私、ツインテールが好きですか? (空魔神)
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私、ツインテールが好きですか?

まずは第一話。ブログ版より微修正してる物の変身のへの字もまだ出てこないヽ(^o^)丿


 春の始めから、地球は変態な侵略者の脅威にさらされていた。人々の笑顔が奪われそうになった時、遥か遠い異世界の科学者(痴女)から力を授かり、彼女らはやってきた。ツインテイルズと呼ばれる頼もしいヒーロー達が。そして今――

 

 

 

 

 

 私はツインテールが……きらい。他人がツインテールにするのは気にならないよ。けど自分でツインテールにしようとは思わない。子供っぽいからってゆーのでもないよ、興味無いだけだもん。

 

 

       『―思い出すんだ。』

 

 

TVでかっこよく活躍するツインテールの主人公(ヒーロー)を見ても、ツインテールが可愛いとは思わない。きょーみが無いんだもん。

 

 

       『―思い出してくれ。』

 

 

私はツインテールがきらい―――のはずだもん。

 

 

       『キミの本当の属性(きもち)を。』

 

 

 

 「………なんか変な夢見てた気がする」

 「お、起きた?変な夢か知らないけどまだ寝てるんだったら頬っぺた抓って起こしたわよ?」

 

 誰かに呼ばれ続けてたよーなそーでもないような夢から覚めて最初に見たのは、自分の部屋の天井――じゃなくて、歳が近い方のおねーちゃんの顔だった。近いって言っても6つも離れてるんだけど。

 

 「ちい姉はもうちょっと優しくなってもいーんじゃない?」

 「優しく起こしてる間に起きたから問題無いでしょ。ほら、さっさとベッドから出て顔洗ってくる」

 

起きたばっかに聞かされる実力こーしが寸前だった宣告は、私のほっぺに触れている自分よりも大きなちい姉の手がしょーこだ……妹にやること?

その手を軽くつかんで小さくこーぎしてみたけど完全にスルーされて、おでこをつつかれるだけだった。まったく、妹の意見を聞けちい姉め。

 まだ眠い目をこすってしっかり開けてみると、ちい姉はすっかり朝の準備を終えている様子。制服のスカートと頭から伸びるふたつの髪―ツインテールが揺れてる。

 

 ――これが私のちい姉・津辺愛香15歳。

いろいろとくちょーはあるけど、目立つとこだとおじーちゃんから武術習ってめちゃ強いし怒ったらめちゃ怖い人。見た目でもある意味、目立つとこあるんだけどそこ言ったら怒るからそのうちね。

もう1人、大きいおねーちゃんがいるから愛香おねーちゃんはちい姉なの。

 

 ――で、私が津辺好香。ツインテールはきらいな9歳。

見た目はおねーちゃん2人の下位互換よ。いずれはちい姉以上のスタイルになれるってこっそり思ってるけどね、ふふん。

 

なんだけど、その揺れるツインテールを見ているとつい、(わたし)を起こすという役目を果たして扉へ向かおうとするちい姉の背中に抱きついちゃった。うむむ、きっと変な夢のせいだ。

 

 「んー……まだ眠いからちい姉が下まで運んでー。怪力だしらくしょーでしょー?」

 「はぁ?何よいつもより起きるの遅い上に甘えてくるじゃない。でも残念。お姉ちゃんに頼む態度じゃ無かったので却下よ」

 

背中に寄りかかっている私を軽く抱き上げたちい姉は(やっぱりらくしょーだ)ベッドの上に立たせてしまうと、寝ぐせで跳ねに跳ねた私の髪を一つまみ。

 

 「寝ぼけてんじゃないわよ。急がないとこのぼさぼさの頭で学校いくことになっちゃうわよ」

 

なんて私の鼻をくすぐって、可愛い妹のめずらしいお願いを聞くことなく部屋を出て行った。はくじょーもの。

 

ツインテールは好きじゃない。でも、ちい姉のツインテールだけは……別かもね。

 

 

 で、本格的に起きた私は顔洗って着替えて……大慌てで朝食を食べてる。

髪?ちい姉の忠告通りぼっさぼさのままよセミロングの筈がぴんぴんに跳ね上がって、ショートヘアかってくらいになってるわ。しょうがないじゃん時間ないんだもん。

いや、小学校の時間にはまだまだ間に合うよ。でもちい姉は高校生だから、私より始業時間が早い。一緒に家を出ようと思ったらギリギリなんだよね今。

 

 「だから言ったでしょうが」

 

食卓の向かいに座って、あきれ顔してるちい姉に何か言い返したい。けどその時間も惜しい。その前に口いっぱいにトースト詰め込んでるせいでしゃべれないけどね。

 

 「はいはい。まだ待っててあげるから落ち着いて噛みなさいよ。だいたい初等部はもうちょっと時間あるんだからそんなに慌てなくてもいーじゃない」

 

気遣いと意地悪が混ざった言葉をちい姉が言う。どこが意地悪かって?私が慌てる理由を知ってるクセに言ってるんだから意地悪なの!頬杖と失笑のコンボで私を見ているのも証拠だしょーこ。

 

 

 「好香は愛香と一緒に登校したいんだから仕方ないのよねー好香?」

 

と、私の後ろから助け船が来る。いや、こっちも意地悪が混ざってるから助け船かはちょっと怪しいけど。うぬぬ、こっちの方も笑ってるのが見なくても分かる。おねーちゃんまで可愛い末妹をおちょくって楽しむとは何事かええい。

 

 ――津辺恋香19歳。

ストレートロングヘアがキレイな私のいちばん上のおねーちゃん。性格スタイル諸々、私とちい姉の進化系みたいな人……腕っぷしだけはちい姉がいちばんだけど。

あ、進化系って言ったけどちい姉がおねーちゃんみたいになれるとは……。私?私はおねーちゃんみたいになれるよなってみせるもん。言ったでしょちい姉以上のスタイルになるって、ふふん。

 

 そんなおねーちゃんは、忙しなく朝食を詰め込む私の髪を梳いてくれている真っ最中。今日は朝の授業が無いので、いちばん時間によゆーがあるんだって。大学生はそんな時間割もあるらしい。私だったらもっと寝てられるのになあ、ちょっとうらやましい。

 

 「お姉ちゃんそこで好香に聞いちゃダメでしょ」

 「じゃあ愛香も分かってて言っちゃダメじゃない。ね、好香?」

 

身支度を手伝ってもらって、それを待ってもらってる立場だけど、前と後でニヤニクスクスと笑いながらからかわれるのは納得いかない。……私のほっぺたが膨れているのはもうトースト詰め込んでるからじゃないからね、おねーちゃん達め。

 

 

 

 「でも、今日はなんで待っててくれたの?総二兄のとこ行かないで」

 

 どたばたと準備を済ませて、ちい姉が一足先に待ってる玄関まで走ると気になることがでてきた。ちい姉は身支度を済ませると、お隣の喫茶店に行くことが多い。高校生になってからは特に。お目当ては喫茶店じゃなくそこにいる幼馴染。

 

 ――観束総二15歳。ちい姉と同い年で、私にとってはおにーちゃんのような人。

そして超超重度のツインテール好き。どのくらいかって、ツインテールさえあればご飯食べなくても生きてそう……とかちょっと思っちゃうくらいだよ。その点については私と合わない、というかちょっと引いてる、かな。

ちい姉って見本があるからか、何度かツインテールを勧められたこともあったんだよ。別に無理強いしてきたりなんかしないよ総二兄は。でもちい姉効果でやんわり布教はしてくるから、一応きっぱり「ツインテールなんかやだ」って言ったんだ。……その時はこの世の終わりみたいな顔された、解せぬ。おねーちゃんだってツインテールしてないのに。

 

 とにかく。ちい姉は、ツインテールに頭を染められてそうなこの総二兄が好きなんだって。

おねーちゃんに聞いたところ、ツインテールも総二兄の為に磨き続けてるとか。私が生まれる前かららしーけど、それでいて現在も進展なさそうなのは、総二兄がツインテール以外に鈍感すぎるのかちい姉が情けないのか……そのどっちもか。

 

 「あ、あたしだって毎日毎日そーじのとこに行ってないわよ!大体、今朝はあんたの様子が変だったからでしょ」

 

朝、いっしょに家を出る回数が目に見えて減ったのに、まだいらない見栄を張ったりしてるから進展ないんじゃない?と思ったけど、頭に置かれた優しい手に何も言えなくなった。よく覚えてない夢のせいでめずらしいことをしちゃったのを、スルーしてたようで気にかけてくれるのがちい姉なので。こーゆーちい姉だから好き。

 

 「……ありがと。それはだいじょーぶだから」

 

とはいえ、はっきり心配されるとそれはそれで気恥ずかしいとゆーか。よし、ぱぱっと靴を履いて、いつでも逃げられるようにドアノブを回して。

 

 「でも、私に気を回してるとちい姉じゃ誰かに総二兄あっさり取られちゃうんじゃないかなー?知らないよー?」

 

舌を出して、ぷふーっと笑って誤魔化した。ここから、ちい姉がぽかんとしてる間にドアを開けて一歩踏み出すスピード勝負だ。理解して「あ、こんのチビスケ!」って怒るちい姉を振り返らずにドアを閉めてダッシュ

――しようとしたら空から銀色のカーテン?が落ちてきた。

 

 

 「おはようございます!今日も全身ペロペロしたいほど可愛いですね好香ちゃあごおおおばああっ!!!!!」

 「ふんっ!」

 

カーテンじゃないお隣の二階から一直線に飛び込んできた銀髪のおねーさんだ。

 

 「ひいっ!?」

 

そしておねーさんは、一瞬で私の背後から飛び出したちい姉に勢いそのまま二階へ殴り返された。乗り物を使わない人身事故に悲鳴を上げた私ってまちがってないよね。……もう()()()()()()()()なんだけど、まだ慣れないなあ。

 

 

 「朝から妹に手出そうとするんじゃないわよ!好香、いきなり飛び出したら危ないんだから気をつけなさいよ」

 「ひゃい。(はい。)ひゃっひははふはっはれふ(さっきは悪かったです)ひゃらひゅひゅひへ~(からゆるして~)

 

たったいま暴走トラックみたいに人間を宙に飛ばした人が言うセリフじゃない、と思うんだけど。私を後ろに庇いながらも、さっき馬鹿にしたことについてはしっかりほっぺを引っ張られてるので、そんな口答えはできないし謝るしかできない。

ちい姉は基本がやられたらやり返す人だから逃げ道を確保しておかないと後が怖いんだよ……うぅ、顔が痛い。

初等部で今も伝説になってる【小魔王姫(サタンプリンセス)】の異名は伊達じゃない。

 たった今、目の前で起きた惨劇と比べたら、私にはとても手加減してるのはわかるんだけどさ。もうちょっと大目に見てくれてもいいと思わない?

 

 お隣の二階へ強制Uターンした銀髪のおねーさんは、何事もなかったかのように玄関から総二兄に続いて出てきてた。いつもだけど、ちい姉のパンチでここまで平気な人は、総二兄の他には見るの初めて……というか総二兄以上に平気な顔して立ち上がってくるから、言ってる事はよくわかんないけどかっこいい。

 

 ――トゥアールさん。銀髪のロングヘアと白衣がとくちょーのものすごい美人なおねーさん。

総二兄の家にホームステイしてる。初対面の時から凄く元気で何かと私に優しい……けど何か鼻息が荒い時が多くて、だいたいちい姉にボコボコにされてるのに何度でも立ち上がってくる凄い人。あと、頭もすごくいいみたい。なんか凄そーな道具をちい姉に投げてるの見たことある。……ちい姉は素手で壊してトゥアールさん殴り倒してたんだけど。

 

 「ちょっとお隣の可愛い幼女(おんなのこ)に朝の挨拶をしようとしただけで何故に殴られなければならないんですか!?」

 「年端のいかない妹に向かってよだれ垂らしてダイブしてくる変態がいたら始末するでしょ」

 「あんな可愛い妹さんに愛香さんがすぐ会わせてくれなかったからブレーキが緩んじゃったんですよ!!私がうっかり路上で見境なく幼女に飛びついてしまう前に責任とって好香ちゃんをペロペロさせるべきです!!!!!」

 「だから近寄らせたくないんじゃボケエエエエエエエ!!!」

 「あああああああ蛮族には殺意のブレーキが無いいいいいいい!!!!!」

 

今もなんか言い合ってあ、ちい姉がトゥアールさんを顔から地面に落とした。

 ちい姉は私がトゥアールさんと会うの渋ってるけど、美人で頭も良くて何度倒れても立ち上がってくるなんて、ヒーローみたいでかっこいいし憧れるんだよね。前にそれ言った時は、ちい姉に熱でもあるのかとめちゃめちゃ心配された、解せぬ。

 

 「そういやそーじの部屋から飛び出してきたわね……あたしが家に戻ってる間、何もしてないでしょうね?」

 「ほごほほごごご」

 

地面にめりこんだままのトゥアールさんに探りを入れ?脅しをかけ?ているちい姉。

 

 (なーんだ。毎日行ってないとか言ったくせに、今日も先に総二兄の家に行ってたんじゃん)

 

私に対しての無駄なごまかしをぽろっと自白しているちい姉はさておき。

 私にとってトゥアールさん最大の特徴といえばやはりこれ。今年になって現れた【ちい姉の恋のライバル】とゆーこと。

知り合っていちばん日が浅い私にもわかる程に、トゥアールさんは積極的に総二兄へアピールしてる。そのアピールの内容は私にはよくわからないんだけど……ともあれ、ずっと進展のないちい姉にはけっこーな強敵だと思う。

 私としては、かっこいいトゥアールさんも応援したい、んだけどこの機会にちい姉に頑張ってほしい。ツインテールがきらいな私なんかでもちょっといいかも、って思っちゃうツインテールを総二兄の為にずっと磨いてるちい姉を知ってるだけに肩を持ちたくなるんだよね。

それに、トゥアールさんが積極的って言ったけど、そのアピールにも総二兄は一切気付いてない様子なのでまだまだちい姉にチャンスはある……はず。その鈍さで私が生まれる前から気付かれてないのがちい姉だからね……でも、まあそこはトゥアールさんが刺激になってくれればワンチャンってやつをさ……。

 

 

 「おはよう好香。愛香が心配してたけど大丈夫か?」

 「おはよう総二兄。ちょっと寝ぼけてただけだからへーき。」

 

 トゥアールさんを相手にしたちい姉の蛮力の嵐から目を逸らした総二兄が挨拶してくる。ちい姉ってば、総二兄にまで私のこと喋ったのか寝ぼけてただけなのにぃ。

 

 「それにちい姉が睨んだらちょっとしたびょーきくらいは逃げちゃうって」

 「はは、いくら愛香でもそこまでは……あるのかなあ」

 

私の言葉を笑い飛ばそうとして遠い目になる総二兄。

やっぱり私よりも長い付き合いだけに、私がまだ知らないちい姉の女子力(マジンパワー)を思い出してあながち冗談とも思えないんだね。だいじょーぶ、言った私だって半信半疑だよ総二兄。

ちなみに私たちの視界の端では、トゥアールさんに鮮やかなフィニッシュブローを決めるちい姉がいる。そんなだからじょーだんがじょーだんに思えなくなってくるんだよちい姉。

 

 「愛香と一緒に登校したいんだろうけど、身体に悪いことはするなよ?」

 

ぬぐぐ、おねーちゃん達だけでなく総二兄にまで見抜かれているとは……

 

 「でも、初等部と高等部じゃいちばん校舎離れて別れるの早くなったし、ちい姉も前より朝から総二兄の家に行くこと多くなったし、ちょっとくらい早起きしないといっしょに家出られないじゃん……まあ今日は寝坊したけど」

 (総二兄の家に行くのはトゥアールさんのけんせーだと思うし仕方ないけどね)

 

しかし、ちい姉に直接言いづらいことをいちばん話せるのは総二兄だ。何でって?おねーちゃんでも未春おばさん(総二兄のおかーさん)でも喋ったら面白がって絶対にちい姉にばらすからだよ!!

総二兄は隠し事は下手だけどちゃんと黙ってようとしてくれる分、2人よりずーっと信用あるよ。

 

 

 「この、この世の理不尽……!なんで愛香さんみたいな蛮族にあんなお姉ちゃん大好きオーラ隠せない可愛い幼女(いもうと)が……!?私に欲しいいいィィィィィ………!!!!!」

 「ほんっとにもーあのチビスケめ、照れくさいのはこっちよ。こんな近くで話しててあたしに聞こえないと思ってるのが抜けてるのよねー。あんたみたいなロリコンにだけは渡せないわよ危ないわね」

 「会話中に当たり前のような目潰しがあああああ!!!」

 

もっとも殴り終えたちい姉と短時間でリカバリーしてるトゥアールさんにばっちり聞かれてたみたいなんだけど、私は知る由もなかった。

 




好香のデザインはこんな感じ……原作8巻付属のロリ愛香さん参考にほぼツインテールじゃないロリ香さんってイメージ。お隣の銀髪おねーさんは歓喜。


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2話

第二話。
まだヒーローは我らがツインテイルズのみという状況ヽ(^o^)丿


 繰り返し言うけど、高等部と初等部はそこそこ離れてるから、ちい姉たちといっしょに歩いていられる時間って短い。ほんと、同じ【陽月学園】なんだからもっと近くに校舎建ててもいいと思うんだよね。

でもね……ちょっと寂しいけど、トゥアールさんが総二兄へのアピールと私を構おうとしてくれる度にちい姉にピンボールのように跳ね回されているのを何度も見てると短くてもいいかな……という気になったりもするんだよね。

トゥアールさんがお隣に来てからちい姉の人間離れがもっとはっきりわかるようになってないかなあ。トゥアールさんが来るまでは総二兄がよく殴られてたけどよく無事だったよね。けど最近はトゥアールさんのやられっぷりに引いたのかちい姉をからかうことが減ってるね総二兄。

それにしても、ちい姉は何で私とトゥアールさんがいっしょにいる時までトゥアールさんを目の敵みたいにするんだろう……?

 

 「あ!もしかして可愛い妹を友達に取られたくないってゆー“しっと”?えー私も罪作りかなー♪」

 

だったら、ちい姉には妹のフトコロが深いとこを見せなきゃだめかなー?私はトゥアールさんもちい姉も大好きだよーって。ふふん。

わ、トゥアールさんこっち見て勢いよく跳ね起きた。もう回復したんだ。

 

 「好香にはトゥアールの為にもそのままでいて欲しいような自衛の為にも真実を知って欲しいような……複雑だよ俺は」

 

あれ総二兄、今何か言ったかな?遠い目しながら、また殴られてるトゥアールさんを見てるけど。

 

 

 

 ちい姉たちと離れて初等部の校舎に入れば……景色の半分はツインテールで埋まっちゃう。【アルティメギル】とかいう怪物の見た目をした不審者たちとそれをやっつけてくれるヒーロー【ツインテイルズ】が現れてから周りのツインテールが日ごとに増えること。増えること。

 

 「相変わらず右も左もツインテールだよね」

 

クラスメイトは当然、両隣のクラスに上級生、果ては先生たちまでツインテールの人が増えてる。ツインテイルズ効果はわかるけど、こっちとしてツインテールばっかでちょっと滅入る。他人がツインテールでも気にしないって言ったけど、きらいはきらいだからね。滅入るくらいはあるんだって。

 

 

 「好香ちゃんはまだツインテールにしないの?」

 「うーん……私はまだいいかな」

 

友達から不思議そうに尋ねられるくらいには、今ではツインテールにしてない私の髪型の方が女子の中で浮いちゃってる。こうなるとツインテールにできない男子がちょっとうらやましいって時があるよ。そのせいか男子の集団を目で追うことが増えてる気がする。いつの間にか男子が目の保養になってきたような……いいのかなーこれ。

うっかり目が合っちゃった男子に誤魔化すように笑ったら慌てて顔をそらされた。はて?

 

 「えー?テイルレッドちゃんとお揃いだよ?」

 

話題独占のヒーロー、ツインテイルズの人気はほぼリーダーのテイルレッド一強。それは驚くことに私たちと同じくらいの女の子。そしてあの赤いツインテールがまた凄い。さっき滅入るとか言ったけどみんなが憧れてツインテールにするのも分かってしまう。

でも分かるんだけどそれはそれ。

 

 「もーだから私はテイルレッドに、てゆーかツインテールそこまで興味はないんだってばー。同じテレビに出てる子なら私は善沙闇子(いいすなあんこ)の方が……」

 

食い下がってくるクラスメイトにぷらぷらと手を振って否定する。ホンモノのヒーローなんだし、あの火の剣振り回す必殺技とかはめちゃかっこいいんだけど。それでもツインテールがきらいなせいかなあ?私にはそこまでテイルレッドが響いてないんだよね。凄いのはわかるんだけど、同じツインテールにしたい?ってゆーのはなんかちがうんだよねえ。

 それよりも善沙闇子の方が好きかな。あっちはヒーローじゃなくてアイドルだけど。眼鏡アイドルとでも言えそーな眼鏡推しの姿勢に、ぐっと来ちゃって。それで、おねーちゃんに伊達眼鏡とかもらったりしてるんだよね……ちい姉、怒らせてぼっしゅーされたんだけど。眼鏡ちい姉を見て、つい「うわ、ちい姉がクール美人に見えるなんて詐欺アイテムだね」とか大笑いしたのがまずかった。その日はトゥアールさんにも笑われてたみたいで完全にタイミング悪かったんだよねー。「それじゃあバカのあんたにも詐欺アイテムよねチビスケ!」ってもんどーむよーで取り上げられちゃった……。そーゆーとこじゃないちい姉め。

おっといけないいけない。

やっぱり私がちょっとでも気になるツインテールって言えるのはちい姉のだけ――のはずだ。

 

 「別に隠すことないだろー」

 「自分でツインテールに出来るクセに贅沢だぞ」

 「私は好香ちゃんのツインテール見たいなー」

 

むむ。話が聞こえているだけの男子まで参加してきた。隠してなんかいないというのに信じない気か。で、善沙闇子についてはスルーなの私はそっちがいいって言ったじゃん。てゆーか、ぜーたくとかなんなの。

 

 「ぜーたくとかぬかしたやつはツインテールくらい髪の毛伸ばしてしなさいよ。ハリウッドでテイルブルーの役、男じゃん」

 

ふん、男子は1人だまらせたけど。ええい、ひとがきらい興味ないってゆーのに好き勝手なこと並べてくれちゃって。いいわ、わかった。どうしても、あくまでどうしてもツインテイルズから選べって言われるなら――

 

 「くぬぬ、みんなして疑り深い!わーかーりまーしたー!選べばいーんでしょツインテイルズから!?ツインテイルズから選ぶんなら私はテイル―――」

 

 

 

 ――そして放課後。私はぷんすか怒りながら下校することになってる。

 

 「もうっ何よ!みんなが言うから選んだのにあんな反応ってある!?失礼しちゃう!!」

 

あまりにクラスメイトが問い詰めてくるから私はしょーじきにギリギリ気になっているツインテイルズを答えた。そしたら、そーしたら!みんなして有り得ないものを見た顔するんだよ!?

冗談きついと頬を引きつらせる男子やすぷらったー?映画が好み?と尋ねてくるやつ。ほんっともうちょっとで蹴っ飛ばすとこだったよ!仲のいい女子にいたってはさー……!!

 

 「なーんで『体調悪いなら保健室行こ?先生呼んだ方がいい?』よ!私はけんこーそのものよ!!」

 

ついつい声が大きくなる。何をそこまで心配されなきゃなんないの。テイルレッド以外が気になるのがそんなに驚くこと!?……TVじゃ怪獣より怖がられてるし実際怖くもあるけど。

 

 「【テイルブルー】が気になったっていーじゃない」

 

 ――テイルブルー。テイルレッドに続き登場した2人目のツインテイルズ。

情けよーしゃのない戦いぶり我を忘れる大暴れ模様からTVで全然ヒーローと思われてない人。とゆーかニュースとか見てるとアルティメギルからも怖がれてる気がする。

私もちょっと……ううん、めちゃ怖い時ある。いえまだ嘘でした初めてTVで見た時から怖かったです。あれは怖いって。

――でも怖さ以上に、力の限り暴れ回る青いツインテールが目にとまったの。テイルレッドとはちがうかっこよさで、学校や街で見かけるツインテールともちがうツインテール。

私が気になるツインテールなんて、ちい姉のだけだと思ってた。思ってたのに、ちょっと。ほんとにちょっとだからね!ちょっとだけど、まさかあんな力強いツインテ

 

 「幼子よ、テイルブルーが気になるというのはいささか……」

 「きゃあああああああああああああ!!!!!!!???」

 

足元から野太い声で怪物が顔を見せて腰を抜かした。尻もちをつく前に柔らかい感触があって、そのまま抱きとめられたんだけど……なんで私は怪物なんかにお姫様抱っこされるの!?

 

 「おっといかん。これは驚かせてすまんな。君の愛らしい膨れっ面を後ろからずっと見守っていたのだが、テイルブルーが気になるなどと幼子らしからぬ言葉に、つい声をかけてしまったリス」

 

なにその急にとってつけたよーな語尾。そこに引っかかると顔が、とゆーか全体的にリスっぽい怪人なのに気付いた。私を抱きとめた手も指が開かないリスみたいだし、太くて丸いしっぽもある。そっか最初の柔らかい感触ってこのしっぽだ……。

 

 「なな、なんなのアンタ!?」

 「え、こんな幼い女児から名前聞かれるなんて夢か……ゴホン。我が名はスクウェレルギルディ!偉大なるアルティメギルの戦士よ!リス」

 

何を勘違いしてんの、顔紅くしながら堂々と名前言われたけどそーゆーことじゃない。変質者集団(アルティメギル)の一員なのは見ればわかるよ。それが私の前に出てくる、ってゆーかそれに私が抱っこされてるのが意味不明ってこと。

 

 「それでだ。姿を見せてしまった以上は頼みがある。幼子よ私の腕の中でさっきのような愛らしい膨れっ面を見せてくれ!!リス」

 「やだーーー!よくわかんないけどきもい!!」

 

怪物から真顔(だと思う)におっさん声で意味が分からないお願いされたら怖いよりもきもいが先に来る。

こーなるとリスっぽい見た目で顔膨らませて見せてるのも逆効果になってもっときもい。

 

 「きもい!?いやいや、怯えることは無いのだ幼子よ。私は腕の中で膨れっ面が見たいだけなのだ、ツインテールにしてくれると尚のこと良い!礼には手作りのカスタードプリンもつけよう!リスとプリンの組み合わせは人気だろう?リス」

 

顔膨らませたまま器用に早口でなんか言ってくる。しれっと要求ふやしてんじゃないよ。おまけにニチアサのキューティピュアと自分を並べてるのが腹立つ。ちっさくて可愛いピュアカスタードがプリン持ってるのとリス面のおっさん声した変質者がプリン差し出してくるのが同じと思わないでよ厚かましい。

 

 「ピュアカスタードに乗っかろうとしないでよあっちのイメージが汚れちゃうじゃない!!いーから早く放してよお化けリス!!」

 「おおぅ予想外にきつい物言いの幼子よ……地味に心が辛い!リス。だがそれも元気の印よ。そんな幼女の膨れっ面が見たくて私は通学路を見守っていたのだリス。その願いを叶えてはくれぬか!?リス」

 

ショック受けてるよーで全く引かないじゃんこのお化けリス。ちょっとずつ顔近づけてこないでよきもすぎて怖くなってくる。

 

 「あーもー!!どっか行って……よっ!!!」

 

鼻息で前髪が揺らされて、反射的に手が出た。トゥアールさんに会ってからなんでかちい姉が教えてくれた普通より痛いっていうビンタ(※好香が知らないだけで愛香が教えたそれは格闘術の骨法なのだが)。ちい姉は危ないからトゥアールさん以外は不審者変質者にしか使っちゃダメって言ってたけど、もう無理がまんできない。変質者だしいーでしょ!!これでもくらえお化けリス!!

 

 

       『それではダメだ。思い出せ―』

 

 

だけど振り込んだ手は本物のリスみたいに膨らませてる頬に当たったら、ぽよんと跳ね返った。うそでしょ……

 

 「元気があっていいぞう。そんな元気っ娘が不満げに頬を膨らます……それは素晴らしい景色なのだ。さあ怖がることはない……」

 「何言ってんの!?」

 

 

       『思い出すんだ。本当のきもちを――』

 

 

 「先程に吐き出していた不満も私にビンタが通じなかった不満もすべて膨れっ面にしてみせてくれぇぇぇいリス……ふしゅー」

 「ひぃっ!やだ、どんどんきもい――」

 

       『思い出してくれれば私は君の力となれる――』

 

 

夢で聞いたような声が頭に響いてるような気もするけど、それどころじゃない。どんどん息を荒くして迫ってくるお化けリスの顔に、とうとう私は気が遠くなって――

 

 

       『ダメだ、仕方ないこうなっては――』

 

 

 

 

 

 「ちょ、ちょっと待て私は怪我をせぬよう抱き留めただけ」

 「そう言って触ったのねわかったわ死ね」

 「おべっへぇええええ!!」

 

 ――自動車がぶつかり続けるようなすごい音と野太い悲鳴で私は目を覚ました。

 

周りを確認しようと首を動かすと、頭の上に大きな胸と黄色いツインテールがあった。隣は私と同じくらいの背の赤いツインテールが。

 

 「う……んぅ、あれ……?」

 

漏らした声に気付いた赤と黄色のツインテールが私を見て揺れた。

 

 「あ、気が付きましたわ!もう大丈夫ですわよ!」

 「よかった目が覚めたんだな!来るのが遅くてごめんな。怖い思いをさせてしまって……」

 

頭がはっきりしてじょーきょーが分かってきた。心配そうな顔で優しく抱きかかえてくれてるのはテイルイエローで申し訳なさそうな顔で手を握ってくれたのはテイルレッドだ。足元にはモケーモケーとしか言わないアルティメギルの戦闘員―モケー(※悲しいかな一般人の好香には正式名称(アルティロイド)が浸透していない)がいっぱい倒れてる。

つまり

 

 「ツインテイルズだ……!」

 

ツインテイルズ(世界を守るヒーロー)が私を助けてくれたんだ。

 

 

 「ぐあああああ!!私は、私はただ幼子の愛らしい膨れっ面を腕の中で心行くまで鑑賞した後に私の膨れっ面とでにらめっこしたいという長年の望みを叶えたかっただけで、お前のような悪鬼に睨まれたかったわけでは無い――」

 「やかましいっ!おらああああああ!!!」

 「ひいいいいいい悪魔ああがああああああああああ!!!」

 「その汚いツラをあの子に擦り付けたっつったかぁ!?望み通り膨れっ面にしてやるわおおおおおらあああああああああああ!!!!!!!」

 「そ、そんなことしてなあべえええええええええええ………!!!!!!」

 

 テイルレッドはさり気なく私の視界から目の前の光景をせめて遮ろうとしてるんだけど、お化けリス―スクウェレルギルディだっけ―の命乞いと悲鳴、それを上げさせてる人の怒号の音声はミュートできずにずっと響き渡ってる。

なによりレッドの小柄な体じゃ隠しきれない青いツインテールが勢いよく目の前でびゅんびゅん動いてるのがばっちり見える。

もう何をどう言ってもカバーできない光景だと思うよ。要はテイルブルーがスクウェレルギルディをボッコボコにしてた。

いつもTVで見るよりもすごい怒ってるように見えるけど、ブルーにも何か言ったのかなスクウェレルギルディ……

 

 

 「うっわぁ、生で見ると迫力が違う……!」

 

私からはほぼブルーの後ろ姿しか見えないけど、凄まじさがびしびし伝わってくる。ちらちら目に入るスクウェレルギルディの手足としっぽがどんどん動かなくなっていく怖い。やっぱりアルティメギルとは別の意味で怖い震えてくるわこんなの。

でもそのツインテールは凄く――

 

 「怖い思いして起きたばかりでこんな光景で本当にごめん……でもブルーは君の為に怒……って、今一際すごい音したぞ!?おいブルー!好香は目を覚ましたからあんまり刺激の強そうな光景は――だめだ怒りで聞いてねえ。ほんっと、ごめん……!」

 「あ、うん。レッドがあやまるることじゃないと思うから……」

 

気付けの映像に選んじゃうと逆にまた気が遠くなりそうなシーンを披露してる仲間をどうすることもできずにレッドがぱん、と手を合わせてあやまってくる。

……でもその向こうじゃ

 

 「うおらあっ!!」

 「……………」

 

何も言わなくなったスクウェレルギルディが空中まで蹴り上げられて、テイルブルーの必殺技―確かエグゼキュートウェイブが炸裂してた。上に放られたせいで顔一面をボコボコに腫れあがらせ(膨れっ面にし)てぐったりしたスクウェレルギルディばっちり見ちゃった……。

 

 

 投げた槍をキャッチしたテイルブルーは一仕事終えたみたいな爽やかな笑顔を私に向けてくれた。

 

 「もう安心よ。怖い変態は私がやっつけたから」

 「いや安心っていうか、変態の恐怖をお前の恐怖が上塗りしてないか心配なんだが……」

 

対してテイルレッドは生の大迫力すぷらったー映像による私の精神ダメージを気にしてくれてるのかなんとも言えない顔をしてる。ありがと。でもそれは多分だいじょーぶ。

 

 「あの、だいじょーぶです。確かにめちゃ怖、じゃないちょっと、そう多分ちょっとびっくりしたけど」

 

自分に言い聞かせるようにブルーのフォローをする。けど、上手く言えないせいでブルーがしまった、って感じの表情になってきた。ちがうんだって、ほんとに怖いとかじゃ無いの。いや怖かったけどそーじゃなくてその。言葉が出てこない間にブルーの表情がまた暗くなってきた。ええい、こーなったら勢いだ。私はイエローの腕の中から飛び降りてブルーの手を握る。たしかにブルーの戦う姿は怖かったんだけど

 

 「か、かっこよかったです、すっごく!」

 

それ以上にかっこいいと思った。テイルブルーの力強さのままに揺れ動く青いツインテールに目を奪われてた。

 

 「大暴れしてかっこよくて……なんか私の大好きな人みたいで、ちょっと悔しいけど」

 

私が好き、かもしれないツインテールはちい姉だけだと思ってたのに。テイルブルーのツインテールは、まるでちい姉のツインテールみたいに心を揺さぶってきた。私がちょっとでもブルーが気になってた理由。それを生で見せつけられた。ツインテールも生で見たら迫力がちがった……ちい姉に負けないツインテールがこの世にあるなんて……!それがちょっと悔しいぃ……いやでも、ちい姉のがちょっとくらいブルーよりもすごいはずだもん!うん!」

 

 「へ、へぇ~。そ、そんなにかっこよかったかぁ私」

 

いろいろある気持ちをうまく言えなくて、でも何とかさいしょーげんはお礼を伝えられたかな、と心配してたらブルーの声が震えてきた。あ、顔もニヤけるのかくそうとしてるけどできなくて震えてる可愛い。わぁ、テイルブルーのこんな顔初めて見ちゃった。

 

 

 「ねえレッド。あの子、途中からしっかり声に出てましたわね」

 「ああ。しっかりしてそうで抜けたところあるんだよ好香は。でも不意打ちにあんな褒め殺しされたらブルーもああなるんだな。でも、あの光景からブルーのツインテールをちゃんと見れるなら、やっぱりツインテールの素質あると思うんだけどなあ好香は」

 

 

あれ?なんかレッドとイエローがこっち見てる。変なことしたかな私?

 

 

 




※好香はまだしっかり一般人なので突如デビューした眼鏡アイドルにはプロデュース通りに嵌ってしまうのです(^u^)


スクウェレルギルディ
属性力:頬属性
恐らく一般兵エレメリアン。外見は二足歩行、人間サイズのリス。頬袋を膨らませると衝撃吸収能力が働く。が、怒らせたテイルブルーでは相手が悪すぎた。吸収限界以上に殴られ続けて頬袋でなく顔面が膨れ上がらされたうえでとどめを刺される。恐らくテイルブルーは衝撃吸収自体に気付いていない。


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3話

折角2月22日深夜2時台の投稿になったけど新しいツインテールはまだお披露目されない第3話ですヽ(^o^)丿


 「ねえレッド。あの子、途中からしっかり声に出てましたわね」

 「ああ。しっかりしてそうで抜けたところあるんだよ好香は。でも不意打ちにあんな褒め殺しされたらブルーもああなるんだな。でも、あの光景からブルーのツインテールをちゃんと見れるなら、やっぱりツインテールの素質あると思うんだけどなあ好香は」

 

 ブルーと好香、2人から少し離れた場所でイエローと俺は小声で話している。好香はともかく普段のブルーなら気付きそうなのだが、その様子はない。

エレメリアンと戦う際は敵からもギャラリーからも恐れ戦かれることが常となっていたテイルブルー。それがまさかのテイルブルーと津辺愛香の両面から褒め称えられてしまい、完全に表情が弛緩している。正しくにやけ面ってやつだ。

 

 『あの蛮族の舞を見た上でその様子なら本物のテイルブルーファンなんですねー好香ちゃん。いや奇特な幼女……でもそうでないと愛香さんは妹に恐怖を植え付けたことになりそうで流石に目も当てられないんですが』

 

トゥアールからの通信に同意する。

 例によってエレメリアン出現を探知して出動した俺たちが見たのは巨大なリス―スクウェレルギルディにお姫様抱っこされている好香の姿だった。

いくらエレメリアンが極力、人間を傷つけないとわかっていても、鼻息荒い怪物が気絶しているい幼女を持ち上げていたら話は別だ。変態の現行犯すぎた。しかも対象がこっちの身内だったんだから始末に負えねえよ。

妹分に手を出されて俺の怒りにも火が付いたのだが、当然ながら隣のブルー(愛香)はそれ以上だった。

急降下からの蹴りでスクウェレルギルディの頭を地面に埋めて好香をキャッチしたのがほんの助走。眠る好香をイエローに預けて埋まった怪物リスを引きずり出して、そこからが恐怖の本番。普段以上に容赦なく相手を血祭りにあげ出したので、俺はもちろんイエローも何も手が出せずじまいのまま終わってしまった。

というか俺とイエローはスクウェレルギルディと言葉を交わした覚えすらない……相手の名前を知ることができただけでも奇跡のような惨状だった。

 

 「正体は知らなくても身内に怖がられるのは堪えるだろうしな。それも普段懐かれてる相手だと」

 

その怒りは正当なものであったのだが、表現方法が如何せん過激すぎだったのも事実。しかも小学生児童の視聴お断りな残虐シーン実演真っ最中のタイミングで好香が起きてしまったので、俺もヒヤヒヤしたんだよ。しかし、好香のキラキラした目でテイルブルーの手を握ってる様子からするに杞憂だったようだ……これも奇跡だと言われたら否定しづらいのが困るが。

 

 「不安があるとすればテイルブルーを【愛香みたいにかっこいい】って思ってそうなところなんだけどな……」

 「あ、そうですわね。今の様子を見る限りだとブルーを津辺さんだと気付いてはいないようですけれど」

 『確かに。【身近な人間】と【ツインテイルズ(ヒーロー)】を直ぐに結び付けて考えるのは難しいとは思いますが、いえ好香ちゃんくらいの幼女(とし)なら逆にすんなりも……?ふむ。すぐにどうこうはならないと思いますが、何かのはずみで認識攪乱装置(イマジンチャフ)を突破する可能性は考えられますね。おいおい考えていきましょう』

 

ツインテイルズの正体を秘する認識攪乱装置(イマジンチャフ)。文字通り俺たちツインテイルズを観束総二、津辺愛香、神堂慧理那だと認識させないテイルギアの機能だが、文字通り人物認識を歪ませる効果であり、例えば最初から正体を知る者には効果が無い。もしかして…?と疑いをもたれるとバレてしまう可能性がある。

 俺は最初から母さんにバレていたというか盗み聞きされて自ら嬉々として参加されるという悪夢だったが、愛香と慧理那は家族には明かしていない。それを思うといつかテイルブルーの素顔に辿り着いてしまいそうな好香の様子に不安がある。

テイルブルーが受け入れられてるのは喜ぶべきことなのだが難しいもんだ。願わくば好香にはこのままテイルブルーにはしゃぐだけで済んでほしい。

 ただトゥアールの言う通り、すぐにばれることもないはずだから対応を練る時間は十分にあるだろう。

 

 『あ――いえ、やはりここは愛香さんにテイルブルーとして身も心も鬼になってもらい好香ちゃんを怖がらせてもらいましょう。お姉さんとヒーローのイメーイを完全に剥離させ!且つ怯え切った幼女をお隣に住む白衣のおねーさんが優しく癒して憧れの対象を変える!!コード【私色に染め上げろトゥアール!】これが完璧です!!!じゅるる』

 「なるほど帰ったら身も心も鬼にしてあんたを血の色に染め上げるわ」

 『私の声にだけ的確に反応した抹殺宣言!?』

 

それにトゥアールが急がなければならないのは30分以内に真っ赤な染物と化す己の運命への対策であろう。

 

 

 

 「それじゃ今日は寄り道せずに帰らなきゃ駄目よ!で、しっかり休むこと。わかった?」

 

 褒め殺しから我に返ったブルーは、帰っていく好香を手を振り返して見送っている。

この様子を見れば世間の評価も少しは変わりそうなのだが、悲しいかなそういう時に限ってギャラリーもTVカメラも不在での戦闘だった……もっとも、少女への優しい対応の前に過剰殲滅する一幕もあったので結局は世間に晒されていない方がよかったのかもしれないが。

 

 

 『反りの合わない属性で同士討ちにでもなったんですかね。その場合は指揮官の采配が雑ということになりますが。反応の消失が倒されていたのならそれで良し、逃走していたとしてもスクウェレルギルディに劣る相手ならツインテイルズが助けた対象を即座に狙うようなことはできないと思います』

 

更に小さくなっていく好香の背中を見届けながら、トゥアールの言葉に俺たちは真剣な表情に変わる。――俺たちが出動した時点では、探知した属性力(エレメーラ)反応は【2つ】あった。だが到着した時にいたのはスクウェレルギルディと既に倒されている大量のアルティロイドだけだった。

 

 「エレメリアン同士で戦ったのか……?」

 「敵組織の内部争い―ヒーローものでよくあるやつでしょうか?」

 

イエローは特撮ヒーロー知識か推測するが、アルティメギルの内情までは知らないとはいえ今までのやつらを見ているとそういう気配を感じることは無かった。ダークグラスパーという処刑人はいるが、表立って権力争いのようなことが起きる連中にも思えない。それに――

 

 「でも内部争いに関わりそうなほどの強さでもなかったしなあ」

 

ブルーの容赦なしを差し引いてもスクウェレルギルディはそれほど強いエレメリアンではなかった。そのせいで、というとスクウェレルギルディが哀れだがテイルブルーの残虐ショーが若干ちょっとだけ、より過激に映っていたという面もあった気がする。

 

 「好香に絡んだ変態連中がまだ生きてるっていうならそいつも見つけて血祭りにするだけよ……やっぱり追いかけて一緒に帰ろうかな。偶然会ったふりすれば大丈夫じゃない?」

 

 『いえ愛香さん。心配なのはわかりますが止めた方がいいでしょう。好香ちゃんはテイルブルーに好意的ですから、このタイミングで接触すると偶然を装っても蛮族と蛮族をイコールで捉えてしまい正体に気付くかもしれません。異形の変態に絡まれた直後に姉が世間に名立たる人型の暴力と知ってしまうのはあまりに酷です』

 「アンタ相手にしてるのと違って優しい姉で振る舞ってるわよあたしは!」

 

正体バレの可能性を否定するブルー。しかしまだ見ぬ相手の抹殺準備として既にバキバキ腕を鳴らす姿と毎日のようにトゥアールで実演する破壊の衝撃映像を見学させていることが優しい姉のイメージだけでフィルターが保持されているかは怪しいんだよな……。

そもそも【優しい姉】というだけの認識なら愛香より恋香さんの方が強いような気もする。むしろ愛香は【強い姉】であって【優しい姉】のカテゴリに入っているんだろうか?当の好香自体はどう捉えてるかは分からないが……

 

 『とにかく。念のため、家に着くまでは好香ちゃんを人工衛星(ようじょ)で追跡していますので心配ありません。万が一、不明のもう一体が現れたならすぐ分かります』

 「そっか。ありがと」

 『仲間の妹、まして幼女の安全に気を配るのは当然ですよ。あ、今も楽しそうにテイルブルーの真似して飛び跳ねてますね。いやー可愛い』

 

ブルーの素直な感謝に、トゥアールが冗談めかしてふふんと鼻を鳴らしているのが通信越しでもわかる。やはり普段の(一方的な)殴り合いは信頼の証だというのが、こういう時にわかる。

 

 

 

――だというのに人は何故、過ちを犯すのか。

 

 

 「グフフ、スカートなの忘れてジャンプする幼女サイコーですね。最高画質にして保存しましょううへへトゥアールさんが見守ってますからね好香ちゃんげへへへ」

 

 基地に帰った俺たちが見たのは、幼子を見守るはずの人間が血走った眼でよだれを垂らしながら超科学の粋を集めて一心不乱に盗撮している現場だった。

 

 「不要なデータは削除しないとねえええええ!!!」

 「スマホ世代にあるまじき物理的な削除おおぼあああああああ!!」

 

俺は画面に映る好香()の比ではない大ジャンプから繰り出される愛香()の本物の蹴りでコンピュータと人間のデータ(記憶)モニター()を据え物割りされてしまうのを見届けるしかなかった……。

 

 

 

 

 

 ツインテイルズに助けられて無事、家に帰ると私1人。小学生の私がいちばん早く学校終るんだから当然だけど。リビングに入るなりランドセルを思いっきりソファーに投げ置いても叱られない私だけの時間、けっこー好き。

さて、どうしようか。いつもならTV見たりゲームしたりといろいろ忙しいんだけど、なんかそんな気分じゃない。宿題?もっとそんな気分じゃないよ。

 

 自分の部屋に入ってベッドに転がる。ほんの少し前のいろいろ信じられない出来事をすぐに思い出しちゃう。

 

 「ツインテイルズ……テイルブルーか……」

 

口をついて出てくるのはきらいな髪型(ツインテール)をしてるヒーロー達。だからビジュアルとしては好きなヒーローじゃない。

 

 「うふ、うふふふ……」

 

そのはずなのに思い出すだけで笑っちゃう。テイルブルーを思い出してると特に。誰もいないけど、恥ずかしくなって顔をかくそうと枕に押し付けたら足が勝手にバタバタしてきた。

 

 「かっこよかったぁ……!はっ、いけないいけない!」

 

また無意識に呟いたセリフに慌てて首を振る。直接見ちゃったからテンション上がったけど、私のちょっと例外はちい姉のツインテールだけ!ちい姉に比べたら他のツインテールなんかどれも同じようにしか見えないんだから!!うん!

 

 「そうよ、テイルブ、ツインテイルズはヒーローだからかっこいいの!いちばんはちい姉!!」

 

自分に言い聞かせてちい姉とテイルブルーを思い浮かべてしっかりと比較する。れいせーに比べればちい姉の方がすごいに決まってるんだから!

 

 (ほら、やっぱりちい姉……でもあんな強そうに見えるツインテール……でもトゥアールさんボコボコにしてる時はちい姉だって!総二兄がさわってる時ならデレデレして可愛いし!でもテイルブルーだってもし総二兄がさわったら……!?)

 

うぐぐ比べる程にしょーはいが見えない。これがこーおつつけがたし、というやつなの!?うぅ……テイルブルーがかっこいいのは確か。でもちい姉には私がずっと見てきた分ポイント高いんだよかっこいい以外だってもあるもん。でもTV越しでは何度か見てたとは言え直接の一目でそのちい姉のツインテールくらいのインパクトを見せられるとテイルブルーが……

 

 「うぅぅ~……かっこよかったけどやっぱり悔し~~~いいい~~~ぃぃぃ!!!」

 

いろいろ言ったけど、この一言につきるの!助けてくれた上にちい姉くらいかっこいいいとかテイルブルーはずるい。

 

 

 自分の部屋だと落ち着かなくなった私は、今度はちい姉の部屋の前にいる。……テイルブルー本人の前であれだけはしゃいでしまった以上、もう遅い気もしてきたけど、何かちい姉が負けてないかくじつな証拠がほしくなったというか。

勝手に入るのはいけないしちょっとドキドキするけど……これも家に1人だけの時しかできないことだ。用心してそっとドアを開ける。そりゃ家には誰もいなんだけど。

 

 「ちい姉だと家にいないのに気付いても不思議じゃないんだよね……」

 

昔からちい姉を驚かそうとして成功したことがない。最初は私が分かりやすいのかと思ったけど、ちい姉がおかしいだけってすぐにわかったんで細心のちゅーいが必要だ。ちい姉が野生どーぶつだって気付かせてくれたの総二兄も最近はツインテールの気配がどうとか言ってるの聞いたしあれだけど……

 

 「と、そんなことよりも……うーん、なに探したらいんだろ?」

 

さてどうしよう。こそこそと勢い込んで入ってみたものの、これ以上することがないや。ちい姉>テイルブルーだとしょーめいできるアイテムとはいったい……?

 

 「窓の向こうが総二兄の部屋ってことと、ちい姉が何か所か素手で壁凹ませてるくらいしか変わったところってないよねー……」

 

それでどうテイルブルーと比べればいいのか。もっとガサガサーっと探したいけどあんまり置いてあるもの動かすと勝手に入ったのちい姉にバレちゃうし。怒ったちい姉と怒ったテイルブルーを比べてみる、なんてゆーのは人間ができることじゃないからね。

 

 手詰まりで部屋をぐるぐるしてると、姿見に映った自分が目についた。私は髪を結んでないからどっちってゆーと、おねーちゃんに似てるなんて言われるけど、ちい姉にだってちゃんと似てるんだよ。おもかげがあるってやつだ。

 

 「ちい姉とテイルブルー……どっちもかっこいいんだよね」

 

私がかっこいいと思った人はどっちもツインテールだ。そういえばどうして私はツンテールがきらいって思うようになったんだっけ?

 

 「私も……ツインテールにしてみたら」

 

――ちい姉やテイルブルーみたいになれるかな?

 ほんの気まぐれだと思う。左右で髪をつまんでみた。鏡に映るツインテールもどきの私は……テキトーに作ったのを抜きにしても2人のようには見えない。

 

 「ま、そうだよね」

 

また似合わない真似しちゃった。そう思って髪から手をはなそうとしたら

 

 「わ、なに?」

 

ポケットで何かが光った。服ごしだけど虹色の光がもれてきてる。

 

 「なんだろ前に映画館でもらったライトとか出し忘れてたのかな・・・?」

 

正体を確かめようと手を入れたら堅いものに触れる。手ですっぽりにげいれそう、大きさはそんなでもない。やっぱり映画でもらったライト?

 

 「トゥアーーーール!!!私の部屋に忍び込んで何して――あれ!?」

 「ひやああああああああああ!!!??」

 

 どかーん、って勢いよく開け放たれたドアと怒鳴り声にびっくりしてポケットから手を引っ込めちゃった。ちい姉、帰ってきたの!?

 

 「な、ななによちい姉!?ノックもしないで入って来て!」

 

私はちい姉とちがって気配なんかわからないんだからね。部屋に入る時はれーぎってゆーのを守ってよ!!

 

 「あ、ごめん。気配を感じたからてっきり小細工しにきたトゥアールだと――そうよあたしの部屋じゃない!!」

 

びっくりしてちい姉に文句言ったけどそうだ、ちい姉の部屋だったここ……やっべ。

 

 「好香ぁ~あんたまさか誰もいない時、いつもあたしの部屋に……?」

 

うわ、こっち見るちい姉の目がちょっとキツくなってきた。今日だけじゃないじょーしゅーはんだと勝手に判断されてるまずい。……じょーしゅーはんなんだけどね。

どーやって切り抜けようこれ。

 

 「えへ☆」

 「つまりあたしの勘違いじゃないのねわかった」

 

もーちょっと信じてよかわいい妹でしょ、ちい姉のはくじょーもの。のしのしと近づいてくるちい姉にごまかすように妹スマイルしてみたけどダメだこれ逃げなきゃ。

 

 (逃げ道……ドアはちい姉のうしろだし……落ちつけ落ちつけ。すれ違いにちい姉の手をよけられたらいける!)

 「はぁ、ほんっと人の気も知らないでこのチビスケは~~」

 

じりじりと後ずさりしながら逃げるさんだんを整える。その間にもちい姉は近づいて、いよいよ手を伸ばしてきた……ここだ!

 

 「お」

 

頭を下げてダッシュ。ちい姉の手は空振り。ちらっと目を丸くしてるのが見えた。ふふん、どんなもんよ!ゆだんたいてきだちい姉。

 

 「ふん、十年早いわよ」

 「ふぎゃ!」

 

鼻で笑って足引っかけられた……体がふわっと浮いたと思ったら転ぶ前に捕まって脇に抱え込まれました。手足をばたばたと動かしてもがいてみたけどダメだ。それに見下ろしてくるちい姉の顔見たら動けなくなった。

うぅ、ちい姉相手でむぼーだった。テイルブルーの大暴れ生で見たせいで自分も逃げるくらいならできると思ったのが間違いだった……

 

 「度胸は買うけど、これは往生際が悪いってのよばーか。ったく何してたか知らないけど散らかしてないでしょうね?」

 「ごめんなさい……」

 

ちい姉の手が顔に近づいてくる。うぅ、ちい姉のデコピンめちゃめちゃ痛いのに……

 

……………

 

 「……っ?あれ?」

 

目をつむって痛さに備えてると何も起きない。そーっと目を開けたら構えたままでちい姉の手が目の前で止まってる。上を見るとなんかちい姉がじっとこっち見てた。

 

 「いいわ。今回はあの事でチャラにしてあげる」

 「へ?」

 

溜息ついたちい姉は私の頭をぽんぽんと撫でるだけだった。なんで?ちい姉がお咎めなしにするとか珍しすぎて変な声が出ちゃった。なんかファンサがどうとかぶつぶつ言ってるのも聞こえたけど何のことだろう?とにかく助かったけど。

 

 「ちい姉、変なものでも食べた?」

 「気を付けないと追加分がチャラにならなくなるわよ。あーそうだ今日はベッドに放り込んで夜更かし許さないから、ちゃんと休みなさいよ。もし起きてたら今度こそキツいのお見舞いするからね」

 

部屋から運び出されて夕食になったら呼ぶから寝てろ、って自分のベッドに投げられて、次に私のランドセルまで運んできてくれた。

 

 「なんか今日のちい姉優しい……?」

 

――この日はツインテイルズに会ったこと、いつもより優しいちい姉の方が気になって、ポケットの中身についてはすっかり忘れて寝ちゃった。

 

 




変態に絡まれた当日、身内で妹でファンという要素が重なり愛香さんがいつもより優しくなったので本日の認識攪乱装置さんは耐えた_(:3」∠)_


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4話

ようやく変身する兆し(とその他)が出てきたと思う第4話ヽ(^o^)丿


       『――――か。』

 

 ――誰?

 

       『――し……か。』

 

 ――誰か呼んでる?

 

       『――好香。』

 

 ――私が呼ばれてる。

 

 

 頭は少しぼんやりとしてるけど、目を開けた私はよく知ってる場所にいた。お隣の総二兄のお家、喫茶店『アドレシェンツァ』。その席のひとつに座ってる。そしてテーブルを挟んだ向かいの席にも誰かいる。

【誰か】って言ったけど私の目には人の姿は映ってない。目の前にいるのは、ふわふわ浮いてる虹色に光る球だった。

 

 「私を呼んだのはあなた?」

 

でも私はそれとお話してる。

 

 『そうだ。』

 

うなずく代わりみたいに光がちかちかと明るさが変わった。聞いたことのあるような声。知ってる、最近も夢で聞いた声。どこか温かさのある声。

 

 『好香が少し思い出してくれたから、ここまで繋がることができた。』

 「ずっと『私のきもちを思い出して』って言ってたよね。でもまだ何のことなのかわからないの」

 『そうか……だがあまり時間は無いんだ。』

 

光から聞こえる声が少しさびしそうになって――すぐにキリッとした調子に変わった。

 

 『私は好香の力になる為に来た。キミの住むこの世界を、多くの世界と同様の静かな滅びを与えない為に。』

 

話ながら光が座席から離れていく。追いかけて手を伸ばしたけど届かない。

 

 ――待って

 

声も届かなくなってる。

 

   『キミがしてくれたことは忘れない。そして侵略者と戦うことは私の使命でもある。』

 

  ――ねえ待って

 

光の声もだんだん遠くなっていく。

 

    『好香の世界を守る為に戦いたいその為に――』

 

言葉の最後は聞こえなかった。ただ、虹色の光の中に銀の人影が見えた気がした。

 

       『まだ夢の中でとは言え、元気な姿のキミと話せて嬉しい。』

   ――あ、私、服着てないや

 

 

 

 

 

 「まだ行かないで!」

 「いったぁ!!」

 「ふぇ?」

 

 手を伸ばしたらなんか堅いものに当たった感触と、さっきまでと違うはっきりした声が聞こえた。てゆーかさっきまでの声じゃない。今度は誰?

 

 「あれ?ここどこ……?なに話してたんだっけ……?」

 

体を起こしたら私のベッドだった……ちい姉がおでこ押さえてもだえてる私の部屋だここ。じゃあ誰かと話してた気がするのは夢……?なんか大事そうな話のよーな感じも残ってるけど、うむむ?

……あれ、今、部屋に変な景色なかった?

 

 「え?」

 

確認するより先に私の顔の前が暗くなった。中指丸めたちい姉の右手?

 

 「このチビスケぇぇ……さっさと夢から覚める!」

 

ゴヅンって絶対デコピンじゃない音が私のおでこからして、衝撃でベッドに引っくり返った。

 

 「いっっ………たああああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~い!!!!!!!」

 

頭が割れるかと思うほどめちゃめちゃ痛い。馬鹿じゃないのちい姉!!

 

 「痛いのはこっちよ……とっとと起きて顔洗ってきなさい!」

 

いきなりひとのおでこにこんな真似してその言い草はなんなの!?おでこがじんじんする……泣きそう。

 

 「いたぁいぃぃ~……いきなり何するのちい姉のばか!!うぅ、おねーちゃーーーん!ちい姉がひどいんだよ~~~~~~!!!」

 

リビングにいるはずのおねーちゃんのとこに走る。昨日はなんか優しいと思ったのに!朝からひどい!!おぼえてろちい姉めぇ。

 

 「いつつつ……!なによ、こんな一発打ててドタバタ騒げるなら元気そうね」

 

なんかおでこ押さえたちい姉が言ってる気がしたけどそんなの知らない。階段かけおりてきた私に目を丸くしてるおねーちゃんに飛びつくのが先だもん。

 

 

 

 

 「それでそんなむくれてんのか好香。どれどれ……うわ、まだ赤いな。どんだけ力いれたんだよ愛香」

 「人聞きの悪いこと言わないでよ、トゥアール相手じゃあるまいし割れないように加減してるわよ。こっちだって不意打ちでおでこにちょうど掌底もらってまだ赤いんだから。あーもう学校行くの憂鬱……」

 

 総二兄とちい姉が、私の赤くなったおでこを見ながら話してる。ちい姉はジト目で私を見下ろしながらゲンナリしてるけど、それは私も同じだもん。ううん、私の方がぜったい赤くなってるし。ちい姉の方がどれだけ力強いと思ってんの。

 

 「私だってゆーうつだよ。私はわざとじゃないのにちい姉、私より力いれたでしょ。スーパーゴリラ」

 

すね蹴ってやる。これくらいやって同じくらいだよ、ぜったい。やった、きれーに入ってちい姉が跳ねた。ふふん、たまには思い知ったかちい姉め。

 

 「あいたぁっ!こんの、昨日の今日だから優しくしてたら調子乗って……」

 「ふんだ。優しいってゆーのは、おねーちゃんみたいな人だもん。ちい姉なんか服着たゴリラでじゅーぶんですよーだ」

 

ちい姉が厚かましいこと言ってる。寝起きにデコピンしただけのちい姉と、ちゃんとおでこ冷やしてくれたおねーちゃんとじゃ、どっちが優しいかなんて一目りょーぜんでしょ!

やっぱりもう一発くらい蹴ってやるちい姉め。あ、よけられたゴリラのくせに。

 

 「よーし、もう一発お見舞いされたいわけねこのチビスケ!」

 

私を捕まえようと伸ばしたちい姉の手を飛び退いてよけた。ふふん、広い外なら昨日の夜みたいにすぐ捕まったりしないもんねーゴリラちい姉。

 

 「ナマイキな……」

 「まぁ待てって愛香。寝起きにぶたれたら好香だって不機嫌にもなるさ。だろ?ちょっとくらいは手加減してやれって」

 

追いかけてこようとするちい姉の前に総二兄が立った。ほーら見ろちい姉め。総二兄だって私の味方だぞーうらやましいでしょ。

 

 「そーじまで好香に甘いんだから。子供相手なんだから、じゅうぶん手加減してるってば。本気だったら割れてるわよ」

 「割れなきゃセーフって、お前の優しさの基準はどこなんだよ……好香も、面白くないのはわかるけど愛香を怒らせるな。偶然でも愛香の顔打ったのは悪い、だろ?今だって蹴りつけるのはどうかと思うぞ。わかるだろ?」

 

むぐ、私にもおせっきょーするのか総二兄。わかるけど、そう言われてもモヤモヤするものはするでしょ!私はまだこーせんするんだから!

総二兄がちい姉をなだめてる隙にトゥアールさんの後ろに隠れた。目には目、ちい姉にはトゥアールさんだ。揺れる白衣からちい姉に向かって顔だけ出した。

 

 「べーっ!」

 「よーし。トゥアールが盾になると思ったんなら、盾の脆さを教えてあげるわチビスケ」

 「ちょ、好香ちゃん蛮族の盾にしないででもこんな可愛い幼女にしがみつかれたらこの身を懸けて立ち向かってしまう!」

 

私をつまみ上げようと迫ったちい姉の手を、トゥアールさんが華麗に白衣で受け流した。その一瞬に私も抱き上げて、わ!後ろ向きに宙返りしてちい姉の手が届かないとこまで離れた。やっぱりトゥアールさんも凄い人だ。

 

 「トゥアールさんやっぱりかっこいいぃぃーーーっ!大好き!!」

 「ひぃえええ朝から幼女が抱きついてくれるご褒美!!紛れもなく今日は吉日ですよラッキデー!!そうですとも好香ちゃんの為ならトゥアールさんはゴリラの突然変異した蛮族には負けませんよ!!」

 

トゥアールさんに抱きしめられたら、やわらかくていいニオイいがする。さすがちい姉のライバル。このおねーさんも好き。抱かれたままハイタッチしてたら、ちい姉が悔しそーにギリギリと歯ぎしりしてる。

お、総二兄がちい姉を落ち着かせようとツインテールをさわってる。直ぐおとなしくなってきたちょろい。

 

 「ふへへ幼女から飛びついてくれるとか何時ぶりですか……しかもこんな極上のやつがよぉ……抑えろ抑えなさい私……とりあえずちょうど赤くなってるおでこペロペロしてあげて気持ちを鎮めて……」

 「そのツラを妹に近づけてんじゃねえええええ!!!」

 「ごあああああああああああ幼女から頼られたのに悪党扱いされる理不尽んん!!!」

 「トゥアールさーーーーーん!!!?」

 

なんてことだトゥアールさんが何かぶつぶつと息荒くしてつぶやき始めたと思ったら、ちい姉の膝蹴りで地面に3回バンウドしてからくずれ落ちちゃった。膝蹴りの威力で人間が3バウンドするってどうやればいいの……ゴリラなんてもんじゃないでしょちい姉。

 私は、にぎってたトゥアールさんの白衣に引っ張られて空中に飛ばされた瞬間に襟首つかまれて、ちい姉に持ち上げられてます。なにこれ格ゲーの浮かし技みたいなことをなんで普通にできるのちい姉。そーっとちい姉の顔色うかがってみたら……見るんじゃなかった。ちい姉は殴った分だけちょっとスッキリしたようにさわやかな顔してる怖い。その笑顔のまま持ち上げた私に目線合わせてくる怖い。

 

 「さーて可愛い好香ちゃんに優しい優しいちい姉から質問です。10数えるまでに謝れば許してあげる。どうする?」

 

めちゃ怖い。総二兄はあきらめた表情で首を横にふって、抵抗するなとうったえてくる。うん、これ以上はやばいのわかってる……ここからちい姉に本格的に喧嘩売れる度胸は無いよ怖すぎて泣きそう。

 

 「………ごめんなさい」

 

ちい姉が数えだすより先に謝るしかなかった。だって仕方ないでしょ本気で怒ったちい姉めちゃめちゃ怖いんだからね!!

 

 

 

 

 

 初等部の昼休み。

おでこ赤くして学校行けば、それについてきかれるのは当たり前なわけで。時間のある昼休みには自然と詳細を聞きたがる友達との会話になる。私だって、こーなったら友達にぐらいはちい姉の文句言ったっていいでしょ。

昼食の話題に今朝の出来事を話せば、返ってくる答えはだいたい2つ。

 

 「好香ちゃんのお姉さんってあのツインテールの人でしょ?そんな怖い人に見えないのに意外~~」

 

という知らない意見。

 

 「津辺のお姉さんって伝説の【小魔王姫(サタンプリンセス)】だろ。それに蹴り入れたとか正気かよ津辺……」

 

私の行動を勇気ではなくむぼーだと引いてしまう、知ってる意見。

 

どっちも正しいんだけど私としては

 

 「ちい姉は動かないと美人なのに荒っぽすぎるの!私はちい姉とちがって熊とかやっつけられないんだから、同じレベルで考えないでほしーと思わない!?そんなかっこいいのちい姉くらいなんだから!ねえ!ふつーそうでしょ!?」

 

という腹立たしー所業についていろいろつみ重ねがある。今日だけじゃないんだから。ちい姉は美人で強くてかっこいいくせに妹の扱いが雑なんだもん。こーぎしたっていいでしょ!?

 

 

 「姉自慢か」

 「不満なのか惚気たいのかどっち」

 「好香ちゃん怒ったテンションでよくそれ言えるね」

 

 

だというのに、この周りの声はなに解せぬ。

 

 

 

 

 

 ちい姉への愚痴をクラスメイトに褒めてるとしか受けとってもらえないまま午後になった。私の友達はちゃんとひとの話聞いてるの?まったく。

 こそっとスマホを見ると、ツインテイルズが海外で戦ってるなんて速報。めずらしく海外にエレメリアンが出たのかな。

ま、そんなことは関係なく私は掃除の時間。面倒なことに今週はゴミ捨て担当なのでゴミ袋持って移動中。

 

       『好香、それ以上、進んではいけない』

 

 「え?」

 

声が聞こえた。

 

       『気を付けるんだ。この先には危機が迫っている!』

 

また聞こえる。今朝、夢で……その前にも聞こえたのと同じ声。今まででいちばんはっきり聞こえる。

 

 「ねえ、あなた誰なの?どこにいるの!?」

 

 

声は先に進むなと言ってるけど、声の正体が気になる私は足を進めてしまった。ここの校舎の角を曲がればグラウンドが見えるゴミ捨て場に続く道。

 

 「あ……」

 

 そこには――エレメリアンがいた。

体つきは人間みたいだけど、もっと大きくて白くて羽のある鳥っぽいやつが立ってる。上を向いてるけど空か校舎の上の階見てるのかな?

 なんで二日続けて会うのとかツインテイルズは海外ってニュースで言ってたのになんでこっちだけ初等部の校内にいるのとか疑問はあるけど、いちばん気になることは

 

 「あなたが私に話しかけてたの?」

 

ずっと私に話しかけていた人?かどうかってこと。声をかけたら、そのエレメリアンはゆっくりとこっちを向いた。

 

 「ム……このあたりの女児はほぼツインテール属性が拡散されたと思っていたが珍しいな」

 

私が聞いてた声じゃなかった。人?ちがいってことはエレメリアンだし防犯ブザー、はランドセルにつけたままだしスマホから通報……まず先生呼ぶ方がいいのかな。

 

 「騒がれると面倒なのでな――お前の属性力(エレメーラ)からいただこうか」

 

       『いけない!走るんだ好香!』

 

 ポケットからスマホを出してたら、鳥エレメリアンの声と探してる声が聞こえて――景色が回って、次の瞬間は私の目に映るのは空だけになった。

 

 

 「下から眺めるのも悪くはないが……やはり空と風の中で見るのが絶景よな」

 

右足をつかまれて逆さまに空を運ばれてる。自分の状態を理解するころには学校は見えなくなってた。

 

 「―――――っ!―――――――っっ!!」

 

スカートめくれてじっとパンツ見られてる気がするけど、ものすごいスピードで飛ばれて声が出せないし体が痛いし高すぎの速すぎで怖くてそれどころじゃない。なんかしゃべってるのもよく聞こえない。

 

 「アルティメギルに見つかると面倒なんですぐに属性力(エレメーラ)を食わせてもらうから案ずるな。直に恐怖も感じなくなる」

 

風でよく聞こえないのに言ってる事もよくわからない……でも、なんか怖いことされるのはわかった。昨日のスクウェレルギルディはきもかったけどそれとは全然ちがう怖さ。向かい風に関係なく体が震えてきた。

 

 (やだ、怖い……!助けて誰か……!テイルブルー……ちい姉!!)

 

頭に浮かぶのは強くてかっこいいと思った2人。でもどっちもいないしこんな空の上で――もう駄目だ。こんなことならちい姉に意地悪するんじゃなかった。

 

 

 「そうはさせん!」

 

 ぎゅっと目をつぶってたら、すぐそばであの声が聞こえた。そしたら昨日ポケットにいれたまま確認してなかったライト?が昨日よりも強く光りだしてた。

 

 (これ、夢で見た光と同じ……)

 

夢に出た光の球と同じ虹色の光。それに驚いた鳥っぽいエレメリアンが移動を止めた。

 

 「なんだこの属性力(エレメーラ)は……グオオッ!!?」

 

 「トオッ!」

 

光から銀と赤2色の脚が飛び出してエレメリアンの顔を蹴り飛ばした。思わずエレメリアンが手を放して私は自由になったけど、これってつまり空の上に放り出されたわけで。

 

 「お落ち、ひぃっ――あれ?」

 

でも、身構えてどうにもできなくて、落ちていく前に受け止められてた――銀と赤2色の腕に。

 

虹色の光から出てきたのは銀色に赤色が混じったロボット?鎧?みたいな人間くらいの何か。私を支えてくれてる腕も体をあずけてる胸も金属ぽくて硬い。

 

 「でも温かいなあ……」

 「もう大丈夫だ好香。」

 

温かい体と声が安心させてくれる。

 

 

 「キサマァァァ……よくもこの【ロックチョウデリット】の顔を……たかがアルティメギルのエレメリアンの分際で!!」

 

鳥のエレメリアン―ロックチョウデリットが睨みつけてる。おもいっきり顔蹴られてものすごく怒ってそう。

 

 「私はアルティメギルではない。そしてエレメリアンでもない。」

 

でも私を優しく抱いてるエレメリアン?は相手が怒ってるのにはまるで反応しないでエレメリアンじゃないって訂正した。そして自分が誰なのか堂々と名乗った。

 

 「私はマグニフィセントエージェント。属性勇者エレメリオン!!」

 

 

 

 ―――…………………………………………………………………………………助けてもらった。助けてもらったんだけど、あとから思い出すとね。なんか全然わけわかんないのが出てきてたんだなあって気がする。

 

 




属性勇者エレメリオン
並行世界から来たマグニフィセントエージェント。
声は多分、緑と川が光ってそうな感じ。
性癖(ゆめ)のヒーロー。

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ロックチョウデリット
ロック鳥がモチーフらしいエレメリアン。
アルティメギルとは違う模様?

【挿絵表示】


新しいツインテールの前にワケの分からんのが増えたのよ・・・\(^o^)/


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5話

やっと・・・ようやくツインテールが増える第5話!(∩´∀`)∩


 ツインテイルズの―トゥアールの開発したエレメリアンの探知システム(エレメーラサーチャー)は基本的には活性化した属性力(エレメーラ)を捉えて反応している。それ故に、本格的に活動していないエレメリアンなどは属性力が抑えられている状態ある為、探知が難しくなる。そう、例えば陽月学園初等部の校内でただ突っ立ていただけのエレメリアンなどは――

 

 

 

 

 

 『ヴォルテックジャッジメントーーーーーーーッッ!!』

 

 「いやーイエローの完全脱衣(フルブラスト)は見事ですね。……これが小さい慧理那さんのままだったら最高でしたよねえふへへ……慧理那さんが使うと分かっていれば。分かっていれば!巨乳属性(ラージバスト)なんかテイルブレスに組み込まなかったのに!!どうせ愛香さんが巨乳になるわけもなし理論的にも見込み薄だったしテキトーに組み込んだふりして他の属性玉(エレメーラオーブ)にすればよかったあああ!!」

 

全ての武装を束ねた合身巨大砲(ユナイトウェポン)の威力をその身を押されたテイルイエロー必殺の蹴りがエレメリアンを粉砕する光景をモニターしながらトゥアールは己の過ちを悔いる。

 

 『聞こえてんのよこらああああああああ!!!帰ったらあんたを薄切りにしてやろうかあああ!!!!!』

 

 「おああああああマイク切るの忘れてたああああああ!!!」

 

そしてコンソールをがんがん叩いて嘆いて過去の自分を恨んでいると数分後の未来の自分が殺意に晒されて椅子から転げ落ちた。

 いかなる属性だったか今回のエレメリアンは夜の海外に現れたというだけで実力的にはさして特筆することのない相手だったので割愛される。

 トゥアールが仲間(愛香)の殺意とは別で驚愕することになるのはこの直後であり――

 

 

 

 

 

 ――その棒立ちで小学生のスカートの中をガン見していたエレメリアン―ロックチョウデリットが自身を目撃した幼女(好香)を獲物と定めて動き出したのは、ちょうどツインテイルズが海外であるエレメリアンを撃破した頃。

 

 

 「他の場所にもエレメリアン反応!?こんな立て続けに……なんですこの移動速度!」

 

 

そして白い怪鳥を活性体(シルエット)とするその変態は並の飛行型エレメリアンをものともしない高速飛行を可能とする存在だったがゆえに、探知システムが()()の大きな属性力(エレメーラ)反応を捉えた場所は陽月学園からかなり離れた上空だった。

 

 

 

 

 

 春の始めから、地球は変態な侵略者の脅威にさらされていた。人々の笑顔が奪われそうになった時、遥か遠い異世界の科学者(痴女)から力を授かり、彼女らはやってきた。ツインテイルズと呼ばれる頼もしいヒーロー達が。

 

そして今――異世界から新たに一人の勇者が地球へと現れた。その名は…

 

 

 

 「私はマグニフィセントエージェント。属性勇者エレメリオン!!」

 

 

 

 エレメリオン。そう名乗った赤と銀の超人?は好香(わたし)を抱えたまま白い鳥のエレメリアン―ロックチョウデリットと向き合ってる。

 

 (ちい姉とはぜんぜんちがうけどかっこいいなあ……!)

 

何が起きてるのかよくわかんないけど、こんな高い空の上で怪物がいるのに不思議ととっても安心する。

 

 「アルティメギルだけでなくお前たちまでこの世界に現れるとは。属性力(エレメーラ)より生まれし魔獣よ。この私が好きにはさせん!」

 「属性勇者ぁ?小賢しい、キサマの属性力(エレメーラ)も纏めて食らうまでよ!!」

 

エレメリオンの迫力にも怯まないでロックチョウデリットは両手とくっついてる翼をバサッと広げるとすごいスピードで向かってきた。

 

 「好香、私にしっかり掴まっているんだ。」

 「う、うん」

 

けど、改めて私を抱えたエレメリオンは飛んでくるロックチョウデリットにも焦らない。

 

 「トオッ!」

 「ヌゥ!」

 

ぶつかると思って私は目をつむったけど、エレメリオンは空の上でまたジャンプしてきれいに避けちゃった。すごいすごい!

 

 「では、こちらからもいくぞ!!さらばだ!」

 

 「「え」」

 

私とロックチョウデリットの声が重なった。エレメリオンは私を抱えて、ロックチョウデリット置いて飛んで行っちゃう。なんで!?今のってやっつける流れじゃないの!?

 

 

 「おのれこの私を愚弄する気か……っっ!!逃がさんぞ~~~~~~ッッッ!!!」

 

後ろから凄い怒ってそうな声が聞こえる。どーするのあれ。

 

 

 

 エレメリオンは私をすっぽり包んだ大きな光の球になって飛んでる。夢でお話してた光の球がもっと大きくなったみたいなやゆだ。そのせいかすごいスピードなんだけど全然苦しくない。でも今はそれよりも言わなきゃならないことがあるよね。

 

 「なんで!?なんでなんで!?あいつやっつける感じじゃなかったの!!???」

 

さっきのぜったい怪物やっつけてくれる感じの言い方と態度だったじゃん。なんで逃げてるの。

 

 「残念だが私の活性体(シルエット)は22秒しか結晶しない。」

 「ぜんぜんダメじゃんそれ!!」

 

言葉の意味はよくわかんないけど、あんなかっこいいこと言っちゃダメな感じなのはわかった。ぜんぜん、大丈夫じゃないよね!?

 

 

 「スカーーーーーーーーッッッッット!!!」

 

 なんか変な叫び声が後ろから聞こえて振り返ったらロックチョウデリットがめちゃ怖い顔で追いかけてきてる。さっきめちゃめちゃ馬鹿にされたと思ってそうだったもんね。

 

 「めちゃ怒って追っかけてきてるよ!!どうするの!?」

 「スピードはヤツの方が上だ。近く追いつかれるだろう。」

 「普通に言わないでよーーー!!!」

 

エレメリオンが当たり前のようにダメなこと言うからさっきからツッコンでばかりだ。うぅ、こういうツッコミは総二兄だと思ってたのにぃ……

 

 「好香、これを握るんだ。」

 

頭を抱えてると手に光が集まってきて、てのひらに小さいライトみたいなのが出てきた。あ、これがポケットに入ってたやつだ。

 

 「好香と私の【属性共鳴結晶灯(エレメライザー)】だ。それで私に力を貸してほしい。」

 「まってまってまって。さっきからかっこよさそうな言葉の意味がぜんぜんわからないからまって!?」

 「説明している時間は無い!このままでは私の結晶限界(リミット)を迎えて好香が空中に放り出されてしまう。急ぐんだ!

装甲結晶化認証(ユナイトコード)は――【エレメライズ】!」

 「えええええええええええええええええ!!!!???」

 

めちゃ怖いこと言われた。もー反応が追いつかない。このままじゃ空に放り出されるって、そんなの力を貸してほしいってやるしかないじゃないそれ。ヒドくない!?

エレメリオンはエレメリオンでなんでずっと落ち着いた態度でダメなこと言えるの……

ううぅ……なんでこんなことに。こんなことなら朝にもっとちい姉に甘えとくんだった。いや昨日だったらちい姉のお菓子勝手に食べちゃったことも許してくれたかもしれないしもっといろいろしておけばよかったかなあ。

こんな時だって困ったらだいたい力づくでいけるちい姉がむしょーに恋しいうらやましい……これがそーまとーってやつ?

 

 「なんかもう早くちい姉に会いたいよぉ……」

 「必ずキミの力になる。さあ早くエレメライザーを握ってくれ。私を信じてほしい好香。」

 「うぐぐ、もーわかった!やるってば!!信じるからねエレメリオン!!」

 

エレメリオンがどんどん話を進めてくる現実とーひするスキもくれない……ええいこーなったらヤケだ!なんか思ったのとちがってに頼りなさそうだけどエレメリオンが助けてくれたのはホントだし夢で会ってる時も悪い人?じゃなかった。

ここにちい姉はいないけど、私だって津辺愛香(ちい姉)の妹だ。ちい姉のトンデモのーきんを見習うしかない。

 

エレメライザーを真正面に構えてゆないとこーど?ってゆーのを叫ぶ。

 

 「え、エレメライズ!」

 

 

 

 ――コードを認証したエレメライザーが今まで最大の光を放つ。それは好香を包んでいるエレメリオンの光球を更に巨大な虹色の光となって包み込んだ。

 

 『エレメライズ!』

 

先程の姿とは違う、半透明になったエレメリオンが好香の全身に重なり――粒子となって彼女の身を覆っていく。両足から腰、両腕の順に他よりも多量の粒子が集まり金属質の装甲と成す。頭部に角を思わせる2つの金属パーツが装着され――続いて伸びた髪がそのパーツに纏められる。エレメライザーを包んだ丸い水晶のようなパーツが胸に装着されると、半透明だったスーツが()()()()()()()()()()に青と銀に染まった。

周囲を覆う虹色の光も同様の2色に変わり、もう役目は終えたと告げるように弾け飛んだ――

 

 

 

 えれめらいざー、ってゆーやつの光が無くなって目を開けたら――最初に見えたのはすぐそこまで来てたロックチョウデリットの頭。ぶつかるぶつかる!!

 

 「やだ、来ないでっ!!」

 

思わず両手を突き出したら、ドカンってすごい重いものがぶつかったみたいな音がして、手がちょっと痺れた――私はロックチョウデリットの―怪物の突撃を受け止めてた。

 

 「うそぉ……」

 「そ、そんな馬鹿な!!?」

 

私とロックチョウデリットどっちもが信じられないって声を出した。でも、ぼーぜんとしてる自分自身を置いてきぼりにして、私の体は勝手に、掴んでる鳥頭を跳び箱みたいに押し込んでロックチョウデリットの背中に飛び乗ってた。

 

 「き、キサマっ!ふざけるな!!」

 「うわ、わ、わ!ちょっと動かないでよ!!落ちちゃうでしょーばかーー!!!」

 

当然、ロックチョウデリットは振り落とそうと暴れ出したんだけど。そんなことされるからバランスくずしちゃいそうで、落っこちないようについ首をぎゅーっと掴んだら思った以上に力が出せてしっかりと相手を捕まえて乗ることが出来ちゃった。

おぉ…!掴んでる首がメキメキ言ってる。凄い力出せてる私。

 

 「アガッ……グエエェェ………!!」

 

苦しそうな鳥みたいな声出してるけど、仕方ない。なんで首掴んだって言われたら、その、ちい姉がよく私を捕まえるのに襟掴んだりするからつい……うん文句ならちい姉に言ってよねちい姉がお手本だから多分……

 

 押さえつけることができたら、ちょっと落ち着いてきた。そうするとなんかこう、エレメリオンと1つになってる感じがする。

22秒だけとか頼りないこと言ってたけどロックチョウデリットを押さえ込める腕とかさすがってゆーか見た目通りヒーローっぽい力あるんだねエレメリオン。

…………あれ?この手、さっきのエレメリオンと形が違うようなあれ……?向かい風で引っ張られる髪もいつもとなんかバランスが違う、あれ……!?待って。そもそもエレメリオンの髪ってトゥアールさんみたいなストレートの銀髪だったよね。なんかちらちら目に入ってるの水色ぽいし左右で重さを感じるんだけど、え……!?

 

 「え、え?なにこのかっこ?私エレメリオンに変身したとかじゃないの!?」

 

てっきりTVのウルトラメロスみたいにエレメリオンと一つになって3分だけ戦えるようになってもらった、みたいなことだと思ってたんだけど――これ私がツインテイルズみたいになってるう!?

銀色の手に映ったの見たら割と鎧?が大きい!

しかもツインテールになってる!

やっと気づいたの?って言われるかもしれないけど気付く余裕なんかさっきまでなかったんだからね!

 

 『そうだ好香。キミは私と一つになっている。キミの属性(こころ)で私の属性力(ちから)を使うこの世界の守護者(マグニフィセントエージェント)になったんだ。』

 

 

 頭の中にエレメリオンの声が響いてくる。かっこいい声でかっこよさそうなこと言ってるけどそーじゃなくて!

 

 「なんで私“が”変身してるの!?私“で”エレメリオンが戦えるってことじゃなかったの!??」

 『世界はそこに住む者が守らなければならない。私はあくまで危機が訪れた世界の人々の剣であり盾なのだ。だからこうして私はキミの力になることができた。』

 

かっこいい声でかっこいいこと言ってるけど「力になれる」って助けるとかじゃなくてそのままの意味!?それずるい!!ちょっと落ち着いたって思ったけどもうぜんぜん落ち着けてないや私だって落ち着くの無理でしょ落ち着かなくていいちい姉くらいののーきんにはまだなれないってばちい姉助けて。

 

 「それになんでツインテールにしたの!?」

 『私は【髪変え遊び属性(アレンジ)】。変身者(エージェント)属性(こころ)属性共鳴(エレメライズ)することで望む髪型の属性力(エレメーラ)を最大限に引き上げ――』

 「だからそれまって!わかんない言葉が多すぎてわかんないの!!」

 

専門よーごが多すぎてさっぱりわからない。もっと初心者の9歳に分かるように言ってほしい。ただでさえこんらんしてるのに頭パンクしそう。

 

 『つまり変身するとまず好きな髪型になるんだ。』

 「私ツインテールきらいだよ!?」

 

わかりやすく言われたら言われたでなっとくできないことを言われるなんなの。私は総二兄にも刷り込まれずにツインテールにしてないんだぞ。

 

 『好香、自分の属性(こころ)を偽ってはいけない。昨日、好香が本当の気持ちを思い出し始めたから私はこうして1つになることができているんだ。』

 「う、うそじゃないもん!昨日のはただ――」

 

 

 「グエェ……スカートを脱ぎ捨てた上に人の上で何をごちゃごちゃと……スカーーーーーーッッット!!」

 

エレメリオンと話していてロックチョウデリットがこっちをにらみ上げているのに気付かなかった。

1つ咆哮したロックチョウデリットが首を掴まれたまま急旋回して振り落とそうとしてくる。その勢いでロックチョウデリットを中心に竜巻が起きている。

なにこいつ鳥のくせに力強すぎない!?

 

 「きゃあああああああああ!!落ち落ち落ちる落ちる!!」

 

なんとか止めようと首をつかんでる手にもっと力を込めたけどロックチョウデリットは止まらない。だんだんと体が浮き上がってきて、もうふり落とされないようにしがみ付くしかできない。どーなってるのついさっきまでは締めつけて押さえられてたのに。

 

 『いけない! 属性共鳴(エレメライズ)の出力が下がっている!好香、キミの心が――』

 「スカーーーーーーーーーーッット!!!!!!」

 「きゃあああああああああああああああ!!!!!??」

 

大きな竜巻を起こしてさんざん旋回されてから急降下して急上昇。ジェットコースターどころじゃない動きと風圧にエレメリオンの言葉を聞き取れる余裕はない。

とうとう私は振り落とされて地面に激突した。

 




これが好香の変身ver
マグニフィセントツインテール(仮名称)
実際にはこの絵を描いたことから全てが始まった(^u^)

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6話

ようやく主人公が変身したスペックを見せ始めた第6話(^u^)


 エレメリオンだとか名乗った妙な精神生命体が変身させた獲物だった幼女(好香)をようやく振り落としたロックチョウデリットは首を抑えて片膝をついた。

 

 「ウヌ、グゥ……あの妙なエレメリアンもどき、人間の小娘にいったい何を仕込んだ……!?」

 

強固な外装甲に覆われている自分の首がはっきりと少女の指型にひしゃげている。何やら力が緩んだ隙に叩き落とすことはできたが、それがなければ首がへし折られていた可能性もあった。まるで上級エレメリアン、或いは異世界にいる数多いるツインテールの戦士のような力。

だがあの幼女はツインテール属性など感じられなかった。そんな人間にエレメリアンのような精神生命体が融合して属性力(エレメーラ)を扱う術を与えるなど初めて目にするものだった。

 

 「アルティメギルが珍しく手を焼いているとは聞いたが、この世界はどうなっているのだ……!?」

 

相手は起き上がってこないが、未知の存在を警戒したロックチョウデリットは追撃を起こせないでいた。

 

 

 「いぃったぁぁい……!」

 

 ロックチョウデリットにふり落とされて思いっきりお尻打った。めちゃいたい。ちい姉に叩かれ……たほどでもないけどいたい。

アスファルトの地面がバキバキに割れてるのにそれで済んでるのが不思議だけど。

 

 『属性共鳴(エレメライズ)によって私は好香の防護スーツ強化装甲として完全結晶している。余剰エネルギーも防御膜(プロテクトスキン)として常時全身を覆っているので滅多にダメージは受けないはずさ。』

 

頭に聞こえるエレメリオンの声は、相変わらずよくわかんない単語が混じってるけど、なんかすごい力で守られてるってことでいいのかな。

 

 『だが、好香が自分の属性(きもち)に正直にならないと出力は下がる一方で危険になってしまう。私は好香の素直な気持ちから属性力(エレメーラ)を引き出し増幅するんだ。』

 「そ、そんなの急に言われても私ツインテールはきら――好きな髪型って、そんなの聞かれても考えたことないもん……」

 

 急に「ツインテールが好きなはず。正直になれ」って言われてもこまる。きらいなはずだもん。

それにツインテールにしなかっただけで好きな髪型とか意識したことがないのもホントだし。友達のかわいい髪型やかっこよりちい姉とおねーちゃんのかっこがうらやましくて、こーでぃねーとは2人におまかせだったから、何がビビッとくるのか自分でもイマイチ……

 

 エレメリオンにはっきりした答えを返せないでこまってたらロックチョウデリットが空に飛んでいくのが見えた。うわ!まっすぐこっち飛んでくる!!

 

 「スカーーーーット!」

 「やだ、ぶつかるぶつかちゃううう!!」

 

飛び起きてギリギリでよけられた。でもUターンしてまたもどってくる!飛んでくるのをよけて、を何度もくり返すうちにロックチョウデリットのスピードがどんどん上がってる。こっちは、なんかちょっとずつ体が重くなってきた。素直じゃないとしゅつりょくが下がる、ってこれも?

でも、どう思い出して素直になればいいのかわかんないんだって!そもそもかんがえてるよゆーだってないでしょこんな時に!!

 

 「何もしてこないのであれば好都合。厄介なことになる前にその属性力(エレメーラ)をいただくぞ小娘ェ!!」

 「ひぃ、目がこわい!こっち来ないでってばぁ!!」

 

よけられなくなってきたので両手を突きだして受けたら、最初の時は止められたのに今度ははね飛ばされて地面を転がった。転がったのは平気だけど両手はめちゃしびれてる。

 

 「いったたた……だんだん手もいたくなってきたぁ。こんなのやっぱり私じゃ無理だってぇぇ」

 

いわれるままに変身しちゃったけどこれ以上はどうにかできる気がしない。もうツインテイルズ……テイルブルーに早く来てほしい泣きそう。

 

 『それでは好香。好きな人、憧れる人…いや少しでもかっこいいなんて思う人はいるかい?』

 

 座り込んだ私にエレメリオンが聞いてくる。だから、よゆーないのにぃ……けっこーマイペースじゃないエレメリオン?

でも好きな人、かあ。それならすぐに言える。これはこれで言うのちょっとはずかしーんだけど、なんでかな。合体してるせいかエレメリオンには、はずかしい気があまりしないや。

 

 「いるよ、ちい姉とか……最近だとテイルブルーとかトゥアールさんもかなあ」

 

好きな人、だけならおねーちゃんや総二兄なんかもだけど、かっこいいとかもあこがれるとかもありだとやっぱりこーなる。全部でいちばんはとーぜんちい姉だけどね。

 やった、今度はロックチョウデリット避けられた

 

 「スカート翻る神風(ディバインストーム)!!」

 「わわ、飛ばされきゃあああ――あいたぁっ!!」

 

……けどダメだ。ものすごい風に巻かれて飛ばされて建物にぶつかって止まった。あ、ぶつかった壁壊れちゃったどうしよ……

 

 「フン、力の扱いを知らぬようで防御だけは硬い。あの精神生命体の力か……それにしても捲るスカートが無い相手では今一つ我が風の振るい甲斐が無いものだ」

 『直接の突撃だけでなく超加速による暴風圧がヤツの武器か!』

 

なんか馬鹿にされてる気がするけど、怒る前に怖いんだってばこっちは。話しかけてくるエレメリオンがいなかったら絶対とっくに泣いてるからね。もう嫌いだあいつ。

 

 『――好香のお姉さんなら私も見ているよ。先程は属性共鳴(エレメライズ)でまず好きな髪型になると言ったが、正確には好香の心にいちばん残っている髪型、そしてそれに繋がるイメージから今の姿に変わるんだ。』

 「えーと、それって……?」

 

ロックチョウデリットの動きにかまわないで、エレメリオンは私に伝えてくる。

 

 『好香が嫌いな髪型には変われない。好香は“ツインテール”で“嫌い”という以上に思い浮かぶものがある。それがこの姿のきっかけだ。』

 

 私はツインテールが嫌い。きょーみないって思ってる。――でも、ツインテールで最初に浮かぶのは。私がいちばん見ているツインテールをくっつけてるのは。

 

 「ツインテールなら……ちい姉」

 

私がいちばん知ってるツインテールはちい姉―愛香おねーちゃんだ。

 

 『好香はお姉さんが好きなんだろう。嫌いと言っているツインテールでも最初に思い出すのはお姉さんだ。だったら――お姉さんのツインテールは嫌いかい?』

 

 ビル壁にもたれてる私に目掛けてロックチョウデリットが迫ってる。でもなんか……さっきより速いはずなのに、さっきよりはっきり見える。

 

 「ちい姉のツインテールは……嫌いじゃないよ……」

 

 私が知ってるちい姉はずーっとツインテール。お風呂や寝る時なんか解いてるけど、それ以外でツインテールにしてないちい姉を見たら変な感じがするくらい。私が大好きな愛香おねーちゃん(ちい姉)はツインテール。だから――

 

 「ちい姉のツインテールは好き、大好き!」

 

これが私のほんとの気持ち。

 ジャンプしてロックチョウデリットを避ける。さっきよりも体が軽い。

ロックチョウデリットの方は、私が避けても直角に飛んでビル壁にぶつからずに空へ上ってる。その移動する暴風の衝撃でビルの方が削れていってる。

 

でもそんなことどうだっていいや。私には関係ない。

 

 『そうだ。難しく考えなくていい。それが1つめの“好香の好きな髪型(ツインテール)”だ!』

 

エレメリオンの言葉を聞いてると、どんどん力が湧いてくるような感じ。

 空中にいる私をまた暴風で振り回したロックチョウデリットがキックで突撃してくる。

 

 『今の好香には、好香が好きなツインテールを私が増幅して結ばれているんだ。』

 

 このツインテールは私が好きなツインテール?じゃあそれって――

 

 「それじゃあ、このツインテールってちい姉とお揃いなの!?」

 『ああ。そのツインテールも鎧も、好香の“大好き”そのものさ!』

 

 ロックチョウデリットのキックを両腕で受け止めた。物凄い音が響いたけど――今度は全然痛くないし痺れない。

 

 「私が見てたちい姉のツインテールになってて、ちい姉が大好きでこのかっこかぁ……えへ。じゃあこのままでいいや!!」

 

なんか口元が緩んできた。でもなんかすごい嬉しい。だって私は今、私の大好きで大好きなちい姉みたいになれてるんでしょ。嬉しいに決まってるじゃんこんなの!

 

 胸のエレメライザーが光って、力が溢れる。なんでもできそうな気がしてきた。

 

 「このぉ、どーしてあんたに蹴られなきゃいけないのよ鳥オバケ!!」

 「ヌオォッ!?」

 

キックを受け止めた両腕を思いっきり降ったらボール投げるみたいにロックチョウデリットを投げ飛ばせちゃった。

 

 「うっわ、すごい……!」

 『好香の属性(こころ)が高まれば高まるほど私との属性共鳴(エレメライズ)の出力は上がっていくんだ。それだけ私の言葉も知識も頭より先に心で理解できるようになっていく。幼女(よしか)の大好きが強くなるほど私は好香の属性力(エレメーラ)になれる!』

 

エレメリオンの言う通り、単語はよくわかんないのが多いけど意味が理解できるようになってきた。――でも、なんかひとつ私の漢字が違うような部分があった気もするけどエレメリオン国語苦手?

 

 「なんかわかってきたかも!あいつもやっつけられそう!!」

 

 それよりも今はロックチョウデリットをやっつける。ちい姉みたいになれてるってわかったら怖くもなくなってきた。怖がらせてくるならやっつければいいんだ……って思うのは考えもちい姉ぽくなってるのかな?

 

 『ああ!やるぞ好香!』

 

エレメリオンの返事が心に響いたら、助走をつけて思いっきりジャンプ。放り投げられてもすぐに空中でバランスを取ってたロックチョウデリットに近づいた。よーし今度はこっちが羽毟ってぶん殴って地面に落としてやる!

 

 「二度は背に触れさせん!!」

 

もっと高くに飛ばれて私の腕は空振り。

 

 「今度は私がその首をへし折ってくれる!!」

 

ロックチョウデリットは空で自由の利かない私の背中に向かって急降下してくる。

 

 『好香!跳ぶんだ!!』

 「うん!」

 

変身しても私は空を飛べないみたい。でも空を“跳ぶ”ことはできる。空気を蹴って空の上でもっと高くジャンプ。急降下するロックチョウデリットとすれ違う。すれ違う瞬間に右足を掴めた。おお、ちい姉にされたこと私にもできた!さすがだ変身した私!

 

 「なにぃっ!!」

 「ばーかゲームじゃ二段ジャンプなんてよくあるでしょ!ふふん、やったこっちも掴めた!」

 

私の二段ジャンプに驚いてるロックチョウデリットにドヤ顔を見せる。蹴ってきた左足も掴めた。これでさっきのお返しができる。両足を掴んだまま思いっきり振りかぶる。

 

 「さっきはお尻ぶつけて痛かったんだからね!アンタも1回くらい地面に頭ぶつけてみればいいのよ!!せーーーーー………っっの!!!」

 「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

今度は空じゃない。地面にむかってぶん投げてやった。ぐるんぐるんと投げたこっちがちょっと引いてしまうくらいの勢いで回転しながらロックチョウデリットは地面に吸い込まれ、大きなクレーターを作って墜落した。

 

 「おぉー……!頭っていうか体全部ぶつけちゃった」

 

 地面に出来た大きな穴の側に着地して、中心を覗き込んでみたら更にぽっかり穴が開いてる。ロックチョウデリットはその穴にめり込んでるみたいで姿も見えないし、這い出してくる様子もない。

 

 「ちい姉の髪なら大好きって言ったらこんな力でちゃうの……?」

 『“大好き”が文字通り“力”となる。それが属性力(エレメーラ)というものさ。』

 

自分でやっちゃったクレーターにぽけーっとなってたらエレメリオンが教えてくれる。繋がって私の理解レベルも伝わってるのかな、説明がだんだん分かりやすい言葉を選んでくれてる気がする。

 

 「あ、このへん結構壊しちゃったけど、大丈夫かな……」

 『すまない。物体を修復するような力を発揮する属性は私も好香も持っていない。工事の人に任せよう。』

 

え、そんなどうしよ。でもそれしかないか……うぅ、ツインテイルズがあんまり物壊さずに戦ってるの凄いことだったのかも。

 

 

 

 

 

 珍しいエレメリアンの間を置かない同日出現の報に俺たち―ツインテイルズが現場に到着するのは、いつもよりも若干の時間を必要とした。転送ポイントへ移動するタイムロスの他に、今回はエレメリアンの反応が動き過ぎた。レーダーをチェックしているトゥアールが言うには2つの大きな属性力(エレメーラ)がほぼ音速で移動を続け、一か所に留まっておらず、正確な場所を特定できなかった。

それがようやく動きを止め、俺たちが追いつくことができたのだが。

 

 「なんだこれ……!アルティメギルのやつら何してんだ!?」

 

ビルを飛び越え最後の跳躍をした俺たちの眼前に広がった光景に思わず目を見開いてしまう。大小のクレーターやら削れたビル壁に始まるかなりの破壊の爪痕。

エレメリアンの目的は属性力(エレメーラ)の奪取が最優先なので破壊行為などはそうそうしない。上級エレメリアンとの戦闘になれば激しくなるが、彼らも人間に被害が出ぬよう人気のない場所を選ぶことが多い。

なので、いくら俺たちが遅れたとはいえ、市街地でこれほどの被害が出ているのは初めてかもしれない。加えて当のエレメリアンの姿が見えない。

一体どういうことなのかまるで事態が掴めない。

 

 「ツインテールの気配がある……!?」

 

だというのに俺―テイルレッドにはツインテールの気配が感じられる。もしやドラグギルディのようにツインテール属性のエレメリアンなのか!?

 

 「レッド、あそこ!何かいるわ!」

 

 隣を跳躍するブルーが指さした場所―大きい方のクレーターの傍にツインテールの影が見えた。上からじゃ砂塵で全容はよくわからないが、今までの経験からするとエレメリアンにしては随分小さいな。上半身は大きく見えるが身長そのものは俺と同じかもう少し低いんじゃないか。

着地と同時、とにかくこれ以上暴れさせるわけにはいかないとブルーとイエローが即座に武装を展開。ウェイブランスとヴォルテックブラスターを構えた。

 

 「待て、ブルー、イエロー!こいつはエレメリアンじゃない……!!」

 

が、俺は前に出て二人を制した。さっきは確かにシルエットしか見えなかったが、それでもツインテールの形状が見えないなんて俺にはありえない。目の前にあるのは触手でも鋼鉄でもない。あれは人間の髪で結われたツインテールだ!

 

 景色が晴れて現れた相手の姿は、まるで俺たちと同じくテイルギアを纏った戦士。あるいはグラスギアのダークグラスパー(アルティメギルに与する少女)と同類か。

何にせよ人間相手だ、警戒は解けなくても迂闊に攻撃するわけにはいかない。

 

 「わ、ツインテイルズだ……!」

 

――のだが俺たちに気付いた相手の第一声はどこか緊張感が無かった。

周囲の状態、身に纏う硬質な武装とはまるで釣り合わない無警戒の様子でこちらにトコトコと歩いてくる。と思えば、後ろの二人の武器が自分に構えられてるのに気付いて足を止めた。

 

 「え、えぇ~と……やっぱりこんなに壊しちゃうのって駄目だった……?」

 

いや、やはり警戒してるというより身を竦ませただけのようだ。

その態度は、本当に格好が普通の服なら叱られそうで様子を窺う幼い子供だ……外見相応の年齢だろうか。

じっくり見ればそのツインテールも、見事だがどうにも違和感がある。熟練のツインテールのようでいて初めて結んだ初々しさがあるような。ツインテールに馴染んだ誰かが結んだようでこの子が自分で結んだようなアンバランス……ツインテールの見た目と年齢が一致しないと言うべきか。いろんな意味でなんだこの女の子。

 

 「ブルー、イエローまず武器を下ろそう。見たままの小さい子供みたいだし怖がらせるだけだ」

 

 俺たち以外の現役ツインテール戦士の存在がアルティメギル側についているダークグラスパーという悪い例しか知らないせいで、ブルーは勿論、イエローも警戒を解いていない。

その判断も分かるが相手が目に見えて所在なさげにおろおろし始めてるから待ってほしい。外見通りならそれこそダークグラスパーより年下だろうし、大きな2人から凄まれたら余計に怯えてしまいそうだ。

相手は人間の上に敵意もまったく感じないとなると、まずは話を聞かないことには始まらない。

 

 「ええと、何もしないから落ち着いてくれ。状況を知りたいだけなんだ」

 

俺が一歩進み出て声をかけると、少し安堵した表情を見せた。こういう場合はテイルレッドが幼女の姿でありがたい。近い年齢の相手が代表で話しかけたことで応対する余裕を持ってくれそうだ。

 

 「ほ、ほんと……?その、地面壊しちゃったのはいけないと思ってるんだよ?でもでもこれにもじじょーがあってていうか、べんしょーって言われても何もできないからその……テイルブルーとテイルイエロー怒ってそうだからえっと……」

 「大丈夫だって。2人も怒ってるわけじゃないから!あー俺たちの事は知ってるんだ?」

 「うん。それはツインテイルズって有名だし……」

 

うーん。やっぱり年相応の反応で、逆に困るなこの状況だと。素直に話してくれそうな感じはあるんだけど、まだ怒られやしないかと戸惑ってそうだ。折角のツインテールが畏縮している。

 

 「そっか、じゃあまずは君の名前を教えてくれないかな?」

 「え、名前?」

 「そうだけど……?」

 「ちょ、ちょっと待って!」

 

なんだなんだ。落ち着かせるためにもまずはお互いを知ることから、と思ったんだがキョトンとした顔されたと思ったら、後ろ向いて一人でぶつぶつ言い始めた。いや、これは誰かと話している……通信相手がいるのか。

もしや、この子にも俺たちのトゥアールのような協力者がいるのか?

 ……「名前ないの?」「それは違うの?」とか聞こえてくるあたり、もしかして名前を考えてるんだろうか?無理せずに別に本名で……とも言えないな。コードネーム呼びは俺たちも同じなわけだし、どんな立場でも正体を明かせない事情だってあるだろう。

 それにしても身振りに合わせて揺れる水色のツインテールが可愛い。ツインテールは口程に物を言う、とはあるが子供らしい元気さが伝わってくるな。

 

 『慌ただしく揺れる小さい子のお尻っていいですよね……危険が無いとわかってれば今すぐにでも基地に招待したいですよねグフフ……』

 

 ……こちらの通信から聞こえる我らが頭脳(ブレーン)の欲に塗れた心が伝わってくる声を聴いていると、コードネームでさえ教えてもらってはいけない気がしてきた。目の前で揺れる幼女の尻に合わせて通信から邪悪な笑い声と涎をすする音がBGMの様に流れてくる。

このまま何も聞かずに帰した方が1人の幼子の安全が守られるのではないか……と俺が思い始めたところで、動きが止まりこちらに振り返った。どうやら名前は決まったようだ。

 

 「あ、あなた達に名乗る名は無いわ!!」

 

腰に手を当ててはっきりとそう言ってきた……だが、ドヤ顔してるけど微妙にぷるぷる震えてるそうか、決まらなかったんだな名前。さて、これはどう事情を聞いていこうか……

 




今回はヒーローと謎のヒーロー?としてツインテイルズと顔合わせた好香(^u^)


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7話

新ヒーロー?とツインテイルズは仲良くなれるのか?という第7話(^u^)


 「あ、あなた達に名乗る名は無いわ!!」

 

で、できるだけかっこよく言えてたかな……?

テイルレッドが急に名前聞いてくるから焦ったぁ~。だって変身したってことは、私は“かっこいい新ヒーロー”ってことで、つまりヒーローぽく名乗らなきゃいけないんでしょ?でも名前なんかまだ考えてなかったから、登場したばっかで名前言わない追加ヒーローとかが言うやつにしたんだけど……あってるよね?

 

 

 ――ロックチョウデリットやっつけられたのかなーって穴をのぞこうと思った時にツインテイルズが来た。もー来るのおそいよ。でもこれでエレメリオンのこととかもっとわかると思ったんだよね。

そしたら私が壊しちゃった場所見て、ブルーとイエローが私に武器構えてくるから何も言いだせなくなっちゃった。

正直に言えば?って思うかもしれないけど、怪物と戦ってるヒーローが自分と戦おうとしてくるんだよ……怖いに決まってるでしょそんなの!それにしょーじきに言えたとしても、これだけ物壊しちゃってるのどー言いわけすればいいかわかんない。こんなの絶対、怒られるでしょ!

特にテイルブルー。昨日、生で見た時はかっこよかったけど、それはそれとして後ろからでもめちゃ怖かったんだよ……今だって怒る前のちい姉みたいな目してるもん。あれは怒られたらめちゃめちゃ怖い人だ間違いない。おまけにテイルイエローだってTVじゃ脱ぐ人って言われてるけど、よーく見てみると怒られたら怖そうな気がするし……

 だから間に入ってくれるテイルレッドがめちゃありがたかった。私と歳も近そーだし気持ちをわかってくれたんだったら嬉しいさすがツインテイルズのリーダー。これからもっとおーえんするからここは上手く私が怒られないようにして。――

 

 

 って感謝してたのに、まだ考えてなかった名前聞かれたからあわてちゃったんだよね……。てゆーかヒーローって変身したら勝手に名前決まるんじゃなかったんだ……うむむ、キューティピュアとかみんなすらすら名乗ってたから、まさかこんなことになるとは。

 とにかく、レッドにタンマして大急ぎでエレメリオンに相談したら

 

 『エレメライズは名前ではなく、装甲結晶化認証(ユナイトコード)。これから呼ばれることになる好香のコードネームは好香が好きに名乗ればいいさ。』

 『“マグニフィセントエージェント”は私と変身者の共通コードネームだ。好香個人のコードネームを同じものにするとややこしくなると思う。』

 『すぐに決められないのなら、正直に名乗るコードネームは決まっていないと伝えればわかってもらえるさ。』

 

ってゆーから。でもヒーローらしく、名前が決まってないこともできるだけかっこよく言ったほうがいーのかなって……

 

 「……………?」

 

 でもなんか変。腰に手を当ててちょっと上向きで目を閉じたかっこいいポーズ込みでビシっと言ったつもりなんだけど、ツインテイルズの反応がまだ無い。これはもしかして……かっこよすぎて目を奪われてるってやつかな!?

なるほど、これもヒーローのつらいところってやつだね。

 

 (突然の新ヒーローのかっこよさにしびれてるってゆーなら仕方ないなーもう、ふふん。でも10秒くらいたった気がするのに無言だしそろそろ様子見てもいいよね……?)

 

ツインテイルンズが私にちゅーもくしてるのはいーんだけど、そろそろニヤケそうな口をおさえてるのがつらくなってきたから、拍手でもなんでもリアクションがほしい。

 

 そろそろいーかなーってちらっと目をあけてみた。……あれ?

レッドが苦笑いですって表情してる何?

イエローはぽかーんて感じで目を丸くしてるし何……?

あー!ブルーなんかちい姉が私を「馬鹿でしょ」ってゆー時みたいな顔してる何なの!?思ってた反応とちがう!!なにこの私が空気壊したみたいな感じ!?

 

 「うぅ……な、なによぅツインテイルズみんなして!ちゃんとヒーローらしい答えだったでしょ!?」

 

さんしゃさんよーの視線に耐えられずに怒られそうな立場だったのも忘れて言い返した。いやちがう。怒られそーな下りはおわって新ヒーローにちゃんと反応しないツインテイルズが空気壊したんでしょ。怒られるのはもうツインテイルのはず!……だよね?

 

 「いえ、さっきのセリフは正体不明のヒーローが悪に向かって逆光を浴びながら言い放つのが正しいのですわ。今の状況では貴女が使うのは誤りですわよ!」

 「あ、はい。ごめんなさい」

 

 イエローから、新ヒーローの振る舞いとしてふつーにダメ出しされた。先輩ヒーローからそー言われたら何も言えない。それにしても、いつもだらしない表情で脱いでる人ってイメージしかなかったのに、キリッとした顔で大まじめに叱られると背も高いし先生みたいな迫力がすごい……思わずあやまっちゃった。なにこれTVで見たイエローとちがうじゃん、ちゃんとほうどーしてよニュース。

 

 「ですがヒーローから学ぼうとする姿勢は素晴らしいですわ。その心がけを忘れなければきっといつか正しいシチュエーションで使う機会が訪れるはずですの!その日まで頑張りましょう!!」

 

しゃがんで手を握って熱心に語られた。なんとなく半分は自分に言い聞かせてるようにも見えたけど、これはおとがめなしってことでいいのかな。次はちゃんと正解シチュエーションで使おう、うん。

ヒーローに学んでるのなら信用できますわ、ってレッドにもうったえだしてる。そうだ、いいよテイルイエロー。これからはちゃんとおーえんするからそのまま説得していって。

 

 「いやいやヒーロの名乗りはこの際どうでもいいでしょ!?ええい、もうまどろっこしいわね!」

 

あ……そうもいかなそう。イエローのせっとくにブルーが割って入ってきた。え、こっち来た怖い。

 イエローとレッドに期待してたらブルーが前に出てきた。ちょっと待って腕組んで見下ろしてくるのめちゃ怖いんだけどこの人。やっぱり怒り方がちい姉と同じでめちゃめちゃ怖い人じゃないの!?

いやいや落ち着け私。ちい姉と同じタイプってだけでちい姉より怖いってことはないはず。そんなのーきんゴリラとかめったにいるもんじゃないからちい姉でじゅーぶんだから。それに、それにだよ!もし、もし!ちい姉レベルのスーパーゴリラでも、ちい姉とお揃いに変身してる今の私なら大丈夫!だいじょーぶ……だよね。

うぅぅ、ブルーもしゃがんで目線合わせてきた……ばっちり目が合った。

 

 「そんな怖がらなくてもアンタみたいな小さいのに手荒なコトしようとか思ってないわよ。で、手荒なコトしたくないから今みたいに勢いで誤魔化そうとかしないで、ただ正直に答えなさいよ、わかった?」

 「ハ、ハイ!」

 

無理。全然だいじょーぶじゃない。声聞いただけで勝手に気を付けのしせーになったって。おまけに「本当のことはくじょーしなければ、無事に帰れると思うな」って言われたよーにしか聞こえないんだけど!?怖い。目つきがもう怖い。怖がらなくていいなんて言っていい顔してないでしょ。そりゃアルティメギルだってびびるよこんなの。

テイルブルー好きだけどさ、かっこいい人だけどさ、向かい合ったら全部が怖いやつじゃん……ウソでしょちい姉より怖いんじゃないのどーしよー……

 でもちい姉より怖い人がいるのもそれはそれでちょっと悔しいから、ちい姉以上は言いすぎってことにしとこ。

 

 「地面壊したとか言ってたわよね?じゃあアンタがエレメリアンと戦りあったの?」

 「う、うん。は、初めてだったから、その気付いたらこーなってて。こ、壊すつもりはなかったんだよ!?……ごめんなさい」

 「ふーん、アンタ1人で好き勝手に壊したんじゃないのね?」

 「そ、そんなことしないもん!ウソじゃないから!!」

 

ブルーの質問に首を横にぶんぶん振った。そんなこと思われてたの!?1人で街壊すとか私が悪いやつみたいじゃん!!元はと言えばあの鳥オバケのせい……げんきょーを見せようと思ったけど、そうだ地面にうめちゃったんだった。

 それでも「誰を見てそんなこと言ってんの!?」って言いかけたんだよでもね……ブルーと目が合ったら無理だった。こんな近くでテイルブルーに凄まれたら誰が文句いえるってゆーの。もーだめ目そらしちゃった怖いもん。

 ちい姉は私でも睨みつけさえすれば狼くらいはおっぱらえるって言ったことあったけど、狼どころじゃないよテイルブルー。めちゃめちゃ怖い。

 

 

 「……よし!いいわ。嘘じゃ無さそうね。最後の方は目を逸らしてたけど、それはあたしがちょっとキツく言いすぎだったわごめんね。そのへん壊れたのも、あんたみたいな小さいのが悪い怪物と頑張って戦った結果なら、これくらいは不可抗力ってやつよ。心配しないの」

 「はぇ?」

 

 いーかげん体がふるえてきてたんだけど、ブルーに頭を撫でられた。顔見たら目そらしてた間に一応、笑顔になってる。え、何なに?あ、レッドが後ろでめちゃ引いた顔してる……

 

 「怪物(エレメリアン)と戦ったんだろうから、年上がちょっと凄んだくらいすれば正直に答える度胸だすと思ったのよ。どうやら正解だったみたいね。ま、悪いやつでは無いんじゃない?」

 「ちょっと!?いや明らかにやりすぎだろ!後ろで見てる俺だって怖かったぞ!!まだ震えてんじゃねえかその子!?」

 

 

度胸ある子はきらいじゃないって笑うブルーにレッドが声を上げてる。

え、何?ほんとに目をそらしたらアウト、みたいな判定とられてたの?私やせー動物じゃないんだよ!?

 

 

 「ちゃんと考えてるわよ!見た目通りの歳でエレメリアンと戦う度胸あるとしたら熊びびらすくらいの睨みで妥当でしょ!?そこまで加減してないわけないでしょ!!」

 「お前くらいだよ熊レベルで手加減になるのは!!急ぎの判断としても、もうちょっとこうあるだろ!?ツインテールで動きを見るとか!!」

 

すぐそばで言い合いしてるはずのブルーとレッドの会話が遠くに聞こえる。鳥のお化けに襲われて変身してテイルブルーに睨まれて……何なの今日?なんかもー足に力入らなくなってきた……

 

 

 「え?ちょ、ちょっと大丈夫?」

 

 ブルーがなんかあわてた顔でこっち見てる?あ、いつの間にか座り込んでたんだ私。立ち上がろうと思ったけど立てない……腰ぬけた。

大丈夫?って何が?たった今おどかしてきたきたの誰だと思ってんの!?私はがんばって鳥オバケをやっつけてたのにぃ、こんなこんな・・・…

 

 「う、うぅ~……さっきは来てくれなかったクセにぃ……なによぅ……」

 

ずっと頭に乗ったままだったブルーの手をはらってぽかりと胸を叩いた。だんだん腹が立ってきたもん。ロックチョウデリットが怖かった時は来なかったくせにやっと来たと思ったら……!せっかくブルーのことかっこいいって思ってたのにこの扱いはなによぅ……!!

 

 「さっきの鳥オバケだって怖かったのにぃ……なんでテイルブルーの方が怖いの、私だってブルーに来てほしかったのにばかぁぁぁ~~~………!」

 「いたた、あの、ちょ、え、その……そこまで怖がらせるつもりじゃ、あたたっ」

 

ぽこすか叩きながら文句言ったら、ブルーは困ったようにされるがままになってる。うぅ~このくらいですむと思うなブルーのばか。ええい、もうちょっと困れこのこの。

 

 「あああ、待って待ってあいたっ。俺たちが悪かったからごめ、いててて」

 

私を止めようとレッドが間に入ってきた。あわ、いけない。勢いでレッドの頭まで叩いちゃった、そんなつもりじゃなかったのに。

 

 「ご、ごめん。レッドまで叩くつもりじゃ……」

 「いや、いいって。君の言う通り、来るの遅くなった上に怖がらせるなんて俺たちが悪かったよ。こっちこそごめんな」

 

笑って許してくれた上にあやまってもくれておまけに頭撫でられた。……同い年くらいなのにこの大人のたいおーは一体。こ、これじゃ私だけお子様みたいじゃない!

 

 「あ、ちょ……こども扱いしないで」

 

なんとか切り返そうと思ったけど、うつむいてこれだけ言うのがせーいっぱいだった。これもレッドにまた笑って済まされた。せ、先輩ヒーローの器とでもゆーの!?総二兄みたいな大人のよゆーがどこから……悔しいぐぬぬ。

 

 「ほらほら、涙を拭いてくださいな。それに、あまり怒っていても可愛いお顔が勿体ないですわよ?」

 「え、その、泣いてないもんっ」

 

 テイルレッドに完璧に負けた気がしてたら、ひょいっとテイルイエローに抱き上げられた。またお姫さま抱っこされてる……いけないレッドに子ども扱いしないでと言ったばかりなのに。今は私も変身してるんだし、いくらイエローが年上のおねーさんでもこのままでは……

 

 「いいから、おろして……」

 「あら、もう立てますの?」

 「とーぜんよ。それくらい…………無理です」

 

うぐぐ、イエローの腕からおりよーと思ったけどまだ力が入らないなんて。なんとかくーるに決めようとしたけど駄目でした。そこ、いまさら遅いとか言わない。それにしても、イエローはイエローで優しい言い方されてるのに、つい言う通りにしちゃう雰囲気がやっぱり強い。ちい姉やおねーちゃんともちがうタイプだけど大人のおねーさんだ。

TVの嘘つき、あのいつも脱いでる危ない人はなんなの?

 

 「最初が上手くいかなかった時の気持ちはわたくしにもよく解りますわ。ですが加入イベントは大切なもの!特に年齢が低い追加戦士は貴重ですから次の登場までにしっかり準備しませんと!!」

 

かにゅうイベント?またイエローの目が輝いてきてる……。でも新ヒーロー登場ってやり直しOKなんだ。じゃあ今日はまだセーフ……?

 

 「それでですが、この鎧はやっぱりテイルギアですの?」

 「ているぎあ?え、あ、うん。ちがうんだ……えーと、テイルギアじゃなくて、まぐ?【マグニフィセントテクター】らしい、です……」

 「メンバーで追加戦士1人だけ変身システムがまったく違うヤツですわ!?ますます貴重な加入イベントですわ、万全の状態で挑まないといけませんわよ!」

 

イエローめちゃ楽しそうにしてるけどなんでだろう。私をかんげーしてくれてるってことなのかな?

 

 『一言で私の特殊システムに気付くとは流石この世界のツインテールの戦士。やはり頼もしいな。』

 

エレメリオンがイエローに感心してるけど、エレメリオンが思ってるのとは多分ちょっとちがう気がする。うん?そーいえばエレメリオンに説明たのめば私が腰ぬかすことにならなかったんじゃない……?そーいえば何でエレメリオンずっとだまってたの?あれ?

 

 『好香がコードネームを尋ねてきたから、自分で話すつもりだと思って黙っていたんだが違うのかい?心配しなくても泣き顔だって幼女(よしか)は可愛いさ。』

 

うっそぉ……またなんか勘ちがいを頭の中で言われたんだけど。変なとこに気をきかせてないで私が睨まれてる時に出てきてよぉ……そ、それに泣いてないって言ったでしょ!そんなフォローいらないし!!

 

 「え、エレメリオ――」

 「あー、悪かったわ。あんたくらいの背丈でも面倒なやつを知ってたせいかな。初めてなんて言ってても実は戦いなれたヤツなんじゃないかと思って、あたりが強くしすぎてたわ。ごめん」

 

さっそくエレメリオンにしゃべってもらおうと思ったら、ばつの悪そうな顔してブルーがあやまってきた。ちゃんとあやまってくれるならそれはその、うん。

 

 「ん……うん」

 

ここでブルーの頭を撫でてあげればレッドと同じ大人のよゆーを見せられるのかな。そのチャンスだと思うけど。

 

 「……運んで」

 「え?」

 「……ブルーが私のコト運んでくれたら許す」

 

うぐぐ、やっぱりだめ!私には大人のよゆーはまだ早いみたい。こんなことされたんだから交換じょーけん出さなきゃやってられない!!どうだ、数少ないファンを怖がらせたむくいだと思うがいいテイルブルーめ。

 

 睨んで言ったはずなんだけどブルーが笑ってるの何?むう、ほかの2人にも笑われてる……ブルーがレッド以外を抱き上げてるの見た覚えがないからけっこーな難題だしてやったと思ったのに。

 

 「なによ、泣きそうな顔するからやりすぎたと思ったのになぁ。そんな可愛いお願いするなんてやっぱり結構タフじゃないアンタ。嫌いじゃないわよ。いいわよ、それくらい安いわ」

 

ぬぬ、おもしろい物見るような目で見てくる。でも、その笑顔かっこいい……怖いやつのくせに、悔しいぃ。

くそう、何度見てもちい姉と同じタイプだ目が離せなくなるずるい……あ、かっこつけてるけどちょっとニヤついてるな。

 

 「さては怖がらせても逃げないファンがいてうれしーんでしょ?」

 「お………あんたホントに度胸あるわねチビスケ」

 

イエローから私を受け取ろうとしたブルーが目を丸くした。ふふん、どうだ。

 

 「――ウチのチビスケみたいに馬鹿と紙一重かもしれないけど」

 

最後になんか言ったのはよく聞こえなかったけど。

 

 

 「まあまあ。ともかく移動しましょう。そろそろ人も集まってきますわ」

 

 イエローの言う通り、ちょっとずつやじ馬が来てる。あ、TVの人もいる。……え?このままだと私も映るの?こんなお姫さま抱っこされた状態で?やだよヒーローなのにはずかしい。

 

 「ねえブルー!早くおろして!!このままTVに映るとか無いから!」

 「あ、ちょっと暴れんじゃないわよこら!」

 

ブルーの腕からおりようと手足をばたつかせたら余計しっかり捕まえられた……まずいカメラこっち向いてる。

 

 「まだ立てもしないんだから大人しくしてなさいってのよ!……この際だから、アンタこのまま映ってくれたほうがあたしもイメージアップするかもしれないでしょ」

 「なにそれブルーは怖かっこいい路線だからいいでしょ!はずかしいの私だけじゃないばかぁ!」

 

あきらめずにもがく私にブルーがこっそり耳打ちしてきた。あれだけ暴れてるくせにTV映りなんか気にしてたの……だったら私のTV映りも気にしてよ。

 

 「怖いが先行しすぎてるの分かるでしょ!?アンタの詳しいことまだ何も聞いてないのに勘弁してやってんだからこれくらい協力してよ!」

 「やーだー!TV出るなら私も同じかっこいい路線がいーの!それくらいファンサービスしーてよー!!」

 

ばたばたと体をよじる私と押さえつけるブルー。なんかもうお姫さま抱っこってゆーより拘束されてる感じかも。

でもね、テイルブルーのファンとは言ったけど自分とブルーのTV映りなら、完成されたブルーのイメージよりも自分の方をゆーせんしたっていいでしょケチ。

でも、それがまずかったのか。

 ブルーと私はこーしょーに夢中で。レッドとイエローはそんな私たちがばっちり撮られてることに気を取られてて。

 

 「え、何トゥア――」

 『この属性力(エレメーラ)は!好香まだ――』

 

それぞれが反応するのが遅れた。

 

 

 「スカアアアアアアアーーーーーーーーーーッッッッッット!!!!!」

 

 

足元の穴を派手に壊して飛び出してきたボロボロのロックチョウデリットが、まとった暴風でレッドとイエローを弾き飛ばして。

 

 「な、なにコイツ!?きゃああああ!!」

 「うわ!?まだ無事で―きゃあああああああああ!!」

 

ブルーと私をさかさまに抱きしめて大空へ突進した。

 

 「許さん、この私を大地に沈めるなど……!!小娘ェ……キサマは絶対に始末してくれる!!スカーーーーーーーッッット!!」

 




性癖(ゆめ)のヒーローは精神生命体であり真面目ヒーローなのでそこはかとなく天然。
大人に怒られるとそれはびびるけど、なんやかんやでちい姉の妹だから好香は図太い(^u^)


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8話

加筆修正してることでブログ版よりもロックチョウデリットのお触りが酷くなる第8話ヽ(^o^)丿


 ロックチョウデリットが私とテイルブルーを抱えて空へ空へとのぼっていく。ベアハッグ……と言うにはブルーは上下さかさまだし、腰のあたりをホールドされてるからちょっとちがうかもしれない。

それよりも、私を拘束―じゃない、お姫さま抱っこしたままで捕まったから、両腕までがっちり押さえつけられて密着してて、完全に身動きできないのが問題だと思う。

おまけに、私だって直前のやり取りでブルーにがっちりホールドされてたのに、その上にロックチョウデリットとブルーの体に挟まれてぜんぜん身動きできない。

 

 『これは加速の圧力だけでは無いな。ロックチョウデリットは我々ごと暴風で包み込んで完全に拘束している!生半可な力では引き剥がせない!!』

 

エレメリオンが言うには、ただ拘束してるだけでも無いみたい。どーやってぬけだそう……

あと、ブルーの胸に押し付けられてるほっぺが痛い。ロックチョウデリットだって硬いんだけど表面には羽毛っぽいのがあるだけそっち側のほーがまだマシ……。

 

 「うぐぇぇ……ブルーは、胸どうにかなら、ならないの?いたいよぉぉ……!」

 「いだだだだ!!……どこにしがみ付いてんのよこの変態は!離しなさ―おい今何て言ったチビスケぇ!!」

 「だって平たいから押し付けられたらほんとーに痛いんだもん!」

 「今度こそ泣かされたいのアンタ!?」

 

なんとか体を離したりできないのかってことをブルーに言ったらめちゃ怒ってきた。なんで!?さっきもだけどおーぼーじゃない!?

 

 「スカアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーッッッッッット!!!!!!」

 「「痛い痛いいたたたたたたたたたたたたたたた!!!」」

 

ケンカしてる場合じゃなかった、ブルーのばか!ロックチョウデリットがますますスピードアップして、圧力がもっとすごくなってきた。

 

 

 私たちは逆さまに捕まってるからどんどん小さくなっていく街の景色が見えてるんだけど。そしたら下からこっちに向かってくる赤い光が見えた。

 

 「2人を離せてめええええええ!!」

 

おお、テイルレッドだ!さっきまでとちがって、ツインテールが下結びになってるし鎧も形が変わってる。ロックチョウデリットに追いついてこれるって、スピード系フォームチェンジとかあるんだ、すごい。

よく見たら、その下からレッドよりスピードが遅いけど近づいてくる黄色い光も見えた。イエローも追いかけてきてる。

 あっという間にロックチョウデリットに並んだテイルレッドが二本のブレイザーブレードで斬りかかったけど、スピードが落ちたりもなしにロックチョウデリットは全部をよけてる。

 

 「ほぅ、キサマが噂のテイルレッドか!私に追いすがったことは誉めてやろう。だがその刃を立てるには至らんな!!」

 「こいつ、2人を抱えたままで、ここまで小回り利くのか!!」

 

しっかり捕まってる私たちも同じいきおいでふり回されるから目が回りそう。気持ち悪い……

 

 「だが最早、私の狙いはこの小娘のみだ引っ込んでいろ!!……もっともテイルブルーのスカートを捲るという思わぬ行き掛けの駄賃があったのは僥倖だがなフヘヘ」

 「はぁ!?何言ってんだお前!?」

 

ん?今なんかよくわからないこと言ったねロックチョウデリット。レッドも、ロックチョウデリットに並ばれると、顔が見えない位置になっちゃうんで表情は分からないんだけど、意味が分からないって声出してる。

あ、うん。ブルーは聞いた瞬間に固まってる。

……でも、ブルーのかっこうってスカート無いよね。腰のメカっぽいパーツのことかな?

 

 「見ればわかろうこの私の構え(フォーム)を!私はテイルブルーの腰を捉え、我が翼が彼女の腰部を覆っている!!つまり私自身がテイルブルーのスカートとなり、己が暴風で捲られているのだ!!!己自身でスカート捲りを体現する。これぞスカート捲り属性の神髄よ!!!!!」

 

 「やだーーー!!こいつこんな気持ち悪かったの!?」

 

この鳥オバケめちゃ気持ち悪いこと叫んだ。明らかに自信満々って感じの大声で言ってて、もうこの間のスクウェレルギルディよりもキモい。密着していたくない!!さっき、こいつの方が押し付けられるならマシとか思ってごめんなさいテイルブルー。

 

 「離れろこのクソ変態があああああああああーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」

 「ぐおぁぁっ!?」

 

私がキモさに引いたのと同時。レッドが動くよりも先に、ブルーが抱きしめられたままで体を揺すって膝蹴りを鳥オバケの顔面にいれた。さっすがブルー、ロックチョウデリットの体がぐらりとゆれたゆれた。

 すかさずレッドが斬りかかったみたいけど、顔面けられた直後だってゆーのに、もっと上昇して避けちゃった。しぶとい。

 

 「ぐふぅ、それがどうした?」

 

ブルーの膝蹴りは効いてそーなんだけど全然、ひるんでない。突撃を私に受け止められた時はあんな驚いてたのに。……それよりもちょっとうれしそーに感じるのは気のせい?

 

 「スカートとは太もも!膝!そう、歩行の際に脚に当たるもの!!開いた脚に押し上げられることに何を怯むことがあろう!!そもそも私の顔面装甲は捲ったスカートの内側を!如何な障害があろうと密着して隠し、かつ私だけが覗く為のぐああああああああ!!!??」

 「気色悪いこと言ってんじゃないわさっさと離さんかあああああああああああああ!!!!!」

 

キモさがあふれすぎる大声をさえぎって、ブルーの膝蹴りが連続で飛び出す。キックの振動に合わせてバラバラと落ちていく破片が見えたし、自慢してる顔面装甲ってやつは砕けてるんじゃないのかな。

 

 「おおぉ……この風の中、スカートが翻ることにも怯まぬ、なんと素晴らしい脚よ……!ぐえあっ!これを小娘のついでなどと、目が曇っていたあがが!!」

 「ぎゃー!撫でまわすんじゃないわよっ!!」

 

テイルブルーの叫び声で気もち悪いことされてるんだろうなってわかる。でも、叫び声といっしょに膝蹴りの音も激しくなってるんだよね。だんだん硬いの割ってる音にやわらかのをつぶしてるよーな音も混ざってきてる。どっちもが怖い。

 

 「ぐぇぇ!!私は遂に、我が身が生涯をかけて覆うに相応しい下半身と出会えたぞ!!テイルブルー!共に燃え尽きるまで貴女のスカートでいよう!!おごごご!!!」

 「あーーーーー!!また変態どもには言われたくないことをををおおおおおーーーーーーーーっっっ!!!!!!」

 

ブルーのこんな叫び声初めて聞いた。キックはめちゃめちゃ激しくなってる。あ、今りょうほーの膝蹴り同時にぶち込んだ。音がヤバい……それなのにロックチョウデリットはずっと蹴られながらうれしそーにしゃべってる。そして、内容がめちゃめちゃ気持ち悪いヤバい。

みんなが言ってる“属性”ってゆーのはまだいまいちわからないんだけど、スカート捲りでこんな気持ち悪いこと言えるやつがいるとは思わなかった。やっぱりこいつら怪物がどーとかの前に変質者として怖いかもしれない。

 ……こないだ総二兄の前でちい姉のスカートめくったのもういっかいちゃんとあやまろう。

 

 「あ、でも気持ち悪いけどこれって、いちおーはブルーにぷろぽ」

 「それ以上、口に出さないで」

 「あ、はい」

 

 

 

 テイルレッドがロックチョウデリットを追いぬいた。最初、私みたいに空中でジャンプしたよーに見えたのは何したんだろう?遠くてよく見えないイエローのあたりで何か光ったらトランポリンみたいにばいん、って跳ねた気がしたけど。

 

 「そんなに燃え尽きたきゃ俺がいますぐ燃やしてやるよ!!」

 

レッドがブレイザーブレイドを2本ふりあげてロックチョウデリット目掛けてきゅーこーかしてくる。炎の熱気が一瞬で近づいてきた――でもこの鳥オバケは、スピードもゆるめないで真横にスライドして、避けた。まじか、エレメリアンってこんな凄かったんだ……TVで見る以上の変態って意味でも凄いけど。

 

 「お前の炎では燃えぬ。私はテイルブルーのスカートとして、この空で共に燃え尽きると決めたのだ……もっと加速を……私という強靭なスカートを翻す風を……私とテイルブルーの身を焦がす熱を……!!」

 

Uターンして足をつかもうとしたレッドをまた追いぬいた……どころかもっとスピードが上がってどんどん引きはなしていく。

 

 『まずいぞ好香。こいつは自分の限界以上まで加速して共にバラバラになる気だ!!』

 「え」

 

 エレメリオンがけーこくしてきたけど、え、なにそれ怖い。燃え尽きるってそのままの意味なの?気持ち悪いぷろぽーずとしんじゅーがセットなのこいつ!?しかも私を巻き込んで!!?

おまけにTV以外でぷろぽーずなんて初めて見たのにこれ!?

 

 「初めて見たぷろぽーずがこんなのとかやだぁぁ……!」

 「口に出すなって言ったでしょーー!!されたあたしはもっと嫌よ考えないようにしてんのよ!!」

 

最初はいろいろありすぎてわからなかった相手の変態ぶりが、よりによって身動きできなくなってからどんどん見えてきた。さいあくぅ……。

思わず、しょーじきな気持ちをこぼしたらブルーに怒鳴られるし。なによぅ怒らなくてもいいじゃない、って思いかけたけど確かにブルーの方がきつかったよね、ごめん。

あ、さすがに相手がキモすぎて鳥肌立ってきてるブルー…………でも鳥オバケと鳥肌か。これはなんてゆーか、おそろい……?

 

 「……何考えたか知らないけど、それ口に出したら後の覚悟はしなさいよ」

 「はい」

 

やせーの勘かな?するどい。

 げ、レッドが元の姿に戻って落ちていっちゃった!やっぱりいつもの姿じゃ追いつけないんだ……

 

 「……レッドのフォーラーチェインは22秒しか使えないのよ。私たちは髪紐属性(リボン)の力を使えば飛べるけど、こいつに追いつくほどのスピードは出ないわね」

 

レッドが完全に引きはなされちゃったのを見てるとブルーが教えてくれた。なるほど、だからイエローは全然追いついてこなかったんだ。

 

 「じゃあ自分でどーにかしないとだめってこと?」

 「そーゆーことよ。腕が動かせたらこんな変態トリ、今すぐ串刺しにしてやるのに……あんたの方は動けないの?」

 

つまり、助けてもらうのはあんまり期待できない、と。

ブルーに言われて、体をひねってみたけど全然だめ。今となっては変態と密着してるのわかって、めちゃめちゃいやになってるんだけど、ぴったりはさまったままで動けない。

自由なのは風に振り回されてるツインテールくらい。

 

 「エレメリオン、私にも武器とか無いの?」

 『残念だがこの姿に武装は無いようだ。――だがまだ髪がある。』

 「へ?」

 

ツインテイルズみたいに凄いアイテムが出せれば何とかなるかなーと思ったんだけど、返ってきた答えは無し。それと、よくわからないアドバイス。

 

 『私の属性は髪変え遊び属性(アレンジ)と言っただろう。そして今のツインテールは好香の心が結晶したもの。好香が望めば必ず力になる。』

 

やっぱりよくわからない。でもなんかわかる気がするのはエレメライズが続いてるからかな。

 

 「えれめりおん?やっぱり指示出してるやつがいるのね?」

 「え?うん。指示ってゆーか、いっしょに変身してくれてる?ってゆーか……?」

 

 エレメリオンのアドバイス聞いてたらブルーがこっち見てた。そっか、エレメリオンの声ってまだ私にしか聞こえてないんだ。

説明したいけど私もまだよくわかってないんだよねそういえば……。どっちかってゆーと私の方がツインテイルズに聞いてみたかったし……

 

 それにしても私が望めば……かあ。私のツインテールはちい姉だし、ちい姉と言えば力づくが浮かぶけど。それに……目の前のテイルブルー。睨まれたら怖いんだけど、こんな変態に捕まった状態で反撃できてるのは……やっぱりかっこいい。実は今だって、ずーっと蹴り続けてるし……ロックチョウデリットの顔つぶれてるんじゃないかな。

まとめるとちい姉みたいに力づくでテイルブルーみたいにかっこよくをツインテールで……?うーん……

 

 「スカーーー……何を考えても無駄だ小娘おごっ、この加速と圧では何もできまい。【テイルブルーのスカート()】に巻き込まれたことを光栄に思え!!ぐあああああっっ……ふっふっふ、まったく元気な脚よぐおお!!さすが私が見初めた下半身おげげげげげっっ!!!!!」

 「お前も気色悪いことしか言わない口を開くんじゃないわよ!!!」

 

……イメージ固めようとしてるのにジャマな声がはいってくる。ええいうっとーしい。そもそもなんで変態のぷろぽーずに私が巻きこまれなきゃ……あれ?

そうだ、最初は私がおそわれたってゆーのにになんで今オマケあつかいされてるの。

 

 「ねぇ……私いきなりさかさまに持ち上げられてスカートのなか見られちゃったんだよね……そのまま変身したりお尻打ったりしてるのに……なんで今あつかい下がってるの?」

 

思い出したらなんかよけーに面白くない。なんでこんな変態鳥オバケにふり回されてるの私。

 

 「ふん、キサマを始末するよりこの素晴らしい脚のスカートになることの方が重要なだけよ!!小娘が我らのひと時を邪魔するでなぐえああああっ!」

 

あいかわらず蹴られながら、私がもうがんちゅーに無いみたいに言ってくる……あったまきた!!

そーいや地面に投げただけで殴ってないのも思い出した!こいつ絶対ぶん殴ってやる!!

 

 「な、なによそれ!そーいえばそうよ!!地面壊しちゃったのもテイルブルーに睨まれたのだって全部あんたのせーじゃん!!そのくせに……変態鳥オバケのくせに、えらっそーにしてないでよ!あぁーーー!!ずっと怒ってたけどもー怒った!!」

 

そー思って叫んだら、頭のとなりでバチバチッていう音がした。

 

 「うわ!あんたそのツインテールどうなってんの!?」

 

まぶしそうに目を細めるブルーに言われて、自分のツインテールがどうなってるのか気付いた。

 ロックチョウデリットの暴風にふり回されていた私のツインテールは、光になっていた。頭の両側で結んでる根元からバチバチと電気みたいにスパークして、ツインテールそのものがビームみたいになってる。

エレメリオンが言ってたのってこれ!?

 

 「でも、これなら……!これでどうよ鳥オバケ!!」

 

ビームになったツインテールは私の思い通りに動いた。テイルレッドの攻撃はよけてたけど、ブルーとおなじで密着してる私のツインテールはよけられないでしょ!ビームみたいになってる私のツインテールは長さも伸びて、ロックチョウデリットの体に絡みついて、ビリビリとしょーげきを与えながら縛り上げてく。今度はこっちが捕まえる番だ。

 

 「グ、オオオオオオ………!!」

 「いーかげんに、テイルブルーもはなしな、さい!!」

 

両肩にも巻き付いたツインテールは、締め上げて力づくでブルーにしがみ付いてるロックチョウデリットの両腕をはがした。ほとんど上半身全部を締め上げたことで、私たちを押さえつけてた風も、ロックチョウデリットの移動も止まった。ふふん、どんなもんよ!

 

 「やるじゃないのチビスケ!そんじゃ、くらえおらあああああああっっ!!!」

 

ロックチョウデリットの腕から離れたブルーが、私の両足をつかんでぶら下がった。わあ、そこで止まらないで空中ブランコみたいに勢いつけて今日一番の膝蹴りをロックチョウデリットの顔に叩き込んだ。えぐい。

今ので、ちょっとだけは残ってたロックチョウデリットの顔面装甲は完全になくなっちゃった。

 

 「ぐああああああああああ!!!!!」

 

ロックチョウデリットがもだえた。私のツインテールに全身を縛り上げられて身じろぎもできないとこを思いっきり蹴られたんだし当然かな。

 テイルブルーは膝蹴りの勢いで一回転すると頭のリボンぽいメカパーツを大きくして自分で飛んだ。おお、あれが【髪紐属性(リボン)】の力ってやつかあ。

 

 「あー気持ち悪かった………!!」

 

自由になったブルーは腰や太ももを手ではらってる。当たり前だよね。

 

 「馬鹿な……!構え(フォーム)の不可抗力で股間を凝視していたのはまだしも、この私自身がスカートとなって何が不満だったと!?」

 

それを見て本気でショックを受けた叫びをロックチョウデリットが上げてる。何言ってんのこいつ。

 

 「そうね全部だよ!死ね」

 「おげえええええ!!!」

 

ブルーが顔面をサッカーボールみたいに蹴りぬいた。ロックチョウデリット、やっぱり私に縛られて空中で動けないから、しょーげきは全然逃がせてないっぽいね。おまけにもう生の顔だし。でもそれ分かっててブルーも蹴ってるよね。かわいそーとは思わないけど。

 

 「ブルーもはなしたしそれじゃあ……痺れるくらいって思わないでよ!リクエストどーり焼き鳥にしてやる!!」

 

次は私の番だ。ツインテールのパワーを上げる。バチバチってスパークがもっと強くなって、ビームがもう雷みたいになってロックチョウデリットの体を焼き焦がしていく。

 

 「ギィ、ガアアアアアアア……!!!!」

 

ロックチョウデリットの全身に火花が散る。体の装甲がベキベキってひび割れて、白い羽毛にまんべんなく焦げ目がついたところで、最後の仕上げ。私は大きく頭を――ツインテールをふりかぶった。

 

 「やああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

ビームになってよーとツインテールは頭から取れたわけじゃない。縛り上げてるツインテールでロックチョウデリットをふり回してふり回して、もっと高い空へ勢いよく放り投げた。ざまーみろばーか!!

 

 

 「よくやったわ、後はあたしに任せなさい!」

 

 ブルーが頭のメカリボンを叩いてウェイブランスを出した。

予告どーり串刺しにする気だろうけどちょっと待ってほしい。さっきまではロックチョウデリットにツインテールを巻き付けてたから空中に浮いてたけど、ほんとは飛べないんだよ私。このままじゃ落ちちゃう、だから。

 

 「その前に乗せてよブルー!」

 「オーラ……うわ、と、と!何すんの!?」

 

光の柱で拘束するオーラピラー?ってやつをやろうとしてたみたいだけど、私はそこへ飛びついた。ブルーは急に飛び込まれてバランス崩しかけてたけど、上手く抱きとめて踏ん張ってくれた。さすが。

 

 「危ないわね!ここ何処だと思ってんのよ!?」

 「だって私、飛べないんだもーん」

 「ああもう、手がかかるわね!ほら、折角の特等席よ!」

 

私を素早く小脇に抱えこむとブルーは槍を構えなおした。なんだかこーゆーとこまでちい姉と同じに手慣れてるなあ、あなどれない。

 

 「オーラピラーーーーーーー!!」

 

あらためて、落ちてくる黒こげのロックチョウデリットにウェイブランスを構えて円柱型の水流に閉じ込めるブルー。あとは振りかぶったウェイブランスを投げつければ必殺のエグゼキュートウェイブ。

 

 「あ、ちょっとまって」

 「エグぜええええええい!とぉ、おお!!だから空中でバランス崩させるなって!今度は何よ!?」

 

なんだけど、私がその長柄をつかんだから不発に終わった。

邪魔した私に頭突きでもしそうな勢いで顔を近づけて怒鳴ってくるブルー。

 

 「あれだけ蹴っとばしたんだしブルーはもういいでしょ?私だってスカートめくられたのに、まだ1回もちゃんとぶん殴ってなかったから私がやる!!」

 

返事を聞く前にブルーの腕からぬけて、空中二段ジャンプ。

これがちい姉なら、相手が熊でも最初から最後まで1人でやっちゃうんだし、私も最後くらいは自分で決めないとね!

お、下からレッドとイエローが追いついて来てる。よーし、ちょーどいいや。新ヒーローを見ててよね!

 

 「ねえ、エレメリオン。必殺技なら私にもあるんだよね?」

 『勿論さ。この属性共鳴(エレメライズ)出力なら好香にもわかっているはずだ』

 「わかった、おっけー!!」

 

全身にみなぎる力を胸のエレメライザークリスタルに集中させる感覚。ツインテイルズは完全解放(ブレイクレリーズ)って言うみたいだけど私とエレメリオンはちがうんだね。私たちは――

 

 

 

 「『極 限 出 力 (フィーバースパーク)!!』」

 

 

声が重なる。

属性共鳴(エレメライズ)で最大増幅された属性力(エレメーラ)を更に一点へ集中して放出する。最大を超えた極限。属性勇者・マグニフィセントエージェント必殺の一撃。エネルギー放出の形式(必殺技のスタイル)エレメリオン(属性勇者)に選ばれた津辺好香(エージェント)のイメージ次第。

 

 

 (私がかっこいいって思う人は武器がどーとかよりもー“なんか強い”んだから考えることないや!なんか強いの出せばいい!!どーせならぶん殴るより強いの!!!)

 

 

素手で蹴散らす愛香(次姉)と槍で決めるテイルブルー(ヒーロー)。強さのイメージがまとまらないならそれでいい。ただ属性(こころ)を力に変えてぶつけるのみだ。

 

 

 「『マグニフィセントォォォぉぉぉーーーーーーーー………バスターーーーーーーッッッ!!!!!!』」

 

 

胸のエレメライザークリスタルから放たれた閃光は切り裂いた空を照らして突き進む。“強い力でぶっ飛ばす”。単純すぎるイメージだがそれ故に強力。極限の光線は水流の柱(オーラピラー)ごとロックチョウデリットを呑み込んだ。

 

 

 「―――――――――――――――――――――ッッ!!!」

 

 

ロックチョウデリットが上げた断末魔の叫びすら掻き消し、遥か彼方へと光の軌跡を続け―――爆発。周辺の雲海までも奇麗さっぱり吹き飛ばし青空を完成させ、マグニフィセントバスターは消えた。

 

 

 

 「……やっべ」

 『これは……属性玉(エレメーラオーブ)まで破壊してしまったか?』

 

 初必殺技で広がった青空を眺めて最初に出てきた言葉はこれ。いやだって、まじやばでしょ。

“とにかく強いのぶっ放しちゃえ”とは思ったけどこんなの出るとは思わなかった。

初めてだしちょーせつとかできなかったし……そもそも威力のちょーせつとかできる必殺技なのこれ?

 

 「下で撃ってなくてよかったぁ」

 

街中で撃ってたらまたなにか壊してた気がする。ロックチョウデリットが空にのぼってくれててラッキーだったかも。

 

 ぽけーっと自由落下してたらテイルブルーが近づいてきた。そーだそーだ、受け止めてもらわなきゃ。

 

 「ありがとーブルぐえっ」

 「ふん」

 

抱きとめてくれると思ったら鎧の襟首つかんで止められてまた脇に抱えられた。なにすんの。

 

 「え、なんでこーなの?ちゃんと運んでよー」

 「うるさい。あのトリに挟まれてた時の態度、忘れてんじゃないわよ。こんだけ手間かけさせるチビスケは、これでじゅーぶんよ」

 「私はしょーじきに言っただけじゃん。ヒーローのくせにケチ」

 「手ぇ離してもいーのよあたしは」

 

せいとーなしゅちょーをしたのに頭を小突かれた。人気とか気にしてたクセにファンサービス雑でしょブルー。不満をこめた目で見上げてるってゆーのに、そっぽ向いてスルーしてくれちゃって。ヒーローのすること?

私の無言のこーぎをスルーしながら、こっちに飛んできてるレッドとイエローに向かって降りてってる……せんぱいヒーローのはずなのに、せっかくの新ヒーローをなんだと思ってんのよ、ぐぬぬ。

 

 「あんな特大ビーム(モノ)ぶっ放すなんて、訊かなきゃいけないことまーた増やしてくれたけど………まあ、やるじゃない」

 

そー思ったら素っ気なくほめてくれた。なんだちゃんと見てくれてるんだ。だったらもーちょっと態度で示してほしーけど……いいよ。私は心が広いからね!代わりに私が新ヒーローらしいくーるな態度を見せてあげよーじゃない。

 

 「え……ふふん、かっこよかったでしょ?」

 「はいはい。嬉しそーにニヤついてんの隠せてたらね」

 

せっかく、くーるに決めようとしたのによけーな指摘を……!さっきの仕返し!?こんなとこまでちい姉みたいなんだから……!!

 

 「もー!新ヒーローのとうじょーは大切だってイエローも言ってたでしょーー!!」

 「ソーデスネー。でもあたしの知ってる新ヒーローとやらは、こんなキャンキャン騒がないけどねー?」

 

この後もさんざん文句いったのにぜんぶ笑って相手にされないまま……私とブルーは空の上でレッドとイエローに合流した。

 

 

 

 「なあ!痺れるようなツインテールの気配があったんだけど君のツインテールだよな!?下からじゃよく見えなかったんだどんな風にツインテールを使ったんだ!!?」

 「え?え!?」

 

 ――合流したら、なんかレッドからツインテールについてめちゃめちゃ質問されたんだけど、なんなの……?

 




いわばチュートリアル用の敵なので空飛ぶ頑健な変態ができあがっていた。
そして空飛ぶ変態に対応してるうちに、正体知らないまま自然な距離感になってきた姉妹(知ってたらちい姉が、もうちょっとだけ妹の見栄と屁理屈に付き合ってくれたりする)


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9話

チュートリアルが終われば説明回というチュートリアル2が始まる・・・・・
好香は正体を隠す気はあるけど大した理由は無いし隠すのが上手いとも言ってない第9話(^u^)


 ロックチョウデリットやっつけて、ツインテイルズ全員と合流した私は、テイルブルーの脇に担がれたまま一緒に地面に向かって降りてる。ロックチョウデリットに捕まってたのは、ほんの短い時間だったからすぐに地面が見えてくると思ってたら意外と遠いなあ。やっぱりすごいスピードだったんだねあの鳥オバケめ。

それにしても建物がまだ小さくしか見えないなあ。

 

 「ねーブルー、まだー?もーちょっと早く降りれないのー?」

 「気を抜くと注文の多いチビスケね。あんたを落っことしていいなら、もっと早く降下できんのよあたし達は?」

 「いたっ」

 

ブルーを急かしたらデコピンされた。なにすんのよ。

 ブルーの言う通り、ツインテイルズは髪紐属性(リボン)を使うとかで、頭のリボンみたいなパーツを大きくして自分で飛んでる。いつもならレッドはブルーが運んでるみたいだけど、今回は飛べない私にブルーをゆずって、レッドは自分で飛んでる。

で、そのレッドは、さっきからずーっと私のツインテールを触ってて、めちゃ楽しそうにしてる。何がそんなに気になるんだろ?

合流してすぐは

「なあ!痺れるようなツインテールの気配があったんだけど君のツインテールだよな!?下からじゃよく見えなかったんだどんな風にツインテールを使ったんだ!!?」「気配でツインテールがバチバチッと弾けるのはわかったんだ。引き離されたせいでよく見えなかったのは本っ当っに不覚だったぜ……!!何やったんだ!?」

って、めちゃこーふんして迫られてびっくりした。あまりにもグイグイくるから、つい「よくわかんないから、自分で好きに調べていーよ」って言ったら、それからずっと触ってるんだよね……なんか総二兄みたい、ってゆーかこんな総二兄みたいなのが他にもいるとは思わなかった。世界は広いってほんとだなあ。

 

 「……まだ触ってるの?」

 「え?ごめん、迷惑だったかな!?」

 「いや、別にいーんだけど」

 「だったらもうちょっとだけ……」

 

声をかけたら、ちょっと気まずそうにしたけど、問題ないって言えば一瞬でツインテール観察に戻っちゃった。

飽きないのかなーって思っただけだし、ほんと別にいーんだけど。ブルーをゆずってくれてるんだし、ツインテール触らせるくらいでお礼になるなら安いもんだし。

ちい姉とおそろいのツインテールがほめられる?のは、やっぱりうれしーからね、うん。

それに……ほんとうに楽しそうにツインテールを見てるから。楽しそうな笑顔が、TVで見るよりもめちゃかわいい。これはファンも多いわけだ。

 

 (うむむ、こんなにツインテールが好きな子だと総二兄とも気が合いそーだなあテイルレッド。これは思わぬふくへーになるかも……?)

 

……ちい姉のライバルになりそーなツインテールはテイルブルーだけだと思ってたけど、意外とテイルレッドの方が、ツインテールって趣味で総二兄といきとーごーするかもしれない。気を付けないと。

ちい姉はもーちょっとせっきょくてきになってもいーんじゃないのかな。トゥアールさんみたいに総二兄のお部屋いったりすればいーのに。

 

 「……いつまで気ぃ取られてんよ」

 「え?なんか言ったブルー?」

 「なんでもないわよ」

 

 で、レッドがツインテール触りだしてから、ブルーはちょっと機嫌悪そうなんだよね何で?

 

 「もしかしてブルーも触りたいの?」

 「あたしを一緒にすーるーなっ」

 「あいたっ。もー!またデコピンするー!!」

 「ふん」

 

うぬぬ、なんなのよもぅ。レッドはツインテールと引きかえに、ブルーに運んでもらうのゆずってくれてるのに。かんじんのブルーは何もしてないのに何でこんなことすんのファンを大事にしてよ。もっとレッドを見習えケチ。

 

 「私のコト雑に抱えたままだしー。ヒーローらしくていねーにあつかってくれてもいーじゃんー。新ヒーローだしファンなんだよわーたーしーはー」

 「それじゃ、あたしはファンサービスに厳しいヒーローってことね。だいたいねぇ、エレメリアン消し飛ばせる上にこんな生意気なチビスケはサービス対象外よ」

 「それでしたらわたくしが運びましょうか!?」

 

 ほんのちょっとの間にどんどん私のあつかいが雑になってくるブルーに文句言ってると、イエローがりっこーほしてきた。自分を指差してじーっと私を見てる目が、心なしかちょっとワクワクしてそうな感じする。

 

 「うーん……ブルーの方がいい」

 「そうですか。やっぱりブルーのファンですのね……」

 

ことわったらしょんぼりさせちゃった。イエローが嫌いとかじゃないんだよ、でも選べるなら、あつかいが雑でもやっぱりブルーがいいなーって思っちゃうから……これも全部ブルーがかっこいーのが悪いんだよ。

ちらっとブルーを見たら、まんざらでもなさそうな顔してる。そーやってファンによろこぶくせにサービス悪いのが面白くないんだよ。かっこいーくせに……これでもくらえ。

 

 「自分だってファンにニヤつくくせに、ばか」

 「ふひぇっ!?なにすんのよこのチビスケ!!」

 「いったぁぁい!!ブルーがこーゆーことするからでしょー!!」

 

スーツから見えてるお腹を指ですーっとくすぐってやったらさっきよりも強くデコピンされた。そーゆーとこなんだってばもー!

 

 

 空をすーっと降りるの数分くらいかなあ?だんだんと地面が見えてきた。

さて、これから私はどーすればいーんだろ?ツインテイルズのひみつ基地とか連れてってくれるのかな。

 

 「ねえねえ、今からどこ行くの?やっぱりツインテイルズのひみつ基地とか?」

 

本物のヒーローのひみつ基地って思ったらちょっとわくわくする。エレメリオンのこととかも教えてもらえるかもしれないし……それにひみつ基地行ってみたい。

 

 「いまさらだけど、名前も言わないくせに警戒心ぜんっぜんないわねアンタ……話は早いんだけどさあ」

 

よくわかんないことをブルーが言う。けーかい心あるから鳥オバケやっつけたんじゃん。もしかしてツインテイルズにけーかいしろってこと?ヒーローに?……なんで?

それともひみつ基地にてこと?でも行ったら危ないのは“悪の”ひみつ基地でしょ?

 

 「ツインテイルズの基地ってなんか危ないの?まさか火山の中とか海の底にあるタイプ!?出入りがむつかしそーなとこに建ってるやつなの!?……でもそーゆーひみつ基地って、喫茶店のれーぞーことかが入り口になってたりするんじゃないの?」

 「きっさ!?ごほっごほ!!」

 「そうじゃなくてあんた自身が警戒されるとか正体隠して……もういいわ。深く考えてないバカなのよね多分」

 

なんか急にレッドが変な声出したけど、どーしたんだろ?

それよりもブルーに呆れたよーにため息つかれた。なによしつれーな。けーかいも何もヒーローのひみつ基地って世界一安全でしょ。ほらほら、イエローもうんうん頷いてるし。

 

 

 『だが好香、いいのかい?』

 

 えー?エレメリオンまで歯切れの悪いこと言ってきた……ひみつ基地行ったらなんかまずいの?

 

 『いや、彼女達の基地に行くのは私も賛成だ。しかし今から行ってしまうと学校はどうするんだい?』

 

 

……………―――学校?…………………………―――――学校!?

 

 

 「あああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

すっかり忘れてた!!掃除の途中だったんだ!!!このままじゃ勝手に出ていったって思われてめちゃ怒られる!!ひみつ基地行ってる場合じゃない!!!

なんかツインテイルズもひみつ基地の誰かと話してたみたいで、私の声にびっくりしてる。もしかして基地のえらい人みたいなのもいるのかな?あーでも、けどもう時間ない!てゆーか今何時!?

 

 「ごめんなさい!!学校のこと忘れてたから、早くもどらなきゃ!ひみつ基地はまたこんど連れてって!!」

 「は!?」

 「だから学校まだ終わってないの!あ、ツインテール放してレッド」

 「え、ああ」

 「どうしてここで放すのよあんたも!?」

 「だって引っ張っることになったらツインテールが痛んじまうだろ!!」

 

手を合わせてツインテイルズにあやまる。ブルーの手からすり抜けて、二段ジャンプを繰り返して空中を全力ダッシュする。いそげいそげ!早くもどんないと!!

 

 「ちょ……こら待ちなさい!学校って――」

 「ごめんなさーーーい!ほんとに時間ないのせんせーに怒られるからーーーーーーー!!!」

 

ブルーが呼び止めてくるけど待てないんだって。そうだ。

 

 「ね、エレメリオン!あの光の球になって飛ぶやつってできる!?」

 『可能だ。あの形態は、好香とエレメライズしていれば時間制限もない。』

 「やった!じゃあ全速力で学校まで送ってよ!!」

 『了解した。』

 

おお、いっしゅんで光の球に包まれた。光の向こう側にはツインテイルズの影が見える。

 

 「助けに来てくれてありがとーーーー!!!こんどはひみつ基地いくからーーー!!またねーーー!!!」

 

向こうから見えてるかは分からないけど、お礼言って手をふってたらエレメリオンが動き出した。やっぱり私が空を走ってるよりこっちの方が速いや。

掃除の時間には間に合わないかもしれないけど、次の授業までにはもどれるかなあ。

 

 

 

 エレメリオンの光の球でしばらく飛んでると小学校が見えてきた。

 

 『このあたりでいいだろう。エレメライズ解除――遮断光量子(ブライトカーテン)展開!』

 

おお、変身が解けて服が元の制服にもどった。こんどは輪っかの形をした光がいくつもかぶさって私を包んでいく。なんか輪投げでひとつの棒に集めてるみたいだなあ。

 

 「わ、わ、なにこれ?」

 

私がおどろいてる横?周り?で、エレメリオンの光の球が弾けて、キラキラと光の粒を飛ばしていった。花火みたいできれい。

 

 『エレメリアンに好香の所在を知られると厄介だからね。一時的に周辺を視覚カメラからも属性力探知からもジャミングしたんだ。』

 

よくわかんないけど、ヒーローの正体はばれないよーにってことかな。カメラが使えなくなるってゆーのはちょっと心配だけど、短い時間だけってゆーんだし大丈夫よね、うん。

光の粒が空でキラキラしてる間に、私は光の輪っかたちにかこまれながら、校内の人がいない場所におろしてもらってた。

 

 

         ――――ちなみにこの遮断光量子(ブライトカーテン)の効果で、アルティメギルだけでなくツインテイルズ―トゥアールも謎のツインテール戦士(好香)を探知網から見失ってしまったのは余談である。

 

 

 「ふぁぁ……学校にもどってきたんだ。なんか夢みたい」

 

 校内の風景を見てたらそんな言葉がもれた。だって、校庭の時計を見たらごみ置き場に行ってからまだ30分もたってないんだもん。げんじつ感ってゆーのがない。

鳥オバケ見つけちゃって、エレメリオンが出てきて変身してツインテイルズといっしょに戦って……もっと長い時間たってるような気がしてた。

 

 『夢じゃないさ。好香のおかげで私は好香の力になれた。だが詳しい話はまた後にしよう。今は学校が大切だ好香。』

 「あ、うん。また後でねエレメリオン」

 

でもこーやってエレメリオンが話かけてくるし、手にはエレメライザーにぎったままだし夢じゃないんだよね。うーん、じわじわげんじつ味をおびてくるとゆーやつだ……。

よし。エレメリオンが後でいいって言ってくれたんだしそーしようそーしよ。私ひとりで考えてたら頭パンクしそうだし、授業でしっかり寝て落ちつこう。

 

 掃除?終わってたよ。30分たってないって言っても次の授業がちょっと始まってて、先生にめちゃ怒られた。

エレメリアンにからまれてましたって言っても信じてもらえなかったし……私悪くないよね解せぬ。

 

 

 

 学校は授業終わったら、さささーっと帰ることにした。だって、今日は放課後に残って遊ぶ気分じゃないってゆーか、ねえ。それよりも気になること多すぎるんだってば。エレメライザーとかエレメリオンとかさー。

こーゆーのはやっぱりひみつの話なわけで、誰かに聞かれる心配がないのは自分の家がいちばんだもんね。おねーちゃん達の学校が終わるのだって私よりおそいから、しばらくは家に1人って分かってるし、ばっちりの場所だよ。

 とーぜん家まで全力ダッシュ……したけど、いつもより遠くに感じる。やっぱり一回、空飛んじゃうと思いっきり走っても時間かかったように思っちゃうなあ。

 

 家についたけど……おねーちゃんは早く帰ってくる時あるなあ。大学の時間割ってよくわかんない。

念のため、玄関のドアをそーっと開けて靴を確認。よーし、おねーちゃんもちい姉どっちもまだ帰ってない。セーフセーフ。

 手を洗ってうがいして、次はお客様のエレメリオンをむかえるじゅんびなんだけど。

 

 「エレメリオンってお菓子とか食べられるの?」

 『ありがとう。私は属性共鳴結晶灯(エレメライザー)の中枢である属性玉(エレメーラオーブ)が核となる精神生命体だ。人間と違って食事はしないからお構いなく。』

 

とゆーことらしーので、用意するジュースとお菓子は自分の分だけになった。だからそれだけをお盆に乗せて部屋へ直行。

 ランドセルはベッドに放り投げて、続けて自分もベッドに飛び込んだ。

 

 「うぅ~~やっと落ちつけた気がする。もー今日はいろいろあって疲れたよぅ~~……」

 

ベッドで思いっきり伸びると今日のこと……てゆーかお昼過ぎのほんの数十分間なのに、のーみつすぎたイベントがぽこぽこ頭に浮かんでは消える。どさっと、つかれをじっかんしちゃう。しょーじき、このまま寝ころがってると寝ちゃいそう。寝ちゃいたい。

でもまだそうはいかないのですよーだ。

 おっといけない。エレメリオンはごはん食べないって言ったけど、クッションくらいは用意したい――けど、それもどーしよ。エレメリオン22秒しか出てこれないってゆーから、属性共鳴結晶灯(エレメライザー)のままになるんだよね。小さいライトをクッションに置いても目線?が合わないし……そうだ。エレメライザーはベッドの上で枕に立てかければ。で、私が床でクッションに座れば……うん、ちょうどいい感じ。

 

 「あ、制服ぬいじゃうからもうちょっと待っててね」

 

エレメリオン(エレメライザー)の席が決まったところで、私は普段着にちゃちゃっと着がえる。ほんとはめんどーだし夜、寝る前パジャマになるまで着がえなくてもいーかなーって思うのに、ちい姉もおねーちゃんも制服にシワができるから帰ったらさっさと脱ぎなさい、っていっつも言ってくるんだもん。いーじゃんそれくらい。

 さて。着がえてぬいぐるみを抱きしめてクッションに座る。おっと、お菓子の袋も開けなきゃ。よし、ベッドの上のエレメリオン(エレメライザー)と向かい合ってこれでじゅんびかんりょーだね。

 

 「お待たせしました。あらためて私のお部屋にようこそエレメリオン。ベッドの上なんかでごめんね」

 『こちらこそお招き感謝する。幼女(好香)のベッドと枕なんて私には十分すぎる豪華席さ。素晴らしい着替え(眺め)もあった。ありがとう。』

 

エレメリオンはていねーに返してくれる。ベッドで豪華なんて言ってくれるとか、気を使わせちゃってないといいなあ。私の部屋にそんないい眺めがあるとも思えないし……おねーちゃん達の言う通りに普段から片づけておけばよかったかも、うむむ。

 

 『それじゃあ、そろそろ話を始めようか。』

 

 エレメリオンの言葉にだまってうなずいた。なんかちょっと部屋の空気も変わったかも。

 

 『この世界には、既にツインテイルズという戦士達がいる。私自身について説明する為にも、まずは好香の知識を知りたい。好香は【アルティメギル】と【ツインテールの戦士】のことは、どう聞いているんだい?』

 「そーだなぁ、学校とかTVじゃ【怪物みたいな不審者】と【怪物をやっつけてくれる超かわいいテイルレッドと……怪物より危ない猛獣と人前で脱ぐ変質者】って感じなんだけど……」

 

エレメリオンの質問に答えてると、いちばん危険なのはテイルブルーなんじゃ?って感じになるんだけど。しょーじき、私だってかっこいいけどいちばんぶっそーな人だとは思ってたんだよね。ちょくせつ会ったら結果としては……それで間違ってないよーな。

……いっつもテイルレッド以外については、防犯ベル用意して気をつけるよーにしか学校で教わらないし。

 

 「でもね。あの鳥オバケで分かったけど……ホントは違うんだよね?」

 

ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる力が自然と強くなった。昨日のスクウェレルギルディは気持ち悪いだけだったけど、今日のロックチョウデリットはちがう。エレメリオンが助けてくれるまでは――怖かった。あれは大人が言ってるみたいなちょっとした不審者じゃない。凄い力を持った、見たままの悪い怪物。

……とちゅうからは気持ち悪さでもスクウェレルギルディ以上だったけどね。あれが本当のへんしつしゃってやつなのかな。

 

 『その通りだ。好香が感じているように、彼らは人知の及ばぬ怪物の集団。それが世に認知されていないのは、彼らの侵略がそういう性質のものであるだけでなく、ツインテイルズが大きな被害が出る前に倒しているからだろうね。悪の気配を感じさせること無く世界を護る――彼女たちは本当に強い。』

 

つまりアルティメギルが本物の怪物なら、それをやっつけてるツインテイルズも本物のヒーローだよね。テイルブルーがかっこいいと思った私の目にくるいはなかったってこと、ふふん。

 

 「アルティメギルとツインテイルズのことは分かるけど、それじゃあエレメリオンは?そんなちっちゃいエレメライザーから飛び出したりするし、ツインテイルズの仲間で強化アイテムの妖精かっこいいバージョンみたいなのかなーと思ってたんだけど」

 

でも、エレメリオンの方がよくわかんないんだよね。エレメリアンと同じせーしんせーめーたい?みたいに言ってたよーに思うけど、22秒しか体を作れないとかだったりで。アルティメギルとちがって不審者ぽくもないしかっこいいし。

へんしつしゃよりエレメリオンの話が聞きたい。

 

 『私はツインテイルズとの面識は無いんだ。私は彼女達と違って、異世界からやってきた。【この世界をエレメリアンから守る】という使命は共に同じはずだが。』

 

あれ?ツインテイルズも知らないツインテイルズのえらい人が用意してたひみつ兵器……と思ってたんだけど、ちがうんだエレメリオン。おまけに【異世界】とかすごいこと言った……

でも異世界ってことは

 

 「じゃあ、もしかして伝説のアイテムの妖精だったりするのエレメリオン?マグニフィセントエージェントって妖精の世界に伝わる伝説の戦士とかなの!?」

 

もしかして私はツインテイルズじゃなくてニチアサのキューティピュアみたいな伝説の戦士に変身してたのかな!?……キューティピュアにしてはちょっと鎧がゴツゴツしてたけど、かっこいーから問題ないし。それならそれでわくわくしてきた。今度はもっとびしっと決められるようにしないと。

 

 『すまない好香。私は精神生命体であって妖精ではないんだ。そうだね、ひとまずのアルティメギルの危険性が伝わっているのなら、本題は私の事から――エレメリオンとエレメライザーについてから話そう。』

 

……妖精じゃないんだ。好きなのになあキューティピュア。

こうしてエレメリオンは話してくれた。属性勇者(エレメリオン)が何者なのか。どんな使命があるのか。属性共鳴結晶灯(エレメライザー)が何の為に創られたのかを――。

 

 




つまり

・観束家を訪れたのは銀髪のロリコン
・津辺家を訪れたのは銀ピカのロリコン


ちなみに好香の見てるニチアサは

・キューティピュアパテシエール
・仮面ファイヤーエクスヒール
・獣王戦隊ビーストマン

とか微妙になんか違うやつ(^u^)


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番外編・ちょっと昔の、とあるとある並行世界のこぼれ話

第10話……の前に今回は番外編こぼれ話。ブログの方には無い完全新話です(^u^)
ブログやらTwitterで姿は出したもののこの先、本編で出番が望み薄な新キャラたちの話。

エレメリアン名については、原作がカタカナ縛りなので敢えて和名にすれば被らないのでは……ということでヽ(^o^)丿


 属性力の負の遺産と呼ばれる精神生命体エレメリアン。彼らが徒党を組んだ組織アルティメギルは非常に大規模なものであり、侵略に赴いた並行世界は、我らがツインテイルズの世界、その1人であるトゥアール、アルティメギルに身を置いたダークグラスパー(イースナ)の故郷である世界以外にも多岐にわたる。

 

 

 ――これはそんな世界の1つ――とあるとある世界の話。少し昔のダイジェスト。

舞台は、ツインテイルズの世界で言えば日本という場所。そこのつつじヶ丘という街を中心に活躍するヒーローがいた。

 変身ヒーローライフを送ることになったツインテール少女の名前はパティモ・ES(イーエス)

 

 

 始まりはエレメリアンが侵攻したその他の世界と同じ。

黒一色のモケモケ戦闘員(アルティロイド)を引き連れた1体の怪物(この部隊ではコウモリ型だった)が世界最高のツインテール属性を求めて適度に街を破壊しながら悠々と闊歩し始めた日のこと。

 

 「探せ…!最大の反応値を示したツインテール属性はこの周辺で感知されたのだ。何としてでも我が前に連れてこい!!」

 

初見だと極まった世迷言。しかし、気軽に飛行し建造物を破壊する異常がセットになっていれば、周囲の人間はパニックで逃げるしかない。

そんな喧騒の中、程なくしてアルティロイドがツインテールの少女を数名捕えてきた。その中で、彼らの目標だった少女が【パティモ・ES】だった。

外見からすると14~6歳あたりだろうか。捕まる際に一通り抵抗したのか、両手を後ろで抑えられている。本人は勿論、抑えているアルティロイドが「モケ…モケ……」と若干、息切れしている様子を見るにかなり暴れたのだろう。

 

 「おお……!」

 

 怪物―コウモリギルディは息を呑んだ。

紫がかった黒髪。左右2つのお団子髪(シニヨン)から伸びる長いツインテール。荒い呼吸で上下する肩に合わせて揺れる髪に目を奪われ、ずいっと顔を近づけてツインテールを凝視する。

 

 「気持ち悪い造形の顔を近づけるでないわ、たわけ!!」

 

パティモは捕えられている状況にも臆さず、自由になる足で不用意に近づいてきたコウモリ怪人の顔面を蹴りつけた。

 

 「いった!靴底の砂が目に入った!!うおおおお!!!」

 

エレメリアンは属性力を伴った攻撃でなければ、ミサイルだろうと地割れだろうと平気。パティモの蹴りそのものは無意味のはずだったが……角に足の小指をぶつけるとかそういうものは、痛いのは痛いのだろう。

上手い具合に砂が目に刷り込まれたらしく、悲鳴を上げて転げ回っている。翼を広げれば全長数メートルはある巨体が小さく蹲って転がる様はシュールである。

 

 「か弱い女子を拉致した身で、その程度で喚くでないわ!さっさと私達を解放せんかこの怪物め!!」

 

そしてツインテールの少女は、転げ回る怪物の尻をガツガツと蹴り続けている。

 

 「あぁっ、ちょっとまって。俺にその属性ないから……!目の砂取れるまでちょっと……!!」

 「「「「「モ、モケ……モケケー……」」」」」

 

情けなく蹴られる上司と囚われの身と思えない強気な少女。

周りのアルティロイドはどうしていいかわからず、捕まえていた他のツインテール女子まで放置してオロオロと右往左往している。

緊迫した空気が消えている結果、他の女子は逃げてしまい、気付けばパティモ以外のツインテールはその場に誰もいなくなっていた。

 

 

 「ええいっ!待てというに小娘!!」

 「うわっ!?」

 

 ようやく砂が取れたのか、1分ほど蹴られ続けたコウモリギルディは、勢いよく立ち上がりパティモに尻もちをつかせた。

キョロキョロと辺りを見渡し誰もいなくなったこと、アルティロイドが「大丈夫ですか・・・?」とでも言いたそうにオロオロしているのを確認すると、誤魔化すように咳ばらいを1つ。翼で体を覆うように腕を組み、わずかに宙へ浮いた。

 

 「ぬうぅ……何をしているアルティロイドども!もう一度ツインテール達を捕まえてこい!!」

 

威厳を取り戻そうとしたのか、視線にいたたまれなくなったのか、怒号で指示を出し、アルティロイドを追い払うように散らしたコウモリギルディ。

 視線を足元で座り込むパティモに戻すと、うっとりと表情を崩した。……訂正しよう、どう見てもニヤついたキモ顔である。

 

 「おぉぉ、やはり美しいツインテールだ……!奪うのが任務とは言え、これで見納めはあまりに惜しい。せめて夜明けくらいまでは、この美をじっと鑑賞したい……!!」

 

コウモリらしく上下逆さまになったコウモリギルディは、パティモの周りをぐるぐると旋回する。その視線はずっと、彼女のツインテールに釘付けである。

 パティモとしては立ち上がりたかったが、目の前の怪物コウモリが上下逆になったせいで、腰を上げるとスカートの内側が相手に露になってしまうので座ったままでいるしかない。そこを気にするくらいに相手の言動がキモいのだ。見た目はヒーローショーの怪物なのに。

 

 「声と表情をキモくしたまま私の周りを飛び回るな!そもそもなんじゃお前らは!?口は妄言、行動は怪物。バラバラすぎて殴り倒せばいいのか悲鳴上げればいいのかリアクションに困るわ!!」

 「さっきからストレートに外見がキモイは止めてくれ傷つく!案ずるな。傷つける心算は無い。ただ我らはツインテールの輝きが欲しいのだ……あと、ついでに朝まで落ち着ける狭いホテルでそのツインテールを鑑賞させてほしいなぁって」

 

ポッと頬を染めて最後の発言をしたコウモリギルディに再びパティモの蹴りが命中する。しかし今度は平然と宙に浮いたままである。

 

 「外見も中身もキモいと言っておるわたわけ!この、警察か保健所どっちの担当なんじゃこいつ!!?」

 「発言が悉く刺してくる!……仕方あるまい。鑑賞できぬなら、名残惜しいがこの場でそのツインテール属性、回収させてもらう」

 

蹴りは堪えないが言葉は堪えるらしく、ぐらりと体を揺らすコウモリギルディ。だが、気を取り直すとパティモの頭上に巨大な金属のリングを投げた。

 

 「……………っ!?」

 「おっと。じっとしていてもらおう。案ずるな痛みは無い」

 

現状のコント以上の危機感を覚えたパティモがその場から離れようとするが、周囲を旋回するコウモリギルディがそれを許さない。今の今までよくわからない存在だった相手は、はっきりと脅威の障害だという威圧感を放って身を竦ませた。

 

知っての通り、このリングを潜った者はツインテール属性を奪われ、2度とツインテールを結ぶことが―愛することができなくなる。

この世界で属性力を奪われる最初の犠牲者はパティモ。そうなるはずだった。

 

 

 

 「んだよ振られたんじゃないかコウモリギルディ。だったらその嬢ちゃんは俺が貰ってくぜぇ」

 

 

 「ぐああ!」

 

 突然聞こえた声。次の瞬間、赤い残像がコウモリギルディを弾き飛ばし、パティモを抱えて姿を消した。起き上がったコウモリギルディが見たのは、対象を失い地面に転がる属性力奪取のリング。そして乱入者の痕跡である赤い蒸気だけだった。

 

 「これは……奴か。どういうつもりだ……!」

 

犯人に心当たりがあるらしいコウモリギルディは困惑と怒りのままに地面を踏み砕いた。

 

 

 

 

 

 パティモは、コウモリギルディが飛び回っている街の表通りからそう遠くない路地裏に移動していた。その傍らには彼女をここまで連れ出した赤い残像の正体がいる。

 

 「おーおー探してる探してる。ありゃご立腹だねえコウモリギルディ」

 

自分達を探して飛翔するコウモリギルディを遠目に見ながら楽し気に笑うそれは、赤い体に緑の目をした……蛇のエレメリアン。蛇と言っても手足はあるし、これまた怪人と言った風体だが。

 

 「俺はコブラギルディ。せっかく助けたんだ。感謝するならしてくれよ嬢ちゃん」

 

飄々とした態度で接してくるコブラギルディに対して米神を抑えて息を吐くパティモ。彼女からすれば、ヒーローショーから出てきたような怪物が現実に暴れた上でそれに巻き込まれている現状。理解がまるで追い付いていない。

 

 「だから、感謝とかの前に何なのじゃお前らは……変質者か本物の怪物かどっちかにしてくれ」

 

どっちでも困るがセットになっているとより困るのでやめてほしい。対象がおかしいせいで、本来感じるはずの恐怖が絶妙にやってこない。しかしそれが現実である。

 面倒臭い物に関わってしまったという態度を隠さないパティモに、コブラギルディはますます楽しそうに手を叩いて笑う。その言動がさらにパティモを苛立たせたが、相手はまるで気にしていない。

 

 「OKOK!大きなツインテール属性にその向こう気の強さ。やっぱりこの世界を守る役は嬢ちゃんがピッタリだ」

 「……は?」

 

説明するよりも先にコブラギルディは、ある物を投げ渡すと、用は済んだとばかりに彼女から背を向ける。

 

 「あ、ちょっと何じゃこれ!?」

 「んん?属性力……簡単に言えば【ツインテールを愛する心を力に変えて戦う変身アイテム】ってやつだ。嬢ちゃんくらいツインテールが好きなら扱える代物なんだよ」

 

ざっくりした説明にパティモは納得……することはなく、コブラギルディに向ける視線を“面倒くさい”から“胡散臭い”に変えた。

 

 「お前らは世迷言しか言わんのか……?ツインテールを力にってアホか」

 「おいおい助けた恩怪人の言葉は信じてくれよ。それを渡すのが俺の役目。どうだい?あのコウモリよりは、いい奴だろ?」

 「よかろうが悪かろうが、まとめてさっさとどっか行け、って言うのが100パーじゃな」

 「ハッハハハ!きっついねぇ。あの弱メンタルのコウモリギルディじゃ凹んで当然だぁ」

 

どんどん辛辣になるパティモをますます気に入った、とコブラギルディは大いに笑う。

 

 「あのコウモリギルディがつるんでる連中は属性力(エレメーラ)で対象を探すから、嬢ちゃんはまーたすぐに見つかる。だからよ、自衛のついでに世界も守ってみてくれや。じゃあ頼んだぜ」

 

言いたいことだけを言うとコブラギルディは赤い蒸気と共に姿を消した。

立ち上った蒸気に気付いたコウモリギルディがこちらへ視線を向けたので、恐らくはわざと場所を教えていったのだろう。

 

 「あのヘビ……わざと目立って逃げおったな!どうあってでも私にコレを使わせようというわけか」

 

飛んでくるコウモリギルディと押し付けられた変身アイテムらしい物を交互に見ながら、選択の余地は無さそうだと理解し、パティモはため息をついた。

 

 

――この、とあるとある世界を守るヒーローはこうして誕生したのだった。

 

 

――パティモの初戦でコウモリギルディは倒された。このあたりは重要なことでも無いのでダイジェストだし端折ろう。――

 

 

 

 

 

 アルティメギルは、侵略対象の世界に敢えて倒せるレベルのツインテールの戦士(守護者)を作る。守護者を広告塔に、ツインテール属性を拡散させてから一気に攻め落とすのが常套手段。

その為には倒されるレベルの弱い怪人をある程度、送り出す必要がある。

 

コウモリギルディは何も知らない生贄第一号であり、本当に重要な任務を帯びていたアルティメギル所属の怪人はコブラギルディだったのだ。

 

 

 

 変身したパティモに倒され空中で爆発するコウモリギルディという光景を、カメラに収めるコブラギルディは上機嫌だった。

 

 「ご苦労さんコウモリギルディ。いや~仲間を犠牲にする作戦は辛いねえ嫌だ嫌だ。ヒーロー誕生に体を張ったお前さんの勇姿は適当にネットへ流してやるから勘弁してくれよぉ」

 

お手本ような言葉だけの謝罪。コウモリギルディの最期をせせら笑いながら、変身した自分に驚いているパティモを遠目に眺めて、彼女についても笑いを堪えた。

 

 「俺じゃなくて楽な作戦を気に入ったウチの部隊長を恨んでくれよ?せめて倒されるまでは人気者になれるよう、陰ながらプロデュースしてやるからな。くくっ、俺っていい奴だろ?」

 

絡んだエレメリアンの性格の悪さはさておき、これが、アルティメギルが侵略した世界でよく見られる光景。この世界もそう遠くない未来、属性力を奪われつくし静かに滅びを迎えるはずだった。

 

そう、はずだったのだ。物事は予定通りに行かないこともある。それは人間もエレメリアンも同じなのである。

 

 その世界最高のツインテール属性の持ち主を戦士に仕立て上げる。コブラギルディは完璧に任務をこなした。

彼の――この部隊の不幸は、パティモに1人の友人がいたことだろう。

 

 

 

 

 

 運命が変わりだしたのは、パティモが数回の戦闘を経験し、名前も知らない美少女ヒーローとしてメディアに取り上げられる回数が増えだしたころ。

パティモの家を訪ねる人物がいた……隣の家から。

 

 「ふふ、パティモなんでしょ……変身アイテム調べさせてよ……ふへへ」

 「……玄関開けるなりなんじゃ。それよりも!隣だからって、もうちょっとまともな格好をしてから外に出てこい!!早く入れ怠け娘!!」

 「ふへ、天っ才に身嗜みとか些細なことっていつも言ってるでしょ」

 

――【ツィーカ・RR】。ぼさぼさの銀髪ロングヘアと淀んだ目が特徴。パティモ・ESの隣人で幼馴染、妹分。家に引きこもりがちのダウナー幼女。

 

 「メディアの映像だけじゃ限界があるからね。本人に直接見せてもらうのがいい。私も知らない未知のシステム……そそられるよね、うふふ」

 「それで正体が私ってどこから嗅ぎつけるんじゃ……相変わらず物騒なちびっ子め」

 

そして並行世界でも指折りの天才。パティモの変身アイテムから属性力(エレメーラ)の扱いを理解してしまう程の。

 

 「パティモだって凄いよ。幼女(ロリ)じゃないのに私の友達なんて貴重。……隣のおねーさんじゃなくて隣の合法幼女ならもっと最高だったのにね、へへ」

 「……幼女趣味の極まった幼女の天才科学者と友達じゃから、年齢相応に育った我が身に日々、感謝しておるわ」

 

加えて、既に熟練の幼女属性の持ち主であったりする……。

 

 ツィーカという頭脳が加わったことで、パティモの変身システムは急速にアップデートが成された。

 

 「この間、パティモに回収してもらった残骸を解析した強化合金で武器を拡張したよ……ひひ」

 「ええと、つまり?」

 「ツィーカ作の新アイテムの出番。ふへ」

 

それは武器だったり

 

 「属性力(エレメーラ)……興味深いよね。理想のエネルギー。そこから生まれる精神生命体(エレメリアン)も。デバイスの出力アップしたよ、ふふ」

 「私にはまだ属性力(エレメーラ)が、今一つピンとこないんじゃがな」

 「理屈は、それが趣味の私が考えるから、パティモの方は勢いで戦ってれば強くなるってこと。最終的には理屈より感情でいいんだよ属性力(エレメーラ)は」

 

パティモにはさっぱりの理屈で単純なパワーアップだったり

 

 「このデバイス、基本的な属性力変換機構だからいくらでも拡張できるんだよね……弄り甲斐がある、ふへへ。パティモに合う属性玉(エレメーラオーブ)が手に入ったら補助動力にして、パティモ専用デバイスが完成できるよ。そしたらちゃんと名前も考えてよヒーロー」

 「ええい、わかったわかった!」

 「私の完成品を使うからには、もう名無しのヒーローはNGだから、ふふふ」

 

遂には独自の理論で一歩先の改良案を構築し

 

 「いよいよ完成したよ……名付けて【属性解放結晶機(エレメデバイザー)】。パティモのツインテール属性と補助属性を連動させて出力が大幅にアップした……うへへへ」

 「ここまで助けてもらってから言うのも変じゃが、お前、本物の天才なんじゃなツィーカ……」

 「当然のこと言ってないでもっと私を称えていいんだよ、ひひひ。パティモに合わせた専用機に仕上げたから使いこなしてよ……ふへ」

 「ここまでされては、大船に乗った気でいるのじゃ!としか言えんなあ。任された、ツィーカの凄さはアルティメギルへ存分に見せつけてやろう」

 「それに見合ったヒーロ名もね、ふひひ」

 「わかったわかった」

 

アルティメギルの思惑を超えたシステムを仕上げた。

こうしてツインテールのヒーロー【属性騎士エレメナイト】の名前が、とあるとある世界に広まっていった。

 

 

 「……ところで補助動力の属性って何じゃ?」

 「もちろん女騎士属性(レディナイト)。触手に弱いくっ殺気質あるでしょパティモは……ふへへ」

 「はぁ!?私にそんな属性(モノ)あるかたわけ!」

 「パティモが持ってる属性じゃないと補助動力にできないから、使えるのが証拠なんだよね……知ってるよエロゲー好きなの。ふひひ」

 

 

 

 

 

 ツインテール属性の拡散は進むが、予想外の打撃を受けるのはアルティメギルの侵略部隊。

 

 「おいおいおいこれはマズイねえ。俺のプロデュースいらないなこりゃ。さーて、切り捨てる前提の雑魚ばっかの部隊にしてるウチの部隊長殿に対処できんのかね?」

 

コブラギルディはエレメナイトの活躍を横目に他人事レベルで頭を抱える。部隊は全滅するかもしれないが、焦りで余裕が消えていく部隊長を見るのは楽しいので。

 

 

 

 ――これは、とあるとある世界のダイジェスト。エレメライザー(属性勇者)開発される(生まれる)世界の、ほんの少し昔の零れ話。

 




本編でエレメリオンが説明回を始めるタイミングでねじ込んでもいいかな……って思惑で急なつめこみ番外編でした(^u^)


【挿絵表示】

パティモ・ES(イーエス)
・とあるとある並行世界最高のツインテール属性。
・メインはツインテール属性と女騎士属性。
・エロゲー趣味と口調がどっかで聞き覚えのある強気女子。
・眼鏡属性抜き並行世界の育ったそっくりさん。声もきっとそっくり元と同じ。



【挿絵表示】

属性騎士エレメナイト
・とあるとある並行世界のツインテール戦士
・ツィーカによる改良で初期変身形態より出力・デザイン共にバージョンアップした完成形態。

デザイン的には
・(エレメリオンがSSSSなのでこちらも)SSSS.臥薪嘗胆ヒーロー+(そっくりさん元の声繋がりで)歌って戦う銀腕聖女。



【挿絵表示】

ツィーカ・RR(アールツー)
・とあるとある並行世界の正義の陰キャ幼女趣味科学者(ネクラロリコンサイエンティスト)
・メインは科学属性と幼女属性
・性癖と銀髪やその他カラーリングに既視感がある天っ才ダウナーロリコン幼女。
・ツインテール属性抜き並行世界の育ってないそっくりさん。声もきっとそっくり元と同じ。

デザイン的には
・(銀髪の痴女+SSSS.上半身+SSSS.下半身)×「君が幼女になればいいんだよ!」+藤堂さんぽい眼鏡って悪魔合体タイプ。


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第10話

番外編挟んでの本編再開。
元号変わって最初の2が並ぶタイミングになんとか間に合わすことができた第10話(^u^)


 精神生命体エレメリアンの一大組織アルティメギル。彼らは様々な世界を侵略し、属性力(エレメーラ)を奪いつくし滅ぼしてきた。

もちろん侵略された世界にも、最強の属性力(エレメーラ)であるツインテール属性の戦士というツインテイルズ同様の守護者たちがいたのだが、その多くは自分の世界を守り切れずに滅びを許してしまった。

 

 

 そんな、アルティメギルと攻防を繰り広げる数ある世界の一つで創られたものが属性共鳴結晶灯(エレメライザー)属性勇者(エレメリオン)だった。

 

【属性共鳴】。その言葉通り、使用者とエレメライザー中枢の属性を共鳴させることで出力を増すデバイス。

 

 ―開発者曰く、「他人(エレメリアン)から貰っただけの属性力じゃつまらないんだよね、うひ。進歩するから科学は面白いんだよ……えひひひ」

 

その機能中枢に、あらゆる髪型属性と親和性のある髪変え遊び属性(アレンジヘア)属性玉(エレメーラオーブ)を使用。これにより、ツインテール属性以外の人間でも――或いはまだ属性が芽生え切っていない対象にさえ共鳴し、ツインテールの戦士同等以上の存在に変身させる大いなる切り札。

 

 ―開発者曰く、「自分がより深く沼に沈むも良し、他人を布教して沼に沈めても良し、のお得品だよ、うひひひ」

 

ツインテールの戦士に授け強化することも、或いは共に戦う仲間となることも適う希望の灯。

 

 変身システムは、属性力(エレメーラ)より結晶化するエレメリアンの身体組成から発案、構成。

併せて属性力(エレメーラ)の制御、及びエレメライザー本体の悪用を封じる為に管理人格AIを設定。

この2つの機構を連動させることで、属性共鳴結晶灯(エレメライザー)そのものを1つの疑似精神生命体に構築――結果としては「連動」を超えて複雑な融合を果たし、想定以上の自己修復―もはや自己治癒力と言うべきものさえ備えた【生きたアイテム】が創造された。

 

 ―開発者曰く、「正義のマッドサイエンティストは、ぽろっと偉大な発明ができたりするんだよね、うひひ。制御AI付の変身デバイスのつもりだったんだけど、独自の思考と嗜好を備えた機動精神生命体になったと言うべきかな、ひひ。え属性力(エレメーラ)は未知の領域が多いね昂る、いへへへ」

 

こうして属性共鳴結晶灯(エレメライザー)に宿った新たな精神生命体は、属性力(エレメーラ)の負の遺産エレメリアンに対抗する為のエージェント、【属性勇者エレメリオン】と名付けられた。

 

 ―開発者曰く、「エレメリオンは性癖(ゆめ)のヒーロー。ちゃんと自分の属性(こころ)に正直に相棒を選んで、エレメリアンからみんなの趣味(きぼう)を守るんだよ、ひひ。そしていろんな世界でエレメライザー(私の発明)を見せびらかしてくるんだよ……くひひひひ」

 

 

 

 『そう、私はある意味で活性体(シルエット)を持たないエレメリアンとも言える。属性共鳴によって変身者(エージェント)の第2の属性玉(エレメーラオーブ)となり、通常のエレメリアンならば活性体(シルエット)を結晶するプロセスで変身者(エージェント)の強化と鎧の結晶を――好香、どうかしたかい?』

 

 「ごめん。ぜんっぜんわかんない……」

 

 

 

 私はいつの間にか抱いてたぬいぐるみを横に置いて、かわりに頭を抱えてた。なにがなんだか、こんがらがってずつーがする……。

エレメリオンは自分がどーゆー存在なのか、きちんと説明してくれてる。でもねー、悲しいことに私の頭じゃ、ほとんど意味が分からなかった。特にエレメリオンの体がどーのこーのって辺りがさっぱりわかんない。

 

 『すまない好香。私がちゃんと分かるように話すべきだった。』

 「ううん、私が馬鹿でごめん……できれば大事なとこだけでも、もーちょっと分かりやすくオネガイシマス……」

 

いちおー小学3年生としては平均的なつもりだったんだけどな……どのテストだって50点くらいをキープしてるんだよ。え?半分の点だしへーきんでしょ?……ちい姉に言った時は、なんかだまって顔かくしてたけど。うーむ、自分で思うより頭悪いのかな私。

 

 『確かにそうだね。私の構成要素やエレメライザーの機構設計は、好香の年齢には難しすぎるものだったか……。わかった好香、余分なことは忘れくれ。

 『エレメリアンに対抗する為に異世界で創られた変身アイテム【属性共鳴結晶灯(エレメライザー)】。私は、そこに搭載された管理人格【エレメリオン】。あらゆる世界をエレメリアンより守ることを使命とする、【崇高なる代理人(マグニフィセントエージェント)、属性勇者】のコードネームを与えられた者だ。』

 

おお……むつかしーとこは、はぶいてくれた。これなら分かりやすい。

 

 「じゃあ、エレメリオンは別の世界から私たちを助けに来てくれた、ヒーローで変身アイテム、でいいの?」

 『その認識で構わない。好香の言う通り、私はあくまで変身アイテム(エレメライザー)でもある。変身した時にも言ったけれど、訪れた世界で選んだ変身者(エージェント)の力となる存在であり、共に戦ってくれる者が必要なんだ。』

 

変身する人がいないと駄目で、それが私かあ。やっぱりキューティピュアと変身アイテムになる妖精みたいに思ってもよさそう。つまり魔法の力じゃなくて、すごそーな科学の力だから鎧ぽい感じで変身するってことだね。なるほど。

 

 

 「……でもエレメリオンはさ、なんで私をえらんだの?」

 

 エレメリオンのことを教えてもらったら、気になることもまたでてきた。

話を聞いてると、エレメリオンはいろんな世界に行って、そこで変身者(エージェント)を見つけて、その人たちといっしょに戦ってる。いっしょに戦って、最後に想いを託されて、また新しい世界を守る旅に出るって。

 

 「私、すぐには力を出せなかったよ?ちい姉のツインテールは好きだけどさ、その、自分の“大好き”……属性?もまだよくわかんないし。それこそ私よりちい姉の方が強そうだと思うんだけど……」

 

ツインテール属性がいちばん強いらしいし、それならぜったいちい姉ツインテール属性あるよね。ずーっとツインテールだし、力だってスーパーゴリラだよゴリラ。

それなのになんで私?エレメリオンがそんなにいろんな人と変身してきてるなら、私は今までの変身者(エージェント)さんたちみたいにすごくないと思うんだよね。私をヒーローにえらんでくれた理由がよくわかんないや。

 

 『その通りだ。属性力(エレメーラ)の強さなら好香のお姉さんの方が上だ。かつての変身者(エージェント)たちも、好香より強い属性力(エレメーラ)の持ち主はいた。だが、それは現時点の話だ。』

 『私は力の強さで変身者(エージェント)を選んでいない。属性力(エレメーラ)とは力の指標ではない。その本質は“大好きなものがある”という思いの強さなんだ。私は好香の心で変身者(エージェント)に選んだんだよ。』

 「だけどその“大好きなもの”がはっきりしないんだよ私。それなのにいーの?」

 『まだ属性が芽吹いていないということは、これから“どんなものをどれだけ好きになるのか”、そこに無限の可能性が広がっているということさ。初めて出会った時、私は好香の“可能性”が結晶して花開くのを見たいと思った。好香の可能性を、未来の属性を守りたいと、幼女(好香)と共に戦いたいと思ったんだ。』

 

うわわ、こんなまっすぐに言われると、こうなんていうかその……ちょっと照れるじゃん。世界を守る勇者さまにほめられるのってうれしーんだけど。

 

 「えへへ……そんな何でもできる何でもなれる、みたいにエレメリオンから言われると、その、はずかしいなぁ」

 『謙遜する必要はない。本当に好香は、これから何だって好きになれるし何にだってなれるんだ。それに、お姉さんのツインテールが“大好き”だと意識できた時の好香の力―極限出力(フィーバースパーク)の力は、決してかつての変身者(エージェント)達に負けてはいない。これも好香の無限の可能性が素晴らしいものである証明だ。』

 

 もー、エレメリオンに力強く言われた、その気になってきちゃうじゃん。やっぱり、ちい姉やテイルブルーとちがうタイプだけど、エレメリオンもかっこいいなあ。今はただ小さいライトから声出てるだけなのに、自然と、あの空で助けてくれた姿とお話してるように思えちゃう。

うぅ、もーいっかいぬいぐるみ抱きしめなきゃ。だって、ぬいぐるみでかくれないと顔が熱くなってきたもん……エレメリオンずるい。

 

 

 『そうだね、もっと噛み砕いて言うなら……変身者(エージェント)は私の好みで選べるから、私の嗜好で好香を選んだということさ。』

 「……多分そのかみくだいた説明は無かった方がかっこよかったよエレメリオン」

 『え。』

 

私がだまったから、気を使って、もっと分かりやすくしてくれたんだと思うけどぉ……その言い方じゃさっきまでのかっこいーふんいきが台無しだよエレメリオン……ちょっとドキドキしてたのに。

 

 

 

 「あれ?初めて出会ったって……エレメリオンと私っていつが初対面なの?」

 

 これはかっこいーふんいきが消えちゃったおかげで、そのままスルーしそうになってたのを気付いた、けがのこーみょーかな。

だって、エレメリオンと直接会ったのは今日だと思うんだけど。でもその前から声は聞いたし、夢に出てきたりポケットにエレメライザーが入ってたりしてるんだよね……うーん?

 

 「そーいえばエレメリオン、ちい姉のことも知ってるみたいに言うよね。エレメライザーはいつの間にかポケットにあったし……夢で話しかけてきた時からもう家にいたの?」

 『好香は、私といつ出会ったかは思い出してなかったのか。わかった話そう。……今となっては、私たちが出会ったきっかけはロックチョウデリットとも無関係では無いのかもしれない。』

 

え、軽い気持ちで聞いたのに、なんかまたオオゴトみたいになってきたどうしよう。いくらエレメリオンが分かりやすく説明してくれても、聞かなきゃいけないことが多すぎる気がしてきた。

 

 『思い出していないなら、好香は私と出会ったのは、この数日以内だと思っているのかもしれない。そうではないんだ。』

 「え?え?ちがうの?じゃあもっと前に……?それいつのことなの!?」

 

思ってたいじょーの昔に会ってますと言われた。びっくりしてベッドに身をのり出してエレメライザーつかんじゃった。

でもでも、私ってばそんな前からヒーローにえらばれてたの!?……もしかしてツインテイルズよりせんぱいだったり?……それだったら、もっとせんぱいっぽくツインテイルズにしゃべった方が良かったのかな。

 

 『あ、出会ったのは以前だけど、変身者(エージェント)に選んだのは比較的、最近だよ。』

 

顔に出てたのかな。思ってたことそのままダメだしされた。なーんだ、ヒーローに一発スカウトされたんじゃないのかぁ。

 

 『私と好香の出会い。それは――』

 「それは――!?」

 

 

 

 「ただいまー」

 

 えぇー……玄関からちい姉の声が。まだ話のとちゅーだったのに帰ってきちゃったんだ。せっかくエレエリオンといつ会ってたのか聞けるところだったのにぃ。

 

 「どーしよエレメリオン……ちい姉、帰ってきちゃった。このままお話してると気配でエレメリオンのこと気付くかもしれないよ、ちい姉なら」

 

ちい姉って野生どーぶつかってくらいに周りの気配感じたりするからなあ。自分の部屋でもエレメリオンと話すタイミングを考えなきゃいけないんだよね。どーせ野生どーぶつならもっとどん感なやつになればいーのに、これだからちい姉は。

 変身するのバレたら心配するだろうし、もしかするともんどーむよーでエレメライザーぼっしゅーされちゃうかもしれないし……まだわかんないこといっぱいだけど、変身したその日にとり上げられるとかイヤだもんね。エレメリオンとだって、もっとお話してみたいし。

 

 『好香にエレメライズしてもらった以上、ご家族にも挨拶しようと思っていたんだが……好香がまだ隠していたいならそうしよう。私たちの馴れ初めや残りの話も、そう急ぐ内容は残っていない。それでは、また今度にしよう。』

 「あ、うん」

 

あれ。すんなり話を切り上げてくれた。急がなくてもいーんだ……なんかひょーしぬけしちゃう。

もうエレメライザーの光も消えちゃった……行動が早いなあ。私はまだお話のつづきも聞きたいけど、ちい姉に見つかるのもまずいし……ってまよってたのに。

 それにしても変身アイテムの妖精みたいな感じなのに、おねーちゃんたちにあいさつするつもりだったんだエレメリオン……てっきり、こーゆーのは秘密にするパターンだと思ってたのに。

 とにかく今はまず、ちい姉にエレメライザー見つからないようにしなきゃ。いつもの散らかしてる感じでランドセルおいて、枕を元にもどして

 

 「とりあえずエレメライザーは……枕の下にかくしとこ」

 

 

 

 これでいーかな。エレメライザーをかくして一息ついたら

 

 「好香ー?いるのー?」

 

ノックと同時にドアを開けて制服のちい姉が入ってきた。な、なんで!?まさかもう気付いて……!?

 

 「もー!こっちが返事するまで開けるのまってよ!!ちい姉は私のぷらいばしーを考えないんだからー!!」

 

さいしょの一歩いじょーはちい姉が入れないように、両手を広げて通せんぼする。そしたら、片手でむにゅっと顔はさまれた。なにすんのよ。

 

 「なーにがプライバシーよ?どの口が言うんだか、んー?」

 「あぶっ?むむむ~~~!!!」

 「そーゆー一人前のセリフは、家に1人なのいいことにちい姉のお部屋で勝手に遊ばないようになってから言いなさい、よ・し・か・ちゃ・ん」

 「あいたっ」

 

とっさにしたこーぎを鼻で笑った上に、おでこつついて尻もちつかされた。ぐぬぬちい姉めぇ。

 

 「帰ってもあんたが出てこないから、まーたあたしの部屋でイタズラしてんのかと思ってね。そうしたらちゃんと自分の部屋で気配がするから確認しにきただけよ」

 

 ……やっぱり気配を読んでるじゃんちい姉(野生どーぶつ)。エレメリオンの素早い行動は正解だったんだね……部屋の中をじっと見つめられるとバレないかとちょっとドキドキする。もー見にきただけなら、早く出ていってよぉ。

――でも、ちい姉の顔を見てたらなんか安心してきた。今日も朝から見てる顔なんだけど、ものすごい体験したせいかなあ。めちゃめちゃ久しぶりに会えた気持ちになっちゃう。

 

 

 「え、ちょっとどうしたの好香?」

 

 気が付いたらちい姉に抱きついてた。やっぱりベッドに寝ころがってる時より、こーしてる方が落ち着くかも。

 

 「えへへ、べっつにー。今日はいろいろあったからー?ちい姉ポイントほきゅーしたいなーって」

 「なによそれ?朝はあんなにむくれてたくせに」

 

意味がわかんない、って感じをちい姉がしてるけど、部屋にきたならこれくらいされてよね。私なんか、今日、怪物(へんしつしゃ)に抱きつかれたんだからね。

あぅ、なんか思ってたよりずっと気持ちが温かくなってきた。ちい姉のニオイがする……もーちょっとこのままにさせてちい姉。

 

 「いーじゃん、朝は朝なーのー。今はちい姉といっしょがいーの……」

 「そんなしがみつかなくてもいいでしょ。わかったわかった好香の部屋には入らないわよ。ほら、動けないでしょ離して」

 

 部屋にいれないようにごまかしてると思われたのかな。あきれた声のちい姉に、腰に回してた手をつかまれた。力じゃちい姉にかなうわけもないしダメかぁ。もーちょっとこうしてたかったのになあ。

 

 「……面倒ね、しょぼくれた顔してんじゃないわよ。はいはい。それじゃあたしも好香ポイントでも補給しよっか?」

 「え?わっ」

 

腰に回してた私の手を簡単にといたら、ちい姉はちょっと考える様子で、じーっと私を見下ろしてきて――抱き上げてくれた。

 

 「あたしも今日はいろいろあったのよ。どうせ引っ付かれるなら好香で上書きしてもいいかなってね」

 「なにそれ?」

 「チビスケにはわかんないことよ。ちい姉の気前が良い日でラッキーだって思ってなさい」

 

んん?どーゆーこと?ちい姉もなんかあったのかな?それとも私の好きなようにさせてくれるだけ?けど、イジワルしてきてもこーゆーことするから、ちい姉はズルイってゆーんだよ、かっこいい。

お言葉にあまえて、ぎゅっとちい姉の胸に顔をよせた。

 

 「うぅ~だからちい姉ずるいよね……だいすき」

 「はいはい。大サービスよ今日は好きにあたしの部屋いてもいいから。……いつもこれくらい素直なら、もうちょっと優しくしてあげるのよ?」

 「……それはちい姉がいつも、はんせーしないからだもん」

 「よーし。妹に改善の意思が無いので、ちい姉は優しくなりませんでした」

 

 せいとーなしゅちょーをしたのに、ちい姉の部屋に入ったとたん、私はベッドに放りなげられた。もー!せっかく見直してるのに、かわいい妹のあつかいをすぐ雑にしないでよ。

 

 「わぷっ。だーからー!こーゆーとこでしょちい姉!」

 「あたしが言ってるのはそーゆーとこよチビスケ」

 

私の方を見もしないで着替えだしてる……なによなによ。でも、ちゃんと部屋に入れてくれてるあたりは……優しいもんちい姉。こーやって、代わりに枕たたいても何も言わないでくれてるし。

 

 「何よ?ニヤニヤとこっち見て」

 「ふふん、スタイルならもうすぐちい姉に勝てるなーって思っただけだもぷえっ!!」

 

脱いだ制服なげつけられた。しかもボタンがおでこに当たるよーにねらったなちい姉!いったぁい!

 

 「すーぐつけあがるんだから。その減らず口なら大丈夫そうね……にしても家でも外でも生意気なチビスケが面倒な日だわ」

 

下着姿のちい姉が、なんかぶつぶつ言ってるのはよく聞こえなかった。それより、おでこ押さえてもだえてる妹スルーして着替えてるんじゃないわよちい姉めぇ……!

 

 「迫力も無いのに睨むな睨むな。で、いつも忍び込んでるあたしの部屋でなにしたいの?」

 

部屋着に着替えたちい姉は私のとなりに腰かけて、肩を抱きよせてくれる。ちい姉のお部屋でしたいことがあるっていうか……

 

 「……もーちょっとこのままがいい」

 

もーいっかい、ぎゅっとちい姉胸に抱きついた。今はちい姉といっしょにいたくなったの。

 

 「ほんと朝と違ってやけに甘えてくるわね。何?学校で怒られでもしたの?」

 「そーゆー気分なだけだもん」

 「あっそう。暑いんだから、気が済んだら離れなさいよ?」

 

あつくるしいとかいーながら、頭なでてくれる、えへへ。ちい姉がリクエストに応えてくれるから、エレメリオンと話のつづきをするチャンスが来るまでは、ちい姉のとなりでいやされてようと思います。

 




エレメリオンやツインテイルズもいいけど、好香がいちばん落ち着くのはやっぱりちい姉の隣(^u^)

ヒーローも番外編をねじ込んだことで微妙に影をちらつかせたツィーカ。


【挿絵表示】


エレメリオンの成り立ち説明回だったので今回の絵はエレメリオン。棒立ちならばヒーローらしい属性勇者(視線の先が幼女である可能性も捨てきれない)


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第11話

今回もまだ説明回だったり。
ブログのお試し版11話だと他話と比べて長かったので、加筆修正したついでに11話12話と2分割することにしました。
というブログ版前半あらための11話(^u^)


 結局、ちい姉が帰ってきてからはエレメリオンと話すのは無理、と判断して。それからあっという間に夜。

で、私はまたちい姉のお部屋に足を運んでるんだけど。

 

 

 「あんたねぇ……何のつもりよ?」

 

困った顔で見下ろしてくるちい姉がいます。

 何のつもり、ってこっちのセリフ。私はパジャマで枕持ってきてるでしょ。だったら理由なんてひとつじゃん、わかるでしょ。

 

 「今日はちい姉といっしょに寝たいなあって……いいでしょ?」

 

もうっ。言わせんなはずかしい、ってやつだから。だって、今日は好きに部屋にいていいって言ったのちい姉だからね。

エレメリオンとお話するチャンスをうばわれてるんだから、これくらいはバチは当たらないでしょ。

 なのに、ちい姉は大きくため息をついたら、腰を下ろしてじいっと私の顔をのぞき込んできた。

 

 「好香、あんた今日ほんとにどうしたの?怖いことでもあったの?」

 

うぅ、そんなふうに見られたら、うっかりしゃべりたくなっちゃう。でもダメだから好香。ヒーローはもっとかっこよく正体をバラすもの!

それに万が一、ちい姉にエレメライザーぼっしゅーされたら目も当てられないんだから。

 

 「べ、別になにもないもん。そーゆー気分なだけ。ちい姉が帰ってきた時もそー言ったでしょ」

 「そーゆー気分、ねえ……大丈夫ならいいけど、怖い目に遭ったんならちゃんと言いなさいよ。あたしでもおねーちゃんでも、ちゃんと好香の力にくらいなってあげるんだから」

 

今日はテイルブルーに続いてちい姉にまでじっと見られるぅ……でも、今のちい姉は怖いモードじゃないからがんばれ私。私の変身はまだひみつひみつ。

 

 「そんなんじゃないってば。ちい姉が『大サービスよ今日は好きにあたしの部屋いてもいいから。』って言ったからだもん。ねえ、いいでしょー?ちい姉が総二兄のお部屋いくジャマはしないからー!」

 

 「ぶふっっ!!?」

 

勢いでたのみこもーとしたら、ちい姉がふき出して尻もちついた。顔も真っ赤になってるし……何?

 

 「な、な、ななな何言ってんのよチビスケ!あたしがいつそんなこと――」

 「えー?最近、毎日のよーに行ってるじゃん総二兄のお部屋。あんなにドカンドカン音してるから何回か起きたことあるもん」

 

ホントのコト言っただけなのに。ちい姉、座り込んだままめちゃ後ずさりしてる。何でそんなあわててるんだろ?

いつも私に夜ふかしするなーって言ってるくせに、自分が夜起きてるのがばれたの、そんなにはずかしいとか?

 

 「かくさなくてもいーじゃん。ちい姉の夜ふかしはふかこーりょくじゃない?トゥアールさんのけんせーでしょ?」

 「いやその違う!か、勘違――いしてないのね。そうそうそれよ!トゥアールのせいだから……あーびっくりした。そうよねまだ早いチビスケなんだから慌てるんじゃなかった」

 

後ずさりしてたかと思えば、肩つかんできて言い訳しようとして勝手に正気に戻ってる……私がどんなかんちがいしてると思ったんだろちい姉。

ただ勝手にごかいしたクセに馬鹿にされてる気がするのは、おもしろくない。

 

 「そのチビスケと同じ体型だからずっと残念なんでしょ」

 「うるさい」

 

けっこー強めにほっぺ引っぱられた。痛い。

 

 

 「と、とにかく!知ってるんだったら、ホラ、あたしがベッドから出入りしてたら起こしちゃうかもしれないでしょ?一緒に寝るならお姉ちゃんのほうがいーんじゃない?」

 

 こほん、と咳払いして仕切り直してきたちい姉は、自分よりもおねーちゃんをおすすめしてくる。

ちい姉のゆーことはわかるんだけど、今日あったいろいろの内容的には、ほら、優しいおねーちゃんよりスーパーゴリラのちい姉のが安心できそーってゆーか、ねえ。……これ言ったらちい姉たぶん怒るし言えないからどーしよ。

 

 「うー……それでも今日はちい姉の方がいい」

 

これだけでも言ってみたけど、ちい姉はまだちょっと迷ってそう。

 おとなしくおねーちゃんのとこに行ってみた方がいいのかな……って思ってきたとこで、なんかちい姉の表情が変わった、ってゆーか私の後ろ見てる?え?なに?

 

気になって振りむいたら――階段から顔半分だけのぞかせてこっち見てるおねーちゃんがいた。

 

 「あらら、好香にふられちゃったー」

 

なんて笑ってる。え、いつから見てたのおねーちゃん。

 

 「おねーちゃん?」

 「いいのよいいのよ。おねーちゃんは愛香に甘える好香も、好香を困った顔して甘やかす愛香も大好きだから。おねーちゃんにはまた今度、甘えてねー好香うふふ」

 

言いたいことだけ言って引っこんじゃった。ちょっと、ほんといつから見てたのおねーちゃん。あんなこと言われたら急にはずかしくなってくるじゃん、顔が熱くなってきた。

 

 「あーもーお姉ちゃん。優しい顔してすぐ好香をからかうくせに肩持つんだから。で、どうしよっか好香?」

 

ちい姉がどこかあきらめた様子で聞いてくる。けど、あんなおねーちゃん見たら聞かなくてもわかるでしょちい姉だって。

 

 「……ぜったいちい姉といっしょがいい」

 

とーぜんでしょ。今おねーちゃんのとこ行ったら『あら、どうしておねーちゃん選んでくれたのかなー?』とか、からかってくるに決まってるもん。ぜったいにちい姉といっしょに寝るから。

今のおねーちゃんのどこ見て、私の肩持ってるとか思うのちい姉は。

 

 「ま、そうよねえ。お姉ちゃんにからかわれたチビスケは意地張って、そーなるわよね、はいはい。……そーじに何事も無ければあたしもベッドから出ないんだし、優しいちい姉は甘えんぼの要望に応えてあげますよーだ」

 

 私がおねーちゃんの降りてった階段をふくれっ面で見てると、ちい姉がベッドに運んでくれた。ちい姉までちょっと笑ってるように思うのは気になるけど、いっしょにベッドに入ってくれたから許してあげよーじゃない。

ちい姉の温かさが、となりで感じられていい夢が見れそう――。

 

 

 

 

 

 『やあ好香。』

 

 ――ちい姉といっしょにベッドに入ったと思ったら、誰もいない総二兄のお家の喫茶店(アドレシェンツァ)でエレメリオンと向かい合って座ってた。なるほど、夢はこれか……

 

 『ご家族がいる前だと私に話しづらそうだったので、また夢を繋げさせてもらったんだ。一度エレメライズしたことで、夢が繋がる時間も伸びているからね。』

 

 前の時とはちがって、エレメリオンが光の球じゃなくてちゃんとした姿で座ってる。おとなりのおにーちゃんの喫茶店にヒーローが座ってるのも、これはこれで変な感じだなあ。

 

 「夢でお話しできるって便利だね。それでそれでどんなお話?」

 

おっといけない、ついテーブルに体を乗り出してつめよっちゃった。だってさ、前はただの夢だと思ってたけど、不思議な夢ってちゃんと分かってると、ワクワクする。そりゃ、いろいろてんこ盛りの一日がちょっと怖くなって、ちい姉に甘えたくなったりしたよ?けどそれはそれこれはこれってゆーか。異世界とかヒーローのお話とか、楽しみになるじゃんフツー。

おまけに、「確か急ぐお話はもう無い」って言ってたのにこんなことするってゆーのも、何か言い忘れたことがあるのかもしれないし。ふふ、なんかテンション上がってきたかも。

 

 「夢でヒーローとお話ってゆーと……早い気もするけど強化アイテムとか!?」

 『ロックチョウデリットについてだ。』

 「ああ、そっちね……」

 

上がったテンションがちょっと下がった。なんだぁ、あの変態鳥オバケのことかあ……あいつが今日で、いっちばんいらない思い出なんだよねー。

 

 『好香が期待していた話題では無いのは、すまない。だが、アレは生態としてはあくまでエレメリアンだが、アルティメギルでは無い。今後の為に、彼ら――【スプレムスデリット】について知っておいてほしい』

 「あやまらなくてもいーよ。エレメリオンが教えてくれるってゆーなら大事なことなんでしょ、わかってる」

 

また知らない単語が出てきた。とゆーことは、むつかしーお話か知ってた方がいいお話だ。鳥オバケについてはいらない思い出だけど、忘れていい思い出じゃない。あの危ないやつについてのお話ならちゃんと聞かないといけないよね。

 

 「そーいえばいつもテレビで見てるアルティメギルと名前もちょっとちがうねロックチョウ()()()()って。それもあいつが変なやつだったから?」

 

アルティメギルだって、どれでも変なやつだけどさ。

 

 『その通りだ好香。ロックチョウデリット――彼らスプレムスデリットとは―――』

 

 

 

 

 

 光のまったく差し込まない完全な暗黒の空間。全方位が闇一色の中に一点だけ浮かぶ白いシルエットがあった。

その正体は――ロックチョウデリット。倒されたはずの彼だった。

 

 「ウ……ォォ――ハッ!?」

 

黒い世界を漂うだけだったロックチョウデリットは、程なく意識を取り戻し身を起こした。

 

 「ここは一体……?私は確か」

 

死んだはず、という考えは、全身を亀裂と共に奔る痛みが否定している。だが覚えている最後の光景は、この身を焼き尽くす程の閃光。それが夢でないことも、自慢のスカートや翼が焼失していることが伝えている。

 

 「何故だか分からんが間違いなく私は生きている。ならばこの闇は何処だ……?精神生命体に地獄でもあるまいに」

 

完全に立ち上がった(と言っても上下の感覚さえ無い空間だが)ロックチョウデリットは、周囲を見渡し脱出口を探す。如何な偶然でこんな空間に落ちたのは分からないが、いつまでも留まる理由は無い。さっさと抜け出し、適当に属性力(エレメーラ)を食い漁って身体を回復させるに限る、と思考を切り替えた。

 

 

 「いや、地獄で間違っておらぬぞ」

 

一歩を踏み出そうとしたロックチョウデリットに、届けれらた肯定。そして共に伝わる強大な属性力(エレメーラ)

 

 「あのような可愛らしい幼子の初舞台を失敗させるのは気が咎めたのでな、こうして手間暇かけてお前を招待したのじゃ」

 

 

 「何者だ!どこにいる!?」

 

声の主を探してぐるぐると首を動かす魔鳥を嘲笑うかのように、暗黒空間に∞を描いた光が走り、新たなシルエットが降りたつ。

 おさげのようなツインテール。周囲の闇よりも漆黒の鎧、しかしそれを照らして支配する双眸に輝く眼鏡。

 

 「はぐれ者には名乗ってやらねば分からぬか?わらわはダークグラスパー。アルティメギル首領直属の戦士」

 

 

 「ヌゥ……貴様があの闇の処刑人の小娘だと……!」

 「ほぉ、()()()()()()()()はぐれ者にしては耳聡いではないか」

 

目の前に現れた黒い少女から距離を置き身構えるロックチョウデリット。彼にとって、エレメリアンの組織であるアルティメギルの処刑人が人間であることに、驚きは無かった。()()()()()()()だから。

 問題は、相手が自分への殺気を隠していないこと。そして肩書に見合う実力者だと明らかなことだった。この闇の空間も恐らくは眼前の少女が創り出したもの。そう納得させるだけの属性力(エレメーラ)をダークグラスパーは発している。

 

 「だが今さら身構えてどうする?翼をもがれた鳥に何ができると?」

 

緊張するロックチョウデリットを、対照的にダークグラスパーは冷笑する。彼女の言う通り、ロックチョウデリットは満身創痍。そもそもがこの空間に引き込まれなければ、マグニフィセントバスターで消滅していたのだ。最初から戦うどころの状態では無かった。

 

 「さてと、わらわも勿論知っておるぞ。貴様たちスプレムスデリットのことはな」

 

そうでなければわざわざ死の淵より呼びつける理由は無い。ダークグラスパーの顔を彩る眼鏡のレンズが、ギラリと光を放つ。

 

 「どこぞで生まれたのかは分からぬ、或いは発生地も定まっておらぬのか?ともあれ、アルティメギルに属することを選ばなかったエレメリアン。未だに食らう属性の選り好みもなく、ただ野放図に属性力(エレメーラ)を奪い歩くだけの愚か者。精神生命体の生みの親と言える人間への敬意も忘れた、喋る獣の集まり……と言ったところじゃったな」

 

 

 

 精神生命体(エレメリアン)はどこで生まれどこから来るのか。年月を経て徒党を組むことを覚えたエレメリアンは、いつしかアルティメギルという組織を作った。

―では、全てのエレメリアンがアルティメギルに就くのか?

―勝手気ままに動くことを好とした者がいたら?

巨大組織(アルティメギル)の勧誘も追撃も撥ね退ける程の突出した戦闘力の者たちが生き残り、各個に散っていたら?

 

 

 

 「……違うな。己が属性は勿論、有象無象の属性も全てを貪りつくしてこそエレメリアン。数を揃えてツインテールに縛られるアルティメギルが何だというのだ?我らスプレムスデリットこそが正しきエレメリアン!人間に触れることすら厭わぬ属性力(エレメーラ)より出でた真の魔人よ!!」

 

 

 ―そんなはぐれ者の猛者たちはいつしか謳った。自分達こそ、より上位の精神生命体だと。人間への敬意も属性力(エレメーラ)の盛衰も歯牙にもかけない、ただ衝動に従い属性力(エレメーラ)を食いつくす純粋なる精神魔人【スプレムスデリット】だと。

 

 

 「翼無き鳥崩れが囀るでないわ。最低限の一線さえ踏み捨てた貴様らが矜持を語るなど片腹痛い。わらわがお前を生け捕った理由は一つ……何名がこの世界に目を付けた?さっさと答えよ」

 

吠えるロックチョウデリットをダークグラスパーは意に介さない。自分の問いにだけ答えろと()()する。

 

 「……ッ!ぬかすな小娘が!誰に向かって物を言っている!!」

 

 エレメリオンが力を与えた戦士も眼前のダークグラスパーも、たかが人間の小娘が自分を下に見ている。スプレムスデリットである自分を。

その事実に逆上したロックチョウデリットは己の状態も忘れ、ほぼ燃え尽きた翼を広げて黒衣の少女に飛び掛かる……飛び掛かろうとした。

 

 「ヌグッ、これは……!?」

 「己のダメージすら忘れるとは頭の出来も鳥そのものか貴様は?あまりに遅すぎてメールが十件も送れてしもうたわ」

 

 ロックチョウデリットが一歩を踏み出すよりも先に、その身は相手が背中より抜き放った武装である暗黒の鞭―ダークネスウィップに縛り上げらた。

呆れるダークグラスパーの言葉通り、彼女の右手には暗黒鞭、左手には携帯電話が、恐るべき早業で瞬時に握られている。やはりアルティメギルの処刑人。満身創痍のロックチョウデリットが戦える相手では無いのだ。

 

 そしてこの粘着質の上司から、通常の恐怖メールとは別に突然のメール爆撃を受けたとある白鳥のエレメリアンは、悲鳴を上げてアルティメギル基地内で倒れた。

 

 

 「さて。考えなしに暴れ回る貴様らは、鉢合わせすると我らの侵略作戦を引っ掻き回しよるのが常。この世界はツインテールの戦士たちに骨があってのう、余計な手間を増やしたくないのじゃ……今一度、問うてやろう。己が身の状況も弁えた上で口を開け。貴様らのうち何匹がこの世界に目を付けておる?」

 

 仕切り直しと言うように、黒鎧に覆われた指が眼鏡のブリッジをなぞる。そのレンズは虚偽を許さない、偽りなど意味を成さずに真実を見抜くと告げる輝きを見せている。ロックチョウデリットを縛る鞭は、徐々に締め上げる圧力を増し、答えなければこのまま輪切りにするだけと、無言で宣告していた。

 ロックチョウデリットを始めとする彼らは【スプレムスデリット】などという集団名称こそあれど、実態は組織立っていない寄り合い所帯。それ故に各個の行動予測が難しく、かといって放置すれば、その戦闘力で遭遇した部隊が少なくない損害を被る、アルティメギルにとっても悩みの種だった。

当然の排除対象ではあるが、闇雲な迎撃で損害を増やす前に、生け捕りにして情報を聞き出せるチャンスがあるなら活用したい、というのがダークグラスパーの思惑だ。

 

 

 「貧相なレンズを取り換えてよく見るがいい小娘!この偉大なるロックチョウデリットが人間やアルティメギル如きに頭を垂れると思うなぁっ!!!スカーーーーーーーッッッ!!!!」

 

 ロックチョウウデリットが怒りの咆哮と共に全身から属性力(エレメーラ)を放出し、身を縛めていた鞭を弾き飛ばす。その背には、焼失した翼を補い属性力(エレメーラ)の光が、翼を形作っていた。

自分達が頂点であるという自負心が、瀕死の身であっても、ロックチョウデリットに敗北を認めない服従を受け入れさせない。

 

 「フーッフーッ……貴様から属性力(エレメーラ)を奪いつくして傷を癒す。そしてこの空間から脱出し今度こそあの世界からも属性力(エレメーラ)を奪う……それ以外にない!!」

 

満身創痍の身に負荷を無視した力の解放を加えたことで、息を荒げながらもロックチョウデリットはダークグラスパーより上空に陣取り相対する。

一方、ダークグラスパーは血走った眼で見下ろしてくるロックチョウデリットを、更に呆れた視線で持って射抜いた。

 

 「おぉ、まだそんな力を出せる気概は誉めてやろうぞ。じゃが、身の状況を弁えろと警告はしておいたぞ……?」

 

プライドが高いのは勝手だが、彼女にとっては尋問に余計な手間がかかるというだけでしかなかった。万全の状態ならいざしらず、事実はアルティメギル最強の処刑人と瀕死のエレメリアン一体でしかないのだから。

 

 「スカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!」

 「やれやれ。捕えた野鳥の躾に手間がかかるのも道理ではあるな……まあよい次の予定も鳥じゃ、予行演習とするか」

 

突撃するロックチョウデリットに向かってダークグラスパーの眼鏡が怪しく光る。

 

 「眼鏡よりの無限混沌(カオシックインフィット)―――」

 

 

 

 

 

 『――アルティメギルとは混同されるのを好まず彼らは【デリット】という呼称を、そしてロックチョウデリットの例にあるように、通常のエレメリアンよりも箍が外れた性質……彼らは【原始の魔性を失わぬ真のエレメリアン】などと自称している。が、実態としては――あ、どうも。』

 

 エレメリオンが説明してくれてたら、誰かがテーブルにお水持ってきた。

 

 「あれ、未春おばさん?」

 

顔上げたら、そこにいたのは未春おばさん(お店のマスター)。さっきまで、私とエレメリオンしかいなかったのに、いつの間に。

テーブルにお水置いた未春おばさんは何も言わずに、お店の奥にもどっていっちゃった。

 

 『ここは夢の中だからね。この場所(アドレシェンツァ)への好香のイメージが反映されて、店長さんも登場してきたんだろう。』

 

未春おばさんを見送ったエレメリオンが、コップのお水を飲み干しながら説明してくれる。私が、アドレシェンツァは未春おばさんのいるところ、って思ってるから夢の中でも出てきたってことね。

 それにしてもエレメリオン、どうやってお水飲んだんだろう?ヘルメットみたいな顔で口とか見えないのに。

 

 「でも、ちょーどよかったかも。げんしのましょーがー、とかよくわかんなかったし。いったん整理させてほしーのと、もーちょっと分かりやすくせつめーしてほしーかなーって……えへへ」

私もお水飲みながら、小さく肩をすくめてごまかすよーに笑った。話のとちゅーだけど、また思ってたよりよくわかんない言葉もあって、一気にせつめーされると頭が追いつかない気がしてきてたから。

……もしかして、未春おばさんが出てきたのそのせーもあったりしたのかな?

 

 『すまない好香。また話し過ぎていたようだね。それでは少し休憩しようか。すみません、注文いいですか?』

 

エレメリオンがきゅーけーいれてくれた。あ、声かけたら未春おばさんお店の奥から出てきた。

 

 『それでは、イチゴのショートケーキを1つずつで。』

 

エレメリオンがメニュー開いてちゅーもんしてくれてる。夢の中だけど、ケーキ食べてちょっときゅーけーかな。

 

 

 

 




黒のツインテールもようやく登場。
説明会が続くほど頑丈なサンドバッグになるロックチョウデリット。チュートリアル用のぽっと出だからねお前。

恋香さんは原作より獲物が増えてる感じ。
次女がちょいちょい三女を泣かしたり、三女が次女を泣き落としたりする様子でフォルダは潤ってる模様。


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第12話

ブログ版後半あらための12話(^u^)
今回でようやく説明回は終わったはず・・・


 私は、夢の中でエレメリオンから、ロックチョウデリットとそのどーるいってゆー【スプレムスデリット】について教えてもらってる。

でも、今はちょっときゅーけーして2人でケーキ食べてるの。

 

 「夢でもケーキおいしー!!」

 『味も好香のイメージだ。このお店を好香が好きだと思っているから、これだけの味が再現されてるんだね。』

 

それはそーだよ。未春おばさんには、ごはんごちそーになったり、おねーちゃんといっしょにお店でちゅーもんしたりするんだけど、どれもおいしーんだよ!

 

 

 ケーキ食べて、じゅーぶんにきゅーけーした。うーんまんぞく。

今度は起きてる時に食べたいなあ。

 

 『それじゃあ、そろそろ続きを話そうか好香。』

 「うん。そーだね。もうばっちり聞けるよエレメリオン!」

 

ひと息ついて、姿勢を正したエレメリオンが話の続きをしてくれるから、私も胸をたたいて、どんと来いってアピールする。

でも、顔にちょっとケーキついてるよエレメリオン。

 

 『――それでは、スプレムスデリットとは彼らがアルティメギルとは別の集団だと示す呼称なんだ。集団とは言うがその中身は……あ、すみません。食後のコーヒーください。』

 「あー!エレメリオンがちゅーもんするなら私もー!未春おばさん私コーラがいいー!!」

 

 

 

 

 

 ロックチョウデリットを異空間に引き込み、対峙したダークグラスパー。大人しく投降するはずもないロックチョウデリットに対し、ダークグラスパーは眼鏡を軽く撫で余裕の笑みを浮かべていた。

 

 「スカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!」

 

突撃するロックチョウデリットに向かってダークグラスパーの眼鏡が怪しく光る。

 

 「眼鏡よりの無限混沌(カオシックインフィット)―――」

 

闇の処刑人、その両のレンズより放たれる∞を描いた光が白き魔鳥を包み込む――その刹那。

 

 

 「フフ、ダメだダメだロックチョウデリット。時にはもう少し頭を回して立ち回らねば」

 

 

新たな人影がマントを翻し、両者の間に飛び込んだ。

 

 「ヌゥン!!さらばだ属性力(エレメーラ)の白き魔鳥よ」

 「キサマ、デモニア――ぐあああっっ!!!」

 

乱入したエレメリアンは、ロックチョウデリットに喋る間も与えず、振り下ろした両の手刀で属性力(エレメーラ)の翼もろともに両腕を斬り落とした。そして勢いのまま背後に回り、カオシックインフィニットの光へと蹴り入れた。

 

 

 

 ――カオシックインフィニットに取り込まれたロックチョウデリットは、おぞましい地獄に放り出された。逆さまに浮いている自分――それを取り囲む筋肉質で褌一丁の男たち。いや、取り囲むどころではない。視界の全てが褌のマッチョであり、むしろそうでない彼の方に違和感を覚えてしまう空間であった。

 

 「「「「「俺のスカートになってくれえええええ!!!!!!!!!」」」」」

 「ウオオオオオオオオオアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

取り囲む男たちが一斉にしがみ付いてくる。周囲360度からマッチョの褌が顔面に殺到する。唯一の防御となる顔面装甲はとうにテイルブルーに蹴り砕かれて跡形も無い。

 

 「は、離せ!俺の傍に近寄るなああぁ………オオオオオオオオアアアアアあああああーーーーーーーっっっっ!!!!!!」

 

ロックチョウデリットの理想は、女子の脚にしがみついて蹴られる(スカートになって捲られる)ことであってマッチョの腰巻になることではない。恐怖と絶望の叫びがカオシックインフィニットの空間に木霊した。

 

 

 

 「トおおおあああああーーーーーっ!!???何してるんじゃお前はあああああああーーーーー!!!」

 

 そして一方、外の空間でも突然の出来事にダークグラスパーの叫び声が響きわたった。

 

 「は!?いやその……ダークグラスパー様のお手伝いを、と思ったのですが……まずかったですかな?」

 「まずいわたわけ!!もうちょーっとだけ追い込んで口を割らせるつもりのカオシックインフィニット(手加減)じゃったのにあんな追加ダメなんぞいれたらトドメになってしまうじゃろうがあああああああああああ!!!!!」

 

やらかしたことが分かっていない相手にツッコミとダークネスウィップを飛ばすダークグラスパー。

ぐぬぬ、と地団太を踏む彼女の言う通り、ロックチョウデリットが姿を現す気配は無い。ついに消滅したようだ。

 

……この乱入者を目にした際のロックチョウデリットの反応は、まるで隠すように翻っていたマントの向こう側にいたダークグラスパーには見えていたのかいなかったのか。

 

 「これは申し訳ありませぬ。その眼鏡置き、もといご尊顔を彩る美しき神眼鏡(ゴッドめがね)にヤツの手が触れるのでは……と不要な危惧をしたばかりに。眼鏡の危機に己を抑えることが敵いませんでした」

 

新たなエレメリアンはダークネスウィップの一撃(ツッコミ)には身動ぎもせず、自ら膝をつき頭を下げる。

姿は白の身体に白マント白い角、と白一色でありながら悪魔を思わせるシルエット。そしてなによりも、その全て白の中に置いて、濃青のサングラスが異彩を放っていた。

 

 「まったくじゃ愚か者め。わらわがそのような、レンズを素手で触るような無様を晒すと思うたか!?この、うぬぬ、じゃがその眼鏡属性(グラス)への愛は本物……ええいもうよい!……ふー。そもそも何故ここにおるのじゃ【デモニアギルディ】よ。お前がロックチョウデリットをこの空間に捕えたと申してきた際に、下がってよいと言ったはずじゃぞ」

 

尚も咎めようとしたダークグラスパーだったが、ぐっと堪えるように言葉を詰まらせ、大きく息を吐いた。

彼女は、己の神眼鏡(ゴッドめがね)は全てを見通すと謳う。まして同じ属性に懸ける想いの真贋ならば尚のこと。

相手の眼鏡を愛する故という意に二心は無い、と判断してこのエレメリアン――デモニアギルディの乱入については渋々、怒りを収めることにしたようだ。

 しかし、彼がこの場に現れていること自体は別。

 

 

 デモニアギルディ。人事の巡り合わせが悪いのか未だ幹部ではない一般エレメリアン。だが、彼もまたダークグラスパー同様に強力な眼鏡属性(グラス)の使い手であった(ダークグラスパーが彼を知ったのは、ツインテイルズと戦うこの混成部隊と彼女が合流してからだったが)。

 ロックチョウデリットはこの空間を創り出したのはダークグラスパーだと思っていたようだが――実際、彼女はその場のノリで自分がやったことにしていたが――事実はデモニアギルディの仕業であった。

ツインテイルズ他1名と争うロックチョウデリットを捕捉したデモニアギルディは、決着の瞬間を狙い、誰にも悟られることなくロックチョウデリットをこの精製した異空間に引き込んでいたのだ(もっともダークグラスパーも同様の事は行えるだろうが)。

 

 

 ロックチョウデリット――スプレムスデリットの活動という報告を受けたダークグラスパーは処刑人として処遇を引き受け、現在地であるこの空間ごとデモニアギルディから受け取ったのである。つまりデモニアギルディの役目はそこで終わっており、この場に留まっている理由は無いはずなのだ。

虚偽は許さぬ、と再び跪いた頭を見下ろすダークグラスパーの目が鋭さを増す。

 

 「は!それにつきましては申し開きできませぬ。スプレムスデリットの動きを知り、貴女様にご報告したものの……自身の手柄が、それだけでよいのかと功を焦った次第の愚行でございますれば」

 

上から数えた方が早い地位にいる上司の詰問に臆することなく、ありのままを謝罪するデモニアギルディ。

 

 「な、なんじゃお前、正直すぎるんではないか?そのへんはもっとこう取り繕った屁理屈を捏ねるところじゃと思うが……」

 

あまりに正直な謝罪に、面食らったダークグラスパーは思わず一歩後退ってしまう。わざわざ出向いたことを台無しにされた根本の原因だけに、下手な取り繕いするならばダークネスウィップを打ち付けるつもりではあったが、こうまでストレートに白状されると、それはそれで戸惑うし気勢も削がれてしまった。

 

 「貴女様のその美しき神眼鏡は全てを見通してしまわれる。私ごときでは取り繕うことすら叶いませぬ……ならば偽りなく語る以外に術は無く」

 

サングラスで顔こそ見えないが態度と謝罪は間違いなく丁寧。

数秒の沈黙の後、ダークグラスパーは頭を振って背を向けた。

 

 「……さっきも言うたがもうよい。その眼鏡属性(グラス)愛に免じて今回は不問じゃ。功を欲するならもう少し上手く立ち回れ」

 

失態を見逃し去ってゆくダークグラスパーの背中に再度、礼をするデモニアギルディ。しばしの間を置いて、ダークグラスパーの後を追った。

 

 

 

 「承知しておりますとも。私の遮光眼鏡(サングラス)は全てを遮るモノ故。そう、光も視線も――本心も姿も立場も全てを……フフ」

 

 前を歩く小さな背中へ向けた呟きとサングラスの奥で光る眼に気付いた者は誰もいない。

 

 

 

 そして数秒前のカオシックインフィニットの空間において

 

 「あの世界に呼び込んで……と、取り入る為にわ、私を利用したと言うわけか……やってくれたなぁぁぁぁ……デモニア()()()()ォオォォ……あが………」

 

ロックチョウデリットが消滅間際に遺した言葉を知る者も誰もいなかった。

 

 

 

 スプレムスデリットは各々が自由に欲望のままに行動する。一応は同属と名乗る存在であっても利用はすれど、それだけのこと。行動指針さえ定まっていないという点ではあるいはアルティメギルよりも厄介な、形だけの統率者すらいない危うい存在の集まりなのである……

 

 「あぁ……背後からでも伝わる神々しき神眼鏡。はやくこの手に取りたいペロペロして感触も堪能して掛けてみたいねぇ……」

 「ん?何か言ったか?」

 「いえ」

 

本質的にはエレメリアンであるヤバさも持っている存在の集まりなのである……

 

 「しかし……やはり一般兵にして、その眼鏡の輝きは見所があるのう……どれ、光栄に思うがいい。わらわのアドレスをくれてやろう!」

 「いえ。上司の個人アドレスなど煩わしさの極み故、不要にございます」

 「寛大な心を見せてやったのに貴様ほんとはわらわをおちょくっておらんか!?上役への気遣いぐらいはせぬかアホーーーーー!!!」

 

ヤバさも持っている存在の集まりなのである……

 

 

 

 

 

 『――これがスプレムスデリットだ。総数こそアルティメギルに及ばないが、危険度は極めて高い存在と言える。』

 

 説明が終わったエレメリオンが、コーヒーをぐいっと飲みほした。

そーいえば、いっしょにケーキ食べてたけど、寝る前だとエレメリオン飲んだり食べたりはしないって言ってたのに、お腹こわしたりとはだいじょーぶなのかな。夢の中だから食べられるのかな……どーやって食べてるのかは今のコーヒー飲むの見ててもよくわかんなかったけど。

 あ、未春おばさんがお店の奥に入らないで、そのままカウンターに立ってる。何回もちゅーもんしたからかな。ますますホントのお隣のお店みたいになってるなあ変な感じ。

 おっといけない。

それよりもスプレムスデリットとかゆーのの話だ。じっさいに戦って、危ないやつらってゆーのはわかってたけど。こーやってくわしい説明を聞いてると

 

 「うーん……強いふりょーのエレメリアンってこと?でも変質者なのはアルティメギルとちがわないよーにも聞こえたんだけど……?つまり、変質者のふりょー・・・?」

 

そんな感じにも聞こえた。

変質者のふりょーとはいったい?だめな変質者だから……逆にまとも?ちがうねロックチョウデリットめちゃめちゃ気持ち悪かったもん。

 

 『そうだね。諸々を総合して危険度を言ったけれど、戦闘力以外で分かり易く差を表すなら……

【鼻息がかかるまで近づいて離れない変態】がアルティメギル。

【堂々とおさわりして離さない変態】がスプレムスデリットだ。』

 

エレメリオンがわかりやすくまとめてくれた。

でも、そのあたりのせいで、むしろ危機感がお話を聞く前よりうすれちゃったよーな気がするんだけど……

 

 「結局どっちもヘンタイなのはいっしょじゃん……」

 

めちゃめちゃ気持ち悪いヘンタイだったけどさロックチョウデリット。そーゆー意味での危機感のほうが増えたよーな。

どっちがいい、って言われたらどっちもイヤなんだけど、なんかモヤモヤする。

 

 『確かに属性力(エレメーラ)の強奪という点では、被害側からするとアルティメギルと同じだ。だがスプレムスデリットは一度動けば、手練れの部隊長クラスが闇雲に暴れるに等しい。同じ世界に集まってこられた場合、物理的被害がより大きく出てしまうのが最大の問題だ。』

 「えぇー……それって暴れるヘンタイってこと?バカじゃないのめちゃめちゃメーワクぅ……」

 

 聞けば聞いただけヘンタイとして気持ち悪い上にたちが悪いじゃんスプレムスデリットとかゆーの。そんなのがロックチョウデリット以外にまだいる、って知っただけで頭がいたくなるよ。

それは知ってた方がいいことなんだけどさー、でも今はさ、ほらせっかく、ちい姉といっしょに寝てる時にさぁ、こーんな頭痛の種を知りたくなかった気がする……うーん、アルティメギルより数が少ないらしいのがまだましなのかなぁ。

 

 『アルティメギルの四頂軍が投入される程の激戦区となりつつあるこの世界に、興味を示してやってくるスプレムスデリットは間違いなくいるだろう。私は、この世界の人々に、なにより幼女(好香)に迫りくる更なる脅威を見過ごすわけにはいかない。』

 

 エレメリオンが真っ直ぐに私を見つめてくる。

話を聞いても、スプレムスデリットを必要いじょーに怖いとか思えないのは、どーしたって相手がヘンタイの一種のせいな気がするけど、それだけじゃなくてエレメリオンが傍にいるおかげかもしれない。

ちょっとズレたとこあるよーにも思うけど、やっぱり勇者って感じがして、ちい姉とはちがう感じの安心するんだよね。

 

 『私は遍く世界を守る使命の為、そして幼女(好香)、キミを守る為に改めてお願いしたい……私と共に戦ってほしい津辺好香。』

 

 

 「え、いいよー。しんこくな顔(?)して急にお願いとかゆーからから何かと思ったじゃん」

 

 じっと見つめてくるから、もっとじゅうよーな話があるのかと身がまえちゃったじゃんびっくりさせないでよ。そのせいで答えるのにちょっと間が空いちゃったんだから。もーエレメリオンてば。

 

 

 『……………』

 

 

 あれ、エレメリオンなんか固まってる。なんで?

 

 「どうしたのエレメリオン?だから私はOKだってば」

 『いや……私が想定していたより軽く決断してくれたね好香。正直に言えば、拒否される可能性も考えていたんだよ。』

 「えー?だってもう、1回変身していっしょに戦ったのに?。エレメリオンが、私を選んでくれたって言ったのに」

 『確かにそうだが。あれは緊急事態でもあったからね。私は好香を選んだけれど、好香にも、ちゃんと考える時間が必要だろう。』

 

ごーいんに変身させてきたと思ってたら、気にしてたんだ。家の人にごあいさつしたいとか言ってたり、けっこー細かい性格なんだなあエレメリオン。

でも、考える時間ってゆーけどもう考えたんだから。私をだれだと思ってるの、ふふん。

 

 「よーするに、誰でもおそって暴れるヘンタイなんでしょスプレムスデリットって。ちい姉……は自分で何とかするかもしれないけど、おねーちゃんや総二兄とかがおそわれたら大変じゃん。私がやっつけられるんだから、やっつけるでしょそんなの」

 

それに、そもそもこーゆーことなんだし考える時間ってそんないらないと思うんだよね。

とーぜんでしょ、あんなのがおねーちゃん達に近よってくるとかありえないって。私がぶっ飛ばすよ。

 自分の属性どーこーはまだよくわかんないけど、ちい姉のツインテールはとーぜんだし、おねーちゃんのロングヘアも好きだよ私。

総二兄だってさ、急にツインテールツインテール言わなくなったりしたら、それはそれで怖いじゃん絶対……大好きが力になるのがエレメライザーとエレメリオンなんでしょ。なら私にだって、あんなヘンタイくらいぶっ飛ばせるのがとーぜんでしょ!

 

 『もちろん危険もあるんだよ好香。』

 「1羽?1体?やっつけたばかりなんだから知ってるってそれは。なによぅ、私のことはエレメリオンが守る、って言ってお願いしてきたくせに。いまさらもったいつけなくてもいーじゃん!」

 『私ができる最大の防衛は変身してもらうことだからね。』

 「ほらー!ならそれでいーじゃん、でしょ?エレメリオンが2人で戦うって言ったんだから」

 

 しつこいくらい確認してくるねエレメリオン。私を心配してるみたいだけど、なんか面白くない。だいたいさー、きんきゅー事態だからーってグイグイ押して変身させたのエレメリオンだからね。私が早く返事したくらいで迷わないでよもう。

ええい、じれったいなあもう!

 

 「自分で選んだ相手なんだから心配しすぎ!!ほら、ツインテイルズだっているんだしダイジョーブだって!私たちはね!次はもっとこー【新ヒーロー登場!】って感じでテイルブルーにあっと言わせるくらいになるの!!わかった!?」

 

だん!と、テーブルに飛び乗って、腰に手を当ててエレメリオンを見下ろしてやった、どうだ。これくらいビシッと決めたら文句も言えないでしょ、さそってきたのはエレメリオンなんだから、ふふん。

 ……やっべテーブルに立ってるのちい姉やおねーちゃんが見たら怒ってたね。ここ夢で良かった。

 

 

 『好香の言う通りだ。お願いした私が戸惑うのはおかしな話だったね。』

 

 エレメリオンがよーやく納得してくれたみたい。むつかしー話は長くするものじゃないんだよ。さてと、私もちゃんと座りなお……だめだ座ったら手が届かない。しょうがない、おぎょーぎ悪いけどこのままテーブルに座ろう。

 

 「それじゃあ、私からも。これからよろしくエレメリオン」

 

 じっと私を見るエレメリオンに手を差し出した。あいぼーの握手だよ!……ここ夢だけど、未春おばさんがテーブルに座ってる私をじーっと見てるから早くして居心地悪い。

 

 『ああ。よろしく好香。』

 

わ、わ、握手のつもりだったのに本のお姫様みたいな手の取り方された。さすがにちょっと照れる。これが属性勇者なの……こーゆーとこでかっこいいのずるくない?

 

 

                 ※※ ※ ※※

 

                      〈離れろこの痴女があああああああああああああ

                      あああ!!!〉

                      〈ゲーハハハハハハハ!!!!!動きにキレが無

                      いですね愛香さん!!〉

 

                 ※※ ※ ※※

 

 

 「『……………』」

 

 エレメリオンにちょっとドキドキしてたら上?からスゴい声が響いてきた。なに今の?

 

 

                 ※※ ※ ※※

 

                     〈好香ちゃんにしがみつかれてるのは羨ましいです

                      がそれで動きが鈍ってる今はまたとない好機!!

                      追撃のアイカユルメールで大人しくなってもらい

                      ますよゲェハハハハハ!!!〉

 

                 ※※ ※ ※※

 

 

 また聞こえた。トゥアールさんの声だよね……どんな夢になってるのこれ。

 

 『これは外―現実空間の声だね。私が感知する処だと、好香の周りに3人いる。彼女たちの会話を好香が聞いてるんだ。』

 「あー……じゃあこれって、ちい姉とトゥアールさんがまた総二兄の部屋で暴れてる声かあ」

 

 なるほど、なっとくした。結局、今夜もトゥアールさんが総二兄の部屋に入ってて、ちい姉はげーげきに出かけたわけかあ。

よくわかんないけど、トゥアールさんの声がいつもより強気に聞こえたのは、有利なことでもあったのかな?

 とりあえず、こっちの空気は完全に壊された。私にとってはその方が問題だよちい姉たちめ。

 

 「あれ?なんか周りがぐにゃぐにゃしてきてない!?」

 

壊れたのは空気だけじゃなかったみたい。

 お店のBGMみたいになったちい姉とトゥアールさんのバトル音声を聞いてたら、テーブルがこんにゃくみたいにくにゃくにゃしてきた。と思ったら、お店そのものがぶよぶよと揺れてきてる。うわ、未春おばさんまでぐにゃぐにゃしてる!怖い。

 

 『好香の意識が現実の音に反応しているから、私の精神との繋がりが切れ始めて夢が終わるんだ。今夜はここまでしか話せないみたいだね。』

 

 状況がわかってるエレメリオンは、落ち着いたようすで教えてくれる。あまりにもエレメリオンがじーっと座ってるから、すっかり粘土みたいになっってぐにぐにしてるイスが、ちょっと新しいマッサージチェアみたいに思えちゃうね……。

 って、そんなことよりも、つまりちい姉たちがうるさいのが原因ってこと?

えぇー……まだエレメリオンと話したかったのに、ちい姉たちもーちょっと静かにケンカしてよ。

 そうだ!ちい姉たちが傍にいるんなら一発くらいお返しできないかな。こう、目をつむって、ぎゅーっと念じて

 

 (現実の私の右手ぇぇ動けーーー!)

 

うーん……?動かせたのかぜんぜんわかんないけど、ちい姉の頭1回くらいポカッとはたけたりしてないかな……?

 あ、目閉じてる間に体が浮いてる。エレメリオンもまた光る球になってる。夢が終わっちゃうみたい。

 

 『それじゃあおやすみ好香。私を共に戦う者と認めてくれて感謝する。キミは素晴らしい幼女(おんなのこ)だ。』

 「もーだから照れるってばー!えへへ、おやすみーエレメリオン」

 

 

 エレメリオンの光る球がどっかに飛んでっちゃうとすぐに眠くなってきた……最初から夢の中だけど。

明日はエレメリオンとなに話そうかなあ……

 

 

                 ※※ ※ ※※

 

                      〈あれ、ちょっとこのタイミングで愛香さんを放

                       さないで好香ちゃん!!?〉

                      〈いいわよく放した好香!くらえやトゥアーーー

                      ーーーーーーーール!!!!!!!〉

 

                 ※※ ※ ※※

 

 

頭が眠気でぽやんとしてたら最後にトゥアールさんの悲鳴が聞こえた気がしたけど、まあいっか。

 

 それにしても夢の中ってやっぱり服着てないんだなあ。

 




性癖(ゆめ)のヒーロー「え?夢でも幼女の衣類は必要だったのかい?」


デモニアデリット
眼鏡属性(グラサン特化)
デザインは改造魔人の白い人とSSSS.不死身の魔人をまぜまぜする感じで。属性勇者があれだからね自然とね(^u^)

【挿絵表示】


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第13話

子供は寝る時間でも大人は違ったりもする。というわけで、久しぶりに我らがテイルレッドのターンな13話(^u^)


 俺―観束総二は1日が終わり、ベッドに横になったもののすぐに寝つける気がしなかった。今日の出来事はどうにも考えることが多いので、眠気を押しのけるように、ついつい頭を働かせてしまう。

 

・テイルギアとは違う武装を纏った新たなツインテールの戦士である謎の幼女。

・白い鳥のエレメリアン。

 

整理すると2つの要素しか無いのだが、その両方がどうにも不可解な点が大きくて困る。

 

 

 白い鳥のエレメリアン――俺達ツインテイルズが現着した時は、既に戦闘中だった為、流れで名前を知ることは適わなかった――妙に手強かった。

凄まじい高速飛行のスピードタイプだったので、体感とは裏腹に戦闘時間そのものは短かったが、あれは明らかに幹部級の実力があった。相手が既にダメージを受けている状態で無ければ、目に見えて苦戦することになっていただろうという確信がある。

しかし、実力者であるほどに【鳥型エレメリアン】という事実が俺に疑問を投げていた。

現在アルティメギルの部隊を率いているのはダークグラスパー(イースナ)であり、彼女の直轄部隊【美の四心(ビー・ティフル・ハート)】は昆虫型エレメリアンで構成されている。先日倒した幹部アラクネギルディも文字通り、蜘蛛のエレメリアンだった。

そんな部隊に1体だけ別種がモチーフになったエレメリアンがいるのだろうか?ダークグラスパーらが派遣されるより以前の、残存部隊の1体とも思えるが、あれほど強力な幹部が残っていたならなぜ今まで出撃してこなかった?

とは言え、今まで趣味に走ってこっそり出撃していたような連中もいた。その逆パターンで、性癖が刺激されず動かない奴もいるのかもしれない。気にすることは無いのだろうか?

アルティメギルの内部事情など知りようもない、と言ってしまえばそれまでではあるが……

 愛香に至っては「顔出してきた奴らは全員挽き肉にすれば解決するんだから同じよ」という恐ろしい血染めの金言を授けてくれた……今回はまともに変態の被害を受けたから機嫌が悪いだけ、という一時的な状態で平常運転がより過激になったのでは無い、と思いたい。折角、ダークグラスパーの件でエレメリアンを惨殺する暴虐期を脱してきたんだからな……

 

 

 そしてもう1つの謎。新しいツインテールの戦士。正直に言えば、多少おかしな点があっても【エレメリアン】【アルティメギル】の枠でまとめることができてしまう鳥型エレメリアンよりもこっちの方が気にかかる。

 まず何を置いても、裏表のない元気そのもののようなツインテールは素晴らしかった。

正体は伏せたいようだったが、あの僅かな間の会話でもそこそこボロを出していた様子から判断して、外見相応の年齢。悪い子でも無いだろう、あの状況で学校気にして飛び去っていくくらいだし。それはいい。

しかし、テイルギアと同等の戦闘力を発揮する未知の技術を持っている事実に対しては、アンバランスが過ぎる。

 探るべきポイントは鳥型エレメリアンの方が多いが謎の深さはこっちが上だ。糸口は協力者がいる素振りだったのでそれが何者か、なんだが。

 

 

 「うーん。俺1人で考えたところで答えが出るワケも無いよな」

 

 結局はこうなる。

 そもそも基地に戻った後も4人で話し合って、情報が少なすぎて答えが出なかったんだから、悩んでもどうしようもない。やはり大人しく体を休めるのが吉だ。

分かってはいるんだが、トゥアールの追跡さえも振り切る未知の技術を持った何者かと、恐らくはこの世界の小学生が交流しているとなると、どうしても心配になるんだよな。

 狙いを定めた世界の人間に【属性力(エレメーラ)を操る基礎技術】を与えて、属性力拡散の為に敢えて対抗する戦士を据え置くのがアルティメギルの第一作戦という事実を知っているからこそ、悪い予想を拭いきれない。

この世界には既にツインテイルズ(俺たち)がいる以上、新たな戦士を用意する意味は無いはずなので、俺の取り越し苦労であればいいのだが。

 

 (あの女の子の素振り、なんか覚えがある気がするんだよな。けど、あのツインテールを前に見てたなら忘れるはずは無いんだが……)

 

そして彼女にある奇妙なデジャヴ。ツインテールに見覚えが無いので初対面の筈なんだが、妙に親しみやすかった。

この為か、俺の中では正直なところ、謎を明かすことよりも彼女の協力者が正しい人であってほしいという気持ちが強い。

 

 「トゥアールみたいにいい人だったらいいんだけどな……」

 

それを願わずにはいられない。

 

 

 「私の他にアルティメギルの後を追う者がいたとしても、それが複数の並行世界から一つの場所に集うなんて奇跡のような確率ですからね。総二様の懸念も当然ですよ」

 

 

 ……ん?今、俺以外の声がしたような?いつの間にか眠ってしまって夢現になっていたのか。寝付ける気がしないと思いながらも、体は睡眠をを望んでいるのだろう。改めて眠気に任せて、意識をゆったりと手放していき――

ぴちゃん、と腕に何か生暖かい物が落ちた。

やっぱり夢じゃねえ!異変を感じた俺は、直ぐに身を起こすべく目を開いた。

 

 「あ!す、すみません!!【トゥアールはいい人】なんて実質OKを出されたら涎を零しちゃいましたうへへ……」

 「おおおおああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 直後に網膜に飛び込んだ景色が眠気など霧散させ、意識が一気に覚醒した。

天井―それも自分の真上に張り付いて口を拭っている人型生命体に恐怖の叫びを上げずにはいられなかった。

その人型生命体(トゥアール)は俺がベッドから飛び出すよりも先に、音も無く着地する。なんという見事なスパイアクションか。これが映画なら間違いなくテンションが上がるが、舞台が銀幕から夜の自室に変わっただけで一気に血の気が引いてしまった。

 

 「いつから部屋(の天井)にいたんだトゥアール!?」

 「そんな、いつでも入ってきていいだなんてありがとうございます!ちゃんと総二様が部屋に入られた後に来ましたよ~」

 

曲解されてる気がする上に何がちゃんとなのかよくわからないが、トゥアールの中では規範に則った行動らしい。だが、俺より先に部屋で待ち構えられていたことも、これまで何度かあった気がするんだが。

 

 「例の幼女。私とは異なる属性力変換技術の持ち主だけに、接触したことでテイルギア―ひいては総二様の体調にも影響が無いか調べようと思いまして」

 

その理屈なら俺よりも愛香の方が彼女と接触していた時間が長かったように思う。が、俺が口を開ける前に真面目な顔でトゥアールは話を進めていく。

 

 「検査は勿論ですが、愛香さんは幼女を必要以上に怯えさせていましたから。万が一、未知の追跡技術で向こうからコンタクトを取ってくるならば、対象は総二様(テイルレッド)かな、と。その時になって、テイルレッドの正体でまた混乱させてもいけないので、この姿で潜んでいたんです」

 

するりと白衣をずらしたトゥアールの姿は、薄いネグリジェだったので即座に目を逸らした。

 仮にあの少女が来たとして、ネグリジェに白衣の女性が天井から降ってきて怯えずに安心するものだろうか?いやでも女の子の心理は、男の俺には完全に理解できないし安易に否定もできない。

テイルレッドの正体で動揺させてしまうという意見には、賛成しかできないし。

 

 「とは言え生憎、幼女が来る前に、こうして私は姿を晒してまったので。ここは次善の策として!部屋にいる総二様と私が()()()していれば警戒心を解くはずです!!幸い何故か愛香さんも来ないので今のうちに危険が無いアピールをしておきましょういつ訪ねてくるかわかりませんし邪魔が入る前に今すぐにでも!!!」

 

トゥアールは真面目な表情のままだんだん鼻息を荒くするという器用なことをしながら、矢継ぎ早に説明を続ける。何故こんなに急いでいるんだ?……そうか、ここまで慌てた様子は、もしかしてあの子が訪れるという確信があるのか!?まさか既にこちらの様子を窺っているのでは……!!?だったら俺もトゥアールに協力しなければ!!

 

 「【トゥアールがいい女】って証明を今日こそ――」

 

 ベッドに膝をついているトゥアールが右手を俺に一歩進め。

 

 バリン、バッキン――と金属が壊れる音がした。具体的にはガラスを小さく割った後、施錠してある鍵を設置部の枠ごとへし折ったような。

 

 「ごめん、そーじ。遅くなった……」

 

静かに壊した窓を開けて鬼の形相の愛香が顔を出した。

 その「ごめん」が窓を破壊したことに係っていてほしい、と思うのは俺のわがままなんだろうか。

 

 「ふんっ!」

 「あおわっ!」

 

 ベッドについているトゥアールの右手に向かって愛香が足を下ろす。危うく踏み砕かれそうだった手をギリギリで引っ込めベッドから転がり落ちるトゥアール。代わりに愛香の踏み込みを受けた俺のベッドはメキメキと今にも穴が開きそうな軋み方をしている。

初撃を回避したトゥアールを、獲物をしとめ損ねた野獣の目で睨みつける愛香。幼馴染の部屋でリアルな狩猟は止めてくれまいか。

 

 「ちっ、全力で動けないとやり辛いわね……!」

 

忌々し気な愛香のつぶやきで気付かされた。言われてみれば愛香の動きが大人しい。常ならば、部屋の窓を破壊したと同時にトゥアールに飛び掛かっているような俊敏さと獰猛さを出しているのにそれがない。今も一手を回避されただけで追撃に移っていない。

……その獰猛さでこの数か月ほぼ毎夜、自室が破壊されている現実を改めて直視してしまい涙を零しそうになったが、愛香のこの手加減は一体?

 

 「んのぉぉぁぁああああああああ!!!」

 

 愛香の攻撃を避けたはずのトゥアールが突然、悲鳴を上げた。ノーダメージの筈なのに膝をついて愛香を指差して震えている。こっちはこっちで一体!?

 

 「こんな、こんな精神攻撃を愛香さんからくらうなんて……!総二様との進展を妨害しつつ幼女を侍らせるなんて精神への高度な攻めを!!!」

 

震える声で叫ぶトゥアールに倣って愛香に視線を戻すと、部屋の暗さではっきりしないが、愛香のシルエットが確かにおかしい。横から見ると胴体に厚みがあるような……何か背負っているのか?まさか変身しなくてもいよいよ武器を備えだしたのかと空恐ろしくなり、俺は真実を確かめるべく動いた。

ベッドから降りて明かりを点けると……なるほど、トゥアールの言葉の意味が分かった。

 

 「……なんで好香を背負ってるんだ愛香?」

 

愛香の背中には、毎夜巻き起こる痴女と猛獣の凶宴に無縁であるはずの猛獣の妹(よしか)の姿があった。

 

 「……ぐーすか寝たまんま放さないのよこのチビスケ」

 

愛香は俺の問いに苦虫を噛み潰したような顔で、好香の手を掴んでみせた。それで気付いたが、よく見ると愛香は背中の好香を全く支えていなかった。好香の方が手足を愛香の胴に回して、しがみ付いている体勢だ。愛香が俺に見えるよう、掴んだ手を軽く引っ張るがピクリとも動かない。よほどガッシリ組みついてるらしい。

愛香のため息とは対照的に、背中からは、すぴーと安らかな寝息が聞こえている。

 

 「あああ愛香さんの背中で極上の幼女が至高の寝息を……!?なぜ幼女趣味じゃない愛香さんにそんなイベントが起きてるんです!?」

 「いや姉妹だしな2人は」

 

 少なくとも幼女を見て涎を垂らしてる人間よりはイベントが起きる関係性だと思うのだが、トゥアールには信じがたい光景らしく壁まで後退って慄いている。

 それにしても。

 

 「よく落ちずに寝てられるな好香のやつ……」

 

ゲンナリした愛香の様子から、起こさない程度の力で妹を引っぺがそうと挑戦はしたんだろう事は伺える。結果は御覧の通りに、諦めてしがみ付かれたままトゥアールの迎撃を優先したわけか。

手加減してたとは言え、愛香の力でも剥がされずに背中に張り付いたまま眠っていられるのは感心してしまうぞ好香。

 愛香と好香の祖父は熊殺し可能な孫を2人にしないよう、好香には武術を教えなかったが、こういうシーンを目撃すると、じーちゃんのその判断は正しかったと讃えられるだろう。

 

 (天性の腕力そのものは愛香譲りなんだよなあ好香も)

 

好香くらいの年齢の愛香を思い出すと、同様の力は見せていたはず。とはいえあちらはその時点で狼を仕留めたりしていたんだが。

 

 「なーにが『ちい姉が総二兄のお部屋いくジャマはしないから!』よ。妖怪みたいに張り付いてくれて……」

 「まあまあ、妖怪は止めてやれよ」

 

妹を子泣き爺扱いする愛香に苦笑する。可愛い妹なんだしせめてコアラと言ってやれ。愛香、お前も腕力は樹上生物だろう……コアラとゴリラくらいの差はあるが。

 

 「ふ、ふふふ……幼女にしがみつかれて一夜を過ごすという奇跡を蛮族が享受している怪奇現象!しかしトゥアールちゃんはまだ倒れませんよ!!考えようによってはまたとない好機!!」

 

 己にとって未知の現象に打ちのめさていたトゥアールがふらふらと立ち上がってきた。

 

 「この怪奇現象を解明するには私も体を張って検証しなければなりません!解明して再現してこそ科学!!なので総二様、私が正面からしがみつくのでそのまま――」

 

トゥアールの得意技らしい虚無の思考時間(シークタイム=ゼロ)。そこから導き出される理由は数分前からすっかり変わっている。例のツインテールの少女のことはどうなったんだ。

 

 「近づくじゃねえこの痴女があああああああああああああ!!!」

 

 俺のささやかな疑問と白衣を置き去りに床を蹴ったトゥアールを、愛香は撃墜すべくベッドから一足飛びに俺とトゥアールの間に滑り込み、右拳を唸らせる。

 

 「ぽうっ!」

 

しかし、トゥアールは壁を蹴って寸前で方向転換。愛香の攻撃をまたしても回避した。ここまで愛香に捉えられないトゥアールは珍しい。

それはそれとして極薄の肌着だけで部屋を飛び回らないでくれ。目を逸らすために俺も首を高速回転させねばならない。

 

 「ゲーハハハハハハハ!!!!!動きにキレが無いですね愛香さん!!」

 

美少女がするとは思い難い笑い声が部屋に響く。

 俺に出来るのは、何も知らずに目の前の愛香の背中で眠り続ける好香を起こさないよう、そっと耳を塞いでやることくらいだ。

 だが狙われた獲物(トゥアール)が高笑いするのが、少しだけ解ってしまうほどには今夜の愛香の動きは精彩を欠いているのも事実。好香(いもうと)を振り落とさないよう起こさないよう、というハンデは想像以上に大きいらしい。これは勝敗が読めないぞ……!

場所と時間が俺の部屋と夜中でなかったら、もう少し余裕をもって観戦できたかもしれない。

 あ、好香を起こさないようにしてるから窓の壊し方も静かだったのか。妹への優しさが表れた結果、鍵周りのガラスと鍵そのものの破壊に留められた訳だ……どうあっても破壊なくしては生きられない蛮族の業を感じて悲しくなる。

 

 「これ…ちい姉……ムニャ……」

 

 無駄に白熱する状況を無視して微かな寝言が聞こえる。でもな、総二兄はこの騒ぎの中でしっかり熟睡できてるお前が羨ましいんだぜ好香よ。いつまで続くんだ……

 

 「好香ちゃんにしがみつかれてるのは羨ましいですが!それで動きが鈍っている今はまたとない好機!!追撃のアイカユルメールで大人しくなってもらいますよゲハハハハハ!!!」

 

 胸の谷間から例によって新たなアンチアイカシステムを取り出した。今回は見た目が丸い小さい紙?シール?みたいだな。

相手が思うように動けないのをいいことに、わざと胸を見せつけながら取り出している。その顔は元ヒーローがしていい顔なのか……?

煽られて幼子を背負った猛獣の殺気が魔獣にパワーアップしている。その形相はヒーローがしていい顔なのか……?

 

そして俺には痴女も魔獣も止める力は持っていない。俺の部屋に今ヒーローはいないのだ。

 

 「考えれば蛮族の動きをその身で抑えてくれる幼女なんて、天が私に与えてくれた天使ですよありがとうございます実質私の好香ちゃん!!」

 「させるかぁっ!!」

 

投擲された謎アイテムについてか好香の所有権についてか分からない叫びと共に、愛香はトゥアールの新兵器を払い落と――されずに右手に貼りついた。やはりシールか。

 

 「うわっ手に力が……!?」

 「更におかわり!!」

 

と、シールを貼られた愛香の右手が力を失いだらりと下がった。トゥアールは、愛香の動揺したその隙を逃さず左手にもシールを投げ貼り、両手の自由を奪うことに成功していた。

 

 「これぞ電気刺激で筋肉を弛緩させ脱力させるアイカユルメール!!私の好香ちゃんまで背負った状態では、これ以上身動きできないでしょうゲハーーーハハハハ!!!!!」

 

アイカユルメールは肩こりの治療で売っているあれと似たようなものか。

それでも愛香が動きを封じられたのは事実。まさかの劣勢だ。トゥアールはもう悪の幹部じみたセリフと笑い声で勝ち誇っている。

さらりと好香の所有権まで主張している。

 だが、天は悪の幹部を許さなかったのだろうか。それとも妹が無意識に姉の味方をしたのだろうか。

 

 「ムニャ…くらえちいねー…すぴー……」

 「あれ!?ちょっとこのタイミングで愛香さんを放さないで好香ちゃん!!?」

 

どんな夢を見ているのか好香の右手が愛香を放した。そして一ヶ所を放すと流石にバランスが取れないようで、ズルズルと瞬く間に左手両足も愛香の胴から外してしまった。

 寝言から察するに愛香に挑んでいたような気もするが、結果としてはトゥアールの懇願に反応することもなく、絶妙なタイミングで愛香を解放している。

 

 「おっと危ない!」

 

まるで木から零れるカブトムシのように愛香の背中から落ちる好香をキャッチすることができてほっとする。近くにいてよかった。

 そして俺が好香を受け止めたのと同時。メインの枷が外れた愛香が、一瞬で青い顔をしているトゥアールとの距離を潰した。

 

 「いいわよく放した好香!くらえやトゥアーーーーーーーーーーール!!!!!!!」

 「ベンダーーーーーーーーーーッ!!!!!!」

 

身体を捻ることで、脱力した両手を鞭のように振り回してベシンバチンとトゥアールを打ち付ける。決して広いとは言えない俺の自室で、人体が何度も宙に舞い壁と床を往復している。その度、壁と床に人型の凹みが出来ている。俺の部屋はどうなってしまうんだ……

人体()人体(ボール)操る妙技の壁打ちは愛香の手からシールが剥がれるまで続いていた……

 

 

 

 「おや…え……おん……ムニャ」

 

楽しい夢なのか、俺の腕の中で、笑顔と微かな寝言を呟いている好香が本当に羨ましい。

 




好香が夢で説明会されてる間の現実はこんな感じのやかましさ。
好香の基本スペックは武術補正の無い場合のロリ香さんなので、獣は狩れないけど力はある様子。
なので好香とちい姉の年齢がもっと近かった場合、熊殺し×2なった上で姉妹喧嘩ができてしまうので蛮族バフが相互にかかり続けていた危険性(^u^)


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第14話

加筆してたら総二兄のパートが思ったよりも伸びた。
ブログ版は元々、変身シーンが書ければ……と始めて伸びていったもの。「新ヒーローの初登場」という意味だと今回辺りが区切りになるはずの14話……2の日に投稿できて何より(^u^)


 俺の部屋で(不本意にも)行われる女子のじゃれ合いの筈である惨劇は、沈黙したトゥアールを愛香が連れ出すことで終了する。今回は展開が二転ほどしたが、結果そのものはいつも通りだった。

 部屋の外にトゥアールを転がした愛香が戻ってくる。

 

 「それじゃあ私は帰るけど、ちゃんと戸締りしなさいよねそーじ」

 

そう言ってくるが、お前の手によって戸締りした上で破壊されるドアと窓は、これで幾つ目だと思ってるんだ愛香。

半ば諦めてしまったツッコミは心の内に留め、俺は腕の中でぐっすりと寝ている好香を愛香に引き渡す。本人は何も気づかず熟睡しているが、早めに布団へ戻してやらないとな。

 

 「え、あれ……?」

 

――そう、引き渡そうと思った。ところが、いつの間にか好香が俺のシャツを握りしめていて放さない。

 

 「おーい好香……?放してくれ、な?く……外れねえ!?」

 

まじかこいつ。起こさないようにと、やんわり手を放させようとしたがまるで駄目だ。びくともしない。

愛香がしがみつかれたままだった理由を実感することになった。やっぱり素の身体スペックは同じ年の頃の愛香と遜色ないぞこいつ。

 愛香も引き剥がそうと、好香の脇に手を入れて引っ張るが結果は俺と同じ。そりゃ手加減はしてるだろうが愛香でもダメか……。

 

 「何してんのよこのチビスケは。そーじを放しなさいってこら……この……っ!もー誰に似たのよこの馬鹿力は」

 

お前だよ愛香。

 

 「ね、そーじ。そのシャツ破いちゃっていいかな?」

 「やめてくれ。なんでそんな力技に走るんだお前は」

 

 妹を引っぺがすのを諦めた愛香の提案は、即座に却下だ。そこまでするほどの非常事態では無いだろう明らかに。

……それに今夜は、ドアと窓どころか部屋そのものが歪ませられている。ついでのように着衣まで引き裂かれたくない。俺の幼馴染は追い剥ぎかなんかかちくしょう……蛮族だったな。

 とはいえどうしたものか。てっとり早いのは、好香を一度、起こすことだが、さすがに小学生起こすような時間じゃないんだよな。

 

 「うぅん……」

 

解決の一手を考えていると腕の中の好香がもぞりと動いた。しまった。気を付けていたつもりだったが、起こしてしまったかな?

 

 「おいてかないでよ、ちぃねー……ムニャ」

 「うお!?」

 「あ」

 

 呑気に考えていたら、好香の両足が俺の胴に回された。再びすやすやと寝息を立てる好香。

ちょっと待て。

起こしてなかったのはいいが、愛香の代わりに俺がホールドされたんじゃないのかこれ!?

 

 「んぅ……」

 「いだだだだだだ!!?」

 

 好香の寝息と俺の呻きが協奏した。俺を抱き枕にしたこのちびっ子、思いっきり締め上げてくる。やめろお前の力はちい姉(愛香)譲りだと言ってるだろうが!今度は俺の骨が軋む!!

同じ樹上生物でもコアラとゴリラくらいの差があるなどと思っていたが、これはそうでもないかもしれん。

 

 「どうしてあたしとそーじの区別がつかないのかなこのチビスケは……っ。って、子供の力にそーじも大袈裟じゃない?」

 「は……!?」

 

区別がつかないのは、男女差を無視される程に体型が近しいという悲しい現実が転がっているからでは、というツッコミを口に出す余裕は、今の俺にない。

 それどころか、ヒュッと息が切れた。……原因は、ちびっ子の締め上げによるものか、その姉の、同じ剛力を体感したと思えない後半の発言のせいか。

この力でしがみつかれて平然としていたのか愛香。

どうなってるんだお前たち姉妹。

恐ろしい。

 

 耐えきれずに膝を折った俺はベッドに手をついた。

結果として、胸に張り付いてる好香の背中をベッドに接地させる形になったのだが、それが幸いして締め付けが緩んだ。

 

 「いっつつ……た、助かった」

 

なるほど、体を支える為に無意識でも全力でしがみ付いてるから、ちゃんと横になると力を緩めるのか。当然と言えば当然だが……

 呼吸は確保できたが、それでも好香は放してくれない。後の祭りだが、こうなるなら愛香の提案通りに、シャツを破っていた方が良かったんじゃないか。

 

 「すぴー……」

 

 俺のダメージなどまったく気付かず、小さい方の樹上生物は相変わらず気持ちよさそうに寝てくれている。

もはや好香を起こす以外に、状況を変える方法は無い……のだが、こんな寝顔を見せられていると、ますます起こす気になれない。

 これはもう仕方ないか……

 

 「なあ愛香。今日はさ、好香は俺のベッドに寝かしておかないか?」

 「そうね……えぇ!?」

 

俺の提案に何気なく返しかけた愛香が驚きの声を上げた。それはまあ、驚くか。でも放してくれないならこれが一番よくないか。

 

 「なんでよ、流石にもう起こせばいいでしょ!?」

 「そうだけど……気が引けるんだよ。ここまで気持ちよさそうに寝てる相手だと」

 「アンタもたいがい好香に甘くない!?」

 

 手加減なしで好香を引っ手繰ろうとした愛香だったが、妹の寝顔に、うっと呻いて動きを止めた。

要するに愛香と俺。二人揃って好香には甘いのだ。……もう一つ言えば、愛香にしがみついたままだったとしても、俺たちのいつも通りのバカ騒ぎがなければ、子供らしく就寝できている。という根本の原因は自分達だという自覚があるので、躊躇してしまうんだよ。

 起きたら隣の家っていうのは、好香がちょっと驚くかもしれない。でも知らない部屋じゃないし、もっと小さい時には一緒に昼寝なんかもしてたし大丈夫だろう。

 

 「好香くらいなら一緒に寝られるスペースはあるからさ。起こすのもかわいそうだろ?」

 「そうだけど。うーん、好香だってもう9歳……いやまだ9歳のチビスケか……だしいいのかな。そーじの家だし」

 

 ぶつぶつと愛香が考え込みだした。そうか。俺にしてみれば小さい子供でしかなかったが、やはり好香も女の子だし、ちょっと軽率な提案だったか?

 

 

 「いいじゃないですかぁ……」

 「うおおお!?」

 「きゃあ!?」

 

 突然、足元から聞こえた震える声に背筋を冷やされた。

見れば、ついさっきまで部屋を跳ね回らされた末に放逐されたはずの、よく知る銀髪が床を這いずって来ていた。怖え。

 

 「好香ちゃんに先を越されるとは全くの予想外でしたが、総二様と私で好香ちゃんを挟んで寝てくれれば今夜はもうそれで満足です……好香ちゃんの寝顔をペロペロするのも気付かれないように総二様と激しく動くのも夢じゃない最高の夜になれますからぐへへへ……」

 

好香に反応して急速にリカバリーが始まっていたらしい。足元からゾンビのようにガクガクと立ち上がり始めている。垂れ下がった銀髪で表情が見えずに不気味に笑うネグリジェの女、すまんが普通に怖くて言葉を失う。

 好香を抱えたまま、咄嗟にベッドへ飛び乗って距離を置けただけでも、我が身は褒められるのではないか。

 

 「わかったわ。好香の代わりに私が挟んであげる」

 「え、待ってくださ、蛮族サンドじゃ回復どころかマイナスううううううううううううう!!!!!!!」

 

 恐れ戦いて言葉を失った俺とは対照的に、愛香は復活したゾンビ(トゥアール)の頭部を両手で挟み込み、万力のように破砕にかかった。ゾンビは頭を潰すのが効果的だものな。ああ、終わったと思っていた骨の軋む音と断末魔の悲鳴が再び俺の部屋に木霊している……

 

 「そーじ。やっぱり好香のことお願い。あたしはもうこいつが目覚めないようにするから」

 「ちょ、まだ回復しき……ないから……これ以上は……!」

 

呻くゾンビの足首を掴んだハンターが部屋から去っていく。あの様子なら今夜はもう復活できないだろう。

今度こそ静寂を取り戻した部屋には、疲れ切った俺と何も知らずに眠りこける好香だけが残された。

 それにしても直接、起こされることこそ無かったとはいえ、これだけの声と打撃音で眠り続けていられる好香には、いっそ感心さえする。

 

 「お前もあの2人とは別の方向で凄いのかもな、はは……いててて」

 

 苦笑していると、立ち上がっていたせいでまた好香の締め上げが強くなってきた。早く横にならないと、俺は俺で絞め落とされそうだ。できるなら俺も失神ではなく熟睡したい。

好香をくっつけたままベッドに転がった俺は、適度?過剰?な疲れによってこれ以上の思考する余裕など無くバタリと意識を手放すことができた……

 

 

 

 

 

 「――か。好香」

 

 んぅ……誰かが揺さぶってくるから、ぽやんと目が覚めてきた。

あーそっか、ちい姉かぁ。起きていいから私はもーちょっと寝かせて……

 

 「あさごはんできるまでまだねてるぅぅ……」

 「好香。お前にはちょっと早いかもだけど、起きて放してくれ。俺はそろそろ動かなきゃいけないんだよ」

 

体をよじって布団にもぐろうとしたのに、まだ声をかけて揺すられる。私は寝るんだってば、ちい姉しつこいなぁ……まるで総二兄みたいな声出しちゃって。

……ん?総二兄の声だよね、いまの。

 聞こえるはずなのない声が引っかかって、しぶしぶ目を開けた。

最初に見えたのは目の前にあるシャツの生地、それと……ぺたんとした感触。あぁ、ちい姉にしがみついて寝てたから起こされたんだ……それじゃ今の声は聞きまちがいかあ。

それで顔を上げていくと、寝る時はツインテールを解いてる、私とおんなじ黒い髪――じゃなくて赤い髪があって。

 

 「あれー?……ちい姉が総二兄になってるぅ……?」

 

おかしいな。さっき聞きまちがえた声に合わせてちい姉が総二兄に見える。

 

 「おう、おはよう。ちい姉じゃ無くてお隣の総二兄だぞ好香」

 

まだぼーっとしてる私を、総二兄が持ち上げて身体から離した。

あれ?寝る前はちい姉の背中にぴったりくっついてたと思うんだけど、体も総二兄だ……

 ベッドから立ち上がった総二兄は、ぐいーっと伸びをしてる。

部屋を見回すと、ちい姉どころか部屋もベッドもちい姉の部屋じゃなかった。

 

 「……なんで総二兄のお部屋にいるの?」

 

まちがいない、ここ総二兄のお部屋だ。

 なんでお隣の家に私はいるんだろう?

……………

………

……!

ちょっとずつはっきりしてきた頭でじょーきょーを整理してみると、1つの答えにたどりついた。

 

 「ああ、それはお前が――」

 「まさか総二兄……寝てるあいだに私をさらってツインテールにしよーと!?」

 

きょーがくの事実に、雷が落ちたよーなしょーげきを受けて一気に目が覚めた。総二兄ってば新しいツインテールにうえて、とうとうそんなことを……!

 

 「そんなわけあるか!!お前は俺を何だと思ってんだよ!?」

 

 総二兄がひてーしてくるけど、あわててるのがますますあやしい。ドラマでも犯人はおーじょーぎわが悪いしこれはやっぱり……!

どうしよう、ちい姉になんてせつめーしたら。

 

 「いやがる私にきょーこー手段でツインテールにしたんでしょ!?うすい本みたいに!うすい本みたいたっ!?」

 「するか!いい加減しっかり起きろ馬鹿!!」

 

総二兄におとなしく罪をみとめてもらおーと思ったらチョップを落とされた。いたい。

あれ、頭押さえたらわかったけどツインテールじゃないや私。それじゃあほんとに私の早とちり?

 

 「あのな。ツインテールは無理矢理するものじゃないんだ。ツインテールは、ツインテールを好きな人がツインテールにして本当に輝くんだ。俺はそんなツインテールの輝きが大好きなんだよ。もちろん、どんな形であっても生まれたツインテールは祝福されるべきだけど、嫌がってる妹を無理矢理にツインテールにするわけないだろ。そんなことしたって好香もツインテールも喜ばないんだから当たり前の事さ」

 

 ツインテールを泣かせる真似は断じてしない、って断言された。

ツインテールが多くてよくわかんないけど、総二兄のいうツインテールはよくわかんない説得力があるなあ。

総二兄が私のいやがることしないのはほんとだし、やっぱり私の早とちりだったのか。

 

 「うぅ、ごめんなさい」

 「はぁ~、寝起きに勘弁してくれ。テレビの見過ぎだよ。うすい本?とかどこで覚えてくるんだ……」

 

 総二兄が頭を押さえながらため息ついてる。悪いことしちゃった。

 

 「よく分んないけど、追いつめる時はてーばんのセリフの1つだって――」

 

 

 「このロリコンがテメエだなああああああああああああーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 「がああああああああああああまだ推定無罪なのに暴力のR18Gにされるうううううううう!!!!!!!!」

 

 

 私の声をさえぎって、1階からちい姉とトゥアールさんの叫び声が聞こえてきた。ちい姉も総二兄のお家に来てたんだ。

 

 「あ、えっとね。追いつめる時のてーばんだって――」

 「いやもういいどこで覚えたのか今わかったよ……」

 

 総二兄は疲れたみたいにずるずると床にすわり込んじゃった。

うーん、下からドカンドカン殴る音がしてるあたり、トゥアールさんが教えてくれたのって、みんながあんまり使わない美人ジョークだったのかな。

 けっきょく、私が総二兄のお部屋で寝てたのは、ちい姉が私を連れてトゥアールさんのげーげきに出かけたかららしい(連れてったくせになんで置いて帰ったの!ってちい姉に言ったら、何も言わないでほっぺった引っ張ってきた。なんで??)。

 

 

 未春おばさんが「いいわよ、好香ちゃんもウチで朝ご飯食べちゃって」って言ってくれて、私は家に戻らないで(着替えとかランドセルはちい姉が持ってきてくれた)ちい姉といっしょに総二兄のお家で朝ごはんごちそうになることになりました。

ちい姉は家でもう朝ごはん食べたみたいなんだけど、総二兄のお家でもまた食べるのかあ。

 

 リビングに行ったら用意してあったイスをかたづけて、私に向かって膝をぽんぽんしてるトゥアールさんがいた。顔はホータイぐるっぐる巻きでぜんぜん見えないんだけど、銀髪と白衣だしトゥアールさんだよね。

 

 「ふぁあ。ひらっひゃいひょひはひゃん(さあ。いらっしゃい好香ちゃん)

 「この置物どかすからここ座りなさい好香」

 

 ちい姉がトゥアールさんのホータイ顔を打ち抜いてイスから叩き落として、その空いたイスに私をすわらせてくれた。いいのかなあ……

 

 「コヒュー……ちょっと愛香さん……コヒュー昨夜からずっとで回復しきってないんですよ……コヒュー非常回復(ロリカバリー)する為に高純度の幼女成分(ロリタミン)が必要なんですってば……コヒュー」

 「次に好香にくだらないこと吹き込んだら皮剥ぐわよ」

 

もう息づかいがおかしいトゥアールさんにちい姉が怖いこと言ってる。トゥアールさんいったい何したんだろう……

 

 後ろでピクピクけいれんしてるトゥアールさんは気になるけど。それはそれとして私は、未春おばさんが用意してくれた朝ごはんをほおばる。おねーちゃんが作るごはんもおいしーけど、未春おばさんのごはんもすっごくおいしい。さすがは喫茶店マスター。

 

 「簡単な朝食なのに好香ちゃんは美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるわー」

 「だってモゴほんとに未春おばさんのごはんおいしーんだもんモゴモゴ」

 「ああコラ、口にいれたまま喋らないの。それとあまり動くんじゃないってば」

 

 コップにオレンジジュース注いでくれる未春おばさんにピースしてたら、ちい姉に引っぱられて座ってる姿勢をなおされた。

今日はちい姉が髪をすいてくれてるの、えへへ。

ずっとツインテールにしてるだけあって、ちい姉も髪のお手入れ上手なんだよね。

普段のーきん100%なのにこーゆーとこもずるいよねちい姉。いーでしょわたしのちい姉。

 

 「ふふ、寝起きから騒いでくれたのに。お前は楽しそうだな好香」

 「むぐ、それはあやまったじゃん……総二兄のいじわるー。だって未春おばさんのごはんもちい姉に髪ととのえてもらうのも好きだもん」

 

 頬杖ついた総二兄が笑ってくる。ぬーん、寝起きにえん罪をかけたのはじじつだし強く出れない。

でも今は私のせいじゃないもん、ちい姉と未春おばさんが理由なんだってばー。

 

 「ねえ、ちい姉も総二兄になんとか言ってよー」

 「だから頭を動かすんじゃないの!そんな顔してムシャムシャ食べてるチビスケには、あたしだってそーじと同じ事しか言えないわよ」

 

振りむこうとしたら強引に前を向かされた。せっかくほめてるのに、私のあつかいが雑だよちい姉。

 そーこーしてたら、テレビから流れる朝のニュース番組が次の話題に変わってた。お、ツインテイルズだ。昨日ってカメラが集まる前に帰ってたのに、それでもニュースにするんだ。

あ!今の変身した私だ!!テレビに映ってる!!

 

 「わっ!ブラシかけてる途中で動くなって言ってるでしょ!!絡んでる髪の毛が抜けちゃうでしょうが!!」

 

 自分が映ってる画面を見つけて思わず立ち上がったら、ちい姉に押さえつけられた。いったいなぁ、イスでお尻打ったじゃない!

 TVに映るなんて初めてだからちょっとドキドキしてきた。

なんかちい姉たちも静かになったと思ったら、じっとTVを見てる。そーかやっぱり新しいヒーロー(わたし)のことが気になるんだね、ふふん。

 ほら、テイルレッドはいーからもっと私のこと言ってよ。さっきからちらちらっとしか映ってないじゃんこのニュース。

 

 (でもテイルブルーに抱っこされてるとこしか映ってないなあ……もーちょっとかっこよく映ってればよかった。テイルブルーがあんなおどかすから……うぬぬ)

 

まだ話題がテイルレッドだから変身した私がアップで映らない。おまけにさっきから見切れるのは、テイルブルーの腕の中で手足をバタバタさせてるとこばっかり。これってやっぱり、直前でブルーが私をおどかしたの原因でしょ。

ちい姉といいブルーといいなんで私のあつかいが雑なの!?

 

 『ツインテイルズと一緒に映っている少女ですが――』

 

 なかなか話題にしないニュースにモヤモヤしてたら、とうとう私がアップで映った。きたきた!ついに私の出番だ!

 

 

 「………………」

 

 あれ?私だけ顔にモザイクかかってない?ねえ?ちょっと?

 

 

 『ツインテイルズになりきったコスプレですかね』

 『一般人の可能性があるので映像を加工してお送り――』

 

ちがうよ!?ツインテイルズと同じだってば!新ヒーロー新ヒーロー!!

 

 『見てください。こんな少女にまでテイルブルーは凶暴な目を向けている』

 『もしかしたらテイルブルーが世間の目を誤魔化そうとテイルレッドのファンを無理矢理に捕まえているのでは』

 

ちがうって!テイルブルーについてはだいたい合ってるけど、私は本物!!あとテイルブルーのファン!!ニュースちゃんとやってよ!!

 

 『テイルブルーとあんなに近くで接触してしまった女の子は心の傷が心配――』

 

心の傷って何よ初とーじょーの新ヒーローにたいして!!

な、な、な………

 

 

 「「なんっなのよこれええええええええええええ!!!!!!」」

 

 ニュースのあつかいに、もーガマンできなくて叫んだらなんかちい姉とかぶっちゃった。

みんなが一斉に私を見てくる。いや、ちい姉がかぶってくるのがおかしーんでしょ。でもかぶったってことは、ちい姉も同じこと思ったんだよね!?

 

 「このニュースおかしくない!?ちい姉もそう思うよね!?」

 「あんたも思う!?さすがあたしの妹よ!」

 

画面を指差して言ったら、ちい姉がはげしくうなずいてくれた。やっぱり私のちい姉だ話が分かる!このニュースのおかしさをりかいしてくれてる!!

 

 「おかしいよね!せっかくの新ヒーローをひがいしゃAあつかいだもん!!」

 「優しく子供を抱き上げてるテイルブルーをどう曲解してるって話よね!!」

 「「え?」」

 

思わず顔を見合わせた。

意味が分からないって顔でちい姉が私を見てるんだけど、それはこっちのセリフでしょ。ちい姉ニュースのどこ見てるの?

 

 「テイルブルーはまちがったこと言われてないでしょ?だって、どー見ても新ヒーローのかっこいい初とーじょーをジャマしてるよね?」

 「いやいや。あれは腰抜かしてるちびっ子を助け上げてる優しいヒーローの姿じゃないの。あっちの小さいのこそ、ツインテイルズに会いに来たコスプレに見えたって仕方ない映り方でしょ?」

 

なんか話が合わない。ちい姉のニュースのちゅーもく点おかしくない?

 

 「あんたテイルブルー好きなんでしょ?ブルーの扱い何とも思わないわけ?」

 「テイルブルーは好きだけど、別にテレビでウソ言ってないじゃん。きょーぼーはきょーぼーでしょ。それより新しいヒーローの方を見るべきじゃないの?」

 「違うでしょ。名前、も顔も分からない小さいのより、テイルブルーは優しい一面があるってアピールされてるシーンが正しく注目されるのがね……」

 「どこ見てんのちい姉?テイルブルーのあれはムリヤリだってぜったい。ごーいんに優しさアピールしてる暴れヒーローよりも、かっこいい新ヒーローをあうあうううう!!???」

 「なあ、お前ホントににテイルブルーのファンか?ああ?」

 

話がへーこー線のままつづいてたら、急にちい姉がほっぺた引っぱってきた。なんでそんな怒るの!?

 

 「まあまあ愛香さん。テイルブルーが相変わらずの扱いだからって、好香ちゃんに八つ当たりするもんじゃないですよプープププー」

 

 ちい姉にぐいぐいほっぺた伸ばされてたら、トゥアールさんがさっとスーパーゴリラの魔の手から助けてくれた。

トゥアールさんの腕の中にすっぽりおさめられた私は、そのまま膝の上にすわらされてる。

 ついさっきまでホータイだらけだったはずなのに、きれーさっぱり治ってるなあトゥアールさん。

 

 「それにしても、好香はツインテイルズにあまり興味なさそうだったのに、あの新しい女の子はやけに気にするんだな」

 

 ちい姉に引っぱられたほっぺたをむにむにとトゥアールさんにさすられてたら、総二兄が意外そうな顔して聞いてきた。

 

 「えー?だってじぶ、じゃない新ヒーローってゆーのは気になるよ。総二兄は気にならないの?」

 

 危ない危ない。私ってゆーのはまだヒミツにしなきゃ。

こんな時にばれてもかっこよくないし、ちい姉にエレメライザーぼっしゅーされないようなさくをろーしてからじゃないと。

 

 「いやツインテールは気にはなるけど、あの映像はヒーロー……か?」

 「あー!総二兄までそーゆーこと言う~~~!!」

 

私の言うことに総二兄は首をひねってる。

どーしてあの私がヒーローだってわからないかなあ!?ツインテールの気配を感じるとか言ってるなら、画面に映ってない私のかっこよさだって感じてよ!!まったくニブいんだから!!!

そんなだからちい姉としんてんしないんだよ、もう!!

 

 「ぷにぷにの膨れっ面になる幼女香ちゃんもとい好香ちゃん最高ですねふひひ」

 「好香ちゃんのお気に入りに言うのは残念ですが、このニュースじゃ名前も行動も不明。その上でおっかないテイルブルーに抱っこされてるとこしか出てませんからねえ。何とも言えませんよ。好香ちゃんだって、“かっこいい”んじゃなく謎すぎるから気になるのかもしれませんよ?」

 

 直前にぜんぜんちがうことをつぶやいてた気がするけど、私のほっぺたつついて遊びながら、トゥアールさんがニュースをぶんせきしてくれる。それでも私は新ヒーローなんだから、このほーどーはなっとくできない。

 

 「ぜったいヒーローだもん……」

 

おもしろくなくて、小さくつぶやいちゃったのは聞こえなかったみたい。

 でも……ちい姉も総二兄も、未春おばさんまで、変身した私をヒーローって観てない感じがする。

トゥアールさんの言うこともそのとおりなのかなあ。

 

 ツインテイルズには、あえて名乗らない!って感じでかっこよく決められたと思ったのに。謎だらけのヒーローじゃニュースだともり上がらないのかな?

名前。名前かあ………

 

よし。次にすること決まったかも。

 




私服の好香はこんな感じ。ちい姉と似た格好を選んでるのか、或いはちい姉のお下がり。

【挿絵表示】


好香の抱きつきについては?

ちい姉「姉より優れた妹など存在しねえ!」(普通に平気。スペック耐久余裕)
銀の痴女「いいでしょう。溢れる知性(フィジカル)返り討ち(ペロペロ)してあげましょう」(幼女からのご褒美というバフと被ダメージが相殺。実質ノーダメ。知性とは)
性癖(ゆめ)のヒーロー「幼女成分(ロリタミン)による非常回復(ロリカバリー)は自己修復機能」(幼女からのご褒美というバフと頑強な活性体(シルエット)で耐久余裕。純然たるご褒美)
隣のお兄「子供の力じゃない。下手すると肋骨が死ぬ」(肉体的には常人なので普通にダメージ強)

おねーちゃん「甘えてくれて可愛い。(大きくなっても抱きついてくれたら)いろいろ楽しみ」(自然に手加減されてる?スペック耐久余裕?)


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番外編・ちょっと昔の、とあるとある並行世界のこぼれ話その2

お待たせしました!ようやく更新……なんですが、本編ではなくいつかの詰め込み番外編の第二弾です。

今はペース的に本編を進めると、ブログに出してる先行ストックに追いついてしまいそうなので\(^o^)/
ブログ版の最新ストックを書き溜めながら、キリ良いとこで止まってるこっちの年内ラスト更新は番外編にして、新年初の更新を本編にすることにしました。

というわけで今回はまたツィーカやパティモの話です(∩´∀`)∩


 ――これは、とあるとある世界のダイジェスト。エレメライザー(属性勇者)開発される(生まれる)世界の、ほんの少し昔の零れ話。

 

 

 

 

 

 ここは我らがトゥアールのそっくりさん(赤の他人)、天っ才幼女ツィーカ・RRの研究室(ラボ)属性力(エレメーラ)の研究の他にパティモのサポートを行うための基地でもある。

所在地は秘密。エレメリアンは元より一般人にも発見されないよう、遮断光量子(ブライトカーテン)という特殊ジャミングで秘匿されている此処に出入りするのは僅か()()

ツィーカ、パティモ。そして――

 

 「ご注文の品だぜ幼女博士(ロリセンセイ)

 

段ボールを幾つも担いでやって来た、赤いボディに緑眼の蛇型エレメリアン【コブラギルディ】である。

 

 「ご、ごくろーさま。その辺に置いておいて、ひひ」

 

 ツィーカは呼ばれた怪しい愛称でにもコブラギルディにも目立って反応することなく、手元のモニターに大量の文字を羅列する手を止めない。

返ってくる怪しい笑いは彼女の常だった。

一方のコブラギルディも相手の態度に慣れた様子。何も言わず、指示通りに段ボールを空きスペースに配置している。

 

 ツィーカが作業しているモニターの更に奥、研究室(ラボ)の壁一面に組み込まれた大モニターには、エレメリアンと戦闘中の属性騎士エレメナイト―パティモのリアルタイム映像が流れていた。

ちょうどトカゲ型エレメリアンの首を両足で挟み、フランケンシュタイナーのように地面に叩きつけているところだ。

 ツィーカ作の小型人工衛星「ロリ-1」からの映像である。

 

 「それにしてもなぁ……確かに嬢ちゃん(パティモ)をヒーローに選んだのは俺だぜ。が、まさか研究室(ラボ)まで造らされるとはねぇ」

 

 仕事を終えたコブラギルディは、特殊合金製の研究室の壁を触りながら大げさにため息をつく。

労りも少ないしなぁ?とツィーカに振っても、返ってくるのは怪しい笑いだけだったが。

 戦闘の映像は気にしていない。侵略序盤のこの時期は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼にしてみれば分かり切った結果を気にする必要も無い。

 

 「ヒーローに超科学の拠点は必須。じ、自分でヒーロー選んだならそれくらいはして当然、ふひひ。その外見に免じて、研究室を地下にして地上で喫茶店マスターやらせるのは諦めてあげたんだから、か、感謝されてもいいくらい、くふふ」

 

コブラギルディに視線を返すこともなくツィーカはまたも怪しく笑う。彼女に言わせれば、現状でも気を使った役割分担らしい。

 そして彼女も戦闘の映像を特に気にしていない。自分が作った装備を扱うパティモ(年上の友人)が、あの程度の相手に負ける要素は無い。心配に思考の容量を割く必要が無い。

もちろん戦闘中のエレメナイトの詳細データは別ウィンドウに表示して、不備がないか逐一チェックしているが。

 

 「いやいや。部隊のメンバーやら出撃情報を教えるだけでもなかなかだぜ?この上、機材までちょろまかしてるのバレたら、いよいよ物理的に首が飛ばされちまうって思わないかい?幼女博士(ロリセンセイ)には科学の他に労働基準も勉強してもらえないかねぇまったく」

 「わ、私の首は飛ばないしね、ひひ。それに簡単に測ったあんたのスペックデータならこの程度で疲労ないでしょ、うへへ」

 

エレメリアン使いの荒いツィーカに、自分の首を触るジェスチャーをしながら愚痴るコブラギルディ。だが、当の幼女は作業に集中して相変わらず振り向かない。

 

 「ひっでぇなぁ。エレメリアンは精神の疲労のがヤバいんだぜぇ?」

 

使い潰す気満々です、とでも言うような言葉しか与えてこない幼女に、コブラギルディは苦笑するしかなかった。

 

 

 

 振り返れば――パティモがツィーカという協力者を得た数日後。

ツインテールの戦士(属性拡散の為の広告塔)を選ぶという任務を果たしたはずのコブラギルディが、【密かにアルティメギルを裏切ったエレメリアン】という触れ込みで2人に再度、接触した。

【アルティメギルを表立っては離反せず、部隊の情報を定期的に伝える内通者】という方法で手伝ってやる立場を作ろうとしたのだ。

それは意外とパティモが人目を避けて戦うタイプだったので、本当の目的(ツインテール属性の拡散)の為には、もっと目立って活躍してもらわねばならない故の軽いテコ入れのつもりだった。

アルティメギルの規模が知りたかった広告塔(パティモ)も自作装備を自慢したいから戦士に目立ってほしいなんて追加の幼女(ツィーカ)もコブラギルディを受け入れた。

上手い具合に潜り込んだ彼としては、少しでも属性拡散のペースが上がるようプロデュースしつつ、適当に情報を流すつもりだったのだが……

 

 「こ、この先もやっていくんだから、まず、もっとしっかりした属性力(エレメーラ)の研究設備が欲しいよね、うへへ。あんた達の方が科学技術は上なんだから、そっちで揃えた方がいい設備になるでしょ、ひひ」

 

などといきなり規模の巨大なおねだりをツィーカにされたのだった。

 世界を守る協力者だと擬態した手前、最初から断るわけにもいかず。

アルティメギル基地の研究室(ラボ)から交換済み中古パーツやら予備機材などを拝借して、せっせとツインテール戦士の基地という名目のツィーカ専用研究室を拵える羽目になったのである。――

 

 

 

 (おまけにこの幼女博士ときたらガチモンの天才で恐れ入るぜ。プレゼントした設備も属性力(エレメーラ)変換技術もサクサクものにして、あっという間に属性騎士サマの誕生だよ。)

 

 パティモを選んだ日から今日までのことを振り返って肩をすくめるコブラギルディ。

研究室が完成した後も、今日のように追加の機材や素材を山のように要求されている。最初こそパティモがまだ倒されないよう、ツインテール属性を拡散する為に目立って活躍するようにと軽い投資気分だったが……

今も何やらプログラムを組んでいるらしい目の前の天才幼女は、自身の科学属性(サイエンス)を存分に伸ばし、日を追うごとに装備を発展させパティモ―エレメナイトを強化している。

いよいよ所属部隊の一般兵では、完全に手に負えないレベルになっているのはどうしたものか悩ましい所だった。

 

 

 『エレメナイト光輪!!』

 

 空気を読んだのか読んでないのか、大画面では丸鋸状のビームを投げたエレメナイトが、相手の首をすっ飛ばして爆散させた。

 

 

 幸いなのは、まだ隊長格なら勝てるだろうレベルであり、装備が充実したこと(とツィーカと自分の情報拡散もあり)でエレメナイト(ツインテール)が世間に目立ってきているから属性拡散という目的は果たせていると言えることなのだが。

 

 

 「ふひひ、私の研究室(ラボ)にこれだけ頻繁に顔出してて基地にいないのに平気なのはさ、モケモケ以下(役立たず)か自由に動けるそれなりの立場、なんでしょ?裏切りそのものがバレなきゃ、首は繋がってるんじゃないの?うへへへ……」

 

 いつの間にか、作業の手を止めて椅子ごと振り返ったツィーカが、いつもの淀んだ目でコブラギルディを見つめて愉快そうに笑っていた。

この幼女、コブラギルディの組織内での立場も予想した上で、首が飛ばない程度には使い倒す気しかない。

 

 「パティモの嬢ちゃんといい幼女博士といいきっつい女子どもだねえ。どっちが蛇だか判りゃしねえ」

 

不気味な笑いと淀みながら光る眼という呪われそうな顔でジロジロと首を見つめられ、降参とばかりに両手を上げるコブラギルディ。

実際、真の侵略作戦を実行する側の地位でもあるし、ツインテール戦士を目立たせる任務で此処にいるのだから首が飛びはしない。が、属性拡散の為に一般兵を生贄にしている事が明るみに出ると部隊に支障を来すという点で大っぴらには動けない。

ツィーカの予想は当たらずとも遠からずである。

 コブラギルディ自身、予想外の強敵になったエレメナイトにおたおたしている所属部隊も、協力者だと思って研究室に出入りさせているパティモ達の様子も愉しんでいる。

しかし、ツィーカはツィーカで、コブラギルディを研究対象>協力者の比率で視ている節が大いにあるのだ。態度に若干、引く時がある。

 

 (嬢ちゃん(パティモ)もきっつい態度は変わんねえしなあ。おお怖い怖い、くくっ)

 

女子に警戒されるのは嗜好に正直すぎて変質者揃いのエレメリアンには日常。いつものことだとコブラギルディは小さく笑った。

 

 「ま、万が一ダメだった時はさ、どうにか体が爆散しないようにして研究室(ココ)に送って来てよ、ひひ。コブラギルディの身体でちゃんと研究してあげるから……えひひひひ」

 「……こーれだから科学に魂を売った無邪気な幼女はおっかねえ」

 

笑った直後に耐久値を超える強烈なのが来た。

いつでも解剖準備はできている、と体を撫でられてコブラギルディは本気で引いた。

陰気に笑いながら舐めまわすように這う視線に背筋が寒くなる。幼女がしていい顔じゃない。

本人曰く「理想は正義のマッドサイエンティスト」らしいが、「正義」を除けば既に到達しているのかもしれない。

 

 「だいじょーぶ。私はまだそこまで魂売ってない、うふふ。ちゃんと悪意で言ってるから、幼女(ロリ)を怖がること無いよ、きひひ」

 (ゆくゆくは科学が私に魂を売るからね、ひひ。私が科学と幼女を統べるんだよ、ぐふふふふふ)

 

パティモが帰ってくるまで、ツィーカが異様な雰囲気でコブラギルディをじっとりと観察している。

 

 「……また何してるんじゃお前ら」

 「おう、お疲れさん。幼女博士から切開機具(オモチャ)取り上げるの手伝ってくれや」

 「ば、爆散しない程度で止めるし、麻酔だって善処するのに、ちょっとくらい解剖させても損は無いと思うんだよね、きへへへ……」

そして帰ってきたパティモが、怪しげな刃物を幾つも構えたツィーカとそれを縛り上げるコブラギルディを見る。

とあるとある世界ではよく見る光景であった。

 

 

 

 

 

 次元の狭間に停留しているアルティメギル基地。

 

ツィーカの研究室に資材を運び終え(解剖されかかっ)たコブラギルディは当然ここに帰還する。

現在、彼は部隊長の私室にいた。

コブラギルディ。表向きは部隊の下位エレメリアンだが、その実は侵略世界のツインテール戦士選定を担う隊長の側近である。

 

 彼の目の前に座っているのは、蜂の姿をしたエレメリアン。

部隊長ミツバチギルディ――組織の属性拡散作戦を積極的に受け入れ、側近以外は捨て駒として敢えて弱いエレメリアンを大勢抱え込んでこの部隊を組んだ、冷酷な将である。

 

 今は最近、発売されたエレメナイト稼働フィギュアを弄って、呼びつけたコブラギルディに見向きもしていない。

 

 「なぁ、コブラギルディ。私の言いたいこと解っているな?」

 

だが発した声には、部隊の長であるだけの威圧が籠っていた。

 

 「広告塔(エレメナイト)が強すぎるってか?おいおい、そりゃ俺のせいじゃねえよ。悲しいねぇ」

 

一方のコブラギルディも、隊長の圧をどこ吹く風と受け流し、態度を崩さない。上司のパワハラで属性玉(エレメーラオーブ)に穴空きそう、などと胃を押さえる真似をして笑っている始末だ。

 実際、彼は任務通りに【アルティメギルを裏切り人間についたエレメリアン】を装いツインテールの戦士を誕生させた。その際に与えた属性力変換の技術も必要最低限のレベル。加えて、協力者という顔で懐に入り、ある程度の動向を掴んでもいる。

コブラギルディに落ち度は何もない。

 だが、アルティメギル側の想定を超えてエレメナイトは力をつけている。

 

 「技術を流した人間の仲間が天才だった、ってことまで責任もてないだろぉ。はっはっは」

 

未知の技術をモノにして発展させることが可能な天才が首突っ込んできた、などという反則じみたイベントが起きたのが、部隊のトラブルだっただけである。

そして部隊にとっては厄介事だが、自分には責任も負い目も感じていないコブラギルディにとっては楽しいイベントであり、笑い飛ばしていられるのであった。

 

 「予定よりは早いが……エレメナイトの属性力(エレメーラ)を回収しようと思っている」

 

しかし、ミツバチギルディの発言がその笑いを止める。

ミツバチギルディがエレメナイトフィギュアを弄る手は止まらず、恥ずかしいポーズを再現している。

 

 「ほほう、いいのかい?」

 「部隊を空にするわけにもいくまいよ」

 

現状、ツインテール属性の拡散よりもエレメナイトの戦力強化の方が早い。このペースでは当て馬になる弱兵達がほぼ尽きてしまう。同時に部隊の主力でも手に負えない相手となっている可能性がある。

多少、奪取できるツインテール属性の総量は減ることになろうと、余裕をもって蹴散らせるうちに対処すべきだと部隊長は判断したのだ。

エレメナイトのフィギュアは、ガチャガチャで購入した触手を巻き付けてエロゲーの女騎士といった様相に装飾されている。

 

 「こんなに早く強くなってるとか怖いだろ。タイミングミスッたら死んじゃう」

 「皮算用通りにならないとすぐビビるねぇお前さんは」

 

 という建前で、本音は現在の侵略ペースで自分の戦う番になった時のエレメナイトのレベルを単純計算して1人で腰抜かしたことが決め手だったりするのだが。

隠していてもフィギュアを動かしている手が震えているので、コブラギルディはおおよそ察して冷めた目だった。

 

 「そんじゃあ、俺は嬢ちゃん達との話題を絞りますかね」

 

軽く首を回しながら次の行動を考えるコブラギルディ。

内情に通じている自分が、部隊の主力が動くことを彼女たちに悟らせないようにそれとなく情報を制限すればいい。正直なところ、ツィーカ相手に機器のデータを弄るのは難しくなっているが、誤魔化すだけなら本業の口八丁でどうとでもなるだろう。

とはいえ、一緒にヒーロー作ってきた連中と別れるのはちょいと寂しいなあ、などとコブラギルディは嘯いた。

 

 「ふふ、ならばせいぜい世界の守護者が臨む決戦に相応しい場を用意してやるのだな」

 

コブラギルディが作戦を了解したので、安心して威厳を回復したらしい。椅子を回し、振り返ったミツバチギルディの手には【粘液でまみれた触手に絡まれるエレメナイトのフィギュア】が完成していた。

 

 「……いい加減ケチらずにスライムの素材買うなりしろよ。自前の蜂蜜で仕上げるからすぐに蟻が集るんだぜお前さんのフィギュア」

 

 ミツバチギルディが、世界の守護者の末路の暗示だ……と言わんばかりにどや顔で見せてきた、会心のポージングらしいフィギュアに対するコブラギルディの反応は微妙なものだった。

というかベッタベタに蜂蜜塗れのフィギュアに全身で引いていた。

 

 「何を言う!自分で作った方が微妙なテカりの表現ができるのだ!ほら、前祝いだ。遠慮せず持っていけ!!」

 「いらねーよ!そんな蜂蜜塗りたくったモン!俺の部屋にまで蟻が来る!殺虫剤片手にこの部屋掃除してるアルティロイド何回見たと思ってんだ!?」

 

 虫寄せのようなフィギュアを押し付けられそうになり、コブラギルディは全力で部屋から脱出した。

 

 (ツィーカ(あっち)ミツバチギルディ(こっち)もすっ飛んだのが上司になるのは勘弁してほしいねぇ……やれやれ)

 

ともあれ、こうしてアルティメギルの本腰を入れたエレメナイトとの戦いが幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 ――これは、とあるとある世界のダイジェスト。エレメライザー(属性勇者)開発される(生まれる)世界の、ほんの少し昔の零れ話。とあるとある世界が本格的に侵攻される少し前の1シーン。

 





【挿絵表示】

パティモ・ES(イーエス)


【挿絵表示】

属性騎士エレメナイト


【挿絵表示】

ツィーカ・RR(アールツー)

久しぶりなのでキャラ絵も再掲。

特にどうってこともないキャラだと思うけど新登場はミツバチギルディ。
コウモリ、コブラ、蜂・・・・・だいたいあの組織の初期怪人からモチーフ拝借(^u^)


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第15話 私、名前は何ですか?

祝え!令和2年2月2日2時2分の第2章の更新を!!(祝う人は平成)

……ここまで遅れたらいっそ2が揃うタイミングで更新しようと年末から決めてたやつです\(^o^)/サーセン

というわけでお待たせしまくってた9月以来の本編15話更新です。



 「名前をキめよーと思います!」

 『名前……変身時のコードネームかい?』

 

 初等部の昼休み。

朝のニュースを見てからずーっと考えてたことをエレメリオンに伝えてみた。

 だってあのニュース!新ヒーロー(わたし)をひがいしゃAあつかいしてた上にあの後だってさー!!

地上からじゃ誰が撃ったかわからないからって、

マグニフィセントバスター(私のひっさつわざ)までテイルレッドの新技みたいに言ってたんだよ!!

しつれーしちゃうよね!

いくらツインテイルズが先輩ヒーローだからって、そこまでゆずる気は無いもん!!

 もしかして、ちょくせつ見たテイルイエローなんかが意外とニュースとちがう感じだったのも、こーゆーことなのかな。うーん、テレビの闇を知ってしまった気分。

 

 「ここは、びしっとかっこいい名前で、バーンと新ヒーローってことを見せなきゃいけないと思うんだよね」

 『ふむ。今後はツインテイルズと共闘することも想定すれば、コードネームを今のうちに決定しておくのもいいだろうね。』

 

 エレメリオンもさんせーしてくれるみたい。

そう、ツインテイルズにもまだ名乗ってないし、そのうちに考えなきゃとは思ってたけど。テレビがこんなに しゅざい力がとぼしー時代だったなら自分からアピールしなきゃ。これは そーきゅーにしなければいけない あんけん だったんだよ!

謎すぎて何も言えないって、トゥアールさんの意見もさんこーにしたら、名前のこーかいは、早ければ早いほどいいはず。

 

 「かっこよく とーじょーして!私を気にしてないちい姉や総二兄たちだってあっと言わせてやるんだからー!!」

 

 エレメライザーをにぎってる右手が怒りでぷるぷるする。

だって、ちい姉と総二兄どころか……学校来てみれば、クラスメイトだって誰も新ヒーローを話題にしてないんだもん。最っ悪なのだと!テイルブルーから目をそらしてて、いっしょに映ってた私に気付いても無いやつだっていたんだから!!

これはもう、ゆーよは無いじたいなんだよ!!

 

 『そうか。変身した好香の勇ましい姿に似合うコードネームを名付けられたらいいね。』

 「うん。……ふふふふふふ、新ヒーローのとーじょー!今度こそ!!ちゃんと見てなさいよみんなーーーー!!!あはははははははははははは!!!!!!」

 

エレメリオンのエールに気分も上がって、立ち上がってせんげんする。

そーだよ!アルティメギルだろーとスプレムスデリットだろーと目にもの見せてやるんだから!!どいつもこいつもカクゴしてなさいよ!!!

 

 

 「ねえ、あの個室って誰かいたっけ?」

 「昼休みの直ぐくらいなら低学年の子が入っていったようにも思うけど……」

 

 

 人目につかないよーに高学年のクラスがある階のトイレに入ってエレメリオンとお話してたんだけどね。個室から笑い声がひびいてて、ひそひそウワサになってることはぜんぜん知らなかった。

 

 

 

 

 

 アルティメギル基地。

ある一室に4人――正確には1人と3体が集まっていた。

たった4人と言えど、侮るなかれ。

 

指揮官・闇の処刑人ダークグラスパー。

彼女を筆頭に、

美の四心(ビー・ティフル・ハート)隊長・ビートルギルディ。

故ドラグギルディ部隊の参謀であり、その他この地で隊長を失った現・混成残存部隊のまとめ役となっている老エレメリアン・スパロウギルディ。

そしてデモニア()()()()という錚々たる顔ぶれであった。

 

 集まった彼らが見ているモニターには――ロックチョウデリットと新たなツインテール戦士(変身した好香)が映し出されている。

この情報を一般兵に伝達する前に、まずは上官のみで今後の対応を判断すべく集まっているのだ。

 

 「未知数の新たな戦士……加えて、噂には聞き及んでおりましたが、スプレムスデリットですか……」

 

 スパロウギルディの声には焦燥をとうに過ぎた疲れが滲んでいた。

現状のツインテイルズだけでも大きな障害となっているというのに、そこへ敵の増援。おまけに、現れれば必ず台風の目となる暴走集団まで湧いて出てきたというのだ。頭を抱える厄介事ばかりが重なっていく彼の気疲れはどれ程のものだろうか。

 

 「予想外とは言え、小さいのについてはどうとでもなるじゃろ。あれはまだまだ場慣れしとらんヒヨッコじゃ」

 

が、ダークグラスパーはスパロウギルディの心配の半分は一笑に付す。最強の彼女にとっては、新たなツインテール戦士は何ら脅威で無く。

彼女の眼鏡は、本来ロックチョウデリットを葬るはずだった映像にある必殺の一撃(マグニフィセントバスター)は見事だが、それ以外はまだまだ不安定だと採点していた。

 

 「問題にすべきはバカの集まり(スプレムスデリット)……鳥はわらわが始末したとはいえ、後続がいずれぞろぞろと集まってくるであろうな。じゃが、わらわも首領様の勅命の遂行にそろそろ旅立たねばならん」

 

 彼女はスプレムスデリットのみに警戒を置いた。

その警戒対象でさえ自分がいれば問題ない、という自負はある。

が、その自分がアルティメギル首領の命令で、しばらく基地を留守にせねばならなく――勅命は数日前に下っているのにもかかわらず、部下の盛大な、涙の見送りを期待して未だに遠征していないという、後ろ髪を接着した上で腰が重すぎる状態ではあるのだが――闇の処刑人はスプレムスデリットに構っていられないのだ。

今も「ほれ、不安から引き止めるとかあるだろ?」とで言いたげな視線をチラチラと場の3人に送っている。

この場の最上位が彼女なのでツッコめる者はいない。

 

 「承知しております。スプレムスデリット達の相手は、一般兵では荷が重い。御身が不在の間の迎撃は、私と片腕スタッグギルディにお任せを」

 

不在となる間の対処を任されるのは当然、彼女に次ぐ地位である美の四心(ビー・ティフル・ハート)隊長。ダークグラスパーの無言の視線にビートルギルディは迷わず応える。

おい引き止めないのか、というもう1種類の視線は巧みにスルーした。ビートルギルディは技巧派なのだ。

 

 「このような状況にあって、やはり根本の戦力強化が必要。付きましては、スプレムスデリットについては伏せたまま、暫しの部隊の侵攻を休止し、兵の訓練に専念したく思うのです」

 

 自身の考えを述べるビートルギルディ。

ツインテイルズとスプレムスデリット。両者と三つ巴にでもなれば、手練れの隊長格であっても一筋縄ではいかない。四頂軍に連なる者達はまだしも、本来の一般兵ではひとたまりもないだろう。

 こうなっては、指導力に長けたもう1人の副官アラクネギルディが先日テイルレッドに倒されてしまったのはますます痛手だった。

だがそうも言っていられない。脅威が判明している以上、全体戦力の底上げが必要なのだ。

 

 「ふふ、どうですかな。スプレムスデリットは数が揃えば四頂の“剣”にも匹敵しましょう。少々の時をかけて一般兵を鍛えたところで、持ちのいい壁になるかどうかでは?」

 

 スプレムスデリット相手に雑魚を背伸びさせたところで無意味だ、とビートルギルディの提案を鼻で笑うデモニアギルディ。

……それは、スプレムスデリットを《よく知っている》彼の自信と、見下している有象無象への興味の無さの表れ。

彼のサングラスの奥に光る目はロックチョウデリットよりももう一人の戦士に向いていた。

 

 「侮るものではない。目立たぬだけで爪のある者、燻っているだけで思わぬ化け方をする者などいくらでもいる。磨きさえすれば、私がスプレムスデリットを相手取ることになった際に、対ツインテイルズを任せられる者とて現れるだろうさ」

 「それではビートルギルディ様のお手並みとしがないエレメリアン達の眠れる才を拝見させていただきましょうかな。フッフッフ」

 

 白い悪魔の嗤いに鎧の王者は動じない。

部下の伸びしろを疑っていない意思。なにより一般兵の言葉にいちいち騒ぎ立てるようではアルティメギルの頂点の一角に立つことなどできないのだ。

 

 そう一般兵。

ただの一般兵であるデモニアギルディの、上官への不遜な態度をスパロウギルディが諫めることが無く。

そもそもまとめ役だけが集っているはずのこの会議に、なぜ彼が堂々と参加しているのか?不思議なことに誰1人違和感を覚えていなかった。

まるで光を遮られ、眼鏡が曇ってしまったかのように。

 

 

 「それでは部隊の指揮はビートルギルディに任す。兵を鍛えるも侵攻するも自由にやるがよい」

 「はっ。では予定通り、スプレムスデリットについてはまだ伏せておきまする。事態を告げるのは、ある程度は鍛え上げてからに。スパロウギルディよ、それまではお前からも極力、噂が漏れぬように働きかけてくれ」

 

 改めてダークグラスパーより全権を譲渡されたビートルギルディは早速、行動に移る。デモニアギルディに部下の伸びしろを説いたが、それが先の話であるのも事実。

知る者の少ない厄介なはぐれ集団(スプレムスデリット)の襲来を伝えたところで、今の部隊模様では浮足立って油断した部下たちが返り討ちに遭うのが目に見えている。

まずは心身を磨く鍛錬に集中させるべきと判断をしたのだ。

 

 「わ、わかりました。ではそのように……」

 

スパロウギルディもそれが判っているので異論は挟まない。

 

 「それでは私はこのあたりで失礼させていただきますぞ」

 

 おおよその方針を把握し、いち早く退室するデモニアギルディを気にする者はまたしてもいなかった。

 

 

 

 幹部勢の会合を後にし、通路を歩くデモニアギルディ―デモニアデリットはこれからを考え楽し気に笑っていた。

 

 「さてさて。ビートルギルディ殿の部隊育成はどの程度が間に合うものか……我らの一角が倒されたことは伝わっている。思っているよりも近々に誰ぞが来ますぞ?」

 

 ロックチョウデリットがツインテールの戦士に倒されたことは既に伝えた。興味を示した血の気の多いやつから順に現れる。もっとも、血の気の少ないスプレムスデリットなどいないのだが。

 

 「のんびりしているとこの地も部隊も滅ぼす魔人が揃う。ツインテイルズ、属性勇者、アルティメギル……私を楽しませてほしいねえ?フフ」

 

白い悪魔は揃えたカードで始まるショーに思いを馳せてただ笑う。

 

 こうしてどこの陣営も次の動きに向けた新たな準備を始めていた。

 

 

 

 

 

 あっという間に午後の授業も終わって放課後。

いっしょに帰ろうって、友だちからさそわれたけど、残念ながら今日はパス。

なぜなら今の私にはしんこくな問題があるの。

なので図書室のすみっこでエレメライザー(エレメリオン)とお話してる。

 

 「これだって名前がぜんっぜん思いつかない……!」

 

しんこくな問題はこれ。

ひじょーじたいにもほどがあるでしょ。せっかく授業中も寝ないでずっと名前を考えてたのに。

 

 「そもそもとして、ツインテイルズとおそろいにできないのがさぁ~……」

 

 机にぐでんと広がってみても めーあんは浮かばない。

 最初はさー、テイル“ブルー”みたいな色でかっこよくいけると思ってたんだよ……でもね、そー思って変身した私を そーぞーしたら。

 

 「テイルブルーと色かぶりすぎでしょ私……!」

 

ほぼ青と銀色だもん私。青と白のテイルブルーと色が似すぎてた。

エレメリオンは、私がイメージしたからこの色になったってゆーけど、とにかく色で名前つけるのはダメ。

かっこいいテイルブルーが先にかつやくしてるんだから私のメージが埋もれちゃうかもしれない。

 

 『テイルスカイブルーやテイルシルバー等ではダメなのかい?』

 「テイルブルー2号みたいでいや。シルバーも鎧がメインみたいでやだ」

 『そうか……。』

 

 エレメリオンがちょっと案を出してくるけどきゃっか。

テイルブルーは好きだけど、セットあつかいで埋もれるわけにはいかないの!ただでさえテイルブルーに捕まった、ひがいしゃAみたいに思われてるんだから!!

ブルーとはちがうってゆー“さべつか”が必要なんだよ!

 

 「もぉぉ~~~!!このままじゃ『お前たちになのる名は無い!』ってツインテイルズのピンチの時しか出られなくなっちゃう~~~~~!!!」

 

 よそーされる、いただけないじたいに机の上でごろごろ転がっちゃう。

ヒーローのピンチにさっそーと現れる謎のヒーローもかっこいーけど、まずツインテイルズが強いんだよめったにピンチにならないの!そんなツインテイルズを助ける謎のヒーローなんかしちゃったら私の出番とかほとんどなくなっちゃうでしょ!?

 

 

 

 ついついさわぎすぎて図書室から追い出された……しかたなく帰ることにしたんだけど、ほんとどんな名前にしよう?

 

 「かっこいい名前考えるってむつかしーんだなぁ」

 

 エレメリアンなんか毎日のよーに出ちゃうんだから早く決めなきゃいけないんだけど、あせると よけーに思いつかないや。

 

 『1人で考えて答えが出ないなら、誰かに相談してもいいんじゃないかい好香?』

 「うー。そー簡単に言うけど、かっこいい名前なんて考えてくれそーなの総二兄くらいしかいないよ……」

 

 エレメリオンの意見にも いちりあるけど。でも、私が「かっこいい名前いっしょに考えて」って言ったら……

 

 ちい姉はきっと笑って相手にしてくれない。

スーパーゴリラに名前なんか ふよーかちい姉。私がスーパーゴリラって言ったら怒るんだから、自分で名前くらいつければいーのに。

 おねーちゃんは手伝ってくれそう。

だけど、“かっこいい”っておねーちゃんのイメージじゃない。かわいい名前になっちゃいそうで不安。私はかっこいいヒーローの名前がいいの。

 総二兄とトゥアールさんはいけそう……なんだけど。

トゥアールさん頭いいし、私が変身するってバレちゃいそうでちょっとなあ。そしたら総二兄にもバレちゃいそーだし。

お願いしたら しょーたいをひみつにしてくれるかなあ?

 

 ……その前にみんなまだ学校に行ってる時間でいないんだよね。くおお、頭をかかえるしかない。

 

 「かっこいー名前が考えられて今すぐに そーだんできる人……うむむ」

 

 どこかにいないのかーそんなうってつけのじんざいはー……あ。

 

 「いた」

 

思わず足が止まった。なんで気付かなかったんだろう。いるじゃない総二兄よりもうってつけな人!

 

 『頼りになる心当たりが見つかったのかい?』

 「うん!ぴったりなひと思い出した!!」

 

 エレメリオンに返事しながら私は走り出した。そーとわかれば、とぼとぼ帰っていられないからね。

ぜんはいそげダッシュだダッシュ!!

ふつーならずっといるはずなんだけど、意外と出かけてたりもするからまだゆだんできない。

 

 「うりゃあああああああああーーーーーーー!!!」

 

 ぜんりょくしっそーしてる間に家が見えてきた。でも今は帰ってきたんじゃないの。

目的地はおとなりのお家!喫茶『アドレシェンツァ』!!

やったとびらにOpenの札かかってる!

 

 

 「あら?好香ちゃん?」

 

 いきおいよくとびらを開けた私を、いっせーに振り返ったお客さんと未春おばさん(おめあての人物)がむかえてくれた。

そう、未春おばさんだよ。最近かっこいーことよく言ってるみたいだし、もしかしたら総二兄よりもそーゆーの得意かもしれない。

お家が喫茶店だからこーやって会える時の方が多いし、これは間違いない じんせんでしょ、ふふん。

 

 

 「おかえり好香ちゃん。んー、どうしたの?総二や愛香ちゃんに用ならまだ帰ってないのよ」

 「あ、ただいま未春おばさん。えっとね、総二兄じゃなくて未春おばさんにその……」

 

未春おばさんは、お客さんの1人にコーヒーを淹れながら首をかしげた。

しまった。未春おばさんがいたのはいーんだけど、思ったよりお客さん多くていそがしそう。どーしよ。

 

 「店長(マスター)。このレディはあんたの噂を頼ってここまで来たようだ。依頼内容くらいは聞いてやってもいいんじゃないか?」

 

 未春おばさんにいちばん近いカウンター席のおじさんが、大げさに腕組みしてかっこよさそーなこと言ってきた。

レディって私?……なんか照れる。

 

 「ココの噂を耳にするなんざ、それなりに事情があるって証だ。だろ?」

 

今度は真っ白なスーツと帽子のおじさんが、帽子を深くかぶり直して目元をかくしながら、こっちにほほえんできた。おお、ドラマで見た探偵みたい。

……やっぱり、ちょっと見ない間にかっこいい動きするお客さんが増えてる気がするなあこのお店。

 

 「ふー、やれやれ。ノンビリと喫茶店マスターできると思ったら次の厄介事(タネ)が飛んでくる。こんな小さいのに誰が教えたんだか……」

 

 未春おばさんもわざとらしーため息ついたら、さっとカウンターの奥から出てきた。そして流れるよーに私の手を引いてくれて、お店のはしっこの席に。

私を座らせて、その向かいに未春おばさんはニヤリと笑って座った。肘をついて顔の前で手を組んで……これもなんかドラマの刑事みたいでかっこいい!

 

 「それじゃあ、話を聞こうかお嬢ちゃん。――さて、おばさんにどんなご用事なの好香ちゃん?」

 「あ、うん」

 

と、思ったら自然なよーすでいつもの未春おばさんにもどっちゃった。お仕事のとちゅーだったのに私の話を聞いてくれるみたい。

 えと、これはもう そーだんしてもいいんだよね?

……でも、これだけすらすらとかっこいーやりとりができる未春おばさんなら、私の力になってくれるはず。ううん、私の目はたしかなはず!よーし。

 

 

 「お願い未春おばさん!朝、テレビに出てた新しいツインテールのヒーローの名前いっしょに考えて!!」

 

 




幼女「ヒーローは正体をかくすものだからそれとなくそーだんしないとね!」(隠すのが上手いとは言っていない)(但し、色被りを気にしたことで後々の名前被りは回避した幼女ファインプレー)
属性勇者「幼女(よしか)が正体隠す方向でやりたいならそれで」(特に理由は無い)

・お客さん
探偵ドラマのテイストを取り入れた【仮面ファイヤー(ムクロ)】と主人公【鳴風壮一(なるかぜそういち)】は対象世代から人気が根強い。
総二たちが幼等部の時には続編【仮面ファイヤーデュオ】が放送。師匠として年齢を重ねた登場した鳴風壮一の人気もまた再燃した。
(残念ながら好香は世代が合わず。黄のツインテイルズなら恐らくめっちゃ詳しかった)


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第16話

令和2年2月だし2が揃う日に2度目の更新をしようという第16話です(^u^)
結果としてブログ版に追いつく寸前になってストックが……\(^o^)/


ついに俺ツイが完結して寂しいっすね_(:3」∠)_「



 「お願い未春おばさん!朝、テレビでに出てた新しいツインテールのヒーローの名前いっしょに考えて!!」

 

 席から立ち上がってお願いする私に――未春おばさんは、ぽかんとしてる。

あれ?お客さんと話してるみたいに、かっこよくOKしてくれると思ったのに。

 

 「新しいヒーローって、ニュースに出てた、テイルブルーに抱っこされてた子よね?」

 

うぐ。

未春おばさんにまでそーいう風に思われてるのか。やっぱりテイルブルーがすぐ放してくれなかったせいだ、くそう。

 

 「そ、そーやって、学校でも誰も新ヒーローって思ってないの!だからね、ここはファンいちごーの私が!かっこいー名前を広めて、イメージアップするべきだーって決意したんだよ!!」

 

まだ正体はバラせないけど、1ファンとして名前を考えて広める。これなら自然に名前を考えるの手伝ってもらえるし、あやしまれない。

どうだこのひっしょーの策は。ふふん。

 

 「あらら、好香ちゃん。あの短いニュースだけで随分お気に入りになったのね」

 「え、その、だって追加戦士だもんあれは。すぐにかっこいーとこ見せてくれるはずだから!えーと、そう、これはね。せんこーとーしってやつなの!!」

 

 めずらしーものを見たって感じに未春おばさんが私を見てくる。

べ、別に変じゃ無いでしょ、テイルレッドがかっこいーのと同じことじゃん!ちょっとTVに映りそこなっただけなんだから、ファンくらいいるんだよ!!

むむ、こんなことになるなら、前からツインテイルズのニュースとかチェックしておくんだった。

けど、何としてもここは、あやしまれずにせっとくしないと。

 

 「でも、名付けるのにおばさんを選ぶなんて、目の付け所がいいのは確かね。ふっふっふ……いいでしょう!この未春将軍が新た戦士の名付け親(ゴッドファーザー)になってやろう!!」

 「おおー!」

 

 やった。私の熱意が通じたみたい。

立ち上がった未春おばさんは、その場でくるっと回りながらエプロン外すと、バサッとマントをつけた。かっこいい……!思わずはく手しちゃった。

やっぱり未春おばさんなら、変身した私にピッタリな名前だしてくれる!!

 

 「それじゃあ。まず好香ちゃん的には、どんな名前が相応しいヒーローだと思うのかね?」

 「えーとね。せっかくだからツインテイルズよりもスペシャル!って感じがよくてね。だから色じゃ無い方がいーかーなって。ほら、そーゆー見た目だったし?」

 

 マントをぶわっと広げながら腕を組んで座った未春おばさんがしつもんしてくる。

そのしつもんに考えると

私は、あのツインテイルズがもっとパワーアップする新ヒーローだからね。ゆくゆくはテイルブルーと同じかそれいじょーにかっこよくなるんだよ。見た目だけならもーすでにイチバンかっこいいかもしれない。

私は自分を きゃっかんし できるからね、ふふん。

 

 「なるほどなるほど。新たな戦士は既存メンバーと比べて特殊タイプも定番ね。だけど、名付けるにはそれだけじゃ甘いぞ少女よ!」

 

未春おばさんは、私の顔の前で人さし指を立てて、ちちちっとふった。ふふっと笑いながらやるポーズが決まってて、かっこいい、たよりになる。

 

 「どう特殊かも名前を連想する重要ポイント。例えば……力なら“ストロング”超能力なら“ミラクル”火や水とか属性で考えるなら光で“フラッシュ”……全てを超越した究極なら“アルティメット”とかね

 

 「おおおおお……どれもかっこいいぃ~~…!」

 

すごい。たとえば、って言ってるのに、かっこいい名前をぽんぽん出てくる。さすがだ。

 

 「もしも、青いテイルブルーの名前がテイル“レッド”だったりしたら、変な感じがするでしょう?名は体を表す……姿や能力とかに【“似合った”スペシャルな名前】じゃないと本人に名乗ってもらう前に、広まらずに知られない場合もあるのよ」

 

うむむむ……かっこいい名前ってゆーのも奥がふかい。これはしんちょーに考えるべきあんけんだった。ちゃんとメモしておこ。

未春おばさんにそーだんして せーかい だったね。

 

 「うーん……鎧はおっきいし、マグニ、じゃない、空がぴかーっと光ったのだってテイルレッドじゃなくて、あのヒーローの必殺技だと思うの。だからパワータイプ?なのかなあ……あ、でもかわいさもあるでしょ!?だから……」

 「うんうん。そうやって一番アピールしたい要素を選んでいけば採用してもらえそうな名前が決まるわよ。好香ちゃんが思う、新ヒーローの一番の特徴ね」

 

 

 

 そーやって2人で1時間くらいは話し合ってたかなあ。実に ゆーいぎ な時間。

 

 「――これは中身の話になるからまだ判断できないけど。【大変そうな運命を背負ってるのに負けないで凄く明るい。】なんて性格のギャップも魅力になるのよ。ヒーローで有名なところだと仮面ファイヤー1号かしら」

 「ふむふむ……せーかくも大事なんだね」

 

未春おばさんの じゅぎょー はほんとタメになる。

 そー言われると、テイルイエローがTVとじっさいじゃ、何か いんしょー 違ったのもギャップだったなのかな?テイルブルーは もーじゅー って とくちょー のいってんとっぱって感じ?……本物のヒーローなのにびみょーにちがう気がする。次までに仮面ファイヤー1号も見たほーがいいのかな。

 私のとくちょーにせーかく……せーかくは、私なんだからかっこいいはずだし?ふふん。いちばんのとくちょーは……エレメリオン?

 

 「それじゃあ未春おばさんそれじゃあね――」

 「―あら」

 

 もっと未春おばさんの意見を聞きたかったんだけど。

 

 

 「それじゃ、じゃないわよチビスケ」

 

 

後ろからの声に ちゅーだん させられた。

ふりかえったら、そこにいたのは、ちい姉、総二兄、トゥアールさん。

あれ、もう3人が帰ってくるよーな時間!?時間だ……ゆーいぎな時間はすぐ終わっちゃう。

 

 「未春おばさん仕事中じゃないの。お店の邪魔しちゃダメでしょ!」

 

 ちい姉ってば、ただいまも言わずに未春おばさんに向かって私の頭をおさえてきた。何すんの。

 

 「何すんのちい姉!だって未春おばさんはお話聞いてくれるってーーーふぎゅ」

 「言ってくれてもお仕事中は遠慮しなさいってこと!すいません、未春おばさん。ウチの妹がご迷惑を……」

 

はんろんしたら、またすぐに頭をおさえられた。ふぐ、このスーパーゴリラめ。

私をおさえたまま、ちい姉は未春おばさんにあやまった。うぅ、もしかしてホントにちい姉があやまるくらいに未春おばさんのじゃましてたの私?

 

 「そんな頭下げなくていいのよ愛香ちゃん。突然に【喫茶店でワケあり少女の依頼を受ける裏の顔があるマスター】イベントが起こるのに比べたら営業なんかどうでもいいんだから」

 「愛香と好香は気にしなくていいけど、母さんはどうでもよくないからな。お客さんを放置するな」

 「大丈夫だってば。皆すっかりウチの味のコーヒーは自分で淹れられるようになってるし、【マスターの裏の顔を知っていて少女の依頼を聞き流す常連】シチュを楽しんでるから」

 「すっかり自分で、って何だよもおおおおおおおお!!!セルフで店の味再現されてるってどうなってんだあああああああ!!!!!」

 

 ちい姉が未春おばさんにあやまってたら、いつの間にか総二兄が えーぎょーたいど に頭かかえて叫びだしちゃった。いそがしーな総二兄も。

 

 「それで?好香ちゃんは未春さんとどんなお話してたんですか?」

 「トゥアール、好香を調子づかせないでよ。どうせ大したことじゃないわよ」

 「はー?これだからこれだから。(幼女)が大人に訴える流行をないがしろにする雑さ。こういうところからも蛮力にだけ磨きがかかるんですよ」

 

 ちい姉の後ろから顔出したトゥアールさんが、ワクワクした様子で聞いてくる。それなのにちい姉は、このたいど。いーもん。頭のいいトゥアールさんとちがって、ちい姉には私のそーだいなプロジェクトは理解できないんだよーだ。

 

 「それじゃーちい姉には教えてあげませんよーだ」

 

 べーっとちい姉にしたを出してやった。元々ひみつの そーだん だったしね。

ちい姉のボディブローで私と同じ目線になったトゥアールさんにだは教えてあげようかなって、耳元に近づいたんだけど。

 

 (やっぱりもーちょっとだまってて、ちゃんと名前決まってから言うほーがいーかな。)

 

思いとどまった。名前が決まるまでドキドキして待ってもらうのもいーんだけど、新ヒーローがバーンと名乗るのを心のじゅんび無しで聞いてほしーなってゆーのもあって……えへ。

 

 「やっぱりトゥアールさんにもヒ・ミ・ツ。もーちょっと待っててね」

 

しょーがないから、やっぱりひみつってごまかした。ちい姉には何でもないって思われちゃうけどここはがまん。本番でトゥアールさんといっしょにびっくりするがいーんだよ。

 ちらっと未春おばさんを見たら、私にだけ分かるように小さくVサインしてくれた。そーだんないよーひみつにしてくれそう。今はだまってるって私のはんだんはまちがってないんだね。

 

 「はうううっ!!!」

 

 そしたらトゥアールさんが急にうめき声をあげて倒れた。ちい姉のボディブローが刺さったお腹じゃなくて胸をおさえてる。

 

 「脳が溶ける幼女の囁き……!似通った容姿の蛮族と天使が交互に現れる温度差で心臓が……!!」

 

ぶつぶつ倒れてビクビクけーれんしてる。え、これ、平気なの!?

 

 「トゥアールさん?だ、だいじょうぶ……?」

 「近づかないの。帰るわよ好香」

 

心配になってトゥアールさんに手をのばそーとしたら、ちい姉に抱きあげられちゃった。それはうれしーけど、トゥアールさんこのままでいーの?

 

 けっきょく、私はそのままごーいんに連れ出されちゃった。もーちょっと未春おばさんのアドバイス聞きたかったなあ。

あ。トゥアールさんは、お店の中が遠くて見えなくなる直前に立ち上がってるシルエットがあったからホントにだいじょうぶそう。

 

 

 

 ちい姉に連れて帰られてから、私は自分の部屋で、ずっと机に向かってた。えんぴつ右手にノートとにらめっこすることどれくらいだろ。もちろん宿題とかじゃないよ。それよりもっと、じゅーよーなこと。闇子ちゃんおーえん用の眼鏡だって そーちゃく して【ちょっと頭がよくなった気がするモード】にもなって本気だよ。

うん、でもまあ、ヒーローとしての宿題と言えばそーかも。

 

 「よーし……決まったぁ~~~!!!」

 

そしてついにヒーローの宿題(それ)が終わった。すなわち、変身した私の名前―コードネームが決まったんだよ!!どーだ、ふふん。

 

 「話し合いのとちゅーで、ちい姉に連れてかれた時はどーしよーかと思ったけど。ふふん、やればできるんだよ私は!」

 

未春おばさんって あどばいざー をえたのはやっぱり大きかった。おばさんのヒントのおかげで学校じゃぜんぜん思いつかなかったのが、いっぱい考えつけた。むしろ、どれにしようかで迷っちゃったくらいだよ。

私はやればできる女子だからね。

 

 『お疲れ様、好香。それでは、次から戦闘中はこのコードネームで呼べばいいんだね。』

 「うん。お待たせエレメリオン。これで、マグニフィセントエージェントのほんかくてきな活動ができるよ~~~!」

 『好香の準備が整ったのなら何よりだ。』

 

 イスから飛び下りて、コードネーム考え中はずっと机の上においてたエレメライザーをつかんで、くるくるーっと部屋を回っちゃう。

ひと仕事終えた かいほー感ってやつかな~。それにコードネームをおひろめする時のことを そーぞー したら、もー楽しみでしょーがないんだもん、えへへ。

 

 「……早く言いたくてうずうずしちゃうなぁ~。ちい姉にヒントだけでも……いやガマンガマン」

 

 本番でイキナリ名乗りたいけど、思いついたからには早く言いたくもなってきた。とくに、変身した私にぜんぜん きょーみ 持ってなかったちい姉なんかには、教えて、あっとおどろかせたい。

それはその、さっきトゥアールさんにはひみつにしちゃったけど。今は早く言いたい気持ちも大きくなってきたの!

う~今しゃべっちゃうか予定通りに、さっそーと とーじょー した時に名乗るか迷うぅぅ。

 

 「ねえ、エレメリオンはどっちがいいと思う?」

 『正体を隠したいなら、現時点で好香がコードネームを知っているのは不自然な事だ。伏せておいた方がいいと思うが。』

 「やっぱりそうかな。でも、ちい姉のおどろく顔も早く見たいしなぁ~~……うむむ」

 

エレメリオンの意見ももっとも。これはなかなか じゅーよー な二択だ。

 

 

 ちい姉にコードネームかそのヒントだけでも教えてあげよーか考えこんでたら、ドアがノックされた。

 

 「好香、入るわよ?」

 

ちい姉だ。

 見つからないよーにエレメライザーをすばやく枕の下にかくして、と。ドア開けよーとしたら、ちい姉が顔を出してきた。いつもならいきなり開けないで!って怒るとこだけど、今回はナイスタイミングちい姉。どーしよーかちい姉の顔見ながら考えよ。

 

 「どうせ遊んでるんだったら、あんたも夕飯の準備手伝い……何笑ってんの?」

 

つごーよく来てくれたちい姉に、かんしゃ してたら顔に出てたみたい。むむ、理由はしょーじきに言えないし、てきとーに……

 

 「え、それはそーだよ。わが家のスーパーゴリラがさー、よーやくドアをノックすることを覚えてくれたんだからいったぁい!!」

 

それらしー理由を言ったのに、あごを指ではじかれて尻もちつかされた。ここまですることないじゃん、まんざらウソでもないんだから!

 

 「もー!こーゆーとこでしょちい姉は……あれ?」

 

 あごをさすってたら、かけてたはずの眼鏡の感しょくがなくなってるのに気付いた。ちい姉を見たら、私を弾いたらしい指で眼鏡をつまんでる。いつの間に……

 

 「あ!私の闇子ちゃん眼鏡かえしてっ!!」

 「ナマイキ言うからよ。口だけは達者になるんだから……あんたね、その内トゥアールに影響されすぎた妹に、ちい姉がうっかり力加減ミスってもしらないわよ?」

 

 眼鏡はぽいっと投げ返されたけど、ぞっとした。

なんてこわいことゆーのちい姉。トゥアールさんと同じことなんか私がされたら、無事にすむわけないじゃん……言っていーことと悪いことあるでしょ。

 

 「ほら、下に行くわよ。夕飯の準備、手伝いなさいって」

 

 引っくり返らせたちょー本人が、何事も無かったみたいに手をひっぱって無理矢理立たせてくる。うぬぬ、おもしろくない。

……よし、やっぱり、すぐには教えないしノーヒントにしてやろう。今ので、すぐおどろかすのよりも、こっそりちい姉にだけ教えてあげるなんてもったいない、って気持ちのが勝ったもん。ふんだ。

がんちゅーに無かったのが本物のヒーローだったっていきなりニュースで見て、せーぜーびっくりしちゃえちい姉め。ふふん。

 私を引っぱるちい姉の手からはなれて、先に階段を下りながらくるっと振り返ってちい姉にべーっと舌を出して笑った。

 

 「ざんねんでしたー。ちい姉にはまだ分からないことがあるからねー。今日の私には よゆー があるんだよ、よゆーが。ふふん」

 「はぁ?今度はどんなアニメに影響されたのよ……?朝と夜でころっころ機嫌変えるチビスケなんだから」

 「ふふーん、私のステージはね、ちい姉には、まだはやいんだよーだ」

 「なんだか知らないけど、危ないんだからちゃんと足元見ながら階段降りなさい」

 

よくわかってないちい姉が首をかしげてるけど、私はひみつを持ってるちょっとしたゆーえつ感にひたりながら、夕飯つくってくれてるおねーちゃんのお手伝いにキッチンヘはいったのです。

 

 

 3人で夕飯を食べてると、おねーちゃんがこんなことを聞いてきた。

 

 「2人ももう夏休みだけど、何か予定あるの?」

 

夏休みの予定……そうそう、こんな直前にいろいろあったから忘れそーだったけど、明日は一学期の終業式。いよいよ夏休みが始まるんだよ。

 

 「今のところ、あたしは特に予定ないわ。部活って言ってもまあ……一応、文化部?だしね」

 

あごに指をあてながら、ちい姉は予定なしだって。

それよりも自分の部活をふしぎそーにしてる感じ。ツインテール部なんてよくわかんないクラブみたいだしね。どーゆー活動してるのかさっぱりそーぞー できない。

総二兄の考えることも、たまによくわかんないや……いや、ツインテールについてだといつもよくわかんないね。

 で、私の方の予定はってゆーと。

 

 「私も別にないかなー。友達と遊ぶ約束もまだしてないし……あ」

 

私も特に無し……だと思ってたんだけど、気付いちゃた。夏休み、夏休みなんだよねえ。

 

 「うふ、うふふふふ……」

 

じゅーよーな予定ができてた。この分だと、きっと夏休みにコードネームをおひろめすることになる。つまり夏休みの話題どくせんの一大予定じゃん!!

 やっぱり話し合いのないよーひみつにしてせーかいだった。だって、夏休み前に私たちにえーきょー されて、ちい姉たちまで名前考えて、もしかぶっちゃったら面白みがなくなっちゃうからね。ちい姉たちには新ヒーローの名前予想なんて はっそー がないままで夏休みをむかえてもらおう、うん。

こーゆーのはイキナリ名乗る方がインパクトがあるんだよ。

 

 「好香……?」

 「なんなのよ急に。気味悪いわね……」

 

 思わず笑っちゃった私をおねーちゃん達がふしぎそーに見てる。けど、残念だね。まだひみつなんだから、とくにちい姉にはね。

 

 「なんでもないよ。できる女子にはね、ひみつがつきものなんだよ、ふふん」

 

それでも?まーちょっとくらいは?ひみつのニオイだけは、ただよわせてあげよーかなー、ってくーるに決めた。

 ……そうしたら、おねーちゃんたちが顔見合わせて笑ったんだけど何で?

 

 「なーに言ってんだか。ああ、なるほど。さっきのも大方、未春おばさんにでも入れ知恵されたんでしょ?」

 「あら、本当にいつの間にか秘密が似合う女の子になったのかもしれないわよ?ねー好香?うふふ」

 「2人ともなによその顔ー!?私をあまく見てたらびっくりするんだからねーー!!」

 

ちい姉は「未春おばさんも好香で遊ぶの程々にしてくれないと……」とか言って笑ってるし、おねーちゃんはなんか頭なでてくるしなによぅ!?

 

 

 くーるに決めたはずなのに、思ってたのとちがう反応されたのがなっとくいかない。

夕飯のあと、部屋に戻った私はまたいろいろ考えることになった。

 

 「も~!おねーちゃん達ってば私にひみつがある女子になったってゆーの、ぜんぜん信じてないでしょ!!」

 

くそう、こーなったら、いずれ正体明かした時の為になんとしてもコードネーム名乗りはかっこよく決めてやるんだから!エレメライザーをにぎりしめて、気合を入れ直さなきゃね。

 

 「次に しゅつどー しなきゃいけない時は気合入れていくからね、エレメリオン!」

 『勿論だ好香。悪に負けない為にも、その気合は重要だよ。』

 

私の決意に応えてくれるのはエレメリオンだけだよ、たのもしい。夏休み早々の新とーじょー、2人で目にもの見せてあげよう。

 

 『それじゃあこの調子で、学校の宿題も進めてはどうかな?最近、幾つも宿題をもらっていたと思うのだが。』

 「………………」

 

 エレメリオン、その発言は今の決意に水を差してくるやつだよ。当たり前のよーにふれてきたけど、それは夏休み直前の小学生にいっちゃタブーなやつなんから。

 

 「あのねエレメリオン。今あるのは“夏休みの宿題”だから、終業式すんでからでいーの」

 

ぱたぱたと手をふってエレメリオンの考えは ひてー する。そう、昨日でも今日でも、わたされる宿題はとーぜん夏休み用。だから、今日はまだ何もしなくていーの!夏休みは終業式おわってからなの!!はいこれでこのお話はおしまい!!!

 

 『しかし好香は、長期休みの終了直前になってお姉さん達に手伝ってもらっているだろう?少しでも進めておいた方がいいんじゃないかい?』

 「え、それは……いーの!(おねーちゃんとちい姉と)私が本気だせばらくしょーなんだから!!」

 

 よそーがいのしてきに言葉がつまりそうになった。

まさか私の宿題じじょーを知られていたとは……!けど、みとめちゃうと、エレメリオンまじめそーだからこの先も宿題について言われかねない。なんとしてでもごまかさないと。

 

 「それにっ、今日はほら、もっとだいじな……そう!コードネーム決めなんて、ヒーローとしての宿題をやったわけでしょ。学校の宿題ができなくてもしかたのないことだよ!ふかこーりょくってやつでしょ!?」

 『いや。マグニフィセントエージェントの使命も大事だが好香の生活も大事なことだ。勉強まで疎かにさせるわけにはいかない。』

 

うぐ、やっぱりまじめな しょーぶん してるエレメリオン……変身させるときの押しは強いのに。

私のために言ってくれてるのは分かる……でも今日は宿題なんてする気分になれないから、ぜったいにやだ!!

……こーなったら。

 

 「ふふん、あまく見ないでよ。私はマグニフィセントエージェントなんだから。去年までの私とちがうの!夏休みの宿題くらい、どーにでもなるから今日はきゅーけいするんだよ!!」

 『そうなのかい?好香がちゃんとできるなら構わないんだけれど……』

 「だいじょーぶなの!」

 

いきおいで、たんかきっちゃった。

 これでもう、夏休み中に宿題おわらせられなかった時は、エレメリオンにまでしかられるかもしれない、どーしよ……。

ううん、まだ夏休みは始まってもいないんだからダイジョーブだいじょーぶ!夏休みになったら本気だせばいーんだから。闇子ちゃん眼鏡だってあるもん。

それに、今年はおねーちゃんとちい姉の他にもトゥアールさんってさいきょーの助っとが期待できるんだからね。心配することないない!

だから今はマグニフィセントエージェントの出番にそなえることの方をゆーせんできるの!

 

 

 

 

 

 ――それなのにさあ。

こーやってヒーローとしてのじゅんびをととのえていた私は、夏休みの予定がないと言ってたちい姉が初日からぜんげんてっかいするとは思いもしなかったのです。

 




好香のコードネームが何なのか一番知りたいのは作者(切実)


・仮面ファイヤー1号
シリーズ元祖の仮面ファイヤーは、主人公【仮面ファイヤー1号/本梨憲 武(ほんなしのりタケシ)】の、悪の組織の魔手にかかった改造人間という暗い設定にバランスを取るようにコミカルなキャラクター、作風だった。

子供達に分かり易さを重視した大袈裟な一挙手一投足。「ミャ~~~~オゥ!」という独特な掛け声など、ともすればコント1歩手前の描写でありながら、その陽気な主人公が要所要所の山場に置いて僅かに覗かせる改造人間の苦悩も人気の一因。
後年の客演においても、シリアスやダーク調な作風の後輩達さえ笑顔で引っ張る頼もしさと面白さが同居したリーダーと描かれている。

近年は春のお祭り映画で、昭和ファイヤー全員を巻き込んで平成ファイヤー達と敵対するという盛大なドッキリを仕掛けるという登場を果たしている。
『ドッキリ大成功!!』のボードを掲げたが、当時の最新作主人公【仮面ファイヤー武者蜜柑】に「ぜってぇに許さねえ!」とガチギレされてタイマンバトルになるラストシーンは良くも悪くも話題になった。(好香の1号のイメージはこの辺りである)


・闇子ちゃんおーえん用の眼鏡
アイドル善沙闇子のファン御用達のアイテム。レンズ入りか伊達眼鏡かは人それぞれ。好香のものは恋香さんに貰った伊達眼鏡(視力に問題は無いので)。ちい姉を怒らせて没収された時もあったが返してもらった。
おねーちゃんからのプレゼント&闇子ちゃんの真似で、つけるとちょっとだけ頭がよくなった気がするアイテム。思い込みで実際、能率はちょっと上がってるらしい。
ANNKOスペック。


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第17話

ようやく原作イベントが見えた17話


ちなみにブログ版の先行ストックはあと3つ・・・(^u^)


 1学期の終業式がおわった。

つまり……たった今から夏休み!いえーい!!

だけど夏休みスタートしてすぐ、私はまっすぐ家に帰った。それは友達とちょっと遊んで帰ってもいーんだけど……遊んで帰りたかったけど。

私にもいろいろと りゆー があるの!

 

 

 「たっだいまー!」

 「おかえり好香……随分と大荷物ねえ」

 

 リビングにいたおねーちゃんが私を見て笑ってる。

うー、そうだよ。今日まで教室に置きっぱなしにしてた荷物がいっぱいで、両手も前もふさがってるの。わかったでしょ、これが理由。こんなじょーたいでで遊べるわけないでしょ!!

 てゆーか、おねーちゃん。すっとスマホ出してこんな重そーび してるカッコ撮るの止めてよ。

 

 「去年も言ったでしょう。夏休みの前にちょっとずつ持って帰らないからそうなるのよ」

 「だってめんどーだったんだもん。それにきっと いでん ってやつだもーん。どーせおねーちゃんだって、初等部の時は同じことしてたんでしょ?」

 「ハズレ~。おねーちゃんは計画的に持ち帰ってました~」

 「う……じゃ、じゃー私はおねーちゃんじゃなくてちい姉のいでん……」

 「はい残念でした。愛香おねーちゃんも考えて持ち帰ってたわよ」

 

おねーちゃんの小言を言い返したかったのに、全部ふさがれた。

なんてこと。おねーちゃんはまだしも、ちい姉はぜったい私と同じタイプだと思ってたのにぃ。

ウソだと思いたいけど、おねーちゃんのちい姉 じょーほー が正しいのは間違いないし……くそう。

 

 「ほらほら部屋に荷物置いて、手洗いうがいをちゃんとなさい」

 「はーい」

 

 

 

 着がえて部屋から出たら、ちょうど階段上がってきたちい姉とばったり会った。ちい姉も帰ってきたんだ。

 

 「おかえり、ちい姉!ついに夏休みだよ夏休み!!」

 「ん。ただいま好香」

 

……なんか変だなちい姉。元気ない……とはちがうかな。ちょっとそわそわ?ふわふわ?してる?いちおーはいつも通りのふりしてるみたいだけど、私の目はごまかせないよ。ふふん。

よし、ちょっとためしてみよう。

 

 「ゴリラらしくないよーちい姉」

 

ボソッと言ってみたけどはんのーしないで素通りされちゃった。おねーちゃんのとこまで階段ダッシュする準備してたのに。

いつもなら最低でも「だったら、リクエスト通り泣かしてあげようか?」くらい言ってくるスーパーゴリラなのに。これはやっぱり何かあったなちい姉、むむむ。

 気になるから自分の部屋にむかうちい姉について行ってみようとしたら、私のとなりに、スッと影がでてきた。

おねーちゃんかな?

と、思ったんだけど。となりを見上げたら、いたのはトゥアールさんだった。

 

 「あれ、トゥア――んむ」

 

トゥアールさんが、ひとさしゆびを口に当てて、しーっとナイショのジェスチャーをするから、あわてて両手で口をふさいだ。

私が静かにするのを かくにん したトゥアールさんはにっこり笑って、ちい姉に気付かれないよーにそっーっと、いっしょに部屋にはいっていっちゃった。

うーん、スパイみたいなこともできちゃうんだトゥアールさん。かっこいい……

 

 「でもだいじょーぶかなトゥアールさん?」

 

 ただこれはこれで、ちい姉のようすは気になるけど、こっそり部屋について行ったトゥアールさんも心配になるんだよね。ちい姉が しょーき に戻ったあとで怒らないといーんだけど。

 

 『好香。やはり彼女とは、一度話がしてみたい。』

 

 トゥアールさんとちい姉が消えたドアを見てたら、ポケットのエレメライザー(エレメリオン)から意外な声が。

 

 「エレメリオン?トゥアールさんがどーかしたの?」

 

エレメリオンがトゥアールさんを気にするなんて。ちい姉たちにはごあいさつしたいとか言ってたけど、トゥアールさんは?

 

 『詳しいことは少し長くなるから、また今度にしよう。だが私の推察が正しければ、彼女は我々の力になってくれるかもしれない。』

 

うーん?トゥアールさん頭いいから、お手伝いしてもらえるかも、ってこと?

ちい姉に たいこー していろいろ発明してるらしいトゥアールさん。そのトゥアールさんが、仮面ファイヤーや超戦隊みたいに私たちにアイテム作ってくれる博士に?

 

 「……いいかも」

 

そーぞーしたら、けっこーいいイメージ。トゥアールさんめちゃ頼りになりそう!

 

 「うんうん。わかった!新ヒーローのおひろめしたら、トゥアールさんにエレメライザー見せてみる!」

 『ありがとう。好香の準備ができてからで構わないよ。』

 

トゥアールさんに話すと総二兄にもバレちゃったりしないかなって、思ってたけど、博士になってくれるなら、ひみつの仲間だもんね。絶対ナイショにしてくれるはず。

 

 「これはますますしっかり新ヒーローデビューしなきゃいけないぞー!」

 『ああ。頑張ろう好香。』

 

夏休みすぐに新メンバーのめどがつくなんて、これはいい夏休みライフになる よちょー かも!えへへ。

 

 

 

 

 

 「あら、愛香と一緒じゃないの?好香」

 「んー、なんかね、ちい姉トゥアールさん(お友だち)が来てるから」

 

 リビングに戻ってきた私が、ひとりなことに首をかしげるおねーちゃん。このようすじゃ、トゥアールさんには気づいてなかったみたい。

これはつまり、トゥアールさんはスパイだけじゃなくて忍者みたいに気配も消せる?さすが。

 

 「だ~から~。私はちい姉がいない間におねーちゃんをひとりじめするのっ」

 

 ソファにすわってるおねーちゃんに飛びつく、えへへ。胸に飛びこんで、おねーちゃんがちょっとびっくりしてる。だって、ちい姉も大好きだけど、おねーちゃんだって大好きだもん私。

最近はほら、へんしつしゃ(エレメリアン)がらみのイベントめじろ押しだったから、ちい姉のほうが心強かったってゆーかさ……

 

 「ひとり占めされちゃった。それならお姉ちゃんは、好香ポイントを充電させてもらえるのかしら?」

 「いいよー!ぞんぶんにじゅーでんしてよね、おねーちゃん!」

 

おねーちゃんは、私をひざの上にのせると腕を回してぎゅーっと抱きしめてくれる。そのまま持たれかかると、背中にあたるかんしょくがやわらかくて温かい。いいでしょ私のおねーちゃん。

 

 「ふふ、好香はいつも愛香一筋だもの。むしろ今は、お姉ちゃんの方が好香をひとり占めかなぁー?」

 「えぇ~?おねーちゃんだって大好きだもん。ちい姉ひとすじって、そんなこと無いってば」

 「ほんとにぃ~~?」

 

にこにこ笑いながら、おねーちゃんが顔を近づけてくる。しょーじきに言っちゃいなさい、なんて楽しそうにしてる。

ちょっと、ゆだんしたらおねーちゃんはこれなんだから。

 

 「もー、おねーちゃんは ゆだん するとすぐイジワルゆーよね。てい」

 

からかってくるおねーちゃんにはこうだ。のぞきこんでくるおねーちゃんのほっぺをつついてやる。

 

 「あらら、でもね仕返しできるのは愛香おねーちゃんだけじゃないのよ?それっ」

 「きゃー」

 

おねーちゃんは、今よりもぎゅーっと私を抱きよせて頬ずりしてくる、くすぐったい。やったなぁもう。私だって負けないんだから。

 

 

 

 おねーちゃんと遊んでたら、ズバンズバンって感じのすごい音がして、天井がビリビリふるえ出した。地震!?

 

 「きゃっ!」

 「ひゃ!?」

 

思わず、おねーちゃんといっしょに天井を見上げた。

まだドッカンドカン音が続いて、私とおねーちゃんがソファから浮きそうなくらいに しょーげき がビリビリくる。

 

 「愛香ったら元気ねえ」

 「元気ってゆーかゴリラじゃんスーパーゴリラ」

 

おねーちゃんが苦笑いして、私はあきれたよーにため息。

地震かと思ったけど、天井―2階からビリビリくる しょーげき ってことはちい姉なんだよね。さっきは、そわそわしてると思ったら今度は何やってるんだろ。

え、まさかトゥアールさんがやられてる音じゃないよねこれ……?

 

 「……トゥアールさんだいじょーぶかな」

 「意外と心配性なのね好香。愛香がお友達相手に乱暴なんてしないわよ」

 

おねーちゃんは私の考えすぎだってクスクス笑う。けど、私は何回もそーゆー現場を見てるんだからね。笑いごとじゃないんだよ。

トゥアールさんはね、ちい姉の女子力(マジンパワー)にたえられちゃうお友だち(ライバル)だから、ちい姉が総二兄よりも手かげんしない相手なんだよおねーちゃん。

 

 しばらくするとウソみたいに静かになった。

ちい姉がやりすぎて、トゥアールさんがたえきれなくなったとかじゃないとーんだけど……

そーいのってたら「ごあああああ枕が遠心力で鉄の硬度を!?」なんてトゥアールさんの声が聞こえてきた。よかった、だいじょーぶそう。さすがトゥアールさん。

 

 

 

 トゥアールさんのさけび声が聞こえてからちょっとしたら、ちい姉がリビングに入ってきた。

ちい姉だけか。トゥアールさんいないや。

 

 「お友達、もう帰っちゃったの?」

 「ん。今日は、遊びに来てたわけじゃないから」

 

帰ったってゆーか、たたき出したんじゃないのかなーって、おねーちゃんたちの会話を聞いてて思う。ちい姉は窓からトゥアールさんを放り投げてもおかしくないからね。トゥアールさんも へーき で着地してそーなんだけど。

でも、ひと暴れしたせいかな?いつものちい姉にもどってる気がする。

 それでも念のためにかくにんしてみよっかな。

キッチン行って牛乳飲んでるちい姉に聞こえないくらいの声でぽそっとつぶやいてみる。いつものちい姉ならこれだって気付くはずだし

 

 「いまさら牛乳とかムダな努力でしょ」

 「こらチビスケ」

 

すぐ反応してギロッとこっちにらんできた怖っ。

だから、おねーちゃんの腕を引いて、かくれるように ぎゅーっとくっついた。ふふん、これでどーだ。

それ見たちい姉は、ため息つきながらソファにすわった。ふふん、おねーちゃんは味方だもん。

 

 「あらあら。好香を怖がらせちゃかわいそうよ愛香」

 「どう見たって生意気な顔しかしてないわよそのチビスケ」

 

うん、やっぱりいつものちい姉にもどってる。

 

 「好香と一緒にビックリしてたのよ。二階からディーゼルハンマー打ち込むみたいな音が聞こえてきたから」

 「なによそれ、大袈裟なんだから」

 

 キックでコンクリート壊せるくせに、どこがおおげさだと思えるんだろ。じかくしないと、そのうち家をくずれさせちゃうんじゃないのスーパーゴリラ。

 

 「ちい姉はさー。自分がゴリラじゃなくて、スーパーゴリラだってことを じかく したほうがいーよ。そーだよねー?おねーちゃん」

 

 おねーちゃんの言葉に苦笑いしてるちい姉に、真実を伝える。私のいうことにおねーちゃんが苦笑いしてるけど、ちゃんとちい姉に言った方がいーんだよ。スーパーゴリラを野放しは、あぶないんだから。

 そー思っておねーちゃんを見上げてたら、となりからにゅっと両手を伸ばしてきたちい姉が、私の顔をはさんだ。え、何?

 

 「はいはーい。帰ってから、ちい姉に暴言これで3度目ですねー好香ちゃ~ん」

 「いたいいたいいたたたた!!!!!」

 

笑いながらほっぺったりょーほーひっぱってきた!笑ってるくせに、力いれすぎ!!

それに3度目って、トゥアールさんには気付かなかったのに何で私が部屋の前で言ったことだけおぼえてんの!?

いたいいたい!

 

 「ほらこれよ。お姉ちゃんが大袈裟に言うからこのチビスケが調子に乗るんじゃないの?」

 「ふふ、私のせい?そうそう、二人が帰ってくる前に未春おばさんのところでコーヒー飲んできたけど、最近は不思議なお客さん増えたわね?」

 「あ~、うん……」

 

ちょっと!ちい姉になんとか言ってよおねーちゃん!ほっぺ引っ張ったまま話すの止めて!!未春おばさんのことは後でいーでしょ!?

ほら私のじょーたいよく見て!おねーちゃんのひざの上で抱っこされたままで動けなくて、ちい姉から逃げられないんだから助けてよ!!

いたいいたい!

 

 「大丈夫?周りの女の子にモテるでしょう、総くん」

 

だいじょーぶじゃないのは私!総二兄がかっこよくなってるとか今はいーから……いたたた!総二兄の話題になったからってよけーに力いれないでよちい姉!スーパーゴリラ!!

 

 「いひゃいいひゃい!いひゃいっへふぁぁ!!」

 「え、あ!ごめん、強く引っ張りすぎたわ」

 

私の涙声に気付いて、よーやくちい姉はほっぺを放してくれた。うぅ、いったぁぁいぃ……あとが残ったらどーすんのよ、ちい姉のばかぁ。

 

 「ちい姉なんかさっさとコクハクして振られちゃえばーか……」

 「お姉ちゃんもごめん、応援してくれてるのにって、なんだとこいつぅ……!!」

 「べー」

 

にらんでくるけど、そんなの知らないもん。ふんだ。

 

 

 「そんなこと言っちゃダメよ好香」

 「だってぇ……」

 

 おねーちゃんがこまった顔で私に注意してくる。そんなこと言ったって、ちい姉がらんぼーだからだもん。

……それはそーと、なんでスマホかまえながら私見るのおねーちゃん。

 

 「総くんに振られたら愛香おねーちゃん泣いちゃうわよ?いいの?」

 

う。それ言ってくるのズルい。

ちい姉は、元気でかっこいー方がにあうし、そーゆーちい姉が好きだもん。

今は、おねーちゃんの言葉で変な顔してるけど。

 

 「それはやだ……」

 「そうよね。ほんとは好香だって愛香おねーちゃんのこと、応援してるんだものね」

 「うん。ちい姉も総二兄も好きだもん……」

 

な、なんか恥ずかしくなってきた。うぅ、顔があつい。

思わず手でふたをしたら、頭の上から「あ、隠さないで好香」って声とスマホのシャッター音がパシャパシャした。

……なんでおねーちゃんはすぐにスマホ出してくるの。よけー恥ずかしくなっちゃうからやめてよぉもぉ~~。

 

 「な、なによこっちまで照れるじゃない。お姉ちゃんも好香をノせないでってば!!」

 

 顔赤くしたちい姉が、ボフッとソファの上に寝ころがった。なんでちい姉が照れるの?だから、照れるくらいならさっさとコクハクしちゃえってゆーのに。

 

 「それに、愛香おねーちゃんが振られちゃったら、お姉ちゃんずっとツインテールにできなくなっちゃう」

 

 おねーちゃんは、指先で私の髪をつまんで、ちい姉に向かってふりふりと振る。

そっか、『ちい姉と総二兄がコイビトになるまでツインテールにしない』って約束してるんだっけ、おねーちゃん。

 

 「そうだ。好香が見たいって言うなら、お姉ちゃんツインテールにしてみようか?」

 

じょーだんぽくおねーちゃんが言うけど、私が好きなツインテールはちい姉(とテイルブルー)だけだからね。

……待って、でも、ちょーっと気になる。うん、ちょーっとだけだからね?

おねーちゃんのツインテールってピンとこないけど、おねーちゃんのツインテールでしょ。もしかしたらちい姉のツインテールみたいに好きなやつかも。どうしよ。

 

 「え!?駄目だってば!!」

 

でもツインテールのおねーちゃんをイメージする間もなく、ちい姉ががばっと起き上がって、おねーちゃんを止めにきた。そんな本気であわてなくてもいーと思うんだけどなあ。

 

 「大丈夫よ。約束はちゃあんと覚えてるから」

 

ペロっと舌を出して笑うおねーちゃん。ほら、ちい姉からかってるだけだ。

 

 「愛香おねーちゃんが許してくれないみたいだから、ごめんね好香」

 

なんて、笑いながら頭を撫でてくる。そんなこと言って、ちい姉があわてるの最初からわかってたでしょ、おねーちゃん。

 それにしても、どーやったらノーダメージでちい姉からかえるようになるんだろ。強い。

 

 「私もまだ見たいって言ってないじゃん。それにちい姉泣いちゃいそうだし、見れなくてもいーよ」

 「約束ってほどのことじゃ……チビスケはうるさい、泣かないわよっ」

 

むむ、ちい姉がほっとした顔するから、私もしょーじきに言ったのに。なっとくいかない。おねーちゃんと態度がちがうじゃん。

 

 「ふふ、だって、とっても可愛くて忘れられないもの。今の好香くらいの愛香が『おねえちゃんがツインテールにしたら、そーじとられちゃうからやだぁ』って」

 「なにそれ!ちい姉そんなだったの!?」

 

 なつかしそーにおねーちゃんが話す私の知らないちい姉。

こっちの方がおねーちゃんのツインテールよりびっくりした。なにそのちい姉、めちゃめちゃ気になる。小魔王姫(サタンプリンセス)じゃなかったの。

ちょー見たい。

 

 「気になる好香?未春おばさんがその時の写真を撮ってくれて、お姉ちゃんの宝物よ。今度、見せてあげる」

 「やったぁ!約束だからね!忘れちゃダメだよおねーちゃん!!あー今すぐ見たーい!!」

 「あの可愛い愛香は、好香の宝物にもなっちゃいそうね」

 

写真とか、さっすが未春おばさん。わかってるぅ。ちょっと そーぞー できないちい姉、見るのめちゃめちゃ楽しみ。

やっぱり待ちきれないかも。今度なんて言わないで今すぐ見せてよおねーちゃん。

 

 「勝手にそんな約束しないでよ!」

 「わっ」

 

 さっきよりも顔真っ赤にして立ち上がったちい姉に、おねーちゃんのひざの上からひったくられた。

未春おばさんはほんとにっ……、なんてぶつぶつ言いながら、ちい姉は私をひざの上に乗せてソファにもどった。

また私の顔を引いて、真上からむすっとした赤い顔で見下ろしてくる。

 

 「あたしの目が黒いうちは、そんな写真(モノ)絶っっ対に見せないからね」

 「えぇー!なんでなんでケチーー!!」

 「な・ん・で・も・よ!!」

 

 ちい姉がまたおーぼーなこと言ってきた!おねーちゃんに写真見せてもらうくらい、どーってことないじゃん!!そんなだからまだ初等部に小魔王姫(サタンプリンセス)の伝説が残ってるんだよばーか。

 

 「むー。別にちい姉にたのんでないもん。おねーちゃんに見せてもらうんだから」

 

ふん。いーもん。おねーちゃんが持ってる写真なんだから、おねーちゃんに直接お願いするもん。

だけど、おねーちゃんのひざにもどろうと思ったのに、ちい姉がっしり私の身体をつかまえて放してくれない。

むう、そんなに私に見せたくないの。

 

 「だったら、ちい姉ここでそのお願い、もーいっかいおねーちゃんにやってみてよ!!」

 

 だったら写真はあきらめてあげるから、ちい姉が じつえん してみてよ。この だきょー案ならいいでしょ。

 

 「あら、いいアイデアね好香!」

 

おねーちゃんも手を合わせて喜んでる。どーだナイスアイデアでしょー。ほら、はやくやってよちい姉はやくー。

 

 「そんな子供の頃の恥ずかしいことできるかっ!お姉ちゃんまで好香に乗っからないの!!」

 「「えー」」

 「えーじゃない!!あたしの姉と妹は、こんな時だけ足並み揃えてくるんだから……」

 

声をそろえる私とおねーちゃんに、ちい姉は疲れたよーにまたソファに転がった。つかまったままの私は、ちい姉の抱き枕みたいになっちゃう。

 ちい姉といっしょだしこれはこれで。

 

 

 「あたしよりもさ。そういうお姉ちゃんは彼氏作らないの?」

 「今は愛香が心配でそれどころじゃないもの。愛香と総くんが恋人同士になってから本気出しちゃうわ」

 

 ちい姉の質問に、おねーちゃんはよゆーの答え。でもたしかに、おねーちゃんなら ゆー通りになってもふしぎじゃないって感じするもんね。

こーゆーのが、大人のよゆーってやつなのかな。

おねーちゃんに比べるとちい姉にはそんなのないなあ。写真ひとつでてれてるのに「あたしよりもさ」とか言えないでしょちい姉は。

 

 「ちい姉はおねーちゃんの心配してる場合じゃないでしょ。しっかりしないと総二兄つかまえらえないよ」

 「あんたは生意気。恋愛のれの字も知らないチビスケは黙ってな」

 

ぺちんっておでこはたかれた。せっかく、じょげんしてるのに しつれー だぞちい姉め。自分だってレンアイの前にコクハクもまだのくせに。

 

 「あら、分からないわよ?好香だって、気になる男の子がいたりするんじゃない?」

 「私?そーだなぁ……う~ん」

 「ぷぷ、このチビスケに?あるわけないってー……………え、もしかして、いるの?」

 

 私のこと?おねーちゃん達がじぃっと見つめてくる。

いいよ。ふふん。私はちい姉とはちがってね……と、いーたいけど。気になる男の子かぁ……うーん。ぱっとすぐには浮かばないなあ。

だって、ちい姉よりかっこいい男子とかいないもんね。せめてちい姉の足元くらいのレベルになれないと、かっこいいとは思わないんだよ私は。

 気になるって言えば……エレメリオンだけど。エレメリオンは男子とかそーゆーんじゃなくて、よくわかんない生き物?妖精?だし。かっこいいけど。

そーなると。

 

 「やっぱりいないかなあ」

 

私の答えにおねーちゃん達は顔見合わせて苦笑いしてる。しょーじきに言ったのになによ。

 

 「ほら、こんなのじゃない。そんなんで『秘密のある女』とか10年早いよねえ」

 「こんなのってどーゆー意味!?」

 

ちい姉が、私を持ち上げておねーちゃんの目の前につきだしてイジイワルに笑う。

ぐぬぬ、ひみつならあるんだからね!いつかばらした時に腰ぬかしても知らないんだから!!

 後ろのちい姉の言い草にふくれてたら、おねーちゃんが頭なでてきた。

 

 「ふふ、好香はこれからってことだものね。好香に好きな子ができた時は、お姉ちゃん達ちゃあんと応援するから教えてね」

 

さすが、おねーちゃんは いーこと言う。ちい姉はおねーちゃんを見習うべきなんだよ。

でも、おねーちゃんの おーえん は心強そうだけど、その時のちい姉って、私をおーえん てる よゆー があるのかなあ?

そー思ってちい姉をじーっと見つめたら、またおでこはたかれた。

 

 「私なんにも言ってないのにー」

 「顔見てれば生意気なこと考えてるのはわかるわよ」

 

 

 「でも、本当に早いよね。好香みたいに頭撫で撫でしてあげてたあの小っちゃな総くんが、もう私より背が高くなっちゃって……」

 「うん……そうだよね。あたしたち、もう子供じゃないんだよね……」

 

 私をなでなでしながらおねーちゃんが言ったことに、ちい姉がなんかまじめな顔してきた。

で、なんか決心したみたいで、私を下ろすとソファから立ち上がった。

よくわかんないけど、こーゆー時はやっぱりちい姉も私よりずっと大人だなーって感じがする。

 

 「別の頭を撫で撫でしてあげなきゃ」

 「お姉ちゃん、何か言った?」

 「2人が早く恋人になれますようにって、お祈り」

 

 そんなちい姉を見て、おねーちゃんがぽそっとつぶやいた。ちい姉はよく聞こえなかったみたいだけど、べつの頭ってなんだろ?どーゆーおいのり??

よくわかんなくて首をかしげてたら、おねーちゃんが気付いたみたいで、笑って―

 

 「そうね、好香が大きくなったらわかるかな?」

 

―教えてくれなかった。耳元で「それまではヒ・ミ・ツ」だって。けち。

だったらいーよ。それじゃ、私もとーぶん ひみつ は言わないからね。

 

 「それより、好香は愛香おねーちゃんを応援しなくていいの?」

 「あー、その言い方はズルイおねーちゃん!私だってちい姉のこと、いつもおーえんしてるの知ってるくせにー!!」

 

私の知らないおいのりしたからって とくいげ になってるでしょー。私がちい姉のことおーえんしないはずないでしょ!

 

 

 

 「そうだ。昨日はああ言ったけど、あたしも部活で合宿行くことになったの」

 「あら。じゃあ早速のチャンスじゃない」

 「チャンスって、もうっ。でも、まあ、うん……」

 

 は?

今、すごいこと言わなかったちい姉。

ちい姉のこと、おーえんしてる。おーえんしてるけど、ちょっと待って。おねーちゃんはふつーに話してるけど待って。

 

 「ちい姉どっか行くの……?」

 「え?だから合宿――え、と、部活で何日か泊まりで練習するのよ」

 

何日って何?何日って!?

 

 「い、いつ!?」

 「日時はまだ決まってないけどね。何、どうしたの?大丈夫よ、お姉ちゃんいるんだし。好香1人でお留守番とかになったりしないから」

 「そうよ。ちゃんとお姉ちゃんがいるわ」

 

そーゆーことじゃなくて!!夏休みなのにちい姉いないの!?いつもよりいっしょにいられると思ってたのに!!

新ヒーローのとーじょーだって見てもらうつもりだったのに……ちい姉が、ちい姉がいないとか、こんなの夏休み最大の事件じゃない……………!!!!!!

 

 




今回でようやく時系列ははっきりと原作5巻になったわけです(^u^)
ちい姉の様子が変なのはツインテール部でのイベントが原因だけど、好香は混ざれないので。


・恋香さんは妹()が別の頭を撫で撫でする日を待ってる。


性癖(ゆめ)のヒーロー「育ってるけどあの見た目は、開発者(ツィーカ)並行同一存在(近くて遠い赤の他人)ぽいので属性力変換技術をモノにできる素地或いはもう持ってる可能性ワンチャンあるのでは?」
幼女「頭いいし白衣だし博士になってくれると似合いそう」

目の付け所は悪くないけど、その痴女(ヒト)最初からツインテイルズの生みの親なんですよ。


・仮面ファイヤー1号
本筋には全く関係ないし好香の世代のヒーローでも無いけどなんか描いてしまった。読者目線だと何かおかしいどっか違うヒーローだけどこの世界じゃこれから40年以上続いてる(^u^)


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第18話

またもお待たせしました。先行ブログ版のストックが尽きないようにこっちの手もブレーキをかけてたので……

夏休み初日。つまりツインテール部は異世界に行くはずの18話


 夏休み一日目の朝。

そう、夏休みだからいつもよりゆっくり寝てられる、ベッドから出なくてもいい朝。時計を見たら……夏休みじゃ無かったら2時間目はじまってそうな時間だった。

 

 「うぅ……ねむいぃ」

 

でも私はまだ眠くて、ベッドから出る気になれない。だって、昨日はぜんぜん眠れなかったんだもん。

理由?

 

 「合宿ってなによ、ちい姉のばかぁ……」

 

そんなの、ちい姉が夏休みに家にいないとかゆーからよ!!何考えてんのちい姉!!

思ってもなかったじたいに、頭がこんらんして、エレメリオンとお話しすることもできなかったしちっとも寝付けなかったんだからね!!

 ぽつりと呟いちゃうと、ちい姉がいなくなっちゃうことハッキリ意識しちゃってさびしくなる。

だから!昨日の、なんでもないよーな態度で合宿行くとか言い出したちい姉を思い出したら、腹が立ってきた。なによなによ私の気持ちもけーかくも知らないで!

がばっと布団をかぶって、怒りをぶつけるよーに足をばたつかせる。

私がいくら蹴っても、ぽふぽふとベッドは受け止めるだけ。ちい姉みたいにベッドが割れそーになったりはしないよ。

 

 「もういいや。起きよ……」

 

ベッドを蹴ってるうちにだんだん目がさえてきた。寝ててもいーんだけどね夏休みだもん。でも今は、ベッドにいても合宿行くとかいーだしたちい姉しか頭に浮かんでこないもん……

ふらふらーと立ち上がって部屋から出て洗面所にむかった。

 

 

 「こーなったら、ちい姉が出かける日までに何とかして新ヒーローの とーじょー するしかないかなぁ……?」

 

なんか足がもつれるけど階段を下りながら、まだちょっとぼーっとする頭でこれからの よてー を考える。

 夏休みの間に、かっこいー私を見せつけるつもりだったけど、かんじんのちい姉がいないんじゃスケジュールの ちょーせー が ひつよー になるから。

合宿先でもニュースとかで見るかもしれないけど、それだとちい姉がちゃんとびっくりしてるかが、私にわからないでしょ。

私はちい姉をびっくりさせてやりたいの!

一番は、ちい姉が家にいる間に私とゆー新ヒーローの出番があることなんだけど。だからって、エレメリアンが早く出てこいってゆーのはちょっとちがうと思うし。

 

 「でも、エレメリアンがいないのに変身するのも変かなあ……うーん」

 

でもヒーローだけがしゅつどーしてるってゆーのも変な気がする。パトロール?でもキューティピュアもビーストマンも街を回るのに変身してないし……やっぱり変身は怪人が出た時にするものだよね。いやいやでも今回はちい姉に見せるのが間に合わないかもってゆー ひじょーじたい だし……でもだからって。

 寝起きの頭じゃいいアイデア浮かばない。うぅ、これもちい姉のせいだ。

 

 

 

 リビングのドアを開けたら、おねーちゃんとちい姉が何かお話してた。

 

 「おはよー、おねーちゃん、ちい姉」

 「おはよう好香。あらあら、夏休みになった途端にお寝坊さんね」

 「おはよ、ってうわ。なんて格好してんのよこの寝坊助は……」

 

声かけたらおねーちゃんは笑うし、ちい姉はちょっとびっくりしてる。いーじゃん、それが夏休みなんだから。で、ちい姉の はんのー は何……あぁパジャマのズボンがずり下がってたのか。歩きにくいと思った。

 

 「さっきから足がもつれると思ったらこれかぁ。でも夏休みだしいっかぁ……」

 「よくないわよだらしない。ほんっとにもー、休みになった途端、ダメな方にスイッチ切り替えちゃって」

 

 おーげさにため息ついたちい姉が、「どーしよっかあのチビスケは」なんておねーちゃんに言ってる。

むむ、自分だってさっそくどっかお出かけしそうなカッコでバッグ持ってるじゃん。夏休みだからって気が早いんじゃないの?

 

 ………え?

 ……お出かけ?

 

 

 「……?何、どうかした好香?」

 

 いやな予感がして、ちい姉のカッコをじぃーっと見つめちゃってたら、私の視線に気づいたちい姉が首をかしげた。

そのとなりにいるおねーちゃんは、私の様子に、はっとしたような顔してちい姉の方に勢いよく振り向いてた。なんだろ?

でも今はおねーちゃんのことよりちい姉だよ。まさか……ね。

 

 「ちい姉……そのカッコ何?お出かけするみたいに見えるんだけど、き、気のせい、だよね……?」

 

おそるおそるバッグを指差しながらちい姉に聞いてみる。声もちょっとふるえてたかもしれない。どーか私の勘ちがいでありますよーに!!

 

 「ん?そうよ。昨日言ったでしょ、部活の合宿。あれ今から行ってくるの」

 

………

…………

……………

 

 「えええええええええええええええええええええええええええええええ!!!??????」

 

なにそれなにそれ!?今からってどーゆーこと!?さけんだ私にちい姉がびっくりしてるけど、びっくりしてるのはこっち!!ちい姉自分が何言ってるかわかってんの!!?

 

 「なんで今から行くの!?」

 「な、なによ!?なんでって、そういうスケジュールなんだから―」

 「昨日はいつ行くか決まってないって言ってたくせに!!」

 「さっき決まったんだって。足元で大声出すんじゃないわよ、なにをそんな怒ってんのよ?」

 「だってだってっ………」

 

さっき決まったって……夏休みの最初から出かけることないじゃん!!なに怒ってるってそんなの、そんな……!え、まさか合宿って夏休みずっと………!!?

 

 「うぅ、うううぅぅ~~~……ちい姉のばかーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!」

 「は!?ちょ、ちょっと好k――」

 

 もういろいろ我慢できなくなってリビングを飛び出しちゃった。

 

 

 

 「は!?ちょ、ちょっと好香――なんなのよあいつは」

 

 呼び止める間もなく、リビングを飛び出していった好香に、手を伸ばしたまま固まる愛香。

寝ぼけ顔で降りてきたと思ったら半泣きで逆戻りしていく妹。訳が分からず見送るしかなかった。

 

 「あーあ、愛香がいきなり泊まりで出かける(合宿)なんて言うからよ」

 

同じく、階段を駆け上がっていく好香を見た恋香は、しまったなあ、という様子で少しばかり咎めるような視線を愛香に送る。

 

 「えぇ?いきなりって、他にどう言えばいいのよ……」

 

恋香の視線に心外だと目を丸くする愛香。

確かに出発は急遽になったが、元々の予定を伝えただけであんなに騒がれても困る、としか言えない。まして泣かれるようなことを言ったつもりは無い。

 

 「去年の修学旅行の時も大変だったのよ。でもあれで少しは慣れたのかなあ、と思ってたんだけど。今度は【夏休み初日から愛香がいない】って心の準備がなかったのねえ」

 

去年……の出来事を懐かしむように苦笑する恋香。

そして愛香も姉の語るエピソードを思い出して、うげ、と息を詰まらせた。

 去年。つまりは中学生最後の年には当然、愛香も修学旅行があった。

一週間程度、愛香が家にいないと知った時の好香は、それはもう大変だったのだ。

 当時、愛香は一緒に行く、と言いはる妹を【修学旅行に興味がある】だけと思い、適当にあしらって出発した。

結果として、それは失敗だった。

総二と進展できなかったこと以外は概ね楽しんだ修学旅行から帰ってみれば、砲弾のように突撃した好香にボディへの頭突きか抱きついたのか分からないことをされたのが初め。妹はそこからしばらくくっついて離れてくれなかった。数日間、何を言っても離れないチビスケに辟易としたものだ。

しかし、自分がいない間、まるで電池が切れたように放心している好香の映像を恋香に見せられると、ちくちくと心が痛むわけで。無下に引っぺがすのも躊躇われる……という地味にハードな修学旅行明けになったのだった。

 もっとも恋香にとっては、ちい姉欠乏症の好香、文句を言いながらも妹に最後まで付き合う愛香、の両方を嬉々として摂取したり映像保存して堪能できた充実の日々だったのかもしれないが。

 

 「あ~~……そうだった。構ったら煩いし構わないとめんどくさいんだからもぉぉ~~……」

 

当時の気疲れが掘り起こされ、頭を抑える愛香。

 そして出発がほぼ当日発表の形になった今回。言われてみれば、下手をすると前よりもぐずぐずと凹んだり、その後に貼りついてくるかもしれないのが容易に想像できた。と言うか今しがたリビングを飛び出した様子からすれば、このままではほぼ確定事項。

想像するだけで疲れる。ため息がこぼれた。

 加えて今はツインテイルズの活動もあることを考えると、ずっと構ってもいられない。なによりめんどくさい。

結果として貼りついてくる時間が増えるのだろう。また気が滅入る。

 

 (好香の辛気臭いの顔なんて見たくも無いっていうのに……)

 

それ以上に、ちょろちょろと動き回って笑ってるのが、あの生意気な妹には似合っているという気持ちもある。

 つまりは、妹がしょぼくれるのを分かって放置する選択肢は愛香にも無いのである。

 

 「出かける前にご機嫌とっておいた方がいいんじゃない?」

 「はぁ~。しょ~うがないなぁ、末っ子サマをおだててきーまーすー。あたしがいない間はお姉ちゃんが何とかしてよ?」

 

 出発前のとんだ一手間に頭を振る愛香。帰ってからの面倒は少しでも減らしたいので、恋香にも合宿中のお守りを念押した。

 

 「大丈夫よ。私はどんな好香でもイケるもの」

 「お姉ちゃんは他人事だと思ってぇ……」

 

穏やかな笑みに見かけたいい笑顔で親指を立てる恋香に、愛香は眉がハの字にならざるを得なかった。

このできた長女は、三女についてはその百面相を楽しんでいる節がある。またその録画を優先して、こちらの気疲れは考慮せず最低限のフォローしかしてない好香を渡される気がする。こういう場合は今一つ信用ができなかった。

 

 実際の所、愛香の自覚が薄いだけで、恋香は【振り回される愛香】についても楽しんでいる。当てにできなくて当然なのである。

 

 

 

 「ほんっとにもー。ほら来てやったわよチビスケー」

 

 リビングを出て好香の部屋に向かった愛香は気怠そうにドアを開けた。

ノックはしてない。どうせ、さっきの様子だと拗ねて無視するのは分かり切っている。

 

 「あれ?」

 

 想像と違う光景に愛香はパチリと瞬き。

てっきり布団にくるまってベッドで拗ねていると思っていた好香の姿が無かった。

 

 「またあたしの部屋に入ってるわねあいつめ」

 

と、いうことは例によって自分の部屋だろうと悟る愛香。

不機嫌にさせた相手の部屋で拗ねるとかどういうつもりだ、小さい仕返しのつもりか?なんて、妹の発想を推察して肩を小さく竦めた。

 

 しかし、改めて自室のドアを開けると、そこにも好香はいなかった。

 

 「え?あたしの部屋でもないの?」

 

物音はしてないので、知らない間に玄関から出たということも無いはず。いつもと違うパターンに首を傾げた愛香。

と、その目に開かれた窓が映った。

 最近は毎日のように、隣家の総二の部屋に飛び入りする通路になっていて、窓なのか扉なのか役割が怪しかったりするそれ。

ついでに、その窓から見える総二の部屋の窓も開いていた。

 

 「んん……?」

 

好香()の居場所に察しがつき、愛香の表情がちょっぴり【怒ったちい姉】になった。

 

 

 

 ――数分前に戻って。

 

 「ちい姉のばかばか!!」

 

リビングを飛び出して一直線に自分の部屋に走った。

ちい姉がなんか呼んだ気がするけど知らないもん!

ベッドに飛び込もうってドアノブを掴んで……あることに気付いたの。

 

 「いきなり今日から合宿って……」

 

そのよてーって誰が決めたんだろ?

合宿……部活……じゃあそーゆーの決めるのって ぶちょー かな。ちい姉の部活ってツインテール部?だし ぶちょー って言ったら……

 

 「むむむむむ……!」

 

ちい姉が出かけちゃう原因がわかった。わかったらその相手に腹が立ってきた。

こーしちゃいられないこーなったら じかだんぱん してやる!

 自分の部屋のドアノブから手を放して、ちい姉の部屋のドアを開けた。

窓から見えるおとなりの窓は――よし、開いてる!

私は、窓枠によじ登って、おとなりの―総二兄の部屋の窓に飛びこんだ。

 

 「てぇいっ!」

 

 

 窓から総二兄の部屋に飛び込んだら、ぼふっとベッドに落ちた。

がばっと顔上げたらびっくりしてる総二兄が目の前に。総二兄みつけた!!

 

 「好香!?何してんだ危ないだr」

 「そーじにーでしょーーーー!!!ちい姉をいきなり連れてくのはーーーーー!!!!!」

 

総二兄がなんか言い終る前につめ寄った。だって、こーぎ するのは私だもん!総二兄はだまって聞くの!!

 

 「なんで夏休みの最初の日から合宿にしちゃうの総二兄のばかーーーー!!」

 

総二兄の胸元をぎゅっとつかんで文句を言ってやる。なによ!がっくんがっくん揺れてないで なっとく のいく答えを言ってよ!無いなら合宿なんか反対だもん反対!!

 

 「ちょ、いきなりなんだ……それより揺らすなっ、お前の力で引っ張ったらシャツが破れる破れる!!」

 「シャツよりちい姉でしょー!!私のちい姉とのよーてーーいぃぃーーーー!!!」

 「おわっ!!」

 

 ゆさぶってたら、総二兄がバランスくずして引っくりかえった。

よし、逃がさないように上に乗っちゃえ!

総二兄のお腹にぺたんと座った私は、まだ何も言わない総二兄を見下ろした。しらばっくれよーったってそーはいかないんだからね!

 

 「これで逃げられないからね。さあどーゆーことかせつめーをぶっ?」

 「いてて……ちょっと待てって。説明してほしいのは俺だよこの小型猛獣め……!」

 

 総二兄のじんもんを続けよーとしたら、両手伸ばしてきて顔をはさまれた。振りはらおうとしたけど、しっかりつかまれてて顔が動かせない。ぐむむ。

 

 「まずは落ち着いて順を追ってだな……いや、その前にちゃんと服を着ろ。家の外に出てくるかっこじゃないだろ!」

 

 総二兄は私を見て呆れたように言ってくる。

ああそっか。起きた時のかっこのままあわててきたから、パジャマの下が脱げて片足に引っかかったままになってた。

ってそんなのどーでもいいし!!

 

 「それどころじゃないでしょ総二兄!!」

 「こっちの台詞だ!それどころだよ!!」

 

うぐ。なんで総二兄の方がさけぶの。でも今ちゃんとはきなおそうとしたら総二兄の上からどかなきゃいけないし、事はちい姉の今後についてだからホントにそれどころじゃ……

 

 「だって急いでたし……総二兄にげない?」

 「逃げない逃げない。ごちゃごちゃ言う前に服を着るのが先だ馬鹿。はぁぁ~~……愛香も恋香さんもズボンも穿かずに走り回るチビを放って何してんだよ……」

 

 下じきになってる総二兄が頭を抱えて せーだい にため息をついてる。

何よ。私がこんなにあわてなきゃいけないのは、総二兄が夏休みそーそーにちい姉を連れて行こーとするのが原因なんだからね。

 

 「何してるっていーたいのはこっちだもん。わかってるの?」

 「だから口答えの前に!はしたないから身なりを直せ!!」

 

 口をとがらせたら、私の下じきになったままの総二兄が床をたたいてさけんだ。

これじゃ叱られてるみたいじゃん、怒ってるのは私の方なのにぃ。

 

 「トゥアールストライク!!」

 

 「うおおお!?」

 「ひゃあ!??」

 

 総二兄の上からおりよーとしたら、イキナリ部屋のドアが蹴り開けられた。

間一髪で総二兄は飛び起きて、頭に当たりそうだったドアをスレスレで避けた。

その総二兄にのしかかってた私は、とーぜんいきおいで引っくり返るはずだったんだけど、そーならないようにしっかり総二兄に抱きとめられてた。

 ドアを蹴り開けたのは……トゥアールさんだった。

トゥアールさん、すごいあわててたみたいで息を切らしてる。でもキックでドア開けるとか、トゥアールさんもちい姉みたいなことできるんだ。

 

 「ぜーぜー……何気なくタブレットにカメラ中継したらまさかの光景。いくら好香ちゃんでもこれはダメです!!ダメ!!」

 

 キッと眉をつり上げたトゥアールさんが私を指差してさけんだ。え?私!?

 

 「え、その、あの」

 

びくっと体がふるえた。

トゥアールさんがこんなに怒るなんて、かっこを気にせず飛び出してきたの、そんなにいけなかったかな……

でもでも、ちょっとぱんつだけでおとなりの家になぐりこんだくらいで大したことは……

 あれ?ちょっと れーせー になると、そーとーダメなかっこしてる気がしてきた。確かにトゥアールさんにまで見られてると、はずかしくなってきたかも……

 

 「ほら。トゥアールだってこんなに怒るんだ。好香はもうちょっと――」

 「総二様を押し倒してその先まで行くのは私ですからね!!優しいトゥアールさんでもこれは好香ちゃんにだって譲れません!!!」

 

 「何の話だあああああああああ!!!!!怒りのポイントが違うだろそこじゃねえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

 

あれ?トゥアールさんが怒ってるのって別のことなの?総二兄がさけんでるけど、それじゃトゥアールさんなんで怒ってるの?

いやでもでも、トゥアールさんが怒ってる理由はよくわかんないけど。服着てないのしかられてるんじゃないなら、私も引き下がるわけにはいかない。

 だってそうでしょ。

 夏休みの間ずっとちい姉がいないとかそんなのやだ!

新ヒーローの自慢もできないし、宿題だって手伝ってもらえないんだよ!それにそれに、いっしょにご飯食べたり遊んだりもできないんだよ!いっしょにも寝れないし……

もーちょっとちい姉といっしょにいたいよぉ……ちい姉といっしょにいられるようにしてほしい……

 

 「だってだって、そんな夏休み最初から(合宿なんか)するなら、いっそ私もさそってくれたっていいのに……」

 

 トゥアールさんにツッコんでる総二兄のシャツを引いて、不満のひとつを伝えた。

考えたらまたさびしくなってきちゃったせいで、俯いて声があまり出なかったけど。

なんで私はちい姉といっしょにいられないの?どーしてもちい姉が行くなら私もついていきたい。

 会話を止めた2人が、キョトンとして私を見つめる。変なこと言ったかな?

 

 「えぇ?好香もしかして一緒に―」

 「――っ!!なるほど好香ちゃんは、私に総二様と一緒に誘われたかったからそんなかっこだったんですねじゅるる」

 「トゥアールなんて?」

 

総二兄もトゥアールさんもちょっとは分かってくれたみたいなんだけど。総二兄の方は、なんかトゥアールさんの方を見て固まっちゃった。

 

 「そういうことでしたか。いやこれは怒ったトゥアールさんが大人げなかったですね。総二様と極上の幼女(好香ちゃん)のハッピーセットなんて大歓迎ですよもちろんグフフ」

 「え!それじゃあ私もいいの!?」

 「ちょっと待ってくれ話が噛み合ってる気がしない」

 

トゥアールさんが私も来るのOKだって!

ちい姉といっしょにいられるなら家でも合宿でも私はぜんっぜんかまわないから。むしろちい姉とお出かけできるんだと思ったら合宿の方が……えへへ。あ、それならおねーちゃんもいっしょに来れないかなあ。

 でも総二兄はひょーじょーが固まったままストップかけてくる……ダメなの?

 

 「大丈夫ですよ総二様。もうすぐ出発時間ですし、今はちょっと好香ちゃんをつまむだけでおひひひ……」

 「待て待てやっぱり噛み合ってないだろ大丈夫に思える顔じゃねえよ!!」

 「総二兄、私じゃダメなの?」

 「そういうことじゃなくてな!?ややこしいからちょっと待っててくれるか好香!」

 

トゥアールさんと総二兄がまた揉めだした。がんばって総二兄をせっとくしてほしいなトゥアールさん。

これでなんとかちい姉といっしょにいられるようにならないかなあ……

 

 話が終わるの待ってたら、トゥアールさんが笑顔で私を見た。わぁ、ちょっとドキッとしちゃうくらいキレイな笑顔。やっぱりトゥアールさん美人。

 

 「絶対、誘ってあげますから!今はちょっとペロペロするだけで我慢してくださいね好香ちゃん!!」

 「え?」

 

 なんか白衣を脱いだトゥアールさんが抱きしめてきた。けっきょく、私は合宿いっしょに行けるのかな?

トゥアールさんに期待していーのかな。

 

 「トゥアールさんにお願いしてもいーの?」

 「ふへへ、そうですトゥアールさんにお任せですよ。まずはその可愛いぱんつを脱い――」

 

 

 「させるかクソボケロリコン痴女おおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 「幼女から誘われて同意の上だったはずなのにいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

 「え?え!?」

 「おあああああああ壁ええええええええええ!!!!!」

 

 トゥアールさんがだんだん笑顔をぴくぴく震えさせながら顔を近づけてきたと思ったら、いきなり吹っ飛んで壁をやぶって向こうの部屋の壁に突きささった……

ななななななに!!??

 じょーきょーがさっぱりわからなくなって目をぱちぱちさせてたら、誰かがぽん、と肩に手を乗せた。

総二兄、じゃないや。壁の穴を見てヒザをついてる。

 

 「ふぅー……好香」

 「あれ、ちい姉?」

 

ちい姉だった。いつの間にかお部屋にいる。

あ、カーテンが揺れてる……そっか、私と同じで窓から入ってきたんだ。

でもそうだね。トゥアールさん吹っ飛ばせるのなんてちい姉しかいないよね。

 

 「あのね、聞いてちい姉!合宿だけど私―」

 「その前に、ね」

 

それよりもトゥアールさんが私も合宿来てもいいって、OKしてくれそうな感じだったのを言わなきゃ!

と思ったんだけど?

ちい姉なんか右手を振り上げてるんだけど??え?

 

 「あんたもあんたで!!何してんのよチビスケええええええ!!!!!」

 

ごどん。

 

ものっすごい音が頭にひびいた。

 

 「いいいぃぃっっっ~~~~~~~~~~……………たああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~いぃぃぃいいいいい!!!!!!」

 

いたいいたいいたいいたいいたいいたい!!!!!!!!頭どころじゃない全身がびりびりしてくる!!!なにすんのちい姉!!

 

 「あううう……なにすんのちい……いたぁぁぁいいい~~~~~~~~!!!!!!」

 

だめ。痛すぎて文句言うどころじゃない。目もちかちかしてきた。

ちい姉なんでぶつの。なんでなんでぇ……いたいよぉぉぉ~~~。

 

 「ほんっとにもぉ~~~。出かける直前だってゆーのに、ウチのチビスケがごめんねそーじ……」

 「いや、それよりも壁とかがその、な……おう」

 

痛すぎて部屋をごろんごろん転がってる私を放っておいてちい姉と総二兄は何してんのよばかぁ!……いたいいたいぃぃぃぃ~~~~~~~!!!!!!!

 

 




ツインテール部がすんなり異世界合宿に行けるとは言っていない(^u^)

アルティメギルも育成休暇の声名を出してますが、ちい姉が気がかりすぎて好香はまだ知りません(エレメリオンは知ってる)

これでもちい姉はちゃんと妹に手加減してるんですよ壁に突き刺さってる痴女を見て下さいよ。


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第19話

遅れたことでちょうどツインテール部の夏合宿と現実の月が重なってきてたのにまたもそこからズレてしまった……\(^o^)/

愛香さんの誕生日に公開された俺ツイ新エピという供給でテンション上がって、急遽仕上げることができた第19話


 「うわあああんん!!ちい姉がイキナリぶったぁぁぁ~~~~!!私なんにもしてないのにぃ~~~ひどぉいいぃぃぃ~~~~~!!!!!」

 「うるさい!あんたよくそんなこと言えるわね!!」

 

 姉のゲンコツにわんわん泣く妹と説教する姉。それと部屋をぶち抜いた先の壁に突き刺さっている白衣の美少女。

部屋の主である俺は、この状況をどうればいいんだ……

 

と、頭を抱えているところへ、インターホンの音が聞こえた。

 

 「あぁ~……なんなんだよ、もう。ん?今のは、慧理那たちも来ちまったか……」

 

願わくば、これが状況を好転させる福音であってくれ。

 

 

 

 俺――観束総二の今の心境を一言で表すならば。

 困った。

これに尽きる。

 俺の部屋への乱入に次ぐ乱入の大騒ぎから数分。

現在は場所をリビングに移し、登場人物は俺を含め六名となっていた。

まずは俺。

そして壁に突き刺さったリカバリーを終えてピンピンしているトゥアール。

更に、慧理那と彼女のメイドで護衛兼ツインテール部顧問の桜川先生。

もともと合宿の出発時間が迫っていたので、こっちの騒動が収まるよりも二人が来るのが早かった。

で、この四名の視線の先にいるのが残る二名。

 

 「あんたはもう……朝から何回、ため息つかなきゃいけないのよ」

 「だってだって……ぐす」

 

仁王立ちで騒動の発端()を見下ろす愛香(ちい姉)と、その怒るちい姉を涙目で見上げている騒動の発端(好香)

騒動の中心たる姉妹である。

 

 「だから!あたしは学校の部活!その合宿なの!あんたがついて来れるわけないでしょ!!」

 「そ、それでもっ、な、夏休みにちい姉がいないとかやだぁぁぁ~~~~~~~~~~~っっっ!!!」

 「あぁぁ~~~もぉぉぉぉぉ~~~~~~!!」

 

 リビングに移ってから、愛香と好香の間で同じようなやり取りが繰り返されていた。今ので何度目だったかな……

好香は泣いているが、愛香も聞き分けてくれない妹に頭を抱えていた。泣く子と何とやらには勝てないと言うが、この通り、泣いてる好香には愛香でも押し切れないものがあるんだよなあ。

聞き分けてくれない妹にお手上げになった愛香の、好香の鳴き声に負けず劣らずの叫び声が上がった。

 

 そう。俺たちツインテール部――つまり、ツインテイルズは夏休みに強化合宿を行うことにしたのだ。

それが出発直前に“愛香を行かせまいとする好香”なんて思わぬトラブルに見舞われるとは。

 

 「ついてっちゃダメならちい姉が行かないでよぉぉ~~~~~!!!」

 「そんなのできるわけないでしょ……どうしたら諦めてくれるのよ」

 

 さっき愛香に小突かれた(というのレベルの音では無かったが小突いたということであってほしい)痛みで泣いたのが引き金だったんだろうな。“ちい姉と一緒にいたい”と不満を吐き出す好香は、愛香にしがみついて離れそうにない。

いよいよ腰にしがみついてまでわんわん泣く妹をどうすることもできず、愛香の方は疲れた様子で声が小さくなってきた。

 

 「うーむ。津辺のやつ、これほど妹に執心されているのか」

 

 桜川先生は、全力で泣き落としにかかっている好香をいっそ感心した様子で眺めている。

 

 「感心してないで知恵を貸してくださいよ。仮にも教師だし、こういう場合の子供に上手いこと言いくるめられる案とかありませんか?」

 「無茶を言うな。私の本業はお嬢様の護衛だし、教師と言っても担当はお前たち高校生だからな。これが津辺と双子の弟くらいなら婚姻届を渡して執心の対象を私に変えられるんだが、あんな女児ではな……むしろあの粘り方は参考になるというか。うむ、どうだろう観束。お前が婚姻届にサインをしなければ津辺の妹を止めないと強気に懇願してみるというのは?」

 「どうだろう、じゃない!この流れで当然のように婚姻届を持ち出さないでください!!」

 

縋れるなら藁でもいい現状なので、教師というだけで我ながら無茶振りを桜川先生にしたと思った。が、3倍返しくらいの無茶振りに襲われた。

このメイドさんが婚期を逃すまいと婚姻届を常載している人なのは慣れてしまったけど、日進月歩で婚姻届を押し売りするスキルに磨きがかかっている。子供の駄々からも技を見出さないでいただきたい。それ世間一般では、懇願でなく脅迫って言いませんかね。

 

 ともかく。ずっと好香を知っている俺だって、ここまでとはちょっと予想外だったというか。

これまで愛香が学校行事なんかで外泊になる時は当然、俺も同様のスケジュールだった。その間の好香の様子は、後日に恋香さんの録画を見せてもらったりしてたんだが、その映像よりも大人しくなるどころかパワーアップしている気がする。

……いや、違うな。思い返せば恋香さんのアルバム映像でも成長する程にパワーアップしていた気がする。

両親が海外出張になった時はすんなり見送ってたと思うんだけどなあ好香。相手が愛香だとこうも嫌がるのか。

 

 「正直、慧理那が外泊許可もらうのが一番の問題だと思ってたからな。こんなことになるとは……」

 「わたくしも我が家が合宿の問題だとばかり思っていましたわ。ですが、どうしましょう……好香ちゃんのあの様子だと、初対面のわたくしは勿論、観束君が諭しても聞き入れてくれるでしょうか?」

 「そうなんだよなあ……」

 

 俺と慧理那は困り顔を見合わせた。

慧理那は家の格式が高い、いわゆるお嬢様だ。なので部活の合宿とはいえ外泊許可が下りるのかという不安があり、そこが事前の最難関だと思っていた。

結果としては、思っていたよりもすんなり許可が下り何の憂いもなくなったのだが。

 

 「好香だってそのうち修学旅行とか行ったりするんだからね?あたしは付いていけないのよ?」

 「しゅーがくりょこーは夏休みにはないもん」

 

憂いは無くなったと思ったんだけどなあ。

 

 愛香にしがみついたまま、説得からぷいっと顔を背ける好香。まったく、落とし穴は何処にあるか分からないものだ。

慧理那の言う通り、好香特効の愛香でさえ説得に苦戦している現状を見れば俺たちに何ができるのか。

 この合宿がただの部活なら、最終手段としては好香も連れていってやる、というのも出来なくはなかった(それもギリギリだと思うが)。しかし、俺たちの部活はツインテイルズ活動の方便であり、今回はヒーローとしての強化合宿。

加えて――合宿場所はなんと異世界なのだ。

とてもじゃないが好香を同伴させるのは無理だ。何としてでも諦めてもらうしかない。

 

 「いっつも生意気なくせにこういう時だけ変に素直なんだからぁ……もうちょっと意地張って『ちい姉がいなくても何ともないよー』とかないの?」

 「……ちい姉が夏休みにいない方がやだ」

 「これなんだからぁぁ~……」

 

……諦めてもらうしかないんだけどなあ。

 

 愛香はしゃがんで好香を抱きしめながらお手上げとばかりに天を仰いだ。そして、ちらりとこちらを振り向くと、援護射撃をしろとアイコンタクトを取ってきた。

すまん愛香。援護したいのはやまやまだが、今の好香にどう言えば効果的なのかがまじで分からん。

 

 「はいはいはい!幼女に別れを惜しまれ泣きつかれるなんて良シチュは恐怖で泣き叫ばせる蛮族には似合わないと思います!!」

 

 愛香の援護要請にここぞとばかりトゥアールが名乗りを上げ、豪快に背中から撃ち抜いてきた。

今まで静かだったのは、泣きつく好香を邪悪な目で凝視して涎を零し、泣きつかれる愛香をこの世ならざる怪異を見てしまった目で慄く、という忙しない二面相していたからなのだが、ついに抑えが利かなくなったのか。

 

 「好香に涎をつけるんじゃねええええええええ!!!」

 「天使の好香ちゃんは女神のトゥアールさんが涙をぺろぺろしてあげまおぎゃああああああああああ全身がべろべろになる恐怖うううううう!!」

 

だが背中から撃ってもその壁は頑丈すぎた。

人体構造を無視した、にゅるんとしか形容できない流体じみた動きで好香に絡みつこうとしたトゥアールを、愛香は好香を抱きしめたまま片手掴みで鞭のように振り回していた。

風圧と恐怖で歪む美少女だったはずの顔が縦横無尽に軌跡を描いている……

 

 

 

 どーしてこーなったのか。

ちい姉の合宿について総二兄にじかだんぱんしに行ったら、追っかけてきたちい姉にぶたれて。そしたらなんかもーちい姉に行ってほしくないってことしか考えられなくなっちゃって、ちい姉にくっついてる以外になにもできなくなったんだよね。

だってしょーがないでしょ!

なんかちい姉怒るし、夏休みにいないくらい大したことないみたいに言うんだもん!!なんでちい姉いなくなる上に怒られなきゃいけないの!?ってなったら、どーしよーもなくなったんだもん。

 

 「ちい姉どーしても行っちゃうの……?」

 「深刻な顔やめなさいよ生き別れってわけでもないでしょうが」

 「ぶああああああああああああああああああ」

 「そうかなぁ……」

 「そうよ!夏休みの合宿だって言ってるでしょうが!!」

 「ぶああああああああああああああああ」

 

私の頭をぽんぽんってなでてくれるちい姉は、怒った顔からすっかり困った顔になってる。うー、私のわがままかもしれない。でもわかってるけどそれでも。

 

 「ぶああああああああああああああああ」

 

……ちい姉いつまでトゥアールさん振り回してるんだろう。だんだん叫び声が気になってくるんだけど。

 あ、そうだ。

 

 「トゥアールさんは大かんげーって言ってくれたの……それでもいっしょに行っちゃダメ?」

 

総二兄のお部屋では、ちい姉がイキナリぶってきたから言いそびれちゃったんだけど、トゥアールさんOKしてくれたんだよね。どうかな?

 

 「はぁ?……それ多分そういうことじゃないわね」

 「ちがうの?」

 

ちい姉は一瞬、目を丸くしたけど、すぐにちがうって言ってきた。ちょっとだけトゥアールさんを振り回す勢いが強くなった気がするからホントみたい。

じゃあトゥアールさんが かんげー してくれたの何だったのもう。

 

 「ぶああああああれはああまりの可愛さに目が眩んじゃっただけでごめんなさい好香ちゃんんんんんんんんんんん」

 

トゥアールさんもぶぉんぶぉん風を切りながらてーせーしてきた。何それそんなのありなの!?トゥアールさんは味方だと思ってたのに!!

 

 「そんなぁ……」

 「ぶああああああああああ合宿先はちょおおおおおおおおおおおっと遠い所になったんでええええええええ好香ちゃんをおおおおおおおおお一緒に連れて行ってあげるのは難しいんですよおおおおおおおおおおおお」

 

ぱん、と手を合わせて期待させてごめんなさいってトゥアールさんがあやまってくる。ちい姉に振り回されてはっきり見えないから多分だけど。

 

 「ぶああああああああああああああでも愛香さんがお留守番はありだと思いますよおおお総二様はこの私に任せて愛香さんは部室の掃除に励んでくれるなら大歓迎ですよねぶははははあべっしゃあああああ!!!!!!」

 「床の埃もはたくべきよねえ!!」

 

その代わりにちい姉のお留守番を てーあん してくれたトゥアールさんだったけど、思いっきり振り下ろされて床を人型に凹ませた。

総二兄が「ウチのリビング……」ってつぶやいてるのが聞こえたし、ちい姉もーちょっと気をつかった方がいいのかもよ。

 

 ちい姉がトゥアールさんを手放して(叩きつけて)、味方が誰もいないことがはっきりしちゃった。私はちい姉の背中に回した手に力を入れて、見上げることとしかできない。ちい姉はむつかしー顔して私を見てた。うぅ、ちい姉またキツイこと言ったり引っぺがしたりしたら私は泣いちゃうんだからね!私がちい姉から離れられると思わないでよ!!

 ちい姉はちらっとだけ総二兄を見て、すぐ私に視線を戻した。私を見るちい姉は、……?なんかちょっと顔紅くしてる?

 

 「これ以上は時間が勿体ないし……く……こんなの言いたくなかったのに」

 

今度はぶつぶつ言いだした。私を見る目がちょっとキツくなった。な、なによ。今そんな顔されたら私は泣くんだからね!?

そー身構えたら、両手でぎゅっと私を抱きしめてくれて。

 

 「好香さぁ。あたしを応援してくれるんじゃなかったの?」

 

総二兄に聞こえないように、私の耳にそーっとささやいた。

 

 「あたしだけ合宿に行けなかったら、と、トゥアールに負けちゃうかもしれないけどそれでもいいの?」

 

ぼそぼそと言ってくるちい姉。ひどい、なんでそんなこと言うの。そんな、そんなの……

 

 「えぇ!?それ言うのずるーいぃぃちい姉!!そんなこと言ったら私、私……!」

 「ええい騒ぐな!あんたがいつまでも駄々こねるからでしょ!あたしだってこんなしょーもない説得言いたくなかったわよ!」

 

わ、私の気持ちを りよー しよーだなんて ひきょー だぞちい姉!本気でちい姉を おーえん してるのわかってるくせに!!スーパーゴリラのくせにこーゆー時だけなんでそんなこと言えるのひどい!!

ほら、自分だって言っててぷるぷるしてて、怒ってるのかはずかしーのかわからないじゃん!!

でもでも、そー言われたらこまる。ちい姉とはいっしょにいたいけど、コクハクも上手くいってほしーもん。トゥアールさん きょーてき だし、ハンデついたらちい姉だとちょっと……

 

 「うぅ、ちい姉なさけないしぬけがけされたら逆転むつかしいもんね……」

 「……このチビスケ。自分でダシにしたけど、あんたが生意気にそう思ってるのは腹立つわね」

 

うぐ。

抱きしめてくれるちい姉の腕の力がちょっと苦しくなった。自分で言ったクセになんで。ちい姉だってわがままじゃん。

 

 ちい姉をおーえんしたら会えなくなる。

 ちい姉と夏休みいっしょにいたらおーえんできない。

 

つらい……きゅーきょくのせんたく……!

 

 「うううぅぅ~……ちい姉おーえんしたいけど夏休みずっとちい姉に会えないのもやだあ」

 

どっちも選びたくて決だんなんてできない。

……ほんとは私のわがままだけどさ。ちい姉のおーえんしたいんだから、私がお留守番するしかないんだけどさ。

わかってるけど……それでも夏休みにちい姉なしとか無理だもん!!やだ!!

 

 「おや?好香ちゃんってば、もしかして勘違いしてるんじゃないですか?」

 

 ひじょーな二択に身動きが取れなくなってたら、いつの間にか私に合わせてしゃがんでくれてたトゥアールさんが。もしかして、とひとさし指をぴっと立てて見せた。

ほんの一瞬前まで、床の凹みにピッタリめり込んでたのに復活はやいなあ。

 

 「夏休みの合宿、って別に夏休みを全部使うわけじゃありませんよ?」

 

え。

 

え?

 

 

 「……………そうなの?」

 

さらっと、すごい じゅーよー なこと言われて頭が真っ白になった。え?え?

 トゥアールさんが、やっぱりって感じで私を見てニコニコしてる……あ、この顔知ってる。私をからかった時のおねーちゃんと同じ顔だ。な、なによぅ!?

 

 「はぁ!?そんな勘違いしてたわけ!?八月の一週目には帰ってくるわよ」

 

うそ、思ってたよりずっと短い。

だ、だからって、ちい姉はかわいそうだと思って損した、みたいな顔してるのなによ!?

ちい姉もトゥアールさんもなによその顔!だって私そんなの聞いてなかったもん!!

 

 「か、かんちがいとかじゃないもん!だってだって、ちい姉いつ帰るとか言わなかったもん!!」

 「なーにその膨れっ面は。お姉ちゃんには教えた……あんたはぐーすか寝てたり、聞きもしないでそーじの家に飛び込んだりしたんでしょ。このお騒がせチビスケめ」

 

私のじごーじとくみたいな態度になるちい姉にむすっとしたら、おでこを指でぐりぐりとつつかれた。

 

 「そもそも夏休み目一杯ツインテールについて部活することなんてあると思うの?」

 

ないね。たしかにそれはない。

総二兄が「本格的に研究したら夏休みじゃ足りないぞ」とか言ってるけど、それはない。そこは れーせー じゃなかった、うん。

でもちい姉が夏休みにお泊りなんて、急に言われたられーせーなはんだんができる人なんかいないでしょ。むう。

 

 

 「助かったわトゥアール」

 「もう少し可愛い泣き好香ちゃんを見ていたくもあったんですけどねー。流石にかわいそうですし、そろそろ出発時間ですから」

 「悪かったわね妹が手間を……ん?あんたいつから好香の勘違いに気付いてたの?」

 「いやー正直に言ってしまうと二人がループ口論してる途中から、ひょっとして……?と思ってました。でも、泣き好香ちゃんってご褒美とあわよくば愛香さんが合宿キャンセルなんて千載一遇のワンチャンだったんで!結果、自分のヘタレ具合で幼女に訴えかける自虐蛮族が見れたんでまあいいかなって思いましてグフフっふぉあばぁ!!!」

 

 ひえっ。私そっちのけで話しだしたと思ったら、ちい姉に顎を殴られたトゥアールさんが一回転して倒れちゃった。

 

 「まったく……何はともあれ、私がいないのはほんのちょっとだけだって好香もわかったんだし、もう大丈夫よね」

 

 つかれたーって息を吐いて軽く伸びをするちい姉。くるっと向きを変えて、私から離れて総二兄のとこへ行こうとしてる。

え、ちょっと待ってよ。一歩進んだちい姉のシャツをあわててつかんだ。

 

 「ん?どうしたの?」

 

振り返ったちい姉がふしぎそうに見てくる。どうしたのって。

 

 「夏休みずっとじゃなかったけど……八月までちい姉がいないのも長いと思う」

 

うん。思ってたよりも短かっただけでじゅーぶん長いよ。ちい姉が帰ってくるまで待ってられるか……自信ない。てゆーかムリ。八月までちい姉いないとかやだ!!

 

 「え?」

 「え?」

 

ガックリと肩を落としたちい姉。なんで落ち込むの。

落ち込みたいのはちい姉とどーなるかがせとぎわの私だよ私。

 

 「今のは聞き分けの無い妹がようやく納得してくれたって流れだったでしょうがこんのチビスケはあああああああ~~~~~~~~~!!!!!!!」

 「はぇ!?あうあうああうあうあうだってだってだって~~~~~~~~!!」

 

ちい姉がぱっと目の前から消えたと思ったら、大声出して頬っぺた引っ張ってきた!!いたいいたいいたい!! 流れとか言われたってしょーがないじゃん!私はちい姉がいっしょじゃないとさびしーんだもん!!

 

 




ツインテール部の合宿までの道のりは遠い……

好香にしてみれば、7月の終わりから8月の一週目まで→月を跨ぐんだから実質2ヵ月だ2ヶ月!!長すぎる!!!

という感覚です。ちい姉の気苦労はもうちょっと続く。


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