女装少年、男の娘、TS、メスショタ、ふたなり (てと)
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女装少年、男の娘、TS、メスショタ、ふたなり
「世の中には、男の娘がなんたるかを
学部棟の談話室のテーブル席。
ぼくの向かいに座っている男――国木田が、まるで世を憂う学生運動家のように
……なに言ってんだコイツ。
と、ぼくが思ったのも無理はない。なぜなら彼が口にしたオトコノコというのは男子ではなく、
「…………」
ぼくはリアクションに困りながら、呆れた視線を彼に送った。
――平均よりやや高い身長に、ごつい印象を抱く顔立ち、そして肩幅の広い体つき。がたいもかなりしっかりしていて、見るからに体育系の青年だ。
この見た目からすると運動部に所属しているのだろう――と誰もが思うかもしれないが、人間というのは外見と中身が大きく違っていたりするものだから面白い。なんとコイツは文化部、それも体を動かすこととは無縁の文芸部に入っているのだ。しかも、かなりその手の知識が豊富な生粋のオタクなのである。
同じ学年、同じ学部、同じ文芸部なぼくが、国木田と行動をともにするのは必然とも言えた。講義で予定が合わない時を除いて、昼食はいつも彼と談話室でとっていた。ちなみに学食を使わないのは、文学部棟が辺鄙なところにありすぎて移動が面倒という至極簡単な理由による。
「……で」
無言で無反応というのも可哀想な気がしたので、とりあえず国木田に尋ねてやることにした。
「なんで、いきなりそんなこと言いだしたわけ?」
菓子パンをもぐもぐ食べながら、ぼくは胡乱な視線を送る。国木田はおにぎりをひとかじりすると、よくぞ聞いてくれたと言うかのようにニッと笑った。……口の中の米が見えてるぞ、きたねぇ。
「うむ、じつはな……つい先ほど受けた講義で、あの無知な教授が無学な発言をかましてきやがったのだ。それで怒りが抑えられなくてな」
「はあ? ……なんだっけ、そっちが受けてたの」
「ジェンダー*4論だよ、ジェンダー論」
「あー……男女の性に関するやつだっけ」
ぼくはおぼろげな知識で、思い出すかのように言った。
国木田とは学部は同じだが、学科は違っていた。ぼくが哲学科で、彼が社会学科。コア科目として講義がかぶっているところもあるが、当然ながら異なる受講をしている場合も多かった。
で、彼がさっき受けていたのがジェンダー論なのだと。
「あの野郎、学生ウケを狙ったんだろうな。『最近では
「……いやぁ、べつにいいじゃん」
「よくねーよッ! 第一、女装子と男の娘じゃまったく別物じゃねぇか!?」
荒々しい語気で拳を握りしめる国木田。そんな血気盛んに主張されても、残念ながらぼくにはサッパリわからんのだが……。
「……どう違うの?」
「聞きたいか?」
「やっぱいいや」
「聞け」
有無を言わせぬ態度! その顔には、オタク知識をひけらかさんというペダンチック*5な思惑がありありと見て取れた。コイツも生粋のオタクだよなぁ。
どうやっても国木田の講釈からは逃げられそうにないので、ぼくは諦めて受け入れることにした。
「……じゃあ、お聞かせ願います。独歩先生」
独歩、というのは国木田の愛称だった。その由来が、かの有名な小説家・詩人であることは言うまでもなかろう。
「うむ、よろしい。特別に講義してあげよう、宮本くん」
ふふん、と得意げに言うさまを見ると逃げ出したくなるが、我慢我慢。
「――まず、女装子だが」
「うん」
「こいつは三次元の女装ホモ野郎を指す呼称だな」
「……お、おう」
いきなり特定の集団に喧嘩売ってない、きみ?
ぼくがドン引きしていると、国木田はわざとらしく咳払いを一つして補足する。
「――もともと、ゲイコミュニティーで使われていた言葉でな。ゲイの間で、女装をしている男性を指して女装子と言う。……訂正しておくと、女装しているからといって、性同一性障害*6だったり同性愛者だったりするとは限らんな。まあホモも多いが、そうじゃないやつもいる」
「女装しているのに?」
「女の服装イコール、女になりたいとか男に惚れられたいとかに結び付けるのは早計だぞ。軍服コスプレしているやつが、みんな本気で軍人になりたいと思うか? 女装コスしているからって、女になりたいとは限らんのさ」
「ははぁ、そういうもんかねぇ」
コスプレなんてしないのは勿論、コミケ*7のような場所にも行かないので、あまりその辺の知識がぼくにはなかった。
「で、重要なのは男の娘のほうだ。こいつは『女の子よりも女の子らしく見える、男の子』といったところか。まあ定義はひとそれぞれだが、基本的には『美少女に見える、性別男性』という点でそう間違いはないな」
「なんか最近、テレビとかでも聞くようになったよね。昔と比べてメジャー化した感じ」
「うむ……だが、そういう非オタクメディアにおいて男の娘という単語は、三次元の女装者を指して用いることが大半だ。そして、これは俺のような男の娘マニアにとっては非常に腹立たしい事態である」
自分で男の娘マニアを名乗るとは、こ、こいつ恐ろしい……。
嗜好ぶっぱに慄いているぼくをよそに、国木田は滔々と語りつづける。
「現実の女装者を、男の娘と呼べるかどうか。これに関しては、外見や声や振る舞いが女性らしく、ほとんどの人間が美少女と認識できる女装男子であれば、そう呼称することに差し支えはあるまい。――いると思うか、そんなの?」
「たまにネットで女装コスの写真とか見かけるけど、普通に綺麗なひと多くない……?」
「アホか! ネットに上げてる画像なんてフォトショ*8で修正加工してるんだぜ。実際に実物を目の前で見たら、どうやったって男を隠しきれない要素が山盛りだ」
と、そこで国木田はペットボトルのお茶を飲んで、唇を湿らせるような所作を見せる。どうやら、ご高説はまだまだのつもりのようだ。
「――ま、誰一人として存在しない、とまでは言わんがな。たとえば年少者の性別違和に対しては、デポ剤*9によって思春期を抑制する方法が採られたりする。この場合、
……おいおい。どこまで詳しいんだよ、この男。
感心すればいいのか、呆れればいいのか。たぶん、ぼくはすごく微妙な表情をしていたことだろう。
「が、そんなのはごく限られた一部の人間だけだからな。生来的にホルモン異常で二次性徴が発現しない男性も存在するが――いずれにしても、“男の娘”と呼べるほど美しい男子は現実にそう存在しない。だからこそ、三次元の分野で男の娘という呼称を用いることは、俺にとってはとうてい容認できんことだ」
「そ、そう……」
「そうだ」
力強くうなずく国木田。どんだけ男の娘に情熱を持ってんだ。
ぼくは缶コーヒーを口にすると、はたと思い出したかのように彼に尋ねた。
「――でも、ネット上だと『骨格が男らしくないとダメ』とかいう話をよく聞かない? “男要素”があるほうが、男の娘らしいと思っていたんだけど」
「ほう。たしかに、そういう発言は散見されるな。まあ男の娘に確定的な定義がないので、そういう考えに至る連中が多いのも納得できるが……」
「独歩先生にとっては違うと?」
「うむ、それについては十数年は遡って歴史を見つめなおす必要がある」
おい。
いきなり歴史の授業が始まるのかよ。
「では宮本くん。男の娘の元祖と言えば、どのキャラクターかね?」
「えーと……ブリジット*11?」
「よくわかっているじゃないか!」
まるで生徒を褒める教師のような振る舞いである。
……意外と教職が向いているんじゃないか、こいつ。
「まあ女の子にしか見えない男の子、というキャラなんてブリジット以前から存在した。それでも“その手の界隈”における人気度と知名度を考えたら、ブリジットを男の娘ブームの火付け役として捉えるべきだろう。つまり、男の娘の原型というわけだ」
国木田は二個目のおにぎりを取り出しながら、言葉を続ける。
「さて、その後も男の娘的なキャラクターは数多く現れるわけだが――2000年代の中頃から流行りだしたものと言えば、いわゆる“女装潜入モノ”だな。主人公が女装して、女子校に入学するというお決まりのストーリーだ」
「あぁ……なんか、ちょっと古い漫画とかギャルゲーでそういうの多かった気がする」
「ひとたび流行ると、みんな真似して同じようなのを作りだすからな。今も昔も変わらん」
昨今のラノベやらアニメやらを見ていても、いろいろと思うところはあるが――まあ、今はさておき。
女装潜入モノ。たしか、それ系で有名なギャルゲーだかエロゲーがあった気がする。なんてタイトルだったっけ。
「……“おとボク”とかいう作品だっけ、今もたまーにネット上で耳にするやつ」
「おっ、よく知ってるじゃん。おとボクは略称だな、正式名称は『
「……主人公が男の娘ってことだよね?」
「ま、そうだな。女装キャラがどのレベルから男の娘と呼ぶかは議論が分かれるところだが、この主人公はどっからどー見ても美少女にしか見えんキャラだから、男の娘と呼んで差し支えあるまい」
「……エロゲーってことは、女の子を攻略するんだよね?」
「もちろん」
男の娘が美少女を攻略する。
これって、すなわち――
「つまり、百合*14ってこと?」
「おおっと!? いいところを突くじゃないか、宮本くん!」
どこか強張ったように見える表情で、国木田は声を荒らげた。何かまずいものに近づいてしまった、とでもいうかのような態度だ。
「俺としても『男の娘はほぼ美少女な存在』というスタンスだから、男の娘×女の子のカップリングを百合と捉えることに吝かではないが――」
「違うの?」
「これ以上は死人が出るからやめよう!」
はっ!?
なぜ死人が出るのか、ぼくにはぜんぜん理解できないぞ。
「いいか、宮本くん。軽々しく人の前で、『男の娘と女の子の百合いいよね』とか『TS百合って最高だよな』みたいなことを言うのは厳禁だぞ。命が惜しければ口を慎め」
「……ッ!? わ、わかった……」
鬼気迫る表情で話す国木田の雰囲気は、まるで戦場で地獄を経験した軍人のようであった。な、なんだかわからんが恐ろしい……。
……で、ええと。なんの話をしてたんだっけ。
「歴史については、これでおしまい?」
「まだ腐るほどある」
「あるんだ……」
お前はどんだけ男の娘に詳しいんだ。
内心でそうツッコミながら、国木田の弁舌を諦めたように聞く。
「次のキャラも重要だぞ。『はぴねす!』*15の
「エロゲーが多いね」
「そりゃそうだ。当時の“萌え”の最先端は、PCの18禁アドベンチャーゲームだったんだからな」
うわっ、久しぶりに聞いたな。萌えって言葉。最近ではすっかり死語になりつつある気がする。
時代というのはすぐに移り変わるものなんだなぁ、と妙な感慨を抱いてしまう。いま流行しているものも、数年後にどれだけの数が残っているのやら。
「このキャラは、いわゆる親友ポジのキャラクターだな」
「攻略対象じゃないんだ?」
「そう。だからこそ、人気が出たとも言える*16かもな。下手なヒロインよりも攻略不可のサブキャラのほうが魅力的に映るってのは、ありがちな話だ」
「あー、なんかわかるかも」
ギャルゲーの攻略ヒロインは、攻略するというシナリオに縛られてキャラクターが動かされ描写される。一方で、攻略対象でないキャラは“シナリオの都合”にあまり縛られず主人公と絡んでくる。その自由に描かれるさまが、活き活きとしているように見え、むしろ攻略ヒロインよりも魅力的に映ったりするのかもしれない。
……などと論じられるぼくも、相当にオタクが入っている気がする。国木田のことをあれこれ言えまい。
「で、このキャラは前述の女装潜入主人公と違って、とくに理由なく女装している」
「……性別を偽ってるとかじゃなくて?」
「とくに事情はない。自分が男であると理解したうえで、女性の格好をして女性らしく振舞うオカマちゃん*17だ」
「じゃあ男性的な要素は――」
「ない。はっきり言ってしまえば、性別が女に変わったとしても、ぜんぜん変わらんキャラだな*18」
えぇ……。
「それって、男という設定の意味あるの?」
「それよ。“男要素”ってやつは、男の娘の元祖的なキャラにはあまり見られんのさ。女装潜入はまだストーリー的に男であることの意味があるが、それ以外はまあ女でも変わらんな。ブリジットなんて、もともと女キャラとして作っていたのを開発ギリギリで男に性別変更したくらいだぜ?*19」
国木田は二個目のおにぎりを平らげると、一息ついたようにお茶を飲んだ。
「男の娘に男っぽい要素を付ける、なんてのが多くなってきたのは後になってからだな。2010年以降に出た『女装山脈』*20なんかは、ショタっぽい体型を意識した描き方だった覚えがある」
「……なんか話題になったやつだっけ、それ」
「うむ。男の娘が妊娠する狂気のゲームだぞ」
アーノルド・シュワルツェネッガー*21もビックリだろ。どんな発想をしたらそうなる。
……ところで男の娘が妊娠したら、どうやって子供を産むんだろうか?
単孔類*22みたいに肛門から……?
想像したらいろいろとヤバい気がしたので、ぼくはそれ以上は考えないことにした。
「そうやって初期の流行から時が経つにつれて、バリエーションが現われはじめたわけだ。まあ、これは男の娘に限らず、あらゆる物事に共通することではあるがな」
「うーん。そうなると、“男の娘”っていう言葉で一括りにするのに無理があるんじゃ……?」
「実際のところ難しいな。可愛い系ショタやら女装少年やらメスショタ*23やらは、男の娘とどう違うのか? 万人が納得するように説明するのは無理だろ?」
「……ごめん。ショタ分野は門外漢です、先生」
「なに? しょうがない。俺が『ひなたのつき』*24を貸してやるから、勉強してこいよ」
門外漢と言うとろーがッ!
「完全に美少女っぽい男の娘だったらイケそうだけど、さすがにショタ系はちょっと……。まだふたなりのほうが、ファンタジーに振り切っていて受け入れられるんだけど」
「ははん? ふたなりがファンタジーだって?」
ぼくの発言に、国木田が目を光らせる。また講釈を垂らされるパターンだこれ。
「ふたなりっていうのはな――」
「知ってるよ。半陰陽は実在する、っていう
人間の性別を、すべて男女で簡単に割り切ることはできない。性同一性障害もその一例と言えるかもしれないが、もっと明確にそれを証明しているのは性分化疾患*25だろう。
ぼくがそれを先に口にすると、国木田は「なんだ、俺が言おうと思ったのに」と残念そうな表情を浮かべた。まさかこんなところで、ニュースで見た特集の知識が活かされることになろうとは。
「テレビで見た……なんだったっけな……。外見が女性なのに、調べてみたら本当は男性だった、っていうやつ」
「アンドロゲン不応症*26だろ?」
よく病名が一瞬で出てくるな、おい。
「まあインターセックス*27もいろいろ種類がありすぎて難しい事柄だな。この辺の知識を反映して、発生学的にふたなりを描いたエロゲーは、実際のところ俺も見たことはねぇなぁ」
「……なに、その発生学的って?」
「人間の体が胚からどうやって作られるかの学問。男女の性分化っていうのは、子宮内でホルモンの影響によって変化が起きるんだが――ご存知のチンコで言えば、たとえば陰核が亀頭に相当する相同器官*28だな」
うわーお、直球なお言葉。お前、大学内でよく堂々と言えるな。
…………。
エロゲー談義に付き合っているぼくも、もしかして大概ではなかろうか。ちょっと恥ずかしくなってきたぞ。
「だからチンコが付いているなら、陰核が同時に存在することは発生学的にありえないわけだ。同様に、陰嚢に相当するのが大陰唇だな。つまり、この発生学的な事実を考慮すると――玉付きのふたなりはあまりリアルではない」
「ごめん、ふたなりにリアリティを求めるほうがアホだと思うんだけど」
「確かに……」
自分で言って突っ込まれてすぐ納得しやがったぞ。
「お前の言うとおり、創作物で重要なのは現実をどれだけ反映するかじゃないな。もちろんリアリティは面白さに影響する要素だが、すべてではない。――エロゲーやエロ漫画なんて、抜ければいいんだよ」
「確かに……」
思わずぼくも納得してしまった。なんという至言であろうか……。
「エロに限らず、ラノベでもネット小説でもリアリティのあんばいは難しいよね。朝起きたら女になってたとか、トラックに轢かれて異世界に転生するとか、まじめに考えたら意味不明だし」
「TS*29させたいからTSする。転生させたいから転生する。ま、そんなものでいいけどな」
「そうそう。転生して女の子になるのとか冷静に考えたら闇が深すぎるけど、もう昨今は巷にあふれてるし」
「いやいや、昨今どころか1990年代から異世界TS転生なんて『デルフィニア戦記』*30があるだろ?」
知らねえよ!? お前の常識を基準にするんじゃない。
頭が痛くなるのを覚えながら、ぼくは缶コーヒーを飲み干した。昼食はすでに二人とも終わり、席に着いた時から随分と時間が経っていた。
ちらりと談話室の掛け時計を見ると、そろそろ次の講義が始まりそうな頃合いだった。しょうもないオタク談義も、この辺でおしまいといったところだろうか。
「さて――今回の講義で、学ぶところはあったかね。宮本くん」
すっかり語って満足げな表情を浮かべる国木田。こいつに付き合っていると、謎の知識ばかり増えていく気がする。
ぼくはゴミをビニールにまとめながら、深々とうなずいて彼に答えた。
「結局のところ全部ホモでは……?」
「なんだァ? てめェ……」
独歩、キレた!!
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002 宮本くんのWeb小説講座
『宮本先輩、今日の4限が終わったら部室に来ませんかー?』
そんなライン*1のメッセージが飛んできたのは、ぼくが久しぶりに学生食堂で激安凡味のラーメン(しょうゆ味)を食べている最中のタイミングだった。
発信者は学年が一つ下の、同じ文芸部に所属している女の子――花山さんである。
大学の部活というものはアクティブな部員とそれ以外の人間が両極端なものであるが、彼女の場合はよく部室に顔を出したり、ちゃんと小説を書いて部誌に載せたりしてくれるような、非常にやる気のある貴重な学生だった。わりと部活動に積極的な派閥のぼくからすると、彼女は部員の中でもかなり好意的に感じられる後輩の一人である。
そんな彼女が、ぼくにメッセージを送ってきた理由。
それは、おそらく――
「先日のアレかなぁ……」
「アレ?」
ぼくの呟きに、同じテーブルの対面席に座っていた青年が怪訝そうに聞き返してきた。
人が好さそうな雰囲気の彼は、同じ学年、同じ学科の岩浪くんである。それなりに仲がいい彼とは、国木田ほどではないものの、昼食をともにしたりたまに遊んだりしていた。
いちど箸から手を離したぼくは、返信の仕方を考えながら岩浪くんに説明する。
「部活のことだよ。後輩の子から、時間が合うときにいろいろ教えてくれって言われてたから」
「ああ……文芸部だっけ?」
「そうそう。ま、ガチなやつじゃなくてライトなオタクばっかりの、緩いコミュニティーだけどね」
だいたい文芸部というものは、ラノベ漫画アニメゲームが好きなオタクが9割以上を占めているのではなかろうか。まじめな文学が好きな青年なんてごく少数である。かくいうぼくも、純文学系はたまに読む程度の浅い読書家なんだけど。
「でも小説、書いているんだろ? 俺からするとすごいけどな」
「いやぁ、言うほどじゃないけどね。ひとに見せられるようなやつ、ぼくはあんまり書けてないし」
年に数回は発行する部誌の中で、ぼくも短編小説を書いて載せたりはしているが、いかんせん一般人に見せて恥ずかしくないものとは言いがたかった。クオリティーは可もなく不可もなく、といったところだろうか。
ちなみに国木田の場合は、驚くべきことに部誌に載せているのはすべて硬派な文学作品だったりする。コアなオタク趣味と知識を大量に持っているくせに、ずいぶんと意外である。
本人曰く、
『自分の趣味丸出しの作品なんてネットでしか出せねーだろ』
とのこと。
……ごもっともである。
彼の言葉をしみじみと思い出しながら、ぼくは入力しおえた文章を花山さんへと送った。
「よし……返信完了」
「なんて送ったんだ?」
「今日の4限のあと、部室に集まろうってね」
「へぇ……活動的でいいな」
微笑を浮かべながらそう言う岩浪くんに、ぼくは尋ねてみる。
「そっちは部活とか、なんかやらないの?」
「いや……俺はバイトけっこう入れてるし、サークルとか部活はいいかな。それに……」
「それに?」
「“彼女”と付き合う時間が減る」
「あーハイハイ、リア充自慢ね」
ぼくの素早いツッコミに、岩浪くんは微笑を苦笑へと変える。
この男はどうやら高校時代から付き合っている女の子がいるらしく、おまけにその子は一年遅れで彼のあとを追って大学に入ってきたんだとか。なんたる愛のドラマであろうか。しかも彼女さんは黒髪ポニテな美少女で、見かけるたびにイチャついてるのが非常に腹立たしかった。
……まあ、そんなことはともかく。
岩浪くんと昼食を済ませたぼくは、彼とともに学部棟に戻って4限の講義を消化し、あっという間に約束の時刻を迎えるのであった。
これからバイトがあるらしい岩浪くんに、ぼくは
国木田とは連絡してみたが、どうも彼は少し遅れてやってくるらしい。ついでに、ほかの部員は今日は時間が合わず来れないようだった。
と、いうことは――
「……うーん」
国木田が到着するまでは、後輩の女の子と二人っきりということである。
こういうのは意外と困るシチュエーションだった。べつにぼくはコミュ障というわけではないが、それほど話を盛り上げるのが得意なわけではなかったりする。
ま、花山さんは自分から話を振るタイプだから心配するほどじゃないか。
そんな楽観視をしながら、ぼくは部室の前までやってきた。
鍵はすでに開けられていたので、軽いノックをしてから文芸部のドアを開ける。
そして、ぼくを出迎えたのは――
「あっ! おはようございます、宮本先輩~!」
「おはよーおはよー。……来るの早いね」
元気よく挨拶してきたのは、軽く茶色に染めたショートボブの髪に、眼鏡をかけた童顔気味の女子だった。
彼女こそが、期待の一年生部員の花山さんである。挨拶からも察せるとおり明るい子なので、いわゆるムードメーカーというやつであろうか。
花山さんは「えへへ」と笑いながら、ぼくに言葉を返す。
「リベは学部の立地がいいですからね」
「あー……たしかに。ぼくは文学部棟だから、いちばん遠いんだよね」
リベ、とはリベラルアーツ学部*2の略称である。この大学のキャンパスは無駄に広いため、学部棟によっては目的地への移動時間にかなりの差があった。
ちなみに文学部棟は端っこにあるため、食堂へも部室棟へも非常にアクセスが悪かったりする。嫌がらせか。
「独歩先輩は遅れてくるみたいですよ~」
「うん、知ってる。十分くらいで済む用事とか言ってたから、たぶんすぐ来るんじゃないかな」
「それじゃあ――」
花山さんは、笑顔でいきなり本題を切り出してきた。
「――ネット小説の書き方、教えてください!」
――そう。
彼女が教えてもらいたがっているのは――ネットにおける小説のイロハであった。
もちろん文芸部の中でも、小説の書き方講座や文章作法の解説などは定期的におこなっている。が、部誌という本の形にする中での作品と、ネットで一般公開する作品とではいろいろと異なっていた。
縦書きと横書きという書式の違いもあれば、身内向けと見知らぬ大衆向けという読者の違いもある。もし多くの人から読まれたいという欲求があるのならば、それを実現するためのテクニックやノウハウも存在する。
花山さんがどういう方向性で、どんなネット小説を書いていきたいか――それにアドバイスをするのが、今日の主題であった。
「……とりあえず」
「はい!」
「実際にWeb小説サイトとかには、何か作品を投稿したりしたことある?」
「ありますよ! 部誌に載せていた短編を、いくつか『小説家になろう』*3に載せたりしました」
でも……、と花山さんはちょっと残念そうな声色で続ける。
「PVはあったみたいですけど、ブックマークは少ししか付いてなかったりしたんですよね……。ちょっとショックでした」
「んんー……。その“少し”って、具体的にいくつくらい?」
「……ふ、ふたつです」
「なるほど」
まあ、そんなものだろう。
と、ぼくは花山さんの作品を思い出しつつ、そう冷静に思考した。
彼女は小説的な技巧こそ高くはないものの、基本的な文章の表現はできていたはずだ。作品も「読めなくはない」し、ストーリーも「そこまで悪くはない」と思う。裏を返せば――「とくに優れているわけではない」というのが実情だった。
そして、それはネットに飽和している作品たちと変わりがないものである。
花山さんはPVとブックマークが少しあったと言っているが、それにしたって実際の閲読数と合致している保証はなかった。新規投稿におけるPVの大多数は即ブラバだろうし、ブックマークも「とりあえず」で押しただけで、けっきょく読まずに終えている可能性が十分にあるのだ。
「や、やっぱり……タイトルが悪かったんですかね」
「タイトル?」
「ほら、“なろう”って……なんだか、小説のタイトルが独自じゃないですか! ああいうの、真似したほうが目につくんじゃないかって――」
「あー、あれね……」
ぼくは嫌になるくらい目にしたことのある、説明調のタイトルたちを思い起こした。
「あれは、こう……なろうの仕様の関係で自然発生したやつだから、あんまり気にしないほうが……」
「仕様、ですか?」
「まあ諸説あるんだけど……。小説ランキングのトップページとか、スマホ版の作品検索ページとかは、タイトルだけ表示されるでしょ? でも、あらすじは表示されない。それだと内容が不明瞭だから、ユーザーも興味を持ってくれない。じゃあ、タイトルをあらすじ調にして一目で内容を理解できるようにしよう――という感じで、ああなっちゃったわけ」
タイトルのあらすじ化、というのはWeb小説だととくに顕著である。
これはおそらく、閲覧者側に立ってみるとなんとなく理解できると思う。毎日、膨大な数の新規投稿がなされる中で、そこから自分の好みに合った作品を探すことを想像してみてほしい。――いちいち、あらすじを精読している暇なんてないだろう。
一瞬でその作品がどんな内容なのか、ある程度わかるということ。これは投稿サイトで自分の作品が埋もれないために、わりと重要なことであった。固定ファンがいる作者ならともかく、新規投稿者ならとくに気にかけることだろう。
「でも、べつにタイトルをああする必要はないと思うけどね。逆に説明調のタイトルが嫌いって人もいるし。まあ……あらすじを簡潔にわかりやすくしていれば問題ないかな」
「うーん、そうなんですか……」
花山さんは困ったような顔で、「じゃあ……」とぼくに尋ねてきた。
「なにか……もっと多くの人から読まれるようになる、コツとかってないんでしょうか?」
「んー……」
コツ、か。
あるにはある。
「一つは……文章作法を遵守する、かな」
「文章作法?」
「そう。三点リーダーやダッシュの使い方とか、部活で講習したでしょ? いわゆる小説の基本的な作法を、ネット小説でもきちんと守ることが大事」
「でも……。ランキングとか見てると、たまに……
「うん、あるね。でも――沈黙表現とかに三点リーダーではなく中黒を使っていると、それだけで読むのをやめる人が一定数いたりするから」
「……そ、そうなんですか?」
花山さんは信じられなさそうな表情で、ぼくの話を聞いていた。
べつに嘘を言っているわけではない。実際に、ネット小説を漁って目の肥えた人間からすると、この「文章作法が守られていない作品を避ける」というのはわりと理にかなっているのだ。
これは多くの人がたどり着く経験則でもあった。
まず――小説を書いた経験が少ない素人は、小説の一般的な表記ルールから逸脱しがちである。そして小説というものは、素人がいきなり良い作品を創ることは非常に難しい。はっきり言ってしまえば、駄作になりがちである。
そして投稿サイトで幾千のWeb小説を読んできた人間ならば、だいたい途中で気づくのである。
――文章作法を守っている作品ほど良作率が上がり、逆に守っていない作品ほど駄作率が上がる、と。
訓練されたWeb小説スコッパーは、第一話のページを数秒眺めただけでその作品のおおよその質を判断するという。
なぜか。――それは数行だけでも、文章の流れ方、語彙選び、可読性などの要素で大体の文章力を目利きすることができ、さらに文章作法がどれだけ守られているかで、作者の小説書きとしての熟練度を見極められるからである。
こう言うと「本当かよ?」と思われるかもしれないが、数多の面白い作品とつまらない作品を読みつづけてきた歴戦の猛者は、その経験と感覚から一瞬で良し悪しを大別できるのである。そう、訓練された人間だからこそできる業なのだ。ひよこ鑑定士と同じようなものである。
……と、ぼくが力説すると、花山さんはずいぶん困惑の顔つきをしていた。
「ええと……つまり……?」
「つまり――文章作法は守るに越したことはない、ってこと。文章作法が守られてないから読むのをやめる人はいても、文章作法を守っているから読むのをやめる人はそうそういないからね」
「……そういうものなんですか?」
「そういうもの」
花山さんは「うーん」と悩んだ様子で、「ほかには、何かべつのコツはないんですか?」と聞いてくる。
「あとは……固定ファンをつける、とかかな」
「固定ファン?」
「そう。『ああ、この作者の作品は好きだな』と思ってくれた人が、作者をお気に入り登録してくれたら、次に新しい作品を投稿したときにも読んでくれやすいでしょ? そして投稿と同時に評価が入るようになれば、ポイントが集中してランキングにも載りやすくなる。そうすると、ランキング経由でさらに新しいファンがついて好循環が生まれる――ってわけ」
「むむむ……なるほど……」
難しい顔で頷いた花山さんは「でも」と聞き返す。
「その最初に『ファンを作る』っていうのが、すっごく大変じゃないですか? そう簡単には……」
「そう簡単にはいかないね。――普通のやり方だと」
「むぅー、その言い方だと……何か方法があったりするんですか?」
あったりするんだよね。
ぼくはスマホで『小説家になろう』のサイトを開きながら、真顔で口にした。
「端的に言うと――」
「言うと?」
「――流行りモノに乗る」
えぇ、と花山さんは意外そうな表情を浮かべた。
彼女はぼくがあまりミーハー*5なタイプではないと知っているから、そういう手段を挙げるとは思っていなかったのだろう。
だが、事実は事実だった。
もっとも手軽にファンを増やすには――流行り、つまりテンプレ要素を使うのである。
「たとえば、なろうなら――」
ぼくはスマホで、ランキングのタイトルを一瞥した。
「うん……やっぱり、追放系とか悪役令嬢系とか? 今も相変わらず人気みたいだねぇ」
「毎日ランキングは見てますけど……その辺の作品ばっかりの印象です」
「ああいうの、花山さんは嫌いなタイプ?」
「うーん……。べつに嫌いってほどじゃないですけど……。ただ同じような展開が多くて、読み飽きたっていう感じが……」
正直な感想である。
まあ、ぼくも同様なんだけどね。
「でも、世間のライトな読者たちは“こういうの”を好んでいたりする。小説投稿サイトの閲覧は大半がスマホからというデータもある*6し、読者の多くは単純で型にはまったストーリーを暇潰しとして消費しているんだと思うよ」
通勤・通学の電車の中で、あるいはちょっとした空き時間の中で。
小説を覗く読者たちは――きっと“小説を探す”ということに労力をかけたくない人が大半なのだろう。
だから作品を検索するにしても、お馴染みのワード、すなわちテンプレワードで次なる暇潰しを見つけようとするのかもしれない。
「だからこそ――これを“利用”するのが有効だったりするんだよね」
「利用、ですか?」
「そう。何かテンプレ的な要素を取り入れて作品を投稿したとするでしょ? すると、そのテンプレ要素に惹かれた読者が一定数、作品を読んでくれる。もし読者の中に作品を気に入った人がいれば――“次”に期待して作者をお気に入り登録してくれる可能性がある」
「ふむふむ……。……あっ、わかりました!」
そこでようやく合点がいったように、花山さんはポンと手を叩いた。
「そうやって“ファン”を増やしてから――“本命”の作品を投稿するんですね!」
「うん、そのとおり」
これはつまり、マーケティングの問題なのだ。
仮にプロの小説家が、新しくなろうに非テンプレ作品を投稿したとしよう。その作品がたとえ面白かったとしても、おそらくランキングに載ることは厳しいだろう。
なぜなら、わざわざテンプレ以外の作品を新着から掘り起こす一部の物好きしか読まないからである。そのようなスコッパーは、現実的にはごく少数派なのだ。
――良い物が売れるとは限らない。
これは小説においても同様である。どれだけ面白かろうと、物語が優れようと、人々に認知されなければ流行るものも流行らない。販売戦略、すなわちマーケティングが重要なのは創作物も変わらなかった。
……とはいえ。
「で、でも……あたし……なんか、そういう踏み台みたいな作品を創るのは苦手かもです……」
まあ、そうだよね。
というか、ぼくもテンプレ作品を書けと言われたら結構きつい気がする。国木田は「テンプレも書く、非テンプレも書く。両方をともに良作とし、読ませる技量こそがWeb小説には肝要だ」などとほざいていたが、あいつのレベルに合わせられる人間などそうそういまい。
ぼくは「うーん」と唸りながら、あごに手を当てた。
テンプレを用いる以外の方法で――ファンを獲得する。
そんな美味い方法があるのだろうか。
――ある。
そう、残念ながら……あるのだ。
「一つだけ……」
「…………?」
「一つだけ、確実に……“ある要素”をほんの少しでも入れるだけで、“一部の人たち”を作品に呼び寄せる方法があるんだ」
「えっ!? そんなのあるんですか!? ――教えてください!」
花山さんは、きらきらとした笑顔で頼みこんできた。
これ、教えてもいいものなのだろうか?
いくら花山さんもオタクとはいえ……なんというか、こう……ディープな性癖に関わることだし……。
ぼくは悩んでいたが、結局は彼女の笑顔に押しきられ。
「その方法は――」
言葉を口にしはじめた、その瞬間――
ガチャ、と文芸部のドアが開かれた。
ぼくと花山さんは、反射的にそちらのほうを向いた。
そこに立っているのは、ごつい顔に加えてガタイのいい、見るからに体育会系の男だった。
だが、ぼくたちは知っている。
彼が文化系だということを。そして生粋のオタクだということを。
ようやく現れた、文芸部の副部長――国木田、愛称 独歩は。
それまでの話を聞いていたかのように、ニヤリと笑ってぼくの言葉を継いだ。
「――――TS系だよ、TS系!」
――それが独歩先生の講習会の始まりであるとは、この時だれも知るよしもなかった。
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003 独歩先生のTSF講座(前編)
――意気揚々と登場してきた国木田は、自信に満ちあふれた表情を浮かべていた。
そんな彼に、ぼくは白い眼を向けて尋ねる。
「……ずっとドアの前で聞いてたの?」
「んなわけあるか。お前が“ある要素”と“一部の人たち”ってワードを口にするタイミングで着いたんだよ。最初からWeb小説の話だってことはわかってたし、そっから何を指しているかは簡単に推測できるだろ?」
だろ? って、お前……それは普通じゃないと思うぞ……。
ドン引きしているぼくをよそに、花山さんは目を輝かせて質問をする。
「そんなに人気なんですか? その……T……?」
「TSな。TSFともいうやつだ」
「あーっ、TSFならどっかで聞いたような……!」
「うむ。トランスセクシュアル、すなわち性転換ってやつだ。Fはフィクション、つまり性別が変わる系の作品ってことだな。『ふたば君チェンジ♡』*1とかそういうやつだ」
おい、その例えは絶対にわからんぞ。
せめて挙げるなら『らんま1/2』*2にしろよ。
花山さんのほうをうかがうと、案の定だが顔に疑問符を浮かべていた。
「……『かしまし』*3のほうが良かったか?」
「もっとわからないから、それ!」
「じゃあ『幼女戦記』*4」
「あっ、それなら知ってます! 映画にもなってたアニメ*5ですよね!」
幼女戦記、強し。
花山さんの反応を耳にした国木田は、ホワイトボードの近くの席に移動しながら解説をする。
「アニメというか、元をたどればWeb小説だな」
「へぇぇ! なろうとかに掲載されてたんですか?」
「違うちがう。Arcadia*6っていう、かなり古い小説投稿サイトだ。昔は二次創作小説がそこがいちばん盛り上がっていて、オリジナル小説もよく投稿されていたんだけどな。有名なのだと『ダンまち』*7とかもそうか」
「アルカディア……って、はじめて聞きました……」
むしろ知っているほうが少数派だから気にしなくていいよ、花山さん……。
しかし国木田のほうも、Arcadiaの解説をすると長大な歴史を語る必要があると理解しているのだろう。あえてそちらのほうには触れずに、話をもとのほうへと戻した。
「ま、Web小説におけるTSFについて言うとだな。TS、すなわち性転換という要素は――それをWeb小説に入れるだけで、一定数のPVとブックマークが得られるという傾向にある」
彼は結論から口にした。
そして、その内容は――ぼくの認識と同様のものであった。
もっとも、花山さんにとっては意味不明に違いない。これは実際にWeb小説を読みつづけ、“作品”だけでなく“読者”についても理解しないと納得しがたいからである。ライトな小説投稿サイト利用者には、絶対に存在しえない知見であった。
不思議そうな顔をしている花山さんは、当然のごとく聞いてくる。
「……どうしてですか?」
「簡単に言うと、コアなファンがいるからだな。TSF、または性転換というタグを付けただけで、“その層”から作品をクリックされる頻度が格段に跳ね上がる」
「でも……なろうのランキングを見ても、そんなタグが付いている作品あんまり見ないような……?」
「だろうな。母数自体は、ほかのタグのほうが支持者が圧倒的に多いからだ。だが――たとえばタグで検索する人と、そのタグから作品をクリックする人の割合を考えれば、おそらくTS系のタグはトップクラスの強さを持っているだろう」
「えぇと……?」
「つまり『TSFファンはTS系タグで作品を探すことが多い』かつ、『TS系タグが付いている作品をクリックする確率が高い』ということだな」
だから、“コアなファン”なのだ。
世間から見れば少数派でも、その界隈では異常に人気がある。Web小説においては、TSFがそんなポジションだった。
健全なる男子であれば、pixiv*8でエッチな絵を検索しようとした時によく経験するものだろう。『なんでフタナリなんてもんがこんなにあるんだよ!』――と。だが確固たるファンが存在し、性癖を求め、性癖を評価し、性癖を生産するという脅威の性癖スパイラルができあがったモノというのは、異常に盤石なのだ。おかげでぼくは涙した。
話が逸れた。
そんなエロ絵事情は置いといて、重要なのはTSFが非常に強いジャンルということである。
花山さんも、とりあえずTSFがコアな人気を持っているということを理解したのだろう。だが、次なる疑問も湧いてくるはずだ。そう――
「で、でも……あたし、TSFについて何も知らないし、それを題材にした小説なんて書けそうには……」
「うむ、それについては安心するといい。ぶっちゃけて言おう。――TS要素なんてほんのわずかでも、あいつらは餌に群がる鯉のようにやってくるから問題ない」
それはぶっちゃけすぎだと思うんですが。
「え、えぇ!? どういうことですか……?」
「たとえば、だ。女主人公の前世を男だったと設定する。あるいは、男から女に変わる脇役キャラだけでも出す。するとTSFタグに釣られたやつらが、とりあえずクリックして作品を確認するんだよ」
「そんな都合のいい話が――」
あるんだよなぁ……。
花山さんはにわかに信じがたい様子であるが、国木田と同じくWeb小説を読んできたぼくにとっては、それは経験的に理解していることだった。
――これ、TSの意味なくね?
そんな作品は、ネットに
そして、われわれは悟るのだ。
とりあえずTSタグが付いてるだけで読むやつがいる、と。
「う、うーん……」
花山さんは複雑そうな表情で、国木田の解説に聞き入っていた。
彼女もオタク文化には慣れているので、そういったコアな人々の存在も説明を受ければ納得はできよう。
だが、納得はしても――それを自分の作品に取り入れるかどうかは別だった。
「正直なことを言うとですね――」
彼女はみずからの意見を口にする。
「作品として書くなら、どの要素もきちんと物語として意味のあるものにしたいな……って思うんです」
「うん。無理に興味のないものを取り入れる必要もないと思うよ」
「あ、いえ……べつに興味ないってわけじゃないんです!」
あれ?
てっきりTSFなんて好きでもないから要らない、という考えだと思ったんだけど、花山さんはそうでもないのだろうか。
彼女はどこか興奮した様子で、確かめるようにぼくたち二人に尋ねてきた。
「男の子から女の子に変わるのが、TSFなんですよね?」
「そうだね。たまに女から男に変わる作品もなくはないけど、一般的にTSといえば女体化と認識していいかな」
「ということは……体は女の子で、心は男の子なんですよね?」
「うむ。肉体と精神の性別の違いは、TSFにおいてお約束の要素だな」
「じゃあ――」
花山さんは真理に気づいた、といった顔つきで言葉を放った。
「TSした子が男キャラと恋愛したら――合法的なBLになるじゃないですかッッッ!」
あ、思い出した。
花山さん、けっこう腐女子入っている子だった。
ぼくは若干のめまいを感じつつも、同時に彼女の食いつき方にも納得する。TSFにおいて、精神的BLというものは大きな要素の一つにもなっていた。そして意外なことに、TSFを好む女性読者というのもそれなりにいるのだ。もともとBLが好きな花山さんが、TSという題材に興味を示すのも無理からぬことであった。
と、ぼくが反応に困りながら思っていると。
国木田はどこか若者を眺める老人のような面持ちで、花山さんに語り掛ける。
「ふむ……その様子だと、TS作品におけるBLの分野が気になるようだな」
「はい、独歩先生! あたし、気になります!」
「なるほど、なるほど。だが、実際にTSFを書くならば――きちんとTSFの中の派閥も理解しておかねばならぬ」
「は、派閥ですか……!?」
「――TSFという枠の中には多くの派閥があり、それぞれ相容れぬものもある。軽率に触れ、扱い方を間違えれば……炎上さえ招きかねんのだ」
ですよねー。
なぜか物語の途中で急にTS主人公がメス堕ちしだして、「コレジャナイ」と感じた読者が辛辣なコメントを送るような事例が、はたしてどれだけあったろうか。
そのようなトラブルは、おそらく作者が抱くTSFの理想像と、読者が求めるTSFの要素のミスマッチが原因なのだろう。TS作品で恋愛を絡めるのは、じつはかなり繊細で難しい問題だった。
国木田はフフンと上機嫌そうな雰囲気で口を開く。
「まず、Web小説におけるTS作品を好む読者をタイプ分けするとだな――」
「はいッ!」
「――大きく分けて、9種類ある」
ぶっ。
……と、ぼくはせき込んでしまった。
9種類? さすがに、そこまでは考えたことがなかったぞ。てっきりBL派とGL派の2種類に大別するのかと思っていたのだが……。
ぼくが疑うような目つきをしていると、国木田はニヤリと笑った。そして、立ち上がってホワイトボードに何かを書きはじめる。
――しばらくすると、その白い壁には綺麗な表ができあがっていた。
TSFの派閥 | |
非恋愛派 (恋愛要素以外が好き派) | ① 強い女の子が好きなんだよ派 (男らしさ・格好よさ・力強さなど男性的内面を備えた女主人公を見たい派) |
② コメディ要素が好きなんだよ派 (男から女への転換によるギャップから発生する、笑いやドタバタ劇が見たい派) | |
③ べつにTSFが好きではない派 (とくにTSFに思い入れがあるわけではないが、なんとなく純正女主人公には感情移入がしづらくて、とりあえず男の精神のTS主人公作品を読む派) ※消極的選択 | |
GL恋愛派 (女の子との恋愛派) | ④ 百合の光景を眺めたい派 (「TS百合は百合じゃない」と発言する人々とは分かり合えないと思っている派) |
⑤ 俺も百合したい派 (自分も美少女になって百合百合したいと、TS主人公に感情移入する派) | |
⑥ まあ恋愛するなら相手は女でしょ派 (恋愛要素? あってもいいけど男が相手ならホモだろ派) ※消極的選択 | |
BL恋愛派 (男の子との恋愛派) | ⑦ メス堕ちTS主人公を眺めたい派 (内面が変化してゆくTS主人公を客観的に眺めてニヤニヤしたい派) |
⑧ 俺もメス堕ちしたい派 (自分も美少女になって男にチヤホヤされたいと、TS主人公に感情移入する派) | |
⑨ BLが好きだよ派 (とくにTSFに思い入れがあるわけではないが、BLが好きなので合法的に精神的ホモが成立するTS作品を読む派) ※消極的選択 |
うわぁ……。
よくこんな分類分けを思いつくな。一般人が見たら意味不明な部分も多いぞ。
花山さんの表情をうかがうと、やっぱり難しそうな顔をしていた。この表だけで理解できるのは、やはりTSFとそのファンを見てきた者だけなのだろう。
「よし、じゃあ、それぞれ解説していくぞ」
するのかよ。これ全部?
と、国木田のほうを見てみると、彼はすでに講義をする教授のような雰囲気をまとっていた。……どうやらマジでやるらしい。
「――まずは大分類についてだ」
そう言って、国木田はペンで表の左側を指した。
彼によると、非恋愛派、GL恋愛派、BL恋愛派の三つが大分類に該当するのだという。
「TSというのは、しばしばラブコメディーにおいて利用されてきた要素だ。『らんま1/2』を思い浮かべていただけると分かりやすいが、男から女へと変わる変化が、周囲の人間の恋模様に変化を与えたり、あるいは混乱をもたらして笑いを誘ったりするわけだな」
「九能先輩なんかコメディー要素のいい例だよね。女らんまの正体に気づかずに惚れて、追いかけまわしたり」
「うむ。逆にシャンプーは女らんまとの因縁から始まり、男らんまへと好意を持つようになる。可変TSFにおいて、これほど優れた作品はないな」
と、ぼくと国木田が会話をしていると――
「あの……」
花山さんが、どこか遠慮がちな声を上げた。
どうしたのだろうか。ぼくたちが彼女のほうに顔を向けると、花山さんはなぜかすごく申し訳なさそうな顔で、
「あたし……作品名は聞いたことあるんですけど、『らんま1/2』は読んだことがなくて……」
「…………」
「…………」
ぼくと国木田は、無言で顔を見合わせた。
『らんま1/2』は1987年に連載開始した作品、つまり三十年以上前の作品である。花山さんは生まれてすらいないのだ! なんというジェネレーションギャップ!
……いやまあ、ぼくと国木田も生まれていないのだが。
「と……とにかくだ。性別の変化というのは、登場人物にさまざまな反応をもたらし、感情を変化させられる。つまりは、ストーリーを創りやすい、ということだな」
そして、と国木田は続ける。
「恋愛をメインにしたTS作品というのは非常に多い。主人公が女体化して男とラブコメするのもあれば、女とラブコメするのもある」
「前者は精神的にはBL、後者は肉体的にはGLになるね」
「うむ。このBLとGLについては、あとで触れるとして――」
彼はトントン、と“非恋愛派”をペン先で示した。
「昨今のWeb小説の作品においては、必ずしも恋愛要素を入れるとは限らなくなってきた。それゆえに、“恋愛要素に興味のないTSF愛読者”も出てきたことは注目に値しよう」
「恋愛要素が嫌いなひとって、一定数いるよね」
「うむ。昔はTSF=ラブコメで等式が成り立っていたことを考えると、これは興味深いことだ」
商業作品、とくに連載漫画なんかだと絶対に恋愛要素を入れることが求められていたからね。
時代背景的に、TS要素を入れるならラブコメにせざるをえなかったと言うべきか。
「では恋愛をしないTS作品について、読者はどんな要素に惹かれているのだろうか? それは大まかに三つに分けられる。――ひとつは、“強い女の子が好きなんだよ派”だ」
「これはわかりやすいかも。体は女で、心は男。そうすると、一般的な女性とは考え方や異性への態度が違ってくる」
「この派閥はとくに、TS転生系のファンタジー作品を好む層に見受けられるな。普通の女主人公であれば、死に物狂いで修業して強くなるなんてストーリーにはなかなかできない。だが前世が男だったら、そういう“強さ”を求めることにも納得できるだろ?」
花山さんが、ハイハイ! と意見するように手を挙げた。
「でも独歩先生! あたし、TSじゃない女主人公で修業する系の作品とか見たことありますよ!」
「まあ、たまにはあるな」
「身につけた空手を活かして、木を叩き折ったり鉄を捻じ曲げたり猪を殴り倒したりするようになるんですよ~! こんど作品名を教えますね!」
女主人公でそれって、どんな作品だよ……。
「……いずれにしてもだ。男らしさ、格好よさ、力強さ――そういった要素を備えた女主人公というのは、それなりに需要があるわけだ。このような男性的内面を持つ女の子の活躍を見たいがために、TS作品を探すという人もけっこういる。――例えるなら、貧乳好きが代替物として男の娘モノを求めるようなものだな」
お前の例えは絶対におかしい。
……いちいちツッコんだらキリがないので口には出さないが。
「――さて、次だ」
そう言って、国木田は一つ下の項目に移った。
「コメディー要素が好きでTS作品を読む派閥だな。肉体と精神の乖離はしばしばギャップや失敗をもたらす。それが笑いや面白さにつながることも多い」
「最近はTS要素を使った、一発ネタみたいなコメディー作品も見るね」
「ああ。Web小説投稿サイトがなかった時代と違って、今は気軽に短いネタでも公開できるようになったしな。また、“TS”という要素が一種の定番ネタとなって普遍化したのも大きい。そういう背景もあって、コメディーを主目的としたTS作品も出てくるようになったんだろう」
今やDLsite*9やFANZA*10のシチュエーションタグに「性転換」が存在する時代である。女体化モノは、ここ10年でずいぶん一般にも受け入れられるようになったと言っても過言ではない。
国木田は補足するように、言葉を付け加えた。
「シンプソン博士の『ドラゴンカーセックス*11も十年後には一般性癖!』という名言もある*12ように、かつては奇妙で特異な要素と見なされていたジャンルも、時が経てば立ち位置が大きく変わってくるものだ。TSも一般性癖化するに伴い、より大衆受けしやすいコメディー作品は増えていくだろうな」
「ドラゴンカーセックスって、なんです――」
「はい、次、次! 次いこ!」
ぼくは花山さんの疑問を遮って叫んだ。
あの特殊性癖には触れてはならない。絶対にだ。
「さて、次だが――」
国木田はさも自然な動作で、もう一つ下の項目に移った。
べつにTSFが好きではない派――
これはなかなか、一般人にはわかりにくい部類である。
当然ながら、花山さんは疑問の表情を浮かべて尋ねてきた。
「……べつに好きじゃないのに読むって、おかしくないですか?」
「――と、普通は思うだろう?」
国木田は笑って解説をする。
「これはな、男性作家と女性作家、そして男性向けと女性向けの複雑な問題が絡んでいるんだ。たとえば、そう……男主人公の作品は男読者が多くて、女主人公の作品は女読者が多いことは納得できるだろう?」
「はい」
「それは、なぜだと思う?」
「えっ? えっとぉ……」
少し悩んだように考え込んでから、花山さんは一つの答えを口にした。
「――感情移入しやすいから、ですか?」
「そう! そのとおりだ。何かしらの境遇や身体的特徴が似通っているキャラクターに対して、人間はより感情移入しやすくなる。性別はその典型だな」
ぼくも頷きながら、そこに話を付け足す。
「そして作者も――男なら男主人公を書きやすくて、女なら女主人公を書きやすい。だよね?」
「うむ。自分の性別だから、必然的にそっちのほうが書きやすくなるわけだな」
べつに男は女主人公を書けないとか、女は男主人公を書けないとか、そういう極端な話ではない。人間の洞察力に優れ、多様な面における男女性差を理解している作者ならば、どんな性別のキャラクターだってうまく描写することができるだろう。
だが、やはりスキルが必要なのも事実だった。人生経験が少なく、小説のプロでもない作者が自分とは異性の主人公を描くと――
「――女主人公の作品を読んだ時に、花山さんは『あっ、これ男性作者だな』って気づいたことってない?」
ぼくが質問すると、彼女は思い出したように口を開いた。
「あります、ありますっ。なろうで……ランキングに載ってた作品を読んだ時だったかなぁ……。たしか、えっと、婚約破棄のテンプレっぽいやつだったかも……」
「うん。テンプレ系は流行りに乗って書く人も多いからね。ちなみに、なんで気づいたかわかる?」
「……なんででしょう? でも、なんか……ちょっと違うんですよね。雰囲気? 書き方かなぁ……すみません、はっきりわからないです」
具体的にポイントを挙げて明確化するのは難しい。
しかし――どこかで微妙な違和を感じ取れてしまう。
そう、それが現実だった。
「一般的に、創作物では――女性は感情や心情を重視する傾向にあると言われるな」
ふたたび国木田が語りはじめる。
「とくに恋愛が絡む作品だと違いが顕著かもしれん。男作者が女主人公を描くと、どこかドライで男っぽいキャラになる。逆に女作者が男主人公を描くと、どこかナイーブで女々しさのあるキャラになる。傾向としては、だが」
「うーん……言われてみれば、たしかにそうかもですね……」
「この作者の性別に関しては、たとえばエロ漫画でもよく言われたりするな。むしろ男作者よりも、女作者のほうが女キャラの感情や心情がリアルで抜けるなどという声は、しばしば耳にするものだ」
おい、女の子の前で抜けるとか言うなよ!?
……オタク文化に理解ある花山さんじゃなかったら、思いっきりセクハラだったぞ。
「――で、話を戻すと」
国木田は一息おいて続ける。
「男女の作風の違いが、読者の選好にも影響されるということは疑いようがないわけだ。そして、ある読者がこう思ったとしよう。『女性向け作品は好きじゃないけど、たまには女主人公の小説も読んでみたいなぁ』――と」
「あっ、なるほど! それでTS作品が選ばれるわけですね」
「うむ。普通の女主人公モノだと女性作者が多くて自分の好みに合わない可能性が高い。しかしTS主人公だと性別は女でも精神は男、さらに作者が男で男性向きな作風になっていることが多いから、とりあえず読んでみようとなるわけだ」
TSFは基本的に、二次創作や同人界隈において男性向けのジャンルとして育ってきた分野である。そうした背景から、やはり作者が男性であることが非常に多かった。もちろん今はTSF自体が有名になって女性ファンも増えてきているが、それでも作者も読者も男性層が大半を占めていることは変わらないだろう。
だから、べつにTSFが特別に好きというわけではないけれど、TSF=男性向けという“信用”によってTS作品を読むという人が出てくるのだ。
おそらく純正女主人公かつ男性向けな作品を、投稿サイトの膨大な作品の山からスコップで探し当てようとするのは困難を極めるだろう。だったらタグ検索で一発で掘れる、TS主人公の作品を読めばいい。そういうWeb小説サイトの検索面でも、TSFというのは独自の強みを持っていた。
「でも――たしかに、お話を聞いてると……あたしも分かる気がします」
花山さんはしみじみと言葉を紡ぐ。
「女性がこう……アクション系とか男子向けな作品を書くこと、ほとんどないですしね。異世界転生とかのファンタジー作品でも、女性向けは恋愛がテーマのものばっかりですし」
これは最初に語られたことにも繋がっている。女主人公がバリバリのアクションをこなして格好よく行動する姿は、純正女主人公ではなかなか見られないものだった。だが男性向けが保証されているTSFでなら、そうした作品は見つけることも至難ではないのだろう。
あらためて、ぼくはホワイトボードの表を眺める。
国木田がグループ分けした派閥も――どれか一つだけに属しているわけではなく、複数に嗜好が該当するというTSFファンがほとんどだろう。
もっとも――
「――さあ、次は恋愛の派閥について移行するぞ」
――“そこ”に関しては、あまりにも派閥の分かれ方が激しいものだが。
そんなことを思いながら、ぼくは「GLとBL」というセンシティブな問題を憂うのであった。
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