東方現代物語 〜最強の相談屋が華麗(物理)に事件を解決します〜 (ミズヤ)
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プロローグ
第1話 依頼(ミッション)


 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回から新しい小説を書いていきます!

 タイトルは東方現代物語で、内容はサブタイ通りです!

 それではどうぞ!


 暗い部屋の中俺はパソコンを叩いていた。

 

 昼間から学校をサボってだ。

 

 だが断じて引きこもりでも自宅警備員(ニート)でもない。

 今まさに仕事をしている。

 

 まぁ俺はパソコンを使う場合や実際に行動する場合に別れている。

 

 そして俺はニヤリと笑った。

 

「ついに掴んだぞ。その尻尾を」

 ちなみにこの仕事をする時は高確率でサボっている。

 

 いや、俺の場合公欠を取っているからサボりでは無いのかもしれないな。

 

 それくらい俺の仕事は学校内で重要なものだという事だ。

 

 そしてこの仕事が終わったらやっと登校する。

 

 今回は早く終わったからな。午後には間に合いそうだ。

 


 

 学校に着いたら既に校庭には飯を食い始めている人達が大勢居た。

 

 それを横目を俺は通り過ぎていく。

 

 さすがに視線が集まって来る。

 そりゃそうだ。12時過ぎ、まぁもうすぐ13時になろうとしてるんだが、そんな時間に学校にカバン持って登校してくる生徒ってのは異様だろう。

 

 そりゃ注目を集めるのも当然だ。

 そして俺はある一人の女の元へ歩いていく。

 

「えー唯野(ゆいの) 湯華(ゆばな)さんですね?」

 俺が話しかけると唯野と言う女性はこっちを向いた。

「あなたは誰?」

 当然の反応である。

 だから俺は名刺を渡す。

「私は学校公認サークル、『相談屋』の輝山(きやま) 一輝(かずき)です」

 そして軽く会釈する。

 

「それじゃ、その相談屋のあなたがどんな用なの?」

 

「それはですね。先日、私の元に一人の女の子がやって来ました。その女の子には相談事があったんですよ」

 そして一枚のプリントをカバンから取り出して唯野に渡す。

「これは?」

 

「これが依頼内容です。なになに? 佐久間うざい。消えろ? これまた酷い誹謗中傷ですね。そして探してみたら色々と見つかりましたよ」

 そう言って紙の束を放り投げてばら撒く。

 

 その紙の内容は全てその佐久間と言う女性を貶すような文章が書かれているというものだった。

「酷いですよね。ここまでやるなんて……」

 

「これの犯人を探すのが依頼ってこと?」

 

「そういう事。まぁ、犯人をどうこうしようって訳じゃないですがね……」

 そして紙の一枚を拾い上げて指を指す。

「あなたはこれに心当たりはありませんか?」

 

「私は犯人じゃないわよ」

 俺は釣れた! と俺は思った。

「私はこれをやったのがあなたかなんて聞いていませんが?」

 少し煽るような口調でそう言う。

「それは誰が聞いたって詮索してきてるじゃない!」

 

「はは、確かに」

 俺は分かっててやっている。

 

「もしかしてあなた。最初から犯人を分かっててやってる?」

 

「ふん。答えはもちろん。イエスだ」

 と俺は腕を組みながら言った。言い逃れできないという現実を突きつけてやった。

「でも全てあの女が悪いのよ!」

 そう言って涙を浮かべる彼女。

 そして俺は諭すような口調で言葉を並べた。

「あんたはいつもそうやって他人のせいにして生きてきたんだな」

 うるさいうるさいと言葉を跳ね除けてくるがめげない。

「そうやって他人のせいにしててもなんにもならないぞ」

 そう言って帽子を深く被る。

 

 そしてカバンから一通の手紙を彼女に渡した。

「俺があんたが怪しいと佐久間に伝えた時もそいつはあんたを信じていたんだ。絶対にあんたじゃないと」

 そしてその場を後にする。

 

 もうそいつの信頼を裏切ってやるなよ。

 


 

 俺は部室にて昼寝をしていた。

 

 昼はいつもこんな感じだ。

 

 飯を食ったあと椅子に座って眠る。

 

 すると急にドアが開いた。

「誰だ?」

 

「私です! 佐久間です」

 ああ。件の依頼人か……。

「で、要はなんだ?」

 

「あの。ありがとうございました!」

 と深く頭を下げる佐久間。

「俺は礼を言われるのが苦手だ」

 そう言うと頭を上げる佐久間。

「湯花がさっき謝りに来たんですよ。でも正直に謝ってもらえてスッキリしました。ありがとうございました」

 苦手だと言ってるのにまた謝ってくる。

「まぁいい。で、どうしたんだ? 許すも許さないもお前次第だ」

 

「最初は怒ってたんですが、あんなに真剣に謝ってくる姿を見て私はもう怒らなくてもいいと判断しました。なので許します」

 そうか。それでいい。

 

 んじゃ

「今回の依頼も完全制覇(コンプリート)だな」

 そう言って二度寝を決め込む。

 

 ちなみに俺は授業を幾らサボってても良いという好待遇だ。

 なぜなら俺は『相談屋』だからだ。

 

 この相談屋は教師や生徒会の面倒事を全て押し付けられているだけあって大変なのだが、結構な好待遇であったりする。

 ちなみに俺はこれを好きでやっている訳では無い。先生方の推薦で決まるんだ。

 

 なんでこんな『不良生徒』を選んだのかが分からない。

「とりあえず次もサボりだな」

 そして瞼を閉じた。

 


 

 起きるとタイミングを見計らってたかのように一人の女子生徒が入ってきた。

 

「お金ならあるので助けてください!」

 

 金髪の少女は入ってきて単刀直入に言った。

 

 お金……か。まぁ相談内容次第だな。

 

 ちなみに俺は長い間、相談屋を続けたことにより相手の心理を読み解くことが出来るようになった。

「そうか。お友達が不良にね……」

「なんで分かって!?」

 そして立ち上がる。

「しかし、何時も思うんだが何故不良である俺に頼むんだ?」

 

「たとえ不良でもあなたに頼んだらなんでも解決するって」

 そして俺は金髪少女の肩に手を置いてすれ違う。

「なんでもってのは買い被りすぎだ」

 そして欠伸をし眠い目を擦りながら歩く。

 

 そして帽子を被り直して気合を入れる。

「まぁ。こう言うのは相談屋の仕事じゃないと思うんだがいっちょやるか」

 

 俺は学ランの前ボタンを全て開けてラフな格好になる。

 

「今回は緊急みたいだから報酬は後でな」

 そして学ランのポケットに手を入れる。

 

「そんじゃ。依頼開始(ミッションスタート)




 はい!第1話終了

 今回はここまで!

 学校公認サークルと言う謎設定。

 ここでの意味は学校が独自に作ったサークルです。

 そして色々と高待遇でありながらあまり気乗りしていない様子の主人公。

 実は主人公は不良と呼ばれているんですよね。

 理由は次回……。

 今回はヒロインが出てこなかったですね。

 それでは!

 さようなら


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第2話 喧嘩(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 学校をサボる不良生徒、輝山 一輝。

 彼は学校公認で推薦者しか出来ないという相談屋であった。

 そして新たな依頼をこなせるのか?



 それではどうぞ!


side一輝

 

 俺は全力疾走をしていた。

 

 理由は単純明快。依頼(ミッション)だ。

 

 俺はこの『相談屋』である限り、依頼(ミッション)が来たら無視しては行けない。

 無視したら退学になるレベルなんだ。

 

 それくらいで……とか思うかもしれないが、この学校では重要な役職ってことだ。

 

「あそこか……」

 

 んで、今回の依頼は友達……って言うか親友が不良に絡まれているから助けて欲しいというものだった。

 毎度の事ながら不良生徒の俺に頼み事をする時点で間違えていると思う。

 そして俺が不良生徒なのは周知の事実。なのに一切依頼が減らないのが事実である。

 

「んで、あんたの名前は?」

 

「わ、私はマエリベリー・ハーンです」

 ちょっと読みにくいがまぁいい。と言うか外国人なのか?

「んじゃま、まえる……まえ……はわー……」

 い、言い難い……。

 

 こう言っちゃなんだけど……言いにくすぎる。

「あの……親友にはメリーって呼ばれてるのでメリーでもいいですよ」

 

「そうかメリー」

 これなら言えるぞ。

 

 もしかして俺が英語下手すぎるだけなのか? 名前も発音できないなんて……。

 

 ちなみに今は走りながら依頼人のことを聞いているところだ。

「それじゃ、メリー。着いたからあなたは隠れててください」

 そう言うとメリーは像の後に隠れた。

 

「や、やめてください」

 声を聞いて俺は確信した。これ……めんどくさい奴だ。

 

 いや、依頼がめんどくさいやつな訳じゃない。こう言うのは俺の仕事じゃないと思うがよく来るし……だが被害者が……ちょっとね?

 まぁ、やるしかないんだが……。

 

「おい。お前」

 と俺は奴に話しかける。

「ああん? 誰だテメェ」

 案の定威圧してくる。ここまでは予想通りだ。

 

「私はこういう」

 と名刺を差し出した瞬間、手を払いのけられて首を掴んで壁に叩きつけられる。

「俺の邪魔をした代償はでけぇぞ」

 そして拳を振りかぶる男。

 

 そして思いっきり俺にその拳を叩きつけた。

 

 鼻血が出てきた。

 

 普通ならば恐怖して顔を歪ませるはずだ。しかし俺は笑った。ヘラヘラと……笑った。

「なんだてめぇ」「お前の次の台詞は」

「「なんで殴られてるのに笑っているんだ」だ」

「……ハっ!」

 俺は笑いながらそういった。

 

 俺は実は本を読むのが好きなんだ。

 そして俺が相手の心理を読み解く能力を身につけた時に1度でいいから喧嘩の時に言ってみたかった台詞だ。

 

 予想通り不良は驚いているようだ。そりゃそうだ。一語一句間違えずに台詞を当てられたらそりゃ驚く。

「そして次にお前は『こ、こいつ……気味わりぃ』と言う」

「こ、こいつ……気味わりぃ……ハッ!」

 またまた大正解!

 いやー。やってみるとスッキリするもんだな。これからもっとやって行こうかな?

「ちっ。うぜーんだよ」

 まぁ、こいつらが先に殴った地点で勝敗が決まってるんだけどな……。

 

 そして殴ってこようと片手を離した隙に俺は俺を掴んでる方の手の小指を掴んで捻る。

「いててて!」

 そしたらまぁ、面白いことに痛みで離すんだ。

 

 そして手を離した所を蹴り飛ばす。

「正当防衛だ。悪く思うなよ?」

 俺の喧嘩の流儀は相手に先手を取らせるだ。

 

 そしたら先に殴られたと主張できるから優位に立てるんだ。

 そしてこの俺がどうして喧嘩なれしてるのかと言うと……まぁ不良と呼ばれている原因でもある。

 俺は今まで喧嘩して負けたことは無い。いつまで経っても降参しないやつを病院送りにした事は何度もある。

 校則は一切守らない。校則は破ってなんぼの精神。

 それらが俺を不良だと思わせる原因だ。

 そして俺は不良をじっと見すえて低い声で言う。

「まだやるか?」

 

「ちっ。今日の所は勘弁してやる」

 そして不良は走り去って行った。

 

「さて……完全制覇(コンプリート)だ」

 そして足早にその場を去ろうとすると不良に絡まれていた女子が俺を引き止めた。

 

「あ、あの……輝山君……だよね?」

 

「宇佐見か……何の用だ?」

 こうなるから早く立ち去りたかったんだよ。

「やっぱり輝山君だ。久しぶり」

 

「ああ、1年ぶりだな」

 ここまでの会話で分かると思うがこいつとは昔からの知り合いだ。

 と言っても俺が不良と呼ばれる前の……だがな。

 こいつの名前は宇佐見(うさみ) 蓮子(れんこ)

 不良の俺と関わってたら宇佐美まで被害を(こうむ)るかもしれない。だから俺からこいつに距離を置いた。

 

「もうそんなになるんだね。でもどうして相談屋になったの?」

 それはほぼ強制的にだ。俺は人の頼みやらを聞くのが嫌いだ。

「まぁ良いや。ありがとう輝山君」

 

「あぁ。はいはい。用が済んだなら早く帰れ」

 礼を言われるのに慣れてない俺は軽くあしらう。

 

 そして俺はメリーの元に行って

「やっぱ報酬いいわ。じゃあな」

 そう言って家に帰ろうとすると今度はメリーに掴まれた。

「本当にありがとうございました! おかげて助かりました」

「俺は礼を言われるのが苦手だ」

 そして帽子を取って軽く払ってから被り直す。

 

「んじゃな。今日は二件も依頼来て疲れたから眠いんだ。俺を寝かせろ。アイアムスリーピー」

 下手な英語を言って俺はその場を後にする。

 


 

side三人称

 

「ねぇ。メリー」

 蓮子はメリーの元に駆け寄る。

 

「どうしたの蓮子」

 

「もしかして輝山君に依頼してくれたのってメリー?」

 

「そうだけど」

 そう言うと蓮子は目を輝かせてメリーに飛びついた。

「ありがとう!」

 

「れれれ、蓮子!?」

 そしてしばらく蓮子はメリーに抱きついたままだったとさ。




 はい!第2話終了

 タグのジョジョネタはこれですね。

 ジョ○フの名台詞。次にお前はと言う台詞。カッコイイですよね。

 それでは!

「次にお前はさようならと言う」

 さようなら……ハッ!

「さらにお前は何故ここにいる一輝!と言う」

 何故ここにいる一輝!……ハッ!

「こんな感じだ。

 それでは!さようなら」
 それ僕の台詞!


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第3話 尾行(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 新たな依頼を達成するために行動する一輝。

 そして一輝は少女に絡んでいる不良を退治することによって不良が不良を退治するという不思議な絵面が出来上がってしまった。

 その少女は一輝の幼馴染、宇佐見 蓮子だった。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 クソだりぃ……。休もうかな?

 まぁ、こんなんだから不良と呼ばれるんだけどな。

 

 偶に直に依頼を聞いたりするけど殆どはメールだし問題は無い。

 問題なのは宇佐見が俺のこの素行をよく思ってなくて、部室で休んでると引きずって教室に連れていこうとすることだ。

 

「寝ようかな」

 そう言ってパソコンを閉じてベッドに入ろうとすると急に携帯がメールを受信した。

 通知の所で読んでみると内容は依頼(ミッション)だった。

 

 今寝ようとしていたのにこれだ。

 

 俺はこのサークルの活動は表向きには頑張っては居るが、実際は全然気が乗らない。

 まぁ、学校を堂々とサボれるところは良い点ではある。

 

「依頼内容は……ストーカー……警察に言え」

 ストーカーなら警察の方がプロフェッショナルだろ。

 なんで俺に相談すんだよ。

 

 しかも無視したら退学になるから無視も出来ねぇし……。

 「はぁ……」とため息をつく。

「しゃあねぇ。やるしかねぇな」

 俺以外誰も居ない部屋でそう呟いてベッドから立ち上がる。

 

 高待遇のこの状況を逃す手は無いが、依頼がもう少し少なかったら天国なんだけどな……

 

 しかしどうやってこれを片付けたもんか……。

 

 依頼者名の彩華と言う名前を見て女の子だと言う事を決定づける。

 最近は男を女がストーカーするって事件も増えてきているからストーカー被害だからって必ずしも被害者が女だとは限らない。

 

 そして名前が分かれば情報収集でも何でもして依頼者の容姿とかを特定出来て、ストーカーの場合張り付いて怪しい人が居たらボロが出るまで話す。これがいつもやってる事だ。

 1回だけ俺がストーカーに間違われたことがあったけど何とかなった。

 

 そして恐怖を与えても尚向かってくる奴を必要以上にぶちのめした事も何度もある。それも俺が不良である原因だ。

 

 とりあえず休むつもりだったが、これのせいで行くことになっちまったじゃねぇか。

 そんな事を思いながら怠そうに支度して学校に向かう。

 


 

「なるほど……この子か」

 

 先生に彩華さんの情報を聞いてみたら顔写真を手に入れることが出来た。

 俺は早速尾行をしてみて怪しい奴が居ないか探すことにする。

 

 そして情報収集している時に怪しい人物の名前が上がった。

 それは粉馬(こなま) 新司(しんじ)。1か月前まで彩華さんと付き合っていたらしい。

 

 それで彩華さんから別れ話を持ちかけたんだが新司とか言う人は納得してなかったとか。

 

 そんでメールの文に書いてあったんだが、ストーカーされ始めたのは丁度1か月前。時期は被る。

 こいつが最有力候補なんだがどうにも証拠が少なくてな。

 

 そしてサンドイッチを齧りながら辺りを見回す。

「そんな怪しいことは無いな」

 しっかし張り込みってのは暇なもんだ。だから張り込みはあまり好きじゃねぇ。

 しかも今は冬だ。厚着しないと寒くて寒くてやってらんねぇ。

 

 その時、怪しい人物が見えた。

 

 そして彩華さんはそれに気づかずにマンションに入って行く。

 そしてその人物も彩華さんを追って中に入ろうとする。

 

 その人物が中に入る前に俺はその人物の首の後ろを掴む。

「おい待て」

 すると俺の手を掴んで投げ飛ばす。

 

 なんて言う力だ。

「なめるんじゃない」

 そう言って近づいてくる人。近くに来たら顔が良く見えて新司と言う人物と完全に一致した。

「いやー。これで正当防衛ですね」

 と俺は無理やり笑みを作って近づいてきたところを顎に蹴りを入れる。

 

 すると新司はふらついて地面に膝をつく。

「これ以上彼女に近づくな」

 すると俺の腹に腹パンをしようとしてきたから手を蹴る。

 まだやろうってのか。

 

 そしてもう1回蹴りを入れようとしたら足を掴まれてしまった。

「まずっ!」

 すると俺は転がされてしまった。

 

 そして立ち上がった新司は立ち上がって俺に蹴りを入れてくる。

「俺に勝てると思うな!」

 初めて2発目以降の攻撃を受けてしまった。

 

 2発目の攻撃は予想以上に重く、意識が飛びそうになった。

「こりゃやべぇな」

 俺はそう呟いて目を閉じる。

 そして俺は口を開く。それは新司と同じタイミングだった。

「「もう俺に逆らうな」と言う」

 

「な、何!?」

 例の台詞だ。

「お前は何か勘違いをしているんじゃないか?」

 そう言うと? を浮かべる新司。

「動くな! 警察だ!」

 その声が聞こえた瞬間、新司は捕えられた。

 

 そして暴れるも警察官数人がかりで捕えられた新司をよそ目に俺は立ち上がって帽子の埃を払って被り直す。

「君! 大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫なんで気にしないでください」

 俺はそう言ったもののこれは強がりだった。

 体のあちこちが痛い。だが俺は強く在らなければならない。だからそういった。

 

 誰かが俺と新司の争ってるのを見て警察を呼んだんだろう。

 その時から俺は劣勢だったのではない。劣勢を演じていたのだ。それがやつの勘違い。

 そしてやつの敗因は

「俺をぶちのめすのに夢中になりすぎてパトカーのサイレンを聴き逃していたことだぜ」

 そう呟いてから現場を去る。

 

 とりあえずあいつは暫く出てこれないだろう。

 警察なら調べたらストーカーのことも出てくるだろうしな。

「今回の依頼(ミッション)完全制覇(コンプリート)だな」

 そして俺は家に帰る。

 


 

 家に帰っても誰も居ない。

 

 独りだ。

 

 家族は俺には居ない。俺がガキの頃に他界してしまったからだ。

 それからは施設に保護されたんだが、俺は施設の職員に無理を言って抜け出してきて現在一人暮らしをしている。

 

 まぁ、そんな苦でもない。

 料理も出来るし、学費は免除されている。

 そして俺のサークルは購買と同じ扱いだ。金を貰って仕事をするアルバイトみたいな感じだ。

 本当に不思議な学校だよな。

 

 しかしあのサークルは普通の人には出来ない。

 だからむしろ俺をサークルに入れたのかもしれないな。

 

 そして飯を食った後ベッドに入る。

 

 今日は疲れたからよく寝れそうだ。




 はい!第3話終了

 まだタイトル回収してないとは。

 必ず近いうちに回収しますので待っていてください!

 それでは!

 さようなら


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第4話 通話(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 新たな依頼が一輝の元にやってくる。

 内容はストーカーの退治。

 そして一輝は辛くもストーカーを退けることに成功した。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 俺が目を瞑り、寝ようとした瞬間だった。

 急にプルルルプルルルと言う音が俺しかいない真っ暗な部屋に鳴り響いた。

 それが直ぐに着信音だということが分かった。

 だが大して重要ではないだろうと決め込んで音が鬱陶しいと思いながら眠りにつこうとする。

 

 しばらくすると電話は切れた。

 これで安眠できる。そう思って居るとまたプルルルと言う着信音が……。

 さすがに執拗いと思いながら出ないと面倒くさくなると感じてスマホを手に取る。

 そして画面を見てみると面倒だと感じたが出る。

「ただいまこの電話番号は使われておりません」

『あ、お兄ちゃん? こんばんわー!』

「……ただいまこの電話番号はつか」

『お兄ちゃん最近どう?』

「……た、ただ」

『私はねぇ元気に生活してるよ♪』

 こいつ……人の話をまるで聞こうとしない。

 

 こいつの名前は篠川(しのかわ) 飛鶴(ひづる)

 現在中学三年生。さっきはお兄ちゃんとか言っていたが本当に兄弟なわけじゃない。まぁ、大体の人ならば苗字の違いで気が着くと思うが。

 こいつは施設に居る時に知り合って、訳あって俺を兄の様に慕ってくれている。まぁ、俺にとって妹みたいな存在だ。

 

 俺が施設を出ていくと最初に伝えたのもこいつで一番寂しがってくれたのもこいつだ。

「んで、今回はどんな要件なんだ?」

 

『なんかお兄ちゃんの声を聞きたくなっちゃって♪ えへへー♡』

 そんな可愛い事を言ってくれる飛鶴だが、魂胆は見え見えだ。

「で、なんだ頼み事は」

 

『あ、バレた?』

 

「当たり前だ。何年お前の兄貴やってると思うんだ」

 小学の頃から知っている中だからだいぶお互いの事を分かり合えてると思う。

 確か小四の頃に出会ったのかな。

 

 それでこいつと出歩いてロリコンだと言われたことがあったな。だって俺が高校生になっても飛鶴は小学5年生なんだもんな。

 だが断じて俺はロリコンではない。

『そろそろ私も進学でしょ? これを機にそっちに行こうかな? って』

 急に何を言い出すんだこいつは

『えへへっ♡ 寂しくなっちゃって……その……ダメかな?』

 ここで俺は「ダメだ」と即答すべきだったのかもしれない。施設を出るにはまだ少し幼いと感じてしまったからだ。

 だが、俺も施設を飛び出した身。直ぐには返答出来なかった。

 

「だが施設を飛び出してどこに行くんだ? 行く宛は?」

 そう言うと飛鶴はテンション高めでこう即答した。

『あるよ!』

 

「へー。どこなんだ?」

 

『お兄ちゃんも知っているところ』

 そう言われて思考を巡らす。だが、飛鶴が行けそうな所を俺は知らない。

 まぁ、俺は察しが悪い方ではない。だから嫌な予感はしていた。

 その嫌な予感を感じながら俺は「どこだ?」と聞くと少し間が空いてから意を決した様な声色で

『お兄ちゃんの家に住まわしてください!』

 そんな最悪な事を言ってきた。

 

 第一、俺らは血が繋がっていない兄妹? だ。

 そして5歳も年の差があるんだぞ。

 

 タダでさえ一緒に歩くとロリコンという疑いを掛けられるというのに一緒に住んだらもう言い訳のしようがない。

『お願いします! 何でもしますのでっ!』

 真剣な声色で言ってくるので俺の決心がまるで波が高い時の船のように揺れている。

『お願いします! 家事もします! 迷惑もかけません! お兄ちゃんが望むなら……その……え、えっちな事でも……』

「ちょっおーい! 俺はそんな事望んだことは無い!」

 これで本当に望んだら正真正銘のロリコンじゃねぇか。

 

 小学生がそんな事を言ってはいけません!

『でも……』

「だぁーもう分かった。もう良いから来てもいいから」

 結局俺が折れてしまった。

 ちょっと心配だが目の届く所に置いておけば心配はないだろうという考えだ。

『本当ですか!』

 と嬉しそうな声色に変わった。

「ああ、良い」

『やったぁー! またお兄ちゃんと暮らせる!』

 まぁーたロリコンとか言われるんだろうがもう気にしないことにした。

 

 今は妹様の嬉しそうな声を聞けただけで満足だ。

「はいはい。んじゃちゃんと準備してこいよ」

 春休みまであと少しだ。

 

 俺がサークルに入ってから丸々一年が経とうとしていた。

 このサークルに入ってから宇佐見とは距離を置いている。

 

 だってこの俺は宇佐見の嫌いな不良だからな。

『大丈夫です! 送っておきましたので』

 は? 送った?

「何をだ?」

『色々ですね』

 その言葉を聞いてあることを俺は思い出した。

 

 ある日急に宛名のない箱が送り届けられたんだ。

 よく分からないけど一応受け取っておいたが、そういう事だったのか。

「あの箱の中身、お前の荷物だな」

『せいかーい!』

「ちょっ! お前なぁ……外堀から埋めんのやめろ。ここまでされたら俺が断りづらいっての分かってやってんだろ」

 「はぁ……」とため息を着くが一度了承してしまったものはしょうがない。

「んじゃ高校はこっちになるのか」

 

『うん! それじゃあお兄ちゃん。頑張ってね』

 そして「おやすみ」と挨拶してから通話を終了する。

 

 なんか急にどっと疲れた。

 

 そう言えば宇佐見はどうしてっかな……。

 この前久しぶりにあったけど俺の今の境遇を知らないみたいだし……。

 

 宇佐見とは結構古い仲だ。

 それこそ、俺が小学校に入学する前から。

 

 今の俺の住んでいるところは施設からかなり離れた場所なんだが、昔は宇佐見も施設に住んでいたんだ。

 だが、宇佐見は中学卒業と同時に施設から出て行ってしまってな。

 俺は別に追いかけてきた訳では無いんだが、やりたい事が出来たからこっち来たらたまたま宇佐見も居たんだ。

 

 やりたい事。それはまぁ、ただ単に一人暮らしに憧れて飛び出したってのもある。

 まぁあともう少して一人暮らしも終わりなんだけどな。

 

 果たしてあの堅物の先生は15歳の女の子を20歳の男子大学生の所に行くことを了承してくれるのか?

 

 まぁ良いや。(飛鶴)のせいで眠気が覚めたからちょっと携帯を弄ってから寝ようかな?

 

 それから数週間後、春休みが訪れた。




 はい!第4話終了

 何とここまでの話、全てプロローグなんですよ。

 という訳で本編は第5話から、三年生からが本編です!

 それでは!

 さようなら


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本編(前)
第5話 ヤンデレ対処(ミッション)


 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一輝が寝ようとすると急に電話がかかってくる。

 その相手とは、一輝にとって妹みたいな存在の飛鶴だった。

 その飛鶴からこんな事を頼まれる。
「私をお兄ちゃんと一緒に住まわしてください!」
 そして渋々了承してから数週間後、春休みになった。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 ついに春休みになった。

 

 しかし、今までとは何ら変わりない。

 

 依頼が来たら行動するし、依頼がなかったら部屋で寝ているだけだ。

 しかしそんな事は出来ないよな……。

「約束通り来ました!」

 俺は現在、玄関でJK(女子高校生)と対面していた。

 

「ああうん」

 すっかり忘れてたなんて言えない。

 

 残念ながら俺の平和な一人暮らしは終わりを告げたのです。目の前のJKによって……。

「でもどうやってあの堅物を説得したんだ?」

 そう聞くと「抜け出してきました」と、それが何か?(・・・・・・) って言うトーンで言ってきたため俺は頭を抱えてしまう。これは比喩ではなく完全に抱えてしまった。

「怒られる。絶対バレたら怒られる。しかも飛鶴の行先っつったらここしかないから確実にバレる」

 俺は未来の事を思って床に手を付く。

 

「元気だしてください! 私が着いていますから♡」

 元凶様が何か言ってらっしゃいますね。というかあなたが原因で俺は頭を抱えているのですよ。

 と声を大にして言いたいが、今更こいつにそんな事を言っても意味ないので開き直ることにした。

 

「とりあえずだ。長旅で疲れたろ? ゆっくりと休んどけ」

 俺はそう言ってキッチンに向う。

 そして冷蔵庫の中から甘いジュース(ぶどうジュース)を取り出してコップと一緒に持っていく。

 

「はいよ」

 これは俺と飛鶴が昔から好きな飲み物だから常備している。

 特に証拠をかき集めている時は頭を使うからな。そんな時には糖分が良いって言うしな。

 ちなみに俺は炭酸が飲めない。あの炭酸の刺激がどうも昔から苦手なんだよな。

 

 それは飛鶴も同じみたいで、初めて炭酸飲んだ時は俺と同じ反応をしてて思わず笑いそうになっちまった。

「ありがとうございます!」

 そう言って俺が注いで出したぶどうジュースを美味しそうに一気に喉に流し込む。

 正直いって可愛い。両手でコップを持っている所がなんとも言えない可愛さがある。

 高校生だがまだ幼いところもあるんだなと感じた。

 

「ところでお兄ちゃん」

 飲み干した飛鶴はコップをテーブルに置いたけど両手はコップを包み込むように握ったまま話しかけてきた。

「なんだ?」

 

「最近お兄ちゃんの事を聞いていないので聞きたいのですが……」

 そうだった。

 俺が相談屋になってからはこいつに現状を報告することが無くなった。

 さすがに犯人を痛めつけてるとか言えないしな。

「まぁ色々だ」

「お兄ちゃん。私が聞く度にそう言います」

 確かに言われてみればそんな気がする。だがそれ以上言えないのが事実である。

「お兄ちゃん。私に、何か言えない事情でもあるんですか?」

 急にボーッとした瞳で見つめてくる飛鶴。

「ちゃんと答えてください」

 強い口調で言われたので俺は委縮してしまう。

 

 ここで一言でも間違ってしまうとジ・エンド。俺の人生が終わってしまう。

 その為、色々な思考を巡らせる事に……。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。私はこんなにもお兄ちゃんが好きでお兄ちゃんの事ならなんでも知りたいと言うのに教えてくれないんですか?」

 と言いながらふらふらと脱力した様な様子で近寄ってくる。正直言って怖い。

 だが、ここで何も言わないのは後が怖い。

 

 だが本当の事を話す訳にもいかないか。だとしたらこれならどうだ!

「飛鶴。何も聞くな。お兄ちゃんにはな、色々あるんだよ」

 すると「は!?」と飛鶴は我に返った。

 良かった。これで助か──

「大丈夫です!! お兄ちゃんが裏の誰にも言えない組織に属していたって私は構いません!」

 ってなかったようだ。

 

 まぁ、確かにたまに裏の仕事とかやったりするから決して良い仕事って訳でも無い。

 しかも危険が付き物だ。飛鶴に言ったら巻き込んでしまう。

 

「飛鶴。聞いて欲しい」

 俺は飛鶴の両肩を掴んで一息ついてから言う。

「俺は今はな、学校で大変な目にあっている。思い出したくないんだ。これ以上詮索しないで欲しい」

 勿論本当のことを言う訳にもいかない。だが、嘘もついていない。

 我ながら二百点満点の完璧な回答だ。

 

「お、お兄ちゃん」

 すると振り返ってどこかに行こうとする。

 その飛鶴を慌てて俺は止めた。

「おい何処に行く気だ」

「とりあえずお兄ちゃんを不幸にする学校なんて焼き払ってきます」

「やめてぇぇぇっ!」

 俺は何とか強引に椅子に座らせる。

 

 いつから飛鶴はこんな性格になってしまったんだ。

「お兄ちゃん。心配しないでください。大学が無くなったとしてもお兄ちゃんなら大丈夫です。もしそれで自宅警備員になったとしても私は養う覚悟です」

 どうやってニートの兄ちゃんを養う気だ現中学生。

 

 でも本当に今の飛鶴を見ているとマジで養われて駄目人間まっしぐらになりそうで怖くて仕方がないんだが?

 それだけは阻止しないと本当に俺は将来ニートになるぞ。

 

 それにこの仕事、結構割に良いんだ。

 危険な事も多いが、報酬が結構貰える。相談料はタダだが、解決したら相手に報酬額を貰い、更に学期末には功績によって単位を決められ、とんでもない功績をあげたら、授業に一回も出ず、テストも0点だとしても成績に5がつく。

 無くなられたら困る。

 

「兄ちゃんな。飛鶴の手は汚したくないんだよ。だからな? 兄ちゃんの事は気にせず、飛鶴は自分の事だけ考えなさい」

 軽く飛鶴の頭を撫でる。

 すると飛鶴は嬉しそうに目を細めた。昔から撫でられるの好きだったよな、こいつ。

「分かりました! じゃあお兄ちゃんと結婚します!」

 やべぇ……何言っても伝わる気がしない。




 はい!第5話終了

 そろそろ何とかしないとタイトル詐欺になってしまいますね。

 近いうちに何とかします!

 それでは!

 さようなら


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第6話 登校(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 活動報告で投稿できるか怪しい趣旨をお知らせしましたが、何とか間に合ったので投稿します。



 それでは前回のあらすじ

 飛鶴が一輝の家凸してきた。

 そして飛鶴と一輝は共同生活を送ることになったのだが……果たして?



 それではどうぞ!


side一輝

 

 遂に今日からまた学校が始まる。

 

 とても短い春休みだが、飛鶴が居るせいでとても濃い春休みとなった。

 

 まず、飛鶴がこっちに来たのがバレてしまい、俺はとんでもなくお叱りを受けた。だが、俺は飛鶴の為に頼み込み、何とか許可を得ることに成功。

 次に飛鶴が料理すると言い出し、少し不安に思っていると普通に美味いやつが出てきてびっくりしたが、時々味付けをミスった料理を作るので、その美味さは安定しないなと感じた。

 とまぁ、こんな感じの春休みだったわけだ。

 

 んで、今日から学校がまた始まるから支度をしているとキッチンから良い匂いがしてきた。まぁ、確かめずともなんの匂いかはすぐに分かる。

 恐らく飛鶴が朝飯でも作ってるんだろう。

 

 しかしびっくりした。

 飛鶴の奴、いつも俺より遅く寝ているくせに俺より早く起きてるんだからな。

「おはようございますお兄ちゃん! もう少しで朝ごはん出来ますよ」

 フライパンを器用に扱い、どうやら目玉焼きを作っているらしい。

 しかも目玉焼きをあおり、両面焼きにしている。実は両面焼きの方が火が通るスピードが早いから時間無い時は両面焼きの方が良い。

 

 しかし学校に行くのだるいな……サボりたい。だけど飛鶴の手前、サボる訳にもいかないか。

「ちょっと飯を待ってるあいだ依頼ボックスでも見ているか」

 そう思ってパソコンを起動し、依頼ボックスを開くと一件の依頼が来ていた。

 内容は──

「手伝い……それも胡散臭そうなオカルトサークルからの依頼か」

 未だかつて無い程の面倒臭さを感じた。

 しかし俺には拒否権は無いのだ。

「お兄ちゃん朝ごはん出来ましたよ〜……お兄ちゃん何見てるんですか?」

 俺がパソコンを見ていると背後から呼ばれた。

 朝ごはんが出来たようなので振り返るとあと少し前に動いたらぶつかりそうな距離に飛鶴が居た。

「ひ、飛鶴? いつからそこに」

「ずっと見てましたよ」

 ずっとっていつからだよ! 料理していた時は見れないはずだし、飯は今出来上がったんじゃないのか?

「それにしてもオカルトサークルですか? お兄ちゃんは本当に何やってるんですか……」

 オカルトサークルには突っ込まないでくれ。俺だって、んな胡散臭いサークルの手伝いなんてしたくないんだからよ……。

 だが、頼まれたら断れない。それが相談屋だ。

 辞めたいと思うこともあるがめちゃくちゃ待遇がいいんだよなぁ。

 

「仕方が無いか……」

 そう言ってから朝飯を食べる為、テーブルに着く。

「……これは?」

「今日の朝は軽めに目玉焼きとカツです」

「おい、どこが軽めなのか教えてもらおうじゃないか」

 俺は目玉焼きを作っている所しか見ていなかったため知らなかったから、まさか朝からカツを揚げているとは思わなかった。

 だがよくよく考えてみると飛鶴は少食だが、朝から揚げ物を食べても胃もたれしない体質だったなと思い出す。

 だがこれは俺には重すぎる。

 

 まぁ、せっかく作ってくれたんだし食うけどさ。

 そして俺はカツを一切れ口に放り込む。

「……美味い」

 そしてもう一口、もう一口とカツをどんどん食していく。

 美味い、美味すぎる。飛鶴の料理は大体美味いが、これは美味すぎる。

 朝だというのに油っこいカツをどんどん食べれてしまう。

「美味しいですか?」

「ああ、最高だ!」

「良かったです♡」

 そして目玉焼きも。

 こちらは油っこいカツのオアシスみたいな感じだ。口の油っこさを黄身がマイルドにしてくれる。

 

「お代わり!」

「はい!」

 そして俺はご飯を合計3杯朝からお代わりした。

 


 

学校

 

「なんだお前、久々に教室に来たと思えば朝から既にグロッキー状態かよ。どうした?」

「……朝から飯を3杯もお代わりするんじゃなかった」

「朝からそんなに食うなんて馬鹿じゃねぇのか?」

 目の前に居る男、和成(かずなり) 進奏(しんそう)と今現在会話していた。

 進奏は俺の数少ない友人だ。

 だが、俺はサボりがちなのであんまり話す機会はない。が、偶に家で通話しながら通信ゲームをしたりする事はある。

「なんだ? そんなに朝飯が美味かったのか?」

「ああ、それはもう格別だった」

「ほう? なら今度俺にも食わせてくれよ」

「それはダメだ」

「いいじゃんかよ。俺とお前の仲じゃねぇか」

 ダメだ。あんな美味いのを食ってしまったら飛鶴以外が作った飯が喉を通らなくなってしまう可能性がある。

 美味い、美味いのだが一種の洗脳作用さえあると思っている。

 

「まぁ、それはいいんだが、お前はいつもサボってるのになんで今日に限って来るんだ?」

「今日に限って?」

「テストだぞ?」

 そう言われて弾かれるようにお知らせ版を見てみるとそこには確かに今日の日付けでテストと書かれていた。

 そして俺は絶望した。

「そんな……テストだなんて」

「でもいいじゃねぇか。いつも授業を受けてないのに俺よりも点数高いじゃねーか。やる気失っちゃうよな」

「でも所詮どんぐりの背比べだ。たいして差があるわけじゃない」

 そして俺はため息をつく。

 なんで偶にきちんと登校するとこうなるんだろうなと一人で落ち込んだ。




 はい!第6話終了

 やっと次回辺りに話が進みそうです。

 それでは!

 さようなら


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第7話 対話(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

「今日はテストだぞ?」
 絶望



 それではどうぞ!


side一輝

 

「ふっ。一輝! 俺は今日、宣戦布告させてもらうぜ。今回のテストは俺の勝ちだ」

 テストが終わり、一息ついていると進奏が高々と宣言した。

 休みたい俺にとっては鬱陶しい以外の何物でもないためスルーする。

 

「おいおい。反応無しかよ」

 うざい。俺は春休みだと言うのにずっと依頼解決をし、更に春休み明けテストでクタクタなんだよ。少しは休ませろよ。

「ところでお前はどうだった?」

「……別に。普通だ」

 別にいつも通りの点数だった。

 

「ふ、勝った。ついに、ついに長きに渡る戦いが終わるんだ!」

 それは良かったですね〜。と言うか目の前で騒ぐな鬱陶しい。

 

 まぁそんなことは置いておいて、さっきからこいつに邪魔されているが、俺の席は窓側なのだ。だからいい温もりと窓から入ってくるひんやりとした絶妙な風が心地よい眠りへと誘ってくるのだ。

 別に俺は相談屋だから成績が悪かろうとサボろうと進級には問題ない。

 ……ってあれ? そういやこの学校には飛鶴は居ないんだから別にサボっても問題ないんじゃ?

 

 そう考えたらさっき馬鹿正直にテストを受けていたのか馬鹿馬鹿しくなってくるな。

 家でしか飛鶴とは会わないんだから登校さえしてしまえば部室で寝ていても誰も文句を言う人は居ない?

 ふっ。我ながら完璧な考えだな。

「という訳で進奏。俺は次サボるからよろしく」

「何がというわけなんだよ。お前が頭の中でどんな変な事を考えていようとも俺は分からねぇからという訳と言われても分からねぇよ」

「長い。ツッコミが長いぞ」

「誰のせいだ! 誰の!?」

 やっぱりこれだ。こいつになら気を使う必要が無いというか、話すのが楽だ。

 ボケたらすぐにツッコんでくれる。

 この前、飛鶴に対してボケてみたことがあったんだが、

『あー鬱だ。鬱すぎて鬱だわ』

 そう言ったら進奏の場合は「日本語で喋れや」とか「お前、ついに人間の言語が不自由になってしまったか」とかツッコんでくれるのだが、飛鶴の場合は。

『その気持ち分かります。私もお兄ちゃんと離れていた時には鬱で鬱で仕方がありませんでした。これからはずっと一緒に居ましょうね♡』

 ツッコむ所か、そのまま会話を続けられてしまった。しかも若干ヤバイ言葉が入っていたような気がする。

 こうなると妙にツッコミが恋しくなってくるんだ。

 

「まぁ、とりあえず俺はサボるからよろしく」

「ああ、サボってこいサボってこい。適当に言っておくからサボって成績を落としてこい」

 俺はこんな送り言葉を初めて聞いたんだが、まぁいい。

 そんな言葉を背に受けながら俺は教室を出る。

 


 

 部室に来た。

 校舎の端っこにある教室。そこが俺の所属している相談屋の部室なのだが、午前中の今位の時間帯が一番窓からポカポカとした丁度いい温もりの日光が入ってくる。

 そして窓を開けてみたら丁度いい爽やかな風が吹き抜けていく。俺が考える最高の昼寝スポットだ。

「依頼は放課後だったし、久しぶりにゆっくりしてもいいよな」

 そして俺は窓の傍に椅子を置き、その椅子に腰をかけるとお気に入りの帽子を被り、目を瞑る。

 

 夢を見る。凄く昔の夢だ。

 俺が宇佐見に会う前の夢。

『ぱぱ〜まま〜どこっ? どこにいるの〜っ?』

 夢の中の俺は叫ぶ。だが、その声は闇に消えていく。そんな孤独感のある夢。

 寂しい。だが、誰も周りに居なくて……。

 

 そこで目を覚ました。

 目を覚ますと窓からは夕日が差し込んでいて、時間的にもう放課後だろう。

 そして帽子の鍔を上げて前方を確認すると、目の前に一人の人物が居た。その人物とは──

「あ、起きた。おはよう輝山君」

「……宇佐見か」

 宇佐見だった。

 

「どうして宇佐見がここに?」

「私が依頼人の秘封倶楽部の宇佐見 蓮子よ」

「……へ?」

 俺は驚きのあまり変な声を出してしまった。

「宇佐見が依頼人?」

「そうだって言ってるでしょ?」

「げっ」

「何その露骨な嫌そうな態度」

 嫌そうなんじゃなく、実際に嫌なのである。

 

 宇佐見は不良の事を異常なまでに嫌う傾向にある。

 そして俺が不良だって言うのは学校全体での共通認識だ。だから宇佐見の耳に入ってないはずがないのだが、そんな事を知っていたとしたら不良である俺に近づく理由はなんだ? 改心させるため?

 いや、無いな。宇佐見は不良に関わることも嫌がるだろう。

 だから改心させようとすら思わないだろう。

「はぁ、なんで不良である俺にみんな頼むかな?」

「え? 知らないの?」

「……何がだ?」

「輝山君はこの学校内で1位2位を争う不良であると同時に、一番信頼出来る裏表のない人として有名なんだよ?」

 何それ初めて聞いたんだけど。

 と言うか俺的には俺程裏表のある人って居ないと思うくらいだ。

 そんな事で簡単に信頼されてもこちらとしては困るってもんだ。

 

「はぁ、この学校は物好きなやつばっかりだな」

「それはそうかもしれないね。でも実際、依頼達成率ってのが歴代で一番高いの輝山君なんだって先生方が褒めていたよ」

 まぁ、そこまで難しい依頼ってのがあんまりなかったせいだろう。

「そんな事はまぁどうでもいいんだけど、依頼内容の手伝いってなんだ?」

「ああ、それはね。──宝探しよ」

「……寝るわ」




 はい!第7話終了

 どうでしたか?

 新キャラ進奏にはこれからも活躍して頂きたいと思います。

 それでは!

 さようなら


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第8話 脅し(ミッション?)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

「んで宇佐見、依頼内容の手伝いってなんだ?」
「宝探しよ」
「……寝るわ」



 それではどうぞ!


side一輝

 

「ちょっと! なんでまた寝始めようとしてるの!?」

「……依頼内容を聞いてちょっとやる気が失せたというか。バカバカしすぎるだろ。何が宝探しだよ」

 んな子供っぽいことは勝手にやってろって話だ。そんな事相談屋に持ってくるな。相談屋は何でも屋って訳じゃないんだぞ!?

「……退学」

 その不穏な言葉を聞いて俺は肩を震わせる。

 寝ようと帽子の鍔を掴んで下げようとしていた手が止まる。

「お前、暫く見ない間にいい性格になったな」

「褒めてくれてありがとう」

「いや、褒めてないんだが……」

 色んな意味でこいついい性格になったな。まさか人を脅してくるとは思わなかった。

 そう。これに関しては俺には拒否権などは一切存在しないのだ。

「はぁ……。今回だけだぞ?」

「ありがとうごさいます!」

 満面の笑みだ。殴り飛ばしたい、この笑顔。

 

 そんな感じで話していると部室の扉が開いた。

「蓮子ぉ……置いていかないでよ」

 あの子は以前俺が依頼を聞いた……。

 えっと確か……。

「メリーだっけ?」

「はい。お久しぶりです」

 そうか。メリーも宇佐見と同じオカルトサークルのメンバーなのか。

「んで、宝探し……ねぇ。どういう事をやるかってのは目星が付いてるのか?」

「ええ、とりあえず裏山の洞窟に潜ろうかと」

「危ない。却下だ」

 あの洞窟は危険だ。却下せざるを得ない。

 俺は断る権利が無いだけで意見を却下する権利はある。まさかそれをここで行使することになるとは思わなかったがな。

 

「む〜。で、でもでも! 一輝君が守ってくれるじゃない?」

「確かに護衛はするが、俺は弱いぞ?」

「え? でもこの前、不良を──」

「あれは少し脅しただけだ。実力じゃない」

 間髪入れずに俺は言った。

 宇佐見等にはあの時、俺が何を言ったかは聞こえてなかったはずなので適当に弱くても出来そうな脅したと言う理由をつけた。

 これなら弱い俺でも勝てておかしくないだろう。

「例えばどういう風に?」

「そうだな。このまま悪事を続けるなら親しい人がどんどんと姿をくらますぞとちょっと脅しただけだ」

 こう言う時は適当になる俺の悪い癖だ。

 もっと宇佐見に納得させられるような内容はあったはずなのに適当な理由をつけた。

 これはバレたか? 俺がヒヤヒヤしていると、

「む〜分かったよ」

 通じちゃったよ。

 宇佐見は昔からどこか抜けている。だから心配なんだよ。

「む〜じゃあ依頼変更で」

「今度はなんだ」

「一輝君が秘封倶楽部に入る事!」

 その瞬間、この場が凍りついた。

 俺が……入会?

「そう言えば〜こんな規約があったよね〜」

「……おいっ!」

 そんな俺のことは無視して宇佐見は中央に設置された机が四つくっつけた形の机の中央に置いてある規約書をヒョイと手に取った。

「えーっと? 相談屋規約、『其の十一。依頼された依頼は断ってはならない。』これらの規約を一つでも破ると停学もしくは退学処分。これは重要ランク10だから破った瞬間退学だね」

「ちっ。宇佐見、お前はしばらく見ない間にしたたかな女になりやがったな」

「どうもー」

 ちっ。相手が悪すぎるな。さすがに規約の事を持ち出されると俺も何も言えなくなってしまう。

 

 ちなみに『相談屋規約』とは、全五十の規約からなる規約書の事だ。この中に書かれていることを一つでも破ると相談屋は停学、もしくは退学になる。

 んで、その規約にはそれぞれ重要ランクってのが振り分けられてて、1〜10までのランクがある。

 1は大したことないから停学三日とかだろう。そんな短い日数停学にしてどうなるって話だが、ランク7以上の規約を違反してしまうと即退学処分が下される。

 つまり、今宇佐見が言った『相談屋規約 其の十一』は重要ランク10。一発退学位では済まないかもしれないな。

 

「一輝君はぁ、良く授業をサボってるんでしょぉ〜? なのに今退学になって他の学校を受けるにしたって受かるのかなぁ〜?」

 多分、この学校からの情報がすぐに受験先に送られて俺の印象が最低最悪で面接を受けることになるだろう。

 そうなったらそれだけで落とされかねない。

 宇佐見の奴め……。

「……〜った」

「ん? 聞こえないよ? ワンモアプリーズ!」

「……お前、随分変わったな」

「人間とは、常に変わる物さ」

 カッコよく言っているがムカつく。非常にムカつく。

「ぐっ、……わ〜ったよ。入る、入ればいいんだろ?」

「流石一輝君! 分かってるねぇ〜」

 く、殴りたいこの笑顔。

 

「それじゃー一輝君! これにサインを!」

 そして俺は宇佐見の出した入部届けを見て顔を歪ませる。

 そして俺はため息をついた後、入部届けの氏名記入欄に俺の名前、輝山 一輝を書いた。

「っ! 結構な達筆ですね」

 隅の方で宇佐見が行った卑劣な行為の数々を見ないようにしていたメリーが口を開いた。

「まぁ、習字を習ってたからな」

「そう言えばそうだったね。でも一輝君は習い始める前から綺麗じゃなかった?」

「……んな事ねぇよ」

 そう言って俺はペンを置いた。

 

「んじゃ、後は勝手にやっといてくれ。俺は寝る」

「一輝君、もう放課後だよ」

「かんけぇ………………帰るか」

「何その間は、なんか怪しい」

 宇佐見が訝しげな目を向けてくる。

「なんもねぇよ」

 カバンを担ぎ、欠伸をしながら廊下へ出る。

 

 そういやもう今の家には俺以外に飛鶴が居るんだっけか。

 いつもだったら玄関が閉まるギリギリ、もしくは閉まった後に帰ってたから忘れてた。

 そんな時間に帰ったら飛鶴は心配するよな。

 

 そう思って俺はこの時間に帰路を辿り始めた。




 はい!第8話終了

 なんか蓮子が腹黒い。

 そして玄関が閉まった後に下校すると言うパワーワード。
 どうやって帰ってるんですかね〜。

 それでは!

 さようなら


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第9話 雑談(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 蓮子に脅されて秘封倶楽部に入会させられた。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「ただいま」

「おかえりなさい!」

 帰ってくると飛鶴が玄関に来て挨拶を返してきた。

 

 その姿はエプロンをしていて、今料理している事が分かる。

 飛鶴の料理はなんでも美味いから楽しみなんだが、今日は少し肌寒い感じがしたから暖まる物が良いなぁ。

 そんな事を考えながら靴を脱ぐ。

「お兄ちゃん。ご飯にしますか? お風呂にしますか?」

「ん? あーそうだな……ご──」

「それとも……わ・た」

「ご飯が良いな! ご飯にしよう!」

 俺はすごい勢いで捲し立てるように言った。

 理由は高校生が大学生に対して言ってはいけない言葉が聞こえたような気がしたからだ。

「分かりました! すぐにご飯を用意しますね」

 そう言った後、飛鶴は小走りで台所へ戻って行った。

 

「はぁ……」

 ため息をつく。

 この世界は俺を過労死させたいのだろうか? そう思ってしまうような最悪の一日だった。

 まさかあの宇佐見が俺を脅してくるまでに成長しているとは思わなかった。

 

 俺は適当にカバンをソファの横に、ソファに腰をかける。

 ちょっと前までは俺一人で使用していた為、少し大き過ぎたように感じていたこのソファも、今では飛鶴も居るので二人で並んでテレビを見る分には困らなくてこれを買ったのは今では良かったと思っている。

 

「出来ました!」

 そう言って運んでくるは買ったけど開封もせずに奥底で眠っていた大きな土鍋。

 飛鶴はたまたま見つけてそれで料理を作ったんだろう。

「今日は少し肌寒いので味噌仕立てのお鍋を作ってみました」

 そう言って飛鶴はテーブルの真ん中に鍋を置き、蓋を開ける。

 するとその瞬間、いい臭いがこの部屋中に広がった。

 中を見てみると肉団子やいちょう切りの人参と大根、白菜、えのき茸、油揚げ等が入っていた。

 

「おぉ……美味そう」

 俺は思わず感嘆の声を上げる。

 そして飛鶴はお椀を一個手に取り、その中にバランスよく盛り付けていく。

 そしてその盛り付けたお椀を俺に手渡してくる。

「どうぞ召し上がってください!」

「ああ、いただきます」

 そしてまずスープを一口。

 その瞬間、幸せが口いっぱいに広がった気がした。

 なんだよ……これ。味噌のまろやかな風味に加え、野菜の甘みや肉団子の出汁がすごい効いてて美味い。美味すぎる。

 

「ど、どうですか?」

「やばい」

「え、え? どうしたんですか?」

「やばい、これは普通に店出せるレベルだ」

 だが、これに限った話ではない。

 飛鶴の料理の腕はどの料理であろうが店を出せるレベルで作り上げてしまう。

 まぁとにかく美味すぎるのだ。

「余計にあいつに食べさせるわけにはいかないな」

 その瞬間、背筋に悪寒が走った。

 店出せるレベルだと褒めた瞬間えへえへとだらしない声を出して喜んでいた飛鶴はもうそこには居なかった。

 居るのはただ奥底が知れない闇を映し出す瞳でこちらを見ている飛鶴だった。

 

「……お兄ちゃん」

「はい!」

 恐怖からか、自然と敬語になってしまう。

「あいつって誰ですか?」

「と、友達でごさまいますです! ……はい」

「友達って……女の子?」

「いえいえ! 彼は列記とした男でございます!」

「……ならいいです!」

 俺が男だと言った瞬間にさっきまでの張り付いた空気はどこへやら。一瞬で和やかムードに変化を遂げた。

 

 怖い。最近は飛鶴が怖い。

 偶に寝ている間にベッドに忍び込んでくるし、風呂にも入ってこようとするし、女に繋がりそうなワードを言った瞬間、今のように生死を彷徨う羽目になる。

 あの可愛い表情が急に氷点下に変わる怖さよ。

 

「んー。おいしいです」

 飛鶴も一口食べて幸せそうな表情になる。

 飛鶴は昔からそうだが、ご飯を食べている時はとても幸せそうな表情になるのだ。

 本当に美味しそうに食べるよな。

「幸せです。こうやってまたお兄ちゃんとご飯を食べれてるのが何よりも嬉しいです」

「最近は毎日一緒に食べてるだろ?」

「それでも毎回嬉しいんです!」

 まぁ、楽しくないとか苦痛よりかは嬉しい方が良いんだけどな。

 最近は飛鶴の居るこの生活に慣れてしまっていて、帰ってきてみると飛鶴が買い物とかで居ないと違和感を覚えてきている。重症かもしれない。

(ふふふ、順調ですね。お兄ちゃんの生活に私を刻み込んで、いずれは私無しでは生きられない体に)

 ふふふと不気味に笑う飛鶴。

 何だかな……。

 

「そう言えば飛鶴は明日が入学式だっけか?」

「そうですね。本当はお兄ちゃんと同じ学校に通えれば1番いいんですけど……」

「それは年の差的に無理だ」

「いや、お兄ちゃんが留年してくれれば一緒の学校に」

「俺は留年したくないのでな」

 そして俺は一杯目を食べ終わり、二杯目を(よそお)うとすると飛鶴にお椀を奪われ、代わりに装ってくれた。

 気持ちは嬉しいがそこまで奪ってまでやることか?

(ダメですよお兄ちゃん。お兄ちゃんは私に世話されるべきなんです)

 なんかこのままだと飛鶴にダメ男にされる気がしてならない。

 まぁ飛鶴が家事をやってくれる分、俺もサークル頑張って金を稼ぐか。

 俺の学校の学費は心配しなくていいから飛鶴の学費と生活費だな。

 

「ん? どうしました?」

 飛鶴を見ていると視線に気がついたようだ。

「いや、ありがとうな」

「どう……いたしまして?」




 はい!第9話終了

 今回はまったり回でした。

 次回は学校に戻るので進奏とのやり取りが見れるかも。

 それでは!

 さようなら


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第10話 通話(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 家に帰ってきた一輝を待っていたのはご飯の支度をしている飛鶴だった。

 飛鶴は異常なまでに一輝の面倒を見たがるので一輝はこのままでは全ての面倒を見られることになってしまうのではないかと心配になるのだった。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 学校。

 今日も今日とて家に飛鶴が居るので仕方が無く登校した。

 今日は朝から仕事をしていたんだが、俺が出るまで家を出る気配がなかったもんで仕方が無く俺はノーパソをカバンに詰めて登校してきた。

 そのため、俺は今昼寝を返上してパソコンに向き合っている。

 

 今日も依頼が入っているわけなんだが、

「人生相談か……あまりやる気が出ないな」

 そもそもとして人生相談を俺にもちかける時点で間違っているのだ。

 俺ほど人生終わってるダメ人間はそうそういるもんじゃない。

 今だって朝から講義をサボってパソコンを叩いているのだ。

 これは相談屋の権利ではあるが、こんな権利を使う奴はまともな人間では無いだろう。

 先生にも俺ほどこの権利をフル活用したOBは未だかつて見たことが無いと言われたほどだ。

 

「んじゃ放課後まで寝るかな」

 そう言ってキャップを深く被っていつもの寝る体勢に入る。

 その瞬間、携帯の着メロが鳴り出した。

「人が気持ちよく寝ようとしている時にかけてきやがって……一体どこのどいつだ」

 そう思って携帯の画面を見てみるとそこには変態と書いてあった。

 そういや変態で登録してたっけな。

 

 そして俺は通話ボタンを押して通話に出る。

「はいよなんだ進奏」

『くぁw背drftgyふじこlp;@:「」』

 俺はそっと通話終了ボタンに指を置こうとする。

『お前はお前は!』

「……一体どうしたってんだ」

『なんで授業出てないお前の方が点数上なんだ!』

 恐らく昨日やったテストの話をしているのだろう。

 だが、俺にとっては点数なんてどうでもいい物だから大して気にしていないのだが、度々こういう電話が来るため困っている。

「知らねーよ。勉強不足だったんじゃねぇの?」

 進奏の文句を俺は一蹴する。

 

 いつも進奏は俺に対して文句を言ってくる。

 だが、俺はそんなことを言われても困るのだ。

「んで、お前のあの自信はなんだったんだ?」

『一瞬でも勝てると思った俺が馬鹿だった!』

 ようやく認めた。

 俺は長いこと進奏とテスト対決をしているが、まだ負ける気は更々ない。

 一応講義はサボってはいるが勉強はしている。

 だけど一日の大半がサークル活動で埋まっている為、あまり勉強をしている暇はない。

『く、そうやっていつも余裕を……一体何が目的だ!』

「さぁてなんでしょうかね?」

『……は!? まさか……いや、ちょっとそういう命令は……俺、ノーマルだし』

「いや、勝った方が負けた方の言うことを聞くと言う約束はしてないだろ」

 しかも口調的に考えてる事が不穏すぎた。

 俺だってノーマルだからな? 女の子を普通に好きになれる男の子だからな?

 

『それにしても最近は珍しいな』

「……何がだ」

『今お前は部室にいるだろう。気配(臭い)で分かる』

「気持ち悪いわ! お前の方がそういう性癖があるんじゃねぇのか!?」

『まぁ、俺の性癖は置いといて』

「置くな! 怖いわ!」

 でも実際にこいつが臭いで俺をさぐれることは間違いない。

 以前俺の家に急に遊びに来たことがある。

 教えてないのになんで知ってると聞いたら「臭いで探った」とか言い出しやがった。

 初めて聞いた時は恐ろしくて言葉も出なかったな。

『んじゃ続けるぞ? お前さ、昨日に続けて今日も登校してきてる訳じゃん?』

「教室に顔も出てないけどな」

『事件か?』

「お前失礼だぞ?」

 俺が連続で登校するのがそんなにおかしいか? 俺だって連続で登校する事だってある。

 ……一年に一回くらい。

『まぁ、それは良いとして……何かあったか?』

 ギクッ

 早速核心につくことを言われ、俺はびっくりした。

 進奏は昔から勘のいい所があり、結構見抜かれたりとかはある。

 それをこの場で発揮されて少し冷や汗をかく。

 

 だが、まさかこいつでも女の子が家に居るからとかは思わないはずだ。

 大丈夫だ。まだ慌てる時間じゃ──

『なんだ? 好きな人でも出来たのか?』

「…………あ?」

『それしか考えられねぇ。この学校に好きな人が居るから会いたいが為に投稿してるんだよな』

 何言ってるんだこいつ。俺は呆れしか出てこなかった。ツッコム気力も失せたわ。

『それでお前はその娘とお近付きになりたいけど相手にして貰えないから影からそっと見守る。くぅっ! 泣かせるじゃねぇか』

 なんか進奏の中で変なストーリーが構築されて行っている。

 だが、これは好都合かもしれない。

 俺が飛鶴と住み始めた事を勘ぐられぬためにここは肯定しておくのが吉か……。

「ああ、そうなんだ」

『やっぱりかぁぁッ! だが諦めるなよ。チャンスはきっと来る……くくく』

「笑ってんじゃねぇっ!」

 何こいつ、人の不幸を笑うとか性格悪!?

 笑いながら言う進奏。とんでもなく性格が悪い。人の不幸は蜜の味ってかふざけんな!?

「ま、まぁ、頑張れよ……くくく」

「もう電話かけてくるんじゃねぇっ!」

 俺はその言葉を最後に通話を切る。

 

「はぁ…………寝よ」

 そして俺は携帯をポケットに仕舞い、キャップを深々とかぶる。

 やっぱりこの体制が落ち着くな。

 そのまま俺は深い眠りへと落ちていった。




 はい!第10話終了!

 今回はほとんど進奏との通話でした。

 次回はまたまたミッションをやっていきたいと思います。

 それでは!

 さようなら


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第11話 人生相談?(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一輝は(性的に)身の危険を感じた。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「あのー。すみません」

 コンコンと言う音が聞こえる。ノックだ。

 

「ん〜」

 その音に釣られて俺は目を覚ます。

 さて、仕事の時間だ。

 

 被っていた帽子を椅子の横に置き、「どうぞー」とノックに返事をする。

 するとガラガラガラと扉が開き、可愛い女の子が入ってきた。

 小柄で童顔、大学でこんな小動物みたいな子居るんだ。

「あ、あの! 私、依頼をしました和成 結乃(ゆいの)です!」

「ああ、君が和成か。依頼内容は人生相談だったよな」

 苗字がなんかどこかで聞いたような……。

 俺は紙とボールペンを取り出す。

 ちょっとカッコつけて取り出す時にボールペンを回してみたり。

「はい! 実は最近悩んでることがありまして……」

 正直俺に相談するのは間違っていると思うがそれでも仕事なもんで聞かざるを得ないのだ。

「実は……」

 俺は真剣にじっと次の言葉を言葉をしっかりとペンを握りしめながら待つ。

 そして数秒後和成が漸く口を開いた。

「せ! 先輩はっ!」

「あ?」

「先輩は好きな人とか居ますか!?」

 和成は俺の心に急に爆弾を投げつけてきた。

 その爆弾が俺の心にクリーンヒット。KOだ。

「……よし、人生相談はここまでだおつかれ」

 そう言って俺は和成の驚く顔を横目で見ながら荷物を持ち、部室から出ていくと真横から腕を掴まれた。

 俺は「なんだ」と睨みつけるとそこには俺の知っている人がいた。

「なんだ進奏」

「久しぶりだな、ここで会うのは。それにしても寂しい部室だこと」

 進奏は勝手に部室の中に入っていく。

 手を掴まれているので部室の中に引きずり込まれてしまう。

 それによって逃げられない状況に。

「何するんだ進奏」

「お前よぉ、人生相談くらいのってやってくれよ。俺の可愛い妹なんだ」

「……は? 妹?」

 そうして二人を見比べてみる。

 確かに口元とか髪質とか似ているかもしれない。

 そして何より和成という苗字。違和感があると思ったら進奏の苗字だ。道理で……。

 しかし妹さんもこの学校に通ってたんだな。素直に驚いた。

「そ、それで先輩は好きな人とか居ますか?」

「まだ言うか!! それまだ言うか!?」

 俺は実は恋愛という物にトラウマを抱えている節がある。

 昔は俺も好きな子が居たさ。だけどな、

「お兄ちゃんは私のモノなんです。勝手に他の人のところへ行ったら……私、何するかワカリマセンヨ?」

 怖すぎる。

 何も言ってないのに好きな人が出来る度にこう言われる為、一時期は飛鶴のことを人の心を読める超能力者だと思っていた頃もあった程だ。

 その為俺は恋愛にトラウマが出来てしまった。

 ちなみに俺が他の女の子と仲良くしてるのは非常にジェラシーらしいが宇佐見だけは許されていた。

 宇佐見は飛鶴にとっては姉さん的存在だったもんな。

 

 んで大学に入り、恋愛しようかなと好きな子が出来ないままズルズルと今に至り、再び飛鶴が居るため恋愛なんか出来たもんじゃない。

 今では昔よりは少し良くなっているが少し離れてた分、昔よりも俺に固執していると思う。

 だから今彼女なんか作ってしまったら本当に飛鶴は壊れてしまうかもしれない。

「はぁ……」

「まぁ、お前に好きな人が居ないのは分かった。んじゃ話の続きを聞いてやってくれ」

「ん? ああ」

 俺は諦め、再びいつもの椅子へと腰を下ろす。

 そしてペンと紙を再び取り出し、話を聞く体制に入った。

「すぅ……はぁ……」

 和成妹は深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせているようだ。

 ただ人生相談するだけなのにそんなに緊張するものなのか? そう思ったが多分ただならぬ事情でも抱えているのだろう。

 そうなったら全力でサポートしなくては、

「大丈夫だ。兄が着いている」

「う、うん」

 そして和成妹は息を大きく吸い込み、告げた。

「私、和成 結乃は先輩に一目惚れしました! 私と付き合ってください!」

 深々と頭を下げる和成妹。

「………………んで、なんか言ったがぁっ!」

 俺は全力で和成兄に頭を殴られた。

 勢い良すぎて上から叩かれたから机に勢いよく顔面を強打した、痛い。

「おい、それでも男か!? 鈍感系主人公でもこの場面でそれは無いぞ!! 逃げるのか!?」

 逃げる?

 そうだな。俺は逃げたかもしれないな。今後の未来を予測して恐怖を抱いたんだ。

 今俺が恋人を作り、飛鶴とあまりいられる時間が無くなったら。

 そして断れなかった。

 初対面だし、断ればいい。進奏の妹じゃなければな。

 兄の前でフる事が出来なかった。

「んじゃあ分かった和成妹よ」

「はい?」

 少し涙目のまま返事する和成妹。

「まぁ、お互い初対面だ。いきなりってのは無理だが友達からなら。ただし学校内限定でな。外で友達してると厄介なことになるんだ」

 俺は詳細は説明できなかったが軽く説明した。

 そして友達から始める事になるが、学校内限定の友達と言うこと、そしてお互いの事を深く知り、それでも付き合いたいと思うならばその時にまた告白して欲しいと。

 もしかすると俺から告白するかもしれないが、それをやったら飛鶴が黙ってないだろうなぁ。

「んだよ。せっかく俺にも弟が出来ると思ってたのにな」

「お前が兄とか死ぬほど嫌なんだが?」

「んだとぉ?」

 

「と言うか人生相談じゃなかったのか?」

「えーっと……告白って書くのが恥ずかしかったので……告白も人生に関係しているのであながち間違ってないです!」

 確かにそう言われてみると……そうかも。

「まぁとりあえずこれからよろしくな」

「はい!」




 はい!第11話終了

 今回は人生相談の筈が告白に

 そして新キャラ和成 結乃。

 これからの展開が楽しみです。

 それでは!

 さようなら


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第12話 脱出(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一輝は進奏の妹に告白された。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 和成兄妹が帰った後、俺は再び深い眠りについた。

 深い眠りについたことで下校時刻を大幅に過ぎて現在夜の九時だ。寝過ごした。本気で後悔してしまった。

「こんな時に寝過ごすなんて……」

 この学校から抜け出すのはそう難しいことではないが、飛鶴を宥めるのが一番苦労しそうだな。

 

 ちなみに俺がおかしいだけで本来はこの学校の警備は厳重過ぎて入るのも抜け出すのも一苦労なんだ。

 至る所に赤外線センサーが張り巡らされていて、少しでも触れてしまうと直ぐに警察に通報が行くようになっている。

 俺だからって許される問題ではないんだが、何故かこの部室まで警備が来ることは無い。

 

 あと、ここには窓があるが、そこから抜け出すのはナンセンスだ。

 全ての窓に赤外線センサーがこれでもかと言うくらい張られているため、触れたら一発アウトは間違いなしだろう。

 そしてドアを開けるのも窓と同じ理由でアウトだ。

 

 しかし警備の時にそれでは不便でしかない。だから警備員だけが使える解除の道具ってのがある。

 それが安易な名前だが赤外線解除キーという物だ。

 それをドアに翳すとそのドアの赤外線センサーが解除されるという仕組みだ。

 それならば今俺は部室にいるから詰んでると思うかもしれない。

「あー。またやっちまったな〜。手癖が悪いってよく言われるんだよな〜」

 そう、俺は手癖が悪いってよく言われるのだ。

 相手の気を引いて何かを取るとか。ミスディレクションの技術の応用だ。

 

 そんな俺の手には件の赤外線解除キーが握られていた。

「しかしまぁよくこんな大事なもんを職員室の机の上にぽんと無防備に置いとくよなぁ……?」

 ちなみにこれは無防備にぽんと置かれていたわけじゃない。

 厳重な金庫、36文字×4桁の暗証番号が必要となっているのだが、俺にとってはあの位の暗証番号を解く事など朝飯前だ。

「まぁ、たまに来る開かずの金庫解除の依頼の知識が役に立ったな」

 まぁ借りてるだけだ借りてるだけ。

 いつか返すさ。

 

「さてと、帰りますか」

 と言ってもこのキーを持っているからと言って正面から出ていくのは流石に見つかる危険が高すぎる。

 以前、この学校の警備について調べたんだが、下に行けば行くほど警備の手が濃くなって行っている。

 つまり一階に降りる事ほど無謀なことは無いってことだ。

 センサーも警備員も居るが、上に行くのが無難だろう。

 そう思い、俺は部室のドアに赤外線解除キーを翳し、赤外線センサーを解除してからドアを開けて部室から出ていく。

 

 俺がこれから目指すのは屋上だ。

 屋上は一切警備の手はない。屋上に行けば俺の勝ちだ。

 しかしここからが本番。

 廊下には無数に張り巡らされた赤外線センサーが至る所に張り巡らされている。

 もちろんそれを肉眼で視認することは出来ないが、まぁ色々あってセンサーの位置を知っている。

 そして昔はよくこの時間まで寝ていたから走って通り抜けれるレベルでは慣れている。

 

 今日ばかりは早く帰らないと飛鶴さんが怖いので全力疾走だ。

 だがセンサーに引っかかるとかそんなヘマを今更する訳が無い。

 今更そんなヘマをやらかすくらいなら相談屋なんてやってられないと言える。

「しかしまぁ上の方がこんなにザルだったらちょっとこの学校のことが心配になってくる。主に屋上から侵入されるんじゃないかとか」

 でもそのお陰で俺はこの時間まで寝ていられるわけだからザルに感謝すべきなのか?

 そんなことを考えながら突っ走っているといつの間にか屋上の扉の前まで駆け上がってきていた。

 この扉を開ければ屋上に出られる。

「これで良し」

 キーをドアに翳し、最後の赤外線センサー解除。

 ドアを静かに開け、屋上に出る。

 

 流石にまだこの季節は夜は冷え込むので風の冷たさに体を奮わせる。

 四階建ての屋上。それなりの高さで、高所恐怖症の人が見たら卒倒するだろう。

「さて、帰るか」

 そう思って屋上を見渡すと一つの影が見えた。

 女の子だ。それも見た事ある。

 

「宇佐見、こんな時間まで何してるんだ?」

「え? ひゃっ!」

 宇佐見は背後から急に声をかけられたことによって驚いたのか体をビクッと震わせた。

「き、輝山君? お、驚かせないでよぉ……」

 その声は今声をかけられたのが怖かったのか少し涙ぐんだ声になっていた。

「まぁ、それは悪かった。んで何やってるんだ?」

「ん? 天体観測かな」

「天体観測? 何も機器を置いていないみたいだが?」

 普通天体観測には望遠鏡を使うものなんじゃないか? だが宇佐見の手にはそれらしきものはない。

 ただ肉眼でこのこうだいな星空を眺めている。

「まぁそれはいいが宇佐見、もう九時回ってんだから帰ろよ」

 そう言って俺は端の方に向かっていく。

「え? 輝山君、何するつもり?」

「ん? ああ、飛び降りる」

 そう言って端から下の方を見る。

 何度見ても圧巻の景色だわこれは。

「い、いやいやいや、何考えてるの!? ここ四階建ての屋上だよ!?」

 宇佐見の意見は至極真っ当だ。しかし俺は飛び降りようとするのをやめない。

「だが宇佐見、今から一階に行くのは辞めた方がいい。下に行けば行くほど警備が濃いから、見つかれば下手すりゃ退学だぞ?」

「た、たいぃっ!?」

 やっと事の重大さに気がついたようだ。

 もう一階に行けない。ならどこかから降りるしかないんだが、下に行くと警備に捕まる可能性が高い。

 だから俺はここからが跳ぼうとしてるんだがな。

「で、でもでも屋上って死んじゃうんじゃ」

「任せとけ。宇佐見も来いよ」

「え?」

 

 そして困惑しながら歩いてきた宇佐見を──お姫様抱っこした。

「ちょ! ちょっと待って!!」

「待たねぇ」

 そう言って俺は思いっきり屋上から走幅跳をキメる。

 この距離の走幅跳ならついでに校門も飛び越えられるだろう。

「し、死ぬ! 死んじゃう! お母さん……今までありがとう」

「俺らに母さんなんて居ねぇだろ」

「あ、そうだった……ってちがーう! おちるぅぅぅっ!」

 しかし俺はそんな宇佐見の叫び声も知った事かと綺麗に着地した。

「ふぅ……何とか出てこれたな。んじゃ宇佐見さよう……死んでる!?」

「し、死んでない! 死んでないけど死ぬかと思った!」

「まぁジェットコースターみたいなもんだよな」

「全然違うよ!」

 この後、宇佐見は腰が抜けたらしく、宇佐見に文句を言われながら家まで送って行った。

 

「お、にいちゃん? まだなの? ねぇ、飛鶴寂しいよ……まさか他の女に誑かされてるんじゃ?」

 無事学校から脱出できたがまだ問題は解決していなかった。




 はい!第12話終了

 今回はぶっ飛んだ話でしたがどうでしたか?

 と言うか一輝の手口が自分で書いててかなり危ないなと思っていました。

 それでは!

 さようなら


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第13話 恐怖(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一輝は学校からの脱出ミッションをこなした。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 俺は宇佐見と共に学校から脱出した後、全力疾走で家まで帰ってきた。

 家の前に立つとかなりの圧を感じてしまう。

「多分怒ってるよなぁ」

 飛鶴は逐一俺の状況を把握したがり、少しでも遅いと感じたらものすごく不機嫌になり、ものすごい剣幕で問い詰めてくる。

 

「はぁぁぁ…………。生きて明日を迎えられますように!」

 そう願い、俺は思いっきり家の戸を引き開けた。

 するとその瞬間、家の中からいやなムッとした異臭が臭ってきた。

 

 電気は着いておらず、キッチンの方から怪しげな光が伸びている。

 

 いつもとまるで違う雰囲気、怪しげな雰囲気でいまさっき学校という名の牢獄から脱獄する程に神経が図太い俺でも恐怖を感じてしまう。

 今までに飛鶴には何度も恐怖を感じる場面はあった。だが今回のは今までよりもやばい。そんな気がする。

 

 しかし、見てしまった以上はそれが何なのかを確かめて置かないと怖くて夜も眠れた物じゃない。

 ゴクリと生唾を飲み込み、恐る恐るキッチンを覗き見る。

「んなっ」

 俺は驚いた。

 俺の視界に映ったものは、料理している飛鶴だった。

 しかもただ料理している訳では無い。飛鶴は沸騰している訳(・・・・・・・)では無いがボコボコと(・・・・・・・・・・)音を立てている鍋(・・・・・・・・)を永遠と掻き混ぜていた。

 あの鍋を前にして平然としている飛鶴にも驚きだ。だがそれよりも俺が恐怖を覚えているのはあの鍋だ。

 

 なんで火を止めてるのに沸騰しているみたいになってるんだよ。おかしいだろ。

 

 俺が恐怖で怯えながら飛鶴を見ていると向こうも俺に気がついたみたいでこっちにゆっくりと振り返る。

 こっちを見ると飛鶴は口元をへにゃりと曲げて俺に告げた。

「おかえりなさい。今ご飯をお持ちしますので待っていてくださいね?」

 飛鶴は食器の準備をし始める。

 本能が逃げろと、そう叫んでいる気がした。

 しかしながら体は全く動いてくれない。

 

「あ、そうだお兄ちゃん」

 飛鶴は食器を用意する手を止めずに釘を刺すような事を言ってきた。

「もし逃げたら……そうですよね? お兄ちゃんは私から逃げたりなんかしませんよね?」

 皿に移してもボコボコと音を立てている食べ物では無い何か。

 何を入れたらあんな化学反応を起こすんだ。

 しかし逃げた時が怖いので逃げるのを諦める。

 

 もしここで逃げても直ぐに見つかって人体改造でもされるのがオチだ。

 となればここは大人しく従っておくのが吉なんだろう。

「そ、そうだな〜。飛鶴のご飯は美味いから楽しみだ」

 俺は必死に恐怖を押し殺しながら言った。

 すると飛鶴の肩がビクッと震え、数秒間だけ謎の液体が入った鍋を見つめる飛鶴。

 だけど数秒経ったらまた準備を再開する。

 

 しかし今の反応、もしかして効いたのか?

 一瞬、飛鶴の目に迷いが見えたような気がする。もしかしてこのまま褒めちぎったらバットエンド回避出来たりしないだろうか?

 よし、こうなったらやってみるしかないな。

 そして俺は飛鶴の事を必死に褒めちぎる。

「あー。飛鶴は料理の腕は最高だし、掃除等の家事全般完璧で、人を気遣うことが出来て、それになんと言っても可愛い。もうなんて言うか完璧で自慢の義妹だ。いつ嫁に出しても恥ずかしくないな、うん。俺もこんなお嫁さんが欲しいな」

 これでどうだ。思いつく限りの褒め言葉を並べて褒めちぎった。

 すると俺の狙い通り、飛鶴の動きがピタッと止まった。

 暗くてよく見えないが、ほんのりと顔が赤くなっている様な気がする。

 

 俺は知っている。飛鶴は昔から褒めちぎられるのに弱いという事を。

 だから褒めちぎればこの状況を何とか打開できるはず。

「……ですか?」

「……へ?」

 急に飛鶴が言葉をポツリと零した。

「本当ですか? 私みたいな人をお嫁さんにしたいって」

 薄暗闇の中、飛鶴の目が潤んでいるのが見えた。

 もうさっきまでの狂気は感じられない。もう一般的な可愛い普通の女の子に戻ったと、そう感じた。

「ああ、本当だ」

「〜〜っ! お兄ちゃぁぁん」

 すると飛鶴は全ての道具を投げ出して俺の胸に飛び込んで来た。

 それを俺は優しく抱きしめ、頭を撫でる。

 寂しかったんだよな。だからこんなことをしてしまったんだよな。

「……」

 そこでいつもだったら撫でてやると喜ぶと言うのにピタリと黙り込んでしまった。

 飛鶴の目を見てみると黒くにごった瞳が俺の事をじっと真っ直ぐ見つめていた。

「ねぇ、お兄ちゃん」

「は、はい!」

 飛鶴の圧が強すぎて思わず敬語になってしまう。

 

「お兄ちゃんの体から他の女の臭いがする。発情した雌豚の臭いがする」

「え、」

「ねぇ、お兄ちゃん。私、信じてたんだよ?」

 その声はとても悲しそうだった。

 と言うか女の臭い? もしかして宇佐見をお姫様抱っこしたせいか?

 だけどあんまり長く密着していた訳じゃないんだが……。

「ねぇ、浮気?」

「浮気!?」

 ちょっと待て、俺は飛鶴と付き合ってなんて!

「私をお嫁さんにしたいって言った癖に!」

 俺の胸を強めに叩いてくる飛鶴。正直言って飛鶴の力をナメていた。少し痛い。

 

「もうお兄ちゃんの事なんて知らない!」

「飛鶴!」

 飛鶴は俺を突き飛ばした後、家から出て行ってしまった。

 これはまずいな。直ぐに追いかけないと、

「飛鶴は俺が責任を持って不便の無い生活を遅らせるって宣言したんだから」




 はい!第13話終了

 今回は飛鶴回です。

 蓮子がヒロインって言ってるのにあんまり出ていませんね。

 この飛鶴編が終わったら蓮子の話を進めたいと思います。

 それでは!

 さようなら


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第14話 一輝と飛鶴(前編)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 飛鶴が家を出て行ってしまった。



 それではどうぞ!


side飛鶴

 

 これは私がまだ施設に来て間もない頃の話。

 

 私はまだ幼く、知らない環境で勇気が出なかったので全然友達なんて出来なかった。

 だから私は毎日施設の敷地内に設置されているブランコで一人寂しく揺れていた。

 

 ここには幼くして両親を無くした子供達が集まっている。

 自分だけが酷い目にあっているって言う訳では無いんだがどうにもナイーブになって、独りを選んでしまう。

 

「はぁ……」

 ため息を着いた。

 私はもうどうでもいいと思える程に気持ちがナイーブになっていた。

 正直同年代の子供達に比べたら可愛げが無かったと思う。

 

 私は何の為に生きてるんだろう。幼いながらに四六時中考えていた。

 

「あ、飛鶴ちゃん。まだこんな所に居たの? 寒くなってくるから中に戻りなさい?」

 施設の方々は優しい。だけどなんでだろう、素直に会話することが出来ない。

 今日も言葉は聞くけども一度も言葉を発することは無く建物内に入っていく。

 

 その瞬間だった。

 

「え、きゃあ」

 私は尻もちを着いた。

 何故なら目の前を男の子が凄いスピードで走って行ったから。

「宇佐見落ち着け、な?」

「な? じゃないわよこの馬鹿!」

「ちょ、待て! 死ぬ! 死ぬから!」

 その男の子はすぐに後ろからやって来た女の子に柔道の技をかけられて大ピンチに陥っていました。

 私には関係ないですが、私にはとても滑稽に思えてしまったのです。

 

「ふふっ」

「お、ま、え〜。笑ってる暇があったら助けてくれ」

 あろう事か、明らかに年下の私に対して助けを求めてきました。情けないです。しかしそれが面白くて面白くて仕方がありませんでした。

「無理ですよ。私、力ありませんから」

 それで私はその人達の横を通って室内に入りました。

 今日、私は久しぶりに笑ったような気がします。あの人達はなんて言うんだろう。その日はその人達の事で頭がいっぱいでした。

 

「ねぇ輝山君。さっきの子の事知ってる?」

「あ? いんや、この施設内で名前を覚えてるのは宇佐見だけだぞ?」

「そ、そう……。じゃ無くて、あの子は篠川 飛鶴って言って笑わない女の子として有名なのよ?」

「笑わない女の子か……。キヒヒ」

「何? 笑い方が気持ち悪いわよ」

「どうでもいいだろ?」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 翌日、私が起きてホールの方に来ると――

 

「よ、篠川。おはよう!」

 何こいつ。

 昨日の今日で私の中でのこいつの評価は面白い奴から変な奴に変わった。

 

 それからこの男の子は私を見かける度に話しかけてくるようになりました。

 朝起きてのおはようはもちろん、ご飯の時は誰も好んで私の隣には来ないのですが、この人だけは違って

「よ、篠川一緒に食おうぜ」

「……勝手にすればいいじゃないですか」

「んじゃ、勝手にさせてもらう」

 態々私の隣に陣取って毎食一緒に食べてくる始末。

 そして食事中には私に雑談を振ってくる。

「うめぇなこの唐揚げ」

「……別に、いつも通りじゃないですか?」

 あ、ほんとだ美味しい。中にまで味が染み込んでる。

 

 これが毎食、おやつの時間だって私の隣に来て、

「これこれ、これだよ! 俺、これが好きなんだよな〜」

 分かるような。私も結構好きなお菓子だ。

 ん、美味しい。

 

 寝る前も、

「お、篠川。おやすみ! また明日な」

 また明日!? もしかしてこれから毎日こんな感じに話しかけてくるつもり!?

 本当に変な奴。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 翌日もやはり来た。

「おはよう! 今日は清々しい朝だね」

「おはようございます」

『…………』

 私が挨拶を返すとみんなが不思議な目で私達二人を見てきました。

 久しぶりに挨拶したのでどこか至らない点でもあったのでしょうか?

 すると男の子は嬉しそうにはにかみました。

 

「にしし、おはよう」

 やっぱり変な奴だ。

 

「うめぇ。このハンバーグ最高!」

「はい。美味しいです」

 今日も自然にご飯の時間になったら私の隣に座って食べているこの人。なんかナチュラルに座って来たので私も自然と受け入れてしまいました。ですが悪い気はしません。

『…………』

 

 今日も寝る時間、いつものようにあの人が駆け寄ってきました。

「篠川、おやすみ」

「……その前に一つお話いいですか?」

 私は気になった。どうしてここまで私の周りをうろつくのかが。

 私のような人に愛想振りまいてもいいことないっていうのに……。

「どうしてあなたはそんなに私に話しかけて来るんですか?」

 ついに聞いてしまった。

 これでもし「自意識過剰過ぎね?」とか言われたらもうショックで立ち直れない自信がありました。

 しかしその人は優しい表情で私の頭を撫でながら驚くべき事を言ってきました。

「俺の妹になってくれ」

「は?」

 正直予想外と言う気持ちと何言ってんだこいつと言う気持ちで半々でした。

 私の質問に答える訳でもなくこの人は急に妹になれと言ってきたので困惑してしまいました。どうやら関わってはいけない種類の方だったようです。

 

「ああ、なぜ話しかけるかだっけ?」

 まずはその事から言ってくださいよ。びっくりしますから。……そういう問題ではないですが。

「まぁ、単純にだ。君の笑顔が見たい」

「え?」

 今度は別の意味で驚いてしまいました。

 私の笑顔が見たい。そんなのは初めて聞きました。それだけに胸を撃ち抜かれた様な衝撃が走りました。

 

「ダメか?」

「ダメじゃ……ないです」

 ダメかと問われた瞬間に私の口は勝手に動いてそう言っていました。

 

「なら良かった。じゃあ妹に――」

「おやすみなさい」

 私は最後まで話を聞くことはなく寝室に入りました。

 

「妹が欲しい……」

「……輝山君。正直、キモイ♪」




 はい!第14話終了

 飛鶴の回想ですね。

 幼いながらにこんなことを考えるのは相当ヤバいと思います。

 それでは!

 さようなら


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第15話 一輝と飛鶴(後編)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 飛鶴と一輝はこうして出会った。



 それではどうぞ!


side飛鶴

 

 それから毎日私の元へ来ては雑談を披露してくれた。

「んでさ、宇佐見がさ」

「ふふふ」

 私も自然と彼の隣だと笑みが溢れるようになった。

 

 次第に彼が隣に居るのが普通になっていて、その人が居ないと落ち着かないようになった。

 

「飛鶴ちゃん、最近色々と楽しそうだね」

 だけどまだ施設の人とは会話をする事が出来ません。あの人が居たら自然と話せるのに。

 初めて自分から話したいと思った人でした。

 

 そんなある日、その日は私の所には来てくれませんでした。

 少し離れたところでお友達と話しているようです。私も混ざりたい。そう思ったけどあそこに居るのはあの人だけじゃありません。なので勇気が出ませんでした。

 そんな所に新たな人が訪ねてきました。

「飛鶴ちゃん?」

「ひゃあっ」

 どこからともなく、気配もなく近付いてきた女の子に驚いて小さな悲鳴を上げてしまいます。

 その子は黒いハットを被って大人びた雰囲気です。ちょっと怖いです。

 

 ですが思い出しました。この人はあの人とよく一緒にいる人です。

 確かあの人がよく話題に上げていたような気がします。名前は確か……、

「宇佐見……さん」

「え!? 私の事覚えててくれたの? 嬉しいな〜」

 さっきの大人びた雰囲気は何処へやら年相応の可愛らしい喜び方をします。

 

「改めて自己紹介するね。私は宇佐見 蓮子、ってまぁ、よくあの馬鹿が私の事を話題にしてるっぽいから知ってるよね」

 はい、あの人が逐一何があったのかと話題に出してくれるのでこの人がどのような人なのかは良くわかっています。

 オカルト好きで探検するのが大好き。よくあの人を連れ回して放課後は山に探検に行くのを趣味としている。

「それで、何の用ですか?」

「ん、まぁさ? 酷いと思うんだよね」

「何がです?」

「前は私だけの輝山君だと思ってたのにいつの間にか友達を沢山作っちゃって……何これ、浮気?」

 輝山……君?

 私はその人物の事が分からなくて首を傾げました。すると宇佐見さんは私の気持ちを読み取ったのかその人について話してくれました。

 

「ほら、いつも飛鶴ちゃんにうざ絡みして行ってるじゃん。ってあの馬鹿、自己紹介もせずにあんなにうざ絡みをして言ってたの……」

 呆れた様子であの人を見る宇佐見さん。

「ほら、あいつよあいつ。何を考えてるのか分からないあいつ。名前は輝山 一輝」

 あの人、輝山さんって言うんだ。良い名前だなぁ。

 そしてそんな輝山さんの事を考えていると顔が熱を帯びていくのが分かりました。

 

「へぇ、ほぉ? へぇ〜」

「なんですか?」

「いやさ? 飛鶴ちゃん、今恋する乙女の顔になってたからさ」

「こ、きょい!?」

 初めての指摘に困惑しました。

 恋なんてそんなんじゃないのに。ただ、向こうから話しかけてくれるから話しやすいだけで……でも今はとてつもなく自分から話しかけに行きたい。

 

「ふふ、飛鶴ちゃん顔真っ赤。可愛い〜」

「…………宇佐見さん、嫌いです」

 ぷいっとそっぽを向くと「ごめんねぇ〜」と抱きついて来ました。こう言うのを類は友を呼ぶって言うのでしょうか? 輝山さんとは別の意味でうざいです。

 

「あ、宇佐見。篠川と一緒に居る?」

 そこへ解散した輝山さんが来ました。やっとこの時が来たと胸のドキドキが収まりません。

「そうね。可愛らしいね」

「……あんまりいじめてやんな――ごぶァ」

 輝山さんが回し蹴りで蹴り飛ばされてのびてしまいました。

 この状況、どうしたらいいのでしょうか?

「全く、失礼しちゃうわ。私、別にいじめてないよね?」

「…………」

 私は宇佐見さんから目を逸らして輝山さんの方を見ます。

 蹴られた時の悲痛の叫びを聞くだけでどれ程の威力だったのかってのがすぐに分かります。 

 痛そう。私は自然と輝山さんの元へ近づき、蹴られたところを摩ります。

 

「ガーン。飛鶴ちゃんが私をシカトした!?」

 宇佐見さんが何か言ってますが、私にとって一番大事なのは輝山さんなのでこっちの介抱に専念します。

 

 そう言えば聞いた事があります。介抱するときに人工呼吸なるものを行う場合があると。

 ゴクリと生唾を飲みます。

 輝山さんの唇。それに私は徐々に引かれていきます。

「……輝山さん。いえ、お兄ちゃん」

 あと数センチ、その所で私は呟きました。その瞬間、

 

「お兄ちゃん!?」

 ガバッとお兄ちゃんが起き上がります。それによって私のおでこと輝山さんのおでこが勢いよくぶつかって少し痛いです。

「いてて……大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」

 私が大丈夫と言うと輝山さんは目をキラキラさせてこっちに詰め寄ってきました。正直怖いです。

 

「もう一回お兄ちゃんって呼んでくれ!」

 この時、初めて人の土下座を見ました。どれ程呼ばれたいのでしょうか?

 ですが恥ずかしいのでもうこれっきりにすることにします。

 

 それにしてもさっきまでの私、何をしようとしていたのでしょうか。自分でも無意識でした。

 

「き、す」

 宇佐見さんが耳元で囁いてきたのでゾクゾクっとしてしまいます。

 キス、その単語を聞いて恥ずかしさがマシマシです。

 

 私は恥ずかしすぎてその場を逃げ出して走って外に出て行きました。

 その時です。

 

 ドン、私は何か壁のような物にぶつかってしまいました。

 見てみると私より何倍も大きい男の人でした。

 恐怖で動けなくなります。

「あ? 何だこのチビ。今俺にぶつかってきやがったよな」

「兄貴にぶつかるなんて命知らずなガキっすね」

「ギャハハ。恐怖でガタガタ震えてやがるぜ」

 怖い。助けて、そう思ったけど近くには今、大人の人は居ないので助けを呼べません。

 

「取り敢えず、お前がぶつかってきたから俺のズボンに砂が着いたんだ。どうしてくれんだ? ああん?」

 私の事を睨み付けて来ました。怖くて口も思うように動きません。

 今でももう叫びたいのに喉から声が出ません。人は本当に恐怖した時は声が出なくなるそうです。

「だんまりかよ。このクソガキ」

 私の髪の毛を掴んで私を立たせてきました。頭が痛いです。プチプチと何本か抜けた音がしました。

 私はボコボコにされる事を覚悟しました。

 

 ――走ってた私が悪いんだ。

 

「おいテメェら」

「あん?」

 男の子の声がしました。

 一斉にそっちの方を見るとそこに居たのは、

「篠川!」

「輝山……さん」

 輝山さんだった。

 私にはヒーローに見えました。ですが、それと同時に心配でなりませんでした。

 輝山さんはいつも宇佐見さんに蹴り飛ばされてるか関節技をかけられてるイメージしか無いので強いって言うイメージがわかないのです。

 なので、逃げてください。

 

「んじゃあテメェが落とし前を付けてくれんのか? ああん?」

 男は輝山さんの目の前でしゃがみ、下から覗き込むように睨みつけます。

 普通は恐怖するでしょう。しかし輝山さんは至近距離で睨まれているって言うのに目が座っています。じっと男の方を見つめています。

 

「ち、恐怖で何も言えねぇのか? ああん?」

「……テメェら。知ってるか? 髪は女の子の命なんだぞ? それを鷲掴みにするだけじゃ飽き足らず引っ張るなんて……クズが」

 そんなに煽ったら!

「決めた! テメェを殴る」

 男は拳を振りかぶりました。しかし、その拳は輝山さんに振り下ろされる事はありませんでした。

 

「ぐ、」

 輝山さんはノーモーションで蹴りを放ち、それが男の腹にクリーンヒットしました。

「あんたら、喧嘩し慣れてないだろ? 喋る前に手ぇ出さなきゃ」

 何やら輝山さんは喧嘩に慣れている様子。男の先を読んで男を圧倒しました。

 

「このガキ、強いぞ」

「残念ながら俺は空手を習っているもんでな。まぁ、宇佐見には勝てないがそれでもかなりの力はある。大人しく帰れ」

「こいつ! 覚えてろよ!」

 男達はそんな悪役みたいなセリフを吐き捨てて逃げていきました。

 それを見て輝山さんは地面に座り込みました。

 

「はぁ……怖かった」

「輝山さん?」

「実はハッタリだったんだよな。怖いもんは怖いわ。だって自分より大きい相手だぜ?」

 輝山さんは胸を貼る訳でもなく、正直な気持ちを吐露してくれました。

 胸を張っても良いと思いますがそれをしなかった事で私はこの人の事がカッコイイと思いました。

 自分を助けてくれたヒーローに見えました。

 なので、

「これはご褒美ですよ? お兄ちゃん♪」

 ガバッ、立ち上がって私に詰め寄ってくる輝山さん。嬉しそうで何よりです。

 

「もう一回!」

「ふふ、お兄ちゃん。これでいいですか?」

「も、もう一回!」

「お兄ちゃん。助けてくれてありがとうございます!」

「く、これで明日も元気に生きていけそうだ!」

 お兄ちゃんが嬉しそうなので私も嬉しくなります。

 

 今回はお兄ちゃんに助けて頂きました。ですけど次は私がお兄ちゃんを助けられたらいいなと思います。

 だって私もお兄ちゃんと一緒で、お兄ちゃんの笑顔が見たいから。

 

 だからその為ならなんでもするよお兄ちゃん。例え全世界を敵に回したとしても。

 

 この時、初めて飛鶴の心に黒い感情が生まれた。

 

「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなので飛鶴って呼んでください」

「え、なんでだ?」

「呼んでくれないともうお兄ちゃんって呼びません」

「飛鶴!」

「はい! お兄ちゃん♪」

 

『………………何があったんだ』




 はい!第15話終了

 これで回想終了です。

 一輝は昔は今ほど化け物では無いですが、そこそこ強かったって設定です。

 戦いに不慣れな人ならば自分より大きい相手でも余裕で勝てますが怖いっていう感情はあります。

 それでは!

 さようなら


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第16話 悪いのはどっち(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 飛鶴が幼いながらに一輝に対して黒い感情を抱いた



 それではどうぞ!


side一輝

 

 俺は飛鶴を追いかけるため、家を飛び出した。

 飛び出し、そして走り出す。

 

 飛鶴は地味に足が早かったからか俺が立ち上がる時間でもう見えない所まで走って行ってしまったようだ。

 これは俺がこんな時間まで帰らなかったせいだ。その責任は俺が負わないとな。施設のみんなにも顔向け出来ねぇや。

 

 どこに行ったか分からない。飛鶴はこの街に来てあまり日が経ってないからきっと何処も彼処も分からず走ってるんだろうか? じゃあ検討はつかない。

 だけども大体の検討はついた。俺は長年の付き合いだからだ。飛鶴の考えることが大体わかる。

 

 飛鶴は良い子ちゃんだから路地裏は通らない。そして、困ったらまず左に向かう。

 飛鶴はここら辺近辺しか知らないだろうし、多分ずっと迷ってばかりだろう。飛鶴が心配だ。早く探し出さねぇとな。

 

 とりあえず家から出て左の方向に走り出す。

 確か左にはコンビニとかがあったはずだ。その先は何も無いし、こっちに来ているならばコンビニに居る可能性が高い。

 だが、ここら辺は知っている場所。もしかしたら右、もしくは直進した可能性がある。

 

 心配だ。こんな夜遅くに女の子一人で飛び出していくなんて……。どんな目に合うか分からない。出来るだけ早く見つけ出せないと。

 その一心で走り続け、左端にあるコンビニまでたどり着いた。

 もしかしたらコンビニの中に居るかもしれないと思い、コンビニへと入る。

 

 コンビニの中へ入ったら一番最初に気がついたのは商品の少なさだ。まぁ、この時間だから売れ残り商品しか無いのだろう。

 今日は食える飯は無かったからな。最低限おにぎり位買って行くか。あとぶどうジュース。

 

「これお願いします」

「はい。二点で410円です」

 

 俺は百円玉を四枚、十円玉を一枚出して支払った。

 買い物袋を持って最後にもう一度店内を見回す。だが、ここには飛鶴の姿は無かった。

 

「どこに行ったんだ?」

 

 時間が経てば経つほど不安が俺を支配してくる。

 

「ちょっと本気で探すかね」

 

 俺は買い物袋を持って来た道を全力疾走した。

 次は家から見て右側に走る。

 

 確かこっちにはスーパー等の大きな建物もあって人通りも多い。人が少ないよりは多い方が安心だ。裏路地には行かないと分かってるけど人通りの少ない所で何かがあったらと思うと……。

 

「待ってろよ」

 


 

side飛鶴

 

「ここはどこだろう」

 

 私は家を飛び出して右も左も分からない状況でひたすら走った。

 もう二度とお兄ちゃんに会えないかもしれない。だけどお兄ちゃんが悪いんだよ。私というものがありながら他の女の人と臭いが移るくらいの距離まで近づくなんて。

 

「……悪いのは私か」

 

 お兄ちゃんの返事も聞かずに勝手に荷物を送り付けて押しかけて。勝手にお兄ちゃんの一番になった気になって。

 馬鹿みたいだよね。お兄ちゃんだってお友達が居るし、彼女さんだって居ないとは限らない。それだと言うのに私は……。

 

 自分勝手だ。お兄ちゃんに嫌われて愛想つかされてもおかしくないよね。

 

「お兄ちゃん。昔から面倒臭いのは嫌いだって言ってたもんね」

 

『俺は面倒なのが嫌いだ。特に人助けって奴が。でもやる事でこっちの益が上回るなら考えんことも無い』

 

 私、面倒臭い女だよね。お兄ちゃんだって自由はあるのにそれを勝手に縛り付けて、勝手に嫉妬して。

 ごめんね、お兄ちゃん。

 

「あれ、飛鶴ちゃん?」

 

 その時、突如として後ろから声が聞こえてきました。弾かれるようにそちらを見ると大人びたお姉さんが立っていました。

 そしてあの帽子。黒いハット、見た事があるような気がする。そこまで考えた所で繋がりました。

 体こそ大きくなってお姉さんになっているものの、私にはその顔に見覚えがありました。

 その人は多分、

 

「宇佐見……さん?」

「やっぱり飛鶴ちゃんだぁっ!」

 

 宇佐見さんは私が篠川 飛鶴である事を確信すると私に飛びついて来ました。

 私は少し驚きましたが、直ぐに抱擁を交わします。

 

「飛鶴ちゃん。この街に居たの!?」

「私も今知ってビックリしました」

 

 宇佐見さんがある時に突然居なくなったのは知っていました。それもお兄ちゃんにも伝えずに。

 しかしお兄ちゃんはその後、『宇佐見を探しに行ってくる』と言って後を追うように私に告げて去って行きました。

 しかしまさか本当に後を追えてたなんて。同じ街に来れてたなんてビックリでした。

 

「飛鶴ちゃん大きくなったね」

「宇佐見さんもすっかりお姉さんです!」

「あはは。私ももう二十歳だもんね。そりゃあ大人になるよ」

 

 笑いながら言う宇佐見さんですが、性格は変わってなさそうなのがイマイチですね。どうせ今でもお兄ちゃんの事を振り回しているのでしょう。

 

「それよりもなんで宇佐見さんはこの時間にここに?」

「それはこっちの台詞だけど、たまたま家の窓から外を見ると走って行く飛鶴ちゃんっぽい姿が見えたからかな?」

 

 さすがですね。昔とは随分姿形は違うはずなのに一瞬で見抜いてしまうなんて。宇佐見さんは一度覚えた人は忘れないって言う特技があったのでそれのおかげでしょう。

 

「あ、待って。今輝山君も呼ぶから」

 

 この夜遅くにお兄ちゃんを召喚しようとする宇佐見さん。お兄ちゃんだからまだしも完全に迷惑ですよ……。やっぱりこっちに来てもお兄ちゃんは振り回されているようです。

 

「待ってください」

 

 だけどここは私が止めました。なぜなら私はもうお兄ちゃんに合わせる顔がないからです。

 

「私、お兄ちゃんと喧嘩してしまって。走って飛び出してきてしまったんです」

「なるほどなるほど。飛鶴ちゃんのお兄ちゃんってのは輝山君の事だったよね。……えっ? ちょっと待って」

 

 途中まで納得しかけていた宇佐見さんですが直ぐにその表情は疑問と驚きに染まりました。

 この会ってない数年間の間に顔芸でも覚えたんでしょうか? 物凄い顔をしています。

 

「飛鶴ちゃん、この時間に喧嘩して家を飛び出す関係って……」

「はい? 一緒に住んでますが」

「何やってるのよ!?」

 

 宇佐見さんは今度は驚き過ぎて仰け反ってしまいました。何を驚くことがあるんでしょうか?

 

「年頃の男女が同棲だなんて!? 不健全よ!」

「でも私達は兄妹ですし」

「兄妹って、あなた達の中ではね!? 世間的には血縁関係でも無いし、戸籍でも他人なのよ!?」

 

 何がダメなのか分かりません。いえ、分かってます。分かっててあの家に居たのですから。

 襲ってくれるなら襲ってくれるで本望でした。私はお兄ちゃんが好きですから。ですけど少し暮らしてみてお兄ちゃんはそういう事をする人じゃないって気が付きました。

 

「とにかく、輝山君にも話を聞かないと」

 

 宇佐見さんはお兄ちゃんに電話をかけます。

 プルルルと呼び出し音が一回鳴って直ぐに繋がりました。

 

『なんだ宇佐見! 俺は少し急いでんだ。後にしてもらっても』

「いいから今すぐこっちに来なさい」

『ちょっと待て! どうし――』

 

 そこで宇佐見さんは電話を切ってポケットに携帯を仕舞いました。

 やっぱりお兄ちゃんは大変だなぁとしみじみ思います。

 

 その時、ふわりと宇佐見さんから匂いがしてきました。

 甘くて爽やかな。さっきお兄ちゃんの体から感じた匂いです。

 って事は、お兄ちゃんの恋人って……っ!?

 

「宇佐見さん」

「え、何?」

「お兄ちゃんと上手くやってますか?」

「え、どういう事!?」

 

 上手くやれてるならそれでいいです。お兄ちゃんは私の全てですから。

 

 数分後、お兄ちゃんを待っていると、

 

「悪ぃ待たせた」

 

 そう言って宇佐見さんの家の屋根から飛び降りて来ました。

 

「お兄ちゃん!?」

 

 私はビックリしました。まさか屋根から飛び降りてくるなんて思いもしなかったからです。

 流石に屋根から飛び降りたら怪我は避けられません。私は一瞬焦りに感情を支配されました。しかしそれは杞憂に終わったのです。

 ドン、大きい音を立てて無事、私達の目の前に着地しました。

 

「輝山君。幾らあなたの家から見て裏側の道路に面してる家だからっていつもいつも屋根から飛び降りてこないで……」

「だってちけぇじゃねぇか。……って飛鶴!?」

 

 やっと私に気がついたようです。あわあわしている私を見てホッと安心したのか私を抱きしめてきました。

 お兄ちゃんが抱きしめてくれた。それだけで私の心は安心します。

 

「もう、どこにも行くな。俺にとってお前はかけがえの無い存在なんだからな」

「お、兄ちゃん」

 

 私も抱き返します。

 かけがえの無い存在なんだからな。その言葉が頭の中で木霊します。

 ああ、やっぱり私はお兄ちゃんが居ないとダメなんですね。お兄ちゃん無しでは生きていけない体にされました。これは責任を取ってもらうしかありませんね。

 

「ごめんなさいお兄ちゃん。もうお兄ちゃんに心配をかけません」

「こっちこそごめんな。これからはもっと帰る時間に気をつけるから。心配だったんだよな」

「はい。ですがもう大丈夫です」

 

 お兄ちゃんにかけがえの無い存在って言って貰えたから。

 

「……あの、お二人さん? 良い雰囲気の所悪いんだけど、輝山君借りても良いかな?」

 

 あ、そうだった。お兄ちゃんを呼び出したのは宇佐見さんにとってはそっちが本命だったっけ……。

 

「ちょ、宇佐見さん!? 離してくれ! 何がどうなのか知らんが話せば分かる!」

「はいはい。話は家でじっくりと聞くからね〜」

 

 あ、お兄ちゃんが宇佐見さんに引きずられて行きました。元はと言えば私が原因です。見届けないといけませんね。




 はい!第16話終了

 序盤は一輝の視点でしたが中盤以降はやはり飛鶴視点。

 あまりネタが思い浮かばなかったので悪足掻きです。

 それでは!

 さようなら


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第17話 説明(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 飛鶴と一輝がやばい関係なのではと蓮子に疑われて連行された。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 家の中に引きずり込まれた俺は訳も分からずに正座をさせられてしまった。

 正座をさせられてしまったんだが、俺は全く理由が分からなかったので目の前に仁王立ちしている宇佐見を見て不思議に思う。何をいったいそんなに怒っていらっしゃるのか分からない。

 

「まだ分からないかな?」

「分かるって……え? 俺はどういう了見でここに正座させられてるんだよ!」

「そうか……残念」

 

 そこで唐突にポケットから携帯を取り出し、何やら操作をし始めた。

 すると通話を始めるようで耳に携帯を当て始めた。

 

「あのー。警察ですか? ここにロリコンの性犯罪者が――」

「ちょーい!」

 

 その瞬間の俺の反応速度は音速を越えていた自信がある。

 宇佐見から物凄いスピードで携帯を奪い去り、通話を切ろうと画面を見る。すると全く通話画面になどなっておらず、携帯から声も聞こえてこない。

 つまり――

 

「宇佐見、謀ったな」

「そうね。でもこれであなたは自分がロリコンの性犯罪者だって自白したようなものね……飛鶴ちゃん」

「ギクッ!?」

 

 俺は今、ロリコン性犯罪者だと疑われたら言い逃れ出来ない立場に居る。

 そして宇佐見の口ぶりからしてどうやらそれはバレている様で、どこまで知っているかは知らないが多分飛鶴が口を滑らせて俺と飛鶴がかなり親しい関係にあるってことはバレているだろう。仲がいいって事じゃなく、私生活の事を把握しているって所だ。

 

「飛鶴ちゃんとどう言う関係? も、もしかして……こいび――」

「ち、違うんだ宇佐見! これはその……そう! たまたま隣の部屋に越して来てな」

「あれ? 一輝の部屋の両隣って埋まってなかったっけ?」

 

 くそ、なんでこいつそんな事を把握してんだよ! これでますます関係性が疑われるじゃねぇか。

 俺は本当にロリコンじゃ無いのに本当に同じ部屋に住んでいるってことがバレたら確実に牢屋行きになってしまうことであろう。

 

「じー」

「えっとですねぇ」

「やっぱりロリコンだったんだ……だから私には一切の興味を……」

 

 ぶつぶつと何かを呟き始めた宇佐見。きっと俺の処分をどうするかと考えているんだ。

 ちらっと玄関ドアの方を見るとドアの前で飛鶴が正座をしてこっちを見ていた。当事者の一人であるにもかかわらず、我関せずって感じで見てきている。

 

「飛鶴ちゃん」

「なんですか?」

「飛鶴ちゃんってこいつとどんな関係?」

 

 恐らく俺がなかなか口を割らないため、仕方が無く飛鶴にも聞くことにしたのだろう。だけどどんな関係って聞いて飛鶴ならこう答えるだろう。

 きょうだ――

 

「んもう……恥ずかしいこと言わせないでくださいよぉ」

 

 俺の予想とは反し、すぐに答えを言わずに腰をくねくねと動かして照れたように恍惚とした表情をうかべる飛鶴。

 そうだった……。飛鶴は殆どの確率で兄妹って言うが、偶にこういう反応をする。本当に意味がわからないやつだ。

 すると宇佐見は俺を睨み付けてきた。違うんだ! 俺は別に飛鶴には何もして無いぞ! たまにある飛鶴の発作みたいなものなんだよ!

 

「まぁ、それは良いよ……。で、飛鶴ちゃんとはどこまで進んだの?」

「いや、どこまでって何も俺らは恋人じゃないんだから」

「今は同棲しています!」

 

 篠川 飛鶴さん!? 何口を滑らせてるんですか!?

 ほら! 宇佐見がすんごい顔で固まってしまっている。これ、元に戻った時が怖い奴だ!

 飛鶴は飛鶴で未だにくねくねと恍惚とした表情を浮かべてるし、これ以上飛鶴に会話をふったら要らんことまで口を滑らせてしまいそうだ。まぁ、やばいのは大体もう口を滑らせてしまっているからな……。

 同棲では無いけど、共に住んでいるって事実がバレたのが一番やばかった。

 

「あ、あ……一輝君!」

「これは……違うんだ! ある日突然飛鶴が荷物を送り付けて来てさ、いつもおどおどしてる癖に突然行動力が高くなるから困りもんだな」

 

 飛鶴がこっちに来たらいつか絶対にこうなると思ってたんだよ……。まさか今日がその日になるなんて思いもしなかったけどな。

 

「……飛鶴ちゃん。あなたの家って他に無いの?」

「無いです。最初からお兄ちゃんの家以外考えていませんでしたから」

 

 何か考えておけ。俺に断られてたらどうしたんだよ。そんな視線を飛鶴に送ると飛鶴は気がついたようで目でお兄ちゃんは断らないって分かってましたからって言う目を向けてくる。それに対してため息しか出てこない。

 信頼されているのは嬉しいが、こんな時に信用されてのこの行動は全然嬉しくない。

 

「ねぇ、飛鶴ちゃん。こんな変態の所より私の所――」

「嫌ですが」

「即答!?」

 

 なんかすんげぇ懐かれてるんだが、俺ってそんなに懐かれるようなことしたっけ?

 正直言って俺はあんまり小学生くらいの時の施設の事はよく覚えてないんだ。記憶では気がついたら飛鶴と共に居たって感覚なのだ。

 

「一輝。私は認めたわけじゃないからね! 少しでも危険だと思ったらすぐに切り離すから!」

「へいへい」

「お兄ちゃんになら何されてもいいです」

 

 そう言う嘘かホントか分からないことは言わない方がいいぞ。男はそういうので勘違いしちゃうからな。

 

「それじゃあ二人とも食べて行きなよ。遅いでしょ? その様子だと二人もまだ食べて無さそうだし」

「ああ、そうさせてもらう。飛鶴もそれでいいだろ?」

「はい!」




 はい!第17話終了

 これにて飛鶴編終了です。

 それでは!

 さようなら


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第18話 料理対決審査(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一輝が蓮子にお説教された。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 俺達は宇佐見の家で飯を食う事になった。

 現在、宇佐見が料理をしている。それを飛鶴が手伝っているって感じだ。

 俺は料理は出来ない。飛鶴が居なかった頃は毎日コンビニ弁当だった。

 だから俺は一人で本を読む事にした。

 

 読書は好きだ。なぜならその世界に入り込めるからだ。俺は昔から本の中の話にのめり込む癖があってな。風景や情景を鮮明に思い浮かべることが出来るんだ。

 この本は俺の好きな本だ。各々の心情とかが一番鮮明に描かれている。

 そんな本ならば余計にその世界に入り込める。

 

「あのアグレッシブな奇怪的行動を取ることで有名なお兄ちゃんが本を読んでます」

「ああ、あいつは結構最近は本を読んでるみたいだよ」

 

 なんかチラチラとこちらを見てきているような気がするが、気にせず読書を続行することにする。

 

 少しすると料理が出来上がった様で料理を持った宇佐見と飛鶴がこっちに来てテーブルに出来上がった料理達を並べ始めた。

 宇佐見の手料理は食べた事が無いけど、チラッと横目で冷蔵庫を見た限り、自炊している様なので結構出来るのだろう。そして飛鶴のは普段からよく食べているので知っている。だから味の心配は無いだろう。現に見た目は美味そうだ。

 

「お兄ちゃん。料理対決をしてみました」

「そうなのか?」

「ええ、だから食べ比べて貰ってもいい?」

 

 確かに同じ料理が多いなと思ったら片方が宇佐見で片方が飛鶴が作ったのか。

 それにしても料理対決ねぇ。本当にこんなことがあるとは思わなかった。

 だけど、料理対決をするって位なんだから二人とも自信作なんだろう。

 

「んじゃあ頂きます」

 

 手を合わせてまず唐揚げを飛鶴の方から一口。

 やはりと言うか安定の味だ。いつも通りに美味い。肉は柔らかくジューシー。しっかり火が通ってるって言うのに衣は焦げてなく、キツネ色でサクサクとしている。そしてこれは塩ダレか? 味がしっかりと着いており、ジューシーでサクサクなだけでなく味もとても美味い。流石飛鶴と言ったところか。

 

「どうですか?」

「美味い。流石飛鶴だ」

 

 頭をそっと撫でてやるとニコニコと嬉しそうにする飛鶴。さて、癒されたところで次に行こう。

 

 お次は食べた事がない宇佐見の料理だ。

 飛鶴と同じく唐揚げを一口食べる。するとこちらもやはり噛んだ瞬間に口の中に肉汁が溢れ、サクサクとした食感が楽しい。

 ただ、飛鶴と少し違うのは塩ダレでは無く、レモンの風味が少しするって所だ。

 そういえば宇佐見は昔から揚げ物にレモンをかけるの好きだったっけな。

 まぁ、ジューシーな唐揚げにさっぱりとしたレモンがマッチしてて普通に美味い。これは甲乙付け難いな。

 

 そうして微妙な顔をしていると宇佐見は心配そうに聞いてきた。

 

「どう?」

「いや、美味い。飛鶴に負け劣らず美味い。美味いが故に甲乙が付けれなくて困ってんだ」

 

 とりあえずこれでは決めることは出来なかったから次に行くか。

 

 次の料理はスパゲティだ。しかも二人とも違うスパゲティだからこれは個性が出る。

 

 まずは飛鶴だが、飛鶴が作ったのはあんまり濃くなく、誤魔化しが効かなそうなスープスパゲティ。

 麺を食べる前に先にスープを少しスプーンで掬って飲む。

 うん、コンソメが良く効いてて美味い。そして優しい味だ。食べる人を労わる様なそんな味だ。

 麺をフォークに巻いて食べてみるととても麺とスープがマッチしててとても美味い。飛鶴らしい味だった。

 

「どうですか?」

「いや〜美味いね。優しい味にぐっと来るね」

「どうですかね。こういうお嫁さんを持つと将来、絶対に良いと思うんですよ」

 

 確かに飯が美味いお嫁さんは欲しいと思うけど、ちょっと違うんだよ。飛鶴は俺にとっては妹でしかないって言うか。

 

 さて、飛鶴の発言はスルーして次は宇佐見のスパゲティか。

 宇佐見のスパゲティはトマトソースのスパゲティだ。

 宇佐見の料理は対決と言えども個人の好みが大きく現れているような気がする。宇佐見は昔からトマトソーススパゲティが好きだったもんな。

 まぁ、俺も好きなスパゲティだし、早速一口。

 ソースを思いっきり絡めて口に含むと、トマトソースの結構濃く、濃厚な味が口いっぱいに広がる。

 粉チーズが少し入っているのだろう。濃厚だけどトゲトゲしてなく、マイルドな味になっている。

 

「やっぱり美味い……」

 

 これもダメだ。どっちか決められない。

 

「まだ決めれない?」

「決めれませんか?」

「ああ……悪い」

「いや、良いんだよ」

「次で最後ですね」

 

 二人は目を見合わせるとキッチンに戻り、お椀に味噌汁を盛って戻ってきた。

 見てみると宇佐見の味噌汁は若干緑かかっていて、飛鶴のは若干赤みかかっている。

 

「さぁ、どうぞ」

「召し上がって下さい」

 

 具材が緑や赤なら良い。汁自体が緑と赤なのだ。

 でも何か気持ち的に赤の方が危険な気がするからまずは緑から飲むか。グリーンスムージーとか言うしな……味噌汁にグリーンスムージーを入れるのはおかしいと思うけど。

 覚悟を決めて一気に流し込む。

 

「…………」

「どう? 輝山君」

「これはお互いに作ってる所を見てないから何が入ってるか分からないんですよ」

 

 ……だってんなもん見せられるわけねぇだろ。

 なんせ、この味噌汁の具は殆どわさび、汁にもわさびが溶けていて……まぁ、何が言いたいかと言うと……。

 

「かっれぇぇぇぇっ!」

 

 鼻がつーんとするを通り越して痛い! 口の中が痛い! 馬鹿じゃねぇの!? 入れ過ぎだろ!!

 慌てて水を飲み、一旦落ち着く。

 

 こんなものを食べさせられるなんて……。

 次は飛鶴だが、少し怖い。お互いに作ってる所を見てないって言ってたし……。

 

「えっと……じゃあ次、飛鶴。頂くな」

「はい! 召し上がれ」

 

 少し怖いが、宇佐見のより酷いことになることは無いだろう。

 そしてこっちは恐る恐る一口飲む。

 ん? まぁ、辛い訳では無いし美味いか不味いかで言ったら美味いんだが……。なんか変な味がするような……。酸っぱい? かなり酸っぱい。

 

「美味いんだが、これは何が入ってるんだ?」

「あ、それですか?」

 

 すると飛鶴は突然指を見せてきた。

 そこには絆創膏が巻かれており、結構貼ってある箇所が多い。

 

「……それが?」

「切りました。そして血が出ました」

「……そうか、大丈夫なのか?」

「はい。少し痛いですが、嬉しいんですよ」

 

 痛いのが嬉しい? どういう事だ?

 

「私のが美味しいって言って貰えて嬉しいです」

「私のが? え、ちょ、え!?」

 

 絆創膏が巻かれた飛鶴の指、血が出たと言う発言。そしてほんのり赤い味噌汁。これから導き出されるのは――

 

「俺、ちょっとトイレに行ってくるわ……」

「は〜い」

 

 俺は二人に断ってからトイレに全速力で駆け込んだ。

 そして俺はそこで全てぶちまけた。

 

「結局、飛鶴ちゃんは何入れたの? 食べ物以外は入れないって言ったよね?」

「え? もしかして宇佐見さんは私の体から出たものは食べられないって言うんですか? それでもお兄ちゃんの伴侶なんですか?」

「いや、食べるものじゃないでしょ……それと伴侶じゃない!」

 

「まぁ、そんなものは入れてませんが少しトマトを多目に」

 

 飛鶴は少し不機嫌そうな声で言った。

 

「もう……帰りは遅くなるし、私の事を選んでもくれないし……困った人です」




 はい!第18話終了

 一輝は後日「人生で一番の恐怖体験をした」と語ったそうです。

 因みに飛鶴の「私のが美味しいと言って貰えて嬉しい」って言葉の意味は「私の料理(・・)が美味しいと言って貰えて嬉しい」って意味です。
 赤色は純粋なトマトです。他の赤は入ってませんからね? ……本当ですよ?

 それでは!

 さようなら


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第19話 ストーカー被害(ミッション?)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は遅れてすみません。次回は恐らくちゃんと上げられるかと思います。



 それでは前回のあらすじ

 色々やばかった。特に味噌汁が……。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 あの後、何とか飯を食べると俺達はそこで帰ることにした。

 勿論遠回りして帰るのは面倒なので屋根の上を通らせていただいた。まぁ、かなり文句言われたが別に大丈夫だろう。

 飛鶴を抱えて飛んだ為、命綱なしのミニマムバンジーなので少し怖がっていたが、そんな心配は杞憂である。

 俺は頑丈なのだ。多分俺は五十階のビルから落ちても少し足が痺れる程度で済むことだろう。だから俺は安心してこの高さだったら飛び降りる。

 

 しかし片手にコンビニ袋を持っているから少し跳びにくいな。だけどこれは手放してはならない。

 

「お兄ちゃんってどうしてそんなに頑丈なんですか?」

「……頑張ったから」

 

 さすがに毎日依頼解決の為に戦っていたらいつの間にか強くなっていたなどと言えるはずがない。

 特にたまに危ない事もしているなんて口が裂けても言えない。飛鶴だけにはな。

 

「着いたぞ」

「お兄ちゃんのショートカット力凄いですね」

 

 俺にかかれば家までは一分もかからないからな。

 思わぬ所で俺の身体能力がバレてしまったが仕方がないだろう。これは俺が悪いのだから。そもそもこれは隠してる訳じゃないしな。

 

「かっこいいです。でも……お兄ちゃんって宇佐見さんと付き合ってるんですよね」

「は? なんでだ?」

「え?」

 

 なんで急にこいつは俺と宇佐見が付き合ってると思い始めたんだよ。どこがそう見えたのか是非教えて貰いたい。

 俺と宇佐見なんて最近また話し始めたってだけでちょっと前までは一切喋ってなかったんだぞ?

 だけど俺が聞き返すと飛鶴は素っ頓狂な声を出した。多分本気でそう思ったんだろう。やれやれ……。

 

「俺と宇佐見は付き合っちゃいない。寧ろその逆、つい最近までしばらく話してなかったんだからな」

 

 主にこの役職に着いた時に不良になると決めたから宇佐見まで不良の仲間だと思われるのは嫌だろうからと言う理由で俺から距離を置いたんだがな……宇佐見はそれを知ってか知らずかずかずかと来る。

 

「そ、そうなんですか!? 私が居ないのでお二人でイチャコラばっかりしていると思っていました」

「お前の中での俺と宇佐見がとてつもなく酷いことになってある事だけは分かった」

 

 イチャコラって……俺だって出来る相手がいたらしてぇよ。だけど居ねぇからこうなってんだよ。

 

 ため息を着く。

 やっと家に帰って来れてからだ。飛鶴とも仲直り出来たので俺は大満足だ。

 飯は宇佐見の家で食べてきたから別にいいんだが、

 

「まぁ、飛鶴。これ、詫びの品だ」

「え、そんなの私の方が悪いので私の方が!」

 

 あれ? 今回の件で飛鶴が悪いことなんて有ったっけ? いや、無かったはずだ。

 そんな感じで俺が買い物袋を渡しても直ぐに返されてしまうので俺はもうしょうがないのでこうすることにした。

 

「一緒に食おうか」

「……! はいっ!」

 

 やっぱり飛鶴は笑顔が一番だと再確認した。

 


 

 次の日、俺は眠い目を擦りながら登校していた。前までの俺ならパソコンを叩いていた時間だろう。だけど、今は飛鶴も居る。そういう訳にもいかないだろう。そう思って歩いていると――背後から視線を感じる。何やら二つだ。

 もしかしてこれが流行りのストーカーって奴か? ちょっと待て、俺ってそんなストーカーなんてされるような人間だったか? 落ち着くんだ俺。そうだ気のせいだ、自意識が過剰になってるんだ。

 よし、ここの変な路地の方に行けば着いてこないだろう。何せ向こうが登校路でこっちは何も無い完全な路地だからな。

 

 そこで俺は路地の方に入っていく。これで着いてこなかったら俺の自意識過剰だってことだ。

 

 少し歩くと背後から足音がした。ここは足音が良く反響するため、誰かがいるのがよくわかる。つまり――着いて来てる!?

 

 まさか本当にストーカーだとは……。ならば撒いて見せよう。俺の身体能力をナメるなよ!

 そこで俺は走り出してジグザグに進んでいく。

 少し走ったところで壁を走って上の方に隠れた。多分着いてきてるだろうから犯人の炙り出しだ。

 

「あれ? どこに行ったんだろう」

「こっちに来たと思いますが……」

 

 見つけた。

 俺をストーカーするなんていい度胸だ。度胸だけは認めてやろう。だが、相手が悪かったな。俺は誰にも負けるつもりはない!

 

「捕まえたぞ」

「「ひっ!?」」

 

 俺は背後に飛び降りてドスの効いた声で言う。すると犯人は震え上がってしまって動けないようだ。

 

「観念し……ろ……」

 

 その時、俺は誰かに似てるなと思った。そう、とても似ている人だ……あ!

 

「お前ら、宇佐見と飛鶴か?」

「そ、そう!」

「そうです!」

 

 そうか。で、なんでこいつらは俺を追ってたんだ? 何か用があるなら飛鶴は家で言えばいいし、宇佐見は学校で会えるだろう。

 だけどそこら辺を考えても無駄なんだろうな。二人はミステリアスだし。

 

「まぁ、責めるつもりは無いけど程々にな」

「いや、輝山君が悪いよ? だって何か隠し事がありそうな表情をしてるんだもん」

 

 どんな表情だよ。確かにあるけど、人間は生きてりゃ隠し事の一つや二つ、普通にあるだろ。何を言ってるんだ?

 しかしここは気味が悪い所だ。こんな所に長居したら嫌な予感がするし、さっさと出るか。

 

 その時、ガツンと背後から誰かに殴られてしまった。

 くそ、俺としたことが……油断した。

 

 消え行く意識の中、俺は悔しさでいっぱいだった。

 最後に見えたのは宇佐見と飛鶴を縛り上げる男の姿だった。




 はい!第19話終了

 いきなりの展開です。

 この話はノリで始めただけなのでネタってのはしっかり構成されてないので他のから比べるとクオリティが低いなと思うかもしれませんがそこはご了承ください。

 それでは!

 さようなら


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第20話 追跡(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一輝が背後から奇襲された。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「いってぇ」

 

 目を覚ました俺はズキズキと痛む頭を擦りながら体を起こした。

 擦った手を見てみると少しだけ血が付着しており、殴られた衝撃によって血が出てしまったことがわかった。

 横になっていた場所を見てみると結構な量の血が流れていてギョッと目を見開いて驚いた。

 こんなに血が出てたのか。通りでフラフラする訳だ。打ち所が悪かったら死んでいたな。

 

「くそが、体が思ったように動かねぇ」

 

 フラフラと立ち上がった物の、足の力が入らなくて覚束無い足取りで左右に揺れながら歩き出す。

 空を見てみるとまだ明るい。どうやらまだそんなに時間が経っていないようだ。まだまだ学校は終わらない。

 腕時計を見てみると丁度四限目の途中だった。もう少しで昼休みか……じゃあこの姿で学校に行っても良くないな。

 

 俺は荷物の中に入れていた包帯を取り出して目立たないように頭に包帯を巻いた。

 埃まみれの制服は仕方が無いので目に見える埃だけ払っておく。

 

「さて、学校に――」

 

 そこでとあることを思い出した。

 確か、ここに俺以外の誰かと一緒に居たような……。俺が倒れる直前の記憶に濃いモザイクがかかったように思い出せない。

 なんで俺はあんなに悔しい思いをしたんだっけか?

 

「ああっ! くそ、モヤモヤしやがる。せめて手がかりがあればな」

 

 そして辺りを見回してみるとそこには黒いハットが落ちていた。よく見るハットだ。これならわかる。これは、宇佐見の帽子だ。

 しかしなぜこんな所に宇佐見の帽子が?

 

「思い……出せない。やっぱり……くそ」

 

 俺は悔しさで宇佐見の帽子を握り締めて嗚咽をこぼす。

 ただ、分かることはこんな所に宇佐見の帽子があるのはただ事じゃないってことだ。

 どうして……どうして思い出せないんだ。何があってどうしたんだ。

 

「教えてくれ。教えてくれよ。宇佐見の身に何があったのかを」

 

 俺は無機物にすがりついて情けない声を出す。祈る。この無機物が教えてくれると言う奇跡を願って。

 その瞬間だった。頭の中に何かが入ってくるような……そんな感じがした。

 そして頭の中に映像が流れ始めた。

 

『止めてください!』

『は、離して!』

 

 飛鶴? 宇佐見? 二人ともそんなに怯えてどうしたんだ? しかも体を縛られている?

 

『うるせぇ、大人しくしてろや。お前らはこれからたっぷりと可愛がってやるからよ』

『こんなひょろひょろ男一人で女の子二人を独り占めなんてなぁ。そら良くないわな。がっはっはっ』

 

 とても下品な男二人。多分人気の無い路地だからこそこういう奴が居たのだろう。不覚だった。だが、これが本当の話だとしたら宇佐見と飛鶴が危ない。

 しかしこれだけだと二人がどこへ連れ去られたのかが全く分からねぇ。

 

 だが、これは大きな進歩だ。何があったのかは分かった。だけどこれだけじゃ……。

 しかし、今の映像はなんだ? 急に俺の頭の中に流れて来て……。

 

「……もしかして」

 

 俺は近くにある壁にそっと手を添えて念じる。

 教えてくれ。俺が気を失っている間、何があったかを。

 

 その瞬間、先程とは別アングルの映像。でも同じ映像が流れてきた。

 やはりそうだ。俺が念じると物は俺に応える様に映像と言う形で返してくれる。

 

「これだ。この力があれば宇佐見を探せる……っ!」

 

 俺はとりあえず映像の最後、どちらへ向かったかを確認して走り出す。

 少し血が足りなくてフラフラするも、そんなのに構っている暇は無い。こんな貧血、少し鉄分を摂取すれば治る。

 

 傍から見たら時折壁に手をつけながら走る変人だろう。だけどそんなのは気にせず走り続ける。

 宇佐見と飛鶴を拐った男達は途中で車に乗り、港の方へ向かった様だ。

 今日は久々に学校をサボってしまう事になってしまうが、そんなのは宇佐見と飛鶴が助けられない事から比べたらどうってことは無い。元々俺はサボっても何も咎められないし、サボり魔だから今更何とも思われないだろう。

 だが、心配なのは宇佐見と飛鶴だろう。

 今回の件で色々と今まで積み上げてきたものが崩れてしまうだろう。

 

「くそ、いつもならあんな攻撃食らわねぇのによ」

 

 俺は悔しい言葉を口に出しながらも走るのを辞めない。

 そして見つけた、その場所を。

 

「面倒だ」

 

 俺は頬を掻きながらその場所にゆっくり近づく。

 その場所とはもう使われていない倉庫だった。まぁ、こんなに端にある倉庫は段々と忘れられていくんだろうな。

 

 面倒だ。これ程面倒な事件は初めてだ。

 俺のサークル。相談屋は暴力を容認されている。だが、それには条件がある。

 それは『相談を解決する為にやむを得なく行った場合』だ。しかし今回は相談されてでは無い。俺自身の意思で行っている。

 俺が俺自身で依頼する事は出来ない。そして、この事を友達に依頼として提出してくれと言う時間も無いし、メリーなんかには心配をかけたくなかった。多分卒倒してしまうだろう。

 

「でも、やるしかねぇよな」

 

 これで最後になるかもしれない。そう覚悟を決めて俺は扉を蹴破った。

 


 

side蓮子

 

「「きゃっ」」

 

 バンッ! と床に乱雑に放り投げられる私と飛鶴ちゃん。

 私と飛鶴ちゃんを拐った男達は悪い顔をしている。そしていやらしい目付き。もしかして私達を襲うつもりじゃ。恐怖で震える。

 

「う、宇佐見さん」

「……あなた達。どういうつもり!?」

 

 それは最大限の強がりだった。

 私だって怖くて怖くて仕方が無い。だけどそれを悟らせてしまうと飛鶴ちゃんが不安になってしまう。

 だから私は強気に出る。

 

「ああ? んなもん決まってんだろ。あんな所によぉ食べ頃の女が居たら……」

 

 じゅるりと舌なめずりをすると下卑た笑みを浮かべて男は言った。

 

「そりゃ、食べるよなぁ」

 

 私は本当にダメだと思った。

 こんな辺境の地。誰にも気がついて貰えるはずが無い。

 

 私はいつも自分を助けてくれる王子様に憧れていた。だから、前に不良に絡まれた時に助けに来てくれた輝山君が王子様に見えた。だから私はもう関係を切りたくないって思って強引にでも同じサークルに入れた。

 だけどさすがの輝山君でもこんな所、分かるはずがないよ。

 

「んじゃあ、まずはそっちのちっさい子から」

「ん!?」

 

 飛鶴ちゃんは自分が指名された事によって恐怖し、私の後ろに隠れる。

 

「お前、ロリコンだもんなぁ」

「へへへ。んじゃあ頂こうかな」

「待ってください!」

 

 飛鶴ちゃんは輝山君の大切な妹的存在。そう簡単に汚す訳にはいかない。

 だから私は静止をかけた。それによって男二人の視線がこっちへ向いた。

 

「き、傷つけるなら私だけにしてください。この子には何もしないで」

「宇佐見さん!?」

 

 私でも今、何を口走ってしまったかは分かっていた。でも止められなかった。だって……飛鶴ちゃんを酷い目に合わせたくなかったから。

 

「いい根性だ。じゃあ、ご希望通りお前から食ってやる」

 

 ああ、私はこんな所で汚されちゃうんだな。

 そして私の制服に男が手をかけた瞬間の出来事だった。

 

 急にドアが蹴破られたのだ。あの重厚な扉が。

 

「何者だ!」

 

 男は叫ぶ。すると蹴破った人物は歩いてきた事で誰なのかが分かって私は絶句した。なぜならその人物は――

 

「見つけた」

 

 輝山君だったのだから。




 はい!第20話終了

 この話は一応東方二次創作なので現代キャラの蓮子やメリーに能力があるなら一輝にも能力があっていいじゃん。と言うことで能力を持たせました。

 果たして、暴力をするとまずい状況の一輝はどう乗り越えるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第21話 自己犠牲(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今年最後の東方現代物語です。



 それでは前回のあらすじ

 早く見つけないと

 怖い。助けて

 一輝くんでも多分無理。

 ――見つけた。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「見つけた」

 

 やっと見つけた。

 薄暗くて良く見えないが奥の方に宇佐見と飛鶴。そして映像に出てきた男達が見えた。

 どうやらギリギリセーフのようだ。二人ともまだ何もされていない様子。

 

「あ? あんだてめぇ」

 

 男の一人がこっちに来てメンチを切ってくる。だが、今更そんなことに臆する俺では無いので逆に睨み返した。

 するとそんな態度が気に食わなかったのか、男は殴りかかって来た。しかしそれを最小限の動きで躱す。無駄が多すぎる為、躱すのは容易かった。

 

「何もんだ」

「俺か? 俺はとある大学で相談屋をやっている輝山 一輝と申す者です」

「っ! 思い出したぜ」

 

 俺が名乗ると男の一人は何かを思い出したのか語り始めた。

 

「相談屋は受けた相談の為なら人を殴る事も容認されるサークルだ。だがまぁ、今回のは依頼では無いだろうがな」

 

 図星だ。今回は急いできた為、俺は一切依頼を受けていない。あるのは宇佐見、飛鶴を助けたいと言う思いだけだ。

 でも、その思いだけじゃどうすることも出来ない。だから覚悟をしてきたのだ。

 もう二人に会えなくなる覚悟を。

 

 俺は二人に会えなくなるのは悲しい。だけどこれしか思い付かなかったのだ。

 あの二人を助ける方法。それは、俺が犠牲になる事だ。

 俺だけが犠牲になれば二人は助かる。

 

 このまま殴り合えば不利なのは俺の方だ。勿論負けるつもりは無い。だが、確実に俺はやばい事になるだろう。そして二人の傍には居られなくなる。

 まぁ、不良は不良らしく制裁を受けるとしますかね。

 

「ほう? お前、俺らと殴り会えねぇのか?」

「あ?」

「そうかそうか。じゃあ、一方的に――」

 

 パシュン! 空気が切れる音が鳴った。俺の拳が放たれた音だ。

 俺の拳は男の顔面数cmのところで止まった。

 

「これは警告だ。やめろ、その子達を離せ」

 

 すると男は俺の気迫に怖気付いたのか、背後に下がっていく。だが、それを見て警戒を解くほど馬鹿ではない。二度も同じ失敗を繰り返して溜まるもんかってことだ。

 

「そんな事をしたら、自分がどうなるかって分かってんだろ?」

 

 分かってる。分かった上で俺は戦いを決断した。

 俺はどうなってもいい。だが、二人が酷い目に会うのは黙っていられない。

 

「んな事はいいからさっさとかかって来いよ」

 

「どういう事ですか?」

「詳しい事はここでは話しにくいけどこの状況は不味過ぎるって事」

 

 これが最後になるかもしれないんだ。ここはみっともない所は見せられないな。

 じっと観察していると男の一人が殴りかかって来た。

 それを躱す。ここで殴り合ったらどちらにせよ問題になるんだ。なら、徹底的にやって――

 

「止めて!」

 

 カウンター攻撃を仕掛けようとすると俺を止める声が聞こえてきた。

 この声は宇佐見か? その声によって俺は手を止めてしまう。

 邪魔が入ったが、無視もできないだろう。俺は一旦男から距離を置いた。

 

「私達のためだけに人生を棒に振るうのだけは止めて」

「ち、バレてたか」

「そりゃそうだよ。だって何年一緒に居ると思ってるの?」

 

 そうだったな。俺達は小学校に上がる前からの仲だもんな。そりゃ考えてる事が分かるな。俺だって宇佐見の考えてる事は大体わかる。

 俺と飛鶴が心配、だな。だけどこれ以外の対処法は……。ある! あるぞ! 宇佐見を心配させずに助ける方法。

 

 俺はただ助けたいんじゃない。皆と一緒にいたいのだ。

 なんだ、こんな簡単なことに俺は今まで気が付かなかったのかよ……。

 俺は皆とこれからも一緒に居るために戦う!

 

「よし、やる気が出た。本気で相手してやるよ」

「良いのか? お前、相談屋だからって暴力事件を起こしたら停学じゃ済まないぞ?」

 

 確かに男の言う通りだ。

 だが、完全に規制されているわけではない。

 依頼に関することで暴力を行わざるを得ない状況だった場合は認められている。

 

「輝山君。私達のことは良いから逃げて?」

 

 俺のことが心配だからだろうか、宇佐見の悲しそうな顔をした。それを見せられて黙っていられるわけが無い。

 

「宇佐見、まだ俺はお前の口から聞いていない」

「え?」

 

 宇佐見は俺の放った言葉に対して意味が分からないと言うような声を出した。

 さっきから逃げろ。止めてばかりで一番重要な言葉を聞いてないじゃないか。

 

「俺は相談屋だ。どんな事でも依頼されたら受けなくてはならない」

「この状況で何を言ってるの?」

「つまりだ、今なら口答で依頼をなんでも一つ受け付ける。俺に死ねと言ったら死ぬし、ここで更に逃げろと言うならばその言葉通りの行動を取ろう。どうする?」

 

 俺には考えがあった。

 このままだとただの暴力事件だ。だが、宇佐見がある一言を言うだけでそれが一転する。

 

「輝山君。それって」

「さぁ、言え宇佐見! お前の願いはなんだ!!」

「貴様ら何を言って……まさか!」

 

 そこで男も気がついたようだ。

 そう、これの狙いは……

 

「良いの? 本当に……私……私っ!」

「ああ、なんでも言いやがれ!」

「だァまぁれぇっ!」

 

 男は宇佐見の口を押さえにかかる。

 俺は背でボイスレコーダーを起動する。

 そして遂に宇佐見は口にした。その言葉を――

 

「私と飛鶴ちゃんを助けて……っ!」

 

 その次の瞬間、俺は男を殴り飛ばしていた。

 

「その依頼承ったぜ宇佐見」




 はい!第21話終了

 遂に宇佐見が依頼を言ったことによって戦えるようになった一輝。
 果たしてどうなるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第22話 告白(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

「その依頼、承ったぜ宇佐見」



 それではどうぞ!


side一輝

 

 俺は男を殴った後、もう一発腹に叩き込む。

 するとその男は崩れ落ちたものの、背後から違う男が鈍器を持って殴りかかって来る。

 それを見て宇佐見と飛鶴は声にならない悲鳴を上げた。

 

 鈍器で戦うのか……。俺は残念な気分になった。武器を持った事によって俺の中でそいつ等は自分より格下認定した。

 今まで何度も武器を持った敵と殴り合った事がある。だから武器持ちの相手の対処法は心得ている。その為、武器等は俺に対してはただ荷物が多くなり、不利になる道具でしか無くなるのだ。

 

「武器を使ってる時点でお前らの勝利はねぇよ」

 

 背後から縦に振り下ろされた金属の棒を体を回転させる事で躱し、その勢いのまま回し蹴りを放つ。

 蹴りが入った瞬間、男の体からバキッと言う痛々しい音が聞こえてきた。しかしそんな事に構っている暇は無い。これはただの喧嘩では無い。大切な人を守る為の戦い。俺の大切な人を傷付ける奴らには容赦は不要だ!

 

 今度は一人の男が俺を壁際に追い詰めてきた。その瞬間、勝利を確信したのかガードが甘くなった。

 俺はその隙を見逃さず、壁を駆け上がって壁キック。男の頭に踵落としをお見舞した。

 そのまま綺麗に着地、男はフラフラとよろめいた後そのまま倒れた。

 

「強い」

 

 宇佐見が呟いた。

 昔は宇佐見の方が強く、俺が守ってもらう側だったような気がする。

 だが、今はもう俺が宇佐見を守れる。

 空手を習っていたのもあるし喧嘩を知った今、喧嘩でなら誰にも負けない自信があった。

 全ては宇佐見を守る為に鍛えたからだ。

 

「漸くこの力を使える時が来た!」

「調子に乗るなぁ!」

 

 今度はヌンチャクを持った奴。ヌンチャクに関しては柔らかいし、攻撃範囲が広いから少し苦手なんだが、一応対策法は考えてある。

 

「仲間の仇!」

「んじゃあ、俺はあの二人の分を込めたこの鉄拳でケリをつけてやろう」

 

 ヌンチャクが俺目掛けて振り回される。それを間一髪の所で躱し続けてチャンス到来。

 何と俺の腕に巻きついたのだ。恐らく向こうもこれを狙っていたんだろうが、これを狙っていたのはお前だけじゃないぞ!

 引っ張って引き寄せようとして来る男。俺はそれに引き寄せられて物凄い勢いで男のもとへ。

 さすがにこれは予想していなかったのか、ヌンチャク男は反応に遅れ、その隙を俺は見逃さなかった。

 その勢いのまま拳を男の顔面に叩きつける。

 

 そのままヌンチャク男は気を失い、その場に倒れた。

 さすがにちょっと疲れたな。疲れて鈍くなった体を引き摺りながらまだピンピンしている男達の方へと向き直る。

 俺は疲れていてもお前らなんか直ぐに倒せると言う意思表示だった。

 男達は俺の動きを見て怖気付いたのか一目散に逃げて行く。それを見て俺は崩れ落ちた。

 

「はぁ……全力疾走後のこれはきついって……」

 

 ただでさえ全力疾走をしたせいで体力が限界だったってのにその上、こんな戦い……俺を殺してぇのかよ。

 とりあえず俺はフラフラになりながらも二人を解放。その瞬間、飛鶴は物凄い勢いで俺に抱き着いてきた。

 俺は少し驚きつつも、抱きしめ返した。二人は怖い思いをしただろう。宇佐見はあんまり弱音を吐いていないが、怖かったのは事実な筈。

 

「……でも、飛鶴のそばに居たのが宇佐見で良かったよ」

 

 多分二人は何も言わないが、宇佐見は必死に飛鶴を守ろうとしてくれていたであろう事は分かった。だから俺はそっと宇佐見の頭を撫でて手に持っていた帽子を被せてやった。

 

「これ」

「落し物だ」

 

 宇佐見は帽子を手に取り、抱きしめた。二人の無事な姿を再び見れたことに安堵して一気に疲れが押し寄せてくる。だがまだ油断は出来ない。残党達がまだ襲ってくる可能性があるからだ。

 だけど今日はもう疲れた。

 

「飛鶴」

「なんですか?」

「兄ちゃんは不良だ。怖いと思うか?」

 

 今まで怖くて打ち明けられなかった事、そして聞けなかった事を聞いてみた。

 俺は宇佐見と飛鶴に拒絶されたらもう生きて行けないとすら思える位に依存してしまっているんだなと感じる。

 確かに飛鶴は俺に依存しているだろう。だが、それ以上に依存しているのは俺なのかもしれない。

 

「お兄ちゃん。お兄ちゃんはかっこいいと思います。あんな状況でもしっかりと私達を助けに来てくれました。私はそんなお兄ちゃんを見てもっと好きになりました」

「そうか……」

 

 嫌われてないなら良かった。

 こういう事をすると大体は嫌われる。昔、女の子を助けた時に「私、暴力的な人は怖くて嫌い」と言われて距離を置かれた。

 少しその時見たいになってしまうのではと覚悟していたが、その心配は要らなかったようで安心。

 宇佐見の顔を見てみると一切嫌われた様子は無く、逆に優しい表情をしていた。

 

 そうだ、俺はこの表情を見る為に頑張ってきたんだ。

 

「宇佐見、今度は俺がお前を守る番だな」

「ううん。今度はじゃなくていつも輝山君は私を助けてくれてたよ」

 

 いつも? そんな事は無い。昔はいつも助けられてたし、大学に入ってからは暫く避け続けていた。それでなんで守った事になるんだよ。

 

「輝山君、多分だけど不良の自分と一緒に居たら私まで変に思われるって思ったんでしょ」

 

 図星だった。だから俺は宇佐見と距離を置いた。

 気づかれないよう、冷たい態度も取って嫌った風に演じてたのにな。

 

「優しいよね。うんうん、そんな優しい不良がいる訳が無いよ。だから私はあなたを不良だなんて思ってません」

 

 そうか。簡単な事だったんだ。

 俺は宇佐見の事を本当に信頼しきれてなかったって事か。信頼しきっていたらそんな行動には出なかったはずだ。

 

 信頼してくれと言いつつも一番信用してなかったのは俺だったわけか。

 

「ありがとう宇佐見。飛鶴」

「ううん。お礼を言うのは私の方、ありがとう。大好きだよ」

 

 ……ん? 今宇佐見なんて?

 大好きなんて言葉が聞こえた気がする。俺にかけるはずがない言葉ナンバーワンだと思っていた……いや、一人だけ物好きが居たな。

 だけど宇佐見が何故?

 

 そこからは俺の思考は停止してしまい、何も考えることが出来なかった。

 歩いて帰っている間も無言で重い空気が。

 いつもムードブレイカーな飛鶴も流石に口を開けないらしく、終始無言だった。

 


 

「えー。以上報告です」

 

 俺は校長室にて今回の件の報告書を提出していた。それを真剣に眺める校長。

 時折俺の顔をチラチラと見ながら報告書に目を通していく。

 

 一通り読み終わったのだろうか。報告書を机の上に置くと校長が一番最初に言い放った言葉は――

 

「受理出来ぬな」

 

 それは俺にとって死刑宣告にも似た言葉だった。




 はい!第22話終了

 果たして一輝はどうなってしまうのか?

 それでは!

 さようなら


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第23話 ハッタリ(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 前回のあらすじ

 蓮子と飛鶴を助け出したものの……



 それではどうぞ!


side一輝

 

「なんでですか」

 

 冷静に俺は聞いた。

 正直言って焦っていた。だが、その焦りを見せないように普段と変わらないトーンと口調で平静を装って聞いたのだ。

 すると校長は俺をじっと見ながらその答えを言ってきた。

 

「校外で受理したからだよ」

 

 校外。学校外で受理しちゃいけないなんてルールがあったのかよ。

 そう言われてルールブックを再度確認すると確かに学校外での口頭で依頼を受けることは特別な理由が無い限り認めないと書かれていた。

 確かに校外で受理してはいけないらしい。

 

「今までの相談屋の奴らも同じ様な事をして退学をして行った」

 

 そうだったのか。今までの奴らも良い奴だったんだな。だが、なぜこれで退学にされなければいけないのか……。俺には俺なりの正義感がある。その正義に従って人を守った。それをなぜ咎められなければいけないのか?

 人を守り、責め立てられる。そんな世の中があっても良いのか?

 しかし気になるのは特別な理由が無い限りと言う一文だ。これはなにか特別な理由があれば認めると言う意味合いを持つと読んだ。

 

 だが、どういう理由なら校長を納得させられる? 多分今までの何人もの相談屋が退学にさせられているって事は「人を助けたかった」では話は通らないだろう。言った瞬間、即退学の可能性も大いにある。

 何せこのルールはそこまで重要じゃないように見えて重要ランクが10になっているのだ。つまり、依頼を断るのと同じレベル。

 厄介な事になってしまった。

 

 だがあの校長の目。違反者を見る目では無い。何か期待のような物を感じる。

 校長が何を考えているのかは分からないがとりあえず俺はこの正当な理由って物を話さなくてはならないらしい。つまりは試されているのだ。

 俺は今まで様々なピンチを乗り越えてきた。こんな所で躓いて溜まるかよ……っ!

 

「えー。僕は今日、校外で依頼を受けました」

「ほう? それで、何かあるのか?」

「はい。あの場面では必ず受けなければいけない理由があったのです」

 

 何も考えついていない。行き当たりばったりの発言。つまりはハッタリだ。

 ハッタリなのだが、俺がこの学校に滞在し続けるにはこのハッタリをどうにかして通すしかない。

 地味に今のこの状況が気に入ってるんだ。それにここで退学にされたら今後一生飛鶴がお世話をしてくる未来が見える。それだけは避けなくてはならない。男として!

 

「俺はあの時、確かに俺の友達二人を助けるために行きました」

「つまりは君は二人を助ける為に受理したってことかね?」

「それもあります。ですが、それだけではありません」

 

 そこまで言うと校長は興味深そうに眼鏡の位置を直すと面接官のような緊張感を漂わせてこっちを観察してきた。

 いや、これは面接なのかもしれない。俺は今、退学するか在学するかの中間にいる。ここから在学の道へ進むには校長の期待に答えなければいけないのか……。

 どこかにヒントは無いか?

 学校の掟三ヶ条。ルールを守り、健全な精神を培う。一人はみんなの為に、みんなは一人の為に。自分の心を偽るな、心には素直であれ。

 この中にヒントが?

 

 その時、俺の脳に電流が走ったような衝撃が走った。

 心に素直に……そうか! 友達を助けるってのは建前で、所詮は自分の為だったんだよ。失うのが怖かったんだ。俺はあの二人をとても大切に思っているから俺は失うのが怖くなって戦ったんじゃないか。

 もしもこれが他人だったらどうだ? 俺は助けたのか?

 宇佐見と飛鶴ならば俺は必ず助けると言うだろう。だが、俺はそんなお人好しでは無い。

 見ず知らずの人の為に危険を犯す奴が何処にいる? そんなの漫画やアニメの世界だけだ。

 

「俺はお人好しではありません。見ず知らずの人を助けるような聖人じゃありません」

 

 校長は俺の話を静かに聞いている。

 俺は態々自分の不利になる様な台詞を語った。

 

 俺は二人が大切だと思っているからこそ失うのが怖いとか、もしも二人が他人だったら助けないと言った旨も話した。

 

「そうか。では君は自分の為に友達を助けたと、そう言いたいのだな?」

「どうですか。清々しいまでの職権乱用っぷりは! 俺は目的の為ならばどのような手でも使いますよ! 俺はそういう人間だ!」

「そうだな。自分の目的の為に勝手に校外で依頼を受理し、挙句の果てに開き直る。あまり褒められた行為ではない。だがな一輝君」

 

 校長は今までの緊張感を解きながら言った。

 

「私は君のような人ほど信用出来る人は居ないと考えるよ」

 

 正直言うと多分、性格面では今までの相談屋の方が良かったのだろう。

 俺は不良だ。しかし校長はそれでも俺を選んだのだ。前から気になっていた。どうして俺にしたのかと言う事が……でも、その答えはここに隠されていたんだ。

 

「自分の心に素直。不良を気取っているものの、人を無視出来ないその優しさ。そして言ってしまったら退学になってしまうかもしれないと言うタイミングで本心を打ち明ける。中々出来ることでは無い」

「では!」

「だがまだダメだ」

 

 少しいい話で纏まりかけていたところで再び校長からダメ出しを受けた。

 まさか、俺はこんな大事な場面でミスったと言うのか? 人生を決める大事な場面でのミス。それを感じて目眩がしてきた。

 視界が歪む。まさか、ここまでなのか? ここに来てダメなのか?

 

 その時だった。

 バタン! 校長室の扉が物凄い勢いで開いた。

 

 何事かと思いそちらを見てみると、そこには三人の人物が立っていた。

 

「宇佐見、和成妹、進奏。なんでここに?」

「輝山君が退学させられそうになってるって聞いて来たんだよ」

「そうです。先輩が居なくなるなんて寂しいです」

「一輝、俺はこの退学は認めねぇぞ!」

 

 三人とも……。俺は泣きそうになった。三人にそんな事を思って貰えてたと思うと嬉しかった。

 

「ノックもせずに入ってきた事は褒められた行為ではないが、君達の行為は実に素晴らしいものだ」

 

 突然校長が賞賛してきた。

 とても満足そうな顔をしている。優しい目をしていてさっきの厳しい表情が全く感じられない。

 

「一輝君。君は人望がある。それは君の人柄による物だろう。これは中々出来ることでは無い。君は素晴らしい相談屋だ。だからこそ私は君を選んだ……合格だ」

 

 一瞬信じられなかった。さっきのあの状態から状況を逆転出来るなんて。

 だが出来た。その事に喜びを感じる。これからもこいつらと共にここに居れるのだ。

 

「「「やったぁぁっ!!」」」

 

 みんなで喜びを分かち合い、そしてこれからも共にこの学校で相談屋として在学する。




 はい!第23話終了

 次からは秘封倶楽部に焦点を当てて行きたいと思います。

 それでは!

 さようなら


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本編(後)
第24話 最強の情報屋(犯罪臭)


 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 校長に一輝のことが認められた。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「えーっ!」

 

 翌日、俺らは昨日校長室であったことをメリーに報告したら滅茶苦茶驚かれた。

 まるでこの世の終わりのような形相だが俺と宇佐見はとても冷静に紅茶を飲んでいる。

 

「私は知らなかったんだけど、と言うか蓮子はどうやってその事を調べたの!? 普通に学生生活を送ってたらそんな情報は中々入って来ないよね!?」

 

 まぁそれが普通なんだけどな、今回は情報屋が居たから仕方が無い。進奏はなぜその事を知っているんだと言う様な情報をゴロゴロと持っている。この学校の事で進奏に分からない事は無いであろう。

 いつもその情報をどこで仕入れているのかは不明だがあいつの情報量に助けられた事も何度かある。

 その情報を聞いて宇佐見は来たんだろう。

 

「そうだよね。ははは」

 

 進奏の情報量を知っている宇佐見は苦笑いをする。

 まさかあいつ、情報を集める為にストーカーなんかしてねぇだろうな?

 

「でも良くあの校長先生が認めたね」

「ん? どういう事だ?」

「生徒間で堅物だって有名なんだよ」

 

 そうだったのか。俺にとっては結構優しそうな校長だって印象だ。

 だがまぁ、あんな風に退学させまくって居たらそりゃそんな噂も立つよな。

 確かに相談屋は優遇されるがその代わりルールが厳しい。こんな風に優遇されるからって相談屋なんて安請け合いはしないのが身の為だな。

 まぁ断る事が出来ないってのが現実なんだがな。

 

「そうなのか。まぁ俺は大丈夫だったんだしもう別に良いや」

「ありがとうね。しばらく見ない間にすごく強くなっててびっくりした」

 

 まぁ、めっちゃ頑張ったしな。

 相談屋は危ない事も多いからこれくらい強くならないと自分の身を守ることが出来なかったんだ。

 故に相談屋は学園内で最強で無ければならない。どんな状況でも冷静に分析出来る精神力が必要。学園生活でここまでのハイスペックを求められる事はそうそう無いよな。

 

「それよりも二人とも」

「「なに?」」

「なんで紅茶を飲んでるの!? ここ、学校だよね!? どこで淹れて来たの!?」

 

 そう、俺と宇佐見は現在紅茶を飲みながら会話を交わしているのだが、ここは別に家では無い。学校だ。俺らは今、学校で紅茶を淹れて飲んでいる。

 校長に見逃された翌日に俺は早速職権乱用をしているという事だ。

 

「俺、校則に関しては殆ど免除されてるから」

 

 その代わりもっと面倒で厳しいルールに縛られてるけどな。

 

「輝山君に関してはまぁ良いとして、蓮子はダメでしょ!?」

「これで私もふりょーデビューだね」

 

 悪い事は言わないからやめておけ。不良になっても全く良い事は無い。

 

「はぁ、頭が痛くなって来たわ……」

 

 宇佐見は昔から変わらないなと懐かしく思いながら哀れみの目を蓮子に向けた。

 頭脳が中学位で止まってしまっている。なんて可哀想な子、俺は君が可哀想で可哀想で……笑えてくる。

 

「そう言えば秘封倶楽部って普段は何やってるんだ? オカルトサークルなんだろ?」

「まぁ、オカルトサークルって言ってるけど降霊術をやっている訳でもなければ占いが出来る訳でも無いのよね」

 

 無い無い尽くしじゃないか。じゃあ逆にいったい何が出来るんだよ……。

 そう思っていると蓮子ははいはい! と手を上げてアピールを開始した。何か言いたい事があるんだな。

 

「なんだ?」

「私、星を見ると現在の時間と現在地がわかるよ!」

 

 星を見るだけでか!? これなら道に迷うことも無いだろう。いつの間にそんな力を身につけたんだろうか。昔は方向音痴だった様な気がしたが……俺の読心術みたいに生活する上で必要不可欠になったから会得したって感じか?

 俺のこの読心術だって最初から持っていた訳では無い。相手の嘘を見抜く必要があったからそれに応じていつの日かできるようになっていた。

 

「私は境界の境目が見えます。あなたは他の世界、平行世界(パラレルワールド)って信じる?」

「やっとオカルトっぽい話が出て来たな。まぁ、この世界があるんならあるんじゃないか? 世界は一つだけってのは人間の決めつけだ」

「中々いい筋ね」

 

 まぁ、蓮子の大体の心を読んであるってのはわかった。俺には嘘はつけないから恐らくこの心は本当の事を言っているだろう。

 それにしてもパラレルワールドかぁ。考えたことも無かった。

 俺らの別の未来、あったかもしれない未来の話か。少し気にならないと言えば嘘になる。

 

「二人はそんな力を持っていたのか。確かにオカルト的な力を持っていた訳だな」

 

 そこで俺のも言おうと思ったが、読心術の事は言うべきでは無いだろう。心を読み取るなんて気持ち悪い以外の何物でもないと思うしな。

 

「それでどんな事をしているのかだっけ? 実はね、これと言ったことはしてないの。いつも蓮子とお茶会したり」

「会というには少ないけどね」

「蓮子の突発的な行動に付き合ったり」

「それは危ないからやめなさい」

「酷い!?」

 

 蓮子の突発的な行動は幼馴染である俺が想像つかない訳が無い。大方、山でも探検しようとしたりしたのだろう。だが危ないからそういう事はやらないで欲しい。

 

「んじゃあやる事ないなら俺の手伝いを頼めるか?」

「「手伝い?」」

「ああ、別にアシスタントをつけたらダメなんてルールは無いからな」




 はい!第24話終了

 次回からまた物語が進んで行く予定です。

 それでは!

 さようなら


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第25話 死活問題(大ピンチ)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 秘封倶楽部が一輝のアシスタントについた。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「何見てるの?」

 

 隣に座っていた宇佐見が俺のパソコンの画面を覗きながら聞いてきた。

 まぁ、俺は基本的にゲームなんてやらない。だからパソコンゲームをやっている訳でも無いし、俺がパソコンでやる事なんて限られてくる。

 

「依頼確認だ」

 

 俺はこれをバイトにしているから依頼が来てくれないと困るんだが、あの事件の後、中々依頼が来なくて財布が寂しい。そろそろ依頼が来てくれないと俺はかなり厳しい

 ため息をつきつつ、再びパソコンの画面へ視線を戻す。

 パソコンの画面は相変わらず平和なままで事件は特に起きていないようだ。

 

 再び財布の中身を確認する。

 

「一万。これじゃあんまり持たねぇな」

「ん? 結構足りそうだけど」

 

 一応宇佐見を通して俺が一人暮らししていると言う情報が伝わっていて何も知らないメリーが純粋な言葉を述べてくる。だがそれは間違いである。

 

「一人ならな……」

 

 一応俺の責任でもある宇佐見との同居だ。飛鶴が独立するまで養うのが当然の義務ってことだろう。

 だと言うのに二人暮しでこのまま依頼が来ないと直ぐに金が尽きる。

 

「で、でもまぁ、こう言う職業が暇なのって平和の証だからさ。もし大変だったら手伝うし」

 

 最後の方は小声で俺の耳元で囁くように言った。

 少しくすぐったかったが、その言葉でだいぶ救われた。

 

「でもなんで依頼がぱったりと止まったんでしょう」

 

 まぁ、一つ心当たりがある。俺が校長室に呼び出された事によって俺はかなりやばい事をしたと噂になっていた。更に言うと今まではそうやって相談屋達は退学させられてたのに俺が戻って来たことによって不正を働いたのではないかと言う言われのない噂が立っていた。

 全く噂好きの奴が変な噂をしてるんだなと思っていただけだったが、そいつが原因なのだとしたら放っておく事は出来ない。

 

「とりあえず消しとくか」

「やめて。輝山君なら出来そうだけどやめて」

 

 だがそれは宇佐見に止められてしまった。

 でも俺にとっては死活問題なんだ。一刻も早くそんな変な噂は取り消してもらわなくてはならない。

 

「なんだ。とりあえず宇佐見、何か悩みは無いか? 今なら特別に聞いてやるぞ」

「そこまでして依頼をしたいの……? 特に今は悩みは無いわよ……それにこれは話せない事だし」

 

 何やら最後の方の言葉が小さくて聞こえなかったが、宇佐見に悩みは無いか……。

 

「メリーは?」

「私も特にこれと言って無いわね」

「宇佐見も無い。メリーも無い。……進奏と和成妹は何かあるかな」

 

 だがまぁ、進奏はあんまり悩みなんて無さそうだ。和成妹はいつも進奏の事で困ってそうなイメージ。まぁ、和成妹とは出会ってからあんまり経ってないからそんなに知らないけど何となくあの兄を持った妹がどうなるかは分かる。

 

 希望の星としては和成妹だな。

 

「ちょっと和成妹の所へ行ってくる。あの子ならば悩みの一つや二つ持っていたとしてもおかしくない」

「何気に酷いことを言ってる気が……」

 


 

「という訳で来たんだが」

「そ、そうなんですか」

 

 俺は全てを和成妹に説明した。そして俺は今、廊下のど真ん中で土下座をして頼み込んでいる。

 相談屋は有名になりやすいので俺の名前と姿は広く知れ渡っているだろう。そんな相談屋が低学年の廊下のど真ん中で後輩に向かって土下座をしだしたらどんなことになるのかは想像に容易い。

 

「そ、相談でしたよね?」

「あ、あるのか!?」

「え、えっと……そんなに近づかれると照れてしまいます」

 

 気がついたら俺は興奮して立ち上がってもの凄い至近距離まで距離を詰めていた。

 だが、この結果に俺の全てがかかっていると言っても過言ではないから興奮するのも無理はないと思うんだ。

 

「えっと……あ、先輩と一緒に遊びたいです」

「俺と?」

「はい! あの、ダメでしょうか……」

「いや、ダメってことは無いが」

 

 でもそんな事でいいのか? そう思ってしまった。

 今の俺は死活問題だから例えどんな依頼でも甘んじて受け入れるつもりであった。だが、彼女の口から出たのはそんな依頼だった。

 正直、きつい依頼も覚悟していた。きっと今の俺だったら暗殺命令とかでも甘んじて受け入れていたかもしれない。

 

「私はそれがいいんです。先輩ともっと仲良くなりたいんです!」

 

 物凄い勢いで言ってくる。それで俺は彼女が遠慮している訳ではなく本当にしたいと思っているんだなと分かった。ここで遠慮されても後味が悪いだけだったけど遠慮じゃないならそれでいいかと思う。

 

「つまりデートね」

「ででで、デート!?」

 

 そこで横にいた宇佐見が余計な事を口走る。

 デートと言う単語を聞いた和成妹は顔を真っ赤に上気させて俯いてしまった。

 まぁ、男女が出掛けることをデートと定義するのならばデートなのだろうが、そんなにストレートに言う必要も無かったんじゃないかと思う。

 

「でもデートなんて言ったらあいつが荒れそうだな」

 

『私というものがありながらデート!? 許しませんよ、その女はどこの誰ですか? 教えてください。その女を処分しなくてはならないので』

 

「まぁ、デートと言わなければ良いか。分かった、デートだな」

「はい! よろしくお願い致します」

 

 こうして俺は和成妹とデートする事になった。




 はい!第25話終了

 次回はデート辺です。

 本編(前)とは少し違う雰囲気の話になっていきます。

 それでは!

 さようなら


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第26話 デート(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一成妹とデートをすることになった。




 それではどうぞ。


side一輝

 

 デート当日、俺はデートの10分前に待ち合わせ場所まで来ていた。

 確か昔に無理やり読まされた少女漫画にこんなシーンがあった気がするのでそれを参考に行動している。

 俺はデートの経験は無いから少し不安だが、依頼として受けたなら全力で遂行するのが相談屋の仕事だ。だから何が来ても俺は全力で対応するだけだ。

 

 それから約9分後、件の人物がこちらへ走ってきた。

 その姿はまるで天使を彷彿とさせた。可愛すぎてその光景に目を奪われてしまった。

 走ってきて俺の前で息を整える天使。世の中の男子はこのワンシーンのみでイチコロだろう。それくらいの可愛さがあった。

 

「ま、待ちましたか?」

「いや、俺も今来たところだ。それに遅れたわけじゃ無いんだ。申し訳なさそうにする必要は無い」

 

 確かデートで女の子がこう聞いてきたらこう答えるというのもあったはずだ。

 まさかあの無理やり読まされた少女漫画がこんな所で役に立つとは思わなかった、

 

「先輩は優しいですね。惚れ直しました」

 

 こんなことで惚れ直すって……将来悪い男につかまらないことを祈るよ。

 

「ところでどうですか?」

 

 そう言って一回転する和成妹。これも確か少女漫画にあったはずだ。

 どうかと聞いてきた時はだいたい服の事を聞いていると宇佐見の解説も入ったくらいの重要イベントだったはずだ。このデートを成功させるためには絶対に回答を間違えられない。

 なのでもう一度彼女の服装を確かめる。

 白を基調としたワンピースで、和成妹の童顔ととてもマッチしていて、清楚な感じが伝わってくる。

 

「すごくいいと思う。とても似合ってるよ」

「それなら良かったです。先輩とのデートのために仕立てて来たんですよ」

 

 随分気合を入れて準備してきたようだ。なんだかそんなに思ってくれていると思うと悪い気はしない。今回は依頼って形式だが、とても嬉しくなる。この依頼を受けて良かった。

 無理やり相談屋をやらされている形だが、そんな俺でもこの仕事にやりがいを感じている。

 礼を言われ慣れていないので礼なんて要らないが、その嬉しそうな顔を見ているとなんだかこっちまで嬉しくなってくる。

 

「そうか。じゃあ、早速行くか」

「はい!」

 

 とても嬉しそうな声で返事をしてくれた。とりあえず第一関門はクリアの様だ。

 今の今までデートをしたこと無い俺にとってはハードモード過ぎる。

 これなら喧嘩に関することの方がまだ楽だ。

 

「先輩。私、行きたい場所があるんですが良いですか?」

「あぁ、いいぞ。それでどこに行きたいんだ?」

「着いてからのお楽しみです」

 

 随分浮かれている様子だl。

 かく言う俺も表には出さないが正直浮かれている。だってこんな可愛い女の子とデートなんてそうそう無いだろう。嬉しいに決まっている。

 だが、この子とデートしたことを知られたら進奏がうるさそうだな。口止めしておいた方が良いな。

 

 それから5分くらい歩いたら目的地に着いたようだ。

 

「ここは?」

「映画館って書いてあるじゃ無いですか」

 

 そうか、ここが映画館。

 多分、物心着いてからは一度も来た事が無いはずだ。特に見たい映画がある訳でもないし、俺自身、あまりテレビを見ないのだ。

 だから、部屋に置いてあるテレビは半分飾りと化している。

 何も無い日は自室で携帯ゲームをしていることが多い。

 まぁ、最近は飛鶴がテレビを見てくれているのでガラクタとはならずに済んでいる。

 

「先輩はこういう系はどうですか?」

 

 そう言って和成妹が提示してきたのは恋愛系映画だった。特にこれといってダメって事は無い。昔宇佐美に無理やり少女漫画の他にも映画や小説、アニメなんかも見せられたので耐性はついている。

 

「大丈夫だ」

 

 やはり女の子って恋愛映画とかが好きな子が多いのか? 俺にはその世界はよくわからない。

 

 そうして映画を一緒に見ることになったのだが――これはどうなんだ?

 この映画には想像よりも濃厚なラブシーンがあったのだ。非常に気まずい。この映画を女子と見るのは俺にはハードルが高すぎる。

 そのことは和成妹も感じているようでさっきから顔を赤く染めてモジモジしている。

 しかし、そんな俺たちの気持ちも知らず、映画は更なるラブシーンへと移行した。

 そこで隣に座っている和成妹が手を繋いできた。しかもただ繋ぐだけではなく、おそらくこれは恋人繋ぎだ。

 とてもいい雰囲気だ。これで俺たちが本当の恋人ならばこの後俺たちもラブシーンへと移行していただろう。

 

 この雰囲気は俺はダメだと判断し、俺は映画が終わるまで何も考えないことにした。

 


 

side宇佐見

 

「今日の秘封倶楽部活動は輝山君のデート観察です!!」

「ねぇ蓮子。私もう帰って良いかしら」

「だめだよ! まだ活動始まってすらいないよ!?」

 

 今日は輝山君がデートするって事を聞き付けて尾行をすることにしたんだけど、メリーがあんまり乗り気じゃ無いみたい。

 どうやら人のデートなんて見たくないとか。

 

「それに、蓮子。あなた、秘封倶楽部の活動だって建前を立てて本当は他の女に輝山君が取られないかを監視したいだけなんでしょ?」

「違うよ!」

 

 図星なところはあるけど、決してやましい気持ちは一切ない。輝山君が悪い女に誑かされていないか陰ながら監視するだけなんだから1

 

「じゃあ、早速追いかけるよ!」

「蓮子、あなたが遅れたせいでもうとっくに2人は出発したわよ」

「え?」

 

 輝山君尾行は幸先が悪いようです。




 はい!第26話終了

 今回は結乃とのデート回でした。

 しかし、タグを見てわかる通り結乃はメインヒロインじゃ無いんですよね。

 次回も結乃とのデート回です。

 それでは!

 さようなら


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第27話 考察(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです。



 それでは前回のあらすじ

 デートで恋愛系映画を見た。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 映画を見終わって俺と和成妹は逃げるように映画館から出て来た。

 流石にあそこまでのラブシーンとは予想外だ。結構グレーゾーンを突いてきていたと思う。その証拠に恋愛系大好き和成妹が顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっていた。

 

「確かに恥ずかしいものでしたが、ストーリーはとても良かったです。私もあんな恋愛をしてみたいです」

 

 和成妹なら可愛いから直ぐに彼氏くらい出来そうなものだが、和成妹は俺が好きらしいので他の男と付き合う気は無いらしい。

 しかも原因は他にもあって、進奏がかなりのシスコンなのだ。

 そのため、告白したら進奏の手によってこの世から抹殺されるだろう。

 そして俺も例外では無い。俺がこの子の告白を受けたら全力で俺を抹殺しにかかるだろう。普段なら進奏如きには負けないが、シスコンモードとなった進奏は恐らく俺を超越した力を出すだろう。そうなっては俺でも勝ち目はない。

 更に言うとうちの同居人も恐ろしいことになる。あの子は俺の方ではなく和成妹を抹殺しに行くだろうが、そんな事をしてみろ。進奏が物凄い勢いで抹殺しに行く。

 そんな感じでなんやかんやあって最終的に世界は滅びる。間違いない。あいつらのシスコンパワーとヤンデレパワーをナメない方がいい。絶対に後で後悔することになる。

 

「先輩もあんな恋愛をしてみたいと思いませんか?」

「俺はあんまりそういう欲求は無いんだ」

「え? 健全な思春期男子ですよね?」

 

 失礼だな。どこからどう見ても健全な思春期男子だろう。ただ、ちょっとだけ自身の欲求が少ないだけだ。

 欲求があまりないのは施設に居た頃からだから今更変えられないしな。

 まぁ、こんな仕事、煩悩なんか持っていたら勤まらない仕事だしな。

 

「まぁ、いいです。いつか振り向かせてみせますから!」

「はいはい、楽しみに待ってるよ」

 


 

side宇佐見

 

「あの二人、いい雰囲気ね」

「そうね。それは良いんだけどさ蓮子。そんなに身を乗り出していたら見つかるわよ」

 

 私達はなんとか輝山君を見つけ出して尾行をしていたら二人は楽しそうに話をしながら歩いていた。

 そんな様子を見ていて私の心は穏やかでは居られなかった。

 そんなもんだから、私はメリーに言われるまで自分が前に出過ぎていたことに気が付かなかった。

 

「ありがとうメリー……でもあの二人、くっつきすぎじゃない?」

「あなたが嫉妬しているのはわかったから少し落ち着きなさい」

「嫉妬なんかしていない!」

 

 メリーに嫉妬と言われてしまったので私は必死にそれを否定するが一切聞いてくれない。本当に違うのに!!

 

 でもあの子が輝山君と楽しそうにしていると少しモヤモヤする。何としてもあのデートを壊したくなってくる。

 

「あ、あの蓮子が黒いオーラを出している!?」

 


 

side一輝

 

 俺達は映画館を後にして次の場所に来ていた。

 ショッピングモールだ。

 

 女の子と一緒にショッピングモールというのはやはり初めてということで緊張していた。

 どれだけ強くなっても女の子の扱いが上手くなるわけじゃないから鍛えようがない。

 そもそもの話、メリーや和成妹と出会う前は女の子の知り合いは蓮子と飛鶴の2人だけだったってのももんんだいだな。

 最近に至ってはこんな暴力解決しているから寄ってくるのは和成妹みたいな物好きだけだ。

 

「ここで服を買いたいのですが、選んでもらって良いですか?」

 

 おーけーわかったよ。神はそんなに俺に最高難易度の試練を与えたいんだな。

 俺は年がら年中制服を着ている男だ。今は周りの目もあるのでたまに変装する時に着ている一般受けしそうな服を着ている。

 だけど、そんな俺だからファッションセンスは皆無だ。

 こんな俺が選んでしまってもいいのだろうか?

 

 確かに宇佐見が見せてきた少女漫画にも似たようなシチュエーションが載っていた。あれを参考にすれば乗り越えられるはずだ。

 

「わ、わかった」

 

 元々女の子になれていないのだ。宇佐見と飛鶴は幼い頃から一緒に居たから大丈夫だが、本当は女の子と二人きりで出掛ける行為自体、結構来るところがあるのだ。

 それなのにこんな少女漫画みたいな展開……神が本当に居たとしたら、俺はお前を決して許しはしないだろう。

 

「先輩。これとこれ、どっちがいいと思いますか?」

「うーん。君にはこっちの方が似合うかな。こっちは少し派手すぎる」

「へー。先輩って清楚系が好きな人ですか?」

「そうだな。俺はそっちの方が好みだ」

 

 和成妹が気に入った服を二着手にとって自分に翳しながら俺にどっちが似合うかを聞く。

 今回のは依頼でもあるし、知らない仲でも無いので一応真面目に考えてみる。

 するとだんだんと和成妹の好みが分かってきた。

 

 今着ている服もそうだが、暖色、中でも赤やピンクなどといった色が好きのようだ。

 あと、時々青系等の服も持ってくるので青も少し好きなのだろう。

 

 だから俺は和成妹の気に入りそうな服をいくつかピックアップしてみた。

 

「これなんかどうだ?」

「あ、とっても可愛いですね。私、こういう服が好きなんですよ」

 

 ビンゴの様だ。やはり俺の予想は外れていなかった。

 この調子でこの場は乗り切るとするか。




 はい!第28話終了

 どうでしたか? 今回もデート編です。
 次回もデートですがあくまでメインヒロインは蓮子ですので。

 それでは!

 さようなら


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第28話 楽しそうな二人(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 デート編、第2回



 それではどうぞ!


side蓮子

 

 輝山君と結乃ちゃんが服屋に入って行ったので私達も服屋に入っていった。

 そこで見た光景に私は頭がクラクラしてきた。メリーが支えてくれているが私はいつ倒れてもおかしくなかった。

 その光景はとても私には耐えられるものではなかったからだ。

 

「ま、まさかあんなにイチャイチャと……羨ましい」

「蓮子、あなた本音が漏れているわよ」

 

 でもでも、イチャイチャと楽しそうにしちゃって……大学に来て一番楽しそうだよ! もしかしたら今まで生きてきて一番楽しんでいるのかも!?

 もしそうだとしたら私はショックで立ち直れないかも。施設にいた頃の笑顔は1体なんだったんだって。私と飛鶴ちゃんしか知らないはずの笑顔を見せている。

 

「多分だけどさ、輝山君は営業スマイルってのをやっているんじゃないかな? ほら、輝山君にとっては結乃ちゃんはお客様なんだし」

 

 確かに言われてみれば結乃ちゃんは輝山君にとってはお客様だ。営業スマイルをしているだけなのかもしれない。

 そう思ってもう一回、輝山君を見てみる。するとやはりあの笑みは自然なものでどう見ても営業スマイルには思えない。

 もしあれが営業スマイルだとしたら私は全てを信じられなくなるだろう。

 

「もし、あの笑みが本当で、結乃ちゃんが輝山君の彼女になったら」

 

─※─※─※─想像─※─※─※─

 

「せーんぱい」

「なんだ?」

「えへへ、呼んでみただけです」

 

 結乃ちゃんが輝山君に抱きついた。それを輝山君は嬉しそうに抱き返す。

 それによって結乃ちゃんのスキンシップは激しくなる。

 

 昼になると二人揃って姿を消す。

 

「せーんぱい、お弁当を作ってみたんですよ。良かったら食べてください」

「お、美味しそうだな」

「はい! 丹精を込めて作ってみました!」

 

 そんな唯乃ちゃんの作ってくれた弁当を食べて一言、

 

「美味い。これから毎日食べたいくらいだ」

 

 その言葉を聞いて結乃ちゃんは惚けた表情をする。そんな結乃ちゃんに輝山君は追い打ちをかけるように言うのだ。

 

「お前も食べちゃいたいくらいだ」

「せん、ぱい……」

 

─※─※─※─想像─※─※─※─

 

 こんなの耐えられない!

 輝山君が誰かとイチャイチャしている姿なんて見たくない! クールなキャラが一瞬で壊れてしまう。

 これは危険だ。

 

 本人は気がついていないけどそのクールさで学年問わずモテモテなのだ。それなのになにあのラスボス、強すぎるじゃない……。

 

「もうダメだ……輝山君は結乃ちゃんのことが好きなんだ……」

「うーん、あなたの妄想はちょっと突飛すぎる気もしないでもないけど、あながち否定しきれないのが辛いところね」

 

 ついにメリーもフォローをしなくなってきた。それはメリーもそうなのかもしれないと思い始めてきた証拠。

 だって楽しそうなのに本心じゃないわけない。

 


 

side一輝

 

 楽しい。たまにこうやってのんびりと外に出るのもいいかもしれない。最近は外に出る目的と言ったら、こんな自由なものじゃなかったしな。

 今は和成妹に付き合わされて服を見ているが、これだけでも結構楽しい。俺が退屈しないように俺にも会話を振ってくれている。

 買い物というものはあんまり好きではなかったが、こういう買い物ならたまにはいいかもしれない。

 

「先輩、決めました。では買ってきます」

 

 そう言って会計に行こうとする和成妹の肩を俺は掴んで止めた。

 

「貸せ」

 

 そう言って俺は和成妹の手の中にある服を受け取ると会計に向かった。

 会計を済ませて戻ってくると和成妹は惚けた表情をしていた。

 

「ほら、なんちゅうー顔をしてるんだ」

 

 俺が会計を済ませた服を手渡すと和成妹はやっと戻って来た。その表情はまだ驚いた感じだ。

 

「先輩……なんで」

「ここは男である俺に格好をつけさせてくれ」

 

 こういう所では格好を付けておきたいってのは男の性なのだろう。

 あの俺がこんなことになるとは思っていなかったな。宇佐見のせいだな。宇佐見を助けてから俺の調子はずっと狂いっぱなしだ。

 

「まぁ、受け取ってくれ」

「あ、ありがとうございます」

 

 頬を染めて礼を言ってくる和成妹。俺は相談屋なんてやっているが礼を言われ慣れていないので恥ずかしくなってしまって帽子を深くまで被って後ろを向いた。

 

「ここでやることが終わったならさっさと次に行くぞ」

 

 そう言って恥ずかしい俺は足早に次の所へと向かった。

 と言っても腹が減ってきたので食事をすることになったので近くのカフェに向かった。

 

「おしゃれなカフェ。こんなところ、知っていたの?」

「逆だ。最近はカフェが減ってきていてこの辺りではここしか知らないってのが本当だ」

 

 少し前まではカフェを必死に探し歩いていた。俺はカフェが好きだったからだ。

 施設にいた頃は手頃な位置にカフェがあったので良かったが、ここにはあんまりない。

 大きなショッピングモールにはあるが、ゆっくりとしたい性格の俺にはこう言うモールから出たカフェの方が合ったのだ。

 

「じゃあ、ここで少し休憩してから再開するか」

 

 そう言って俺と和成妹はメニューに目を落とした。




 はい!第28話終了

 もう少しでデート編が終わります。

 それでは!

 さようなら


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第29話 営業妨害だ(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 服屋にてイチャイチャしている結乃と一輝を見て蓮子が死にかけた。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「すみません!」

 

 俺が店員さんを呼ぶと一人の店員さんが出て来た。人当たりの良さそうな営業スマイルをうかべ、こちらへ来た。

 

「ご注文ですか?」

「はい。俺はこのオムライス、ドリンクはコーラで和成妹は?」

「なんでしょうか……和成妹と呼ばれるのは寂しいですが……私はこのハヤシライスで」

 

 店員さんは俺と和成妹の注文をメモすると注文を厨房に伝えるために戻って行った。

 久しぶりにここに来たので少し内装を見てみる。すると少し内装は変わっていたものの、殆ど昔のままだ。変わらないあの暖かい雰囲気。

 あたたかい光に静かな雰囲気、とても落ち着ける空間だ。しかも立地もいい。ここは少し高い位置に建てられているため、窓からの景色も最高だ。俺的にはもう少しこのカフェは人気になってもいいと思うが、この物静かな雰囲気がこのカフェの良い点の一つなので、これ以上増えても良くないのかもしれないな。

 

「先輩はこういうところよく来るんですか?」

「良くというか……昔はこういう所によく来ていたんだけど最近は来ていなかったな。街が変わるなら俺も変わるってことだろう」

「その理論は分かりませんよ……」

 

 まぁ、月日が経てば人も変わるってことだ。

 それにしても、何度来てもここはすごいなと思う。俺たちの元々住んでいた場所は結構な田舎だった。

 近くにコンビニはないし、ましてやスーパーなんてなかった。近くに小さい学校が幾つかあるだけだ。

 そんな辺境の地に建っていた施設だったのだ。

 

 そのため、こっちに来てから初めて見るものも多く、色々と驚いたりもした。

 一番驚いたのはバスの本数だ。あっちだと一時間に一本だったのに、こっちに来てみたら直ぐに次のバスが来るんだからびっくりした。

 

 そんな話をしていると注文した料理が届いた。

 とても美味しそうで、久しぶりに見るその料理たちは俺の食欲を駆り立てる。

 

 このカフェ特製オムライスだ。スプーンを入れてふわふわ卵とケチャップライスを同時に口に含む。

 うん。ここのオムライスは変わらず美味しい。特にこのふわふわ卵は素晴らしい。俺は固い卵はあんまり好きではない。その情報をどこで仕入れたのかは知らないが、飛鶴が「このふわふわ加減がすきでしたよね」と完璧なオムライスを出してきた時は驚いた。

 

「このハヤシ、美味しいですね」

「ここの料理は基本的に完璧だ。どれを頼んでも基本的に外れない。ここのマスターが完璧主義だからだ」

「でも先輩がオムライスって可愛いですね」

「俺は卵系ならなんでも好きだぞ?」

 

 そう言って俺ももう一口パクリ。

 

「そういえば先輩知ってましたか? 先輩、一部の人たちからは今世紀最優(さいやさ)のヤンキーって呼ばれているんですよ」

「なんだそれは……褒めているのか貶しているのかどっちなのかが分からない。反応に困るぞ」

 

 でもヤンキーっぽいってのは認めよう。たまに恐喝してきた相手を恐喝し返したりしているしな。これはあれだな、良い子は真似しないでねってやつだな。

 それにしても最優ってのはどうしてかわからん。俺は優しくした覚えなど微塵もない。

 俺は基本的に気心知れている奴にしか優しくしないので優しいって噂が広がるはずがないのだ。

 

「どこでその噂が広まったんだ……。営業妨害だ」

「なんで!? 依頼を呼び寄せるために優しいって思って貰えた方がいいんじゃないんですか?」

「俺的には今の傍若無人で人の心を持っていないんじゃないかと思われていたようが楽なのだが」

「そんなこと思われたこと過去一度もありませんよ!?」

 

 そんな馬鹿な。俺は結構冷たくしていたからそう思われているに違いないと思われていると思っていたんだが。

 依頼が多いとその分だけ仕事量が増える。それも、大して重要じゃないことまで俺の元に来る。この仕事は仕事の大変さを加味された報酬なので、大変な仕事を1個こなしたら重要度が低い仕事を10個こなしたレベルの報酬が手に入る。

 つまり、大変な仕事を1個こなせればそれでいいのだ。

 

 今やっているデートの依頼は多分重要度低めと判断されるだろう。だが俺にとっては知らない仲じゃないんだから俺の中では重要度高めになっている。

 

「確かに先輩なら大変なのでも達成できるでしょうが……ちなみに大変なのってどんなやつですか?」

「そうだな……相談屋ってのは学内以外からも依頼を受け付けているんだが、たまに警察から手伝ってくれって依頼が来ることもあるんだ。その中にある銀行強盗を捕まえた時が一番大変だったな」

「先輩の大変のベクトルが違いました……」

 

 でもこれくらいなもんだろう。恐喝は逆に臨時収入が入ってラッキーだし、泥棒、強盗退治は俺の足の速さで余裕で追いつく。

 唯一銀行強盗は充分な準備をしている可能性があるため、少し厄介なのだ。

 でもまぁ、銃の無いこの日本だったら武器がナイフってことが多いのでそんな装備じゃ俺の相手じゃない。

 

「さて、食べ終わったか。次に行くか」

「はい!」

 

 そして俺たちはデートを再開した。このあとも楽しくデートを行うことに成功。今日のデートは個人的には大成功だ。

 

「今日はありがとうございました」

 

 ぺこりと頭を下げる和成妹。

 

「どういたしまして」

「最後に良いですか?」

「どうぞ」

「え……と、結乃って呼んで貰えませんか?」

 

 それは俺にとってはハードルが高いおねがいだった。

 宇佐見でさえ苗字読み、飛鶴は妹みたいな存在だからまだ下の名前で呼べる。

 そもそも俺は人との距離をとるために苗字読みで呼んでいるのだ。

 でもこれは依頼だ。最低な考え方かもしれないがこれなら呼べるかもしれない。

 

「……結乃」

「はい! 先輩」

 

 俺が結乃と呼ぶと顔を赤らめて返事をしてきた。どうやら喜んでもらえたようでよかった。

 

「今日は本当にありがとうございました! さようなら~」

「ああ、じゃあな」

 

 さようならの挨拶をしてから俺は振り返った。

 ところで迷っていたらデートが終わってしまったが、ずっと後ろを着いてきた2人には突っ込むべきだろうか。

 まぁ、いいか。あいつらは害はない。どうして尾行なんて真似をしたかは知らないが何か理由があるのだろう。

 

 さて、帰って飛鶴の美味い飯でも食べますかね。

 

「お兄ちゃん、遅い」

 

 案の定、怒られました。




 はい!第29話終了

 今回でデートは終了です。

 それでは!

 さようなら


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第30話 嫌いなこと(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 デート終わって帰ると飛鶴に怒られた。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「暇だ」

 

 俺は一人部室で呟いた。

 今日も今日とて依頼ゼロ。確実にこの前の事件が俺に牙を向いている。飛鶴には出来るだけ楽をさせてあげたいから、このままだと報酬が入らなくて困る。

 この前のデートの時はあれも確かに依頼だったが、なんだかいけない事をしているような気分になって報酬は半額にしておいた。でも何故取ったのかと言うと本当に生活がギリギリだからだ。

 

 授業を受ける気にもならないし、寝ようかな……。そう思って帽子を深く被った瞬間だった。

 

 バゴン!

 扉が蹴り破られた音がした。この音を聞くのは久しいな。しかもこのタイミングで来るってのもなかなか珍しい。

 帽子を直して扉の方を見ると数人の男たちが立っていて、それぞれが手に鈍器を持っている。

 このイベントを俺はストレス発散イベントと呼んでいる。このイベントが来れば俺は正当防衛を謳って合法的にストレスを発散できる。

 このイベントは主にナンパやカツアゲを助けた時に起こるイベントだ。しかし、ここ最近はそんな依頼は受けていないんだけどな。

 

「あんたが輝山 一輝か?」

「そうだが……」

「よくも俺たちの仲間をいたぶってくれたな」

 

 へ? いや、記憶にないんだけど?

 そもそも最近はそんな依頼受けてないし、学校内で恨みを買いそうな依頼を最後に受けたのは宇佐見の時……ってもしかしてあの時の?

 いや、遅いしいつまで根に持ってんの? もうアイツらの事なんか忘れかけていたんだけど。

 

「おい、あれを出せ」

「はっ!」

 

 そう言って男が出したのはたくさんの写真だった。

 それがどうしたって感じだったが、その写真を見た瞬間、息を飲んだ。

 なぜならそこには俺と宇佐見たちが並んで歩いている所が写し出されていたからだ。それだけじゃ無い。

 

「極めつけはこれだ」

 

 男が最後に取りだした写真、そこには俺の家から出ていく飛鶴、更に俺と一緒に家に入っていく飛鶴が映っていた。

 

「く、盗撮か」

「そうだ。これをばらまかれたくなければ殴られろ」

 

 これはまずい。ばらまかれてしまったら俺以外のみんなにも迷惑をかけてしまう。しかもこの学校とは無関係の飛鶴にまで……。

 こいつら、この時のために俺の弱みを収集して居やがったな。そして今日、実行した。しかも教師はみんな授業で、助けに来る可能性が一番低いこの時間帯に俺をボコるためだけにここまで計画してやがったか。

 警察に連絡……いやダメだ。連絡したらこいつらは逆上して最悪の展開になる可能性があるな。

 万事休すか……これは俺が大人しくボコられていた方がみんなに迷惑をかけずに済むな。

 

 多分、こいつらも俺に暴力を奮ったってバレたくないから顔には拳を落としては来ないだろう。だから俺が黙っていれば迷惑をかけることも無い。

 はぁ、こういうのは一番気に食わねぇ。正々堂々と喧嘩しろよな。相手の弱みを握るってのは俺は大嫌いだ。

 今回のイベントはストレス増殖イベントだったか……。

 

「やれ」

 

 そして俺はその時間中は殴られ続けた。

 


 

side飛鶴

 

 今日も学校が終わったので家事をします。

 お兄ちゃんが帰ってくる前に家事を終わらせてお料理をしておきたいと思います。

 今日も多分遅くなるのでお料理は全て家事を済ませた後でも良いかもしれませんね。

 

 お兄ちゃんはいつも美味しそうに私の作った料理を食べてくれます。その事が嬉しくて私はいつも料理を作ったり、家事を率先して行ったりしてます。

 

「さて、とりあえず掃除でも」

 

 そう言っていつも通りイヤホンで音楽を聴きながら掃除機を手に取ると、急に玄関から物音がしました。

 こんな時間にお兄ちゃんが帰ってくる訳ありません。つまりこれは泥棒?

 私は掃除機を持って恐る恐る玄関に向かいます。するとそこにはやはり人影がありました。今この家にいるのは私だけ、お兄ちゃんの家を守ってみせます。

 

「覚悟ーーっ!」

「おう、飛鶴。ただい――ぐはぁ!」

 

 掃除機を振り下ろした瞬間、泥棒だと思われる人物は悲鳴をあげました。しかし、その声は今までに何度も聞いたことのある大好きな声で……。

 

「お、お兄ちゃん!? どうしたんですか? 誰にやられたんですか!?」

「か、鏡を見ることをおすすめするよ」

 

 なんと、今入って来た人物はお兄ちゃんだったようで、私はお兄ちゃんを泥棒だと勘違いして掃除機で殴ってしまったようです。

 あぁ、なんで取り返しのつかないことを! 大好きなお兄ちゃんを掃除機で叩いてしまうなんて……。これはもう嫌われて当然。出ていけとか言われるんでしょうか? そうなったらもう私は生きて行けません。私はお兄ちゃんに嫌われたらもう……。

 

「いい一撃だった。だけど撃退するには足りないぞ? もっと強い一撃を与えなきゃな」

 

 そう言ってお兄ちゃんは笑いました。

 殴られて怒るのではなく、逆に笑いました。お兄ちゃんってドMなんでしょうか?

 でも嫌われてはいないようでよかったです。

 

「でもどうしたんですか? こんな早い時間に」

「ああ、早くサークル活動が終わったから帰ってきたんだ」

 

 そう言えばお兄ちゃんはいつもサークル活動が長引いていたせいで帰りが遅いんでしたね。

 

「それより風呂、いいか?」

「わ、分かりました。今準備しますのでお待ちください」

 

 予想外の帰りで予定が狂ってしまいましたが今日はお兄ちゃんと居られる時間が長そうで良かったです。

 でもこの時間に帰って来るって初めてですので、サークル活動が早く終わった以外に何かがありそうですね。




 はい!第30話終了

 サークル活動が長引いたせい  ×
      昼寝していたせい 〇

 一輝は飛鶴にいつもサークル活動が長引いたと説明しています。

 それでは!

 さようなら


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第31話 疑惑(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 裕斗がリンチされた。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 くぅ、水が染みる。

 散々殴られたからな、傷口にお湯が染みる。放課後になってやっと開放されたが、また明日やられるかと思うと憂鬱でしかない。

 この時間が一番心休まる。家に居るのが一番安全だ。

 流石の奴らも家の中にまで来ることは無いだろう。だから今日は早く休んで明日に備えるのがいいだろう。

 飛鶴や宇佐見達に知られる訳にはいかない、特に飛鶴だ。飛鶴は何をするか分からない。

 もっとも、飛鶴には平和に不自由無く暮らして欲しいと願っている。だから、これに関しては隠し通さなくてはならない。

 幸いにもアイツらが攻撃してきたのは服で隠れて見えないところだ。普通ならゲスだと思うところだが、今回に関してはありがたかった。

 

 風呂から出ると既に飯が用意されていた。飛鶴は本当に仕事が早い。俺が帰ってくる前はまだ手もつけていない様子だったが、風呂から出てきたらもう出来上がっていた。俺が風呂に入っていた時間はあまりなかったはずだがな。

 

「どうですか?」

「……どうですか? って、なにかいいことでもあったのか? やけに豪勢じゃないか」

 

 普段よりも豪勢な料理たちがそこには並んでいた。確かに美味しそうだが、今日だけで何円かかっているんだ? 

 

「ううん。何も無いよ」

(とにかくなんでもいいから気分をよくして吐かせてみせる)

 

 なんかよく分からないけどとにかく怖い。寄らば斬る、的なオーラを出している。しかも料理が終わったと言うのに飛鶴の手には未だに包丁が握られていた。それが怖さをより一層引き立てている。

 とにかくこれは逆らわない方が良いな。大人しく深く聞かずに食った方が良いだろう。

 そして頂きますを言ってから俺はひと口食べた。

 うん、これは美味い。やはり飛鶴の飯は美味い。美味いのだが、飛鶴の方から威圧感を感じる。俺が食事している間、ずっと俺を見てきているので食いにくい。何が楽しいのか俺を見てニコニコしているし。

 

「美味しいですか?」

「うん、美味いぞ」

 

 く、食いにくすぎる。

 

「というか、飛鶴も食ったらどうだ?」

「私は大丈夫」

 

 大丈夫って何が大丈夫なんだ? というか、一緒に食べていて欲しいんだが……。ずっと見ていられると落ち着かない。

 なので俺は直ぐに食べ終わると足早に自室に逃げ込んだ。あの場にいると視線に殺されそうな気がした。

 なんかさっきまでは家は安全だと思っていたが実は一番危険な場所は家だったのかもしれない。

 

 ☆☆☆☆☆

 

side飛鶴

 

 うーん……なかなか言ってくれませんね。

 何かがあったら言って欲しいんですが、流石お兄ちゃんですね、頑固です。

 昔からお兄ちゃんは私達には決して弱みを見せずに自分の中で溜め込む人です。なのでそれに気付いてあげるのが私達の仕事です。

 ですが、これで聞き出せないとなると今回のはかなりのものです。いつもなら食事をしていたらポロッと言ってくれる事がほとんどなのに今回は口が固かったのがその証拠。

 そう言えばどうしてお兄ちゃんは私の顔を見て驚いたり、顔を背けたりしていたのでしょうか……やはり何かあるから私から目を背けたのでしょうか。確かめてみる価値は充分にありそうですね。

 

 でもこのままじゃ言ってくれる気配がないので少し推理をしてみましょうか。

 お兄ちゃんはいつもはサークル活動で遅れることが多い、それが早く帰ってきたってことは学校で何かがあった可能性が高いですね。

 

「…………やっぱりあの学校を潰す他ない」

 

 いや、でもそんな事をしてもお兄ちゃんは喜んではくれないだろう。

 ならとりあえずお兄ちゃんの知り合い以外の人は抹殺――ごほん、排除しなくてはなりませんかね。

 常日頃からストー……監視をしながら知り合いさんはリストアップしてあります。

 その中で一番危険な人はやはりお兄ちゃんの親友である進奏さんの妹さんですかね。事と次第によっては消さなくては――って違います。今はお兄ちゃんを助ける……雌豚からも助けなくてはなりませんが、それではなくてお兄ちゃんに迫っている危機から助けなくては……。

 そう言えばお兄ちゃんは少し特殊なサークル活動を行っていた様な気がします。サークル活動で何か変な人からの恨みを買っていなければいいのですが……。

 でも昔からお兄ちゃんはそういう所が有りました。いつもいつも私を助けてくれてはお兄さん達からの恨みを買って……でもいつも撃退しているお兄ちゃんがかっこよかった。なのでお兄ちゃんが負ける心配はしていません。

 ですが、心配なのは今回の件に関して口が堅い事です。これはとてつもない事情を抱えている予感。

 

 念の為に宇佐見さんにも相談をしておいた方がいいですかね。宇佐見さんもお兄ちゃんと同じ学校に通ってますから学校のことについて色々知っているかもしれません。ついでに雌豚の情報も。

 いつもお兄ちゃんは私達を助けてくれました。どんな時でもさっそうと現れて私達を助けてくれる自慢のお兄ちゃんです。

 ですが、今はお兄ちゃんが困ってます。なので今度は私達が助ける番ですよお兄ちゃん。




 はい!第31話終了

 今回の投稿、遅れてすみません。来週はいつも通りに投稿します。多分……。

 それでは!

 さようなら


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第32話 忠告(ミッション)

 はい!どうぞみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 飛鶴が一輝の事を探るために動きだした。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 俺は今日も今日とて講義をサボって部室に居た。今日ばかりは来たくはなかったが、仕方がなかったのだ。来なかったら写真をばらまくと言われたので来なくてはいけない状況だったのだ。

 ちなみにこんな仕事(こと)をやっているとこういうことは度々ある。しかし、今までの脅しの内容はどうでもいい事だったので無視して返り討ちにしていた。

 しかし、今回のは今までの事とは訳が違う。これに従わないと宇佐見や飛鶴が……。自分の身を犠牲にしてでも守り抜いてみせる。

 

 と、そこでやってきたようだ。この足音、あの男たちの足音だ。地獄の時間の始まりの様だ。

 

「よう、ちゃんと来たようだな。おい、お前ら」

「「はい!」」

 

 一人の男が指示をすると二人の男が俺を取り押さえる。別にそんなことをしなくても逃げたりする気は無いんだがな。そして動けなくなったこの俺を男たちが殴り続けるという腸が煮えくり返りそうな内容だ。危うくこの男たちを殴り飛ばしてしまいそうだ。

 でも俺が殴りそうになると男は写真をチラつかせてくる。これが非常に俺の神経を逆撫でする。こいつら絶対にぶっ飛ばしてやる。あんな写真さえなければ一瞬であいつらを……っ!

 

「おいおい、あんまり痛めつけんじゃねぇぞ。こいつが入院なんかして教師陣にバレると厄介だからな」

 

 教師陣にバレることをこいつらは異常に嫌う。基本的に俺たち相談やがボコられたからと言って教師陣は無干渉なのだが、弱みを握るなどの卑怯な方法でボコった場合、警察で言う公務執行妨害的なので厳罰が下るのだ。そこら辺は俺も詳しくはない。規約にもガイドブックにも乗っていないから裏のルール的なものなのだろう。以前にそれで退学処分が下った人がいたのだとか。

 だからこれは男たちにとっても教師陣に知られたくないことってことだ。そしてこれは男たちの弱みにもなる。でもこれをチクッたりなんかしたら速攻あの写真が出回ること間違いないだろう。だから今この切り札を切るのは悪手だ。

 さらに俺はあんまり教師を頼るのはあんまり好きじゃない。教師の力に頼らずに俺はこの状況を切り抜けてみせる。

 

「お前、人形なんじゃないのか?」

 

 男の一人が俺を見ながら呟いた。

 多分何度殴っても顔色一つ変えない俺を見て、そう思ったのだろう。でも俺だって当然人間だ、痛みを感じないなんてことはない。ただ、こいつらの拳は我慢できるほどだって事だ。

 でも同じところを何度も殴られたら流石に痛いな。昨日の傷も癒えていないというのにされに殴られて……。

 

「いってぇな」

「やっぱりお前も人間か。って、なんだぁその反抗的な目は?」

 

 俺が睨みつけるとやはり写真をチラつかせてくる卑怯な男たち。やっぱり俺の神経を逆撫でするのが得意なようだ。

 せめて一発だけでもいいから殴りたい。

 基本的に依頼以外で暴力を奮ってはいけないが、相手から暴力を奮って来た場合、それは正当防衛になる。

 しかし、俺みたいなやつをこんなにいたぶって何が楽しいんだか……。

 

 こうして俺は講義が終わるまでずっと殴られ続けた。

 

 講義が終わり、やっと解放された俺は校門から出るとそこには見知った人物が居た。

 

「ん? 宇佐見、メリー、進奏、結乃……みんな揃ってどうした?」

「とある伝から輝山君が変な事件に巻き込まれているんじゃないかって通報があったのよ」

 

 ……宇佐見に通報? それってもしかして、もしかしなくとも飛鶴しかないよな。ってことは飛鶴に勘づかれていたのか?

 でもどうしてだ? 昔から飛鶴は妙に勘が良いところがあるから気を付けていたつもりだったのに勘づかれていたとは……。

 

「一輝、何があるんなら俺らに相談してくれ」

「先輩の役に立ちたいです」

 

 和成兄妹もそう名乗り出てくれる。しかし、今回の件は絶対に他人の手を借りる気はない。俺一人の力で解決しないといけない。これは俺の問題だ。この相談屋のいざこざを他人にもちかけるつもりは毛頭ない。

 そう考えて断ろうとした時だった。めりーが一歩前に出てきた。

 

「私はあなたと関わっている回数は少ないけど、それでも私たちは相談屋の仲間なのよ」

 

 俺は仲間に引き入れたつもりは無いけどな。そう言いかかったけども、流石にこの場面でこれを言うほど空気が読めないわけではないので、これは途中で飲み込んだ。

 

「そうだよ! 私たちは仲間だからなんでも言って」

 

 普通ならここで言うのだろう。それが本の世界でのテンプレパターンってやつだろう。しかし、今回の俺の意思は硬いので絶対に言わないと決めたら絶対に言わない。

 

「話すことは何もない」

 

 そう言ったが、進奏は俺のことを呆れた目で見てきていた。あの目は全てを見透かされているみたいで気持ち悪い。

 そんな事を考えながら怪訝な目で進奏を見ていると、真相はこっちに近づいてきて耳打ちをしてきた。

 

「大切な人のために身を粉にするのはいいが、あんまり自分を虐めすぎるなよ」

「ご忠告感謝する」

 

 やっぱり進奏には見透かされていた様で気持ち悪い。やっぱりこの自称親友様には勝てないか。

 それにしてもあれ、どうしたものかね……。全くさくが思い浮かばない。大切な人のためだからいつも良い身長になっているんだな。

 でもあいつらだけは絶対に殴る!




 はい!第32話終了

 果たして一輝はどうなってしまうのか?

 それでは!

 さようなら


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第33話 危険(ミッション!)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 進奏には嘘はつけないなと感じた一輝だった。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 しかし、飛鶴に気が付かれている可能性があるんだよな。俺は他の人を俺のことに巻き込みたくないのでバレたくなかったんだが、もしかしたら飛鶴には勘づかれてしまっている、そして飛鶴の事だ。俺の事を嗅ぎ回っている可能性がある。

 進奏にはいくら迷惑をかけてもいいが、それによって飛鶴にバレてしまうかもしれない。

 どの道、俺は一人でこれを解決しなくてはならない。あんな奴ら、あの写真さえなければ一瞬なんだがな……。

 

 家に帰って来た。しかし、なにか様子がおかしい。

 俺は早く帰って来た。昨日もそうだったので食べ物の臭いがするのならわかる。しかし、異臭がするのだ。形容しにくいこの悪臭。とてもこの世に存在するものとは思えない。

 しかし、この臭いは以前に何度か嗅いだことがある。こういう時は決まって――

 

 俺は恐る恐るキッチンを覗いいみた。すると形容しにくい色の汁物をお玉でかき混ぜている飛鶴がそこに居た。

 

「あ、お兄ちゃん。もうすぐで出来ますからね。座って待っていてください」

 

 うん、いつもは背後から来た俺に気が付かないのに何故か気がついた事以外はいつも通りだ。しかし、飛鶴は何をかき混ぜているんだ?

 しかもニコニコしている。まるで楽しくて仕方がないというような表情だ。何がそんなに嬉しいんだか分からないが、俺にとってはかなり危険なことなのはわかる。

 

「飛鶴、今日の飯はなんだ?」

「えー今日はですね……じゃがいもと玉ねぎと人参と鮭と苺の味噌汁ですね」

 

 なんだそれは……具材のラインナップ最後のひとつ、どうしたんだよ。苺って…… あれは料理に入れるものじゃないだろう。それに果物のビタミンは火を通すと損失してしまうという特徴がある。まぁ、ツッコむところはここじゃないけど……。

 だが、これを俺に食べさせる気か? そもそも、あれは食べ物の色じゃない。あれを食べたら俺自身、どうなるか分からない。

 だけど、こうなっている時の特徴を俺は知っている。こうなっている時の飛鶴は怒っているのだ。何にそんなに怒っているのかは分からないが、とにかく怒っているのだ。

 ニコニコしているが、あれは怒っているのを必死に隠しているだけなのだ。

 

 とにかく怒りをおさめないと俺はあれを食べさせられてしまう。しかし、下手なことをすると手に持っている包丁で切りかかってくる可能性がある。

 

「言っておきますが、お兄ちゃん。逃げないでくださいね」

「俺が妹から逃げるような男だと思うのか?」

「……前、逃げました」

 

 そうでございましたね。

 だが、今回のは今までとはレベルが違うようなので逃げたら取り返しのつかないようなことになりそうなので、今回は逃げない。

 しかし、まずはあれを回避しなくては……。

 

「出来ましたよお兄ちゃん」

 

 お出来になられてしまったか……。

 飛鶴はニコニコ顔でその形容しがたい味噌汁をお椀についでテーブルの上に配膳していく。

 他には米と形容しがたい色をした野菜炒めがある。何故か野菜炒めが紫色をしている。どうやったらこんな色になるんだよ……。だが、この野菜炒めは過去に悲劇を生み出した野菜炒めだ。

 昔、施設に居た頃に料理をしていたのだが、その時に怒ったらこのメニューを出してきて、施設内全員腹痛の悲劇を生み出したのだ。

 それからというもの。施設では飛鶴を怒らせてはいけないという暗黙の了解が出来上がったのだ。

 

 しかし……この状況で俺はどうしろと言うんだ? この分だとあの男たちにでは無くて、飛鶴に殺されてしまいそうな予感がする。

 とりあえず、臭いだけ嗅いでみる。近くで嗅いでみれば、苺のフルーティーな臭いがある……あまりにも刺激的なその匂いにすぐにかき消されてしまったけどな。

 でも、飛鶴が期待した目でこちらを見てくる。

 

「えっと……飛鶴、さん。なにかあったんですか?」

「へ? どうしてですか?」

 

 ニコニコしているが、聞いてくるなって雰囲気がものすごく漂ってくる。あんな様子の飛鶴は初めてだ。それだけに怖く感じてしまう。

 この俺が今更、恐怖を感じてしまう羽目になるとは思わなかった。くそ、これならあいつらに殺されておくのが無難だったか?

 

「さぁ、食べてみてください」

「…………ところでさぁ、飛鶴は――」

「た、べ、て、み、て、く、だ、さ、い」

「……はい」

 

 なんという威圧力だ。この俺を震え上がらせるとは凄まじい。おかげで何も言えなくなってしまった。

 これを食べても死、食べなくとも死……これ、積みじゃね?

 もう諦めるしかない……。

 

 箸を持って米を頬張った。米がオアシスである、この言葉は流行るべきだと思う。俺が流行らせようか。

 だが、これでは許してくれないらしい。さっきからずっと俺の事を見てきている。

 仕方が無いので諦めてお椀を持った。すると俺は気が付いたのだ。この激獣の正体、てっきりいつものやつかと思ったが、どうやら臭いが違う。そう、これは薬品の臭いだ。

 相談屋の部室は薬の臭いに一早く気が付けるようにと、薬の臭いに慣れておくために薬臭いのだ。それを初めて聞いた時はどこの組織の人間だよ……と思った。しかし、こんな所で役に立つとは思わなかった。

 色々な臭いが混ざっていて気が付くのに遅れてしまったが、これは確かに薬の臭いだ。

 でもこれは何の薬なんだ? 状況から考えると……そうか、飛鶴は俺に何があったか気になっていたな。飛鶴はどうやって手に入れたか分からないが、自白剤を入れたのか。自白剤で俺に全部言わせようって魂胆だな。

 

「薬」

「へ?」

「飛鶴、薬を盛っただろう」

「えぇ!? なんでバレたんですか?」

 

 やっぱり俺の考えは正しいかったようだ。もう少しで言わされることになっていたので危なかった。




 はい!第33話終了

 飛鶴に薬を盛られそうになった一輝。このピンチをどう乗り越えるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第34話 一矢報いる(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一輝は飛鶴に一服盛られそうになった。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「なんでばれたんですか?」

 

 バレた理由は俺が薬に慣れていたからなんだが、それを言うのはダメだろう。もし言ったらどうして慣れているのか、危険なことに首を突っ込んでいるのがバレてしまう。

 それならここはブラフでもかけたとでも言うかか。いや、そんなことをしたら「私を信じてくれていなかったんですか?」と、何も一矢報いる前に人生に終止符が打たれる可能性があるので、このセリフは適切ではないだろう。

 

「見たんだ。さっき薬を入れるところを」

「えぇーっ! 見られていたんですか!?」

 

 まぁ、これが一番無難な答えだろう。見たと言えばむやみに聞いてくることは無いし、信じなかったと疑われることもない。

 しかし、まさか聞き出すために自白剤まで用意するとは思わなかった。危うくもう少しで喋ってしまうところだった。

 

「しかし、どこで見つけてきたんだよ。こんな、自白剤だなんて」

「え、自白剤?」

「……え?」

 

 俺はてっきり飛鶴に言っていないことを吐かせようとしているのかと思って自白剤だと思っていたが、どうやら違うらしい。

 でも、このタイミングで飲ませる薬なんて自白剤以外に考えつかない。

 すると、飛鶴は頬を膨らませて少し面白くなさそうに言った。

 

「もしかして私がお兄ちゃんの話したくないことを自白剤で吐かせようとしていたと思ったんですか?」

「えーっと……」

「酷いですよ! 私はそんなことはしません。ただ、最近なんか寝不足みたいなので、寝られるように睡眠薬を」

 

 まぁ、確かにここ最近のことがあってから寝不足気味で、それを気遣ってくれるのはありがたいが、本当に気遣っているだけの人は、そんなに頬を染めて恥ずかしそうにしないと思うんだが……。

 恐らく飛鶴は俺を寝かせて日頃の恨みを晴らすつもりだったのだろう。色々酷いことをしてしまったから、下手したら殺されていたな。……今度何が美味いものでも奢ってやるか。

 

「でもでも、気になるのは本当なので、気が向いたら教えてくださいね」

「そのうちな」

 

 そのうちがいつ来るかは分からないけどな。

 


 

 まだ次の日も俺は部室に来ていた。でも、今日の俺は少し気分が軽かった。それは、昨日飛鶴の気遣いが心にしみて、癒されたからだ。

 まぁ、癒されたからって現実が変わる訳では無いんだが、それでも頑張ることはできる。

 

「おい、今日もちゃんと来たようだな」

「あぁ、」

 

 今日も来た。毎日毎日俺を殴って楽しいのか? 俺を殴ったところで、悲鳴のひとつも出しやしない。どうせ殴るなら悲鳴を上げてくれる奴の方が楽しいだろうに……。

 しかし、あの写真はどうしてくれようか……。あの写真がある限り、俺は全く反撃することが出来ない。このまま殴られっぱなしだ。

 

「よし、やれ」

 

 その時だった。

 一人の男は急に前方に倒れ込んだのだ。何やら背後から強い力で押されたかのように見える。

 何事かと男の背後を見てみると、そこには蹴ったポーズで立っている一人の男が居た。

 帽子を被っているから顔は見えないが、状況的に考えて、その人が俺を助けてくれたのは明白だった。

 

 するとその人物は俺の前に来ると俺の座っている位置に合わせてしゃがんできた。その人物は、

 

「よ、一輝。助けに来た」

「進奏?」

 

 そう、その人物は俺の親友だった。

 しかし、おかしい。今は講義の時間だったはずだ。だと言うのになぜこいつがここにいる?

 こいつは認めるのは癪だが、真面目な優等生だったはずだ。なのになんで講義を抜け出してここにいるんだよ。

 

 それになんだその制服は……。いつも着ている制服ではない。まさかこいつらと一緒にいてもバレないように変装していたのか?

 

「何しやがんだてめぇ!」

「何するんだ……か。てめぇらこそ何しやがんだ! 宇佐見から聞いて飛んできて良かった。間に合ったぜ」

 

 宇佐見? なんでそこで宇佐見の名前が出てくるんだ?

 しかもなんで宇佐見から聞いたんだよ。俺は宇佐見に教えていないはずだ……。

 まさか、この俺が備考に気が付かなかったというのか? この数日の疲れのせいで第六感がにぶってしまって気が付かなかっただなんて……一生の不覚!

 

 だが助かった。正直、助けがなかったらさすがに俺といえどもきつかった。

 しかも、進奏にならいくら迷惑をかけてもいいしな。

 

「てめぇ……お前ら、やっちまえ!」

 

 一人の男が命令すると進奏に向かって一斉に襲いかかる男たち。

 それを見て進奏はため息をついた。その本心が何なのかは分からないが、その様子を見てどうやら呆れているのだと分かった。

 

 すると、進奏は一人の男の拳を避けると、次にその男の腕を掴んだ。そしてそのままの状態で周囲をちらっと見回すと、視界の端に映ったのであろうもう一人の男を見ると、ニヤッと笑ってからその男に対して掴んでいた男を投げ飛ばした。

 当然、そんな突然の行動に対処出来る人はそうはいない。二人の男は仲良く倒れて、ダウンした。

 

 そう言えばこいつは強いんだったな。

 昔、こいつと殴り合いの喧嘩をしたことがある。その時に俺はこいつに負けているんだ。

 それからよく話すようになった。そしてこいつが戦うことがもう無くなっていたからすっかり忘れていた。

 

 でも多分、進奏じゃあいつらを倒すことは出来ない。何せあいつらは卑怯なのだから。




 はい!第34話終了

 進奏が助っ人に来ました。果たして進奏は一輝を救い出す事は出来るのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第35話 信頼(ミッション)

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 宇佐見の活躍によって進奏が一輝の事を助けに来た。
 果たして進奏は一輝を助けることは出来るのだろうか?



 それではどうぞ!


side一輝

 

 あいつらは卑怯だ。単純に殴るだけじゃ解決出来ないはずだ。

 そう思っていたら、リーダと思わしき男がなにやら動き出した。そして何かを取り出す男。

 その動きが進奏にとっては武器を取り出す動作に見えたらしく、そんな事はさせないとばかりに、その体を蹴り飛ばした。

 しかし、あいつらが無鉄砲にそのまま突っ込んでくるとは思えない。多分あれは何か卑怯な手を使おうとしているに違いない。

 そうなのだとしたら進奏が危ない。

 

「大丈夫っすか?」

「あぁ、大丈夫だ。だが、この状況は想定内に過ぎない。やつを揺さぶるネタはまだあるんだ」

 

 何をブツブツと仲間と話しているのかは分からないけど、これだけは分かる。良くないことだということだけは……。

 そんな進奏を見て俺はロープを引きちぎった。

 あんな進奏を見ていたらじっとしていられない。そう思って飛び出したのだが、次の瞬間、俺は嫌なものを見てしまった。

 進奏を揺さぶるネタ――それは、和成 結乃の写真だった。それもただの写真ではない。

 

 進奏はそれを見て固まってしまった。なぜならそれは、ナイフを突きつけられて今にも殺されてしまいそうな妹の写真だったからだ。

 あれは幾らなんでも酷すぎる。あいつらはいつの893だよ……ってレベルの極道っぷりだ。

 

 多分進奏は大抵のことでは心を乱すことはないだろう。しかし、この写真は流石に聞いているようだ。

 悔しそうな表情をしてピタリとも動かなくなってしまった。

 

「今だ! やれ」

『はいっ!』

 

 リーダーが命令すると、周囲に居た仲間が一斉に進奏に飛びかかった。しかし、進奏は全く動く気配が無い。

 そりゃそうだ。あんな写真を見せられたら誰だって動けなくなる。

 弱点が極端に少ない進奏でも流石に妹を人質にされたら動けなくなるようだ。

 

 その時、俺には進奏がニヤリと笑ったような気がした。

 

「大丈夫かな……」

 

 この状況でそんな事を口にした進奏。それによって男たちは追い詰めたと判断したようだ。しかし、俺にとってはその台詞はまるで……まるでっ――勝利を確信したような声色だっ!

 

『どわあぁぁぁあっ!』

 

 進奏に襲いかかった男たちは全員、宙を舞った。進奏が殴り飛ばしたのだ。

 しかし、そんな事をしたら妹が傷つけられてしまう。

 なんでこの状況で相手を殴り飛ばすという選択が出来たのかが俺には理解が出来なかった。

 

「大丈夫か? お前のお友達がよォ」

「こ、こいつ……心配していたのは自分の妹ではなくて、俺らの仲間の方だったっ!?」

 

 こいつ、自分の妹の心配は一切していなかったというのか。こいつの考えが全く読めない。

 

「お前、自分の妹がどうなってもいいのか!?」

「まぁ、俺も人の子なんで、妹をどうにかされるのは嫌っすけど」

「ならなんで抵抗する!」

 

 その時、リーダーの携帯電話が鳴り始めた。

 リーダーはチッと舌打ちをして電話に出る。すると、リーダーの顔は一瞬で青ざめた。

 その様子を見て進奏は申し訳なさそうに笑った。

 

「どうして……どうしてあんな小娘ごときに……っ!」

「ふっ、まぁ、どうにかしてくれても構わないぜ。俺は妹に何かしようとするお前らを止めはしない。まぁ、出来たらの話だがな」

 

 まさか、結乃ちゃんは――

 

「俺の妹は――」

「「強い」」

 

 あんなか弱そうな女の子があの状況で勝ったというのか? 普通で考えたら不可能だ。

 結乃ちゃんは戦えるとは思えないくらい筋肉などは着いていない華奢な体だ。あの体のどこに戦う力があるんだよ。

 

「俺の妹である結乃は確かに武術の達人って訳でもない。それはパッと見でわかるだろ? だがな――」

 

 その時に見せた進奏の表情は嬉しそうで、悔しそうだった。そんな複雑そうな表情を進奏は見せた。

 

「あいつはな、武術では最弱だけどもよ、戦いの上では俺すらも多分凌駕する。あいつは護身術の達人、相手にも思い通りの戦いをさせない。それがあいつだ。力なんて要らないんだよ。人間の体の構造を知ってさえいれば……な」

 

 そうか。護身術で相手の本調子を出させなければ力がなくても勝機はある。

 ったく……和成兄妹は本当に人間なのかよ。兄と言い、妹といい……。

 

「一輝、お前はごちゃごちゃ考えすぎだ。俺たちを信じろ。多分脅されたんだと思うが、その程度の脅しに屈するなんて……俺らの事を信じてくれてなかったのか?」

「お前らのことを?」

 

 確かに今までこの脅しに逆らったらみんなが酷い目に会う。俺なんかと一緒に居た事実が知られたらみんなは、この学校で今回の俺みたいなことをされてしまうんじゃないかと考えていた。

 しかし、実際は強い奴らだった。それは進奏や結乃ちゃんだけじゃない。

 みんな強かった。芯が太かった。この程度の脅しに屈した俺を殴りたくなってきたぜ……。

 

「あぁ、サンキュ……お陰で目ェ覚めた」

 

 もう何も恐れるものはない。こいつの何事にも屈しないところはこういう信頼から来ていたんだな。

 俺は軽く指をポキポキと鳴らす。

 

「なぁ、進奏。俺は怒っている」

「あぁ」

「超怒っている」

「あぁっ!」

「こいつらどうしようか」

「とりあえず、殴ってから考えようぜ」

「そうだな」

 

 俺ら二人は指を鳴らしながら男たちに近づいていく。

 そんな俺らを見て男たちは生まれたての子鹿のようになってしまっている。

 

「歯ぁ食いしばれ!」




 はい!第35話終了

 今回は進奏が活躍する回でした。

 どうでしたかね。

 それでは!

 さようなら


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これからもずっと(完結編)
第36話 消すことしか考えられないのか?


 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 進奏が一輝を助け、一件落着。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「しかし、お前は講義を抜け出してきて大丈夫だったのか?」

「あぁ、大丈夫大丈夫。この位は親友を助けることに比べたら安いものだ」

 

 ニカッとイケメンスマイルを浮かべる進奏。助けてくれたのはありがたいが、少しイラッとしたから殴ってやろうか。

 しかし、結乃ちゃんが強いのはびっくりしたな。その事を進奏は知っていたから奴らの警告を無視して戦ったってのはわかったけど、俺は知らなかったから心臓に悪かった。

 

「いやぁ、しっかし……これどうしようか……」

 

 進奏が困り顔で、そう呟いた。まぁ、こんなメタメタにやった奴を、その辺に捨てるのも危険だろう。

 しかし、こいつらを捨てる宛がない。俺はいつもボコボコにならない程度に痛めつけているが、進奏が怒り任せにやったせいで、こいつらの見た目はボコボコ。そこら辺に捨てたら刑事沙汰になることは間違いないだろう

 

「ってかさ、なんでそんなに一輝は刑事沙汰になることを嫌うわけ? アイツらからやってきたんだ。正当防衛だろ」

「まぁ、そうなんだが……警察にはあまりいい思い出が無くてな」

 

 俺個人としては警察のお世話になることはしたくない。とは言っても、こうして殴りあいの喧嘩をしているのだ。これで警察のお世話になりたくないというのは傲慢だろう。だから俺は証拠を隠滅、または物的証拠が出ないような痛めつけ方をしている。

 そのお陰で今までこういったピンチはなかったのだが……。

 

「進奏……」

「分かった。分かったから、俺をそんな恨めしそうな顔で見るな」

「そうか……じゃあ、こいつはお前一人でやったと言うならば許してやる」

「許す気ないよね!? 恨み持ちすぎて友人を盾替わりに使おうとしているよね!?」

「そもそもとして、お前を友人だと思ったことがない」

「ここに来て衝撃のカミングアウト! 進奏選手に1の精神的ダメージ」

「お前、何気にメンタル強いな」

「まぁね」

 

 まぁ、ここらで漫才は置いておいて……。

 

「こいつら、燃やすか」

「……お巡りさんに行こうか」

 

 なんでこいつ優しく諭すみたいな言い方で言ってんだよ……。

 でも、ここでこいつらを上手く捨てたとしても、こいつらが警察や校長に言ったら俺は依頼以外で暴力事件を起こしてはいけないって言う相談屋の規約に反した事がバレて、重要度はあまり高くないが、今までのも流れでバレたとしたら退学になってしまう可能性がある。

 しかも、暴力事件を起こしたとして警察に連れて行かれ、世間の目が危うくなり、飛鶴にも迷惑をかけて、収入が無くなるので養えなくなり、どこかに就職しようとしても中卒で暴力事件を起こした人なんて雇ってもらえる訳なく、金が無くなって餓死する未来が見える。

 

 施設の人には任せろと啖呵を切ったので、そんなことになったら施設に申し訳が立たない……。

 

「……お前一人の犠牲で大勢が助かるんだぞ、進奏」

「なんかよく分からないけど、物凄い大事な話っぽい流れになってきた!?」

 

 仕方がない……あの手を使うしかないか……。

 

「あの事をバラされたくなかったら、俺の身代わりになれ」

「あ、あの事だと……っ! ……所であの事ってどの事?」

「いや知らん」

「知らんのかい!」

 

 まぁ、元々こんなんで通るやつじゃないと思っていた。なにせこいつからは恐怖が欠落しているため、脅しても恐怖なんて一切しないだろう。

 

 そんな感じのやり取りをしていると、廊下の奥から一人の女の子が走ってくるのが見えた。

 ――宇佐見だ。この事件を進奏に伝えてくれた恩人第2号だ。

 

「輝山君と和成君、大丈夫だった? って、物凄いことになっているね」

 

 宇佐見は部室に入ってくるなり、苦笑いして地面に転がっている男たちを見る。

 確かにこの状況は色々とやばいな。

 

「それにしても輝山君、一人で抱え込まないでって言ったよね」

「まぁまぁ、一輝も脅されて俺らの事を守るためにやっていたみたいだからさ、許してやってくれませんかね?」

「そ、そうだったんだ……でも、こういう時は頼ってよね。すごく心配だったんだから」

「以後、気をつけます」

 

 進奏だけではなく宇佐見からもお叱りを受けてしまった。

 俺は今までみんなに被害が行かないようにと行動してきたのだが、どうやらそれは二人にとってはダメな事だったらしい。

 でも、今回のような事ではハッキリと頼れないのも事実……だけど、進奏なら強いってのがわかったし、それにどんな脅しにも屈しないだろう。こいつなら大丈夫だ。

 

「そうだ、宇佐見。こいつらに口封じする方法ないか?」

「口封じ?」

「あぁ、このままでは当然やばい事になる。その証拠を隠滅しなくてはならない」

 

 そうしないと俺と飛鶴の生活が……。

 何がやばいのかは言っていない。しかし、宇佐見は俺達の事情を知っているためか、何となくわかったようで、うーんと唸りながら悩み始めた。

 数分後、考え込んでいた宇佐見はカッターを取りだした。

 

「消すしか……」

「君ら二人揃って消すことしか考えられないのか?」

 

 進奏に呆れられてしまったが、今度は自信満々の表情で宇佐見はカメラを取りだした。




 はい!第36話終了

 最近の話は随分とグダグダしてしまっていますが、許してください!

 さて、この章で終わりですかね。

 それでは!

 さようなら


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第37話 そんなことは有り得ねぇ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 進奏が一輝を助け出し、全てが解決したかのように見えたが、このままでは放置した不良たちが学校側に告げ口をして、一輝が退学にされてしまうかもしれない。

 そこで宇佐見が思いついた案とは?



 それでどうぞ!


side一輝

 

「はぁ、こういう事は性にあわないんだけどな……」

 

 俺は宇佐見に持たされたカメラを片手に倒れている不良たちを見下ろしながらため息をついた。

 今、不良の前に堂々と立っているのは俺だけだ。他の二人はドアの後ろに隠れていて、いつでも来れるようにスタンバイしている。

 もしこの不良たちが暴れても俺一人で対処が出来ると言ったのだが、何やら念の為に二人もいるとの事なので、お言葉に甘えてスタンバって貰っている。

 

 それにしても、こいつらいつまでへばっているんだ? そろそろ飽きてくる頃なんだが……。進奏なんて携帯を取り出して遊んでいるし……全く危機感のないやつだ。

 

 そこで男の一人の体がぴくりと動いた。その瞬間を俺は見逃さず、やっとかという意味でため息をついて男を見下ろす。

 男は目を覚まし、辺りを見回す。そこで俺の姿を見つけたのか、どんどんその男の顔が真っ青になっていく。どうやら俺達の事を恐怖として脳に植え付けられたようだ。所謂トラウマって事だ。

 だけど、仕掛けてきたのはそっちだ。俺はトラウマと言われる覚えはないんだけど……。

 むしろ俺なんて良心的だ。俺は一人一発殴っただけで、ここまでやったのは進奏だ。

 

「お、お前、まだ俺たちになんか用なのか!? け、喧嘩はもう勘弁してくださいっ!」

 

 だから、俺の喧嘩スタイルでそんなに怯えられることはないんだって……。

 俺の喧嘩スタイルは相手に少し恐怖を植え付けて、相手が逃げ出したらもうあとは追わない。無駄に体力消費はしたくないからな。

 今日の俺もそんな感じだったが、逃げ出したこいつらをここまで叩きのめしたのは、何度も言うが進奏だ。

 

「いや、もう喧嘩はいい……ただ、今回の件はお互いのために他言しない方針でいた方がいいと思うんだわ」

「お、お前……何言って――」

 

 俺は男が言い終わる前に先程宇佐見から譲り受けたカメラを男に見せると、さっきから青かったその顔が更に青くなっていく。そこまで行くと変色の域だとツッコミたいくらいだが、ここは我慢しておく。

 そのまま俺は台詞を続けて行った。

 

「この写真をばらまかれたくなかったらもう俺達の前に現れるな」

「は、はいっ!」

 

 意外と素直に応じるやつだ。

 もっとこの写真を奪い返そうと暴れるのかと思ったら、そのまま素直に応じてきたので少しびっくりした。

 でも、この方がありがたい。俺はあんまり喧嘩はしたくないのだ。

 なんでか喧嘩が強い不良のレッテルを貼られてしまったが、喧嘩はできることならしたくない方だ。なのになんでこうも喧嘩の案件ばかり来るんだよ……。

 

 俺は置いておいて、これならだいぶ楽だ。この写真には男達が一人の気弱そうな男子生徒にローテーション的にカツアゲしている写真が入っていた。

 他の大学なら俺の退学になりうる情報と、カツアゲの写真じゃ全然釣り合わないのだが、この学校では違う。

 カツアゲの状況を教師に見られた瞬間に退学決定という校則があるのだ。なんでも、この大学内にはそんな低俗な行為をするやつなんて要らないということらしい。

 それでも減らないから俺のに依頼が来るのだが……。

 カツアゲの相談をしたところで教師はまともに取り合ってくれず、現場を見るまでは信じないスタイルだから俺に相談が来るんだよ……。

 

 なんでこの写真を宇佐見が持っているのかは知らないけど、とても助かったので後で礼を言っておこう。

 

 すると、他の男たちも続々と起き上がり始める。そんな男たちに対して俺は――

 

「よぉ……」

 

 普通に挨拶をした。だが、そんな俺を見て揃いも揃って青い顔をした。

 どうやら俺は無意識のうちに怖い表情をしていたようだ。それでみんな俺の表情を見て震え上がっているのだろう。

 

 しかし、たった一人だけ震え上がっていない人がいた。その人物は――

 

「てめぇ……よくもやってくれたな」

 

 リーダーのような男だ。

 その男は俺の事を見つけると恐怖に染った表情ではなく、怒りを顕にした表情をした。どうやら自分がたった二人に負けたことが気に食わないらしい。

 だが、そんなことはこっちの知ったこっちゃない。元々はそっちが悪いのだから、こっちも強気に出る。そんな怖い表情をしても俺には効かない。

 俺は進奏とは違って怖いものが無い訳では無い。でも、そんな子供だましのような睨みつけで怖がったりなどしない。

 

「今はお前しかいないようだし、もう一人いないのは癪だが、こいつだけでもメタメタに叩き潰してやるぞ」

 

 あー、面倒な事になった。この調子で行けばここで戦わずに済んだかもしれないのに……仕方がない。

 

「そうだ、この写真をばらまかれたくなかったら、この部室であった事を内密にお願いできますか?」

「お前がこの人数相手に勝てたらなっ!」

 

 リーダーのその声を合図に飛びかかってくる男たち。その様子を見て扉の向こうにいる宇佐見が不安そうな目でこちらを見ている。

 しかし、進奏はそんな状況でも携帯いじりを止めない。

 

 だが、それでいい……さっきは仕方がなかったが、この人数だったらもう一人いると邪魔だ。

 

 ☆☆☆☆☆

 

side蓮子

 

「この状況で和成君は何をしているのっ!? 友達がピンチだよ」

「そうだな……でも、大丈夫だろ」

「何が大丈夫なの!?」

 

 この状況、四方を男たちに囲まれて逃げ道もない。更にこの人数差。どう見ても勝てるわけがない。

 私たちがここにいるのはこの状況で助けるためなのに、和成君はずっと携帯をいじっていて、全く助けに入る気配すらない。

 

 この人がここまで薄情な人だとは思わなかった。

 

 こうなったら私が助けに行った方がいい気がする。

 最近はトレーニングをしていなかったけど、それでも昔はやっていたんだから少しは加勢できるはず。

 そう思って飛び出そうとしたその時、背後から手が伸びてきて私の事を引き戻した。

 その手の人物はやはり和成君だった。

 

「どうして行かせてくれないの!?」

「足でまといだからだ。いや、この言い方じゃダメだ……包み隠さずそのまま言うと、俺らが行くのは邪魔なんだよ」

「え、」

 

 和成君の言葉を私は理解出来なかった。だってこの人数差は一人で捌くのは無理だし、このままじゃ輝山君がボコボコにされて――

 そこで私の視界に映ったのは驚きの光景だった。その光景は、輝山君一人で男たちを圧倒している

 

「な、だから言ったろ? この人数はあいつ一人で充分。寧ろ、この狭さで加勢に入ったりなんかしてみろ、邪魔だと言われるのがオチだ。それに、そんなことは有り得ねぇが、もし、逆の状況になっていたら俺が撮っているこの映像が更に揺するネタになるし、本当に危険なら助けに入るまでだ」

 

 そ、そこまで考えた上での行動だったって訳?

 さっきから携帯をいじっているだけのように見えたのは、これを映像にしておくための行為で、助けに入ることもちゃんと考えていたの?

 しかも、輝山君の考えていることもちゃんと理解して……。

 

 この二人の信頼関係は凄いね……。

 

「じゃ、帰るか……宇佐見もわかっただろ? 一輝の事を。なら少しは信頼してやれ……あいつはちょっとやそっとの事じゃ負けねぇ」

 

 そう言って手をヒラヒラと振りながらその場を後にする和成君。

 その時にはもう既に輝山君の方も終わったようで、男たちの声が静かになっていた。

 そして、一人意識を保っていたリーダーに輝山君はもう一度問いかける。

 

「この写真をばらまかれたくなかったら……この部室であった事を他言無用でお願いできるかな」

「ち、誓うっ! 誰にも話さねぇ。だから許してくれ!」

 

 その時の輝山君の表情は、その人物にはものすごく怖い表情に見えたようだけど、私にとってはなんだか無理して怖い表情を作っているように見えて、クスッと笑ってしまった。




 はい!第37話終了

 一輝はとても強いんです。
 最近はやられてばかりだったので、その感覚が薄れて来てしまっているかもしれませんが、ものすごく強いんですよ!

 という訳で、この完結編では秘封倶楽部と絡めつつ、その強さを出していきたいと思います!

 それでは!

 さようなら


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第38話 落ちてきました

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一輝の事件全て解決! 二人の絆が証明された。

 しかし、相談屋の物語は終わらない。今度はどんな物語が展開されるのか?



 それではどうぞ!


side一輝

 

 あの事件から三日が経った。しかし、学校側から何もお咎めがないということは本当にあいつらはこの部室であったことを口外していないのだろう。

 それなら俺も一安心だ。今まではあいつらが来るからって碌に昼寝も出来なかったが、これからは安心して昼寝が出来る。

 ちょうど昼時だ。窓から丁度いい日差しが入り込んできて、眠気を誘う時間帯。この眠気に勝てる者など誰一人いない。

 そして、俺はいつも通りにキャップを深く被り、腕を組んで寝る体勢に入る。その時だった。

 

 急にガタガタと物凄い音が鳴り始めた。

 その音がなんだろうかと疑問を持ってキャップを上げて周囲を確認しようとした瞬間、俺は地獄のような光景を目にした。

 この部室は廊下で繋がっているものの、元々は古いプレハブ小屋らしい。なので、老朽化が進んでいるのだとか……。

 

 そこまでいえば何を目にしたのかわかるだろう。

 俺は危機感知能力は人一倍優れているので直ぐにバッグを持って部室からは飛び出して、廊下に滑り込んだ。

 すると、部室の天井が崩落してきて、部室全体を押し潰してしまった。

 俺が見た時には天井が歪んでいたからもうすぐ崩落するかもと思っていたが、こんなに直ぐに崩落してくるとは思わないだろう。どれだけメンテナンスをしていないんだよ……。

 

 命の危機にあったが、そこまで危機感を感じておらず、俺は大学に不満を漏らしている。

 仕方がないか……これを一応校長に話してから今日はもう授業を受けるしかないか。

 そうと決まれば早速校長室にやってきた。

 

「校長、少し話が」

「なんだ? 輝山君じゃないか」

 

 どうやら仕事をしていたようでパソコンに向かって俺と話しながら何かを打っている校長。

 この際その状態でもいいので、話を聞いてもらうことにする。

 

「実は校長、相談屋の部室がかなり老朽化していたようで、天井が落ちてきました」

「なに!?」

 

 すると、校長は信じられないとでも言いたげな様子で俺の事を見てくる。しかし、俺にとっては校長がそんな反応の方が信じられないんだが……老朽化なんてよくある話だろう。なのになんで信じられないとでも言いたげな様子なんだろうか。

 

「まぁ、分かった。修理を依頼しておく。その間は相談屋の仕事は休んでいてもいいぞ」

「わかりました」

 

 俺の唯一の収入源が途絶えてしまった!

 これは非常にまずいことになってしまったかもしれない。このままでは飛鶴に貧しい思いをさせてしまう。それだけは避けなくてはならない……。

 最悪俺だけならば進奏の家に厄介になればいいが、そこに飛鶴を連れていくのはまずいだろう。俺は多分その瞬間、高校生を連れ込んだとして社会的に抹殺されてしまう。

 

 宇佐見は正直あんまり迷惑をかけてたくないんだよな……本人は何時でも頼ってと言ってくれているが、そうも行かないのが現実だ。

 

 どうしたものか……早急に対策を打たなくてはならない。

 

 でも、今ここで考え込んでいても仕方が無いので教室に向かうことにした。

 俺は今、大学生ながらリストラされたサラリーマンのような気分を味わっているぞ。

 

「はよー」

「はよーってもう昼だぞ〜って、えぇぇぇっ! 一輝が教室にきた!」

 

 いつも通り騒がしい進奏である。そんな進奏を無視して俺は自分の席に座ると、キャップを深く被り、部室に居る時のように寝始めた。

 部室が使えなくなってしまったのは痛いが、この席もなかなか日光の温もりを感じて悪くない。昼寝場所としては当分ここで問題ないかもしれない。

 

「って、教室に来て速攻寝るのかよ……お前には部室という絶好の昼寝スポットがあるだろう?」

「崩落して使えなくなった」

「おう……それは災難だったな」

 

 崩落したということは勘のいいこいつなら相談屋のことにも気がつくだろう。

 そして俺はこいつには家庭事情は殆ど話している。唯一話していないといえば、飛鶴のことだけだ。なので、進奏は小声で聞いてくる。

 

「お前、大丈夫なのかよ……前に相談屋の報酬だけで生計をやりくりしているって言っていたけど」

「正直大丈夫じゃないな……今月は大丈夫だけど、工事が長引いたら最悪もやし生活だ」

「じゃあ、俺んち来いよ。お前ならお袋も歓迎だって言っているぜ」

 

 前にも進奏の家に行ったことはある。その時に何故か気にいられてしまったらしく、ことある事に家に来いと誘われるようになってしまったのだ。

 しかし、今だけは厄介になる訳には行かない。飛鶴を連れていく訳には行かないし、かと言って一人にする訳にも行かない。

 何かほかにバイトでも始めようかな。

 

「なぁ、お前は俺に合いそうなバイトって何か知っているか?」

「お前にか……そうだな、当たり屋?」

「それは事件に発展しそうだし、大怪我しそうだから却下だ。しかし、なんでそれなんだ?」

「お前って頑丈そうだし、ずる賢いから裁判になっても勝てそうじゃん?」

 

 おすすめされた理由が酷すぎるんですが……。

 

 それにしても、今回の被害は甚大だったようだ。俺が活動出来なくなることによって相談屋に相談出来なくなる。つまり学園内で事件が多発する危険性が大だ。

 それに俺に報酬も入らなくなる。それは収入が無くなるのと同じ感じだ。つまり、俺の家計が回らなくなる……どうしたものか……。

 

 このあとの授業は元々寝るつもりだったが、そのことについてずっと考えていたせいで寝ることが出来なかった。

 重要な建物ならもっとメンテナンスをしていて欲しかった。

 

 この時、俺はまだ気がついていなかった。そんな俺の様子を見て口元を歪めて笑っている人物がいることに……。




 はい!第38話終了

 波乱の展開。部室が倒壊してしまいました。
 しかし、これは本当に老朽化の問題なのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第39話 ご馳走します

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 突然倒壊した相談屋の部室。それによって一時的にではあるが、一輝は収入源を失ってしまった。
 しかし、その一時的な収入源のストップも今の一輝にとっては辛いものがあった。

 果たして一輝はどう乗り切るのか?



 それではどうぞ!


side一輝

 

 静かになったのを見計らって目を覚ますと、もう既に放課後となっていて、この場にはもう誰もいなくなっていた。

 いつもは相談屋のホームページでも確認している時間だが、今は活動する拠点がないため、自主的に活動するのは認めて貰えないだろう。

 せめて使える部室でもあれば違うんだが……。

 

 だが、そんなことを考えていても、どこの部屋も空いていないようなので仕方がなく帰ろうとバッグを背負う。

 

 最近は色々と災難が多いな……俺、そんなに悪いことをしたっけな。

 だが、復習しにきた奴らを返り討ちにするのが悪い事だと言われてしまったら何も言い返せないが……。

 

 俺は久しぶりにこんな窮地に立たされたのでどうしたものかと考えつつ教室を出ると、隣の教室から宇佐見とメリーが出てきた。

 お互いに顔を見合い、そして俺はそのままスルーして帰ろうとする。

 

 しかし、二人は固まっているようで一歩も動かなくなってしまった。そのことを不思議に思い、仕方がなく二人に声をかけることにした。

 

「おーい、二人とも」

「「あの一輝君が教室から出てきた!?」」

 

 俺が教室から出てくるのがそんなにおかしいか? 俺は普通に教室から出てくることもあるからな。

 本当に偶にだが教室に呼び出しを食らうことがある。主に俺にとっては成績関係ないテストなので、メタルス〇イム並に珍しいと言われてしまえばその通りなのだが。

 だが、俺の存在はこの二人を驚かせてしまって固めてしまったようだ。

 

「それにしても、一輝君が教室に来るなんて何があったの? その様子、ただのテストって訳じゃないんでしょ?」

 

 さすが宇佐見だ。なかなかいい観察眼をしている。この短時間にそのことを見破るなんて凄いな……。

 宇佐見には隠し事は出来ない。

 

「実は相談屋の部室が倒壊してしまったんだ」

「え、部室が倒壊? 大丈夫なの!?」

「ああ、無事だ」

 

 収入源が無くなったことは言わないでおいた。言ってしまうと更に心配をかけてしまうと感じたからだ。

 正義感の強い宇佐見の事だ。俺の事を助けようと奮闘してくれるだろう。しかし、そこまでお世話になるのも申し訳ない。

 

「でも、相談屋って一種のアルバイトのようなものなんですよね? なら収入がなくなりますけど大丈夫なんですか?」

 

 メリーがそこに気づいてしまった。

 宇佐見は洞察力こそあるが、そういう所に気が付きにくいというところがあるから言わなければ大丈夫だと思ってたが、メリーはその部分を補っているのか。厄介だが、いいコンビだ。

 

 すると、宇佐見は血相を変えてこっちにきた。そして、俺の手を引いてメリーから離れた位置まで連れていかれる。

 

「収入がないって飛鶴ちゃんが居たよね。大丈夫なの?」

「正直厳しいところがあるな。養うって言った建前、養ってやりたいものだが……」

 

 こうなってしまったなら仕方がない。なるようになるだろう。

 

「今日は私が晩御飯をご馳走します」

「え、悪いからいい」

「……私がいいって言ってるんだからいいの」

 

 結局押し切られてしまった。今日は宇佐見の家で食べることになりそうだ。

 それならそうと飛鶴に連絡しないといけないな。飛鶴も料理を作るだろうし……。

 

「でも、倒壊して相談屋が出来なくなったんだよね」

「いや、そうでも無い。代わりの部室があればいい」

 

 だが、その代わりの部室を見つけるのが大変なのだが……。

 この大学は沢山のサークルがあり、どの部屋も埋まっている状態だ。というか、埋まりすぎて部室を使えていないサークルだってあるくらいだ。

 

 俺の所属している相談屋も部室がなくて昔、急遽屋外にプレハブ小屋を作って、そこを相談屋の部室にしたらしい。という事は昔から沢山のサークルがあったって事だ。

 

「じゃあ、うちの部室使う?」

「え、秘封倶楽部の部室? お前ら二人なのに部室割り振られているのか?」

「まぁ、昔からあったからね……だけど、私達が入った時には誰もいなくなっていたから、そこに私達が滑り込んだって感じだね」

 

 なるほど……だけど、誰も居なかったら廃部とかにはならないのか?

 なにか、秘封倶楽部ってこの学校にとって特別だったりするのか?

 

「その申し出は嬉しいんだが、兼用ってアリなのか?」

「多分いいんじゃないかな? 部室がなくて一時的に使わせてもらっているサークルもあるんだし」

 

 なるほどな。そういうサークルはそうして部室をやりくりしているのか。

 でも、なら大丈夫そうだな。

 しかし、秘封倶楽部の部室に行くとしたらもう昼寝は出来なくなりそうだ。それは困る。

 

「なんか、どうでもいいことを考えていそう」

「どうでもいいってなんだよ! 昼寝出来ないのは俺にとっては死活問題なんだよ」

「どうでもいいわよ」

 

 でも、これで何とかなりそうだな。

 部室は何とかなったとして、これから機材を集めないといけないのか。

 あの部室にあったパソコンは天井に押しつぶされて、見つけたとしてもぺちゃんこだ。

 

 これからの事を考えると頭が痛くなってきてしまうな。補強工事くらいはやっとけよ……。




 はい!第39話終了

 とりあえず部室を決めることが出来ました。ですが、機材を集める必要がありそうです。

 それでは!

 さようなら


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第40話 いつものを頼む

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 部室が使えなくなり、相談屋が出来なくなったことを蓮子に伝えると秘封倶楽部の部室を使わせてもらえることに。

 しかし、パソコンなどの機材は天井に押しつぶされてしまって使い物にならなくなってしまった。

 まずは機材集めからだ。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 次の日、俺たちは近所の電気屋に来ていた。目的はもちろん、パソコンなどの相談屋に必要な機材の購入だ。

 先日の倒壊で機材などは全て壊れてしまったので買い直す必要がある。

 

 相談屋のパソコンはかなりの高スペックが要求される。ゲームなどスペックの要求されることをする訳では無いが、直ぐに依頼を受信できるように、そこそこ高スペックでないといけないのだ。

 しかし、そんなパソコンはかなりの値段が張るだろう。だがまぁ、関係ないか。

 機材などの購入には部費が出る。なので、気兼ねなくパソコンを選ぶことができる。

 

 ただ、その部費にも限度はあるので気をつけないといけないんだが……。

 

 そんな感じで吟味していると、色々なパソコンを見れて実は少し楽しんでいたりする。

 俺は電気屋の商品を見るのが好きなので、あの事件は災難だったが、こうして気兼ねなく吟味できる口実ができたので、その点に関しては良かっただろう。

 

 ちなみに今日は休みなので朝から電気屋に来ている。

 飛鶴には近所の電気屋を身に行ってくると伝えて昼飯もキャンセルした。

 しかし、俺はもう冷蔵庫の仲が空っぽになっていたのに気がついていたので、一応昼飯代は渡してきた。

 

「ほう……なかなか、だが……」

 

 今見ているパソコンはなかなかの高スペックだが、一つ問題点がある……部費オーバーだ。

 さすがにこの値段のパソコンを買うことは出来ない。

 惜しいが諦めることにしよう。

 

 今回は機材を全部整えないといけないのでパソコンでそんなに部費を使っている余裕は無いのだ。

 

 しかし、部の機材を生徒に一任しても大丈夫なのかよ……。

 だけど、相談屋には顧問が居ないから仕方がないのか? まぁ、顧問のようなことを校長がやってくれているのだが……殆ど放任されている。

 そのお陰で部室は使い放題だったわけなんだけど、これからは秘封倶楽部の部室で活動することになるから、好き放題出来ないな……。主に昼寝だが。

 

「よし、こんなもんか……」

 

 とりあえず、どの機材にするかは決めた。

 この量を一人で持ち歩くなんて無理に等しいので学校に輸送することにした。これも機材のことなので部費の融通が着く。

 学校に送ったら色々配線をしないといけないけど、そこら辺は次に学校に行った時でいいだろう。

 

 あとは相談屋の活動申請をするだけだ。

 

 だけど、部室を貸してもらえる友人がいてよかった。もし居なくてずっと再会できずに居たら、かなり食べるものに困る極貧生活を送る羽目になっていただろう。

 

「宇佐見にも感謝しないとな」

 

 そう思った俺はそのまま電気屋を後にし、次はとある場所に向かった。

 

 たどり着くや否や、俺は真っ先に近くにあった一軒家のインターホンを押す。すると、直ぐに中からこの家の住人がでてきた。

 

「ん? あ、一輝じゃないか。一体どうした?」

 

 中から出てきたのは進奏だ。そう、この家は和成家のものなのだ。

 まぁ、殆ど和成兄妹で住んでいるようなものらしい。親は遠くの方へと単身赴任をしているらしく、滅多にこの家に帰ってくることは無いのだとか。

 

 そんな和成家になんのようなのかといえば――

 

「いや、いつものを頼もうかなと」

「あぁ、まぁ、余っているからいいけどさ。こんなもの、いつもどうしているんだ?」

 

 そう言って進奏が取りだしたのは壊れたUSBメモリ。こいつの家には何故かこのような類のものが沢山ある。真相は俺も知らない。

 だが、この進奏の家の謎にはいつも助けられている。時折、このUSBメモリを貰いに来ては色々なことをしている。

 

 例えば俺の家のパソコンと学校のパソコンのデータを共有するためのメモリ。

 多分この前の倒壊でメモリもやられてしまっただろうと考えて進奏の家に来たのだ。ここでUSBメモリを貰えば、修復と改造によって共有出来る。

 本来は相談屋のデータを共有する手段は無いので家で相談屋の仕事が出来るはずがないのだが、このお陰で俺は相談屋を家から出ないでも引き受けることができる。

 ちなみに、この事が学校にバレるとやめろとは言われないだろうが、お叱りを受けることは必死なので内緒だ。

 

 顧問兼校長先生はあの強面だが、あまり説教っぽいことをしてくることはない。

 だが、一度説教をし始めると確実に体調不良者が出るほどに説教をするのでできることならば説教はされたくないところ。

 

 で、なんで俺がこんなことが出来るのかと言うと俺は独学で電子部品の勉強をしたからだ。

 中学生の頃、電子部品関係にハマってしまって、厨二病という恐ろしい病にかかる時期を全て機械いじりに当てたので発症している暇がなかったというのが俺の中学時代だ。

 

 その後、その技術を応用して、相談屋を始めてからは家でも相談を受け付けられるように、このUSBメモリを改造して作った。

 しかも、これはただのUSBではない。相談屋の依頼に限り、重要度が高い順にピックアップしてくれるのだ。そういう風にプロブラムしたAIが入っている。

 まぁ、面倒臭がり屋が講じた技術だ。これ以外に役立てたことはただの一度だってないがな。

 

 これで必要なものは揃った。あとはこのメモリを家に帰って改造したら、今度こそ揃ったことになる。

 

 それで学校に設置したら完成だ。

 

「面倒なことになったが、何とかなりそうな気がしてきたな……んじゃ、俺は帰るわ」

「おう、気をつけて帰ってな」

「あぁ」

 

 そうして、振り返ってみるともう夕焼けが出ていた。気が付かなかったが、もう夕方のようだ。

 それを確認して俺は帰路に着いた。




 はい!第40話終了

 相談屋活動再開の目処がたちそうです。

 それでは!

 さようなら


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第41話 なんでそんなに知っているんだ?

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 相談屋の機材を集めるために電気屋に来ていた一輝。そこで良さげなパソコンを買うと次に向かったのは進奏の家。

 そこで一輝は進奏から壊れたUSBメモリを貰い、その場を後にしたのだった。



 それではどうぞ!


side一輝

 

「ただいまー」

「あ、おかえりなさいお兄ちゃん」

 

 飛鶴が来て暫くが経ったので、最初の内は慣れなかった帰ったら挨拶を返してくれる人がいるっていう生活にも大分慣れた。

 そして、エプロンをして出迎えてくれる飛鶴。幸せな新婚夫婦のような光景だが、俺は冷や汗をかいていた。

 それは、飛鶴の手には料理中に使っていた包丁が握られているのだ。

 

 これはいつものことなので慣れてしまわないとダメなのだろうと割り切ってはいるが、いつ失言をして刺されるか分からない状況に慣れろという方がおかしな話である。

 一回、飛鶴に危ないから包丁は置いてきてと言って、その時は「気をつける」と言っていたのだが、全く直る気がしない。

 

「もう少しで夕食が出来ますのでテーブルで待っていてください」

 

 そう言われ、俺は素直にテーブルに着くと今度のUSBメモリのプログラムはどうしようかと案を練ることにする。

 やっぱり今回は二回目のプログラミングだから、前回のプログラムよりもすごい昨日とか付けたいよな。

 

 当然、便利なので自動選別は外せないとして……あとは何があるだろうか。

 重要度だけでなく、カテゴリでも分けられるようにするか。そうしたら見やすくなる。

 幸いにも出来るなら相談屋のホームページを弄って良いと許可が出ているので、明日は学校でカテゴリページでも追加しようと決めて、内容によって自動選別出来るようにプログラムして置こうと決めた。

 なかなか大変だが、これも楽をするための苦労だ。そのための苦労なら全く苦じゃない。

 

「ご飯出来ましたっ」

 

 言いながら飛鶴はテーブルに料理を運んできた。どうやら今日はカレーらしい。

 俺は野菜が沢山入っているカレーが好きなのだが、このカレーにもたくさんの野菜が入っている。

 しかし、俺は誰にも野菜カレーが好きとは言っていないのに、飛鶴はピンポイントで野菜カレーを作ってきた。飛鶴の情報収集能力は人智を超えているんじゃないかと時々思う。

 

「いただきます」

 

 俺はカレーを一口含む。うん、やはり美味い。

 カレーは市販のを使っていれば大抵美味くなるものだが、なんだか違うのだ。

 美味いんだが、そこらのカレーとは違う。このカレーだったらどれくらいでも入っていけそうなくらいに美味いのだ。

 

 この家に来た時から飛鶴は料理美味かったが、あの時よりもどんどんと料理が上手くなって行って、何となく俺好みの味になってきているような気がする。

 

「私、お兄ちゃんの美味しそうに食べている表情、好きですよ」

「ごほっごほっ……な、何言ってんだ」

 

 急に覗き込んで、そんなことを言ってくるなんて……不覚にもドキッとしてしまった。

 落ち着け……相手は女子高生だぞ……。

 

 素数を数えることで心臓を落ち着かせることにした。

 

「そういえばお兄ちゃん。最近、顔色がいいですが、問題は解決したんですか?」

 

 鋭い……直ぐに気がついて聞いてきた。

 確かにもう解決したのでもう言っても大丈夫だろう。もちろん何があったかまでは話す気は無いけどな。

 

「あぁ、解決した」

「そうですか……もしこれ以上お兄ちゃんを傷つけられていたらあの人たちをもうこの世に居られなくなるレベルまで追い込むつもりでした」

 

 あれ? これってバレてない? 俺、言っていないんだけど……。

 しかも、飛鶴は何をする気だったんだよ。怖すぎるだろっ!

 飛鶴を犯罪者にしないためにもこれからも黙秘することを固く誓った。

 

「して、お兄ちゃん。どうしてお兄ちゃんから宇佐見さん以外の雌の臭いがするんですか? 私、宇佐見さん以外は認めていませんよね」

「え? 誰にも近づいていないと思うんだが……」

 

 メリーとは臭いが着くほど近くまで寄っていないはずだし……もしかして、進奏の家か?

 確かにあの家には妹である結乃ちゃんが居るので、長時間滞在したら臭いが移ってしまうかもしれないが、俺があの家にいたのはほんの数分だぞ? そんな短時間で臭いって移るものなのか!?

 

「お兄ちゃん……どういうことですか?」

「違うんだ、今日は進奏の家に行ったから、それで和成妹の臭いが移ってしまったのかもしれない」

 

 説明をするも、何やら不満げな様子の飛鶴。この機嫌を直してもらうには結構大変そうだ。

 ここは一時的にだが、甘いジュースでも飲んで期限を直してもらおう。

 

 そう思ってコップにジュースを注いであげると美味しそうにジュースを飲み始めた。少しは機嫌を直して貰えたようだ。

 

「そういえばさ、なんでそんなに俺の事を知っているんだ?」

「ん? 妹たるもの、それくらい知っていないと妹は名乗れません」

 

 そんなことは無いと思うんだが……。でも、偶に誰にも言っていないことや絶対に知ることが出来ないような秘密でも知っていることがあるから怖い。

 今の俺のこの秘密だってもう既に知られている可能性だって存在する。

 

 本当は秘密は秘密のまま知られずにいた方が俺は飛鶴に心配をかけずに済むから、あんまり知られたくはないんだけどな。

 でもまぁ、知られたところでって感じなのでどっちでもいいかと割り切ってしまうことにした。




 はい!第41話終了

 今回は飛鶴と一輝の一時の話でした。

 それでは!

 さようなら


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第42話 嫌な予感しかしないのだけど

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 一輝と飛鶴のなんでもない風景。なのだが、飛鶴は一輝から女の臭いがすると追求。

 色々知っている飛鶴になんでそんなに知っているんだ? と聞くと飛鶴は妹としての義務と回答。

 その事に一輝は困惑してしまうのだった。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 今日、俺は登校するなり、一番に秘封倶楽部の部室に来ていた。

 なかなかオカルトサークルっぽい雰囲気が出ているカーテンを閉めたら薄暗くて、本当にそれっぽい雰囲気だ。

 床にはテープで書かれた魔法陣らしきものがある。そして、部室の端っこの方にテーブルがぽつんと設置されていた。

 

「あそこにするか」

 

 パソコン機材を設置する場所をそのテーブルに決め、俺は早速学校に届いた機材を手に取り、そのテーブルに設置し始める。

 パソコンの敗戦に関しては慣れている。なにせ、うちのパソコンも設置したのは俺だし、昔からこういうのには慣れていたので、施設のパソコンも一部俺が設置したものがある。

 

 パソコンを取り付け、配線も完了すると、次に俺はそのパソコンで相談屋のホームページにログインする。

 その画面には休止中ですと表記されている。この表記を勝手に消してしまうと怒られてしまうので、一部的にホームページの内容を変更する。

 

 まずは地図だ。

 このホームページには相談屋の部室の位置が表示されている。しかし、今はその場所は倒壊していて、使えないため、今はこの部室を使っている。

 なので、俺はこの場所の地図をホームページに載せるためにプログラムを開始する。

 

 もう正午を回っている。そのため、俺は作業を一旦中止して、飛鶴の作ってくれた弁当を手に取った。

 この弁当は今朝、急に俺に手渡してきたのだ。

 

 いつも俺は弁当なんて持ってこないでずっと寝ているため、昼飯は食わないスタイルだったのだが、今日は寝る訳には行かない。

 なので、来る途中で何か飯でも買ってこようかと考えていたので、このタイミングでの弁当はありがたい。

 だが、なんで弁当なんて寄こしてきたのだろう。少し俺の考えが読まれているみたいだ。

 

「まぁ、いいか。飛鶴の料理は美味いしな」

 

 弁当箱を開けてみると、そこには色鮮やかで目でも楽しめる弁当が入っていた。

 しかし、そんなものはどうでもいいのだ。一番気になるのは、どデカく主張してきているこののり弁だ。しかもただののり弁ではない。のりがハートマークなのだ。

 

 どこの愛妻弁当だよと突っ込みたくなるが、一人の部屋でそれをやっていたら、独り言を言う変なやつだと誰かに思われかねないので、俺は静かにその愛妻弁当擬きを食べ始めた。

 見た目はともかく、さすがは飛鶴だ。確かに美味しい。俺好みの味付けで、更にこの唐揚げなんかは冷めても美味しいように工夫がされている。

 だが、見た目をどうしてこんな風にしたんだ。というか、現実でのりをハートマークにする人が居るなんて思いもしなかった。

 

 まぁ、美味いので文句は言わないようにしよう。文句を言ったらもう二度と作ってくれなくなるかもしれないからな。地味に美味いので、また今度作って貰えるようにお願いしてみようかな。今度はハートマークじゃないやつを。

 

 食い終わると作業を再開する。

 今度はこの前作ったメモリにデータをコピーしてリンクできるように設定する。

 まぁ、この際にハッキングしているようなものなのだが、このホームページの管理人を任されているのは俺なので問題はないだろうと自分に言い訳をしてコピーしていく。

 まぁ、データを持ち出してはいけないとは書いていたけど、重要度の欄には特にお咎めなしと書いてあったので、問題はないだろう。

 

 そして、二時間後、ようやくデータをリンクし終えた俺は後は家のパソコンでリンクさせればいいんだと考えて作業は終了する。

 すると、そこで部室の扉が開いた。俺は誰が入ってきたのか一瞬で気がついた。

 

「宇佐見とメリーか」

「輝山君、何してたの?」

「あぁ、パソコンの設置だ。これが無いと作業できないしな」

「そうなんだ」

 

 すると、俺の隣に来てパソコンの画面を覗き込んでくる宇佐見。

 このパソコンの画面にはホームページの管理人画面が映し出されているが、この画面にパスワードが書いてある訳では無いので、そのことに関しては気にしない。

 

「そうだメリー」

「なに? 私はあなたのその表情に嫌な予感しかしないのだけど」

「相談屋を手伝おうよ」

「……本気?」

 

 メリーは蓮子を瘴気を疑うような目で見た。正直、今のメリーの考えは俺も痛いほどわかる。

 蓮子は何言ってんだ?

 

「宇佐見、相談屋はノリで手伝える甘いサークルじゃないぞ」

「分かってるよ。だって、あの時私だって助けられたんだし」

 

 久々に宇佐見と会うきっかけになったあの事件。

 確かに俺は宇佐見を助けたな。

 

「だから、そんなに甘くないと分かってる。だけど、本気だよ。だって、輝山君の体が心配だから」

「俺の心配よりも先ず自分の身の心配をしろよ。全く……」

 

 でも、俺は幼なじみだから知っている。宇佐見はこう言うと人の話を全く聞かなくなる。

 まぁ、正直言うと宇佐見とメリーを危険に晒したくないため、俺の仕事に付き合わせたくは無いのだが、宇佐見の目を見ていると断りづらくなってしまった。

 

「はぁ……やれやれだ。但し、俺の指示はちゃんと聞くことだな」

「わかったわ!」

「……輝山君も大変ね」

 

 そんな彼女をいつも相手にしているあなたもですよね。

 

 お互い苦労が絶えないなと感じた瞬間だった。




 はい!第42話終了

 蓮子達が相談屋を手伝うことになりました。果たしてどうなってしまうのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第43話 この世の心理を知っているか?

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 学校の秘封倶楽部の部室でパソコンのセッティングをする一輝。

 終わったところで蓮子とメリーが部室内に入って来た。

 そこで、蓮子はとんでもないことを言い出す。

「手伝わせて!」

 秘封倶楽部のメンバーを加えた新生相談屋の運命はどうなってしまうのか?



 それではどうぞ!


side一輝

 

 あの後、蓮子やメリーと別れたあと、俺は校長室に来ていた。

 理由はもちろん活動再開についてだ。

 うちの部は勝手に再開する訳には行かない。必ず校長先生に相談しなくては行けない。

 まぁ、校長先生が顧問というのがうちの部の面倒な点だろう。

 

 そして、俺は校長室の扉をノックすると、中から「入っていいぞ」という返事が聞こえてきたので、「失礼します」と言ってから校長室に入る。

 

 入ると、校長先生は俺のことを一瞥して何か作業していたのであろうノートパソコンを閉じてこちらを向いた。

 

「要件は?」

「はい、実は相談屋の活動拠点となる部室を手に入れました」

「その部室は?」

「秘封倶楽部の部室です」

「……秘封倶楽部か」

 

 すると、校長先生は遠い目をして何かを考え込むような表情をし始めた。

 秘封倶楽部は俺的には部室を貰えるようなサークルではないと考える。だが、そんな秘封倶楽部なのだが、部室を貰えるというのは何かがあると考えていたのだが、この校長先生の表情を見てやはり何かがあると確信した。

 

 そして、少し考え込むと校長先生は何かを印刷してきたと思ったらその紙に印鑑を押した。

 

「これで使用許可は完了だ。これからも相談屋の仕事に励んでくれ」

「はい」

 

 そうして俺は校長室を後にした。

 なぜあそこで校長先生は考え込んだのかは分からないけど、これで当初の不安点は何とかなったようだ。

 まぁ、再開してすぐには依頼を持ってくる人はいないだろうけど、これで報酬が手に入って飛鶴を養うことが出来るのでホッとしている。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 その後、俺は家に帰り、夕食を食べてからパソコンの設定の方をやっていた。

 メモリの方を俺のパソコンに取り付けてデータをリンクできるように設定する。すると、俺の画面に学校にあるパソコンと同じような相談屋のホームページが出てきた。これで設定は完了だ。

 

 やっと以前と同じような状態に持ってくることが出来た。

 以前にもやった事のある設定だが、これをまた一からやるってのはかなり大変な作業なので、かなり疲れてしまった。

 そのため、俺は力尽きるように倒れ込んでしまった。

 

 その状態で一応、依頼ボックスをチェックすると、何やら依頼が来ていたようだ。

 今日再会したばかりなのに、依頼を送ってくるなんてかなりの物好きらしい。まぁ、宣伝したにはしたけど、こんなに早く依頼を送ってくる人なんているか?

 なにせ、相談屋を開始したのは放課後なのだ。それから学校のホームページに宣伝を投稿していたとはいえ、この速さでの依頼は異常な気がするんだけど。

 

 そんなことを考えながら俺はその依頼を開いた。

 その依頼を見て驚愕した。それと同時に困惑してもいる。なにせ、その依頼の中に書かれていた言葉は――

 

『ありがとう』

 

「どういう事だこれは」

 

 お礼と取れる言葉が書かれていた。それを見てもしかしたら前に助けた人がここに礼を書いたのかと思ったが、そうだとしてもわざわざこんな所には書かないだろう。

 そうなると、誰かのイタズラか?

 

 まぁ、どうでもいいか。依頼じゃないならそんなに考える必要がない。

 

 今日はもう寝よう。疲れてしまった。

 

 そうして、俺はベッドに入り込み、眠りに付いた。

 

「ありがとう」

 

 ☆☆☆☆☆

 

 次の日、今日は俺は教室の方に来ていた。

 さすがに秘封倶楽部の部室でサボりをすることは出来ないので、仕方がなく講義を受けに来ているのだが、いつもサボっている俺がいることによって教室内が騒がしくなってしまっている。

 

 まぁ、そんなことは関係ない。俺は俺でやって行くだけだ。

 そして、俺は机に着くなり伏せて寝始めた。

 その事で周囲でざわついていた人達はずっこけてしまっていた。

 

「お前、ここに来てまでやることはサボりなのかよ」

「進奏。この世の心理を知っているか?」

「……なんだよ」

「睡眠こそ……神だ」

「そんな神なら滅んでしまえ」

 

 なんで言うことを言うんだよ。進奏、お前は睡眠の神に謝れよ。

 まぁ、いいか。

 そんな感じで、寝ようとしているとそこに入って来た教師が俺の方に来た。

 

「輝山……久しぶりに来たと思ったら教室で堂々とサボるとはいい度胸じゃないか」

 

 その声を聞いて俺の背筋が凍りついた。

 恐る恐る顔を上げてみると、その目にはきらりと光った肌色の装甲が目に入った。

 ものすごく強そうな装備だ。あの装備にだけは俺は勝てない。

 

「輝山。俺の前でサボろうとするとはいい度胸だな」

「い、いやだな〜そんなことをするわけないじゃないですか〜」

 

 さっきまで寝ようとしていたのだが、この最強装備をつけた先生に見つかってしまっては仕方がない。

 俺は速攻で教科書などを取り出し始めて、この講義を受ける準備を始める。

 

 それを見て先生は何とか納得したようで、先生は教卓の前に立った。

 今日の講義が何なのかをしっかりと覚えていなかったせいで、この先生が来るとは思っていなかった。

 

 あの肌色の最強装備を身につけた先生は加藤先生。俺がこの学校で唯一恐れる存在だ。

 なにせ、この先生の機嫌を損ねると課題の量を倍にされる可能性がある。なので、さすがの俺でもこの先生の前では教室でサボることが出来ない。

 

 そうして、俺は久々にフルで講義を受けることになった。




 はい!第43話終了

 今回は最後の方にネタを入れましたけど、自分的には少しグダグダしていると思いました。

 もう少しで完結すると思いますので、それまでお付き合いくださるとありがたいです。

 それでは!

 さようなら


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第44話 今回の依頼は――

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 校長室に向かった一輝。そこで、校長に相談屋の活動許可を出してもらった一輝は相談屋を再開した。

 そしてその夜、相談屋のボックスを見てみると匿名で『ありがとう』の文字が送られていた。

 一輝は少し気になったが、恐らく以前に助けた人の礼かなにかだろうと考えて、深くは考えなかった。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 放課後、俺は今日も秘封倶楽部の部室に来ていた。そこで俺はパソコンを開いて依頼が来ていないかをチェックする。

 しかし、今日は一通も入っておらず、今日も暇である。

 

 だが、今までと違うのはこの部室には俺だけではないという点だ。

 今までは部室内には俺だけだったため、暇ならば昼寝をするしかなかったんだが、今は同じ部室内に秘封倶楽部の部員、蓮子とメリーが居る。そのため、暇を潰すのには困らないだろう。

 

「お茶を淹れたわよ」

 

 メリーがお茶を入れて持ってきてくれる。そのお茶をありがたく受けとって一口飲む。

 その瞬間、俺は固まってしまった。そして、お茶を持っている手が震える。

 

「ど、どうかしたかしら」

「う」

「「う?」」

「美味い」

 

 美味すぎる。なんだこれ、ひょっとしてメリーはお茶を淹れる天才なんじゃないだろうか。

 普段はエナジードリンクか飛鶴と共にジュースを飲んでいるかだけの俺でもこのお茶ならば何杯でも行ける。それくらいに美味いお茶だ。

 

「まぁ、お口にあって良かったわ」

 

 そう言ってにこにこしながらメリーは蓮子にもお茶を渡しに行った。

 それにしても、こんなに美味いお茶を淹れるとは思わなかったな。と、そんなことを考えながら依頼ボックスをボーッと眺める。

 

 すると、その時、ぽつんと一つの依頼が表示された。

 昨日のようなことがそうそうあるわけがない。つまり、これは恐らく依頼だろう。そう思って開いたものの、そこに表示されていたのは――

 

『ありがとう』

 

 昨日と同じ文面だった。

 

 昨日といい、今日といい、二日連続で依頼でもない文面を送ってくるのは少し迷惑である。

 だが、こういうのはあまり気にしない方がいいのかもしれない。そう思って俺はその文面をゴミ箱に入れる。

 

 これで大丈夫だと思った矢先にもう一つの依頼が出現する。

 今度こそはとの思いでその依頼を開いてみると――

 

『ありがとう』

 

 さすがにこれには俺も頭を抱えてしまった。

 なんだよ、今のタイミングは……完全にタイミングを見計らっていたとしか思えないタイミングだぞ。

 もしかして、俺は今、ストーカー被害を受けているのか?

 

 しかし、もしもこれがストーカーや、イタズラだとしたら、なんの目的があるんだ? これをやることによって犯人になんの得があるんだろう。

 この行為になんの意味があるのかは全く分からない。

 

「どうしたの? 輝山君」

「いや、なんでもない」

 

 しかし、これはどうしたものか……ゴミ箱に入れたら直ぐにまた新しいのが来るだろう。とりあえず放置だな。

 

「所で輝山君。今日は依頼来ていないんだよね」

「まぁ、そうだな。おかげで暇だ」

「じゃあ、一緒に探検しに行かない?」

 

 そういえば、宇佐見は探検が好きなんだったな。以前も誘われたけど断ったはずだ。それに危ないしな。

 

「危ないから行かねぇし行かさねぇ」

 

 そう言うと、宇佐見は面白くない表情をした。そんな表情をしても俺は許可を出すつもりは無いけどな。

 すると、宇佐見は真横に来ると上目遣いをしてきた。

 

「お願い……」

「ぐっ」

 

 それは反則だ。不覚にもドキッとしてしまった。

 今、俺の意思が揺らいでしまった。何か危ないことがあっても俺が守ればいいかという考え方に至ってしまいそうになった。

 だが、危ないのには変わらない。そのため、とりあえず頭を冷やす。

 

「どうしてもダメなことはダメだ」

「相談屋の事は許してくれたのに?」

「……裏方だけだ。事件の時は犯人には絶対に会わせない」

 

 蓮子たちを危険な目に合わせる気は毛頭ない。

 

 その時だった。

 何やら、先程送られてきた『ありがとう』のメッセージの他に、もう一通送られてきた。恐らく今回のは正真正銘の依頼だろう。

 俺はその依頼を開いてみる。そこにはこう書いてあった。

 

『愛犬が居なくなってしまいました。探すのに協力してください』

 

 そしてこの文面には写真が添付されている。

 まぁ、こんな1高校生の相談屋に頼むくらいならは警察に頼んだ方が良いと思うような案件なのだが、今の依頼不足の現状ならばこの依頼はありがたいと言う他ない。

 

「宇佐見、メリー依頼だ」

「お、遂に来たの?」

「あぁ、今回の依頼はこの犬だ」

 

 そう言って俺はみんなに見せやすいように写真を拡大して見せた。

 

「可愛いですね」

「あぁ、この犬が行方不明になっているらしい。ということで、今回の依頼はこの犬の捜索だ」

 

 俺は説明しながらパソコンと同時にかったプリンターで写真を印刷していく。三枚程度あればいいだろう。一人一枚の計算だ。

 プリンターも一応購入許可が出ている代物だ。こういう捜し物の時には写真を印刷しないと不便なこととかもあるからな。

 

 写真を渡しつつ、今回の作戦を説明する。

 

「とりあえず、二手に別れよう」

「え、バラバラじゃないの?」

 

 いいところに目をつけたな。確かに、三人バラバラの方が効率がいいだろう。だが、それではダメだ。

 

「女子がまだ日があるとはいえ、一人行動は危険だ。だから今回は二人で一緒に行動してもらう。何かあったら携帯で連絡してくれ」

 

 それだけ言って俺は部室を飛び出した。

 まぁ、この手の依頼は俺の得意分野だ。なにせ、宇佐美たちが攫われた時も俺が見つけ出したんのだからな。この能力で。




 はい!第44話終了

 次回、秘封倶楽部も参加した初依頼です。まぁ、犬の捜索だけなんですけどね。
 ですが、本当にそれだけで終わるのでしょうか?

 それでは!

 さようなら


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第45話 そうですか

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 秘封倶楽部にて依頼が来ていないかを見ていた相談屋の元に届いてきたのはまたまたあのお礼のような迷惑依頼。

 だが、届いたのはそれだけではなかった。

 犬を探して欲しいという依頼。いつもなら警察にたのめをツッコむ一輝だが、今回ばかりはどんな依頼でも受けないと収入が厳しいので文句一つ言わずにその依頼を受けることとなった。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 俺はとりあえず路地なんかを探していた。

 はぐれた犬はその恐怖心からか路地裏に逃げ込むことが多いという俺の長年の観測結果に基づいたものだ。

 それに、宇佐見たちを路地裏に行かせる訳には行かないので絶対に路地裏にだけは行くなとキツく言っておいた。

 

 路地裏には危険がいっぱいだ。例えばこんなふうに――

 

「おい兄ちゃん、金を持ってそうだな。痛い目を見たくなければ金を置いてとっとと失せな」

 

 これは困ったことになった。

 俺は暴力事件を起こせない身分。依頼に関係していることならばまだしも路地裏に言って絡まれた程度じゃ許しは出ないだろう。

 だから、彼らが俺に殴りかかってきたところで反撃は出来ない。まぁ、反撃をしなければいいんだけどな。

 

「おいおい兄ちゃん。俺らの話を聞いていなかったのか? 痛い目を見たくなければ金を置いていけっ! それとも、この耳は飾りか? 頭ん中、脳みそはすっからかんなのか?」

「お前らがな」

『あっ?』

 

 俺の言った一言にみんな切れてしまったようだ。なんとも煽り耐性のない奴らだ。

 こんな奴らを相手にするほど俺は暇じゃないんだ。俺は依頼を受けなければいけないんだからな。

 

 そんな訳で彼らは俺に殴りかかってくるが、俺はそれをひょいと躱し、横をすり抜けて逃げ出した。

 俺の走る速度について来られるやつはそうそういないだろう。ということですぐに奴らを振り切ることは出来た。

 

 つまり、俺が宇佐見たちに行くなと言った理由はこれだ。こうしてヤンキーやらに絡まれてしまう可能性があるから俺は絶対に近づかせたくないんだ。

 俺ならば簡単にあれくらいなら突破できるが、宇佐見たちとなるとああいう奴らを相手にするのはきついだろう。というか、確実にやばい事になる。

 まぁ、そうなった場合は俺が絶対に助けるが、そうならないのが一番だ。

 

「しっかし、居ねぇな」

 

 俺はこの路地裏に入るまでにもいくつもの路地裏に入っている。その中でヤンキーに絡まれたのは今回のを合わせて二回だ。

 一日にそれもこの短期間で二回も絡まれるとは今日は運がないらしい。

 

 宇佐見たちの方はどうか……。危険なことが起きていなければいいんだが、それでも心配である。

 多分、宇佐見たちに危害を加えられたら我を忘れてしまって、停学とか関係なしに殴ってしまうかもしれない。だが、仕方がないだろう。失いたくない人達なんだ。

 

「だがまぁ、ここまで闇雲に探しても見つからないって事は闇雲に探しても意味がないってことなんだろう」

 

 ということで、ここからは先程印刷した写真を使う。

 この写真を道行く人に見せて見ていないかを聞く。それが一番いいだろう。

 そうと決まればということで俺は一人の人物に声をかけた。

 

「すみません。この犬をここら辺で見ていませんか?」

 

 振り返ったその人物はハットを被っていて、マントらしきものをしている女性だった。

 

「見ていないですね」

「そうですか」

 

 やはりそう簡単に情報が集まるわけはないか。

 俺は気持ちを切り替えて次の人に聞きに行こうとしたその時、小さな声だが、俺の耳は聞き逃すことはなかった。

 先程の女性が小さく「ありがとう」と言った。

 

 驚いて振り返ると、既にそこにはその女性はいなかった。

 

「なんだったんだ?」

 

 俺は意味がわからなくて首を傾げる。

 でも、今はそんなことよりも犬の方が重要だ。俺の数少ない収入源となる。

 

 そして、その後も数々の人に聞いたが、俺が情報を得ることは出来なかった。

 どうやら俺が見たところや俺が聞いた人達は誰一人としてその犬を見ることは出来なかったらしい。

 

 そんなこんなで落胆しながらも捜索していると、携帯に着信が入った。

 

『もしもし、輝山くん』

「あぁ、輝山だ。俺の方は全くと言っていいほどに収穫がないがそっちの方はどうだ?」

『うん。どうやら私たちの探している犬っぽい犬を見かけた人がいるんだって。今からその場所に行ってみましょう」

 

 どうやら宇佐見たちの方は有力な情報を得ることが出来たらしい。俺が本当の相談屋なのに不甲斐ないばかりである。

 

 とりあえず、俺たちは待ち合わせ場所を指定して集合してからそのポイントに向かうことにした。

 というわけで一旦集まる。

 

「悪いな。俺の方は全くと言っていいほど収穫がなかった」

「大丈夫よ。こっちが情報を手に入れることが出来たんだし」

「そうよ。これは私たちがやりたいと言って着いてきているんだから輝山くんのサポートをできて嬉しいわ」

 

 そう言って貰えると俺的に心が楽になる。

 ということで、集まった俺たちは情報を元にそのポイントに向かうこととなったんだが――

 

「本当にここであっているのか?」

「た、多分」

「えぇ、間違いないはずよ」

 

 だが、そんなことを言ったって……。

 

 俺たちが情報を元にやってきたのはとても怪しい屋敷だった。

 もうボロボロになっており、廃墟と化している。今にも何か出そうな雰囲気で、怖いのが大丈夫な俺でも少し恐怖を覚えてしまうほどだ。

 

「本当に行くのかよ」

「えぇ……だって、犬が待っているかもしれないし、飼い主さんが可愛そう」

 

 本当にこういう所は宇佐見らしいな。

 

 俺は帽子を直して屋敷を真っ直ぐと見る。

 

「やれやれだぜ……」

 

 小さく呟いてから宇佐見たちへ向き直る。

 

「早く見つけて帰るぞ」

『おーっ!』




 はい!第45話終了

 なんかやばい雰囲気になってきましたね。果たして一輝達は犬を見つけ出すことは出来るのでしょうか。

 それでは!

 さようなら


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第46話 ガッカリだ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 犬探しの依頼を引き受けた相談屋一行。

 しかし、一輝はいくら探しても犬の情報を得ることすら出来ず、路地裏では犬よりもチンピラの方を見つけてしまう始末。

 すると、蓮子たちが犬の情報を手に入れたということで、その場所に行ってみると、そこは――

 古びれて廃れてしまった屋敷だった。如何にも何か出そうな屋敷だが、本当にこんな所に犬が来たのだろうか。

 少し疑いが出るがそれでもいる可能性があるので、探してみようと屋敷内に侵入したのだった。



 それではどうぞ!


side一輝

 

 俺たちは屋敷内に侵入した。

 もう使われなくなってかなりの年月が経つのだろう。建物の老朽化が始まっており、床がミシミシと音を立てる。

 もしかしたら床が抜けるのではないかと不安になってしまうような床なので、そんなことがないように慎重に進んでいく。

 

 しかし、ここは日当たりが悪いせいで建物内は真っ暗だ。

 太陽は現在南の方にあるのだが、窓は全部北を向いてるせいで全然、日が当たらない。

 

 仕方ないので、俺はカバンの中から相談屋解決アイテムである懐中電灯を取り出した。

 しかし、この懐中電灯の電池は最近取り換えていなかったので付くには付くのだが、中々に電池切れが早そうだ。早く犬を見つけないと危険だ。

 こんな足元の悪い中、よく見えない状況というのは良くない。

 

「へぇ、輝山君。懐中電灯なんて携帯しているんだ」

「相談屋をやっていたら夜の仕事とかもあるから結構必要になってくるんだよ」

 

 ストーカーの見張りだったり、時々学園側から警備を任される。しかし、それを生徒である俺に頼むのは如何なものなのだろうか。

 だが、それも立派な依頼なので、断ったりなんかしたらどんな罰が下るかは目に見えている。そのため、いつも眠い目を擦りながらも警備員に扮して警備をしている。

 ちなみに依頼に関しては真面目にやっているので、そこら辺は評価されてのことなのだろう。それでないと、警備なんて部外者に任せることが出来るはずがない。

 

 ライトをつけてみる。そしたら足下がよく見えるようになったが、やはりというかなんというか、床の気が腐っていた。いつ崩れ落ちてもおかしくない状況。

 俺はこれを見たところでどうとも思わないが、二人はどうかと見てみると――心配はなかったようだ。

 

 さすが秘封倶楽部の二人だ。なかなか肝が座っている様子で、この足下を見ても全く怖気付いていないようだ。

 まぁ、少しは恐怖心を持っていた方がいいが、これくらいの方が俺としてもやりやすい。変に怖気付いてもらっていても、言い方はあれだが正直言って足でまといになるだけだ。

 そう考えたら、これは俺としても都合がいい。

 

 とりあえず俺たちは近くの部屋を見てみることにした。

 廊下の方には窓があって少しは外の灯りが入ってきているが、部屋の中には窓が一つもなく、窮屈感がある。そのため、完全に真っ暗だ。

 なので、懐中電灯で照らしながら慎重に進んでいく。

 

 色々な家具やらがあるようだが、よく見えないな。

 しかし、空き家だったのに、よく今までこれだけ部屋が綺麗に保たれていたものだ。

 劣化などでぐちゃぐちゃになっていてもおかしくないはずだ。それは廊下の劣化を見たら一目瞭然だ。

 

「輝山君、ここに何かある」

「あ? なんだそれ」

 

 暗くてよく見えない。

 何かを確かめるために懐中電灯を向けてみると、そこにはバールのようなものが置いてあった。

 赤と青のバールのようだが、塗装が禿げてきてただの青いバールとなってきていた。

 

 しかし、ここに来て物騒なものが出てきたな。

 こんな所でバールなんて使うのだろうか。だが、一応持っておいて損はない。

 俺はバールをポケットの中にしまう。緊急脱出をする時なんかにはこれで窓を叩き割って外に出るとしよう。

 

 後はめぼしいものはこの部屋にはない。

 

 この部屋をあとにしようとして振り返ったその瞬間だった。

 ガチャ。なんと、扉に鍵をかけられたのだ。

 しかし、この屋敷には俺たちしかこの鍵を操作できる生物はいないはずだ。それに、この鍵は両側で鍵が必要なタイプ。そう簡単に開け閉め出来るはずがない。

 これがホラー映画とかならよくある展開なんだけどな。

 

 先程から足音が微かに聞こえていた。忍び足をしているようだったが、俺の聴力を舐めないで欲しい。

 そして、動物の足音って感じでも無かった。つまり、そこには誰か、人間がいるのだ。

 

 そして、こんなことをするということは俺たちを意図してこの中に閉じ込めたということだ。

 この状況から考えるに、答えは一つしかない。

 

「ねぇねぇメリー。お化けでも出たのかしら。ワクワクするわね!」

((なんでそういう結論になるんだ……))

 

 約一名、能天気な人がいるようだが、メリーは気がついているようで、目配せをした。

 まぁ、結論から言ってしまうと俺たちは嵌められてしまったということだ。

 

 そして、この状況から察するにこれは――

 

「はっ、こんな所にまんまとやってくるとは思わなかったぜ」

 

 声が聞こえた。その方向を見てみると、なにやら物陰から人が出てきた様子だった。

 俺はその方向に懐中電灯を向けると、そこにはとても柄の悪そうな男が立っていた。それも一人じゃない、少なくとも八人はいる様子だ。

 さすがにこの人数は俺も相手にするには分が悪い。

 

 しかし、扉は鍵を閉められてしまったんだよな。

 

「お前らは騙されたんだよ」

「え、騙された……?」

「そうだ。ここには犬はいない。そもそも迷子の犬なんて居ないんだよ」

『がはははは』

 

 つまり、俺たちは最初から騙されてしまっていたらしい。

 そして、宇佐見が掴んだと思っていたあの情報、確かに怪しいと思っていたが、やはり嘘の情報だったようだ。

 でもって、やはりこんなことをした原因というのには俺が関わってくるんだろうな。相談屋というのは色んな人から恨みを買うので、今回だけじゃなく、何度もこんな風に偽の依頼を持ちかけてきた人が居た。

 

 そういう場合、こいつらからの収入はないからな……。ガッカリだ。漸く久々の依頼がきたと重ていたのに……。

 

「ガッカリだ」

「あ?」

「お前ら、この状況がまだわかっていないのか?」

 

 もちろん分かっているつもりだ。なにせ、扉の鍵を閉められてしまっていて、背後に下がることが出来ない絶望的な状況。

 しかし、今の俺には正義の味方が居た。

 

「こーれなんだ」

 

 そうして取りだしたのは先程手に入れたバールだった。これがあれば鍵をかけられた扉をぶち壊すことだって出来る。

 

「っ!? 今すぐ扉を押えろっ!」

 

 一人の男の指示でどうやら扉を抑え始めた様子の外にいる人たち。

 だが、そんな所にいたら危ないぜ。

 

 なにせ、俺は――

 

扉を破壊(・・・・)するからなっ!」

 

 普通なら鍵の方を破壊しようと考えるだろう。だが、俺は違う。もっと脳筋な考え方だ。

 扉を押えられていて、鍵をぶっ壊しても開けることが出来ないならば、扉をぶっ壊せば良い!

 

 バゴーンっ!

 

 俺がバールを振り下ろした瞬間、ものすごい轟音が鳴り響き、俺たちの進路が開通された。

 

「嘘だろ?」

 

 扉は確かに鍵よりも破壊しにくい。だが、できない訳では無い。

 

 俺は周囲を確認すると二人の手を取った。そしてそのまま廊下の窓をバールで叩き割り、そこから逃走する。

 これは依頼に関係ない暴力だ。ここで手を出したら完全に黒となってしまう。そういう理不尽な職業だからな。俺は逃げることにする。




 はい!第46話終了

 実は全て嘘だったという事実。

 怖いですね。

 それでは!

 さようなら


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第47話 もうおしまいだ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 罠に嵌められた一輝たち。絶体絶命かと思われたが、一輝の機転により逃走成功。

 果たして一輝たちは逃げ切ることが出来るのか?



 それではどうぞ!


side一輝

 

 屋敷から飛び出し、俺たちは走り続ける。

 俺は二人の手を取り、二人を引っ張っているような状況だ。しかし、その状態では体力の消耗が激しい。ずっとこの状態で走り続けることは出来ない。

 厄介なことのなってしまったものだな。

 

 ここで俺が奴らを返り討ちにするのも吝かではないが、そうなった場合、ほぼ確実に退学だろう。

 そうしたら飛鶴になんて言ったらいいんだろうか。

 

「……輝山君。輝山君はあいつらを倒せる?」

「これだけの広さがあれば行けるな」

「じゃあさ、」

「お前らが依頼するってのは却下だ」

「え、なんで?」

 

 これには列記とした理由がある。

 実は以前にも相談屋に複数人所属していたことがあったんだ。その時から決まっていたことだが、

 

「相談屋の協力者含め、本人は相談屋に相談をすることは出来ない」

「え、そんな」

「だからその手はもう使えない」

 

 前の一見ではまだ宇佐見たちは協力者にはなっていなかった。俺が一方的に秘封倶楽部にスカウトされていただけだった。

 だが、今回は二人は協力者だ。

 これを破ってしまうと一発退学になる可能性がある。それくらいに重いのだ。

 

 そんな危険を冒してまでこいつらを追い払う意味などない。ということで俺たちは逃げ続ける。

 

 かなり走っただろう。

 森の中に入り、俺たちは奴らから逃げ切ることに成功した。だが、

 

「もう真っ暗だな。道も何も見えない」

 

 俺たちは必死に走っていたせいで道に迷ってしまった。

 この状況はかなりまずいな。

 

「空が葉っぱで隠れていて方角が分からない」

 

 どっちに走れば元の道に出ることが出来るのかが全く分からないので迂闊に動くことが出来ない。

 だけど、こちらの方に向かってきている足音は聞こえていた。この足音は人間の足音だ。

 

 どうやらまだ俺たちを探していたようだ。この状況で見つかるのは避けたいのだが……。

 それにこの状況では走るのは危険すぎる。

 かくなる上は二人を逃がすために俺が戦うというのもある。これは本当に最終手段だけどな。

 

 そうして警戒しながら音のする方角を見ていると、なんと宇佐見と似たハットを被った少女がでてきた。

 

「んーこの場所に逃げ込むのはナンセンスかな」

 

 その少女は俺たちを見るなりそう言ってきた。

 俺は先程の男たちではなかったのを見て警戒を解く。そして、その少女を見て既視感を覚えていた。

 この少女、どこかで見たことがある気がするのだ。

 

「あ、さっき質問に答えてくれた人」

「覚えてくれてたんだ。へぇ〜君って結構昔のことでも覚えているタイプ?」

「いや、すぐ忘れるが」

 

 というか、ついさっき出会った人の事を覚えることと昔の事を覚えていることは関係ないだろう。

 それにしても、どうしてこの人がこんな薄気味悪い森に? しかも夜だ。この辺りは真っ暗で何も見えないはずだ。

 

 少し気になる人だな。

 

「まぁ、とりあえず早くこの場所を離れた方がいいよ。君たち、追ってに追われているんでしょ? もうすぐ傍に来ているよ」

 

 この少女の言っていることが本当なのだとしたらかなり危険だ。早くこの場所を移動しないとまずいな。

 しかし、この何も分からない状況で行動するのも危険だ……。やっぱり俺がこの場を引き受けて二人を逃がすしか……。

 

「ねぇ、あっちの方に空が見えるポイントがあったよ」

「本当か!」

 

 宇佐見に空を見せることが出来れば方角を調べることができる。

 この少女が嘘をついている可能性も考えられるが、今はそんなことを考えている暇はない。とりあえずその教えてもらったポイントに行ってみてから考えよう。

 

「二人とも、あっちの方に行くぞ」

 

 そんな感じに歩いていくと、なんと本当にそのポイントに光が差しており、上を見てみると綺麗な空が見えていた。

 星がキラキラと輝き、月もとても大きく見える。街中だとこんなに綺麗な空を見ることは出来ないだろう。

 

 しかし、これで宇佐見に月を見せれば方角を調べることができる。

 俺はこの森の街からの方角はわかっているため、あとはここからの方角を調べるだけなんだが――

 

「おい! 見つけたか!」

 

 どうやら時間切れのようだ。こっちの方へ物凄い勢いで走ってきている音が聞こえる。

 俺は仕方が無いので、宇佐見たちに注意が行かないようにその音の方に向かっていく。

 

「宇佐見。方角が分かったら東の方に走れ。そうしたら街に出ることができる」

「え、輝山君?」

「気をつけて帰れよ」

 

 それだけ言って俺は走り出した。

 もうこうなってしまっては仕方がない。退学上等だ。ただし、宇佐見たちには指一本触れさせない。

 指をポキポキと鳴らしつつ、男たちの前に立ふさがる。

 

 そうして俺を見つけた男たちはニヤリと笑った。

 

「もう鬼ごっこはおしまいか?」

「あぁ、もうおしまいだ」

 

 確かにおしまい。だが、今度はタダでやられると思わないことだ。

 

 俺の事を取り囲む男たち。

 一人で戦うことが出来なくて、大勢で集まって一人の人間を袋叩きにして喜んでいる奴らに負けるような俺じゃない。

 

「あー、帰ったら飛鶴になんで言おうか」

 

 相談屋が喧嘩などしたらこんな森の中でも直ぐにバレてしまう。そのため、隠し通すことは出来ないだろう。

 そうなったら俺は退学だ。

 

 どうしたものか……。

 

 そうして俺は男たちと戦いを始めた。




 はい!第47話終了

 やばい展開になってきましたね。

 自分の事を犠牲にして蓮子たちを逃がした一輝。どうなってしまうのでしょうか。

 それと無意識の恋 Second stageの後書きでも書いたのですが、リアルの都合にて無意識の恋 Second stageの次回投稿は再来週となります。
 こちらの方は問題なく投稿できるかと思いますが、もしかしたらこちらも次回は再来週となるかもしれません。
 転生者は気まぐれ勇者の方は貯め書きが腐るほどあるので毎日投稿は継続出来ます。

 それでは!

 さようなら


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第48話 今は信じよう

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 男たちに追われた一輝達。

 森に逃げ込んだのはいいが、全く空が見えない真っ暗な森になってしまっていた。このままでは方向を調べることが出来ない。

 そこへ謎の女が現れ、空が見える位置を教えてもらうことに――

 しかし、男たちも追いついてきた。万事休すかと思ったが、なんと一輝が囮を引き受け、蓮子とメリーを逃がした。

 果たして一輝の運命は?



 それではどうぞ!


side蓮子

 

 私たちはあの後、月を見て方向を確認し、輝山くんが指定した方角へと一心不乱に走った。輝山くんの頑張りを無駄にしないためだ。

 輝山くんが頑張ってくれているおかげか、私たちを追ってきている人影はなく、暫く走って街に出ることが出来た。

 

 だけど、私たちは全く生きた心地がしなかった。なにせ、あの場に輝山くんを置いてきてしまったからだ。

 

 輝山くんの実力は知っている。前に私と飛鶴ちゃんが拐われた時に助けに来てくれたからだ。

 しかし、相手はあの時よりも多い。そのため、輝山くんも無傷で済むとは考えにくい。すごく心配。

 

「今は信じよう?」

 

 メリーが私の心情を察したのか、そんなことを行ってきた。

 確かに今は輝山くんを信じるしかない。絶対に輝山くんなら無事に帰ってくる。そう信じている。

 

 ☆☆☆☆☆

 

「え、輝山くんが……」

「退学?」

 

 私たちが次の日、大学に登校すると突然として校長室に呼び出され、校長先生にそう告げられた。

 

「そうだ。君たちは彼の協力者だったようだから伝えたが、彼はもう退学したよ」

 

 そんな……輝山くんがどうして――

 そこまで考えて一つの結論に辿り着いた。

 

 もしかして、あの時私たちを助けたせいで自主退学をさせられたんじゃ。

 確か、相談屋は相談された依頼を解決するための暴力ならば許容されているけど、今回のは相談内容とは関係ない暴力と判断されて……。

 そう考えると私たちがあの時、余計なことをして手伝うとか言わなければ輝山くん一人で逃げることが出来たのではないか。

 つまり、私たちのせいで輝山くんが退学になってしまった……。

 

 そんな感じで負い目を感じていると、校長先生が口を開いた。

 

「自分から退学を申し出てきたんだ。自分は暴力を奮ってしまったからって」

「え、それって」

「確かに彼は暴力を奮った。それは相談屋の規約に違反することだ。しかし、彼は立派な行為をしたと思う。私のとある伝から聞いたのだが、どうやら君たちを助けて暴力を奮ったようではないか」

 

 どうやら今回の騒動全てが校長先生に伝わっていたらしい。しかし、伝って誰のことだろう?

 でも、それによって再確認させられた。それは私たちを助けたせいで暴力を奮い、確かに自分から退学をしたのかもしれないけど、どちらにせよこの状況では退学になるしか道はなかった。

 それなら私が退学になれば良かった。

 

 私はどうでもいい。だけど、輝山くんはこの大学に通い、相談屋をやることによってお金を稼いで飛鶴ちゃんを養っていたんだ。

 今回の事件で輝山くんはお金を稼げなくなってしまった。二人が私たちのために犠牲になったんだ。

 

 胸が苦しくなってきた。申し訳なさと後悔で胸が押しつぶされそうだ。

 

 そんな考えまで至っていた私の耳に次に入って来た言葉は驚きの言葉だった。

 

「だが、彼はここで退学すべき男ではないと私は考える。他の奴らが彼をなんと言おうと私は彼を擁護する用意ができている」

「え」

 

 その校長先生の言葉は私たちにとっては予想外の言葉だった。

 てっきり冷たく突き放されると思っていたのだが、擁護するとか聞こえてきた。

 一瞬、脳の処理が追いつかなくなってしまった。

 

「彼は立派だった。素行こそ良くなかったが、人に対する慈愛は人一倍だったと言えよう。 悪は決して許さず、弱いものには手を差し伸べる。ふん、まるで昔見たヒーローの主人公みたいじゃないか」

 

 ヒーロー。確かに私にとって輝山くんはヒーローだったかもしれない。

 昔は私の方が強かった。だけど、女である私の強さには限界というものがあった。直ぐに男には勝てなくなってしまっていたのだ。

 そんなある日、不良たちに襲われてしまった。

 

 何とかメリーだけはと逃がすことが出来たけど、私は逃げることは出来そうもなかった。

 そんな時だった。輝山くんが再び私の前に現れたのは。

 

 輝山くんは昔なんかとは比べ物にならないくらいに強くなって居た。

 あの時の輝山くんは私にとってヒーローだった。

 輝山くんは私だけのヒーローじゃない。この学校の相談屋を輝山くんがやっていたことによってかなりの数の人達が救われただろう。

 

「やっぱり私は我慢できません。輝山くんが退学するなんて……」

 

 私は走り出してしまった。

 講義などそっちのけで大学を飛び出したのだ。

 

 初めて講義をサボった。だけど、今は私にとって大学の講義よりも大切なものがあった。

 輝山くんだった。

 

 私は輝山くんに何度も助けられてしまった。

 だから今度は私が輝山くんを助けたい。

 

 だって私は輝山くんの事が――

 

 息が切れてくる。だけど私は走るのを辞めない。

 輝山くんの家へと向かう。そして、勢いよくインターホンを押す。

 

 しかし、中から返事が返ってくることはなかった。

 輝山くんも居ないし、飛鶴ちゃんも今頃高校に通っている時間帯だ。

 

 そうと分かると直ぐにその場を後にしていた。

 輝山くんが今頃どこにいるのか全く分からない。だけど、私は走った。

 宛もなく、ただ輝山くんを見つけるために。

 

 そして私は――

 

「輝山くん!」

「!? 宇佐見?」

 

 私は輝山くんを見つけた瞬間、抱きついてしまっていた。




 はい!第48話終了

 ついにここまで来ました。

 恐らく次回が最終回で、その次にエピローグをやると思います。

 まぁ、恐らくなので気分次第ですね。

 それでは!

 さようなら


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第最終話 その日まで

 はい!どうもみなさん!ミズヤです



 それでは前回のあらすじ

 蓮子とメリーの事を庇った一輝。

 そして、次の日。蓮子とメリーに伝えられたのは一輝の退学だった。

 しかし、校長は一輝はこの大学には彼が必要だといった。

 その事を聞いた蓮子は一輝を見つけるために講義を受けずに大学を飛び出した。



 それではどうぞ!


side蓮子

 

 私は感極まってしまって輝山君に抱きついてしまった。

 少しだけ恥ずかしいけど、今はそれどころじゃなかった。

 

「やっと見つけた」

 

 そう。自分から退学を申し出て、カッコつけて出ていったこの輝山 一輝を漸く見つけることが出来たのだ。

 もう会えないんじゃないかとすら思った。だけど、こうして見つけることが出来た。

 

「お、落ち着けよ」

「落ち着けるわけがない」

 

 さっきまで不安で胸が押しつぶされそうになっていた。そんな状態で落ち着けと言う方が無理がある。

 それにしても、このバカは何も分かっていないようだ。

 いつもは察しが良く、洞察力に優れている彼。だけど、まだまだダメみたい。

 

「何してるのよ、このバカ。勝手にカッコつけて出ていって……」

「……すまん」

 

 輝山君の口から小さく謝罪の言葉が出てきた。

 でも、分かっている。これらのことは全部、私たちの事を思っての行動だったんだって。だからそんなに強く責めることが出来ない。

 輝山君は昔からそうだった。昔から、自分の事を犠牲にして誰かを守ろうとしていた。

 

 昔は今とは違って弱くてひょろひょろだったのに無理して大きい人達に立ち向かって行って……本当に馬鹿なんだから。

 

「確かに自己犠牲は立派だと思う。だけど、今回の件に関しては許さない」

「そうか……」

「許さないんだから……だからもう絶対に離さない」

「そうか……ん?」

 

 私は抱きつくのを一旦やめて、輝山君の手を両手で取った。

 必死だった。輝山君を引き留めようと、ここで引き止めることが出来るのだとしたらなんでもする覚悟だった。

 今まで助けられたのだから、今度は欲しいのは助ける。

 

「離さないか……」

「うん、もう絶対に。だって、帰る場所はあるんだよ」

「……そうなのか?」

「世の中の人達全員が敵になったとしても、輝山君には飛鶴ちゃんがいる、メリーがいる、進奏君がいる、結乃ちゃんがいる。もちろん私も――」

 

 だから……

 

「だから、帰ってきて。輝山 一輝!」

「……」

 

 しかし、輝山君は俯いたまま何も話してくれない。

 その雰囲気はかなり異様なもので、直ぐに何かあったのだろうと気がつくことが出来た。

 

「退学、多分だが、受理されていないんじゃないか?」

 

 俺からその事を知っていたようだ。だったらなんで、退学なんてして飛び出してきたのだろう。

 その次の瞬間だった。

 

「が、はっ」

 

 輝山君が突然、吐血した。

 

「き、輝山君!?」

「ごめん、宇佐見。やっぱり俺は戻れなさそうだ」

「ど、どういうこと?」

 

 私が聞くと輝山君は神妙な声で話し出す。

 

「俺は二人を逃がしたあと、奴らと戦っていた。何とか応戦していたんだがな、かなりのダメージをおってしまったんだ。あいつらはかなりの手練だった……俺としたことが、な。おかげでこんなことになってしまった」

 

 輝山君は服の裾に手を伸ばすと捲りあげる。それによって、服の下に隠れていたものが顕になったのだが、その様子を見て私は思わず絶句してしまった。

 なにせ、包帯を何重にも巻いていて、それでも血が染み出してきている。

 

「一応閉じたんだが、臓器の損傷が激しくてな。たまに、こうやって傷口が開くんだ」

 

 頑張って笑顔を作ろうとする輝山君だったが、かなり無理しているのが目に見えてわかった。

 輝山君は優しいから、出来るだけ心配をかけないようにしたのだろう。

 

 私はこの傷を見てしまったら自分のせいだと苛まれてしまう。実際に今がその状態だ。

 そうなったらさらなる心配をかけてしまう。だから、輝山君は黙ってこの大学を去ることを選んだのだろう。

 

「だけど、ちゃんと治療してもらったら治るんじゃ――」

「ダメだった。どこに行ってもこの傷じゃ治せないって」

「そんな……」

 

 私のせいで輝山君が死ぬ? そんなのは嫌だ。

 そんな未来、私は認めない。どんなことがあろうと、そんな未来、認めてはいけない。

 

「まだ諦めちゃダメ。どうにかして治す方法があるはず」

「方法って言ったってなぁ……」

 

 輝山君は完全に諦めモード。しかし、私は絶対に諦めない。諦めない限りチャンスはあるはず。

 

「とりあえず大学に戻ろう」

「大学に?」

「そう、あの校長先生は無駄に物知りなところがあるから」

 

 校長先生は暇さえあれば雑学を披露するほどに博識なのだ。だから、校長先生に聞けば、何かいい方法があるのでは無いかと思ったのだ。

 そして、私と輝山君は勢いよく校長室に入っていく。

 

「校長先生。どこかいい病院を知りませんか?」

「どうしたんだ、藪から棒に」

 

 一瞬、驚いた様子だったが、校長先生は察しがいいので直ぐにどういう状態なのかを察したようで、真剣な面持ちでこちらを見てくる。

 少し迫力があるので緊張してしまうが、何とか耐えて校長先生に説明を始めた。

 

「なるほど……これはかなり酷い傷だね」

 

 包帯の上からでもどれだけ酷い傷をおったのかがよく分かる。なにせ、包帯の上から血が染み出してきているのだから。

 

「でも、何とか出来ないでもない」

「本当ですか!」

「近いぞ」

 

 私は興奮のあまり、校長先生に詰め寄ってしまった。だけど、少し考えればそんなに詰寄るのは失礼だったなと思う。

 

「実は、アメリカの方にものすごく腕のいい医者がいるんだ」

「アメリカに?」

「そうだ、アメリカに行けば治る可能性はあるだろう」

 

 でも、アメリカってことはかなり治療費がかかるだろう。だとしたらかなり厳しい。

 やっと助かる方法を見つけたと思ったのに……。

 

「治療費の事を考えているだろう」

「……はい」

「心配するな。治療費に関しては私がだそう」

「え、校長先生が?」

「あぁ、今君に居なくなられても困るのでね」

 

 最初は怖いと思っていたけども、校長先生って意外と優しい人なのかもしれない。

 これで、輝山君が助かる。そう思って私は喜んだ。だけど、輝山君はあまり気乗りしない様子だった。

 

 私たちはお礼を言って校長室をあとにする。

 それから、私たちは近くの公園に向かった。

 

「どうしたんだ、急にこんな所に連れてきて」

「……輝山君、助かるかもしれないのに、全然嬉しそうじゃないから」

 

 今も沈んだ表情を浮かべている。そのことから分かるに、恐らく輝山君は負い目を感じてしまっているのだろう。

 自分がこんな傷を負ってしまったせいでみんなに迷惑をかけている――そう思ってしまっているのだろう。

 

「……ごめん……心配かけて、迷惑かけて……ごめ――」

 

 私は輝山君が言い終わる前に体が勝手に動き、輝山君の事を抱きしめていた。

 

 そして、とある感情がふくれあがる。

 

「バカ、どれだけ私たちの事を信用していないの。私たちはそれくらいのことでは迷惑だなんて思わない。むしろ迷惑上等よ」

「宇佐見……ごめ――」

「ごめん禁止!」

 

 そういう私に対して輝山君は苦笑いをした。でも、さっきと違うのは何かが吹っ切れた様子で、暗い表情ではなくなっていた。

 死と、私たちに迷惑をかけるという重りが外れたからだろう。

 

「輝山君、私はあなたが好き」

「……え?」

 

 私からの突然の告白に輝山君は驚いた様子。

 しかし、私は輝山君の整理が着く前にどんどんと自分の気持ちを輝山君に吐露していく。

 

「いつも私たちのために戦ってくれて、そして傷ついても自分よりも私たち優先で……そんなかっこいいところを見せられたら、好きになるのも当然」

「え、と……宇佐見?」

 

 しかし、私は輝山君が何かを話し出す前に回れ右をして歩き出した。

 

「返事は帰ってきてからでいいよ。じゃあね」

 

 私は逃げるようにその場をあとにした。置いていかれた輝山君はかなり状況が掴めていない様子で惚けていたけど、それどころじゃなかった。

 私は恥ずかしくて、返事を聞く覚悟がなかっただけだったのだ。

 

 その翌日、輝山君はアメリカに飛び立つことになった。

 

「お兄ちゃん……大丈夫でしょうか」

「多分大丈夫よ」

 

 飛鶴ちゃんは意外と冷静だった。

 飛鶴ちゃんは輝山君依存性なので、かなり取り乱すかもと思っていたけども、飛鶴ちゃんの口から出てきた言葉は「いつかこうなる気はしていました」だった。

 確かに、あの性格上、こうなってもおかしくなかったと言えばおかしくなかった。

 

 もうすぐで飛行機は出発する。暫くのお別れになるだろう。

 

 そう思って、もう帰ろうとしたその時だった。

 

「うーさーみー」

 

 もう暫く聞くことはなくなると思っていた声が聞こえてきた。

 

 声の方向に弾かれるようにして見ると、そこには輝山君が居た。

 傷が痛むはずなのに、走って戻ってきたのか、息が上がっており、肩が小さく上下している。

 そんな様子に私はビックリしてしまった。何かあったのだろうか。

 

「宇佐見!」

「な、何!?」

「俺も、好きだ!」

 

 私はその言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

 そんな私を見て輝山君はイタズラが成功した子供のように笑みを浮かべて飛行機の方に戻って行った。

 私の横では飛鶴ちゃんがものすごい笑みを浮かべながらどす黒いオーラを出していた。

 

「羨ましいです」

 

 いつか、飛鶴ちゃんに刺されないか心配になってきた。

 

 漸く頭の中で整理が着いて、顔が熱くなっていくのを感じる。

 

 どうやら私は帰ってきてからでもいいと言ったのにわざわざ輝山君は帰ってきて私に答えを言ったようだ。

 本当に馬鹿なんだから。

 

 あとは信じて待とう。輝山君が帰ってくるその日まで。




 これにて完結です。

 来週にエピローグを公開します。

 それでは!

 さようなら


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エピローグ

 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 ついに今回で終了ですよ。約一年かかったこの話もようやく終了です。



 それでは前回のあらすじ

 ついに一輝の事を見つけた蓮子。しかし、一輝は蓮子達を逃がすためにもの凄い怪我を負ってしまった為にそんなに長く生きれなくなってしまう。

 しかし、蓮子は諦めない。
 一輝は最後の希望を抱き、アメリカの病院へと旅だったのだった。



 それではどうぞ!


side蓮子

 

 あれから一年が経った。

 私たちは進級し、私は大学四年生。飛鶴ちゃんは高校二年生となった。

 

 輝山君は未だに日本には帰ってきてはいない。音信不通で、手術が成功したのかも分からない。

 もしかしたら失敗してもうこの世に居ないのかもしれない。そんな考えに苛まれる。

 

 なにせ、私たちがいなければあんなに輝山君が苦戦することなんてないのだから。

 

 輝山君は飛鶴ちゃんにはあんまり真実を伝えたがってはなかったようだけど、こんなことになってしまっては真実を伝えざるを得ないので、真実を伝えた。

 輝山君が相談屋をやっている事。一人で残り、男たちと戦ったこと、そして死にかけたこと。

 

 それらを伝えると飛鶴ちゃんは「そうですか」とだけ言い、あとは何も言わなかった。

 恐らく、相談屋の話は初めて聞くことでかなり混乱しているだろけど、飛鶴ちゃんは平静を装っていた。

 

 そして、今は私の家に預かっている。

 飛鶴ちゃんはバイトをしているわけじゃないし、輝山君の報酬代で暮らしていたため、輝山君が居なくなったら生活できないだろうとの判断だ。

 

 相談屋に関しては今は私とメリーが管理するような形になっている。と言っても今はそんなに依頼を受けたりなどはしていない。

 最初のうちは私たちだけでも頑張れば行けるかもと思ってやっていたが、輝山君の凄さを身に染みて感じたよ。

 

 だけど、危険な依頼の場合は和成君が引き受けてくれているからそこそこ成り立ってはいるけど、やはりこの相談屋に輝山君がいないとしまらない。

 

 そして、今は下校中。

 相談屋も終了し、家は近くなので、歩いて帰っていた。その時だった。

 

「動くな」

 

 急に首筋に冷たい金属製のものが当てられた。

 みてみると、それはナイフだった。鋭く研がれていて、少しでも触れたら切れてしまいそうな、そんなナイフ。

 少しだけ恐怖を覚えた。今は助けてくれる人は誰もいない。そんな中で私はナイフを突きつけられてしまったのだ。

 

 心中少しパニックになりかけているものの、平静を装い、相手の目的が何なのかを探るために私は問掛ける。

 

「なにが目的?」

「お前に話す義理はない」

 

 どうやら、私に目的を話す気はないらしい。

 声色的に男のようだ。男の場合、女の私では力では絶対に勝てないので、大人しくしているしかない。

 

「来い」

 

 そう言うと、男は私を路地裏の方まで引っ張っていく。

 どうやら、男は人目のつかないところで何かをしようとしているらしい。

 すると、正面からも覆面姿の怪しい男が現れた。

 

 だけど、不思議と方を掴まれている手からは危険を感じ取ることは出来なかった。

 全く危険だとは思えず、それどころか少し安心してしまっている自分がいる。それは、方を掴む力だろう。

 

 普通はこういうことをする人達はかなりの力で掴んでくるはずだ。だけど、全く力は入っておらず、なんとなく誘導しているだけのように感じる。

 優しいのだ。

 

「連れてきたか」

「あぁ、これで準備完了だ」

 

 正面の男と背後の男が会話をする。その一連の流れで今回の真相が見えた。

 なにせ、正面の男の声は良く聞き慣れている声だから。

 そして、後ろの声も良く聞いてみると懐かしい声だった。その声に私は少し涙を流してしまう。

 

「お、おい、泣かせてしまった……どうしよう」

「そんなに狼狽えるな。バレるぞ」

 

 後ろの男がうろたえて、前の男が落ち着かせようしている。

 私はその様子にクスッと笑ってから、私は肩の手を振りほどき、後ろの男へと向く。

 

「お、お前、抵抗する気か!」

 

 なんだか、ファイティングポーズを取っているようだけど、戦う気は一切感じられない間の抜けたファイティングポーズ。

 彼は嘘が苦手のようだ。

 

 そんな彼に私は飛びかかっていき――抱きついた。

 

「な、何をする!?」

 

 驚きすぎて声が裏返ってしまっている男。

 

「やっと会えた」

「え、どういう事だ?」

「もう無駄だってことだな」

 

 すると、正面から現れた男は覆面を脱ぎ捨てた。

 その中からでてきた素顔は和成 進奏、その人だった。

 

 でも、これは分かっていたこと。なにせ、声がさっきまで聞いてい和成君そのものなのだから気が付かないわけがない。

 そうすると、こっちの男は――

 

「もうバレたか。面白くないな」

 

 覆面を投げ捨てたその下からでてきた素顔は私がずっと会いたかった人物、輝山 一輝だった。

 

「会いたかった!」

「あぁ、俺も会いたかったぞ」

 

 考えてみれば最初に当ててきたナイフだって刃の方を当ててきたのではなく平たい方を当ててきていた。

 今思うとその行動全てが優しかったのだ。

 

「おかえり、輝山君。いや、一輝」

「!? ただいま。だが、下の名前で呼ぶのは少し照れくさいからやめて欲しいんだけど」

「やーだよっ!」

 

 そして、私は暫く一輝に抱きついて離れなかった。それくらいに私は嬉しかったのだ。

 その夜は皆で一輝が帰ってきたということでパーティーを開いた。

 

 メリーはどうかは分からないけど、女子たちは一輝の事が好きな女子の集まりなので、和成さんと飛鶴ちゃんは一輝に抱きついて泣いて喜んでいた。

 少しデレデレしている一輝にイライラしたけど。私の事を好きって言ったくせにって思ったけど。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 そして次の日

 

「輝山 一輝。ただいま帰還しました」

 

 私たちは校長室にきた。

 一輝が帰ってきたら連れてきてくれと頼まれたのだ。

 

「久しぶりだな。輝山」

「はい、お久しぶりです」

 

 二人の間に謎の緊張が走る。

 そして、校長は一輝を見ると無言で書類を作成していく。

 その書類の内容は。

 

「今日からお前は栄誉相談屋だ。卒業しても、できる時だけで構わない。お前は永遠の相談屋だ」

「は、はぁ」

 

 一輝は困惑してしまっている。だけど、この話は私たちは前々から聞いていたことなので、驚くことはない。

 だけど、一輝はそこまで相談屋をやりたいという訳ではなかったはずなので、真鍮としては微妙な気持ちだろう。

 しかし、これはかなり名誉なことだと私は思う。なにせ、今まで一度もこんな賞を貰った人はいないのだから。

 

「まぁ、分かりました」

「お前は出停扱いにしておいたから、既に四年になっているはずだ」

「そう言われても、学力が追いつかない気が――はい、ありがとうございます」

 

 圧力を感じた一輝は直ぐにお礼を言う。昔から校長先生にだけはめっぽう弱いのだ。

 

 だけど、これで本当に一輝は帰ってきたのだ。

 

 そして、これからも相談屋は営業していく。

 

「今日から、相談屋は完全復活だ!」




 これにて東方現代物語は終了です。

 毎週投稿をして、約一年かけて完結させました。

 これで完結した作品は四作品目ですね。まぁ、無意識の恋の過去物語は完結したと言ってもいいものなのかが不明ですけどね。

 これで完結なのですが、もしかしたらアフターストーリーを投稿するかもしれませんのでお楽しみに。

 そして、暫くは新作の投稿はないかと思われます。
 転生者は気まぐれ勇者の方が完結すればオリジナルの新作を投稿しようかなと考えています。

 それでは!

 さようなら


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後日談
クリスマス特別編 雰囲気に充てられて


 はい!どうもみなさん!ミズヤです

 今回は久しぶりに東方現代物語、そしてクリスマス特別編を投稿していきます。

 周年記念は毎回書いていましたが、暫く季節の特別編は書いていなかったので久しぶりですね。

 オリジナルでクリスマス特別編を書くことも考えていましたが、すこし間に合わな双だったため、東方現代物語の方で登校することにしました。

 この作品はもう2年ほど前に完結したんですね。久しぶりに見てみて感慨深かったです。

 時系列は本編完結後となっています。

 まだ本編を読んでいない方は本編を読んだ後に読むことをお勧めします。

 それではどうぞ!


side一輝

 

「はぁ……」

 

 俺は自宅への帰路を歩いている最中、おもむろに息を吐いた。

 その息は白く色付き、この夜空にふわりと消えてゆく。その光景を見ていると、今この季節を実感する。

 

 季節は冬、もうすでに雪が降り積もっており、俺たちの足跡を鮮明に残す。

 そんな中俺は片足を引きずりつつ歩いているため、俺の足跡は一本の線となって連なって残されていた。

 今回は少ししくじった。俺は自分の体を少し過信しすぎていたようだ。病み上がりの体に無茶をさせすぎてしまったため、俺は足を痛めてしまったのだ。

 

 街中では夜、真っ暗な時間帯だというのに人々が行きかっており、普段は暗くてあまり明かりなどはないのだが、今日だけはきらびやかに彩られていた。

 

 そう、今日はクリスマスだ。

 街中には大勢のカップルや親子連れがいる。そしてその手には食い物やらラッピングされたものやらを抱えられている。

 

 そんな中、俺はというと――

 

「はぁ……何やってるんだか。俺も充てられたか」

 

 手に持っているそれを見て自分で苦笑してしまった。

 少し前まではこういうことをする考えは持ってはいなかったが、どうやら俺もこの街の雰囲気に充てられてしまっていたらしい。

 手に持っているのはケーキだ。

 

 確か今日は宇佐美やメリーたちも呼んでうちでクリスマスパーティーをするって飛鶴が張り切って料理をしてくれているらしい。

 ちょっと前までの俺だったら何も買わずに普通に帰っただけだったが、どうやら俺はいつの間にかみんなと楽しい時間を共有したいと思ってきていたらしい。

 

 まぁ、このせいで足を引きずってケーキを買いに行ったらものすごく心配されてしまった。

 確かに痛いし、歩きにくくはあるが、こういう仕事――相談屋をやっていたらこういうことも普通にあり得る。

 一年前に死にかけたりとかもしたし、この程度ならまだいい方だ。

 

 とりあえず依頼も終わったことだし、早く帰ってパーティーに参加したい。

 俺は少し足を速め、帰路を辿っていく。

 

 俺の家はここからあまり遠くはないため、少し歩いたらすぐに家に着いた。

 するとすぐに俺は異変に気が付いた。

 

 家の前に来たのだが、やけに静かすぎる。

 それに電気が付いていないというのも気になる。

 

 俺は依頼があるから少し遅くなると伝えて後で参加するからパーティーは先に始めててくれと伝えていたからみんなで先にパーティーをやっているものだと思っていた。

 だが、中から物音が聞こえてこないどころか電気すらついていないというのはどういうことだ?

 

 俺は少し嫌な予感がして家の壁に手をついてみる。

 俺は物の記憶を読み取れるため、これで何かあったか見てみようとしたのだが、触れてみてわかったことはみんなが楽しそうに家の中に入って行ったということだけだ。特段怪しいことなど何もない。

 だというのになんなんだこの静けさは。

 

 もしかしたらここには何もなかったが、ほかのことで何かがあったのかもしれない。

 

 俺は警戒しつつ慎重に玄関の扉を開けて家の中に入った。

 家に入ってみるとやはり真っ暗で、足元もよく見えない状態だったため、俺はスマホを取り出してライトをつけて進んでいった。

 もしこの家で何かがあった、もしくは誰かが侵入し、みんなに何かしていったのだとしたらまだこの家にいるかもしれない。警戒するに越したことはない。

 

 そう思って慎重に進んでいき、リビングの扉を開けたその瞬間――

 

『メリークリスマス!』

 パァンパァンパァン。

 

 近くから破裂音のようなものが聞こえるのと同時にリビングの電気が付けられてようやく状況を理解した。

 俺は警戒しながらリビングへとやってきたらいつの間にか大量のテープをかぶってしまっていた。

 

「メリークリスマス!」

 

 再度聞こえてくるその言葉に俺は弾かれるようにして声の聞こえてきた方へと視線を向けると、そこには宇佐美蓮子がいた。

 周囲を見回してみると、そこには飛鶴やメリー、進奏、結乃ちゃんがそこにいた。

 そしてその手に持っているものを見てすべてを察した俺は脱力してしまってその場に座り込んでしまった。

 

 くそ、心配して損した。

 

「どうだ? 驚いたか?」

「はぁ……これはお前の入れ知恵か? 進奏」

「わ、私は止めたんですが……たぶん様子がおかしいって一輝が心配するって……でも、ちょっとこの空気に充てられてしまったみたい」

 

 確かに俺もこの空気に充てられていたわけだから宇佐美の気持ちもわからないでもないため、それは許すこととしよう。

 だが、さっきまで余計に気を貼っていたせいか一気に脱力して疲れが押し寄せてきた。

 

「そういえばお兄ちゃん、足を引きずっていたようですが、大丈夫なんですか?」

「お前はお前でなんで真っ暗な中、俺の動きを把握してるんだよ」

「妹として兄の動きを完全に把握するのは義務ですので」

 

 ちょっと今度本気でGPSや盗聴器を取り付けられていないか確認してみよう。

 そう心に決めた。

 

「まぁ大丈夫だ。ちょっと痛むがいつものことだ」

「ダメですよ。ちょっと待ってくださいね。今湿布を貼ってあげますから」

 

 俺が大丈夫だといっても飛鶴は許してくれなくて湿布を取りに向かってしまった。

 その間に俺はみんなに連れられて食卓にまでやってくる。

 テーブルの上にはチキンやオードブルなど様々な料理が並べられていて、非常に豪華なラインナップとなっていた。

 これはみんなで出し合って買ったものだ。もちろん俺も学校で宇佐美に金を渡しておいた。

 

「美味そうだな」

「だろ、これさっきまで宇佐美と飛鶴で作っていたんだぜ」

「なんでお前が誇らしげなんだよ」

「私たちも手伝っていたんですよ。ね、メリーさん」

「そうですね。まぁ、蓮子と飛鶴ちゃんと比べたらできることは少ないのだけど」

「進奏、お前は何のためにここに居たんだよ」

「味見役だな」

「そ、そうか」

 

 進奏も相談屋の手伝いに連れて行った方がよかったかもしれないと、そう思ってしまった。

 

「そうだ。これ、土産だ」

「あ、これケーキじゃないですか!」

 

 飛鶴が湿布を取って戻ってきたときに俺がケーキを取り出したため、テンション高めに駆け寄ってくる。

 飛鶴が好きなイチゴショートのほかにチーズケーキ、チョコケーキ、フルーツケーキなどいろいろなケーキを買ってきた。事前に誰が来るかは知らされていたため、ちゃんと人数分。

 

「それじゃ、とりあえずテーブルの上にあるものを食ってからそれをデザートとして食おうぜ」

「なんでお前が仕切ってるんだよ」

 

 こうして俺たちのクリスマスパーティーが始まった。




 はい!クリスマス特別編終了

 久しぶりに書いたことによって今までの現代物語と違う雰囲気の物語となりましたね。

 本当はもうちょっと蓮子や飛鶴との絡みも書きたかったのですが、時間がなかったため、断念しました。

 正月特別編はもうちょっとしっかり書きたいと思いますのでよろしくお願いします。

 正月はオリジナルで書こうかなと思っています。

 それでは!

 さようなら


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