サルースの杯 (雪見だいふく☃️)
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1

たとえば、毎日見ている風景がはじめて訪れた場所のように物珍しく感じるときがあった。

 

 

たとえば、私の名前を呼ぶ母様の顔や父様の顔に違和感を感じた。

 

 

たとえば、皆の呼ぶ私の名前がどこかしっくりこない。

 

 

 

 

そんな違和感が私の人生にはずっと付きまとっていた。

 

前世の記憶だとか精霊の加護だとかそんな言葉が珍しくないこの世の中、そんな不思議や違和感はきっと大した問題ではないのだろう。

 

 

 

そう、昨日までは思っていた。

 

私の考えが変わった事件の、はじまりは昨日の朝のこと。

屋敷しもべのプティが届けた一通の手紙だった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「サルースお嬢様、お手紙が届いております」

 

「あら…私にお手紙ですか?何方からかしら……プティそれは開けても安全なもの?それともボージンおじ様のイタズラかしら?」

 

「プティはそのお手紙をよく存じ上げております。サルースお嬢様に笑顔を届けるお手紙ですとお答えします」

 

 

 

プティがそう言うのなら、そうなのでしょう。

 

朝食の後の紅茶を飲み終え、書斎へ移ろうかと考えていた矢先のこと。

 

プティから受け取った手紙にはかの有名な学校の校章が印されていた。

中を確認すれば、サルース・バーク様と私の名前があり、新学期より入学が認められたという旨と持ち物のリストが入っていた。

 

 

夏が終わる頃にはホグワーツへ行けるのね。

母様も父様もボージンおじ様も学校は素敵なところだって言ってらしたからとっても楽しみにしていたの。

 

 

 

「ホグワーツからのお手紙ね!母様と父様にお見せしなくてはいけないわね、プティ?」

 

「はい!サルースお嬢様!奥様も旦那様もお喜びになられます!」

 

 

なんだかプティも長い耳を動かして、目を輝かせる様子がとても嬉しそう。

今日の夕食はきっと品数が増えるわね。

 

プティと共に母様と父様に会いに行けば、まるで自分の事のようにこの入学案内を認めた手紙を喜んでいただけたわ。

 

入学のために必要なものは明日、ダイアゴン横丁に買いにいくことになった。

 

ノクターン横丁から出るのは久しぶりだから日傘を忘れないようにしなくてはいけないわね。

 

 

 

「ねぇプティ?移動はボージンおじ様の暖炉を使わせてもらえないかフクロウを飛ばしてくれる?」

 

「はい!サルースお嬢様。ボージン様もお喜びになられますね」

 

「そうかしら?おじ様は薬を卸せなくなると嘆きそうだわ」

 

 

 

書斎へ向かいながら、いつもよりも酷い既視感にはてと、首をかしげた。

 

あの手紙を見たことがあった……?

まさか。そんなわけはない。

入学案内を見たときの喜びははじめて感じるものだった。

魔法族としての一人立ちを認められたようで、新しい知識との出会いの予感があって気分が高揚する。

そんな気持ちは今までにないことだ。

 

 

 

 

 

読みかけの本を手に窓際の日の当たらない机につくものの、考えるほど気になってついには手元の文字を追えなくなってしまった。

 

 

「こうなると読書に身が入らなくなってしまうのよね…図録でも眺めて心を落ち着かせましょう」

 

 

気分転換しなくては、と書斎の通路を背表紙を目で追いながら歩くことにする。

 

 

 

我がバーク家の書斎と、地下室は庭と屋敷に比べても広大な敷地を誇っている。

 

その蔵書の中には呪文書や魔法薬の秘伝書、吟遊詩人の歌集や魔法動物、妖精の知識書など魔法界のものは勿論たくさんある。

 

それだけなら、他の貴族屋敷にもあるだろう。

 

他と違うのは、マグルの記した本も多量に揃っている点だ。

 

マグルの医学書(人間の解体図や臓器の仕組みについて事細かにのっている)や植物学(野菜や観賞用の花とされているものもマグルの世界では薬となるものがある)、天体の本(宇宙という概念について記される占い学とは別のもの)や機械(科学というマグル独自の学問に基づいて産み出されるマグル式魔法器具のようなもの)の本なんてものもあったりする。

 

私が読むことのできるものだけでこれだけあるのだから品揃えの良さは伝わると思う。

 

他国語や妖精の言葉で書かれた本や、正しく開かないと呪われるものなど私が読めない本がここにあるもののほとんどなのだから。

 

 

 

 

なぜ我が家には豊富な書籍が揃っているか、それはバーク家の家業に理由がある。

 

魔法界に住む人ならばバーク家とボージンおじ様のことを知らないことはないと思う。

 

ノクターン横丁に店を構える[ボージンアンドバークス]その創設者にして技術開発を担うのがカラクタカス・バーク。今は亡き私の祖父様である。

 

 

祖父様は闇の魔術に関わる品を見つけては使い方を導くことに長けた人物だった。

本来、呪われた品というのは多くが長い年月の中で風化し術が不完全になったり、使い方が失われていたりと、扱いたい者を傷つける結果にしかならないガラクタだった。

使えない道具はゴミでしかないから仕方のない事だ。

 

しかし、それでも呪われた品を使い他者を傷付けたい者は多くいる。

力のある魔法界の貴族達はもれなくそうだと言っても過言ではないくらいだ。

 

 

しかし祖父様は代々続くバーク家では珍しく、使うことではなく集めることを好むお人だった。

そして集めたものの価値を正しく示すことができた。

 

そんな祖父様は御学友としてボージンおじ様と出会い、意気投合され闇の品を売るためのお店を開業させた。

 

そして母様と父様の話にうつる。

二人はそれぞれ修理と開発に才能を持つ。

 

母様の修理の腕は祖父様に勝るレベルだと、ボージンおじ様は言っていた。

父様はまたバーク家としては珍しく、使うことよりも作ることに喜びを見いだした。

 

そんな家族の仕事上、様々な本が集まっていった、ということらしい。

 

 

 

ちなみに、私は父様の開発から派生したのか魔法薬やそれと組み合わせた品物を作ることが好きだ。

 

マグルの作った機械を応用してよりスリルのあるものを作ったり、ユーモアに重きをおいたり。

 

そんな私の開発品達はボージンおじ様のお店で扱われているだけでなく、ゾンコの悪戯専門店のほうにも卸していたりする。

 

私の商品で有名なものだと一昨年の、ワードパズルを正しく解かないと愛の妙薬が気化し、対戦相手と恋に落ちてしまうというゲーム。

初期の、賽を振って出た目の数だけボードの上の駒を進める、すごろくと呼ばれるゲームから止まったマスの現象が本当に起こる、もしくはマスの指示に従うまで駒が歌う(それはもうけたたましく)なんてものもある。

 

もちろん、私が作ったものにつけてあるロゴはゴブレットに蛇の巻き付いた絵柄だ。

 

 

 

さて、話が逸れた。

 

「サルースお嬢様、ボージン様よりお手紙の返事が届きました」

 

 

「ありがとうプティ、暖炉を使って構わないとのことよ。それから納品依頼ね、午後から取り掛かって寝る前には終わるから届けて貰える?」

 

 

「はいサルースお嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

さ、思考回路も落ち着いたことだから。

新しいトキメキを求めて昼食までは読書をしましょう。

 

 

 

 

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2

ホグワーツから手紙の届いた翌日。

私とプティはボージンアンドバークスの二階にいる。

 

 

 

相変わらず埃っぽくて陰気な場所だ。

 

二階の品物は入れ替わりが滅多にないから仕方ないのかもしれない。

黄金の頭蓋骨のゴブレットなんていつからあるのか…少なくとも私がここに通いだしてからはいつも置いてある。

 

効果は、あのゴブレットで飲んだ者に目的達成のための少しの運を上げる代わりに達成の目前でその魔法力を糧に人体発火を引き起こす、という物だったはず。

 

誰が欲しがるのかさっぱりわからない。

 

 

とはいえ、ここにある多くのものは作った私達でさえ使いどころのわからない物も多くあるのだからなんとも言えないが。

 

 

 

「プティ、貴女のお陰でここに来る度埃まみれにならずに済んでるわ。ボージンおじ様は嫌がるけどこれからも適度なお掃除をよろしくね」

 

「はいサルースお嬢様、お嬢様のお召し物が汚れてしまうのはボージン様も望みませんのでこれからもプティにお任せくださいませ」

 

 

 

頭を下げるプティにここで待つように伝え、下へ降りる。

ここに来る者達は総じて屋敷しもべを生き物とは思っていない。

いつもの事ながら、そっと姿をくらますプティに安心した。

 

 

階段を降りると二階と同様、埃っぽくて陰気な、だけど私にとっては馴染んだ空気の中でボージンおじ様が迎えてくれた。

 

 

「おはようサルース。昨日の品も素晴らしい出来だったぞ」

 

「おはようございます、ボージンおじ様。動作に問題はありませんでした?」

 

 

カウンターの中にいるボージンおじ様に近寄れば、昨日の夜プティに届けてもらった商品一覧とそのお買い上げ人物のリストだった。

 

お得意様と、新規が一件ね。

 

 

「サルースの作るものは皆一級品だ。今日は表で買い物だったか?」

 

「えぇ、教科書とかは取り寄せたのだけど杖と制服はこちらじゃないと揃わないでしょう?」

 

 

書類が多いと思ったら、バーク家宛のオリジナルグッズの依頼書だった。

 

相手の心を覗ける眼鏡、対象に気付かれずに愛の妙薬を服用させるなにか、あとは真実薬、ポリジュース薬、愛の妙薬をいつもの本数と。

 

 

「仕立屋を、呼んでも出来たはずだが…杖はオリバンダーの所か」

 

「ふふっ、我が家に人は呼べないですものおじ様だって滅多にいらっしゃらないではありませんか?それではこの書類はいただいていきますね」

 

 

「あぁ。早めに頼む、特にお前の作る魔法薬は評判がいいからな。……遅くなったが、入学おめでとうサルース」

 

「ありがとうございます、では表に行って参ります」

 

「わかっているとは思うが、付けられるなよ?気を付けてな」

 

 

 

ボージンおじ様の声に礼で答え、鞄から日傘を出す。

室内で過ごしてばかりだから青いほどに真っ白な肌は陽射しに弱い。

傘を出した鞄には先程の書類が入っているから落とさないようにしないと。

 

母様からいただいたドラゴンの鱗を加工したハンドバッグは小振りなのにたくさんの物を入れられてとても便利だ。

 

盗難防止の魔法も父様がかけていたはず、この鞄を盗もうとしたら最後二度と何も手に出来ない身体になってしまうような魔法がかかっていそうだ。

 

 

 

今はまだ杖を使わない魔法薬や呪術的な呪いしかできないけれど、ホグワーツに行ったらこういった魔法も覚えたいところだ。

 

 

 

さて、ノクターン横丁から見て日の射す明るい方へ歩いていくとたどり着くのがダイアゴン横丁。

魔法使いのお買い物は大抵ここで全て揃う。

だからいつだって人が多くて賑やかだ。

 

とくに今日は私と同じくらいの年の子供とその親や兄弟が揃って歩いている様子をよく見る。

目的は私と同じか。

 

 

久々にこちらに来た。

明るくて人が多くて落ち着かない。

 

 

 

「オリバンダー杖店…ここね」

 

 

幸い、ここは人が溢れている何てことはなくドアベルの音で開かれた店の中にはオリバンダー氏と思われるご老人がいるだけだった。

 

 

「いらっしゃい、お嬢さん。貴女は魔法具の……?」

 

高く積み上がった杖の箱が天井を支えているみたいだ。

店の奥までずっとつづく箱の山が外から見た店の大きさよりもずっと小さくこの場所を見せている。

 

同じ埃っぽい空気でもここはとても暖かい雰囲気だ。

 

 

 

「サルース・バークと申します。貴方はオリバンダー氏ですね?」

 

「如何にも。私がオリバンダーだ、杖を探しに来たのだね?」

 

「はい、私と共にただ素敵な物を生むための杖を探しに来ました」

 

 

 

杖が使い手を選ぶ。

そんな説明をオリバンダー氏から受け、私の杖選びははじまった。

 

オリバンダー氏が差し出す杖を握っては離しを繰り返す。

 

本数を重ねるごとにオリバンダー氏が楽しそうに目を輝かせる。

 

 

「ふうむ。難しい、実に愉快。バークさん、貴女の一族はお祖父様の代から皆さんとても癖の強い杖を買っていかれる。貴女もその一人らしい」

 

 

この人も作り手だ。

癖が強くて売れないかもしれない商品でも作ってしまうのは、売り物にならなくても心を込めて作った物は自分にとってそれが大事な作品であることに変わりないからで、私達家族が創作欲の向くままに闇のものとして人を傷つけるとわかっていても作ってしまう事ときっと同じ感覚を持っているのだろう。

 

 

 

それから、オリバンダー氏が持ってくる杖が形や重さ、手触りや受ける抵抗その他様々な部分が少し変わった物ばかりになった。

 

 

 

そして、私の手に残った杖はクマシデの木に不死鳥の冠羽を芯にした杖だった。

螺旋の模様が入っていて一般的な杖より長く大きい、そしてとても硬い。

 

 

氏いわく、クマシデの杖は、一つのことに純粋な情熱を傾ける才能ある所有者を生涯のパートナーとして選ぶ。

 

持ち主の情熱を理解して、意思を察する小回りの利く繊細な杖になる。

 

また不死鳥の冠羽は中でも希少で、不死鳥自身の意思によってしか得られない。

 

よって杖となったそのあとも放つ魔法は杖の意思が大きく影響する。

相性の良い持ち主と出会えたなら生涯の友として添い遂げることになる。

 

 

 

と、そう語ってくれた。

他にも何本か私の意思を聞いてくれる杖はあったけれどオリバンダー氏の言う私にとっての唯一ではなかったらしい。

 

この杖は手にした途端、私以外の他の何者にも自身を触らせないとでも言うかのように盾の呪文を展開した。

 

それはもう、オリバンダー氏が何をやっても壊れず私の意思が固まるまで。

なんとも我が儘な杖だけど気に入った。

 

「バークさん癖の強い杖だが貴女にとっては手足のように思いのままとなることでしょう。大切にしてやってください」

 

 

「えぇ、こんなにも私を求めてくれる情熱的な子を蔑ろになんてできません。素晴らしい杖をありがとうございます」

 

 

 

良い杖に出逢えて良かった。

支払いは屋敷の方へ請求書を届けてくださるとのことで挨拶をして店をでた。

 

 

「夜の闇の中で育ったお嬢さんだが…どうやら稀有な感性の持ち主らしい。作り出すものは闇を産んでも作り手は無垢で真っ白な職人、か。これからが楽しみだ」

 

扉が閉まりドアベルの鳴り終えた店内に残るオリバンダー氏の声は店の静寂に消えた。

 

 

 

 

 



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3

マダム・マルキンの洋装店は制服を扱っていることもあってか外から見ても賑わっていた。

人の多いところは正直息が詰まる。

採寸さえ済めばあとは製品が屋敷に届けられるのだろう。

少しの辛抱だと言い聞かせ足を進めた。

 

そんな意気込みから注意力が散漫になってしまったのだろう。

店に入ろうとドアに手をかける前に内側から開いたことで伸ばした腕が空を切り、出てきた相手とぶつかってしまった。

 

 

 

「うわ!ごめん!!!君……その、怪我はないかい?」

 

 

相手は男の子だったらしい。

随分と慌てて出てきた様で、勢いよくぶつかったと思ったのか後半に向けて声が沈んでいる。

 

 

「え、えぇ。大丈夫………っ!」

 

 

 

「おっと、ほんとに大丈夫?ごめんね…」

 

 

 

 

相手の顔を見て、くらりと意識が遠退きかけてよろめく。

 

咄嗟に支えられた正面にたつ【ハリーポッター】と背後にいるのであろう【ルビウス・ハグリット】の腕がなければ倒れていたことだろう。

 

 

「ごめんなさい…少し、外に出ることに慣れていなくて、立ちくらみかしらね。お二人ともありがとうございます」

 

「いんや、構わんが…お前さんちいと白すぎやせんか?ハリーでももう少し丈夫そうだ」

 

 

 

背後の声に視線を向ければはじめて目にする大きな男の人が立っていた。

豊かな髪と、髭に隠れた黒い目が言葉とは裏腹に心配の色を浮かべている。

 

このまま店にはいるのも、入り口を塞ぎ続けるのもよろしくないと判断したのか、洋装店の壁際に移動する。

 

 

まだ足元がぐらつく。

頭が回って背骨が骨抜きにでもなりそうな身体に気力で力を入れて真っ直ぐに立ってみせる。

 

 

「ハグリット!失礼だよ、本当にごめんね?僕の名前はハリー、そっちにいるのがハグリットだ。君は?」

 

「はじめまして、私はサルース・バーク。あまり日の射す場所に出ないものだから、ハグリットさんの言うことは間違ってないわ」

 

 

ハリー・ポッター、生き残った男の子。

姓を隠しても、前髪を押さえ付けたって意味がない程に有名な彼は【この時代の主人公】だ。

 

そして、私も。

バークの姓を知らない魔法界の人間は、早々いない。

 

ほら、ハグリットさんの私を見る目が変わる。

 

 

 

 

「バークの娘っ子だったか…そりゃあ日にも焼けんわ」

 

 

「え、サルースさんも有名なの?」

 

 

純粋な疑問に苦笑が漏れた。

 

 

「私の家系が少し、特殊で…私そろそろ制服を買いに行ってくるわ。ハリー、またホグワーツ特急で会いましょう。ハグリットさん、失礼致します」

 

 

「あ、うん!またね!!!」

 

「ホグワーツでな」

 

 

軽く頭を下げて、微笑みマダム・マルキンの洋装店へと足を向けた。

 

 

 

あぁ、きっとこの扉を開けると【ドラコ・マルフォイ】がいるのだろう。

 

ほら、生まれてこの方持ち続けた答えが出た気分はどうだろう。

感慨深さよりも、この付き添い姿くらましの時よりも酷い酔いをどうにかしたい、というのが先に来るのだから情緒もない。

 

 

 

「いらっしゃい!!!お嬢さんもホグワーツの新入生ね?そこの、鏡の前に立って!」

 

 

「ご機嫌ようマダム、わかりました」

 

 

指し示された鏡の方へ視線を向ければ、鏡越しにプラチナブロンドの男の子と目があった。

 

 

 

「お隣失礼します」

 

「……あぁ、構わない。君、どこかのパーティーに出てたか?」

 

 

見るからに貴族です、と言わんばかりの彼のように私もそう見えているのか。

 

しかし、彼と会うのもこれがはじめてだ。

……彼の父上にはお会いしているが。

 

なにせ我が家のお得意様だ。

あの方は店に息子や妻を連れてきたりしない。

 

「いえ、私あまり外に出ないものだからはじめてお会いするわ。はじめまして、サルース・バークです」

 

「そうか、いや、すまない。はじめまして、ドラコ・マルフォイだ。君、バーク家の者ってことはあの店の?」

 

「祖父の店の事かしら…?」

 

 

とても勝ち気、自信に溢れていて、自分は特別だと確信しているかのような様子。

魔法界きっての貴族マルフォイ家の一人息子として蝶よ花よと育ったのが人を見る目に出ているかのようだ。

 

……とはいえ、その一方で私がどんな人間なのか用心深く観察しながら敵になるのか味方になるのか見極めているのもわかる。

 

 

 

ふむ、杖が私の思考をクリアにしてくれているみたいだ。

 

 

「へぇ?なら君…サルースとはスリザリン寮で長く付き合うことになりそうだ。君のところの品物は質がいいって父上はおっしゃる。これからは僕とも…」

 

「ドラコ…と、お呼びしても?」

 

「ふん、特別に許可してやる」

 

 

それはそれは、ありがとう。

でもこの子少しお口が軽いのがよろしくない。

 

 

 

「ありがとう、ドラコ。あまり我が家のお客様であることを大きな声で言ってはいけないわ。お父上があらぬ、疑いをうけてしまうわよ?」

 

 

「む…お前はホグズミードのゾンコの店に品をだしているんだろ?なんの疑いがかかるって言うんだ」

 

 

 

あら、そういうことか。

まさか息子に闇の品を買っていることすら言ってないとは思わない。

墓穴を掘ってしまったようだ。

 

 

「それはまた次回、人目のないところでお話ししましょう?ほら、採寸が終わったみたいよ?」

 

 

「誤魔化したな…まぁいい。これから時間はたくさんあるしな、ではまた9と4分の3番線で会おう」

 

「えぇ、またね」

 

 

 

好き勝手に採寸する巻き尺をいなしつつ手を振り見送る。

 

 

私はスリザリンだと確信しているようだったけど、聖28一族だからか…それともバークの名を父がくちにしていたからか。

 

自分でもスリザリンになるのだろう、とは思っているが。

 

 

「お嬢ちゃんの採寸もこれで終わりよ!制服は各種1枚ずつ?それとも予備はいる?」

 

「ありがとうございますマダム。全て2枚ずついただきます。あと…出来たらで良いのですけどローブの裾を床に擦るほど長くして、袖も長めに、それから胴回りとフードを大きめにしていただけませんか?」

 

 

マダムに届け先のメモを渡しながら制服の丈を改造することを打診する。

 

 

 

「お嬢ちゃんあまり長いと危ないわよ?胴回りに関しては…とっても痩せているからそれで標準だから構わないけど」

 

 

「えぇ、わかっています。それでもダメですか?」

 

 

「ま、怪我するのも経験よ!任せておきなさい」

 

 

ウインクとともに了承が得られた。

怪我も経験、成る程考えたこともなかった。

 

 

 

それではと、マダムにお礼を告げて店を出る。

 

ペットの持ち込み可となっていたけど…そんな気分じゃない。

早々にボージンおじ様の所へ戻りたい。

 

 

たくさんの人と話して、生まれてこの方感じてきた既視感や、違和感の正体に気付いて、疲れてしまった。

 

 

おじ様の忠告通り、付けられる事のないように。

存在感を稀薄にする首飾りを身につけて歩き出せば、ここに来たときから受けていたちらちらと向けられる視線が消える。

 

 

さ、プティと共に帰りましょう。

 

 

 

 



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4

ダイアゴン横丁に行った日からしばらくたち、ホグワーツへと旅立つ日が明日に迫った。

 

 

「サルースお嬢様、お加減はいかがですか?」

 

「プティ、もう随分前から大丈夫だと言っているでしょう?明日にはここを立つというのに皆心配しすぎだわ」

 

 

あの日、屋敷に戻ってから熱を出した事でプティは勿論父様や母様、ボージンおじ様も癒者を呼び、呪いを施しと大騒ぎになった。

 

ただの知恵熱だと言っても、暑かったから参っただけだと言っても聞く耳を持たれず…

 

 

それからベッドの上で過ごしている。

 

 

「プティはサルースお嬢様がそうやってホグワーツに行かれても無理をしないかとても心配です。本日もマルフォイ家のドラコ様からお手紙が届いておりました」

 

「私より皆の方が心配よ…。返事を書くからレターセットをここにくれる?」

 

「はい、サルースお嬢様。羽ペン、墨筆、ボールペン他お嬢様の筆記具はたくさんございますが……どちらになさいますか?」

 

 

プティの差し出したトレーの上には私の筆記具達。

魔法界でポピュラーなのは羽ペンだ。

マグルの世界で羽ペンが使われていたのは100年も前だというのに。

 

マグル式の筆記具として、ボールペン(ペン先が丸いから紙に穴が開かないから便利だ)、鉛筆という硬い炭と木の皮で出来たもの、色鉛筆やカラフルな水性ペン(マグルの筆記具の中でもこれは特に気に入っている)、墨筆(東の国で愛用されている呪術具)などなど。

 

 

インクを使うものに関しては父様が自動羽ペンと同じ魔法で変え芯はいらない仕様になっているから完全なマグルグッズというわけではないが。

 

これらは私が集め始めて父様に魔法をかけてもらってとしているうちに、いつの間にか母様もこのボールペンを使うようになり、父様も使うようになっていた。

 

勿論、手紙も羊皮紙ではなくマグルのレターセットを使っている。

 

 

…これに関しては単純にマグル製品のが美しい上に可愛いからだ。

 

 

ドラコの手紙には明日が待ち遠しい旨が記されていて、また手紙を包んだ封筒が美しいとドラコのお母上から気にされているということが書いてあった。

 

 

「今日は翡翠のインクを使うわ、ボールペンを。紙は若草色の蔓が縁取りしている…そうその紙ねそれを頂戴。それから…明日は駅までプティが連れていってくれるのかしら?」

 

「僭越ながら、私目がサルースお嬢様をお送りさせていただきます」

 

 

それなら安心だ。

父様や母様が一緒に来るなんてことはないとは思っていたが、もし来ることになったら大騒ぎだった。

両親はそう、とても出不精で社交性の欠片もない。

会話を成り立たせるのは慣れるまでは至難の技だし、何より壊滅的な方向音痴だ。

 

 

「そう、いつもありがとう。よろしく頼むわね?さ、これでドラコへの手紙も終わりよ、今日は明日の荷物を準備しないといけないのよ?これ以上休んでなんていられないわ」

 

「持ち物リストにございました品はトランクへ詰めてございます」

 

 

それはありがとう。

でもそうではないのだ。

 

 

 

「ありがとう。でも個人的な持ち物を揃えたいのよ、プティお願い」

 

「プティはサルースお嬢様のお願いには逆らえません…ですが少しでも無理をなされていると感じたらベッドへ戻っていただくようプティはお願い申し上げます」

 

 

「わかったわ、これをドラコの所へ送っておいて?私は地下へ向かうから父様がくださったトランクを持ってきてね」

 

ガウンからいつも通りの真っ黒なワンピースに着替え私の地下研究室へ移動する。

 

地下は年中均一の温度が保たれていて、夏のこの時期はとても過ごしやすい。

 

 

研究室は2部屋に仕切られていて、手前の部屋には魔法薬を作るための設備がある。

そして奥の部屋には魔法道具を開発するための設備が揃っている。

 

ベッドに軟禁された時から、魔法薬が途中やりかけのままになっていたり、材料が干からびていたりと酷い状態になっていた。

 

あとでプティに消し去ってもらわないといけない。

今はまだ杖の魔法が必要なとき、プティや父様、母様に頼まないといけなかった。

だけどそれも今日までだ。

 

 

明日からは杖を使える。

 

教科書に指定されていた初級の魔法学は全て既に知っている物だったから今年は基礎を固めながら独学で必要な知識を揃えていくことになりそうだ。

 

オリバンダー氏の元で私の杖と出会ってからは、杖をどんな時も肌身離さず持ち歩いている。

 

私自身、そうすることで頭が冴えるような感覚があるし、杖もまたそれを願っているように感じるからだ。

 

ただ、杖を身につける際のこと。

杖が大きすぎるのが難点だ。

私の身長の半分程もあるからポケットには入らないし、何をするにもぶつけてしまう事が続いた。

 

何故か重さを感じない点はやはり杖によって選ばれ出逢えたからか。

 

 

 

とはいえ、数日もたたないうちに、検知不可能拡大呪文のかかった杖用のホルスターを母様からいただいた事でそれも解決した。

 

母様からの入学祝いという事だったから、ありがたく使わせてもらっている。

 

そしてそれを知った父様が、入学祝いにと1つのトランクを特別仕様にしてくださったのがここに私がきた理由だった。

 

 

プティが持ってきてくれたトランクを片手に奥の部屋へ向かう。

その間プティには、鍋や使えなくなった材料達の処分を頼んだ(指を鳴らすだけで終わってしまうが)。

 

 

さて、私の作業スペースであるこの研究室。

ここでは主にゾンコの悪戯専門店に卸すような魔法具を作っている。

 

私ではボージンおじ様のお店におくような品物は少量しか作れないから専ら魔法具のメインはゾンコの悪戯専門店になったわけだ。

 

 

「検知不可能拡大呪文は母様の得意な呪文だと思っていたけど…やっぱり父様もすごいわ」

 

 

父様の得意分野たる魔道具の仕掛けがトランクのロック部分には施されていて、杖先でワードを打ち込むと言葉によって開かれる空間が変わるようになっている。

 

この小さな金具にどれだけの魔法を込めたのか。

 

 

開いたトランクの中はこちらも検知不可能拡大呪文で広げられ、トランクの底へ続く階段を降りると部屋として扱えるようになっている。

そして打ち込むワードによってその部屋は様子が様変わりするようになっていて、中でもやはりお気に入りはこの研究室をそのまま移動させたかのような石造りの2部屋だ。

 

 

今回はそのトランクの中の部屋に屋敷の研究室の器具を移動させていく。

 

本棚も机も椅子も備えついているから、その周辺へ本や羊皮紙を移動させていく。

双子の呪文を覚えたら、それぞれに置けるようになるからその時はまた荷物の整理をしよう。

 

 

 

「ねぇプティ?そっちの火打石と水瓶も貰える?あとは…そうね必要に応じて届けてもらいましょう。荷物検査に引っ掛かりそうなものは一通り入れたかしら」

 

「サルースお嬢様、水瓶は浄化の印が刻まれたものでよろしいでしょうか?そちらの棚にありますものもお詰めした方がよろしいかと思います。危険物として取り扱い規制がかかっています」

 

 

 

あら、この辺もだったかしら。

 

アクロマンチュラの毒なんて薬としても優秀なのに正しく使えない輩が多いからそういった面倒な手続きが必要になるのだ。

 

そもそも使えないのならどうして手にいれようとするのか。

 

高所恐怖症の人間が最新型の箒を買うようなものだ。

もしくは水中人に泡頭呪文とか。

 

 

「父様がホグワーツの森でアクロマンチュラに会ったことがあるって言ってらしたっけ。母様はユニコーンに会ったとか。魔法生物には今まで接したことがないからとても楽しみだわ」

 

「サルースお嬢様が楽しそうでプティは嬉しゅうございます!」

 

 

 

資材の管理は小まめにしていたが、改めて整理を行うといろいろ気づくこともある。

この素材とこの素材を組み合わせたらこんな効果が出るかもしれない、とか。

 

 

 

そうして、2部屋に道具を詰めて他のスペースにも物を移し入学前の1日を終えた。

 

 

 

 



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5

キングスクロス駅9と4分の3番線はたくさんの親子連れで賑わい、別れを惜しむ声や激励の声が溢れていた。

 

 

「…はぁ、プティ送ってくれてありがとう。人が多くて嫌ね、荷物を積んでしまいましょう?」

 

「サルースお嬢様のお加減を害する者がたくさんいらっしゃいます……サルースお嬢様、周囲の音を遠ざけるように調整しても?」

 

 

 

パチンと、プティが指を鳴らすと周囲の不快と感じていた音のみが遠退き、聞きたいものに集中すれば元通り聞こえるといった状況になった。

 

ホームにつけた真っ黒な汽車がここロンドンからホグワーツへと生徒達を運ぶホグワーツ特急だ。

 

ホームとは反対側のコンパートメントで空いている席を探す。

上級生は既に乗り込み学友と過ごしている方もたくさんいるみたいだ。

 

 

 

「ありがとうプティ。とても楽になったわ!ここのコンパートメントは誰もいないみたいね、ここにいたしましょう」

 

最後尾に近い、比較的静かな場所に空席を見つけた。

 

向かい合った座席の上にある網棚は三つあるトランクを乗せても尚余裕がある。

四人位ならゆとりを持って入れそうだ。

 

 

「ありがとうプティ、ここまでで大丈夫よ?父様と母様がまた部屋を吹き飛ばしてるかもしれないから屋敷に戻って頂戴。二人を頼みます、プティにも手紙を書くから心配しないでね?」

 

「サルースお嬢様!辛くなったらいつでもプティを呼んでくださいませ!必ずお迎えにあがります。くれぐれも無理はなされませんようにプティはプティめはお願い申し上げます…!」

 

 

 

大きな瞳に涙を浮かべて頭を下げるプティにつられたのか、家に帰りたい気持ちが沸いてくる。

 

 

……まだ家を出て1時間もたっていないのだが。

 

 

それから、プティに再度無理はしないと約束しランチボックス(三段に重ねられたプティの大作、私は普段サンドイッチ1切れで済ませている)とおやつ(百味ビーンズからドライフルーツ等様々)を手渡され、別れた。

 

 

ポーチから本を取りだしページを捲れば、プティの魔法が効いていることもありすぐに頁に集中することができた。

 

 

――コンコン

 

 

汽車が動き出してすぐのこと、コンパートメントの扉が叩かれた。

 

顔をあげれば、申し訳なさそうな顔をしたハリーがいた。

 

 

「あーこんにちは、サルースさん、だよね?ここ…あいてる?」

 

「こんにちは、ハリー。ええ、どうぞ」

 

「ありがとう、どこも空いてなくて……知っている人がいて良かったよ」

 

 

向かいの席に手を向けて示せば、安堵の笑顔が返ってきた。

確かに、彼は有名だけれど彼自身はこちらを知らない。

視線は多く向けられてもそれらは目があった途端に反らされる類いのものだろう。

あれはそう、向けられる側としては不快なものだ。

 

 

網棚に荷物を上げるのに手惑い、通りがかった上級生に助けてもらったあと、腰を落ち着けた。

随分と重たい荷物だったけど、もしかして私のトランクも下ろすときは大変かもしれない。

 

 

 

 

「サルース、で構わないわ。けれど…あの日あの後ハグリットさんに私の事を聞かなかったの?」

 

「あ、あー、聞いてない。それに僕はあまりこっちの事には詳しくないから聞いてもわからないだろうしね!君…サルースこそ僕にいろいろ聞いてこないよね、それに、そう、額の傷をじろじろ見たりもしないし」

 

 

私の事を聞いてない、か。

まぁそのうち知るだろうけどその後彼がどうするのかは彼次第だ。

わざわざ私が話すことでもない。

 

私の知恵熱の原因たるハリー・ポッターにもう一度会ったら何か感じるものがあると思っていた。

 

だがそんなことは特にないみたいだ。

 

 

 

【物語の主人公】の彼は正義感の強いひとだった。

蛮勇と勇気を履き違えた勇者であったと記憶している。

とはいえ、それはあくまでも【物語】。かの物語に私はいないし、1年目彼は汽車で相席などしない。

 

これはそう、私の人生だ。

私が見て、聞いて、全てを決める。

 

前世か、神のおつげか、私は【物語】を知ってしまった。

知ったまま生まれてしまった。

でも、そ れ が な ん だ ?

 

 

 

……そもそも、私が生まれてこの方読んできたたくさんのお話の中に埋もれていて明確に内容をおもいだせないという事もあるが。

 

 

ともかくのところ、私は私がやりたい事さえ出来ればそれでいいのだ。

 

 

そしてその中に今のところハリーに質問をすることも、額に注目することも入っていないというだけのこと。

 

 

「そうね、ハリーポッター。貴方は私に何を聞かれたいのかしら?例えば…」

 

 

 

――コンコン!

 

 

 

「あ、ごめん。話し中だった?」

 

 

 

2回目の勢いの良いノックの音に扉へと視線を向ければ赤毛の男の子が申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 

彼は…【ロナルド・ウィーズリー】ウィーズリー家の末弟だろう。

 

 

「あ、ううん。どうしたの?」

 

「その、良かったらここに入れてくれない?他のコンパートメントは満員で…うん、問題なければ、なんだけど…」

 

 

成る程、私がイレギュラーな訳だ。

1人合点がいったところでハリーから視線が向けられる。

彼は構わないが私はどうか、といったところか。

 

 

 

「私は構わないわ。そちらは?」

 

「僕もいいよ。ほら、荷物あげるの手伝うよ」

 

「ごめん、良かった!ありがとう!」

 

 

所在なさげに立っていた様子から一変、嬉しそうに笑って荷物を上げ始めた。

 

ふむ、私に手伝えること……

 

 

「『浮遊せよ』……うん、上手く行ったわね」

 

 

せっかく杖があって、使える環境になったのだもの。

使い所を見つけたら使ってみたいと思うのは仕方のない事だと思うのだ。

 

トランクへ向けて杖を振れば、抵抗もなく呪文を成功させることができた。

 

 

「わお。君……上級生?てっきり新入生かと思ったよ」

 

「サルースは新入生さ、僕もね。僕はハリー・ポッターよろしく。君は?」

 

「あ……僕はロナルド・ウィーズリー。ロンって呼んでくれ、よろしく」

 

二人ともが私の向かい側へ腰掛けたところで自己紹介となった。

 

 

「私はサルース・バーク。ハリーの言うとおり今年からホグワーツ生よ、よろしくね」

 

 

 

――コンコンコン!!

 

と、また扉が叩かれる。

さっきよりも元気がよろしいみたいだ。

 

 

 

「おい、ロン……おっとお邪魔だったか?」

 

「ハリーも隅に置けないな!もう可愛い子とオトモダチだなんて!」

 

 

赤毛の双子、おそらく上級生だろう。

そしておそらく、ロンの兄だ。

 

 

ヒューと、二人揃って口笛を吹いて見せた。

 

「そんなんじゃないよ!サルースは、えっとただの友達だ」

 

 

心なしか赤い顔のハリーに、ニヤニヤと笑う双子はそんなことは分かっていて言っているのだろう。

ハリーの否定もどこ吹く風と、聞いていない。

 

 

「まだ自己紹介してなかったよな。僕たちフレッドとジョージ・ウィーズリーだ。弟のロンとは挨拶したか?」

 

「したよ」

 

「ロニー坊やはキチンと挨拶が出来たようでお兄ちゃんは嬉しいよ。それで?そちらの美人は?」

 

 

私が今まで出会ったなかで1番賑やかで何がかはわからないがとても楽しそうな様子だ。

うるさいぞ、と怒る弟のことは手を振っていなしているが。

 

 

 

「はじめまして、私はサルース・バーク。褒めてくださってありがとうございます」

 

 

「固っ苦しいのはなしでいこーぜ。じゃあロン俺たちは真ん中の車両辺りに行くぜ、リー・ジョーダンがでっかいタランチュラを持ってるんだ」

 

「じゃ、またあとでな!」

 

 

「「バイバイ」」

「はい、またあとで」

 

 

嵐のような人達だった。

でもしっかりとコンパートメントの扉は閉めて出ていく辺りきちんとしてるのかしら。

 

 

 

 




原作ではハリーと双子のファーストコンタクトはコンパートメントの棚へ荷物を上げる際手間取っていたハリーを助けた場面ですが、今回は助けたのはモブ。双子とのからみはトランクを汽車へ引き上げるところ、ともう少し前になっています。もちろん壁抜けを教え助けたのはウィーズリー夫人。(←原作厨作者のためのメモ書きだと思ってください)


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6

ウィーズリーズの来訪で賑やかになった空気も一転落ち着きを取り戻した。

 

自己紹介も終えてしまっているから特に私から話題もない。

膝の上の本に意識を戻してもいいだろうか。

 

 

向かいに座る二人はそれぞれ窓の外やシャツの袖口を気にしては話し出すタイミングをはかっているようだ。

 

私としてはロンの顔を見たときから気になっている事がある。

タイミングを気にする二人には悪いが、指摘させてもらおう。

 

 

 

「ロン、優しいお兄様達ね羨ましいわ。…あと鼻の頭にすすが付いているから鏡をどうぞ」

 

「あれのどこが優しいんだよ、ありがと」

 

「僕も、兄弟がいないから羨ましいよ」

 

 

煤、か。

この汽車、動力源は石炭なのだろうか。

煤が舞うということはそのはずだが、それならば箒のように呪文がかけられて走っているわけではないということだ。

 

いつの時代からこの汽車が運用されているのか、とにかくマグルの発展と共に魔法学校も歩んでいるらしい。

 

 

 

「な、なんだよ。笑いたければ笑えよ」

 

「サルース?」

 

などと考えていたものだから、ロンの顔を凝視してしまっていたようだ。

 

「……ごめんなさい、この汽車がどの様に動いているのか考えていたの」

 

 

「ホグワーツ特急のこと?そりゃキミ魔法だろ?」

 

しかめられた顔から一転、ハリーと揃ってきょとんとこちらを見返したロンが何事もないように答えた。

 

これは多くの魔法族に当てはまることだが、彼らは自分が知らないこと、わからないことを全て魔法がどうにかしている。と安直に考えている。

 

そのくせマグルの発明品や生活に文化があることを猿知恵とでもいうかのように見下しているのだ。

 

このホグワーツ特急ですら、マグルの汽車という乗り物が運用されているという事すら知らず、これは、ホグワーツ特急である。という事のみで認識しているから理解ができない。

 

 

なんて口に出したら余計な火種を生むのは人との関わりが少ない私でも理解している。

 

「ハリーはマグルの世界で育ったから知っているかもしれないのだけれど、この汽車っていう乗り物はマグルの1世代前の乗り物なのよ。いまは電車が一般的で煤の舞う汽車はあまり一般的でないのよ」

 

「うーーん?」

 

「確かに、そう思うと不思議だよね。僕もはじめは箒とか絨毯で行くものだと思ってたよ」

 

 

ロンはピンと来ていないか。

 

 

 

「それこそ、箒や絨毯で学校に行くなんて大昔の話だよ!二人とも何の話をしてるんだ?」

 

 

「昔はそうだったんだ!へぇー」

 

 

 

確かに。

マグル側も魔法使いのイメージは一世紀以上前のまま、か。

秘匿されているからこちらは仕方ないが。

 

 

「とにかく、そんなことを考えていただけよ。電車だったらロンも煤がついたりしなかったのにって」

 

「それはもういいよ。サルースってさうちのパパと一緒でマグルオタクなのかい?」

 

「オタクってロン…確かに詳しいけどさ」

 

 

 

ウィーズリー家のご当主って言うと、アーサー・ウィーズリー氏かしら。

マグル製品不正使用取締局の。

こちらもドラコのお父上とは別の意味でよくお世話になっている。

 

 

「ロンのお父様って魔法省のマグル製品を規制されてるアーサー氏で間違いないかしら?」

 

「そうだけど…パパと知り合いなの?」

 

「えぇ、私の仕事上アーサー氏に許可を届けでたりしなくてはいけなくてよくお手紙のやり取りをさせていただいてるわ」

 

 

マグル製品を魔法族仕様に変えて発明したりする以上、ゾンコのお店に卸すには不正な品でないことを届けでないと問題になる。

 

……ミニチュアお人形のお家セットや電話型録音機など一見マグルの製品に魔法をかけたものに見えるものもあるからだ。

 

 

 

「へー知らなかった!」

 

「サルースって仕事してるの?」

 

 

 

そうか。

ドラコがゾンコの悪戯専門店の技術者であることを知っていたからこの辺りの魔法族は知っているものなのかと思って話していたけれど、どうやらそうでもないらしい。

 

同世代の知識について、ドラコを基準にするのはやめよう。

 

1ヶ月の手紙のやり取りで、世間知らずな私のために知っておくべきいろいろな話を聞かせてくれたけど、それもどこまでが一般常識の範疇なのか怪しくなってきたがどうすべきか。

 

……貴族の端くれたるバーク家の娘が知らないと困ることを中心に教えてくれていたと思ったが。

 

 

 

「えぇ、ホグワーツの近くのホグズミード村というところにゾンコの悪戯専門店という道具やさんがあるの。そこへ開発した品物を卸しているのよ」

 

「サルースってお嬢様だと思ってたけど、なんだか印象が変わったよ」

 

「おっどろき!ゾンコってビル達から聞いたことあるぜ!イカした悪戯魔法具の専門店だって!」

 

 

田舎の小さな村とはいえ、ロンはお兄さん達から聞いていたらしい。

 

「サルースのが僕よりすごいんじゃないかな?僕なんて魔法のことをついこの間まで知らなかった普通のマグルと変わらないし」

 

「そんなことないわ。魔法界においてハリー・ポッターの名前はとても特別な意味を持つもの」

 

「そうさ!君は有名だ!……あーその、『名前をいってはいけないあの人』を倒した英雄だからね」

 

 

と、言われても本人はわかっていないようだが。

 

ちらりと、ロンの視線がハリーの額へ移る。

ずっと気になって仕方がなかったのに、今まで見ないようにしていた、という事がまるわかりな様子だ。

 

「『例のあの人』ってやつだけど、僕何も覚えてないんだよね」

 

「全くなんにも?」

 

「緑色の光がいっぱいの夢をたまに見るくらい」

 

「へーー……すごい」

 

 

 

赤ん坊の頃の出来事だ。

覚えてなくて当然だろうが……緑色の光か、死の呪文で発せられる魔法光と一致する。

 

ハリーの額の傷は大方、呪文を返した際に残った痣、もしくは呪いの欠片のようなものか。

 

少し気になってきた。

 

 

 

 

「ねえ、ハリー?少し血を分けてもらえないかしら?」

 

「え?!」

 

「サルース!キミ流石にそれはファンでもダメだと思うぜ?」

 

「そうよね、ごめんなさい。少し研究したいと思ってしまって…またの機会にするわ」

 

「「またなんて、ないよ!」」

 

 

 

彼に関する論文はこの11年の間たくさん発表されている。

中には古い守りの呪術に触れた記述が多く見られた。

古い呪文には血や髪の毛など身体の一部を媒体として発動させるものが多いから、研究のしがいがあると思ったのに残念だ。

 

次は上手くやろう。

 

 

 

 




原作沿いではありますが、順番の入れ替えや展開上発生しない会話、出来事が今後増えていくかと思います。
どうぞお付き合いください。


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7

それから、何か商品を持っていないのかと自分の話題から話を少し前へ戻したハリーの思惑通り、ロンが私の魔法具に興味を示した。

 

 

私はプティが持たせてくれたランチを開き(時計はお昼を少し過ぎている)、そこに詰まった私の好物たちを見てまた里心に悩まされていたのだが、その話題に付き合うことで、意識を逸らすことにした。

 

あとの二人の場合ロンはお母上の用意されたサンドイッチがあったが、ハリーは持っていなかったので私のものをわけ(もちろん、ロンにもだ)、ランチを取りながら会話をしている。

 

 

で、私が持っている魔法具だったか。

 

とはいえ、ポーチのなかに何か入れたか覚えがない。

荷物をまとめている時に何かあった気がするのだが……。

 

と、ゾンコの包みがあった。

 

 

「これは……私の商品ではないけれど、こないだ粗品として送られてきたものね。煙玉と、投げ付けた相手の後ろを鳴きながらついて回るアヒルならあったわ。……これ両方とも校内持ち込み禁止だったりしないかしら?」

 

 

ゾンコの悪戯専門店から届けられた粗品の包みをそのままポーチに入れて、中身を確認していなかった物があったから開封して見せた。

 

学校としては悪戯グッズなんて持ち込みも使用も禁止してそうだけど、どうしたものか。

 

持ち込むとなると、入学早々に先生方から目をつけられることになってしまう。

 

ハリーたち一般生徒ならともかく『バーク家の娘』がそれではあらぬ疑いを招きかねない。

 

 

今回のものはそもそも私の商品ではない上に安全なジョークグッズだが。

 

ちなみにこちらの魔法具の内容としてはこうなっている。

 

・煙玉

ピンク色の煙が発生し、そのままクッションのように一定時間、実体をもって留まり続ける。

 

これを家の廊下で使ったら三時間ほどその廊下は通行不可能となった。効果が切れると勝手に消えてくれるが。

ピンク色の煙だった何かがポヨポヨと廊下を塞ぐ様子は実にシュールだった。

 

 

 

・追っかけアヒル

言葉通り対象に投げてぶつけると、アヒルがその人を親として認識するかのように、後ろをガーガーと騒音をたてながらついてくるようになる。

これも二時間は軽くおさまらない騒音が発生した。

走っても、飛んでも着いてくる仕様だったはず。

家の壁に投げたら、壁を親として認識したのかひたすら壁に向かって鳴くという結果になった。

 

 

 

なお、前に試作の段階で渡されていたそれらは失敗品も多くあった。

 

煙が発生し過ぎてしまい、危うく家がピンクのわたあめになるところだった物があったり、逆に投げても全く煙が出ないものがあったり、アヒルの口から猫の鳴き声がでたり、途中で雄鶏に変わって鳴き出すものもあった。

 

やっとのことこれらの作り手が安定生産が出来るようになり、商品化の運びとなったのだ。

それで実験を行ったり技術協力をした私のもとに商品化決定の報告と共に粗品か届いたわけだ。

 

 

 

それぞれ愛着はあるが、悪戯と嫌がらせ以外に使用できる場面が今のところ思い浮かばない。

 

二人に効果を説明し手渡せば投げてみたくて堪らないという顔になった。

 

 

 

「こんなのママは絶対買ってくれないよ!」

 

「(おばさんとおじさんはストレスとショックで気絶しそう)確かに、持ち込み制限とかありそうだけど。イカしてるね」

 

 

「私、入学式を迎える前に先生方からお叱りをうけるのは遠慮したいわ。捨ててもいいのだけど、二人が良ければ差し上げましょうか?」

 

 

「マジ?!」

 

「(体よく押し付けられた気がしなくもないけど…)…ありがと、僕の学校生活ではこういうものが必要な気がする」

 

「もともと無料でついてきたものだもの。それに作り手としては使われずに廃棄だなんて悲しいことはないわ。二人とも上手に使ってね?」

 

 

まだ店頭にも並んでいないはずだし、入学祝に最先端の悪戯を!と手紙に書いてあったから、世に出てもいないし、ホグワーツの中で悪戯に使った人もいないはずだから、もしかすると、まだ持ち込み禁止リストにはこの二つは載っていないかもしれない。

 

 

と、思うことで厄介になったものを押し付ける罪悪感を誤魔化した。

入学祝は気持ちだけいただいておく。

 

 

それぞれポケットの中へ仕舞いこみ、他にどんな悪戯グッズがあるのかと尋ねたハリーにロンがいろいろと話し出すのを眺める。

 

私は作る事が楽しいけれど、使うことを楽しんでくれる人達を見るのは新鮮だ。

ホグワーツに行けば更なる閃きと開発欲を刺激する出会いがある予感がする。

 

やはり禁じられた森には早々に行ってみなくては。

素材として面白そうなものもきっと沢山あることだう。

 

それから、魔法界について質問するハリーにロンが答え、私が答えと時間を過ごした。

 

 

 

*****

 

 

 

ところで……何か、忘れている気がする。

 

 

プティのおやつにも手をつけ、車内販売のお菓子を購入したハリーのものとあわせ3人で食べている(といっても私は百味ビーンズは食べないが)。

 

蛙チョコレートのカードを集めているというロンの話にハリーが興味を示す様子を見ながら、カードを集めると魔法具として利用できるタロットや御札、ルーン基盤のような何かを構想している時に何か、忘れているような気がして集中力が切れた。

 

 

 

 

ふと、膝の上の本に目線を下げれば表紙に描かれた蛇と剣のモチーフが見えた。

 

蛇がくるくると剣の周りをまわっているのを指でつつきながら考える。

 

 

思い出した、ドラコに挨拶にいかなくてはいけない。

体調を崩したことを手紙で話してしまってから、彼にも心配をかけていたし私から行くべきだろう。

 

 

ハリー達の様子を窺えば、どうやらそれぞれの世界で人気なスポーツについて話している様子。

私はクディッチには興味がないし、サッカーとやらも知識としては気になるが、私の知識欲を満たすための質問はこのタイミングですべきではなさそうだ。

 

退室しても問題ないか。

 

 

 

「二人とも、暫くここを空けても構わないかしら?…少しお友達を探しに行ってきたいの」

 

 

「「いってらっしゃい」」

 

 

「どうもありがとう、いってきます」

 

 

 

 

快く送り出してくれて良かった。

 

誰?とかどこへ?と聞かれて答えたらきっとウィーズリーのロンは嫌がるだろうから。

 

 

……というか、ロンって私が貴族だって気付いていない気がする。

お兄さん達は気付いていたようだったけど。

 

 

 

 

 







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8

コンパートメントから通路へ出ると、私のように友人を訪ねているのか程々に賑わった様子で人の往来があった。

 

さて、ホグワーツ特急は10両にもなる車両があるわけで。

 

そのうちのどこに目的の人物がいるのかは歩いて探すしかない。

 

 

私達が座っていたコンパートメントは後ろ寄りの車両で、先頭へ向かって歩いていくとしてもどれだけの席を覗き込めばいいのか。

我ながら無計画に出てきてしまったものだ。

 

 

ひとまずと、先頭へ向かって歩いていくと寮によって上級生は固まっているようで、スリザリンの人達はまたその傾向が強いみたいだった。

 

マルフォイ家の一人息子であるドラコはおそらくそんなスリザリンの集団の中にいると辺りをつけて歩いてみることにする。

 

 

休みの間の話や、課題のこと、これから始まる授業のことや恋人のこと、そんな話声が聞こえては通りすぎていく。

 

ダイアゴン横丁程ではないがやはり人が多くて、息が詰まる。

 

 

プティにかけてもらった魔法は解けてしまったようで、ドラコに会ったら暫く休ませてもらうことにしよう。

 

 

 

「ねぇキミ迷子?」

 

 

 

キョロキョロと辺りを見ながら歩いていたからか緑の襟の上級生に声をかけられた。

 

迷子ではないが、人を探していて、その人がどこにいるのかわからない状態は迷子と表現するのだろうか。

 

とりあえず、迷子でも構わないが通路の両側へ腕を渡して行く手を塞がないでほしい。

あと顔が(稀にボージンおじ様の代わりで店番をしているときに来る一見さんがするにやついた顔と同じように)不快だ。

 

 

「1年生だよね?名前は?俺達のコンパートメントに来る?」

 

 

返事をしていないのに勝手に話し始めた。

こういう人にはさっさと要件を伝えたほうが会話がスムーズだと(これもおじ様の代理店番で)知っている。

 

この人、緑の襟ということはスリザリンの先輩だ。

ドラコの居場所を知っているだろうか。

 

「ご親切にどうもありがとうございます。お尋ねしたいのですが、マルフォイ家のドラコが何処に居るかご存知ありませんか?」

 

プティとお母様仕込みの軽い貴族カーテシーと共に問えば相手の足が半歩下がった。

 

「あぁ!ドラコ、ドラコ・マルフォイね!さっき挨拶はしたよ。でもキミファーストネームで呼ぶほど仲が良いんだね、案内するよ」

 

 

一瞬泳いだ目と、にやけた笑いが引きつり笑いに変わったのが、本当に知っているのか不安になってきた。

 

 

上級生についていくこと暫く。

 

1つのコンパートメントの前で立ち止まった。

 

 

 

「ここにいると思うよ!それじゃ、また学校で会おう!!」

 

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 

告げるなり先へ歩いていってしまった。

名前も聞いてないが、そのうちわかるか。

 

示されたコンパートメントを覗けば確かにドラコがいるようだし、後程またお礼を言わなくては。

 

 

――こんこんこん。

 

 

三回のノックに返事が返ってきたのを確認して扉を開ける。

 

 

「こんにちは、ドラコ。久しぶりね」

 

「サルース!探しに行こうかと思ってたんだ。こんにちは、確かに会うのは久しぶりだな」

 

 

招かれるまま、ドラコのとなりの席へ腰を下ろす。

向かいの席にはドラコのご友人かお付きの家の子なのか1年生にしては恐らく(比較できる友人が3人しかいないため恐らく)大柄な男の子が二人座っていた。

お邪魔しますの気持ちを込めて目礼すればきょとんと、されてしまったので伝わらなかったらしい。

 

「お邪魔しますね?文通なんてはじめてだったから何か問題がなかったか心配だったの」

 

 

以前の手紙でドラコのお母上が気にされていた便箋と、ガラス製の万年筆(魔力に反応して任意でインクの色が変わるもの)を渡す。

もちろん、ラッピングしてあるので中身をきちんとドラコに伝えた。

 

ドラコのお母上にお会いしたことはないが、ドラコに似てお綺麗な方なのだろうと想像しながら便箋に合わせるプレゼントを選んだ。

 

 

へぇ?と興味を持った様子のドラコに引き換え向かいの二人はあまりこういった事には興味がない様子だ。

 

 

「僕にはないのかい?」

 

「ドラコに?えっと、私と色違いで良ければボールペンならあるのだけど…」

 

 

ポーチの中の筆記用具入れから、胴体が深緑のものと深紅のものを2本出して見せれば、お気に召したのか緑を持っていった。

 

便箋に関しては、女物だからいいとのこと。

 

 

「それで、そちらのお二人は?」

 

「あぁ、僕の従者で、ビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルだ。こちらはサルース・バーク俺達と同じ聖28一族の子女で父上達が世話になっている貴族家だ。失礼のないようにしろよ」

 

 

従者、か。

ドラコのお父上達が取り決めているのか、それぞれそういった教育を受けてきているのかもしれない。

体格が良いからボディーガードの役目もあるのだろう。

 

 

「お世話になっているのは、私達の方よ?お二人ともよろしくね」

 

「うす、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 

 

それぞれと握手を交わし、お近づきの印とポーチに残っていたお菓子を分けると喜ばれた。

 

 

 

「ところでサルース、体調はどうなんだい?ここへ来たときも顔色が優れなかったようだけど」

 

「もう良くなったわ。ここまで移動するのに少し疲れてしまったけど上級生が助けてくださったもの」

 

「上級生……?ならいいが」

 

 

 

尚も心配気にこちらを見るドラコに苦笑がもれた。

もともと青白い私の肌をみて顔色が良くなかった、と言えるドラコは良く見ている。

ドラコも色白だからわかるのだろうか?

 

 

「サルースは教科書は読み終えたかい?僕は全て目を通したし、ほとんど覚えてしまったよ。全く、マグル生まれに合わせて1からはじめるなんて時間の無駄さ」

 

 

手紙のやり取りをしている時にお互いの家庭教師について話題になったことがある。

ドラコの家にはそれぞれの科目の教師はもちろん、作法や話術、政治的世論に至るまで家庭教師がついていたらしい。

私の場合は両親とボージンおじ様、あとはたくさんの本と実践で覚えるという形で知識をつけてきたから驚いた。

 

魔法薬を作ることが得意だと伝えたら、ドラコも興味を持ったようだったし、妖精の呪文と変身術は杖を使うから自信がないと伝えたら教えてくれると約束してくれたりもした。

 

 

「私も全て読み終えたわ、文章を覚えるのは得意なの。マグル生まれがいなくともはじめからやるべきだと私は思うわ……だって人によっては教科書のタイトルすら覚えていないのではないかしら」

 

 

お向かいの二人とか、ロンとか恐らくその類いだろう。

そして、多くの生徒がそうなのでは?

 

 

「確かにこの二人はアルファベットが読めるかすら怪しい……おい、読めるよな?」

 

 

「「…うす」」

 

 

 

そんな確認が必要なほどって……まさか冗談だろうと窺えば二人の目線が多少泳いでいる。

 

……アルファベットは読めるが教科書のタイトルは覚えていないらしい。

 

この学力差のまま授業をはじめ、進めていくのはさぞ大変だろうと会ったことすらない先生方へ同情の気持ちがわいた。

 

 

「魔法はマグル学とは違って怪我じゃ済まない事故も多いわ。頭が吹き飛んでからもっと勉強に集中しておけばよかったなんて事になっても手遅れだものね」

 

「確かに、魔法薬なんてひとつ間違えれば薬じゃなくて毒ができあがるわけだ。お前たちほんとに卒業までついてこいよ?」

 

「「うす」」

 

 

 

変身術も、妖精の呪文も、扱いを禁じられているものがある。

本のはじめに書いてあるのだが、例えば砂をワインに変えたとして、それを飲ませた後で呪文を解く、するとワインを飲んだはずの人の身体の中でなにが起こるかは考えるまでもない。

 

こんなことが、簡単にできてしまう。

杖さえあれば魔法使いは万能なのだ。

死者を蘇らせる禁術だって探せばあるかもしれない程に。

 

 

 

 

 

 



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9

それから、お互いに教科書の中で気になったところや面白かったことを話しているうちに時間がたち窓の外の水平線が暗くなりだした。

 

「あら、そろそろもとの場所へ戻ろうかしら」

 

「送ろうか?」

 

「気持ちだけで嬉しいわ、ありがとう」

 

 

随分と話しすぎてしまったようではじめから制服に着替えていなければ少し慌てることになっていただろう。

 

また学校で、とドラコたちへ挨拶をしてからもと来た道を戻る。

 

随分と先頭へ来たしまっていたのか、いくつか車両を戻らないといけないみたいだ。

ハリー達のところへ着けるといいのだが……。

 

 

と、考え事をしていたからか注意が足りなかったらしい。

 

 

――ドン!

 

 

「……!」

 

「キャッ」

 

「うわぁ!」

 

 

車両を繋ぐドアを開けたところで向かいから歩いてくる女の子にぶつかった。

女の子の後ろにもう一人男の子がいたのか、奥からも声が聞こえてきた。

 

たたらを踏んで顔をあげれば、目尻を上げてこちらを見る女の子と目があった。

 

 

「貴女ねえ前をみていなかったの?気を付けて歩かないと危ないわよ!」

 

「ごめんなさい、お怪我はないかしら?」

 

 

こちら側の車両へ移ってきた二人へ問いかければ、強気な女の子とは反対に後ろの男の子からは弱々しい問題ないという言葉が返ってきた。

女の子は私から素直に謝罪の言葉がでたことに驚いたのか一瞬のためらいが見られた。

 

 

変わった組み合わせだ。

ドラコのように何処かの貴族とその従者か。

 

 

「私も怪我はないわ、それにこちらも……注意不足だったわ。…ごめんなさい。貴女も大丈夫?」

 

「えぇ、大丈夫。それでは、また学校で」

 

 

急いでいる人を引き留める必要はない。

道を譲るため、壁へ寄れば二人とも挨拶を返してから去っていった。

 

彼女たちも襟が無色だったということは新入生だろう。

ホグワーツ特急を探険していたのかもしれない。

 

 

 

 

それから特に事件もなく、ハリー達のコンパートメントへと帰りつくことができた。

おかえりなさいと、迎えてくれた二人に挨拶を返し、席につく。

私がいない間に向かい合って座る形になっていたらしく、とりあえずハリーの隣へ座った。

 

 

「友達には会えた?」

 

「えぇ、元気そうだったわ。教科書の話題で盛り上がってしまって…気づいたら外が暗くなって来ているんだもの」

 

「教科書のって……授業がはじまってもいないのにキミまで勉強してるのか?!」

 

 

ハリーの問いに答えた私へとロンがおかしなものを見る目を向けてくる。

やはり、クラッブ達と同様に教科書は開いていないらしい。

 

……私までってどういうことかしら。

 

 

「私の他にも?」

 

「さっき来た女の子が教科書は暗記したって言ってたんだ」

 

「ヤな感じだったな、サルースとは大違いさ!」

 

 

なるほど。

暗記したとはまた勉強熱心な方がいたものだ。

 

恐らく、ドラコも全て暗記まではいっていないはずだからよっぽど優秀なのだろう。

……私は暗記するまでもなく1年目の内容は頭に入っている知識の洗い直しだったりするが。

 

「ロン、よく知らない人の事を悪く言ってはいけないわ?暗記する必要はないと思うのだけど、それでも教科書を覚えるのは大切な事だもの」

 

「もしかしてサルースも暗記してる…?」

 

 

 

ハリーの不安そうな問いかけにロンも怒り顔から一転、不安を隠すのをやめたらしい。

答えを促すようにこちらを見てくる。

 

 

「えぇ、まぁ……でも全てというわけではないのよ?現代魔法史や星占いや魔法生物学は苦手なの」

 

「うへ、サルースもそっち側かーー」

 

「そっか、僕もちょっとは読んだけど…知らない言葉ばっかりだからな(……魔法生物学なんて教科書あったかな?)」

 

 

 

現代魔法史のような歴史を扱うものは薬草学や呪文学より勉強意欲が薄いし、魔法生物学や占い学のような理論よりもセンスが試される分野は手付かずなので嘘はついてない。

後者は今年度はまだ扱わないはずだが。

 

 

 

「私は勉強も本を読むのも好きよ?だって知らないと開発できないでしょう?」

 

「あー、僕がここに来たときもサルース本読んでたもんね」

 

「うえ、僕はあんまり。ママは僕の成績にはあまり期待してないみたいだし」

 

 

お手上げとばかりに両手をあげるロンに首をかしげる。

なぜお母様が関係してくるのか、よくわからない。

 

 

 

「それなら私のお母様もロンと一緒ね。両親は私の成績よりも自分の研究に興味津々だもの」

 

 

 

そもそも、自分の生活にすら興味がなく食事も睡眠も忘れてしまう。

放っておくと3日は部屋から出てこないし、本人たちはその自覚がないからまるで一晩眠って起きてきたかのように朝の挨拶をするのだ。

 

それが、割りとよくある事なのだから察してほしい。

 

プティがいなければ私は健康に(これは聖マンゴに通院してない状態で)ここにいなかっただろうとすら思う。

 

 

だがけして、両親が私を愛していないわけではない。

ただ本当に研究が二人にとっては息をすることよりも大切な習性なのだ。

 

 

「それなら僕も。おじさんたちは僕が何も学んでこなければいいとおもってるんじゃないかな」

 

 

ハリーの叔父様方はそれはそれで特殊だといえるが……大変ですね

 

 

 

「それなら僕たちだぁれも、勉強に期待されてないってわけだ!気楽な学校生活だな~」

 

「いや、ロン。そうじゃないと思うよ…?」

 

 

 

私もハリーに同意だ。

強制するものでもない、好きにしたらいいと思う。

 

 

それから、私がいない間に起こった(女の子と男の子が蛙を探しに来て、紆余曲折ハリーの眼鏡を直してくれたらしい)ことを聞いたあと、話題はどこの寮に行きたいかとなった。

 

 

「さっきも話してたんだけど、サルースは行きたい寮とかあるのかい?」

 

「私はそうね…家系的にはスリザリンなのだけど……レイヴンクローかしら」

 

「スリザリンなんてやめときなよ!レイヴンクローはまぁ、うん。サルースらしいけど、みんなでグリフィンドールに行けたらいいのにな」

 

 

 

 

ロンはやっぱりスリザリン嫌いか。

ハリーはまだそれぞれの寮について知らないようだ。

ロンの反応に首をかしげている。

 

 

「スリザリンは良くないのかい?」

 

「闇の魔法使いはみんなスリザリンだ。……『例のあの人』も」

 

「それに引き換えグリフィンドールは光の魔法使いが多いわね。ホグワーツ校長のダンブルドアもそう……でもロン、スリザリンだからといって皆が闇の魔法使いになるわけではないのよ?魔法省大臣も排出しているし私はスリザリンになっても悪の道に落ちたりしないもの!」

 

「ごめん、キミのご両親を悪く言うつもりじゃなかったんだ」

 

 

 

ばつが悪そうに私をみて謝るロンに首を横へ振って答える。

残念ながら私の家系は真っ黒だ。

……そんなことをわざわざ訂正はしないが。

 

 

ハリーが話題についてきていないようだから少し説明が必要か。

 

 

「勇敢なグリフィンドール、心優しいハッフルパフ、聡明なレイヴンクロー、そして目的を成す為には手段を選ばない邪悪なスリザリン……というのが世間のイメージなの」

 

 

「サルースのご両親はスリザリンなのかい?」

 

「えぇ、一族みんなね」

 

「……サルースを見てるとご両親がそんなに悪い人には思えないよ」

 

 

 

「…どうもありがとう」

 

 

 

 

うちの両親は人を呪う道具や、貶めるための道具を罪悪感なく作っています。……私も、ね。

 

私の言葉で思うところがあったのかロンもハリーも組分けについて考え込んでしまった。

 

と、そんな沈黙の落ちた車内に拡声魔法の声が響き、到着が近いこと、荷物はそのままで構わないことを告げた。

 

途端にコンパートメントの外のざわめきが大きくなる。

 

 

「さぁ、二人とも組分けについて考えたって仕方ないわ?自分の希望通りいくものでもないようだもの。それより降りる準備をしましょう?お菓子を片付けないといけないわ」

 

 

 

慌てて身の回りを片付けだした二人を手伝いつつ、暗くなった窓の外へ視線を向ける。

 

 

組分けについては、なるようになるだろう。

私は【これから】の事を知っている。

【ハリー・ポッター】と同学年に生まれてしまったのだ。

不安がないと言ったら嘘になる。

やりたいことを成す為に、最善を尽くす。

これは今までと変わらないのだから、私は私のために力をつけるだけ。

 

 

 

ホグワーツ特急はゆっくりと速度を落として、停車した。

 

 

 




おまたせいたしました。


原作との相違
・ドラコがハリー達のもとを訪れない
→サルースがドラコのもとを訪ねたため。

・また、原作よりもドラコのハリーへの執着 が薄い
→サルースという対等に語り合える父上にも実力を認められた友達が既にいるため。
ただし、生き残った男の子に対するミーハーな興味は健在。

・ハリー&ロンの各寮へのイメージ
→サルースのせい。本人が過ごしやすい環境を得るため帽子より先に刷り込み、刷り込み。


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10

コンパートメントの外の廊下は人で溢れ、規律の欠片もない雑踏に外へ出る気力がなくなった。

が、出渋る私をハリーとロンが放っておいてはくれなかった。

二人から両腕を引かれてコンパートメントから連れ出されることとなる。

 

狭い廊下を人が押し合い圧し合い進んでいく中に混ざり気分が悪くなった私はロンがドン引きするほど蒼白だったらしい(ゴーストってたぶんこんな感じだぜとはロンの言い様だ)。

 

プラットホームへ降りてからは人の流れにのり、歩いていく。

暗くなった外は寒くてじめじめしている。

 

途中で特徴的な声が聞こえてきた。

 

「イッチ年生はこっちだ!イッチ年生!」

 

声に顔を向ければ、ランプが揺れており

大きな身体で一年生を先導する、ルビウス・ハグリットその人である。

 

 

「イッチ年生はこっちだぞ!ハリー、元気か?」

 

 

手を振って答えるハリーを尻目に、1年生とそれ以上の学年の生徒たちは別の方向へ歩いていくらしい様子に気づいた。

この道案内つきの待遇は今年だけらしい。

歩く方向が違うことから道を覚える必要はなさそうだ。

 

木々に囲まれた狭い小道をぬかるみに足をとられ、小石につまずきと散々な様子で1年生だけに減った集団はハグリットさんの後をついていく。

 

外歩きに慣れない私にとってはこれは地獄の苦行だった。

 

 

「ちょ、サルース?ほんとに大丈夫?」

 

集団から置いていかれかけている私にハリーとロンが合わせてくれていたせいで三人揃って1番後ろを歩くことになっている。

 

「キミほんとに体力ないなぁ。外に出たことないのかい?」

 

 

「……ご想像にお任せするわ」

 

 

ロンが呆れるのも無理はない。

ぬかるみに足をとられて滑ったのも、小石につまずいてこけたのも、私なのだから。

 

 

「……『清めよ(スコージファイ)』これで問題ないわね」

 

「サルース見てると勉強についていけるか心配になるよ…」

 

「パーシーみたいな人って意外といるもんだな…」

 

 

成功するかわからないけれど、とりあえず手を動かすというのは大事だ。

開発だって呪文だってそれは変わらないはず。

何事も、実践。

 

ドラコはご実家で杖を使った予習もしてきたらしくその彼が言うには、「呪文のコツはね、スペルを意識してしっかりと発音することそして正しい杖の振り方この2つだね。母上は過程と結果だとおっしゃったけど僕は父上の説明がしっくりきた」とのことだ。

 

二人から向けられる変なものを見る目を受け流しつつ歩みを続ける。

転けそうになる度に二人が支えてくれるため新品の制服とローブが泥にまみれる事態は以降起こらなかった。

 

木立を抜けると、大きな湖と星空が私たちを迎えた。

そして星を写す湖の向こう側にはホグワーツ城が聳え立っていた。

 

城の窓には明かりが灯り、星空の中に浮かぶように見えた。

 

 

美しい景色に歓声や息をのむ音が辺りから聞こえてきた。

私たち3人も勿論のこと、この美しい光景に魅せられる。

 

 

「…すごい!」

 

「魔法のような景色だよね」

 

 

「えぇ……」

 

 

 

ロンのはしゃぐ様子も、ハリーの言葉もとてもこの景色を言い表すには足りないみたい。

 

 

いつか、これを形にしたい。

言葉にできないほどの感動を作りたいと、そう思った。

 

 

 

 

それから、ハグリットさんに促され私たちは小舟に四人ずつ乗り込み移動を開始した。

 

私たちは1番最後だったこともあり、3人で船に乗り込んだ。

 

 

漕ぎ手もなく滑るように動き出した小舟は湖を渡っていく。

この湖にも魔法生物がたくさん生息しているらしい。

 

水中人や大イカなんてここ以外では魔法界でも秘められた場所にしかいない。

ここも森と同様開拓せねば…と、考えているうちに小舟は城の麓へと着いていた、

 

いざ目の前に迫る石造りの古城は見上げてもその先が見えないほどに大きく、ホグワーツ城からは複雑な呪いの詰め込まれた魔法具と出会ったときのような高揚感が沸き上がった。

 

 

 

 

さて、ハグリットさんの案内はどうやらここまでで終わりらしい。

大きな扉の前で全員が立ち止まり、待機となった。

 

案内役を引き継いだのは濃緑のローブの女教授、ミネルバ・マクゴナガル教授。

ハグリットさんとは違い、厳格さを雰囲気に纏う背筋の通った方だ。

 

鋭い視線を1年生の集団へと向けられ、ざわついていた集団の声が一瞬で途絶えた。

 

……とはいえ、その視線には新しい生徒を想う慈しみの色が見えるのは気のせいではないだろう。

 

 

「新入生の皆さん、ホグワーツへようこそ。これから組分けの儀式が行われます」

 

 

組分けの儀式と聞き、一度は静まったざわめきが再び広がった。

決闘するだとか、試験があるだとか口々に周囲の友人と話す声が聞こえてきた。

 

 

ハリーとロンも何か試験があると思っているのか、予想を話し合いながら不安げな面持ちで周囲の声に意識を向けているようだった。

 

 

さて、と私も思案する。

 

試験、筆記テストのようなものであればありえるかもしれない。

未成年の魔法が認められていないのだから現段階で実技は問われないだろう。

 

だが……ここは世界に誇るホグワーツ魔法学校である。

 

 

もっとずっと魔法的魅力に満ちた手段だといい。

 

 

 

 

……決闘ならそれはそれで、面白そうだとは思うけど。

 

 

 

 



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11

マクゴナガル教授の案内に続き、入室したホール脇の小さな小部屋。

小さなと言っても1年生全員が入ることができるので先程までいた大理石のホールがそれだけ大きいということなのだろう。

 

さて、マクゴナガル教授は新入生歓迎会での組分けの儀式まで退出された。

 

またしてもザワザワと話し声が広がる。

 

 

ハリー達周囲の生徒達は不安と緊張をどんどんと募らせているらしい。

顔色がとても良くない。

 

 

 

「きゃあ!!」

 

「うわぁぁ!!!」

 

「な、なに??ひっ?!」

 

 

 

突如室内に悲鳴が上がった。

ついに緊張のピークでおかしくなったのかと声のした後方を振り返れば、どうやらそうではないらしい。

 

「ほぅ。本物のゴーストは初めてみました」

 

 

後ろの壁からゴーストが20人程現れた。

真珠のように白く透き通っていることを除けば、その姿は人と変わらない。

生前の姿そのままなのか、死したその時の形をとっているらしい。

 

 

……ロンは私をあれに例えたのか。

 

 

ジトリとロンの顔を見れば、なるほど。

ハリーと揃って真っ青だ。

 

目が合うとキョトンと見返された。

 

 

「ロン?顔が真っ青でゴーストみたいよ?」

 

「ぐう……さっきの事根に持ってたのかい?ごめんってアレに例えてさ!」

 

 

私の視線を察してもらえたらしい。

さすがに死者それも動く半透明の死体と比較されるのはレディとして受け入れられない。

 

まぁ、ロンのデリカシーに関しては置いておく。

受け入れられないだけで、傷つけられた訳ではないし。

 

あくまでもこれは、さっき揶揄われたことの仕返しだ。

 

 

 

「ふふっ気にしてないわ。緊張はほぐれた?」

 

「……あーお陰様でね!おいハリーさっきから笑ってるのバレてるぞ」

 

「ふふふっ……ごめんごめん、サルースありがとう、お陰で元気がでてきた」

 

 

 

ハリーも顔色が戻ったようでなにより。

 

 

「いえ、私は何も。それとね?組分けの儀式の方法ではなくて何処へ入りたいのか、考えるようにマクゴナガル教授はおっしゃられたように思うの。だから青くなるのは内容を知ってからでもいいのではないかしら」

 

 

でなければわざわざホグワーツにおける寮制度のあり方や、各寮の特徴、寮生の関係についてここで口にしたりしないと思うし。

 

 

二人とはホグワーツ特急の中でもどの寮に入りたいのか話し合ったけれど、結局その答えは出たのだろうか?

 

私は変わらず、知識と開発欲を満たすためにはレイヴンクローが良いのではないかと思っているけれど家族の過ごしたスリザリン寮にも興味がある。

私の好きな魔法薬の教授が代々寮監をしているというのもあるが……

 

 

小部屋を通り抜けていくゴースト達が私達より一足はやく大広間へと消えていってからすぐのこと。

 

 

 

私達は大広間へと招かれた。

 

開け放たれた扉の先はまたも魔法に満ちた空間だった。

 

 

見上げるほどに高い天井には屋内にもかかわらず夜空が広がり、無数の蝋燭が星のように浮かんでいる。

正面には教員用の机があり、その向かいに4列の大きな机が並んでいる。

それぞれの寮に別れ座る生徒達は新入生に注目しているようだ。

 

 

 

「名前を呼ばれた者から前へきなさい」

 

 

 

教員席の中央にいる白く長い髭を蓄えたご老人……アルバス・ダンブルドア校長。

星を散らしたような青い瞳が子供達を見守り微笑みを浮かべている。

 

現代魔法界の賢者が目の前にいる。

 

他の教授の皆さんもそう、最高峰の教育者達が並んでいる。

 

 

 

こんなにも胸が高鳴る事があるだろうか。

 

星空の天井も輝く銀の食器も粛々と行われる組分けの儀式もこれから始まる学びの日々に比べたら……

 

 

「バーク・サルース!!!……前へ」

 

 

少々周りの声に疎くなっていたみたいだ。

どうやらもう私の番らしい。

 

マクゴナガル教授の声に促され古びた帽子の待つ椅子へと歩く。

ゆっくりと、覚悟を決めるように。

 

大広間中の視線が全て私に注がれている。

 

椅子の前に立ち座る直前、こっちをみる生徒達を見渡す。

 

 

スリザリン生の中には『私の事』を知っている人が少なからずいるようだ。ドラコの姿もある。

 

ハッフルパフ生は純粋な成り行きを見守る目。

 

レイヴンクロー生は探求心か、探るような目。

 

そしてグリフィンドール生、1番の好奇心を称えた目だ、ロンもハリーもここにいる。

 

 

 

こつり、こつり、と

大理石の床が私の足音を返す。

 

 

微笑むダンブルドア校長やマクゴナガル教授に目礼をし、椅子へと座れば頭より一回りも大きな帽子が被せられた。

 

 

『……おや、バーク家の娘さんか。両親や一族同様に君にも素晴らしい才能があるようだね』

 

 

落とされた帽子から声がする。

直接脳へと語りかけている……というより思考へ干渉している、かな?

 

 

ふむ、そういった類いの魔法具か。

 

何百もの呪文に匹敵する魔術が籠められてなお、創設者の時代から機能し続けるとは叡知の結晶といえる代物だ。

素晴らしい!

 

 

『はじめて私をかぶってそういった感想を抱くのはバーク家に名を連ねる者達くらいだよ。ありがとう、さて若人よ夢を抱き知識と力、未知と平穏を求めているのだね?』

 

 

 

 

貴方が言うのならきっとそうなのだろう。

私は夢を叶えるための知識と力、それからワクワクできる未知と変わらない平穏という矛盾したものを求めている。

 

私は私の開発欲を満たしたい。

魔法薬も魔法具もこれからも作り続けるし、それを邪魔されない環境がほしい。

 

 

『ふぅむ……君の求める平穏は………──スリザリン!!!!」

 

 

 

 

……帽子脱ぐ前に耳元で大声をあげるのはやめてくれないかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お待たせいたしました


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12

パチパチと鳴り響く拍手の中、スリザリン生のいる机へと向かう。

 

既に私の次の生徒の名前が呼ばれたため、私はゆっくりとドラコの隣に空けられたスペースへと腰を下ろした。

 

 

「やぁ、サルース。無事にここで会えて安心したよ。君の顔色ではあのぬかるんだ森の道は抜けてこれないかと思って。船に乗っている様子も見かけられなかったし」

 

「こんばんは、ドラコ。私でもちゃんとホグワーツに辿り着けるわよ?……まぁ最後尾だったのだけれど」

 

 

ほら見たことかと、呆れた顔をするドラコに頬が膨れるのを感じてプイと顔を背けつつ組分けの様子へ視線を戻す。

 

どうやらあと数名で終わるらしい。

 

最後の生徒が席へつくと、一際大きな拍手が各机から沸き上がり先輩方や私達の喜びが伝わるようだった。

 

それからダンブルドア校長の短いお言葉があり、それから夕食となった。

 

何も乗っていなかった机の上の食器に溢れる程の食べ物が突然に現れる。

同時に良い香りも広間に満ち、胃が刺激されるのを感じた。

……どうやら私もお腹が空いていたらしい。

 

カボチャジュースやポークリブ、ポップコーンにマッシュポテト……少し私には重たいか。

 

うーん、と取りあぐねていると私の前に生野菜とフルーツ、サンドイッチが出てきた。

 

ホグワーツの屋敷しもべ妖精達は優秀らしい。

 

プティの作る料理以外ではあまり美味しいと思うものはなかったけれど、ホグワーツの食事も悪くないようで安心した。

 

 

 

「サルース、君知り合いはいないのかい?」

 

周りの先輩方や同級生達と挨拶や会話を交わしていたドラコがふとこちらに目を向けた。

 

挨拶はいいのか、と言っているらしい。

 

 

言葉に周りへ目を向ければ、何人かは私を知っているのか目があった。

……私が知っている人はいないか。

 

「……あまり家から出ないものだから」

 

「全く出てないの間違いじゃないのか?……ほら、あっちにいるのが魔法省の癒者管理局の息子で……──」

 

 

 

ドラコの紹介のもと、先輩方や友人となるであろう同級生と挨拶を交わす。

 

全く両親の家系や職業、家族構成まで教えてくれるだなんて至れり尽くせりだ。

 

というかドラコの貴族教育が徹底していて、こんなに馴れ馴れしく接していて良いものかと迷うところだ。

 

子供である彼らスリザリン生の中に私の顧客は四年生辺りからいるらしい。

たまに見覚えのある名前があった。

ゾンコの方のお客様か。

 

そして家名の方では何人もお客様がいる。

 

 

一通りドラコの説明と紹介を聞き終えた辺りで机の上から食べ残しが消え去り綺麗になった。

 

 

 

先輩方が教師席へ視線を向けるのに習い先生方へと目を向ける。

ダンブルドア校長が立ち上がりこれから話を始めるところだった。

 

空腹が満たされ、あとは寝るだけとなった子供達に集中力は残されていない。

 

 

 

そんな私達に話された内容は、なんてことない生徒達への業務連絡だ。

 

管理人のフィルチさんから、授業の合間に廊下で魔法を使わないようにという注意。

 

今学期は二週目にクィディッチの予選があり、寮のチームに参加したい人はマダム・フーチに連絡。

 

 

最後に……とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下に入ってはいけない。

 

 

それらを告げたあと、解散となった。

 

 

 

「スリザリン生の諸君、特に上級生は一年生を中心に寮までしっかりとついてくるようにしたまえ。二年生は新しい後輩を妹と弟のように思え、三年生以上の皆は今年も寮生を家族と思い支え会うように。さぁ、僕達の家はこっちだよ」

 

 

どうやら彼がスリザリンの監督生らしい。

 

上級生によって速やかに一年生を中心とした群れが出来上がる。

外にいくにつれて高学年の生徒が取り囲む形になっているらしい。

 

……これでは迷子になる方が難しいだろう。

 

 

 

「ごきげんよう、バークさんでしたよね。ホグワーツはたくさんの隠し通路や隠し部屋、それに危険な仕掛けがたくさんあるの。だから安全な道を一年生が覚えるまでは上の学年の子達が付き添うのよ」

 

 

キョロキョロと、動き回る肖像画の主達を目で追いかけて集団の中にあって一人でいた私の隣にならんだ先輩が言外に迷子にならないように、と注意を促してくれた。

 

 

「ごきげんよう、ありがとうございます先輩」

 

 

「当たり前のことをしているだけよ、貴女も私達の妹なのだから」

 

 

にっこりと笑って、告げる先輩に私も微笑みを返し前を向く。

 

 

『スリザリン』は団結力が素晴らしいらしい。

 

 

 

遅れない程度に周りの景色を見ながら地下へと続く階段を通り、スリザリン寮へと進んだ。

 

 

 

前の生徒に続き寮の中へ足を踏み入れると、落ち着いた緑と銀の装飾にどこか実家を思い起こした。

 

談話室の奥にある窓は真っ暗だが時折月の光が差し込むのかゆらりと優しい煌めきがそこが水中であることを告げている。

 

暖炉は温かく燃えており、私達の帰りを待っていたかのように温もりを部屋へと届けていた。

 

 

 

「さぁ、今日はもう遅いそれぞれ部屋へ戻り荷物をほどくように。一年生は男の子は左の階段を、女の子は右だ。自分の名前がかかった部屋へ入るのだよ。それからまた今年も愚かな者が出る前に忠告しておくが、夜間の外出は禁止、門限は守るように。そして男子諸君は女子寮には入れないように呪いがかかっているから、無謀なことはやらないこと……と、他にも注意事項はあるが下の子達が限界らしい。おやすみなさい、良い夢を」

 

 

 

うつらうつらと話を聞くうちに身体が傾いていたらしい。

気づいたら隣の女の子……確かグリーングラスさんだったはずだ……に、支えられていた。

 

 

「あら、少しは目が覚めた?」

 

「えぇ、ごめんなさいもう大丈夫」

 

「別にこれくらい構わないわ、ほら置いていかれる前に私達も行きましょう」

 

 

 

言葉と共に手を引き階段へとつれて行ってくれ、そのまま部屋まで一緒だった。

 

お互いに自分のスペースへ分かれると部屋まで運ばれていたトランクを開け、寝間着になり最低限の荷解きの後ベッドへ倒れ込んだ。

 

 

 

「おやすみなさい、バークさん」

 

「おやすみなさい、グリーングラスさん」

 

 

 

「……ダフネでいいわ」

 

「サルースと呼んでね」

 

 

 

 

どうやらはじめて、女の子の友達が出来たみたいだ。

 

 

 



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13

「──……大鍋の火は止めたのだったっけ……???あ」

 

ふと、浮き上がった意識のままに思ったことを口に出していたらしい。

ベッドから起き上がりながら苦笑が漏れる。

 

緑のカーテンの向こう側から差し込む明かりに今が朝である事がわかった。

 

 

ここは……そう、私の部屋ではなくホグワーツ。

入学式の後、眠ってしまったのだった。

 

 

「……プティ、父様、母様…おはようございます」

 

ぽつりと、言葉を落として帰ってこない声に少し気分が下がった。

 

 

 

 

トランクの中の魔法薬用研究室にある大鍋は家を出るときに火を止めてあるはずだ。

 

夢の中まで調合だなんて、我ながら色気の欠片もない。

 

 

一応トランクの中へ確認…は後でいいわね。

 

…とりあえず制服に着替えてしまおう。

 

 

 

 

ダフネはまだ眠っているのか、カーテンの外に気配はない。

 

時計を確認しても、まだ十分すぎる程に早い時間だ。

 

 

トランクの中へ引きこもるのも魅力的だけれど昨晩からこんなにも私を魅了して止まないこの城の不思議を探しに出掛けるとしましょうか。

 

 

昨日はランチやお菓子の入っていた私の鞄に、今日は必要な教科書や筆記具を詰めていく。

 

 

こちらの鞄は、学用品のために。

ポーチには変わらず色ペンやちょっとした小物(ロン達が見たら羨ましがるようなものも多少はある)をつめるだけにして身仕度は完成だ。

 

 

ふと、部屋を出るときにみえた鏡のわたしが髪を結んでいないことに気付いたけれど……プティがいないと私では束ねるだけになってしまうのでそのまま部屋を出ることにした。

 

 

共有スペースである談話室には既に何人かの生徒が起き出していた。

おはようございます、ごきげんよう、と挨拶を交わしながら歩みを進め、その中を突っ切っていく。

 

 

あと少しで扉、というところで左肩に手がかけられた。

 

 

 

「バークさん?どこへいくつもり?」

 

「おはようございます、先輩。少し朝の散歩へ行こうかと思ったのですが……先輩もお出かけでしたか?」

 

「私は1年生を案内する役目があるから出掛けないわ、もちろん貴女もね」

 

 

 

なるほど、捕まったと言うわけなのね。

 

 

そのまま暖炉の前のソファーへと連行された。

他にいた先輩方は苦笑のもとそれを止めることなく見守っている。

 

 

「毎年、貴女のような好奇心旺盛な子が新学期早々に迷子になってしまうのよ。そういう子達がどこで見つかると思う?」

 

 

正面に腰掛け私の目を覗き込んだ先輩が首をかしげる。

 

 

「禁じられた森や立ち入り禁止の廊下とかですか?」

 

 

「それならまだマシな方よ。トイレの便座や展望台の外側から見つかる時だってあるんだから!」

 

 

 

それは……何がどうしてそうなったのか気になる。

 

「あー……余計に好奇心を刺激してしまったみたいね。とにかく、そうやっていつか出てこない子が出てしまうのではないかって何代か前の先輩方が心配されてね、それからスリザリンではそういう伝統があるのよ」

 

「そう、ですのね。気を付けます先輩方のお手を煩わせることのないように」

 

 

 

にっこりと、笑って見せれば先輩からはため息が返された。

 

ヤレヤレと言わんばかりの周囲の先輩方もこうして毎年、好奇心旺盛な新しい家族を見守っているのかもしれない。

 

 

さて、そんなことをしている間に私の同級生達も起き出してきていた。

 

 

 

「サルースおはようございます、早速何をやらかしたの?」

 

「ダフネ、おはようございます。まだ何もしていないわ」

 

 

先輩との話が終わるのを待っていたらしいダフネが寄ってきて挨拶と呆れた眼差しをくれた。

 

「昨日先輩方が今日は朝の大広間と各授業は道案内をしてくださるって説明の間、立ったまま寝てたでしょう?朝の集合時間も聞いていなかったのではないかと思って、ちょっと早めに起きたのに隣のベッドはもぬけの殻だし……」

 

 

「ダフネったらとても優しいのね……ありがとう」

 

 

なんだかとても暖かい気持ちが湧いてきたのでダフネの両手を握ってソファーの隣の席へと引っ張り座らせれば、キョトンとした顔で見返された。

 

「ダフネ、おはよう。えーっとバークさんもおはよう」

 

「パンジー、おはようございます」

 

「パーキンソンさん(だったと思う)おはようございます」

 

「……パンジーでいいわよ」

 

「それでは私も、サルースと呼んでくださいね」

 

 

パーキンソンさん改め、パンジーはダフネとお友達だったらしい。

女子寮の階段を降りてくるなり凄い勢いで歩いてきて挨拶をされた。

 

お邪魔したかしら?

 

ダフネの側(私からは微妙に距離のあるところ)からこちらを見下ろしている顔は少し不満げだ。

 

 

「……サルース貴女、髪を昨日みたいに纏めないの?」

 

「お恥ずかしながら、自分では束ねるくらいにしか出来なくて……」

 

「……しょうがないわね!私がやってあげるわよ!!だから髪を触ってもいい?」

 

「!ええ、お願いします」

 

 

不満げだったのは私の身嗜みのせいだったらしい。

全く女の子として勿体ない!とプンプンしながら私の背後へ回りブラシをかけてくれるのだった

 

 

パンジーが私の髪を整えながら編みこんでいる指に眠気を刺激される。

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

さて、大広間へ向かう時間まで(つまりダフネとパンジーが起こしてくれるまで)二度寝を堪能することになった。

 

暖かい暖炉とパンジーの優しい手と、ダフネの体温の効果すごい。

 

 

 

「サルースは純血の貴族なのに、どうして今まで会ったことがなかったの?」

 

大広間で朝食を囲んでいる時のこと、パンジーがカボチャジュースのストローごしにこっちを見ている。

 

言っている意味が良くわからないので、首をかしげて見せたら、ダフネから補足説明が入った。

 

「私達みたいに両親からスリザリンの家……特に純血の貴族と呼ばれる家系の子供達は昔から友達になるために、頻繁にお茶会や誕生日会のような集まりで顔を会わせているのよ」

 

「バーク家がどうしてそういった場に来ないのか、ってことね?……そうね、とても単純で難しい質問だわ」

 

 

パンジーの問いに他の人達も興味があるのか、注目を集めているらしい。

視線を向けないまでも耳を傾けているのが伝わってくる。

 

 

さて、本当に難しい質問だ。

 

 

両親がまともに人間らしい生活を送っていなくて、私はおじ様の店の店番や両親同様作業に没頭していたわけで……社会との交流が皆無だった。

 

外の世界に繋がるのはボージン叔父様とのやり取りくらいだもの。

 

 

「あ……私もしかして聞いちゃいけないこと聞いちゃった…?」

 

 

 

気まずげにこちらを窺う周囲の目に微笑みを返す。

 

そういう類いの話ではないから安心してほしい。

 

 

 

 

「いいえ、ただ私の両親は開発者だからあまり社交には向いていなくて……私もそのお手伝いで物作りをしているの、だからあまり家の外に出たことがないの」

 

 

「家の……ってサルースさんもバークスの品を?」

 

彼は誰だったか、ともかく家業について知っているらしい。

 

 

「えぇ、ゾンコのお店にも品物を出してるわ。……こんなおもちゃが欲しいってアイデアがあったら私にフクロウを飛ばしてくださいませね」

 

 

返事と共にウインクを飛ばせば(ダフネにははしたないから止めなさいと言われた)、顧客の皆さんには伝わったようでニヤリと反応を見せる人たちがいた。

 

 

 

 

 

こんなにも賑やかな朝食ははじめての経験で、私も気分が上がっているみたいね。

 

 

 

 

配られた時間割りに応じて移動を開始するまで、お喋りは途絶えることなく続けられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字報告、感想ありがとうございます。


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14

午前の授業は順調にすすみ、お昼を友人達(たった1日で複数形で表現できるようになるとは…)と食べながらその会話を聞く。

朝食の時と同様、専ら話題を振られない限り、私は聞き手だ。

 

 

 

さて、ホグワーツではじめての午前の授業が終わった。

 

 

今日1日の授業は実践ではなく基礎を執り行うのか午前の間杖を振るような内容はなかった。

 

必然的に授業内容は基礎知識の確認(教科書を読む時間)となり、さっそく睡眠時間にあてている人もいた(ゴイル達がそう)。

 

 

そんな午前の授業に関して、少し不思議な事がある。

 

 

 

 

「それにしてもサルース、あなた賢いのね!可愛いけどすっとぼけた子なのかと思ってたわ」

 

「パンジー……もう少し言い方があるでしょう?」

 

 

「ダフネも否定しないなら一緒だと思うよ」

 

 

「ザビニだってそうじゃない」

 

 

これである。

 

何故か私は同輩達に勉学が苦手だと思われていた。

 

 

「えーっと……そうね、私お勉強は得意な方だと思うわ。ちょっとだけ得意科目に片寄りはあるのですけど」

 

 

私に苦笑をしながら首を振るのはドラコだけだ。

しょうがないだろうと言わんばかりの苦笑である。

 

 

 

授業中、教科書の端に先生方が口頭でしか言わない内容を書き留めながら、思い付いた魔法具を、べつのノート(これはマグル製)に書き留めていたら、ソレを覗き込んだパンジーが驚きの声をあげた。

 

当然、先生には目を付けられるわけで……

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「──……ミスバーク!何か分からないところがおありでしたか?」

 

 

パンジーが声をあげたのにどうして私が当てられたのか、とはいえマクゴナガル教授の変身術は面白い。

授業の始めにネコの動物もどきとして、変身の様子を見せていただいた事も私の創作欲を高める原因になったのだろう。

 

 

「少し……授業の内容から離れてしまうのですがよろしいですか?」

 

「授業に関することであればある程度は許します。どうぞ」

 

 

規律を絵に描いたような風格を持つ眼差しが向けられている。

 

グリフィンドールの寮監であってもスリザリンに嫌悪の視線を向けることはないらしい。

 

 

 

「はい、ありがとうございます。変身術の基礎理論にある対象物とその結果の項にありました無から有を生み出すことは出来ない。また同様に無限に食料や生き物を生み出すことも出来ない。とありますが、それでは消失の呪文等の有を無にする時には理論とは逆説的にその存在は完全に消えたとは言えない。という事でしょうか?取り戻すことが実現しうると、考えられますか?」

 

 

食料を生み出したように見せかける事は出来てもソレを食べたところで栄養も満腹感も得られない。それは結局のところ何もないのと変わらないからだ。

とすれは、消してしまったものも消えたわけではない、と言うことになるのだろうか?

 

 

無から有をと、唱えるうえで『水よ』といった呪文は空気中の水分を集めているのか、それとも、そうある結果だけが起こっているのか。

 

 

とにかく変身術の仕組みは場合によって理論の適応が多様すぎる。

 

 

補充呪文で増やした酒に酔うのなんて本当に謎だ。

 

どうして、存在しないものに身体が反応するのか。

 

 

 

「ミスバーク、貴女の疑問は素晴らしい着眼点です。しかしそれらの疑問は研究者ではないその他の生徒達には眠りの呪文となってしまいますね…それについては授業後に議論致しましょう、興味がある皆さんも残って聞いていくと良いでしょう。貴女の学習意欲にスリザリンへ5点を与えましょう」

 

「あ、ありがとうございます。よろしくお願い致します」

 

 

 

はじめてのスリザリン寮への貢献に微笑みを抑えられないでいると、マクゴナガル教授の促しで教室から拍手が沸く。

 

それから、拍手をしながらも口をあんぐり開けたパンジーやその他同輩達の視線に晒されている事に気付くのだった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

ちなみに授業後、マクゴナガル教授との議論にはドラコ(と、セットのクラッブとゴイル)と、ダフネ、パンジー、それから数名の生徒が残ることになった。

 

意外と人が残ったのか、マクゴナガル教授は驚いているようだった。

 

 

それからお昼の時間を圧迫しない程度に、私の疑問や他の人達も質問したことで充実した授業後の時間を過ごすことが出来た、と思う。

 

 

 

 

「バーク家の一人娘で開発も手掛けている以上、サルースは言動通りの箱入り娘ではないだろうさ。第一彼女は教科書の内容なんて優に常識として理解しているだろうし、そこらの上級生よりも遥かに優れていると思う」

 

 

ドラコのフォローに、また周囲の目が一瞬見開かれる。

 

 

「ドラコそれは過大評価よ……」

 

「魔法具作ってるやつがそこらの学生と同じレベルなわけないだろ」

 

「そこは……ほら、慣れもあるのよ?……そんなことより、この果物とっても甘くて美味しいの、食べてみて??」

 

 

はい、とドラコの方へ差し出せば食べてくれた。

 

 

 

「やっぱりとぼけてるのは間違ってないのよね」

 

「そうね……」

 

 

 

同室の二人が顔を見合わせて笑っていた。

 

 

 

 



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15

今回セリフが長くなってしまった……スネイプ教授がポエミーなせいってことで……許してください……。


さて、待ちに待った魔法薬学の時間である。

 

我らがスリザリンの寮監であるスネイプ教授の授業だ。

 

私達の寮から1番近い教室でもあるのだが、同じ地下といっても暗くひんやりと冷たい様子は全く寮とは雰囲気が違った。

 

 

そして、どうやらこの授業はグリフィンドールと合同で行うらしい。

 

 

 

先輩方と行動することで全員がスムーズに教室へと移動する私達とは違い、彼らはバラバラのタイミングで疲れた様子で部屋へと入ってくる。

……先輩方に案内していただくという文化は彼らにはないらしい。

 

 

その半数が授業の始まるギリギリの時間に慌てて駆け込んできた。

 

 

 

そして遅れてやってきたにも関わらず、席につくなり周囲の友人と話しては笑いあい、どうにもこれから授業をうける雰囲気にない。

 

 

……要するに五月蝿いのだ。

 

 

 

パンジー達はあからさまに顔をしかめてグリフィンドール生を横目に見ているし、グリフィンドール生徒もスリザリンの雰囲気が不快なのかこちらへ向ける視線は友好的とは言えない。

 

 

これに関してはなにもグリフィンドール生に限ったことではない。

 

 

廊下ですれ違う際や授業が合同になった際にも同じように、他所の寮生からは決まって嫌なものを見る目で見られるし、あからさまに避けられたり距離をとられたりする。

 

 

まるでスリザリンは予告もなく人に対して呪いを放つとでも思っているのか。

 

……グリフィンドール生ならあり得そうだが。

 

 

 

スネイプ教授はスリザリン贔屓と、聞くが自分の寮生、後輩たちがそんな扱いを受けていたら仕方がないとも言える。

 

そもそもマクゴナガル教授やその他の寮監達も自分の生徒達へは依怙贔屓なのだからスネイプ教授だけが特出して挙げられるわけではないのだし。

 

 

 

さて、そんなわけだから教室の左奥へつめていたスリザリン生に対して、グリフィンドールは右奥から席が埋まっていき、最後に教室に入ってきたハリーとロンは私の隣の机(そこしか空いていない)へと座ることになった。

 

 

「ごきげんよう、ハリー。ロン」

 

「やぁ、サルースこんにちは」

 

「あー…うん、やぁ」

 

 

 

にこやかに返事を返すハリーと、周りの目を気にしたのか、こちらから話しかけて欲しくなさそうなロン。

 

なるほど、スリザリン生と話していると友達が出来ないとでも思っているのか……思っているのではなく事実そうなのかもしれない。

 

 

 

 

「ごめんなさい、ここでは話しかけない方が良かったわね…またあとでお話ししてくれるかしら?」

 

「え?……あー、うん。ごめんね、授業後に」

 

「うん……」

 

 

二人の返事を聞き終わると同時に、スネイプ教授が部屋へと入ってきた。

 

 

 

長めな黒い髪に踝まで覆う真っ黒なローブを翻して現れる姿は、成る程いかにも、だ

 

ぐるりと教室のなかに目を向け、(生徒が揃っていることを確認したらしい)教壇の前へと立ち止まる。

 

そして一人一人名前を呼び上げて出欠をとっていった。

……何故かハリーの番では何か引っ掛かるような言葉がついてきたが。

 

 

さて、と杖を仕舞うように指示を出したスネイプ教授が話始める。

 

 

「……このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。それが魔法なのかと思う者が多いかも知れない……が、沸々と揺れる大釜、立ち上る湯気、人の中をめぐる液体の繊細な力は人の心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力となる。…………君たちがこの技術を真に理解することは期待していない。私が教えるのは名声を瓶詰にし、栄光を醸造し、地獄の窯にさえ蓋をする方法である。もっとも……私がこれまでに教えてきたウスノロたちより君たちがマシだったらの話だが」

 

演説を終え教室の中が静寂に包まれる。

 

 

多くの人達は圧倒され内容は右から左へ抜け、また一部の生徒達はその熱弁に引いているらしい。

……わたしは後者だが表情には出さないように勤める。

 

 

 

「ポッターッ!!」

 

急にスネイプ教授が声を張り上げた。

 

隣のハリーがピクリと声に驚き肩を跳ねさせたのがわかった。

 

 

 

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 

「わかりません……」

 

 

ハリーは何故突然当てられたのか、そもそもスネイプ教授が何を言い出したのか全く分からないといった声だ。

 

教室の中のほとんどの生徒が分かっていないだろう。

もちろん、私も何故ハリーが名指しされたのかさっぱりわからない。

 

 

そんな中にあって、グリフィンドールの一人の女生徒の手だけが天高くまっすぐと伸びていた。

 

 

 

「ポッター。もう1つ聞こう。ベゾアール石を見つけて来いと言われたら、何処を探すかね?」

 

「更に1つ聞こう。モンクスフードとウルフスベーンとの違いは何だ?」

 

 

 

「……わかりません、」

 

 

そしてスネイプ教授の質問は続いた。

当てられ起立したハリーは困惑からの畏縮から、若干の苛立ちへと感情が傾いているらしい。

 

わからないという言葉の後ろへ言葉を繋げかけたところでスネイプ教授が言葉を続けたことでそれを飲み込むことになった。

 

 

 

 

「まったく英雄にも呆れたものだ。授業前に教科書を開こうとは思わないのかね?……ミス・バーク!君なら勿論、答えられるだろう?」

 

 

まさかの、こちらへ飛び火してきた。

ハリーへと視線を向ければ助けてくれ、どうにかしてくれと言わんばかりにこちらを見ている。

 

 

「はい、先生。全て答えられます。……ですが、私が答えるよりも先にそちらのグリフィンドール生がずっと手を挙げておりますわ。私はそのあとで問題が残っていれば、では構いませんか?」

 

 

ハリーへと座るように手で促してから自分が立ち上がる。

そしてハリーの更に奥、スネイプ教授から当てられた瞬間にこちらを射殺さんばかりに見ている女の子へと視線を向ければ、私の言葉に驚いたのかきょとんとこちらを見ていた。

 

 

「フン、それなら先にそちらの……ミス・グレンジャー答えてみたまえ」

 

 

「はい!」

 

 

ひとまず、当てられた事で機嫌を持ち直したらしいグレンジャーさんがスラスラとその答えを告げていく。

 

上から順に『生ける屍の水薬』『山羊の胃』『どちらも同じ』が答えなわけだが、それに加えて更なる解説を加えたグレンジャーさんがしっかりと勉強に励んでいる事が窺えた。

 

因みにこれらは、1年の教科書の中でも後ろの方にあるだけだし、そもそも1年の教科書には載ってなかったものもあったはずだ。

 

 

彼女はとても、優秀な頭を持っている。

 

 

「フン、いいだろう。実に教科書通りの面白味の欠片もない答えだが正解だ。グリフィンドールに1点だ。さぁミス・バーク……これに付け足せるような答えはおありかな?」

 

 

そう、彼女の答えは教科書どおり。

研究者たるスネイプ教授や実際に何度も調合してきた私達からすると完璧で無駄が多い、とても実務的ではない。

とも言える答えとも言えた。

 

私が何を言うのかと、教室中の視線が向けられているのを感じる。

 

 

それならば私は、魔法薬を作り売るものとして彼らに伝えておきたいことを話す場としよう。

 

 

「そうですね……どれも蛇足になってしまうのですがこれからの調合の上で上記三点の魔法薬に注意をするのであれば……特に卒業の折りには調合出来るようになっているであろう『生ける屍の水薬』について補足しましょう。

 

……強力な睡眠薬である『生ける屍の水薬』は扱いを間違えると簡単に人を殺せてしまう劇薬です。

 

たとえば、規定より多くの時間火にかけ、混ぜる行程を怠るとそれはただの『眠るように死ねる薬』となります。口にいれ喉を通り身体へと摂取された瞬間から身体機能は停止することとなるでしょう。

 

眠っているとは聞こえの良い言葉でマグルで言うところの昏睡状態、生命維持具なしでは衰弱して死を迎えることになる、そんな薬です。

 

しかし適切な量や気付けの魔法薬と共に使えば癒者の施術を手助けする便利な薬となるでしょう。

 

このように私達が1年目に習う魔法薬ですら扱い方を間違えると大事故になりかねない、人の命を脅かしかねない代物です。

 

ですからスネイプ教授は予習をしなさい、しっかりと教科書を理解しなさいとおっしゃられているのだと、私は考えますわ。

 

それから、先生?『どちらも同じ』というトリカブトについてですが生息地や環境によって同じ品種と言われている物でも薬にした際の効果が違うという研究テーマにおいて、必ずしもこれらは『全て同じとは言えない』のではないかと考えておりますわ」

 

 

長々と話ながらスリザリンの生徒が集まる方へ視線を向ければ、ハリーがあてられグレンジャーさんが答える間もニヤニヤと小馬鹿にしたような態度でいた様子から、一転して真面目に耳を傾けてくれているらしい。

 

顕著なのはドラコやパンジーで、クラッブ他数名はとても難しいことが、わかった、程度に理解いただけたようだ。

 

グリフィンドール側は、スリザリン程ではないものの耳を傾けてくれている人達もいた。

 

 

 

「ふむ、ミス・バークは授業中の魔法薬の調合の課題は免除とし、周りの生徒のサポートにつきたまえ。……レポートに関しても最後の研究テーマに関して書いてくるように。スリザリンに10点だ」

 

 

 

やっぱり、依怙贔屓にも程があると思う。

 

 




ダフネ「要するにスネイプ先生のポエムをサルースが言語化したってことよね」

ドラコ「そうだな」


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16

※作者はハー子推しです※


さて、魔法薬学の時間はまだはじまったばかりである。

 

 

初回は簡単な吹き出物を治す薬を作るという事で、私はスネイプ教授のお手伝いをすることになった。

 

 

調合方法についてスネイプ教授が説明するあいだ並べられた材料の状態やそれぞれの使用する調合器具が揃っているか確認する。

 

どれも長い間使い込まれているが、しっかりと磨き込まれている。

さすがは魔法薬のプロ、ここにサビや前の調合残りがあると、当然のことながら薬は完成しない。

 

 

さて、スネイプ教授は詩的な表現でお話されるため少々話が長いわけだが終わるのを待つあいだ、私がどうして裾の長い、胴回りに余裕のあるローブを望んだのかについて装備を整えつつ考えていく。

 

 

理由は単純に、魔法薬を調合するにあたって適した状態であるから、だ。

 

 

スネイプ教授のローブが踝まで覆う程長いのも同じ理由だと思う。

 

 

 

魔法薬は1つ工程を間違えると、大変な惨事となることが多々ある。

 

熱された液体が噴出したり爆発したり、鍋底を溶かして流れ出したりと、危険と隣り合わせなわけで……

 

 

 

そんなとき、素足や腕を露出しているとそれらを浴びることになりかねない。

 

 

だから、制服を作る際指先まで覆う袖と、踝まで覆う裾を所望したわけだ。

 

 

胴回りに余裕を持たせたのは、その内側に薬瓶(強力な酸性・毒性を持った液体にも耐える強化瓶)を仕込むためだ。

 

 

これは勿論、何時如何なる時も薬の原料を採集するためである(私の場合は魔法具を身に付けたりもしている)。

 

 

 

「……では各自、調合を開始するように」

 

 

 

おや、それでは材料の受け取りに来る皆様のお手伝いをするとしよう。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

魔法薬の初心者……どころか、はじめて魔法薬を調合する子供達というのは恐ろしい生き物だった。

 

 

まず、数が読めない。

それから集中力もない。

 

 

最悪である。

 

 

これまでこの科目で死者が出ていないのは奇跡ではないだろうか??

 

 

 

 

「『消火せよ』ロングボトムさん、針ネズミの針は鍋を火から下ろしてからですわ」

 

 

「ひぇ?!ご、ごめんなさい……」

 

 

危うく鍋の中身が弾けるところだった。

 

 

「ハリー、そこはもう一度右回りに混ぜて……えぇ、その色が正しいわ」

 

 

魔法薬が土色では次の工程で気化してしまう。

 

 

 

スネイプ教授と二人で教室内を見て回るだけではとても追い付かない。

 

これをスネイプ教授は普段一人で行っていらっしゃるだなんて……本当に尊敬する。

 

 

スムーズに調合を終えたグループは、無事に薬を瓶詰めするところまで進みだした。

 

 

「サルース!見て?なかなかじゃない?」

 

「えぇ!パンジーとダフネの魔法薬は正しく仕上がっているわ。お疲れさま」

 

 

無事に、怪我人もなく終えられそうね。

 

 

 

「あぁ、作り終えた者は教壇へ提出したまえ。それが終われば退出するように」

 

 

教壇へ並べられていく魔法薬はそれぞれ、薬の色味に差があり(これによって効果の差がでる)それらを見ながら片付けを見守っていると、どこからか強く見られているような感覚を覚えた。

 

 

教室の中へ目を向け見渡すと、その相手がわかった。

 

 

ハーマイオニー・グレンジャー、彼女である。

 

 

薬の提出は早々に終えているが、片付けに時間がかかっている(フリだとわかる)。

 

 

「あの、グレンジャーさん……何か私にご用ですか?」

 

「…貴女とっても魔法薬学が得意なのね、何かやっていたの?」

 

 

近寄り話しかけると、尚更強い目で見られる。

 

 

 

「私はサルース・バーク、バーク家の家業は魔法具を作ることよ。そして私は魔法薬を売っているわ」

 

「それってズルだわ、出来て当たり前じゃない。それなのに点をもらえて調合を免除だなんて特別扱いは正統じゃないわ。それって贔屓よ!」

 

 

 

 

ふーむ。

そんなことを言われても困る。

 

それにこれ以上ここで騒ぐとせっかく稼いだ点がなくなりそうだ。

 

 

「そうね、そうかもしれないわご不快な思いをさせたのならごめんなさいね」

 

「な!待ちなさい!馬鹿にして……」

 

 

「サルース!僕達も提出終わったよ!待たせてごめんね!」

 

 

ミス・グレンジャーの声を遮るようにハリーに話しかけられた。

 

 

「ハリー、ロンも、お疲れさま。では1度出ましょうか」

 

 

これ幸いと、二人に頷いて見せればさっさと片付けを終えた二人から外へ出ようと促された。

 

グレンジャーさんには悪いけれど、この会話に付き合う義理もない。

咎められる前に退出してしまおう。

 

 

 

******

 

 

 

「ごめんね、大丈夫だった?」

 

「えぇ、勿論。二人とも疲れたでしょう?」

 

 

そそくさと教室から退室し、足早に移動する。

 

 

魔法薬学教室からスリザリン寮まではすぐのため本日最後の授業後は先輩方のお迎えはなしだったのが幸いした。

 

 

「それにしても、サルースってスネイプのお気に入りなわけ?」

 

「お気に入り……ビジネスライクって感じではないかしら、よっぽどハリーの方が気にされてなかった?」

 

 

「冗談じゃない!あんなの…まるで憎まれているみたいだ!!」

 

 

ロンの声に苦笑を返せば、ハリーからは苦情が返ってきた。

 

 

確かに『魔法界の英雄』としてハリーへと嫌味を重ねる姿はあまりにも、感情が籠りすぎているように感じた。

 

親の仇でも見るかのような表情で執拗に絡むのだから何がしたいのかわからない。

 

 

 

「確かに……マルフォイをべた褒めしてたしアイツはグリフィンドールが嫌いなのは有名だろ?ハリーに恨みがあるのも間違いじゃないかも」

 

「マルフォイ?……あー、あの人か」

 

 

おや、ハリーとドラコは面識があるんだっけ?

…………マダムのお店か。

 

 

 

「ドラコも身内からすると悪い子ではないのよ?ただ……ちょっとだけ選民思考というかお父様の教育の賜物というか…」

 

「でもパパはマルフォイ家は闇の陣営だったっていってたぜ」

 

 

ロンもグリフィンドールとしてしっかりとお父上の教育がなされているようで……これも選民思考の一種と言えるのかしら。

 

 

 

「アーサー氏とルシウスさんの不仲は二人を知ってる人なら有名だもの、それに『あの人』が滅んだ今は寄付とかに励まれていると聞くし改心したのではないかしら……」

 

 

なおも、言い募ろうと口を開きかけたロンに被せるようにハリーが口を開く。

 

 

「サルースの友達ならドラコ・マルフォイも完全に悪ではないのかもね。もうこの話はやめよう、ほら、ハグリッドの家が見えるよ」

 

 

 

何時の間にやら城の外へと向かっていたらしい。

開けた視界の先には、見晴らしのよい草原でその先には黒々とした森がある(あれが『禁じられた森』だろう)。

 

 

そしてその手前に石造りの小屋がたっており、その屋根から伸びる煙突は煙を吐き出していた。

ハグリッドさんは在宅らしい。

 

 

「ほら、あそこが『禁じられた森』よね!!」

 

「サルースあそこは危ないから近づいちゃダメなところだからね?」

 

「やめといた方が良いよ。チャーリーが昔、あそこで死にかけたって言ってたよ」

 

 

 

別に行きたいだなんて口に出していないのに、二人揃ってローブや肩を掴まなくても良いと思うの。

 

 

 

 

 

 




作者はハー子推しです(大事なことなので二回言いました)


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17

内容を変更致しました。
曜日感覚が死んでいたので……


それから、庭には降りず城の回りを散歩しながらお互いの寮のようすやこの2日間の感想を言い合い過ごした。

 

グリフィンドール寮は棟の上にあるらしい。

 

私達は湖の下だと教えたら、窓の外の景色にとても興味を示していた。

 

 

話しているうちにロンの様子も汽車の中にいたときと変わらなくなった。

 

ハリーはどこへ行っても英雄だとか有名人だとかコソコソ言われ、じろじろ見られるのが億劫だと言っていた。

 

……スリザリンも同じようなもので、他寮から敵視される視線が怖いこと、先輩方がついて歩いてくださっているのは守るためではないかということを話すと、二人とも目を丸くしていた。

(「スリザリンだからって酷い!」とはロンの言葉だ。ハリーは苦笑しながら肩をすくめて見せた。)

 

 

ぐるりと、城を回る間にはクィディッチ競技場や、薬草園など色々なものを遠目に見ることが出来た。

 

 

見えたものについて話している間に随分と歩いていたようで、スタート地点へと戻っており、やはり城にも検知不可能拡大呪文がかかっているのではないかと思った。

 

それからすぐに日は落ちはじめ、冷えてくる前にと私は寮へと帰るべく解散するのであった。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「サルースどこに行っていたのよ!遅かったじゃない!」

 

「心配で落ち着きがなかったものね、おかえりなさいサルース」

 

「パンジー、ダフネ、ただいま戻りましたわ。少しお城の回りを歩いていたの」

 

 

寮へと戻れば、二人に出迎えられた。

私の帰りを待っていてくれたらしい。

 

腹ペコだと訴えるパンジーに促されるまま、教科書を寝室へ戻した後は大広間へと向かった。

 

 

「明日からは先輩方は一緒じゃないのよね」

 

「そうね、迷っているのを見かけたら助けるとはおっしゃっていたけど」

 

 

今日のオムレツはトマトソースが中に入っていてとても美味しい……なんて考えながらオレンジジュースを啜っていたら、そんな会話が聞こえてきた。

 

 

「明日は図書館にいってみようかしら…」

 

 

まずはその規模を把握して、読破するのにかかる時間を考えてから学校探検ね。

 

 

「サルースは自由時間も勉強?」

 

「?いいえ、学校探検よ??」

 

「今朝からウズウズしてたものね」

 

「だって……彼方此方から魔法具や呪いの気配がするんだもの…気になって仕方ないわ」

 

「学校探検ねー、それなら私もいくわ!」

 

 

 

パンジーの声にダフネを見れば、頷いて返される。

どうやら二人とも着いてきてくれるらしい。

 

……禁じられた森へ近づくのはもう少しあとになりそうだ。

 

 

 

 

******

 

 

 

翌日、土曜日である。

 

 

そんなわけで1日自由時間だ。

 

 

 

午前は図書館を探検し、昨日の目的通り本の種類や場所を把握した。

もちろんダフネとパンジーも一緒だ。

 

それから薬草学の温室や庭、湖の辺りを三人で歩き回った。

 

 

 

そして午後、私達は城内の探索をおこなっている。

 

「あっちの階段は何回かに1度底が消えるんだっけ?」

 

「確か……そんなような事を先輩方が言ってたわね。……そもそも階段の機嫌を損ねるって何なの???」

 

 

 

お城の中を上へ下へ。

くるくると動く階段に逆らわず、進んでいく。

ホグワーツには142もの階段があり、そのすべてが個性的なのだから素晴らしい建造物だと思う。

 

 

「東洋の妖精にね、『つくも神』っていう種がいるの。もともとは子供に言い聞かせるための寝物語的なもので、大切に長い時間使われた物には神が宿り命を持つ、という伝承だったのよ。長い間、マグルが浮遊呪文のかけられた物体を見間違えたと考えられていたのだけど、ここ最近新しい発見があってね、なかなか人前に姿を現さない妖精がやどっている事が判明したのよ!ホグワーツならとっても古くて、ずっと沢山の人に愛されてきたでしょう?だからここの階段が意思を持つならきっと妖精が宿っているんだと思うの!それって作り手にとってなんて幸せなことなのかしらって思うわ!」

 

 

 

私のあとを着いてくる形で進んでいた二人へ振り向き話せば、きょとんと二人揃って同じような顔でこちらを見ていた。

 

 

 

「あ……少し話しすぎてしまったかしら…」

 

「ううん!違うのサルースの笑顔がね、なんと言うか凄く可愛かったのよ」

 

「サルースってそんな風に笑うのね……ここに男共がいなくてよかったわ……見惚れちゃった」

 

 

 

普段から笑っているつもりだったけど、二人から見ると何かが違ったらしい。

 

 

 

「えっと……ありがとう?」

 

 

 

「「どういたしまして」」

 

 

それから、三人で顔を見合わせてクスクスと沸き上がる笑いが治まるまで階段たちは動き回るのを待ってくれているようだった。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「あら?ここ……なんだか変だわ」

 

 

5階の廊下にある鏡。

 

何事もなく通りすぎようとしたその時。

ふと、土の臭いを感じた。

 

 

「サルース……さっきから急に止まらないでよ、毎回ぶつかりそうになるのよ!」

 

「パンジーももう少し隙間を開けて歩いたら?サルースが急に止まるのも、しゃがみこむのもどうしようもないわ」

 

 

 

土の臭いというには五階のここは森や庭から遠いし、クディッチの練習後の生徒が通ったにしては……

 

んー鏡が怪しい、けど魔法具の気配はない。

 

 

ローブから手袋を取り出して装着し(魔法的な干渉を防ぐ特別製品)、モノクル(拡大縮小機能に録画記録の機能もある)を取り出して鏡の縁の装飾を調べる。

 

と、片側の端の真ん中辺りに人が何度も触った跡があった。

鏡を見るそれも、廊下にある姿見よりも大きな鏡を見るときに縁に手なんてかけるかしら?

 

見つけた不思議に指を触れてみてやはり魔法具としての仕掛けがあるわけではないことがわかった。

 

んー……鏡の…裏?

 

 

と、縁を掴むように手をかけるとカチリと小さな音と共に鏡が手前に開いた。

 

 

 

奥には下へと続く階段があった。

 

 

「この鏡……扉になってるわ」

 

 

「全然聞いてない……って、え!扉???」

 

「な……サルースよく見つけたわね、っていうかなにコレ階段?」

 

 

 

 

そっとモノクルを目から外し、杖を壁際の蝋燭立てへ向けて火をつける。

 

一番手前の蝋燭へ火をつけただけで下まで一気に火が移っていった。

 

 

 

「土の臭いが強くなったってことは、これ外まで続いてると思うわ」

 

「そもそも土の臭いがしないんだけど」

 

「え゛、降りる気?」

 

 

 

 

ホコリが積もってるけど、歩けなくはなさそうだ。

 

「ルーモス、光よ」

 

 

 

足下を照らしながら降りればまだまだ先がながいらしい。

 

ふむ、こんな風に階段が延びていたら外からわかるはずだけど……そもそも壁の内側にそれほどのスペースはないし。

 

 

 

「サルース!待ってってば!!」

 

「そうよ!もう大広間へいかないと夜ご飯なくなるわよ?」

 

 

 

 

入り口を振り替えれば明るい廊下の光が二人のシルエットをうつしてこちらを覗き込んでいるのが見えた。

 

 

 

今日はここまで、か。

 

 

 

 

「はい、今日は諦めます」

 

 

 

 

 

少しだけ下った階段を上がり、廊下へ出る。

 

 

そっと鏡をもとに戻し、二人から手を引かれるまま気まぐれな階段を下りる。

 

「まったくサルースったら冒険に夢中になっちゃってお子様なんだから!」

 

「ほら、手が冷えてるわ。まったくあんな何があるかわからないしホコリだらけで真っ暗なところへ躊躇いなく入るなんて……」

 

 

 

確かに、二人の手がとても暖かいということが手袋ごしの手に伝わってきた。

 

一瞬二人の手を離して手袋をローブの内側へしまう。

 

それからもう一度二人の手を握ればちゃんと握り返してくれた。

 

 

 

 

 




感想、誤字報告、いつもありがとうございます。


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18

鏡の裏の秘密の通路を見つけた翌日。

日曜日は課題もやらなくてはいけないということで、ダフネたちは寮に残り、私は一人湖の側で大イカを眺めていた。(私の課題は勿論終わっている)

 

 

 

……二人から階段を下りるのは一緒にいるときにしろと言われてしまったのである。

木陰の芝生にハンカチを敷いて座る。

そして昨日借りた本を広げれば完璧だ。

 

 

新作の魔法具案も思い付きそう。

妖精の呪文のうち杖なしの『本物の妖精達の魔法』についてとある小鬼が書いた本を図書館で借りたのだ。

 

それから、勿論魔法道具の本もあったから借りた。

 

 

 

 

そうして読書をしていると、ふと周囲の笑い声に読書中だった意識が浮上した。

 

 

 

 

「……大イカさん…人懐っこいのね」

 

 

水遊びをする上級生や他寮の人達と10本の足を器用に使って遊ぶ様子は、よっぽどそこらのゴーストよりも子供好きな様子だった。

 

 

 

「あれ?サルース?」

 

「あ、ほんとだ」

 

 

 

 

呼ばれた名前に振り向けば、ハリーとロン。

 

 

「ご機嫌よう、二人とも。素敵な休日を過ごしてる?」

 

 

「まぁまぁかな!サルースは?」

 

 

「私もまぁまぁってところかしら」

 

 

 

 

そのまま並ぶように腰を下ろした二人は別段の用事があって湖を通り掛かったわけではないらしい。

 

「サルース、グリンゴッツに泥棒が入ったって話汽車の中でしたよね?覚えてる?」

 

「ちょ、ハリー?(サルースにアレを知らせるのか?)」

 

「(いや、意見を聞くだけだよ)」

 

 

汽車の中ではどうしてその話題になったのだっけ……確かロンが話題を出したのだったか。

それからハリーが何か……言っていたような気がするが忘れてしまった。

 

 

 

「えぇ、覚えているわ。日刊予言者新聞はその話題ばかりだもの」

 

 

 

二人とも新聞を購読して読むとは思わなかったけど最近の日刊予言者新聞はその話題ばかりだったからグリフィンドールで噂になったりしてるのだろう。

 

 

「あれサルースはどう思う?犯人は何が欲しかったんだろう?」

 

 

 

 

「唐突ね……そうね、まず犯人はグリンゴッツに侵入できるなんて本当に優秀な魔法使いだと思うわ。あそこって呪いも呪い避けも魔法具も魔法生物も何でもありの地下迷宮なのよ?その中へ忍び込んで捕まる……いえ生きて出られるなんてよっぽどだと思うわ。だから欲しかったものはお金じゃ手に入らないもの。この世に1つしか無いような、他に代えの利かない何かだと思うわ」

 

 

 

「代えの利かない何か、か。それってさポケットとかに入るものなのかな?だってほら盗んだ後マグルの映画だと大掛かりな怪盗とかはトラックとかヘリに財宝を詰め込んで逃げるけどあそこでそれは無理だと思うし」

 

 

 

マグルの映画……?はわからないけれど(トラックやヘリコプターはわかる)、きっと泥棒が主役の物語。それもただの盗人ではなくて盗むことをエンターテイメントにしている怪盗、ときたか。

 

怪盗ってことはこの『何も盗まれなかった事件』のことをハリーは犯人の魔法社会に対する意思表示の1つだと思っているということ?

 

 

 

「ポケットに入るものってなんだい?宝石とか……?」

 

 

ロンはハリーのマグルに関する例えはお父様の影響でついていけてるのだろうか?……いや、わからないことを放置した可能性のが高いな。

 

 

 

 

「そうね……宝石とか……身分を表す家紋入りの何かとか色々あるわね。でもポケットに入るサイズだからといって小さなものとは限らないのよ?」

 

 

 

コテンと首をかしげて意味がわからないと表現するハリーと、何をいっているんだと言葉に出てしまっているロン。

 

……いや、マグル育ちのハリーはともかくとしてロンはご実家で見たことがあると思うのだけど。

 

 

 

二人のために、傍らに置いてあったドラゴン皮のポーチを引き寄せて膝の上におく。

 

 

 

「ハリー、ロン、このポーチの中には何が入っていると思う?」

 

 

 

「え……女の子の持ち物なんてわかんないけど、ハンカチとお財布とか?」

 

「ママは化粧品とか鏡も入れてたな」

 

 

 

「そうね、それだけ入れてたらこのサイズのポーチでは一杯になってしまうわね。では中身を一部出してみるわね?」

 

 

 

 

二人の前に二人が言ったものを並べていく。

(化粧品、と言っても簡単な保湿薬と日焼け止めなんかしか入っていないポーチだ)。

 

 

 

「で、ここから先はそれに加えての鞄の中身ね?」

 

 

 

手帳、筆記具、ゾンコの袋、本、本、本、お菓子、ソーイングセット、魔法薬の小瓶がいくつか……と、出していく。

 

 

明らかにポーチに入る量ではない物達に二人の口があんぐりと開いている。

 

 

 

「このポーチには検知不可能拡大呪文っていう容量を大きくする魔法がかけてあるの。そうするとこうして、ポーチの間口を通るものならある程度なんでも入れておけるわ」

 

 

「あ!うちのクローゼットそれかも……!」

 

 

 

 

ロンはご家族が多いし確かにそうかもしれない。

 

 

 

 

「すごいね……!これどんなものにもかけられるのかい?ポケットとか普通の袋とか」

 

 

 

「ある程度強度はあった方がいいわよ?壊れたら失われてしまうかもしれないし、全て出てきてしまうかもしれないもの」

 

 

 

 

探知不可能拡大呪文が使えるほどの魔法使いがかけた呪文が壊れるなんてことは滅多にないとは思うけど、姿をくらますキャビネットなんかは調子が悪くなると変なところに引っ掛かるみたいだし、姿くらましもばらけると聞く。

 

空間に影響を及ぼす呪文は、それ故に危険でもある。

 

 

「そ、そうなんだ。珍しいものだと思った方が良いってことかな?」

 

「そうね、ウィーズリー家も純血貴族に家名を連ねる家ですもの。そういった魔法具を所有しているのは基本的には貴族、もしくは優れた魔法使いのどちらかね」

 

 

 

 

 

ちなみにだが、単純にポケット等に拡大呪文をかけた場合物を詰め込んでいく過程で1つ問題が発生する。

 

空間が広がるだけでは、物の管理はできない、ということだ。

 

 

 

ワンルームが二部屋、三部屋と増えたわけではなくてただ単純にワンルームのまま床面積だけが増えている状態になるわけで、そこへ物を詰め込み続けると、取り出す際にとても苦労することになる。

まぁ、呼び寄せ呪文があるので失せ物になるほどではないが……。

 

 

 

私が持っているポーチは勿論、検知不可能拡大呪文や盗難防止呪文だけでなく空間を隔てるための呪文や自動的に収納物を規定の場所へ片付ける呪文なんてものも重ねがけしてある優れものだ。

 

 

 

と、いった込み入った話は二人は求めていないようなので思うに留めておく。

 

 

 

「純血だから貴族だなんてヘンな話だよなー。僕の家にはお宝どころかガリオン金貨の1枚すらないってのに!」

 

 

 

ロンの言葉に苦笑を返しつつ、ロンのお父様が聞いたら泣きそうだと思った。

 

 

 

 

 



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19

ポーチの中身を戻したところで、ハリーとロンの背後へと忍び寄る赤毛の姿があることに気づく。

 

 

彼らは確か……ロンのお兄様の…

 

 

「「わっ!」」

 

 

「うわぁ!?フレッド?!」

 

「わぁぁ!ジョージ!!!」

 

 

 

 

そう、フレッドとジョージ・ウィーズリーだ。

 

 

 

「ご機嫌いかがかな?お三方」

 

「スリザリンのお嬢さん……サルースだっけ?君を探していたんだ!」

 

 

 

単刀直入に聞くけど、と二人の声が揃う。

 

 

勢いが激しすぎて、先の質問に話しかけられている私もハリーとロンもなんの反応も返せていないのだが……

 

 

 

「聞くところによると」

 

「かの高名な魔法道具店、ボージンアンドバークスの関係者だとか?」

 

 

「創業者の片割れの孫娘だとか??」

 

 

 

ハリーとロンのそれぞれの背中へのし掛かっていた体勢から一転、交互に話す二人がずんずんと近づいてくる。

 

 

もとからハリー達とも遠くない距離に座っていたのだからその距離はあっという間に詰められ、言葉が終わる頃には、両側から覗き込まれるような体勢に背筋が反る。

 

 

 

 

「え、えぇ。カラカスタス・バークは私の祖父ですわ」

 

 

 

 

入学してから私に向かって、直接それを言ってきたのはこの二人がはじめてだ。

 

ボージンアンドバークスはノクターン横丁にある店、すなわち闇の品を扱っているということだ。

 

 

グリフィンドールの二人が何を言うのか、身体が緊張で固くなるのがわかった。

 

 

 

「「まじかよ!!!!それって最高にクールだぜ!!!」」

 

 

 

満面の笑みでお互いにハイタッチを交わす様子に呆気に取られる。

 

 

 

 

「あの……それだけですの?」

 

 

つい、そんな言葉が出てしまった。

 

息のあった仕草でこちらに顔を向けた双子がまた交互に話し出すのを心の準備が整わないまま聞くことになる。

 

 

「ん?や、聞きたいことはいっぱいある」

 

「だがまぁ、お嬢さんが思ってるようなことではないかな」

 

「そ、サルースお嬢様が心配しているようなことじゃあない」

 

 

 

「ただちょいと、噂の信憑性が上がったもんだから喜んでしまっただけさ!」

 

「そーゆうこと、俺達のホントに聞きたいことはサルースの家系じゃあない」

 

「バーク家なんて純血貴族のご子息はそうそう沢山いる名前じゃないしな」

 

「ウィーズリーと違ってな」

 

 

さっきの質問はただの事実確認だと、言いたいのだろうか。

 

自分達の言葉にケラケラと笑う双子を見ながらそれでは何が知りたいのかと考える。

まさか、闇の品を横流せとでも言うつもりだろうか?

……そうは見えないが。

だがこの二人が悪戯を趣味にしていることはこの1週間の学校生活ですらスリザリンの私のところまで聞こえてきていたから……それもある、のか?

 

もしくはお父上であるアーサー氏に何か手柄を……っていう様子ではないわね。

 

 

「……それなら、私に何をお聞きになりたいのですか?」

 

 

至近距離で騒ぐ二人に、知れず後退りしていた体から膝の上に乗せていたポーチが芝生へと落ちる。

 

ピタリとふざけあいを止めた二人が言う。

 

 

「まどろっこしいのはナシにしようか」

 

「俺達が聞きたいのはシンプルな事さ」

 

 

「「魔法道具の開発者だってのはホントかい?」」

 

 

笑顔の消えた真剣な眼差しの同じ顔が私を射ぬく。

 

 

「……えぇ。私は魔法道具の製作者よ」

 

 

 

闇の品でも悪戯道具でも、私の生み出す作品は自信を持って世に送り出している。

クリエイターであることを隠したりしない。

 

 

「それは重畳」

 

「なんて運命的な出逢いでしょう」

 

 

 

二人が揃ってニヤリと笑う。

 

 

 

「「ちょっとサルース借りるぜ!」」

 

 

 

声をあわせて私の手をそれぞれ取った二人がハリーとロンを振り返り告げた (ハリー達のことはすっかり忘れていた)。

 

 

気づけば自然な動作で立たされていた私の顔はハリーとロンと同じくぽかんと、状況についていけない事を現しているのだろう。

 

 

「……え?!」

 

「ちょ、二人ともサルースとは僕達が話してただろ……っておーい」

 

「行っちゃったね」

 

「あれ……サルース大丈夫かな?」

 

 

 

小さくなっていく二人が何やら話ながらこちらへ手を振っている。

……見送らずに止めてほしかった。

 

 

ブレッドか、ジョージかどちらかは分からないが私を掴むのとは逆の手で私の荷物もすべてまとめて持っているようだから手際が良すぎると思う。

 

 

こんな風に誘拐まがいな連れ去りをやりなれている、なんてことがないことを祈るばかりだ。

 

 

 

 

なんて、他人事のように意識を背けるのはやめて現状を受け止めることにする。

 

 

いや、全くわからないという事しかわからないのだけど。

 

 

 

「あ、あの!私を一体どこへ連れて行くのですか?」

 

「「秘密基地」」

 

 

とても楽しそうに歩く二人に声をかけると、足を止めないまま同時に声がかえってきた。

弾む声は悪戯を仕掛ける前のような期待と興奮が抑えきれない色と秘密を共有する共犯者のような音がする。

 

 

 

そんな二人に連れられてやってきたのは大広間の隅、今週のはじめに入学式の前に集められた小部屋とは別の小部屋だった(1枚の絵画に二人が何かを囁くとそこが開いて部屋が現れた!)。

 

 

五階の鏡みたいに二人が見つけたのだろうか?

……この二人ならあの鏡についても知っていそうだが。

 

 

 

部屋の中には何脚かの机と椅子、それからガラスの戸棚にあれは……

 

 

 

「『人形の家』ですか……?」

 

 

 

「「そうさ!こいつには昔から随分助けられたぜ」」

 

 

 

 

 

マグルの人形遊びで使われる小さな家をご存知だろうか?

一件の屋敷をもした家の壁を開閉式に開くことができ、開いた先にはミニチュアの屋敷が作られている。

と、説明してわかってもらえるかは微妙なところだが……

 

 

これは3年……いや4年前にサルースの紋を刻んで販売した女の子のお子さま向け玩具である。

 

 

 

この時期の作品は、製作者は両親でアイデア出しが私といったものだから正確には私の作品ではないのでここ最近のサルースの紋のものとは趣向が違う……が、イギリス魔法界で爆発的な人気を博した商品ではある。

 

 

……生産者は限られているため中々に高価な玩具となってしまったけれど、年間生産量を決めて予約制で今でも売っているので興味がある人には是非手にとって貰いたいものだ。

 

 

 

 

で、名前の通り幼い私が欲しがった少し特別な人形の家が何故ここにあるのか、という事だ。

 

 

 

 

「これ……対象年齢3才から11才の女児向けですよ…?なぜホグワーツに……」

 

 

 

 

「やっぱり知ってるよなー」

 

「バーク家から出てるから知ってるだろうとは思ったけどな」

 

 

 

 

うんうん、と頷く二人がうちのお客様だということは分かるのだけど。

 

それでもここにある意味がわからない。

 

 

 

 

「この家で作戦会議といこうぜ!」

 

「サルースなら使い方しってるだろ?」

 

「「じゃ!お先に!!」

 

 

 

ヒラヒラと鏡あわせに手を振ったかと思うと二人は小さな家の中へ入っていった。

 

 

 

 

勿論……使い方は心得ている。

 

 

これは魔法使いの人形の家。

 

 

 

小さなお人形に擬似的な家族ごっこをさせるのではなく…………自らがお人形となってこの中で遊ぶためにある。

 

 

 

「はぁ……このまま寮へ戻ってもいいのだけど…それはそれであとが面倒、かしら」

 

 

 

人差し指を玄関扉横の呼び鈴へかける。

 

「Mr.ウィーズリーツインズの家へお呼ばれされましょう」

 

 

 

 

 

くるりと、視界が暗転し目を開くとそこは姿見のあるごく一般的な玄関ホールと私を迎える双子の姿に変わった。

 

 

 

 




お待たせ致しました。
いつも感想、誤字の御報告ありがとうございます。


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20

さて、私が招かれたこの『人形の家』は子供向きのため備えついているコンロやシャワー等から火や水が出ることはないが、なかに人がいる間は明かりだけはつけることができるようになっている。

 

 

そのため玄関ホールのシャンデリアは明るく、屋敷の中にあるランプの全てが明々と灯っている。

 

 

 

 

 

 

私を招いた二人は交互に部屋のなかを紹介しながら、玄関ホールから正面の階段をのぼり、右手へ折れて一番奥の部屋へと消えていった。

(内容はしっかり聞いていなかったので何を言っていたのかは不明だが終始楽しそうに話していた)

 

 

 

 

久々にこの家へ入ったけれど、慣れた場所(どの『人形の家』も同じ仕様だ)だから実家に帰ったような安心感がある。

 

 

 

 

ここでは、付属品以外の物は身に付けている、もしくは持ち込んだもののみ家の中へと縮小されていれることができる。(手に持てる物に限るということ)

 

 

 

だから、双子に招かれた研究室とも言える一室にある大量の鍋をはじめとした道具や材料なんかは二人が持ち込んだのだろう。

 

 

明らかに抱えてはいるには大きな作業台や水瓶があるが…………

 

 

 

……そもそも部屋の構造的にここはお母さんとお父さんの寝室、と割り振られていた部屋のはずであってまさか女児向けのごっこ遊びグッズに石畳石壁の牢獄にも見えるような簡素な部屋があるわけがない。

 

 

……壁紙を張り替える程度のリノベーションは効くようにしてあったけれど、ベッドを失くしたり鏡台やチェストを取り外したりは出来ないようにしてあったはずなのだけど…(下手に動くようになっていると子供だけで遊ぶには危険との配慮だった)。

 

 

 

 

「このお部屋は両親の寝室だったと思うのですけど、どうやって作り替えたのですか?」

 

 

 

「お、そこに最初に驚くのか」

 

「だが俺達としては嬉しい質問だな兄弟」

 

「涙ぐましい程の努力と天才的な工夫と苦労の結晶だからなぁ……」

 

 

 

そう言って二人でしんみりと頷きあう。

 

 

 

 

「この家には状態記憶と保護の呪文がかかっているもの……失礼ですがお父様の呪文がお二人に破れたとは思えないんですの」

 

 

 

 

破損部は修復され、散らかった部屋は一度全員が外へ出ればもとの状態に戻る。

……お片付けを学ばせたい親御さん方にはありがたくない機能かもしれないけど。

 

 

高価な玩具なのだ。

相応の機能はついている。

 

 

 

「「サルースのお父上に最大級の敬意を捧げるぜ!!!」」

 

 

 

「え、えぇ。ありがとうございます……?」

 

 

 

それから彼らが言うには、部屋にかけられ魔法がなくなったわけでも上書きされたわけでも錯乱させたわけでもないらしい。

 

彼等にそこまで高度な強い魔法はまだ扱えないとのことだった。

 

 

ではどうしたのか。

 

 

それは偶然の産物。

 

自分達に魔法を破る力がないのなら、別のものに頼ればいい。

ただし、親に相談しては反対された上に取り上げられてしまう。

だったら魔力を持つ、別のものを頼ればいい。

 

 

例えばそれは、貴重な植物、魔法生物の一部、魔力を帯びた鉱石、そんなもの達だ。

 

 

「でも……失礼ですがウィーズリー家にそんな資金がどこから…?」

 

 

この家は本当に高価な玩具なのだ。

マルフォイ家ならともかくとして子だくさんのウィーズリー家にはその予算はないと思うのだが。

 

 

 

「そこは俺たちのラッキーなところさ」

 

「俺たちの、というか親父のだけどな」

 

 

 

「いや、あれはお袋のラッキーだったのではないか?」

 

「確かに、葉書を書いたのは俺たちだけどその懸賞を見つけたのはお袋だったな」

 

 

 

「えぇっと……つまりどういう事かしら?」

 

 

 

このままいつまでも続きそうな二人の掛け合いに、区切りをつけさせてもらう。

 

時間は有限なのである。

私のルームメイトが心配する前に帰らなくてはいけないのだから。

 

 

「懸賞であたったのさ!」

 

「そ、お袋の読んでる雑誌にソレが載っててさ二人で応募したってわけ」

 

 

 

 

ふむ……となると『週刊魔女』か『マグルの愉快な錬金術』か『魔女のたしなみ』か…他にもあったかしら。

 

初期の頃から宣伝も含めて、お子様向け魔道具は女性向き雑誌に広告を載せてもらう代わりに、懸賞という形で応募はがきを送るとその商品が当たるという商法を行っている。

 

 

中々に高価な魔道具がタダで貰えるとあって、毎回何万通もの応募があると雑誌の編集室から歓喜のクレームが来る程には、宣伝の効果が得られている。

 

 

 

魔道具というと、やはり高価でとても特別な品というイメージが強く持たれていたし、ここ最近は闇の魔術と近しい物のように思われている風習があった。

 

 

一般家庭にお子様向けの商品として知ってもらうには、地道な意識改善……と言う名の、家庭の勘定奉行の懐柔が必要不可欠なのである。

 

 

 

 

 

「幸運を掴んだのですね」

 

「「そういうこと!」」

 

 

 

 

 

それから二人が話すには、女の子用のオモチャではあったけれど秘密基地とするにはもってこいで自分達双子が功労者(応募したという意味でだ)ということでその所有者となったということ。

 

 

それから、しばらくは秘密基地として使っていたがそのうち部屋の改造をしだしたのだという。

 

 

 

「状態記憶と保護の魔法が、呪文にしか反応しないって気づいてからは割りとすぐ何とかなったんだよな」

 

「親父のおかげで家にはマグルの道具がいっぱいあるからな。壁も床も張り替えはすぐできた」

 

 

 

 

それから、状態記憶……復元の呪文を破るために手を尽くしたらしい。

 

で、様々な魔法的効果を持つモノを持ち込んだある時突然魔法が破れたとのことだった。

 

 

 

彼らの過ごす実験室とも言えるこの部屋。

 

 

 

見回すに、効果のなかった魔力を持つ素材を部屋の四つ角にまとめて置いていった事が原因していそうだ。

 

おそらく、それらの何かがこの部屋に対して東洋で言う結界的な役目を果たしているのだろう。

 

 

 

「お二人とも本当に素晴らしい開発者になりそうですわね……就職の折りには我が家の工房をご検討下さいな」

 

 

 

「どうかな相棒、それもいいかもしれないな?」

 

「そうだな相棒、でもそんな先の話は置いておいて、だ!まずはサルースが俺達の工房に来ないか?」

 

「そうそう!それも今すぐに!だ」

 

 

 

 

なるほど、それでココへ連れてこられたわけか。

 

 

 

 

 

 



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21

さて、それから夕食の時間に差し掛かったこともあり私と双子はそれぞれの寮へと別れた。

 

 

 

「あぁ!サルース!貴女どこへ行っていたのよ!!!」

 

「出掛ける度にパンジーが心配性になっていくわね」

 

 

「二人ともこんばんは。湖で本を読んだり、うちの商品の愛用者と話したりしていたわ。パンジーとダフネは宿題終わった?」

 

 

 

 

大広間へ食事をとりに向かうと、先に来ていた二人が手まねいてくれたので隣へ座る。

 

 

「もちろんよ!!!」

 

「パンジーの魔法史がさっぱり終わらなくてね……」

 

「ちょっとダフネ!それに関してはもういいじゃない!」

 

 

 

 

明日には提出しなくてはいけない物もあるし、終わったなら何よりだ。

 

 

 

 

「それで、探検はちゃんと待っててくれたのよね?」

 

「えぇ勿論よ。二人との約束だもの」

 

「そ、そう。なら…いいのよ!」

 

 

「……パンジーが嬉しさを隠しきれてなくて笑える…」

 

 

 

 

今日も賑やかな食事に自然と微笑みが溢れる。

 

1人で本を読むのも嫌いじゃないけど、誰かと過ごす時間も悪くない。

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

翌週の授業も滞りなく進み、各授業では質疑応答や実践の結果で寮への加点を稼いだり先生方の呪文や薬草への意見を楽しく聞いたりと、有意義に過ぎた。

 

 

1つ違うことがあったとすれば初の箒の授業でグリフィンドールの子が箒から落ちたり、ドラコとハリーが一悶着あったりしたことくらいか。

 

グリフィンドールの子……確かグレンジャーさんのお付きの子?のロングボトムさんだったか。

あまり箒に乗るのは得意ではないようで、振り回されて落とされてと気の毒な様子だった。

 

おそらく手首くらいは折っていたんじゃなかろうか。

野蛮で危ないから近寄っちゃダメよ、とパンジーの意見によって私達三人はグリフィンドールから離れたところにいたので良くわからないけど。

 

 

それから、ドラコが「思い出し玉」を拾い、それがロングボトムさんの物だとかでハリーと揉み合いになって、何故か箒勝負になったんだったか……

 

とにかく先生のいらっしゃらない初心者ばかりの状況で何をしているんだかと呆れたことは覚えている。

 

 

 

 

それからマクゴナガル教授が現れたと思ったらハリーだけを連れていなくなり事態は終息。

 

 

無事に私もはじめての箒とのふれあいを終えたのだった。(我が家にも箒はあるが、乗ったことはなかった)

 

 

 

スリザリン……というよりはドラコからしたら無事に終わったとは言えないようでそれからしばらくご機嫌ななめだった。

 

理由はハリーが退学にならなかったから……とかなんとか言っていたがその場合ドラコも退学だと言うことを教えてあげたら蒼白になっていたのは今朝のことだ。

 

 

 

 

まぁ、そんな些細なことはどうだっていい。

 

 

 

今日は待ちに待った2回目の週末。

 

 

即ち、例の鏡の裏の通路へ探検に行く日なのである!

 

 

 

と、勢い勇んだ朝食後。

 

 

ダフネ達と5階の鏡の廊下へ来たところまでは良かったのだけれど……

 

 

「ちょっとーー!ミセスノリスに追いかけ回されるような事してないわよ?!」

 

「パンジー喚かないでいいから走って!サルースの体力がそろそろヤバイのよ!!!」

 

 

「ゼーーハーーーー……」

 

 

 

現在、酸欠でしにそうです。

 

 

 

 

そもそも何故私達が走っているのかすら理解していない私からすると突然はじまったマラソンに異議を唱えたいどころじゃない。

 

いざ鏡を開こうとしたら廊下の角から大きな猫が現れた。

 

どこかの生徒のペットだろうと興味を失った私とは対照にパンジーとダフネの顔色が変わり、突如逃げる事となったのだ。

 

 

 

……二人とも猫嫌いにしても程がないかしら???

 

アレルギー(マグルがつけた病気の名前)を持っているのかもしれないから逃げるのはしょうがないけれど私は全く平気なのに。

 

むしろこのマラソンの方が生命に関わる。

 

 

いや、ほんとに。

息できないし足が絡まって転げそう。

二人が手を引いて走るのについて行けな……ダメだ視界が白く……

 

 

 

「にゃー」

 

 

 

「「向こう行きなさいよーー!」」

 

 

「っ……も、無理……です」

 

 

__バタン

 

 

 

暗転。

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

 

「ん……?ここは……」

 

「にゃあ」

 

 

 

 

薬品の臭いと寝苦しさで意識が浮上した。

 

と、思ったら先程まで私達を追いかけていた猫が横たわる私の腹の上で丸まりこちらを見ている、黄色い眼球と目があった。

 

 

どうやら医務室に運び込まれたらしい。

 

そしてこの猫は一体……?

 

 

 

「あら、バークさん目が覚めたのね?ほら、ミセスノリスおどきなさい」

 

 

「マダムポンフリー、ありがとうございます。お手間をかけさせてしまってごめんなさい…」

 

「いえいえ、酸欠で倒れるくらい、耳が百合になるのと鼻が向日葵になった双子に比べたらなんの手間でもないわね」

 

 

 

 

やれやれと首をふるマダムの声に周りを見れば、斜向かいのベッドからこちらへ手をふる見覚えのある赤毛の双子が目にはいった。

 

 

……何をどうしたらそんなことに???

 

念のためのお薬とやらを取りにマダムが席をはずしたところで二人はお互いを指差しては笑うパントマイムをはじめたらしい。

 

 

猫……ミセスノリスが退いたことで体を起こした私は傍らで再度丸くなった彼女を撫でつつマダムの薬を待つ。

 

「貴女ミセスノリスってお名前なのね?私はサルース・バーク、仲良くしてくださいね」

 

「にゃー」

 

 

しょうがないわね、とばかりに鳴き声を返された。

 

何処から来たのかはしらないけれど、マダムもご存知だったのだから有名な猫なのだろう。

 

双子は何故か嘔吐の真似と手を払う真似をずっとやっているのでそっと無視する。

 

 

 

魔法使いなのに猫嫌いな人が多すぎないかしら?

 

ミセスノリスがとっても大きな猫だから……とか?

 

 

 

「さ、これを飲んだらもう大広間へ行きなさい。昼食はしっかり取るのよ?……1年生にしても少し小柄すぎるわね…顔色も悪いし……やっぱり一晩入院していく?」

 

「いえ、小さいのは母もですからたぶん遺伝ですわ。お薬いただきます」

 

 

 

銀のゴブレットに入った魔法薬は派手な黄色をしていて甘ったるくて刺激のある匂いがした。

気付け薬というよりは血行を促して元気にするタイプの元気薬ね。

 

独特な喉への刺激と、舌に残る甘さにそう判断する。

 

 

 

「ご馳走さまでした。これにて失礼させていただきます。お世話になりました」

 

「はいはい、次は体力をつけてから走り回るのよー」

 

 

 

 

 

 

もうあんな風に走り回るのは懲り懲りですよ……

 

お先に、とウィーズリーツインズにも一礼してから医務室を出た。

 

 

 

 

 




誤字報告、ご感想いつもありがとうございます。


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22

さて、医務室を出た私について来たミセスノリスと大広間へ向かう途中。

すれ違う生徒のほとんどが私達を見て遠ざかったり迂回したりとしている様子に気付いた。

 

 

このまま大広間へ行くのはやめておいた方が良さそうだ。

 

 

 

 

「変ね……ミセスノリス?貴女はどうしてかわかる?」

 

 

「にゃ」

 

 

どうやら彼女にはわかっているようだ。

さっきまでよりご機嫌が悪いらしい。

 

とはいえ猫語はわからない。

理由は自分で考えるしかないらしい。

 

眠っていたせいで色々乱れているのかと、途中の女子トイレで身嗜みを確認したけれどそんな様子はない。

 

 

 

避けられるのなら、と人気のない廊下へと進んでいたらいつの間にか地下にきていた。

 

寮へとつづく道のりとは別のルートで入ってきたため、いつもと景色が少しだけ違う。

 

 

 

 

「ミセスノリス!!!!」

 

 

「にゃ!!」

 

 

 

後ろから呼び掛けられた声に振り替えれば、少し離れたところにアーガス・フィルチさんがランタン片手に立っていた。

 

ミセスノリスが呼び声に応えて彼の方へ走り寄っている。

 

 

 

なるほど、フィルチさんのペットだったのね。

 

 

 

 

 

……フィルチさんって入学式の時にダンブルドア校長がおっしゃってた持ち込み禁止のリストを発行されている方ではなかったかしら。

 

 

 

「探したぞ、ミセスノリス!!どこへ行っていたんだい?またクソガキ共に虐められはしなかったかい??ん?」

 

「にゃー」

 

「そうかい、それなら安心だ。ところでアイツは?校則違反者か?それとも何か悪巧みをしていたのか?」

 

 

 

 

 

とっても仲良しな様子で話していたミセスノリスがフィルチさんの腕の中からピョンと身軽に飛び降りると私のもとへ戻ってきて足に頭を擦り付けてきた。

 

「?撫でてほしいのかしら?」

 

 

「にゃー」

 

 

もふっとした頭や首の周りを撫でつつ首をかしげていると、片足を引き摺るように歩み寄ってきたフィルチさんが険しい顔で私を見ていることに気づく。

 

 

「ごきげんよう、フィルチさん。サルース・バークと申します。ミセスノリスの家族は貴方でしたのね」

 

「ふん……ミセスノリスと何があったか知らんが、まぁ今回は見逃してやろう。「にゃ!!」……なんだいミセスノリス?その魔女が友達だとでも「にゃー」…………ちィ、君がそういうなら仕方ない。……バーク、ついてくるといい」

 

 

 

 

ふむ???

なにやら二人の間で私にはわからないやり取りが行われ、私はミセスノリスのお友達としてフィルチさんのお部屋へ招かれる事になったらしい。

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

案内されたフィルチさんのお部屋は、他の地下の部屋同様に石造りでひんやりとしており、窓の外は真っ暗な湖が見えていた。

 

大きく違うところは天井から鎖に吊られた手錠が垂れ下がり、石壁にも手錠足枷が設置され明らかに拷問用の小道具が置いてあるところだろうか。

 

 

「にゃー」

 

「ミセスノリス?……その棚は、魔法具の保管場所ですわね」

 

 

 

「……没収品だ。あとは生徒の手に触れるところに置いておけない品らしい。触るなよ」

 

 

 

 

ミセスノリスが私を案内したのは、部屋の中の数ある鍵つき扉のついた棚の内の1つ。

 

明らかに呪われた品々が置いてあるにも関わらず、なんの変哲もない棚。

 

 

 

このままでは、暴発しそうなのが何個かあるのだけど……

 

 

 

 

「あの、フィルチさん。こちらのアイテムのうちこのネックレス、そちらの時計、そちらの鏡にかけられた呪術が暴走しそうになっておりますわ……こちら我が家で引き取りましょうか?こういった品の修理も行っておりますの」

 

 

 

「にゃー」

 

「ミセスノリス!!君は本当に聡明で優しいレディだね……それを見越してこのガキ…バークを連れてきたのかい?…………とはいえ、生徒に渡すわけにはいかん。校長に申し出ておく」

 

 

 

 

「にゃ!」

「承知致しました」

 

 

 

 

どこか誇らしげな様子のミセスノリスはフィルチさんに抱き上げられ撫でられ、ご機嫌な様子だった。

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

「「サルース!!」」

 

「ごきげんよう、二人とも。心配を……かけたみたいね、ごめんなさい」

 

 

 

 

 

フィルチさんのお部屋にある魔法具の中でも危険度の高い物から、選別と隣り合わせて置いてはいけない組み合わせなんかをお知らせしてから大広間へ向かうと、とても暗い顔をしたパンジーとダフネがいた。

 

 

「サルース!貴女……もう大丈夫なの?歩いたりして…というか医務室に行ったらいなかったのはどういう事?!どこに行ってたのよ!」

 

「パンジー落ち着いて、煩いわ。サルース座って。説明」

 

 

 

「う……ハイ、わかりましたわ」

 

 

 

 

パンジーとダフネがお怒りなので、お昼ご飯は少しお預けで医務室で目覚めてからのことを話すことになった。

 

 

かいつまんでミセスノリスとお友達になったことを話すと二人には何故か珍妙なものを見る目を向けられたのが印象的だった。

 

 

「まっっったく!!!!貴女って人はほんとにもう!!!おばか!おばかなのね????」

 

「パンジー……そんなに怒らないでくださいな……次からはちゃんと一緒に走れるように魔法具をつくっておきますわ」

 

「「そういうことじゃない」」

 

 

 

あら……二人の勢いが増したように見える。

 

 

 

 

それから、二人がかりで魔法具に頼らず体力をつけろと言い含められ、それからもっと普段から食事をしっかり摂れといつもより山盛りなランチをお皿に乗せられることとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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23

山盛りのランチをいつもより少しだけ多く食べ、残りはゴイルのお腹に収まった(たまたま向かいで食後の糖蜜パイのホールを食べ終えたところだった)ところで、大広間を後にした。

 

 

「さて、今日はもう寮で大人しくしててよね」

 

「探検は明日のサルースの体調次第ってところかしら」

 

「……………えぇ…わかりました、逃げませんから、二人共二の腕を掴むのはやめてくださいな」

 

 

 

私の身長が、少 し だ け 足りないせいで何か悪いことをした者が連行されているかのような有り様になってしまう。

 

 

スリザリン寮への道を3人連れたち歩きながら午後の予定を考える。

 

 

 

少し遅めのランチになってしまったとはいえ、貴重な休日の午後である。

何もしないなんて選択肢はない。

 

 

 

 

「…あの、二人とも?図書館へ行きませんか?寮に戻っても退屈ではない?」

 

「ダメ!!安静にしてないと!」

 

「私達にこんなに心配かけさせておいてちっとも反省してないわね?」

 

 

 

それを言われると困る。

友人が突然倒れたらどんな気持ちになるのか想像がつく程度には私もこの二週間で人付き合いを学んできた。

 

 

「う"……はい。では何をしましょうか」

 

「座って暖炉の前で出来ることで、勉強以外がいいわね!」

 

「パンジーの課題ってのもありだけど……こないだ届いた雑誌にタロットがついてたから占いなんてどう?」

 

「いいわね!!!それにしましょ!!!」

 

 

 

 

タロット占い、か。

それぞれのカードの絵柄の意味くらいは知っているけれど、並び方や向きによって意味が変わるのだったか……よく覚えていない。

 

それよりも、占いといえばそれを行うのが魔法族に限らないと言うところが面白い。

ケンタウルスなんかは星読みで有名だが、人語を解する……いや、種族間の言語がある生物にはだいたい占いという文化がある事を知る魔法族は少ない。

 

なにより、マグルにだって占い師という職業が成り立っているのだから本当に面白いものだ(その多くは魔法族同様ペテンまがいだがたまに本当に運命を見通す者もいるらしい)。

 

 

とはいえ、占いを私が信じるかはまた別の問題なのだが。

 

 

 

******

 

 

 

「さすがに休日の昼から寮にこもってる人は少ないわね」

 

「えぇ、今日はいい天気だもの」

 

 

 

スリザリン寮に戻り、今はダフネが寝室へタロットを取りに向かったのを暖炉の前でパンジーと待っているところだ。

 

 

 

パンジーとダフネに諸々を任せつつ、手持ち無沙汰に身に付けている魔法具のメンテナンスを行う。

 

ローブの下というより、内側には収納スペースがこれでもかとつけてあり例のごとく父様による魔法がかけられている(とはいえ、ポーチやトランクに比べて素材の耐久性に劣る事からそこまでの重量は入らないしサイズも限られる)。

 

 

日々しっかりとメンテナンスを行うこと。

 

これは魔法具に限らず必要なことだ。

杖しかり私達生き物にしても。

 

 

 

「サルースは何か忙しそうだからパンジーの後ね?さ、ここからカードを選んでいって……」

 

 

寝室から戻ってきたダフネが私とパンジーの向かいに座りカードを混ぜ、切る。

 

手際よく切られていくカードの裏面には天体の絵柄が描かれており、太陽を中心にくるくると絵の中の星々が廻っている。(なお太陽の真ん中には黄金に輝く杯とそれに巻き付く蛇の刻印があるわけだがあえてそれについては触れない事にする。)

 

 

 

ぺらりと軽い音を立てながら捲られていくカードの絵柄は魔法生物であったり魔法使いであったりと様々だ。

 

マグルのタロットとは多少絵柄は変わるがおおよその意味や種類は変わらない。

 

 

 

今年の恋愛について占いを行っているらしい2人を眺めていると、"年頃の女の子"の思考を学んでいるような気持ちになる。

 

 

 

 

なにせ自分には恋愛というイベントに対する実感がない。

せいぜい『恋に効く』『想いを成就させる』という謳い文句が圧倒的に女性のお客様に好かれるという一般向け魔法具販売の理由付けに使える、というスパイス程度の認識だ。

 

興味がないわけではないのだ。

魔法具における呪い、金運上昇、恋愛成就という三大巨頭の一角を担っているのだから。

 

 

 

まぁ……シンプルに結果に喜んだり凹んだりと忙しいパンジーを眺めているのは面白いというのもあるけど。

 

 

 

 

「パンジーには好きな人がいるの?」

 

 

 

「ん?!?な!!!違うわよ!!!!!素敵な人が現れないかなってそういう!そういうことよ?!???」

 

「……パンジーうるさい。サルースが怯えてるでしょ」

 

 

 

 

ふと、こぼれた私の問いかけに盛大に動揺を見せたパンジーの大声にびっくりしてしまい、跳ねた体の硬直をそのままにパンジーとダフネを交互に見比べてしまった。

 

けして、怯えた訳じゃなく、びっくりしただけだ。

 

 

 

「ん"ん……ゴメンねサルース、でもほんとに違うからね???」

 

「え、えぇ。大丈夫、ちょっとびっくりしただけよ」

 

「……まさかサルースから恋バナを振られるなんてね。意外だったわ」

 

 

 

 

 

恋バナ……確かに夜寝る前の少しの時間、それぞれが寝るまで交わされるどこの寮の何て先輩がイケメンだとか誰と誰が付き合っているだとか、そんな話題に私は相槌を返すくらいの反応しかしていない自覚はある。

 

 

 

「サルースも恋愛占いする?」

 

「ん……そうですね、せっかくですからお願いしますわ」

 

 

 

ダフネが先程と同じ手順でカードの山を作り、直感のままにその中から選ぶ。

 

雑誌の付録として占術というより簡易的な魔法具の側面が強いこのカードは占い手(今回はダフネ)が杖先をカードの表面に当てるとその意味をカードの絵柄自らが説明してくれる仕様になっている。

 

 

カードの中の住人が語ることで難解な各種カードの意味を覚えなくとも占いができるようになっているのだ。

 

 

所詮はままごと、とはいえ大人向けのそれは高名なタロット占い師監修のもと作ったのだから場合によっては……本当の占いをしてくれるのかもしれない。

 

 

 

さて、私の占い結果はというとだ。

待ち人来ず、時期尚早、されど己を磨き鍛練を怠るな。

と、なんだか良くわからないけれど私にはまだ恋愛は早いとそう言うことのようだ。

 

「まぁ、サルースだしねぇ」

 

「えぇ。サルースだものねぇ」

 

 

二人揃って深く頷かないでほしい。

 

 

 

 

 

 

さて、その後しばらくスリザリン女子の間で談話室の過ごし方にタロットが流行るのはご愛敬というやつだろう。

 

皆様お買い上げありがとうございました。

 

 

 

 

 




言わずもがな、サルース自作のタロットカードでした。


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24

翌日、改めて五階にある鏡の廊下へとやって来た私達。

トライ3回目にしてやっと、この先へ行くことができそうである。

 

 

はじめて見つけたとき同様に、装備を整えてから鏡の縁へ指を這わせその裏側にある仕掛けに触れる。

 

カチリと、軽い音を立てて未知への扉が開く。

 

 

「さぁ、行きましょう!パンジー!ダフネ!」

 

「はいはーい、元気なのはいいけどまた倒れないでよね」

 

「そうよ、昨日のこと忘れたとは言わせないわよ?」

 

 

 

「ぅ……はい、心得ておりますわ」

 

 

壁際の燭台に火を灯し、それに追従して下方の燭台へと移っていく灯りを確認してから階段へと足を踏み出す。

下へと弛く螺旋を描いて降りる石段はとても古く所々で端が欠けており、杖先に明かりをつけて一段ずつ照らしてやっと安心できるような有り様だった。

 

両サイドに灯された燭台からは氷柱のように埃が垂れ下がり、薄暗さを増している。

この隠し通路は屋敷しもべ妖精達にも知られていない事が明らかだ。

 

進む毎に空気が冷えていくのもまた、恐ろしげな雰囲気に拍車をかけているようで、後ろのパンジーはどうやらあまり得意ではないらしい。

 

 

 

下からは土の臭いを含んだ風が来ているようだから、やはりこれは外へ繋がっているのだろうか……?

 

 

 

 

 

「うぅ……埃っぽいわね……」

 

「ほんと、なんでそうサルースはどんどん進めるのかしら……何か住み着いていたらどうするつもり?」

 

「え、何かって何よ……なんかいるの?!ちょっと……ダフネ???」

 

「知らないわよ、サルースは気にしてないみたいだし大丈夫だと思うけどね」

 

「えぇー……」

 

 

 

 

二人が何やら心配しているようなので、私が臆せず進んでいる理由を懐から取り出して見せる。

 

 

「お二人とも安心してください。隠れている者への対策はこちらで行っておりますわ。『隠れん防止器』といって潜んでいるものを察知して教えてくれる魔法具なのです」

 

 

もちろん、市販の物の改良型である。

コマのようにくるくる回るのは同じだが何かを察知した場合、けたたましい音を立てるのではなく強めの振動を起こすようにしたのだ。

 

なぜって……?

 

 

隠れている者を驚かせて、相手が逃げてくれるような状況ばかりとは限らないでしょう?

逆上して杖を振られては意味がない。

 

家に設置するような物なら音を立てるままで良いのだけど。

 

 

 

「それから、私がつけているモノクルこれは『探査万能眼鏡』と言います。拡大望遠録画の機能に加えて熱を視る機能もあるので隠れている生き物は見逃さないはずですわ」

 

 

 

「はず、なのね。」

 

「こちらは視界に入っている場所しかわかりませんので……はず、です」

 

「はぁぁ……」

 

 

 

パンジーの大きな溜め息を聞き流し、話ながらも止めていなかった足をさらに下段へと進める。

 

そのまま5階の高さよりもう少し程降りたところで道は平坦になった。

 

 

先程までの階段には壁沿いに蝋燭があったが、ここから先はそれもないらしい。

 

 

完全に上下左右が土壁だ。

 

 

 

……さすがに周囲が崩落したらいまの装備ではどうしようもない上に、後ろの二人は確実に命を落とす事になるだろう。

 

 

 

「『ルーモスマキシマ』……ふむ。先はあるけどこれ以上は危険、ね。二人とも帰りましょう」

 

 

「え、いいの?というかここまで来たなら先まで気になるじゃない」

 

「私はサルースに賛成よ。そもそもさっきまで人の腕にぶらさがって帰りたいってぶつぶつ言ってたのは誰でしたっけ?」

 

 

肩が凝っちゃうわ、なんて言いながらパンジーに掴まれていた方の腕を回すダフネ。

……まるで母様のような口振りだ。

 

 

たしかに、ここまで来たら先が気になるのも頷ける。

 

ここからなら、いけるだろう。

 

 

「それなら、危なくない方法を試してみますね」

 

 

懐から小さなフクロウの人形を取り出す。

杖をあて定められた回数とリズムで触れながら、パスワードを呟く。

 

そうすると、あら不思議。

エサも排泄物や抜け羽の心配もない等身大のフクロウへと変化した。

これは屋敷が一軒建つくらいには高価な魔道具だとだけ言っておこう。

 

……我が家にいるフクロウ達からはとても嫌われているけれど。

 

 

さて、そのフクロウの首へモノクルをかける。

もちろん、録画の機能を起動した状態で、だ。

 

 

「この先をみて、戻ってきてください」

 

 

 

 

これで、魔道具に込められた変身術が保つ間は飛んでいってくれる。

階段の上(鏡のすぐ側)からこれを行っても良かったのだが、それでは楽しくないからやめた。

 

だってこの探検は効率よりも己が楽しめるか否かを優先させたかったのだもの。

 

 

「……サルースのローブの中ってどうなってるのよ?」

 

「さぁ?とにかく高級グッズまみれってことは間違いないわね。あれ2つだけで魔法省の高等事務次官の退職金くらいは確実よ」

 

「うわ…それっていくらよ……うちの寮って貴族が多いけどバーク家って実はぶっちぎり?」

 

 

ひきつった顔でこっちを見ないで欲しい。

フクロウ人形に関しては高すぎて売れたことないのはこういうことか。

 

 

「飛び抜けてそんなことはないですよ?確かに純血貴族と言われるだけあって屋敷も領地もありますけど……魔道具の収入ってそんなにないんですよ。これらを作るための材料代もバカになりませんし、そもそも趣味で作っているようなものがほとんどですから出費のほうが多いくらいですし……」

 

 

私のブランドが軌道に乗るまでは、ほんとに魔法具屋なんて一部の貴族のためだけに存在しているような状態だったのだ。

 

貴族層が使うものとなると、闇の魔法使いと結びつけられやすく私が生まれる頃にはもう細々とやっていくしかない未来だった。

 

 

まぁ……いろいろとうちの家にもあったわけで本格的にお金を生むために製品イメージの改善や幅広い発明品の展開でいろいろ持ち直したけど。

 

 

……ってそんなことはどうでもいいわね。

 

 

ぽつぽつ会話を交わしながらフクロウが戻ってくるのを待つ。

 

 

 

そう長くない時間のあと、バサリと私の目の前に戻ってきたフクロウを小さな人形に戻して懐へ戻しつつモノクルも回収。

 

 

 

「さ、まずは寮へ戻りましょう?」

 

「お楽しみは後からってわけね」

 

「二人とも……というよりはサルースね、この階段戻れるの?」

 

 

 

……下ったら上がらないといけないことを忘れていたわ。

 

 

 

 

 



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25

本日2回目の投稿になります。


息も絶え絶え、なんとか五階の廊下まで戻ったところで次はスリザリン寮(地下)へと移動し、と過酷な移動を強いられたことで私の意識は風前の灯火……と、フラフラになりつつ寮の部屋へ3人そろって各自ベッドに倒れ混むことになった。

 

 

 

「つ"かれ"た……っ……!!!!!」

 

「五階まで上って地下まで下るって……よく考えなくても最低な効率ね……サルース生きてる?」

 

 

「……」

 

小さく頷くことで返事を返し、淑女らしからぬ態度で倒れている事には今だけそっとしておいてほしい……

 

懐から『疲労回復薬』を取り出し煽ること何回めか。

 

上り階段の途中で三回を超えた辺りから明日にふりかかる疲労を思って数えるのをやめた。

 

 

用法容量は守らないとだめなんですよ。

多少薄めてあるので医務室のお世話になることはないと信じたい。

 

 

「ん"ん……はぁ、もう大丈夫です。お二人もチョコレートいかがですか?ちょっとだけ元気になる薬が入ってますので」

 

「もらうわ」

 

「……ありがとう、これ中毒性とかないわよね?」

 

 

ないですよ。

 

 

さて、と気を取り直してモノクルを取り出し、機能を調整する。

3人のベッドから真ん中に当たる壁にレンズを向けて机に置く。

 

 

「『記録確認』『投影せよ』……と、これでいいですね、2人とも見えますか?」

 

「「えぇ、もうなにも言わないわ」」

 

 

結構自信作なので何か言ってくれた方が嬉しいんですけども。

 

フクロウの視点から見た先程の地下通路の様子が壁へと映し出される。

 

「『見せよ』……ちょっと酔うかもしれませんね」

 

「あー……フクロウの羽ばたきで揺れてるわけね」

 

「うわ……本当にコレいくらすんのよ…」

 

 

 

フクロウが私の手元から飛び立ったあとの様子を映し出していく。

私の杖明かりが届かなくなった後は一瞬暗闇になったものの、すぐに闇視ゴーグル機能に切り替わったのか白黒の画面に切り替わる。

 

 

 

しばらく……50メートルも進んだだろうか。

フクロウは行き止まりに行き当たったらしい。

 

通路は崩壊しているらしく土や石で塞がってしまっていた。

 

 

 

「あら……行き止まりになってたんですね」

 

ある程度予想はしていた私と、

 

 

 

「うーんまぁ……分かっちゃうと拍子抜けっていうか」

 

残念そうなパンジーと、

 

 

 

 

「私達がいるときに崩れなくてよかったわね」

 

それはそれとして、どこか安心した様子のダフネ。

 

 

 

「「えぇ、ほんとに」」

 

それぞれの様子になんだか可笑しくなってしまい、3人とも顔を見合わせ笑ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

小さな冒険を楽しく終えたところで、その日は夕食のために大広間にいこうにも3人とも埃と土と汗の匂いが酷かったので先にシャワーを浴び、疲れからご飯も食べずにそれぞれ寝てしまったのだった。

 

 

 

……翌日の朝はダフネとパンジーに、引きずられるようにして朝食を抜いた私が呪文学の教室へと連れていかれ、午前最後の授業だった魔法史の授業では3人揃ってお昼寝の時間になった。

 

 

 

 

「サルース……昨日の夕食からたべてないだろ?」

 

「ドラコおはようございます。お腹すいてませんので大丈夫ですよ?」

 

「あー……今はランチの時間だし、さっきまで授業が一緒だったけどおはよう。それはそうとサルースはともかくパンジーとダフネまでそんな様子なのは珍しいな?」

 

 

「はぁいドラコ。ちょっと昨日の疲れが残ってるのよ」

 

「そうね、どうしてこんなにも効率の悪い教室の配置なのかしら……上がったり下がったり移動距離が無駄。とにかく無駄」

 

 

「お、おい…本当に大丈夫か?ってサルース!それサラダのソースだ!!!スープじゃないぞ!おい!」

 

 

 

ランチよりもお昼寝がしたい私の両サイドにいつも通り座っているパンジー達もきっと同じ気持ちなのだろう。

 

いつもなら嬉々としてドラコの声に答えるパンジーも元気がない。

 

 

「ほら、こっちだ。ったく休日に疲れを溜めてどうするんだ……次は魔法薬学だぞ?スネイプ教授を怒らせるなよ」

 

 

何故かドラコから手渡されたポタージュを飲みつつ、午後の予定を思い浮かべる。

 

さっきの魔法史でだいぶ回復したし、おそらく大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

と、考えていた私は甘かったらしい。

 

 

魔法薬学の授業はグリフィンドールとの合同授業。

ただでさえスネイプ教授は厳しい方なのに、何故か親の仇のように嫌っているハリーによってご機嫌は最悪。

それから壊滅的に恐ろしい失敗をやらかすロングボトムさん。

 

そして、

 

 

 

 

「バークさん、私の鍋も見てもらえるかしら?」

 

 

「は、はい。構いません……が、問題はないかと思います。えぇ…少しニガよもぎの汁が少ないみたいですから1滴加えた方が整った仕上がりになるかと思いますわ……」

 

 

 

「……わかったわ」

 

 

 

 

何故か物凄く敵視されているらしい、グリフィンドールの才女こと、グレンジャーさんだ。

 

初日の授業でのことが随分とお怒りの様子で、以降出会うたびにこんな調子で話しかけられる。

 

 

怒ってるわけでも睨まれてるわけでもないのだけど……とにかく勢いというか圧がすごくて怖いのでできれば構わないでほしいというのが、私の感想である。

 

 

 

 

「サルース!僕の鍋もいい?」

 

「はい!ハリーはそうですね……ここまで進んでいるのなら、教科書のこの部分、ここさえしっかり行えばあとは問題なく完成まですすめられるわ」

 

「そっか、ありがと」

 

 

 

毎回ハリーに気を使われるのも申し訳ないというのもあるし。

 

 

 

「サルース私達そろそろ終わりそうだと思うわ」

「ちょっと見に来てくれないかしら」

 

「えぇ、勿論」

 

 

グリフィンドールの人達と話した後のスリザリンの皆さんの様子もなんだか目が怖い。

 

 

 

 

「……静かに行いたまえ」

 

 

あとスネイプ教授も。

 

 

 

 

 

 

はぁ……、私も調合する側にまわりたい。

 

 

 

 

 

 

 

 



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26

魔法薬学のたびにこれでは……と、スネイプ教授に抗議すべく、授業後少し地下室に残ることにした。

 

 

もちろん、使用済み教材たちの清掃も行う。

あるべき場所へあるべき姿で。

口ずさむように呟くのは母様の癖がうつったから。

 

 

たぶん、杖のひと振りで片付けることも出来るけれど使った道具は手作業で戻したいと思うのは変だろうか。

 

道具の状態も確認できるし、いいと思うのだけど。

 

 

 

「それで、我輩に何のようだ」

 

 

普通に片付けに夢中になってしまっていた。

 

 

 

 

「あ、すみません。私が授業のお手伝いを行うという件ですが……」

 

 

「今年一年は続けてもらうが何か問題でも?」

 

 

 

問題……は、授業の雰囲気が悪いことなのだけれど、これは私が助手でも生徒でも変わらないだろう。

 

スネイプ教授を納得させるにはどうすべきか。

 

 

「僭越ながら……何度か授業を重ねて、調合時の危険性については皆さん身を持ってお分かりになられたかと思います。それにグレンジャーさんをはじめ調合に不安のない方も多い中私だけ調合免除となりますと不公平かと……」

 

 

 

二人係で見て回る必要がなくなってきたこと。

薬を完成まで仕上げられる人が少なからずいること。

 

 

「何より、私が調合を先生に見ていただきたいという…事なのですけれど……」

 

 

せっかくプロがいるのだ。

私とて学びたい。

魔法薬は作り手によって個性が出る。

 

私の場合は効率よりも効能をとるから少々製作に時間がかかるし、使う材料にも人一倍気を付けている。

自宅で栽培する(屋敷の温室でプティが作ったもの)程度には手塩にかけて、魔法薬を作り販売していた。

 

 

スネイプ教授の場合は効率なのか、独創性なのか、味なのか、見た目なのか。

 

授業の様子を見るに一番は正確さ、それから効率だろうとは思うけれど。

 

 

「……フン。よかろう、授業中の助手については1年続けてもらう。加えて、授業後、我輩の調合を手伝いたまえ」

 

 

 

んーーーー。

後半部分だけ受け入れられたと、言うわけか。

 

 

スネイプ教授の調合を近くで見られるなら、授業中のお手伝いくらい仕方がないかとも思える。

 

 

「助手と名乗らせていただける程のものではありませんが……宜しくお願い致しますわ」

 

 

 

 

 

当初の目的とは違うものの、より大きな利益を得られた気がするので良しとしましょう。

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんなわけで魔法薬学では変わらずお手伝いのためぐるぐると教室を回る役を仰せつかり。

 

加えて夕食後、調合の見学と少しのお手伝いをすることになった。(教授御自身の「こなさなくてはならない調合リスト」の羊皮紙が二巻きを超えた時は空き時間に勝手にやらせてもらえる)

 

 

 

 

 

そして夕食後。

 

 

 

「フレッド、ジョージ、ご機嫌よう」

 

 

「「やぁ!サルース!!」」

 

 

談話室への道でパンジー達と別れて、薬草学の部屋へ向かうと扉の前に二人がいた。

 

どうやら目的地は同じらしく、どっちが先に入るのかでもめているようだった。

 

 

 

「お二人もお手伝いですか?」

 

 

 

「そぉんな崇高なものじゃないね」

 

「まぁ言い様によってはそうとも言える」

 

「「サルースは何をやらかしたんだ??」」

 

 

「やらか…………いえ、私は教授に頼んで魔法薬の授業をうけに来たのですわ」

 

 

 

「「マーリンの髭……」」

 

 

 

大袈裟にくらくらと、倒れて見せた二人はどうやら罰則でここへ来たらしい。

 

この人達こそ何をやらかしたのだか。

 

 

「スリザリンの才女様が罰則な訳なかったか」

 

「我らがグリフィンドールの才女様が御執心って噂だからな」

 

 

 

「なんですかそれ……」

 

 

 

グリフィンドールの才女の名前はスリザリンでも有名だ。

ハーマイオニー・グレンジャーさん。

マグル生まれの天才らしい。

 

図書館でも良く見かけるし、読んでいる本は2学年程上の内容のもののようだから確かに彼女はとても優秀なのだろう。

 

 

スリザリンの才女、とは初めて聞いた。

話の流れからして私の事らしいが……

 

スリザリンのビスクドールだとか、蛇寮の小さい子とか散々言われているいるのは知っている。

 

 

 

「グリフィンドールじゃ有名だぜ?」

 

 

スリザリンではそうでもないと思うけれど……まぁいいか。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、行きましょう?教授を待たせてしまいますわ」

 

 

「「げ……」」

 

 

 

軽く扉を叩けば、暫く中から扉が開かれた。

 

 

するりと、私の後ろにまわった双子に首をかしげつつスネイプ教授へ訪問の目的を告げれば中へと通してもらえた。

 

 

 

「そっちの双子は鍋を磨きたまえ。杖無しで、だ。……バーグはこのリストの品を選り分けて持ってきたまえ」

 

「「仰せのままに~」」

 

「承知致しました」

 

 

ずるずると足を引き摺りながら山となった鍋のもとへ向かう双子を憐れに思いつつ、私も材料保管棚へと向かう。

 

 

瓶に浸けられた魔法動物の素材や乾燥させ吊るされている植物の素材。

鍵のかかった瓶に詰められた粉末や、何かの汁。

 

 

とても充実しているし、保管のされ方も完璧なのだろう。

 

 

屋敷にある私の地下室も同じ作りにしようかなんて算段をたてながらリストの中の材料を少し多めに集めていく。

 

 

 

大きめの銀製のトレーを拝借して、それらを教授と双子のいる部屋へ運び込む。

 

 

大鍋を、火にかけ水を暖めているスネイプ教授へ材料を差し出せば隣の台へ置けとの指示をもらい、そこからは時折手伝いながらも魔法薬が出来上がっていく様子を観察する時間になる。

 

マグル製の『ノート』といつもの『万年インクボールペン』(という、名前で販売されることになった)をかまえ、気づいた点があればメモを取りつつただ無言で作業を見る。

 

 

 

「「……サルースってやっぱりクレバーだよな」」

 

 

「ウィーズリーは発言を禁ずる」

 

 

 

 

 

ちらりと、後ろへ目を向ければ無音で抗議のパントマイムをする二人が目に入った。

 

 

……お二人には負けますよ。

 

 

 

 



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27

賢者の石編、動き出します。


時が流れるのは早いもので、気づけば九月が終わり、十月も最終日。

 

今日はハロウィーンこと、収穫祭だ。

 

 

秋が終わり、冬が始まる日。

 

古代ケルトが起源とされるこの行事。

今ではお菓子を食べ仮装をする日として親しまれているが、魔法的呪いを行うに適した星廻りであるという事はこちらの界隈では常識だ。

 

だからこそ、当時のマグルはこぞって魔除けをこの日に行った。

 

 

 

私たちの世界にとっても、この日は特別な意味を持つようになったのはつい10年程前の事。

ハロウィーンの夜『例のあの人』がハリー・ポッターに敗北した。

 

闇からイギリス魔法界が解放された記念日でもあるのだ。

 

 

 

 

……と、朝目が覚めた瞬間から漂う甘いカボチャの香りに酔いながら、鈍い頭を働かせる。

 

 

 

「パンジー……ダフネ…おはようございます。私……今日は朝食いりませんのでどうぞ置いていって……」

 

「おはよー。うわ顔色すんごく悪いわね」

 

「おはよう、気持ちは分かるわ……私も酔いそう」

 

 

 

身支度を整えて部屋から出れば、私の他にも数人顔色が真っ青で一様にぐったりとした朝食を抜く人達が談話室にいるようだった。

 

 

 

「おはようございます、ドラコも?」

 

「おはよう、サルースは見るからにだな」

 

 

クラッブとゴイルは大広間に行っているのか一人で過ごしているドラコを見つけた。

 

どうやらドラコもこちら側らしく、いつもに増して白い顔をしている。

 

 

 

「今日は1日中こうなのでしょうか…」

 

「朝からこれだからな……諦めたほうがいいんじゃないか」

 

 

二人がけのソファをドラコに詰めてもらい、隣に座る。

私が小さいこともあり、二人で沈み混んでいてもまだまだ広いスペースで揃って項垂れる。

 

 

「とてもお菓子をねだる気にはなれないわね……」

 

「そうだな、でも常備はしておく」

 

「あら、残念です。せっかくイタズラできるチャンスでしたのに」

 

袖口から蛍光ピンクのペンを覗かせてみせれば、興味を持ってくれたのか、ドラコの頬に血の気が少し戻った。

 

 

 

「それ、なんだい?」

 

「イタズラグッズですね。これで描いたものはピカピカ光ってとても強烈に主張してくるようになるという」

 

「いくらで譲ってくれる?」

 

 

 

 

タダでよこせと言わないところが、ドラコの育ちの良さが出ている。

 

 

さて、通常7シックルのこの製品。

 

 

「未使用品、お友達割の初回特別価格で……3シックルでいかが?」

 

「買おう」

 

 

毎度ありがとう御座いますと、ペンを差し出しつつついでに小さなミントカラーの飴も差し出す。

 

「こっちは?」

 

「気分が優れないときに舐めれば頭と胸をすっきりさせてくれるミント味のただの飴ですね、ハッカ入りです」

 

 

「そうか、ありがとう」

 

 

 

3シックルと一緒にお返しのチョコレートをもらった。

 

 

 

 

******

 

 

 

ドラコにイタズラグッズを売り渡したところで、お菓子と一緒に小さめのゾンコの在庫品を持ち歩くことを決め、一度部屋へ戻り懐を満たす。

 

 

談話室で、先程のやり取りを見ていた上級生から自分にも何か売ってくれと囲まれたのでしっかり儲けさせてもらった。

 

そんなことをしている間に甘ったるい匂いにも慣れ、胸焼け程度に酔いは治まった。

 

 

……朝食から戻ってきた人達がさっそく犠牲になったのは私の商品PRにとても役立ったとだけ。

 

 

スリザリン寮だけでもだいぶ売れたが、せっかくなのでもう少しリーズナブルな品を他寮の友人にも売ってこようかと、早めに寮を出ることにした。

 

 

 

 

 

「ロン!おはようございます」

 

「お、おはよ。サルース……なに?」

 

 

にっこり笑顔で話しかければ、何故か一歩引かれる。

 

 

「トリック・オア・トリック、イタズラされてくださいませんか?」

 

 

「うえ、フレッド達みたいなこと言うなよ!」

 

 

早速タイミングが良いのか悪いのか、大広間からの廊下を1人で歩くロンに出会えた。

 

 

 

「あー……あの二人と一緒にされるのはちょっと………きゃあ!」

 

「「連れないこと言うなよ」」

 

 

突然背後から両肩に重さが加わり口から悲鳴がもれた。

 

ついでに重さに耐えられず、よろめいたのをロンに差し出していた腕を掴まれたことで転ばずにすんだのでロンには優しいイタズラにすることが決定した。

双子に関しては、しっかりコースだ。

 

 

「フレッド!ジョージ!サルースが転ぶだろ!」

 

「ロン、ありがとうございます。お二人ともおはようございます、トリック・オア・トリートいかがなさいますか?」

 

「失敬、サルースがか弱いことを失念していた!」

「そして我らが愚弟がグリフィンドールらしい騎士道精神をお持ちだったことも失念していた!!」

 

 

「おい!」

 

 

 

ニヤニヤと、同じ顔から向けられる視線が私とロンの間を往き来するのをみつつ、問いかけの答えを待つ。

 

 

「「もちろんトリックで!!!!」」

 

「ふふっ……期待通りですわ。お二人ともこちらの袋をどうぞ!あ、ロンはこれを」

 

 

「え"、ボクはいいんだけど」

 

 

渡された袋に喜ぶ双子はとりあえず置いておき、ロンには袋を押し付ける。

パチリとウインクをしつつ開けてみろと手で示せば、恐る恐る従ってくれるらしい。

 

 

 

巾着状の袋を開けると、ポフンと軽い音を立てて一瞬煙が上がりロンの顔が煙で見えなくなる。

 

 

 

「うわ!……ん?何か変わったかな?」

 

「わぁお。ロンの髪が真っ黒だ!」

「それにイカしたイヤリングだ!」

 

 

 

自分達の袋を開ける前にロンの様子を見ていた双子には変化がわかったらしい。

と、いっても見るからに変わっているので気付かないのは本人だけだが。

 

 

「はい、鏡ですわ」

 

「ありがと、うーわ!赤毛じゃなくなってる!!!それにこれ…ドラゴンに赤い石!これルビー?」

 

「ガーネットですね、調合の残りで余ってたので作りましたわ。ドラゴンのモチーフは着ける度にポーズが変わるのよ?」

 

「鏡ありがと……これもらっていいの?」

 

 

「えぇ、もちろん!午前中は髪色も戻らないと思うので先生方に怒られたらすみません」

 

「そんなの何て事ないよ!サルースありがと!!あ、これお返し。貰い物なんだけど…すっぱいペロペロ酸飴」

 

「ありがとうございます、ハニーデュークスのお菓子ですわね!呪文学のときに食べようかしら」

 

 

 

さて、これは当たりのイタズラ。

女性陣用にここ最近作り貯めていたシリーズだ。

……もちろん(今は)非売品のため(今はまだ)持ち込み禁止グッズにはのっていない。

 

 

 

 

「「次は俺たちの番だな!!!」」

 

 

 

芝居がかった仕草で袋を掲げ持つ二人から、そっと距離を取る。

もちろん、傍らのロンの腕を引くのも忘れない。

 

 

 

ロンと同じように巾着状の袋を一息に開く。

 

 

 

バンッ!!!と、大きな音が二回、三回、四回。

先程と同じく二人の姿は一瞬で煙に包まれ、全身見えなくなる。

 

音と一緒に煙幕の中に閃光が走るため、とにかく派手だ。

 

 

 

さて、そろそろ終わる頃かしら。

 

 

 

煙が晴れると同時に周囲から笑い声が沸いた。

 

 

 

 

ひと昔前のフランス貴族のような立派な巻き髪(女性用夜会巻き)に、ピエロのようなメリハリのある厚化粧(白塗りに真っ赤な丸い頬に麿眉)、そして素敵なベビードール(女物)。

 

 

を、纏った双子が現れたからだ。

 

 

 

お互いを指差しあい腹を抱えて笑っている双子を眺めつつ、こちらの仕掛けもうまくいったことに安心する。

 

さすがにコレは自分では試していなかったのだ。

 

 

 

 

いつの間にか出来ていた生徒の輪のなかで、拍手喝采笑いにあふれた空間に満足しつつ、そろそろ騒ぎを収めに先生方が来る頃だろうと、視線を巡らせれば、ご機嫌が優れない様子のマクゴナガル教授が大広間から出てくるのが見えた。

 

 

「ではロン、そろそろ私は行きますわね!ご機嫌よう!!」

 

「ん?うん!またね!」

 

 

小さい体格を活かして、輪の外へ抜け出しそそくさと闇の魔術に対する防衛術の教室への移動を開始する。

 

「ウィーズリー!!!!そこで何をしているのですか!!!!!」

 

「「ご機嫌ようマクゴナガル女史」」

「フレッドリアンヌと」

「ジョージフィーヌですわん」

 

 

「お二人とも昼食後は私の部屋に来るように!!!他の皆さんも授業へ遅れますよ!移動なさい!」

 

 

 

 

 

やれやれ、危機一髪だった。

ちなみにあの化粧とカツラも昼頃まで取れないので悪しからず、だ。

服は脱げば戻るので二人が着替えることは可能だ。

 

……あのまま授業はさすがにちょっと周囲が不憫すぎる。

 

 

 

 




フレッジョが出てくると1話あたりの文字数が増えてしまう……


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28

同日投稿です。
ご注意ください。


女装(意訳)の双子を生け贄に、大広間前の騒ぎから遠ざかりつつ、懐とポーチの具合を確かめる。

 

まだまだ非売品のイタズラグッズ達はたくさんあるので今日という日を存分に活かそうと思う。

 

 

 

ちなみに、スリザリン寮の談話室で売り捌いたグッズは私のブランドのロゴが入った正規品。

ウィーズリーの二人に渡したものは試作品のためロゴなし、そのため売るのではなく使ってもらった。(勿論、安全性は保証している)

 

 

ふと、物陰に誰かがいるような気がして立ち止まるとやはり、柱の影に誰かいるらしい。

 

 

「あの……大丈夫ですか?気分が優れないようでしたら先生を呼んできますが……」

 

「ば、バークさん……ここんにちは、だ大丈夫ですよ。どうも、ありがとう」

 

 

 

 

先生を呼んでくるもなにも、クィレル教授だった。

彼はこれから向かう、防衛術を担当されている教授だ。

蒼白な顔色は、ハロウィーンの匂いにやられた口だろうか。

 

 

「失礼致しました、良かったらこちらをどうぞ。舐めると気分がスッキリしますわ」

 

「あ、ありがとう。私の事はいいので、さ先に教室へむかってください」

 

 

「はい、失礼致します」

 

 

 

教科書に沿って、時折実践も交えつつ堅実な授業を行うクィレル教授は今年からこの教科につかれたとのこと。

もとはマグル学を教えてらしたらしい。

 

ホグワーツで教鞭を取れるだけでも優秀な魔法使いだと言うのに、教科を変えても可能だなんてとても優秀な方だ。

 

 

 

夏期休暇にルーマニアで吸血鬼に襲われたことで、とても臆病な様子になられたというのは先輩方が教えてくださった情報だ。

 

元々、大人しい方ではあったもののニンニクを詰めたターバンやどもった話し方ではなかったらしい。

 

 

吸血鬼に遭遇するだけでも稀なことなのに、撃退して帰ってきたのなら確かに闇の魔術に対する防衛術の教授としてはふさわしいだろう。

 

 

 

 

******

 

 

「あ!こっちこっちー!」

 

「あら、意外と平気そうね?」

 

 

「お二人とも席ありがとうございます。はい、匂いに慣れてしまいましたわ……それにハロウィーンは我が家のPRにもってこいだって気付きましたの!」

 

 

防衛術の教室についてすぐ、パンジーが呼んでくれたので二人のもとへ行くとどうやら二人はまだイタズラの餌食にはなっていないらしい。

 

 

教室のそこかしこでピンクや黄色、白、紫とピカピカ光る点滅が見える。

 

蛍光ペンの餌食になった人達が多々いるせいだ。

 

 

 

「どうりで、見たことも聞いたこともない変なペンやガムが流行ってるのね」

 

「え"、あれサルースが原因だったの?」

 

「お二人はご無事な様子で何よりですわ。ちなみにあのペン、消すのは『フィニート呪文よ終われ』かオイルの化粧落としで消えますよ?」

 

 

ちなみに、水で擦るとより鮮明に光るようになる。

 

 

先生方に迷惑をかけるのも、と思ったので大人なら誰でも知ってる一般的な呪文で消えるようにしたのだ。

 

あ、『スコージファイ清めよ』だと、色が変わる上に泡の冠が呪文に反応して発生するだけなのでそこはご愛敬。

 

 

「パンジー、少し頬を借りますね?」

 

「え、ちょ。えー……」

 

「ほら、じっとしてて」

 

蛍光ペンのピンクを取り出し、パンジーの頬にハートを描く。

 

ダフネが固定してくれているのでとても描きやすかった。

 

 

「『スコージファイ清めよ』ほら、可愛いでしょう?」

 

「なになに?あ、ほんとだコレなら許すわ」

 

「ほんとね、泡がカチューシャみたいになってる」

 

 

 

鏡を見せつつ、左目の下に小さなハートを3つ。

呪文に反応して発光と点滅が止まり、色は赤に。

それから虹色の泡が頭を彩っている。

 

けっこう可愛い仕掛けになっていると思う。

 

 

 

はいどうぞ、と頬を借りたお礼にペンをプレゼントすればパンジーがダフネにも同じようにハートを描いた。

 

「サルース!貴女も!」

 

「えぇ、お願いします」

 

 

それから私にも描いてくれたので、それぞれに『スコージファイ清めよ』をして三人お揃いになった。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

さて、そんなこんなで一日中呼び止められては商品を売り。

 

たまに見かける双子の変質者から逃げつつ、ハロウィーンをしっかりと楽しく過ごした。

 

 

 

「サルース!!!なんであの、変態に追いかけられてるのよ!!!」

 

「ちょっと、トラウマものよアレ」

 

 

 

スリザリンの女子にはあまりウケが良くなかったので、クラッブとゴイルで試さなくて良かった。

 

 

 

 

 

 



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29


▼作者はハー子推し、いいね?


一日の授業もすべて終わり、残すはディナーのハロウィンパーティだけとなった午後。

 

なにやら物憂げなハリーと遭遇した。

 

 

彼にとって今日は、御両親の命日に当たる。

トリック・オア・トリートと話しかけるには躊躇われた。

 

ふさわしい挨拶を探している間に、ハリーもこちらに気付いたらしい。

 

 

 

 

「やぁ、サルース!今日は一人なの?」

 

「ご機嫌よう、ハリー。えぇ、パンジー達は私といるとイタズラに巻き込まれるからと言って別行動ですわ。ハリーもお一人?」

 

 

 

女装ピエロ姿の双子に追いかけ回された事がダメだったらしい。

 

事情を話したら、たぶんしばらく怒られるのでそれとなく濁した。

 

 

 

 

「まぁね。ロンはちょっと……ご機嫌ななめでさ。あ、サルースのイタズラはこっちじゃ大人気だったよ!ロンの髪もね!!」

 

「髪のせいでロンが先生方に叱られないか少しだけ心配でしたの、ご機嫌ななめだなんて……またドラコが何か?」

 

「今回はマルフォイは関係ないよ、普段は大体そうだけど……」

 

 

 

 

気まずいですと、言わんばかりのハリーの様子にまたスリザリンとグリフィンドール的な揉め事かと思って尋ねたが、どうやら違うらしい。

 

 

 

「いっそあれは仲良しなのではないかと思うくらい息があっていると思わない?……それなら、ロンと喧嘩でもしました?私で良ければ話をお聞きしますわ?」

 

 

「んー……僕がしたわけじゃないんだよね。ほら、ハーマイオニーとロンがさちょっと喧嘩しちゃって…泣かせちゃったんだよ。それからハーマイオニーの姿が見えなくて…ロンも気にしてるのかピリピリしてるんだよね」

 

 

 

なるほど、確かにそれはハリーも気まずいわけだ。

大方、グレンジャーさんのアドバイスにロンが噛みついたとかそんなとこだろう。

ハリーの様子からして、どっちもどっちか、ロンが言い過ぎた感じかな。

 

 

まぁここはイギリス。

紳士淑女の集う国。

女性を泣かせたのならそれはもうロンが悪いと決まっている。

 

 

「グレンジャーさんが今はどちらにいらっしゃるかはご存知なの?」

 

「女子トイレで泣いてるって聞いたよ」

 

 

 

ランチ前からずっとそこに?

それはまた長いこと……泣き腫らしたお顔で外に出られなくなってしまったのかしら。

 

 

「そうですか……それでしたら寮へ荷物をおきにいく途中ですから、大広間に戻るときに少し様子を見てきますわ」

 

「(サルースがいって大丈夫かな……火に油なんじゃ……まぁいっか)……うん、ごめん。ありがとう」

 

 

 

寝室に目の腫れを取る薬があったはず。

教科書を置いたら、それをもっていくとしましょう。

 

 

 

 

「あ、ハリー?差し支えなければこれ。お菓子ですわ。今日はハロウィーンですもの」

 

「ありがとう!こっちのハロウィンってほんとクレイジーだよね!ハッピーハロウィン、これお返しのお菓子」

 

 

 

差し上げたのは我が家が監修している『いたずらっ子専用ワクワクお菓子』シリーズの詰め合わせだ。

 

今朝売り捌いていたイタズラグッズの中にもこれはあったのだが、こちらはリーズナブルかつ安全なイタズラを売り文句にした、親が子供に買い与えるのに安心な、イタズラをご用意している。

 

 

魔法族的な刺激には欠けるが、楽しいものになっている。

 

 

 

たとえば、舐めると舌から歯、唇と全身の色が青色になる飴。噛んでる間は任意のコスプレが装備されるガム(これは味によって衣装が変わる)。それから食べると体が温まる(40度くらい)チョコレートなどなどだ。

 

 

血が出たり、体の一部が欠けたりしないので見た目に優しいと評判の商品たちだ。

 

 

 

ハリーからの蛙チョコも今日もらったたくさんのお菓子たちと一緒にしまい、それぞれの目的地へと別れた。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

さて、ハリーから聞いたグレンジャーさんのいると思われるトイレに来たところ奥の個室の戸が閉められている事がわかった。

 

-コンコン……

 

 

「失礼ですが、グレンジャーさんですか?」

 

 

「……だれ?放っておいてよ!!!」

 

 

「サルース・バークですわ。ハリーが心配しておりました。……余計なお世話かとも思いましたが……スリザリンの私だから、気兼ねなく愚痴もお話出来るのではないかと思ったの」

 

「そんなの……貴女に関係ないじゃない!!!」

 

「だからこそ、ですわ」

 

 

スリザリンの私になら。

グリフィンドールのご友人には言いづらいことも話せるかもしれない。

 

そもそも、私自身が彼女から好かれていないので鬱憤の当たり先になればいいとも思っている。

 

 

 

「えぇ、ほんとうに余計なお世話だわ……!!!……ほんとうに。…………でも、私貴女に聞きたいことがあったのよ」

 

「はい。何なりとお聞きください。私達、ちゃんとお話しするのははじめてね」

 

 

 

『スコージファイ清めよ』の呪文をかけた床にハンカチを敷き座り込む。

閉ざされた木の扉が開くことはないけれど、話をする気にはなってくれたらしい。

 

 

しばらく、話し出すのを躊躇っているかのような間が空く。

これは完全に私のお節介だから、彼女が話すのを待つ。

 

 

……ホグワーツに来て2ヶ月。

たったの2ヶ月だ。

家族の他には、ほんの少しの親交関係しか持たなかった私が、新しい世界に入り、新しい環境で過ごした。

かけがえのない友人達に恵まれて、日々を過ごしている。

 

家族に会えないのは寂しいけれど、それでも楽しくて幸せに思えるのは友人達のおかげだ。

 

 

……パンジーとダフネ、彼女達からずっと本では得られないものを、教えられ与えられてばかりいる。

 

二人なら、友人が困っていたらそれがどんなに困難なことでも手を差し伸べてくれるだろう。

彼女達なりのやり方で、きっと寄り添ってくれる。

 

私のために、怒ってくれる。

 

だから二人の真似をしてみようと思った。

 

 

 

グレンジャーさんからは嫌われているけど、私は彼女が嫌いではないのだ。

だって『マグル生まれの才女』が誰より気にかけているのは私だと自負がある。

 

 

 

 

「……貴女にはどうして友達ができるの?」

 

 

ふと、沈黙のなかに声が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 






サルースのイタズラグッズをもっと書きたいけれどそれをやると終わらない悲しみに苛まれている。

ハー子の出番がやっと!!!やっと!!!!!


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30

 

 

どうして友達ができるの?、か。

 

 

薄々気づいてはいた。

 

図書館や大広間、授業の移動で見かける彼女はいつも一人だったから。

 

 

 

「そう、ね。まずひとつは運が良かったからかしら。スリザリンの私にとって『間違いなく純血であること』はとても大きな伝になるわ。友人であることにある種のブランドがあるから」

 

 

そうして話しかけてくださる方々はたくさんいた。

同輩に限らず、先輩方も。

 

とはいえ、スリザリンは寮生が家族のように縦にも横にも繋がっている。

それがなくともよっぽどの何かがない限り、何とかなったとも思う。

 

 

ただハリー達から聞くグリフィンドールではそうはいかないだろう。

 

 

 

「もうひとつは、私達スリザリンは仲間意識がとても強いの。だからたとえその生まれがマグルであろうと、群れから追い出したりしないこと。集団行動をしなくては怖い思いをすると、よく知っているのよ」

 

 

なにせ、私達の親世代はまさしく、グレーなのだ。

子供である私達にも報復という危険が常にある。

とくに、純血一族には根強くその意識がある。

 

 

「ひとつは……そうね言い方があっているか分からないけれど、私がとても世間知らずであったこと。髪の結びかたも知らない、1日に三食食事を取る事を億劫に思い、教室の移動で倒れるくらい体が軟弱で…そんな私の生活を友人達が支えてくれているわ」

 

 

朝から晩まで、お世話になりっぱなしなのだ。

 

 

 

 

「そして最後のひとつ。私は私の友人達を尊敬しているわ」

 

 

 

 

長い私の語りを黙って聞いていたグレンジャーさんの返事を待つために口を閉じる。

 

「……どうして自分より劣っている人達を尊敬できるの?」

 

 

 

「劣っているなんて思っていないからよ。私は箒に乗れないわ。私は早く走る事が出来ないし、たくさんご飯が食べられない。マグルの文化に疎いし、同年代の誰もが知っていることを知らないし、やったことない事がたくさんあるの」

 

 

 

「そんなの……誰にだってあるじゃない。私は勉強しかできないのに……!貴女に負けてもう何もないのよ…?」

 

 

「グレンジャーさんが負けている何て事はないわ。私は貴女を尊敬しているもの。たったの数ヶ月でここまでの技術と、知識。貴女には才能がある。きっと来年には追い抜かれてしまう。それに……グレンジャーさんは優しいわ」

 

 

 

 

私だったらあの態度のロンに、教えてあげるなんて絶対にしないもの。

 

 

 

 

「優しくなんて……いつも失敗するの。知ったかぶりっていわれるわ。石頭だとか人の気持ちが分からないとか、悪夢のようだって」

 

 

「そんなことを言う人にはこっそり呪いでもかけちゃえばいいと思うわ。私ならそうする」

 

 

 

私に言われる分には、周りに迷惑がかからないなら放っておくけれど。

 

グリフィンドールの上級生からそう言って絡まれたときは周りのスリザリン生がしばらくその人に毎日呪いの手紙とか小石を送り付ける嫌がらせをしていたので、私がやらずとも結果は変わらないし……。

 

 

 

「呪いって……そんなの校則に反してるわ!」

 

 

「正当防衛ですわ。それに、グレンジャーさんと私って良いお友達になれると思うの」

 

 

「…………」

 

 

 

校則違反は見つかるから、違反になるのであって、バレなければなんとでもなる。

ハリーのクィディッチ選手入りなんて、校則の方が書き変わる事になったし。

 

 

 

 

「グレンジャーさんのお勉強のお話だって私ならご一緒できますわ。それに、今まではすれ違ってしまっていたけれど……私達って少し似てると思わない?ニックネームだってお揃いだもの」

 

 

本が好き、学ぶことが好き。

コミュニケーションが少し苦手で、だけど人と関わり一緒にいたいと思っている。

獅子と蛇で真逆で、純血とマグルで。

 

 

 

「……貴女の方がずっと、優しいわよ。そう、ね。でも、私でいいの?」

 

「えぇ!お友達になりたいと思ったのはずっと前からなんですもの!宜しくお願いしますわ、グレンジャーさん!」

 

「ハーマイオニーよ。サルース、よろしくね」

 

 

 

 

カタリ、と鍵を開け扉から出てきてくれたハーマイオニーが赤くなった目元を微笑ませていた。

 

とても、可愛い笑顔だった。

 

 

 

 

「さ、大広間へ行きましょう?ハロウィーンパーティをやっているわ」

 

「そうね、お腹すいちゃった。……ありがと、サルース」

 

「お節介ですもの。お気になさらないで?」

 

 

 

ハーマイオニーと手を繋ぎトイレを出ようとしたところで、ローブの中の『隠れん防止器』が強く震えたことで異常に気付く。

 

通路に、ナニカがいる。

 

 

 

前に進もうとするハーマイオニーの手を引き、目と仕草で静かにするように伝えてゆっくりと後ろへ下がり、トイレの出口から離れた端へうつる。

 

 

 

「サルースどうしたの?この臭い……下水が壊れたのかしら?」

 

「ナニカ来るわ。たぶん、とても危険……っ!!!!トロール?!??」

 

「っ!!!キャァむぐ…………!!!!!」

 

 

危険の正体はトロールだった。

 

……禁じられた森から紛れ込んだ?

まさか、ホグワーツの警備はどうなっているのか。

 

咄嗟にハーマイオニーの口を押さえたものの、悲鳴に気づかれてしまったらしい。

トイレの前を通りすぎようとしていた『トロール』がこちらを向いた。

 

 

 

あれは雑食だ。

好んで人間を食らうわけではないが……食べないわけでもない。

それに皮膚は魔法が効きづらく弱点は低い知能か。

 

体長三メートル弱。

 

 

手にはこん棒。

 

 

 

 

 

弱いものをいたぶり遊ぶ習性あり。

 

 

 

 

「っ!!!伏せてください!!!!」

 

「っむぅううう…………!!!!」

 

 

 

ーーーガシャァアアアン!!!!!!!!

 

 

 

振り上げられたこん棒を近くの洗面台の下へ転がることでよける。

 

両手が塞がっているため咄嗟に杖が抜けなかったのが痛い。

 

 

 

 

 

こうなってしまってはもう悲鳴をおさえる意味もない。腰が抜けてしまったハーマイオニーを壊れたトイレの残骸の影へ押し込み素早く離れた位置へ。

 

トロールの目が私を追っているのを確認しながら、杖を構える。

 

 

「あなたの相手は私ですわ!!!!畜生には決闘の流儀など必要ないわね!『コンフリンゴ吹き飛べ』!!!!!」

 

 

「グウォ?!??」

 

 

 

 

 

狙いはトロールの振り上げたこん棒。

が、的が外れその後ろのトイレの明かりが吹き飛んだことで鋭いガラスがトロールに降り注ぐ。

 

人であれば、怪我もおっただろう。

 

トロールにとってはほんのかすり傷にもならない。

 

 

 

ただ、怒らせるには十分だったらしい。

 

 

 

「グゥゥウルゥオオオオオ!!!!!!」

 

 

 

大きな鳴き声ともうめき声ともとれる声のあと滅茶苦茶にこん棒を、振り回し始めた。

 

 

 

これでは、せっかく隠したハーマイオニーも危ない。

失敗した。

 

 

 

 

 

ハーマイオニーを隠した辺りへ戻りつつ、盾の呪文を張りながら移動する。

飛んでくる石や木片、タイルであれば私の呪文で防ぐことができる。

 

ただ、あのこん棒が直接当たったら恐らくもたないだろう。

 

ハーマイオニーを後ろにかばい、頭を低く保つ。

 

 

 

これではじり貧だ。

 

……どうにかアレを殺さないと。

 

 

 

 




トロール:つよい。
     はらぺこ。いらいら。

     「うごくものがいる!つかまえなきゃ!」


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31

「サルース!!!!ハーマイオニー!!!!」

 

 

女子トイレの入口から聞こえた声に顔をあげる。

 

粉塵の向こう側にハリーとロンの姿が見えた。

 

 

 

 

「二人とも……先生方を呼んでください!!!」

 

「サルースの友達が走ってる!!!!それよりロンっ!こっちに気を引くんだ!!!」

 

「うん!!!」

 

 

 

 

私の友達……?

いや、考えるのはあと。

 

 

 

ハリーとロンが手近な石や木を拾ってトロールに投げつける。

どちらかの投げた大きな石がトロールの頭に当たったことでトロールの意識が入口へ向く。

 

 

「ハーマイオニー、ご無事かしら?」

 

「さ、サルース…!ごめんなさい、私なにもできなくて……!」

 

 

振り返り見たハーマイオニーは、粉塵で汚れてはいるものの怪我はないようだった。

 

 

「いいえ、出来ることを出来る人がやればいいのです。ただ、杖は手から離してはダメよ?私達魔法使いにとって唯一無二の武器なのだから」

 

「えぇ。わかったわ。もう、大丈夫っ!!!ハリー!!!!」

 

 

 

 

ハーマイオニーの悲鳴に視線を入口へもどせば、何故か片足を捕まれ宙吊りになっているハリーがいた。

 

……杖はトロールの鼻の穴に突き刺さっている。

 

 

 

 

風切り音をたてて振られるこん棒がハリーを狙うが、今のところはハリーがうまく避けている。

 

振り上げられたこん棒に向かってロンが杖を構えた。

 

 

「ロン!!!!ビューんひょい、よ!!!」

 

 

「『ウィンガーディアム・レビオーサこん棒よ浮かべ』!!!!」

 

 

 

 

 

見事な杖捌きでこん棒を浮かせたロンに心のなかで拍手を贈っている間に、呪文を解かれたこん棒がトロールの脳天に直撃し、偶然にもそれを気絶させるに至った。

 

 

地鳴りをたてて倒れたトロールを越えてハリー達のもとへ移動する。

 

 

 

「『インカーセラス縛れ』念のため、ね」

 

 

ハーマイオニーとトロールを避けながらついでに縛っておく。

 

と、入口から先生方が駆け込んできた。

 

 

後ろにはパンジーとダフネもいる。

 

 

あぁ。友人とはやっぱり彼女達だったのか。

 

 

 

 

……二人の顔を見た瞬間、ポロポロと流れ落ちた涙にその場の皆様に心配をかけてしまったのだった。

 

 

 

******

 

 

 

それからマクゴナガル教授によって点数を引かれたり増やされたりと、あってから私は恒例となりつつある医務室訪問後、スリザリン寮に戻ってきた。

 

ぐずぐずに泣いているパンジーと、大変お怒りのダフネと共に。

 

 

 

 

 

なぜか寮では食べ物が大量に持ち込まれハロウィンパーティをしていた。

 

賑やかな寮を抜け三人の寝室へ移動する。

こんな様子じゃパーティの雰囲気を壊してしまう。

 

 

 

 

聞くところによると、トロールの侵入によって大広間でのパーティは途中解散となり続きは寮でとなったらしい。

 

 

それで寮に戻ってみれば私がいない。

 

 

上級生の目を盗み、外へ出たパンジー達(だいぶ私と同じように校則への意識が弛んできている)がハリー達と遭遇、二手に別れ片や私達のもとへ、片や先生を呼びにとなったらしい。

 

 

 

「どうしてあんなところにいたのよ!!またグリフィンドールの奴等に巻き込まれたの??!?」

 

「すっっごく心配したのよ?!野生のトロールなんて死んでいてもおかしくなかったわ!あいつらがどうなってもどうでもいいけど、サルースに何かあったら絶対に許さないわ!」

 

 

二人からぎゅうぎゅうと抱き締められながら、それぞれの背中をさする。

二人とも泣かせてしまうなんて本当に不甲斐ない。

 

 

「ごめんなさい、あの時ハーマイオニーは自分なら倒せると思ったなんて言ってましたけどほんとは違うの。私とあの子は偶然あのトイレにいたところをトロールに鉢合わせてしまったのです」

 

 

 

ハーマイオニーはマクゴナガル教授達に、自分のせいで私達を巻き込んだと証言した。

 

私はハーマイオニーの気持ちを察して細かいことは話さなかったし、ハリーと特にロンはあんぐりと口を開けて驚いている間に話が進んでしまい、訂正の間がなかった。

 

 

なお、私はスネイプ教授からマクゴナガル教授がくださったのと同じだけ点数を引かれたりした(パンジーとダフネも加点されたので全体的にはプラス)。

 

 

 

 

「それにしたって、いつまでもディナーにこないし。あんなに汚れて危ない目にあうなんて……!」

 

 

「お父様に訴えるわ。ホグワーツの城中にトロールだなんて先生方は何をしているの?ダンブルドアの責任だわ!!!」

 

 

 

たしかに、ダンブルドア校長の責任はある。

それとトロールが出たと報告に走ったあと気絶したクィレル教授はバリケードくらい張っておくべきだった。

……それとスネイプ教授の足の怪我も気になる。

あれは恐らく……噛み傷だった。

一瞬見えただけだから詳しくはわからないけれど。

 

 

「確かに、学校としての責任は追及すべきだと思いますわ。でも、今回の責任を、というよりは次回がないようにと対策をたてるように要請すべきですわね」

 

「ドラコのお父様が理事をされてたはずよね?そちらにもお手紙を出しましょうよ」

 

「そうね、スリザリン生も巻き込まれたと、それも純血貴族である私達が当事者だと知ったら、さぞお怒りになられるでしょうね」

 

 

 

子供を預かる責任はしっかりと追及されるべきだ。

ホグワーツを、先生方を信頼して子供を送り出しているのだから。

 

 

 

「でもそれより、パンジー、ダフネ。私を探してくれてありがとう。来てくれて嬉しかったわ。ほんとうに、ありがとう。大好きよ」

 

 

「「サルース!!!!」」

 

 

ひとしきり泣き、怒り、落ち着いた二人とともにハロウィンパーティを楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 




スリザリン女子ズを迎えにこさせるか迷いました。が、サルースと一緒に過ごしている二人なら来るだろうと(過保護値カンスト)。

どらこまるふぉい?我先に危険から逃げ、楽しくハロウィンしてたので今夜のもろもろには気づいていません。


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32

大冒険のハロウィーンの夜から暫く。

あんなことがあったのに、ホグワーツはまるで変わらず、これまでと変わらない様子で日々を過ごしている。

 

 

もちろん、学校へのというか校長への苦情の手紙は私達の両親から届いたし(勿論他の寮の、生徒からもだ)、マルフォイ氏も議会に話題を出したりしたらしい。

 

そもそも、ハロウィンパーティ中の出来事なので全校生徒がトロールの侵入を知っているし、ホグワーツでの秘密はイコール公然の事実となるらしい。

トロール討伐が生徒によって行われたことも、噂になっている。

 

……子供たちは親への手紙にそれを他意なく記したとしても、それを聞かされた大人の意見は……ということだ。

 

 

 

まぁ私達の見えるところで何かがあったわけではないので、ホグワーツがどんな対策をとったのかなんて知るよしもないのだが。

 

 

 

さて、喉元過ぎればというには早すぎる生徒達からのトロール事件への関心の薄さには理由がある。

 

 

クィディッチシーズンが到来したからだ。

 

 

開幕後の第一試合は、グリフィンドール対スリザリン。

しかも今年はグリフィンドールに秘密兵器がいるとなれば、その興奮も倍増している。

 

 

秘密兵器、というかハリーだけれど。

 

 

 

いつぞやの箒の授業でマクゴナガル教授に連れ去られたハリーが、最年少シーカーとしてチーム入りしたことはすぐに公然の秘密となった。

 

グリフィンドールは練習の様子を他寮に非公開として、その実力を隠していたようだが……スリザリン寮のクィディッチキャプテンである、フリント先輩達の様子を見るに意味をなしてはいなさそうだった。

 

 

 

「いいかお前達!!!今年もスリザリンが寮杯をいただくためにはまずこの試合だ!!!勝つぞ!グリフィンドールのクズ共に目にもの見せてやれ!!!」

 

「「おう!!!!」」

 

 

 

 

朝からずっとこんな調子で談話室を賑やかしている。

 

 

 

「……私も行かなくてはダメなのかしら」

 

「サルース!クィディッチよ?楽しみじゃないの?」

 

「あー…パンジー、私もサルースに賛成。暑苦しいし外寒そう」

 

 

スリザリンカラーのバンダナを首に巻いたパンジーは私とダフネにも同じように緑のアクセサリーをつけながら楽しそうにしている。

 

残念ながら、私とダフネは少数派なのだ。

 

『クィディッチは魔法族の魂に刻まれた本能だ』なんて本がベストセラーになるくらい熱狂的かつ伝統的なスポーツとなっている。

 

 

 

スリザリンにいる数少ないマグル生まれの子達も、周囲からクィディッチのルールを聞き、面白そうにしている。

 

 

 

1チーム7人からなるチームと、三つのゴール。

 

 

クアッフル、ブラッジャー、スニッチからなる三種類のボールを取り合う競技だ。

 

 

 

 

クアッフルを、ゴールに入れたら10点。

ブラッジャーは相手を妨害するためのボール。

スニッチはシーカーが捕まえるボール。

これを捕まえると試合終了で、同時に150点を獲得する。

 

 

 

確かに、クィディッチの歴史は古く魔法族が箒で空を飛ぶようになった頃から存在している伝統的なスポーツだ。

 

 

 

 

マグルのスポーツと比較するのも、歴史的にその成り立ちを考察するのも楽しいとは思う。

 

とはいえ……この寒い中外で風に晒されながら観戦するのはちっとも魅力的ではない。

 

 

それに加えて、だ。

このスポーツが合理的でない(魔法族の文化は全体的に合理性に欠けるがさらに)と思える理由がある。

 

このクィディッチ、スニッチを捕まえるまで試合が終わらないのだ。

 

雨でも、風でも、雪でも、雷が降ったってそのルールは変わらない。

 

 

マグルに比べて魔法族の方が寿命が長いとはいえ、限られた時間で試合を行う『ベースボール』や『ラグビー』とやらの方がよっぽど見る人に優しいと思う。

 

どちらも見たことはないが。

 

 

 

 

 

 

「さ、できたわよ!!!」

 

「わーお。力作ね」

 

 

ぼんやりと賑やかな談話室を眺めている間に、パンジーのヘアーアレンジが終わった。

 

どうぞ、と笑顔で渡された鏡には顔の両サイドの髪から緑と銀のリボンを編み込まれ、ぐるりと頭の後ろまでを囲った私の顔が映っていた。

 

 

 

確かに力作だ。

 

「本当にパンジーは指先が器用ですのね、ありがとうございます!」

 

 

「ふふん、誉めたって何も出ないわよ?」

 

「ヘアアレンジの本買ってるくせに」

 

「ちょっとダフネ!あれは自分のためよ!」

 

 

 

毎朝の恒例となった私の髪を結う時間。

 

最近の仕上がりが早くて綺麗になったと思ったらそういうことだったのね。

今度パンジーの黒髪に似合いそうな髪飾りを作ってプレゼントしよう。

 

 

 

「ありがとうございます、折角のセットですから……私も観戦に行きますわ。とりあえず自慢してきますね」

 

私と替わってダフネをソファに座らせ、パンジーにダフネの髪もやってしまえとアイコンタクトをしたら、にっこりと笑ってくれたので伝わったことだろう。

 

 

 

「いってらっしゃーい!ダフネは任せて!」

 

「ちょっ……サルース!……パンジー私は程々でいいわよ。需要ないし」

 

「そんなことないけどまぁ……程々にやってあげる」

 

 

 

 

******

 

 

 

 

しっかりと防寒をして、二人と一緒にクィディッチ競技場に向かう。

 

 

 

スリザリン生以外はみんなグリフィンドールを、応援しているらしい。

 

相変わらずのアウェイである。

 

 

 

ところで、話題の人ことハリーは無事なのだろうか?

 

こんなにたくさんの人に見られながらの花形ポジションで初プレイだなんて、物凄く緊張するだろうに。

 

 

 

 



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33

人で溢れるクィディッチ競技場でスリザリンの応援席にパンジー達と並んで席を取る。

 

芝生のピッチを見下ろしているうちに両チームの選手達が入場してきた。

先輩方に囲まれるハリーは、一人だけ小さいこともあり上から見ていると、とても目立っている。

 

 

 

会場の熱気で寒さが和らいだ私と対照的に、ハリーは真っ青な顔をしている。

 

よっぽど緊張しているのか、今にも倒れるのではないかとハラハラする。

 

 

 

「……トロールよりマシでしょうに」

 

「ん?あぁポッターのこと?」

 

「あれはちょっと特殊じゃない?」

 

 

 

あの時はあんなにも勇敢に飛び込んできたというのに……緊張する余裕があるということかもしれない。

 

それこそ命がかかっているわけでもない。

……クィディッチ競技中の死亡事故は過去なかったわけではないけれど。

それも古い時代のプロの世界での話だ。

 

 

 

わぁわぁと、音が混ざって飽和する空間に多少の頭痛を感じて次回は耳栓を持ってくることを決めた。

 

ピッチの中心で握手を交わす両チームのキャプテンは遠くから見ても、必要以上に手のひらに力をかけている様子。

……これから戦うのだから闘志があるのはいいことだ。

 

 

 

「……サルースはグリフィンドールを応援しているの?」

 

「???何故グリフィンドールを応援しなくてはいけないのですか?」

 

 

マダムフーチの笛で一斉に飛び立った選手達を観客の歓声が後押しするなか、小さな声でダフネが囁いた言葉にきょとんと首をかしげる。

 

 

「あら、意外よ?ポッターがいるし貴女グリフィンドールの知り合いが多いじゃない」

 

「えぇ、確かにハリーはお友達だけれど、それとこれとは別だわ」

 

 

ここに来る途中で先輩から渡された緑色の小さな旗をおざなりに振りつつ(次回はもっと質のいいものを作って販売予定)、先ほどまでの緊張した様子とは一転、空の上で軽々と飛び回るハリーを見る。

 

空の上は自由だと言わんばかりに気持ち良さそうに飛んでいる姿は、見ているものに羨望を抱かせる程に見事だ。

 

 

 

「私はスリザリンよ?ハリーが活躍したら嬉しいけれどスリザリンには勝って欲しいわ。私がそう思ったってハリーも怒らないでしょ……拗ねそうだけど」

 

 

だって、お友達なんですもの。

それは対等な関係であるし、私にとってスリザリンは家で、寮生は家族だ。

 

 

キャプテンであるフリントさんを中心に彼らが練習に励んでいた事は、一緒に暮らしているのだからよく知っている。

 

噂で聞こえるラフプレーでの強引な勝利とやらも、実力があるからこその勝利だ。

そもそも反則じゃないならラフプレーとは呼ばないのだ。ちょっと乱暴なプレー……まぁ今見ている試合からは、いろいろ上手いとは思う。

 

兎に角、家族の応援をして何が悪いということだ。

 

 

「……サルースは時々とても頼もしいというか、独特よね。ま、それならいいわ」

 

「心配してくださってありがとう。私、ダフネのそういうとこ、大好きよ」

 

 

こんなに優しいこの人たちが私は好きなのだもの。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

さて、グリフィンドールの先取点からはじまった試合は両チームとも点を取り合う流れとなっている。

 

要するとスニッチを取ったチームが勝ちだ。

 

 

 

……ところでクィディッチのファウルとされるルールが何項目あるか知っているだろうか。

 

おおよそ700種類。

 

 

何故おおよそかというと、クィディッチ協会がその全てを公開していないからだ。

 

だがそのうちでも、誰もが知っているファウルはある。

 

 

例えば選手に杖を向けること。

箒に火をつけること。

斧をもって相手に襲いかかること。

キャプテンのタイムアウトの申請、もしくはスニッチをつかむ前に地に足をつけること。

 

それから……プレイ中に場外から選手及びボール、ゴールその他試合に関わるそれら全てに魔法をかけること。

 

 

 

 

最後のひとつに関しては、チームの指示があろうとなかろうと、魔法をかけられたチームの相手チームがペナルティを受け敗けとされる。

 

 

「……あれポッターの箒絶対へんだよね」

 

「試合中に壊れるとかあるものなの?」

 

 

パンジーとダフネの視線の先には、ハリーを振り落とそうとでもするかのように跳ね動き荒ぶる様子があった。

 

幸い?ゴールポストから離れた位置であるため、他の生徒や審判は気付いていないらしい。

……これはバレたら即刻スリザリンの敗けだ。

 

 

「ハリーが使っているのは『ニンバス2000』ですわ……壊れるなんてあり得ません。箒は魔法具の中でも専門的かつ繊細な部類ですが、安全上箒に対する呪いへの耐性はとても高いの。古いものなら呪い避けも弱っているかもしれませんが……最新の箒にそれはあり得ませんわ。ハリーのセンスは問題ない。であれば外部からの妨害……それはとても強力な呪いでなければ、あぁはならないはず」

 

 

モノクル(いつ何時面白いものと出会ってもいいようにいつも身に付けている)の望遠機能を使って客席を見渡す。

 

 

いた。

 

 

クィレル教授だ。

 

 

 

ピッチへ杖を向け一点を見つめながら口を動かしている。

 

無言呪文や視線を向けずに魔法を使うことも可能だが、その場合の威力は知れている。

今回のように、飛び回る選手たちのたった一人、それも暴れまわる箒に向けて呪いをかけるとなると、より強力に、正確に呪文を唱えなくてはならない。

 

 

……スネイプ教授も同様の様子だが、スリザリンを愛している彼が自ら不利益を被るようなことはしないだろう。

反対呪文を唱えているのだと思う。

……さすがにハリーのことが嫌いだからとその逆はないだろうたぶん。

 

 

「お二人とも、私少し席をはずしますわ」

 

「え!ちょっとサルース?!」

 

「はぁ……無茶しないでね」

 

 

 

ハリーが箒にしがみついていられるのもあと少しだろう。

 

間に合うかはわからないが……

 

 

ピッチを囲むように組み上げられている観客席の外側へ出る。

 

試合中ということもあり、周囲に人目はない。

 

 

 

懐から小さなフクロウの人形を取り出す。

 

杖をあて定められた回数とリズムで触れながら、パスワードを呟く。

 

問題なく変身術が作動したを確認して、空へと離す。

 

「クィレル教授のお顔にキスを。それからすぐに私の部屋へ戻っていなさい」

 

 

 

カチリと、一度だけ嘴を鳴らして飛び立ったフクロウを見送り観客席へ戻る。

起動中の見た目は普通のフクロウと変わらない。

 

……あれなら持ち主が私だと先生方にも気づかれないだろう。

フクロウ小屋に行ったってあの子はいないのだから。

 

 

 

 

 



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34

 

パンジー達のもとへ戻りつつ先生方のお席を確認する。

 

「……あら、私のほかにも何方か気づかれたのかしら」

 

 

額を押さえて蹲るクィレル教授と、黒い煙の消火を行っているスネイプ教授とその周囲の先生方が見えた。

 

ハリーの様子を確認してみれば、どうやらスニッチを見つけたらしい。

 

 

 

……けして短くない時間をハリーが足止めされていたにも拘らず、スニッチを取られるならこの試合は完全にスリザリンの敗けね。

 

 

 

「戻りましたわ」

 

「おかえり!!!!よかった!またどっかで怪物と闘ってるのかと思ったわよ!」

 

「流石にサルースでももう無いわよ。まぁ、貴女が危ない目に遭わなくてよかったわ」

 

「はい!お二人ともご心配をおかけしました!」

 

二人からのハグを受け、クィディッチピッチへと視線を戻せば、どうやらちょうど試合が終わったところらしい。

 

 

金のスニッチをかかげるハリーが、チームメイトに、囲まれているところだった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「あら、サルース?変わった本を読んでるのね」

 

「ハーマイオニー、ご機嫌よう。妖精の記したとされる本らしいの。拡大鏡を使いながら読まないといけないなんて不思議な本ですわね」

 

 

 

親指の第一関節ほどのサイズの本には、妖精の秘術が記されている。

『エンゴージオ肥大せよ』では中身が読めなくなるなんて本当に変な本だ。

 

 

 

クィディッチの試合からしばらく、クリスマスも目前に迫り薬草学のハウスまでの移動が辛いこの頃。

 

図書館に来るときはパンジーたちはほとんどの場合、最近着いてこなくなった。

 

……休みの時間まで勉強はしたくないとのことだ。

課題をこなしにたまに一緒に来ることもあるけど、大体は他のスリザリン生と遊んでることだろう。

 

 

 

「ハーマイオニーは調べものですか?」

 

「えぇ、なかなか文献がみつからなくてしらみ潰しに読んでるとこよ」

 

 

どっさりと音を立てて積まれた本と共にハーマイオニーが向かいの席に腰掛ける。

魔法史関連の本ばかりだ。

 

ビンズ教授のご担当される魔法史は、睡眠時間にあてている子達が多いのにハーマイオニーは本当に真面目だ。

 

 

ちなみに私は、魔法史は主な魔法族が多く暮らす国については学び終えてしまっている。

だから、ビンズ教授の当事者としての話を楽しみにしつつ(驚くべき事に彼はゴーストだ!)、手元は次の魔法具の設計図を書いたり、雑誌への投稿用原稿を作ったりと内職にあてている。

 

 

 

ハロウィーンの夜以来、ハーマイオニーとは図書館で顔を合わせる度にお互いに無言で本を読む時間を過ごしている。

勿論、お互いに連れがいるときにはその限りではないけれども。

 

……あの日、ハーマイオニーは仲直りをしたロンとハリーと友達になったらしい。

あの状況になったのはある意味ロンのせいだと言ってもいいのにハーマイオニーは優しいし心がニフラーのお腹くらい広い。

 

私はお節介の結果であるし、ロンは関係ないので変わらず奇妙な距離感の友人をしている。

 

 

ふと、ハーマイオニーが本から顔をあげた気配を感じて視線をあげるとやはり、何か話したいことがあるらしい。

 

 

「……?」

 

「……ねぇサルース。ニコラスフラメルについての蔵書ってどこにあるか分かる?」

 

 

ふむ、やはりハーマイオニーは勉強熱心だ。

かの錬金術師については魔法史でもまだずいぶん先まで扱わないはずなのに。

 

そんなに難しい顔をせずとも、彼の蔵書ならそれこそ腐るほどここにはあるだろう。

 

 

 

「フラメル氏のことなら……何について調べたいかにもよりますが、資料としてはフランス魔法界についてまとめたものの辺りか、錬金術関連の本のところにあるかと。あとはオペラの棚とかですわね」

 

 

 

 

フランスで一番有名と言っても過言ではないくらいの方ですからね。

ダンブルドア校長の蛙チョコに名前がでるほどの御方だからイギリスでもとても有名だ。

 

なにせ、不死の人なのだから。

彼の作った『賢者の石』は命の水と黄金を作り出すだなんて本当に……錬金術は奥が深い学問だ。

永遠の命と黄金を作り出すための媒体はいったい何なのか、一度しっかりと学んでみたい。

 

 

 

「フランス……錬金術!!!!『賢者の石』だわ!!!!どうりで『近代魔法史』や『今世紀の著名な魔法使い』に名前がないはずよ!!!!!ありがとう!サルース!!」

 

 

「えっ!あ、はい!」

 

 

「それじゃあ私!そろそろ行かなくちゃ!!!またね!!!」

 

 

 

 

バタバタと積み上げられた本を抱えて退席したハーマイオニーを唖然と見送る。

 

入口の方でマダムピンスに注意を受けている声が聞こえ、図書館はもとの静寂にもどった。

 

 

 

「……なんだったのでしょう?」

 

 

 

最近、ハリーやロンが図書館に来ていたのと関係がありそうだ。

 

 

先日、ハリーと口論になってしまったことがあった。

 

 

 

******

 

 

 

 

「スネイプが箒に呪文をかけてたんだ!アイツは僕を憎んでる!!!!絶対に怪しい!」

 

「クィディッチのときの事なら私だって見ておりましたわ!スネイプ教授はスリザリンの不利になるような事は致しません!外部からの妨害なんてどう足掻いてもルール違反ですもの!!!彼がそれをやるなら試合前に呪われていますわ!!!」

 

 

 

 

魔法薬学のあとのこと。

あの三人と図書館への道すがらクィディッチの試合の話から、ハリーの箒に呪いをかけていたのは誰かという話題になった。

 

あの時の黒い煙はハーマイオニーが、スネイプ教授のローブに火をつけたから起こったらしい。

随分と過激だがそれは別にいい。

 

……ただ、スネイプ教授がハリーを殺そうとしているという言葉はダメだ。

 

 

 

「でもハーマイオニーが火をつけたとたんに箒が大人しくなったんだ!!!アイツしかいないじゃないか!!!!」

 

「あの時!!!!私も先生方を疑いましたわ!スネイプ教授の他にも同じ条件に当てはまる方がいらっしゃいました。ですからそちらにも妨害があったから呪文がやんだのですわ!!!」

 

 

 

「あのフクロウはサルースだったのね」

 

「なんの事でしょうか?存じ上げませんわ!」

 

 

 

ハーマイオニーの呆れた目が解せない。

火をつける方がびっくりだ。

 

それに私がやった証拠がありませんでしょう?

 

 

 

「だけどアイツはハロウィンの日だってトロールの騒ぎを起こして、自分は三頭犬の部屋にいってたんだ!!!!」

 

「「ハリー!!!」」

 

「あ!……何でもない。兎に角、アイツが怪しいのは間違いないんだ。じゃあねサルース!」

 

 

 

「待ってよ!ハリー!」

 

 

 

足音も荒く歩き去ったハリーと追いかけたロンを見送り、ハーマイオニーがこちらを振りかえる。

 

「ごめんなさいね、サルース。ところで貴女が見つけたもう一人って誰だったの?」

 

「いえ、命を狙われたんですもの。怒るのも仕方ないわ。……クィレル教授です。彼がハリーに呪文を唱えていたことは間違いありません。……正直なところ、どちらの先生が呪いを唱え、どちらの先生が反対呪文を唱えていたのかわかりません。……けれどスネイプ教授が、わざわざスリザリンの試合で、それを行うはずありませんわ」

 

 

 

 

スネイプ教授がフリント先輩方の熱意を知っていて、そんなことをするなんて思えない。

 

 

 

「クィレル教授……そう。覚えておくわ」

 

 

 

 

******

 

 

 

 

以来、ハリーとロンとはあまり話していない。

というより避けられているようだ。

 

 

喧嘩したことなんてはじめてで、どうしたらいいのか分からないことが最近の悩みになった。

 

 

 

 

 

 

 

 




原作よりも答えを知ることが早くなってしまった、ハリー。
クリスマス休暇に透明マントで禁書の棚へいくイベントが抹消されてしまった。


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35

閑話休題



イギリスの冬は寒い。

それはもう寒い。

 

 

だというのに……

 

 

 

どうしてこのお二人はこんなにも元気なのでしょうか。

 

 

 

 

「これが今開発中の『忍び足ソックス』で」

 

「こっちが考案中の『ズル休み』グッズだ」

 

 

本日は定期開催(強制)されるウィーズリーツインズとの、商品開発会議……いや、二人からの売り込みの時間をいつもと同じ空き教室で行われている。

 

いつもどおり『人形の家』の中で並べられる製品や、設計図、材料のリスト等を見るのは私の勉強にもなるし別に構わないのだ、が。

 

 

 

「どうして室内に雪を降らせているのですか…?」

 

「「その方が楽しいから」」

 

 

「男の子って……意味がわかりませんわ」

 

 

備え付けの暖炉の前で毛布に埋もれる私と、いつもと同じ姿で作業スペースだけ雪避けの呪文をかけて過ごしている双子。

 

 

避けられた雪が、部屋のすみに積もり始めている。

もう、視界がさむい。

 

 

 

「はぁ……この姿で失礼なのは承知ですが、商談を進めますわね。どちらも問題なく製品化したときには、ホグズミード村の私のお店に場所を設けますわ。そこで市場調査といたしましょう」

 

「あれ?あそこにゾンコ以外の店なんてあったか?」

 

「いや、覚えがないな」

 

 

「この冬からオープンしましたの。クリスマスプレゼントの需要に併せて『サルースの杯』1号店を村の外れに建てたのですわ」

 

 

「「まじかよ」」

 

 

 

嘘をつくわけありません。

 

もともと、一定の顧客と元手が出来たら独立するつもりだったのだ。

 

ボージン叔父様のお店に私の商品は卸せないし、ゾンコのお店に卸す量も決まっている。

 

イタズラグッズ以外ならダービッシュ・アンド・バングズ魔法道具店の方でも扱って貰えるけれど、それでも品数は限られるし、制約も多い。

 

先日ハロウィーンでばらまいたような、お小遣いでも買える商品を扱うために、店舗を構えることにしたのだ。

 

 

ダイアゴン横丁ではなく、ホグズミードに出店をしたのは、あの村のほうが生徒達が訪れる頻度が高いためだ。

……あとは横丁では人が多すぎて納品スピードが追い付かないということもある。

 

 

「小さなお店ですが、村の外れですからお庭が少し広いのですわ。ですから購入した商品をお試しできるようなスペースになっておりますの。次回の解放日には是非お越しくださいませ」

 

 

学校に持ち込むと違反になるものも、そのうち出てくるでしょう。

それなら外で使える場所を設ければ、後ろめたさもなく購入していただけるのでは?と考えたのだ。

 

 

……中にはフレッドとジョージのように、城内で思いっきりイタズラグッズを使っている人達もいるけれど。

 

 

「絶対いく!!」

 

「あぁ間違いなくだ!!」

 

 

二人揃って強く頷きながら御来店の約束をしてくださった。

ありがたいことだ。

 

「お二人の商品を置くスペースについては、向こうのスタッフに申し伝えておきます。ついでにグリフィンドール他、皆様への宣伝もお願い致しますわ。……こちらが、契約書になります。場所貸し代は此方に、売上の取り分は此処に、記していますからこちらの契約書を確認して問題なければサインをお願い致しますわ」

 

 

よいしょ、と契約用の特殊な呪文のかけられた紙をポーチから取り出し手渡す。

 

ついでにサイン用の特殊インク羽ペンも出し、2本並べる。

 

二人揃って契約書を覗き込む姿は本当にそっくりだ。

正直なところ、私には二人のお名前が正しく呼べる自信がないのでそれぞれ名前を書いてもらうことにする。

 

 

 

「おいおい、この支払い金額は……」

 

「いくら何でも相場より安くないか?」

 

「これじゃあフェアじゃない」

 

「完全に俺達ばっかり得になっちまうぞ!」

 

 

 

と、同じ仕草で顔をあげ契約書を指差した二人の視線がこちらへむく。

 

まぁ、確かに安いだろう。

私のお店というだけでも、それぞれの価格は十倍にしたっておかしくない。

 

友達の兄だろうが、学校の先輩だろうが、もらうものはもらう。

通常であれば、こういった時の場所貸し代金や契約金は前払いだし、期間的にでも専属契約を結んだりもする。

 

が、そこら辺はこの二人の宣伝効果とホグワーツ内での知名度で払ってもらったことにした。

 

 

年間の場所代については、私の店という事は置いておいて、ホグズミード村の繁忙期の短さを思えば妥当だろう。

 

売上に対するこちらの取り分に関しては、確かに通常の世の中の相場と比べてもだいぶん少ない。

開発協力費もとってないし、支給制の材料代としても全然利益がでないどころかマイナスだ。

 

 

「確かに物凄くお安く設定しておりますわ。宣伝費としたって安すぎるくらいです。けれど、これは私の貴殿方に対する投資ですもの。構いませんわ。私、楽しい魔法道具が大好きですの。自分が作ることは勿論、他人の作品だって同じように愛しておりますわ。だからこれは才能と未来への投資、そのうち出世払いでいただきますわ」

 

 

魔法道具の技術者は少ない。

それも実用品ではなく娯楽品となると本当に少ないのだ。

その中でも、発案から発明までできる技術者はほんの一握りだ。

 

こんな素材が転がっていたら拾うに決まっている。

現状、彼らの製品で稼ぐにはまだ額が知れている。

 

 

いつぞや、二人とのここでの会話のなかで起業して自分達の店を持ちたいのだと言っていた。

 

そのときに、全面的に私がスポンサーになる。と返事をしている。

 

 

これはその一貫だ。

 

 

「私は貴殿方のスポンサーになりますと、言いましたでしょう?」

 

 

 

「そこまで言うなら、ありがたくこれでやらしてもらうか相棒」

 

「はぁーサルースへの借りがどんどん貯まっていくなぁ相棒」

 

 

「「まぁ期待以上に応えてみせるさ!!」」

 

 

 

 

 

しっかりと、返してもらう気でいるので二人には頑張ってもらわなくては。

 

さぁ、パフォーマーたるお二人の共同研究者としても仕事をしますか。

 

 

 

 

 

 

 




最近のウィーズリーの双子との定例会の様子でした。


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36

クリスマス休暇がやってきた。

 

ホグワーツ入学以来はじめての帰省期間ということで、勿論私は家に帰る。

 

スリザリンの生徒たちはみんな冬休みを実家で過ごすらしい。

 

 

 

「サルースのお家はクリスマスパーティ開かないの?」

 

「クリスマスパーティ……家族と行いますわ。母様と父様とプティのお料理を囲みますの。あとはボージン叔父様からの贈り物の山分けですわね」

 

 

 

帰省のホグワーツ特急は、パンジーとダフネ、それからドラコと、クラッブとゴイルの6人でコンパートメントを占領し、それぞれのクリスマス休暇の過ごし方について話題に花が咲いている。

 

 

 

「わぁお。すごく庶民的」

 

「ばかね、サルースが言葉通り一般的に過ごしてるわけないじゃないの」

 

「たしかに、御両親と山分けってどういうことだ?」

 

 

とはいえ、話の中心はパンジー、ダフネと私。

女子三人の会話にドラコは苦笑いを、あとの二人はひたすらおやつを食べるといった様子だ。

 

 

 

 

「その信頼は何なんですの……山分けは山分けです。それぞれ使いたい部品がありそうなものを選んだり、解呪したい呪いのものを選んだり、直してみたいものを選んだり……普通ですよね?」

 

「「全然普通じゃない/わ」」

 

 

ボージン叔父様のお店で廃棄品となった魔道具達を、定期的に頂くので確かにクリスマスという事では当てはまらないかもしれない。

 

 

「勿論、普通にプレゼントもいただきますよ?」

 

 

「うーん。そこじゃないのよね」

 

「ちょっと惜しかったわね」

 

「まぁ、サルースが楽しいならいいんじゃないか?」

 

 

 

どうやら我が家のクリスマスパーティーは一般的ではないらしい。

 

 

 

我が家の事はともかくと、それぞれの家で開かれるクリスマスパーティーのことを話し始めた三人の話に耳を傾けつつ、増えてきたゴミを片付ける。

 

みんなでおやつを食べながらの旅だが、先ほど車内販売カートの魔女から、大量のお菓子を買い込んだのに約二名の活躍で既に無くなりそうだ。

 

 

手持ち無沙汰にクラッブとゴイルの食べ終えた蛙チョコからオマケカードを抜き出し簡易的な神経衰弱を行うことにした。

 

このカードの難しいところは、一度伏せたカードをもう一度表に向けた時にさっきまでと同じ住人がいるとは限らないところだ。

 

偉大なる先駆者アルベニック・グラニオン(クソ爆弾の生みの親)のカードを揃えたことで、カードの住人達から揃ってウインクをもらった。

 

 

 

ふと、相変わらず仲直りのできていない友人達のことを思い出す。

 

彼らは何か、もしくは誰かを探しているらしい。

 

……恐らくこれははじめての箒の授業のすぐ後辺りからだ。

ドラコの嘘で彼らが罰則をうけそうになったことがあるらしいが、おそらくその頃だろう。

 

 

キーワードとして彼らが洩らしている言葉はいくつかある。

『ポケットに入る宝物』『三頭犬』『ハリーの命』『ニコラス・フラメル』といったところか。

 

 

これらの単語が出たとき、三人の誰かしらが分かりやすく内緒や秘密を隠そうとするためのおかしな言動があった。

 

……彼らは探偵には向いていないらしい。

 

 

 

 

さて、まずは『ハリーの命』が狙われていると、仮定しよう。

 

クィディッチ中の箒暴走事件、ここから彼らはそれを導いたらしい。

だがそれでは……少し短絡的ではないだろうか。

 

確かにあのときハリーの命は危険にさらされていた。

が、あれでは事故にしたって不自然すぎる。

『ニンバス2000』に呪いをかけられるほどの魔法使いであれば、あんなにも目立つところで事を起こさずとも生徒一人くらい簡単に消せるだろう。

 

 

そうなると、だ。

『ハリーの命』はメイン目的ではなくその過程、もしくはサブミッションだとする。

 

 

次は『三頭犬』これについては私が持っている情報は少ない。

 

マグルの世界でも地獄の門番とされている程有名な魔法生物で、ギリシャ原産の獰猛な生き物だ。

しかし、犬としての性質も強く備えており強者や群れの長、主人と認めたものには従順だという見解もある。

 

そのため、ドラゴンよりも扱いやすい門番なのだとか。

 

広く知られている弱点……といってもよほどの専門書かギリシャの歴史文献くらいでしか取り上げられることはないが……音楽を聴くと眠ってしまうらしい。

 

そのため、グリンゴッツでは起用されていないのだとか。

 

 

ハリーはハロウィーンの夜『三頭犬』とスネイプ教授が一緒にいたと言っていた。

成る程、あの日スネイプ教授の足の噛み傷は『三頭犬』の仕業ということだ。

 

そうなると、『三頭犬』もトロールと一緒に招き入れられた?

 

いや、ハリーは『三頭犬の部屋』だと言っていた。

それならば『三頭犬』はホグワーツの何処かで門番をしていると考えた方がよさそうだ。

 

『門番』が必要とされるのはいつだ?

……何かを守るとき、扉の前に配置される役目。人か、宝かそれらをホグワーツが守っている?

 

 

宝についてもハリーは私に訪ねてきた事がある。

 

『グリンゴッツの金庫破り』について尋ねられたことがある。

 

あの時も不思議だった。

 

なぜ、『何も盗られなかった』と報道された事件に対して、『ポケットに入る宝物』なんて具体的な質問をしたのか。

 

報道はこうだった。

【破られた金庫は奇跡的に空になった直後だった。そのため何も盗られてはいない。】

 

金庫の中身を知っているのは、盗人と持ち主だけ。

ハリーは空になったその時、持ち主と共にいたのだろう。

 

 

 

 

 

 

……あぁ。そうか。

彼らが行き着いた答えに察しがついた。

 

 

 

 

『ニコラス・フラメル』の『ポケットに入る宝物』

 

 

 

どうやらホグワーツでは『賢者の石』が保管されているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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37

『賢者の石』命の水を生み出し、あらゆる金属を黄金にかえる。

錬金術という学問はこれを生み出すために作られたと語る者もいる。

 

 

無限の黄金も、永遠の命も、多くの人が望む宝だ。

 

 

 

が、クィレル教授がそれを望むだろうか?

スネイプ教授にしても、だが。

 

 

 

たしかにそれらは価値のあるものだし、研究できるのであれば私とてほしい。

 

 

黄金は魔力伝導がとても良いとされており、いつかの時代では杖の一部を金とする手法が生まれ、廃れていったとか。

 

ガリオン金貨が純金なのは有名だが、それも小鬼の秘術が施してあるからだとか。

 

魔法薬によっては、粉末を入れる場合もあるし……だけどそれなら命の水についての成分はなんなのか……老化は止められないと聞くからには『逆転時計』のような時間に及ぼす効果ではなさそうだけど……いや、あれも肉体の経過時間は変わらないから…………研究してみたい。

 

手に入るのなら逆転時計も。

 

もちろん、バーク家では魔法省に保管されている様々な魔法道具に関しても修理依頼を請け負ったりもしている。

 

が、『逆転時計』に関してはさすがに魔法省内の研究機関が一括して管理をしている。

そのため、父様や母様が出向きメンテナンスを行うことはあれど、私の手元には来ないというわけだ。

 

思考が流れてしまった。

 

 

もとい、だ。

 

 

『賢者の石』を研究者としてのお二人ならば求めることがあるかもしれない。

だが、それならば危険を犯さずともしかるべき手続きをとればホグワーツ教授がその訴えを受け入れられないということはないだろう。

 

そもそもお二人ともお金も、寿命も興味がなさそう……というか無頓着な感じがする。

 

 

 

 

あくまでも、これは私の勘だが……これらを欲しがっているのは彼らではない。

 

ダンブルドア校長のお膝元で、これだけ大きな事をやっているのだ。

単独犯ではないということも十分に考えられる。

 

 

サブミッションは『ハリーの命』……?

 

 

ということは……

 

 

 

「ねー!ってばサルース!!」

 

「ひゃい?!!!」

 

 

 

突然の大きな声と肩にかかった手に驚き、顔をあげるとコンパートメントの全員がこちらを見ていた。

 

「話聞いてなかったでしょ?私達の家のパーティーにくるわよね?」

 

「え、あの……何が何やら……」

 

 

「だーかーらークリスマスパーティーよ!!!!」

 

 

 

 

どうやら、考え事に没頭している間に各家で行われるクリスマスパーティーに招待してくださるという話になっていたようだ。

 

改めて、招待状は下さるらしいがとにかく口約束がほしいと。

 

 

「えぇ、勿論ですわ!でも、あの私そういった場にお呼ばれなどしたことがなくて……ご迷惑をおかけしないよう心掛けますわね」

 

「大丈夫よ!身内だけの軽いパーティーだし、本格的なやつは私達なんて呼んでもらえないわよ」

 

「サルースなら問題ないと思うけど……ドレスコードは大丈夫よね?」

 

 

パタパタと手を振り笑うパンジーと、小さく首をかしげるダフネを見返しつつ、実家のクローゼットを思い浮かべる。

 

……パーティードレスはある。

流行りのものではないし、今の自分の体型にあっているかも不明だが……

 

 

 

 

「当日までに揃えておきますわ……」

 

「え。ドレス持ってないの?」

 

「最近の流行とかおすすめのお店について、しっかり教えておかなくちゃ」

 

 

 

 

私の髪型に目を光らせるパンジーを彷彿とさせる勢いのダフネが、がっしりと手を握ってきた。

 

 

「イイわね。私もてつだってあげる!」

 

 

早速と、鞄から雑誌を取り出し始めたパンジーは一体何種類のファッション紙を購読しているのか謎だ。

 

 

「お、お二人とも落ち着いて?ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

それから、ホグワーツ特急がホームに停まるまで男の子たちはおやつと読書に勤しみ、私達3人はどんなドレスがクリスマスパーティーに相応しいかと話に花を咲かせるのだった。

 

 

 

 

******

 

 

「プティ!ただいま戻りましたわ!」

 

「お帰りなさいませ!!サルースお嬢様!プティはお嬢様のお帰りの日を毎日毎日数えては心待ちにしておりました!お顔色も明るくなられて大変ご立派です!!!」

 

 

 

ホームに降り立った私達は、それぞれの家族のもとへと別れた。

もちろん私のお迎えはプティである。

 

 

 

「私も、貴女が変わらずいてくれて嬉しいわプティ。さぁ家に帰りましょう?」

 

「はい!お掴まりくださいませ!」

 

 

プティの長い指が特徴的な手を繋ぎ、独特な姿あらわしの感覚を一瞬味わったあと馴染み深い空気の中へと降り立った。

 

 

 

「ありがとうプティ。母様と父様はいつもの場所?」

 

「いえ!光栄にございます。奥様と旦那様はサルースお嬢様のお帰りに合わせて広間に入らしているはずです」

 

 

「あら……それは珍しいわね。行きましょうか」

 

「はい!それだけお二方もサルースお嬢様のお帰りを心待ちにしておられたのです」

 

 

 

この忙しい時期に私のために時間を作ってくださる母様と父様のためにも足早に屋敷を移動し、広間へ入れば二人とも相変わらずの様子で迎えてくださった。

 

それぞれと抱擁を交わし、プティが夕食を用意する間、このホグワーツであった様々な事を話す。

 

それは夕食中もそのあとも続き、久々の家族との時間にその夜はゆっくりと眠ることができた。

 

 

 

 

 

 

 



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38

 誤字報告ありがとうございます。


さて、クリスマス休暇といえども私の基本的な行動は変わらない。

 

決まった時間に起き、身支度を(プティが)整え、お散歩をしてから図書室へ、それから朝食を摂り、郵便物に目を通してから、地下の自室へ移動して魔法薬を調合し、昼食を摂り(たまに忘れる)、また地下へ。

 

 

 

 

「サルースお嬢様、ご友人方から急ぎのお便りでございます」

 

 

「お返事を書くわ。便箋は薄桃色の……それね、ペンはそれに合わせて適当に」

 

 

いつもどおり、の中に加わったお友達との繋がりの時間。

同じ部屋で寝泊まりをしていなくても、パンジーやダフネとお友達でいるという感覚がある。

 

とても不思議で暖かい気持ちになるけど、すごく嬉しい。

 

 

 

 

「はい!こちらに。それからサルースお嬢様宛のお荷物も届いてございましたので、お部屋にかけておきました。夜の雪原のような素敵なお色、流石サルースお嬢様です。見事な目利きでございます!!」

 

 

「ありがとう。今夜着るから支度を手伝ってね」

 

「はい!!!勿論でございます!!!」

 

 

 

 

そして、家とボージン叔父様のお店と極たまにホグズミード村、魔法省くらいしか外に出ることがなかったというのに、このクリスマス休暇はほぼ毎日どなたかの家の夜会にお呼ばれしている。

 

 

 

母様と父様は、友人たちとの繋がりを喜んでくださったし、プティには泣かれた。

私が外に出て友人と過ごすということがとても嬉しいらしい。

 

 

そして瞬く間に、パンジー達から持たされた、流行のドレスを掲載した雑誌をもとに、夜会の数に合わせてドレスやアクセサリーを用意してくれた。

 

母様からいくら使っても構わないと、任せられたらしい。

 

それはそれでプティが感極まって泣いたのは余談である。

 

 

 

 

勿論、私もプティと一緒にドレスは好みの色や形をえらんだ。

アクセサリーは面倒になったので全て任せてしまったが。

 

 

 

 

「サルースお嬢様、ご不在の間に書斎に本が78冊、菜園の材料各種が増えてございますのでそちらも確認くださいませ」

 

 

「ありがとう、それなら今からそちらへ行くわ。本は……リストを部屋に置いておいて?体力が足りなくて城での生活が大変なの…これからは毎日お庭にも行くわ」

 

 

「サルースお嬢様……ほんとうにご立派になられて……かしこまりました。お嬢様がお怪我などなされませんよう細心の注意を払って整えて参ります」

 

 

「ほどほどでいいわよ。そのうち森にはいるつもりですもの」

 

 

あまり整っていたんじゃそっちに行けないわ。

 

 

「森……そうですかサルースお嬢様まで……かしこまりました。相応に、庭の一角を作り替える許可を旦那様からいただいて参ります」

 

 

 

「?えぇ、お願いね」

 

 

 

我が家の庭……といっても屋敷の周囲は森が広がっており、マグル避けがかけられているため魔法生物も住んでいるとか昔父様がおっしゃられていた。

 

マグル社会でも貴族位のあったバーク家(聖28一族他大きな家はだいたいそうだが)は領地を持っており、森を中心とした一帯の地主である。

 

もちろん、マグル社会における納税や統治に関しては当主が行っていた時もあったが今はこちらの息のかかったマグルや存在を消される運命にあった純血貴族のスクイブが代行してくれているのだが……

 

 

ともかく、我が家の庭がどこまでを指すのかわからないがプティが力を入れるからにはよっぽどのものが出来る事だけはわかる。

 

 

 

「ランチを終えたら支度をはじめるのよね?時間が足りないわ」

 

 

新店舗の商品も増やさなくてはいけないのに、目の前のことで手一杯だなんて!

こんなに忙しいことは今までなかった。

 

とても、充実していて楽しい。

 

「サルースお嬢様が体調を蔑ろにしないよう、プティめはいつも目を光らせていなくてはいけません」

 

「ふふっ……宜しくお願いね、プティ」

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「サルース!ほんとに来てくれたのね!!」

 

プティに飾り付けてもらい、送ってもらったのはパンジーのお家の門前。

チャイムを鳴らせば、ご当主を押し退けてパンジーが走り出てきた。

 

……ヒールが高くないとはいえよくこの靴で走れますわね。

 

 

「パンジー、ごきげんよう。お友達からのご招待ですもの。ほら、ドレスもちゃんと揃えたのよ?」

 

「うんうん!とっても可愛いわ!ほら!お父様!この子がサルース、バーク家の一人娘よ!」

 

 

走りよってきた勢いのまま、追い付いてきたご当主……パンジーのお父上に手を繋いだまま紹介してくれた。

 

カーテシーと共に御挨拶を交わし広間へと足を運ぶ。

 

エスコートするわ!とはりきるパンジーにつれられ、向かったお部屋には見覚えのある友人達もいて安心した。

 

ご家族と来ているのか、部屋のなかほどで子供たちが集まっている場所と、大人たちが集まっている場所に分かれているらしい。

 

 

 

「あら、サルース!ごきげんよう。素敵なドレスね」

 

「ダフネ、ごきげんよう。ありがとうございます。ダフネもパンジーも、とっても可愛いですわ」

 

 

 

きらびやかな雰囲気に飲まれない、ドレス姿のお二人はそれぞれによく似合ったデザインでお互いにくるくると回って見せあう。

 

ひとしきり、感想を述べ終えたところで私のテンションも戻ってきた。

バーク家としての御挨拶にまわるか、という考えが浮かぶ。

 

 

「パンジー…御挨拶にまわるのが先でしたわ」

 

 

「そんなのパパ達が勝手にやってるわよ」

 

「あら、サルースは一人で来てるんじゃなかった?」

 

 

 

そういうことだ。

 

 

……とはいえ、私もマナーは叩き込まれているもののこういったパーティに参加するのははじめてである。

 

母様と父様がいらしていないことが急に心細くなってしまった。

 

 

 

 

「サルース?こんばんは。二人とも少しサルースを借りてもいいか?」

 

「ドラコ!こんばんは」

 

「「えぇ、どうぞ」」

 

 

 

こちらも綺麗に着飾り、こういった場にとても慣れた様子。

 

 

「よく似合っているな。母上からサルースに礼をと言われているんだ。両親と話してくれないか?」

 

「えぇ、勿論。良かった、大人たちの方へどうやって挨拶にいこうか悩んでいましたの」

 

「あー……一人で来ているのか。わかった」

 

 

 

ドラコに連れられるまま、マルフォイ家のお二人のもとへ向かう。

 

あちらも息子が近づいてくるのに気づいたらしい。

他の大人たちとの会話を切り上げ、寄ってきて下さった。

 

 

「父上、母上、こちらがサルースです」

 

「あぁ。サルース・バークさんだね。ドラコの父のルシウスだ。息子から話は聞いている。とても優秀だとか」

 

「ご機嫌よう、バークさん。ドラコの母のナルシッサですわ。遅くなったけれど素敵なレターセットをありがとう」

 

 

 

ドラコは色合いがお父上、お顔はお母上に似ているらしい。

お二人ともとてもお優しい笑顔で迎えてくださった。

 

「お初にお目にかかります。サルース・バークと申します。ドラコには入学前からお世話になってばかりで……レターセットも気に入っていただけたのなら幸いですわ」

 

カーテシーと共に御挨拶を。

ルシウスさんはボージン叔父様経由の手紙でのやりとりか、店番時のやりとりがあるけれど、それはなかったこととする。

 

 

 

「父上、サルースは先週ホグズミード村に魔法道具の店を開いたんですよ。成績も学年で一番ですし、あのスネイプ教授の助手をしているのです」

 

「ドラコ!大袈裟ですわ。助手だなんて烏滸がましい、お手伝いをさせていただいているだけですの。お店の方はナルシッサさんにお贈りしたような女性向きの雑貨も扱っております。小さなお店ですがお時間ありましたら是非お越しください」

 

 

 

何故か自分の事のように誇らしげにお父様に報告するドラコの腕を引き言葉を止める。

 

せっかくなのでお店の紹介もしておいたけど。

 

 

 

 

「本当に優秀なのだね。君のご家族には昔から世話になっているよ。困ったときにはいつでも相談したまえ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

ルシウスさんのご厚意には、そのうち甘えさせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 



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39

マルフォイ家の皆様とのご挨拶も落ち着いたところで、ドラコから私が挨拶に回るのに勝手がわからず困っていると言うことを御両親に伝えてくれた。

 

そんなに畏まった会ではないから、気にしなくても良いとルシウスさんがおっしゃり、ナルシッサさんが、一緒についてきてくださると申し出てくださった。

 

 

 

「母上ならご婦人方にも顔が利く、行ってきたらどうだ?」

 

「本当に宜しいのですか……?ご迷惑をおかけするわけには……」

 

 

「構いません。あの便箋の贈り主が貴女だと知ったらきっと皆さん食い付かれますよ。新しいお店の紹介もかねて顔繋ぎしておきましょう」

 

 

 

ふわりとした、微笑みと共に私の手をとったナルシッサさんの指が白くて細くてとても綺麗だったから、緊張と嬉しさが一度にやって来たような気持ちになった。

 

 

 

「ありがとうございます!宜しくお願い致します」

 

「ふふっ娘がいたらこんな感じだったのかしら?夏になったらうちにおいでなさい。お買い物をしてお茶をしましょう?」

 

「はい、喜んで」

 

 

ナルシッサさんは私の母様とは全く違って隣にいると華やかな香りがする。

それに頭の先から爪先までどこをとってもお綺麗だ。

 

 

だけど……母様みたいな柔らかい気持ちをこちらに向けてくださっているような気がする。

 

 

安心して大人たちの中へ踏み込み、御挨拶を終わらせることができたのはひとえにナルシッサさんのお陰だろう。

 

 

 

 

******

 

 

 

「あ!サルースおかえりー」

 

「おかえりなさい、こっちで飲み物でも飲んだら?」

 

 

「ただいま戻りましたわ。ダフネ、ありがとうございます。緊張で喉が乾いてしまってましたの……」

 

 

 

オレンジジュースを受け取りつつ、二人の座る壁際のテーブルへと座る。

 

軽食も乗っており、少し離れた席ではゴイルたちがそれらに夢中になっている様子が見えた。

 

 

 

「ほら、これ私のおすすめよ」

 

「こっちも美味しかったわよ」

 

パンジーが差し出す象牙色の小さなお菓子を受け取り食べ、ダフネがよそってくれた色とりどりのリボンの形をしたパスタをたべる。

 

 

数日ぶりの食事風景になんだか懐かしくなったりしつつ、楽しく過ごすのだった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

クリスマス当日の朝、この日ばかりはパーティもなく1日家で過ごすことになっている。

朝からプティはクリスマスディナーの仕込みにキッチンにこもり、部屋を飾りつけと忙しそうである。

 

 

「ハーマイオニーから手紙ね……フクロウがいなくて不便、か」

 

マグル社会から魔法族へ手紙を出す際のルールはあまり一般的では無いものの、無いわけではない。

 

特殊な切手を貼るか、対応の郵便局へ持っていくの2択だ。

 

あとは新聞なんかを購読して、それについてくるフクロウレンタルに申し込むなんてのもある。

 

 

 

それらを返事に記しつつ、とりあえず我が家にあった申込書類(広告を載せてもらっている関係から毎月各種送られてくる)を包む。

 

ハーマイオニーとの会話は新商品のインスピレーションに繋がるからとても貴重である。

 

 

 

と、ひとまずハーマイオニーからのプレゼントの中に手紙を戻し次の箱へとうつる。

 

 

今朝はベッドの周りがプレゼントで囲われ、降りられない何てことがあった。

昨年までの倍以上、ご友人方からのプレゼントのおかげだ。

 

 

もちろん、私もたくさん包んだ。

贈り漏れがないか確認したかったのだが……

 

どうにも私が記憶している友人たちへのプレゼント数よりもだいぶたくさんのプレゼントが届いているようだ。

 

 

 

中には贈り主の名前がないものもあるためそれはプティに別部屋へうつしてもらった。

 

そして贈り主の名前があるものも、知らない人がほとんどでこちらはこちらでプティに別の部屋へ移してもらうことになった。

 

 

寮の先輩方のお名前は覚えているはずなので、他寮の方々なのだろう。

……いままで接点などなかったはずだが……。

 

 

とにかくそれらは、後程プティと父様が検分のちリストアップするとの事だった。

見た限り特殊な呪いや魔法道具は無かったはずなので、何故父様が検分するのかは謎だ。

 

まぁ友人方からの贈り物は全て手元にあるのであちらはどうでもいい。

 

 

 

ハリーやロン、クラッブ達からはお菓子の詰め合わせをもらったし、パンジーとダフネ、ドラコらはそれぞれアクセサリーをくれた。

ハーマイオニーはマグル社会の最新の医学書とマグルのお菓子が届いた。

 

昨年までは家族からの贈り物をクリスマスディナーの途中でもらうのが恒例だった。

 

朝起きて、プレゼントに囲まれて過ごす何てことははじめてで戸惑ったけれどメッセージカードに添えられた友人達の名前を見つけ、とても嬉しかった。

 

……それから、プレゼントを選ぶのも楽しかった。

 

 

特定の誰かを想って品物を選ぶと言うのはこんなにも、特別なことだったと知った。

 

 

 

 

もちろん、手作りのプレゼントを渡した友人達もいる。

 

パンジーとダフネには、それぞれ髪に着けると望んだ形の結び方がされるリボンを。

 

ドラコにはイニシャル入りの万年筆と記した内容が受取人にしか読めない透明なインクを。

 

ハリーにはニンバス2000に乗ったミニチュアのハリーが飛び回るスノードームを。

 

ロンにはイタズラお菓子の新作詰め合わせだ。

 

 

喜んでもらえると嬉しいのだけど……

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

それから、『サルースの杯』に置くための商品を作ったり、ボージン叔父様の依頼があった魔法薬を作ったりしているうちに1日は過ぎた。

 

父様と、母様とプティの料理を囲みクリスマスの夜を過ごす。

 

 

お二人は口数の多い方ではないけれど、今日は友人達からもらったプレゼントについて話したり、マグル社会に暮らす魔法族向けの製品を作りたいことを相談したりと、会話が途切れることはなかった。

 

勿論、今年もボージン叔父様からのプレゼント(という名目の在庫整理品)は三人で山分けとなり、それぞれ修復や改良が加えられたり分解されたりすることになったのだった。

 

 

 

 

 

そうして、私のクリスマス休暇は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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40

お待たせしました。


クリスマス休暇が開けたホグワーツでは、クリスマスのプレゼントに対するお礼の応酬と休暇の思い出話で賑わっている。

 

 

勿論、私の周囲の友人たちも。

 

 

 

数日続くそんな輪から抜け出して、私は休暇中に思い付いた可愛い私の発明品達をこの世に産み出すべく、足りない知識を補いに図書館へと向かった。

 

と、ハーマイオニー、ロン、ハリーと鉢合わせる。

 

 

 

「あ、サルース……あのプレゼントありがとう」

 

「ごきげんよう、ハリー、皆さん。こちらこそ、ありがとうございました」

 

 

いただいたお菓子たちはまだ半数残ってるけれど、美味しくいただいております。

 

 

 

「こないだは、ゴメン。サルースにあたった。でも本当に……スネイプは怪しいんだよ。それとクリスマス休暇中に……__」

 

 

 

 

それから、ハリーが言うにはクリスマス休暇中に事件があったらしい。

夜の廊下でスネイプ教授やフィルチさんに追いかけられ、ダンブルドア校長と遭遇し、と大冒険をしたようだ。

 

 

「そうですか……ハリーが見たと言うのなら事実なのでしょう」

 

「サルースだったらあの鏡について知ってるかと思ってさ」

 

 

 

えぇ、もちろん。

 

 

そんなことより、だ。

 

 

 

「えぇ、存じておりますわ!透明マントを手にされたのですね。それから『みぞの鏡』を見つけられたなんて……なんて素敵なの!!」

 

「さ、サルース?」

 

「ちょっと、サルース声が大きいわ!落ち着いてちょうだい」

 

 

「これが、落ち着いて、ですって?ハーマイオニー!貴女それがどんなものだか知らないから落ち着いていられるのだわ!」

 

 

 

歴史的な価値だけじゃない。

本当に存在していた、という事実に私は大興奮しているのだ。

 

確かに『みぞの鏡』はマイナーな魔法具ではあるけれど、その存在はあらゆる者の心の奥を写すものとして記述された文献が残されている。

 

ただ、それは(他の多くの魔法道具と同じように)この世に1つしかない代物だ。

 

心の奥底に眠る本当の望みを教えてくれる魔法道具。

それが、『みぞの鏡』の機能だ。

 

 

 

よくあるでしょう?

 

闘争の中に生き、金も、力も、地位も手に入れたものが死ぬ間際になって本当にじぶんが欲しかったのはほんの少しの幸福と愛だった。なんて締め括られる物語。

 

そんな虚しい生を送った魔法使いが作らせた、なんて逸話もあるのだ。

 

 

 

「わかった!わかったから!サルースほら、一回場所を変えよう?」

 

「そうだね、ほらサルースちょっと静かにしててくれ」

 

 

 

慌てたロンとハリーに両脇を挟まれる形で来たばかりの図書館から連れ出されることになった。

 

外はまだ雪が降る真冬の寒さも厳しい。

ということで、適当な狭さの空き部屋に潜り込んで勝手に暖炉に火を入れる。

 

 

「これでいいですわね。さ、ハリー続きをお願いしますわ!まずは鏡の大きさから……」

 

「ちょっと落ち着きなさいってば!重要なのはそっちじゃなくて、『透明マント』があるからって夜に出歩くのは校則違反なのよ!それに……鏡は確かに珍しいものかもしれないけどまだ謎がたくさん残っているでしょう?!」

 

 

さぁ、見たものを話せとハリーに迫る私をハーマイオニーが押し止める。

 

 

「校則違反はその通りですわね、でも謎はもう残っていないのではなくて?グリンゴッツから持ち出された宝である賢者の石を三頭犬が守っていて、それを誰かが狙っているのでしょう?でもそれは先生方もご存知でだからこそホグワーツで守護されていると」

 

「サルース?!なんでそれを……!」

 

「き、君もあの部屋に行ったのか?!??」

 

 

 

クリスマスに入る汽車の中での考察はどうやら当たっていたらしい。

 

ハリーとロンが分かりやすく狼狽えている。

……君もってことはやっぱりロン達は三頭犬と遭遇していたのね。

 

大方、立ち入り禁止になっている廊下の部屋にでもいるんだろうけれど。

 

 

「サルース……あなたハリーの言った『三頭犬』ってワードだけでそこまで?」

 

 

「いいえ、それ以外にもずっと3人とも何かを探していたでしょう?だから少し考えたら分かったわ。それでどうしてそんなにも躍起になっているのかは理解できないけれど……」

 

 

 

そんなことよりずっと『みぞの鏡』の方が大事だ。

 

もちろん、賢者の石についても興味はある。

しかしこのホグワーツが本当に隠そうとしているものを生徒が見つけるだなんて絶対に不可能だ。

 

だから三人も、不死や黄金は早く諦めた方がいいのに。

 

 

「どうしてって……気にならないのかい?」

 

「えぇ。先生方が守っているのでしょう?私たちが心配したってしょうがないわ」

 

 

「それはそうよね……」

 

 

 

そう……グリンゴッツよりも厳重に守られた宝よりも、ハリーは自分の事を心配した方がいい。

 

仮にも命を狙われていると仮定してその犯人は校内にいるようだし、もうすぐ次のクィディッチの試合がある。

 

 

私の言葉に納得したハーマイオニーは深く頷いているけれど、男の子たちはそれでは納得いかないらしい。

 

正義感、というやつだろうか。

それとも野次馬根性?まぁどちらでもいい。

 

好奇心が強いのは結構。

わたしとて人の事を言えたものではないが、それで盗人用の罠に彼らが捕まらないことを祈ろう。

 

……魔法使いの罠って本当にえげつないものが多いのだ。

 

彼らの命が危ない。

 

 

 

 

「でもスネイプが犯人だったら!マクゴナガルに報告しないとだろ?」

 

「ロン、私たちが気付くようなことに先生方が気づかないわけがないわ。それに……例えスネイプ教授がそうなのだとしても、一番に優先すべきは貴方達の安全よ」

 

 

「確かにそうよね、ハリー……もうすぐクィディッチの試合があるのよね?」

 

「あー、うん。ハッフルパフとね」

 

 

肩をすくめるハリーはクリスマス明け早々からほぼ毎日クィディッチの練習三昧だという。

この寒空のなかご苦労なことだ。

 

 

 

私だったら確実に、五分も持たずに風邪を引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




友人に取られていた原作本が、帰ってきたのでまた随時更新していきます。
お付き合いください。


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41

本日2話目となります。


 

 

グリフィンドールのクィディッチ練習がどれだけキツいかという愚痴を一通り溢したハリーは、そもそもの用件を忘れているらしい。

 

 

 

 

 

「ところで、ハリーが私に聞きたかった『みぞの鏡』の事はもういいのかしら?」

 

 

 

「あ、そうだった。クリスマス休暇中に鏡を見つけて以来、夜も昼も鏡の部屋に通って鏡を見ていたんだ。ダンブルドアに移動させるからって止められてからは行ってないけどね…それから、鏡の事を忘れようと思ってるんだけど、毎日緑の光と悲鳴が聞こえる夢を見るんだ。これって鏡の呪いとかかなって」

 

 

 

ふむ、古い魔法道具のほとんどは作られた当初の目的とは違うものになっていることが多々ある。

 

それは呪文が薄れて不完全になってしまったり、あとから誰かが手を加えていたりと様々な理由がある。

 

 

が、『みぞの鏡』といえばやっぱり。

 

 

「道具に魅入られたことで呪いのような働きをする物もあるけれど、『みぞの鏡』の場合、原因は道具ではなく人間の方にあるわ。麻薬の中毒になるのと同じで、自分の幸せが夢と現実で混ざってしまうのね。それで鏡にとりつかれたようになってしまうの。……ただハリーのそれは少し理由が違うわ。勿論毎日通っていたのは魅了されかけていたのが原因だけれど」

 

 

 

ハリーの場合はそうではない。

 

なぜなら、その夢は鏡と出会う前からあったものだから。

 

ホグワーツへと向かう汽車の中でも、彼は同じ夢の内容を口にしていた。

 

 

 

「ハリーの夢はね、『自分の中にある両親の記憶』だと思うの……その、ハリー?鏡には両親の姿を見たのではないかしら?」

 

「うん。父さんと母さん、それから知らない親戚のような人達とかね」

 

 

心から望むものは、家族、もしくは無償の愛か。

 

 

とにかく多くの普通の子供には望むまでもなく当たり前にあるもので、ハリーにとっては特別な心の底からの望み。

 

ロンはピンと来ていないようだけど、ハーマイオニーには伝わったらしい。

 

 

「それは間違いなく悪夢だろうけれど……貴方に残された記憶なの。貴方の心が落ち着いたらまたしばらく見ることはなくなるでしょうけれど、きっと消えることはないわ。あのね、ハリー……私はその記憶も、貴方のお母様の愛の証明でもあると思うの……呪いではないからどうしてあげることも出来ないけれど、悪夢を遠ざける枕だったらすぐに作れるわ。だから今度の週末には届けるから、少し時間をくださる?」

 

 

「……うん。ありがと」

 

 

 

 

 

悪夢を遠ざけるおまじないは、古今東西いろんな国や文化の中にある。

 

それは妖精のイタズラだったり、魔法動物のせいであったり、はたまた呪いだったり、思春期の情緒が見せていたりと様々だけれど。

 

とにかく、悪夢をどうにかしたいという願いは共通なのだ。

 

安眠を得られないのは健康を害するし、行き着く先は死だ。

 

 

私はそこまでの睡眠への悩みを持ったことがないからわからないけれど……

 

マグルの中では、悪夢がとりつくことを悪魔のせいにすることもあるくらいだから、よっぽどなのだろう。

 

 

 

ハリーに渡すのは『悪夢を遠ざける』の中でも『夢を見ないで眠ることができる』タイプのものにしよう。

 

 

心の底から望む家族の存在と、両親との最後の記憶が結び付いている以上……その夢がハリーの奥底では『悪夢』ではない可能性が高いからだ。

 

 

 

さて、ハリーの悩みはこれで解決するだろう。

 

よかったよかったと、ロンと言い合う様子はもう大丈夫そうだ。

男の子は単純で羨ましいときがたまにある。

 

 

ハーマイオニーは少し、複雑な表情のままだがまぁこちらもすぐに切り替えるだろう。

 

 

 

 

 

「では次は私の番ですわね。ハリー!『みぞの鏡』について聞かせてくださいな!」

 

 

 

 

「げ」

 

 

 

 

 

すべて、聞き終えるまでにがしませんわ!

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

ハリー達と別れ、大広間でパンジー達と合流してからふと思い出した。

 

 

私、休暇前にハリーと喧嘩をしていたのだったわ。

 

 

クリスマスにはカードとプレゼントが届いたし、さっきも普通に話して別れてしまったから忘れていた。

 

 

 

ごめんなさいを、言いそびれてしまったらしい。

 

 

 

 

「ねぇサルースー……お母様からあなたのお店の商品についてすっごい聞かれるんだけど何か新しい情報はない?」

 

「あー…うちもだ。新商品がどうのとか、香水がどうだかで。よくわからない」

 

 

 

 

ぼんやりお皿の上のビーンズ達をつついていたら、パンジーとその向こうのザビニさんから声がかかった。

 

はて、と首をかしげる。

 

 

クリスマス休暇から売れ行きがいいと思ったら…ナルシッサさんの言う通りになったのね。

 

スリザリン寮生のお母様方が顧客になってくださっているようだ。

 

 

 

「ありがとうございます。香水といえば魅了の効果がある香りを使っているんですの。魔法薬とは違うものですから、合法ですが効果はお墨付き……お仕事で成功したい、異性の目を引きたい、痩せたい、いろいろですわ。確かにこれが一番売れ行きがいいですわね」

 

 

 

効果を細分化させて商品化しているので、全種類お買い上げくださる方が多いのだ。

 

マグルで言うところのアロマテラピーなのだが、魔法界ではあまり知られていない。

 

 

心を落ち着ける、集中力をあげる、そんな効能のある色々な植物をはじめとした品物をベースにして作られている。

 

魅了の効果は、これらの持っている力を少し引き上げるように調合を加えて香りを整えるだけで、おまじない、から魔法に変わるのだ。

 

 

ついでに、この香りが必要なときに必要な人にだけ届くような仕掛けの魔法道具として一緒に売っているアロマペンダントも好評だ。

 

嫌いな人には不快な匂いに感じさせる機能もあったりする。

 

 

 

合法的に、これが一番大事なところ。

 

 

 

開店早々に非合法品を扱うわけにはいかないし、そういうものはボージン叔父様のところで買ってくださいね。

 

 

 

「へぇ。それはうちの母が好きそうな品だね」

 

 

「ねぇねぇ新商品は?」

 

 

 

パンジーの催促に次の春商品を思い浮かべる。

 

どうやら、周りの皆さんも興味津々なようで目と耳が集中しているのを感じる。

 

 

 

 

「そうですね、春の新商品はイースターのお庭を彩る庭飾りや、草花をあしらった特別なアクセサリーをお出しする予定ですの。それからバレンタインの品もですわね」

 

「バレンタイン!確かにそろそろ考えないとね。お母様に手紙で送っておくわ」

 

 

 

女性のお客様が多いこともあって、メインの品物はこういった女性ウケするものが多い。

 

とはいえ私の魔法道具たちも勿論たくさん置いてあるのだが……こちらはボチボチといったところか。

 

1点物も多いため、お店に来て見ていただく以外に宣伝をしていないこともあるけど。

 

 

 

とにかく、クリスマス明けの私の日常が賑やかなのは間違いない。

 

 

 

 




おかえりなさいの感想ありがとうございます。
元気をもらったのでさくさく更新していきます。
これからもよろしくお願いします!!


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42

ホグワーツにはゴーストが住み着いている。

 

 

それはもう、たくさんのゴーストが出入りしている。

一説によると、世界で1番たくさんのゴーストが住み着いているのがホグワーツなのだとか。

 

そして、その環境に生徒もはじめは驚くものの(入学式前の悲鳴は毎年の恒例行事らしいが)すぐに慣れてしまい、ゴーストと暮らすことが普通になっている。

 

各寮に1人代表するゴーストがついている程、生活のなかに馴染んでいるのだ。

 

 

スリザリンには『血みどろ男爵』が。

 

グリフィンドールには『ほとんど首なしニック』が。

 

レイヴンクローには『灰色のレディ』が。

 

ハッフルパフには『太った修道士』が。

 

 

 

それぞれには、其々の生前と死した後の逸話がある。

それは彼らの口から語られるためその全てが真実かはわからないけれど。

 

とにかく彼らは生徒たちに親切である。

道に迷えば親切に教えてくれるし、時には悩みを聞き、相談にのってくれることもある。

 

何より彼らはホグワーツを愛しており、その要素足る私達生徒のことも可愛がってくれているようなのだ。

 

 

 

そう。

彼らはゴーストだ。

生者の痕跡、霊魂である。

 

 

 

「なぁなぁなぁなぁ?おちびちゃん?面白いもんもってるだろー?このバケツ引っくり返されたくなかったらぜーんぶ置いてってよ」

 

「……血みどろ男爵に言いつけますわ」

 

「まった!ぜんぶじゃなくてちょっと分けてくれるだけでいいよ」

 

 

 

 

はぁ、と大きなため息が私の口からもれた。

 

 

それも、これも、私の頭上で逆さまに浮かびながら泥水入りのバケツを揺らす『ピーブス』のせいである。

 

彼、というのかコレ、というのか。

人の形をしているのだから彼と呼ぶが……ピーブスはゴーストのように、白い肌と壁や天井、床を関係なく通り抜ける事が出来る半透明のピエロのような姿の男の形をした『ポルターガイスト』だ。

 

ゴーストと似ているが、発生条件も何もかもが違う。

ポルターガイストは現象だ。

 

 

だから、頭上のバケツも持っているように見えるだけであれはピーブスによって浮かべられているということになる。

 

 

そんなことはどうでもいいか。

いや、ホグワーツにポルターガイストは彼1人しか存在しないから興味はあるのだけど。

 

 

とにかく、コレをどうにかしなくてはいけない事に変わりはない。

 

 

 

ことの発端は、ついさっき。

たまたま1人で歩いていた先に、泥団子を壁の絵に向かって投げているピーブスと出会ってしまったことから始まる。

 

彼は血みどろ男爵を恐れているらしく(先輩方から聞いた)、スリザリン寮の近くにはあまり来ないし、スリザリン生には滅多に絡まない。

 

 

が、それも絶対ではない。

 

どうやらとても機嫌がいいらしい様子のピーブスは鼻歌混じりの泥団子投げを切り上げ私のもとへ飛んできたのだった。

 

 

どうやらハロウィンの頃から校内で時折見られるようになった私や、ウィーズリー製のイタズラグッズに興味があるらしい。

 

ウィーズリーツインズといえば、クリスマスプレゼントにそれぞれ魔法道具製作用の工具セットを贈ったところ、休み明けからそれぞれに師匠と呼ばれるようになった。

 

廊下で見かけるたびに「「師匠!!!!お疲れ様です!!!」」と大きな声で叫ばれるのは、ただの嫌がらせだと思っている。

 

 

 

「ちょっとわけて、ですか……これもタダじゃないんですのよ?ピーブスは私に、代わりに何をくださるんですの?」

 

「フィルチの猫を遠ざけてやろうか?」

 

「ミセス・ノリスはお友達ですから結構ですわ」

 

腕を組み、顎を擦りながら考えるポーズのピーブスがくるり、くるりと回りながら目の前を漂っている。

 

……そのせいで廊下に泥が跳ねているが、私にはかかっていないので気にしない。

 

 

 

 

「それじゃあ嫌いなやつらに泥をかけてきてやる」

 

「嫌いな方などいませんから、それもいりませんわね」

 

 

 

そろそろ次の授業に間に合わなくなってしまう。

 

逆さまになった状態で、うなり声をあげながら考え続けるピーブスを引き連れ、次の授業の教室へと歩いていく。

 

 

「うーむ…そうだ!!!屋敷しもべたちの厨房につれてってやる!肉も酒もお菓子もなんでもでてくるぞ?」

 

 

「あら……それはいいですわね」

 

 

 

屋敷しもべがこの城にもたくさんいるのは分かっていたが、彼らの姿を見たことはない。

お洗濯もお掃除も全てがいつのまにか終わっているのだから、彼らの存在はまるで魔法のようだ。

 

 

「お!じゃあ今すぐ連れてってやるよ!!!」

 

「授業がありますから。その後にお願いしますわ。その間お暇でしょうから前払いとしてこちら、差し上げますわね」

 

「ヒュー!分かってるねぇ!」

 

 

 

ポーチから、直径3センチ程の大きな赤色のクレヨンを取り出しピーブスへとわたす。

 

 

「そちらは描いたものが勝手に動き出す、魔法のクレヨンですわ。何にでも描けますわ、壁も布も水や、空気にも。しばらくすると勝手に消えますが……」

 

「へぇ。じゃあこれはお前にやる」

 

 

一緒に浮いてついてきていたバケツが目の前に置かれた。

うん、いらない。

 

 

 

呑気な挨拶と共に飛び去ったピーブスを見送り、呪文学の教室へと向かう。

(バケツは壁際に寄せて置いておくことにした。)

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

「うわぁ……サルース。コレあんたでしょ」

 

「私は授業がありましたもの。ピーブスが勝手にやったのですわ」

 

 

 

「それ……通じるといいわね」

 

 

パンジーとダフネの呆れ顔が廊下と私の顔を見比べている。

 

……真っ赤なクレヨンで描かれた落書きたちが教室を出た私達の前を闊歩していたからだ。

 

どれもこれも見事に大きく描かれており、股下2メートルはあるキリンのような不思議な絵の下を戦々恐々潜り抜ける生徒や、虫のようなタコのようなよくわからない生き物の絵を大きく迂回して廊下を通る生徒など。

 

この授業の間に、ピーブスがとにかく派手に落書きしまくったらしい。

 

 

これは……持ち込み禁止リストに載ってしまうパターンだわ。

 

いまのところ、ハロウィンの日にフレッドとジョージが女装を披露したあれ以外は禁止になっていなかったのだけど……

 

 

 

 

 




ピーブスとの遭遇回。

廊下の様子は、lbのとある場面を思い浮かべていただければ。


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43

さて、大惨事と化しているホグワーツ城内でピーブスを探す。

 

絵画の住人たちが困っているような落書きは、消してまわり、壁に描かれた悪口も消しておく。

 

 

とりあえず名指しの悪口は見つけたものから全て消しておかなくては……

 

 

フィルチさんには、2時間もたてば全て消えるので消して回らなくても大丈夫という、旨のメモを飛ばしておくのも忘れない。

 

 

 

 

 

道行くゴーストや絵画たちにピーブスの居場所を聞きながら歩いていくと、天秤を掲げた魔女の像の前で捕まえることができた。

 

とてもご機嫌らしい。

 

 

「おやぁ?授業は終わったのかい?」

 

「終わりましたわ、こんなにたくさん描いたらもうクレヨンも残り少ないのではないかしら?」

 

 

「そうなんだよ!次のをくれ!!!」

 

 

ほら、と見せられたクレヨンは親指の爪程のサイズになっている。

 

 

 

「貴方がこんなに派手にやってくださったものですから、もう所持していられないですわ。今ある残りの9本全て差し上げますから、屋敷しもべたちの厨房以外にも何か私に教えてくださらない?」

 

 

 

持ち込み禁止のものは没収されるのだから(前回で学んだ)。

 

 

 

「う~ん、じゃあお前が寮を抜け出すときは見回りに見つからないように騒いでやるってのは?」

 

「いいですわね、それでいきましょう」

 

 

 

 

そろそろ『禁じられた森』に行ってみたいと思っていたのだ。

まだ体力的に難しそうだが、その体力をつけるためにも夜の時間は貴重だ。

 

消灯時間後に見回りの先生方に見つかる危険少なく動けるなんて、とても便利だろう。

 

 

 

とはいえ、気分屋なピーブスをどこまで信頼するかは別問題だけど。

 

 

 

 

ご機嫌で飛び去ったピーブスを見送り、次の目的地へ。

 

残りのクレヨンを渡す前にピーブスに厨房への行き方を教えてもらった。

 

大広間を通りすぎ、地下へとおりる。

 

今は夕食までもしばらくあるため人通りはまばらだが、念には念を。

 

認識阻害のネックレスを取り出し首へとかける。

 

 

透明マントのように姿を消してくれるわけではないが、人々の意識に止まりづらくはなる。

 

 

いつぞやのダイアゴン横丁で活躍したこの子は、デザインが気に入っているのもありいつも持ち歩いているのだ。

 

 

入口は地下一階の廊下に掛かったフルーツ鉢の絵だそうだ。

 

 

「さて、梨のお腹をくすぐる?だったわね」

 

 

わかりやすく大きな、緑の梨の描かれた絵の前に立ち、梨へと指を伸ばす。

 

 

ポルターガイストたるピーブスは、壁やら床やらを通り抜けるから扉は必要ない。

が、歴代のイタズラで名を馳せた生徒たちから聞いて正しい入り方も知ってはいたと言うことだ。

 

 

猫の顎をかくように、優しくくすぐると梨は笑い声をあげて身をくねらせる。

……梨の絵?なのよね??

 

いくら魔法界といえど笑い声をあげる梨なんて……いや、泣きわめく大根のようなものがいるんだもの、実在するのかもしれないわ。

 

 

そっと指を遠ざけると、梨だった絵は、緑のドアノブへと変化した。

 

 

 

「ピーブスはほんとのことを教えてくれたようね…」

 

 

そっと扉となったフルーツ鉢の絵を開くと、途端に肉の焼ける匂いや野菜が煮込まれる匂いが漂ってくる。

 

するりと、身を滑り込ませ後ろ手に扉を閉め部屋のなかを見渡す。

 

 

ふむ、とても広い厨房にたくさんの屋敷しもべたちだ。

 

 

厨房は大広間の真下にあるんだろう。

大広間と同じ位に広く、大広間と同じように四つの寮のテーブルと思われるものが置いてある。

(全く同じだから、余計に大広間と同じだと感じるのかもしれない。)

 

天井は高く、部屋の端では大きなレンガの暖炉が部屋全体を暖めていた。

 

 

お伽噺の挿し絵でありそうな景色だ。

 

 

部屋の中には少なくとも100人ほどの屋敷しもべがせっせと調理をすすめていた。

なるほど、こうして私達の食事は作られているわけか。

 

 

 

「お嬢様、何かわたくしめらにご用がおありでございますか?」

 

パタパタと、大きな耳をはためかせながらプティよりも若い屋敷しもべが近寄ってきた。

 

 

「いいえ、貴女方の働く姿が見たかっただけなの。邪魔をしてしまったわね、ごめんなさい」

 

 

「滅相もございません!!お嬢様がたのお手伝いをするのがわたくしめらの幸せなのです!!さぁ椅子をどうぞお座りください!お菓子はいかがですか?お飲み物は?」

 

 

「ありがとう、では紅茶をいただける?いつも夕食を楽しみにしているのよ、だからつまみ食いはまた今度にするわ。ありがとう」

 

 

キラキラと蝋燭の光を跳ね返す大きな目は、琥珀のような色をしている。

 

ふむ、ここの屋敷しもべたちはとても幸せに生きているらしい。

ダンブルドア校長につかえているのか、ホグワーツ城なのかはわからないけれど…屋敷しもべ達が怯えずに暮らせることはとても良いことだわ。

 

 

「どうぞ!お砂糖とミルクはこちらにございます。お熱いですからお気を付けてくださいませ!」

 

「ありがとう。……とても美味しいわ、また来てもいいかしら?」

 

「はい!!!いつでもお待ちしております!!」

 

 

 

 

暖かくて、賑やかだけど、生徒たちが鳴らす騒音とは違ってここの賑やかさは嫌いじゃない。

オープンテラスのカフェで街並みを見ながら読書をする人の気持ちが、少しだけわかった気がする。

 

生き物の気配は、安心する。

なにより、彼らは奉仕対象を害さない。

悪意をもって、何かを成すことがない。

 

 

……けして、プティを思い出して里心が刺激されたとかそう言うことではないのだ。

 

 

 

 

 

 




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44

 

 

「へぇー次のグリフィンドールの試合、スネイプ教授が審判するんだ!」

 

「あぁ、偶然聞いてしまってね。グリフィンドールめざまぁみろ」

 

 

冬の寒さも和らいで、雪ではなく雨が降ることが多くなった今日この頃。

 

スリザリン寮のいつものソファで寛ぐ私達のもとに、外の冷たい空気を纏ったままのドラコが混ざった。

 

朗報だ、とドラコが語るにはつぎのグリフィンドール対ハッフルパフのクィディッチ戦で我らがスリザリンの寮監、スネイプ教授が審判を勤めるとのこと。

 

……マダム・フーチがよく了解したものだ。

箒の授業のときと、クィディッチの試合への熱の入れ方を見たらなかなか、その大役を変わってくれそうではないのに。

 

次の試合でグリフィンドールが勝つと、寮対抗ポイントが抜かされるとかで最近のスリザリン上級生達はピリピリしている。

 

7年連続続いた寮対抗杯(その年の間1番優秀だった寮へと贈られる優勝杯)の栄誉を自分達の代で終わらせられないという、プレッシャーもあるのだろう。

 

 

 

個人的にはあまり興味はないが、私が大手を振って校則を犯さない理由はここにある。

 

先輩方の頑張りを無駄にしてはいけない。

 

 

……前回のピーブスの騒動では、(クレヨンは私のものだが)マクゴナガル教授に呼び止められた際、1本も所持していなかったこと、犯行時刻にきちんと授業をうけていたことから咎められることはなく、減点は免れている。

 

 

全部ピーブスに渡しておいて大正解だった。

 

 

勿論、授業中に獲得した点数も同学年のスリザリン生の中では、胸を張って1番だといえる。

 

 

「サルースも今回は試合を観に行くでしょう?」

 

「……そうね、観に行こうかしら。ダフネも行くのでしょう?」

 

「えぇ、雨じゃなければね」

 

 

 

 

ハリーのデビュー戦以降、久々の観戦だ。

 

その他の試合では、応援グッズを売り捌くのに忙しくて試合を観るどころではなかったのだ。

 

普段は試合が始まるまでは、フレッドとジョージも売り子を引き受けてくれているのだが今回は当の本人たちがプレイヤーだ。

 

今回は前日までの販売の旨を貼り出しておこう。

 

 

 

「サルース~?また商売のこと考えてるでしょ」

 

「成り上がり貴族って訳でもないのにほんとお金好きねぇ」

 

 

 

「いいじゃないですか、お金がないと私の可愛い魔道具達は作れませんし……何より『サルースの杯』の宣伝に1番手っ取り早いんですもの」

 

 

 

あと、お金が好きな訳じゃないですから!

 

 

 

「はいはい、まぁ確かにサルースの商品は他所と比べても安いものね」

 

「品質もいいし、何より可愛いのよね」

 

 

「クリスマス休暇明けに聞いたんだが、サルースのイタズラグッズはマグルに効かないって噂、ほんとなのか?」

 

 

 

 

ふと、思い出したといった様子のドラコの言葉にまた注目が集まるのを感じた。

 

 

「どなたが試されたのか気になるところですが……物によりますが、マグルには認識されない、もしくはマグル避けがかけてあるものが殆どですわね」

 

 

ダフネたちに贈ったリボンのような、他者に影響を及ばさないものにはかけていない。

 

一方、ハリーに贈ったスノードームも他者に影響は及ぼさないがマグルからの認識阻害はかけてある。

 

基準は簡単、マグルに魔法の存在がばれる可能性があるか、ないか。

 

特に未成年の生徒が手に出来る程度の価格帯のものには、全てかけてある。

 

 

 

 

「なんだそうなのか。夏休み中魔法が使えなくても楽しめそうだと思ったのにな」

 

「魔法族どうしでのイタズラにご利用くださいませ」

 

 

近くに座られていた先輩方の一団から声がかかったので、にっこり笑って返しておく。

 

 

「まぁ、マグルが騒ぐと場合によっては『闇祓い局』が動くからなぁ」

 

「『魔法警察』ならともかくそっちが動くと余計な問題があるからな」

 

「闇祓いもイカれた連中が多いからなぁ」

 

 

 

私とて『魔法法執行部』にお世話になるのはごめんだ。

 

 

「……闇祓いと魔法警察って何が違うんだっけ」

 

「ちょ、パンジー。あんたそのくらい常識よ?闇祓いが動くことなんて滅多にないけど、あっちが対テロとか警護とかそんなんでしょ?魔法警察は通報したらすぐに飛んでくるやつね」

 

 

 

闇祓いは特殊部隊で、魔法警察が通常の事件を捜査する部門。

私達の実家を警戒しているのは前者ってところが問題なのだけど……まぁ政界にも食い込む巨大犯罪組織のような認識をされているのだから仕方がないことだろう。

 

私達が生まれる前の話だから、その警戒もいまや名残のようなものだけれど。

 

 

 

ちなみに、『魔法法執行部』は、簡単に言うと裁判所。

 

『魔法不適正使用取締局』が、未成年の魔法使用でとんでくる部署だ。

 

 

私の場合は、この『不正使用局』と『マグル製品不正使用局』の2つに気を付けて製品を作っている状態だ。

 

認可を下ろしてもらったり、うちの商品で起きた問題を解決するために動いてもらったりするから日頃からお世話になっている。

 

 

 

「とにかく、認可が下りるように製品を作るのも大変なのですわ」

 

 

「「へぇー」」

 

 

 

先輩方とパンジーは、ご理解いただけたか微妙なお返事ですね。

 

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 

「最近スネイプに後をつけられてるみたいなんだ」

 

「スネイプ教授が、ハリーの?」

 

 

 

明くる日の午後、たまたまお互いに1人でいた私とハリーは、クィディッチ練習場までの道程を歩いていた。

 

相談があるというハリーに付き合う形だ。

 

 

 

「どこにいても出くわすんだよね。魔法薬の授業は地獄だし、僕達が探ってることに気付いたんじゃないかな……」

 

「ふむ……魔法薬の授業に関しては御愁傷様としか言えませんが、後をつけられているとなると…1人での行動は慎んだ方が良いでしょうね。ハーマイオニーやロンは大丈夫かしら?」

 

「二人はそういうことはないって、サルースは?」

 

 

 

私も思い当たる節はない、はずだ。

 

そもそも授業のお手伝いをする上で、材料の準備や道具の管理などで授業前や授業後にご一緒する機会は多い。

 

なにより調合のお手伝いをさせていただいている以上、圧倒的に他の皆さんよりスネイプ教授とは一緒にいる時間が長いのだから。

 

 

 

「問題ありませんわ。ハリー、前回の試合の二の舞にならないように……安全対策はしっかりと行うべきだわ、だけど相手も同じ手で来るとは思えませんの。むしろ普段の生活でこそ注意するのよ?」

 

「確かに……そうだよね。分かった、気を付けるよ。練習みていくかい?」

 

 

 

そこまで話したところで、ハリーの目的地へとついてしまった。

 

さすがに他寮の私が、練習を見学するわけにはいかない。

ハリーは良くても他の先輩方は嫌がるだろう。

 

 

 

「いえ、ありがとうございます。試合を楽しみにしておりますわ」

 

「うん、じゃあまた」

 

 

 

 

命を狙われていると思っている相手からストーカーされているのは……心的負担が大きいでしょうね。

 

まだ悪夢からは解放されていないのか、顔色の優れないハリーが気の毒だった。

 

 

 

 

 

 



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45

 

 

 

翌、週末の午後。

 

 

クィディッチ競技場には、全校生徒来ているのではないかと錯覚するほどに全寮の生徒たちがつめかけていた。

 

 

私はパンジー、ダフネと共に、グリフィンドールとハッフルパフの応援席のちょうど間くらいの観戦席でピッチを見下ろしていた。

 

どちらの応援グッズを身につけることもなく眺めているのはスリザリン生が多いようで、レイブンクロー生は赤色の旗を振っている人が多いようだ。

 

 

 

審判員は前情報の通り、スネイプ教授が務めるらしい。

 

 

 

「あ、見て?今回はダンブルドア校長まで来てるみたい」

 

「ほんとねぇ……スネイプ教授のご機嫌が悪そうなのはそれが原因?いや、ポッターが関わるといつもあんな顔ね」

 

 

 

ダンブルドア校長がクィディッチを観戦にいらしてるのは、はじめて見た。

 

あの方も何かを警戒されているのか……聖人のような微笑みで入場してくる選手たちを拍手で迎えている。

 

 

 

 

「この試合で寮杯の行く末が決まるかもしれないもの、校長先生も気にされているのね」

 

 

 

試合開始直後から、グリフィンドールに対して笛を吹き、ハッフルパフにペナルティーシュートを与えるスネイプ教授に苦笑がもれる。

 

こんなにも分かりやすく片方のチームに贔屓目丸出しな審判員がいるだろうか!

 

 

 

ハリーは最初の試合の怯え方が嘘のように、今日も生き生きと空へ上がっていった。

スニッチを探しているらしい。

1番高い位置でぐるぐると円を描きながら飛んでいる。

 

 

……あの位置なら、下から魔法で狙われることもないだろう。

 

 

 

その後も、特になんの理由もなくハッフルパフにペナルティシュートを与え続けるスネイプ教授に、会場からはブーイングの嵐だった。

 

 

……フレッドかジョージがスネイプ教授に本当にブラッジャーをけしかけないか、ハラハラしながら観ることになるとは。

 

完全に頭に血が上っている二人をチームメイトが収める様子を見ていたら、会場全体がどよめいた。

 

 

 

 

「ポッターが見つけたみたい!!!!!」

 

「ちょ、パンジーうるさいわよ……あぁ確かに。アレが落ちてるんじゃなければね」

 

 

 

大歓声とともに目を向ければ、ハリーが急降下をはじめたらしい。

地面に向かっての一直線の急降下は50メートルもあっただろうか。

 

弾丸のようなそれにここにいる全ての人が注目し、固唾を飲んで見守っていた。

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

ハリーの大活躍によって、ホグワーツのクィディッチ史上最速で試合にけりがついた。

 

試合開始から5分もたっていないそれは、ハリー・ポッターの快挙としてスリザリン以外の生徒たちに拍手で迎えられたのだった。

 

 

 

「あーあ。ハッフルパフじゃ無理だったわねー」

 

「グリフィンドールに得点で抜かれるのは屈辱ね……」

 

 

 

クィディッチ競技場からの帰り道、五分で終わってしまった試合に不満そうなパンジーと、時間の無駄だったと同じく不満げなダフネと共に歩く。

 

 

「パンジー、ダフネ、午後は薬草園の方を歩きませんか?」

 

「いいわね、寮に戻っても暇だし」

 

「また埃まみれの探検にならないことを祈るわ…」

 

 

 

 

いつぞやの鏡の裏の秘密の通路を探検したあの日のように、ホグワーツ城探索は今でも二人と時間を見つけては行っている。

 

時には隠されているのかいないのか、魔法道具ですらないガラクタの押し込められた部屋を宝探ししたり、誰の趣味だかわからない廊下に置かれる珍妙な石像を見つけては秘密が隠されていないか調べたり。

 

 

パンジーは、探検家か考古学者になったようだと楽しんでくれているが最近ダフネは飽きてきているらしい。

 

 

 

……私とパンジーだけで野に放つと何をしでかすやら、と心配してついてきてくれている。

 

 

 

「こないだの五月蝿い甲冑の絵みたいなやつは、庭にはいないでしょ」

 

「確かにアレは面倒だったわね。他の絵の住人にまで煙たがられてたじゃない」

 

 

 

たしかカドガン卿と名乗っていたか。

うろ覚えだが、とにかく決闘がどうのと言って追いかけ回された事件は記憶に新しい。

 

途中でフリットウィック教授が追い払ってくれなかったらどこまで追いかけ回されたやら。

 

薬草園をぐるっと歩き、そのまま庭を散歩する。

 

秘密の抜け道も、宝箱の目印もどうやら隠されてはいないらしい。

 

ごくあり触れた、ちょっとだけ専門的で貴重な薬草の繁った庭だ。

 

 

 

「庭といえば、お二人ともシャボン玉はご存知ですか?」

 

「しゃぼんだま…?石鹸か何か?」

 

「入浴剤とか?」

 

 

 

やっぱり知らなかったか。

 

スリザリンの皆さんに顕著なのだが、彼らは所謂庶民の遊びを知らないことが多い。

 

 

マグルでも知っているものでさえ触れたことがないのがその原因だろう。

 

 

 

シャボン玉くらいなら、マグルに限らず魔法族の一般家庭でも知られている。

 

 

「そう思って、持ち歩いておりましたの。はい、こちらをどうぞ!」

 

 

ポーチから3つ、ピンクと水色、薄紫の化粧水の小瓶のようなボトルを取り出して見せれば、それぞれピンクと水色を受け取ってくれた。

 

 

「なにこれ、いま使うの?」

 

「中身は……液体、とハケ……ね?」

 

「ボトルキャップの裏側にハケのような吹き口がついていますよね?ここに中の液を浸して……息を吹き掛けてくださいな」

 

 

 

ふーっと、二人の見本になるように息を吹き掛けてみせる。

 

と、虹色のシャボン玉が吹き出され風にのって漂う。

 

 

「わぁ綺麗ね!!やるやる!」

 

「変なしかけは……ないようね?それなら私も」

 

 

 

 

はじめてみたのか、楽しんでくれている二人を眺めながらもう一度、シャボン液に浸して息を吹き掛けることを繰り返す。

 

今度はそっと、ゆっくり息を吹き込んでいくとさっきとは違って大きなシャボン玉が出来上がった。

 

 

目の前の高さで漂うそれに、そっと指で触れ、掴む。

 

 

「特別なのはこのシャボン液、私のやつはとっても丈夫なシャボン玉が出来上がるの。たくさん吹けばこれに乗って飛ぶこともできるかも……なんて。あら?」

 

 

 

二人の方を振り替えるとどうやら私の声は聞こえていないらしい。

 

パンジーのシャボン玉は薄ピンクのハートや星、肉球の形を作っては、パンジーの周りをくるくると周りながら浮いている。

 

 

ダフネの方は、吹いたシャボン玉が様々な愛らしい魚の形をとってダフネの周りを泳いでおり、アクアリウムの中に閉じ込められているようになっていた。

 

 

 

それぞれ私の力作だが、二人とも夢中になってくださったようで嬉しい。

 

 

 

 

「楽しんでくださるのが1番、ですわね」

 

 

手の中の水晶玉ほどのサイズのシャボン玉を空へ飛ばし、二人のもとへ向かう。

 

 

個々それぞれで使うのも、もちろん楽しいが3つ同時に使えばもっと楽しいのだから。

 

 

 

「お二人とも近くによってくださいな!交換しましょう?」

 

「いいわよ!私も魚のやりたい!」

 

「はい、私はサルースのやつやってもいい?」

 

「えぇ!どうぞ!」

 

 

 

 

それから、虹色の泡の中を跳ね泳ぐ魚と、それを彩る薄ピンクのモチーフ達が私達三人の周りを漂うのをシャボン液がなくなるまで楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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46

 

「スネイプ教授とクィレル教授が密会……ですか?」

 

 

「そうなんだよ!!!クィディッチのあと、見ちゃったんだ」

 

 

 

翌日、相変わらず宿題をためているパンジーとそれに付き合う形で読書に勤しむと寮に残ったダフネと別れ図書館へ向かうと待ち構えていたらしい、ハリーとロン、ハーマイオニーにつかまった。

 

それというのも、昨日のクィディッチのあとハリーは怪しいフードの人物を追いかけ禁じられた森の手前までつけていったらしい。

 

 

ちょうど夕食の頃だったとかで、辺りにハリー以外はいなかった。

 

 

で、そのフードの人物はスネイプ教授で森の手前で落ち合った相手はクィレル教授だったということだ。

 

 

 

「そこでスネイプが、クィレルにハグリッドのフラッフィー(三頭犬の名前だろうか?)の出し抜き方が分かったか聞いていたんだ。それからクィレルの『怪しげなまやかし』がどうとかって話してた」

 

 

「それで僕たち考えたんだ」

 

 

「スネイプと、クィレルはグルなんじゃないか……って」

 

 

 

 

そろそろお馴染みになってきた図書館近くの空き教室を陣取り、彼らの話を聞く。

 

いよいよきな臭いというか、ハリー達の心配が現実味を帯びてきたらしい。

 

 

「そう……まず先に1つ、いいかしら?」

 

「え、うん」

 

 

『賢者の石』を護る仕掛けについて勢い良く考察を話している三人(「城の地下に大迷宮があるんだよ!それを越えた先に宝箱が隠してあるんだぜ!」)を止め、ハリーをつかまえる。

 

 

「ねぇハリー?私あなたに命を狙われているのなら、行動を慎めと、いわなかったかしら?」

 

 

「あーえっと、相手が同じ作戦で来るとは限らないから、一人で行動するな、普段の生活こそ気を付けろ?だったっけ?」

 

 

覚えていてくださったようでなにより。

 

 

「もし、それが、ハリーに見られているとわかっていて、森へと誘い出して殺すための相手の作戦だったらどうするつもりだったんですか?大人の、それもホグワーツ教授に、決闘で勝てるおつもりがあったのかしら?」

 

 

「あ……。確かに、それは考えてなかったよ」

 

 

「ロン?貴方ならハリーを殺すのに、人が行き交う廊下や大広間や授業中の教室を選ぶかしら?」

 

 

「ひぇ?!ぼ、ぼく??いや、うん。僕なら人気のない誰にもばれないところでやるかな、うん、たぶん」

 

 

 

情けない悲鳴と共に肩を跳ねさせたロンが、一瞬こちらを見てすぐに顔をそらして答えた。

 

 

 

「ねぇハーマイオニー?禁じられた森ってその条件にぴったりだと思わない?」

 

 

「え、えぇ。そうね、確かにそうだわ」

 

 

盲点だったと、口に出さずとも伝えてくる表情のハーマイオニー。

 

 

 

にっこりと、笑顔のままハリーへと視線を戻せばばつが悪いを形にした顔で明後日の方向を向いている。

 

 

 

「ハリー?」

 

「………………はい」

 

 

3拍ほど無言で見つめれば、恐る恐るといった様子でこちらへ視線を戻してくる。

 

 

「あなたが無事で良かったわ。……くれぐれも、忘れないで、あなたの、安全が、1番よ」

 

「うん、ごめん。分かった、気を付けるよ」

 

 

 

 

反省しているようだから、小言はここまででいいでしょう。

 

ロンとハーマイオニーにも視線を向けると、同じように反省しているようだった。

 

 

 

「それで、スネイプ教授とクィレル教授がグルだって話でしたわね?……確かに、どちらかが味方だと想定するよりもどちらも敵だと考えた方がいい事は間違いないわね」

 

 

 

「う、うん。はじめはクィレルが脅されているんだと思ったんだけど」

 

「サルースが言ってたことを思い出したのよ……貴女はクィレルを疑ってる、って」

 

「それでピンと来たね。僕らはどっちも間違ってなかったんだよ!両方敵さ!!!」

 

 

 

ふむ。

 

両方が敵……盗人だと仮定して、トロールの件、箒の件、それぞれ考えてみると辻褄が合わなくはない。

 

陽動する者と、その影で目的を果たす者の二者に別れるわけだ。

 

箒の件に関しては、さすがに衆人環視の元で事を起こすことに躊躇った片方が妨害呪文を唱えた、とか?

 

 

 

多少こじつけのような気もするのだけれど。

 

まぁ、何事も最悪を想定した方がいい。

 

 

 

 

とはいえ、この話をどう締め括るのかが問題だ。

 

 

ハリー達の話題はまたも石を護る仕掛けについて、教師二人がかりでいつまで持ちこたえるのかという議論になっている。

 

 

いくら三頭犬といえど、大人の魔法使い二人相手では部が悪いのではないか、と。

 

 

 

「そうね、フラッフィー?だったかしら。その三頭犬は魔法界でも珍しい種だわ。だからその手懐け方もたくさんの人が知っているわけではないわね……えぇ、一般的ではないし試そうとする人はいないもの」

 

 

 

 

クリスマス休暇中に改めて調べたが、やはり三頭犬という言葉で有名なのは地獄の門番という逸話だった。

 

歴史家の考察では、いつぞやの時代のマグルがだれぞの地下宝物庫に迷い混んだのではないかとあった。

そこの持ち主がゴーストになってまで生前の宝を守っており、それを見てしまったのだろう、と。

 

 

 

そしてやはり、私の記憶通り三頭犬は犬としての側面が強いこと、伝承に近いが音楽を愛すると書かれていた。

 

……とはいえ音楽云々に関しては文献も古く曖昧だった。

 

それが事実か不明瞭な状態で、獰猛な三つの首を前に、音楽を聴かせたら眠るのか試すなんて愚か者はいないだろう。

 

だって、もしも効かなかった場合瞬く間にエサにされてしまう。

 

 

だが……ここ暫くの間図書館の魔法生物にまつわる書物を調べていたが、三頭犬の記述があるものは一冊もなかった。

 

上級生に借りた、『幻の動物とその生息地』という魔法生物学の教科書でも取り上げられていない。

 

 

 

マダム・ビンスに資料の取り寄せを頼もうかとも思ったけれど……さすがにピンポイントすぎて先生方に目をつけられそうだからやめた。

 

 

「図書館にその犬の事が書かれた本はなかったわ」

 

「あ、サルースも見つけられなかった?私もなのよね……ダンブルドアが隠したとか?」

 

「それは考えられるわね」

 

 

 

学内にスパイがいるのならなおさら。

 

万が一にもハリー達のような探究心の強いものや、禁止されるとやりたくなるどこかの双子のような悪戯好きが三頭犬と出会って、その倒し方を見つけてしまうかもしれないなんてことは、生徒の安全な生活を脅かす。

 

 

この城の1番の存在理由は、子供達の教育、だ。

金庫でも、牢屋でもない。

 

 

 



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47

ちょこっと長いです。


さて、ハリー達とのスネイプ教授とクィレル教授の悪巧み考察会は結局のところ見守るに努めるとしてお開きになった。

 

 

 

4階の廊下、三頭犬のフラッフィーがいる部屋に私は入ったことがない。

 

もちろん、世にも珍しい三頭犬はとても気になるし見てみたい。

ハーマイオニーが見つけたという、三頭犬の守る仕掛け扉の先にあるものも興味がある。

 

 

 

だけどそこへ、私は行こうとは思わない。

 

 

「サルースおかえりー」

 

「あら、今日ははやいわね」

 

 

「ただいま戻りましたわ。パンジー、ダフネ」

 

 

 

 

100%の安全が確信できないのならいかない。

 

二人が心配するし、その結果巻き込んでしまうのではないかと思うから。

 

 

 

「ちょっと聞いてよーダフネがノート写させてくれないのよ!」

 

「授業中に寝てる方が悪いでしょ」

 

 

「それは、ダフネが正論ね。パンジーは『闇の魔術に対する防衛術』の授業が苦手よね」

 

 

 

 

八割の確率で寝てるもの。

 

 

 

「べつに苦手ってわけじゃないのよ。実技がない授業がつまんないだけ」

 

「まぁ……クィレルの授業って教科書読んで板書するだけだものね。フリットウィックやマクゴナガルの授業のがやりがいはあるわね」

 

 

 

 

なるほど、座学がダメということか。

 

 

 

「来年からはあると信じて、今は基礎を覚えなくてはですわね」

 

 

知っているだけじゃ実践はできないけれど、知らなかったらそもそもどうしようもない。

そういう意味では闇の魔術に対する防衛術は他の教科よりも、覚えているだけで意味があるのかもしれない。

 

 

 

どのように危険なのかを知り、最適な方法で逃げる。

 

 

戦うよりもずっといい。

 

 

 

「あーあ。勉強飽きちゃった!気分転換にいきましょうよー」

 

「飽きたって……はぁ。まぁいいわ」

 

「明日提出分は終わってるんですものね、天文台なんてどうかしら?」

 

 

 

そろそろホグワーツ城の最上階まであがっても、倒れないはずだ。

私の体力もそろそろ人並みになってきている、はず。

 

 

 

「天文台?いいわよ」

 

「サルースは無理しないでね」

 

「はい!」

 

 

 

森と湖を挟んだ深い渓谷に囲まれたホグワーツ城だから、きっと綺麗な景色がみえるはず。

 

いつか星が見える夜にもあがってみたいとも思っている。

 

一部の魔法生物や、占い師がそうであるように、星読みなんて風流だし、才能があるとは思えないがやってはみたい。

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

 

スネイプ教授とクィレル教授の密会をハリーが目撃した週末から、しばらく。

 

やきもきしながら日々を過ごすハリー達に対して、私はそこまで心配や不安に苛まれることもなくいたって平和に日々をすごしている。

 

 

「先輩方がピリピリしてるわねぇ」

 

「えぇほんと、図書館も談話室も居づらいわ」

 

「学年が高くなるほど人生がかかってますもの……毎年ノイローゼで倒れる人が出始めるってスネイプ教授がおっしゃられていたわ」

 

 

 

学年末テストが約3ヶ月後に迫る今日この頃。

 

私達3人はノートのまとめを作ったり、それぞれテストに出そうな魔法を見せあっては感想を言い合うなんてことをのんびり行っている。

 

 

おそらく、まだテストの準備に乗り出していない生徒の方が多い中、私達は学年では少数派だろう。

 

とはいえ、レイヴンクロー生は先輩方の雰囲気に当てられたのか、授業後に質問に行っている人達をよく見かけるようになった。

 

 

「あー、毎週二人で会ってればそういう会話もあるのね。サルースのスネイプの助手係もそろそろおしまいじゃない?」

 

「サルースの事だから来年も授業免除の助手なんじゃない?……助手っていうと聞こえはいいけど体よく使われてるわよね。放課後の補講なんてサイアク」

 

「ふふ、そうね。私は楽しくお手伝いさせていただいているのよ?とはいえ来年のことまではわからないわ」

 

 

ハリー達と共にスネイプ教授を疑っている中、二人きりの魔法薬の特別授業を続けているのはリスクもともなう。

 

が、スネイプ教授は慎重な方だ。

 

 

自分が一番疑われる状況で、何かを仕掛けてくることはないだろう。

 

……それにハリーは命を狙われるだけの知名度や影響力がある。

 

だけど私を害したところで、メリットよりもデメリットの方が大きいのだ。

 

なんやかんやと、理由をつけたものの何より私は自分の寮の寮監を信じている……という事が1番の理由だけど。

 

 

「それこそサルースぅ、スネイプ誘惑でもしてテストで作らされる魔法薬が何か聞いてきなさいよ」

 

「サルースが…誘惑……ふふふっ」

 

「無理ねーアハハハハ!」

 

「ちょっとお二人とも酷いですわ!誘惑は、確かにちょっとあれですけど……そんなことを言うパンジーにはもう魔法薬学でフォローはなしですわ!」

 

 

ぼんやりしてる間に二人から笑われてしまった。

 

まったく、遺憾の意である。

 

 

「ごめんごめん!サルース様の助けがないと死んじゃう!」

 

「サルース様のアシストは課題もテストもだけど、授業中の小さいミスをフォローしてくれるとこがすごいものねぇ。ありがとうね」

 

 

「調子いいですわねぇ…まぁ冗談ですわ。テスト、頑張りましょうね」

 

 

 

スリザリン内では、先輩方が代々受け継いでいる、全教科のテスト対策ノートなるものが存在する。

 

過去何十年ものデータが詰まっているのだ。

 

縦の繋がりも横の繋がりも隅々まで、しっかりと強く結ばれているスリザリンならではのもの。

と、ノートを管理している監督生の方が熱く語っていたのも記憶に新しい。

 

一緒に聞かされた、二年生のスリザリン成績トップの先輩と共に少し引いてしまった。

 

談話室にいた他の生徒達がはやしたてるものだから、監督生の熱弁はさらに続き、先輩方が止めに入まで永遠に続くかと思った……閑話休題。

 

 

 

ともかく、既にそのスリザリンの叡知の結晶と呼ばれるノートが回りだしているから、テスト1ヶ月前には全員が写し終わることだろう。

 

なお、このノートは成績優秀者から順に回ってくるため、私はすでに写し終わっていたりする。

 

 

ドラコや、ダフネも同じくだ。

 

 

「そういえば、あのノートの写しに関しては二人とも見せてくれないわよね、なんで?」

 

「なんでかは回ってきたらわかるわよ」

 

「そうですねぇ……お見せしてもいいのですけれど、人が写したやつを又貸ししても意味がないのですわ」

 

 

 

首をかしげるパンジーに、ダフネと顔を見合わせて苦笑する。

 

 

「なになに?何かあるの??」

 

「んーーナイショ。回ってくるまでのお楽しみ」

 

「えー!何でよいいじゃない!」

 

「来週には回ってくるんでしょ?秘密よ」

 

 

 

ふふん、と楽しそうに笑うダフネはパンジーをからかえてご機嫌な様子だ。

 

 

 

 

「サルース!」

 

 

「ダフネに賛成ですわ。楽しみにしていた方がノートを写すのもはかどりますし」

 

 

「えーー二人だけずるーい」

 

 

 

 

スリザリンの叡知の結晶だなんて、大袈裟な名前がついているのには理由がある。

 

 

そのノートは歴々の先輩方が内容を増やしていったのは勿論のこと、より分かりやすく、効率よくと、ノート自体に魔法をかけていったようなのだ。

 

 

それらは複雑に絡み合い、魔法道具と呼べるまでの代物になっていた。

 

 

盗難防止、水濡れ防止、燃えない、スリザリン寮外への持ち出し禁止……などなど。

 

呪文どうしが干渉しないようにするための、諸々の対策もしっかりとられていた。

 

 

 

私が凄いと思ったのは、それらの措置を全て歴代のスリザリンの優秀者が行ってきたという歴史そのもの。

 

ダフネの気にしている部分はこれではなく、そのノートの機能の方だろう。

 

 

そのノートは、開いた者の覚えていないことを教えてくれるようになっていた。

 

開心術や思いだし玉の強化版のようなものだ。

 

 

テスト範囲のうちからそれらをピックアップしてくれるのだから、人それぞれかかれている事は違う。

 

 

だからこそ、他人が写したものを又貸ししても意味がないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつも感想、誤字報告、ありがとうございます。


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48

テスト勉強ムードにいち早く染まりつつあるスリザリン寮から、今晩も抜け出し地下牢の魔法薬学教室へと向かう。

 

 

冬場はすきま風で氷柱ができるほど寒くなるこの場所は、日も落ちたこの時間セーターとマフラーがかかせない。

体を暖めるための魔法具も、つけてはいるけれどそれでも寒いのだからよっぽどである。

 

 

*******

 

 

「スネイプ教授?こちらのフラスコ全て片付け終わりましたわ」

 

「うむ。ではこちらで『元気爆発薬』の調合見学に来たまえ。気付いたことがあったらいつもどおり言うように」

 

 

「はい、承知致しましたわ」

 

 

 

今日は二人掛かりで作る程のものではないため、消灯時刻の前まで見学になるとのことだ。

 

 

ところで、この放課後の補講は、私が先生にお願いして始めたものという前提がある。

 

 

そのペースとしては、私が訪れる余裕のある日は、夕食を終えてから寮で少し時間を調整し(たまに大広間でそのまま時間を潰してから)ここへ来る。

 

 

逆に、スネイプ教授のご都合が悪い日は、その日の朝食から夕食中までの間にその旨を記したメモ書きが飛んでくるようになっている。

 

 

 

また三回に一回程度の割合で、教室の前でウィーズリーの双子に遭遇し、私達が魔法薬を作る傍らで何かしらの罰則をうけているようだった。

 

 

要するに、多くの場合私が来たいときに来て、勝手に手伝い、話し、過ごしている。

もちろん、教授からそのようにするよう言われているからだが。

 

 

おそらく、私と双子はこの学校のなかでも特別スネイプ教授と接している時間が長いだろう。

1番多いと言っても過言ではないはず。

 

 

 

「鍋を混ぜる手順に回転の向きと回数が関わるのはマグルで言うところの物理学が、魔法薬を生成するのに関わっている。という論文を目にしましたスネイプ教授はどうお考えですか?」

 

 

「ふむ。月桂樹の効能を論じたものだったか。ドイツの魔法薬学者の論文だったな。それに関して議論するのなら同じくマグルの遺伝子という生物の構造に纏わる学術の論文も読んでおく必要があるだろう。……まぁバーグなら読んでいるか。その上での我輩の意見としては……」

 

 

 

だから、何度も言うがこの教授に悪巧みの余裕があるとは思えないのだ。

 

しみじみ、ここへ来て真剣に鍋を構うスネイプ教授を見ながらつい三人組のグリフィンドールの友人達を思い浮かべてしまった。

 

 

 

鍋の混ぜ方を論じる時間は楽しいし、この人の考えは聞いていてとても勉強になる。

 

 

「……と、まぁ世間一般的な魔法薬学の論説とはかけ離れた理論だが五十年も待たずにこれが主流になるだろう」

 

 

 

科学知識と魔法知識の融合。

私には応用することがまだ出来ないが、スネイプ教授はその一部を掴みかけているらしい。

 

 

「どちらの学問も修めなければならない、というのがネックではありますが……今まで感覚で行われてきたことが明文化するのは技術力の向上、発展に繋がりますね。貴重なお話でした、ありがとうございました。この『元気爆発薬』はノイローゼの上級生用ですか?」

 

 

「あぁ。常日頃から備えておかんから間際になって体調に影響を及ぼすのだ……バーグは勿論学年一位を獲れるのだろうな?」

 

 

 

学年一位……そうですねぇ。

 

ハーマイオニーさえいなければ、勿論と簡単に頷けるのだけれど。

 

 

「えぇ、今年は間違いなく獲りますわ。スリザリンの寮杯も……今のところ余裕綽々とは言えませんし、まだまだ頑張りますわ」

 

 

 

まだ、彼女には負けない。

ホグワーツの試験は100点満点に対して、評価者の判断で加点が追加される上限点数なしの方式だと先輩方がおっしゃられていた。

 

 

完璧よりもさらに上を。

 

 

先輩方から教わった、各教授ごとの出題と加点の傾向をおさえなくては。

 

 

「……フン。期待している」

 

 

「!えぇ、頑張りますわ!」

 

 

 

スネイプ教授から期待されているのなら、それにお答えしなくては。

 

 

 

*******

 

 

 

 

「ドラゴンについて……ですか?」

 

 

「あーうん。そう、ほらマグルだと魔法イコールみたいなところがあるから……実際のとこどうなのかなーって」

 

 

「そうなの!サルースは見たことあるのかしら?」

 

 

 

 

あくる日の図書館でのこと。

 

私はホダッグ(大きな角の生えた蛙のような生き物で角が魔法薬の材料になる。主に酔い醒ましに使われ、七日間徹夜する魔法省の一部の役人向けにも煎じられる薬のもと)の効率的な捕獲方法と養殖についての本を探して、魔法生物に関する本棚の間をさ迷っていた。

 

 

ここは高学年の先輩方でも、選択授業で魔法生物学を履修されている人しか訪れない場所である……ペットの悩み事がある人もたまにいるけれど、とにかくここで出会う人は限られている。

 

 

のだが、なぜかハリー、ハーマイオニー、ロンの三人組に遭遇した。

 

 

何かと思ったら、ドラゴンについて知りたいらしい。

 

 

 

ちらりと見えたロンが抱える本のタイトルには、『庭小人でもわかる家庭でドラゴンを育てる方法』『火山で生きるドラゴンの生態』『ベイビードラゴンのよちよち手帳』と、ある。

 

私の視線に気づいたのか、サッと背中に腕を回して隠されてしまった。

 

 

 

彼らはまたおかしな事を企んでいるらしい。

 

 

 

「生きているドラゴンだなんて、サーカスにもいませんよ?……ドラゴンの素材ですら貴重すぎて何度かしか触れたことがないもの」

 

「サルースみたいな貴族でもそうなんだ」

 

「マグルが思ってるほど、魔法使いでも簡単に会えるわけじゃないのね」

 

 

 

 

ふむ、と首をかしげた二人はさておき。

 

 

 

「……ロン?ドラゴンの無許可飼育は法律違反だってご存知ですわね?」

 

「当たり前だろ……チャーリー、2番目の兄さんがドラゴンの研究してるんだぜ。さすがにそのくらいは僕でも知ってるよ!」

 

 

 

 

そのわりに……物騒な本を揃えている。

 

そもそも最初のハリーの質問もおかしいのだ。

何故いきなりドラゴンなのか。

 

明らかにしどろもどろ、不味いところを見られたとばかりに口を開いたと思ったら、ハーマイオニーが被せるように質問をしてきた。

 

同時にハリーの足を踏んでたのも見逃してない。

 

 

 

 

まぁ……ドラゴンを発見することはイギリスで生きていたらないことはない。

普通に山奥や渓谷なんかに野生しているし。

 

とはいえ密猟するにもコスパが悪いので裏のルートでもなかなか流れてこないのは確かだ。

 

稀にマグルの目に届くところに出てきてしまう個体がいると日刊予言者新聞がざわつき記憶処理に一部の役人が駆けずり回ることになる。

お茶の間の話題にあがるため、魔法族の一般家庭ではワーロック法とともにメジャーだ。

 

例の石を護るための方法として考えているのだろうか。

 

 

 

「ドラゴンを手にいれるのは、我が家は専門外ですからお話にならないし、恐らくマルフォイ家ですら難しいわ。よっぽど真っ黒な手段か、ダンブルドア校長程の著名で実績のある研究者でも難しいのよ?手にいれようだなんて考えてはダメよ」

 

 

「も、勿論だよ!ドラゴンの卵だなんてそんな危ないもの」

 

「そうそう!まさか暖炉で育てるわけにはいかないからね!」

 

 

 

「ちょっと!」

 

 

 

やけに具体的な例えだ。

 

 

 

「まさか……ですわね?」

 

 

「「「もちろん!!!」」

 

 

 

 

 

本当に三人ともお顔に答えがかいてありますよ。

 

 

 

 

 

 



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49

慌てていなくなった三人を見送り、調べものへもどる。

 

 

あの三人のお小遣いで買えるような生き物ではないし、ドラゴンは赤ん坊だって危険度はxxxxxを超える。

 

手にいれるためのルートすらないだろう。

 

 

『賢者の石』を護る力になりたいという気持ちは、共感できないけれど理解はできる。

 

そのためにドラゴンを使おうだなんて、夢があるしハリーもロンも好きそうだ。

 

 

……ハーマイオニーならどれだけ危険なことかわかりそうだけれど、正義感が勝ってしまったのかしら。

 

 

 

ま、私はドラゴンと闘う英雄記は読む専門なので。

どうせ自己投影するのなら、助けられるお姫様の方がいい……パンジーとダフネには笑われそうだけど。

 

 

*******

 

 

 

 

「サルースー?またランチするの忘れてるでしょ?」

 

「そんなに面白い本を見つけたの?」

 

 

 

 

パンジーの声に顔をあげる。

どうやらお昼の時間らしい。

 

 

「いつもすみません、この16世紀の人体浮遊に関する魔法の研究論文が面白くて……」

 

「うわ……タイトルからして面白味の欠片も感じられないわ」

 

 

魔法薬で使用するホダッグに関する文献を読んだあとは、魔法道具を作るための知識集めをしていた。

 

 

 

箒を使わずに空を飛びたい人々の努力の結晶、面白いと思うのだけど……

 

 

「ほら、続きは寮で読んでよね。貸し出し手続きしてきなさい」

 

「はい!入り口でまた!」

 

 

 

 

 

ダフネが手早く纏めてくれた荷物を全てカバンへつっこみ、いくつかの資料をまとめて借りることにした。

 

箒や絨毯以外に、もっと安全で簡単な空飛ぶ道具なんてあったら面白いと思っている。

箒なんて精密器具は専門の職人さんじゃなければつくれないけれど……そこを何とか考えるのは楽しそうだ。

 

絨毯は魔法陣やルーン文字なんかを織り込む形で呪文を成り立たせていると聞いたことがある。

 

 

やはりルーン文字学は、早いうちにきちんと学んでおかなくては。

 

浮遊の呪文を物にかけて、浮かべるだけなら簡単なのだけれど……効果がいつまで続くかわからない点や、対象物の構造なんかを理解せずにかけると空中でバラけるなんて事にもなりかねないので基本的に禁止されている。

 

 

うーん……空飛ぶ靴なんて神話にも出てくるし、夢があると思うのだけど。

 

 

 

「まーた難しいこと考えてるわね」

 

「ほら、お昼ご飯にいくわよ」

 

 

「あ。お二人ともお待たせ致しました!!ランチでしたわね」

 

 

 

二人が呼びに来てくれていたのを忘れていた。

 

 

ほらほら、と両手をひかれて大広間へ向かう。

 

 

遅めのランチとなったので、スリザリンの席にはドラコ達はおらず一部の上級生が教科書片手にちらほら座っているだけだ。

 

 

「ちょっと、野菜も食べなさい」

 

ダフネが私の分まで取り分けてくれるマッシュポテトや生野菜をつつく。

個人的には、糖蜜パイと蜂蜜がけの焼きリンゴなんかが最近のお気に入りだ。

 

スペアリブやミートパイも最近はたまに食べるようになった。

 

 

……確実に体が丸くなってきているけれど、もともと平均より小さいので問題ない……はず…成長期も来ていないし……

 

 

 

「パンジーの宿題は終わった?」

 

「なんとかねー!ほんと、疲れたわよ!!歴代の魔法省大臣の名前なんて書き取りさせて何になるってのよ……使いどころないわー」

 

「とりあえず今度のテストで使うんだから黙ってやりなさいよ」

 

「えー……そもそもテストに出ることがおかしいわよ。もっとあるじゃない?なんかこう、ねぇ?」

 

 

 

パンジーは先日の小テストで赤点だった事で、私とダフネより課題が1個多かった。

 

たしかに使いどころは無さそうだけどね、さすがに一人も書けないのはダメだと思うわ。

それは一般常識の範囲内だもの。

 

 

 

とはいえ、パンジーも課題が終わったなら午後は一緒に遊べるということだ。

 

 

 

「あ、そうだ!ダフネ、サルース!午後はボードゲームみたいなことをしない?こないだ届いた雑誌についてたのよねー」

 

「ボードゲーム?私はいいけど、サルースは図書館はもういいの?」

 

「えぇ!今日の調べものは終わっておりますわ」

 

「なら決まりね!ほらほら二人とも早く食べて行くわよー」

 

 

先程までとは打って変わって、ご機嫌な様子のパンジーにせかされ食事を終えた私たちは寮へと戻る道を小走りに戻ることになった。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

「じゃーん!マダム=ラブフォーチュンの『未来の王子様を占う』よ!!!」

 

「「うわぁ……」」

 

チカチカと輝くピンクと紫に縁取られたボードゲーム……というよりは心理テストのような冊子を抱えて現れたパンジーに、ダフネと声がかぶってしまった。

 

胸焼けして吐きそう、みたいな顔をしたダフネ程ではないにしろ私の顔もひきつっていそうだ。

(表情筋もちゃんと仕事をするようになった、と最近よく言われる)

 

 

 

「なによ、二人揃って変な顔しちゃって。ほらほら、さっそくやるわよー」

 

「まって、待ちなさいパンジー。ボードゲームじゃないわよね?!そもそもマダム=ラブフォーチュンって誰よ……」

 

「誰かなんて知らないわよ。そ、れ、と、これはちゃんとしたボードゲームなの!ほら見て?サイコロと駒があるでしょ?」

 

 

 

 

たしかに、賽の目が輝くハートでできたピンクのサイコロと、女の子の形をした小さな駒を見せられた。

 

 

ついでに渡されたルールブックを見ると、すごろくのようなものらしい。

 

進んでいった結果出会った相手が、運命の王子様だというゴールだから占う……と名乗っているらしい。

 

 

「いや、駒のスタート位置がプレイヤーの生まれ月によって違う上に年齢でマイナス補正が入ってサイコロ値が変わるって……滅茶苦茶なすごろくね」

 

「斬新なアイデアですわね。勉強になります。やりましょう」

 

「ほらほら、サルースもこう言ってるしダフネも諦めなさい!まずはー駒選びね?色によってステータス補正が違うからよく考えないとねー!」

 

 

 

ふむ。

なかなか面白いルールだし、意外とゲーム性も高いようだ。

 

一回プレイしたらすべてのルートへの行き方が分かってしまいそうだが……まぁサイコロの運次第。

 

やれやれと、降参のポーズをとったダフネも含めて、いざすごろくである。

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

結果からいくと、ダフネが離婚歴のあるグリンゴッツ職員の旦那様と結婚し無難に家庭を築き三人の子供と庭付きの家で暮らしていく事になり、パンジーは芸術家志望の無収入、無才能な男性と借金を背負って自身が働き、生活を立てながら優しい夫の愛に包まれて本人は幸せに暮らしていくという事となった。

 

私?

 

呪い破りのトレジャーハンターの旦那様と共に、海底国家の攻略中に食中毒で夫を亡くし、その後マグルの王族と再婚、革命にあい断頭台で生涯を終えた。

 

 

 

「圧倒的にサルースがヤバイことになったわね」

 

「いや、パンジーも微妙にリアルでヤバイわよ」

 

「ダフネの結果は一番現実的ですわ」

 

 

 

 

占い、というよりは完全にすごろくだった。

 

ある程度マスの選択肢を調整して進むことで方向性は操作できるものの、まさかの最後を迎えてしまいましたわ……

 

 

 

とはいえ、思ったよりも楽しめた事は間違いない。

斬新なすごろくだった。

 

 

 

 

 



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50

長らくの失踪申し訳ない……


いよいよテストが近づくにつれ、学園内の緊張感も高まってきたこの頃。

 

 

 

ドラコが何やらやらかしたらしい。

 

それで50点の減点をされたとかで、ご実家からお叱りのお手紙と思われる冊子(程の厚みがある手紙)が送られてきていた。

 

 

グリフィンドールからも同じく150点の減点があったようだが(大方あの三人組だろう)、スリザリン的にはよその事は二の次だ。

まずは他人の不幸を囃し立てるより、自分の寮の減点についてどうにかするという流れになった。

 

 

ハリーがシーカーとなったクィディッチでは、グリフィンドールの二度の勝利で、寮対抗の点数がスリザリンに迫っており、例の問題が起こるまでは、ほんの数十点の点数差で日々勝ったり負けたりと首位を争っていた。

 

 

 

学期も終わりに近い今、点数に余裕はない。

 

夜間外出で寮杯を逃したなんて事になったら、来年から部屋の扉に外鍵をつけるなんて先輩方が言い出しかねない。

 

 

 

「ドラコもやっちゃったわねぇ」

 

「グリフィンドールのバカに関わるからよ」

 

「まぁまぁ、残りの時間でまだ取り返せる範囲内ですもの。頑張りましょう?」

 

 

 

パンジー達ですらこの調子だ。

ドラコの肩身は言わずもがな、である。

 

 

 

……グリフィンドールの三人、というよりハリーとハーマイオニーも校内で見かけるといつも俯いて、誰とも目を合わせないようにしているようだった。

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

試験まで残り一週間。

 

 

「それで、罰則は何になったのですか?」

 

「……わからない。集合場所と時間しか聞いてないんだ」

 

 

件の事件からしばらく、寮内に居づらい事もあってか、図書館にいることの増えたドラコと自習をすることが日課となっていた。

 

 

 

なんでも今回の事件は、ハグリッドさんの家で、ドラゴンを飼育しているところを目撃し決定的な証拠を抑えるべく企てたものの、いざマクゴナガル教授に言い付けに伺ったら自分も夜間外出で処罰されることになったと。

 

しかもドラゴンは処理されたあとで、夢でもみたのだろうと信じてもらえなかったとか。

 

 

……真夜中の一時に叩き起こされたマクゴナガル教授に同情する。

 

 

 

そして、ドラゴンはそういうことだったのね。

 

確かにホグワーツの禁じられた森を守るハグリットさんなら、ドラゴンを仕入れられる伝があってもおかしくないのかもしれない。

 

三頭犬と同様、いや珍しさで言ったら後者が勝るのではないだろうか。

立ち入り禁止の部屋の門番にダンブルドア校長が起用を決められる程、調教された魔法生物。

 

頭が三つあるということは、従えるための難易度も三倍、それ以上かもしれないがまぁとにかくダンブルドア校長のご指示で、ドラゴンの飼育を行っていたのかもしれない。

 

 

……ハリー達が知ってしまった分には隠し通せたがドラコは秘密をマクゴナガル教授にとはいえ話してしまった。

 

 

だから様々な危険を考慮して、全員罰則となった……とか?

 

 

「大変だったのね、お疲れ様でした。次からは時間も考えて、もっと上手にやること、ね?……ところでドラゴンはどんな種類だったのかしら?」

 

 

「サルースは……いや、うん。気を付ける。種類は分からない。けど、赤かったと思う、それから火を吹いてた」

 

 

赤くて火を吹く、か。

典型的な危険種って感じだけれどその特徴だけでは絞りきれないわね。

 

 

「ドラゴンだなんて信じてくれるのか?」

 

 

「え?えぇ。勿論よ?ドラコはそんな嘘言わないでしょう?」

 

 

「あ、あぁ。誓って嘘じゃない」

 

 

 

何故そんな唖然とした顔でこっちを見るのか。

 

 

「うーん、やっぱりノルウェー種でしょうか。産まれてすぐに火を吹き、噛まれたロンの手が腫れていたのでしょう?となると火山帯の子ではありそうなんですけれど……」

 

 

ドラゴンの品種一覧を眺めながら、ハグリットさんの家に卵の破片でも残っていないかと思案する。

 

 

産まれた瞬間に殻を食べてしまう事が多いようだから難しいか。

 

超レア素材なんですけどね。

 

 

 

「流石、サルースはテスト勉強はもう完璧か」

 

 

「完璧とは言いませんが……教科書の範囲に対してやれることはやったので、あとは予備知識といったところでしょうか?」

 

 

 

 

ドラゴンについては、ハリー達から聞いた方が情報が集まりそうね。

 

 

 

*******

 

 

 

ドラコやハリー達の罰則があった翌朝。

 

 

 

「サルース!!!!ちょっと来てくれ!!!」

 

「お、おはようございますドラコ」

 

 

 

談話室で顔を会わせた途端に寄ってきたドラコに連れられ、大広間へと向かうことになった。

 

よっぽどなにかあったのか、クラッブ達もダフネ達も置き去りにしてきてしまった。

 

 

 

「ありえない。絶対におかしい。あいつらもあのイカれたジジイも、絶対におかしい……」

 

 

ツカツカと足早に私の手を引き歩くドラコは、着いていくので精一杯な私に気づく様子もなく怒り顔で何やらぶつぶつと呟いている。

 

足がもつれて転ばないようになった私、えらい。

 

 

 

 

 

 

 

 



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51

 

 

大広間へ向かっているのかと思ったのだけれど、まっすぐ空き教室へ連行された。

どうやら朝御飯は後回しになるらしい。

 

 

「全く、本当に、あいつらはイカれている!!!聞いてくれサルース!……あ、すまない。息は出来ているか?」

 

 

怒り心頭なドラコの早足に引っ張られるまま教室へ飛び込んだ私は現在酸欠に苦しんでいる真っ最中。

やっと振り返ってくれたドラコがそれに気付き背中を擦ってくれた。

 

 

「だ、大丈夫ですわ……スーハー……それで?昨夜何がありましたの?」

 

「本当にすまない。少し落ち着いたよ、驚かないで聞いてくれ、昨日の罰則の内容は『禁じられた森』での怪我したユニコーン探しだったんだ!……_」

 

 

 

ドラコの話では、昨晩集められたメンバーはドラコのほかに、ハリーとハーマイオニー、それからネビル・ロングボトムさんだったらしい。

 

そしてフィルチさんに連れられてハグリッドさんに引き渡された後、告げられた罰則内容は『森でのユニコーン探し』だったと。

 

その後2組に別れて森の中をランプ片手に歩き、怪物に遭遇して襲われそうになったと。

 

 

 

 

うーん……色々とダメではないかしら、これ。

 

 

 

「_……そして命からがら森から脱出したってわけさ。いいか?この話は一切の誇張なし、本当に起こった事しか話していない。本当に、誓ってだ!杖に誓ったっていい!」

 

「疑ってませんから、落ち着いてくださいな。それで、ドラコに怪我は?大丈夫でしたか?」

 

「手のひらを擦りむいた程度さ。何てことない!ありがとう。サルース」

 

 

 

 

怪我がないなら何よりですわ。

ハリーたちも無事だといいのだけど……

 

ロンじゃなくてロングボトムさんがいたって言うし彼は特に心配だ。

お世辞にも運動神経が良いとは、私と比較しても言えない感じだし。

 

 

「とりあえず、ドラコはお父様に手紙を書くことをおすすめいたしますわ。ユニコーンを傷つけられる存在が徘徊する夜の森を1年生だけで歩かせるなんて正気じゃありません……しかもそれが罰則だなんて……スネイプ教授にもひとまず抗議しましょう。それからマクゴナガル教授にも」

 

 

罰則はそれぞれ関わった先生方の判断に委ねられている。

 

今回はハグリッドさんのドラゴンが原因だったからか、夜間徘徊を発見し、減点を行ったマクゴナガル教授ではなくハグリッドさんの管轄とされたようだけど……森番の管轄だから『禁じられた森』で罰則をっていうのはどうなのか。

 

そもそも生徒にドラゴンを見つかってしまった彼の管理にも問題があったのでは……?

 

そして森でのユニコーンを襲った存在が生徒にも危害を及ぼしたことに対して先生方は何か手を打っていただかないと困る。

そのためにも各寮の寮監督であるお二人にも事情を説明するべきだ。

 

 

……そんな状況では私が森に探検に行くのもまだ先延ばしにした方がよさそうだ。

 

 

 

「そうだな、分かった。スネイプ教授に話そう。父上にも。はぁ……一息に話して喉が渇いた。朝食を摂りにいこう」

 

「はい、甘いものを食べた方がいいですわ」

 

 

 

ハリーとハーマイオニー、ロングボトムさんも広間に来ているか確認しておこう。

 

 

 

 

 

 

 




カラクタカスの名前を間違えておりました。
申し訳ないです、ご指摘ありがとうございます。


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52

 

 

 

大広間では朝から早々にいなくなった私達をパンジー達が待ってくれていた。

ひとまず落ち着いたらしいドラコが(さっきよりも大袈裟に)昨晩の冒険を語りだしたところで、グリフィンドールの机を確認する。

 

 

端の方にハリー達を見つけた。

 

ちゃんと手足は揃っているようだし怪我をした様子もない。よかった安心した。

 

 

ドラコの語る武勇伝にリアクションを返すパンジー達を眺めつつ、教職員テーブルの方も確認する。

 

ダンブルドア校長は今日もいらっしゃらない。

ハグリッドさんも。

 

スネイプ教授はいらっしゃらないけど、マクゴナガル教授はいらっしゃる。

とはいえ、あそこへ話しかけに行くのはちょっと注目を浴びすぎてしまうしなしだ。

 

次回の授業のときでいいか。

 

 

 

さて、怪我をしたユニコーンを探す罰則だったとドラコは言っていた。

 

これはユニコーンを治療のため保護するのと同時にその素材を悪用されないためではないだろうか。

 

 

 

ユニコーンは魔法省分類XXXXと、専門家の対処が求められる魔法生物だ。

理由としてはとても俊敏な生き物で純白の体毛は魔法に対する抵抗力が強く、丈夫。純粋な乙女を好むため男性では更に難易度が上がるためだと思われる。

あとは単純に貴重な生物なため乱獲を抑えるためとも考えられる。

 

なにせユニコーンの体毛は杖の芯にされる他、様々な魔法道具に使われているし、そのツノは魔法薬で重宝される。

 

 

ある種の文献によるとマグルの薬にもされるとか。

 

 

 

 

密猟者からしたらガリオン金貨が歩いているような生き物なのだ。

 

密猟者がホグワーツの『禁じられた森』に入ってこれるのかは疑問だが、少なくともあの森でユニコーンを襲える何かが活動しているのは間違いないということだ。

 

 

通常市場に出回るユニコーンの素材は彼らの生活圏に残された抜け毛や生え代わりのツノを採取することで供給されている。

 

ユニコーンを殺めることは禁忌とされており、魔法省からも厳罰に処される。

加えてユニコーンから『呪われる』とも言われている。

 

呪いの事実はどうあれ、ユニコーンの血が持つ効能は死体をも生かすほどらしい。

 

 

明らかに禁忌だし、素材としても出回らない。

それを素材とする魔法薬は閲覧禁止の戸棚にも取り扱いがあるか怪しい程だ。

 

 

まぁとにかく、ユニコーンは貴重な魔法生物であるということは間違いない。

 

 

 

……ユニコーンを傷つけた犯人と、賢者の石を欲しがっている犯人は同じ人……だとするとその目的は『延命』か『ガリオン金貨』か。

 

 

 

『延命』でしょうね。

危険と対価が釣り合わないし。

 

ハリー達の探求心と正義感が加速しそうだ。

 

 

 

 

 

 

「サルース?そろそろ行くわよー?」

 

「……?ドラコの話は終わったの?」

 

「終わったわ、ほらほら最後になっちゃう!」

 

 

 

 

 

 

確かに、気づけば広間には数える程の人数しかいない。

 

 

パンジーとダフネに促されるまま大広間を後にする。

 

 

 

ハリー達はすでに出ていってしまったようだ。

 

 

 

 

 

 



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53

ちょこっとだけ長め。


 

さて、何はともあれ試験である。

 

1年に1度の学期末試験がはじまった。

 

 

 

ここ最近の図書館の机と椅子はすべて上級生で埋まり、鬼気迫る様子の彼らに近づく一年生は恐らくいないだろう。

 

ピリピリしたあの空気では軽い気持ちで訪れた人には、呪いの一つや二つ飛んできそうな程だった。

 

 

 

談話室も同じように試験勉強の仕上げにかかる先輩がたと、最後の詰め込みとばかりに丸暗記に励む人、実技試験の練習を行う人とそれぞれ集まってお互いの手元を確認しあっている。

 

勿論、私達一年生もその例に漏れずクラッブとゴイルすらノートの前で首を捻っている状況だ。

 

二人だって(ほとんど写すだけだったとしても)この一年課題は提出してきている。

たぶんきっと、何とかなるでしょう……たぶん

 

 

 

ちなみに、ドラコの例の夜の罰則についてはやはり抗議の手紙が学校宛に届けられたらしい。

 

スネイプ教授とマクゴナガル教授がどのような対応をされたのかは不明だけれど、今後森での罰則が行われない事を祈るばかりだ。

 

スネイプ教授との放課後の魔法薬作りの時間も、試験前の準備はすべて参加不可と連絡があったためしばらく行われていない。

 

 

準備する材料で何を作るのか大体の想像が出来てしまうのだから仕方ないけれど……

 

 

 

 

「ねぇ、この生き物を物に変える魔法っていつ習ったっけ?」

 

「えぇ……あれでしょう?ネズミをゴブレットにしたやつ」

 

「ほら、変身術入門の47ページにあるわ」

 

 

 

 

変身術はドラコが得意なのよね。

私はどちらかというと呪文学のほうが得意。

 

 

変身術は変えたい物への明確なイメージが必要だ。

何かしらない、見たこともない物へは変えられない。

 

 

 

私の見たことのある、知っているものは少し偏りがあるようで私の日常生活で関わってこなかったものに変身させるのが少し苦手だ。

 

だから試験対策として上級生達にきいた、歴代の変身術の実技課題になったものを全て取り寄せたりしていた。

 

おかげで談話室の片隅は物置小屋のような有り様だが許してほしい。

試験が終わったらきちんと家に送るし、ほしい人に配る予定もつけている。

 

 

 

そうして各々試験に向けて準備をすすめ、1週間かけてそれぞれの試験が行われた。

 

 

 

********

 

 

 

 

さて、

変身術、呪文学、魔法薬学、これは実技試験を伴い、

魔法史、闇の魔術に対する防衛術、天文学、薬草学は座学での試験が行われた。

 

闇の魔術に対する防衛術が座学のみで試験が行われたのは意外だった。

 

 

この教科はある時から毎年担当教授が変わるため、テストの傾向がなく都度、その年の教授の性格似合わせて考えなくてはいけないと先輩方から聞いていた。

 

確かに、授業も基礎の座学を行った1年間だったので来年もクィレル教授がご担当されるなら次は実践的な授業になるのだろうか……?

 

いや、2年生以上の授業でも実技よりも理論が多かったときいているしそれはなさそうだ。

 

 

 

 

「サルース!湖にでも行きましょうよ!勉強の日々からやっと解放されたのに図書館に行きたいなんて言わないわよね?」

 

「パンジーさっきまでの青い顔はどうしたのよ」

 

「だって終わったことを心配したってどうにもならないし?そんなことよりこの素晴らしい瞬間を楽しもうかなって」

 

 

パンジーとダフネの賑やかな声が近寄ってきた。

 

最後の試験を終えたあとのパンジーは確か「半分は……半分は解けた……」とゴーストのような様子でフラフラと歩いていたけれど、寮へ戻る間に気持ちを切り替えたらしい。

 

 

荷物も片したことだし、ここ最近は談話室に籠って勉強漬けだった。

 

 

「パンジー、ダフネ、またシャボン玉なんてどう?もう暖かいしちょっと遠くまでお散歩も楽しそうね」

 

 

「「いいわね!」」

 

 

 

試験が終わったと言うことは、これから夏季休暇がはじまる。

 

また暫く会えなくなるけれど、クリスマス休暇のようにお手紙を書こう。

 

 

 

 

 

 

 

期末試験が終わり、浮かれていた私はハリー達の"ちょっとした“心配事についてすっかり忘れてしまっていた。

 

 

 



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湖には多くの生徒が涼みに来ているようで、私の記憶よりも随分と賑わっていた。

 

水遊びをしている人もいるけれどまだ風が吹いたら寒いんじゃないかしら……そのために魔法薬を使ったりなんてまさかね?

 

 

 

 

「人が多いわねー……うわ、水浴びはまだ早くない?」

 

「どうせグリフィンドールでしょ」

 

「少し離れましょうか。ほらあっちの木陰なら人も少ないわ」

 

 

 

 

寒さには比較的に強いのだけど暑いのはあまり得意ではない自覚はある。

初夏の日差しはギリギリ日傘なしで長時間はやめておきたいところだ。

 

虫除けの魔法薬を来年は用意しておかなくては。

 

 

 

「はい、これ。二人が最初よ」

 

「「ありがとう!サルース!!」」

 

 

 

 

夏季休暇のホグワーツ生に向けて、シャボン玉の新しいシリーズを作ったのでお披露目だ。

 

いつも新商品はお友達に先駆けてプレゼントすることで、とっても喜んでもらえるし、広告塔になってもらえるしで私もとても嬉しい。

 

 

私が可愛いと思ったものはまずパンジーとダフネに。

面白いと思ったものは男の子達に。

それぞれプレゼントしている。

 

 

ちなみに、前に三人で遊んだシャボン玉は、ホグズミード村の私のお店で程ほどの売れ行きなためシリーズ化。

他にも、夏の間も来てもらえるように新商品を準備中というわけだ。

 

ボージンおじ様の依頼の方が実入りはいいけれど、好きに作れる分こちらの方が楽しい。

 

 

おじ様のところで稼いでいるから私のお店は学生向けにのんびり営業をしていてもやっていけているというのはあるけれど。

 

 

 

「パンジー!ダフネ!楽しそうだな!ん?サルースもいたのか」

 

「「はぁい、ドラコ」」

 

「ごきげんようドラコ、セオドールにザビニまで揃ってどうしたの?」

 

 

 

 

クラッブとゴイルは両手に抱えたお菓子を食べるのに忙しそうなので手を振るだけにしておく。

 

 

「談話室も涼しいが、今日くらいはな。そっちは?」

 

「同じようなものよ!ほらドラコ達も貸してあげるからこれやってみてよ」

 

「私のもどうぞ」

 

「あ、まだありますわ。ほら、好きなのを持っていってくださいな」

 

 

いつものハンドバッグから玩具達を取り出して並べていくと、それぞれ気になったもので遊びはじめた。

 

 

羽の生えるフリスビーを追いかけて走り回る男の子達に、他のスリザリン生も集まってきたようで湖の一画が寮生ばかりになってしまった。

 

 

今回の新作達も好評そうね。

 

 

日陰から出ない方針の私とは違い、お日様の下で遊んでいるパンジー達をながめながら手を振る私も見ていてたのしい。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

そうして思う存分遊んだあと、ぞろぞろと連れたって大広間で夕食をとった後は寮に戻っていつも通りのけれど久々に賑やかな1日を満喫した。

 

 

ベッドに入ってふと、何かを忘れているような気がして眠気が冴えてしまった。

 

 

試験の回答ミス?違う、名前も回答のズレもちゃんと確認した。

 

明日の準備……は、授業もないし特にこれといってないだろう。

 

 

 

『ユニコーン』のこと……?

 

いや、ハリー達のことだ……!

 

 

 

暫くハリー達に会っていない、というか話していないけれど彼らの心配ごとは解決したのだろうか?

 

 

『賢者の石』のこともだが、ハリーを狙っている疑いのあった先生方。

 

今日もランチに大広間へ行ったときにはハリー達は無事な様子だったし、4階の立ち入り禁止の廊下で騒ぎがあったなんて噂は聞こえてこなかった。

 

 

大方、『賢者の石』の保管は今年度中だけでしょうからあと3日もすればここから持ち出されるのだろうし、夏季休暇の間は彼らがどんなに心配したってどうしようもない。

 

 

結局のところ大人に任せておけば何とかなるのだろう。

 

 

まさか持って帰るわけにもいくまい。

 

 

 

 

 

 






一方その頃、なグリフィンドールの三人組。


「サルースに声をかけた方がいいかな?『石』についても知ってるし魔法も得意だし」

「確かに、スリザリンの奴らに囲まれてなきゃ湖で捕まえたんだけどなー」

「そうね、でも今は目立つのはよくないわ!サルースに今晩の事を話すのはやめておきましょう。万が一黒幕にバレても困るもの」


「そうだね。サルースは結局スネイプを本当に疑うことはなかったし」

「ま、それも夜には分かるだろうさ」







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