「態々、もう余り使われなくなったモールス信号で送って来てる、って事は“余り知られたく無い話”みたいね」

 

其処でリーロンが、そう推察を立てる。

 

「アニキ、如何する?」

 

「行ってみるか。ラウラの事も何か分かるかも知れねえ」

 

弾が尋ねると、神谷はそう決断を下す。

 

インフィニット・ノアは一旦地中海を出ると、英仏間のドーバー海峡を抜け、北海へと移って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北海へと辿り着いたインフィニット・ノアは、再び海底へと潜伏。

 

グレン団は、またもや人気の無い海岸に特殊潜航艇で隠密上陸。

 

そのまま人目を忍んで、指定されたポイントへと向かう。

 

そしてそのポイントに在ったのは、シュヴァルツェ・ハーゼの基地だった。

 

「此処って、ひょっとして………」

 

「如何やら、シュヴァルツェ・ハーゼの基地みたいね」

 

目の前に広がっている基地を見ながら、シャルと楯無がそう言う。

 

すると………

 

[お待ちしておりました、グレン団の皆さん]

 

基地敷地内への出入り口付近に設置されていたスピーカーから、そう言う声が響いて来た。

 

「その声は………クラリッサさん!」

 

その声が、以前休暇で来日して来たクラリッサ(第52話参照)のものであると気付く一夏。

 

[今セキュリティを切ります。どうぞ中へ入って下さい。投影掲示板で案内致します]

 

クラリッサがそう言ったかと思うと、敷地内への出入り口が解放され、投影掲示板で案内が出される。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

グレン団の一同は一瞬顔を見合わせると、シュヴァルツェ・ハーゼの基地敷地内へと入って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュヴァルツェ・ハーゼの基地・作戦司令室………

 

投影掲示板での案内に従って進んで行ったグレン団の面々は、基地の作戦司令室へと辿り着く。

 

「お待ちしておりました、グレン団の皆さん」

 

辿り着いたグレン団をクラリッサが敬礼で迎え、その後ろに整列していた他の隊員達も、同じ様に敬礼を送る。

 

「よう、久しぶりだな」

 

「クラリッサさん。お久しぶりです」

 

一同を代表する様に、神谷と一夏がそう言う。

 

「お久しぶりです、アニキさん。織斑殿。“グレン団が全滅した”と言うニュースを聞いた時は驚きましたが、やはり生きていたのですね」

 

「あたぼうよ! 天下に轟くグレン団があのくらいでやられるか、ってぇんだ!!」

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

その様子に、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達が歓声を挙げる。

 

「素晴らしい!」

 

「アレが噂に聞く、ジャパニーズ・スピリッツですね!」

 

「ヤマトダマシイ!!」

 

(………日本が誤解されるな)

 

シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達の会話を聞きながら、一夏は心の中でそう呆れるのだった。

 

「貴方方なら必ず、“我々の信号”をキャッチしてくれると思っていましたよ」

 

「其れで、如何して私達を呼び出したの? 生憎、其方の隊長であるラウラちゃんは、行方が知れなくなってるんだけど」

 

とクラリッサがそう言うと、楯無が本題を切り出し、同時に現在ラウラの行方が知れない事を知らせる。

 

「………実は、お呼び出ししたのは“その事”でなのです」

 

すると、クラリッサは真剣な表情となり、そう言う。

 

「? 如何言う事ですか?」

 

「『隊長の出自』については、皆さんも御存じですね?」

 

クラリッサがそう言うと、グレン団の面々は無言で頷く。

 

「“()()()()最強の兵士を生み出そうとした計画”で生まれた存在………其れが隊長です。現在、その計画は“倫理的な問題が指摘されたので()()されている”のですが………」

 

()()が………秘密裏に続けていた、と………?」

 

口籠るクラリッサに代わる様に、簪がそう言う。

 

「ハイ………その計画の発案者だった、ドイツ軍将校………『ヨラン・ペールゼン』閣下が、ドイツでの計画凍結後に軍を退役してアメリカへ渡り………其処で“更に()()した計画”を発案していたのです」

 

「その『発案した計画』と言うのは?」

 

「………『パーフェクトソルジャー計画』、通称『PS計画』です」

 

「パーフェクト………ソルジャー………」

 

「『完全なる兵士』ですか」

 

その単語を和訳したセシリアがそう呟く。

 

「ですが、アメリカに於いても倫理性を問われて、計画は頓挫した。ペールゼン元閣下は行方不明となりました………しかし、最近になってペールゼン元閣下が、此処ドイツへ帰って来ている、と言う情報をキャッチしたのです」

 

「ドイツに?」

 

「其れはひょっとして………?」

 

「恐らく………ペールゼン元閣下は()()()計画を続けているのでしょう」

 

「其れとラウラと、どんな関係が有るんだ?」

 

と其処で、一夏がそう疑問を呈する。

 

「実は………コチラの調べで、ペールゼン元閣下が潜伏していると思われる場所を摑んだのですが………その際に………“隊長がその場所に捕らわれている”という事も分かったのです」

 

「!? 何だって!?」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

クラリッサから齎された報告に、グレン団の一同は驚きを露わにする。

 

「間違い無いんですか!?」

 

「ハイ、確かな情報です」

 

「けど、如何してラウラを!? 言っちゃ悪いけど、アイツは確か“失敗作”だ、って言われたらしいじゃないか!」

 

「其れは、ISの適正を高める為に行われた“ヴォーダン・オージェの不適合”の所為です。実際、ISが登場する前までの隊長は、“ドイツ軍1の兵士”だと称されてました」

 

「つまり………そのペールゼンって奴は、ラウラちゃんをPS計画の為に利用しようと企んでいる、と?」

 

楯無がそう問うと、クラリッサは頷く。

 

「今やロージェノム軍との戦闘は、“人類が完全に追い込まれている状態”です。ペールゼン元閣下はPS(パーフェクト・ソルジャー)を投入する事によってこの戦況を打開し、()()()()()()()()()をドイツ軍、延いては世界にアピールする積りでしょう」

 

「ざけんな! PSだがファミコンだか知らねーが、そんな()()()()()()の為にラウラの奴を利用させやしねえぜ!!」

 

其処で神谷が、堪忍袋の緒が切れた様にそう怒鳴り声を挙げた。

 

「現在ペールゼン元閣下は、軍から不名誉除隊或いは懲戒処分を受けた軍人崩れ達や傭兵達を集めて武装させ、秘密基地に立て籠もっているそうです。ドイツ軍はロージェノム軍の迎撃で手一杯であり、隊長の救出は()()()()()されました」

 

「其れで私達を呼び出した、と?」

 

「“厚かましいお願い”だと言う事は重々承知しております。これは、言うなれば“ドイツ軍の尻拭いの手伝い”をしろ、と言っている様なものです。ですが………お願いします! ()()()()()()()に力をお貸し下さい!!」

 

「「「「「「「「「「お願いします!!」」」」」」」」」」

 

箒がそう問うと、クラリッサはそう答えて深々と頭を下げ、隊員達も同じ様に深々と頭を下げる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

暫くの間、作戦室内を沈黙が支配する。

 

「………ったく。“何を言い出す”のかと思ったら、()()()()かよ」

 

やがて、その沈黙を破って神谷がそう言う。

 

「んな()()()()の事を言うんじゃ無えよ!!」

 

「! アニキさん!!」

 

「ラウラが捕らわれてる、って言うんなら俺達が行かないワケには行かないさ」

 

「うむ」

 

クラリッサが感動した様子を見せると、一夏と箒もそう言って来る。

 

「ラウラさんには“()()()貸し借りが御座います”からね」

 

「其れを“返して返させないと”気が済まないわ」

 

セシリアと鈴も澄まし顔でそう言う。

 

「ラウラには色々と助けて貰ったからね」

 

「今度は私達が助ける番だよ!」

 

続く様に、シャルとティトリーがそう言う。

 

「何より、“グレン団は仲間を見捨てたりしない”わ」

 

「…………」

 

楯無がそう言い、簪が無言で同意する。

 

「その通り! ()()()()()()のに理由なんざ要ら無えっ!!」

 

「私達は“ドイツ軍の後始末”をするんじゃありません。“()()()()()のラウラさんを助けに行く”んです!」

 

最後に、弾と蘭がそう言い合う。

 

「皆さん………本当に………本当にありがとうございます!!」

 

クラリッサは目に涙を滲ませ、またもグレン団の面々に向かって深々と頭を下げるのだった。

 

「だ~から、気にすんなって!」

 

「其れよりも、今はラウラを助け出す事を考えましょう。その、ペールゼンって奴の居場所は分かってるんですよね?」

 

神谷が気にするなと言い、一夏が本題を切り出す。

 

「! ハイ! お前達!!」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

クラリッサが涙を振り払うと、直ぐ様シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達が作戦会議の準備を整えた。

 

 

 

 

 

程無くして、グレン団もシュヴァルツェ・ハーゼも作戦会議の準備が整う。

 

そして床に、ドイツの“と或る場所”を示す地図が投影される。

 

その地図の一点が、赤く点滅する。

 

「ペールゼン元閣下が潜伏している秘密基地はこの場所………元々は、嘗て隊長を生み出した計画を行い、現在は放棄された軍の研究基地です」

 

その赤く点滅した地点を指揮棒で差し、クラリッサがそう説明する。

 

「兵の数は不明ですが………少なくとも、中隊規模の人数が居る模様です」

 

「意外と多いわね………」

 

「ケッ! 雑魚(ザコ)が何人集まろうが、この神谷様とグレン団には敵わねえって事を教えてやるぜ!!」

 

「アニキ、落ち着いて。俺達が先ずやらなきゃならないのは、ラウラの身柄を確保する事なんだから」

 

血気盛んに言う神谷を、抑える様にそう言う一夏。

 

彼の言う通り、ペールゼンなる人物の元にラウラが捕らわれているのならば、先ず彼女の身柄を確保しなければならない。

 

最優先で考える事は、“ラウラの安全”なのである。

 

「ペールゼンの事です。潜入への対策は万全でしょう。其処で我々は、『陽動作戦』を行う事にします」

 

「陽動作戦?」

 

「我々シュヴァルツェ・ハーゼが基地の正面から突っ込み、戦闘を仕掛けます。その隙にグレン団の皆さんが基地へと潜入、隊長を救出して下さい。救出が完了したら、我々も基地へと突入。ペールゼンを確保します」

 

クラリッサがそう言うと、地図上でシュヴァルツェ・ハーゼとグレン団を示す矢印が動きを見せる。

 

「こりゃ“囮として敵の目を惹き付ける”のも潜入する方も、危険な作戦だね」

 

その作戦を聞いた楯無が、呆れた様にそう言い放つ。

 

「現状ではコレが一番有効な作戦です」

 

「やるしか無いか………」

 

「兎に角、俺(たち)ゃ“ラウラを探し出して助けりゃ良い”んだろ? 簡単じゃねえか」

 

クラリッサと一夏がそう言うと、神谷が何時もと変わらぬ調子でそう声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

其処でグレン団の面々とシュヴァルツェ・ハーゼの隊員達は、顔を見合わせて無言で頷き合う。

 

「………では! 作戦開始は1時間後! 各員、万全に準備を整えておけ!!」

 

そしてクラリッサがそう言い放つと、両者はラウラ救出作戦の為の準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ドイツ某所・ペールゼンの秘密基地では………

 

(…………)

 

ISスーツだけを着た状態のラウラが、何かの培養液の様な物で満たされたカプセルの中に入れられて眠っている。

 

その身体の彼方此方には、まるで心電図を測る装置の様にコードが接続されており、口元には酸素吸入器が装着されている。

 

「…………」

 

そんなラウラの姿を、無言で見詰める老人が1人………

 

PS計画の総責任者、ヨラン・ペールゼンだ。

 

「…………」

 

暫くカプセルの中のラウラの姿を見詰めていたペールゼンだったが、やがて視線を近くのコンピューターのディスプレイへと移す。

 

其処には、ラウラに関する様々なデータが表示されていた。

 

「………やはり、貴様は私の“嘗ての計画”の中でも()()()()()()()だ」

 

そのデータを見たペールゼンは、そんな事を呟く。

 

「“ヴォーダン・オージェの不適合”さえ………いや、()()()()()()()()()()()貴様こそが“理想の兵士”となっていただろう………」

 

ペールゼンは更に言葉を続ける。

 

「通常の兵士からは、理想の兵士は生まれない………ならば“()()()()理想の兵士として生まれさせれば良い”………その結論に至った私は軍を追われた………だが、私は諦めなかった………“理想の兵士を創り上げる為”にな………その為にもラウラ・ボーデヴィッヒ! 貴様の存在が必要なのだ!」

 

そう言うと、ペールゼンはコンピューターのキーボードを叩く。

 

するとディスプレイの映像が、ラウラのデータから“別の物”へと切り替わる。

 

其処には、ラウラとは異なる人物のデータが表示されていた。

 

そのデータが次々に切り替わって行ったかと思うと………

 

やがて、何処ぞの部屋の映像へと切り替わる。

 

その部屋の中には、ラウラが入っている物と同じカプセルが横に置かれている。

 

しかし、そのカプセルは防御用のシャッターで覆われており、中を窺い知る事は出来ない。

 

「待っていろ、『プロト・ワン』………ラウラ・ボーデヴィッヒの全てのデータを貴様に送り込んでやる………そして」

 

そう言いながらペールゼンが再びキーボードを叩くと、またも映像が切り替わる。

 

其処に今度は、中世の騎士を思わせる独特なデザインをしたISが映し出される。

 

「お前がこのISに乗った時………“()()理想とする兵士”が完成する………」

 

そう呟くペールゼンの顔には、狂気染みた笑みが浮かんでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュヴァルツェ・ハーゼの基地・格納庫………

 

「………!」

 

スコープドッグを整備していた簪が、()()を感じ取った様に作業の手を止めた。

 

「…………」

 

そのまま、暫し辺りを見回す簪。

 

「? 簪ちゃん? 如何したの?」

 

その様子に気付いた楯無が声を掛ける。

 

「………いや………何でも無い………」

 

やがて簪はそう言い、再び作業を再開する。

 

「? そう………?」

 

疑問を感じながらも、深くは追及しない楯無であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時感じたもの………

 

其れが“何だったのか”を形容するのは、今でも難しい………

 

だが、私は確かに感じていた………

 

予感………

 

そうだ、“私だけが知る闇からの予感”だ………

 

そしてその予感は………

 

コレから始まる………

 

そう。これは、迫り来る“新たな地獄のプレリュード”に過ぎないのだ、と………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ドイツ編、ラウラのエピソード………
そして簪のエピソードが始まります。

何とペールゼンが登場。
ラウラがPS計画に利用される事に!
シュヴァルツェ・ハーゼと共に救出作戦を練るグレン団だが、簪が何かを感じ取る。
果たして、ペールゼンの基地で待つものは?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第105話『………何………コレは一体何?………』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第105話『………何………コレは一体何?………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗て、理想の兵士を創り出そうと計画し、ラウラを生み出した人物………

 

ドイツ軍元将校『ヨラン・ペールゼン』

 

倫理的問題を問われて計画が頓挫した後も、ドイツ軍を去ってアメリカへと渡り、計画を発展させた。

 

発展させた計画『PS計画』を以てして………

 

()()()()“己が理想とする兵士”を創り出そうとしている。

 

その為にラウラを拉致し、謎の存在『プロト・ワン』にそのデータを反映させ………

 

更には謎のISまで造り上げていた。

 

ラウラを取り戻す為に、グレン団はシュヴァルツェ・ハーゼと協力し………

 

ペールゼンが潜伏する秘密基地への奇襲作戦を決行する。

 

そしてその最中(さなか)………

 

簪は、“奇妙な予感”を感じていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペールゼンが潜伏する秘密基地………

 

まるでクレーターの様に、周囲を森林が生い茂った小高い丘に囲まれた中心部に、その秘密基地は存在している。

 

元が放棄されていた基地だけあって、建物や施設の彼方此方にヒビが入り、蔦で覆われていた。

 

周りを囲んでいる、フェンスや鉄条網も錆びてボロボロであり、フェンスの意味を為していない。

 

しかし………

 

彼方此方に、ドイツ軍の認識マークを付けた迷彩柄の量産型グラパールが歩哨として歩き回っており、警備は厳重だった。

 

と………

 

その秘密基地の正面に当たる位置の丘の上の森林の中で、黒い影が複数動いている。

 

クラリッサが率いているシュヴァルツェ・ハーゼだ。

 

全員がISを装着した状態で、木陰や岩陰、地面の起伏の中に隠れて、秘密基地の様子を窺っている。

 

「………流石に警備は厳重だな」

 

目の部分に、ハイパーセンサーで調べた情報を表示しているクラリッサがそう呟く。

 

「副隊長、本当に大丈夫なのでしょうか?」

 

隊員の1人が、不安を吐き出す様にクラリッサにそう尋ねる。

 

「心配するな。我々の目的は飽く迄『陽動』だ。我々が敵の注意を惹いている隙にグレン団が突入し、隊長を助け出してくれる。だからきっと大丈夫だ」

 

「! ハイ!」

 

その言葉で不安が消えたのか、尋ねて来た隊員の士気が上がる。

 

其処で、クラリッサは時間を確認する。

 

「間も無く作戦開始時刻だ。全員準備は良いか?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

クラリッサの問いに、シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達は無言で頷く。

 

「よし………では行くぞ!!」

 

とクラリッサは、次の瞬間そう叫び、シュヴァルツェ・ハーゼは一斉に飛び出した!!

 

ホバリング移動で土煙を立てながら、一斉に正面ゲート目指して突撃して行く!!

 

「「!?」」

 

正面ゲートに居た、量産型グラパールの歩哨2体が其れに気付いたが………

 

「遅いっ!!」

 

その2体が反応するよりも早く、クラリッサが大型レールカノンを叩き込む!!

 

量産型グラパールの歩哨2体は、一瞬で正面ゲートごと消し飛ばされた。

 

「突入っ!!」

 

クラリッサがそう声を挙げ、先頭を切って基地敷地内へと侵入。

 

シュヴァルツェ・ハーゼの隊員達も続く。

 

途端に、敷地内に警報が鳴り響き、施設の彼方此方から量産型グラパール達が姿を見せる。

 

と、スパイラルボンバーを構えた量産型グラパール1体が、突撃して来るシュヴァルツェ・ハーゼに砲撃を見舞う。

 

「散開っ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

しかし、シュヴァルツェ・ハーゼは着弾寸前で散開し、そのまま個々に戦闘を開始した。

 

ISと量産型グラパールを比べた場合、単純なスペックではISが大きく上回っている。

 

だが量産型グラパールには、“訓練さえ受ければ()()()()使える”と言う()()()()が有る。

 

質対量の対決………

 

戦況は、忽ち混戦状態へと突入した。

 

敵がISを使っているのを見て、真面にやり合っては勝ち目が無い為“数で押そう”と、次々に出現して来る量産型グラパール。

 

(良し! 作戦通りだ!! 敵の戦力は此方に集まっている!! 後は頼みます! グレン団の皆さん!!)

 

プラズマ手刀で量産型グラパールを1体斬り捨てながら、クラリッサが戦況を見てそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

そのグレン団のメンバーはと言うと………

 

ペールゼンが潜伏する秘密基地内部・某通路………

 

基地内にも絶え間なく警報が鳴り響き、量産型グラパール達が慌しく走り回っている。

 

「襲撃だ! シュヴァルツェ・ハーゼの連中が攻めて来やがったぞ!!」

 

「チッ! 黒ウサギめ! 前々から気に食わない奴等だったぜ!!」

 

「ペールゼン閣下からのお達しだ! 奴等を始末したら特別ボーナスを出してくれるそうだ!!」

 

「へへっ! 上等だ!! 今の今までデケェ(ツラ)してやがった女共に目に物見せてやろうぜ!!」

 

量産型グラパールを装着している軍人崩れや傭兵達が、そんな事を言いながら襲撃を受けている正面ゲート目指して走って行く。

 

やがて、全ての兵士達が通り過ぎたかと思うと………

 

通路の地面が盛り上がり、やがて“銀色に輝く円錐形の物体”………ドリルが飛び出し、大穴が開いた。

 

「うっし! 上手く基地の中に出たみたいだな!!」

 

そしてその穴の中から、グレンラガンの姿となっている神谷が姿を現す。

 

「毎度お馴染み、“地中からの潜入”か」

 

「けど、有効な手だよ」

 

「どんな基地でも………“地中からの侵入”を想定している所は無いわ………」

 

「って言うか、()()()想定しないわよ」

 

続いて、一夏・楯無・簪・鈴がそう言いながら這い出て来て、他のメンバーも続く。

 

「じゃあ、手筈通りに其々のグループに分かれて、先ずラウラを探そう」

 

「心得た」

 

シャルと箒がそう言い合うと、グレン団メンバーは其々2~3人の組に分かれ、通路の方々へ散らばって行った。

 

ラウラが捕えられている以上、今回は時間との勝負になる為、全員気が()いている。

 

そして、この作戦が………

 

簪に“と或る出会い”を齎す事になる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無・簪組………

 

「姉さん………彼処………」

 

通路を進んでいた楯無と簪の内、簪が前方に扉を発見してそう声を挙げる。

 

「OK!」

 

其れを聞いた楯無は、先ず扉を通り過ぎて壁に張り付く。

 

「…………」

 

そして、扉を挟んで反対側の位置に簪が同じ様に張り付く。

 

「「…………」」

 

アイコンタクトを交わしてタイミングを合わせると、扉を破って蒼流旋のガトリング砲とヘヴィマシンガンを構える。

 

しかし、飛び込んだフロアは倉庫であり、人影は見当たらなかった。

 

「な~んだ、只の倉庫か………」

 

「…………」

 

思わずそう声を挙げる楯無だったが、簪は“何かの気配”を感じ、ターレットレンズの映像を赤外線に切り替える。

 

すると切り替えた途端、倉庫に積まれていた巨大な木箱の中に、巨大なビームガンを構えて潜んでいる量産型グラパールの姿がハッキリと映し出された!!

 

巨大なビームガンには、既に発射寸前までにエネルギーがチャージされている。

 

「! 姉さん!!」

 

「キャアッ!?」

 

咄嗟に、簪は楯無に掌底アームパンチを叩き込み、強制的に倉庫の外へ押し出した!!

 

その直後、潜んでいた量産型グラパールの巨大なビームガンが発射される!!

 

木箱を突き破って発射されたビームは、簪の足元に着弾!!

 

忽ち床が崩れて、簪はその穴の中へと落ちて行った!!

 

「………!?」

 

「簪ちゃん!? このおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

楯無は、即座に原因を作った量産型グラパールに向かってガトリング砲を放つ。

 

「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

断末魔の叫びが挙がると、蜂の巣にされた量産型グラパールは爆発・四散する。

 

「簪ちゃん!!」

 

其れを確認すると、直ぐに倉庫の床に開いた穴を覗き込む楯無。

 

しかし穴はかなり深く、底の方は闇に閉ざされていて、窺い知れなかった。

 

「簪ちゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!」

 

楯無は、穴の中に向かって簪の名を叫ぶ。

 

だが当然、返事は返って来ない………

 

「クッ!」

 

直接降りようと試みる楯無だが、其処で複数の足音がコチラへと向かって来るのを捉える。

 

「居たぞ! 侵入者だ!!」

 

「ブッ殺せぇっ!!」

 

現れた量産型グラパール達が、楯無の姿を見付けるや否や、手にしているマシンガンを発砲して来る!

 

「ちょっと! 邪魔しないでよ!!」

 

已むを得ず、楯無はマシンガンの弾を水のヴェールで防ぎながら応戦するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

ペールゼンは………

 

シュヴァルツェ・ハーゼ(黒ウサギ)共め………此処を嗅ぎ付けたか………其れに()()()()とは、“姑息な真似”をしてくれる」

 

基地を襲撃しているシュヴァルツェ・ハーゼの様子を、モニターで見ながらそう呟いていた。

 

既に彼は陽動作戦を見破っており、シュヴァルツェ・ハーゼ達の姿が映っているメインモニター横のサブモニターには、基地内に侵入しているグレン団達の姿が映し出されている。

 

「噂のグレン団か………こうなれば已むを得まい………出来ればじっくりと育てたかったが………『プロト・ワン』で蹴散らしてやる」

 

ペールゼンはそう言い、部屋に在ったコンソールパネルを操作するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

穴の中へと落ちた簪は………

 

「………っ!?」

 

衝撃で一瞬気を失っていた様だが、直ぐに意識を取り戻して起き上がる。

 

「………大分落ちたみたいね………」

 

身体の節々に痛みを感じながらも、直ぐに状況を確認してそう呟く簪。

 

瓦礫を押し退けると、今自分が居る場所を確かめる。

 

「………? アレは?」

 

すると、そのフロアの中央に“カプセルの様な物”が、横向きで床に据え付ける様に置かれている事に気付く。

 

「…………」

 

簪は警戒しつつ、そのカプセルの傍へと近寄る。

 

「…………」

 

ターレットレンズを切り替えてそのカプセルを分析しようとしたが、“解析不能”と答えが返って来る。

 

「………!」

 

と其処で、カプセルの一部分にコンソールパネルが在る事に気付く。

 

「…………」

 

ISに乗ったままでは操作できないタイプの為、已むを得ず一旦スコープドッグに降着姿勢を取らせて降りる簪。

 

そして、カプセルに備え付けられていたコンソールパネルを弄る。

 

すると、カプセルを覆っていた蓋の様な部分が開き始める。

 

「!?」

 

その中身を見た簪は驚愕する!!

 

何故なら………

 

カプセルの中には………

 

怪しく光る培養液の様な液体の中で、眠っている様に目を閉じている“全裸の少女”の姿が在ったからだ!!

 

その身体の彼方此方には、コードの様な物が心電図を計る機械の様に装着されている。

 

()()()!? いや、違う!?」

 

その少女は銀色の長い髪をしており、ラウラと容姿が酷似していた為に簪はラウラか?と思ったが、直ぐに“違う”と悟る。

 

何故なら、カプセルの中に居る少女は()()()()()()()()のだ。

 

元々身長が小さく、体躯も同世代の者達と比べて小柄なラウラだが、カプセルに居る少女は、そんな“ラウラよりも背が低く体躯も小さい”。

 

年齢にしてみれば、精々10歳前後がいい所である。

 

すると………

 

「…………」

 

カプセルの中に居る少女が突然目を開き、簪を見た。

 

その瞳は、両眼共に金色に輝いている。

 

「………!?」

 

簪は思わずアーマーマグナムを抜き、少女へと向ける。

 

「…………」

 

少女は“何も言わず”、“何もせず”、只()()()()()姿()()()()()()

 

「…………」

 

その無機質な視線を受けて、簪の頬に冷や汗が流れる。

 

「クッ………!!」

 

やがて、簪は耐え切れなくなった様に、再びカプセルのコンソールパネルを弄り、蓋を閉じた。

 

少女の姿は見えなくなり、培養液から放たれていた光も消えて、フロア内が再び薄暗くなる。

 

「ハア………ハア………ハア………」

 

降着姿勢状態のスコープドッグに寄り掛かり、緊張の余り荒くなった息を必死に整えようとしている簪。

 

「………何………?()()は一体何………?」

 

流石の簪も混乱している様で、そう呟く。

 

すると………

 

突如室内に警報の様な音が鳴り響く!

 

「!?」

 

簪が慌てていると、次の瞬間………

 

カプセルが据え付けられている床ごと、上へと昇り始めた。

 

「!!」

 

直ぐ様スコープドッグへと乗り込む簪。

 

その間に、カプセルは開いた天井を通って何処かへと運ばれる。

 

(あの少女………ラウラに似ていた………“無関係だ”とは思えない………)

 

若干落ち着きを取り戻して来た簪は、先程のカプセルの中身の少女の事を思い出してそう結論付けると、フロアの壁に在った扉をアームパンチで破壊し、通路へと出る。

 

「居たぞ! 侵入者だ!!」

 

「奴を倒しゃあ特別ボーナスだ!!」

 

すると、その姿を即座に量産型グラパール達が見付け、攻撃して来る。

 

「…………」

 

だが、簪は少しも慌てずに狭い通路にも関わらず、ターンピックを駆使して撹乱する様な動きを見せて量産型グラパール達の攻撃を回避し、反撃に右肩の7連装ミサイルポッドのミサイルを叩き込む!!

 

「「「「「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

爆発が完全に収まり切らぬ内に、簪は量産型グラパール達の間を突破。

 

そのまま、先程の少女が入ったカプセルを探し求めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリア・鈴組………

 

「ラウラさん!」

 

通路に在った扉を開けると、そう呼び掛けるセシリア。

 

しかし、扉の先は無人のフロアで誰も居なかった。

 

「居ませんわ………」

 

「コッチもハズレよ」

 

セシリアがそう呟くと、反対側に在った扉のフロアを覗き込んでいた鈴がそう返す。

 

「急ぎませんと………今回の作戦は時間との勝負ですのに」

 

「さっきから、コッチに向かって来るグラパールの数も増えて来てるわ………グズグズしてらんないわよ」

 

そう言い合うと、更にラウラの捜索を続けようとする2人。

 

すると………

 

2人が居る通路の正面の方から、“ローラーダッシュの音”が聞こえて来る。

 

「! 簪さん!?」

 

その音から、セシリアは簪が来たのかと思ったが………

 

「…………」

 

現れたのは、紫色のカラーリングをした、中世の騎士を思わせる独特なデザインをしたISだった。

 

顔の部分には、簪のスコープドッグと同じ様に3つのカメラが付いたバイザーが装着されており、装着者の顔を窺う事は出来ない。

 

「! 違う! 誰よ!?アンタ!?」

 

突如現れた謎のISに向かってそう叫びながら、龍砲の発射口を開く鈴。

 

と、その瞬間!!

 

「!!」

 

騎士の様なIS………『ベルゼルガ』は、左腕に装備されていた盾を構えたかと思うと、鈴に向かって突進!!

 

「!?」

 

反応出来なかった鈴は、そのまま盾で殴り付けられる!!

 

「クウッ!!」

 

「!!」

 

更に追い打ちを掛ける様に、ベルゼルガは今度は右腕で殴り飛ばす。

 

「キャアアッ!?」

 

「鈴さん!? クッ!!」

 

セシリアは驚きながらも、直ぐにベルゼルガをスターライトmkⅢで狙い撃つ。

 

「…………」

 

しかし、ベルゼルガは盾で防御。

 

スターライトmkⅢのビームは、ベルゼルガの盾で霧散してしまう。

 

と、其処でベルゼルガは、右手にアサルトライフルを握ったかと思うと、セシリアに向かって発砲する。

 

「そんなものっ!!」

 

だがセシリアは、狭い通路の中でも巧みに動いて回避し、そのままベルゼルガに向かって突撃!

 

「…………」

 

ベルゼルガがアサルトライフルを構え直した瞬間、頭上を飛び越える。

 

(貰いましたわ!)

 

そしてそのまま、ガラ空きの背中に向かってスターライトmkⅢを向ける。

 

が、その瞬間!!

 

「!!」

 

ベルゼルガは“()()()()()()()反応速度”で、セシリアの方を振り向いた!!

 

「!? なっ!?………!? キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

その反応速度に驚いたセシリアに、ベルゼルガは容赦無く拳を叩き付ける!

 

吹き飛ばされたセシリアは、そのまま壁に叩き付けられ、尻餅を着く。

 

「クウッ! 何て反応速度ですの!?」

 

直ぐに体勢を立て直そうとしたセシリアだったが………

 

「…………」

 

その瞬間には、ベルゼルガは左腕をセシリアに向けて構えていた!

 

「!?」

 

そして次の瞬間!!

 

ベルゼルガの盾から、パイルバンカーが発射される!!

 

「!? あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

咄嗟に身を捻ったものの、ベルゼルガから放たれたパイルバンカーはセシリアの右肩に命中!!

 

絶対防御をも突き抜け、セシリアの肩を貫通した!!

 

激痛の余りセシリアは気絶し、ISも解除される。

 

「! セシリア!! こんのおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

其れを見た鈴は、龍砲の発射態勢に入りながらベルゼルガに向かって突撃。

 

そのまま龍砲を放ち、自身も突撃する!!

 

「…………」

 

しかしベルゼルガは、またもシールドを構えて龍砲を防御する。

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

ならばと、直接連結した双天牙月で斬り掛かる鈴だったが………

 

「…………」

 

何とベルゼルガは、双天牙月の()()アサルトライフルの弾丸を当て、軌道を逸らした!!

 

「!? なっ!?」

 

“信じられない避け方”をしたベルゼルガに驚き、鈴は思いっ切り双天牙月を空振りしてしまう。

 

隙だらけになった鈴に向かって、ベルゼルガは容赦無くパイルバンカーを発射!

 

射出された杭はまたも絶対防御を突き抜け、鈴の左大腿部を貫通した!!

 

「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

激痛に悲鳴を挙げて鈴は気絶し、ISも強制解除される。

 

「…………」

 

ベルゼルカは、動かなくなったセシリアと鈴から興味を無くした様に背を向け、通路をローラーダッシュで走って行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラパール・弾&グラパール・蘭&ファイナルダンクーガ(ティトリー)組………

 

「此処にも居ねえ………一体何処に捕らわれてるんだ?」

 

フロアの1つをチェックし終えたグラパール・弾が、愚痴る様に言う。

 

「お兄! 愚痴ってる暇有ったらもっと探して!………此処も違う」

 

そんなグラパール・弾に、別のフロアをチェックしていたグラパール・蘭がそう言う。

 

と、その時………

 

「セシリア! 鈴! 応答して! 如何したの!?」

 

ファイナルダンクーガ(ティトリー)が、焦った様子で声を挙げる。

 

「ティトリー?」

 

「如何したの?」

 

その声を聞いたグラパール・弾とグラパール・蘭が、ダンクーガに問い掛ける。

 

「セシリアと鈴のISの反応が消えたの! 通信も繋がらないし、何か有ったみたい!!」

 

「!? 何だって!?」

 

「そんな!?」

 

ダンクーガからの報告を聞いて、グラパール・弾とグラパール・蘭は驚きの声を挙げる。

 

「クッ! 直ぐに2人の反応が消えた地点へ………」

 

と、グラパール・弾がそう言いかけた瞬間………

 

現在彼等が居る通路の前方から、()()()()()()()()()()が聞こえて来た。

 

「!? 簪さん!?」

 

その音に、グラパール・蘭は一瞬“簪が来た”のか?と思ったが………

 

「…………」

 

次の瞬間には、ベルゼルガが姿を現す。

 

「! 簪じゃない!」

 

ベルゼルガの姿を見たダンクーガが、直ぐ様ダイガンを構えるが………

 

「………!」

 

其れよりも早く、ベルゼルガがアサルトライフルを構えて単射発砲!

 

弾丸がダイガンへと命中し、爆発させる。

 

「ニャアッ!?」

 

至近距離で爆風を浴びたが、幸い装甲が厚いお蔭で、衝撃で尻餅を着く程度で済んだ。

 

「コイツっ!!」

 

今度はグラパール・弾がハンドガンを構えようとしたが………

 

「…………」

 

その瞬間には、ベルゼルガはグラパール・弾に肉薄。

 

左腕の盾で、ハンドガンを握っていたグラパール・弾の腕を弾く!

 

「うおわっ!?」

 

そして、ガラ空きになったボディにパンチを叩き込む!

 

「ガフッ!?」

 

まるで、鉄球クレーンで殴られた様な衝撃がグラパール・弾の身体を襲い、ヘルメット部分の口元から吐血が漏れる。

 

「お兄! このぉっ!!」

 

其れを見たグラパール・蘭が、腕からグラパールブレードを出現させて斬り掛かる。

 

「…………」

 

「ゴッ!?」

 

すると何と!!

 

ベルゼルガは、右手でグラパール・弾の喉を摑み、盾にする様にしてグラパール・蘭に向かって構えた!!

 

「!? お兄!!」

 

慌ててグラパールブレードを出現させていた腕を止める。

 

「…………」

 

その隙を見逃さず、ベルゼルガはグラパール・蘭の頭部目掛けてパイルバンカーを放つ!!

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

グラパール・蘭は、咄嗟に首を捻ったので直撃は避けられたが、ヘルメット部分が砕け散って衝撃で蘭は気絶。

 

そのまま床に倒れたかと思うと、米神の辺りから血が流れる。

 

「!? 蘭ちゃん!!」

 

「蘭!! テメエエエエェェェェェーーーーーーッ!!」

 

ダンクーガが慌てて駆け寄り、怒りに駆られたグラパール・弾は、首を摑まれた状態のまま、ベルゼルガに両足蹴りを叩き込んだ!!

 

「………!?」

 

真面に喰らい、2、3歩後退るベルゼルガ。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

グラパール・弾は、ベルゼルガが体勢を立て直す前にグラパールブレードで斬り付けようとする。

 

しかし………

 

「…………!」

 

何とベルゼルガはその瞬間には体勢を立て直し、斬り掛かろうとして来ていたグラパール・弾のボディに、左の拳を叩き込む!!

 

「ガッ!?」

 

そしてそのまま、パイルバンカーを放った!!

 

「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

幸いと言うべきが、グラパールの装甲が厚かったお蔭で、腹を貫かれるには至らなかったが、腹部の装甲は完全に砕け散って、弾は気絶した!

 

「弾!! そんなっ!?」

 

蘭に続いて弾までもがやられてしまい、ダンクーガが焦る。

 

(一体何なの、コイツ!? 反応速度が人間の域を超えてるよ! オマケに、あの見た目鈍重そうな陸戦ISをまるで手足の様に自在に操ってる! 装着者は本当に人間なの!?)

 

内心でそう戦慄しながら、ダンクーガは構えを取る。

 

「…………」

 

ベルゼルガはダンクーガの出方を窺っているのか、ジッと待機しているが、その姿には微塵の隙も無い。

 

(す、隙が無い………駄目だ………一旦2人を連れて逃げよう………)

 

自分では敵わない事を悟ったダンクーガは、負傷した弾と蘭を連れて一旦撤退しようと考える。

 

「えいっ!!」

 

そして次の瞬間には、ノーモーションで胸部のパルスレーザーをベルゼルガの足元目掛けて放った!!

 

「!?」

 

足元への着弾と舞い上がった煙で、ベルゼルガの意識が一瞬ダンクーガから逸れる。

 

「今だ!!」

 

その瞬間、ダンクーガは素早く弾と蘭を其々片腕で抱え、ブースターを全開に噴かして脇目も振らず、ベルゼルガから逃げ出す。

 

「…………」

 

ベルゼルガはその様子を爆煙の隙間から見ていたが、如何いうワケか特にアクションを起こそうとしない。

 

(良し! このまま………!!)

 

其れを見たダンクーガは、“このまま逃げ切れる”と踏んだが………

 

突如前方の通路から、投網の様な物が広がって来て、ダンクーガに被さった!!

 

「!? うわあぁっ!?」

 

途端に、ダンクーガはバランスを崩して転倒。

 

被さっていた網が、弾と蘭ごとダンクーガを雁字搦めにする。

 

「な、何コレッ!?」

 

慌てながらも網を引き千切ろうとするダンクーガだったが、網はビクともしない。

 

「如何だ? 対ガンメン鹵獲用に開発された特殊合金繊維製のネットは?」

 

と其処へ、そう言う台詞と共に量産型グラパール達が現れる。

 

「うう~、しまったぁ………」

 

悔しそうな声を挙げるダンクーガ。

 

「へへっ、やるじゃねえか。パーフェクトソルジャーさんよぉ」

 

「…………」

 

量産型グラパール達の纏め役と思われるグラパールが、ベルゼルガに向かってそう言うが、ベルゼルガは何も言わない。

 

「チッ! 愛想の無え野郎だぜ………まあ良い。未だ侵入者は居る筈だ。とっとと探して潰して来い」

 

「…………」

 

其れを聞くと、ベルゼルガは踵を返して去って行った。

 

「さてと………」

 

「ア、アタシ達を如何する気!?」

 

ダンクーガは弾と蘭を庇う様にしながらそう言い放つ。

 

「心配するな。殺しゃしねーよ。何せ“大事な人質様”だからな」

 

量産型グラパール達の纏め役は、下衆な笑みをヘルメットの下で浮かべながらそう言い放つ。

 

(神谷………)

 

不覚を取ってしまった自分に怒りながら、ダンクーガは神谷達の無事を祈るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ペールゼンの秘密基地兼研究所を襲撃するグレン団。
その中で………
簪はラウラと良く似た少女を目撃する。

そしてラウラを探していたグレン団を次々に撃破した謎のISベルゼルガ。
尋常ではない反応速度を見せるその乗り手は、一体何者か?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第106話『私は半生を懸けて、理想の兵士を創り出そうとした』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第106話『私は半生を懸けて、理想の兵士を創り出そうとした』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗てラウラを生み出した計画を指揮していたヨラン・ペールゼン。

 

そのペールゼンが、更なる計画・PS(パーフェクト・ソルジャー)計画の為にラウラを拉致した。

 

救出の為に、グレン団はシュヴァルツェ・ハーゼと協力し、ペールゼンが潜伏する秘密基地を奇襲する。

 

シュヴァルツェ・ハーゼが囮となり、敵を惹き付けている間に基地内へと潜入したグレン団。

 

だが、その最中(さなか)………

 

楯無と(はぐ)れた簪が、奇妙な物体を発見する。

 

其れは、“ラウラと良く似た姿”をした()()()()が入れられたカプセルであった。

 

その正体を確かめる前に、少女はカプセルごと何処かへと運ばれてしまう。

 

如何してもその少女の事が気になった簪は、その行方を追うのだった。

 

だが、突如現れた謎のIS乗りによって、セシリア・鈴・弾・蘭・ティトリーが捕らわれてしまう。

 

人間離れした反応速度を誇り、凄まじい制御能力を持つこのIS乗りの正体は一体何者か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンラガン(神谷)&シャル………

 

「ラウラ~ッ! 居るのか~っ!? 居たら返事しろ~っ!!」

 

大声でラウラの名を呼び、その姿を探し求めているグレンラガン。

 

「ちょっ! 神谷! 大声出さないで! “僕達は()()潜入してる”んだから!!」

 

そんなグレンラガンを見て、シャルが慌てて止めようとするが………

 

「別に良いだろうが。敵は表に行ってて、中には誰も居ねえんだろ?」

 

グレンラガンはそう言い返して来る。

 

「其れはそうだけど………けど、全く居ないってワケじゃ………」

 

「何処だ~っ!? ラウラ~~ッ!!」

 

小言を言おうとするシャルを無視して、グレンラガンはラウラの名を呼び続けるのだった。

 

「あ! もう~! しょうが無いんだからぁ!」

 

愚痴る様にそう言いつつも、シャルはグレンラガンに従いて行く。

 

やがて2人は、頑丈そうな大きな扉の前に辿り着く。

 

「むっ! 此処が怪しいぜ! 俺の勘がそう言ってやがる!!」

 

「普通なら“根拠が無い”って言うところだけど、神谷の勘は当たるからね」

 

グレンラガンがそう声を挙げると、シャルがそう返す。

 

と、其処へ………

 

「アニキ!」

 

「シャルロット!」

 

別行動していた一夏と箒が現れる。

 

「一夏!」

 

「箒!」

 

「アニキ! ラウラは見付かった?」

 

「いや、今まで見て来た限りじゃ居なかったぜ」

 

「そうか………コッチも見付けられなかった」

 

「じゃあ、後は此処を調べるだけか………」

 

グレンラガン達がそう会話を交わしていると………

 

「皆!」

 

更に其処へ、楯無が合流する。

 

「楯無さん!」

 

「アレ? 簪さんは?」

 

楯無と一緒に居る筈の簪の姿が無いのを見て、シャルがそう尋ねる。

 

「其れが………途中で(はぐ)れちゃって………」

 

「何ですって!?」

 

「しゃあ無え、そっちも探すぞ。先ずはこの中を調べるぜ」

 

箒が驚きの声を挙げる中、グレンラガンは正面の扉を見ながらそう言う。

 

「この扉、パスワード入力で開くみたいだね………ちょっと待ってね、今調べて………」

 

その扉がパスワード入力で開く仕組みになっているのを見たシャルが、パスワードを解析しようとするが………

 

「面倒だ。一夏、ブチ破るぞ」

 

「OK!」

 

グレンラガンと一夏はそう言い合うと、右手を握った。

 

「えっ!?」

 

「オイ! お前達!!」

 

シャルと箒が何か言う前に、グレンラガンの右手には2本のドリルが出現し、一夏の右手の雪羅は赤熱化する。

 

「スカルブレイクッ!!」

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を摑めと轟き叫ぶぅっ!! 爆熱ゥッ!! ゴッドォッ! フィンガアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そして、頑丈そうな扉にスカルブレイクと爆熱ゴッドフィンガーが叩き込まれる!!

 

忽ち、頑丈そう()()()金属の扉は木の葉の様にブッ飛び、一瞬で蒸発した!!

 

「おっし、開いたぞ」

 

「………もう良いよ」

 

自信満々にそう言うグレンラガンに、シャルは力無く首を横に振る。

 

「此処は………?」

 

入った先のフロアは研究室の様であり、様々な機材が並んでいた。

 

「如何やら、何かの研究室の様だな………」

 

「と言う事は、当たりかしら?」

 

箒と楯無がそう言い合って居ると………

 

「………此処まで辿り着いたか」

 

「「「「「!?」」」」」

 

薄暗いフロアの奥の方から聞こえて来た声に、グレンラガン達は瞬時に構えを取る。

 

やがてその暗闇の中から、杖の音を立てながら、1人の老人………ペールゼンが姿を現す。

 

「………元ドイツ軍将校、ヨラン・ペールゼンね?」

 

「…………」

 

楯無がそう問い質すが、ペールゼンは沈黙する。

 

「ドイツ軍から貴方に逮捕状が出ているわ。基地に居る兵士達に戦闘の中止を命令して投降しなさい」

 

楯無は其れを“肯定”と受け取り、そう言葉を続ける。

 

「………私は半生を懸けて、理想の兵士を創り出そうとした」

 

しかし、ペールゼンは其れを無視する様に語り出す。

 

「『如何なる訓練・強化も“優れた人的素材”には敵わない』、『()()()人間からは“理想の兵士”は生まれない』………其れが、私の出した『結論』だ」

 

「“その為に”生み出したのがラウラで………“今まさに”行っているのがPS計画、と言う事?」

 

「その通りだ」

 

シャルの言葉を肯定するペールゼン。

 

「巫山戯るなっ!! お前のその“勝手な野望”の為にラウラを巻き込むな!! アイツはもう、お前とは関係無いっ!!」

 

淡々と語るペールゼンに、一夏がそう怒声をぶつける。

 

「確かに、ラウラ・ボーデヴィッヒは“失敗作”だった………決して()()()()()()()()ヴォーダン・オージェに不適合を起こし、能力を制御し切れず、以降の訓練では全て基準以下の成績となった」

 

だが、そんな一夏の怒声も意に介さず、ペールゼンは淡々と語り続ける。

 

「だが、ブリュンヒルデの訓練を受けた事で、ラウラ・ボーデヴィッヒは再び部隊最強の座に昇り詰めた。つまり、“個体としての()()”は優れていた、と言う事だ」

 

「テメェ………」

 

「神谷! 押さえて!」

 

ラウラが(モノ)であるかの様な言い様に、グレンラガンは飛び出して行きそうになるが、何か“罠が有るかもしれない”と警戒しているシャルが抑える。

 

「私は、アメリカで完成させたPS計画の()()として、ラウラ・ボーデヴィッヒを使う事を決めた。今追い詰められている人類を救うには、PS計画で生み出されるパーフェクトソルジャーを()()()()するしか無い」

 

「貴様! 人間を何だと思っているっ!?」

 

人を人とも思っていないペールゼンの宣言に、今度は箒が怒声を挙げる。

 

「………コレ以上、貴様等と議論をする積りは無い」

 

しかし、ペールゼンはそう言って一方的に会話を打ち切ったかと思うと、パチンッと指を鳴らした。

 

「オラ、来い!!」

 

すると、奥の方からそう言う声が聞こえて来て、複数の足音が近付いて来る。

 

そして、現れたのは………

 

量産型グラパール達に捕まっているセシリア・鈴・弾・蘭・ティトリーの姿だった。

 

「!? 弾っ!?」

 

「セシリアっ!?」

 

「鈴っ!?」

 

「蘭ちゃんっ!?」

 

「ティトリーッ!?」

 

捕らわれた仲間の姿を見て驚きの声を挙げるグレンラガン達。

 

「一夏さん………申し訳有りません………」

 

「ゴメン………ドジったわ………」

 

「すまねえ、アニキ………」

 

「すみません………一夏さん」

 

「神谷~………」

 

セシリア・鈴・弾・蘭・ティトリーは、グレンラガン達を見ながら口々に謝罪する。

 

更に、セシリア・鈴・弾・蘭は負傷による出血の為か、呼吸が荒く顔色も悪い。

 

「噂のグレン団のメンバーも、私のPSの前でこのザマだ………やはり、()()()()では“理想の兵士”には敵わない」

 

「ゴチャゴチャとウルセェッ!! 今直ぐソイツ等を離しやがれぇっ!!」

 

と其処でグレンラガンが、痺れを切らした様にセシリア達を押さえ付けている量産型グラパール達に向かって突撃した!!

 

「!? 神谷!!」

 

「…………」

 

シャルが慌てた声を挙げる中、ペールゼンは黙ってその光景を見ている。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

右腕をドリルに変え、量産型グラパール達に殴り掛かろうとしたグレンラガンだったが………

 

その瞬間、ローラーダッシュ音と共に現れた影にショルダータックルを喰らわせられる!!

 

「!? うおわぁっ!?」

 

強烈なショルダータックルを受け、ブッ飛ばされるグレンラガン。

 

「! 神谷!!」

 

床に転がったグレンラガンを、シャルが助け起こす。

 

「ててて………何だっ!?」

 

「…………」

 

起き上がったグレンラガンが見たのは、無言で佇むベルゼルガの姿だった。

 

「プロト・ワン。其奴等を排除しろ」

 

「………了解」

 

ペールゼンがそう命じると、ベルゼルガは短くそう答え、戦闘態勢を取る。

 

「まさか………PS!? 完成していたの!?」

 

ベルゼルガの操縦者が、PSである事を察した楯無が驚きの声を挙げる。

 

「クッ! ハアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

と其処へ、箒が先手必勝とばかりに、雨月と空裂で斬り掛かる!!

 

「! 箒! 止せっ!!」

 

一夏がそう叫んだ瞬間には、箒は雨月と空裂をベルゼルガ目掛けて振り下ろしていた。

 

「…………」

 

だが、ベルゼルガはかなりの速度で斬り込まれたにも関わらず、左腕の盾を使って余裕でガードして見せる。

 

「!? 何っ!?」

 

驚く箒の腹に、ベルゼルガは右手に握ったアサルトライフルの銃口を押し付けた!!

 

「!?」

 

「…………」

 

そのままアサルトライフルをバーストで発射するベルゼルガ。

 

「ぐあああああっ!?」

 

接射を受け、シールドエネルギーが大きく減少する箒。

 

「クッ! こんのぉっ!!」

 

直ぐに体勢を立て直して、再び斬り掛かろうとするが………

 

「…………」

 

その間にベルゼルガは、箒の眼前にパイルバンカーの先端を突き付けていた。

 

「!?」

 

「箒っ!!」

 

しかし、発射される寸前、一夏がパイルバンカーをベルゼルガの腕ごと蹴飛ばす!

 

「………!?」

 

ベルゼルガは驚いた様子を見せながらも、腕を蹴飛ばされた勢いに乗って回転し、右手のアサルトライフルを一夏に向けて発砲する!

 

「下がれ! 箒!!」

 

箒を押し遣る様にしながら、一夏は左手の雪羅でバリアを張って後退する。

 

「迂闊に突っ込むな!」

 

「! すまない………」

 

十分に距離を取ると、一夏は箒に向かってそう言い放った。

 

「反応速度も操縦技術も人間離れしてるわ………」

 

「コレが………パーフェクトソルジャー………」

 

楯無とシャルは、先程の遣り取りで、ベルゼルガの装着者であるPSが、とんでもない能力の持ち主である事を察する。

 

「ご覧いただけたかね? このPS(パーフェクト・ソルジャー)さえ()()できれば人類は救われるのだぞ? 其れでもお前達は計画を潰すと言うのか?」

 

そんな2人に向かって、ペールゼンはそう言い放つ。

 

「ケッ! PSだかファミコンだか知らねえが! 俺に勝てると思ってんのか!?」

 

だが、グレンラガンがそう言い放ち、1歩前に出る。

 

「ちょっ! 神谷、待って!!」

 

「敵は今までの相手と違うのよ!!」

 

そのグレンラガンを止めようとするシャルと楯無だったが………

 

「るせぇっ! (オトコ)は気合だっ! 逃げてちゃ何も摑めねえんだよぉっ!!」

 

その制止も虚しく、グレンラガンはベルゼルガ目掛けて突っ込んで行った!!

 

「か、神谷ぁっ!!」

 

「あの熱血馬鹿!!」

 

思わず、悪態が口を吐く楯無。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンはベルゼルガに向かって猛然とダッシュして行ったかと思うと、ある程度距離を詰めた所で跳躍する!!

 

「稲妻ストロングキイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーックッ!!」

 

そして、稲妻を帯びた右脚でベルゼルガに向かって突撃する!!

 

「…………」

 

しかしベルゼルガは、直前まで引き付けてバックする様に後退し、稲妻ストロングキックを躱す。

 

そして、眼前の床を砕いたグレンラガンにパイルバンカーを向ける。

 

「!?」

 

放たれたパイルバンカーを、首を捻って躱すグレンラガン。

 

「オラァッ!!」

 

そしてそのまま、ベルゼルガの足を払う。

 

「………!?」

 

「ウオリャアッ!!」

 

倒れたベルゼルガに圧し掛かろうとしたグレンラガンだったが、

 

「………!!」

 

ベルゼルガは、倒れたままグレンラガンに両足蹴りを見舞う。

 

「ぐおっ!?」

 

弾き飛ばされて、グレンラガンは床の上を転がる。

 

「んなろぉっ!!」

 

「…………」

 

そして両者共起き上がると、ベルゼルガはアサルトライフルを発砲する。

 

「チッ!!」

 

グレンラガンは、連続バック転でベルゼルガの銃弾を躱して行く。

 

「…………」

 

やがて、ベルゼルガのアサルトライフルから弾が出なくなる。

 

「弾切れか! 貰ったぜっ!!」

 

其れを見て“弾切れ”と思ったグレンラガンは、またもベルゼルガに向かって突撃する。

 

「…………」

 

ベルゼルガはリロードをしようと、新しいマガジンを取り出す。

 

「遅せえぇっ!!」

 

だが其れよりも早く、グレンラガンのスカルブレイクが炸裂しようとする。

 

すると、その瞬間!!

 

「…………」

 

何を思ったのか、ベルゼルガは取り出していた新しいマガジンをグレンラガンに向かって投げ付けた!!

 

「!? 何っ!?」

 

「…………」

 

そして、実は()()()()()()()()()()アサルトライフルで投げたマガジンを撃ち抜く!!

 

「!? うおおおっ!?」

 

マガジンが弾けて中の弾が暴発!

 

至近距離で多数の銃弾を浴びてしまい、隙が出来るグレンラガン。

 

「…………」

 

すかさず、ベルゼルガは盾を構えてグレンラガンに突撃する!!

 

「ぐおあっ!?」

 

グレンラガンが倒れると、ベルゼルガは左腕で床に押さえ付ける様にして動きを封じた!!

 

「グッ!?」

 

「…………」

 

そして、再びパイルバンカーを見舞おうとする。

 

コレは避けられない!

 

「!?」

 

グレンラガン、絶体絶命か!?

 

………と、その時!!

 

突如として天井の一角で爆発が起こった!!

 

「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その爆発に、全員が天井を見上げる。

 

すると、その崩れた天井から出ていた爆煙の中から銃弾が放たれ、ベルゼルガに命中する!

 

「………!?」

 

ベルゼルガは初めて焦った様な様子を見せたが、直ぐに後退して被害を最小限に留める。

 

その次の瞬間!!

 

「…………」

 

天井に開いた穴から、スコープドッグ・TC(ターボカスタム)を纏った簪が出現。

 

降着姿勢を取って着地したかと思うと、ヘヴィマシンガンをベルゼルガに向ける。

 

「! 簪ちゃん!!」

 

「簪! 無事だったのか!?」

 

其れを見た楯無と一夏がそう声を挙げる。

 

「………遅れてゴメン」

 

簪は短くそう答えると、ベルゼルガを警戒する。

 

「…………」

 

ベルゼルガの方も、突然現れた簪にアサルトライフルを向け、油断無く盾を構えていた。

 

「新手か………だが、誰が来ようと()()PSには敵わん」

 

ココへ来ても、ペールゼンは余裕の態度を崩さない。

 

余程PSに自信を持っているらしい。

 

(………このISの装着者………若しかして………)

 

そんな中、簪はベルゼルガを装着している人物に“心当たり”を感じていた。

 

「すまねえ、簪。助かったぜ。よおし、そんじゃあ、お返しはタップリと………」

 

窮地を脱したグレンラガンが起き上がり、指の骨を鳴らしながらそう言うが………

 

「………此奴の相手は………私がする………」

 

そんなグレンラガンに向かって、簪はそう言い放つ。

 

「ああ!? 何言ってんだ!? 未だコレからが………」

 

「…………」

 

グレンラガンが言い返している途中で、簪はベルゼルガに向かって突撃する。

 

「!? オイッ!?」

 

「簪さん!?」

 

グレンラガンとシャルが何時に無く強引な簪に驚きの声を挙げる中、簪はヘヴィマシンガンを発砲する。

 

「…………」

 

ベルゼルガは、其れをローラーダッシュ移動で回避。

 

そのまま、両者は互いにローラーダッシュしながらの撃ち合いに発展する。

 

“狭くは無い”とは言え、其れ程“広い”と言うワケでも無い部屋の中での撃ち合いで、忽ち流れ弾が彼方此方に着弾する。

 

「おわっ!?」

 

「キャッ!?」

 

「ぬうっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「うおわぁっ!?」

 

箒達やペールゼン、人質になっているセシリア達とその彼女達を確保している量産型グラパール達にも被害が及びそうになり、次々に声が挙がる。

 

「「…………」」

 

だがそんな状況に在っても、簪とベルゼルガの撃ち合いは、止まるどころか益々激しさを増して行った!!

 

「………!!」

 

と、簪が不意を衝く様にして、右脇越しの連装ミサイルポッドのミサイルを放つ。

 

「…………」

 

だが、ベルゼルガは難無くミサイルを撃ち落とす。

 

「…………」

 

しかし、その際に発生した爆煙に紛れて、簪はジェットローラーダッシュでベルゼルガとの距離を詰めた。

 

「………!!」

 

そしてそのまま、ベルゼルガに向かって左のアームパンチを繰り出す!

 

「…………」

 

しかしベルゼルガは、簪のアームパンチを左腕の盾で流す様にして躱し、そのままバランスを崩させた。

 

「!?」

 

「…………」

 

そのままアサルトライフルを発砲するが、簪は素早く体勢を立て直して躱す。

 

が、完全には躱し切れず、左肩のアーマーを持って行かれる。

 

「クッ…………」

 

簪は牽制に、左腰のガトリングガンを発砲する。

 

「…………」

 

13㎜の銃弾ではベルゼルガの装甲と盾を撃ち抜く事は出来なかったが、動きを止める事には成功する。

 

「…………」

 

その間に距離を取った簪は、一旦ヘヴィマシンガンの弾倉を交換する。

 

「…………」

 

すると、ベルゼルガもアサルトライフルの弾倉を交換する。

 

「「…………」」

 

そして、互いに“仕切り直しだ”とばかりに、ヘヴィマシンガンとアサルトライフルを向け合う。

 

「「…………」」

 

一瞬、そのまま互いに睨み合っているかの様な状態で沈黙していたが………

 

「………!!」

 

やがてベルゼルガが動き、アサルトライフルを発砲。

 

「………!?」

 

簪の右腰のアーマーが破壊される。

 

「………!!」

 

その瞬間、簪は右肩の7連装ミサイルポッドのミサイルを発射!

 

ミサイルは次々にベルゼルガの周りに着弾!

 

ベルゼルガが炎に包まれた。

 

「…………」

 

だが、次の瞬間にはその炎が揺らぎ、突っ切って来たかの様にベルゼルガが突撃して来た!!

 

「!?」

 

直ぐにヘヴィマシンガンを構える簪だったが………

 

ベルゼルガは、ヘヴィマシンガンをフックで横から殴り付ける!!

 

「!?」

 

ヘヴィマシンガンが弾かれ、隙を晒してしまう簪。

 

「…………」

 

其処へ、容赦無くベルゼルガのパイルバンカーが叩き込まれる!!

 

「!!」

 

咄嗟に左腕パーツを盾にして防ごうとした簪だったが、元々装甲の薄いスコープドッグのパーツでは余り意味を為さず、パイルバンカーはスコープドッグの左腕パーツを串刺しにする!!

 

「!? 簪ちゃん!!」

 

「………!!」

 

悲鳴に似た声を挙げる楯無だったが、幸い簪は直前でパーツから腕を引き抜いており、腕を串刺しにされる事は回避していた。

 

「…………」

 

しかし、ベルゼルガは攻撃の手を緩めず、簪の顔を右の拳で殴り付けた!!

 

「ガアッ………!?」

 

ターレットレンズ付きバイザーが弾き飛ばされ、簪は俯せに床の上に倒れる。

 

「! 簪っ!!」

 

「プロト・ワン、トドメを刺せ!」

 

「…………」

 

ペールゼンの命令に従い、アサルトライフルを倒れている簪に向けるベルゼルガ。

 

(………ココまでか)

 

簪はまるで他人事の様にそう思いながらも、最後に自分を倒す相手を見ようとしたのか、身体を返してベルゼルガの方を見る。

 

「!?」

 

その瞬間!

 

まるで金縛りに掛かったかの様に、ベルゼルガの動きがピタリと止まった!

 

「!? 如何した!? プロト・ワン!!」

 

「…………」

 

ペールゼンが叫んでも、ベルゼルガは全く動かない。

 

「!!」

 

何だか分からないが、取り敢えず“チャンス”だと感じた簪は、生身を露出していた左手にアーマーマグナムを握り、ベルゼルガ目掛けて発砲した!!

 

「!?」

 

放たれたアーマーマグナムの弾丸は、ベルゼルガのヘルメットの様な頭部に命中!

 

衝撃でベルゼルガは大きく仰け反る。

 

「!!」

 

その間に、簪は立ち上がって体勢を立て直す。

 

と、其処で………

 

ピシッピシッと言う音が聞こえて来たかと思うと、ベルゼルガの頭部を覆っていたヘルメットが砕け散った。

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

「アレは!?」

 

「オイオイ、如何言う事だ!?」

 

「まさかっ!?」

 

其れによって露わになったベルゼルガの装着者の顔を見て、一夏達が驚愕する。

 

「………やはり」

 

一方で、簪は納得した様な表情になる。

 

「…………」

 

ベルゼルガを装着している人物の顔………

 

其れは両目が金色になっている、“ラウラそっくりの少女”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

遂にペールゼンとPS・プロトワンと対峙した神谷達。
その圧倒的な実力に手も足も出ない。
途中で参戦してきた簪も窮地に陥る。
しかし、簪の顔を見たプロトワンが異変を起こす。
そして何と………
露わになったプロトワンの顔は、あのラウラそっくりな少女だった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第107話『死なせはせん………お前だけは絶対に………』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第107話『死なせはせん………お前だけは絶対に………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元ドイツ軍将校であるヨラン・ペールゼンが………

 

ラウラを拉致し、彼女を元にして、自分の理想とする“完全なる兵士(パーフェクトソルジャー)”を創り出そうと企てた。

 

ラウラを取り戻すべく、シュヴァルツェ・ハーゼと協力したグレン団は、ペールゼンの秘密基地を奇襲する。

 

だが、そのグレン団の前に………

 

完成していた完全なる兵士………『パーフェクトソルジャー』、通称『PS』が立ちはだかる。

 

セシリア・鈴・弾・蘭・ティトリーを下したPSは、そのままグレンラガンをも圧倒し………

 

更には、救援に入った簪をも倒そうとする。

 

しかし………

 

“簪の()()”を見た途端………

 

PSは、()()()激しい動揺を示した。

 

其処で簪が放った1発の銃弾が………

 

謎に包まれていた“PSの正体”を露わにする………

 

其れは………

 

“ラウラと同じ顔”をした、両目が金色に染まっている()()少女だった!

 

何故、彼女はラウラと同じ顔をしているのか?

 

驚愕に包まれるグレン団に向かって、ペールゼンの口からその正体が語られる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツ某所・ペールゼンの秘密基地………

 

ペールゼンの研究室………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一夏達と捕らえられているセシリア達の視線は、“一点”に注がれていた。

 

その先に有るのは、先程まで簪と交戦していた“ベルゼルガの装着者”である。

 

簪のアーマーマグナムによってヘルメットが破壊され、露わになった装着者のその顔は………

 

“ラウラにそっくり”であった。

 

「ラ、ラウラッ!?」

 

「ううん、違う!」

 

「良く見れば別人よ!」

 

一夏がそう声を挙げるが、即座にシャルと楯無が否定する。

 

「確かに、あの目の色………其れに、顔付きも『幼い感じ』がするぞ」

 

箒が、ベルゼルガの装着者とラウラの“違い”を明確にする。

 

「さてはテメェ………ラウラの()()()()()()だな!!」

 

そして、“明後日(あさって)の方向”に勘違いしているグレンラガン。

 

「アニキ………」

 

「神谷………」

 

そんなグレンラガンに、一夏とシャルは呆れた様に呟く。

 

「………恐らく彼女は………ラウラのDNAから作られた………“クローン”」

 

其処で、簪がそう予想を述べる。

 

「その通りだ…………」

 

すると、ペールゼンはその予想をアッサリと肯定した。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒは、私が“嘗て行っていた計画”で生み出した存在の中では『最高傑作』だった。しかし、奴は“ヴォーダン・オージェの不適合”に因って、()()()()()に成り下がった」

 

「! テメェ………」

 

「何故、“失敗する筈の無い”ヴォーダン・オージェが不適合を起こしたのか? 答えは簡単だ。(ラウラ)の“遺伝子強化が不十分だった”からだ!」

 

怒りの声を挙げようとした一夏を遮り、ペールゼンはそう言い放つ。

 

「そして私は、奴の細胞を使って新たなクローンを作り………()()()()ヴォーダン・オージェの手術を施した………その結果が、今のプロト・ワンだ!」

 

そう言うと、ペールゼンはラウラそっくりの少女………プロト・ワンに視線を向ける。

 

「さあ、プロト・ワン! 戦え!! ソイツを殺せ!!」

 

簪を殺す様に、プロト・ワンに命令するペールゼン。

 

しかし………

 

「う………あ………」

 

プロト・ワンは、呻き声の様な声を漏らして行動しようとしない。

 

簪に向けているアサルトライフルを持つ手も震えており、狙いが定まっていない。

 

「!? 如何した、プロト・ワン!? 早くソイツを始末しろっ!!」

 

ペールゼンは、プロト・ワンのその様子に驚きながらも重ねて命令を下す。

 

「………い………嫌………です………」

 

「!? 何っ!?」

 

「い、嫌ですっ!!」

 

プロト・ワンは、そう“ハッキリと()()()()()()()”。

 

「馬鹿な!? “『命令に絶対忠実で在る』()のパーフェクトソルジャー”が()()()()だと!?」

 

「オイオイ、如何なってんだ?」

 

ペールゼンは動揺し、グレンラガン達もワケが分からないと言う顔になる。

 

「う………あ………」

 

「…………」

 

苦しんでいるかの様な様子を見せているプロト・ワンに、簪は油断無くヘヴィマシンガンの銃口を向けている。

 

「…………」

 

と、簪が注意しながら1歩前へと踏み出す。

 

「!?」

 

途端に、プロト・ワンが其れに反応するかの様に1歩下がった。

 

「!? プロト・ワンが反応している!? 貴様、まさか!? “教育途中”のプロト・ワンと接触したのか!?」

 

其れを見たペールゼンが、簪に向かってそう問い質す。

 

「教育途中………?」

 

何の事か?と思う簪だったが、其処でプロト・ワンが「“培養液の様な物で満たされたカプセル”の中に入れられていた光景」を思い出す。

 

「………()()()の?」

 

「やはりそうか! ええい! 何と言う事だ!!」

 

その呟きを聞いたペールゼンは、地団駄を踏む様子を見せる。

 

「プロト・ワンは、教育課程に於いて“貴様の姿を見てしまった”が為に、貴様の姿が潜在意識の中に刷り込まれてしまったのだ!! 其れで“『貴様に対して』強い感情を抱いて”しまい、私の命令を拒否したのだ!!」

 

「つまり………如何言う事だ?」

 

激昂の余り、説明するかの様な台詞を吐き捨てるペールゼンだが、一夏は理解出来ない様で首を捻る。

 

「つまりアレよ………『卵から孵った雛が最初に見た者を親だと思い込んで(インプリンティング)しまう現象』と似た様な事が起こった、って事よ」

 

すると楯無が、“刷り込み”を例えに出して一夏にそう説明する。

 

「ええい! プロト・ワン!! ならば先にソイツ等から始末しろ!!」

 

するとペールゼンは、標的をグレンラガン達に変更させる。

 

「!!」

 

途端に、プロト・ワンは苦しんでいた様な表情から一転し、敵意を剥き出しにした表情になると、グレンラガン達の方へ向かおうとする。

 

「「「「「!?」」」」」

 

身構えるグレンラガン達だったが………

 

「止めなさい………!」

 

簪がその間に割り込み、プロト・ワンを制止する。

 

「! 退いて………下さい………」

 

すると、プロト・ワンは再び苦しむ様な様子を見せる。

 

「…………」

 

しかし、簪は一瞬でプロト・ワンに接近すると、その両肩を摑んだ!

 

「!?」

 

「貴女は間違っている………()()()()に従ってはいけない………」

 

「わ、私は………“戦う為に”生み出された………PS(パーフェクトソルジャー)だから………」

 

「確かに貴女は………“その為に”生み出された………」

 

「…………」

 

「でも………“生まれは選べなくても”………()()()()………()()()()()()()………」

 

「!?」

 

簪のその言葉で、ハッしたかの様に簪を見遣るプロト・ワン。

 

「私達と一緒に来なさい………大丈夫………皆………()()よ」

 

そんなプロト・ワンに向かって、簪は微笑みながらそう言い放つ。

 

「仲………間………」

 

プロト・ワンは、絞り出すかの様にそう呟く。

 

「プロト・ワンに妙な事を吹き込むな!!」

 

と其処で、ペールゼンがそう声を挙げたかと思うと、対IS用拳銃を簪に向けて構える。

 

「!?」

 

「! 危ねえっ!!」

 

「「「「!!」」」」

 

簪が反応し、グレンラガン達が飛び出した瞬間には、ペールゼンはその引き金に指を掛けていた。

 

「!! 駄目ええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

と、その瞬間!!

 

プロト・ワンが簪を守る様に抱き付く!!

 

その次の瞬間には、銃声が響いた!!

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一瞬の沈黙の後………

 

「あ………」

 

その短い言葉と共にプロト・ワンが崩れ落ち、ベルゼルガが強制解除される。

 

「………!」

 

簪が慌ててしゃがみ込み、プロト・ワンの状態を調べる。

 

背中に銃弾が直撃しており、生きてはいるものの虫の息であった。

 

「しっかり! 死ぬんじゃないわ!!」

 

「チイッ! プロト・ワン! お前も“失敗作”か!!」

 

簪が呼び掛ける中、ペールゼンはプロト・ワンに向かって冷たくそう言い放つ。

 

「! 貴様ぁっ!!」

 

「許さ無えぜっ! 人間を何だと思ってやがる!!」

 

簪が怒りの咆哮を挙げてヘヴィマシンガンを構え、グレンラガン達もペールゼンに突撃を再開する。

 

「馬鹿め! こんな時の為に人質が居るのを忘れたのか!?」

 

と其処でペールゼンがそう言い放つと、セシリア達を押さえていた量産型グラパール達が、一斉にハンドガンを握ってセシリア達の頭に突き付けたが………

 

「分身殺法! ゴッドシャドーッ!!」

 

一夏がそう叫んだかと思うと、その姿が5人に分裂した!!

 

「!? んなっ!?」

 

「ジャ、ジャパニーズニンジャッ!?」

 

「「「「「セイヤァッ!!」」」」」

 

驚きで動きが止まった量産型グラパール達に、分身した一夏は拳や蹴り、雪片での斬撃を次々に叩き込む。

 

「「「「「ぐあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「ぬおっ!? ええいっ!!」

 

其れを見たペールゼンは、踵を返してフロアの端にあった脱出用のエレベーターに乗り込もうとする。

 

「! 逃がさない………!」

 

簪が、逃がさないとばかりにヘヴィマシンガンを発砲する。

 

「ぐああぁっ!?」

 

連射された弾丸の内の1発が、ペールゼンの左肩を貫通した!!

 

「くううっ!!」

 

だがペールゼンは止まらず、エレベーターに転がり込む様に飛び込む!!

 

「野郎っ!!」

 

閉まったエレベーターの扉を、グレンラガンが無理矢理()じ開ける!!

 

しかし、ペールゼンが乗ったエレベーターは、既に見えなくなっていた。

 

「クソッ! 地下か!!」

 

「アニキ、追おう! 多分、ペールゼンが向かった先にラウラが!」

 

「私も行くわ………」

 

其処で一夏がそう言いながらグレンラガンの傍に立ち、瞳の中に静かな怒りの炎を燃やした簪も合流する。

 

「神谷! セシリア達とこの子(プロト・ワン)は僕達が何とかするから!!」

 

「お前達はペールゼンを追え!!」

 

「頼んだわよ!!」

 

と其処で、負傷しているセシリア達とプロト・ワンに応急処置を施していたシャル・箒・楯無がそう叫ぶ。

 

「分かった!!」

 

「おっし! 行くぞっ!!」

 

「…………」

 

其れを聞くと、一夏・グレンラガン・簪の3人は、エレベーターの中へと飛び込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペールゼンの秘密基地・地下最深部………

 

「クウッ! ハア………ハア………」

 

撃ち抜かれた左肩を押さえながら、何処かへと向かっているペールゼン。

 

やがて、行き止まりとなっている場所に据え付けられていた扉の前に辿り着いたかと思うと、電子ロックを解除して中に入る。

 

其処は航空機の地下発着場となっており、ペールゼンの目の前には大型輸送機が何時でも飛び立てる状態で待機していた。

 

「くううっ!!」

 

ペールゼンは、その輸送機のタラップを登って中へと乗り込む。

 

そして操縦席に入る前に、一度貨物室の方を振り返る。

 

(…………)

 

其処には、培養液の様な物で満たされたカプセルの中で眠っているラウラの姿が在った。

 

「コイツさえ居ればまだ計画は続けられる………世界を救うには………PS(パーフェクトソルジャー)の力が必要なのだ………」

 

ブツブツと呟きながら、ペールゼンは輸送機のコクピットに入り、操縦桿を握る。

 

すると、地上へ続く入り口が開いて輸送機は発進しようとする。

 

だが、その瞬間!!

 

「「「「「「「「「「ヒャッハーッ!!」」」」」」」」」」

 

まるで世紀末の様な叫びと共に、レッドショルダーとガンメン部隊が開け放たれた地上への出入り口から突入して来た!!

 

「!? レッドショルダーにガンメンだとっ!?」

 

ペールゼンが驚いた瞬間!

 

「そらよっ!!」

 

ソリッドシューターを持っていたレッドショルダーが、ペールゼンが乗っている輸送機のコクピット目掛けて砲弾を放つ!!

 

「!? ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

操縦席が爆発すると、ペールゼンの断末魔が響き渡った!

 

操縦席が無くなった輸送機は、その爆発の余波で炎上し始める。

 

「!? コレはっ!?」

 

「ガンメン!?」

 

「レッドショルダー………このタイミングで………」

 

と、其処へ駆け付けたグレンラガン・一夏・簪が、燃え盛る輸送機とガンメン部隊とレッドショルダー達を見てそう声を挙げる。

 

[此方クラリッサ!! 織斑殿! 聞こえますか!?]

 

其処へ、量産型グラパール達と交戦しているクラリッサから一夏に通信が入る。

 

「! クラリッサさん!!」

 

[現在此方にロージェノム軍が出現! 我が部隊と量産型グラパール部隊と交戦を始め、混戦状態となっています! このままでは持ち堪えられません! 早く隊長を!!]

 

一夏が応答すると、クラリッサから若干焦っているかの様な報告が挙げられる!

 

「!? マズイわ………ラウラさんは………あの輸送機の中よ………」

 

と其処で、燃え盛る輸送機をサーチしていた簪がそう報告を挙げる。

 

「!? 何だってっ!!」

 

「チイッ! 突っ込むぞ! 一夏!! 簪!!」

 

其れを聞くや否や、3人はグレンラガンを先頭に、敵軍目掛けて突っ込んで行った!!

 

「むうっ!? グレンラガン! 何故此処に!?」

 

「如何でも良いぜ! ブッ潰してやる!!」

 

グレンラガン達の姿を見付けたガンメン部隊とレッドショルダー達は、直ぐ様彼等を標的にする。

 

「………!!」

 

すると、簪が左肩の3連スモークディスチャージャーから煙幕弾を発射。

 

忽ち、ガンメン部隊とレッドショルダー達の視界が塞がれる。

 

「ぬおっ!? 何も見えん!?」

 

「チイッ! 猪口才(ちょこざい)な真似しやがって!!」

 

「一夏! 今の内だ!!」

 

「急いで………輸送機が爆発するまで………時間が無い………」

 

「分かったっ!!」

 

そしてその間に、一夏が燃え盛る輸送機の中へと突入する。

 

「頼むぜ、一夏!!」

 

「グレンラガン! 覚悟ぉっ!!」

 

メズーが、グレンラガンの背後から襲い掛かるが………

 

「心眼! 後ろ回し蹴りぃっ!!」

 

グレンラガンは、振り向かずに後ろ回し蹴りを放ってメズーを粉砕する!!

 

「獣人に栄光有れええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

粉砕されたメズーが、獣人の断末魔と共に爆散する。

 

「…………」

 

簪も、煙幕の僅かな動きで敵の位置を察知し、其処へヘヴィマシンガンの銃弾を撃ち込んで行く!

 

「「「「「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

汚い断末魔と共に、レッドショルダー達が消し飛んで行く。

 

「オメェ等の相手は………」

 

「私達が………してあげる………」

 

構えを取るグレンラガンと、ヘヴィマシンガンを構える簪が、ガンメン部隊とレッドショルダー達に向かってそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

一方、燃え盛る輸送機の中へ突入した一夏は………

 

「ラウラーッ! 何処だ!? 何処に居るんだーっ!?」

 

燃え盛る輸送機の中で、ラウラの姿を探し求めている。

 

と其処で、炎上している貨物室内部の一角に、“人1人が入りそうな位の大きさのカプセル”を発見する。

 

「! アレは!?」

 

直ぐに、そのカプセルに近付いて中を確かめる一夏。

 

培養液の様な液体で満たされたそのカプセルの中には、ラウラの姿が在った。

 

その傍に在った台の上には、彼女のISが待機状態で置かれている。

 

「! ラウラ! オイ、ラウラ! しっかりしろ!!」

 

一夏はカプセルを叩き、ラウラの意識を取り戻させようとする。

 

「…………」

 

しかし、ラウラが目覚める気配は無い。

 

「ラウラ! ラウラ!!」

 

其れでも、一夏は呼び掛けを続ける。

 

と、その時!!

 

輸送機貨物室の天井が崩れ、瓦礫がラウラの入っているカプセルに降り掛かりそうになる!

 

「!? 危ないっ!!」

 

直ぐにその瓦礫を受け止める一夏。

 

しかし、自身が動けない状態となってしまう。

 

「!? マズイ! エネルギーが!?」

 

更に燃え盛る炎の熱で、シールドエネルギーが見る見る内に減って行っている。

 

このままでは何れ装着が解除され、2人纏めて焼死体となるのがオチだ。

 

「クソッ! ラウラ! 目を覚ましてくれ! ラウラアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

瓦礫を支えながら、必死にラウラに呼び掛ける一夏。

 

(………一………夏………?)

 

すると、ラウラの目が(うっす)らと開かれる。

 

「うう、クソォッ!!」

 

しかし、瓦礫を支えるのに必死になっている一夏は気付かない。

 

(一夏………何をしている………早く逃げろ………)

 

声が出せぬ為に念じる様にそう思うラウラだが、一夏は瓦礫を支え続ける。

 

(一夏………駄目だ………このままではお前まで………)

 

ラウラの脳裏に、今までのIS学園での思い出が走馬灯の様に思い起こされる。

 

(………一夏………思えばお前には随分と酷い事をした………だが、そんな私をお前は何度も助けてくれた………今だってそうだ………)

 

ラウラの中に、緑色の光が螺旋を描く様なイメージが湧き上がる。

 

(死なせはせん………()()()()()()()()………)

 

「死なせはしない!!」

 

其処で意識が完全に覚醒し、カプセルの中で目を見開いてそう叫んだラウラの身体から、緑色の光………“螺旋力”が溢れた!!

 

「!? 何だっ!?」

 

その螺旋力の光は、近くに在った待機状態のシュヴァルツェア・レーゲンと一夏を呑み込む。

 

 

 

 

 

その頃………

 

ガンメン部隊とレッドショルダー達と交戦しているグレンラガンと簪は………

 

「グレンライトニングボルトォッ!!」

 

「「「「「「「「「「天国へ行けるかなああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

稲妻を纏った両足での連続蹴りを繰り出し、次々にガンメンをスクラップに変えるグレンラガン!!

 

「…………」

 

「「「「「「「「「「ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

ローラーダッシュからターンピックでの連続ターンを繰り出し、トリッキーな動きで攪乱しつつ、ヘヴィマシンガンの弾丸をレッドショルダーへと的確に叩き込んでいる簪。

 

(………コレが最後のマガジンね)

 

そして一瞬の隙にヘヴィマシンガンのマガジンを交換するが、其れが最後のマガジンであり、消耗が酷かった。

 

と、その時!!

 

「やれやれ………()()()()()を相手に………何を手古摺って()る?」

 

そう言う台詞と共に、簪の傍に黒い影が現れる!

 

「!?」

 

直ぐにヘヴィマシンガンを向けようとした簪だったが………

 

「そうらぁっ!!」

 

「! ふうわぁっ!?」

 

其れよりも早く、現れた影が振るった腕が当たり、簪は吹き飛ばされて壁に叩き付けられる!!

 

「!? 簪!!」

 

其れに気付いたグレンラガンが、影の姿を確認する。

 

「“小賢しい研究”をしている人間が()る、と聞いてやって来てみれば………まさかグレン団が()るとはのう」

 

そう言うのは、見るからに重装甲な感じがする“人型のカスタムガンメン”だった。

 

「その声は………グアーム………」

 

と、()り込んでいた壁から脱出していた簪が、そのカスタムガンメンから発せられている声が、螺旋四天王の1人・グアームのものである事に気付く。

 

「如何にも………貴様等に見せるのは初めてだったな。これぞ我がカスタムガンメン………『ゲンバー』よ」

 

すると、そのカスタムガンメン『ゲンバー』の装着者であるグアームがそう答える。

 

「四天王か! 丁度良いぜ! 今此処でブッ倒してやらあぁっ!!」

 

其れを聞いたグレンラガンが、右腕をドリルに変えるとゲンバー目掛けて突撃する!!

 

「フンッ、突撃しか能の無い馬鹿めが………」

 

しかし、ゲンバーは小馬鹿にした様な台詞を呟きながらも防御姿勢を取った。

 

防護姿勢を取ったゲンバーに、グレンラガンのドリルが叩き込まれるが………

 

「!? うおわぁっ!?」

 

当たった瞬間にドリルは砕け、グレンラガンは大きく弾き飛ばされる!!

 

「ハッハッハッハッ! このゲンバーの防御力は並では無いぞ!!」

 

グレンラガンのその姿を見ながら、ゲンバーは勝ち誇る様にそう笑う。

 

「チキショウがぁっ!!」

 

着地を決めると、直ぐに次の手を出そうとするグレンラガンだったが………

 

「そうはさせんわぁっ!!」

 

ゲンバーがそう言ったかと思うと、顔の額部分に付いていた2本の触角が、グレンラガン目掛けて伸び、両腕に巻き付く!!

 

「うおっ!?」

 

動きを封じられるグレンラガン。

 

「そうらぁっ! 噛み砕いてくれるわぁっ!!」

 

するとゲンバーは、身体を引っ繰り返すかの様に前転し、背中の部分を見せたかと思うと、その一瞬でまるで昆虫を思わせる様な姿へと変形!

 

巨大な顔の口で、グレンラガンに噛み付いて来た!!

 

「!? ふんぬぅーっ!!」

 

咄嗟に両腕で上顎、両足で下顎を押さえて踏ん張り、グレンラガンは噛み付きを阻止する。

 

「ほうっ? やるのう。しかし何時まで持つかなぁ?」

 

ゲンバーのその台詞と共に、顎の力が徐々に強まって行く。

 

「ぐ、おおお…………」

 

必死に支えるグレンラガンだが、徐々にゲンバーの顎が閉じて行く。

 

「神谷………クウッ………」

 

簪が援護しようとヘヴィマシンガンを構えるが、あの重装甲ではヘヴィマシンガンの弾が効くとは思えず、発砲を躊躇する。

 

「フハハハハッ! 終わりだ、グレンラガン! 遂にこの不動のグアームが、グレンラガンを葬り去るのだ!!」

 

ゲンバーがそう言い放ち、一気にグレンラガンを噛み潰そうとする。

 

と、その時!!

 

燃え盛る輸送機の中から、緑色の光が放たれ、輸送機が大爆発を起こした!!

 

「!? 何だっ!?」

 

「! 今だっ!!」

 

ゲンバーの注意が其方に向いた一瞬の隙を衝いて、グレンラガンは脱出する。

 

「ぬううっ!? しまったっ!?」

 

悔しそうな声をゲンバーが挙げた瞬間!!

 

炎が消し飛んで、輸送機の残骸の中から2つの影が現れる!!

 

「「「!?」」」

 

1つは一夏であり、もう1つは………

 

「ラ、ラウラ!? ソレは!?」

 

“形状が変わっているIS”を身に纏っているラウラだった。

 

耳の部分にL字の様に曲がった黄色い角が在り、口の部分には多数のスリットが入ったマスクが装着されている。

 

腕と腿の部分に三角の板が設置され、胸にはV字のパーツが取り付けられている。

 

臍の辺りには五角形のパーツが装着され、背中には真っ赤な翼が生えている。

 

「如何やら、私のISも第二形態移行(セカンド・シフト)した様だな。名は………そう! 『グレートマジンガー』だ!!」

 

ラウラは不敵な笑みを浮かべて、第二形態移行(セカンド・シフト)したシュヴァルツェア・レーゲン………『グレートマジンガー』を装着した状態でポーズを決める。

 

「グレートマジンガーじゃと!? また厄介な物が出て来おったわい」

 

其処で、体勢を立て直して人型に戻ったゲンバーが、グレートマジンガーの姿を見てそう言う。

 

「じゃが………何であろうと“ロージェノム様の敵”は叩き潰すのみ!」

 

と次の瞬間には、グレートマジンガー目掛けて飛び掛かった!!

 

「喰らえいっ!! ゲンバープレスッ!!」

 

ゲンバーがそう叫びながら両腕を広げると………

 

その腕の内側に、無数の棘が出現する!!

 

「串刺しにしてくれるわぁっ!!」

 

そしてそのままラウラに抱き付き、串刺しにしようとする。

 

「! ラウラッ!!」

 

一夏が叫ぶが、次の瞬間!!

 

「なっ!?」

 

ガキィンッ!!と言う音が響いたかと思うと、ラウラを串刺しにしようとしていたゲンバーの棘が、全て圧し折れた!!

 

「馬鹿なっ!?」

 

「フッ、グレートマジンガーの装甲を舐めてもらっては困るぞ! アトミックパンチッ!!」

 

ラウラはそう言い放つと、ゲンバーに右腕を向ける。

 

すると、右腕パーツがロケット噴射で発射され、回転しながらゲンバーの顔面を殴り付ける!!

 

「ぐおおおっ!?」

 

衝撃でブッ飛ばされ、尻餅を着く様に床の上に倒れるゲンバー。

 

「オノレェ! だが、頑丈さならば此方も負けてはおらんぞ! そんな攻撃では、ゲンバーのボディには傷1つ付けられんわい!!」

 

そう言いながら立ち上がるゲンバーのボディは、確かに“無傷”だった。

 

「ならば、コレで如何だ!? ブレストバーンッ!!」

 

するとラウラは、今度は胸のV字状のパーツから熱線を放射する!!

 

「!? むおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!?」

 

ゲンバーはその熱線を真面に浴びる。

 

すると、堅牢な装甲がまるで飴の様に溶け始める!!

 

「な、何じゃと!? ゲンバーの装甲が溶ける!?」

 

「マジンガーブレードッ!!」

 

其処でラウラは、右腿の三角の板部分から西洋剣タイプのブレード・マジンガーブレードを取り出す。

 

「そらっ!!」

 

そして、装甲が溶解し掛かっているゲンバー目掛けて投げ付ける!

 

「!? イカンッ!!」

 

と、次の瞬間!!

 

ゲンバーの背中側から、グアームが脱出する。

 

装着者の居なくなったゲンバーを、マジンガーブレードが貫通。

 

「サンダーブレークッ!!」

 

ラウラがそう叫ぶと、稲妻が角から頭上に向かって伸びる。

 

そして、右手を人差し指を立てた状態で掲げたかと思うと、其処に稲妻が落ちてスパークする。

 

「喰らえっ!!」

 

その指をゲンバーに向かって伸ばすと、稲妻が放たれる!

 

稲妻は突き刺さっていたマジンガーブレードの柄に命中し、ゲンバーは感電!!

 

一瞬の間を置いて大爆発した!!

 

「ぬううっ! ワシのゲンバーがっ!!」

 

「グアーム様! ココは一旦退きましょう!!」

 

「ドイツ攻略作戦中の今、此奴等に構っている暇は有りません!」

 

悔しがるグアームを、ガンメン部隊が回収する。

 

「………そうじゃの。一旦退くぞ!」

 

グアームは悔しそうな表情を見せながらも、ガンメン部隊とレッドショルダー達にそう命令する。

 

其れを受けて、ガンメン部隊とレッドショルダー達は一斉に撤退を始める。

 

「あ! 待ちやがれ!!」

 

「グレン団! ワシ等を追い返す事が出来ても、()()()()()()()()()()()ぞ!!」

 

追い縋ろうとしたグレンラガンに、グアームはそう捨て台詞を吐いた。

 

「何だとぉっ!?」

 

「如何言う事だ?」

 

グアームの捨て台詞の意味が分からず、一夏が首を傾げていると………

 

[此方クラリッサ! グレン団の皆さん! 聞こえますか!?]

 

通信回線に、再びクラリッサの声が響き渡る。

 

「クラリッサ!? 如何した!?」

 

[その声は隊長! 御無事でしたか!?]

 

「ああ、何とかな………其れより、如何したんだ?」

 

[そうでした! 先程ロージェノム軍が撤退! 基地に居たペールゼンの兵も全て片付けたのですが、現在()()()()()()ロージェノム軍の猛攻を受けています!!]

 

「!? 何だと!?」

 

「「「!?」」」

 

クラリッサの報告にラウラは驚きの声を挙げ、グレンラガン達も驚愕を露わにする。

 

[奴等は、先日占領したフランスを足掛かりにして大規模な戦力を集結させていた様です! 各地の防衛に当たっていた我が軍は、最早壊滅状態です! この上は、隊長達だけでも脱出して下さい!!]

 

「お前達は如何するんだ!?」

 

[我々は残ります! 地下へ潜って、ゲリラ戦で抵抗を続ける積りです!!]

 

「ならば私も!!」

 

[何を言うのです!? 隊長には、もっと“重大な任務”が有るではありませんか!!]

 

「!? 重大な任務!?」

 

[そう………“ロージェノムを倒す”と言う()()です!]

 

「!!」

 

その言葉に、ラウラは再び驚きを露わにする。

 

[隊長達ならば………グレン団ならば必ず出来ます! 私達は其れまで()()()()()持ち堪えてみせます! だから隊長! “今は”逃げて下さい!!]

 

通信越しに、クラリッサの切実な思いが伝わって来る。

 

「クラリッサ………死ぬなよ。“コレは()()()()だ”」

 

[………了解]

 

最後に言い合い、ラウラは通信を切る。

 

「………行くぞ! 一夏!!」

 

「分かった! 他の皆にも、もう伝えてある!!」

 

「チキショーッ! また逃げんのかよ!!」

 

「今は………そうするしか無い………」

 

ラウラ達はそう言い合って基地から脱出し、更にはドイツからも脱出をするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日………

 

ドイツが陥落………

 

世界でロージェノムに抵抗を続けている国は………

 

イギリス・中国・アメリカ・日本だけとなった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

プロト・ワンの正体はラウラのクローン。
しかし、教育課程で簪と接触してしまったせいで、彼女に強い感情を抱く様に。
失敗作と見なされ、ペールゼンはラウラを連れての逃走に入る。
しかしそこへ………毎度お馴染み、ロージェノム軍が襲撃。
四天王のカスタムガンメンまで現れ、絶体絶命のところに………
ラウラのISがセカンドシフト。
グレートマジンガーになります。

ラウラは軍人、戦闘のプロ、剣鉄也、グレートマジンガーと言う発想で決めました。

ゲンバーを撃破したものの、グアームは逃走し、ドイツも陥落。
グレン団はまたも逃亡を余儀なくされたのだった。

さて、次回はイギリス編………
セシリア回です。
彼女のコンプレックスであった父の意外な正体が発覚します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第108話『ふふふ、変わりない様で安心しました』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第108話『ふふふ、変わりない様で安心しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドイツにて、激戦の末に………

 

拉致されていたラウラを救出する事に成功したグレン団。

 

しかし其処で、ドイツ全域にまたもロージェノムの大軍が出現。

 

各地のドイツ軍は忽ち壊滅し、ドイツも敵の手中に落ちた………

 

シュヴァルツェ・ハーゼや、生き残ったドイツ軍は地下へ潜り、ゲリラ戦で抵抗を続ける積りらしいが、其れも何時まで続けられるか分からない………

 

人類が刻一刻と追い詰められて行く中………

 

辛くもドイツを脱出する事が出来たグレン団は………

 

 

 

 

 

北海の海底………

 

着底しているインフィニット・ノアの艦橋にて………

 

「とうとうドイツも落とされたわね………」

 

「コレでロージェノム軍に完全にやられていない国は、アメリカ・イギリス・中()、そして日本だけね………」

 

リーロンと楯無が、メインパネルに投影した世界の戦況の様子を見ながらそう言い合う。

 

「クソッ!!」

 

勝ち星は挙げているものの、国を守る事は出来ずに逃げてばかりを繰り返している神谷は、悔しさを滲ませながら壁を殴る。

 

「神谷………」

 

シャルは、そんな神谷に言葉を掛けられずに居た。

 

と其処で………

 

「皆………この子が………目を覚ましたわよ………」

 

そう言いながら、簪が艦橋へと姿を見せる。

 

いや………

 

良く見れば、その背に隠れている“もう1人”の存在が在った。

 

「ホラ………大丈夫よ………皆私の仲間だから………」

 

「うう………」

 

簪が隠れている人物………プロト・ワンに向かってそう言うが、プロト・ワンは簪のスカートを摑んで、神谷達の様子を窺う様に覗き見る。

 

「目が覚めたのか………」

 

と、その姿を見たラウラが2人の元へ近付いて来る。

 

「! ううっ!?」

 

すると、プロト・ワンはラウラから見えなくなる様に、簪の陰に隠れる。

 

「やあ、こんにちは」

 

と其処で一夏が、反対側から笑顔を向けて挨拶する。

 

「! うう~っ!」

 

プロト・ワンはまたも逃げる様に移動する。

 

しかし其れでも、簪の傍からは離れようとしない。

 

その様に、あの恐るべき兵士(パーフェクト・ソルジャー)としての姿は無く、“人見知りな幼子”そのものであった。

 

「アラアラ? すっかり懐かれちゃってるわね~、簪ちゃん」

 

今度は楯無がそう言いながら、簪とプロト・ワンの傍に寄る。

 

「!?」

 

「姉さん………からかわないで………」

 

プロト・ワンが楯無から逃げる様に隠れると、簪がそう言う。

 

「其れで? 如何すんの、この子?」

 

「生まれが生まれだけに、何処かに引き取って貰うワケにはイカンぞ?」

 

鈴と箒がそう言い合う。

 

「やっぱり、私達で面倒見るしか無いよぉ」

 

「そうですね」

 

続いて、ティトリーと蘭がそう言い合う。

 

「ありがとう、皆………ホラ、貴女も………皆にお礼を………」

 

「………ありがとう」

 

簪がそう言うと、プロト・ワンは簪の影に隠れたまま、照れた様子を見せながらそう呟く。

 

(((((か、可愛い~~!!)))))

 

その瞬間、女性陣はその姿に萌えるのであった。

 

「となると、名前考えてやった方が良いんじゃねえのか? 何時までもプロト・ワンだなんて、番号みてぇな名前じゃ可哀想だろ?」

 

「そうね。この子には、先ず“人間らしさ”ってモノを教えないと」

 

其処で、弾と虚がそう提案する。

 

「名前か~。何が良いかな~?」

 

「“ラウラの()”だし、ドイツ語で名付ける方が良いんじゃないか?」

 

首を捻るのほほんに、一夏がそう言う。

 

「ドイツ語か~さっぱり分からん!!」

 

「神谷………」

 

ドイツ語で名前を考えようとしたが、肝心のドイツ語が分からずそう言い放つ神谷と、そんな神谷に苦笑いするシャル。

 

「………フランって言うのは………如何かしら………?」

 

すると、他ならぬ簪がそう声を挙げる。

 

「フラン?」

 

「そう………ドイツ語で炎を意味するフランメから取って………フラン」

 

「フランかぁ………貴女は如何?」

 

楯無が、簪の後ろに隠れているプロト・ワンに向かってそう尋ねる。

 

「…………」

 

プロト・ワンは簪の後ろに隠れたままだったが、やがて静かに頷いた。

 

「気に入ったみだいだね」

 

「よ~し! 今日からオメェはフランだ! よろしくな! フラン!!」

 

一夏がそう言うと、神谷がそう声を挙げながらプロト・ワン改めフランへと近付く。

 

「!?」

 

するとフランは、またも神谷から逃げる様に移動する。

 

「ありゃ?」

 

「人見知りは………徐々に治して行かないとね」

 

肩透かしを喰らった神谷が間抜けな顔をしていると、簪は微笑みながらフランの頭を優しく撫でるのだった。

 

「フラン………」

 

と其処で、ラウラがフランへと声を掛ける。

 

「あ………」

 

「心配するな。今日からは、私が………“お前の姉”だ」

 

そう言って、ラウラはフランに微笑み掛ける。

 

「…………」

 

フランは戸惑う様な様子を見せていたが、やがて簪から離れると、ラウラの前に立つ。

 

「? 如何した?」

 

ラウラがそう尋ねると………

 

「………お姉ちゃん」

 

フランはラウラに向かってそう言う。

 

「!?!?」

 

その時、ラウラに電流が走る!!

 

漫画的に表現するならば、ハートマークを弾丸が撃ち抜く様なイメージが見えて、ズギューンッ!!という効果音が聞こえる感じだ。

 

「ふおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

 

その次の瞬間には、ラウラは叫び声を挙げてフランに抱き付いた!

 

「!? キャアッ!?」

 

「可愛い~~~っ! お前は何て可愛いんだ~、フラ~~~ンッ!!」

 

驚くフランの頬に頬擦りするラウラ。

 

「安心しろ~~っ! この先何が有っても、姉が守ってやるからな~~~っ!!」

 

姿は似ているが、色々と違うキャラの台詞が“中の人繋がり”で出て来る。

 

キャラ崩壊も良いところだ。

 

「「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」」

 

そんなラウラの姿に、神谷や一夏達が唖然としている。

 

「………ハッ!?」

 

そんな神谷達の視線に気付いて、ハッと我に返るラウラ。

 

「オ、オホンッ! と、まあ其れはさて措き………」

 

((((((((((何が、其れはさて措きなんだ?))))))))))

 

何とか取り成そうとするが、既に手遅れであった。

 

「………良かったわね………良いお姉ちゃんで………」

 

そんな中、只1人それをスルーして、簪がフランにそう言う。

 

「うん! フラン、簪好き!!」

 

「うふふ………ありがとう………」

 

屈託無い笑顔でそう言われて、簪は微笑み返しながらフランの頭を撫でる。

 

「…………」

 

そして、そんなフランと簪の様子を見たラウラは………

 

(ジェラシイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーッ!!)

 

激しい嫉妬の炎を燃え上がらせた!!

 

「うおっ!? ラウラが燃えてる!?」

 

「って言うか、何か邪念が渦巻いて無いか!?」

 

そんなラウラの様子を見た、一夏と弾がそう声を挙げる。

 

(教官! ()()()分かります!! 貴女の気持ちが!!)

 

この時ラウラは、千冬が何故“ブラコン”なのかを心の底から理解したのだった。

 

「もう! 少し静かにしてくれませんこと! 全然聞こえませんわ!!」

 

と一連の喧騒の中、1人通信席に着いて、イヤホンを耳に当てながら黙々と通信機を弄っていたセシリアがそう声を挙げる。

 

「あ、ワリィ………」

 

「全く、もう………こちらセシリア・オルコット………チェルシー、聞こえてますの? 応答なさい」

 

彼女が今連絡を取ろうとしているのは、彼女の幼馴染であり、優秀な専属メイドであるチェルシー・ブランケットだ。

 

フランス、ドイツと連戦して来たので、此処等で一旦落ち着きたいところだが、如何せんグレン団の立場は“世界の敵”のまま………

 

一番近く、且つ未だロージェノム軍に抵抗している国はイギリスだが、お尋ね者の自分達が尋ねて行っても良い顔をしないのは明らかである。

 

其処でセシリアが、オルコット家が管理している港に入港しようと、専属メイドであるチェルシーに、オルコット家の専用回線を使って連絡を取ろうとしているのだ。

 

しかし、発信元を発見される事無く、更には逆探知を防ぐ為に複雑な偽装をしながらの通信なので、回線の繋がりが悪く、中々繋がらずに居る。

 

「コチラ、セシリア・オルコット………チェルシー、聞こえてますの? 応答なさい」

 

何度目とも知れぬ呼び掛けを、通信のマイクに向かって言い放つセシリア。

 

すると………

 

[………こ………ちら………チェ………ルシー………]

 

通信機から、ノイズに混じって音声が返って来る。

 

「!?」

 

其れを聞いたセシリアは、大慌てで通信機を調整する。

 

[………此方チェルシー。聞こえてましたよ、お嬢様]

 

そして通信回線からクリアな声で、そう言う台詞が聞こえて来た。

 

「チェルシー! 漸く繋がりましたわ!!」

 

[お久しぶりです、お嬢様。グレン団と運命を共にしたと聞いた時には流石に驚きましたが、やはり生きていらしたのですね]

 

「当然ですわ! この私を誰だと思っているのですか!?」

 

通信にも関わらず、セシリアはそう言って自慢するかの様に胸を張るポーズを取る。

 

[ふふふ、お変わり無い様で安心しました]

 

「其れでチェルシー、イギリスの状況は如何ですの?」

 

[戦況的にはかなり厳しいですね。先日のフランス、ドイツの陥落で敵の士気は上がっていますが、対照的にイギリス軍の士気は低いです]

 

「ま、当然よねぇ………」

 

リーロンがまるで他人事の様にそう言う。

 

「兎に角、私達は一旦イギリスに寄りたいと思っていますの。オルコット家が管理している港で、何処か空いてる所は? 出来れば秘密裏に寄港出来る所で」

 

[少々お待ち下さい………]

 

セシリアの注文に、チェルシーは直ぐに調べ始める。

 

[………有りました。この港でしたら、空いています]

 

と、チェルシーがそう言ったかと思うと、通信回線に暗号が送られて来る。

 

「流石チェルシー。仕事が早いですわね」

 

[お褒めに与り、光栄です]

 

「では今から向かいます。分かっているとは思いますけど………」

 

[存じ上げております。政府や外部の人間には()()知らせません。港に回すスタッフも、信頼出来る人物に致します]

 

「完璧ですわ。では、チェルシー。港で会いましょう」

 

[御意にございます。お嬢様]

 

そう言い合うと、通信は切断される。

 

其れと同時に、セシリアは送られて来た暗号の解読を始める。

 

「しかし凄いよな、セシリア。自分の港まで持ってるんだから」

 

と其処で、一夏がそんな事を言う。

 

「オルコット家は、古くから王室に仕えて来た由緒正しい貴族の家系ですわ。先代当主だったお母様の代には、多数の会社の経営で成功し、今や名実共に“イギリス1の貴族”ですのよ」

 

セシリアは、またも自慢する様に胸を張ってそう言う。

 

「へえ~、凄かったんだな、セシリアの母さんって」

 

「勿論ですわ! お母様は私の自慢の1つですわ!………其れに比べて」

 

と其処でセシリアは、父親の事を思い出して、嫌そうな顔をする。

 

「? 如何したんだ?」

 

「あ、いえ、何でもありませんわ。さあ、解読が出来ましたわ。今から向かいましょう」

 

その事を一夏に指摘されると、セシリアは慌てて取り繕い、チェルシーが言って来た港へと急がせるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イギリス・某所………

 

オルコット家が所有する港………

 

インフィニット・ノアが堂々と波止場に横付けされており、貨物の搬入が行われている。

 

リーロンと布仏姉妹を除いたグレン団一同は、艦を降りて上陸しており、セシリアを出迎えに来ていたチェルシーと顔を合わせている。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

「出来れば、この様な形で再び祖国の地を踏む事はしたくありませんでしわ………」

 

チェルシーは笑顔で出迎えたが、セシリアは若干重苦しく溜息を吐きながらそう言う。

 

「気にすんな、セシリア! 何れ世界の連中にも分かる時が来らぁ! 俺達グレン団の活躍がよぉ!!」

 

其処で何時もの神谷節が炸裂する。

 

「貴方が神谷様ですか。お初にお目に掛かります。オルコット家に仕えるセシリア様の専属メイド、チェルシー・ブランケットです」

 

チェルシーは、カーテシーで神谷とグレン団の一同に挨拶する。

 

その振る舞いは、正に瀟洒。

 

「おお~、ホンモンのメイドさんだぜ」

 

「本物は初めて見たな~」

 

日本では秋葉原ぐらいでしかお目に掛かれない姿を見て、弾と一夏がそんな感想を漏らす。

 

「チェルシー。私達が寄港している事は、政府や関係機関には気付かれていませんね?」

 

と其処で、セシリアが念を押す様にそう尋ねる。

 

「………申し訳有りません。お嬢様」

 

するとチェルシーは、セシリアに向かって深々と頭を下げる。

 

「!? まさかっ!?」

 

その様を見たセシリアは慌てる。

 

イギリス政府が自分達が寄港した事に気付いたのか?

 

其れならば、直ぐにでも出港しなければ危ない。

 

「いえ、大丈夫です。()()()()()()()()お嬢様達が寄港している事は一切知られていません」

 

しかし、チェルシーは直ぐにそう言う。

 

「? 如何言う事ですの?」

 

「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」

 

セシリアが意味が分からずに首を傾げ、神谷達もワケが分からないと言った表情をする。

 

「実は………如何やって情報を入手したのかは不明ですが、国際警察機構の方に嗅ぎ付けられまして………“お嬢様に会いたい”と言って、此処へいらっしゃっています」

 

「!? 国際警察機構!?」

 

驚くセシリア。

 

国際警察機構とは、その名の通り“国の枠組みを超えた”警察組織の事である。

 

IS登場以前より活躍しており、様々な難事件を解決している。

 

噂では、所属する人間は皆超人であり、()()()ISを撃墜した事が有る等と、(まこと)しやかに囁かれている。

 

一夏達もその存在は授業で教えられており、“ヤバイのではないか?”と、思わず顔を見合わせる。

 

(な~ん)だ、国際警察機構にかよ」

 

しかし、神谷だけは平然とした顔でそう言う。

 

「あ、アニキ! 国際警察機構って言えば、言わば世界の警察だよ!!」

 

「我々は“世界のお尋ね者”だと言うのを忘れたのか!?」

 

そんな神谷に、一夏と箒がそう言い放つが、神谷は相変わらず涼しい顔だ。

 

「ああ、そう言えば………神谷って、国際警察機構の人と知り合いなんだっけ?」

 

すると其処で、神谷と同じく慌てた様子を見せていなかったシャルが、サラッとそう言い放つ。

 

「ええっ!? ()()国際警察機構の人間とぉっ!?」

 

「何と言う顔の広さだ………」

 

其れを聞いた鈴が驚きの声を挙げ、ラウラも呆れた様に呟く。

 

「なら、心配要らねえぜ! アイツ等なら俺が話を通してやるからよぉ!!」

 

「………兎も角、会ってみましょう」

 

セシリアは、神谷の言葉に僅かに期待しながら、国際警察機構の人間と会う事にするのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルコット家が管理する港に在ったプレハブ小屋にて………

 

「やあ、初めまして。セシリア・オルコット嬢。私は、国際警察機構の『中条 静夫』という者です」

 

「俺は『戴宗』ってもんだ」

 

そう言って、セシリアに挨拶をする国際警察機構の人間………『中条 静夫』と『戴宗』。

 

「何でぇ、誰かと思えば、中条のおっさんに戴宗じゃねえか」

 

と、その2人の人物の姿を見た神谷が、開口一番にそう言い放つ。

 

「ちょっ!? アニキ!!」

 

「おお、神谷くん! 久しぶりだね」

 

「元気そうじゃねえか、安心したぜ」

 

一夏は慌てるが、中条と戴宗は神谷の姿を見た途端に笑みを浮かべ、親し気に声を掛けて来た。

 

「しかし、君が“人類側から()追われる身”になるとはな………」

 

「へっ! 俺は自分がやりてぇ事は何が有ろうとやり通し、やりたかねえ事は死んでもやらねえ男だぜ!!」

 

「ハッハッハッハッ! 相変わらず粋な野郎だぜ!!」

 

独特な声を響かせながら戴宗が笑うと、持っていた徳利を傾けて酒を呷る。

 

「兎に角、頑張ってくれ給え。我々も、グレン団の国際指名手配を取り下げる様に国連に働き掛ける積りだ」

 

「あんがとな、中条のおっさん」

 

「あの、其れでミスター中条。私にお話とは?」

 

と其処で、若干置いて行かれ気味だったセシリアが、会話に本題で割って入る。

 

「ああ、失礼したね。実は君達が此処へ来ている事は、既にイギリス軍に知られてしまっているのだよ」

 

「!? 何ですって!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その言葉に、セシリアは驚きの声を挙げ、一夏達の顔にも焦りが走る。

 

「だが心配しなくても良い。我々国際警察機構のエキスパートが抑えに回っている。無論、我々『九大天王』もな」

 

「少なくとも、お前等が出港するまでの間は守り切ってみせるぜ」

 

だが、中条と戴宗は続けてそう言い放ち、不敵な笑みを浮かべた。

 

「「「「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」」」」

 

その言葉で、神谷を除いた一同は再び驚きを露わにする。

 

「ハッハッハッ! 流石だぜ! 国際警察機構はよぉ!!」

 

只1人、神谷だけが面白そうに笑っている。

 

((((((((((………如何して警察機構の人間が軍隊を抑えられるんだ?))))))))))

 

しかし、一夏達の頭はその疑問で埋め尽くされていた。

 

「で、ですが! そんな事をされては、国際警察機構の立場が………」

 

と、セシリアが不意に思い立った様にそう言うが………

 

「心配は無用だよ。この程度では、国際警察機構の立場はビクともせんさ」

 

「そう言うこった」

 

中条と戴宗は、またも不敵に笑いながらそう言う。

 

「そ、そうですか………一体、如何して其処までして下さるのですか?」

 

若干戸惑いながらも、セシリアはそう問い質す。

 

彼等の厚意は有り難いが、“何故そんな事をしてくれるのか”が、彼女には皆目見当が付かない。

 

唯一の繋がりは“神谷が友人だ”と言う事だが、国際的な立場を持つ彼等が、其れだけの理由でココまでしてくれるとは考え難い。

 

「何………『クラウド』との約束だったからな」

 

「ああ、“()を守ってやってくれ”ってな」

 

「!? 『クラウド』!? アナタ方は()()()を知っているのですか!?」

 

意外な名前が2人の口から出て、セシリアはまたも驚愕する。

 

『クラウド』………

 

其れは、セシリアの父親・『クラウド・オルコット』の名前(ファーストネーム)である。

 

御存じの通り、彼女の父はオルコット家に婿養子として入っており、常に妻・『セリーヌ・オルコット』には立場の弱さから卑屈に振舞っていた。

 

セリーヌからも鬱陶しがられ、一緒に居る所を余り見た事が無い。

 

其れが、列車事故で亡くなった時に限って()()()2人一緒に居た。

 

何故、普段は余り一緒に居なかった2人が、その日に限って一緒にいたのか?

 

其れは今でも、セシリアの中で最大の(疑問)となっている。

 

情け無くて頼り無い男………

 

彼女は、父親をそんな風に認識している。

 

その父の名が、国際警察機構の人間の口から出て来たのだから、彼女の驚きは測り知れない。

 

「知っているも何も………」

 

「お前さんの親父さんとは、“()()だった”からなぁ」

 

「!? あの人が戦友!? 如何言う事ですの?」

 

益々困惑するセシリアに、本日最大級の驚きを齎す言葉が、中条と戴宗の口から告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の父親………『クラウド・オルコット』は、“国際警察機構のエキスパートだった”のだよ」

 

「其れも、俺達“九大天王に最も近い男”と言われた程の、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ………?」

 

一瞬2人の言葉の意味が分からず、セシリアは間抜けた顔で固まってしまう。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

神谷を除いたグレン団の一同も顔を見合わせる。

 

「「「「「「「「「「!? えええええぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

やがてプレハブ小屋の中に、本日1番の大声が響き渡ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

プロト・ワンことフランを仲間に加えたグレン団は………
補給の為、イギリスのオルコット家が管理する港に秘密裏に寄港。
そこへ現れたのは国際警察機構の中条と戴宗。
2人の口から驚くべき事実が語られる。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第109話『こんな馬鹿な娘の私をお叱りになりますか?』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第109話『こんな馬鹿な娘の私をお叱りになりますか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランス、ドイツと連戦を続けたグレン団は、一時休息を取る為に………

 

セシリアの計らいで、オルコット家が所有する港に寄港して、秘密裏にイギリスへ上陸する。

 

だが、グレン団がイギリスへ上陸した事を察知していた者達が居た。

 

国際的な警察組織で、“超人集団”として知られている『国際警察機構』だ。

 

しかし、セシリアに会いに来た国際警察機構の九大天王・中条と戴宗は、意外な事実を告げる。

 

何と!!

 

彼女が、情け無い男と思っていた亡き父『クラウド・オルコット』が………

 

国際警察機構のエキスパートだったと言うのだ!

 

しかも、“九大天王に最も近い”と評された程の………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イギリス・某所………

 

オルコット家が所有する港のプレハブ小屋にて………

 

「そ、そんな………あ、あの人が………国際警察機構の………エキスパート!? 其れも、九大天王に最も近いと評されていた程の!?」

 

驚愕を露わに、信じられないと言う表情でそう言うセシリア。

 

あの情け無い父がそんな凄い男だった等、如何しても思えない様だ。

 

「オイオイ、スゲェーじゃねえか、セシリア! オメェの親父がそんな奴だなんて聞いて無えぞ!」

 

グレン団の面々も呆然としている中、只1人神谷だけが、無邪気にそう言う。

 

「…………」

 

しかしセシリアは、そんな神谷の声には答えず、只管(ひたすら)忘却の彼方へと追い遣っていた父親の思い出を蘇らせていた。

 

(そう言えば………あの人が何の()()をしていたのか、私は良く知りませんでした………)

 

次々に甦る父親の姿………

 

突然居なくなったかと思ったら、何の前触れも無く帰って来ていたり………

 

転びそうなった給仕を“目にも見えないスピード”で動いて助けたり………

 

倒れて来た石像を()()()受け止めたり………

 

毎朝、日が昇る前に起きては奇妙な鍛錬をしていたり………

 

父親を鬱陶しそうにしていた母親だったが、父親に腕力で物を言わそうと言う様な姿は全然見なかったり………

 

思い出が甦れば甦る程、“思い当たる節”が次々に出て来る。

 

「国際警察機構の仕事は、基本()()任務だからね。其れだから、クラウドは君には自分の仕事の事を詳しく話したりはしていなかったのだろう」

 

其処で中条が、セシリアに向かってそう言う。

 

「大方、悟られたりしない様に、“情け無い男”の様に振舞ってたんじゃねえのか?」

 

戴宗もそんな事を言う。

 

「…………」

 

最早、セシリアは言葉も出なくなっていた。

 

「しかし………そのクラウドが、()()()()になってしまうとは………」

 

「すまねえな、セシリアの嬢ちゃん………俺達が()()()、“クラウドを1人で行かせ”たりしなけりゃ………」

 

と、其処で中条と戴宗は表情に影を落としてそう言う。

 

「? “あの時”………?」

 

首を傾げるセシリア。

 

「あの“列車事故”の事だよ………」

 

「えっ?」

 

「実はあの時………クラウドは嫁さん………“セリーヌ・オルコットが狙われている”と言う情報を入手していてな。“()()()()()同じ列車に乗り込んでた”のさ」

 

「!? えええっ!?」

 

中条と戴宗の話に、セシリアはもう何度目とも知れぬ驚きの声を挙げる。

 

「で、では! あの列車事故は、“仕組まれていた”と言う事ですか!?」

 

「ああ。クラウドは、“自分の手で”セリーヌさんを守ろうとしたのだが………」

 

「まさか、敵が彼処までの手段に打って出て来るとは思わなかったぜ………」

 

「犯人は! 犯人は誰なのですか!?」

 

セシリアは、中条と戴宗に鬼気迫る様子でそう問い質す。

 

何せ、今まで“()()()死んだ”と思っていた両親が、実は()()()()()と聞かされたのだ。

 

当然、セシリアの激しい怒りは、その犯人へと向けられる。

 

「其れは………」

 

すると、戴宗は言って良いものかと言う顔になり、中条を見遣る。

 

「話しても良いだろう………彼女は、もう“子供では無い”」

 

戴宗の視線を受けて、中条はサングラスの奥の目を光らせながらそう言う。

 

「………お嬢ちゃんの“親族の誰か”さ」

 

「!?」

 

「何だって!?」

 

其れを聞いたセシリアは目を見開き、一夏も驚きの声を挙げる。

 

「狙いはオルコット家の財産だ。尤もクラウドの奴は“事前の策”として、セリーヌと一緒に遺言状を残しておいたみたいだがな」

 

「…………」

 

戴宗の話を聞くセシリアは俯き加減で、その表情は窺えない。

 

しかし、両の拳は固く握り締められており、身体も小刻みに震えている。

 

「財産目当てで、セシリアの両親を殺したのか………」

 

「ったく、反吐が出るぜ………」

 

一夏と神谷も怒りを露わにしており、他の面々も憤りを見せていた。

 

「残念ながら“誰がやった?”かは、未だに判明していない。だが、安心してくれ給え」

 

「必ず捕まえて見せるぜ………“クラウドの(かたき)”だからな」

 

「………ありがとうございます」

 

気遣う様に言う中条と戴宗に、セシリアは顔を伏せたまま短くそう返すと、部屋から出て行こうとする。

 

「セシリア」

 

「申し訳有りません。暫く1人にさせて下さいまし………」

 

一夏が何か声を掛けようとしたが、セシリアはそう言い残して退室して行った。

 

「セシリア………」

 

「無理も無いよ。僕達からしてみても、色々と混乱する様な事が多かったもん」

 

「少し心の整理をさせてあげましょう」

 

心配そうに呟く一夏に、シャルと楯無がそう言う。

 

「其れにしても、本当なのか? セシリアの両親の命を奪ったのがオルコットの親族だと言うのは?」

 

其処で、ラウラが改めて中条と戴宗にそう尋ねる。

 

「ああ、間違い無えぜ」

 

「我々としても、確かな証拠が無ければ動く事は出来ない。未だに犯人(ホシ)を挙げられないとは情け無い限りだ」

 

戴宗と中条が、本当に申し訳無さそうにそう言う。

 

「しっかし、けったくそワリィ話だぜ! 金欲しさに人の親殺しておいて、未だに捕まっちゃ居ねえだなんてよぉっ!!」

 

「全くだぜ、アニキ!」

 

「金には“人を狂わせる魔力”が有るって言いますけど………本当ですね」

 

神谷が不機嫌そうにそう言うと、弾と蘭もそう言って来る。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その後は、一同に重苦しい沈黙が流れる。

 

「………と、いけません。そろそろ『ローレン』様が御出でになる時間です」

 

と其処で、時計を見たチェルシーがそう言って部屋から退室しようとする。

 

「!? 『ローレン』だと!?」

 

と、その名を聞いた戴宗が大声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「!? ど、如何なさいました!?」

 

その声でグレン団の視線が戴宗に集まり、チェルシーも思わず足を止める。

 

「チェルシーくん。ローレンとは、『ローレン・オルコット』の事かね?」

 

「ハ、ハイ、そうですけど………」

 

「ローレン・オルコット? セシリアの親戚ですか?」

 

中条の問いに、チェルシーが戸惑いながらそう答えると、一夏が口を挟む。

 

「ハイ、先代当主・セリーヌ様の妹様で、セシリアお嬢様の叔母に当たる方です」

 

チェルシーは、一夏達の方に向き直ってそう説明する。

 

「クラウド様とセリーヌ様が亡くなられて、他の血筋の者達が遺産を狙う中、ご両親の遺産を守ろうとしたセシリアお嬢様を助けてくれた唯一の方なのです」

 

「そうだったのか………良い叔母さんなんだな」

 

「ローレン様が一体如何かしたのですか?」

 

要領を得ないチェルシーが、中条と戴宗に尋ねる。

 

「うむ、そのローレン・オルコットなのだが………」

 

「此方の捜査で、“列車事故の犯人の有力候補(最有力容疑者)”に挙がってんのさ」

 

「!? 何ですって!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

中条と戴宗の思わぬ言葉に、チェルシーのみならず神谷達も驚く。

 

「そんな!? 有り得ません! あのローレン様が犯人だなんて………御両親を亡くされたセシリア様を常に気遣って下さっていたのに!! この港もローレン様が取り仕切っているから、セシリア様は信頼して入港されたのですよ!!」

 

チェルシーは信じられないと言う。

 

「確かに、“()()()()()()は無い”………」

 

「だがコチラでは、そのローレンって奴について、色々と“黒い噂”を摑んでんだ」

 

「まさか………ローレン様がそんな事をする筈が………」

 

「しかし、若しセシリアくんが死んだ場合、()()オルコット家の財産を継ぐ権利を有しているのも彼女だ」

 

「!?」

 

中条のその言葉に、チェルシーはハッとする。

 

「オイ! セシリアの奴、今1人だったよな!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

其処で神谷が思い出した様にそう言い、全員がハッとする。

 

「若し、そのローレンという奴が犯人だとしたら………」

 

「セシリアが危ない!!」

 

箒とシャルのその言葉で、全員が一斉に部屋から飛び出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イギリス・某所………

 

オルコット家が所有する港の波止場にて………

 

「…………」

 

セシリアは1人、波止場に立って海を眺めている。

 

「お母様………お母様はあの人の………『お父様』の本当の姿を………知っていたのですか?」

 

と、不意にそう独り言を始める。

 

「だとしたら、私………酷い娘ですわね。そんなお父様の事を勘違いして、ずっと“情け無い男”だと思っていたなんて………」

 

自嘲する様な笑みを浮かべるセシリア。

 

「お父様………ゴメンなさい………こんな馬鹿な娘の私をお叱りになりますか?」

 

まるで自分に問い掛けているかの様な様子だ。

 

すると………

 

「セシリア」

 

「!?」

 

不意に背後から名を呼ばれ、セシリアは驚きながら振り返る。

 

其処には、1人の女性の姿が在った。

 

「ロ、ローレン叔母様、驚かさないで下さい」

 

「アラアラ、ゴメンなさい」

 

セシリアの背後に現れた女性………セシリアの叔母、『ローレン・オルコット』が微笑みながらそう言う。

 

「何か考え事でもしてたの?」

 

「はい、ちょっとお母様と………お父様の事を」

 

「! クライド義兄さんの事を?」

 

と、セシリアが父の事を口にした瞬間、ローレンが一瞬動揺したかの様な素振りを見せるが、セシリアは気付かなかった。

 

「ハイ………まさか、あのお父様が国際警察機構のエキスパートで………お母様を暗殺者から守る為に、あの日同じ列車に居たなんて………」

 

海の方を向いてそう呟くセシリア。

 

「!?」

 

その瞬間、ローレンは今度は完全に動揺する。

 

「オマケに、その暗殺者はオルコット家の者………私、一体如何すれば………」

 

しかし、海の方を向いていたセシリアはまたも気付かない。

 

ローレンが“最も疑わしい人物(最有力容疑者)”だと知らない彼女は、全く警戒をしていない。

 

「…………」

 

そんなセシリアの背後で、ローレンは笑みを消し、殺気の籠った表情を浮かべている。

 

「………フアァッ!!」

 

と、其処で突然!!

 

ローレンは、背後から両手でセシリアの首を絞めた!!

 

「!? あうっあぁっ!? お、叔母様! な、何を………!?」

 

「オノレェ! 誰が余計な事を! 全てを知られるワケには行かない! 死ね、セシリア! オルコット家は私のモノだ!!」

 

戸惑いながら必死に抵抗するセシリアは、鬼の様な形相でそう言い放つローレンの顔を目撃する。

 

「!? ま、まさか!? 叔母様! 貴女が!?」

 

「そうだ! クライドとセリーヌを殺したのはこの私! ローレン・オルコットだ!!」

 

下衆な笑みを浮かべて、ローレンはそう言い放つ。

 

「上手い事2人を葬れたと思っていたのに、アイツ等が遺言なんか残していた所為で、私はオルコット家の当主に成り損ねたんだ!!」

 

「そ、そんな………ど、如何して………叔母様は、あんなにも私に良くして下さっていたのに………」

 

「そんなモノ! “貴様の隙を窺う”為に決まっているだろう! 只の小娘なら暗殺も容易だったけど、まさか代表候補生に選ばれて専用機を与えられるなんてね!! だが、もう其れも関係無い! オルコット家を手に入れる為に死んで貰う!!」

 

そう吐き捨て、更にセシリアの首を締め上げるローレン。

 

「あ………が………」

 

セシリアの顔から血の気が引き、見る見る青くなって行く。

 

脳に酸素が行かない為に真面に思考が出来ず、ISを展開する事も出来ない。

 

(だ、駄目ですわ………い、意識が………)

 

徐々に意識も遠くなって行く。

 

「死ねえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーッ!!」

 

ローレンは、そんなセシリアに一気にトドメを刺そうとする。

 

と、その時!!

 

「コイツでケリを着けるぜキィィィィィックッ!!」

 

そういう叫び声と共に現れた神谷が、ローレンの背にドロップキックを叩き込む!!

 

「!? ぐはぁっ!?」

 

真面に喰らったローレンは、そのまま海中へと蹴落とされた!!

 

「!? キャアッ!?」

 

その余波で、セシリアまで海に落ちそうになるが………

 

「セシリア!!」

 

間一髪で、一夏がセシリアの手を摑んで自分の方へ引き寄せる。

 

「ゲホッ! ゴホッ! ハア………ハア………一夏………さん?」

 

先程まで首を絞められていた為、軽い酸欠を起こしながらも、一夏の顔を見上げるセシリア。

 

「大丈夫か、セシリア?」

 

「え、ええ………大丈夫ですわ」

 

「ちょっと、神谷! もっと気を付けて攻撃しなさいよ!!」

 

「危うく、セシリアまで落ちちゃう処だったよ!」

 

一夏がセシリアを気遣っていると、鈴とティトリーが神谷にそう言い放つ。

 

「ハッハッハッハッ! ワリィワリィ!!」

 

例によって神谷は、余り悪びれた様子も無く、あっけらかんとそう返す。

 

「其れよりも、ローレンは!?」

 

と、楯無がそう言いながら海面を除き込んだ瞬間!!

 

爆発音と共に海面が弾けた!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

身構えるグレン団の一同。

 

「オノレェ………良くも邪魔を!!」

 

般若を思わせる様な形相で現れたのは“()()を纏った”ローレンだった。

 

「! ISだと!?」

 

「何故………貴女がISを持っているの?」

 

ラウラが驚き、簪がアーマーマグナムを突き付けながらそう問い質す。

 

「フフフッ! ()()()()()()に頂いたのさ! オルコット家からの支援を約束してね!!」

 

「!? アディーネだと!?」

 

「其れって四天王の!?」

 

自慢気に語るローレンに、弾と蘭が驚きの声を挙げる。

 

「待て! と言う事は!?」

 

[その通りさ! グレン団!!]

 

箒が何かに気付いた様に声を挙げた瞬間、水平線の方からそう言う声が響いて来た。

 

そして水面が盛り上がったかと思うと、ダイガンカイが姿を現す!!

 

「! ダイガンカイ!!」

 

ティトリーが其れを見て声を挙げた瞬間、ダイガンカイの艦首………頭部部分の上に、1つの人影が立った。

 

其れは、女性の様な華奢な体躯が特徴で、眼の様な模様が描かれた翼を持つカスタムガンメン………

 

アディーネの『セイルーン』が姿を現した!!

 

「直接会うのは初めてだねぇ、グレン団。アタシは螺旋四天王の1人、アディーネ。またの名を『流麗のアディーネ』さ」

 

セイルーンから、アディーネのそう言う声が響いて来る。

 

「野郎! 今度はイギリスも攻め落とそうって言うのか!?」

 

「その通り! 今や我等の勢いは誰にも止められないよ!! このイギリスも、フランスやドイツと同じ目に遭わせてやるさ!!」

 

一夏の声に、セイルーンがそう言い返したかと思うと、ダイガンカイから多数のシャクーとレッドショルダー達が出撃する!!

 

「ローレン、グレン団に悟られるとは失態だねぇ。この上は、何としても其奴等を皆殺しにしな。然も無くば()()()()アンタを殺すよ」

 

静かな口調で、サラッと恐ろしい事をローレンに向かって言い放つセイルーン。

 

「ハ、ハイ! 分かりました、アディーネ様! ですから、必ずオルコット家を私の物に!!」

 

「ああ、分かってるよ。その為にも其奴等を殺しな!」

 

「ハアッ! 心得ました!!」

 

ローレンとセイルーンがそんな会話を交わす。

 

「止めて下さい! ローレン叔母様!!」

 

「貴女! 良い様に使われてるのが分からないの!?」

 

セシリアと楯無が、そんなローレンに向かってそう言うが………

 

「お黙り! オルコット家が私の物になるんだ! 邪魔をするなぁ!!」

 

最早、ローレンは真面(マトモ)な思考も出来て居ない様で、IS………背部に連装砲門が2つ付いた円盤型バックパックを背負った機体、『デストロイ』で襲い掛かる!!

 

「チッ! やるしかねぇぞ!!」

 

神谷は、そう言ってコアドリルを握ると、グレンラガンの姿となる。

 

「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」

 

一夏達も、待機状態のISとグラパールを構え、装着する。

 

「叔母様………貴女がお母様とお父様を………許せませんわ!!」

 

セシリアも、一瞬遅れて待機状態のブルー・ティアーズを構え、装着した!!

 

「死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

狂気が混じったローレンの声と共に、デストロイは背部の高エネルギー砲『アウフプラール・ドライツェーン』から大出力ビームを放つ!!

 

「! 皆、逃げて!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

楯無の声で、グレン団は一斉に散開する。

 

「グレンラガン! お前の相手は私がしてやるよ!!」

 

と散開したメンバーの内、グレンラガンに狙いを定めたセイルーンが飛び掛かって来る!

 

「チイッ!!」

 

舌打ちをしながらも、腕に2本の細いドリルを出現させて、迎え撃つグレンラガンだった。

 

そして他のメンバーも、上陸したシャクー・レッドショルダー達と、ローレンとの戦闘を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簪&ラウラ………

 

「そらぁっ!」

 

「くたばれぇっ!!」

 

「………!」

 

シャクー達から放たれてくるミサイルを、ローラーダッシュで躱す簪。

 

そのまま、港に置かれていた巨大なコンテナとコンテナの間に逃げ込む。

 

「逃がすかぁっ!!」

 

シャクー達は、直ぐに簪を追撃してそのコンテナとコンテナの間の通路に飛び込むが………

 

「………いらっしゃい」

 

待ち構えていた簪が、ヘヴィマシンガンを発砲する。

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

一本道で逃げ場が無く、シャクー達は次々に撃破される。

 

「ええい、下がれぇっ! ミサイルでコンテナごと吹き飛ばしてやる!!」

 

と其処で、ショルダーミサイルガンポッドを装備したレッドショルダーがそう言い放ち、簪が陣取っているコンテナ群に向かってミサイルを発射した!!

 

爆発で、重たいコンテナが木の葉の様に舞い上がる。

 

「………!!」

 

その爆炎から逃れる様に、簪がジェットローラーダッシュで飛び出して来る。

 

「貰ったぁっ!!」

 

すかさず、ショルダーミサイルガンポッドを装備したレッドショルダーが、今度は簪に狙いを定め、引き金を引こうとする。

 

「グレートブーメランッ!!」

 

だが其処で!

 

ラウラが胸に装備していたブレストバーンの放熱板を取り外すと、ショルダーミサイルガンポッドを装備したレッドショルダー目掛けて投げ付けた!!

 

高速回転しながら飛んで行った放熱板『グレートブーメラン』は、レッドショルダーが構えていたショルダーミサイルガンポッドを斬り裂く!!

 

「!? ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

残っていたミサイルが誘爆し、自爆機能と相俟って大爆発するレッドショルダー。

 

「むんっ!!」

 

ラウラは戻って来たグレートブーメランをキャッチすると、胸に装備し直す。

 

「死ねえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

その背後から、シャクーが噛み付こうと大口を開けて飛び掛かったが、

 

「ニーインパルスキックッ!!」

 

ラウラは素早く振り返ると、大口を開けているシャクーに向かって飛び膝蹴りを繰り出す。

 

すると、膝の部分からスパイクが飛び出し、シャクーの口内を貫通して背中から飛び出す!!

 

「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

「ハアッ!!」

 

シャクーが悲鳴を挙げると、ラウラはもう片方の足で蹴り飛ばす。

 

蹴り飛ばされて地面に叩き付けられると、爆散する。

 

「良しっ! 次は………」

 

と、ラウラが次の標的を決めようとした瞬間………

 

「今だぁ! 放てぇっ!!」

 

数人のレッドショルダー達が、構えていたソリッドシューターを発砲。

 

ラウラ目掛けて飛んだ砲弾が空中で弾けたかと思うと、中から投網の様なネットが現れる。

 

「!? おわっ!?」

 

咄嗟の事で回避できず、そのネットを被ってしまうラウラ。

 

「クッ、しまった!!」

 

慌てて外そうとするが、ネットは中々外れない。

 

「チャンスだ! 包囲して集中砲火を浴びせろ!!」

 

すかさず、レッドショルダー達は装備をブラッディライフルに切り替え、動けないラウラを包囲して集中砲火を浴びせようとする。

 

「クッ!」

 

「! ラウラ………」

 

「くたばれぇっ、人間!!」

 

「チイッ!」

 

救出に向かいたい簪だが、シャクーの軍団がしつこく攻撃してくる為、援護出来ない。

 

その間に、レッドショルダー達はラウラを包囲完了する。

 

「死ねぇっ!!」

 

1人がそう言い放つと、一斉にブラッディライフルの銃口をラウラに向けるレッドショルダー。

 

「!!」

 

最早ココまでか、とラウラがそう思った瞬間!!

 

ギュイイイイィィィィィンッ!!というローラーダッシュ音が聞こえて来る。

 

「!? 何っ!?」

 

レッドショルダーの1人が音の発生源を見遣ると、其処には………

 

「…………」

 

盾を構えて突撃して来るベルゼルガ………フランの姿が在った!!

 

「!? フラン!?」

 

「!?」

 

「何だテメェはっ!?」

 

フランが現れた事に驚くラウラと簪に、突然現れたフラン目掛けてブラッディライフルを発砲するレッドショルダーの1人。

 

「…………」

 

だが、フランは盾でブラッディライフルの弾丸を弾きながら、そのレッドショルダーへと突撃!!

 

そのままショルダータックルを喰らわせ、自分の身体ごとコンテナの側面に叩き付ける!!

 

「ガアッ!?」

 

「!!」

 

そして、そのレッドショルダーに盾を構えて向けたかと思うと、パイルバンカーを発射した!!

 

「!! ギャアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

どてっ腹に風穴を開けられ、レッドショルダーは汚い断末魔を挙げる。

 

「………!!」

 

そのレッドショルダーからフランが離れた瞬間、自爆装置で木っ端微塵に消し飛ぶ。

 

「コイツッ!!」

 

直ぐ様、他のレッドショルダー達が標的をフランに変更する。

 

「! グレートタイフーンッ!!」

 

とその瞬間、ラウラがそう叫び、口元に装着されているスリットの入ったマスクから強烈な風『グレートタイフーン』が放たれる!

 

ネットを吹き飛ばし、更にその強風で発生した竜巻がレッドショルダー達を巻き込んで天高く舞い上げる!!

 

「「「うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

そのまま地面に叩き付けられ、爆散するレッドショルダー達。

 

「お姉ちゃん!」

 

「フラン! 何故来たんだ!?」

 

解放されたラウラの傍にフランが寄るが、ラウラはそう言い放つ。

 

「貴女はもう………戦う必要は無いわ………」

 

やっとの事でシャクーの包囲網から突破した簪も、ラウラとフランの傍に立つとそう言う。

 

「…………」

 

しかし、2人のその言葉に、フランはゆっくりと首を横に振る。

 

「私は“()()()()生み出されたPS(パーフェクト・ソルジャー)”………そして戦う事でお姉ちゃんや簪を()()()なら………戦う」

 

ターレットレンズ越しに、堅い決意の籠った瞳をしたフランは2人にそう言う。

 

「フラン………」

 

「…………」

 

そんなフランの姿を見て、複雑な表情をするラウラと、何かを思い遣る簪。

 

「………分かったわ、フラン………なら、貴女の事は私達が守るわ」

 

「! ああ、そうだとも! お前は私の妹なのだからな!!」

 

と簪がそう言うと、ラウラもハッとした様にそう言う。

 

「お姉ちゃん………簪………ありがとう」

 

ターレットレンズの奥で、はにかんだ笑みを浮かべ、フランはそう言う。

 

「其れじゃあ………」

 

「ああ………行くぞ!」

 

「了解………」

 

そして3人は、再び敵軍へと突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

父親、そして両親の事故の真実を知ったセシリア。
しかも、1番信頼している叔母こそが犯人だった!!
ロージェノム軍とまで結託し、オルコット家を手に入れようとする叔母に、セシリアの怒りが爆発する。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第110話『どうか何時までも見守って居て下さい!!』

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第110話『どうか何時までも見守って居て下さい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアの計らいで、オルコット家が所有する港へとインフィニット・ノアを停泊させる事ができ、秘密裏にイギリスへと上陸を果たしたグレン団。

 

そんな中セシリアは、“父親の()()()姿”を知る事になる。

 

今まで()き下ろしていた父親が、実は“母にも負けぬ凄い人物”である事を知り、セシリアは短絡的な思いを抱いていた自分を恥じた。

 

しかし、そんな中………

 

セシリアの両親の命を奪った人物………

 

セシリアの叔母に当たり、インフィニット・ノアが停泊している港の持ち主である『ローレン・オルコット』が現れる。

 

何としてもオルコット家の当主になりたかった彼女は、何とロージェノム軍と結託!!

 

ISを与えられて四天王が1人、アディーネのセイルーンと共にグレン団に奇襲を掛けるのだった!!

 

 

 

 

 

イギリス・某所………

 

オルコット家が所有する港………

 

「喰らいな! グレンラガン!! ブラッディ・クラスパーッ!!」

 

背に付いていた羽を取り外し、グレンラガン目掛けてブーメランの様に投げ付けるセイルーン。

 

「チイッ! おおりゃあっ!!」

 

胸のグレンブーメランを外して右手に持つと、ブラッディ・クラスパーを弾き飛ばすグレンラガン。

 

「未だ終わりじゃないよっ!!」

 

と、セイルーンはブラッディ・クラスパーを元に戻すと、羽からマシンガンの弾丸を発射する。

 

「螺旋の盾!!」

 

しかし、グレンラガンは螺旋エネルギーのバリアを発生させて防ぐ。

 

「今度はコッチの番だ! グレンドライブシュートッ!!」

 

反撃にと、螺旋エネルギーの塊を蹴り飛ばすグレンラガン。

 

「舐めるなぁっ!!」

 

セイルーンは腕を振り、グレンドライブシュートを払い除ける。

 

「怒れる男のぉっ!!」

 

と其処でグレンラガンは、セイルーンの頭上を取っていた。

 

「!?」

 

「火の車キイイイイイィィィィィィーーーーーーーックッ!!」

 

セイルーン目掛けて、怒れる男の火の車キックを叩き込む。

 

「ぐあああっ!?」

 

真面に喰らったセイルーンは、地面に叩き付けられる。

 

「チイイッ! やってくれたねぇっ!! だがっ!!」

 

と、セイルーンがそう言い放ったかと思うと、巨大なサソリ型の形態へ変形する!!

 

「そらっ!!」

 

そして、針の付いた尻尾をグレンラガン目掛けて伸ばす!!

 

「!? うおっ!?」

 

何とか、(すんで)の処で両手を使って受け止めるグレンラガン。

 

「甘いっ!!」

 

だが、セイルーンはそのままグレンラガンを振り回す!

 

「うおおおおっ!?」

 

「そうらぁっ!!」

 

そのままグレンラガンを投げ飛ばすセイルーン。

 

「おわあああぁぁぁぁーーーーーっ!?」

 

放り投げられたグレンラガンは、積み上げられていたコンテナの山に激突。

 

そのままコンテナの山を崩して、海に落ちそうになる。

 

「チイッ! んなろぉっ!!」

 

しかし、如何にか海面スレスレで逆噴射して踏ん張り、姿勢を取り直す。

 

「せえやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

だが間髪容れず、巨大なサソリ型形態のセイルーンが飛び掛かって来る。

 

「!!」

 

グレンラガンが咄嗟に防御姿勢を取ると、巨大なサソリ型形態のセイルーンは、グレンラガンの両腕を、両手の鋏で挟み込む!!

 

「ぐうっ!?」

 

「このまま海へ引き摺り込んでやるよ!!」

 

巨大なサソリ型形態のセイルーンは、グレンラガンに圧し掛かる様にポジションを取り、グレンラガンを海中へ落とそうとする。

 

「! 神谷!!」

 

「アディーネ様の邪魔はさせん!!」

 

其れに気付いたシャルが、援護に向かおうとするが、シャクーの軍団が其れを阻む。

 

「クッ! 退()けええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

スペースサンダーを放ちながらダブルハーケンを振り回し、無理矢理に突破を図るシャルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

セシリアは………

 

「其処っ!!」

 

ローレンのデストロイ目掛けて、スターライトmkⅢを発砲するセシリア。

 

「ふんっ!!」

 

だがローレンは、右腕の陽電子リフレクター発生器・シュナイドシュッツSX1021を展開させ、スターライトmkⅢのビームを弾く。

 

「!? ならばっ!!」

 

セシリアは、今度はビットのブルー・ティアーズを射出し、全方位攻撃を掛けようとする。

 

「其れぐらい私も持っているぞっ!!」

 

と、ローレンがそう叫んだかと思うと、腕部のパーツが分離。

 

そのまま浮遊して、セシリアに襲い掛かる!

 

「なっ! 腕部パーツが丸ごと遠隔攻撃ユニットに!?」

 

その兵器に驚きながらも、慌てて回避行動を取るセシリア。

 

しかし、ビットのブルー・ティアーズを使おうとしていたので、反応が遅れてしまう。

 

「遅いっ!!」

 

ローレンが叫ぶと、分離した腕部・シュトゥルムファウストの両手の5指先端に装備されたビーム砲・MJ-1703 5連装スプリットビームガンが火を噴く!

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

直撃を受けたセシリアは、黒煙を上げながら墜落する。

 

「クウッ! 行きなさい! ブルー・ティアーズッ!!」

 

しかし何とか持ち直すと、ビットのブルー・ティアーズを嗾ける!!

 

「そんなものぉっ!!」

 

四方八方からビットのブルー・ティアーズがビームを浴びせるが、全てシュトゥルムファウストのシュナイドシュッツSX1021で防がれてしまう。

 

「喰らえいっ!!」

 

そして反撃にと、ローレンはマスク部分に装備されていた200㎜エネルギー砲 ツォーンmk2と、胸部の3連装大口径ビーム砲・1580㎜複列位相エネルギー砲 スーパースキュラを同時に発射する。

 

「キャアッ!?」

 

直撃は避けたものの、ビームが近くを掠め、ブルー・ティアーズの装甲の一部が融解した。

 

「このぉっ!!」

 

セシリアはミサイルのブルー・ティアーズを発射する。

 

「ミサイルなら此方にも有るぞ!!」

 

と、その瞬間!!

 

デストロイ背面の円盤型バックパックのマーク62 6連装多目的ミサイルランチャーから、多数のミサイルが放たれる!!

 

「なっ!?」

 

余りのミサイルの数にセシリアが驚いている間に、ブルー・ティアーズのミサイルはローレンのミサイルに迎撃され、残ったミサイルが白煙の尾を曳きながらセシリアに向かう。

 

「!!」

 

スターライトmkⅢで、至近距離まで迫ったミサイルを落としながら、地上へと降下するセシリア。

 

そしてそのまま、コンテナが積まれている陰へと隠れ込む。

 

「其れで隠れている積り?」

 

だがローレンは、コンテナ群の中心に降り立ったかと思うと、バックパックを被る様に装着し、更に脚部パーツが逆足となり、まるで怪獣の様な形態となる。

 

すると、バックパックの円周上に多数装備されていたビーム砲・熱プラズマ複合砲 ネフェルテム503が一斉に火を噴いた!!

 

照射角度を変えながら、長時間発射した結果、積まれていたコンテナは一瞬で破壊される。

 

「フフフ、黒焦げになったかしら?」

 

周囲に燃え盛る炎を見ながら、ローレンはそう呟く。

 

だが、次の瞬間!!

 

「貰いましたわっ!!」

 

コンテナの瓦礫の一部が弾け、スターライトmkⅢを構えたセシリアが飛び出す!

 

「!? 何っ!?」

 

慌てて人型へと戻るローレンだったが、その瞬間にはセシリアが放ったビームが命中する!!

 

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

直撃を受けたローレンが悲鳴と爆発と共に仰向けに倒れる。

 

「未だ未だですわっ!!」

 

しかしセシリアは油断せず、畳み掛ける様にビットのブルー・ティアーズで、倒れているローレンに次々とビームを浴びせる。

 

「がああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

汚い悲鳴と共に、爆煙がローレンの姿を覆って行く。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

暫くビームを撃ち続けていたセシリアだったが、やがて息切れした様にビットのブルー・ティアーズを止める。

 

先程のローレンの熱プラズマ複合砲 ネフェルテム503の一斉射で、流石に無事では済まなかったらしく、ブルー・ティアーズは所々損傷し、セシリア自身も彼方此方に軽い火傷を負っていた。

 

「………やりましたの?」

 

爆煙で覆われているローレンを見ながらそう呟くセシリア。

 

と、その瞬間!!

 

その爆煙の中から、シュトゥルムファウストが飛び出して来る!!

 

「!? ガハッ!?」

 

セシリアは一瞬にして喉を摑まれ、宙吊り状態にされる。

 

「小娘がぁっ! よくもやってくれたねぇっ!!」

 

そういう怒声と共に、爆煙の中からデストロイを装着しているローレンが姿を現す。

 

所々損傷しているが、損害は軽微と言った様子だ。

 

「な、何て頑丈さですの………」

 

悪態を吐く様にそう呟きながら、喉を摑んでいるシュトゥルムファウストを引き剥がそうとするセシリアだったが、まるで万力で締められているかの様にビクともしない。

 

「許さん! 絶対に許さんぞ!! 蜂の巣にしてくれるっ!!」

 

ローレンの怒声と共に、両側頭部に装備されていた75㎜対空自動バルカン砲塔システム イーゲルシュテルンが火を噴く!!

 

「!?」

 

セシリアは、咄嗟にインターセプターを左手に出現させると、首を摑んでいたシュトゥルムファウストを斬り付ける!!

 

破壊する事は出来なかったが、引き剥がす事には成功し、直ぐに回避行動を取る!

 

だが運悪く、イーゲルシュテルンの1発がスターライトmkⅢに命中してしまう。

 

「! しまっ………」

 

セシリアが言い切る前に、スターライトmkⅢは暴発!!

 

「キャアアッ!?」

 

爆風でバランスを崩すセシリア。

 

「死ねえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ! セシリア・オルコットオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

ローレンは再び怪獣の様な形態になったかと思うと、バックパックに装備されていたデストロイ最強の武装、連装2基の長射程大出力ビーム砲・高エネルギー砲 アウフプラール・ドライツェーンを放つ。

 

「!? キャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!!」

 

直撃を喰らったセシリアは、そのままビームに押し出される様にブッ飛んで行き、黒煙を上げて装甲の破片を撒き散らしながら、海中へと没した。

 

「!? セシリア!!」

 

其れを見た一夏が、慌てて救助に向かおうとしたが………

 

「織斑 一夏! 死ねぇっ!!」

 

「螺旋王様の為にいいいいいぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!!」

 

レッドショルダーとシャクーの軍団に纏わり付かれる。

 

「クソッ! 邪魔するな! セシリアーッ!!」

 

其れ等を蹴散らしながら、海へと急ぐ一夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、海中へと没したセシリアは………

 

「…………」

 

気を失っているのか、目を閉じた状態でドンドン海底へと落ちて行っている。

 

ブルー・ティアーズは最早原型を留めぬまでに破壊されており、現状では沈降を加速させる(おもり)にしかならない。

 

徐々に光が届かなくなって来て、周りが暗くなって行く。

 

(悔しいですわ………折角両親の仇が目の前に現れたのに………何も出来ずに………)

 

深層の意識の中、セシリアは両親の仇を討てなかった事を悔いる。

 

(お母様………お父様………申し訳ありません………仇も討てずに………)

 

気絶しているセシリアの手が、無意識の(うち)に水面に向かって伸ばされる。

 

すると………

 

その手が“何か”に摑まれた。

 

「!?」

 

その瞬間、セシリアの意識は覚醒する。

 

セシリアの手を摑んだのは………

 

光輝き、半透明に透き通っている、母のセリーヌ・オルコット。

 

そして、父のクラウド・オルコットだった。

 

(!! お母様! お父様!!)

 

(セシリア! しっかりしなさい!!)

 

(そうだよ、セシリア。君は“こんな所”で終わる子じゃ無いだろう?)

 

驚くセシリアに、セリーヌが厳しく叱咤し、クラウドが優しく激励する。

 

(お母様………お父様………でも………私はもう………)

 

(情け無い! 其れでもオルコット家の現当主………いえ! ()()()なの!?)

 

(大丈夫だ、セシリア。君は未だ()()()()()()。今は、ちょっと転んだだけさ。其れなら、また立ち上がれば良い)

 

セリーヌが叱咤を続け、クラウドも激励を続ける。

 

(お母様………お父様………)

 

(貴女なら出来るわ、何たって!)

 

(“()()()自慢の娘”なんだからね)

 

誇らし気に胸を張るセリーヌと、優しい笑顔を浮かべるクラウド。

 

(………ありがとうございます。お母様、お父様)

 

其れに返礼する様に、セシリアも笑みを浮かべる。

 

(其れで良いわ。其れでこそ、“オルコット家の女”よ!)

 

(ハハハ………其れじゃあ、戻ろうか? セリーヌ)

 

セリーヌがそう言うと、クラウドがそう言いながら手を差し出す。

 

(! あ、貴方はもう! “娘の前で”何を言うのよ!?)

 

すると、セリーヌは照れた様子を見せながらそっぽを向くが、しっかりとクライドの手を取るのだった。

 

そしてその瞬間………

 

2人の姿が天に昇る様に消えて行く………

 

(! お母様!! お父様!!)

 

(頑張りなさい! セシリア!!)

 

(僕達は()()()()………君の事を見守っているよ)

 

最後にそう言い残し、2人の姿は完全に消えてしまう。

 

(…………)

 

その瞬間、セシリアはグッと拳を握った!!

 

(ありがとうございます! お母様!! お父様!! そしてどうか何時までも見守って居て下さい!! この………セシリア・オルコットを!!)

 

そしてその時!!

 

セシリアの身体から、緑色の光………螺旋力が溢れた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、海上………

 

オルコット家が所有する港では………

 

「ハハハハハハハハハッ! やった! やったぞ!! セシリア・オルコットは死んだ!! これで私がオルコット家の当主だぁっ!!」

 

燃え盛る港の中に立ち、セシリアが消えた海を見遣りながら、狂った様にそう笑い声を挙げるデストロイを装着しているローレン。

 

「セシリア! クソォッ!!」

 

「何て事だ………」

 

一夏と箒が思わずそう声を漏らし、他のグレン団メンバーにも多少の動揺が走っている。

 

「如何やらお仲間が1人くたばったみたいだねぇ。まあ安心しな。すぐにお前も同じ所へ送ってやるよ!!」

 

セイルーンのアディーネもその光景を目撃しており、グレンラガンを海へ落とそうとしながらそう言い放つ。

 

「フフフフ………ハハハハハハハッ!!」

 

すると、圧し掛かって来るセイルーンを押し返しながら、グレンラガンは突如呵々大笑する。

 

「? 何が可笑しい?」

 

「ちゃんちゃら可笑しいぜ! オメェ等はアイツを誰だと思ってやがる!!」

 

「何ぃっ!?」

 

「アイツは………“()()()()()()()()()なんだぜっ”!!」

 

と、グレンラガンが言い放った瞬間!!

 

セシリアが落下した地点の海面に、巨大な水柱が上がった!!

 

「!?」

 

「何ぃっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その水柱と爆音に、戦場に居た者達全てが注目する。

 

と、その次の瞬間!!

 

水柱の水が弾け飛び、中から緑色の光を放つ光球が出現した!!

 

「アレは!?」

 

一夏がそう叫ぶと、今度は光球の光が弾ける!!

 

そしてその中から現れたのは………

 

右手にビームライフル、左手にシールドを持ち………

 

背部に白い翼の様な物と、2門の巨大な砲を背負い………

 

頬部分に髭のような突起が付いており、アンテナと合わせることで「X」の文字を形成している様なヘッドギアを装着し………

 

ミッドナイトブルーと白を基調とした色彩のISを纏ったセシリアだった!!

 

「セシリア! 無事だったのか!?」

 

「何よ、そのISは!?」

 

そのセシリアの姿を見て、一夏は安堵の声を挙げ、鈴はセシリアの纏っているISが変わっている事に驚きの声を挙げる。

 

「シャルロットさんやラウラさんの様に、私のISも第二形態移行(セカンド・シフト)しましたわ。名付けて………そう! 『ダブルエックス』ですわ!!」

 

ポーズを決めながら、第二形態移行(セカンド・シフト)したブルー・ティアーズ………『ダブルエックス』を見せ付けるセシリア。

 

その名前の通り、ヘッドギアと背面の翼と砲が『X』を(かたど)っている。

 

「チイッ! 生きていたのか! セシリア・オルコットォッ!!」

 

其処でローレンが、狂気の叫びを挙げる。

 

「ローレン叔母様………いえ、ローレン!! お母様と………そしてお父様の無念! 今此処で晴らさせていただきます!!」

 

「黙れええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

叫び声と共に、ローレンはアウフプラール・ドライツェーンを発射する。

 

「フッ!!」

 

しかしセシリアは、その攻撃を躱すと、バーニアを噴かして一気にローレンに向かう。

 

「行きなさい!!」

 

そして、以前と同じ様に腰部に装備されていたブルー・ティアーズを射出する。

 

「馬鹿め! ソイツの弱点は把握済みだ!!」

 

するとローレンは、ビット制御中は動けないセシリアを狙う。

 

だが、次の瞬間!!

 

ブルー・ティアーズが変形し、ビームライフルの様な形になったかと思うと………

 

ダブルエックスを簡略化した様な無人IS達が出現し、ビームライフルとなったブルー・ティアーズを手に握った!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

そして、ローレンの周りを飛び回りながら、ビームライフルとなったブルー・ティアーズを発砲して来る。

 

勿論、セシリア自身もその中に混じり、ローレン目掛けてビームを見舞っている。

 

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!? 馬鹿な!? ビットでは無く、“無人ISを操る”だと!?」

 

四方八方からビームを見舞われ、ローレンは悲鳴を挙げながらそう叫ぶ。

 

やられてばかりでは無く、反撃を繰り出しては居るが、ビットのブルー・ティアーズよりも更に柔軟に動くISビットには、攻撃が当たらない。

 

更に、ISビットは実体シールドを装備しており、直撃しそうな攻撃はそのシールドで防いでいるので、防御力も高い。

 

「クソがぁ! やらせはせん! やらせはせんぞぉっ!!」

 

どっかで聞いた様な台詞を吐きながら、ローレンはシュトゥルムファウストを射出し、セシリアとISビットを撃ち落とそうとする。

 

「其れは“こっちの台詞”ですわ!!」

 

しかしセシリアがそう叫ぶと、ISビットがビームライフルとなったブルー・ティアーズを、一旦後ろ腰に携帯し、入れ替える様にビームソードを握り、2人1組となってシュトゥルムファウストへと向かった!!

 

そして、シュナイドシュッツSX1021が展開していない面から、シュトゥルムファウストを串刺しにする!!

 

串刺しにされたシュトゥルムファウストから激しく火花が散り始めたかと思うと、やがてシュナイドシュッツSX1021が停止する。

 

「其処っ!!」

 

その瞬間セシリアは、ビームライフルに代わってカンプピストル風の武装・ロケットランチャーガンを右手に出現させると、スパークを発していたシュトゥルムファウストに向かって大型ロケット弾頭を発射する。

 

ビームソードでシュトゥルムファウストを串刺しにしていたISビットが離脱すると、大型ロケット弾頭が命中。

 

シュトゥルムファウストは木っ端微塵に消し飛んだ!!

 

「クソオオオオオオォォォォォォーーーーーーーーッ!!」

 

ローレンは心底悔しそうな声を挙げながら、ツォーンmk2とスーパースキュラを放とうとしたが、

 

「遅いですわ!!」

 

ロケットランチャーガンをハイパービームソードに代えると、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動して、一気にローレンの懐へと飛び込んだ!!

 

「なっ!?」

 

「セエエイッ!!」

 

そして、発射寸前だったツォーンmk2とスーパースキュラの発射口を斬り裂く。

 

「!? うぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

発射口を潰され、行き場を失ったエネルギーが暴発し、デストロイが大爆発を起こす!!

 

「クソクソクソクソクソオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ! オルコット家は私の物だ! 私の物なんだああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

狂気の叫びを挙げ、再び怪獣の様な形態になると、残っている全火器を滅茶苦茶に撃ち始めるローレン。

 

「貴女は何も分かって居ませんわ………オルコット家の名は………()()()()が継げる程………安くはありませんわ!!」

 

と、セシリアが距離を取りながらそう言い放った瞬間!!

 

背部に装備されていた2門の砲が動き始め、肩部にマウントされる様に変形!!

 

更に、翼の様な部品が3枚に展開し、金色のリフレクターが展開する!!

 

更に、腕部と脚部の装甲も展開して、金色のラジエータープレートを出現させる。

 

するとその状態のセシリアに、光が集まって行く。

 

「フォトンエネルギーチャージ………80………90………100………120%!!」

 

集まった光が光子(フォトン)としてエネルギーに変換され、チャージされて行く。

 

更にその周辺で、ISビットもX状のリフレクターを展開し、1門の砲を両腕で保持しながら構えている。

 

「フォトンストリームキャノン! 発射ぁっ!!」

 

そして、セシリアのダブルエックスの2門の砲と、ISビット達の1門の砲から、途轍もないエネルギーが放たれた!!

 

発射されたフォトンエネルギーは、一瞬にしてデストロイを装着していたローレンを飲み込む。

 

「う、ぐ! あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

断末魔の叫びが挙がる中、ローレンの姿はゆっくりと蒸発して行き………

 

やがて、完全に光の中へ消えたのだった。

 

「………お母様………お父様………仇は………取りましたわ」

 

全身から排熱の湯気を上げながら、セシリアは空を見上げてそう呟く。

 

青空に、両親達の姿が浮かんだ様な気がした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンラガンVSセイルーン………

 

「チッ! あの馬鹿くたばったかい! 使えないねぇっ!!」

 

「そんなこと言ってるから、テメェ等は勝てねえんだよ!!」

 

押しつ押されつの攻防を続けながら、セシリアとローレンの戦闘の様子を見ていたセイルーンとグレンラガンがそう声を挙げる。

 

「煩いよ!! 貴様を倒せば後の連中は如何とでもなるんだ! だからとっとと落ちなぁ!!」

 

セイルーンはそう言い放つと、一気にグレンラガンを海中へと落とそうとする。

 

「グウッ!!」

 

「反重力ストームッ!!」

 

しかし其処で、虹色の光線がセイルーンへと命中!!

 

「!? 何いいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーっ!?」

 

途端に、セイルーンは重力を遮断された様に、空中高くへと舞い上げられた!!

 

「神谷! 大丈夫!?」

 

そして体勢を立て直したグレンラガンの傍に、シャルが並び立つ。

 

やっとの事で、シャクーの軍団を突破したらしい。

 

「ああ、サンキューな、シャル」

 

「チイッ! 小娘がぁ!! 上等だよ!! 纏めて始末してやる!!」

 

セイルーンからそう声が挙がったかと思うと、ブラッディ・クラスパーを手に持ち、グレンラガンとシャルに斬り掛かって行く。

 

「!! スペースサンダーッ!!」

 

と、向かって来るセイルーンに向かって、スペースサンダーを放つシャル。

 

「ぐううっ! こんなものおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

だが、セイルーンはスペースサンダーを喰らいながらも無理矢理突き進んで来る!!

 

「クッ! 何て奴なんだ!?」

 

「ならコイツも喰らいやがれ!! 超・ドリラッシュッ!!」

 

すると其処で、グレンラガンがフルドリライズ状態になり、全身に生えたドリルをミサイルとして、セイルーンに見舞った!!

 

「!? ぐがああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

スペースサンダーと超・ドリラッシュの2重攻撃の前に、遂にセイルーンの動きが止まる!!

 

「シャル! 今だ!!」

 

「うん!! シングルハーケンッ!!」

 

グレンラガンがそう言うと、シャルがダブルハーケンを連結させずに、両手に二刀流で握った!!

 

「せやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そして、動きの止まったセイルーンに斬り付ける!!

 

「がああっ!? このおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

一瞬怯むセイルーンだったが、直ぐにシャルをブラッディ・クラスパーで斬り返そうとする。

 

「貰ったぜっ!!」

 

しかしその間に、グレンラガンがセイルーンの背後を取った!!

 

「!? しまっ………」

 

「オラァッ!!」

 

両腕に2本のドリルを出現させると、其れをセイルーンの背中を突き刺すグレンラガン。

 

「ぐがあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

そしてそのまま、セイルーンを掲げ挙げる様に持ち上げる!!

 

「グレン大岩山落としいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!!」

 

そう叫んだ瞬間!!

 

グレンラガンの両腕から、竜巻の様に螺旋力が溢れた!!

 

「うがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

螺旋力の竜巻によって、上空高くへと舞い上がるセイルーン。

 

装甲が罅割れ、バラバラになって行く。

 

「セ、セイルーンが!? くうっ!!」

 

とその瞬間にアディーネは、セイルーンを脱ぎ捨てて脱出!

 

その直後、装着者を失ったセイルーンは大爆発・四散した!!

 

[アディーネ様!!]

 

脱出したアディーネは、ダイガンカイに回収される。

 

[オノレェ! アタシのセイルーンを!!………まあ、良い。()()()()()()()んだからね………引き上げるよ!!]

 

[ハッ!!]

 

アディーネと獣人がそう言い合うと、ダイガンカイは海中へと潜航。

 

そのまま撤退して行った。

 

「目的は果たしただと? 何言ってやがんだ?」

 

「このパターン………ひょっとして………」

 

仲間達が集結する中、港に着地したグレンラガンが首を傾げ、シャルが嫌な予感を感じた瞬間!!

 

[大変です! 皆さん!!]

 

グレン団全員に、インフィニット・ノアの虚から慌てた様子での通信が入る。

 

「虚、如何したの?」

 

[先程、ロンドンにロージェノム軍の大部隊が出現!! 奇襲攻撃で、政府と軍首脳部が壊滅したそうです!!]

 

「!? 何ですって!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

虚からの報告に、全員が驚愕を露にする。

 

[指揮系統をズタズタにされ、イギリス軍は各地で孤立! 各個撃破に追い込まれています!! ココへロージェノム軍の大部隊が到着するのも時間の問題です! 急いで出港します!!]

 

「何てこった!! フランス、ドイツに続いて、イギリスまで!!」

 

直ぐにインフィニット・ノアを出港させると言う虚の言葉を聞きながら、一夏は悔しそうな声を挙げる。

 

「チイッ! 俺は残るぞ! この国までアイツ等に渡して堪るか!!」

 

グレンラガンはそう言い、イギリスに残ろうとするが………

 

「いや、()()()逃げ給え」

 

其処へ、戴宗を伴って中条が現れた。

 

「! 中条さん!」

 

「戴宗!?」

 

「神谷。オメェには、“もっとデケェ喧嘩の舞台”が待ってんだぜ。()()()()()で油売ってる場合じゃ無えだろ?」

 

瓢箪の酒を呷りながら、グレンラガンに向かってそう言う戴宗。

 

「けどよぉ!」

 

馬鹿(バッカ)野郎(ヤロウ)! “命を懸ける場所”を履き違えんじゃ無えっ!!」

 

「!?」

 

戴宗の叱咤に、グレンラガンは思わず黙った。

 

「心配すんな。国際警察のエキスパート達も、イギリス………いや、()()()()頑張ってる」

 

「君達がロージェノムを倒すまで、何とかギリギリの処で持ち堪えさせてみせる。だから行き給え」

 

「中条さん………」

 

「戴宗………」

 

そう促す中条と戴宗に、一夏とグレンラガンは悔し気な様子を見せながら、インフィニット・ノアへと引き上げて行く。

 

其れに続く様に、他のメンバーも帰還を始める。

 

「お嬢様………」

 

と、最後にセシリアがインフィニット・ノアへ向かおうとしたところ、チェルシーが現れた。

 

「チェルシー………すみません。“また()()留守にしますわ”」

 

セシリアは振り返ると、そう言い放つ。

 

「ハイ。行ってらっしゃいませ、お嬢様。“お帰りの際”には、最高級の紅茶を用意しておきます」

 

其れを聞くと、チェルシーは瀟洒にお辞儀をする。

 

「頼みますわ」

 

そしてそう言い残し、セシリアもインフィニット・ノアへと帰還する。

 

程無く、インフィニット・ノアは港から出港。

 

そのまま潜航を開始し、海中へと消える。

 

「「「…………」」」

 

そして3人は、インフィニット・ノアの消えた海を見詰め続けているのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日………

 

イギリスは事実上壊滅………

 

残存イギリス軍と国民達は地下へと潜り、レジスタンス活動で抵抗を続けた。

 

残る国家は、中()・アメリカ・日本………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

両親の仇と対峙するセシリアだったが、デストロイの性能に圧倒される。
あわやというところで、亡き両親からの励ましを受けて螺旋力に覚醒。
セカンドシフトを果たし、『ダブルエックス』を身に付けます。
セシリアの機体がリアルよりだったので、ガンダムからチョイスしました。
サテライトキャノンは月のマイクロウェーブ施設が無いと使えないので、大気中の光子を取り込むフォトンストリームキャノンに変更しましたが。

アディーネのカスタムガンメンも撃破しましたが、やはりイギリスも陥落。
グレン団は逃亡を余儀なくされます。

そして次回からは中国、鈴編です。
今までは違う展開となりますので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第111話『馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど………ココまでとは思ってなかったわよ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第111話『馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど………ココまでとは思ってなかったわよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セシリアの尽力で、何とかイギリスで補給を行う事が出来たグレン団。

 

しかし、イギリスもフランス・ドイツと同じ様に、ロージェノム軍に占領されてしまう………

 

最早機能している国家は、中()・アメリカ、そして日本だけ………

 

世界は、着実にロージェノムの手中へと納まりつつあった………

 

其れでも抵抗を続けるグレン団だったが………

 

ココで予想外の事態が襲い掛かる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イギリスを脱出したグレン団のインフィニット・ノアは………

 

大西洋を抜けて、ブランコ岬から太平洋へと出ていた。

 

フランス、ドイツ、イギリスと立ち寄った国々を次々に占領され………

 

グレン団のメンバーは、精神的に大分堪えている………

 

特に、その3つの国が故郷だったシャル・ラウラ・セシリアは、殊更に大きなショックを受けていた。

 

果たして、この戦いに希望は有るのだろうか?

 

 

 

 

 

太平洋の海中深く………

 

潜航しているインフィニット・ノアの艦橋にて………

 

「遂にイギリスも占領されてしまったわね………」

 

「コレで機能している国家は、もう中国・アメリカ・日本だけですね………」

 

リーロンと虚が、メインパネルに世界の状況を映し出しながらそう言い合う。

 

メインパネルに表示されている世界地図は、中()・アメリカ・日本を除いて、ロージェノム軍に占領された事を示す赤い色が塗られており、真っ赤に染まっている。

 

「私達が幾ら勝っても、肝心の国自体が陥落してしまっては………」

 

楯無が表情を暗くしながらそう呟く。

 

グレン団は、対峙した“ロージェノム軍との戦闘()()”には勝利を収めている。

 

だが、其れだけでは世界の戦況を変える事は出来ない………

 

何せ、人類側は未だにロージェノム軍の本拠地を見付けられていないのである。

 

どんなに襲ってくる敵を撃破しても、直ぐに其れ以上の敵が集まるのだ。

 

勢いの衰える事を知らないロージェノム軍に対し、人類側は一方的に消耗して行っている。

 

最早この戦況を覆すには、ロージェノム軍の本拠地を発見し、大ボスである螺旋王ロージェノムを倒すしかない。

 

「ロージェノム………一体何処に居やがんだ?」

 

拳をきつく握り締めながら、神谷は未だに姿を見せぬロージェノムへの闘志を燃やすのだった。

 

「其れにしても………コレから如何するんだ?」

 

「まさか日本に帰るワケにも行かねえしよお」

 

と其処で、一夏と弾がそう言い合う。

 

ロージェノム軍の本拠地が分からない以上、今やるべき事は、コレ以上のロージェノム軍の侵略を食い止める事に在る。

 

しかし、今やグレン団は世界のお尋ね者。

 

下手をすればロージェノム軍だけでなく、()()()()()()の人類からも攻撃を受け兼ねない。

 

脱出して来た日本は元より、アメリカも自国へ取り込もうとして来る可能性も有る。

 

正に孤立無援の状態だ。

 

「ん~? 何だろう~、コレ~?」

 

と其処で通信席に着いていたのほほんが、何かをキャッチした様にインカムを耳に押し付けながら、コンソールパネルを操作する。

 

「? 如何したの? 本音」

 

「広域電波で“何か”が流されてるみたいなんだけど~………ちょっと待って~。今クリアにしてみるから~」

 

ティトリーに尋ねられると、のほほんはキャッチした電波をクリーニングしてクリアにする。

 

すると、スピーカーから中国語の歌が流れて来た。

 

「!? コレ、中国の国歌じゃない!!」

 

其れに気付いた鈴が、驚きながら通信席に駆け付ける。

 

他のメンバーも、通信席の周りに集まる。

 

[中国政府より、凰 鈴音に告げる!!]

 

やがて国歌が終わると、中国語での音声が流れて来た。

 

「何だ? 何言ってんだ?」

 

「中国語………って事は、中国本国からの通信って事?」

 

中国語が理解出来ない神谷が首を捻り、シャルがそう推察する。

 

「ええ、中国政府からよ。しかも、“アタシを名指し”だわ」

 

其れを聞いた鈴がそう言うと、音声の続きが発せられる。

 

[君は、“我が中国の代表候補生”である。即刻我が国へと帰り給え。()()()()、政府は寛大な処置を約束しよう]

 

「何よ、今更………」

 

「何て言ってるんだ?」

 

鈴が呆れる様に呟き、一夏が尋ねて来る。

 

「アタシに『中国に戻って来なさい』って。戻るワケ無いじゃない。どうせ、何か理由を付けて拘束されるに決まってるわ」

 

鈴は、若干嫌悪感を露わにしながらそう言う。

 

しかし、次の瞬間………

 

[若し君が、我が国へ帰らない場合………君の母親・凰 神美(シェンメイ)を公開処刑する]

 

「!? なっ!?」

 

中国政府の思いも寄らぬ言葉に、鈴は驚愕を露わにした。

 

[尚、72時間以内に返答を寄越されたし。聡明なる判断を期待する………]

 

最後にそう言うと、通信スピーカーからは再び中国の国歌が流れ始める。

 

「フザケんじゃ無いわよ! とうとう脳味噌まで腐り切ったワケぇっ!?」

 

苛立ちを露わに、コンソールパネルに拳を叩き付ける鈴。

 

余りに強く殴り過ぎた所為(せい)か、拳から血が流れる。

 

「キャアッ!? り、鈴さん!?」

 

「如何したんだ、一体?」

 

突然そんな行動に走った鈴の姿に、セシリアと箒が驚く。

 

「………中国政府のヤツラ………アタシが戻らなかったら………“お母さんを殺す”って」

 

「!? 何だって!?」

 

「ちょっ!? 何よ、ソレ!?」

 

一夏が驚愕の声を挙げ、蘭がワケが分からないと叫ぶ。

 

他の面々も、多少の差は有れど動揺を表している。

 

「中国も追い詰められてるのかも知れないわね………だから“専用機を持った国家代表候補生”を()()()()()自国に戻そうとしてるのかも」

 

リーロンが淡々とそう分析する。

 

「何て連中だ………人のやる事か!!」

 

「お姉ちゃん………」

 

ラウラが怒りを露わにし、そんなラウラの手を、フランが心配そうに握り締める。

 

「!!」

 

と其処で、鈴が艦橋から出て行こうとする。

 

「オイ、待てよ。何処行く気だ?」

 

そんな鈴の肩を、神谷が摑んで止める。

 

「邪魔すんじゃないわよ! お母さんを助けに行くのよ!!」

 

鈴は暴れて神谷を振り解こうとするが、神谷はビクともしない。

 

「待てって。其れは『俺達』の仕事だろうが?」

 

「えっ?」

 

「アニキの言う通りだぜ、鈴」

 

と、神谷が言った言葉に鈴が思わず動きを止めると、一夏がそう言いながら傍に寄って来た。

 

「鈴のお母さんは………俺達“グレン団全員で”救出する!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

一夏がそう言うと、箒達も不敵な笑みを浮かべて頷く。

 

「あ、アンタ達………分かってんの!? 今度の今度は()()()………“国家を相手に”戦う事になるのよ!?」

 

そんなグレン団の面々に向かって、鈴はそう言い放つ。

 

フランス・ドイツ・イギリスと転戦を続けて来たグレン団だったが、幸いにも“国家を相手に戦う事態”は避ける事が出来ていた。

 

しかし、今回ばかりはそうは行かない………

 

鈴の母親を助けに行くと言う事は、中国(人〇解〇)軍と正面切って戦う事と同義である。

 

若しそうなれば、()()()()()“人類の敵”となってしまう可能性も有る。

 

更に、若し中国(〇民〇放)軍と衝突している最中(さなか)にロージェノム軍に介入されれば、中()が落とされるどころかグレン団も危ない。

 

だが………

 

「んなもん百も承知よ!!」

 

「俺達グレン団は、テメェが許せねえと思った奴とは、誰であろうと戦う!!」

 

「そうとも! 負けねえ、退かねえ、悔やまねえ! 前しか向かねえ、振り向かねえ! 無え無え尽くしの男意地! 其れこそがグレン団の魂よ!!」

 

神谷・一夏・弾が何の迷いも無く、正面からそう言い放った。

 

「なっ!?」

 

「お前達、“女の意地”も忘れて貰っては困るぞ」

 

「友達を助ける………其れ以上の理由は必要有りませんわ」

 

「だから、鈴………遠慮無く僕達を頼って」

 

「今こそ借りを返す時の様だな………」

 

「お姉ちゃんの友達が困ってるなら………私、助ける」

 

「ぶっちゃけ、ココで退いたら空気読めない奴みたいだし………」

 

「………例え神にでも………私は従わない………」

 

「鈴………行こう! お母さんを助けに!!」

 

「右に同じく!!」

 

驚く鈴に向かって、箒・セシリア・シャル・ラウラ・フラン・楯無・簪・蘭・ティトリーも次々にそう言う。

 

「ア、アンタ達………」

 

其れを聞いた鈴は俯く。

 

やがて、ポタポタと涙が床に落ち始める。

 

「………ホンットに………馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど………ココまでとは思って無かったわよ!!」

 

と、不意に顔を上げると、目尻に涙を浮かべたまま笑顔を浮かべて、神谷達にそう言い放った。

 

「よっしゃあっ! 野郎共!! “鈴のおっかさんを助け出せ作戦”の開始だぁ!!」

 

「うわぁ、そのまんま………」

 

「オイ、神谷! 野郎共とはどういう意味だ!?」

 

其れを聞いた神谷がそう号令を挙げると、一夏が呆れた様に呟き、箒が野郎で一括りした事に非難の声を挙げる。

 

グレン団の一同は、談笑混じりに計画を練り始めるのだった。

 

「ホント、良い仲間達ね」

 

「そうですね………」

 

「さ~て、忙しくなるぞ~」

 

そんなグレン団の様子を見ながら、リーロン・虚・のほほんの裏方3人衆は、楽しそうな笑みを浮かべる。

 

斯くして、ココに………

 

グレン団対中()の戦いが、切って落とされようとした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後………

 

()にて………

 

インフィニット・ノアは潜航を続けながら、東シナ海を経由して黄海へと侵入。

 

更に渤海へと侵入し、今は海底に身を潜めている。

 

そしてそのまま、詳細な情報収集を続ける。

 

其処で、鈴の母親は………

 

首都・北京の中国(人〇解〇)軍基地に捕らわれている事が判明。

 

人質の安全を最優先に考え、先ずステルス無人偵察機を飛ばして、偵察を行う事にした。

 

 

 

 

 

インフィニット・ノアの艦橋………

 

「もう直ぐ、無人偵察機が北京基地に到達するわ」

 

「ビデオパネル、チェンジします」

 

リーロンがそう言うと、虚がコンソールパネルを操作し、メインパネルに無人偵察機からの映像を映し出す。

 

街中に、広大な面積を使って建設されている中国(〇民〇放)軍基地の様子が映し出される。

 

()の首都だけ在って、駐屯している軍の数は多いが、其れでも“多過ぎる”と感じる程の戦力が基地には存在していた。

 

「随分と集まってるな………」

 

「多分、地方の部隊を招集したんでしょう。中国政府としては、“地方が犠牲になろうと、首都(北京)さえ守れれば其れで良い”と思ってるんでしょうね」

 

「胸糞悪くなる話だぜ」

 

一夏がそう言うと、鈴がそう推察し、神谷が不快感を露わにする。

 

「鈴のお母さんは何処に居るんだろう?」

 

「流石に“見える所”には居ないと思うけどねえ………」

 

と、ティトリーと楯無がそう言っていると………

 

無人偵察機が、基地敷地内の丁度中央の広場になっている様な場所に、“何か”を発見する。

 

「!? アレは!?」

 

「拡大してみるわ」

 

箒がそう言うと、リーロンが映像を拡大させる。

 

其れは、まるで銃殺刑に処せられる囚人の如く、広場に立てられた丸太に縛り付けられ、目隠しと猿轡をされた女性の姿だった。

 

「!! お母さん!!」

 

その女性を見た鈴が声を挙げる。

 

「!? 何だって!?」

 

「酷いですわ! あんな事をするなんて!!」

 

一夏が驚きの声を挙げ、セシリアも中国(人〇解〇)軍のやり方を非難する。

 

「恐らく………堂々と晒し者にする事で………下手な小細工を打たせない気ね………」

 

簪が冷静に中国軍の考えを予測する。

 

と、その次の瞬間!!

 

基地から対空砲火が撃ち上げられ、無人偵察機が撃墜された!!

 

「あっ!?」

 

「気付かれた!?」

 

弾と蘭が声を挙げる。

 

「コレは思ったより厄介かもしれないわね………」

 

「ああも堂々と晒し者にされていては、隠密作戦で救出するのは無理だな」

 

リーロンがそう言うと、ラウラが続けてそう言う。

 

すると、その時!!

 

突如としてインフィニット・ノアの艦橋に警報が鳴り響く!!

 

「!? 何っ!?」

 

「レーダーに反応! 中国(〇民〇放)海軍の艦隊がコッチに向かって来てるよ!!」

 

シャルが声を挙げると、レーダー席に居たのほほんがそう報告を挙げる。

 

「あらら。無人偵察機の操縦電波を逆探知されたみたいね」

 

まるで他人事の様にそう言うリーロン。

 

「い、一旦逃げましょう!!」

 

「馬鹿言うな! 鈴のおっかさんをあのままにして置けってのかよ!?」

 

「しかし、このままでは総攻撃を受けるぞ!!」

 

虚がそう言うと、神谷がそう反論し、箒がそう尋ねる。

 

「皆行って! こっちは何とか保たせるから!!」

 

すると、のほほんがそう声を挙げた!!

 

「インフィニット・ノアなら何とか耐えられるわ。中国(人〇解〇)海軍は適当に相手をして置くから、その間に鈴ちゃんのお母さんを助けて来なさい」

 

続けて、リーロンも不敵に笑いながらそう言い放つ。

 

「リーロンさん………ありがとう!!」

 

其れを聞いた鈴が、笑顔を浮かべてそう言う。

 

「良し! 行くぜ、お前等っ!!」

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

神谷の号令で、一夏達は出撃して行く。

 

「さて………其れじゃあ、皆が戻るまで………」

 

中国(〇民〇放)海軍の相手をするよ~」

 

「敵艦から攻撃! 爆雷と魚雷が来ます!!」

 

リーロンとのほほんがそう言うと、虚がそう報告を挙げる。

 

「フォノンメーザー展開! 防御幕を張って!!」

 

「了解!!」

 

リーロンがそう指示すると、ブルーノアの船体の彼方此方からフォノンメーザー(超音波銃)砲塔が出現。

 

接近して来る爆雷と魚雷を、着弾する前に超音波で爆散させる。

 

「頼むわよ、皆………」

 

その様子を見ながら、リーロンは特殊潜航艇で出撃して行ったグレン団を見遣るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中国(人〇解〇)軍の目がインフィニット・ノアに行った為、グレン団一同は思ったよりも簡単に上陸を果たす。

 

そして例によって、グレンラガンのドリルを使い、地中から一気に北京基地内部へ突入し、鈴の母親………神美を救出する作戦に出る。

 

北京基地・中心部………

 

晒し者にされている神美の前方の地面が盛り上がったかと思うと、ドリルが出現し、続いてグレン団の面々が現れる。

 

「!? う、うううう~~~っ!?」

 

目隠しの所為(せい)で何が起こったのかは分からないが、音で“何かが来た”事を察し、猿轡をされたまま何かを言おうとしている神美。

 

「お母さん!!」

 

小母(おば)さん! 大丈夫ですか!?」

 

いの1番に鈴が駆け寄り、続いて一夏が駆け寄って神美を拘束している縄を切る。

 

「良くもこんな酷い事を!!」

 

「コレが人間のする事かよ!?」

 

グレンラガンとグラパール・弾もそう言い放つ。

 

その間に、一夏と鈴は神美を拘束していた縄を切り、目隠しと猿轡を外す。

 

「小母さん!」

 

「お母さん! 大丈夫!?」

 

「………鈴………一夏くん………」

 

呆然とした様子で、漸く見える様になった視界に、鈴と一夏の姿を確認する神美。

 

「! 駄目よ! 逃げて!! コレは罠よ!!」

 

と、直ぐに慌てた表情となったそう言い放つ。

 

「えっ!?」

 

「如何言う事?」

 

一夏と鈴がそう聞き返した瞬間………

 

グレン団が居る広場の彼方此方の地面が盛り上がり、ハッチの様な物が出現する!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一同が身構えた瞬間、そのハッチが開き………

 

中から中国(〇民〇放)陸軍・歩兵部隊と機甲部隊………

 

そしてIS部隊が出撃して来た!!

 

突如として周辺に出現した中国(人〇解〇)軍によって、グレン団は完全に包囲されてしまう。

 

「!? しまった!? 囲まれたよ!!」

 

「クウッ! まさか中国(〇民〇放)軍が我々の動きを読んでいたとは………」

 

シャルが驚きながらそう言い、ラウラも声を荒げてそう言う。

 

グレン団は、神美を守る様に展開して得物を構えて身構える。

 

そんなグレン団に、無数の銃口や砲門を向けている中国(人〇解〇)軍。

 

と、その包囲網の一角が開けたかと思うと、其処から高級なスーツに身を包んだ人物達が現れる。

 

()政府の支配者、中国共産党中央政治局常務委員会のメンバーだ。

 

「これはこれはグレン団の皆さん。ようこそ御出で頂きました」

 

その中の1人が、グレン団の姿を見ながら笑みを浮かべてそう言い放つ。

 

「やられたわね………私達の行動はお見通しだったってワケ?」

 

動揺を見せない様に、ポーカーフェイスを浮かべながら、楯無がそう尋ねる。

 

「その通りだ」

 

「君達はこういった手段に弱いと言うのは調査済みだよ」

 

すると、別の高官達がゲスな笑みを浮かべてそう言い放つ。

 

「外道が………」

 

「口を慎みたまえ、篠ノ之博士の妹」

 

「自分が如何いう立場に居るのか理解出来ているのかね?」

 

箒が吐き捨てる様に呟くと、また別の高官が不快感も露わにそう言い、中国(〇民〇放)軍部隊が引き金に手を掛ける。

 

「クッ………」

 

「………俺達を如何する積りだ?」

 

箒が悔し気な声を挙げると、今度は一夏がそう問い質した。

 

「決まっている。君達には“取引材料”になって貰う」

 

「取引?」

 

「そう………“()()()()()()()()()取引材料”にな」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

高官の言葉に、驚きを露わにするグレン団。

 

「貴様等! ロージェノム軍と取引する積りか!?」

 

「その通り。君達の身柄を売り渡す代わりに、我々の命は助けて貰える様にとね」

 

ラウラが叫ぶと、高官は然も当然の様にそう言い返す。

 

「そんな取引に、ロージェノム軍が応じる筈は有りませんわ!!」

 

「そうかな? 今まで悉く立ちはだかったグレン団を差し出すと言ったら、喜んで取引に応じてくれたよ」

 

続けてセシリアがそう言い放つが、別の高官がまたゲスな笑みを浮かべてそう言う。

 

「其れに“我が中国の軍備が()()()()手に入る”のだ。彼等にとってもお得な話の筈だよ」

 

「この国は如何なるんですか!?」

 

「そうだよ! 残された人達は!?」

 

グラパール・蘭とダンクーガがそう言うが………

 

「君達は、道を歩く時に蟻を踏まない様に気を付けて歩くのかい?」

 

「尻を拭いた紙は捨てるだろう? 其れと同じだよ!」

 

「………腐ってるわね」

 

「…………」

 

何の迷いも無くそう言い放つ高官達に、簪は吐き捨てた。

 

フランも、ターレットレンズの奥で不快な表情を浮かべている。

 

「国や民なぞ幾らでも湧いて来る、虫の様にな! ハハハハハハハハッ!!」

 

高官の1人が高笑いを挙げると、他の高官達も同じ様に高笑いし始める。

 

「………前々から“いけ好かない連中”だとは思ってたわ………けど! ココまでとは思わなかったわよ!! ()()()()()として恥ずかしい限りよ!!」

 

鈴が怒りを露わにそう叫ぶ。

 

「ふん、小娘が………」

 

高官は、そんな鈴を鼻で嗤う。

 

と………

 

そんな高官達の足元に、ドリルミサイルが命中する!!

 

「!? ヒイッ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

途端に腰砕けとなり、情け無い姿を晒す高官達。

 

「………其れ以上、そのド汚ねぇ口開けんじゃ無え」

 

ドリルミサイルを放った右腕を構えたポーズのまま、グレンラガンが静かに………

 

然れど激しい怒気と殺気が籠った、ドスの利いた声でそう言い放つ。

 

「ヒイイッ!?」

 

高官達は尻餅を着いたまま、ズリズリとグレンラガンから距離を取る。

 

「そ、そんな態度が取れるのも今の内だ!!」

 

「間も無くシトマンドラ様が貴様等を引き取りにいらっしゃる! 貴様等の命も其れまでだ!!」

 

ビビっていながらも、高官達はグレン団に向かってそう叫ぶ。

 

「アニキ! 如何すれば良いんだよ!?」

 

「…………」

 

一夏の問いには答えず、グレンラガンは腕組みをしてジッとその場に立ち尽くすのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

中国編こと鈴編。
何と中国政府が鈴の母親を人質に鈴を脅迫。
更に救出に向かったグレン団をロージェノム軍に売り渡し、自分達の保身を図る。
しかし………
そう上手く行くかどうか………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第112話『コッチだ! コッチへ来るんだ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第112話『コッチだ! コッチへ来るんだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランス・ドイツ・イギリスが次々に陥落する中………

 

()が代表候補生である鈴に、“自国へ戻る様に”との通信を流して来た。

 

しかも、“戻らなければ鈴の母親・神美を処刑する”と。

 

当然、そんな要求(無法)を呑める筈の無いグレン団は、神美を助ける為に中()へと上陸。

 

北京基地に捕らえられていた神美を無事救出したかに思えたが、其れは中()政府と(人〇解〇軍)の罠であり、グレン団は動きを封じられてしまう。

 

何と、彼等は自分達の(国民)戦力(軍装備)を売り飛ばし、“自分達の身の安全を保証する取引”をロージェノム軍に持ち掛けていたのだ。

 

腐り切った中()に怒りを燃やすグレン団だったが、中国(〇民〇放)軍の包囲の前に手も足も出せない。

 

果たしてグレン団は、このまま中()政府のロージェノム軍への手土産にされてしまうのだろうか?

 

 

 

 

 

中国・北京 中国(人〇解〇)軍基地………

 

「12時方向から、巨大な飛行物体が接近! シトマンドラ様のダイガンテンだと思われます!」

 

中国(〇民〇放)軍人の1人が、中国政府(政治局常務委員会)高官の1人にそう報告する。

 

「いらっしゃったか」

 

「コレで我々の身も安泰、と言う事ですな」

 

「全くです。ハハハハハハッ!!」

 

高官の1人が笑い声を挙げると、揃ってゲスな笑い声を響かせ始める。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そんな高官達の姿を、グレン団の面々はゴミを見る様な目で見ていた。

 

「ゴメンナサイ、皆さん………私の所為(せい)で、こんな事に………」

 

神美は、申し訳無さそうにグレン団の面々に謝罪するが………

 

小母(おば)さんの所為(せい)じゃ無いですよ!」

 

「そうよ! 悪いのは、皆あのクズ共の所為(せい)なんだから!!」

 

一夏と鈴がそう返す。

 

「ええい、煩い! コレ以上の侮辱は許さんぞ!!」

 

と、それを聞いた高官の1人がそう叫ぶと、中国(人〇解〇)軍に殺気が漲るが………

 

「コラコラ、落ち着き給え」

 

「そうそう。今此処で殺してしまっては、元も子も有りませんよ」

 

別の高官達がそう言って宥める。

 

「どの道、後僅かの命なのです。好きなだけ喚かせてあげましょう」

 

「クソッ!………如何にもならんのか?」

 

ゲスな笑みを浮かべる高官達に、(はらわた)が煮え繰り返る箒だが、何もする事が出来ず、只々悔しそうに拳を握り締める。

 

「いや………未だ分からねえぜ」

 

だがそんな中、不意にグレンラガンがそう言い放つ。

 

「? 如何言う事? 神谷?」

 

「今に分かるさ」

 

シャルがグレンラガンの言った言葉の意味が分からず尋ね返すが、グレンラガンはそう返すだけだった。

 

「負け惜しみかね? 天下のグレン団ともあろう者が、情け………」

 

と、高官の1人がそう言い掛けた瞬間!!

 

突然風切り音が響き、砲弾がグレン団を包囲していた中国(〇民〇放)軍の一角に着弾!!

 

機甲部隊は木っ端微塵となり、歩兵部隊やIS乗り達もバラバラに千切れ飛ぶ!!

 

「!? なっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然の事態に、中国政府(政治局常務委員会)高官・中国(人〇解〇)軍の軍人達、そしてグレンラガンを除いたグレン団の面々は驚きを露わにする。

 

すると、またも風切り音が響き渡り、砲弾が次々に着弾!!

 

更にはミサイルも飛んで来て、次々に中国(〇民〇放)軍を消し飛ばして行く!!

 

「な、何事だぁっ!?」

 

高官の1人がそう叫んだ瞬間………

 

[御苦労だったな! 愚かな人間共!!]

 

そう言う台詞と共に、北京基地の上空にダイガンテンが姿を現す。

 

その周辺には、飛行型ガンメンが群れを成して飛び回っている。

 

先程の攻撃は、如何やらダイガンテンとガンメン部隊からの攻撃の様だ。

 

「シ、シトマンドラ様! コレは一体!?」

 

上空のダイガンテンに向かって、高官の1人がそう叫ぶ。

 

[良くぞグレン団を捕らえた。オマケに中国(人〇解〇)軍の全戦力も集結させたな。お蔭で“()()の手間が省けた”と言うものだ]

 

すると、シトマンドラからはそんな台詞が返って来た。

 

「なっ!? そ、そんな!?」

 

「“我々の身の安全は保証してくれる”のでは無かったのですか!?」

 

「其れに、“我が軍の戦力はアナタ方に提供する”と言った筈です!!」

 

高官達は狼狽しながらみっともなく、口々にそう叫ぶが………

 

[馬鹿めが! 何故、我々が“()()()()()との約束”を守らなければならん! 其れに、我々には下等な人間の軍隊なぞ必要無い!!]

 

シトマンドラは、当然の様にそう言い返す。

 

「そ、そんなぁっ!?」

 

「我々を騙したのですか!? シトマンドラ様!!」

 

[言った筈だ! “下等な人間との約束”なぞ、守る積りは無いとなぁっ!! 行けぇっ! 我が美しき飛行ガンメン部隊よ!! 醜い人間共を消し飛ばしてしまえっ!!]

 

高官達が喚き叫ぶ中でシトマンドラの命令一下、飛行ガンメン部隊は重爆撃を開始する!!

 

北京基地は忽ち炎に包まれた。

 

「うわぁっ!?」

 

「た、助けてくれえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!?」

 

奇襲攻撃と圧倒的な火力、そして何よりも“取引”を蹴られた事への動揺で、中国(〇民〇放)軍は完全に戦意を喪失しており、碌な反撃も出来ずに只々逃げ回るばかりである。

 

「コラ! 逃げるな!! 戦え!!」

 

「貴様等ぁ! 其れでも誇り有る人民解放(中国)軍人か!?」

 

そんな中国(人〇解〇)軍人達に向かって、政府(政治局常務委員会)高官達はそう叫ぶが、其れを聞く者は1人も居ない。

 

「ヒャッハーッ!」

 

「皆殺しだぜぇーっ!!」

 

と其処へ、ダイガンテンの飛行甲板からレッドショルダー達が次々に出撃を開始。

 

地上へと降下して来たかと思うと、生き残っていた中国(〇民〇放)軍人達の掃討を始める。

 

更に、掃討を行っていたレッドショルダー達は、直ぐ様中国政府(政治局常務委員会)高官達を取り囲んだ。

 

「ヒイッ!!」

 

「ま、待て! 金なら出す!! 私達を助けてくれっ!!」

 

こんな状況下にも関わらず、そんな事を言う中国政府(政治局常務委員会)高官達だったが………

 

「馬鹿が! “汚物”は消毒だぁーっ!!」

 

ブラッディライフルを持ったレッドショルダーがそう言い放ち、中国政府(政治局常務委員会)高官達に弾丸を浴びせる!!

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

中国政府(政治局常務委員会)高官達は、一瞬にして無数の肉片となる。

 

「燃えちまえぇっ!」

 

更にその肉片に向かって、火炎放射器を持ったレッドショルダーが火炎を浴びせる。

 

肉が焼け焦げる臭いと共に、中国政府(政治局常務委員会)高官達『だったもの』は消し炭となって行った………

 

「うわぁ………惨い………」

 

「自業自得よね………」

 

凄惨な光景に、一夏が思わずそう漏らすが、鈴はそう吐き捨てた。

 

「オイ! ボーッとしてる場合じゃねえ! この混乱の隙に脱出するぞ!!」

 

と其処で、グレンラガンが一同に向かってそう叫ぶ。

 

流石に、この状況下で神美を連れたまま戦うのは無理だと悟っており、逃げの一手を打っている。

 

「! 皆! 穴に飛び込んで!!」

 

其処でシャルが、ハッとした様に皆に呼び掛ける。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

その一声で、グレン団の一同は突入の際に掘った穴へと飛び込んで行く。

 

「さ! お母さん!!」

 

「ありがとう、鈴」

 

神美に手を貸し、一緒に穴へと飛び込もうとする鈴。

 

「!! 野郎! 逃がすかぁっ!!」

 

と、其れに気付いたレッドショルダーの1人がソリッドシューターを発砲する!!

 

「!!」

 

「螺旋の盾ぇっ!!」

 

だが、グレンラガンが間に割り込んで螺旋力のバリアを発生させ、ソリッドシューターの砲弾を防ぐ!!

 

「超・ドリラッシュッ!!」

 

そして反撃にと、全身に出現させたドリルを“ミサイル”として発射する!!

 

「!? ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

文字通り、全身穴だらけにされてミサイルの爆発と自爆装置の爆発で、木っ端微塵に消し飛ぶレッドショルダー!!

 

「クソがぁっ!!」

 

「グレン団が逃げるぞ! 絶対に仕留めろ!!」

 

しかし、その爆発で敵軍の注目を集めてしまい、多くの敵が殺到して来る。

 

「チイッ! 早くしろ!!」

 

「わ、分かったわ!!」

 

グレンラガンにそう言われ、鈴は大慌てで神美を連れて穴に飛び込む。

 

「アニキ、御先に!!」

 

其れに続いて、グレンラガンと共に殿(しんがり)を務めていた一夏も穴に飛び込む。

 

「よっしゃあっ!!」

 

全員が穴へと飛び込んだのを見て、グレンラガンも穴へと飛び込もうとする。

 

「逃がすかぁっ!!」

 

「死ねぇっ! グレンラガンッ!!」

 

そのグレンラガン目掛けて、ガンメン部隊とレッドショルダー達から銃弾に砲弾、ミサイルにレーザーが次々に見舞われる。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

背後から迫り来る風切り音を聞きながら、グレンラガンは猛然と穴へとダッシュ。

 

そして目前にまで到達すると、ヘッドスライディングするかの様に穴へと跳んだ!!

 

その直後、ガンメン部隊とレッドショルダー達の攻撃が着弾!!

 

凄まじい爆発が起こり、グレンラガンの姿は爆煙に包まれる!!

 

「やったかっ!?」

 

ガンメン部隊の1人が、そう声を挙げる。

 

やがて、爆煙が収まって来ると、其処には………

 

爆発で完全に塞がれた穴の跡が在った。

 

グレンラガンの姿は何処にも無い………

 

「クソッ! 逃げられたか!?」

 

「探せ! 未だ遠くへは行っていない筈だ!!」

 

仕留められなかった事を悔しがりつつも、ガンメン部隊とレッドショルダー達は直ぐにグレン団の捜索に向かう。

 

既に北京基地は壊滅し、後には中国(人〇解〇)軍人達の死体と、原型を留めぬ程に破壊された兵器と基地施設しか残されていなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、北京は一瞬にして地獄と化す………

 

グレン団を捜すロージェノム軍は、市街地への重爆撃を敢行。

 

ダイガンテンを中心に、モウキーン部隊が爆弾を雨の様に市街地に降らせ、北京は火の海と化した。

 

破壊される建物の瓦礫と燃え上がる炎から逃げ惑う人々だったが、そんな人々をレッドショルダー達が虐殺する。

 

或る者はマシンガンの銃弾を浴びて肉塊に変えられ、或る者は火炎放射器で人間バーベキューにされる………

 

また或る者はバズーカやミサイルの直撃を受けて無数の肉片となり、或る者は身体を力任せに引き千切られる………

 

この光景を、“凄惨”と言わずして何と言おうか………

 

人々が虐殺されるのを後目に、グレン団の面々はその地獄の北京市街を、只々逃げ回るしか無かった………

 

 

 

 

 

地獄と化した北京市街………

 

「居たか!?」

 

「いや、コッチには居ないぞ!!」

 

「向こうを探せ!!」

 

グレン団の姿を追い求めるレッドショルダー達が、そう申し合わせて交差点で彼方此方へ向かって行く。

 

その姿が完全に通り過ぎると………

 

「………行ったみたいだな」

 

崩れたビルの瓦礫の陰から、一夏のそう言う声と共にグレン団の面々が姿を現す。

 

「北京が………」

 

「酷いですわ………」

 

「クソッ! 俺達には何も出来ねえのか!?」

 

彼方此方から火の手が上がり、まるで“世紀末の荒廃した世界”を思わせる様な姿へと変わった北京を見て、シャルとセシリアが愕然と呟き、グラパール・弾が悔し気な声を挙げる。

 

「アニキ、コレから如何するんだ?」

 

「この状況下では、インフィニット・ノアまで戻るのは至難の技だぞ?」

 

「通信も通じないし………私達、完全に孤立してます」

 

「チイッ」

 

一夏・ラウラ・グラパール・蘭の声に、グレンラガンは只舌打ちするしか出来なかった。

 

と、その時………

 

「居たぞ! グレン団だ!!」

 

「コッチだ! 集まれっ!!」

 

先程通り過ぎて行ったのとは別のレッドショルダー達が現れ、グレン団の姿を見付けるや否や、直ぐ様応援部隊を要請して向かって来る!!

 

「!? 見付かった!?」

 

「マズイよ! 如何する!?」

 

箒と楯無がそう声を挙げ、慌てるグレン団。

 

と、その時………

 

「コッチだ! コッチへ来るんだ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そう呼ぶ声が聞こえて来て、グレン団のメンバーが聞こえて来た方向を見遣ると………

 

崩れたビルとビルの間の路地から、何者かが“手だけを出して”手招きをしていた。

 

手招きしていた人物は、グレン団が自分の存在に気付くと、路地の中へと消えて行く。

 

「! 行くぞ!!」

 

「ちょっ!? 待ちなさいよ、神谷!!」

 

「罠かも知れないわ………」

 

其れを見て即座にそう言い放つグレンラガンだったが、鈴と簪からそう反論が挙がる。

 

「いや! 大丈夫だ!! 俺の(カン)を信じろ!!」

 

「勘なのっ!?」

 

「でも………現状では、他に手は無い………」

 

ダンクーガが思わず声を挙げるが、フランがそう言い、グレン団は済し崩し的に手招きをしていた人物を追った。

 

「逃がすな!!」

 

「追えぇっ!!」

 

直ぐ様そのグレン団を追って、路地へと飛び込んで来るレッドショルダー達。

 

「コッチだ! 急げ!!」

 

一方、グレン団を手招きしていた人物は常にグレン団の1歩先を行き、手だけを見せてドンドンと路地の奥方へと誘導して行っている。

 

「一体誰なんだ!? 本当に味方なのか!?」

 

「けど、あの声………どっかで聞いた様な気が………」

 

手招きしている人物に疑問を抱く箒と、その人物の声に“聞き覚え”を感じる一夏。

 

「「…………」」

 

更に、鈴と彼女に連れられている神美も、何かを考え込んでいる様な様子を見せる。

 

やがて、路地は行き止まりとなった………

 

「!? 行き止まりですわ!?」

 

「あの人は何処に!?」

 

セシリアとシャルがそう声を挙げると………

 

「コッチだ! ココへ入れ!!」

 

そう言う声が聞こえて来たかと思うと、行き止まりに在ったゴミ箱の中から、手招きをしている手が見えた。

 

「!? ええっ!? ゴミ箱の中にぃ!?」

 

「迷ってる暇は無え! 行くぞ!!」

 

其れに一夏が驚きの声を挙げるが、グレンラガンがそう言うといの1番にゴミ箱の中へと入る。

 

「コッチだ!」

 

「逃がすな!!」

 

と後ろの方から、レッドショルダー達の声が聞こえて来る。

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

其れを聞いて、一夏達は“考えている暇は無い”とISを解除しながら次々にゴミ箱の中へと飛び込み始めた。

 

そして全員が飛び込んだ後、少しして………

 

漸く、レッドショルダー達が行き止まりへと到達する。

 

「!? 居ないぞ!?」

 

「馬鹿な!? 1本道だった筈だぞ!?」

 

「クソッ! 探せっ!! この近くに居る筈だ!!」

 

グレン団の姿が無い事を訝しみつつも、ビルの上へと登ってその姿を追い求める。

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

謎の人物の手招きに従い、ゴミ箱の中へと飛び込んだグレン団は………

 

「こんな所に地下への入り口が………」

 

何と、飛び込んだゴミ箱は地下への入り口となっており、備え付けられていた梯子を使って、ドンドンと地下深くへと降りて行っていた。

 

やがて梯子が終わって足が着ける地面が現れると、其処には横穴が掘られており、奥の方から光が漏れている。

 

「さ、コッチだ」

 

先程の人物と思しき者が、光の溢れている方向から手招きして来ている。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

グレン団の面々は、警戒しながらもその手招きに従い、光が溢れている方向へと歩いて行く。

 

やがて光が広がり、姿を現したのは………

 

民兵の様な姿をし、武装している中国人達だった。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

誘い込まれたと思ったグレン団は、咄嗟に待機状態のISを構える。

 

「落ち着き給え、グレン団!」

 

「我々は“君達の敵”では無い!」

 

しかし其処で、民兵の様な姿をした中国人達がそう言って来た。

 

「!? えっ!?」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その言葉で、動きを止めるグレン団。

 

「我々は反政府レジスタンスだ」

 

「尤も、今となっては“反ロージェノム軍レジスタンス”と言った方が良いかもしれないが………」

 

続ける様にそう言う民兵の様な姿をした中国人達。

 

「反政府レジスタンス?」

 

「ああ、前々から政府のやり方に不満を持っている連中が集まって出来た組織だ」

 

「最近ロージェノム軍に押されっ放しだった政府は、地方を見捨てて“自分達が居る北京(首都)”に戦力を集中させたんだ」

 

「そんな“地方に取り残された人々”を救う為に集まったのが我々だ」

 

「そして今やその怒りは中()政府へと向けられ、反政府運動………いや、革命を計画していたのさ」

 

「尤も、“事”を起こす前にロージェノム軍が中国政府(政治局常務委員会)の連中を()ってしまった様だがな………」

 

民兵の様な姿をした中国人達………革命軍は、口々にそう言い放つ。

 

如何やら、見捨てられた地方の国民達が地下へと潜り、レジスタンス活動をしながら同じ様に残されていた人々を救出している内に、反政府軍へと発展を遂げた様だ。

 

「そんな組織が出来てたなんて………知らなかったわ」

 

「元々、この国じゃ“反政府運動”は厳しく規制されていたからな」

 

「だが今や、政府の目は地方にまで届かない。お蔭で反政府組織も作りたい放題、ってワケだ」

 

鈴が驚きながらそう言うと、革命軍がそう答える。

 

「成程、大体分かったわ。其れで私達を助けたのは、貴方達の戦力になって欲しいから?」

 

と、其処で楯無が勘繰る様にそう尋ねるが………

 

「其れは“俺達のリーダーの命令”だ」

 

革命軍の1人がそう答える。

 

「リーダーの?」

 

「その“リーダー”ってのは一体誰なの?」

 

「さっき、君達を此処まで招き入れた人物さ。そして、君も良く知っている筈だ………『凰 鈴音』」

 

「えっ?」

 

革命軍兵士の言葉に、鈴が戸惑いを浮かべると………

 

「………鈴………神美………」

 

そう言う呟きと共に、現在グレン団と革命軍兵士達が居る部屋の奥の方から、1人の兵士が現れる。

 

如何やら彼が、先程まで自分達をこの場所へと招いていた人物の様だ。

 

「!? 嘘っ!?」

 

「!?」

 

その兵士の姿を見て、鈴と神美が言葉を失う。

 

「!? 貴方は!?」

 

「オイオイ、マジかよ!?」

 

「ま、まさか!?」

 

一夏・弾・蘭も、驚きを露わにしている。

 

「成程な………アンタだったのか。道理で“聞き覚えの有る声”だと思ったぜ」

 

一方、神谷は納得した様子を見せると、1人不敵に笑う。

 

現れた人物、それは………

 

「久しぶりだな………元気そうで何よりだ」

 

鈴の父親であり、神美の元夫………『凰 炎彬(ヤンビン)』だった。

 

「お父………さん」

 

「アナタ………」

 

「えっ? お父さんって………?」

 

「鈴、お前の父親なのか?」

 

鈴と神美がそう呟いたのを聞いて、シャルと箒がそう声を挙げる。

 

一方、炎彬は………

 

「鈴、大きくなったじゃないか………料理の腕は上がったのか? 神美、お前は相変わらず美しいな」

 

久しぶりにあった娘と元妻に、気さくな笑顔を浮かべてそう言う。

 

「お父さん………」

 

「アナタァッ!!」

 

鈴が呆然としていると、神美がそう声を挙げて走り出し、炎彬に抱き着いた!!

 

「あ!………! お父さん!!」

 

其れを見た鈴は、一瞬躊躇する様な様子を見せたが、母に続く様に駆け出し、同じ様に炎彬に抱き着く。

 

「2人共、元気そうだな………安心したよ」

 

「アナタ………」

 

「お父さん!!」

 

朗らかな笑みを浮かべたままそう言う炎彬に、神美は更に強く抱き着き、鈴は徐々に声が嗚咽交じりに成り出す。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そんな凰一家の様子を、グレン団と革命軍は優しく見守っているのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に中()までもが壊滅した………

 

しかしその地下では、新たな組織が芽吹いていた。

 

その組織を率いていたのは、鈴の父・『凰 炎彬(ヤンビン)』

 

何故彼は革命軍を組織したのか?

 

そして、グレン団は占領された中()から如何やって脱出するのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

中国軍に包囲されたグレン団だったが………
ロージェノム軍はアッサリと約束を破り、中国軍を殲滅。
混乱の中で逃げ出したグレン団を救ったのは、反政府レジスタンスの革命軍。
そのリーダーが、鈴の父親だった。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第113話『………私達夫婦の………家族の仲を引き裂いたのは、中国政府なんです』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第113話『………私達夫婦の………家族の仲を引き裂いたのは、中国政府なんです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴の母親・凰 神美を人質に、彼女に中国へ戻る様に脅しを掛けた中()政府。

 

救出に向かったグレン団は、中国(政治局常務委員会)政府の罠に嵌ってしまう。

 

中国(政治局常務委員会)政府は、彼等の身柄を“取引材料”に自分達の身の安全を計ろうとしたが………

 

元より、“人間”と取引等する気は更々無かったロージェノム軍は、地方を見捨てて北京(首都)に集結していた中国(人〇解〇)軍を攻撃。

 

中国(政治局常務委員会)政府の人間達は皆殺しに遭い、中国(〇民〇放)軍も戦力を集中させていた事が仇となり、壊滅してしまう。

 

その混乱の最中(さなか)、神美を連れて脱出を計ったグレン団だったが、レッドショルダー達の激しい追撃を受ける。

 

しかし、其処で………

 

グレン団は“何者か”の手引きによって、北京の地下に造られていた“秘密の地下通路”へと案内される。

 

其処は、地方を見捨てて“自分達の身の安全”ばかりを守っていた中国(政治局常務委員会)政府に代わって国民を守り………

 

更には中国(政治局常務委員会)政府への革命を目論んでいた義勇兵達………“革命軍”が集結していた。

 

そして、そのリーダーを務めていたのは………

 

鈴の父親であり、神美の元夫………『凰 炎彬(ヤンビン)』であった。

 

 

 

 

 

中国・北京の地下………

 

革命軍のアジト………

 

「其れにしても小父(おじ)さん。如何して、小父さんが革命軍のリーダーなんかに?」

 

鈴と神美が落ち着いたところで、一夏が改めて炎彬にそう尋ねる。

 

「………私と神美が離婚した事は知っているね? 一夏くん」

 

炎彬は一瞬沈黙した後、一夏の方を向きながらそう言う。

 

「あ、ハイ………」

 

「そう言や、何でんな事になっちまったんだよ? 俺にはそんなに仲の悪い夫婦にゃ見えなかったぜ?」

 

其れを聞いた一夏が、コレ以上聞くべきか一瞬躊躇するが、神谷は遠慮無しにそう尋ねた。

 

「ちょっ!? アニキ!」

 

「其れはそうだろう………“離婚は()()()()()決まった事では無かった”のだからな」

 

そんな神谷の態度に一夏が慌てるが、炎彬は構わずそう答える。

 

「!? 其れは如何言う事ですの!?」

 

不穏な予感を感じ取ったセシリアが声を挙げ、他のメンバーも注目する。

 

「………私達夫婦の………“家族の仲を引き裂いた”のは、中()政府なんです」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

炎彬に代わる様に神美がそう答えると、グレン団の一同は驚愕を露わにした。

 

「中()政府からって………」

 

「ホントなのか!? 鈴!!」

 

シャルがそう呟き、箒が鈴に尋ねる。

 

「………本当よ」

 

鈴は、苦々し気な表情で短くそう答える。

 

政府(政治局常務委員会)が実施したIS適性検査で、鈴音は優秀な適正を示しました」

 

「当然、政府(政治局常務委員会)は鈴音を代表候補生にしようと考え、中国への帰還を命じた。だが私達は、日本を“第2の故郷”と思って既に日本国籍を取得しており、帰国する積りは無かった」

 

神美と炎彬がそう語り出す。

 

「しかし、其れに激怒した中国(政治局常務委員会)政府は“強引な手段”を取って来たのです」

 

「強引な手段って………?」

 

「嫌がらせとかを受けたんですか?」

 

弾と楯無がそう尋ねるが………

 

「そんな“生易しいモノ”じゃない………私と神美は()()され掛けたんだ」

 

「!? あ、暗殺!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

炎彬から齎された思いも寄らぬ言葉に、グレン団一同はまたも驚愕する。

 

「ああ、時には事故を装い………時には()()()殺されそうになった。何とか生き延びていたが、私はコレ以上“神美と鈴音を巻き込む事が出来ない”と悟ってしまった」

 

「其れで………離婚を?」

 

簪がそう問うと、炎彬は無言で頷いた。

 

「私が“代表候補生として()()()()()を示せば、また前の様な生活を送らせてやる”って言われてたの。こんな情勢になって有耶無耶になったと思ってたのに………まさか“こんな事”に使って来るなんて」

 

「鈴音………ゴメンナサイ………私達の所為(せい)でずっと苦労を掛けて………」

 

そう言う鈴の身体を、神美は後ろから優しく抱き締める。

 

「しかし、納得出来なかった私は密かに中国へと戻って、同じ様に政府のやり方に不満を持つ者達を集めて革命軍を組織したのだ」

 

「其れが“ロージェノム軍へのレジスタンス”になるとは思ってもいなかったけどな」

 

炎彬がそう言うと、革命軍兵士の1人が皮肉交じりにそう言う。

 

「………小父さん達はコレから如何するんですか?」

 

一夏がオズオズとした様子でそう尋ねる。

 

「そうだな………中国(政治局常務委員会)政府が倒れた今、我々革命軍がこの国の守り手だ。逃げ延びた国民を保護しつつ、ロージェノム軍に対しレジスタンス活動で抵抗する積りだ」

 

と、炎彬がそう答えていた時………

 

「や、炎彬さん! 大変です!!」

 

連絡員と思しき革命軍兵士が、慌てた様子で一同が居るフロアに飛び込んで来た!

 

「!? 如何した!? 何事だ!?」

 

「重慶市が攻撃を受けています! 敵の狙いは、恐らく我々革命軍の本部と思われます!!」

 

「!? 何だと!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

連絡員の報告に、炎彬とグレン団は驚きを示す。

 

「クソッ! ロージェノム軍は政府の動きだけで無く、我々の動きまで読んでいたと言うのか!?」

 

「如何しますか、炎彬さん!? 本部の機能自体は移転が可能ですが、其れでも本部の同志達の撤退時間を稼がない事には………」

 

「なら俺達に任せなっ!!」

 

炎彬と連絡員がそう言い合っていると、神谷がそう口を挟んで来た。

 

「!? 神谷くん!? しかし………」

 

「舐めるなよ! グレン団は“受けた恩と借りは必ず返す”! そして何より!! アイツ等を許しちゃ措け無えからな!! 行くぞ、お前等っ!!」

 

「「「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」」」

 

神谷の呼び掛けに、一夏達は勇ましく返事を返す。

 

「………すまん。頼むぞ」

 

一瞬、躊躇する様子を見せた炎彬だったが、やがて神谷達の意思を汲み取ってそう依頼するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中国・重慶市………

 

北京と同じく、この街も火の海となっていた。

 

まるで東京大空襲の様に、空一面を覆い尽くさんばかりの飛行型ガンメンが、重慶市に雨の様に爆弾を投下している。

 

標的は、重慶市の地下に在る革命軍本部である。

 

重慶市に駐屯していた中国正規(人〇解〇)軍は、北京空襲の際に政府(政治局常務委員会)(〇民〇放軍)中枢の人間が全て死んでしまって指揮系統に混乱が生じていた為、碌な抵抗が出来ず、中には街を見捨てて逃げ出す兵士の姿も有った。

 

そんな中、革命軍は逃げ遅れていた市民の避難と本部機能の移転を行っているが、奇襲攻撃を受けた事による初動の遅れが大きく不利に働いている。

 

「よおし! 爆撃はこんなもので良いだろう!」

 

「レッドショルダー! 残っている人間共を掃討しろ!!」

 

そんな革命軍を嘲笑うかの様に、飛行型ガンメン部隊は輸送機からレッドショルダー達を降下させる。

 

掃討戦に移る積りらしい。

 

「ヒャッハー! 殺しだ殺しだぁーっ!!」

 

「戦争の醍醐味は掃討戦よぉ! 1人残らず皆殺しにしてやるぜぇ!!」

 

相変わらず世紀末な台詞を吐きながら、落下傘で次々に降下を始めるレッドショルダー達。

 

最早、彼女達には同じ“人間”であるという自覚は無く、只管命じられたままに戦う戦争の(イヌ)と化していた。

 

「ヒャッハーッ! 汚物は消毒だぁーっ!!」

 

火炎放射器を持ったレッドショルダーが、そう叫びながら燃え盛る街に更に火を掛けて行く。

 

と………

 

そのレッドショルダーに、爆音と共に飛んで来た銃弾が多数命中!!

 

「!? ギャアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

全身に弾丸を浴び、絶対防御が発動してエネルギーがゼロになったレッドショルダーは自爆装置によって大爆発。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その爆発したレッドショルダーに、他のレッドショルダー達の視線が集まると………

 

「…………」

 

燃え盛る炎を背に、銃口から硝煙が立ち昇らせているヘヴィマシンガンを構えた簪が姿を現す。

 

其れに続く様に、グレンラガンを筆頭に、グレン団の面々も姿を現した。

 

「! グレン団!!」

 

「やいやい、テメェ等!! コレ以上の好き勝手は! 例えお天道様が見逃しても、俺達グレン団が! あっ! 見逃しゃしねえぜぇっ!!」

 

驚くレッドショルダー達に、グレンラガンが見得を切りながらそう言い放つ。

 

「ほざけぇっ! ()っちまえっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

レッドショルダー達はそう言い返し、一斉にグレン団へと殺到する。

 

「神谷くん! 地上は私達に任せて!!」

 

「皆は空の敵をお願い!!」

 

と、楯無とファイナルダンクーガ(ティトリー)がそう言って前に出ると、簪・フラン・グラパール・弾、グラパール・蘭も前へと出る。

 

「良し! 地上は任せたぜ!!」

 

そう返事を返すと、グレンラガンはグレンウイングを展開して宙へ舞った!!

 

「頼むぞ、皆!」

 

其れに続く様に一夏・箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラも飛び上がる!

 

「よ~し! 其れじゃあ、行こうか!!」

 

其れを見送った後、楯無のその言葉と共に、地上担当班はレッドショルダーとの交戦を開始するのだった。

 

 

 

 

 

更識姉妹………

 

「上々の獲物だぜ!!」

 

ショルダーミサイルガンポッドを構えたレッドショルダーが、簪に向かって次々にミサイルを放つ。

 

「…………」

 

飛来するミサイルを確認した簪は、ジェットローラーダッシュで崩れたビルの瓦礫の合間を縫う様に走り抜ける。

 

レッドショルダーが放ったミサイルは、全て瓦礫に命中し、簪には当たらなかった。

 

「チイッ! ちょこまかと!!」

 

再び簪をロックオンしようとする、ショルダーミサイルガンポッドを構えたレッドショルダーだったが………

 

「………!!」

 

其処で、簪はジャンプ台の様になっていた瓦礫を見付け、其れを利用して跳躍!!

 

ショルダーミサイルガンポッドを構えたレッドショルダーの頭上を取る!!

 

「!? なっ!?」

 

「遅い………」

 

驚くショルダーミサイルガンポッドを構えたレッドショルダーに向かって、頭上からヘヴィマシンガンの弾丸を浴びせる!!

 

「!? ギャアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

ダメージ限界値を突破したレッドショルダーのISの自爆装置が起動。

 

木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 

「………!!」

 

簪は着地すると同時に180度ターンし、瓦礫の一角に右脇腰の連装ミサイルポッドのミサイルを叩き込む!!

 

「「!? ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」

 

隠れて不意を衝こうとしていたレッドショルダー2体が、ミサイルの爆発と自爆装置の爆発で消し飛ぶ。

 

「へへっ! 馬鹿め! 未だ居るぜ!!」

 

しかしその瞬間、簪の背後にロックガンを構えたレッドショルダーが出現。

 

既に、ロックガンのエネルギーはチャージされている。

 

「消し飛べぇっ!!」

 

と、ロックガンを構えたレッドショルダーが引き金を引こうとした瞬間!!

 

瓦礫の合間を縫う様に伸びて来た蛇腹剣の刃が、発射直前だったロックガンを貫いた!!

 

「!? ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

ロックガンは忽ち暴発し、誘爆で自爆装置が作動したレッドショルダーも消し飛ぶ。

 

「ふふ~ん」

 

その蛇腹剣………ラスティー・ネイルの持ち主である楯無は、ドヤ顔を浮かべる。

 

「このアマァッ!!」

 

「くたばれぇっ!!」

 

と、其れを見た別のレッドショルダー達が、ブラッディライフルを構えて弾幕を張って来る。

 

「わっ!? とっとっとっ!?」

 

足元を銃弾が掠め、楯無は慌てて瓦礫の陰へと隠れる。

 

其れでも、レッドショルダー達は容赦無く弾丸を浴びせる。

 

楯無が隠れている瓦礫が、徐々に削られて行く。

 

「もう~、しつこいな~」

 

すると楯無は、アクア・クリスタルから出ていたナノマシン入りの水を手に取り、まるで粘土の様に捏ねて形を整える。

 

「ハイ、良い物あげるよ!」

 

そしてボール状に固めたソレを、弾幕を張っているレッドショルダー達に向かって投げ付けた!!

 

「!? 散れっ!!」

 

「残念! 逃げられないよ!!」

 

慌てて散開するレッドショルダー達だったが、その瞬間に楯無は指を鳴らす。

 

次の瞬間、固められていた水が大爆発!

 

一瞬にしてレッドショルダー達を呑み込み、蒸発させる。

 

「ふっふっふ~、名付けて、『アクア・グレネード』ってとこだね」

 

「…………」

 

再びドヤ顔を浮かべる姉・楯無の姿を後目に、ヘヴィマシンガンを掃射する簪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファイナルダンクーガ(ティトリー)&フラン………

 

「やぁってやるニャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

勇ましい掛け声と共に、重量感溢れる拳をレッドショルダーの1人へと叩き込むダンクーガ。

 

「!? ぐがああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

ダンクーガの拳を叩き込まれたレッドショルダーは、木の葉の様にブッ飛び、そのまま瓦礫の山に叩き付けられて爆散する。

 

「このぉっ!」

 

「“畜生”の分際でぇっ!!」

 

ハンドロケットランチャーを持ったレッドショルダーと、ソリッドシューターを持ったレッドショルダーが、ロケット弾と砲弾をダンクーガに見舞う。

 

「!!」

 

しかし、ダンクーガはそれに気付くと、背部のバーニアを噴かして浮き上がり………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

ロケット弾と砲弾を躱すと、低空飛行でレッドショルダー達に突っ込む。

 

「うおっ!?」

 

「突っ込んで来やがる!?」

 

突っ込んで来るダンクーガに、ハンドロケットランチャーを持ったレッドショルダーと、ソリッドシューターを持ったレッドショルダーは、次々にロケット弾と砲弾を見舞う。

 

しかし、近場に着弾してもダンクーガは全く怯まずに突っ込んで行く。

 

「! チイッ!!」

 

「うおっ!? テメェッ!?」

 

と、肉薄されそうになった瞬間、ハンドロケットランチャーを持ったレッドショルダーが、ソリッドシューターを持ったレッドショルダーを前に押し出した!!

 

「断空剣ッ!!」

 

そのソリッドシューターを持ったレッドショルダーに、ダンクーガは容赦無く断空剣の横一文字斬りを叩き込む!!

 

「!? ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

ソリッドシューターを持ったレッドショルダーは、腰の辺りから上半身と下半身に分断されたかと思うと、自爆装置によって爆散する。

 

「貰ったぁっ!!」

 

と、攻撃直後で隙を晒したダンクーガに、ハンドロケットランチャーを持ったレッドショルダーが狙いを定める!

 

が!!

 

「…………」

 

其処へ、ローラーダッシュでフランが突撃して来た!!

 

「!? ぐがぁっ!?」

 

ショルダータックルを喰らい、瓦礫の壁に叩き付けられるハンドロケットランチャーを持ったレッドショルダー。

 

「クソがぁっ!!」

 

直ぐに反撃しようとしたが、フランは既にパイルバンカーの発射態勢に入っている。

 

「!?」

 

「貴様は“人間のクズ”だな………」

 

思わず硬直するレッドショルダーに向かって、フランは侮蔑を込めてそう言い放つとパイルバンカーを発射した!!

 

「!? ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

身体とISの中核部を同時に貫かれたレッドショルダーは、汚い断末魔と共に動かなくなる。

 

「…………」

 

そしてフランが離脱すると、地面にバタリと倒れて爆発四散するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラパール・弾&グラパール・蘭………

 

「飛竜! 三段蹴りぃっ!!」

 

グラパール・弾がそう叫んで、前方宙返りを決めながら跳躍!!

 

レッドショルダーの1人の顔に、飛び蹴りを叩き込む!!

 

「ぐばっ!?」

 

「おおりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

するとグラパール・弾は、キックの反動を利用して再跳躍。

 

今度は錐揉み回転を決めながら、別のレッドショルダーの顔にキックを決める!!

 

「ガバッ!?」

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

その際の反動を利用して、またも跳躍。

 

今度は錐揉み前方宙返りを決めて、またも別なレッドショルダーの顔にキックを決めた!!

 

「ゲボラッ!?」

 

「ホアチャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

着地したグラパール・弾が、ブ〇ース・リーの様な掛け声と見得切りをした瞬間、キックを叩き込まれたレッドショルダー達がバタバタと倒れる。

 

そして一瞬間を置いて爆発・四散した!!

 

「クウッ!!」

 

「ホラホラ、如何した!?」

 

「逃げ回ってるだけかぁっ!?」

 

一方、グラパール・蘭の方は多数のレッドショルダー達に追われている。

 

瓦礫の合間を縫う様にして逃げるグラパール・蘭だが、スコープドッグやベルゼルガの様にローラーダッシュ移動能力を持つレッドショルダー達を中々引き離せない。

 

と、とうとう逃げ回っている内に袋小路へと嵌ってしまう。

 

「もう逃げ場は無いぜ!」

 

「観念しな! 楽には死なせ無ぇぜっ!! ヒャハハハハハッ!!」

 

下衆(ゲス)な笑いを浮かべて、袋小路のグラパール・蘭に一斉に武器を向けるレッドショルダー達。

 

しかし………

 

「………良し。上手く集められた」

 

途端に、グラパール・蘭は余裕の態度でそう言い放った。

 

「ああん?」

 

「何言ってんだ、テメェ?」

 

グラパール・蘭の態度を理解できず、首を傾げるレッドショルダー達だったが………

 

「リーロンさん! パワーミサイルMAXを!!」

 

[OK!]

 

次の瞬間、グラパール・蘭がそう叫んで巨大なミサイルランチャーを転送させる!!

 

優に30発は内蔵していそうなミサイルランチャーを、グラパール・蘭は掲げる様にして構える。

 

「!? んなぁっ!?」

 

「そんなのアリかよぉっ!?」

 

慌てて逃げ出すレッドショルダー達だが、時既に遅し!!

 

「発射あぁっ!!」

 

グラパール・蘭の叫びと共に、パワーミサイルMAXが火を噴いた!!

 

爆音と共に次々にミサイルが吐き出され、レッドショルダー達へと降り注ぐ!!

 

「ギャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

「オギャアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

汚い断末魔と共に、ドンドンと消し飛んで行くレッドショルダー達。

 

だがミサイルは、容赦無く次々と降り注ぐ。

 

「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

予想以上の威力だったのか、放っているグラパール・蘭も思わず悲鳴を挙げる。

 

其れでも引き金(トリガー)から指を離していないのは流石と言うか、何と言うか………

 

やがてミサイルの残弾が尽きると、其処には………

 

辺り一面の更地と、レッドショルダー達のISの残骸が転がっている。

 

「………やり過ぎたかな?」

 

自分でやっときながら、思わずそう呟くグラパール・蘭であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上に残った一同が奮戦している頃………

 

空でも、グレン団は奮戦している。

 

ラウラ&セシリア………

 

「スクランブルカッターッ!!」

 

「獣人に栄光有れええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

擦れ違い様に、カトラ・ゲイを背の翼で斬り裂く。

 

「このぉっ!!」

 

其処へ、上空からモウキーンが爆弾を投下する。

 

直撃を喰らい、爆発に包まれるラウラだったが………

 

「その程度の攻撃!!」

 

爆煙が晴れると、無傷の姿を現した。

 

「クソッ! もっと爆撃しろ!!」

 

モウキーンはそう言い放ち、後続のモウキーン部隊と共に、更なる爆撃を加えようとしたが………

 

「グレートタイフーンッ!!」

 

其処でラウラは、グレートタイフーンを放つ!!

 

「!? うおわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

強烈な突風でコントロールを失ったモウキーン部隊は、互いに激突。

 

爆弾が誘爆して次々に消し飛んだ!!

 

七面鳥撃ち(ターキーショット)ですわ!」

 

ディフェンスプレートを構えて、専用バスターライフルを撃ちながら飛行しているセシリア。

 

その周囲には、ISビットがビームライフルとなっているブルー・ティアーズを構え、フォーメーションを取りながら飛んでいる。

 

ISビットとの巧みなコンビネーション攻撃の前に、飛行型ガンメン部隊が次々に撃墜されていく。

 

「オノレェッ! 舐めるなぁっ!!」

 

と、1機のカトラ・ゲイがブースターを噴かして一気にセシリア目掛けて突っ込んだかと思うと、人型に変形して殴り掛かる。

 

「フッ」

 

しかし、セシリアは慌てず右手の専用バスターライフルをビームジャベリンに持ち替え、格闘を仕掛けて来たカトラ・ゲイを貫いた!

 

「ギャアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

「貰ったぁっ!!」

 

爆散するカトラ・ゲイだったが、その隙を衝いて別のカトラ・ゲイが背後から仕掛ける。

 

だが!!

 

「!? 其処ぉっ!!」

 

セシリアの額の辺りに電流の様な物が走ったかと思うと、ディフェンスプレートを装備したまま左手でハイパービームソードを抜き、振り向き様に背後から仕掛けて来ていたカトラ・ゲイを斬り捨てた!!

 

「ば、馬鹿なああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そう断末魔を残して、カトラ・ゲイは爆散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏&箒………

 

「超級覇王! 電・影・弾ーーーーーーーーっ!!」

 

一夏がそう叫びを挙げたかと思うと、身体が気のエネルギーに包まれ、そのエネルギーが渦を巻いて弾丸の様な姿となる。

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

その状態で、敵軍の中へと突っ込む一夏。

 

一夏が通り過ぎると、次々に爆散して行く飛行型ガンメン。

 

「ぶわぁくはつっ!!」

 

やがて上空に昇って、そう言う台詞と共にポーズを決めたかと思うと………

 

一際巨大な爆発が起こり、飛行型ガンメン部隊の大半が消し飛ぶ!!

 

「………一夏の奴、最近益々人間離れして来ている様な………」

 

そんな一夏の姿を見て、箒は思わずそんな事を呟きながら冷や汗を流す。

 

「死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

と、そんな箒に向かって背後から人型に変形したカトラ・ゲイが殴り掛かって来る!!

 

「!? しまっ………」

 

反応が遅れ、迎撃が間に合わない箒。

 

と、其処で!!

 

「ゴッドスラッシュッ!!」

 

先程まで“少し離れた場所で”戦っていた筈の一夏が現れ、実体剣状態の雪片弐型でカトラ・ゲイを斬り捨てた!!

 

「! 一夏!?」

 

「箒! 大丈夫か!?」

 

一夏の出現に箒が驚いていると、何とその背後から()()一夏が声を掛けて来る!!

 

「なっ!?」

 

「ボーッとしてるな!!」

 

「やられちまうぞ!!」

 

更に、別の一夏が2人現れて箒にそう言う。

 

如何やら、分身殺法・ゴッドシャドーを使った様だ。

 

「織斑 一夏! 此処で死ねぇっ!!」

 

1機のガンメンの台詞と共に、多数の飛行型ガンメンが一夏達と箒の周りを取り囲む。

 

「そうは行くか、ってんだ!!」

 

「易々と()られる織斑 一夏様じゃないぜ!!」

 

分身している一夏達はそんな事を言いながら、箒を守る様に周りに展開する。

 

(あわわわっ!? 一夏が!? 一夏がいっぱい………!?)

 

“自分の周りを()()()()()が取り囲む”と言う状況に、箒は思わず思考がショートしてしまいそうになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンラガン&シャル………

 

「喰らえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンが雄叫びを挙げると、その身体が螺旋力で緑色に輝き、そして全身至る所に在るドリルの出口から、無数の小さなドリルミサイルが出現!!

 

そのドリルミサイルを、何処かの伝説巨人の様に全方位に向けて発射する!!

 

「「「「「「「「「「ロージェノム様! バンザアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーイッ!!」」」」」」」」」」

 

断末魔の叫びと共に、ドリルミサイルの直撃を受けた飛行型ガンメン達が次々に爆散!!

 

グレンラガンの周囲に、爆炎の花々が咲き誇る!!

 

「怯むなぁっ! 一斉に掛かれぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

しかしその爆炎を突っ切って、新たな飛行型ガンメン部隊がグレンラガンに殺到する。

 

「反重力ストームッ!!」

 

だが、その新たな飛行型ガンメン部隊にカラフルな光線が命中したかと思うと、飛行型ガンメン達はまるで重力を遮断された様に上空へと舞い上がる。

 

「ダブルハーケンッ!!」

 

そして、上空へと纏まって舞い上がった飛行型ガンメン部隊に、ダブルハーケンを投擲するシャル。

 

高速回転しながら飛んだダブルハーケンが、纏まっていた飛行型ガンメン部隊を一斉に真っ二つにした!!

 

「「「「「「「「「「死んじゃうのねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

コミカルな断末魔と共に、真っ二つにされた飛行型ガンメン部隊は爆散する。

 

「神谷!」

 

「シャル! 鈴の奴は如何した!?」

 

其処でシャルはグレンラガンに合流し、グレンラガンはシャルにそう問い掛ける。

 

「えっと………! あ! あそこ!!」

 

と、そう言ってシャルが指差した先には、単身ダイガンテンへと向かう鈴の姿が在った。

 

「あの野郎! 親玉を独り占めする気か!!」

 

「無茶だよ! 単独でダイガンテンに立ち向かうなんて危険過ぎる!!」

 

グレンラガンとシャルは、直ぐに鈴の援護に向かおうとするが………

 

「グレンラガン! 覚悟おおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

「螺旋王様の為にーーーーーーーっ!!」

 

「クッソッ! 邪魔だ、お前等ぁっ!!」

 

新たに現れた飛行型ガンメン部隊に、行く手を塞がれる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ダイガンテンへと向かった鈴は………

 

「正直、この国には良い思い出なんて無いわよ………でも! こんな事するアンタ達を許しちゃおけないわ!!」

 

連結した双天牙月を右手に握り、ダイガンテンへと向かって行く鈴。

 

「来たか、グレン団」

 

するとその前に、細身の人型ガンメンが立ちはだかった。

 

両肩から伸びた刃状の翼と両脚にトビダマを装備しており、両腕は伸縮自在な多関節アームで、指先は鋭利な爪となっている。

 

「!? アンタは!?」

 

「四天王が1人、神速のシトマンドラ様のカスタムガンメン! 『シュザック』よ!!」

 

驚く鈴に、カスタムガンメン………『シュザック』からシトマンドラの声が響き渡る。

 

「態々出て来てくれるとは、手間が省けたわ! アンタを倒してお終いよ!!」

 

「黙れ、口だけの下等な猿めが! 貴様如きが我がシュザックに敵うものか!!」

 

双天牙月を構え直す鈴に向かって、シュザックは見下した様子でそう言い放つ。

 

「言ったわね! 直ぐにスクラップにしてやるわよ!!」

 

鈴はそう吠えると、シュザックに突撃して行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

鈴の父・炎彬と再会したグレン団。
彼の口から離婚の真実を聞かされる。
そんな中で、革命軍の存在も掴んでいたロージェノム軍が重慶市を襲撃。
革命軍の撤退を助ける為にグレン団も参戦。
その中で、鈴がシトマンドラのカスタムガンメン・シュザックと相対する。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第114話『必神火帝! 天魔降伏! 龍虎合体!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第114話『必神火帝! 天魔降伏! 龍虎合体!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロージェノム軍によって追い詰められた中()が、鈴の母親・凰 神美を人質にして、彼女に中()へ戻る様に脅す。

 

救出に向かうグレン団だが、中国(政治局常務委員会)政府の要人達は“自分達の身の安全と引き換えに、彼等の身柄をロージェノム軍へ渡す”と言う取引をしており、罠を張って待ち構えていた。

 

だが、そんな取引の約束を守る筈も無く、奇襲によって中国(政治局常務委員会)政府の要人達は集結していた中国(人〇解〇)軍と共に全滅。

 

グレン団もあわやという状況に陥ったが、中()の地下で反政府運動を行いつつロージェノム軍に対してレジスタンスをしていた革命軍に助けられる。

 

そしてその革命軍のリーダーこそ、鈴の父親であり、神美の元夫、凰 炎彬(ヤンビン)であった。

 

中国(政治局常務委員会)政府によって家族の仲を引き裂かれた彼は、密かに中()へと渡って地下へ潜り、自分達を引き裂いた中国(政治局常務委員会)政府を倒す為に革命軍を組織したのだ。

 

鈴の隠された事情に驚くグレン団だったが、そんな中でロージェノム軍が革命軍の本部が在る重慶市を攻撃。

 

本部の同志達と市民達の撤退時間を稼ぐ為、グレン団は出撃。

 

そして、今………

 

鈴と四天王が1人『シトマンドラ』の駆る『シュザック』が対峙する………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重慶市・上空………

 

鈴VSシュザック………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

連結した双天牙月を、シュザック目掛けて投擲する鈴。

 

「クケェーッ!!」

 

シュザックは奇声と共に、飛んで来た双天牙月を手刀で弾く!!

 

「クッ! コレなら如何!?」

 

戻って来た双天牙月をキャッチすると、鈴は龍砲を放つ。

 

「無駄だっ!!」

 

だがシュザックは躱したかと思うと、一瞬にして鈴の背後に回り込む!

 

「!? 速いっ!?」

 

「貴様は、我がシュザックの影すら捉えられぬわぁっ!!」

 

鈴が振り向くより早く、シュザックが蹴りを叩き込む!!

 

「キャアアッ! クウッ! こんのぉっ!!」

 

弾き飛ばされながらも如何にか体勢を整え、シュザックへ双天牙月で斬り掛かる鈴。

 

「遅いっ!!」

 

だが、刃が当たると思われた瞬間にシュザックは消える。

 

「!? 消えた!?………キャアッ!?」

 

鈴がそう言った瞬間、背後から蹴りが叩き込まれる。

 

「フハハハハッ! 見たかメス猿め! コレが貴様等人間とこのシトマンドラ様の差だ!!」

 

何時の間にか、またも鈴の背後に現れたシュザックがそう言い放つ。

 

「こんのぉっ! 誰がメス猿よっ!?」

 

と、鈴はでんぐり返りする様に回転しながら体勢を立て直すと、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動!!

 

一瞬にしてシュザックの懐に潜り込む。

 

「むうっ!?」

 

「貰ったぁっ!!」

 

そのままシュザックの細い胴体を叩き斬ろうと、双天牙月を横薙ぎに振るう!!

 

だが!!

 

「フハハハハッ! 其れで隙を衝いた積りか!?」

 

シュザックがそう言い放ったかと思うと、シュザックの胴体部に円形の回転ノコギリが出現!!

 

「なっ!?」

 

鈴が慌てて双天牙月を止めようとしたが間に合わず、双天牙月の刃の片方が、回転ノコギリ『堂々たる大庖丁(マジェスティック・ビッグ・チョッパー)』でバラバラにされる。

 

「クウッ!?」

 

「未だ終わりでは無いぞ!?」

 

怯んだ鈴に、シュザックは更に両手を『堂々たる大庖丁(マジェスティック・ビッグ・チョッパー)』に変え、斬り付ける!!

 

「!? ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

右腕パーツを斬り裂かれ、更に左の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が真っ二つにされて爆発する。

 

「クウッ!!」

 

黒煙を曳きながら墜落し掛けた鈴だったが、何とか持ち直す。

 

右腕パーツの斬り裂かれた部分からはスパークが走っているが、如何にか動いている。

 

「しぶとい奴め。今度こそ終わりにしてやる」

 

その鈴の姿を見たシュザックは、両手の堂々たる大庖丁(マジェスティック・ビッグ・チョッパー)を構える。

 

「!!」

 

思わず身構える鈴。

 

と、その時!!

 

地上から対空砲火が撃ち上がって来て、シュザックの周りに弾幕が張られる!!

 

「!? 何っ!?」

 

「!? コレは!?」

 

驚くシュザックと、地上を見下ろす鈴。

 

その地上では………

 

「撃て撃て撃てぇーっ!!」

 

「グレン団を掩護しろーっ!!」

 

対空砲を設置した革命軍が、雄々しい叫びを挙げながら対空砲火を撃ち上げていた。

 

「アレは、革命軍の!?」

 

「オノレェ! 人間如きが、生意気なぁっ!!」

 

驚く鈴と、怒りを露わにするシュザック。

 

とその時!!

 

1発の機銃弾が、シュザックの羽根の部分に命中!!

 

損傷は与えられなかったが、命中部分に軽く傷が付く。

 

「!? このシュザックに傷を!! オノレェッ!! 先に貴様達から始末してやるっ!!」

 

途端にシュザックは激昂した様子を見せ、人型から巨大な顔状の形態に変形する。

 

そして、全身から無数の楔状の刃を出現させる。

 

「破滅の大羽(デモリッション・プルーム)ッ!!」

 

変形したシュザックがそう叫んだかと思うと、その刃が次々に撃ち出され、地上へ降り注ぐ!!

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

地上から対空砲火を撃ち上げていた革命軍は、次々に刃の餌食となって、串刺しにされて行く。

 

「!! 何やってんのよっ!?」

 

その悲鳴を聞いた鈴が我に返り、変形したシュザックに体当たりを見舞う。

 

「ぐあっ!? 貴様ぁっ!! 貴様もこのシュザックに傷をおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

途端に、変形したシュザックは破滅の大羽(デモリッション・プルーム)を鈴に放つ。

 

「!! ぐううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!」

 

防御姿勢を取って耐える鈴だが、シールドエネルギーは見る見る内に削られて行く。

 

「死ね死ね死ね死ね死ねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

変形したシュザックの攻撃は絶え間無く続けられ、鈴は脱出出来ない。

 

と、その時!!

 

1発のミサイルが、変形したシュザックに命中する!!

 

「!? ぐああああっ!?」

 

「人の娘に何をするっ!!」

 

ミサイルを放ったのは、QW-2を構えている炎彬だった。

 

「! お父さん!!」

 

「猿めがぁっ!! 貴様の様な下等生物が我がシュザックをぉっ!!」

 

すると変形したシュザックは、炎彬目掛けて巨大な刃を放つ!!

 

「!!」

 

「危ない、お父さん!!」

 

咄嗟に、鈴は刃の先へと回り、自らの身体を盾にする!!

 

巨大な刃が、鈴の身体を貫く!!

 

「ガハッ!?」

 

途端に、鈴は脱力したかの様に失速。

 

そのまま地面へと叩き付けられ、大爆発を起こした!

 

「!! 鈴ーーーーーーーーっ!!」

 

「!? そんなっ!?」

 

「まさかっ!?」

 

「オイ、鈴! 嘘だろ!? 嘘だって言えよっ!!」

 

その光景を見た炎彬が絶叫し、グレン団のメンバーにも動揺が走る。

 

「フハハハハハハッ! 愚か者めがぁっ!! 自分の立場を弁えぬからそういう目に遭うのだ!! ハハハハハハハッ!!」

 

そんなグレン団を尻目に、シュザックは高笑いを挙げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、墜落した鈴は………

 

(熱い………私………死んじゃったの………?)

 

炎の中、朦朧とする意識でそう思う鈴。

 

(よりによって………“あんな奴”に()られるなんて………アタシも………ヤキが回ったわね)

 

自嘲する様に鈴はそう思う。

 

(もう1度………お父さんとお母さんと………一緒に暮らしたかったなぁ………)

 

最後にそう思うと、鈴は意識を手放そうとする。

 

すると………

 

(汝………人界の救済を望むや?)

 

突然頭の中に、そう言う声が聞こえて来た。

 

(!? 誰!?)

 

その声で、鈴の意識は急激に回復する。

 

(我、汝に問う………人界の救済を望むや?)

 

すると再び声が響いて来る。

 

(誰よ!? 一体誰なの!?)

 

(我は(いにしえ)より人界を守護する者なり………()()()()()()()()()………()()“我は其れに応えた”………)

 

(螺旋の力? 螺旋力の事?)

 

(我が使命は“人界に仇為す百邪を退け、人界を護ること”也………)

 

(…………)

 

謎の声に聞き入る鈴。

 

(汝、我等が(あるじ)となる資格有り………汝、人界の救済を望まば………我、神体を以て汝の意を遂げん………我、汝に問う………人界の救済を望むや?)

 

(当たり前よ! このアタシを誰だと思ってんの!!)

 

(ならば、唱えよ………必神火帝………天魔降伏………龍虎合体)

 

「必神火帝! 天魔降伏! 龍虎合体!!」

 

と、鈴がそう叫んだ瞬間!!

 

その身体は緑色の光………螺旋力に包まれた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、グレン団達は………

 

「テメェッ! よくも鈴をぉっ!!」

 

シュザックに向かって、怒りを露わに雪片弐型を向ける一夏。

 

「安心しろ。直ぐに貴様達も同じ所に送ってくれるわぁっ!!」

 

そんな一夏を挑発する様に、シュザックはそう言い放つ!

 

「何をぉっ!!」

 

一夏がシュザックに向かって行こうとした瞬間!!

 

「オイ、待て! アレを見ろ!!」

 

“何か”に気付いたグレンラガンが、そう声を挙げる。

 

「「「「「!?」」」」」

 

「何っ!?」

 

その声にグレン団とシュザックの注目が集まった時!!

 

鈴が墜落した場所から、緑色の光球が浮かび上がって来た!!

 

光球は、そのままシュザックの前に立つ。

 

「ぬううっ!?」

 

シュザックが身構えると………

 

光球を突き破る様にして、両手が出現。

 

そのまま光球を弾き飛ばし、姿を露わにする!!

 

其れは、背に翼を生やし、鱗の様な装甲と先端に宝玉の付いた尻尾を生やした、青いカラーリングのスラリとしたシルエットのISを纏った鈴の姿だった!!

 

「! 鈴!!」

 

「無事だったのか!?」

 

「そのISは………! ひょっとして!?」

 

一夏・箒・シャルが、その鈴の姿を見て声を挙げる。

 

「そう………コレが第二形態移行(セカンド・シフト)したアタシのIS………その名も! 無敵龍! 『龍虎王』よ!!」

 

そんな中、第二形態移行(セカンド・シフト)した甲龍………『龍虎王』を纏った鈴は、そう声を張り上げる。

 

するとその瞬間、空に暗雲が立ち籠め、稲光が発生したかと思うと………

 

稲妻が、『我激燃超機人 無敵蒼龍 龍虎王』の文字を描き出した!!

 

「ヒューッ! イカスじゃねえか!!」

 

「龍虎王だと!? 小癪な!! 姿が変わったからと言って、私に勝てると思うなっ!!」

 

その龍虎王の姿に、グレンラガンが思わずそう囃すと、人型に戻ったシュザックが龍虎王に突撃する!

 

「今度こそ細切れにしてくれる! 堂々たる大庖丁(マジェスティック・ビッグ・チョッパー)っ!!」

 

右手を回転ノコギリに変え、鈴に斬り掛かる!!

 

「フンッ」

 

しかし、回転ノコギリの刃が当たると思われた瞬間、鈴の姿が消える。

 

「!? 何っ!?」

 

「何処見てんのよっ!?」

 

「!?」

 

背後から声が聞こえて、シュザックが振り返ると、鈴が悠然と腕組みをして浮遊していた。

 

「馬鹿なっ!? この私が捉えられ無かっただとっ!?」

 

「今度はコッチの番よ! 龍王炎符水!!」

 

鈴がそう言うと、その手に1枚の札が現れる。

 

その札を突き出す様に構えたかと思うと、札が空中に浮き、八卦図を浮かび上がらせる。

 

そしてその八卦図の中央に置かれた札から、炎が放たれる!!

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

放たれた炎が龍の姿を(かたど)り、咆哮を挙げてシュザックに向かう。

 

「!? ぬおおっ!?」

 

「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

ギリギリのところで躱したシュザックだったが、射線上に居たカトラ・ゲイが直撃を喰らい、一瞬で蒸発した!

 

「な、何という火炎だっ!?」

 

更に躱したシュザックも、掠めた部分の装甲が溶けて欠けている。

 

「未だ未だ行くわよ!! 龍虎王、移山法!!」

 

と、鈴はそう言い放つと、再び1枚の札を取り出す。

 

「神州霊山!!」

 

そしてその札を巨大化させ、目の前に浮かべたかと思うと、

 

「移山召喚!!」

 

そう言い放ち、空へと舞い上げた。

 

すると、空中に赤い八卦図が浮かび上がり、其処から暗雲が広がる。

 

そしてその暗雲から、稲妻が迸ったかと思うと………

 

暗雲の中から巨大な岩石………否! 岩山が出現した!!

 

「急々如律令!!」

 

そう言い放って、鈴が右手を下げた瞬間!!

 

岩山は、シュザック目掛けて落下する!!

 

「!? なっ!? うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!?」

 

シュザックは回避する事が出来ず、岩山の直撃を受けてそのまま地面へと落下する。

 

「「「「「「「「「「!? ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

シュザックごと地面へと落下した岩山は、レッドショルダー達を巻き込んでシュザックを押し潰した!!

 

「す、スゲェ………」

 

「何て無茶苦茶な技なんだ………」

 

驚く一夏と、呆れた様子を見せる箒。

 

と、その時!!

 

岩山が音を立てて崩れたかと思うと………

 

「オノレオノレオノレエエエエエエエェェェェェェェェーーーーーーーーーッ! 人間如きがあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

ボロボロになりながらも、未だ健在なシュザックが姿を見せる。

 

「アラ? 華奢な割りに意外としぶといわね?」

 

と、何時の間にか地上に降りていた鈴が、ボロボロのシュザックに向かってそう言い放つ。

 

「殺す! 貴様だけは必ずこの手で殺してくれるわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

シュザックはそう叫ぶと、両手を堂々たる大庖丁(マジェスティック・ビッグ・チョッパー)に変え、鈴に向かって突撃する。

 

「残念だけど………死ぬのはアンタよ! 必神火帝! 天魔降伏! 虎龍合体!!」

 

鈴がそう叫んだ瞬間!!

 

龍虎王の姿が光に包まれ、一瞬にして白地に黒い縞模様をした、ガッシリとした体格のマシンへと姿を変えた!!

 

「!? 何っ!?」

 

「ISが姿を変えたっ!?」

 

その光景に、シュザックとシャルが驚きを露わにする。

 

「ハアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!」

 

鈴が気合を掛ける様に声を挙げると、変身した龍虎王………改め『虎龍王』から、オーラが立ち昇る!!

 

「虎龍王が最大奥義! 虎王乱撃(タイラント・オーバー・ブレイク)!!」

 

そしてそう叫ぶと、虎龍王はシュザックに向かって突撃した!!

 

「ハアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

「ゲゲギャッ!?」

 

そして、気合の掛け声と共に拳の連打をシュザックに浴びせる!!

 

「ランダム・スパイクッ!!」

 

続いてヌンチャク………ランダム・スパイクを取り出し、またまた連打を浴びせる!!

 

「グゲガガガァッ!?」

 

「ソニック・ジャベリンッ!!」

 

更に続けて、鈴は槍、と言うよりは青龍偃月刀の様な武器………ソニック・ジャベリンの連続突きを浴びせる!!

 

「ゲギョガガガガガガッ!?」

 

「ヴァリアブル・ドリルッ!!」

 

そしてそう叫んだかと思うと、右手パーツの指が纏まり、螺旋状の武器………ヴァリアブル・ドリルに変わり、そのドリルを叩き込む!!

 

「ガガガガガガァーーーーーーーーーッ!?」

 

すっかりボロボロにされたシュザックは、上空へと打ち上げられる!!

 

「トドメよ!! 順逆転身ッ!!」

 

だが、鈴の攻撃は未だ終わらず、再び龍虎王の姿となって翼を広げ、打ち上げられたシュザックを追う。

 

すると、龍虎王の尻尾の先に握られていた宝玉が外れ、右手に握られる。

 

「破山剣、召喚!!」

 

鈴がそう叫ぶと、宝玉から光が伸びて柄と刀身を形成し、龍王破山剣が現れる。

 

「ハアッ!!」

 

気合を入れて大上段に構えると、刀身が龍が吠えている様な形に変化する!

 

「龍虎王が最終奥義!! 龍王破山剣! 逆鱗断!!」

 

そう叫ぶと、刀身が変化した龍王破山剣を一気に振り下ろす!!

 

すると、炎の斬撃波がシュザック目掛けて飛んだ!!

 

「!?」

 

躱せるワケも無く、シュザックは炎の斬撃波を浴びて縦に分断される。

 

そして一瞬の静寂の後、シュザックが真っ二つになった瞬間!!

 

巨大な火柱が立ち昇り、一瞬で蒸発した!!

 

「やったっ!!」

 

「よっしゃあっ! やるじゃねえか、鈴!!」

 

鈴が声を挙げると、グレンラガンもそう歓声を挙げる。

 

「やった!!」

 

「遂に四天王の1人を倒したか!!」

 

その光景を見て、一夏と箒もそう声を挙げる。

 

しかし………

 

「オノレェッ、人間共ぉっ!! よくも私のシュザックをぉっ!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

上空からシトマンドラの声が聞こえて来て、グレン団が上を見上げると………

 

黒焦げになっているシトマンドラを抱えた、腕が4本になっているエンキドゥ………『エンキドゥドゥ』の姿が在った。

 

「! ヴィラルッ!!」

 

「何だよ、随分と久しぶりじゃねえか」

 

シャルが驚きの声を挙げるが、グレンラガンは何時もと変わらぬ調子でそう言う。

 

「………暫く見ない間に、随分と様変わりした様だな、グレン団」

 

エンキドゥドゥは、一夏やシャル達の進化したISを見てそう呟く。

 

「許さん! 許さんぞ人間共ぉっ! ヴィラル! 何をしている!! アイツ等を血祭りに挙げろぉっ!!」

 

と、エンキドゥドゥが抱えたままのシトマンドラがそう喚く。

 

「………退きましょう、シトマンドラ様」

 

しかし、エンキドゥドゥはそう返す。

 

「!? 何だと!? 貴様ぁっ!! この私に恥を掻いたままでいろと言うのか!?」

 

「明日には、シトマンドラ様を含めた“四天王全員での日本総攻撃作戦”が有ります。ダイガンテンの指揮は、シトマンドラ様に執って頂かなければなりません」

 

「ぐうっ!!」

 

「!? 何だとっ!?」

 

エンキドゥドゥがそう言うと、シトマンドラが黙り込み、グレンラガンが驚きの声を挙げる。

 

「だ、だがっ!!」

 

()()()()()()()です」

 

「ぐううっ!………グレン団! この屈辱は忘れんぞっ!!」

 

「聞いての通りだ、グレン団………我々は明日、日本への総攻撃作戦を決行する。目標は自衛隊………そしてIS学園だ」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

IS学園の名を聞いたグレン団が、驚きを露わにする。

 

「止められるものならば………止めてみろ」

 

エンキドゥドゥは最後にそう言い放つと、シトマンドラを連れてダイガンテンへと帰還する。

 

そしてダイガンテンは、戦場から離脱して行く。

 

「野郎! 逃がすかっ!!」

 

直ぐに追おうとするグレンラガンだが、その行く手を残っていた飛行ガンメン部隊が塞ぐ。

 

「クソッ! 邪魔すんじゃねえっ!!」

 

「神谷! 今はアイツ等を追うより、日本へ戻らないと!!」

 

「千冬姉が………学園の皆が危ないっ!!」

 

強行突破しようとするグレンラガンに、シャルと一夏がそう言う。

 

「そうはさせんぞ! グレン団!!」

 

「貴様達は此処で死ねぇっ!!」

 

だが、そうはさせないと飛行ガンメン部隊がグレン団に群がる。

 

「チイッ!!」

 

一気に蹴散らそうとするグレンラガンだったが………

 

其処へ轟音が鳴り響き、幾重もの光の線が空と飛行ガンメン部隊を斬り裂いた!!

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

[皆! 大丈夫!?]

 

驚くグレン団の耳に、リーロンの通信が響き渡る。

 

そして、光の線が飛んで来た方向から………

 

戦闘形態で飛行して来るインフィニット・ノアの姿が在った。

 

「! インフィニット・ノア!!」

 

「リーロンか!」

 

[話は聞いてたわ! 皆早く帰還して! 直ぐに日本へ向かうわよ!!]

 

一夏とグレンラガンが声を挙げると、リーロンから再びそう通信が入って来る。

 

「でも、未だ敵が………」

 

しかし鈴が、未だ飛行型ガンメン部隊とレッドショルダー部隊が残っているのを見てそう言うが………

 

[鈴! 行きなさい!!]

 

「!? お父さん!?」

 

そんな彼女の許に父・炎彬が通信を送る。

 

[この国は()()()守る! 何、真面に戦わずにゲリラ戦に持ち込めば、如何とでもなる!]

 

[鈴! 行きなさい!!]

 

「! お母さん!!」

 

炎彬がそう言うと、続いて母・神美の声が響いて来る。

 

[行って日本を守って! ()()()()()()()()を!!]

 

「!………分かったわ!!」

 

一瞬逡巡した様子を見せたが、やがてそう答える。

 

「ロージェノムめ! コレ以上、お(メェ)等の好きにはさせねえぜっ!!」

 

グレンラガンがそう言い、インフィニット・ノアへ飛行甲板から帰還する。

 

其れに続いて、一夏達も帰還して行く。

 

[グレン団全員、帰還しました!!]

 

[よし! インフィニット・ノア、緊急離脱!!]

 

虚からグレン団の全員帰還の報告を聞くと、リーロンはインフィニット・ノアを戦場から離脱させる。

 

残された飛行型ガンメン部隊とレッドショルダー部隊は、中国革命軍が足止めする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に中国までもが壊滅した………

 

残る国は日本とアメリカ………

 

そしてロージェノム軍は………

 

日本への総攻撃を予告した………

 

果たして、グレン団は日本への総攻撃を防ぐ事は出来るのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

シトマンドラのシュザックに苦戦する鈴だったが………
遂に彼女のISもセカンドシフト。
龍虎王、虎龍王となり、見事シュザックを撃破。

しかし、シトマンドラはヴィラルに救出される。
そして何と!
ロージェノム軍は日本、IS学園に総攻撃を掛けると予告。
いよいよ日本への帰還。
果たしてグレン団は間に合うのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第115話『俺達が行くまで、持ち堪えてみせろよ………』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第115話『俺達が行くまで、持ち堪えてみせろよ………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に中()が陥落………

 

残された国家は、アメリカと日本………

 

そして、ロージェノム軍のヴィラルは中()で戦っていたグレン団に………

 

日本総攻撃の予告を言い放った!!

 

その目標は“自衛隊とIS学園だ”と。

 

日本を………

 

延いてはIS学園に残っている友達を守る為………

 

グレン団は再び日本へと向かう………

 

果たして、ロージェノム軍の総攻撃に間に合うのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本・IS学園………

 

職員室………

 

「織斑先生。少し休んでいた方が………」

 

「いや、大丈夫だ山田くん。コレぐらい如何と言う事は無い」

 

デスクワークをしていた真耶が、千冬に向かってそう言う。

 

「でも、その腕じゃあ………」

 

真耶が言う通り、千冬の左腕には包帯が巻かれ、三角巾で首から吊られていた。

 

「利き腕じゃ無い方なんだ、問題無い。山田くんの方こそ、具合は大丈夫なのか?」

 

其処で、千冬はそう問い返す。

 

彼女の言う通り、千冬を心配する真耶も頭に包帯を巻いている。

 

「いえ、このくらい平気です………私以上の目に遭ってる人だって居るんですから………」

 

「…………」

 

真耶のその言葉に、千冬は沈黙する。

 

グレン団が日本から逃亡した“あの日”から、IS学園は日本政府の監視下に置かれ、その戦力は全て自衛隊に組み込まれて“日本防衛の為の戦力”として利用されている。

 

連日、生徒・教師を問わずに誰かしらがISを装着した上で戦場へと駆り出されている。

 

だが、ロージェノム軍の攻撃は日に日に勢いを増しており、教師は兎も角として、()()()()の生徒は撃墜される事も多かった。

 

医務室は満杯状態であり、怪我の軽い者は入院すらも出来ず、“()()()()での療養”を言い渡されている。

 

次々と生徒と教師が動けなくなって行く中、遂には千冬と真耶まで駆り出されたのだが………

 

如何に元“ブリュンヒルデ”と(いえど)も、ココまで劣勢に追い込まれた戦況を押し返す力は無かった………

 

其れに追い撃ちを掛けるかの様な、フランス・ドイツ・イギリス陥落(壊滅)の知らせ。

 

先日は、遂に中()までもが壊滅(陥落)した、と報告が挙がる。

 

絶望しかない状況の中で自衛隊は兎も角、IS学園の生徒と教師の士気は低かった………

 

「………グレン団さえ居てくれれば………」

 

「神谷くん達………無事なんでしょうか?」

 

珍しく弱音を吐く様にそう呟く千冬と、心配する様子を見せる真耶。

 

フランスへ、シャルを救出しに向かったグレン団。

 

しかし、その後間も無く“フランス壊滅(陥落)”の知らせが届いた。

 

グレン団は無事なのか?

 

連絡を取る手段の無い千冬達には、その安否を確かめる術は無い。

 

今、IS学園は瀬戸際に立たされていた………

 

と、その時!!

 

学園内に警報が鳴り響く!!

 

「「!?」」

 

[ロージェノム軍襲来! ロージェノム軍襲来! IS部隊は直ちに出撃!! 非戦闘要員は直ちに地下シェルターへと避難せよ!!]

 

千冬と真耶が驚きながら立ち上がると、校内放送でそう言うアナウンスが流れる。

 

「クソッ! またかっ!?」

 

「織斑先生! 行きましょうっ!!」

 

そう言い合うと、ISが有る格納庫を目指す2人。

 

戦えない教師は、非戦闘要員や負傷した生徒の避難へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

迎撃に出た、千冬と真耶を中心とするIS学園IS部隊………

 

そして、“護衛”と言う名目で学園を()()していた自衛隊部隊の出撃が完了する。

 

しかし………

 

「な、何だ?………アレは………?」

 

現役時代の愛機であった『暮桜』を如何にか引っ張り出して纏い、学園上空に陣取るIS部隊の先頭に立っていた千冬は、思わず握っていた雪片を落としそうになった。

 

「お、織斑先生………」

 

後ろに居た真耶も顔を青褪めさせており、教師や生徒達は完全に震えている。

 

何故なら………

 

今、彼等の目の前には………

 

海と空を覆い尽くして、IS学園目指して突き進んで来る………

 

ロージェノム軍の大軍勢の姿が在ったからだ!!

 

[此方IS学園警備部隊! ロージェノム軍襲来!! 敵の数が多過ぎて、空と海の色が見えない!! 現在、()()()()()()()()()!! 繰り返す!! 敵が7分に青が3分!!]

 

混線しているのか、通信回線に自衛隊員のモノと思われる通信が流れる。

 

「む、無理だ………あんなの、如何しろ?って言うんだ!?」

 

「私………此処で死ぬの?」

 

「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「コラ! 逃げるな!! この腰抜けっ!!」

 

元々士気の低かったIS学園部隊は、見た事も無い大軍勢を前に、とうとう士気崩壊を引き起こし、脱走する者が出始めた。

 

「クッ! 皆落ち着け! 落ち着くんだ!!」

 

千冬は皆を落ち着かせようとするが、その言葉が届いた者は少ない………

 

と、その時………

 

「攻撃開始ぃっ!!」

 

混乱するIS学園の部隊を後目に、自衛隊が攻撃を開始した!!

 

航空自衛隊の戦闘機が先攻し、空対空ミサイル及び空対艦ミサイルを敵飛行部隊と艦隊に目掛けて次々に放つ。

 

飛行していた敵の幾つかが墜落し、艦隊の艦の一部が炎上・轟沈する。

 

しかし、直ぐに其れ以上の敵が押し寄せ、穴が開いた部分を埋めてしまう。

 

続いて、海上に居た護衛艦隊と学園敷地内の至る所に展開していた陸上自衛隊のミサイル部隊からの攻撃が開始される。

 

速射砲とミサイルが次々に押し寄せるロージェノム軍に撃ち込まれるが、ロージェノム軍は損害を全く気にする事無く、ドンドンと進撃して来る。

 

正に“物量作戦”である。

 

そうこうしている内に、戦闘機部隊と護衛艦隊を射程内に収めたのか、ロージェノム軍からの攻撃が開始される。

 

数が数だけに、繰り出される攻撃の密度も凄まじかった。

 

戦闘機は蠅の様に叩き落とされ、護衛艦は紙屑の様に引き裂かれて轟沈する。

 

「だ、駄目です! 相手の数が多過ぎます!!」

 

「クッ! 此方はIS学園の織斑 千冬! 自衛隊指揮所、聞こえるか!? 今直ぐ援軍を要請しろ!! このままでは、物量差で負けるぞ!!」

 

直ぐに、千冬は自衛隊の指揮所に対してそう通信を送る。

 

[此方指揮所! 駄目です! 現在、札幌・東京・大阪・福岡にもロージェノム軍の大軍が出現! 自衛隊は各都市に戦力を分散させて応戦中!! 『援軍は出せない』との事です!!]

 

「!? 何だと!?」

 

だが、指揮所からそう答えが返って来て、千冬は驚愕の声を挙げる。

 

「そんな!? 日本の主要都市にも、ロージェノム軍が!?」

 

「クッ! 何と言う大攻勢だ………ロージェノム軍め。勝負を掛けて来たのか!!」

 

その通信は真耶にも聞こえており、千冬は苦い表情でそう声を荒げる。

 

(考えてみれば当然の事か………世界で“残っている国家”は日本とアメリカのみ………日本を落とし、そのままアメリカをも攻め落とす積りか………そうなれば………人類の負けだ!!)

 

と、千冬がそんな事を考えていた間に………

 

[ロージェノム軍! 第1防衛ラインを突破!! IS学園敷地内に侵入しますっ!!]

 

通信回線にそう言う声が響き渡った。

 

その報告通り、空から来ていたロージェノム軍が学園の敷地内の上空に侵入。

 

そのまま、敷地内に展開していた陸上自衛隊の部隊に向かって爆撃を開始する!!

 

更には、海上にいた軍艦からもミサイル攻撃や砲爆撃が開始される!!

 

爆撃の直撃を受けた機甲部隊の車輌が爆散し、ミサイルの命中した自衛隊員達が蒸発する。

 

「怯むな! 撃て! 撃てぇっ!!」

 

だが、陸上自衛隊は怯まず、対空砲火と地対空ミサイルを撃ち上げる。

 

と其処で今度は、敵艦隊の強襲揚陸艦とその揚陸艦から発進した上陸用舟艇が次々に接岸。

 

ハッチが開くと、ガンメン部隊とレッドショルダー達が上陸を開始する。

 

その途端、海岸に築かれていた防御陣地から機銃と野戦砲の一斉射撃が開始される。

 

弾幕を張って、ガンメン部隊とレッドショルダー達を上陸させまいとする陸上自衛隊。

 

しかし、ガンメン部隊とレッドショルダー達は際限無く次々と上陸に掛かって来ており、とても防ぎ切れるものでは無い。

 

と………

 

防御陣地の1つが、レッドショルダーが放ったソリッドシューターの砲弾を喰らって消し飛ぶ!!

 

弾幕が途切れたその場所から、ガンメン部隊とレッドショルダー達は更に進撃しようとする。

 

消し飛ばされた防御陣地の周辺に在った防御陣地がカバーしようとするが、その分弾幕の密度が薄くなり、新たに吹き飛ばされる防御陣地が出始めた。

 

その悪循環が少し続いたかと思うと、完全に防御陣地は壊滅。

 

ガンメン部隊とレッドショルダー達は、次々と完全上陸を果たす。

 

「クッ! 山田くん! 戦える者は何人残っている!?」

 

「えっと!?………私と織斑先生を含めて、10人です!!」

 

千冬が真耶にそう尋ねると、真耶は学園のIS部隊の方を振り返ってそう答える。

 

先程の士気崩壊で、逃げ出したり恐慌状態に陥った者を除いて、戦闘が可能な者は其れ位しか残っていなかった………

 

「分かった………総員! 戦闘開始だ!!」

 

「「「「「「「「「「りょ、了解!!」」」」」」」」」」

 

千冬の号令に、辛うじて戦闘()可能であった学園のIS部隊は、若干の気後れが有りながらもそう返事を返す。

 

「彼女達に続けぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

更に、其れに続いて自衛隊のIS部隊とグラパール部隊も交戦を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園、そして日本が大攻勢に晒されていた頃………

 

グレン団の乗るインフィニット・ノアは、東シナ海を抜けて太平洋沿岸を進んでいた。

 

「ロージェノム軍は既に日本に大攻勢を掛けた様です………札幌・東京・大阪・福岡、そしてIS学園が同時に襲撃を受けています。自衛隊は各地に戦力を分散させて応戦していますが、戦況は芳しくありません」

 

「オイ、リーロン! もっとスピードは出ねぇのか!?」

 

通信傍受を行っていた虚がそう報告を挙げると、神谷がリーロンに向かって怒鳴る様にそう言う。

 

「コレでも最大()速よ。水中航行じゃ、コレが限界よ」

 

リーロンは冷静にそう言うが、その顔には珍しく焦りが浮かんでいる。

 

「学園の皆は無事なのかな………?」

 

「まさかもう既に………」

 

シャルが不安気にそう呟き、ラウラが最悪の想像を(よぎ)らせる。

 

「皆心配するな! 千冬姉だって居るんだ!! IS学園がそう簡単に()られるかよ!?」

 

皆の不安を払おうと、一夏がそう声を挙げる。

 

「でも、幾ら千冬さんだとしても、連日の出撃で疲弊してる筈よ!」

 

「其れに世界の情勢を鑑みれば………満足に補給が行われているかも怪しいわよ」

 

しかし、鈴と楯無がそう言い、一夏の意見を打ち消す。

 

「そ、其れは………」

 

「お祖父ちゃん………」

 

「お袋………」

 

その言葉に一夏は反論出来ず、蘭と弾は学園に残っている祖父と母親の身を案ずる。

 

「皆………」

 

「ティトリー………」

 

同じ様に不安がっているティトリーの肩に、のほほんが手を置く。

 

「………今は祈るしかない………皆が無事である事を………」

 

箒はそう言って、胸の前で両手を握り締めて、瞳を閉じた。

 

「簪、祈るって?」

 

「………“神に向かってお願いをする事”よ」

 

「神?」

 

「何処にも、存在しないもの………心の中にだけ居る………“()()()()()()幻の全能者”の事よ」

 

「そうか………」

 

(若し今のこの世界を、“神が創り出した”とするなら………私は………例え神にだって従わないわ)

 

フランとそう遣り取りしながら、心の中でそう呟く簪。

 

「我が祖国イギリス………そして、フランス・ドイツ・中国………今までは、どの国も守る事は出来ませんでした」

 

セシリアは今までの戦いを思い返す。

 

「だからこそ………せめて日本………()()()()だけは守らなくちゃいけないんだ! 彼処は“俺達の思い出が一杯詰まった場所”なんだからな!!」

 

其れに続く様に一夏がそう叫ぶ。

 

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その言葉に、一同は決意を固める様に拳を握り締める。

 

(千冬………俺達が行くまで、持ち堪えてみせろよ………)

 

そして神谷は、心の中でそう思い遣るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、IS学園の地上では………

 

「グウッ!?」

 

千冬が声を挙げた瞬間、右の非固定浮遊部位が爆散する。

 

「キャアッ!?」

 

更にその近くでも、真耶が左腕の実体シールドを破壊されてバランスを崩す。

 

「山田くん! 大丈夫か!?」

 

その真耶を左腕で受け止めると、飛び掛かって来たゴズーを右手の雪片で斬り捨てる。

 

「ハ、ハイ………すみません………」

 

「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

と、真耶が千冬に返事を返した瞬間、上空から悲鳴が聞こえて来る。

 

「「!?」」

 

2人が驚きながら見上げると、黒煙を曳きながら墜落して行く打鉄を纏った生徒の姿が在った。

 

「ああっ!?」

 

「クッ! 1人落ちたぞ!! 誰か回収を!!」

 

[私が行きます!!]

 

真耶が悲鳴の様な声を挙げ、千冬が慌てて通信機を取ってそう言うと、直ぐに返事が返って来る。

 

墜落した生徒を、ISの損傷が大きい教師が回収して撤退して行く。

 

「ヒャッハーッ! 死ねぇっ!!」

 

相変わらず世紀末しているレッドショルダーが、弾幕を張っていたグラパール達に向かって、ショルダーミサイルガンポッドを撃ち込む!

 

「「「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」

 

直撃を受けたグラパール達が、装着者ごとバラバラに爆散する。

 

「ううっ!?」

 

「山田くん! 君も下がれ!! 此処は私が引き受ける!!」

 

スプラッタな光景を見続けて今のがトドメとなったのか、顔を真っ青にして動けなくなった真耶に向かって千冬はそう言い放つと、自ら最前線へと躍り出る。

 

「聞けっ! ケダモノの獣人共に()()()()()()のレッドショルダー! 私はブリュンヒルデの織斑 千冬だ!! この私が居る限り! お前達の好きにはさせん!!」

 

そして、ワザと注目を集める様、声高にそう叫んだ!!

 

「織斑 千冬だ! 殺せぇっ!!」

 

「奴を倒せばこの学園は手に入ったも同然だぁ!!」

 

途端に、ガンメン部隊とレッドショルダー達は千冬へと群がって行く。

 

「そうだ! 来い!! 私を狙って来い!!」

 

千冬はそう言い放ち、群がる軍団の中へと自ら飛び込んで行く!!

 

「でやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「ぐぎゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」

 

気合の掛け声と共に、メズー1体を唐竹割りにする。

 

「でりゃあああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

続いて返す刀で、今度はングーを斬り捨てる!!

 

「死ねぇっ!!」

 

と其処で、ブラッディライフルを装備したレッドショルダーが、千冬に弾丸を見舞う!

 

「!!」

 

千冬は、近場に居たカノン・ガノンを左手で捕まえたかと思うと、そのまま弾除けの盾にする!!

 

「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

盾にされたカノン・ガノンが、蜂の巣になって爆散する。

 

「ふうっ!!」

 

その爆発を突っ切り、千冬は雪片を蜻蛉に構えて、ブラッディライフルを装備したレッドショルダーに突っ込む!!

 

そのまま肩からの当身を喰らわせる。

 

「ぐあがっ!?」

 

「チエアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そして体勢が崩れた処を一閃する!!

 

「げぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

絶対防御をも突き破り、身体ごとISを真っ二つにされたレッドショルダーは、自爆の爆発で蒸発する。

 

「ヒャッハーッ!!」

 

しかし、別の方向に居たペンタトルーパーを構えていたレッドショルダーが、千冬目掛けて徹甲弾を放つ!!

 

「グッ!?」

 

咄嗟に左腕パーツを構えて防御するも、ペンタトルーパーの銃弾は左腕パーツに深く突き刺さり、その機能を止める。

 

「チイッ!!」

 

機能の止まった左腕パーツを、ペンタトルーパーを装備したレッドショルダーに向かって投げる様に射出する千冬。

 

「なろぉっ!!」

 

ペンタトルーパーを装備したレッドショルダーは、アームパンチで飛んで来た左腕パーツを弾く。

 

その間に距離を取った千冬だったが………

 

「シャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

其処で1機のシャクーが、千冬の背に圧し掛かった!!

 

「!? しまっ………」

 

「ガブウッ!!」

 

千冬が振り(ほど)こうとするよりも早く、シャクーはその大きく鋭い牙が生え揃った口で千冬の右肩に噛み付く!!

 

「!? うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

絶対防御を突き抜け、シャクーの牙が千冬の右肩に深く喰い込む!!

 

「ぐううっ! ハアアッ!!」

 

右肩から夥しく流血しながらも、シャクーに雪片の刃を突き刺す千冬。

 

「!? ゲバァッ!?」

 

「フンッ!」

 

そしてそのまま、シャクーを突き刺したまま振るい、投げ飛ばす。

 

「ぐあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

投げ飛ばされたシャクーがぶつかったゴズーが、一緒に爆散する。

 

「くたばれぇっ! ブリュンヒルデ!!」

 

と其処へ、ソリッドシューターを装備したレッドショルダーが千冬に砲弾を放つ!!

 

「!? グウッ!? 肩が………」

 

肩の痛みが襲い掛かって一瞬反応が遅れた千冬は、回避が間に合わず直撃を喰らう。

 

「織斑先生っ!!」

 

「やったぜ! ブリュンヒルデを倒したぞ!!」

 

悲鳴の様な声を挙げる真耶と、勝ち誇るソリッドシューターを装備したレッドショルダー。

 

だが………

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

爆発で上がった黒煙の中から、頭から流血して顔が自分の血で真っ赤に染まっている千冬が飛び出して来たかと思うと、渾身の突きをソリッドシューターを装備したレッドショルダーに喰らわせた!!

 

「!? ゲボアッ!?」

 

雪片の刃がソリッドシューターを装備したレッドショルダーの腹を突き抜け、背中へと貫通する。

 

「! この………クソがぁっ!!」

 

だがその瞬間!!

 

吐血していたソリッドシューターを装備したレッドショルダーは、千冬の身体を抑え込んだ!!

 

「!?」

 

慌てて振り解こうとした千冬だったが、次の瞬間にレッドショルダーはISの自爆装置が作動!

 

千冬は再び爆炎に呑まれた!!

 

「!? ああっ!?」

 

またもや悲鳴を挙げる真耶。

 

しかし、またも爆煙の中から千冬は姿を現す。

 

「! ゲボッ………!?」

 

だが、流石に無傷では無く大出血している左脇腹を左手で抑えており、吐血したかと思うと、雪片を杖にして片膝を突く。

 

「ハア………ハア………ハア………クソッ………」

 

「満身創痍だな………織斑 千冬」

 

「!?」

 

息も絶え絶えになっていた千冬に、そう声を掛ける者が居り、千冬が顔を上げると其処には………

 

「流石のブリュンヒルデもココまでの様だな………」

 

右手に握った槍の柄を地面に突いて堂々と佇んでいる、四天王の1人チミルフの駆るカスタムガンメン・ビャコウの姿が在った。

 

「! 四天王!!」

 

脇腹、そして全身の痛みを無視して立ち上がると、雪片を構え直す千冬だったが………

 

次の瞬間、地響きと共にチミルフのダイガン・ダイガンザンが現れる。

 

「!? ダイガンザンまで!!」

 

[其れだけじゃ無いよぉ、織斑 千冬]

 

驚く千冬の耳にそう言う声が響き渡ったかと思うと、海からダイガンカイが現れてIS学園の敷地に上陸する。

 

[ふはははははっ! 如何だ、この圧倒的戦力は!!]

 

[人間共。教えてやる………これが“絶望”と言うモノじゃ]

 

更に、上空にはダイガンテンが出現したかと思えば、地面を突き破る様にしてダイガンドまでもが現れる。

 

「!?」

 

「ダ、ダイガンが集結!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

千冬と真耶が驚愕の表情を浮かべ、学園のIS部隊も自衛隊も呆然となる。

 

「織斑 千冬。貴様に殺された部下達の為………そして我等が螺旋王様の為に! その命! 貰い受けるぞ!!」

 

と其処でビャコウは、右手の槍の切っ先を千冬に突き付け、そう言い放った。

 

「! 何をぅ! 私は負けん!! 負けられ無いのだぁっ!!」

 

千冬は自らを奮い立たせる様にそう叫び、雪片を両手で握り、残る全ての力を籠めて、ビャコウに斬り掛かる!!

 

(四天王を1人でも倒せれば!!)

 

「ぬうううんっ!!」

 

千冬の雪片と、ビャコウの槍がぶつかり合う!!

 

火花を散らし、鍔迫り合いを展開する!!

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

気迫に任せて押し切ろうとする千冬だったが………

 

その次の瞬間!

 

限界を超えていた雪片が、粉々に砕け散った!!

 

「!? 雪片!!」

 

「貰ったぞ! 破軍の刃槍(アルカイド・グレイヴ)ッ!!」

 

その瞬間、ビャコウは槍の刃にビームを展開!!

 

千冬に強烈な突きを喰らわせた!!

 

「!? があああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

千冬は吹き飛ばされ、10式戦車の残骸へと突っ込む!!

 

「が、あ………」

 

最後に呻き声を漏らすと、暮桜が完全に機能を停止する………

 

「! 織斑先生!!」

 

「千冬さんが………負けた!?」

 

「もう駄目だ! IS学園は! 日本は! 世界は終わりだぁっ!!」

 

千冬の敗北に、遂に完全な士気崩壊が始まる。

 

「ココまで良く戦ったと褒めてやろう………だが、コレで終わりだ」

 

ビャコウは、千冬にトドメを刺そうと近付いて行く。

 

(………ココまでか)

 

霞む意識の中でゆっくりと近付いて来るビャコウを見ながら、千冬は諦めを感じる………

 

と、その時!!

 

上空から『何か』が急降下して来て、ビャコウと千冬の間の地面に突き刺さった!!

 

「!? ぬうっ!?」

 

「!?」

 

発生した衝撃波に若干たじろぐビャコウと、驚きで急激に意識を回復させる千冬。

 

やがて舞い上がっていた土煙が収まり、姿を現したのは………

 

「………お待たせ、ちーちゃん」

 

「戦闘を開始します………」

 

“見た事も無いIS”を纏った、束とくーの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

遂に開始されたロージェノム軍の日本大攻勢。
自衛隊、IS学園のIS部隊は次々に撃破され、遂には千冬も倒れる。
絶体絶命の状況の中、現れたのは………
束とくー!?
果たしてグレン団は間に合うのか!?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第116話『でも………そう簡単には行かないよ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第116話『でも………そう簡単には行かないよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、日本に対し総攻撃を開始したロージェノム軍。

 

IS学園にも今までに無い大部隊が現れ、破壊と殺戮を繰り広げる。

 

千冬や真耶を初めとしたIS学園のIS部隊………

 

そして学園を警護していた自衛隊は果敢に応戦するが………

 

既にアメリカと日本を除く全ての国家を陥落させ、戦力を整えていたロージェノム軍の圧倒的物量の前に押される………

 

連日の出撃でISは満足な整備を受けられず、装着者達も怪我が癒えていない者が多かった事も起因していた。

 

そんな中でも、千冬は現役時代の愛機『暮桜』を引っ張り出し、学園を、同僚を、生徒を守る為に奮戦する。

 

だが、満身創痍も同然となった所へ四天王が1人『チミルフ』のカスタムガンメン『ビャコウ』が現れる。

 

更には、そのダイガンであるダイガンザンも出現し、他の四天王が乗るダイガン達まで出現する。

 

その攻撃の前に、雪片は砕かれ暮桜も機能を停止し、遂に千冬は倒れる………

 

最早絶体絶命か?と思われたその時、現れたのは………

 

“見た事も無いIS”を纏った、束とくーだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・敷地内………

 

「た、束………」

 

「ちーちゃん! しっかりして!!」

 

ボロボロの千冬を助け起こす束。

 

「束………お前………そのISは………?」

 

しかし、千冬は束が纏っているISに目が行く。

 

胸から肩に掛けて大きくせり出しており、背中から後頭部を覆う様に突起が伸びている。

 

背面には大型のスラスターが在り、大きな上半身に合わせて脚部も大型である。

 

機体色は赤系を基調とし、曲線の多いデザインとなっている。

 

そして、過剰に刺々しい外見をしている。

 

「………この束さんが、“()()()()IS”を用意して無いとでも思ってたの?」

 

束は、不敵に笑いながらそう言い放つ。

 

()()()………()()だと?」

 

「そう………コレが束さんのIS………究極IS! その名も『ヴァルシオン』!!」

 

まるで宣言するかの様に、束は自分のIS………『ヴァルシオン』をそう紹介した。

 

「お、織斑先生!!」

 

と其処で、呆然としていた学園のIS部隊の中で逸早く我に返った真耶が近寄って来る。

 

「確か、山田 真耶さんでしたね? ちーちゃんをお願いします」

 

すると束は、助け起こしていた千冬を真耶に預ける。

 

「えっ!? あ! ハイッ!!」

 

一瞬驚いたものの、直ぐに千冬を受け取って後方へと下がる真耶。

 

「さ~て………行くよ、くーちゃん!」

 

「ハイ………あの………束様………」

 

と、其れを見届けた束はくーと共に敵へ向かおうとするが、くーが何か言いた気な様子を見せる。

 

「ん? 如何したの? くーちゃん?」

 

「私のISの“デザイン”なのですが………その………少し………派手では無いでしょうか?」

 

若干照れている様子を見せながら、くーは束にそう言う。

 

今彼女が纏っているISは、“()()()()()()()IS”だった。

 

何と言うか………『バトルアーマーを着たピンク髪の少女』である。

 

「ええ~!? そんな事無いよ~! その『ヴァルシオーネ』は、紅椿と同じで“束さんの自信作”なんだから!!」

 

「ですが、その………この“ウィッグ(カツラ)”には何か意味が有るのですか?」

 

くーは、頭に被っているピンク色のロングヘアのウィッグ(カツラ)を示しながらそう尋ねる。

 

「勿論! 放熱機構兼スタビライザーの役割を果たしてるんだよ!! いや~! 髪の毛みたいにするのには苦労したよ~!!」

 

「………もう良いです」

 

やがて、くーは諦めた様に溜息を吐きながらそう呟くのだった。

 

「漫才は終わったのか?」

 

と、律儀に一連の遣り取りを待っていたビャコウが、束とくーにそう言い放つ。

 

「態々待っててくれたなんて、優しいんだね~」

 

「“正面から相手を叩き潰す”事こそがこのチミルフの矜持よ。其れに()()篠ノ之 束の作った“究極のIS”とやらを正面から叩き潰せば、人間共は絶望するだろうからな」

 

「ふ~ん、成程ね………でも………そう簡単には行かないよ」

 

束はそう呟き、右手に柄が長く長巻の様な形状をした剣『ディバイン・アーム』を握る。

 

「倒されるのは貴方です」

 

くーもそう言うと、両手にナイフ状の武器『コールドメタルナイフ』を逆手に握る。

 

と、其処で………

 

「チミルフ様!」

 

ビャコウの後方に控えていたダイガンザンのカタパルトアームが動いたかと思うと、“何か”が投擲されてビャコウの傍に降り立つ!

 

其れは、ヴィラルのエンキドゥドゥだった。

 

「ヴィラル!? 手出しは無用じゃ! 下がっておれ!!」

 

「申し訳ございません。ですが、螺旋王様からのご命令です。“篠ノ之 束は確実に殺せ”と」

 

そう怒鳴るビャコウだったが、エンキドゥドゥはそう返す。

 

「ぬう、螺旋王様のご命令と在っては仕方無い」

 

「別に良いよ。1体でも2体でも好きに掛かって来れば?」

 

不満気にしながらも命令に従うビャコウに、束は挑発するかの様にそう言い放つ。

 

「黙れい! その減らず口………今に叩けぬ様にしてくれるわぁ!!」

 

ビャコウはそう言い放つと、束に向かって行く。

 

「チミルフ様! 援護を………!!」

 

「貴方の相手は私です」

 

そのビャコウを掩護しようとするエンキドゥドゥの前には、くーが立ちはだかる。

 

「チイッ! 雑魚は引っ込んでろ!!」

 

「………聞き捨てなりませんね」

 

エンキドゥドゥの言葉に、少々気分を害した様子を見せながら、交戦を開始するくーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

IS学園を取り囲んでいる四天王のダイガン達は………

 

「チッ! チミルフの奴………何まどろっこしい事やってんだい!?」

 

「なまじ“武人”じゃからのう。敵とは正面から戦わんと気が済まんのじゃろ?」

 

「下らん! そもそも、下等な人間共が我等と対等だ、なぞと考えるのが間違いなのだ!!」

 

アディーネ・グアーム・シトマンドラは口々にそう言い放つ。

 

「ま、仕方無いね。篠ノ之 束はアイツに譲ってやろうじゃないか」

 

「そうじゃのう。では、ワシ等は………」

 

「猿共とこの学園を破壊してくれるわ!!」

 

すると標的を、残っている自衛隊と学園のIS部隊。

 

そして学園そのものに決め、攻撃を再開しようとする。

 

「人間共め! 纏めて吹き飛ぶが良い!!」

 

と、シトマンドラがそう言い放つと、ダイガンテン下部に装備されていた超大型ミサイル2発の内、1発をIS学園目掛けて発射する!!

 

白煙の尾を曳きながら学園へと向かう超大型ミサイル。

 

と、その次の瞬間!!

 

一閃が煌いたかと思うと、超大型ミサイルが真っ二つとなり、空中で爆散した!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「!? 何だい!?」

 

「むっ!?」

 

其れにシトマンドラ・アディーネ・グアームが反応すると………

 

旋風が巻き起こり、木の葉が舞ったかと思うと、シュピーゲルを装着しているシュバルツが姿を現す!!

 

「やらせはせんぞ! 四天王!!」

 

「シュバルツ・シュヴェスター!!」

 

「オノレェッ! またも貴様か!!」

 

シュバルツがそう言い放つと、アディーネとシトマンドラがそう声を挙げる。

 

「おやおや、未だ生きていたのか? とっくにくたばったかと思っていたぞ」

 

しかし、グアームだけはそんな事を言い放つ。

 

「黙れ! この身体動く限り! 貴様等の野望を阻止して見せる!!」

 

そう言い放つシュバルツだったが、その身体とシュピーゲルはボロボロの状態になっている。

 

グレン団が日本から脱出した後、彼女はその代わりを務めるかの様に日本に侵攻して来たロージェノム軍との戦闘に参加する様になっていた。

 

だが連日の戦闘で、流石のシュバルツも無傷のままとは行かず、何度かは手酷い傷を負っている。

 

しかし、その負傷を押して、シュバルツは前線に立ち続けたのだ。

 

「ふん、その強がりが何時まで続くかのう………」

 

「攻撃開始!!」

 

「目標! シュバルツ・シュヴェスター!!」

 

グアーム・シトマンドラ・アディーネがそう言い放つと、ダイガンド・ダイガンテン・ダイガンカイは、シュバルツへ集中攻撃を開始する!!

 

更に、飛行型ガンメンも群がって行く。

 

「シュトゥルム! ウント! ドランクウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーッ!!」

 

シュバルツは必殺のシュトゥルム・ウント・ドランクを繰り出し、次々に飛行型ガンメンを斬り捨てて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、地上では………

 

ヴァルシオンVSビャコウ………

 

「クロスマッシャーッ!!」

 

ビャコウ目掛けて、手の甲の突起から赤と青の二条のビームが螺旋状に絡み合った光線・クロスマッシャーを放つ束。

 

「ぬうううっ!?」

 

ビャコウは槍の先端で受け止める。

 

しかし、受け止め切れずにビャコウの身体が下がって行く。

 

「ぬうううっ! でええええええいっ!!」

 

だが、気合を入れて槍を上へと振るうと、クロスマッシャーは弾かれて空の彼方へと消える。

 

「ふ~ん、やるねぇ」

 

「今度はコチラから行くぞぉっ!!」

 

余裕綽々な束に、ビャコウが飛び掛かる。

 

「セイヤアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

気合の掛け声と共に、ビーム刃を展開させた槍での連続突きを繰り出す!

 

しかし、その攻撃は全てヴァルシオンの装甲を突き抜けない。

 

「ぬうっ!? 何という装甲だ!?」

 

「当ったり前だよ! 伊達に束さんの専用ISじゃ無いんだから!!」

 

と束がそう言い、ディバイン・アームを振るう。

 

「!? ぬうっ!!」

 

一瞬早く後退して避けるビャコウ。

 

外れたディバイン・アームは、そのまま地面を爆ぜさせる。

 

そして、発生した衝撃波がビャコウに襲い掛かる。

 

「!? ぬおおおっ!?」

 

大したダメージでは無かったが、バランスを崩して地面の上を転がるビャコウ。

 

「只の斬撃の衝撃波でココまでの威力とは………」

 

「驚くのは未だ早いよ」

 

と束がそう言ったかと思うと、ヴァルシオンの背部に装備されていた大型スラスターと突起物が一部変形。

 

その部分にエネルギーの様な物が集まり出したかと思うと、重力の竜巻が発生する!

 

「ぐうっ!? ひ、引き寄せられる!?」

 

「チミルフ様! 危ないっ!!」

 

と、その竜巻によってビャコウが引き寄せられそうになった瞬間、1機のゴズーがビャコウを突き飛ばす。

 

突き飛ばしたゴズーは代わりに竜巻に捕まり、ヴァルシオンの許へと引き寄せられる!

 

「メガ・グラビトンウェーブッ!!」

 

その引き寄せられて来たゴズーへ向けて、束は指向性の重力波、メガ・グラビトンウェーブを浴びせる!!

 

「ぐがぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

ゴズーは押し潰される様に変形して行き、遂には爆発・四散した!!

 

「ぬうっ!? 今のは!? “重力制御”だとでも言うのか!?」

 

「さあ、如何するの、四天王さん? 降参するなら今の内だよ!?」

 

戦慄するビャコウに向かって、束は小馬鹿にする様にそう言い放つ。

 

(出来ればそうしてくれると良いなぁ………この“ヴァルシオンの()()”に気付く前に………)

 

だが、束は内心で焦りを感じていた。

 

何故ならば、このヴァルシオンには“弱点”が存在するのである………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

ヴァルシオーネVSエンキドゥドゥ側は………

 

「シッ!!」

 

素早い踏み込みでエンキドゥドゥの懐に潜り込み、両手に逆手で握っていたゴールドメタルソードを振るうくー。

 

「甘いっ!!」

 

しかし、エンキドゥドゥは両腕のエンキソードで受け止める。

 

「くうっ」

 

パワーに任せて押し切ろうとするくーだったが………

 

「忘れていないか? このエンキドゥドゥの腕は()()有るのだぞ!!」

 

エンキドゥドゥは、残った2本の腕に握っていたエンキソードをくーの頭上から振るう!

 

「!?」

 

慌ててゴールドメタルソードを手放して後退するくー。

 

エンキドゥドゥが振るったエンキソードは、空中に残っていたゴールドメタルソードを真っ二つにする。

 

「…………」

 

くーは無言のまま、今度は両手にG・リボルヴァーを出現させ、エンキドゥドゥ目掛けて連射する。

 

「そんなものでぇっ!!」

 

しかし、エンキドゥドゥは装甲で弾丸を弾きながらくー目掛けて突撃する。

 

「死ねぇっ!!」

 

「!!」

 

4本のエンキソードが振られた瞬間、くーは上へ跳び上がる。

 

「なら………コレで如何です?」

 

そしてG・リボルヴァーを投げ捨てると、今度はハイパー・ビームキャノンを取り出し、頭上からエンキドゥドゥ目掛けてビームを放つ!!

 

「ぬうんっ!!」

 

しかし何と!

 

エンキドゥドゥはエンキソードを振るい、ビームを斬り払う。

 

「クロス………マッシャーッ!」

 

だがその攻撃は“囮”だった様で、直後にくーは両手からヴァルシオンと同じ光線・クロスマッシャーを放つ。

 

「!? ぬおわぁっ!?」

 

直撃を喰らい、大きくブッ飛ばされるエンキドゥドゥ。

 

「チイッ!!」

 

しかし、ブッ飛ばされていた空中で姿勢を整え、着地する。

 

「小癪なっ!!」

 

エンキドゥドゥは、下の方の両腕からエンキカウンター、両肩からミサイルを一斉発射する。

 

「チイッ!」

 

エンキカウンターは躱すくーだったが、ミサイルが誘導で後を追って来る。

 

「サイコ………ブラスターッ!!」

 

するとくーは、両手にエネルギーを集めてその場で高速回転!

 

エネルギーが渦を巻いて周りに放出され、ミサイルを撃墜する。

 

「ふうっ」

 

「隙有りっ!!」

 

其れを確認して回転を止めた直後、エンキドゥドゥが背後からエンキソードの四刀流で斬り付けた!!

 

「!!」

 

装甲が一部飛び散って、くーは地面に叩き付けられる!!

 

「トドメだぁっ!!」

 

すると、エンキドゥドゥはエンキソードを全て逆手に構え、そのまま急降下してくーを串刺しにしようとする。

 

「! クロス………マッシャーッ!!」

 

だがくーは、地面に叩き付けられた状態のままでクロスマッシャーを放つ!

 

「!? チイッ!?」

 

間一髪回避行動を取ったエンキドゥドゥの直ぐ横を、クロスマッシャーが通り過ぎて行く!

 

一旦地面へと着地を決めるエンキドゥドゥ。

 

「やるな、貴様………“篠ノ之 束のオマケ”では無い、と言う事か」

 

()()()()()………気安く束様の名前を呼ばないで下さい」

 

そう言い放つエンキドゥドゥに、くーは毒舌を返す。

 

「フンッ………デカい口を叩けるのも………今の内だぁっ!!」

 

其処でエンキドゥドゥは、くー目掛けて突進する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

IS学園の上空では………

 

「そらそらそらそらそらあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

気合の掛け声と共に、メッサーグランツを次々に投擲するシュバルツ。

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

メッサーグランツが針鼠の様に突き刺さった飛行型ガンメン達が、断末魔の叫びと共に次々に爆散して行く。

 

「落ちなっ!!」

 

と其処で、ダイガンカイの装甲の一部が展開し、VLSの様にミサイルが撃ち上げられる。

 

「むっ!? ハアアッ!!」

 

迫り来るミサイルを確認したシュバルツは、そのミサイル群に向かってアイアンネットを放つ。

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

アイアンネットによってミサイルを全て捕縛すると、シュバルツはそのアイアンネットを振り回し、ダイガンテン目掛けて投げ付ける。

 

「ふん! 甘いわっ!!」

 

しかし、シトマンドラがそう言ったかと思うと、飛行型ガンメン達がダイガンテンの前に展開。

 

アイアンネットで纏められいたミサイルは、ダイガンテンの手前で飛行型ガンメン達にぶつかって爆発する。

 

「! 味方を盾に使うか!?」

 

「我等の命は螺旋王様の物!!」

 

「その為に死ぬならば本望だ!!」

 

その様に怒りの様子を見せるシュバルツだったが、他ならぬガンメン部隊からそう言う声が返って来る。

 

「死ね! シュバルツ・シュヴェスターッ!!」

 

と其処でシトマンドラがそう叫ぶと、ダイガンテン下部に装備されていた大型ミサイルがシュバルツ目掛けて発射される!

 

「!? ぐうっ!?」

 

その巨大さからは信じられ無いスピードで迫って来た大型ミサイルはシュバルツにぶつかると、そのまま味方の飛行型ガンメン達を巻き込みながら飛んで行く。

 

「ぐううっ! ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、シュバルツは気合を入れて大型ミサイルを受け止めると、そのままダイガンテンに向かって投げ返した!!

 

「フハハハハハッ!!」

 

だが、シトマンドラは笑いながらもう1発の大型ミサイルを発射。

 

投げ返された大型ミサイルは、新たに発射された大型ミサイルとぶつかり、またも飛行型ガンメン達を多数巻き込んで大爆発する。

 

「ハア………ハア………ハア………ハア………」

 

度重なる連戦を続けて来た為、流石のシュバルツも息切れをしていた。

 

と、その時!!

 

巨大なエネルギーの竜巻が発生する!!

 

「!? ぬうあっ!?」

 

息切れをしていた為に反応が遅れたシュバルツは、その竜巻に呑まれてしまう。

 

「ハーッハッハッ! 回れ、回れ! 殺人回転木馬!!」

 

その竜巻を発生させていた、ダイガンドのグアームがそう声を挙げる。

 

「イ、イカン! このままでは………グアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

何とか脱出を試みるシュバルツだったが、ダメージの蓄積した今の身体では、殺人回転木馬からの脱出は難しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃………

 

ヴァルシオンVSビャコウ戦は………

 

「ぬうう」

 

束のヴァルシオンを攻め(あぐ)ねているビャコウは、槍を構えて摺り足で慎重に移動しながら隙を窺っている。

 

「さあさあ、如何したの? ビビってるの? だったらとっととお家に帰りなさい!」

 

そんなビャコウに向かって、束はまたも挑発をする。

 

(………何故、ヤツは先程から“煽り立てる様な言葉”を続けている? 其れ程までに、己の腕とISに“()()が有る”と言うのか?)

 

と其処で、ビャコウは束の様子にふと疑問を感じる。

 

そして、改めてヴァルシオンの姿を念入りに観察する。

 

(!? 若しや!?)

 

そして、“と或る事”に気付く。

 

(………試してみるか)

 

そう考えると、ビャコウは“飛び掛かろうとしている様な体勢”を取る。

 

「おっ!? またやる気? 何度やっても無駄だよ!」

 

「…………」

 

束がそう言い放つが、ビャコウは無言のまま槍を構えて体勢を取り続ける。

 

「! チエアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!」

 

そして、遂に束目掛けて飛び掛かる!!

 

「貰ったよ!!」

 

その飛び掛かって来たビャコウ目掛けて、クロスマッシャーを見舞おうとする束。

 

その瞬間!!

 

「! 其処だ!!」

 

飛び掛かると思われていたビャコウは、槍を“棒高跳びの棒”の様に使って束の更に頭上を取る!!

 

「えっ!?」

 

慌てて上半身を仰け反らそうとする束だったが………

 

「遅いっ!!」

 

其れよりも早く、ビャコウが引き戻した槍の1撃が、背部のスラスターとボディ装甲の隙間に突き刺さる!!

 

「!? ぐうっ!?」

 

「断罪の焔(コンデム・ブレイズ)ッ!!」

 

更に、ビャコウはその状態で断罪の焔(コンデム・ブレイズ)を放った!!

 

「!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

ヴァルシオンのボディから爆発が上がり、背部のスラスターが脱落した!!

 

「ぐううっ!?」

 

両手を突いて地面に倒れる束。

 

「やはり思った通りだな………」

 

そんな束の前に、ビャコウがそんな事を言いながら着地する。

 

「そのIS………装甲を厚くし過ぎた余り、腕部の稼動範囲が狭くなっているな?」

 

「!?」

 

ビャコウの言葉に、束は驚いた様子を見せる。

 

「更に言えば、篠ノ之 束………如何に貴様が“ISの生みの親”だとしても、()()()()()()()………オマケにエネルギーの消費も激しい、と見た」

 

「………参ったなぁ………まさか見破られちゃうなんて………」

 

ペラペラとそう言い放つビャコウに、束は自嘲する様な笑みを浮かべる。

 

「ふん! 舐めて貰っては困る! このチミルフ! 腕っ節()()で四天王として立っているワケでは無いわ!!」

 

ビャコウがそう言い放ち、また槍を片手で頭上で回転させる。

 

「最早貴様なぞ敵では無いわ!!」

 

そしてそう言い放ったかと思うと、素早く束へと接近!

 

そのまま槍を振り上げて、束を上空へと叩き上げる!

 

「ぐううっ!?」

 

「トドメだ! 破軍の刃槍(アルカイド・グレイヴ)ッ!!」

 

そして其れよりも高く跳び上がったビャコウが、槍の先端にビーム刃を出現させると、其れをヴァルシオンに突き刺して地面目掛けて一気に降下した!!

 

束はそのまま、地面に叩き付けられ、巨大なクレーターを形成する!

 

「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

断末魔の叫びの様な悲鳴が木霊したかと思うと、束は脱力したかの様にガックリとなって、ヴァルシオンの装着が解除される。

 

幸い絶対防御は貫かれなかった様で、身体はボロボロだが未だ息は有る。

 

「!? 束様!!」

 

「隙有りっ!!」

 

エンキドゥドゥと戦っていたくーが其れに気付くが、その瞬間に隙を晒してしまい、エンキソードの斬撃を真面に喰らってしまう。

 

「ガッ!?」

 

「そらそらそらそらそらそらああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

そのまま連続斬りを繰り出し、次々にくーを斬り付けるエンキドゥドゥ。

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

くーの悲鳴と共に、ヴァルシオーネの装甲が飛び散って行く。

 

「死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

トドメとばかりに、エンキドゥドゥは4本のエンキソード全てを振り被り、一気に振り下ろす!

 

「!? うわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

装甲の破片を飛び散らせながら、くーはブッ飛ばされて地面の上を転がった。

 

「…………」

 

気を失ってしまったのか、ピクリとも動かない。

 

「く、くーちゃん………」

 

如何にか首だけ動かして、そのくーの姿を確認する束。

 

その次の瞬間!!

 

上空から何かが落ちて来て、地面に激突する!!

 

「!?」

 

「む、ぐうっ………!」

 

其れは、纏っているシュピーゲル共々ボロボロの状態にされているシュバルツだった。

 

辛うじて立ち上がるものの、最早戦闘を続けられる様な状態では無い。

 

「シュバルツ・シュヴェスターまで………」

 

「終わりだな、篠ノ之 束」

 

そう呟く束に、ビャコウが槍の先端を突き付ける。

 

「貴様に恨みは無いが、螺旋王様の為! その命、貰い受ける!!」

 

そう言って、槍を両手で構えるビャコウ。

 

「! 束ぇっ!!」

 

「織斑先生! 駄目です!!」

 

後方に連れて行かれていた千冬が助けに行こうとするが、真耶に止められる。

 

「…………」

 

と、束はそんなビャコウの姿を一瞬見た後、静かに目を閉じた。

 

「ん? 覚悟を決めたか? 良い度胸だ」

 

「そんなワケ無いじゃん。()()()()()()()だけだよ」

 

「何?」

 

束の言っている意味が分からず、ビャコウは首を捻る。

 

「………()()()()()()よ。後はお願い………」

 

しかし、束はそんなビャコウを無視してそう呟く。

 

「………『グレン団』」

 

その瞬間!!

 

「「燃える男達のぉっ!!」」

 

そう言う叫びが木霊したかと思うと、太陽に2つの人影が掛かる!!

 

「!?」

 

「「火の車キイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーックッ!!」」

 

ビャコウが其れに気付いた瞬間!!

 

人影は炎に包まれて、ダブルキックを見舞って来た!!

 

「のうわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

真面に喰らったビャコウは大きくブッ飛ばされる!!

 

「!?」

 

その光景にエンキドゥドゥが驚きを示した瞬間!!

 

「待たせたな!」

 

「真打ち登場だぜ!!」

 

そう言う台詞と共に、グレンラガンと白神を纏った一夏が現れた!!

 

更に、箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・フラン・楯無・簪・グラパール・弾、グラパール・蘭、ファイナルダンクーガも姿を現す!

 

「!!」

 

「グレン団!!」

 

その姿を見た千冬と真耶が驚愕を露わにする。

 

「来たか、グレン団………そして! 天上 神谷!!」

 

そんな中で、エンキドゥドゥがグレンラガンの姿を見てそう叫ぶ。

 

「へっ」

 

其れに対し、グレンラガンは不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

自らの専用ISを引下げて参戦した束とくー。
更にシュバルツ・シュベスターも参戦。
しかし、さしもの束も、四天王の力には及ばなかった………
最後の砦も崩れ、いよいよ最後かと思われた瞬間………
アイツ等が、帰って来た!!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第117話『よくも俺達の学校で大暴れしてくれたなぁ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第117話『よくも俺達の学校で大暴れしてくれたなぁ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本へと大攻勢を掛けたロージェノム軍。

 

千冬達が残るIS学園も、激しい攻撃を受ける。

 

猛攻の最中に千冬が倒れ、最早コレまでかと思われた瞬間、専用のISを引っ提げ束とくーが現れる。

 

更に、増援に現れた四天王のダイガンの前にも、シュバルツ・シュヴェスターが立ちはだかった。

 

専用IS『ヴァルシオン』の力で、ビャコウを圧倒するかに見えた束だったが………

 

ISの生みの親とは言うものの、戦闘経験の無い束は弱点を見破られ、チミルフのビャコウに敗れてしまう。

 

更に、共に援軍に来たくーもヴィラルのエンキドゥドゥに敗北し、連戦の傷が癒えぬまま戦っていたシュバルツも力尽きる………

 

最早コレまでか?と思われた、その時!!

 

遂に!!

 

グレン団が日本へ帰って来た!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本・IS学園………

 

「グ、グレン団!!」

 

「も、戻って来やがったのか!?」

 

ガンメン部隊やレッドショルダー達が、グレン団の面々の姿を見て恐れ慄く。

 

「戻って来たか………グレンラガン」

 

しかし、ヴィラルのエンキドゥドゥだけは、逆に闘志を燃やしている。

 

「チイィッ! 篠ノ之 束め! 時間稼ぎが目的だったのか!!」

 

そしてチミルフのビャコウは、まんまと束の策略に嵌ってしまった事を悔しがる。

 

「姉さん!!」

 

と其処で、箒が束を助け起こす。

 

「やあやあ、箒ちゃん………元気そうだね」

 

箒に助け起こされた束は、箒の顔を見ると弱々しく笑いながらもそう呟く。

 

「姉さん、何でこんな無茶を………?」

 

「罪滅ぼし………にもならないけど、私には………()()()()()からね」

 

と、箒が問い質すと、束は表情に陰を落としながらそう答える。

 

「? 責任?」

 

「オイ! 大丈夫か!?」

 

「シュバルツ! しっかりしろ!!」

 

その言葉の意味が分からずに箒が首を傾げていると、その間にグラパール・弾がくーを、一夏がシュバルツを助け起こす。

 

「くうっ………束様………」

 

「オイ、無理すんなって!!」

 

自分の怪我を気にも留めず、束の許へ向かおうとするくーを、グラパール・弾が止める。

 

「織斑 一夏………貴様、何をやっている?」

 

一方のシュバルツは、一夏に向かってそんな言葉を投げ掛ける。

 

「えっ? 何って………」

 

「“貴様が()しなければならん事”は戦う事だろうが! 私に構っている暇が有ったら戦えっ!!」

 

戸惑う一夏に、シュバルツはそう言い放つ。

 

「やれやれ………でも、其れでこそシュバルツ・シュヴェスターだな」

 

そんなシュバルツの自他共に厳しい姿勢に苦笑しつつも、シュバルツの元気な様子を見て安心する一夏!

 

「グレン団の皆さん! 篠ノ之博士達は私達が安全な場所まで連れて行きます! だから! 思う存分戦って下さい!!」

 

と其処へ、真耶と数名の学園のIS部隊の人間がやって来て、箒達に代わって束達を助ける。

 

「任せたぜ! メガネ姉ちゃん!!」

 

「御武運を!!」

 

グレンラガンがそう言うと、真耶達はそう言って安全な場所まで離脱して行く。

 

「さてと………やいやい、お前等ぁっ! よくも俺達の学校で大暴れしてくれたなぁ!!」

 

「だが、コレ以上の無法は!!」

 

「俺達が許しちゃ置かないぜぇっ!!」

 

其れを確認すると、グレンラガン・グラパール・弾、一夏が居並ぶロージェノム軍に向かってそう言い放った。

 

「ほざけっ! ハダカザル共がぁっ!!」

 

「この圧倒的戦力を前に、如何戦う積りだいっ!?」

 

「貴様達の負けは決まったも同然じゃ」

 

と、其れを聞いたシトマンドラ・アディーネ・グアームが、グレン団を圧倒しようとダイガン達を進める。

 

その瞬間!!

 

轟音が鳴り響いたかと思うと、ダイガンテン・ダイガンカイ・ダイガンドに次々とエネルギー砲弾が命中した!!

 

「ぬああっ!?」

 

「くううっ!?」

 

「ぬおおっ!?」

 

衝撃で、思わず声を漏らすシトマンドラ・アディーネ・グアーム。

 

「アンタ達の相手はコッチよ!!」

 

続いてそう言う声が響いて来たかと思うと、戦闘形態のインフィニット・ノアが内陸方面から飛んで来る!!

 

「! インフィニット・ノア!!」

 

「チイッ! 鬱陶しい奴が!!」

 

「ええい! ガンメン部隊とレッドショルダーはインフィニット・ノアに攻撃を集中させよ! 旗艦を落とせばグレン団も烏合の衆じゃ!!」

 

グアームの指示で、ガンメン部隊とレッドショルダー達はインフィニット・ノアへと向かおうとする。

 

「戦闘開始だ! 行くぜお前等ぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

其れを皮切りに、グレン団の面々は戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒VSビャコウ………

 

「良くも姉さんを!!」

 

雨月と空裂を、ビャコウ目掛けて振り下ろす箒。

 

「篠ノ之 束の妹か! 貴様の持つ第4世代型ISも厄介な代物だな! 此処で貴様諸共破壊してくれるわぁっ!!」

 

二刀を槍で受け止めながら、ビャコウは箒にそう言い放つ。

 

「やれるものならやってみろぉっ!!」

 

箒はそう返すと、強引にビャコウを弾き飛ばす!

 

「ぬうっ!?」

 

「せやあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

箒は、気合の叫びと共に空裂からエネルギー刃を飛ばす。

 

「シエアァッ!!」

 

しかし、ビャコウは槍を振るい、アッサリとエネルギー刃を打ち消す。

 

「ならばっ!!」

 

一旦雨月と空裂を収納すると、両肩の展開装甲を変形させ、穿千を構える箒。

 

穿千の銃口にエネルギーが充填されたかと思うと、引き金が引かれる。

 

強力なエネルギー砲が、ビャコウ目掛けて発射される!!

 

「!? ぬううっ!?」

 

間一髪躱すビャコウだったが、エネルギー砲は地面を抉りながら伸びて行き、そのまま沖合に居たロージェノム軍の強襲揚陸艦を1隻撃沈した!!

 

「このおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

再び雨月と空裂を両手に握ると、箒はビャコウに突撃する。

 

如何やら束を傷付けられた事で、大分頭に血が昇っている様だ。

 

その動きは荒々しく、洗練さを欠いている。

 

「! 箒! 駄目だ! 冷静になれ!!」

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

少し離れた場所でダイガンドを相手にしていた一夏が、其れに気づきそう呼び掛けるが、箒は気付かない。

 

「クッ! 駄目だ、箒! “()()()()()()なんだ”!!」

 

このままでは箒が危ない、と悟る一夏。

 

今の箒の状態は、“怒りのスーパーモードの危険に気付いていなかった自分”と同じである………

 

怒りは心を曇らせ、隙を生じさせる。

 

「戦いの最中に余所見と、余裕じゃのう!!」

 

と、一夏が箒に目を奪われていた事に気付いたグアームは、ダイガンドのガンポッドの砲撃を集中させる!

 

「!? チイッ!! 爆熱! ゴッド! フィンガアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

迫り来るガンポッドのエネルギー弾に、一夏はゴッドフィンガーを繰り出す。

 

ガンポッドのエネルギー弾は、ゴッドフィンガーのエネルギー波で打ち消される。

 

「撃て撃てぇっ!!」

 

「撃ち落とせえぇっ!!」

 

しかし、続く様にダイガンドの周りに居た、カノン・ガノンを中心とした砲台型ガンメン達が次々に砲火を撃ち上げて来る!!

 

「超級覇王! 電・影・弾ーーーーーーーーっ!!」

 

一夏がそう叫ぶと、身体が気のエネルギーに包まれ、そのエネルギーが渦を巻いて、弾丸の様な姿となる。

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

その状態で、敵軍の中へと突っ込む一夏。

 

一夏が通り過ぎると、次々に爆散して行く砲台型ガンメン。

 

「ぶわぁくはつっ!!」

 

やがて上空に昇って、そう言う台詞と共にポーズを決めたかと思うと………

 

一際巨大な爆発が起こり、砲台型ガンメン部隊の大半が消し飛ぶ!!

 

「うわぁっ!?」

 

と其処へ悲鳴が聞こえて来て、再び視線をビャコウの方に向けると、苦戦している箒の姿が目に入る。

 

「箒!」

 

「一夏! 此処は俺達に任せろ!!」

 

すると、近くで戦っていたグラパール・弾がそう言って来た。

 

「! 弾!? でも………」

 

「グズグズすんな! 早く行け!!」

 

何か言い返そうとした一夏だったが、グラパール・弾は有無を言わせない様子で更にそう叫ぶ。

 

「! すまない!!」

 

一夏は一瞬逡巡したが、直ぐに箒の許へと向かった。

 

「………一夏さん」

 

と、その様子を見ていたグラパール・蘭が複雑な声を挙げる。

 

今の“一瞬の遣り取り”だけで、()()()()()()()()様だ。

 

一夏が箒を“如何思っているか”を………

 

「くうっ!」

 

思わず涙が出そうになり、動きが止まるグラパール・蘭。

 

「動きが鈍い奴が居るぞ!!」

 

「仕留めろっ!!」

 

「グレンラガンモドキめ!!」

 

其れを見た飛行型ガンメン部隊が、グラパール・蘭へと殺到する!!

 

「蘭! 何やってんだっ!?」

 

直ぐに、グラパール・弾がフォローに入ろうとしたが………

 

「! パワーミサイルMAX!!」

 

グラパール・蘭は急に動き出したかと思うと、巨大ミサイルランチャーを出現させて掲げる様に構える!!

 

「「「「「「「「「「なぁっ!?」」」」」」」」」」

 

思わず動きが止まる、飛行型ガンメン部隊とグラパール・弾。

 

「一夏さんの………ブワァカアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そしてそんな叫び声を挙げたかと思うと、一斉射する!!

 

ランチャーから白煙の尾を曳きながら、ミサイルが次々に発射される!!

 

「ギャバアアアアアァァァァァァーーーーーーーッ!?」

 

「獣人に栄光有れええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!?」

 

「ロージェノム様、バンザアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

「おわっ!? ちょっ!? 蘭! ストップ! ストーップッ!!」

 

八つ当たり気味のミサイル連射を受けて次々に爆散して行く飛行型ガンメン達と、慌てて流れ弾を躱すグラパール・弾だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレンラガンVSエンキドゥドゥ………

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

両手のドリルとエンキソードを激しくぶつけ合い、凄まじい火花を散らしているグレンラガンとエンキドゥドゥ。

 

「グレンラガン………いや、天上 神谷! 思えば、貴様とも長い因縁だったな!!」

 

「ああ! だが其れも今日で(しめ)ぇーだ!! “テメェをブッ飛ばして”なぁっ!!」

 

鍔迫り合いを続けながら、両者は互いにそう言い合う。

 

「ぬんっ!!」

 

「チイッ!!」

 

と、両者は互いに弾かれる様に距離を取った。

 

「おりゃあっ!!」

 

グレンラガンが、気合の掛け声と共に両腕を地面に突っ込む!!

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

そして、地面の一部を岩石として持ち上げる!!

 

「岩石投げええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

その岩石を、エンキドゥドゥ目掛けて投げ付ける!!

 

「シエアッ!!」

 

だが、エンキドゥドゥは4本の腕に握った4つのエンキソードで、岩石を細切れにする。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

と、その岩石の陰に隠れていたグレンラガンが、岩石が細切れになった瞬間に姿を現し、エンキドゥドゥに飛び蹴りを繰り出す!!

 

「チイッ!!」

 

4本のエンキソードの内、2本を使って防御するエンキドゥドゥ。

 

「喰らえっ!!」

 

反動で後退させられたかと思うと、両肩のミサイルランチャーを発射する!!

 

「今更そんなもんが効くかぁっ!!」

 

しかし、グレンラガンは回し蹴りで全てのミサイルを弾き飛ばす!!

 

「なら、コレは如何だぁっ!?」

 

エンキドゥドゥはそう言うと、地を這う様にエンキソードを振るう!

 

するとエンキソードから、斬撃波が地面を縫う様に飛ぶ!!

 

「うおっと!?」

 

ジャンプして斬撃波を躱すグレンラガンだが、

 

「隙有りぃっ!!」

 

その一瞬の隙を捉え、エンキドゥドゥは4本のエンキソードでの突きを繰り出す!!

 

「! うおわっ!?」

 

装甲は抜かれなかったが、衝撃でブッ飛ばされ、大木を次々に薙ぎ倒して土煙を上げるグレンラガン。

 

しかし、直ぐにその土煙の中から多数のドリルミサイルが飛んで来る。

 

「シイエアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

エンキドゥドゥは4本の腕とエンキソードを振り回し、次々にドリルミサイルを斬り落として行く!

 

するとその瞬間!!

 

地面から腕が飛び出して、エンキドゥドゥの両脚を摑む!

 

「!?」

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

エンキドゥドゥが驚きを示した瞬間、グレンラガンが雄叫びと共に飛び出して来る!

 

「必殺! グレンラガン! スーパージャイアントスイイイイイイイィィィィィィィィーーーーーーーーーングッ!!」

 

そしてそのまま、エンキドゥドゥにジャイアントスイングを見舞う!!

 

「ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

「おりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

かなり振り回したかと思うと、エンキドゥドゥを放り投げるグレンラガン。

 

「ぐああああっ!?」

 

エンキドゥドゥは戦闘の影響で隆起していた地面に叩き付けられる。

 

「テラドリル! トルネエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーードッ!!」

 

そのエンキドゥドゥ目掛けて、グレンラガンは額の部分にドリルを出現させると、身体ごと回転しながら突っ込む!!

 

「!! むうんっ!!」

 

と、エンキドゥドゥは4本のエンキソード全てを使って、テラドリルトルネードで突っ込んで来たグレンラガンを受け止める。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「ぬああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

互いに叫び声を挙げながら押し合いを繰り広げるグレンラガンとエンキドゥドゥ。

 

「でやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「!? ぬうあっ!?」

 

やがてエンキドゥドゥが押し負け、その身体が宙に舞う!!

 

「ぬんっ! 時空断裂! 大回転キイイイイイイイィィィィィィィィーーーーーーーーーックッ!!」

 

そのエンキドゥドゥ目掛けて、今度は時空断裂大回転キックを繰り出すグレンラガン。

 

「くうっ!! ハアッ!!」

 

と、エンキドゥドゥはボディ部分を開いて、内蔵の重火器を一斉射する!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、螺旋エネルギーを纏っているグレンラガンには通用せず、時空断裂大回転キックがエンキドゥドゥに炸裂する!!

 

「ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

咄嗟に身体を捻って直撃を避けたエンキドゥドゥだったが、其れでも凄まじい衝撃が身体を襲い、地面に叩き付けられる!!

 

「チイイッ!!」

 

だが、怯むどころかグレンラガンの着地の瞬間を狙い、エンキカウンターを放つ!!

 

「!? うおわっ!?」

 

着地の瞬間を狙われて再びブッ飛ばされ、木の幹に叩き付けられるグレンラガン。

 

大木がポッキリと折れ、メキメキと乾いた音を立てながら倒れる。

 

「チイッ! やるじゃねえか! ヴィラル!!」

 

「貴様もなぁ! 天上 神谷!!」

 

グレンラガンとエンキドゥドゥはそう言い合うと、再び正面切って衝突し合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、箒VSビャコウ………

 

「でやああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「甘いっ!!」

 

二刀で連続斬りを繰り出す箒だが、ビャコウはその全てを槍で捌く。

 

「セエエアッ!!」

 

「ガフッ!?」

 

そのまま二刀を流すと、槍の石突きの部分を箒の腹に叩き込む!!

 

「ゲホッ! ゴホッ!」

 

「そんな攻撃で、このワシを倒す事なぞ出来んぞ!!」

 

咳き込む箒に向かって、ビャコウはそう言い放つ。

 

先程までは箒の怒涛の攻撃に押されていたが、箒が冷静さを欠いている事に気付くと、直ぐに形勢を逆転させた。

 

「くうっ! 黙れええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

しかし箒から未だ怒りは抜けず、雨月と空裂を握り直すと再びビャコウへ突っ込んで行く。

 

「愚か者めぇっ!! 断罪の焔(コンデム・ブレイズ)っ!!」

 

だが、箒が突っ込んで来ると予想していたビャコウは、すかさず断罪の焔(コンデム・ブレイズ)を放つ!!

 

「!?」

 

青白い光が箒の視界一杯に広がる!

 

(しまった!? 避けられない!!)

 

自ら突っ込んで行っている為、回避できない箒。

 

と………

 

「ゴッドフィールド! ダアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッシュッ!!」

 

背面ブースターの推進力で一気に加速してきた一夏が、箒を掻っ攫う様に抱え、断罪の焔(コンデム・ブレイズ)の射線からズラした!!

 

「!? 一夏!?」

 

「チイッ! 今一歩の処で!!」

 

箒とビャコウがそう言い合う中、一夏は無言でビャコウに向き直る。

 

「危なかった………」

 

抱えていた箒を降ろすと、一夏はそう呟く。

 

「一夏! 邪魔をするな!! アイツは私が………」

 

しかし箒は不満だったらしく、一夏に向かってそう言おうとするが………

 

「…………」

 

「!? イダッ!?」

 

一夏は右腕パーツだけを解除したかと思うと、生身の右手で箒にデコピンを見舞った。

 

「い、一夏!?」

 

“シールドに守られてる筈”なのに、()()()痛さを感じ、箒は額を押さえながら一夏の顔を見遣る。

 

「落ち着け、箒。気持ちは分かるけど、冷静さを欠いたら駄目だ。“そうしたら如何なるか”は………()()()()()()からな」

 

自嘲する様に笑いながら、一夏は箒に向かってそう言う。

 

「あ………」

 

その言葉に、ハッとして我に返る箒。

 

「おのれ、織斑 一夏め!!」

 

と、ビャコウが戦いに割って入って来た一夏に向かってそう言い放つ。

 

「………こっからは俺が相手だ」

 

一夏は右腕パーツを再装着しながらビャコウに向き直ると、雪片を蜻蛉に構えてそう言い放つ。

 

「フンッ! 返り討ちにしてくれるわぁっ!!」

 

ビャコウは槍の先端にビーム刃を展開すると、一夏目掛けて突撃する。

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

其れに対し、一夏も蜻蛉の構えを維持したままビャコウに突撃する。

 

そのままスパークを発しながら激しい鍔迫り合いを展開する!!

 

「…………」

 

一方の箒は、茫然とその場に立ち尽くしていた………

 

(私は()()激情に囚われてしまったのか………さっきの攻撃だって、下手をしたら死んでいたかも知れないし、一夏を巻き込んでしまったかもしれない………)

 

自責の念が、箒に激しく襲い掛かる。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「!?」

 

しかし、目の前で激しく剣戟を展開している一夏とビャコウを見て、直ぐに気を取り直す。

 

(………そうだ! 後悔する事は後でも出来る! ()すべき事は………“一夏を助ける”事だ!!)

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

と、箒が気合を入れる様に叫ぶと、絢爛舞踏が発動!

 

減っていたエネルギーが一気に回復する。

 

「破軍の刃槍(アルカイド・グレイヴ)ッ!!」

 

「ぐうっ!?」

 

破軍の刃槍(アルカイド・グレイヴ)を如何にか防ぐが、衝撃で後方へ飛ぶ一夏。

 

「マズイ! エネルギーが!?」

 

しかし、白神のエネルギーに限界が近付いていた。

 

「一夏! エネルギーを!!」

 

其処へ、絢爛舞踏を発動させている箒が一夏へ向かって手を伸ばしながら飛ぶ。

 

「そうはさせんぞ! 断罪の………」

 

そうはさせじと、断罪の焔(コンデム・ブレイズ)を放とうとするビャコウだったが………

 

「行けっ!!」

 

箒は、ビットを射出してビャコウに向かわせる。

 

「! チイッ!!」

 

槍を使ってビットを弾き飛ばすビャコウだったが、その間に箒の手は一夏の手を摑む。

 

エネルギーが白神に流れ込み、白神のエネルギー残量が回復する。

 

「よおしっ!!」

 

一夏が気合を入れる様に叫ぶと、白神が金色に輝き出す。

 

「ぬううっ!?」

 

「行くぞぉっ! 爆熱! ゴッドスラッシュッ!!」

 

そしてエネルギーを雪片に集中させ、緑色に輝くエネルギー刀身を出現させるとビャコウに斬り掛かる。

 

「小癪なぁっ!! 破軍の刃槍(アルカイド・グレイヴ)ッ!!」

 

ビャコウは破軍の刃槍(アルカイド・グレイヴ)で迎え撃つ。

 

爆熱ゴッドスラッシュと破軍の刃槍(アルカイド・グレイヴ)がぶつかり合い、激しくスパークを発する!!

 

スパークの走った地面や岩、木が次々に爆散して行く。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「ぬうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」

 

両者互いに1歩も譲らず押し合いを展開する。

 

と次の瞬間!!

 

一夏の雪片が弾かれ、宙に舞った!!

 

()ったぞ! 織斑 一夏!!」

 

槍を素早く引くと、トドメの突きを放とうとするビャコウ。

 

その瞬間!!

 

「一夏! 受け取れっ!!」

 

箒が、空裂を一夏に向かって投げ付ける!!

 

「!? チェストオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!」

 

その空裂をキャッチするや否や、一夏はビャコウに渾身の縦一文字斬りを叩き込む!!

 

「ぬうおっ!?」

 

ビャコウのボディに、縦一文字の傷が入る!!

 

「!!」

 

その間に、箒は右手に雨月、左手に雪片を握ってビャコウの背後を取った!!

 

「箒! 合わせろ!!」

 

「心得た!!」

 

そして、2人同時にビャコウに斬り掛かる!!

 

「奥義!!」

 

「重ねカマイタチ!!」

 

一夏の正面からの一刀流で、箒の背後から二刀流での横一文字切りがビャコウに炸裂する!!

 

「ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

ビャコウの身体に光の線が走ったかと思うと、爆発・四散した!!

 

「チイイッ! オノレェッ! よくもワシのビャコウを!!」

 

しかしチミルフは脱出し、ダイガンザンの艦首へと飛び移る。

 

「チミルフ! 大丈夫かい!?」

 

「ええい! 人間共め!!」

 

「まさかココまでやるとは思わなんだ………」

 

其処で、アディーネ・シトマンドラ・グアームがそう言って来る。

 

彼等の乗るダイガンも、グレン団とインフィニット・ノアの攻撃を受け、黒煙を上げている。

 

「こうなれば仕方有るまい! ()()をやるぞ!!」

 

するとチミルフがそう言い、ダイガンザンの艦橋へと戻る。

 

「チッ! まさか“コイツ”を見せる羽目になるとはねぇ」

 

「癪だが致し方有るまい」

 

「人間共め………我々を“本気にさせた”事を後悔するが良い」

 

アディーネ・シトマンドラ・グアームがそう言うと、ダイガンカイ・ダイガンテン・ダイガンド、そしてダイガンザンが1箇所に集結する。

 

「? 何だ?」

 

「何をする気だ?」

 

と、一夏と箒がそう声を挙げた瞬間!!

 

「「「「合体っ!!」」」」

 

四天王達はそう声を挙げた!!

 

すると、ダイガンドが縦に割れてその間にダイガンザンが挟み込まれる様にドッキング!!

 

更に、その下部へ後部を伸ばしたダイガンテンがドッキング!!

 

そして前後に分離したダイガンカイが、ダイガンザンの左右のカタパルトアームに其々ドッキング!!

 

4つのダイガンが合体し、1体の超巨大なダイガンとなる!!

 

「が、合体した!?」

 

「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」

 

その姿に、グレン団は驚きを露わにする。

 

「見たか! 人間共!!」

 

「東・西・南・北・陸・海・空!!」

 

「三界四方に死角無し!!」

 

「これぞ完全要塞! ドテンカイザンよ!!」

 

そのグレン団に、螺旋四天王はそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

漸く到着したグレン団と四天王の大バトル。
箒は冷静さを欠いたものの、一夏の手助けも有って、ビャコウを撃破。
しかし、追い詰められた四天王は切り札を切る。
合体ダイガン『ドテンカイザン』登場!!
果たしてこの規格外の巨大な敵と如何戦うか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第118話『俺との勝負は終わってないぞ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第118話『俺との勝負は終わってないぞ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本への大攻勢を開始したロージェノム軍。

 

特に、IS学園には四天王と共にダイガンが集結し、激戦地となっていた。

 

その猛攻の前に、千冬が倒れ、救援に駆け付けた束やくー、シュバルツまでもが倒される。

 

もう駄目か?と思われたその時!!

 

遂にグレン団が日本へ! IS学園へと帰って来た!!

 

世界各地を巡って激戦を繰り広げ、進化したグレン団の力は凄まじく、ロージェノム軍の猛攻を瞬く間に押し返し始める!!

 

グレンラガンとヴィラルのエンキドゥドゥが激戦を繰り広げる中、箒は一夏と協力して四天王の1人、チミルフの駆るカスタムガンメン・ビャコウを撃破する!!

 

だがその次の瞬間!!

 

四天王のダイガンが次々に合体!!

 

超巨大ダイガン・『完全要塞ドテンカイザン』となるのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本・IS学園………

 

「ドテンカイザンだって!?」

 

一夏が上空に浮かぶドテンカイザンを見上げながら、そう声を挙げる。

 

「クッ! 奴等! あんなモノを持っていたのか!?」

 

箒も其れに呼応する様にそう声を挙げる。

 

「野郎! 合体は俺達の十八番(オハコ)だぜ!!」

 

エンキドゥドゥのエンキソードを両手のドリルで受け止めながら、グレンラガンがドテンカイザンに向かってそう叫ぶ。

 

「フフフ………このドテンカイザンの合体を、貴様等の“チンケな合体”と一緒にして貰っては困るな」

 

すると、ドテンカイザンからそんなグアームの声が聞こえて来る。

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「見るが良い! ドテンカイザンの力を!!」

 

と、続いてチミルフの声が聞こえたかと思うと、ドテンカイザンの彼方此方から、凄まじい量の砲撃が放たれる!!

 

その砲撃が、全て内陸の方へと着弾したかと思うと………

 

まるで核爆発の様な凄まじい爆発が起こった!!

 

「「「「「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」」」」」

 

「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」

 

爆心地点からはかなり離れている筈なのに、爆発の衝撃波の勢いは衰えず、グレン団の面々へと襲い掛かる!!

 

少ししてその衝撃波が収まったかと思うと………

 

爆心地点には、巨大なキノコ雲が上がっていた!!

 

勿論、着弾した場所は焼け野原となっている。

 

「な、何て火力ですの………」

 

「クウッ! 予想以上だ………」

 

其れを見て、セシリアとラウラが戦慄を覚えながらそう呟く。

 

「コレがドテンカイザンの威力だ!!」

 

「グレン団! 今度こそくたばりなぁっ!!」

 

と其処でシトマンドラとアディーネの声が響いたかと思うと、ドテンカイザンの砲撃が空中に居るグレン団メンバー目掛けて襲い掛かる!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

「!? クウッ!?」

 

「キャアッ!?」

 

慌てて回避行動を取る、空中のグレン団メンバー。

 

「こんのぉっ!!」

 

「喰らえっ!!」

 

其処で楯無が蒼流旋のガトリング砲を、シャルがスペースサンダーをドテンカイザンに見舞う。

 

しかし、どちらの攻撃も装甲の表面で弾かれてしまう。

 

「ハハハハハッ! 何だソレは!?」

 

「蚊が刺した程も効かんぞぉっ!!」

 

シトマンドラとチミルフがそう(うそぶ)くと、楯無とシャル目掛けて砲撃が見舞われる!!

 

「キャアッ!?」

 

「駄目だ! 相手が大き過ぎて効果が無いよ!!」

 

直ぐ脇で爆発が起こる中を、必死で飛び回って回避する楯無とシャル。

 

「なら、コイツは如何だ!?」

 

「ええいっ!!」

 

「「!!」」

 

と今度は、グラパール・弾とグラパール・蘭がスパイラルボンバーを、地上に居た簪とフランがショルダーミサイルポッドのミサイルと、アサルトライフルの銃弾を見舞う。

 

しかし、またも装甲表面を焦がしただけで、損傷を与えられない。

 

「ええい! 鬱陶しいよっ!!」

 

アディーネの声が響くと、すかさずドテンカイザンから反撃の砲撃が発射される。

 

「うおわっ!?」

 

「キャアアアアアァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

「「………!?」」

 

周辺で次々に爆発が起こって悲鳴を挙げるグラパール・弾とグラパール・蘭に、慌ててローラーダッシュで逃げ回る簪とフラン。

 

「やあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーってやるニャッ!!」

 

すると、ファイナルダンクーガがドテンカイザン目掛けてファイナル断空砲を放つ!!

 

龍を象った砲撃が、ドテンカイザンに直撃する!!

 

「ぬううっ!?」

 

其処で、初めて怯む様子を見せたドテンカイザン。

 

「行けええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

ファイナルダンクーガはそのまま押し切ろうとするが………

 

「舐めるなあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

チミルフの声が響き、ドテンカイザンの腕が振られたかと思うと、ファイナル断空砲が雲散させられてしまう。

 

「!? ニャアッ!?」

 

「裏切り者めぇ! 死ねぇっ!!」

 

驚くファイナルダンクーガ目掛けて、シトマンドラの声と共に一斉砲撃が見舞われる!!

 

「!? ニャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」

 

直撃弾を多数貰い、黒煙を曳きながら墜落するファイナルダンクーガ。

 

装甲が厚かったお蔭で致命傷は避けられたが、其れでもアーマーが罅割れ状態となった。

 

「! ティトリー! こんのぉっ!! 龍虎王、移山法!!」

 

と鈴はそう叫ぶと、再び1枚の札を取り出す。

 

「神州霊山!!」

 

そして、その札を巨大化させて目の前に浮かばせたかと思うと、

 

「移山召喚!!」

 

そう叫んで、空へと舞い上げた。

 

すると、空中に赤い八卦図が浮かび上がり、其処から暗雲が広がる。

 

そしてその暗雲の中から、巨大な岩山が召喚される!!

 

「急々如律令!!」

 

そう叫んで鈴が右手を下げた瞬間、岩山はドテンカイザン目掛けて落下する!

 

だが!!

 

「むううんっ!!」

 

チミルフの気合の声が響いたかと思うと、ドテンカイザンは両手で岩山を受け止める!

 

「!? なっ!?」

 

「お返しするぞ、ホレ!」

 

驚く鈴に向かってグアームがそう言ったかと思うと、ドテンカイザンは岩山を鈴目掛けて投げ返す!

 

「!? くううっ!?」

 

(すんで)の所で回避する鈴。

 

岩山はそのまま彼方へと飛んで行き、水平線の向こうで巨大な水柱を上げた!

 

「ちょっとぉっ!! そんなの有りなのぉ!?」

 

鈴は思わず、ドテンカイザンに向かってそう言い放つ。

 

「グレン団が危ない! 援護するわよ!!」

 

「了解しました!」

 

「主砲! ミサイル! 中性子ビーム砲! 斉射ぁっ!!」

 

すると其処で、インフィニット・ノアがグレン団を援護しようとドテンカイザンに攻撃を開始する!!

 

48㎝3連装レーザー主砲、船体各所の発射口から対艦ミサイル、煙突型の中性子ビーム砲が次々に発射され、ドテンカイザンへと命中して行く!!

 

「ぬうっ!?」

 

「チイッ! インフィニット・ノアかい!!」

 

「貴様は引っ込んでいるが良いわ!!」

 

と、チミルフ・アディーネ・シトマンドラの声が響くと、ドテンカイザンの一斉砲撃が今度はインフィニット・ノアに襲い掛かる!

 

「回避運動!!」

 

「駄目です! 間に合いません!!」

 

「当たっちゃうよ~!!」

 

回避行動を取るインフィニット・ノアだが、ドテンカイザンからの砲撃は躱し切れるものではない。

 

幾つもの砲弾が、インフィニット・ノアの艦体に次々と着弾した!!

 

「キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

「右飛行甲板被弾! 第2砲塔損傷! 左舷ミサイル発射管大破! 各ブロックに火災発生!!」

 

「隔壁閉鎖! 消火剤散布! ダメコン急いで!!」

 

のほほんが悲鳴を挙げ、虚が損傷具合の報告を挙げると、リーロンが直ぐ様指示を出す。

 

「! インフィニット・ノアが!?」

 

黒煙の上がるインフィニット・ノアを見て、一夏が思わず声を挙げる。

 

「クッ! このままでは()られるのを待つだけだ!!」

 

箒が苦い表情を浮かべてそう言い放つ。

 

「バラバラに戦っていても駄目だ! 攻撃を集中させるぞ!!」

 

すると其処で、ラウラがそう言って来た。

 

「ならば先鋒は私が!!」

 

其れを聞いたセシリアが、フォトンストリームキャノンの発射態勢に入る。

 

だが、其れを見たドテンカイザンから一斉砲撃が見舞われる。

 

「フォトンエネルギーチャージ………80………90………」

 

砲撃が迫って来ても、構わずチャージを続けるセシリア。

 

「反重力ストームッ!!」

 

すると、セシリアに迫っていた砲撃に向かって、シャルが反重力ストームを放った!!

 

反重力によって、ドテンカイザンの砲撃が在らぬ方向へ飛んで次々に爆発する!

 

「100………120%!! フォトンストリームキャノン! 発射ぁっ!!」

 

その間にチャージを終えた、セシリアのフォトンストリームキャノンがドテンカイザン目掛けて発射される!!

 

ドテンカイザンのダイガンテンの顔部分に命中するフォトンストリームキャノン。

 

「ぬううっ!?」

 

巨大な爆発が上がり、ドテンカイザンが僅かに揺らいだ!!

 

「チイッ! グレン団め!!」

 

「じゃが、その程度ではビクともせんぞぉ」

 

シトマンドラが金切り声を挙げるが、グアームは余裕を見せる。

 

事実、フォトンストリームキャノンが命中した箇所は赤熱化はしているものの、重大な損傷を負っているとは言えなかった。

 

しかし………

 

「未だ終わりじゃないわよ!! 龍王炎符水!!」

 

「ブレストバアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーンッ!!」

 

「喰らえっ!!」

 

「爆熱! ゴッド! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

更に続く様に、鈴がマグマ・ヴァサール、ラウラがブレストバーン、箒が穿千、一夏が爆熱ゴッドフィンガー(放出)を放つ。

 

赤熱化していた箇所に熱線系の攻撃が集中し、遂に装甲が融解を始める!

 

「ぬうっ!? オノレェッ!!」

 

「ええい、小癪なっ!!」

 

しかし、其れを何時までも見ているドテンカイザンでは無く、チミルフとグアームの声が挙がると共に、鈴・ラウラ・箒・一夏目掛けて砲撃が開始される。

 

「来たぞ!」

 

「回避だ!!」

 

「「!!」」

 

一斉に散開して回避行動を取る一夏達。

 

「受けてみなさい! 最大のミストルテインの槍を!!」

 

すると今度は、楯無が装甲が融解し掛かっている部分目掛けて、極限までアクア・ナノマシンを集中させたミストルテインの槍を放つ!!

 

小型気化爆弾4個分に相当する爆発が、ドテンカイザンの融解した装甲部分で起こる!!

 

「未だ未だぁっ!!」

 

「コレも喰らいなさいっ!!」

 

其処へ未だ未だだと言う様に、グラパール・弾とグラパール・蘭がスパイラルボンバーを全弾叩き込む!!

 

「断空砲! フォーメションニャッ!!」

 

そして、仕上げにファイナルダンクーガが断空砲フォーメションを撃ち込む!!

 

連続の猛攻撃の前に………遂に!!

 

ドテンカイザンの装甲が弾けたっ!!

 

「ぬおわっ!?」

 

「やってくれたねぇ………けど、穴を開けるので精一杯みたいだったねぇ」

 

シトマンドラから慌てた声が挙がるが、アディーネは冷静にそう言い放つ。

 

その言葉通り、ドテンカイザンのダイガンテンの顔部分には2メートル程の穴が開いただけであり、致命傷には至っていない。

 

「クソッ! アレだけ攻撃を重ねて、穴が開いただけかよ!?」

 

愚痴る様にそう言い放つ一夏。

 

すると………

 

「チッ! しゃあ無えな………ヴィラル! 勝負はお預けだ!!」

 

「!? うおあっ!? 何っ!?」

 

エンキドゥドゥと戦いを続けていたグレンラガンが、不意にそう言い放ちエンキドゥドゥを蹴り飛ばした!!

 

「ギガァ! ドリルゥ! ブレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーイクッ!!」

 

そして右手にギガドリルを出現させると、ドテンカイザン目掛けて突っ込んで行く!!

 

そのまま、ドテンカイザンの損傷箇所から内部へと突入する!!

 

「神谷!!」

 

「オノレェッ! 逃がさんぞ、グレンラガン!!」

 

しかし、直ぐにその後をエンキドゥドゥが追って行った。

 

「! マズイ!!」

 

「貴様等は行かせんぞ!!」

 

直ぐに、一夏を先頭に他のグレン団メンバーもドテンカイザンの内部へ突入しようとしたが、そうはさせないとドテンカイザンから砲火が上がる!!

 

「うわぁっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「グレンラガンはヴィラルの奴に任せるかね」

 

「ならば、ワシ等は煩い蝿共を料理するとするかのう」

 

アディーネとグアームがそう言い放ち、ドテンカイザンは執拗にグレン団の面々を狙い始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ドテンカイザンの中へと突入したグレンラガンは………

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

厚い装甲壁を突き破り、広いエリアへと飛び出すグレンラガン。

 

「動力炉は何処に()んだ!?」

 

一気にカタを着けるべく、動力炉を探し求める。

 

「天上 神谷! 俺との勝負は終わって無いぞ!!」

 

と其処で、追い付いたエンキドゥドゥが、エンキソードで斬り掛かる!!

 

「! チイッ!!」

 

グレンラガンが飛び退くと、エンキソードが床を斬り裂く!!

 

「しつけー奴だな!!」

 

「言った筈だ! “今度こそ決着を着ける”とな!!」

 

そう言い放つと、重火器を一斉発射するエンキドゥドゥ。

 

「螺旋の盾!!」

 

グレンラガンは螺旋力のバリアで防ぐ。

 

「せえりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

と、エンキドゥドゥはその螺旋の盾目掛けて、エンキソード4本で一斉に斬り付ける。

 

途端に、螺旋の盾が何処ぞの研究所のバリアの様にパリンと割れる!

 

「うおっ!?」

 

「シエアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

怯んだグレンラガンの脇腹に、エンキドゥドゥのキックが炸裂する!!

 

「!? ゴボッ!?」

 

吐血したかと思うとブッ飛ばされ、壁を突き破って暗闇に消えるグレンラガン。

 

()ったか!?」

 

其れを見たエンキドゥドゥがそう声を挙げるが………

 

「ランススティンガーッ!!」

 

其処で粉塵の中から、細長いドリルが2本飛び出して来る!!

 

「!? ぐああああっ!?」

 

ボディを突き破られる事は無かったが、エンキドゥドゥはそのまま反対側の壁へと叩き付けられる。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

其処でドリルが戻ると、今度はグレンラガンが飛び出す!!

 

「螺旋ストロング! キイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーックッ!!」

 

そして、螺旋力を纏った飛び蹴りを繰り出す!!

 

「!? うおわぁっ!?」

 

真面に喰らったエンキドゥドゥが壁に()り込む!!

 

「ぐううっ!!」

 

しかし直ぐに、腹に叩き込まれていたグレンラガンの足を摑む。

 

「!?」

 

「でりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

そして壁から抜け出しながら、グレンラガンを持ち上げたかと思うと、そのまま床へと叩き付ける!!

 

「ぐへっ!?」

 

「未だ未だぁっ!!」

 

再びグレンラガンを持ち上げると、またも床へと叩き付けるエンキドゥドゥ。

 

「ゲハッ!!」

 

「シェアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

またも持ち上げ、再び床に叩き付けようとする。

 

「ぐうっ! ギガドリルマキシマム!!」

 

するとグレンラガンは、ギガドリルによるフルドリライズを発動させる!!

 

「!? ぐあっ!?」

 

エンキドゥドゥは、堪らずグレンラガンを手放す。

 

「ぐうっ!! ハア………ハア………」

 

その間に着地を決め、呼吸を整えるグレンラガン。

 

「ゼエ………ゼエ………」

 

エンキドゥドゥの方も、同じく呼吸を整えている。

 

外の戦闘が激しさを増しているのか、先程からドテンカイザンには断続的に震動が走って来ている。

 

「へっ………どした? ヴィラルさんよぉ? 息が上がってんぜ?」

 

と、グレンラガンは不敵に笑いながらエンキドゥドゥに向かってそう言い放つ。

 

「フッ………其れは貴様も同じだろう?………グレンラガン」

 

エンキドゥドゥも不敵に笑い、グレンラガンに向かってそう言い返す。

 

「馬鹿言ってんじゃ無えよ。未だ未だ余裕だぜ!!」

 

其処でグレンラガンは立ち上がり、構えを取って見せる。

 

「奇遇だな………俺もだ!!」

 

そう言って、再びエンキソードを4本の手に構えるエンキドゥドゥ。

 

「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」

 

そして、またも両者は互いに正面からぶつかり合う!!

 

「ヴィラル! 螺旋王は()()()世界征服をしようとしてんのか!?」

 

すると其処で、グレンラガンが不意にエンキドゥドゥに向かってそう問い掛けた!!

 

「如何言う意味だ!?」

 

「俺達が世界中を回っている間! あの野郎は、次々に国を攻め落としやがった! まるで“人間を根絶やしにしようとしている”かの様にな!!」

 

コレまで回って来た国へ、()()とも言える攻撃を行ったロージェノム軍の事を思い出しながら、そう言うグレンラガン。

 

「俺には、奴は“違う目的”が有る様に思えてならねぇ! そうなんじゃねえのか!?」

 

「例えそうであったとしても! 我等獣人にとって螺旋王様は“絶対の存在”!! その螺旋王様の命であれば! “何であろうと従う”のみ!!」

 

グレンラガンの両腕を弾くと、エンキドゥドゥはボディ目掛けて4本のエンキソードで一斉に突きを見舞う。

 

「本当にそうかよ! じゃあ、今此処で俺と戦ってんのも、()()()()()()だからってだけか!?」

 

と、グレンラガンはグレンバイトでエンキソードを真剣白刃取りならぬ白刃噛みで受け止める!!

 

「! 其れは………」

 

其処で動揺したかの様な様子を見せるエンキドゥドゥ。

 

「絶対だが何だか知らねえが、そんなモン捨てちまえっ! そうすりゃもっと面白い勝負が出来るぜ! ヴィラル!!」

 

グレンラガンはまたも不敵に笑いながらそう言い放つ。

 

「! ええい! 黙れえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、エンキドゥドゥはエンキソードを引くと、再びグレンラガン目掛けて連続斬りを繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、外では………

 

ドテンカイザンと必死の奮戦を続けている一夏達………

 

「そうらぁっ!?」

 

「うおわっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「くうっ!!」

 

アディーネの声と共に振られてきたドテンカイザンの腕を、間一髪で躱すグラパール・弾、グラパール・蘭、ラウラだったが、風圧で吹き飛ばされる。

 

「ダブルハーケンッ!!」

 

「其処ぉっ!!」

 

ダブルハーケンを投擲するシャルと、鉄球とワイヤーを接続した接近戦用打撃武器・G-ハンマーを見舞うセシリア。

 

しかし、どちらもドテンカイザンの装甲で弾かれる。

 

「無駄だじゃ無駄じゃ。貴様等にこのドテンカイザンは落とせん」

 

グアームがそう言うと、対空機銃の砲火が上がる!!

 

「クウッ!!」

 

「駄目ですの!?」

 

シャルは回避運動を取り、セシリアもシールドで弾丸を防ぐ。

 

「龍王破山剣! 逆鱗断!!」

 

「いっけえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

其処で、鈴が龍王破山剣・逆鱗断、楯無が再びミストルテインの槍を放つ。

 

だが、両者の攻撃は装甲の表面を焦がしただけだった。

 

「ハハハハハハッ! 今何かしたのか!? ハハハハハハッ!!」

 

シトマンドラの馬鹿にする様な笑い声が響き渡る。

 

「コレも駄目ぇっ!?」

 

「如何すれば良いのよ………?」

 

その様を見て、思わずそんな声を挙げる鈴と楯無。

 

「「…………」」

 

簪とフランは、只管に地上から射撃を続けているが、やはり効果は見られない。

 

「ニャッ!? バーニアの調子が………ゴメン! 一旦帰還するね!!」

 

と、バーニアに不調を来したファイナルダンクーガが、黒煙を上げるインフィニット・ノアに一時帰還する。

 

「ファイナルダンクーガ、帰還します!」

 

「エンジン出力、70%に低下!!」

 

ファイナルダンクーガの帰還を報告する虚と、エンジンの出力低下を報告するのほほん。

 

「持ち堪えさせて! 此処で墜ちるワケには行かないわよ!!」

 

リーロンは、何とか保たせる様にと指示する。

 

「対艦ミサイル! 発射ぁっ!!」

 

続けてそう指示すると、インフィニット・ノア艦首の発射口が開き、大型の対艦ミサイルが発射される。

 

ドテンカイザンに着弾して大爆発を起こす大型の対艦ミサイルだが、やはり損傷は与えられない。

 

逆に反撃の砲火を浴びてしまうインフィニット・ノア。

 

「艦尾損傷! 第1煙突型中性子ビーム砲大破! 第4格納庫被弾!」

 

「リーロンさん! こうなったら反陽子砲で!!」

 

虚が被害報告を挙げると、のほほんがそうリーロンに進言する。

 

「駄目よ。ドテンカイザンの中には未だグレンラガンが居るわ」

 

しかし、リーロンはそう言ってのほほんの案を却下する。

 

「其れに反陽子砲は発射までのタイムラグが大きい上に、発射後約10分間は全艦の機能が停止するわ。今この状況でそんな事すれば、漏れ無く蜂の巣よ」

 

「でもこのままじゃあ、私達もグレン団の皆も危ないよ~」

 

のほほんが言う通り、グレン団は現在ジリ貧状態であった。

 

「クソ! このままじゃマズイ! 如何にかしないと!!」

 

ドテンカイザンからの砲火を躱しながらそう叫ぶ一夏。

 

しかし、良いアイデアは浮かんでこない。

 

と、その次の瞬間!!

 

「捕まえたぞ!!」

 

ドテンカイザンの腕が、一夏を捉えて包み込んだ!!

 

「!? しまった!?」

 

「このまま握り潰してやるわ!!」

 

アディーネがそう言い放つと、ドテンカイザンは一夏を握り潰そうとする。

 

「くうっ!?」

 

一夏は両手・両足を使い、自分を握り潰そうと迫って来るドテンカイザンの指を押し返す。

 

しかし、ドテンカイザンのパワーは生半可ではなく、徐々に押されて行く。

 

「クウッ! クソォッ!!」

 

「一夏!!」

 

「一夏さん!!」

 

直ぐに救助に向かうグレン団の一同だったが………

 

「鬱陶しいわぁっ!!」

 

シトマンドラの声が響くと、またもドテンカイザンは全身の砲門を一斉射する!!

 

「うわっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「駄目! 近付けない!!」

 

「其処で大人しく見ているが良いわ! 我等に逆らった者の末路を!!」

 

「うわああああぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 

チミルフがそう言い、いよいよ握り潰されそうになる一夏。

 

「! 一夏ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

とその瞬間!

 

箒がドテンカイザン目掛けて突撃した!!

 

「! 箒!! 駄目だぁ!!」

 

「馬鹿め! 消し飛ぶが良いわ!!」

 

一夏がそう叫んだ瞬間、アディーネの声と共に、ドテンカイザンの一斉射撃が箒に集中して放たれる!!

 

(紅椿! お前に心が有るのならば、応えろ!! 私に! 私に力を!! ()()()()()()()()()をくれ!!)

 

眼前に迫る砲撃を見据えながら、箒は念じる様にそう思った!

 

その瞬間!!

 

紅椿は、緑色の光………螺旋力に包まれる!!

 

ドテンカイザンの砲撃は、その螺旋力によって掻き消される!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

グアームが驚きの声を挙げた瞬間!!

 

螺旋力の光球が凄まじいスピードで飛んだかと思うと、握り潰されそうになっていた一夏を掻っ攫った!!

 

「!? ぬおっ!?」

 

「オノレェッ!!」

 

チミルフの驚きの声の後、シトマンドラの声が響くと、ドテンカイザンの砲撃が一夏を掻っ攫った光球へと向かう。

 

しかし、光球は慣性の法則や物理法則を一切無視した急旋回・急停止・急加速の動きで、まるでUFOの様な機動を描いて回避する。

 

「な、何だい!? あの動きは!?」

 

アディーネが驚きの声を挙げた瞬間、光球はドテンカイザンの頭上を取る様に急停止。

 

そして光が弾けたかと思うと、其処には一夏と………

 

背に蝙蝠か悪魔を思わせる黒い翼を生やし、腕に鋭い刃を備え、各所に緑色のラインを走らせ、頭に2本の角を生やしたISを纏っている箒の姿が露わになった!!

 

「箒! 其れは!?」

 

「コレが私の力………紅椿の第二形態(セカンドシフト)した姿………『真ゲッターロボ』だ!!」

 

驚く一夏に、箒は石川 賢が描いた様な凶悪な笑みを浮かべて、第二形態(セカンドシフト)した紅椿………

 

『真ゲッターロボ』に構えを取らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ドテンカイザンの圧倒的な力に大苦戦のグレン団。
内部へ突入したグレンラガンも、ヴィラルに阻まれる。
そして一夏が絶対絶命に陥ったその時!!
箒のISが第二形態(セカンドシフト)!
『真ゲッターロボ』となります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第119話『………ISの力を信じるんだ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第119話『………ISの力を信じるんだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本へ、そしてIS学園に大攻勢を仕掛けて来たロージェノム軍を撃退する為に………

 

IS学園へと帰還したグレン団。

 

四天王の1人、チミルフのビャコウを撃退するのに成功したが………

 

集結していた四天王達のダイガンが、超巨大ダイガン・『完全要塞ドテンカイザン』へと合体。

 

その圧倒的巨体と火力の前に、グレン団は疎か、インフィニット・ノアまでもが苦戦する。

 

内部からの破壊を試み、ドテンカイザン内へと突入したグレンラガンも、ヴィラルのエンキドゥドゥに足止めされる。

 

そして遂に………

 

一夏がドテンカイザンに捕まり、絶体絶命となったかに思われた瞬間!!

 

遂に箒のISが第二形態移行(セカンドシフト)!

 

『真ゲッターロボ』となり、ドテンカイザンの前に立ちはだかったのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・上空………

 

「真………ゲッターロボだって!?」

 

第二形態移行(セカンドシフト)し、新たなる姿となった紅椿………『真ゲッターロボ』に、一夏は驚きの声を挙げる。

 

「…………」

 

そんな中、箒は只不敵な笑みを浮かべて、眼下のドテンカイザンを見下ろしていた。

 

「真ゲッターロボだと!?」

 

「おのれぇ………また形態移行かい!!」

 

「グレン団め………ここぞと言うタイミングで厄介な事をしてくれるわい」

 

ドテンカイザンから、チミルフ・アディーネ・グアームのそんな声が挙がる。

 

「ええい! 所詮は先程まで我等が押していた敵! 今更姿が変わった処で、このドテンカイザンに敵うと思うなぁ!!」

 

しかしシトマンドラがそう言い放つと、ドテンカイザンの全砲門が箒へと向けられる。

 

「一夏、皆。私が奴の装甲にダメージを与える。脆くなった処で一斉に攻撃してくれ」

 

「えっ?」

 

「箒! 何を………?」

 

突然の箒からの提案に、一夏やシャル達から驚きの声が挙がるが………

 

「私を………信じろ」

 

そんな一同に、箒は只そう返した。

 

「………頼むぜ、箒」

 

その言葉に確信を感じたのか、一夏は箒に向かってそう言う。

 

「ああっ!!」

 

箒は力強く返事を返したかと思うと、ドテンカイザンに突撃した!!

 

「馬鹿め!! 撃ち落としてくれるわぁっ!!」

 

当然ドテンカイザンからは、突っ込んで来る箒に向かって一斉砲撃が放たれる。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、箒が雄叫びを挙げたかと思うと、その身体が緑色の光に包まれる。

 

そして、一夏を助けた時にも見せた、慣性の法則や物理法則を一切無視した急旋回・急停止・急加速の、まるでUFOの様な機動の飛行で、弾幕の中を摺り抜けて行く。

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「馬鹿な!? 幾らISと言えども、あんな飛び方をして装着者が保つ筈が………!?」

 

シトマンドラが驚きの声を挙げ、グアームが信じられないと言う叫びを挙げた瞬間………

 

「雨月! 空裂!」

 

箒がそう叫ぶと、真ゲッターロボの肩の部分から“刀の柄部分”らしき物が飛び出す。

 

其れを腕を交差させて握ったかと思うと、一気に引き抜く箒。

 

刀の柄は引き抜かれると、雨月と空裂になる。

 

しかし以前の雨月と空裂に比べると、刃の長さが4倍近い物となっている。

 

そして、箒は再びUFO機動飛びをしたかと思うと、ドテンカイザンに肉薄する。

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

そして気合の掛け声と共に、二刀を振り被る。

 

「チイイッ!!」

 

チミルフの声と共に、ドテンカイザンは左腕で防御の姿勢を取ったが………

 

「セイヤアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

箒が二刀を振り下ろすと、ドテンカイザンの左腕はまるで紙の様に切断された!!

 

「な、何ぃっ!?」

 

「ゲッタアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ! ビイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーームッ!!」

 

更に、箒がそう叫び声を挙げると腹部の装甲が開き、ビーム発射口の様な物が現れたかと思うと、桜色のビームが発射される。

 

放たれたゲッタービームは、ドテンカイザンの左腕の切断面へと直撃!!

 

一瞬にしてドテンカイザンの左腕が膨れ上がる様に変形し、木っ端微塵に消し飛んだ!!

 

「ぬおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!?」

 

チミルフの声と共に、あの巨体のドテンカイザンがバランスを失い掛ける。

 

「オノレェッ!!」

 

と、シトマンドラの声と共に、残ったドテンカイザンの右手が箒を捕まえようとしたが………

 

「バトルウイィングッ!!」

 

ドテンカイザンの手が閉じられようとした瞬間に、箒はその場で独楽の様に高速回転!!

 

背の蝙蝠か悪魔を思わせる黒い翼が鋭い刃となり、自分を捕まえようとしていたドテンカイザンの手をバラバラに引き裂いた!!

 

「ぬあっ!?」

 

「ソオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーード・ブウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーメランッ!!」

 

その次の瞬間には、箒は雨月と空裂を投擲!!

 

回転しながら飛んだ雨月と空裂は、まるで意思が有るかの様にドテンカイザンの周りを飛び回り、砲門と装甲を斬り裂いて行く!!

 

「馬鹿な!? ドテンカイザンの装甲が、意図も容易く!?」

 

「す、スゲェ………」

 

「圧倒的だよ………」

 

アディーネの驚きの声が挙がる中、一夏やシャル達も箒の新たなるIS、真ゲッターロボの力に舌を巻いていた。

 

「何をしている!? 今の内だ!!」

 

と其処で、そんな一同に向かって箒がそう叫ぶ!!

 

「! 皆! 箒が斬り裂いた装甲の傷を狙うんだ!!」

 

「「「「「「「「!! おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」

 

その言葉で一夏を初めとした一同は、ドテンカイザンへの攻撃を再開させるのだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

ドテンカイザンの内部へと突入し、ヴィラルのエンキドゥドゥと交戦していたグレンラガンは………

 

「うおっ!?」

 

「何だ!? この振動は!?」

 

先程から、ドテンカイザンに断続的に伝わって来る振動を感じるグレンラガンとエンキドゥドゥ。

 

「へっ………如何やら、一夏達が反撃を開始したみたいだな?」

 

グレンラガンはその振動の正体を確信し、そう言い放つ。

 

「馬鹿な!? このドテンカイザンが押される筈が………!!」

 

「じゃあ、さっきから響いて来るこの振動は何だってんだ?」

 

「!!」

 

グレンラガンの言葉に、エンキドゥドゥは黙り込む。

 

(まさか………よもやドテンカイザンまでもが………コレが人間の力なのか!?………人間とは………“本当に我々獣人に()()生き物”なのか!?)

 

これまで敗北を重ねて来たエンキドゥドゥ………ヴィラルの胸中に、そんな思いが過る。

 

(! ええい! 余計な事を考えるな! 今“俺がすべき事”は!!)

 

しかし、直ぐにその考えを振り払うと、目の前のグレンラガンを見据える。

 

「(この男を………倒す事だ!!)ツエアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

エンキソード4本を、2本ずつ左右から振るうエンキドゥドゥ。

 

「むっ!?」

 

(さあ! 逃げ道は上にしか無いぞ!! だが跳んだ瞬間にミサイルで狙い撃ちだ!! 両腕で受け止めたとしても、がら空きになったボディに蹴りが決まるぞ!!)

 

グレンラガンが床に立っているこの状況では、躱すには“上に跳ぶ”しか無く、両腕で受け止めたとしても、その瞬間にボディに攻撃を叩き込む算段のエンキドゥドゥ。

 

グレンラガン、絶体絶命か?

 

だが、しかし!!

 

ガキィンッ!!と言う甲高い音と共に、4本のエンキソード全てが止まった。

 

「!? 何ぃっ!?」

 

エンキドゥドゥが驚きの声を挙げる。

 

「へへっ」

 

其れを見て、不敵に笑うグレンラガン。

 

何と!!

 

グレンラガンは両肩の肩宛てパーツで、エンキソードを全て防いだのだ!!

 

1歩間違えれば、身体がバラバラにされてしまったかもしれない紙一重の防御方法である。

 

余程の技量、そして度胸が無ければ出来ない芸当だ。

 

「貰ったぜ! ダブルスカルブレイクゥッ!!」

 

その次の瞬間!!

 

グレンラガンは両腕でのスカルブレイクを、エンキドゥドゥ目掛けて叩き込む!!

 

「!? しまっ………!? ぬああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

真面に喰らったエンキドゥドゥは、勢い良く後方へとブッ飛んで行き、そのまま壁を破壊して闇の中へと消えた。

 

「へっ、この神谷様を舐めるなよ………後はこのデカブツを!!」

 

そう言い放った瞬間、グレンラガンの身体から螺旋力が溢れる。

 

「ギガァ! ドリルゥ! マキシマムゥッ!!」

 

そして次の瞬間!!

 

グレンラガンがフルドリライズ状態になったかと思うと、そのドリル全てがギガドリルと化した!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、ドテンカイザンと戦っている一夏達は………

 

「ラスタバン・ビームッ!!」

 

「ドリルプレッシャーパンチッ!!」

 

鈴の放った光線がドテンカイザンの装甲を焼き、ラウラが放った腕部に付属した鋭利な刃物を回転させながら発射したロケットパンチが、ドテンカイザンのボディを貫通する。

 

「ぬおおおおっ!?」

 

「イ、イカン! このままではドテンカイザンが!?」

 

グアームの慌てた声が響き渡る。

 

既に、ドテンカイザンは彼方此方がボロボロとなっており、損傷個所からは頻りに黒煙が上がっている。

 

「馬鹿を言うんじゃないよ! このドテンカイザンが落ちるものかい!!」

 

「そうだ! 我々が()()()(ハダカザル)に負けるなぞ有り得ん!!」

 

しかし、アディーネとシトマンドラからそう反論が挙がる。

 

「もう諦めなさい!」

 

「貴方達の負けは明らかですわ!!」

 

そんな声の挙がるドテンカイザンに向かって、楯無とセシリアがそう言い放つ。

 

「お黙り!!」

 

「我等は負けん! ロージェノム様の為に!!」

 

と、チミルフがそう言った瞬間!!

 

突如、ドテンカイザンがグラリッと揺れた。

 

「「「!?」」」

 

「な、何事………」

 

そしてグアームが台詞を言い切らぬ内に!!

 

ドテンカイザンの()()から装甲を突き破り、巨大なドリルが幾つも生える!!

 

「! あのドリルは!!」

 

「神谷!!」

 

「アニキだ!!」

 

其れを見た、ファイナルダンクーガ・シャル・一夏がそう声を挙げた次の瞬間にはドリルが引っ込み………

 

「おりゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

右手に出現させたギガドリルでドテンカイザンの頭頂部を突き破り、グレンラガンが姿を現した!!

 

「アニキッ!!」

 

「神谷さん!!」

 

グラパール・弾とグラパール・蘭がそう声を挙げる。

 

その次の瞬間には、ドテンカイザンに開けられた風穴から爆発が上がる!!

 

「見たか! コレでそのデカブツもお終いだぜ!!」

 

そのドテンカイザンを見下ろしながら、グレンラガンがそう言い放つ。

 

「だ、駄目じゃ! もう保たんぞ!!」

 

「オノレエエエエエエエェェェェェェェェーーーーーーーーーッ!!」

 

グアームとシトマンドラの声が響き渡る。

 

「最早ココまでか………だが! せめてこの学園だけは陥とさせて貰うぞ!!」

 

「進路変更! 目標………IS学園!!」

 

だが、続いてチミルフとアディーネのそんな叫び声が響き渡ったかと思うと、ドテンカイザンがIS学園に向かって突撃し始めた!!

 

「!? アイツ! 学園に突っ込む気だ!!」

 

「野郎! 悪足掻きしやがって!!」

 

「撃って! 撃ち落とすのよ!!」

 

楯無の声で、IS学園に突っ込もうとしているドテンカイザンに一斉攻撃が開始される!!

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

「ロージェノム様! バンザアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーイッ!!」

 

だがドテンカイザンは止まらず、ドンドンとIS学園に近付いて行く。

 

「駄目だよ! 止められない!!」

 

「…………!!」

 

地上から射撃を続けているフランがそう叫び、簪の顔にも焦りが浮かぶ。

 

「ハハハハハハハッ! IS学園の最期じゃあっ!!」

 

とグアームがそう言い放ち、ドテンカイザンがIS学園まで目前に迫った瞬間………

 

()らせんぞ! IS学園は………私が守る!!」

 

光速飛行でドテンカイザンの前へと回り込んだ箒が、立ちはだかりながらそう言い放つ!!

 

「! 箒ぃっ!!」

 

「ええい! 貴様ごと学園を潰してくれるわぁっ!!」

 

「死ねぇっ! 篠ノ之 箒ぃっ!!」

 

一夏の叫びが挙がる中、ドテンカイザンの巨体が箒とIS学園に迫る。

 

すると………

 

(………『ストナーサンシャイン』よ)

 

「!? 誰だ!?」

 

突如聞こえて来た声に驚く箒。

 

(『ストナーサンシャイン』を放つのよ………)

 

「コレは!?………()()()に、直接声が………」

 

(放ちなさい………貴女の思いの全てを込めて………そして………()()()()()………)

 

頭の中に響いて来た声がそう言ったかと思うと、真ゲッターロボの出力が上がって行く。

 

「真ゲッターロボ………お前なのか?」

 

其れを見て、箒はそう呟く。

 

「くたばれええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!!」

 

そして次の瞬間には、ドテンカイザンの姿が視界一杯に広がる。

 

「………ISの力を信じるんだ!!」

 

と箒はそう叫ぶと、両手を頭上に掲げる様に構えた!!

 

すると………

 

その掲げた両手の間に、エネルギーが集まって行く!!

 

そしてそのエネルギーが、スパークを走らせている光球へと変わる!!

 

「な、何だ、アレは!?」

 

その光景を見たグアームがそんな叫び声を挙げる。

 

「コレが………真ゲッターロボの必殺技だ! 受けてみろ!!」

 

其処で箒は、エネルギーの光球を腰溜めに構えてそう言い放つ!

 

「ストナアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ! サアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーンシャインンンンンンンンンンンンーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

箒の絶叫にも聞こえる叫び声と共に、エネルギーの光球………『ストナーサンシャイン』が放たれた!!

 

そのままドテンカイザンへと直撃するストナーサンシャイン。

 

するとその瞬間!!

 

凄まじいエネルギーに包まれたドテンカイザンが、()()()()()で消滅を起こし始める!!

 

「ば、馬鹿な! ドテンカイザンが破壊されて………いや! 『消滅』して行く!?」

 

「何だと!?」

 

「そ、そんなっ!?」

 

「な、何故だ! 何故()()()()にぃっ!?」

 

四天王の声が響き渡る中、遂に………

 

ドテンカイザンは完全に破壊………否、“消滅”した。

 

「ド、ドテンカイザンが!?」

 

「クソッ! 退け! 退けーっ!!」

 

指揮を担当していた四天王が一気に居なくなってしまった事で、ロージェノム軍の指揮系統は混乱。

 

残っていた部隊は一斉に撤退して行くのだった。

 

「やった………やったぞ!!」

 

其れを確認した箒が、思わず声を挙げると………

 

「凄いじゃないか! 箒!!」

 

一夏がそう言いながら近くへ寄って来る。

 

「! 一夏!!」

 

「まさか、あのデカいダイガンを消滅させるなんて思わなかったぜ! ホントに凄いぜ!!」

 

「あ、当たり前だ! 私を誰だと思っている!!」

 

ベタ褒めして来る一夏に、箒は顔を朱に染めながらそう返す。

 

「「「「「…………」」」」」

 

その様子を、やはりセシリア達は嫉妬の目で見ていたが………

 

其れと同時に、何処か“諦めた様な表情”も浮かべていたのだった。

 

「一夏! 神谷!」

 

「皆!」

 

「いっくん! 箒ちゃん! かみやん!」

 

と其処へ学園の出入り口付近に、千冬・真耶・束が現れ、上空の神谷達に向かって手を振っている。

 

束の傍には、くーも控えている。

 

「! 千冬姉!」

 

「姉さん!」

 

「山田先生!」

 

其れを確認したグレン団は、一斉にその4人の前に降下する。

 

地上に居た簪とフランも集結する。

 

「お前達………」

 

千冬は、自分達の前に立ったグレン団の面々の顔を見遣る。

 

其処には入学当初の初々しい雰囲気は無く、全員が戦士の表情を浮かべていた。

 

「………立派に………本当に立派になったな」

 

思わず目尻に涙を浮かべながら千冬はそう言う。

 

「皆さ~ん! 良くご無事で~~~っ!!」

 

真耶は、グレン団の一同が無事だった事に人目も憚らず涙している。

 

「へへ………ただいま、千冬姉」

 

「グレン団一同、只今帰還しました」

 

そんな千冬と真耶に向かって、一夏と楯無が一同を代表する様にそう言う。

 

「姉さん………」

 

「箒ちゃん………」

 

一方箒は、束に目を遣る。

 

「あ、あのね、箒ちゃん………」

 

「ありがとうございます、姉さん」

 

「えっ!?」

 

束が何か言おうとした処、其れよりも先に箒がお礼を行って来て驚く。

 

「姉さんが時間を稼いでくれたお蔭で、私達は学園を守る事が出来ました………本当にありがとう」

 

「あ、う………」

 

心からそうお礼を言う箒だったが、束は何処か気不味そうな雰囲気であった。

 

「そうだ、千冬姉。シュバルツは?」

 

と其処で、一夏が思い出した様に千冬に尋ねる。

 

「大丈夫だ。安静が必要だが、命に別状は無い………しかし」

 

「? しかし、何なんだよ、千冬姉」

 

何やら含みの有る言い方をする千冬に、一夏がそう尋ねた瞬間………

 

「皆さん………良く戻って来てくれましたね」

 

学園の中から、学園長の轡木 十蔵が姿を見せた。

 

「! 学園長!」

 

「用務のおっさん!」

 

十蔵の姿を見て声を挙げる千冬と神谷。

 

「………今連絡が入りまして、日本各地に展開していたロージェノム軍の部隊も撤退した様です………ですが」

 

そう言うと、十蔵は苦い表情を浮かべる。

 

「? 何か有ったのですか?」

 

その様子に、千冬は何か“良くない事”が有った事を察する。

 

その次の瞬間!!

 

十蔵の口から驚くべき事実が告げられた!!

 

「………()()()()()………()()()()()()

 

「!? なっ!?」

 

「えええっ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

驚愕に包まれる千冬と真耶にグレン団の一同。

 

あのアメリカが………

 

“世界最強の軍事力”を持つ国が、陥落したと言うのだ。

 

驚かない方が無理が有る。

 

「そんな馬鹿な!? 幾ら世界の大半が占拠されたとは言え、ロージェノムの部隊は日本に集結していた筈です! 其れにアメリカ軍が易々と………」

 

「その答えは………“コレ”ですよ」

 

信じられ無いと言う声を挙げる千冬に、十蔵は“と或る映像”を空中ディスプレイに投影する。

 

其処には燃え盛るアメリカ軍の基地と、破壊された戦闘機・戦車・IS・量産型グラパール………

 

そして兵士達の死体の中に立つ………

 

()()人型のマシン”の姿が在った。

 

「!? コ、コレは!?」

 

「んな馬鹿な!?」

 

その黒いマシンを見た一夏と神谷が驚愕する。

 

「グレン………ラガン?」

 

黒いマシンを見ながら、シャルがそう呟く。

 

そう………

 

其処に映る“黒いマシン”は………

 

グレンラガンに似通ったデザインをしていた。

 

鎧武者を着ている様なグレンラガンに対し、黒いマシンは人間の肉体に近い外見をしており、尻尾が生えて1本の角が生えていると言う違いは有るものの、全体的なフォルムはかなり類似している。

 

「日本が大侵攻を受けたと同時に、アメリカにこのマシンが現れ………()()()()アメリカを壊滅させた様だ」

 

「!? そんな!? じゃあ、アメリカはこのマシン1機に敗北したと!?」

 

「そう言う事になりますね………」

 

驚愕する真耶に向かってそう言う十蔵。

 

彼とて未だに信じられずに居るのだ。

 

「………此奴………一体何者なんだ?」

 

神谷は只、映像に映る黒いグレンラガンを睨み付ける………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に螺旋四天王を倒したグレン団。

 

だが………

 

“謎の()()グレンラガン”によってアメリカが壊滅………

 

とうとう、残る国は日本だけとなった。

 

人類に打つ手が無くなった中………

 

遂にグレン団とロージェノム軍の、最後の決戦の時が近付いて来ていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

箒の新たなIS『真ゲッターロボ』の圧倒的な力で………
遂にドテンカイザンを撃破。
残るロージェノム軍は撤退し、一先ず危機は去ったかに思えたが………
何と、黒いグレンラガンが出現し、アメリカを壊滅させた!
遂に追い詰められた人類。
いよいよグレン団は、ロージェノムに決戦を挑みに掛かります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第120話『ISを世に出した事………それは私の罪なんだよ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第120話『ISを世に出した事………それは私の罪なんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本へと大攻勢を開始したロージェノム軍は、帰還したグレン団によって阻止された。

 

日本侵攻の切り札であった『完全要塞ドテンカイザン』も撃墜され、螺旋四天王は戦死。

 

漸く、ロージェノム軍に対して大打撃を与える事に成功した、かに思われたが………

 

何と、グレン団が日本で四天王と死闘を繰り広げていた間に………

 

謎の『黒いグレンラガンに似たマシン』が、アメリカを壊滅させていた!!

 

状況的に見て、この『黒いグレンラガンに似たマシン』がロージェノム軍の物であるのは間違い無い………

 

これにより、遂に………

 

世界に残された“国家”は、日本だけとなったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本・IS学園………

 

「うあぁあぁあぁ………」

 

「痛い………痛いよぉ………」

 

「チキショー………死なせてくれぇ………」

 

戦闘が終わった後、負傷者を収容する為、学園の教室を初めとした様々な場所に、野戦病院が設置された。

 

先の戦闘での負傷者の数は凄まじく、IS学園には凄惨な光景が広がっている。

 

尚、グレン団の“脱走”容疑については、圧力を掛けて来ていたフランス政府が壊滅してしまい、更には日本政府も大打撃を受けて混乱に陥っていた為、有耶無耶の内に立ち消えとなった。

 

お蔭で大手を振って表を歩ける様になったグレン団だったが、今の世界の状況を鑑みると、素直に喜べる様な状況では無い………

 

現在彼等は、インフィニット・ノアを地下のドックへ再び納め、ISやグレンラガンと一緒に整備を行わせると共に、久しぶりに足を踏み入れたリーロンの地下研究室で、千冬や束を交えた対策会議を開いていた。

 

 

 

 

 

IS学園・地下………

 

リーロンの研究室………

 

「千冬姉。休んでいなくて大丈夫なのか?」

 

「病室に使われている部屋は何処も満室だ。其れに、“こんな時”に寝ても居られん」

 

怪我を押して、会議に出席している千冬に向かって一夏が心配そうに尋ねるが、千冬はそう返す。

 

しかし、肌が見えている所には全て包帯が巻かれており、顔も半分包帯で覆われている上に左腕も三角巾で首から吊っており、顔色も若干青い為、心配されるのも無理は無かった。

 

「まさかアメリカまで陥落してしまうなんてね………」

 

「コレで“国家としての機能”を保っているのは日本だけです………」

 

そして、相変わらず何処か他人事の様にリーロンが言うと、千冬は絶望を感じさせる面持ちでそう告げる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

話を聞いている、グレン団一同の空気も重い。

 

しかし、其れも無理は無い。

 

漸く、螺旋四天王を倒してロージェノム軍に打撃を与える事が出来たかと思われた矢先にアメリカが壊滅し、残る国家が日本だけとなってしまったのだ。

 

無論、他の国家は完全に壊滅したワケでは無く、生き残った人々は其々の国々でレジスタンス活動を続けている。

 

だが、レジスタンスではロージェノム軍に負けない事は出来ても、勝つ事は出来ない………

 

何れは抵抗も出来なくなり、蹂躙されるのは目に見えている。

 

最早人類に残された手段は、ロージェノム軍の本拠地を見付け出し、奴等のボスであるロージェノムを倒すしか無い。

 

しかし、肝心の本拠地の場所は今だ分かっていない………

 

「先の攻撃で、自衛隊は既に戦力の6割を喪失しています」

 

「今再び攻め込まれれば、今度は防ぎ切る事は出来ん」

 

そう言い合う真耶と千冬。

 

先の戦闘に於いて、四天王の戦死によって日本に侵攻して来ていたロージェノム軍は、()()()()退いたものの………

 

その際の防衛戦で、自衛隊は実に全戦力の6割の損失を出した。

 

今再び攻められれば、今度は防ぎ切る事は出来ない。

 

「クソッ! せめて敵の本拠地さえ分かれば、コッチから乗り込んでやるってのによぉ!!」

 

神谷が、左の掌に右手の拳を叩き付けながら、苛立つ様にそう叫ぶ。

 

「そうだよなぁ。ロージェノムが“何処に居る”のかさえ分かれば………」

 

一夏も、苦い表情をしながらそう呟いていたところ………

 

「………本拠地なら分かったよ」

 

不意に、束がそう告げて来た。

 

「!? 何っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「姉さん!?」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「…………」

 

グレン団と千冬や真耶が驚きを露わにする中、束は無言で頷く。

 

「漸く“確証”が得られたんだ………コレまでに収集した情報が正しければ………ロージェノム軍の本拠地は………」

 

「本拠地は?」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

固唾を呑んで束の言葉を待つ一同。

 

「………『月』だよ」

 

「? 月?」

 

「月?」

 

そして齎された本拠地の場所に、思わず首を傾げる。

 

「月って………あの、“空に浮かんでいる”月ですか?」

 

()()()()の、どの月が在るの?」

 

思わずそう尋ねる真耶に、束はそう返す。

 

と………

 

[………遂に其処まで調べ上げたか]

 

突如としてそんな声が響いたかと思うと、空中ディスプレイが展開し、ロージェノムの姿が映し出された。

 

「!? ロージェノム!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突如、“空中ディスプレイ越し”とは言え姿を見せたロージェノム本人に、グレン団と千冬は椅子から腰を浮かせて身構える。

 

[フフフ]

 

ロージェノムは、そんなグレン団の様子を相変わらず気怠げに玉座に腰掛けて頬杖を突く姿勢で、不敵な笑みを浮かべながら眺めている。

 

「ロージェノム………」

 

そんなロージェノムの不遜な態度に、拳を握り締める神谷。

 

しかし、ロージェノムはそんな神谷には目もくれず、束に視線を遣る。

 

[流石だな、篠ノ之 束………良くぞ我が居城………『テッペリン』の所在を摑んだな]

 

「『テッペリン』………」

 

「其れがロージェノム軍の本拠地の名か………」

 

ロージェノムの言葉を聞き、楯無とラウラがそう呟く。

 

「アンタに褒められても全然嬉しく無いよ」

 

束は、不機嫌にロージェノムに言い返す。

 

[コレは“異な事”を………貴様も、所詮は()()()()()では無いか]

 

すると、ロージェノムは表情を変えずに束に向かってそんな事を言って来た。

 

「巫山戯ないで! 私は貴方とは違うわ!!」

 

当然、そう言い返す束だったが………

 

[果たしてそうかな? 貴様は嘗て………“()()()()の為に世界を変えよう”とした。ワシも“ワシの野望の為に世界を変えよう”としている。其れの()()()()?」

 

「! そ、其れは………」

 

ロージェノムがそう言った瞬間、言葉に詰まって黙り込む束。

 

「束? 如何言う事だ?」

 

「姉さん? 奴は何を言っているのです?」

 

「…………」

 

千冬と箒がそう問い質すと、束は気不味そうに目を逸らす。

 

「束!!」

 

「答えて下さい、姉さん!」

 

千冬と箒は、束に詰め寄るが………

 

「んなこたぁ如何でも良い! やい禿親父!! そっちの居る場所が分かったんならもう容赦し()ぇっ!! 今度はコッチからそっちへ乗り込んでやっから、首を洗って待ってやがれ!!」

 

神谷が其れを遮る様に、ロージェノムに向かって啖呵を切った。

 

[フン、天上の息子か………良かろう………次の戦いをワシと貴様等の最終決戦としよう。無論、勝つのは………このワシだがな]

 

ロージェノムがそう言うと、モニターの映像が切り替わる。

 

其処には、宇宙をバックに“月面”と思しき場所に聳え立つ………

 

“螺旋塔を逆さまにした”様なデザインの巨大な城が映し出された。

 

「!? コイツが………テッペリン!!」

 

其れこそがロージェノムが言っていた彼の居城………『テッペリン』に違いないと確信し、そう声を挙げる一夏。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他の一同も、初めて目にする敵の居城に沈黙する。

 

[来るが良い………“死にに”な。ハッハッハッハッハッ!!]

 

ロージェノムの高笑いを残し、通信は切断される。

 

「野郎! 舐めやがって!! 絶対に叩き潰してやるぜ!!」

 

神谷は机に拳を叩き付けながらそう叫ぶ。

 

「…………」

 

そして、ロージェノムに“何か”を言われていた束は、逃げる様に研究室から出て行く。

 

「束………」

 

ロージェノムからの件も含め、追い掛けようとする千冬だったが………

 

「織斑先生。私に行かせて下さい」

 

箒が千冬にそう言う。

 

「篠ノ之………」

 

「お願いします………」

 

深々と千冬に向かって頭を下げる箒。

 

「………分かった。お前が問い質して来い」

 

「ありがとうございます」

 

千冬からそう言われると、箒は束を追って行った。

 

「良いのかよ、千冬姉?」

 

「コレは“アイツ等姉妹に解決させるべき問題”だ………其れより、一夏。お前は私と来い」

 

「えっ? 何で?」

 

突然千冬にそう言われ、一夏は戸惑いの色を浮かべる。

 

「シュバルツ・シュヴェスターが『話が有る』と言っていた。一緒に来てくれ」

 

「シュバルツが? 分かったよ」

 

そう答えると、一夏は千冬に従いてシュバルツの許へと向かう。

 

「皆も今日は休みなさい。明日までにはインフィニット・ノアとIS達の整備は済ませて置くから」

 

すると、残ったメンバーにリーロンがそう指示する。

 

「うっし! オメェ等! 明日の決戦に備えて休むぞ!!」

 

神谷が其れに続く様にそう言うと、グレン団の一同は誰からとも無く研究室から出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・校舎の屋上………

 

「…………」

 

研究室から逃げる様に去った束は、屋上の手摺りに寄り掛かって夜空を見上げている。

 

「………姉さん」

 

と其処へ、箒が現れる。

 

「! 箒ちゃん………」

 

箒が現れたのを見ると、束は動揺したかの様な様子を見せたが………

 

「…………」

 

やがて覚悟を決めた様な素振りを見せると、再び手摺りに寄り掛かって夜空を見上げる。

 

「…………」

 

箒は、無言で束の傍に歩み寄ると手摺りに手を置き、同じ様に夜空を見上げる。

 

「「…………」」

 

そのまま暫し、姉妹の間には沈黙が流れる………

 

「………姉さん。訊いても良いですか?」

 

やがて箒が、束に向かってそう尋ねる。

 

「…………」

 

束は沈黙を続けていたが、箒は其れを“肯定”だと受け取る。

 

「ロージェノムが、姉さんの事を『自分と同類だ』と言っていたのは………姉さんが“ISを作った事”と関係しているのですか?」

 

「…………」

 

「答えて下さい! 姉さん!!」

 

沈黙を続ける束に、箒はそう詰め寄る。

 

「………その通りだよ、箒ちゃん」

 

やがて、観念したかの様に束は口を開いた。

 

「“ISを世に出した”事………其れは()()()なんだよ」

 

「罪? 如何言う事なんですか?」

 

束の言っている言葉の意味が分からず、箒は首を傾げる。

 

「私は最初………“宇宙開発”の為にISを作ったの。『宇宙服よりも優れていて、過酷な環境でも確実に動作し、操縦者の安全を守る強化服』………其れこそが、“私が思い描いていたISの姿”だった」

 

束の言葉通り、当初ISは“宇宙開発用のマルチフォーム・スーツ”として、世間に発表されている。

 

「でもね………私が最初に作ったISは()()()()()()()()()()の………如何してだと思う?」

 

「其れは………今、『宇宙開発計画は中断している』からで………」

 

()()()はね………そういう理由だよ」

 

「表向き?」

 

「本当はね………“高々10年や其処等生きた()()()()()”、って思われたからだよ」

 

笑いながらそう言う束。

 

しかし、その笑みは“自嘲”の其れである。

 

「パワードスーツの開発は、昔から行われてたの。色んな人が必死になって考えて、けど今だ完成品には程遠くて………そんな中で、“当時14歳だった少女が造り出したパワードスーツの()()()”が受け入れられると思う?」

 

「…………」

 

「当然、私は何度も食い下がったけど、その都度言われたよ………『子供(ガキ)の癖に』、そして………『女の癖に』ってね」

 

「! まさか………姉さんが白騎士事件を起こしたのは!?」

 

束のその言葉で、“何か”に気付く箒。

 

「そう………“私のISを世界に認めさせる”為………そして、其れによってもう“女性が馬鹿にされない世の中”を作ろうとしたの」

 

「!!」

 

束が白騎士事件を起こした理由………

 

其れは即ち、“自分を認め無かった世間への()()”であったのだ。

 

「今思うと、ホント短絡的な犯行だよね………『子供(ガキ)の癖に』って言われたのが分かる様な気がするよ」

 

自嘲の笑みを浮かべたまま、束はそう呟く。

 

「………そして姉さんの思惑通り、“女尊男卑の世界”が出来上がった。でも………姉さんは其れを後悔しているのですね?」

 

「………うん」

 

箒の問いに短く返事を返すと、束は再び夜空を見上げる。

 

「………天上博士がね………“私の目を醒まさせてくれた”の」

 

「! 神谷の父親が!?」

 

神谷の父親である天上博士の事が束の口から出て来て、箒は驚く。

 

「そう………ISが“世界最強の兵器”だって認識されて………各国の政府に追われる様になっていた私は………亡国企業(ファントム・タスク)に身を寄せてたんだ」

 

「! 亡国企業に!?」

 

「そう。ロージェノムや残党のオータムが使ってた無人IS………アレは、元々()()()()()()だったんだ」

 

「やはり………そうだったんですね」

 

「亡国企業は、私に無人ISを初めとした“技術の提供”を求め………私は、連中に各国の諜報部から匿って貰った………私にとっては、奴等がどんな連中で“私の発明や技術”でどんな事をしようと如何でも良かった………心の底からそう思ってたんだ」

 

「…………」

 

「そんな私を変えて………ううん。“救ってくれた”のが、天上博士だったの」

 

「救ってくれた?」

 

首を傾げてそう呟く箒。

 

「あの時を思い出すと、今でも笑っちゃうなぁ………天上博士ったらね………私に会うや否や、イキナリ()()()()()んだから」

 

「!? ええっ!?」

 

箒は驚きを露わにする。

 

「其れでね。『貴様それでも科学者か!?』って、有無を言わせぬ迫力でそう問い質して来て………」

 

(………流石は()()“神谷の父親”だな)

 

“神谷の父親”と言う事で、ある程度は予想出来ていたが、其れに輪を掛けて“破天荒な人物”だった天上博士に、箒は呆れる。

 

「勿論、私だって負けて無かったよ。私用に開発してたISの試作機を使って返り討ちにしてやろうとしたんだけど………天上博士、(すっご)く強くってさぁ。もう、お互いボッコボコになっちゃって………」

 

(………いや、おかしいおかしい)

 

思わず頭を抱える箒。

 

幾ら試作機だったとは言え、“()()()人間がISを装着した人間と張り合う”と言う光景が想像出来ずに頭が若干混乱する。

 

「結果は引き分け………いや、私の負けかな? “IS使ったのに()()だった”ワケだったし」

 

「…………」

 

()()()()()で、箒は言葉が出ない。

 

「其れでね………天上博士は、今まで“私が気付いていなかった事”を気付かせてくれたの」

 

「気付いていなかった事?」

 

「うん、私は箒ちゃんやちー(千冬)ちゃん。其れにいっ(一夏)くんさえ良ければ其れで良い、と思ってた。でも………“私のやってる事は、箒ちゃん達まで傷付けてる”って」

 

すると其処で、束は手摺りから離れて箒に近付いたかと思うと、両手で箒の両肩を摑んだ。

 

「!? 姉さん!?」

 

「ゴメン………ゴメンね、箒ちゃん………」

 

箒がまたも驚いていると、束は顔を俯かせて、小刻みに震え始める。

 

伏せている顔からポタリ、ポタリと涙が零れて行く。

 

「私がISを兵器になんかにしちゃったから………箒ちゃんにはずっと苦しい思いをさせて………ちーちゃんやいっくんもそうだよ………私の所為(せい)で人生滅茶苦茶にされて………」

 

「姉さん………」

 

「謝ったって済まされる問題じゃないのは分かってる………でも………私にはこうする事しか出来ないの………ゴメン! ゴメンね!!」

 

泣きじゃくりながらそう繰り返す束。

 

「…………」

 

箒は戸惑っていた様子だったが………

 

「…………」

 

やがて、束の身体を優しく抱き締めた。

 

「! 箒ちゃん?」

 

「………正直に言わせて貰えば、私は姉さんを恨んでいました。ISを造った所為(せい)で、私は一夏と別れて彼方此方へ転校を繰り返した」

 

「!!」

 

箒のその言葉に、束の身体がビクリと震える。

 

「けど………姉さんは今其れを悔いて反省してくれている………だからもう………もう私は、姉さんを恨んでません」

 

「! 箒ちゃん………」

 

「貴女がコレからその罪に向き合って、その償いを行うと言うのなら………私は貴女を………許します」

 

「!!」

 

「“どんな事をしても許し合える”………其れが()()だから」

 

「箒ちゃん!!」

 

束は箒に抱き付き返す。

 

「…………」

 

自分の胸で泣きじゃくる束を、箒は微笑で見詰めていた………

 

………と、

 

「!? あうんっ!?」

 

不意に悩ましい声を挙げる箒。

 

何やら胸に刺激を感じた為である。

 

「………ふふふ………またおっきくなったんじゃない? 箒ちゃん?」

 

何と、束がドサクサ紛れに箒の胸を揉んでいた!!

 

「ね、姉さん!?」

 

「ちーちゃんも良いけど、やっぱり箒ちゃんのおっぱいが最高だよ~!」

 

そう言いながら、更に箒の胸を揉み扱く束。

 

「あっ!? ちょっ!? ううん!? だ、駄目!! ああんっ!!」

 

箒から更に悩ましい声が上がる。

 

「はうんっ!?………いい加減に!!」

 

しかし、箒は不意に束を引き剥がしたかと思うと後ろを向かせて腰に組み付き、持ち上げる。

 

「ふえっ!? ほ、箒ちゃん!?」

 

「おりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

そしてそのまま、ジャーマンスプレックスで束の頭を屋上の床に叩き付けた!!

 

「ガフッ!!」

 

技を掛けられた姿勢のまま動かなくなる束。

 

「全く………少し気を許すと直ぐコレだ………」

 

立ち上がると、若干乱れた着衣を直しながら箒はそう呟く。

 

と………

 

「箒ちゃんのケチィッ!!」

 

何と!!

 

固まっていた束が起き上がり、箒の背中にドロップキックを見舞った!!

 

「ゴハッ!?」

 

不意打ちの攻撃で、箒は顔から床に倒れる。

 

「何よぉっ! こんなの“()()姉妹のスキンシップ”じゃない!! 全くも~!!」

 

倒れた箒を見下ろしながら、束はプンプンと言った様子で怒っている。

 

と………

 

「フンッ!!」

 

起き上がると同時にそんな束の足を払う箒!!

 

「ガフッ!?」

 

「何が“姉妹の軽いスキンシップ”だあぁ~~~~っ!!」

 

そして、倒れた束を無理矢理起こして床に座らせると、そのまま上から押さえ付ける様にチョークスリーパーを掛ける!!

 

「!? ちょっ!? 死、死ぬ! 死ぬって箒ちゃん!!」

 

()る気でやってる! 死んで結構!!」

 

脳に酸素が行かなくなり、顔を青くしながらそう訴え掛ける束に、箒は素っ気無くそう言い返す。

 

「ゲホッ!………其れが曲がりなりにも()に対して言う言葉かぁーっ!?」

 

と、束は両脚を使って箒の頭を挟み込み、ヘッドシザーズ・ホイップの要領で投げ飛ばす!!

 

「ガッ!!」

 

「そりゃあっ!!」

 

そして倒れた箒の脚を取ると、素早くアンクルホールドを決める束。

 

「イダダダダダダッ!?」

 

「ギブアップせいっ!!」

 

「ノオォッ!!」

 

どっかのロボットアニメのOPで、何の脈絡も無く出て来る歌詞の様な台詞を束が言うと、箒は拒否して身体を回転させて技から抜け出す。

 

そして、束の脚を蟹挟で取る。

 

「ブッ!?」

 

「貰ったっ!!」

 

顔から床に倒れた束の背に圧し掛かろうとする箒だったが………

 

「甘いっ!!」

 

束は素早く身を翻したかと思うと、箒を巴投げで投げ飛ばす!!

 

「ガフッ!?」

 

「おりゃあああぁぁぁぁーーーーーっ!!」

 

「!!」

 

再び倒れた箒にストンピングを見舞う束だったが、箒は素早く転がって回避。

 

「「!!」」

 

箒が立ち上がると、両者は互いに突撃!!

 

「むんっ!!」

 

「はあっ!!」

 

お互いの肩を摑む様にしてガッツリ組み合ったかと思うと………

 

「「おりゃあぁっ!!」」

 

互いにヘッドバッドを繰り出した!!

 

鈍い音がして、箒と束の額がぶつかる!!

 

「くっ!?」

 

「あがっ!?」

 

余程の衝撃だったのか、両者は互いに仰け反るが、其れでも相手を放そうとはしない。

 

「「むんっ!!」」

 

そして再び、互いにヘッドバッドを見舞う!!

 

「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」」

 

そのまま、両者はヘッドバッドの打ち合いへと発展した!!

 

鈍い音が学園の屋上に響き渡る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後………

 

「「ゼエ………ゼエ………ゼエ………ゼエ………」」

 

箒と束は、大の字になって屋上の芝生の上に横に並んで寝転がっていた。

 

余程ヘッドバッドを打ち合ったのか、その額は赤くなっている。

 

「はあ、はあ………頭痛い………主に“物理的に”………」

 

「………フフフ」

 

と束がそう愚痴っていると、箒が笑いを零す。

 

「? 何笑ってるの? 箒ちゃん?」

 

「初めてだな………姉さんとココまで()()()()喧嘩したの」

 

「アレ? そうだっけ?」

 

「ああ、何時もは姉さんがじゃれて来るのを私があしらってた感じだったから………」

 

「そっか………そう言えばそうかもね………」

 

そう言うと夜空を見上げる束。

 

すると、その右手に何かが触る。

 

「?」

 

束が横へ視線を遣ると、其処には………

 

「…………」

 

笑顔を浮かべて、自分の左手を束の右手に重ねている箒の姿が在った。

 

「…………」

 

束はそんな箒の姿を見て笑みを浮かべると、2人して夜空を眺め始める。

 

その夜空の中を、一筋の流星が流れて行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

遂に判明したロージェノムの本拠地。
それは何と月!!

そして判明した束のIS開発と白騎士事件の真意。
全ての告白した束を箒は許し、紆余曲折(笑)の末に和解。

そして次回は、シュバルツの正体が明らかに。
いよいよ決戦の時が来ます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第121話『行くぜっ! 最後の戦いだぁっ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第121話『行くぜっ! 最後の戦いだぁっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒と束が、劇的な喧嘩の後での和解をしていた頃………

 

一夏と千冬は、怪我人として収容されていたシュバルツの許へと向かっていた。

 

そして一夏は、其処で思い掛け無いものを目撃する事となる………

 

 

 

 

 

IS学園・校舎………

 

特別救護室………

 

「シュバルツ、私だ。一夏を連れて来たぞ」

 

シュバルツが収容されている個人用の特別救護室に入るなり、千冬がそう告げる。

 

「………来たか」

 

すると、病室によく在る“鉄パイプの枠に白い布が張られているタイプのパーテーション”の向こう側に置かれているベッドから、シュバルツの声が聞こえて来た。

 

パーテーションに、シュバルツのものと思しき影が浮かび上がる。

 

「シュバルツ。大丈夫なのか?」

 

その影に向かって、一夏が問い掛ける。

 

「ああ、何て事は無い………其れよりも、織斑 一夏………これからお前に“重要な事”を話さねばならん」

 

「重要な事?」

 

「“私の()()”についてだ」

 

「えっ!?」

 

シュバルツの正体が明かされる事に驚く一夏。

 

「シュバルツの正体って………一体、如何してまた?」

 

「“時”が来た………もう、これ以上は隠し通せん。そして、“お前が()()を受け止められる程に成長した”からだ」

 

「シュバルツ………」

 

突然のシュバルツの正体明かしに戸惑う一夏だったが、其れと同時にシュバルツが自分を認めてくれた事を嬉しく思う。

 

「覚悟が決まったのならば、此方へ来い………」

 

「一夏………」

 

シュバルツがそう言うと、千冬が心配そうな目で一夏を見遣る。

 

「大丈夫だよ、千冬姉」

 

そんな千冬に向かって、一夏はフッと笑いながらそう言うと、シュバルツの方へと歩いて行く。

 

そして遂に………

 

パーテーションの向こうに居たシュバルツの前に立つ。

 

「………織斑 一夏」

 

其処には、シュバルツが着ていたコートを纏った“学生時代の千冬と()()()()()をしている少女の姿”が在った。

 

「! シュバルツ………なのか?」

 

一瞬驚く一夏だったが、直ぐ冷静になる。

 

「そうだ。私がシュバルツ・シュヴェスター………『織斑 マドカ』だ」

 

「織斑………マドカ?」

 

冷静さは失っていないものの、一夏は驚きを隠せずに居る。

 

「…………」

 

そんな一夏の傍に寄って来て、同じ様にシュバルツ改めマドカを見遣る千冬。

 

「………如何言う事なんだ?」

 

マドカを見遣りながら、一夏は問う。

 

「私は………今は亡き亡国企業(ファントム・タスク)が“お前、そして織斑 千冬の遺伝子を使って生み出した()()()()”だ」

 

「!? クローン!?」

 

「やはりそうか………」

 

驚く一夏と、或る程度は予想していたのか、そう呟く千冬。

 

「当時、亡国企業は“世界最強のIS乗り”である織斑 千冬を()()()としていた。様々な個体が作られる中で、“偶然入手出来たお前(一夏)の遺伝子”を組み合わせて産み出された個体が私だ」

 

「…………」

 

一夏は、黙ってマドカの話を聞いている。

 

「作られた実験体は、全て脳改造を受けて亡国企業の手先となって行ったが、私は運良く脳改造寸前に脱出する事に成功した………だが、私には“行く宛て”が無かった。私の元となったお前達2人の許以外にはな」

 

「なら、如何して顔を隠してシュバルツ・シュヴェスター(など)と名乗った?」

 

「…………」

 

千冬の問いに、マドカが虚空を見詰める。

 

「………お前達の仲に割って入る“勇気”が無かった。所詮、私は『作られた存在』だ。イキナリ押し掛けて行ったところで、迷惑以外の何物でも有るまい」

 

「…………」

 

「だが、亡国企業の残党が一夏を狙っているのを見てな………居ても経っても居られなくなった。そして私に出来る事は………お前を“強くしてやる事”ぐらいだった」

 

「そうだったのか………」

 

其れを聞いて、今までのシュバルツの行動に合点が行く一夏。

 

「シュバルツ………いや、()()()

 

と其処で、一夏がマドカの傍に寄り、その手を握った。

 

「! 一夏………」

 

「水臭いぜ。お前が俺と千冬姉を元に生まれたってんなら、お前は“俺達の()()”だ。そうだろ? 千冬姉」

 

驚くマドカにそう言いながら、一夏は千冬にそう問い掛ける。

 

「ああ………そうだな」

 

千冬も微笑みながらマドカの傍に寄ると、一夏が握っているマドカの手を、一夏の手の上から握り締める。

 

「マドカ。もう何も心配は要らない。お前は“私達の家族”だ」

 

「千冬………」

 

と、マドカが顔を伏せたかと思うと、その目からポロポロと涙が零れ始める。

 

「………ありがとう、千冬………ありがとう、一夏………」

 

「「…………」」

 

一夏と千冬は、マドカが落ち着くまでその手を握り締めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

他のグレン団メンバー達は………

 

セシリアは、IS学園の寮の方の自室を野戦病院として開放してインフィニット・ノアの方の自室で1人紅茶を嗜んでおり、鈴は学園の森の広場で中国拳法を練習していた。

 

ラウラは、インフィニット・ノアの自室で愛用のコンバットナイフを研いでおり、フランはその後ろに座って、姉のラウラの背に身体を預けている。

 

楯無は、ISを纏ってIS学園の上空を哨戒がてら星を見ながら飛んでおり、簪は射撃訓練場でアーマーマグナムでの射撃を行っている。

 

弾は、虚を部屋に招いて2人っきりで過ごしており、蘭は学園の食堂で働いている厳と蓮を手伝っている。

 

ティトリーは、今だ眠り続けているジギタリスの傍におり、のほほんはリーロンと共にインフィニット・ノアの整備を手伝っている。

 

皆、思い思いにしている様に見えるが、彼女達の行動には、明日の為の決意を固める意味も含まれていた………

 

そして、神谷とシャルは………

 

IS学園の埠頭に居た。

 

「「…………」」

 

少し沖合に、撃沈された海上自衛隊の護衛艦やロージェノム軍が接収して使っていた軍艦の残骸が浮かぶ海を眺めながら、無言で佇んでいる神谷とシャル。

 

辺りは静まり返っており、波の音だけが響き渡っている。

 

「………いよいよ明日で全てが決まるんだね」

 

と、不意にシャルがそう呟いた。

 

「………ああ………そうだな」

 

心無しか、妙に口数が少ない神谷。

 

「螺旋王ロージェノムとの決戦………若し、僕達が負けたら………世界は奴の手に落ちる………」

 

「…………」

 

神谷が黙り込んでいると、シャルは神谷の手を握って来た。

 

「シャル………」

 

不安になっているのかと心配した神谷だったが………

 

「だから………僕達は絶対に勝つ! 勝って日本に………いや! “世界に平和を取り戻す”んだ!!」

 

シャルは確固たる決意を秘めた表情でそう叫ぶ。

 

「………へっ、あたぼうよ! 俺達が負けるか、ってんだ!!」

 

其れを聞いた神谷は、不敵な笑みを浮かべてそう言い放つ。

 

「また、皆で楽しい学校生活を送ろうね。神谷」

 

其処でシャルは、神谷を見ながらそう言う。

 

「おうよ!………そう言や、もう直ぐ“1年”だな。俺がこの学園に来てから」

 

と其処で、神谷は思い出したかの様にそう呟き、IS学園の方を振り返った。

 

「そっか………もう1年も経つのか………何だか、色々な事が有り過ぎて、アッと言う間に感じちゃったなぁ」

 

その言葉に、シャルも学園の方を振り返りそう呟く。

 

「後少ししたら桜も咲くな………そしたら、全員で花見と行くか!」

 

「わあ! 良いね!!」

 

神谷の提案に、シャルは胸を弾ませる。

 

と其処で、シャルは神谷の腕に抱き付いた。

 

「………勝って………必ず生きて帰って来ようね。そしてまた皆で、この学園に通おうよ」

 

「………ああ」

 

神谷とシャルは夜空を見上げ、決意を新たにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面………

 

ロージェノムの居城・テッペリン………

 

その玉座の間………

 

ロージェノムが居る場所にて………

 

「明日で全てが決まる、か………」

 

相変わらず気怠げに玉座に腰掛け、頬杖を突いているロージェノムがそう呟く。

 

「…………」

 

その眼下には、ヴィラルが緊張した面持ちで畏まっている。

 

「まさか四天王が死に、貴様が生き残るとはな………」

 

ヴィラルの方を見ずに、ロージェノムはまるで他人事の様にそう言い放つ。

 

「………生き恥を晒してまで、再び螺旋王様の前に(まか)()でましたのには、()()がございます」

 

と、ヴィラルは畏まった姿勢のまま顔を上げてロージェノムを見遣る。

 

「…………」

 

其処で初めて、ロージェノムは視線だけを動かしてヴィラルを見遣る。

 

「教えて下さい! 螺旋王様!! 螺旋王様は本当は何を考えておいでなのです!? 螺旋王様の目的は、()()()“世界征服”なのですか!?」

 

ヴィラルは、ロージェノムにそう問い質す。

 

其れは、神谷がヴィラルに問うた疑問だった。

 

あの問いを聞いた、ヴィラルの中でもその疑問が大きくなり、遂にロージェノムにその()()を問い質したのである。

 

「………“世界征服”、か………フフフ」

 

と、その問い掛けを聞いたロージェノムは不敵に笑った。

 

「!?」

 

「そう言えばそうであったな………()()()()()を言っていた事も有ったな」

 

「!? なっ!?」

 

ロージェノムの言葉に驚愕するヴィラル。

 

「螺旋王様! 其れは一体!?」

 

「世界を征服する………確かに、ワシはそう言った。“だが其れは()()であって()()では無い”」

 

「! で、では!! 螺旋王様の『本当の目的』とは!? 一体何なのです!?」

 

「フフフフ………知りたいか? ヴィラルよ」

 

不敵な笑みを浮かべたまま、ロージェノムはヴィラルと目を合わせる。

 

その瞬間!!

 

ロージェノムの瞳に赤い光が螺旋を描く!!

 

「!?」

 

そしてその直後、ヴィラルの意識は闇へと落ちて行ったのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遂に夜が明け、IS学園では………

 

朝日が照らす海面が盛り上がり、インフィニット・ノアがその姿を現す。

 

その艦体は、新品同様にピカピカとなっている。

 

「さあ、行くわよ!!」

 

「了解! 反重力エンジン、起動!!」

 

「反重力エンジン起動!!」

 

その艦橋内でリーロンがそう指示したかと思うと、虚とのほほんが復唱する。

 

すると、海面が激しく揺れ動き始める。

 

そして、インフィニット・ノアの巨体がゆっくりと浮かび上がり始めた!

 

「反重力エンジン起動! 全艦異常無し!!」

 

「メインエンジン点火!!」

 

「メインエンジン点火!!」

 

続いて、艦尾下部に備え付けられていた双発のエンジンが炎を噴き上げる!

 

「目的地! 月面のテッペリン!!」

 

「ロージェノム! 待ってろ!! 今殴り込んでやるぜ!!」

 

リーロンが目的地を告げると、神谷がそう声を挙げる。

 

「上昇角45! 大気圏離脱用意!!」

 

虚がそう言うと、インフィニット・ノアの巨体は45度の角度で上昇しながら進み始める。

 

「神谷、一夏………頼んだぞ」

 

「皆さん、無事に帰って来て下さいね」

 

朝日に照らされ、どんどん上昇して行くインフィニット・ノアの姿を、IS学園校舎の屋上から千冬と真耶………

 

「いっくん、箒ちゃん………」

 

「…………」

 

「天上博士の息子が行く………」

 

束やくー、マドカ………

 

「頑張れーっ!!」

 

「負けるなーっ!!」

 

「無事に帰って来てねー!!」

 

そして、無事だった学園の生徒達や職員達が見送っていたのだった。

 

今、眦を決して、グレン団はロージェノムに決戦を挑む!

 

その敗北は、地球人類の破滅へと繋がるのだ………

 

グレン団よ行け! 明日の地球の為に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後………

 

インフィニット・ノアは大気圏を離脱し、宇宙空間へと出ていた。

 

「地球引力圏、離脱」

 

「第2宇宙船速に切り替えて」

 

「了解。第2宇宙船速に切り替えます」

 

虚・リーロン・のほほんがそう言うと、艦尾下部に備え付けられていた双発のエンジンから上がっていた炎の量が変わる。

 

そしてそのまま、インフィニット・ノアは月を目指して進んで行く。

 

「コレが………宇宙かぁ………」

 

と、一夏が艦橋の窓の外に広がる宇宙を見て、思わずそう呟く。

 

「何時かは来てぇと思ってたが………“こんな形”で来たくは無かったぜ」

 

神谷もそんな事を呟く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

他のメンバーも、色々と思う所が有るのか、黙り込んでいる。

 

「何れ、また来れるわよ。()()ね」

 

そんなグレン団メンバーに向かって、リーロンは意味深にそう言い放つ。

 

「ああ、その通りだ! その為にも先ず! ロージェノムの野郎をブッ飛ばすぜ!!」

 

「「「「「「「「「「おおーっ!!」」」」」」」」」」

 

其れを聞いた神谷がそう叫びながら拳を突き上げると、グレン団メンバーは叫び声を挙げながら同じ様に拳を突き上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、其れから更に数10分後………

 

インフィニット・ノアは月へと辿り着き、月面上空に浮かびながらテッペリンを捜索している。

 

「レーダーに感! 前方に超巨大物体を発見!!」

 

「ビデオパネル、チェンジ!」

 

のほほんと虚がそう言ったかと思うと、メインモニターに月面に我が物顔で立っているテッペリンが映し出される。

 

「アレが、テッペリン………」

 

「思ってたより大きいじゃない………」

 

改めてテッペリンの大きさに驚き、シャルと鈴が息を呑む。

 

と、その次の瞬間!!

 

インフィニット・ノア内に警報が鳴り響く!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「テッペリンより、多数の熱源の発進を確認!!」

 

グレン団の一同が驚いていると、虚がそう報告する。

 

その次の瞬間には、テッペリンから幾つもの巨大な影が発進して来る。

 

其れは、宇宙用に改造されているダイガンザン・ダイガンカイ・ダイガンテン・ダイガンド………

 

四天王達が使っていたダイガンだった。

 

しかも、4機だけではなく、其々のタイプが数1000機近くの群れを成している。

 

「!? 四天王のダイガンだと!?」

 

「しかもあんな数が!?」

 

箒と楯無が驚きの声を挙げた瞬間!

 

今度はその多数のダイガンから、無数の宇宙ガンメンが出撃して来た!!

 

ダイガン達の数が数1000機近くに及んでいる事もあり、発進して来るガンメンの数も半端では無い。

 

忽ち、テッペリンが黒い影に覆われて見え無くなる。

 

「て、敵艦よりガンメン部隊発進! その数………け、計測不能~!!」

 

レーダーを見ていたのほほんから、悲鳴にも似た声が挙がる。

 

尤も、彼女が見ているレーダーは、敵を示す赤い光点で完全に塗り潰され、“赤く光るパネル”と化している。

 

「天の影は全て敵、って事ですか………」

 

「流石は敵の本拠地………」

 

「守りは半端では無いわね………」

 

セシリア・ラウラ・簪がそう呟く。

 

「へへ、良いじゃねえか………“最後のパーティー”なんだ。これぐらいド派手じゃないとなぁ」

 

しかし、弾が不敵に笑ってそんな事を言い放つ。

 

「例えどんなに敵が多くたって………」

 

「私達は絶対に勝つ!!」

 

「そして………“皆で生きて帰る”んだ!」

 

続いて、蘭・ティトリー・フランがそう言い放つ。

 

「アニキ! 行こうっ!!」

 

そして、一夏が神谷にそう呼び掛けた。

 

「おっしゃーっ! 行くぜっ! 最後の戦いだぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

神谷のその咆哮で、グレン団一同は一斉に出撃して行くのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[飛行甲板展開! 戦闘形態へ移行!!]

 

[了解! インフィニット・ノア、戦闘形態へ移行します!!]

 

リーロンと虚がそう言い合うと、インフィニット・ノアの中央上部分が艦橋を残して左右に広がる様に展開する。

 

そして展開した部分が水平になったかと思うと、飛行甲板となる。

 

更に、飛行甲板が展開した後の艦体中央部に、3連主砲塔と煙突状の大型ビーム砲、そして対空レーザー砲塔が出現する。

 

「行くぜぇーっ!!」

 

続いて威勢の良い声と共に、左側の飛行甲板のカタパルトからグレンラガンが発進する。

 

「織斑 一夏! 白神! 行きまーすっ!!」

 

続いて、右側の飛行甲板のカタパルトから白神を纏った一夏が、ガ〇ダム口調で発進する。

 

そしてそのまま、左右の飛行甲板から次々にグレン団の面々が発進して行く。

 

僅か12人と1隻の宇宙空母………

 

宇宙をも黒く染め上げるロージェノム軍の前では、その存在は余りにも小さく見える………

 

しかし………

 

グレン団の面々は、誰もが絶望的な戦いに挑む様な悲壮感(など)微塵も抱いていない。

 

有るのは只1つ………

 

“必ず勝利し、皆で生きてあの学び舎へと戻る”と言う決意だけだ。

 

「野郎共! 雑魚には構うな!! 狙うは大将首………ロージェノムの野郎だぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

グレンラガンがそう叫ぶと一夏達は速度を上げ、ロージェノム軍の軍勢の中へと飛び込んで行く。

 

「グレン団! 覚悟ーっ!!」

 

「螺旋王様の為にーっ!!」

 

「獣人! バンザーイッ!!」

 

対するロージェノム軍の獣人達も、グレン団を押し潰そうと殺到する。

 

グレン団とロージェノム軍が激突する!!

 

………と、思われた瞬間!!

 

「! 今だぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

神谷がそう叫んだかと思うと、グレン団の面々は一斉に月面から見て上方へと急上昇した!!

 

「!? 何っ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突然進路を変えたグレン団の面々に、彼等を押し潰そうと迫っていたロージェノム軍の面々が戸惑っていると………

 

[発射、10秒前………9………8………7………6………5………4………3………2………1………0!]

 

[反陽子砲! 発射ぁ~っ!!]

 

何時の間にか反陽子砲のチャージを済ませていたインフィニット・ノアが、テッペリンを守る壁の様に展開していたロージェノム軍に向かって、反陽子砲を発射した!!

 

「「「「「「「「「「!? のあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」」」」」」」」

 

意表を突かれたロージェノム軍は反陽子砲を回避できず、次々とその光へ呑み込まれて行く。

 

そして、反陽子砲は敵の防衛陣に穴を開け、更にそのままテッペリンへと向かう。

 

しかし、テッペリンに命中した反陽子砲は、そのまま霧散する。

 

[!? 反陽子砲が!?]

 

[防御力も並みじゃないわね。大したモノだわ]

 

驚く虚に対し、相変わらず他人事の様にリーロンがそう言う。

 

その間に反陽子砲が敵陣に開けた穴は、瞬く間に塞がれてしまう。

 

「やっぱり、そう簡単に突破は出来ないか………」

 

其れを見た一夏がそう呟くが………

 

「へっ! 例えどんな壁だろうが! 俺達の前に立ちはだかるんだったら、風穴開けて押し通るまでよ!!」

 

「無理を通して道理を蹴っ飛ばす! 其れがグレン団のやり方だよ!!」

 

其れを吹き飛ばす様に、グレンラガンとシャルがそう叫ぶ。

 

その言葉に、一夏達は不敵な笑みを浮かべる。

 

「ロージェノムゥッ! 首を洗って待ってやがれええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

その次の瞬間には、グレンラガンは右腕にギガドリルを出現させ、敵陣の中へと突っ込んで行った。

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

其れに続いて行く一夏達、グレン団メンバー。

 

今此処に………

 

最終決戦の火蓋が、切って落とされた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

シュバルツことマドカの正体はこの作品ではこうなってます
そして決意を決めて決戦に挑むグレン団。
しかし、此処へ来てロージェノムの思惑に謎が?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第122話『学園に帰ったら………俺はお前に言いたい事が有る』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第122話『学園に帰ったら………俺はお前に言いたい事が有る』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、ロージェノム軍の拠点が発覚した。

 

その場所は月………月面である。

 

最早、世界は滅亡寸前の中………

 

グレン団は一発逆転を賭けて………

 

インフィニット・ノアでロージェノム軍の本拠地『テッペリン』へと出撃する。

 

月面を舞台に今、グレン団とロージェノム軍との最後の戦いが始まった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面・ロージェノム軍の拠点『テッペリン』前………

 

「…………」

 

陸戦用の機体の為、宇宙戦用装備ラウンドムーバーを装着したスコープドッグを纏った簪が、スラスターでの慣性飛行で横へとスライドする様に移動しながら、ヘヴィマシンガンを連射する。

 

正確な狙いで、直撃弾を受けた宇宙用ガンメン達が次々に爆散して行く。

 

「この鉄屑野郎!!」

 

と1機の宇宙用ゴズーが簪に肉薄し、棍棒を振り下ろそうとする。

 

「…………」

 

だが、簪は慌てずにアームパンチを叩き込む!!

 

「ゴバッ!?」

 

撃破するには至らなかったが、反動で宇宙用ゴズーを跳ね飛ばす。

 

「クソがぁっ!!」

 

体勢を立て直す宇宙用ゴズーだったが………

 

「!!」

 

その瞬間に、同じ様にラウンドムーバーを装着したベルゼルガを纏ったフランが宇宙用ゴズーの前に現れ、パイルバンカーを放つ!

 

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

身体を貫通された宇宙用ゴズーは爆発四散。

 

「オノレェッ!!」

 

「良くも同胞を!!」

 

仲間の仇を取ろうと、宇宙用ングーと宇宙用アガーがベルゼルガに迫る。

 

「………!!」

 

するとフランは、アサルトライフルを撃ちながら後退。

 

「逃がすか!!」

 

宇宙用ングーと宇宙用アガーは追撃するが………

 

「………!」

 

其処で、フランは真上に上昇。

 

「………其処」

 

すると、ターレットレンズをバイザーのスリット上でスライドさせていた簪が、ソリッドシューターを発射!!

 

放たれた砲弾は、狙いを過たず宇宙用ングーと宇宙用アガーに命中!

 

「「獣人! バンザーイッ!!」」

 

一瞬間を置いて、宇宙用ングーと宇宙用アガーは獣人達の断末魔と共に宇宙の塵となった。

 

「…………」

 

「…………」

 

其れを確認する間も無く、簪とフランは新たな敵へと向かって行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレートブーメランッ!!」

 

胸の放熱板を取り外し、敵目掛けて投げ付けるラウラ。

 

「グバァッ!?」

 

縦に真っ二つにされた宇宙用カトラ・ゲイが爆散する。

 

「うおおおおっ! 狩りだ! 破壊だぁっ!!」

 

其処へ、今度は宇宙用カノン・ガノンがラウラ目掛けて次々にエネルギー弾を発射して来る。

 

「ダブルマジンガーブレードッ!!」

 

だがラウラは攻撃を装甲で受け止めつつ、両手にマジンガーブレードを握って宇宙用カノン・ガノンに肉薄する。

 

「ショワッ!!」

 

そして右のマジンガーブレードで縦に斬り付けると、続けて左手のマジンガーブレードで横に斬り付ける!!

 

「螺旋王様に栄光有れええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

断末魔の叫びと共に、宇宙用カノン・ガノンは爆散する。

 

「人間共めぇっ! くたばれぇっ!!」

 

と、その近くで戦っていたセシリアに、宇宙用メズーがガトリング砲を発砲する。

 

「くうっ!」

 

“躱せ無い”と直感したセシリアは、左手のディフェンスプレートで弾丸を防ぐ。

 

「其処っ!!」

 

そして、反撃にと放ったバスターライフルのビームを曲げて、背後から命中させる。

 

「ぐおっ!?」

 

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

セシリアは、バランスが崩れた宇宙用メズーに向かって突撃すると、右手の武器をハイパービームソードに持ち替えて斬り付ける。

 

「ガ、ガンメン死すとも! 獣人は死なずだああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

断末魔の叫びと共に爆散する宇宙用メズー。

 

「貰ったぞぉっ!!」

 

しかし、その爆発の中を突っ切って現れた宇宙用シャクーが、回転アタックでセシリアのハイパービームソードを弾き飛ばす。

 

「!? あっ!? し、しまったっ!?」

 

「死ねぇっ!!」

 

一瞬慌てたセシリアに、宇宙用シャクーはその巨大な口で噛み付こうとする。

 

「むっ!? セシリア! コレを使えっ!!」

 

すると其処で、ラウラが左手に持っていたマジンガーブレードを投擲!

 

投擲されたマジンガーブレードは、宇宙用シャクーの背中に命中し、刃が口の中から飛び出す!!

 

「げばっ!?」

 

「ありがとうございます! ラウラさん!!」

 

宇宙シャクーが絶命すると、セシリアはマジンガーブレードを引き抜く。

 

「くたばれぇっ!!」

 

其処へ今度は宇宙用モグーが殴り掛かって来たが………

 

「ハアアッ!!」

 

セシリアは気合の掛け声と共に、マジンガーブレードで一閃する。

 

「バンザーイッ!!」

 

真っ二つにされた宇宙用モグーが爆散する。

 

「さあ!!」

 

「ドンドンと掛かって来い!!」

 

合流すると背中合わせになり、マジンガーブレードを構えながらそう言い放つセシリアとラウラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄! 遅れないでよ!!」

 

「言ってくれるじゃねえか! お前こそ、足引っ張んなよ!!」

 

敵軍勢の中へと突撃しながら、そう言い合っているグラパール・蘭とグラパール・弾。

 

「グレンラガンモドキめ! ブッ潰せぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

そのグラパール・弾とグラパール・蘭を押し潰そうと、一斉に掛かって行く宇宙用ガンメン部隊。

 

「来やがれっ!! リーロンさんが密かに開発していた秘密兵器の数々! 見せてやるぜぇっ!!」

 

と、押し寄せる宇宙用ガンメン部隊に向かってグラパール・弾がそう叫んだかと思うと、ドラムマガジンが付いたガトリングガン『螺旋マシンガン』を腰打(こしだ)めに構える。

 

「螺旋マシンガン!!」

 

そして引き金を引くと、爆音と共に螺旋力に包まれた弾丸が吐き出され、宇宙用ガンメン部隊を次々に撃ち抜いて行く!!

 

「オラオラオラオラオラオラアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!」

 

叫び声を挙げながら、次々に弾丸を宇宙用ガンメン部隊に見舞って行くグラパール・弾。

 

「パワーミサイルMAX!!」

 

そんなグラパール・弾に続く様に、グラパール・蘭もパワーミサイルMAXを出現させ、宇宙用ガンメン部隊に向かって引き金を引いた!!

 

白煙の尾を曳くミサイルが、宇宙用ガンメン部隊に次々に着弾して行く。

 

「螺旋ガンッ!!」

 

するとグラパール・蘭は、続けて対物ライフルを思わせる巨大ライフル『螺旋ガン』を取り出す。

 

その瞬間!

 

宇宙用ダイガンカイが、グラパール・蘭に向かってミサイルを放って来た!

 

「フッ!!」

 

背中のトビダマから炎を上げると、宇宙空間を縦横無尽に飛び回りながら、追尾して来るミサイルを螺旋ガンで撃ち落とす。

 

「今度はコッチの番よ!!」

 

そして、グラパール・蘭は宇宙用ダイガンカイに肉薄!

 

その背中部分の上を飛び、一定間隔で螺旋ガンの弾丸を撃ち込んで行く!!

 

「ハアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

まるでミシン縫いの様に、宇宙用ダイガンカイの背を穴だらけにしたかと思うと、宇宙用ダイガンカイは爆散した!

 

「ポッドミサイルL!!」

 

更に、グラパール・弾も両足の脛の外側に付けていたミサイルポッドから次々にミサイルを放つ。

 

ミサイルは、近くに居た宇宙用ダイガンテンに命中。

 

宇宙用ダイガンテンは、中央部分から崩れる様にして木っ端微塵となる!

 

「オラオラオラァーッ! 束になって掛かって来やがれってんだぁっ!!」

 

其れを見ながら、そう言い放つグラパール・弾だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「百邪斬断! 万精駆滅! 急々如律令!!」

 

鈴がそう唱えると、目の前に赤い札が出現。

 

その札に向かって、手で撃つ様な動きを見せた瞬間!!

 

札が幾重にも分裂し、敵軍目掛けて飛んだ!!

 

そして、敵の中で稲妻を発して爆発する!!

 

「「「「「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

「怯むなぁっ! 押せ押せぇっ!!」

 

しかし、ロージェノム軍の宇宙ガンメン部隊は損害に構う事無く、数に任せてドンドンと突っ込んで来る。

 

「順逆転身ッ!!」

 

その瞬間、鈴は龍虎王から虎龍王の姿へ変身。

 

「神分身!!」

 

更に、そう叫んだかと思うと、虎龍王形態の鈴が数10人に分身した!!

 

「ランダム・スパイクッ!!」

 

「ヴァリアブル・ドリルッ!!」

 

「ソニック・ジャベリンッ!!」

 

分身した虎龍王形態の鈴は、其々に武器や拳を使って次々に宇宙用ガンメン達を粉砕して行く!!

 

「「「「「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」」

 

次々に撃墜されていく宇宙用ガンメン達。

 

すると其処で、宇宙用ダイガンドが味方ごと鈴を葬らんと、全ての砲門を鈴へと向ける。

 

そして、一斉砲撃が開始されようとした瞬間!!

 

「其れ(ぐらい)お見通しだよーっ!!」

 

そう言う声と共に、楯無が宇宙用ダイガンド目掛けてミストルテインの槍を投擲する!!

 

放たれたミストルテインの槍は、宇宙用ダイガンドの装甲を易々と突き破って内部で爆発!!

 

忽ち、宇宙用ダイガンドは木っ端微塵となった!!

 

「よっ、と!!」

 

楯無は、ラスティー・ネイルの刃を宇宙用ダイガンドの残骸の中へと伸ばし、蒼流旋を回収する。

 

と其処へ、楯無を葬ろうと別の宇宙用ダイガンド達が次々に向かって来る。

 

「わおっ! 大歓迎だね! お姉さん困っちゃうっ!!」

 

余裕有る台詞と共に、宇宙用ダイガンドの軍勢に対処し始める楯無だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第1、第2主砲! 発射ぁっ!!」

 

「発射ぁっ!!」

 

リーロンがそう命じ、虚が復唱すると、インフィニット・ノアの第1主砲と第2主砲が火を噴く!

 

3連装の主砲2基から放たれた、計6本の光の帯が敵陣を貫き、一瞬遅れて爆炎の花々を咲かせる!!

 

その攻撃から生き残った敵がインフィニット・ノアに取り付こうとするが、対空砲火の前に撃墜されて行く。

 

「やあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーってやるニャァッ!!」

 

更に、撃ち漏らした機体も直掩機として付いていたティトリーのファイナルダンクーガが撃墜して行く!

 

「この裏切り者めえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!」

 

1機の宇宙用ゴズーが、ファイナルダンクーガを棍棒で殴り付けようとしたが、

 

「! ハアアアアァァァァァ………ハアッ!!」

 

「!? ギャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

ファイナルダンクーガが放った拳により粉砕される!!

 

「今のアタシは、ロージェノム軍のティトリーじゃない………“()()()()()ティトリー・キャッツ”だっ!!」

 

そしてそう言い放ったかと思うと、断空砲フォーメションの形態を取る!!

 

「断空砲! フォーメションッ!!」

 

そして、気合の掛け声と共に全砲門が火を噴いて敵軍を薙ぎ払う!!

 

と、その次の瞬間!!

 

その爆発を突っ切る様にして、各所から炎を上げている宇宙用ダイガンザンが突っ込んで来る!!

 

「!? ニャアッ!?」

 

咄嗟に回避行動を取り、宇宙用ダイガンザンの突撃を躱すファイナルダンクーガ。

 

しかし、宇宙用ダイガンザンはそのままインフィニット・ノアへと向かって行く!

 

「! マズイ! 特攻する気だ!! インフィニット・ノア! 避けてぇっ!!」

 

ファイナルダンクーガが悲鳴の様な声を挙げる!!

 

「敵艦1隻! 突っ込んで着ます!!」

 

「如何やら、体当たりをする積りみたいね」

 

「わわわわっ!? 如何しよう~っ!?」

 

報告を挙げる虚に、冷静に突っ込んで来る宇宙用ダイガンザンを見ているリーロンに、慌てるのほほん。

 

「回避を!!」

 

「待ちなさい! 艦首をダイガンザンへ! 此方も突っ込むわよ!!」

 

「!? リーロンさん!? 何をっ………!?」

 

思わぬリーロンの指示に慌てる虚だが、既にインフィニット・ノアはリーロンの指示通りの行動を取り始めていた。

 

互いに正面切って突撃し合うインフィニット・ノアと宇宙用ダイガンザン。

 

宇宙用ダイガンザンの艦首である、包丁アンカーがギラリと光る!!

 

「わあぁっ!? ぶつかるぅ~~~っ!?」

 

「! 今よ! 急速降下!!」

 

のほほんが悲鳴を挙げた瞬間、リーロンはそう指示を下す。

 

途端に、インフィニット・ノアの艦首が下がり、宇宙用ダイガンザンの下へと潜り込んだ!!

 

「中性子ビーム砲! 発射ぁっ!!」

 

「! 中性子ビーム砲、発射っ!!」

 

続いてリーロンがそう叫ぶと、虚が戸惑いながらも煙突型中性子ビーム砲を発射する!!

 

真上へと放たれた中性子ビームが、宇宙用ダイガンザンの艦体を真っ二つに斬り裂く!!

 

そしてインフィニット・ノアが離脱すると、宇宙用ダイガンザンは背後で2つに分裂し、大爆発を起こした!!

 

「やったわっ!!」

 

「た、助かった~~」

 

「生きた心地がしませんでした………」

 

歓声を挙げるリーロンだが、のほほんと虚は冷や汗を流しながらそう呟く。

 

「ボケッとしてる暇は無いわよ! 敵は未だ未だ居るんだから!!」

 

しかし、リーロンは2人にそう檄を飛ばし、インフィニット・ノアを更なる敵軍部隊の中へと向かわせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴッドスラッシュッ! タイフウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーンッ!!」

 

一夏はそう叫びながら、雪片を横にする様に構えたかと思うと、そのまま独楽の様に回転。

 

その状態で敵軍の中へと突っ込み、宇宙用ガンメン部隊を次々に斬り裂く!!

 

「超級覇王! 電影弾っ!!」

 

更に、其処から続けて超級覇王電影弾を繰り出す。

 

回転するエネルギーに包まれて弾丸と化した一夏が、敵陣を爆炎で染め上げる。

 

「ぶぁくはつっ!!」

 

そして、そう叫びながらポーズを決めた瞬間!!

 

巨大な爆発が発生して、宇宙用ガンメン部隊が一気に消し飛んだ!!

 

と、その一夏の猛攻にも負けず、宇宙用ダイガンザンが一夏目掛けて砲撃を見舞う。

 

「ゴッドフィールド! ダアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッシュッ!!」

 

しかし一夏は、ゴッドフィールド・ダッシュでその砲撃の中を突っ切り、宇宙用ダイガンザンに肉薄。

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を摑めと轟き叫ぶぅっ!! 爆熱ゥッ!! ゴッドォッ! フィンガアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

そして爆熱ゴッドフィンガーを繰り出しながら、宇宙用ダイガンザンの中心部分に突撃!!

 

中心部分に爆熱ゴッドフィンガーで突入された宇宙用ダイガンザンは、其処から真っ二つに折れて爆発・四散した!!

 

「ゲッタアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ! ビイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーームッ!!」

 

と、その近くで戦っていた箒の叫び声が挙がったかと思うと、ゲッタービームが敵陣を斬り裂き、次々に爆炎を発生させる!!

 

しかし其処へ、宇宙用ダイガンカイが箒を噛み潰そうと突撃して来る!!

 

「むあっ!!」

 

だが、箒は明らかにサイズ差が有り過ぎるにも関わらず、宇宙用ダイガンカイの突撃を左手で受け止め、

 

「せやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

腕の刃『ゲッターレザー』を大型化させたかと思うと、横薙ぎに振るう!!

 

ゲッターレザーに斬り裂かれ、宇宙用ダイガンカイは上下に真っ二つとなる!!

 

「ゲッタアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ! ビイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーームッ!!」

 

其処で箒は、今度は額の部分から緑色のゲッタービームを薙ぎ払う様に発射!!

 

またも宇宙用ガンメン部隊が、次々に消し飛ぶ!!

 

「ソオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーードッ! ランサアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

更に箒はそう叫んで、身体を広げる様な動きをしたかと思うと………

 

刀の刃部分が、無数に射出され、回転しながら四方八方へと飛んだ!!

 

回転する刃に当たった敵が次々に斬り裂かれて行く。

 

「螺旋王様の為にぃっ!!」

 

「獣人バンザーイッ!!」

 

だが、やはり敵は次から次へと湧いて出て来る。

 

「流石は敵の本拠地………半端じゃ無いな」

 

と、一旦箒と合流した一夏がそんな事を呟く。

 

「何だ、一夏? 怖気付いたのか?」

 

すると、箒が一夏に向かってそんな事を尋ねる。

 

「馬鹿を言うな! 俺を誰だと思ってやがるっ!!」

 

一夏はお決まりの台詞を箒へと言い返す。

 

「フフ、其れでこそ“グレン団の一夏”だ」

 

箒は不敵に笑ってそう返す。

 

「…………」

 

とそんな箒の顔を見て、何やら思い立った様な表情となる一夏。

 

「………箒」

 

「? 何だ?」

 

「学園に帰ったら………俺は“お前に言いたい事”が有る」

 

「!? なっ!?」

 

その言葉を聞いた箒の顔が一瞬で真っ赤に染まる。

 

「い、一夏! そ、其れはひょっとして………?」

 

「多分、“箒が考えてる通りの事”だ。俺も男だ。肚を決めたよ」

 

“何時に無く真剣な表情”で一夏はそう言う。

 

「一夏………」

 

箒は真っ赤な顔のまま、そんな一夏の姿に見惚れる。

 

「死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

「くたばれええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

と其処へ、宇宙用アガーと宇宙用ングーが背中に合わせになっている2人に襲い掛かる!!

 

「「!!」」

 

だが、次の瞬間には雪片と雨月・空裂で斬り裂かれた!!

 

「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」

 

2体の爆発の背後で、残心を決めている一夏と箒。

 

「………取り敢えず、今はこの戦いを終わらせよう」

 

「ああ、そうだな」

 

そう言い合うと、2人は再び背中わせとなり、雪片と雨月・空裂を構える。

 

「一夏、死ぬなよ」

 

「お前こそな、箒」

 

そう言って2人は笑い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流星! マシンガンパアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーンチッ!!」

 

気合の叫びと共に、グレンラガンの両手から目にも止まらぬパンチでの連打が放たれる!!

 

「「「「「「「「「「ギャアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

その拳と拳圧を受けた宇宙用ガンメン達が次々に粉々となる!!

 

「グレンラガン! 覚悟ぉっ!!」

 

と其処で、宇宙用カノン・ガノンがグレンラガン目掛けてビーム砲を発射するが………

 

「螺旋の盾!!」

 

グレンラガンは迫り来るビーム砲弾に向かって手を翳したかと思うと、其処から螺旋力のバリアが発生してビーム砲弾を弾く!

 

「ランススティンガーッ!!」

 

そして反撃にと、右腕から伸ばした2本の細長いドリルで、宇宙用カノン・ガノンを貫く!!

 

「げべっ!?」

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

其処で、グレンラガンは宇宙用カノン・ガノンを貫いたまま腕を振り回し、宇宙用カノン・ガノンを宇宙用ダイガンテンへと叩き付けた!!

 

宇宙用ダイガンテンがグシャリと潰れて爆散する!

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

「グレンラガンーーーーーーーーっ!!」

 

と其処へ、宇宙用ガンメン部隊がグレンラガンに次々と取り付いて動きを止めようとする。

 

「フルドリライズッ!!」

 

しかしグレンラガンはフルドリライズ化し、取り付いた宇宙用ガンメン部隊を貫く!!

 

「「「「「「「「「「螺旋王様! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

貫かれたドリルの先端部分で、次々に爆発する宇宙用ガンメン部隊。

 

「ダブルハーケンッ!!」

 

其処でシャルが、敵軍の中へダブルハーケンを投擲する!!

 

回転しながら飛んで行ったダブルハーケンは、そのまま敵軍を斬り裂いて爆炎を次々に発生させる!!

 

「死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、戻って来たダブルハーケンを回収している最中(さなか)に、宇宙用シャクーがその大きな口を開け、噛み付こうとして来た!!

 

「! ええいっ!!」

 

だがシャルは慌てず、ダブルハーケンを左手で持つと、その宇宙用シャクーの大きく開かれた口目掛けて右パンチを放つ!!

 

「ゲベッ!?」

 

「スクリュークラッシャーパンチッ!!」

 

そしてその状態で、スクリュークラッシャーパンチを発射する!!

 

「天国へ行けるかなああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

断末魔と共に、ボディを貫かれた宇宙用シャクーが爆散する。

 

「スペースサンダーッ!!」

 

スクリュークラッシャーパンチを回収すると、スペースサンダーを放つシャル。

 

スペースサンダーは宇宙用ダイガンカイに命中したかと思うと、そのまま宇宙用ダイガンカイの艦体を斬り裂く様に駆け抜け、爆発・四散させた!

 

「反重力ストームッ!!」

 

更に続けて、反重力ストームを月面に居た宇宙用ダイガンドに向けて放ったかと思うと、宇宙用ダイガンドは宇宙空間に舞い上がって宇宙用ダイガンテンに激突!!

 

そのまま爆発四散した。

 

しかし、また新たな宇宙用ダイガン達が発進して来て、更に其処から新たな宇宙用ガンメン部隊が出撃して来る。

 

「また増援!? キリが無いよ!!」

 

「ええい! 雑魚に用は()えっ! 親玉を出しやがれ!!」

 

度重なる増援の前に、シャルとグレンラガンはそう言い放つ。

 

「マズイよ、神谷。このままじゃ消耗戦だよ」

 

「チイッ」

 

シャルの言葉に、グレンラガンは舌打ちする。

 

確かに、このままではグレン団の方ばかりが消耗し、(いず)れは力尽きる………

 

一刻も早く、親玉であるロージェノムを叩く必要が有るが、この敵軍勢を無理矢理突破してテッペリンに突入するのは難しい。

 

更に言えば、反陽子砲をも跳ね返すテッペリンへの突入方法すらも今だ思い付かれていない。

 

「敵ダイガン! テッペリンより更に出現!!」

 

と其処で、インフィニット・ノアののほほんが、全員にそう報告を告げる。

 

「またかよ!?」

 

「このままでは………」

 

其れを聞いた一夏が思わず声を挙げ、虚が絶望の声を漏らす。

 

()()()()()()()()()?………!! 其れよ!!」

 

しかし其処で、リーロンがそう大声を挙げた!!

 

「うわっ!?」

 

「リーロンさん!? 如何したんですか!?」

 

突然大声を挙げたリーロンに、グラパール・弾とグラパール・蘭が驚きの声を挙げる。

 

「“ダイガンの発進口から中へ飛び込む”のよ! 外側がどれだけ強固でも、中までそうとは限らないわ!! 発進口にさえ突入出来れば!!」

 

「!! そうか!!」

 

「けど、アレだけの数の敵を突破するには、如何すれば………!?」

 

納得が行った声を挙げる箒だが、ファイナルダンクーガがそう訊いて来る。

 

「任せない! 虚! Q弾頭ミサイルよ!!」

 

「!? ええっ!? Q弾頭ミサイルを使うんですか!?」

 

何やら“ミサイルを使う”と言うリーロンに、虚が驚きの声を挙げる。

 

「復唱! 如何したの!?」

 

「りょ、了解! Q弾頭ミサイル、スタンバイッ!!」

 

リーロンが重ねて命じると、虚が慌てて復唱する。

 

「皆~! 今から送るデータの範囲内から離れて~!!」

 

続けて、のほほんがグレン団一同に何やらデータを送る。

 

そのデータは、“かなりの広範囲に()()()”と言う警告のデータだった。

 

「!? コレは一体!?」

 

「兎に角、この範囲から離れるわよ!!」

 

セシリアが驚きの声を挙げる中、鈴がそう言い放って、一同は一斉にデータの範囲内から退避する。

 

「グレン団全員、爆発圏内から離脱!」

 

「良し! 発射口、オープン!!」

 

リーロンがそう叫ぶと、インフィニット・ノアの艦首上部に2つの発射口が現れる。

 

「Q弾頭ミサイル………発射ぁっ!!」

 

そして、其処から大型ミサイル………Q弾頭ミサイルが発射された!!

 

弾道ミサイルの様な形状をしたQ弾頭ミサイルは、敵陣目掛けて一直線に飛び、その奥深くまで斬り込んだかと思うと………

 

一瞬間を置いて、巨大な爆発を起こす!!

 

「………!?」

 

「キャアッ!?」

 

簪が目を覆い、楯無も悲鳴を挙げる。

 

Q弾頭ミサイルの爆発は凄まじく、宇宙がまるで“昼間の大気圏内”の様に照らし出される!!

 

「コレは!?」

 

「凄い爆発………」

 

ラウラとフランが驚きの声を挙げる中、やがてQ弾頭ミサイルの爆発の光が収まり………

 

敵陣には、ポッカリと穴が開いていた。

 

「す、凄い………」

 

「一体、どんなミサイルだったんだ………?」

 

思わず冷や汗を掻きながら、箒と一夏はそう呟く。

 

と其処へ………

 

開いた穴を埋めようと、テッペリンの発進口が開き、新たな宇宙用ダイガンが出撃しようとして来る。

 

残っていた敵も、陣に開いた穴を埋めようとして来る。

 

「グズグズしてる暇は無いわ! 敵陣に穴が開いている今がチャンスよ!!」

 

其処でリーロンがそう叫ぶ。

 

「よっしゃあぁっ! 行くぜぇっ!!」

 

と其れを聞いて、グレンラガンがテッペリンを目指して突っ込んで行った!!

 

「! 皆! 神谷を援護して!!」

 

其れを見たシャルが、一夏達にそう呼び掛ける。

 

「了解しましたわ!!」

 

「任せるわよ! 神谷!!」

 

セシリアと鈴がそう叫んで、バスターライフルとマグマ・ヴァサールをグレンラガンに向かおうとしていた敵に向けて放つ!!

 

「行け! 神谷!!」

 

「頼んだよ!!」

 

ラウラとフランも、サンダーブレークとアサルトライフルで弾幕を張る。

 

「人類と地球の運命………託したよ!!」

 

「…………」

 

楯無と簪もそう言いながら、敵の中へと飛び込んで足止めをする。

 

「アニキ!!」

 

「神谷さん!!」

 

ハンドガンを撃ち捲り、宇宙用ガンメン部隊を牽制しながら、グラパール・弾とグラパール・蘭が叫ぶ。

 

「神谷!!」

 

「アニキ! 行っけえええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」

 

そして箒と一夏の声を背に、グレンラガンは遂に閉じ掛けていた宇宙用ダイガンの発進口へと飛び込んだ!!

 

「ギガァ! ドリルゥ! ブレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーイクッ!!」

 

そして、そのままギガドリルブレイクを発動させてテッペリンの内部を最頂部目指して昇って行く!!

 

外からも、テッペリン内部で次々に発生していた爆発で、その様子が分かる。

 

「神谷!!」

 

「神谷………必ず帰って来てよ………」

 

その光景を見ながら、ファイナルダンクーガとシャルは、そう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テッペリン内部・ロージェノムの間………

 

「うおりゃあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

ロージェノムの眼前の床が爆ぜ、グレンラガンが姿を現し、着地する。

 

「ほほう? 何とか辿り着いた様だな………螺旋の男よ」

 

目の前に現れたグレンラガンにもまるで動揺せず、ロージェノムはそう言い放つ。

 

「! ロージェノム!!」

 

しかし、グレンラガンはロージェノムの姿を見ると、直ぐに構えを取る。

 

「如何にも………ワシこそが螺旋王………ロージェノムだ」

 

そんなグレンラガンに向かって、ロージェノムは不敵な笑みを浮かべてそう言い放つのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

敵の本拠地だけに、今までにない物量戦に。
しかし、咄嗟のひらめきで、グレンラガンが内部へ突入に成功。
そして遂に………
ロージェノムと対峙します。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第123話『俺達グレン団の怒りを思い知らせてやるぜっ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第123話『俺達グレン団の怒りを思い知らせてやるぜっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面・ロージェノム軍の拠点『テッペリン』の内部・ロージェノムの間………

 

「ロージェノム! 今日でテメェもお(しめ)ぇだっ!!」

 

玉座に座っているロージェノムをビッと指差しながら、グレンラガンはそう言い放つ。

 

「その血気………正に“父親譲り”だな………天上 神谷」

 

ロージェノムは、相変わらず玉座に座った状態で気怠そうに頬杖を突き、不敵な笑みでグレンラガンを見据えている。

 

「覚悟しやがれ! 親父の仇! そして全世界の連中と! 俺達グレン団の怒りを思い知らせてやるぜっ!!」

 

其処でグレンラガンはグッと拳を握り、決意を表すかの様にそう叫ぶ。

 

「フッ」

 

しかし、ロージェノムから返って来たのは嘲笑だった。

 

「笑ってられんのも今の内だぜぇっ! うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

そんなロージェノムの態度にカチンと来たのか、グレンラガンはウイングを展開させると、トビダマから炎を上げてロージェノムに向かって突っ込む!!

 

「喰らえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

その叫びと共に右腕がギガドリルへと変わり、ロージェノム目掛けて回転する。

 

しかし………

 

その間に『何か』が割り込んだかと思うと、ギガドリルの1撃を受け止める!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

グレンラガンが驚きの声を挙げた瞬間!!

 

『何か』はそのまま、グレンラガンを放り投げた!!

 

「グハッ!?」

 

床に叩き付けられたグレンラガンは、そのまま数回バウンドした上で壁に叩き付けられる。

 

「アダダダダダダッ!? 頭打ったぞ、オイ!!」

 

愚痴る様に言いながらギガドリルを引っ込めると、頭を擦りながら起き上がるグレンラガン。

 

と其処へ、グレンラガンを投げ飛ばした『何か』が眼前に立った。

 

「!? ヴィラル!!」

 

グレンラガンは驚きの声を挙げる。

 

そう………その“正体”は、ヴィラルのエンキドゥドゥだった。

 

「…………」

 

しかし今、目の前に立っているエンキドゥドゥからは、今まで感じられていた“殺気混じりの()()”が感じられ無い。

 

まるで、機械か操り人形の様な雰囲気を感じる。

 

「ヴィラル………オメェ、如何した!?」

 

そんなエンキドゥドゥの“異変”に気付いたグレンラガンはそう問い質すが………

 

「…………」

 

エンキドゥドゥは4本の手にエンキソードを握り、グレンラガンに向かって振るって来た!!

 

「!? うおっ!?」

 

驚きながらも、跳躍してエンキドゥドゥの上を飛び超える様にして躱すグレンラガン。

 

「ヴィラルッ!!」

 

「…………」

 

再度呼び掛けるが、やはり返事は返って来ず、代わりにエンキドゥドゥはボディを展開させて重火器を発射する!!

 

「クッ! 螺旋の盾ぇっ!!」

 

グレンラガンは螺旋の盾を発動し、重火器の攻撃を防ぐ。

 

「…………」

 

だが、その際に発生した爆煙を突き抜け、突撃して来たエンキドゥドゥがグレンラガンにミドルキックを叩き込む!!

 

「ごあっ!?………! こんのおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

一瞬吐きそうになったが、堪えてエンキドゥドゥの足を摑むと、そのままジャイアントスイングを掛ける。

 

「おりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「!?」

 

存分に振り回された後、思いっ切り投げ飛ばされたエンキドゥドゥは、そのまま背中から壁に激突!

 

その壁から剥がれたかと思うと、床に(うつぶ)せになる様に叩き付けられた!

 

「…………」

 

しかし、直ぐに無言のまま起き上がり、エンキソードを構える。

 

その姿はまるでゾンビの様である。

 

「何なんだ………オイ! ロージェノム! テメェ、ヴィラルに一体何しやがったっ!?」

 

不気味な印象を受けながら、その“元凶”がロージェノムに有ると踏んだグレンラガンは、油断無く構えを取りながら、相変わらず玉座で気怠そうに頬杖を突いているロージェノムにそう問い質す。

 

「其れを問い質して如何する? 貴様にとって其奴(そやつ)は敵であろう。()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

しかし、ロージェノムは面倒臭そうにそう言い放つ。

 

「巫山戯んじゃ無え! “今のコイツ”と戦えるか!?」

 

「貴様がそんな事を言っていても、其奴(ヴィラル)には関係無い様だぞ?」

 

怒鳴るグレンラガンだったが、ロージェノムが続けてそう言うと、エンキドゥドゥが再びグレンラガンに襲い掛かる。

 

「! チイッ!!」

 

片手に2本ずつ、計4本のドリルを出現させると、エンキドゥドゥのエンキソード4本を受け止めるグレンラガン。

 

「止めろ、ヴィラル! 目ぇ覚ませぇっ!!」

 

「…………」

 

グレンラガンがそう呼び掛けるも、エンキドゥドゥからは返事は返って来ず、グレンラガンは腕を弾かれたかと思うと、当て身を喰らわせられる。

 

「がっ!?」

 

そしてグレンラガンの体勢が崩れたところで、エンキソード4本を纏めての縦一文字斬りを繰り出す。

 

「ぐあああっ!?」

 

ボディが斬り裂かれ、装甲の欠片が宙に舞う。

 

「! んなろぉっ!! こうなりゃブン殴って目ぇ覚まさせてやらぁっ!!」

 

が、グレンラガンは激痛を無視して右足を振り上げたかと思うと、縦一文字斬りを繰り出して上体が下がっていたエンキドゥドゥに踵落としを喰らわせる!

 

「!?」

 

背中に踵落としを喰らったエンキドゥドゥが、(うつぶ)せに床に叩き付けられる!

 

しかし、その状態で足を上げて来たかと思うと、グレンラガンの首を蟹挟みで(とら)える!!

 

「がっ!?」

 

そしてそのまま身体を捻る様に回転させ、グレンラガンを投げ飛ばす!!

 

「ぐあっ!?」

 

グレンラガンが背中から床に倒れると、その間に起き上がったエンキドゥドゥは、串刺しにせんとエンキソードを振り下ろして来る!

 

「!?」

 

咄嗟に転がるグレンラガンだったが、エンキドゥドゥは4本の腕で次々に突きを繰り出して来る!!

 

「クソッ! いい加減にしやがれぇっ!!」

 

と其処で、グレンラガンは転がりながら胸のグレンブーメランを投擲した!!

 

「!?」

 

至近距離から投擲されたグレンブーメランを、エンキドゥドゥは真面に喰らう。

 

「トアアッ!!」

 

その間に、グレンラガンは床に倒れた状態から跳躍!

 

エンキドゥドゥに命中し、空中に弾かれていたグレンブーメランをキャッチすると、大上段に振り被る!

 

「男の情熱! 燃焼斬りいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーっ!!」

 

そして、男の情熱燃焼斬りを繰り出す。

 

「!!」

 

エンキドゥドゥはエンキソード4本を全て使って受け止めるが………

 

「2段返しッ!!」

 

とグレンラガンが叫んだかと思うと、左手を背中のグレンウイングへと回して翼の部分を摑んで取り外すと、横薙ぎにエンキドゥドゥに向けて振るった!!

 

「!!」

 

エンキドゥドゥの装甲の一部が飛び散り、大きく仰け反る。

 

「ダブルブーメランスパイラルッ!!」

 

そしてそのまま、グレンブーメランとグレンウイングを投擲する!!

 

「!!」

 

高速回転しながら飛んで来たグレンブーメランとグレンウイングを、エンキソードを振るって弾くエンキドゥドゥだったが………

 

完全に弾くのには失敗したのか、衝撃で下の腕で握っていたエンキソードが砕け散った。

 

「!?」

 

「隙有りぃっ!! ドドドリルキイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーックッ!!」

 

其処でグレンブーメランとグレンウイングを回収したグレンラガンは、左脚のドリル出現口から全てのドリルを出現させ、エンキドゥドゥに蹴りを叩き込む!!

 

「!!」

 

またもエンキドゥドゥの装甲が弾け、宙に舞う。

 

しかし、弾き飛ばされた先で受け身を取って着地したかと思うと、空になった下の手でブレーキを掛けながら床の上を滑って行き、上の腕からエンキカウンターを4発放つ!!

 

「チイッ!!」

 

3発目までは如何にか弾いたグレンラガンだったが………

 

「! ぐうっ!!」

 

最後の1発のエンキカウンターが装甲の隙間から右肩へと突き刺さり、血が噴き出す。

 

「!!」

 

その痛みで動きが鈍った一瞬を見逃さず、体勢を立て直したエンキドゥドゥが突撃!!

 

下の左腕でのアッパーから、下の右腕でのラリアットを喰らわせる!!

 

「ゴハッ!?」

 

更にそのままグレンラガンを捕まえたかと思うと、首絞めを掛ける!!

 

「グオッ!? ガッ!?」

 

脳への酸素を遮断され、グレンラガンは苦しそうに藻掻く。

 

「こ、このぉっ! 放せってんだ!!」

 

首を絞めて来ているエンキドゥドゥの下の腕を殴り付けるグレンラガンだが、エンキドゥドゥは放そうとしない。

 

「…………」

 

「ガッ!?………ヤ、ヤベェ………」

 

段々と意識が遠くなって行く感覚が襲って来る。

 

「グ………ガッ………! うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、気絶寸前でフルドリライズを発動!!

 

「!?」

 

グレンラガンの全身から細長いドリルが飛び出し、エンキドゥドゥは無理矢理引き剥がされる!

 

「ゲハッ! ゴホッ! ゴホッ!」

 

慌てて酸素を取り込み、噎せるグレンラガン。

 

「…………」

 

エンキドゥドゥはそんなグレンラガンにも容赦無く襲い掛かる。

 

「! なろぉっ!!」

 

だが、グレンラガンはカウンターで巴投げを繰り出す!

 

「!!」

 

エンキドゥドゥは、背中から逆さまに壁に叩き付けられる!!

 

「グレンストームッ!!」

 

其処で胸のサングラスから螺旋エネルギーの熱線を放射!!

 

「!!」

 

躱すエンキドゥドゥだったが、外れたグレンストームはテッペリンの外壁を貫通し、宇宙空間へと抜ける。

 

外壁が抜けた事で空気が外へ漏れ出し、玉座の間に激しい乱気流が発生する。

 

「!? うおっ!?」

 

グレンラガンは両手のドリルを床に突き刺し、外へと吐き出されそうになるのを防ぐ。

 

「!!」

 

エンキドゥドゥの方もエンキソードを床に突き刺し耐える。

 

「…………」

 

只1人、ロージェノムだけが微動だにせず、気怠そうに玉座に頬杖を突いて座っていた。

 

やがて穴が開いた壁に隔壁が降り、空気の流出が止まる。

 

「チイッ! やり過ぎたぜ!!」

 

そんな事を言いながら立ち上がり、ドリルを収納するグレンラガン。

 

「!!」

 

其処でエンキドゥドゥがグレンラガンに向かって突撃!

 

下の両腕でグレンラガンの両腕を摑み、動きを止める。

 

「!? しまった!?」

 

そして、上の腕に残っていたエンキソードをグレンラガンの頭上から振り下ろす!!

 

「んなろぉっ!!」

 

だが、グレンラガンは両肩からドリルを出現させてエンキソードを弾く!

 

「!!」

 

「ドリルヘッドバッドォッ!!」

 

そして、額の部分からもドリルを出現させたかと思うと、エンキドゥドゥ目掛けて思いっ切り頭突きを喰らわせる!!

 

「!?」

 

装甲から火花が飛び散り、エンキドゥドゥはグレンラガンを離して蹌踉(よろけ)る。

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

その次の瞬間には、グレンラガンはエンキドゥドゥに強烈なパンチを喰らわせた!!

 

「!!」

 

その1撃にエンキドゥドゥはブッ飛ばされ、手からエンキソードが零れて床に突き刺さる。

 

「!!」

 

「ヴィラルウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ! 目ぇ覚ませえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

すると、グレンラガンは起き上がろうとしていたエンキドゥドゥ目掛けて再び強烈なパンチを喰らわせる!!

 

「!!」

 

倒れそうになったエンキドゥドゥだったが踏み留まり、反撃とばかりに右の上下の腕でフックを繰り出す。

 

「ガハッ!? このおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

今度はボディブローを繰り出すグレンラガン。

 

「!!………!!」

 

エンキドゥドゥは身体がくの字になりながらも、今度は左の上下の腕でストレートを喰らわせる!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「!!………!!………!!」

 

そのまま、両者足を止めての拳の応酬合戦となる。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「!!………!!………!!」

 

互いに装甲の欠片と血を撒き散らしながら、殴り合いを続けるグレンラガンとエンキドゥドゥ。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

「!!」

 

そして遂に、グレンラガン渾身のボディブローとエンキドゥドゥの地獄突きがお互いに炸裂。

 

グレンラガンのボディブローはエンキドゥドゥの身体の顔の中心部に叩き込まれ、エンキドゥドゥの地獄突きはグレンラガンの左肩口に突き刺さっていた。

 

「………グウウッ!?」

 

「!!」

 

一瞬の硬直の後、グレンラガンは膝から崩れ、エンキドゥドゥは床に倒れ伏す。

 

「イッテーッ! クソーッ」

 

左肩口を押さえながらグレンラガンが立ち上がる。

 

すると………

 

「グレン………ラガン………?」

 

同じ様に起き上がろうとしていたエンキドゥドゥが、グレンラガンの姿を見てそう呟いた。

 

「! ヴィラル!!」

 

「俺は………一体()()()()()()のだ?」

 

呆然とした様子で自分の手を見ながらそう呟くエンキドゥドゥ。

 

「オメェ、正気に戻ったのか!?」

 

「正気に? そうだ、俺は確か………! 螺旋王様!!」

 

と其処で、エンキドゥドゥはロージェノムの姿に気付く。

 

「ふむ、自我を取り戻したか………」

 

「螺旋王様! あの時私に、一体何をしたのです!!」

 

「何、“ちょっとした(たわむ)れ”よ………」

 

エンキドゥドゥの問いに、ロージェノムは然も当然の様にそう返す。

 

()()ですと!?」

 

「オイ、ロージェノム! テメェ一体何考えてやがる!? 此奴は“オメェの()()”じゃ()えのか!?」

 

動揺するエンキドゥドゥの姿を見て、グレンラガンもロージェノムの傍若無人な態度に怒りを露わにする。

 

「仲間?………ワシに“そんなモノ”は要らぬ。要るのは、“ワシに忠実に従う()”のみだ」

 

「なっ!?」

 

「ざけんなっ! 大体“世界征服”なんて野望掲げてる時点で馬鹿げてんだよ!!」

 

グレンラガンはロージェノムに向かって、更にそう吠えるが………

 

「世界征服?………フフフフ………貴様は、ワシが()()()“そんな事を考えている”と思っていたのか?」

 

ロージェノムは小馬鹿にする様な笑みを浮かべてそう言い返して来た。

 

「!? 何だと!?」

 

「ワシの“真の目的”………其れは“人類と言う種”を、()()()………いや、()()()()()()()()()()()だ」

 

「なっ!?」

 

そのロージェノムの言葉に、グレンラガンも思わず言葉を失う。

 

「テメェッ! 正気か!?」

 

「………“遊び”は終わりだ。今度はワシが相手をしてくれる」

 

グレンラガンの問いには答えず、遂にロージェノムが玉座から立ち上がる。

 

すると、その瞬間!!

 

ロージェノムの身体から、赤い光が溢れ出した!!

 

「!? この光は!?」

 

その光にグレンラガンは驚愕する。

 

何故ならばその光は、()()()をしているものの、『螺旋力』だったからだ。

 

しかし、奇妙な事に………

 

グレンラガンを初めとした、グレン団一同の螺旋力は“右回転・時計回り”に回るのに対し………

 

今、ロージェノムが放っている螺旋力は“左回転・反時計回り”をしている。

 

「ぬおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

驚愕している間にも、ロージェノムの身体から発せられている()()()()()は輝きを増して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

テッペリンの外・月面の宇宙空間で戦っている一夏達も………

 

「!? 何だアレは!?」

 

宇宙用ゴズーを1体斬り捨てた一夏が、テッペリンの異変に気付く。

 

テッペリンの頂上部分から、赤い光が壁を突き破る様にして溢れていたのだ。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

一夏のその言葉で、他のメンバーも異常に気付く。

 

「何なの、アレは……?虚ちゃん! 解析出来てる!?」

 

リーロンも呆然と呟いたが、直ぐに虚にそう問い質す。

 

「待って下さい!!………!! ()()()()()()()です!!」

 

直ぐに解析を開始した虚が、驚愕を露わにしながらリーロンに向かってそう叫ぶ。

 

「“螺旋エネルギー”ですって!? 信じられ無いわ………アレ程の量の螺旋エネルギーを発する存在なんて………其れにあの()は一体?」

 

「ア、アレ~? 如何したんだろう~、コレ?」

 

リーロンが信じられ無いと言った様子を見せていると、今度はのほほんがそう声を挙げる。

 

「!? 如何したの? のほほんちゃん」

 

「え、えっと~………あの螺旋エネルギーが出てる所に、“グレンラガンの反応”が有るんだけど………()()()()()の~」

 

こんな状況下でも、間延びした声でそう報告を挙げるのほほん。

 

「2つ?」

 

「本音、見間違いじゃ無いの?」

 

「“確かに”2つだよ~! ほら~!」

 

のほほんはそう言うと、識別信号確認装置を2人に見せる。

 

其処には、確かにグレンラガンを表す反応が()()出ていた。

 

「! ホントだわ………如何言う事なの?」

 

「!? まさか!?」

 

虚が首を傾げていると、リーロンが戦慄する。

 

「リーロンさん!?」

 

「如何したの~?」

 

「忘れたの? アメリカを壊滅させた………『()()グレンラガン』を」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

リーロンのその言葉は通信回線にも流れており、一夏達が戦慄する。

 

「まさか、あの………」

 

一夏は黒いグレンラガンの姿を思い出す。

 

映像越しとは言え、その姿は他者を威圧するのに十分な迫力を持っており、脳に強烈に焼き付いていた。

 

「神谷………」

 

不安気な表情を隠せないシャル。

 

たった1機でアメリカを壊滅させた………

 

その“黒いグレンラガン”が、神谷のグレンラガンと対峙しているかも知れないのである。

 

如何に神谷を信じているシャルと言えども、不安を感じずには居られなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、月面・ロージェノム軍の拠点『テッペリン』の内部・ロージェノムの間………

 

「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!………ハアッ!!」

 

ロージェノムが一際気合を入れる様な声を発した瞬間………

 

赤い螺旋エネルギーが弾け………

 

中から、『黒いグレンラガン』が姿を現した!!

 

「! ソイツは!?」

 

「“螺旋の力”を持っているのは貴様だけでは無い………思い知らせてやる。“()()()螺旋力”と言うモノをなぁ」

 

驚くグレンラガンに向かって、黒いグレンラガンはロージェノムの声でそう言い放つ。

 

「この、『ラゼンガン』でなぁ」

 

そして、グレンラガンと同じく身体の各所に開いている穴と、ボディと頭部の目を赤く発光させて黒いグレンラガン………

 

真・螺旋王機『ラゼンガン』はそう言い放つのだった。

 

「ラゼン、ガン………」

 

その名を反芻するグレンラガンの頬に、冷たい汗が流れる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ロージェノムと対峙したグレンラガンの前に立ちはだかったヴィラル。
様子のおかしかった彼を正気に戻すと、ロージェノムから彼の真の目的が明かされる。
その目的は何と!
人類種の抹殺!!
そして遂に………
ロージェノムこと、黒いグレンラガン………『ラゼンガン』と対峙する。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第124話『ガタガタウルセェんだよっ! 禿親父!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第124話『ガタガタウルセェんだよっ! 禿親父!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面・ロージェノム軍の拠点『テッペリン』の内部・ロージェノムの間………

 

「フフフフフフ」

 

腕組みをして仁王立ちした姿勢で、グレンラガンを見据えつつ不敵な笑いを零すロージェノムこと『ラゼンガン』

 

すると、その次の瞬間!

 

そのロージェノムの間の様子が、宇宙空間に投影される。

 

「! アレは!?」

 

「神谷!!」

 

「やっぱり出たわね………黒いグレンラガン」

 

その映像を見た一夏・シャル・リーロンがそう声を挙げ、他の面々も映し出された映像を見遣る。

 

しかし映像が投影されているのは、グレン団の面々に向けて()()では無かった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球・日本のIS学園………

 

「見て! グレンラガンだ!!」

 

「黒いグレンラガンも居るよ!!」

 

日本のIS学園上空にもその映像は映し出され、再襲撃を警戒していた生徒や教師達が目撃する。

 

「神谷………」

 

「天上くん………」

 

「天上 神谷………」

 

「かみやん………」

 

「…………」

 

千冬・真耶・マドカ・束・くーも、学園の屋上で食い入る様にその映像を見据えていた。

 

更に映像は、アジアやヨーロッパ、南北アメリカにアフリカと世界中の国々の空に映し出される。

 

まるで“ショー”でも見せるかの様に………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面・ロージェノム軍の拠点『テッペリン』内部・ロージェノムの間………

 

「野郎………俺の真似すりゃ勝てるとでも思ってんのか? 舐めんなよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンはそう吠えると、ラゼンガンに向かって突撃する。

 

「…………」

 

しかし、ラゼンガンは相変わらず腕組みをしたままで仁王立ちを続ける。

 

「喰らえぇっ! スカルブレイクゥッ!!」

 

構わずグレンラガンは、ラゼンガン目掛けてスカルブレイクを繰り出す。

 

………だが!!

 

「…………」

 

ラゼンガンの左腕が動いたかと思うと、スカルブレイクを繰り出したグレンラガンの右手をアッサリと摑んで止めてしまう。

 

「! 野郎!!」

 

直ぐに右腕を引っ込めると、今度はすかさず左腕でスカルブレイクを繰り出すが………

 

「…………」

 

ラゼンガンは、コレも左手()()でアッサリと受け止めてしまう。

 

「!?」

 

「如何した? この程度では有るまい?」

 

驚くグレンラガンに、ラゼンガンは挑発する様にそう言い放つ。

 

「! この野郎おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

激昂したかの様に叫び、今度はスピンドルキックを繰り出すグレンラガン。

 

「フン」

 

しかし、ラゼンガンはその攻撃も左手だけでアッサリと受け止めたかと思うと、そのままグレンラガンの左足を摑んで、左腕だけで思い切り投げ飛ばした!!

 

「!? うおわぁっ!?」

 

グレンラガンは床に叩き付けられてバウンドしたかと思うと転がって行って壁に叩き付けられる!!

 

「ぐううっ………!!」

 

「どれ………今度はコチラから行かせて貰うぞ」

 

全身に鈍い痛みが走りながらも起き上がるグレンラガンだったが、其処でラゼンガンはそう言い放つと腰を深く落とし、アクロバティックな動きで跳躍した!!

 

「!?」

 

グレンラガンが、咄嗟にサイドステップでその場を離れた次の瞬間!!

 

上から降って来たラゼンガンの拳が、先程までグレンラガンが居た位置の床に命中!!

 

床に巨大な()()()()()が出来上がる!!

 

「…………」

 

ラゼンガンは、直ぐにサイドステップしたグレンラガンを追撃。

 

グレンラガンが繰り出そうとしていた拳を弾くと、膝蹴りをボディに喰らわす!!

 

「ガフッ!?」

 

内臓が口から飛び出すかと思える程の膝蹴りを喰らい、グレンラガンの身体が浮き上がる。

 

その浮き上がったグレンラガンを、ラゼンガンは回し蹴りで蹴り飛ばす!!

 

「ぐおあっ!?」

 

グレンラガンはまたも床の上をバウンドする様に転がる。

 

「チイッ! やるじゃ()えか………」

 

「…………」

 

強がりを言いながら立ち上がるグレンラガンに、ラゼンガンは無言で突進する。

 

「うらああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

左の手刀で右のミドルキックを如何にか防ぐと、右の拳を繰り出すグレンラガンだったが、ラゼンガンの左拳で相殺される。

 

両者はそのまま組み合いへと縺れ込む。

 

「天上 神谷………貴様は()()()()()()()()()()()?」

 

「ああん? んなの当たり前に決まってんだろうが!!」

 

不意に問い掛けて来たラゼンガンに、グレンラガンは当然の様にそう言い返す。

 

「愚かな………人間に“守る価値”なぞ有りはせん」

 

「んだとぉっ!? テメェに何が分かるってんだ!?」

 

「知る必要は無い。どうせ直ぐに死ぬのだからな」

 

と其処で、ラゼンガンは不意に組み合いを解いたかと思うと、またも回し蹴りでグレンラガンを蹴り飛ばした!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

だがグレンラガンは、今度は床板を剥がしながらも両足を踏ん張り、トビダマの噴射も使って押し留まる。

 

するとラゼンガンは、左腕をグレンラガンに向けて伸ばしたかと思うと、腕の穴から(ムチ)の様に(しな)るドリルを伸ばして来た!!

 

「! んなろぉっ!!」

 

グレンブーメランを使って弾くグレンラガン。

 

「…………」

 

しかしラゼンガンは、続け様に右腕から3本の撓るドリルを伸ばして来る!!

 

「ツアァッ!!」

 

グレンラガンは迫り来る3本の撓るドリルに対し、グレンブーメランを投擲!

 

2つに分離して高速回転するグレンブーメランが、3本の撓るドリルを斬り裂いてラゼンガンの両腕に命中すると、空中に磔にした。

 

「………フン」

 

「一気に決めてやるぜっ!! ギガァ! ドリルゥ! ブレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーイクッ!!」

 

そのラゼンガンに向かって、グレンラガンはギガドリルブレイクを繰り出す!!

 

ギガドリルが、ラゼンガンの腹に()り込んだ!!

 

………と思われた瞬間!!

 

ラゼンガンの腹の装甲が弾け、鋭い牙の様な歯の生え揃った口が露わになった!!

 

ギガドリルはその口の牙で受け止められ、ラゼンガン本体には届いていない。

 

そしてその次の瞬間!!

 

ギガドリルが、粉々に噛み砕かれてしまった!!

 

「!? 何だとっ!?」

 

流石のグレンラガンもコレには動揺する!!

 

「…………」

 

そして更に次の瞬間には、ラゼンガンは拘束していたグレンブーメランを力任せに破壊!

 

自由の身となる。

 

「お、俺の、ギガドリルが………」

 

「フフフフ」

 

動揺が隠せないグレンラガンに向かって、ラゼンガンは不敵な笑いを零すのだった。

 

「そんな!?」

 

「ギガドリルブレイクが………敗れた!?」

 

「何て奴だ………」

 

その様子は外のグレン団も目撃しており、メンバーにも動揺が走る。

 

「自慢のドリルも、このワシとラゼンガンには通用しなかった様だな………」

 

勝利を確信しているかの様に、ラゼンガンはグレンラガンに向かってそう言い放つ。

 

「! うるせぇっ! 無理を通して道理を蹴っ飛ばす! それが俺達………グレン団のやり方だあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

しかしグレンラガンはそう言い返し、ラゼンガン目掛けて突撃する!!

 

「愚かな………」

 

だが、ラゼンガンがそう言い放ったかと思うと、その姿がブレてグレンラガンの視界から消える。

 

「!? 消え………」

 

グレンラガンが言い切る前に、ラゼンガンはグレンラガンの懐に出現し、顎に強烈なアッパーカットを見舞った!!

 

「ゴハッ!?」

 

吐血し、空中に打ち上げられるグレンラガン。

 

その次の瞬間!!

 

ラゼンガンの右腕と右肩を中心に伸びたドリルが、グレンラガンの全身を貫き、そのまま壁に磔にした!!

 

「ゴボアッ!?」

 

グレンラガンは先程よりも更に盛大に吐血する。

 

ラゼンガンがドリルを引き抜くと、グレンラガンはそのまま床に落ちて倒れた。

 

倒れている床に、血溜りが広がって行く………

 

「神谷ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

「アニキが………手も足も出せないなんて………」

 

「強過ぎる………」

 

「無理よ………あんなのに勝てるワケ無いじゃない!!」

 

シャルが悲痛な叫びを挙げ、一夏・箒に動揺が走り、鈴は絶望が頭を過る。

 

無論その光景は、IS学園を始め、世界各地に放送されている。

 

「………見たか? 人間共? 貴様等の希望、グレンラガンもワシに掛かればこのザマだ」

 

と、不意にラゼンガンはカメラ目線になったかと思うと、グレン団や世界中の人類に向かってそう言い放つ。

 

「最早、貴様等に希望は無い。有るのは絶望の中で滅びを迎える事だけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球・日本のIS学園………

 

「くうっ!!」

 

絶望的な状況に、千冬が思わず呻き声を漏らす。

 

と、その瞬間!!

 

「織斑くん! 大変だ!!」

 

十蔵が慌てた様子で屋上に姿を見せる。

 

「!? 学園長!? 何事ですか!?」

 

「各地の残存自衛隊部隊に対し、ロージェノム軍が攻撃を再開した! 世界中でも、ロージェノム軍が一斉に攻勢に出ている!! この学園にも新たな軍勢が向かっているそうだ!!」

 

「!?」

 

「そ、そんな………」

 

十蔵の言葉に、千冬と真耶は絶望の表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面・ロージェノム軍の拠点『テッペリン』内部・ロージェノムの間………

 

「全ての希望を失った今、人類の消滅は決まったも同然よ………」

 

確信した様子でそう言い放つラゼンガン。

 

「何でだよ!? 何でお前は其処までして人類を滅ぼそうとする!?」

 

と其処で、グラパール・弾が、モニターのラゼンガンに向かってそう問い質す。

 

「知れた事………人類には()()()()()()()()()からだ」

 

「価値が無いだと!?」

 

「貴方! 一体何様の積りですの!?」

 

“然も当然”とそう返すラゼンガンに、ラウラとセシリアが反論する。

 

「貴様等人類こそ、“自分を何様だ”と思っておる?」

 

だが、ラゼンガンは逆にそう問い質して来た。

 

「如何言う事?」

 

「コレまで、人類は幾度と無く同じ種族で争い、殺し合って来た。人類の歴史は“破壊と闘争の歴史”だ」

 

楯無がそう問うと、ラゼンガンはそう語り始める。

 

「そんな事………!!」

 

「“無い”とは言わせんぞ? その良い例がISだ」

 

「!? ISが!?」

 

グラパール・蘭の反論を制してラゼンガンがそう言い放つと、ダンクーガが驚きを露わにする。

 

「そうだ。ISによって“力を得た”と()()()()()女共は、男共を蔑ろにした。結果、男と女の間には亀裂が生じて争いが生まれている。“男と女が揃わなければ種族として繁栄は出来ない”と言う()()()()()さえ忘れてな」

 

「「…………」」

 

簪とラウラは、黙ってラゼンガンの意見に耳を傾けていた。

 

「そんな人類が、宇宙進出なぞ果たしてみろ………争いはやがて全宇宙に広がるぞ。人類なぞ全宇宙の規模からみれば“癌細胞”以外の何物でも無い………“故に滅ぼす”のだ」

 

「或る意味“正論”ね………」

 

リーロンが、またもや他人事の様に呟く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

ラゼンガンの放言に、グレン団の一同は誰も反論が出来なかった。

 

しかし………

 

「ガタガタウルセェんだよっ! 禿親父!!」

 

そんな声が響き渡ったかと思うと、倒れていたグレンラガンが起き上がる!!

 

「! 神谷!!」

 

「アニキ!!」

 

「ほう? 未だくたばっておらんかったのか?」

 

歓声を挙げるシャルや一夏とは対照的に、ラゼンガンは冷めた目でグレンラガンを見遣る。

 

「小難しい事をグダグダ並べやがって………俺はテメェみたいに深く考えんのが苦手なんだよ! テメェは“親父の(かたき)でムカつく野郎”だ! 倒す理由なんざ、其れで十分だ!!」

 

グレンラガンは、ラゼンガンに向かってそう啖呵を切る。

 

全身に開けられた穴からは、止め処無く血が流れ出ていて足も震えているが、目の闘志だけは全く衰えていない。

 

「フン………流石は天上の息子………奴に輪を掛けての大馬鹿だわい」

 

「大馬鹿結構! 例え何が有ろうと俺は! テメェの魂のままに生きて行くだけよおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!」

 

見下しているラゼンガンに向かって、最後の力を振り絞ったスカルブレイクを繰り出すグレンラガン!!

 

ラゼンガンはそのスカルブレイクをアッサリと右手で受け止める………

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、其処でグレンラガンの螺旋力が急上昇!!

 

ドリルが肥大化し、ラゼンガンの右手を粉砕する。

 

「やったっ!!」

 

一夏が思わずガッツポーズをし、グレン団の面々も笑みを浮かべる。

 

しかし………

 

「………終わりだ」

 

ラゼンガンがそう呟いた瞬間!!

 

グレンラガンの身体を、ラゼンガンのドリルが貫いた!!

 

「!? ゴバァッ!?」

 

グレンラガンの口から、盛大に血が吐き出される。

 

そして、全身から力が抜けた様にガクリと脱力した。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

グレン団の一同に衝撃が走る。

 

「フン」

 

ラゼンガンは、そのグレンラガンをゴミの様に放り投げる。

 

放り投げられたグレンラガンは壊れた人形の様に床を転がって行き、そのまま俯せとなる。

 

「…………」

 

ピクリとも動かず、身体の下には血溜まりがどんどん出来て行く。

 

「今度こそ終わりだ、螺旋の男………」

 

そのグレンラガンの様子を見て、ラゼンガンはそう言い放つ。

 

次の瞬間には、破壊された右腕が赤い光と共に再生する。

 

「もう立ち上がる事も出来まい………だが、憂いは確実に()っておかねばならぬ………“死体も残さずに”な」

 

とラゼンガンはそう言い放つと、グレンラガンを完全に消滅させようと近付いて行く。

 

「! 神谷ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

「アニキイイイイイイィィィィィィィーーーーーーーーッ!!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」

 

その瞬間、グレン団のメンバーは後先考えずにテッペリンへと突っ込んで行った!!

 

どれだけの猛攻に遭おうと、只管テッペリンへと爆進するグレン団!!

 

だが、無情にもラゼンガンは倒れているグレンラガンの元へと辿り着く。

 

「あの世で精々父親と仲良くするが良い………」

 

そして、右手に赤いエネルギー球を出現させ、グレンラガンに放とうとする。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

グレン団メンバーの顔が、絶望に歪む。

 

だが、次の瞬間!!

 

ラゼンガンの身体を、刃が貫いた!!

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」

 

グレン団メンバーの顔が、今度は驚愕に染まる。

 

「………何の真似だ? ヴィラル?」

 

“身体を刃で貫かれている”と言うのに、ラゼンガンはまるで動じず、刃を突き刺した相手………

 

ヴィラルのエンキドゥドゥに向かってそう問う。

 

「…………」

 

そう………

 

ラゼンガンを貫いた刃を放ったのは………

 

他ならぬ、ヴィラルのエンキドゥドゥだった。

 

「………螺旋王様………私はコレまで、貴方の野望実現に為に尽くして来ました………我々獣人は()()()()()()()存在………この命は螺旋王様の為に有ります………しかし!!」

 

其処でエンキドゥドゥはラゼンガンを見据える。

 

「この男は! “この男は()()()()葬りたい”のです!! 私の“戦士としての誇り”が! そう叫ぶのです!!」

 

そう、心の底から訴え掛けるエンキドゥドゥ。

 

「戦士の誇りか………」

 

「そうです………」

 

「そうか………“()()()()()()()()()()()()()()

 

と次の瞬間!!

 

ラゼンガンの尻尾が撓り、エンキドゥドゥを弾き飛ばした!!

 

「!? ぬぅあっ!?」

 

1撃で装甲が粗全損し、エンキドゥドゥは壁に叩き付けられたかと思うと、装甲の隙間からヴィラルの姿が露出する。

 

「ぐうう………」

 

「貴様も愚かだな、ヴィラル。人間に感化され、“下らぬ感情”を持つ様になるとはな………」

 

「………貴方にしてみれば下らぬでしょうが………ですが! コレまで“全て貴方から与えられて来た”私が()()()()()()()()()()です!!」

 

呻き声を漏らしたヴィラルにラゼンガンはそう言い放つが、ヴィラルはそう反論して再び立ち上がる。

 

「貴様は如何やら()()()に成り下がった様だな………ヴィラルゥッ!!」

 

ラゼンガンはそう言い放ったかと思うと、半壊しているエンキドゥドゥに襲い掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

テッペリンの外・月面の宇宙空間で戦っている一夏達は………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

呆然とした様子で、モニターの映像の中で倒れたまま血溜まりを広げているグレンラガンを見遣っていた。

 

「チャンスだ! グレン団のメンバーは絶望している!!」

 

「グレンラガンが居なければ所詮は烏合の衆よ!! 一気に片付けてくれるわぁっ!!」

 

とその様子を見た宇宙用ガンメン部隊は、グレンラガンがやられて絶望していると判断し、一斉に襲い掛かる。

 

「…………」

 

「先ずはシャルロット・デュノア! 貴様からだぁっ!!」

 

1番絶望しているだろうと思われたシャルに、宇宙用ングーが襲い掛かる。

 

………が、次の瞬間!!

 

「ダブルハーケンッ!!」

 

「!? ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

シャルが振るったダブルハーケンにより、一刀両断された!!

 

「!? 何っ!?」

 

その様に宇宙用ガンメン部隊が驚いていると………

 

「飛羽返しっ!!」

 

一夏がそう叫び、流れる様な太刀筋で次々に宇宙用ガンメン部隊を斬り捨てる!!

 

「「「「「「「「「「螺旋王様! バンザーイッ!!」」」」」」」」」」

 

宇宙に爆炎の花々が咲き誇る。

 

「ゲッタアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ! ビイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーームッ!!」

 

「サンダーブレークッ!!」

 

箒のゲッタービームと、ラウラのサンダーブレークが敵軍を貫き………

 

「…………」

 

「其処かぁっ!!」

 

簪の正確無比な射撃が宇宙用ガンメンを次々に撃ち抜き、フランのパイルバンカーも敵を撃破する。

 

「邪魔ですっ!!」

 

「鬱陶しいわよっ!!」

 

セシリアがハイパービームソードで、鈴が龍王破山剣で敵を斬り裂く。

 

「フッ飛べぇっ!!」

 

「「ハアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」」

 

楯無がミストルテインの槍を投擲し、グラパール・弾とグラパール・蘭が背中合わせとなり、ハンドライフルを乱射する!!

 

「何だコイツ等!?」

 

「絶望していないのか!?」

 

てっきり、“グレンラガンがやられた事で戦意を失っている”と思っていた宇宙ガンメン部隊は、猛攻勢に出たグレン団の様子に動揺する。

 

「当たり前だぁっ! 誰が絶望なんかするかぁっ!!」

 

「神谷は未だ負けて無い! 必ず立ち上がる!!」

 

そんな宇宙ガンメン部隊に向かって、一夏とシャルがそう叫ぶ!

 

「そうだよ! 神谷は何時だってピンチを蹴っ飛ばして乗り越えて来た!! 今回だって、きっと!!」

 

と、ダンクーガがそう言い放った瞬間!!

 

「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

数機の宇宙用ガンメン達が決死の覚悟で取り付き、動きを封じた!!

 

「!?」

 

「裏切り者ぉっ! 死ねええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」

 

その瞬間、周りに居た宇宙用ガンメン達が動きを止めている宇宙用ガンメン達ごとダンクーガを葬ろうとする。

 

「くうっ!!」

 

纏わり付いている宇宙用ガンメン達を振り解こうとするダンクーガだが、必死の思いでしがみ付いている宇宙用ガンメン達は剥がれない。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

宇宙用ガンメン達の攻撃が繰り出される………

 

と思われた瞬間!!

 

ダンクーガに纏わり付いている宇宙用ガンメン達に、音波の様な物が命中する!

 

「!? あひゃひゃひゃひゃひゃっ!?」

 

「うひょひょひょひょひょひょっ!!」

 

途端に、ダンクーガに纏まり付いている宇宙用ガンメン達は狂った様な笑い声を挙げ、ダンクーガから離れてしまう。

 

「! 断空砲! フォーメーションッ!!」

 

「!? ギャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

その瞬間、ダンクーガは断空砲フォーメーション体勢を取り、襲い掛かって来ていた宇宙用ガンメン達を蒸発させる!!

 

「今のは………まさか!?」

 

先程の音波攻撃に既視感を覚えるダンクーガ。

 

すると………

 

「大丈夫か、ティトリー?」

 

ザウレッグとメガヘッズが合体した姿のガンメン、『ザガレッズ』を纏ったジギタリスが姿を現した。

 

「! オッサン! 目が覚めたの!?」

 

「ああ、漸くな………心配を掛けたな」

 

「オッサ~ンッ!!」

 

思わず涙声になってザガレッズに抱き着くつくダンクーガ。

 

「“何か”が飛び出して行ったかと思えば………」

 

「あ~、あの獣人さんのガンメンだ~。如何して~?」

 

インフィニット・ノアでその光景を見ていた虚とのほほんがそう声を挙げる。

 

「“こんなこともあろうか”と思って、密かに整備しておいたのよ」

 

すると、艦長席のリーロンがウインクしながらそう言い放つ。

 

「流石………」

 

そんなリーロンの姿に、思わず苦笑いを浮かべる虚だった。

 

「天上 神谷! 何をしている!? その程度でくたばる貴様かぁっ!? 立てぇ! 立って見せろ!!」

 

そして、ザガレッズのジギタリスは、映像のグレンラガンに………

 

“嘗ての宿敵”に向かってそう呼び掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

遂に激突したグレンラガンとラゼンガン。
その圧倒的な力の前に、グレンラガンは手も足も出ない。
やがて力尽きたかに思われたが………
その勝利を信じてやまない者達が居る………
立て!
立ち上がるのだ! グレンラガン!!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第125話『喧嘩の最後は気合と根性よぉっ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第125話『喧嘩の最後は気合と根性よぉっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面・ロージェノム軍の拠点『テッペリン』内部・ロージェノムの間………

 

(………何だ?………身体が動か()えぞ?………其れに何だか気も遠くなって行く様な………)

 

床に俯せに倒れ、血溜まりを作っているグレンラガンの中でそう思考している神谷。

 

(ああ、そうか………さっき、あの禿親父(ロージェノム)にやられたんだっけな………けど、此れぐらいで………)

 

立ち上がろうとするグレンラガンだったが、その意思に反して、身体はピクリとも動かない。

 

(アレ?………オイ、如何した?………何もたついてやがる、天上 神谷………未だ一夏達が戦ってんだぞ………)

 

そう思って再び身体を動かそうとするが、やはりピクリとも動かない。

 

更に、段々と意識が闇へと落ちて行く感覚がする。

 

(オイオイ、嘘だろ?………こんなところで終わりかよ………呆気無さ過ぎるだろ………)

 

半ば“諦めの気持ち”が、神谷に過る。

 

最早コレまでなのか………?

 

と、その時………

 

(………みや………かみ………か………や………)

 

(? 何だ?)

 

もう殆ど“聞こえていない筈”の神谷の耳に、『何か』が聞こえて来た。

 

(………神谷………神谷………神谷………)

 

(誰かが………俺を………呼んでいる………?)

 

其れが“()()が自分を呼んでいる声”だと気付くと、闇に落ち掛けていた神谷の意識が急激に覚醒し始める。

 

「神谷! 立ち上がってぇーっ!!」

 

「アニキ! 頑張れぇーっ!!」

 

やがて声がハッキリと聞こえ、其れがシャルと一夏のものだと(わか)る。

 

(シャル………一夏………)

 

「立て! 神谷ぁっ!!」

 

「アンタが()()()()でくたばる(タマ)じゃ無い事は知ってんのよ!!」

 

続いて、箒と鈴の声も聞こえて来る。

 

(箒………鈴………)

 

「神谷さん! 立ちなさい!!」

 

「貴っ様ぁ! その程度の男だったのか!?」

 

セシリアとラウラの叫びが木霊する。

 

(セシリア………ラウラ………)

 

「神谷くん! 貴方がそこで寝たまんまなら、私がロージェノムを倒しちゃうよ!?」

 

「………立ち上がって………」

 

楯無と簪の声が響く。

 

(楯無………簪………)

 

「アニキ! 見せてくれよ!! アニキの底力をよぉっ!!」

 

「そうです! こんなとこで終わり、なんて許しませんよ!!」

 

グラパール・弾とグラパール・蘭が、撃ち終えた武装をパージしながらそう叫ぶ。

 

(弾………蘭………)

 

「立ち上がって! 神谷ぁっ!!」

 

「如何した天上 神谷!? 貴様の力はその程度のモノだったのか!?」

 

宇宙用ガンメン達の攻撃を躱して反撃を繰り出しながら、ファイナルダンクーガのティトリーとザガレッズのジギタリスも叫ぶ。

 

(ティトリー………ジギタリス………)

 

「かみやん!!」

 

「天上くん!!」

 

「立ちなさいっ! 天上博士の息子でしょっ!?」

 

黒煙が上がるインフィニット・ノアの艦橋で、のほほん・虚・リーロンがそう叫ぶ。

 

(のほほん………のほほんの姉貴………リーロン………)

 

そしてその瞬間………

 

今まで力が入ら無かった身体が、急に軽くなり始める………

 

(………そうだ………天上 神谷………オメェは()()()()()()()()()()()()!!)

 

そして右手が握られ、拳となる。

 

(俺は………俺は天上 神谷!! グレン団の鬼リーダーよ!!)

 

その瞬間!!

 

神谷の身体に螺旋力が溢れた!!

 

 

 

 

 

一方、ロージェノムのラゼンガンへと立ち向かったヴィラルのエンキドゥドゥは………

 

「ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

4本有った腕はエンキソードを握っていた2本だけとなり、全身の装甲はズタボロ。

 

露出しているヴィラルの姿は血塗れとなっている。

 

「くううっ!!」

 

「如何やら其処までの様だな………つくづく愚かな奴よのぉ、ヴィラル………ワシに逆らわなければ長生き出来たものを………」

 

「………どんな生き物であろうと、何れは死にます………ならば、その生は、“どれだけ生きたか?”ではなく! “何を成したか?”で価値が決まる!! 其れが私の考えです!!」

 

そう言い放つと、エンキソードを杖代わりに立ち上がろうとするエンキドゥドゥ。

 

しかし、罅割れていたエンキソードは砕け散り、支えを失ったエンキドゥドゥは無様に床に倒れる。

 

「ぐうっ!!」

 

()()の時間だ………」

 

そんなエンキドゥドゥの姿を見下ろしながら、右手にエネルギーを溜めるラゼンガン。

 

と、その次の瞬間!!

 

「俺を誰だと思ってやがるキィィィィィィィーーーーーーーーックッ!!」

 

そう言う叫びと共に、ラゼンガンの頭部にグレンラガンの飛び蹴りが叩き込まれた!!

 

「!? 何っ!?」

 

「! グレンラガン!!」

 

突如乱入してきたグレンラガンに、ラゼンガンとエンキドゥドゥは驚きの声を挙げる。

 

頭に飛び蹴りを喰らったラゼンガンは、床を削りながら弾き飛ばされるも、立った状態を維持する。

 

そして、グレンラガンは倒れているボロボロのエンキドゥドゥの前に降り立つ。

 

そのボディは穴だらけのままで血が滴ってはいるが、流血は止まっている。

 

「やってくれたじゃねえか、禿親父! だが! こっからは俺のターンだ!!」

 

グレンラガンはラゼンガンをビッと指差しそう言い放つ。

 

「天上………神谷………」

 

倒れたままのエンキドゥドゥが、視線だけをグレンラガンに向ける。

 

「まさかお前に“助けられる”とは思ってもいなかったぜ、ヴィラル」

 

そう言って、倒れているエンキドゥドゥに不敵な笑みを向けるグレンラガン。

 

「勘違いするな………()()()()()()ワケでは無い………ただ………“貴様を倒すのは俺でなければならん”からだ」

 

そんなグレンラガンに向かって、何処ぞのサイヤ人の王子の様な台詞を返すエンキドゥドゥ。

 

「ヘッ! 其れでこそオメェ(ヴィラル)だぜ!」

 

「天上 神谷………よもや立ち上がるとはな………少々驚いたぞ」

 

と其処で、口ではそんな事を言いつつ欠片も動揺していないラゼンガンがそう言って来る。

 

「あの程度で()られる天上 神谷様じゃ()えぜ!!」

 

「しかし、“万全の状態”で敵わなかったワシに、その状態で勝てると思っているのか?」

 

ラゼンガンは、グレンラガンを見下しながらそう言い放つ。

 

確かに、グレンラガンは既にスクラップ寸前のボロボロ。

 

流血は止まっているとは言え、神谷の傷も相当深い。

 

真面に考えれば、先ずグレンラガンに勝ち目は無い………

 

しかし!!

 

「ガタガタウルセェんだよ!! 俺は負け()ぇ!! ()()()負け()ぇんだよぉっ!!」

 

グレンラガンはそんなラゼンガンの態度を一蹴したかと思うと、ラゼンガン目掛けて突っ込んで行く!!

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

そして右の拳を繰り出す。

 

「愚かな………」

 

ラゼンガンは悠然と佇んだまま、拡げた右手だけでグレンラガンのパンチを受け止めようとする。

 

だが!!

 

「でやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンの拳は、そのラゼンガンの手を弾き飛ばし、その横っ面を殴り付けた!!

 

「!? 何っ!?」

 

その瞬間、ラゼンガンは初めて露骨に驚いた様子を見せる!!

 

「未だ未だぁっ!!」

 

更に体勢の崩れたラゼンガンの腹に、グレンラガンは膝蹴りを放つ!!

 

「グオッ!?」

 

胃液が逆流しそうになったが、何とか耐えるラゼンガン。

 

「おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そんなラゼンガンを、グレンラガンはコルバタで投げ飛ばす。

 

「ぐおっ!?」

 

「ぬああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

更に立ち上がったところへ、顎へのアッパーカットを見舞う!

 

「ガッ!?」

 

「うりゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

そして、浮き上がったラゼンガンよりも更に高く飛び上がったかと思うと、両手を組んでのハンマーパンチを見舞う。

 

「ぐほっ!?」

 

「でやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」

 

またラゼンガンが起き上がったところで、グレンラガンは右拳のストレートを横っ面に叩き込む!

 

「馬鹿な!? 先程まで死に掛けていたこの男の、何処にこんな力が!?」

 

グレンラガンの怒涛の攻撃の前に、ラゼンガンは仰天して思わず防御を固める。

 

「力なんざ残っちゃいねぇ! 喧嘩の最後は“気合”と“根性”よぉっ!!」

 

そんなラゼンガンに向かってそう言い放つと、グレンラガンはヤクザキックを決める!!

 

「ぬおわっ!?………ええいっ!!」

 

床を転がるラゼンガンだったが、直ぐに起き上がって体勢を立て直す。

 

「此処へ来て更に螺旋力を上げるか………面白い! ならばワシは! 全力で貴様を潰そうおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

とラゼンガンがそう吠えたかと思うと、その身体から赤い光が溢れ出し、鞭の様なドリルが全身から飛び出して来て、ラゼンガンを包み込む!!

 

そして次の瞬間!!

 

ラゼンガンは空中へと飛び上がり、下半身を巨大なドリルへと変えた!!

 

「潰れろおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ! 天上 神谷あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

そしてそのまま、グレンラガンを押し潰しに掛かる。

 

「! ギガァ! ドリルゥ! ブレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーイクッ!!」

 

其れに対抗するかの様に、グレンラガンもギガドリルブレイクを繰り出し、ラゼンガンに対峙する!!

 

しかし、ラゼンガンのドリルの大きさは、ギガドリルを遥かに上回っていた。

 

両者のドリルがぶつかり合う!!

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」

 

「ぬあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」

 

両者全ての力を絞り出すかの様に雄叫びを挙げ、己のドリルを火花を散らせてぶつかり合わせる。

 

と、その次の瞬間!!

 

グレンラガンのギガドリルに、ヒビが入り始める!!

 

「ぐおおおっ!?」

 

ギガドリルに入ったヒビは更に広がって行き、腕からグレンラガンの全身を罅割れさせて行く。

 

「! 神谷ぁっ!!」

 

「アニキィッ!!」

 

「クウッ! グレンラガンの螺旋力が通じないなんて!!」

 

シャル・一夏・リーロンから悲鳴染みた声が挙がる。

 

「フンッ! 如何に貴様の螺旋力が強かろうと、ワシの『反螺旋力』には敵わん!!」

 

其れを聞いたラゼンガンが、そう言い放つ。

 

「!? 反螺旋力!?」

 

「! そうか! そう言う事ね!!」

 

突如ラゼンガンから飛び出した『反螺旋力』と言う言葉に驚く一夏と、1人納得した様子を見せるリーロン。

 

「リーロンさん!?」

 

「『反螺旋力』って何なの!?」

 

そんなリーロンに向かって、虚とのほほんがそう尋ねる。

 

「良い!? 世の中のあらゆる物質やエネルギー、粒子や電子には“相反する物”が存在するわ!! その相反する物同士がぶつかり合った場合には両方が消えてしまう………つまり“対消滅”が起こるのよ!!」

 

「!? 其れじゃあ! 『反螺旋力』って言うのは!?」

 

「そう………神谷の螺旋力をプラスとするなら………ロージェノムが使っていると言う反螺旋力はマイナス! 全く()()()()()って事よ!!」

 

「其れじゃあ、アニキに勝ち目は………?」

 

グラパール・弾が思わずそんな声を挙げる。

 

「ビクビクしてんじゃ()えっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

しかし其処で、他ならぬグレンラガン………神谷本人から声が挙がる。

 

「反螺旋力だが何だか知ら()えが! そんなモン! 俺の気合で押し返してやらぁっ!!」

 

そう叫んだかと思うと、ギガドリルの回転スピードが僅かに上がる。

 

「無駄だ! 今の貴様に“ワシを超える力”を出す事なぞ出来ん! ワシの勝ちだ!!」

 

「やってみなけりゃ分かんねえだろうがあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンの言葉を一蹴するラゼンガンだったが、グレンラガンは残る全ての力を出し切る様に雄叫びを挙げる。

 

すると、見る見る内にギガドリルの回転力が上がって行く。

 

そして遂に!!

 

ラゼンガンのドリルにヒビが入り始めた!!

 

「何っ!?」

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンが更に雄叫びを挙げると、ラゼンガンのドリルのヒビは尚も広がって行く。

 

「馬鹿な!? 此処へ来て更に螺旋力を上げるだと!? 天上 神谷! 貴様本当に人間か!?」

 

「テメェに言われたか()えぜぇっ!!」

 

ラゼンガンの驚愕の台詞に、グレンラガンがそう返した瞬間!!

 

ラゼンガンのドリルは、粉々に砕かれた!!

 

「ぬううっ!?」

 

「終わりだぁっ!! ロージェノムウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーッ!!」

 

人型へ戻ったラゼンガン目掛けて、ギガドリルを突き出して突っ込むグレンラガン。

 

小童(こわっぱ)がああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

しかし、ラゼンガンも咄嗟に右腕にギガドリルを形成し、グレンラガン目掛けて突っ込む!!

 

両者がぶつかり合った瞬間!!

 

凄まじい爆発が起こり、グレンラガンとラゼンガンの姿は爆煙に包まれた!!

 

「神谷ぁっ!!」

 

「アニキィッ!!」

 

「螺旋王様ぁっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その様に、グレン団とロージェノム軍双方の動きが止まる。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

IS学園を初めとした、世界中の人々も思わず息を呑む。

 

そしてその次の瞬間!!

 

爆煙の中からグレンラガンとラゼンガンが飛び出し、互いに背中を向ける様にして着地する。

 

「「…………」」

 

着地した姿勢のまま固まる両者。

 

そのまま1分、2分と時間だけが過ぎて行く………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

其れに呼応するかの様に、グレン団とロージェノム軍も静止し続ける。

 

「………ど、如何なったんだ?」

 

やがて、一夏が絞り出す様にそう呟いたかと思うと………

 

「! グハッ!?」

 

グレンラガンが夥しい量の吐血と共に膝を突いた。

 

「! 神谷あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「アニキッ!!」

 

「駄目か!?」

 

シャル・一夏・箒が、思わずそう声を挙げる。

 

「フフフフフフ………」

 

ラゼンガンはそんなシャル達の言葉を聞きながら、グレンラガンの方を振り返る。

 

だが、その瞬間!!

 

「!? ぬっ!? ぐうっ!?」

 

ラゼンガンは眩暈を感じて、顔を押さえて蹌踉たかと思うと………

 

「ぐ、お、があああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?」

 

絶叫とも取れる叫び声を挙げ、苦しむ様に身体を大きく仰け反らせる。

 

そして次の瞬間!!

 

ラゼンガンの身体が膨れ上がり、其処に大穴が開いた!!

 

「か、は………」

 

グレンラガン以上の吐血をして、そのままバタリと俯せに倒れるラゼンガン。

 

「! 螺旋王様!!」

 

「そんな!?」

 

「螺旋王様が………」

 

「負けた………?」

 

その光景を見たロージェノム軍が、次々に戦意を喪失して行く。

 

「やったあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

「勝った! アニキが勝ったぁっ!!」

 

「やったぁっ!!」

 

「遂に! 遂にやったのね!!」

 

反対に、グレン団の面々はお祭り騒ぎの如く舞い上がる。

 

「やった~~~~~っ!!」

 

「終わったんですね………コレで」

 

「ふう~~~~~」

 

インフィニット・ノアの艦橋でも、のほほんと虚が歓声を挙げ、リーロンが安堵した様に脱力し、艦長席の椅子に深く腰掛ける。

 

「へへっ、大した奴じゃ無かったぜ………」

 

そんな中、グレンラガンはそんな軽口を叩きながら、ボロボロの身体を無理矢理立ち上がらせる。

 

そして、粗全壊状態で倒れているエンキドゥドゥの元へと近付く。

 

「あんがとよ、ヴィラル………オメェのお蔭で助かったぜ」

 

そう言って倒れていたエンキドゥドゥを助け起こすグレンラガン。

 

「フン………勘違いをするなと言った筈だ、天上 神谷………貴様を倒すのは………この俺だ」

 

減らず口を叩きながらも身体は限界なのか、エンキドゥドゥは大人しく助け起こされる。

 

「へっ、減らず口の多い野郎だぜ」

 

「其れはお互い様だ………」

 

グレンラガンとエンキドゥドゥは、互いに不敵に笑い合いながらそう言葉を交わすのだった。

 

と、その時!!

 

「!? 待って、神谷!!」

 

突然、リーロンが慌てた様子で通信回線に声を響かせる!!

 

「!? うわっ!?」

 

「ど、如何したんですか!? リーロンさん!?」

 

突然の大声に、一夏とシャルが驚きの声を挙げる。

 

「………ロージェノムの反螺旋力が()()()()()………いえ。其れ(どころ)か、更に()()()()()わ!!」

 

艦長席のパネルを見ながら、リーロンがそう叫ぶ。

 

「!? 何ぃっ!?」

 

と、グレンラガンが驚きの声を挙げた瞬間!!

 

倒れていたラゼンガンの身体が、赤い炎の様なオーラに包まれた!!

 

「!? うおっ!?」

 

「くうっ!?」

 

そのオーラが風圧となって、グレンラガンとエンキドゥドゥに襲い掛かる!!

 

そして次の瞬間、ロージェノムの間はそのオーラに覆われた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テッペリンの外・月面の宇宙空間………

 

突如、ロージェノムの間の様子を映していたモニターが消えたかと思うと、今度はテッペリンが赤い炎の様なオーラに覆われる!!

 

「な、何だっ!?」

 

「何が起こっている!?」 

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

突然の事態に、グレン団一同が戸惑う。

 

「コレは!?」

 

「一体如何したと言うのだ!?」

 

其れはロージェノム軍も同様で、誰もが動く事が出来ずに居る。

 

と、その時!!

 

突然、テッペリンを覆っていたそのオーラが、まるで針鼠の針の様に次々と伸びて来た!!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

咄嗟の事で、身構えるしか無いグレン団メンバー。

 

「「「「「「「「「「!? ギャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

しかし、棘はグレン団メンバーには当たらず、次々にロージェノム軍の宇宙用ガンメン達や宇宙用ダイガン達を貫いて行く!!

 

そして、貫かれたロージェノム軍の宇宙用ガンメン達や宇宙用ダイガン達は、赤い炎の様なオーラとなり、棘を介してテッペリンへと吸収されて行く。

 

「!? コレは!?」

 

「まさか!?」

 

「獣人やガンメンを………」

 

「吸収している!?」

 

セシリア・ラウラ・楯無、グラパール・蘭から驚きの声が挙がった瞬間………

 

オーラの棘は宇宙空間だけで無く、地球上へも伸びて行く!!

 

「「「「「「「「「「!? ギャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

そして、世界各国に居たガンメンや獣人達をも吸収して行く。

 

「!? 未だ地球に居る獣人やガンメン達まで!?」

 

「一体何が起こるの!?」

 

「ぬうっ!?」

 

鈴・ダンクーガ・ザガレッズから声が挙がった瞬間………

 

アレ程居た獣人やガンメン達は………

 

1体残らず、オーラの塊と化したテッペリンへと吸収された。

 

そしてその次の瞬間!!

 

そのオーラが巨大な………

 

否、巨大過ぎる程の()()(かたど)り始める!!

 

「!? アレは!?」

 

「そんなっ!?」

 

「嘘………だろ……?」

 

「…………」

 

その姿を見たグレン団メンバーが言葉を失う。

 

何故ならば、そのオーラが象った人型は………

 

ラゼンガンに酷似していた!!

 

「『ハハハハハハハハハッ! コレぞワシの最終兵器!! 【アンチ・ラゼンガン】よぉっ!!』」

 

その月よりも巨大となった超々弩級マシン………『アンチ・ラゼンガン』から、ロージェノムと其れに被って“()()もう1つの声”が、宇宙空間に響き渡る………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

皆の声援を受け、再び立ち上がるグレンラガン。
最後は気合と根性の勝負。
そして遂に………
ラゼンガンを打ち破った!!

………かに思えたが、
そこでロージェノムの本当の切り札………
『アンチ・ラゼンガン』が出現する。
果たしてこの超超ド級の敵と如何戦うのか?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第126話『なら無理も道理も蹴っ飛ばせ!!』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第126話『なら無理も道理も蹴っ飛ばせ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激戦の末に………

 

遂に、ロージェノムの操るラゼンガンを撃破したかに思えたグレンラガン。

 

だが、しかし!!

 

ラゼンガンは、自らを反螺旋エネルギー化してテッペリンと融合!!

 

更には、配下の全てのガンメンと獣人達をも取り込み………

 

月よりも遥かに巨大なガンメン………

 

『アンチ・ラゼンガン』へと変貌を遂げたのだった!!

 

 

 

 

 

月軌道上の宇宙空間………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一夏達、グレン団の面々は言葉を失っている。

 

無理も無い………

 

遂に長かった戦いが終わった、と思った直後に“絶望的な光景”が広がったのだ。

 

正気を保っているだけでも奇跡と言えよう………

 

何せ、今彼等の目の前に立ちはだかっている敵………

 

赤色のエネルギーが溢れる漆黒で生物的な体の巨大なガンメン………

 

『アンチ・ラゼンガン』は、地球の衛星である“月よりも巨大な体躯”を誇っているのだ。

 

アンチ・ラゼンガンから見れば、一夏達(など)ノミ………

 

いや。下手をすれば、微生物レベルでしか無い。

 

「『フッフッフッフッフッフッ』」

 

そんな一夏達の心境を知ってか知らずか、アンチ・ラゼンガンからロージェノムともう1つ、無機質な声が重なった嗤い声が響いて来る。

 

そしてその次の瞬間、アンチ・ラゼンガンが右腕を振り上げる。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その動作にハッとし、漸く我に返る一夏達。

 

「逃げろおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」

 

一夏の叫びで、全員が一斉にアンチ・ラゼンガンから距離を取ろうとする。

 

しかしアンチ・ラゼンガンは、その数万㎞は有る腕を月面へと叩き付けた!

 

その瞬間!!

 

月面が豆腐の様に砕け、彼方此方に散った破片が真空と無重力の宇宙空間を散弾の様に飛び、逃げていた一夏達に襲い掛かる!!

 

「!? うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

月の一部だった巨大な岩塊が、一夏達へ次々と命中。

 

絶対防御でも防ぎ切れぬダメージが一夏達の身体を襲い、容赦無くシールドエネルギーを削って行く。

 

「回避運動!」

 

「駄目です! 間に合いません!………!? キャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!?」

 

「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

岩塊は、インフィニット・ノアへも襲い掛かる。

 

強固な筈のインフィニット・ノアの装甲に穴を開け、艦橋ではパネルの彼方此方から火花が飛び、大地震の様な振動が襲う!

 

やがて岩塊の飛散が収まったかと思うと、其処には………

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一瞬にしてズタボロにされたグレン団が、細かい岩塊と共に宇宙空間に力無くプカプカと浮いていた………

 

ISやグラパール達は、装甲が原型を留めぬ程に破損しており、シールドエネルギーが辛うじて残っているのが奇跡的である。

 

インフィニット・ノアも艦体の彼方此方に穴が開き、損傷個所から濛々と黒煙が上がっている。

 

「『フハハハハハハハッ! あのグレン団がゴミの様だ!! コレがアンチ・ラゼンガンの力よっ!!』」

 

アンチ・ラゼンガンの高笑いが宇宙空間に響き渡る。

 

圧倒的であった………

 

コレまで幾度と無く死闘を繰り広げ、強敵を撃破して来たグレン団。

 

だが、今目の前に居る敵は、最早“レベルが違う”と言う問題では無い。

 

()()()()()のである。

 

「う、ぐ………」

 

「クッソォ………」

 

その敵を前に、ロージェノムの大軍団を相手にしても心折れなかったグレン団の面々にも、遂に絶望の色が浮かぶ。

 

“駄目だ………勝てやしない”と………

 

………だが、その時!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

気合の雄叫びと共に、アンチ・ラゼンガンの身体を突き破って“何か”が飛び出して来た。

 

「『ん?』」

 

小さ過ぎて意にも介していないアンチ・ラゼンガンだったが、その飛び出して来た存在には気付く。

 

其れは、脇にボロボロのエンキドゥドゥを抱えたグレンラガンの姿だった。

 

「! グレンラガン!!」

 

「! 神谷ぁっ!!」

 

「アニキィッ!!」

 

グレンラガンは、声を挙げるシャルや一夏の許へエンキドゥドゥを抱えたまま飛んで来る。

 

「お前等! 大丈夫か!?」

 

「コレが無事に見えるの!? この馬鹿!」

 

問い掛けるグレンラガンに、鈴が宇宙空間にプカプカ浮きながらそう返す。

 

「へっ! そんだけ返せりゃ上等だぜ!!」

 

「って言うか、アニキ! ソイツは!?」

 

「…………」

 

と其処で、グラパール・弾がグレンラガンが連れて来たエンキドゥドゥを指摘する。

 

すると………

 

「ノリで連れて来た!!」

 

「「「「「「「「「「ノリで!?」」」」」」」」」」

 

グレンラガンがそんな返事を返すと、一夏達とエンキドゥドゥは思わずそうツッコミを入れる。

 

「『天上 神谷。生きていたのか? 親父譲りでしぶとい奴よ………だが、生き永らえた処で苦しみが増えるだけだぞ?』」

 

と其処へ、アンチ・ラゼンガンのそんな嘲り声が響き渡る。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

グレン団の面々は、その言葉に反論出来無い。

 

今の彼等には、言い返すだけの気力も残ってはいないのだ。

 

「るせぇっ! デカけりゃ勝てると思うなよ!!」

 

しかし、グレンラガンだけはアンチ・ラゼンガンに向かってそう叫び返す。

 

「む、無理だよ、神谷! あんなに大きいんじゃ………」

 

シャルがそんな弱音を吐くが………

 

「忘れたのか!? ()()()()()()()()()()()()()()! 其れが“グレン団のやり方”だぁっ!!」

 

グレンラガンは、“グレン団の魂の在り方”を再確認する様に叫ぶ。

 

「ア、アニキ………今度ばっかりは無理を蹴飛ばしても敵う気がしないよ………」

 

だが、今度は一夏がそう弱音を吐く。

 

「なら!()()()()()()蹴っ飛ばせっ!!」

 

「「「「「「「「「「ええぇぇぇ~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

ココで炸裂した神谷節に、一同は思わず間抜けな声を挙げる。

 

「『フアハッハッハッハッハッハッ! 天上 神谷!! 貴様はつくづく愚かだなっ!!』」

 

アンチ・ラゼンガンも、グレンラガンを嘲笑う。

 

「うるせぇっつってんだよぉっ!! 俺達は地球を守る!! ()()なぁっ!!」

 

グレンラガンは威勢良く啖呵を切る。

 

「『面白い』」

 

すると、アンチ・ラゼンガンの腕が再び動き、その数万平方kmは有ろうかと言う掌が、3分の1程が粉々になっている月を鷲摑みにする。

 

そして、そのまま握り締めると又もや月が欠け、数万トンの岩塊がアンチ・ラゼンガンの掌中に納まる。

 

「!? また月が!?」

 

「何をする積りですの!?」

 

「!? まさかっ!?」

 

その光景を見ていた箒とセシリアが戦慄し、ラウラの脳裏に最悪の想像が過る。

 

「『ならば、守ってみろ! グレンラガンッ!!』」

 

と、アンチ・ラゼンガンはそう言い放つと………

 

その岩塊を、地球目掛けて投げ付けた!!

 

「!! アイツ! 何て事を!?」

 

「マズイわよ! あんな巨大な岩塊が地球に落ちたら………!!」

 

グラパール・弾が叫び、リーロンが慌てた様子で彼方此方から火花が飛んでいるインフィニット・ノア艦橋の艦長席で計算を始める。

 

「如何なるんですか!?」

 

「………落下による大地震で地上は壊滅………更に、舞い上がった粉塵が空を覆い尽くし、地球は雪と氷だけの地獄の星と化すわ………」

 

虚が尋ねた瞬間にシミュレーションが終わり、リーロンは珍しく青褪めた表情でそう言い放つ。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その言葉を聞いたグレン団の面々は、一様に戦慄を覚える。

 

「クソッ! やらせるかよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

すると、グレンラガンはエンキドゥドゥをその場に放り出し、最大(Max)スピードで地球へと迫る岩塊を追った!!

 

そして岩塊を追い越すと、そのままその前に立ちはだかる様に構える。

 

「!? アニキ!?」

 

「神谷! まさか!?」

 

「たかが石ころ1つ! 押し返してやるぜ!! うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!」

 

一夏とシャルが驚く中、グレンラガンは岩塊へと取り付き、そのままトビダマの噴射を最大にして押し返そうとする。

 

しかし、大きさに象と蟻程の差が有り、岩塊のスピードは全く落ちない………

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、グレンラガンは諦めずに岩塊を押し続ける。

 

「『フハハハハハハッ! 無駄な努力だっ!!』」

 

そんなグレンラガンの姿を、アンチ・ラゼンガンが嘲笑う。

 

「アニキ………」

 

「神谷………」

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一夏とシャルを中心に、必死に岩塊を押し戻そうとしているグレンラガンを見遣る。

 

“もう無理だ”と思った………

 

あんな巨大なアンチ・ラゼンガンに勝てるワケが無い………

 

もう良いじゃない………

 

自分達はココまで良く戦った………

 

全員が()()()そう思っていた………

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、グレンラガンは………神谷はこの状況に至っても、()()()()()()()

 

彼は、今だに“()()を信じて”いる。

 

なのに、自分達が諦めてしまって良いのか?

 

答えは………

 

断じて“否”である!!

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

ボロボロの身体に鞭を入れる様に気合の雄叫びを挙げると、グレン団の面々は螺旋力の光を発する。

 

その螺旋力がエネルギー代わりとなって、ISやグラパール、ダンクーガに流れ込んで再稼働させる。

 

そして、グレン団はグレンラガンの後を追い、岩塊へと向かった!!

 

グレンラガンと同じ様に次々に岩塊へと取り付き、押し返そうとし始める。

 

「! お前等!!」

 

「ゴメン、アニキ! 遅れた!!」

 

「けど、ココから活躍するからね!!」

 

一夏とシャルがグレンラガンに向かってそう叫び、グレン団の一同は全員一丸となって岩塊を押し返し始める。

 

しかし、其れでも………

 

岩塊の落下は止まらない………

 

「こんのぉっ!!」

 

「止まりなさい!!」

 

「コレだけの人数で支えても無理か!?」

 

鈴・セシリア・ラウラからそんな声が漏れる。

 

「何弱気なこと言ってるの!? しっかりしなさい!!」

 

と其処へ、通信回線からリーロンのそんな声が響いて来たかと思うと、インフィニット・ノアが艦首を岩塊に押し付ける様にして、岩塊押しに加わる。

 

「! リーロンさん!!」

 

「無茶ですよ!!」

 

「その()()()()()のがグレン団だろうが!?」

 

「その通りだ!!」

 

グラパール・弾とグラパール・蘭がそう叫んだ瞬間、エンキドゥドゥとザガレッズもグレン団の中に加わる。

 

「! オッサン!」

 

「!? 何故貴方が!?」

 

ファイナルダンクーガがザガレッズに驚き、楯無はエンキドゥドゥの姿を見て驚く。

 

「フッ………あの男(神谷)の言葉を借りるならば………」

 

「“ノリ”と言うヤツだ!!」

 

ザガレッズとエンキドゥドゥはそう言い放ち、岩塊を必死に押し返そうとする。

 

「獣人までもが地球を救おうとしている………」

 

「やっぱり………不思議な男ね………天上 神谷」

 

その光景にフランが驚き、簪がフッと笑いながらそう呟く。

 

だが、其れでも岩塊の落下は止まらず、ドンドン地球へと近付いて行く。

 

そして遂に………

 

大気圏への突入が始まり、膨大な摩擦熱がグレン団の面々に襲い掛かる。

 

「ぐううっ! 熱い!!」

 

「駄目だ………このままでは焼け死んでしまうぞ………」

 

絶対防御を以てしても防ぎ切れない熱が襲い掛かり、一夏と箒がそう漏らす。

 

「未だだっ!! 諦めるんじゃ()えっ!!」

 

「そうだよ! 諦めて堪るもんかっ!!」

 

しかし、グレンラガンとシャルは未だ諦めず、皆に向かって檄を飛ばす様にそう叫ぶ。

 

だが無情にも、岩塊の落下はまるで止まらない………

 

「『地球と共に燃え尽きるが良い………グレン団』」

 

勝利を確信したアンチ・ラゼンガンがそう呟く。

 

「クッソオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!!」

 

「何か手は()えのかよっ!?」

 

悔しさが混じった声で、一夏とグラパール・弾がそう叫ぶ。

 

と、その時………

 

「………しゃあ()え。こうなったら………『アレ』をやるぞ!!」

 

突如、グレンラガンがそう言い放った。

 

「「「「「「「「「「!? 『アレ』!?」」」」」」」」」」

 

グレンラガンの言葉の意味が分からず、全員が困惑する。

 

「神谷! 『アレ』って一体!?」

 

と、シャルがそう問い質した瞬間!!

 

「決まってんだろ………『合体』だぁっ!!」

 

グレンラガンがそう吠え、その身体から今までに無い膨大な螺旋力が溢れ始めた!!

 

放たれた膨大な螺旋力は、そのまま光のオーラとなってグレン団の面々を包み込んで行く!!

 

「!? うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!?」

 

「か、身体が動かないっ!?」

 

「い、意識が遠のいて行きますわ………」

 

「か、身体がバラバラになって行くっ!?」

 

「ひ、光が………」

 

「白くて………何も見え無い!?」

 

「闇だ………白い闇だ………」

 

「………!?!?」

 

「あ、あああああ………」

 

「うわぁっ!? 如何なってんだぁっ!?」

 

「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

「な、何なのコレェッ!?」

 

「ぬううっ!?」

 

「コ、コレが螺旋力か!?」

 

突然襲い掛かって来た“奇妙な感覚”に、一夏・箒・セシリア・鈴・シャル・ラウラ・楯無・簪・フラン・弾・蘭・ティトリー・ジギタリス・ヴィラルから悲鳴の様な声が挙がる。

 

「な、何が起こってるんですか!?」

 

「何コレ!? 私が!? 私が消えて行く!?」

 

「凄まじい量の螺旋エネルギーよ!! 全てを呑み込んで行っているわっ!? このままじゃ()()()()()()()()()()わ!!」

 

インフィニット・ノアも螺旋力に呑み込まれ、艦橋の虚・のほほん・リーロンが叫ぶ。

 

「お前等! ()()()()()()()()! ()()()()()()!!」

 

と其処で、意識を持って行かれそうになっていた一同に、神谷がそう呼び掛ける。

 

「アニキ!?」

 

「神谷!?」

 

「何て事は()えっ! 俺達はグレン団だ! “テメェの決めた道を、テメェのやり方で貫き通す”!! 其れが俺達! グレン団だろうがぁ!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その言葉に、エネルギーに呑み込まれそうになっていた一同はハッとする。

 

「そうだ………俺達は!!」

 

「天下無敵の………グレン団だああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

そして、シャルがそう叫び声を挙げた瞬間!!

 

膨大な螺旋エネルギーは、岩塊をも呑み込んで、1つの形を造った!!

 

「『!? 何っ!?』」

 

其れを見たアンチ・ラゼンガンが驚きの声を挙げた瞬間………

 

光が弾け、其処から岩塊を片手で受け止めている………

 

“アンチ・ラゼンガンと同じ大きさ”の巨大なグレンラガンが姿を現す!!

 

その姿は“螺旋の炎を纏った紅い鬼神”とでも表現するべきであろうか………

 

しかし、禍々しさは感じられず、まるで“見る者全てを魅了する”様な………

 

そう………

 

『熱さ』が有った!!

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

その巨大なグレンラガンから、グレン団の雄叫びが響いて来たかと思うと、摑んでいた岩塊をアンチ・ラゼンガン目掛けて投げ付ける!!

 

「『!? ぬおおっ!?』」

 

咄嗟に、防御姿勢を取ったアンチ・ラゼンガンに命中した岩塊は、粉微塵に砕け散る。

 

「『ぬううっ!?』」

 

防御姿勢を解くと、巨大なグレンラガンを見遣るアンチ・ラゼンガン。

 

「見たかぁっ! ロージェノムゥッ!!」

 

「コレが、俺達の!!」

 

「グレン団皆の力だぁっ!!」

 

そして巨大なグレンラガンは、アンチ・ラゼンガンにビッと指を差して、そう叫ぶ。

 

「『むううっ!? まさか貴様等!! 自分達の螺旋力を1つに集めて!?』」

 

「おうよ! コレがグレンラガンの最終進化形態!! 名付けて!!」

 

「「「「「「「「「「『天元突破グレンラガン』だぁっ(よぉ)!!」」」」」」」」」」

 

巨大なグレンラガン………『天元突破グレンラガン』は、名乗りを全宇宙に轟かせた!!

 

「「「「「「「「「「俺(私、アタシ、僕)達を! 誰だと思ってやがるっ!!」」」」」」」」」」

 

グレン団お決まりの台詞が発せられた瞬間!!

 

天元突破グレンラガンの背後に、螺旋エネルギーで形成されたグレン団の旗がはためく!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その一連の様子は………

 

地上からでも()()()確認出来ていた………

 

日本のIS学園………

 

その校舎屋上にて………

 

「天元突破………」

 

「グレンラガン………」

 

千冬と真耶は、“()()()()でも確認出来る天元突破グレンラガンの大きさ”に言葉を失っている。

 

「遂に辿り着いたか………」

 

「ええ………アレが“螺旋力による進化”の極致………」

 

「まさか………これ程とは………」

 

一方で、マドカ・束・くーはその光景に感動すらしている様子を見せる。

 

「いよいよコレが最終決戦」

 

「泣いても笑っても………コレで全てが決まるんだね?」

 

(((((必ず勝(っ)て! グレン団!!)))))

 

そして、全員が心の中でグレン団の勝利を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び舞台は宇宙空間………

 

天元突破グレンラガンとアンチ・ラゼンガンが、正面から睨み合っている。

 

「『………フッフッフッ………ハッハッハッハッハッ!!』」

 

と、不意にアンチ・ラゼンガンが笑い声を挙げる。

 

「『ココまで邪魔をして来るとは………つくづく厄介な奴等だな………グレン団!!』」

 

小馬鹿にしている様な言い方ではあったが、その言葉の中には今までに無い“殺気と敵意”が籠められている。

 

「『だが、其れも終わりだ! 貴様等を宇宙の藻屑にしてくれるわぁっ!!』」

 

「そうは行くかよ! 宇宙の藻屑になるのは………ロージェノム! テメェの方だ!!」

 

アンチ・ラゼンガンの宣告に、天元突破グレンラガンはアンチ・ラゼンガンを再びビッと指差す。

 

「「…………」」

 

そして両者の間に、一瞬の沈黙が流れたかと思うと………

 

「「「「「「「「「『うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!』」」」」」」」」」

 

天元突破グレンラガンは右の拳を、アンチ・ラゼンガンは左の拳を握り締め、互いにパンチを繰り出す!!

 

互いの拳が、激しくぶつかり合う。

 

その瞬間!!

 

辺り一面に漂っていた“月の一部だった岩塊”が、両者の拳の激突によって発生した衝撃波に()って、遥か彼方へと飛んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に………

 

人類の歴史始まって以来の戦いが………

 

今、始まった………

 

勝つのは、昨日を省みる者か?

 

其れ共、明日(あした)を摑もうとしている者か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

絶大なるアンチ・ラゼンガンの力。
流石のグレン団も手も足も出ない。
遂には地球諸共最期を迎えるのかと思われた瞬間………
遂に誕生!!
『天元突破グレンラガン』!!
長い長い戦いも、遂に次回で決着です!

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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第127話『………綺麗じゃねえか………地球ってのはよぉ』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開ける男達と………

 

それに付き従う女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

第127話『………綺麗じゃねえか………地球ってのはよぉ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月軌道上の宇宙空間………

 

「「「「「「「「「『うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!』」」」」」」」」」

 

宇宙中に轟き渡りそうな叫び声を挙げて、天元突破グレンラガンとアンチ・ラゼンガンの拳がぶつかり合う。

 

銀河1つにも匹敵するパワーを内包している両者は、拳の激突だけで、凄まじい爆発を起こす!!

 

その爆発に煽られ、両者は互いに体勢を崩す。

 

「チイィッ!! おりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

だが天元突破グレンラガンは、その体勢が崩れた姿勢から蹴りを繰り出す。

 

「『フンッ!!』」

 

しかしアンチ・ラゼンガンは、その蹴りを防ぐと跳び上がり、天元突破グレンラガンに踵落としを見舞う!!

 

「ゴハッ!!」

 

「『でええええええいっ!!』」

 

「!!」

 

そのまま、倒れた姿勢になった天元突破グレンラガンに拳を振り下ろすアンチ・ラゼンガンだが、天元突破グレンラガンは(すんで)(ところ)で躱す。

 

「でりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

そして、反撃のアッパーカットを喰らわせる。

 

「『ゴハァッ!?』」

 

口に当たる部分から紫色の液体の様な物を吐き出し、真上へと飛ぶアンチ・ラゼンガン。

 

「『小癪なぁっ!!』」

 

しかし、そのままバック転するかの様に距離を取ったかと思うと、アンチ・ラゼンガンの背中から、長い腕が新たに2本生える。

 

そしてその右の長い腕が、天元突破グレンラガンの右足に巻き付く。

 

「!? うおっ!?」

 

「『ぬあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!』」

 

アンチ・ラゼンガンは、そのまま天元突破グレンラガンを振り回す。

 

「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!?」」」」

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

振り回されている天元突破グレンラガンから、神谷と合体している一夏やシャル達の悲鳴が挙がる。

 

「『そんなものかぁっ! グレン団ーーーーーーーーーーっ!!』」

 

と、アンチ・ラゼンガンは一通り振り回したかと思うと、天元突破グレンラガンを自分の元へ引き寄せ、その横っ面にパンチを喰らわせる!!

 

「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!?」」」」

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

またもグレン団メンバーの悲鳴が挙がり、天元突破グレンラガンは宇宙空間をブッ飛んで行く。

 

「『ハハハハハハハハハハッ!!』」

 

勝ち誇る様に高笑いを挙げながら、アンチ・ラゼンガンは天元突破グレンラガン目掛けて全身から赤色のエネルギー弾を連続発射する!!

 

「!! チイッ!!」

 

天元突破グレンラガンは態勢を立て直すと、真ゲッターロボの様な“慣性の法則や物理法則を一切合切無視した急旋回・急停止・急加速の動き”をして、まるでUFOの様な機動飛行で弾幕の中を擦り抜けて行く。

 

しかし、弾幕の密度は濃く、躱し続ける事は不可能である。

 

「駄目だ! 逃げ切れないぞっ!!」

 

「私にお任せ下さい!!」

 

と一夏がそう声を挙げた瞬間、セシリアがそう叫ぶと、天元突破グレンラガンの周りに4つのブルー・ティーアズが出現した!!

 

4つのブルー・ティーアズは螺旋エネルギーを纏い、ドリルビットと化すと高速回転を始め、放たれる弾幕を弾きながら、アンチ・ラゼンガンへと向かう!!

 

「『フンッ!!』」

 

しかしアンチ・ラゼンガンは、光速で迫って来たドリルビットを4本の手全てを使って火花を散らしながら受け止めたかと思うと、そのまま握り潰した!!

 

「ならコレは如何!?」

 

「俺も!!」

 

「私も!!」

 

「アタシも!!」

 

と続けて、鈴・ティトリー・弾・蘭がそう叫んだかと思うと、天元突破グレンラガンの両肩に龍砲に似た砲、頭部越しと両脇腰に断空砲フォーメションの砲、両手にグラパール用のハンドガンが出現する。

 

「おっしゃあっ! 喰らえ喰らえ喰らえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!」

 

神谷の叫び声と共に其れ等が一斉発射され、アンチ・ラゼンガンの弾幕と拮抗!!

 

一部が、相手の弾幕を抜けてアンチ・ラゼンガンへと直撃する。

 

「『ハハハハハハッ! 無駄な事だ!!』」

 

しかし、何発もの命中弾が出ているにも関わらず、アンチ・ラゼンガンは堪えている様子が無い。

 

「だったら、コレで!!」

 

其処で楯無が叫ぶと、天元突破グレンラガンの手に蒼流旋が出現したかと思うと、螺旋エネルギーが集まってミストルテインの槍ならぬ螺旋の槍と化す。

 

「そおおりゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

その螺旋の槍を、アンチ・ラゼンガン目掛けて投げ付ける天元突破グレンラガン!

 

螺旋の槍はアンチ・ラゼンガンへと命中したかと思うと、太陽の輝きの様な爆発がアンチ・ラゼンガンを包み込んだ!!

 

「やったかっ!?」

 

「!! 上よっ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

思わず一夏がそう叫んだが、リーロンが直ぐにそう叫び、天元突破グレンラガンが上を向くと………

 

其処には、背中に生えている両腕の手の部分を鋭い刃に変えて振り被っている、アンチ・ラゼンガンの姿が在った!!

 

「クウッ!!」

 

箒の声が響くと、天元突破グレンラガンの両腕に雨月と空裂が現れ、アンチ・ラゼンガンの刃を手を受け止める!!

 

「俺もっ!!」

 

更に一夏がそう叫んだかと思うと、天元突破グレンラガンの口元に、エネルギーブレード状態の雪片弐型が出現。

 

「三刀流だああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

神谷の叫びと共に、天元突破グレンラガンはその雪片弐型を口で咥え、三刀流でアンチ・ラゼンガン目掛けて目にも止まらぬ斬撃を連続で繰り出す。

 

「『螺旋の力に溺れる愚かな者達よ! 貴様等は宇宙を滅ぼす積りか!? 人間なぞ宇宙にとっては(ガン)細胞以外の何モノでも()い!! 同じ人間でありながら、その人類を滅ぼしてまで宇宙を守り抜こうとする覚悟が有るかぁっ!?』」

 

しかしアンチ・ラゼンガンは、天元突破グレンラガンから繰り出される全ての斬撃を背中に生えている両腕だけで捌き切る。

 

「『否! 否否否否否否否否否否否否ッ! 否ぁっ!!』」

 

と、アンチ・ラゼンガンがそう叫びを挙げた瞬間!!

 

雨月と空裂、雪片弐型の全てが砕け散ってしまう。

 

「『断じて否ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!』」

 

そして次の瞬間には、アンチ・ラゼンガンの蹴り上げが命中する。

 

「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!?」」」」

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

大きくブッ飛ばされる天元突破グレンラガン。

 

アンチ・ラゼンガンはその天元突破グレンラガンを追い越したかと思うと、その腹目掛けて急降下しながら蹴りを喰らわせる!!

 

「『人類は滅びねばならぬ! ()()()()()なぁっ!!』」

 

「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!?」」」」

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

やがて半分以上欠けて来た月に激突し、弓形となって宇宙空間に浮かぶ。

 

「チキショーッ! 俺達全員の力を合わせても敵わないのか!?」

 

「化け物め………」

 

一夏と弾が、思わずそう漏らす。

 

「『其処で見ているが良い! 人類が“地球と言うちっぽけな星”と共に滅ぶ様をなぁっ!!』」

 

すると其処で!!

 

アンチ・ラゼンガンはそう言い放ち、4本の腕を地球へと伸ばす。

 

地球を握り潰す積りだ!!

 

「「「「「!!」」」」」

 

IS学園に居る千冬・真耶・束・くー・マドカが息を呑む。

 

だが次の瞬間!!

 

アンチ・ラゼンガンの身体に、先端がドリルとなっている螺旋力ワイヤーが巻き付く!

 

「地球に………手は出させんっ!!」

 

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!! 大・回・転っ!! 宇宙スイイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーングッ!!」

 

ラウラの叫びの後に神谷の雄叫びが挙がり、アンチ・ラゼンガンが振り回される。

 

「おりゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

そのままアンチ・ラゼンガンを投げ飛ばす天元突破グレンラガン。

 

「今だっ!!」

 

「反陽子砲! 発射っ!!」

 

「「発射ぁっ!!」」

 

「ザガレッズ・インパクトッ!!」

 

ヴィラル・リーロン・虚・のほほん・ジギタリスの声が響いたかと思うと、天元突破グレンラガンの頭部からエンキ・サン・アタック、腹部から反陽子砲、両脇腰からミサイルが発射される!!

 

エンキ・サン・アタックと反陽子砲、ミサイルが命中し、巨大な爆炎に包まれるアンチ・ラゼンガン。

 

「未だ未だぁっ!!」

 

「バルカンセレクターッ!!」

 

更にシャルと簪が叫ぶと、天元突破グレンラガンの右手にデザート・フォックス、左手にヘヴィマシンガンが現れ、アンチ・ラゼンガンが包まれているであろう爆炎に弾丸を見舞う。

 

「『これだけ言ってもまだ足掻くかぁっ!?』」

 

と、そんな台詞と共に、爆炎の中からアンチ・ラゼンガンが姿を現して背中の腕を1本に束ね、巨大な刃と化して振り下ろして来る!!

 

「任せてっ!!」

 

其処でフランが叫ぶと、天元突破グレンラガンの左腕に実体シールドが出現!!

 

アンチ・ラゼンガンの刃を防いで弾き飛ばす。

 

「今だ!!」

 

其処で実体シールドが付いた腕でパンチを繰り出す天元突破グレンラガン。

 

その瞬間、実体シールドからパイルバンカーが発射され、アンチ・ラゼンガンの身体を貫く!!

 

「『ぬううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!?』」

 

「さっきからゴチャゴチャウルセェんだよっ! “俺達の明日は()()()()()()決める”! テメェ如きに勝手に滅ぼされて堪るかってんだ!!」

 

宇宙中に轟き渡りそうな神谷の叫び。

 

「俺達は戦う! 戦い抜く! そして地球と人類を守る!! 勿論! 宇宙もだぁっ!!」

 

「『そんな事が出来るかぁっ!!』」

 

アンチ・ラゼンガンの拳が天元突破グレンラガンに迫る!

 

「やってみなけりゃ! 分かん()えだろうがああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

だが、天元突破グレンラガンはその腕を摑んで投げ飛ばした!!

 

「『ぬうううううっ!? ワシに蹴散らされるだけの存在が! 何を抜かすかぁっ!! その思い上がり! 後悔させてくれるわぁっ!!』』

 

と、体勢を立て直したアンチ・ラゼンガンがそう言い放ったかと思うと、その4本の手の中にエネルギーが集まって行く。

 

「物凄いエネルギーです!!」

 

「恒星並みのエネルギーよっ!!」

 

「正に太陽だよ~!」

 

「ソイツをぶつけようってのか………」

 

虚・リーロン・のほほん・ヴィラルがそう声を挙げる。

 

「神谷! 避けてっ!!」

 

「いいやっ! 受け止めるっ!!」

 

シャルがそう叫ぶが、神谷はそう叫び返すと、天元突破グレンラガンがドッシリと構えた!!

 

「ちょっ!? 何言ってんのよ、アンタ!?」

 

「!! 鈴! 後ろを見ろ!!」

 

鈴が“何を馬鹿な事を”と問うが、其処でラウラがそう声を挙げる。

 

「後ろ?………!? 地球が!?」

 

其処で箒が、天元突破グレンラガンが何時の間にか“地球を背にする様な位置”に誘導されていた事に気付く。

 

「俺達が避けたら、地球が直撃を喰らっちまう」

 

「受け止めるしか無いのか!?」

 

「そんな!? 恒星並みのエネルギーを受け止めるなんて!?」

 

「ですが、やるしか有りませんわ!!」

 

一夏・弾・蘭・セシリアがそう声を挙げた瞬間………

 

「『プロミネンス! エクスプロージョオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーンッ!!』」

 

アンチ・ラゼンガンから、恒星並みのエネルギー波………『プロミネンス・エクスプロージョン』が放たれる!!

 

「来やがれえええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!!」

 

其れに向かって両腕を突き出し、受け止めに掛かる天元突破グレンラガン。

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」

 

「「「「「「「「「「ハアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

文字通り“太陽の熱”を浴びながらも、必死に耐える神谷とグレン団一同。

 

「『無駄だっ! 超々高熱によってDNAの一片まで残さず燃え尽きるが良いっ!!』」

 

アンチ・ラゼンガンがそう言い放った瞬間!!

 

天元突破グレンラガンの手が、炭となって燃え尽き始める。

 

炭化はそのまま腕へ伝わって行き、身体へと迫る。

 

「クッソォッ!!」

 

「駄目だ! 燃え尽きちゃうっ!!」

 

「チキショウがぁっ!!」

 

一夏・シャル・神谷の悔しさの混じった叫びが挙がる。

 

と、その時!!

 

「負けないで! グレン団!!」

 

天元突破グレンラガンが背後で庇っている地球から、そんな声が響いて来た!!

 

「!? この声は!?」

 

「ミクちゃん!?」

 

鈴と楯無が、その声が初音 ミクのものである事に気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球・日本………

 

秋葉原………

 

「頑張って! グレン団!!」

 

「皆、君達の勝利を信じている!!」

 

「だから! 戦って!!」

 

「負けるなーっ!!」

 

ロージェノムの被害を受け、ボロボロとなっているこの場所に人々が集まり、急造ながらも特設ステージが組まれ、その上に初音 ミクを中心に彼女の仲間達であるVOCALOID達と、同僚の歌手達が居る。

 

「グレン団! 君達は鋼の救世主だ!!」

 

「鳴らせ! 戦いのGONGを!!」

 

「君達のSKILLが、地球を救うんだ!!」

 

「叫べ! 未来への咆哮を!!」

 

日本アニメソング製造業者計画のメンバーがそう叫ぶ。

 

「ココで諦めるのは、許されないんだゼェーットッ!!」

 

水木のアニキがそう檄を飛ばす。

 

「私達に出来るのは歌う事だけ………だから! その歌で皆を応援するよぉっ!!」

 

しょこたんの姿も在る。

 

「行くよ、グレン団! 私達の歌を聴けぇっ!! 『空色デイズ』!!」

 

ミクの言葉を皮切りに、音楽が流れ始め、集まったミクを中心とする歌手達。

 

そして人々が歌い始める。

 

その光景は、テレビ放送によって日本全国へと流される。

 

「! くーちゃん!!」

 

「ハイ、束様!!」

 

すると、其れを見た束がくーからパソコンを受け取り、キーボードを叩き始める!

 

嘗て、ミサイル基地をハッキングした要領で放送衛星をジャックし、その放送を全世界へと流し始めた!!

 

突如テレビやモニターに映し出された映像に、人々は戸惑ったが、やがて誰から共無く、一緒に歌声を挙げ始める。

 

テレビ放送が見られない場所に居る人々も、風に乗って聞こえて来る歌声を聴いて歌い始める。

 

「隊長! 我々は信じています! 隊長達の勝利を!!」

 

ドイツでは、クラリッサを初めとしたシュヴァルツェ・ハーゼのメンバー達が………

 

「お嬢様! 必ず勝てます! 何故なら貴女様は“オルコット家の当主”なのですから!!」

 

「負けるな! グレン団!!」

 

「世界中の人々が君達の勝利を祈っている!!」

 

イギリスでは、チェルシーと戴宗、中条が………

 

「鈴! 勝て!! 勝って見せろっ!!」

 

「そして必ず無事で帰って来るのよ!!」

 

中国では、炎彬と神美が………

 

「ケトーシロ!! 本音の奴に何か有ったら、テメェーをぶっ殺してやるからなぁ!!」

 

「大丈夫! きっと勝てるわ!!」

 

「だって、貴方達は………」

 

()()()()()()()()()なぁ!!」

 

日本の某所では、キタン・キヨウ・キノン・キヤル………黒の4兄妹が………

 

「一夏! 勝てっ!!」

 

「皆ぁっ! 頑張ってぇっ!!」

 

「箒ちゃん! 負けないで!!」

 

「グレン団………最強を証明して見せなさい」

 

「行けぇっ! グレン団!!」

 

「「「「「「「「「「グレン団!!」」」」」」」」」」

 

そしてIS学園でも、千冬・真耶・束・くー・マドカ・生徒達が声を張り上げる。

 

「聞こえる………歌声が………皆の声が………」

 

「私達の………勝利を信じてくれている!!」

 

一夏と箒がそう叫ぶ。

 

「神谷!!」

 

「おうよ、シャル!! コイツに応え()きゃ………(オトコ)(すた)るってモンだあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

そして、シャルの呼び掛けに答える様に神谷が雄叫びを挙げた瞬間!!

 

燃え尽きていた、天元突破グレンラガンの両腕が一瞬にして再生される!!

 

「『!? 何ぃっ!?』」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

アンチ・ラゼンガンが驚きの声を挙げる中、天元突破グレンラガンはプロミネンス・エクスプロージョンを押し返し始める!!

 

「『馬鹿な!? 貴様の何処にそんな力が!?』」

 

「俺達は! 1分前の俺達より進化する!! “1回転すれば、()()()()()()()前に進む”!! 其れが! “ドリル”なんだよ!!」

 

狼狽するアンチ・ラゼンガンに向かって、天元突破グレンラガンが神谷の声でそう叫んだ瞬間!!

 

プロミネンス・エクスプロージョンが、完全に掻き消される!!

 

「『!?』」

 

「ロージェノムゥッ!! 見せてやるぜぇっ!! “人間の底力”をぉっ!!」

 

と、神谷がそう叫んだ瞬間!!

 

天元突破グレンラガンのボディから、今までに無い凄まじい螺旋力………『虹色』の螺旋力が溢れ、天元突破グレンラガンをフルドリライズ状態にする!!

 

「必殺っ! 天元突破!! ギガァ! ドリルゥ! ブレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーイクッ!!」

 

そして、その全身に生えたドリルが右手に集まり、超巨大なギガドリルを形成し、アンチ・ラゼンガン目掛けて必殺の『天元突破ギガドリルブレイク』を叩き込む!!

 

「『ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!! 反螺旋!! ギガドリル! ブレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーイクッ!!』」

 

アンチ・ラゼンガンは反論するのも忘れ、対抗する様にギガドリルブレイクを繰り出す!!

 

両者のギガドリルブレイクが正面から大激突!!

 

「『ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!』」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

雄叫びにも似た叫びを挙げながら、互いに1歩も退かない天元突破グレンラガンとアンチ・ラゼンガン。

 

最早、ココまで来れば後は気力の勝負である。

 

アンチ・ラゼンガン………ロージェノムの人類抹殺への殺意が上か………

 

天元突破グレンラガン………グレン団の明日を求める気持ちが上か………

 

そして、次の瞬間!!

 

両者のドリルが砕け散り、星が爆発したのかと思える様な大爆発が、宇宙空間を一瞬明るく染めた!!

 

「『ぬうううっ!?』」

 

その瞬間!!

 

アンチ・ラゼンガンの纏っていたエネルギーが一瞬吹き飛ばされ、頭部付近に居た“本体”………ラゼンガンの姿がハッキリと現れた!!

 

「! 其処かああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

其処で、天元突破グレンラガンから神谷の声が響き渡ったかと思うと、その口の中から右手をドリルに変えたグレンラガンが飛び出し、ラゼンガン目掛けて突っ込む!!

 

「!! チイイイイイィィィィィィーーーーーーーッ!!」

 

迫り来るグレンラガンに対し、ラゼンガンは鞭の様に撓るドリルを射出する!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

次々に襲い掛かって来る撓るドリルを弾きながら、ラゼンガンへと突っ込んで行くグレンラガン。

 

しかし、全てを弾く事は出来ずに装甲が次々と剥ぎ取られて行く。

 

「負けるかああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

其れでも委細構わず、グレンラガンは突っ込み続ける!!

 

「神谷!」

 

「アニキ!」

 

「天上 神谷!」

 

「かみやん!!」

 

「神谷くん!!」

 

グレン団の面々からも声が飛ぶ!!

 

「アニキィッ!!」

 

「神谷! 行っけええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!!」

 

そして最後に、一夏とシャルの檄が飛ぶ!!

 

「小癪なあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」

 

と其処で、更に鞭の様に撓るドリルを射出するラゼンガン。

 

「ぐおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンの装甲が、更に剥ぎ取られて行く。

 

そして遂に!!

 

ドリルが砕かれたかと思われた瞬間!!

 

グレンラガンの装甲は完全に砕け散り、神谷の姿が露出した!!

 

「!? アニキィッ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「神谷ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

シャルの悲鳴が挙がる。

 

「勝ったっ!!」

 

そう確信するラゼンガン。

 

だが!!

 

「! 未だだあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

神谷がそう叫んでコアドリルを右手に握った瞬間!!

 

その身体が虹色に輝き、右腕に虹色の光で出来たドリルが出現する!!

 

「!? 何ぃっ!!」

 

「神谷インパクトオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

そしてそのまま、神谷は虹色のドリルをラゼンガンの身体に突き刺した!!

 

「!? ぬああああああああああああぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

 

断末魔の様なラゼンガン………ロージェノムの叫びが木霊したかと思うと………

 

ドリルが突き刺された部分の反対側の背中から………

 

虹色のエネルギーが溢れ出て、巨大な風穴が開いた!!

 

「俺達の………勝ちだ!!」

 

その穴を突き抜けた神谷が、風穴の開いたラゼンガンをバックに、そう呟く。

 

次の瞬間………

 

ラゼンガンの姿がロージェノムに戻る。

 

「………我が野望が潰えるか………フッ………フフフフ………ハハハハハハハハハッ!!」

 

身体に風穴が開いたまま高笑いを挙げたかと思うと………

 

ロージェノムの身体は大爆発を起こし、細胞の一片も残さず消滅した!!

 

其れに呼応する様に、アンチ・ラゼンガンも大爆発を起こし、天元突破グレンラガンと神谷を巻き込む!!

 

太陽がもう1つ出来たかの様な爆発が起き、一瞬宇宙が白く染まる………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球・日本………

 

IS学園の屋上………

 

「やったぁっ!!」

 

「勝った! グレン団の勝利です!!」

 

「!!」

 

その様子は地上からも見えており、束・真耶・くーが歓喜を表した瞬間………

 

世界中で、グレン団の勝利を喜ぶ歓声が挙がる!!

 

「良くやった………良くやったぞ、グレン団」

 

「一夏………神谷………」

 

マドカと千冬も、感慨深げな表情で今だに白く染まっている空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙空間・月軌道上………

 

やがて光が収まると、其処には………

 

ボロボロのISやグラパールを纏ったグレン団の面々と、同じくボロボロのインフィニット・ノアがプカプカと浮いていた。

 

「終わった………のか?」

 

一夏がそう呟く。

 

「アンチ・ラゼンガン、及びロージェノムの反応………有りません」

 

「終わったわね………本当に」

 

虚からの報告を聞いて、リーロンは脱力した様に艦長席に深く腰掛ける。

 

「やった! やったんだ!! 俺達は勝ったんだ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」」」」」」」」」」

 

グラパール・弾がそう叫ぶと、一瞬遅れてグレン団のメンバーは歓声を挙げた。

 

遂に………

 

長い長い戦いに………

 

終止符が打たれたのだ。

 

「!? ちょっと待って! 神谷は!?」

 

しかし其処で………

 

ファイナルダンクーガのティトリーが神谷の姿が無い事に気付いてそう声を挙げる。

 

「!? そう言えば!?」

 

「アイツは如何したんだ!?」

 

セシリアとラウラが焦った様な声を挙げる。

 

「ねえ! 確か最後の時………アイツ、グレンラガンをやられて、生身になってなかった!?」

 

「此処は宇宙空間だ………まさか!?」

 

鈴が最後に見た神谷の状態を思い出し、箒の脳裏にも最悪の想像が過る。

 

「馬鹿言わないで! あの()()()()()()()()様な神谷くんが、其れくらいで死ぬワケ無いでしょ!!」

 

「………彼は生きている………根拠は無いけど………そう思えるわ」

 

しかし、楯無と簪がそう反論する。

 

「そうだ………奴が死んで堪るか」

 

「その通りだ」

 

エンキドゥドゥのヴィラル、ザガレッズのジギタリスも同意する。

 

「でも、一体何処に………?」

 

「!? アレは!?」

 

と、グラパール・蘭がそう言い掛けた時、フランがそう声を挙げて、宇宙空間の一点を指差した。

 

その指差した先には、緑色の光が浮かんでいる………

 

「螺旋力反応有り………って事は!?」

 

「神谷ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

 

のほほんがそう報告するや否や、シャルがその光の場所目指して飛んで行く。

 

「アニキィッ!!」

 

更に一夏が続き、其れに他の一同も続いて行き、インフィニット・ノアも発進するのだった。

 

一方、宇宙空間を漂う神谷は………

 

その身体を、螺旋力がバリアの様に包み込んで如何にか生き延びている。

 

「…………」

 

視界も薄く緑に染まる中、神谷は横の方に位置している地球に向かって左手を伸ばす様な姿勢を取り、地球に左手を翳す。

 

「………綺麗じゃねえか………地球ってのはよぉ」

 

自らが守り抜いた地球の有難味を噛み締めるかの様に、神谷はそう呟く。

 

「………終わったぜ………親父」

 

そしてそう呟くと、握り締めていた右手の中で点滅しながら光を放っているコアドリルを見遣り、そう囁く。

 

「神谷ぁっ!!」

 

と其処でシャルが現れたかと思うと、有無を言わさず神谷に抱き着く。

 

「うおっ、と!? シャル?」

 

「神谷………神谷ぁ………」

 

驚く神谷を他所に、シャルは泣きながら神谷の身体を更に抱き締める。

 

「…………」

 

其処で神谷はフッと微笑み、左手をシャルの背中へと回して彼女を抱き締め返す。

 

「………終わったんだね………全部」

 

「………ああ」

 

落ち着いたシャルがそう言うと、神谷は短く返事を返す。

 

「アニキィーッ!!」

 

「神谷ーっ!!」

 

其処へ、グレン団の面々の声が響いて来て、その姿が近付いて来る。

 

「神谷………帰ろう………IS学園に」

 

「ああ………帰るとするか………“俺達の学び舎”によ」

 

太陽の光が2人を照らし出す中、シャルと神谷は、地球の日本を見ながらそう言い合うのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグにつづく




新話、投稿させて頂きました。

遂に長い長い戦いが終わりました。
壮大な戦いの規模でしたが、最後は気力勝負。
皆の思いを乗せた神谷インパクトが炸裂!
遂にロージェノムの最期です。

さて、次回はエピローグで、その後の様子となります。
世界とIS学園は如何なったのか?
そしてグレン団は?
オマケエピソードの予告もありますので、お楽しみに。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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エピローグ『………桜、綺麗だね』

これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開けた男達と………

 

それに付き従った女達の物語である………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス

 

エピローグ『………桜、綺麗だね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に『ロージェノム戦乱』と呼ばれる様になる………

 

狂気の科学者・ロージェノムが企んだ“世界征服を()()()()()()人類抹殺計画”は………

 

歴史にその名を刻む事となったグレン団によって阻止された。

 

ロージェノムは死に、彼が生み出した獣人やガンメン(など)も、皮肉にも()()彼が同化させた事により消滅した。

 

だが、人類が受けた被害も、決して小さなモノでは無かった………

 

世界の全ての国が戦災に見舞われ、その総被害金額は天文学的と言われている。

 

更に70億在った人口も、実に20億弱と、3分の1以下にまで減っていた………

 

しかし、其れでも………

 

人類は復興に向けて、ゆっくりとではあるが、歩み始めていた………

 

 

 

 

 

そして、“()()()()()()を創り出した”最大の原因であるISは………

 

ロージェノム戦乱の中で、その殆どが喪失。

 

現在世界に残っているISは、グレン団メンバーの専用機を含め、僅か10数機となっていた。

 

戦後樹立された各国臨時政府は、束に“新たなISを制作してくれ”と依頼したが、束は“()()()()無理だ”と断る。

 

曰く、実は“ISの核となる部品・ISコアは、外宇宙から飛来した隕石の中に含まれていた、()()()()()()()()()()()()()()()を使用していたのだ”と。

 

其れが()()、“世界中に存在した467機分だった”と言うのだ。

 

束個人の意思も有り、もう“新しいISは絶対に()()()()し、()()()()”。

 

各国政府は頭を抱えたが、其れも一時(いっとき)の事………

 

戦中、暫定的に量産が始まっていたグラパールが、“ISに代わる各国の主力兵器”として普及したのである。

 

IS程の性能は無くとも、訓練さえ積めば()()()使()()()グラパールは、人口が大幅に減ってしまった各国で重宝された。

 

そしてリーロンが懸念していた、“国家間のバランスの崩れによる世界戦乱”だが………

 

皮肉にも、ロージェノムが与えた被害が“余りにも甚大だった”為、起こる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、日本のIS学園………

 

いや、『元』IS学園と言った方が良いだろう。

 

ISが殆ど無くなってしまった為、IS学園はその存在意義を失い、“名前だけを残した普通の国際学校”として再開校したのである。

 

 

 

季節は春………

 

学園内の敷地に植えられている桜が、艶やかに咲き誇り、桜吹雪が舞っていた。

 

そして、校舎の2年1組教室………

 

教室内には、元1年1組の生徒達の姿が在り、教壇側には千冬と真耶が立っている。

 

「諸君! 先ずは進級おめでとうと言わせて貰おう! しかし、気を抜くな! コレからはIS関係の授業は減るが、その分通常の授業を増やす予定だ!!」

 

生徒達を前に、千冬が演説を始める。

 

「例えISの授業が減ろうと、我が校が“世界に羽ばたく人材を育成する場”である事に変わりは無い! よって、私は手を抜かない! コレからもビシバシと(しご)いて行くからその積りで居ろ!!」

 

「「「「「「「「「「ハイッ!!」」」」」」」」」」

 

生徒達は、千冬の演説に威勢良く返事を返す。

 

「良し、良い返事だ………ところで………グレン団の連中は何処へ行った?」

 

と其処で、千冬はプルプルと震えながら、教室内にグレン団の姿が無い事について指摘する。

 

「えっと………グレン団の人達は、“天気が良くて桜が綺麗だから、お花見する”って言ってました」

 

その千冬の問いに、生徒の1人が恐る恐る手を上げてそう答える。

 

「………アイツ等あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!………!? うっ!?」

 

其れを聞いた千冬が叫び声を挙げたかと思うと、怒りの余りそのままバタリと床に倒れた。

 

「!? キャアッ!? 織斑先生!?」

 

「千冬お姉様!!」

 

千冬が倒れたのを見て、騒然となる生徒達。

 

「あ、もしもし? 保健室ですか? ()()織斑先生が倒れたので、ベッドの用意をお願いします」

 

そんな中真耶は、最早手慣れた様に保健室へと連絡を入れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

千冬をそんな目に遭わせた“元凶達”はと言うと………

 

「1番! 凰 鈴音!! 歌いまーすっ!!」

 

「2番! 五反田 弾!! 踊りますっ!!」

 

「良いぞ、良いぞーっ!!」

 

「ヒューッ! ヒューッ!!」

 

そんな千冬の事(など)全く知らず、学園の片隅の桜並木の下にビニールシートを敷いて、何処からか持って来た料理や菓子で、花見に興じていた。

 

「良いのかな? 授業サボってお花見なんかして?」

 

「良いじゃ()えか! こんな良い天気の日に授業なんてやってられっか!!」

 

「其れもそうだね!」

 

メンバーの中では常識人なシャルも、すっかりグレン団色に染まり、そんな事を言っている始末である。

 

「また、ちーちゃんの胃に穴が開きそうだね」

 

「天上 神谷がこの世から消えない限り、彼女の心労は取り除かれないのではないでしょうか?」

 

ちゃっかりと参加している束とくーは、桜の花と空を見上げながら、そんな事を呟くのだった。

 

「其れにしても………良い桜ね」

 

「ホント、綺麗ですね」

 

「この間まで、“世界中が危機に瀕してた”なんて、とても信じられ無いよね~」

 

リーロン・虚・のほほんが、桜の美しさに目を奪われながら、そんな事を言う。

 

「…………」

 

と、どんちゃん騒ぎの中、只1人ティトリーだけが、何か考え込んでいる様な表情となっている。

 

「………如何したの?」

 

と、そんなティトリーに、簪が声を掛ける。

 

「あ、うん………ジギタリスのおっさんとヴィラル隊長の事、思い出しちゃって」

 

すると、ティトリーは簪にそう返す。

 

あの大戦後………

 

ティトリーを含め、“ロージェノムに()()()()()()()()獣人”………ジギタリスとヴィラルは………

 

戦後のドサクサの中、姿を消した………

 

ジギタリスは、“世界の何処かで生き残っている獣人を保護する”と言って………

 

あの最終決戦で、獣人は全てロージェノムに吸収されてしまったと思われているが、ひょっとしたら生き残りが居るかも知れない。

 

そしてロージェノム亡き今、其奴等は途方に暮れているかも知れない。

 

そんな連中を見付けて保護するのが、“生き残った自分の役目だ”と。

 

そして、ヴィラルは“己を磨く為の旅”に出ていた。

 

彼に残されているのは“打倒グレンラガンの闘志”のみ。

 

何時の日かグレンラガンに………“神谷に()()為に修行を積む”と言うのだ。

 

ヴィラルの去り際、神谷は『何時でも掛かって来やがれ』と言い放ち、其れに対してヴィラルは不敵な笑みを浮かべていたのが印象深かった。

 

「心配するな」

 

「そうだよ。別に死んだ訳じゃ無いんだから、“生きていれば何時かまた会える”よ」

 

と、ティトリーと簪の会話を聞いていたラウラとフランが割り込んで来て、そんな事を言う。

 

「………うん、そうだよね」

 

2人の言葉にティトリーは笑顔を浮かべると、空を見上げるのだった。

 

「………ねえ、束さん」

 

「うん? 何、いっくん?」

 

()()ISを動かせたのって、やっぱり………」

 

「うん、そうだよ。いっくんが持ってた螺旋力のお蔭だよ」

 

ふと、一夏が“前々から思っていた疑問”を束にぶつけると、束はアッサリと肯定して来た。

 

「やっぱり………でも、螺旋力は人類全てが持っている筈ですよね? 如何して()()()がISを起動出来たんですか?」

 

「確かに、螺旋力は“人類誰しもが持っている力”だよ。でも、其れを引き出せるか如何かは、()()()()だから」

 

「本人次第?」

 

「つまり………“気合が有るか無いか”って事だよ」

 

ビシッと一夏を指差しながらそう言う束。

 

「気合って………」

 

「謙遜する事無いよ。かみやんの影響かもしれないけど、いっくんは()()()()()()には珍しい、“気合の持ち主”だからね」

 

「はあ、もう良いです………」

 

苦笑いを浮かべる一夏に、束が更にそう言うと、一夏は疲れた様に溜息を吐くのだった。

 

「と・こ・ろ・でぇ~!」

 

すると其処で、束は悪戯っ子の様な笑みを浮かべて、一夏の両肩を摑む様に体重を預けて来る。

 

「な、何ですか、束さん?」

 

「いっくんさあ………箒ちゃんに“何か言う事”が有るんじゃないの?」

 

「!? 如何して束さんが()()を知ってるんですか!?」

 

「ふふふ~ん、忘れたの? “私は全てのISの()()()()”なんだよ?」

 

「ま、まさか!? 戦闘記録をハッキングして!?」

 

「そんな事は如何でも良いから! 早く箒ちゃんのとこへ行って来なさ~い!!」

 

「!? おうわっ!?」

 

束に突き飛ばされ、一夏はビニールシートの上に顔から倒れ込んだ。

 

「イタタタタタタッ」

 

「何をやっているんだ? 一夏?」

 

顔を(したた)かに打ち付けた一夏が痛がりながら起き上がると、目の前に居た箒が怪訝な顔をしながら声を掛けて来る。

 

「あっ!? ほ、箒………」

 

その箒の顔を見た途端に、一夏は言葉に詰まった様子を見せる。

 

「…………」

 

しかし、直ぐに意を決した表情になると箒の隣に座り直す。

 

「箒………」

 

「な、何だ? 急に改まって?」

 

突然真剣な表情を見せた一夏に、箒は赤面しながら若干の動揺を見せる。

 

「………決戦の時、言ったよな? “俺はお前に言いたい事が有る”って」

 

「! あ、ああっ!!」

 

そう言われて更に動揺している様子を見せる箒。

 

「………箒」

 

「い、一夏………」

 

2人は自然と見詰め合う様な姿勢になっていた。

 

「俺は………俺は………」

 

「あ、あうう………」

 

「俺は! お前の事が!!」

 

そして、肝心なところを一夏が口に出そうとした瞬間!!

 

「「「「「ちょっと待ったああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

そう言う台詞と共に、セシリア・鈴・ラウラ・楯無・蘭が割り込んで来た!!

 

「うわぁっ!?」

 

「な、何だ、お前達!?」

 

突如割り込んで来たセシリア達に驚く一夏と箒。

 

「一夏さん………実は私………以前より貴方の事をお慕いしておりましたわ」

 

「えっ!?」

 

「一夏! アタシもアンタの事が好きよ!!」

 

「!? 貴様っ!?」

 

すると、セシリアと鈴が一夏に向かって告白する。

 

「お前は私の嫁だろうが! つまり! 私の好きな相手と言う事だ!!」

 

「ええっ!?」

 

「実はお姉さん、一夏くんに好意抱いてるかも?」

 

「先輩!?」

 

更に、ラウラと楯無も続く。

 

「い、一夏さん!! わ、私も一夏さんの事が好きです!!」

 

「ら、蘭ちゃんまで!?」

 

「…………」

 

「うわっ!? 何時の間に!?」

 

最後には蘭も告白し、何時の間にやら簪も姿を見せていた。

 

「き、貴様等! 何の積りだ!?」

 

当然箒は、激昂した様子でセシリア達に向かって怒鳴るが………

 

「箒さん………貴女と一夏さんの最近の様子………良く存じ上げていますわ」

 

「!? 何っ!?」

 

意外にも、セシリアからはそんな返事が返って来た。

 

「ですが! 一夏さんの事が好きなのは私達とて同じ事!!」

 

「例え叶わぬ想いと知っていても! 言わずに後悔はしたくないわ!!」

 

セシリアに続く様に、鈴がそう言う。

 

「そう言うわけだよ、一夏くん」

 

「私達の気持ちを聞いても、お前の決意は変わらんか!?」

 

「一夏さん!!」

 

そして、楯無・ラウラ・蘭が一夏に詰め寄り、セシリアと鈴も詰め寄る。

 

「う、ううっ!?」

 

戸惑いと困惑の色を顔に浮かべる一夏。

 

「い~ち~か~っ!!」

 

すると、箒は鬼の形相で一夏を見据える。

 

「ほ、箒!? お、俺は………」

 

「…………」

 

しかし一夏が何か言おうとした瞬間、箒は顔を伏せる。

 

「? 箒?」

 

「わ、私だって………」

 

その身体が小刻みに震え始める。

 

「私だって! お前の事が好きだぁっ!!」

 

そしてそう叫んだかと思うと、そのまま一夏に向かって跳び、ビニールシートの上に押し倒した!!

 

「ちょっ!?………!? むぐっ!?」

 

「んちゅっ! んぐぅっ!」

 

「「「「「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~っ!?」」」」」

 

そのまま強引に唇を奪うと、セシリア達から悲鳴にも似た声が挙がる。

 

「んちゅっ………プハッ!!」

 

一通り一夏の唇を味わったかと思うと、箒は離れる。

 

「ほ、箒………」

 

「一夏………」

 

そのまま互いに真っ赤になって見詰め合う両者。

 

良い雰囲気だ………

 

………と思われた次の瞬間!!

 

甲高い発砲音と共に、一夏の顔の直ぐ横の地面に穴が開いた!!

 

「「!?」」

 

「………チッ」

 

驚く一夏と箒に向かって、銃口から硝煙の上がっているアーマーマグナムを構えている簪が舌打ちをする。

 

「や、やりますわね、箒さん!!」

 

「でも! 私達だって負けないわよ!!」

 

「ファーストキスは私がしたのを忘れるなぁ!!」

 

更に其処で、セシリア達も一夏へ襲い掛かろうとする。

 

「!? うわぁっ!? 箒! 逃げるぞ!!」

 

「えっ!?」

 

一夏は素早く起き上がると、箒の手を摑んで走り出した!!

 

「「「「「待てええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」」」」

 

「助けてくれ~~~~~~~~っ!!」

 

箒を連れたまま、セシリア達に追い掛け回される一夏だった。

 

「ありゃりゃ~、一夏も変わんないね~、本音」

 

その光景を見ながら、ティトリーは呆れる様に隣に居たのほほんに声を掛ける。

 

「うん、そうそ~う。そうなんだ~。其れでね、今度デートしようよ~。良いでしょ~?」

 

しかし当ののほほんは、恋人のキタンとの電話に夢中だった。

 

「う、虚さん!!」

 

「キャアッ! 駄目よ、弾くん! 未だ()()なんだからぁ!!」

 

その奥の方では、弾と虚が真昼間から()()()()事に突入しようとしている。

 

「………コッチもお熱いニャ」

 

ティトリーは呆れる様に呟き、コップのジュースを呷るのだった。

 

「何だか、段々とカオスな事になってる様な………」

 

「ハハハハッ! 良いぞ良いぞ! もっとやれぇっ!!」

 

そんな光景を見て額にギャグ汗を浮かべるシャルと、無責任に煽り立てる神谷。

 

「もう、神谷ったら………」

 

神谷のその姿に若干呆れながらも、シャルは笑みを浮かべる。

 

「へへっ」

 

そのシャルの笑みを見ると、神谷はごく自然にシャルの肩を摑み、自分の方へと引き寄せた。

 

「あ………」

 

シャルは少し驚いた様な様子を見せたが、特に抵抗する様な事はせず、神谷に身を委ねる。

 

「………桜、綺麗だね」

 

「ああ………」

 

舞い散る桜吹雪を見やりながら、そう言い合う2人。

 

「「…………」」

 

そのまま互いに見詰め合う2人。

 

周りの喧騒が、何処か遠いモノへとなって行く………

 

そして2人は、そのまま唇を重ねたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い長い戦いが終わりを告げた………

 

そして、其れと同時に………

 

世界は再び変わり始める。

 

女尊男卑の世の中から………

 

しかし、如何変わって行くのかは、未だ誰にも分からない………

 

何故なら、明日は無限に広がっているのだ。

 

そして、その無限に広がっている明日を切り開いていくのは………

 

彼等と彼女達なのだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………速報

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天元突破インフィニット・ストラトス………

 

劇場映画化決定!!

 

気になるその内容は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロージェノムとの戦いを終えて数ヶ月………

 

世界では未だ彼方此方で混乱が続いているが、無事に進級して平和を謳歌していたグレン団。

 

そんなグレン団の前に、突如現れた謎の奇妙な円盤………

 

そして、その中から現れたのは………

 

「グレン団! 君達を逮捕するっ!!」

 

「ええっ!? た、逮捕っ!?」

 

巫山戯(ふざけ)んなっ! いきなり出て来やがって勝手なこと抜かすんじゃ()え! 誰だテメェは!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀色の鎧に包まれた男は、こう名乗った………

 

「宇宙刑事っ! ギャバンッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あばよ涙 よろしく勇気




新話、投稿させて頂きました。

遂にエピローグ。
人類の受けた被害は甚大ですが、それでも大団円です。
一夏の修羅場はまだ続きそうですが(笑)

そしてオマケエピソード。
何と!!
宇宙刑事ギャバンが登場します!!

丁度これを執筆していた当時『ゴーカイジャーVSギャバン』が公開されまして、久々に見たギャバンのカッコ良さに熱が再燃しまして。
勢いに任せて、ゴーカイジャーのポジションをグレン団に置き換えた物を作ってしまいました。
よろしければお楽しみください。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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劇場版 グレン団VS宇宙刑事ギャバン
チャプター1


これは………

 

女尊男卑の定められた世界の運命に風穴を開けた男達と………

 

それに付き従った女達の物語の外伝………

 

宇宙に風穴を開け、世界を………地球を救ったグレン団と………

 

光の速さで明日へと駆け抜けた男が………

 

今、新たな嵐を巻き起こす!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時はグレン団とロージェノムとの決戦から数ヶ月………

 

世界の混乱も収まり、徐々にではあるが復興も進んでいる地球………

 

人類は、ロージェノムから受けた痛手から立ち直ろうとしていた。

 

しかし………

 

平和が続くと()()()()が出始める………

 

人間の負の象徴である。

 

ISの“絶対数”が僅か10数機となり、各国でグラパールの量産が進んで、“女尊男卑”の世界が再び“男女()()”に向かう中………

 

其れに不満を抱く者達が居た。

 

嘗ての女尊男卑の世界に於いて、驕り高ぶってしまった女達である。

 

元々、女尊男卑の世界は“ISの存在”に因り成立していたので、その“ISが無くなり掛けている世”では、その流れが衰退するのは必然である。

 

だが、其れを許容出来無い程に驕り高ぶってしまった女達は猛反発。

 

各国で過激な抗議活動が展開され、遂には政府に対してのテロ行為を行う者達が出始めた。

 

やがて、その女達は1つに集い始め………

 

“女の、女による、女の為の千年王国(ミレニアム)”を作ろうと言う妄想に取り憑かれ、『レディー・ミレニアム』と自称し始めた。

 

これに対し各国政府は、国連協議に於いて『レディー・ミレニアム』を“国際テロリスト”に指定。

 

徹底的な鎮圧を行う事を決定する。

 

今だにロージェノムから受けた痛手が回復していない事も有り、民衆達は『レディー・ミレニアム』に対して良い印象を持つ筈が無く………

 

ロージェノムとの戦いの後に再建された各国の軍隊も強化されており、『レディー・ミレニアム』のメンバー達は次々に逮捕・拘束されて行った。

 

更に、IS学園のグレン団もその鎮圧戦に駆り出され、遂に『レディー・ミレニアム』は完全壊滅した。

 

だが………

 

その『レディー・ミレニアム』鎮圧戦からIS学園に帰還しようとしていた、グレン団のインフィニット・ノアを………

 

謎の円盤が襲撃した!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・沖合………

 

IS学園が視認できる距離の海上上空を飛んでいるインフィニット・ノア。

 

その船体の彼方此方から爆炎が上がる!!

 

「キャアッ!」

 

「シャルッ!!」

 

艦橋内で倒れそうになったシャルを、神谷が抱き留める。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん………其れより、未だ尾いて来るの!?」

 

「ええ、キッチリ尾いて来てるわ」

 

シャルがそう声を挙げると、リーロンがそう言い、後方からインフィニット・ノアを追って来てるモノ………

 

銀色の円盤の下部に、蒼いブースターの様な物が付いている宇宙船をメイン・パネルに映し出す。

 

「イキナリ攻撃してくるたぁ、良い度胸じゃねえか!………!? おわっ!?」

 

神谷が軽口を叩くと、インフィニット・ノアに何度目かの直撃弾が命中し、艦体が揺れる。

 

「一体何なんですか!? あの円盤は!?」

 

「ひょっとして………地球を侵略しに来た宇宙人!?」

 

「若しそうだったとしても、如何して私達が狙われてるのよ!?」

 

虚とのほほんの声に、鈴がそう言い返す。

 

「きっと俺達の勇名を聞いて、真っ先に潰そうとして来たんだな!」

 

「ええい! 迷惑極まりない奴だ!!………!? うわっ!?」

 

一夏がそう言い、箒が叫びを挙げた瞬間にまたも直撃弾が命中する。

 

「兎に角、今は何とか逃げ切りませんと!!」

 

「もう直ぐ学園だ! 其処まで行けば何とかなる!!」

 

セシリアとラウラがそう言う中、インフィニット・ノアは反撃も儘ならぬ状態で、学園を目指して飛ぶ。

 

しかし、円盤からの攻撃は更に激しさを増す。

 

「オイ、リーロン! 何とかならねえのか!? やられっ放しは性に合わねえぜっ!!」

 

「そうね………一か八かやってみましょうか!」

 

と神谷がそう叫ぶと、リーロンが不敵に笑い、インフィニット・ノアが急降下。

 

そのまま派手に波飛沫を上げて、海中へ突っ込んだ!!

 

円盤はインフィニット・ノアを見失い、探す様にライトをユラユラと揺らす。

 

と、その次の瞬間!!

 

激しい水柱と共に、インフィニット・ノアが円盤の横に付ける様に浮上!!

 

同時に甲板が展開し、主砲が全門向けられる。

 

「今よっ!!」

 

「ブッ放せぇっ!!」

 

リーロンと神谷の声が響くと、インフィニット・ノアの主砲が一斉に火を噴く!!

 

円盤も気付いた様に反撃を開始する。

 

互いの攻撃が次々に命中し、激しい撃ち合いとなる。

 

「撃てぇっ!!」

 

と、そんな中放たれたインフィニット・ノアの主砲弾が円盤へと直撃!!

 

円盤は巨大な爆炎に包まれた!!

 

「やったぜっ!!」

 

「意外と呆気無かったな………」

 

歓声を挙げる神谷と、円盤がアッサリとやられた事に拍子抜けする一夏。

 

だが、その次の瞬間!!

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

爆炎の中から、“青い機械仕掛けの龍”が咆哮と共に姿を現した!!

 

「!?」

 

「何っ!?」

 

そして機械仕掛けの龍は、インフィニット・ノア目掛けて口から火炎を吐き出した!!

 

「!? うおわぁっ!?」

 

「おわぁっ!?」

 

「「「「「キャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」」」

 

忽ちインフィニット・ノアの彼方此方が爆発し、艦体は黒煙を上げながら降下を始める。

 

「エンジンが焼き付いたわ! 不時着するわよ!!」

 

リーロンがそう叫ぶ中、インフィニット・ノアは海面へ着水。

 

そしてそのまま、IS学園の船舶出入り用の港に乗り上げる様に不時着した!!

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

其れを見ながら、機械仕掛けの龍は変形して銀色の円盤へと合体。

 

先程インフィニット・ノアに撃墜されたかと思われた宇宙船へと姿を変えると、先回りする様にIS学園の上空に陣取る。

 

「イタタタタタタッ………皆! 大丈夫か!?」

 

「何とかな………」

 

一夏が呼び掛けると、艦橋の彼方此方に転がっていた箒達が、呻き声と共に身体を起こす。

 

「あの野郎!! 巫山戯やがってっ!!」

 

と其処で、神谷が怒りの声を挙げながら外へと飛び出して行った!!

 

「あ! 神谷っ!!」

 

「アニキッ!!」

 

「「「「!!」」」」

 

一夏とシャルが其れに続き、他のメンバーも後を追って行く。

 

 

 

 

 

外へと飛び出したグレン団メンバーを待ち受けていたのは、あの宇宙船だった。

 

学園の上空に陣取って、グレン団の面々が姿を現すのを待っていたかの様な宇宙船からサーチライトが伸び、グレン団の姿が照らし出される。

 

「うわぁっ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「チイッ!」

 

その眩しさに一瞬たじろぐグレン団。

 

やがて、サーチライトは宇宙船の下へと移動して行くと学園の校舎を照らし出し、まるでスポットライトの様になったかと思うと………

 

その場所へ光が降り注ぎ………

 

全身に“銀色に輝くアーマー”を纏った人物が姿を現した!!

 

「テメェ………一体何モンだっ!?」

 

神谷がそう問い質した瞬間!!

 

「チュウアッ!!」

 

銀色の男が声を挙げ、ポーズを取り始める!!

 

アーマーの各所の電飾の様な部分が発光する!!

 

「宇宙刑事っ! ギャバンッ!!」

 

そして、銀色の男………『宇宙刑事 ギャバン』は、神谷達に向かって、堂々たる名乗りを挙げた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙に風穴を開け、世界を………地球を救った英雄・グレン団。

 

 

 

 

 

宇宙の平和を守る為、宇宙警察より派遣された伝説の宇宙刑事・ギャバン。

 

 

 

 

 

出会う筈の無かったグレン団と宇宙刑事が………

 

今! 相対する!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・敷地内………

 

「グレン団! 君達を逮捕するっ!!」

 

校舎の屋上に陣取り、神谷達を見下ろしながらそう宣告する銀色の男………ギャバン。

 

「!? た、逮捕っ!?」

 

思わぬ言葉に、一夏が動揺する!!

 

「巫山戯るな!」

 

「そうだよ! 僕達は逮捕される様な事なんてして無いよっ!!」

 

箒が怒声を挙げ、シャルが反論する。

 

「チュウッ!!」

 

と其処で、ギャバンは校舎の屋上から跳躍し、地面へと降り立つ。

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

「…………」

 

神谷達が身構えると、ギャバンは無言のまま、神谷達の方へと歩き出して来た。

 

「へっ! 問答無用ってか? 良いぜ………その方が分かり易くてよ!!」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

神谷はそう言い放つと、コアドリルを握り、一夏達も待機状態のISを握り締める!!

 

「グレンラガン! スピンオンッ!!」

 

叫びと共に、神谷の姿がグレンラガンへと変わり、一夏達もISを纏った状態となる!!

 

「ムウッ! ドオォッ!!」

 

その瞬間ギャバンは先手を取る様に、両腕を水平に横に伸ばして右足を膝まで上げる、と言う独特のポーズを取って跳躍した!!

 

「ハアッ!!」

 

「トアッ!!」

 

一夏が雪片弐型、箒が雨月・空裂を横薙ぎに振るったが、ギャバンは着地と同時に転がる様にして回避。

 

「セエイッ!!」

 

「エエイッ!!」

 

続いて、龍王破山剣で斬り掛かって来た鈴を()なし、ハイパービームソードで斬り掛かって来たセシリアの腕を摑んで止める。

 

「タアアッ!!」

 

「ハアッ!!」

 

其処で、シャルとラウラがダブルハーケンとマジンガーブレードで斬り掛かって来るが、ギャバンはセシリアを突き飛ばすと、身体ごと回転しながらの裏拳で2人を弾き飛ばす!!

 

「キャアッ!?」

 

「ぬうっ!?」

 

「コイツッ!」

 

「其処ですっ!!」

 

其処へ再び、鈴とセシリアが左右から挟み込む様にして斬り掛かって来たが、ギャバンは両腕を曲げて両者の攻撃を受け止めると、そのまま素早い回し蹴りを鈴、セシリアへと連続で見舞った!!

 

「うわっ!?」

 

「キャアッ!!」

 

「この野郎っ!!」

 

其処でグレンラガンがギャバンに殴り掛かる!!

 

「!!」

 

ギャバンはグレンラガンが放って来た右の拳を、右腕で逸らしてから左手で下から叩き上げると、右の拳を見舞う。

 

「うおっ!? おりゃあっ!!」

 

ギャバンの拳を首を捻って躱すと、右手を手刀にして袈裟懸けの様に振るうグレンラガンだが、ギャバンは其れを右腕で受け止めると、腕を絡める様に回転させて弾き、左の拳をグレンラガンのボディへ叩き込む!!

 

「ゴハッ!? このぉっ!!」

 

「!!」

 

しかし、カウンター気味にグレンラガンも左の拳をギャバンのボディに入れ、両者は互いに強制的に距離を取らされる。

 

「アニキッ!!」

 

「ネーブルミサイルッ!!」

 

「其処ぉっ!!」

 

「ハンドビームッ!!」

 

「スケイル・バルカンッ!!」

 

「ゲッターブラストキャノンッ!!」

 

其処で一夏が、フラついたグレンラガンを受け止め、箒達が牽制を行う!

 

「ぐうっ!?」

 

箒達からの一斉射撃を受け、流石のギャバンもアーマーから火花を挙げながら後退し、壁にぶつかる。

 

しかし、直ぐに態勢を立て直す。

 

「一気に行くぞっ!!」

 

「「「「「「おおーっ!!」」」」」」

 

グレンラガンの掛け声で、一気にギャバンへ突撃するグレン団。

 

「ムンッ!!」

 

そのグレン団に向かって、ギャバンも突撃する。

 

最初に殴り掛かって来たグレンラガンを往なし、続いて鈴も往なす。

 

「「ハアッ!!」」

 

「チュウッ!!」

 

低い位置で振るわれた一夏と箒の雪片弐型と雨月・空裂を前転しながら跳んで躱すと、起き上がって直ぐにラウラにハイキックを見舞い、更に同じ足で隣に居たセシリアも蹴り飛ばす。

 

「グウッ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「ラウラ! セシリア!」

 

「チュウッ! スパイラルキックッ!!」

 

2人を助けに行こうとしたシャルに、ギャバンは必殺キック・スパイラルキックを叩き込む!!

 

「うわぁっ!?」

 

派手に弾き飛ばされて、地面の上を転がるシャル。

 

「このっ!」

 

「セアアアッ!!」

 

「ハイィッ!!」

 

「!!」

 

とその背後から、一夏・箒・鈴が一斉に斬り掛かったが、ギャバンは身体を捻る様に跳躍し、一夏達を飛び越えて背後に周る!

 

「レーザー! Zビームッ!!」

 

そして、そう叫びながら一定のポーズを取った後、右手を前に突き出したかと思うと、指先から『く』の字状の光線が2方向に連続発射され、一夏と箒に命中した!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

「くあっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

吹き飛ばされた一夏と箒の下敷きになり、鈴までもが倒れる。

 

「テメェッ!!」

 

「チュウッ!!」

 

グレンラガンがまたもギャバンに殴り掛かったが、ギャバンは大きく跳躍して再び学園校舎の屋上へと着地する。

 

「むんっ!」

 

そして、腕を左に構える様なポーズを取ったかと思うと、右手に両刃の片手持ちの長剣………レーザーブレードが出現する。

 

レーザーブレードを握った状態で構えを取るギャバン。

 

「野郎っ!」

 

と、グレンラガンは胸のグレンブーメランを右手に握ると、ギャバンを追って跳躍。

 

「ハアッ!!」

 

「むうんっ!!」

 

そのままギャバンと斬り結ぶ!!

 

「デリャアッ!!」

 

「チュウッ!!」

 

初撃を防がれると、直ぐ様身体を回転させて2撃目を叩き込むが、コレも防がれる。

 

「クッ!! デリャアアッ!!」

 

するとグレンラガンは、片腕での突きを繰り出したが………

 

「チュウッ!!」

 

「! おわあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?」

 

その腕を逸らされたかと思うと、そのまま逆袈裟の1撃を喰らい、火花を撒き散らしながらブッ飛ばされて屋上から落ち、地面に叩きつけられた後、転がる。

 

「神谷っ!」

 

シャルが慌てて駆け寄って助け起こす。

 

「チキショウッ! やるじゃ()えかっ!!」

 

頭を擦りながら起き上がるグレンラガン。

 

「アニキッ! 一斉攻撃だっ!!」

 

「おっしっ! グレンストームッ!!」

 

「爆熱ぅっ! ゴッドッ! フィンガアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

「ゲッタアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーービイイイイイイイィィィィィィィィーーーーーーーーーームッ!!」

 

「ツインフォトンキャノンッ! 発射ぁっ!!」

 

「マグマ・ヴァサールッ!!」

 

「スペースサンダーッ!!」

 

「サンダーブレークッ!!」

 

其処で、グレン団はギャバン目掛けて一斉攻撃を行う。

 

しかし!!

 

「バリアーッ!!」

 

ギャバンはそう叫んで、左の拳を前へと突き出したかと思うと、ギャバンの前面に光の壁が出現!

 

グレン団の一斉攻撃を、容易く防いでしまった!!

 

「なっ!?」

 

「防がれただとっ!?」

 

「「「「!?」」」」

 

「マジかよ………」

 

その光景に、一夏達は唖然とし、グレンラガンも驚きを露わにする。

 

「レーザーブレードッ!!」

 

と其処で、ギャバンはそう声を挙げながら、レーザーブレードを身体の前で横にして、左手で刀身を撫でる様にした。

 

すると、刀身にエネルギーが注入されて白く発光する。

 

其れと同時に、ギャバンの目にも光が(とも)る。

 

「チュウアッ!!」

 

その発光するレーザーブレードを振るったかと思うと、刀身に注入されていたエネルギーが鞭の様に(しな)り、グレンラガン達に巻き付いて、一気に拘束する!

 

「おわっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「くうっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

グレンラガン達が思わず声を漏らした次の瞬間!!

 

巻き付いていた光は、まるでロープの様にグレン団のメンバー1人1人に巻き付く!!

 

そして一同が地面に倒れ伏した瞬間、“グレンラガンとISの装着が()()()()された”!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「ISが強制解除されたっ!?」

 

驚いている神谷達の元へギャバンが降り立つ。

 

そして、神谷の首から下げられていたコアドリルを取り上げる。

 

更に、一夏達の待機状態に戻ったISも取り上げて行く。

 

「テメェッ!!」

 

神谷がそう声を挙げた瞬間!!

 

ギャバンの身体が光り輝き、その姿が貫録を感じさせる壮年の男………『一条寺 烈』へと姿を変えた!

 

「銀色の輝きは伊達じゃ無いぜ」

 

烈は不敵にそう言いつつ、人差し指と中指を合わせて伸ばした状態の右手を米神の辺りに当て、シュッと振る。

 

「此方ギャバン。“例の一団”を逮捕しました」

 

そして、拘束を解こうと藻掻く神谷達を尻目に、何処かへとそう通信を送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後………

 

IS学園へ急ぎ向かう影が在った。

 

「急いで!早く!」

 

「分かってますよ!!」

 

「一夏さん!」

 

「神谷!!」

 

「皆! 無事で居て!!」

 

「…………」

 

楯無・弾・蘭・ティトリー・フラン・簪の面々である。

 

神谷達が、レディー・ミレニアムの壊滅任務に向かっていた間、日本での報復テロを警戒して居残っていたのだ。

 

予想通り、作戦が開始されると日本国内で報復テロが行われようとしたが、彼女達の活躍によって阻止された。

 

しかし、帰還中の神谷達が“謎の敵に襲撃されている”と言う報告を聞き、現在大慌てでIS学園へと引き返している。

 

「見えた! 学園だ!!」

 

と、グラパール・弾が漸くIS学園を視認し、そう声を挙げる。

 

「!? 何アレッ!?」

 

その次の瞬間には、ファイナルダンクーガ(ティトリー)が声を挙げる。

 

何故なら、校舎の影から巨大な円盤………『超次元高速機 ドルギラン』が浮上し始めたからだ。

 

「!? アレは!?」

 

「「「!?」」」

 

楯無が驚きの声を挙げ、他の一同も思わず足を止めてしまった瞬間!

 

ドルギランは、IS学園に背を向ける様にして何処かへと飛び去ってしまう。

 

「い、今のは、ひょっとして………?」

 

「そんな………遅かったの!?」

 

「…………」

 

グラパール・蘭とフランが動揺し、簪は無言のままドルギランが飛び去った方向を見遣るのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャプター2へ続く




新話、投稿させて頂きました。

遂に始まった劇場版。
ゴーカイジャーVSギャバンをベースに、宇宙刑事ギャバンが登場。
原作通りとは言え、グレン団を圧倒する強さを見せます。
若干思い出補正も入ってるのは内緒(笑)
果たして逮捕されてしまった神谷達の運命は?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター2

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如としてグレン団の前に現れた、銀色の勇者(ゆうじゃ)・ギャバン。

 

“グレン団を逮捕する”と宣言したギャバンと、グレン団は激しい戦いを繰り広げたが………

 

ギャバンの圧倒的な強さの前に、グレン団は敗北………

 

神谷達は捕らわれの身となってしまう。

 

そしてギャバンの宇宙船・超次元高速機ドルギランに乗せられた神谷達は、何処かへ連れて行かれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超次元高速機ドルギラン内部・拘置室の檻の中………

 

神谷達はコアドリルとISを取り上げられ、手錠を掛けられた上で檻の中へと入れられている。

 

「何なのよ、もう~!」

 

鈴が、イラついた様子も露わに填められた手錠を檻の鉄格子へと叩き付ける。

 

「この私が逮捕される等とは………」

 

「屈辱ですわ………」

 

ラウラとセシリアも、手錠を填められて檻に入れられた事が余程苦痛であるかの様に顔を歪める。

 

「僕達………コレから如何なるんだろう?」

 

「まさか………死刑にされるのか?」

 

シャルと箒が、不安そうにそう呟く。

 

「し、死刑っ!? まさかそんな!?」

 

“死刑”と言う単語を聞いた一夏が慌ててそう言うも、現状ではその意見を否定出来る要素が無かった………

 

「チイッ! 出せっ!! こっから出しやがれっ!!」

 

神谷が、怒りの声と共に鉄格子を何度も蹴飛ばすが、鉄格子はビクともしない。

 

「大丈夫よ。きっと居残ってた弾や蘭達が助けに来てくれるわ」

 

「そうだな。リーロン達も捕まっていない。必ず助けに来てくれる筈だ」

 

そんな中で、鈴とラウラは居残っていたので無事の弾達と逮捕されなかったリーロン達の救援に期待するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして………

 

ドルギランは、何処かの建設途中と思われるドーム型のスタジアムへと到着。

 

その中には、如何にも高官と言った感じの制服を着た女性と、小銃を構えた兵士の様な連中が佇んでいる。

 

其処で、ドルギランの下部から光の柱が伸びたかと思うと、烈と神谷達が女性と兵士達の前に姿を現す。

 

その瞬間、兵士達は一斉に小銃を構える。

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「…………」

 

イキナリ銃を向けられて身構える一夏達と、飽く迄堂々としている神谷。

 

「宇宙警察総裁。御指示通り、グレン団の主要メンバーを連行して来ました」

 

「うむ、御苦労………流石は宇宙最強の刑事であるな」

 

「宇宙警察総裁」と呼ばれた女性に烈がそう報告すると、宇宙警察総裁は“独特な喋り方”をしながら、烈にそう返す。

 

「フフフフフ………お前達かい? グレン団とか言う連中は?」

 

「ケッ!」

 

宇宙警察総裁が神谷達を見ながらそう問うと、神谷は不快さを隠さずに目を逸らす。

 

「フン! 生意気だね! まあ良い………そんな態度もコレまでじゃ。処刑せよ!!」

 

そんな神谷の態度を見た宇宙警察総裁は、即座にそう指示する。

 

「!? ええっ!?」

 

「そんな!? いきなり処刑だなんて!?」

 

「横暴だっ!!」

 

いきなり“処刑判決”を下して来た宇宙警察総裁に、一夏達が反論する。

 

「黙れっ! ()()処刑じゃっ!!」

 

しかし宇宙警察総裁がそんな一夏達の抗議を一蹴すると、兵士達が神谷達を処刑台へと連行する。

 

「さ、触らないで下さいまし!」

 

「ヤダよぉっ! 処刑なんてやだよぉっ!!」

 

「チキショウがぁっ!!」

 

抵抗虚しく、次々に手錠に縄を掛けられて宙吊りにされて行く神谷達。

 

「………総裁。1つだけ確認させて貰っても宜しいですか?」

 

すると其処で、ギャバンが宇宙警察総裁に向かってそう尋ねた。

 

「何じゃ?」

 

「彼等は“処刑される様な事”をしたのですか? 彼等は『何もしていない』と言っていますよ?」

 

「フン! 奴等の言い分なぞ聞く必要は無い!」

 

「馬鹿な………宇宙警察がそんないい加減(デタラメ)で良いんですか!?」

 

宇宙警察総裁の返答に、烈は反論する。

 

「黙れい!!」

 

と宇宙警察総裁がそう叫んだ瞬間、兵士達が一斉に宙吊りにされている神谷達に向かって小銃を構える。

 

「此奴等は(いず)()()()()()()()となる! 今の内に始末するのじゃ!!」

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

と、思わず感情を露わにそう言い放った宇宙警察総裁の言葉に、神谷達が驚きを露わにする。

 

………その瞬間!

 

「……とうとう本音を吐いたな。宇宙警察が何故“侵略”等企てる!?」

 

烈がそう言い放ち、右手の中に隠していた機械のボタンを押した!

 

すると、神谷達の手に填められていた手錠が開錠される!!

 

「!? うおっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

神谷達が重力に引かれて落下すると、直後に兵士達の小銃が火を噴き、先程まで神谷達が居た位置を銃弾が通過する。

 

「野郎っ!!」

 

「フッ!!」

 

その次の瞬間には神谷が兵士達に向かって行き、烈がレーザーブレードの刃を宇宙警察総裁の喉元に突き付けた!

 

「オラァッ! オラァッ!」

 

小銃の銃弾が直ぐ傍を掠めても身動(みじろ)ぎ1つせず、兵士達を殴り飛ばして行く神谷。

 

「ギーッ!?」

 

すると殴り飛ばされた兵士の1人が、床の上に転がったかと思うと“異形の姿”に変わる。

 

「!? 何だコイツは!?」

 

「宇宙犯罪組織『マクー』の元戦闘員、『クラッシャー』だ。宇宙警察の武装警官に化けていたんだ」

 

神谷が驚きの声を挙げると、烈がそう言って来た。

 

「手荒な真似をしてすまなかったな。コイツは総裁に化けて宇宙警察を乗っ取ろうとしている。其れを止めるには、こうするしか無かったんだ」

 

「そうだったのか………」

 

すまなそうに話す烈に、一夏が納得が行った様な表情となる。

 

「貴様も正体を表せ!」

 

「…………」

 

烈が偽総裁に向かってそう叫ぶと、偽総裁は烈を睨み付ける。

 

「………フフフフフ………ハッハッハッハッハッ!!」

 

と、その直後に高笑いを挙げたかと思うと、身体から黒紫色のオーラを放出し始めた!

 

「!!」

 

烈は1歩退き、レーザーブレードを構え直す。

 

「我は、暗黒宇宙の支配者………『暗黒銀河女王』」

 

そしてオーラが晴れると、其処には黒色の豪華絢爛な衣装に身を包み、魔術師を思わせる長い杖を右手に持った女………暗黒宇宙の支配者『暗黒銀河女王』が姿を現した。

 

「流石はギャバンだね。コイツ等を餌にこの私を(おび)き出すとはねえ。考えたじゃないか………けど、“詰めが甘い”よ!」

 

「何ぃっ!?」

 

暗黒銀河女王の台詞に、烈が如何言う意味だと言う表情をした瞬間!!

 

その足元が爆発する!

 

「ふうあっ!?………!?」

 

その爆風で吹き飛ばされた烈が膝を突いていると、その場に右手に銃の様な物を握った“()()()()()()()に包まれた人型のマシン”が現れる。

 

その姿は、ギャバンに酷似している。

 

「見たかい、ギャバン? これこそ、宇宙警察の技術と私の暗黒呪術を使って生み出した最強の戦士………『ギャバンブートレグ』だよ!!」

 

驚いている様子の烈に、暗黒銀河女王はそう言い放つ。

 

ギャバンに酷似したマシン………『ギャバンブートレグ』は、カメラアイで烈の姿を捉えると、機械音を立てながら突撃して来る!

 

「!!」

 

烈は、最初に繰り出されたギャバンブートレグの右の拳を()なし、続いて繰り出された左の拳も往なすと右の裏拳を姿勢を低くして躱し、右の拳を繰り出す。

 

しかし、ギャバンブートレグも右の拳を繰り出し、両者の拳が互いのボディに叩き込まれる。

 

互いに一瞬怯むが、ギャバンブートレグは右脚を蹴り上げて来る。

 

「!!」

 

烈は、両腕を交差させてギャバンブートレグの蹴り上げを防ぐと、続いて繰り出された右の拳を左腕で逸らし、そのまま腕を摑んで捕まえる。

 

「デヤァッ!!」

 

そのままボディにパンチを打ち込むと、摑んでいた腕を振り回す様にしてギャバンブートレグを投げ飛ばす。

 

「ツェアッ!!」

 

続けて蹴りを繰り出すが、コレは防がれる。

 

そして、ギャバンブートレグから繰り出された蹴りを防ぐと、裏拳の様に腕を振るったが、今度はギャバンブートレグがその腕を摑んで烈を投げ飛ばす。

 

「おわっ!?」

 

だが、烈は難無く着地を決めると、互いに身体を回転させての裏拳を繰り出してぶつけ合う。

 

ギャバンブートレグは反対の腕で烈の腕を上へと弾き上げると右の拳を繰り出すが、烈は軽く往なす。

 

すかさず、カウンターの烈の右拳が繰り出されるが防がれる。

 

其処でギャバンブートレグは、右腕を曲げてタックルの様に肘を当てようとしたが、烈は腕を交差させた防御姿勢で受け止める。

 

「俺の能力を複製したのか?」

 

烈がギャバンブートレグを睨みながらそう言うと、握っていた右の拳を開いて烈との組み合いを解く。

 

そして烈が繰り出した右拳を弾くと、右肘を烈の腹に叩き込む!

 

「ぐうっ!?」

 

怯んだ烈に、素早くハイキックが叩き込まれる!

 

「うおわっ!?」

 

真面に喰らった烈は、神谷達の前に転がる。

 

「! オイッ!!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

思わず烈の心配をする神谷達。

 

「ギャバン! グレン団と共に地獄へ送ってやるよ!!」

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

と、烈が口の端を拭いながら立ち上がると、暗黒銀河女王がそう言い放って兵士達が全員クラッシャーの姿となる。

 

クラッシャー達は直ぐ様烈と神谷達を取り囲む。

 

「! 囲まれたぞっ!」

 

「巻き込んですまなかった………後は俺がカタを着ける! 君達は逃げろっ!!」

 

箒が思わず声を挙げると、烈がそう言って来る。

 

「で、でも! この数じゃ!?」

 

シャルが烈にそう言うが………

 

「大丈夫ーっ!!」

 

烈は気合を入れる様に身体を動かしたかと思うと、上着の懐へ手を入れる。

 

そして上着から手を抜いたかと思うと、その手にはコアドリルと待機状態のISが握られており、其れを後ろに居た神谷達に投げ渡す。

 

「おっ!」

 

「IS!!」

 

「助かりました!」

 

「コレさえ有れば!!」

 

ISを取り戻した事で、活路を見い出す一夏達。

 

「フッ………“()()()()()()”!………だよっ!!」

 

烈は、一瞬一夏達の方を見遣って不敵に笑ったかと思うと、そう言い放って例の“人差し指と中指を合わせて伸ばした状態の右手を米神の辺りに当て、シュッと振る”動作をする。

 

「!?」

 

その瞬間、神谷が驚きを露わにして烈を見遣った。

 

(“よろしく勇気”………まさか!?)

 

「むうっ!!」

 

何かを思い起こしている様な神谷を他所に、烈はクラッシャー達へと突撃!!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

最初のクラッシャーを往なすと、続いて襲い掛かって来たクラッシャーの攻撃を防ぎ、カウンターで顔にパンチを叩き込む!

 

そして最初のクラッシャーが右手のナイフで再び突き刺そうとして来た処を、その腕を左脇に抱える様にして抑え込み、別の襲い掛かって来たクラッシャーを蹴り飛ばす!

 

其処で抑えていたクラッシャーを解放すると同時に殴り飛ばし、別の襲い掛かって来たクラッシャーの攻撃を逸らすと共に横っ面に裏拳を叩き込む。

 

「チュウッ!!」

 

其処で跳び上がり、右側に居たクラッシャーに右脚を叩き込むと、即座に左側に居たクラッシャーを左脚で蹴り飛ばした!

 

着地と同時に襲い掛かって来たクラッシャーのナイフを弾くと、顔に裏拳を叩き込む!

 

「ギーッ!!」

 

「!?」

 

其処へ、クラッシャーの1人が両腕を組んでハンマーパンチの様に振り下ろして来るが、烈は左腕で防ぐと右の拳をボディ、顔と連続で叩き込む!

 

更に、受け止めていた腕を摑んで回転させる様に背中から床に叩き付けると、腹に素早く右左右と3発の拳を叩き込む。

 

「!!」

 

「フフフフフ」

 

其処で烈は、今だ不敵に笑っている暗黒銀河女王を睨み据える。

 

「蒸着っ!!」

 

そして次の瞬間には、光球となってクラッシャー達を蹴散らして突撃。

 

光が弾けると、ギャバンとなった烈が暗黒銀河女王にレーザーブレードで斬り掛かる。

 

しかし傍に控えていたギャバンブートレグが、自分のブートレグブレードで受け止める。

 

そのままギャバンとギャバンブートレグは、剣戟へと突入する。

 

体術を交えての激しい剣戟が、ギャバンとギャバンブートレグの間で交わされる。

 

「白神!!」

 

「チェンジ! 真ゲッターッ!!」

 

「ダブルエックスッ! 起動っ!!」

 

「龍虎合体っ!!」

 

「グレンダイザー、GO!!」

 

「マジンゴーッ! ファイヤーオンッ!!」

 

其処で一夏達もISを装着し、周りを取り囲んでいるクラッシャー達との戦闘を始めた!!

 

「…………」

 

しかし、神谷だけは1人物思いに囚われているかの様子で居た。

 

「? アニキッ?」

 

「神谷っ?」

 

その様子に気付いた一夏とシャルが、()()()()()神谷の姿に困惑する。

 

「…………」

 

そんな2人の様子にも気付かず、先程から神谷の視線は、ギャバンブートレグと剣戟を交えているギャバンへと注がれている。

 

(よろしく勇気だ)

 

先程のギャバンの言葉を思い出すと、神谷の脳裏に“或る記憶”が(よぎ)る。

 

ギャバンと同じく、“人差し指と中指を合わせて伸ばした状態の右手を米神の辺りに当て、シュッと振る動作”をする人物。

 

そして、その人物の大きな手………

 

「まさか………?」

 

と、神谷がそう呟いた瞬間!!

 

爆発音が響き渡り、スタジアムの一角が展開していたクラッシャー諸共大爆発した!!

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

「お待たせぇーっ!!」

 

「アニキ! 無事っすかっ!?」

 

「一夏さん! 大丈夫ですか!?」

 

「ゴメン!遅れたっ!!」

 

「皆コッチへ! 外にインフィニット・ノアも来てるから!!」

 

「…………」

 

一夏達がその場所を見遣ると、爆煙の中から楯無、グラパール・弾、グラパール・蘭、ファイナルダンクーガ(ティトリー)・フラン・簪が姿を現した!!

 

「! 楯無さんっ!!」

 

「フランか! 助かったぞっ!!」

 

一夏とラウラがそう声を挙げ、グレン団の面々は掩護を受けながらスタジアムに開いた穴からの脱出を試みる。

 

「…………」

 

しかし、神谷だけは苦悩するかの様な表情で立ち止まったままだった。

 

「!? 神谷っ!? 何してるの!? 急いで!!」

 

シャルが慌ててそう呼び掛ける。

 

「…………」

 

その神谷の視線は、相変わらずギャバンへと注がれている。

 

「………クッ!!」

 

しかし、その苦悩を振り切る様に一夏達の後を追う。

 

だが、その顔には未練が読み取れる。

 

「神谷………」

 

そんな神谷の顔を見たシャルは、一瞬ギャバンの姿を見遣ったが、直ぐにスタジアムから脱出するのだった。

 

[皆さん!!]

 

[おりむー! かみやん! 良かった~っ!!]

 

[急いで! 離脱するわよっ!!]

 

スタジアムの外に待機していたインフィニット・ノアから、虚・のほほん・リーロンの声が響いて来ると、グレン団が収容される。

 

「良しっ! 私達も撤収よっ!!」

 

「………了解」

 

其れを確認した楯無がそう叫ぶと、簪がスモークディスチャージャーから煙幕弾を発射!

 

更に弾幕を張りながら後退する。

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

煙と弾幕に巻かれたクラッシャー達は、グレン団を追撃出来ない。

 

その間に、楯無達もインフィニット・ノアへと収容される。

 

[グレン団の全員を収容しました!]

 

[OK! 離脱するわよ!!]

 

[逃げろ~っ!!]

 

再び、虚・リーロン・のほほんの声が響くと、インフィニット・ノアはその場から急速離脱するのだった。

 

「フン! グレン団の処刑は後回しだよ!!」

 

其れを見た暗黒銀河女王は、特に悔しがる様子も見せずにそう言い放つ。

 

まるで、“奴等の始末なぞ何時でも出来る”とでも言う様に。

 

「ブートレグよ! ギャバンを『」魔空《マクー》空間』へ引き摺り込むのだ!!」

 

と、暗黒銀河女王がそう命じると、其れまでギャバンと剣戟を交わしていたギャバンブートレグが、不意を衝いてギャバンを抑え込んだ!!

 

そして、ギャバンブートレグの目が赤く発光を始める。

 

「『魔空空間』だと!? 馬鹿な!? “宇宙犯罪組織マクー”は()()()筈だ!?」

 

『魔空空間』と言う言葉を聞いたギャバンが驚きの声を挙げた瞬間!

 

ギャバンブートレグの後方に、“赤紫色のブラックホールの様な物”が出現!!

 

「!? ふうわあぁっ!?」

 

其れは一瞬にして巨大化し、ギャバンとギャバンブートレグ、暗黒銀河女王を呑み込んだかと思うと、一気にスタジアム全体へと広がった!!

 

やがて、赤紫色のブラックホールの様な物は消えたかと思うと………

 

後には、処刑台はそのままに、一部が崩落しているスタジアムのみが残されていたのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャプター3へ続く




新話、投稿させて頂きました。

ギャバンの襲来は、宇宙警察総裁の指示によるものだった。
しかし、その総裁こそ、暗黒宇宙の支配者である『暗黒銀河女王』だった。
宇宙警察を乗っ取り、地球侵略を企てていた暗黒銀河女王を誘き出す為、ギャバンはその指示に従うフリをしたのだった。

暗黒銀河女王と言うのは、PS2ゲーム『宇宙刑事魂』に登場したゲームオリジナルの敵です。
ゲーム事態の出来はちょっとアレだったのですが、この暗黒銀河女王を演じたのはあの名優『曽我町子』さんなのです。
事実上、この役が最後の役となっているので、私のとっては思い入れのあるキャラなのです。
ゴーカイジャーVSギャバンの悪役をそのままは使えなかったので、別のキャラを入れようと思った際、このキャラしかいないと思いまして。

さて、捕らわれの身となったギャバンですが、実は神谷との意外な関係が?

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター3

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙刑事ギャバンに逮捕され、あわや処刑されそうになったグレン団。

 

しかし………

 

其れは、宇宙警察総裁に化けて“地球侵略”を目論んでいた『暗黒銀河女王』の陰謀であった。

 

その陰謀に気付いたギャバンはグレン団を使い、宇宙警察総裁に化けた暗黒銀河女王を誘い出したのである。

 

だが、宇宙警察の技術を盗み出して自らの持つ暗黒呪術によって、ギャバンの能力を複製した悪の戦士………

 

『ギャバンブートレグ』により、ギャバンは魔空空間へと引き摺り込まれてしまう。

 

無事に暗黒銀河女王の手を逃れたグレン団だったが、神谷は()()()ギャバンの事を気に掛けていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園地下・リーロンの研究室………

 

「皆さん! 御無事で何よりです!!」

 

「全く………“捕まった”と聞いた時は冷や冷やしたぞ」

 

学園へと帰還したグレン団は、リーロンの研究室へと集結し、真耶と千冬からそう言葉を掛けられていた。

 

「ゴメン、千冬姉」

 

「山田先生にも、ご心配をお掛けしました」

 

一同を代表する様に、一夏と箒が2人にそう返す。

 

「全く、一時は如何なるかと思ったわよ」

 

「ふふふ~。絶妙のタイミングだったでしょ? 私達」

 

鈴が愚痴る様にそう呟くと、楯無が不敵に笑いながらそう言う。

 

「やっぱり、“真打ち”は遅れて登場するものよね」

 

「出来れば、もう少し早く助けて貰いたかったな………」

 

「そうですわ。お蔭で大変な目に遭いましたわ」

 

しかし、ラウラとセシリアが楯無にそう返す。

 

「アハハ、メンゴメンゴ」

 

「まあまあ、良いじゃない。皆こうして無事だったんだからさ」

 

然程反省している様子の無いまま楯無が謝罪すると、シャルがそう宥める様に言う。

 

「そうそう」

 

「終わり良ければノープロブレムですよ」

 

弾と蘭も、笑いながらそんな事を言う。

 

「…………」

 

しかし、只1人神谷が………

 

“何か考え込んでいる”様な様子を見せていた。

 

「? 神谷? 如何かしたの?」

 

其れに気付いたシャルが、神谷に向かって尋ねる。

 

「ん? いや、別に………」

 

「如何したんだよ、アニキ? 妙に歯切れが悪いじゃないか」

 

歯切れの悪い答えを返す神谷に気付いた一夏がそう言うと、一同の視線が神谷に集まる。

 

「………気になるの? あの宇宙刑事さんの事が?」

 

するとシャルが、神谷が(しき)りにギャバンを見ていたのを思い出してそう尋ねる。

 

「………俺は昔………()()()()()()()気がするんだ………アイツに」

 

其処で神谷はそんな言葉を呟いた。

 

「えっ?」

 

「“逢った”って………」

 

「宇宙刑事………ギャバンさんに?」

 

のほほん・虚・ティトリーが驚いた声を挙げ、他の一同も首を傾げる。

 

「…………」

 

しかし、其処で神谷は黙り込んでしまう。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

其れを見て、一夏達は尋ねて良いモノか悩み、沈黙する。

 

「………ねえ、神谷。詳しく聞いても………良いかな?」

 

やがて、シャルが意を決した様にそう尋ねた。

 

「…………」

 

沈黙を続ける神谷。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

一同の視線が神谷に集まる。

 

「…………」

 

やがて神谷は座っていた椅子から立ち上がり、一同に背を向ける様に位置取る。

 

「………覚えてるか、一夏? ガキの頃………デパートに行って、火事に巻き込まれた事が有ったろ?」

 

そしてそのまま、一夏に向かってそう問い掛ける。

 

「! ああ! 其れなら覚えてるよ!! 確か、アニキが逃げ遅れて、もう駄目だと思ってたんだけど、無事に助かったんだよね!?」

 

一夏は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いているその事件を思い出し、声を挙げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想………

 

神谷と一夏が出会って間も無い幼き日の頃………

 

その日2人は、近所に出来た“大型デパートの中を探検する”と言う子供らしい遊びをしていた。

 

だがしかし………

 

突如としてそのデパートで火災が発生し、2人は巻き込まれてしまう。

 

一夏は如何にか避難する事に成功したが、神谷は逃げ遅れてしまった………

 

「うう! クソッ!!」

 

悪態を()きながら、燃え盛るデパートの中を逃げ回る神谷。

 

如何に神谷と言えど、この頃は年端も行かぬ少年………

 

グレンラガンも無く、螺旋力も覚醒していない状態である。

 

燃え盛る火事の炎の前には無力だった。

 

其れでも、何とか“本能”で逃げ道を探し出して2階の吹き抜けが在る場所まで辿り着く事に成功する。

 

「!? うわぁーっ!?」

 

だが炎は、益々勢いを増して行き、直ぐ目の前で炎に巻かれた人が吹き抜けから落下して行った。

 

「!?」

 

その光景に恐怖して慌てて逃げようとする神谷だったが、その瞬間に天井が崩れて前方の通路を遮ってしまう!

 

「!?」

 

更に今来た道にも瓦礫が降り注ぎ、横からは炎が上がった。

 

完全に逃げ道が無くなり、神谷は立ち往生してしまう。

 

「えほっ! えほっ! チキショーッ!!」

 

ドンドン立ち籠めて来る煙に()せながら、神谷は吹き抜けとなっている場所の手摺に寄り掛かる。

 

すると………

 

「跳べぇっ!!」

 

「!?」

 

下からそう叫ぶ声が聞こえて、吹き抜けの空間の下を見遣る神谷。

 

其処には、“炎の中に()()()()()”1人の男の姿が在った。

 

しかし、神谷の記憶が曖昧になっているのか、顔に影が差して良く分からない。

 

「!? 跳べ、って………」

 

神谷は、男に言われた言葉を思い出して躊躇する。

 

先程も言った通り、この時の神谷は未だ“少年”………

 

今、神谷が居る2階部分から男が立っている1階の床までは、10メートル近い高さが有る。

 

其処から”跳べ”と言われても、そう簡単に跳べるものでは無い。

 

「無理だ………俺は………死ぬ………」

 

徐々に大きくなる恐怖に、少年・神谷の心は押し潰されそうになっていた。

 

(オトコ)なんだろ!?」

 

「………!!」

 

しかし、1階に立っている男は神谷にそう呼び掛ける。

 

「此処で死ぬのは()()()()だ!………だが、君さえその気になれば、君の行く手にはきっと“素晴らしい未来”が有る!!」

 

男は、更にそう言葉を続ける。

 

「其れを摑み取る為に、勇気を出せ! “あばよ涙、よろしく勇気”だ!!」

 

そう言って、男は“人差し指と中指を合わせて伸ばした状態の右手を米神の辺りに当て、シュッと振る”動作をした。

 

「…………」

 

その言葉を受けて、神谷は右手で拳を握る。

 

「………よろしく………勇気」

 

そして、人差し指と中指をビシッ伸ばしたかと思うと意を決した表情となり、吹き抜けの柵に足を掛けた!

 

だが勢い良く跳んだ瞬間、真上の階で爆発が発生!

 

「!? うわあぁっ!?」

 

その爆風に煽られ、落下速度が加速する!!

 

男は、落下してくる神谷に向かって両腕を伸ばす。

 

神谷も、男に向かって両腕を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園地下・リーロンの研究室………

 

其処で回想は終わり、時は再び現在へと戻る。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

神谷の回想を聞いた一夏達は、皆思う所が有る様な表情を浮かべていた。

 

「………で、今の俺が在るってワケだ」

 

其処で神谷は、そう話を締める。

 

「だとしたら………あの宇宙刑事さんは、“神谷の命の恩人”って事?」

 

「…………」

 

シャルの問い掛けに、神谷は一同の方を振り返る。

 

と、その瞬間!!

 

「フハハハハハハハッ!!」

 

研究室内に高笑いが響き渡り、暗黒銀河女王が姿を現した!!

 

「!? 暗黒銀河女王!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

突如現れた暗黒銀河女王に一同は慌てる。

 

「!!」

 

と、簪が先手を打つ様にアーマーマグナムを発砲した!!

 

「ハハハハハハハハッ!!」

 

しかし、アーマーマグナムの弾丸は暗黒銀河女王の身体を擦り抜ける。

 

「!?」

 

「止めなさい。其れは立体映像(ホログラム)みたいなモノよ」

 

驚く簪に向かって、リーロンがそう言う。

 

「ふふふふ、元気そうだねえ、グレン団」

 

立体映像(ホログラム)の暗黒銀河女王は、グレン団の面々を見ながらそう言い放つ。

 

「テメェッ! 何しに来やがった!?」

 

「何をしに? フハハハハハハッ! お前達に“最後の挨拶”をしに来てやったのさ!」

 

神谷がそう問い質すと、暗黒銀河女王はまたも高笑いを挙げながらそう言い放つ。

 

「!? 最後の!?」

 

「そう。間も無く私の“地球侵略作戦”は開始される。そうなればお前達に勝ち目は無い。だから()()()()()()をしに来てやったのさ」

 

暗黒銀河女王は、既に勝利を確信している様子でそう言い放つ。

 

巫山戯(ふざけ)んな!!」

 

「地球侵略作戦だと? 一体何を企んでいる?」

 

神谷が怒鳴るが、千冬は冷静に暗黒銀河女王の作戦を探り出そうとする。

 

「冥途の土産に教えてやるよ。宇宙刑事ギャバンは、今マクー空間に引き摺り込まれた」

 

すると、勝利を確信している暗黒銀河女王はペラペラと喋り出す。

 

「マクー空間?」

 

「嘗て宇宙犯罪組織マクーによって作られた、邪悪なエネルギーに満ちた空間さ。首領であるドン・ホラーがギャバンに倒されて以来、縮小を続けていたがね」

 

リーロンの疑問の声に、暗黒銀河女王は得意気に説明する。

 

「だが! そのドン・ホラーが最も憎んでいる相手! 宇宙刑事ギャバンを生贄に捧げる事により!! マクー空間は再び拡大するのさ!!」

 

「拡大すると………如何なるんですか!?」

 

「やがては地球を呑み込み、“地球自体がマクー空間の一部となる”のさ!!」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

暗黒銀河女王の言葉に、全員が驚きを示す。

 

「そうなれば、地球は私の物になったも同然。お前達がどれだけ足掻こうが無駄と言う事さ」

 

「テメェッ! 宇宙刑事ギャバンは何処に居やがる!!」

 

自慢気に語る暗黒銀河女王に、神谷がそう怒鳴る。

 

「フフフ………マクー空間に在る“宇宙最悪の刑務所”………『マクー監獄』さ。間も無く生贄の儀式と共に痛め付けられ、最後には苦しんで死ぬのさ!!」

 

「何だってっ!?」

 

「そんな事はさせねえっ!!」

 

「粋がった処でお前達に何が出来るんだい? 精々地球が終わるその瞬間まで、ガタガタ震えているんだね!! アッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

神谷達にそう言い残し、暗黒銀河女王の立体映像(ホログラム)は煙の様に消えてしまう。

 

「! 消えた………」

 

「チイッ! 巫山戯やがって!! 何がマクー監獄だ!! そんなモン! 俺がブッ潰してやる!!」

 

「待ってよ神谷! マクー監獄はマクー空間に在るんだよ! 一体如何やって行く積りなの!?」

 

研究室から飛び出して行こうとした神谷を、シャルがそう言って止める。

 

「んなモン、気合で何とかならぁっ!!」

 

「結局ソレッ!?」

 

「アンタねぇ、幾ら気合でも出来る事と出来ない事が………」

 

何時もの様に気合で何とかすると言い放つ神谷に、一夏と鈴がツッコむが………

 

「ううん、()()()よ。かみやんならね」

 

其処へそう言いながら、研究室に束とくーが姿を見せた。

 

ロージェノム戦乱の後、彼女達はIS学園預かりの身となり、専属の研究員として働いている。

 

無論、混乱や各国の陰謀を避ける為に表向きは“再び行方を眩ませている”事になっている。

 

「! 束!」

 

「姉さん!」

 

「如何言う事ですの?篠ノ之博士」

 

千冬と箒が驚いていると、セシリアが束に向かって尋ねる。

 

「“()()()()の意味”だよ」

 

「嘗て、天上 神谷が天岩戸攻略作戦の際、“爆発する天岩戸から光と共に脱出した”事を覚えていますか?」

 

束がそう返すと、くーがそう説明する。

 

「ああ、あの時の………」

 

一夏は、そう言われて“神谷が爆発する天岩戸からジギタリスを連れて光と共に脱出した事”を思い出す。

 

「あの時、かみやんは無意識にだけど『螺旋界認識転移システム』を発動させていたの」

 

「螺旋界認識転移システム?」

 

「何だそりゃ?」

 

束の口から出た聞き慣れない単語に首を傾げる神谷。

 

「う~ん、簡単に言えば“ワープシステム”みたいな物かな?」

 

「! ワープッ!?」

 

「グレンラガンにはそんな機能も有るの!?」

 

サラリと言う束に、シャルと楯無が驚きを示す。

 

「グレンラガンに“気合で出来ない事”なんて無いよ」

 

熟々(つくづく)出鱈目(デタラメ)なマシンだな………」

 

ラウラが呆れる様に呟く。

 

「オイ、束! その、何ちゃらシステムを使うには如何すれば良いんだ!?」

 

「アニキ、螺旋界認識転移システムだよ」

 

システムの名を良く覚えていない神谷に、一夏がそうツッコミを入れる。

 

「簡単だよ。“()()()()()()自分が行きたいと思う場所を思い浮かべれば良い”んだよ。ただ………」

 

其処で口籠る様子を見せる束。

 

「? ただ、如何したんだよ?」

 

「今回は“マクー空間”って言う、『全くの未知の場所』に行くワケだよね? 上手くシステムを起動出来たとしても、無事に行けるか如何か………」

 

「更に言えば、例え行けたとしても“帰れる可能性”は限りなく低いです」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

束とくーの説明に、一同は僅かに動揺する。

 

「…………」

 

そんな中、神谷は右手にコアドリルを握り締め、何か思い詰めた様な表情となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・校舎屋上………

 

「…………」

 

其処に神谷は1人佇み、右手に握ったコアドリルを見据えていた。

 

「…………」

 

神谷は行く積りだ………マクー空間のマクー監獄へ。

 

全てはギャバンを助ける為………

 

“己の原点”を確かめる為である。

 

「………うっし!!」

 

覚悟を決めた表情となり、顔を上げる神谷。

 

「其れじゃあ………行こうか?神谷」

 

すると神谷の隣に、シャルがそんな台詞と共に現れた。

 

「!? シャル!?」

 

「さあ、グズグズしてる暇は無いよ」

 

更にその逆隣に、一夏も現れる。

 

「一夏!?」

 

()()()()()()わよ」

 

「!?」

 

其処へ背後からそう言う声も聞こえて来て、神谷が振り返ると、其処には………

 

不敵な笑みを浮かべ、立って並んでいるグレン団の姿が在った。

 

「お前等………何やってんだ。コレは()()()(こだわ)りだ。お前等を巻き込む積りは()え」

 

「何言ってんすか?アニキ」

 

「今更、其れは水臭いですよ、神谷さん」

 

弾と蘭からそう声が挙がる。

 

「ギャバンって人は、神谷の原点かも知れないんでしょ?」

 

「だったら、“我々にとっての()()()()原点”と言う事になるな」

 

鈴と箒がそう言い放つ。

 

「ちゃんと確かめたいだろ」

 

「そうだよ。“自分が決めた道を、自分の遣り方で貫き通す”………其れがグレン団なんでしょ?」

 

一夏とシャルも、神谷にそう語り掛けた。

 

「お前等………」

 

神谷が思わず笑みを浮かべると、グレン団全員が力強く頷く。

 

「…………」

 

そして神谷は、再び右手のコアドリルを見遣ると、其れを“鍵”の様に構える。

 

そのまま回す様に捻ったかと思うと………

 

コアドリルから螺旋力の光が伸び、空間に螺旋の渦巻く入り口を創り出した!!

 

「開いた………」

 

「良し………行くぞ! テメェ等ぁっ!!」

 

神谷のその掛け声で、グレン団メンバーは一斉にダッシュ。

 

その螺旋の入り口へと飛び込んで行く!!

 

そしてメンバー全員が飛び込むと………

 

入り口は、煙の様に消えてしまうのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャプター4へ続く




新話、投稿させて頂きました。

神谷の口から語られたギャバンとの関係。
ゴーカイジャーのマーベラスの立ち位置になるのもありますが、あの兄貴にも影響を与えた人が居たというワケです。

そして暗黒銀河女王の野望を阻止する為。
何よりギャバンを助ける為に………
グレン団はマクー空間に乗り込みます。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター4

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて、ギャバンらしき男に命を救われた事を思い出した神谷。

 

その時にギャバンから掛けられた言葉が、今の神谷の原点となっている。

 

そのギャバンは今、マクー空間に在る宇宙最悪の刑務所『マクー監獄』に捕らわれの身となっている。

 

恩人であり、自身の原点となった彼を助ける為………

 

神谷はグレン団の仲間と共に………

 

マクー空間へと突入するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー空間内………

 

「此処が………」

 

「マクー空間………」

 

突入したグレン団を待ち受けていたのは、まるで採石場の様な大小の石がひしめく大地。

 

そして暗雲が立ち込め、紫色の稲光が光り、惑星が浮かんでいる空だった。

 

足元には、靄の様な霧が立ち込めている。

 

「コレがマクー空間?」

 

「何か不気味ね………」

 

「殺風景極まりないですわね」

 

シャル、鈴、セシリアがそんな感想を漏らす。

 

「さて………マクー監獄ってのは何処に在るんだ?」

 

そんな中で、神谷は周りを見回す。

 

「! アニキ! アレッ!!」

 

すると一夏が、何かを発見した様に声を挙げて指を指す。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

そこには、小高い山の様になっている場所の上に聳え立つ、監獄と言うよりは悪の居城の様な建物が在った。

 

「アレが………」

 

「マクー監獄………」

 

弾と神谷が、その建物………マクー監獄を見上げながらそう呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー監獄内・頂上部………

 

そのマクー監獄の最上階となる塔状の建物の最上階に、ギャバンこと烈は捕らわれていた。

 

両腕に枷を填められて壁に磔にされており、既に大分痛めつけられたのか、顔には幾つモノ傷痕が在り、足がフラついている。

 

そんな烈の傍に、ギャバンブートレグが光の鞭を持って現れたかと思うと、その鞭で烈を何度も打ち据える!

 

「グウッ! ガッ!?」

 

拘束され、碌な抵抗も出来ない烈を、ギャバンブートレグは機械的かつ一方的に痛めつけて行く。

 

「ハハハハハハハッ! 如何だい、ギャバン? 自分の偽物に拷問される気分は?」

 

その光景を傍で見ていた暗黒銀河女王が、心底楽しそうな笑い声を挙げる。

 

「グウゥ………」

 

そんな暗黒銀河女王を、烈は睨み付ける。

 

「フフフ、そんな目をしたって、もうお前には何も出来やしないよ! ハハハハハハハハッ!!」

 

だが暗黒銀河女王は、そんな烈を嘲笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

グレン団のメンバーは、マクー監獄への潜入を開始する。

 

「フッ! ホッ!」

 

高い外壁の天辺に鉤爪付きのロープを引っ掛け、ほぼ垂直の壁を四苦八苦しながら登って行くグレン団。

 

「し、しんどいですわ………」

 

「情けない。これ位で音を挙げるな」

 

セシリアがしんどそうにしていると、軍人故かこういう事に慣れている様子のラウラがそう言って来る。

 

「チッ! メンドクセェ………一気に突撃掛けちまおうぜ!!」

 

回りくどい事が嫌いな神谷がそう言う。

 

「駄目だよ、アニキ。押さえて」

 

「ギャバンさんが捕らえられてるんだよ。出来るだけ穏便に行かないと………」

 

「ええい、クソッ!」

 

しかし、一夏とシャルからそう咎められ、不承不承に呟く。

 

「! 待って………」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

と、漸く外壁を上り切ろうとしたところで、簪がそう言い、一同は動きを止める。

 

「ギーッ………」

 

見れば、すぐ真下で、見張りと思われるクラッシャーがうろついていた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

息を殺し、ジッとクラッシャーが居なくなるのを待つグレン団。

 

「ギーッ」

 

やがてクラッシャーは、異常無しと判断したのか、その場から去って行く。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

それを確認すると、グレン団の面々はマクー監獄の敷地内へと進入した。

 

「………行くぜ!」

 

神谷がそう言うと、ギャバンを助ける為に、マクー監獄の更に奥を目指し始めるグレン団。

 

「神谷くん。ココは二手に分かれましょう」

 

「入口を見つけたら、そこに集合って事にしようよ」

 

と、そこで楯無とティトリーがそう意見を挙げる。

 

「成程。そりゃ良い手かも知れねえな」

 

「良し、分かれて行動するぞ」

 

弾が同意するのを聞きながら、グレン団は自然と二手に分かれた。

 

一方は、神谷、シャル、一夏、箒、鈴、弾、蘭。

 

もう一方は、楯無、簪、ラウラ、フラン、ティトリー、セシリアのメンバーとなり、マクー監獄内への入口を捜索する。

 

 

 

 

 

神谷、シャル、一夏、箒、鈴、弾、蘭組………

 

「! 来るぞ!」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

先頭を行っていた神谷がそう声を挙げたかと思うと、一同は一斉に物陰に隠れる。

 

「ギーッ!」

 

すると前方の角から、クラッシャーが姿を現す。

 

クラッシャーはその場で辺りを見回すと通り過ぎて行く。

 

「良し!」

 

クラッシャーが行ったのを確認した一夏が、先へ進もうとしたが………

 

「馬鹿者! まだ早い!!」

 

箒がそう言ったかと思うと、一夏の腕を掴んで自分の方へ引き寄せた。

 

「うぶっ!?」

 

一夏が箒の隠れている場所へと引っ張り込まれたかと思うと………

 

「ギーッ!」

 

その背後を、別のクラッシャーが通り過ぎて行く。

 

「行ったか………」

 

「ほ、箒………く、苦しい………」

 

箒が安堵の声を漏らしていると、一夏が息も絶え絶えにそう呟く。

 

「うん?」

 

それを聞いた箒が一夏の状態を確認すると………

 

先程引き寄せたのが咄嗟だった為、箒は一夏の顔を自分の豊満な胸に押し付ける様にしていた。

 

傍から見れば羨ましい限りの光景ではあるが、やられている一夏は窒息寸前なので溜まったものではない。

 

「! うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

一瞬にしてトマトの様に真っ赤になると、即座に一夏を引き剥がし、その頬に平手打ちを見舞う箒。

 

「ザブングルッ!?」

 

一夏は珍妙な悲鳴を挙げて、地面に倒れる。

 

「き、貴様はこんな時に何を考えているっ!!」

 

「い、いや………やったのは箒だろ………」

 

「お前等、遊んでねえでとっとと行くぞ」

 

漫才の様な遣り取りをする箒と一夏に神谷がそう言う。

 

「り、理不尽だ………」

 

一抹の理不尽さを感じながら、一夏達はマクー監獄の入り口を探すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

もう片方のチーム………

 

楯無、簪、ラウラ、フラン、ティトリー、セシリアのメンバーは………

 

「………見張りが居るわ」

 

アーマーマグナムを手に握った簪が、物陰からマクー監獄内への入り口らしき場所を見ながらそう呟く。

 

その言葉通り、入口と思われる場所の扉の両隣には、クラッシャーが武器を持って見張りをしている。

 

「如何する? 片付けるか?」

 

「それはあまり得策じゃないね………」

 

「別の入り口を探すしかないよ」

 

ラウラ、楯無、フランがそう言い合う。

 

「では、今度はアチラへ向かいましょう」

 

「賛成~」

 

セシリアがそう言って別の方向を指差し、ティトリーが賛同する。

 

一同はその入り口を諦め、別の入り口を探す。

 

「お! あそこなんて如何かな?」

 

そこで楯無が、非常口と思われる、丁度良い感じの扉を発見する。

 

上手い具合に見張りも居ない。

 

一同はすぐにその扉へと駆け寄る。

 

「………鍵が掛かってるわ」

 

特殊な形状をしたドアノブを弄った簪がそう呟く。

 

「任せろ………」

 

するとラウラが、ポケットから針金を取り出し、鍵穴をピッキングし始める。

 

「それも軍で習ったのぉ?」

 

「ああ、潜入工作の訓練の際にな」

 

呆れる様に言う楯無に、ラウラは平然とそう答える。

 

「おお! お前等!」

 

「入口が在ったのか?」

 

とそこで、分かれていた神谷達が合流する。

 

「! 神谷!」

 

「一夏さん!」

 

「今………ラウラが鍵を開けているとこ………」

 

神谷達に向かって、簪がそう説明する。

 

「! マズイ! 見張りが来てるよ!!」

 

とそこで、壁に張り付いて辺りを窺っていたシャルがそう声を挙げる。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

「ギーッ!」

 

見ると、彼女の言う通り、1人のクラッシャーが、すぐ近くまで哨戒に来ていた。

 

「チッ………」

 

「早く! 早くしなさいよ!」

 

神谷が舌打ちをし、鈴がラウラを捲し立てる。

 

とそこで、ラウラがピッキングしていた穴からガキャンと言う不審な音がする。

 

「!? ちょっ!? 今何か変な音したわよ!? 大丈夫なの!?」

 

「ええいっ! 煩い!! 横でゴチャゴチャ言うなっ!!」

 

途端に、鈴もラウラも大声を挙げてしまう。

 

「ちょっ!?」

 

「シーッ! シーッ!」

 

ティトリーと蘭が慌てて静かにとジェスチャーをするが………

 

「ギーッ?」

 

その声を聞き付けたのか、クラッシャーがグレン団の居る方向に向かって歩いて来る。

 

「! ヤバい!」

 

「クソッ! こうなったら!!」

 

一夏が慌て、神谷が長刀を抜こうとしたが………

 

「アニキ! 皆! 『コレ』を被るんだ!!」

 

弾がそう言いながら、ある物を全員に手渡した!

 

「えっ!?」

 

「あの、コレは………」

 

「良いから、早く被れ!!」

 

困惑する楯無とセシリアに向かって弾はそう言い、一同は弾から手渡されたある物を一斉に被る。

 

「ギーッ!」

 

そして、漸く扉の前に辿り着いたクラッシャーが見たのは………

 

扉の前に不審に並んでいる段ボールだった。

 

「ギーッ?」

 

クラッシャーは一瞬首を傾げたものの、すぐにその場を離れてしまう。

 

「………良し! 行ったぞ!!」

 

「まさかこんな物で誤魔化せるとは………」

 

それを確認した弾が、そう言いながら段ボールを外すと、続いて別の段ボールの中から箒が現れる。

 

更に、並んでいた段ボールの中からも次々にグレン団が姿を現す。

 

「良し、行ったぜ!」

 

「まさかこんな物で誤魔化せるなんて………」

 

「敵兵って思いっきり馬鹿なの?」

 

神谷、シャル、鈴がそう声を挙げる。

 

「馬鹿野郎! 段ボールは敵の目を欺く最高の偽装なんだぜ! 潜入任務の必需品なんだぜ!!」

 

すると弾がそう高らかに力説する。

 

「某伝説の傭兵一族はコレで数々の窮地を乗り切ったんだ!」

 

「何の話だよ………」

 

「良し、開いたぞ」

 

そんな弾の様子に、一夏が呆れていると、漸くラウラがピッキングに成功し、扉が開かれる。

 

「おっし、突入だ!」

 

神谷がそう言って先陣を切って中へと突入し、他のメンバーもそれに続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー監獄内………

 

意外にも内部の警備は手薄であり、グレン団はドンドンと奥へと進んで行く。

 

「妙に手薄ね………」

 

「きっと此処まで来る奴なんていないと思ってるんでしょうね」

 

その呆気無さに、楯無と鈴がそんな言葉を漏らす。

 

「へっ、そいつが間違いだってのを今教えてやるぜ」

 

「焦らないでよ、神谷。暴れるのはギャバンさんを見つけてからね」

 

不敵な笑みを浮かべてそう言う神谷をシャルが諭す。

 

すると、そこで………

 

グレン団は檻が並んでいるエリアへと辿り着く。

 

「! 止まれ!」

 

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」

 

神谷にそう言われて、グレン団は一旦足を止めると、慎重にそのエリアへと踏み込んで行く。

 

檻の中には、如何にも宇宙人と言った感じの者達が捕らわれている。

 

「捕まってる………人?が居るな」

 

「多分、暗黒銀河女王に逆らったんだね」

 

一夏とシャルが、檻の中の囚人を見ながらそんな事を呟く。

 

「あまり良い光景では無いな………」

 

と、箒がそう呟いた瞬間………

 

その手が何者かに掴まれ、檻の方へと引き寄せられた!!

 

「!? うわぁっ!?」

 

「!? 箒!?」

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

箒の声に、一同が反応して振り返ると………

 

「へへへへへへっ! お嬢ちゃん………おっぱいおっきいねぇ~。何処から来たの~?」

 

異形の顔をしているので分かり難いが、如何にも『アレ』な感じの宇宙犯罪者が、箒を自分の方へと引き寄せていた!

 

「は、離せぇっ! 汚らわしい!!」

 

「テメェッ! 箒から離れろ!!」

 

一夏が箒に絡んでいる宇宙犯罪者を引き剥がそうとしたが………

 

それより先に、隣の檻から伸びて来た腕が一夏を捕まえ、檻の方へと引き寄せた。

 

「!? うわっ!?」

 

「あんらぁ、僕ぅ………可愛いのねぇ。アタシと良い事しな~い?」

 

一夏を引き寄せたのは、野太い声で女言葉を話す宇宙犯罪者………所謂オネエ系の宇宙犯罪者である。

 

「!? ヒイイィィィィ~~~~~ッ!?」

 

今まで見せた事のない絶叫を挙げる一夏。

 

彼は今、(ある意味で)最大に危機を迎えていた。

 

「もう、怖がらなくても良いじゃな~い。優しくしてあげるから」

 

「た、助けてえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーっ!?」

 

一夏は最早潜入している事も忘れて大絶叫を挙げる。

 

「一夏!!」

 

「貴様! 嫁に何を!!」

 

その一夏を助けようと、今度は鈴とラウラが飛び出したが………

 

またも別の檻から手が伸びて来て、2人を捕まえる。

 

「!? キャッ!?」

 

「ぬうっ!?」

 

「よ、幼女………ハアハア………」

 

2人を捕まえたのは太っていて眼鏡を掛け、矢鱈と汗を掻いている………所謂『アレ』な宇宙犯罪者だった。

 

「!? イヤァッ!! キモイッ!!」

 

「放せ貴様! この変態が!!」

 

鈴が絶叫、ラウラが罵声を挙げながら、『アレ』な宇宙犯罪者を殴ったり蹴ったりする。

 

「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

しかし、『アレ』な宇宙犯罪者は、殴られる度に2人にお礼を言う。

 

………真正だ。

 

「こ、此処ってこんな犯罪者しか居ないの?」

 

変態な宇宙犯罪者ばかりの牢獄エリアに、シャルが思わずそう呟く。

 

すると!

 

その背後から手が伸びて来て、シャルを檻の傍へと引き寄せた。

 

「!? うわぁっ!?(ま、まさか!? また変態な犯罪者!?)」

 

驚きながら、慌てて自分を引き寄せた宇宙犯罪者を確認するシャル。

 

「お嬢ちゃん、可愛いわね………同性に興味有る? お姉さんが新しい世界を教えてあげるわよ?」

 

その宇宙犯罪者は女性であり、『アッチ』の方向の人間だった。

 

「えええっ!? い、嫌だぁっ! 僕はノーマルなんだよー!! 神谷一筋なんだからーっ!!」

 

若干惚気ながら、シャルは女宇宙犯罪者に抵抗する。

 

「オイ! シャルを放せ、この野郎!!」

 

流石の神谷も危ないと思い、女宇宙犯罪者を引き剥がしに掛かる。

 

「ちょっ! 皆静かにして! 見張りが来ちゃう!!」

 

牢獄エリアが騒がしくなり、楯無が慌ててそう言い放つが………

 

「ギーッ?………!? ギーッ!?」

 

そこへ見張りのクラッシャー1人が駆け付け、牢獄エリアの状況を目撃する。

 

「「「「「「「「「「………あ」」」」」」」」」」

 

一同が間抜けた声を挙げている間に、クラッシャーはその場から離れたかと思うと、マクー監獄内に警報が鳴り引き出した!!

 

「み、見つかったぁっ!?」

 

漸くの思いでオネエ系の宇宙犯罪者を引き剥がした一夏がそう言った瞬間、

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

大量のクラッシャー達が、牢獄エリアへと雪崩れ込んで来る!!

 

「こうなりゃ仕方ねえ! 強行突破だ!!」

 

「結局こうなるんだね………」

 

神谷がそう言い放ち、シャルも呆れながら待機状態のISを握った。

 

そして、一同はグレンラガンとIS、グラパールにダンクーガを纏った状態となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャプター5へ続く




新話、投稿させて頂きました。

マクー監獄へと潜入したグレン団。
慣れない潜入作戦に四苦八苦しつつも、如何にか監獄内へ侵入。
しかし、思わぬ事態でばれてしまう事に。
後はもう、強行突破あるのみです。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター5

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャバンを助ける為………

 

マクー空間内に存在する宇宙最悪の刑務所『マクー監獄』へと突入した神谷達グレン団。

 

如何にか見張りをかわしながら、内部へと潜入したが………

 

牢獄エリアで騒ぎを起こしてしまい、発見されてしまう。

 

止むを得ず………

 

グレン団は潜入から、強行突破へと作戦を切り替えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー空間・マクー監獄内………

 

牢獄エリア………

 

「オリャアッ!!」

 

「ギーッ!?」

 

クラッシャーの1人にヤクザキックを叩き込むグレンラガン。

 

ヤクザキックで蹴り飛ばされたクラッシャーは、他のクラッシャー数体を巻き添えにして倒れると、怪しげな光に包まれて消滅する。

 

「秘剣! 流れ十文字っ!!」

 

「ギーッ!?」

 

流れる様な動きで、敵を素早く十文字に斬り付ける一夏。

 

「ソオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーードッ! ランサアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

箒は無数の刃だけの刀を射出し、次々にクラッシャーを斬り裂く。

 

「そこぉっ!!」

 

「!?………」

 

セシリアは、正確な射撃で、クラッシャー達に次々とヘッドショットを決める。

 

「百邪斬断! 万精駆滅! 急々如律令!!」

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

爆雷符をばら撒き、次々にクラッシャーを爆発させて行く鈴。

 

「反重力ストームッ!!」

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

胸部から発射した虹色の光線でクラッシャー達を空中に巻き上げたかと思うと、床へと叩き落とすシャル。

 

「グレートタイフーンッ!!」

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

ラウラは、口に装着されたスリット入りのマスクから強烈な風を巻き起こし、クラッシャー達を次々に壁に叩きつけて行く。

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

しかし、クラッシャー達は次から次へと現れ、途切れる様子が無い。

 

「クソッ! また出やがった!!」

 

「コレじゃキリが無いですよ!!」

 

クラッシャーの1人にネックブリーガーを掛けているグラパール・弾と、ハンドガンを連射しているグラパール・蘭がそう声を挙げる。

 

「仕方ない………此処は私達が食い止めるわ!!」

 

「皆は先に行ってギャバンさんを!!」

 

楯無が蒼流旋でクラッシャーを引き裂き、ダンクーガ(ティトリー)がその重厚な拳でクラッシャーを粉砕しながらそう言い放つ。

 

「おう! 任せたぞ!!」

 

「すみません! 頼みます!!」

 

グレンラガンと一夏がそう言うと、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラと共に、先へと進んで行く。

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

当然クラッシャー達が行かせまいと追い縋るが………

 

「バルカンセレクター!」

 

「喰らえっ!!」

 

簪とフランが弾幕を張り、前進を阻止する。

 

「ココから先は通さないよ」

 

残ったメンバーの先頭に立ち、楯無は居並ぶクラッシャー達を見ながらそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー監獄内・頂上部………

 

「煩いと思ったら………ネズミが紛れ込んだ様だねぇ」

 

暗黒銀河女王が、グレンラガン達の姿をモニターに映しながらそう呟く。

 

「ブートレグ! マクー都市を発生させるんだよ!!」

 

と、暗黒銀河女王がギャバンブートレグにそう命じたかと思うと、ギャバンブートレグの目が発光する。

 

「馬鹿な………何故アイツ等が………」

 

そして烈は、グレン団の面々が危険を冒してまでマクー監獄へやって来た事に驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー監獄・頂上部へ続く階段………

 

壁沿いに螺旋状に作られている階段をドンドン昇って行くグレンラガン達。

 

するとその途中に、扉の様な物が現れた。

 

「あ? 小細工しやがって! オラァッ!!」

 

躊躇無くその扉を蹴破り、先へと進もうとするグレンラガン。

 

しかし、扉を潜ると、そこはIS学園のアリーナだった。

 

「!? 何っ!?」

 

「此処は!? 学園のアリーナ!?」

 

「一体如何なっている!?」

 

マクー監獄から突然IS学園のアリーナへと飛ばされ、グレンラガン達は困惑する。

 

更に、潜った筈の扉も、何時の間にか消えていた。

 

「妙だぞ? GPSで位置が確認出来ない?」

 

と、目の前に状況分析画面を展開していたラウラがそう報告する。

 

「って事は、まだマクー空間内って事か?」

 

「敵は空間を操っているのでしょうか?」

 

「まあ、敵のホームグランドですもんね。それぐらい出来てもおかしくないわ」

 

一夏、セシリア、鈴がそう言っていると………

 

突然アリーナ内に霧が立ち込めて来た!!

 

「!? 何だっ!?」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

身構えるグレンラガン達。

 

と、その霧の中、地面を這う様にして突っ込んで来る物体が現れる!!

 

「!? 何か居るぞ!!」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

箒がそう声を挙げた瞬間、グレンラガン達はその地を這って来た物体に跳ね飛ばされる。

 

「うおわっ!?」

 

「おわっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

グレンラガン達が地面に転がる中、地を這っていた存在は霧の中へと消える。

 

「チキショウッ! 何処行きやがった!?」

 

立ち上がったグレンラガンがその姿を探す。

 

すると、その背後から再び地を這って謎の存在が現れる。

 

「! 神谷! 後ろっ!! ハンドビームッ!!」

 

その時、気付いたシャルが割って入り、謎の存在に向かってハンドビームを浴びせる。

 

シュアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!

 

ハンドビームを喰らった謎の存在………宇宙犯罪組織マクーのベム怪獣『シャコモンスター』が咆哮と共に立ち上がり、その姿を露わにする。

 

「!? 貴様か!! ネーブルミサイルッ!!」

 

シャコモンスターの存在を確認したラウラが、ネーブルミサイルを放つ。

 

しかし、間に別の影が割って入り、手に持っていた盾で、ネーブルミサイルを防いだ。

 

「!? 何っ!?」

 

「フハハハハハハハッ!!」

 

その影………宇宙犯罪組織マクーの獣星人『ダブルマン・ゾンビ』は、高笑いを挙げながら、右手の蛮刀の様な剣を構える。

 

「クッ! まだ居たの!!」

 

鈴がそう声を挙げ、龍王破斬剣を握ったが………

 

「ショワァッ!!」

 

そう言う奇声が聞こえて来たかと思うと、龍王破斬剣に蛇の形をした鞭が巻き付く。

 

「!?」

 

「ショワァッ!!」

 

驚く鈴が、鞭の先を見やると、アリーナの客席に立つドクジャモンスターを確認する。

 

「トゥアアアアアアッ!!」

 

「!? コッチにも!?」

 

更にセシリアにも、左手に棘の生えた盾、右手に時計の針の様な形状の刃をした剣を持ったダブルマン・スペクタルが襲い掛かる!

 

「野郎っ!!」

 

相手をしようと、右腕をドリルに変えるグレンラガンだったが………

 

「神谷! アンタは先に行きなさい!!」

 

「この場は私達が引き受けます!!」

 

ドクジャモンスターと戦う鈴と、ダブルマン・スペクタルと戦っているセシリアがそう言って来た。

 

「!? 何っ!?」

 

「お前は早く、ギャバンを助けに行けっ! 今のお前の使命はそれだろうが!!」

 

ラウラも、シャコモンスターとダブルマン・ゾンビを同時に相手にしながらそう言い放つ。

 

「! 分かったっ! 頼んだぜ!!」

 

「皆! 気を付けるんだぞ!!」

 

グレンラガンはその場をセシリア、鈴、ラウラに任せると、一夏、箒、シャルと共に更に先を目指すのだった。

 

「! 神谷! アレッ!!」

 

するとシャルが、前方にこの空間へ突入した際に潜った扉と同じ物を発見する。

 

「よおしっ! おりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

グレンラガンが勢い良くその扉を蹴破ると、彼等は再びマクー監獄内の上へと続く階段へと出た!

 

「行くぞっ!!」

 

「「「おうっ(うんっ)!!」」」

 

再び階段を上り始め、頂上部を目指すグレンラガン達。

 

すると再び、階段の途中に例の扉が待ち構えていた。

 

「またか! オラァッ!!」

 

勢い良くその扉を蹴り飛ばし、内部へ突入する。

 

すると、一同の目の前には、波が押し寄せる砂浜が広がった。

 

「!? 今度は海かよ!?」

 

と一夏がそう声を挙げた瞬間、グレンラガン達の周りで火花を伴った爆発が起こる!

 

「!? うあぁっ!?」

 

「おうわっ!?」

 

「「!?」」

 

一瞬怯みながらも周辺を確認すると………

 

「「「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」」

 

ダブルマンとベム怪獣が合体した怪人・ダブルモンスターが3体居り、グレンラガン達を取り囲んでいた!

 

「! 囲まれた!!」

 

「構わねえっ! 突破するぞ!!」

 

グレンラガンはそう言うと、3体居たダブルモンスターの内、『サイダブラー』に向かって突撃する!!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

サイダブラーは右手に盾、左手に蛮刀を持って迎え撃つ。

 

「燃える男のぉ! 火の車キイイイイイイイィィィィィィィィーーーーーーーーーックッ!!」

 

そのサイダブラー目掛けて、燃える男の火の車キックを繰り出すグレンラガン。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

しかし、サイダブラーは右手の盾で受け止め、弾き飛ばしてしまう。

 

「!? おうわっ!?」

 

弾き飛ばされたグレンラガンが砂浜を転がる。

 

「アニキ!」

 

「神谷!!」

 

「しっかりしろっ!!」

 

慌てて一夏達が駆け寄り、助け起こす。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

すると、今度は『バファローダブラー』が、その一夏達に向かって両手を向ける様に構える。

 

途端に、グレンラガン達の周辺で、またも火花を伴った爆発が起こる!!

 

「「「うおわぁっ!?」」」

 

「キャアアッ!?」

 

吹っ飛ばされて、砂浜の上を転がるグレンラガン達。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

そこへまた別のダブラー、『アナホリダブラー』が飛び掛かって来る。

 

「! チイッ!! オオリャアッ!!」

 

グレンラガンは咄嗟に、その飛び掛かって来たアナホリダブラーを巴投げで投げ飛ばす!!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!? ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

「「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」

 

投げ飛ばされて砂浜の上を転がったアナホリダブラーが立ち上がると、サイダブラーとバファローダブラーが集結し、3体のダブラーが並び立つ。

 

それに対抗する様に、グレンラガン達も並び立つが………

 

「! 神谷! あそこ!!」

 

「ん?」

 

そこでシャルが、並び立っているダブラー達の奥の方………

 

波の打ち付ける岩場の上に扉を発見する。

 

「アレは!」

 

「次の扉だ!!」

 

「「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」」

 

一夏と箒がそう声を挙げると、サイダブラーとバファローダブラーが行かせはしないと突進して来る!

 

「! おりゃあっ!!」

 

「むんっ!!」

 

すると、一夏がサイダブラー、箒がバファローダブラーに組み付き、動きを封じた!!

 

「アニキッ! 早く先へっ!!」

 

「行け、神谷! 今この場で先へ進まなければならんのはお前だ!!」

 

サイダブラーとバファローダブラーを押さえながら、一夏と箒がそう言い放つ。

 

「ああ!!」

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

グレンラガンは短くそう返すと扉に向かい出したが、そうはさせないとアナホリダブラーが突っ込んで来る。

 

「トリャアッ!!」

 

「!?」

 

しかし、グレンラガンはアナホリダブラーの眼前で跳躍!!

 

そのままアナホリダブラーを踏み台にし、トビダマを吹かして一気に扉へ向かう。

 

「!! ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

そうはさせないとアナホリダブラーが跳躍し、グレンラガンの足を掴もうとしたが………

 

「ダイザーパンチッ!!」

 

「!? ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

シャルが放ったロケットパンチにより、砂浜に叩き落とされる!!

 

「神谷! 頼んだよぉっ!!」

 

「おおっ! ドリャアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

シャルに返事を返すと、グレンラガンは右腕をドリルに変え、一気に扉をブチ破った!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー監獄内・頂上部………

 

「オリャアッ!!」

 

頂上部のエリアへと繋がる扉をブチ破り、グレンラガンが姿を現す!!

 

「へへっ、やっと着いたぜ」

 

「グレンラガン………」

 

不敵に笑いながらそう言うグレンラガンと、そのグレンラガンを驚きの目で見ている烈。

 

「此処まで来るとは、大した坊やじゃないかい」

 

と、暗黒銀河女王がグレンラガンに向かってそう言い放つ。

 

「当然だ! 俺を誰だと思ってやがるっ!! 史上初の脱獄………見せてやるぜ!!」

 

胸のグレンブーメランを右手に握り、暗黒銀河女王に向かってそう言い放つグレンラガン。

 

「相変わらず威勢が良いねぇ。けど、それもココまでだよ! ブートレグ!!」

 

「!!」

 

暗黒銀河女王がギャバンブートレグに呼び掛けると、ギャバンブートレグは中2階から跳躍し、グレンラガンの前に降り立つ。

 

そのカメラアイにグレンラガンを捉えるギャバンブートレグ。

 

「行くぜっ! 超銀河ドリラッシュッ!!」

 

と、グレンラガンはギャバンブートレグに向かって先制攻撃だと言わんばかりに、全身に出現させたドリルをミサイルの様に飛ばす!

 

だが、ギャバンブートレグはブレードを取り出すと、飛んで来たドリルミサイルを全て弾きとしてしまう!!

 

「おりゃあああっ!!」

 

しかし、そんな事は予測済みだったのか、グレンラガンは間髪入れず、右手に握っていたグレンブーメランで斬り掛かる!!

 

ギャバンブートレグのブレードと、グレンラガンのグレンブーメランが幾度もぶつかり合って火花を散らし、激しい剣劇を展開する!!

 

「おりゃあっ!!」

 

と、一瞬の隙を衝く様に、左腕からドリルを発射するグレンラガン。

 

「!!」

 

だが、ギャバンブートレグは恐るべき反応速度で回避する。

 

「チイッ!!」

 

一旦後退するグレンラガンに追い縋るギャバンブートレグ。

 

「トリャアッ!!」

 

と、グレンラガンはギャバンブートレグのブレードを錐揉み回転する様にかわしたかと思うと、位置を逆転させる。

 

「デスレーザーッ!!」

 

そして、至近距離からボディの顔の目からのレーザーを浴びせる!!

 

「!?」

 

身体中から火花を散らし、ギャバンブートレグの動きが止まる。

 

「おっしっ!!」

 

すぐにギャバンを助けようとしたグレンラガンだが………

 

「まだだ!!」

 

「!?」

 

ギャバンの叫びにギャバンブートレグの方を振り返ると、ギャバンブートレグは赤い光の玉となってグレンラガンを弾き飛ばす!

 

「おうわっ!?」

 

弾き飛ばされたグレンラガンが床に転がると、ギャバンブートレグは再び姿を現す。

 

「チイッ! やるじゃねえかっ!!」

 

しかし、グレンラガンは怯まず、再びギャバンブートレグへと立ち向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チャプター6へ続く




新話、投稿させて頂きました。

強行突破に切り替えたグレン団。
しかし、次々と現れる敵を相手に、グレン団はグレンラガンを行かせて足止めに出る。
その甲斐あってギャバンの元へ辿り着いたグレンラガンだったが、その前にギャバンぶブートレグが立ちはだかる………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター6

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャバンを救出しに、マクー監獄へ突入したグレン団を迎え撃つ………

 

暗黒銀河女王によって蘇らせられた宇宙犯罪組織マクーのベム怪獣、ダブルマン、ダブルモンスター。

 

仲間達の助けを受け………

 

グレンラガンは遂に、ギャバンの元へと辿り着く。

 

しかし、その前に………

 

ギャバンブートレグが立ちはだかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー監獄・マクー都市1………

 

シャコモンスター、ダブルマン・ゾンビ、ドクジャモンスター、ダブルマン・スペクタルと対決しているセシリア、鈴、ラウラは………

 

「シュアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

シャコモンスターが咆哮と共に背を向けたかと思うと、背中に在ったまだらの紋様部分から、怪光線が発射される!

 

「チイッ!!」

 

右手に握っていたマジンガーブレードを構え、怪光線を反射させて防ぐラウラ。

 

「トウワァッ!!」

 

とそこで、今度はダブルマン・ゾンビが飛び掛かって来て、右手の蛮刀を振るう。

 

「フッ! ハアッ!」

 

蛮刀をマジンガーブレードで受け止め、一旦距離を離すラウラ。

 

「アトミックパンチッ!!」

 

「ムンッ!!」

 

そのままダブルマン・ゾンビに向かってアトミックパンチを放つが、左手の盾で弾かれる。

 

 

 

 

 

「ショワァッ!!」

 

「当たるもんですか!!」

 

ドクジャモンスターの蛇の鞭を飛翔してかわす鈴。

 

「ショワァッ!!」

 

するとドクジャモンスターは、口から怪光線を放つ。

 

「! キャアッ!?」

 

鈴は今度は避けられるず、直撃を喰らってしまい、地面に叩き落とされ、派手に土煙を上げる。

 

「ショワァッ!!」

 

やったかっ!? と言うリアクションを見せるドクジャモンスターだったが………

 

「虎王飛拳っ!!」

 

と言う鈴の台詞が響いたかと思うと、タイガー・ナックルが土煙の中から飛び出して来て、ドクジャモンスターを殴り飛ばす!!

 

「ショワァッ!?」

 

「舐めんじゃないわよ! この蛇のお化け!!」

 

続いてそう言う台詞が聞こえて来たかと思うと、土煙が吹き飛び、中から虎龍王へと姿を変えた鈴が、ソニック・ジャベリンを構えた状態で姿を現すのだった!!

 

 

 

 

 

「トゥアアアアアアッ!!」

 

「クッ!!」

 

ダブルマン・スペクタルの右手の時計の針の様な形状の刃をした剣を、右手のハイパービームソードで受け止めるセシリア。

 

「トゥアアアアアアッ!!」

 

するとダブルマン・スペクタルは、左手に持っていた棘の生えた盾で殴りつけて来る!

 

「キャアッ!? このぉっ!!」

 

セシリアはブッ飛ばされながらも、すぐに態勢を立て直して、ハイパービームソードをバスターライフルに持ち替え、2連射する。

 

「トゥアアアアアアッ!!」

 

だが、セシリアが放ったビームは、ダブルマン・スペクタルの左手に持っていた棘の生えた盾で防がれる。

 

「なら! コレは如何ですの!!」

 

するとセシリアは、バスターライフルを鉄球とワイヤーを接続した接近戦用打撲武器・G-ハンマーに持ち替える。

 

棘付きの鉄球が、ダブルマン・スペクタルに向かって射出される!

 

「!? トゥアアアアアアッ!?」

 

またも盾で防ぐダブルマン・スペクタルだが、その質量の前に体勢が崩れる。

 

「まだ私の攻撃は終わってませんわ!!」

 

と、セシリアがそう言い放ったかと思うと、鉄球に内蔵されたスラスターが火を噴き、体勢を崩したダブルマン・スペクタルに直撃した!!

 

「!? トゥアアアアアアッ!?」

 

流石のコレには、ダブルマン・スペクタルも盾を弾き飛ばされ、地面を転がる。

 

「このセシリア・オルコットを、舐めてもらっては困りますわ」

 

G-ハンマーを振り回しながら構え、ダブルマン・スペクタルに向かってそう言い放つセシリアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

マクー都市2にて、ダブルモンスター達と戦っている一夏、箒、シャルは………

 

「電撃剣っ!!」

 

雪片弐型を逆手で持ったかと思うと、その刃を地面に突き刺す一夏。

 

すると、エネルギーが地面を這う様にしてサイダブラーへと向かう。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

そして、サイダブラーの足元で爆発を起こす。

 

「タアアァッ!!」

 

その直後に一夏は跳躍し、サイダブラーへ唐竹割りを見舞う。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

しかし、サイダブラーは右手の盾を使って防ぐ。

 

「!? おうわっ!?」

 

反動で弾き飛ばされた一夏が、着地を決める。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

サイダブラーはその一夏目掛けて巨大な岩石を投げつけて来る!

 

「! ハアッ!!」

 

だが、一夏は慌てずに雪片弐型を振るい、岩石を真っ二つにして回避するのだった。

 

 

 

 

 

「ゲッタアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ! ビイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーームッ!!」

 

バファローダブラーに向かって、頭部からのゲッタービームを発射する箒。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

直撃を受けたバファローダブラーが爆煙に包まれる。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

しかし、すぐに大したダメージを受けていない状態で現れ、箒に向かって両手を向けた。

 

すると、箒の周辺で、火花を伴った爆発が連続で起こる!!

 

「ぐうっ!?」

 

箒は咄嗟に砂浜を転がる様にして、爆発から逃れる。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

と、そこで、バファローダブラーが身体を丸める様にしたかと思うと………

 

その姿が巨大な岩石へと変わる!!

 

巨大な岩石となったバファローダブラーは、箒を押し潰そうとして来る。

 

「!? うわぁっ!?」

 

突っ込んで来た雨月と空裂を交差させて防御姿勢を取った箒だが、衝撃までは防ぎ切れず、砂浜の上を転がる。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

その箒目掛けて、巨大な岩石と化したバファローダブラーが追い打ちを掛けようとする。

 

「チイッ!!」

 

止むを得ず、箒は一旦バファローダブラーから逃げに入る。

 

 

 

 

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

ポールアックスを振り回しながら、シャルに向かって突撃して来るアナホリダブラー。

 

「ダブルハーケンッ!!」

 

シャルはダブルハーケンを出現させると、アナホリダブラーのポールアックスを受け止める。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

アナホリダブラーは、横薙ぎ、縦斬り、袈裟懸けと、連続でポールアックスを振るう。

 

「フッ! ハアッ! タアッ!!」

 

しかしシャルは、巧にアナホリダブラーの攻撃を捌く。

 

「ええいっ!!」

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

そして、一瞬の隙を付いてダブルハーケンを振るい、アナホリダブラーのポールアックスを破壊した!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

すると、アナホリダブラーはシャルに向かって左手を伸ばす。

 

その手から、植物の蔓が出現し、シャルの身体に巻き付いた!

 

「うわぁっ!?」

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

その状態のシャルを手繰り寄せながら、右腕に細長いドリルを出現させる。

 

「!?」

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

驚くシャルを更に手繰り寄せ、ドリルで抉ろうとするアナホリダブラー。

 

「こんのぉっ! スペースサンダーッ!!」

 

しかしシャルは、植物の蔓に向かってスペースサンダーを発射して焼き切る!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!? ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

バランスを崩して転倒したアナホリダブラーだったが、すぐに立ち上がり、右手のドリルを構えてシャルの突撃して来る。

 

「シングルハーケンッ!!」

 

シャルは、ダブルハーケンをシングルハーケンに分離させて迎え撃つ。

 

「そんなドリルの扱い方で、僕に勝てると思ってるの!? 僕はもっと凄いドリル使いを知ってるんだから!!」

 

アナホリダブラーの右手のドリルでの攻撃を捌きながら、シャルはそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

マクー監獄内・頂上部では………

 

「おりゃあっ!!」

 

「!!」

 

グレンラガンとギャバンブートレグの激闘が続いていた。

 

グレンブーメランとブートレグブレードの斬撃戦が続いていたかと思うと、ギャバンブートレグが不意を突く様に、バックスピンキックを見舞う!!

 

「うおっ!?」

 

ブッ飛ばれたグレンラガンが、檻に背中から叩きつけられる。

 

「!!」

 

「! チイッ!!」

 

ギャバンブートレグは続けてブートレグブレードでの縦斬りを見舞って来たが、グレンラガンは身を反らして回避。

 

ブートレグブレードが檻の南京錠を斬り裂き、檻の扉が開く。

 

「!!」

 

「おっとっ!!」

 

更にブートレグブレードを振るって来るギャバンブートレグだが、グレンラガンは開いた檻の扉を使って防ぐ。

 

「おりゃああっ!!」

 

そして先程のお返しとばかりに、ギャバンブートレグに蹴りを叩き込み、檻の中へと蹴り込む。

 

「そこでジッとしてろっ!!」

 

そう言うとグレンラガンは檻の扉を閉めて、ギャバンブートレグを一時的に閉じ込める。

 

そしてその間に、烈を救出しようと試みる。

 

しかし………

 

「!!」

 

グレンラガンの背後で轟音が聞こえたかと思うと、檻を力任せに枠から外して持ち上げているギャバンブートレグが姿を現す。

 

「マジかよ!!」

 

「!!」

 

そのパワーにグレンラガンが驚いていると、ギャバンブートレグは持ち上げていた檻を、グレンラガン目掛けて投げつける。

 

「!? うおおっ!?」

 

咄嗟に身体を仰け反らせて回避するグレンラガン。

 

檻は背後の壁に激突し、粉々になった。

 

ギャバンブートレグが続けてブートレグブレードで斬り掛かって来ると、グレンブーメランと鉄柱を使って往なす。

 

「しつけぇ野郎だ!! トアアッ!!」

 

愚痴る様にそう言ったかと思うと、跳躍して中2階へとよじ登るグレンラガン。

 

「喰らえっ!!」

 

そのまま上からドリルミサイルを発射するが、ギャバンブートレグはブートレグブレードを使って弾く。

 

そしてギャバンブートレグも、浮かび上がる様に跳躍して中2階へと昇って来る。

 

「野郎っ!!」

 

「!!」

 

グレンブーメランを振るうグレンラガンだが、ギャバンブートレグはブートレグブレードでグレンブーメランを受け止めると、空手の逆の腕でグレンブーメランを握ったグレンラガンの腕を掴み、振り回す様にして引き寄せ、ボディに膝蹴りを叩き込んだ。

 

「うおっ!?」

 

「!!」

 

そこでブートレグブレードを横薙ぎに振るったが、グレンラガンは何とかかわす。

 

「!!」

 

「!? ぐおあっ!?」

 

しかし、続け様に放たれたキックで、グレンラガンは反対側の中2階へとブッ飛ばされる!

 

「!!」

 

「! このぉっ!!」

 

ギャバンブートレグが追撃して来てブートレグブレードを振るが、グレンラガンは何とかかわすとパンチを繰り出す。

 

「!!」

 

「!? うおっ!?」

 

しかし、ギャバンブートレグにその腕を取られると、そのままアームホイップの要領で投げ飛ばされる。

 

「舐めんな!!」

 

「!?」

 

追撃してこようとしたギャバンブートレグに、グレンラガンは倒れたままで蹴りを叩き込み、怯ませる。

 

その間に起き上がると、中2階の左右の間に在る平均台の様に細い鉄骨の上に出る。

 

「!!」

 

「オラオラオラオラッ!!」

 

追って来たギャバンブートレグと、その細い足場の腕で斬り合いを開始する。

 

少しでもバランスを崩せば落下すると言う、まるで海賊同士の決闘の様な、見ていてハラハラさせられる戦いだ。

 

「そりゃっ!!」

 

「!!」

 

一瞬の隙を付く様にドリルミサイルを発射するグレンラガンだが、やはりギャバンブートレグは素早い反応で、ブートレグブレードを使って弾く!

 

「!!」

 

そして再びグレンブーメランと剣劇を演じたかと思うと、不安定な足場の上に居るにも関わらず、ハイキックを繰り出す。

 

「うおっ!?」

 

如何にか防ぐグレンラガンだが、不安定な足場の上に居るので、反撃が出来ない。

 

「!!」

 

そのグレンラガンに、ギャバンブートレグは追撃でブートレグブレードの1撃を叩き込む。

 

「!? うおわっ!?」

 

装甲から火花を挙げて、足場から落とされるグレンラガン。

 

「何のっ!!」

 

しかし、片手を如何にか足場へと掛ける。

 

「おおりゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」

 

そのままもう片手も掛けて、足場に両手で掴まったかと思うと、そのまま大車輪する様に回転し、ギャバンブートレグに両足蹴りを叩き込んだ!!

 

「!!」

 

真面に喰らったギャバンブートレグが、下へと落とされると、グレンラガンも着地を決める。

 

「!!」

 

だが、ギャバンブートレグは起き上がりながら、レーザー銃・ブートレグビームガンを取り出し、グレンラガンに向けて連射した!!

 

「おうわぁっ!?」

 

グレンラガンの身体から、次々に火花を伴った爆発が挙がる。

 

そして次の瞬間!!

 

ギャバンブートレグは、一瞬でグレンラガンに近づき、右手に持っていたグレンブーメランを蹴り飛ばした!!

 

蹴り飛ばされたグレンブーメランが、床に突き刺さる。

 

「あっ!? この野郎っ!!」

 

しかし、グレンラガンは怯まずに、再びブートレグビームガンを撃とうとしていたギャバンブートレグの左手を蹴りで弾き、続けて繰り出されたブートレグブレードを腕ごと脇に挟み込む様にして止める。

 

「おりゃああっ!!」

 

そのままギャバンブートレグを振り回す様に動かしたかと思うと、回し蹴りでブートレグブレードを弾き飛ばした!!

 

蹴り弾かれたブートレグブレードは、壁へと突き刺さる!

 

「!!」

 

「うおっ!?」

 

ギャバンブートレグは、ブートレグビームガンを撃つが、グレンラガンはギャバンブートレグに密着し、腕を使って銃口を明後日の方向へ向かせる。

 

反らされたレーザーが、マクー監獄・頂上部の部屋を破壊して行く。

 

「うおおおっ!!」

 

「!!」

 

何とか撃たれまいとギャバンブートレグに密着を続けるグレンラガンだが、ギャバンブートレグはパワーに任せて、強引にグレンラガンを引き剥がす!!

 

「うおっ!?」

 

「!!」

 

そしてその瞬間に、ブートレグビームガンの連射を叩き込む!!

 

「うおわぁっ!?」

 

真面喰らったグレンラガンの身体が宙に浮かび、そのまま光包まれて神谷の姿へと戻って、床の上に倒れた!

 

「!? ああっ!?」

 

「フフフフ、如何やらコレまでの様だね」

 

烈が声を挙げた瞬間、暗黒銀河女王が神谷に向かってそう言い放つ。

 

「今頃はお前の仲間達もあの世へ行っている頃だろうさ。すぐにお前も送ってあげるよ」

 

「………フフフフ………ハハハハハハッ!!」

 

と、そこで神谷が突然笑い声を挙げ始めた。

 

「!? 何が可笑しいんだい!!」

 

「チャンチャラ可笑しいぜ! 俺と………俺の仲間達を………甘く見るんじゃねえ!!」

 

神谷は暗黒銀河女王に向かってそう言い放つ。

 

「何ぃっ!?」

 

すると暗黒銀河女王は、戦っているグレン団の様子を見るべく、目の前に亜空間の入り口の様なモニターを展開させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

マクー軍団と戦う一夏達に、ギャバンブートレグと戦うグレンラガン。
どちらも一進一退。
グレンラガンがブートレグに追い詰められたように見えましたが、しかし………

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター7

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー監獄・マクー都市1………

 

「トウワァッ!!」

 

蛮刀を振り回し、ラウラを斬り付けようとするダブルマン・ゾンビ。

 

「むっ! グレートブーメランッ!!」

 

そのダブルマン・ゾンビに向かって、ラウラは胸の放熱板を取り外し、グレートブーメランとして投げつける。

 

「ムンッ!!」

 

しかし、ダブルマン・ゾンビは、グレートブーメランを左手の盾で弾き飛ばす。

 

「グレートタイフーンッ!」

 

するとラウラは、間髪入れずにグレートタイフーンを放つ。

 

「ヌウウッ!?」

 

強烈な突風に一瞬怯むダブルマン・ゾンビだったが、蛮刀を地面に突き刺し、耐え始める。

 

「シュアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

するとそこで、シャコモンスターが地面を這う様にして突っ込んで来た!!

 

「! チイッ!!」

 

ラウラはグレートタイフーンを止めると、飛び退く様に後退する。

 

「シュアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

「トウワァッ!!」

 

シャコモンスターとダブルマン・ゾンビは、一気にカタを着けようと、2人纏めてラウラに突っ込んで行く。

 

「…………」

 

だが、如何言うワケか、ラウラは突っ込んで来るシャコモンスターとダブルマン・ゾンビを見ながらも微動たりとしない。

 

「シュアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

「トウワァッ!!」

 

その姿を絶好の好機と見たシャコモンスターとダブルマン・ゾンビは、奇声を挙げて襲い掛かって行く!!

 

「………フッ」

 

だがその瞬間、ラウラは不敵に笑った。

 

その次の瞬間!!

 

グレートブーメランが、シャコモンスターとダブルマン・ゾンビの背中を斬り裂いた!!

 

「シュアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

「トウワァッ!?」

 

形容し難い色の血液を吹き出し、バタリと倒れるシャコモンスターとダブルマン・ゾンビ。

 

「馬鹿め………さっきのグレートタイフーンでブーメランの軌道を変えた事に気付かなかったのか」

 

手元に戻って来たグレートブーメランを回収し、胸に装着し直しながら、ラウラはそう言い放つ。

 

「シュアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーー………」

 

「トウワァ………」

 

背中から夥しい量の形容し難い色の血液を噴出させながら、シャコモンスターとダブルマン・ゾンビは尚立ち上がろうとする。

 

「ブレストバーンッ!!」

 

だが、ラウラは容赦無くブレストバーンを浴びせた!!

 

「シュアアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

「トウワァッ!?」

 

シャコモンスターは溶けて蒸発し、ダブルマン・ゾンビは爆発・四散する。

 

「私は戦闘のプロだぞ」

 

シャコモンスターとダブルマン・ゾンビが消えた場所を見ながら、ラウラはそう言い放つのだった。

 

 

 

 

 

「ショワァッ!!」

 

ドクジャモンスターが奇声を挙げると、何処からとも無く蛇が出現し、鈴に飛び掛かって行く。

 

「キャアッ!? 何よこの蛇ぃっ!?」

 

大量の蛇の纏わり付かれ、鈴が悲鳴にも似た声を挙げる。

 

「ショワァッ!!」

 

と、ドクジャモンスターが再び奇声を挙げると、鈴に纏わり付いていた蛇が、次々に爆発した!!

 

「!? キャアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッ!?」

 

悲鳴と共に爆発に包まれる鈴。

 

やがて爆煙が治まると、鈴の姿は何処にも無い………

 

「ショワァッ!!」

 

勝ったと思い、勝鬨の様に奇声を挙げるドクジャモンスター。

 

と、次の瞬間!!

 

「ヴァリアブル・ドリルッ!!」

 

右手をドリルに変えていた虎龍王形態の鈴が、ドクジャモンスターの足元から飛び出した!!

 

「ショワァッ!?」

 

腹を抉られる様に殴られ、火花を伴った爆発と共に倒れるドクジャモンスター。

 

「ショワァッ!!」

 

しかし、すぐに起き上がると、反撃にと口から怪光線を放とうとしたが………

 

「そうは行かないわよ! タイガー・ナックルッ!!」

 

鈴が叫ぶと、虎龍王の右腕パーツが、ドクジャモンスター目掛けて飛翔!

 

そのまま口を押えて塞いだ!!

 

「!?」

 

怪光線が口内で爆発し、ドクジャモンスターは口から黒煙を挙げながらのた打ち回る。

 

「順逆転身ッ!!」

 

そこで鈴はISを龍虎王へと変形。

 

「龍王………破斬剣ッ!!」

 

尻尾の宝玉を手に取り、龍王破斬剣を召喚する。

 

「雷火の顎よ! 敵を討てっ!!」

 

そしてそう言う台詞と共に、立ち上がったドクジャモンスターを串刺しにする!!

 

「ショワァッ!?」

 

そこで破斬剣の刀身の形状が変化する!!

 

「はあああああああっ!!」

 

そしてそのまま、ドクジャモンスターを連続で斬り付ける!!

 

「龍王破斬剣!! 天魔! 降伏斬っ!!」

 

トドメの1撃に、稲妻の様な斬り上げを喰らわせる!!

 

「ショワァッ!?」

 

断末魔の叫びが木霊する中、ドクジャモンスターはバラバラになり、爆発した!!

 

「我に敵無しっ!!」

 

その爆発を下方に、鈴は決めポーズを取るのだった。

 

 

 

 

 

「トゥアアアアアアッ!!」

 

「フッ!!」

 

ジャンプ斬りで斬り掛かって来たダブルマン・スペクタルを、バックステップを踏んで回避するセシリア。

 

「ハアッ!!」

 

そして直後に、右手で振り回していたG-ハンマーを投擲する!

 

「!!」

 

しかし、鉄球がダブルマン・スペクタルに命中すると思われた瞬間、ダブルマン・スペクタルが煙の様に消えてしまう。

 

「!? 消えた!?」

 

セシリアは驚きながらもハイパーセンサーを最大にして索敵を行う。

 

しかし、マクー空間内の為か、十分な索敵が出来ない。

 

「何処に………」

 

緊張感から、セシリアの頬を一筋の汗が伝う。

 

と、その瞬間!!

 

「トゥアアアアアアッ!!」

 

掛け声と共にダブルマン・スペクタルが、セシリアの背後の空中に出現。

 

そのままセシリア目掛けて斬り掛かる。

 

「!?」

 

慌てて振り返りながら、G-ハンマーをハイパービームソードに持ち替えて受け止めようとするが、ワンテンポ間に合わない。

 

「トゥアアアアアアッ!!」

 

勝利を確信し、思いっきり剣を振り下ろすダブルマン・スペクタル。

 

しかし………

 

その1撃は、セシリアとは別のビームソードによって受け止められた。

 

「!?」

 

驚くダブルマン・スペクタルを、そのビームソードの持ち主………ISビットが殴り飛ばす!!

 

「トゥアアアアアアッ!?」

 

「申し訳ありませんわね………イギリス人は戦争と恋愛では………手段を選ばなくてよ!!」

 

セシリアが不敵に笑ってそう言うと、残り3体のISビットが出現!!

 

殴り飛ばされて空中に浮かんでいたダブルマン・スペクタルを包囲したかと思うと、周りを飛び回っての一斉射撃を浴びせ始める。

 

「トゥアアアアアアッ!?」

 

四方八方からの射撃に、ドンドンとズタボロにされていくダブルマン・スペクタル。

 

「そこぉっ!!」

 

更にそう包囲射撃の中に、バスターライフルを持ったセシリアも加わる。

 

そして、一気に下降し、空中に浮かんでいたダブルマン・スペクタルの真下を取ったかと思うと………

 

「コレでっ!!」

 

バスターライフルを掲げ上げる様に構え、某機動戦士ばりのラストシューティングを放った!!

 

「トゥアアアアアアッ!?」

 

ビームがダブルマン・スペクタルの身体に風穴を空け、爆発・四散させた!

 

「ま………こんなものですわね」

 

そう言って、バスターライフルを後ろ腰に戻すセシリアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方………

 

マクー都市2でも………

 

「デヤアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

一夏のジャンプ斬りを、右手の盾で受け止めるサイダブラー。

 

「チイッ!!」

 

反動を利用して、一旦距離を取り、雪片を構え直す一夏。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

そんな一夏の姿を見据えながら、サイダブラーは勝ち誇る様に咆哮を挙げる。

 

(………やっぱりそうだ)

 

しかし、一夏はサイダブラーのある秘密に気づいていた。

 

(さっきからアイツは仕切りに右胸への攻撃を防いでいる………奴の弱点は右胸………つまり! 心臓の位置だ!!)

 

そして、サイダブラーの弱点である心臓が、右胸に在る事を確信する!!

 

「行くぞぉっ!!」

 

すると一夏は、雪片の刀身にエネルギーを送り、発光させる!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

それを見たサイダブラーは、一夏へと突っ込んで来る!!

 

「…………」

 

対する一夏は、雪片を右手だけの片手構えで構えて、サイダブラーを待ち受ける。

 

(落ち着け………チャンスは一瞬だ………)

 

猛烈なスピードで突っ込んで来るサイダブラーを見据えながら、一夏は自分に言い聞かせる様にそう思う。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

遂に一夏の目の前に迫ったサイダブラーが、左手の蛮刀を一夏目掛けて横薙ぎに振るう!

 

「! 今だっ!!」

 

するとその瞬間!!

 

一夏は後ろに倒れ込む様に身体を反らした!!

 

サイダブラーが振るった蛮刀が眼前を掠り、前髪の一部が斬られて宙に舞う。

 

「貰ったぁっ!!」

 

だが、一夏は怯まず、完全に倒れた瞬間に、サイダブラーの右胸に雪片を突き刺した!!

 

「!? ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

途端にサイダブラーは苦悶の悲鳴を挙げ、剣と盾を落として両手で指された右胸を必死に押さえる。

 

そして、その隙を見逃す一夏では無かった!!

 

「爆熱っ! ゴオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーッドスラアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッシュッ!!」

 

雪片に更にエネルギーを送り込み、巨大なエネルギーの刀身で、サイダブラーを袈裟掛けに斬り付ける!!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

斬られた部分が大炎上したかと思うと、サイダブラーは爆発・四散するのだった!

 

「…………」

 

その亡骸の破片が燃えているのを背に、一夏は雪片を腰の鞘へと納める。

 

「………またつまらない物を斬ってしまった」

 

 

 

 

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

「チイッ!!」

 

巨大な岩石と化しているバファローダブラーから逃げる事しか出来ない箒。

 

(このままでは………何か手は無いのか………!? そうだ!!)

 

すると、何かを思いつき、その足を止めた。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

諦めたと思った巨大な岩石と化しているバファローダブラーが、スピードを上げて突っ込んで来る!!

 

「ゲッタアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ! ビイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーームッ!!」

 

すると箒は、腹から地面に向かって、ゲッタービームを放った。

 

ゲッタービームが地面を抉り、巨大なクレーターを作り出す!!

 

「むんっ!!」

 

それを確認すると、飛翔する箒。

 

巨大な岩石と化しているバファローダブラーは、ゲッタービームで空けた穴に落ち込む。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

見事に填まり込み、慌てて怪人の姿へと戻るバファローダブラー。

 

「そこだっ! ソオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーードッ! ランサアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

その瞬間、箒はバファローダブラー目掛けてソードランサーを放つ!

 

無数の刀の刃がバファローダブラーの周りに突き刺さり、動きを封じた!!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

「ストナアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ! サアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーンシャインンンンンンンンンンンンーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

そして続け様にストナーサンシャインを放つ!!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

原爆を思わせる巨大な爆発が発生し、その中でバファローダブラーはゆっくりと消滅していったのだった。

 

 

 

 

 

「ええいっ!!」

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

シングルハーケンを両手に握ったシャルが、アナホリダブラーを斬り付ける!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

反撃とばかり右腕のドリルを振るうアナホリダブラーだが………

 

「えいっ!!」

 

シャルはその腕を下から蹴り上げる。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

「タアアッ!!」

 

そして、ガラ空きになったアナホリダブラーのボディにパンチを叩き込む!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

「ダイザーパンチッ!!」

 

シャルはそのまま、アームパーツをロケットで射出!!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

零距離でダイザーパンチを喰らったアナホリダブラーはブッ飛ばされ、海へと沈む。

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!!」

 

だが、すぐに海水を撒き散らしながら浮上して来る。

 

しかし、そこにシャルの姿は無かった。

 

「!?」

 

「コッチだよっ!!」

 

シャルの姿を探すアナホリダブラーの頭上から、シャルの声が降って来る。

 

「!?」

 

「反重力ストームッ!!」

 

アナホリダブラーが見上げた瞬間!

 

スペイザーの上に乗っていたシャルが、反重力ストームを放った!!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

海水ごと空中へと巻き上げられるアナホリダブラー。

 

「ダブルハーケンッ!!」

 

そこでシャルは、シングルハーケンを合体させ、再びダブルハーケンにする。

 

「ええいっ!!」

 

そして、ダブルハーケンを空中に舞い上げたアナホリダブラー目掛けて投擲する!!

 

高速回転しながら飛ぶダブルハーケンが、アナホリダブラーを一閃!!

 

更にブーメランの様に反転して来た、後ろから更にもう1撃斬り付けた!!

 

「ヌゥアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーッ!?」

 

4分断されたアナホリダブラーは、断末魔の悲鳴と共に、空中で爆発四散する!!

 

「むんっ!!」

 

その爆発を背に、戻って来たダブルハーケンをキャッチして、ポーズを決めるシャルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして………

 

マクー監獄内・頂上部では………

 

「馬鹿な! 地獄から蘇りパワーアップしたマクーの軍勢が!?」

 

ベム怪獣やダブルマン、ダブルモンスター達が敗北した事に、暗黒銀河女王は驚きを示す。

 

「言っただろう! 俺達を………グレン団を甘く見るなってなっ!!」

 

そこで、倒れていた神谷が立ち上がりながらそう言い放つ。

 

「ええい、お黙りっ! こうなったらお前だけでも地獄へ送ってやるよ! ブートレグ!!」

 

「!!」

 

暗黒銀河女王がヒステリー気味に声を挙げると、ギャバンブートレグがブートレグビームガンを神谷へと向ける。

 

そして、その引き金が引かれようとした瞬間!

 

「うおおおおおっ!!」

 

神谷はギャバンブートレグに組み付き、ブートレグビームガンを持っていた右手を、とある方向へと向けさせた!!

 

「!?」

 

ギャバンブートレグが驚く様なリアクションを見せる中、ブートレグビームガンの引き金が引かれ、2発のビーム弾が発射される。

 

すると、何と!!

 

発射されたビーム弾が、壁に突き刺さっていたブートレグブレード。

 

そして、床に突き刺さっていたグレンブーメランで反射!!

 

そのまま、上階の壁に磔にされていた烈の方へと飛んだかと思うと、両腕の拘束具へと命中!!

 

拘束具が破壊され、烈が解放された!!

 

「!?」

 

「飛べぇっ!!」

 

ギャバンブートレグを蹴り飛ばして距離を放した神谷が、烈へそう呼び掛ける!

 

「! ふううっ!!」

 

その瞬間に烈は迷わず跳躍。

 

拘束されていた場所が爆発するのを背に、下階へと飛ぶ。

 

その烈を受け止めようとする神谷。

 

するとその脳裏に、再び幼き日の記憶が過ぎる。

 

燃え盛る建物の中で、自分に呼び掛けて来た男目掛けて飛んだ時の事が………

 

「!?」

 

そして烈を受け止めた瞬間………

 

その記憶は完全に鮮明なものとなった。

 

勇気を出して飛んだ自分を受け止めてくれた男………一条寺 烈。

 

呆然となっていた幼き日の自分の頭を優しく撫でてくれていた大きなゴツゴツとした手………

 

見る者に安心感を与える笑顔………

 

「………やっぱりそうだ」

 

烈を受け止めた神谷は、笑みを浮かべてそう確信した。

 

「お前は………」

 

そして烈も、神谷に思い当たる節を感じる。

 

「ハハハハハハハッ! 上手く出し抜いた積りだろうが、甘いよ! この鉄壁のマクー監獄から逃げられると思っているのかい!?」

 

しかしそこで、暗黒銀河女王が2人に向かってそんな事を言って来る。

 

「………ソイツは如何かな?」

 

だが、神谷は不敵に笑うと、右手にコアドリルを鍵の様に握った。

 

「!!」

 

それに反応する様に、ギャバンブートレグがブートレグビームガンを向ける。

 

「フッ………」

 

その次の瞬間!!

 

神谷がコアドリルを床に向けたかと思うと、コアドリルから緑色の光線………螺旋力が放たれる!!

 

そのまま床に円を描く様にし、穴を開けた!!

 

「!? 何の積りだい!?」

 

神谷の意図が分からず、そう言い放つ暗黒銀河女王。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時刻………

 

マクー都市2にて………

 

天空の一部が緑色に光ったかと思うと、空が円形に繰り抜かれて、破片となって落ちて来る。

 

そう………

 

神谷は螺旋力を使い、床だけでは無く、マクー階層にも穴を開けたのである!!

 

「爆熱ゥッ!! ゴッドォッ! フィンガアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

「ゲッタアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ! ビイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーームッ!!」

 

「スペースサンダーッ!!」

 

すると、マクー都市2に居た一夏達も、その穴の真下の地面に向かって、爆熱ゴッドフィンガー、ゲッタービーム、スペースサンダーを放ち、空間ごと地面に穴を開けた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー都市1………

 

一夏達が空けた穴は、マクー都市1に居るセシリア達の場所へと繋がる。

 

「ラスタバン・ビームッ!!」

 

「ハアッ!!」

 

「サンダーブレークッ!!」

 

すると、鈴、セシリア、ラウラも、その空中に空いた空間の穴の真下の地面に、ラスタバン・ビーム、バスターライフル、サンダーブレークを放つ!

 

3人の技と武器が命中した場所に、またも空間を貫いた穴が空く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

牢獄エリア………

 

今度、空間に穴が空いたのは、楯無達が居る、牢獄エリアだった。

 

「簪ちゃん! 行くよっ!!」

 

「バルカンセレクターッ!」

 

「そこかっ!!」

 

「蘭!」

 

「OK、お兄!」

 

「にゃっ!!」

 

空かさず、クラッシャー達を粗方倒して終えていた楯無達の中で、楯無、簪、フラン、グラパール・弾、グラパール・蘭、ファイナルダンクーガ(ティトリー)が、空間に空いた穴の真下へ一斉射撃を繰り出す!!

 

一際大きな空間の穴が床に空いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクー監獄内・頂上部………

 

「!? コレは!?」

 

暗黒銀河女王が驚きの声を挙げた瞬間………

 

「そんじゃ! アバヨッ!!」

 

神谷は烈に肩を貸したまま、その穴へと飛び込んだ!!

 

「ハアッ!!」

 

「「フッ!!」」

 

更に、マクー都市2に居た一夏達。

 

「「「ハッ!!」」」

 

マクー都市1に居たセシリア達。

 

「「「「「トオッ!!」」」」」

 

「…………」

 

そして、牢獄エリアに居た楯無達も、一斉に穴へと飛び込んだ!!

 

そのまま、全員がマクー監獄の最下層へと降り立つ。

 

「ティトリー!」

 

「愛の心にて、悪しき空間を断つ! 名付けて、断空光牙剣!!」

 

するとそこで、ファイナルダンクーガ(ティトリー)が、ファイナル断空砲のエネルギーを断空剣に乗せた必殺技………『ファイナル断空光牙剣』を発動。

 

「やあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーってやるニャッ!!」

 

そしてお約束の叫びと共に、そのファイナル断空光牙剣を振り回した!!

 

彼女の言葉通り、マクー監獄が、マクー空間ごと斬り裂かれる!!

 

「馬鹿な!? マクー監獄が!? おのれえええええぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~ッ!! グレン団!!」

 

次々に爆発を起こすマクー監獄の中で、暗黒銀河女王は地団太を踏みながら怒りを露にする。

 

「へっ………ド派手に脱獄だぜ!」

 

神谷がそう言って、左手を頭上に掲げたかと思うと………

 

頂上部の部屋に突き刺さったままだったグレンブーメランが落ちて来て、神谷の手に納まる。

 

そして、右手でコアドリルを握り、螺旋界認識転移システムを使い、マクー空間から脱出するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

ピンチかと思われたグレン団ですが………
別にそんな事はなかったぜ!(笑)
今更にグレン団が再生怪人に後れを取る筈がありません。

最後はマクー監獄を空間ごと破壊。
神谷の言う通り、ド派手に脱獄です。

いよいよ決戦が始まります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター8

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に、囚われの身となっていた烈を助け………

 

今まで脱獄者を出した事の無い鉄壁の監獄………

 

マクー監獄からの脱獄に成功したグレン団。

 

そのままマクー空間をも脱出し、IS学園へと帰還するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・港………

 

マクー空間から脱出したグレン団が出た場所は、IS学園の港だった。

 

「帰って来これたんだな………俺達」

 

「ああ………」

 

2度と戻れぬ覚悟を決めていただけに、思わず安堵の声を漏らす一夏と箒。

 

他のメンバー達も、安心した様に笑みを零し始める。

 

「大丈夫か?」

 

そんな中、神谷は烈に背を向けながらそう尋ねる。

 

「ああ………何故態々俺を助けに来た?」

 

それに答えながら、烈も神谷にそう問い質す。

 

「………礼を言う為だ」

 

「礼?」

 

「やっぱ覚えちゃいねえか………10年も前のクソガキの事なんてよぉ………よろしく勇気さんよ」

 

そう言いながら、神谷は烈の方を振り返る。

 

「やっぱり君は………あの時の」

 

すると烈は、その神谷を見ながらそう言う。

 

「! 覚えてたのか?」

 

「当たり前だろう。そうか………未来を掴み取ったんだな!」

 

烈はそう言って神谷に笑顔を向ける。

 

「…………」

 

神谷はまるで父親にでも向かい合っているかの様な気分で、烈と向かい合う。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

そんな神谷の姿を、一夏達は少し離れて、笑みを浮かべながら見守っていた。

 

すると………

 

「まだ終わりじゃないよ!!」

 

そう言う暗黒銀河女王の声が響き渡った!

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

神谷達が身構えると、ギャバンブートレグを隣に、背後に多数のクラッシャー達を率いて、暗黒銀河女王がマクー空間から姿を現す!!

 

「良い気になるのもそこまでだよ! お前達は必ず倒してやる!!」

 

独特なアクセントで、神谷達に向かってそう言い放つ暗黒銀河女王。

 

「しつけえ奴だぜ………アンタ、行けるか?」

 

そんな暗黒銀河女王を見て呆れる様に呟きながら、神谷は烈にそう問う。

 

「ああ。この程度の傷、何て事は無い!」

 

烈がそう言いながら、神谷の隣に立つと、グレン団の面々もそれに呼応する様に並び立つ。

 

「ヘッ………」

 

「フッ………」

 

そして、神谷と烈は、互いに握った拳をぶつけ合った。

 

「蒸着っ!!」

 

烈がそう叫んだかと思うと、その姿は銀色に輝くコンバットスーツに包まれた!!

 

「宇宙刑事! ギャバンッ!!」

 

連続でポーズを決めながら、宇宙刑事ギャバンはそう名乗りを挙げた!!

 

 

 

 

 

宇宙刑事ギャバンが、コンバットスーツを蒸着するタイムは、僅か0.05秒に過ぎない!

 

では、蒸着プロセスをもう一度見てみよう!

 

「蒸着っ!!」

 

烈がそう叫び、蒸着ポーズを取ると、それは直ちに地球衛星軌道上の亜空間内にいる超次元高速機ドルギランへと伝わる。

 

『了解! コンバットスーツ、電送シマス!』

 

そして、ドルギランより粒子状に分解されたコンバットスーツが烈へと電送される!

 

その粒子状となったコンバットスーツが、烈の体に吹き付けられる様にスーツを構成していき、蒸着は完了する。

 

もう1度言おう!

 

この一連動作………僅か0.05秒!!

 

 

 

 

 

「グレンラガン! スピンオンッ!!」

 

蒸着したギャバンに続く様に、神谷もコアドリルを握った右手を掲げてそう叫び、一夏達も待機状態のISやグラパールを構えたそう叫んだ!!

 

その次の瞬間には、神谷はグレンラガンとなり、一夏達はISを装着した状態となる!

 

「「「「「「「「「「無茶で無謀と笑われようと! 意地が支えのケンカ道! 壁があったら殴って壊す! 道が無ければ、この手で造る! 心のマグマが炎と燃える!」」」」」」」」」

 

「俺たちゃ無敵の!」

 

「「「「「「「「「グレン団!!」」」」」」」」」」

 

「俺を!」

 

「「「「「俺(私、わたくし、アタシ、僕)達を!!」」」」」」

 

「「「「「「「誰だと思っていやがるっ!!」」」」」」」

 

そして、何時もの決め台詞が決まる!

 

 

 

 

 

グレン団達が変身するタイムも、僅か0.1ミリ秒に過ぎない!!

 

 

 

 

 

「行くぜぇっ!!」

 

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっ!!」

 

「チュウッ!!」

 

グレンラガンの掛け声で、一夏達とギャバンは、暗黒銀河女王の軍勢目掛けて突撃する。

 

銃を持ったクラッシャー達からの攻撃が見舞われるが、周囲で次々に火花が散るのも気にせず、突撃を続けた!!

 

 

 

 

 

「トロイデル! バーストォッ!!」

 

叫びと共に、ドリルと化していた右腕を地面に付き立てるグレンラガン!!

 

途端に、ドリルを突き刺した場所を中心に、大規模な地割れが発生!!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

クラッシャー達が次々に飲み込まれて行った!!

 

「「「「「ギーッ!!」」」」」

 

だが、その地割れで隆起した岩盤の上から、新たなクラッシャー達がナイフを手に、技を出し終えたグレンラガンへと飛び掛かる!

 

「へっ!」

 

しかし、グレンラガンはそれを見ながら不敵に笑う。

 

その次の瞬間!!

 

何処からとも無く飛んで来たスペイザーが、体当たりでクラッシャー達を弾き飛ばす!!

 

「「「「「ギーッ!?」」」」」

 

「メルトシャワーッ!!」

 

シャルのそう言う叫びが木霊したかと思うと、弾き飛ばされて地面に転がったクラッシャー達に、スペイザーからメルトシャワーが放たれる。

 

「「「「「ギーッ!?」」」」」

 

強力な溶解液を浴びたクラッシャー達は、一瞬で溶けて無くなる。

 

「神谷っ!」

 

「ナイスだぜ、シャルッ!!」

 

と、グレンラガンとシャルが合流すると………

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

新たなクラッシャー達が現れ、2人を取り囲む。

 

「シャルッ!」

 

「分かってる! 背中は任せてっ!!」

 

するとグレンラガンとシャルは、互いに背中わせとなり、そう言い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴッドスラッシュッ! タイフウウウウウゥゥゥゥゥゥーーーーーーーンッ!!」

 

全てを斬り裂く高速回転している竜巻を化した一夏が、クラッシャー達の中を駆け抜ける!!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

クラッシャー達は次々に斬り裂かれ、怪しげな光を放って消滅する。

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

被害を受けていないクラッシャー達が、一旦一夏から距離を取って、手榴弾で攻撃しようと試みるが………

 

「させるかぁっ!!」

 

そう言う台詞と共に、箒が空中へ躍り出たかと思うと、

 

「ゲッタアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ! ビイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーームッ!!」

 

身体を高速回転させながら、ゲッタービームを跳び散らせる様に発射………『スパイラルゲッタービーム』を放つ!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

スパイラルゲッタービームは、次々にクラッシャーに命中!

 

アッと言う間に、その場に居たクラッシャー達を片付けてしまう!

 

「良し、箒! 次だっ!!」

 

「分かっている!」

 

一夏と箒はそう言い合い、新たなクラッシャー達の中へと突っ込んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「飛ばして行きますわよ!」

 

セシリアのその言葉を裏付けるかの様に、初っ端からISビットが召喚され、ビームライフルへ変形させたブルー・ティアーズを握る。

 

そして上空へと飛ぶと、クラッシャー達に制圧射撃の如くビームを浴びせる!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

上空からの攻撃に反撃出来ず、一方的に蹂躙されていくクラッシャー達。

 

「「「「「ギーッ!!」」」」」

 

しかし、それを掻い潜ったクラッシャー達が、セシリアを強襲する。

 

「フフ………」

 

だが、セシリアは慌てる事無く、不敵な笑みを浮かべる。

 

その次の瞬間!!

 

「ハアアアァァァァァーーーーーーッ!!」

 

セシリアは両手でビームジャベリンを構え、その場で駒の様に高速回転した!!

 

「「「「「ギーッ!?」」」」」

 

その1撃で、強襲して来ていたクラッシャー達が全員宙に舞う。

 

「龍王炎符水っ!!」

 

そこで、鈴が放ったマグマ・ヴァサールが、空中に浮かび上がったクラッシャー達に巻き付く様に炸裂!

 

「「「「「ギーッ!?」」」」」

 

クラッシャー達は一瞬で消し炭と化す。

 

「鈴さん。仕上げは任せましたわ」

 

現れた鈴に向かってそう言うセシリア。

 

見れば、ISビットからの攻撃を逃れようとしていたクラッシャー達が、1箇所に集まっていた。

 

「OK! 任せない!! 龍虎王、移山法!!」

 

と、鈴はそう言い放つと、1枚の札を取り出す。

 

「神州霊山!!」

 

そして、その札を巨大化させ、目の前に浮かばせたかと思うと、

 

「移山召喚!!」

 

そう言い放ち、空へと舞い上げる。

 

すると、空中に赤い八卦図が浮かび上がり、其処から暗雲が広がる。

 

そしてその暗雲から、稲妻が迸ったかと思うと………

 

暗雲の中から巨大な岩山が出現する!!

 

「急々如律令!!」

 

そう言い放って、鈴が右手を下げた瞬間!!

 

岩山は、クラッシャー達目掛けて落下する!!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

クラッシャー達は為す術も無く、押し潰されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドリルプレッシャーパンチッ!!」

 

ラウラの叫びで、右腕パーツがロケット噴射で射出。

 

4つの刃状の突起が飛び出し、高速回転しながら次々にクラッシャー達を貫いて行く!!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

「「「「「ギーッ!!」」」」」

 

当たらなかったクラッシャー達が、ラウラ目掛けてナイフを投擲するが………

 

「そんな物が効くかっ!!」

 

ナイフ如きではグレートマジンガーの装甲を貫けず、逆に砕け散る。

 

「「「「「ギーッ!!」」」」」

 

するとクラッシャー達は、バズーカを持ち出して来たが………

 

「…………」

 

そこへ、ローラーダッシュで突撃して来たフランが、バズーカを構えていたクラッシャーの1番端に居た奴に、ショルダータックルを喰らわせる!!

 

「ギーッ!?」

 

「「「「ギーッ!?」」」」

 

将棋倒しの様に一斉に倒されるクラッシャー達。

 

「!!」

 

そこでフランは、倒れて折り重なっていたクラッシャー達を、パイルバンカーで一気に貫いた!!

 

「「「「「ギーッ!?」」」」」

 

断末魔の悲鳴を挙げて、クラッシャー達は怪しげな光と共に消滅する。

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

そこで、機関銃を装備したクラッシャー達が、ラウラとフランに向かって弾幕を浴びせる。

 

「まだ居たか!!」

 

「片付ける………」

 

しかし、ラウラは装甲で意にも介さず、フランは左腕のシールドで防ぎながら、機関銃を持ったクラッシャー達に突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええいっ!!」

 

蒼流旋を構えて、イグニッション・ブースト(瞬時加速)でクラッシャー達の中へと突撃する楯無。

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

ドリルの様に回転する槍・蒼流旋を構えての突撃に、クラッシャー達は次々に引き裂かれて宙に舞う。

 

「っととっ!?」

 

しかし、勢いを付け過ぎたのか、楯無は止まろうとしてよろける。

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

その隙を見逃さず、クラッシャー達は次々に手榴弾を投擲する!

 

「わっ!? ちょっ!? タイムタイムッ!!」

 

手榴弾の雨霰に、バタバタと逃げ回る楯無。

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

それを見たクラッシャー達は、更に連続で手榴弾を投擲して行く。

 

「ギーッ!!」

 

今、また1体のクラッシャーが、楯無に向かって手榴弾を投げつけようと振り被る。

 

その瞬間!!

 

1発の銃声と共に、クラッシャーが振り被っていた手榴弾が撃ち抜かれた!!

 

「!? ギーッ!?」

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

手榴弾が爆発すると、クラッシャーが消し飛び、更に周りに居たクラッシャー達の手榴弾にも誘爆が及び、次々に爆散する。

 

「…………」

 

その1発を放った人物………ヘヴィマシンガンを構えた簪が、物陰から姿を覗かせている。

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

残っていたクラッシャー達が、先程の襲撃の犯人を見つけると、すぐに狙いを其方に変え、またも次々に手榴弾を投擲し始める!

 

「…………」

 

簪はターレットレンズを回転させると、ローラーダッシュで駆け抜け始める。

 

至近距離で爆発が起こっても眉1つ動かさない。

 

そのままドンドンとクラッシャーの中へと斬り込んで行ったかと思うと………

 

「!!………」

 

右脚のターンピックを下ろし、左脚のローラーダッシュを使ってその場で高速回転しながらヘヴィマシンガンをフルオートで連射した!!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

クラッシャー達は次々に銃弾を浴び、怪しげな光を放って消滅して行く。

 

「ナイス! 簪ちゃん!!」

 

楯無がそう言いながら、簪の傍に寄ろうとしたところ………

 

「!!………」

 

何と簪は、楯無にヘヴィマシンガンを向けた!!

 

「えっ!? ちょっ!? 簪ちゃん!?」

 

「…………」

 

楯無が慌てる中、簪は引き金を引き、ヘヴィマシンガンから弾丸が連射される。

 

「!?」

 

思わず楯無が硬直すると、弾丸は楯無の顔の横や脇の下、足の間を摺り抜けて背後へと向かい………

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

楯無に背後から襲い掛かろうとしていたクラッシャー達を撃ち抜いた!!

 

「………油断大敵」

 

簪はそう言うと、新たな敵の方へローラーダッシュで向かって行った。

 

「………一瞬本当に殺されるかと思っちゃった」

 

危うく(お察し下さい)しそうになりながら、楯無は簪の後を追って、新たな敵団へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

「蘭! ティトリー! せーので行くぞ!!」

 

「分かってるわよ、お兄!」

 

「任せて!!」

 

クラッシャーの大軍を前に、スパイラルボンバーを構えているグラパール・弾が、同じくスパイラルボンバーを構えているグラパール・蘭と、断空砲フォーメーションを取っているファイナルダンクーガ(ティトリー)に呼び掛ける。

 

「行くぜっ!!」

 

「ファイヤーッ!!」

 

「断空砲! フォーメーションッ!!」

 

そして、3人の一斉射撃が火を噴く!!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

巨大な爆発が、クラッシャーの大軍を飲み込み、遥か上空まで立ち上る黒煙を挙げた!!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

しかし尚も、新たなクラッシャーの軍勢が、倒れたクラッシャー達の死体を踏み越えてやって来る。

 

「まだ来るかっ!!」

 

「しつこいわねっ!!」

 

「やあああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーってやるニャッ!!

 

そこでグラパール・弾はグラパールブレードを、グラパール・蘭は両手にハンドガンを構え、ダンクーガは断空剣を握り、新たなクラッシャー達の軍勢へと突撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ギャバンは………

 

「チュウッ!!」

 

両腕を水平に横に伸ばし、右足を膝まで上げると言う独特のポーズを取って跳躍し、港のコンテナの上に着地したかと思うと、そこに居たクラッシャー達を相手に大立ち回りを始める!

 

「ギーッ!!」

 

1体のクラッシャーが横薙ぎに振るって来た棍棒を、姿勢を低くしてかわしたかと思うと、そのまま後ろを振り向き、後ろにいたクラッシャーの拳を往なすと、カウンターのパンチでコンテナの上から叩き落とす!

 

「ギーッ!?」

 

「ギーッ!!」

 

「チュウッ!!」

 

そして、先程棍棒を振るって来たクラッシャーの顔面に裏拳を打ち込む!!

 

「ギーッ!?」

 

「ギーッ!!」

 

怯んだクラッシャーがまたもコンテナの上から落下すると、また別のクラッシャーが襲い掛かって来るが、ギャバンは腕を掴んで捕まえる。

 

「チュウッ!!」

 

そのまま、また顔面に裏拳を叩き込んだかと思うと、更に後頭部にも拳を振り下ろす!

 

「ギーッ!?」

 

その威力に、クラッシャーは空中で後方回転しながら、コンテナの上から落下する。

 

「チュウッ!!」

 

「ギーッ!!」

 

更にそのまま、まるで流れ作業であるかの様に、最後のクラッシャーの顔にハイキックを叩き込んで仕留める!

 

「チュウッ!!」

 

そこでギャバンは、クラッシャー達が乱雑している地上へと降り立つ。

 

「チュウゥッ!!」

 

「「ギーッ!?」」

 

襲い掛かって来たクラッシャーを往なしてカウンターパンチを喰らわせ、更にその勢いで右後方に居たクラッシャーにも拳を叩き込んだ!

 

「ムッ!?」

 

「「「「「「「「「「ギーッ!!」」」」」」」」」」

 

そしてそこで、クラッシャー達が前方に集まっているのを確認する。

 

「ディメンションボンバーッ!!」

 

するとギャバンは跳び上がり、両腕を前に突き出して突進!!

 

「「「「「「「「「「ギーッ!?」」」」」」」」」」

 

パンチと体当たりによって、クラッシャー達を一掃した!!

 

「チュウッ! トゥアッ!!」

 

着地を決めると、周りにいたクラッシャーの内、前方に居た連中をハイキックで、後ろの居た連中をその勢いを利用しての裏拳で纏めて倒す!!

 

「!!」

 

「ムウッ!?」

 

そこで、ギャバンブートレグが、ギャバン目掛けて飛び蹴りを繰り出して来る!!

 

「むうんっ!!」

 

ギャバンは、ブートレグの飛び蹴りに対し、正拳を繰り出す!!

 

ブートレグの飛び蹴りは、ギャバンのパンチによって相殺される!!

 

「むうっ!!」

 

「!!」

 

そのまま両者は至近距離で睨み合う。

 

そして、共に横移動を始めたかと思うと、港倉庫の壁をブチ破って、倉庫内部へと入り込んだ!!

 

「チュウッ!!」

 

「!!」

 

ブートレグのキックを防ぐと、反撃のパンチを繰り出すギャバンだが、ブートレグはギャバンのパンチを受け止める。

 

「!!」

 

「むっ!!」

 

今度がブートレグからパンチが繰り出されるが、ギャバンは素早く反らし、ブートレグがパンチを繰り出したのと逆の腕を捉える!

 

そして振り回す様にして位置を変えると、キックを浴びせ、そのまま投げ飛ばす!!

 

「!!」

 

そこでブートレグは、ブートレグブレードを出現させる。

 

「むんっ!!」

 

それに対抗する様に、ギャバンもレーザーブレードを出現させた!!

 

「トゥアッ!!」

 

「!!」

 

そのまま、ブートレグと激しい剣劇を展開するギャバン。

 

「むんっ!!」

 

と、一瞬の隙を付いて、ブートレグのブートレグブレードを抑え込むとクリンチの様に肉薄し、そのまま投げ飛ばす。

 

「!!」

 

投げ飛ばされたブートレグは、倉庫内に在った廃車に激突。

 

「!!」

 

それですぐに斬り掛かって来たギャバンにブートレグブレードを振ったが、ギャバンは跳躍してかわすと、廃車のボンネットの上に乗る。

 

「トアッ!!」

 

「!!」

 

そのまま素早く再度レーザーブレードを振るったが、ブートレグは防ぐ。

 

「!!」

 

反撃に繰り出されたブートレグの斬撃を、ギャバンは廃車の屋根の上を転がる様にしてかわす。

 

「!!」

 

そこでブートレグは廃車のボンネットの上に昇る。

 

「!!」

 

そのまま2度、3度を斬り合ったかと思うと、不意を付く様にギャバンの足元を狙った斬撃を繰り出す。

 

「むうっ!?」

 

咄嗟にジャンプしてかわすギャバンだが、着地が出来ずに廃車の屋根の上に倒れる。

 

「!!」

 

そのギャバン目掛けて、ブートレグは容赦無くブートレグブレードを振り下ろすが、ギャバンはレーザーブレードで受け止める。

 

「トウアッ!!」

 

そしてそのまま、ブートレグの頭に蹴りを叩き込む!!

 

「!?」

 

ブートレグは弾き飛ばされ、地面の上を転がる。

 

「チュウッ!!」

 

そして、立ち上がったところへギャバンが跳躍からのレーザーブレードの振り下ろしを見舞う!!

 

「!?」

 

真面に喰らい、アーマーから派手に火花を散らして後ずさるブートレグ。

 

「!!」

 

と、アーマーから白煙を上げながら、ブートレグはブートレグビームガンを左手に握って連射する。

 

「むうっ!!」

 

だが、ギャバンはビーム弾を全て、レーザーブレードで明後日の方向へ弾き飛ばす!!

 

弾き飛ばされたビーム弾が背後に着弾し、爆発が起こる中で、ギャバンは残心を取る。

 

「!!」

 

再びブートレグがブートレグブレードを振り被って斬り掛かるが、楽々と往なす。

 

そのまま互いに移動しながらの剣劇を展開する。

 

「チィエアッ!!」

 

「!?」

 

だが、度重なるダメージで、ブートレグの動きは鈍って来ており、ギャバンのレーザーブレードの斬撃が、2連続で決まる!

 

「レーザーブレードッ!!」

 

とそこで、ギャバンがレーザーブレードの刀身を手で撫でたかと思うと、バードニウムエネルギーが注入され、刀身が光り輝く!

 

それに呼応するかの様に、ギャバンの目も発光する!

 

その鋭い眼は、悪に対しての怒りを燃やしているかの様だった。

 

「!!」

 

と、ブートレグもそれに対抗するかの様に電飾部分を発光させ、ブートレグブレードにエネルギーを注入する。

 

「チュウッ!!」

 

「!!」

 

白銀に輝くレーザーブレードと、赤く鈍い光を放つブートレグブレードが、火花を散らしてぶつかり合う。

 

上段、下段と刃をぶつけ合ったかと思うと、ギャバンが突きを繰り出したが、ブートレグは回転しながら後退してかわす。

 

「トウアッ!!」

 

「!!」

 

再び互いに上段で刃をぶつけ合ったかと思うと、今度は互いに突きを繰り出し、両者の刃が互いの肩に接触!!

 

そのまま互いに刃を引いたかと思うと、火花が飛び散る!

 

「!!」

 

「むうんっ!!」

 

ブートレグの縦斬りを、レーザーブレードの刀身に手を当てての両手持ちで防ぐギャバン。

 

「チュウアッ!!」

 

「!?」

 

そのままブートレグブレードを弾くと、棍棒の様にブートレグの腹をレーザーブレードで叩く。

 

「むんっ!!」

 

遂に、ブートレグのブートレグブレードが弾き飛ばされて宙に舞った!!

 

「ティオァッ!!」

 

そこでギャバンは、レーザーブレードで突きを繰り出し、ブートレグの身体を貫く!!

 

「!?!?!」

 

「ただ能力を複製しただけのブートレグが、人間の心を持った俺に勝てるワケが無い!! チュウッ!!」

 

貫かれた場所から激しく火花を散らすブートレグにそう言い放ち、ギャバンはレーザーブレードを引き抜くと、駄目押しとばかりに逆袈裟で斬り上げる!!

 

「!?」

 

「ギャバン・ダイナミックッ!!」

 

そして、大上段に構えた最大出力のレーザーブレードを振り下ろす必殺技『ギャバン・ダイナミック』が繰り出された!!

 

「!?!?!?!?」

 

ブートレグは縦に真っ二つとなり、火花を散らしながら倒れ、そのまま大爆発する!!

 

その爆発を見ながら、残心を取って構えを解くギャバンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく




新話、投稿させて頂きました。

マクー監獄を見事脱出したグレン団。
しかし、暗黒銀河女王が襲い掛かる。
遂に決戦の火蓋が切って落とされました。
先ずはギャバンがギャバンブートレグを撃破。
次回はグレン団と暗黒銀河女王の決戦。
長かった天元突破インフィニット・ストラトスもいよいよ完結となります。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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チャプター9

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャバンが、ブートレグを倒したその頃………

 

グレン団達は、暗黒銀河女王と対峙していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・港施設エリア………

 

「雑魚は全部片付けた!!」

 

「残るはテメェだけだぜ! 暗黒銀河女王!!」

 

倒したクラッシャー達を背にしているグレン団が、暗黒銀河女王に向かってそう言い放つ。

 

「ふんっ! 調子に乗るな小童共!! 私に勝てると思っているのかい!!」

 

だが、暗黒銀河女王は余裕の有りそうな様子でそう言い放つ。

 

「ああ! 今すぐブッ倒してやらぁっ!!」

 

と、先陣を切る様にグレンラガンが突撃。

 

「ギガァ! ドリルゥ! ブレエエエエエエェェェェェェェーーーーーーーーイクッ!!」

 

そしていきなり必殺のギガドリルブレイクを繰り出す!!

 

「ハアッ!!」

 

しかし、暗黒銀河女王が手にしていた杖を構えたかと思うと、バリアが発生する。

 

「!? うおわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

そのバリアに接触したグレンラガンが、アッサリと弾き飛ばされる。

 

「うごっ!?」

 

「! 神谷!!」

 

地面に叩きつけられて転がったグレンラガンの傍に、シャルが慌てて駆け寄る。

 

「チイッ! 何てバリアだっ!!」

 

「バリアなら俺が!!」

 

すると今度は、一夏が零落白夜を発動させ、刀身がエネルギーで輝いている雪片弐型を構えて突撃。

 

「チエリャアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッ!!」

 

気合の一閃で、バリアを無力化する。

 

「ほお~?」

 

暗黒銀河女王は、バリアを斬り裂いた一夏に、感心した様な表情を向ける。

 

「貰ったぁっ!!」

 

そのまま返す刀で暗黒銀河女王を斬り付けようとした一夏だったが………

 

一夏の素早い2撃目は、暗黒銀河女王の杖によって受け止められる。

 

「!? 何っ!?」

 

「甘いよ! バリアを破壊したぐらいで良い気になるんじゃないよ!! ハアッ!!」

 

驚く一夏の雪片を弾くと、杖での斬撃を放つ暗黒銀河女王。

 

「!? うおわぁっ!!」

 

アーマーから火花を上げて弾き飛ばされ、一夏は地面を転がる。

 

「一夏!? 貴様! ゲッタアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ! ビイイイイイイイイイィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーームッ!!」

 

「フォトンストリームキャノン! 発射ぁっ!!」

 

「龍王炎符水っ!!」

 

「サンダーブレークッ!!」

 

箒、セシリア、鈴、ラウラによる一斉攻撃が放たれる。

 

「むうんっ!!」

 

しかし、暗黒銀河女王は、その攻撃を全て片手で受け止めてしまう。

 

「!? 馬鹿なっ!?」

 

「「「!?」」」

 

「そうら、返してやるよ!」

 

そして、そのエネルギーを1つの球体にしたかと思うと、箒達目掛けて投げつける!

 

「「「「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」」」」

 

4機分の攻撃に使ったエネルギーが足元に着弾し、大爆発が起こって、空中に舞い上げられる箒達。

 

「うわぁっ!?」

 

「キャアッ!?」

 

「ぐふっ!?」

 

「ぐうっ!?」

 

そのまま、碌に受け身も取れずに地面に叩きつけられる。

 

「このぉっ!!」

 

「…………」

 

すると今度は、楯無が蒼流旋のガトリング砲から弾丸。

 

簪が右腰の2連装ミサイルポッドのミサイルを見舞う。

 

「せええあっ!!」

 

だが、暗黒銀河女王が、迫り来る弾丸とミサイルに向かって手を向けたかと思うと、弾丸とミサイルが空中で静止する!

 

「!? 嘘っ!?」

 

「!? サイコキネシス………」

 

「そおらっ!!」

 

楯無と簪が驚いていると、暗黒銀河女王の掛け声で、弾丸とミサイルは反転。

 

楯無と簪へと向かう!

 

「!? くうっ!!」

 

「!!………」

 

咄嗟に水のヴェールを張って防ぐ楯無と、ジェットローラーダッシュで回避する簪。

 

すると、その次の瞬間………

 

グラパール・弾、グラパール・蘭、フラン、ダンクーガが、暗黒銀河女王を4方から取り囲む様に陣取った。

 

「うん?」

 

「行くぞ、蘭! フランちゃん! ティトリー!」

 

「OK、お兄!!」

 

「4方から一斉に掛かれば………」

 

「避けられないでしょうっ!!」

 

何をする気だと言う顔になった暗黒銀河女王にそう言い放ち、グラパール・弾とグラパール・蘭はグラパールブレードを、フランはパイルバンカー、そしてダンクーガは断空剣を構えて、一斉に突撃する!!

 

「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!!」」」」

 

4人の一斉攻撃が、暗黒銀河女王に決まる!!

 

「甘いわぁっ!!」

 

………かと思われた瞬間に、暗黒銀河女王の姿が忽然と消えてしまった!!

 

「なっ!?」

 

「ええっ!?」

 

「何っ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

取り囲んでの一斉攻撃だった為、同士討ちとなってしまうグラパール・弾、グラパール・蘭、フラン、ダンクーガ。

 

「「「「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」」」」

 

「ハハハハハハハハハハッ!!」

 

そんなグラパール・弾達を嘲笑いながら、暗黒銀河女王は再度姿を現す。

 

「何とも手応えが無いねぇ。コレがあのロージェノムを倒したグレン団かい? 期待外れも良いとこだよ」

 

「このぉっ!!」

 

小馬鹿にする様な態度を取る暗黒銀河女王に向かって、ダブルハーケンを投擲するシャル。

 

「フンッ!!」

 

だが、暗黒銀河女王は杖でアッサリと弾き飛ばす。

 

しかしその次の瞬間!!

 

足元の地面が爆ぜて、グレンラガンが飛び出した!!

 

「貰ったぁっ!!」

 

ドリルに変えた右腕で、アッパーカットを繰り出すグレンラガンだったが………

 

「お見通しだよ!!」

 

暗黒銀河女王は、グレンラガンに左手を向けると、怪光線を放つ!!

 

「!? おうわっ!?」

 

「神谷っ!!」

 

再び地面を転がったグレンラガンを、シャルが助け起こすが………

 

「死ねえええぇぇぇぇっ!!」

 

間髪入れずに、暗黒銀河女王が、杖の先端に鎌の様にエネルギー刃を展開させ、横薙ぎに振るった!

 

「!? うわぁっ!?」

 

「うおおおっ!?」

 

アーマーから火花を散らし、ブッ飛ばされるシャルとグレンラガン。

 

「アニキ!」

 

「シャルッ!」

 

とそれを一夏とダンクーガが助け起こし、グレン団は一旦集結する。

 

だが、その瞬間!!

 

「言っただろう! 私に勝てると思っているのかい! ダークレーザァーッ!!」

 

暗黒銀河女王がそう叫んで杖を両手で構えたかと思うと………

 

杖から黒紫の稲妻状の光線が連続で放たれ、グレン団の面々へと直撃!!

 

「「「うおわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」」」

 

「「「「「「「「「「キャアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッ!?」」」」」」」」」」

 

巨大な爆発が巻き起こり、グレン団達は爆風で宙に舞い上げられた!!

 

そしてそのまま次々に地面へと叩きつけられる。

 

「ハハハハハハハッ! 見たかい! コレがこの私! 暗黒銀河女王の力だよ!! 宇宙の全ての者は! この私に跪くのさ!! アハハハハハハハッ!!」

 

アーマーから白煙を上げて倒れているグレン団の姿を見ながらそう言い放つ暗黒銀河女王。

 

すると………

 

「ゴチャゴチャとウルセェんだよ!!」

 

「! 何ぃっ!?」

 

そう言う台詞と共に、グレンラガンが白煙が上がる身体を無理矢理立ち上がらせる。

 

「何が暗黒銀河女王だ! 俺達を誰だと思ってやがるっ!!」

 

「そうだ! 俺達はグレン団だ!!」

 

「宇宙にだって風穴を空ける………最強の集団だよ!!」

 

更にそこで、一夏とシャルも、グレンラガンに続く様に立ち上がる。

 

そこから他のメンバー達も、身体に鞭を打って立ち上がらせる。

 

「フン! そんなに死に急ぎたいのかい! ならば望み通りにしてくれるわぁ!!」

 

暗黒銀河女王はそんな神谷達を見てそう言い放つと、杖を両手で構え、エネルギーをチャージする。

 

「喰らえっ! ダークレーザァーッ!!」

 

そして、先程放ったモノより、更に強力な怪光線を放った!!

 

グレン団の元へと着弾した怪光線は、大爆発を起こして、爆炎がグレン団を包み込んだ!!

 

と、その次の瞬間!!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!」

 

その爆煙を突っ切る様に、グレンラガンが飛び出す。

 

「馬鹿め! 何度やっても同じ事だよ!!」

 

暗黒銀河女王は、突撃して来るグレンラガンに向かってそう言うと、バリアを展開させる。

 

しかし!!

 

「零落白夜っ!!」

 

グレンラガンがそう叫んだかと思うと、右手に雪片弐型が出現し、刀身にエネルギーが流れて白く発光する!!

 

「!? 何ぃっ!?」

 

「うおりゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」

 

その様に驚く暗黒銀河女王に向かって、グレンラガンは零落白夜を発動させている雪片弐型を振るう!

 

バリアが斬り裂かれて、アッサリと消滅した!!

 

「バ、バリアーがっ!?」

 

「反重力ストームッ!!」

 

驚く暗黒銀河女王に向かって、グレンラガンが今度はそう叫んだかと思うと、胸のサングラスから反重力ストームが放たれる!!

 

「!? ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

反重力エネルギーによって、空中高くへ舞い上げられる暗黒銀河女王。

 

「サンダーブレイクッ!!」

 

その暗黒銀河女王に向かって、グレンラガンが人差し指を伸ばすと、その指先から稲妻が放たれる!!

 

「ぬあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

直撃を喰らい、暗黒銀河女王は地面に叩き落とされる。

 

「ど、如何なっている!?」

 

何故グレンラガンが他のグレン団メンバーの武器や技を使っているのか?

 

その理由が分からず、暗黒銀河女王は困惑する。

 

『決まってんだろ!!』

 

『僕達の力を1つに合わせてるんだよ!!』

 

すると、グレンラガンの身体から、一夏とシャルのそう言う声が響いて来た。

 

「!? そうか! 合体かい!!」

 

「御名答っ!!」

 

ハッとした様に言い放つ暗黒銀河女王に、グレンラガンは不敵笑ってそう返す。

 

そう………

 

暗黒銀河女王の言う通り、今グレンラガンは、グレン団のメンバーと合体している状態なのだ。

 

以前、ロージェノムのアンチ・ラゼンガンとの戦いで、グレン団は1つに合体。

 

『天元突破グレンラガン』となり戦ったが、今回はそれを応用した形で、等身大を維持し、グレンラガンに他のメンバーが融合する形で合体したのである。

 

その為、天元突破グレンラガン程の力は無いが、グレン団メンバーの能力や武器・技を使用出来るので、単体での戦闘能力は格段に跳ね上がっているのだ。

 

「ええい! 舐めるんじゃないよ! この暗黒銀河女王が! そう易々と破れたりするものかい!!」

 

「上等だぁっ!!」

 

そう叫ぶ暗黒銀河女王に向かって、グレンラガンは突撃する!!

 

「ダークレーザァーッ!!」

 

そのグレンラガンに向かって、ダークレーザーを放つ暗黒銀河女王。

 

「喰らうかぁっ!!」

 

だが、グレンラガンがそう叫ぶと、水のヴェールが展開して、ダークレーザーを防ぐ。

 

「チイィッ!!」

 

それを見た暗黒銀河女王は、一旦距離を取ろうとする。

 

しかし、後退しようとしたところで、何かにぶつかり、取り押さえられる。

 

「!? むうっ!?」

 

それは、ISビットだった。

 

「何時の間に!?」

 

「雨月! 空裂!」

 

暗黒銀河女王が驚きの声を挙げていると、グレンラガンは両手に雨月と空裂を出現させる。

 

「ダブルブウウウウウウィィィィィィィーーーーーーーーメランッ!!」

 

そして、ISビットに取り押さえられていた暗黒銀河女王に向かってブーメランの様に投げつける!!

 

「!? うわあぁっ!?」

 

雨月と空裂に連続で斬り付けられる暗黒銀河女王。

 

「このぉっ!! 調子に乗るんじゃないよっ!!」

 

しかし体勢を立て直すと、杖の先端に鎌状のエネルギー刃を展開。

 

「真っ二つになりな!!」

 

そして、そのままグレンラガン目掛けて横薙ぎに振るう!!

 

「おおっと!!」

 

だが、グレンラガンは跳躍してそれを回避!

 

そのまま暗黒銀河女王の頭上を取ったかと思うと、空中で逆さまになる。

 

「むうっ!?」

 

「そらよっ!!」

 

すると、グレンラガンの両手に、グラパールのハンドガンが出現。

 

それを連射しながら、身体を高速で回転させる!!

 

「ぬああああっ!?」

 

エネルギー弾が、雨の様に暗黒銀河女王に降り注ぐ。

 

「よっと!」

 

「オノレェッ!!」

 

と、着地を決めたグレンラガンに、左手から怪光線弾を放つ暗黒銀河女王。

 

「何のっ!!」

 

しかし、グレンラガンは素早く振り返り、右手にヘヴィマシンガンを出現させたかと思うと、怪光線弾を撃ち落とす。

 

「断空剣っ!!」

 

そして今度は、断空剣を出現させたかと思うと、

 

「おおりゃあっ!!」

 

その断空剣を、暗黒銀河女王目掛けて投げつけた!!

 

「!? むううっ!?」

 

咄嗟に杖を構えたものの、断空剣によって、その杖は弾き飛ばされる。

 

「し、しまったっ!?」

 

「龍王破斬剣っ!!」

 

そこでグレンラガンがそう叫んで右手を掲げる様にしたかと思うと、その手から火柱が伸び、龍王破斬剣が出現!!

 

「おおりゃああっ!!」

 

その龍王破斬剣を、地面に叩きつける様に振ったかと思うと、炎が地面を走り、暗黒銀河女王へと向かう!!

 

「!? チイッ!!」

 

回避行動を取る暗黒銀河女王だったが………

 

「させるかぁっ!!」

 

グレンラガンがそう叫ぶと、左腕にベルゼルガの盾が出現し、内蔵されていたパイルバンカーのバンカーが射出させた!!

 

「!? ぬあっ!?」

 

辛うじて回避した暗黒銀河女王だったが、それで足が止まり、龍王破斬剣から放たれた炎が足元へ到達!!

 

その瞬間に、火山の爆発を思わせる火柱が地面より噴出した!!

 

「!? ぬああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!?」

 

その火柱によって、暗黒銀河女王は上空高くに舞い上げられる。

 

「行くぜ! お前等ぁっ!!」

 

『『『『『『『『『おおっ!!』』』』』』』』』』

 

とグレンラガンがそう呼び掛けると、合体しているメンバー全員から、勇ましい返事が返って来る。

 

そして、グレンラガンが右手を掲げる様に構えると、フルドリラズ状態になる。

 

そのドリルが右腕へと集まり、ギガドリルへと変わる!!

 

『『『『『『『『『「必殺! ギガドリルブレイクッ!! グレン団スペシャルウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーッ!!」』』』』』』』』』

 

必殺の『ギガドリルブレイク・グレン団スペシャル』が放たれる!!

 

螺旋力の光を纏ったグレンラガンが、暗黒銀河女王の身体を貫く!!

 

「そ、そんな! 馬鹿な!! この私がぁっ!!」

 

グレンラガンが着地を決めると同時に、暗黒銀河女王で空中で大爆発!

 

木端微塵となった!!

 

「やったぜっ!!」

 

『よっしゃあっ!!』

 

『勝ったんだね! 神谷!!』

 

グレンラガンがガッツポーズを決めると、一夏やシャルの声も挙がる。

 

「ああ! 俺達の………勝ちだ!!」

 

そう叫ぶグレンラガン。

 

………だが、その時!!

 

突如として大地が揺れ始める!!

 

「!? うおっ!?」

 

『な、何だっ!?』

 

と、箒がそう声を挙げた瞬間!!

 

地面に突き刺さって残っていた暗黒銀河女王の杖から、禍々しいオーラが立ち上り始めた!!

 

『!? 暗黒銀河女王の杖が!?』

 

「大地に眠る悪霊たちよ! 我に! はぁっ! 力を、与えよーっ!!」

 

鈴が声を挙げると、倒された筈の暗黒銀河女王の声が響き渡る。

 

そして、杖から立ち上っていたオーラが大きくなり………

 

「ぬああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」

 

そのオーラが、巨大な暗黒銀河女王の姿となった!!

 

『!? うおおっ!?』

 

『巨大化した!?』

 

『嘘ーっ!?』

 

弾、蘭、ティトリーから驚きの声が挙がる。

 

「ハハハハハハハハッ! 貴様等に倒された事で膨れ上がった恨みのパワーと大地に眠る悪霊達の力によって! マクー空間を無限に拡大させたのさ!!」

 

「何ぃっ!?」

 

「この星を………いや! 宇宙全体を飲み込んでやるよぉっ!!」

 

暗黒銀河女王がそう叫ぶと、地球の自転が逆回転し始め、空に暗雲が立ち込め始めた!

 

拡大したマクー空間が、地球を飲み込もうとしているのだ!!

 

『マクー空間が、地球を飲み込もうとしていますわ!』

 

『このままでは地球が!?』

 

「チイッ! させるかぁっ!!」

 

セシリアとラウラの声が挙がると、グレンラガンは飛翔し、巨大化した暗黒銀河女王へと突撃する!!

 

「無駄だよ! もうお前達に為す術は無い!!」

 

だが、暗黒銀河女王がそう言って、飛んで来るグレンラガンへと左手を向けたかと思うと、波動の様な光線を放つ!!

 

「!? ぐうっ!? おおっ!?………!? おわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!?」

 

グレンラガンは弾き飛ばされ、港の施設へと突っ込む!!

 

『イターイッ!!』

 

『神谷くん! 気を付けてよぉっ!!』

 

『敵のパワーが上がっている………コレがマクー空間の力………』

 

フラン、楯無、簪からそう声が挙がる。

 

「チキショウがぁ! 負けるかぁ!!」

 

身体の上に乗っていた瓦礫を押しのけながら立ち上がるグレンラガン。

 

「フハハハハッ! 捻り潰してやるよ!! グレンラガンッ!!」

 

と、そのグレンラガンに向かって、暗黒銀河女王は杖を構える。

 

「!?」

 

「喰らえっ! ダーク………」

 

そして、ダークレーザーが放たれる!!

 

………と、思われた瞬間!!

 

「ドルファイヤーッ!!」

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

ギャバンのモノと思われる声が響き、何かの咆哮と共に、暗黒銀河女王に火炎が浴びせられた!!

 

「!? ぬわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

暗黒銀河女王は爆発と共に吹き飛ばされる。

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

そして次の瞬間には、インフィニット・ノアを撃墜した青い機械仕掛けの龍………『電子星獣ドル』と、その頭の上に乗ったギャバンが現れた!!

 

「!? ギャバン!!」

 

「来い! グレンラガン!!」

 

電子星獣ドルの頭の上に居たギャバンが、グレンラガンを呼ぶ。

 

「! おうよっ!!」

 

それを聞いたグレンラガンは、トビダマからの噴射で飛翔!

 

ギャバンの隣、電子星獣ドルの頭の上に着地する。

 

「オノレェッ!! ダークレーザァーッ!!」

 

空中の電子星獣ドルに向かってダークレーザーを放つ暗黒銀河女王。

 

ギャオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッ!!

 

しかし、電子星獣ドルは巧みな飛翔で回避する。

 

「ドルレーザーッ!!」

 

ギャバンがそう叫んでポーズを取ると、電子星獣ドルの前足から赤いレーザー弾と、目から赤いレーザーが放たれる!!

 

「!? うわああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?」

 

レーザーが次々に直撃し、暗黒銀河女王は火花を伴った爆発を連続で起こす。

 

「神谷! 一緒に行くぞっ!!」

 

「ああっ!!」

 

そこで、ギャバンとグレンラガンはそう言い合うと、レーザーブレードと雪片弐型を取り出す。

 

「レーザーブレードッ!!」

 

「零落白夜っ!!」

 

そして、ギャバンはレーザーブレードにエネルギーを注入し、グレンラガンは零落白夜を発動させる。

 

発光する刀身が、2つ並ぶ。

 

「ぬううっ!?」

 

「「ギャバン・グレン・ダイナミックッ!!」」

 

恐れ戦く暗黒銀河女王に、ギャバンとグレン団の合体技………

 

『ギャバン・グレン・ダイナミック』が叩き込まれる!!

 

「ぬああああああっ!? お、オノレエエエエエェェェェェェッ!! 覚えておいで、ギャバン! グレン団! 例え肉体は滅びても………我が魂は永遠に滅びぬうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!」

 

そう断末魔を残し、暗黒銀河女王は爆発・消滅した。

 

その消滅エフェクトをバックに、電子星獣ドルが着地すると、ギャバンとグレンラガンは頭の上から飛び降り、決めのポーズを取る。

 

そして、暗黒銀河女王が倒された事で、拡大していたマクー空間も消滅するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園・港施設エリア………

 

「「…………」」

 

夕日に照らされる波止場に、神谷と烈は2人佇んでいた。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その様子を、一夏達は遠巻きに見守っている。

 

「大きくなったなぁ………立派な男になった」

 

まるで息子の成長を喜ぶ父親の様な口調で神谷にそう言う烈。

 

「へっ………当然だろ。俺を誰だと思ってやがる」

 

それに対し、神谷はお決まりの台詞を返す。

 

「ああ、そうだな。本当に良い男になった………嬉しいよ」

 

しかし烈は更に手放しで神谷を褒め、その肩に手を置く。

 

その表情は、本当に嬉しそうだった。

 

「…………」

 

あまりに正面切って褒めて来るので、流石の神谷も照れ臭いのか、笑みが浮かびそうになるのを堪えている。

 

「フ、フン! とっとと帰っちまえよ! 大変なんだろ! 宇宙警察とかもよぉ!!」

 

「アハッ! あの神谷が照れてる」

 

「コレはレアね~」

 

照れ隠しにそう言う神谷を見て、シャルと楯無が吹き出し、他のメンバーもニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 

「! お前等! 何言ってやがる!!」

 

それが聞こえた神谷は、思わず一夏達の方を向いて怒鳴る。

 

「…………」

 

と、そこで烈は、背を向けた状態になった神谷に近づいたかと思うと、両手を両肩に置いた。

 

「!?………」

 

「…………」

 

驚く神谷に笑みを向ける烈。

 

「…………」

 

やがて神谷も笑みを浮かべ、肩に置かれた手に、自分の手を重ねたのだった。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

その光景に、一夏達の顔にも、優しい笑みが浮かぶ。

 

「…………」

 

と、やがて烈は神谷から離れた。

 

「…………」

 

そこで神谷は、再び烈に向き直る。

 

「またな………」

 

人差し指と中指を合わせて伸ばした状態の右手を米神の辺りに当て、シュッと振る動作する烈。

 

その直後、上空に超次元高速機ドルギランが現れ、光の柱が伸びて来る。

 

その光の柱が烈を包み込んだかと思うと、烈は光となって超次元高速機ドルギランに搭乗する。

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

神谷の元へ集まり、超次元高速機ドルギランを見上げるグレン団。

 

超次元高速機ドルギランは、浮遊したまま旋回し、夕日の方を向いたかと思うと、そのまま飛び去って行った。

 

「………あばよ、宇宙刑事ギャバン」

 

超次元高速機ドルギランが飛び去った方向を見やり、神谷はそう呟くと、烈がしていた人差し指と中指を合わせて伸ばした状態の右手を米神の辺りに当て、シュッと振る動作する。

 

「神谷………」

 

そんな神谷に、シャルは自然と寄り添ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇場版『天元突破インフィニット・ストラトス』

 

グレン団VS宇宙刑事ギャバン

 




最終回、投稿させて頂きました。

遂に暗黒銀河女王とグレン団の決戦。
やはり強敵でしたが、天元突破グレンラガンの応用であるグレンラガン(グレン団合体形態)で見事勝利!
しかし、巨大化して復活した暗黒銀河女王は、地球をマクー空間で覆い尽くし始める。
勿論そんな事は許さない!
グレンラガンとギャバンの合体攻撃が炸裂!
今度こそ暗黒銀河女王を倒しました。

そしてギャバンとの別れ………
男と男の別れに涙など不要!
あばよ昨日! よろしく未来!です。

さて………
私の前作『ガールズ&パンツァー+ボーイズ&ゾルダース』完結後、ガルパン原作最終章完結までの繋ぎとして投稿し始めた、過去に書いた作品………
『天元突破インフィニット・ストラトス』、如何だったでしょうか?
ガルパン最終章はまだ半ばの3話………
ボイゾル版の最終章製作はまだまだ出来そうにありません。
正直、原作に先んじてやってしまったネタなんかもあって結構悩んでます。
ともあれ、暫くはもう1つの作品『新サクラ大戦・光』に注力する事になります。
申し訳ありませんが、日曜のこの枠はこれで終了となります。
長い間ご愛読ありがとうございました。
宜しければ『新サクラ大戦・光』の方も応援して下さい。

では、ご意見・ご感想をお待ちしております。


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