まさか私の総武校生活はまちがっているのか!? (ばなナイン)
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騒がしいです・・・・


 

 

 

「ユーイちゃん!」

「カーナミン!!」

・・・・「「イェ〜〜〜イッ!!!」」 パンッ!!

 

 

 

おう・・・・賑やかだなこいつら・・・・会話の節々で何度も意気投合しよって・・・・ただでさえ煩いこの二人にまた煩いのが二名....もっとも元々いた煩い二人と言ってもその煩い『質』もそれぞれ違うんだが。

もう一方では....

 

 

 

 

「・・・・だから部長は! そんな事でソノ比企谷さん? を蔑ろにしていた! というのか....!」

 

「....そうは言ってないわ? ただ、私の許せなかったのは....解ら無いのかしら....? そうよね、ここでの説明では....」

 

「....それにあの葉山?て奴も....! 情けない!! ....親友が振られ無いように....だと!? そして相手には断らせるように....だと!? ソンな相反する依頼を比企谷さん独りに....その結果除け者にされなければならないその理屈が判らん!!」

 

 

 

お、おう....この転入生はまだ出逢って間もないこの俺の事をこんなにも庇ってくれるとは....!

こんな奇特な女性はウチの小町以外思い当たらない....! もしやこの俺に....なんて思い込み....これまでの俺の人生にどれだけの黒歴史を築き上げてきたことか....まてまて! この十条....さんは短期転入生、一ヶ月後にはこの総武高校を立ち去るのだ! 淡い期待はさらなる暗雲を我が頭上に立ちこませ二度と立ち直れる事もなき深淵へと....

 

 

 

「もーいーじゃん! 終わったことだし! それに二人がここに来てくれたお陰でまた三人仲よく出来そうだもんねーカナミン!!」

 

「うん! そー! よくわかんないけどよかったねー! そのセンパイ!! 今はわたしと姫和ちゃん入れて五人だけどねー!!」

 

「「イェーーーイッ!!!」」パンパンッ!!

 

 

 

またもハイタッチ....この二人も顔を合わせてから速攻にこのノリだ....どこまで気が合うんだコイツら。まあこいつらウチの顧問の平塚先生からの肝入りでこの辺鄙な部活『奉仕部』へと送られてきたんだがな。

 

 

 

一週間前の修学旅行....そしてあの依頼、そして俺が導き出した解決法とその結末....千葉に帰ってからの奉仕部内の重い空気....俺には延々と続く日常になるかと思われるその空気感に突如二人の体験入部者が現れた。

 

 

 

『わー! ....ここ?? なにもないねー!』

『こら! 失礼な! お前にとっては先輩だろ! ....初めまして! この高校の平塚先生からの勧めでこの部に体験入部する事となりました! わたくし、平城学館高等部二年十条姫和と申します! 鎌倉の刀剣類管理局からの指令で短期転入生としてこの総武高校に来ました! こちらは....』

 

『うん! 衛藤可奈美! 美濃関学院から来た一年だよー! よろしくねー!!』

『おいっ! ここにいるのは二年生! 私だけならまだしも少しは....』

 

『うん! ヤッハロー!! ヒヨリン! カナミン!!』

『由比ヶ浜さん!....ハア、ごめんなさいね二人とも....貴女方は顧問の平塚先生から....』

 

『わーすごーい!! 私の呼び方もここへ報告されてるのかなー!?』

『ンな訳ないだろう!! ....あだ名という物は場所が変わってもそうそう変わらないものなのか.....』

 

 

 

おう....この由比ヶ浜と同じくらいネーミングセンスの壊滅的な奴が他の高校にも存在するとは。アホの娘の標準は以外と全国平均なのかも知れん。

 

 

 

『コホ・・・・私がこの奉仕部の部長、雪ノ下雪乃です。お二人の事は平塚先生から伺っています。部員は私と、ここにいる由比ヶ浜結衣さん。あとは・・・・』

 

 

 

口籠ってるな....まああんな事があった後だ。俺の紹介を躊躇するのもわからんでもない。ここは久々に我がステレス機能を全開にして....

 

 

 

『じゃあ! わたしもセンパイのことユイちゃんてよんでいい!?』

『うん! 呼んで呼んで!! カーナミン!!』

『ユーイちゃん!!』

『イェ〜〜〜イッ!!!』

 

 

 

・・・・とんでもないヤツが来てしまった・・・・もう一人の方はまあまともな方だな。これならしばらくの間は注意が逸れる。これで心置き無く俺も軽い空気と化する事ができるわけだ。さて読書を続けるか....

 

 

 

『部長さんのこともユキちゃんて呼んでイイ!??』

『おい可奈美! 馴れ馴れしいぞ! 少しは遠慮をだな...』

 

『ユキノン! わたしそう呼んでんだし! いいよね〜ゆきのん!!』

『由比ヶ浜さん!! はあ....衛藤さん? 貴女は一応後輩なのだから、そういう言い回しは....』

 

『い〜じゃんゆきのん!....でもダメならわたしだけでもイイし!!』

『うん! じゃ! 部長さんとユイちゃんで! イイよね〜!!』

『イェーーーイッ!!!』 パン!!

『可奈美・・・・ここに来てまで・・・・すいません部長、コイツはこういうヤツで....』

 

 

 

しかしまともな方も最初の一日だった。この十条という女子はどういう訳かその次の日『お約束』の如く俺と同じ教室に....しかしあの生徒指導の平塚先生の思いつきとはいえ二人がこの高校に転入届を出したその日にクラスより先に奉仕部に入部させるとは....しかもいつも身に付けなければならない装備....御刀....の為に最後列の席に....て事は....

 

 

 

『ん? ....何だし!?』

『....はあっ!?』

 

 

 

初日・・・・たったこれだけの事で隣の席の三浦....通称あーしさんとは犬猿関係だ。そして休み時間布教活動に来た腐女子教信徒海老名さんの誘いで葉山グループでのしばしの会談、そして話題が巡り巡って俺と葉山のカップリングに....なんで!? さらに話は俺の話題を交えて修学旅行にまで及び....いや違う! 盗み聴きなんかじゃ無い! 勝手に俺の席にまで聞こえてくるんだから!

 

 

 

『・・・・何故だっ!?』

 

 

 

あの馬鹿....戸部それナイッしょー!! ....が口を滑らせアノ一件が十条さんの耳に....そして戸部の発言を庇うつもりで海老名さんが発した台詞がアノ一件の真意を露わにするところとなり結果、この件とはまるで関係ない十条さんが義憤を募らせ葉山の面々を罵倒し俺を庇うということになる....葉山の奴、こんな時にもマアマアと笑顔を崩さないまま十条さんと三浦あーしとの口論の仲裁をしていたのは流石だ。由比ヶ浜はこちらをチラ見しながらあはは....と困った顔をしてたが....

そしてその怒りを我が奉仕部部長雪ノ下にまで....そしていま....

 

 

 

「....貴女には関係のない話よ。あの依頼、裏があるなんて気づかなかったもの。比企谷君を除いて....それであんな事になったのだから、私と由比ヶ浜さんが混乱するのも仕方のない事じゃ無くて?」

 

「それにしてもだ! この奉仕部というのは生徒の色恋沙汰の依頼まで受け付けるというのか!! 情け無い....依頼するのが女子だったらまだ話が分かるが男とは....しかも二人揃って....!!」

 

「その点は....私のミスだったわね。受け付けるべきでは無かったのは認めざるを得ないわ。でも良かったじゃ無い? こんな綺麗な娘にそこまで庇われるなんて、いよいよ貴方の時代がやって来たのね、モテ期ヶ谷君?」

 

「ん!? なんだ....そのモテ....何とかとは! ここにそんなヒトは....?」

 

「....いつまでも照れてないでいい加減口を開いたら? 寡黙ヶ谷君?」

 

「・・・・おう・・・・」

 

 

 

べ、別に照れていた訳では無いんだからね!? ただ女子共の剣幕に押されて口を開ける暇が無かっただけなんだから!!

 

 

 

 

「ハ!?・・・・そこに居るその男子がそのナントヶ谷か!?」

「姫和ちゃんどうしたの?? へっ!? ダレっ!?このヒト!?!」

 

 

 

 

衛藤という娘がこちらを向いてさらに動揺している....悪いねコンな目で。十条さんも....俺の姿も確認しないまま俺を擁護してくれていたとは....若干後悔の顔か? いやそれは自虐も過ぎるというものだろう。そうだよね??

 

 

 

「カナミン・・・・ヒヨリン・・・・いま気付いたしっ!?」

 

「・・・・ハア....貴方という人は....そこまで存在感を消し去る事が出来るなんて....流石ステレス能力を自称するだけの事はあるわ....勿忘草ヶ谷君....?」

 

「うわー!! すごーい!! このヒトがこの部の五人目の部員なんだねー!なんなの!? 姿を隠す技があるの!? 迅移みたいなの?? 透明人間!? ここはスパイ活動もある部活なんだねー!!」

 

「可奈美!! 失礼な!! ....私も誰かいるな....とは思ってはいたが部長も由比ヶ浜さんも何も指摘していないから只の部外者だとそっとしておいたんだがまさかここの部員だったとは....」

 

 

 

言われたい放題だが怖がられてるわけでは無さそうだな。むしろ根拠の無い能力にまで感心をもたれて戸惑うまである。だが一度は廃れたかと思われたこのステレス機能、まだ通用するんだな? 益々研鑽を積んでこれ以上面倒事に巻き込まれないよう更なる工夫を....

 

 

 

「十条さん? 確か貴女はこの男....比企谷君と同じクラスでは無かったかしら? そう....全く以ってその存在を全然認められていなかったのね....流石だわ、色即是空ヶ谷君? フフッ!」

 

「ほっとけ、むしろその方がせいせいするわな。お前みたいなのに嫌味を言われなくて毎日が清々しく過せるからな」

 

「あら、その存在感の無い貴方を認めてあげて一人の人間として扱っているというのに随分な言いようね? もっと感謝してくれてもいいぐらいなのに。生霊ヶ谷君?」

 

 

 

「なんかカッコイイねー! ユイちゃん!これが普通の高校生の日常会話? なの!?」

 

「えーと....ははっ!! でもこの二人はこれが普通だし! ....これで仲直りできたんだよね....ヒッキー、ゆきのん....」

 

「そうか? よくわからんがこれで円く収まったのか? 私にはイマイチ普通というのが分からん....」

 

 

 

いや、十条さん、貴女はマトモ過ぎるぐらいだ。マトモ過ぎて周りから浮きまくるという....ここ奉仕部にはマトモ過ぎて現代社会から弾き出される我ら哀れな漂える衆生を一般社会の型に形成し直すという重要な使命も隠されているしな....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2



見切り発車の弊害が出てしまいました・・・・

発想が・・・・です。

どうぞ・・・・


「比企谷....君、どうだ? 昼食を一緒に?」

 

「....ん? お、おう....」

 

 

 

四時限後いつもの通り教室から離れてベストプレイスにへと赴こうとする瞬間、かの転入生

十条姫依氏が我が座席の側へと滑り込んできた。何事!! ....とクラスの連中を見渡わしたが十条さんのあまりもの自然な身の捌きに誰の注意を引くことが無かったようだ。由比ヶ浜を除いて....

 

 

 

「....ひっ、ヒッキー! わたしも一緒に食べるし!」

 

「お前は雪ノ下と部室でじゃないか?」

 

「....じゃ、じゃあみんな一緒だし!!」

 

「お前は雪ノ下の所へ行け。ああ見えてもあいつはお前が居ないと寂しがるようだからな」

 

「わ....私はどうする?」

 

「んー? はあ....わかった。俺と来るか? 場所を代える」

 

「じゃあヒッキー、ひよりん!....また後で....」

 

「おう」「では、失礼する。由比ヶ浜さん」

 

 

 

由比ヶ浜は由比ヶ浜なりに気を廻しているのだろう。葉山グループとの諍い以来何と無くクラスで孤立気味の十条さんを励ますため....あーしさんの目を盗んで....部室では明るく十条さんに接しているからな。

クラス内での俺と十条さんとの関係もむしろ推奨しているかの様でもある。そんな訳で俺たちはかの駐輪場近くの出入り口へと歩みを進めているのだ。

 

 

 

「....貴方はこんな所で昼食を取っているのか?」

 

「おう。ここはいいぞ。人の出入りは無いし面倒に煩わられることも無い、

日差しのいい日はここでうたた寝もできるしな」

 

「これから寒くなるぞ。その時はどうする?」

 

「....ここで凍えている....」

 

「そうか、成る程」

 

 

 

....あっさりと納得されてしまった....やはりボッチはボッチを知るのか....ただ俺のボッチ成分は飽くまで一歩引くどころか姿を消してまでこの世界を見渡そうとする欲求にも駆られているがこの十条さんは常に直接的に環境に関わろうとして却って孤立を招いてしまうタイプなのか....? それでも

ブレ無いのが俺や雪ノ下と違うところか....

 

 

 

「サンドイッチ、焼そばパン....ミルクコーヒー....そんなのでいいのか!? 仮にも男子高校生

だろう! もっと栄養価の高い物を....!」

 

「おう、この高校に入ってからずっとこの調子だ。朝晩は食べているしそう問題は無い」

 

「....どうだ! ここから少し摘まんでみては!」

 

「おい....これは....」

 

 

 

....模範的とも言える女子弁....! 上下細長い箱のなかに一方は御飯と沢庵、一方は定番の卵焼き、

ソーセージ、ブロッコリ....云々、勿論これは男子高校生の理想の弁当でもある....ここからおかずを摘まんでいいというのは一体どういうイベントなんだ!? 摘まんだ途端夢から醒めるんじゃ無いか!? 小町にもこんなの作って貰ったことは無い....

 

 

 

「いやそれは悪い....量が少ないんだから俺が食ったら貴女の分が....」

 

「かまわん! 私はひとの為に弁当を作ってあげたことが無いんだ! ....だから....その....

感想を....聞かせて欲しい....」

 

「お、おう....」

 

 

 

イベント続行か....そんな俯き加減に上目遣いでとは....

では....定番の....卵焼きを....ひとつ....おい....十条さん! アーンでか!?

平城学館は女子校と聞いたがこんなコト平気でするのか!? 無自覚なのか??

まあ女子同士おかずのあげっこくらいしてるだろうから何気無くだろう....あんまり

自覚を持たせて止めさせても勿体無い。ここはひとつお言葉と仕草に甘えて....

 

 

 

「....どうだ....!?」

 

「....おう....いけるぞ....甘さ加減が丁度いいぐらいだ....」

 

「そ、そうか!! 実は少々砂糖をいれ過ぎたのではないかと思ってな!

よかった....そうか....貴方はこのぐらいが丁度いいのか....」

 

「おう! 俺は甘い物には目が無いからな。この甘さが丁度いいというのは一般人的にだ。

俺ならこの倍ぐらいは平気で行けるまである」

 

「そうなのか!? ....よし! 明日は思い切ってこの倍の砂糖を....味見が恐ろしいが....」

 

 

 

なに? このイベント明日も続くの?? 雪ノ下の言う処のモテ期が....この俺に到来したとでも

言うわけ?!? いや待て! これは罠だ....足が地上から10cm浮き上がったと思った瞬間!

....俺を奈落の底へと引き摺り落とさんとする何某かの陰謀じゃ無いのか....!?

 

 

 

「おい、比企....谷....君.... その....いけない....の....だろうか....?」

 

「....おおおう! 全然OKだ!! とことこん甘くしてくれ!!」

 

「そうか!! ヨシ! 極限まで砂糖を加えてみせてやる!! 是非楽しみにしてくれ!!」

 

 

 

反射的に何某の陰謀に乗ってしまった....そんな目と仕草で断れる男などいるわけがない....しかも

タラシ込もうという意図も全然感じられない! つまりは....慣れてないんだよな....俺もだが....

だから明日も大人しくこのベストプレイスでの昼食を楽しみに....しててイイんだよな??

今日これまで、てことないよな? ....俺相当人間不信に陥っているんだな....

 

 

 

「うん....確かに....まだこの季節なら....うたた寝も....悪くないようだな....」

 

 

 

昼食を終えてしばしここでの休憩....十条さんは半ば睡魔に襲われているようなのだが....ん? おい....まて! そこは俺の右肩だぞ....何故寄りかかる....! 黒く艶のある髪が俺の頬を掠る....んん....

この香りは....石鹸?? しかも芳香剤の匂いなど無く健康的な....俺んちで使っている牛○石鹸と同じか....まるで香りが無いようでほのかに香る....しかもこんなに艶が....おい俺変態じみてるな....それに俺は過敏系ラノベ主人公タイプなんだぞ! そんなことされたら俺に気があると思い込まれても仕方が無いんだぞ!! ここはひとつ常識というものをだな....

 

 

 

「・・・・スー・・・・」

 

 

 

・・・・常識の届かぬ世界へと旅立たれてしまった・・・・ 疲れているのか? ....平塚先生の話では二年前、鎌倉東京でのあの壊滅的大災厄の折り、十条さん始め多くの中高生の女子達が『刀使』として刀を奮い無数の荒魂を鎮めたという。彼女達の活躍が無ければ東京だけで無くここ千葉も危うかったかもな....それにあの衛藤も刀を振い化け物と戦ってたとは....おい二人とも当時まだ中学生だったんじゃないのか....? 何て重労働を....ここ二年ほどは荒魂同時多発出現のニュースも無く刀剣類管理局も刀使達に息抜きを、とのことで民間校への短期転入制度を進め今月この二人がウチの高校にやって来たと、こういうことらしい。しかしこの十条さん、刀を振るって戦ってたにしては随分華奢な....この娘が特別祭祀機動隊でもエース級の刀使と言われてもにわかには信じ難い。もっと信じ難いのは衛藤もエースだという事実だが....しかし一向に目を覚ます兆しが無いな....もうすぐ昼休みも終了だというのに....おい! こんな時オレどうすればイイ?? おしえてモテるヒト!!

 

 

 

・・・・おお....天の恵みか・・・・無情のチャイムが鳴る・・・・

 

 

 

「おい、十条....さん、姫和....さん! もう時間だ! そろそろ教室に戻らなければだぞ!!」

 

 

 

・・・・指で突つくのもナンだから・・・・肩で揺すってみた・・・・

おう、寝息が止んだな・・・・

 

 

 

「・・・・んー・・・・なにごとか・・・・またあらだまが・・・・

んー・・・・? ....っ?!? なっ....な! ナナナナナンだっ!?!? キキキサマこれは

ドウいうコトだっ!!!!」

 

「・・・・おっ! おおいっ!!! おちつけ!!! くびがっ!! ぐぐぐるぢい!!!・・・・」

 

「・・・・ワ、わ! わるいっ!!! ね....! ねぼけていたっ!!!

だいじょうぶかっ!!??」

 

 

 

十条さんに両手で襟を掴まれ頚を締められ・・・・○ぬかとおもった・・・・比企谷八幡孤独の

うちに駐輪場側にて果てる....!・・・・ところだった・・・・

 

 

 

「すっ....すまんっ!!! あやうく貴方を○なせるところだった!!

わたしのせいだっ!!!」

 

 

 

・・・・ふう....どうやら正気に戻ったらしい....刀使という仕事はいついかなる時も荒魂に対する様に臨戦体勢で臨め! との事らしいがこれでは紛争地帯から帰還した海兵隊員みたいだぞ....

こんな普通の高校に来てまでもそんなに身体から緊張感が抜けないものなのか....

 

 

 

「まあいい....これで完全に目が覚めただろう....さ、行くぞ! ん?」

 

 

 

思わず俺が先に立ち上がった....てことは....十条さん....まだ自分の条件反射的な行為に

『・・・・ぅわぁ〜〜〜!!!・・・・』と顔を覆ってしゃがみ込んでるな....はいはい....

 

 

 

「ん」

 

 

 

らしくない....手を差し出しちまった....取ってくれたな....

 

 

 

「お....おう....その、ありがと....う....」

 

「....おう、楽しみだな、明日の卵焼き」

 

「おっ....そうだな!! そうだ....明日もまたここだな! 次はうたた寝なんてしないから....

安心してくれ....!」

 

「....俺も無理に起こさないから安心して油断してくれ。ここでの昼寝は気持ちいいからな」

 

「おう....そうだな....日中うたた寝するなんてこれまでなかったしな....

よろしく....お願いする....比企....谷君....」

 

「おう」

 

 

 

 

結局五時限目は遅刻、しかも悪い事に現代文の授業だった....結果行き遅れアラフォー?

女史に腹パンブリッドを喰らわされ授業中自席にて蹲る事と相成る....俺一人だけな....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3

 

 

 

 

 

「うす」「失礼する、すまん、少々遅れた」

 

「ヒッキー! ひよりん! おっそ〜い!!」

「あら、二人揃って重役出勤とは随分出世したものね。十条取締役さんに秘書ヶ谷君?」

 

「....るせー、一寸ばかり平塚先生に呼び出されていただけだ」

「お、おう! 私も一緒にだ! その....授業に遅刻したものでな! 私が悪いのだが....」

 

 

 

HR後、生徒指導室に呼び出された俺達はタバコの煙のまみえる密室で平塚先生から私怨に満ちた有難いお説教とまたも『撲滅のサードブリッド!!』を喰らわされ(オレ限定....)さらにこの歳に至るまで独身であり続けた『一身上の都合....』と過去何十敗という合コンの結果を涙乍らに愚痴られることとなる....一緒に聞かされていた十条さんまで我が身を顧みさせる程の演説になにも他校の生徒にまで....と同情を禁じ得ず解放後共に溜息を付きながらここへ来たのだ....

 

 

 

「....ひよりんとヒッキー....なかよく遅刻してたし....」

「は?」「おい....」

「! ちちちち違うし!! 仲いいことはいいことだしっ!!」

 

「実篤か....お前が誤解する様な事は何も無いから心配するな。十条さんはこの通り無事だ。むしろ何も無いだけ物足りないまである」

 

「....お! そ、そうだ! ただ二人で昼食を食べて卵焼きの感想を聞いて明日の弁当の参考にしようとしたまでだ! なんら疚しき事なんてない!!」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「そ、そう....なの....その、よかったわね....比企谷君....」

「....あ、あ....明日はわたしのママの卵焼きの感想も聞くしっ!!」

 

 

 

....なにを張り合っているんだ由比ヶ浜....しかし十条さん....勢い余ってなんてコトを....雪ノ下まで皮肉を通り越して唖然としているぞ....

 

 

 

「....そういやあの衛藤って子は? まだじゃないか。重役の俺たちより遅れるとは大した大物なんじゃないのか? ん?」

 

「そ、そうだし! かなみんおそいねー! しんぱいだねー!!」

 

由比ヶ浜め....なんとかこの話題から話を逸らそうとして旨く乗ったな....

 

 

 

《コンコン!》

 

 

 

「どうぞ....」

「邪魔するぞ! 雪ノ下、由比ヶ浜、おう....翔んだエスケープカップルもだな....!」

「先生、あえて誤解を振りまこうとしてません??」

 

「まあいい! 三人とも入り給え!」

「こんにちは〜! 雪ノ下さん!」

「これは....城廻会長、どうしたんです?」

「入って入って! 二人とも!」

 

「失礼しまーす....こんにちはです!」

 

 

 

我が奉仕部顧問の平塚女史が生徒会長の城廻先輩と二名の女子を連れて部室に現れた。ん....? そのうちの一人、こいつは....こんな眼つきの俺にまでニコッとした笑顔を絶やさんとは....これもまた既に完成され尽くした『あざとさ』の典型顔だな。雪ノ下姉とはまたベクトルが違うが....こんな子が何故城廻先輩と一緒にこの奉仕部へ....?

 

 

 

「あ! いろはちゃんだ! ヤッハロー!!」

「ああ! 結衣先輩! やっはろーです!!」

「うん! こんちわー! みんな!!」

「可奈美! 遅いぞ! 何してた!」

「ごめーん! ちょっといろはちゃんの相談に乗ってたの!!」

 

 

 

....ん? この一年と由比ヶ浜、顔見知りか? ああ、葉山に会いに二年の俺のクラスにまで通っている一年とはこいつか。さらに衛藤まで....しかもこの一年と同じクラス....少々『お約束』が過ぎると思われるが....

 

 

 

「これで揃ったな、では本題に入る!」

 

 

 

「....つまり、この一色さんを当選させない、という事ですね? 城廻会長」

 

「そーなんですー! 私の知らないところで勝手に生徒会長に立候補させられちゃってー! そしたら立候補の取り下げも出来ないてゆーじゃないですかー? わたし困っちゃって〜! そしたら平塚先生がここ紹介してくれてここに来たら結衣先輩までいるじゃないですかー! わたし心づよいです〜!!」

 

 

 

一色いろは....この一年が今回の依頼人。生徒会長に立候補したはいいが途中で気が変わって当選させないで欲しいという虫のいい依頼かと思いきや....こんな事もあるんだな。この仕草、喋り方....異性には受けが良いだろうが女子共には....成る程。しかし由比ヶ浜に頼り甲斐を求めている点でもう既に重大な手違いを犯しているんだが....まあここでも『総選挙』でセンターが決るのは同じだな。知人が勝手にオーディションに応募し結果トップアイドルになった例は枚挙にいとまが無いらしいしそのままトップでも取っとけ....!

 

 

 

「そーなの! 生徒会の手違いで当人からじゃなく推薦人の誰かから立候補届を受け取っちゃったの! ちゃんと確認しなかった私達が悪いの!! 一色さん御免なさい!!」

 

「いったいなんで?? いろはちゃん出たくないって言ってんのにどうして断れないの??」

 

「これも規則というものか....私達の所属する管理局でもある程度の融通も効くというのにここは民間校だろ? 立候補を取り下げる事もできないのか?」

 

「前例が無いという事ですね。この様な事例の対処の方法は生徒会規律には載せてはいないとのことですから....」

 

「これは嫌がらせからだろ? つまりこの立候補届を出した奴はこのことを知った上で提出したんだ。しかし三十人分の推薦名簿とは....」

 

「わーすごいねー! いろはちゃん人気者だー!!」

「おい可奈美!....すまん! こいつ悪気はないのだが....」

「??」

「あはは....ハイです....」

 

 

 

一色というこの後輩、困った様な顔をしてるが....例の笑顔は持続しているな。皮肉だがこれもこの後輩がこんな目にあっている理由のひとつかも知らん。

 

 

 

「....おい! 可奈美! この名簿にはお前の名前まで載ってるぞ!」

「えー? なに? あーこの紙....そういやこのクラスに入って休み時間の時『仲良くしよ!』てここに名前かいて! て言われたっけ! あはは....」

 

「不審に思わなかったのか!」

 

「えーと....普通の高校じゃこれが当たり前だと思って....ゴメンねいろはちゃん....」

 

「えー? いいのいいの〜! 知らなかったんでしょー? じゃあチャラ!!」

 

「ほんとー? よかったー!!」

 

「「「イェーイッ!!!」」」パンパンパン!!!

 

 

 

....由比ヶ浜まで....雪ノ下も十条さんも呆れてるぞ。

 

 

 

「城廻会長、これには他にも事情を知らない人が名前を書き込んでいる可能性がありますね。無効という事にはなりませんか?」

 

「どちらにしても立候補者は一色さん一人だけなの〜! 生徒会の顧問の*♯先生も他に立候補者がいないなら一色さんで通すつもりみたいだし〜! 平塚先生どうしよ〜!!」

 

「私は生徒指導だからな。これ以上の事はしてやれん」

 

「....誰かに対立候補として会長に立候補をしてくれる人を探すしかありませんね。誰か心当たりは....」

 

 

 

俺もだが....一斉に発言者の雪ノ下の方に視線が向いた....ここに来て間もない十条さんや衛藤も....

 

 

 

「....私は....ここの部長ですもの....ここを離れるわけには....」

 

 

 

雪ノ下....何と無くもどかしさを感じるな。本心までは分からないが少なくとも俺とこの城廻先輩と平塚先生なら雪ノ下の実力を知っているから会長候補として立候補をしても何ら不自然では無い。だが雪ノ下が会長になってしまったらこの奉仕部は....

 

 

 

「ゆきのんが会長になったらこの奉仕部はどうなるの!?」

 

「そんなことは....でも、もしかしたら....なのだけれども....両立も可能では....ないかしら....?」

 

「雪ノ下、言っては何だが生徒会はそんな甘いものじゃ無い。お前が会長になったらこの部は比企谷か由比ヶ浜に部長を譲ることになるな....」

 

「そんな....! ゆきのんと離れるなんてヤだし!!」

 

「私は! まだ....立候補なんて....」

 

 

 

 

「・・・・どうだろう! この私が会長に立候補するのは....!!」

「・・・・はっ!? おい十条! ....さん!?」

 

 

 

 

なんだいきなり!? まさかの十条さんの生徒会会長の立候補宣言....!! それに貴女は....!

 

 

 

「えーと・・・・どちらさんですかー? さっきからウチのともかなみちゃんとも制服が違うなーて思ってたんですけどー?」

 

 

 

そう、短期転入生の十条さんと衛藤はそれぞれの学校、平城学館と美濃関学院の制服を着てさらに腰には御刀を装備して総武に通っている。一色からすれば初対面で制服も違う十条さんから突然生徒会長への立候補を表明されても寝耳に水だろう。俺たちもだが。

 

 

 

「そのことは置いといて・・・・十条さん....貴女は短期転入生なのよ? もう一月もここに居られないのよ? なのに立候補だなんて....!」

 

「簡単だ! ここに正式に転入すればいい!!」

 

「へ!? 姫和ちゃん!?」

 

「平塚先生! ここへの転入試験! 受付はどこです!!」

 

「....まて十条!....今すぐという訳にはいかん! 少なくともお前の学校にも話を通してだな!

....選挙の日までには間に合わん....」

 

「そうか....しかしこの学校での比企....谷君の扱いといいこの一色....さんへの仕打ちといい....

一体どうなっているんだ!! これが普通の高校の在り方とでもいうのか!?」

 

 

 

....またも義憤を発してしまった....この十条さん....真っ正直だな....

 

 

 

「でも姫和ちゃん転入しないんでしょ? も〜姫和ちゃん! またまた〜!!」

 

「いや! 転入する! 会長は無理でもここ奉仕部でのサポートをするつもりだ!!」

 

「ひよりちゃん!?!」

 

 

 

十条さんの生徒会への立候補は現実的ではないので即却下となるのは致し方ないが、この十条さんの発言が雪ノ下にどう届いたか....この日の奉仕部での会合では結論が出ず、明日へと持ち越しとなり、今後の対応のため雪ノ下と由比ヶ浜は城廻先輩、一色、平塚先生と共に生徒会室に向かって行った。部室に残されたのは俺と衛藤、十条さん。しかし....

 

 

 

「....ほんとにここへ転入するつもりか?」

 

「ああ....実はここにくる前から考えていた。高二ぐらいには伍箇伝校から離れて普通の高校に通おうかなと....平城学館に入ったのも自分勝手な理由だったし本来の目的も達成した。私の刀使の能力もおそらく持ってあと一年だろう....普通に憧れていたんだろうな。尤も私が平城に転入したのも中二の時だがな」

 

「姫和ちゃん....刀使も辞めちゃうの?」

 

「わからん。平城を辞めて御刀を返上しろと言われたらこの小烏丸も管理局に返納だ。短い付き合いだったな....」

 

 

 

十条さんが刀を取って慈しむ様に眺めている。刀使の女子にとって御刀とは十代の半分をも共に過す伴侶みたいなものなのかも知れん。そして十条さんは自らその伴侶を手放そうとしているのか....まさか先の指導室での『感涙の大弁舌!』からの影響じゃないだろうな?

 

 

 

「姫和ちゃんがここに来るなら....わたしもここに来る! いいでしょ!?姫和ちゃん!!」

 

「何を言う!! お前はまだ現役でしかも祭祀機動隊の要だ! 引退間近の私とは違う! 甘えた事を言うな!!」

 

「....でも、ヤダっ!! わたしも一緒にここにいた〜い〜!!」

 

 

 

衛藤が涙目で十条さんにしがみ付く....ああ、由比ヶ浜と雪ノ下の幻覚が....

 

 

 

「....たく!....お前がこの総武高の転入試験に通ればの話ならな。お前が高校に進学出来たのも美濃関が中高一貫校だったからじゃないのか?」

 

「ひどーい!! 姫和ちゃんだって同じなのにー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4

 

 

 

 

 

「その....どうだ? 味の方は....」

 

「おう、いけるぞ! これは砂糖だけじゃ無い、練乳入りだな!」

 

「おお! わかるか! そうだ! 砂糖だけではどうも....だから思いきって練乳も加えてみたんだ!

そうか! いけるか!!」

 

「これでコーヒーが混じっていたら....おお! 我が千葉県民のソウルドリンクM○Xコーヒーの卵焼きバージョンになるじゃないか!! よしこれを落花生と並ぶ千葉のソウルフードにしてだな....!」

 

「そ、そうか! コーヒーだな! 明日を楽しみにしてくれ!!」

 

「おう!!」

 

 

「あの....貴方達....? 確かに今は昼食中なのだけれども....特別な会議中でもあるのよ....!」

「そっ....そうだし! 卵焼きにコーヒーなんて邪道だし!!」

「えー? 面白そうだよー? ね? いろはちゃん!」

「えー・・・・ハイ! あはは・・・・」

「んー? 私もあした比企谷君に何か作ってあげてこようかしら??」

「城廻先輩まで....」

 

 

次の日....昼食の時間にまで今後の対応について部室での会議が開かれる事となった。勿論雪ノ下の提案だが....若干周りからジトっとした視線を感じるがここはシレっと鈍感系で行くぞ! 箸を持って無自覚にア〜ンしてくる隣の十条さんも何も気づいてない様だしさて残りの卵焼きを頂くか!

 

 

「わたし的にはー? 信任投票で落選なんてショボいじゃないですかー!ですからぁー!

わたしよりスゴい人に立候補してもらってそれで安心して落選したいんですよねぇー?!」

 

 

何をヌケヌケと....! オマエの為に雪ノ下はじめ総武高トップレベルの優秀な頭脳がここでアタマを捻ってるんだぞ!

 

 

「そうだし! この高校に合格するぐらいのアタマなら落選するなんて楽勝じゃん!!」

 

「えーユイちゃん? 落選するより合格しない方が当選しないんじゃないのー! ね?

姫和ちゃん!」

 

「可奈美....言ってる事が自分で理解出来てるのか?」

 

 

ほう....衛藤と由比ヶ浜は云うなればツッコミ不在の凹凹コンビだな....

 

 

「....立候補者には....心当たりがあります。彼が引き受けてくれるかどうかですが....」

 

「ゆきのん....『彼』ってやっぱり....隼人だし?」

 

 

うむ、困った時の葉山詣....しかしだな....

 

 

「隼人、とは! あの葉山の事だろう! 何故ヤツに頼む?!」

 

「そうですよぉ〜! 葉山先輩はサッカー部次期部長に確定している様なもんですからぁ〜!

マネージャーとしてわたしのために葉山先輩をサッカー部から引き離すのはゼッタイにイヤですぅ〜!!」

 

 

根強い反対意見もある....

 

 

「ねえ? ひきがやセンパイじゃ駄目なの??」

 

「おい俺は....」

 

 

衛藤の思わぬ発言にここの面々が俺に顔を向ける。少々イタい視線を感じるが....

おい衛藤....!この世界には言っていいことと悪いことがある。この場で言っていいのは有益な意見、悪いのは場を白けさせることだ。つまりだな....

 

 

「衛藤さん? この男は最初から選択肢に入っていないわ。人望も無ければ存在感そのものも。ね? 蛻の殻ヶ谷君?」

 

 

雪ノ下に俺を罵倒させる恰好のエサを与えるということだ....

 

 

「....そうだな衛藤、万が一俺が会長になれば最初から俺の存在が無かったかのように周りが勝手に動いて全てが順調に進み結果! 会長であるこの俺が手柄を独り占めする事も出来るかも知れん。お前のアイデアはナイスだ」....サムズアップ!

 

「ホント!! 褒めてくれたの!? ヤッター! センパイに褒められたー!!」

 

 

....おい真に受けちゃったよ....! この衛藤ってヤツはどこまでおメデタいんだ??

 

 

「比企谷君....あまり衛藤さんに余計な事を吹き込まないで頂戴....」

 

「ヒッキー最低だし....」

 

「えー? わたしそうやってたよ? わたしが『おねが〜い!』て頼めば周りのメガネ君たちがサッ! て片づけてくれるしねー!」

 

「おお! 『動か不る事山の如し』だな! かの武田信玄公も愛読したと言う『孫子』の兵法にも通じる人心掌握術を身につけていたとは....! 民間校も侮り難い!」

 

「十条さん....城廻先輩も....」

 

 

と、滞り無く会議は進み、結論は....

 

 

「でないねゆきのん....」

「そうね....私達の発想も案外貧しいものね....」

 

「ねーもうすぐお昼おわるよー」

「ですよねー・・・・」

 

「どうだ? 明日の卵焼きにはやはり....」

「おう! コーヒー入だな! 任せておけ!!」

「比企谷君てそんなに卵に目が無いの〜?」

 

「比企谷君! 少しは真面目に....!」

「おう、一応俺にも案が有るには有るんだが....」

「....却下よ」

「おい! 話を聞く前に....!」

「だってヒッキーのやり方って....」

「どうだっていうんだ? 結衣さん」

 

「また自分を....でしょ? ヒッキー・・・・」

 

 

・・・・由比ヶ浜がまたも捨てられた子犬のような目指しを俺に向ける。あの京都の竹林での一件以来だ....

 

 

「....信任投票の選挙演説の時、応援演説で俺が....とは考えた。俺がヤラカせば一色が落選しても俺が責任を取れば....」

「おいっ!!《ダンッ!!》比企....谷君!! もうそんな事はするな!! 結衣さんに聞いた話でも貴方のやり方では問題は解決しても必ず何かしこりを残す! 雪ノ下さんや結衣さんの事も考えろっ!!」

 

 

・・・・机を叩き押して十条さんが身を乗り出し....! おい....

 

 

「ひよりんっ!?」

「姫和ちゃんっ??」

「十条さん! 貴女....」

 

「・・・・お、おう....」

 

「 ・・・・すまん・・・・声を荒げてしまった....謝罪する....」

 

「おう....」

 

 

ズバリ直球だな....周りの連中も一瞬息が止まったかのようだ....が、そう....だよな、もうあんなやり方は辞めだ。俺も少しは十条....さんのように自分を大事にしてみるわ....

 

 

この十条....姫和という子はブレ無い。まだ数日の付き合いだが常に前を真っ直ぐ見据えている印象だ。刀使という世界に身を置いているだけあって常に目的を見定めて一機に事を成就する術を身に負っているんだろう。この十条さんにしてみれば俺達の世界というのはまどろっこしくウジウジして観えているのかも知れんし....それに十条さんがここに来てくれてなかったら俺と雪ノ下と由比ヶ浜との関係もここまで改善される事も難しかったかもな・・・・衛藤? んー....十条さんも一目置く剣術の天才との事だが....どこの世界でも十分通用するお得な性格かも知れん。俺の事もセンパイ! て慕って? くれているしな....フム。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に試験を受けるんだな」

 

「うん、 来週の土曜の午後だ。それまでは鎌倉や平城へとしばらく間を開けることになる。試験の結果が出る頃にはもう生徒会長が決まっているんだな」

 

「選挙までもう一週間を切っているてのに結論が出て無いというのもな....」

 

「私は簡単な話だと思うぞ」

 

「やはり....そうか....?」

 

「ねえ、簡単て?」

 

 

結局午後の部活時間にも結論がでず解散となり、途中まで帰りの道が重なる俺と十条さんと衛藤とで下校後稲毛海岸駅に向かっている。そこから二人は千葉に向かう....千葉駅周辺な。この二人が宿泊しているのが駅周辺の民泊施設で自炊を前提とするやや古めの建物だ。その一室を二人で共有しているので食事の当番は折半との事だが実態は....

 

 

「ねえねえ! これ買ってこ〜! アイス〜!!」

 

 

自販機の前で衛藤がはしゃぐ....年相応かな....

 

「....たく....もう寒くなってきてるというのに」

 

「おう、俺も買って食うわ。そこらで立ちながら、だな」

 

「ヤッター! センパイのおごりねー!!」

 

「可奈美!! お前も給料貰ってるだろう! 後輩だと思って甘えるな!!」

 

「うん! じゃセンパイにおごるね!! なにがい〜い??」

 

「....俺、自分で買うわ....」

 

 

うむ、やはり刀使という職種はちゃんと給金を貰って任務を果たしているんだな。命懸けだし巷に噂されている完全なブラックという程でもなさそうだ。

 

 

「わたし濃厚イチゴ味!!」

「では、私はこれで....」

「ん、じゃ俺も」

 

 

ガチャンッ!・・・・

 

 

「「・・・・えっ!?」」

「ん? どおした?」

 

 

俺が自販機から取り出したアイスを頬張るところを見て二人が固まった。

おい....俺何かヤラカしたのか?? 女子共の前でしてはならない暗黙のルールに触れてしまったのか!? やはり俺にとって女子と歩く事さへハードルが高いというのか....

 

 

「えー・・・・センパイ、それ、好きなの?」

「おー・・・・事のついでだぞ....妹の小町と街でブラついている時なんか小町につき合って同じもの食うしな」

「ど、どうだろう・・・・味の方は・・・・」

 

 

二人の....特に十条さんの目が真剣だ....ナニ? どう答えたら正解なの?? この解答を間違えたらオレ先輩の威厳もコーヒー練乳入の卵焼きもお預けになっちゃうの?!?

 

 

「おう・・・・歯を磨いてるみたいで口の中がサッパリして気持ちいいぞ、俺はこう見えても綺麗好きだからな」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「・・・・姫和ちゃん....これセーフ・・・・?」

「おう・・・・微妙なとこだが必ずしも否定的な意見では無さそうだ・・・・」

 

 

この答えでOK? まあ完全に不興を買うことはならないみたいだな。つまりコレが十条さんにとっての地雷か....別に嫌いな味じゃ無いけどな....

 

 

「なんならコレに練乳をかけてアンコやきな粉に黒蜜、さらには蜂蜜やメイプルシロップを加えるまである」

 

「ウゲ・・・・」

「おい! ・・・・そ、そうか!! やはりな!! トッピングにはこだわらないとな!! どうだ今度ウチに来てそのデコレーションをするのは?!」

「ハイ!?!」

 

 

衛藤が若干引いているが....いきなり話が飛躍してるぞ....! なに!? お呼ばれ?! 十条さんチに?? この二人がウチの部に来てからこのテのイベントが多発してるんですけど!?! どおして???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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5

 

 

 

「雪の....雪ノ下さん、その提案には乗れないな。俺もサッカー部の部長としてあと一年チームを纏めなければならないし、生徒会長との兼任なんて俺には無理だよ」

 

「そう、よね....ごめんなさい。無理言ってここまで呼び出して」

 

「ん? ああ....雪乃ちゃん、君は....」

 

「隼....葉山君、ここでは....」

 

「いや、すまない....そう....だったな。じゃ、俺はこれで」

 

「ありがとう....葉....山君....」

 

 

 

 

 

「・・・・おう、葉山との会談の成果は」

「察しの通りよ。こんな事彼に求める方がおかしかったのね....」

「やっぱりだし....」

「ダメだったのー?」

「あの様な男に任せようというのがそもそも間違いだ」

「むー! 葉山先輩は忙しいんですぅー! 一々生徒会の事に構ってなんていられないんですぅー!」

「その....一色、さん....その喋り方、なんとかならんのか....」

 

 

雪ノ下と葉山との会談のためしばらくの間俺達は部室を空けていた。結論はすぐ出たが....

 

 

「他の候補者には....こう言ったら失礼だけど、生徒会長には力不足というか....城廻先輩には備わっている何かが足りないのよね....」

 

「華やかさ、だな。あの様な人格の持ち主には全くでは無いがそう滅多に出逢えるものでは無い」

 

 

そう、現総武校生徒会長城廻めぐり先輩にはただそこにいるだけで周りをポワ〜と蕩けさせる不思議な雰囲気....オーラがある。誰にも分け隔てなくホンワカ〜と接する姿に全校生徒からの人気も高い。この俺にもあの文化祭実行委員会の『やらかした』後も変わらず接してくれているし。ただ、例の会議の際「君って最低だね!」とにこやかに言われたときはやや凹みましたケドね....

 

 

「えー? ユイちゃんは? パッと見たらとても華やかだよー??」

 

「えー? かなみんホントー? ウレシ〜!! ....て!? ダメダメダメだし!! わたしには会長なんてムリだし!!」

 

「....誰も頼んでいないのだけれども」

「そうだぞ由比ヶ浜、この高校に合格出来たお前の才能を持ってすれば落選なんて朝飯前だし」

 

「言うなし!! それならいろはちゃんだって!!」

「一色の場合このままでは当選しそうなんだが....」

 

 

どこまでも結論がでず三日目の放課後、いい加減何らかの結論を出さないとならんのだが....解答はすぐ目の前にあるのにな....

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「....雪ノ下さん、はっきりと言う。もう貴女しかいないのではないか?

これ以上論議をしても時間が不毛に過ぎるだけじゃないのか?」

 

 

おう....流石十条さんまたも直球を投げてきたか....もう時間が無い。ここで本人の隠された希望と覚悟を導き出すのが最後で最善の策だな....

 

 

「十条さん....私は自分の立ち位置を良く理解しているつもりなの。この奉仕部は生徒会からの依頼も多く大体のことは理解しているわ。ただ....会長になるには....私には決定的にあるものが足りないの....」

 

「華やかさ、か?」

 

「ふふっ? はっきりと言うのね....その通りよ、私に足りないのはそれ。生徒会の会長はただ実務能力があるだけじゃない、その....」

 

「....人気投票だな、現実には」

 

「貴方も言うわね....それでこそ貴方は貴方よ、図星ヶ谷君」

 

 

....当人も気にしていた事なのか。雪ノ下自身は事務処理能力はそつ無く....いや時に根を詰めて行うが人前に出るのは....俺もそうだが雪ノ下もどちらかといえば裏方で表を支えるのに向いている人材だな。俺は更に裏にてズボラを決め込みたい人材なのだが....

 

 

「じゃあ! これならどお? ユイちゃんが生徒会長になって部長さんが副会長! これならはなやか担当は会長で仕事が出来る方は副会長さんが担当すれば!!」

 

「「「「「ハイ!?!」」」」」

 

 

おう....! またも衛藤のいきなりの乱入! しかしこの提案は冗談では無く以外と現実性を帯びているんじゃないか? なにせ由比ヶ浜は俺たちの学年だけでなくこの学校で一番目立つグルーブに属してるからな。加えてこのピンク色の髪に象徴される『アホの娘』キャラのお陰で全学年の男女に静かな人気を誇るまである。ここで生徒会会長に立候補したとしても決して不自然ではない....

 

 

「ハアっ!? かなみん?? ....ダメダメダメ〜っ!! サッキもいったよーにダメーっ!!!」

 

「可奈美! 二人に失礼だぞ!! ....でも....どう思う? 比企....谷君?」

 

「おう....凸凹コンビで案外上手く出来るかもな....どうだ雪ノ下? それに確か生徒会長は生徒会の人事を会長自身で決める事も出来るんじゃないか?」

 

「それは....確か城廻先輩は....もともといた先輩の『親衛隊』の人たちに生徒会の運営を任せているみたいなのだけれども....」

 

「えーっ!?!『親衛隊』〜!? あのめぐり先輩ですよねー!? ・・・・どういうヒトなんですぅ??」

 

 

は!? 一色もだがこれは一同目を丸くする以外な事実だ....!

 

 

「・・・・あの城廻先輩は私と同じ国際教養学科の3年J組なの。こう言っては....なのだけれどもああ見えてとても優秀なのよ? 帰国子女でもあるのだし」

 

「そうだし!?」

「初耳だぞ....」

 

 

あのふぉわ〜・・・・とした城廻先輩がねえ....じゃ、いつも城廻先輩に付き従って集団で歩いているあのメガネの集団が親衛隊....

 

 

「あの取巻きの人達はみんなJ組の先輩。国際教養学科は三年間クラスの変わる事のない教室なのだから」

 

 

そういえば雪ノ下にも女子だが御付きの侍従....ならぬ取巻きがいて修学旅行中も供に行動してたな....俺が雪ノ下に近づいたらアカラサマに嫌な顔をされたが....それはさて置き、

 

 

「....由比ヶ浜もどうだ? お前はこの高校にも入れたぐらいだしな....ここはお前の隠された才能を久々に十二分に発揮し奇跡の逆転当選を果たして生徒会長になってみるか? そして副会長に雪ノ下を指名する....雪ノ下もそれなら....」

 

「私は! ....そんな....由比ヶ浜さんにまで負担を掛けさせるだなんて....」

 

 

この発言は....墜ちたな雪ノ下....

 

 

「・・・・わたしっ!! わたしゆきのんと一緒なら生徒会に入るし!! ゆきのんがわたしをちゃんと支えてくれたら会長だっていけるし!! わたしもゆきのんをちゃんと助けるし!! ・・・・ウン決めたっ!! わたし生徒会長になるっ!!

・・・・だからね〜えゆきの〜ん!《....ダキッ!!》....一緒に生徒会に入ろうよ〜っ!! ねえ〜ってば〜〜〜!!!」

「・・・・!? 由比ヶ浜さん!?? ちょっ....!」

 

 

由比ヶ浜が雪ノ下に抱きついてスリスリしながらタラシコミに入る黄金のパターン....! 陥落寸前か....

 

 

「うわ〜! 姫和ちゃん! わたしたちみたいだねー!《バッ! ムギュ〜!!》」

「....おいコラっ! お前までナンだ!! お前は少し『他人の振り観て我が振り....』....をだな!」

「エヘヘヘヘ〜!!」

 

 

オオ衛藤まで十条さんに跳び付いて....! つまりは十条さんも言う通り由比ヶ浜の振りに倣って....だな? 確かにこの年頃の男子にとってはこの様な女子の有り様は福眼以外何物でもないのだが....ウムム。残りはオレと一色と....ん?

 

 

「・・・・ なななナンですか!? そんな目でわたしを見つめて....ハッ! まさかアワよくばわたしに抱き着いてドサクサに紛れて告白するつもりですかっ!?イヤそれは余りにもキモいんで余所でやって下さいワタシ好きな人がいるんでイケませんどうぞゴメンなさいお断りします!!」

「お、おお・・・・」

 

 

・・・・ナンか知らんがオーバーゼスチャーで拒絶反応を観せつけられてからペコリとお断りされちゃったよ....てかナンでオレが一色に告白する前提なの?? コイツの意識過剰も結構俺並なのかも知れん。さらにここ奉仕部部室は会議場から一転思わぬ百合畑となりムンムンとその香気をこの部屋に満たさんとしている・・・・んで肝心の『本題』はその噎せ返る香気の中でココロもカラダもヤラれてしまったのか・・・・

 

 

「・・・・その・・・・ぜったいに・・・・いや・・・・」

 

 

「おい! 雪ノ下さ....」

「十条さん、もう決まったも当然だ。後は....この奉仕部だな....」

 

 

 

 

 

 

「これで決まったんだねー! よかったね! センパイ!!」

 

「おう、衛藤のお陰だ。お前のあの発言で事が動き出したんだ」

 

「ホント!? コンドは本当に褒めてくれてるの!?」

 

「おう! そうだ!!」

 

「ヤッター!! 姫和ちゃん! センパイがホントに褒めてくれたよー!!」

 

「可奈美! ....すまない比企谷君、こんな奴で....」

 

「まあいいさ、こういうのも一人は....二人だったな....」

 

 

またも三人での帰り道、今日は衛藤のお陰でいつもより早く解散しまだ陽も高い。雪ノ下と由比ヶ浜と一色は会議終了後改めて生徒会選挙の立候補登録をするため職員室、生徒会室へ。さらには推薦人確保のための署名活動と....しばらくは奉仕部を休部して選挙活動をするそうだ。雪ノ下曰く、部員の個人的利害に関わる事を奉仕部の活動として認める訳にはいかない....とも。どこまで律儀なんだか....んなわけで今日は久々に夕食前からリビングのソファーで足を伸ばせるな....んでもってチバテレビでアニメの再放送を....

 

 

「あ! ご褒美にあそこよってこー!」

「おい! 図々しいぞ!」

 

 

....まあ寄っていこうか。コイツのお陰で見通しが立ったんだ。ここは一つ先輩の威厳をだな....

 

 

「わかった、ドーナツ二個づつだぞ....」

「比企谷君! 私は....!」

「いいさ、卵焼きのお礼だ」

「やったー!! センパイだいすきー!!」

「お、・・・・おお」

「かなみ・・・・」

 

 

・・・・オオ! 無邪気な笑顔でナンてコトを・・・・他意は無いんだろうが・・・・ヤダ!じわじわキマすねコレは!! この後輩のために財布の紐だけじゃなく頬まで緩んじゃうじゃん!! よし! 二個と言わず三個までだぞ!!....つまり先立つ物が....

 

 

「おいしーね! センパイ! 姫和ちゃん!」

「すまない....この馬鹿だけでなく私まで....」

「まあいいさ。衛藤のお陰で懸案が晴れたんだからな」

「うん! もっとホメて!!」

「かなみ!!」

「じゃ! あたまポンポンして!!」

「・・・・ハイ??」

 

 

俺達はカワイイ後輩にねだられてSISTER....じゃないMUSTER DOUNTS

にてドーナツを頬張っている....しかも店内で頭ナデナデまでおネダリされるというのも....

加えてコーヒーもセットだと結構割高だぞ! 結局このカワイイ後輩分は俺が全額払うことになったんだけどな....

十条さんは気を遣ってくれてドーナツ一個であとは自腹だ。正直助かる....

 

 

「こうか・・・・」ポンポン・・・・

「ウン! ウレシー!! お兄ーちゃんみたーい!! えへへ・・・・」

「可奈美! ....重ねがさねすまん、コイツには兄がいてな....コイツは相当....その....ブラコン? なんだ」

 

 

・・・・一応はカワイイ部類に入るこの後輩のアタマにおテテを乗せるというのも・・・・コレも結構テレますね....それに衛藤はブラコンか。それで実妹のいるこの俺に『お兄ちゃんオーラ』を嗅ぎつけて甘えてくるんだな。成る程アノ懸案を纏めた発言といいこの後輩なかなかカンの鋭い処がある....いや本能に忠実なのか....まあ悪い気はしないがな、ウン。

 

 

 

 

 

「あ〜れ〜!? 比企谷君じゃん! ひゃっはろ〜っ!! な〜に女の子のアタマに手を乗せてるのかな〜?? コノ!コノ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*ウチの可奈美さんは書き続けているうちにオリジナルに比べて性格が幼くなってしまいました・・・・ 加えてブラコンです。

 

 

*ここでの城廻めぐりさんの学内設定はオリジナルです。原作未読なのでネットで経歴を調べてみましたがよくわかりませんでした・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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6

 

 

 

「ウゲ・・・・!」

 

会いたくないヒトに....よりによってこんな時に!

 

「あれー? 雪乃ちゃん以外の女の子二人も! 一人はあのガハマちゃんじゃ無いのねー? それにこの制服ってー」

 

「うす....この二人は....高校の短期転入生で....」

「うん! 衛藤可奈美だよ!」

「私は....! 十条....姫和と申します!」

 

「刀使の子達!? うわ〜私話しするの始めてー! 私雪ノ下陽乃! よろしくー!」

 

雪ノ下陽乃。言わずとしれた雪ノ下雪乃の姉。あの一色にも通じる外面上のあざとさを更に強化し外骨格したかの如きバケモノ。第一印象は明るく社交的、誰からも好印象を受ける理想的な女性を演じて見せるが見る人が観れば....しかも見抜いた相手にはとことんまでの好意を示すか踏み潰すか....いずれにせよ身抜いてしまった者は早々に退散するのがこの世界における処世術だ。て訳で俺達も早々に....

 

「....雪ノ下?」

「えー? ゆきゆきちゃんの??」

「あれー? 二人とも雪乃ちゃんのこと知ってんの?」

「この二人は....ウチんとこの体験入部部員で....」

「そっか、じゃ、話は早いね! どう? 雪乃ちゃん、生徒会の選挙....」

「....いったいどこからそんな話しが出てくるんスかね....」

「だってもうそんな季節じゃん! めぐりからも聞いてるし」

 

はあ....城廻先輩余計なことを....このヒト妹が好き過ぎて余計なちょっかい出して振り回して雪ノ下に嫌がられてそして又....のスパイラルに落ち込んでんのむしろ愉しんでない?? まあでも今回は....

 

「....そのことなら問題ありません。もう決まりましたから」

 

「へ? ....そう....ひょっとして隼人に頼んだとか?」

「何でヤツのこと知っててしかも名前呼び捨てなんスかね」

「雪乃ちゃん本人....とか?」

「いや、由比ガハマが立候補しますよ、本選で」

「マジ!? あのガハマちゃん?!」

 

おお驚いてるぞ! これも雪ノ下....はるのんの滅多に観られない素顔だな....

 

「....ふ〜ん、そのガハマちゃんと例の一年の一騎討ちなんだ....」

「そこまで情報が漏れてたんスね....」

「....あの、比企....谷君?」

 

ホント暇なのこのヒト? もう卒業してんじゃん! ....それに十条さんも見抜いたクチか....俺達のやり取りを観て唯ならぬ雰囲気を感じているようだ。もう一人は知らん。

 

「そっか、雪乃ちゃん立候補しないんだね....つまんなぃ....」

「んー? ちがうよー! ユイちゃんが当選したらユイちゃんがゆきゆきちゃんを副会長に任命するんだってー!!」

「「ハイ!?」」

 

おい衛藤! 余計なこと喋んな!! また面倒なことになるかもだぞ!! まずは既成事実をこさえてからだな....!

 

「....ふーん? 成る程ね....これも比企谷君の差し金なんだ....」

「それは違う!! この案を出したのは....! えー・・・・」

 

勢い余ったな十条さん....この案を出したのが他ならぬこのア....

 

「うん! わたしー!!」

 

....ホが自分でバラしちまった....また厄介事が....

 

「へ〜え貴女が! やるじゃない! 比企谷君が目論みそうな遣り口なのに! ....そっか、雪乃ちゃん生徒会に入るんだね。でもその動機と方法がね....」

 

....おい、衛藤がはるのんに賞められちまったよ....! これで衛藤もはるのんファミリーの一員になってしまうな....ただ何も気付かずノーテンキなとこがコイツの救いだが。しかし....雪ノ下姉が持つ雪ノ下への期待と要求は今の雪ノ下にとってハードルが高い。自分が出来る事なら妹でも....と思う反面自分の跡を追うだけでは....この相反する期待を雪ノ下姉はどこまで自覚しているのか、結果振り回される雪ノ下の迷いをこの姉はどこまでも無自覚に....いや無自覚を装ってまでとことん追い詰めるつもりか? 俺にはこの陽乃さんの意図がまるで読み取れない....

 

「ま! いいわ! 聞きたかった事もわかったし私もこの辺で....」

 

ふぅ〜・・・・何とか乗り越えたか....まあ時間もだし俺達もそろそろ....

 

「あっれ〜!? 比企谷じゃん!! すっごーいレアキャラ!!」

「んー? かおりの知り合い?」

「ん! そう! ウケるー!!」

 

「・・・・ウゲっ!!」

 

ナンだ今日という一日は!? 一難去ってまた....! お前こそレアキャラだろ!! なんてコッタ....

 

「へえ〜! 比企谷総武校なんだ! アッタマ良かったんだね〜!!」

「おう・・・・」

 

・・・・折本かおり。中学3年時のクラスメイト。明るく・楽しく・騒がしく....とこれまた社交的才能に溢れるある意味これもバケモノ....ただ一色のように異性専門に媚びるのでも無くはるのんのように完璧な社交仮面を被るでも無く....裏表無く只々騒がしい....ボッチだった俺にも気軽に声を掛ける程だから他にも勘違いさせてしまうヤツも多かったであろう罪深いオンナでもある・・・・もう一人は初顔だ。

 

「・・・・んでこの子たち....まさか比企谷の!?」

「ンなワケあるか!! 部活仲間と、その....」

「ん? な〜に? 比企谷クン??」

 

おう....そうだった....まだ『一難』がここを離れていなかった....はるのんナンて厄介な子!!

 

「わたしー? んー? 何だろねー? 友達ってのもねー? お姉さん? あ!

その中間をとって彼女とか!!」

 

「えー!! そおだっなの〜!? どおりでイチャイチャしてたんだね〜!! ウワ〜!!」

「....お前は少し黙っていろ! ややこしくなる! ....で、そうなのか? 比企....谷君....」

 

衛藤は無邪気にはしゃぎ十条さんは真顔でコチらを窺う....

 

「ちがうちがう!! 雪ノ下さん! アンタも余計なコトを....!」

「ははー! だよねー! ウケる!!」

「ハハッ・・・・」

 

ったく余計な事ばかり....! この二人まで誤解させるとこだったじゃ無いか! ....ウケてる場合か!!

 

「わたし、折本かおりです。比企谷とは同じ中学です」

「私、かおりと同じ高校の....」

「えー!? 比企谷君と同じ中学ー!? ねー! ナンか無い? 比企谷君の面白い話!!」

「そーですねー!」

 

おい折本、連れのもう一人がデクノボーと化してるぞ....それにはるのんさんも相変わらず前のめりなヒトだね....

 

「....そうだ! わたし比企谷にコクられた事があるんです!!」

「えーマジかおりー!?」

「マジマジ!!」

 

 

おい折本・・・・唐突の暴露・・・・コンなトコでナンてコト言うんだ・・・・

 

 

「へーえ!? 比企谷君がね〜! やるじゃない!!」

 

「・・・・へへっ・・・・」

 

 

そう・・・・その勘違い第一号とは他ならぬこの俺であった・・・・ああ・・・・こんな時にまでつくり笑いとは・・・・オレ顔キモいのがわかる・・・・卑屈だなオレ・・・・

 

 

「ねー? コクられる、てナニ??」

「おい可奈美! ・・・・そのだな、つまり・・・・」

「衛藤ちゃん!『好きだー!』て告白されることだよー!」

 

 

はるのんさん....標準語訳なんて余計なコトしないでくれません? ああ....いたたまれない....

 

 

「わ〜っ!! スゴいっ! すごいねセンパイっ!! わたしんとこも共学だからそんなことあるけどセンパイもなんだね!! わたしも何回もソの『コク』られたことあるもん!!」

「「「「ヘ??」」」」

 

ハイ!?....エトウ?? ....お前ってヤツは! その言い回しなら俺が折本から....てことになるぞ!

ったくアホなのかナンなのか....周りもポケ〜としているぞ!!

 

「姫和ちゃんもだもんね〜!! 姫和ちゃんは女の子のほうが多いけど!」

《ガタッ!!》「カッ!! 可奈美ッ!! バカなコトを言うなっ!! ちっ! 違うんだ比企谷君っ! 私からでは無くて相手の娘から....だ! 信じてくれ!!」

「お、おう・・・・」

 

!・・・・身を乗り出してオレに顔が....チカい! アカいぞ十条サン....!! ナゼ話がアラぬ方向へ....?? 取り止めが無さ過ぎて正気を失いかけるぞコレ・・・・

 

「でもわたしお兄ちゃんが好きだから断わってたの! み〜んな友だちになったけど!! でもわたしひきがやセンパイもだ〜いすきっ!!!」

「カナミ!!・・・・ハァ・・・・」

 

アハッ!! とまたも無邪気な笑顔で言い放つエトウ・・・・オレも・・・・ハァ・・・・だぞナンだこの展開は・・・・

 

 

「えー・・・・そうなんだ・・・・良かったねー・・・・比企谷」

「・・・・アハハハハハハッ!! こりゃヤラレたわーっ!! エトウちゃんアナタサイコーっ!!」

「かおり・・・・私どう反応すればいいの??」

「・・・・お祝いすればいいとおもうよ・・・・ウケる!!」

 

 

はるのんさんは腹を抱えて爆笑し言い出しっぺの折本は余りものカオスっぷりに只々ウケる! ....を連発しあと一人は置いてきぼりを喰らい....誰?アナタ??

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「・・・・仲町ちかです....かおり! アンタのせいで私只のカカシだったかんねー!」

「ゴメンゴメン! じゃさー! お詫び替りに比企谷! 葉山君て知ってるー!?」

 

一息付いたと思ったら....! なんでお前のお詫びに俺が付き合わされなければならんのだ? 中学から変わらずコイツは自由でざっくばらんだな....

 

「....まあ、ウチの高校の名物だからな....名前ぐらいは....」

「ん?? はやまってー??」

《ダンッ!》「葉山だと!? あの葉山隼人の事か!? 他でもないアイツはこの比企谷君を....!」

「まてっ! 十条さん!! この事は他には....!」

「お、おう・・・・」

 

 

十条さんがまたまた身を乗り出して幕したて始めた....オイ今だに....自分の事でも無いのに余程正義感が強いんだな....

 

 

「なに・・・・今の剣幕・・・・ウケる・・・・」

「・・・・ふ〜ん? じゃ! お姉さんが紹介しちゃうぞ〜!!」

「「へっ!?」」

 

 

はるのんがスマホを取り出し何処かしらへ連絡....もしや....

 

 

『・・・・隼人? そうワタシ、来てくんなーい? いや来て』

 

「・・・・アンタ....なにしてんスか....?」

「ふっふ〜ん! だって面白そうじゃない? あ! ついでに雪乃ちゃんにガハマちゃんもおマケにつけて....!!」

「やめてくれっ!! これ以上のカオスは....!!」

「わかってるわよ〜! 私もこれ以上雪乃ちゃんに嫌われたくないものねー」

 

 

 

 

「え・・・・と、かおりー・・・・ホントにいいのかしらー・・・・ナンかもう修羅場ってんだけど・・・・」

「だよねー・・・・これアリー・・・・? ウケなかったらどーしよーちか・・・・」

 

 

 

 

今になって....いや早めにこのはるのんの怖ろしさに気付くのも悪くはない。今後このようなウケるー! をはるのん相手にだな....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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7



後半グダグダです....


 

 

「ハヤトー! ココココ!!」

 

「・・・・ハルちゃ....陽乃さん....こんな処に、俺は部活で....比企谷? 十条さんも....」

 

「・・・・ヒャ〜〜〜〜ッ!!! ホントに葉山君っ!?!」

「本物!? ウケるっ!!」

「おい・・・・一応ここ店内な」

 

折本の連れの仲....何とかさんが声を裏返している....折本まで....葉山ってホントに校外にまで名前を知られてるんだな....

 

「えーと....陽乃さん、この二人は....」

 

「そー! アンタのファン! 面白そーだから紹介してやったの!」

 

「はあ....その、 葉山隼人です。宜しく!」

 

「キャ・・・・わ・たし・・・・仲・マチ・・・・」

「ああー! これ仲町ちかね! で! わたしが親友の折本かおりです!

ヨロシクー!!」

 

仲町さんは憧れの芸能人にでも会ったかの如く手で顔を覆い直立不動となり....折本はこんな時にもやはり折本だった....葉山の奴も途惑ってるな....オマエこんなの慣れっこじゃ無いのか?

 

「ふーん! あれがハヤハヤ君なんだねー!!」

「そうか....普通の高校女子はああいうのを好むのか....」

「まああいつは別格だがな....」

 

葉山隼人....総武校での校内カーストのトップに君臨する他に並ぶ者の無い男。しかしながらその物腰も柔やかく礼儀正しい態度から誰からも尊敬を受ける....一部を除いて....イケメン好青年でもある。....確かに少年て印象は受けないよな? 大学生ぐらいの貫禄はあるし。それにこのオレにも

『やあヒキタニ君!』 などと実在もしない人物名で笑顔も爽やかに声を掛ける....人の善意を信じて疑わないある意味お目出度い人物でもある。

 

「十条さんに比企谷も....この子は?」

「わたし衛藤可奈美ー! よろしくねー!」

「....私と同じ、刀使だ」

「葉山、災難だな....」

「はは・・・・」

 

その後は....葉山と折本、仲町さん三人で只々取り止めの無い話が続く....

俺達奉仕部三人組は場違いだろうと気を遣ってその場を去ろうとするのだが....

 

「どこ行くの〜?ここにいてよー比企谷く〜ん! ....いや居て頂戴」

 

....とはるのんさんに五寸釘を全身に喰らって身動きが出来ない状態となり結果十条さんと衛藤もこの三人の談笑に付き合わされることとなった。衛藤は面白がっているみたいだが俺と十条さんには....拷問だ....

 

「ねえねえ! はやま君てそんなに有名人なのー?」

「それアルー!! ここ千葉市一帯の高校生なら知らないヒトっていないんじゃなーい?

だよねー? ちか!」

「そそそそう!! 葉山君を知らない女子高生なんてモグリ! そうだよねっ! 葉山君!!」

「はは....それを俺に聞かれても....」

「えー? じゃわたしと姫和ちゃんモグラだったんだー!!」

「だよねー! カナミちゃんウケるっ!!」

 

....こんな会話を延々と一時間弱....

 

「じゃ! わたし達そろそろいくねー! ちか!」

「葉山君! またねっ!! キャー! またって言っちゃったー!!」

「ああ、さようなら・・・・ 陽乃さん....どうしてこんな事を....」

 

「....おう、やっと開放されたな....俺達まで災難だ....」

「そー? たのしかったのにー」

「可奈美....お前はどこに行っても食いっぱぐれる事はなさそうだな....」

 

久々の開放感に浸っている側から新たな火花か....? もう勘弁して欲しい....

 

「んー? だって暇だったしー」

 

「またそんな....俺や....比企谷達だって....」

 

「ねえ隼人、朗報よ。雪乃ちゃんが生徒会に入る事になりそうなの」

 

「本当か!? 比企谷!?」

 

「ああ・・・・」

 

葉山....そんなに驚く事か? お前も雪ノ下の実力ぐらい文化祭や体育祭で直に観ていただろう....ただ本人の自覚がな....

 

 

「じゃ! わたしもいくねー! じゃあね! 比企谷君! みんな! ・・・・比企谷君....浮気は良くないわねー・・・・ 雪乃ちゃんてヒトがいるのに・・・・」

 

・・・・ナニ耳打ちしてくるんでスかね....? それに....一応盛りのツいてる男子高校生にとってはそのイロイロと肩に....当るのですが....

 

「・・・・オレはいつから雪ノ下グループの玉の輿に乗ることが決まったんスかねー・・・・」

 

「ふふ! まだまだ貫禄不足ね! 大物に成るならウチを乗っ取るぐらいでなくっちゃっ!! じゃあね〜!!」

 

こうして自由人・はるのんさまは去っていった....残された俺と十条さんと衛藤、そして....

 

 

「・・・・そうか、雪ノ下さんが....」

 

「おう、お前にまで断られたからな。ま、こうなるのも自然の流れかも知らんが」

 

「自然か....比企谷達にはそう観えるんだな。でも、奉仕部はどうするんだ....?」

 

「おう・・・・」

 

....葉山とで必然的に雪ノ下の生徒会入りの話となる。そうだな....奉仕部か。確かに雪ノ下は俺達奉仕部の部長として得難い人物には違いない。だがこんな空き教室の一画で埋れさせてしまうのも惜しい人材であるのも事実だ。一色の依頼があろうが無かろうがいずれはどこからか立候補の誘いを受けるのは時間の問題だっただろう。つまりどう転んでも俺達にとっては自然の流れのようにしか観られないのだが....奉仕部は言わばその流れで発展的解消の運びとなるのかも知れん。だが葉山にとっては違うのか?

 

「もともとこの件はいろは絡みだったんだろ?」

 

「なんだ、知ってたのか」

 

「俺のとこにも相談しに来たから生徒指導の先生に相談するように勧めたんだけど結局比企谷のとこだったのか」

 

一色はサッカー部のマネージャーだったな。この一件で一色が葉山に相談するのもこれまた自然の流れか....

 

「その生徒指導の独身アラフォー女史からここへ依頼が来たんだ。あのセンセ俺のこと好き過ぎるからな」

 

「ははっ! 実際君は女子達に好かれているからな。頼れる相手を勘で感じ取っているんだろう」

「はあ?」

 

おい! なんて事を....! ん? 十条さんと衛藤に目配せをしてるな....

 

「うんそう! だってひきがやセンパイお兄ーちゃんみたいなんだもん!」

「....私は! チョコミントアイスを美味しいと言ってくれたから....悪いか!?」

 

お、おう・・・・まあ....その頼られる基準がかなり低いのだが....悪い気はしないな....ウム。

 

「うん、そうだな・・・・その事なんだが比企谷、十条さん、いい機会だ。ここで俺に一言言わせてくれ」

 

「....なんだ?」

「おう、改まって....何事だ?」

 

「修学旅行での一件さ。....まだ比企谷にはちゃんと謝罪していなかっただろ?」

 

おい・・・・なんでここでそんな過去を蒸し返す! あれは俺の中では終ったこと....遠く記憶の彼方に封印しようとしてた俺の黒歴史の中の一つだぞ!? いまさらそんなモノここで持ちだされても....!

 

「あの時十条さんに言われてもう誤魔化しは効かないとは思っていたんだ。だけどなかなかタイミングが....俺も....こういうのって結構照れ臭いもんだな....ハハッ!」

 

ここではにかまれてもな....こんな状況でも笑顔の爽やかな葉山クンである....

 

「葉山....君、それは....私がその一件の事を良く知らないまま貴方方に暴言を吐いた結果からだな....今にしてみれば....私も激情に駆られて情けない....」

 

十条さんも突然の葉山の発言に戸惑ってるようだ。あの時十条さんが突発的に葉山達に食って掛ってくれたから俺と雪ノ下と由比ヶ浜とが仲直りの切っ掛けをつかんだことになったんだが.....元はと言えば....

 

「そもそもあの一件は....お前と戸部の依頼と海老名さんの依頼二つを俺が勝手に解釈して出した結論だ....お前らには関係ない....!」

 

そう....雪ノ下にも由比ヶ浜にも相談せず俺が勝手に暴走した結果だ。自業自得....

 

「でも、そのせいで奉仕部の君たちは....だろ? 今度の生徒会の選挙だって俺達戸部と姫菜の問題が....」

 

....だが、葉山にとっては違う観方なのか? 俺達奉仕部が導き出した生徒会の選挙対策を葉山達自身の責任だと....どうもあの修学旅行での一件以来、俺と雪ノ下と由比ヶ浜の険悪状態が続いていると思い込んでいるみたいだな....それで雪ノ下が生徒会入りをして奉仕部が空中分解したと....

 

「それもお前には関係....」

「んー? そうだったの? わたし達がほうし部に来たときみんな仲良くしてたみたいだったけど? ねー! 姫和ちゃん!」

 

おう衛藤....ニコニコと....はあ、またもコイツは唐突に話の腰を折るなあ・・・・

 

「あああれは....あれも私の暴走からだ....結果として仲直りとなったのなら有難いのだが....

恥ずかしい....」

 

おい十条さんまで....ああ....と俯き加減に片手で顔を覆う....これもまた衛藤のおかげで円く収まるのか....? 衛藤サマサマだ・・・・

 

「・・・・一色の依頼はその後だ。雪ノ下が生徒会に入るのもその依頼を解決するための最善の策だからだ。お前が気に病む事じゃない」

 

「そうか・・・・でも比企谷、それでも俺に謝罪をさせてくれ。このとおり、

すまなかった・・・・」

 

・・・・葉山が椅子から起ち上がって俺に深々と頭を下げる....おいまて!? ここは店の中だぞ!! なにしてる!! 他に客が見当たらないとはいえ....オイ!!

 

「・・・・おい、ヤメろっ! コンなとこで....!! それにさっき言ったようにあれは

俺が勝手に....!」

「比企....谷君! ここは素直に受け入れてやれ! 二人とも、もうこれでいいだろう?」

 

〆は十条さんの仲裁か....これであの一件も潮時かな....

 

「ん....わかった。受け入れる....これで後腐れ無しだ。いいな? 葉山」

「ああ....! 有難う比企谷、十条さん....そして衛藤さんも....! ハハ!!」

 

・・・・んん、またもハニカんでみせる葉山....まあこの件もこれはこれで俺達らしからぬ爽やかな幕切れとなったな....それに今日は放課後の部活からイロイロあってもうアタマがパンク寸前だ....これでもう一件落・・・・

 

「うわー! ハヤハヤ君にも褒められたー! 今日はなんかトクした気分ー!!」

 

 

・・・・ 〆の大トリは衛藤可奈美!! ・・・・ の提供でお送りいたしました....! ハァ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 







この内容は『俺ガイル』の修学旅行での『例の一件』を取扱ってます。
筆者は原作未読で(12巻のみ購読)、この回の内容を最初にアニメで観た時はまるで理解出来ませんでした。
その後様々なまとめサイトや外国での反応を日本語訳している個人サイトなどを拝見し、この顛末を筆者なりに理解したつもりでおりますが、今回のSSはその筆者の理解内容に基づき投稿したもので、原作既読の方に比べて理解が浅い処があるかもしれません。そしてさらに、内容が『とじみこ』ファンの方々を置き去りにするような展開と化してしまい、ここでの投稿ではメインが『とじみこ』であるのにかかわらず、これで良いのだろうか? と不安を感じるようになりました。(勿論筆者は『とじみこ』ファンです)
あと、筆者の執筆能力に限界を憶えるようになりました。あまり深く考えず軽い気持で(ふざけてもいました。読んで下さった方々には不快な印象を与えていたかもしれません)ここでの投稿を繰り返してきましたが、いよいよ執筆に手詰りを感じます。勉強不足でした。一応草稿めいた書き散らしが残っているので暫くの間は投稿が続くかもしれませんが、この作品に関しては未完で終る可能性が高いです。
このような文章、内容でも楽しんで下さった方々には感謝とともに申し訳なさをおぼえます。ごめんなさい。そしてありがとうございました。



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8

 

 

 

 

ここ最近、すこしばかりモチベーションが上がってきたのでここでの掲載も再開します。

ただ、こちらは不定期になりますね・・・

 

 

 

 

それから二週間後、総武校生徒会の新体制が設立された。

 

会長・由比ヶ浜結衣

副会長・雪ノ下雪乃

書記・本牧牧人

会計・藤沢沙和子

連絡係・・・・一色いろは

 

「....なんでヒッキーがいないし?!」

「....比企谷君には奉仕部に残ってもらう事になったわ」

「なんでっ! ゆきのんっ!!」

 

結果として奉仕部は存続と相成った....知らされてなかったのか? 重要な事を最後に教えられる生徒会長様である....

 

「俺は言うなればバックアップ要員だな」

「なんだし....そのバックパッカー....て」

「生徒会で手に余る事案が出た時、俺『達』が裏で手を廻すためのな」

「タチ....て誰だし....」

「....入って来て頂戴、十条さん」

「はいっ!」

 

生徒会室に卸したての総武校の制服を着た平城学館からの転入生、元・刀使の十条姫和さんが入室してきた。例の装備....御刀『小烏丸』は刀剣類管理局に返納したのか....潔い性格だな....そしてオマケに....

 

「ヤッハロー! ユイちゃん!!」

「あー! かなみんまでー!!なんでナンデ!? ヤッハロー!!」

 

....もれなく衛藤可奈美が着いて来る事となった。周りに相当ダダを捏ねたみたいだが....

 

『姫和ちゃんがいなくなったらわたしのご飯! おべんとー! 洗濯におそおじー!! ダレがやるの〜!! ヤダ〜! 姫和ちゃんおいてかないで〜っ!!』

『ええい鬱陶しいっ!! 私が伍箇伝校を退学したらこの下宿に居られ無い事ぐらいわかってただろう! そのぐらい自分でやれ!』

『ヤダ〜っ!!』

 

・・・・十条さんが民泊施設から引っ越す時に俺も手伝いに来たんだが....修羅場だ....泣いて腰に縋る衛藤を十条さんが蹴飛ばしに掛かるその姿はまるで金色夜叉の名シーンだった....そしてその引っ越し場所がよりによって・・・・

 

『・・・・ナンでオレんチ・・・・なんです・・・・? 平塚先生??』

 

『ん?喜ばしい事じゃないか比企谷!こんな美少女二人がお前みたいな男の家に同居....いや、小町君を入れると三人だな!私もあと数年若ければ一緒に所望したい処だぞ!!フハハハ!!!』

 

『数十年じゃないスかね....グフっ!!!・・・・』

 

またも腹に....椅子からストレート....一点の迷いも無い....

 

 

「・・・・という訳だ。あらためて宜しく頼む、部長....いや、今は副会長だったな」

 

「私からも頼むわね....奉仕部をお願いします」

 

「えっ!? どおゆうことだし!?」

 

「あらためて紹介するわ。この方が次期奉仕部部長....十条姫和さんよ」

 

「ええーっ!! ナンデっ!?! ヒッキーじゃないのっ!??」

 

ウム、当然の疑問だ。いま雪ノ下副会長殿が得とその深淵たる事情を説明進ぜよう。

 

 

「....フフッ! この男に部長なんて任せたら奉仕部が絶賛年中開店休業状態になるものね?

万年平ヶ谷君?」

 

 

「....るせー....」

 

ホントは奉仕部顧問殿の決めたことだ。十条さんの転入手続のため生徒指導の平塚先生も平城鎌倉へと足を運んだそうな。そこで平城の学長さんや鎌倉の特別祭祀機動隊での上司である本部長さんとの折衝の折り機動隊員としての十条さんの人と成りを聞かされて、その上で十条さんを二代目奉仕部部長に抜擢することにしたと。特に気に入ったのはその猪突猛進なところ....勝手に暴走しては周りを振り回し結果強引に物事が解決してしまうという....普通ソンな人リーダーに据えないよね? でもあのセンセなら面白がってやりかねないよな....ちなみにその鎌倉の本部長殿と先生とは会ったその日から意気投合! 休日の重なった日にはラーメンのはしご、呑み歩き、徹夜麻雀などナド....俺も無理やり半日付き合わされた....フウ。

 

『おお少年! いい具合に目が腐っているな!!ようし! これからキミを引き抜いて鎌倉でミッチリと私の相手をして貰おう!! トコトン鍛え上げキミをゾンビから人間へとクラス上げをしてくれてやる! 覚悟しとけ!! ハハハハハッ!!!』

 

・・・・最後は二人ともベロンベロンに酔っ払い肩を組んで新橋のオヤジ状態だったが....アブないところだった....先生曰く『我生涯の友を得た!!』なんて喜んでいたが....でも平塚センセ? その歳で得るべきは『生涯の伴侶』ナンじゃないの?? まあ二人とも豪傑タイプではあるけどな....それに衛藤の話ではこの真庭ってヒト既婚者らしいじゃない? 気が付いていないのか....まあいい。

 

 

 

「んでわたしも部員! 衛藤可奈美だよ!! ヨロシクねー!!」

 

「うわー! かなみんもここの制服だし!! 転入したの!」

 

「わたしは特例! 学籍は美濃関だけどここへの長期編入が認められたんだー! 制服もだよー!!」

 

フワリと一回転....こんなヤツでも少しばかりは大人びて観えるかな?

 

「....コイツはこう見えて刀使『としては』かなり優秀なんだ。ここ数年の実績も認められてある程度はワガママを許されることになってな....御刀も常時装備して事あらば『いざ鎌倉!』 だな」

 

衛藤の腰には御刀....『千鳥』といったな....を装着している。前の美濃関の制服では見慣れていたが総武の制服とも....イケますねコレ....

 

「そうなんだ....わたしてっきりヒッキーも、て....そしたらまた生徒会でも奉仕部みたいに三人でって....」

 

「俺は生徒会には向かん。何もしないか裏でコソコソ蠢いた方が俺には向いている。ホントは自宅待機が一番向いてるんだがな」

 

「でアニメかスーパーヒーローばかり観るし!」

 

「漫画やラノベもあるぞ。部活動の一環として自分の趣味を全開にして俺本来の能力を存分に発揮する、おお! いっその事俺の部屋を部室にするのはどうだ!!」

 

「....そうならない為に私も十条さんを部長に推挙したのだけれども....正解だったようね。遠慮は

要らないわ、この男を存分にコキ使って頂戴ね? 部長さん?」

 

「心得た! 任せてくれ副会長!!」

「....俺が損材に扱われるのも前部長からの引継ぎなの?」

「だいじょーぶだよ! センパイには可奈美がついてるから!!」

 

 

・・・・こうして生徒会と奉仕部は新体制の元活動を開始した。とはいえ奉仕部なんてトコは....

 

「・・・・ハッ! ....ハッ! ハッ....ァアーっ!!」

 

「....おう、お茶だ。衛藤も、だな」

「うん! ありがとー!」

「有り難う、比企谷君」

「んー! 稽古の後の紅茶っておいし〜!」

「可奈美....この際お前はもっとジッとして机に向う事を覚えてだな....」

「ん〜! だって依頼が来ないんだも〜ん!」

「衛藤、こんなもんだ。それに『何事も無ければ美しきことかな....』とは武者小路何某の名言じゃ無かったか?」

「『仲良きことは....』じゃないか? どちらにせよ皆仲良くやれば面倒な事は起き無いとは思うな....」

 

奉仕部部室ではこんな光景が続いている....俺は本を読み十条さんは宿題と予習に勤しみ衛藤は....教室の空いた場所で剣術の稽古に打ち込んでいる。これもまた当たり前の光景となっていくんだろうな....いやもうすでに馴染んでいるのだが....

 

 

《コンコン!》

 

「どうぞ!」

「お客さん! 依頼かなー!」

「ただの暇潰しに一票」

 

「こんにちはですー!」

「いろはちゃんだー!」

「ハア、お前か....」

「ムー! 姫和さんそれないですぅ〜!」

 

一色いろは連絡係長様がまいられた。またカシマシい奴が....

 

「だからその喋り方をだな....」

「せんぱいは?」

「んー? ひきがやセンパイ? あれ??」

「・・・・比企谷君....もうその手は....構わんからもっと存在感を出してくれないか....」

 

「・・・・おう」

 

「・・・・ヒッ!! せんぱい!? て....そこにいたんですねー・・・・」

 

「何の用だ」

「もー! 副会長から言われたんですよー! せんぱいがサボッてないかってー!!」

「大きなお世話だ....お前こそサッカーのマネージャーをサボってどうする。これでは葉山への熱烈アピールがだな....」

「それこそ大きなお世話ですぅー! これは姿を見せないことで相手を意識させる高等テクニックなんですよー!」

 

手管は偏差値20以下の女性誌並だが....由比ヶ浜もだがこの程度の策を弄するこの一色がどうしてこの高校に入学出来たのか....? しかも何かの間違いで生徒会長寸前にまで....結果として現副会長から生徒会の仕事を仰せつかる事と相成ったのだが当人は嫌がってる様子は無いな。むしろここへの連絡係を率先して行うまである。

 

「用はすんだな。帰れ」

「せんぱーい! ここでお茶するぐらいいいじゃないですかー! わたしにも淹れてくださいよ〜!!」

「うん! センパイわたしもおかわりー!」

「その、私にも....比企....谷君」

 

....俺はここでは給仕係でもある。紅茶の淹れ方を雪ノ下から子煩く仕込まれたからな....

 

「おう、飲んだら帰れ」

「もー! せんぱい邪険にしすぎですぅー!」

 

 

 

 

 

 



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9

 

 

 

 

....そして、今日のように依頼の仕事の無い平日の夕方五時には帰宅の途につく。部活動終了時間をキチンと守る新部長様の方針だ。前部長もだったな....俺の道連れには十条さん、衛藤....そして....

 

「・・・・なんでお前までついて来る・・・・」

 

「いいじゃないですかー! みんなヒマですしぃー!それにわたしもせんぱいのおウチで夕食の手伝いするんでよぉー? 感謝感謝です!!」

 

....そう言って自転車を押して歩く俺にパシパシ! と肩をはたく一色....おい、生徒会はどうした!?

 

「え~? せんぱい! 自宅に戻るまでが仕事っていうじゃないですかー! せんぱいがちゃんと奉仕部の仕事してるのか見定めるためですよ~!」

 

....連絡係ってのは奉仕部部員達の動向を把握する為のお目付け役でもあるの?? 雪ノ下め、衛藤や十条さんだけじゃ無く半年も苦楽を共にした『同志』である筈の俺にまでサボリの嫌疑を懸けてくるとは....! まあ疑わしいのはオレ一人なんですケドね....? ハイ。

 

「いろはちゃん仕事熱心だー!」

「単に夕食を安上がりに済ます為だろう」

「....今日の係は小町だ。従ってお前はお役御免、労働終了。帰れ」

「もお~! せんぱいのイケズー!!」

 

 

 

....カチャ「うす....」「ただいまー!!」「只今だ」

「おかえりなさい!! お兄ーちゃん! ひよりさん! かなちゃん! ....えーと・・・・」

「小町ちゃん! ただいまです! ウフ♡!」

 

....一色め、自宅に着くなり小町の前で腰をくねらせ右目に横からVサインをカマしやがる....不思議とイタ痛さは感じられないのはこの一年後輩のあざとさの完成型からだな....

 

「そうです! いろはさん! 久しぶりです! じゃあ今日は両親も入れて七人分ですね! 了解五稜~郭です☆!テヘっ!!」

 

小町まで....コイツからもイタイタしさを感じさせないのは....まあいい。

 

 

「あーわたしもーっ!エヘっ♡!*・゜゚・*:.。..<(^_−)−☆*・. .。.:*・゜゚・*♡」

 

 

・・・・ 総天然には誰にも敵わない・・・・そう悟らされる一瞬だった・・・・

 

「姫和ちゃんはー?」

「するかっ! 馬鹿っ!!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「....ひよりさん! これもお願いしまーす!」

「これだな! 任せろ!」

「こまちゃん? これどーするの??」

「....えーと....ですねー....はは....」

「....お前はあっちで皿の用意でもしてろ....」

 

帰宅して直ぐに十条さん、衛藤は制服のブラウスの上にエプロンを着けて小町と共にキッチンで夕食の腕を奮い始めた。余り物の俺と一色は....

 

「姫和さんて疲れをしらないひとですねー!」

「一色....お前手伝うんじゃなかったのか?」

「やですよ~せんぱい! 自分でお役御免て言ってたじゃないですかー!」 (肩を....)パシ!

「帰れともな....」

「むー! これじゃ副会長に報告できないですよ~!!」

「....何を報告するつもりだ?」

「んもー! そんなの決まってるじゃないですかー! せんぱいが通報されるようなことしてないかですよー!」 パシパシ!

 

「・・・・ハア・・・・」

 

....一緒にリビングのソファーで寛ぎながらテレビを観賞している....つまりは監視役の一色の眼が光りながら....なのだが....コンなコト、この俺に許されていいワケ?? ここでオレの一生分の運を使い果たしちゃうナンてコト....ナイよね???

 

 

 

「あ~おいしかったー! ごちそおさまー!!」

「ごちそうさまです~!」

「じゃあ帰れ。....夕飯ありがとな」

「なんですとー!!」

「....口に合っただろうか?」

「ひよりさんの腕前はお姉ちゃん候補の基準を遙かに超えてます! ね! お兄ちゃん!!」

「おう....」

「そ、そうか....! で、何だ? その....『お姉ちゃん候補』とは....」

 

しばしの談笑の後に俺と一色が食器の片付けを担当して、リビングのテーブルでは十条さんが小町の受験勉強を手伝い始めている。衛藤? この部屋の隅で剣術のエア素振り稽古中....たまに一色がウチに上がり込んでくることもあるが、ここ数日はこんな処だ。そして....

 

ピンポーン!!

 

「・・・・お迎えだぞ、一色」

「・・・・え....留守って言ってくれませんかねー・・・・」

「一色さん、やはり無断でここに来てたのか....」

「んー? なに??」

「あの二人に居留守は不可能ですよ! いろはさん!」

 

 

カチャ....「・・・・おう」

「今晩わ、比企谷君。私のとこの役員がお邪魔ではないかしら?」

「そうだし! いろはちゃんだけ抜け駆けなんて反則だし!!」

「・・・・バレてるぞ一色・・・・」

『・・・・せんぱーい!! そこは今帰ったトコって言うトコじゃないですかー!!』

 

リビングの方から玄関まで声がまる聞こえなんだがな....一色わかりやすい子!!

 

「この通りだ副会長」

『・・・・ せんぱいわたしを売りましたね~!!』

 

生徒会会長由比ヶ浜と副会長雪ノ下様が帰宅のついでにサボリ魔の一色を引き摺り出しに来た。

....次いでにウチに上がり込んできた....なに? 実況見分??

 

「・・・・ やっはろーっ! みんなー!!」

「わー! ユイちゃんに雪乃ちゃんだー! こんばんわー!!」

「あはは・・・・ おヒサですぅ!」

「おお、会長に副会長、お疲れ様だ。今晩はどの様な件だ?」

「今晩は、みなさん。これ、どうぞ....昨日の晩、家で焼いてきたの....」

「ありがとうございます! 雪乃さん!!」

 

俺が雪ノ下と由比ヶ浜をリビングに通し、小町は席を立って雪ノ下の持ってきた手作りクッキーを盛り付ける皿を取りにキッチンへと向かう。ん? 雪ノ下も向かったな。

 

「おいしそー! いいの!?」

「みんな遠慮なく食べるし!」

「おいまさか....これって由比ヶ浜との共同作業じゃ....」

「そこは安心して頂戴。この作業には誰にも指一本触れさせてはいないから」

 

キッチンで紅茶を淹れてくれる雪ノ下の発言に一同ホッと胸を撫で下ろした。どうやらホムセンの木炭化現象は免れたようだ。

 

「....わわわたしは袋に詰めただけだし!! あ! ひよりんはコレ!!」

「これは....」

 

由比ヶ浜が十条さんに手渡した透明な袋の中には、青い蛍光塗料でコーティングされている様な

ナニカが詰め込まれていた。アレだな。

 

「貴女はこれが好物と聞いて....どうかしら?」

「いただこう!!」

「んじゃ俺も」

「あ・・・・」

 

・・・・俺が十条さんと同じクッキーを手にとって口に入れた途端、衛藤以外の女子共が沈黙した....おい....オレまた何かやっちまったの? どんな禁忌に触れたんだ?? て....ああこれ....なるほど....

 

「・・・・あのぉ....せんぱい....それってぇ....」

「おう、食べないのか?」

 

そうだな....またもシレッといくか....鈍感系主人公比企谷八幡の爆誕だ!

 

「そ、そう....以外ね....これからは二人....三人分用意....しようかしら?」

「ゆ、ゆきのん四人分! わたしもコレ貰うし!!」

「おお! そうか! 遠慮する事はない! どんどん摘まんでくれ!!」

 

....俺の発言に拍子抜けする雪ノ下に、またも不可解に張り合おうとする由比ヶ浜....まあチョコミント愛好家が増えて十条さんにしてみれば大歓迎だがな....

 

 

「それにしても....この家に十条さんと衛藤さんが間借りする事になるなんて、一体どんな薬を嗅がせてこの二人を垂らし込んだものかしらね? 連れ込み宿ヶ谷君?」

 

「そそそそうだし! みせーねん! の男女が同じ屋根の下で寝泊りするなんて! ふじゅんいせーこーゆう? だし!!」

 

「おい雪ノ下、俺をスケコマ師の様にいうな....!コレは不可抗力だ!ウチの顧問の陰謀だ!!それに由比ヶ浜、その論法でいくと俺と小町もイケナイ関係にされてしまうんだぞ....」

 

「タラシ? フジュン??スケコマシ??? いけない関係なの??」」

「....おおおい! 会長! 副会長!! これは私達でも比企....谷君の意思でもない!! 民泊所から引き払った私達の荷物が何時の間にかこの比企....谷君の家に持ち込まれていたんだ!!」

 

「おうそうだな....あの手伝いの後、そのまま引越し屋がウチに上がりこんで勝手に空部屋に荷物を運び込みもしたしな....」

 

「....はっ! せんぱいそんな手があったんですね!! 何気なく親切を装おってその気にさせて!....気がついたらすべてが事後....! いや! わたしこころに決めたひと以外の前では酔っぱらったりしませんし将来仕事の付き合いでせんぱいがわたしをお酒に誘ってもお猪口一つだって口にしませんしむしろわたしがせんぱいをベロンベロンにしてコトを起こさせて一生責任を取って貰うまでありますから!今は無理ですごめんなさいおことわりしますすいませんっ!!・・・・」

 

「・・・・ いろはちゃんいまなんかサラッとスゴいこと喋ってるし!!

ヒッキーと....ナニっ??」

「・・・・ 一色さん? その発言について、一晩とことんお話しを聞かせて貰えないかしら? 貴女と比企谷君との将来について、のね?」

「へ・・・・ ? イヤ! ちがいますちがいますちがいますう!! せんぱいはせんぱいでもはやま先輩ですぅ~!! ですよね~せんぱい!!」

「おう....そうだな....」

「えーとナニ? いろはちゃん雪乃ちゃんのウチでお泊りするの?? わーわたしも~!!」

「・・・・ おい可奈美、お前が付き合うにはまだ早い話だ....しかし、普通の高校生はこの歳でもう自身の将来をこんな風に綿密に描き上げているというのか....」

「ははは・・・・ ひよりさん....真に受けないでください....このいろはさんは少し計り先走ってるんですよー....」

「・・・・そ、そうなのか....」

 

 

 

おおう....一色が勝手に舞い上がって勝手に自爆して俺にまで火の粉が降り掛かるまであるのだが....それにそもそも! ....この二人が俺の家に下宿をしている経緯というのもあの平塚先生が....!

 

『・・・・ ああ、確かキミの自宅の部屋が余っていると聞いてな! あの二人なら丁度いいと思ったんだ! ハハ!』

 

『・・・・ どうしてそんなにウチの事情に詳しいんスかね?』

 

『・・・・ あ、....いや~! この前フと小町君の声を聞きたくなってな? そしたら電話での話のついでにキミんチの自宅事情が耳に入ってきたんだ! アハハ!』

 

『んで俺のウチに?』

 

『....おお! 『話のついで』にそんな話になってな! 小町君が御両親に話を着けてくれる事となったんだ! 何はともあれコレであの二人の下宿問題は解決だ! フハハハハ!!!・・・・』

 

・・・・ 単に面倒事を俺に押し付けただけなんだけどな....それにあのセンセ俺や学校関係者じゃ

ウチの両親を堕とせないと知って小町まで利用したな! 特に親父は小町のおネダリには辛っきし

弱いからな・・・・ ん? まさかあのセンセ....ソノ手を使ってこの俺まで絡め取ろうとしてないか? 妙にウチの家族の力関係に詳しいし....行き遅れも事によっては手段と相手を選ばないともいう・・・・ おいっ!?!

 

 

 

「たのしかったしー! またねーみんな!」

「....お邪魔したわね、比企谷君。....さっ! 行くわよ一色さん?」

「えー・・・・お泊りセットも用意してたんですけどぉー・・・・」

「....ついでにしては準備がいいな....」

「ふふっ! 一色さん? そんなにお泊りがしたいのなら、これから私の部屋で由比ヶ浜さんと生徒会の詰めの作業を行うのでよかったらいかがかしら? ついでに生徒会役員の心得を一晩掛けてミッチリと叩き込んであげてもいいのだけれども。どう?」

 

「おとなしく帰りますぅ・・・・ムムゥ~!!」

 

こうして総武校奉仕部自宅出張所での活動は終了した・・・・後は各自風呂に入って就寝するだけだが、十条さん、衛藤と風呂が続く間は俺は小町に自室での監禁状態を強いられている。単に監視係の小町が俺の部屋でくつろいでたり勉強してたりするだけなんだけどな....

 

 

 

 

「おはよーセンパイ!!」

「・・・・ンンン・・・・」

 

・・・・ おう、もう朝か・・・・ このところ俺への起床係は『暇潰し機能付き目覚し端末』では無くコイツ....十条さんと朝5時には起床しランニング、ストレッチ、朝食の準備と....一通り終えた後俺を起こしに来る。7時過ぎ位だ....さて、リビングへと顔を出しますかね....

 

 

「・・・・おはよ・・・・」

「おお! お早う! もう少し自発的に起きて貰えれば健康的なんだがな」

 

テーブルの上にはすでに四人分の朝食が置いてある....ウチの両親は早々に十条さんの朝食を食して出勤しているし。なんか申し訳ない....

 

「そうだな・・・・長年身に付いた習慣は早々変わらんな・・・・フゥワァ・・・・」

 

「お早よーございます! お兄ーちゃん!!」

「おお・・・・小町まで・・・・」

「ここんとこかなちゃんと一緒に寝ることが続いてたんで早起きがうっちゃいましたー!!」

 

「おう・・・・俺にはうつすな・・・・」

 

 

8時頃には家を出る。なんとなくこの二人と一緒に登校してるうちにこんな時間となった。一応自転車は押して行くが元々歩いて通える距離なので今の処必要無いかも知れん・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 



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10

 

 

 

2年F組....俺がこの教室に滑り込む時間は変わらない。十条さんが合わせてくれたのかどうかは知らん。

 

「うす」

「おう」

 

....これが十条さんと三浦あーしさんとの朝の挨拶。席が隣である以上完全な無視状態とはならず平和裏に共存している。もともとあーしさんもハッキリとものを言うタイプには敵意はあっても悪意までは持たないので十条さんをむしろ対等な相手と見なしてるようだ。それにこのクラスには川....何某(なにがし)さん、という先輩もおられる事だしな。そして俺には....

 

「おはよー! はちまん!!」

「お・・・・うす・・・・」

 

・・・・我が早朝の一服の清涼剤、戸塚様の笑顔と挨拶が待ってくれている....

 

 

「十条さーん! これお願いできるー?」

「おう!」

「ねー放課後なんか食べにいこー!」

「すまない! 部長を任されてしまったんだ。暇な時にな」

「じゃ今度一緒にチョコミントアイスねー!」

「心得た!!」

 

クラスにおける十条さんの立ち位置は『無骨だけど素直で義理堅い』となっている。ここに編入して一ヶ月、正式に転入して一週間ぐらいには十条さんのクラス内の人脈は広まっていた。編入初日、あの三浦あーしさんと堂々と張り合う姿に、このクラスの女子達の印象はむしろ好意的、且つ憧れまで持たれていたようだ。衛藤曰く、『無愛想なのに不思議と放おっておかれず、いつのまにかに仲間が出来てしまう』人格でもあるそうだ。俺といえば相変わらず....勝手にボッチの同志だと思っていたのに情けない....

 

 

「・・・・その、行こうか」

「おう」

 

昼食時、俺と十条さんは奉仕部部室へと移る。部長の権限で昼食場所を駐輪場側から強制的に移動させられたのだ。教室から出るとき若干由比ヶ浜の目がシラっ....としているが。じゃ衛藤も入れて三人でか? というと....

 

「今日は来ないようだな....」

「ンだな....」

 

・・・・二人で食べる日の方が多いな....しかも弁当は二人分! 十条さんが早起きして(衛藤のを含めて....)三人分用意してくれているのだ! コンな日常がこの俺の人生に訪れるとは....! 夢で無いのは小町に何度も頬を抓られ続けられて実証済みだがな....

 

「なかなかコーヒーと練乳と卵の配分が巧くいかないんだ」

「コーヒーの粉も一寸の量で焦げ臭くなるんだな....」

「インスタントとはいえ元は焙煎した物だ。焦げているという事実には逆らえん」

「なるほど....『千葉における練乳コーヒー卵焼きソウルフード計画』までにはまだまだハードルが高いんだな....」

「まかせておけ! ハードルが高いほど乗り越え甲斐があるものだ!」

 

食事中にはこのように調理実証研究会も兼ねて日々意見交換を交わしている。目指すはこれまた

千葉のソウルドリンク『M△Xコーヒー』を卵焼きで再現することにある! その為には十条さんに

是非ともアノ味を体感して貰わねば! と以前□AXコーヒーを勧めてみたのだが....

 

『ウ・・・・・・・・おう・・・・可奈美、飲んでみるか....』

『んー? うん、・・・・・・・・・・・・ウゲ・・・・どうしようコレ・・・・』

『・・・・俺、残り飲むわ』

 

・・・・受け取って缶の飲み口に若干の躊躇を覚えたが....捨ててしまうのは俺の良心が許さ無い! 思い切って一気に飲み干した!のだが....その時の二人の反応は・・・・

 

『ウゲ・・・・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・』

 

・・・・さて、どう解釈したらいいのか?? 二つの説明が可能だがどちらか一方か或いは両方か....いずれにせよこの二人がこの缶コーヒーを味わう事は二度とはあるまい・・・・人生半分以上損してるぞ!!

 

 

「そういえば比企....谷君、君は高校卒業後の進路というものを明確に想像しているものなのか?」

 

ふと十条さんが俺に俺の進路について問い尋ねた。高校卒業後? まあそうだな....もう高二の冬だし、進路希望の紙切れを渡されるのはまだ先だとしても、そろそろ進学先について考慮をせにゃならん時期に来ているのかも知れん。

 

「....高校を卒業してからか?....まあ普通に大学へ進学するぐらいしかイメージできんわな」

 

「大学か....大学での専攻は? 理系か? 文系か?」

「俺か? まあ俺は『数字関係科目』は壊滅的だからな....受験以前にここを卒業できるのか

どうかも悩ましいまである」

「そうか....では必然的に文系に進むのだな。そうだな....君の事だから教育関係にでも....」

「....へ? オレが教育関係?? ナンで??」

「ん? 違うのか?」

「いや....そんな事言われたの初めてだわ....」

「そうなのか? 比企....谷君にはぴったりだと思ったのだがな」

 

そうなのか?? 俺が教育に? ....まあ教育関係の仕事だとしても必ずしも教壇に立つ仕事ばかりではない。俺の家の本棚には親父の趣味なのか社会学関係の書物が並べ立てられているし、十条さんはあの本棚を見てそう思ったのか?....まあ確かに俺も少し計りそれらの本を齧ってはいる。しかし社会学と教育学とでは傾向も違うものだろうし....

 

「十条さんはどうなんだ? わざわざこの高校に編入したとはいえ元は剣術家の家系なんだろう? やはりここを卒業した後は鎌倉に戻って刀使の後進に当たるとか....」

 

「それは可奈美の仕事だな....ああ見えてもあいつの方が明確な進路を描いている。それに根っからの剣術馬鹿でもあるし」

 

おう....以外だな。あの衛藤がもう自分の将来をしっかりと見据えているとは。まあその道にしか歩めない愚直さ、というものを持ち合わせているものなのかも知れん。でも十条さんも愚直さと真剣さでは衛藤以上な感じがあるのだが....

 

「私が剣術を学んだのは明確な目的があったからだ。そしてそれは二年前に果たされた。鎌倉の事は後輩達に任せて私は普通の進路を歩もうとしてこの総武高に編入して来たんだ。でも....ここに来ても、普通という事が今一つよく分からないんだ....」

 

二年前....そういえば鎌倉、東京での『あの出来事』も二年が経とうとしている。十条さんの

個人的な目的と『あの事件』の発生と収束の時期が一致する....というのは何かの偶然なのか?

あるいは....いや、今更俺がそんなことを問うても何もなるまい....衛藤、十条さんにとってこの 

高校は、これまでの激務に休息を与える場所でもあり、また十条さんにとっては今後の進路に

ついて塾考するべき機会を与えられている所でもあるはずだ。そして、この『奉仕部』という

場所も....平塚先生がこの奉仕部の部長に十条さんを据えた理由、何となく俺にも理解が(およ)んで

くるような気もする....

そうか、『普通』か....十条さんがこの奉仕部へ来た頃にもそんな事言っていたな。 

『今一つよく分からない』と....

 

 

 

 

 

 

「おはよーですぅー!」

 

毎度こんなのも顔を出してくる....まあ真面目な話からは一息ついて、この連絡係様のお相手でもいたしますかね?

 

「一色さんか....昼は生徒会室でミーティングじゃ無いのか?」

「部長〜! そうそう毎日じゃないですよー! わたしにも自由に昼食を食べる権利があるんです〜!」

「一色、部員で無いお前にここで食べる権利はない」

「いーじゃないですかー! 仮にもわたしはここと生徒会の連絡係ですよぉ〜! 渡り歩く権利はあるはずです〜!」

 

昼食渡り鳥....居場所がないのかこの後輩? なるほど....少しは憐れみを掛けてやるのも奉仕部としての務めか。

 

「はあ、わかった一色さん。比企....谷君、お茶を....」

「おお....」

「ハイ! 話の早いせんぱい方でヨロシイです! テヘ☆!」

 

・・・・コイツも十条さんに懐いてるクチだな。弁当食いながらもペラペラと口が止まらない....そういや衛藤は? 生徒会でのミーティングが無いときは一緒じゃ無いのか?

 

「可奈美ちゃんクラス以外の女子たちからも引っ張りだこなんですよ〜! なんかグループ同士でローテーションが組まれてるそうなんです〜!!」

 

「・・・・はあ....あいつは鎌倉でも他校の生徒から慕われていたからな....」

 

・・・・俺の周囲の狭い世間では思いもよらない人脈作りの才能だな....もっともこの二人は意識してそのように振舞っているんじゃないだろうが....もはや葉山レベルにも匹敵しているぞ。

 

 

 

 

 

《コンコン!》

 

「どうぞ!」

 

「・・・・ちょっといいかな?」

 

「・・・・おい」

「葉....山君か」

「あーやっはろ〜!!」

 

放課後の奉仕部活動も終り頃、葉山が部室に訪れた。衛藤....お前のソレは奉仕部員二代目アホの()襲名時に先代から踏襲した挨拶とでもいうのか?

 

「....葉山....君、めずらしいな。依頼か?」

「無いなら帰れ」

「えー? お茶ぐらい淹れようよー!」

「はは! ....ちょっとした近況観察さ」

「なんだそれ....」

 

ただの暇潰しか? まあこちらも暇だから邪険にする事もない。さて雪ノ下直伝の紅茶の腕前を披露しますかね....

 

「・・・・ん。美味しいな。雪ノ下さんが淹れたみたいだ」

「・・・・お前....雪ノ下の紅茶飲んだ事あったか?」

「ん! ....いや....前に相談事を持ち掛けに来た時にさ! はは!」

「じゃ! センパイおかわりー!」

「可奈美! そのぐらい自分で....!」

「おう! 俺の数少ない仕事だ。得と飲みやがれ!」

「やったー!」

「ははは!」

 

葉山の奴この様子に軽快に笑いやがった。まあ確かに微笑ましい日常の一幕に見えない事もないな....? それに....俺の記憶では少なくとも俺の目の前では雪ノ下は葉山に紅茶を差し出している姿は見当たらない。まあどおでもいいことだけどな。

 

「その、雪ノ下さんの事もな。生徒会での様子も気になってたんでね」

「直接生徒会には顔を出さないのか?」

「用も無いのに生徒会にはね。結衣と他の役員とも上手くやっているのかな、と思ったのさ」

「副会長は会長と今日も駅前の施設で打合せだそうだ。他校との合同で何か催しを企画するらしい」

 

葉山と十条さんの受け答えで他校、海浜総合高校との合同イベントの事が話題に上がった。別に隠す程の事でも無いが。

 

「へえ! そんな事まで! ....彼女行動範囲が広まったな....」

 

「ん?」

 

「....いや! 何でも無い。じゃ! おいとまするよ。お茶、美味かったな」

 

「左様で」

「行っちゃうのー? じゃーねー!」

「お、おう。さよなら....で、葉山....君は何しに来たんだ?」

「俺も知らん」

 

 

夕日に照らされていたこの教室にも翳りが訪れてきた....そろそろ帰宅して夕食の用意だな....

 

 

 

 

 

 



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11

 

 

 

「はちまーん! いるー?」

 

ある日の放課後の部室、久々に『とある方』が御降臨なされた....

 

「おう、戸塚....珍しいな」

 

「戸塚君、入る時にはノックをだな....」

 

「あ! サイちゃんヤッハロー!」

 

戸塚彩加、俺と由比ヶ浜と十条さんのクラスメイト。一応の性別はオトコとはなっているが、その愛らし....愛しい容姿のため一目では女子と見分けのつかないほどの美少....イヤ天使だ!! 地上に降臨後何らかの手違いでオトコノコで戸籍登録してしまったに違いない! さらにこの俺にも登校時に

『はちまーんっ!』と満面の笑みで挨拶をしてくれる得難い親友でもある....! 一部女子からは

『王子様〜!』などと呼ばれ隠れた人気を誇る様でもある....勿論同じクラスの十条さんとも顔

見知り....当たり前だが....でもこの二人、クラスの中でもわりと普通に喋ってるよな....? ウムム....

それにおい....衛藤、オマエ何故戸塚をニックネームで呼ぶ....しかもヤッハローだと!?

 

「あ! かなみちゃんやっはろー!」

 

・・・・この部における公式挨拶に認定しよう。だがこの二人も顔見知りだったっけか?

 

「うん! テニス部の一年にかなみちゃんのクラスメイトがいてねー、僕も一緒にお昼食べたことがあるんだー!」

「うん! そう! それからわたしたち友達なんだもんねー!」

「「イェ〜イッ!!」」 パンッ!!

 

そ、そう....そうなのか....衛藤まで....イヤ八幡妬いてなんかない....んだからね!

 

「....んで、戸塚、ひょっとして寄り道の誘いか? そうだ! サイゼだな! よし! 今日は誰にも邪魔されず....」

「ん? 夕食なら(うち)で食すればいい。今日の当番は私だ。戸塚君、なにが食べたい?」

 

おい十条さん!....俺たちの逢瀬の邪魔をしないでいただきたかった....まあウチで十条さんお手製の夕食を頂くのが一番のもてなしなんだろうけどな。

 

「はは! ありがと! また今度ね! でも十条さん! すっかり部長さんとして馴染んでるね! もう幾つかの依頼もこなしてるんでしょ?」

 

「ああ、主な仕事は生徒会からの書類整理や会議、催しの手伝いだ。他の部活からの指導の依頼も少しだが請負ってる」

 

「剣道部とか面白かったよねー!」

「衛藤....あの時少しは遠慮をだな....」

「んー? みんな楽しそうだったけど??」

 

運動神経抜群の十条さんと衛藤がこの部に入ってから運動部からの依頼が増えた。しかしながら部員の代りに試合に出るという依頼は断っている。『魚の釣り方を教える』という先代の部長の方針は現部長にも受け継がれているのだ。こういう処が十条さんの『義理堅い』とされる所以だ。剣道部の時も....

 

 

『わたしが奉仕部の衛藤可奈美だよー! 部長の姫和ちゃんの指示でここに来たんだー!』

『おい衛藤....ここの部長にも後輩としての態度をだな....』

 

『・・・・エトウ? あの衛藤かっ!?』

『『『『『!!っ・・・・ゥオ〜〜〜ッ!!!!』』』』』

 

男子部員が群なして衛藤を取り囲んだっけな....俺は知らんかったが剣道関係者にとってこの衛藤と十条さんは途轍もない有名人らしい。二人は所謂現代剣道とはまた違う古流....時代劇でよく聞く何とか流カントカ流....の(つか)い手だそうだが全国の中高の剣道部員には憧れの存在なのだそうだ。若干アイドルっぽい扱いみたいだが....女子部員も周りから観ているが悪い印象は受けて無いようだな。むしろ、

 

『あれがエトウさん!?』

『・・・・カワイ〜〜〜ッ!!』

『キャ〜!!妹に欲し〜!!!』

 

・・・・やはり衛藤の人気って凄いんだな・・・・昼飯に引っ張りだこなわけだ・・・・

 

 

『ん〜こう?』

 

柳生新陰流? という江戸時代初期の流派の衛藤からすれば現代剣道の動きと剣道用の防具の着用にかなりの違和感があるようだ。美濃関にいた時の稽古では防具は着ずに袴着かジャージで、公式の試合には制服のまま出場していたそうだ。そして荒魂鎮圧の時も....ここ総武高の剣道部では対面稽古の際には一応防具着用で練習に勤しむ。衛藤も剣道着を着用してでの練習は初めてなようだが戸惑いながらも面白がってるな。

 

『いや、衛藤さんは自分の構えでいいですよ....』

 

『でもこの流儀もやってみたいから! こーかな??』

 

右足を前に出し左足を後ろに、しかも後ろの足はべた足では無く爪先立ちで向きも前足と並行に....竹刀を中段に構えて剣先を軽く揺さぶる....

普段衛藤が部室や自宅でやっている一人稽古の動きとはかなり異なるが衛藤自身は興味津々といったところか。剣先を動かす処は衛藤の幼馴染の『舞衣ちゃんと同じ動きだ!』....とも。

 

『・・・・うん! わかった! いいよー!』

 

『じゃ、俺から行く』

 

 

 

 

『始め!』

 

()ずは対面稽古から始まった。お互い気合を掛け合いながらの試合は約束なのか....俺には分から

ないが衛藤も気合を掛けている。そして....

 

『....勝負あり!』

 

ん? もう終わり? 背の低い方....つまりは衛藤が瞬時に背の高い男子部員の面を二度も取ってしまったのか....? 呆気ない....

 

『ん? どうした? ○○?』

 

....しかし、面を打たれた方の動く気配がない。竹刀を中段に構えてボ〜と立っているままだ。ん?!

 

『!!・・・・大丈夫か!?』

『おい! 面を外せ!!』

『えー・・・・どおしちゃったの・・・・』

 

そのまま腰を崩してバッタリと仰向けに倒れてしまった・・・・おい・・・・マズイんじゃ・・・・

 

『一応保険の先生を!』

『お水....いる?』

『濡れタオルだ!』

 

倒れた男子部員の周りを他の部員が取り囲み介抱している。そして面を外すと・・・・

 

『・・・・・・・・・・・・ホワ〜・・・・・・・・・・・・』

 

・・・・とした顔が....ナンかシアワセそうな顔してません?? 気を失っているでも無く、しばらくして立ち上がったが....

 

『・・・・エトウさん! もう一本!! 御願いしますっ!!』

『へ??』

 

ハア!? この部員、こんなことがあった直後に衛藤に頭を下げて懇願しているぞ! 俺もだが衛藤も周りもアキれている....勿論周りからは大事を取ってやめさせたが....

 

『よし! 今度はオレだ!!』

 

そして....ナンかいかにも屈強そうなな三年部員が名乗りを挙げてきたぞ....おい衛藤、ここの部員達を本気にさせちまったな....今度はタダじゃ済まないんじゃないのか....?

 

『△△先輩だね....』

『ヤベっ! 本気(マジ)だ!』

『え〜衛藤さんやめさせたほうが....』

 

女子部員からも心配の声があがる。俺も....コイツばかりはヤバイんじゃないのか? 『いかにも!』 って奴だぞ!!

 

『いいんですか? 衛藤さん....』

『うん! いいよー!』

 

コイツは・・・・もう知らん。剣道部員に囲まれてる衛藤に俺の声は届かんし、十条さんに連絡しとこうかな・・・・

 

『・・・・始め!』

『勝負あり・・・・!』

 

・・・・スマホを取り出そうとしてる間にすべてが終わった・・・・おい・・・・無事なのか・・・・

 

『・・・・△△さん!!』

『ゆっくりと横にして!』

『やっぱり保険の先生を・・・・!』

『えー・・・・大丈夫??』

 

・・・・二の舞だった・・・・この結果に当の衛藤でさえ何がなんだか分からない顔をしている・・・・

 

『センパイ・・・・わたし、いけなかったの??』

『いや・・・・俺にもわからん・・・・』

 

・・・・相手の面を外してみたようだ。そして、その御尊顔たるや・・・

 

『・・・・・・・・・・・・ホケ〜・・・・・・・・・・・・』

 

ハァ・・・・ 成る程・・・・ と....周りがみな呆れた顔をしてその先輩を眺めている....そして立ち上がりそしてまた・・・・

 

『衛藤さん!! ・・・・ 俺にももう一本っ! 頼むっ!!』

『えー・・・・』

 

勿論今回もやらせる訳が無く、この先輩は退場....保健室行きになったが....もうこれでこの依頼はお終いだな。今回初めて剣術家としての『あの』衛藤の実力をまざまざと観せつけられるという、俺にとっても得難い経験にはなったのだが....これ以上怪我人を出してウチの部の評価を下げてしまうのもな....

 

『・・・・衛藤さん! 俺にも稽古を着けて下さい!』

『俺....私も! どうか御願いしますっ!!』

『おい! 先輩のオレ....私からだ! 衛藤....さん! どうかこの私と!!』

 

おいナンだ・・・・この剣道部で一体何が起ころうとしてるんだ?? 我先にと失神希望者が現れるとは・・・・まさかあの二人を観てナニかを察したんじゃ無いだろうな・・・・ソノ手の趣味に目覚めたとか? ・・・・コノ手の連中のアタマの中はようわからん・・・・

 

『え、えーと・・・・はは!』

 

これ以降、衛藤は女子部員の担当になった。いきなりの対面稽古では無く、軽く自分と相手を立ち会わせて、相手の弱い処を指摘するやり方で相手にも衛藤を打たせるという、これはこれで実践的な方法を取っている様には観えるな。

 

『・・・・キャーッ!! 衛藤さんから一本取っちゃったー!!』

『うん! 凄いねー! ○☆ちゃん!!』

『イヤ〜ッ!! 衛藤さんから○☆ちゃんて呼ばれちゃったーっ!!♡♡♡・・・・』

 

....衛藤、相手は先輩だぞ....とにかくキャーキャー尽くし....これでホントに練習になるのかね??

 

 

 

 

 

 

剣道の試合形式についてはネットや動画で確認した程度での描写です。

至らない処は大目にお願いします....

 

 



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12

 

 

 

「・・・・やっぱりすごいんだねー! かなみちゃんて!」

「そおかなー? みんな練習熱心だったし!」

「でも剣道部ってこの前の交流試合圧勝だったんでしょ!?」

「うん! なんかみんなにお礼いわれちゃったー!」

 

練習の成果はあったようだ。某高との交流試合で男女とも五対五の試合で全勝だった。これなら

予選や全国にも! と剣道部ではいつにも無く盛り上がっている。

 

「でもわたしだけじゃないよ! 姫和ちゃんだって!」

「あれは! ....可奈美が美濃関に呼ばれて仕方が無く請負ったんだ!」

 

 

『....今日は可奈美の代りに私、奉仕部部長、十条姫和が相手をします!

どうか宜しく頼む!』

 

『・・・・はい!』

 

おう....衛藤の時とは受け応えがエラく違うな....俺もマネージャーとして十条さんにも付き添ってはいるが道場内での緊張感がハンパない。引継ぎのときに衛藤が『わたしより強くてこわいよー!』て脅してたからか?

 

『....そうじゃ無い! こうだ!』

『はいっ!!』

『ああ....脇が甘い! それでは鍔迫り合いに持ち込まれたとき....!』

『わかりました!!』

 

・・・・十条さんの稽古のスタイルはスパルタの様にも見えるがむしろ『やれやれ....』な感じの指導だな。見るに見兼ねて声を荒げてしまう感じだ。でも相手は体育会系、相手の実力が上と認めたらどんなシゴキにも耐える....この国の悪しき習性だがそれでも十条さんの指導の仕方は素人目にも理に適っているようだ。それに衛藤の時とは違ってここには凛とした空気が漂っているしな。

 

『....十条先輩! 私はもう....』

『なに言ってる! まだ一時間じゃ無いか!』

『私には実力何て無いんです! 小四の頃からやってるのに一度も試合に出た事が....』

『私は中二の頃だったな....平城の学長に目を掛けられて中途入学だった。それまでは母さんと家の庭で稽古の真似事ぐらいだ....』

『じゃ、生れつきの才能なのですか....?』

『何事も練習しなければなれる物にもなれん! 私はそれから一年毎日剣術漬けだ。ある願いを叶える為に必死で稽古をしたんだ。ただ貴女の稽古の方法が理に適っていなかっただけだ。貴女には惜しい処がある。そこを改善したらあるいは....』

『教えて下さい! その至らない処を! 十条さん....』

 

・・・・うむむ....途中でスポ根からあらぬ方向へと向かう気配を感じる事もアル....十条さんは男子部員にも稽古を付けているが特に女子からの支持が厚い....つまり、衛藤の稽古の時とはまたナニか違う『波動』を感じるのだ....結果、とある日....十条さんは練習相手の後輩の女子部員から体育館裏に呼び出されて・・・・

 

『・・・・ 十条先輩! 好きです! お付き合いして下さい!!・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・えええ・・・・・・・・・・・・・・』

 

・・・・こうなってしまったらしい・・・・それ以来十条さんは剣道部には顔を出していない。

その女子部員を辞めさせない為の気遣いもでもある。この事は衛藤にも内緒だ....

 

 

「そういえば噂だけど謎の剣道家が稽古を付けに来たって話もあるよね!」

 

「ああアレ・・・・」

「そんな事あったのか?」

「んーナニ? ねーセンパイ?」

 

....おお衛藤のヤツめ、悪戯っぽい顔をしながら返事をしているぞ。そう『あの』日、剣道部の連中にコイツにしては珍しく策士っぽい悪戯を仕掛けたからな。この俺にも『ねーおてつだいして!

エヘっ!!』....なんて『可愛らしく』頼まれたモンだから仕方なく裏で手を貸しちまったし、このことは十条さんにもナイショだ。

 

 

『....その人がその無敗の剣道家というのか? 衛藤さん?』

 

『うん! そだよー!! 訳あって顔見せられないけど!』

 

その『無敗の剣士』とやらは衛藤と剣道場に入りこんだ時にはすでに剣道防具を着用して面も被っていた。華奢で猫背で外からは顔も確認出来ない。いったいどこで着替えたのやら。まさかこの高校の外から! て事はないよな....

 

『とにかく試合、ですか? 衛藤さん』

『うん! とにかくやってみて!』

 

衛藤の無邪気なお願いに逆らえる男子部員はいなかった。みな衛藤の実力を思い知らされているのと同時にココロも腰砕けに....つまりハートを掴み取られているって訳だな。こうなると男は無力だ....さて相手は、

 

『では、この私から』

『□▽先輩頼むぜー!』

『おう!』

 

おう....なかなかイカついのが出て来たな....(くだん)の剣士の体格より二倍もの貫禄を感じさせる部員だ。重心もドッシリと腰から下に落ちていて安定性もあるし、コンナのに打ち込まれたらあの件の猫背の剣士などあっという間に吹き飛ばされてしまうぞ....

 

 

『始め!』

 

試合が始まり相手の部員が気合を掛ける。しかしながら件の猫背剣士は竹刀を中段に構えながら声を掛けないどころか動こうともしない。例の剣先を動かすことも。相手も苛立ってきたか....どちらか先に打ち込もうとすればいいものを双方とも打ち込もうとしない。次第に周りがどよめき始めた....

 

『おい....何で打ち込まない?』

『あの猫背、がら空きだぞ!』

『....ねえ、何かヘンな気配感じない?』

『感じない? というより....感じないんだけど....』

『なに? 漫才? て....私も何か違和感感じるんだよね・・・・』

 

・・・・そうしている内に試合時間4分が過ぎた....審判も....

 

『・・・・っ! 両者引分け!』

 

試合時間も意識させないままプツリと試合は終了した。周りも余りもの呆気無さにボーゼンとしている....

 

『おい、どうした!』

『わからん・・・・途中から目の前の相手が・・・・』

『よし、今度はオレだ!』

『頼むぞー! ◎△!』

 

そして、次はコイツか....この部員、体格はさっきのよりスマートな奴だが動きもスマートでテクニックで相手を翻弄するタイプだったよな。

 

『始め!』

 

さて、気合を掛け相手を牽制....のはずがこの部員、もう既に何か混乱を来たしてる様子だ。では件の剣士とは言えば?....相変わらずボ〜と突っ立ってるだけ。何の変化もありはしない。コイツは一体何者??

 

『ハッ! ハーッ! ヤーッ!!』

 

スマート部員は気合を掛けながら何とか打ち込もうとするが・・・・結局試合時間終了・・・・

 

『はあ・・・・』

『◎△、お前もか....』

『やっぱりアレか!?』

『さっきもそうだったのか? そうか、アレがそうか・・・・』

『ねえアレって?』

 

試合終了後、部員達が『アレ?アレ!』と盛り上がっている。試合の相手をした者にしか味わえ無いナニカかも知れん。

 

『ねーどおだった?』

『何が何だか・・・・ひょっとしたら衛藤さんや十条さんより凄いのでは....』

『うん! やっぱり?? じつはわたしも一度も勝てたことないんだー! やっぱりすごいねー!』

 

この衛藤の発言に一同キョトンとなった。俺もだが....そして件の剣士は衛藤と共に剣道場を後にしていった....

 

 

 

「・・・・て話だよ! 剣道やってる部員が僕の後輩の友達にいてね! でもたしかその時かなみちゃんも....」

 

「えーわたし知らない! 噂でしょ? なんでだろーねー?」

 

おう!白々しいヤツめ....コイツ嘘つくの下手そうだが戸塚には....

 

「そーなんだ! ハハ!」

 

通用した....人が良過ぎて人を疑う事を知ら無い....戸塚! どうかこのオレを永遠に照らし続ける娘天使(オトコノコ)のままであってくれ....! ついで歳も取らんで容姿も永遠の十七歳....ておい。

 

「ほう? なるほど....私がみるにその謎の剣士というのは....この高校の生徒なのではないかな? ふふっ!」

 

「えーほんとー? 誰なんだろうねー!? 僕たちの知り合いかなー?? ねー! かなみちゃん!!」

「んー誰だろー? ねー! センパイ!」

「おう....そんな凄いヤツ一度顔を拝んでみたいもんだ」

「ふふふ! 実はもう何度も校内で擦れ違っているかも知れん」

 

まあ十条さんならもう気づいているようだがな。別にバレたって構わない事だが。

 

「でも剣道部員がその剣士を必死に探しているみたいだよ。何でも『果し合いをするんだー!』

てね。物騒だねーはちまん!」

 

「お、おう・・・・」

 

おいホントにナニか物騒な事になりはしないか....? 『そいつ』は文化祭の時『ヤっ』ちまったし

その事で悪名だけは流通してるからな....面は割れて無いが....そして今度の一件でソノ顔がバレたらソイツはボコボコなんてコトに....おいっ!!

 

 

 

 

 

 

 



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