氷皇の「さばき」 (†アルティメット⭐設定厨†)
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プロローグ
氷皇の終わり


戦うのが好きだ。

きっかけは、小学校のころだ。
髪がどうの目がどうのと虐められた。それにキレるなりして喧嘩になって……その後、なんか色々と喧嘩を売られるようになった。そのころは自分から売ることはしなかったが、勝てば勝つほど生意気だなんだのと売られ続けた。

少しして、そろそろ喧嘩を買うのに慣れて来たころ。
『名が売れれば絡む連中も消えるから』という理由で、悔過した相手からストリートファイトなるものに誘われた。

ストリートファイト。その名の通りファイト、喧嘩とは異なる真剣勝負。
相手はそこいらのチンピラではなく、裏世界の強者。何度攻撃を受けても倒れないタフな男、幼い見た目に反して蹴りが強い女の子、到底反応できないほどの速さで迫って来るお爺ちゃんに、果ては酒飲みながら魔法戦を仕掛けて来るオバさん。
始めは、負けに負けた。そして、負けて、次に勝つためにどうすればいいのか考えて特訓して。勝ったときは、ボロボロの体で何か特別な物を感じた。

『好きなんだな、戦うのが』

ボロボロの状態で笑っていると、誰もがそう言った。

そのあたりから、もう喧嘩は売られなくなった。
遠くの敵を魔法で撃ち落とし、武器の攻撃を杖で防ぎ、相手の拳を止め投げ飛ばして魔法で撃ち落とす……遠近中全ての攻撃を捌ききる。捌き捌いて、敵に無慈悲な裁きを与える。『さばきの氷皇』と、そう呼ぶ人間も現れ始めた。

そして、現在。
そんなストリートファイトの皇女、『シエル・ファナフロスト』は。











































「うう。シエルさん……」

「ヴィ、ヴィヴィオ……」

「……本当に、ダメですか……?」

お隣さんの、年下の女の子の視線を捌けずにいたのだった。


「因果な物よね、アーノルド。

でも、いつかこんな日が……あんたに引導を渡す日が来るのは、解ってたわ」

 

「ああ、俺もだ……安心しろ、すぐ楽にしてやる」

 

「「「「……」」」」

 

────とある場所にある、廃工場。

そんないかにもな場所で、『アタシ』は同じく金髪や耳ピアスなどのいかにもとな連中計5人と対峙していた。

 

「そう……まぁ、アンタ等5人そろった所でアタシに勝てる未来なんて見えないけど」

 

なお、アタシ含むその他5人は武装……アタシは杖を、他にもブーメランや果てにはミニガンや怪しい香りしかしない巨大な鉄の塊。いわゆるデバイスを装備、さらにバリアジャケットと呼ばれる、特殊な防御服を着ている。

 

「だとよ、イワン。

シエルも好きな事言ってくれる……アイツなんぞが、俺に勝てるわけねぇのによ?」

 

「黙りなさい、勝負始る前に凍らせるわよ? 

第一、それはこっちのセリフよ。アンタごときじゃ、アタシに傷1つ付けられないわよ」

 

「いい度胸だ、ぶっ殺してやる」

 

「ハッ、消えなさい……いや────」

 

理由は簡単、今ここで戦うから。

 

「────凍りなさい?」

 

「さぁて、というわけでやってきましたバトルターイム! 

本日は、我々ストリートチーム『クリムゾン・オーガ』が紅一点『シエル・ファナフロスト』さんの引退式! ここまで全戦全勝、まさにまばゆいばかりの活躍を繰り広げて来た彼女。本日はそんな彼女に、最後の最後で全員でボコってダークな敗北を味合わせて見送ろうというところです……なお、そんな今日という日だろうが現在、何時管理局員が来たとしても可笑しくありません。いつも通り当然の如く無許可、町のど真ん中の廃工場を占拠、なおかつ堂々と結界を使用してでの戦闘です!! っていうか、結界の方は恐らく管理局の魔力探知に引っ掛かっちゃってます!!」

 

アタシの名前は、シエル・ファナフロスト……もうすぐ高校に入る、15歳。

得意科目は体育、ついでに物理・数学。特技は……強いて言うなら、家庭科全般だろうか。両親が家から離れがちで、その影響から料理から掃除まで女子力というものには自信がある。

趣味は読書。漫画でも小説でも、バトルものや本格推理サスペンスでもホラーでも……本は偉大、本は暇をつぶすのに最適だと自負している。最近は少女漫画にも手を出し始めていて……偶に、お花畑前回な事を1人で妄想しちゃったり。

 

と、これだけ言えば普通の女の子なアタシ。

けど、アタシにはちょーっとだけアレ(・・)な所があって———

 

「実況兼、選手は毎度おなじみこの私! 

中学放送部部長、『名前に反して口達者な』イワン・サイレンスでお送り……する場所は特にありませんが、精いっぱい盛り上げさせていただきます!!」

 

「どっからでもかかって来なさい! 

吹っ飛ばして、氷漬けにしてあげるから!!」

 

「はっ、ふざけんなこのクソ女! 

他所に消える前にこの場で消してやるらぁああああああああ!!」

 

────戦闘行為が大好きな、戦闘狂だったりする。

 

今日も今日とて、同じ不良仲間と魔法戦。

 

魔法戦を、無許可で適当な廃工場とかを借りて(別に許可とってもいんだけど、誰かが『無許可でやるからカッコいい』とか言ったことで基本的に許可はもらっていない)……ただ自分の体を気にかけて、ちょっとやばくなったら降参。多少体力を温存し、時空管理局(わんちゃん)が来ても直ぐ逃げれるようにして。

管理局に隠れてやりつつ、ばれたら逃げる。そんなアウトローな感覚を愉しむ……今思うと、バカかと思うゲームだ。

 

「それでは、勝負開始だぁああああああああああ!!」

 

「食らえ、インフィニティ・バレット!!」

 

「そんなもの。猿だって食らいやしないっての。アイシクル・シールド!!」

 

同じ趣味を持つ人間との、ちょっとイケナイ遊び。そしておそらく、このメンバーでやる最後の遊び。

 

「シエル、最後の勝負位はぶっ飛ばしてやらぁああああ! 

デンジャラススロー!!」

 

無限の名前とは裏腹に1000発程度の(それでも凄いけど)、ミニガンから発射される超小型の魔力弾。魔法で氷シールドを張り防ぐアタシに対し、隣の男がブーメランを力任せに振り回し投げる。

 

……今日、アタシは引っ越す。

 

ある日、両親の転勤が決まった。

両親とも同じ職場で、2人揃って転勤が決まった。なにより面倒だったし、アタシは残りたかったんだけど……因果応報というかなんというか、さすがに無法で魔法を使うような不良娘を1人で置いていくということは許してくれなかった。

 

アタシも、一緒にこの地から離れることになった。

 

「くっ……!!」

 

アタシのシールドは、飛んできたブーメランを防ぐ……が、それでちょうど壊れる。

 

「おらぁ! 

寂しくないように、全員から1発は貰ってから行けよー! エアライド・スタンプ!!」

「ま、一応逃げ(ひっこし)に支障がない程度にしてやるから安心しな! 

スパイク・ストライク!!」

「私もお忘れなく! スター・ブラスト・フィスト!!」

 

即座に、アタシに連続で攻撃が叩き込まれる。

 

何の意味があるのか、わざわざスケボーに乗って行う踏みつけ。

唐突なガチ攻撃、男のロマンパイルバンカー。

無駄に凝りに凝って、星のエフェクトがウザったいほどに付いたパンチ。

 

「きゃぁあああああああああああ!!」

 

それが、一斉にアタシに直撃した。

 

かれこれ、もう3年。

何度も戦い続け洗練された、まさに三位一体の攻撃がアタシに直撃する。

 

「かはっ……!」

 

当然アタシは吹っ飛ばされ、近くにあった壁……を貫き、全員が渾身の力を込めて張った固い固ーい結界に叩きつけられた。

 

ああもう、引っ越し直前にリンチにあって壁に固い壁に叩きつけられるとか……。

 

「本っ当に最低(さいこう)ね、アンタ等……いいわよ、こうなったら全員凍らせて、ブッ叩いて粉々にしてやるわ!!」

 

「ハッ、望むところだ! 

お前がどこまで泣かずに立ってられるか、人体実験といこうじゃねえかぁ!」

 

「シエルさんを倒して、今日こそナンバー2にならせていただきましょう~!!」

 

「「「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

「食らいなさい、アイシクル・ブラスト!!」

 

アタシは、目の前に立ちふさがるバカ共に氷の砲撃を叩きつけた……。

 

この日、結界の存在に気づいた時空管理局が到着するまでの約10分間。アタシたちは廃工場内で暴れ、そして逃げるときにそのまま分かれた。

 

こうして、シエル・ファナフロストの歪な中学3年間。戦いに明け暮れた、バカみたいな3年間はこうして終わりを告げた。

 

……そして。

 

「……おい、シエル。

起きろ、ミッドチルダに……家に、もうすぐで着くぞ」

 

「シエルちゃん、起きて? 

せっかくのお家だもん……最初は3人で、一緒に見ましょう?」

 

「んん……?」

 

場所、ミッドチルダ。

魔法世界の……いや、全ての次元世界。文字通り、全世界の中心に存在する魔導師の街。

 

「ほらシエル。あそこが、お前の新しい家だ」

 

「お隣さんも、魔導師なのよ? しかも———」

 

「へぇ……」

(眠……なんでわざわざ起こすかなぁ……)

 

そこで、シエル・ファナフロストの新たな3年間が────

 

「────その子は、あの『エース・オブ・エース』なの!」

 

「……へぇ」

────新たな、最低(さいこう)の3年間が始まった。

 

 

 

 

 

 

~??? ~

それは、私がもうすぐ初等部の4年生になろうとしていた日の事でした。

 

「────オー! ヴィヴィオー!」

 

「……はーい! どうしたのー?」

 

私の名前は,高町ヴィヴィオ。ここ,ミッドチルダに住むごく普通の小学3年生。あと少しで4年生,ママみたいな魔導師……魔法の力で日色々な人を助けられるような立派な人になるため。今日も学校に行って、魔法の勉強をして、楽しい毎日を送っています。

 

「今日引っ越してきたお隣さんがご挨拶しに来たから,ヴィヴィオも玄関まで顔見せてー?」

 

「あ,はーい!」

 

そして今日は、とても素敵な出会いがありました。

 

「よう,高町空尉!」

 

「ファナフロスト陸佐!」

 

私が玄関まで行くと,もうママが先にお隣さんと合っていて……お隣さんも,どうやらママと同じ魔導師みたいです。

 

「久しぶりだな、空尉。

最後にあったのは……本局でやった、ウチの部隊と教導隊選抜メンバーでの交流戦以来か」

 

「ですね、その節はどうも」

 

「いや、こっちこそ助かった。

久しぶりにまともな模擬戦ができて,ウチのメンバーもやる気になってくれてな……またあんなお祭り企画があればいいんだがなぁ」

 

「確かに,実戦訓練でも相手が同じ隊のメンバーばかりだと相手の手の内が解ってしまいますしね」

 

「全くだ。

……っと,そっちのは例の娘さんか?」

 

「はい。娘のヴィヴィオです」

 

「そうか。……譲ちゃん,俺はグラリック・ファナフロスト……陸のほうで魔導師やってる。んで、こっちが家内のロア」

 

「一応,私も管理局の鑑識科に所属してるの。よろしくね,ヴィヴィオちゃん」

 

「あ,はい。高町ヴィヴィオ,小学3年生……もうすぐ4年生です。よろしくお願いします!」

 

「おう,よろしく。んで────」

 

ニッ,と気さくな感じで笑うグラリックさん。

私が話し終えると、視線を後ろに移し────

 

「────シエル。お前いつまでそこに居る気だ? もっとこっち来いって」

 

────その人を,私たちの前に連れ出した。

 

「俺らの娘だ。今度から、こっちの高校に通う」

 

「ども,シエル・ファナフロストでーす……って、なーるほど、これは中々……」

 

明るい……というか、どこか軽い感じの女性。

始めは笑いながらシャツとジーンズのみの格好で,手をジーンズのポケットに入れてこっちを見つめて……それから突然、キッとどこか悪い目つきに変わる。そして赤い目が,まるで血に飢えた獣のように私の姿を捉えた。

睨まれた……というか,目をつけられた? おしとやかさとは到底離れた、獲物を見るような視線を感じる。

 

正直、少し怖い。でも────

 

「ハハッ,悪いな。

コイツ俺の気の強いトコだけ似やがってな,軽いだけで可愛げがさっぱりねぇ。見た目は大分ロアに似てはいるんだが……寧ろ、おかげでがどうもな」

 

「ほっときなさい、凍らせるわよ?」

 

グラリックさんに茶化され、そっぽを向くシエルさん。

それに合わせて白い長い髪が、ふわっとなびいた。

 

「……」

(綺麗……)

 

────ただ思う,綺麗。綺麗で,かっこいい。

 

鋭い赤い眼。

白……灰色でも銀色でもない,背中を包み込むように伸びている真っ白なロングヘア。肌も白くてきめ細やかで体付きは細くすらっとしていて。そのルックスが、態度の悪い動作も、『クール』さに変換されている。

 

「た,高町ヴィヴィオです! これから隣同士,よろしくお願いします!」

 

「……ん、よろしく」

 

私が笑顔を見せると、シエルさんはぎこちないながらも笑ってくれた。

 

「はい!」

 

……明日から,楽しくなりそうです!




キャラ紹介

シエル・ファナフロスト (15)
魔法陣の色:白
変換適正:凍結

両親の仕事の都合で、ミッドチルダに引っ越してきた少女。父親は時空管理局陸佐で、母親は管理局本部の鑑識官。

俗に言うアルビノ体質で,身体的特徴は
・するどく,血のような赤い眼
・白髪の,背中がすっぽり覆われるほどのロングヘアー
・きめ細やかなで,真っ白な肌
・(胸まで)細い体つき
・貧☆乳
・ヒップも期待できず
・かなりまな板だよこれ!
ヴィヴィオさん曰く、『美少女』。

一人称は『アタシ』。幼少時,コントロールしきれていなかった多大な魔力と適正の影響で肌が冷たくなっており,そのせいでイジメにあったりや喧嘩を売られたりした影響で荒れている。その為基本的に性格は悪く、沸点は低め。
友人と呼べる人間が居た経験が少なかった影響で、趣味は読書。ジャンルはラノベから本格推理モノ、ホラーまで特に問わずサブカルにも強い。

幼いころから魔力をコントロールしてきたこと、そしてその原因の魔力の多さからそれなりに難易度の高い魔法を使う事が出来る。更に両親仕込みである管理局式の杖戦闘術及び体術ができ、多大な魔力と併用し戦う。

なお喧嘩は昔は嫌いだったが、今はそうでもない。
不良ながら、たばこは体に悪いのでNG。酒は1度家で飲んだ時に両親から『人様の前では飲むな』と言われてから飲んでいない。当然、薬はやらない。


口癖は『凍りなさい』『最低(さいこう)』。


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少女の小休止

アタシはシエル・ファナフロスト。

 

最近、ここミッドチルダに引っ越してきた15歳。

引っ越しの片付けも終わり,父と母は早くも出勤を開始……しかし、アタシが通う学校は現在春休み中。入学式までまだまだ数日ほど、その間やりたいことも予定も何もない。アタシは、今日と言う1日を完全に持て余していた。

 

昨日は、というか一昨日と3日前も1日本を読んで過ごした。今日もそれで……と思ったけど、流石に精神的に限界。部屋に閉じこもったままで、体も鈍るとアレだし。

 

「あーあ、なんかやること無いものかしらねー……よっと」

 

1人、ダイエットボールの上で本を読みつつ呟く。落ちそうになったのをバランスを取って、ついでに近くに置いてあった雑誌を手に取る────

 

『ピンポーン』

 

「ん?」

 

────そんな時、玄関のチャイムが鳴った。

 

「はいはーい、今出まーす」

 

服装を確認……ジーンズにシャツ、人さまの前に出てもいい服装であることを確認して扉に向かう。

 

「すみませーん、お待たせしました」

 

「あっ、シエルちゃん。こんにちは」

 

「って、なのはさん?」

 

すると、お隣さんにしてかの有名な『エースオブエース』。高町なのはさんが、自宅に訪問して来ていた。

 

「え、えーっと……オハヨウゴザイマス?」

 

「ふふっ。うん、お早う」

 

突然の出来事に混乱気味の頭。

元より、戦闘を介さないコミュニケーションと言う物を最近してなかった事、そして目の前の人物が管理局員……最近まで天敵だった相手であること。以上の理由で回らない頭をフル活動し、とりあえず挨拶の言葉だけ口にする。

 

なのはさんは、アタシの反応を楽しそうに笑ってからこう言った。

 

「シエルちゃん、格闘技って興味ない?」

 

「え? 

えーっと。どうしたんです、唐突に」

 

「あ、うん。

実はヴィヴィオ……私の娘がストライクアーツっていう格闘技を習ってるんだけど。今日は久々に休みが取れたから、応援しに行こうかなーって思って。ちょうど昨日、それを考えて……その時に陸尉に合って」

 

「父に?」

 

「うん。

それでヴィヴィオのこと話したら、シエルちゃんが陸尉から体術とか習ったって聞いて。それで一緒に行って、見たり一緒にやったりできないかなぁって思ったんだ。せっかくお隣同士なのに、私もヴィヴィオも仲良くできないのは勿体ないでしょ?」

 

「なるほど、今日はそのお誘いでウチに」

 

曰く『まずは同じ趣味の友達から始めましょう』、と。

ご近所づきあいをここまで大切にするとは、最近の若い人(アタシも若い人だけど)にしては社交的ねー、なのはさん。

 

「……」

(にしても、格闘技か……)

 

興味は無くはない。ただ、好きでもない。

ただ、小学校の低学年くらいに、お父さんに護身用だとかで教わって……喧嘩に使ってから教えてくれなくなって、それっきりだし。やるのも、喧嘩とかで手段として『使う』のは嫌いじゃないんだけど……格闘技そのものとなるとねぇ。

 

断ってしまおうか、と一瞬考えた……けど。

 

「本当は昨日のうちに連絡したかったんだけど、家帰ったのがちょっと遅くて────」

 

まるで兎のような目でこっちを見て来るなのはさん……声もどこか甘えたような、ふんわりとした感じで……。

 

「────どうかな、だめかな?」

 

ヴィヴィオちゃん、あの子をそのまま大きくしたみたいでなんか可愛いかった。

嫌な感じはしなかったし、そもそも今日の予定は無い。ついでに、1日中ゴロゴロする生活もそろそろ嫌になったたことだし。

 

「そうですね、それじゃご一緒させてください」

 

「本当!? 

ありがとう、それじゃ早速……あ、荷物とかは大体車に積んであるからシエルちゃんは体1つでオッケーだからね! ささ、乗って乗って!」

 

「はい……それじゃ、少し待っててください。カギ取って来るので」

 

「うん、それじゃ先に車乗ってるねー!」

 

そんな俗的なそろばんを引いた結論をアタシが答えると、それだけで嬉しそうに家に止めてあった車に向かうなのはさん。

 

「変な人……」

 

アタシは、そんななのはさんに聞こえないように小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

特別渋滞したりすることなく、家から車で約数分。

 

「へぇ、ここが……」

 

アタシとなのはさんは近くの体育館に来ていた。

 

「おっ,ソイツがヴィヴィオが言ってた隣人か」

 

「あ,初めまして……」

 

到着早々、赤い髪の女性のご登場。

 

「おう,シエル・ファナフロスト。初めましてだ,ヴィヴィオから……あと、グラリックさん達から色々聞いてるぜ?」

 

「あ,そうなんですか」

(っていうか知り合いなんだ……まぁ、なのはさんの知り合いっぽいしあり得るか)

 

「ああ……色々と。格闘技ができるとか、色々ヤンチャしてるとか、な」

 

ニヨニヨと悪戯っぽい感じに笑いながら(お父さん達、何話したのよ),じっとこっちを見てくる赤い髪の女性。

 

んー、見られるのは……過去の関係であんま好きじゃないんだけど。

 

「なんですか、なんかついてます?」

 

「……っと悪い、聞いてた通りだったからついな。

それと自己紹介が遅れた、アタシはノーヴェ。ノーヴェ・ナカジマ。救助隊に所属してる。よろしくな,シエル……でいいか?」

 

「はい、ノーヴェさん」

(む、一人称被った……)

 

喋り方とかキャラとか色々気にして、混合しないように気をつけねば。

 

……。

 

……誰がどう混合するんだろう? 

 

「……それで、そっちの子は?」

 

なんかSAN値が減る様な、気づいちゃいけない事に気づいた気がした。

ので、なるべく気にしないようにして隣に居るツインテールの女の子を見る(っていうか,この子も可愛い)。

 

「あ,私はコロナ・ティミル……ヴィヴィオのクラスメートです」

 

「ん、えっと……コロナちゃん、でいい? よろしく」

 

「はい,シエルさん!」

 

ペコリとお辞儀をするコロナちゃん。

その後に見せた笑顔も裏がない、穢れのない……こっちに来て初めて見た、世界や心の闇を知らない、普通の一般人の目。うん、いい子。

 

「……」

(……ん?)

 

……。

 

……始めて? 

 

「……」

(つまり、なのはさんはともかくヴィヴィオちゃんも何かしらアレなのか)

 

「さーて、自己紹介はこんなもんかね。んじゃ練習始めるか……なのはさん、ってことで適当に見ててください。ヴィヴィオにコロナ、今日は特別ゲスト2人だ。腑抜けた動きすんじゃねぇぞー!」

 

「「はーい!」」

 

「……」

(……ま、いいか)

 

まぁ、人にはいろいろある物。

練習始まるみたいだし、気にしないでおこう。

 

「シエル、アイツ等の動き見て腰ぬかすなよ?」

 

「ははは、それじゃ期待させてもらいます……」

 

そう言って、ストレッチをしている2人を見る。

ヴィヴィオちゃんにコロナちゃん。まだまだ小柄で、見た目じゃストライクアーツみたいなガッチガチの格闘技なんてできなさそうな体系だけど……。

 

「んじゃ、スタートだ!」

 

「「……!!」」

 

「……。……へぇ」

 

うん、悪くないわね。

正直言って、今日はただのご近所づきあいの予定だった。けど、2人の動きは……特にヴィヴィオちゃんの動きは、アタシの想像を超えていた。

 

「たぁっ! ぁあっ!!」

 

コロナちゃんは普通に上手い。

ノーヴェさんが教え上手なのか練習するのが、努力が得意なタイプなのか……ちょっと不良ぶった中学生くらいなら返り討ちに出来そう。

 

相手がイワン────無駄にゴチャゴチャした、アホみたいに派手な攻撃が好きな実況(仮)。一応チームのナンバー3だった────くらいでも、いい感じにやり合うくらいはイケるんじゃない? 

 

「……!」

 

そしてヴィヴィオちゃん……こっちは、正直小学生のレベルじゃない。

 

パワーは無い、体格も小柄。けど、動きが速く鋭い。そして、なにより目に力がある。今ヴィヴィオちゃんの目の前にあるのはサンドバック……けど、ヴィヴィオちゃんはそうじゃない架空の相手と戦ってる……。

 

「いやいや、これは……予想外過ぎ?」

 

今まで、何度も喧嘩した……遊びじゃない、マジな喧嘩もした。

他のチームというか不良集団が喧嘩売ってきて、人を殴って殴られて。何度も攻撃を避けたり吹っ飛ばされたりした。時には、相手が大人数で襲い掛かって来る時もあった。

 

おかげで動体視力やら反射神経、そして戦闘経験には自信がある。

 

「……! ……!!」

 

「……」

(なんであんな可愛い子が顔パンメインのえげつないコース殴ってるのよ……)

 

そんなアタシは、理解できる。

あの子が彼女と同じくらいの身長の相手を殴っていると仮定した場合、ヴィヴィオの拳は顔面・もしくは鳩尾など食らうとヤバイか痛い場所に集中している。サイズと年齢から威力がお察しな分、落とせる場所に当てる感じか。

 

ヴィヴィオちゃん、イイ感じねぇ……。

 

「……シエルちゃん、それなりに修羅場潜ってたりする?」

 

「へ?」

 

「いや、なんか目がね。

グラリックさんとか、私たちとか……そういう、『見る必要がある』人達の目だなって」

 

と、不思議そうに見て来るなのはさん。

 

アタシは、若干苦笑いで答える。

……まぁ、それなりに懐かしい思い出だ……。

 

「あ、そうでした? 

……父親から聞いてるでしょう、一時期は喧嘩しっぱでしたからね……単純に強いのとか────」

 

確か、別の不良チームのリーダーだったかナンバーツーだったか……インフィニティ・バレットをフットワークだけで躱して、なおかつトンデモなスピードで接近してきたときはビビったわね。確かアレ、勝ったと言えるのかわからないギリギリな勝負だったはず。

 

いやぁ、あれはヒヤヒヤした。

そうそう、ヒヤヒヤしたといえば……。

 

「────まぁ、あと普通にヤバいのもいましたね。

一回、マフィアとガチ目の抗争しましたし。あの時は、知り合いのチームに頼み込んだりとか敵対チームに頭下げたりとかして人数揃えて……何とか講和まで持ってったんですが。まぁ、結構大変でした」

 

「シエルちゃん……」

 

アタシの発言に、管理局員であるなのはさんがジト目で見て来る。

んー、この表情。そういえば、あの時もお父さんにもこんな顔で『拘留所(そこ)で大人しくしてろ』って怒られたんだっけ。

 

「……あ」

(コロナちゃんのちょっとスピードが落ちて来たわね……)

 

「はぁ,はぁ……!!!」

 

まぁ、その負の積み重ねで今のアタシがあるわけだけど。

練習開始から十数分、コロナちゃんの動きが鈍って来た……かな、たぶん。

 

「うし、んじゃスパーリングするかぁ! 

まずはヴィヴィオから……相手はアタシとだ。コロナ、悪いがシエルと見ててくれ」

 

その辺りで、ノーヴェさんが一回練習を止める。

コロナを休ませ、ジャージから短パンとタンクトップに。そしてその場でシャドーを始めた……すると。

 

「おっ、ヴィヴォちゃんとノーヴェのスパーか」

「ラッキー、アレちょーカッケエーんだよなー……速すぎて見えないけど」

「ふふん、修行不足ねー……私含めて」

 

ザワザワ……ザワザワ……。

 

人が集まって来た……っていうか、見えないのにカッコいい云々あるのだろうか? 

 

「2人、なんか凄い目立ってますね」

 

「ノーヴェさんもヴィヴィオも、ここの体育館じゃ結構有名なんですよ」

 

「ヴィヴィオは目がいいからね。ノーヴェは言わずもがな、救助隊で頑張ってるみたいだし」

 

「へぇ……」

 

ヴィヴィオとノーヴェさんのスパーリング……サンドバックの時点で解ってたけど、ヴィヴィオはやっぱりカウンターだった。

 

ノーヴェさんが攻撃すると、ヴィヴィオちゃんは避けてすぐさま急所へ攻撃を入れる。ノーヴェさんはそれを防御し蹴りを入れる。ヴィヴィオちゃんはそれをガード……練習だし、手は抜かないにしても6~70%くらいの動きだろうに、それでこの動きというから末恐ろしい。

 

ヴィヴィオちゃんと殴り合ったら負けるんじゃないか……それくらい思った。

 

「……」

(ん、ちょっとヤバイかも……)

 

楽しそうに拳を重ねる2人。そんな2人を見ていると、心がうずいてくる。

 

ここが、格闘技用の体育館で……公共の施設で良かった。誰でもいいから戦って、というか襲ってしまいたくなってきた。周囲の目っていうものが無かったら、ここが人気のない路地裏とかだったら、この衝動を抑えられなかったと思う。

 

「……シエルちゃん?」

 

「大丈夫です、流石にエース様の前で変な事はしませんって」

 

そもそも、隣にお巡りさんいるし。

……結局その日、練習後になのはさんが作ったお弁当を食べて解散になった。

 

「それじゃ、また暇があったら来てねー!」

 

「はーい」

 

そして、アタシは。

 

「おい、アマぁ! 

肩ぶつけといて『すいません』の1言無しか、あぁ!?」

 

「……なに、アンタ? 

ぶつかって来たのはそっちでしょ? 謝るならソッチで……いや、やっぱりいいわ。アンタウザそうだし。『すいません』……それじゃ」

 

「あぁ!? 

テメェ舐めてんのか!? ふざけんな、来い!!」

 

「……」

 

送っていくと言ってくれたなのはさんには悪いけど、別行動。

 

「何、こんな人気のないところまで連れてきて……アタシに、何かするつもり? 『ナニ』でもするつもり?」

 

「はっ、誰がテメェみてぇな胸のねぇ女相手にするかよ! おい、お前ら!!」

 

「「「……」」」

 

街の路地裏、10人くらいの男の人とイケナイ遊び中。

 

「ボッコボコにして、服でも剥いで記念撮影してやるよ!」

 

「あ、兄貴。俺貰っても……?」「財布スッカラカンにしえやるぜぇ!!」「ヒャッハー汚物ハ消毒ダー!」

 

「ふぅん……んじゃ、アタシはアンタ等ボコって氷漬けにしてあげる♪」

(胸云々言ってくれたお礼も込めてね……!!)

 

別に胸の大きさは気にしてないけど……いいいいいや、本当に気にしてないけど。自分でも貧相な体だとは思うけど、気にしてないし。昔言われた悪口で1番イラッ☆とした内容だけど……まぁ、仮にも女性相手だし。

 

さて────

 

「ぶっ殺す!! 行くぜ、テメェ等!!」

 

「「「おう!!」」」

 

「13対1、立派な正当防衛よね……」

 

────高ぶったこの感情、存分に暴れてもらいましょうか……!! 

 

「凍りなさい……?」



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シエル・ファナフロストの始まり

ヴィヴィオちゃんと出かけて、次の日。

 

「身体動かそう」

 

ちょっとダラダラした後、素早くジャージに着替えて庭に出る。

 

「……来なさい、『デッド・ロック』」

 

アタシのデバイス、真珠のような、ミルク色の宝石を取り出し魔力を解放。

面倒だし────ついでに、平和な住宅街で使うような見た目じゃないし────バリアジャケットは展開しないで、武装である杖だけ展開。

 

慣れ親しんだ、金属性故の重み。軽ーく回したり振った後────

 

「……1! 2! 3! 4!」

 

────素振り開始。

一定のリズムで、一定の踏み込みで。

素早く、適当にならないように。丁寧に、振っては体制を整えてまた振る。杖の重みに振り回されないように、身体のブレを少しでもなくすように……。

 

昨日の喧嘩は、ハッキリ言って酷かった。

1番強いのでも、ヴィヴィオちゃん以下……いや、コロナちゃんにすら瞬殺されるレベル。魔法という明確な武力になり得る技術を誰が持っているかわからないこの時代で、よく知らん相手にあそこまで強く出れるのが寧ろ凄い。そんなレベルの、ただ数だけそろえて屯ってるだけの連中だった。

 

おかげで、身体を動かし足りない。

朝起きて、早朝からかなりマジな訓練を始めてしまうくらいに不完全燃焼だ。ご飯食べる前に、ランニングと……魔法で的当てでもやろうかしらね。

 

……にしてもあの連中、ホント酷かったわね。

高速砲は防げないにしても、ただのシュートでシールド割れるし。逆に向こうのシュートはまっすぐ飛ばせてないわ、そもそも発動失敗して謎の爆破現象発生させるわ。なぜか割れたシールドが自分に刺さって怪我してるのもいたし……寧ろどうやったらそんな結果になるのか教えてほしいくらい────

 

「こらっ、訓練中に別の事を考えない。

シエルちゃん。タイミングズレてる、変な癖ついちゃうよ?」

 

「……あ、なのはさん。おはようございます」

 

────なんてことを考えていたら、お隣の教官殿に怒られてしまった、反省。

 

「おはよう、シエルちゃん」

 

「おはようございます、シエルさん」

 

「ヴィヴィオちゃんも、おはよう」

 

タカマチ親子、昨日に続いて2日連続の遭遇。

腰に手を当てて『メッ』と注意するなのはさんと、その隣で『集中ですよ、集中!』とガッツポーズをするヴィヴィオちゃん。2人共、ジャージを着てその場で足踏み中。

 

「そっちもトレーニングですか?」

 

「うん。私は教える側だから、どうしても自分を鍛える時間が無くて」

 

「わたしは、折角なので親子一緒に楽しく!」

 

「鍛える、ですか。流石ですね、マメというか、真面目というか……」

 

「まぁ、何があるかわからないし。いつでも動ける体にはしておきたくて……本当は、私が動く時なんてないのが1番だけど。

それよりシエルちゃん、今日はどうしたの? 昨日までは朝練して無かったよね?」

 

「あ、はい。昨日……。……。

ヴィヴィオちゃんの練習見てたら、ちょっと体動かしたくなりまして」

 

一瞬、『昨日、喧嘩したら相手があまりにも弱くて』と言いかけたのをキャンセル。自首からの事情聴取を回避する……一応嘘はついてない、喧嘩したくなった理由にあの練習で気分アガったのもあるし。

 

「へぇ、シエルちゃんも? 

やっぱり、ああいうの見てると楽しくなっちゃうよね~!!」

 

「おかげで今日、いつもより30分早く起きてるんですよ~」

 

「なのはさん……まぁ、気持ちはわかりますけど」

 

「にゃはは~。

それに、ヴィヴィオは動きが『早い』からね。娘の攻撃を防ぎきれなくなっちゃうんじゃないか、って思うとね。やっぱりこっちも母親として負けられないな、って」

 

『つい、燃えちゃうんだ~!』、と楽しそうななのはさん。

その後も、さすがはミッド人。戦闘中のスタイルやら好きな型とかの話を『奥さん、そこのスーパーでセールがあるらしいですわよ』的な感覚で話していると、不意になのはさんがこう言った。

 

「そうだ! 

シエルちゃん、ヴィヴィオと模擬戦でもしない?」

 

「「えっ?」」

 

模擬戦。

アタシと、ヴィヴィオちゃんが、今? アタシは、まぁ構わないんだけど。

 

「……別に構いませんが。

いいんですか? 父から聞いてるんでしょう、色々と『ヤンチャ』してるとか」

 

「聞いてるよ? 

ヤンチャしてたことも、始めた理由も……大丈夫、シエルちゃんは信頼できる。ヴィヴィオに変に危害は加えない」

 

「……そうですか」

(あの親父、余計なことを……)

 

アタシの問いかけに、普段のふんわりとした雰囲気とは打って変わって、きりっとした表情で答えるなのはさん。

 

答えた後、またいつも通りニッコリ笑ってこう言った。

 

「だから、楽しく一戦。やろう?」

 

「……わかりました。

と、いうわけでヴィヴィオちゃん、一戦お付き合いお願いできる?」

 

「はいっ!」

 

「決まりだね! 

それじゃ、ルールを決めよっか。距離は10Mくらいかな? ダウンか、有効打が入ったら終了。砲撃は許可取ってないし無し、バインドとシールドは……」

 

「無しでいいですよ……そうですね、なんなら武器も身体強化も」

 

「おっ、強気。

でも、ヴィヴィオは結構強いよ~?」

 

「大丈夫です、昨日の練習でそれは解ってますから……ただ、こっちも伊達に氷皇なんて呼ばれていないので。この身1つあれば十分です」

 

そう言って、アタシはデバイスを停止状態に。

そして、構える……のは、喧嘩で強くなったアタシにそんなのものはない。適当に、集中して手を胸位に置く。

 

「まぁ後、なんだかんだ言って小学生相手ですし?」

 

「なるほど。

それで、ヴィヴィオは言われちゃったけど?」

(う~ん。見た感じは隙だらけなんだけど……でも、やっぱりどこか違う……)

 

「当然、勝って見せます!」

 

「よし、その意気!」

 

ついでに軽く煽ると、なのはさんもノリノリでヴィヴィオちゃんに繋げる。ヴィヴィオちゃんも、堂々の勝利宣言。

 

……ああ、これだ。

戦いの、あの心地良い空気になって来た。

 

もう、後は目の前の相手を倒すだけ……! 

 

「それじゃ、2人共! 位置について!」

「「……!」」

 

そして、とうとうその時はやって来る。

 

今まで聞いたこともないような、鋭いなのはさんの掛け声。それとともに、ヴィヴィオちゃんの目つきが変わる。幼げな、何処かふんわりした目が若干鋭く、力強い眼へと。

 

「よーい……」

 

「……」

(おっ、いい眼するじゃない。これは、昨日の口直し……とか考えてる場合じゃないかな?)

 

それは、戦う人間の目。その目を見て、思う。

 

ああ、やっぱり戦うのはやめられない。

 

さぁ、ヴィヴィオ。

 

「……」

(お姉さんを、愉しませなさい?)

 

「はじめっ!」

 

「……行きますっ!!」

 

戦いが、始まった。

 

ジグザグにステップを刻みながら、少しづつ近づいて来るヴィヴィオ。1歩、1歩とどんどん距離を近づ──―

 

「……!」

(って、速っ……!?)

 

「はぁっ!」

 

「っ……!!」

 

──―右手のジャブを叩いて弾く。

続いて後ろに下がって左手の射程の外へ。前に出て来たヴィヴィオに対して、こっちも右手で1発入れる……が。

 

「これで!」

 

「へぇ……」

 

避けられるどころか、加えて腕を掴まれる。そのまま、ヴィヴィオは掴んだ腕を引っ張って前に出る。重量差もあって、アタシに特に異常はないけれど……腕を掴まれているせいで、逃げられない。ヴィヴィオは、そのまま右手を大きく後ろに下げ体制を整えて。

 

「……危ない、危ない」

 

「っ!」

 

蹴りを入れようとしたのを、撃たれる前に足で止める。ついでに、打たれる前に引っ込めた腕を掴む。ヴィヴィオは、とっさにアタシを掴んでいたもう片方の手を離す……が、こっちも逃がすつもりはない。アタシは逆に自由になった手でその腕を掴む、そして、ちょっと大人げないけど……。

 

「たぁっ!」

 

「ああっ!!」

 

残った足を軸に1回転、ヴィヴィオを投げる。軽い軽ーいヴィヴィオは軽く力を入れただけでそれなりの高さまで飛んでくれて。

 

「空中で何らかの有効打を撃った、って扱いでいいわよね?」

 

「はい……」

 

パンチやキック代わりに、お姫様抱っこ攻撃。

ふんわり手の中に納まってくれた。

 

「そこまで! 

ウィナー、シエルちゃん!」

 

「はい、勝ちました♪」

 

「うう、流石に対格差が……」

 

ヴィヴィオを下ろして、Vサイン。

いやー、ヴィヴィオは強敵でしたねぇ。

いや、ホントにサイズが違ったから楽に勝てたけど。やっぱ、魔法無しだとキッツイわ。そもそもアタシの体術は魔法在りきで、鍛えたりとかしてるのじゃないし。

 

今は断定勝ちしたけど、魔法使えないと攻撃らしい攻撃の手段が……。

 

……。

 

「……」

(って、魔法が使えない?)

 

と、ここでアタシは気づく。

 

「ねぇ、ヴィヴィオちゃん」

(いやいや、そんなことないじゃない。

禁止なのは『武器の使用』『バインド・シールドの使用』『砲撃魔法』『身体強化魔法』ということは……)

 

と同時に、悪戯心に火が付いた。

 

「……ねぇヴィヴィオちゃん、もう一回やる?」

 

「いいんですか!?」

 

ヴィヴィオを下ろし、もう1戦誘ってみる。

すると、ヴィヴィオはこっちの思惑なんて気づくわけもなく満面の笑みを浮かべてくれた。

 

「それじゃ、もう1回!」

 

「……」

 

そして、勝負開始、

 

今度は、スピード勝負だろうか。まっすぐ突っ込んで来たヴィヴィオに対し……アタシは、後ろに数歩下がる。下がって、防御を固める。

 

両手を顔の目の前に出し、『さぁ、いくらでも受けてやるぞ。いくらでも打ってこい!』と体を使って猛烈アピール。

 

ヴィヴィオは止まらない。

 

寧ろ、アタシのアピールでさらに加速。前に、前にと進む。

 

進む、進む、進む。

 

進む、進む、進む。

 

進む、進────

 

「わきゃっ!?」

 

「ん」

 

──―そして、『キュッッ』と軽快な音を立てて目の前でバランスを崩す。

アタシは、そんなヴィヴィオの右腕を左手で掴む。ヴィヴィオは、咄嗟にその手を払おうとするけど……転びかけの幼女に出来る事なんて、ロクなものはない。アタシは、そのまま余った右手でヴィヴィオの胸ぐらをつかみ、足を引っかけ。

 

「はい、お終い♪」

 

「……いや、これはズルくないですか?」

 

いわゆる、払い投げ。

私の目の前で無力化されたヴィヴィオ。なお、彼女が転んだ場所には、温かい春の早朝には似つかわしくない氷が張っている。

 

ヴィヴィオちゃんに向けて、どや顔で言う。

 

「悪いわね、ただ魔力を垂れ流す行為は禁止されていなかったモンだから。

アタシ含め、少なからずいる『魔力変換資質』。その魔力は、ただ発動するだけで脅威足りえる……掴んだ腕をヤケドさせたり、そこから痺れさせたり、今回みたいに周囲の物を氷漬けにしたり。格闘1本で戦うなら、そこもちゃんと考慮しないとね♪」

 

「むぅ……」

 

うーん。ほっぺを膨らませるヴィヴィオちゃん、可愛い。

 

「ってことで、なのはさん。またアタシの勝ち、2本先取です」

 

「だねー、しっかりとルールの範疇……大人げないとは思ったけど。

まさか、あのインファイトオンリーの流れから平然と足元に罠仕掛けるとは思わなかったよ。なんだかんだ言って、シエルちゃんの目も真剣そのものだったし」

 

「そう思わせるのも技術です。

上下前後左右、遠近問わずのあらゆる場所からの奇襲に迎撃。その後、手数で攻めるのがアタシのバトルスタイルです。インファイターと『その身一つ』で戦い続ける道理はありません」

 

「えー? 私は、ヴィヴィオと打ち合うのも好きだけどなー」

 

「アタシも、嫌いじゃないですよ……ただ、熱くなっちゃうとつい手が出ちゃうってだけで。特に、相手が強い相手だと、自然に」

 

本当に、ヴィヴィオは強い。

ヴィヴィオが今負けたのは、単純に対格差。もし仮に、ヴィヴィオが同じ背丈になって殴りかかってきたら、魔法無しに捌き切れるか怪しい(武器アリなら……まぁ、なんとかはなるか)。

 

ついでに、ヴィヴィオは転んだ後も対応をすべくと色々行動をしようと……しかも、結構余裕をもって試行錯誤していた。今回のルールは砲撃やバインドが出来ないから、ヴィヴィオは引きはがす以外の選択しかできなかっただけで、ルール無用の状況なら砲撃やら高速砲を叩きつけられていたはずだ。

 

その時アタシは、『たかだか小学生』油断して1撃くらいは貰ってしまうかもしれない。

 

「……」

(小学生が、咄嗟の不意打ちに対し完璧な対応で、氷皇に牙をむく……ねぇ)

 

いやぁ、愉しい愉しい。引っ越したのも悪いことだらけじゃなかった。

頭の中でアドレナリンが、昨日のアホ共を塗り消すようにあふれ出て来る。

 

「さてヴィヴィオ、もっかいやるわよ。次は魔法も使わないから」

 

「……本当ですか?」

 

「ええ。

今日は、トコトン遊んであげる♪」

 

「わかりました。それじゃ、お願いします!」

 

この日、アタシとヴィヴィオは、いつの間にかいなくなっていたなのはさんに朝食に呼ばれるまで試合を続けた。

 

そして、アタシは思う。

 

アタシは、戦うのが大好きなのだと。

 

「ねぇ、シエルちゃん。ヴィヴィオのことなんだけど」

 

「ヴィヴィオの、ですか?」

 

「うん。仲良くしてくれると、嬉しいな」

 

「……はぁ、わかりました」

 

 

 

 

 

 

それから数日。

 

アタシは、高校に入学する。




とりあえずこれでプロローグ終了。

なるべく早い更新を目指したいです。











途中から『ヴィヴィオちゃん』から『ヴィヴィオ』に変わってるのは仕様。


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正義の門を破れ

ミッドチルダに来てから、もう半月ほど。

6時半にタイマーに起こされ、2~30分間テレビを見ながら、のんびりと髪の手入れ。
そこから、また2~30分間テレビを見ながら着替え。メールチェックをしながら、メイク(顔だけ、それもクマとかが酷いところだけど)大体10分。
これで、大体1時間。ぼーっと、かつ慣れた手つきで適確に体を動かす。

両親は忙しく仕事場に泊まることが多い、実質1人暮らしだ。引っ越しなんてしたのは不良娘を1人残しておくのが不安だったから……寂しさ云々は無いが、そもそも何のために引っ越してきたのか。

誰もいない家に特に何か言う事もなく黙って家を出る。

「あ、シエルちゃん♪」

「……」

そして今日も、お隣さんが話しかけて来た。

「……どうも」

「朝ごはん、今日も食べてくでしょ?
ヴィヴィオも、シエルちゃんがお気に入り見たいでね~♪今日は、早起きして一緒に料理したんだ♪」

「……それじゃ、お願いします」

きっかけはヴィヴィオと模擬戦をやった日。
その日、なのはさんが朝食を作り終わるまで模擬戦を続けたんだけど……『こっちに付き合わせちゃったせいで、何も作れなかったでしょ?お礼もしたいし、食べに来ない?』と、誘われてしまった。

「あっ、シエルさん!
お早うございます、今日はオムレツですよ!実は、ちょっと早起きして手伝ったんです……」

「あ、うん。
お早う、ヴィヴィオ……って、ツインテは?」

「あ、えーっとこれは……そ、そう。今日はストレートの気分なんです!」

「ふふっ。
ヴィヴィオ、どうもシエルちゃん意識してるみたいだよ~?ヴィヴィオ、年上の知り合いはいるんだけど、みんな友達みたいな感じだから……お姉ちゃん、みたいな人って初めてだから」

「ま、ママ!そ、そんなんじゃないから!
あ、でもシエルさんはちゃんと綺麗ですから!クールでカッコいいですから!」

「あはは……」

そして食後、なのはさんは言った。『私、仕事で家に居れない日も結構あるから……できたら、でいいんだけど。ご飯、食べに来てくれると嬉しいかな』、と。

1人暮らしにおいて、毎日の食事は重要な問題だ。凝ったものは面倒だし、手を抜きすぎても嫌になるし……食べる相手もいないから、美味しくできても張り合いないし。それが無くなる……誰かに作ってもらえる、作ったら食べてもらえる。
それに、ヴィヴィオとは仲が良い。歳は離れてはいるけれど……友人、というものだろか?ともかく、友達同士で毎日ワイワイ(たまにドカ☆バキ)できる。

「あ、なのはさん。コーヒーお代わり淹れますか?」

「あ、うん。お願い……」

「どうぞ、なのはさん……まぁ、なのはさんの家にあった奴ですが。
いつも、朝からすみません」

「ううん、ありがとう……それに、ご飯だって全然大丈夫……今日だって、私が遅くなるときはヴィヴィオとお留守番してくれるし」

「そうです!
シエルさん、練習にも付き合ってくださいますし……」

「晩御飯付き、だからです。
それとヴィヴィオちゃん。別に練習するのはいいけど、オーバーワークにならないようにしなさいよ?」

断る理由は無く、アタシは高町家とそれなりの関係となっていた。

「あ、そこは大丈夫です。
最近、ノーヴェが家でのトレーニングを増やせるようにメニューをいじってるみたいなので」

「へぇ……それでなのはさん、今日も書類ですか?」

「まぁ、この時期はほぼ毎日ね。
4月になって、職員も増えて書類も色々増えるし……新しく入った子の調子とかもチェックしないといけないから、訓練自体もゆっくり長ーい感じのになっちゃうし……それで書類の仕事始める時間が遅くなっちゃうし。
楽しくはあるんだけど、ヴィヴィオとこーしてる時間がね~」

「ってママ、いきなり抱き着かないでください!
シエルさんの前で恥ずかし……じゃなくて、お客さんの前で行儀悪いです!」

「うー、娘が冷たい……。
まぁともかく、今日はミートソース作っておいとくから。2人でパスタ茹でて食べてね」

「はい」
「はーい……あとママ、頭の上が重い」

「うん!
それじゃ、私も頑張らないとね!みんなを早く……模擬戦で私に1本れるくらいにしないと!」

「「いや、それは無理(だよ)(でしょう)」」

模擬戦とはいえ、なのはさんに1本取れる人間がそうゴロゴロいてたまるか。
アタシとヴィヴィオが組んでも勝てるか怪しいってのに……。

中々の無茶ぶりに苦笑いを返している……と。

『ピロン♪』

「ん……」

メールか、えーっと……あ。見てなかったけど、お母さんからも来てる。

えっと。

『シエルへ
入学おめでとう。今日もお父さん共々仕事があるので当分帰れなくなります……今日もというか、引っ越してからずっとね、ごめんなさい。生活費はいつもの口座に振り込んでおきました、お詫びといったらアレなんだけど、ちょっと多めに入れておいたから,余ったらお小遣いにしてね。あと,家に誰もいないからって男の子連れこむのはいいけど……』

「……」

『……避妊はしっかりね?一応,棚にコン……』

そのあたりで、読むのをやめる。
まぁ、どうせもう大したことは書いてないでしょう。

「……」
(知らないわよ。っていうか、引っ越したばっかのアタシには男女の営みどころか会話する知り合いすら……)

それで、今来たメールは……。

『合計、2通。
差出人:サクヤ・シェベル ヴォルク・アームストロング』

「……ああ。
そういえば、1人居たわね。話せる程度の男子なら」

『お早うシエル、今日から学校だな。私も、今日の朝はイかずに早めに登校だ』
『おう、シエル。俺は今から筋トレ兼ねて学校までランニングだぜ!』

「模擬戦、か……」

まだ、思い出せる。
ここ、ミッドチルダでの初めての友人達……初めての、仲間。今まで、そしてきっとこれからも史上最強の2人。そんな2人と出会ったのは、模擬戦だった。

アタシが入った学校、ミッドチルダ第3高校。
通称ミッサン、そのルーツは時空管理局の地上部隊。古くから優秀な人材が入らず、影を見て来た課。そこへ新しい風を吹き込むべく作られた。良い成績で卒業すれば、軽い面接程度で入ることが許される。寧ろ、在学中にスカウトがかかることもある。そしてそれだけでなく、この学校を卒業したという事実は空中部隊での採用にも多大な影響をもたらす……まさに、管理局入隊の登竜門。

当然、学校としても中々にお堅い場所なわけで。

「さて、アタシも遅刻しないようにしないとね」

アタシ、シエル・ファナフロストのような不良には縁のないはずの場所。
しかし、実際アタシはここへ入学したわけで……そこには、色々な事情やちょっとした物語があったりする。

あれは、だいたい2か月くらい前の事。


『1200点!?』

 

『そうです、ファナフロストさん。

他でもない、グラリック君の頼みとはいえ……こちらも、世間の目と言う物がありましてね』

 

アタシ、シエル・ファナフロストは不良だ。

酒、たばこ、薬みたいなヤバい物には手を出さないけど、喧嘩……それについては、地元ではかなり有名な部類に入る。

 

曰く、その拳は岩より硬く。

 

曰く、その魔法は巨大なクレーターを発生させる。

 

曰く、その魔力の影響で近隣の都市の気温は5度ほど低くなっている。

 

なんでやねん、ただの女子中学生がそんなことできるわけがないでしょう。

まぁ、それは肥大しすぎた噂。信憑性がある噂でも、顔面を殴られて笑っていただの、物理的に押し倒されて殴られ続けただの……女子高校生(いや、当時は中学生だったか)には過剰なレベルの悪い噂が、本当に自慢じゃないけど広い範囲に広まっている。

 

それはどうも教育の現場にもきちんとリークされており……速い話、どこも『お前みたいな不良娘を入れてたまるか』とアタシを押し付け合っているとのことだった。このままだと進学が出来ない……そんな中、時空管理局で働く両親がコネで話を持ってきたのがミッドチルダ第3高校だった。

 

時空管理局では、魔法の才能がとても重要だ。

1人の優秀な魔導師1人居るだけで、巨大な事故やテロ……大災害など、絶望的な状況から市民を守る事が出来る場合もある。で、アタシは実戦経験もあり優秀な魔導師としての才能もある……と、父が知り合いだった学校の校長に頼み込んだ。

 

……頼み込んだ、のだけど。

 

やっぱり、ここでも実戦経験豊富な理由が駄目だった。

 

『ただ、多少成績が良いだけの……それこそかの「エース・オブ・エース」高町なのは、あるいはその同僚『機動六課』。それに匹敵、あるいは届きうる。それくらいの見込みがあるほどの優秀者でないような、不良少女をこの学校に入れるのは難しいのですよ』

 

『……なるほど。

だから、まずは誰がどう見ても文句がないような成績をテストでだせ。そういうことですね』

 

『まぁ、そういうことです。そして、要求される点数は……1200点』

 

学校側も、教師やらから反対の声が上がったそうで。

結果、アタシは主席超えの成績を出さなければ入学できないことになってしまったのだった。

 

『知っていると思いますが、この第3高校のテストは1000点満点です。

一般知識500点、魔導知識250点、魔導技能250点……通常であればそこで、合計600点。まぁ、つまり6割取る事が出来れば合格ですが……シエル君、これは中々高めのラインだとは思いませんか?』

 

『そうですね、この偏差値帯にしては……』

 

『そうでしょう。

ですが、知ってはいるとおもいますが魔導師というものは数が需要に対して圧倒的に足りていません。危険な仕事な上に、そもそも才能も要ります……最近、「大きな不祥事」もあったことですし』

 

『ああ、「あの事件」ですか』

 

まるで、いたずらがバレた子供のような笑みを浮かべる学園長、『ここだけの話、私も多少関わってまして』と悪びれもなく付け足した。

 

『まぁ、それでただでさえ少ない局員が更に減ってしまいました。このままでは治安や未来が不安になります……ということで、管理局やそれの下に位置するような組織は所属する条件を緩くしていまして。この学校でも、その方針の1つとして「追試」と言う物を行っているんです』

 

『追試……ですか?』

 

『はい。

追試……500点満点、受講者の同士で行われる実戦形式の模擬試合です。その戦闘で、勝つ事が出来れば確定で300点。負けた場合でも、優秀な魔導師になると見込まれた人間は入学できる程度の点数は保証されます……つまり、魔法について優秀であればこの300点に知識技能で300点。と、座学が多少出来なくても入学が出来るのです』

 

『なるほど、合計600点……勉学が出来なくても、魔法の技能があれば200点ほど。知識で必要な点数は100点ほど、と。

そして、私がとらなければならない1200点は……』

 

『そう、そこの実践で取ってもらいます。

シエル・ファナフロスト君。君の合格ラインは、全体の8割。1500点中、600点のところ1200点……通常の人間の点数のちょうど2倍です』

 

そう言って、どこか楽しんでいるような……意地の悪い笑みを浮かべる学園長。

 

これが、アタシのミッドチルダ初試練の始まり。

 

『君には、期待していますよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、これから補習試験を開始します。

まず、皆さんにはここにいる30名の中から3人のチームを作ってもらいます。また、これより判断材料として好きなように席を立ち、会話をして構いません。そして、その後そのチームで別の会場に手作られた受験生のチームと戦ってもらい、その戦闘での勝敗やその内容……今言った全てが試験対象になります」

 

「……」

(なるほど。戦闘試験って聞いたけど、ただバトルするわけじゃないのね。

トーク力とかリーダーシップとか、信頼できそうだとか……ようするに、まぁ戦闘で必要な『全て』がテストされる、と)

 

「また、当然ですが無駄に五月蠅くする等の無いように」

 

「……」

(あ、はいはい……)

 

と、ここで試験官のきつい視線……アタシは無駄に騒ぐとかはしないのだが。

 

「作ったチームから、私の元まで申し出るように。そのチームから、即時試験を開始します。当然ですが、申し出から即開始という特性上、チームはどれだけ早く作れたか。それも評価に入ります……説明は以上です、何か質問は?」

 

「「「……」」」

 

「……」

(評価、ねぇ……)

 

勝てば、300点が入る。

自己採点では筆記は900点は確定。評価とか気にしなくても、勝って300点貰えば合格できる。そして、今ここにいるのは魔法の試験も含めて合格ラインに届かなかった人間達。アタシを害する……どころか、アタシの攻撃を耐える事が出来る人間が居るのかすら怪しい。アタシは、よっぽどなことが無い限り負けることは無いだろう。

 

「無いようですね。では、試験を────」

 

「……」

(ま、適当に2人入れて終わりでいいわね……)

 

「────始めます」

 

試験が始まった。

 

両隣の人間に声をかけ……ようと、したところで。

 

「……」

 

「っ!?」

 

突然、部屋全体を冷たい空気が覆った。

冷たい、といっても物理的に冷たいわけじゃない。冷たいというか、重たいというか、鋭いというか。

 

「ひっ……!?」

「うわぁっ!?」

「な、なんだ!? お前ら、どっか痛むのか!?」

「……? 突然叫び出した……これもテストなのでしょうか……?」

 

「……!?」

 

1部の人間が、感じ取ってしまったようで怯え震え叫び出す。

 

担当の教官は、その殺気を受け戦闘態勢……大方、テロか何か始まったのかと思ったのか。まぁ、それもそうだ。この感覚を、アタシは知っている。

 

「……」

(これって────)

 

アレは、不良時代。

調子に乗りに乗っていたアタシは、1度だけマフィアの下っ端に手を出してしまったことがあった。そこから数か月間、事態収束までこの感覚を食らい続けた。

 

「……」

(────殺気……!?)

 

……一応、アタシが狙われている可能性もある。

気づいていないフリをしつつ、目だけ動かして周囲を探る。今の状況下での教官の対応、既に犠牲になっている人間が居ないか、そして誰がこんなことをしているのか。

 

……そして、すぐ犯人は見つかった。

 

「やぁ」

 

「……」

 

ふいに、声をかけられる。

ゆっくりと振り向くと、そこにいたのは長い黒髪の女の子。女子受けしそうな爽やかかつクールな笑みで、周囲に威圧を振りまいている。

 

「何の用?」

 

「いや、単純にこういう話だ。お相手をシェアしませんか、と」

 

「……? 

もしかして、試験のチームを組めって事? ……アタシが良い理由は?」

 

「簡単な話だ。

私の殺気に気づいた人間はいくらかいた。が、殺気に対し私が満足する動きをした人間は教官殿以外はいなかった……お前を除いてな、白髪。

私は、誰にでも体を許すような女ではないのだ」

 

「……動きどころか、身体動かさなかったんだけど」

 

「ああ、体は動いていなかった。

しかし、なんだろうな。まぁ、私の勘がささやいたんだ。黒なのだと、ヤリ手なのだと。この少女は、全てを理解し動いるのだと。そして────」

 

と、ここで殺気少女の殺気が途切れる……と、同時に。

 

「痛てっ!?」

 

「────そこのお前も、解っていて狸寝入りをしているのだと」

 

教室で寝ていた男に消しゴムをぶつけていた。

 

「痛ぇな、なにしやがる……せっかく人様が、目立たねぇように知らぬ存ぜぬのいい子ちゃんで済ませようとしてたのによ」

 

恨めしそうに、ゆっくりと顔を上げ、そして立ち上がる少年……少年? 

 

大きい、やっけに筋肉質なオッサン顔の男が殺気少女を睨み付けた。

 

「フフッ、すまないな。

しかし、どうにも試験には似つかわしくない姿があったものでついな。手が滑ってしまった(・・・・・・・・・)んだ、許してくれ」

 

「ハッ、意図した行動に滑るも何もあるかよ

……んで、用件は?」

 

「わかっていることを聞くな。それに女の粗相くらいは見逃せ、ヤれんぞ? 

……私たちのチームに入れ、大男」

 

「お前たちの、ねぇ……? 

……まあ、いいか。さっきの消しゴムも気になるしな、入ってやる」

 

「ああ、助かる」

 

そう言って、オッサン顔は殺気少女にゆっくりと近づき。深く手を握り合った。

 

男女の友情、美しきかな。

 

……じゃなくて。

 

えーっと────

 

「宜しくな。

俺は、ヴォルク……ヴォルク・アームストロング、近接格闘と……まぁ、防御力だけはある。後、一応炎の適性がある」

 

「私はサクヤ・シェベルだ。

刀を使った戦闘が好きなのでな。基本的に武器アタッカーということになる」

 

「なに、この流れ……」

 

────なんか、アタシがこの2人からチーム認定されてない? 

 

アタシ、まだサクヤにオッケー出してないんだけど。

というか、ヴォルクとかいう男はともかく殺気少女は面倒なんだけど。確実に、変なのと組んだとか言われて減点されるでしょ。模擬戦で負けるとかありえ無いだろうし、点数は取れてるとは思うけど……ミスとかもあるかもだし、不要な減点は控えたい。

 

今は、問題児と組んでる暇は無い。

 

誰か別の人間を探したい────

 

「ねぇ、2人共────」

 

「「と、いうわけでお願いします」」

 

「わかりました、では行きなさい……そこの女子は、他の生徒に悪影響を及ぼしそうですし。そこの扉を左に出て、真っすぐ。そこに校庭があります。そこで、対戦相手が待っています」

 

試験官は、そう言って扉を勢い良く開けた。

 

「────」

 

────あ、これもう戻れない奴だ。

 

……。

 

「────シエル・ファナフロスト。

別名『氷皇』、氷の砲撃魔導師よ」

 

ヴォルク・アームストロング。

大柄で筋肉質、オッサン顔、短いトゲトゲ状の髪……最近まで仲の良かったあのどこか世紀末な雰囲気の連中を思い出させる男。

 

サクヤ・シェベル。

スレンダーで、長い黒髪。クールで穏やか……なおかつ、どこか(色んな意味で)危険な感じがするミステリアスな女子。

 

ヴォルク、サクヤ、そしてアタシ。

なんだか偶然、壁と近接と射撃がそろった。

 

……まぁ、勝てばいいのだ。

 

「おう、宜しくな」

 

「宜しく頼むぞ、シエル」

 

「ええ、宜しく」

 

そう言って、アタシたちは試験会場を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シエル・ファナフロスト

一般常識 464/500

魔法理論 288/300

魔法実技 189/200

  合計 931/1000

ヴォルク・アームストロング

一般常識 323/500

魔法理論 155/300

魔法実技   3/200

  合計 481/1000

サクヤ・シェベル

一般常識 103/500

魔法理論  86/300

魔法実技 107/200

  合計 296/1000

 

『シエルファナフロスト……確かに、魔導師としては優秀ではあるようだな。あくまでも魔導師としては、だが』

 

『はい……というか、一般科目なんて記述式の問題で削りに削ってこの点数ですからね。実質ほぼ満点です。

それに、魔法実技……減点理由が、彼女の式が一般的な物ではなく完全なオリジナルというだけです。というか、彼女の式は若干使いづらいものの慣れればむしろ効率は良いです、立場が無ければ教わりたいレベルですね』

 

『そうか……だが、彼女は落とす。

いくら優秀であっても、余計な問題を入れる理由にはならない。予定道理、3人に頼むとしよう。丁度、他の2人も落として問題ない』

 

『了解しました。

学はあっても、魔法の才能がない少年。試験会場で殺気を振りまいた少女……少女はそもそも成績も問題外、少年も寧ろその状態でこの学校に入るのは危険ですしね。予定道理、全力で戦って貰いましょう』

 

 

 

 

 

 

 

『『すべてが思い通りに行くと思わない事だ(です)、氷皇……!!』』




ヴォルクとサクヤはレギュラー。
紹介とかは次の話で。




後、完全に拾う気0の裏設定ですが校長の言っていた『あの事件』はお察しかもしれませんが『JS事件』。彼はそこで『ちょっとだけ』悪いことして左遷させられた設定です。


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最悪な三人

「赤い眼に、白い体……君が、シエル・ファナフロストか」

「え?
アンタ、アタシのこと知ってる感じ?」

校庭に付くと、既に相手がいた。向こうは逆に男子が2人、女子1人……バリアジャケットはそれぞれジャージ+鉢巻、武器は無し。となりは眼鏡に短パン+シャツ、槍。最後に一般的な魔導師ローブに杖。

そのうちの、何も持っていない男がいきなり睨み付けてきた。

「ああ、知っているよ。
なんでも、今まで悪行の限りを尽くして来たそうじゃないか。この僕の目が黒いうちには、君をこの学園に入れさせはしない!!この学園の未来は僕が守……じゃない。僕は、君を負かし平和な学園生活を手に入れる!!」

「……?」

突然のことに、頭をかしげる……更に。

「……か、彼はどうも正義感が強い人物でしてね。
あ、貴方と違い知性的で、真に正しい力を持っているのです。入学にふさわしいのは、あなた方ではなく我々。というわけで、この勝負勝たせてもらいましょう!」

「ひっ……こ、これでも私は強さだけなら学校1なんですからね!ふ、不良生徒さんだってやろうと思えば、あっというまなんですからね……ほ、ほんとですよ!?」

「……彼女は、元いた中学を首席で卒業予定でしてね。
さらに、風紀委員として不良生徒を罰する立場にいたのです。つまるところ、あなた方の天敵というわけですね」

「……あっ!
そ、そうなんです!私、凄―く優秀な生徒さんだったんです……ってあれ?優秀なら、そもそも補習なんていらな―――」

「と も か く!!
この勝負、我々が勝利させていただきます。我々の明日は、我々がつかみ取ります!!」

「「「……」」」

女子の誤爆と、眼鏡の男子による謎のフォロー。

……ああ、理解した。

コレ、教師か。
アタシの点数は900点越え、勝った時点で入学が確定する……それなら、もうなりふり構わず実力勝負で負けさせてしまおうと。

優秀な生徒がなんで補習受けてるんだとか、なんで自分が入学した後の平和なんて今考えているのかとか、そもそもアタシが負けても入れる可能性とかが無いとなぜ言い切れるのかとか。まぁ色々あるけど……。

「気に入ったわ!アタシは絶対に勝つ!
色々言いたいことはあるけど、気づいてないふりのまま倒して、入学した後で散々からかってあげる!!行くわよ、『デッド・ロック』!!」

「なるほど、羞恥プレイか。
まぁ、どうも強いようだしこの学園の実力を測るのにも丁度いいか……開け、『海英華』」

(っと、鴨が葱を背負って来たってか……?)
「……ま、多少苦労しないと勝利も味気ねぇからな!ってことでお前ら、お互いフェアプレイの精神で戦おうぜ!行くぜ、『ヴァン』!!」

手加減はしない。
アタシを阻む、小さく無意味な扉を。



「「「「「「……セット・アップ!!」」」」」」




凍らせて、粉々に破壊する!!


「「「セット・アップ!!」」」

 

アタシ達がそう叫ぶと、それぞれの足元に魔法陣……アタシの下には白い丸い魔法陣、ヴォルクとサクヤには3角の赤、桜色の幾何学模様が現れる。その後、アタシたちの体は光に包まれそれが収まった時には────

 

「なに、そのカッコ」「お前、大丈夫か?」「……ふむ」

 

────さっきまでとは全く違う、バリアジャケットという姿に変わって……アタシとヴォルクは、その姿にお互いツッコミを入れていた。

 

「両者共々、中々煽情的だな」

 

サクヤは、まぁ普通だ。

桜が描かれた白い胴着、腰についたベルトに短剣を装備し、手には1本の刀。

ミッドチルダではそこまで主流ではない物の、剣道を好む人間にとってはそれなりにオーソドックスなバリアジャケット。

 

が、ヴォルク。

 

「どうだ、イカすだろ?」

 

そういいながら、フロントダブルバイセップス……ボディービルの人がやっている、筋肉を見せつけるポーズをしている彼。

何を考えているのか、彼の格好は黒いシューズに黒の長ズボン、そしてマントにマスク……以上。これ以上、報告する物は無い。上半身は布ゼロ、肌色100%。バリア『ジャケット』とはなんだったのだろうか。

 

「俺の実家はプロレスを見ながら酒飲んだり、飯食ったりできるプロレスバー『ストロング・リング』! 

少年『ヴォルク・アームストロング』はそこで手伝い……もとい店員でいる傍ら、謎の覆面選手『ミスターヴォルカニック』として日夜戦っているのだ!!」

 

「……いや、今の名乗りで謎は何1つ無いから」

 

なぜこんな奇天烈な格好をしているのかといえば、まぁそういうことらしい……にしても、プロレスねぇ。まぁ確かに砲弾やらバインドやらをチマチマばら撒いてる姿は、そのデカい体からは想像できないけど。

 

「おいおい、解ってねぇなぁ。

お前も知ってるだろ? プロレスは、技は成功する。それを解っていても、客はそれをあえて無視して『決まった』って盛り上がんだ。謎の覆面レスラーが、どう見てもスケジュール調整ミスって人足りなくて、臨時で出張って来たお馴染みの人でもそいつは覆面レスラー。全員『だ、誰なんだ一体……』ってドキドキすんだよ。

ま、そんな恰好(・・・・・)してるような奴には解らねぇかもしれないが」

 

「エンターテインメント、というものか。

直接的に個人を……いきなり性感帯を刺激するのではなく、段階的に複数の部位……口づけや肌を舐めたりすることで、より大きな昂ぶりを味わう事が出来る。そして、ゆくゆくは無理なき絶対的な快楽。つまるところ絶ちょ────」

 

「サクヤ、会った時から思ったけど言動危ないから」

 

※『氷皇の「さばき」』は健全、安全な内容を志しております☆

※今更、本当に今更ですが、サクヤは終始こんなキャラです。下ネタ、というより結構重い性的なネタをよほどのことが無い限り(むしろ、シリアスパートでも容赦なく)発言し続けます。苦手な方はバック推奨、もしくはそこだけ飛ばしてお読みください。

 

「まぁ、アタシの格好のほうが危ないかもだけど」

 

そういう性格なのだろう。やったらめったらアホなことを言うサクヤ。

そして、そんなサクヤをして煽情的と言わしめるアタシの今の服装……そろそろ、視線が痛くなってきた。ヴォルクとサクヤ、対戦相手の3人の視線。プロレス衣装という原子爆弾がありながら、それを超えてすべての視線が、アタシの格好という中性子爆弾に集中する。

 

そんな、アタシのデバイス『デッド・ロック』。

白いピッチピチのラバースーツに、四角い小さい金属のニップルガード。後は、金属製のブーツとガントレット。

両親が、『喧嘩したく無くなるような、使いたく無くなるような』デザインで管理局の技術班……シャーリーさん? に作って貰った。モデルはかの黄色い死神が使用するソニックフォームなのだとか。モデルがモデルなだけあって、多少煽情的な所以外は極めて優秀。

 

「……っていうか、そこの男2人は枯れてる感じ? JK(予定)のこんな姿、中々みられないわよ……ああ、胸足りないと?」

 

あと、まぁ偶に誘惑目的で油断させれたりもする(まぁ、強い人は誘惑できても油断はしてくれないんだけど)。今回は────

 

「舐めないで貰いたい。

僕たちは、これでもエリートだ……その格好の危なさは、解る」

 

「ああ、もちろん性的な意味ではなくてですよ。

バリアジャケットは見た目が特殊であればあるほど応用性は増す……しかも貴女のソレは、かの黄色い死神モデルでしょう?」

 

「わ、私は一般的な魔導師なので普通のローブですけど……それでも解ります」

 

────駄目みたいですねぇ。

 

視線を送って来る教師3人。

煽り混じりに、ちょっとお尻向けてウィンクしてもるも、効果無し。3人の目は、既に戦う人間の物に変わっていている。

 

じっくり、冷静に見て観察している。

アタシがどう動いて、周りの2人はどう動くのか。手に、何か癖は無いか。立つとき、不自然な重心な取り方をしていないか。その目は、何処の何を見ているのか……完全に戦う人間の目をしている。

 

こういう相手には、もう煽りも何も無駄だ。

 

「あっそ。

それじゃ、始めましょ。次の受験生待たせちゃ悪いし……そういえば、審判役とかいないけどどうするの? 主に、勝利判定とか禁止事項とか」

 

「あ、そうですね。

禁止事項……しいて言えば『なし』です。どうせ、あなた方は敗北します。我々の手で、完膚なきまでに」

 

「いや、まぁ『もしも』があるかもしれないし。

奇跡が重なって、そんな時にそっちが全員気絶してて……なんてことになってたら困るでしょ?」

 

「それなら、それこそ私たちを気絶させる……それで行きましょう。

そこまで強いなら、もう進学より就職をすすめますけど。解っているから言いますが、こちらも最高戦力を用意しているので」

 

「断るわ。

まぁ、学ぶ以外の目的もあるのよ、学校は」

 

こうなると、もう後は戦うのみ。

 

戦い、自分の意志を勝ち取るのみ。

 

「ってことで、もう会話はいらないわね。それじゃ……コレ」

 

アタシは、近くにあった石を拾い────

 

「これが地面に付いたら、勝負開始ってことで!!」

 

────空高く、放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アタシが、石を投げた。

 

「「「「「……」」」」」

 

次の瞬間、スローモーションのように変わっていく世界。

思想が集中し、感覚が研ぎ澄まされる。石が宙に居た時間、ほんの数秒が、10秒、30秒、1分……何倍、何十倍に加速される。

 

息が重くなり、つばを飲み込む余裕がない。体が震え、めまいすら感じる。

 

何度感じても、変わらない……最低(さいこう)の、瞬間。

 

落下した石が、地面に落ち砂に埋まった。

 

……そして。

 

「手加減はしませんよ! 『ノーマルバレット』、セット────」

 

「『アイシクル・バレット』――――」

 

戦闘が開始された。

アタシと女教師は、魔力で弾丸を形成。

 

「「────シュート!!」」

 

砲撃手の戦いは、実はあまり魔力の量は重要じゃない。

かのエース・オブ・エースの影響で、巨大なレーザーをバカスカ打つようなものを連想されがちだが、そんな魔力の無駄にばらまく真似は通常しない(なのはさんは、ばら撒くことに意味がある特殊な例だ)。

 

必要なのは、ただひたすらコントロールの精密さ。

速く、固く、大量に……正確に。相手に向かって飛ばし、飛んできた砲弾を撃ち落とし、生成中の弾丸を打って破壊する。そうすることで、敵陣へと乗り込む近距離攻撃の人員をサポートする。

 

「うっしゃぁああああああああ! 

謎の覆面レスラー、ミスターヴォルカニック。華々しいデビュー戦ってわけだぁ! うぉおおおおおおおおおおお!!!」

 

アタシが女性教師の相手をしている間、ヴォルクは走りながら魔法を発動。

その太い腕からが炎につつまれる。

 

「シエル・ファナフロスト……まさか、ここまでの魔法力が……! 

くっ……僕は、負けるわけにはいかないんだぁあああああああああああ!! 

正義執行拳!!」

 

「ヴォルカニック・アルティメット・フィスト!!」

 

そして、ハチマキの教師とヴォルクが接近。挨拶代わりに、互いにパワーを生かし拳をぶつけ合う。

 

ぶつかり合う、正義の拳と紅い炎の拳。

 

「「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 

ハチマキの教師は、どちらかといえばアスリート系。無駄のない筋肉の付き方で、精錬された身のこなしで、最小限の力で実力を最大限に引き出している。

対してヴォルクは、大きく太く重い。体中が筋肉の塊、無駄に重い体を出せるだけ強い力で、力任せに振り回している。

 

「ケッ、やるじゃねえか……それでも、だ!!」

 

「くっ……うぁあああっ!」

 

「どうよ、俺のヴォルカニック☆パワー!!」

 

勝ったのは、ヴォルク。

力が、技術をねじ伏せるどころか跡形もなく吹き飛ばした。

 

ハチマキの教師が、校庭の隅へと吹き飛んでいく。

そんな彼に対し、ヴォルクは(特に意味もなく)サイドチェストのポーズを決めて。

 

(なっ、コンウェイ教諭を吹き飛ばした……いえ、ですが!!)

「おおっと、油断大敵です!!」

 

最後の、眼鏡の教師による槍の突撃(チャージ)の餌食になろうとしていた(阿保か)。

 

さらば、名以外知らぬ戦友よ。幾ら体が強くとも、鋭く磨かれた鉄の塊には無力。今、背後から巨大な槍が背中から彼を『カァンー』貫────

 

「うぉっ!?」

 

「……!?」

 

「「「……えっ?」」」

 

────かなかった。

鋼の肉体があれば、鋼の一撃すら防ぐ事が出来たのだ……いやいやいやいや。

 

「生身で、刃を……防い……だ? 

それも、迎撃でもなくて……意図的に流している魔力だけ……? ど、どういうことなんですか……?」

 

「な、なんつーでたらめな……」

(『うおっ』って。完全な不意打ちで斬撃食らって無事……どころか無傷ってこと? おかしいでしょ、どんな鍛え方したらそんなになるってのよ……)

 

どう考えても、その理屈はおかしい────

 

「がぁあああああああああっ!!!」

 

「って、今度は何だぁ!?」

 

「フェ、フェルド先生!?」

 

────と、眼鏡の教師が苦しそうな叫び声をあげた。

 

ヴォルクが何かした……訳ではないわね、アレ。となると、残るのは……。

 

「フェルド、と言ったか? 

確かに油断は良くないが、予想外の事態だからといいて戦場で立ち止まるのも良くないな。ましてや相手は初めて会いまみえる相手だ、予想外のことなどいくらでも起こり得る……出会い系のサイトで知り合った相手の性癖は知りようがない、多少マイナーなプレイも動じないのが遊びのコツだ」

 

「知らないわよ、凍りなさい」

(やるわね、全然気が付けなかった)

 

サクヤだ。

サクヤが、背中から剣を突き刺している。まるでオウム返し……結果は、そうもいかないみたいだけれど。

 

「ひ、卑怯……も……の……」

 

「卑怯、か……滑稽だな。

犯罪の現場でも同じセリフが言えるのなら、寧ろ褒め称えてところだが」

 

メガネ教師は1言、サクヤに恨みがましく言葉を発して倒れた。

 

そして、サクヤの活躍は終わらない。

 

「正義光線!!」

 

吹き飛ばされた、バンダナ教師。

持ち直した彼が、サクヤに高速砲……魔力のレーザーを撃ち出して来た。

 

「……っ! 援護します!!」

 

女教師は、それを見て弾幕を強化する。

アタシも弾丸を増やして対抗する……けど、レーザーを防ぐのは流石に難しい。うん、難しい。

 

「サクヤ、避け……」

 

「ああ、問題ない」

 

サクヤ目がけ、一直線に進むレーザー……サクヤは、それに対し何故か剣を構える。

 

「……」

(ヴォルクだけじゃなくて、サクヤも何かするつもり……!?)

 

「『廻咲流(りんしょうりゅう)────』」

 

同じくらいの威力の攻撃(斬撃とか)でも当てて相殺するのか、はたまた剣先からシールドでも出すのか。アタシのそんな考えに対し、サクヤは驚きの回答を見せた。

 

「────『二式・如月』」

 

「……えっ?」

 

サクヤは自身の件をレーザーに突き刺し、切断。

正に神の所業、奇跡とも呼べる技。『凄い、とんでもない技量だ』と、誰もが目を見張る……次の瞬間。

 

この場にいた人間に、それ以上の驚愕が襲った。

 

「な、なんなんですか……!?」

「ぼ、僕の砲撃が……!?」

 

切断され、崩れて魔力に戻っていく砲撃。

それが、少しずつサクヤの剣に集まっている。サクヤは、砲撃を斬ったのではなく……とても信じられない事けど……。

 

「砲撃を、他人の魔力を吸収したっての……!?」

「おいおい、マジか……」

 

「二式・如月。

気攫技、相手の魔力を奪うNTR……もとい奪い剣に纏わせ無力化、さらに自分の攻撃力を上げる技だ。ちなみに、吸収しているわけではないぞ。それだと、私がかのエース・オブ・エース以上の収束砲(ブレイカー)マスターということになってしまうからな。これはそういったものとは全くの紛い物、『魔力が剣を覆うようにいなして』いるだけだ」

 

「……」

(いや、多分そのいなすほうが難しいから……)

 

だけ、とは何なのか。

収束砲とは、ざっくり言うと『周囲の使用されていない魔力を自身に取り込み攻撃の威力を底上げする』と言う物。『使用されていない』というのが今回のポイントで、サクヤは『使用されていても、剣で切る事が出来る範囲であれば』問答無用で『奪う』ことができる。

 

「……」

(チートというか、なんというか……っていうか――――)

 

「そっ、そんな……。

不良さんどころか、犯罪者にもそんなことできる人なんて……!?」

 

「……」

(――――隙あり、って感じ?)

 

と、ここで。

サクヤの技の前に、女教師の射撃が一瞬止まる。

 

……あらら、こりゃ勝ったわね。

 

「……アイシクルロード!」

 

アイシクルロード、地面や空気を凍らせて道を作るだけの魔法。

一見何の役にも立たなそうな魔法だけど……。

 

「後ろ貰いぃっ!」

 

「っ、しまっ……!」

 

加速の魔法と共に使用し続けることで、滑りながら高速で移動できる!

 

「追加、アイシクル・バレット!!」

 

「……っ!

くうっ……きゃぁあああああああああああああああ!!」

 

一瞬が、砲撃手同士の勝負に幕を下ろした。

女教師は、背後からの飽和射撃により地に伏す……私の勝ちデース。

 

「ぅ……ぁ……」

 

「……全く、私の剣技に見惚れるのはうれしい事なのだがな。

先ほど、戦場で止まるなと先ほど言ったばかりだろうに。知っていることを学び直すのも、教員の務めだぞ?」

 

「真面目になったらなったで、今度は厳しいわねアンタ……」

 

「ん? 

……そうか、なら私っぽくこう述べるとしよう。ボロボロのバリアジャケット、その模様のように姿を見せるうら若き女子の柔肌。なにより神業としか思えないレベルでポロリしかけている豊満な胸が……」

 

「え、マジ?」

 

「やめなさい男子……」

 

晴れた土煙の中、現れたボロボロの女教師。

バリアジャケットとはいえ、ここまで行くと流石に煽情的になる。急に食いついてきたヴォルクの頭を叩いて止────結構、硬くて痛い────める。ついでに、魔法を発動。

 

「んで、アンタも大人しくしなさい。『アイシクル・チェーン』」

 

「くっ……!!」

 

こっちに向かって来たバンダナの教師を、氷の鎖で拘束。

 

「は、離せっ……!!」

 

「……」

(そういえば、普通のテストならこのまま判定待ちでよさそうなんだけど……さすがにこの状況じゃ、そうもいかないわよね……)

 

そうして、考える。

まず、模擬戦には勝った。でも、それは戦いに勝っただけ。

 

戦いというものには、戦後処理と言う物がある。

戦いに勝ったものは敗者に賠償という名の報酬を、敗者はそこから来る傷を少しでも減らすべく、新たな戦いが始まる。

 

「……」

(よし、決めた)

 

そして、氷皇様の選択肢は。

 

「『アイシクル・ランス』」

 

そして、杖の先端に氷で刃を形成。そして、さらにそれとは別にデバイスにありったけの魔力を込める……!! 

 

「 はぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「がっ……」

 

まず、氷の槍で相手を突き刺す。

そしてそのまま、相手が吹き飛ぶ前に────

 

「『アイシクル・ブラスター』!!」

 

────砲撃魔法を0距離でブチ込む!! 

 

「……ぁあああああああああああああああああああ!!!」

 

物理攻撃からの、0距離砲撃。

物理攻撃はなんでもいい、殴っても蹴っても、杖で叩いても。とりあえず1発当てて、発動する……全力で叩いて全開でぶっ放す。

 

某エース的に言うなら、全力全開の必勝コンボだ。

 

そんな、アタシの最強の1撃を受けたバンダナ教師は。

 

「……」

 

動く気配がない……うん、戦闘不能ね。

 

「勝ったな」

 

「ああ、我々の完全勝利だ」

 

ということで無事、3人を討伐した。

これで試験はクリア……なはずだけど────

 

「えーっと、録画機能は……っと」

 

────念には念を。デバイスを操作し、録画機能をオンにする。

 

「ヴォルク、そこのバンダナ教師近くにもってきてー」

 

「……。

ん?……っと、そういうことか!」

 

「シエル、お前以外に性格悪いな」

 

「良かったら追試になってないのよー……っと!」

 

吹っ飛ばしたバンダナ教師を、ヴォルクが回収。

念のためか、メガネの教師も持ってきて女教師の近くに置く。

 

そして、数十秒後。

 

「ほい、録画完了。

後は……まぁ、戻ってあの教官呼んできましょうかー」

 

その姿が、大人になっていた。

この学校の追試は、追試を受ける生徒同士での戦闘行為。今回は、それを何の告知もなしに無視して試験を行った……それも、アタシ以外の受験者が2人もいるのに。

 

脅s……もとい、一応の保険というやつね。

 

「それ、動画のコピーね。

あんたら、最悪点足りなくても合格できるかも……というか、悪かったわね。こっちの都合に巻き込んじゃって」

 

「いや、寧ろ助かった。

そもそも俺は、魔法関係のテストじゃ盆暗だったからな。仮に普通にやって勝っても、適当にごまかされて落とされてたかも知れねぇ。

ところが、落ちた記念トロフィー代わりにに消しゴムで俺にダメージ食らわせたバカ女にネタ聞いて帰ってやるか……とか思ったらこれだ。流石にあの点数でここまでやりゃぁ、落とせねぇだろ」

 

「構わないさ。

私はテストはロクにできなかったが……まぁ、それなりに上手くチームを組めていたからな。その人物が氷皇なのは誤算だったが、おかげさまでそれなりに面白い相手と戦う事が出来た。

まぁ、アレだ。ふざけてやってたアホな行動が、気持ちいいと思った感じだ」

 

「うっさい。

っていうか、試験会場で威圧してた奴が何言ってんのよ……」

 

戦闘能力があればアホでも、脅しても入隊できてしまう管理局のお膝元。

将来のミッドチルダの治安が、多少不安だ……いや、アタシもそんな環境じゃなかったら入れなかったから、文句は言えないけど。

 

「ま、いいわ。

とりあえずヴォルク、サクヤ……改めて、シエル・ファナフロストよ。これから3年間宜しく」

 

「おう!」「ああ」

 

その後、事情を説明した教官に信じられないような目で見られたものの……後日、謝罪文付きで合格の書類が来た。

 

こうして、アタシは高校へと入学したのだった。




色々な設定


ヴォルク・アームストロング
魔法陣の色:赤
変換適正:炎

ミッドチルダ在住の少年……青年?実家はプロレスジム兼プロレスを見ながら食事などが出来るバーで、特技は料理、ついでにマッサージ。趣味というか仕事の延長というか、日々トレーニングと店の新メニューの開発などは怠らない。
シエルに反し、交友関係は客を中心に多く、コミュニケーション力も高め。
設定上、身長213、体重106、体脂肪率8。おおよそ人間かと(というか、本当に高校生かと)疑いたくなるようなマッチョマン。魔法がほとんど使えない……代わりに身体強化の魔法は得意。なおかつ相性がよく、戦闘時にはその体は金属を弾き砕く。
筋肉キャラだが、勉強はできる。というか、それなりに頭もキレる。
京都っぽく、『○○はん』とつけて読んではいけない。
現実に存在する、千のサブミッションを持つ魔術師とは関係ない。『ヴォルカニック』のヴォルクだからセーフ。魔術師じゃなくて、魔導師だからセーフ。というか、スポーツに興味の私が実際の選手なんて知るわけが……気になる人は、『プロレス ヴォルク』と検索してください。





サクヤ・シェベル
魔法の色:ピンク
変換適正:無し

公共の場で殺気をばらまくやべー奴。
実家は祖父の代から続く剣の道場、というか剣を扱うジム。祖父は天瞳流という居合の家の出身だったが、才能の無さを自覚し経営者へと転向。金を扱う才能は有ったらしく見事成功、ミッド内部に大きな施設を持つまでになった。
趣味は剣、特技も剣。
剣の腕はハッキリ言って天才的、それから生まれたのが『廻咲流』という自己流剣術。12の月と同じ名前を持つ12種の『突き』の剣。
なお、魔力同様に頭もピンク。
発言が色々酷く、『氷皇の「さばき」』が運営に怒られないことを祈りたい。






 デッド・ロック
シエルのデバイス。杖型だが、アームドデバイス。
バリアジャケットは、白いバルディッシュ・アサルトモード。
☆以下設定☆
執務官フェイト・T・ハラオウンの使用するインテリジェントデバイス『バルディッシュ・アサルト』の『ソニックモード』を参考に作られており、コンセプトは『回避のしやすさ』……もとい、『体のラインが判る、あまり使いたくない衣装』。なお、色合いを黒から白に変更したことで透けるなどの性的観点から逆に問題であるとされ、極小のニップルガードが追加装備されている。
一応、モデルがモデルなので性能は良い。
ついでにいえば、バリアジャケットの見た目に関してはシエルは着た初回以降は特に気にしていない。『戦闘服に戦闘時有用であるか、意外の事柄を求めてどうするのよ』『っていうか、もっとキワドイ衣装の人とか普通にいるわよ?』


 海英華
アームドデバイス。
海に映る華、月。そのまま『突き』に特化した固い刀1本と20本の小太刀。バリアジャケットは普通の、桜模様の白い胴着。
剣術にあっていたから選んだのではなく、偶然デバイスショップでこの剣を見つけ、ひとめぼれ。血がにじむ特訓や骨が砕けるような特訓の経て、この剣に合うような剣術を自分で作った。
デバイスの性能自体は、普通。普通のそれなりにいい刀。


 熱血☆プロレス番長(マスクヒールver)
略式名称、ヴァン。
近所のショップで売られていた『コスプレデバイス』。武器なんてものは無く、本当にただのコスプレ。本来なら性能はお察し、防御力は無いに等しいジョークグッズ……が、ヴォルクが使うことで最強のヒールレスラーが誕生する。


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第1章 ~魔導交流戦とミッドでの生活と~
新学期、そして始まりへ


エタらなかったので初投稿です。


高校に入学して、もう一週間が経過した。

 

入試の時、あらゆる手を尽くして妨害して来た教師陣だったけど……映像脅しの効果だろうか。特に何かされることもなく、アタシ『達』は普通の学生生活を謳歌していた。

 

 

 

「ファナフロスト、この問題を解いてみなさい」

 

「ファナフロストさん、まずはお手本をお願いします」

 

「ファナフロスト君、ミラージュハイドは使えますか? いえ、使えなくてもいいんですが、魔法は見て覚えるのが一番ですからねぇ……?」

 

 

 

しいて言えば、授業中に無駄に当てられること────

 

 

 

「さ す が シエルさんですねぇ。いやいや、羨ましい……」

 

「皆さんも頑張りましょうね、シエルさんのような り っ ぱ な魔導師を目指して!!」

 

「彼女のように マ ジ メ にやればだれでも魔法を使えるようになりますからね!」

 

 

────どうも、こんな感じであからさまに当て馬役にさせられるくらいで。

 

 

特に、何も無い。

 

……無い。 

 

「いや、まぁ気にしないから本当に良いけど」

 

「お前、メンタル固いのな」

 

「ああ、胸に負けずの固さだ」

 

「サクヤ、後で校舎裏」 

 

……とりあえず、アタシは無事に高校生活を送っていた。 

 

「む、デートの誘いか? 

同じクラスの、しかも女子から……嫌いではないないシチュエーションだが、少しばかり古すぎやしないか?」 

 

「サクヤ。お前は、違う意味で鉄壁メンタルだな……」

 

無事に合格できたサクヤ、ヴォルクとも同じクラス。

入試であそこまでやったんだから、問題児が固まらないようにクラスは別になると思ってたんだけど……学校側は、寧ろ問題児ばかりを集めることにしたらしい。

テストが壊滅的なサクヤに、魔法がさっぱりなヴォルク、不良少女のアタシ。他のクラスメートもアタシみたいなヤンキーや、授業について行けない生徒に魔法が苦手な技術家タイプ。そして、最後に人数合わせでギリギリ合格できた生徒。ラノベのタイトル風に言えば、『魔導師高校の劣等生』と言でも言うべきか。一癖も二癖もあるような人間ばかりが、このクラスに集められている。

 

「いやまぁ、実際アタシは優秀だし? 

……っていうかサクヤ、課題止まってるわよ。さっさとやりなさい」

 

「む、了解した……。

それにしても、シエルはよくも容易くクリアできるものだな、誘導弾10個の同時制御など」

 

「ああ、それは俺も思うぜ。

クラスでもできてる奴ほとんどいねーし……まぁ、そもそも俺は1個まともにできてないが」

 

そして現在、我らが劣等魔導師は魔法の授業中。

 

内容は、誘導弾を複数生成し操作する事、目標10個。

 

「まぁ、アタシは砲術師だしね。

寧ろ、アタシのポジションだったら10じゃ……20個でも全然不足。少なくとも30はなきゃ話にならないわよ?」

 

「30……考えたくねぇな、頭がこんがらがっちまいそうだ……うぉっ……!?」

 

と、ヴォルクが作っていた魔力弾が急成長。一気に巨大な魔力弾へ、そのまま魔力から火に変換され炎の塊に────

 

『パスッ』

 

────最後は、なんとも頼りない音と共にそのまま消滅した。

 

いやぁ、汚い花火ねぇ……。

 

……。

 

「ヴォルク、せめて1個くらいできない?」

 

「いや、だから苦手なんだよ。

俺の魔力は、固ぇ。というか、固すぎて体から魔力を離すとまともにコントロールできねぇ……なにせ俺は、世間的には『障碍者』らしいからな」 

 

ヴォルク・アームストロング。

入学試験でチームを組んだ男子で、2Mを優に超える巨漢。鋼なんて目じゃない、超合金の肉体と、炎の変換適正を持つ……のだが。

 

「ああ、えーっと『過度硬性魔力体質』、だっけ」

 

この男、射撃魔法が一切使えない。

というか、今のところ身体強化とバリアジャケット展開以外の魔法を使えたところを見ていない。

 

「おう。

体つきに個人差があるみたいに、魔力にも個人差がある。柔らかくて砲撃しやすかったり、固くてシールドを張るのに向いていたり、回復魔法に向いていたりする……が、その中でも、通常の魔力運用ができない程に固い魔力の人間が存在する。無理やり使用しても魔力の過剰供給に始まり、意図しない変換に、制御不可、最後には今回みたいに体を離れた途端に即霧散、散々だ。

俺に出来るのはこの前みたいな身体強化に、オマケの変換資質の炎くらいだな」

 

そう言って、腕を発火させるヴォルク。

そのまま振り回す……って危ない、って、ちょっ、火の粉飛んできた。危ないからやめなさい……。

 

「んんっ……ヴォ、ヴォルク。

いきなり火責めか、いくら私でも、いつでも良いというわけではないんだぞ? まったく、おかげでイッて折角の愛の結晶が飛んでイッてしまった……」

 

「うぉあ!? 

誰だ、魔力弾変な方向に飛ばした奴!」

 

「あっぶねーな、どこのバカだよ! せめて上向けろ!!」

 

「痛っ、ちょっとサクヤさん!!」

 

と、サクヤに火の粉が掛かる。

そして、集中が途切れたことによりサクヤのシュートが制御不能に。不審な挙動の末、クラスメイトに直撃した。

 

ああもう、授業中にふざけるから……。

 

「っていうか10個できてたわね、意外……」

 

「ん? 

まぁ、『廻咲流』対魔法師を想定しているからな、使い方だけは勉強した。魔力はそれほどでもないから、魔法だけでの戦闘は無理だが……ついでに、勉学はさっぱりだ。自慢じゃないが、2限目のテストは確実に赤点だったな」

 

「いや、あのテスト簡単だったでしょ……」

 

サクヤ、サクヤ・シェベル。

ヴォルクと同じくチームを組んだ相手で、スレンダーな女子。魔法は操作だけならそれなり、剣士としては優秀……というか、砲撃を斬って奪うチート性能。見た目はクールというか穏やかというか……ミステリアスな雰囲気というか、とにかく黙っていれば完璧な美少女────

 

「赤い点は勃○時のク「サクヤ、自重」リスだけで十分だというのに」

 

────なので、永遠に黙っていてほしい。

一応、近くに男子(ヴォルク)いるから。っていうか、普通にクラスメートいるから……肩をすくめて笑うサクヤを見て、アタシは溜息を吐く。

 

っていうか、この話氷皇運営から怒られたりしないわよね……? 

 

「おらぁ、もう1発! (パスン)」

 

「んんっ! 

ヴォ、ヴォルク。その、だから……な? プレイはいいんだが、やるならやると言って欲しいぞ。仮にも、魔法の授業中なのだから……その、こんなタイミングで催したり具合が急に悪くなって保健室まで行くと……怪しまれるだろう? だから……」

 

「サクヤ、黙って課題してなさい」

 

顔を赤くするサクヤを見て、ちょっとばかし次元の壁を越えた心配事。

これ以上酷いと色々とマズイ(もう手遅れな気もするけど)と感じ、サクヤの思考を少しでも誘導する。

 

「むぅ、了解した。

まぁ、スるのは放課後でもできることだ「黙れ♪」」

 

「お前ら……」

 

ヴォルクと(主に)サクヤに振り回されて今日も1日が過ぎていく。

 

……ミッドチルダでの新生活は、まぁそれなりに充実している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、今日も疲れた……」

 

帰り道、ため息交じりに一人つぶやく。

 

今日も賑やかな1日だった。

 

あの後、ヴォルクが2回ほど魔法の暴走から巨大な爆発を生じさせて巻き込まれたり(何を間違ったのか、とんでもない大爆発が発生した)、そのうち1回はアタシ達だけじゃなく周囲の生徒に危害が及んだり(なお、1回目含めサクヤは無傷だった)、ヴォルクの飛び火で集中力を失ったサクヤにより3回ほど周りの生徒に魔力弾が飛んで行ったり(なぜこっちは防げないのか、っていうかわざと食らってるでしょ?)、そのせいでクラスメートとリアルファイトに発展しかけた(ヴォルクを見学処分? にすることで、全面戦争は回避された)くらい。

 

本当に、なんとも飽きさせない素晴らしい1日だった。

 

……。

 

明日も、学校かぁ……。

 

……。

 

「まぁ、何もないよりはマシってことで……」

 

考えてもらちが明かないし、精神が持たない。

 

明日の苦労は、明日の自分に。

 

アタシは気持ちを切り替えて、本を読みながら家に向かって足を向け。

 

そして、家が近づいたころ。

 

「……ん?」 

 

『えー、そうですかー? そんなことないですよ……ね、フェイトちゃん?』

 

『え? あ、うん。そうだよね、なのは……うん』

 

何時もの道を、いつも通り。

もうすぐ愛しき我が家……というところで気づいた。

 

家のあたり、なんだか楽しそうというか賑やかというか……。

 

『ええ、なにその微妙な反応!? 私ってそんな寝顔なの!?』

 

『うん、家とかでちゃんとベットで寝れば普通なんだけど……ソファとか疲れてそのまま床とかだとたまに、ね? 寝苦しいんだと思うけど……』

 

『中々面白いぜ、嬢ちゃん。

局じゃその顔見て笑わなかったら昇進できる……とか噂になってんぞ?』

 

『ええ!? 

なんですか、その噂。やめてくださいよ「大尉」~!』

 

「……大尉ぃ!?」

 

ついでに、すごく聞き覚えのある男性のワードが聞こえた。

 

それに、あの喋り方に大尉って、まさか……!!! 

 

「お父さん!?」

 

「ん? おう、シエルか」「あら、シエルちゃん」

 

そこにいたのは我が父、グラリック・ファナフロストと、母のロア・ファナフロスト。

 

「あ、シエルちゃん。お帰り~」「ごめん、先に頂いちゃってるよ~」

 

「あ、これシエルさんの分です。席はここどうぞ!」

 

「我が娘よ、1か月ぶりだな」

 

「え? あ、うん……」

 

それが、なんかなのはさん達と庭でバーベキューしていた。

 

……いや、何やってるんだ本当に。

とりあえず、ヴィヴィオがお肉が入った皿を貰って席に案内してもらう(ヴィヴィオ、いつもながら気の利いたできた娘だ)。

 

「もう、シエルちゃん。

メールで『今日なのはちゃん達とバーベキューするから早く帰ってきて』って連絡したでしょ? なのに、こんな時間まで帰ってこないなんて。せっかく部下に仕事押し付けて、いいお肉も買ってきたのに。ご飯、先に食べ始めるちゃったじゃない」

 

「あー」

 

メール……読むのやめた後に、そんなこと書いてあったのか。

 

っていうか、部下に仕事押し付けて来たのか。

 

「ごめん、ごめん。

ちょっと、友達の補習付き合ってて────」

 

「シエル、嘘をつくならもう少しうまくつけよ?」

 

「あのメール送っておいてなんだけど、シエルちゃん友達居ないでしょ」

 

「────おう、その喧嘩幾らだ」

 

……娘をなんだと思ってるんだ、アンタ等。

実際に、こちとらヴォルクの補修に付き合って来たんだ。3回の爆破と10回の誤射を食らって、生還して来たんだぞ、この娘は。 

 

「……ふふっ」

 

「ん?」

 

と、なんか後ろから普段聞かない声が。

美人というかカッコいいというか……かつどこかふわっとした感じ。

 

やったらスタイルのいい、すらっとした体に胸に中々無駄に肉がついていらっしゃる(地味にイラッと来る。いや、いいなーとかは思わないけど、断じて)、長い金髪の女性。

 

っていうか、知ってる。この人は、確か。

 

「フェイト・T・ハラオウン執務官……ですよね」

 

「うん。

笑っちゃってごめんね、家族のやり取りが楽しそうだったから……始めましてだね、シエルちゃん。なのはから聞いてた?」

 

「楽しくはないです」

 

フェイトさん、フェイト・T・ハラオウンさんだ。

アタシのバリアジャケット、デットロックの原型『バルディッシュ』を使う管理局の痴女……もとい、魔王なのはさんの片腕とか黄色い死神とか色々言われてる、あのエース魔導師。

 

「シエル・ファナフロストです。

アタシのバリアジャケットが、ハラオウン執務官殿のバリアジャケットを参考に作られていまして。一応、そういった経緯で」

 

「フェイトでいいよ、話し方も変に畏まらなくてもいいし。

でも、そっか。そういえば、1回シャーリーが許可取りに来たっけ。シエルちゃんがそうだったんだ……使ってみて、どう?」

 

「はい、やっぱり動きやすいです……まぁ、ちょっと見た目がアレですけど」

 

「あー……。

うん、まぁ使いやすいなら……まぁ、あの見た目は私もちょっとキツいと思うことはあるけど……」

 

バリアジャケットについてアタシが言うと、若干苦笑いになるフェイトさん。

まぁ、使っといてなんだけどアレはねぇ……。

 

「まぁ、それはそれとして。

改めて、私は執務官のフェイト・T・ハラオウン。同じバリアジャケットを使う同士、これから宜しくね」

 

「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」

 

「うん。

あ、それと私『も』ヴィヴィオの保護者で……といっても、なのは以上に仕事で家にいないんだけど」

 

「あ、重ねてお願いします」

(私『も』ねぇ……)

 

ニッコリ笑うフェイトさん……んー、この人もなんというか……雰囲気が……なんというか、苦労してるなとか、何も知らない感じじゃないというか(まぁ、別に何があったのかは気にしないし、聞かないけど)……。

 

いやぁ、にしても。

 

不屈のエースオブエースと管理局の死神が一緒に暮らしてて、ついでになんだか訳ありな幼女を保護してて。

 

ミッドチルダ……なんというか────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『以下の者は、本日の放課後に校長室まで来ること

 

   シエル・ファナフロスト

 

  ヴォルク・アームストロング

 

   サクヤ・シェベル            』

 

 

 

「────なんとも、暇しなさそうな町よねぇ……」

 

 

 

次の日、登校早々にアタシは呟いた。




3か月半空きました。










すいません、遊 ん で ま し た。

次回はもっと早い投稿目指したいです。


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厄介事、出会いと旧縁

1年半以上ごしなので初投稿です。
ちょっとリアルで色々あったりTRPG始めたりパワプロ買ったりしました


「「「魔導交流戦?」」」

 

『以下の者は、本日の放課後校長室まで来ること

   シエル・ファナフロスト

  ヴォルク・アームストロング

   サクヤ・シェベル           』

 

前回、こんなかんじに入学早々熱烈なラブコール。入学からジャスト1週間、校長室に呼び出しを食らったアタシ達。向かった先で言われたのはお叱りの言葉でも当然お褒めの言葉でもなく『魔導交流戦』という聞きなれない単語だった。

 

「はい……と、その前に。ヘンリー君」

 

「あ、はい。

初めましてだね、シエル・ファナフロスト君。それにヴォルク・アームストロング君、サクヤ・シェベル君。僕は3年のヘンリー・ナモーチェ。一応、この学校の生徒会のトップ……生徒会長、ということになる。宜しく」

 

「あ、どうも。シエル・ファナフロストです」

「サクヤ・シェベルだ」

「ヴォルク・アームストロングです。よろしく頼みます、先輩」

 

生徒会長、部屋にいた……なんとも『ザ・普通』な男子生徒。

軽く自己紹介だけさせて、学園長は続ける。

 

「はい、では今はそれくらいで……早速本題に入らせてもらいます。

まず現在、時空管理局の地上部隊では優秀な魔導師獲得が急務となっていいます。そういった経緯で、地上に縁のある学校では学問に問題があっても、魔法が優秀である人間を迎えるための多少特殊な入学試験を設けている……と、まぁこれは説明する必要もないとは思いますが」

 

「まぁ、それで入ったわけですしね」

 

「ですね。

しかし、いくら優秀な生徒を集めても何の意味もない。重要なのは、その生徒をどう教育するか……このミッド第3高校は、試験だけでなくカリキュラムも特殊な行事をいくつか導入しています。その1つが『魔導交流戦』。

他校の生徒を招いて、こちらの代表と魔導師としての模擬戦を行う。今の時代、学園の成績上位者は魔導師のトップクラスと同義。他校の生徒を呼び、お互いのトップクラスの実技を生で見ることで見聞を広めよう……というのが、この行事の建前です」

 

「建前、ですか」

 

「はい。

本命は、このカリキュラムの成果の提出……いかに実力のある生徒を育成、収集できたかの提示。最初から強かろうが関係ないのです、結果が提示できれば」

 

「……察するに、生徒会長さんは」

 

「ええ、代表です……結果を出せていない、ね」

 

「……」

 

と、若干棘のある言い方をする学園長。

 

曰く、毎年近くにある高校……『私立ミッド西高校』というところと7対7の模擬戦を行っているが、1度も勝てていない事。更に、加えて相手のチームに付属の中学生が混じっておりその中学生にも勝てない事。挙句の果てには7敗でパーフェクトゲームを決められてしまった事。

 

そして今年……5年目も敗北するようであれば、補助の予算を打ち切られてしまうという事だった。

 

「いや、絶体絶命じゃないですか」

 

「そうなんですよ。

しかも、どうも管理局はこれを期に向こうに予算を振ろうと考えているようでして。向こうも当然それを知っています……なので、今年は全力でこちらを潰しに来ます。さきほど言った、中学生達も高校生に進級し実力を上げ参加してきますしね」

 

『頼みの綱も無い状態で、困りましたよ』、と笑う学園長。

若干歪んだ生徒会長の顔は気にせず、ニコニコ顔でこう続けた。

 

「そんな時、グラリック君から君の話を聞きました……いやぁ、まさに地獄で蜘蛛の糸といった気持でしたよ。他の教師からは反対されましたが、君はその逆境を跳ね除け入学してくれました。

今度は、そちらの2人共々この学校の逆境を跳ね除けて欲しいのです」

 

「……何か、報酬みたいなものはありますか? 

アタシ達は試験を『実力で』突破しました。特に恩義もありませんし、無償で受けるのは少し……」

 

「実力、ですか……ふふふ、そうですね。

大丈夫です、最初から報酬は用意してあります。無事勝利する事が出来た時には、任意の単位を3点。それでどうでしょう?」

 

「……負けても、参加賞くらい出ませんか?」

 

「……なるほど。

いいでしょう、参加さえして頂ければ1点差し上げます。これで構いませんか、『氷皇陛下』殿?」

 

こっちがごねても顔1使えない学園長。

皮肉交じりに茶化しつつ、いつも通りの笑顔をアタシ達に向けた。

 

「……」

 

さて、どうするか。

正直面倒なんだけど……でも……。

 

「……その相手って、強いんですか?」

 

「そうですね、きっと氷皇様を満足させると思いますよ?」

 

「そうですか」

 

強い相手がいる、強い相手と戦える……なら、アタシの選択は。

 

「お引き受けします、学園長。

……いいわよね、アンタ等?」

 

「もちろんだ、一人イかせはせんさ」

「ああ、魔法実技の補填も欲しかったところだしな」

 

「決まりですね、ではよろしくお願いします」

 

こうして、アタシはこの学園の代表として戦うことになった。

 

なったのだ。

 

……なったのだ。

 

「ってことになったのよ、今日」

 

「それは大変ですねぇ……でも、強い人と戦えるんですよね? 楽しそうです」

 

「まぁ、アタシも楽しみではあるんだけどね」

 

そんな話を、歩きながらヴィヴィオとする。

現在放課後……今日はいつも通りヴィヴィオ・コロナちゃん・ノーヴェさんと混じってストラクアーツ練習の見学をする。

 

「ふふっ、シエルさんらしいですね……あ、コロナにノーヴェ」

 

「っと、アタシたちが最後みたいね。お待たせしました、ノーヴェさん」

 

「ようシエル、それにヴィヴィオ────」

 

ただ、いつもとは少し違うところがあって────

 

「────で、お前らがヴォルクとサクヤか」

 

「おう」「ああ」

 

────なんと、ヴォルクとサクヤがいる。

理由は単純で、あの後ヴォルから『ウチで特訓しようぜ!』とお誘いがあったのだがヴィヴィオとの予定が入っていたアタシはそれをパス。その後、『彼氏でもいるのか』『もうどれくらいヤったんだ』『好きなプ〇イはなんだ』とうるさいサクヤに、事情を説明すると……ついてきた。

 

『お前がそこまで言う少女……それは、中々魅力的だな』

 

ということらしい。

ヴォルクは、自分だけ帰るのもアレだからとついてきた。

 

「サクヤ・シェベルだ……宜しく頼む」

「ヴォルク・アームストロングだ、宜しくな」

 

「すみません、いきなり2人も追加しちゃって」

 

「ん、構わねぇよ……っていうか、お前らこそいいのか? 

なんか、学校代表として戦うとかなんとか……訓練とかしなくていのかよ?」

 

「まぁ、一週間じゃどうもならないでしょうし。

というか、別に負けても問題ないですし」

 

まぁ、負ける気は毛頭ないけど。

 

「まぁ、それならいいが……と、そうだ。

今飲み物買いに行っていないが、こっちも追加で1人居るんだ」

 

「あ、そうなんですか……どんな子なんです?」

 

「そうだな。

ヴィヴィオのクラスメイトなんだが、ルーフェンってところの格闘道場出身らしい」

 

「ルーフェン武術、ですか」

 

確か、小さい力を大きい力に匹敵させたり力を受け流したりする技術……だっけ。

ストリートファイトで1人見かけた……がついぞ攻略できず、最終的には毎回魔法でゴリ押しして倒していたのを覚えている。

 

「ほう、ルーフェンか」

 

と、どこか懐かし気なサクヤ。

 

「何、アンタ出身地だったりするの?」

 

「いや、私はバリバリのミッド人だ。

ただ、昔……2年くらい前か、廻咲流を作る時に世話になったことがあってな」

 

「……え、ルーフェン武術って剣も教えてるの?」

 

「まぁ、一応な」

 

知らなかった、たまたまアイツが拳法家だっただけか。

 

「まぁ、私が習ったのは拳術なのだが」

 

「どういうことよ」

 

「いやぁ、話せば長くなるのだがな……」

 

それはそれとして、剣術のために拳法学ぶってどういう事よ。

今更だけど、試験中に問答無用で殺気放ったり脳内R18だったり……サクヤ・シェベル、かなりヤバい人なのではないのだろうか────

 

「わっ、全員揃ってる! 

すみませーん、遅くなりましたー!」

 

────と、おそらくノーヴェさんが言っていた人物だろう。

やっぱりというかなんというか、少女の声。そういえば女子ばっかだけどヴォルク肩身狭くないのかしらねーと若干思いつつ振りむ……こうとすると、気づく。

 

「サクヤ?」

 

「……」

 

なんか、サクヤが固まっている。

しかも、いつものクールさは吹き飛んだ引きつったような苦笑いのような……中々に面白い顔で。

 

「り、り、り……」

 

「り?」

 

機械のように、ギギギ……とゆっくり振り向くサクヤ。

デバイスで録画しときゃ良かったと若干残念に思いつつ振り向くと、そこには紫色の髪の女の子がいて。

 

「リオ嬢……!?」

 

「さ、サクヤさん……!?」

 

その女の子は、サクヤと知り合いらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リオ・ウェズリーです、よろしくお願いします!」

 

「あ、シエル・ファナフロストよ」

「ヴォルク・アームストロングだ」

 

体育ホールに移動、改めてペコリとお辞儀をするリオちゃん。

ちなみに、リオちゃんの目も裏を知らない綺麗ないい子だ……ヴィヴィオは、一応今は普通の交流を持てているらしい(ちなみに、ノーヴェさんとサクヤは知ってる側。ヴォルクは闇を知らない一般人さんだ)。

 

「で、アンタはこんないい子とどこで知り合ったのよ」

 

「まぁ、それはさっきの話につながるんだが……。

私が、ルーフェン武術を習っていたことはさっき話しただろう? 彼女は、私が通っていた道場の家の娘なんだ」

 

「はい、そうなんです! 

えへへ、お久しぶりですー!」

 

「こ、こらリオ嬢。

同性とはいえ、女子がむやみやたらに抱き着くものではないぞ……?」

 

そう言ってサクヤに抱き着くリオちゃん。

そして、なんとそのリオちゃんにサクヤが押されている……『まったく、女が無作為に抱き着くとは。その「先」を求められても文句は言えんぞ?』とか普段なら言いそうなのに、なんとも新鮮な気分だ。

 

「えへへ。だって、寂しかったんですよー? 

サクヤさん、『勁』をちょーっと習ったら手紙だけ置いて帰っちゃうんだから……あ、そうだった。さっきじーちゃんにサクヤさんにあったってメールしたら、 数 秒 で 『長期休みにでもつれて帰って「来い」』って」

 

「む、それは済まなかったと今では思っている……あのころの私は剣意外に対する礼儀というものを知らず……ってリオ嬢、今なんと?」

 

「あ、じーちゃんが『つれて帰って来い』って」

 

「……本当か?」

 

「うん」

 

「「……」」

 

「マジか」

 

「マジです」

 

「「……」」

 

「うわぁあああああああ! 何をしてくれるんだお嬢ぉおおおおおおおおお! 

老師が『来なさい』って! あの人の命令形とか初めて聞くぞ!? 確実に怒ってる奴じゃないかぁああああ!!!?」

 

で、そんなサクヤのキャラ崩壊は止まらない。

 

普段からは想像できない口調、声色で問答を繰り返した後、脆弱。

そして、変な顔で叫び出した……サクヤがこんなになるって、何者なのよ、リオのお爺さん。

 

「さ、サクヤさんって変わった方ですね……」

「あはは……」

 

ちなみに、ヴィヴィオとコロナちゃんはそんなサクヤを見て若干苦笑い。

そうなのよ、変った人……っていうか変な人なのよ。しかも、普段は別のベクトルで変どころか教育に良くない感じなヤバい人なのよ(よくよく考えると、なんでこの場に連れて来たんだアタシ)。

 

「……」

(っていうか、そろそろ止めるか)

 

「あああああああああああああ!!! 

 

「サクヤ、あんま叫ばない。周りの利用者に迷惑よ」

 

個人的には見ててとても面白いしもっと見ていたい……が、線が痛くなってきた、そろそろ止めることにする

 

「あ、そうでした。すみません」

 

「む、すまない。しかしだな……」

 

「しかしもデモもストもないの……」

 

で、せっかくだし……若干実益兼ねて、こうさせてもらう。

 

「それより、せっかくだしアンタ等で組手して見せなさいよ。

ルーフェン武術も見てみたいし……いいですよね、ノーヴェさん?」

 

「お、そうだな。

ちょうど2人共今日初めてだし……剣の為に学んだサクヤの腕前とやらでも見せてもらうとするか」

 

「いや、私はそれよりだな……」

 

「やったー! 

私、サクヤさんが居ない間にもちゃーんと強くなったんですよ!」

 

「ん、そうか。

それは楽しみだ……ではなくてな……」

 

「リオ、頑張ってね!」「サクヤさんも頑張ってください!」

 

「……サクヤ」

 

「……ヴォルクか、なんだ」

 

「……自業自得だ、諦めて怒られに行け」

 

「……」

 

「……」

 

「「……」」

 

「……」

 

「まぁ、それもそうか……」

 

結局、この日はサクヤとリオちゃんの組手だけして解散となった。

 

ついでに、サクヤは普通に格闘技が上手かった。

また、後で聞いた話によれば。サクヤは廻咲流のために剣術だけでなく、あらゆる武器術や格闘術などの歩法や構え、基本技を学んで旅をした時期があったという(また、そのせいで中学くらいから学校の成績が酷かったらしい)……いや、何がどういうことなのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

筋肉とは、肉体とは。

 

熱い情熱と冷静な知識、無理しすぎない自制心とそれを言い訳にしない心。

 

一見相反する、これら2つの組み合わせを日々積み重ねて少しづつ培っていく物。

 

俺、ヴォルク・アームストロングはそう思案する。

 

「……」

(ゴールがいつもより3分早い……別に目標じゃねぇが、多少はこうやってモチベーション上げてかねぇとな)

 

今日のメニューは軽いストレッチとランニング。

結果は上々。ベンチに座り呼吸を整えつつ……若干、頬が緩む。中々有意義な時間だった、明日以降のトレーニングもやりがいがありそうだ……。

 

「……」

(さて、そろそろ課題と家の手伝いしねぇとな)

 

自作のドリンクを飲み終え……さて、帰るかとベンチから立った。

 

……そんな時だった。

 

「……お初にお目にかかります。

ヴォルク・アームストロングさんというのは貴方で間違いないでしょうか?」

 

「……あ?」

 

突然、聞いたことない声に呼び止められた。

 

「誰だテメェ、ご丁寧に仮面までつけやがって。

まさか、このミスターヴォルカニック様と試合しようってか?」

 

「はい」

 

「即答かよ……」

(ストリートファイトってやつか、今時珍しいな)

 

凛とした口調で答えるソイツ。

バイザーを付けた、エメラルド色の長い髪の……女、か(別に差別するつもりはねぇが)……。

 

まあいいか、適当にあしらって帰るとするか────

 

「そうか……ただ、俺はプロレス屋だからな。

結構『触る』、こっちは職業柄気にしねぇが……ヤるんなら、そっちも合わせてもらうぜ? 嫌だったりやってる途中でダメそうなら、この試合はお流れだ」

 

「問題ありません。

この身で格闘技をやるうえで、その辺りは覚悟しています……それに────」

 

「ハッ、見上げた根性だ────」

 

「────あなたの攻撃を、受けるつもりはないので」

 

「────言うじゃねぇか、ぉお?」

 

────前言撤回だ、とりあえずぶっ飛ばす。

 

「では、参ります」

 

そう言って、構えを取るバイザー女。

俺もバイザー女へ向けて……ってああ、面倒だな! 

 

「ハッ、いっちょまえの構えじゃねぇか……っと、そうだ仮面女」

 

「……何でしょう」

 

「名無しじゃ話になんねぇ、リングインしたけりゃ名前を聞かせろ」

 

「……と、そうでしたね。

申し訳ありません、私は────」

 

ソイツは、構えから全く体をブレさせずこう宣言した。

 

「────ハイディ・E・S・イングヴァルト。

覇王を名乗らせていただいています」

 

「ハッ、大層な名前なことで……んじゃとっとと始めようぜ、デバイス出しな」

 

「……不要です、お好きにどうぞ」

 

「おうおう、何処までも言ってくれるじゃねぇか。

……っと、そいやこっちも名乗り上げてなかったな。俺はヴォルク・アームストロング、またの名を────『Set up』────」

 

俺はデバイスを起動する。

 

「『絶対不損』のミスターヴォルカニック様だぁ! 

行くぜ、覇王様よぉ!!!」

 

「……参ります」

 

そして、試合が始まった。

 



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