バンドリ!彼奴のいないこの世界で (アルファデル)
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op.1 彼奴のいないこの世界

SOUL CATCHER(S)とBanG Dream!のクロスオーバーです
SOUL CATCHER(S)を見てない人にも楽しめるように書いたので読んでみてください


op.1

 

この物語を見る前に一つ質問をしたい。【SOUL CATCHER(S)】と言う作品を知っているだろうか?

 

3〜4年前にジャンプで連載されていた作品で主人公の神峰 翔太が相棒で同じく主人公の刻阪 響と共に鳴苑高校吹奏楽部を全国金賞に導いていくストーリーだ

 

ここまで見ると何処にでもありそうな吹奏楽漫画だが俺が何より興味を引いたのは主人公神峰 翔太にはある特殊性があった事だ

 

共感覚(シナスタジア)】と言われる簡単に言えば一つの刺激に対し通常の知覚とは別の知覚が働くと言うもの

 

これは実際ある人にはあるものらしく例えば漢字に色が見えたり何かを味わうと手に形を感じるなどといったものが例になる

 

そこで主人公の共感覚の話にもどるがこれは実際にあるのかわからない、でもあったとしたらそれを持っている人はとても苦しむだろう

 

名前はないがその共感覚は【人の心や音楽が風景などに色覚化される】と言うものだ。この共感覚のせいで主人公は苦悩した

 

[心が冷たい][心を痛める][心が荒む]

 

心の表現で使われるこれらの言葉が主人公には確かなものとして見えるのだ

 

そんな見たくもないものを見せられ耐えることができるのだろうか

 

神峰は刻阪と出会う事で救われた。最初こそ神峰の共感覚を理解出来ていなかったが時に笑い、時に喧嘩をしながら最大の理解者にまでなった

 

神峰が演奏や心の風景を指揮によって刻阪に伝え演奏で人の心を掴む、その演奏()を吹奏楽部のメンバーで増幅させる。漫画のタイトルになっているSOUL CATCHER(S)とはまさに二人の、そして鳴苑高校吹奏楽部の全員のことを表しているのだろう

 

そうやって少しずつ吹奏楽部や音楽を聞く人の心、その曲に関わった全ての人を繋いでいき全国コンクールで【受け取り方さえ聞き手に委ねる心地よい虹の音】を奏て金賞を受賞した

 

でも俺はこの作品を見るたびに思う事がある。刻阪 響に合わなかったら主人公は一体どうなっていたのだろうと

 

そんなありもしないもしもの話を何故するのかと言うと

 

俺が神峰 翔太に憑依する形で転生したからだ。何故俺がなのかは分からない

 

ただ俺をこの世界に転生させた神が目の前に現れたら俺はそいつを殺すだろう

 

何故ならこの世界は刻阪 響のいない、というよりSOUL CATCHER(S)の世界ですらないバンドリ!の世界なのだから

 

 

 

羽丘学園

 

昔は羽丘女子学園と運営されていたが最近になって共学になり男子も通っている高校で俺も今年入学し、今は文化祭の最中だ

 

本当は来たくなかった文化祭に限らず人が多く来る行事ごとは嫌いだ

 

なぜなら

 

「神峰、お前クラスの出し物で当番じゃなかったか?他に何かやってんの?」

 

廊下を歩いていると不意にクラスの学級委員長である大村から声をかけられる。そちらの方を向くと案の定疑いの心で俺を見ていた

 

クラスであまり人と関わらずに生活しているためか何か問題があるんじゃないかと心配、いや警戒してるんだろう。そんな心向けられたら教室に行けるわけないだろ

 

こういったのはさっさと会話を切り上げたほうがいい

 

「俺の当番は午前だったから他のところを見て回ってるんだ」

 

「そうか、あまりフラフラするなよ」

 

そう言って大村は踵を返し見回りへと戻っていった

 

しばらく歩くと三人の男女が眼に入る。それは同じクラスの三人だった。二人の男女が話しており、少し距離を置いたところに眼鏡をかけた女子が二人の様子を見ている

 

「なぁ笹井この後暇だろ?俺と一緒に店回らね?」

 

「ごめ〜ん山市〜今日イトコが来るからぁその子案内しないといけないんだよね〜」

 

「山市くん…」

 

ムダだぞ山市、笹井の心は完全に閉じている閉じた心の前で何を言っても響きはしない聞く事自体を拒否しているからな

 

その様子を見て安田が傷ついてる

 

間に入って上手くいくよう本当の事を教える。なんて事は最初から諦めている

 

これがこの世界ではなくSOUL CATCHER(S)にいた神峰 翔太なら、彼奴に出会う前でもどうにかしたいと思うのだろう

 

たとえ心が見えそれを信じてもらえず心の状態をバラす事によって相手に一方的にキレられるとしても、心に関わって良い方向に行った試しがないと分かっていても心の片隅でそう思ってしまうのだろう

 

だってそれが俺の好きだった主人公、神峰 翔太なんだから

 

そして人の心を掴み、影響を与える事の出来る刻阪の演奏なら傷ついた心を癒す事も出来るだろう

 

でも俺はそんな生き方はできない。この世界に彼奴が、希望がないと分かった今誰かに関わるだけ無駄だ

 

関わっても其奴の心を変えられるだけの演奏()が俺にはないんだから

 

「ちょっとあんた何やってんの!?」

 

「ご、ごめん」

 

「謝ってる暇があるならさっさと動きなさいよ!あんた一人でやった事がクラス全員の迷惑になってるのよ!?」

 

そんな事を考えていると声が聞こえた。見たくなかったが前方にいたので目に入ってしまった

 

やめろ、そんなに相手を追い詰めるな彼の心は他の人より脆いガラスの心なんだ

 

相手の事を思って叱っているとしてもそれを相手が分かっていなかったらそれは凶器にしかならない!

 

だが無情にも彼の心は砕けてしまった。その光景は俺に「お前が救わなかったからこうなったんだ」と言っているように感じた

 

「ごめん…」

 

消えてしまいそうな声で彼は言うとその場から逃げるように走りさって行く

 

砕けた心が完全に治る事はない傷を残しそこからまた壊れやすくなる

 

彼女は自分の独りよがりな彼に対する期待とそれに比例する様に膨れ上がったイライラが溢れてしまったのだろう

 

今はなぜあんな言い方をしてまったのかという後悔と自分に対する自己嫌悪に心が覆われていた

 

あぁ、だから人の集まるところは嫌いだ

 

いっそこの目を潰してしまいたい

 

昔は実際にやろうとしたところに母親が帰ってきて止められ涙ながらに「二度とこんなことしないで!」と哀しみの心を向け言われた

 

そこから目を潰そうとすると母さんの心を思い出してしまい出来ないでいる。それが俺にとってプラスなのかマイナスなのかはわからない

 

せめて人が少ないところに行きたい

 

そう思って屋上へと俺は来た

 

幸いにも屋上には誰も居なかった、だが少し前まで雨が降っていたからだろうアスファルトが濡れていて空には虹がかかっていた

 

俺は虹が好きじゃない

 

虹を見るたびにここでなし得る事は出来ないと諦めたあの世界で神峰がたどり着いた演奏を思い、嫌な気分になると同時に俺がこの世界での異物であると再認識させられてしまうからだ

 

まぁ学校内を回るよりましかと思ってドアから対角上の隅に行き暫くの間空を見ているとバンとドアを開けながら誰かが屋上にやってきた

 

「あっやっぱり虹だ!綺麗だなぁ、るんっ♪てくる!」

 

言葉通り虹を見にきたであろう女子の声、誰がきたのかなんて確認はしない。周りに俺一人の状況で振り向いたら確実に目が合うしその時の心を見たくない

 

相手もわざわざ話し掛けてくるなんて事はしないだろうと高を括っていたのだが

 

「君も虹を見にきたの?」

 

少し時間を置いてからそう相手に声を掛けられてしまった

 

 

 

 

氷川 日菜サイド

 

う〜ん、なんか退屈だなぁ

 

今日はあたしが通っている羽丘学園の文化祭の日、何かるんってする事ないかな〜と思って学園中回ってみたけどどこも大体同じ様な事しかしてない

 

クラスの手伝いも午前中に終わっちゃったし暇だなぁ

 

あ〜あなんか起きないかな

 

そう思ってふと外を見るとさっきまで降っていた雨が止んで太陽が出ていた。もしかしたら虹が見えるかも!

 

ただ学校を回るよりはましかなって考えて虹を見るために屋上に向かって階段を上ったあたしはそのままの勢いで屋上へのドアを開けると

 

「あっやっぱり虹だ!綺麗だな〜るんっ♪てくる!」

 

そこには綺麗な7色の虹が空にかかっていて少しの間見ているとふと視界に人がいるのに気づく、よく見るとそれはこの学園の制服を着てる男子だった

 

あたしより先に屋上に来ていた彼に少し興味が出たあたしは彼に近づきながら

 

「君も虹を見にきたの?」

 

って声をかけると、彼は少ししてからめんどくさそうに小さくため息をついてこっちを向くとどこか突き放すような口調で言ってくる

 

「別に虹を見に来たわけじゃない、人が多い所に居たくなかっただけだ」

 

いつものあたしなら「なんで人が多い所にいたくなかったの?」って聞いてたと思う。でも彼の表情を見たら言えなくなった

 

何か抱え込んでそれを誰にもうち開かせない顔、それに気づけたのは多分あたしのおねーちゃんと似ていたから

 

あたしには双子のおねーちゃんがいる、でも最近じゃあまり話をできてない

 

それに高校に上がってからは「お互い干渉しなようにしましょう」って言われちゃった

 

そんなおねーちゃんと同じ感じがする彼に少し興味が湧いた

 

「そうなんだ、あたしの名前は氷川日菜って言うんだー君の名前は?」

 

「氷川日菜?…あぁそうか俺の名前は神峰翔太だ、呼び方は適当でいいぞ氷川さん「日菜」…あ?」

 

「あたしおねーちゃんいるからややこしくなっちゃうんだよねーそれに苗字で呼ばれるのはなんかるんっ♪てこないから日菜って呼んでよ神峰!」

 

「るん?つか俺の事は苗字呼びかよ。まぁいいや日菜さんでいいんだ「日菜!」…分かった日菜、これでいいか?」

 

あれ?なんか神峰に呆れられた?

 

「他に何もないなら俺はもう行くからじゃあな日菜」

 

そう言ってあたしの横を通り過ぎて階段の方へ向かって行く神峰、どこか逃げる様に見えたその背中をあたしはもう少し話がしたくて呼び止めようとするとドアを開けて入る直前あぁそれとってこっちを振り向いて

 

「日菜、お前一体どこを見て人と話してんだ?」

 

手の届かない何かを見るような目であたしに向かってそう言い神峰は今度こそ屋上から出て行った

 

屋上に残ったあたしは神峰が言ってた事について考える

 

何処を?あたしは人と話す時は目を見て話してるし神峰が言ってた事はその事じゃない気がする。むしろ神峰の方があたしと一度も目を合わせてなかった

 

んー分かんないなぁモヤモヤする!

 

空を見たら虹が消えていて今のあたしみたいに雲が空を覆ってた

 

神峰サイド

 

屋上から出た俺は人気のないところへと移動した

 

「はぁ、まさかここに通ってたのかよ」

 

俺はバンドリ!について知っている事は少ない、前世でアプリをやっていたわけではなくアニメも見ていなかったから強いて言えばバンドリ!のキャラクター達と入るバンドを友達との会話で聞いたくらいだ

 

今までで会ったと言うか面識ある奴ならいるがここに友達が言ってた天才氷川日菜が通っていたなんてな

 

何をしても直ぐに周りの人を追い抜き、歯に衣着せぬ発言と相まって他人から距離を置かれる

 

高校入ってからのテストで全て満点を取ってたやつがいるとクラスの連中が話してたのも前世で話してた内容と合致するから彼女だろう

 

Pastel*Palettesというアイドルバンドに所属し姉の影響で始めたギターが担当楽器

 

にしてもアイドルか…皮肉だな

 

あいつの心、ステージに立ちスポットライトを浴びていた。だが本人は正面を向いておらず背後にある鏡に反射している姿の似ている誰かを見ていた(俺と話している時も鏡越しに俺の事を見ていた)

 

いやステージは正しくないか、正確には周りから距離を置かれ「自分は周りとは違うんだ」という思いから積み上げられた壇上

 

スポットライトも青や赤に黒がかかった色だった、彼女に対する非難や嫉妬などの負の感情を表しているんだろう

 

本人はそれに気づいているんだろうな時折正面をチラチラとみていたから

 

でも俺が最後に言った言葉については分かっていないようだった

 

人は心の状態をバラすと怒るしそんなことを分かる奴に近寄ろうとしない

 

それを利用してもう話しかけられないようにしようと思ったが自分の心について理解していなかったのか

 

にしてもあの鏡妙だったな。なんで鏡を固定するための額縁がなかったんだ?

 

あれじゃまるで…

 

「って何を考えてるんだ俺は?」

 

心について深く考えたところで意味はない、考えた先にあるのはどうする事も出来ない無力感と彼奴ならと思う虚しい他力本願だけだ

 

俺には心が視えても心を掴んで動かすだけの力なんてないんだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから、俺の物語は始まる

 

何もできないと諦めていた俺が踠いて足掻いて、そして誰かの心を掴む物語が




日菜の喋り方難しい…
感想、誤字脱字などありましたら報告お願いします!
ではまた次回!


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op.2 夕焼けと仮面

op.2

 

文化祭が終わって放課後、俺はCiRCLEというバンドスタジオに来ていた。理由は単純俺がここでバイトをしているからだ

 

親と離れ今は一人暮らしをしており生活費の足しになればとここでのバイトを夏休みから始めた

 

「おっ来たね〜青少年!今日は文化祭だったでしょ。どうだった?」

 

自動ドアを通って中に入ると入るとスタッフであり先輩の月島 まりなさんがいた。俺が来たのに気づくと気さくに話しかけてくる

 

「どうだったも何も特にいつもと変わりませんよまりなさん」

 

「む、華の高校生がそんな事言ってちゃダメだぞ〜もっと青春したまえ!」

 

「華の高校生って…言い方が古いですよ、それじゃバイトの準備してきます」

 

年増扱いしない〜!という声を聞き流しながらスタッフ専用ルームに向かい中へと入る。部屋にある俺用のロッカーを開けて中に入っているバイト用の制服に着替えながら初めて会った時から変わらないまりなさんの心について考えていた

 

まりなさんは他人を安心させる和やかな心を持ち人と接する時は警戒心や疑心感を抱いてないニュートラルの状態になる

 

人は何かやましい事や良くない事を考えている時心に影がさしたり文字通り闇に包まれる。その逆だとどうなのかというといつもと変わらない普段通り(ニュートラル)の心になる

 

まりなさんは初対面の相手に対してもその心で接する事ができる、これは当たり前のようで誰にでもできる事じゃない

 

相手がどんな人間かわからない以上それは当然と言えば当然だ、相手との関わりが長ければ話は別だが初対面だとそれは難しい。だがまりなさんは初対面の俺に対して疑心や警戒の心を向けてはこなかった

 

そしてバイトを始めてから今までその心が変化したことはない

 

人の心は良くも悪くも変わり続けるもの。どう変化するのかは人や環境によって様々、そんな中変わらない心を持っている人というのは極めて希少だ

 

着替えを済ませスタッフルームを後にして受付カウンターまで移動しカウンターにいたまりなさんに今日の予定について質問する

 

「まりなさん着替え終わりました。今日はどのバンドが予約入ってましたか?」

 

「ん〜今日はAfterglowが予約入ってたよ。その他の予約は今のところ入ってないね、私機材のチェックしてくるから受付お願いしてもいいかな?私そのまま少し休憩に入るからさ」

 

Afterglow、幼馴染で結成されたバンドで音楽経験者もいるおかげか全体的なレベルも高く俺が最初に出会ったバンドリ!の登場人物でもある

 

「分かりました」

 

それじゃ行ってくるね〜と言ってスタジオに向かうまりなさんを見届けてからカウンターの椅子に座り機材に関するマニュアル書を見ながら時間を潰す

 

バイトを始めてから日が浅くまだ機材の調整のやり方が分かっていない、それを覚えたらできる仕事の幅が広がる

 

と思いマニュアル書に目を通していたがこうして暇になると俺は決まってその日のうちに起きたことについて考える。それは今日も変わらず俺は思い返していた

 

今日はいつもより多くの人の心を見たせいか余計な行動をしたな、日菜の事がそうだいつもの俺なら喋らずに屋上を後にするのに相手の心を見てそれを指摘までした

 

あの場ではあれが最善だと思っていたが今考えると無言で立ち去った方が良かった気さえしてくる

 

変わることのない、いや変える事が出来ないのは分かっている筈なのに

 

「こんにちわー!!」

 

自分の行ったことに対しての矛盾に自己嫌悪や後悔をしていると入口のドアが開き外から挨拶をしたピンク髪の子、上原ひまりを先頭に五人の女子が入店してくる。それは今日予約を入れていたAfterglowの五人だった

 

時計を見るとまりなさんがスタジオに行ってから30分も経っていた。仕事の為ネガティブな思考をしていた意識を切り替え置いてあったマニュアル書を片付ける

 

「いらっしゃいませ、今日ご予約されていたAfterglowの皆様ですね?」

 

手早く片付けお客に対する挨拶をするとボーカルでありギターも担当している美竹蘭が少し不愉快そうな顔をしながら

 

「神峰先輩、毎回思ってたんだけどそれ似合ってない」

 

とぶっきらぼうに言ってきた

 

「…お客様に対しての対応をしてるだけなんだがまぁいい次からはこうする。まりなさんが機材の調整を終わらせてるからすぐに練習できる。これがスタジオの鍵だ時間は6時までな」

 

美竹に言われ早々に取り繕うのをやめた俺は手短に要件を伝えスタジオへと促す。客に対してこの対応はどうかとも思うがAfterglowのメンバーに対してはこちらの方が適切らしい

 

「神峰先輩は相変わらず無愛想ですね〜そんなだとモテませんよ〜?」

 

そんな俺の態度に間延びした声で俺にそう言ってきたのは青葉モカ、同じくギター担当

 

「ちょっとモカちゃん、神峰先輩に失礼だよ。すみません神峰先輩」

 

青葉にそう注意をするのはキーボード担当羽沢つぐみ

 

その様子を後ろから少し楽しげに見守っているのはドラム担当宇田川 巴

 

「いや気にしなくていい、それよりバンドの練習だろ?時間も限られてるし早く行った方がいい」

 

俺が羽沢から少し目をそらしながらそう言うと「は〜い」という上原の声を合図に五人共スタジオへ向かっていった。去り際に羽沢がもう一度「すみません」と言ったので「気にしなくていい」と言っておいた

 

彼女らが終わる時間まで他に予約も入ってないし本格的に暇になった俺はマニュアル書に再び目を向けながらまだここでのバイトを始めていない時にであった彼女達Afterglowとの時を思い出していた

 

 

 

数ヶ月前

 

「すまんが神峰、これを音楽室の教卓に置いといてくれないか鍵は開けてあるから」

 

「分かりました」

 

羽丘学園に通い始め学園生活にもなれ始めた6月、放課後俺は担任の教師から教室でそんな頼み事をされた。部活もやっておらず別に断る理由もない俺は書類を受け取り音楽室へと向かった

 

廊下は部活に向かう者や委員会の仕事をしている生徒が歩いており葛藤や期待、やる気や苦悩などの人の波…正確には心の波に少し酔いながら音楽室までたどり着く

 

この学園には吹奏楽部がない(俺がここに通う事を決めた理由の一つでもある)なので今は教室には誰もおらず俺は預かっていた鍵を使い中へと入り教卓に行き持っていた書類を置いた

 

後は職員室に行き担任に報告するだけなのだがそこで俺は音楽室に置かれているピアノに目が止まった

 

俺がまだSOUL CATCHER(S)の世界だと信じていた頃原作で先輩に神峰(主人公)が教えてもらっていたピアノを学ぶ為にピアノ教室に小学校から中学へ上がるまで通っていた。それ以外にもとある楽器も個人的趣味で練習していた(こっちは前世からやっている楽器だ)

 

だがSOUL CATCHER(S)の世界じゃないと分かった時深い絶望感に襲われた俺は続ける意味もなくしてピアノ教室をやめ、その日から触ってすらいなかった。もう一つは元々の趣味であったため続けているがそれも前と比べると格段にやる機会は少なくなった

 

そんな遠ざけていたとも言っていいくらいなのにこの時の俺は何かに引き寄せられるようにピアノに近づき椅子に座り鍵盤へ向かって指を動かしていた

 

一瞬躊躇う様に手が止まったが鍵盤に再度手が向う

 

音楽の先生や誰か来るかもしれないという考えは何故か浮かんで来ず俺は伴奏を始めた

 

奏でるのは【春よ、来い】前世で俺がよく聞いていた曲でありSOUL CATCHER(S)においても演奏された曲だ。歌詞や楽譜も当然覚えている

 

メロディーを奏でながら俺は歌う。歌詞がない伴奏だけなどもあるがこの曲はやはり歌詞があってこそだと俺は思うから

 

そう思いながらもなんで弾きたくなったのか、歌いたくなったのかは今になっても分からない。その時はそんな自分のちぐはぐさにも気づかず夢中になっていた。だからだろういつのまにか音楽室のドアが開いていた事に気づくことなく俺は弾き、歌い続けた

 

そして歌が終わり続いて伴奏も終わる、久しぶりに弾いたせいか少し疲れたな。俺はそんなことを思いながらさっさと職員室に行って帰ろうと思い席を立つと視線上を何かが通り過ぎた

 

左斜め上から右斜め下に向かって落ちていったものを追って視線を上げる。そこには本来無機質な天井しかない…その筈なのに…なんで

 

桜が見えているんだ…?

 

天井には数は少ないものの桜が舞っていた。見えたのは数秒ですぐに見えなくなってしまったがそれは確かに桜だった

 

桜の音それはSOUL CATCHER(S)で奏でられた反響、残響、奏でる演奏者の心、そしてそれを聞く人全員の心が一つの空間に集約される事で作られる音だ。関わる人が多ければ多いほど奏でるのは難しいがその分より多くの桜が舞い美しさが際立つ、そう一人では決して奏でる事のできない音だ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

衝撃が大きく思わずそう呟いた俺は直後に響いた拍手の音に身体が一瞬震えるのを感じそこから恐る恐る後ろを振り向くとそこにはいつからいたのか五人の女子達がいた。うち一人が俺の渡された資料と似たようなものを持っており恐らく教師に頼まれてここまで持って来たのだろうと考えていると

 

「凄い伴奏と歌声でした!」

 

音楽室のドアから少し先にあるピアノに…つまり俺に近づき、そして俺の手を握り茶色のショートカットの髪型をした女子がそう言ってきた。興奮しているためか顔が赤くなっていて残りの四人はその様子を見て俺と同じく呆然としていた。その心は尊敬や憧れが出ている影で自身でも気付いていないだろう嫉妬や劣等感、そして何かに縋るように視えていた。いや、これは………!?

 

「ちょ、ちょっと落ち着けつぐみこの人きょとんとしてるぞ」

 

俺が彼女の心に驚愕していると赤紫色の長髪の女子がいち早く立ち直り茶髪の子を落ち着かせようと近づいて言う。普段はこんな事しないのだろう、冷静になったのか慌てて手を離し顔を別の意味で赤らめ俯いた女子

 

「すみませんうちのつぐが…ってこれいつもならつぐの役だよね。少し新鮮」

 

「ひーちゃんが止める方なのも珍しいねー」

 

少しくすんだピンク髪をした女子が近づきながら謝り、それに対し銀髪ショートカットの子が何か言った声を聞き俺は

 

「突然の事で驚いただけだから気にしなくていい」

 

と言う、自分でも無愛想だと思うが俺はこの時それどころではなかった。そこから少しの沈黙があり先程俺の手を握って来た女子が俺に話しかけようと「あ、あの!」と言って来たがそれは「聞きたいことがあるんだけど」と言った黒髪ショートに赤メッシュが入っている女子に遮られた

 

「蘭ちゃん?」

 

「ごめんつぐみ、どうしても聞きたい事があるの」

 

と俺の方を向き、一呼吸おいてからその女子は言った

 

「あんたのピアノと歌声言葉じゃ言い表せないものを感じた。特に歌は、歌詞に付けられた思いを汲み取って歌ってるように聞こえたけどそれだけじゃあんな歌い方はできない。どんな風に歌えばあんな風に聞こえるのかを知りたい」

 

理由を聞くまではここを通さないという決意と真剣さを込めた心で俺を見ながらそう言ってきた。だから俺もすぐにでもこの場を離れたかったがその心を視て真剣にそして言葉を選びながら答えた

 

「特別な事は何もしていない、ただ歌詞と楽譜を見てそのイメージをなぞっているだけだ」

 

言葉を選んだ結果がこれだ。だが嘘は言っていない、ピアノの習って音楽の基礎が出来始めた頃楽譜や歌詞を見るだけで曲のイメージが視える様になった。共感覚(シナスタジア)の影響であろうそれは神峰(主人公)が通った道でもあり不思議には思わずむしろその時は少し近づいたんだと嬉しさすらあった

 

けどここで俺の共感覚について話したところで理解はされないだろうし俺もそこまで話すつもりはなかった

 

俺の質問への答えに納得4割腑に落ちない6割といった心で俺を見てくる女子

 

「腑に落ちていないようだがこれが全てだ。他に何もないようなら鍵を閉めて職員室に行かせてもらうが」

 

「あ、待ってください!お名前を教えてくれませんか?」

 

さっき俺に聞きたかった事なのだろう、そう言ってきた女子に俺は名乗る。その間にピンク髪の子がプリントを教卓に置いていた

 

「神峰 翔太ここの高等部1年だ、君達は?」

 

もう関わることはないだろうが顔を見た時からある違和感を解消するために彼女達にそう聞いた

 

「神峰先輩ですね、私は羽沢 つぐみです!」

 

「つぐ、なんかつぐってる?私は上原 ひまりです!」

 

「制服から想像できてたけどやっぱ先輩だったのか、宇田川 巴だ」

 

「モカちゃんはねー青葉 モカって言うんだーよろしくお願いしまねー」

 

「…美竹 蘭」

 

あぁ、名前でやっと分かった。なんの違和感ってバンドリ!内で登場するバンドの一つだったのか

 

各々の自己紹介を聞いた俺は「分かった羽沢さんに上原さん、宇田川さんに青葉さんと最後に美竹さんだな、見たところ用事は済んだようだし鍵を閉めてもいいか?」と言うと上原さんが返事をして残り四人も音楽室から出た

 

そこから俺は「用事があるから先に職員室に行かせてもらうじゃあまた」と会う気もないのにそう言って彼女達と今度こそ別れ、いや逃げた

 

後ろから何か聞こえた気がしたがそれに構わず職員室へ向かい教師に報告して俺は職員室を後にした

 

帰り際に教師から「神峰、顔色が悪いようだが大丈夫か?」と聞かれたらが「大丈夫です」と言って急いで帰宅準備をし、家へと帰った。

 

家へと帰えると部屋にあるベットに横になり丸くなる

 

俺はたまにこうして悲惨な心を見るとベットにこもっていた、今回そうなったのは彼女達の一人羽沢 つぐみと名乗った少女だった

 

彼女の心を視ていられなかった。表面上は何ともないように取り繕っていたが本人でも気づかぬ内に仮面を被っていた

 

仮面を被る、それは表と裏の顔を持ち他人と接する時は表の顔で身近な人物といる時や一人の時には裏、つまり本当の自分を曝け出すと言うのが俺が今まで見てきたものだ

 

だが彼女は違う必死に他人へもっと言えば他のAfterglowの四人へ見せないように仮面をしていた

 

裏で彼女は音楽、委員会での仕事、その他にも様々な事をやっていた。自身がボロボロになっている事に気付かずに独りで

 

そこにあるのは卑屈なまでの劣等感、「もっと頑張らないと」「私はみんなより上手じゃないんだ」「もっと上手にならなくちゃ」そんな焦りからくるものだった

 

俺には心が何と言っているかは分からない、だがこれまでの経験から何を思っているかは分かる

 

そんなこと、分かったところでどうしようもないけどな

 

忘れよう同じ学校だから会う事もあるだろうがそれ以外で関わることはない筈だ

 

だがそんな俺の考えとは裏腹に俺と彼女達は再会する俺がバイトを始めたCiRCLEで

 

 

 

 

現在

 

もう一度ここであった時にさん付けはいらないといわれそこからAfterglowの全員を呼び捨てで呼んでいる。何度か会う中で少し話をするくらいになったが肝心の羽沢の心は初対面の時から変わっていなかった

 

心が悪い意味で変化していない、四人もそれに気づいはいるが羽沢本人が隠して相談しないために力にもなれないようだった。心配をかけまいと思いそうしている羽沢はそれが逆効果であることに気づかない

 

「ーーーー先輩、神峰先輩」

 

不意にそう呼ばれ思考を一旦中止して顔を正面に向くとそこにいたのは美竹だった

 

「どうかしたのか?まだ時間はあるし機材トラブルでも起きたのか?」

 

「私達の演奏を聴いてアドバイスして欲しいんだけど」

 

そう頼まれた、しかし俺は少し間を開けると

 

「悪いが断る、今はカウンターで客が来ないか見てないといけない」

 

と断る、それは俺が関わる事で彼女達の音が変化するのを恐れたためだ。それはバンドリ!の世界にもともといる筈のない俺だからこそ思う事なんだろう

 

「話は聞かせてもらったよ!」

 

とそこでカウンター近くにあるスタッフルームからまりなさんが出てきた

 

「今日は他にお客さんも来ないし私がカウンター やっておくから聞いてきていいよ神峰君、何より彼女達は神峰君に聞いてもらいたいみたいだしね」

 

俺が言おうとしてた「まりなさんの方がここでの経験もあるし俺より適切だ」という手も防がれてしまった。怖くはある、たかだか俺のアドバイス程度で大きな変化があるとも思えないがそれでもだ

 

けど俺に問いてきたあの時と同じ目と心で俺を見てくる美竹に結局は俺が折れて

 

「分かった」

 

と了承する。Afterglowの演奏を聴いて俺にどんな変化があるかこの時の俺には知る由もなかった




お久しぶりのアルファディルです
リアルで就職準備やらが重なって遅くなりましたm(__)m
1話で評価☆6をつけてくださったぼるてるさんありがとうございます!
そしてお気に入り登録してくださった
アーペさん、メタナイトさん、クロぱんださん、フユニャンさん、ごみさん、ソイヤ!お茶さん、エンプティさん、春閣下さんも重ね重ねありがとうございます!
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)


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op.3 写真と爆弾

二ヶ月お待たせして大変申し訳ありませんっした!
色々考えつつ研修やりつつで遅くなりました
楽しんでもらえると幸いです!
ではどうぞ


op.3

 

美竹からの要望を引き受けた俺はAfterglowのいるスタジオに来ていた。彼女達は楽器の準備をしていて俺は美竹から「神峰先輩は座って待ってて」と言われたので用意した椅子に座りその様子を見ている

 

「みんな、準備できた?」

 

美竹の呼びかけに各々返事をし、全員の準備が完了した事を確認すると美竹は俺の方を向いて言う

 

「神峰先輩もいい?」

 

「あぁ、大丈夫だ始めてくれ」

 

正直今でも抵抗はあるが一度引き受けた以上、中途半端に聴く(視る)事は頼んできた美竹達に失礼だ

 

いつも通り(・・・・・)にいくよ」美竹の号令で曲が始まる、美竹の「いつも通り」という言葉とそれを聞いたメンバーの心に違和感を感じたが今は聞く(視る)事に専念する。やはり全体的にレベルが高い、幼馴染というのもあって演奏としての纏まりもできておりこれは各々が各々を尊重しながら音を奏でているからこそなんだと思う

 

でも違和感がある、どうして流れがない?曲には流れがありストーリーがある。作曲者や演奏者、聞く人、その他の曲に関わった人達全てで紡がれるのが曲の流れでありストーリーなんだとこの(共感覚)を持って知った

 

なのに彼女達が奏でる音にはそれがない、一枚の写真を見せられているみたいに最初の時点で曲の流れが止まっている

 

まさかさっき美竹の言っていた「いつも通り」という言葉、あれは自分達ですら気づいていない現状維持の心が言葉として現れた結果なのか?そうだとしたらこの光景にも納得がいく

 

美竹が言った時のメンバー達の心、まるでそれがキーワードかの様に本音を隠している時に出る口を塞ぐ仕草をしていたのもこれが原因だろう。自分達はこのままでいいのかと言う思いとそれでも変化を恐れる矛盾の心

 

その中で羽沢は変わろうともがいていた、自分が変わる事でバンド内をいい方向に導こうとしているようにも見える。実際羽沢の演奏技術はAfterglowの中でも一番と言っていい、だけど独りだった

 

一人じゃなく独り言葉遊びをしているわけでも冗談を言っているわけでもない文字通りの独り、そのくらい羽沢は演奏の中で浮いていた

 

いや浮いているという言葉も正しくないか、これは沈んでいる。羽沢の心だけが他の四人と同じステージに立てていない

 

理由は初対面の時から変わっていない仮面の裏に隠した自身に対する卑下の心だ。バンド全体が変わらない事への焦りや変えられないことへの自己嫌悪に近い思いがそれに拍車をかけている

 

Afterglowが結成された経緯については五人から聞いていた。美竹と他の四人がクラス替えの時に分かれ五人で会う機会が少なくなりその事で不安になって、みんなで集まり出来る事はないかと考える中で上原のバンドをやっている妄想に羽沢が強く同意し他の3人も賛成する事で結成したと

 

美竹が詩を書いていた事もありカバー曲だけでなくオリジナルの曲もいくつか作り今に至ったという事を聞いて「何故そんな話を俺に?」と主に話していた上原に聞いたが「分からないですけど神峰先輩には知っておいてほしくて!」と自分達でも気付いていないであろう助けを求める心を向けながら言っていた

 

それが変化を恐れ現状維持の心を持つきっかけにもなったんだろう

 

だけど、惜しいな。この(光景)に流れが、ストーリーがついたならきっと素晴らしいものになる。変化を恐れたのは俺だって同じなのにこう思うのは写真の中の光景が美しかったからだ

 

そして写真の中にも本来なら彼女達が居るのだろう、五人分の白い人型の靄がある。そこに五人が並ぶ事で曲は完成する、何故なら俺の目の前に広がっていたのはーーーーーーー

 

 

 

 

演奏が終わり少し呼吸を整えてから美竹が俺を見て問いかける

 

「…私達の音楽はどうだった?神峰先輩」

 

俺は言葉に詰まった。視たままを言う事は簡単だがそれを共感覚を持っていない彼女達に言っても伝わらない、仮に伝わったとしても変化を恐れている彼女達に悪影響を与えかねない

 

「神峰先輩?」

 

羽沢が俺を心配して声を掛けてくる。少し間を開けて俺は話し出す

 

「………素人目にも結成して1〜2年とは思えないくらい個々としても全体としても高かった。俺は全員の楽器を扱えるわけじゃないからこれからするアドバイスは参考程度にしてほしい。先ずは宇田川、盛り上げ盛り下げのメリハリができていて良かったけどサビの部分でリズムが崩れているところがあったからそこを直せばもっと良くなると思う」

 

「あ〜あたしもそこは気をつけるようにしてたんだけどまだ直しきれてなかったか」

 

宇田川の心は大木だ、どっしりと構えそこを中心に周りの人がもたれ掛かれる様な安心感を与えられる。まだ中学生だと言うのにこの心を持っているのは正直驚いた、そしてドラムは曲のリズムを作る土台、その点で言えば宇田川はドラムに向いていたんだろう、さっき言った所も気持ちが昂り過ぎたのが要因だから冷静にそれでいて勢いは失わない様にすれば大丈夫だ。本人も自覚している様だしな

 

「次に羽沢だけどーーーーー」

 

その後も全員に技術面に関してのアドバイスを行なった、そう技術面だ

 

要になるAfterglowの心に関して俺は触れていない

 

宇田川の心だってそうだ大木でありながら上に行けば行くほどつまり寄りかかってる人達と距離を置いた所では心配や悩み恐怖などに枝分かれしていた、中には寄りかかる人達を守る様にも伸ばしている。そして頂上ではそんな枝分かれした檻の中に本心が囚われていた

 

どこまで技術が向上しても演奏者の心が合わさらなければそれは無機質なものになってしまう。そして彼女達はきっかけを探している

 

自分達が変われるだけの変わる事が出来る理由を俺に結成秘話を話したのもその理由の一つだろう

 

だが俺に何ができる?言うだけなら簡単だ「変化を恐れるな」と。しかしたかが2〜3ヶ月の付き合いでしかない彼女達の心の影に俺が土足で踏み込んでいいはずがない

 

何より人の心に触れるのを恐れている俺が、変えられるだけの力を持っていない俺がどうこうできる問題じゃない

 

視てみたい、だが踏み込んで拒絶の心を向けられるのが怖い、変えられないどころかより悪化させてしまうんじゃないか、ちぐはぐな考えが俺の頭の中を駆け巡る。こんな時神峰(主人公)なら踏み込むのだろうか現実逃避だとは分かっていても思う

 

羽沢の事を言えないな俺、彼の身体で彼の(共感覚)を持っていて、だけど踏み出す勇気を持っていた彼と比較し劣っていると感じている

 

「後は…そうだなもっと話し合ったほうがいいかもしれない」

 

『話し合う?』

 

五人の異口同音の言葉を聞きながら俺は言う

 

「自分がどう言った音を出したいのか、どういう風に音を奏でたいのか、メンバーの音に違和感はなかったかとか曲の終わり終わりでもいい話し合うんだ、五人が幼馴染だと言うのは知ってるけどそれでも結局人の心は声に出さなければ伝わらない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。だから話し合う、そうすればもっと良くなる筈だ」

 

俺に言える事は所詮この程度、踏み込むまえの中途半端な事しか言えない

 

「それじゃ俺はバイトに戻るな」

 

そう言ってスタジオから出た俺はカウンターにいたまりなさんと雑談をしていると6時になったのでAfterglowの面々が出てきた、羽沢が顔を赤くして伏せていたがあれはなんだったんだ?心の方は顔を覆って赤くしていたが

 

彼女達を見送ったあと「今日はもう上がっていいよお客さんもAfterglowだけだったしね」とまりなさんに言われたのでそれに甘えてバイトを切り上げ帰路についた

 

家に帰ってから部屋のクローゼットに置いてあるアレを取り出す、上手く出来るだろうか?耳コピゆえ完全ではないが彼女達Afterglowの奏でていたオリジナル曲を少し演奏する

 

だけどやっぱり俺だけじゃ意味がないな俺だけじゃ誰かの心を掴むことなんてできはしない。それにあの光景を作り出せるのは幼馴染である彼女達だけだ、後は彼女達がより良い方向へいくよう願うしかない

 

俺は気づいていなかったそもそも彼女達の音を聞く前までの俺ならアドバイスは技術面に関してだけ言っていたという事実に

 

俺だけじゃという無意識の内に誰かを、仲間を求め始めたという事を

 

そして何より彼女達の心に変化を与えるのは俺自身であるという未来に

 

 

 

 

羽沢サイド

 

神峰先輩がスタジオを出て行った後、さっそく私達は話し合いをしていた

 

それにしても神峰先輩のあの言葉「人の心は声に出さなければ伝わらない」それを言っていた時の神峰先輩の眼と顔が忘れられない。まるで自分だけは例外だって言っているみたいに見えた

 

「………つぐ〜?おーいつぐちゃんや〜い」

 

「うぇ!?何、どうしたの?」

 

「やっと気づいたね〜ぼーっとしてたから呼びかけたのに無視するんだもん、モカちゃんは泣きそうになったよ〜しくしく」

 

モカちゃんが軽い冗談を言う、そんなに考え込んでたんだ私と思いながら話を続ける

 

「ごめんね、少し考え事してて」

 

そこでモカちゃんは口を三日月状に言葉で表現するなら『ニヤリ』と歪める、うぅこの時のモカちゃんは苦手だなぁ。だって

 

「はは〜んさては神峰先輩の事を考えてでしょ〜つぐは本当に神峰先輩大好きだね〜」

 

「えぇ!?なんで分かったの!?じゃなくて、そう言うのじゃないよ!」

 

絶対からかってくるんだもん!顔が赤くなっているのを自覚しながら必死に弁明する

 

「分かってますって〜つぐは神峰先輩の大ファンなんだよね〜」

 

「うん!」

 

「…そこは否定しないんだなつぐ」

 

「だって本当の事なんだもん!」

 

そう、私は神峰先輩のピアノと歌声を聴いてからファンになった。たった一回聴いただけでファンって言うのもおかしいと思うけど先輩の演奏にはそれぐらいの何かがあるって感じたんだ

 

でも演奏が終わってからううん、私達を見てからの先輩の目なんだかとっても寂しそうな悲しいような怯えているような目を向けていたのは何でだろう?

 

話すようになって少しは良くなったと思うけどまだ距離が開いたままなのは少し悔しいな

 

ねぇねぇ、つぐ絶対神峰先輩の事すきだよね!?

 

いや〜これはまだlikeのほうだと思うよ〜?

 

つっても時間の問題な気がするけどな、見ろよあの顔絶対神峰先輩の事考えてるぞ?

 

つぐみってそうだったの?

 

あれ、考え事してたら他の四人が円になって何か話してる?

 

「みんないきなり輪になってどうしたの?」

 

「い、いや!何でもないよ!あ、もう時間だし帰ろうか!」

 

ひまりちゃんが少し声を上げてそう言う、何か慌ててるように見えるけど気のせいかな?

 

帰りのカウンターで神峰先輩と会ったけどモカちゃんに言われた事を思い出したらまともに顔見れなかったよぉ

 

明日もCiRCLEで練習するしそれまでに治しとかないと変な子って思われちゃう、お願いだから赤くならないでね私!

 

その思いとは裏腹に次の日行った時もモカちゃんに弄られ顔を赤くする私でした…絶対変な子だって思われた。モカちゃん、こればっかりは恨むからね!

 

 

 

 

神峰サイド

 

文化祭による振替休日が開けた火曜日、俺は学校へと向かっていた、生徒の憂鬱そうな心を目にしながら登校してい「か〜〜〜み〜〜〜ね〜〜〜!!

 

…登校していると後ろから声が近づいてきた。わざわざこんな大声を出しながら俺を呼ぶ奴は一人しかいないので振り返りつつ声を出す

 

「響也そんな声を出さなくても聞こえる」

 

「おいおいおい!つれねぇじゃんか神っち!俺とお前の仲だろ?文化祭の時はクラスの奴らに捕まって回れなかったの結構気にしてんだぞ俺、ま俺が神っちと回りたかっただけだがな!」

 

こいつの名前は乾 響也、小学校からの付き合いで所謂腐れ縁のようなものだ。俺がバンドリ!の世界だと自覚し塞ぎ込んでいた時にも唯一話しかけてきたやつでもある

 

「別にいい、元々文化祭には興味なかったからな屋上で時間潰してたよ」

 

「お、れ、が!神っちと回りたかったんだよ!くそぉクラスの奴ら置いてきてでも回れば良かったか?」

 

「そんなことをしたら俺がクラスの奴らに恨まれる事になるからやめてくれ」

 

響也の心は爆弾のようだ、ソルキャの世界でも爆弾の心を持っていた人はいたが響也の場合意味合いが異なる。ソルキャではすこしの言葉が地雷となりネガティブな思考に立ち入ってしまうのに対し響也は本心を隠す事はあまりせずすぐに爆発するかの様に表に出してしまう

 

裏表のない性格と言ってしまえばそれまでだが彼はクラスからの人気も高いそれでも俺に何故構うのかと聞けば答えは「俺が神っちの幼馴染で俺が神っちのファンだからだよ!」と返ってくる

 

ファンになった経緯については話してくれた事がなく分からずじまいでいる。こんな俺の何処にファンになる要素があったのか分からない

 

他者との触れ合いを避けている俺に適切な距離で接してくる響也を拒絶しないことに対して罪悪感を覚えながらも今まできている

 

そんな事を響也が気にするわけがないのはわかってる、それでも思ってしまう。これはもう癖と言っていいな

 

そんな響也と話をしながら教室に向かっていると何やら廊下が騒がしかった

 

「なんだなんだ、今日はなんだかやけに騒がしいな?」

 

「あ、響也に神峰、聞いてくれようちのクラスにあの天才氷川日菜が来てるんだよ。どうやらうちのクラスの誰かに用があるみたいなんだ」

 

「氷川ってあの?一体全体誰に用があるってんだ?」

 

クラスメイトの岡山の話を聞いて何故か手に汗が滲み出す。嫌な予感を感じつつ教室へと入るとあたりを見回していた日菜と目があった、すぐに逸らし教室を出ようとしたが本人は逃す気は無いと言うかのように机の上を陸上を走っているのと変わらないスピードで駆けドアを塞ぐ、そして

 

「神峰おはよう!どうして逃げようとするかなぁ?あたし神峰に用事があるんだよ?」

 

と言ってきたこの時俺は天才氷川日菜の事を

 

えええええええええ!!?

 

あたりから聞こえるクラスメイトの声を聞きつつ思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天災氷川日菜と




評価が新たに二人付いている…だと!!?
そして感想もキタァ!嬉しい事ありすぎません?
☆4評価MinorNoviceさん
☆8評価さか☆ゆうさん
ありがとうございます!
そして新たにお気に入りしてくださった
グラ〜暴食〜さん、八十一さん、おうちでごはんさん、八夕さん、さか☆ゆうさん、紫電 .さん、souryuuさん、残念だったな、トリックだよさん、scarletさん、佐伯 誠さん、Polarisさん、人生を見つめ直したいさん、azuleneさん、くじら着さん、天魔刀さん、ソォイ!お茶ァ!さん、まみやさん
他3名のかた重ね重ねありがとうございます!
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)


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op.4 影は手を伸ばす、されど光は遠のいて

今回自分が書いてきた中で最長の文字数8千文字です
長いですが呼んでくれたら幸いです
ではどうぞ!


op.4

 

教室に行くとそこには別クラスである日菜が待っていた、言葉だけ聞くと知人が会いに来たという普通のものだが今回の場合少し違う。片や成績、スポーツにおいて学年トップ、片や人と関わる事を避けて学校生活を送っている者

 

接点が無いように見える二人、その片方がわざわざ教室まで会いに来た。それだけでも充分に驚きだが先程の日菜の言葉、受け取り方次第では告白とも取れてしまうそれを俺の横にいる響也が黙っているわけがない

 

「えぇ!?神っちに会いに来たのか?神っちこれは一体全体どういう事だ!?」

 

「落ち着け響也俺が聞きたいくらいだ。それで…日菜俺への用事は何だ?」

 

「な、名前呼びしてる!?」

 

響也の言葉は無視する、クラスメイトがいる中で異性を名前呼びするのはまずいと思ったが気にしていたら話が進まない上におそらくだが日菜が何故名前呼びしないのかを聞いてくるだろう。そうなったら余計話がややこしくなる

 

「今日放課後暇?あたし神峰に興味湧いたんだ〜だからどこかで話そうよ!」

 

そう言った日菜の心は相変わらず鏡ごしでしか此方を見ていない。それにしてもこの心、初対面の時には感じなかったがスポットライトが当たっていても全体的に暗いように視える(スポットライト自体が嫉妬や畏怖などの負の感情で作られているというのもあるが)そして鏡の中にいる日菜に似た誰かがいる場所は光り輝いている

 

まるで行き先が分からない日菜の道導になっているようだ、だが日菜が触れようと手を伸ばせば伸ばすほど光は遠ざかり輝きを増している

 

そこまで考えてふと日菜を見ると訝しげにこちらを見ていたので一旦考えるのをやめ今日はCiRCLEでのバイトがあるので断ろうと思い口を開ーーー「ちょっとまったぁ!!」開こうとして響也に止められた

 

「何だよ響也」

 

「いやいやいや、何で神っちそんな冷静なんだよ!?女子からのお誘いだぞ?つかそもそも神っちと氷川ってどういう関係!?」

 

クラスの総意を代弁したようにいう響也、実際他のクラスメイトも好奇心や疑問の心を向けていた

 

「どういう関係も何も昨日今日の関係だ、文化祭の時に少し話をしただけで恋仲でもなければ友人でもない」

 

恋仲という言葉には無反応だったが友人でもないと言った事に対して少しむくれた様子の日菜、恋仲とまではクラスメイトにも思われていないようだが念のために言う。そして俺は日菜の方へ向き話す

 

「悪いが今日放課後バイトが入ってる。だから行く事は出来ない」

 

「そっか〜ならしょうがないね、だったらさお昼一緒に食べない?」

 

すぐに代案を出して来る日菜、そこで俺は響也の方を向く、基本的に昼食は響也ととっており俺だけでは了承出来ないからだ

 

「あ〜、氷川でいいーーー「日菜でいいよ!」分かった日菜な、俺は乾 響也俺の事も名前呼びでいいぜ、それでさ俺も一緒に食べていいか?昼はいつも神っちと食べてるんだよ」

 

「うん分かった響也、神峰の友達だよね?神峰の事色々聞かせてね!」

 

「おう、いいぜ!」

 

「響也がいいなら俺は構わない」

 

そこでチャイムが鳴り「それじゃ昼にまた来るね!」と言って日菜は教室を後にした。当人でなく何故響也にと思ったがあまり気にしない事にした。なお朝のショートホームルーム後普段話さないクラスメイト達から質問責めにあったというのは蛇足だろう

 

 

 

 

午前の授業が終わりいよいよ昼食の時間がやってきた、チャイムが鳴りそれぞれが部活の仲間や友達と喋っていると教室のドアが勢いよく開けられる

 

当然ドアへと注目が集まる中、それを気にする様子もなく日菜が入ってくる。片手に弁当を持って俺と響也がいる席に駆け寄ってきた

 

「逃げられるんじゃないかって思って急いで来ちゃった!」

 

「約束しておいてそれを破るわけないだろ」

 

「うーん、でも神峰あたしの事避けてるみたいだしもしかしたらって思うよ。それに神峰あたしの目を見て話てくんないんだもん」

 

少し頬を膨らませながらそう言う日菜露骨だっただろうか、確かに俺は日菜を避けている。もっと言えば日菜から見えている心を視たくないから目を背けている

 

「悪い、元々人とのコミュニケーションが苦手なんだ不快にさせたようだったら謝る」

 

「ううん、いいよ気にしてないからそれにこれから仲良くなればいいしね!」

 

そう言って近くの席を近づけて座る日菜、三人揃ったところで昼食をとり始める。食べながら響也と日菜の話し声に耳を傾けつつ俺は考えていた(日菜は宣言通り俺の事について響也に聞いていた)

 

何故日菜は俺と仲良くなりたいのだろう、いや、本当は分かっている。彼女が無意識の内にこちらへ送っているSOSに俺が気付かないふりをしているだけだ

 

Afterglowのメンバー達も俺に対しSOSを送っていた、何で俺なんだ?俺はバンドリ!に関して知っている事は少ない。だがそれでも友人の話を聞く中で分かっている点がある、それは彼女達の問題は第三者の協力なく彼女達自身で解決出来るという事だ

 

そう第三者()の手はいらない、たとえ俺というイレギュラー(転生者)がいようともそこは変わらない筈だ

 

いや、分かってるこれもまた言い訳だ、結局の所俺は怖いんだ。よく2次創作もので物語の世界に転生する話がある、この世界に来てからそれに対して疑問に思う事があった

 

怖くはないのだろうか?自分が知っているものとはかけ離れ、行き先も分からないまま確かに進んでいく日常・非日常(ストーリー)に。俺は怖い、自分のせいで壊れてしまうんじゃないかと

 

だから踏み出せない、手を伸ばせない。当人達が苦しんでいると分かっていても

 

「神っち?どうしたぼーっとして」

 

食事し始めてから黙っている俺に対し心配の心を向けながら言う響也、少し考え込んでしまったな

 

「いや、なんでもない」

 

「そうか?神っちは昔から考え事してると周り見えなくなっからなぁ」

 

「癖だから仕方ない、だけど話は聞いていたからな。中学時代ドアに黒板消しを挟んだのは響也だろ?人に罪をなすりつけるな」

 

「あれ?やっぱりそうだったんだ、神峰がやりそうなイメージがなかったから響也がやったんだろうな〜って思ってたけど」

 

「な、俺の嘘、見抜かれていたのか!?」

 

「逆に今の話聞いて信じる奴の方が少ないと思うぞ」

 

「うんうん」

 

そう言うと響也は椅子から離れ四つん這いになって悔しがっていた、そこまで悔しがる事無いだろうに。感情が爆発しやすい響也らしいといえばらしいが

 

「あははは、響也は面白いね〜るんってくる!神峰の話も聞けたし今日は来て良かったよ」

 

大した話はしていないように聞こえたが日菜にとってはそうではなかったらしい

 

「ねぇ、あたしまだ話し足りないからさ放課後一緒に帰らない?神峰と響也のバイト先まででいいからさ」

 

CiRCLEでバイトしている事は話していた、どうやら学園からの帰路の途中にあるらしくそれを踏まえての提案だった。因みに響也もCiRCLEでバイトをしている、主に機材の運び出しなどの力仕事で俺より先にバイトをしており俺にCiRCLEを勧めたのも響也だった

 

「俺はいいぜ今日は俺もCiRCLEでバイトだしな!」

 

落ち込みから復活した響也は椅子に座りつつそう言う。俺も「分かった」と返しちょうど昼休み終了の時間が迫っていたので

 

「それじゃ放課後また来るね!」

 

と言って日菜は教室を後にした

 

「いやぁ神っちに会いに来たと言った時は驚いたけど結構楽しそうな奴だな、日菜って!」

日菜を見送ってから響也がそう言ってくる、初対面のはずなのに楽しそうに喋れていたのは響也も日菜と同じく考えるより先に行動に出るタイプで同じ感覚派同士近いものを感じたからだろう

 

「文化祭の時に少し話をしただけで教室まで来るなんて誰も思わないだろ」

 

「え?良い奴とはもっと話したくなるし会いに行きたくならね?」

 

「それはお前ら(感覚派)だからこそ思う事だ。流石に昨日の今日で会いに行こうとは思わないぞ」

 

「そういうもんかね〜?ま、いいや!取り敢えず午後の授業寝るとしますかぁ!」

 

「そこは嘘でも起きて受けるって言えよ」

 

そこで午後の授業の開始を知らせるチャイムが鳴り自分の席へと戻る、宣言通り授業中に爆睡した響也は教師からの暖かいお話(お説教)を受けていた

 

 

 

 

日菜サイド

 

(あ〜楽しかったなぁ)

 

神峰、響也と別れたあたしは自分の教室で授業を受けている。昼休みはとってもるんってきたなぁ始めて話たけど響也は表裏がなくてでからかいがいがありそうだし話してて楽しかった

 

神峰の話も少しだけど聞けた、でも元々の目的だった神峰とは話せなかったなぁチラッと見たけど文化祭の時屋上で見た時とおんなじ顔してた、あの顔されちゃうとお姉ちゃんを思い出して話しかけられなくなっちゃう

 

響也はそんなあたしを見て「悪りぃな日菜、神っちは考え事してると周り見えなくなるんだよ」って言って神峰に話しかけてた。そこからあたしは神峰と響也に放課後一緒に帰る約束をして別れた

 

昼休みが終わって今は授業中、いつもと変わんない退屈な時間。あたしは教師の声を聞き流しながら考えてた、今更だけどなんであたしは神峰に会いに行ったんだろう?

 

モヤモヤを解消したいって気持ちはあったでもそれだけじゃないよね、う〜ん考えてもわかんないなぁってまたモヤモヤが増えちゃった。あ〜あ、テストの問題ならすぐに答えが分かるのに

 

結局午後の授業は考え事で潰しちゃった、今は放課後であたしは神峰のクラスに行き教室へ入ると二人は帰りの準備を済ませてあたしを待っている様子だった、あれもう一人いる?

 

「ごめんね〜神峰、響也!少し遅くなっちゃった!」

 

「いんや、こっちもさっき終わったところだから気にしなくていいぜ」

 

「そうなんだ〜待たせたわけじゃないんだね、それなら良かった。それでそこにいる人は誰?」

 

あたしがそういうと響也は紹介しようとしたけどその人に片手で止められてあたしの方を向いて名乗ってくる

 

「お初にお目にかかります、私名を暁十六夜と申します、所轄快楽主義ではございますが用法と容量を守り適切な態度で接してくださると幸いです」

 

執事風に自己紹介する暁、なんだか様になってる暁をぼーっと見てたら響也が微妙な顔して言う

 

「十六夜、お前がその喋り方すんの超絶似合ってないぜ?」

 

「…超絶とかきょうびきかねぇな響也、口調についてはわざとだから気にすんな。驚いた顔が見たくてやったが期待通りで良かったぜ、さて改めて暁十六夜だ。以後お見知り置きを?」

 

悪戯っ子が浮かべる不敵な笑顔をこちらに向けて言う十六夜、あたしは驚きから立ち直って自分も名乗る

 

「…うん!暁十六夜だね、十六夜って呼んでいい?あたしは氷川日菜、日菜ってよんでよ」

 

「OK十六夜でいいぜ日菜、にしても響也と神峰から聞いたが朝と昼は屋上でサボッていなかったんだよなぁ、こんな面白そうな事起こってんなら俺を呼べよな響也?」

 

「授業中にどうやって呼び出せばいいんだ…「んなもんスマホでに決まってんだろ?」授業中にスマホいじるわけねぇだろうが!?」

 

昼休み話した時には思わなかったけど響也って変なところで真面目なんだ

 

「中学時代散々悪戯してた奴が何を言ってんだよ」

 

「ちょ、神っち!?それは言わない約束だろ!?」

 

「した覚えもないしなんなら日菜には昼食の時に話してたような気がするけどな」

 

そうだけどさぁ!って言う響也をスルーして十六夜は鞄持って

 

「さてと、今日はCiRCLEでのバイトはないし日課の響也弄りは終わったし「おい」家でギターでも弾いとこうかねぇ?」

 

と言ってきた、十六夜もCiRCLEってところでバイトしてるんだ

 

「ギター好きだな十六夜、そんなに好きならバンド組めばいいのに」

 

「それについては前にも話したろ?ビリッとくるバンドがみつからねぇんだよ、てなわけで俺は帰るぞ、また明日な」

 

そう言って教室から出て行った十六夜

 

「なんだかるんって来るね十六夜って!」

 

「今思ったけど日菜のるんっと十六夜のビリッて似た感じするな神っち」

 

「どちらも感情表現の一種だろうな、俺達もでよう遅れたらまりなさんに悪い」

 

そう言ってあたし達は帰路についた、帰ってる途中でも話はしててとってもるんってくる。そしたら不意に響也が立ち止まった、どうしたんだろうって思って響也が見ている方向に顔を向けたらそこにはあたしのお姉ちゃんがこっちに歩いてきていた

 

 

 

 

神峰サイド

 

俺と響也、日菜で帰っていると響也が立ち止まった、「どうかしたのか?」と声を掛けつつ響也が見ている方向を見るとそこには日菜と似た髪色と顔をした女性がこちらに向かってきていた

 

「なぁ日菜、あの人ってーーー「お姉ちゃん!!」お姉ちゃん?」

 

響也が日菜に聞こうとする前に日菜がその女性に向かって走って行った

 

「日菜っ!いつも言ってるでしょう、いきなり抱きついて来ないで」

 

日菜が抱きついた事により驚いた様子の彼女彼女を咎めながら日菜を引き離している

 

「えぇ?いいじゃんお姉ちゃんに出会って嬉しかったんだもん!」

 

「それとこれとは話が別でしょう…それに…っ日菜あそこにいる方々は?」

 

そこで俺と響也に気づいたらしい女性は日菜にそう質問しする、それが俺には本来言おうとしていた言葉を飲み込んだ様に聞こえた

 

「ん?あ、そうだ紹介するね!あそこにいるのは神峰翔太と乾響也、今日友達になって一緒に途中まで帰ってるんだ〜」

 

「日菜のお姉ちゃんか、日菜が言ったけど俺が乾響也だ!」

 

「神峰翔太です」

 

「初めまして氷川紗夜です、妹と仲良くしてあげてくださいね」

 

よくある挨拶の仕方、愛想笑いを浮かべながら言った言葉が俺にはそれが酷く歪に視える

 

「勿論!話してて楽しかったしもっと仲良くなるぜ氷川さん!」

 

「そうですか、なら良かったです。それと私と日菜は双子ですので敬語もいりませんし名前も紗夜で構いません、会ってすぐで申し訳ありませんが今日はこれから用事があるので私はこれで」

 

「え〜もっと話そうよお姉ちゃん!」

 

「今言ったでしょう?私は予定があるの、それに日菜は兎も角あの二人にも予定があるでしょうし無理に引き止めるのは迷惑よ」

 

それじゃと言って紗夜さんは去って行った、少しの沈黙の後に「残念、それじゃ行こっか」と言って歩き始めた日菜、それについていく俺と響也

 

道中で紗夜さんについての話になり曰く「あたしの自慢のお姉ちゃんなんだぁ」と目を輝かせながら言う、だけど俺にはその目に影が差しているように見えた

 

そうして俺達はCiRCLEへとついて「それじゃまた明日ね神峰、響也!」と言って日菜と別れた

 

CiRCLEへと入るとまりなさんがカウンターにいて話しかけてくる

 

「やぁ青少年達、元気にしてるかな?」

 

「おっすまりねぇ、今日も元気だぜ!!」

 

響也はまりなさんの事をまりねぇと呼んでいる、別に血縁関係があるわけじゃないが「なんかまりねぇって呼び方の方がしっくりくる」と響也は言っていた。まりなさんもまんざらでもないらしく弟の様に響也を可愛がっている

 

「おぉ、いいねいいねぇ若者はそうでなくっちゃ神峰君も響也君みたいに返してくれると嬉しいんだけどなぁ」

 

とこちらをチラチラ見ながらいってくるまりなさん

 

「…返しませんよそれに青少年とか、若者って言い方自分が年増だって言ってるようなものですよまりなさん。それじゃ着替えてきます」

 

「ついにはっきりと年増って言ったね!?」と言うまりなさんの声を聞きながらスタッフルームへと入る俺と響也、着替え終わりカウンターに戻るとまりなさんがポスターを貼っていた

 

「まりなさんそれは?」

 

「ん?あぁこれ?これはね今度CiRCLEで行うバンドイベントのポスターだよ。ここ最近はガールズバンドが人気になりつつあるけどこのイベントではガールズバンドだけじゃなくて参加したいバンドは大歓迎!って形で行おうって思ってるの」

 

「へぇ、面白そうだなまりねぇ!」

 

「うん、まだ参加してくれるバンドは少ないけどこれからもっと増やしていくつもりだよ!」

 

そこから今日の業務についての話を受けそれぞれの場所に移動した、俺はお客が来るまで清掃を響也は今日来る客が使う機材の持ち運びだ

 

今はスタジオに向かう廊下を清掃しておりその中で俺は考えるさっきの紗夜さんと日菜について、今日会って分かった。日菜の心にあるあの鏡越しにいる人物、あれは紗夜さんだ

 

分かった理由については紗夜さんの心を見たから、彼女の心はただがむしゃらに走り続けていた。道先も分からぬままに後ろから迫ってくる姿の似た影法師から逃げる様に

 

紗夜さんの後ろには彼女が歩いてきたであろう足跡とやってきた事の映像がいたるところに刻まれていた。それを見て分かった事がある、紗夜さんはいつからか他人に言われるようになった筈だ「姉より妹の方が出来るんだ」と、自分が先に始めたのにもかかわらず後から始めた妹に瞬く間に先を行かれるそれが耐えられなくて、比べられる事が辛くてやっていた事をやめてしまうそれが心に現れた結果があの足跡、現に歩いた足跡は中途半端に途切れたものばかりだ、その箇所から見える映像も最後には日菜に越されるところで終わっていた

 

そして日菜にとって姉は光なんだ、だからこそ姉がやっていることはなんでも光って見えるし、楽しく見える。だからその光を求めて自分も同じ事をやるが才能()がその輝きをも奪ってしまう

 

試行錯誤、努力、研鑽、その全てを奪い去るそれは出来たという結果だけを残しそこに至るまでの輝いていた過程の全てを消し去る。双子で先に生まれただけで姉という立場になった紗夜さんにとってそれは苦しく辛い事なのだろう

 

だが同時に断言出来る、紗夜さんは日菜と仲のいい姉妹でありたいと思っていると。その証拠に影法師を時折惜しむように、悔やむように振り返り見ていた、今の自分には姉として誇れるものが何もない、ないが故に対等に話せる自信がない。だからこそただがむしゃらに走る、いや走らずにはいられないんだ

 

彼女に必要なのはきっと一緒に走ってくれて休む事を、弱音を吐く事を許容してくれるそんな仲間だろう

 

そして日菜に必要なのはーーー

 

「お〜い、そっち終わったらこっち清掃お願いしていい〜?」

 

そこまで考えているとカウンターからまりなさんの声が聞こえた「わかりました!」と返事をして考えを中断、あと少しだった廊下の掃除を終わらせカウンターに移動する

 

「すみませんまりなさん、お待たせしました」

 

「いいよいいよ気にしなくて。今日のお客さんが来るまでにまだ少しじかんあるからそれまでに終わらせてくれればいいよ」

 

「了解です」

 

「にしても前から思ってたけど神峰君って結構綺麗好きだったりする?清掃した箇所が新品みたいに綺麗になってるけど」

 

「そうですか?自分ではあんまり感じた事はないですね、けどここのバイト始めた時に清掃することが多かったので慣れたのかもしれません」

 

「あ〜確かに結構清掃させられてたねぇ私も始めた頃はそうだったからよく覚えてるよ」

 

ここのバイトでの登竜門かもねとくすりと笑いながら言ったまりなさんにつられ俺も少し笑う。するとまりなさんは目を見開いた

 

「神峰君が笑った顔見たの始めてかも、結構笑うと年相応になるんだね!いつもは少し大人びてるから結構新鮮かも」

 

「…俺だって笑うくらいはしますよ、それじゃ清掃に戻ります」

 

まりなさんに背を向け清掃を再開する俺、人の通りが一番多いカウンター付近は念入りに清掃する、そこから15分経って終わらせると丁度今日の客が入ってきた

 

「いらっしゃいませ」

 

とお辞儀をしつつ声をかけると

 

「神峰先輩、こんにちわ!」

 

と返ってくる、顔を上げるとそこにいたのはAfterglowの五人だった、因みに挨拶を返したのは羽沢だ

 

「いらっしゃい!ここのところほぼ毎日来てるね、練習もいいけど頑張りすぎないようにしなよ?」

 

とまりなさんが歓迎する

 

「大丈夫ですよーモカちゃんは頑張った分、ちゃんと食べて余計な分はひーちゃんに送ってますからー」

 

「酷いよモカ!?」

 

そんなやりとりをしていると奥から響也が出てきた重い機材を運んでいたせいか少し汗をかいている

 

「まりねぇ機材の運び出し終わったぜ」

 

「ありがとう、やっぱり男手がいると助かるね」

 

「あのくらいならお安い御用だぜ」と言ってこちらを、正確には一人を見て響也にしては珍しい嫌そうな顔をして言う

 

「使う機材とかでなんとなく察してたけど今日はAfterglowが使う日だったんだな」

 

その言葉に反応して一人がこちらも珍しく少し機嫌を悪くしたような顔をして言う

 

「そう言う響也先輩こそ今日はシフトの日だったんですね」

 

『ふんっ!』という声が聞こえそうな程露骨に首をそらす二人

 

「響也先輩とつぐ、相変わらずだね」

 

「内容としては少し笑っちゃうくらい子供っぽいけどな」

 

「その元凶になってる神峰先輩からは何か言う事ありますか〜?」

 

顔をニヤリと歪ませてそう言ってくる青葉、そんなの決まってる

 

「どうしてこうなった?」




全話投稿して1日経ったら評価バーが付いてて驚き少し経ったらお気に入りが前回から2倍に増えてて「ふぁ?」と思わず呟いたアルファディルです
かなり嬉しくて舞い上がってましたw
リア友からは先を読みたいと禁断症状と称してスタ爆もくらいましたw
今回のあとがきからお気に入りと評価バーしてくださった方々の評記を取りやめました、人数が人数だけにあとがきが長くなってしまうので(現時点で長いとか言わないで)
感謝は変わらずしてます、本当にありがとうございます!!
感想誤字脱字、そしてアンケートも宜しければお願いします!
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)


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op.5 差し伸べられる手

前回から2ヶ月空いてすんませんしたぁ!!
結構悩んで考えてたらここまで立ちました
それと1話の学級委員長との会話で「誰とも関わらず〜」と言うところを「あまり人と関わらず〜」に変更しました
ではnp.5どうぞ!


op.5

 

お互い背を向けたまま動こうとしない二人、このまま時間が過ぎるのは二人にとっても他のメンバーにとっても良くないので仲裁に入る

 

「響也に羽沢そこまでだ、響也はバイト中だし羽沢はAfterglowで練習があるだろ?時間が限られてるから有意義に使った方がいい」

 

互いに背を向けたままの二人だったが俺がそう言うと『…神っち(神峰先輩)がそういうなら』と声を揃えて言った

 

「二人共、本当は仲いいんじゃない〜?」

 

静まりそうだった火種にそう言って燃料を投下する青葉、顔は人を揶揄う時によく使うニヤニヤ顔を浮かべていた

 

『絶対ない!っ真似すんな(しないでください)!』

 

お互い振り向き目を合わせてそう言う二人に青葉が言ったこともあながち間違いじゃないだろと思いつつ

 

「二人とも落ち着ついてくれ。上原、羽沢を連れてってくれ」

 

「は、はい分かりました。いこつぐみ!」

 

Afterglowのリーダーである上原にそう言い羽沢をスタジオまで連れて行ってもらう。上原、羽沢に続いて他のAfterglowのメンバーも同じくスタジオへと入っていく、それを見送ってから俺は響也に話しかける

 

「あんまり後輩に突っかかるな響也」

 

すると響也はムッとした顔を崩さぬまま俺の方へ向いて言ってくる

 

「い〜や、この事に関しちゃいくら神っちでも聞けないし譲るつもりも無い!これは俺のプライドの問題だからな」

 

「プライドも何も俺が恥ずかしいし、何よりバイト中は他の客の迷惑にもなるから抑えてくれ」

 

「…確かに、バイト中は良くないなバイト中は。分かったぜ神っち今度からバイト以外で「いやそこはもう口論しないって言えよ」…それは無理だな。つか今さっき言ったじゃんこれは俺のプライドの問題だって」

 

そこで今まで状況を微笑ましく眺めていたまりなさんが声をかけてくる

 

「いやぁ青春してるねぇ。二人共初めてあった時からこんな感じだったもんね、見慣れちゃったよ」

 

「そこは見慣れないで欲しいんですが。というか止めてくださいよ先輩として」

 

「う〜ん、本当に仲が悪いってわけじゃないし喧嘩するほど仲いいってやつだよ」

 

と本心からそう思って言っているまりなさん、俺も止めに入ってはいるがそこまで二人が険悪なわけじゃない。二人を視ても互いを牽制しつつある共通の事では認め合っている様だった、表には決して出そうとしないが

 

「それにしても…」と言葉を区切って俺の方を見るまりなさん、その表情はどこかさっきの青葉を連想させたーーーー人を揶揄う時の青葉を

 

「いやぁファンがいるって大変だね〜神峰君!」

 

「揶揄うのはやめてくださいまりなさん」

 

にやにやしながらそう言ってくるまりなさんにそう言い返す、響也は何か考え事をしているのか腕を組み唸っている、そもそも二人がこうなっている原因はさっき青葉が言っていた通り俺だ。と言っても俺が何かしたというわけでは無い

 

二人が初めて会った日、響也が自己紹介で俺のファンだと宣言しそれに同意するように何故か羽沢もファンだと言ったのだ。冗談を言う娘には視えなかったしその心に嘘もなかった

 

経緯については初めて会った時に俺が弾いていたピアノと歌声だったらしい、本人を目の前に言うのは恥ずかしかったのか顔を赤くしていた。心の方はその時のことを思い出しているのかシアターの様なものが映し出されそれを仮面の内側にいる羽沢全員が見ていた

 

羽沢が見る中シアター内の俺の映像から何か透明なもの(・・・・・)が飛び出し羽沢に向かって伸びていく、それが羽沢に届く前に響也が「いやいやいや、神っちのピアノも確かにすげぇけど一番はベースだろ!」と言い和やかだったムードは一転張り詰めたものに変わった

 

羽沢に見られなかった対抗心を表す盾と矛を持ちそこからは今の様にひたすら喧嘩口調になっている。結局あの透明なものがなんなのかは分からずじまい、先日も

 

「確かに神っちのピアノは凄い、優しくて包まれるような音だ。けどなぁ!それを超えて余りあるのが神っちのベースなんだよ!そもそもつぐっちは神っちのベース聞いたことないだろ?つかこの会話何回目だ!?」

 

「確かに私は神峰先輩が奏でたベースを聞いた事が無いです。それでもピアノが二番と言うのは聞き捨てなりません、これだけは譲れませんので!」

 

と口論していた。俺がいる目の前でやられるのは気恥ずかしいのでやめてもらいたいのだが

 

羽沢が何故あそこまで反論しているのかは分からない真面目で芯の通った性格をしているせいか自分が経験していない事に対し断言できないというのもあるがそれだけでは無いとどこかで確信している自分がいる

 

そして響也が言っているベース、俺が前世からやっている楽器だ。始めた影響はとある漫画からだがそこからどんどんはまっていき転生した現在も弾いている、と言ってもここ最近では弾く機会は目に見えて減った

 

前に一度響也とセッションをした事があったがその時は興奮気味に「今までやった中でいっちばん楽しくて最っ高の演奏が出来たぜ神っち!!」と言っていた

 

確かに楽しかった、あの時は自分の(共感覚)自身の事(転生者である事)も忘れただただ演奏に没頭していたのを覚えている

 

だがその後すぐに俺がこの世界に絶望し響也と再びセッションする事はなかった、いや避けていたんだと思う

 

「ん〜〜〜あっ!いいこと思いついた!まり姉、このバンドイベントってまだバンド募集中なんだよな!?」

 

「え?うん、さっき言った通りまだ募集中だよ、開催するのは1ヶ月後だしね」

 

ありがとうまり姉と言って俺の方を向き響也は言う、それは先程自分が考えていた事にも関係していて俺は内心驚いた

 

「神っち、俺と一緒にこのイベントに参加しようぜ!!」

 

「…なんでだ?」

 

「いやさ?あぁは言ったけどつぐっちの意見もその通りだよなって思ってさ、だから神っちのベースを聞かせたいと思ったけどベースだけじゃ味気ないから俺も入ってバンドって感じでやりてぇなって、歌はもちろん神っちだけどな俺音痴だし」

 

それにまぁといって続ける響也、今言ったことに嘘偽りは視えなかった。けどこれは響也の本心じゃない、これから言う事が響也の本当の理由だろう

 

「本心は俺が神っちとまた音楽したかっただけだ。さっき言った事が嘘ってわけじゃねぇけどさ、もちろん神っちが嫌なら無理強いはしないぜ?どうかな神っち」

 

真剣な眼差しと心でそう言ってくる響也、それに対して俺はどう答えればいいのか考える。イベントとなればそれこそ多い人の心を視る事になる、それに耐える事が果たして俺にできるだろうか?その中で演奏をする事が出来るだろうか?

 

…いや違うな、俺は自嘲気味に笑う。響也は自分の本心で俺とまた音楽をやりたいと誘った、なら俺も本心で答えるべきだ。それが響也対する最大限の誠意だと思うから

 

「…メンバーは?」

 

「ダメか〜ま無理強いはしないって言ったしな分かったぜ神っ…へ?」

 

呆けた表情をしながら俺の方を見てくる響也、この様子だと俺が断ると思っていたんだろう

 

(ベース)響也(ドラム)だけなら結局味気なさは変わらないだろ?最低でもギターとキーボードくらいはいた方が…「ちょ、ちょっと待ってくれ神っち!!」…なんだよ」

 

「え?って事は神っちやってくれるのか!?」

 

「なんで響也が誘ったのに誘った本人が驚いてんだよ」

 

「あ、いやだってさ前に一回セッションした後一回もセッションしなかったし神っちもあんまベースやってなさそうだったから断られるかなって、でもやってくれるんだよな神っち!」

 

「あぁ」

 

「よっしゃぁぁぁぁ!!また神っちと出来るんだよな!?そうと決まれば後はギターとキーボードだな、あてはある早速いくぞ神っち!」

 

そう言ってCYCLEから出ようとする響也をまりなさんが後ろの襟を掴んで止める

 

「クェ!!?」

 

首が少ししまったのか咳き込みながらまりなさんを恨めしそうに睨む響也

 

「ま、まり姉!いきなり掴まないでくれよびっくりすんじゃん!」

 

「大事な話をしているようだったから黙ってたけど響也君、今自分が何をしてるか…分かるよね?」

 

心も顔も笑っているのに何故かプレッシャーを感じるまりなさんの表情、これが創作物で出てくる「いい笑顔」かと客観的に見ていると少し青ざめた響也が謝罪をする

 

「…!ごめんなさいまり姉!そういやバイト中だった。…昔から一つの事に集中すると周り見えなくなるから気を付けないとなぁ」

 

するとまりなさんは先程のいい笑顔から普通の笑顔へ変えると

 

「響也君?何かに対して一生懸命に出来るのはいい事だけど少しだけ周りの事も見れるようにしよね」

 

と言った、おっす!と響也が言いバイトに戻り俺も残っていた業務(掃除)を片付ける為にカウンターを後にする、それにしてもあてはあると言っていたが後二人は誰なんだ?

 

 

 

 

 

響也サイド

 

よしよしよーし!神っちとまた音楽が出来る!!俺は今テンションが上がっていた、中学に上がる前一回だけ神っちのベースとセッションした事がある。その時俺は神っちのベースと歌声に心底感動した、神っちの音と歌声には他の奴とは違う何かがあるとその時感じてそこから俺は神っちのファンになった

 

けどそこからまたセッションする事はなかった、理由は神っちは変わったからたまに見えていた何かに怯えるような表情を常に浮かべてクラスメイトを、いや人を避けるようになった

 

俺の事も最初は避けていたけど俺は神っちから離れなかった、今離れたらもう二度と神っちと音楽ができないような気がして、たった一回演奏を合わせただけだけどあの瞬間の楽しさは今でも覚えてる

 

何より神っちが笑っていたんだ、神っちと会った時から俺は神っちが心の底から笑った顔を見た事が無かった、けどあの時は違った。神っちはそこから音楽を避けるようになったけど本当は誰よりも好きなはずだ、じゃなきゃあんな笑顔を浮かべられるわけがない

 

神っち自身は無意識だったのか俺が指摘したら「笑ってなんかいない」って否定してたけどな

 

あの顔をもう一回見たい、そして神っちと音楽をしたい。あの時は二人だけだったけど今度はちゃんとしたバンドとして演奏したい

 

そのためにはまず彼奴らの説得からかだなぁ、どうしよ?一人は大丈夫な気がするけど彼奴はなぁま、なんとかなんだろあの二人なら前よりももっと凄え演奏が出来るだろうしな!

 

っとそうだった、その前につぐっちに言っとかねぇとな。元々つぐっちに聞かせるつもりだったわけだし

 

そこまで考えているとAfterglowのメンバー達がスタジオから出てきた

 

「あ、響也先輩!バイトお疲れ様で〜す!」

 

「おっすひまり!そっちこそ練習お疲れ様他の四人もお疲れ様!」

 

そういったらモカがいつも浮かべてるニヤニヤ顔をしながら

 

「いえいえ〜いつも通りモカちゃんちょー頑張りましたよ〜」

 

って言ってきた、実際そうなんだろうけど…何つーか

 

「…モカが言うと本当かどうか怪しいな」

 

「え〜?ひどいですよ響也先輩〜モカちゃん泣いちゃいそうですシクシク」

 

手を目元まで上げて泣くふりをする青葉、でもまぁ

 

「そんな棒読みで言われてもなぁ、っとつぐっち!「…なんですか?」今日カウンターについてあったポスター、見たかどうかわかんねぇけどそれに俺と神っち、後二人プラスして4人で出る事になったから、神っちはベースとボーカルで俺はドラムで出るから来てくれよな?もちろん他の四人もな!」

 

俺が言うのも何だけどいきなりいったせいか全員疑問を浮かべてる中真っ先につぐっちが

 

「…神峰先輩が出るんですか!?」

 

俺に詰め寄ってきてそういった、なんか怖ぇんだけど…このプレッシャー、さっきのまり姉みたいだ

 

「本当に神峰先輩が出られるんですね?そのイベントに、嘘だったら許しませんよ?」

 

「お、おう勿論!神っちのベースがどんだけすげぇか見せてやるから覚悟しとけよ!」

 

う、動揺して少し声が上擦ったな

 

「はい、楽しみにしてます!」

 

あれ?さっきの様子が嘘みたいにすげぇ笑顔なんだけど一体どう言う事だ!?

 

「それじゃあ私達はカウンターに行きますね、それではまた、響也先輩。みんないこ」

 

あれ効果音がつくとしたら日菜のるん♪じゃねぇか?そんぐらいうきうきに見えるんだけど、てかすれ違いざまに「神峰先輩の歌と演奏をまた聴けるんだぁ」って言ってたから笑顔の理由はそれだろうな

 

俺も神っちのファンではあるけどつぐっちは俺と同じくらい神っちの奏でる音楽が好きなのかもな

 

…いやつっても勿論1番は俺だけどな!!?それだけは譲らないぜ絶対に!

 

さてと明日は二人の説得だな、絶対に彼奴ら引き込んで四人でやるぞ!

 

そう俺は意気込んで明日を今か今かと待ち望んだ…待ち望み過ぎて一睡もしなかったのはここだけの内緒だ

 

…神っちには速攻でバレたけど




日間ランキング55位にいったの驚き過ぎて「はぁ!?」ってなりましたw
これも皆さまのお陰です
響也視点は「!」が多いですが筆者のこだわりですw感情を表に出しやすい響也らしいかなとw
区切りが良かったのでここで一旦終わりですが次回はいよいよ神峰達のバンド結成&演奏です!
内容は考えてあるのでなるべく早く投稿できるようにします!
アンケートも宜しければ!
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)


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op.6 掴んだ手、集まる仲間

2ヶ月お待たせしてすみませんした!(土下座)
いやもうほんと、ここまでストーリー考えるのに苦労したのは初めてでした
文字数も1万超えましたし新キャラもまたでます!
ではどうぞ!


op.6

 

CiRCLEでのバイトが終わり帰り際に響也から

 

「明日は残り二人を誘いに行くから昼休み空けといてくれよな神っち!」

 

と言われた、結局後二人が誰なのかは分からないまま次の日を迎え学園へと向かう道を歩いていると響也の声が聞こえてきた

 

「神っち〜!!」

 

「なんだ響…」

 

後ろを振り返りつつ返事をすると響也が俺に向かって走ってきていた、スピードも落とさずこのまま突撃してきそうだったので一歩分身体を横に引くと響也は十数メートル走ったところで止まった。朝から何であんなにテンション高いんだ響也のやつ

 

「なんで止めてくれないんだよ神っち!」

 

止まってから俺のところに再度走って来て(今度は突撃しようとせずゆっくりと止まった)問いかけて来る

 

「運動部顔負けの運動量を誇る響也の突撃を帰宅部の俺が止められるわけないだろ、それじゃなくても普通に怪我する」

 

事実響也は部活にこそ入っていないが事運動に関しては部活をやってる人よりも動ける。そんな響也と同じかそれ以上に動けるのが十六夜で2人がテニスなどの一対一のスポーツをすると観客が着くくらいには盛り上がる。どうして帰宅部の2人がそこまでできるのかは謎だが

 

「いやいやそれは流石に…うん、確かにそうだなすまん神っち」

 

想像したのか冷静になり謝罪して来る響也、ここにいつまでも立ち止まってるわけにはいかないので歩きながら話を続ける

 

「次しなければそれでいい。それにしても響也、お前昨日寝てないだろクマができてるぞ」

 

俺がそう言うと身体をビクッと震わせる響也、そして後ろ頭を掻きながら苦笑を浮かべつつ理由を言うその姿はいたずらがバレた悪戯っ子のようだ

 

「いやぁ神っちにはお見通しか、昨日神っちとまた音楽出来ると思ったら興奮して目が覚めちまってさ。後今日誘う二人をどう誘ったもんか悩んでたらいつのまにか朝に…」

 

「寝不足は体調を悪くするからやらない方がいいぞ、それでまだ俺は誰を誘うのか聞かされてないんだが…結局誰なんだ?」

 

響也は少し考える素ぶりを見せると目を細め口元をニヤリと浮かべながら

 

「いやぁそこを言ったら面白くないじゃん?まぁ昼休みまでのお楽しみって事で!」

 

と言って来た、こう言う時の響也にはこれ以上聞いても答えない事は長い付き合いの中で知っているから「なら楽しみにしてる」と答え話題を変え話を続けていると後ろから俺達二人を呼ぶ声が聞こえる。声のした方向を見るとそこには日菜がこちらに向かって手を振りながら走って来ていた、俺達に追いつくと「おはよう響也、神峰」と挨拶をしてくる

 

おはよう(おっす!)日菜」

 

「二人が見えたから走って来ちゃった、何か楽しそうに話してたけどどうしたの?」

 

「フッフッフッよくぞ聴いてくれた日菜!実はまだ先の話だけど俺と神っち、後二人加えてCiRCLEのバンドイベントへ出る事になったんだ。今日の昼他の二人誘いに行くんだけど神っちと音楽出来るのが楽しみすぎてさそれで昨日からテンションマックスなんだよ!」

 

「へ〜そうなんだ、響也と神峰って楽器出来たんだね」

 

「おう!俺がドラムで神っちがベースとボーカル、んでもって今日ギターとキーボードのメンバーを誘いにいくってわけよ!」

 

成る程ね〜と少し考える素ぶりをしてから響也に対して問いかける日菜

 

「でもどうしてそこまで楽しみなの?神峰と音楽したいだけならスタジオとか借りればできると思うけど」

 

「ちっちっちっ分かってないぜ日菜、俺は神っちと今俺が考えられる最高のメンバーでそれを多くの人に聞いてもらいたいんだよ。そうだ!なんなら当日見に来てくれよ、俺が今言った事の意味がわかると思うから」

 

う〜んと考える日菜、鏡越しでこちらを見ていた心は何かに突き動かされるように体は鏡を向けたままこちら側に振り向いている

 

「いいねるんってきそう!いつなのそのライブ?」

 

日菜の心、基本的にはほとんどの関心が姉に向いておりそれを超える何かがあった時、()から目を離しこちら側を向く。それが日菜の言う「るん」なんだとこの時感じた

 

「え?えーと、いつだっけ神っち?」

 

「そんな事だろうと思ってまりなさんに聞いておいた、来月の第二土曜日だ」

 

響也は一つの物事に集中するあまり周りが見えなくなってしまう場合がある(俺も考え事をしているとそうなるから人のことはあまり言えないが)今回は自分で言うのもおかしいが俺と音楽を出来る喜びで日にちについて聞くのを忘れているだろうと思い昨日のうちにまりなさんに確認しておいた

 

「特に予定もなさそうだしいいよ!楽しみにしてるね」

 

「おうさ!楽しみにしておいてくれ!ま、まずはメンバー集めからだけどな。こうなりゃ善は急げ、昼休みに二人とも声かけようと思ったけどやっぱあいつは先に誘っとこう。てなわけで行くぞ神っち!!」

 

そう言って響也は走り出してしまった

 

「な、おい待て響也って聞こえてないな。悪い日菜先に行く」

 

「ううん、いいよ気にしなくてそれに…」

 

そこまで言いながら軽くストレッチをする日菜まさか…

 

「私もついて行くから!なんだかるんってきそうだし行こ、神峰!」

 

響也と同程度のスピードで走り始める日菜、響也はともかく俺はそこまで体力に自信があるわけじゃないんだが…そう思いながら後を追いかける為に走り出す。追いつける気は全くしないけどな

 

 

 

 

響也サイド

 

ふ〜走った走った、校門前で止まった俺は後ろを振り返る…あれ?後ろから日菜はくるけど神っちは?…やばい、これもしかしなくても置いてきちまったよな

 

俺は少し、本っっっ当に少しだけ震えながら日菜が来るのを待つ

 

「ふぅ、響也早いね!あたし結構体力には自信あったんだけど全然追い付けなかったよ〜」

 

「お、おうよ、これでも体力には結構じ、自信があるんだぜ?」

 

「なんか響也震えてない?そういえば…神峰が着てないねどこ行っちゃったんだろ?」

 

いや俺達が置いてっただけだぞってツッコミつつ神っちの到着を待つ。さて、なんて謝ろうかな!?

 

神っちあんまり怒る事無いけど怒らせると本っ当に怖いからなぁあれは絶対神っちのお母さん譲りだ。笑顔を浮かべながら怒る様もそっくりだし

 

俺達が到着してから数分後神っちも合流した。日菜は俺を追い掛けての事だけど俺は完全に一人歩き、この場合一人走り?兎に角謝らないと

 

「ごめん神っち!また暴走しちまった!」

 

息を整えながら俺をジッと見てくる神っち…視線が痛い。すると神っちは小さくため息を吐くと俺に話してくる

 

「………まぁいい、悪気がないのはいつもの事だし、けど体力面でそうなるのはやめてくれ俺がもたない」

 

「え、怒ってないのか神っち?」

 

「響也が物事に対して一生懸命になり過ぎて暴走するのは今回が初めてじゃないし慣れてるからな、それに…音楽をやりたくて仕方ないと思う気持ちは分かる」

 

俺は内心少しだけ驚いた、神っちはあの時以来音楽を避けていたから。そんな神っちが音楽をまたやりたいと思うようになってくれてそうなったのが俺じゃなくて他の誰かのおかげだと思うと少しだけ悔しい

 

でもま、ここからは俺のステージ…いや俺達のステージだ。彼奴らを説得して絶対にバンド結成してやるぞ!

 

「ごめんそしてありがとな神っち、それじゃメンバー勧誘に向けて全速全身だ!」

 

…なんかいいなぁこういうの

 

俺が教室に向かって歩き出して二人も後ろからついてくる、日菜がなんか呟いてるように聞こえたけど小さ過ぎて聞こえなかった俺はそのまま教室へと入った、一人目は同じクラスの奴だと歩きながら話したから日菜も連いてきたんだけど…

 

「…いねぇな彼奴、まぁた屋上で昼寝でもしてんのか?てなわけで行くぞ神っち、日菜!」

 

「響也が誰を誘おうとしてんのか今のでわかったが彼奴、十六夜が応じてくれるか?」

 

「屋上で昼寝ってだけでわかってしまうくらい十六夜のイメージ神っちの中じゃ定着してんのな。まぁ彼奴バンド組んでないって話だしなんかいける気がするんだよ、勧誘はもちろん俺がする。取り敢えず屋上行こうぜ神っち、日菜」

 

そう俺が誘おうとしてた一人目は十六夜だ、ギターのセンスは同年代じゃずば抜けてるし彼奴も神っちと同じで何かある、十六夜の演奏を聴いてそう感じた俺はバンドを組むならギターは十六夜しかいないって思ってた。それに十六夜がたまに見せる目も神っちと似てる、退屈でそれでいて何も出来ないでいる目、あんな目はもうさせない

 

そんな事を考えながら十六夜がいる屋上に来た、なんで断言できるのかは十六夜は基本誰よりも早く来て屋上で昼寝をしているのを前話した時に知ったからだ。なんで屋上にいるんだよって聞いたら

 

「退屈でしかねぇ教室の授業より空眺めてる方がビリッと来るからな」

 

って言ってた。意味はよく分からなかったけど十六夜のその退屈取り払ってやるぜ!

 

いーざーよーいー!!

 

ドアを勢いよく開けて屋上に出た俺は十六夜が好んで使っている長椅子に目を向けると案の定横になって空を見てた

 

声をかけた俺の方を欠伸しながら見つつ返事をしてくる十六夜

 

「…ふぁ、ん??神峰に響也と日菜か、昨日いた奴らが揃い踏みで一体全体どうした?」

 

「おはよう十六夜!響也と神峰が用事あるみたいであたしはそれについてきただけだよ」

 

「俺もほぼ響也の付き添いだ」

 

「そう言うこと!それで十六夜に面白い話、もとい勧誘にきたんだ」

 

「…ほほう?」

 

十六夜の目が変わる十六夜はロマンがある話や面白そうな話、十六夜が言う所の「ビリッ」と来る話に目がない。一見騙されやすそうに見えるけど十六夜は相手の本質?が分かるらしくて曰く「俺を騙せるのは俺だけだ」って自慢げに言ってた

 

「面白そうな話…なぁ?成る程、響也と神峰のバンドへの勧誘か?」

 

「な、なんでバレたし!?」

 

「なぁに簡単な話だ響也が神峰と音楽をやりたがっていたのは前に聞いていたしな、それにさっき響也は勧誘と言った、ならバンドを組むために俺を誘ったんだと考えただけ、あとは感だ」

 

会った時から感じてたけど十六夜って察し良すぎだろ、でもわかっているなら話は早いぜ

 

「なら話は早い!それでどうだ十六夜?俺達のバンド…つっても俺と神っちしかまだいねぇけど入ってくれないか?」

 

「…そうだな」

 

そこで言葉を区切った十六夜は俺と神っちを見てから不敵に口元を歪める

 

「いいねぇそいつはビリッと来る、その話乗らせて貰うぜ(響也のドラムは聞いた事あるが神峰の演奏と歌声は聞いた事がねぇ。だが神峰も俺と同じくアレ(・・)を持ってると感じる…ヤハハハビリッと来るじゃねぇか)」

 

「…おぉ!?よっしゃあああ!これで後1人、あいつをメンバーに加えれば最っ高のメンバーの完成だぜ!」

 

「よかったね響也に神峰、それで後一人は一体誰なの?」

 

「ん?あ〜つってももうホームルーム始まっちまうし、昼休みに持ち越しだなぁ日菜は最後まで付き合うつもりだろ?「うん勿論!」…なら日菜の教室にいてくれ昼食も終わらせといてくれると助かるそいつだけは日菜のクラスにいるからな!」

 

「日菜と同じクラス…成る程、俺がギターでベースが神峰、ドラムが響也となれば後はキーボードだけ。それで響也の知り合いと言えば一人しかいないな」

 

「そう後一人はあいつだ、日菜と同じクラスで神っちはあんま関わった事ないやつなんだ…あくまで神っち個人はだけどな

 

あいつ神っちとバンドやるって言ったら飛びついてくるよなぁ、絶対表に出さないだろうけど。一応昨日のうちに昼休みに話があるとは言っといたけど

 

「最後の方なんて言ったの響也?」

 

「え!?い、いやなんでも無いぜ?」

 

あっぶねぇ今の聞かれてたのか、あいつの許可なしに神っちの事話すわけにはいかねぇしな

 

「ま、まぁ取り敢えず教室に戻ろうぜ!っておいこらなぁに二度寝…いや三度寝か?しようとしてんだ十六夜!お前も戻るんだよ!大体授業をサボろうとすんなや!」

 

響也って結構真面目だよね

 

悪戯っ子だった奴が言う事じゃ無い気がするけどな、それに響也は授業中寝てる事もあるんだが

 

なんか神っちと日菜が失礼な事言ってる気がするけど無視だ無視!

 

「ヤハハハだが断るこの暁十六夜の最も好む物の一つは正論を語る奴に対してノーと断ってやる事だ」

 

「はいはい、いいから行くぞ十六夜」

 

そう言って俺は十六夜の手を引っ張る

 

「安心しろただのジョークだ。だから引っ張るな響也、自分で歩ける」

 

そう言って教室へ歩き出す十六夜、そのあとを追って俺達3人は歩き出した。さて残るメンバーは後一人!気合い入れてくぜ!!

 

日菜と別れて教室に戻った俺達は午前中の授業が終わり昼休みに入った。授業中はなんでか意識がなかったけど気にしない!

 

昼食を神っちと十六夜で手早く済ませて日菜のいるクラスに移動する。十六夜は知ってるけど神っちは知らないよなぁ

 

「あ、3人ともこっちこっち!」

 

教室の前で待っていた日菜が俺達を見つけると手を振ってくる

 

「おっす日菜!教室で待ってても良かったのに」

 

「ん〜教室にいても退屈だしだったら待ってようかなって」

 

「退屈だからって十六夜かよ「おいこらどう言う意味だこら」そのまんまの意味だよ、それじゃ気を取り直して四人目勧誘しに行くぜ!」

 

と教室に入ろうとした俺を神っちが呼び止める

 

「響也待て、この人数で行ったら目立つだろ呼び出したほうがいいんじゃないか?」

 

「確かにそうだな、連絡してみるか」

 

そう言ってスマホを取り出して連絡をとると教室から一人の女子生徒が出てきた

 

「響也にしては人に気を使えたじゃん」

 

「なんで出会いがしらにんな事言われなきゃいけないんですかねぇ琴葉さんよ?」

 

いきなりなご挨拶をしてきた彼女は鈴原琴葉、少し前に関わる様になったんだけど…主に神っち関連で

 

 

 

 

数ヶ月前

 

神っちとAfterglowとの関わりを知ってから数日、俺は考えていた。どうやったら神っちとまた演奏ができるかなって

 

バンドって形でやりたいとは思うんだけど後一人、キーボードだけがいまだに見つからない。う〜んどっかにいねぇかなぁ!?なんて考えてたら一人の女子生徒に廊下で声をかけられた

 

「あんた乾響也よね?少し付き合って欲しいんだけど」

 

「ん?確かに乾響也は俺だけどそういうあんたはどなたさんだ?」

 

「あぁごめんごめん悪かったわ自己紹介が先よね、私の名前は鈴原琴葉。それで少し長い話になりそうだから場所を移したいんだけど」

 

「ん〜まいっか、んじゃ屋上に行こうぜ」

 

そう言って俺と鈴原は屋上へと移動した。まぁ初対面で言うのはなんだけど悪い奴には見えないし大丈夫だろ多分!

 

にしても話の内容はわかんないけどなんだろうな?屋上へと移動した俺と鈴原は向かい合って話を始める。つかこれ見るだけ見たら告白シーンみたいだな?そういう感じは全くしねぇけど!

 

「んで話ってなんだ?俺とあんたって初対面の筈…だよな?」

 

「まぁあんたからしたら初対面よね…こっちはあんたの事前から知ってるけど、会うのは小学生の頃以来だから忘れられててもしょうがないわね」

 

「エ?…いや全く記憶に無いんだが?」

 

そこで少し言い淀む鈴原

 

「悪い覚えてねぇ何処で会ったか教えて貰ってもいいか?」

 

「………ピアノ教室」

 

「へ?」

 

ピアノ教室?俺がピアノ教室に行った事なんて無い筈だけど…あ、いやあるか一回だけ神っちの演奏を聴きに小六の時、え?もしかしてそん時に?

 

「もしかして神っちの…「そ、そうよ!神峰!神峰翔太の演奏会でその時私もいたの!別のピアノ教室に通っていて演奏会に参加してたの!その時神峰翔太と一緒にいたから覚えてる」

 

うお!?いきなりなんか語りだしたぞ!?つかキャラ変わってない?さっきまでちょっとクールなイメージしてたけど!?

 

てかあの時は神っちの演奏に感動して終わったらすぐに駆け寄っていったんだよなぁ確か、本格的な演奏会じゃなくてよかったけどあん時は神っちに怒られたなぁ。って今なら思い出せるけど

 

「いやいやいや一回だけ見に行った演奏会の出来事覚えてられるわけないだろ?神っちは…」

 

その後すぐにピアノ教室やめちまったし

 

「それでも私は鮮明に覚えているの!あの神峰翔太の演奏技術と何より歌声!そこから私は神峰翔太に憧れてより一層ピアノの打ち込むようになったの見識を広げる為にキーボードも初めてねそしてこの間神峰翔太の演奏と歌声をもう一回聞いてからもう我慢出来なくなって、それで…本題なんだけど神峰翔太とどうやったら仲良くなれるか教えて欲しい!」

 

な、なんかすげぇ饒舌に語ったな、ていうか

 

「そもそもの話、そのピアノ演奏会の時鈴原は神っちに話しかけたのか?それなら少しは俺の記憶にも残ってる筈だけど?」

 

俺の行動が目立ちすぎたのもあるけどその後誰かに話しかけられてる記憶はない…筈、そう言うと鈴原はなんか凄い表現し辛い顔をしながら話をする

 

「うぅそこを突かれると何も言えなくなる。あ、あの時は感動でそれどころじゃなかったの。高校で見かける事はあってもどう話しかけたらいいか分からなかったし印象が変わってて余計に…」

 

まぁ確かに小学と今とじゃ神っちの印象ってガラリと変わってるけど

 

「それでまずは神峰翔太の友達である乾響也と接触してみようかと…」

 

それ選択間違えてる気がするんだけど?つか

 

「そもそもなんで鈴原は神っちと仲良くなりたいんだよ」

 

もしかして神っちの事…

 

「…演奏してみたいの」

 

「演…奏?」

 

「そう演奏、神峰翔太の歌声に私の演奏を乗せて奏でてみたいの。どんな形でもいい神峰の演奏に関わりたい」

 

あれ?思ってたのと違った。でも…関わりたいか。その気持ちは分かる

 

「なら鈴原の演奏聞かせてくれよちょっと興味が湧いてきたからさ。んなわけで音楽室に直行だ!」

 

「え?何を言ってんのか分からないんだけど…ってもう行ってるし」

 

そう言って音楽室に向かい出す、俺が考えているメンバーの最後の一人、キーボードに鈴原がいいんじゃないかって思った。理由は神っちや十六夜と初めて会った時に感じた高鳴りを琴葉からも感じたからだ

 

その後神っちや十六夜の音を聞いてこの高鳴りは気のせいじゃないって確信した。だからこそ琴葉の音も聴きたくなった

 

音楽室へ移動した俺と鈴原は開いていた教室の中へ入った。なんか少し疲れた感じの鈴原を椅子に座らせてその横に俺は立つ

 

「あの、なんで私ここまで連れてこられたの?付いてきたのは私だけど。一応初対面よね?」

 

「ん?まぁ気にしない気にしない!それよりほらほら早く聞かせてくれよ鈴原の音を!」

 

我ながら結構強引だった自覚はあるけど聞いてみたい。鈴原の音を

 

「そこ結構重要だと思うんだけど。ってもういいや弾くよ、弾きますよ。だからその必死な顔やめて」

 

へ?俺そんなに必死な顔してた?

 

「してたわよ、まぁいいわ。それじゃ弾くわね?」

 

そう言って弾き始めた鈴原、弾いた曲は【春よ、来い】後から聞いた話だと神っちの演奏を聴いた二度目がこの曲だったらしい

 

やっぱり間違ってなかった

 

鈴原の演奏は一つ一つの音を丁寧にそれでいてただ音を出すだけの機械になるんじゃなくて琴葉自身の音も感じる

 

この時俺は確信した、最後のメンバーは鈴原だって。この四人なら今まで聞いたことのない様な演奏が出来るって

 

 

 

 

その後から俺は琴葉と関わる様になった。主にどうやったら神っちと仲良くなれるかの(結局琴葉から話しかけられずに今に至ってるけど、つか俺が仲介役しようとしたら土壇場で躊躇するし俺に話しかけた行動力はどこいったんだ…)関わる様になって気づいたけど琴葉ってクールというより言葉数がちょっと足りないって感じなんだよなぁ興味関心あるもの以外

 

「事実だから仕方ないでしょ?それで…!?(な、なななんで神峰がいるの!?)わ、私になんの様?他の人達は誰?」

 

俺の言葉に返す琴葉、言葉の途中で後ろにいる神っちに気づいたな。動揺で言葉が詰まって目は大きく開いてて分かりやすいぞ

 

それを見て神っちと日菜は今の疑問顔、十六夜は…うわ彼奴これだけでなんか悟ったな?変なことしなきゃいいけど無理だろなぁ凄えニヤニヤしてるし、取り敢えずそれは後回しにして説明しないと

 

「誘いに来たんだ。琴葉を俺達のバンドに!日菜は付き添いで俺と神っち事神峰翔太、こっちが暁十六夜でこの三人がメンバーだ、それでキーボード役に琴葉を勧誘に来たってわけ!!」

 

そこまで言うと琴葉は一瞬神っちに視線を送ってから俺に戻すと言葉じゃ伝えにくい顔をしながら話してくる

 

「キーボードなら私以外にも適任はいると思うけど?」

 

「神っちの事か?神っちはベース担当なんだよ。んで俺がドラムで十六夜がギターだ」

 

これはつぐっちにも言ったけど俺は神っちの真骨頂はベースだと思ってる、その演奏と神っちの歌声を俺達の演奏でもっと最高に、十六夜の言葉を借りるならビリッとくる音にしたい

 

俺の言葉に神っちが小声で「なんで俺がピアノ弾ける事を知ってるんだ?」って尋ねてきたけど後で説明するって言って濁した。説明難しくてなんて言えばいいかわかんねぇよ…

 

琴葉は暫く考える素ぶりを見せてから返事をくれた

 

「(神峰がベースを弾ける事は響也の話で知っていたけど私がキーボード担当で?それだけ神峰のベースはピアノとは段違いって事?って今はそんな事より私が好きなあの歌声に私の演奏を乗せられるのなら最高じゃない!…何よりあの歌声を間近で聞けるなら)ん、んん!!分かったその誘い受けさせてもらうわ」

 

「…おぉっし…フガ!?はひふんははひっひ!(なにすんだ神っち)」

 

喜びで叫びそうになった俺を口を塞いで止める神っち

 

「廊下で叫んだら態々彼女を呼んだ意味がなくなるだろ、気持ちはわかるが落ち着いてくれ」

 

コクコクと頷いたら解放してくれた神っち、すると神っちは琴葉の方を向いて自己紹介を始める

 

「響也からの紹介にも会ったとけど改めて、神峰翔太だ…えっと「鈴原琴葉、鈴原でいいわ(神峰に名前呼びなんてされたら絶対冷静じゃいられないし…)」分かったこれからよろしく鈴原さん」

 

「私は同じクラスだから知ってると思うけど氷川日菜だよ、日菜って呼んでね。名前で呼んでいいかな?「…構わないわ」うんっよろしくね琴葉!」

 

日菜も続いて自己紹介を終えると最後に十六夜が琴葉に近づいて話す

 

「初めまして、俺の名前は暁十六夜だ。これからよろしくな鈴原…大好きな神峰と一緒になれてよかったな?

 

後半何言ってんのか聞こえなかったけど絶対言わなくていい事言ったのだけは確かだな。琴葉のやつ顔赤くしてるし

 

「よ、余計なお世話よ!」

 

「おっとそいつはすまない、まこれからよろしくなこ・と・は」

 

顔、後ろにいるから見えないけど絶対ニヤニヤしてんだろ十六夜の奴。琴葉の機嫌が悪くなる前に話を戻さないと

 

「ん、んん!それで早速だけど今日の放課後練習したしたいんだけど三人はなんか予定ある?」

 

「私は特にないわ」

 

「右に同じく今日は何もないぞ」

 

「響也の事だから今日から練習するだろうと思って空けておいた」

 

「流石神っち!他の二人も何もないみたいで良かった良かった。となればまり姉に連絡してスタジオ空けといて貰おっと、幸い今日は誰もいなかったし」

 

そこで丁度昼休み終わり5分前のチャイムがなった

 

「うっわもうこんな時間かよ、取り敢えず放課後CiRCLEに集合で。琴葉は場所分かるか?」

 

「名前さえ分かれば後は自分で調べるから大丈夫よ」

 

「うし、なら神っちと響也は楽器取りに一旦帰るだろ?その後CiRCLEで合流って事にしようぜ」

 

「分かった」

 

「了解」

 

「分かったわ」

 

三人の返事を聞いてから俺は日菜の方を向く

 

「日菜はどうする?俺達のバンド最初のお客さんになるか?」

 

少し考えてから日菜は返事をくれた

 

「ううん、あたしはバンドイベントまで楽しみに待ってるよ。その方がるんってくるし」

 

「そっか、なら楽しみにしておいてくれよ?俺達の最っ高の演奏をさ!!」

 

「うん!」

 

日菜と琴葉と別れて俺達三人は自分達の教室に戻った、あぁもう放課後が楽しみすぎてしょうがねぇ!かなりソワソワしてたみたいで教師に「なんだ響也、トイレか?」って言われた。神っちと十六夜は俯いて必死に笑いを堪えてたな

 

何にしても放課後が楽しみだ!

 

 

 

 

神峰サイド

 

放課後、俺は自分のベースを家に取りに帰ってから手早く着替えを済ませて早々にCiRCLEへと向かった。道中響也と会って雑談しながら歩いているとCiRCLEについた。中に入ればロビーに十六夜と鈴原が来ており不敵な笑顔を浮かべならがこちらへと向かってきた十六夜、その後に続く様にして鈴原がやって来る

 

初めて会った昼休みから疑問に思っていたが鈴原が俺に対して目も心も向けてこないのは何でだ?俺に対してだけ()が俯いて視える

 

理由を知りたかったが今回ここに来た目的はあくまでバンド初の練習という事だから自重した

 

「おっす十六夜に琴葉!それにまり姉、二人共早いなぁ、つか遅刻の常習犯の十六夜が俺達より早く来たのには驚いたぜ」

 

「まぁ久々にビリッと来たからな、家にいても退屈だから少し弾いておこうかと思ってきてみたら俺よりも早く琴葉がいてまりなもいたから少し話をしてた」

 

後ろから「呼び捨てするなぁ?」と言うまりなさんの言葉に両肩を少し上げて応える十六夜

 

「へ〜そうなのか、なら早速スタジオに行こうぜ!まり姉!スタジオ空いてる?

 

響也の言葉に返事をして来るまりなさん

 

「うん、スタジオは空いてるし機材の準備もしておいたよ!」

 

「さっすがまり姉!んじゃ早速レッツゴー!

 

そう言って一目散にスタジオへと消えていった響也、気持ちはわかるがもう少し周りに目を向けて欲しいと考えつつこれが響也の良いところだと思う、後ろ向きに考えるのではなくて前を向き進み続けるその強さは凄く眩しく視える

 

「琴葉ちゃんも皆んなと頑張ってね〜」と言うまりなさんの激励に礼をしてスタジオへ向かう鈴原。今日が初対面の筈だが流石まりなさんもう打ち解けたのか

 

スタジオに入って今日やる曲について話合い先ずは個人で練習する、聞いてるとやはり長年やっていたのもあって個人個人のレベルが高い。そうして時間が経ち最後に全員で演奏する事になった

 

「よぉし、んじゃ最後に全員で合わせてみようぜ!」

 

響也の号令に皆んな頷き楽器を構える、響也の掛け声と共に演奏が始まる

 

「!!」

 

背中を押された感覚があった。音が衝撃となって全身を襲う、その勢いに乗るように自然と口が歌詞を歌っているそんな感覚だった

 

だけど何でだ?各々が高いレベルの演奏をしているのは分かる、だけど何かが足りない。まるでパズルのピースが一つない様に視える

 

それが当てはまれば最高の演奏になると言う確信があるのにそれがわからないもどかしさ

 

うおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

曲が終わり数秒の沈黙の後響也の絶叫がスタジオ内に響いた

 

「!?ちょっと響也、少し煩い(やっぱり神峰の歌声は凄いわ!こんなに間近で聴けるなんてなんていい日なの!?…でも)」

 

「いやだってすっげぇ良かったじゃん!最高だったじゃん!楽しかったじゃん!!十六夜はどうだった!?」

 

「ん?あぁなかなかに楽しかったぜ(何でだ?確かにいい演奏だった、聞いた事が無かった琴葉や神峰の音も申し分ねぇ。なのにビリッとこない、この違和感は何だ?)」

 

「だよな!?いやぁやっぱこのメンバーでよかったぜ!…つっても」

 

そこで響也は言葉を区切って皆んなを見てから言う

 

「やっぱりまだだな〜俺が思い描いてる演奏には程遠い。今日が初めてだからってのもあるけど…(やっぱり神っちには必要なんだな・・が)」

 

三人が三人共納得してなかった、俺自身も満足したわけじゃない。その日はそれで解散となり三人と別れてから俺は帰路につきつつ考えていた、今日の演奏は何が駄目だったんだ?勿論はじめて合わせてみた分まだ一体感がないのは仕方ないがそれを差し置いても何かが違う

 

結局違和感の正体は掴めぬままバイトと練習を積み重ねていきいよいよバンドイベント当日へと日は進んだ

 

そこで俺は見つける、自分達に何が足りなかったのかそして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺自身の愚かな、それでいて気付いてしまえばなんて事はない当たり前の事実に




どうだったでしょうか?
琴葉は憧れの人に会えて本当に内心テンパってますw
最後何やら不穏な空気、実は既に伏線として出しています(なお作者は意図してなかった模様)
最後にアンケートを取らせてもらうのでそちらもご協力お願いします
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)


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op.7 視える景色と視えていなかったもの

全話で
「えぇキーボードの練習に何度か行った事あるから」
と言う琴葉のセリフを
「名前さえ分かれば後は自分で調べるから大丈夫よ」
に変えました。その後まりなさんと初対面という描写を描いたのに何その矛盾?となったので
今回はバンドイベントスタート回です
それではどうぞ!


op.7

 

ライブ当日、CiRCLEに集まった俺達四人は控え室で出番を待っていた

 

他のバンドもいてフロア内には緊張で包まれている、各々がどういう演奏になるか失敗しないかなどの心配の心が視えていて俺自身もこの空気に少しのまれていた

 

「うーーーー緊張してきたなぁ皆んな!」

 

そんな中で響也が全くそうとは感じられない言い方をしながら話しかけてきた

 

「響也煩い、他のバンドもいるんだからもう少し静かに喋って」

 

「あ、やっべ声でかかった!気をつけないとな」

 

「その声が既に大きいんだけど…それでどこが緊張してるのよ」

 

鈴原のツッコミで他のバンドから笑い声が起こりフロア内の雰囲気が明るく、柔らかくなった。相変わらず響也は本人の意識、無意識に関わらず場を和ませる事が出来るな

 

それは響也自身の心、爆弾が爆発するかの様に感情を隠さず表に出す事で相手の不安や緊張などで詰み重なった物を吹き飛ばし、相手を前に進められる様に押すことが出来るからだ

 

誰でもできる事じゃないそれは響也だから出来る美点でかく言う俺も背中を押された一人だ。と言ってもそのほとんどは無意識、もっと言えば天然なのだが

 

「いやいやいや、これでも緊張してるぜ?でもさそれ以上に楽しみなんだよ今回のライブがさ。絶対最っ高のライブになるって確信してるから、つか十六夜が静かなんて今日は豪雨か?」

 

そう言われて椅子に座り目を瞑って沈黙していた十六夜が目を開いて響也に返事をする

 

「おいおい随分な言い方じゃねぇか、少し考え事をしてただけだ」

 

「え?十六夜が考え事!?今日本当に豪雨なんじゃ…」

 

「少なくても響也にだけは言われたくないんだけどな(結局当日まで来たが、違和感の正体は響也が話していた内容から予想程度にしか掴め無かったな。だがその予想が正しければ…ヤハハハ、ビリッとくる演奏が出来そうだ)」

 

犬歯を剥き出しにしながら口を歪める十六夜

 

「お、おい十六夜?お前一体な、何を企んでやがる!?」

 

その顔を見た響也は俺の背後に隠れて少し震えながら声をあげる、思わずそうしてしまうくらい十六夜の顔は笑顔というには不気味に歪んでいる

 

「…いやぁ別に?何も考えちゃいねぇぜ?ほんとに全く、響也にどんなイタズラをしようかなんて…これっぽっちもなぁ」

 

「その言い方だと全然安心出来ないんだが!?もうすぐ出番にしてはずいぶん余裕だなおい!」

 

「響也うるさい」

 

「いやこれ俺のせいか!?「響也…」はいすみません!…神っち、これ俺泣いていいよな?」

 

肩を落とし猫背になりながら少し涙目になってそう言ってくる響也

 

「俺にそれを聞かれても困る」

 

神っち〜という声を聞き流しつつ考える。俺達に足りていない何かを、これまでの練習で一人一人の演奏スタイルについては理解出来た。だが肝心の最後のピースが見つかっていないままだ

 

「神っち?」

 

少し心配した様子で響也が声をかけてくる

 

「いや何でもない、少し考え事をしてただけだ」

 

「なんだいつもの癖か、険しい顔してたから心配したぜ。つか最初はかっこいいと思ったけどやっぱこの格好落ちつかねぇ」

 

そんなやりとりをしていると控え室のドアが開く、そこからまりなさんが入ってきた

 

「皆さんもうすぐ始まりますので準備をお願いします!」

 

そう言われ控え室が慌ただしくなる中、まりなさんが俺達の方へ向かってきた

 

「やぁ少年少女達!調子はどう?」

 

「いつでも俺は絶好調だぜまりねぇ!俺達の演奏、楽しみにしといてくれよ!?」

 

「勿論楽しみにしてるよ、何と言ってもトリだからね!公平にするためにくじで順番を決めたけどまさか響也君達が最後になるなんてビックリだよ」

 

「あのまりなさん。それを今言わないでください、これでもかなり緊張しているので」

 

鈴原が緊張した様子で言う、今回演奏する順番をくじで決めたのだがその結果俺達のバンドはトリをつとめる事になった

 

「そうなんだ、ごめんね琴葉ちゃん。お詫びに一つアドバイス、初めて四人でお客さんに聞かせる演奏で色々考えたり思う事はあると思うけどそれは一旦置いて演奏を楽しむの。音楽は音を楽しむって書くんだし楽しまないと損だからね!」

 

裏表のない暖かく包み込む様な笑顔を鈴原だけじゃなく俺達に向けながらそう言うまりなさん

 

「音を…楽しむ…まだ緊張は抜けないけど少し気分が楽になりました」

 

憑き物が取れた様に苦笑しつつそう返した鈴原、話す前より幾分か落ち着いて視えた。かく言う俺もまりなさんの言葉と心に励まされた

 

「それは良かったよ楽器ってその人の心理状態が色濃く出ちゃうから、緊張したままだと音にもそれが伝わっていい演奏ができ無くなっちゃうんだよね…ってそれはピアノ教室で演奏会もしてる琴葉ちゃんの方がよく知ってるか」

 

「いえ言われる事によって再認識できることもありますから、ありがとうございますまりなさん」

 

「少しでも力になれたなら良かったよ。他のバンドもいるからここのスタッフ的にはあんまり大声では言えないけどみんなの演奏、一番楽しみにしてるからね!」

 

それじゃまたあとでねと言いまりんさんは控え室を後にした

 

「うっしゃあ!!楽しみにしてくれてる人がいるなら後は全力で演るだけだ。だろみんな!!」

 

響也の号令に各々が返事を、覚悟が決まった()をしていた。俺も自分でできることを…いや違うなこれじゃ響也の思いに答えていない。俺がやりたい様にやる、それが響也への礼だと思うしなりより俺がそうしたいから

 

 

 

 

「ーーー!!」

 

ステージから控え室まで聞こえてくる観客の声や演奏、その雰囲気に少しずつ気持ちが高ぶるのを感じながら俺達は出番を待つ

 

「みんなー準備はいい?もうすぐ出番だからステージ裏に出てきて貰っていいかな?」

 

まりなさんが控え室のドアを開けてそう言ってきた

 

「よっしゃあ!行こうぜみんな!!」

 

響也に続いて俺達は控え室を後にした、一歩また一歩とステージが近づくに連れ独特な雰囲気が漂ってくる

 

俺達の前のバンドが演奏を終え幕が下がる。そして俺達と代わり各々が楽器の準備を完了し後は幕が上がるのを待つだけになると響也が俺に言ってきた

 

「神っち、俺達を最っ高の演奏に導いてくれ。神っちになら出来る」

 

そう信じで疑わない心と目で俺を真っ直ぐに見てくる響也、あぁその目を視ていると本当に出来そうな気がしてくる

 

「あぁ、やろう皆で」

 

こうして幕が上がる。俺達の最初のライブが、様々な思いを乗せて

 

 

 

 

羽沢サイド

 

私達AfterglowはCiRCLEへ神峰先輩達の音楽を見に来ました。他のバンドの演奏はもう終わって後は神峰先輩達の演奏を残すだけ、CiRCLEで練習している時に神峰先輩達と会ってその時に琴葉先輩と十六夜先輩を紹介して貰い、同じキーボードと言うこともあって琴葉先輩とはすぐに打ち解けど十六夜先輩は…モカちゃんと一緒になって揶揄われました。主に神峰先輩の事で

 

うぅあの時のモカちゃんと十六夜先輩の顔、鏡合わせしたみたいに同じ表情だったなぁ。十六夜先輩もCiRCLEでバイトしているから何度か会う機会はあったけど実際に私達と話すのはあの時が初めて…の筈なのに何であんなに息が合っていたんだろう

 

「つぐ大丈夫?さっきから表情がコロコロ変わっってるけど」

 

そんな事を考えていたらひまりちゃんに心配した様子で話しかけてくる。そんなに私の顔百面相してたかな?

 

「うん大丈夫だよ、少し考え事をしてただけだから」

 

「にしても楽しみだな神峰先輩達の演奏、神峰先輩の歌声は聞いて凄いって思ったけど楽器については他のメンバー含めて誰も聴いてないもんな」

 

「そうだねー響也先輩から話を聞いたときは驚いたよ。まさか神峰先輩がキーボードじゃなくてベースだなんてー」

 

モカちゃんが言った事は私も思ってた。響也先輩は神峰先輩の本職はベースだって言ってたけど私はそれが未だ信じられずにいる。神峰先輩のピアノは誰かに寄り添う様に聞こえて技術も素晴らしかった。そして歌声は技術だけじゃない何かを感じた

 

でもなんでだろう、あの時感じていなかった違和感。神峰先輩と関わる様になってから時折見せる届かない何かへ必死に手を伸ばそうとしているあの表情、それを見るたびに神峰先輩のピアノへの違和感は強くなっていった

 

そう感じたのは私と何処か似ていたから、皆より劣っていると感じてもっともっと上手になりたいって思う私と

 

「それにしても今回のイベントに出てるバンド何処もレベル高いね、この中で神峰先輩達がトリって…うぅ私が出るわけじゃないのに緊張してきちゃった」

 

「…神峰先輩達なら大丈夫だと思う」

 

「蘭がそう言うの珍しいな。まぁ私も特に心配はしてないな。緊張とかその辺は響也先輩がどうにかするだろうし」

 

そんな事を話しているとステージの幕が上がり始める、観客全員がステージに注目する中そこから神峰先輩達が見えてーーー!?

 

スポットライトに照らされたのは男性は白のシャツに黒のベスト、女性の琴葉さんは黒のドレス。まるでドラマとかで見かけるバーテンダーの服に身を包んだ神峰先輩達でした

 

………え?えぇ!!?神峰先輩の格好、ス、スーツ!?凄い似合ってる!神峰先輩の落ち着いた雰囲気にスーツが凄い似合ってる!

 

「驚いたな神峰先輩達の衣装、けど全員不思議と似合ってるな」

 

「だねー響也先輩は落ち着かない様子だけどー」

 

「つぐみ大丈夫?凄い表情になってるけど」

 

蘭ちゃんに指摘されてハッとなった私は深呼吸してなんとか気持ちを落ち着かせる。それにしてもいきなりあの格好は心臓に悪いよぉ

 

幕が上がり終わる、今度は期待に胸を高鳴らせながら神峰先輩達の演奏が始まるのをまった

 

 

 

 

神峰サイド

 

幕が上がり終わって最初に目に映ったのは観客の様々な心、当たり前だが無名である俺達への疑心暗鬼や何故俺達がトリを務めているんだという不満、ライブ終盤での疲れや退屈を表す心で埋め尽くされていた

 

思わず目を背けたくなる様な光景だが、今日は今だけは、逃げたくない。先ずは観客全員の()を俺達に向けてもらわないとな。そのためには…!!

 

そう考えていると後ろから突然響也のドラムの音が聞こえた、まだ曲は始まっておらず独特のリズムで奏でられたそれは爆風となって会場の空気を吹き飛ばし、観客達の心をステージへと向けさせた。同時に俺の背中を押してくれている様にも視えた

 

響也らしい鼓舞を受けた俺は苦笑を浮かべすぐに気持ちを切り替える。すると、演奏が始まっていないのにも関わらず曲のイメージが俺の視界に流れ込んできた

 

でもなんでだ?練習の際、何かが足りないとは感じていた。だが今はそのピースが嵌り、より鮮明に視えている

 

練習とステージでの演奏の違いなんて、すぐ見つけられるのでは観客がいる事ぐらいしか…!そうか、練習の時には違和感の正体を探す事ばかりしていて肝心な自分達の音を誰に聞かせたいのか、もっと言えば観客を意識する事を失念していた

 

気づいてしまえば当たり前の事、だが今は反省してる時間はない。気づけたのならそこから変えていけばいい

 

「Rising Hope」

 

曲名を言い指示を出す

 

原作の神峰は指揮棒で指示を出していたが今俺が持っているのは指揮棒じゃ無くベース、そして指揮者では無く演奏者の立場だ

 

けど演奏者の心を表現するのが演奏なら俺の思いも伝わるはずだ。ベースを弾いていないときは自分の腕を使って指揮を振るおう。俺のやりたい事ははっきりした、先ずはライブ終盤という事もあり披露や退屈の心が視える観客の心を覚ます

 

【凛と響く音を水が流れる様に】

 

Rising Hopeはキーボードの旋律から始まりそこから一気にその他の楽器が炸裂するかの様に奏でられる。鈴原に出だしのリズムを作ってもらうためにそう指示を出し響也と十六夜には

 

【会場全体を音で震わせろ】

 

と指揮をする、歌い出しと同時に響也と十六夜の演奏が始まり観客のテンションも一気に上がった

 

目に映る光景、それを読み取り指揮をする。観客がいる中で誰かと演奏するのはこれが初めてだから俺の解釈が間違っている事もあるだろう。だが今は自分のできる全力をこの演奏に込める。そう考えた時ふと視界にあるもの映り始める

 

透明で視えていなかったそれは俺の歌声から全員の演奏を纏っていき確かな形となって浮かび上がってくる。それを視て俺は目を見開いた

 

あり得ない、有り得る筈がない!だって…これは、この()は!!

 

心の中でいくら否定していても現実としてそれはあり、観客の心へと向かっていく。そしてーーーーーー掴んだ

 

俺の歌声から出てきたそれはこの世界では視る事はないと諦めていた心を掴む手の音だった




やっと自分が一番書きたいと思ってたところを書き始める事が出来ました!!
いやうん、ここまで時間が掛かるとは…ですがここから一気に書いていきますよ!?(自分の連載ペースに目を逸らしながら)
何故心を掴む手の音が今まで視えていなかったのかについては次回、分かります
ここでいきなりですが主人公の【見える】と【視える】があります。それは共感覚越しに見ている時は【視える】それ以外で見ている時は【見える】になります。そこに注目しながら見るのも楽しみの一つです!
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)


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op.8 伸ばせなかったその手を

長い間お待たせしました!!
前書きは置いといてではどうぞ!


op.8

 

悲しみ、苦しみ、痛み。そんな纏めると負の感情という言葉がしっくりくるそれらは誰もが一度は経験した事がある筈だ。だけど人はそれを他人に見せる事はしない

 

何時だって自分の内に秘めて、抱え込んで奥歯を噛みしめて耐えている。家族や友人、恋人に話す事もあるだろうがその他大勢の文字通り他人には見せる事がないもの

 

そんな心を言ってしまえば【盗み視る】この目、勿論視たいと思って視た事は一度もない。仮にあったとしてもそう考えた時には既に視えているから

 

手を伸ばす事は許されず、ただ諦観することしか出来ないと諦めていた

 

心を掴む手の音、それは【SOUL CATCHER(S)】で神峰翔太の相棒でありもう一人の主人公、刻阪響がサックスで奏でていた音だ

 

彼が言っていた。管楽器は演奏者によって音程・音色・クセが全く異なり自分の(いき)を吹き込んで文字通り【音を作る】楽器だと、そこに魅せられ彼はサックスを始めた

 

そんな彼が奏でていた音、心に手を伸ばし、掴み、動かす。傷ついた心を癒し、閉じた心を開く事の出来る音

 

その音がなんで俺の歌声から出ている?指示を出しながら歌う俺の声からは確かに手が伸び人の心を掴んでいる。俺は神峰翔太なのに、導く事はできても心を掴む事なんて出来ない筈なのに

 

なんで…なんでだ!?

 

困惑する俺の脳裏に浮かんだのはこれまで辛い心、苦しんでる心、悲しい心。目を覆いたくなる心を視た時、自分に言い聞かせるように、誰かに言い訳をするように言っていた言葉

 

【俺は神峰翔太じゃない】

 

今はそれが全く別の意味に感じる。俺は神峰翔太(憑依転生者)であって神峰翔太(ソルキャの主人公)じゃない。彼が出来て俺に出来ない事があるように俺に出来て彼に出来ない事があってもなんら不思議じゃない

 

そんな当たり前の事に今まで気づいていなかった。いや、逃げてきた俺には考える事すら放棄していた

 

この事にもっと早く気付いていれば救えた心が有ったのだろうか?いやそんなたらればの話をしても意味はない。響也がいてくれたから、俺から離れず俺に手を伸ばしてくれたからこそ今のこの光景()がある

 

俺の神峰翔太に対する負い目にも似た憧れ、彼と同じでありながら彼とは違い一歩を踏み出せなかった。彼奴(刻阪響)がいないこの世界では、なにも出来ないと諦め沈んでいた心を吹き飛ばし引き上げてくれた響也

 

そして十六夜と鈴原、この三人だからこそ俺はこの()を自覚する事が出来たと思う。いや俺がそう思いたい

 

だから、これまでにしよう。辛い心に目を背けて逃げるのは、目に視える全員の心に寄り添う事なんて今の俺にはまだ出来ない。でも俺が関わった周りの人達の心には俺の()も届くと信じたい

 

けど今はこの瞬間を楽しもう、響也が集めてくれたこのメンバーで奏でている演奏をより高く、より遠くまで響かせられるように

 

今は間奏で歌のパートがない、伝えるなら今だと思った俺は響也がいる方に振り返ると一言

 

「ありがとう」

 

それだけ伝え前を向く、さぁ続けよう。今日だけは、今だけは死ぬほど楽しいこの時間を

 

 

 

 

十六夜視点

 

いいぜ、いいねぇ、いいなぁおい!!これが神峰の音か!

 

曲が始まってから確信した、神峰に足りなかったのは聞き手だと。練習での音はただ楽譜の音符をなぞるだけで神峰自身が音から見えてこなかった

 

だが今は神峰の音がビリビリ伝わってきやがる、ベースの音は勿論神峰の歌声はまるで心を掴まれてるみてぇだ

 

にしてもベースで指揮をするなんてな

 

【音を轟かせるように、観客の目を覚ませ!】

 

今神峰は俺達と観客の中継役になっている、にしても目を覚ませ…か、随分と具体的なようで抽象的な指揮を振るいやがる

 

そうだろうとは思っていたが神峰も持ってるな俺と同じ………共感覚を

 

中学に上がってから人と話す時や音楽を聞いたり演奏するとき、音に関する何かしらの刺激を受けた際、身体に電気が流れる様な感覚を覚えた

 

心の状態や音によって流れ方が違う、時間が経つにつれ相手がどういう感情を俺に向けて話しているのかが分かるようになった。喜怒哀楽は勿論悔しさ、苦しさ、幸福なんかの様々な感情が電気として俺に流れてくる、人の感情ってのは喜怒哀楽で全てを表すのが難しい程に複雑だ。感情の強弱、浮き沈みだって人によっては違う

 

いい感情ばかりではなく当然悪い感情を感じる事もある。それで俺が腐らずに来たのは共感覚を自覚するより前に俺を俺たらしめるもの、ギターに出会っていたからだ

 

そこから俺の演奏は少し変わった。元々あった俺の感性に共感覚が合わさって、後に俺の口癖になった「ビリッと来る」音を奏でる様になった

 

自身の文字通り体験をもとに曲に合わせた(電撃)を呼び起こし俺の音に変え奏でる、より一層ギターに対する想いは強くなる一方で、ビリッとくる音楽仲間に出会う事はなかった

 

それに加え高校に上がるまで同じ共感覚を持ってる奴に出会う事は無かった。ま、そもそも共感覚を持ってる奴自体珍しいっつーかいねぇんだろうけどな

 

俺自身共感覚って言葉自体、自覚してから知ったし無理はねぇが

 

CiRCLEでバイトをするようになって、先に始めていた響也から紹介される形で神峰に会った

 

会った当初、つか今の今まで神峰への印象は【探求者】ってのが一番近かった

 

常に何かを探すみたいに、その何かへ手を伸ばそうと足掻いてるように感じた。今思えば音楽の話をした時に感じた諦観や焦燥にもにた感情もその何かへ向けていたのか

 

それがどうだ?今はその何か(答え)を見つけ、自身の()を前面に出して演奏し、歌っていやがる

 

そこで神峰はこっちを、いや響也の方を向いて一言「ありがとう」と告げた。ありがとう…ね、何に対してかは分からんが何やら吹っ切れたみてぇだな?さっきより更にビリビリきやがる、響也や琴葉もそれに引っ張られるみてぇにどんどん演奏が良くなっていくな

 

いやこの2人だけじゃねぇ、俺も神峰の指揮に引っ張られている………けどな神峰、俺がただ引っ張られるだけだと思うなよ?

 

音にはそれぞれ個性がある様に音へ対する解釈もまた違う。お前と俺のビリッと来る音に違いがあってもおかしくはねぇ、まぁそれすらもビリッ来る方へ導くと俺の共感覚も言ってるしな?

 

それに何より…ただ従ってばっかつ〜のも、面白くねぇからなぁ!?

 

 

 

 

琴葉サイド

 

何…これ?

 

演奏中にそうなっているのはいけないと分かっているけど、私は困惑していた

 

神峰の音、練習の時とは大違い!

 

そして歌も!あの時私が演奏会で聞いた、ううんそれ以上の歌声!あの心を掴まれたって錯覚しちゃう歌声!

 

でも何で?練習でも神峰は全力で演奏して歌っている様に見えたのに。それに…

 

【ピアノ、凛と力強く響く様に!】

 

ベースの音や動きで指揮してる!?え?ベースって指揮するものだっけ?違うよね?何でできてるの!?

 

それにこの指揮、最初と指揮内容が違う。これって変化をつけてお客さんを飽きさせない様にって事だよね?

 

それ以外の指揮もどういう音を奏でて、その音を誰に聞かせたいのかを指揮で示してる

 

そう考えてたら神峰が響也の方を振り向いて一言「ありがとう」って言った…神峰と接するようになってこれまで見た事がなかった笑顔で

 

何でこのタイミングでありがとうって言ったのか分からない、神峰はお客さんの方へ向き直って演奏を再開する。その演奏に引っ張られる様に私や響也、十六夜が演奏の深みを増していく

 

そんな中、何でそうしたのかわからないけど私はふと十六夜の方を見た。…うっわ彼奴ニヤニヤしてる

 

あの笑顔、羽沢さんを青葉さんと2人で揶揄ってる時によく浮かべてた顔。一体何を考えてーーー

 

ーーー♪♪♪

 

!?…これ神峰の指揮と違う?解釈違いとかじゃなくてわざと外したの?でも何で…ってあれ?今神峰の音がブレた?…ううん、ブレたと言うより弾んだ?

 

そこから十六夜は神峰の指揮に答えなくなった、ううん、正確には自分の我を通すようになった。解釈が同じところは指揮通りに演奏するし自分がこうだと思った音は曲げずに奏でてる

 

普通はそこでみんなとの和が乱れて音が合わなくなるのにそれどころか寧ろ良くなってる、神峰は十六夜の音に対してどういう演奏をすればいいかを瞬時に考えて音と歌を奏でて指示を出してる

 

それにしてもすごく楽しそうに演奏してるなぁ。自分の想像している事と違ったら戸惑ったり困惑したりしそうなのに、神峰の音からはこの状況を楽しんでるように聞こえる

 

〜〜〜♪

 

ん?

 

〜〜〜♪♪

 

これって…

 

〜〜〜♪♪♪

 

間違いない…十六夜の奴、音で私や響也を挑発してる。音で言葉が聞こえるって変かもしれないけど「お前らの音はその程度か?」って言ってる気がする

 

それに応えるように響也の音が激しさを増した、まるで私達の音をより遠くへ届かせるみたいに

 

でもこれじゃみんなの音を聴かせたい人に音を届けられない、音がばらけてる、指向性が必要なんだ、この音を聴かせたいって、奏でた音がその人へ届く様に

 

道はある、動力も、推進力も、なら後はそれがちゃんと通れる様に周りを覆えればいい。出来ないとは思わない

 

まだ関わり始めてからそんなに経ってないのにそう確信できるくらいの信頼がここにあった。何よりこんなにいい演奏なのにちゃんとお客さんに届かないのは嫌だ

 

今できる私の全身全霊で奏でよう…何よりこんな時間楽しまなきゃ損よね

 

そう思って私は自分の演奏を始めた。みんなの音を聴かせたい人に、ここにいる全員へ届く様に

 

さぁ聴いて、私達の音を!




琴葉は結構天然入ってますw
十六夜のシーンは書いてて楽しいですw(モデルがいますし)
さぁ、次回はいよいよ最後のメンバー、響也の視点です
これまで手を伸ばせないと諦めていた神峰に手を伸ばし続けた彼は何を思っているのか
お楽しみに!
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)
PS.コラボについてですがも一度アンケート取らせてくださいすみません


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op.9 伸ばし、背中を押す手

新年明けましておめでとうございます
半年以上空けてすみません


op.9

 

響也サイド

 

すげぇ!すげぇよ神っち!!

 

あの時聞いた、いいやそれ以上の音が会場全体に広がってる!てか位置が後ろだから直接見れないけどさ。今、神っち笑ってんだろ?音からそれが伝わって来る!

 

だってこの感じは前と一緒だから、神っちは笑ってないって言ってたけど一緒に演奏したあの時と同じ、楽しさを前面に出した神っちの音が、そしてあの時はわからなかった音や動きから伝わってくる神っちの指揮が!

 

 

 

 

 

「なぁ神っち!」

 

「…どうした響也?」

 

「俺とセッションしてくれないか!?」

 

中学に上がる前俺は神っちにそう切り出した、今までこういう風に誘った事はなかったから神っちは少し驚いた顔してる

 

「突然なのはいつもの事としてどうして俺と?」

 

「いやぁ神っちと音楽したいなってのは思ってたんだよ前から、でもいかんせん俺が自分で納得できるくらい上手くなってから誘おうって考えてたからさ。それでそれが今日ってわけ!」

 

「成る程な、別にやるのは構わないがどこでする?場所は気にしないと周りに迷惑だろ」

 

ふっふっふっ!そこは抜かりねぇぜ神っち!!

 

「それなら大丈夫!俺んち地下がちょっとしたガレージになってるのは神っちもしってんだろ?あそこなら防音対策もされてるし音響機材も親父が使ってるのがあるし、たまに仲間と一緒にやってんだよバンド」

 

神っちとやってみたくて親父にしばかれ…教えて貰ってたのはちょい恥ずかしいからいえねぇ、てか本当はCiRCLEでやりたいんだけど今日は休みなんだよなぁ。日を改めればいい話だけど今日したいと思ったらそれを抑えられなかった

 

「そうなのか、響也の家には何度か行った事あったけど初めて知ったぞ」

 

「まぁ親父も別に隠しちゃいねぇけど知られたいとも思ってないからな〜、んじゃ俺んち集合って事で!」

 

そこで別れた俺と神っち、いやぁたのしみだな!神っちの歌声言葉じゃどう言えばわかんねぇけど凄い!って思うし、そこに自分の音がどう重なるのかワクワクが止まらない!

 

家に帰って速攻でガレージに行って機器の準備をする、つっても殆ど親父達が使ってそのままだからたいして準備する必要ないけど

 

よっし準備完了!【ピンポーン】お!神っちもきたみたいだな!玄関まで猛ダッシュした俺は神っちを出迎えた

 

「おっす神っち!」

 

「あぁお邪魔します、後これ来る途中で買った菓子だ、よかったら食べてくれ」

 

「気にしなくていいのに毎回買ってきてくれるよな〜ま!ありがたいし全部美味しいから俺としては大歓迎だけどな!」

 

「喜んでくれてるみたいで何よりだ。それで場所は地下だよな?」

 

「おう!んじゃ早速いくかぁ!」

 

神っちをつれてガレージについた俺達は楽器の準備に取り掛かった

 

「にしても神っちベースやってたんだな。なんかたこ出来てたから弦楽器やってんだろうなとは思ってたけどさ」

 

ピアノのイメージしかなかった俺は神っちがケースを持ってきていた事に少し驚いていた

 

「誰かに聞かせるのは…初めてだな。どうせなら違う楽器で合わせてみたいと思ったんだがドラムとベースじゃ味気ないか?」

 

「ん〜音響機材あるし歌詞なしの曲流しながらやればいいんじゃねぇか?」

 

早く演奏したくてうずうずしている俺は急いで準備を終わらせた

 

「んじゃやるか!先ずは【Rising Hope】やろうぜ」

 

「わかった」

 

スマホをスピーカーに繋げてネットで歌無しの音源を探してそれを流し始める。曲が始める前神っちを見ると雰囲気いつもと違う様な気がした

 

少し気になったけど演奏に意識を向ける、てか神っちベースうめぇ!!ピアノが上手いのは知ってたけどベースもできたんだな!!

 

神っちに負けないように夢中になって俺も演奏する、自分が何かに引っぱれる様な感覚を覚えてふと神っちの方を見ると普段あまり見せない笑顔で音を楽しむ、文字通り【音楽】をしている神っちの姿があった

 

神っちも一緒に楽しんでいるのが嬉しくてよりいっそう演奏に集中する、自分が何かに引っぱられる様に上達していく感覚を覚えながら夢中にやっていたらいつの間にか曲が終わってて俺は興奮が収まらないまま神っちに話しかけた

 

「すっっっっっっっっっっっっっげぇ良かったし楽しかったぜ神っち!!つか神っちも笑ってたって事は俺と同じで楽しんでたって事だよな!??」

 

そう言うと神っちはそっぽを向いて少し恥ずかしそうにしながら

 

「…別に笑ってない、それより他にもやるんだろ?」

 

って言った、もっともっと演奏したいと思った俺は演奏中に感じたものについて考えるのをやめて

 

「おう勿論!!次はさ…」

 

と言ってまた次の曲を探し始めた

 

 

 

 

あの後もう一回やりたくて神っちを誘おうとしたけど、その後すぐ神っちは通ってたピアノ教室を辞めてなんだか音楽自体から距離を置こうとしてた、いや実際離れてたな

 

でも離れても辞めるって選択はしなかった。ベースを続けてたのは手にできたタコを見れば分かったし、あんなに楽しそうに演奏してた神っちがやめれるわけがないって。まぁ半分そうあって欲しい俺の願望も入ってるけど思ってた

 

そんな神っちとまたこうして音楽が出来る、もうなんか今にも叫び出したい気分だけどそんなことしちゃだめだよな。だからこの想いは全部楽器に演奏にぶつけよう

 

〜〜〜♪♪♪

 

!十六夜のやつもっとできるだろ?って挑発してんな?音から伝わってくるぞ、神っちもそうだけどどうやって音で指示とかできるんだ?まいっか、てか当たり前だ!まだまだこんなもんじゃない俺が思い描いてた演奏は!

 

さぁもっと響け俺たちの音!!このステージ全体に、もっと高く、もっと遠くの果てまで!!

 

 

 

 

神峰サイド

 

一曲目が終わり二曲目に入ると十六夜が自身の音を全面に奏で始めた

 

十六夜の音は彼奴自身の口癖にもなっている「ビリッとくる」にもある通り電気や雷を模した音だ。常に上へ上へと周囲を巻き込み轟かせるそれは十六夜の貪欲なまでの向上心の現れだろう、そしてその輝きで周りを霞ませてしまう危うさすら孕んでいる、実際一瞬でも気を抜けば音を持っていかれそうになる

 

音から伝わってくる「お前らの音はまだまだそんなもんじゃないだろ?」という純粋で脅迫性まである感情(音)それに負けじと響也や鈴原の音質が上がっていく

 

俺だって負けてはいられない、3人の音を束ね導く、そのためには…

 

【全体を見て全員の音を包み込むように】

 

鈴原に指示を出す、彼女の音は周りの音を包こみ束ねることができる。それによって音を届けたい相手へと導きやすくなる、彼女自身全体を見る力が優れているからこそ奏でられる音だ

 

まだ彼女と関わる様になって数ヶ月だがそれでも彼女が音楽に対し真摯に、そして直向きに努力をし続けているのは音から伝わってきた

 

鈴原によって束ね纏めた音を客へ届けるためには…

 

【音を押し出せ!全体に響きわたる様に!】

 

響也にそう指示を出す、彼奴自身の心を表し爆発する様に響きわたるその音はただ周囲に撒き散らすわけじゃない

 

一歩を踏み出せずにいた俺を背中から押してくれた様に、俺達の音を観客へと届けてくれる(促進剤)

 

いや、響也だと押すというより引っ叩いてくれるの方が正しいな

 

俺はそれに救われた、響也がバンドに誘ってくれなければ俺は未だに視たくないものから目を逸らし続ける毎日を送っていた。だからこそ響也の想いに応えたい、それにこのメンバーなら会場だけじゃ無い、もっと遠く、果ての向こうまで音を響き渡らせられる。そう確信出来る

 

次でラストの曲、響かせよう今の俺達が出来る最高の演奏を




響也描くの本当に楽しいです
次回は羽沢とAfterglow、日菜視点を描こうと思ってます
バンドストーリーも考察練っていかねば
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)


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op.10 SOUL CATCHER(S) 彼奴のいないこの世界で

お待たせしました!これにてバンドパート終了です!
今回自信しかないです(無駄にハードル上げるスタイル)
ではどうぞ!!


op.10

 

羽沢視点

 

神峰先輩達の演奏が始まって私は圧倒されていた、というよりこれって

 

「なあ、これ神峰先輩達だけで演奏してるんだよな?」

 

ステージから目を離せずに巴ちゃんが呟いた

 

「………そうとは思えないけど演奏しているのは神峰先輩達だけ」

 

巴ちゃんの質問に蘭ちゃんが答えて私もそれに頷く、そう思うのも仕方ないくらい神峰先輩達の演奏は圧倒的だった。まるでオーケストラの演奏を聞いている様な感覚

 

楽団の演奏と、バンドとの演奏では関わる人数や曲調が変わってくるけどそう思えるくらいの迫力があった

 

【周りを照らすように雄々しく轟かせろ!】

 

そう思っていると神峰先輩が十六夜先輩に指示を出していた、その指示へ応えるように十六夜先輩が力強く、そして観客の気を惹くように演奏していた

 

「ベースって〜指揮する楽器だっけ〜?」

 

モカちゃんが同じベース担当のひまりちゃんにそう質問する、ひまりちゃんに本人以外の私達全員の目がいくと

 

「え?いやいやいや違うよ!?ベースで指揮するなんて私も初めて見たし少なくとも私はやったことないよ!!それはみんなも知ってるよね!?」

 

ひまりちゃんが私たちの視線に気づいたみたいで手と首を全力で振って否定する、モカちゃんは「そうだよね〜」と言って演奏しているステージへと目を戻しそれにつられて私達も視線を戻す

 

そこから少しすると十六夜先輩が神峰先輩の指揮に対立する様になった、ううんこれは神峰先輩の指揮にただ従うんじゃなくて自分の解釈を神峰先輩に照らし合わせて音を奏でる様になってる

 

それに合わせて琴葉先輩や響也先輩、神峰先輩の音の質が上がっていく。響也先輩は…ただ音を目立たせるんじゃなくて抑える時とのメリハリを付ける事で聞かせたいところをより強調して観客に届けているし、琴葉先輩は全体のバランスを(聞い)て譜面通りの音じゃなくその時その時の演奏に合わせた音を奏でることで曲をまとめてる

 

すごい!!もううまく言葉が出てこないけど先輩達の演奏凄い!!

 

………認めたくはないけど響也先輩が言っていた事、少しわかるかもしれない

 

だって今の神峰先輩本当に楽しそうに笑いながら演奏してる、十六夜先輩が自分を出す様になった時も最初は驚いた顔になってたけどまるで新しいおもちゃを目の前にした子供みたいな表情で演奏を続けた

 

初めて神峰先輩と会った時に聞いたピアノの音に対する違和感、それは神峰先輩の事が音から感じられなかったんだ。優しく包み込まれる様な音、でもどこか別の誰かが音を出しているように聞こえていた

 

でも今は神峰先輩が音から見えてくる、少し抽象的だけど本当にそう感じられる。ピアノの演奏を聴いていなかったらわからなかったかもしれない。だからこそピアノの演奏も聞けてよかった

 

そう思っていたら神峰先輩達の最後の曲になる、演奏中にどんどんより良くなっていく神峰先輩達の演奏が最後どういったものになるかワクワクしながら神峰先輩達のバンドに聞きいった

 

 

 

 

神峰サイド

 

いよいよ俺たちのバンド最後の曲になった、曲の構成を考える中で最初と最後だけはすぐに決まった、最初は響也と初めて演奏した曲【Rising Hope】そして最後は…

 

「【Climber's High!】」

 

曲名を言ってからみんなに指示を出す

 

【観客全員を吹き飛ばすように音を響かせろ】

 

出だしからより一層観客の心をこちらに向けるためにそう指揮をする、そして楽器だけのパートが終わり俺も歌い出す

 

「辿り着けると信じて場所は高く遠く」

 

歌い出しであるこの歌詞、これは前までの自分を表している様に感じた、自分では相手の心に寄り添うことは、掴むことはできないと思っていた前までの自分を

 

「リピートされてく聴き飽きた日々に(乗り遅れないように更新しても)溶け込めていない苛立ちが迫り来る箱の中心が磨り減っていく 掻き消されていくなら燃え尽きる覚悟で四角い空を叩き割るだけ」

 

視たくないものから目を逸らし変わらない毎日を繰り返していた、歌詞の中にある四角い空、表情や歌に乗せたわけではないがそこで俺は少し笑ってしまう

 

俺の場合、自分じゃなくて響也が閉じこもっていた俺を叩き壊し手を差し伸べてくれた。その手を取ったからこそ、今ここで最高の演奏をすることができている、本当に響也には感謝しても仕切れないな

 

サビに入る前、鈴原に指示を出す

 

【全員の音を聞いて観客へと届けるように、音を包み込め!】

 

「心に熱い風纏って 駆け上がって行こうぜ 繋ぎ止める鎖、引きちぎって 未完成を解き放て」

 

歌詞や譜面から見て取れる曲のイメージを全て音に乗せて観客に伝える、曲への解釈は奏でる人によって変わる。当たり前だ、人によって好きな音嫌いな音、得意な音不得意な音がある

 

それ等を含めて奏でるのが音楽だ。当然聞き手の感じ方も人それぞれ、だから俺がやることは決まってる。この(共感覚)で視えるイメージを観客へと伝えられるように指揮をする

 

だから…繋げ、この空間にいる人全てをそれだけじゃない、この曲に関わった人たちさえも!

 

描け、この目で視える最高の音楽(景色)を1人でも多くの人へ伝えるために!!

 

そして…できないと諦めていた、視えるだけの自分ではと。けど響也の手を掴んでこのメンバーで演奏したからこそ気づけた事

 

掴め、心を!!!

 

「終わりが来るその瞬間までは Climber's High!

誰も壊せない鋼の夢 届け

世界の果てまでも」

 

その時、ある景色が視えた

 

あぁ、この(景色)だ。この音を目指していこう。この目で視るのは初めてだがそう思える、桜の音でもない、彼等がたどり着いた虹の音でもない。俺達だからこそ奏でられるこの音をより高く、より遠くまで響かせられる様に

 

この●●の音を!!

 

 

 

 

そうして曲が終わりステージは静まり返っていた。暫くそれが続いた後に聞こえてきたのは拍手、一つまた一つと増えていきそれは歓声と共にステージ全体へと鳴り響いた

 

ステージを後にして控室へ戻るとまりなさんが興奮した様子で話しかけてきた

 

「お疲れ様!!すっっっっっっっごく良かったよみんな!曲が進むたびにどんどん引き込まれていったし曲の背景が見えてきそうな感じがしたよ!それに…「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいまりなさん!ここ控室ですから!」

 

鈴原がまりなさんをそう言って抑える、数回深呼吸して落ち着いてからまりなさんが話し始める

 

「ふぅ、改めてみんなお世辞抜きで本っっっっ当に良かったよ!何よりみんなが楽しんでいるのが音から伝わってきたよ伝わってきた、大成功だね!!」

 

心からそう言ってくれるまりなさんに俺は「ありがとうございます」と感謝を伝えた

 

「つかまりな、イベントスタッフのあんたがいて大丈夫なのか?」

 

「ん?大丈夫だよ、あとは主催者が簡単な挨拶をしてお客さんがいなくなってからの片付けだけだから。というか十六夜君、年上にはさん付けしないとダメだっていつも言ってるでしょう?」

 

はいはいという十六夜の返事に苦笑しながらまりなさんは話を続ける

 

「そういえば神峰君達のバンド、名前はないの?登録するときそこだけ空欄だったけど」

 

「あ〜〜〜みんなで意見は出し合ったんだけど決まらなくってさ。結局応募の締め切りきちゃって空欄のままだったんだよ」

 

響也の説明に「そうだったんだ」と納得するまりなさん、バンド名…か

 

「なぁ、バンド名なんだけど『   』にしたいんだがいいか?」

 

始まりがどうであれ俺が今ここで皆んなと音楽ができたのはこの目とあの世界があったからだ

 

だからこそバンド名はこれにしたい

 

「お?いいなそれなんかしっくりくる!たしかにがしって掴まれる感じするもんな神っちの歌は!それを俺達の演奏でもっと大きく遠くまで響かせられる様にって意味も込めて!他の2人はどうだ?」

 

「私もそれで大丈夫」

 

「右に同じく、なかなかビリッとくる名前だ」

 

「それじゃ決まりだ!」

 

こうして俺達のバンドは本当の意味で結成した

 

俺自身も改めて誓う、もう目を逸らす事はしない。この目で視て手を伸ばすと

 

神峰翔太(主人公)ではない俺が彼奴のいないこの世界で




曲についてはコラボ関係なしに最初から決めていました
曲調と彼等のストーリーがあってると感じたので
つぐみ について補足ですが彼女が感じた違和感は書いてある通りですが何故彼女が頑なにピアノが一番だと言っていたかについてはまだ描いていませんAfterglow編になってから描きたいと思っています
あ、言いますがまだおわりませんから!?最終回と思われそうですけど!
むしろここまではプロローグでこれからそれぞれのストーリーに入っていきます!
次回はアフターストーリー、今まで視点がなかった彼女が出てきます
感想お待ちしてます!
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)


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op.11 縛られる過去、見え無い未来。けれど今だけは

op. 11

 

日菜サイド

 

「お姉ちゃん早く早くぅ!早くしないと神峰達のライブ始まっちゃうよ!」

 

「引っ張らないで、そんなに急がなくても大丈夫でしょう?ライブの開始時間も把握してるしまだ充分に時間はあるわよ」

 

今日あたしはお姉ちゃんと一緒に神峰達のライブを見にCiRCLEって言うライブハウスに来てる、お姉ちゃんはあたしから誘ったんだけど正直来てくれるとは思ってなかった

 

思わず「いいの!?」ってきくと「少し気になる事もあるから」って言われた、結局その中身については教えてくれなかったけど一緒に来てくれるだけであたしは嬉しいから深くは聞かない

 

「だってだってすっごく楽しみだったんだよ!?今日を楽しむために神峰達の演奏、一回も聞かなかったしどういう演奏するのか楽しみでしょうがないんだもん!!」

 

「神峰さん達のライブ時間にはまだ余裕があるんだからそんなに急がなくてもいいわよ」

 

「そうだけどさぁ」と言いながら歩いているとCiRCLEについた、中に入ると結構な人がいて大体ステージから半分くらいの所であたし達は待機することになった。どんな演奏になるんだろうってワクワクしながら神峰達の出番まで他のバンドの曲を聴きながら待つ

 

他のバンドのライブが終わって神峰達の出番になって舞台袖から出てきた。見た感じ緊張とかはしてなさそう

 

他のバンド、上手いのは素人でも理解できたけどるんってくる演奏はひとつもなかった。だから神峰達はどんな演奏を聞かせてくれるのか楽しみ!

 

それにしても、神峰達スーツなんだ!いつもとイメージが違うけど似合ってる!そんな事を考えながらあたしは神峰達のこれから始まるライブをワクワクしながら待った

 

神峰達のライブが始まってすぐあたしはびっくりした

 

何これ!?すっっっごくるんっ!ってくる演奏!みんなの個性が全面に出ててるのに全然邪魔にならない、それどころか一つにまとまってる!

 

それに今でも凄いのに次の瞬間にはよりいい演奏になってく!

 

あたしは感じた事ないけど普通本番って緊張するもんだし、大抵の人は【いつも通り】をするのに精一杯、なのに本番中に成長するなんてもうるんっを超えてるるんっだよ!!

 

専門的な事はあんまり詳しくないけどこれ神峰がみんなの事を指揮してるよね?ベースの音と身振りでそんな事ができるなんて聞いた事ないよ!

 

夢中になって神峰達の演奏を聴いていたあたしは不意に違和感を覚えた

 

あれ?なんか十六夜の演奏が変わった?音楽に詳しいわけじゃないけどなんだか自分の考えを主張し始めた感じ

 

その時一瞬だけ神峰の音がずれたように聞こえた、でもすぐ元に戻って…?戻ると言うか神峰の音も変わった?

 

十六夜はそこから自分勝手に振る舞って(演奏して)いるようで違う、自分の考えを音で表現する演奏をしてる

 

普通そうなったら周りと合わなくなりそうなのに神峰が十六夜の演奏に答えて皆んなに指揮を振る(演奏する)る事で崩れるどころかより良い演奏に繋がってる

 

あれって事前に打ち合わせした訳じゃないよね?そう言う感じじゃなかったしだとしたら凄い!アイコンタクトどころか音で意思疎通してるって事だよね!?更にるるんってくる!

 

どうしてそこまで合わせられるんだろ?バンド組んでそんなに経ってないはずなのに、それにみんなすっごく楽しそう

 

「………いいなぁ

 

「…日菜?」

 

曲が終わって少しのインターバル中お姉ちゃんに呼びかけられた

 

「?どうしたのお姉ちゃん?」

 

「いえ少し上の空に見えたから」

 

「え〜?そんなわけないじゃん!こんなにるんってくる演奏聞いてるのにぼーっとしてる時間が勿体無いよ!」

 

ほら次の曲始まるよ!と言ってステージの方を向くと「ならいいけれど」と言ってお姉ちゃんもステージへ視線を戻した。それにしてもさっきあたしなんて言ったんだろう?自分でも分からないくらい無意識で言ったみたいだけど…うーん?ま!いっか!気にしててもしょうがないし今は神峰達のライブに集中しよっと!

 

 

 

紗夜サイド

 

これは何?私が神峰さん達の演奏を聞いた最初の感想だった、日菜に誘われる形でCiRCLEにきた私は彼等のライブに圧倒されていた

 

一人一人の演奏技術は勿論、それらをたばねよりよい音を作り上げている彼らに

 

神峰翔太さん、まさかベースで指揮を行うとは思いませんでした。一つ一つの音のバランスを判断し次にどうすれば良い音を奏でることができるのかを瞬時に理解して指示を出す、その姿はまさにオーケストラの指揮者のようだった

 

時折崩れそうになる危うさもありますがそれを周りがカバーして演奏している。このチグハグさはまさか、このように演奏するのは今日が初めて?日菜から聞いた話だとバンドを組んで日が経っていない事を考えるとあり得ない事ではないですね

 

乾響也さん、ドラムをただ譜面通りに叩くのではなく強弱やメリハリをつけて曲自体にリズムを与える事で聞きてへサビまでの期待感を煽り盛り上がる部分を通常以上に見せて(聞かせて)いる

 

鈴原琴葉さん、全体の音を聞いて音のバランスをとるように演奏する事で1人1人の個性が強いこのバンドで纏め役をになっている。だからこそ聞き手側も曲に対して混乱する事なくスムーズに受け入れられる。それには演奏技術は勿論、周りの音を聞いて神峰さんの指揮を汲み取り反映させられるだけの知識が必要です

 

恐らく彼女は昔から音楽に触れていたのでしょう。彼女の演奏には才能だけじゃない、確かに積み上げた厚みを感じられました

 

そして…暁十六夜さん、恐らく彼が一番神峰さんの指揮を理解してそれに対する答え()を瞬時に出す(演奏する)事が出来る

 

音に対する考え方が神峰さんと近いからこそそれは出来る、そして何より…!?彼の演奏が…変わった?

 

今までの指揮を受け入れ奏でる演奏から自分の考えを全面に押し出すスタイルに、でもそんな事をすれば全体のバランスが崩れて周りにも悪影響が!…出ていない?それどころか先程までのライブとは段違いに良くなっている!?

 

暁さんは時折乾さんや鈴原さんの方を見て挑発するように音を奏でまるで2人に現状維持を許さない、より良い演奏をしてみせろと主張している

 

周りを気にせず自分の感性に従って立ち振る舞うその姿は日菜に似ていた、日菜と彼に決定的な違いがあるとすれば、何かにそして誰かに依存する事無く自分の考えを音に乗せて主張している(奏でている)事でしょう

 

普通そうしたら周りとの違いで孤立する。でも暁さんの周りにはそれを理解し応えられる人達が、仲間がいる

 

でも日菜には…私しかいなかった。だからこそ私に半ば依存する様に私がやっていた事を真似し、尊敬の念すら湧かない圧倒的なまでの才能で私だけを置いていく

 

そして私に残るのは、無駄だと思えてしまう過去(足跡)。だからでしょうか、日菜と彼

似ている様で決定的に違う彼の姿を見て

 

きにいらない…!?」

 

ほとんど無意識でした、幸い演奏と小さな声でつぶやいたから日菜には気づかれていない。それでも私は手で口を覆った

 

日菜に対しての嫉妬の感情が無いと言えば嘘になる、けどそれを日菜以外の誰かに、しかも羨ましいと思って向けた事なんてなかった

 

そんな自分に嫌気がさして汗が滲んでいる手を握っていると

 

「………いいなぁ

 

「…日菜?」

 

「?どうしたのお姉ちゃん?」

 

「いえ少し上の空に見えたから」

 

「え〜?そんなわけないじゃん!こんなにるんってくる演奏聞いてるのにぼーっとしてる時間が勿体無いよ!」

 

ほら次の曲始まるよ!と言ってステージの方を向く日菜、「ならいいけれど」と言い私も向き直る。けれど私の心にはさっき見た日菜の表情が深く刻まれていた

 

私の時と同じ様に周りの音と小声で呟いていたから何を言っているのかはわからかったけれど。羨ましそうで悲観的、楽しそうで悲愴感漂うその姿に私はかける言葉が見つからなかった

 

そもそも日菜を拒絶しているのは私自身、そんな資格があるはずもない。沈んだ心のままライブを聞いていると、どうやら次でラストの曲、ここまで演奏中に成長していった彼等の集大成に観客の全員が期待の眼差しを向ける中、私は嫉妬や羨望、諦観と言ったおおよそ期待とはかけ離れた感情で曲の始まりを待っていた

 

【観客全員を吹き飛ばすように音を響かせろ】

 

そんな中神峰さんが会場全体を見渡してそう指揮をした。そこから紡がれる音に先程まで覆われていた私の黒い感情は文字通り吹き飛ばされた

 

まるで観客全員を見てその中で私だけがライブに参加していないのを見抜いたかの様な曲の始まりに私は驚き、その直後からこのライブに引き込まれていた

 

今までもライブの演奏は聴いていた。けれど先程までの日菜や自分に対する感情全てが今この瞬間では全てなくなったのではないかと錯覚させる程、この演奏に聴き込んでいた

 

【十六夜、お前の音で、観客全員に衝撃を!雷鳴の様に音を轟かせろ!】

 

解釈が一致したのかその指揮に従って音を奏でる暁さん、他のお三方含め今この瞬間を、それこそ観客である私達よりも楽しんでライブをしている彼等に私は気が緩み、表情として現れていた

 

あぁ、そうですね。私も何もかもを忘れ浸りましょう、何処か心地よいこの時間を…今だけは

 

 

 

日菜視点

 

すっごくるんってなりながら神峰達のライブを聞いていると神峰達の最後の曲になった

 

「【Climber's High!】」

 

曲名をいってから神峰が観客全体を見て皆んなに指揮を振る。そしたら音が衝撃波みたいにあたしを襲った、演奏しているのは4人のはずなのにより多くの人で奏でてるみたいに聞こえる!!

 

それにさっきより一層みんな楽しんで演奏している様に見える!見ている(聞いている)こっちも笑顔になっちゃうくらい

 

そんな中あたしはふとお姉ちゃんがどうしているのか気になってむいて見ると

 

「………え?」

 

そこには最近、ううん、長い間見た事が無かった作り笑いじゃ無い本当の笑顔をステージに向けるお姉ちゃんがいた

 

いつからだったかな?あたしが周りから距離を感じる様になったのは…でもあたしはその事を気にせずお姉ちゃんについて行った。だってお姉ちゃんがやっている事はるんって来た(輝いていた)から

 

あたしもやりたいって思って始めて少し経つとお姉ちゃんはやめて別の事を始めちゃう。その後に残ったあたしは興味(輝き)を失ってやめちゃう

 

それの繰り返しをしていたらいつの間にかお姉ちゃんは心から笑う事がなくなっていた。そうして高校に上がるときにお姉ちゃんに言われた「お互い干渉しない様にしましょう」って言葉

 

でもねお姉ちゃん、それに関しては絶対に聞かないって決めてるんだ。だってそうしないとあたしとお姉ちゃんは一生このままになっちゃうと思うから、そんなのあたしは嫌だよ

 

これからどうすれば良いのか正直わかんない、テストみたいに簡単に解ける問題じゃ無いって分かってる。でも今は、神峰達のライブを聞こう

 

お姉ちゃんもそうなんだよね?だってあたしを呼んだときにしていた何かを堪える様な感じがなくなってるもん、だからあたしもそうしよう

 

ううん、あたしがそうしたいんだ。聞いていたいんだ神峰達の演奏を、だから楽しもう。この最高に心地よい神峰達のライブを…今だけは




約2年ぶり、大変長らくお待たせしました
自分でも自信を持って送り届けられる話になりました
日菜のほんの少しの変化、それは小さな変化かもしれません、けれどもそんな彼女のこれからを暖かく見守ってください
沙夜にも言えますがこの2人の描写を描くのはほんっとうに悩みました
皆さんがどう感じてくれたか感想を頂けると幸いです
さて次回はライブ後のアフターストーリー、各々の視点を描くつもりなのでお楽しみに!
後Vtuber物でもうひと作品も執筆中なのでお時間あればそちらも宜しくお願いします!
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)


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op.12 終わったものと始まるこれから

むっちゃ待たせてすいません、難儀しながらもかけたので投稿!


 

op. 12

 

神峰視点

 

「あーにしてもつっかれたぁ!練習時間の方が長いはずなのに本番のほうが疲れるの何でだろうな?」

 

まりなさんは後片付けの為会場へと戻っていった。手伝いましょうかと言ったが「今日の主役達にそんな事はさせられないよ!…十六夜君以外は疲れてるみたいだしゆっくりしてて!」と言って控室を後にした。言っといて情けないが正直ありがたかった

 

「緊張や、プレッシャーがあったからじゃねぇか?そう言った目に見えない負荷ってのは意識、無意識に関わらず心体共にストレスがかかるもんだ」

 

「ま、俺は感じた事ねぇけどな」と本当のことに言う十六夜、それを何とも言えない表情でジト目を向ける響也

 

俺も先程から立っていられなくなりパイプ椅子に腰掛けている。普段視ないようにしている()を観客全員視渡し、その上で奏で(描き)たい(景色)を音や体の動きに乗せてみんなに伝える

 

全てが初めての事過ぎて今思えば反省点が次々に出てくる。目に映るイメージは理想であってそこに辿り着くための道筋は自ら作らないといけない、そこの描き方は経験によって培われていくと思う。けどあの瞬間でできる自分の最高指揮ができたと断言できる、後は今後改善していけばいいだけだ

 

「あっ!てかさてかさ!演奏中に神っち指揮?してたよな!?あれどう言う事だ!?自然過ぎて気にしてなかったけど!」

 

「ちょっと響也煩い、こっちは疲れてるのにそんな大声聞きたくない。あんたのどこが疲れてるのよ」

 

「いやでもさ「何?」いえ、何でもありません!…あれ?何これデジャブ???」

 

と響也が嘆いているとドアをノックする音が聞こえる響也が「はーい、どーぞー」と応えると『失礼します』と言って扉を開けた先にいたのはアフグロの四人がいた

 

「先輩方お疲れ様です。ライブ終わりでお疲れのところすみません、せっかくだし感想とか言いたくて来ました」

 

と上原が言った、1人かけているのを見た響也がアフグロに問いかける

 

「ありがとな!…ところでつぐっちは?俺神っちのベースの感想聞きたいんだけど」

 

「そこは私達の感想でしょうが」

 

「あ〜え〜っとつぐは…ですね、何と言いますか…そ、そう!急にお店の手伝いが入って先に帰っちゃったんですよ!神峰先輩達には最高のライブでしたって伝えておいてって言われました!」

 

そんな事言ってないよねー

 

しょうがないだろ、まさかつぐが帰るだなんて思わなかったし。まんま言うのは流石にダメだろ?

 

これモカのせいでもあるんだからね!?

 

「………じー」

 

無言で俺の方を睨むように見てくる美竹、身に覚えのない視線()に居心地の悪さを感じながらアフグロと俺達は今日のライブについて話し合っていた

 

羽沢視点

 

ライブが終わってお客さんが会場を後にする中、私達は。ううん、私は動けないでいた

 

4人の先輩達が奏でたライブの余韻がまだ残っていて半ば放心状態になってる。そんな私を心配する様にモカちゃんが声をかけて来る

 

「つぐ〜?大丈夫?ライブ終わってからずっとボーっとしてるけど」

 

「………」

 

「つぐ!!」

 

「…え!?どうしたのひまりちゃん」

 

「どうしたのじゃなくてライブ終わったし神峰先輩達の所、行くんでしょ?」

 

「そ、そうだったね!うん、早く行こう!」

 

少し慌てて神峰さん達がいるところに向かおうとする

 

「つぐのやつ大丈夫か?」

 

「本当に体調が悪いんじゃないの?」

 

「いや、そういうことじゃなくてさ?」

 

「?」

 

「!成る程成る程〜」

 

いつものニヤニヤ顔をしたモカちゃんが私のところに並んで話しかけて来る

 

「神峰さん達のバンド凄かったねぇ」

 

「うん」

 

歩きながらでも頭の中では神峰先輩達のライブが何度も再生されていて簡単な返事しか出来ずにいた

 

「ステージ姿もカッコよかったよねぇ」

 

「うん」

 

「これはますます神峰先輩の事大好きになったんじゃないの〜?」

 

「うん………え?」

 

今なんて言われて何で返事したの私?気になってモカちゃんの方を見ると、私以外の皆んなが驚いた表情で私を見てる

 

どうしたのかわからずさっきの話を思い返すと…

 

「これはますます神峰先輩の事大好きになったんじゃないの〜?」

 

「うん」

 

…うん!?え、私今うんって言ったの!?私が!?は、早く否定しないとモカちゃんに…そんな私の頭の中に浮かんだのは私が初めて神峰先輩と出会った時の光景、神峰先輩の驚きの後に見せた苦しそうな表情、CiRCLEで会う様になってから時々モカちゃんにからかわれた時に見せる少し困った顔、私達の演奏を聞いた時の真剣なそれでいて何もできない自分が嫌で仕方ない顔

 

そして、今日初めて見た心の底から音楽が楽しくて仕方ないって伝わってくる笑顔

 

そんな色々な神峰先輩の表情(思い出)が浮かんできた私は…

 

「私…神峰先輩の事、好きだったんだ」

 

少し距離の空いたみんなに聞こえない程小さな声で言った自分の心情に驚くどころかしっくりきて、その直後ボンッ!って音がなりそうなくらい急激に体温が上がった

 

思えば私初対面で神峰先輩のて、手を握ったよね!?それも突撃気味に!?

 

「わ」

 

『わ?』

 

「私今日帰るね!?神峰先輩達にはよろしく言っておいて〜!!?」

 

皆んなが引き止める前にCiRCLEから出て行った。今日は皆さんと、もっというなら神峰先輩とまともに会える気がしないし自分の今の表情を誰にも見せたくなかった

 

うぅ、でもこれ明日絶対モカちゃんに揶揄われちゃうよ!なにより今後どうやって神峰先輩と接していけばいいの!?

 

そんな事を思って迎えた翌日、皆んなと会った時に温かい目で頑張ってねって励まされた…昨日私がいない間になにがあったの!!?

 

神峰視点

 

「…所でさっきから睨まれてるんだが美竹に何かしただろうか?」

 

部屋に入ってからずっとこちらを睨んでいる美竹に直接は聞けず他のアフグロメンバーに聞いてみる。視える心は同じ様な表情なのでそこから何を考えてるのかがわからない

 

そうすると当の本人である美竹から話しかけて来た

 

「神峰さん」

 

「あぁ、どうかしたか美竹?それとさっきから何で俺の事に「つぐみの事泣かしたら許さないから」…?俺がか?そんな事するわけないだろう?」

 

「なら…いいんだけど」

 

そう言って同じギターの十六夜のところへ向かう美竹、なぜかニヤニヤしている十六夜をよそにその質問の意味を三人に聞こうと思ったのだが

 

え、これもしかしなくても…

 

そうだね〜つぐも今日自覚したみたいだから仕方ないとはいえ、神峰先輩も気づいてないみたいだよ〜

 

これから大変だなつぐのやつ

 

俺に聞こえない声量で心はこちらを見ながら話す三人のアフグロメンバー、最後までその内容は分からないままだった

 

沙夜視点

 

神峰さん達のバンドライブが終わり、日菜が神峰さん達に挨拶してくるといい、私はそこまで親睦のない自分が行っても疲れているだろう神峰さん達を困らせるだけだと言って辞退した

 

ふだんなら「それじゃあ、あたしもお姉ちゃんと一緒に帰る」という日菜は、「…分かった。あたし行ってくるから先に帰っててお姉ちゃん!」っと言って彼等のいるであろう控室に向かった

 

1人で帰りながら考えるのは、ライブ中に言葉にしてしまった彼に対する負の感情。日菜(天才)の姉である自分(凡人)、どうしたって比べられてしまう自分達、けど彼等は日菜に似た彼がいても逃げるどころか受け入れて、時には対立してお互いを高める

 

今日と日菜と一緒にいた時に一度会っただけでもそう思わせるだけの何かが彼等のライブにはあった。自分のこれまでを否定され、でも不快じゃなくずっと聴いていたくなるライブ

 

私に出来るだろうか?妹の影に怯えて走り続ける事しかできない私に、彼等の様な演奏を、志を同じくしてくれる仲間を見つける事が

 

空を見ても雲ばかりで星を見つける事は出来なかった

 

 

 

 

神峰視点

 

途中ひなが控室に突入してくる一幕があったが、ライブ後の片付けも終わり各々の帰路に着く、帰り道が同じ響也と2人で帰りながら今日のライブについて話す

 

「今日のライブ、本っ当に最高だったな神っち!!特に神っちの指揮!あんなのできるなら教えといてくれよな!」

 

「俺だってあの時初めて知った事だ、曲のイメージを指揮、しかもベースの音や体の動きを使ってできるとは思ってなかった」

 

「ま、なんにせよライブは大!成!功!みんなも喜んでくれたみたいだしな!」

 

「あぁ、けど初めてなのもあっておぼつかないところもあった。十六夜との食い違いがいい例だ、けど感覚は掴んだし次からは観客もイメージしながら練習出来る。そうやって慣らしていけばあの音にもより近づける…って、何だよ響也ニヤついて」

 

「ん〜?いや何でもねぇよ神っち!(神っちから()が聞けた。中学の頃最初で最後だと思ってた神っちとの演奏、それを今度は十六夜や琴葉もいる。この4人でならもっとすげぇ演奏ができるはずだ!神っちは知らないんだろうなぁ俺が今どんだけ嬉しいのか)…つかつぐっち急にお店の手伝い入るとか残念だなぁ。神っちのベースの感想聞きたかったのに」

 

「飲食店だとそういうのもあるんだろう、今度会った時にでも聞けばいい」

 

「ま、そうだな」と言って前を歩く響也、その背中を見ながら俺は十六夜に言う

 

「ありがとな響也」

 

「え?」

 

「俺から離れないでいてくれて、俺に手を伸ばし続けてくれて、俺と一緒に音楽をやってくれて。おかげで俺は視れないと思ってた景色を視る事が出来た。これからも迷惑をかけるかもしれないけどよろしくな」

 

「………そ、そうだな!これからも宜しくな神っち!」

 

こちらを見ずに言う響也、その心を視ないふりをして、その距離のまま、俺達は並んで帰った

 

 

 

 

予告 新章

 

「はっ!お前らのあれが音楽?少なくとも2人、響いてこねぇ音を出してるあれを俺は音楽とは認めねぇ」

 

「私は日菜を理由にするのは…もう辞めます」

 

「それでも私は…」

 

「なら証明して見せろよ。お前らのそれが音楽だって言うのを、否定した俺自身に。お前らのライブでな」

 

「私は、貴方の事が…」

 

バンドリ!彼奴のいないこの世界で、新章Roselia【キャンパスに、生きる青薔薇を】




次回から新章が始まります。もう目を逸らさない事を決めた彼がどう向き合っていくのか、それは皆さんの目で確かめてください
ほんと描いて思うのは神峰と響也のコンビが最高!って事です
早く執筆出来るよう頑張りますのでモチベ向上のため感想お待ちしております
ではまた次回で!Σ(゚д゚lll)


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