Fate/Grand Order 色彩の物語 (夜雀)
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終わりは始まり

かっとなって衝動的に始めました。
どこまで続くかはわからず、設定等の辻褄が合わない場合もありますかもしれません。
それでもよければ、どうぞお付き合いください


――世界は美しいと、誰かが言った。

私には、それがわからない。

対して長くもない私の人生に、輝きなんて物は存在しなかったから。

どこに行っても、何を見ても。無彩色で、モノクロで、息の詰まるような世界しかなかったから。

だから、仮にいま私を含む全人類が滅んだとしても。

私は、きっと。自分の終わりを、ともすれば安堵しながら、受け止めるのだろう―――

 

 

 

「……寝ちゃって、た…?」

 

夢の世界を遊んでいた意識が理性の元へ戻ってくる。瞬間的にはっきりとした意識が、自分が今いる場所、どういう状態かを瞬時に把握する。

どうやら、椅子に座って眠っていたようだ。壁際にある時計と、カレンダーを視界に入れる。

 

「……よかった、まだレイシフトは始まってない…」

 

カレンダーの日付を囲んだ丸と、時計を慌てて見た少女は大きく安堵の吐息をこぼす。その動きに合わせて少女の年齢には不釣り合いな、背中ほどまである白髪がさらりと流れる。ぱちりと見開かれた琥珀色の瞳は、光の具合も相まってまるで夜空の月のような色合いにも見えた。

椅子から立ち上がった少女は小さく伸びをして、視線を室内に滑らせる。この部屋には少女と、少女の上司であるゆるふわポニテ男性が常にいるはずなのだが…今は休憩でもしているのか、その姿を確認することはできなかった。

眠気覚ましのコーヒーを、と準備をしながら、ふと自分のいる場所に思いを馳せる。

少女が今いる施設。その名は『人理保証機関フィニス・カルデア』。トップはオルガマリー・アニムスフィア。

それは魔術だけでは見えない世界、科学だけでは計れない『世界』を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐために設立された特務機関。

不安定な人類の歴史を、まるで天体を見るように観測し、未来を確固たる事項にすることで霊長類である人類の理―――『人理』を継続させ、保証する。

それこそがカルデアの役目。少女はそんなカルデアの、医療セクションで見習いをしていた。

だがしかし、半年前のある日、何の前触れもなく、カルデアで観測を継続していた未来領域が消失した。

これが示すことはただ一つ―――人類は2016年で絶滅する、ということ。

 

電子音が響き、手元を見ながら慎重にコーヒーをカップに注ぐ。

―――中断された思考を戻そう。

人類の滅び、とは言うが。そも、連綿と続いてきた人理が突然途絶えるなどということは説明がつかない。物理的に不可能である。

ならば、その原因は過去にあるはず―――そう仮定してあらゆる方法で調査を行った結果、見つかった“観測できない領域”。空間特異点Fと呼称されるその空間に、レイシフトと呼ばれる干渉を行うことで原因を究明、特異点を破壊することを目的としたミッションが組まれた。

……今日は、そんな大事なミッションの日。先ほどまで実際に特異点に赴くマスターたちのバイタルチェックなどでばたばたしていたが、今はもうミーティングも終わり医療班の出番はない。実際レイシフトを行うコフィンの中に入ってしまえば、機械での観測の方がよほど早いのだから。

 

「オフェリア…は、大丈夫か。事ここまで来たら、動じるような性格じゃないから。キリシュタリアさんは大丈夫、だよね。問題はカドックさんとかBチーム……」

 

先遣隊(Aチーム)として出発すると言っていた友人を思い出す。

バイタルも問題はなかったはずだ。ああ、そう言えば一人遅れてくるのがいるって所長がイライラしてた…。

48人目、一般枠の最後のマスター。マスターというのはレイシフト適性のある者のことで、この適性がないものはレイシフトを行うことができない。少女自身もレイシフト適性はないため、こうしてこの施設で裏方に徹しているというわけだ。

コーヒーを飲み終わったのでカップを洗って片づける。あとは、上司を探して指示を――

 

その時、少女がいる医務室の端末の呼び出し音が鳴った。

まるで、全てが定められたタイミングであるかのように。

 

「はい、こちら医務室です」

 

応答を返すと、よく知っている声が端末から流れ出てくる

 

『おや、琴葉(ことは)ちゃんか。ロマニは忙しいのかな』

 

「えっと…御用件は、何ですか?」

 

まさか責任者がいないなどとは言えない。

少しぎこちないながらも、言葉を返す。控えめだね、と人には言われるけれど、何のことはない。人とのかかわり方に、自信を持てなくなってしまっただけなのだ。

 

『何、あと少しでレイシフト開始だからね。ロマニと君に万が一に備えてこちらへ来てもらおうと思ってね。慣れていない者に若干の変調が見られるようだから』

 

「わ、分かりました。すぐに麻酔を持って向かいます。ドクターには、端末で直接言った方が気が付くと思います…」

 

『ああ、そうしよう。医務室からなら二分で到着できるはずだ』

 

「はい、失礼します」

 

通話が切れ、室内を静寂が満たす。その静寂は、一瞬で動き出した少女によって破られた。

自分用の白衣をまとった少女―――月城琴葉は、棚からいくつかの医薬品を取出すと部屋を出る。

無機質な白一色の廊下を歩き、すれ違うスタッフに挨拶をしながら管制室へと入る。その際に小さく一礼を忘れなかったあたりが、琴葉の几帳面さと礼節を表していると言えるだろう。

 

「レフ教授、お待たせしました…」

 

「やあ、ご苦労。ロマニは何をしているんだ、琴葉ちゃんのほうが速いなんて」

 

スーツを着て、穏やかな笑顔を浮かべた、少々表現としてはひどいが試験官ブラシのような特徴的な髪形をした男性―――レフ=ライノールに挨拶する。

 

「えと…その、異常が出ているのは、どのマスターですか?」

 

「ああ、うん。異常が出ているのはコフィンのランプが赤色に…おっとすまない、君は色が見えないんだったね」

 

「……はい」

 

琴葉の目は、光を映すことはあれど色を捉えることができない。

もう既に魔術を手放した「月城」という家に生まれた子である彼女は、その身に数世代ぶりの魔術回路を有して生まれた。

―――その魔術回路を嫌った一族の干渉で魔術回路は変質し、彼女の目から色を奪い去った。それだけの話だ。

 

「ああほら…ちょうど所長の近くのあのコフィンだ」

 

「分かりました」

 

頷いて即座に駆け寄る。コフィンを開けるわけにはいかないため麻酔用のスイッチを押そうとして…

 

「……え?」

 

しゃがんだからだろうか、見慣れないモノ(・・)に気が付いた。

それは。ちょうど、所長であるオルガマリーの足元に……

 

「………っ!!」

 

何か追加の機材かもしれない。そんな思考がよぎったが、頭が、本能が警鐘を鳴らしている。―――あれは、よくないものだ、と。

そこからの行動は無意識だった。機敏に立ち上がるとオルガマリーの方へと全力で走る。

突然の行動に驚いたのか目を丸くし、怒鳴り付けようとでもしたのか一瞬で険を孕んだ視線と、大きく開いた口を無視して、全力で突き飛ばす。

咄嗟のことで反応が間に合わなかったのか、少し離れたところでドサッと尻餅をつくオルガマリー。

それを見て咄嗟に謝罪しようと思った時………暴力的な真っ白な閃光が、視界を埋め尽くした。

 

 

 

閃光。衝撃。轟音。

立て続けに起こったそれらは、とても遠くの出来事のように思えて。

―――寒い。周りでは炎の燃える音がしているというのに。

私の体は、ちっとも温かくはならない。それも当たり前か…

違和感を感じる腹部に手を当てると、ぬるりとした感触が感じられて。手には私には黒としか判別できないものが付いていて。

ああ、私は死ぬんだな、と。妙にリアルに感じられた。

残念とは思わない。むしろ、安堵すら感じている。……そう、思っていたのに。

―――涙が一筋、流れた。力を失っていた肉体が、熱を取り戻す。

まだ、死にたくないと。まだ、生きていたいと。体が、そう悲鳴をあげている。

 

『―近――の地球において、人類の痕跡は発見できません。人類の痕跡は発見できません』

 

『人類の……は 確… 出来ません』

 

『人…の…来は 保障 ……ません』

 

ああ、遠い。音が、世界が、遠くなっていく。

 

『レイシフト、定員に、達し―――』

 

そして。

私の意識は―――途切れた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

―――たい?

 

―――さい、子供たち

 

―――が、―しましょう

 

あなたの、すべてを

 

 

『――全行程、完了(クリア)。ファーストオーダー、実証を、開始、します』

 




次は冬木だー。
むしろ序盤の方が書きにくい気がする…


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特異点F 炎上汚染都市冬木 決意のカーディナルレッド
英霊召喚、そして…


二話目です。
冬木に落ちた彼女の運命は…?


何かが焼ける、匂いがした。

それを感じられると、言うことは。

 

「…わた、し……生きて…る……?」

 

目を開いた私の視界に、いつも通りモノクロの風景が広がる。

いつもと違うのは、機械や無機質なイメージを感じさせる風景ではない、ということだろうか。

土の感触。落ち葉を踏む音。そして――焼けたような、大気の匂い。

 

「……外…?」

 

力の入らない四肢をなんとか踏ん張って立ち上がる。察するに、ここは特異点F。

どういう偶然が働いたか知らないが、レイシフト適性ゼロに近い私までレイシフトできてしまったらしい。

今いるのはどうやらどこかの山の中。いや、だったというべきだろうか。

木々は燃え落ちており、もう森とはとても言えないだろう。遠くに明かりが見えるということは、ここは郊外になるのだろうか。

――深呼吸する。自分は、とにかく助かってこの場にいるらしい。ならば、次は。

 

「町へ―――」

 

動けるのならば、人と合流するのが一番だろう。

ここに人がいるかどうかはともかく、建物を目指すことは間違いではないはずだ。

そう結論付けて、歩きだそうとした時―――ガチャガチャと金属音が近づいてくる。

人が来たのかと、瞬いた瞳に映ったのは…

 

「………え?」

 

襤褸をまとった骸骨の群れが、琴葉の前を今まさに、横断しようとしていた。

なるほど、先ほどの金属音はこれだったのかと、妙に冷静に事実を確認する。

その瞬間、空洞の眼窩がぐるりとこちらに向けられる。

吹き付けられてくる殺気。掲げられる武器。それを前にした琴葉は。

 

「……ッ!」

 

迷わず、身を翻して逃げることを選択した。

この骸骨たちは鈍重なのか、定期的な運動をする程度の琴葉の足でも何とか追いつかれない。

息が上がる。久しぶりの酷使に足が悲鳴をあげる。

後ろからはまだ音がする。止まればあの骸骨たちはためらいなく武器を振り下ろすだろう。

ただ、走る、走る、走る。少し距離が開いた、と感覚で思った直後

 

「あぐっ!?」

 

鋭い痛みが脹脛に走り、足が縺れる。

庇う暇もなく顔から地面に突っ込み、地面に投げ出される。

脹脛がじくじくと痛む。見れば、骸骨兵が放ったのか一本の矢が突き刺さっている

 

「い、たっ……」

 

痛みが立ち上がる気力を蝕んでいく。

もう、じりじりと迫ってくる骸骨兵から逃げる術もない。ここから立ち上がって走ったところで、死期が少し後にずれるだけだ。

どの道、死ぬということに変わりはない。

 

「……く、ない…」

 

ポツリ、と。自分でも無意識のうちに、声が漏れた。

 

「まだ…まだ……わた、し……死にたくない……」

 

涙と共に溢れ出る、切なる想い。

生きたいという祈りが。ここで終わりたくないという願いが。

―――――運命の歯車を、軋ませる。

 

 

 

視界が、輝きに埋め尽くされた。

反射的に目を瞑った私に、同時に焼けるような感覚が襲い掛かる。

左手の甲を中心に、燃え上がるような熱が広がる。

膝をつく私を叱責するように熱く。

それでいて不思議と痛みを感じさせない、穏やかな焔のような。

瞳を開ける。

無意識であろうか、伸ばされていた左手の甲に―――鳥の翼のような文様が刻まれていた。

三分割されたパーツから成る、片翼を模した文様。

―――とくん、と。その文様が、脈動した気がした。

 

「…なに…これ……?」

 

骸骨兵が迫っているという緊急事態のはずなのに、文様に気を取られる。

そんな私のうかつさを見逃すわけもなく、骸骨兵が武器を振り上げ―――

 

ゴガッ!

 

突如、その上半身が消失(・・)した。

何が起きたのか理解が追いつかず、私は思わず瞬きも忘れてそれを凝視する。

視界に広がるのは黒。光と対極にある様な暗が映り込む。

長い髪から察するに女性、身長は高めだろうか。

身に纏っているドレスらしき衣服もこれまた漆黒。

髪と衣装の黒の隙間から除く背中と、髪の間から垣間見えた面は、冴えわたる月のような白。

その手に持った長大な剣は、骸骨兵を吹き飛ばした格好で振り切られている。

 

「―――ひとつ」

 

鈴の音のような声が、大気を震わせる。

一言発しただけなのに、女性の放つプレッシャーが何倍にもなったように感じた。

ゆらりと片手に持っている長剣が動く。緩やかな動きの中に、今にも爆発しそう何かを感じる。

 

「ふたつ」

 

コマ送りでもされたかのように女性の姿が消え、次の瞬間にはそこにあった。

同時に、高々と宙を舞った骸骨兵の武器が地に落ち金属音を立てる。

移動の際に生じた衝撃波が私の頬を軽くたたいた。

ここに来て、骸骨兵が我に返ったように一斉に武器を上げる。

 

「ふふっ…」

 

楽しくてたまらないというような声。大輪の花が開くような艶やかな笑みが女性の顔に浮かぶ。

振り下ろされた刃を無造作に回避し、地を這うような低姿勢で距離を詰めると同時に逆袈裟に斬り上げる。

振り下ろされた武器を回避して足で押さえつけ、深々と袈裟掛けに斬りつけ粉砕。

同時に放たれた弓矢をパシッ!と器用に掴みとる。

そして跳躍。軽やかに大地を蹴り宙を舞い、猛禽が地上の獲物を狙うがごとくに剣を閃かせる。

剛速にして重厚な斬撃とともに、瞬く間に骸骨兵が打ち砕かれる。

着地した女性はそれを見届け、静かに剣を降ろした。

 

「……すごい………」

 

思わず感嘆を口にしてしまうほどの、鮮やかな技量。

精緻さに重きを置かぬ、むしろ荒々しいとまで言える剣技。戦闘行動に最適化されたかのような体捌きを前に、琴葉は感嘆を示す。

 

「………」

 

「あ……え、えっと……あなた、は…?」

 

女性はそんな琴葉を値踏みするように一瞬見つめ、妖艶な笑みを浮かべる。

その笑顔に呪縛を解かれたように、改めて女性の素性を問う琴葉。

 

「―――サーヴァント、バーサーカー。召喚に応じ参上しました」

 

膝を折り、左足を一歩後ろに引いて優雅に礼をする女性―――バーサーカー。

 

「……え?サーヴァン…ト?どうして、私が…」

 

「マスターの願いにこの地に刻まれた魔術が反応し、召喚が成されたものかと」

 

英霊召喚の儀式については、カルデアでも一通りは習ったから知っている。

だけど、まず自分がマスターとなったこと、実勢に英霊を召喚したという事実が私を混乱させていた。

 

「え、ちょっと、待って…そうだとしても、狂戦士(バーサーカー)って…確か『狂化』ってスキルがあって、意志疎通が困難だって……」

 

英霊と呼ばれる彼らをサーヴァントという使い魔として召喚する場合、生前の偉業や能力によってさまざまなクラスに分類される。

基本とされる七クラス―――剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)―――とそれらに分類されないエクストラクラスに分けられ顕現する。

剣を使う英霊ならばセイバー、槍を用いる英霊ならばランサー、というように現界することがほとんどだ。

複数の側面を持つ英霊ならばクラスを変えて召喚されることもあり、その場合はそれぞれのクラスの特性に合わせた存在として顕現する。

この場合、生前有していた武装や能力を発揮できなくなる可能性もあるということだ。

そして今、目の前にいる女性は自分を狂戦士(バーサーカー)だと名乗った。

このクラスは伝承において狂気を得たエピソードのある英霊が該当するとされ、クラス特性として、「狂化」を保有する。

これによってステータスの強化が可能だが、「理性が失われる」、「一部の能力が劣化、または使用不能になる」、「魔力消費量が膨大になる」などの制限が課せられる。

この「狂化」のレベルが高ければそもそもマスターと意思疎通を行うことすらできず、命令を聞くこともない、という運用を間違えれば死に直結するクラスだ。

 

「生前の業のおかげで狂化を抑え込んでいるのでそうは思えないかもしれませんが、これでも私、戦狂いの狂戦士ですので。取り扱いにはご注意を、マスター」

 

クスリと笑った女性がそう告げる。と同時に、すうっと目を細める。

 

「さしあたって、契約を取り交わしたいのですか…よろしいですか?」

 

「あ、はい……私なんかがマスターで、いいのなら……」

 

どうすればいいのかわからなかったので、恐る恐る手を差し出す。

バーサーカーは少し驚いたように瞬きをした後、小さく微笑みながらその手を取った。

―――手を通して、何かが繋がれたような気がした。

 

「と、とりあえず……よろしくね、バーサーカー」

 

「はい。ああ、真名の方は……あなたというマスターを見極め、しかるべき時に告げさせていただきます」

 

要するに、マスターとして認めたら真名を開示すると。

バーサーカーの発言の意図を理解して、コクコクと頷く。

 

「では、さっそくマスターの方針を聞かせていただく――――つもりでしたが。お気の毒です、マスター」

 

「え?」

 

どこか楽しそうに告げるバーサーカーの言葉に目を見開いて硬直する。

―――その時、ようやく琴葉は気づく。

大地を揺るがすような地響きとともに迫る、圧倒的な存在感に。

どっと出た冷や汗が全身を濡らしたように感じた。

―――逃げろ、今すぐにここから去れ。さもなくば―――死ぬ!

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

それが、目の前に現れる。

巨人と見紛うような体躯と、巌のような筋肉。

琴葉の身の丈よりも大きく重厚な斧剣を持つその体躯は、影を貼り付けたように真っ黒だった。

 

「―――ひとまずは。これを退けなければその後を語ることなど、できないでしょうから」

 

琴葉を庇うように前に出たバーサーカーが呟く。

その顔に、言葉とは裏腹の喜悦を浮かべながら、剣を構える。

―――最初にして最大級の試練が、琴葉に降りかかろうとしていた。

 




いきなり最大級の試練を与えたのは悪いと思っている。

ストーリーと被らないようにするならこれしか思いつかなかった。許せ主人公。

………まあ他の相手にしてもよかったけど、苦難があったほうが盛り上がる…よね?(不安)

あ、琴葉が落ちた場所設定はアインツベルンの森の中です(確信犯)


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狂戦士の戦

三話目です。
いろいろひどい。


「■■■■■■■■■■■■!」

 

声と認識はできない雄叫び…否、叫び声をあげながら斧剣を振り上げ、叩き付ける。

剛速にして激烈、大地そのものまで叩き割る様な重厚な斬撃が降ってくる。

下手に受け止めようものならそのまま受け止めた武器ごと砕かれかねない。

 

「乱暴ねぇ…」

 

そんな斬撃を、バーサーカーは跳躍し、受け流し、剣で弾きかえす。

決して正面から打ち合いはしない。正面から受けなどしたら間違いなく押し潰される。

だからこそ、剣速の加速のタイミングを見極め封じるように自分の剣を捻じ込む。

暴風のような勢いで振るわれる斧剣。跳躍し飛び退り、身を低くして避け、大地を転がる。

生前の偉業により狂化をねじ伏せているとはいえ、バーサーカーの性か少しばかり思考が狂暴化している。

それでもなおこの身のこなしができるということは…バーサーカーの体、本能にまで染みついた技であるということ。

『狼狂の血脈』…狼の如き本能で戦闘に対する最適解を「本能的に」割り出し動かすスキル。

使えば使うほど狂化が進む諸刃の剣で、普段は絶対に使わないが……出し惜しみなんかすれば死ぬわね、とバーサーカーは苦笑する。

 

「ふふ…あははっ!」

 

闘争の喜悦に身を委ねる。こらえきれぬ笑い声と共に理性の浸食を受け入れる。

叩き付ける様な剣戟を姿勢を低くして掻い潜り、こちらからも剣を振るう。

手応えあり。銀の剣光が奔り、深々と巨人の腹を抉る。

 

「あら…そういう英雄なのね?」

 

巌のような手応えに、致命傷には程遠いと警鐘を鳴らす直感。

剣を振り抜いた状態のバーサーカー。その避けようもない体勢に、音速で何かが捻じ込まれる。

 

「かはっ!!」

 

ドォン!と大気に波紋すら残し、砲弾のような勢いで炸裂したのは―――拳。

咄嗟に衝撃に合わせて後方に下がっていなければ、魔力で編まれたこの体が千切れ飛んでいたかもしれない。

血反吐を飲み込みながら蜻蛉を切って追撃の斬撃を躱す。垂れてきた血を拭い、不敵に微笑んでみせる。

 

「確実に致命傷にしたのに死んでない。その不死身の肉体に、その武芸―――さぞや高名な英霊なのでしょうね」

 

呼吸を整えつつマスタ―の気配を探す。

念話での打ち合わせ通り、逃げてくれたのか。気配はするが、姿は見えない。

そのままうまく逃げるまであと少し時間を稼げばいいか、と。

完全に呼吸を整え、剣を構える。

 

「さあ、続けましょう?この闘争を、もっと………もっと」

 

我は狂戦士、戦に果てるなら本望。

艶やかな笑みを浮かべながら、バーサーカーは再び地を蹴り、嵐へと立ち向かう。

 

 

◆◇◆◇

「これが、英霊の戦い……」

 

目でかろうじて追えるスピードで斧剣と剣が幾度も交差し、火花を散らす。

跳躍したバーサーカーが牽制として繰り出した回し蹴りは腕で受けられ、返す拳をバックフリップで躱す。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

僅かに空いた間合い。それを咆哮と共に詰める巨人。

豪風と共に振り下ろされた斧剣を横っ飛びで躱し、転がりながら拾った石を投げつける。

神秘の宿らない石にはサーヴァントを傷つけることはできない。しかし、牽制程度になら使える。

琴葉の目から見ても、バーサーカーは使えるものをすべて使ってもギリギリで拮抗している。

それはすなわち―――何か一つでもしくじれば、この拮抗状態は即座に崩れてしまうということに他ならない。

せめて、自分が何か手助けできればいいのだが……

 

「…英霊同士の戦いに踏み込むことは、自殺行為」

 

サーヴァントとは、人類史に残った様々な英雄、概念、偉業。それらの星の情報を霊体として召喚した影法師。

その戦いに―――半端に魔術を使える程度の人間が、何をできるというのだろう。

答えは明白だ。何もできない。

否、何かできたところで……戦況を変えうるようなものにできるわけがない。

 

「………だから、これでいい…」

 

隠れて傷を癒し、迅速にこの場から逃げ出すこと。

バーサーカーの示した作戦案に従うのが、最適なはずだ。

傷の方は琴葉が得意とする呪術と霊的治癒魔術によって治癒済み。

あとは、頃合いを見て逃げるだけ。それまではひたすら隠れてやり過ごす。

 

「………」

 

バーサーカーの戦いが苛烈さを増している。

もう集中しなければ姿を見ることすらできない。時折、火花と衝撃音を捉えるのみだ・

だが。パスがつながった影響だろうか。

……バーサーカーの疲弊が、手に取るように伝わってくる。

相手の重撃を捌くだけでも疲弊し、一撃受けるごとに腕が痺れ、ダメージは蓄積する。

対して、相手は何度もいい斬撃が入っているというのに、一向に倒れる様子がない。あれではまるで不死身だ。

―――戦況が動くのは、そう遠くはない。

逃げるなら今のうちだろう。戦いが激化した今なら、労せず逃走できるはずだ。

英霊同士の戦いに人間が入れない以上、戦闘中の英霊も人間を気にすることなどない。

狂戦士ならなおのこと、戦いにだけ集中するだろう。

そうなれば、バーサーカーも自分を気にせず戦うことができて、もしかしたら盛り返せるかもしれない。

それに、宝具を使えば、あの不死性を突破できるかもしれない。

 

「……」

 

でも、動けない。

分かっている。感傷なのだということは。

自分「など」のために時間を稼いでくれる、バーサーカーを。

……ここで、見捨てていくのが嫌だなんて。

 

「……バーサーカー」

 

今も戦っているであろう彼女に、届かないとはわかっていても。

 

「『負けないで』『生きのびて』」

 

祈る。―――図らずも、その行動は一つの変化を呼び起こすことを知らずに。

その瞬間、左手の文様が赤く弾けた。

 

 

◆◇◆◇

疲弊した体は、そろそろ限界だと告げていた。

 

「不死性のカラクリが分からないうちは…宝具、使いたく、ないのだけど」

 

息を切らせながら、それでも笑う。

闘争の喜悦を楽しまなければ、私ではないと。最後の瞬間まで、自分でいるために、笑う。

だが…もう、届かない。ここが限界だと、運命があざ笑う。

 

「うふふ……だからと言って、諦めてやる義理はないけど…」

 

斧剣を振り上げる相手を前に、最後の最後まであがいて見せると。不敵な笑みで剣を構える。

そして、突撃を敢行しようとしたとき―――

 

「!?」

 

莫大な魔力が、エーテル体に流れ込む。

これは……!

 

「令、呪……!?」

 

しかも一画分とはとても思えない、莫大な魔力。

分かってしまう―――このマスターは本当に、大馬鹿者だ!

自分など放っておいてさっさと逃げてしまえばいいのに。令呪で支援するなんてどうかしてる。

しかも「負けるな」「生き残れ」など……一時の仮初の客であるサーヴァントに酔狂な命令を下すものだ!

 

「………………クス。あっはははははは!!」

 

戦闘中にもかかわらず爆笑してしまう。

少し話をした時も思ったことだが、あの少女は本当に魔術師らしくない。

道徳的な欠落もない、まっとうで、少し魔術が使えるだけの一般人にしか見えない。

 

「――ならば、ここは何としても勝ち逃げさせてもらいましょう」

 

不適な笑みが深くなる。剣に漆黒のオーラが集まり、吹き荒れる魔力が大気を震撼させる。

 

「宝具開帳―――」

 

宝具―――人間の幻想を骨子に創り上げられた武装にして、サーヴァントの切り札。

生前に築き上げた伝説の象徴であり、物質化した奇跡。

それを開放するための言霊を高らかに謳う。

 

「この剣は運命を断つ絶殺の魔剣。あらゆる戦士はこの呪いを逃れること能わず―――」

 

剣のパーツがずれ、収束していく魔力が視認できるほどの濃い呪詛の色を帯びる。

剣に纏わりついた呪詛が圧縮され、濃縮され、とてつもない規模の呪いとして顕現する。

 

「『我が剣よ、破滅の願いを謡え(×××××××、××××××)』!」

 

溢れ出た魔力を、炸裂させるように目の前の巨体に振り下ろす。

ドス黒い呪詛が巨体に絡み付き、傷と相まってその動きを縛っていく。

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

咆哮を上げ、さすがに効いたか蹈鞴を踏む巨体。

その一瞬を見逃さず、跳躍すると琴葉の傍まで一気に走る。

 

「マスター、喋らないでください、ね!」

 

「へ!?」

 

一気に担ぎ上げると跳躍し、脱兎のごとく撤退する。

瞬きほどの時間で森を抜け、街へと至り、振り返る。

―――追ってきてはいないようだ。まあ、あの剣の全霊の呪いを浴びせたのだ、そうそう振り切られては困る。

 

「舌噛んでませんか、マスター?」

 

問うても肩に担いだ少女からの応答はない。不思議に思って覗き込んでみると…

 

「きゅう……」

 

完全に目を回していた。

考えてみれば、サーヴァントが全力で移動して、対した魔術防護をする暇もなかった人間はどうなるか。

凄まじい衝撃にさらされるのは自明の理だ。

 

「あらあら…どうしましょうかねえ」

 

そっと地面に下し、負担にならないように横たえる。

とりあえず、方針を決めてもらうためにも目覚めるまで待つしかないだろう。

 

「……ありがとうございます、マスター。おかげで、吹っ切れられて命を拾えました」

 

起こさぬようそっと頭を撫で、小さく感謝を告げる。

ひとまずは。窮地を脱した自らとマスターを祝いながら休むとしよう。

そう結論付け、意識の戻らぬマスターの傍にバーサーカーは座り込んだのだった。

 




戦闘描写はやっぱり苦手ですね。致命的に!
でも頑張って書くので、してくださる方は応援よろしくお願いします。


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合流、そして急転

ようやく時間ができたので更新します。
どれだけの方が待ってくれたのかはわかりませんが、どうぞよろしくお願いします。


瓦礫を越え、燃える街をマスターを抱えてひた走る。

 

「マスター。仰るとおり、魔力の流れを辿ってますが……どうやら、どこかに魔術的な陣が設置されたようです。そこに向かいますか?」

 

「うん、頼めるかな。バーサーカー」

 

「では、しっかりと捕まっていてくださいね?あと、喋ると舌を噛みますので」

 

 

 

◆◇◆◇

『……いないと思ったら君までか。しかし、君のレイシフト適性はそんなに高くなかったはずだよね?』

 

レイポイント(とは少しずれていたが)に急行し、『オルガマリー・アニムスフィア』所長、あの爆発から唯一生き残り、マスター適性を有していた一般候補生の少年『藤丸立香』、そして彼と契約したカルデア元スタッフにして今は半英霊(デミ・サーヴァント)となった『マシュ・キリエライト』と合流した琴葉は、立香の通信機を借りてカルデアにいる上司『ロマニ・アーキマン』に事情を報告していた。

 

『果てはマスターにまで…契約した英霊のクラスは?真名は?』

 

「……バーサーカーですけど理性は失っていないように見えます。真名は、まだ教えてくれなくて」

 

ちらり、と背後に視線を投げる。視線の先ではちょうど教室内で話をしている所長と立香、マシュ、立香たちと同行していたキャスターと名乗った男性がちょうど教室を出ていくところだった。なんでも、マシュの特訓をつけるとかなんとか。

そして、すぐ傍にはバーサーカーが霊体化して控えている。

 

「とりあえず、私をマスターとして指示は聞いてくれるみたいなので…さっきも助けてくれたし」

 

『…分かった。こちらでも信頼しよう』

 

「…カルデアの、状況は?」

 

『ひどいものだ。生き残ったスタッフも20人に満たず、マスター候補生たちはさっき全員所長の指示で凍結保存に入ったところさ。――柄じゃないけど、その中で一番階級が高いのが僕だから、こうして指揮をとっている』

 

「……そう、ですか」

 

きゅっと手を握りしめる。

カルデアで過ごした時間は対して長くもないが、もしかしたら犠牲者の中には自分の知っている人も含まれているかもしれない。

いつも当たり前にそこにあった日常ほど、一瞬で崩れ去った時の衝撃は大きい。

 

『……いろいろと不安だろうけど。とりあえずは、無事に帰っておいで。未来を憂うのは、それからだ』

 

ドクターの言葉が胸に沁みる。

感傷に浸る心に蓋をしながら頷く。

 

「また、危なくなったら連絡します。カルデアの方も、気を付けて」

 

『うん、分かった』

 

通信を切ってほう、と一息つく。

 

「―――琴葉さん」

 

「月城先輩」

 

「マシュ?それに藤丸君も…特訓は、終わったの?」

 

ひょこっと顔を出した二人に向けて笑顔を浮かべる。

マシュ・キリエライトは『とある事情』により、医務室に来ることも多く琴葉も顔なじみだ。先輩として慕ってくれることや、共に読書好きという共通点もあってよく話をしていた。

 

「はい。無事に成果も出たので、今はキャスターさんと所長は結界の点検を。私たちは、休めと言われたので」

 

「それなら月城先輩と交流を深めたほうがいいかなって、思ったんで」

 

マシュと立香の発言になるほど、と頷く。

円滑な連携を図るためにも、交流は悪いことではない。

 

「じゃあ、マシュは知っているけど、藤丸君には改めて。月城琴葉です。琴葉と呼んでくれると嬉しい、かな。

本来は医療班でDr.ロマンの補助をしています。まだ見習いだけど一応、医学の心得もあるから怪我とかしたらすぐに言ってくれれば応急処置するから」

 

―――人と交流するのは、正直なところ苦手だ。

だから、淡々と要点だけを絞った自己紹介にしたのだが。

少し、素っ気なさすぎただろうか。

 

「じゃあ、オレも。藤丸立香です。一応、一般人だけどマスター候補と言うことで…よろしくお願いします、琴葉先輩」

 

ぺこりと頭を下げつつ、スッと差し出される手。…かなり、人当たりの良い少年の様だ。

少しぎこちないと自分でも思うようなぎくしゃくした動きで手を取る。

―――久しぶりに触れた人肌は、思っていたより温かく感じた。

 

「琴葉さん。先輩の髪は黒で、瞳は綺麗な青空の青です」

 

「……ありがとう、マシュ」

 

色の見えない自分を気遣って先回りして教えてくれたマシュに感謝の微笑を向ける。

 

「? マシュ?」

 

「先輩。琴葉さんは、その…」

 

「いいよ、マシュ。

藤丸君。私は、光を感じるけど色を識別できないの。常にモノクロの世界にいるような、そんな感じ」

 

自分にとってはもうとっくに慣れてしまった世界。

それを聞いて自分の事のように悲しい顔をしてくれる目の前の少年は、きっととても善人なのだろう。

 

「そんな顔しないで。日常生活にそこまで不便はないし、皆いろいろサポートしてくれるから…ね」

 

「……はい。琴葉先輩は、カルデアに来て長いんですか?」

 

「ううん。私も一年とほんの少しなんだよね」

 

その期間もほとんど医務室と管制室、そして自室の行き来を繰り返していたためにカルデアを隅々まで知っている、と言うレベルではない。ほんの少し、空いた時間にスタッフとおしゃべりをするくらいで、まともな交流もなかった。交流が苦手だから、意図的に深い交流を避けていたというのもあるが。

 

「俺、いきなりカルデアに連れてこられたので正直、何するところかもまだあんまりわかってないんですよね。さっき、所長から一通り説明は受けたんですけど」

 

「え、あれ?一般枠ってそういう物なの?」

 

「琴葉さん、先輩の話を聴く限りほとんど拉致同然だったので…裁判になれば確実に負けるレベルの」

 

「あ、そうなんだ…」

 

スカウト担当、それでいいのか……。

 

「……あれ?でも、所長からマスター候補には説明会があったはず」

 

「えー、と……」

 

ポリポリと頬を搔きながら視線を逸らす立香。

どうやら、事情はあるが本人的には話したくない何かがあるようだ。

 

「マシュ?説明、お願いしていい?」

 

「あ、はい。先輩は、先ほど説明した通り拉致同然の手段で連れてこられ、慣れない霊子ダイブのシミュレートで半ば夢遊状態で通路に倒れていたのです。

そこを私とレフ教授が見つけて、説明会にお連れしたのですが…完全には目が覚めていなかったようで、説明会の最中に所長に……」

 

「………見つかって怒られて、つまみ出された。と」

 

事情を了解して若干遠い目となる。

説明会をしている最中に寝られては、さすがにオルガマリー所長も我慢は効かなかったのだろうけれど。ほとんど拉致同然で遠くまで連れてこられ、訳の分からない入館シミュレーションのせいで強制的に襲ってくる眠気と戦いながら説明会に出ざるを得なかった立香の事情も考慮するとどちらも責められない気がする。

 

「―――じゃあ、私が分かる範囲でよければ。帰ってから、カルデアを案内するよ」

 

「あ、ほんとですか!?ありがとうございます!」

 

勢いよく頭を下げてお礼を言う立香に気にしなくていいよと手を振る。

―――そろそろ、結界の確認に行った所長たちも戻ってくる頃だろう。

戻ってきたのなら、全員でこの特異点探索のための方針と作戦を立てなければ。

この特異点Fの状況―――それは、先ほど情報共有の中で立香たちの連れていたキャスターから教えてもらった。

この地で行われていた聖杯戦争―――七騎の英霊(サーヴァント)とマスターが願望機である聖杯を巡り争うバトルロワイヤルは、いつからかサーヴァントのみを残し変質した。残るサーヴァントはキャスターともう一人だけであり、倒されたサーヴァントは黒くなり特異点を徘徊している。

この特異点の異常を解消するためには、聖杯を守る剣の英霊(セイバー)・『アーサー王』を撃破し、特異点の原因となっているであろう聖杯を確保しなければならない。また、あくまで聖杯戦争は続いているため、まっとうに生存している英霊であるキャスターを守りつつセイバーを倒さねばならない。キャスターが倒され聖杯にくべられたら聖杯戦争はセイバーの勝ちと言うことで終了してしまうからだ。

……慎重に、作戦を練らなければいけない。

少々名残惜しさを覚えつつ、立香とマシュを促し立ち上がろうと…

 

【―――マスター!伏せてください!】

 

バーサーカーの切羽詰まった声が、頭の中に響く。

何が起きたのか、咄嗟に問いかけようとしたその時。

 

 

――――どこからともなく飛来した矢が。轟音と共に、教室の壁を吹き飛ばした。

 




あくまで主人公視点で進めるため、一部マシュや藤丸君のイベントが出ないことがあります。
展開もそれに沿って手を加えているところがありますがご了承ください。
感想、ご意見などお待ちしています。


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立ちはだかる“正義”

まさかの二日連続。
書けるうちに書いておかないと…


瓦礫が飛散し、轟音と共に降ってくる。自分の頭より大きい瓦礫だ、直撃すれば命はないだろう。

―――自分の方に向かってきた瓦礫が透明な壁に阻まれたように跳ね返る。

一瞬だけ見えた黒い鎧。バーサーカーは仕事だけするとまたすぐに霊体化する。

 

【マスター。とりあえず外に出たら霊体化を解きます】

 

『分かった』

 

念話で会話をし、立香たちに目を向ける。

マシュが盾を掲げて瓦礫を防いでいるのが見えた。良かった、二人とも無事な様だ。

 

「おい坊主たち!生きてるか!」

 

「キャスター!こっちは大丈夫だ!」

 

キャスターの声が聞こえすぐに廊下側に姿を見せる。

か細く聞こえたのは所長の悲鳴だろうか。しゃがんでいるのか姿は見えないが。

 

「この攻撃―――アーチャーの野郎だ!移動するぞ!」

 

「イヤアアッ!?」

 

「へ?」

 

「…バーサーカー」

 

言うや否や所長を俵担ぎにしたキャスターに続き、マシュが無言で立香君を抱え上げる。あ、お姫様抱っこだ。

なんとなく察した私が声をあげると、背後にバーサーカーが出現し私を横抱きにした。

そのまま先ほどの着弾で開いた穴から校庭へと飛び降りる。

バーサーカーが私を地面に下した直後、校舎が爆発するように弾けた。

 

「…いったい、どこから?」

 

「円蔵山の山頂には柳洞寺って言う寺がある。奴は、その山門の上に陣取っていやがる」

 

「……確かに山の方角に、いるみたい」

 

「琴葉先輩、分かるんですか!?」

 

「………あまり、自信はないけど。魔力の流れでそうかなって」

 

色を映さない私の目は、そういう物の感知には長けている。

と言うより、その感知機能の代償に色を失ったというべきか。変質した魔術回路により手にした欲しくもない魔眼は、モノクロの世界の中で魔力の流れを映し出す。その流れは、確かに山の方角に向かっていた。

先ほど立香たちと合流する際にも、レイポイントでマシュがサークルの設置を行ったためにそこへ魔力が流れたのを追ってきたのだ。

 

「…狙撃されてるなら、距離を詰めないと一方的になる」

 

「では、そのように動きますか?」

 

「おう、それには俺も賛成だ。ちっと強行軍になるが、やるしかねえだろ」

 

私の言葉にキャスターとバーサーカーが合意し、一拍遅れてマシュと立香君、所長が頷く。

そして、走り出そうとしたとき……魔力の流れが、変わったのが見えた。

それと同時に、首筋に悪寒が走る。

 

「ッ!皆、」

 

言い終わる前に飛び込んで来た人影が、両手に構えた双剣を振り翳して斬りかかって来る。

 

「!」

 

とっさに大盾を振り翳して前に出るマシュ。

白と黒の双剣はギィン!と金属音を響かせ、マシュの盾によって防がれ火花を散らす。

膠着した一瞬を狙ってキャスターの放った魔術を避けて、影は後方へ跳躍し着地する。

 

「珍しく表に出て来たな。セイバーの傍に居なくていいのかい。信奉者さんよ」

 

「信奉者になった覚えはないがね」

 

立ち上がったのは黒いボディスーツに、腰回りだけ外套を羽織った長身の男性。

……どこの英霊だろうか?肌は浅黒いようだから、日本ではないのだろうけど…

 

「だが、つまらん来客を追い返す程度の仕事はするさ」

 

「~~~ああもうっ!次から次へと!!」

 

カッ!と光が横切る。オルガマリーの魔術によって放たれた光を、アーチャーは剣を軽く振るだけで受け流す。

 

「しょ…所長、すごっ……」

 

「私はアニムスフィア家の当主です!このくらいっ…!」

 

「ああ、星見の……。大人しく山に籠り星を眺めるに徹していればいいものを…大義は人の身に余る」

 

「もっとも、ここに目指すべき標の星はない。炎の海の中、どこへ向かう?空からの漂流者」

 

ニヒルな口調で、しかしどこか憐れむようなアーチャーの言葉に所長が黙り込む。

 

「……立香君、オルガマリー所長。ここは私とバーサーカーが足止めするから、マシュとキャスターを連れて行って」

 

「琴葉先輩!?」

 

「大丈夫、たぶん、何とかなるから」

 

所詮、私は正式なマスター候補ではない。ならば、ここは正式なマスター候補の立香君を聖杯の元へ送り出すのが最適だろう。そのサポートと思えば、正しい行動のはずだ。

 

「………行くぞ」

 

「ちょ、ちょっとッ!?」 

 

「いえ、いいんです。所長も行ってください」

 

踵を返すキャスターに、オルガマリーは抗議するように声を上げる。

その優しさに感謝しながらも、先に行ってほしいと私は告げる。

 

「どのみち、誰かが残ってアーチャーを押さえる必要がある。本当は俺がやるつもりだったが、あの嬢ちゃんがやるって言うのなら任せるのが妥当だろう」

 

「~~ああもうっ!死なないでよ月城!」

 

歩き出すキャスターを、慌てて追いかけるオルガマリー。

小さく頷いてその背を見送る。

 

「琴葉先輩、気を付けて!」

 

「どうか御無事で!」

 

「うん、あとでね」

 

立香とマシュも頷くと、2人を追いかけていく。

 

「逃さん」

 

アーチャーが即座に取り出した弓に矢を番え―――

 

「ム!?」

 

咄嗟に弓で蹴りを受け止める。だが威力までは殺しきれなかったのか、派手に空中へ吹き飛ばされた。

 

「――貴方のお相手は、私が務めさせていただきますわ」

 

鮮やかなハイキックの体勢を戻し、黒い鎧を纏ったバーサーカーが艶やかに笑いながら背から剣を引き抜く。

同時に飛んできた剣を自身の剣を振って弾き、粉砕する。

 

「ほう。ならば―――お相手願おうか!」

 

「マスター。下がっていてくださいね」

 

両手に白黒の双剣を出現させ、構えるアーチャー。

漆黒のオーラを絡み付かせる魔剣を手にし、立ちふさがるバーサーカー。

刹那の間をおいて、二騎の英霊の戦闘が始まった。

 

 

 

 

身を低くしたバーサーカーが瞬時に距離を詰め、長大な剣を振り上げる。

その斬撃を白黒一対の剣で受け、衝撃を流しつつ回転し斬撃を見舞うアーチャー。

しかしその斬撃は獣じみた跳躍で後ろに逃れたバーサーカーに躱され、反撃の剣閃で後ろに吹き飛ばされる。

 

「簡単に距離を取らせるとは迂闊だな」

 

距離が開いてしまえばそこは弓兵の間合いだ。即座に空中に大量の剣を投影し、射出する。

無から有を創り出す事が可能な投影魔術は本来、真作の下位互換にしかならない欠陥魔術とも言われる。

しかしアーチャーの操るそれは文字通り、モノが違う。英霊相手でも十分に通じるはずなのだが…

 

「あら、この程度の射撃で私を倒せると?」

 

呆れた、と言わんばかりに笑みを浮かべたバーサーカーに無数の剣が襲い掛かる。

その射撃を前に嫌にゆっくりと剣を上げるバーサーカー。次の瞬間、剣身を覆うオーラが黒い炎となって爆ぜた。

放たれた爆炎が炎の壁となって射出された剣を飲み込んでいく。一瞬で剣を燃やし尽くした黒い炎が蛇のようにアーチャーへと殺到する。

炎をかき消すように次々と剣を撃ち込み、自らも矢を番えて弓でマスターを狙う。

 

「我が骨子は捩じれ―――」

 

「させません」

 

だがマスター狙いを読んでいたのか。一瞬で距離を詰めたバーサーカーの魔剣が頭上よりアーチャーを両断せんと迫る。

咄嗟に標的をバーサーカーに変え、射撃を撃ち込む。

 

「なっ!?」

 

だが、驚愕に目を見開いたのはアーチャーの方だった。

当たり前だ。ほぼゼロ距離と言っても差し支えないこの距離で、アーチャーの撃った矢を素手で掴むなど(・・・・・・・)ありえない。

 

「なるほど、これは強烈な矢ですね……私の鎧を砕くなんて、怖い怖い」

 

だがさすがに無傷とはいかなかったのか。漆黒の鎧の手甲の部分が破損し、白い肌と赤い血が見えていた。

それを見たバーサーカーは矢を捨て、血を振り払うように手を振る。

 

「―――さあ、もっと楽しみましょう?血沸き肉躍るこの戦いを」

 

「まったく。これだから狂戦士と言うやつは始末に負えんのだ―――!」

 

今一度気合を入れなおし構えるアーチャーと、妖艶な笑みを浮かべたまま魔力の炎を起こして対峙するバーサーカー。

間髪入れず、再び剣戟の音が響き渡った。

 




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