サマルトリアの第一王女にTS転生した俺が雌堕ちする話 (社畜のきなこ餅)
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サマルトリアの第一王女にTS転生した俺が雌堕ちするまでの話
サマルトリアの第一王女にTS転生した俺が雌堕ちする話・起


一人称メインで書いていきます。
地味にぶっとんだ主人公かもしれないし、リビドー直球でいきますがよろしければどうぞ。


 突然だが諸君は、輪廻転生という概念を知っているだろうか?

 様々な神話大系から、ちょっとした昔話にまでちょくちょくと顔を出すソレは、御仏や神の偉大さを示す為の題材として良く用いられており。

 現代社会を生きる者には、良くあるサブカルチャーのエッセンスとして持ち出される事から、そこそこ馴染み深い筈だ。

 

 だがしかし、だがしかしだ。

 命の危険とほぼ無縁で、それなりに頑張ればそれなりに豊かな生活を送れる現代社会から、実際に転生したいと願う人物が果たしてどれだけいるだろうか?

 ましてや。

 

 

「クッキー姫様!また城下町の査察中に抜け出されて……!」

 

 

 その内、邪教徒が好き放題やり始める世界に、TS転生したいと思う人物がどれだけいるか。

 もしいるのなら名乗り出てほしい、変われるなら変わってほしい。

 今なら、仕留めたてホヤホヤのアイアンアントの死体も一緒につけてあげるから。

 

 

「姫様! 聞いておられるのですか?!」

 

 

 世の無常を儚みつつ、誰に届くでもない電波という名の運命への呪いを脳内で発信する俺に業を煮やしたのか。

 今にも血管が切れる勢いで、俺が産まれた頃から世話をしてくれている爺が怒声を上げる。

 

 

「怒鳴るな爺、聞こえている」

 

「聞こえておられるなら話が早い、何故また抜け出し。ましてや護衛もなしに魔物退治などしておられるのですかぁ!!」

 

 

 懇意にしている、リリザの町の鍛冶屋に特別に誂えてもらった細身の剣の刀身を布切れで拭う俺へ怒鳴っている爺。

 正直唾が飛んできてるから、そんなに怒らないでほしい。

 

 

「まぁ落ち着け爺、俺は王族だ」

 

「何を急に……ええ、栄えあるサマルトリア王族の姫君でありますな」

 

「王族たるもの、臣民とその財産を守る義務がある。違うか?」

 

「姫様がやる事ではないですが…………素晴らしいお考えでありますな」

 

「この魔物共は、臣民の畑を荒らしていた。故に俺が排除した。 何か問題があるか?」

 

 

 渾身のドヤ顔と共に爺へ俺は言い放つ、この完璧な理論には叶うまい。

 そんなことを考えているも現実は無常。爺のこめかみ辺りから何かがキレた音がすると共に。

 

 

「ひ、め、さ、まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 特大の雷が落ちた。

 

 

 

 

 

 その後息を切らしながらようやくやってきた護衛の兵士らに連行された俺は。

 成す術もなく、父親である王の前に引っ立てられ、何かを諦めたかのように溜息交じりに説教を受ける羽目となり……。

 反省するまでの間、城から出歩くことすら禁止されるのであった。

 

 

「……とまぁそんなワケで俺は城に幽閉同然となったワケだ、愛しき妹よ。酷いと思わないか?」

 

「うん、お姉ちゃんって頭良いけどバカだよね!」

 

 

 妹の部屋へのそのそと赴き、愚痴ってみればこの扱いである……解せぬ。

 いずれ来る、逃れられない旅立ちの運命へ向けて誰も損をしない理由をつけつつ魔物退治をして経験値稼ぎをしてるだけだと言うのに。

 

 今の俺はホイミだけじゃなくギラや、その他の魔法も使える程度に強くなっており、足手まといとは言わせない強さにはなっているのだ。

 棺桶が友達だとは言わせない。

 

 

「……何故だ? 俺は傷一つ負っていないし、臣民も彼らの財産も大きな損傷は受けておらんだろう?」

 

「やだこのお姉ちゃん、真面目にわかってない」

 

 

 くりくりとしたお目目がチャームポイントの、俺の大事で可愛い妹が頭痛をこらえるように頭を抱えている。

 一体何が間違っていたのか……いや、間違っていないな、うん。

 

 

「……第一王女様って、黙って立ってれば美人なのにな」

 

「……シッ!言うな!皆思ってるから!」

 

「……何か?」

 

「「いいえ、何も何も」」

 

 

 部屋の入口に控えてる兵士たちが何やら仲良さそうに内緒話をしていたので、話を聞いてみればすっとぼけられる。悲しい。

 俺も男友達とするかのよう馬鹿話がしたいのに、第一王女という身分のせいで男が寄ってこんのだ。

 ローレシアさんのところのアレン君よ、早く来てくれ。寂しい。

 

 

「……お姉ちゃん、確かに魔物退治は大事だし、なんか最近変な宗教も出てきてるらしいけどさ。お姉ちゃんが戦う必要ないんじゃない?」

 

「わからんぞ妹よ、何事も備えておくべきだ。何かがあってからでは遅いんだからな」

 

「あーもー……」

 

 

 ジト目を俺に向けながら、お定まりの言葉を向けてくる妹に腕を組み……最近とみに大きくなり自己主張激しくなってきた胸部を組んだ腕で押しつぶしつつ。

 こちらもまた、何度目かもわからない言葉を妹へ返す。 

 

 父親である王にも、ムーンブルクとの関係強化を常々申し上げているのだが、何故かまともに聞き入れてもらえていない。

 滅んでからでは遅いのだというのに、酷いものである。

 

 

「そんなんじゃ、お婿さんも来ないよ? お姉ちゃん……」

 

「婿? ゾっとするから止めてくれ、俺はそう言うことに興味はないと言っているだろう?」

 

「……お父様、本当に可哀想」

 

 

 まるで母親のように妹からも小言をもらう有様である、解せぬ。

 もう女の体になって結構経っており、女故の宿命も受け入れてはいるが、それでも男相手に体を開くなんてゾっとしない。

 

 

「さて、俺はそろそろ練兵場に行こうと思うがどうする?」

 

「そこで当たり前のように私も連れてこうとする辺りお姉ちゃんって本当、ズレてるよね……」

 

 

 苦笑を浮かべつつ、遠慮するように手をヒラヒラ振る妹に見送られ部屋を出る。

 ここで城を抜け出して魔物退治に勤しむのも悪くはないが、最近頭髪の砂漠化が進んでいる父親に負担をかけるのも忍びない。

 

 

「果たして、どうしたものか……む?」

 

 

 腕を組みながら独り言ちていると、何やら城門辺りからただ事ではない様子の声が聞こえていることに俺は気付き。

 何か暇潰しになればいいかと思い、そちらへ足を運ぶ。

 

 そこに居たのは、血塗れでありながらも魂を燃やすように足を進める、ムーンブルク製の装備に身を包んだ兵士が居た。

 ……ああそうか、とうとう来たのか。この時が。

 

 

「ひ、姫様! 姫様も彼を止めて下さい!!」

 

「そ、そうだぞ!お前の任務は責任もって俺たちが預かる、だから休め……!!」

 

 

 思わず呆ける俺に気付いた兵士が、歩みを進めようとする兵士を必死に押しとどめつつ俺に助力を頼んでくる。

 だが兵士は歯を食い縛りながら、歩みを止めない。

 

 

「……ムーンブルクが、落ちたのか?」

 

「……はい……ハーゴンの、軍勢、が……私はソレを、伝えに……!」

 

 

 兵士の前に立ち、その目を真正面から捉えながらムーンブルク兵へ俺は問いかけ、彼もまた俺の目を強い意志を込めた目で見返し……問いかけを肯定する。

 救えたかもしれなかった国が滅亡したという事実が、俺の胸をチクリと突き刺す、が。気が付けば鉄面皮と化していた俺の顔はその痛みを顔に出す事はなく。

 

 

「そうか、なれば父の下へ行くぞ。肩を貸す」

 

「かたじけない……」

 

 

 周囲がざわめく中、俺はがっしりとした体躯の兵士の肩へ手を回すと父のいる玉座へと向かう。

 

 その後、血塗れの兵士へ肩を貸しながら玉座の間へ入ってきた俺に、父は仰天しムーンブルク陥落の報せに二度仰天。

 執政者としては有能だが、荒事が得意とは言えない父はまさか。本当にこうなるとは、などと呟いていたがまぁ今は良い。

 唖然とする父を尻目に、兵へローレシアへの先触れを出すよう指示を出し、ムーンブルク兵の事を手近な兵へ託すと俺はすぐに自室へと向かう。

 

 少しばかり原作……ドラクエ2とは違う形になったかもしれないが、俺の冒険はこれから始まるのだ。

 

 

 

 

 

 そんなこんなでムーンブルク兵と付き添いの兵が旅立った後、なし崩し的に旅立ちの許可をもぎ取った俺が何をしているかと言うと。

 サマルトリア北東、ローレシア北にある勇者の泉へ向かっていた。

 

 装備は愛用している細身の剣、ムーンブルク救助こそ叶わなかったがあちらの製鉄技術はなんとか入手できたことで、特別に誂えさせた鋼鉄の剣に……。

 どれだけ鍛えてもあまり筋肉がつかなかった肉体でも、なんとか負荷なく運用できるブレストプレート形式の部分鎧を装着。

 当然素肌にそのまま装備するわけがなく、全身タイツ状の鎧下の上にロトの紋章が刺繍された前掛け型の布鎧を装備し。

 左腕に括りつける形の皮の盾を装備、更に頭には、血しぶきが飛んだり砂塵が入っても戦闘続行可能なように作らせた、ゴーグル付きサークレットである。

 

 そんな装備に身を包み、かつ隙あらば魔物退治に精を出し続けた俺に、この辺りの魔物など相手になる事などなく。

 片っ端から、一刀の下に斬り捨てられていく。  余り頑丈って言えない体だから、攻撃を受けないよう立ち回っているのもあるがな!

 

 

「というわけで爺様、身を清めさせてほしい。ここに来るまでに魔物の返り血も浴びたことだしな」

 

「……当代のサマルトリアの第一王女は女傑と聞いておったが、いやほんとうにそうじゃったとは……」

 

 

 というわけでサクっと勇者の泉の最奥部へ到達、泉を管理している爺様へ使用を申請する。

 魔物の返り血だけではなく、不意に飛びついてきたバブルスライムの残骸がぬるぬるしていて気持ち悪いから、とっとと使わせてほしいものだ。

 

 

「う、うぅむ。まぁともあれロトの子孫よ、この泉で身を清めるがよい」

 

「わかった」

 

 

 何やら唸りつつも、使用許諾が下りたのでさっさと入らせてもらおう。

 そう思い歩みを進めた瞬間、背後の方から足音が聞こえる。

 

 

「む? 爺様よ、どうやら来客のようだぞ」

 

「おお、そのようじゃな」

 

 

 足音から察するに人間だと思われるが、万が一曲者だった場合に備えて右手を剣の柄へかけておく。とっとと脱がなくてよかった。

 油断なく暗がりへ目を凝らしてみていると、やがて足音の主はゆっくりとその姿を現した。

 

 その人物は、俺と同年代ほどの青年で。青を基調とした衣服の上に皮の鎧を纏っており、装備の上からでもわかるがっしりとした体つきをしていた。

 ……まぁ、まさかとは思っていたが、まさかのローレシアの王子である。リリザの町ではなく勇者の泉で合流というのは、若干予想外であった。

 

 

「君は……もしかして、サマルトリアのクッキー王女?」

 

「ああそうだ。数年前のパーティ以来か? 久しいなアレン王子」

 

 

 油断なく右手に、おそらく彼用に特別に誂えられたであろう肉厚で一回り大きい銅の剣を握っていた彼だが、俺の姿を見て安心したのかその武器を仕舞う。

 互いに幼いころは良く遊んだものである、鍛えれば鍛えるほど肉体が強くなる彼に嫉妬を隠せなくなってからは、余り会っていなかったが。

 

 というわけでパーティ結成である。例の台詞を言ってみたかったものだが戦力が充実するのは早いに越したことはない。

 話をさっさと切り上げ、泉で身を清める事にする。

 

 

「う、うわちょっと! クッキー王女何してるの!?」

 

「? 何って、身を清めているのだが」

 

 

 返り血とバブルスライム粘液で気持ち悪かったので、全身タイツと下着も脱いで産まれたままの姿でさくっと身を清めていると、アレン王子が慌てて止めてくる。

 むしろ、装備を外したとはいえ衣服を着たまま入る君の方が俺は心配だ。風邪とか引かないのだろうか?

 

 

「そんな、女の子が肌を見せたらダメでしょ! ましてや王女なんだから!!」

 

「ここにいるのは旅の仲間だ、問題ないだろう」

 

「おじいさんもいるでしょ!?」

 

 

 全力投球で突っ込みを入れてくるアレンの言葉にふと気づき、爺さんへ視線を向ければ慌てて背を向ける爺様。

 こりゃまたうっかりである。

 

 

「そうか、うっかりだったな。まぁ背を向けたことだし良いだろう」

 

「良くないよ!!」

 

 

 元気で賑やかである、さすがドラクエシリーズが誇るハイパー脳筋勇者だ。

 ともあれ身を清めたことだし、さっさと上がろうとすれば……まだ泉に下半身を漬けたままのアレンがそこにいた。

 

 

「? どうした? もう清め終わっただろう?」

 

「あ、後で行くから!」

 

 

 顔を真っ赤にしたままこっちへ叫ぶように返事を返す王子、そしてふと気付き自らの体を見下ろす。

 それなりに均整がとれた体つきに、下腹部が見えない程度に大きさを誇る中々なサイズの胸部、前に姿見でチェックをした時は腹筋がスラっとしていた記憶もある。

 ……確かにこの体は、多感な男子には毒である。失敗失敗。

 

 

「そうか。まぁ、風邪は引かないようにな」

 

 

 ソレだけ言うとそそくさと泉を上がり、先の王子の発言もある事だし身を隠しつつ体を拭いつつ装備を着用し直すのだ。

 顔が赤いのは、うっかりが恥ずかしかったからに違いない。間違いない。

 

 

 

 

 

 というワケで始まりますのは、ハーゴンぶっ殺しツアー。

 すぐにムーンブルクへ行こうと気を逸らせるアレンを宥め、まずは連携強化という名目でサマルトリア西の洞窟へ向かう。

 無論目的はソレだけにあらず、銀の鍵がメインである。 

 ……この世界で普通に手に入るかどうかは疑問だが、確認しようにもそこまでの旅を周囲が許してくれなかったのだからどうしようもない。

 

 最初こそ中々歩調が合わず難儀し、時には勢いあまって隙を晒したりするアレンであったが。

 その戦闘センスは確かなもので、数戦終わる頃には連携に不備はなくなっていた。

 ただ問題があるとすれば……。

 

 

「……本当に食べないとダメ?」

 

「ダメだ。 戦うためにも栄養は大事だからな」

 

 

 俺が自ら捌いた山ねずみ肉に嫌そうな顔をしたり、旅の途中で採取しておいた山菜を残そうとしたりと。

 中々に偏食が過ぎる我儘王子である、いや王子だから食に対して我儘なのもやむなしか。

 

 

「……わかった、次からは君にも食べ易いよう工夫する。だから今日は我慢して平らげろ」

 

「わかったよ……」

 

 

 まぁ食料事情は士気にもかかわるから大事だし良いのだが……。

 旅の途中で身を清め辛いのが難点である、まぁうん。しょうがないのだが。

 

 ただ言い訳をさせてもらうのならば、やはり汗をかいたまま行軍というのは精神衛生上よろしくないので、アレンには我慢してもらいたいものである。

 途中からは溜息とともに俺の説得を諦めてくれた為、安心して水浴びが出来ている。

 アレンが見張りと周囲警戒を買って出てくれたってのもある、警戒不要というのは有難いのだ。

 

 そんなこんなで旅を続け洞窟へ突入、よろいムカデの装甲の隙間に細身の剣をぶっ刺して会心の一撃を叩き出したり。

 バブルスライムに不意打ちされ、鎧の隙間に入り込まれてヌルヌルになりつつ最奥部へ到達である。 覚えててよかったキアリー。

 

 慌てて鎧を外して、にやけ面してたバブルスライムへ怒りの一撃を叩き込んだり、バブルスライムの残骸で足を滑らせたアレンを支えたら乳を鷲掴みにされたりしたが。

 まぁ特に問題なく銀の鍵ゲットである。なんか妙にアレンがよそよそしかったり、鷲掴みした手を見下ろしてわきわきさせてたが、まぁ気にしないでおこう。

 

 ……あの瞬間、なんか甲高い変な声を上げちゃったが。気にしないでおこう!!

 

 

 そんなこんなで、互いに若干気まずい空気を醸し出しつつ洞窟を脱出。そのままローラの門を突破……。

 するのではなく、一度リリザの町へ戻り、休息と補給を整える。

 

 

「クッキー、すぐにローラの門へ行くんじゃないのかい?」

 

「何事も万が一がある、それに慣れない長旅だったしな。まずは一日休息と補給にあてて、その翌日に出立するぞ」

 

 

 正義感が強いだけあって、すぐにでも旅を続けようとするアレンへ慣れない笑みを浮かべつつ宥める。

 何を悠長なといった様子であるが、まだイケるはもう危ない。死んでも教会で復活できるらしいが、俺は死ぬのは御免なのだ。

 ついでに、もはや刃物の形した鈍器状態のアレンの銅の剣もなんとかしたいところだしな。

 

 

「というわけだアレン、この剣を使え」

 

「え、どうしたのこの剣?!」

 

「懇意にしてる鍛冶屋に、試しに作らせた特注の鋼鉄の剣だ。ムーンペタで売られてるヤツより肉厚で刃渡りを抑えつつ重量を増やしている」

 

 

 こんなこともあろうかと、というとアレンに疑念を持たれるかもしれないのでそれっぽい言い訳を口にしつつ。俺では両手で持たないと持てない剣をアレンへ渡す。

 渡されたアレンは鳩が豆鉄砲食らったかのような表情浮かべてたが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべる。

 うん、新しい武器で喜ぶあたりやっぱり男の子だな!

 

 だが、鍛冶屋のオヤジよ。意味ありげにニヤニヤ笑ってこちらを見てるのは何故だ?

 ……まぁいい、藪をつついて蛇を出すのもアホらしいし放っておこうそうしよう。




【人物紹介】
サマルトリアの王子、改め王女:クッキー
 幸か不幸か、やっぱり不幸にもサマルトリアの第一王女として産まれた転生者。
 元の名前も生活も思い出も擦り切れており、その中でドラクエ2の原作知識だけが残っていた。
 故に彼……彼女はソレを大事にしており、自分を支えてくれるサマルトリアという国を愛している。
 だが同時に、自己評価は自分が言うほど実は高くなく、またのんきものを自称しているがその本質は臆病者である。
 
 彼女は、すでに狂っている。


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サマルトリアの第一王女にTS転生した俺が雌堕ちする話・承

やったぜ、ぎりぎり28日に更新間に合ったぜ……!(23:55)
そんなわけで、第二話投稿です。
本当はもっと先へ進む予定でしたが、仲間新規加入話なのでここで色々と詰め込みつつじっくりことこと煮込みました。


 拝啓、もはや顔も声も名前も思い出せなくなってしまった前世のお父様にお母様、お元気でしょうか?

 死因もはっきりしてないフワっとした状況の貴方の息子は、股間の息子がパイルダーオフされた状態でありますけれども、元気に異世界にて生きております。

 ただ、もし可能ならばちょっとお願いがあります。

 

 ローラの門を越えてちょっとしたら出てくるマンドリルのエンカウント率について、ちょっとばかり製作者に苦情を送って頂けないでしょうか?

 

 

「これは、キリがないな……アレン、大丈夫か?」

 

「さすがに、苦しいか……な!」

 

 

 飛びかかろうとしていたマンドリルの目をギラで焼きつつ、毛皮と筋肉に覆われたその首を勢いよく切り裂いてアレンへ声をかければ。

 そこには何ということでしょう、マンドリルの突進を真正面から盾で押さえつけるどころか跳ね返した上に。

 たたらを踏んで無防備になったマンドリルを、新品の特製鋼の剣で上下真っ二つにぶった斬る脳筋がそこに居ました。

 

 コレがマンドリル2匹だけならとっくに終わる話であるが、既にあちらこちらに息絶えたマンドリルの死骸が転がってる現状を見ればわかるように。

 次から次に、押し寄せるマンドリルをアレンと背中合わせになりつつ凌いでる状況です。どうしてこうなった。

 

 ただまぁ、せめてもの救いはと言えば。

 

 

「喜べアレン! どうやら敵さんも品切れのようだ、気合を入れろ!」

 

「わかったよ、クッキー!」

 

 

 目に見えて数が減ってきたマンドリルに気付き、声を張り上げて士気を鼓舞すれば背後からは頼もしい応答が返ってくる。

 実にいい、冒険してるって感じが凄く良い。

 正直、割としんどいし体力尽きる一歩手前だがな!

 

 しかしアレだね、画面に入りきらないという理由で4匹しか出なかったマンドリルだけど、実際はこんなんなんだね。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、何とか二人とも脱落することなくムーンペタへ到着。

 血塗れ泥まみれな俺とアレンに門番はぎょっとするも、通せんぼすることなく宿屋の場所まで教えてくれました。 マンドリルの事言うと凄く同情されました、クソが。

 

 

「……正直路銀や補給の問題もあるから、マンドリルから毛皮なり剥ぎ取りたかったところだが。無理だったな」

 

「クッキーってなんで王女なのにそんなにワイルドなのさ……でもしょうがないよ、次の大群が遠くに見えたし」

 

「わかっている、だが勿体なくてな。 殺した以上その死骸には責任を持つべきだ」

 

 

 主に懐事情やドロップアイテムって意味でな! 倒したモンスターがお金に変わるなんて都合の良い事はなく、その死骸を金銭に変えないといけないのだ。

 きっとドラクエのゴールド入手の理屈は、そのプロセスを簡略化していたに違いない。多分。

 

 王族だから路銀の心配は無用? そうかもしれないが、何事も備えあれば憂いなしなのだ。

 

 

「ともあれ、だ。折角宿屋を教えてもらったしとっとと部屋を取って、湯を借りよう……どうした? アレン」

 

「いや……殺した責任、って考えたことなくてさ」

 

 

 隣を歩いていると思っていたアレンが立ち止まり、何やら考え込んでいるので振り返り問いかけてみれば返ってくる言葉。

 まぁそりゃそうである、この世界に産まれて今までの間そんな事考える人間には会った事ないし。そもそも魔物は畑や命を狙う害獣だし。

 

 

「俺はそう思っている、それだけさ。アレンはアレンが思うようにすればいい」

 

「……それでいいのかな? 仲間なのに」

 

「仲間だけども、別の人間だ。考えなど人それぞれさ」

 

 

 強きを挫き、弱きを助ける。まっすぐすぎる男の子には色々と拗れた転生者の言葉は毒だったようだ。失敗失敗。

 まぁ、そんな事より今は宿だ宿。そしてお風呂だ。

 

 が。

 

 

「申し訳ありません……ただいまお部屋が殆ど埋まってまして、お部屋を一つしかご用意できないのですが……」

 

「む、そうか。まぁいい「ちょっと待って?!」……む?」

 

 

 門番に教えてもらったそれなりに大きくよさそうな宿へチェックインしようとするも、女将さんに申し訳なさそうに頭を下げられる。

 だがまぁ、路銀の節約にもなるしまぁいいかと思ってOKしようとしたらアレン渾身の待ったである。

 

 

「アレン、何故止める?」

 

「何故も何も! 僕は男、君は女。わかってる?!」

 

「わかってる、理解した。 だが部屋が埋まってる以上しょうがないだろう。血と泥に汚れたまま町の中を闊歩するわけにもいくまい?」

 

 

 アレン渾身の説得判定、だが残念俺の意志を変えるには達成値が足りなかったようだ。

 てか正直とっとと体を清めたい、切るのもなんか勿体なくて伸ばしてる髪の毛にも血脂が付着して正直気持ち悪い。

 なので、申し訳ないがアレン。君の抗議は却下する。

 

 

「というわけだ女将、その部屋で頼む。後すぐに湯を用意してくれると有難い」

 

「畏まりました。何泊されますか?」

 

「ふむ……2泊ほどでいいよな?」

 

「いいです……」

 

 

 そんなわけで女将へ向き直り、粛々と手続きを進め……アレンへ顔を向け宿泊期間を尋ねてみれば、力なく項垂れつつぼんやりと返答。

 俺との相部屋がそんなに嫌なのか、少し傷付くぞ。なんか小声で頑張れ僕、耐えれるだろアレン。とか呟かれてるのが悲しい。

 

 ところで女将、何故そんなに微笑ましそうに見ている? どちらかというと俺の心は若干萎れ気味なのだが。

 

 

 まぁそんなことはどうでもいい、と自分に言い聞かせつつ部屋へ案内され……ちゃっちゃと装備を外し。

 そうしてる間に、女将が気を利かせてくれたのかすぐにお湯の入った盥を従業員が持ってきてくれる。こういうの、凄く好感度高いよね。

 

 そのまま衣服を脱ごうとして、同じように装備を外しているアレンへふと目を向け。目を逸らされる、解せぬ。

 ともあれだ、俺は学習する出来る子なのだ。この前の勇者の泉のようなうっかりは今後ないものと思って頂こう! などと考えながら決め顔をしつつ。

 

 

「すまないアレン、先に湯で体を拭かせてもらってもいいか?」

 

「あ、うん。いいよ!」

 

「それと、気を遣わせて申し訳ないが背を 「向けておくよ!」 ……ありがとう」

 

 

 踵を支点に華麗に180度体の向きを変えたアレンの動きに感心しつつ、

 お言葉に甘え、しゅるりと音を立てつつ布鎧を脱ぎ。汗で体に張り付いた全身タイツ状の鎧下も脱ぎ去る。

 脱ぎにくいけども、地味に高性能なこの鎧下は耐衝撃性と防寒防熱に優れた一品なのだ。若干ムレるから水浴びや風呂が恋しくなるという問題点もあるが。

 

 そして、下着をはらりと脱ぎ、チャプリとタオルを盥のお湯につけて軽く絞り体を拭い始める。

 男相手にどうこう、という気は毛頭ないがエチケットはとても大事。共に冒険をするアレンに不快な想いをさせるのも忍びないので、髪の毛も含めしっかりと体を清める。

 ふと気になり、ちらりとアレンに視線を向ければ、とりあえず服だけでも着替えたアレンがこちらに背を向けつつベッドに腰かけていた。

 何やら悩みがあるのか、両手を頭を抱えて何やら唸っているが、きっとその内相談をしてくれるだろう。多分。

 

 多感な青少年にとって、この体は色々と毒? そういえばそうだった、いやしかし待ってほしい。

 ここまでそれなりに旅を続けてきた仲だ、もうそんなのはない筈だきっと。 間違いない。

 

 

「……ふぅ、サッパリした。贅沢を言うならば湯に浸かりたいところだが、それは高望みしすぎだな」

 

「クッキーって、節約家かと思ったら変なところで贅沢したがるよね?」

 

「いいかアレン、節約家はな。ここぞというところで贅沢したいから金を貯めるのだ」

 

 

 技術が発展したとはいえ、お湯に浸かるというのはまぁ中々に贅沢なこの世界。

 大体は水浴びで済ませるのが大半である、俺の場合はギラを使ってでも湯に浸かるがな! まぁしかしここで呪文で火を出すわけにもいかないから自重するのだ。

 

 

「ともあれ、だ。すまない、もうこっちを向いてもいいぞ」

 

「い、いや。ちょっと考えごとあるしさ、しばらくこうしてるよ」

 

「? そうか、では俺は湯の交換を頼むついでに、武器屋に武具の手入れを頼んでこよう。アレンの装備を貸してくれ」

 

 

 すぱっと着替えを済ませ、何やらもぞもぞと座りが悪そうにしているアレンへ声をかければ、不思議な返事。

 まぁ彼にも色々あるのだろうと結論づけ、自分の装備が入った軽めのずだ袋と中々にずっしりとくる重量のアレンの装備がはいったずだ袋を両腕に抱えて部屋を出る。

 

 俺が部屋を出た瞬間、何やら壁に打ち付ける音がしたがまぁきっと聞き間違いだろう。

 

 

 そんなこんなで女将に湯の交換を頼みつつ宿を出、若干重量に汗をかきつつ武器屋に装備を預け。

 さぁいざ消耗品の補充、の前にちょっとばかし野暮用を済ますとする。

 ソレは……。

 

 

「え? 野良犬?」

 

「ああそうだ、ムーンブルクの城が陥落した頃から増えた野良犬に心当たりはないか?」

 

「そうは言ってもなぁ…………」

 

 

 犬姫、ならぬムーンブルクの王女(現職業野良犬)の捜索である。

 ちょっと町の外に出たら魔物、特にマンドリルに襲われるような状況下において彼女をそのままにするのはさすがに忍びない。

 まぁ、うん。もしかすると回避できたかもしれないムーンブルク滅亡を、結局防げなかった罪悪感があるのも否定しない。

 

 

「うーん……あ、もしかすると町のはずれの爺様のところに住み着いたアイツかな?」

 

 

 あちこちに聞き込みを続けた末に、ようやく有力情報ゲットである。アレンよほったらかしにしてスマン、代わりにお前の未来の嫁を探しておくから許してほしい。

 詳しく聞いてみると、どうやら昔ムーンブルク城で近衛兵をしていた老人の家に住み着いていると聞けたので、さっそく足を運んでみる。

 

 

「このような老いぼれに、なんの用かの?」

 

 

 そして辿り着いた家の老人は、すさまじく偏屈そうなご老人でした。

 その目は猜疑心に満ちた目をしており、嘘偽りを許さないとばかりにギラついている。

 

 

「急な訪問申し訳ない、野良犬を探していてな」

 

「……何故か、聞いても?」

 

 

 俺の言葉に、俺を油断なく睨み始める老人。その反応が既に何か知っていると言ってるようなものである。

 しかし俺が超絶不審人物である事もまた事実。

 

 

「名乗り遅れたな、俺はクッキー。 サマルトリアの第一王女にて、ローレシアの王子であるアレンと共にハーゴン討伐の旅をしている者だ」

 

「……嘘は、ついてないですな」

 

 

 俺の名乗りに一瞬目を見開くも、俺を険しい表情で睨む老人。しかし俺の鉄面皮が微動だにしない事から溜息を吐き、認めてくれる。

 ありがとう鉄面皮、実は若干内心びびっていたが君のおかげでごり押せた。

 

 

「中へ入って下され」

 

「うむ、失礼する」

 

 

 老人に促され中へ入ると、すぐに扉が締められ鍵がかけられる。

 すさまじい警戒具合だが、同時にここにムーンブルクの王女(現職業野良犬)が居る可能性がぐんと増したな。

 

 

「しかし、何故わかったのですかの?」

 

「目を見ればわかる。 というのは冗談だがな、ムーンブルク城陥落の後に増えた野良犬、それが住み着いているのに追い出そうとしない元ムーンブルク城の近衛兵。 状況証拠としては十分だろう?」

 

「……恐ろしい方じゃ」

 

 

 老人に促されるまま決して広いとは言えない家の中を進み、部屋の扉を開けると。

 そこには、ふっかふかの犬用ベッドとも言うべき物の上で丸まり、寝息を立てている可愛らしい犬がいた。

 時折身を清められているであろうその犬は、薄汚れている様子もなく。むしろ寝ているというのに気品すらも身に纏わせていた。

 

 

「……プリン王女」

 

 

 俺の言葉に寝息を立てていた犬の耳がピクリと動くと、その目を開いて俺へ視線を向け……億劫そうに寝入ろうとして、俺の顔を二度見した。

 実に人間臭い反応である。

 

 なお、余談だが俺は技術交流という名目で何度かムーンブルク城へ使節として強引にお邪魔しており、その際にプリン王女とも知己を結んでいる。

 最初は得体のしれない不思議生物扱いされていたが、何度も交流をする内にそれなりに懐いてくれた可愛い妹分でもあるのだ。

 ……実の妹のように、淑女とは何か。を懇々と説教してくるところまで妹的じゃなくてよいとも当時は思ったが、それも今や良い思い出かもしれない。

 

 

「随分と、可愛らしい姿になってしまったな。だが安心してほしい、すぐに君を人間に戻そう」

 

 

 勢いよく立ち上がり、尻尾をぱたぱたと振りながら走り寄ってくるプリン王女の前で膝をつき、そっと優しく抱き上げてその小さな体を撫でる。

 ムーンブルク王は良い人だった、ムーンブルク独自の製鉄技術や鋳造技術も、同じロトの子孫だからと遠慮なく教えてくれた。

 ソレだけじゃなく、人間として。そして執政者としても立派な方だった。  父も立派じゃないわけではないが。

 ムーンブルク城で働く人々も良い人達だった。練兵場に乗り込んだ小生意気な小娘だった俺に嫌な顔することなく稽古をつけてくれた。

 

 決して、ハーゴンのような薄汚れた狂信者なんぞに、惨たらしく殺されて良い人達ではなかった。

 

 

「絶対に君を戻すことを誓う、だから待っていてほしい」

 

 

 気が付けば顔が強張っていたのか、俺の頬をぺろぺろと舐めてくるプリン王女の頭をそっと撫でて降ろし。立ち上がる。

 

 

「老人、ラーの鏡について知っていることは?」

 

「何故、秘宝であるラーの鏡まで……いえ、今は良いでしょうな。  ムーンブルク城から遠い東、かつて昔築かれた橋梁を幾つも超えた先の沼地に沈められております」

 

「……なんでまたそんなところに?」

 

「真実を映し出すと言う事が、決して良い事だけではないですからの……じゃが、こうなった今はすぐに手に入れられない状況が口惜しいですじゃ」

 

 

 大きく深呼吸し、自分らしくもない憎悪と怒りに染まりかけた思考を切り替え。老人へダメ元で聞いてみれば、まさかの有力情報。

 しかし、やっぱり予想通りな場所に思わず突っ込んでみれば、しみじみと意味深な答えを返される。 まぁ色々とあったんだろう、きっと。

 

 だがまぁともあれ情報ゲットだ、というわけで。

 

 

 

 

 

「コレがラーの鏡か、毒の沼地に沈められているから探すのも困難かと思ったが。すぐに見つかったな」

 

「ぜぇ、ぜぇ……そうだ、ね……」

 

 

 ムーンブルク城から遠く離れた東、何泊もして辿り着いた沼地にてラーの鏡をサクっとゲットである。

 マンドリルフィーバーもなく、問題も特に起こらなくて万々歳である。

 

 途中の川で水浴びした際、アレンの警戒をすり抜けてきた魔物がいたせいで全裸で魔物をしばき倒す羽目になったが。大した問題ではない。

 勇者の泉に引き続き、アレンに全裸を見られたが大した問題ではないのだ。繰り返す、大した問題ではないのだ!

 

 

「まぁアレだ、俺の裸を見た代金と思ってくれ」

 

「クッキーってさ、中々に鬼だよね……」

 

 

 今回の鏡捜索の際、アレンを酷使したが俺は悪くないのだ。

 そんなワケで目的のブツも手に入れたので、苦笑しつつ疲れ果ててるアレンの腕をそっと掴むと覚えたてのルーラでムーンペタまで飛び。

 旅の汚れと疲れを宿で落としてから、老人とプリン王女が待つはずれの家へ到着。

 そして。

 

 

「プリン王女。映すぞ」

 

「本当に、犬になってただなんて……」

 

 

 ラーの鏡をしっかりと掴み、行儀よくお座りしているプリン王女を鏡に映す。

 その背後で、ハーゴンの所業に怒りを再燃させたのか。アレンが俺に聞こえるほどに硬く拳を握りしめている、真っすぐな彼の性格と生き様がまぶしい今日この頃である。

 

 そんな俺の内心は横に置き、鏡に映されたプリン王女の姿と……ラーの鏡が眩しく輝き始め。

 手の中のラーの鏡が砕け散った瞬間、室内を光が満たす。

 そして、その光が止んだ部屋の中には。

 

 

「私、戻れた……? 人間に、本当に戻れたの……!?」

 

 

 紫色の長い巻き毛な髪の毛が特徴的な、とても可愛らしくて美しい少女が立っていた。

 全裸で。

 

 

「っ……!?   きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「お、おおぅ!? 見るな、アレン!?」

 

「トンヌラ?!」

 

 

 感無量に目に涙を溜めていた顔から一転、顔から火を噴きそうなほどに真っ赤な顔になったプリン王女が両手でそのつつましいい小ぶりな胸を隠ししゃがみ込むのと同時に。

 茫然としていたアレンへ、渾身の目潰しを会心の一撃した俺はきっと無罪だ。

 

 可愛い少女の裸身に、アレンが目を奪われたことにむしゃくしゃなんてしてないのだ。




【人物紹介】
ムーンブルクの王女:プリン
 冒険スタート時点で亡国の姫君という中々にハードな状況のお姫様。
 フリーダムなクッキーが色々とムーンブルクと交流をした関係で、クッキーとは知己の仲であり親友である。
 彼女にとって、クッキーは手のかかる淑女失格王女であると共に、自分にはできない活発なことをやりたい放題やる眩しい親友でもある。
 
 在りし日のムーンブルクを共有できるクッキーは、彼女にとって救いでもある。


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サマルトリアの第一王女にTS転生した俺が雌堕ちする話・転

少しだけ雲行きが怪しくなりつつ、段々とクッキーに変化が出てきます。
果たして彼、ならぬ彼女の未来はどうなることやら。 雌堕ちは確定なんですけどね!

それと、本作はドラゴンクエスト大辞典的なサイトに大変お世話になっております。
なので、原作やリメイク版、小説版やゲームブック版の設定の美味しいとこどりしてるという節操の無さっぷり。
ひでー話である。


 

 こちらの世界のお父様ことサマルトリア王、お元気でしょうか?

 不肖の娘こと、クッキーはハーゴンぶっ殺しツアー一行に新たな仲間を加えました。

 新たなニューカマーの名前は、亡国となってしまったムーンブルクの姫ことプリン王女です。

 アレンのような、最近人外の領域に足を突っ込み始めた膂力どころか、俺にも腕力と体力で負けちゃってる彼女ですが……。

 その呪文の破壊力に効力は折り紙付きです、なんせ彼女のバギはマンドリルを易々と駆逐します。頼りになると同時に、俺の鍛錬なんだったんだろうと思う今日この頃です。

 

 色々と尽きぬ言葉はありますが、地味に忙しいのでこのぐらいにしたいと思います。なんせ……。

 

 

「アレン! そっちにいったぞぉ!」

 

「わか……うわぁ、早いっ?!」

 

「きゃぁ、ちょっとコイツ私のスカートにぃぃぃ!?」

 

 

 なんやかんやの末に、ムーンブルク東の方にある塔で風のマントもゲットしたので、ドラゴンの角と呼ばれているムーンブルク西にある塔へ向かっている途中だったのだが。

 銀色に光るあいつを見つけたので、なんとなく袋叩きにしてみたらあら不思議。一気に強くなる不思議現象が我らに発生したので……。

 

 我らがハーゴンぶっ殺しツアー一行はただいま、メタルスライム狩りの真っ最中です。

 そう……経験値の概念が未だにふわっとした状況ですが、狩れば狩るほど力量が伸びてくのが実感する不思議生命体なメタルスライムです。

 

 

「この、スケベ金属め……ひゃぁぁっ?!」

 

「クッキー?!」

 

「こ、こんの外道がーーーー!」

 

 

 狩られてはなるものか、と必死に逃げ回るメタルスライム。こいつ変な知恵つけたせいか……。

 俺やプリンの体をすれ違いざまに這い回っては逃げ回るという高度なプレイをかますようになってきてます。

 気のせいかにやついた面をさらにだらしなくさせたそいつは、プリンの太ももを這い回った後。ぶっ殺そうと近付いた俺へターゲットを変更。

 

 殴るとクッソ激烈に硬いくせに、その体をうにょんと変形させ俺のブレストプレートと布鎧の隙間に飛び込んでくる。

 迎撃しようと細身の剣を突き出すが致命打を与えるには至らず、そのまま潜り込んだそいつはブレストプレートの内側で好き放題体を変形させ……。

 ダメージに至らない程度の刺激に、大変不本意ながら甲高い悲鳴を俺は上げてしまう。

 

 そんな俺の様子にアレンは唖然とした後怒りを顔に滲ませ、プリンは乙女の仇敵とばかりに憤怒のオーラをその身に纏う。

 無論、俺もヤラレテばかりではない。

 

 

「この、クソッタレがぁぁぁ!!」

 

 

 右手に剣を硬く握ったまま、左手で鎧の留め具を外し。時折上げそうになる声を抑えながら、ひんやりとしたツルツルのメタルスライムを引っ掴み。

 火事場の馬鹿力とばかりに全力で引きはがす、何やらベリって音がしたが痛みはないので皮膚が剥がれたりはしてないから問題はない。

 

 そのまま不届き者をフルパワーで地面へ叩きつけ、その次の瞬間。

 プリンが手に持った杖の石突部分を鋭く深くメタルスライムへ突き刺し、動きが止まったソレにアレンの会心の一撃と言わんばかりの唐竹割を叩き込む。

 その結果は、見事なまでな真っ二つだ。さすがハイパー脳筋勇者である。

 

 

「……取り乱したな、すまない」

 

「気にしないでクッ…………ちょ、ちょっと早く隠しなさい!」

 

 

 軽く咳ばらいをしつつ仲間達へ頭を下げるも、あんなの乙女の敵よぶっ殺し上等案件だわとプリン王女は軽く手を振りながら苦笑いを浮かべ……。

 次の瞬間、目を見開き俺を指さしながら大声を上げる。

 そういえば何やら胸元がスースーするなぁ、と思いつつ指を差された場所を目で追ってみると。

 

 大きくたわわな胸がふるんっと揺れ、その先端にある桜色の突起すら丸見えとなっていた。

 どうやら、勢い余って張り付いていたスライムを布鎧や鎧下どころか、下着ごと引きはがしていたらしい。

 

 

「…………え、ええと……」

 

「男は見るなぁ!!」

 

 

 視線を再度上げてみれば、気まずそうに目を逸らすアレン。どうやらバッチリ見られたらしい。

 そんな彼に、小柄なプリンがギャンギャンと威嚇する子犬のように両手を振り上げながら怒鳴り倒している。

 

 なんかこう、作為的なものを感じるラッキースケベであるが、であるが。

 

 

「……むぅ」

 

 

 なんだか妙に気恥しくなって、左手で胸元を隠しつつぺたんとへたり込んでしまった俺は、間違ってはいない筈だ。うん。

 あ、プリンの怒りの鉄拳が言い訳にならない言い訳を続けてたアレンの頬にめり込んだ。

 

 

 ともあれ、なんだか狩りを続けるという気分でもなくなったし、とっとと野営に入る我らが一行。

 勿論さっさと着替えたぞ、さすがの俺も素肌にブレストプレートを纏うようなビキニアーマーじみた格好は御免だ。

 

 

「……ねぇクッキー」

 

「む、どうした?」

 

 

 おばけネズミの腿肉と、下処理したタホドラキーの肉を手早く調理する俺に声をかけてくるプリン。

 しっかりとした淑女教育を受けていたプリンは料理もそんなに得意ではないので、パーティの料理担当は相変わらず俺である。

 

 

「アナタ、ちょっと無防備すぎ」

 

「無防備? いや確かに今日は醜態を晒したが、警戒はしっかりしてるぞ? ああアレン、この腿肉を焦げない程度に焚火で炙ってくれ」

 

「そういう意味じゃないわよ、淑女としてって意味よ」

 

 

 肉の準備が出来たので、手際よく山菜とムーンペタで仕入れた日持ちする野菜を入れたシチューの用意をする俺を……ジト目で見てそんなことをのたまうプリンである。失礼な。

 だが、戦闘的な意味合いではどうもないらしいその物言いに。俺はただ首を傾げるばかりである。

 

 

「そう言われてもなぁ……」

 

「はぁ……まぁそこがクッキーらしさでもあるんだけども、アナタの妹もこの様子じゃ苦労してそうね」

 

「うむ、何故か知らんが似たようなことを言われてはよく溜息を吐かれたぞ!」

 

「胸を張って言うなぁ! 何よその大きく揺れる胸、嫌味なの!?」

 

 

 重い溜息を吐くプリンの言葉を、えへんと自信満々に胸を張って肯定してみれば。うがーっと叫んで突っ込みを入れてくるプリン。 解せぬ。

 そしてふと視線を感じた方を見てみれば、アレンがさっと目を逸らしていた。 不思議だ。

 

 

「いいクッキー、男はケダモノなのよ?」

 

「ケダモノなのか」

 

「そうよ、ましてやクッキーは黙ってればスタイル抜群で美人なんだし。 そこのアレンもちらちら見てるのよ?」

 

「まぁそうかもしれんが、俺なんぞに言い寄る男など居ないさ……それにアレンは仲間だし、大丈夫だろ」

 

 

 懇々と説教を受ける俺、そしてその言葉に対して口答えをしてみれば……サマルトリアに残してきた愛しき妹のように目を吊り上げていくプリン。

 思わずアレンへ助けを視線で求めてみれば、複雑そうな曖昧な笑みを浮かべられて腿肉焼きに専念された。 なんてこった。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、3人仲良く和気藹々と旅を続け到着するはドラゴンの角。

 2階以降のフロアの中央部が空洞になっており、外側の縁を歩きながら上層へと歩を進め……。

 時折襲い来る、かぶとムカデやまどうしはアレンの剛剣で脳天から真っ二つに叩き割られ。

 ふよふよと漂い襲ってくるメドーサボールは、中央の目を俺の細身の剣で刺し貫かれ。

 群れを成して襲ってきたリビングデッド達は、プリンのバギによって永遠の眠りへと就かされていく。

 

 そして。

 

 

「ここから、風のマントで向こう岸に跳べるんだね」

 

「そのようね、さ。行きましょう」

 

「ま、待て。少しだけ心の準備をさせてくれ」

 

 

 最上階へ到着した俺達は、向こう岸へ渡る準備を始める。

 アレンは手際よくマントを外すと、翼じみた意匠の風のマントを装着し。彼の逞しい左腕に、プリンがぎゅっとしがみつく。

 いやぁ、何のかんの言って仲良いよなぁこの二人。良きかな良きかな。

 

 

「何怖がってるのよクッキー」

 

「こ、こここ、怖がってなんかいないぞ?」

 

 

 にやぁ、と悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらを見てくるプリン。 失敬な!

 ただこう、ファンタジーなドラクエ2世界に転生してそれなりに経つが。これはその、なんかこう、違うだろ! 度胸試しってレベルじゃないだろ!

 

 

「クッキーが冷や汗をだらだら流してるの、初めてみたかも」

 

「でも、顔はいつものすまし顔なんだから。ある意味凄いわよね」

 

「も、もう少しだけ待ってほしい。そう、ちょっと大きく深呼吸をして気持ちを整えるから」

 

 

 そんな俺が愉快なのか、朗らかに笑うアレン。笑ってないで助け船を出したまえ! 仲間だろう!?

 

 

「埒あかないわね、アレン。やりなさい」

 

「なんでプリンが仕切るのさ? けど、しょうがないよね」

 

「ま、まて、まてまてまてまてぇ!?」

 

 

 左腕にプリンをしがみ付かせたままアレンがのっしのっしとこちらに近づいてくる、まって。ねぇ待って。

 ああそうか、アレンに接近される魔物ってこんな気持ちだったんだね。そりゃ硬直して隙晒す魔物も出るわ。

 って、そんな事考えてたら小脇に抱えられてるぅぅぅぅ!? 逞しい腕で身を委ねたくなる安心感あるけど、ちっとも有難くねぇぇぇぇぇ!

 

 

「じゃあ、行くよ!」

 

「れっつごー!!」

 

「ま、待て!待ちたまえ!! 今度の食事は野菜少な目にしてアレンの好物を多めに……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

 

 助走を始めるアレンを必死に小脇に抱えられたまま制止する、が。ダメ!

 そのまま彼は勢いよく塔の縁を蹴り、風になった。  俺とプリン諸共。

 

 

 結論から言うと、向こう岸には無事到着出来た。

 だが、俺の威厳は若干死んだ。 主に、必死な醜態を晒した的意味で。

 

 

「……ふ、ふん。なんだ、思ったより快適だったじゃないか」

 

「クッキー、アナタ。めっちゃ膝笑ってるわよ」

 

「あの時の必死な様子、ちょっとかわいかったかも……」

 

 

 向こう岸につき、いつもの鉄面皮のまま腕を組み俺は勝利宣言。

 背後でプリンとアレンが何やら言ってるが、聞こえないったら聞こえないぃ!

 

 

 そんなわけで、道中からかわれつつ無事ルプガナへ到着する我らハーゴンぶっ殺しツアー一行。

 ちなみにアレンとプリンには、晩御飯の献立できっちり報復済みである。

 

 

「さて、ここはどうやら随分と港の規模がでかいようだな」

 

「そうみたいだね、なんだろあのでっかい腕みたいなの?」

 

「アレはクレーンって言うらしいわ、人では持てない荷物とか船から降ろせるらしいわよ」

 

 

 町へ踏み入ってみれば、中々に賑やかで人の往来が激しい町である。

 そんな中で一際威容を放っているのが、港の方に見える幾つものクレーンである。アレどんな動力なんだろうね。

 

 色々と興味深いが、まずは旅を続けるために船の調達……の前に宿探しである。

 ……だが、しかし!

 

 

「そっちはどうだった?」

 

「ダメ、全滅」

 

「そっちもか……」

 

 

 3手に別れ、宿を確保しようとするも。見事に空振り。

 丁度大きな船が入港した関係もあって、軒並み宿屋がいっぱいという悲しみである。

 

 

「いっそ門番に話を通したうえで、町の外で野営するか……そういえばアレンは?」

 

「まだみたいね、野営するかどうかは。アレンの成果待ちましょう」

 

「それもそうだな、出来ればゆっくり休みたい……ん?」

 

 

 二人して雑踏から離れた脇道で溜息を吐いていると……。

 人ごみの喧騒に何やら異常が見える。

 

 

「? ケンカかしら?」

 

「わからん、だが行ってみるぞ」

 

「しょうがないわねー、まぁ怪我した人がいたらホイミくらいかけようかしら」

 

 

 というワケで喧騒に乗り込めー。とばかりに小走りで向かう俺とプリン。

 人混みをかき分けるごとに、周囲から聞こえる声や様子が逼迫したものへ変わっていき。

 ようやく辿り着いたそこで起きていたのは。

 

 

「ケケケケケケ! シネェ!」

 

「くっ……!」

 

 

 民家がひしめく中の裏路地、そこで2匹の羽が生えた小悪魔……確かグレムリンとやらに襲われているアレンだった。

 一気に斬り伏せようとするも、どうやら背中に庇っている町娘のせいで動くに動けないらしく。

 

 そんなアレンを、二匹の魔物が嬲るように襲い、悪意を好き放題ぶつけていた。

 

 

「プリン!援護を!」

 

「任されたぁ!」

 

 

 仲間を、どす黒い悪意を以って傷つけようとする魔物の姿に、思考が怒りに染まるのを自覚しながら。

 奇襲も何もかも投げ捨てて、大声でプリンに指示を出しながら細身の剣を抜いてグレムリンの一匹へ斬りかかる。

 

 

「グェッ?!」

 

「くそっ、浅いか!」

 

「クッキー?! なんでここに!?」

 

「騒ぎになっていたから、野次馬にきただけさ!」

 

 

 たまらぬとばかりに空へ逃げたグレムリンへ、プリンがすかさずバギを叩き込み切り裂くのを横目に見ながら。

 闘いによって出来たであろう傷に塗れたアレンへ、ホイミをかける。

 

 俺の攻撃によって傷を負ったグレムリンはプリンのバギによって、その命を散らした。

 即ち。

 

 

「グギ、グギギギ。 ボク、ワルイグレムリンジャナイヨゥ」

 

「そうか、だが死ね」

 

 

 我らハーゴンぶっ殺しツアー一行が揃った今、一匹程度の魔物敵ではないのである。

 

 そんなワケで、消化試合気味にグレムリンを袋叩きにした俺達は今何をすべきかと言えば。

 

 

「で、なんでまた宿屋のなさそうな住宅地にアレンはいるんだ?」

 

「まぁ、うん。結果的にあの人助けれたから良かったけども」

 

 

 どうしても不思議な疑問を、アレンへぶつける事である。まぁ人命救助に繋がったから糾弾とか詰問ではないのだが。

 だが、俺達の疑問に何故かアレンの返事は煮え切らない。何故だろう。

 

 視線をさ迷わせつつも、何かを気取られまいとするアレンに釈然としない俺はなんとなく周囲を見回す。

 そして、ふと気付いたのだ。

 

 

 ひっそりと、民家のような形をした何らかの店から。おっかなびっくり顔を覗かせているうさみみバンドを付けた女性に。

 そのまま、俺はツィーと視線を動かし。看板らしきものを探せば、よくよく見ると発見。そこにあったのは。

 

 

 『ぱふぱふ屋』という文字であった。

 

 

「……まぁ、うん。君も男だし色々あるのだろう、うん。すまなかった」

 

「? どういうこと? クッキー」

 

「な、ななな、なんでもないよプリン!!」

 

 

 腕を組み嘆息する俺、恐らくだが宿の場所の聞き込みをしてる間に、その手のお店の事を誰ぞに吹き込まれたのであろう。

 まぁしょうがない、もはや残り滓程度しか残ってない俺の中の男の子が。見逃してやってほしいと、助命嘆願をしているし。

 

 だがこう、何故かもやもやする。凄くもやもやする。

 ついでに、アレンの背後に庇われたままの娘が。アレンへ熱を帯びた視線を向けているのも、なんか凄くムカムカする。 非合理的である。

 

 

「…………はぁ、まぁいい。そちらの娘さんを家に送った後宿を探すぞ」

 

「……ごめん、クッキー」

 

「何故謝る? 俺は別に怒ってはいないぞ。そうだ、俺は怒っていないとも」

 

「いやそれ、怒ってるって言ってるようなものじゃない」

 

 

 腕を組み、指でトントンと腕を叩いて熟考を重ね。宿探しをほっぽってぱふぱふ屋という名の夜の宿を探索していたアレンへ無罪判決を下す俺。

 そんな俺に対して、何故か恐る恐るといった具合に謝るアレン。何故だ。

 プリンもまたジト目で俺を見てくる、何故だ。 まぁ知識豊富であれど、初心な彼女にぱふぱふ屋について言う気はないが。

 

 

「あ、あの……宿をお探しですか?」

 

「え? うん、そうなんだけど……中々空いてる宿屋がなくて」

 

「それならば、お仲間の方と一緒に……是非家へ来て頂けませんか? 祖父ならきっとなんとかしてくれますから」

 

 

 そんな中、アレンの背にひっついたままの娘がついついとアレンの袖を引き、彼へ問いかけ……。

 アレンから返された言葉に、娘はパァァと笑顔を綻ばせる。

 

 

「ねぇクッキー」

 

「どうしたプリンよ」

 

「あの娘さ、アレンに……その……」

 

「……っぽいな」

 

 

 そして話の外に置いてけぼりな、俺とプリンはと言えばこそこそと話し合っている。

 どう見ても、娘の目は熱を帯びておりアレンをうっとりと見詰めている。これでそうじゃなかったら、むしろビックリだ。

 

 

「命の危機に助けてくれた王子様だ、そりゃぁそうなるだろう」

 

「まぁ物語でもお約束だけどさ、けどクッキー。やっぱり怒ってない?」

 

「なんだプリンまで。俺は怒ってないしムシャクシャもしていない」

 

 

 ともあれもしかすると、人助けの報酬で宿を借りれるかもしれないチャンスだ。

 是が非でも有効活用すべきである、だからこの話を断るなんて言語道断である。  だけど何故か断ってアレンを引っ張って去りたいのは内緒である。

 

 

 

 まぁ結論から言えば、だ。

 アレンが助けた娘は、ルプガナの町の代表者である老人の大事な孫娘だった。

 そんな孫娘を助けたアレン、そして俺達に老人は涙を流しながら深く深く感謝を述べ……宿だけではなく。

 なんと、大事な商売道具である船まで貸してくれるのであった。  王女の俺が言うのもなんだが、港町の金持ちはスケールも半端ない。

 

 ただ、一つ二つ難点を上げるとするならば。

 アレンがローレシアの王子だと知った老人が、是が非でも娘を嫁にと猛攻勢を隙あらば仕掛けてくるのと……。

 

 

「クッキーさん」

 

「何だ?」

 

「私、アナタには負けませんから!」

 

「…………上等だ」

 

 

 娘さんに、アレンをかけた謎の宣戦布告をされた事である。

 だが、アレンは俺にとっても大事な遠い親戚であると共に旅の仲間だ。

 彼女にとって大事な恋であることは理解した、だがそれとこれとは話が別である。

 

 

 

 プリンなら納得だし俺も応援する、だがしかし、だがしかしだ。

 大人気ないと笑わば笑え……こんな娘なんぞに、アレンは絶対に渡しはしない。

 それぐらいなら俺が…………。

 

 

「……俺がどうするんだろう?」

 

 

 一瞬頭をよぎった思考に、ルプガナの老人から借りた船の上で。

 一人首を傾げる俺であった。

 




【人物紹介】
ローレシアの王子:アレン
 原作主人公にて、ドラクエシリーズ屈指の脳筋勇者である。
 ローレシアとサマルトリアは非常に距離も近く、故に互いに親密な関係を長い年月の間築いてきた。
 そしてそれは、王族同士のパーティについても同様で……幼き頃のアレンは、当時からやりたい放題気味だったクッキーに良く振り回されていた。
 故に彼は知っている、鉄面皮と称されるクッキーが実は面倒見が良く、とても気が利く素敵な女性であると。
 だからこそ、クッキーがしょうもない嫉妬を拗らせてしばらく疎遠になっていた時は、彼なりに何か彼女の怒りを買ったのではないかと気をもんでいたのは、彼だけの秘密である。
 
 幼いころの想い出が想いを発芽させたクッキーは、彼にとって初恋の存在である。
 
 


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サマルトリアの第一王女にTS転生した俺が雌堕ちする話・結

早めに仕事上がれたので、一気に完結編を仕上げました。
無理矢理(未遂)っぽい描写があるので、苦手な方はご注意を……。
TS転生者に女を自覚させるのに、その手しか浮かばなかった実力不足がいるらしい。  私だ。



 さぁ今夜もこの禍々しい黒い霧で満たされた呪い空間で始まりますは、負けたらそこで終わりなナイトメアデスマッチ。

 青コーナーは俺ことクッキーが、今夜も安眠を妨害された怒りに燃えて剣を手に構えております。

 対する赤コーナーは、様々な得物を手に構えた悪魔神官の団体様である。中々の殺意である。

 

 コレがタダの悪夢ならまだよかったんだけどもそうは問屋が卸さない。 

 

 

「ククク……サマルトリアの王女、クッキーよ。 今宵こそは貴様の精神を屈服させてくれる!」

 

「ふん、毎晩毎晩ご苦労な事だ……フンッ!  能書きは良い、とっとと来るがいい」

 

 

 代表者っぽいのが、仮面の奥でくぐもった笑い声をあげると同時に変わり映えのしない口上を述べている。なので。

 手に持っていた剣を全力でそやつの顔面へシュゥゥゥト!超!エキサイティンッ!!

 哀れな代表者悪魔神官の脳天に見事に剣は突き刺さり、そのままお亡くなりになられた。

 

 

「き、貴様?! それでも勇者一行のすることかぁ?!」

 

「黙れ」

 

 

 既に何度も似たような戦術をこっちは取っているというのに、慌てふためいている別の悪魔神官。

 大きく前傾姿勢を取りながら駆け出し、剣が刺さったまま後ろに倒れようとしている元代表者の顔面に突き刺さった剣の柄を掴み。

 そのまま元代表者を蹴倒して手近な悪魔神官へと襲い掛かる。

 

 

「か、囲め! 囲むんだ! あやつはたった一人だぞ!」

 

 

 数で勝っているのを良い事に俺を取り囲み思い思いの呪文や得物で襲い掛かってくる悪魔神官達。 実に狙い通りな動きをしてくれて有難い限りである。

 こいつらを早く殲滅すればするほど、多少であるが睡眠時間が増えるのだ。 とっととぶちのめして殺し尽くすに越したことはない。

 人型であるのを良い事に首をはね、太腿を切り裂いて膝をついた悪魔神官の首を掴んで別の悪魔神官が放った呪文の盾とし。

 

 夢の中のおかげか、俺の心が折れない限りは疲れないのを良い事に片っ端から悪魔神官共を処理していく。

 

 

「そんな……アレだけ揃えたというのに、まだ貴様は屈服しないというのか……」

 

「あの程度の質と量で良くもまぁ言えたものだ。 どうせ貴様らもここで死ねば、相応の損害はあるのだろう?」

 

 

 俺への対策が不十分である事、何度も同じ戦術を繰り返しているのに一向に学習しない事からカマをかけてみれば、言葉を詰まらせる悪魔神官である。

 こいつら邪教にカブレるだけあってピュアっピュアだな。  まぁ、ぶっ殺すけど。

 

 

「く、くそ! ハーゴン様、ばんざ」

 

「煩い」

 

 

 せめて一矢報いんと何やら呪文を唱えようとするが、それよりも俺が最後の悪魔神官の首を斬り飛ばすのが先であった。

 その瞬間、

 

 

 

 

「……きて、起きなさいよ」

 

「むぅ……ムニャ……」

 

 

 ゆさゆさと、聞き覚えのある若い女性の声と共に揺さぶられるマイボディ。

 すまない、まだ寝かせてくれ。 死ぬほど疲れている。

 

 

「最近、朝が弱くなったわねぇ……こうなったら、最後の手段!」

 

「ムニュゥ……ィッ!?」

 

 

 揺さぶる手から逃れようと寝がえりを打とうとする俺、しかし声の主の方が一歩早かったみたいで。

 小さな手が、俺の大きな胸に沈み込む感触と共に力いっぱい握られ……その刺激に寝ぼけた頭が一気に覚醒する。

 

 

「な、なんだ?! ……なんだ、プリンか」

 

「なんだって何よ。 ちくしょう、これが持てるものか……」

 

 

 寝ぼけた頭を覚醒させつつ、ぼけーっとした目で目の前でジト目をしている紫色の髪の毛を持つ少女。プリンを眺める。

 その間もやわやわむにむにと、プリンの手が沈み掴みきれてないマイバストは揉まれている。 とりあえず離したまえ。

 

 俺の無言の視線に我に返ったのか、プリンはバツが悪そうに笑うと朝ごはんの用意が出来ているから早く来るよう言いつつ。部屋から飛び出していく。

 

 

「……ああそうか、そうだったな」

 

 

 時折揺れる室内と聞こえる波音から、今どこにいるかをようやく俺は思い出す。

 現在俺、というより我らハーゴンぶっ殺しツアー一行は……。

 

 世界を船で回りに回っているんだった。

 

 

 

「あ、やっと起きたんだクッキー……大丈夫? なんだか凄いしんどそうだけど」

 

「ん? ああすまない、俺は大丈夫だ」

 

 

 遅い朝食を終え、すっきりしない頭をなんとかしようと甲板へ上がると、鎧の一部をご先祖様である勇者ロトが身に纏っていたものへ変えたアレンが素振りを止め、こちらを気遣ってくる。

 そんな彼に手をひらひら振りつつ近寄り、手近な木箱へ腰掛け……彼が手に持ったままのロトの剣へ視線を送る。

 

 ルプガナを出発後、すぐに東進した俺達はご先祖様が戦いを繰り広げた地であるアレフガルドへ到着し、なんやかんやの末に竜王のひ孫と対面。

 そのまま彼の居城で保管されていたロトの剣を拝借したのである。 強奪や窃盗じゃないぞ、本当だぞ。

 

 

「プリンの話によると、凄い魘されてるらしいけど。本当に大丈夫?」

 

「くどいぞアレン。俺はこの通り健康体だ……夢の中身を覚えてないというのが気味悪いがな」

 

 

 ぐぐっと伸びをして体のコリを解す俺、そんな俺の動きを固まったように見つめてくるアレン。

 ふと視線に気づき自らの体を見下ろしてみれば、ふるんふるんっと元気に揺れてるマイバスト。 どうやら寝ぼけたせいで下着をつけ忘れてたらしい。

 

 

「なんだアレン、これが気になるのか?」

 

「?! い、いやそんなことないよ!いやないわけじゃないけどあるというかないあるというか」

 

「落ち着けアレン。 そうだな……いっそ揉んでみるか?」

 

 

 慌てふためくアレンの様子に、未だ寝ぼけた俺は冗談っぽく笑いながら。自らマイバストを組んだ腕で持ち上げながら、アレンを見やる。

 そんな俺の仕草と言葉に目を見開きぽかんを口を開くアレン。

 

 ……と言うか俺なにやってんの!? これじゃもはや痴女じゃねーか!!

 

 

「……え?」

 

「……すまん、気の迷いだ。忘れてくれ」

 

 

 波音が満ちる空気の中、ようやく言葉を搾り出したアレンの様子に自らのアレっぷりを再認識した俺はそそくさと身をひるがえすと。

 左手で胸を抑えつつ、全速力で自室へと逃げ帰るのであった。 

 

 

 

 

 

 そんな感じに、若干俺とアレンの間がぎくしゃくし始めつつも冒険の旅は続く。

 ついでに毎晩毎晩、仮眠をとったら昼寝の時にもナイトメアデスマッチも続く。 そして、目が覚めれば気怠い疲労感だけが体と心に残る。

 

 どんどん余裕がなくなっていく俺を気遣ってくれるアレンとプリン、しかし俺自身も理由がわからない以上どうしようもない。

 多分コレ、原作であったベラヌールの町でサマルトリアの王子が一時離脱するアレだと思うんだが……いかんせん、目が覚めたら記憶がないもんだからヒントもクソもない。

 

 

 そして、ようやく紋章のすべてを集め……ルビスのまもりを手に入れた日の、久しぶりに立ち寄ったリリザの町の宿へ泊った夜。

 

 

「く、くくく……どうやらさすがの貴様も、疲労を隠せないようだな?」

 

「一国の王女様の夢に毎晩毎晩侵入してくる貴様らの根性には呆れるわ、クソが」

 

 

 俺はとうとう、夢の中で膝をついてしまった。

 戦意は折れていない、怒りも消えていない、だが精神の疲労が既に限界を迎えそうになっていた。

 

 

「ここで貴様を殺し、二度と目覚めない体にしてやるのも一興だが……」

 

「……んだよ?」

 

 

 仮面を被っていてなおわかる、下卑た笑みを悪魔神官の一人が上げながら俺へ歩み寄ってくる悪魔神官。

 ここぞとばかりに、ベギラマを叩き込んでやろうとするが……俺の体はもう満足に動かず、そうする前に腹を蹴られて転ばされる。

 

 

「がはっ……ゴホ、ゴホ……!」

 

 

 律儀に結構な痛みを、夢でありながら与えられた俺は大きくせき込み、地面に這いつくばらせられ……。

 大股に何人もの悪魔神官が俺へ近づくと、無理やり俺の体を引き起こし。両腕を左右側から強く押さえつけられてしまう。

 

 

「ロトの子孫とは思えない無様さだな? クッキーよ」

 

「……はんっ! 細腕の女一人にこうまでしないとどうにもできない貴様らが言えた義理かよ」

 

「……まだ自分の立場がわかってないようだな」

 

 

 俺の目の前に立ち見下ろしてくる悪魔神官の言葉に、怒り冷めやらぬ俺は唾を吐きかけ。

 その仕草に激昂したのか、裏拳で俺の頬が張り飛ばされる。

 

 

「っぐぅ!?」

 

「随分と同胞を殺してくれたものだ、永劫殺し続けても飽きたりんが……貴様には相応の恥辱をくれてやろう!」

 

「……なぁっ!?  クソッ、いっそ殺せ!!」

 

 

 引き起こされたままの俺の胸元を悪魔神官が乱暴に掴み、そのまま思い切り下へ向かって手を下ろせば。

 鎧は勿論、布鎧や鎧下すらはぎ取られ……悪魔神官共の前に下着姿を晒されてしまう。

 顔に血が集まり、熱くなるのを自覚しながら必死にもがき。いっそ殺せと叫ぶが悪魔神官共はただ、ゲラゲラと嗤うだけで。

 

 そのまま成す術もなく、上下の下着すらはぎ取られてしまった俺は。

 悪魔神官共の前に、その裸身すらも露わにさせられる。

 

 

「もはや貴様は永遠に目覚める事はない」

 

「夢の中で永遠に、我らの肉人形となるがいい」

 

「やめ、やめろ……。やめろぉ……!」

 

 

 節くれだった悪魔神官の手が幾つも俺の胸に群がり、乱暴に揉みしだかれ摘ままれ、引っ張られる。

 アレンの手で掴まれたりしたときとは違い、ただ痛く不快なだけのそれから身をよじって逃れようとするが無駄な抵抗にしかならず。

 

 そして俺は目にしてしまう。

 悪魔神官共の股間が膨らんでいる事を。

 まじかよ?やめろよ、洒落になんねぇだろソレ?!

 

 

「は、はなせ! 離せよぉ!」

 

「くはははは! あの勝気な女が泣いて暴れているぞ!」

 

「愉悦よなぁ、実に愉悦!」

 

 

 恥も外聞も投げ捨て、泣き叫びながら暴れもがく俺。

 しかしその行為はもう、悪魔神官共の欲望をそそるエッセンスにしかならず。

 奴らの手が、俺の太ももへ伸び。その付け根すらも弄ぼうとされて。

 

 

「やだ、助けて! 助けてよぉ、アレェェェン!」

 

「ふはははは! 好いた男の名を叫んでも無駄だ!  ここには誰も来やしない!」

 

 

 愉快そうに高笑いをする悪魔神官、そして俺の抵抗も空しく足を無理矢理開かされそうになって。

 

 

 その瞬間、暗い霧に満ちたその空間に眩い光に包まれた柱のようなものた降り立った。

 その光が止んだ、そこに立っていたのは。

 

 

「助けに来たぞ! クッキー!」

 

「うわ最悪、ここまでやるのハーゴン教団……」

 

 

 全身の大半を勇者ロトが残した装備に身を包み、胸にルビスのまもりを下げ……手にロトの剣を固く握りしめたアレンと。

 悪魔神官が俺にしている行為に、心の底から不快に思ったのか悪魔神官共をゴミ屑を見るかのような目で見、いかずちの杖を両手で握りしめたプリンだった。

 

 

「なっ、ローレシアの王子にムーンブルクの王女だと? 何故ここに!?」

 

「……ルビス様がくれたお守りと、ロトの剣が教えてくれた。 クッキーが危ないって事を!」

 

「そう言う事よ、この腐れ邪教徒共。  命乞いは聞かないわ」

 

 

 悪魔神官の問いかけに答え、そのままこちらへ歩みを進めるアレンとプリン。

 やつらにとっても予想外な援軍に、泡を食ったかのように悪魔神官共が二人へ襲い掛かる。が。

 

 憤怒の化身ともいえる二人にとって、一人また一人と虫けらのように悪魔神官共が虐殺されていく。

 

 

「アレン……」

 

「ごめんねクッキー、気付けなくて。 けどもう大丈夫だから」

 

「ほざ、ほざくなぁぁぁぁ!!」

 

 

 茫然と呟く俺に、アレンが穏やかに微笑みながら声をかけてくれる。

 その頼もしさと、助けに来てくれた喜びに……俺は思わず、頬を赤らめ。

 胸の奥が強く高鳴り、下腹部が疼くのを実感してしまう。

 

 

「あらら、二人の世界ってやつかしらね」

 

「隙ありぃぃ!」

 

「残念、ブラフよ」

 

 

 そんな俺達二人をからかうように笑いながらプリンが出した声に、俺は思わず我に返り無性に恥ずかしくなって俯いてしまう。 しょうがないと思う。

 そしてプリンへ踊りかかる悪魔神官だが、ひょいとかわされた末にくるりと回転させたいかずちの杖の石突で、悪魔神官の喉を刺し貫き。

 咳き込み蹲ろうとした悪魔神官の仮面を左手で掴むと、ゼロ距離でイオナズンを発動。顔面どころかその体、ついでに周囲で隙を伺っていた悪魔神官までまとめて消し飛ばす。

 ……さっきまで酷い目に遭ってた俺が言うのもなんだけど、容赦ねぇ……!

 

 

「く、来るな貴様ら! これ以上近寄ると、クッキーの命はないぞ?!」

 

「ぐぇ」

 

 

 そんな具合にアレンとプリンの虐殺風景を眺めてた俺だが、相変わらず左右から押さえつけられており……。

 さらに、ついさっきまで俺に無理やり乱暴しようとしていた悪魔神官もいる、なので。

 

 そのまま人質にされるという大失態、むしろコレはヒロイン的なプリンの役割なのじゃないかと愚考する俺である。

 

 

 だが、二人にとってその程度の悪足掻きはもはや意味を成していないようで……。

 

 

「アレン、完璧に援護するから初恋のお姫様助けてきなさいな」

 

「……うん、お願いプリン」

 

 

 嘆息したプリンがくるくるといかずちの杖を構え直し、三発同時に発動したと錯覚させるほどに早く。そしてピンポイントにターゲットを絞ったギラを発動。

 そのギラは俺を左右から押さえつけていた悪魔神官と、俺の前に立っていた悪魔神官の顔面を容赦なく焼き払い。

 

 その瞬間出来た隙を見逃す事などありえない、アレンが一足飛びに飛びかかると共に。

 3人の悪魔神官を、会心の一撃と言わんばかりに情け容赦なく縦横真っ二つの四分割にする。

 

 

「お待たせ、クッキー」

 

「……遅いぞ、アレン」

 

 

 ぎゅぅ、と俺を抱きしめてくれるアレン。

 先ほどまでの悪魔神官共の拘束とは比べる事すら失礼なほどに、逞しく安心できるその腕と……気が付けば俺よりも頭一つ大きくなっていた彼の。

 逞しい胸板にそっと、頭を寄せ頬擦りする。  うん、しょうがないよね。うん。

 

 

 やがて俺の意識はそのまま薄れていき…………。

 

 

 

 

 目が覚めた時には、そこは泊まり慣れたリリザの町の宿の一室だった。

 ただ、寝る前と違うのは……。

 

 

「うーん……クッキー……」

 

「すぅ……女の敵、デストロイ……」

 

 

 寝てる俺のベッドに寄り掛かるように寝ているアレンと、プリンが居る事と。

 今も幻想的な淡い光を灯らせているロトの剣とルビスのまもりがある事だろうか。

 

 

「……あぁそうか、俺はとっくに、こいつに参ってたんだなぁ」

 

 

 まるで俺の無事を確認して安心したかのように、その光をゆっくりと消していくロトの剣とルビスのまもりを見つつ。

 起こさないように注意しつつ、アレンの兜を外しその黒髪を優しく撫でる。

 

 

「あー、恥ずかしい。凄く恥ずかしい」

 

 

 わしゃわしゃとアレンの頭を撫で続ける俺、くすぐったそうにしてるが我慢してくれ。俺の内心はそれ以上に荒ぶってる。

 頼りになる仲間、幼馴染、女に言い寄られると何故かムカつく男友達。そんな風に考えていたが、どうやら自己欺瞞してたらしい。

 

 

「……俺を堕とした責任、とってもらうからな? 王子様♪」

 

 

 恥ずかしいが、それ以上に何だか誇らしい気持ちに口元をにやつかせつつ。

 寝ているアレンの首へキスをすると、どこか晴れやかな気持ちを抱えたままベッドへ横たわり。

 

 どうやってアレンを誘惑してやろうかと考え……プリンにどう言い訳しようかとも考え。

 まぁいいや、それも含めて明日考えようと目を瞑る。

 

 

 悪夢は、もう見なかった。

 

 

 




【人物紹介】
ハーゴン
 原作の悲劇の原因であると共に、大体コイツのせい。
 原作ではローレシアの王子でも、ムーンブルクの王女でもなくサマルトリアの王子にロングレンジ呪いを飛ばして昏睡させるムーブを披露。
 今回は何故ハーゴンではなく悪魔神官だったか? ソレは……。
 失敗しないよう、まずは試しにと部下の悪魔神官共に呪いをかけさせたら、なんか妙に意固地になってクッキー打倒に燃え始めたから適当に任せたという、しょうもない理由でした。
 なので、今回のクッキー危機一髪はハーゴンは一切関与してません。
 だがしかし、アレンとプリンには殲滅対象として改めてロックオンされた模様。ある意味被害者かもしれない。


--------------------------------------

というわけで、拙作でありましたが本作は完結となります。
ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

本作の流れは……

起:話の起点、主人公説明とクッキーからアレンへの意識(弱)
承:仲間の導入と仲の進展、クッキーからアレンへの意識(強)
転:明確なライバル(使い捨て)の登場、それによる無意識下のアレンへの想いを自覚
結:~そして雌堕ちへ~

こんなイメージで書いておりました。
ただ、改めて見直すとまだまだ改良点多いなぁと反省しきりです。

追伸
本作とは別に、次回作のネタについて活動報告にて呟いております。


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サマルトリアの第一王女にTS転生した俺が雌堕ちした後の話
Lv1


毎日更新は一旦ストップといったな?  アレは嘘だ(多分今回限り
想いを自覚し、枷も柵もすべて振り払ったフリーダムTS転生者は、危険である。


 

 拝啓、お父様ことサマルトリア王。お元気でしょうか? 俺は元気です。

 結構前にお父様が見合い話を持ち込んできたとき、俺は烈火のごとく怒り狂いお父様の毛髪を思いきり引っこ抜いたことがありましたよね。その節は大変申し訳ありませんでした。

 あの時、思いきり男に股を開く趣味は無いなどと乙女にあるまじき事を叫んだこと。今はとても反省しております。

 

 恋って、素晴らしいですね。

 

 

「というワケで、だ愛しき妹よ。 愛するアレンを篭絡するための知恵を貸してくれ」

 

「久しぶりに帰ってきたと思ったらコレだよこの、まるでダメなお姉ちゃん」

 

 

 リリザの町で一泊し、色々と疲労を取ったり補給のために長めの休みと言う事で……。

 俺がアレンにキュン死した夜の翌日、我らハーゴンぶっ殺しツアー一行は今、サマルトリア城へ来ているのだが。

 

 アレンとプリンに部屋で待ってもらい……覚悟完了しつつ、妹へ大真面目に相談しに来たらこの扱いである。 解せぬ。

 

 

「まぁいいや、うん。淑女失格どころか城内でも乙女の形したマンドリルって言われてたお姉ちゃんの春だし、手伝うよー」

 

「待て愛しき妹よ、篭絡の知恵を貸す前にそんな事ぬかしたヤツを教えてくれ。叩っ斬ってやる」

 

 

 思いきり溜息を吐いた後、聞き捨てならない事を言いつつ協力を快諾してくれる我が妹。

 だが妹よ、それ以上にそのマンドリル扱いしたヤツを教えてほしい。恋する乙女になんてこと言いやがる。

 

 

「まぁまぁいいじゃないそんな事、とりあえずお姉ちゃんはアレン王子とどうしたいの?」

 

「むぅ、そうだな……」

 

 

 にへーって笑いながら宥められる俺、くそ。今回はそんな事よりアレン篭絡が最優先だし引くとしよう。

 ともあれ、どうしたい。か……。

 

 

「……アレンと一緒に、魔物を退治したり。抱きしめられたり。俺が捌いた魔物を美味しいって言ってもらったりしたい」

 

「うーんこの、蛮族的思考と乙女思考が入り混じった不思議なお姉ちゃんよ」

 

 

 腕を組み、組んだ腕に旅の中で更に大きくなった胸を乗せつつ思考を口に出す。ブレインストーミングだな!

 

 

「他には?」

 

「そうだな……アレンと一緒に風呂に入ったり、一緒のベッドで寝たり……」

 

「おー、あだるてぃーだね。お姉ちゃん!

 

「アレンの赤ちゃんをたくさん産みたい」

 

「そして途中経過すっ飛ばしてそこに行きつく辺り、流石お姉ちゃんだよね」

 

 

 ぼんやりと願望を口に出してる内に、妹の突っ込みを受けて自分が何を口走ったかを理解する俺。 今更である。

 だが、すでに自覚した俺はここで取り繕ったりはしない。 もう俺は恋愛クソ雑魚ナメクジではないのだ!

 

 

「そうは言うがな妹よ」

 

「不穏な気配感じるけど、とりあえず聞くよお姉ちゃん」

 

「諸事情省くが、アレンのあの逞しい体で抱きしめられたあの時にな。  子宮が痛いぐらい熱く疼いたんだ、しょうがないだろ」

 

「お姫様的以前に、乙女としてその言葉どうかと思う」

 

 

 もうだめだコイツ、と言わんばかりの顔を妹に向けられる俺。 解せぬ。

 ちなみにいつも、妹の部屋の中で護衛に控えてる兵士達は今日は部屋の外に出てもらっている。

 さすがの俺も、男の前でこんな話をしない程度には進歩しているのだ!

 

 普通は実の妹にもこんな風に相談しない? それはそれ、これはこれだ!!

 

 

 

 

 

 最終的に、お姉ちゃんの情欲と本能の赴くままイケばいいんじゃない? と言う、とても有難いゴーサインが妹から降りたので。

 俺は強い決意を抱きつつ、父のいる玉座の間へ入る。

 

 

「おお、クッキーよ。どうしたのかの?」

 

 

 何のかんの言って俺と妹に甘い父は、大臣との話し合いを中断して玉座の間へ入った俺へ声をかけてくる。

 今思えば、王族の姫として血をつなぐという大事な責務を放置して好き放題やっていたことを。凄く申し訳ないと思う、だが……。

 

 父よ、安心するがよい!!

 

 

「父よ、俺は決意したぞ」

 

「ふぉ? 何をじゃ?」

 

「俺は、アレンの子を孕む」

 

「ふぉぉぅ!?」

 

 

 俺の発言に感極まったのか、勢いよく噴き出す父。ついでに周囲の大臣と衛兵。

 そんなに喜んでもらえるなんて、俺とアレンの未来は輝きに満ちているな!

 

 

「ま、待つのじゃクッキー……」

 

「俺とアレンの子だ、間違いなくサマルトリアを更に発展させるに違いない! もちろん一人や二人で終わる気はないから安心するがよい、父よ!!」

 

「違う、そうじゃなくて。話を……」

 

「ああでもアレンはローレシアの大事な跡取りだしな、俺が嫁入り……ないし側室入りという形になるかもしれん、だが男子は何人かはこちらへ送れるようにするぞ!」

 

「待って、お願い待って我が娘」

 

 

 ではさらばだ! と心の底から湧き上がる希望と喜びの赴くまま高笑いを上げて玉座の間を辞する俺。

 背後で何かが倒れ込むような音と、慌てふためく大臣らの声がしたが。まぁ些細なことに違いない!

 

 さぁて、なんか色々やらかしてる気がするが国内的な宣言は終わった! 今行くぞアレン!

 

 

 そんなわけで、愛と希望と欲望を胸に抱きつつ、アレンが寛いでるであろう一室へ向かう。

 そして、勢いよく扉を開け放てば。

 

 

「何か初めてみるレベルの輝かしい笑み浮かべてるけど、どうしたのよクッキー」

 

 

 椅子に座り、足をプラプラさせつつも優雅にお茶を飲んでいたプリンが部屋にいました。

 やっべぇ。そういえばこの部屋プリンもいるんだった、危うくプリンの目の前でアレンに誘惑かますとこだった。

 

 

「何、些細な事だ。 アレンがどこにいるかわかるか?」

 

「アナタのその笑顔を見て些細な事って言える人間どれだけいるのかしら……確か練兵場へ行くって言ってたわね」

 

「うむ、ありがとう!」

 

 

 欲望フルスロットルの俺はプリンの言葉を聞くや否や身を翻そうとし……僅かに残った理性が必死にブレーキをかける。

 友を裏切り、男を奪っていいのか? と。

 その囁きに俺は足を止めると大きく深呼吸。再度振り返りプリンの向かいへ座る。

 

 

「? アレンのところ行かないの?」

 

「……ああ、その前にプリンへ謝らないといけない」

 

「???」

 

 

 色ボケた思考を再起動し、じっとプリンの目を俺は見つめ。

 プリンは何がなんだか、とばかりに首を傾げる。

 

 そして、俺は。

 

 

「……すまないプリン、俺は。アレンが好きだ、アレンを愛し、アレンに愛されたい」

 

「ふーん……で?」

 

「だから、その……ごめん。アレンを、奪うような形に、なる」

 

 

 俺の言葉にプリンは俯いてカップをソーサーへ戻すと、椅子から立ち上がり俺の隣へ歩を進める。

 あー、やっぱり怒られるよなぁ……しょうがないよなぁ……。

 思わずそんな思考を頭によぎらせる俺の頬にプリンは両手を伸ばし。

 

 勢いよく俺の頬を左右に引っ張った。

 

 

「い、いひゃいいひゃい?!」

 

「アナタねぇ、何今更んなこと言ってんの?!」

 

「ひゃい?!」

 

 

 ぐにぐにむにむにと、俺の鉄面皮ほっぺを思いきりつねりひっぱり弄ぶプリンの小さな手。

 俯いた顔を上げたプリンの目には、烈火のごとき怒りが燃え滾っていた。

 

 

「この際だから言っておくけどね、私はアレンに特別恋愛感情ないわよ? ムーンブルク再興には最高の嫁入り先だけどね」

 

「うぅ……そうなのか?」

 

 

 目いっぱい俺の頬を弄んで満足したのか、フンッと勢いよく鼻息をつきつつプリンは俺の目を真正面から見て言い放ち。

 プリンの言葉が意外であった俺は、自分で頬を摩りつつ涙目でその目を見つめ返す。

 

 ……あれ? 言われてみれば、旅の最中でもアレンとプリンって特別甘い空気出してなかったような気が今更してきた。

 どちらかというとこう、男と女の友情的だったような……。

 

 

「その顔を見ると思い至ったようね? まぁアレンは私の事眼中になかった、ってのもあるけど」

 

「?」

 

「本気でわかってないわね……まぁそんなワケで私に遠慮なんて無用よ、やりたいようにやりなさいな」

 

 

 ほらほらとっとと行った行ったとばかりに手をヒラヒラ振るプリンに、俺は若干呆けた姿を晒し。

 ただ、なんとなく頭を下げたくなって。深く頭を下げると急いで部屋を飛び出す。

 

 その時、俺は聞き逃していた。

 

 

「……それに、私が本当に好きなのは……」

 

 

 わーりと地味に、俺がプリンの嗜好というか指向を歪めていたという事実に思い至る彼女の呟きを。

 後日の後日、俺はこの時の事を自業自得気味に後悔する羽目になるが……。

 

 今の俺はもう、アレンの事しか頭になかった。

 

 

 

 

 

 すべての枷を解き放たれた俺を止める者は誰一人いない、その勢いでスキップしかねない勢いで練兵場へ俺は赴き。

 そこで、その逞しい体で黙々と素振りを繰り返し、汗を流すアレンの姿を見つける。

 

 やだ、凄くかっこいい。

 

 

「精が出るな、アレン」

 

「あ、クッキー。 妹さんとの話はいいの?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 

 メイドからタオルを受け取りつつアレンへ歩み寄り、彼へ手渡しつつ。

 先ほどまでの鍛錬で、その逞しい体から吹き出た汗を拭ってる彼を見て、あのタオルに口元つけて深呼吸したらよい具合にトリップ出来そうだなぁ。などという事を考えていたら。

 

 

「く、くくく、クッキー?!」

 

「ん、すぅ……はぁ……」

 

 

 無意識のうちにアレンに自分の胸がアレンの体で圧し潰されるほどに強く抱き着き、彼の胸元で深呼吸してる俺が居ました☆

 是非もないよね。無防備にこんな素敵な状態晒してるアレンが悪い、だから俺は悪くない。

 ああいかん、この逞しい匂い。下腹部が疼いてしょうがない。

 

 なんだか衛兵や訓練兵のどよめきや、メイドの黄色い声が聞こえるが些細な事だ。

 

 

「き、汚いよクッキー?!」

 

「何が汚い? 素敵な匂いだぞ」

 

 

 慌てふためくアレンの言葉に、我ながらソレはどうかと思う発言をする俺。だがしかししょうがない。

 俺は自覚したのだ、そして俺は我儘なのだ。

 欲しいと思ったものは、欲しいのだ。

 

「そ、そそそそ、それに!」

 

「なんだ?」

 

 

 ぎゅぅぅ、と抱き着き。アレンの胸元にマーキングするように頬擦り、これは俺のだ。

 

 

「あ、当たってる。当たってるから!」

 

「ふふ、何を言っている。 当てているのだ」

 

「クッキィィィィィィ?!」

 

 

 時を遡れば勇者の泉の頃から、俺の裸を見る機会があった時……君が俺の胸へ釘付けだったことを俺は覚えているぞ。

 君は、大きな胸が好きなのだな! ならば、有効な武器は徹底的に使うのが合理主義だ!

 

 

 

 

 

 その後俺は、大慌てで走ってきた爺にこっぴどく叱られました。淑女どころか乙女としてどうかと、思いきり。

 っく、衆目の中で行動に移した俺の失敗だったか……。

 

 

「次は、もっとうまくやらねば……」

 

「ひ、め、さ、ま?!」

 

「ひぃ」

 

 

 だがまずは、怒り狂う爺をなんとしても宥めなければいかん。

 

 




結構先の未来にて

未来プリン「ねぇクッキー、貴方の三男だけどさ」
未来クッキー「む、コナンの事か?」
未来プリン「うん、その子さ。 私のところに養子にくれない?」(どろりと情欲に塗れたお目目)
未来クッキー「」

この作品はガールズラブはないので、プリンの想いが明確に描かれることは多分ない。


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Lv2

というわけで、毎日更新まだまだ往くぞオルァン! 俺は止まんねぇからよ、その先に俺は居るかもしれないぞ!
 
ちなみに一回書き直しました、我に返って見直したらコレどう見てもR18だわってなったので……。


 
怒られたら、再修正します(震え声)


 

 唐突であるが、俺はサマルトリアの王族であり姫である。

 通常であれば軍事や技術関係に口を出すなどありえない、そのような事は求められていない……そういう類のポジションである。

 だがしかし、そんなの知ったこっちゃねぇとばかりに蹴飛ばした俺はソレはもう色々やらかした。

 

 サマルトリア近辺のパトロールをする兵隊についてこうとしたり、ムーンブルクの優れた鋳造技術を交流でもぎ取ったり。

 ついでに、レベル上げとばかりに適当に臣民へ迷惑をかける魔物を片っ端から退治して回ったりと、出来る事は全てやったと思っている。

 

 前置きが長くなってアレだが、言いたいことは即ちだ。

 

 

「雨露の糸に、聖なる織機の解析。ならびに量産は出来ているか?」

 

「ハッ! 完璧であります!」

 

「ちょっと待てやお主等」

 

 

 王族でもめったに飲めないレベルの酒やら何やらを餌に、テパの町からハイパー偏屈職人ドン・モハメをサマルトリアへ招聘し。

 国内指折りの職人と、量産成功した聖なる織機をずらりと並べてドン・モハメへお披露目する俺。

 

 権力と財力は、ここぞというときにぶちまけてなんぼだよね。

 

 

「……アンタ、職人の命をなんだと思ってやがる」

 

「知らんなそんなもの」

 

「てめぇ?!」

 

 

 額に青筋を浮かべたドン・モハメがじろりと俺を睨みつけてくるが、鼻で笑って一蹴。

 当然俺の回答は、ドラクエワールド初代頑固職人ともいえるかもしれないドン・モハメにとって許せるものじゃなかったらしく。

 怒りの赴くまま胸倉に掴みかかってくる、職人爺の手が若干俺の胸に触れてるが。まぁ今は許してやろう。

 

 

「貴方しか織れない水の羽衣、確かに貴重で尊いな。 軽い上に生半可な魔物の爪も物ともせず、炎や氷の吐息すらも和らげる」

 

「そこまでわかっているなら……!」

 

「だが、俺達がハーゴンを討ち滅ぼすまでに貴方は何着織れる? 更に言えば、数を揃えられればそれだけ兵士らでは太刀打ちできない魔物への勝利の目も見える」

 

 

 ドン・モハメの瞳を見つめ返しながら、誤魔化しも嘘も許さないと眼光に意志を込める。

 俺の眼光に先ほどまで怒り狂っていた老人の瞳は陰りを見せ、力なく俺の胸倉から手を離すと不機嫌そうにクソッタレと吐き捨てる。

 

 

「……出来て一着だ」

 

「それでは困る、俺達はハーゴンらが待つ居城へ乗り込むんだ。最低でもアレンが鎧の下に着こむ分に、プリンが身に纏う分はないと話にならん」

 

 

 腕を組み、重たくてしょうがない乳房を組んだ腕で持ち上げながら、項垂れるドン・モハメを見る。

 おい護衛の兵士、強調された俺の胸をガン見するんじゃない。コレはアレンと、これから孕んで産む予定のアレンの赤ちゃんのモノだ。

 

 

「……わぁったよ、正直今でも胸糞わりぃがテメェの思惑に乗ってやる。 2か月だ、2か月で3着仕上げてやる」

 

「む? 数が多いぞ」

 

「テメェの分も作ってやるって言ってんだよ、この腹黒王女様」

 

 

 ケッ、と吐き捨てるように言い放ち俺へ背を向けると集めた職人集団を怒鳴りつけながら、技術指導を始めるドン・モハメ。

 ……そういえばナチュラルに、うっかり自分の分勘定してなかったわ。 避ければいいと思ってたし、さすがに無理難題言ってるから遠慮したってのもあるけど。

 

 

 

 

 

「というわけだアレンにプリン、1カ月で装備の更新と調達。残り1カ月でロンダルキアの調査を進めるぞ」

 

「うん、わかった……けど、ドン・モハメさん気の毒に……」

 

「さすがにちょっとえげつないと思うわよ? クッキー……」

 

 

 えへん、と胸を張りながら頼りになる仲間たちに報告して見たらドン引き気味に溜息を吐かれる。   解せぬ。

 

 

「だけどまぁ、装備の更新は確かに必要かもしれないわね。 ご先祖様の装備一式に身を包んだアレンはともかく、私やクッキーは殆ど装備変えてないし」

 

 

 指先で紫色の髪の毛の毛先をくるくる回しつつ呟くプリン、それもその筈。

 プリンはローブ状に仕立て上げたみかわしの服に、ローレシア地下でとっ捕まっていたじごくのつかいから強奪したいかずちの杖。

 俺に至っては、旅立ちからずっと愛用し続けている細身の剣にいつもの鎧セットだ。  最近、ブレストプレートで抑えつけられる胸が苦しいのはプリンには内緒である。

 

 

「なんか、ごめん」

 

「気にするなアレン、優れた装備は最も使いこなせる人物が扱うのが道理だ。 ソレにかっこいいしな」

 

「本音だだ漏れよクッキー、まぁそこの色ボケクッキーの言う事には私も同意よ」

 

 

 試しに突入したロンダルキアでロトの鎧を手に入れられた事で、アレンは全身をご先祖様伝来の伝説装備に包めるようになったのだ。

 清らかさすら感じる蒼い光沢を放つ全身鎧に身を包んだアレンはまさに救世の勇者ともいえる、荘厳さすら感じる見た目で。

 

 

「……あ、思い出したら子宮が疼いた」

 

「? 今なんて?」

 

「気にしたらダメよアレン、貴方の中の幻想を壊さない為にも」

 

 

 口からアレンへの愛があふれ出ただけなのに、プリンのこの辛辣さである。

 ともあれなんであれ、方針も決まったので3人揃ってサマルトリアからまた旅立つのである。

 

 目指すは、地下に広がる都市こと。ベルポイだ。

 いやまぁ、船旅なんてせずルーラでひとっとびなんだけどな! 時間は大事にしないとね!

 

 

 

「牢屋の鍵と水門の鍵をあの時は買って終わったけど、今度は何を買うの?」

 

「ああ、俺でも扱える程度の軽さの力の盾、後はプリン用のミンクのコートだな」

 

「あー……あのべらぼうに高いコートね、確かに頑丈そうだけども」

 

 

 鎧下、ないしアンダーウェアとして水の羽衣を装着し。その上に鎧やコートを羽織る、コレが俺なりに考えた装備構成である。

 いやまぁ、偉そうな顔して自慢する事でもないけどな!

 

 ちなみに鎧は、うん。 基本的に市販の鎧だともう胸がキツくてしょうがないので、今のブレストプレートと同じ型のサイズアップしたのを頼んでいる。

 正直動き辛いが、下着と鎧のセットで抑えれば戦闘中も揺れないのでなんとかなるのだ。 気のせいかプリンから憎しみに満ちた視線が俺の乳房に向いてる気がするけど。

 

 

 まぁそんな些細な事は横に置き、目指すは防具屋。というわけで。

 

 

「主人、失礼するぞ」

 

「む? なんでぇ、随分と別嬪さん方じゃねーか。 そっちの兄ちゃんが装備してる物より上のはさすがに置いてねーぞ?」

 

 

 防具屋の扉を開け中へ入れば、大きな欠伸をしていた髭面の店主が俺達へ視線を向け。

 目ざとくチェックしたのかアレンが身に纏うロトの武具に溜息、悔しさを隠そうともせずに手をヒラヒラ振る。

 

 

「アレンが身に纏っているものだ、当然だな。 だが今日は彼の防具ではなく俺達の防具を見に来た」

 

「なるほどねぇ……お目当てはミンクのコート、ってとこかな?」

 

 

 じろじろと俺達の体つきを見回し、ついでに俺の体を嘗め回すように見る店主に鉄面皮をしかめさせつつも。

 店主は椅子から立ち上がると、カウンターの向こうの壁にかけられていた豪奢なデザインのミンクのコートを手に取り、カウンターの上に載せる。

 

 

「だがコレは相応に値が張る、嬢ちゃんらに払えるか? なんならその体で」

 

「金ならあるぞ」

 

 

 下衆さを隠すことなくニヤニヤ笑う店主の様子に、アレンの方から彼らしくない剣呑なオーラが立ち上るのを感じつつ。

 店主の言葉を遮るように、ゴールドが詰まった袋をドン!と大きな音を立ててカウンターへ載せる俺、そんな寝取られ系RPG的なセリフ言わせねぇよ!

 

 

「……っち、確かに言うだけはあるようだな」

 

「当たり前だ。店主は少しは客商売という物を考えたらどうだ?」

 

「ハンッ、可愛くねぇ嬢ちゃんだ」

 

 

 ケッ、と吐き捨てつつも商売人として腐りきってなかったのか、急な値段釣り上げをすることなく無事ミンクのコートを入手することに成功する。

 その後は丁度良いサイズと軽さの力の盾を見つけたので、そちらも合わせて購入し……。

 

 

「すまないアレンにプリン、先に宿へ戻っていてくれ」

 

「え? 大丈夫クッキー、この店主さんに何かされるんじゃないの?」

 

「そうよ、こんな髭親父に襲われるクッキーなんて私嫌よ」

 

「てめぇら……」

 

 

 後、仲間達には言っていなかったが絶対に買いたいものがある、あるのだが彼らの前では買い辛いので宿へ戻ってもらおうとすれば。

 心の底から心配そうに止められる俺である。ついでに散々な言われようの店主が顔を引きつらせているが、そっちは自業自得だからあきらめてほしい。

 

 まぁ多少一悶着あったが、なんとか宥めすかして二人を宿へ戻らせた俺は店主へ向き直り……。

 

 

「……危ない水着を売ってくれ」

 

「っ?! 嬢ちゃん、一体どこでそのブツの名前を……?!」

 

 

 覚悟をキメた俺の発言に目を見開き驚愕する店主、やはりあったか……!

 ありがとう、俺の中に残ってたドラクエ2知識。そしてこんにちは、ドスケベ水着によるアレンとのめくるめく官能の日々。

 

 最終的に、俺と店主は固く握手を交わした末に。 俺は危ない水着を無事手に入れる事に成功した。

 

 

 

 ちなみにその後宿へ戻った俺が、二人に非常に心配されたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 そして、その日の夜。

 作戦決行の下準備として、宿で一人部屋を3人分取った俺は今。

 

 

「こ、これは中々に。大胆すぎるな……」

 

 

 一人危ない水着を着用し、姿見の前に立っていた。

 うすぼんやりとしか残ってない記憶では、様々なデザインの水着系装備があった記憶はあったが。

 今俺が着用しているソレは、上下一体型でありつつも……乳房を覆う布面積は必要最低限、ちょっと動くと桜色の突起や周辺が見えてしまいそうな上に。

 股間を覆う部分に至っては、食い込むことで露わになりかねないぐらいの、超弩級ドスケベデザインであった。

 

 さすがは心のマブダチとなった店主が、俺なら着こなせるとチョイスした危ない水着だ。パーフェクトである。

 

 そして、アレンの部屋は俺のすぐ隣。 ついでにプリンの部屋はアレンの部屋を挟んだ向こう隣りだが……彼女ならきっと祝福してくれるに違いない。

 

 

「……往くぞ……!」

 

 

 大きく深呼吸し、気合を入れた俺はそっと部屋の扉を開け……廊下に人影が居ない事をそっと顔を出して手早く確認。

 目撃者がいない事に安堵しつつ、そっと足音を忍ばせながらアレンの部屋の前へ赴き……。

 小さくノックをすれば、開いているよ。というアレンの無警戒な返事。

 

 その言葉に隠し切れない歓喜の笑みを浮かべながら俺は部屋へ入る。

 

 

「クッキーか……って、なんだよその服……というか紐?!」

 

「そう言わないでくれ、俺も恥ずかしいんだ」

 

 

 恥ずかしいならそんなの着てるんじゃないよ!ってベッドに腰かけたまま叫ぶアレンを尻目に、後ろ手で部屋の鍵をかけ。

 ウィンクをしつつ、口元に人差し指を当てて静かに。と合図、もう夜遅いしあんまり騒ぐと迷惑かかるからね。しょうがないね!!

 

 

「う、うぅ……なんで、そんな恰好……?」

 

 

 目を白黒させつつも俺の体から目を離せないのか、俺がアレンへ歩み寄るたびに揺れる胸元やすらっとしたお腹、デリケートな足の付け根部分へアレンの目線がさ迷うのを感じつつ。

 ベッドの上に上がり、そのまま後退しようとするもすぐに壁に背が当たったアレンへ、高鳴る胸と子宮の疼きをこらえながら彼を捕まえると。

 

 その首へ手を回し、貪るように口づけを交わす。

 突然の俺の行為にぎょっとするアレン、そのまま彼が混乱している間に彼の手を取り自らの胸へ誘導すれば……躊躇いがちにその手が動かされ。

 ソレによって齎される甘美な快楽に俺の体が大きく震える。

 

 

「ぷ、はぁ……だ、だめだよクッキー。はしたないよ……!」

 

「そうだな、そうかもしれない。だがなアレン……愛したいと思う気持ちは、そんなにイケナイものか?」

 

 

 自分のモノとは思えない妖艶な声を自ら出しつつ、アレンに胸を揉まれたまま抱き着くように彼を押し倒す。

 

 

 

 

 

 二人しかいない部屋に、くぐもった声と互いの愛の囁きが満ちるのはそれから間もなくであった。

 

 

 

 

 

 そして、翌朝。

 

 

「あんたら、盛りすぎ」

 

「ごめん……」

 

「正直、すまんかった」

 

 

 目にクマを作り据わった目つきのプリンに、二人そろって説教を食らう俺とアレンであった。

 




プリンさんは壁に耳を当てて一晩中聞いてたらしい。
なので、最初はクッキー優勢だったのがアレンに逆転されて雌堕ちトロ声出しまくってたのも聞かれたそうです(意味深)
 
 
 


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Lv3

そんなわけで、イチャラブライフの邪魔ものということでサクっと片づけられるハーゴン一行。
世にドラクエ二次創作は数あれど、ここまで雑にぶっ殺されたハーゴン教団首脳部が果たして存在するだろうか……。
 

そして俺の中のハーゴンとシドー(財布の破壊神)が囁く……。
最終決戦仕様クッキーを絵師さんに依頼しちゃえYO、と……。


 拝啓、こちらの世界の天国にいるであろうお母様、そちらはいかがでしょうか?

 不肖の娘である俺、クッキーは生涯の伴侶ともいえるアレンと結ばれ幸せいっぱい夢いっぱい、ついでに子宮の中もアレンの……さすがに自重しましょう。

 ちょっとアレな事情は横に置き、念入りな準備期間の間でハーゴンの居城へ殴り込むのに十分な準備はしたものと愚考しております。

 

 そんなわけで……。

 

 

「念入りに調査とマッピングしたから、結構すんなり通れたね」

 

「魔物が気の毒に思えるぐらい、徹底してたし。当然と言えば当然かもしれないわねー」

 

 

 我らハーゴンぶっ殺しツアー一行はただいま、10フィートの棒とかを駆使してロンダルキアの洞窟を抜け。

 白銀に染まった極寒の大地を進んでおります。

 

 

「しかし、この寒さは念入りに準備して正解だったな」

 

「そうだね……水の羽衣、というより下鎧がなかったら僕でも辛かったかも」

 

「私はコートのおかげでそれほどでもないけどね、でも道中のドラゴンの吐息で燃え尽きてたかも」

 

 

 三者三様、装備について意見を交わし合いながら進む俺達。

 アレンは全身をご先祖様が使っていた鎧に身を包み、その内側には雨露の糸で織られた下鎧を着用。

 その手に握っているロトの剣は、ロンダルキアの洞窟で見つけたいなずまの剣から迸った雷光を受けた事で、眩いばかりの輝きを放っている。

 

 一方プリンは、ぬくぬくー。と笑みを浮かべながらコートの襟首に頬を摺り寄せつつも油断することなく歩を進めており。

 彼女もまた、コートの内側はワンピース状に雨露の糸で織られた羽衣を纏っている、そのおかげなのか……ロンダルキアの洞窟で3匹のドラゴンに一斉に炎を吐かれても、若干こんがりするだけで済んでいた。

 なお武器は変わることなくいかずちの杖である、彼女曰くなんのかんの言って長い付き合いだししっくり来るからコレでいいとの事だ。

 

 そして俺は……。

 

 

「でもまぁ、クッキーの装備ほどは変わってないわよねー。まるで貴方姫騎士とかそんな感じよ」

 

「うん、その、凄く綺麗だよ」

 

「……やめろ、なんかすごく。照れくさい」

 

 

 雨露の糸を織り込まれたタイツ状の下鎧の上に、これまた雨露の糸で織られた……若干露出が多い気のするも上品さを感じさせる薄い藍色のドレスに。

 肩や胸、腰を護れるように配置された魔法の鎧と同素材のポイントアーマーを身に纏っていた。

 ブレストプレートに至っては、更に大きくなった乳房も過不足なく支えられるようなブラジャーじみた形状になっている。

 武器は光の剣を細身に誂えた特別品で、耐久力こそ落ちているが斬れ味と軽さを優先した極上の一品である。

 

 鎧をデザインした鍛冶屋曰く、ドン・モハメが俺からそのように指示していたという回答を受けており。

 思わずドン・モハメを見てみれば、にやりと笑みを浮かべていた。  あの頑固職人爺渾身の意趣返しである、クソが!

 

 

 防具としての性能も使いやすさも従来からは別次元級に跳ね上がってるだけにタチが悪い。

 だがまぁ、良いだろう。俺が魅力的であればあるほど、アレンの目は俺に釘付けだからな!

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、ロンダルキアの祠に道中立ちふさがったブリザードやらギガンテスを粉砕しつつ到着。

 ブリザードのザラキで一瞬俺の心臓が止まりかけるも、アレンへの愛と根性で踏み止まり逆にベギラマで焼き尽くしてやったぜ。

 

 あの瞬間のブリザード共の、何それおかしいって言わんばかりの顔は傑作であった

 

 

「ここで一晩休息をとり、翌朝出発するぞ」

 

「わかったわ、でもこの祠凄いわね。外はあんなに寒かったのに、この中は心地よいぐらいだわ」

 

 

 祠の地下室で野菜を育てたりして、細々と生きてたらしい神官さん方に余りそうな携行食料を宿代として差し出しつつ。

 荷物を下ろし休息を仲間に提案、その言葉に各自頷き思い思いにくつろぎ始める。

 

 呪文やその手の技術に造詣が深いプリンに至っては、休憩というよりこの祠が何故こんなに快適なのか解明しようと張り切っているがな! まぁ彼女は聡明だし疲れを残すことはあるまい。

 そんなわけで……。

 

 

「神官殿、誰も使ってない部屋等はあるか?」

 

「倉庫代わりに使っている部屋ならありますが…………汚さないで下さいよ?」

 

「……わかった」

 

 

 手ごろな神官に尋ねてみれば教えてもらえるも、俺の態度に何かを察したのかきっちり釘を差してくる。

 その言葉に若干気まずさを覚えて目をらしつつも俺は、荷物の中身を整理しているアレンへ歩み寄り。

 

 ポイントアーマーを外して、休憩のために鎧を脱いでいたアレンに背中から抱き着くと。

 吸い付くように彼の首へ口づけし、とある言葉を囁くのだ。 さすがに内容については黙秘する。

 

 

 俺の言葉に若干ギョっとしたの首だけで振り返りつつも、諦めたかのように彼は柔らかく微笑み。

 彼の方から俺に口づけを交わすと、その逞しい腕で俺の背中と膝裏へ手を差し込んで軽々と持ち上げてくる。 ローラ姫を救い出したご先祖様もやっていた、由緒正しいお姫様抱っこだな!

 

 きっと俺の目にはハートが浮かんでいるだろう、なんせ今この瞬間も切ないぐらい下腹部が疼いてしょうがないのだから。

 そのままアレンは、神官に教えてもらった部屋へ俺をお姫様抱っこしたまま歩き始め……。

 

 

「……うちの色ボケ共が本当に、申し訳ない」

 

「いえいえ、仲良きことは美しき哉と存じます」

 

 

 そんな、プリンと神官の会話を耳にはさみつつ、アレンに誰も使っていない部屋へ運び込まれた俺は。

 どうやら俺の新たな装備、というか衣装によって滾っていたらしいアレンの欲望を目いっぱい叩きつけられ、最初から最後まで雌顔と声を晒す羽目となった。   是非もないね!

 

 

 なお、余りの激しさに翌日俺はグロッキー状態となったせいで、出発が一日遅れたのは内緒である。 プリンによってアレンが思い切り説教を受けていたが、まぁある意味しょうがない。

 いやほんとね、アレンの体力底なしで。乱暴すぎない程度に激しいからノンストップよノンストップ、アレはハーレム築いてもやってける漢ですわ。

 

 ちなみに、一日追加で出来た休息と言う事で、外の雪を適当にアレンに集めさせてはギラで溶かして沸かして作ったお湯でアレンと一緒に体を清めていたところ。

 そのまま互いに我慢できずにおっ始めたことで、危うく出発がもう一日遅れかけたのは言うまでもない。  プリンが怒鳴り込まなければ危なかったぜ!   その後二人そろって説教食らったけど。

 

 

 

 しかしまぁ、心身共にリフレッシュの気力充填ついでに煩悩発散した我らハーゴンぶっ殺しツアー一行。

 ……何故か怒鳴り込んできたプリンがすっきりした顔してたのが気になるが、まぁきっと彼女は彼女でストレス溜まってたところを俺達を叱る事で、うまい具合に発散できたのだろう。  多分。

 

 まぁともあれ、だ。最早我らを遮るものはない状況で、何が起こるかと言うと。

 自重も容赦も投げ捨てた、ハーゴンぶっ殺しツアーのクライマックスである。

 

 

「矮小ナ人ノ子ラヨ、無残ナ屍ヲ……」

 

「食らえ!目潰しベギラマ!!」

 

「イッタァァァアァイ! 目ガァァァァ!?」

 

「卑怯だけど、しょうがないよね!」

 

「足ノ小指ガァァァァァ!?」

 

「アンタ雄っぽいわね、死ぬがよい」

 

「アッーーーーーーー!?」

 

 

 悠々と俺達の前に立ち塞がろうとした巨人、アトラスの目を焼いた後に……アレンの剣がアトラスの足の小指と爪の間に突き刺さり。

 トドメとばかりに、プリンが収束し放ったイオナズンがアトラスの股間をぶちまける事で情け容赦なく屠り。

 

 

「アトラスを倒したか、だが俺を簡単に……」

 

「マホトーン!」

 

「ふん、効かぬわ」

 

「ラリホー!」

 

「すやぁ」

 

「よし、やってしまえアレン」

 

「……まぁいいか、うん。被害出るより良いよね」

 

 

 腕を組み立ち塞がろうとしてきたバズズに先制攻撃とばかりに俺のマホトーンとプリンのラリホーが飛び。

 マホトーンこそ弾かれるものの、ラリホーが炸裂。そのまま座り込むように眠り始めるバズズ。

 そして、そこに襲い掛かるはアレンの剛剣。 バズズの首がすっとばされた後、残った体も念入りとばかりに唐竹割された。

 

 

「貴様ら、ソレが勇者のやる事か……?!」

 

「黙れ牛悪魔、こちとら貴様らの所業に怒り心頭なんだよ」

 

「クッキーを辱めようとしたお前達にかける情けなんて、いらないからね」

 

「というかアンタら、最初から3匹揃って襲ってくれば良かったんじゃ……」

 

 

 俺達のアトラス&バズズ攻略法を見てたららしい、巨大な直立歩行する牛がごときベリアルが愕然としつつ俺達を弾劾するも。

 俺がアレンに完堕ちした例の事件は、どうやらアレンにハーゴン勢力殺戮を決意させる程度に怒らせていたらしく。

 プリンはと言えば、実際にされてたら厄介この上なかったが正論オブ正論をベリアルへ突きつけている。  酷い話だ。

 

 

「くっ、だがこのベリアル。先の二人と違いそう易々と討ち取れると思うなよ!」

 

 

 啖呵を切りながら手に持った三又の槍を構えるベリアル、だが世は無常。

 既に準備を整えていたプリンが、イオナズンを発動。ターゲットは……ベリアルの大きな鼻の穴である。

 プリンの呪文技術はまさに超一流ともいえる腕で、俺では不可能な芸当をやらかすある意味において戦略ブレイカーである。 後、狙い通りキマった瞬間浮かべるサドい笑みがちょっと怖い。

 

 

「のぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 声にならない悲鳴を上げてよろめくベリアル、そして隙が出来れば何が起きるかと言えば。

 

 

「でぇぇぇぇりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 我らハーゴンぶっ殺しツアー一行の火力筆頭であり、タイマン不敗を誇るアレンの剛剣だ。

 飛びかかって斬りかかろうとするアレンのロトの剣を、呻きながらも槍で受け止めるベリアルであったが、一瞬の拮抗の後に槍は真っ二つに斬り折られ。

 そのままの勢いで、アレンはベリアルの巨体を縦に大きく切り裂いていく。

 

 

「ぐぉぉぉ!? 貴様ら、貴様らに戦士の流儀はないのか!?」

 

「あったかもしれんが、ソレを投げ捨てさせたのはお前達だよ」

 

 

 プリンのイオナズン、アレンの一撃で俺の存在を見失っていたベリアルに。 真横から声をかけながら。

 俺はベリアルの隙だらけな首を真横から全力で剣で切り裂き、地面へ降り立つ。

 

 勢いよく吹き出るベリアルの血、哀れな悪魔はそのまま白目を向くと……ゆっくりと背中から倒れ地面へ沈んだ。

 だが若干まだ息がある、しぶとい。

 

 

「アレン、こいつをそこの縁から地面へ放り捨てるぞ」

 

「わかったよー」

 

 

 そして二人で力を合わせつつ、時折痙攣するベリアルの体をゆっくりと壁が崩れ外へ繋がっている外壁の縁へ追いやり。

 その瞬間目を覚ませたベリアルと目が合うも、何かを懇願する視線を無視してアレンと一緒にベリアルを外へ蹴り落とす。 夫婦の共同作業だな!

 

 

「さて、先へ進むぞ」

 

「上がってきた階層からして、恐らく次は最上階……ハーゴンが待つフロアよ」

 

「気を引き締めないとね」

 

 

 背後から聞こえるベリアルの落下音と断末魔を聞き流しつつ、近付いてきた最後の戦いへ向けて気合を入れる俺達。

 アトラスとバズズ? そんなのもいたね、ともあれ階段を上がれば一面に広がるはバチバチと雷光を放つバリアの群れ。

 そのまま進めば程よくこんがり焼けるであろう代物であるも。

 

 

「トラマナ……さて、そっと進むぞ」

 

 

 俺が唱えた呪文によって、俺達3人を温かく柔らかな光が包み込みバリアから迸る雷光を受け流す力場が生まれる。

 そうなればバリアなど怖くもなんともないわけで……ゆっくりと警戒しつつ奥へ進んでいく。

 

 そして、そこに居たのは……。

 

 

 

 こちらに背を向け、巨大でまがまがしい像へ祈りをささげるハーゴンらしき人影であった。

 どうやら、こちらに気付いてないらしい。

 

 普通のドラクエならば、このまま近付いて話しかける展開だ。だがもう原作もへったくれもないのである、俺が女としてこの世に生まれている時点で。

 そうなればとる手段は、一つである。

 

 

「……ベギラマ!」

 

「……イオナズン!!」

 

「なんだ騒々……ぐぉぉぉぉ!?」

 

 

 視線とジェスチャーで仲間達へ合図を送った後、全力全開の攻撃魔法を俺とプリンで叩き込み。

 呪文に気付き振り返ろうとしたハーゴンの後頭部と背中に、呪文が炸裂。もんどりうって吹っ飛ぶハーゴン。

 そしてソレに追い縋るは……。

 

 

「ハーゴン、覚悟ぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「なっ、貴様らロトの……グフッ」

 

 

 全身の筋肉を迸らせ、怒りの咆哮と共に斬りかかるアレン。

 彼の鎧と手に持っている剣に気付いたハーゴンが何やら言いかけるも、その心臓をアレンの剣で刺し貫かれ。

 何やら呪文を唱えようとするハーゴンに構うことなく剣を引き抜いたアレンは、一切の躊躇をする事なくハーゴンのその細い首を斬り飛ばした。

 

 ……ゲーム的にいうと、ナチュラルに隼の剣じみた動きしてるなアレン……やだ素敵、かっこいい。

 だが、これでこの長い冒険と戦いも終わりだ。

 

 

 

 などと思っていたが問屋は降ろさず、アレンへ俺とクッキーが近づいた瞬間退路を断つように炎の柱が上がり。

 激しい揺れが起きたと思った次の瞬間。

 

 

 6つ腕の、蛇か蜥蜴かドラゴンか……名状しがたき姿をした巨大な魔物が現れる。

 ソレが放つ気配はもはや生き物が放って良いものではなく、生きとし生けるもの全ての天敵ともいえる波動を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ結論から言うと、最も早く我に返ったアレンが蘇りし邪神シドーの前に立ち塞がりタイマンに突入。

 俺達は後ろから回復を飛ばしたり援護をしたりして、激戦の末にシドーを撃破することに成功したのであった。

 

 長い戦闘描写? そんなもん、これから送る俺とアレンの生活に比べたらそんなに価値がないだろう。

 

 まぁ、実際は戦闘終盤にとうとう俺が死んでしまったらしく、その上プリンのザオリクすら通じない状況にアレンが絶望したりしてたらしい。

 だがそこで、ルビス様が褒美を授けるとかいうことでアレンに声をかけたところ、ノータイムの躊躇なしで俺の復活を彼は願ったらしい。 なんか、その照れる。

 

 

 

 そんなわけで、まぁもしかすると色々火種はあるかもしれないしトラブルも尽きないかもしれないが。

 俺達ハーゴンぶっ殺しツアー一行の旅と闘いは、これにて無事閉幕となったのである。




そんなわけで、ドラクエ2本編分はサクっと完結です。後はエピローグじみたお話がのそのそと続く感じになりそうです。
ノリと勢いで、オリジナルめいた武器防具を幾つも出しちゃったが、まぁそんなに重要アイテムじゃないしセーフセーフ。

きっと、クッキーが最後に装備してた鎧はこんな感じ。

ひめきしのドレス
装備可能:クッキー(サマルトリア王女)
防御力:70(SFC版の防御力バランス準拠、ちなみにロトの鎧は75)
効果:呪文・炎のダメージ軽減(水の羽衣と魔法の鎧が持つ耐性に準拠)

他作品系ドラクエキャラだと、女戦士や女賢者(DQ3)、アリーナやミネア(DQ4)、デボラ(DQ5)、ミレーユ(DQ6)が装備可能系。
きっとお姫様系装備でコーディネイトすると、かっこよさボーナスが付く。きっと。


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Lv4

ネタの出も悪くなってきたのと、これ以上続けると蛇足になりそうなので、少し惜しい想いもありますが……。
スパっと完結させます。

これ以上雌堕ちネタ書くってなると、マジでR18しか浮かばないという事情はない。ないったらないのだ(目逸らし)


 拝啓、前世のお父様にお母様。お元気でしょうか?

 ドラクエな世界にダイナミックTS転生をした貴方の元息子は元気にやっております。

 3年ちょいほど前には破壊神を仲間と共に粉砕した俺は……。

 今では3児の母をやっております。

 

 旅から戻りアレンと結ばれたことを現世の父にうきうき気分で報告したら、何やら処女の血やら何やらの面倒なことを大臣の一人が言い出したので。

 面倒だからアレン攫って隠居するね、財産ならあるし。と言い放ったところ全力で引き留められたのも、今は良い思い出です。

 

 まぁそんな面白くもクソもない事はさておき。

 男の子が3人続いたので、次は女の子が欲しいね。などと夫であるアレンと笑い合う日々を送っています、孫の顔を見せられないのが心残りですが、とりあえず一旦筆を置きたいと思います。

 

 

「お姉ちゃん、毎年産んで3人も男の子産んだのに、まだ孕むの……?」

 

「うむ、目指せ2桁だ。 ちなみに今は3カ月だぞ」

 

「孕みすぎぃ!」

 

 

 護衛の兵士らと共に、ローレシアへ遊びにきた愛しき妹に思わず突っ込まれる俺である。

 ちなみに三男のコナンは俺の手の中ですやすやと寝息を立てており、次男のカインは俺の裾を掴んだままぢーと妹を見上げている。

 

 賑やかな妹が来たのに睡眠を続ける辺り、中々に神経が太い三男だ。

 なお長男のアーサーは、ちょこちょこと父であるアレンの後ろをついて回っており、今はおそらく執務中のアレンの膝の上に居るはずだ。

 

 

「でもほんと、あの……立てばマンドリル、座ってもマンドリル、歩く姿はバーサーカーって言われてたお姉ちゃんが見事に変わったよね」

 

「待て妹、その評価はさすがに初耳だぞ」

 

 

 女マンドリル扱いは最早慣れたもんだが、バーサーカー扱いはさすがに心外だぞ。あいつら女と見たら股間おったてて襲ってくる程度に性欲の猿だぞ。

 そう反論してみれば、性欲魔人なのは一緒じゃんとずばりと妹からの会心の一撃。  解せぬ。

 

 

「しかもさー……お姉ちゃんこの3年ちょいで3人産んだんだよね?」

 

「うむ、何ならねっとりぐっちょりな夫婦生活を聞かせようか?」

 

「気になるけどソレはまた後で。  なんでお姉ちゃん、体形ほとんど崩れてないの……? 前に子供が産まれて落ち着いたからってお城に復帰した侍女さん、結構ふくよかになってたのに」

 

 

 よちよちとおぼつかない足取りで近寄り、抱っこをおねだりする次男坊に目尻を下げつつ抱き上げて背中をポンポンと叩きつつ妹はそんな事をのたまう。

 中々に堂に入ったあやし方である、だが妹よ。お前もそろそろ男を探すべきだぞ。

 

 

「ふむ、そうは言うが腰回りや尻などに結構肉はついたぞ?」

 

「世間一般ではその程度ふくよかって言わねぇんだよ、お姉ちゃん」

 

 

 コナンを手に抱いたまま自らの体を見下ろし妹へ視線を戻して言葉を返せば……まるで俺の乳房を親の仇を見るかのような目で睨むプリンが如き表情で、どすの利いた声を出す妹。 怖い。

 まぁ3年前の旅の最中で、乳房以外に尻や太ももがムチっとしちゃってたせいで、最終決戦用の鎧を仕立て直すまでは結構男の視線に難儀してたんだがな。

 

 今の俺の体は、そこから子供を3人産んだ影響か腰回りが太くなり。余分な脂肪がない事が自慢と言えたお腹周りにはうっすらとだが脂肪が付き始めてしまっている。

 アレンはキレイで魅力的だと言ってくれているが、このまま行くとちょい危険かもしれないと一人危惧してるのである。

 

 

「ちなみに何か運動は…………いやいいやっぱり言わなくて、というか幼いとはいえ息子の前で何言おうとしてんのお姉ちゃん」

 

「む…………ま、まぁそうだな。 それとまぁ、食生活に気を遣っているぐらいだな」

 

 

 妹の質問に口を開こうとすれば先手必勝とばかりに発言を止められたので、とりあえず気を付けている事だけでも話しておく。

 もちろん無理な摂食制限はしていないぞ、ただ明らかに脂っこすぎるものは避けたり飽食してないだけだ。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで姉妹の和やかな会話も終え、妹は護衛兵と共に帰っていった。

 俺がサマルトリアに居た頃は見かけなかった、新顔と思しき兵がちらちらと俺の体を舐めるように見ていたのが癪だったが……まぁいい、俺は寛大だから妹や父に告げ口はしないでおいてやるのだ。

 

 そういえば説明がまだだった。

 俺は今、ローレシア城に在住している。

 それも……勇者王アレンとして、彼の父に半ば強引に玉座に据え付けられたアレンの妃として。

 

 ちなみに俺はローレシア臣民から、英雄妃様とか呼ばれてる。こそばゆい。

 ……今どこからともなく、知らないって事は幸せね。って嘆息するプリンの呟きが聞こえた気がする。

 

 

「息子達は乳母へ預けたぞ、君の子だけあって今日も良い子だったな」

 

「クッキーの教育がしっかりしてるからだよ」

 

 

 そして今は日も落ち、宴もないことから夫婦の部屋にて夜の語らい中である。

 ちなみに今日の俺の夜の衣装は、最近サマルトリアの名産になってきた……貴族女子のナイトドレス、その名も水のネグリジェだ。

 どうやらあの頑固職人爺ことドン・モハメ。 俺の姫騎士のドレスとやらを仕立てた際に、なんかの性癖にスイッチが入ったらしい。   酷い話である。

 

 妊婦さんの体温管理も完璧、寒暖の差をシャットアウト。とどめに、肌の色が見えるか見えないかの絶妙な透け透けっぷり。

 アレンとの夜の生活にも何度か起用されている、俺の勝負夜着である。 

 例の危ない水着も、バリエーションを揃えつつ秘密のクローゼットに隠しているぞ。 洗濯を任せている一部のメイドしか知らない、俺のローレシアにおけるトップシークレットだ。

 

 

「もう3か月だっけ? 結構大きくなってきたね」

 

「ふふふ、既に3回は見ているだろうに」

 

「中々慣れないものさ」

 

 

 俺をベッドの上で軽く抱きしめつつアレンはお腹を優しく撫でると、空いた手を俺の乳房へ伸ばし始める。

 君は相変わらず俺のおっぱいが好きだな!

 

 

「んっ……全く、コレは今は子供達用だぞ?」

 

「そうだったかな? でも君の体は僕のものだし、問題ないんじゃないかな」

 

「くくく、冒険をしていた頃や。臣民の前に立つ普段の君からは、中々に想像がつかない程度に独占欲が強いな。君も」

 

 

 自らの体を愛しい男へ擦り付けながら、彼の胸元。そして首筋へ吸い付くように口づけする俺。

 もはや雌堕ちどころか、雌堕落状態である。だが後悔はしていない。

 

 

「交わう度に蕩けた声で愛を叫び、子供をおねだりする可愛いお嫁さんだからね」

 

「っ! ば、ばか……そんな事言うと、その、欲しくなるだろうが……」

 

 

 いつも世話になっているシスターからは、常々妊娠中の夜のにゃんにゃんについては注意を受けている身として。

 欲望スイッチを全力で連打するが如きアレンの言葉は、いろんな意味でヤバイ。 主に快楽的意味で。

 

 

 

 

 まぁ結論から言えば、俺はアレンの手とか口で情欲を満たされた。

 割とこの男、夜はさでぃすとである。  そうなると夜の俺はまぞひすとなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

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とある歴史学者の報告書

 

 

 勇者王アレンに寄り添い続けた、英雄妃クッキーには数々の逸話が残されている。

 

 自ら剣を取り、サマルトリア近辺の魔物を退治しては臣民へ声をかけていた、という物から。

 勇者王アレン、大魔女プリンと共にハーゴン教団を3人で撃破したという荒唐無稽なものまで、千差万別である。

 

 前者については様々な歴史文献や、当時の教育係が遺したとされている日記からほぼ事実であると証明されているが。

 後者は……勇者王アレンや大魔女プリンが使ったとされる武具が発見されたのに、英雄妃クッキーが使用したとされる武具が見つからずにいた為、創作と思われていた。

 英雄妃クッキーの活躍を位置づける証拠だ、とされて提出された武具がことごとく贋作であったこともきっと拍車をかけていたのだろう。

 

 だが、その歴史認識を覆す近年の史跡発掘によって発見された。

 ソレは、地震によって旧サマルトリア城跡の地下宝物庫跡に大きな亀裂が入ったことが切っ掛けであった。

 どれだけ調査をしても発見されなかった隠し部屋、その発見に現場は騒然としたらしい。

 

 後日の再調査によって、恐らく大魔女プリンによって現代の人間では知覚できないレベルのマヌーサが固着されていたことが判明し、更に学会は喧騒に包まれる事になるのだが……。

 調査班は、逸る気持ちをこらえつつ慎重に中へ足を踏み入れたところ、永い年月で多少の壁面の劣化はあれど清浄な空気に満ちたその空間の奥には祭壇が設けられており。

 その上には、文献に遺されていた姫騎士のドレスそのものが飾られていて、左右には英雄妃クッキーが愛用したとされる光のレイピアと力の盾があったそうだ。

 

 この発見により、学会は大いに紛糾。

 今まで創作と扱われていた歴史資料を一から洗い直す騒動となり、それにはこの報告書を書いている私も駆り出されたものだ。  アレは本当に大変だった。

 

 ともあれ、この発見により英雄妃クッキーは名前の割に、とにかく子沢山で後の世の英傑となる人物らの母親という扱いから。

 ロトの三勇者の一人として、正式に語られる事となったのである。

 

 

 

 

英雄妃クッキーとは(ロトの血脈歴史名鑑より抜粋)

 

 

 サマルトリアの第一王女として生を受けたクッキーは、幼少のころから非常に腕白でお転婆だったらしい。

 物心ついた頃には兵に交じって木剣を振り、ローレシアやムーンブルクとの交流パーティでは後に共に旅立つアレンやプリンを振り回してはしゃぐところがあったそうだ。

 

 だが、武一辺倒の人物だと歴史創作等では描かれがちなクッキーであるが、その政治能力は幼少のころから既に頭角を現していたとされる史料がある。

 当時、活動を始めていたハーゴン教団の危険性を父王へ説いたり、結果的に叶う事はなかったがムーンブルクへの救援体制の必要すら説いていたとされている。

 

 しかし、王族の女性としての自覚は非常に薄かったとも言われており、一部の口さがない城で働く人物は姫の形をしたマンドリルとまで形容するほどガサツだったとも言われている。

 この評価はクッキーにとっても甚だ不本意だったとされる事は、彼女の妹であった第二王女の日記にも記されている。

 

 当初、彼女は後の勇者王とされるアレンと共に旅立つも、途中で力不足を感じたことで旅から脱落したというのが歴史家の間の通説だったが。

 近年の発表と、再研究によりクッキーがアレン、プリンらと共に最後まで共に旅をし戦い抜いたという研究結果が出ている。

 

 ハーゴン討伐の旅の後、クッキーはローレシア王となったアレンの下へ嫁入りし、そこでたくさんの子宝に恵まれる。

 その数なんと、7男8女。死産したり急逝した子も居なかった事から、当時に一人で産んだ数としては破格である。

 この子供の数もまた、クッキーの歴史資料の信憑性を揺らがせる一因となったのは、言うまでもない。

 なお、この一人の女性が生んだとされる出産数記録は今も破られていない。

 

 嫁入りしたクッキーは、サマルトリアに居た頃からは別人のように良き妻、良き母としてアレンと子供たちに尽くしたとされており。

 勇者王アレンとのおしどり夫婦ぶりは、アレンが天に召された翌日後を追うように眠るように息を引き取るまで続いたそうだ。




個人的に、後世の歴史評価的ネタが好きだったので、最後にねじ込む暴挙です。

クッキーが非実在クッキー扱いされた理由?

プリンさんみたいに亡国になったとかならともかく、健在な国のお姫様があんなガンギマリな勢いで戦ったなんてありえねぇ。って歴史家に一蹴されたからです。
側室もなしに合計15人産む妃がどこにいる!ってなったのもあるけど。

歴史創作だと様々なクッキーが描かれてるらしいけど、総じてドスケベボディ扱いされてるそうです。
なおその扱いは、後世で見つかった姫騎士のドレスの形状から確定に至ったそうな。 酷い話である。


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蛇足な話
蛇足な話・1


絵師先生に依頼を出していたTSサマルこと、クッキーさんの絵が仕上がったので……。
記念と勢いに、短いながらも蛇足な話を投稿する暴挙に出るのであります。



絵師先生こと、ニノ前先生に依頼を出していた、クッキーさんの絵がこちらになります。

【挿絵表示】


合わせて、こちらがDQ2の初代パッケージ絵を意識したポーズ絵となります。

【挿絵表示】

(元絵のサイズが大きかった為、リサイズして低容量にせざるを得なかった……)


 

『結構時間が過ぎた頃の王族たちのとある会話』

 

 麗らかな昼下がり、15人目の子も乳離れし始めてなんだか久しぶりにのんびりしてる気がする。

 本当はもっとアレンとの赤ちゃんが欲しいのですが、さすがにこれ以上は私の体が危ないかもしれないとストップがかけられており、寂しい限りです。

 

 あ、どうもお久しぶりです。元サマルトリアの第一王女で現ローレシア王妃のクッキーと申します。

 なんだか昔に比べて丸くなったと良く言われますが、斬ったはったをしていた十数年前ならともかく、さすがに私も30過ぎればおとなしくなると言うものです。

 体もあの時からは比べ物にならないぐらい鈍ってしまいました、適度な運動は欠かしてないので体型の崩壊は最低限に収められてると思うのですけども……それでも色んなお肉がついてる事は否定できません。

 

 まぁそんな事はさておいて、今の私にはそれ以上に大きな問題が差し迫っております、主に目の前に。

 ソレは……。

 

 

「ねぇクッキー」

 

「どうしました?プリン」

 

 

 私とアレンとプリンの3人で旅をしていた頃に比べ、成熟した色香を放っているプリンが上品にお茶を啜り……ソーサーへとそのカップを下ろす。

 彼女もまた色々と工夫をしているのか、その肌は若い頃と比べて遜色はなくむしろ女として完成された美を放っているかのような状態です。 私も彼女が調合した薬草とかで肌のケアは欠かしていないので、彼女には感謝しきりです。

 

 そんなプリンが、私の目を正面から見据え強い決意を瞳に湛えて口を開く。

 

 

「そろそろ、コナンを婿に頂きたいのだけども」

 

「……やっぱり諦めてないんですね」

 

「むしろ諦める理由がないわよ、あの子に目をつけてから10年待ったことを誉めてもらいたいくらいだわ」

 

「あの時は真面目に、アレンにプリンを殴ってもらうべきか悩んだものですが……」

 

 

 かわいい盛りだった、無論今もかわいいのですが。幼かった3男のコナンに一目惚れしてしまったプリンが、情欲塗れの瞳で私に談判してきたときは本当どうしたものかと頭を抱えたものです。

 今思えば、コレ間違いなく私がヤンチャし通してた頃に彼女の性癖を捻じ曲げたのが根本原因ですよね、しかし私は謝らない。

 

 

「まぁ、あの子も貴女の事を好いている。むしろ貴女以外目に入らない様子ですから、今更私が横やりを入れるのもまた筋違いですか……」

 

「と言う事は、頂いちゃっていいのよね?この我慢に我慢を重ねた気持ちをぶつけてもいいのよね? 母親公認と見てよいかしら?」

 

「少しは落ち着きなさい、救世の魔女」

 

「今は落ち着いてても昔のヤンチャとやりたい放題は消せないわよ? 英雄妃」

 

 

 遠慮無用の火の玉ストレートな言葉の応酬が私とプリンの間で飛び交い、互いに無性におかしくなって同時に噴き出してしまう。

 アレンも子供達も、城の者や民達も皆良くしてくれている。けども、こうやってある意味で無遠慮な言葉をぶつけられる相手が今や少なくなってしまったのも、また事実で。

 だからこそ、プリンとのやり取りをとても、とても楽しく感じていた。

 

 

 だけども、数日後コナンが幸せそうながらも若干やつれていた姿を見た時は、やっぱり全力で止めるべきか後悔した。

 まぁその後アレンも交えた3人での会話で、プリンの肉食っぷりが落ち着きを見せたから良しとしましょう。  コナン、強く生きるのですよ。

 

 

 

 

 

『ぽんぽこ増える王族と、民達の日常』

 

 

 ローレシア王妃クッキーの懐妊。

 そのめでたいニュースは瞬く間に国中を駆け巡り、あちらこちらの酒場ではローレシア王家万歳と騒ぎながら乾杯をする民達の姿であふれかえっていた。

 

 

「なぁ聞いたか?」

 

「ああ、またクッキー王妃がご懐妊されたそうだな」

 

 

 そして、城下町の一角にある酒場でもまたその喧騒は同様で。

 男達がジョッキを勢いよくぶつけあいながら、未来は明るいななどと互いに話し合いながら杯の中身を勢いよく呷る。

 

 

「めでたい話だよなぁ! ……で、今回で何人目だっけ?」

 

「確か、11人目だ」

 

「……すげーよな、王妃様」

 

「ああ、すげーよな。何がすげーって、あんだけ産んでてあの御身体だぜ?」

 

 

 もはや毎年、ないし隔年ごとに齎されるこの朗報はもはやローレシアにおいての恒例行事じみた光景と化していた。

 そして、そのたびに上がるのが国王夫妻の絶倫っぷりと、王妃の体型の話題である。

 

 

「うちのかーちゃんなんて、王妃様と同い年ぐらいの筈なのに脇腹をがっしり掴めちまうってのになぁ……」

 

「なんでも、王妃様は今も剣の鍛錬とかは欠かしてないらしいぜ?」

 

「マジかよ、お腹の御子様に障ったりしねーのか……?」

 

「そこも留意してるらしいぜ? 城で働いてる妹に聞いた話だから、多分間違いねぇ」

 

 

 王妃ことクッキーは、旅に出てた頃に比べてだらしのない体になったと常々呟いている事は城勤めの人間、ないし彼らに近い人間には広く知られている話であるが……。

 実際だらしないかと言えば、一般的な奥様方が全力で憤慨する程度にはその体は引き締まっており、その上で女らしい丸みと肉付きをしているというのが真相とも言える。

 

 

「……こんな事いうと不敬極まりねーかもしれねーけどさ。     俺、アレン王がすっげぇぇ羨ましい」

 

「言うな、気持ちはわかるから」

 

 

 ついでに、割と王妃は国中から色んな意味で愛されていた。

 詳細については彼らや、国の健全な男子の名誉のために省くことになってしまうけども。

 




いやぁー、絵師さんに依頼を出して……注文通り以上の一品が仕上がった時の悦びはほんとやべーですね。
中毒じみた快楽があります、皆さんもぜひ依頼を受け付けてくれてる絵師さんに、欲望の滾りをぶつけましょう(狂人の眼)


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