銀色幻想狂想曲 (風並将吾)
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第×訓 謝罪会見

 

 某所にて。

 着々と進められている記者会見の準備。流行り病を防ぐために距離を空けられた椅子がずらりと並べられており、その前には向かい合うように机が用意されている。そこにはマイクが二つ設置されており、これから何者かがそこに来ることが容易に想像出来た。

 壁には、『銀色幻想狂想曲 連載休止についての謝罪』という文字がデカデカと書かれた板が立てかけられている。机の上には、これから来るであろう人物──坂田銀時と博麗霊夢の名前が書かれたネームプレートが置かれていた。

 並べられた椅子を目指して、記者の格好をした者たちが次々と座っていく。その中には、目を爛々と輝かせている射命丸文や、嫌々ここまで来たという雰囲気を隠すつもりもない、姫海棠はたての姿もあった。

 

「本日、この場所で坂田銀時氏と博麗霊夢氏のお二人により、謝罪会見が行われるとのことです」

 

 マイク片手にそう告げたのは、銀魂のゲロインこと神楽。いつものチャイナ服とは違い、眼鏡をかけてスーツを羽織っている。その様子はまるで、何処かのテレビ局のキャスターのようだった。

 

「あ、来ました!」

 

 パシャパシャパシャパシャ! 

 大量のフラッシュ音が発せられる。全員の注目が、入ってきた人物に向けられた。

 

「「…………」」

 

 俯き、ゆっくりと歩いてきたのは……銀色幻想狂想曲のダブル主人公こと、坂田銀時と博麗霊夢。

 彼らは沈痛な面持ちで席に向かうと、椅子の前に立つ。そして一礼。

 その様子を見た記者たちは、再びシャッターを切っていく。浴びせられる音が鳴り止んだ後、銀時が口を開いた。

 

「えー……この度は……お忙しい中お越し頂きまして誠にありがとうございます。銀色幻想狂想曲の連載休止につきまして、関係各所を代表致しまして……私、坂田銀時と……」

「博麗霊夢が……謝罪と釈明会見を執り行いたいと思います」

 

 続く形で霊夢が言う。

 そして二人は、示し合わせる様子もなく、息を合わせた形で……。

 

「「この度は一年間も連載休止致しまして……すみませんでした!!」」

 

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ! 

 一斉に浴びせられるフラッシュ。

 鳴り響く音は、宛ら弾劾する裁判官の様。

 しばらくその光を甘んじて受け止める二人だったが、折を見て席に着く。

 暫し流れる静寂の時間。

 それを打ち破ったのは、

 

「質問よろしいでしょうか?」

 

 という、文の一言だった。

 

「あ、はい」

「連載休止に至った経緯につきまして……」

「ウワォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオアアアアアアアアアアアア!!」

「おい泣くのはエェよ!! ていうかこれアニメで見た光景だろ!!」

 

 記者団の一人である志村新八(メガネ)が、突然泣き崩れた銀時に向かってそう叫ぶ。

 

「私達だってね!! ただの被害者なのよ!! それをよってたかって加害者みたいに言うなんて酷いじゃないのぉおおおおおおおお!!」

「なんで霊夢さんまで泣き出してるんですか!?」

 

 これには思わず文もツッコミを入れざるを得ない。

 

「月に向かってお仕置きしにいく流れになったと思ったら!! 世間では感染症で騒がれる日々が待ち受けてるし!! ●並に至っては!! 引っ越ししてドタバタ騒ぎになるかと思えば!! PCぶっ壊れたりネット繋がらなくなったりで酒に明け暮れる毎日になって!! 終いには肝臓の数値が健康診断でレッドゾーンになって!! ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「でもね!! アンタたちに何がわかるって言うのよ!? 風●の何がわかるって言うのよ!?」

「いやもうアンタら何言ってるか訳わかんないんですけどォ!?」

 

 銀時と霊夢は、泣き叫ぶ。

 自分達の口から告げられているのは……それは果たして本当に釈明と呼ぶものなのだろうか。

 

「第一、連載一年止まってるのに!! たまにアクセス解析を覗いてみれば!! お気に入り登録増えてたり、今でも読んでくださる方々がたくさんいらっしゃって!!」

「申し訳ないという気持ちを抱きながらも、自分はゲーム制作やら実況やらに明け暮れる毎日を送ってたのよ!!」

「そうしているうちに原作は完結するし!! 映画もとうとうFINALの上映始まってしまうし!!」

「東方に至っては二次創作のゲームにボイスがついたり、ついにはアプリまで登場する始末!!」

「「本当に情けなくて……ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」

 

 泣き叫ぶ。

 周りの目など気にせず、彼らは泣く。

 そしてひとしきり泣いた後、顔を上げる銀時と霊夢。

 そして銀時が一言。

 

「はい。謝罪もしましたので、銀色幻想狂想曲、再開しまーす」

「ふざけんなぁ!!」

「げぶほぉ!!」

 

 というわけで、銀色幻想狂想曲、連載再開です。

 

 

 

 

 銀魂×東方project

 

 銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 第×訓 謝罪会見




と言うわけで、皆さま大変長らくお待たせ致しました。
そして、大変申し訳ありませんでした。
この度は、銀色幻想狂想曲をご覧になっていただきまして誠にありがとうございます。
まずは、連載休止に至っていた理由につきましてご説明致します。
理由を箇条書きしますと……。

・作者が引っ越しした事により時間が取れなくなっていた。
・喉の痛みだったり違和感だったり、体調面に問題があった。
・知人の紹介により実況や動画編集、ゲーム制作を行うこととなり、そちらに時間を割かれてしまっていた。
・結末は考えついていたものの、そこに至るまでの物語が思い至らず、スランプ状態に陥っていた。

というのが主な原因です。
ご心配おかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
これからにつきましては、以前のようなペースは流石に無理ではあるものの、1ヶ月に最低1話は更新していきたいと思っている次第です。
その分完結までの時間はかなり遅くなってしまいますが、何卒応援よろしくお願い申し上げます……。


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第零訓 他作品がコラボしようとすると大抵ろくなことにならない

 侍の国。

 僕らの国がそう呼ばれていたのは、今となっては昔の……。

 

「うるせぇええええええ!! この小説にそんな共通アバンはいらねぇんだよぉおおお!!」

「あぶはぁ!!」

 

 突如新八に襲いかかる、理不尽という名の暴力! 銀時の蹴りを全身でもろに受けたことにより、約一メートル程後方へ飛んで行った。

 蹴り飛ばした張本人である銀時は、普段は死んだ魚のような目をしているくせに、今だけは大きく目を見開いている。瞳孔開いている。

 

「いきなり何するんですか銀さん!! 銀魂の世界観を知らない人達のために、せっかくわかりやすく説明をしようとしてるところでしたのに!」

「いちいちそんな説明を律儀に読む奴なんていないアル。そもそもクロスオーバーの小説なんて、原作知ってる奴が暇つぶしにサラッと読むような感じのものアル。好きなキャラが動いていればとりあえず細かいところは気にしないんだから、今更懇切丁寧に話す必要もないネ」

「おぃいいいい! のっけから読者を敵に回すようなことを言うなぁあああ!」

 

 鼻をほじりながら、ヒロインにあるまじき発言を抜かす神楽。

 ツッコミに力が入る新八の息は完全に上がっており、肩で呼吸をするにはあまりにもハイペースとなっている。果たして彼は、今後襲い来るボケの嵐に耐えられるのだろうか。

 

「それに、今回はあの東方とのコラボだろ? こちとら雑誌での連載が終わって、アプリに向けた準備で忙しいって時に……」

「でも、せっかくコラボしてくださるわけですから、ここは気合入れていかないと! それに、向こうはとっても可愛い女の子ばかりなんですよ! 気合い入りますよね!」

「なんだよ、新八。鼻の下伸ばしてデレデレしやがって。メガネの風上にもおけないネ」

「メガネの風上ってなんだよ!? それどんな奴らの頂点に立てばいいんだよ!?」

「はぁ? ぱっつぁんの癖にそんなこともわからねぇのかよ。メガネ界代表を務める最強の称号だろ? 」

「メガネ界の代表なんて狭い世界でのてっぺん狙いたくありませんから!!」

「第一な、メガネよりも他の人目当てで読みに来る人の方が多いに決まってるアル。お前が気合い入れたところで、酢昆布一枚分にもならないアルよ」

「酢昆布一枚分って、僕の存在ってそんなに薄いの!?」

 

 あまりの仕打ちにツッコミがハイペースになっている新八。

 

「あ、それからテメェら二人に言わなくちゃならねぇことあんだけど」

「何でしょう?」

 

「この作品、最初の方はお前ら二人の出番ほぼねぇから」

 

「「……………………え?」」

 

「それじゃあ、銀魂と東方projectのクロスオーバー作品、『銀色幻想狂想曲』、ヌルッとはじまりま〜す」

「またんかぃいいいい!! さっきの発言はどう言うことだゴラァぁあああ!!」

「そうネ! アタシ達の出番がないって……」

 

 抗議の言葉が飛び交う中、銀時は猛ダッシュでその場を後にする。

 新八、神楽の二人も、全速前進でその後を追いかける。

 誰もいなくなった場所に、

 

「はぁ……あいつら、まともに作品紹介も出来やしないのね。今まで会ってきた外来人の中でも飛び抜けてアホな連中ね」

 

 脇出し巫女こと、博麗霊夢が現れた。

 

「それじゃあ改めて、『銀色幻想狂想曲』、よろしくね」

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

第零訓 他作品がコラボしようとすると大抵ろくなことにならない

 

 




はじめまして。
風並将吾と申しますー。
とうとうやってしまいました……銀魂と東方のコラボを……。
いつかは銀魂の小説をやりたいと思っていたのですが、どうせなら何かとクロスオーバーさせてしまおうというちょっとした誘惑に負けてしまいまして……。
亀更新になるのは目に見えておりますが、なるべく完結させるよう頑張ります故、何卒よろしくお願い申し上げます。


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紅霧異変篇
第一訓 妖艶の美女が持ってくる依頼に碌なものはない


 天人が蔓延る江戸は歌舞伎町。

 木造建築が立ち並ぶ街中。スナックお登勢と書かれた看板が置かれている建物の二階に、万事屋銀ちゃんはあった。

 そこの家主である坂田銀時は、

 

「あぁ……金がねぇ……」

 

 仕事もせず、ソファに寝転がってだらしなく鼻糞製造機(ダメにんげん)と化していた。

 

「ここんとこまともな仕事もねぇからなぁ……原作者のゴリラも結局完結させられてねぇし」

「いきなりタイムリーなネタ打っ込むのやめてやれよ! ゴリラだって必死こいて仕事して……るんですかねぇ……」

「そこで疑問持っちゃいけねぇぜ、ぱっつぁん。そこは自信満々に『ゴリラだってニートしてるんだぞ』って言って、銀さんに暖かなエールを送らなきゃ」

「アンタは進んでこの状況受け入れてんだろ! そんなアンタを心から暖かく応援する気になれるか!!」

 

 ぐうたらしている銀時に対して、室内を掃除しながらも律儀にツッコミを入れている新八。本来ならばそこに神楽と定春もいるのだが、彼女達は散歩に出かけている為、今はいない。

 

「仕方ねぇだろぉ……ここんところ依頼なんて来やしねぇんだから……仕事したくても仕事できねぇっての……」

「少しは自分で仕事取ってきてくださいよ。求人雑誌持ってきますから」

「それバイトじゃねえか。実写映画ネタを無理に入れなくていいんだよ? 新八」

「別にそういう意味で言ったわけじゃねえよ! 隙あらばボケ入れるなアンタ!」

 

 こういうところの頭の回転だけは無駄に早い銀時。

 呆れを通り越して、むしろ尊敬に値するレベルだと新八は感じていた。

 

「はぁ……とりあえず、僕もちょっと外出してきます。買い出ししてきますから、その間に依頼の一つや二つ、受け取ってくださいよ」

「あいよ。あ、新八。ジャンプ買ってきてくれ」

「アンタのパシリに行く訳じゃねえよ! 自分で買ってこいや!!」

 

 捨て台詞のようにツッコミをおいていった新八。

 その場に残ったのは銀時のみとなり、辺りに静けさが訪れる。

 少しソファで寝そべった後、銀時は気怠そうにゆっくりと立ち上がり、

 

「そろそろ入ってきたらどうなんだ? さっきから様子窺ってるようだが、いい加減そこに居られるのもむずがゆいんだわ」

 

 まるでその部屋に誰かが居るかのように、何もない空間に向かって話しかける。

 すると、寝室の襖が開かれて、そこから一人の女性が現れた。

 

「あら、気付いていらしたのね。いつ頃からでしたの?」

 

 現れたのは、金髪の女性。白と紫を基調とした幅広のスカートタイプの服を身に纏い、赤いリボンが施された帽子を被る女性。右手に大きな傘を握る彼女の容姿は、まるで『人間を超越したかのような』美貌。この世ならざる者の存在を匂わせるような、絶世の美女という表現が相応しかった。

 

「人ん家勝手に忍び込んでおいてよく言うぜ。さっきから人を試すような視線向けやがって……何が目的なんだ? ただ単に遊びでここに来たわけじゃねえんだろ?」

「用事ならもちろんあるわ。先程の眼鏡をかけた少年が言っていたことよ」

「あん? まさか……」

「えぇ。貴方に依頼しに来たのよ。万事屋、坂田銀時……白夜叉に、ね」

 

 妖艶な笑みを浮かべながら、女性は銀時に話しかける。

 一方で、銀時は警戒を解くことをやめない。

 少なからず、坂田銀時がかつて白夜叉と呼ばれていたことを知る者という時点で、警戒するには十分過ぎる理由だった。その上、どうやって目の前に居る女性が、誰にも気付かれることなく、この部屋まで訪れたのかも分かっていない。そんな女性から『依頼』という単語が飛び交うことこそ、怪しさの塊でしかないのだ。

 

「で? どんな依頼なんだ……?」

 

 当然、銀時は尋ねる。

 すると、女性は傘を自身の身体の前に置き、静かに頭を下げながら、

 

「どうか、これから起こる異変から、『幻想郷』を守ってもらえないでしょうか?」

 

 一切のブレもなく、心からの誠意の元、彼女は銀時にそう告げた。

 ここまでされてしまっては、銀時も何も言い返せなかった。

 頭をガシガシと掻き毟り、

 

「……いくつか、教えろ。まずはアンタの名前からだ」

 

 依頼主の名前を尋ねる。

 女性は、銀時に向かって微笑みながら、

 

「八雲紫。幻想郷を愛する者の名前を、どうぞお見知りおきください。坂田銀時さん」

 

女性――八雲紫は、自己紹介を済ませたのであった。

 

「で? 幻想郷ってのはどんな場所なんだよ」

「つれないですね。せっかく自己紹介したというのに、名前を呼んですらもらえないなんて」

「さっきから胡散臭さぷんぷん匂わせておいてその台詞たぁ、なかなかいい趣味してんじゃねえか。ったく、喋ってりゃあんたがただの人間じゃねえこと位、ある程度予想つくっての」

 

 普段は死んだ魚の目をしている銀時。

 しかし、今の彼は――侍の目をしている。

 八雲紫が、ただの依頼人としてこの場に来ていないことを、重々理解している。

 

「あら、依頼に来たのは本当のことですわよ? それと、質問の答えですが……」

 

 一度間を置いて、それから紫は微笑みながら言葉を発する。

 

「幻想郷は、人と妖怪が入り混じる場所。あるいは忘れ去られた者が辿り着く場所。あるいは妖怪や幽霊、そして人間が住まう理想郷」

「幽霊、だと……?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、銀時の身体中から冷や汗が流れ出る。

 何を隠そうこの男、幽霊の類が――大の苦手なのだ。

 

「えぇ。そんな幻想郷にも『異変』が起きようとしていますの。なので貴方には、異変解決の手伝いをして頂きたいと思いまして、こうして馳せ参じたわけです」

「ゆゆゆ、ユウレイなんてファンタジーな言葉がががが、本当にああああああるんですねぇぇえええ」

 

 めっちゃ動揺していた。

 めっちゃ身体がたがた震えていた。

 

「あらあら。身体が震えていましてよ? 大丈夫ですわ。ほとんどがこうして、『私』のように、人の形をとっていますから」

「……っ!」

 

 瞬時に悟ってしまう。

 目の前に居る紫は――人間ではない。

 そう、文字通り、人間ではなく――妖怪。

 

「時間もあまりありませんし、導入部分をだらだらとやっていた所で飽きが生じてきてしまいますから、そろそろ幻想郷までご案内させていただきましょう」

「お、おいちょっと待て。導入部分ってなんだ? 飽きって何? え、何? マジでこんな意味不明な状態のまま、俺、幻想郷とやらに飛ばされるの? 妖怪美人さんとランデブーなの?」

「妖怪美人さんだなんて恐れ多いわ。これから貴方を迎え入れるというのに、つい手が滑っちゃいそうじゃない」

 

 紫は、銀時が褒め言葉でそのような言葉を発していたわけではないことを理解した。

 理解した上で、敢えて言葉では乗せられているように振る舞っていた。

 内心、どれだけの怒りを抱えているかなど、銀時は知る由もないだろう。

 

「それじゃあそろそろ、ご案内♪」

「あんた最初のキャラから随分ブレてんじゃねえか! そっちが本性かよどちきしょぉおおおおおおおおお!!」

 

 呆気なく、銀時は紫が創り出した『スキマ』によって、その場から消え去ってしまった。

 

「……あ、あの子達にも伝えなきゃいけないわね。主がいきなりいなくなってしまっては、説明のしようもないだろうから……」

 

 何かを思いついたかのように、紫は『スキマ』から紙と筆を出し、さらさらと何かを書く。

 書いた紙を机の上に置き、

 

「これでよし、と……さて、私もそろそろ向かいましょう。『あのお方』が見出した男が、どれ程幻想郷の為に働いてくださるか……楽しみね」

 

 自身も『スキマ』に入っていき、その場からは誰もいなくなった。

 

 

 数分後。

 

「ただいまー……銀さーん、神楽ちゃんと定春も一緒に帰ってきたんですけどー」

「ただいまネ、銀ちゃんー……あれ、いないアルか?」

「おっかしいなぁ……依頼の一つや二つもらってこいって言ったのに……って、何か机の上にある」

「ホントネ。何が書いてあるの?」

「えーと……」

 

新八・神楽へ

銀さんはちょっくら自分探しの旅へ出かけるので

くれぐれも探さないでください

たぶん結構長い期間旅することになると思うけど

くれぐれも探さないでください

酒飲んでるわけじゃないんだよ?

くれぐれも探さないでください

くれごれも、探さないで、ください。

 

「なんじゃこの手紙はぁあああああああああああああ!!」

 

 意味不明過ぎる文面は、即座に新八の手によって破り去られたという……。

 

 

 これは物語の導入。

 一人の侍が、幻想郷という場所を経て、様々な出会いを果たし、様々な者へ影響を与えていく物語。

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

第一訓 妖艶の美女が持ってくる依頼に碌なものはない

 

 

 



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第二訓 隠れて何かをする時はまず周囲を確認すること

「ん……あたまいてぇ……ここどこだよ畜生……」

 

 目が醒めると、そこは一面緑の大森林。いきなり木々以外には何もないような場所に飛ばされた銀時は、まず己の荷物を確認する。

 財布、一張羅、木刀、ジャンプ。

 

「よし、なんら問題はないな」

 

 この状況で志村新八(ツッコミ役)が存在しないことが些か心配にはなるだろう。恐らく新八がいれば、荷物の少なさはもちろんのこと、何故ジャンプを肌身離さず持ち歩いてるのかを追求するに違いない。

 荷物を確認し終えた銀時は、辺りを見渡す。

 視界に広がる木々の他には、辺り一面に広がる紅い霧。幻想郷という場所特有のものなのか、あるいはこれが紫の言う『異変』というものの前触れなのか。少なくとも、今の銀時にとっては判断材料が少なすぎて、判別する事が叶わない。

 

「ったく、あの強化外殻糞婆(八雲紫)め……いきなりこんな所に放り投げるたぁ、どんな精神してやがる……次会ったらタダじゃすまねぇからなコノヤロウ……」

 

 悪態をつきながらも、今の銀時に出来る選択は、とにかく前に進むことのみ。道標やコンパス等もない状態での散策となってしまったが、贅沢は言っていられない状況下。

 とはいえ、ここで銀時はふと思い至る。

 

「……ん? 周りに誰もいない?」

 

 少し考えた後、むしろこれはチャンスなのではないかと思う銀時。

 辺りをキョロキョロと見渡した後、大きく息を吸って、腰を落とす。そのまま右手と左手を自分から見て右下まで持って行き……。

 

「かーめーはーめー……はーっ!!」

 

 森一帯に広がる銀時の叫び声。反面、返ってくる言葉はなし。

 しばらく静寂の時間が続いた後、

 

「今のは溜めがイマイチだったな……おっかしいなぁ、銀魂乱舞だとこれでかめはめ波撃てたのに……」

 

 もう一度、かめはめ波を撃つポーズを取る。

 そして。

 

「きゃー……めぇー……ひゃー……めぇー……はっ!?」

 

 じーっ。

 そんな効果音が出てくるほど、すごく見つめてくる少女が一人いた。

 黒と白のワンピース型の洋服、金髪に赤いリボンを付けた少女は、紅い瞳でじーっと銀時を見つめていた。

 

「じーっ」

「……いや、これはね? あの、エクササイズなんだよ? だからそんな目で見ないで? ね? お願い?」

 

 一気に恥ずかしさがこみ上げてくる。例えるなら、誰もいないと思って、一人で勝手に厨二台詞を叫んでいたら、たまたま通りかかったクラスメイトの女の子に聞かれていた時と同じような、そんな恥ずかしさ。そりゃもう、メチャメチャ、イケてない。

 

「じーーっ」

「ああそうだよ! 年甲斐もなく、かめはめ波の練習してたよ! わりぃかよ!!」

 

 いっそ潔いほどの開き直り。

 先程よりも少女の視線が強くなった気がするが、銀時はそれでもめげることがない。

 そして少女は、やっと口を開いたと思ったら、こんな台詞を告げた。

 

「あなたは、食べてもいい人類?」

「……………………は? 食べる? イート?」

 

 銀時は混乱している!

 あまりにも唐突過ぎる言葉に、銀時の思考はショート寸前。

 

「あのー、お嬢さん? 俺を食べても美味しくねぇよ? むしろ腹壊すよ? だから、食べるのはちょっとやめといた方が……」

「そーなのかー、じゃあいただきまーす」

「聞けよこのがキィいいいい!! テメェの耳はただの飾りがこのヤロォオおおおお!! 遠回しに食べるなって言ってんのがわからねぇのかぁあああああ!!」

「そーなのかー、じゃあいただきまーす」

「ただの野生児じゃねえか!! 話聞くどころか、右から左へ聞き流して、本能の赴くままに動いてるだけだろぉおおお!!」

 

 銀時の抵抗も虚しく、少女と銀時の戦いは幕を開けてしまった。

 

「ちっ……!」

 

 舌打ちをしつつ、木刀を持つ手に力を込める。

 ほぼ同時に、少女を中心として小さな光の弾幕が放たれた。

 

「くっそ……!」

 

 幸い、追尾してこないことを悟った銀時は、関係ないものは無視し、自分に当たりそうなものだけを避ける。なるべく少女と距離を取り、すぐにでも逃げられるように。

 

「逃げるのは良くないぞー。闇符『ディマーケイション』」

「!?」

 

 銀時の眼の前で、少女が、宙に浮いた。

 それだけではない。

 少女を中心として、青、緑、赤の順番で小さな弾幕が展開される。更に、その中の一部は銀時めがけて飛んできていた。

 

「こいつ……!」

 

 近づいてきた弾幕のみ、銀時は木刀で切り裂く。

 

「おお……すごい!」

 

 本当に心から感心している様子の少女。

 

「そりゃどうも……!」

 

 幻想郷における戦闘はこれが初めてとなる銀時。弾幕を張る戦い方を知らないわけではないが、それにしても随分と数が多いと感じていた。

 

「それなら……夜符『ナイトバード』」

「また新たなやつか……!?」

 

 自身はふよふよと至る所を彷徨いながら、弾幕を張り続ける少女。

 大きく広げられた両手には、少しずつ光が集まってきているのが銀時の視界に映る。

 

「まさか……!」

 

 咄嗟に、地面を強く蹴って速度を増し、近くにあった木を蹴っ飛ばして、進行方向とは逆に転がっていく。

 次の瞬間、銀時が先程までいたところを目がけて、少女の両手からレーザーが放たれた。

 それは地面を大きく抉り、もし直撃していたらタダではすまなかったことをおおいに物語っていた。

 

「ビームサーベ流かよ! そんなの反則だろうが!!」

「反則もなにも、立派な技だから仕方ないよー。それにしても、これも当たらないのかー。弾幕も使ってないのに、すごいぞー」

「へっ、生憎こちとら、毎日阿婆擦れ共と戦国時代送ってるような身でな。そう簡単にくたばるわけにゃいかねぇのさ」

「そーなのかー。よくわからないけど、なんかすごそう」

「ほとんど話わかってねぇだろ?」

 

 少し荒くなった息を整えて、もう一度構える銀時。

 対する少女も、これで最後にすると言わんばかりに構える。

 

「そういえば、おじさんの名前聞いてなかったー。私はルーミア。あなたは?」

「おじさんじゃねえ。坂田銀時。宇宙一馬鹿な侍だ、この野郎!!」

「あははー! 闇符!」

 

 銀時は地を駆け、少女――ルーミアは最後の攻撃を繰り出そうとしたところで、

 

「霊符『夢想封印』」

「え? にゃああああああ!」

 

 突然、銀時の真上を、赤い弾と無数の札が飛んで行き、それがルーミアに直撃したかと思った次の瞬間には、目を回して銀時の目の前に落ちてきたルーミアの姿があった。

 

「妖怪相手にそれだけの大立ち回りが出来るなんてね。あんたが紫の言っていた外来人ね」

 

 背後より声が聞こえてくる。

 その声の主を確認するために、銀時は後ろを振り向いた。

 そこに居たのは。

 

「私は博麗霊夢。こっちは霧雨魔理沙よ」

 

脇出巫女(博麗霊夢)と、魔法使い(霧雨魔理沙)だった。

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

第ニ訓 隠れて何かをする時はまず周囲を確認すること

 



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第三訓 バカにつける薬はない

 改めて銀時は、目の前に現れた二人の少女を見つめる。

 博麗霊夢と名乗った少女は、如何にも『今起きてる状況を片付けてさっさと帰りたい』という表情を浮かべている。

 対して、霧雨魔理沙と紹介された少女は、何処かこの状況に対して燃えており、やる気に満ち溢れている。

 あまりにも対照的な二人だと思った銀時。

 そして、銀時と霊夢の二人の心は一致していた。

 

「「((こいつ……おそらくダメ人間だ))」」

 

 と。

 

「霊夢から紹介されたけど、改めて……霧雨魔理沙だぜ! よろしくな! 銀さん!」

 

 気にせず、魔理沙は自分のペースで自己紹介をしつつ、右手を自然と差し出す。

 銀時は気だるそうにその手を握ると、

 

「はいよ、よろしくな。魔女っ子」

「魔理沙って呼んで欲しいんだぜ。それに私は普通の魔法使いだぜ? 魔女ではねぇぜ!」

「どう見ても魔女だろ? 黒猫引き連れて宅急便やってそうだろ? 箒持ってるし、いかにもって感じだし」

「空は飛べるけど、黒猫はいねぇし宅急便もしてないけど? 銀さんは魔女に対してどんなイメージを持ってるのか分からないんだぜ」

「なにってそりゃお前、ジブ……」

「それ以上は言わせないわ」

 

 三つ目の言葉を発するところで、霊夢の右ストレートが銀時の顔面にクリーンヒット。

 

「あぶぎゃっ!」

 

 奇声と共に数センチ後方に吹き飛んだ。

 

「何すんだこのアマァ!!」

「私の勘が告げてたのよ。これ以上言わせてはいけないと」

「勘で人の顔面ぶん殴る凶暴女がどこにいやがる!!」

「ここにいやがるけどなにか?」

「開き直るんじゃねぇよ脇出しビッチが!!」

「誰がビッチよこのやろぉおおおおお!! 良いわよ? ここをアンタの墓場にしてもいいのよ?」

 

 瞳孔開ききって互いに怒鳴り散らす二人。

 そんな二人に対して、魔理沙が一言。

 

「どうでもいいけど、そこの妖怪はどうすんだ?」

「「あっ……」」

 

 先程霊夢がぶっ飛ばしたルーミアは、目を回して気絶している。

 そんなルーミアを見て、銀時は頭をガシガシと掻きむしった後、

 

「やれやれ……どっこいせっ」

 

 ルーミアの身体をお姫様抱っこし、少し離れた木に優しく降ろす。その際、ルーミアの身体が木の幹に寄りかかるようにしていた。

 

「意外に紳士なのね」

「流石にそのまま放置ってわけにもいかねぇだろ。コイツの住処は恐らくこの森なんだろ? だったら、ここでゆっくり休ませときゃ、すぐに元どおりになんだろ」

 

 霊夢の言葉と、銀時が先程経験したことを合わせて、ルーミアが人間ではなく妖怪であることはなんとなく察しがついていた。

 

「へぇー。銀さん、頭回るんだなぁ。天然パーマなのに」

「天然パーマ関係ねぇだろ?!」

「死んだ魚の目もしてるし、本当に頼りになるのか不安だぜ?」

「安心しな。俺の目はいざという時には輝くから。普段は省エネなの。そこの脇巫女なら分かると思うぜこの気持ち」

「脇巫女言われるのは納得いかないけど、その気持ちは理解出来るわ。面倒臭いのはごめんよ」

 

 やはりというべきか、予定調和とも言うべきか、何処か通じ合っている様子の二人。もし今この二人の前にコタツを出そうものならば、数日間はそこから抜け出せなくなることだろう。主人公組がどうにもやる気なさすぎて大丈夫なのだろうか。

 

「とにかく今は先に進むわよ。外来人であるあなたにも、今の状況とか、この世界のこととか伝えなきゃいけないし」

「そうしてくれると助かる。銀さん、ここにきてからまだ数時間も経ってないからわからないことだらけなんだわ」

「だろうと思ったわ。じゃあ、行くわよ」

 

 三人はルーミアを一瞥した後で、霧の深い方へと歩みを進める。

 去り際に、

 

「……ありがとうなのだー、銀さんー」

 

 と言う小さなつぶやきが溢れたが、銀時の耳には届いていなかった。

 

 

 道中、銀時は霊夢と魔理沙より、この世界についてのことを聞いていた。幻想郷がどんな場所なのか、弾幕とは何か、スペルカードルールとは何か、今回の異変はどんな異変なのか。

 

「すると、この霧は世界特有のものではなく、れっきとした異変ってことでいいんだな?」

「えぇ。霧のせいで太陽の陽が届かないって嘆く人も多いみたいなのよ。洗濯物干してるのに乾かないから早くなんとかしてくれって声もあったわね」

 

 現在三人がいるのは、湖のすぐ近く。

 紅い霧による被害を聞いている最中だった。

 

「主婦の嘆きかよ。にしても、太陽の陽が届かない、か……」

 

 紅い霧を発生させる目的がイマイチ検討つかない様子の銀時だったが、霊夢の言葉が少し気がかりになっていた。あと少しで何か思いつきそうと言う時に、

 

「ちょっと待った!!」

 

 突然、高くてバカっぽい感じの声が響き渡ってきた。

 

「あ? なんだいきなり……」

 

 突然の来訪者に、銀時は面倒臭そうに振り向く。霊夢と魔理沙の二人もまた、背後にいるであろう人物を確認するために後ろを振り向き、

 

「あたいはチルノ! ここを通りたければ、さいきょーのあたいをたおしてからにしなさい!」

 

 宙を舞うバカ(チルノ)がいた。

 青いワンピースに胸元に赤いリボンをつけ、水色の髪の毛に青のリボンをつけた少女。何故か両手を胸の前で組み、仁王立ちして相手を威圧している(つもり)。

 

「あっそ。俺は坂田銀時。こっちは脇巫女に魔女のキ●だ」

「誰が脇巫女よ。博麗霊夢だっつってんでしょーが」

「銀さんいつまでそのネタひっぱるつもりだぜ!? 私は霧雨魔理沙だいい加減覚えろ!」

 

 雑な紹介をされたことにより、当然抗議する二人。

 

「まぁいいわ。ここを通りたくばあたいを倒しなさい!」

「お前の何が最強なんだ?」

 

 銀時が尋ねる。

 

「ふふーん! あたいはね、とにかくさいきょーなの!」

「いやだから、お前の何が最強なんだって聞いてるんだけど」

「だから! あたいはさいきょーなの!」

「話聞けよ!! つか、薄々思ってたけどやっぱバカだろお前!?」

 

 会話にならないドッチボールを延々と繰り返しそうになることを見越して、ついにブチ切れる銀時。

 

「なるほど、バカ最強なら納得だぜ……」

「確かに。妖精の中では(バカさ加減で)最強ね」

「さっきからバカバカ言い過ぎだー! バカって言う方がバカなんだー!」

 

 涙目になりながら抗議するチルノ。

 

「妖精?」

 

 霊夢が零した単語に反応したのは銀時だった。

 

「えぇ。こいつらは妖精よ。危険性はないから心配しなくても平気よ」

「こんなバカな妖精もいるんだなぁ。本当、なんでもかんでも受け入れるんだな、幻想郷ってのは」

 

 その点に関しては素直に感心する銀時。

 人間、妖怪、妖精、幽霊。挙げだしたらキリがない程、この地に住む種族は多い。生き続けることを望んだ彼らにとっての最後の希望が、この世界なのだろう。

 

「あたいを無視して話を進めんなー!」

 

 散々バカバカ言われた挙句、次には放置プレイをされる始末。踏んだり蹴ったりな扱いに、流石のチルノもブチ切れ寸前。

 

「あ、いたのか。わりぃ、小さくて飛び回ってるもんだから、てっきりどっか飛んでっちまったのかと思った」

「本当失礼なやつだな! もじゃもじゃ頭!!」

「誰がもじゃもじゃだ! 天然パーマバカにしてると容赦しねぇぞこの野郎!!」

「うるさい! だったら……」

 

「恋符『マスタースパーク』!!」

 

 言い合ってる二人をぶった斬り、ついでと言わんばかりにチルノを吹き飛ばすように、突然極太のレーザーが銀時の目の前を横切る。その威力は絶大で、そこそこの距離があったはずなのに、銀時の前髪を少し焦がす程であった。

 

「えっ」

 

 突然起きた出来事を飲み込めなかった銀時は、レーザーの出所を確認する為に後ろを振り向いた。

 

「ふっ……やっぱ弾幕は火力……パワーが大事だぜ。またつまらぬものを吹き飛ばしてしまったぜ」

 

 満足そうな笑みを浮かべている魔理沙の姿があった。

 

「おぃいいいいいい!! 前髪こげたんだけど!? ギャグパートじゃなきゃ銀さんの命すら持ってかれてたよなあれ!?」

「何言ってんだ銀さん? そこにいたから悪りぃんだぜ?」

「何登山家みたいなこと言ってんの!? おかしいからな!? テメェの頭どうなってんだ空っぽなのかふざけんなよなぁああああ!?」

 

 相手にしない魔理沙と、色々と状況が飲み込めずに逆ギレに近いツッコミを入れ続ける銀時。

 

「とりあえず、うるさいのが居なくなったから先に行くわよ」

 

 霊夢に引きずられるように、魔理沙と銀時は先に進むのだった。

 

「うぅ……絶対許さないんだからあのもじゃもじゃ……」

 

 だいぶ先に吹き飛ばされたチルノは、何故か恨みの対象を銀時に絞っていたとか、いなかったとか。

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

第三訓 バカにつける薬はない

 

 



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第四訓 寝たふりをするような奴には要注意

 先程までは薄っすらと空中に乗っている程度の薄さだった紅い霧が、いよいよもって濃くなってきている場所に、その館はあった。

 

「こんな所に館たぁ、しかも結構豪華なものと見える。さぞかし名のある奴が住んでるんだろうなぁ……」

 

 ポツリと、銀時は言葉をこぼす。

 

「ところで、お前はどうやってここまでの道順分かったんだ? 地図もなかったし、なんなら手がかりなんてなかったと思うが」

 

 銀時が疑問に思ってたのは、ここまでたどり着いた経緯、方法だった。

 霊夢は迷う様子もなく、真っ直ぐと進んでいた。確かに今回の異変が紅い霧ならば、濃くなっている方を探すのが自然ではある。しかし、それを加味したとしても霊夢はあまりにも真っ直ぐ歩きすぎていたのだ。そこに一切の迷いもなく、まるで最初から分かっていたかのような。

 

「え? 勘」

 

 だが、霊夢から告げられた言葉は、銀時の予想を遥かに上回るほど、呆気ないものだった。

 

「え、勘?」

「そう、勘」

「え、マジ?」

「えぇ、マジ」

 

 しばらく無言。

 

「まぁ、霊夢の勘はすげぇよく当たるからなぁ……頼りになるぜ」

 

 駄目押しと言わんばかりの魔理沙の言葉。

 

「ただの御都合主義じゃねぇかぁあああああああああ!!」

 

 あまりにも信じられなかったのか、言ってはいけない禁忌の言葉を叫んでしまう銀時。

 

「なによ、そんなに不満なの? これくらい主人公ならどうってことないでしょう? ちゃんとWiki見なさいよ。情報として載ってるから」

「突然メタいこと言うのはやめるんだぜ!?」

 

 あまりにもぶっ飛んだ答えに、魔理沙もツッコミとして加入してくるほどだった。

 

「主人公ならそんな力持ってて当たり前ってか? こちとら持ってんのは糖尿病と鼻糞だけだぞこの野郎!!」

「そりゃ良かったじゃない。駄目人間の王道を貫く主人公像よ。それはそれで立派なキャラよ」

「お前だってどうせコタツとかありゃ毎日ぐうたらするような駄目人間っぽいオーラ出してるぞ!」

「コタツはいいじゃない。あれは人を駄目にする魔道具よ」

「ああ、それに関しては同意する」

「あれ!? さっきまで二人とも喧嘩してたよな!? いきなり仲直りして驚いたぜ!?」

 

 コタツという共通点を見出したことにより、急速に仲直りした二人のテンションに、魔理沙が追いつけていない。

 

「なんだぁ? そんなんじゃツッコミとして生きていけねぇぞ? この世界きてから貴重なツッコミ要員として頑張ってくれー」

「なんでお前の命令でツッコミ役に任命されなきゃならないんだぜ!?」

「ファイトよー、魔理沙」

「霊夢まで考えるのをやめるんじゃねえぜ!?」

「ほら、よく出来てるじゃねえか。お前はやれば出来る子だと信じてだぞー。いい子いい子」

「全然嬉しくねぇし、そもそもそれ完全に馬鹿にしてるのが丸見えだぜ!?」

 

 繰り広げられるボケのオンパレード。

 果たして魔理沙(ツッコミ役)は膨大なボケの量を捌ききる事が出来るのだろうか。

 

「ところで、こんだけ騒いでるってのに、門の前にいる女はいつまで寝てんの? 何? あいつの耳穴空いちゃってんの?」

「いや元々耳には穴あるぜ。なきゃ聞けないぜ?」

 

 銀時が気にしているのは、門の前に立つ女性のことだ。

 華人服とチャイナドレスを足して二で割ったような衣装は、緑色をしている。腰まで伸びた赤い髪に、すらっとした身長。そんな女性が、銀時達の目の前で、目を閉じて寝ていた。

 

「なんなの? こいつが邪魔で中入れないんだけど?」

「いっそのこと、弾幕で吹き飛ばしちゃいましょう。その方が手っ取り早いわ」

「霊夢の言う通りだな。つーわけで魔理沙、派手にぶっ放せ」

「結局他人任せかよ!? いや、やるのは構わないから別にいいぜ? けど、なんか釈然としないっつーか……」

 

 銀時と霊夢に後押しされる形で、魔理沙は先程チルノにぶっ放したあの技をお披露目するーー寸前のことだった。

 

「っ! 銀時、避けて!」

「あ? ……っ!」

 

 霊夢の叫びに、銀時は一瞬戸惑ったものの、咄嗟にしゃがむ。

 そうすることで回避することは出来た。

 目の前にいる女性からの、右ストレートによる奇襲攻撃を。

 

「……おいおい、姉ちゃん。さっきまで俺たち、結構距離離れてたよな? そんな一瞬で詰め寄ったってのかい? 狸寝入りまでこきやがって……」

「てっきり気付いてるものだと思ってたんですけどね。結構なやり手だと思ったので」

「そりゃ御気遣いどうも」

 

 銀時は腰にさした木刀を引き抜き、構える。

 

「霊夢、魔理沙。先に行け。こいつは俺が倒す」

「……任せたわ。魔理沙、行くわよ」

「お、おう!」

 

 二人のことを敢えて見逃し、少女は銀時と対峙していた。

 

「なんだ? お前、ここの門番なんじゃねえの? いいのかよ、そんなにホイホイ人招き入れちまって」

「私一人で三人の足止めをすることは出来ませんから。それに、一番止めなきゃならないのが、あんただと思ったからですよ。お嬢様のところへは行かせません」

 

 敵意をむき出しにする女性は、右足を前に踏み出し、両拳を握りしめ、戦闘態勢をとる。

 

「なんかの拳法を使うってか?」

「そう易々と敵に手の内を明かすとお思いですか?」

「だろうな……」

 

暫しのやり取りの後、女性は宣言する。

 

「門番、紅美鈴。全力でお相手させていただきます!」

「……万事屋、坂田銀時。せいぜい手加減してくれよ?」

「お生憎様。そんな要望、聞けるわけがありませんよ!」

 

 美鈴は、踏み込んだ右足に力を込めて、前傾姿勢を取る。そのまま、両足に力を込め、一気に銀時との間合いを詰めた。

 銀時は、木刀を横薙ぎに払う。

 

「っ!」

 

 襲い来る斬撃を、美鈴の拳が防ぐ。そのまま勢いを殺すことなく、空いた左拳を利用して、裏拳。

 

「ちっ!」

 

 頭部を狙ったその攻撃を、銀時は蹴り上げる。身体が無防備になったその一瞬を狙い、木刀を振り上げて、

 

「なっ!!」

 

 そのまま木刀を振り下ろすことなく、右膝蹴りを繰り出す。

 美鈴の視線は、銀時が木刀を振り上げたことにより、上に向いてしまっていた。その隙をついた攻撃である。

 

「ぐっ……攻撃が、読めない……っ」

 

 美鈴が戸惑っているのは、銀時の攻撃が読めないことにある。

 通常、何かしらの武道や剣術を心得ているものというのは、それに応じた型を持っている。多少の誤差は生じるものの、ある程度読むことは可能である。

 しかし、銀時にはそれがない。一見すると、ただがむしゃらに動き回っているようにしか見えないのに、確実に相手にダメージを与えていく。相手が武道の達人であればあるほど、どんどんドツボにはまってしまう。

 

「どしたぁ? もう終わりか?」

「冗談を。まだやれます!!」

 

 銀時の煽りを受けて、美鈴は態勢を立て直す。

 

「極光『華厳明星』!!」

 

 美鈴が叫んだのは間違い無くスペルカード。

 技名が叫ばれたことにより、銀時は咄嗟に木刀を前に出してガードの姿勢をとる。

 美鈴は両手を大きく回すことによって気を練る。七色に輝いた気は、段々と大きくなっていき、やがて美鈴とほぼ同じくらいの大きさになったところで。一気に解き放たれた。

 

「そんなのありかよ……!!」

 

 防ぎきれないことを悟った銀時は、地面を強く蹴っ飛ばし、後ろへ下がる。そのまま仰向けに倒れ込み、自身を襲う気の塊を避けた。完全に倒れる寸前、銀時は持っていた木刀を、美鈴目掛けて投げつけた。

 

「こんなの!」

 

 真上に蹴り上げ、木刀からの攻撃を避ける。

 だが、それこそが銀時の狙い。

 

「足元が留守だぜ?」

「しまっ……」

 

 両手を地面につけ、そのままばねの要領で美鈴に近づき、両足を使って足払いをする。蹴り上げた姿勢になっている美鈴を支えているのは、蹴り上げるのに使わなかった一本の足のみ。

 そのまま起き上がり、空中で回転している木刀を掴み、それを美鈴の頭部目掛けて振り下ろしーー。

 

「はい、終了ー」

 

 当てることなく、寸止めで終わらせた。

 

「っ……」

 

 美鈴は悔しそうに唇を噛みしめる。

 あの時、銀時が木刀を振り下ろしていたならば、彼女はその場で気絶してしまったことだろう。つまり、どうあろうとこの勝負、美鈴の負けであったということになる。それを、銀時の情けによって気絶することを免れただけのことだ、と彼女は思っている。

 

「何故、トドメをささないんですか?」

 

 だからこそ、美鈴は尋ねる。

 対する銀時は、やる気なさそうな声で、

 

「てめぇやったところで何の得にもなりゃしねぇし、面倒だ。それに、居眠りこいてる姉ちゃん叩き起こしただけだからな。これに懲りたら仕事サボるんじゃねえぞ?」

 

 そう言って、自身の頭をガシガシと掻きむしりながら、館の中へと入っていった。

 

「……」

 

 その後ろ姿を見送った後、美鈴はポツリと呟く。

 

「戦っている時の目……夜叉のようでした……」

 

 美鈴が仕掛ける前に見せていた、死んだ魚の目とは違う。

 戦闘時に見せていた彼の目は、纏っていた雰囲気は。

 まさしく、夜叉。

 

「私の、負けですね……完敗です」

 

 その場に座り込み、美鈴は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「咲夜様からはお叱りを受けてしまうでしょうが、仕方ありませんよ……あんなお方、そうそう見るものじゃありません。幻想郷には、あんな強い方もいらっしゃるのですね。これからが楽しみで仕方ありません」

 

 この戦いは、彼女の……そして銀時の今後の運命を、どのようなものに変えていくのだろうか。

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

第四訓 寝たふりをするような奴には要注意

 

 



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第五訓 無邪気の裏には狂気がある

 中に入った銀時の目に映ったのは、壁から何まで真っ赤に染まった内装だった。すごく単純に言ってしまうと、目が痛くなるのである。

 

「いや、これやべぇだろ。何? この屋敷の主人は紅いのが好きなの? 厨二病なの?」

 

 銀時の呟きに答えるものはいない。

 既に魔理沙と霊夢の姿はなく、恐らく奥へと進んでいるのだろうということが予想出来た。

 

「こういうダンジョンは、下に進めば進むほど、ボスに近付いたりすんだよなぁ。いや、ゲームによっちゃあ上に進むこともあるけどよ。何なの? 上か下が好きなの? 見下ろさないと気が済まないの?」

 

 ボスに対する悪態を吐く。ものすごく失礼な発言が飛んでいるも、彼の暴言を止めてくれるような人物はここにはいなかった。

 そうして銀時は、手がかりもなくどんどん下へと下がっていく。

 

「しかし、おかしい……外と中、明らかに釣り合ってねぇ」

 

 ふと湧き出た疑問。

 外観と比べて、明らかに内部が広すぎるのだ。おかげでどんな弊害が起きるのかというと、

 

「歩くのに苦労するわ、迷子になるわ……絶対いいことねぇだろこれ」

 

 少し息が上がっている様子の銀時。

 ただでさえ落とされて数時間。まともな休憩もなしにここまできているのだ。流石に少しくらい体力に響いてくることだろう。

 中のだだっ広さに悪態をつきながらも、歩くことおよそ数分。

 

「なんだ……ここは」

 

 一つの部屋があった。

 いや、部屋と称しているのは、扉があるからであり、もしそれがなかったら、銀時はこんなところに部屋があるなどと思わなかっただろう。

 館を降りに降りたところにポツンとある、鉄の扉。それはおよそ、今回の異変を起こした張本人がいるとは思えなかった。それどころか、上の世界との隔離を目的としたような、そんな雰囲気を感じ取る。

 

「超開けたくねぇ……」

 

 本能が察知している。

 開けたら碌な目に遭わないということを。

 しかし、何かしらの手がかりを掴むためにも、その鉄扉を開けないことには始まらないのだ。恐る恐る、銀時は鉄扉に手をかけて、

 

「ん?」

 

 ガチャガチャ、と鍵がかかっていることに気付いた。

 

「なんだよ、鍵かかってるのか。それなら仕方ねぇな。うん。開けられねぇからな」

 

 一瞬にして諦めて、元来た道を引き返そうとして、

 

「だれ?」

 

 例えるなら、それはミサイルが高層ビルを撃ち落とす時に発せられるような、空気を斬り裂き、爆ぜる音。銀時の耳にとてつもない轟音が響いた後に、幼い少女の声が聞こえてきた。

 正体を確かめるために振り向くと、そこにいたのは、

 

「あなたは、だぁれ?」

 

 金髪の幼女だった。

 真紅を基調とした半袖とミニスカート、サイドテールにまとめた金色の髪には、紅いリボンのついたナイトキャップを被せている。何より特徴的なのは、真紅の瞳と、七色の結晶がついた、木の枝にも似た翼が生えていること。少なからず、銀時が知っているような人間ではないことは確かだった。

 

「こんなガキが、この館の主人? ……いや、主人に幽閉されていた?」

 

 疑問に思うことは数多くある。しかし、今は少女の問いに答えるのが道理であると考えた銀時は、

 

「俺は坂田銀時。好きな食べ物は甘いもの全般、嫌いなものは犬の餌とも言えるマヨネーズ。少年ジャンプをこよなく愛する心は少年でーす」

「ギントキ……私はフラン。フランドール・スカーレット」

「フラン、ね……んで、お前はこんなところで何してんの? 引きこもりのニート生活か?」

 

 口ではいつもの通りに話しているものの、銀時が木刀を握り締める手が強くなっているのが伺える。つまり、目の前の少女が並々ならぬ雰囲気を漂わせていることが分かり、警戒しているのだ。

 

「私はね、ずーっとここで暮らしてるの。ところであなたは、なぁに?」

「見たまんまの人間だ。そう言うテメェは?」

「私? 私はね、吸血鬼だよ」

 

 銀時の目が見開かれる。

 こんなに幼い少女が、吸血鬼であると言う。信じられないという思いと、何処か納得する思いの両方が混じっていた。

 

「人間って、咲夜以外の人間を初めて見たー。へぇ……こんな感じなんだぁ……」

 

 じろじろと銀時のことを見つめる。それこそ本当に、新しいおもちゃを見つけた子供のように。その後、納得したように、そして、何処までも無邪気そうに、

 

「じゃあ、ギントキ。あなたの血をいただきます」

「……は?」

 

 言うや否や、フランは銀時の首筋目掛けて飛び付く。

 咄嗟に前へ転がり、部屋の中に入ることで銀時は避ける。

 そこで、彼は目撃してしまった。

 

「なっ……!」

 

 そこに広がっていたのは、およそ部屋と呼べる光景ではなかった。

 夥しい数の、肉片。腕、足、腰、肩、指、脳、胃、腸、目、鼻、耳、頭。

 遥か昔に風化したものから、つい最近のものまで。人間のものなのか、或いは他の獣の物なのか。最早その区別すらつかない程、部屋の中は完全に荒れていた。鉄が錆びたような匂いに、肉が腐敗した匂い、鼻を突き刺すのは不快さを刺激するものばかり。

 

「にげないでよー。血を吸えないじゃん」

 

 まるで友達に語りかけるように、本当にそれが悪いことだと理解していないかのように、フランは無邪気な怒りを見せる。

 吸血鬼である彼女は今、銀時の血を吸うことを考えている。

 

「おいおい、コイツぁどういうことだ? そこらへんに転がってんのは、何かの撮影で使った小道具か何かか?」

「これ? えーとね、咲夜が持ってきてくれた、食料用の人間だよ。大丈夫だよ、私は誰一人殺してないよ。ここに来るまでにすでに死んじゃった人間を持ってきてるんだって」

 

 だけど、とフランは続ける。

 

「私、ギントキのことが気になってるんだー。人間って、どんな風に壊れるんだろう、って」

「っ!!」

 

 無邪気なのに。

 何処までも子供っぽいのに。

 その中に隠しきれていない、狂気。

 彼女を支配しているのは、人間を壊すということに対する興味。そして、自らが自らの手で血を吸うという行為に対する、関心。

 つまり、銀時は運が悪かったのだ。

 

「ったく、こりゃ異変解決よりも先に、コイツをどうにかしなきゃいけねぇのかよ……貧乏くじ引かされたようなもんだぜ……」

「むー、それはなんか納得出来ないー。私はこんなに楽しいのにー」

「こっちは全然楽しくないっての。どうせ遊ぶなら、二人とも楽しく遊ぼうぜ? 銀さんばっかり疲れちまうわ」

「アハハ! それもいいかもね! じゃあギントキ……」

 

 目を大きく見開いて、銀時のことをじっと見つめ、

 

「先に死んだ方が負けってことで、一緒に遊ぼ?」

 

 新しい遊びを見つけた子供のような眼差しで、銀時めがけて飛びかかってきた。

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

第五訓 無邪気の裏には狂気がある

 

 



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第六訓 人の運命を無闇に読み取るものじゃない

 数分前。

 銀時が美鈴と戦っている隙に館の中に入った魔理沙と霊夢の二人は、中の広さと色鮮やかな紅に目をやられていた。

 

「なぁ霊夢。銀さん大丈夫かな?」

「……平気よ。あの男なら、なんとなくそんな気がするわ」

 

 魔理沙の言葉に対して、霊夢は何故か自信を持ってそう返すことが出来た。出会ってからまだ数時間しか経っていないというのに、なんとも不思議な感覚を覚えるのだ。

 

「私もそんな気がするぜ!」

 

 それはもしかしたら、魔理沙も同じなのかもしれない。

 

「にしても、この館広すぎるわね……流石に手分けをして探した方が良さそうね」

「だなぁ。なら私は下行ってみるぜ?」

「なら私は上ね」

 

 この割り振り方について、たとえ魔理沙が上で、といったとしても、霊夢はその意見を捻じ曲げて上に行こうとする自信があった。何故ならば、彼女の勘が『首謀者は上にいる』と語りかけていたからだ。

 兎にも角にも、霊夢と魔理沙は一時的に分かれて行動することになる。

 

「……」

 

 歩きながら、霊夢は出会ったばかりの男について考えていた。

 坂田銀時。

 八雲紫から聞いた情報では、別の世界から連れてきた侍ということだ。そして、かつての名前が『白夜叉』という。霊夢に与えられた情報としてはその位しかなかった。

 そして、大凡その話は当てはまっていたことだろう。道中で見た銀時の身のこなしを見るに。少なからず足手まといになることがないのは確かだった。

 

「侍、か……面白い人間もいたものね」

 

 実際に話した時には、彼のちゃらんぽらんな部分が強調されていたが、いざという時にやる男であるというのは確かだったと霊夢は考える。

 

「人間にもいろんな奴がいるわよね……例えば魔法使いだったり、たとえば……」

 

 進めていた足を止め、何もない空間に向かって弾幕を放つ。

 その弾幕を打ち消すように、無数のナイフが追撃した。

 

「そんな風に陰から様子を伺ってる、ストーカーみたいなメイド、とかね」

 

 そして姿を現す。

 

「よくお気付きになられましたね」

「私、勘はいい方なのよ。それで何となく奇襲をかけられるんじゃないかと思っただけ」

「なるほど。最早未来予知の類まで来ているのではないかと内心ヒヤヒヤしましたよ」

「よく言うわね。そんなこと微塵も考えてないくせに」

 

 現れたのは、一人のメイド。

 銀髪の三つ編みをして、青と白のメイド服を着用した、容姿端麗な少女。

 客人を歓迎するかのような声色で、

 

「初めまして。私は紅魔館のメイド長を勤めさせて頂いております、十六夜咲夜と申します。以降お見知り置きを」

「私は博麗霊夢。この異変を解決しにきた巫女よ」

「巫女の客人は大変めずらしいですね。ですが残念です。本来ならば精一杯もてなして差し上げたいところですが、生憎御嬢様を含めまして、本日の紅魔館は忙しいですので、即刻お引き取り頂けないでしょうか?」

「そんなに忙しいなら手伝うわよ? けど私は慣れてないから、もしかしたらお邪魔してしまうかもしれないわね。そうなってしまったらごめんなさい?」

「邪魔をするなら容赦はしないわよ。覚悟はよろしくて?」

 

 ナイフを構え、十六夜咲夜(メイド)博麗霊夢(客人)を睨み付ける。

 その眼力は、邪魔者を排除するのに遠慮なんてものは存在しないような、そんな目つき。

 

「忠誠心は大したものね。けど、それだけで勝てるかしら?」

「それはこちらの台詞です!」

 

 咲夜と霊夢、二人の弾幕ごっこがここから始まるのだった。

 

 

「で、本来ならば二人が戦うわけだけれど、期待を裏切って私達の出番ってわけね」

「いきなりメタい発言はやめるんだぜ!?」

 

 所変わって図書館。

 霊夢と別れてから地下へと進んでいった魔理沙は、途中で大きな図書館に辿り着いていた。

 そこに広がっていた魔法の本を読み漁っていた所で、図書館の主――パチュリー・ノーレッジと相対した。

 

「ていうか、どうやってその様子を確かめているんだ? 霊夢が何してるのかなんて全然分からないぜ?」

「そりゃそうでしょうね。私はこの水晶玉を使って、少し先の場所で起きている出来事を見ているだけなんだから……にしても、貴方侵入者でしょう? ちょっとは焦ったらどうなのよ」

「ここにある本が面白くてそれどころじゃねえぜ! なかなかいい本揃ってるな!」

「そ、そう?」

 

 蔵書量を褒められたのか、心なしか少し照れている様子のパチュリー。

 そんな彼女に対して、魔理沙が一言。

 

「んじゃ、この本借りていくぜー!」

 

 何冊か持って、図書館を後にしようとする魔理沙。

 

「えぇ……って、させるわけないでしょ!」

「げっ!」

 

 逃げようとした魔理沙(泥棒)に対して、パチュリーが弾幕を放つ。

 流石に魔理沙は左右にステップを踏んで避けたが、その弾幕は地面を軽く焦がしていた。

 

「ひぇ……当たったら一たまりもないぜ……なにすんだよ!」

「それはこっちの台詞よ。人の本勝手に持ち出そうとして」

「だから言ったじゃねえか。借りていくって」

「返却するのはいつよ?」

「え? 死ぬまでだけど?」

「人はそれを泥棒って言うのよ。知らなかったのかしら?」

「いやいや、流石に人のもの盗んじゃいけないこと位私でも分かるぜ? 馬鹿にしてるのか?」

「えぇ。大いに馬鹿にしてるわ。貴女がやっているのは盗みそのものよ?」

「だから言ってるじゃねえか。借りていくだけだって」

「自分で言っていて矛盾に気付かないの?」

 

 問答をしている途中で頭を抱えるパチュリー。

 

「どうした? 頭痛いのか?」

「えぇ、頭痛がするわ……」

「大丈夫か?」

「原因が分かってるのに、対処のしようがないのがこれほど辛いとは……」

「医者呼ぶか!?」

「呼んで頂戴。出来れば思い切り腕の良い、馬鹿を治す為の医者をね。そして貴女が受診なさい」

「遠回しに人を馬鹿にするのはよくないぜ!?」

「さっきの問答をしておいてまだ言うの?」

 

 最早戦う気も失せている様子のパチュリー。

 いつまでも問答をする気が失せたのか、手持無沙汰になって水晶玉を覗きこむ。

 そして、彼女は見てしまった。

 

「……まずい」

「え?」

 

 その呟きを、魔理沙は聞き逃さなかった。

 だからこそ、魔理沙は尋ねる。

 

「何がまずいんだ?」

 

 顔色がどんどん悪くなっていくパチュリー。

 それは体調不良が原因などではない。

 水晶玉が映し出している光景が、彼女の心を掻き乱しているのだ。

 

「魔理沙、とか言ったわね……この館に来たのは、貴女の他には誰が居る?」

「え? 霊夢と……銀時の二人だな」

「一人は巫女。もう一人は着物を着た男。それで間違いないわね?」

「あぁ、間違いないぜ。けどそれがどうしたんだ?」

 

 確認を終えたパチュリーは、言葉を発することなく、水晶玉に映し出された光景を魔理沙に見せる。

 そこに映し出されていたのは、

 

「銀時と……もう一人?」

「この館の主、レミリア・スカーレットの妹――フランドール・スカーレット。『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』の持ち主よ」

 

 銀時とフラン。

 一人の人間では、とても背負いきれない程過酷な戦いが繰り広げられていた。

 

「侵入者を助けるのは不本意だけど、それ以上に彼女が能力を暴走させることの方が危ない……」

「お、おい。どういうことなんだぜ?」

 

 困惑する魔理沙。

 事情が呑み込み切れておらず、パチュリーに尋ねるしかなかった。

 

「貴女、仲間を助けたいならば、私と一緒に来なさい……私も、友人の妹を助ける為に、動くわ」

「お、おぉ……」

 

 パチュリーと魔理沙。

 本来ならば敵対する筈の二人が、違う目的で、同じ目的地まで向かうのだった。

 

 

「博麗の巫女が止めに来たか……」

 

 一人、部屋の中で椅子に座っている少女が居た。

 ウェーブのかかった明るい青髪、白が強調された桃色のナイトキャップ、それと同じ色を基調としたドレス。そして真紅の瞳。

 紅魔館の主人――レミリア・スカーレットは、この屋敷で起こる運命を読み取っていた。

 彼女の能力は、『運命を操る程度の能力』。

 運命を操る過程で、彼女はこれから起こる『運命』を覗く。

 

「……っ」

 

 そして、一つの運命に、驚愕し、興味を示した。

 

「なる程……あの男。なかなかのやり手だ。弾幕を出すこともなく、そんな運命を辿るとは……面白い」

 

 とある男の運命。

 彼女が興味を示したのは、間違いなく、坂田銀時(白夜叉)の運命だった。

 

「だが、今は博麗の巫女か……もう一人は放っておいても構わないだろう。パチェがどうにかしてくれる筈」

 

 椅子から立ち上がり、来るべき敵を待つ。

 

「久方ぶりに面白い一夜になりそうだ。我が野望、打ち砕けるものなら、打ち砕いてみせよ――人間」

 

 館の主人は、誇り高き吸血鬼として、来訪者を待つ。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

第六訓 人の運命を無闇に読み取るものじゃない

 




こんにちは。
風並将吾です。
今回の話では銀時は登場しておりません。
主に彼が戦い始める裏の出来事を描写させて頂きました。
銀時とフランの戦い、霊夢と咲夜の戦い、そしてレミリアの登場。
見所はたくさんありますね……作者頑張ります(震え声)。
一応今後の予定みたいなものをお伝えさせて頂きますと、『紅霧異変篇』が終わりましたら、何話か短編を書いていきたいと思います。
異変の話を交えつつ、銀魂のネタを少しずつ盛り込むことが出来たらなぁ……って思っております。
それでは次回もお楽しみに!


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第七訓 鳥籠の中で少女は何を思うか

「キャハハハハハハハハハ!」

 

 部屋を覆い尽くす程の弾幕を放っているのはフランだった。その弾幕を、銀時はなんとかギリギリのところで避けているという状況。避けきれないものを木刀で捌き、それでも防ぎきれなかった弾幕は、銀時の身体を容赦なく貫いていく。

 

「ちっ……数が多すぎる……っ」

 

 今まで戦ってきた中でも強敵だと称することが出来る相手だった。何より、相手に近付くことが難しく、銀時は攻撃を当てることが出来ていないのだ。

 

「逃げてばかりだと、つまらないよー! もっと攻撃してよー!」

「だったら少しは手加減しやがれ!」

「やーっだよ! だってそうしちゃうと遊びじゃなくなっちゃうじゃん!」

「ああそうかよ! テメェと違って銀さんはそんなの撃てねぇんだから、卑怯じゃねえのか!?」

「撃てない方が悪いんだよー!」

「ちっ! ど正論かましてきやがって!」

 

 フランは本当に楽しそうに、愉快そうに、狂った眼差しで弾幕を放ち続ける。たちが悪いのは、その弾幕が、銀時が避けられるか避けられないか分からない程度の密度で、しかも即死しない程度に抑えられているということ。彼女が手加減しているのではなく、楽しむために措置を取っているのだ。

 少しでも、この時間を長引かせる為に。

 

「まだまだいくよー! キュっとして……」

「!!」

 

 弾幕を放ちつつ、フランは右手を前に差し出して、言葉の通りに握り締める。

 その様子を見て、銀時は咄嗟に地面に転がっている肉片を木刀で打ち上げて、自身はその反動を使って後ろに転がり込む。

 

「ドカーン!」

 

 瞬間、肉片は跡形もなく爆ぜた。

 何の前触れもなく、唐突に。

 

「出鱈目かよ畜生……」

 

 思わず銀時はポツリと零してしまう。

 

「アハハ! これも避けちゃうんだー! さっきから攻撃してこないけど、いつまでも生き残ってるのはすごいね!」

「そりゃどうも。反撃の機会伺ってるだけだから心配すんなって」

「そっかー! でもね? そう簡単にはさせないよ!」

 

 唐突に、フランは弾幕を放つのを止める。

 しかし、それは攻撃のチャンスなどではない。

 

「禁忌『フォーオブアカインド』!」

 

 スペルカード。

 彼女の発した言葉がきっかけとなり、銀時の死角より、フランと全く同じ姿の少女が三人登場し、合計四人となった。

 

「なっ……!」

「「「「どんどんいくよー! 禁忌『スターボウブレイク』!!!!」」」」

 

 四人のフランが、声を揃えてスペルカードの名称を宣言する。彼女たちの背中に生えている羽根についた虹色の宝石より、無数の光が頭上に放たれる。それらは空中にしばらく漂って、部屋の中を虹色に彩った後、

 

「っ!!」

 

 一気に降り注がれた。

 

「くっ、そ……!」

 

 その密度はあまりに異常。

 最早避ける場所など存在しないのではないかと思われる。

 だからこそ銀時は、咄嗟の判断で地面に転がる骨を拾い上げ、空中に投げつけた。

 骨と弾幕がぶつかり合い、周囲に爆煙が漂う。

 その中を、銀時は駆け抜ける。

 

「ぐっ……」

 

 避けられない虹色の爆撃を身体に受けながら、彼は走り続ける。擦り傷が出来ようとも、風穴が開いたとしても関係ない。

 とうとうたどり着いた銀時は、目の前にいるフランに向けて、木刀を突き刺した。

 

「きゃっ!」

 

 しかしそれは、スペルカードによって作り出された分身。

 攻撃して姿こそブレたが、消え去ることはなかった。

 

「本体にダメージ与えなきゃ消えないってか……!」

 

 それならばと、彼は咄嗟に足元を確認する。四人のフランの足元を一通り確認し終えた後、一人のフランに向けて木刀を、投げつけた。

 

「っ!」

 

 咄嗟に、フランは木刀を弾いてしまう。

 

「影でバレバレだ……!」

 

 弾かれて上へ行った木刀に追いつくように、地面を蹴り空中に飛び上がった後、今度は壁を蹴っ飛ばし、さらに上へ。

 空中で木刀を握り締めると、一気に下へ振り下ろすーー。

 

「きゃっ!」

 

 と見せかけて、フランの鳩尾を蹴り飛ばす。多少のダメージは通ったようで、三人のフランはその場から霧散する。

 

「うぉおおおおおおおおおお!!」

 

 そこから追撃する為に、フランの肩めがけて木刀を振り下ろした。

 

「禁弾『過去を刻む時計』!」

「しまっ……!」

 

 赤弾が飛び、その中に紛れ込んで、時計回りと逆時計回りに回転する青いレーザーが発生する。

 降ろしきる前に矛先を変え、すぐ近くのレーザーを切り裂いて事なきを得る。

 それでもまだ残っている弾幕については、ほとんど体力の残ってない身体を引きずって避け続ける。

 

「今のはちょっと驚かされたよ! だけど、まだまだコワレナイデネ?」

「……お前はどうして、そんなに壊すことに固執するんだ?」

 

 木刀で弾幕を斬りながら、銀時は尋ねる。

 

「どうしてって、それが楽しいからだよ? 何言ってるの?」

 

 質問の意図がわからないと言うより、質問そのものが分からないと言ったような表情を浮かべているフラン。

 彼女の能力を考えれば、それが当然ともいえる答えになる。

 だが、それだけではないのではないかと銀時は考えていた。

 

「テメェはなんで、こんなところに閉じこもってる? これだけの力があれば、別に脱出することだって可能なはずだし、何よりここだって、テメェを完全に閉じ込めきるようには出来てねぇ」

 

 その力が膨大だから、館の主人に閉じ込められているのは理解出来た。しかし、その逆はどうだろう。

 銀時ですら簡単に入り込むことが出来た程だ。これだけ絶大な力を持つフランならば、地下の牢獄から脱出することすら可能な筈。そうしなかったと言うことは、それなりの理由があるのではないか。

 銀時はそう考えたのだ。

 

「……それを聞いてどうするの?」

 

 僅かながら、フランの動きが鈍くなる。

 

「本当にお前が、心からこの状況を望んでいるのかが分からなくなっただけだ。お前はここにどのくらいいたんだ?」

「…………495年」

「なっ……」

 

 それがとてつもない長さであることは理解出来た。いや、正しくは理解という言葉に収めざるを得なかった。

 人間の限界を遥かに超えて、それでもなおこの部屋の中の世界でのみ生き続けた少女。それならざ、感性の一部や思考が歪んでしまっても仕方ないのかもしれない。

 それでも、銀時は言葉を止めない。

 

「そんな長い間、どうしてお前はここに居続けた。抗うことだって出来た筈だ……」

「命乞いならそこまでにして。そろそろつまらなくなってきた」

 

 退屈そうに、そして不満そうに。

 しかしその間、彼女は弾幕を放つことはなかった。

 

「……出たいと思いながら、ここにいることそのものが自分に課せられた咎だとでも思ったか? そうすることで……」

「五月蝿い! お前に何が分かる! 私達姉妹のナニガワカル!!」

 

 フランの右手に紅い光がどんどん集まっていく。やがてそれは一本の槍に姿を変える。形状は、北欧神話に登場するーー。

 

「禁忌『レーヴァテイン』!!」

 

 苦悶に満ちた表情を浮かべながら、彼女は槍を放つ。

 

「恋符『マスタースパーク』!」

 

 悲痛の叫びにも近い北欧神話の槍(レーヴァテイン)を、一人の少女の努力の結晶(マスタースパーク)が打ち砕いた。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

第七訓 鳥籠の中で少女は何を思うか

 

 




銀時vsフランでした。
次回あたりは霊夢と咲夜の戦い、そしてレミリアとの遭遇までいけるんじゃないかなーって思ってたり……。
ご意見ご感想等、随時お待ちしておりますー。


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第八訓 今時の主人公はチート能力を持つべきか

「……」

 

 魔理沙とパチュリーが居なくなった後、一人図書館に取り残された少女がいた。

 彼女の名前は、小悪魔。

 

「あのー……私……」

 

 ポツリとこぼした後、

 

「置いていかれちゃったんですけどぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 涙をこぼしながら一気に叫んだ。

 

「出番が今か今かとスタンバってたのに、気付いたらお二人だけで出てしまって、出るタイミング完全に見失ったんですけどぉおおおおおおおお!!」

 

 本来ならば、それでもパチェリーや魔理沙の後を追うべきなのだろうが、小悪魔は周囲を見渡して、溜息をつく。

 

「片付け、しなきゃ……」

 

 図書館で働く身分として、自分の上司(パチュリー)が起こしたことを片付ける、悲しき部下(小悪魔)の姿がそこにはあった……。

 

 

 霊夢と咲夜による弾幕ごっこは、激しい攻防を繰り返していた。

 一瞬でも油断しようものならば、相手の弾幕に忽ちやられてしまう。密度が濃いだけではなく、その速度もまた速い。ここで戦っている二人が人間であることを忘れてしまいそうな程、その戦いぶりは客観的に見ても賞賛に値する内容だった。

 

「なかなかやりますね。流石は博麗の巫女と言ったところでしょうか?」

「そういう貴女もなかなかのメイドね。訪問客に対してここまで大層なおもてなしをしてくれるなんて、身に余る光栄だわ」

「それは大変喜ばしいことです。精々見惚れていて下さい」

「冗談。生憎時間が押してるの。主人の所まで連れて行ってもらえないかしら?」

「そう仰らずにもう少しおもてなしさせてください。その方がメイド冥利に尽きます故」

 

 勝負の間、軽口を叩いている二人であったが、それでも決して油断することはない。視線は確実に相手を追っていて、弾幕は常に張り巡らされている。霊夢と咲夜はその中を縦横無尽に飛び回る。最早それは動きの読み合いと、ある一定の直感によって生み出されている芸術だった。

 

「メイドならば、主人の過ちを正すのも道理だと思うのだけど?」

 

 敵の周囲に赤青の弾幕を張り巡らせつつ、尋ねる。

 咲夜はそれらを、ナイフで撃墜しながらも、

 

「過ち? 何をおっしゃっているのです? 御嬢様は過ちなど犯しておりません。それに、たとえそうであったとしても、主人の命に従うのが従者としての道理。説得しようとしているのでしたら、無意味です」

 

 涼し気な声でそう告げた。

 

「ちぇ、やっぱりそう来るか……」

 

 これでもし気が変わっているようであれば、十六夜咲夜という人間はどれ程単純な女性であったことだろうか。しかしその実、彼女は気高きメイド長。主人の為に命を差し出し、付き従う。それが従者として、彼女が行うべき行為であることを重々理解している。

 霊夢は、これ以上の説得は無意味だと悟り、一刻も早く本命の元へ向かおうと試みる。

 だが、それ以上に、

 

「……え?」

 

 十六夜咲夜の姿が、目の前から突如消えた。

 

「なっ……!」

 

 そして次の瞬間には、自身の周囲に張り巡らされた無数のナイフを目の当たりにする。

 咄嗟に、彼女は周囲に弾幕を張り巡らせてすべてを撃墜する。

 しかし、

 

「よそ見をしている暇がありまして?」

 

 その隙に、一本のナイフを握った咲夜が、霊夢の背後より首筋を狙っていた。

 

「あら、私ったらつい見惚れていたようね。けど安心なさい。勘はいい方なの」

「っ!」

 

 しゃがむことでナイフを避け、そのまま霊夢は後ろ蹴りを放つ。蹴りの先には、ナイフを握る手。彼女が握るナイフを叩き落とし、そのまま一回転。着地と同時に、

 

「霊符『夢想封印』!」

 

 光の弾と札を混ぜた弾幕を放つ。

 

「幻在『ジャック・ザ・ルドビレ』」

 

 対する咲夜は、小さな弾の弾幕を放つ。

 

「それだけで私の弾幕を……」

「ご安心を。そちらはあくまで囮ですので」

「なっ……!」

 

 霊夢の気付かぬ内に、小さな弾に混じって、無数のナイフが襲い掛かってきた。

 彼女の放った弾幕は、ナイフと弾を撃墜する。

 

「どういうこと……? 何もない空間から突然ナイフが……」

 

 霊夢の思考は、相手の攻撃手段へと移る。

 突然放たれるナイフの弾幕。

 予期せぬ咲夜の瞬間移動。

 これらの合わせ技を何度も繰り出す咲夜の能力。

 

「意識外からの攻撃……なら……あの技で対抗するしかない、か……」

 

 ポツリと呟かれた霊夢は、弾幕を放つのを止め、その場に留まる。

 

「降参でしょうか? しかし残念です。この屋敷を出て頂けるまで、私は攻撃するのを止めることが出来ません。どうか無礼をお許しください。そして、二度とこちらの屋敷まで出向かぬよう、お願い申し上げます」

 

 咲夜の挨拶と共に、霊夢の周囲には、最早避けることすら叶わない数のナイフが設置される。

 それらは即座に、霊夢の身体を串刺しに――。

 

「…………え?」

 

 しかし、それらのナイフは、霊夢の身体を貫通し、すべて地面に突き刺さった。

 だというのに、霊夢の身体には傷一つついていない。

 

「どういうこと……?」

 

 今度は彼女自らが近づき、そのナイフを心臓目がけて突き刺そうとする。これがもし決まれば、相手の命を確実に刈り取ることが出来る一撃。

 だが、そのナイフすら、彼女の身体をすり抜ける。

 

「まさか……っ!」

「気付いたようね。そうよ、今の私には、攻撃を当てることが出来ない」

 

 夢想天生。

 あらゆる害悪から身を守り、すべての攻撃を無に帰す。

 博麗霊夢はあらゆる物から『浮き』、何人たりとも触れることすら叶わない。

 

「最も、使うと次に使うまでに時間がかかるわけだけど、貴女程の相手をするならばちょうどいいわ。どう? これでもまだ続ける気? その気になれば、このままいつまでも弾幕を放ち続けることが出来るわよ。ただしその場合、私の弾幕はあんたを射抜き、あんたのナイフは私の身体をすり抜けるだけだけど」

「…………」

 

 目を瞑り、ナイフを落とす。

 十六夜咲夜が、博麗霊夢に降参したことを認める行動だ。

 

「それが懸命よ。あんたを叩く気はないの。私は異変を解決しに来ただけ。その元凶に説教しにきただけよ。案内してくれないかしら?」

「……かしこまりました。メイドとして、客人を主人の元まで送り届けます」

「そう。ありがとう」

 

 悔しそうに、咲夜は霊夢の前を歩く。

 咲夜の判断は間違っていなかった。

 もしあのまま続けていたとしても、結局のところ悪戯に時間だけが過ぎていき、どの道敗北していたことだろう。何せ自分の攻撃は通らず、延々と敵の攻撃を受け続けるのみ。博麗の巫女を相手に時間稼ぎをしたところで、何の意味もないことを悟ってしまったのだ。

 

「内心ひやっとしたわ。あんたはメイドとしても、戦う相手としても、間違いなく強者の部類ね」

「有り難きお言葉ですね。その言葉、そのままそっくりお返しします」

「やめてよ。私は元々そんなに動きたくない方なんだから。仕事はしっかりするけれど、それ以外は基本ぐうたらしたいのよ」

「駄目人間街道を歩み続けるおつもりですか?」

「別に私は天然パーマ侍じゃないんだから、あいつよりは真っ当な道を進むつもりよ」

「天然パーマ侍……もう一人のお客人ですね。姿が見えないようですが……」

「どうせ館にはいるわよ。その内来るでしょう」

 

 霊夢は咲夜に連れられて、館の主人がいる部屋まで向かう。

 その先に何が待ち受けているのかは、まだ分からない。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

第八訓 今時の主人公はチート能力を持つべきか

 

 




予想に反して、霊夢と咲夜戦のみで終わってしまいました……。
次回は、フランvs銀時・魔理沙・パチェリー連合軍戦となりそうですー。
おぜう様の出番は今しばらくお待ちくださいませ……。


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第九訓 抑え込みすぎると感情は爆発してしまうから適度に吐き出せ

「銀さん! 助けに来たぜ!」

 

 箒に乗って宙を舞い、弾幕を放ち続けながら魔理沙が叫ぶ。その横には、銀時にとっては初対面となるパチュリーの姿もあった。

 

「本当ならば侵入者の手助けなんて真っ平御免だけど、そうも言ってられないわ。私はパチュリー。一時的に貴方達の味方よ、坂田銀時」

「そうかい。名前は魔理沙から聞いた所だろうな……ちょうどいい。アイツの遊び相手が俺一人で務まるか不安だった所なんだわ」

「遊びなんて生易しいものなんかじゃないわ。これは殺し合いよ」

「いいや、遊びだよ。小生意気なガキを宥める遊びだ。本心を打ち明けることすら叶わねぇガキの心開かせるにゃちょうどいい」

 

 木刀を構え、フランと対峙する銀時。

 対するフランは、暫し茫然としていた。それは新たなる侵入者が来たことに対してなのか、それとも銀時の言葉に対してなのか、あるいは両方か。

 いずれにせよ、パチュリーは今の彼女を見たことがほとんどなかった。

 

「フラン。貴女はレミィの手によって地下に幽閉されていた筈……その力が強大なのは、貴女だって十分に……」

「ジャマシナイデ」

 

 瞬間。

 パチュリーに対して、フランは夥しい数の弾幕を放った。

 

「なっ……!」

 

 慌ててパチュリーは、自身の目の前に炎の渦を創り出す。

 火符『アグニシャイン』。

 彼女が持つスペルカードの一種だ。

 

「おいおい、コイツぁとんでもねぇことになってんな……身内の者にも遠慮なしってか?」

「パチュリーは、私とギントキが遊ぶのを邪魔しに来た。だから葬るの。今はギントキと遊んでるの。邪魔する者は、壊しちゃうから!!」

 

 フランは、一時的に標的を、銀時からパチュリーと魔理沙に変える。

 そして、彼女は自身の持ち得るスペルカードの中でも、強力な部類に入るものを使用した。

 

「禁忌『禁じられた遊び』!!」

 

 十字架型のレーザーが、大量に放たれる。そのレーザーは回転し、彼女達の行く先を阻む。

 魔理沙は、星型の弾幕をばらまくことで相殺していく。

 パチュリーはあらゆる属性を内包した弾幕を放ち続けることで、打ち消していく。

 

「回転するレーザーって言うのは、これまたすげぇ弾幕だぜ! けど、私の魔法の方が、強いぜ!」

 

 箒に乗って宙を舞う魔理沙。

 その箒の先端より、無数の星がばらまかれていく。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

 飛び交う星は、血まみれの空間に星空を生む。

 だが、フランはそれすらも壊す。

 

「キャハハハハハハハハ! そんな攻撃、喰らうもんか!」

 

 放たれる弾幕。

 十字型のレーザーは、容赦なく星々を打ち消す。

 だが、彼女は夢中になりすぎていた。

 

「日符『ロイヤルフレア』」

「えっ……!」

 

 フランの背後に居たのは、スペルカードを発動したパチュリー。

 彼女の放つ弾幕は、彼女を中心として放射状に放たれて、炎を帯びた弾幕は、容赦なくフランを燃やし尽くそうと襲い掛かる。

 所々、フランの洋服に焦げ跡がつく。

 避けきれていないものが、彼女の身体を襲う。

 それでも、彼女はほぼダメージを受けていない。

 

「禁忌『フォービドゥンフルーツ』!」

 

 禁断の果実を冠したスペルカードにより、赤と青の螺旋で描かれる弾幕が放たれる。

 炎と螺旋の衝突により、大きな衝撃波が生まれる。

 その威力は、宙を舞う魔理沙とパチュリーを吹き飛ばす程のものだった。

 

「きゃっ!」

「うわぁっ!」

 

 勢いよく吹き飛ばされた二人は、部屋の隅まで飛ばされて、壁に激突する。

 衝撃により肺から空気が一気に吐き出され、一瞬息苦しさを感じる。

 

「アハハハハハハ! 私に勝とうだなんて……」

「後ろを見ろ、クソガキ(フラン)

 

 勝ち誇ったフランの背後から聞こえてきたのは、夜叉(銀時)の声。

 フランは、自身が震えあがったのを感じた。

 495年という長い時間を過ごした彼女にとって、それは初めてとなる経験。

 一瞬、身体の動きが鈍った。判断を誤ってしまったのだ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 渾身の一撃。

 銀時によって放たれた、木刀による一撃。

 それをまともに受けたフランは、反対側の崖まで飛ばされる。

 轟音が鳴り響き、周囲が少し揺れた。

 

「……分からねぇ。それだけの力を持っていながら、何故テメェはこんな所で閉じこもっていやがる……パチュリーとかいう奴が言ったことが本当ならば、強大な力によってここに幽閉されたってことなんだろうけど、テメェは本当に、そのままでいいっていうのか……?」

 

 すべてを破壊し尽くす程の力を持つフラン。

 そんな彼女が、この館を破壊することなく、孤独に苛まれながらも、尚この場所に幽閉され続ける理由。

 彼女は『姉妹』という言葉を使った。

 即ちそれは――。

 

「姉が関与しているんだな。テメェがここに居続ける理由は」

「お姉様がなんだって言うの? だからなんだって言うの?」

 

 フランの声色から、苛立っているのは明らかだった。

 

「不味い……このままだと、フランが……」

「ど、どうなるって言うんだぜ……?」

 

 ダメージが身体から抜け切れず、その場から動けない二人。

 パチュリーはフランの様子がおかしいことを悟り、魔理沙はそのことについて尋ねる。

 冷や汗を流しながら、パチュリーは答えた。

 

「最悪の場合、この辺一体がすべて吹き飛ぶことになるわ」

「なっ……!」

 

 暴走する力を抑えきることが出来ず、館はおろか、世界すべてを吹き飛ばしかねない程の強大な力。

 フランはそれを持ちながら、495年間ずっと耐え忍んできたのだ。

 

「お姉様が私の為に閉じ込めたことも知ってる。私の力が理由で閉じ込められているのも知ってる。だから私は、ここに居続けなくちゃいけないの!」

「本当にそれが本心か? 今の今までそんな感情を吐露することすらしなかった奴が、偉そうに物語るじゃねえか。テメェの本心くらい、テメェの口でしっかり言いやがれ!!」

「黙れぇ! 馬鹿にするな! 私を馬鹿にするな! お姉様を馬鹿にするな!!」

 

 QED『495年の波紋』。

 それは、彼女が抱え続けた苦悩が放たれる弾幕。

 波紋のように広がり続ける、感情の爆発。

 避けることなど叶わない弾幕の奔流に、銀時は逆らうことなく進み続けた。

 

「お、おい銀さん! そりゃ無茶だぜ!」

 

 それがどれ程の物なのかを理解し切っていない魔理沙にも、銀時の行動が余りにも無謀過ぎるのは分かった。だからこそ叫んでいた。

 その中で、パチュリーは茫然と眺めていた。自身がここに来たのは、彼女を止める為。その目的は恐らく果たせていたことだろう。

 だが、それよりも。

 

「あれだけの弾幕なのに、彼、ほとんど傷ついていない……?」

 

 違和感を抱いたのは、その一点。

 確かに、銀時の身体を射抜いている。血を流しているのだからそれだけは間違いない。

 しかし、それは銀時を地に伏せるまでに至っていない。

 

「ほらな。それだけの力出しながら、ここが崩れることを恐れて、本気を出しきれちゃいねぇ」

「!!」

「大事なもん守りたかっただけなんだろ? けど、たまには我が儘の一つや二つ、ぶつけたっていいじゃねえか。壊すだけが快楽じゃねぇ。耐えることだけが愛情じゃねぇ。もっとぶつけたっていいんだよ。テメェの感情位、テメェで抑えきれねぇ時だってあるんだろ? だったら、ぶつけてこいよ……ここに居る奴らは、そんな簡単につぶれるような奴らじゃねえ筈だぜ」

 

 フランは恐れていたのだ。

 自身の力によって、姉を困らせてしまうことを。

 自身の力によって、姉を傷つけてしまうことを。

 自身の力によって、すべてを壊してしまうことを。

 だからこそ、彼女は言われるがまま幽閉され続けた。

 そうしている内に、彼女は外へ出たいという欲求を、考えないようにしてきた。

 物凄く単純な願い――他人と触れ合うということすら、捨ててきた。

 手に入らないのならば、壊す。

 自身の力もまた、それを証明しているのだから。

 

「壊すのがテメェの力だっていう癖に、テメェに絡まった鎖を壊すことすら出来ねぇガキは、黙って周りに頼ればいいんだ。ちったぁテメェの想い、姉にぶつけてこい。それがテメェに出来ねぇってんなら、代わりに俺達が言ってきてやらぁ……」

 

 いつの間にか、フランは攻撃することを止めていた。

 その瞳からは、一筋の涙が零れていた。

 

「狂気が、収まった……?」

 

 長年、フランの狂気を目の当たりにしてきたパチュリーだからこそ、理解した。

 この瞬間、フランに纏わりついていた狂気は、晴れていた。

 

「ま、今は遊び疲れてるだろうから、後は大人の仕事ってことで、俺達で行ってやらぁ。だからまぁ、大人しくゆっくり休んでろ」

 

 銀時は、立ち尽くしているフランの前まで歩み寄り、その頭の上に手を乗せる。そして優しく撫でた後、彼女の横を通り過ぎようとした。

 

「ギン、トキ……」

「ん?」

 

 ポツリと、フランは銀時の名前を呟く。

 彼女に絡まる、負の感情による鎖は、壊れかけている。

 

「本当に、いいの? 私、こんなにも酷い力を持ってるんだよ? ギントキにも、他の人にも、たくさん酷いことしたんだよ?」

「それがなんだってんだ? 多少駄々をこねることだってあるだろ。生きてりゃ周りにぶつけちまうことだってあるんだから、それでいいじゃねえか」

「お姉様が私の為を想って閉じ込めたのに、その想いを踏みにじることになるんだよ?」

「踏みにじることになるかよ。テメェを想って閉じ込めてたってんなら、姉貴もまた、テメェのことが好きってことだろ? なら、一緒に過ごすことが出来るようになればもっといいじゃねえか」

「……私、お姉様の隣に居ても……みんなの隣に居ても、いいの?」

「……それは俺が決めることじゃねぇ。けど、そんなこと、聞くまでもねぇだろ?」

 

 その問答は、フランの抱えてきた不安を、いとも容易く解いていく。

 ほとんど鎖は残されていない。

 

「……ギントキ、私、もっと我が儘言っても、いい?」

「あ? なんだ……」

 

 次の言葉を言い終える前に、銀時の身体に、フランが抱き着いていた。

 

「よっ!?」

「なっ!?」

「えっ!?」

 

 思わず、魔理沙とパチュリーの二人も驚いてしまう。

 そんな彼らに構わず、フランは涙を瞳にたくさん溜め込みながら、銀時に言った。

 

「私、もっとギントキのことを知りたい。もっとたくさん、ギントキと触れ合いたい。だから、お姉様の所へ行ったら、必ず私のところに帰ってきて? 約束、だよ?」

「約束、か……」

 

 その言葉が持つ重みを、彼は何処までも知ってしまっていた。

 だから、銀時は不敵な笑みを浮かべつつ、

 

「あぁ、約束だ」

 

 そう告げて、優しくフランの身体を自分から離して、

 

「……パチュリー、フランの姉の所まで案内してくれ。魔理沙、もちろん来るよな?」

「当たり前だぜ! けど、さっきフランがしてたことについて説明するのが先だぜ?」

「あれはフランが勝手にやったことじゃねえか! 俺は何もしてねぇよ!」

「……はぁ、まったく。騒がしい連中ね。いいわ。レミィのところまで案内してあげる。フランのこともあるし、貴方を倒せる気がしなくなったし」

 

 こうして、彼らはレミリアの所へ向かうこととなる。

 去り行く三人の後ろ姿を――特に銀時の背中を見送りながら、フランはポツリと呟く。

 

「ギントキ……ギン兄様……私、もっと貴方のことが知りたい……もっと、一緒に、居たい……」

 

 眼差しは何処か温かく、頬は赤く染まり、熱を帯びている。

 495年という長い年月の中、一人の少女が初恋を覚えた――のかもしれない。

 よりにもよって、天然パーマのぐうたら侍を相手として

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

第九訓 抑え込みすぎると感情は爆発してしまうから適度に吐き出せ

 




銀時vsフラン、終結。
次回、銀時・霊夢・魔理沙vsレミリアの戦いが始まる、と思います!
今回は結構シリアスしてた気がしますが、最後の最後にフランが思いもよらないことになりましたね……。


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第十訓 決戦の前は意味もなく気が抜ける

 館の主人が控える部屋の前。霊夢と咲夜は、一足先に辿り着いていた。

 

「この先に、今回の異変の犯人がいるってわけね……」

 

 ポツリと呟かれた霊夢の言葉は、咲夜の耳にも入っていたようだ。少ししかめっ面を浮かべるも、首を頷かせて肯定の意を示した。

 まさしくちょうど中に入ろうとしたそのタイミングで、

 

「霊夢ー! 遅くなってすまないぜー!」

 

 魔理沙の声が聞こえてきた。

 

「まったく、遅刻寸前、って……」

 

 霊夢は呆然としてしまった。

 彼女の視界に映ったのは、先導しながら宙を舞うパチュリーと、箒に跨り空を飛ぶ魔理沙、そして……。

 

「またんかいこのやろぅうううううううううううううううう!!」

 

 ボロボロになりながら全力疾走をする銀時の姿だった。

 

「飛んで移動するとか聞いてねぇぞ!? 第一こちとらフランとの戦いでボロボロだっつってんのに、連れて行くとか慈悲の想いとかねぇのかよ!?」

「地下から私達の速度に合わせられる段階で大層元気そうじゃない。身体が鈍ってる貴方にはちょうどいい準備運動になったんじゃないかしら?」

「るせぇ魔法馬鹿! 本当はテメェの方が体力なくなってんのに気張ってんのが見え見えなんだよ!!」

「むきゅー……」

 

 何を隠そうパチュリーは、体力が元々ない方なのだ。図書館で魔理沙を相手に弾幕を放ち、フランとの大立ち回りを繰り広げ、その足でそのままここに来ている。となると、体力を一番消費しているのは……。

 

「パチュリー様……お疲れ様でした」

 

 目を回してその場に倒れこむパチュリーの姿があった。

 

「……引きこもりなの? こいつ」

「当たらずとも遠からずだろうな。それなのにさっきまで魔法使いまくってた。そりゃぶっ倒れるに決まってらぁ」

「そう。まぁ、自業自得だって言うなら、私も何も言えないわね……見てる分には楽しいし」

「ぐうたらコンビのくせにドエスコンビにまでなるのは厄介だぜ!?」

 

 霊夢と銀時が合わさったことにより、いつもの調子が取り戻された彼ら。それはつまり、魔理沙がツッコミ役としての役目を全うしなくてはいけなくなったと言うことを意味していた。もちろん倒れ込んでいるパチュリーに出来るわけがなく、咲夜は関わろうともしてない。

 

「ところで、そっちのメイドは一体何者なんだ?」

 

 咲夜に気付いた銀時が尋ねる。

 

「お初にお目にかかります。私、十六夜咲夜と申します。この館のメイド長を勤めさせて頂いております故、今後もどこかでお世話させていただくことになるかと思います」

「そうか……俺は坂田銀時。さっき、この館の主人の妹とどんぱちしてきたところだ」

「!?」

 

 銀時からの言葉を聞いた瞬間、咲夜の顔色が変わる。それだけ、彼の放った言葉には重大な意味が隠されていたと言っても過言ではない。

 

「フラン様とお会いしたのですか?」

 

 恐る恐る、といった感じで咲夜は尋ねる。彼女の認識で間違っていなければ、少なくとも無事でここまで来れる保証などない筈だ。にも関わらず、坂田銀時という男は、戦闘後でボロボロではあるものの、五体満足の状態でここまで来ている。それはとても信じられないことだったのだ。

 

「あぁ。テメェが持ってきていた食料とやらも見てきた。正直、見てて気分のいい部屋ではなかったな……もう少しまともな食事用意してやれよ」

「お見苦しいところを……いえ、そうではなく、なぜ貴方は無事で……」

 

 咲夜が気になるのはそのことであった。一体どんなことをしたというのだろうか。その真実を知ろうとしていたのだ。

 だが、彼女の疑問は、銀時によって遮られる。

 

「言いてぇことはたくさんあるだろうが、とりあえず俺からも一つ言わせてくれな? これから俺は、フランの姉貴に、フランの正直な気持ちをぶつけてくる所だ。だから、邪魔しないでくれよな?」

「正直な、気持ち?」

「……アイツが、テメェらの側にいてぇって想いだよ。アイツの姉も、外で門番やってる女も、そこに倒れてる奴も、メイドやってる奴も。そんな奴らの側に居続けたい、隣で笑っていてぇって願いだよ。大層なものじゃねえか。495年もの長い間、ずっとそんな気持ちを押し殺し続けてたんだぜ? テメェらを傷付けたくない一心で」

 

 倒れていたパチュリーも、突っ立っていた咲夜も、銀時の言葉に息を呑む。

 彼から語られたのは、たった一人の少女が抱き続けた願いだった。大切な家族と共に生きていきたいという、そんな単純な祈りだった。

 

「だからよ、その為にも俺は説教してくるわけよ。分からず屋の姉の根性を叩きに行くわけだ。そのついでに、霊夢や魔理沙の手助けしてやらぁ。だから、そいつの事は、頼んだぜ」

 

 木刀を握る手に力が篭る。

 優しい表情を浮かべている銀時に、咲夜は暫し見惚れてしまっていた。

 

「全く、いつの間にやら厄介ごと持ち込んでたようね。本当飽きない外来人だわ」

「それはこっちの台詞だ。銀さんはこっちきてまだ数時間だってのに、ここまで色んなことに巻き込みやがって」

「まぁまぁ。こうして生きてるんだから別に良いじゃないか。とりあえず、異変解決と行こうぜ!」

「……まぁ、大凡この異変を起こした理由に検討はついてる。それも踏まえて、物分かりの悪い奴にお仕置きしてやらねぇとな」

 

 異変を起こした犯人との戦いを目前にして、三人は余裕の表情を浮かべていた。まるでこの一件は、もう解決寸前だと言わんばかりに。

 

「……パチュリー様は私が責任を持って看護致します。どうか、ご無事で」

「なぁに、こちとら何も死にに行くわけじゃねぇんだ。ちょっくら行ってくらぁ」

 

 銀時を先頭に、霊夢と魔理沙もその後に続く。

 パチュリーを抱き上げながら、咲夜は彼らの背中を見送り、

 

「……ご武運を」

 

 気付けばそんな一言を零していたのだった。

 

 ※

 

「よく来たな、人間。待ちくたびれたぞ」

 

 真紅の瞳を輝かせながら、紅魔館の主人であるレミリア・スカーレットが姿を現す。

 そんな彼女を見た銀時が、ポツリと一言。

 

「なんだ、ただのガキか」

 

 瞬間、彼の真横を紅い槍が通り過ぎた。

 

「……おい、人間。今、その口でなんて言った? もう一度言ってみろ」

 

 青筋を立てながら、レミリアは怒りを隠しきれてない表情で、極めて冷静を装いながら、銀時に尋ねる。

 一方の銀時は、槍の先端が髪の毛を数本持っていったことにより、

 

「あぶねぇじゃねえかこのクソガキィ!! 人と喋る時には槍を投げるなって教わんなかったのか常識外れの大馬鹿野郎がぁああああ!!」

「知らないわよ!! 第一アンタら来るの遅いんだよ!! この私がいつまで待ったと思ってんのよ!! 正直何度も寝落ちしかけたわ!!」

「高みの見物どころか布団で寝んねするとは、パジャマ着てるしやっぱり夜は長く起きられねぇ子どもじゃねえか!!」

「じゃあかぁしいわ!! 私は高潔で誇り高き吸血鬼なのよ!! 返せ!! 数分前までのカリスマを返せ!!」

「テメェにカリスマなんてあるわきゃねぇだろうが!! どうせ色物で終わるのがオチなんだよ!!」

 

 本当は気が合うのではないかと思われる程、銀時とレミリアによる言葉のキャッチボール(時速百六十キロ相当)が繰り広げられていた。

 それは、霊夢や魔理沙が間に入ることが出来ない程の勢い。何時ぞやに見せていた魅力的なカリスマを持つ吸血鬼の姿を微塵に砕き切ったような、そんな雰囲気。

 

「ったく、大凡この紅い霧だって、日差しがあると満足に外も歩くことが出来ねぇとかそんな理由だろ?」

「もちろんそれもあるが、それだけでは……」

「あとは妹のためか?」

 

 瞬間、レミリアの雰囲気は一気に変わる。

 先程までの喚き散らしていた彼女から一変。見る者に恐怖を与えるような、吸血鬼としての鋭き眼差し。

 

「私の妹が、どうかしたって?」

「こいつ、急に雰囲気が変わったぜ……」

 

 その変わり身の速さはもちろんのこと、放たれる殺気は魔理沙の足を震わせる程のもの。

 しかし、銀時は動じない。経験上、彼はこの手のことには慣れている。たとえそれが、500年以上も生き続けた吸血鬼の放つものであっても、彼は身を引くわけにはいかない。

 

「テメェの妹が抱えてきた想いをテメェに伝えてきた。いわば俺はメッセンジャーみてぇなものだ。だから耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ」

「ほざくな。たかだか人間如きの意見を、この私が聞き入れるとでも?」

「人間だとか、吸血鬼だとか、そんなもんどうでもいい。俺はただ、物分かりの悪い背伸びしたガキに説教しに来ただけだ」

「……減らず口を叩けないようにしてやろうか?」

 

 宙を舞い、翼を羽ばたかせる。

 そんな彼女に、霊夢は宣言する。

 

「……レミリア・スカーレット。今回の異変を引き起こした犯人である貴方を、博麗の巫女として裁く。異論はないわね?」

「霧雨魔理沙! 普通の魔法使いの力、とくと味わうがいいぜ!」

 

 魔理沙もまた、自身の恐怖を抑え込み、果敢にも相手に挑む。

 そんな彼女達を一瞥し、レミリアは宣言する。

 

「面白い……この私を倒すと? やぅてみるがいい、人間! 全身全霊をもって相手をしよう! 我が名はレミリア・スカーレット! 誇り高き吸血鬼として、貴様らに鉄槌を下す!」

 

 対する銀時も、

 

「姉妹ですれ違いを起こすような勘違い馬鹿姉貴にゃもったいねぇが、このまま霧に包まれたばっかってのも気分が悪いし、その根性、叩き直してやるよ」

 

 人間と吸血鬼。

 ここに、今回の異変の最終決戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

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第十訓 決戦の前は意味もなく気が抜ける

 




次回、決戦がはじまる……!


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第十一訓 想いの重さ

「うぉおおおおおおおお!!」

 

 先陣を切ったのは銀時だった。木刀を構えて、レミリアに向かって全力で駆ける。後を追う形で、霊夢と魔理沙も続く。彼女達はそれぞれの弾幕を張りながら、レミリアの逃げ場をなくしていく。

 一方のレミリアもまた、丸弾とリング弾による弾幕を張り対抗する。互いに弾幕を打ち消し合うその光景は、光によって生み出された一種の芸術のように美しさを表現していた。

 

「人間風情が吸血鬼に逆らうなど烏滸がましい。私が直々に天罰を下す! 天罰『スターオブダビデ』!」

「へっ! ガキが偉そうに宣うじゃねえか! 大人しく狸寝入りでも泣き寝入りでも、ガキ寝入りでもしてやがれ!!」

 

 先程までの弾幕の中に、部屋のいたるところより紅いレーザーが放出される。

 

「火力には火力だぜ! 星符『ドラゴンメテオ』!」

 

 高火力で放たれる極太のレーザー。

 人間の魔法使いが放つレーザーが、吸血鬼の放つレーザーと拮抗し、衝撃が所々に散らばっていく。

 

「ナイスよ、魔理沙」

 

 その中に乗じて、霊夢もまた弾幕を放つ。

 

「霊符『夢想封印』!」

 

 赤い弾と札によって織りなす弾幕。レーザーの撃ち合いに集中している彼女にとって、これを避けるのは至難のはず。

 

「甘い」

 

 だが、レミリアは簡単に撃ち合いを放棄した。こうなると、魔理沙の放った攻撃をその身に受けることになる。

 

「なっ……!」

 

 瞬間、霊夢達は思い知ることになる。

 吸血鬼の持つ元々の身体能力の高さを。

 銀時は、フランとの戦闘で相手がある程度の戦闘能力を持つことは理解していた。だが、彼女のそれは、予想をはるかに上回る程の俊敏さ、剛力さ、耐久性を持っている。持久戦に持ち込まれてしまえば、彼らに勝ち目がないのは明白だった。

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 最低限の動きで弾幕を避け、避けきれなかったものについてはその身で受け止めて、尚も銀時は足を止めない。

 とうとう彼は、彼女の懐まで到達する。手に握る木刀を振り下ろし、

 

「必殺『ハートブレイク』!」

 

 光の槍に阻まれた。

 

「くっ……」

「ここまで来るとはやるではないか、人間。だが、私に傷を付けることは出来ない!」

 

 紅く光る槍は、銀時の腹部を狙って放たれる。なんとかギリギリ躱すも、腹部を少し抉られる。

 

「銀さん!」

 

 思わず、魔理沙は叫んだ。追撃と言わんばかりに、七色に輝く星々をレミリアに放つ。

 しかし、今度は自身の速度を誇るかのように、すべてをレミリアの動きのみでかわされる。

 

「なっ……!」

「なかなか面白いものを持っている。だが、私には、届かない」

 

 羽を大きく広げ、わざとらしく自身の力を存分に見せつけながら、

 

「紅符『スカーレットシュート』!」

 

 大きな弾幕に、中小の弾幕を付随させたものをばら撒く。すぐ近くまで来てしまっていた魔理沙には、これを避ける術はなく。

 

「うわぁあああああああ!!」

 

 まともに食らってしまった魔理沙は、箒から落ちてしまい、その場で気絶してしまった。

 

「魔理沙!!」

 

 声を荒げたのは霊夢だった。自身の友人が、レミリアによって倒されてしまったのだ。命を奪われていないだけマシとはいえ、それは許されざるべきことだった。

 

「どうした? 私を倒すのではなかったか? 私はお前らにとってガキではなかったのか? そのガキにコテンパンにされるお前らは、生き物としての風上にもおけないな?」

「精々ほざいてやがれ。やっぱしテメェら姉妹は何処か似てやがる……妙に自分を隠そうとしてくるところまでそっくりだ」

「……まだそんな減らず口が叩けるか、侍」

 

 口元を歪ませて、銀時はレミリアを挑発する。対するレミリアは、自身の方が格上であることを十分に示した筈なのに、それでも尚逆らってくる坂田銀時という男に、不快感を隠すことなく見せていた。

 

「霊夢、まだいけるか?」

「冗談。アンタこそ息上がってるじゃない。ちょっとは休憩したらどうかしら?」

「悪りぃが、俺は約束しちまったからな……果たすまでぶっ倒れるわけにゃいかねぇのよ。だからよぉ……」

「「死ぬんじゃねぇぞ?」」

 

 銀時と霊夢は、お互いに背中を任せ合う。共に主人公として、この異変を終わらせようと最強の敵に挑む。

 

「耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ! フランはテメェらの横に立つことを願った! ただ隣で笑って泣いて、そんな当たり前の日常を願ってんだよ! テメェがフランを地下に追いやったのも、アイツを思ってなのも分かってるが、アイツはもう、テメェが思ってる以上によっぽど強くなってる。だから! 一度は腹割って話しやがれ! いつまでも逃げてんじゃねぇぞ弱虫がぁあああああ!!」

 

 レミリアがフランを地下に閉じ込めたのには、いくつか理由がある。当然ながら、フランが持つ力は強大で、使い方を間違えてしまえば世界など簡単に消し飛ばせるものだ。それを恐れたことが理由の一つであるだろう。

 だが、それだけではない。

 

 精神が幼いフランが、その事実に耐えられなくなってしまったとしたら?

 自分を責め続け、自分を壊し続けることになってしまったとしたら?

 

 本当にレミリアが恐れていたのは、そのことなのではないだろうか。

 だからこそ、銀時はぶつける。

 彼女の魂を突き動かす為にも。

 

「黙れぇ!! フランは私の唯一の肉親だ! 家族だ! 妹だ!! そんな妹を守りたくて何が悪い!!」

「……なるほどね。ようやく理解出来たわ。この異変を、吸血鬼たるアンタが起こした理由。アンタも望んでいたんじゃないの……妹と並んで歩く、細やかな幸せを」

「っ!!」

 

 霊夢の言葉は、核心をついた。

 レミリア・スカーレットが今回の異変を起こした最大の理由。

 もちろん、吸血鬼として自身の力を誇示する為でもあったのだろう。幻想郷を支配することも目的の一つなのかもしれない。

 だが、それよりも。

 彼女は姉として、妹と共に幻想郷の地を歩みたかったのだ。その為の地盤を用意して、いつか狂気が消え去る時が来れば、霧が晴れたとしてもこの地を並んで歩く未来が待ち受けていると信じて。

 

「そこまで分かってるなら……そこまで知ってるなら、何故止める! いいじゃないか! 私だってそんな細やかな幸せを願ったって! 野望を抱いたって構わないじゃないか!!」

 

 彼女の周りに、徐々に紅い光が集まっていく。それはやがて十字架の形を造りだす。

 

「私だって……フランと一緒に遊びたいんだ!! もっと話したいんだ!!」

 

 紅符『不夜城レッド』。

 彼女が背負う十字架の紅は、あらゆる敵を飲み込んで、血の色に染め上げようとする。

 霊夢は咄嗟に、気絶している魔理沙を救い上げる。

 その一方で、銀時は。

 

「やっと言えたじゃねえか、テメェの本音を」

 

 優しげに微笑んだ。

 

「えっ……」

 

 木刀一本で、彼女の放つ光を抑えつける。身体中が軋み、骨は泣き叫び、全身が砕けそうになったとしても、彼は止まらない。

 

「それなら、その願いはもう叶う。だから安心しろ。テメェは安心して、フランと話し合え」

 

 木刀を真上に振り上げる。

 

「っ!」

 

 咄嗟に彼女は、紅い槍を創り出す。

 神槍『スピア・ザ・グングニル』。

 北欧神話でオーディンが持っていたとされる、使用者に勝利をもたらすと言われる槍。だがそれは、使用者の絶対的な自信によるものだ。彼女の心が砕かれているとしたら、話は変わる。

 

「テメェの想いは、もうアイツに伝わる。だからいい加減仲直りしやがれ」

 

 銀時の振り下ろした木刀は、彼女の槍を粉々に砕き、レミリアの身体を壁まで吹き飛ばした。

 文字通り、渾身の一撃。

 この一撃をもって、勝敗は決した。

 

「……そこまでよ。動けば私の弾幕でアンタを倒す。つまり、この意味分かってるわよね? 吸血鬼」

「…………参ったわ。私の負けよ」

 

 武装を解除し、自身に抵抗の意がないことを示すレミリア。

 それを見て、霊夢も戦闘態勢を解く。

 

「…………」

 

 一連の流れを見届けた後、

 

「なっ……銀時!?」

 

 銀時の意識は、そこからプツンと切れたのだった。

 

 

 

 銀魂×東方project

 銀色幻想狂想曲

 

 

 

 第十一訓 想いの重さ




なんとか決戦を終えることが出来ました……。
次回から数話かけて、紅霧異変篇を終わらせる流れとなるでしょう……。


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第十二訓 大切な居場所はそう簡単に手放したくなくなる

「……どうやら正しき判断だったみたいね」

 

 スキマからすべてを覗いていた女性――八雲紫は、ぽつりとそう零した。

 坂田銀時を今回の異変に絡ませることで、紅霧異変は通常よりも早く解決に導かれた。本来ならば介入する筈のなかったところまで至ることが出来、すべてが解決し、ハッピーエンドと称しても文句のつけようがない程であった。異変解決のみならず、レミリアとフランの姉妹関係の改善という部分まで到達するという奇跡。

 『あのお方』の、坂田銀時という男を見る目に間違いはなかったのだ。

 ただ、裏を返せば、銀時が存在しなかったとしても異変自体は解決に導くことが可能であったと言うことを指す。

 

「坂田銀時……白夜叉がこの幻想郷にもたらす物は、果たして一体何なのか……楽しみに待っておりますわ」

 

 彼女は幻想郷を愛している。

 故に、幻想郷を守る者に対しては最大限の礼を尽くし。

 故に、幻想郷を破壊しかねない者に対しては最大限の力を以て潰しにかかる。

 彼女は今のところ、銀時を信用している。故に、彼にしてしまった無礼については、彼女なりの方法で返すのだろう。

 

「その前に、お礼を申し上げなければなりませんね……ありがとう、吉田松陽。貴方の弟子は、とても良い働きをしてくださいましたわ」

 

 彼女はこれからも見守り続ける。

 幻想郷の行く末を。

 

 

「ん……」

 

 目を覚ますと、彼は何処かのベッドで寝かされていた。

 

「知らない天井だ……」

 

 どこぞの中学生が呟きそうな台詞を零しながら、銀時は辺りを見渡す。

 全体的に紅い空間であることより、今いる場所が間違いなく紅魔館だろうと確信出来た。

 次に、自分の全身に巻かれた包帯を見る。

 

「目が覚めましたか?」

「ん……?」

 

 銀時の耳に飛び込んできたのは、女性の声だった。

 声のした方を見ると、替えの包帯を持っている咲夜の姿があった。

 

「俺……どれだけ寝てた?」

「丸二日。正直、生死を彷徨っていたとしても不思議ではない傷でしたからね。一応のこと手当は済んでいますので、大事には至らない筈です」

「そうか……こりゃまた、随分と寝過ごしちまったものだな……ん?」

 

 少しずつ身体の感覚が戻ってきたことにより、咲夜が居るのとは反対側に、何者かが居る感触を覚える。

 その方向を見ると、

 

「……すー、すー」

 

 目から涙を流しながら、銀時の腕にしがみ付いて眠っているフランの姿があった。

 

「最初は私も驚きました。何せ、妹様がこうして銀時様の傍を離れたくないとおっしゃるものでしたから……何か脅されているのかと」

「ちょっと待て。何で俺がフランを脅していうこと聞かせてるみたいになってんだ」

「もし本当にそうであったならば……脳天ぶち抜きますからね」

「冗談じゃねぇよ! 殺気を隠せ殺気を!」

 

 館の主人達に対する忠誠心は本物のようだ。

 彼女にとって、フランもまたレミリア同様忠誠を誓うに値する相手。

 故に、彼女達にとって敵となる存在については、容赦なく排除するだろう。

 

「しかし、貴方が寝ている間に行われた、御嬢様と妹様の『けんか』によって、その真意を理解しました」

「……そうか。コイツら、やっと自分の本心打ち明けたんだな」

 

 優しく、寝ているフランの頭を撫でる銀時。

 咲夜の話によると、銀時が寝ていた二日間に、フランはレミリアに本心を告げ、レミリアもまた自身の胸の内を明かしたのだそうだ。

 二人の間にあった蟠りも消え去り、徐々に距離も近づくことだろう。

 それだけでなく、彼女の狂気が消え去ったことにより、紅魔館の外に出ることも許されたのだそうだ。

 地下室については廃棄され、彼女には新たなる部屋が設けられるという。

 

「まったく、とんでもない奴だなお前は……」

 

 ちょうどその時、館の主人であるレミリア・スカーレットが、部屋の中へと入ってきた。

 

「よぅ、強情な御嬢様。腹割って話し合った気分はどうだ?」

「おかげさまで今は最高の気分よ。お気遣いどうも。けど……フランがそこまでアンタに懐くのは頂けないわ。姉として、妹に纏わりつく害虫は、駆除するわ」

「俺が寝てる間にテメェの心境にどんな変化があったんだ!? 一周回ってとんでもねぇシスコンに変化してるじゃねえか!!」

「フランは最高に可愛い妹なのよ!? 可愛い妹を愛して何が悪いって言うの!?」

「いや悪いとか一言も言ってねぇけど、そのせいで俺に被害が飛んでくるのが真っ平御免だって言ってんだよ!!」

 

 戦闘していた時のカリスマ性は何処へ消え去ってしまったのやら。

 二人はギャーギャーと喧嘩し合う形となっていた。

 その様子がどことなくおかしくて、咲夜は一人笑っていた。

 

「ふふふ……御嬢様、とても可愛い、です」

「こいつもとんでもねぇレズじゃねえか!!」

 

 訂正、咲夜は一人、レミリアを眺めて、愛でていた。

 

「そういや、霊夢や魔理沙はどうしたんだ?」

 

 ここまで来て、二人がやってくる様子がないことが気になった銀時は、そんなことを尋ねる。

 

「あぁ、あの二人なら宴の準備をしているわ。何でも、異変が解決したから、パァーっと宴をするそうよ。で、うちからは小悪魔と美鈴が手伝いに行ってる」

「小悪魔?」

「図書館で働いている者です。そういえば銀時様はまだお会いしたことありませんでしたね」

「まぁ……図書館関係なら、引きこもりニート娘しか知らねぇからな」

「それ、パチェのこと?」

 

 笑いがこみ上げてくることを耐えることなく、おかしいと言いたげな声色で尋ねるレミリア。

 特に何にも考えることなく、銀時は頷いた。

 

「ったく、宴ってこたぁ、美味い酒が飲めるってことだな?」

「その通りよ。で、宴は明日行われるってわけ。今日はここに泊まっていきなさい。どうせアンタ、行く宛ないんでしょう?」

 

 レミリアからの提案は、銀時にとっても魅力的なものだった。

 思えば銀時は、紫に『スキマ』から落とされてから数日しか経過していないのだ。その上、彼女はろくに説明することもなく、本当に放置した。故に、ここでの活動拠点などあるわけないし、まして仮住まいなどというものも存在しない。

 更に言うと、そもそもの話どうやって元の場所まで帰るのだろうという問題が生じる。

 色々問題は山積みだが、とりあえず銀時は、次に紫に会ったらぶん殴ることを決意していた。

 

「食事の用意が出来るまではまだお時間があります。どうかその間、ゆっくりとお休みください」

「そうね。フランも起きる気配がなさそうだし、食事が出来たら咲夜と一緒に来るわ。それまで傷を癒してなさい」

 

 そう告げると、咲夜とレミリアは部屋から出て行った。

 残されたのは、銀時とフランの二人のみ。

 

「……さて、起きてるな? フラン」

 

 頭を少し乱暴に撫でまわすと、

 

「ふにゃっ」

 

 という、なんとも腑抜けた声を出して、フランは目を開けた。

 

「ちぇー、いつから気付いてたの? ギン兄様」

「二人が部屋から出て行くちょっと前だな……って、ギン兄様?」

 

 いつの間にやら自分の呼び方が変わっていることに違和感を覚えた銀時は、思わず尋ねていた。

 対するフランは、

 

「ギン兄様はギン兄様だよ?」

 

 と言った感じで、特に気にしていない様子。

 ちょっとした変化が気になった銀時だが、答えが返ってくる様子はないので、とりあえず流すことにした。

 

「ま、仲直り出来たようで何よりだわ。銀さんが頑張った甲斐はあったもんだなぁ」

「……本当に、ありがとう。ギン兄様がいなかったら、私は今頃、ずっと地下に閉じこもったまま、お姉様との関係も元に戻ることが出来なかった……全部、ギン兄様のおかげ」

「んなことねぇよ。ちょっくら手を貸しただけだ。後はお前達が歩み寄ることが出来たから、仲直り出来ただけの話だよ」

 

 もちろん、多少なりとも銀時が関与していたからこそ、こうやって話し合うことが出来たのは百も承知だろう。

 それでも、本人達にその気がまったくなかったとしたら、一生訪れることのない機会だったのかもしれない。

 そんな『もしも』を考えると、フランは感謝せずにはいられなかったのだ。

 

「これからは、二人仲良く……いや、他の奴らも一緒に居るわけなんだから、テメェらでしっかり仲良くやれよ。そうすりゃ、家族の絆が結ばれるだろうから」

「……ギン兄様、そこに、貴方はいないの?」

 

 寂しそうに、瞳に涙を溜め込みながら、フランは尋ねる。

 そんな彼女を安心させるように、フランの頭を撫でながら、

 

「……テメェはもう独りぼっちじゃねえだろ? 大切な家族が居る。それでいいんだよ。こんなチャランポランよりもずっと魅力的な奴らが、たくさんいる。それで十分だろ」

「……嫌だ」

「え?」

 

 溜め込んでいた涙は一気に流れ、最早フランは泣き出してしまう。

 

「え、えぇえええええ!?」

 

 あまりの展開に、銀時は処理しきれていない様子だ。

 目の前でいきなり女の子が号泣する場面など、彼にとってそう訪れるものでもないのだろう。

 そうして何も出来ずにオロオロしている銀時に、フランは抱き着いていた。

 

「ギン兄様がいないと嫌だ。もっとたくさんお話したいし、もっとたくさん触れ合いたい。遊びたい。一緒に居たい。ずっと居たい! だからギン兄様、行っちゃヤダ! お別れなんて嫌だ! 寂しいのは嫌だ! フランを……フランを置いていかないでよ!」

「……っ」

 

 思えば彼女は、495年もの間、誰にも弱さを見せることなく、ずっと独りで生きてきたのだ。地下室という閉ざされた空間の中で、鳥籠に閉じ込められた鳥のように、自由などなく、ぶつける先もなく、感情を押し殺して生きてきたのだ。

 そんな彼女にとって、坂田銀時とは心の支えになり得る存在。レミリアに対する愛情とほぼ同等。いや、種類が違うことからも、まったく別で、とても強い感情を覚えていることだろう。

 だからこそ、彼女は失いたくないと思っている。

 

「……別に今生の別れってわけじゃねえ。ただ、テメェにも帰る場所があるように、俺にも、帰らなきゃなんねぇ場所がある。だから、いつまでもずっと一緒ってわけにゃいかねぇよ。だが、俺は一度交わした約束は最大限果たそうとする。だから俺と約束してくれ」

「やく、そく?」

 

 銀時を抱きしめるフランの力が強くなる。

 それだけ、彼女は銀時を手放したくないという意思が強い。

 そのことを理解しながら、銀時は告げる。

 

「いつまでもずっとってわけにはいかねぇから、なるべく一緒に居られる時は、テメェの遊び相手でも、相談相手でも、何にだってなってやるよ。今日だってある。明日だって宴がある。その次もまた別の何かがあるだろう。そん時は、一緒に居てやるよ。だからよ、泣くなって……『またな』、って奴だ」

「また、会える……? ギン兄様とたくさん、お話出来る……?」

「おうよ。テメェが飽きねぇ程おもしれぇ話、たくさん持ってっからよ。だからまぁ、今はこれで勘弁してくれや」

 

 子どもをあやすように。

 彼は、自分自身の身体に感じられる温もりを確かめる。

 フランもまた、目の前に居る銀時の温もりをしっかり感じ取る。

 彼女にとって、誰かの温もりを感じることは、本当に久しぶりのこと。

 その感覚は、永久的ではないにしろ、『また』味わうことが出来る。

 

「……うん。だけど、今だけは、このまま……ギン兄様がいなくなっちゃうの、嫌だから……今日一日は、ずっと、一緒に……」

「……」

 

 何も言わず、銀時はただフランの頭を撫でる。

 フランは、彼の優しさを一身に受け止める。

 

「ギン兄様……」

 

 ポツリと呟かれた少女の言葉は、悲しさを帯びていることなく、何処か安心したものへと変わっていた。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

第十二訓 大切な居場所はそう簡単に手放したくなくなる

 

 

 




宴までが東方の異変解決!
というわけで、宴までは紅霧異変篇は続きますー。
それにしても……フランが銀時にべたべた……。
くっそうらやまけしからん。


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第十三訓 抱えていた物の反動は大きい

「おお……」

 

 しばらくして、夕食の準備が出来たということで、銀時とフランは食堂に行った。その道中、片時もフランは銀時の腕から離れることはなく、流石の銀時も困惑気味だった。ここまで真っ直ぐに好意を向けられるのは、ドエム忍びこと猿飛あやめ以来だった為、なかなかに慣れていないのだ。

 

「なぁフラン、そろそろ……」

「やだ」

「まだ何も言ってねぇんだけど……」

「やだ。離れない」

「ったく、我儘だなぁ……」

 

 食堂の扉をこのまま開けたら、自分の命を刈り取られるのではないかという予感がしている銀時からしてみたら、一刻も早くフランには自分から離れて欲しいと思っている所。とはいえ、彼女が甘えてきていることに対して、自分の言葉がそうさせていることもある為、何も言い返すことが出来ずにいた。

 仕方ないので、フランが腕に抱きついたままの状態で扉を開けると、

 

「来たな……坂田銀時、決着をつけようじゃないか」

「入って早々殺気放つんじゃねえよシスコン」

「なんでお前ばかりフランが懐いているんだ!! 私だってもっとフランを抱きしめてあははうふふな状況を楽しみたいって言うのに!!」

「いやしらねぇよ!? 勝手に妄想しててくれ!? 俺は何も悪くねぇからな!?」

「良いわよ。私のフランへの愛を邪魔するのだとしたら、たとえ恩人だろうとも斬り捨ててやるわよ!!」

「対象さえどうにかなってりゃめちゃくちゃ格好いい台詞なのに全部台無しだなおい!!」

 

 案の定と言うべきかなんと言うべきか。

 レミリアはそれこそ青筋を立てて銀時に捲し立てる。対する銀時も、自分としては何も悪くない為ツッコミで対抗する。

 

「……あんなレミィ初めてみたわ」

「そうですね……私、レミリア様がここまでおもしろ……動揺してる所なんて見たことないです」

「小悪魔? 今明らかに面白いって言ったわよね?」

「ちちちち、違いますよパチュリー様! い、いやだなぁー! そんなことあるわけ、なななな、ないじゃないですかぁー!」

「小悪魔さんの言う通りですよ、パチュリー様! 御嬢様がゆか……いいえ、愉快なことになってるなんて!」

「言い換えられてないわよ。本心ダダ漏れよ。何も守れてないわよ。それでいいの門番」

 

 何というカオス空間。

 ストッパーとなり得そうな咲夜は、

 

「あぁ御嬢様……妹様を想うあまり、あんな可愛いお姿に……」

「鼻血。鼻血出てるわよ咲夜」

 

 珍しいというか何というか、パチュリーによって鼻血の介護を受けている咲夜だった。というか最早ストッパーとしての役割を期待出来そうになかった。

 

「むぅー……ギン兄様ったら、お姉様ばっかり……私のこともっと見てよ!」

「いででででで! 千切れる! 腕が千切れるぅうううううう!! スポンって抜けちゃうぅううううううう!!」

 

 レミリアとばかり言い合いをしている姿を見て、二人だけで仲良く会話をしていると思ったのか、嫉妬のあまりに銀時の腕を抱きしめる力が強くなる。彼女が力を入れるということは、それだけ銀時の腕が悲鳴をあげるというわけで……。

 

「早く飯にしようぜ!! このままだといつまで経っても飯食えねぇから!!」

 

 この場をどうにかする為にも、銀時は食堂全体に向けて叫ぶ。

 その叫び声によって何とか気を取り戻した咲夜は、食事をテーブルの上へ配膳する。レミリア達はそれぞれの席に座る。

 銀時はレミリアと向かいになるように座り、

 

「私はここ!」

 

 フランは自然な流れで、銀時の膝の上に座っていた。

 

「まてぇえええええ! 飯食えねぇだろうが!! 邪魔だから降りろ!!」

「えー……ギン兄様、駄目?」

「駄目に決まってんじゃねえか!」

「フラン、その男の膝の上に座ると、チャランポランが移るわ。だから私の膝の上に……」

「隙あらばシスコン精神出しまくるのやめろ!?」

 

 もうシスコンであることに対して誇りを抱いているのではないかと思われる程、いっそ潔い態度を取っているレミリア。

 あまりの変貌ぶりに、今回ばかりはパチュリーですら呆れるレベルだった。

 

「あのー……なんと言いますか、そろそろ食事を取りません? お腹ペコペコなので……」

 

 この状況下で一番の常識人(?)である美鈴が提案する。

 渋々と言った形で、フランは銀時の隣に座った。

 

「それでも銀時さんの隣は譲らないんですね……」

「当然! だって私は、ギン兄様とずっと一緒だもん!」

「ねぇ、さっき言ったよね? ずっとは無理だって言ったよね? あれ、大事な部分スルーしてないフランさん? ちょっと? 聞いてる?」

「…………どうしよう、咲夜。私、もう抑えきれないわ。アイツ、殺してもいいよね?」

「フランを巡ってヤンデレ化すんのやめろぉ!?」

「お姉様……ギン兄様に手を出したら、絶対許さないよ?」

「お前まで挑発すんなこの野郎!!」

 

 何故か食事の場が修羅場と化する。

 そんな紅魔館は、本日も平和です。

 

 

 場所は移って、江戸は歌舞伎町。

 家主たる銀時がいなくなって、三日が経過した。

 

「遅いですねぇ……銀さん」

「きっとジャンプ買う時に道端に落ちてたいちご牛乳飲んで腹壊してるネ。ずっとトイレ篭ってるんだヨ」

「どんだけなげぇトイレ行ってんだよ! つか、三日もトイレ篭ってるとか最早ミクロレベルの立て籠もり事件じゃねえか!」

 

 万事屋銀ちゃんのオーナーが不在であることにより、結果的に二人と一匹のみになってしまっている状況。

 定春は餌を食べてぐっすり寝ている。

 神楽は飯を食べてぐったりしている。

 新八は、眼鏡。

 

「なんか僕だけ雑な扱いされた気がするんだけど!? 眼鏡ってなんだ眼鏡って?! ここでも僕は無機物扱いか!?」

「心配すんなヨ。新八は何処へ行っても同じアル」

「それって僕が眼鏡ってことだよね? 何のフォローにもなってないよね!?」

 

 閑話休題。

 

「それで、銀さんがいなくなる前に残されたこのメモ……どう見ても銀さんの字じゃないよね」

 

 改めて出される話題は、銀時失踪前に机の上に残されたメモだった。

 怪しさ満点のメモ帳は、彼らの疑心もうまいこと擽っている様子だった。

 

「女の字アル。けど、あんなチャランポランを連れ去るような女なんて、さっちゃん位しか浮かばないネ」

「あの人はある意味こういうことをする人じゃないからなぁ……そこが分からないんだよね」

 

 ある意味彼らが答えに到達しなくても当たり前である。

 何故なら彼らが知らない人物が犯人であるのだから。

 

「あら、坂田銀時の居場所が気になるのかしら?」

 

 その時、二人以外に誰もいない空間から声が聞こえてくる。

 

「……え?」

 

 新八は辺りを見渡すも、視界に映るのは、ソファでぐうたらしている神楽と、寝ながら●を漏らしている定春だけだった。

 

「って、漏らしてるぅうううううううううううう!!」

 

 ぷんぷん匂い、モザイクがかかる万事屋の居間。

 新八は慣れた手つきで処理をし、新ためてもう一度辺りを見渡す。

 

「んー……」

 

 視界に映るのは、ソファでぐうたらしている神楽と、寝ている定春と、妖艶な笑みを浮かべてる女性だけだった。

 

「なんだ、いつもの光景……って誰だぁあああああああああ!?」

「なっ……いつの間にここに来たアルか!?」

 

 あまりにも自然に溶け込んでいた為に、神楽ですら驚く始末。

 その様子がおかしかったのか、女性は扇子を口元に当てながら、笑顔を見せる。

 

「これはこれは失礼致しました。貴方達のやり取りが面白おかしくて、つい笑ってしまいましたわ」

「……新八、この胡散臭いババァは知り合いアルか?」

「おい今なんつったガキ」

「え?」

「何か聞こえたかしら?」

「え?」

「え?」

「……なんでもないっす」

 

 一瞬、神楽の言葉を聞いた女性の笑顔が修羅の物に映ったが、女性の勢いに負けたのもあり、気のせいだと思うことにした新八なのだった。

 

「所で今、銀さんの名前……」

「えぇ、言いましたわ。彼は今、私からの依頼によって幻想郷という場所に来ております。ご安心ください。もうすぐ一度帰ると思いますので」

「なんだヨ? その幻想郷って」

 

 疑問を伝えた神楽だけでなく、新八もその場所について心当たりがなさそうだった。

 女性――八雲紫は、幻想郷について、銀時に依頼した内容について、そしてその顛末を彼らに伝えていた。

 

「そんな場所が……ってか、銀さん吸血鬼に勝っちゃうなんてなかなか凄いっすね……」

「というか新八。今の話聞いてると女性しか出ていない上、幼女にものすごい勢いで懐かれてるアル。これは異常事態ネ。ていうか警察呼ぶしかないアル。帰ってきたら速攻通報するネ」

「……いつもならツッコミ入れるところですが、今回ばかりは神楽ちゃんに同意するよ……銀さん、一体何したんだ……?」

「どれだけ普段信用されてないのかしら」

 

 これには流石の紫も、同情したという。

 

 

 夜。

 銀時には先程まで寝ていた部屋が充てられて、そこで横になっていた。

 彼はつい先日起きた異変について思い返し、

 

「すげぇもんだな……幻想郷ってのは」

 

 ポツリと、そんな言葉を漏らしたのだった。

 そんな時だった。

 コンコン、と扉が叩かれる。

 

「誰だ?」

 

 銀時の声を聞き、扉は勢いよく開かれる。

 そしてそのまま。

 

「ギン兄様ー!!」

 

 病人であることなどお構いなしに、吸血鬼タックルを繰り広げるフランの姿があった。

 

「うぐべはぁっ!」

 

 当然、彼は全身で受け止めるしか方法がなく、危うく傷口が開くんじゃないかと言う程の衝撃を受ける。

 それこそ思わず心臓が飛び出る程(物理的に)。

 

「まーたお前かよ、フラン……いやいい加減慣れたけどよ、流石に病人にタックルかましてくるのは、やべぇって……止めでも刺しに来たのかテメェは……」

「何言ってるの? そんな酷いことするわけないじゃん!」

「言ってることとやってることが矛盾してることに気付いてる?」

 

 流石の銀時も、思わずそうツッコミを入れざるを得なかった。

 

「ところでどうしたんだよ、フラン。夜にこんな場所に来て。眠れないのか?」

「うん。ギン兄様と一緒に寝たい」

「……レミリアと一緒に寝ればいいだろ?」

「お姉様とは、ギン兄様がこの館からいなくなったらたくさん寝られるから……今の内しか、ギン兄様と一緒に居る時間ないから……少しでも長く一緒に居たいから……駄目、かな?」

 

 上目遣いに。

 その瞳に涙を溜めながら。

 フランは寂しさを押し殺すように、銀時に尋ねる。

 

「……はぁ」

 

 頭をガシガシと掻き毟り、溜め息をついた後に、

 

「仕方ねぇな……来いよ。ただ、見つかった時の言い訳考えておいてくれよな? 銀さんが宴行く前に、ここが血の披露宴になっちまうから」

「大丈夫だよ、ギン兄様。もしギン兄様を傷つけようとする人が居たら、私が壊しちゃうから」

「生意気なことを言うなガキ」

「ぴゃっ」

 

 一瞬、目に光が宿っていなかったフランだったが、銀時にチョップされたことによりすぐに戻った。

 

「ねぇ、ギン兄様」

「なんだ?」

「ギン兄様は、家族っているの?」

 

 ふと湧いた疑問だったのだろう。

 フランの質問を聞いて、銀時の脳裏に浮かんだのは、

 

「……血のつながってない、家族のような奴らならいるさ。今もソイツらは、俺の帰り待ってくれて……居る筈だ」

「そうなんだ……その人達のこと、好きなの?」

「……背負っていく奴らだ。守りてぇと思った奴らだ。その中には、もちろんテメェらも入ってる」

「あっ……」

 

 銀時は優しくフランの頭を撫でる。

 撫でる手が心地よく、フランは目を細くする。

 こんな些細な言葉でさえ、フランの胸は弾むのだ。

 

「ギン兄様は優しいね」

「……そんなことねぇよ。俺はただ、守りてぇもん守りたいだけだ。ただそんだけだ」

 

 そう呟いた時の彼は、何処か遠くを見ていて。

 何かを思い出しているかのようで。

 フランは少し、つい見惚れていしまっていた。

 

「……ギン兄様、明日、楽しみだね」

「……そうだな。楽しめよ、フラン」

「ギン兄様もだよ?」

「あぁ……そうだな」

 

 こうして夜は更けていく。

 銀時は、自分の背中に、また大切な重みが増えたことを感じた。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十三訓 抱えていた物の反動は大きい

 




ちょっと新八と神楽の様子も描きました。
彼らも後々、幻想郷メンバーとの交流を深めることになります故ー。
正直、銀魂サイドのキャラを何処まで出そうか悩み中です。。。
あ、万事屋以外のキャラも出すことは確定しています。
ここは幻想郷ですので、そう言った特徴も加味して、色んなキャラが登場することとなるでしょう……どんな人達が出るのかはお楽しみに。


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第十四訓 マスコミは常に特ダネを求める上にどんなことでもする

 夢を見ていた。

 それは恐らく、見たこともないような光景。

 足元には何かがたくさん転がっていて、男はただ一人、その中で歩いていた。

 先などない。

 行く宛などない。

 そんな中で、一人の男は、木刀をしっかりと握りしめて、ただ前へと足を運ぶ。

 単調な作業に過ぎないのだろう。

 

 その夢には、色がなかった。

 その夢には、匂いがなかった。

 その夢には、人がいなかった。

 その夢には、何もなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 男の息は上がっていく。

 単なる疲れからなのか、それとも何かの重圧からだろうか。

 いずれにせよ、このまま歩き続けることに抵抗を感じ始めた男は、

 

「あっ……」

 

 自分の足元に広がる光景を、その目で見てしまった。

 

「あ、あぁ……」

 

 転がっていた何かは、死体だった。

 

 あるいは腕。

 あるいは足。

 あるいは腰。

 あるいは指。

 あるいは肩。

 あるいは踝。

 あるいは髪。

 あるいは目。

 あるいは耳。

 あるいは鼻。

 あるいは口。

 あるいは頭。

 あるいは、あるいは、あるいは……。

 

「なん、で……」

 

 見覚えがなければ、どれだけ救われたことだろう。

 知らない人のものであれば、まだ耐えられただろう。

 

 そこに広がっているのは、男――坂田銀時が今まで出会って来た者の死体だった。

 

「なんだよ、これ……」

「お前がいずれ辿り着く運命だ」

 

 声が聞こえた。

 その声はとても低く、嘲るように笑う。

 

「お前は……」

「お前はいずれ、その身を以て仲間を傷つける。お前に守れる者など、いない」

 

 死体の中には、霊夢がいた。

 死体の中には、魔理沙がいた。

 死体の中には、フランがいた。

 死体の中には……。

 

「離れた方が余程利口だ、白夜叉。貴様に守れる背中などない。取りこぼし、そして、すべてが無に帰る」

 

 番傘を被り、杖を持ち、全身を白い包帯でぐるぐる巻きにしている男は、包帯の中から見える紅色の瞳を銀時に向けて、告げる。

 

「忘れるな。貴様はいずれ崩壊を招く。逃れたければ――」

 

 

 夢は唐突に終わりを告げる。

 今まで見ていた光景の重苦しさに、銀時の全身から冷や汗が流れ出る。それは着ている服に染みわたり、湿った布が肌に張り付いて余計に不快感を与えていた。

 

「夢……」

 

 思わずポツリとこぼしてしまう銀時。

 ふと、昨日のことを思い出した彼は、咄嗟に隣を見る。

 

「……すー、すー」

 

 安心しきったように、身を委ねるように、ぐっすりと眠っているフランの姿があった。

 彼女は銀時を離さないように、左腕にしっかりとしがみ付いている。

 その様子を見た銀時は、思わず安堵の溜息をもらしていた。

 

「ったく、余計な奴まで夢に出やがって……」

 

 ぽつりと、そんな一言を零す。

 そして銀時は、カーテンの開いていない窓に目を配り、

 

「…………あ?」

 

 そこに、カメラを向けた少女が立っていた。

 

「…………あん?」

 

 そして、カメラからは無慈悲にもシャッター音が鳴り響いた。

 

「よっしゃあああああああ! 特ダネゲットだぜ☆」

「何してんだこのアマぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 黒いフリルつきのスカートを履き、フォーマルな白い服。頭に赤い山伏風の帽子を被った黒髪の少女は、手にしているカメラのシャッターを何回も押し、満面の笑みを浮かべながら、少女は勝ち誇ったかのように宣言する。

 

「お騒がせします! 私は、清く正しく美しく、何処よりも素早く情報をお届けする『文々。新聞』の射命丸文です! この度は異変について調べていた所だったのですが、こんなところに特ダネがあったので、写真を撮らせていただきました! 坂田銀時さん!」

「所詮マスゴミの仕事じゃねえか! テメェふざけんじゃねえぞマジで!? こんな所記事にされた日には二度と外歩けねぇじゃねえか!!」

「えーいいじゃないですかぁ~。幻想郷中の人気者になれますよ?」

「んなわけねぇだろうが! テメェのせいで社会的に抹殺されるわ!!」

「うぅ……ギン兄様、どうしたの……?」

 

 ちょうどその時、銀時と文の口喧嘩を聞いて、フランの目が覚めたようだ。

 眠気眼を擦り、目の前に繰り広げられている光景を見て、一言。

 

「…………ギン兄様、その女、誰?」

「マスゴミです」

「扱い雑過ぎじゃないですかね!?」

 

 流石にこれには文も納得いかなかったようで、全力でツッコミを入れていた。

 

「いいかフラン? マスゴミってのはな、事実を捻じ曲げて面白おかしく書き、読者からの人気を得て内心ほくそ笑んでいるような悪い奴だ。ソイツはその仲間だってわけ」

「なる程……つまり、悪い人ってこと?」

「簡単に言えばそういうことだな」

「さっき言いましたよね!? 私は清く正しく美しく、何処よりも素早く情報をお届けするって!」

「その割には今の状況を見て『特ダネ、ゲットだぜ☆』ってどこぞのマサラタウン在住の小学生みたいなこと言ってたよね? 完全に面白おかしく書く気満々だよね? 銀さんの社会的地位をどん底に突き落とそうとしてたよね?」

「いやだって、今の状況を自分で見て思い返してくださいよ」

「え?」

 

 朝方。

 寝起き。

 隣には目を擦っている幼女。

 そしてその幼女は、成人男性の腕に抱き着いている。

 

「完全に朝ちゅんじゃないですか」

「言わないで?! 完全に誤解だからね!?」

「というわけで本日の記事は、『異変を解決に導いた英雄、紅魔館にてスキャンダル!?』で決定ですね☆」

「ですね☆じゃねえんだよ!! テメェそのカメラ寄越しやがれ!!」

「じゃ、というわけで今日の宴楽しみにしてますからねー!!」

 

 銀時が飛びかかろうとした時、文はそのまま窓から飛び出てしまった。

 それこそ、人間の動体視力では追うことなど不可能なほど、素早い速度で。

 

「な…なん……だと……このままでは……このままでは……!」

 

 今の状態を放置すると、銀時は文によってとんでもない記事を書かれることとなる。

 そうなった場合、次の日から外をまともに歩けなくなってしまう。

 

「大丈夫だよ、ギン兄様……たとえ外歩けなくなったとしても、フランと一緒にずーっと、ずーっと一緒に居ればいいんだから」

「そういう問題じゃねえんだよ!!」

 

 どうやら彼に味方してくれる存在はいなさそうである。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十四訓 マスコミは常に特ダネを求める上にどんなことでもする

 

 

 

 




射命丸さん登場回&ちょっとした不穏な空気を醸し出す回となりましたー。
たぶん次回辺りは宴でのエピソードになる……と思います。


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第十五訓 確認しないと誤解を招くから気をつけろ

 宴の準備もほぼ終わり、のんびりしている霊夢と魔理沙。そして、手伝いに来た関係で、青のノースリーブにロングスカート、肩にケースのようなものを羽織った、金髪赤リボンの少女ーーアリス・マーガトロイドも居た。三人とも、お茶を飲んでのんびりしていた。

 

「手伝ってもらって悪いわね、アリス」

「別に構わないわ。宴が開かれるっていうし、暇だったことには変わりないから。それに、紅魔館の人達も昨日手伝いに来てたんでしょう? 今日はそんなにやることなかったし、こうしてお茶飲めるからちょうどいい感じよ」

「まっ、アリスは照れてるだけだろうぜ!」

「ちょっ、茶化すのはやめなさいよ!」

 

 魔理沙の言葉を聞いて、耳まで真っ赤に染めるアリス。どうやら恥ずかしがっている模様。

 とりあえず今はのんびりしている状態であり、後は宴が開かれる夜まで待つのみとなったわけなのだが。

 

「文々。新聞でーす!!」

 

 襖を思い切り開いて、満面の笑みで新聞を持ってきた文がやってきた。

 

「ゴーホーム。お呼びじゃない」

「あやや!? いきなり辛辣じゃないですか霊夢さん!?」

 

 不機嫌なのを隠すことなく、霊夢は外を指差しながら文に帰らせようとする。

 

「どうしたんだ? 紅魔館でのことならこの前答えたので全部だぜ? もう何も話すことなんてないと思うんだけど……」

「その節はお世話になりましたー。ですが今日は取材ではなく、その時の記事と、新鮮ホッカホカの特ダネを含めた新聞が出来たのでお届けに上がりました!」

「紅魔館っていうと、この前起きた紅い霧の話よね? 私ちょっと気になるわ」

「当事者が目の前にいるんだから魔理沙に聞きなさいよ……」

「ナチュラルに自分の名前が抜けてるぜ!? 私に全部押し付ける気満々じゃん!! 取材の時も全部私任せだったぜ!?」

 

 こんな時にも霊夢の働きたくない病が発揮されていた模様。そのとばっちりを魔理沙が受けていた模様。

 

「ていうか特ダネって何よ? まさか銀時のこととか?」

「そうです! 坂田銀時さん、なかなか面白い方でしたねー」

「お? てことは銀さん目が覚めたのか! 一安心ってところだぜ!」

 

 霊夢と魔理沙は、銀時が倒れてから会っていない。つまり、彼が気を失った状態から目が覚めたことを今初めて知ったようなものなのだ。

 

「坂田銀時?」

 

 ポカンとしてるのはアリスだった。

 彼女にとっては聞き覚えない名前だったからだろう。

 

「あぁ、最近きた外来人よ。前回の異変で偶然会って、そのまま一緒に紅魔館行ったってわけ」

「霊夢と波長が合うから大変だぜ」

「あー……なるほどね……」

「ちょっと待ちなさい。何納得してるのよ? その納得はどういうことよ?」

 

 何故か魔理沙の言葉を聞いてうんうんと頷いているアリスに、思わず霊夢は一言物申す。

 

「で、その坂田さんについてのビッグニュースってわけです!! とりあえず見てください! 宴楽しみにしてますんでそれでは!」

 

 新聞を人数分置いていき、文字通り風の如き速度でその場から立ち去る文。

 仕方ないといった感じで三人とも新聞を手に取り、

 

『スクープ! 異変解決の英雄色を好む! 朝はベッドで幼女を好む!』

 

「「「…………は?」」」

 

 その見出しを読んで、アリスは目を点にし、魔理沙はキョトンとし、霊夢は新聞をぐしゃっと握り潰した。

 

 ※

 

「超行きたくねぇ…………」

 

 夜。

 紅魔館から博麗神社へと向かっている途中で、銀時はポツリと呟いていた。

 理由は明白。どう考えても、朝現れた文が撮影したスクープ写真のせいである。あの後、そこまで時間が経たない内に新聞は届けられ、紅魔館の中は修羅場と化した。

 スペルカード全開で銀時を襲うレミリア。そんな彼女を抑えながらも、ナイフを投げることを辞さない咲夜。そんな二人に対して全力で挑み、能力を躊躇いなく使用するフラン。何も出来ず震え上がっている小悪魔と美鈴。白目を剥きながら『むきゅ〜』とリタイアしてるパチュリー。そして当事者たる坂田銀時は、椅子に縛り上げられて逃げられないようにされていたという。

 誤解は解けたのだが、新聞が他の場所にも広まったのは周知の事実であり、どう考えてもその話題で持ちきりになるのは見えていた。

 

「何言ってるのよギントキ。主役がいなきゃ宴が始まらないじゃないの。今回の主役は間違いなく貴方なのよ?」

「その主役をさっき抹殺しようとしてたよなお前? 絶対許さねぇからな?」

「それはあんたがいけないんじゃない。私の大事なフランを……」

「だから誤解だっつってんだろうが!!」

 

 刃のように鋭い爪を見せつけながら、レミリアは銀時に殺気を放つ。対する銀時は、もうこんなことは真っ平御免だと言わんばかりにツッコミを入れる。

 尚、その間フランは銀時の腕を片時も離さないものとする。

 

「私は別にギン兄様ならいいんだよ?」

「話をややこしくしないでもらえる!? いや、お前の場合マジでやりかねないから余計怖いんだけど!?」

 

 フランの眼を見て、恐らく彼女は本気で銀時に身を捧げかねないことを悟っていた。

 

「銀時様? 分かっておりますね?」

「こえぇよ!! もうテメェらからの圧力が半端ねぇよ!! 銀さんストレスマッハゴーゴーゴーだからな!?」

 

 ナイフをちらつかせる咲夜に、冷や汗ダラダラ流しまくる銀時。

 尚、小悪魔と美鈴は後ろに少し離れて、上司の愚痴会を開いている模様。

 

「パチュリー様ったら……」

「いえいえ、咲夜さんも……」

 

 上司の愚痴は、彼女達の絆をより深くしている模様。

 ちなみにパチュリーは、咲夜の横を陣取り、お互いに部下についての話をしている模様。

 

「……まぁ、こうして館の外を歩けるのも、一緒に並んで話せるようになったのも、アンタのおかげよギントキ。本当にありがとうね。そのことについては感謝してる」

「……俺は何もやっちゃいねぇよ。ただ発破かけただけだ。後はテメェらが掴んだ結果だ。もう手放すんじゃねえぞ」

「……えぇ。何があろうとも、私は妹を……フランを手放す気は無いわ。姉として当然じゃない」

「お姉様……」

 

 凛とした声に秘められた決意。かつて互いを想い合いながらもすれ違い続けた姉妹。そんな二人はもう、互いの気持ちをぷつけあい、気付くことが出来たのだ。決定的に決裂していた時とは違い、今の彼女達は大丈夫だろう。

 フランの狂気も治まり、こうして並んで歩く姿など、彼女達は想像する事が出来ただろうか。

 

「ま、それだけ言えりゃ十分だな。家族は家族で一緒が一番だからな」

「……ギン兄様も、大切な家族だよ。だから一緒」

 

 抱き着く力を強くしながら、フランは懇願するように言う。

 姉であるレミリアや館の住人はもちろんのこと、彼女にとって坂田銀時はとても大きな存在となっていた。それこそ家族同然ーーいや、ある意味では家族以上に想っているのかもしれない。だからこそ、フランは銀時のことを『ギン兄様』と呼ぶ。兄とつけることで、自分の家族であることを認識しようとしている。

 

「……ああ、そうだな」

 

 それが分かってるからこそ、彼はそれ以上何も言わずに、頭を優しく撫でるのだった。

 フランは安心しきったようにその身を委ねる。

 

「……本当、面白いわね。侍って」

「お前達もなかなかに面白いけどな。見ていて飽きなくてちょうどいい」

「それはありがたい言葉だな。これからよろしく頼むぞ、ギントキ」

「……あぁ。できる限りな」

 

 そんな会話をしていた所で、彼らは博麗神社へとたどり着いたのだが、

 

「……言い訳を聞こうか、銀時」

 

 長い階段を登り終えた先に待ち構えていたのは、般若のような形相を浮かべている霊夢だった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十五訓 確認しないと誤解を招くから気をつけろ

 




次回は宴です!!!


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第十六訓 人には様々な顔がある

「なんで浮気に気付いた時の奥さんみたいな雰囲気出してんの? え? 俺何かした?」

 

 困惑する銀時。

 禍々しいオーラを放ちながら、霊夢は銀時に歩み寄る。

 

「人には散々心配かけさせておいて、自分はのんびりハーレムライフ送るぜベイビーって? いいご身分だなおい」

「本当に身に覚えがねぇんだけど!?」

「じゃああの記事は何? 完全にスキャンダル撮影されてるじゃない? え?」

 

 霊夢がここまで怒りを見せる理由に銀時は辿り着いてしまった。だからこそ彼は、心の中で叫ぶ。

 

「(あのマスゴミぜってぇゆるさねぇえええええええええ!!)」

 

 どう考えても今朝撮られた写真が原因だった。つまりは文のせいだった。

 

「あれは完全にマスゴミの印象操作だ! 俺は悪くねぇ!!」

「そうやって何処ぞの皇子よろしく叫んでおけば許されると思ってるんじゃないでしょうね?」

「そんなつもりで言ってねぇけど!? つか、連絡手段なくて無事伝えられなかったのはわりぃと思ってるけど、俺は無実だからな!? 何もしてねぇからな!?」

「そうだよ! ギン兄様はただ、私のことを優しく包み込んでくれただけだよ! ぎゅーってしてくれたんだよ!」

「ほほう? 優しく包み込んだ、ねぇ……」

「フラァアアアアアン! 間違っちゃいないけど火に油注いじまってるぅううううう!!」

 

 大凡フランの言う通りではあるものの、今の霊夢に伝えたところで曲解してしまう。恐らく今、彼女の脳内ではとんでもない誤解が巡っていることだろう。

 

「とりあえず落ち着きなさいよ、博麗の巫女。せっかくの宴が台無しになるであろう?」

 

 前に出てきたのは、カリスマ(笑)オーラを出しているレミリアだった。

 

「……なんか今猛烈に馬鹿にされた気がするんだが」

「気のせいかと、お嬢様……」

 

 虚空に向かって呟いたレミリアに対して、咲夜が冷静に対応した。

 

「レミリアね。今日はよくきてくれたわ」

「今回の一件では迷惑をかけたからな……申し訳ないと思っているんだ」

 

 今回の宴は、場所こそ博麗神社で行われるが、食材や酒等は紅魔館によって準備されたものがほとんどである。迷惑をかけたことを詫びる目的も兼ねている為、このような形を取っているのだ。

 

「開始前にひと暴れしてしまっては、せっかくの宴も吹き飛んでしまうだろう? それにギントキは何もしてないよ。それは私が保証する。もし何かしてたら、今頃首一つでここに来てたところだ」

「…………それもそうね。悪かったわね、銀時」

「あ、あぁ……」

 

 わりとレミリアの一言が冗談に聞こえず、思わず震え上がってしまう銀時なのであった。

 

「もう既に人は来てるわ。あんた達で最後よ。中に入りなさい」

「そうさせてもらうよ。フラン、ギントキ、みんな。行くわよ」

「はーいっ」

「おう」

 

 霊夢、レミリアに続く形で、銀時達も中に入ったのであった。

 こうして宴が始まるのだが、幻想郷の宴、常識に囚われない人達が多い中、何も起きないはずがなく……。

 

 ※

 

「表出ろクソアマァアアアアアアアアア!! よくもあん時は人の意見聞かずに落としやがったなこのやろぉおおおおおおおお!!」

 

 宴が始まってほぼすぐのこと。

 酒を飲みつつ辺りを見渡した銀時は、何食わぬ顔で酒を嗜んでいる八雲紫を見つけ、早速喧嘩を売っていた。

 

「あらあら、血気盛んな事。とても良い事だと思いますわよ?」

「胡散臭いのもいい加減にしろよ? 下手したらあのまま妖怪に喰われて人生ジエンドになってた可能性すらあるんだからな!? ってか俺を元の世界に帰しやがれ!!」

「紫様に向かってその態度はなんだ? なってないな侍」

 

 銀時と紫の間に入ったのは、九本の尻尾を持つ女性ーー八雲藍。彼女は九尾の狐である。所謂、妖怪。

 

「藍様、この方が紫様が言っていた、坂田銀時さんです?」

 

 藍の後ろからひょこっと顔を出したのは、赤と白のワンピースを着て、猫耳を生やした少女、橙だ。

 

「あぁ。そして紫様に仇為す愚か者だ」

「そりゃ先に仕掛けてきたのはあんたの主人だからな!? こいつのせいで俺は危ねぇ目に遭ってんだから、怒って当然だろうが!!」

「そんなこと有り得ない。大凡、お前が何かやらかしたのだろう。だからこそ紫様も見かねて……」

「依頼されたからね? 依頼してきたくせに有無も言わさずいきなりスキマに落としやがったからね? 俺何も悪くないからね?」

「まぁまぁ、銀時さんも藍もそこまでになさいな。ワインでも飲んで大人しくなさい。橙、貴女は駄目よ」

「えーっ!」

「橙にはまだ早い。酔ってしまって何が起こるか分からないからな……マタタビでも相当酔ってしまうだろう? それに、私の自制心がどれだけ持つか分からなくなる……ハァハァ」

「想像だけでいきなり鼻血タラタラ流しやがったぞこの化け狐。大丈夫かよオイ」

「藍は橙を溺愛してるからね……仕方のない事なのよ」

 

 扇子を開いて口元を隠しつつ、うふふと笑う紫。その後ろでは、自由に食事を頂いている橙と、鼻血を拭きつつ他の人とも会話をする藍の姿があった。

 

「それにしても紫、アンタこの外来人を呼んで異変を解決させようとしたみたいだけど、一体何処でこんな天パー変態侍を引っ掛けてきたのよ? 今日の新聞ではロリコンとしての頭角を現したわよ?」

 

 酒の入った盃を持ちつつ、霊夢が会話に参加する。

 

「おいちょっと待て。天パーと侍は認めるが、誰が変態でロリコンだこのやろう」

「アンタ以外いないでしょうが。なに、アンタまだ無実だとか抜かしやがるわけ?」

「レミリアが誤解解いたよな!? 引きずりすぎだろおい!?」

 

 必死に誤解を解く銀時と、睨みつけるような眼差しを向ける霊夢。

 そんな二人をにこにこ見守る紫の図。

 はっきり言って、異様な空間である。

 

「昔馴染みの知り合いから聞いていたのよ。だから何かあった時は頼ろうと思ってたわけ。これで満足かしら?」

「まぁ、嘘はついてないでしょうし、アンタがそれ以上言わないのも分かってるからそれでいいわ……」

 

 霊夢は紫という女性の性格を掴んでいる。それ故にこれ以上追求したところで何も出てこないだろうと考え、質問を打ち切ったのだった。

 

「それと銀時さん、この度は協力して頂いて感謝致しますわ。お陰様で幻想郷を襲う異変からまた一つ、救われましたわ」

 

 頭を下げつつ、紫は礼の言葉を述べる。そこには胡散臭さなどなく、本心から告げていることが理解出来た。

 銀時は頭を掻き毟りつつ、

 

「まぁ……依頼だからな。これで依頼は成立。達成って所だろ?」

「えぇ。今後もご贔屓にさせて頂きますわ」

「出来ればこれきりにしてもらいてぇところだけどな……」

「あらあら、こちらの世界でも背負ったものはあるのではなくて?」

 

 その言葉に、銀時は考える。

 戦いの中で出会った者達の姿が脳裏に浮かぶ。

 共に戦った霊夢や魔理沙。

 孤独に怯えていたフランに、妹とすれ違い続けたレミリア。

 そんな彼女達の元に仕える、美鈴や咲夜。

 紅魔館の主人と友人関係となっているパチュリー。

 図書館でパチュリーに仕える小悪魔。

 銀時が来た時に最初に会った妖怪の少女、ルーミア。

 そして、バカなチルノ。

 

「なんとなく予想ついてたけど、なんか理不尽なところでバカって言われた気がするぞ!!!」

「お、落ち着いてチルノちゃん……」

 

 遠くでチルノや大妖精の声が聞こえた気がするが、今回はスルーする物とする。

 とにかく、銀時はこの世界で様々な人物と出会い、交友を深めた。時間で言えば全然経過していないが、それでも何かしらの形で関わったのは事実である。

 

「そいつは勿論ある。こっちで背負ったもんも忘れねぇよ。ただ、歌舞伎町には歌舞伎町で、俺が背負った馬鹿共がいるからな……其奴らのことも大切なんだよ。だからいつまでもこっちに居続けるわけにゃいかねぇ」

「そう……貴方、やはり優しいのね」

「そんなんじゃねえよ。俺はただ、守りてぇもん守るだけだ。ただそんだけだ。テメェと同じだよ、八雲紫」

 

 銀時は、手の届く範囲を守ろうとする。紫もまた、自身の世界を守ろうとする。そこに違いなど存在しない。

 

「銀時……」

 

 思わず、霊夢は彼の名前を呟く。

 その時の顔が、とても優しい表情を浮かべていたから。

 優しい顔、間抜けな顔、真剣な顔、必死な顔。

 たった数時間しか居なかったのに、その間に霊夢は銀時の様々な顔を見ることが出来た。それは魔理沙も同様だろう。

 そんな中で、純粋に、変な心を抜きにして、坂田銀時という人物の人柄に、霊夢は心打たれていた。

 惚れた腫れたの問題ではない。恋愛的な意味でも決してないのだろう。

 しかし、今まで出会ったことのないタイプの中に、自分と共通する何かを持っていて、それなのに、絶対に横に並び立つことのない男。むしろ、前に立って誰かを先導するような、そんな背中を持つ侍。それが坂田銀時。

 

「……この宴が終わったら、貴方を元の世界に返します。ただ、これは私のエゴなのだけど……どうかまた、幻想郷に足を踏み入れては頂けないかしら?」

 

 深々と頭を下げる紫。その声色は、まるで懇願するかのよう、心から、銀時が来ることを望んでいるようなものだった。

 銀時はしばらく黙り、そして。

 

「テメェが来る方法教えてくれるってんなら、構いやしねぇよ。それに、約束もあるからな」

「約束?」

「なんでもねぇよ……こっちの話だ」

 

 そう言いつつ、銀時は目線をとあるところに向ける。

 そこには、姉妹並んで楽しそうに話すレミリアとフランの姿があった。

 

「……そう。本当に優しいのね、ありがとう……幻想郷の管理者として、感謝するわ」

 

 そう告げた時の紫の顔は、とても魅力的だった。魅惑で、それでいて純粋な少女としての感情も含まれているような、穢れのない笑顔。

 暫し銀時は見惚れて、その気恥ずかしさを隠す為に、視線をずらして髪の毛をがりがりと掻き毟るのだった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

第十六訓 人には様々な顔がある

 




宴はまだまだ続きますー。


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第十七訓 酒は時に人の意外な一面を見せる時がある

 時間は少し流れて。

 

「よぅ、銀さん! 無事で何よりだぜ!」

 

 アリスを連れた魔理沙が、銀時の元へやってきた。

 

「魔理沙……と、コイツは?」

「初めまして。アリス・マーガトロイド。魔法使いよ」

「また魔法使いか? この世界には何人魔法使いがいやがるんだよまったく……」

 

 魔理沙をはじめとして、パチュリーやアリスといった、魔法を扱う人物が少なくとも三人は存在している。

 そもそもの話、吸血鬼が居たり、妖精がいたり、九尾の狐がいたり、化け猫がいたり、なんでもありな幻想郷において、今更という感想を抱かなくはない、と銀時は考えていた。

 

「それぞれがみんな、異なる魔法使いよ。私は人形を扱うことの方が多いし、紅魔館にいるパチュリーって人は、さっき聞いた限りだと五大元素を得意としてるみたいね」

「んで、コイツは火力ブッパの特攻野郎Aチームってわけね」

「そうそう……ってその感想は頂けないぜ!? たしかに弾幕は火力が一番だとは思うけどな!」

「発想がすでに物語ってるじゃねえか」

 

 誰がいうのでもなく、魔理沙が火力を第一に考えていることは明白だった。

 

「にしても、お前は人形遣いたぁ、なかなか可愛い趣味を持ってるじゃねえか」

「か、可愛いってなによ。人形を複数同時に操るのって、それだけでも十分大変なのよ?」

 

 可愛いって言われたことで顔を少し赤くするアリス。元々そこまで他人に興味がなかった彼女にとって、こういった形の素直な言葉は弱いのだろう。

 

「なんだぁ? いっちょまえに照れてやがるのか? 本当に可愛いこってぇ」

「まぁまぁ、そこまでにしてやってくれよ銀さん。アリスったら照れて顔から湯気でまくってるぜ?」

「…………魔理沙。後で弾幕ごっこ。付き合いなさい」

「なんで強制なんだ!? それはおかしいぜ!?」

 

 照れ隠しなのか、それとももっと別の何かがあるのか。

 アリスは魔理沙を引っ張って、そのまま別の場所へと行ってしまった。

 

「あやや。面白そうな状況でしたのに……英雄色を好むとは事実なんじゃないですか」

 

 次に現れたのは、ニヤニヤしながらカメラを構える、文だった。

 彼女を見た銀時の顔に青筋が入る。

 

「おいマスゴミ。テメェのせいでどれほど大変な目に遭ったのか分かってんのかゴラ」

「いやー、なんのことかさっぱりですねー。ていうかほとんど自業自得じゃないですか? 一緒の布団に入ってたのは事実ですし、何も間違っちゃいませんよ?」

「それを面白おかしく伝えたのはテメェの仕業だろうが!!」

「ネタは新鮮なうちに料理するのが一番なんですよ? そこに面白いネタが転がってたら、すぐさま食らいつくしかないじゃないですか!!」

「マスゴミ精神全開のコメントだなオイ!! お前本当いい性格してやがるな!!」

「まぁまぁー、今日は宴なんですから、飲んでくださいよー。お注ぎしましょーか? 盃空いてますよ?」

 

 いつの間にやら日本酒の入った徳利を持っている文。

 

「……仕方ねぇ。次やったらタダじゃおかねぇからな?」

「どうでしょうかねー? 坂田さんは面白いお方なので、追っていると次から次へと面白ネタが入って来そうなんですよねー。妖怪の山にいるあの子達にも会わせてあげたいところです」

 

 並んで酒を飲みながら、そんな会話を交わしてる二人。

 あの子達、と話している時の文の顔は笑顔だったが、特ダネを掴んだ時の顔とはまた違い、優しそうな表情を浮かべていた。

 

「友人か何かか?」

「そんなところですかねー。みんないい子達ばかりですよ? ただ、妖怪の山にいる天狗達はみんな警戒心がものすごく強いですからねー。一度入ろうものなら、二度と出られなくなってしまいます……坂田さんなら平気そうですけどね」

「買い被りすぎだ。銀さんはそんな危険なところに、わざわざ行こうとするほど仕事してぇわけじゃねぇから」

「そういうと思いましたよー」

 

 程々に酔っているのか、文の顔は心なしか赤く染まっている。宴が始まってから結構な時間が経過しているのだ。酔っ払いが出てきてもおかしくはない頃合いだろう。

 

「坂田さん。これからも何卒よろしくお願いしますねー」

「マスゴミなんざ真っ平御免被るぜ」

「酷いですー! 私には射命丸文って名前があるんですから、ちゃんと名前呼んでください!!」

 

 名前を呼ばれないことに不満を抱いているらしい文は、あろうことか突然銀時に抱きついた。

 

「なっ……!」

 

 これには流石の銀時も動揺する。

 フランは見た目が幼い為かまだなんとか抑えることが出来たが、今目の前にいる文は、いくらマスゴミとはいえ美人の部類に入る。しかも、出るところはある程度しっかり出ており、服越しからでもわかるほど、柔らかい何かが銀時の身体に当たっていた。

 

「てめぇ、酔ってやがるな!?」

「そんなんじゃないですよー。私はただ、坂田さんに名前を呼んでもらいたいだけなんですからー。呼ぶまでずーっとこうしてますからねー」

「あぁもう酒クセェ!! うっぜぇ!! めんどくせぇぞこの酔っ払い!!」

 

 柔らかさを堪能する前に、銀時の鼻を刺激するアルコールの香り。それが、否が応でも彼女が酔っている証拠を示している。

 

「ギン兄様から離れろ!!」

 

 そこに割って入ってきたのは、もう明らかに嫉妬の眼差しを向けているフランだった。

 彼女は銀時達の騒ぎを見て、居ても立っても居られなかったのだ。

 文を押しのけ、銀時に正面から抱き着く。

 

「ちょ、ふ、フラン?」

「ギン兄様もギン兄様だよ! 私の前でいろんな女の人とイチャイチャと……ギン兄様は、フランのなんだから!! 離れちゃダメなの!!」

 

 何という宣戦布告。

 涙目で上目遣いで抱きしめながら叫ぶそれは、まさしく恋する乙女そのもの。

 フランより真正面から好意をぶつけられていることを自覚している銀時だが、これには流石に驚きを隠しきれていない様子。

 というか、新たなる特ダネを発見した文が、酔っ払いながらもシャッターを押しまくっていた。

 

「いよっしゃあああああ!! 坂田さんの渾身の特ダネゲットぉおおおおお!!」

「言った矢先にこれかよ!! 今すぐ消せや射命丸ぅううううううう!!」

「おぉ! 私のことちゃんと呼んでくれましたね!! その記念に、明日の新聞ではしっかりとスクープ載せておきますからね☆」

「物凄い満面の笑みで死刑宣告すんのやめてくんない!?」

 

 ホットなネタを仕入れることが出来たことと、名前をきちんと呼んでもらえたことが嬉しかったのか、あざとい笑みを浮かべる文は、満足げにその場を後にする。

 そんな彼女とばかり話している銀時を見て、フランが抱きしめる腕に力を込めながら、

 

「ギン兄様。なんで他の人達とばかり喋るの……? 私と喋るの、そんなに嫌……?」

 

 寂しそうに、懇願するように、そう尋ねてきた。

 

「……そうじゃねえよ。そんなに不安になるなって。お前も色んな奴と会話してぇだろ?」

「私はギン兄様とお話がしたい。お姉様や他の人達とももちろん話はしたいけど、一番はギン兄様なの」

「そ、そうなのか……」

「だって、ギン兄様……この宴が終わったら、帰っちゃうんでしょう?」

「……聞いてたのか、フラン」

 

 頰を掻きながら、先ほどの紫との会話を聞かれていたことを自覚する銀時。

 確かに約束はした。

 しかし、いざその時が迫るとなると、フランの中で余計に寂しさがこみ上げて来るのだろう。

 

「また来るっつったろ? フランはもう一人じゃねえし、帰る場所だって、大切な奴らだっている」

「ギン兄様だって、とても大切な人だもん……分かってる。ギン兄様にも大切な人がいて、帰るべき場所があるのは分かってるけど……わかってるのに……さみしいよ……」

 

 楽しいだけの時間であるとは限らない。

 宴とは、始まりがあれば終わりもある。

 明確な終わりの時間は存在しないが、きっと夜が明ければ終わることだろう。

 或いは、誰かが終わりと宣言するのかもしれない。

 だからこそ、フランは嫌という程感じ取ってしまう。

 宴の終わりは、銀時との別れを意味するのだから。

 

「……はぁ。ったく、ちったぁ俺を信じろって。そうして不安になるのは、信じる心が足りないからだろ?」

「えっ……?」

「言ったろ? 俺は約束を守るって。だから必ず、またお前のところに来るって。そしてその時は、最大限お前との時間を作るって。俺だって、一度背負ったもんを、そう簡単に手放すつもりはねぇよ……」

 

 そう言って、銀時はフランの頭を優しく撫でる。それだけで、フランの気持ちはとても穏やかになっていった。

 彼女は心の何処かで、信じきれていなかったのかもしれない。だからこそ不安に思い、だからこそ手離したくないと願った。

 しかし、銀時の言葉は、彼女の不安を解き放っていく。

 寂しさは残る。離れて欲しくないとも思う。

 それよりも、再会出来るという想いが生まれ、大丈夫と思うことが出来るようになった。

 

「……ありがとう、ギン兄様。大好き」

「……そうか。ありがとな」

 

 そう言うと、フランは銀時に抱きついたまま、寝息を立てているのだった。

 

「まったく、宴でもなかなかにハラハラさせる奴だなギントキ。見ていて正直飽きない」

「レミリアか……ったく、お前の妹、やっぱりちょっと俺に懐きすぎじゃねえか?」

 

 眠っているフランを見守りながら、優しい笑顔を浮かべるレミリアが彼の元へとやってくる。その後ろには、咲夜が控えていた。

 

「それは私も思っていたところだ。だから、ギントキが帰っている間に私に振り向かせてみせるさ」

「こんな時にもシスコン全開かよ。今までのカリスマはどこいった?」

「可愛い妹を前にしてカリスマなんて発揮出来ない……っ!」

「そこは妹の前で見栄を晴れよ。張れる程の大きいものはねぇのかもしれねぇが」

「おいテメェ。今フランがそこにいなかったら血を吸い尽くして空っぽの人形にしてやったところだぞ?」

「変な殺人予告しないでくんない? まじコエェから。年甲斐もなく恐怖のあまり叫んじまうから。この辺一帯が火サスばりの惨状になるから」

 

 牙をむき出し(物理)にしてくるレミリアに対して、割とガチでビビっている様子の銀時。

 

「そう挑発しないでください、銀時様。御嬢様も妹様も、私を含めた紅魔館の人々は、貴方に感謝しています。そして何より、貴方のことを気に入っているのです。美鈴は今度、貴方にリベンジしたいと言っていましたよ?」

 

 微笑みながら胸中を語る咲夜。その時の顔は、年齢相応の楽しそうなものだった。

 

「あの門番が? 確かにあいつ、武術は凄かったな……正直、油断してたら勝てなかったかもしれねぇ」

「後程その言葉、お伝えしておきますね。美鈴も喜ぶことでしょう」

「そいつぁどうも」

 

 盃に入った酒を一気にあおる銀時。

 

「それにしても、本当に無防備な寝顔だな……悔しいけど、余程信頼されてるな、ギントキ」

 

 寝ているフランの頭を優しく撫でるレミリア。彼女の表情は、妹を想う姉そのもの。一度犯した過ちを二度としないように、胸に刻みつけている。

 

「そりゃお前もだろ、レミリア。フランの会話の内容のほとんどは、テメェとのことだぜ? あとは紅魔館の奴らのこととかな」

「……そうか」

 

 フランもまた、レミリアのことを想っている。互いのことを想い合う関係。紅魔館の住人は、それぞれがそれぞれのことを想っている。これからも、優しい時間が流れるに違いないのだ。

 

「ギントキ。今夜は付き合ってくれ。フランの可愛い一面とかを語りたい」

「思い出しながら鼻血とか出すんじゃねえぞ? 側にいる十六夜に迷惑がかかるだろう」

「ふふふ。それはそれでごほ……仕事ですから安心して下さい、銀時様」

「今、ご褒美って言いかけたよな?」

「なんでもありません」

「いや、だから……」

「なんでもありません」

「あ、はい」

 

 力技によって言いくるめられた銀時だった。

 兎にも角にも、こうして宴の時間は続いていく。

 その日の夜は、誰もが存分に語り尽くし、雰囲気の良い宴となったのだった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

第十七訓 酒は時に人の意外な一面を見せる時がある




次回、紅霧異変篇最終話!
そこから春雪異変篇に入るまでは、しばらく短編エピソードをちまちま更新する流れとなるかなーって思います。


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第十八訓 別れは何かの始まり

 宴もたけなわ。

 ある者は寝静まり、またある者は用事があるとその場を立ち去り、ある者は片付けに勤しんでいる。

 そんな中、銀時は八雲紫と共に、博麗神社の鳥居の前に立っていた。

 

「貴方の世界から幻想郷へ行く時、必ずこの博麗神社に繋がるようにしておきましたわ。ちなみに、この世界に来るためのスキマにつきましては、居間の押入れと通じるようにしましたわ。これでお互いに、行きたい時に行けるようになりますわ」

「そうか……なんでも出来るなお前」

「なんでもは出来ませんわ。出来ることだけやってるだけ。貴方は幻想郷の恩人ですからね……これくらいさせていただきたいですわ」

 

 その言葉に嘘偽りはないことを、声色で感じ取っていた。

 本来、外来人を相手にここまですることなどあり得ない。幻想郷という場所の本質を考えたら、外の世界と繋げるなど言語道断。だからこそ、これは紫のエゴであった。

 

「まぁ……なんだ? 数日間だったけど、いい場所だったぜ、幻想郷。負けず劣らず騒がしい奴らばっかだけどよ、それもまた魅力の一つだろうよ」

「歌舞伎町も負けず劣らず騒がしい方達ばかりじゃないの。特に貴方の背負った方々は……いい人達ね」

「あいつらに会ったのか? ま、次は霊夢達にも会わせてやらねぇとな」

「是非ともそうして下さいな」

 

 暫しの間無言の時間が流れる。

 そうしているうちに、

 

「銀さん!」

「銀時!」

 

 魔理沙と霊夢の二人も、鳥居の前までやってきた。

 

「まったく、挨拶もなしに出て行こうとするなんて。片付けの一つでも手伝って欲しかったわね」

「そうだぜ銀さん! 水臭いじゃねえか! 一緒に戦った仲だろう? またな、位言わせて欲しいぜ!」

 

 霊夢は不満そうに、魔理沙は笑顔でそう告げる。

 

「悪かったな。邪魔すんのもどうかと思ってな」

「嘘おっしゃい。どうせ面倒だったからでしょう?」

「なぜ分かった」

「勘、よ」

「……へ、相変わらず勘のいい奴だな」

 

 互いに不敵な笑みを浮かべる銀時と霊夢。何かしら通ずるものがあったのだろう。

 

「ったく、二人とも相変わらず仲良いなぁ。なんか羨ましいぜ?」

「なーに言ってんだよ。貴重なツッコミ役を重宝しないわけねぇだろ?」

「そうよ。アンタがツッコミしないで誰がツッコミするのよ?」

「流石にそれは暴挙すぎるぜ!?」

 

 自分の扱いが適当なことに抗議する魔理沙。とはいえ、流石に本気で嫌がっているわけではない。ある意味これこそが、この三人の関係性であるのだろう。二人が適当なことを言うのに対して、魔理沙がツッコミを入れる。共に戦った者同士、通じ合うところがあるのだろう。

 

「本当に仲がよろしいようで。私も羨ましい限りですわ」

「テメェも素を晒せばいいんじゃねえの? なんつーか、正直胡散臭いだけがあんたじゃねえだろ?」

「…………言葉だけはありがたく受け取らせていただきますわね」

 

 目を丸くしながらも、冷静に返す紫。自身の性格を、少しとはいえ見抜かれているとは考えていなかっただけ、坂田銀時という男に対して驚きと感心を抱いたのである。

 

「にしてもアンタ、フランにお別れ言わなくていいの? 他の奴らには言ってたみたいだけど」

 

 ため息混じりに霊夢が尋ねる。

 

「寝ちまってるからな……流石に起こしてやるのも野暮だろう」

「フランにとっては、銀さんが勝手に帰っちまう方がよっぽど酷だと思うぜ……ってなわけで」

「え?」

「さっき起こしといたから、後は任せたぜ、銀さん」

「え、ちょ、何してんの? ねぇ魔理沙? せっかく人が気効かせて寝かせてやってたってのに、それを無駄にすんの?」

「黙って帰ろうとするアンタが悪いわよ……じゃあね、銀時。またここで会えるのを楽しみにしてるわ。魔理沙、紫、行くわよ」

「じゃあな、銀さん! 今度は弾幕ごっこやろうぜ!」

「うふふ。坂田さん、またこちらで会える日を楽しみにしておりますわね。最も、すぐそちらへ向かいそうな方も何人かいるでしょうけど」

 

 霊夢、魔理沙、紫の三人は、温かい眼差しを向けながら挨拶を交わし、その場を後にする。三人が立ち去った直後、必死な形相を浮かべながら駆け足で近付いてくるフランの姿を確認することが出来た。

 

「ギン兄様!!」

 

 とうとう追いついたフランは、力一杯銀時を抱きしめた。

 

「どうして私に黙って行こうとしたの!?」

「悪かったって……その、あんまりにもぐっすり寝てたからな……起こすのも悪いと思ったんだよ」

「うぅ……もしマリサが起こしに来てくれなかったら、私泣いてたよ? 怒ってたよ? ギン兄様が私の元から離れないように監禁するところだったよ?」

「こえぇよ!? なんかもう犯罪予告聞いてるような気持ちになるからやめろよ!?」

 

 フランの目に光が宿ってないのを見て、本気でやりかねないと考える銀時。フランの場合、実現可能であることが余計に怖いところである。

 

「……ギン兄様。私、ギン兄様の所に遊びに行くからね。ギン兄様も、私のところに遊びに来てね。約束だよ?」

「……あぁ、約束だな」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、銀時はフランに言葉を返す。

 

「じゃあな」

「あ、待ってギン兄様!」

「ん? なん……」

 

 その続きを、銀時は続けることが出来なかった。

 言葉を発しようとした銀時の口を、フランの口が塞いだ。

 驚きのあまり、言葉を発せない銀時。

 フランはそっと離れて、それから銀時に向かってこう言った。

 

「大好きだよ、ギン兄様! 心の底から、愛してます」

 

 ※

 

「はい、逮捕。そのまま牢屋で話を聞きますぜ、旦那」

「なんでシーン変わると同時に手錠かけられてんの!?」

 

 フランに口づけされた銀時は、気を持ち直してスキマへと入っていき、万事屋へと戻ったのだが、そこに待ち構えていたのは、ドSな表情を浮かべている沖田総悟だった。

 

「強制わいせつ罪って言葉、旦那なら知ってますよね? 本件はそれに値するんでさぁ」

「銀さん……これも銀さんのためなんです……罪を償ってください……っ」

「あたし達に心配かけさせた癖に、自分は幼女とキャッキャうふふしてたとか聞き捨てならないネ。しっかり反省するヨロシ」

「テメェらの仕業かこのヤロォオオオオオオオオオオオ!! 誤解だからな!? 帰ってきて早々獄中からスタートとかあんまりだからな!?」

 

 悔しそうな表情を浮かべる新八と、クソ野郎を見るような眼差しを向ける神楽。

 

「ま、そういうわけだ。万事屋。これからはしっかり心入れ替えて、娑婆に出られるよう励みやがれ」

「土方テメェ!! ちったぁフォローしやがれ!!」

 

 兎にも角にも、銀時は元の世界へ帰ることが出来た。誤解を解くのにしばらくの時間はかかることだろうが……。

 この一件は、坂田銀時と幻想郷を繋いだ一件であり、始まりに過ぎない。

 彼らが再会する日は、そう遠くはないだろう。というか、すぐ訪れるに違いない。

 いずれにせよ、今回の異変ーー紅霧異変は幕を下すのだった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

第十八訓 別れは何かの始まり

 




紅霧異変篇、ついに終わりました!!!
やっと一つの話を完結までもっていけましたよ……この話やるだけでほぼ一ヶ月位かかってるんじゃないでしょうか?
なんかフランがめっちゃヒロインしてますが、これから増えますよきっと(白目
次回から数話は短編の話を何個かやって、それから春雪異変篇へと続く形となりますー。
これからも何卒よろしくお願いします!!


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ポロリ篇その壱
第十九訓 他人の家を訪れる時はインターホンを押せ


と言うわけで、これから数話はポロリ篇です!
多分今後何回かあると思うので、その壱とつけております。


 真選組による坂田銀時逮捕未遂から一夜明けて、四日ぶりの平穏を取り戻した万事屋は、相変わらずぐうたらする一日を過ごしていた。銀時は相変わらずいちご牛乳飲みながらジャンプを読み、神楽はソファに寝転んで酢こんぶを食べ、新八はソファに座ってお茶を飲んでいる。

 

「それにしても銀さん、この数日でそんな摩訶不思議体験してたなんて凄いですね。幻想郷かぁ……僕も行ってみたいなぁ」

「新八は女にうつつを抜かしたいだけネ。そんな貧弱な根性でいるから、いつまで経っても彼女出来ないアル」

「それとこれとは話は別だろ!? 彼女の有無まで絡めようとするな!?」

「分かってねぇなぁ新八ぃ。一応八雲の説明によりゃあ、居間の押入れと幻想郷を繋いでくれたみてぇだけど、そうそう行くところじゃねえよ? 妖怪大戦争始まっちまうぞ?」

「あぁ、だから銀ちゃん昨日襖から出てきたアルか。一体何事かと思ったネ」

「一応八雲さんからは聞いていたので、いつ帰ってきてもいいように万全の体制を整えていたんですが……」

「おい万全の体制って真選組の馬鹿ども引き連れて、俺を豚箱に送ることじゃねぇだろうな?」

「その通りネ」

「ざっけんなよ!? 俺は無実だっつってんだろコノヤロウ!!」

 

 どうやら昨日は洒落になっていなかったようで、あと少しでしばらく獄中ライフを送る羽目になっていたかもしれなかったとのこと。本人が与り知らぬところで勝手に罪が確定し、勝手に牢屋にぶち込まれそうになったら、それは抗議の一つや二つすることになっても不思議ではないだろう。

 

「まぁ、なんかありゃいやでも行くことになるだろうから、そん時まで我慢しとけ。向こうにもマスゴミがいるから、何されるか分かったもんじゃねえし」

「嫌に怨念篭ってますね……どんだけその方のこと嫌いなんですか」

「誤解を招くような写真撮られた挙句、その日の新聞に大々的に取り上げられて、危うく残機一つ落としそうになった」

「あんたの命はいつから残機制になったんだよ!? ていうかどんだけ素早く記事書いてんだよ!! その日の内に撮ったやつをすぐ新聞にするとか、各地の新聞社がマジ泣きするレベルだぞ!?」

「無駄に素早さだけはあるからな……」

 

 いつ如何なる時もすばしっこい、射命丸文のことを思い出しながら、銀時は呟く。

 そんな風に幻想郷での思い出話をしていたら、その関係者が来るフラグになるというもので。

 

「ごきげんよう、坂田さん、万事屋の皆さん」

 

 何食わぬ顔で襖を開け、押入れから八雲紫が現れた。

 

「てめぇ! コイツらに変なこと教えやがったな!! おかげで昨日は豚箱に入れられるところだったじゃねえか!!」

「……え、本当に通報したのこの人達。流石の私も予想外でしたわ」

 

 少なくとも冗談だと考えていた紫は、まさか本当にこの二人が通報するとは考えていなかったらしく、珍しく目を大きく見開いていた。

 銀時はそんな彼女の様子を見て、いつも感じている胡散臭さはないことから、それが本当のことであると考えた。

 

「こんにちは八雲さん」

「おぉ、よく来たネ年齢詐欺ババア」

「表出るかクソガキ」

「おいちょっと。今まで見てこなかった素が出てんぞ。つかなんで神楽はそんなに辛辣なんだ?」

 

 相変わらず遠慮ない神楽と、敵意剥き出しの紫。この二人はもしかしたら相性最悪なのかもしれない。

 

「で? 今日は一体何の用だ?」

 

 ひとまず二人の喧嘩を止めるためにも、八雲紫が突然来訪しに来た理由を尋ねる銀時。

 すると紫は、

 

「今日は、貴方にどうしても会いたいっていう子を連れて来ましたの。まだ一日しか経ってないのに、隣に貴方がいないだけでものすごく寂しいって聞かなくて、私のところへ相談へ……恐らく、貴方ならもう誰なのか検討ついているのではないかと」

「まぁ……なんとなくイメージ湧いた。ったくしゃーねぇなぁ……」

 

 気恥ずかしそうに頭をボリボリと掻きながら、訪れるだろう人物のことを想像していゆ銀時。

 

「それと。流石に一人で連れてくるわけには行かなかったので、他の方々も一緒ですわ。今の内におもてなしの準備はしておいた方がよろしいかもしれませんわね、志村さん」

「え? 僕ですか?」

 

 名指しされた新八は目を丸くする。

 

「お前以外にだれがいるネ。とっとと準備してこいメガネ」

「なんで神楽ちゃんが偉そうなんだよ……ちなみに、何人くらいいらっしゃるんですか?」

「四人ですわ」

「あぁ……部下どもは留守番ってわけな」

 

 紫から人数を聞いて、何となく納得出来てしまう銀時なのであった。

 

「凄いですね! いきなり幻想郷の人達に四人も会えるなんて!」

 

 まだ見ぬ来訪者に目を輝かせる新八。そのままお茶を準備する為に台所へと向かう。

 

「うふふ。嬉しそうで何よりですわ。あの方達も貴方に会えて嬉しいと思いますし」

「なんとなく嫌な予感もすっけどな……」

 

 万事屋に人が来る時には、大抵何かしらの騒動が起きる。もしかしたら今回も例にもれないのではないだろうか。いや、何も起きないはずがないのだ。何せ相手は幻想郷の住人。しかも前回の異変を引き起こした張本人も混じっている。癖が強い者が多い中、果たしてどんな出来事が起きるのだろうか。

 

「今日、私は案内役を務めに来ただけだから、後のところは任せますわ。それでは……」

「おう、早く帰れBBA」

「やっぱ話し合うか? おん? チャイナ娘今すぐ存分に『O☆HA☆NA☆SHI』してやろうか?」

「こんな所で喧嘩勃発させようとしないでください!! なんか万事屋一瞬にして潰れそうだから!! 神楽ちゃんも刺激しないで!!」

 

 もし神楽と紫がこの場で暴れようものなら、建物崩壊で済むのだろうか。むしろ歌舞伎町が崩壊してしまうのではないだろうかと銀時は心の奥底で思っていた。

 一方で新八も必死に止める。このままでは出会いが訪れる前に永遠の眠りに就くことになりそうだったから……。

 そもそも紫の言う『O☆HA☆NA☆SHI』はただの話し合いで終わるわけがない。

 

「とりあえず今度こそ行きますわ。それでは……」

 

 自身の外郭が崩壊してしまうことを自覚したからだろう。そそくさと紫はその場を後にした。入れ違いで入ってきたのは……。

 

「ギン兄様ー!!」

 

 標的を見つけ、狙いを定め、全力で駆け出して飛び付いてきたのは、吸血鬼の少女であり、紅魔館の主人の妹ーーフランだった。その勢いは、銀時の身体にダイレクトアタックを仕掛けて、後方数センチ飛ぶ程のもの。詰まる所、鳩尾ダイナミックエントリー。

 

「あぶべびばっ!!」

 

 銀時に大ダメージが与えられる。とはいえ、この程度の攻撃ならば何度か食らったことあるが、もしもう少し下に当たっていたとすれば、今頃生死を彷徨うこととなっていただろう。

 

「まったく、フランは相変わらず遠慮ないな……一応ここはもう外の世界だというのに」

「無理もありませんよ、御嬢様。妹様はこの日をずっと待ち望んでいたのですから」

「本当、フランはギントキに夢中みたいね……それにしても……こことおい……むきゅー……」

 

 後から追いつく形で、温かい眼差しを向けるレミリアと、冷静に言葉を返す咲夜、そして疲れで目を回しているパチュリーが入ってきた。

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

第十九訓 他人の家を訪れる時はインターホンを押せ

 

 




今回は紅魔館メンバーが歌舞伎町に遊びに来ましたー。


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第二十訓 人が目的を話す時は不敵な笑みを浮かべるのが常なのだろうか

本日は二話投稿でございますー。


「えーっと……」

 

 あまりにも膨大過ぎる情報量に、新八の処理速度が追い付いていない。突如現れた四人の美少女たちは、それぞれがそれぞれで、自由気ままに行動し過ぎていた。こんなタイプ、今まで会ったことない者ばかりである。

 一番まともそうなのは、メイド服を着用している咲夜と言った所だろうが、

 

「ここが万事屋という場所か……なかなかに面白そうな場所だな」

「御嬢様、あまりはしゃがない方がよろしいかと……」

 

 好奇心旺盛に辺りを見渡しているレミリアを見ながら、咲夜は鼻血をだらだらと流していた。

 

「またんかいぃいいいいい!! いきなり鼻血出すな処理が困るんだよォオオオオオオオオ!!」

 

 銀時も神楽も掃除するわけがないのだから、この中で誰が一番困るのかと聞かれたら、当然新八である。何かが起きれば、そのとばっちりは彼にすべて来ると言っても過言ではない。

 

「これは失敬……」

 

 しかし次の瞬間、咲夜の鼻血によって汚れていた筈の場所は、一瞬にして何もなかったかのように綺麗になっていた。

 

「え……?」

 

 これには、新八も動揺を隠せない。

 

「お前、今何したアルか? 手品カ?」

 

 近くで見ていた筈の神楽でさえ、何が起きたのか理解することが出来ずにいた。

 そんな彼らに対して、咲夜は説明する。

 

「これは私の能力、『時間を操る程度の能力』でございます」

「なん……だと……? テメェ、ザ・ワールドが使えるって言うのか……? くっそ羨ましいぞ」

 

 フランによるダイレクトアタックのダメージから帰ってきた銀時は、未だ抱き着いているフランを抱えたまま、冷や汗をかきつつ尋ねる。何故かジョジョ立ちしている。

 

「ザ・ワールドというのがどのような能力かは分かりませんが……私は時間の流れを早くしたり、遅くしたり、様々なことが出来ます。そういえば銀時様とは戦ったことがありませんでしたね」

「それ以上につえぇ化け物共と戦ってたからな……」

 

 銀時が紅魔館で相手をしたのは、美鈴・フラン・レミリアの三人。武術で言えば美鈴は間違いなく最強で、フランとレミリアに至っては種族が吸血鬼であることより、当然ながら馬鹿みたいに強い。一方咲夜は人間ではあるものの、能力面では随一である。今は目を回しているパチュリーも、魔法を使う面で言えば間違いなく最強の部類に入るだろう。

 とにかく、紅魔館には強者しか存在しない。

 

「あぁ、紹介が遅れたな。私はレミリア・スカーレット。誇り高き吸血鬼だ」

 

 カリスマを全開にしながら、レミリアが自己紹介をする。

 

「ついでに物凄いシスコンだ。気をつけろ。フランを突け狙おうものなら、爪と牙が飛んでくる」

「おいギントキ。せっかくの私の自己紹介を返してくれないか? 普段なかなか出せないカリスマ全開にしたのにすべてが水の泡になるじゃないか。だけどフランは可愛い」

「シスコン隠す気ねぇぞ!? それどころか誇り高きシスコンにランクダウンしてる気すらしてるぞどういうことなんですかこれぇ?!」

「新八だって似たようなものじゃネエカ。姉御にぞっこんフォーリンラヴな時点で十分やばいネ」

「色々ねつ造スルナァアアアアアアアアアアア!!」

 

 鼻をほじりながらそんなことを言っている神楽に、新八は心の底からツッコミを入れていた。

 

「面白い方々ですね……申し遅れました。私は紅魔館のメイド長を勤めさせていただいております、十六夜咲夜と申します。こちらで目を回されているのは、パチュリー・ノーレッジ。御嬢様の御友人でございます」

「むきゅー……もうすこしだけ、やすませ……」

「わんっ」

「て……あれ、真っ暗で、何もみえない。とうとう私の意識は何処か遠くへ行ってしまったの?」

「定春ぅううううううううううううう!! やめて!! お客様をいただかないでぇえええええええええ!!」

 

 目を回しているパチュリーを、問答無用で定春が召し上がっていた。

 あまりにも突然過ぎる展開に、パチュリーは現実を受け止めきれていない様子。新八は必死にパチュリーを救出するも、パチュリーの全身は定春の涎塗れ。

 

「ぱ、パチェ、なんだその面白は……くくく……っ」

「おーい、友人が大変な目に遭ってるのに笑うとか最低だぞー」

 

 軽蔑の眼差しを向けながら、銀時は言う。

 それでも尚、レミリアは笑うのを止めない。

 

「仕方ないわね……疲れてるからあまり魔法は使いたくないんだけど……」

 

 そう呟きながら、彼女は自分自身に水の魔法をかける。

 そうすることによって、自身に付着した汚れをすべて取り除いていた。

 

「え、えぇえええええええええええ!?」

 

 魔法を目の前で見せられた新八からしてみれば、驚きの連続に他ならない。

 というより、一般人はなかなか見ることの出来ない光景だろう。

 

「新八、さっきから驚き過ぎアル。いちいち煩いネ」

「むしろ神楽ちゃんはなんでさっきからそんな冷静でいられるのか分からないんだけどォオオオオ!?」

 

 この場合、新八の反応がある意味正しいと言えるだろう。

 

「そういえば、未だに銀ちゃんに抱き着いてる女の子について、私まだ名前知らないアル。離れた方がいいゾ。天パーと糖尿病と駄目人間が移るネ」

「何人を伝染病みたいに扱ってんだゴラ。移らねぇよ? つか天パー移るってなんだ? 天パー移せるならテメェに移してやろうか?」

「あー嫌だ嫌だ。変態も移されちゃたまらないネ」

「だから移らねぇっつってんだろ!! いい加減にしろよゴラァアアアアアアアアア!!」

 

 青筋立てまくっている銀時だが、そんな時ですらフランが離れない為、存分に動くことが出来ないでいた。

 見かねた神楽は、銀時からフランを引き離そうとして、

 

「嫌だ!! ギン兄様にもっとくっついていたいの!!」

 

 明らかに威嚇しているフランを見て、絶句していた。

 

「え、ぎ、銀ちゃん……幼気な女の子に何したアルか? 銀ちゃんにこんなに懐くなんて……やっぱり警察呼んだ方がよかったアルか……?」

「大丈夫だよ神楽ちゃん。電話ならもう準備してる」

「だから誤解だっつってんだろテメェら!! ほらフラン、テメェも自己紹介して誤解を解いてくれ。ちなみにチャイナ服の方は神楽、眼鏡は新八な」

「いちいち僕の説明雑なのは喧嘩売ってんすか」

 

 少しキレ気味な新八。

 フランは銀時に抱き着くのを止めず、そのまま新八と神楽の方を見て、こう言った。

 

「私はレミリアお姉様の妹、フラン・スカーレット。ギン兄様と一生一緒に生きると決めた、フィアンセなの!」

「あ、もしもし? 土方さんですか? うちにロリコンの変態天然パーマが……」

「今すぐ電話すんのやめろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 余計な騒動を招いただけだった。

 

 

 閑話休題。

 誤解を何とか解き、パチュリーの体調も戻った所で、一同はそれぞれの定位置へと座る。

 新八と神楽は隣同士に。銀時は自分の席に。

 向かいのソファには、パチュリー、レミリアの順番に座り、その後ろに咲夜が控えている。

 

「あの、十六夜さん? 座らないんですか?」

「私はメイドですから。こちらで大丈夫です」

 

 新八が座るよう提案するも、やんわりと断る。

 そして肝心のフランが何処に座っているのかと言えば……。

 

「ギントキ。やっぱり私達、いつか決着をつけなきゃいけないと思うんだ……膝の上にフランを座らせる権利を手に入れる為にも」

「随分と局所的な争い過ぎて、それ必要なのか分からないんですけどォオオオオオ!?」

「何言っているメガネ。必要に決まっているだろう。フランだぞ? 可愛いだろ? だが貴様にはやらん」

「いや誰も欲しいとは言ってないんですけどね!?」

「フランを要らないだと?! 貴様それでも人間か!?」

「もうめんどくせぇよこのシスコン吸血鬼!! 話が通じないってレベルじゃねえぞ!?」

 

 会話があまりにも成立しなさ過ぎて、新八は若干キレ気味である。

 

「あなた、大丈夫? そんなに大声で叫んで……喉が痛くならないの?」

「御心配ありがとうございます、パチュリーさん……」

 

 体調が戻ったことで一番まともになったパチュリー。

 

「ところで、テメェらはどうしてここに?」

 

 ある程度落ち着いた(?)所で、銀時が話を切り出す。

 すると、膝の上に座っているフランが、

 

「ギン兄様に会う為だよ! お姉様にお願いして、一緒に来させてもらったの!」

「……悔しいけど、その子の言う通りよ。フランがどうしてもって言うから来させてもらったの。だけど、一人で行くのはまだ危険だから、こうして私達もついてきたってわけ」

「まぁ、気持ちは分からないでもない……フラン一人だと、何処行くか分かったもんじゃねえからな」

「私が行くのはギン兄様のところだけだよ?」

 

 上目遣いで、不思議そうな眼差しを向けるフラン。

 銀時は髪をぼりぼりと掻きながら、気恥ずかしそうにしている。

 

「それにしても新八。あの天然パーマのどこがいいのか私にはさっぱり分からないアル」

「奇遇だね、神楽ちゃん。僕もだよ……」

「ひそひそ噺してるつもりなんだろうけど、丸わかりだからな? 銀さんのハートズタボロだからな?」

「ギン兄様のハートは、フランが守ってあげる!」

「あ、あぁ、ありがとうな……」

 

 今は純粋なフランが眩しく見えると考える、銀時なのだった。

 

「それと、実はもう一つ目的があってな」

「目的?」

 

 レミリアが話を切り出すと、銀時は何を意味するのかを尋ねる。

 レミリアは、目を鋭くさせて、不敵な笑みを浮かべると共に、こう宣言した。

 

「こっちでの私達の拠点が欲しくてな。カブキチョウという場所に、私達の別荘を建てようと思う」

「「「……へ?」」」

 

 銀時、新八、神楽の三人は、目を大きく見開いていた。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十訓 人が目的を話す時は不敵な笑みを浮かべるのが常なのだろうか

 

 

 



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第二十一訓 人は見た目によらないけれど見た目で印象は大体決まる

「なに? お前らこっちにも侵略する気なの?」

 

 目を丸くしながら銀時が尋ねる。

 対するレミリアは、

 

「これからちょくちょくこっちに来ることになるのに、いくらなんでも仮住まいの一つもなければどうしようもないと思ってな。そこで私は、紅魔館2ndGをこの地に建てようと考えたわけだ」

「建てるのは勝手ですけど、そのネーミングセンスをどうにかしてもらえないですか!?」

 

 まるで『一狩りいこうぜ!』って単語が浮かんできそうなフレーズであった。というかネーミングセンスが崩壊していた。

 

「私は止めたんだけど、レミィがどうしてもと譲らなかったのよ……決めたら意見を曲げないから、こればかりは仕方ないわ……もっとあったと思うのよ……紅魔館復活のスカーレットとか」

「ロボットアニメからのパクリじゃねえか!! つかほぼ原型留めてねぇから一瞬何のことか分からなかったわ!!」

 

 まともだと思っていたパチュリーからの一言に愕然し、思わずいつも以上にツッコミに力が入る新八。それにしても、よくギアスネタが通用したものだ。

 

「いーや、ここはネオ紅魔館ホワイトドラゴンとかがいいネ」

「乗っかんなくていいから!! 神楽ちゃんまでややこしくしないで!!」

 

 今のところ、およそ別荘につける名前とはかけ離れている様子だった。

 

「ってかこっち来て何するつもりなんだお前ら?」

「だって、ギン兄様に会いに会うのに、いちいちレイムのところ行かなきゃいけないのって大変なんだもん….…それで、私がお姉様に頼んだの」

「シスコン拗らせた結果かよ!!」

 

 堪らず銀時はツッコミを入れる。

 そう、今回紅魔館の別荘を建てようとレミリアが画策したのは、フランに懇願されたからだ。ものすごい端的に言ってしまえば、妹のお願いに我慢出来なくなった姉の大規模なプレゼント、とでも言うべきだろうか。

 

「可愛いフランのためだ。私だって一肌脱ぐさ」

「脱いで誇れる程の物もねぇくせにか?」

「表出ろや。四肢捥いでやろうか?」

「オネエサマ? ギン兄様ヲキズツケタラ、ワカッテルヨネ?」

「あっはっは! そんなことするはずないじゃないか!」

「もうとんでもなく早い心変わりにも驚きませんね……」

 

 フランの目に光が宿らなくなり、レミリアは即座に意見を変える。そんな様子を見て、新八はポツリとこぼしていた。

 とはいえ、レミリアも悔しいことには変わりないようで、力強く拳を握りしめていた。それこそ、ミシミシと音が鳴る程に。

 

「名前はともかくとして、つまり今日は、別荘建てる為の宛てがあるかどうかってのを探しにきたってのもあるのか?」

「察しが良くて助かるわ。その通りよ」

 

 銀時の予想は当たっていたようで、レミリアは満足そうに頷く。

 

「……んー、まぁ、宛てがないわけじゃねえが、多分お前ら驚くと思うぞ? とりあえずちょっくら電話してくるわ……フラン、わりぃけど一度降りてくれ」

「えー……分かった」

 

 渋々という形でフランは銀時の膝の上から降りる。銀時は電話のところまで歩き、その間フランは銀時の手をしっかり握っていた。

 

「本当、フランさんは銀さんから離れようとしないですね……」

「銀時様のことが大好きですからね。少なくとも私達紅魔館の住人は、あの方に感謝しておりますし」

「感謝、ですか?」

 

 気になった新八は、咲夜に尋ねる。

 それに応じて、咲夜はあの晩に起きた出来事を話す。

 こうして幻想郷と万事屋が繋がるきっかけとなった、あの事件のことを。

 

「……一度八雲さんから話を聞いていたとはいえ、改めて聞くと、本当にとてつもなく壮大な話ですね」

 

 話のスケールの大きさはもちろんのこと、銀時の活躍を聞いて、感心と同時に心配の念すら込み上げてくる。自分達の与り知らぬところで、銀時が命を張っていたのだ。

 

「銀ちゃん壮絶な一日を送っていたネ……流石にびっくりアル」

「えぇ。ですから、妹様がああして銀時様に対して素直に好意を抱いていることには、むしろ喜びすら感じているのですよ。妹様を狂気から救ってくださったあの方だからこそ、私達は安心してるんです」

 

 恐らくそれは本心からの言葉だろう。その証拠に、咲夜の他にも、パチュリーもレミリアも頷いていた。とは言っても、レミリアは何処か悔しそうにも見えたが(シスコン故だろう)。

 そんな湿っぽい空気とは裏腹に、銀時はある男に電話をかける。

 

「もしもし?」

『おおー! 金時か? おまんから電話さ来るとは随分珍しいこともあるもんじゃなぁ! ナハハハハ!』

「いい加減名前覚えろや、俺は銀時だ」

 

 坂本辰馬。

 かつて攘夷戦争を共に闘ってきた仲間であり、今は宇宙を駆ける貿易商を営んでいる。

 なぜ彼に依頼したのかと言うと、

 

「ちょっと前にお前が送ってきたデリバリー大工あるだろ? あれ、またちょっと依頼してぇんだわ」

『あぁー! 随分前の話じゃけん。そういうことなら承った! 手配しちゃるから、詳しい話はそっちでしといてくれ、金時』

「だから銀時だっつってんだろ!! いつになったら名前正しく言うんだよ!! っておいごら!! 勝手に切るんじゃねぇ!!」

 

 覚えているだろうか。

 原作でも本当に出番が少ないわりには、万事屋を吹き飛ばす程の腕を持つデリバリー大工の存在を。

 

「今の電話、ギン兄様の友達?」

「まぁな……話きかねぇし名前覚えようともしねぇやつだけどな」

 

 なんて会話をしていると、扉の前に『ドスン』という音が鳴り響いた。

 

「え、もう来たの? まじで?」

 

 電話してからまだ数秒もかかっていないというのに、外には何かがきた気配。

 

「え、銀さん。もしかして……」

「あぁ……今は背に腹変えられねぇからな……」

 

 恐る恐る、扉を開ける。

 するとそこには、

 

「ウンケイ」

「カイケイ」

「「依頼があれば星を駆け巡るデリバリー大工、お待ちしやした」」

 

 箱詰めにされた小さな親父二人が佇んでいた。

 

「……え、まさかと思うけど、ギントキ。こいつらが、宛て?」

 

 隣に来てウンケイ・カイケイを見たレミリアが、嫌そうな表情浮かべながらそう尋ねる。

 

「腕は確かだからな……あとはそいつらと話つけておいてくれ……」

「え、えぇ……」

 

 そうして、レミリア達は小さな大工親父達と打ち合わせすることになる。

 その腕は本当に確かで、数日後には歌舞伎町に、一面紅に染まった屋敷が建てられていたそうな……。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十一訓 人は見た目によらないけれど見た目で印象は大体決まる




とりあえず短編一つ終了です。
オチはいつも以上に弱かったですが……。
ちなみに、ウンケイ・カイケイは銀魂原作で言うところのたしか七巻辺りに登場するキャラクターです。
大工キャラを探してた時にたまたま目に付いたので、出してみました。
自分でも「え、なんでこいつら???」って思いましたが(白目


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第ニ十二訓 初対面の人間にも臆することなく堂々としていれば大抵のことは上手くい

本来は異変の際に起きる話なのですが、話の流れ的にはこっちの方が自然かと思いまして、ポロリ篇に収録させていただきました。
マヨイガ篇スタートですー。


 迷い家。

 読み方で言えば『マヨイガ』と呼ばれるその場所は、訪れた者に富を与える家である。訪れた者はその家の中にある備品を持ち出しても良いことになっており、その物によって、富の内容も若干変化する。古くは遠野物語から伝わる伝承であり、その在処は不明とされている。

 さて、何故マヨイガに関する解説が突如として始まったのかと言うと、

 

「だぁああああああああ!! あの化け猫めェエエエエエエ!! 一体どこ行きやがっタァアアアアアアアアアア!!」

 

 本日、万事屋のメンバーがマヨイガを彷徨っているからである。

 

 ※

 

 事の発端は、ある人物からの依頼だった。

 紅魔館メンバーが歌舞伎町にて別荘建設計画を推進している頃、新たなる来訪者が万事屋に来ていた。その人物は、

 

「橙が引きこもった……」

 

 八雲紫の式神こと、八雲藍である。

 

「来て早々どうした。ここはお悩み相談所じゃねえんだよ。愚痴聞かせる為だけにわざわざスキマ通ってくるんじゃねえよ」

「違う。不本意ながら今日は依頼しに来たんだ。報酬もそれなりにやる……というか、これから行く場所のものなら、好きなものを持って行って貰ってかまわない」

「どういうことですか?」

 

 来客用のお茶を出しながら、新八が尋ねる。

 そこで藍が切り出した話は、マヨイガに関する伝説だった。

 

「なるほど……で、そのマヨイガとやらにテメェの式神が引きこもったってわけか。原因はなんなんだ?」

「この前の宴……橙だけ酒飲めなかっただろう?」

「あぁ……紫もテメェも、橙にはまだはえぇって飲ませなかったな」

「あの子、マタタビとかですぐ発情モードに突入する程、何かからの影響にはめっぽう弱いんだ。だからあの時、貴様がいる前で酒を飲もうものなら……どうなるかわからなかった」

「なぁ、ナチュラルに俺を変態に仕立て上げようと画策すんのやめねぇ? それ俺関係ないよね? つか新八と神楽までなんで引いてんだよコノヤロウ。銀さん関係ねぇぞ。完全にこの過保護女の妄想だぞ?」

 

 実際、藍の過保護っぷりはかなり強い。それほど橙のことを大切に想っているのは見て分かるのだが、時に親切心は喧嘩の火種となることもある。

 

「ま、つまりこの前の宴でガキ扱いしたことに耐えきれなくなった橙が、引きこもって出てこなくなったのを説得して欲しいってところか?」

「察しが良くて助かる……居場所はわかってるんだが、私じゃ話もしてくれなくてな……その居場所がマヨイガってところなんだ」

「マヨイガって何ネ? マヨの匂いがするアルか?」

「マヨ香じゃねえよ。マヨイガ……たしか、訪れた者に富を与えるとか言われるやつか?」

「歴史も達者なのだな。どちらかというと伝承の類ではあるが、見た目の割に勉学も達者とは……良き師に巡り会えたのか」

「……まぁ、そんなところだ」

 

 肝心なところはぼかす銀時。というより、これ以上の説明をすることが出来ずにいた。

 

「というか、そんなものが実在してたのですね……」

「あぁ。いつしか忘れ去られ、伝承が幻想郷に伝わってきたんだ。今はそこを橙が縄張りとして使っている。元を正せばあの子は猫。山奥で過ごす事の方が多いんだ」

「ん? テメェの式神のくせに、一緒に行動はしてないのか?」

「私はそもそも紫様の式神で、基本的には紫様と行動を共にする事の方が多い。本当ならばいつもずっと一緒にいたいのだが、なかなかそうもいかなくて……」

 

 藍が本気で落ち込んでいる。

 橙が藍の式神であるのと同時に、藍は紫の式神なのだ。つまり紫から見れば、橙は式神の式神という、なんとも微妙な立ち位置となる。別にそこまで彼女達は気にしているわけではないが、対外的にも微妙な所であるのと同時に、そもそも橙本人が結構自由気ままに行動することが多い。

 だからこそ、敢えて住居を一緒にするという強制をしてはいないのだ。

 

「まぁ、退っ引きならねぇ事情があるのは何となくわかった。要するに俺達は、マヨイガ行って、テメェのところの式神引き連れりゃいいわけだな? ついでにそこにあるもん持って行ってかまわねぇ、と」

「まとめると大体そんな感じだ。頼めるか……?」

 

 少し不安げに藍が尋ねる。

 銀時は、そんな彼女に対してこう告げる。

 

「依頼とあっちゃ引き受ける。ちょうどこいつらに幻想郷を案内してぇところだったしな」

 

 ※

 

 定晴をお妙に託し(そうしなくても勝手に過ごすことは可能ではありそうだが)、銀時達はスキマを通り、幻想郷へと向かう。

 当然と言えばそれまでなのだが、通った先にあったのは、神社の鳥居だった。

 

「うわぁ……ここは神社ですか?」

「たしか、八雲が言うには博麗神社っつってたな……」

「あら、あんた達」

 

 辺りを見渡す新八達を見て、神社の境内より、博麗霊夢が顔を出す。寝起きだったのか、欠伸をしながらの登場だ。

 

「おぉ、銀ちゃん。新手の露出狂が出たアル。脇思いっきり出して恥ずかしくないアルか?」

「誰が露出狂よ。あんた達の隣にいる天然パーマの方がよほど変態じゃない」

「「確かに」」

「満場一致で納得すんなよテメェら。終いにゃ銀さん泣くぞコノヤロウ」

 

 霊夢の言葉に、新八と神楽は間髪入れずに同意していた。それだけ銀時の変態度は認められている証拠であろう。

 その事実に少し涙をこぼしそうになる銀時だったが、ぐっとこらえて、双方の紹介を簡単に済ませた。

 

「そう。神楽に新八……いえ、眼鏡ね」

「なんで今名前ちゃんと言った後に敢えて眼鏡に言い換えたんすか? 僕に何か恨みでもあるんですか?」

「いえ、本体なのにちゃんと呼んであげないと失礼だと思って」

「本体じゃねぇよ!! 新八さん目の前にちゃんといますよ!!」

「あらやだ。この眼鏡かけ機ってば自立駆動型なのね」

「眼鏡かけ機言われる筋合いねぇわ!!」

「……銀時、この人、魔理沙以上にツッコミ上手いわね」

「そりゃ年季と場数が違うからな。今度魔理沙連れて来いよ。二人でどんだけツッコミ倒すのか見ものじゃねえか?」

「それもそうね。楽しめそうね……」

「くっそくだらねぇこと企んでるんじゃねえよ!! まりさって人も可哀想だろうが!!」

 

 まだ見ぬ魔理沙に対して同情の念すら抱いてしまう新八なのであった。

 

「しっかし、レミリア達がそっちに別荘建てるって言って、今度はあんた達がこっち来るとはね……あ、フランにも伝えた方がいいかしら?」

「いや、今日のところは依頼で来たからな。八雲んところの九尾狐から、化け猫連れて来いって依頼だ」

「橙を?」

「まぁな。この前の宴が原因でマヨイガに絶賛引きこもり中だそうだ」

「なるほどね……それで今回は三人がかりってわけね。ちょうど私も暇だったし、手伝うわ」

「まじか。自動追尾型勘ナビゲートが付いてきてくれるのは大いに助かる」

「アンタ私のことなんだと思ってんのよ」

 

 呆れながらそう言う霊夢。

 そんな二人の会話を聞いて、新八と神楽はこっそりと話す。

 

「神楽ちゃん、なんだかあの二人仲良くない?」

「たしかに……つっきーと話してる時となんだか似てるネ。いつのまに銀ちゃんこんなに女誑しになったアルか」

「いや、なんというか、それもあるんだけど……あの二人、妙に似てるというか……」

「たしかに……ふだんかなりなまけてそうな所とか、ドSな所とか、怠けてそうな所とか、駄目人間そうな所とかそっくりネ」

「「聞こえてんぞテメェら」」

 

 青筋立てた二人による雷が落とされるのに、そう時間はかからなかった。

 

 ※

 

「お? 霊夢に銀さんじゃねえか! そっちの二人は、銀さんが言ってた万事屋の人たちか? 初めましてだぜ! 私は霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ!」

 

 道中、箒に跨って空を飛んでいた魔理沙が、銀時達を見つけて降りてきた。彼女を見つけた時の反応が、

 

「あら。自分から来てくれたわね」

 

 と霊夢。

 

「お? これでツッコミ対決が実現するな」

 

 と銀時。

 

「銀ちゃん! 新八! 魔女宅ネ! 飛ぶジ●リネ!」

 

 と神楽。

 

「あっ……魔理沙さんでしたか……その……頑張りましょうね」

 

 と新八。

 

「なんか色々不穏なのがすげぇ気になるし、なにを頑張ればいいのか分からないぜ。そして私は魔女じゃなくて魔法使いだぜ!! 銀さんと同じこと言ってやがるぜ!!」

「どう見ても姿格好は魔女アル。魔女っ子ネ。媚び売ってそうアル」

「初対面の人間に随分とどぎついこと言うね神楽ちゃん!?」

「だいたい私は媚び売ってねぇぜ!!」

 

 新八と魔理沙の二人掛かりでツッコミを入れる。

 そんな様子を見ていた銀時と霊夢は、

 

「やっぱツッコミが二人もいると会話の流れがずいぶんちげぇな」

「そうね。新八はスピードがあるわね。けどツッコミが長くなるのがたまに傷ね」

「対する魔理沙はスムーズにいくな。新八に遅れをとるのが少し難ありって所だが」

「けど、見込みは大いにあるわね。こうなったらとことんツッコミ役として鍛え上げなきゃいけないわ」

「まったくだ」

「アンタらどうでもいい計画立てて遊んでんじゃねぇよ!! ツッコミ役鍛えるとかいいから、テメェらの頭鍛えてこい!!」

「この前から私は別にツッコミ役鍛えたいとか思ってないって言ってるはずだぜ!?」

「「おおー、ダブルツッコミきたこれー」」

「「棒読みで言うな!!」」

 

 感情のこもってない声で拍手をする銀時と霊夢に、とうとう新八と魔理沙のツッコミがシンクロする。

 

「お、今のはかなり良かったな。また一歩踏み出せたなテメェら」

「その調子よ。どんどん階段登っていきなさい」

「何様だよテメェら!! むしろテメェら駄目人間として階段駆け下りてるだろ!? テメェらが人間の階段登ってこいよ!?」

「そんな道踏み出したくもないんだぜ……ってか、銀さん達は結局何しに来てるんだ?」

 

 やっと本題に入る。

 話をしようとしない銀時と霊夢に代わり、新八が今回の依頼について簡単に説明する。

 

「なるほどな。そう言うことなら人手がいるだろうな……よし、私も手伝うぜ!」

「ありがとうございます!」

 

 純粋に人手が増えたことを喜ぶ新八。

 そんな彼を見て神楽が一言。

 

「新八。鼻の下伸ばしてデレデレして情けないアル」

「伸ばしてないからね!? デレデレしてもないからね!? 人聞きの悪いこと言わないでね!?」

 

 こうして、今回の依頼は五人で引き受けることとなった。

 だが、これだけ人手が増えたとしても、今回の依頼はそう簡単にいかない……。

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

第ニ十二訓 初対面の人間にも臆することなく堂々としていれば大抵のことは上手くいく



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第ニ十三訓 取り扱いには十分気をつけましょう

 博麗神社を出発して凡そ一時間弱。

 マヨイガと思われし場所まで到着した一行は、その大きさに圧倒されていた。

 

「紅魔館並にでかいなこりゃ」

 

 ポツリと感想をこぼしたのは銀時だった。彼の言う通り、実際目の前に佇む屋敷はでかい。少なくとも、猫の縄張りにしては大したものだろう。

 

「橙ってば、こんなところに引きこもってるわけね……ん、入り口のところに何か張り紙があるわね」

 

 霊夢がそれに気付き、一同がそこに集まる。

 張り紙にはこう書かれていた。

 

『わたしはおとななのです!! こどもあつかいしないでほしいのです!! だからわたしは!! みんなが!! おとなとみとめるまで!! とじこもるのを!! やめない!! それでもはいるのなら!! わたしをみつけるにゃ!!』

 

「うわぁ……こりゃ完全に怒ってるぜ」

 

 魔理沙の言う通り、張り紙から感じ取れるのは強い怒りの意思だった。余程宴の一件が心に響いているのだろう。というか、引きずっているのだろう。若干何処ぞの漫画ネタが含まれていた気もするが、彼らは気にしないことにした。

 

「銀ちゃん、こうなったら家捜しネ。隈なく探して……お宝がっぽがっぽネ」

「下心しかねぇじゃねぇか!! もう猫探しほっぽり出して宝探しに明け暮れようとしてるよこいつ!!」

 

 明らかに一人だけ目的が違う神楽に対して、耐えきれずに新八がツッコミを入れた。

 

「何言ってるアルか新八。今回の依頼は、報酬現地調達ネ。つまり私達は、宝探しながら猫を引きずり出せばいいアル」

「せめて逆にして!! なんか可哀想だから!! 強い意志で引きこもってるのに無視してちゃ偲びないから!!」

 

 神楽には橙の気持ちが理解出来ない様子である。そもそも理解する気があるのか甚だ疑問で仕方ないところではあるが。

 

「まぁ、屋敷中探してりゃいつか見つかんだろ……はえぇとこ猫探して、報酬剥ぎ取りチャンスといこうや」

「その言い方だと橙から剥ぎ取るみたいに聞こえるからやめて欲しいぜ銀さん……」

 

 不穏な響きに聞こえた為、魔理沙がポツリとつぶやいていた。

 

 ※

 

 そんなこんなで屋敷の中に入った銀時達だったが……。

 

「にゃー」

「にゃーにゃー」

「にゃーにゃーにゃー」

「にゃーにゃーにゃーにゃー」

 

 見渡す限り猫だらけ。

 たしかにいろんな家具とか、宝になりそうなものも混じってはいるものの、それすら覆い隠すのではないかと思われる程の、猫。

 

「多すぎるわ!!」

 

 耐えきれず、新八は叫んだ。

 

「この中で探せってか……? 結構キツイもんあるぞこれ」

「銀ちゃん、猫って食べられるアルか?」

「国によっちゃ食べてる所もあるな。こんだけいりゃ何匹か連れて帰っても文句は言われねぇだろ」

「待つんだぜ!? 今の会話の後に猫連れ去ろうとするのはやめるんだぜ!?」

「どう考えても誘拐後食す未来しか見えねぇよ!! 腹減ってんの!? だったら後で鱈腹飯でも食べてろ!!」

 

 何故か猫をお持ち帰りする算段をつける銀時と神楽に対して、魔理沙と新八の二人体制でツッコミを仕掛ける。やはりツッコミが増えたことにより、バリエーションも豊かになったようだ。

 と、その時だった。

 

「ひっ!」

 

 明らかに女の子の声がした。

 しかも、明らかに怯えている感じの。

 

「もしかして……」

 

 霊夢は真っ先にあたりを見渡す。

 やがて何かに気付いたように、視線を一点に向けた。

 銀時達もそこに向ける。

 向けている先には、屋敷の柱。そこの陰から聞こえる、怯える声。

 

「わたしを食べないで欲しいにゃー!!」

 

 その声の主は、その場から逃走した。

 

「待ちやがれ晩飯ィイイイイイイイイイイ!!」

「いやちげぇからァアアアアアア!! 飯じゃねぇよ!! 食べようとすんなって言ってんだろォオオオオオオオオ!!」

 

 真っ先に走って行った銀時と、その後を追う新八。

 

「魔理沙、神楽、私達も行くわよ。ややこしくなる前に橙を捕まえるわ」

「わかったアル。先に見つけた方がおかずにできるわけダナ?」

「ちげぇぜ!! 安全を確保するために確保するんだぜ!!」

 

 何処かずれた発想をする神楽と、それを正す魔理沙の図があった。

 霊夢先導の元、彼女達も橙を捕まえるために先へ進むのだった。

 

 ※

 

「だぁああああああああ!! あの化け猫めェエエエエエエ!! 一体どこ行きやがっタァアアアアアアアアアア!!」

 

 そして時間は、ここに戻るわけである。

 完全に橙を見失った銀時達は、手分けをして探すこととなった。

 とはいえ、相手は化け猫。なにぶん逃げ足が速い。

 

「ったく、面倒な依頼受けちまったもんだぜ……化け猫捕まえるのにこんだけ手間かかるたぁ……」

 

 悪態をつきながら、辺りを見渡す銀時。

 すると、かなり奥の方で、身体をガタガタと震わせている少女を発見した。

 

「やっと見つけた……別に取って食いやしねぇから、そこから出て来いよ」

「うううううう、うそですすすすすす。そうやってあまやかして、でたところをぱっくりいくんですすすすすすすす。ひぃいいいいいい!!」

「そんなに怯えなくていいだろ? 晩飯にしたりしねぇよ……したらあの九尾狐に何されるかわかったもんじゃねぇ……」

 

 もし橙の身に何かあったとしたら、間違いなく銀時は天誅を食らうだろう。それが分かっている為、危害を加える気は最初からなかった。

 橙はその気配を察すると、恐る恐るといった形で近付いてきた。

 

「あの、はりがみ、みましたよね?」

「まぁな。子供扱いされんのが嫌だっつってたな? 俺からしてみりゃ、テメェは人様に迷惑かけてるガキにしか見えねぇよ」

「……藍様、怒ってました?」

 

 心配そうに尋ねる橙。

 そんな彼女に対して、銀時は正直に答える。

 

「めっちゃ落ち込んでた。自分のせいだって責めてたよ……あいつはテメェのこと大切に思うあまり、相手の気持ち考えられてなかったって思ってたみてぇだったな」

「そんなこと……!」

「あぁ。ちょっとばっかし今回は、すれ違いが多すぎただけなんだろうな。だからまぁ、誰もお前のこと子供扱いしてなんかねぇよ。むしろ、大切に思いすぎるあまり、ちっとばっかし言いすぎただけの過保護にすぎねぇよ……そんなもん、大切に想う奴なら当然だろ?」

 

 藍の気持ちを汲み取り、銀時はその旨を語る。相手を想い過ぎるあまり、人は時として暴走する。今回の一件もまた、そうした想いがすれ違った結果なのだろう。

 橙は、ハッとしたような顔をする。

 

「……わたし、藍様にあやまります」

「それがいいんじゃねえか? そうやって自分の意見決められるってこたぁ、立派な大人だって証拠だろ」

「にゃふっ」

 

 頭を乱暴に撫でまわしながら、銀時はそう告げる。

 橙は少しくすぐったそうにするも、すぐに気持ちよさそうに目を細める。

 これにて今回の依頼は一件落着。めでたしめでたし……。

 

「見つけたネ! 晩飯ィイイイイイイイイイイ!!」

「にゃあああああああああああ!!」

 

 血走った目でダイナミックエントリーをしてきた神楽がいなければ……。

 彼女に驚いた橙は、速攻でその場から逃げ出し、再び闇の中に消えてしまった。

 

「おま、か、神楽ァアアアアアアアアアア!!」

 

 その後、もう一度橙を見つけるのに数時間はかかった模様……。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

第ニ十三訓 取り扱いには十分気をつけましょう




マヨイガ篇終了ー。
次回も短編を投下して、そろそろ春雪異変篇へ突入しますよー。


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第ニ十四訓 太陽の花は見ているだけで美しい

 藍による依頼が完了した後、銀時達はもう少し幻想郷を見て回ることにした。魔理沙と霊夢の二人は用事があるということで別れ、代わりにやってきたのが……。

 

「で、なんでテメェなんだよマスゴミ」

「あやや!? いきなり憎悪の眼差しを向けられる筋合いはないですよ!? それに前は名前でちゃんと呼んでくれたじゃないですかー!」

 

 カメラ片手に今日も元気に取材をしていた、マスゴミこと射命丸文だった。

 

「坂田さん! この人たちが噂の万事屋メンバーですね!? 是非とも取材させてください!! 私は射命丸文! 清く正しく美しく、何処よりも素早く情報を届ける『文々。新聞』を発行しております! あなた方のお名前は!?」

 

 やや興奮気味に迫る文にたじろぐ新八と、自分が取材を受けていることを自覚して目を輝かせる神楽。そんな様子を遠目で見てため息をつく銀時。

 

「あ、えっと、志村新八です」

「みんなのアイドル、神楽ちゃんネ!」

「おおー! 神楽さんですね! 坂田さんからお話は伺ってます! そして志村さん! 天下無双の名ツッコミ眼鏡と伺ってます!!」

「名ツッコミ眼鏡ってそれ最早人間扱いしてねぇじゃねえか!!」

「おぉ! 本物だ! 本物のツッコミだ!!」

「馬鹿にしてますよねそれ!?」

 

 何とも遊ばれているようにしか思えないと、新八は心の中で呟いた。

 

「そして最初の質問に答えると、私は職業柄、幻想郷の至るところを駆け巡ってるわけですよ。だから、案内役にはうってつけなんじゃないかなーって思ったわけです。なので私が出しゃばらせて頂きました!」

「まぁ……確かに筋は通ってるな」

 

 銀時の言う通り、筋は通っている。

 射命丸文は、内容はどうであれ、新聞記者として駆け巡っていること自体は事実である。それ故に、特ダネを求めて日々色んな所を飛び回っているのだ。新聞をほぼ一人で作成している位なので、腕の方も確かだろう。幻想郷の管理人である紫の次位に知っているのではないだろうかと思われる。

 銀時は、幻想郷に来たとはいえ、行った場所が限定的過ぎるのだ(主に廻った場所としては、先程のマヨイガを含めると、博麗神社と紅魔館しかない)。

 

「しゃーねぇな……案内頼むぜ、射命丸」

「まっかされましたー! いい景色が見られる場所があるんですよー。まぁ、花妖怪も居るんですけどね」

「花妖怪、ですか?」

 

 聞き慣れない単語が飛んできたため、新八が尋ねる。

 文は、割と真剣な表情を浮かべながら答える。

 

「風見幽香。向日葵畑の主なんですけれど、踏み荒す者を許さないんですよね……ですから、その近くでは、どうか向日葵とかそう言った類のものを傷つけないようお願いしますね?」

「それ位別に普通のことなんじゃねえのか……?」

「あと、根っからの戦闘狂(バトルジャンキー)です」

「それを先に言ってくんない? そっちの方がこえぇから」

 

 出会って目が合ったらすぐバトル、みたいな風潮になりかねない。

 銀時にとってはそっちの方が恐怖以外の何物でもなさそうだ。

 そう言う場合、標的となるのは恐らく自分だろうから……。

 

「まぁ、坂田さんならへっちゃらですよ! 強いですし♪」

「そういう問題じゃねえんだよなぁ……」

 

 不安な面を全然払拭出来ない銀時であったが、それ以外に行く宛があるわけでもない為、仕方なく文について行くことにしたのだった。

 これが、本日最大のメインイベントで、盛大に疲れる日の幕開けとも知らずに……。

 

 

 そこは一面に広がる向日葵畑だった。

 黄色の絨毯が大きく広がっているかのように、この場所だけは向日葵によって埋め尽くされている。

 小さなものから、自分達の身長など遥かに上回る程の大きさのものまで。

 ここが幻想郷だと言うことを加味しても、十分過ぎる程に異様な光景だった。

 

「うわぁ……とっても大きな向日葵ネ。凄いアル!」

 

 はしゃぎ回る神楽。

 茫然としている新八。

 そんな二人を撮影しまくる文。

 皆がこの光景、景色を、それぞれの方法で堪能していた。

 

「あら、この場所に何か用かしら?」

「ん?」

 

 そんな時だった。

 銀時に話しかけてくる、一人の女性。

 白のカッターシャツとチェックが入った赤のロングスカート、その上に同じ柄のジャケットを羽織り、首元に黄色いリボンを付け、日傘を差している女性。緑色の髪に、真紅の瞳。その瞳は吸い込まれそうになる程美しく、その人物が、『決して人ではない』ことを強調しているようにも見えた。

 

「アンタが文の言ってた、風見幽香か」

「あぁ……もしかして先日の新聞でトップを飾っていた外来人?」

「それ、たぶん碌でもねぇ記事のトップだから出来れば記憶から抹消して欲しいんだけど……」

「そうかもしれないわね。英雄色を好む、とは言った物ね」

「頼むから消してくんない!?」

 

 割と必死に懇願する銀時なのであった。

 そんな彼を見て、幽香はおかしそうに笑う。

 

「ふふふ、貴方ってやっぱり面白そうな人ね。少し興味深いわ」

「そりゃこっちも同じだわ。こんだけ綺麗な向日葵畑育てるのに、どんだけ苦労かけてんだ? ちっとやそっとの努力じゃ、ここまで成長させることなんて出来ねぇだろ」

「あら。私は『花を操る程度の能力』があるのよ。だからこそ、育てる分にはそこまで困ったりはしないわ?」

「困らない、ってのと、大変、ってのは別問題だろ? こんだけ向日葵咲いてるのに、全然枯れてる様子もねぇしな。多分テメェは、相当大切にしてるんじゃねえか?」

 

 銀時の発言を聞いて、幽香は目を丸くする。

 見た目とは裏腹に、きちんと相手のことを理解し、見る男。

 それが、今目の前にいる坂田銀時という男の人間性なのだと理解した。

 

「……貴方、なかなかによく見てるのね。正直、そこまで言ってきた人間は初めてよ」

「そんなんじゃねえよ。ただ、美しいもんに純粋に触れる位の気持ちが残ってただけの話だ」

 

 そう呟いた銀時の瞳は、とても暖かくて優しいものであった。

 まるで、向日葵畑を通じて、もっと別の何かを見据えているような、そんな眼差し。

 幽香はそんな瞳に――一目惚れに近い感情を抱いていた。

 

「あっ……」

 

 それを遠目で見ていた文は、本能でこう思った。

 『あれはまずい。これからひと悶着ありそうだ』と。

 

「ねぇ、貴方。これから少し時間はあるかしら?」

「あ? まぁ、時間だけならあるが……どうしてだ?」

 

 尋ねられたことが不思議で仕方ないという感じの銀時。

 そんな彼に向かって、まるでピクニックにでも誘うかのように、幽香はこう提案した。

 

「私と、本気で殺し合ってもらえないかしら?」

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

第ニ十四訓 太陽の花は見ているだけで美しい

 

 




実は僕、フランも好きなのですが、幽香さんも結構好きなんですよね……。
そして彼女、花映塚までは基本出番がないものですから……だからここで短編載せたかったのです。
まぁ、バトルんですけどね(白目


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第ニ十五訓 戦いの火蓋はいつ切って落とされるのか分からない

「…………は? へ? ころしあい?」

 

 当然ではあるが、銀時は幽香の発言を受け止めることが出来ずにいた。当然だろう。話していた相手からいきなり殺し合いをしましょうと言われて、是非やりましょうなどと言える人はそう多くはいないはずである。

 だから彼は、最初ただの聞き間違いかと思ったが、

 

「えぇ、殺し合い」

「聞き間違いじゃねぇのかよ!?」

 

 現実を受け止めるほかなかった。

 

「あー……坂田さん! 私は新八さんと神楽さんと他の場所案内してますね!」

「あ、てめぇ! こら逃げるな!!」

「えぇ?! ちょ、文さん!?」

「こらー! 離すネー!」

 

 身の危険を察した文は、新八と神楽の手をつかみ、何処かへ飛び去ってしまった。

 その様子を、幽香は嬉しそうに眺めている。なにせ今の状態は、邪魔者がいない状態なのだから。

 

「あらあら。気が効く人じゃないの。こうして男女を二人きりにさせてくれるなんて。ムード出るじゃない?」

「そうだなぁ……相手が殺気を全開にしてなきゃ、これ以上ない程いいムードだったんだけどなぁ……」

「そんなことないわよ? 私、楽しい時間は長く過ごしたいタイプなのよ。だから、簡単に壊れてもらっちゃ困るわ」

 

 日傘を閉じ、構える。

 

「……ったく、しかたねぇ。こんだけ美人さんからのお誘いだ。せっかくだから一緒に踊ってやらぁ」

「嬉しいこと言ってくれるのね。よろしくお願いするわね……!」

 

 銀時が木刀を構えたのを皮切りに、幽香は一気に距離を縮めてきた。

 

「なっ……!」

 

 そして、閉じていた日傘を一気に振り下ろす。

 咄嗟に銀時は木刀で抑える、が。

 

「お、おめぇ……そんな華奢な身体に、どんだけ力宿してんだ……っ!」

 

 妖怪と人間の間にある、絶対的な力の差。

 見た目とは裏腹に、幽香の攻撃は圧倒的に重さがあった。受け止めてるだけなのに、全身の筋肉が悲鳴をあげ、骨が軋む音が聞こえてくる。

 

「へぇ。やっぱり貴方面白いわ……人間で私の一撃を防げたのは初めてよ」

「そいつぁどうも。生憎、日傘を武器に馬鹿力振りまく奴とは、戦った経験があるからな……その影響だ」

「なかなか面白い経験してるわね。その経験はとても貴重よ。今後も積み重ねていくことね」

「あぁ、そうかい……!」

 

 振り払い、打ち合う。

 互いの急所を狙うように、力いっぱい振り回す。

 ただし、そこに読み合いは存在しない。そんなことをしても無駄。結局防がれるだけ。

 ゆえに、彼らの勝負はほぼ直感。深読みなんて以ての外。

 

「お得意の弾幕はつかわねぇのか?」

「えぇ。そんなことより、こうして打ち合ってた方が面白いもの!」

「そうかよ!」

 

 幽香の日傘が銀時の肩を目掛けて振り下ろされるときは、交わして反撃に転ずる。それを交わした幽香が再び別の箇所に攻撃し、それを避けて……。

 それは勝負などという生易し言葉では説明出来ない。幽香の宣言通り、殺し合い。

 

「うぉおおおおおおおおお!!」

「はぁあああああああああ!!」

 

 打ち合う。

 力のぶつかり合い。

 戦うごとに、銀時の身体の奥底から、戦いの記憶が呼び覚まされていく。

 白夜叉として戦っていた頃の、あの記憶。

 

「っ!」

 

 振り下ろすのとほぼ同時、銀時は左足で脇腹を蹴ろうと試みる。

 しかしそれは、幽香が掴んだことによって防がれた。

 

「あら、レディに向かって蹴りを入れようなんて、酷いことをするのね」

「止められてんだからいいじゃねえかよ。ただ、掴んでくれてありがとな!」

 

 そのまま、勢いを殺すことなく、銀時は己の手にしている木刀を、幽香めがけて投げつけた。

 

「なっ!」

 

 咄嗟に幽香は、日傘を利用して弾きとばし、銀時を地面に叩きつける。

 しかし、飛ばした先にあったのは……。

 

「しまっ……っ!」

 

 一面に広がる向日葵畑だった。

 彼女は咄嗟に地面を蹴ろうとし、

 

「……え?」

 

 それよりも先に動いている、銀時の姿をとらえた。

 

「うぉおおおおおおおおお!!」

 

 地面に叩きつけられた後で身体にダメージが残っているはずなのに、彼は木刀まで全力で駆けて、向日葵に当たる前に、それを掴んでみせた。

 そのまま勢いに負けて、地面を盛大に転がる。

 

「なっ……貴方……っ!」

 

 慌てて、幽香は銀時のそばに駆け寄る。

 転がった時に擦り傷が出来上がったものの、それ以外は大した傷を負っている様子はない。

 そのことに、戦っているはずの幽香は安心してしまっていた。

 

「……え?」

 

 その気持ちに、彼女は動揺する。

 戦闘しているのだから、何かしらの形で怪我をするのは当然のこと。なのに、今彼が軽傷で済んだことに対して安堵していた。

 さらに、

 

「ったく……無事でよかったぜ。てめぇの大切にしてる向日葵畑なんだろ? もちっと周り見ろって」

 

 銀時のおかげで向日葵に傷がつくこともなかった。

 

「貴方……自分の身を呈してまで、私の向日葵を……」

「……好きなんだろう? だったら、傷つけちゃならねぇと思ったからな」

 

 その一言に、幽香の心は跳ね上がる。

 鼓動が早くなってくるのを彼女は感じ取っていた。

 この感覚は、彼女が今まで感じたことのないもの。

 つまりは……。

 

「そう……ありがとう」

「なに、いいってことよ……で、まだやるか?」

 

 木刀を再び構える銀時。

 しかし、それに対して幽香は、

 

「……やめておくわ。今日はもうそんな気分じゃない」

 

 日傘を開き、そして自身の身体をその中に入れる。

 即ち、戦闘はここまでで終了ということを意味していた。

 

「そうか……はぁ……つかれた……」

 

 頭をボリボリと掻きながら、銀時はその場を後にしようとする。

 

「……待って」

 

 それを呼び止めたのは、幽香だった。

 銀時は歩みを止めて、振り返る。

 

「どうした?」

「……また、ここに来てくれるかしら? 今度は向日葵畑を見ながら、のんびりお茶でも」

 

 提案し、幽香は自分自身に驚いていた。

 彼女は別に孤独というわけではない。ただ、一人でいることの方が気が楽だと考えているし、その方がいいとさえ思っていた。

 しかし、今この男を前にして、まるでデートに誘っているかのような感覚を覚えているのだ。彼女にとって、それは未知なる感情。

 銀時は頭をガシガシと掻きながら、

 

「……団子も頼むな」

「……えぇ、甘いものを用意しとくわ」

「そうか。そいつぁ助かる。じゃ、またな……」

 

 そう言って、その場を後にした。

 

「……」

 

 立ち去る銀時の背中を見送りながら、幽香は考える。

 彼と戦っている時に感じた高揚感。話す時に感じた胸の高鳴り。立ち去る背中を見送る時の物悲しさ。

 

「あぁ……私らしくもないわね。けど、これは嫌じゃない……」

 

 風見幽香の心に、一輪の花が咲いた瞬間だった。

 

 ※

 

「あいつら……どこ行きやがったァアアアアアアアアアア!!」

 

 戦いの後、幻想郷を駆け足で巡る、一人の天然パーマの姿が目撃されたそうな……。

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

第ニ十五訓 戦いの火蓋はいつ切って落とされるのか分からない




次回予告

その日、幻想郷から……『春』が失われた。
いつまでも降り続ける雪。
告げられない春の訪れ。
そして辿り着く、犯人の目的。
そこに隠された真実はーー。

次回、『春雪異変篇』開幕ーー。



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春雪異変篇
第ニ十六訓 寒い時は人肌に触れるとなんだか心も暖まる気がする


春雪異変篇、開幕です!


 とある日のこと。

 銀時達がいつものように万事屋でぐうたらしていた時の話である。

 

「そういや、紅魔館2ndG、出来上がったんだってな」

「マジでその名前に決まったの!? 何考えてるのあの人たち!?」

「おぉ、なかなか強そうな名前ネ。結局私のネオ紅魔館アルティメットドラゴンは採用されなかったアルな」

「微妙に変わってるし採用されるわけねぇだろ!!」

「ちなみに、管理者として住み込みバイトしてくれる人募集してたみたいでな。この前長谷川さんが住み込みの清掃員として雇われたらしい」

「あ、長谷川さんですか。あの人根は真面目そうですし、いいんじゃないですか?」

「けどマダオだヨ? 咲夜にけつ引っ叩かれる未来しか見えないネ」

「どちらかというナイフでけつ串刺しの方が十六夜っぽくないか?」

「あはは! 確かにギン兄様の言う通りかも!」

「咲夜さんが仕事道具で何かをするとは思えないんですけど……って、何食わぬ顔でフランちゃんが銀さんの膝の上にいるんですけどぉおおおお!?」

 

 なぜか平然とフランが銀時の膝の上に乗っかっていた。

 というか、新八と神楽もそれが当然のことのように受け入れてしまっていたほど、かなり自然に溶け込んでいた。

 

「なに? ギン兄様の膝の上に乗るのがそんなに悪いことなの?」

「いや、そうじゃないんだけど……あまりにも自然だったからつい……」

「ギン兄様ったら、なかなか私のところに遊びに来てくれないんだもん。この前も幻想郷に来てたって新聞で見たのに、全然紅魔館来てくれないし……」

「あん時はマスゴミに放置されてとんでもねぇ修羅場に巻き込まれてたからな……」

 

 頰を膨らますフランに説明する銀時。思い出すだけで冷や汗がダラダラと流れ出していた。

 

「うぅ……次絶対に遊びに来てね! じゃないとギン兄様、私から離れられなくしちゃうから!」

「へいへい……」

 

 頭を撫でながら、わりかし適当に返事をする銀時。

 

「この人本当にわかってんのかな……銀さん、適当に返事するのはよくないですよ?」

「んなことねぇぞ? 美鈴との約束もあるし、行ってやらねぇと……」

「ギン兄様? 美鈴との約束って、ナニ?」

「「あ」」

 

 神楽と新八は、フランの声色より察してしまう。

 坂田銀時は今、確実に地雷原をタップダンスし始めた、と。

 

「いや、十六夜から聞いたんだけどな。前の戦いで負けたのが悔しいそうで、手合わせして欲しいって頼まれてな。正直面倒だから断りてぇけど、修行の一環とか言われちゃ仕方ねぇからな……」

「そうなんだ……それならいいよ!」

「「ふぅ……」」

 

 どうやらタップダンスしても地雷が発動することはなかったようだ。

 

「あとねー、最近幻想郷寒いの……ここにはギン兄様もいるし、とってもあったかいから……」

「ん? さむい? それおかしくねぇか? 時間の流れ自体はそっちもこっちもかわらねぇはずだろ?」

 

 一部の場所を除いて、基本的に幻想郷と銀時達の住む世界はほぼ同じ時間の流れ方をする。即ち、季節の流れも同じであることを意味しているのだ。

 現在、歌舞伎町は春。そこそこ暖かい日が続いている最中。花粉症に悩まれる人も出てくるのではないかと思われるような感じである。ならば、幻想郷も同じような天候でなければ話が通じないのだ。

 それがどうだろう。フランは今『幻想郷は寒い』と言った。それは春が来てない事と同義なのではないだろうか。

 

「銀さん、なんだかそれっておかしくないですか? 幻想郷って四季もちゃんと存在するんですよね?」

 

 当然、そのことに新八も気付いていた。

 だが、今この場において現状を分析することが出来る人物はいない。

 幻想郷については幻想郷の住人に聞くのが一番だが、今この場にいるのはフランのみ。彼女は495年間ずっと地下室に閉じ込められていたため、外部の状況はわからない。

 となれば、

 

「坂田さん。依頼をしたいのだけど……」

 

 外部の人間ーー今回で言えば八雲紫に事情を伺うのが早かった。

 

 ※

 

 結論から言うと、文字通り『春が来ない』異変とのことらしい。本来ならば桜が咲き乱れる季節なのに、降り積もる雪。そのせいで幻想郷が寒くなっていたと言うわけだ。

 フランの言うことは事実だったと言うわけになる。

 

「で、その異変解決を依頼するってことは、当然誰が犯人なのかも目星はついてるのか?」

「……えぇ。大体の目星はついておりますわ。ただ、その目的だけが分からないのです」

「なるほどな……で、春を奪うなんざ風流なことをする奴は一体何者なんだ?」

 

 銀時が尋ねる。

 紫は一度目を伏せて、その後でゆっくりと告げる。

 

「西行寺幽々子。私の古きからの友人よ」

「紫さんのご友人ですか!?」

 

 西行寺幽々子。

 紫の古きからの友人。

 今回の異変を引き起こしている張本人。

 

「……ん? 待てヨ? 古きからの友人ってことは、その女何歳アルか?」

「聞くなチャイナ娘。話の腰を折る前にテメェの腰折るぞごら」

「話の腰折ってんのあんた達だろ!! とにかく説明を続けてください!!」

 

 相変わらず仲の悪い神楽と紫であった。

 

「ねぇねぇ、ギン兄様。どうしてあの二人仲悪いの?」

「さぁな……なーんか神楽が一方的に突っかかってるけど……よくわからん」

「ふーん……ギン兄様に被害が及ばないならそれでいいや」

 

 本当にどこまでも銀時を中心に話を進めるフランなのであった。

 話を戻そう。

 

「で、なんでテメェは犯人の目星もついてるのに、犯人止めに行かねぇんだ?」

「友人だからですわ……止めに行かないのではなく、止めに行けない、のです」

「そりゃなんでまた?」

「……彼女は私の意見を聞きません。それだけでなく、彼女が何を考えているのか、何を企んでいるのかを考えることは難しいでしょう。旧知の友である私達でも、通じ合っていないものなのですわ。目的も分からず、話を聞き入れてもらえない相手に時間を割くのならば、私としては幻想郷を維持させることに注力したいものでして」

「なるほどな……幻想郷の管理人であるがゆえに、そこを手放して新たな問題引き起こしちゃたまったもんじゃねぇってことか」

「察しが良くて助かりますわ」

 

 前回の異変と違い、今回に関しては犯人の目星はついている。即ち、目的地が分かっているのは明らかにいい点だろう。

 だが、目的がはっきりしない。前回ならば『種族が吸血鬼である』ことが功を成し、ある程度の予測が可能であった。今回は違う。つまり、根本的に異変を解決する為には、犯人を突き止めて辞めさせるか、強制的に叩く他ないということになる。

 

「まぁ……最初の依頼を受けちまってるからな。今回も断るつもりはねぇさ。代わりに、コイツらも連れて行っていいな?」

「えぇ。人出は多い方が宜しいですから。既に神社には霊夢と魔理沙の二人も待ち構えていますわ」

「用意周到だな……ったく。仕方ねぇ。万事屋に任せろよ」

「えぇ。僕達におまかせください!」

「首の下洗って待ってろヨ」

「神楽ちゃんそれ決闘相手とかに言うセリフだから」

 

 これで少なくとも、紫は五人の協力者を得ることが出来た。

 

「ギン兄様が行くなら私も行く!!」

 

 元気よく手を挙げるフランがいた。

 

「お前も来んのか? 遊びじゃねえんだぞ?」

「でもギン兄様、人出は多い方が良いって言ってたよ? それに私、ギン兄様より多分強いよ?」

「…………なんも言えねぇ」

 

 それは事実である以上、銀時は反論の台詞を用意することが出来なかった。

 

「フラン、貴女も協力してくださるのね」

「うん! お姉様に伝えておいて!」

「分かりましたわ。お伝えしておきますわね」

 

 優しく微笑みながら、紫は言葉を返す。

 これで人員は六人。探すには十分と言った所だろうか。

 

「じゃあ早速、博麗神社へ……」

 

 紫の先導の元、銀時達はまず博麗神社へと向かうこととなった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

第ニ十六訓 寒い時は人肌に触れるとなんだか心も暖まる気がする



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第ニ十七訓 どんな時も馬鹿は現れてしまうもの

 場所は変わって博麗神社。

 既に臨戦態勢を取っている二人が居る……と、思いきや。

 

「何こたつでのんびりしてるんですかアンタ達はぁあああああああああ!!」

 

 二人まとめてこたつの中でのんびりしていた。

 

「いや、だって外雪よ? こんな中外出るって言うの? 正気?」

「霊夢がこの調子だから、私もいつまでも待っていられなくて思わずこたつの中に入っちまったぜ……前に銀さん達が言っていた事、否定出来なくなっちまったぜ……」

「そうだろう? こたつってのは魔力が備わってるんだ。飲まれたらそう簡単に逃れられないぞ」

「逃れられないぞ~」

「アンタ達までこたつに飲み込まれるな!!」

 

 話している内に、こたつの中へと吸い込まれていった銀時と、そんな銀時に引っ付いているフラン。

 神楽なんかは無言でこたつで寝始める程だった。

 唯一新八だけが元気にツッコミを入れ続けるというカオスな状況。

 

「ってか、魔理沙さんまでそっちに回らないでもらえます!? 僕一人でこの状況どう切り抜けろっていうんですか!!」

「いや、だって寒いぜ?」

「その一言で全部終わらせられると思ったら大間違いですからね!?」

 

 どうやら寒さというものは、時折人のやる気そのものをそぎ落としてしまう魔のアイテムになり得るようだ。普段は常識人側に回ることの多い魔理沙ですら、こたつに埋もれてしまっている程。

 

「ギン兄様、あったか~い」

「そうだなぁ~溶けちまいそうだぁ~」

「ギン兄様に抱き着いていると、本当にあったかい……もっと……」

「もうおかしいからね?! 色々その状況アウトだからね!? 射命丸さーん!! ここに大スクープがありますよー!!」

「おい新八ィイイイイイイイイ! それだけはやめろ!! 今のこの状況撮影されたら……」

 

「呼ばれて飛びててあややや~! 射命丸文ただ今参上~!!」

 

 まさか本当に呼ばれただけで来るとは思わなかったが、防寒具をしっかりと着こんだ射命丸文が、この場に現れた。そして、目の前で繰り広げられている状況を見て、

 

「あやや!? これは大スクープですね!! 写真!!」

「テメェふざけんじゃねえぞマスゴミィイイイイイイイイイイイイイイ!!」

 

 流石にこたつから抜け出して、カメラを壊しにかかる。

 が、時すでに遅し。

 

「ふふーん! 残念でしたね坂田さん。貴方のスクープ写真は既にこの中に入っておりますからね!!」

「なんで俺のスクープばっか撮ってんの!? そこに駄目巫女と駄目魔女がいるでしょ?!」

「おい今なんつった天然パーマ」

「そりゃないぜ銀さん。自分のこと棚に上げるのはなしだぜ?」

「あれぇええええええええ!? 味方いねぇぞぉおおおおおおおおお?!」

 

 ほぼ自分で創り出したカオスな状況。

 流石にこれに対して救いの手は……。

 

「ギン兄様! 何があっても私は味方だよ! ギン兄様とずっと一緒だよ! こうして抱き合ってるとあったかいもん……」

「話をややこしくすんじゃねぇええええええええ!!」

 

 たちが悪いのは、フランは本心でやっているということ。即ち決してわざとではなく、まして悪意があるわけではないということ。百%善意及び本音。それが余計ややこしくする。

 

「今の言葉も頂きましたー! 異変解決と同時発行の新聞を楽しみにしていてくださーい!!」

「全然楽しみに出来ねぇんだけどぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 銀時の叫びもむなしく、文は写真を数枚撮って満足したのか、足早にその場を後にしてしまった。

 しばらく無言の時間が流れ、そんな中で新八が一言。

 

「いきますよ」

「……はい」

 

 失意の中、銀時は仕方なくこたつから出た。

 

 

 あの後、魔理沙と霊夢の二人はこたつから抜け出してくれたが、神楽が一向に起きる気配がなかった為、一同はもう置いていくことにした。いつまでもスヤスヤ眠っている彼女を見て、起こそうとしたら逆に大変なことになるのではないかと考えたからである(実際その考えは正しい)。

 

「しっかし寒いわね……本当どうなってんのかしら……ってか、なんでフランまでついてきてるの?」

 

 手を口元に当てて息を吹きかけながら、霊夢は尋ねる。

 フランは銀時に抱き着きながら、

 

「ギン兄様のお手伝い!」

「……紫から依頼があってな。コイツはその助手みたいなもんだ。悲しいことに俺よりつえぇのは確かだからな」

「確かに……フランはすっげぇ強いからなぁ。それだけは確かだぜ」

 

 フランと戦ったことのある魔理沙は、銀時の言葉に納得する。

 霊夢もまた、レミリアの妹であることを知っている時点で戦力になり得ることは考えの中に浮かんでいた。

 一人、新八だけが何も知らない。

 

「しっかし、何処もかしこも雪だらけだなぁ……ん?」

 

 辺りを見渡している銀時は、何かに気付く。

 

「銀さん、雪の中に、何かが……」

 

 それは新八も確認出来たようだ。

 魔理沙と霊夢の二人もまた、その正体に気付く。

 

「これ、桜ね?」

「雪の中に桜が混じっているなんて、不思議なこともあるもんだぜ」

 

 雪に混じる桜。

 今回の異変は、紫によれば、『春が奪い去られた』という。

 つまりこの桜は、奪われた春の残骸を意味するのではないだろうか。

 

「なる程……このせいで春を告げる妖精も姿を見せられないわけね」

「春を告げる妖精、ですか?」

 

 聞き慣れない単語が出てきて、新八が尋ねる。

 

「春妖精はその名の通り、春になると『春だー!』って告げてくれる妖精だぜ。普段ならもう出てきてもおかしくない時期なんだけど、今はそれが出てきてないんだぜ」

「なる程……流石は幻想郷ですね」

「私ちょっと会ってみたいかも」

 

 フランはわくわくしたように呟く。

 

「幻想郷ってのは本当に色んな妖精がいるもんだなぁ……バカだけだと思ったが」

「誰がバカだー!!」

「……この声、まさか」

 

 銀時は溜め息をつきながら、遠くの方を見る。

 前方より、猛スピードで何者かが迫ってきているのが見えた。

 

「あっはっはぁ! ここを通りたければ、サイキョーのアタイを倒してからにしろー!」

 

 野生の馬鹿(チルノ)が現れた。

 

「まーたコイツかよ……なんだよバカ。通せんぼするんじゃねえよバカ」

「バカ~」

 

 銀時と一緒になって『バカ』と言いまくるフラン。

 チルノは涙目になりながら、

 

「う、うっさい! バカバカ言う方がバカなんだ! 今日という今日は……」

「マスタースパーク!」

「えぇえええええええええええ!?」

 

 登場する度、有無も言わさぬ勢いでマスタースパークが放たれる。

 流石にこの理不尽さには、新八も絶叫してしまう程だった。

 

「……おぉ、すごーい」

 

 純粋に尊敬の眼差しを向けるフランと、

 

「流石は魔理沙ね」

 

 賛辞の言葉を告げる霊夢。

 

「おぉ、今日もよく飛んだなぁ……」

 

 と、銀時。

 

「やっぱ弾幕は火力だぜ……またつまらぬ者を吹き飛ばしてしまった」

 

 と、魔理沙。

 

「ちょっとは遠慮という言葉を知らないんですかぁあああああああああ!?」

 

 新八のツッコミは、今日も冴えわたっている模様。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第ニ十七訓 どんな時も馬鹿は現れてしまうもの

 

 




チルノさんェ…。
短編の方でメイン話作る予定なので…(しろめ


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第ニ十八訓 冬にしか出来ないことってあるよね

 チルノがぶっ飛ばされて数分が経過し、それでも一同はまだ雪の中を歩いていた。

 

「しっかし本当寒いな……こう寒いと気分が滅入っちまいそうだ」

 

 はっきり言って、現在幻想郷は寒い。雪が降ってる程なので、決して気温は高くないだろう。

 

「本当……こたつでぬくぬくしてる神楽ちゃんが羨ましいですよ」

「ていうか何しにきたんだよあいつ。後で覚悟しとけよなあいつ……」

「ギン兄様、どうするおつもりなの?」

 

 フランが上目遣いで尋ねる。

 

「そうだなぁ……こたつから放り出して一日中外に縛り付ける」

「地味な嫌がらせね……」

「ていうか陰湿だぜ……」

「銀さんそれはちょっと……」

「やめてー! その冷たい眼差しを俺に向けるのはやめてー!」

 

 雪よりも冷たい眼差しで銀時を捉える一同なのだった(フランだけは別)。

 閑話休題。

 とにかく今は進む他ない為、寒い中ではあるが、雪に混じる桜を頼りに進んでいく。

 とは言え、見渡す限りの雪、雪、雪。

 

「こう雪がたくさん積もってますと、雪合戦の一つでもやりたくなりますよね?」

「おーそうだな。お前一人でやってこい」

「一人雪合戦とか悲しすぎるにもほどがあるだろ! 壁打ち以上に寂しい何かを感じるよ!!」

 

 適当に流す銀時なのであった。

 

「私もパスね……雪当てられた時なんか冷たいじゃない」

「相変わらず霊夢ってばそうなるなぁ……私はちょっとやってみたいぜ」

「お? なんだ魔理沙。子供っぽい一面もあるじゃねえか」

「そのニヤニヤ面はやめて欲しいぜ銀さん……」

 

 苦笑いしか浮かべない魔理沙。

 

「ギン兄様、ゆきがっせんってなに?」

 

 唯一、雪合戦をしたことのないフランが銀時に尋ねてくる。

 少し考えるそぶりを見せて、彼は答えた。

 

「雪を弾にした弾幕ごっこみてぇなものだな。まぁ、弾幕と違って、積もってる雪を使って自分で弾作らなきゃならないから、あんだけ大量に張ることは出来ねぇけどよ」

「雪玉作って相手に当てるだけのシンプルな遊びなんだぜ! 今は異変解決の途中だから無理かもしれねぇけど、次の機会にやろうぜフラン!」

 

 魔理沙は笑顔でフランに提案する。

 フランはそれに対して、

 

「なんだか楽しそう……!」

 

 ワクワクしている様子だった。今の説明を聞いて少しやりたくなったのだろう。

 

「それならこれから雪の中で弾幕ごっこをする〜?」

 

 その時、銀時達の耳に新たなる人物の声が聞こえてきた。

 咄嗟に後ろを振り向く一同。

 そこにいたのは、薄紫色のショートボブにターバンを巻き、紫色のロングスカートに白いエプロンをつけた、おっとりとした感じを見せる少女。

 

「私はレティ・ホワイトロック。雪女よ〜」

 

 その少女は、どこまでもおっとりと、間延びしたような話し方で彼らの前に立ちふさがった。

 

「おいこら雪女。俺達はちょっくらこの先に用事があるんだよ。だから退いてくれねぇか?」

「だめよ〜。だって冬が終わっちゃうもの」

「……なるほど。アンタはこの冬を楽しみたいが為に、続いて欲しいと願うのね」

 

 霊夢が納得したように頷く。

 雪女である彼女は、基本的に冬にしか行動しない。その他の季節になると、大抵は陽が当たらない暗い所でのんびりひっそりと暮らしているのだそうだ。

 それ故に、冬が長続きする今、彼女は活発的になっている。

 

「そういうこと〜。せっかくの冬よ? 楽しまなきゃ損でしょ。冬にしか出来ないことだってあるのよ?」

「コタツムリできるのは冬の特権だからな……たしかに惜しいな……」

「もう少し前向きな想像してくれませんかね銀さん」

 

 ダメ男を見る目で新八は銀時を見つめていた。

 

「でしょ〜? だから今日のところは大人しく……」

「申し訳ありません、レティさん。貴女の事情は分かりましたが、僕らにも事情があります。ですから……押し通らせてもらいます」

 

 真っ先に前に立ったのは、意外にも新八だった。こんな時のために腰に挿しておいた木刀を抜き、構える。

 それを見たレティは、楽しそうな目をする。

 

「へぇ、向かってくるんだ〜……ちょっと意外だったかも」

「銀さん、霊夢さん、魔理沙さん。ここは僕に任せてください。ついでに戻って神楽ちゃん引っ張ってくるんで」

「……へぇ、新八。なかなかいい目するじゃない」

 

 霊夢は素直に感心していた。

 第一印象を見た時には、そんなに頼りなさそうに見えたのだ。しかし、そう言ってのけた新八の目は、銀時と負けず劣らず。

 

「……新八、任せたぜ」

「はい!!」

 

 侍の目だった。

 

「行かせると思うのかしら〜?」

 

 大きさの違う弾幕を張り、レティは行く手を阻もうとする。

 しかし、

 

「力づくにでも行かせてもらうぜ!」

 

 箒に跨った魔理沙が銀時の手を掴み、乗せる。

 

「あーっ!! ギン兄様を返せー!!」

 

 負けじと猛スピードで後を追うフラン。

 その後ろを、霊夢が追う。

 

「追おうだなんて考えないでくださいね。万事屋、志村新八がお相手させてもらいます」

「……あの三人を追いかけるのも楽しそうだけど、貴方と戦うのも同じくらい楽しそうね〜。いいわ、乗せられてあげる〜!」

 

 相変わらずの間延びしたような声だが、その中には何処か楽しさも含まれているように聞こえた。

 先程三人に向けて放った弾幕を、今度は新八に向けて放つ。

 

「これが、弾幕……っ!」

 

 彼にとっては初めてとなる弾幕ごっこ。

 しかし、彼は銀時同様弾幕を放つことは出来ない。

 即ち勝敗を決するには、弾幕を避けつつ、新八自身の攻撃を当てなくてはならない。

 相殺することは、難しい。

 

「でも、これなら……!」

 

 まだ避けることは出来る。

 多少のダメージは仕方ないと考え、擦り傷はもはや気にも留めない。

 本当に間近にきた弾幕は斬り伏せる。そうして少しずつレティとの距離を縮めていく。

 

「冬符『フラワーウィザラウェイ』」

 

 だが、そうして近づいた時にレティはスペルカードを発動した。

 自身の周囲にレーザーが放たれる。

 

「なっ……」

 

 なんとか新八はその場を転がることで躱すが、レーザーからは小さな弾幕が散らばっており、ゆっくりと新八目掛けて飛んでいるのが見えた。

 

「追尾……っ」

「私は雪女だよ〜? つまり、今はとても強いってこと」

 

 天候は雪。季節は雪。レティにとってこれ程の好条件はなかった。通常よりも力を出せる今において、彼女はまちがいなく、強い。普通の人間相手ならばまず負けることはないだろう。

 

「なるほど……一筋縄ではいかなそうですね」

 

 近付いてくる弾幕を斬り伏せつつ、新八は彼女との距離が遠ざかっていくのを感じる。

 だというのに、

 

「……どうして貴方は、笑っていられるの?」

 

 彼は笑っていた。

 それが不思議でならなくて、レティは思わず尋ねてしまう。

 

「これは追尾型。一度目標を定めたら、その目標に向けて飛んできます。そしてその標的は僕……即ち、他の人には当たらないということ!」

「それがどうしたというの?」

「だから、この勝負……僕の、いや」

「「万事屋の勝ちだ(ネ)」」

「なっ……!」

 

 突如聞こえてくるもう一人の声。

 レティは混乱する。

 相手にしていたのは間違いなく一人だった筈。

 それなのに、それなのに。

 

「ホワチャー!」

 

 番傘を振り下ろした神楽が、レティの動きを封じてみせたのだ。

 

「まったく……遅いよ神楽ちゃん」

「つい寝てしまったアル。でもお陰様で間に合ったみたいネ」

「そうだね。ちょうどよかったよ神楽ちゃん」

 

 ハイタッチをしながら、そんな会話を交わす二人。

 そんな彼らをみて、

 

「……私の負けね〜。まったく、最後の最後まで面白くさせてくれるんだから〜。私、ちょっと貴方のこと気に入っちゃったかもしれない〜」

「あ、あはは……それはありがたいお言葉ですね」

 

 少し顔を赤くしながら、新八はドギマギしている。やはり彼はこう言ったことには慣れていないようだ。

 

「新八、童貞精神丸出しね」

「それとこれとは関係ねぇだろ!!」

 

 最後まで締まらない彼らなのだった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

第ニ十八訓 冬にしか出来ないことってあるよね

 




なんと今回は意外にも新八メイン回でした!


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第ニ十九訓 花見をする時には音楽と騒ぎが付き物

 新八達がレティを食い止めている間、銀時達は犯人たちがいると思われる場所の目の前まで辿り着いていた。そこはとてつもなく長い階段。その何処までも先に、一つの建物があるような場所。

 

「おいおい、随分なところに来ちまったな……一体ここは何処なんだ?」

「何処って……ここ、冥界よ?」

 

 何聞いているんだこいつ、と言いたげな表情を浮かべつつ、霊夢が答えた。

 

「……は? 冥界?」

「そう、冥界。死者が集まる場所とも言うべきかしらね」

「……つまり、ここにいるのって」

「あぁ、幽霊だぜ?」

 

 笑顔で魔理沙が言い放ったところで、銀時の身体中から冷や汗が流れ始める。

 

「お、おい。マジで言ってんのか? ここ、本当に幽霊出るの?」

「あれ? ギン兄様、どうして震えてるの?」

 

 この中で一番純粋なフランが、心配そうに頭を撫でながら尋ねてくる。

 しかし、銀時は本当のことを話せるわけがない。

 何故なら……。

 

「ははーん、さては銀時。アンタ、幽霊が苦手なのね?」

「ちちちちちちちちち、ちげぇし?! べべべべべべ、べつにそんなんじゃねえし!! ただちょっと、暗いから大変だなぁとか思ってただけだししししししししし!!」

「思いっきり動揺しちまってるぜ銀さん……」

 

 呆れ半分心配半分といった感じで、魔理沙が首を振りながら呟いた。

 と、そんな時だった。

 

「……なぁ、霊夢。なんか音楽が聞こえてくるぜ?」

「音楽? ……本当ね」

「なんだろう、演奏してるのかなー?」

 

 魔理沙、霊夢、フランの三人は、聞こえてくる音楽に対して冷静に反応する。一方で、心中穏やかではない銀時に関しては、音楽が聞こえてきた段階で恐怖MAXヤバ過ぎ状態。

 

「バイオリン、ラッパ、キーボード……まるで宴会でも盛り上げているかのようね」

「これからこの先で花見でも始まるってのか? だとしたら凄い風流だぜ?」

「はなみってなぁに?」

「あぁ、桜を見ながら食事をしたり騒いだりすることよ、フラン。多分貴女もやれる日が来るわよ」

「本当? お姉様に聞いてみようかなぁ……せっかくカブキチョウに紅魔館2ndG建てたし」

「……こう言っちゃあれだけど、レミリアのネーミングセンスって時々ぶっ壊れてる気がするぜ」

「同感ね……」

 

 フランより告げられた紅魔館の別荘の名前は、やはり霊夢や魔理沙にも受けはよろしくなかったようだ。というより、この名前を満を持してつける段階で、レミリアは一体どんな思考をしていたのだろうか。

 そうこうしている内に、音色は段々と彼らの元へ近づいてくる。

 

「お、おい、テメェら、やっぱり、ここはひきかえさねぇか?」

「何言ってるんだぜ銀さん! ここまで来てそりゃねぇぜ?」

「観念なさい。もう敵はすぐ近くよ」

「大丈夫だよ、ギン兄様。何かあったら私が守るから!」

 

 情けない男を守る幼女の図が完成しそうな状況。

 魔理沙と霊夢は冷たい眼差しで銀時を見つめる。

 

「止めろ!! そんな目で俺を見るんじゃねェエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

 流石に耐えきれなくなった銀時は、叫び声で何とか恐怖を克服しようと試みる。

 と、その時だった。

 

「「「ようこそー!」」」

 

 という、三人の妖精の声が聞こえてきた。

 

「……え?」

 

 ポツリと呟いたのは銀時だった。

 その声が聞こえてきたのと同時に、演奏もはっきりと分かる形で聞こえてきた。

 三角錐状の帽子、フリル付きのベスト、そしてスカートを履いた三人の少女。色違いで同じような服装をしていることから、三姉妹であることが予想される。

 

「私はルナサ・プリズムリバー」

 

 と、黒+赤+黄色のカラーリングの少女。

 

「メルラン・プリズムリバーだよー!」

 

 と、薄桃+青+水 のカラーリングの少女。

 

「そして私が、リリカ・プリズムリバー!」

 

 と、赤+緑+茶のカラーリングの少女。

 

「「「三人合わせて、プリズムリバー三姉妹!」」」

 

 三人の声が合わさり、演奏は更に続く。

 

「……アンタ達は何しに来たの?」

 

 呆れた表情を浮かばせながら、霊夢が尋ねる。

 三姉妹の内、ルナサが答えた。

 

「ここで今夜宴が開かれるって話だから、演奏しに来たんだよ」

「そうそう! それで私達は今、盛り上げる為にこうして演奏しているの!」

「私達の演奏に聞き惚れな、ってね!」

 

 メルラン・リリカの三人も続ける。

 そうしてやっと気を取り戻した銀時は、

 

「マジで花見でもするつもりなんじゃねえか……?」

 

 と呟いた。

 割とその発言を決定づける証拠として、

 

「……なぁ、あれ、でっけぇ桜が咲いてそうな気がするぜ?」

 

 魔理沙が指を差した先にあったのは、遠目からでも咲いているのが見て分かる程の、桜。そこに向かって、『春』がどんどん吸い込まれていくのが見て取れる。

 つまり、ここの主が、何らかの手段を用いて『春』を奪い、桜の花を大きくさせているのだ。

 

「けど、あれはまだ満開じゃないみたいなの」

「だから満開になったら宴が始まると思うから! それまでの辛抱だよ!」

「先行きたければ進むといいよ! すっごく綺麗だから!」

 

 意外にも、三姉妹は道を譲ろうとしていた。

 彼女達からしてみれば、邪魔をする理由がないのだろう。戦う理由もなく、ただ演奏出来ればそれでいい。銀時達がどうしようとも、彼女達は演奏するのを止めないだけだ。

 

「あれがさくらなんだぁ……凄い綺麗……」

 

 遠くから見ているが、初めて見る桜に、フランは心を奪われていた。

 そんなフランの頭を撫でながら、

 

「歌舞伎町にはもっと面白ぇモンたくさんあるからな。それも楽しみにしておけよ?」

「うん! ギン兄様と一緒に見に行く!」

「……俺、捕まるんじゃねえかな」

 

 別の意味で冷や汗を流しながら銀時はポツリと呟く。

 確かに、フランとの一件が耳に入っただけで豚箱入りしそうになった程度だ。

 共に回っている様子を見られた日には、街中の至るところから軽蔑の眼差しを浴びせられ、挙句豚箱から出られなくなるのではないかと考えてしまう。巡るのはいいが、新八や神楽も連れていこうと決意した銀時なのだった。

 

「それじゃあ、私達は花見でもしに行こうかしらね」

「そうだぜ! そして、帰ってもう一度花見をしようぜ!」

「うん! 今度はみんなで騒ぐんだよね?」

「……そうだな。ちょっくら、上に居るだろう奴らと花見しに行こうか」

 

 霊夢、魔理沙、フラン、銀時の四人は、長い階段を上り始めた。

 

 

 長い階段を登り終えた彼らの前に立ち塞がったのは、一人の少女だった。

 銀色に輝くボブカットには黒いリボンをつけており、その瞳は灰褐色。白いシャツの上に青緑色のベストを履き、動きやすさを重視にしたスカート。何より特徴的なのは、横に浮く白い塊と、手にする長い刀。

 彼女は侵入者達の姿を確認すると、

 

「私は魂魄妖夢。白玉楼の庭師であり、幽々子様をお守りする警備役。何をしに来たのかは……聞くまでもありませんね」

「ちょっくらそこに咲いてる桜が綺麗なもんでな。つられてきてみりゃ、春が集まってるときた。だからまぁ、帰って花見酒でもしてぇもんだから、取り返しにきただけだ。どうだい? 一緒に花見でも」

「戯言を。幽々子様の邪魔をしに来たというのであれば、敵であることは間違いありません。そんな相手と杯を交わすなど、言語道断です」

「だろうなぁ……霊夢、魔理沙、フラン。テメェらなら飛べる筈だよな。先に行け」

 

 木刀を抜き、構えながら、三人に告げる。

 

「け、けど、ギン兄様……っ」

 

 真っ先に止めようとしたのはフランだった。彼女は銀時を守る為に一緒に来ている。ここでもし別行動をして、彼女に銀時が倒されてしまったとしたら……。

 しかし、銀時は笑ってこう言った。

 

「たまには俺の強さ信じろよ。アイツぶっ倒して、追いつくからよ」

「……アンタがそう言うんだから、大丈夫ね」

「あぁ、銀さんならすぐ来るよな? 先に行ってるぜ! 後で来て出番なかったとしても後悔するんじゃねえぜ?」

「……分かった。ギン兄様。必ず、来てね」

 

 霊夢、魔理沙、フランの三人は、その場から飛んで先へ行こうとする。

 

「先に行かせるなど、誰が……」

「俺が認めた」

「なっ!」

 

 刀を振るい何かをしようとした妖夢を止めるように、銀時は木刀を振るう。

 妖夢はすぐさま標的を銀時へと変えて、木刀を止めた。

 

「なる程……その刀は伊達じゃねえな?」

「馬鹿にしないでもらえますか。私の刀は、祖父から受け継いだ一子相伝の剣術です。師から学びしこの剣術を以て、貴方を必ず打倒します」

「師匠、か……」

 

 その響きに、何処か胸を打たれる。

 彼の中で、一瞬とある人物が浮かび、すぐに消えた。

 

「そうかよ。まぁ、今宵はこれだけ美しい桜が咲き乱れてるんだ。まだ満開ってわけじゃなさそうだが、満開になる前に、この異変終わらせてやるよ」

「させません。幽々子様が目的を果たす為、私は刀を振るいます」

 

 距離を取り、もう一度刀を構える妖夢。

 

「……貴方の名前は?」

「万事屋、坂田銀時」

「坂田銀時、ですか……覚悟、よろしいですね?」

「御託はいいから、とっととかかって来いよ。生憎、フラン達に必ず後で行くと約束した身だからな」

「そんな約束、果たされることはありませんよ……っ!!」

 

 互いに軽口を言い合った後、妖夢と銀時の剣が、ぶつかり合った。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第ニ十九訓 花見をする時には音楽と騒ぎが付き物

 

 

 

 




段々と山場へと向かっておりますよー!
次回は銀時vs妖夢です!


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第三十訓 半人前

 最初に動いたのは妖夢だった。彼女の振るう刀が、銀時の首を捉えようとする。銀時もそれに合わせて木刀を振るう。互いの刃が衝突する音が、辺り一面に響いていた。

 

「全く愉快な花見になっちまったなぁ。プリズムリバー三姉妹の奏でる音楽に合わせて、こんな所で女と二人きりで刀ぶつけ合う羽目になるたぁ、ねぇ!」

「無駄口たたく暇があるんですか? 随分と余裕ですね。そんなに花見がしたければすればいいじゃないですか。ただし、生死の保証はしかねますけどね!」

「へっ! 花見に騒ぎはつきもんだろ? 遠慮すんなよ、妖夢!」

 

 互いに全力で刃を振るう。

 妖夢の攻撃も、銀時の攻撃も、互いの身体を傷つけることはない。

 

「随分と剣筋の変わるお方ですね。お陰で動きが読みづらいったらありゃしません」

「そっちは綺麗で分かりやすいな。お陰で動きが読みやすいったらありゃしねぇぜ」

「たとえ読めたとしても、踏み込めなければ意味がありません。そして、読めなかったとしても……斬りさえすれば勝利は掴める!」

 

 縦に振るわれた剣は、銀時の身体を真っ二つに引き裂かんと襲いかかる。

 銀時はその刃に木刀を合わせ、弾いた要領で後ろへと下り、

 

「ちっ!」

 

 辺りを照らす灯籠の内のひとつを、木刀で思い切りぶっ叩いた。あっという間に粉々になったそれは、妖夢目掛けて襲いかかる。

 

「っ!」

 

 咄嗟に、妖夢はスペルカードを発動する。

 獄界剣『二百由旬の一閃』。

 無数に発射される青い弾幕。そのうちの幾つかを斬り伏せて、速度を増した赤い弾幕へと変貌させた。

 その弾幕は破片を打ち消し、そのまま銀時目掛けて襲い掛かる。

 

「はぁあああああああああああああ!!」

 

 辺りを駆けながら、銀時は他の灯籠を破壊していく。その破片を以て、妖夢の放つ弾幕を相殺しているのだ。

 

「全く面妖な戦法を取りますね」

「そりゃお互い様だろう? やってることはテメェとそうそう変わりねぇよ」

「ですが、そっちには限りがあり、こっちには限りがありません! いつまでそれがもつか……」

「もたせる必要なんざねぇよ。何なら……」

 

 破片となった灯籠の内、まだほとんど大きなを残しているものを力一杯投げつける。咄嗟に妖夢は斬り伏せることで事なきを得たが、

 

「撃たせなければいいんだろう?」

 

 そのせいで、銀時の接近を許してしまった。

 

「くっ……」

 

 再び鍔迫り合いに突入する二人。

 単純な力だけでは銀時の方が有利。それは体格差からくる当然の帰結。それでも尚拮抗出来ているのは、妖夢の技があってこそなのだろう。

 

「わりぃな。あんま時間くってられねぇし、こっちも……」

「それは私の剣を受け切ってからにしてください!!」

「なっ……」

 

 均衡状態を打ち破ったのは妖夢だった。刀を握っている両の手より左手を離し、もう一本の刀を抜いて、別の角度から振り下ろす。

 銀時の判断は早く、妖夢の足を蹴っ飛ばして自身は後ろへ飛んだ。

 体制が崩れたことと、銀時が後方へ飛んだことにより、妖夢の奇襲は失敗に終わる。

 

「くっそ……そっちは飾りだと思ってたら、二刀流だったのかよ」

「失礼ですね。それは私に対する挑発と受け取ります!!」

 

 銀時の言葉を受けて、妖夢の動きはさらに早くなる。二本の刀より繰り広げられる剣戟。休む暇を与えない。銀時に反撃させる隙を与えない、そんな意思を感じさせるもの。

 

「いきなり速くなりやがって……!」

「恨むなら自分を恨んでください。貴方の言葉が原因なんですから!」

 

 とうとう妖夢の刀は、銀時の木刀を弾き飛ばした。

 真上に飛んだそれが落ちる前に、妖夢の刀が振り下ろされる。

 

「なっ!」

 

 が、銀時はそれを白刃どりした。

 仕方なしに妖夢は、もう片方の刀をもって命を断ち切ろうと試みて、

 

「注意を逸らすな。ガラ空きだぜ?」

「え? きゃっ……!」

 

 相手を攻撃することにしか集中しなかったが為に、自身が弾き飛ばした木刀が、自分の頭部めがけて回転してくることに気付いていなかった。唐突なことに対して、妖夢は思わず飛び退いてしまう。

 それが、一瞬の隙となる。

 

「ふっ!」

 

 銀時は右足で、妖夢の手を蹴り飛ばす。

 

「くっ……」

 

 襲い来る痛みに耐え切れず、片方の刀を妖夢は落としてしまう。すぐに拾おうとするが、

 

「おせぇ!!」

 

 落ちてきた木刀を銀時が握りしめ、刀を思い切り遠くまで弾き飛ばす。わざと、妖夢の足を狙うように。

 流石に喰らうわけにもいかず、妖夢はそれを足で止めようとして、

 

「えっ……?」

 

 視線をどこか別の所に向ける度に、妖夢にとって予想外となることが次々と起こる。気付いた時には、銀時が目の前まで近付いており、木刀を振り下ろそうとしていた。

 

「うぅ……っ!」

 

 握っていたもう片方の刀を使って、なんとか猛攻を食い止める。再び鍔迫り合い。だが、圧倒的に有利なのは銀時だった。

 

「おいおいどうした? 動きが鈍くなってんぞ。それに周りが見れなくなって、注意力散漫か?」

「五月蝿いです……! 先ほどからなんなんですか! 私をあざ笑うかのように!!」

 

 口調からも分かる通り、妖夢は焦っていた。自身が教えられた剣術が、目の前の男を相手にほぼ効いている様子がない。確かに数刻前までは拮抗出来ていたはずなのに、手の内が読まれていく。そうすることによって、自身がどんどん離されていく。

 

「テメェがそう感じるならば、それは……」

 

 そして妖夢は、銀時の口より、最も聞きたくない言葉を告げられる。

 

「テメェが剣士として、半人前という証拠だろうな」

 

 瞬間、妖夢の動きがパタリと止まる。

 あれだけ勇猛果敢に攻めていた妖夢の動きが突然止まったことに、違和感を感じ取る。

 だが次の瞬間、

 

「半人前、ですって……?」

 

 涙を浮かべ、怒りの形相を見せる妖夢の姿に、銀時は言葉を失った。

 

「私は半人前なんかじゃない!!!!」

 

 力いっぱいに振り下ろされた剣戟。

 だが、それは剣術と呼ぶにはあまりにも幼稚で、子供が適当に振り下ろす時と同じようなものとなってしまう。

 

「取り消せ! 私は! 半人前じゃないんだ!!!」

「そこで一人前って自分で言えねぇってことは、テメェ自身で薄々気付いてんじゃねぇのか?」

「だまれぇ!!」

 

 先ほどまでとは明らかに質が違う戦い。いや、これはもはや戦いと呼んで良い物なのだろうか。

 ただがむしゃらに剣を振るい、感情をぶつけるだけのそれは、駄々をこねているようにしか見えない。

 

「教えてやるよ。テメェの剣が何故俺にとどかねぇのか……」

 

 間違った道を正すことが出来るのは、剣を打ち合っている者同士のみ。素人からすると、両者は『強い』という括りでまとまってしまう為、妖夢の持つ致命的な弱点に気付けない。だが、銀時は違う。今この場において、彼のみが、魂魄妖夢の間違いを正すことが出来る。

 

「テメェの剣は綺麗過ぎる。師匠を想い過ぎるが故に、その全てが直線的になる」

 

 妖夢は、師である祖父を心より尊敬し、学んだことを忠実に再現する。それは一つの形としてふさわしいものだろう。しかし、それは実戦向きではない。

 

「そして、テメェは師匠の動きを忠実に再現する。テメェの師匠がどんな奴かはしらねぇし、その師弟関係は……決して悪くねぇ筈だ」

 

 妖夢の師弟関係は決して悪くない。それどころか、理想的とも言えるものだろう。師を思う弟子の姿に、銀時の脳裏に幼き頃の自分が重なる。きっと妖夢は、自身に師の動きをトレースしているのだろう。何故それに拘るのかはともかく、その心意気は立派な者である。そしてその剣術をもって、自分の主を守ろうとする姿勢も評価されるに値する。

 だからこそ、誰も気付けない。

 彼女が半人前で止まってしまう、その理由を。

 

「だが、テメェはそこまでで止まっちまった……今のテメェは、その先へ進んじゃいねぇ。そのままだからこそ、一定の強さは持っているくせに半人前と呼ばれる最大の理由だ」

「私が進んでいない、だと?」

 

 刀を握る妖夢の手が震える。

 銀時の言葉を聞いて、彼女の心が揺らいでいる。

 

「テメェは師を追っているだけに過ぎねぇ。追いかけて、追い越そうという気兼ねを感じない。乗り越えようとしねぇ。いつまでもそのままならば、テメェはいつまで経っても半人前のままだ」

「っ!!!!」

 

 その一言は、妖夢の心に深く突き刺さる。感情のままに、彼女は刀を思い切り振り下ろした。

 しかし、その刀は、銀時によって弾き飛ばされる。

 

「ぐっ……」

 

 丸腰となってしまった妖夢。

 それは誰から見ても敗北を意味していた。

 

「……テメェは今後どうなりてぇんだ。半人前のままでいてぇのか? それとも……」

「そんなの……決まっているじゃないですか……」

 

 全身を震わせる。高ぶる感情を全て出すように、妖夢は大声で宣言した。

 

「私は一人前になって、幽々子様をお守りする剣になりたいんです!!!」

「……その気概があるのなら、まだ進めるさ」

「え……?」

 

 その声色は、とても優しい物だった。

 その声色は、とても心に響く物だった。

 妖夢の心を突き動かした。

 

「今は半人前だとしても、いずれ一人前になれんだろ。テメェがその道を諦めなければ、極めることを辞めなければ、いつか必ず一人前になる。だから進め。テメェの心の思うままに」

 

 木刀を腰に挿し直し、銀時は妖夢に背中を見せ、先に進む。

 

「あっ……」

 

 伸ばした手は、彼の背中を捉えることはなかった。

 立ち去る背中を見送りながら、妖夢はポツリと呟く。

 

「……いつか必ず、一人前になります。だから、必ず……また……」

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十訓 半人前

 

 

 

 




銀時vs妖夢戦、完。
次回はとうとう幽々子様が登場されます!


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第三十一訓 懐かしい人物との再会が常に嬉しいものであるとは限らない

調子に乗って本日は3話更新で、かつ、あのキャラの登場も……!


「これは一体どうなってるの?」

 

 銀時と妖夢が剣を交えているちょうどその時、霊夢が目の前に広がる景色を眺めながら、ポツリと言葉をこぼす。

 見たこともない大きさの桜が、そこには咲き乱れていた。

 ただし、見た感じ満開ではない。とはいえ、その桜が満開を迎えるのも時間の問題だろう。それ程までにおおきくなっていた。

 

「霊夢、これって……」

「あらあら、こんな所まで来てしまうなんて。随分と早かったみたいね。もう少し時間がかかるものかと思って、演奏を楽しんでいた所だったのだけれど」

 

 魔理沙の声を遮るように、よく通る女性の声が現れる。大きく咲き誇る桜の前に現れたのは、

 

「アンタが、西行寺幽々子……」

「そういう貴女は博麗の巫女ね。そこにいる二人は……?」

「霧雨魔理沙。普通の魔法使いだぜ!」

「フランドール・スカーレット。吸血鬼だよ!」

「そう……もう一人は妖夢が足止めしてくれているわけね」

 

 幽々子は、霊夢達が冥界に足を踏み入れた段階で、何人で来ているのかを察知していた。その上であえて泳がせていたのだ。

 

「私の名前を知っているということは、紫から聞いたのね?」

「そうね……最も、居場所までは分からなかったから、春の残骸を元にここまで来たわけだけど」

「あらやだ。私ったらうっかりしてたわ。もう少し丁寧にやるべきだったかしらね」

「巫山戯るのも大概になさい。どうせわざとそうしていたのでしょう?」

「あらあら、そう思うのなら勝手にどうぞ?」

 

 悪戯を思いついた子供のような笑みで、何処までも楽しそうに彼女は言う。

 恐らく、霊夢の考えは当たっていることだろう。幽々子は一連の異変を起こした主犯格でありながら、敢えて解決に勤しむ者達を誘き寄せた。すべては、彼女の退屈を紛らわせる為に。

 

「どうして春を奪うなんて真似をするんだぜ? おかげでこっちは寒くて大変なんだぜ!!」

 

 魔理沙は幽々子を指差しながら、事の真相を尋ねる。

 意外にも、幽々子はすんなりと答えた。

 

「あの桜……西行妖を満開にさせる為よ」

 

 見惚れるような表情を浮かべながら、西行妖を眺める幽々子。

 

「あの桜を満開にさせる事で、何かが起きるの?」

 

 今度はフランが尋ねる。

 その質問にも、彼女は笑顔で答えた。

 

「満開にさせたら、綺麗でしょう?」

 

 それが本心から来る答えなのかはわからない。別の意図があるのかもしれないし、もしかしたら本当にそれだけなのかもしれない。

 だが、どちらだとしても。

 

「たとえアンタがどんな目的で桜を満開にさせようと企んでいたとしても、幻想郷から春を奪う事については容認出来ないわ。おかげでこっちはコタツから出られなくて駄目人間が増えてしまうところよ」

「それはそれでいいじゃない。冬にしか出来ないことだってあるでしょう?」

「えぇ、そうね。けど、春にしか出来ないことだってあるのよ」

 

 一通り宣言して、霊夢は幽々子を睨みつける。そして、札を掲げ、構える。

 魔理沙とフランの二人もまた、各々戦闘態勢を取る。

 

「引くつもりはない、と言うことね……それは明確な宣戦布告と捉えて構わないのかしら?」

「当然。私達はこの異変を解決する為に来てるのよ? なら……」

「犯人を前に敵前逃亡なんて出来ないぜ!」

「それに、ギン兄様だって頑張ってるんだもん! 私だってここで頑張らなきゃ約束守れない!」

 

 互いに戦う目的は違うだろう。

 しかし、だからこそ、ぶつかり合う。

 

「ふふふ……いいわ。三人まとめてかかっておいでなさい。私は西行寺幽々子。弾幕ごっこの始まりね」

 

 ここに、異変の犯人と解決へ導く者の、最後の戦いが幕を開けた。

 

 ※

 

 銀時は、妖夢との戦いで疲れ果てた身体を引きずりながらも、霊夢達の元へと向かおうとする。多少身体にダメージは残っているが、それでも尚まだ動く。だからこそ、彼は戦っている彼女達の所へ向かう。

 だが、そんな彼の前に、とある『男』が立ち塞がった。

 

「……なっ」

 

 その男の姿を捉えた時、銀時は血相を変える。

 

「人がせっかく眠ってるって言うのに、こんなにも騒がしいとあっちゃ眠れもしねぇ……」

 

 如何にも気怠そうに、しかし標的を必ず逃さない獣のような雰囲気を出しながら、

 

「だが、それも構わないか。こうして懐かしい光に相見えることが出来た訳だからなぁ……」

 

 その手に握る刀は、鮮やかな紅色。

 

「どうしたんだい? さっきから一言も発しないじゃねえか。つれないねぇ、まさか昔斬り伏せた奴のことなんざもう忘れた、とか言わないだろう?」

「て、てめぇ、は……」

 

 まさしく獲物を狩るに相応しい刀ーー美しく咲き乱れ、今にも満開になろうとしている西行妖の元にあるのに相応しい、『紅桜』を持つその男の名は、

 

「久しいねぇ、白夜叉。銀色に輝くその光、ここで掻き消してやろう」

 

 人斬り仁蔵ーー岡田仁蔵の姿がそこにはあった。

 

「どうしてテメェがこんなところに……テメェはあの時……」

「あぁ、確かにあの時『死んだ』。だから俺は『ここにいる』」

「なんで……っ!」

 

 仁蔵の言葉を聞いて、ここに入った直後に霊夢から聞いた言葉を銀時は思い出す。

 今自分たちがいる場所は冥界。即ち、本来ならば死者が集いし場所であると言うこと。故に仁蔵は存在する事が出来る。この地に確かな形を得て、銀時の前に立ち塞がる。

 

「おいおい、こんなの冗談だろう?」

「本来ならば俺もこんなはっきりと形になるわけじゃなかった。だが、あの桜が満開に近づくにつれて、徐々に力を取り戻しつつあるというわけだ。まぁ、俺としちゃ願ったり叶ったりだが。またこうして、腑抜けた侍の剣を折る事が出来る訳だからな」

 

 口元を歪ませて、紅桜を構える。

 相手は戦う気満々。もはや止めることなど出来ない。

 

「ちっ、あっちで霊夢達が戦ってるってのに……っ」

「おいおい、つれないねぇ。目の前に戦う相手がいるってのに、他人の心配する暇があるとは。その甘さは、時に命取りになるということにいい加減気付け、白夜叉!!」

 

 地を駆け、仁蔵は銀時に襲いかかる。とっさに木刀で攻撃を止めた銀時。

 しかし、先ほどの戦闘での体力消耗もあり、少し身体が重く感じる。

 

「おいおいどうした? 動きが鈍いぜ? 心なしか銀色の光も鈍くなってるように見えるぞ、ん?」

「ほざいてろよ。こちとらちょっくら花見気分で盛り上がってるところだってのに」

「そいつぁいい。俺も花見がしたい気分だ」

「あんた目ェ見えねぇだろ?」

「見えなくても感じることは出来るからなぁ。テメェの身体に咲く真っ赤な花を!!」

 

 激しい攻防が繰り広げられる。

 いや、それは果たして先ほどとは別の意味で戦いと称してもよいのか分からない。互いの命を刈り取ろうとする、正真正銘殺し合い。

 仁蔵の刀が砕けるのが先か、銀時の刀が砕けるのが先か。

 今ここに、本来ならば実現することのなかった再戦が行われる。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十一訓 懐かしい人物との再会が常に嬉しいものであるとは限らない

 

 



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第三十二訓 迷いを断ち切るのはなかなかに難しい

「くっ……!」

 

 三人がかりで挑んでいるというのに、幽々子に触れることすら叶わないで居る霊夢達。その理由は明白で、ここが冥界であり、彼女に力を与えるように、西行妖がその花を開こうとしているからだ。

 今宵に限り、彼女の力は絶大である。

 

「やられっ放しってわけにはいかないのよ……っ」

 

 霊夢は自身の持ち得る力をすべて出し、彼女を圧倒しようと試みる。

 

「霊符『夢想妙珠』!」

 

 七色の弾が、幽々子目掛けて飛んで行く。

 それに合わせるかのように、

 

「星符『メテオニックシャワー』!」

 

 魔理沙が星型の弾幕を張り巡らせる。

 一見すると、そう簡単には躱せる筈のない密度の弾幕。

 しかし、

 

「あらあら。そんな薄い弾幕で私を倒せると本気で思っているのかしら?」

 

 死符『ギャストリドリーム』。

 美しく輝く蝶の形をした弾幕が、彼女達の弾幕をすべて打ち消してしまった。

 

「まだだよー! 禁忌『レーヴァテイン』!」

 

 弾幕を打ち消した直後、今度はフランが神話の槍を模した光弾を投げつける。

 スペルカードを発動した直後だ。そう簡単に動きに移れる筈はなく、甘んじてその攻撃を受ける他ない筈。そう考えてのフランの一撃だった。

 しかし、

 

「動きもいいし、連携も確かなようだけれど……そのすべてが、私を捉える決定打にはなり得ないわよ?」

 

 亡郷『亡我郷 -宿罪-』。

 弾幕を降らせながら、三本のレーザーを放つ幽々子。その内の一本と、フランの放ったレーヴァテインが衝突し、音もなく消し飛んでしまった。

 だが、他の二本のレーザーと、張り巡らされた弾幕だけは、三人に襲い掛かる。

 

「くっそー! 数が多すぎるぜ!」

 

 魔理沙は箒にまたがり、宙を舞う。

 霊夢もまた宙を飛び、フランは縦横無尽に駆け巡る。

 

「それなら……っ!」

 

 フランは周囲に使い魔を召喚し、その使い魔より弾幕を放たせる。

 禁忌『クランベリートラップ』。

 彼女の使用するスペルカードの一種だ。

 

「亡舞『生者必滅の理 -死蝶-』」

 

 しかし、使い魔が弾幕を放ち続けている最中に、蝶を模した無数の弾幕によって撃ち落されてしまう。

 

「また密度の濃い弾幕かよ……それなら、マスタースパークで消し飛ばしてやるぜ!!」

 

 弾幕は火力。

 それを信じて止まない魔理沙は、自身の持ち得る最大火力を以て、相手をねじ伏せようと試みる。

 

「まだまだお遊びの時間は終わらないわよ? 一気に終わらせようとするなんて、悲しいこと言わないで頂戴?」

 

 幽々子はマスタースパークを放とうとする魔理沙に近づき、

 

「冥符『黄泉平坂行路』」

「なっ……」

 

 すぐ近くで、手元より霊弾を発射した。

 魔理沙はとっさに箒でガードをするが、その際に箒は真っ二つに折れてしまった。

 

「しまっ……」

「マリサ!」

 

 フランがすぐに魔理沙を掴むことによって、地面への落下は免れる。

 

「嫌なやつね……力が上であることを示しておきながら、それでも尚まだ遊ぼうというなんて」

「退屈凌ぎにはちょうどいいのよ。それに私は、貴女達を完膚なきまでに叩き伏せる必要はないもの」

「なる程……時間稼ぎをして、桜を満開にさせることが目的ってわけね。そこまでして大きな桜で花見をしたいのかしら?」

 

 札と紅で構成された弾幕を放ちながら、霊夢は尋ねる。

 蝶の弾幕にて打ち消す幽々子は、

 

「西行妖が満開になれば、この下に眠る何者かが蘇る……」

「なんですって?」

 

 その言葉に、霊夢は言葉を失う。

 それは恐らく彼女の真意に違いないだろう。

 だからこそ、幽々子の言う言葉が信じ切れない。

 

「とある文献で私が読んだものよ。それで、この下に誰が眠るのかを確かめたいと思ったのよ。花見のついでに行われる余興としては十分でしょう?」

 

 おかしそうに笑う幽々子。

 一方で、霊夢は不機嫌そうな表情を浮かべながら、

 

「そう……最悪の余興ね。こうして寒い中ここまで出張ってこなきゃならなかったのに、聞いてみればそんなくだらない理由で桜の花を咲かせようだなんて。巨大な桜の元で花見をして美味しい酒が飲みたいと言ってくれた方がまだ健全よ」

「あらあら、つれないわねぇ。正体不明の可哀想な人を蘇らせてあげるのも人の良さではなくて?」

「冗談言わないで頂戴。死んだ者は幽霊にこそなれど、蘇らせるなんて以ての外よ」

 

 霊夢の言葉に合わせて、魔理沙とフランの二人もまた、幽々子のことを見つめる。

 

「怪しい企みもそこまでだぜ! 私達が来たからには、打ち破らせてもらうぜ!」

「ギン兄様と……お姉様と……みんなと花見がしたいから! だから貴女を倒させてもらうよ!」

「……うふふ。力の差は歴然よ? それでも尚、まだ私に挑むのかしら?」

 

 三人でまとめてかかった所で、今のところ幽々子相手に傷一つ付けられていない状況。吸血鬼であるフランも居ると言うのに、それでも尚届いていない。状況としてはあまり好ましくはない。

 だが、それでも三人は信じている。

 

「何言ってるのよ。私達三人だけじゃないわよ……すぐに加勢が来るわ」

「銀髪の侍のことかしら? 彼なら今頃……」

「アイツだけじゃねえぜ」

「ギン兄様だけじゃなくて……」

「「「万事屋のみんなが」」」

 

 彼女達は信じている。

 銀時が、新八が、神楽が。

 万事屋が、ここに来てくれることを。

 だからそれまでの間、彼女達は戦い続けるのだ。あわよくば倒せてしまえば運が良い所だが、そうもいかない可能性の方が高い。

 だが、倒れるわけにはいかない。

 

「そう……なら、まとめてねじ伏せてあげるわ」

 

 彼女達の弾幕ごっこは、まだ終わらない。

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 斬る、叩く、殴る、蹴る。

 出来得る限りの暴力を使用して、銀時と仁蔵は相手をねじ伏せようと試みる。

 その最中で、銀時はあることに気付く。

 

「……ん?」

 

 一瞬、仁蔵の姿が薄らいだのだ。

 

「あぁ、まだ完璧ってわけじゃあねえみてぇだからなぁ。けど、アンタを叩き斬るのに不都合なんざありゃしねぇ。だから関係ねぇってことよ、そんなこと……っ!」

 

 仁蔵が望むのは、銀時を叩き斬ること。今この状況において、それが叶うのだとすれば、その身がたとえ朽ち果ててしまおうとも関係ないと言ったような感じを出す。

 銀時は舌打ちをする。目の前の男が立ち塞がるという事実はもちろんのこと、こうしている内に手遅れになってしまうのではないかと言うこと。

 

「今宵はまだまだ長いんだろう? それなら存分に楽しまなくちゃな……っ!」

 

「いえ、貴方の夜はこれで終わりです」

 

「……あ?」

 

 声が聞こえた。

 その声につられるように、仁蔵の動きは止まる。

 銀時もまた、自身の後ろより聞こえてきた女性の声に、後ろを振り向く。

 

「お前……っ」

 

 そこに立っていたのは、新八と神楽に支えられて立っている。

 

「……貴方のような侵入者まで許してしまったのは私の落ち度です。ですから……」

 

 自身の刀――白楼剣を握りしめ、仁蔵に刃を向けている、魂魄妖夢の姿があった。

 

「銀さん……どうして人斬り仁蔵が……」

 

 目の前に現れた男が仁蔵であることを認識した新八が、事の真相を確かめる為に銀時に尋ねる。

 

「ここが冥界だからだ」

「あっ……」

 

 その一言で新八は理解する。

 神楽もまた余計な言葉を挟むことはない。目の前に対峙する男は、かつて自らも相手をしたことのある、化け物に他ならなかった為だ。

 

「もう大丈夫です、お二人とも……ありがとうございました。銀時さんも、下がってもらえないでしょうか」

 

 二人の支えを優しく振り払い、銀時の前に立ち、白楼剣を構える妖夢。

 その姿を確認した仁蔵は、

 

「おいおい、コイツぁどういうことだ? 俺は白夜叉とやりあいてぇって言うのに、か弱く小さな銀色の光を放つ女が現れやがったぞ? 遊びに来たのならそこを退いてもらえるかい?」

「遊びじゃありません、本気で貴方を――殺します」

 

 その勝負は、一瞬だった。

 先程まで拮抗していたのがまるで嘘のように。

 いや、仁蔵が妖夢に対して油断していたことも助けになっていたのだろう。

 神速で抜かれた刀は、仁蔵の身体を真っ二つに斬り裂いた。

 

「……へぇ、なかなかやるじゃないか、嬢ちゃん。だけど俺は幽霊。斬った所で――」

「えぇ、貴方は亡霊です。だからこそ、私は貴方を、殺せます」

「何を……っ!?」

 

 仁蔵は、自身の身体に起きている違和感に気付く。

 彼が銀時に勝負を仕掛けた際、実のところ幽霊であることで有利になっていたのだ。彼は不完全な形で蘇りかけた。即ち、受肉していなかったのだ。霊体である彼を、人間である銀時が殺すことは出来ない。

 

「私が半人前でよかった……もし一人前だったならば、私は貴方に斬り殺されていたでしょう」

「どういうことだ……アンタ、何しやがった……?!」

 

 消えゆく身体。

 そんな中で、仁蔵は怒鳴る。尋ねる。

 妖夢は、最早彼の顔を見ようともしない。代わりに、言葉だけ投げかける。

 

「死にゆく貴方に最後の言葉です。この刀――白楼剣は、対象を文字通り斬り伏せるもの。相手が亡霊であるならば、成仏させることが出来る。貴方が亡霊で安心しました」

「グォオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 断末魔のような叫び声をあげながら、仁蔵は今度こそ、この世から完全に消え去った。

 

「……やるじゃねえか、妖夢」

 

 銀時は素直に賛辞の言葉を投げかける。

 妖夢は今ので体力を使い果たしたのか、その場に座り込んでしまう。

 

「妖夢さん!」

「大丈夫カ!?」

 

 慌てて歩み寄る新八と神楽。

 そんな二人を制止しながら、

 

「えぇ、大丈夫です……あの男は……」

「……お前の考えている通りだ。すべてはあの桜が原因だ」

「なる程……西行妖が満開に近づくことにより、亡霊の動きが活発化して、あの男が目を醒ました、と」

「そういうことになる……これで分かったか? お前の主がやっていることの、恐ろしさが」

「……」

 

 言葉を発しない。

 彼女は幽々子を守る為に戦っている。故に、彼女がどんな道を歩もうが、それを否定することはない。

 だが、時として言葉に出さなくても、それが肯定の意を示している証明になってしまうこともある。

 

「……まぁ、今は休んでろ。後は俺達万事屋が引き受ける。いくぞ、新八、神楽」

「はい」

「任せるネ。体力は十分回復した。後は大暴れするだけアル!」

 

 その場から立ち去る三人の後ろ姿を確認し、今度こそ妖夢は、感じる。

 

「……坂田銀時さん。貴方は、私に道を示してくれるでしょうか……師匠と同じように……」

 

 そこに芽生えた感情は、恐らく彼女にとって、とても大事なものとなるに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十二訓 迷いを断ち切るのはなかなかに難しい

 

 




そろそろ戦闘の方も佳境へ突入していきますよ!!


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第三十三訓 咲き乱れる光の花

ついに戦闘はクライマックスへ……!!


「あら、もう終わりかしら?」

 

 幽々子と対峙する三人の息は上がっている。あれから激しい攻防が繰り広げられたが、互いに攻めきれないでいた。霊夢達の身にも攻撃は当たっておらず、傷つくことはない。それは幽々子も同じこと。だが、体力を削られるという意味では、幽々子の作戦は成功していた。

 彼女はあくまで倒さなくてもいい。つまりこれは、幽々子にとっては遊びにしか過ぎないのだ。最初から彼女は、戦ってなどいない。

 ここまで体力を削られてしまっては、霊夢も大技を使用することが出来ない。その為に必要な力が、彼女には備わっていない。

 三人の中で一番体力のあるフランは、未だ争い続けている。弾幕を張り、果敢に攻める。

 フランの弾幕と幽々子の弾幕が、あたり一面を輝かせている。その光景は、不謹慎にも美しいと感じさせるほど。

 

「まだ、だよ……ギン兄様が必ず、来るから……っ」

「無駄だと言っているのがまだ分からないのかしら? その人はここに……」

 

「俺が、なんだって?」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 その声は、彼女達が今最も聞きたかった物だった。不敵な笑みを浮かべながら歩くその様は、まさしく主人公に相応しいもの。

 そんな彼の後ろには、同じく木刀を握りしめる少年と、番傘をさす少女の姿。

 

「お待たせして申し訳ありません」

「ヒーローは遅れて登場して、美味しいところを持っていくネ」

「ヒーローもクソも関係あるかよ。今宵はこんだけバカデケェ桜があるんだ。満開ってわけじゃねえが、騒ぐにはもってこいのシチュエーションだろう?」

 

 各々の武器を幽々子に向け、彼らは宣言する。

 

「「「こんな騒ぎに、この万事屋が参加しないわけがないだろう!!!」」」

「ギン兄様ー!!」

 

 フランは今すぐにでも飛びつきたい衝動に駆られるも、目の前に敵がいる事を確認し、なんとか堪える。

 霊夢や魔理沙も、待ってましたと言わんばかりの笑顔で迎え入れる。

 

「ったく、遅刻してどうすんのよ」

「そうだぜ! こちとら音楽と桜を楽しんじまってる所だったぜ!」

「はしゃぎすぎも大概にしろよ? 息上がってんぞ。酔い潰れても連れて帰る奴なんざここにゃいねぇぞ?」

「銀さんこそどうしたんだぜ? 汗かきっぱなしではしゃぎまわったか?」

 

 軽口を叩き合う一同。

 彼らが来ただけで、先程までの雰囲気から一転し、まるでこれから先どうにかなるのではないかと思わせる程の好転方向に変わった。

 それはつまり、幽々子にとっては芳しくない変化でもあり、

 

「あらあら……うふふふふ。あはははははははははははははははははは!!」

 

 同時に、彼女の退屈を完全に無くすにはちょうど良い物となっていた。

 

「テメェが妖夢の言ってた幽々子って奴だな? ったく、テメェが余計なことしてくれたおかげで、こちとら懐かしい奴と会わなきゃいけなくなっちまったぜ。文句の一つも言わせやがれコノヤロウ」

「ここは亡霊住まう冥界よ。貴方が会ったのはその一人に過ぎないのではなくて?」

「その亡霊が本当に余計な奴だったわけだ……このまま満開にさせようとすると、本気でここも幻想郷も潰れかねないぜ?」

「私はただ、あの西行妖を満開にさせたいだけよ。美しい桜を眺めたいのは誰もが望むことではなくて?」

「だろうな。だが、花を愛でる奴からすれば、今のこの状況は許せねぇ物のはずだ。人工的に無理矢理咲かせる花なんざ、美しさの欠片も感じねぇ。だから……」

 

 木刀を構え、彼は宣言する。

 

「その桜ごと、テメェの企みへし折ってやる!!」

「うふふ……なら、存分に足掻いてみなさい、人間!!」

 

 そして彼らの決戦が幕を開ける。

 開幕と同時に、幽々子は蝶の形をした七色の弾幕を縦横無尽に張り巡らせる。

 銀時と新八は木刀で斬り伏せて、神楽は番傘に搭載されている銃弾で撃ち落とす。霊夢達は弾幕で相殺して事無きを得る。

 無数の光が輝くその光景は、幻想的な美しさを演出していた。

 

「銀ちゃん!!」

 

 神楽は番傘を振りかぶりながら、銀時まで近づく。それを確認した銀時は、その場で立ち止まり、

 

「いくぞぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 地面を蹴り、真上に飛ぶ。

 そこに、神楽が番傘を振り上げる。

 銀時は神楽が振り上げる直前に番傘に着地し、

 

「フヌォオオオオオオオオアアアアアアアア!!」

 

 振り上げられた番傘の力を利用して、幽々子の元まで飛んだ。

 

「面白いわね。けど……」

 

 そうやって近づいて来たことに感心する幽々子だったが、飛べない人間が空中に出るということは、隙を生んでしまうということ。

 彼女は弾幕を以て迎え討とうとして、

 

「なっ……!」

 

 視界の外から飛んできた木刀に目を向けて、追撃せざるを得なくなった。

 それは新八が投げつけた木刀。幽々子が銀時に追撃を仕掛けようとするのを先読みして、予め投げつけた一撃。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 気高く吠え、銀時は木刀を振り下ろし、幽々子の身体を西行妖に叩きつけた。

 

「ぐぅ……っ!!」

 

 幽々子は叩き付けられた衝撃で身体にダメージが与えられる。大きな衝突音が辺りに響き渡るのと同時に、それまで花をつけていた西行妖から、花びらがどんどんと舞い落ちていった。その花びらは、地面に落ちることはなく、霧となって何処かへ消えていく。

 

「桜符『完全なる墨染の桜-開花-』!!」

 

 それは西行寺幽々子が放つ全力のスペルカード。大きな玉を放った後、そこから無数の蝶形の弾幕を張り巡らせる。

 

「神霊『夢想封印・瞬』!!」

「魔砲『ファイナルスパーク』!!」

「QED『495年の波紋』!!」

 

 故に彼女達も最大級のスペルカードを放つ。辺り一面に広がる弾幕は、衝突を繰り返すたびに炸裂音を響かせて、七色に輝く芸術的な光となる。

 

「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」

 

 彼女達は、自身が持ちうる最大級の力を以て、相手の弾幕に打ち勝とうとする。これを乗り越えれば、自らの勝ちとなることを信じて。

 だが。

 

「チェックメイトだ。てめぇの負けだぁあああああああああ!!」

「っ!?」

 

 幽々子はこの瞬間だけ忘れてしまっていた。

 ここには弾幕を放つことのない人物達も存在し、さらにその中で、自身にとどめを刺す可能性がある人物がいることを。

 銀色に輝く、白夜叉という存在を。

 

「……あぁ、これはもう」

 

 銀時の攻撃が幽々子に襲いかかる直前、彼女はポツリとつぶやいた。

 

「完膚なきまでに、私の敗北ね……」

 

 そして、幽々子の意識は、そこで途切れた。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十三訓 咲き乱れる光の花

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふふふ」

 

 

 



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第三十四訓 油断大敵

「終わった、のか……?」

 

 ポツリと呟く銀時。

 彼の目の前には、気絶している幽々子がいた。それは間違いなく戦いの終わりを意味している。

 

「ギン兄様ー!」

 

 戦闘が終わったことを信じているフランが、銀時めがけて一直線に飛んできて、その胸に飛び込んでくる。受け止めた銀時はその場に座り込んだ。

 

「流石は銀さんだぜ。そして、新八と神楽もありがとな!」

「今回は貴方達がいなければどうなってたかわからなかったわ……ありがとう」

 

 魔理沙と霊夢の二人が、素直にお礼の言葉を述べる。

 

「いいってことネ!」

「神楽ちゃん最初寝てたけどね……」

 

 新八の呟きはどうやら神楽の耳には届かなかったらしく、彼女はニヤニヤと笑みを浮かべている。

 一方でフランは、ここぞとばかりに銀時に甘えているようで、抱きつきながら胸元にうずくまり、すりすりとすり寄っている。

 

「ギン兄様……私頑張ったよ? たくさん頑張ったよ? だからご褒美が欲しい!」

「……ったく、あとでレミリアにもらえばいいだろう?」

「やだ! ギン兄様からがいい!」

「仕方ねぇな……」

 

 フランにせがまれる形で、銀時は頭を撫でる。その度にフランの表情は緩まり、心から嬉しく、そして甘えているのが見て分かった。控えめにいって、可愛い。

 

「これで幻想郷に春は戻るアルか?」

「当の本人である幽々子が倒されたから、もうすぐ春が奪われた場所へと帰るはずよ。もしかそうならなければ、ふん縛ってやらせるだけよ」

「こういう時だけ霊夢はアグレッシブだぜ……」

 

 何故か霊夢はお仕置きとかを考える時だけは本気になるという。やはりそこは主人公と言うべきか。魔理沙はため息混じりにそうつぶやいた。

 そう、これで今回の一件は幕を降ろす。誰もがそう考えて、油断してしまった。

 

「…………皆さん、なんですか、あれ」

 

 新八がポツリと言葉をこぼすまでは。

 

「ん?」

 

 言われて銀時は、新八が指差した方を見る。そこにあるのは西行妖。ついていた花弁は散っていき、元の場所へ帰るはずなのに。

 

「なによ、これ……」

 

 それは幽々子の前に集まり、人の形を成していく。所々欠けている部分があったり、影のように揺らいでいる部分もあるが。

 

「何が起こっている、アル……?」

 

 右手に紅色に輝く刀ーー紅桜を握り締めた、西行寺幽々子の形をしたナニカが、銀時達の前に姿を現した。

 

「っ!! フラン! みんな! 離れろ!!」

 

 その影は銀時の姿を捉えると、一目散に迫ってくる。銀時はフランのことを優しく離し、そのあとで敢えて影へと向かっていった。

 ガギン! という鈍い音が鳴り響き、それが戦闘開始の合図であることを誰もが認識するほかなかったのだった。

 

「そんな……! 異変は終わったんじゃ……!」

 

 新八の叫びに明確な答えを用意できるものはこの場にはいない。だからあくまで、これは予想となる。

 

「……幽々子は西行妖を満開にさせる目的として、埋まってる人を蘇らせるといっていたわ。そして目の前に現れたのは、西行妖の力で創り出された影」

「まさか……埋まっていた人物って……幽々子ってことになるのか? 信じられないぜ……」

 

 霊夢と魔理沙の推論が正しければ、幽々子が蘇らせようとしていた人物こそ、生きていた頃の西行寺幽々子ということになる。先ほど対峙した幽々子は亡霊。そこに矛盾は生じない。

 

「そして、そいつに紅桜が同調したってか……? 笑えねぇ話だな、おい……」

 

 あの時、妖夢の手によって仁蔵は葬り去られた。しかし、仁蔵が手にしていた刀ーー紅桜は葬り去られていなかった。そして西行妖は、最後の抵抗を試みるために、紅桜と同調した。

 

「ギン兄様!!」

 

 フランは銀時を助太刀する為近寄ろうとする。しかし、目の前にいる影は邪魔者の存在を許さない。

 

「っ!!!」

 

 反魂蝶 -八分咲-。

 無数に広がる蝶形の弾幕、全方位に張り巡らされるレーザー。密度が濃いとかそういう問題ではない。まるで全てを出し切って消え去ろうとしているかのようだ。

 

「みんな! ここは危険よ、逃げるわよ!!」

「で、でも! 銀さんがまだあそこに居るんだぜ!?」

「銀ちゃんを放って逃げられるわけ……!」

 

 霊夢の提案にもちろん一同は反対する。

 

「やだ!!! ギン兄様も一緒に帰るの!!!!」

 

 特にフランは顕著だった。今回ばかりはあまりにも異常すぎる上に、命を落とすかもしれない。その危険性を認知出来てしまっているからこそ、フランの焦りは尋常ではない。とはいえ、近付こうにも弾幕が張り巡らされて進むことなどかなわない。全ての力を出しきろうとしているのであれば時間切れまで待てばいいのだが、その間に銀時が無事でいる保証などない。

 

「テメェら……早く逃げろ……っ」

「銀さん、何を……!?」

 

 銀時の言葉を聞いて、新八が何かを察する。

 そして銀時は、

 

「わりぃな……テメェの悲しみ請け負うわけにゃいかねぇのよ。だからせめて……共に地獄へ落ちようじゃねえか。安らかに、永遠に……」

「っ!! 駄目!!!! ギン兄様!!!!」

「ーーーー!!」

 

 影は声なき叫びを上げつつ、紅桜の刃で、

 

「ぐっ……あっ……」

 

 銀時の腹部を貫いた。

 

「イャアアァアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアア!!」

 

 泣き叫ぶのはフランだった。

 目の前で、大切な人が、凶刃に倒れそうになっている。

 彼女は495年生きているが、その精神は酷く幼い。大切な者の命が失われていく様を見るのに慣れていない。

 もちろんそれは他のメンバーも同様だ。特に万事屋の二人については顔を真っ青にしている程。

 

「うごけねぇ、だろ……そのままなら、うごくことなんざ、できやしねぇだろ……だから……これで、おわりだ……っ!!」

「!?」

 

 片方の手で刃を握りしめ、抜けないように力を入れる。

 そして銀時は、もう片方の手に握りしめている木刀で、影を一閃。

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 切り裂かれた彼女は、桜の花びらを撒き散らしながら、人の形を失っていく。手に握りしめていた紅桜もまた、桜の花びらと化してそこから消えていった。

 やがて影が完全に霧散し、そこに残っていたのは……。

 

「ぎ……ギン兄様ぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 腹から血を流し、体温がどんどん奪われていく銀時だけだった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十四訓 油断大敵

 

 

 

 




異変解決、ですね…。


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第三十五訓 護りてぇもん護る為ならどんなことだってする

 気付けば男は、骸の山の上に立っていた。

 何処を見ても、骨しかない。それ以外には何もない。

 男はその上をただ歩く。行く宛もなく、ただ前へ進む。

 前へ、前へ、前へ。

 どれだけ歩いても地獄しか広がっていないことを知りながら、それでも尚歩き続ける。

 男に痛覚はなかった。感覚がなかった。何もなかった。何もかもを、失った。

 

「それでよい、白夜叉」

 

 何もない空間に、番傘を被り、包帯をぐるぐる巻きにした男――魘魅が立っていた。

 彼は目の前に立ち止まった男を見ると、まるで彼を嘲笑うように言葉を紡ぐ。

 

「貴様に守れるものなど何もない。辿り着くのは骸の山だ。生きている価値など存在しない。安心して死んでゆけ。牙の抜けた侍など、最早不要」

 

 魘魅は男を一瞥すると、そのまま前へ歩いて行き、そして男の肩を強く押した。

 男は声もなくその場に倒れる。その際に落ちていた骨がいくつも突き刺さり、彼の身体に無数の穴が空いた。

そこから流れ出るのは、赤黒い血。あたり一面を染め上げていく。白い骨は血の中に溶け、とうとうその場に取り残されたのは男だけとなった。

 しかし、彼は動くことはない。彼にはもう、動く為の体力も、動機も残されてはいない。まして、『自分自身が何者なのかさえ、考えられない』。

 

「……駄目よ。こんなの、認めない」

 

 その時、一人の女性の声が、男の耳に届いた。

 

「貴方はまだ生きなければ……いえ、生きて欲しいの。こんな所で死なないで……」

 

 女性は男の前に座り込む。着ている服が赤黒く染め上げられようとも構わず、まるで愛おしい赤子を抱くかのような慈愛の眼差しを――もしくは、男の生を懇願するかのような眼差しを向ける。

 

「私が愛した幻想郷に、貴方の存在は不可欠なの……こんな形で終わらせるなんて、そんなの願い下げよ」

 

 男の身体を抱きしめながら、彼女は言う。

 

「お願い……生きて。貴方はこんな所で死んではいけないの。だから……」

 

 そして女性は、男の名前を告げる。

 

「死なないで!! 坂田銀時!!!」

 

 

「っ!!!」

 

 それは果たして本当に夢だったのだろうか。それとも全く別の何かだったのだろうか。今の銀時にそれを知るすべはない。

 だが、彼は間違いなく魘魅に会い、その後で、涙ながらに懇願する、八雲紫に出会った。

 彼女は幻想郷を誰よりも愛している。場所はもちろんのこと、その地に生きる全ての者達を愛していると言っても過言ではない。もちろん、幻想郷を何度も窮地から救い出してくれた銀時とて例外ではないだろう。

 だからこそ、彼女のあの言葉は、銀時の心を強く突き動かした。

 そして、目が覚めた銀時が見た光景は。

 

「ここは……俺の家?」

 

 見知った天井、見知った建物。

 そこは間違いなく、彼が住む家ーー万事屋銀ちゃんだった。

 

「気付きましたか?」

「え?」

 

 枕元に立っていたのは、先ほどの光景にも登場した女性ーー八雲紫だった。

 

「お前……どうして……」

「幻想郷とこの場所を繋いだのは私ですわ。だからここまで私が連れて来られたとしても何ら不思議ではありませんわよ」

「そうか……」

 

 平然とそう言われてしまっては、銀時としてもそれ以上追求することが出来ず、何も言えなくなってしまった。

 

「俺、どの位寝ていたんだ?」

 

 ふと湧いた疑問を紫に投げかける銀時。

 紫は、少し勿体ぶるように言葉を溜めてから、

 

「一週間」

「なっ……」

 

 銀時の質問に答えた。

 

「アイツは……幽々子はどうなった?」

「……彼女なら無事です。今度、迷惑をかけたお詫びとして宴会を開くと言っていますわ。当然場所は冥界ではないけど……どこでやるかはまだ未定となっております」

「そうか……妖夢や、ほかの奴らはどうしてる?」

「……妖夢は今、宴会の準備に明け暮れております。新八と神楽なら、今は霊夢と魔理沙のところにおります。二人も宴会に参加するから、せめて食材だけでもって先に準備しております」

「……フランは、どうしてる?」

「……」

 

 紫は何も言葉を発しない。

 銀時もなんとなく、自分がフランを最後に尋ねたことに、意味はあると思っていた。と言うより、知っておくべきなのは彼女のことだと、心の何処かで理解していた。

 だからこそ、最初に大丈夫そうな人達を聞いて、それからフランのことを聞いたのだ。

 

「答えてくれ、紫。フランは?」

「……あの子は今、貴方が倒れたことにショックを受けて、部屋から出て来られなくなっています」

「……そんな状態になっちまってるってのに、俺は一週間も放置してたってわけか」

 

 ポツリと呟く銀時の声には、悔しさがにじんでいる。

 しかし、紫はそんな彼を見て、唇を噛み締めていた。

 

「……どうして貴方は、そこまで他人のことばかり気に出来るの?」

「え……?」

 

 その質問の意図が分からず、銀時は思わず聞き返してしまう。

 

「貴方は今、自分の身体のことを気にするべきなのに、尋ねてくる質問は他の人ばかり……そこまでして、貴方は背負った荷をどうにかしたいと思うの? 貴方が倒れることで悲しむ人が出てしまうことに、気付いていないの?」

「……お互い様だろう、紫」

「え?」

 

 今度は紫が目を丸くする。

 そして銀時は、彼女に言葉を返す。

 

「テメェは幻想郷を守る為にどんなことだってする。俺も、守りてぇもんの為なら、どんなことだってしてやるさ。テメェが倒れる前に、守りてぇ奴らに倒れられる方がよっぽどつれぇんだよ……テメェも同じだろ? だからテメェは、俺の前でそうして涙を流してるんだろう?」

「……」

 

 紫は何も発しない。

 というより、言葉を見つけることが出来ないでいた。

 確かにその通りだ。彼女は幻想郷をこよなく愛する。生きとし生ける者すべてを愛する。そこに明確な優劣は存在せず、幻想郷に関わるすべての人々を愛する。それがたとえ悪人だったとしても、善人であったとしても、構わず愛することが出来てしまう。

 

「まぁ、そういうことだ……だからまぁ、俺は俺のやりてぇようにやった結果、こうなっちまっただけだ。アイツらが気負う必要はねぇ……まぁ、お詫びの印っちゃあれだけど、今から俺を案内してくれねぇか?」

「……何処へ?」

「泣き虫で引きこもりになっちまった、可愛い妹分のところによ」

 

 

 その日から一週間、フランは自らの意思で、かつて自分が閉じ込められていた地下室へ閉じこもった。

 彼女は目の前で、銀時の身体が冷たくなっていくのを見てしまっている。そして、彼女は自分の力が及ばなかったせいで、銀時がああいった手段を取るしかなくなったのだと思っている。

 

「ギン、にいさま……」

 

 使われなくなったその部屋には、何も残されていない。

 彼女は何もない空間に、一人体育座りをして俯いている。内側から鍵をかけてしまっている為、誰も入ることが出来ない鳥籠の中で、フランは一人泣いていた。

 

「いたかったよね……くるしかったよね……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 彼女がふさぎ込んでいる理由は、罪の意識からなのか、それとも銀時の喪失からなのか。

 あるいはそのすべてなのかもしれない。いずれにせよ、今の彼女を解き放つことが出来るのは、恐らくただ一人だけ。

 

「会いたいよ……ギン兄様……また、撫でて欲しい……ぎゅーってしたい……もっと触れたい……だけど……」

 

 彼女は改めて、自分の手を見つめて。

 握り締めて。

 そして、認識してしまう。

 

「私は結局、『壊す』んだ……壊れちゃうんだ……望んだものが、壊れちゃう……」

 

 フランの本質は破壊。

 彼女が望んだ大切なものは、たった一人の男の命は。

 彼女と関わったあまりに、壊れてしまうのではないか。

 銀時のことを思えば思う程、彼は崩壊へと歩みを進めてしまうのではないか。

 

「それなら、私は……」

 

 余計な思考は、感情をどんどんマイナス方向へと持っていく。

 フランの感情は、どんどん閉ざされてしまう。元々抑圧されて歪んだ感情が、更に歪な物へと変貌してしまう。

 破壊の概念が、他者から、自分へ――。

 

「私なんて……こわれちゃえばいいんだ……」

 

「なんだ? いい年こいて厨二病発症してんじゃねえぞ? そういう奴はジャンプでも読んで精神鍛え直せ」

 

 声が聞こえた。

 その声は、今この場において聞こえる筈のない、大切な男の声。

 フランが今最も会いたいと願い、最も遠ざけなければと考えていた男――坂田銀時の声。

 

「よぉ、フラン。何こんな所で体育座りしてんだよ」

 

 ただし、声は――フランの真上から聞こえてくる。

 

「って、何処から出てきてるのギン兄様!?」

 

 これには流石にフランも驚く。

 扉から入ってきたのならいざ知らず、あろうことかそう言った常識をすべて取っ払って、『何もない空間』からいきなり登場してみせたからだ。

 一瞬、これは夢なのだと考えたフランは、恐る恐る銀時の身体に触れる。

 

「触れる……本物? 本物のギン兄様?」

「偽物も本物もねぇとは思うが、正真正銘心は少年の坂田銀時お兄さんだぜ?」

「ギン兄様……っ」

 

 分かった瞬間、フランはもっと触れたいという衝動に襲われて、しかしその手を引っ込める。

 自分が触れることで、銀時が壊れてしまうことを恐れ、遠ざけようとする。

 

「……何してんだよ、フラン」

 

 だからこそ銀時は、無理矢理にでもその手を握る。

 

「あっ……」

「無理すんなよ。本当はあまえてぇんだろ? 安心しろよ。銀さんはそう簡単に死にやしねぇよ。あの程度の傷なんざ日常茶飯事なんだ。歌舞伎町で生きてきた銀さんにとって、腹刺された位で死んでやれねぇから……言ったろ? 約束は守るってな」

「で、でも……」

「それと、テメェのせいで俺が傷ついた、なんて言い訳もなしにしてくれ。情けねぇったらありゃしねぇ。あれは俺が勝手にやって勝手に傷ついたことだ。だからテメェは関係ねぇ。だから安心して、今は泣けよ。花見、するんじゃねえのか?」

「あ……」

 

 それは決戦を前にして、提案されたもの。

 幻想郷に春が戻ったら、花見をするという、些細な約束。

 

「俺は……フランは大切な奴だと思ってる。だから勝手に離れようとするんじゃねえよ……」

「あ、あぁ……」

 

 とうとう、フランは銀時に抱き着いた。

 

「ギン兄様ぁああああああああ! 怖かった! 寂しかった! もう会えないんじゃないかって!! 何処かへいっちゃうんじゃないかって!!」

「……ったく、背負った荷、そう簡単に降ろすわけねぇだろ……?」

 

 泣き付くフランの頭を、銀時は優しく撫で続ける。

 何もない空間、悲しみに満ち溢れていた空間は。

 

 一人の男の優しさと、その優しさに包まれて泣きじゃくる少女によって、色づいていた。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十五訓 護りてぇもん護る為ならどんなことだってする

 

 

 




多分次から宴会の話になるのかなーって感じです!
異変は宴会が終わるまで!


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第三十六訓 どうしようもない企みでもきちんと計画は立てた方がいい

さて、今回からは宴会に向けた話になりますよ!


 銀時が目をさましてから数日後の、某所で行われたとある会議の模様。

 

「貴女が西行寺幽々子ね……」

「そういう貴女はレミリア・スカーレット。誇り高き吸血鬼と伺ってるわ」

「此度はうちの妹が世話になったみたいだな」

「あらあら。噂に違わず妹が大好きなようね。文屋の方がシスコンと記事で書いていたのを拝見させていただいてるわ」

「よし烏天狗は後でお仕置きしよう」

「それで? 今日は一体どんな要件で? まさかそれを言うためだけに私を呼んだわけではないわよね?」

「もちろんだ。貴女も、異変解決後の宴を開くのだろう? それならば、うってつけの場所があると私自らが伝えにきたのだ」

「紅魔館で宴会を開こう、と?」

「いや、ちょっと違うな」

「すると、どちらへ?」

 

 勿体ぶるように言葉を溜めた後、誇り高きシスコン吸血鬼は宣言する。

 

「宴会を開く場所は……紅魔館2ndG、だ」

 

 ※

 

「と、言うわけで長谷川様。当日は何卒失礼のないようお願い致します」

 

 場所は変わって、紅魔館2ndG。

 廊下の掃除をしていたマダオこと長谷川に伝言を伝えたのは、紅魔館のメイド長こと十六夜咲夜。

 

「え? ちょ、マジですか? それっていつ開かれて……」

「明日でございます」

「明日ー!?」

 

 まさしく『そんなの聞いてないよ』状態。長谷川の反応はもっともであるし、何より伝えた張本人である咲夜もまた、苦笑いを浮かべているレベルだった。

 

「無茶なのは百も承知ですが、それでも当日は大切な御客人がいらっしゃるのも確かです。なるべくそれまでに準備の方をお願い致します。勿論、私や美鈴、小悪魔も手伝いますので」

「分かりました……がんばりまぁす……」

 

 涙目になりながらも、本日も残業が確定した長谷川なのだった。

 

 ※

 

「よぉ銀さん! 邪魔するぜ!」

「銀時。食材を運ぶのに通らせてもらうわよ」

「銀時さん。今度剣の修行を一緒にさせてくださいね!! あ、これは幽々子様の分の食材です」

 

 宴会前日。

 もはや分かりきっていたことではあるが、何度も万事屋銀ちゃんを往復する霊夢達。

 その回数の多さに、流石の銀時も、

 

「いい加減別のところにも入り口つくらねぇか!?」

 

 と叫んでしまうほどだった。

 何せ幻想郷と歌舞伎町を繋いでいるのは、万事屋銀ちゃんの居間にある押入れのみ。紅魔館2ndGにも繋ぐという案も最近になって生まれており、現在スキマ担当の紫と交渉しているところであるとのこと。

 

「ところで銀さん、気になることが一つあるんだけど質問してもいいか? 拒否られてもするぜ」

「いやなら許可取んなくてもよくね?」

 

 いつの間にやら準備など放置して、ソファに座ってくつろいでいる魔理沙。そんな魔理沙が、銀時をーーより正確に言うと、銀時の周辺を見つめながら、一言。

 

「前よりフランとの距離、近くなってる気がするぜ?」

 

 今までならば、膝の上に座ってる程度がデフォだった二人の関係。それが今はどうだろう。膝の上に座っているだけならまだしも、あろうことか、向かい合って、抱き着いている。もう油断してるとキスしまくるのではないかと思われるほど。というかそのせいで銀時の顔が見えない。

 

「気のせいだろう」

「どう考えても気のせいじゃないぜ!? 新八! 神楽! これどう考えたって……」

「魔理沙さん。ぼくがこの状況、ツッコミを入れてないとお思いで……?」

「なん……だと……?」

 

 打ちひしがれている新八の姿がそこにはあった。

 経験値で言えば彼のほうが明らかに上だ。故に当然ツッコミを入れたのだ。入れたのだが……結果は悲惨なものだったのだ。

 今の彼は、ツッコミとしての自信を喪失してしまっている。

 

「ギン兄様……もう、離さない……っ」

「絶対距離感やばいと思うぜ? これ、兄妹のような関係から進歩し過ぎて一夜の過ち犯してしまいそうなくらいのものになっちまってるぜ? いやさすがにこれはやばくない?」

 

 フランの声色が、ただ単に甘えているだけのそれとは随分質が変わってしまっている。例えるなら、好感度がカンストしてしまったギャルゲーのヒロインのような、そんな感じ。

 

「何言ってんだ魔理沙? フランだぞ? 今はこの前の反動があってすげぇ甘えてるだけだろ?」

「銀さんはもう少し危機感覚えようぜ!? 一番アンタが気にしなきゃいけないところだぜ!?」

 

 当事者であるはずの銀時は、どこか間違った分析をしている。何故かこういう時に疎い銀時だった。

 

「そういえば魔理沙、今回宴会っていうのを紅魔館2ndGでやるんだったよネ? 美味しいもんたくさん出るアルか?」

 

 神楽に関しては、宴会の方に夢中になっているおかげで、銀時とフランについては眼中にないって感じだ。

 

「え? あ、あぁ。何と言っても、幽々子と妖夢の二人がそこら辺大量に調達してるからな。期待してもいいと思うぜ」

「本当アルか!? 楽しみアル!」

 

 心の底から期待している神楽。

 おそらく彼女が宴に参加すると、大食い選手権みたいな感じになることだろう。

 

「そういや、紅魔館2ndGでやるってことは、長谷川さんがいるってことだよな?」

「あ、確かにそうなりますね」

 

 ようやっと立ち直ったのか、新八も会話に参加する。

 

「あの人、ちゃんとやれてんのかね……住み込みのバイトっていうから、きっと今までよりはるかにマシになってるだろうが」

「そこは気にしないでも平気、だそうよ。この前咲夜から聞いたから間違い無いわ……それより魔理沙、早く食材持って来なさいよ。いつまでもサボってんじゃ無いわよ。私が働いてるのよ? アンタがサボってどうすんのよ」

 

 霊夢が不機嫌そうなのを隠すことなく、魔理沙の首根っこを掴む。

 

「うわっ! ちょ、ちょっと休憩してただけだぜ!? だから霊夢、その手に出してる弾幕を抑えるんだぜ!?」

「ちょっとー!? ここを消し炭にする気ですか!? やめてくださいよ!?!?」

 

 流石に慌てて新八が止めた。そんな彼に免じて、霊夢は弾幕こそしまうが、その代わりに魔理沙を掴む手の力が強まった。

 

「ちょ、れい、む、くるじ……」

「煩い。ここにいると何だかムカムカすんのよ。だから早く行くわよ」

「ぢょっ、わがっだがら、ぐび、ばなじで……」

 

 ズルズルと引きずられていく魔理沙と、フランとイチャイチャしてる銀時を一瞥して、霊夢の不機嫌さはより増した。

 去り際に、霊夢は銀時に一言。

 

「ロリコン」

「ちょっと待て!? そう言われる筋合いはねぇぞ!?」

「銀ちゃん……流石にそれは言い逃れ出来ないネ」

「自首しましょう? そして心ん入れ替えって帰って来てください」

「なんでそんなに冷てぇの? なんなの? 局所的に氷河期なの?」

 

 ある意味息の合った新八と神楽のコンビネーションに、銀時のライフポイントはゴリゴリと削られていた。

 

「霊夢さんや魔理沙さんも苦労しますね……」

「ホントネ。天パーが自覚ねぇから尚更タチ悪いある」

「いや本当になんの話してんの?」

 

 ぽかんとしている銀時を尻目に、二人の言葉によってフランは何かを感づいたようだ。

 銀時を抱きしめる腕の力が、強くなっていた。

 

「いででででで! どうした、どうしたってんだ!?」

 

 フランは答える気配を見せない。いや、不機嫌そうな表紙を浮かべつつ、銀時から頑なに離れようとしない姿勢を見たら、もはや答えと言っても過言では無いのだが、如何せん相手はちゃらんぽらん。全然伝わってる気配はない。

 

「「……はぁ」」

 

 その光景を見て、神楽と新八はため息をつく。

 宴会が楽しみであるのと同時に、どんな修羅場が待ち受けているのか、彼らにとっては恐怖でしかなかった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十六訓 どうしようもない企みでもきちんと計画は立てた方がいい



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第三十七訓 類は友を呼ぶから諦めろ

 そして迎えた宴会当日。歌舞伎町に最近建てられた住居、紅魔館2ndGの前を通る人々は、中に入っていく人物達を見て、皆一様に驚いていた。

 その誰もが、今まで決して見たことのないような美少女もしくは美女ばかり。衣服や姿形からしてもう違うのだから、まるで異邦人が現れたのではないかと思われる程の賑わいを見せていた。

 

「なんじゃ、あの大名行列は……」

 

 たまたまその現場に居合わせたのは、買い物帰りの月詠だった。今まで見たことのない人物達が次から次へと入っていく様に、一体何処から来るのかと気になって、列を逆走してみれば。

 

「……なんじゃと?」

 

 当然といえば当然なのだが、万事屋銀ちゃんにたどり着いたのだった。

 

「何故、あの女達が彼奴の所から出てくるのじゃ……?」

 

 月詠は困惑する。

 今までこんな知り合いを見たことはなかっただけに、一体銀時が今度は何をしでかしたのか気になるところであったのだ。

 事の真相を確かめる為に足を踏み出そうとして、

 

「あら、もしかしてアンタ……ツッキーじゃない?」

 

 銀時に付き纏うストーカー忍者こと、猿飛あやめが現れた。

 

「お主、こんな所で何をしておるのじゃ?」

「それはこっちの台詞よ。銀さんと私の愛の巣に近付こうだなんて許さないわよ?」

「主の家ではなかろうて……」

 

 呆れながら呟き、その後で本題に入る。

 

「主も、最近建てられた紅魔館2ndGは知っておるだろう?」

「あぁ、あのゴスロリ娘が建てたとかいう面妖な屋敷ね。最近街中で話題になってるし……それが?」

「今日になってその屋敷の中に、次々と女達が入っていくのを目撃したんじゃ。しかも、今まであった事のない者達ばかり……それも皆同じ方角から来ていたもので、気になって列の出所を探ってみたら……」

「……まさか、銀さんの所に繋がったってこと?」

 

 猿飛の言葉に対して、月詠は無言で頷く。

 

「流石に可笑しいとは思わぬか? あの銀時だぞ? 次から次へと女達が現れるなんて……」

「……これは私達も、紅魔館2ndGに行かなきゃいけないわね。ツッキー、狩りの時間よ。人狩り行こうぜ」

「いやなんか漢字が違う気がするし、それにわっちはあの場所へ行く気など……」

 

 月詠は渋る。

 猿飛はそんな彼女の肩を掴んで、一言。

 

「銀さんを魔の巣窟から救い出すためよ。女だらけの所に銀さんがいるだなんて許せないわ……ツッキー、協力しなさい。これは命令よ? いいわね?」

「……はぁ。あとは帰るだけだし、付き合うしかないのなら仕方ない」

 

 こうして、月詠と猿飛の二人も紅魔館2ndGへと足を運ぶこととなる。

 そこでどんな騒ぎがあるのかなんて、誰も想像つかないだろう……。

 

 ※

 

「んじゃま、俺達もそろそろ行くとするか」

「そうですね。本当、今日の宴会楽しみです」

「新八は羽目外しすぎるなヨ。眼鏡とんでも知らないアル」

「眼鏡が飛ぶ状況ってどんな事態だよ!?」

 

 万事屋の三人も、準備が整った為出かけることにした。あれだけベタベタくっついていたフランは、今日はレミリア達に引っ張られている為今はいない。

 そうして部屋を出ようとした時に、

 

「あら、貴方達もちょうど出る所だったかしら?」

 

 銀時にとっては、聞き覚えのありすぎる声が聞こえてきた。

 同時に、とある時のことが蘇ってくる。

 それは向日葵畑で行われた、とんてもない修羅場……。

 

「幽香も今日の宴会に呼ばれてたのか?」

 

 風見幽香が、にこにこ笑顔を見せながら銀時を見つめていた。

 

「銀ちゃん、今度はナイスバディなお姉さんアルか? 節操なしアルな」

「どうして銀さんばかりそんなにモテるんですか……なんかジャンプでのあんたらしくないじゃないですか。どこのハーレム主人公ですか。刺しますよ?」

「おい新八。お前はそんなキャラになっちゃいけねぇんだ。お前がいなくなったら魔理沙一人に負担がかかるんだぞ? ボケキャラはお前には千年早い。諦めろ」

「どうして今のやりとりだけで僕の今後の人生決められなきゃならないんだよ!?」

 

 何故かとばっちりが新八に来ていた。しかも割とどうでもいいとばっちりだった。

 

「なかなかに愉快な仲間達ね。あの時はちゃんと挨拶出来なかったけど、流石は銀時の知り合いといった所かしら?」

「お前もお前でなかなかに愉快な発想してやがるけどな」

「あら、宴会を前に派手に暴れたいのかしら? 良いわよ? 私はあなたとならばどんなことだってするわ」

「おいおい、俺はまだ命捨てる気はねぇぞ?」

「そう……」

 

 そう呟く幽香の声色から察するに、おそらく『どんなことだってする』という言葉に嘘偽りはないのだろう。何せ彼女は、坂田銀時という男に惚れている。幸いなのは、そのことを認識している人物がまだほとんどいないという部分だろうか。

 それから彼らは軽く自己紹介をし、紅魔館2ndGへと歩き出す。

 

「なぁ幽香。そういえば今回の異変って春が来なかったよな? お前んところの向日葵……って、向日葵ってそもそも春に咲く花じゃねえな?」

 

 銀時は色々と困惑していた。

 確かに、今回の異変は『春』が奪われていた。それはおそらく幻想郷にある様々な自然にも影響を及ぼしたことだろう。

 しかし、元々向日葵は春に咲く花ではない。なのに幽香の所にある向日葵は美しい形を保っていた。

 

「それは私の能力のおかげね。今日も私が離れるから、ちゃんと能力で守っているわ」

「本当凄いんですね……」

 

 新八は心の底から感心しつつ、彼女の美しさに見惚れていた。

 そんな彼に、神楽から一言。

 

「眼鏡に変態って書いてあるアル」

「書いてねぇから!! そんなピンポイントで器用で便利な能力なんて備わってねぇからな!?」

 

 あいもかわらずアホなやり取りである。

 

「本当、貴方達って見ていて飽きないわ……ねぇ銀時、これからは私も貴方の元に遊びにきてもいいかしら?」

「いや、まぁ別にいいんじゃねえか……?」

「是非ともそうするわ。今度貴方に見合った花を見繕うわね」

「お、ソイツァありがたい。殺風景な部屋も模様替え出来そうだ」

「そうしてもらえるとありがたいわ。だけどその代わりちゃんと丁寧に育ててね? もし破ったら……分かるわね?」

「自分から命捨てる真似しねぇっての……」

 

 そんな何気ない(?)会話をしつつ、銀時達は目的地まで辿り着く。

 そこで待ってたのは、

 

「あ、銀さん! いやぁーここの働き心地はなかなかいいぜー!」

 

 スーツを着用し、案内人を務めている長谷川だった。

 

「おぉ! マダオがまじめに仕事してるアル!?」

「こんにちは、長谷川さん。バイトの方は順調そうですね!」

「あぁ! たまに咲夜さんにナイフぶっ刺されるけど、それ以外は問題なくやってるぜ!」

「刺されてるんですか……」

 

 笑顔で告げる長谷川の顔がとても痛々しいと彼らは感じていた。

 

「銀時、この人もあなたの知り合いなの?」

「あぁ、長谷川さん。通称マダオだ。まるでダメなおっさんだ」

「初めましてでこんな美人さんに、俺のあだ名の由来教えなくてもよくない!? いい歳して泣いちゃうよ!?」

 

 もう泣いていた。

 

「……ここからは知り合いも多いのよね。そしたら、銀時……ちょっといいかしら?」

「ん? なに、を……」

 

 もにゅ。

 そんな効果音が辺りに響いたような気がした。

 何故なら、銀時の腕に、豊満な胸を持つ幽香が、抱きついてきたから。

 

「ぎぃいいいいんさぁあああああああん!! その女からはなれなさぁあああああああい!!」

 

 瞬間、銀時達の目の前に、そんな叫び声をあげながら……。

 

「うるせぇええええええ!! こちとら困惑してるんだからややこしくするんじゃねぇ雌豚ぁあああああああああ!!」

「ぎゃああああああああああああああ!!」

 

 呆気なく銀時に蹴り飛ばされた、さっちゃんこと猿飛あやめが現れた。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十七訓 類は友を呼ぶから諦めろ




気づけばこの小説も12万字超えてたんですね……びっくりしました……。


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第三十八訓 ここぞとばかりに出番を求めることは決して悪いことではない

色々やらかしたなぁ……って思ってる回です。


「さっちゃん! どうしてこんな所にいるアルか!?」

 

 驚きの声をあげたのは神楽だった。彼女はまさか自分たちの知り合いが、長谷川さん以外に来ているとは思っていなかったのだ。それはその場にいる万事屋メンバー共通の認識である。

 

「ちょっとぉおおおおおおお! もう心配しかないんだけど!? やめてよね!? 宴会の前に暴力沙汰とか、俺が処刑されちゃうから!」

 

 長谷川としてはせっかく手に入れたバイトだ。そう簡単に手放したくないと願うも、なにぶん相手は万事屋絡み。何が起こるか正直分かったものではない。彼らに絡んだ場合、大抵ろくなことが起きていない。

 

「長谷川さんよぉ、この雌豚処分しといてくんねぇか? ソイツぁれっきとした変質者だ。しょっ引けよ」

「銀さんのドエス攻撃!あぁん! もっとよ!! 原作並みのドエス攻撃を私に浴びせてェエエエエエエ!!」

「無茶言ってやるな。この小説の作者にそこまでの技能があるわけねぇだろ」

「ぎんさぁあああああん!! そういうネタは危ないですから!! よりによって二次創作の作者ネタはやめたげてぇええええええ!!」

 

 辺り一面に眼鏡が響き渡る。

 

「眼鏡響き渡らねぇから!!」

「うるさいネ新八」

 

 ぴしゃりと言われてしまう新八だった。

 

「にしても銀さん、いつまでその別嬪さんと引っ付いてんだ? 何処までがオプション料金なの? どんなサービス? 俺にも紹介してくんない?」

「いや、こいつ俺の知り合い。そういう店じゃねえから長谷川さん」

「またまたぁ、いつのまにか冗談も上手くなっちまったなぁ銀さん。ちゃらんぽらんな銀さんにそんな知り合いがいるわけ……」

「風見幽香。銀時とは熱い一日を過ごした仲よ」

「本当にいたぁあああああああああ!?」

 

 態とらしく『熱い』という部分を強調する幽香。確かに彼女の言葉は間違ってはいない。命を燃やす熱い日であったことに変わりはない。

 

「で、いきなり何抱きついてんだ。凶暴なマシュマロンが腕に絡みついて俺のネオアームストロングサイクロンアームストロング砲が火を噴いちゃうよ? 辺り一面白い砂漠と化するよ?」

「こいつとんでもねぇ下ネタぶっ込んで来たネ」

「銀さん困惑してるからって、どえらい下ネタぶっこまないでください!!」

 

 焦りからなのか本心なのか。

 銀時のそれは、あまりにも最低すぎる発言だった。

 だが、幽香はそんな発言を気にするどころか、

 

「あら、私は貴方ならば別に構わないわよ? どう? また今晩熱い夜を過ごさない? 今度は向日葵畑ではなくて、ベッドで……」

「お二人とも!! そろそろ中に入りましょう!! こんな所でそんな会話してたら、さっちゃんさんが泡吹き出してバブルパニックになってしまいますから!!!」

 

 これ以上会話させるのは危険だと判断した新八は、無理矢理にでも銀時と幽香を中に押し込む。

 神楽は溜息をつきつつ、長谷川は震えながら、猿飛は泡を吹きながら中へと入っていった。

 

 ※

 

 中に入った彼らを待ち受けていたのは、

 

「よくきたな銀時! ようやっと出番を得ることが出来て、正直俺としては安心してるんだ! 何せ第一話からスタンバッテたのに全然出番なかったからな! ふははははは!」

「なんでテメェまでここにいんだよヅラぁあああああああ!!」

「ヅラじゃない! 桂だ!!」

 

 何故かカー●ルサン●ーズのような格好をしている桂だった。

 

「テメェ呼ばれてもいねぇくせに、何堂々と入ってきてんだコノヤロウ!! ここぞとばかりに銀魂キャラ出演すりゃいいってわけじゃねぇんだぞ!!」

「今宵は宴なのだろう? ならば余興がなければなるまい? そこで俺が素晴らしいラップを……」

「攘夷ラップを幻想郷の奴らに聞かせようとするんじゃねえよ!! 意味不明すぎて話が通じねぇだろうが!!」

 

 何故かちゃっかりラジカセまで用意している桂。その横ではエリザベスが、

 

『Yo! Yo!』

 

 と書かれたプラカードを掲げていた。

 尚、新八と神楽は既に中に入って食事に手をつけている。宴会は既に始まっているのだ。

 今回の宴会は立食形式となっている。食事が並べられたテーブルがあり、各自がそれを皿に盛り付けて、席まで持っていくスタイルだ。尚、飲み物についても同様。

 

「本当……貴方の知り合いは飽きないわね……面白い方達ばかりだわ」

 

 相変わらず銀時の腕に抱きついている幽香。そんな彼女を確認した桂は、

 

「銀時……一体いくら支払ったんだ?」

「テメェまで俺を何だと思ってんだ!! だからちげぇっつってんだろ!!」

 

 どこまでいっても信用してもらえない銀時なのだった。

 

「まぁ今宵は存分に楽しもうぞ銀時!」

「ラップだけはやめろよな、ヅラ」

「ヅラじゃない、ラップマンカツーラだ!」

「いやしらねぇけどそんな名前!?」

 

 そう言い残すと、桂は何故か道行く人にラップを歌いながら立ち去っていった。もちろん誰も聞いてない。

 入れ替わりで

 

「……銀時、お主、一体何をやっておるのじゃ?」

 

 何やら怒りの形相を浮かべている月詠が現れた。

 

「いや何って、それはこっちのセリフだ! なんで月詠までこっち来てんだよ!?」

「猿飛に連れられてな。それに、ここに集まった女達の出所を探ってみれば、銀時の所から出ていたのじゃ。そしたらお主……何故そのような女と恋人のような距離感で近付いておるのじゃ」

 

 青筋たてまくりな月詠。

 色々と処理が追いつかなくて、彼女の怒りはあっという間に溜まっていく。それはもう驚くほど、一瞬に。

 

「あら、もしかして貴方銀時の恋人だった?」

 

 幽香は笑いながら尋ねる。ただしその笑顔は、どう考えても相手を威圧するもの。まるで恋の駆け引きを仕掛けているかのよう。

 

「そうではない。ただわっちは、銀時が鼻の下伸ばしているのが気にくわないだけじゃ」

「美人を囲うことが出来るのも良い男の条件よ。私は銀時のことを魅力ある人として見てるし、一緒に歩いてて恥ずかしくないと思ってるわ。貴方はどうなの?」

「背中を預ける相手として申し分ないと思っている。共に吉原を守った仲じゃ」

 

 何故か、月詠と幽香による修羅場が発生していた。幽香は銀時から離れて月詠に近付く。月詠も幽香に近付く。自然と彼女達は睨み合う形となり、まさしく一触即発。この流れを変えるには外的要因が必要なわけなのだが……。

 

「ギン兄様ー!!!!」

 

 よりにもよって銀時にとって、更に燃料を投下するだけの声が響き渡ってきた。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十八訓 ここぞとばかりに出番を求めることは決して悪いことではない

 

 



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第三十九訓 守る事と救う事は根本的に違う

 フランは銀時の姿を確認すると、一目散に駆け寄ってくる。そしてそのまま勢いを殺すことなく、

 

「アサルトバスツゥァァア!!」

 

 銀時の鳩尾へダイレクトアタック。

 食らった銀時は意味不明な奇声をあげながら、何処か遠くへとぶっ飛んでいた。もちろんフランと共に。

 

「「…………え?」」

 

 これには月詠と幽香の二人も驚きを隠せない。何せ二人で修羅バトル繰り広げていたと思いきや、いつの間にやらやってきた人物に漁夫の利を得られ、更に結構な距離まで離されてしまったからだ。

 

「初めましてになるな」

 

 そんな二人の前に、カリスマシスコン吸血鬼ことレミリア・スカーレットが、それはもう極上の笑みを浮かべながらやってくる。その横には涼しい顔をした咲夜も控えていた。

 

「紅魔館の吸血鬼とそのメイドね。私は風見幽香」

「月詠じゃ。して、お主らは……?」

「あぁ。この館の主人であるレミリア・スカーレットだ。こっちはメイド長を勤める……」

「十六夜咲夜と申します」

 

 レミリアの紹介に預かって、咲夜は綺麗に頭を下げる。

 

「お主じゃったか……歌舞伎町に面妖な建物を建てたのは」

「如何にも。紅魔館2ndGはどうだい?」

「ある意味街の話題を掻っ攫ったと言っても過言ではなさそうじゃ。事実、知り合いから出てくる話題の大半はここの話じゃったし……って、セカンドジー?」

 

 最後に付けられた言葉の意味を月詠は理解することができなかった。

 

「ところで、先程銀時に特攻したのは何者じゃ?」

 

 ここで月詠は、突然目の前に現れたダイレクトアタックガールのことについて尋ねる。

 するとレミリアは、それはそれはとても愛おしい物を眺めるかのような最高級の笑顔で、

 

「私の可愛い可愛い妹の、フランドール・スカーレットだ!! めちゃめちゃ可愛いだろ!? それはもう目に入れても痛くないどころか、むしろもっと入れたいくらいだ!!」

「御嬢様、カリスマブレイクされております……っ」

「いやお主も鼻から血流れ出ておるぞ。とんでもない量流れておるぞ」

「これは汗です」

「汗にしては随分と勢いよく流れ出る赤色ね……」

 

 これには流石の幽香もため息混じりに言わないわけにはいかなかった。

 もう、この場は別の意味で収拾がつきそうにない。

 

 ※

 

 一方、吹き飛ばされた銀時はと言うと。

 

「あらあら。いきなりこんなところまでダイナミックエントリーしてくるなんて……」

 

 飛んだ先には幽々子がいた。

 ただし、その隣には神楽も控えており……。

 

「って、なんだこれ!?」

 

 目の前てフードファイトが開かれていた。

 神楽も幽々子も、それはそれはもうめちゃくちゃ食べている。どこに吸収されていくのかわからないが、それはそれはもうとんでもない量の食事を食べている。

 

「幽々子様は食事をたくさん食べられますから……負けず劣らず、神楽さんも食べるようですが……」

 

 何処か遠い目をしながら妖夢が呟く。

 

「お前……苦労してんだな」

「わかって……くださいますか?」

「うちも似たようなもんだ……おかげで家計が火の車」

「わかります。それすごいわかります……毎日の食費を削れば、もっと他のこともできるんじゃないかって……」

「……今度、旨い酒でも飲み行くか」

「えぇ、是非とも……」

 

 二人がそうして飲み会の約束をしたところに、

 

「ギン兄様!!」

 

 とうとうしびれを切らしたフランが、銀時のことを思い切り抱きしめた。

 

「あばばばばば! どうしたフラン!! 銀さんの肋骨が悲鳴あげてるから力緩めて!! カリスマじゃなくてボーンブレイクしちまうからぁああああああ!!」

「私とっても寂しかったんだよ!? なのにギン兄様ってば、他の女の人とばかり話してて、あろうことか入るときには、知らない女の人に抱き着かれてデレデレしてて……っ!!」

「あれ見てたの!? いやちげぇからね? 俺何も悪くねぇからね? 銀さん幽香に遊ばれてただけだからね?」

「その割にはアームストロング砲発射準備してたネ。女の目は誤魔化せないアル」

「テメェはフードファイトに勤しんでろ神楽ぁあああああああああああああ!!」

 

 恐らく銀時は、異変解決よりも相当過酷な修羅場に突入しているに違いない。

 

 ※

 

 閑話休題。

 とりあえず何とかフランを落ち着かせた銀時は、ようやっとまともな話を展開出来るようになる。ちなみに、『今日は絶対フランと一緒に寝ること』ということで何とか落ち着いたのだとか。

 ちなみに、幽々子と神楽はまだ食べている。彼女たちの顔が見えなくなるのではないかと思われる程、大量の皿が積み上がっていた。

 

「あいつ確か今回の異変起こした張本人だよな? 参加者より食べてねぇか? おかしくね? あいつの胃袋宇宙なの?」

「闇のフードファイトに出たら間違いなく連戦連勝な気はしますけど、さすがに地球レベルで収まって欲しいです……」

「流石に私でも、あれだけ食べるのは無理……」

 

 見たこともない程の食事量に、フランですら動揺するレベルだった。

 

「銀時さん……今回については本当に色々感謝しております。貴方がいなければ、もう少しで私達はとんでもないことをしでかす所でした……」

 

 深々と頭を下げる妖夢。彼女は今回の一件において、唯一止められる立場にいた筈なのに、それが出来なかった。幽々子のことを第一に考える彼女にとって、それは出来ないことであったからだ。

 

「解決したんだからそれでいいだろ。宴会開いてチャラにもなってる筈だし、それで十分なんじゃねえか?」

 

 対する銀時は、過ぎたことだと気にする様子はない。

 しかし、妖夢の顔は晴れない。

 銀時に抱きついているフランもまた、複雑そうな表情を浮かべている。

 

「……教えをいただいた私が言うのもどうかと思いますし、差し出がましいとは思いますが、これだけは言わせてください」

 

 妖夢は真剣な眼差しを銀時に向け、そしてこう言い放つ。

 

「もっと自分のことを大切にしてください」

「……」

 

 銀時は何も答えない。

 妖夢の言葉にフランは賛同しているようで、心配そうな眼差しを向けながら、じっと銀時を見つめている。

 

「その生き方は大変立派だと思います。事実、自分の身を犠牲にし、他者を最優先にする生き方を真似するのは相当難しいことです。どうしても最終的に我が身が恋しくなってしまいます。けれど貴方は……誰かを先導し、誰よりも前に立とうとしますね。以前の戦いでそのことを認識させられました。だからフランさんはこうして貴方を敬愛し、他の方もまた貴方のそばに居続けるのではないですか?」

 

 妖夢の言葉は恐らく正しい。

 坂田銀時が師として追従したのは、後にも先にも吉田松陽のみ。基本的に彼は前に立ち、誰かを引っ張り上げようとする。だからこそ彼の後ろは常に着いてくる者がいるとしても、彼の前には人はいない。後ろから押し上げることは出来ても、前から救い上げることは出来ない。それが、坂田銀時という男の生き様だった。

 

「ですが、その生き方は美しく、そして残酷です……貴方の生き様は、誰かを助ける事は出来ても、救うことが出来ずに取りこぼしてしまう危険性すら孕んでいます……これは幽々子様が仰っていたことです」

「幽々子が?」

 

 思いもよらぬ者の名前が出てきて、銀時は少し驚いてしまう。

 

「幽々子様は、人を見るのが得意ですから。普段はああして飄々としておりますが、本来の幽々子様は……」

「まぁ、なんとなく想像出来る。ったく、幻想郷ってのは意外な一面を持つ奴らが多い場所だなぁ、ったく」

 

 頭をかきながら銀時は呟く。

 

「そんな幽々子様が仰っていました。貴方が誰かを助ける度に、傷付いてしまう者もいる、と」

「…………」

 

 心なしか、フランの銀時を抱き締める力が強くなる。それはまさしく、今回でいえばフランのことだと思わざるを得なかった。

 それだけでなく、銀時は問題を一人で抱えてしまうことが多い。そして、彼は彼の周りに生きる者を『守る』のだ。たとえそのために、自分自身がどれだけ犠牲になろうとも御構い無しに。

 

「貴方は残される人のことも考えるべきかと……でなければ、今後も貴方は、誰かを守る度に誰かを傷つけることに……そんな貴方を、私も、フランさんも、そして他の方々も、見たいとは思いませんよ……?」

「……まぁ、肝に命じておく」

 

 その答えに満足したわけではないが、とりあえず意見の一つとして消化してくれた銀時にホッとため息をつく妖夢。

 対するフランは、銀時のことをじっと見つめて、

 

「……ギン兄様。約束して。もうあんなことをしないって。自分を犠牲にしないって……」

 

 目には薄っすらと涙が溜まっている。

 銀時は頭をがしがしと掻きむしった後に、

 

「……約束なら、仕方ねぇな」

 

 と、彼女の頭を優しく撫でるのだった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十九訓 守る事と救う事は根本的に違う

 



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第四十訓 男はいつでも世話の焼ける奴が多い

 宴が行われている裏側。

 紫は一人、紅魔館2ndGの屋上にて歌舞伎町を一望していた。忙しなく歩き回る人々を見て、彼女は思わず微笑んでいた。

 

「相変わらずそうやって一人物思いに耽るのが好きね、紫は」

 

 そこに、一人の女性ーー西行寺幽々子が現れる。

 

「どうしたのかしら? こんなところまで来て」

「……貴女が気付いていないわけがないけれど、念の為報告しようと思って」

 

 一度幽々子は前置きをおいて、そして告げる。

 

「幻想郷における生死の概念が曖昧になってきているわ……私が蒔いた種であることは自覚しているけれど、それでも今、あの世界は死者が現れる可能性を孕んでいる」

 

 きっかけは西行妖。

 一度冥界に集められた『春』が解放されたことにより、冥界にあった西行妖の力の一部もまた、幻想郷に流れ込んでいた。それは即ち、幻想郷という場所において死者の存在が現れる可能性を秘めていること。わかりやすく言えば、幽霊が出る可能性があるということ。

 元より幻想郷は、『外の世界で忘れ去られた者』が辿り着くか、『自らの意思で行こうとする者』が訪れるか、『誰かの力によって招待された者』が巡るかのどれかでしかない。そして、幻想郷における『冥界』とは元々は『幻想郷で死んだ者』が辿り着く場所であった。

 だからこそ、幽々子は一つのことが気がかりとなった。

 

「そして、貴女が行ったエゴにより、幻想郷と『この世界』は繋がった……だからこそ、坂田銀時がかつて斬り伏せた者の亡霊が、西行の誘いによって招かれた……」

「そうなるわね……元々意識して行ったことではないけれど、副産物としてそのような現象が起きてしまうとは誤算だったわ」

 

 やはり紫も、その事実に気付いていた。

 本来、幻想郷に『岡田仁蔵』という人物は存在しない。しかし、実際に銀時は彼と対峙している。

 

「過ぎてしまったことを変える事は出来ないけれど、注意することは出来るかと思って……だから紫。私から一つお願いがあるの」

 

 紫の目を真剣に見つめつつ、幽々子はとあることを依頼する。

 それは……。

 

「坂田銀時に気を付けて。彼、放っておくと何をしでかすか分からない」

「……それは敵として彼を認識しろ、ということかしら?」

「そうじゃないわ。むしろ彼は幻想郷をより良くしてくれる存在だと思っているわ。だけどその生き方は、酷く歪よ……彼は助ける事は出来ても、救う事は出来ない。いずれその生き様が、より多くの人々を傷付けることになる。貴女もそのことに気付いているでしょう?」

「……そうね。褒められた生き方では無いと思うわ。幻想郷を取り巻く現状を前にして、彼は取り返しのつかないことをしてしまうかもしれない。そうなってしまっては元も子もない……」

「何より、今の幻想郷には彼が不可欠よ。妖夢も導いてもらいたいと願っているし、吸血鬼の少女なんて、彼が死にかけただけで精神が崩壊しかけた程よ? 博麗の巫女もまた、彼に惹かれつつある……こんな状況で、いつまでも今の生き方を続けさせていいものかしら?」

「流石は昔馴染みね。そこまで坂田さんのことをしっかり見ているとは」

「あらあら、それはお互い様ではなくて?」

「「……うふふふふ」」

 

 今や幻想郷において、坂田銀時の存在は必要不可欠。いることが当たり前となっている。それは逆に、坂田銀時が何らかの要因によって幻想郷を取り巻く環境からいなくなってしまった場合、どうなってしまうのか予想をすることが出来ないことを意味していた。

 

「まったく、困ったお方ですわね。幻想郷を取り巻く女性たちを次から次へと虜にしていくなんて。まさか紫までもとは思わなかったけど」

「それはこちらの台詞よ。幽々子だって同じじゃない」

 

 そうして二人は会話を続ける。

 銀時が与えた影響というものが、果たしてどれ程大きなものであったのだろうか。

 

 

 宴も終わり、その夜のこと。

 紅魔館メンバーはそのまま2ndGへ居残り、他のメンバーはほぼ全員帰っていた。帰っていないのは、フランと一緒に寝ることを約束した銀時と、住み込みバイトの長谷川のみ。神楽も新八も、月詠や猿飛も帰っていた。

 銀時と長谷川は、二人で杯を交わしていた。

 

「にしても銀さん、まさかこんな日が来るとは思ってなかったぜ」

「俺もだよ、長谷川さん。今回のバイトは長続きしそうで何よりじゃねえか」

「紅魔館のみなさんがいい人ばかりだからなぁ。給料もいいし、これで生活困らねぇぜ」

 

 おちょこに入れられた日本酒を煽り、空いたら注いでいく。そんな流れを繰り返す二人なのだった。

 

「まぁ、何より咲夜さんも含めてみんな可愛いんだよ!」

「ナイフで後ろから刺されないように気をつけろよ長谷川さん。特にフランに近づこうものなら、シスコン吸血鬼がどう出るかわかったもんじゃねえ」

 

「私がどうしたって? ギントキ」

 

 ちょうどその時、たまたまその場を通りかかったレミリアが、満面の笑みを浮かべつつ二人に近づいてくる。

 

「お、御嬢様!!」

 

 慌てて酒を飲みほした長谷川は、服を整えて頭を下げる。

 

「良い。今は勤務時間外だろう。宴会での働きぶり、ご苦労。私はこの後ギントキと話があるから、少し二人きりにさせてはくれないだろうか」

「わ、分かりました!」

 

 挨拶をすると、長谷川は杯を持ったままその場を後にする。

 長谷川が座っていた席に、レミリアが座る。自然と銀時とレミリアが横並びになった。

 

「私にもその酒、もらえないか?」

「いいけど、これ日本酒だぜ? おめぇの好きなワインとは違うけどいいのか?」

「いいんだよ。せっかくギントキと酒を飲むんだ。お互い同じものを共有した方がいいだろう」

「分かったよ」

 

 レミリアに催促される形で、銀時は杯を用意して、その中に日本酒を注いだ。

 レミリアはそれを一瞥した後、ゆっくりと口につけた。

 

「……なる程。こう言った酒の楽しみ方もあるのか」

「まぁな。ワインもいいが、こういう酒も悪くねぇだろ? 特に、こうして月を仰ぎ見ながらの酒っていうのも、なかなか乙な物だろう?」

「そうね。それは確かだわ」

 

 にこっと微笑みながら、レミリアは言葉を返す。

 

「……ねぇ、ギントキ」

「あ?」

「今回の一件で、フランがアンタのことをどれだけ大事に想っているのか。流石のアンタも理解しているでしょう? それが家族愛で収まらないことも」

「……」

 

 銀時は言葉を発しない。沈黙を肯定と捉え、レミリアは話を続ける。

 

「あの子はまだ幼いの。だから、自分自身でも感情に名前を付けられていない。だけど、私達から見ればそれは明確な『恋』だと考えている。今はそのおかげで抑えられている部分もあるが、それは危険も孕んでいる。ギントキもそれに気付いているんじゃないか?」

「……流石はシスコンだな。よく妹のこと見てるじゃねえか」

「当然だ。私はフランの幸せを祈っている。だからこそ、これだけは伝えたいと思った」

 

 真剣な眼差しを向けつつ、レミリアは銀時に、今最も伝えなければならない言葉を伝える。

 

「お願いだ。どんなことがあろうとも、『自分から死にに行かない』ことを約束して欲しい。このままでは、ギントキが死ぬ『運命』に辿り着いてしまう」

「……能力で、何か見たのか?」

 

 彼女の能力では、その過程として他人の運命を覗くことが出来る。故にレミリアは、今のままの状態でギントキがいずれ辿ることとなる『運命』を導いてしまった。そしてそれを変える為に、彼女はその第一歩として、その運命の存在を銀時に伝えた。

 

「いずれ辿る地獄よ。アンタはこのままでは、間違いなく死ぬ。それがいつなのかは私にも分からない……だけど、私はこんな運命を変えたいと思うの。だから……フランの為にも、私達の為にも、『自分から死にに行かない』と約束して欲しい」

 

 懇願の言葉。

 しかしそれは、レミリア個人のお願いだけではなく、『姉』として、『紅魔館の主人』として、すべてを込めた約束であった。

 銀時は少し考える素振りを見せて、その後でこう告げる。

 

「散々言われたからな。これからは『生きる』ことを前提にして考えてやらぁ。だからまぁ、安心しろよ」

 

 酒を飲み干して、杯をテーブルの上に置き、そして銀時はその場を後にする。

 残されたレミリアは、彼の背中を見てポツリと呟く。

 

「まったく、世話の焼ける男ね……」

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十訓 男はいつでも世話の焼ける奴が多い

 

 




これにて春雪異変篇は一先ず終了となります。
恐らく、この世界の幻想郷につきましては、彼がもたらした影響というのはとてつもなく大きく、かつ、最早いなくてはならない中心になっているのではないかと考えながら書いたエピソードとなりました。
次回からは『ポロリ篇その弐』をお送りしますー。


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ポロリ篇その弐
第四十一訓 良い教育者は子どものことを大事に考える


ポロリ篇その弐、スタートです!


 銀時は、宴会が終わったその日の夜、フランとの約束通りに一緒に寝ることとなった。今回の件で相当色々溜まっていたのか彼女からのスキンシップはいつも以上に激しく、危うく銀時の心はへし折れてしまうのではないかと思われたが、鋼の意思でなんとか堪えたとのこと。

 そしてそんな激動の一日から数日が経過したある日のこと。銀時達万事屋メンバーは幻想郷の人里を歩いていた。

 

「珍しい依頼もあるものですね。寺子屋で一日代講をお願いしたいっていう」

 

 歩きながら、新八が今回の依頼について話す。

 いつものようにぐうたらしていた彼らの前に現れたのは、何やら少しだけ困ったような表情を浮かべる紫だった。彼女の話によると、『人里で寺子屋の一日代講講師が欲しいとの相談を受けた為、お願い出来ないか?』というものだった。

 とは言え、銀時達に講師経験がないのは百も承知である為、実質子ども達の面倒を一日見て欲しいという中身の依頼だった。

 こうなったのにも理由があり、元々寺子屋の先生として勤めている『上白沢慧音』が、たまたま外せない用事が急に入ってしまったとの事なのだ。授業前にある程度の説明はあるそうで、生徒が来る前に集まる事となっている。報酬についても慧音からきちんと出されるとのことで、銀時達にとっては引き受けるのに十分な依頼だった。

 

「まぁ、ガキの面倒見るくらいならなんとかなんだろ。流石に丸々授業してくれって言われたら俺達もどうしようもなかったけどな」

「滅多にない経験だから楽しみアル!」

 

 神楽の頭の中ではおそらく、遊んで給料がもらえるという図式が成り立っているのだろう。確かにそういう風にこなすとも出来るだろうが、そう上手くいくのだろうか。

 

「っと、やっと着いた……」

 

 ポツリと呟いたのは銀時だった。人里に入ってからもそこそこ歩いていた一同は、目的地である寺子屋まで到達する。

 ここまで様々な店を見てきた一同だったが、歌舞伎町に並んでいる店とそこまで大差ないように見えた(実際には機械とかがある分歌舞伎町の方が発達している)。

 寺子屋に来た瞬間、

 

「……」

 

 銀時の脳裏に、かつての記憶が蘇る。かつて自分が師からの教えをもらっていた頃の、大切な記憶。そんな思い出に浸っていた銀時だったが、

 

「あぁ、貴方達が万事屋ということでいいのか?」

 

 という、凛々しい声が聞こえてくる。

 その後、寺子屋から出てきた女性は、

 

「今日は本当にありがとう。私は上白沢慧音。ここの寺子屋で教師を勤めている」

 

 腰のあたりまで伸びた青のメッシュ入りの銀髪、胸元が大きく開いた上下一体の青いロングスカート、胸元に赤いリボンをつけて、頭に帽子をかぶった女性、慧音が銀時達の前に現れた。

 

「は、はじめまして。志村新八、ですっ!」

 

 新八は少しどぎまぎしている様子である。これだけ魅力的な女性であり、しかも胸元が大胆に開いているのだ。一言で言ってしまえば、可愛い上に色気むんむん。

 

「新八どぎまぎし過ぎね。童貞丸出しアル。私は神楽ネ!」

 

 息をつくようにそんな言葉が飛んできた。

 

「坂田銀時でーす。今日はよろしくお願いしまーす」

 

 口調こそいつも通りだが、心なしかいつもより表情はキリッときているように見えた。

 

「……男って本当素直アル」

 

 軽蔑の眼差しを向けながら、神楽は誰にも聞こえないような声でポツリと呟いた。

 

「ところで、仕事が始まる前にいくつか説明してくれるって話でしたけど……」

「あぁ。それについてこれから説明するよ」

 

 新八からの言葉を聞いて、慧音は説明を始める。まとめると大体以下の通りだ。

 この寺子屋は人里に作られているが、人の子も妖怪の子も教えている場所である。基本的に歴史の授業を行なっているが、時折様々な社会経験として普段は話すことのない人を呼んだり、算術や語学の勉強も行うのだそうだ。本日は、せっかくの機会なので外の世界について教えて欲しいというものと、慧音のもう一つの仕事の都合で出かけなければならないので、その間まで生徒の面倒を見て欲しいというものであった。

 基本的に各人でやらなければならないことについては既に伝えているため、その質問対応をするのと、外の世界についてのレクチャーをすればよいということになる。

 

「けど、俺たちの世界とそっちだと、少しどころかだいぶ歴史ズレてんぞ? そこはいいのか?」

 

 銀時の言う通り、幻想郷に伝わる歴史と、銀時達の住む世界で学ぶ歴史には決定的な違いがある。さらに言えば、今まで得てきた知識の多くがズレている可能性すらあるのだ。

 しかし慧音は、

 

「構わないさ。よりいろんな知識を取り入れてこそ、生徒達はより良い大人になる。だからこそ、子ども達に興味を持たせて欲しいんだ。くだらないことでもいい。よほど間違えたことを教えない限りは、貴方達に任せようと思う」

 

 そう言った慧音の瞳は、とても優しそうだった。それだけ彼女が、子供のことを大切にしているんだということを銀時たちは感じていた。

 

「……アンタ、本当に子どものことが好きなんだな」

「そうだな。子ども達は未来への宝物だ。だから、ただ単に学問を教えるだけではなく、子ども達には色んなことを学んで欲しい。ちょうどその時、貴方達のことを知ったのよ」

「そこまで言われちゃ仕方ねぇな……」

 

 慧音の目を見て、銀時は頭を掻き毟る。

 彼女は何処までも真っ直ぐだ。生徒の為なら、どんなことだってするのではないかと思われる程、教育者の鑑とも言える存在。

 銀時達にしてみても、そんな彼女の手助けになりたいと思った。

 神楽と新八の二人も、銀時に続いて頷いて見せる。

 

「任せろよ。この万事屋、アンタの大事な生徒を一日、責任持って預かるぜ」

「あぁ……ありがとう」

 

 こうして、万事屋による特別授業が幕を開けることとなるのだった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十一訓 良い教育者は子どものことを大事に考える

 

 



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第四十二訓 その人を見定める時は子どもの反応を伺うとよい

 そんな訳で始まった、万事屋による一日講師なのだが。

 

「おいみんな席付けー。今日一日限定で先生を勤めることとなった銀八先生だぞー。何か分からないことがあったら、後ろに控えているチャイナと眼鏡に聞いてくれー」

「いきなり出鼻くじかないでもらえます?」

「おい職務放棄すんなヨ天パー」

 

 前に立つ銀時は、原作において銀八先生のコーナーを行う時に着ている服装。神楽と新八は後ろでアシスタントをするという形式をとっている。

 つまり、謎に煙が出ている物体を銀時改め銀八は咥えているわけで。

 

「せんせー、タバコ咥えないでくださーい」

「これはタバコじゃありません。ペロペロキャンディを超高速でレロレロしてるから、摩擦で煙が出ているだけです。人体には無害なので安心しなさい」

 

 恐らく人里の子供であろう男の子より指摘された銀八は、ペロペロキャンディと言い張っていた。

 そんな彼を指差して、

 

「あー! 銀さんなのだー!」

 

金髪の少女――ルーミアが喜びの声を上げていた。

 

「ん? あ、ルーミアか。元気にしてたか?」

 

 銀八の前で嬉しそうに跳ねているのはルーミアだった。

 ここは妖怪も通う寺子屋。そして彼女は見た目こそ子供。恐らく精神的にも子供なのかもしれない。なら、ここに通っていても何ら違和感はないということなのだろう。

 

「元気なのだー。それに、私はあの時のお礼、まだ言えてなかったから」

「あの時? ……あ、もしかしてお前、起きてたのか?」

 

 思い出されるのは、紅霧異変でのこと。あの時、魔理沙のマスタースパークによって気絶してしまったルーミアを、銀時が優しく介抱したのだ。その時のことをルーミアは覚えていて、そして、今の今まで会うことが叶わなかったのだ。

 

「本当にありがとう。おかげで私は、すぐ帰ることが出来たのだー」

「そうかい……そりゃよかった」

 

 優しく頭を撫でる銀八。

 ルーミアは嬉しそうに笑っていた。

 

「せんせー、すごいやさしそー」

 

 その時、授業を受けている生徒の一人が、そんなことを言ってきた。

 後ろでは、

 

「……あれが銀さん? 嘘だ、僕達は夢を見ているんだ」

「銀ちゃんが女の子に優しくしているなんて、何か悪いものでも食べたに違いないネ……」

 

 全然銀時のことを信じていない二人の姿があった。

 

 

 ルーミアの一件もあり、最初の時間は質問タイムということになった。

 

「はい、というわけで聞きたいことがあったら何でも聞いてくれー」

「はい!!」

 

 元気よく手を上げたのは……。

 

「……お前まで通ってんの? バカ」

「バカって言うな! あたいにはチルノって名前があるんだ!!」

 

 愛すべきお馬鹿こと、チルノの姿がそこにあった。

 

「はいはい。で、何を聞きてぇんだバカ」

「それが先生の言うことかー! おうぼうだー!」

「お、おちついて、チルノちゃん……」

 

 チルノの横では、オロオロしながら大妖精が止めようとする。その姿はどことなく癒しに思えるし、健気に頑張っている姿は応援したくなる。

 

「とりあえずあたいと勝負しろー!」

「質問じゃない。次」

「ばっさり切り捨てられた!?」

 

 ガーン! という効果音が似合いそうな程、チルノは膝から崩れ落ちていた。

 

「あぁ、チルノちゃん大丈夫!?」

 

 横では大妖精がフォローしている。

 何とも微笑ましい光景だろう。

 

「銀さん、チルノちゃんに何か恨みでもあるんですかね……随分容赦ない気がするんですが」

「あれだヨ新八。さっちゃんに対する対応と似てるネ」

「あー……確かに。適当かつ雑で、容赦ない」

 

 恐らく、銀八の中でチルノに対する扱い方が固定されているのだろう。だからこそ、バカネタを押し通しているのかもしれない。

 

「はーい、次は私なのだー」

 

 今度はルーミアのターンだった。

 

「お、次はルーミアか。なんだ?」

「かめはめは、ってなんなのだー?」

 

 瞬間、銀八の身体からオーラみたいなものが放出された(単純にあの時のことを思い出して恥ずかしさがぶり返しただけである。決して『気』ではない)。

 

「うぉおおおおおおおおおおおお! それを思い出させないでくれぇえええええええええ!!」

「アンタまたかめはめ波の練習してたんかいぃいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 ここぞとばかりに新八のツッコミが炸裂した。

 

「ルーミア、世の中にはナ、知らない方がいい真実ということもあるネ」

「そーなのかー?」

「そーアル。だから聞かないであげて。あれはおっさんの悲しい一人遊びアル」

「やめろぉおおおおおおお! これ以上俺の心の穴を抉ってくるなぁあああああああああ!!」

 

 銀時のライフは既に限界まで到達していそうだ。

 

「まぁ、とにかくこのまま質問させてっと、俺の心が持ちそうにねぇから……テメェら!! 外で鬼ごっこだこのやろうぅううううううううう!」

「わーい!」

 

 子ども達が、銀八に続いて外へ出る。

 どうやらこうして外で遊ぶのは久しぶりのようだ。

 

「銀さん、外で遊ぶのもいいですけど、この子達の課題をやる時間も忘れないでくださいよー!」

「分かってるっての!」

 

 はしゃぎ回る子ども達に押されるように、銀八――いや、銀時は外へ出る。その際、ルーミアは銀時の手をしっかりと握っていた。

 

「今こそ、あたいがさいきょーだっていうことを証明してみせる!」

「チルノちゃん、がんばって!」

 

 チルノと大妖精の二人についても、今この状況を楽しんでいるようだ。

 神楽も一緒になって遊び回っている。

 見張っていた筈の新八さえも、一緒になって楽しんでいた。

 銀時が先導し、彼らが一緒になって遊び回っている図は、他人から見ても楽しそうな光景に見えた。

 

 

「なる程な……彼には人を惹きつける何かがある、というわけか」

 

 寺子屋で銀時達が楽しそうにはしゃいでいる姿を見て、慧音は嬉しそうに言葉を零す。その隣には、白髪のロングヘア―に赤いリボンをつけ、城のカッターシャツと赤いもんぺのようなズボンをはいた女性――藤原妹紅がいた。

 

「慧音も人が悪いなぁ。外来人である坂田銀時のことが知りたいからって、わざわざスキマ妖怪の力を借りてまで、こうして試すようなことをして」

 

 元々、彼女に仕事があるという話自体は嘘ではなかった。しかし、その用事自体は寺子屋での授業が始まる前に完了していて、普通に帰っていれば間に合う位のものだった。それでも彼女が万事屋に依頼したのは、

 

「彼が敵となる可能性を持っていたら、今からでも乗り込むつもりだった……」

「だけど、そうは見えないぞ? そんなに器用な奴には見えない。どうしようもなくチャランポランに見える筈なのに、子ども達はあんなに楽しそうにしている」

「子どもは大人よりずっと素直。そんなあの子達があそこまで信頼しているということは――」

 

 それは即ち、坂田銀時という男を信用していいという何よりの証拠となる。

 

「……仇為すようであれば、二度と人里に――いや、幻想郷に入れないつもりだった。違うか?」

「妹紅の言う通りよ。けど、気が変わったわ……」

 

 銀時の方に視線を向けながら、慧音は告げる。

 

「あの人がどう動いていくのか、見守っていくわ」

 

 そうして、銀時達万事屋の一日講師代講キャンペーンは、幕を降ろしたのだった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十二訓 その人を見定める時は子どもの反応を伺うとよい

 

 




寺子屋のエピソード終了でござんすー。
今回は、新たなヒロインとしてルーミアさんが出てきましたよ回でした!!
そして、次回の異変に向けて少しずつ新たなキャラも登場していきますねー。


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第四十三訓 念のため許可はとっておけ

 寺子屋での依頼を終えた帰り道。

 辺りもすっかり暗くなり、大きな月が空に広がる中。

 歌舞伎町へと帰る為に博麗神社へと戻ってきた銀時達だったが、

 

「おぅ! 待ってたよあんた達!」

 

 そんな時、鳥居の前で女性に声をかけられた。

 薄茶色のロングヘアーを先の方で一つにまとめ、真紅の瞳、白のノースリーブに紫色のスカートを履いた女性。一見すると普通の女性なのだが、

 

「いつまで待っても来ないから、少し飲んじゃったよー!」

 

 その頭から、長くてねじれたような角が生えている。

 

「お前、誰だよ?」

 

 訝しげな表情を浮かべながら銀時は尋ねる。

 対する女性は、手に持つ瓢箪を口元に寄せ、そこから酒を飲んだ後で、一言。

 

「私は伊吹萃香。さぁ、宴会をはじめよう!!」

 

 幻想郷に帰ってきた鬼は、曇り一つない満面の笑みで、嬉しそうにそう提案してきたのだった。

 

「……は? 宴会?」

 

 思わず銀時はぽかんと口を開けてしまう。異変解決が終わったわけでもないのに、何故か唐突に宴会がしたいと申し出る萃香。そもそも宴会自体はそんな理由がなくても行うものではあるのだが、それにしたって随分といきなりだった。

 

「そう、宴会だよ! こんなにも綺麗な月なんだ! だったら月見酒でもしなきゃ勿体無いだろう?」

 

 よく見ると、すでに顔は赤くなっている。確実に酔っているのが分かった。

 そんな彼女を見つつ、新八は尋ねる。

 

「銀さん、幻想郷ではこれがデフォルトなんですか?」

「んなわけねぇだろ? いくら常識を捨てた方がいいっつっても、俺達と同じ世界観でも生きていけそうなやつがデフォってわけじゃねえはずだ」

「確かにアイツ、こっちでも活躍しそうネ。酒飲み回とかで大はしゃぎするタイプアル」

 

 いつまで経っても歩き出さない銀時達にしびれを切らせたのか、萃香は銀時達に近付いてくる。そして銀時の手を掴み、一言。

 

「もう、つれないじゃないかー。鬼の酒は飲めないってのか?」

「いや、そういうわけじゃねえし、なんなら酒は好きなんだけどよ。そもそも何処で飲むんだよ?」

 

 宴会開くにしても、そもそもの話場所がなければ何も始まらない。酒についても同様だろう。

 しかし萃香は、その疑問に対してあっさりとこう答える。

 

「え? ここにあるじゃん?」

 

 指差した先にあるのは、博麗神社。

 

「お前……ここで飲もうってのか?」

「そうだよ? まぁ霊夢なら許してくれるだろう、『宴会やるよ☆』って言えば」

「いやどうにもなりませんからね!? それもうただ単に迷惑かけに行ってるのとなんら変わりないですからね!?」

 

 悪びれる様子もない萃香に、新八からの強烈なツッコミが入った。

 

「五月蝿いわね……早く帰るならさっさと……って、萃香?」

 

 あまりにも五月蝿かったからか、眠そうな目をこすりながら霊夢が出てきた。そして萃香の姿を見た時に、『げっ』みたいな表情を見せていた。

 

「霊夢! 宴会しようぜ!☆」

「いやそんな何処ぞのモンスターマスターみたいに言われても私眠いんだけど」

「酒飲めば上手いこと眠れるようになるよ?」

「いやいや、アルコール摂取した後に寝ると効率良くないわ。眠い時は寝るに限るの。だからおやすみ」

「えー、せっかく外来人達も飲むって言ってるんだからさー」

「いや言ってねぇよ? 何勝手に決めつけてんの? 第一新八と神楽飲めねぇよ?」

「あー……銀さん、後のことはよろしく頼みましたよ?」

「私も眠いからそろそろお暇するアル。あまり飲みすぎるんじゃねえゾ。居間をゲロまみれにされたらぶち転がすアル」

 

 新八と神楽は、銀時を置いてさっさと帰ってしまった。

 

「おぃいいいいいいいい!! 何ナチュラルに置いて帰ってんだよアイツらぁあああああ!!」

 

 銀時もそれに乗じて帰ろうとするも、萃香がニコニコしながら銀時の腕をつかんでいるため、動くことが出来なかった(しかも鬼の力で掴まれているため、余程のことがない限り解けない)。

 

「どうしたんだ? そんなに慌てて」

「いや、もう夜も遅いし帰ろうかと……」

「なんだい? 私との酒は飲めないと?」

「いやだからそうは言ってないって」

「じゃあ飲むしかないじゃん?」

「そんなことないじゃん?」

「たとえ霊夢が来てくれなくても、私は二人きりで飲むじゃん?」

「そんなこと聞いてないじゃん?」

 

 二人のやりとりを見て、霊夢はぷるぷると身体を震わせる。そしてとうとう我慢出来なくなったのか、

 

「分かった! 分かったわよ! 酒ならあるからうちで宴会やるわよ!」

「そうこなくっちゃ!」

 

 嬉しそうに中へと入っていく萃香。

 解放された銀時は、

 

「いってぇ……助かった……どんだけ馬鹿みたいに力入れてやがるんだあの女……」

「……ほら、行くわよ」

「え?」

 

 銀時の手を握って、中へ連れていく霊夢。その表情は、不機嫌なのに、少しだけ嬉しそうだった。

 

 ※

 

「宴会と聞いて!」

「帰れマスゴミ」

「酷くないですか!?」

 

 中に入った銀時と霊夢が最初に出会ったのは、カメラ片手にニコニコしてる文だった。もちろん、今この瞬間も撮影していたわけで。

 

「ほほう……ところで霊夢さん、今この瞬間を写真に収めてしまったんですがね?」

「何してんのよ、ちょっと」

「これは明日の新聞が厚くなりますなぁ!」

「ならねぇよ。俺達の怒りが熱くなるだけだよ」

 

 元々マスコミに対してあまりいい印象を抱いていない銀時と、手を繋ぎながらエントリーする様子を撮られた霊夢。二人の写真が大々的に載せられたら、修羅バトルが開催されることまちがいないだろう。

 

「あやや、まぁまぁ今日は宴会らしいですし、パーっといきましょうよ!」

「つか、俺達宴会やるってさっき聞いたんだけど? 誰から聞いたの?」

「え? 紫さんですけど?」

「「あのやろう……」」

 

 二人の怒りがシンクロした瞬間であった。

 

「家主に断りも入れずに宴会ぶち込むなんて……」

「ちなみに、もう結構な人達がいますよ?」

「いつの間に準備してるのよ」

「咲夜さんが急ピッチで」

「ちょっと待て。え、紅魔館の奴らもいるの? なんでそんな用意周到なのテメェら」

「前回の宴会に来た人たちは大体来てると思いますよ?」

 

 これには銀時と霊夢も目を合わせる他なかった。

 いくらなんでも、宴会までの道のりが早すぎる。準備はもちろんのこと、そこまで人をかき集められたことも、何より、家主の許可なく勝手に結構な人数が入っていることも。

 

「なんで私には何一つ報告がないのよ……」

「そりゃ、言うと断られるかと思いまして」

「当たり前じゃない!? 異変後でもないのにそう頻繁に宴会なんてやってられないわよ!?」

 

 霊夢の意見はごもっともだった。

 

「まぁまぁ、そう怒らないで〜、今は酒飲む時間だぞ?」

 

 そういって現れたのは、酒瓶を片手に持った萃香だった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十三訓 念のため許可はとっておけ

 




今回はギャグ回です、たぶん!


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第四十四訓 飲み会の場では節度をわきまえるべき

「なんでテメェはさっきよりベロンベロンになってんだよ」

 

 アルコールの匂いをぷんぷんさせて、より一層顔を真っ赤にしながら、ニヘラニヘラと笑っている萃香。誰がどう見ても酔っ払っている彼女は、銀時を見つけるなり、

 

「よーう、銀の時〜、まだ酒が飲み足りねぇんじゃないの〜?」

 

 と言いながら、あろうことか抱き着いてきた。

 

「なっ!?」

 

 これには、近くにいた霊夢は殺意の波動を隠しきれていない。銀時はアルコール臭さによって離れろと対抗しており、文は相変わらず写真を撮りまくり。

 

「ってか、何処ぞの指名手配犯みてぇな呼び方すんじゃねぇよ! そして離れろ!! 酒飲めねぇだろうが!!」

「ん〜? なんださけのみてぇのか〜?」

「おめぇが足りねぇのかとかほざいてたんだろうが!!」

 

 酔っ払いを相手に最早会話は成立していない。

 

「ちょっと萃香、離れなさいよ!」

 

 ブチ切れ寸前の霊夢が、銀時から萃香を引き剥がそうとするも、元々の力が強すぎてなかなか離れない。むしろどんどん力が強くなっていくので、その度銀時の身体は悲鳴を上げていく。

 

「あああああああああああ!! やめろおおおおおおおおおおおお!! リバースしちゃう!! リバースするとこ見られちゃうぅううううううううう!!」

「特ダネ☆特ダネ☆!!」

 

 はっきり言おう。

 宴会始まって数分にして、最早地獄が広がっていた。

 

「何やってるんだぜお前達……」

 

 そこに、呆れた表情を浮かべている魔理沙が登場。横には、同じく『何やってんだこいつら』という表情を貼り付けてきたアリスの姿もあった。

 

「たすけてぇえええええええ!! このままだと銀さんの大事なものが奪われるぅううううううううううう!!」

「いやその反応おかしいぜ!? やばそうなのは分かるけど、大事なものってなんだぜ!?」

「それに助けてと言われても……抱きつかれて嬉しそうにしか見えないのだけど……」

 

 魔理沙はいつものとおりにツッコミを入れ、アリスは何処かずれた感想を述べていた。

 

「魔理沙、アリス……こいつら、殺るわよ?」

 

 たちの悪いことに、殺意の波動に目覚めた霊夢が、ドスの効いた声で二人に告げる。

 視線の先にいるのは、萃香、銀時、文。

 

「あやや!? 私もですか!? 何故!?」

 

 文目線で見れば完全にとばっちりなのだが、客観的に彼女の動きを見た場合、明らかに自業自得であろう。他人の不幸は蜜の味と言わんばかりに、猛烈な勢いで写真を撮りまくっていたのだから……。

 

「まてぇええええええ!! 俺に関しては完全にとばっちりじゃねえか!!! 抑えろ!! ってかまず離れろぉおおおおおおおお!!」

「もうめちゃくちゃだぜ!?」

 

 その場を収拾させるのに相当の時間がかかったのは言うまでもないだろう。

 

 ※

 

 地獄のようなひと時から解放された銀時。全身から冷や汗を垂れ流し、肩で息をするような状況。

 

「感謝なさい。何とか収めてあげたんだから……」

 

 呆れながらそういうのはアリスだった。

 あの後、主に第三者であるアリスのおかげでその場を何とか取り持った。尚、文に関してはカメラが壊されると察したのか、事が起きる前に逃走していた。逃げ足は本当に速いのである。

 魔理沙は現在、霊夢を宥めている所だ。萃香は他の人に絡みにいっている。

 

「たすかったぜ……何度か川が見えちまった……見知らぬジジイとババアが満面の笑みでこっち見てやがった……」

「それ完全に三途の川じゃない。アンタ完全に死にかけてるじゃないの。よく戻ってこれたわね」

 

 何度か溜息を吐きつつ、アリスがそう言った。

 

「にしても、確かアリスだったか? あの修羅どもをよく止められたな」

「前にも言ったけど、私は人形を遣う魔法使いなのよ? いくつか人形用意して、命令通り動かしただけよ」

「そんなこと出来るのか……」

 

 魔法使いと言えば基本的に魔理沙を見る機会が多かった銀時にとって、魔法はぶっ放すものというイメージがついていた。しかしその実、アリスがやったことに関しては火力よりも精度が問われる物。それだけ器用であるということが証明されていた。

 

「魔理沙を魔法使いの基本として見られては困るわ……あの子は人間にしては凄いけど、魔法使いとしてはまだまだこれからよ」

「へぇ……そういや魔理沙やお前って何処に住んでるんだ?」

 

 よく博麗神社に来る姿は見られるが、何処に住んでるのかを聞いたことがなかった為、銀時はふと気になって尋ねた。

 

「私達は魔法の森に住んでるのよ。今度来てみる?」

「え、いいのか?」

 

 やけにあっさりと許可が下りたので、銀時は思わず聞き返してしまった。

 アリスは特に気にすることもなく、

 

「別にいいんじゃない? どうせそんなにやることもないんだし、暇だから」

 

 つまり、暇つぶしも兼ねているということだ。

 

「それに、外の世界で忘れ去られた物を売ってる店もあるし、アンタの方こそ暇つぶしにはちょうどいいんじゃない?」

「そんな店もあるのか?」

「えぇ。もし興味があるなら、明日にでも行ってみる? どうせ今日は帰れそうにないし」

「え、なに、これからどんなサバトが待ち受けてんの?」

 

 何気ないアリスの一言が、銀時を恐怖のどん底に陥れていた。

 

「私もどうせ今日はここに泊まっていくつもりだったし、朝起きたら出発としましょう? 魔理沙も一緒に来るだろうし」

「そういや帰る場所一緒なんだっけか?」

「えぇ。後で私の方から魔理沙にも声かけておくわ」

 

 そう告げると、軽く手を振って、アリスはその場から立ち去った。

 明日の予定と、本日帰還不能が確定した瞬間だった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十四訓 飲み会の場では節度をわきまえるべき

 

 



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第四十五訓 誰かと共に飲む酒は格別に美味しい

 しばらくして、

 

「ギン兄様ー!」

 

 今度はフランの襲撃だ。

 フランは銀時を見つけると、一目散に駆け寄り、胸に飛びつく形で抱きついた。後ろからは、紅魔館メンバーが勢揃いしている。

 

「やぁギントキ。久しぶりだな」

「おう、元気にしてたか?」

 

 フランの頭を撫でながら、レミリアに尋ねる。最早フランが甘えるのが日常茶飯事と化しているので、このメンバーの中では動揺の文字は生まれない。むしろ微笑ましい気持ちになっているほどだ。

 

「お陰様でな。久しぶりに可愛いフランとのひと時を満喫出来た。一緒の布団でイチャコラもしたからな!!」

「なんでそこだけ妙に自信満々に言うんだよ。そんなの姉妹なら当然だろう?」

「あんなことやこんなことまで……はぁ……フランとイチャコラしたい。もっと融けあいたい」

「やべぇよ。実の妹相手に発情紛いなことしてるよ。おい咲夜からも何か言ってやれ」

「御嬢様がすごく可愛いお姿に……メニアック!!」

「鼻血吹き出すな駄メイド!!」

 

 相変わらずレミリアには弱すぎる咲夜なのであった。

 と、その時。抱きついているフランが動きを止め、くんかくんかと銀時の身体を嗅ぎ始めたのだ。そしてある程度嗅ぎ終えて、一言。

 

「ギン兄様から別の女の匂いがする……」

「待てフラン。お前どんどん吸血鬼としてもレベルたけぇことしてる。どうなってんの? なんでそこまでわかんの?」

「ギン兄様の匂いって本当に落ち着くの。だけど……その中に他の人の匂いが混じってると、なんだか嫌だ……」

 

 そう呟くと、フランはより一層銀時との密着度を増やす。それこそ、フランの匂いが銀時に擦り付けられるのではないかと思われるほど、それはもうかなりぴったりと。時折吐息が漏れる所からも、相当くっ付いていることがうかがえる。側から見ると、如何わしい事をしているようにしか見えない。

 

「い、妹様!? それは駄目です!!」

 

 流石に美鈴もそのことに気付いたのか、止めに入っていた。割とあっけなく引き剥がされたフランだったが、

 

「…………はっ! 俺は今何を!?」

 

 あまりの事態に、銀時の思考はシャットダウンされていたようだ。

 それを確認したフランは、美鈴から離れると、今度はいつものようにぎゅっと抱き着く。そして満足気に。

 

「ギン兄様は私の……誰にも渡さないの……」

 

 と、ポツリと呟いていた。

 

「フラン? フランは私の可愛い妹なんだ!!」

 

 カッ! と目を見開きながら、銀時を睨み付けるレミリア。どれだけ妹のことが大好きなのだろうか。

 

「テメェがどんだけフランが好きなのかは知ってるっての!!」

「なんだ今のは!? フランがギントキに求愛行動していたようにしか見えなかったぞ!! 私にもしてくれたことないのに!!」

「それはそれであぶねぇよな!? テメェはそれでいいってのか!?」

「私はむしろ毎晩したいぞ!!」

「夢の中に居続けろや変態シスコン吸血鬼!!」

 

 フランが抱き着いているというのに、銀時とレミリアは二人仲良く言い争いをしていた。

 そんな彼らを遠巻きに見ているのは、

 

「パチュリー様、お二人、すごく仲よさそうですねー」

「……そうね。本当、レミィはギントキの前だと、いつものカリスマが消え去るわね……本人も気付いていないでしょうけど……」

 

 パチュリーは、なんとなくそのことに気付いていた。彼女のカリスマが消えるのは、フランと銀時の前でのみ。その他の人達には、気を許している咲夜を相手にするときですらほとんどカリスマを解かない程。

 つまり、銀時は家族同然に、あるいはそれ以上に気を許せる相手であるということ、なのかもしれない。

 

「本当、サカタさんって不思議な方ですね」

「……そうね」

 

 笑顔で眺めつつ、パチュリーは心の何処かで不安もあった。今の状況は間違いなく銀時がいるおかげで生まれているもの。なら、ある日突然彼がいなくなったとしたら?

 前回の異変時、銀時はしばらく目を覚ますことはなかった。その時一番ダメージを受けていたのは、間違いなくフランだった。結局銀時が帰ってきたおかげで気を取り戻したのだが、もしあのまま帰らなかったとしたら、彼女は一体どうなっていたことだろうか。

 

「彼が中心にいすぎるこの状況……いいことだけなのかしら……」

 

 ポツリと呟かれたパチュリーの言葉は、誰の耳にも届かなかった。

 

 ※

 

 しばらくして、銀時はフラン達に一度待つように告げて、博麗神社の鳥居の前に立っていた。辺りを見渡して、そして一言。

 

「いるんだろ? 飲兵衛な鬼さんよ」

 

 すると、何処からともなく足音がして、

 

「どうしたんだい? 銀の時〜。酒が足りないのか〜?」

 

 酔っている姿を見せている、萃香が現れた。

 

「そうだな。少し酒が足りねぇのかもな。晩酌に付き合っちゃくれねぇか?」

「おっ、いいねぇ〜。よく飲む人間は好きだぞ?」

 

 そう告げると、神社の境内にある段差に座り込む萃香。銀時も彼女の隣に座り、盃を差し出した。

 萃香は手に持つ日本酒を注ぎ、自分の盃にもたっぷりと注いだ。

 

「どうだ? 『テメェが始めた宴会』は楽しいか?」

「……いつから気付いてた?」

 

 笑顔を消すことはなかったが、声色だけは少し落ちる。

 構わず、銀時は続ける。

 

「これだけの面子を紫が集めたっつったところからだな。確かにアイツなら、それだけのことが出来るだろう。けど、少し考えたらそれこそが印象操作だったってことだな」

 

 盃に入っている酒を飲み、その後で銀時は言葉を続ける。

 

「前回の宴会にいた奴らがほぼ勢揃いってのがそもそも奇跡にちけぇことなんだ。だからそれで気付いたってわけだ……にしても流石だな。ただ単に宴会がしてぇからってここまでするか?」

「あっはっは! つまり銀の時は私がどうしてそんなことしたのかも気付いたのかい!」

「オメェが最初に言ったんだろう? 『宴会しようぜ』ってな」

 

 そう。

 今日の宴会は、萃香が宴会をしたいと望んだから生まれたものだった。

 彼女の能力の一部が影響し、こうして勝手に人が集まったというわけだ。

 

「だってさ? 前回の異変のせいで花見が減ったんだよ? それじゃあつまらないじゃん? だったら宴会開けば解決じゃん?」

「こんなことしなくても、呼べば酒なんて飲めるだろうに……」

「酒を飲むのも大好きだよ? けどさ、こうしてみんなで騒いで飲むのがいいんじゃないか」

 

 盃に入れられた酒を飲み干した萃香は、一升瓶から直接酒を飲む。

 

「私はさ? 酒を飲むことが好きなんだ。一人で飲むのも、二人で飲むのも、大勢で飲むのも、どんな酒も好きなんだ。けど、どうせ飲むなら、楽しい方がいいだろう?」

 

 満面の笑みでそう告げた萃香。彼女は酒を飲むのと同時に、楽しい時間を共有したかったのかもしれない。かつては鬼として、そんなささやかな幸せすら叶わなかったのだから。

 

「……そうだな。そういうことなら、今日はとことん付き合うぜ?」

「いいねぇ。少しこうして月見酒を堪能したら、また中に戻って宴会だ!」

 

 嬉しそうに叫ぶ萃香の隣で、銀時は盃に入った酒を一気に煽る。

 

「お酌頼むわ、鬼さんよ」

「あいよ、侍さん」

 

 今宵の宴会は、そうして一晩中続いたそうな。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十五訓 誰かと共に飲む酒は格別に美味しい




次回は多分魔法の森に行きますー。


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第四十六訓 魔法の森へようこそ

魔法の森のエピソード、スタートします!


 突発的に始まった宴会から一夜明け、翌日。飲んで食べてたくさん騒いだ銀時達は、どうやら部屋の中で雑魚寝状態となっていたようだ。かといって別に物が散乱しているわけではないだけ、彼女達のモラルはある程度守られていると言っても良いだろう。

 ところで、そんな中銀時はどうしているのかと言うと、

 

「ん……」

 

 床の上で爆睡していた所で、ちょうど目が覚めたようだ。

 何やら自身の身体に、別の重みがあることに気付く。もしかしたら誰かが乗っかっているのかもしれない。そう思った銀時が、視線を下に向ける。

 

「……え」

 

 そこには、あられもない姿を見せている幽香の姿があった。

 元々スタイルの良い彼女が引っ付いて寝ていることにより、銀時の腕に二つの豊満な感触が感じられる。有体に言ってしまえば、興奮する。

 

「まじでかぁああああああああああああ!?」

 

 思わず叫んでしまう。

 当然だろう、これだけの別嬪さんが隣に居て、しかも抱き着いて寝ていると分かれば。

 銀時は男なのだ。これでアームストロング砲の準備が整わないわけがない。

 だが、幸せな時間というのはあっという間に崩れ去っていくもので。

 

「銀時ー、今日は魔法の森に……」

 

 起きて支度を済ませていたらしいアリスが、銀時と幽香の朝ちゅん現場を目撃してしまった。

 

「え、いや、あの、その、ち、ちがうんだ……」

 

 汗が止まらない。

 誰がどう見たって誤解されること間違いなしな光景。もし最初に見つけたのが文だったら、写真を撮られまくっていたことだろう。アリスだったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。

 

「……懲りないわね。急いで準備なさい」

「……え?」

 

 殴られたり、何かされるのではないかというのを覚悟していた銀時にとって、アリスがとった『スルー』という対応に目を丸くしてしまった。ただし、言葉ではちゃんと『懲りないわね』と言っていることから、誤解していることには違いない。

 

「いや、だからアリス、話を……」

「は、や、く、じゅ、ん、び、し、な、さ、い」

「はい」

 

 重々しい口調で言われた銀時は、思わず背筋が伸びる。

 やっぱり怒っていることに変わりはなかったようだ。

 

 

「いやぁ~、銀さんも隅におけないぜ! フランや霊夢だけじゃなくて、幽香まで虜にしちまうなんて! 流石は色男だぜ!」

 

 アリスに言われた通り、速攻で準備を終えた銀時は、途中で合流した魔理沙と共に魔法の森への道を歩いていた。アリスは、銀時・魔理沙コンビより少し進んだ所を歩いている。背中を見るだけで、今の彼女がどれだけ怒っているのかが窺えた。

 

「流石にフランについては分かるが、霊夢や幽香について言われるのはよく分からないんだが……」

「あれ? 銀さんって鈍感系主人公なのか? てっきりぐうたらハーレム系主人公だと思ってたぜ」

「ぐうたらハーレム系になりてぇよ……銀さん彼女出来たことねぇんだぞ? 紹介しろよ魔理沙。テメェなら知り合いの一人や……一人、いるだろ?」

「それ一人しかいねぇぜ!? 後、ナチュラルに私を候補から外しているよな!?」

「いや、だって火力だぞ? 中華料理と同じこと宣言してる奴を彼女にしろと?」

「私の弾幕を中華料理と同じにするのは勘弁だぜ!?」

 

 そのやり取りが面白かったのか、前を歩くアリスの肩が震えていた。笑いをこらえているのが見て分かる。

 

「おいアリス! 何笑ってんだ!!」

「……え? だって、魔理沙の魔法が、炒飯だって……」

「誰もそんなこと言ってねぇぜ!?」

「たくさんの具材を最大火力で一気に調理する……いいじゃねえか魔理沙。弾幕は火力が命なんだろ?」

「もうそれ私のキャラ付けだと思ってる気がするぜ!? 最近そればっかりじゃねえか?!」

「だって初登場時もぶっぱなしてたろ? てっきりテメェはそういうキャラなんだとばかり……」

「そこまで言われ続けると、流石の私も気になるからな!?」

 

 そうして馬鹿らしいトークを続けている内に、どうやら一同は魔法の森へ到着したようだ。普通の森と違い、木々が不ぞろいに生えており、所々謎のキノコが繁殖していたり、日が届かないことから薄暗さも感じる。ここだけ俗世と離れているのではないかと思わせられる程、不気味さを感じられた。

 

「……魔理沙とアリスは、こんな森の中に住んでるのか?」

「えぇ、ここは魔法の森だから。私達魔法使いにとっては、都合がいいものが結構多いのよ」

「そうだぜ。生えているキノコとかは魔法の実験にも使えたりするんだぜ?」

「へぇ……」

 

 先を歩くアリスが森の奥へと進んでいく。

 魔理沙と銀時も、アリスの後をついて行く。

 

「そういやアリス、今日ってもしかして香霖のところ行くのか?」

「香霖?」

 

 魔理沙から出てきた名前に聞き覚えのなかった銀時は、思わず聞き返す。

 その質問にはアリスが答える。

 

「昨日言ったでしょ? 外の世界から来たものが置いてある店の店主よ。森近霖之助って言うのよ」

「香霖はすげぇんだぜ? 私の魔法も、一部は香霖が作ってくれた機械を利用してるってわけだぜ」

「火力厨にさせた張本人ってわけか……」

「火力厨ってなんだぜ!?」

 

 与えられたレッテルはともかく、香霖が何者なのかを理解した銀時。

 霖之助の元へ向かうことを把握した銀時は、アリスと魔理沙の後についていく。

 

「あ、そういや博麗神社完全に放置していったけど、大丈夫なのか?」

 

 近づいていくにつれて、思い出したかのように銀時が言う。

 

「大丈夫じゃない? どうせ霊夢が片付けてくれるわよ」

「ほかの奴らもいるわけだし、へーきへーきだぜ。まぁ、フランだけどうなるか分からないってところだけど」

「あー……」

 

 今頃フランが、銀時のことを探しているのではないかと予想している。

 一応、魔法の森に行くことは昨日の内に伝えているものの、もしかしたら追いかけてくる可能性すらある。それだけ、最近のフランは銀時にべったりなのである。

 

「ま、心配するだけ無駄よ。彼女達は彼女達なりになんとかするだろうし」

「そうだな……」

 

 アリスの言葉に耳を傾け、銀時は更に歩く。

 しばらくして、一軒の小屋が見えた。

 

「ここか?」

「えぇ。ここよ」

 

 どうやら目的地に着いたらしく、アリスは扉に手をかける。

 

「香霖ー! 入るぜー!」

 

 アリスが開けるのとほぼ同時。

 魔理沙は元気よく声をかけ、中に入っていく。銀時も後から入っていく。

 そしてそこにいたのは、

 

「おや? 君が魔理沙の言っていた坂田銀時さんかい?」

 

 白髪のショートボブ、金色の瞳、黒と青の左右非対称の和服を着ており、下だけ黒縁となっている眼鏡をかけた青年――森近霖之助が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

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第四十六訓 魔法の森へようこそ

 

 

 



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第四十七訓 ガラクタは集まると余計に邪魔になる

「あんたがここの主人なのか?」

 

 眼鏡をかけた青年、霖之助に対して銀時が尋ねる。霖之助は笑顔を絶やす事なく、

 

「えぇ。森近霖之助と申します。以降お見知り置きを」

 

 爽やかに自己紹介を済ませるのだった。

 

「香霖! 何か目新しいものがあったら教えて欲しいぜ!」

 

 魔理沙は目を輝かせながらあたりを物色している。気の知れた相手しかいないからか、それとも元々なのか。普段以上に遠慮していないのが見て取れる。

 

「そうだね。今日は坂田さんもいることだし、もしかしたら色々分かることがあるかもしれないからちょうどいいね」

 

 そう言うと、霖之助は店の奥に引っ込む。どうやら最近入った品物についてはまだ店頭に並べていないようだ。

 その間に銀時はあたりを見回す。並んでいる品々は、銀時が見たことのないような使用用途不明のアイテムもあったが、中には一昔前に流行ったものや、既にほとんどの家庭で見られなくなったものまで、実に幅広い。アリスの言う通り、ここは外の世界で忘れ去られた物も含まれていた。

 

「あったあった。いくつか出してもいいですか?」

「あぁ」

 

 霖之助は、机の上にいくつか物を置く。そして四人による品定めが始まった。

 

「まずはこれですね」

 

 最初に霖之助が取り出したのは、円筒に棒の腕と、死んだ目をした顔がついただけの、実にシンプルな出来をした何か。

 

「なんかこの目、銀時に似てるわね」

「本当だぜ! 死んだ魚の目をしてる! ってことはこれは銀さんの忘れ物か?」

「んなわけあるかぁああああああああ!! つかなんでジャスタウェイここに流れてきてんのぉおおおおおおおおおお!?」

 

 ジャスタウェイ。

 ジャスタウェイは、それ以外の何物でもない。それ以上でもそれ以下でもない。かつて銀魂を象徴するアイテムだったものの一つである。

 

「ジャスタウェイ? それはどのように使うのです?」

「これ、爆弾」

 

 ジャスタウェイとは、銀魂初期の方で登場した爆弾のことである。威力については、一つだとお察しというところだが、複数になるとかなり段違いとなる。

 

「こんな形してて爆弾なのね……外の世界はわからないことだらけね」

「大量に用意すればそれなりの威力になるんじゃないか? そうだとすればかなり使い道ありそうだぜ! 死んだ魚の目をしてるけど」

「まぁ……そうだな……」

 

 魔理沙はジャスタウェイを弾幕ごっこに使用するつもりなのだろうか。

 そんなことを考えながら銀時はポツリと呟いていた。

 しかし霖之助は、

 

「爆弾と聞くとこれは危ないね……僕の方で処分しておきます」

 

 と、店の奥に戻してしまった。

 

「えぇー!? そんなのあんまりだぜ!! せっかく面白そうなものが入ったと思ったのに!!」

「魔理沙を危ない目に遭わせるわけにはいかないからね。弾幕ならまだしも、爆弾となると流石に看過出来ない」

 

 霖之助の言うことももっともであった。自分の店で売ったもので他人が傷つく事など言語道断。ましてそれが知り合いとなれば尚更だろう。身内を思っての行動だった。

 

「ちぇー、そこまで言われちゃ仕方ないぜ……」

 

 どうやら魔理沙も渋々ながら諦めたようだ。

 

「続いてはこれなんだけど……」

 

 次に霖之助が出してきたのは、

 

「なによこれ、ボール?」

「二つあるぜ? ってかなんかズルズルしてるぜ……」

「星型のマークが入ってますね。何に使うんでしょうこれ?」

 

 三人は何が何だか分からなそうな表情を浮かべている。そんな中、銀時だけが、

 

「これ、龍のボールじゃねえか!? 実在してたの!? かめはめ波撃てるようになるかもしれねぇじゃん!! ……けどなんでズルズルしてんのこれ」

 

 ジャンプをこよなく愛する彼だからこそ、最初は目を輝かせていたが、段々テンションが落ちていく。それもそうだろう。これは決して龍のボールではない。ズルズルボールなのだ。

 

「なんかズルズルしてるし、これは店の奥にしまっておきますね……」

「星のマークのことを考えればあと何個かあるんでしょうけど」

「ズルズルで触りたくねぇぜ……」

 

 こちらに関しても悲しくお蔵入りとなる。

 さて、続いては。

 

「……おい、こんなもんまで流れてきてんのかよ」

「? 銀さん知ってんのか?」

 

 銀時の顔色が悪くなったのを見て、魔理沙が尋ねる。

 今彼らの目の前にあるのは、ハートの形をしたお香のようなもの。まだ炊き上げられてないので効果は出ていないが、その脅威を銀時は知っている。

 一応対応策となるだろうと思われる、ヒビの入ったハート型のお香もあった。

 即ちこれは……。

 

「それは愛染香。ヒビ入ってるのは愛断香。簡単に言えば惚れ薬とそれを破るためのものだ」

「へぇ……そんなものまであるのね」

「なんだか面白そうだぜ!」

「外の世界もなかなかすごいですね……」

「いや何乗り気になってんの!? これのせいで相当大変なことになったんだからな!?」

 

 結局のところ、この他にも出てきたアイテムはガラクタばかりだった。銀時達の店内探索および魔法の森冒険はこれにて閉幕。

 ただし、彼らはまだ知らなかった。

 この中のうちいずれかは、後々登場して非常に面倒臭い出来事を招くことになるなどと……。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十七訓 ガラクタは集まると余計に邪魔になる

 




銀魂世界からいろんなものが流れ込んでいますよ回でしたー。
この中のうちのいずれかは、後々登場致しますん。
そろそろ異変が始まる頃でしょうか……?


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永夜異変篇
第四十八訓 夜空に輝く月は辺りを照らしてくれるけど僕等の道を照らしてはくれない


永夜異変篇、スタートです!!


 その日、萃香は月見酒に勤しんでいた。暦の上では満月となるその日、まさしく、酒を飲むのに絶好の機会。博麗神社の敷地に勝手に入り込み、屋根の上で月を眺めながら、瓢箪の中に入っている酒を一気飲みする。

 

「あーっ! やっぱりこういう時に飲む酒は格別だなぁ〜」

 

 頭上に登る満月を仰ぎ見ながら、萃香は酒を楽しむ。

 だが、ここで彼女はあることに気付いた。

 

「……ん?」

 

 最初は気のせいかと思い、目を閉じてもう一度眺めてみる。

 

「……んん?」

 

 やはり同じような光景が広がっていた。今度こそ見間違いではないと悟った萃香は、

 

「霊夢〜異変だ〜!」

 

 と、博麗の巫女である霊夢を呼びにいく。

 頭上に広がる月は、相変わらずの満月。だが、彼女にはどうにも、その月が『本物の月』には見えなかった。

 

 

 万事屋の夜。

 異変が始まる前のいつもの会話シーンより抜粋。

 

「テメェらあの時は宴会始まる前に逃げやがって」

「いやだって眠かったですし、なんかよくわからない人が強引に来るものだから警戒しちゃいまして」

「それに酒飲めないのに知らない奴のベロンベロンな姿を相手するのは疲れるネ。銀ちゃんでさえめんどくさいのに」

「おいテメェ、今の台詞忘れねぇからな?」

「誰が酔っ払いのゲロお世話してやってると思ってるネ」

「主に僕だね」

「眼鏡は黙ってろヨ」

「事実言っただけでそう返されるの理不尽だからね!?」

「まぁもう過ぎたことだから別にいいけどよ……そういやここ最近よく月見酒とかよく聞くなぁ」

「幻想郷での花見期間は短かったですからねー。そういえば今日は満月じゃないですか」

「満月といえば、月で兎が餅つきしてるって話ネ!」

「兎が本当に月にいるわけねぇだろ? ほらあれだよ、兎に似た何かが餅じゃなくてケツ叩いてんだよ」

「全然似てねぇし変なこと刷り込んでんじゃねえよ!! とんでもねえ知識植え付けようとしてんじゃねぇか!!」

「後はかぐや姫とかか?」

「あー、そっちはたしかに有名ですよね」

「神楽姫? 私お姫様になったアルか?」

「ゲロインがお姫様になったら時代も終わりだな」

「おいテメェそれはどういうことだヨ。場合によっちゃ殴るのも辞さないアル」

「まぁまぁ……かぐや姫といえば、満月の日に月の使者が来て帰ってしまうんでしたよね。より正確に言うと竹取物語という」

「そもそも竹の中に女の子がいる段階でおかしいけどなぁ。まぁお伽話だから詳しいことはどうでもいいんだろうけど」

「ところで、僕たちいつまでBGオンリーしてるんですかね?」

「さぁ? 作者が地の文書くのめんどくさがってるだけネ。このまま会話だけで今回の話終わらせようとしてるのが見え見えアル」

「何のっぴきならない裏事情暴露しようとしてんだ!! 神楽ちゃん流石にそれはまずいって!!」

「何言ってんだよ新八。これは銀魂と東方のコラボなんだぜ? 基本銀魂のターンになれば何やったって文句言われねぇよ。全部『あぁ銀魂だから』でどうにかなっから」

「ならねぇよ!! なってたら今頃この小説全部地の文取っ払われるわ!!」

 

 などと駄眼鏡がほざきやがっている。

 

「おいなんか今物凄い扱い雑になった気がすんぞ!! なんで僕が煽り受けてんだ!!」

「ぱっつぁんだからじゃねえか?」

「ぱっつぁんだからネ」

 

 ぱっつぁんだからである。

 

「地の文まで合わせて息ピッタリにここぞとばかりに攻めてんじゃねえぞ!! なんなんだよ今回どうなってんだよ今回!!」

「まぁまぁ、新八。夜にそんな騒いでると近所迷惑だぞ?」

「誰のせいだと思ってんだ!!」

 

 などと、何時ものように騒いでいるところだった。

 

「お? なんだ銀さん達。今日は盛り上がってるみたいだぜ!」

 

 襖をがらりと開けて、最早家に帰ってくるかのような感覚で魔理沙が入り込んできた。

 

「何自分の家の感覚で入ってきてんだテメェ。ここは魔理沙の家じゃねえぞ」

「いいじゃねぇかよ別に。私達の仲だろう? 気にする必要ないぜ!」

「お前が気にしろ」

 

 銀時の言葉を軽く受け流し、魔理沙は慣れた様子でソファに座り込む。

 

「銀時、お邪魔するわよ」

 

 後から入ってきたのは霊夢だった。

 彼女もまた魔理沙の隣に座る。実に迷いのない動きだった。

 

「おいぃいいいいいいい! いつの間にテメェらの家にすり替わってんだ!? 何しに来たんだテメェらは!!」

「銀さん! せっかくのお客様に向かってそんなこと言っちゃ駄目ですよ?」

「そうネ。霊夢と魔理沙がこうして遊びに来てくれてるんだから、おもてなしするアル。新八、お茶」

「って、結局僕に任せるのかよ!!」

 

 新八と神楽は、二人が来てくれたことを歓迎している様子である。対する銀時は、直感で感じる。こういう時、二人が揃う時というのは、大抵ろくなことがないということを。

 

「何よ銀時。この前宴会の片付けをしなかったのを目瞑ってあげたんだから、その位いいでしょう? 魔理沙はコテンパンにしたけど」

「思い出したくもなかったぜ……」

 

 先日、萃香の思い付きで始まった宴会では、銀時・魔理沙・アリスの三人はみんなが起きる前に出てしまった為、後片付けをせずに博麗神社を後にしていた。そのことを霊夢は根に持っている様子。

 

「まぁ、今はそんなことはおいておくとするわ。それに、今回の話がその代わりになるから」

「今回の話?」

 

 銀時は尋ねる。

 霊夢は、真剣な目つきをして、彼に言った。

 

「異変が起こったわ」

 

 

 今回の異変は、『月が偽物にすり替わる』というものだった。霊夢や魔理沙は気付かなかったが、萃香は月が本物ではないことに気付いたらしい。霊夢や魔理沙に案内されて、万事屋メンバーも博麗神社から月を眺めているのだが、

 

「……普通の月、ですよね?」

「何もおかしい所なんてないアル?」

 

 新八や神楽の言う通り、月に変化がある様子はない。

 少なくとも、『人間』が見た限りでは、月の変化に気付けなかった。

 

「俺達で分からなければ、それなら妖怪に聞けばいいんじゃねえか? 萃香は鬼だから気づけた。しかしアイツは酔っ払ってる可能性は否定出来ない……」

「それなら、うってつけの場所があるわね」

 

 銀時と霊夢の提案の元、一同はとある場所へ足を運ぶ。

 これが今回の異変の幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十八訓 夜空に輝く月は辺りを照らしてくれるけど僕等の道を照らしてはくれない

 

 

 

 



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第四十九訓 人手は多いに越したことはない

「なる程。それで私達のところに来たという訳か。その勘は正しい。確かに私達ならばお前達とは違う見方で今回の異変について語ることが出来る」

 

 銀時達が訪れたのは紅魔館だった。妖怪がたくさんいるところとして思いついた場所としては、まさしく絶好の場所と言えるだろう。何せ人間は咲夜しかいない。他のメンバーは皆妖怪だったり魔法使いだったり、小悪魔だったりするのだから。

 銀時達はすぐさま客間に案内され、現在レミリア・咲夜の二人が銀時達の相手をしている所だった。

 

「そして結論から言うと、あの月は偽物だ。本物の満月ではない。フランもパチュリーも、美鈴も小悪魔も同じことを言うだろうな」

「私にはただの満月にしか見えないのですが、どういった違いがあるのでしょうか、御嬢様……」

 

 咲夜も人間であるが故、見方としては霊夢や魔理沙、銀時達と同じになる。即ち、天に昇る月に関しては普通の満月という風にしか捉えられない。

 どうやら妖怪達には偽物の月であるということが理解出来るようだ。

 

「あの月は、限りなく本物に見せるように細工が施されている。まるで、何かから隠すようだ」

「隠す、か……」

 

 満月を隠す。

 ポツリと呟いた銀時は、そうする意図を考える。しかし、今のままでは判断材料が少なすぎて思考するにも難しいものがあった。

 

「月がああなっていることそのものについて、人間に何かしらの害が及ぶことはない。だから気付かなくても問題はない。だが、私達妖怪の中には、月の光や状態によって、大きく影響される存在も居る。そう言ったことから、自然の変化には敏感なのだろう」

 

 元々、妖怪信仰自体が自然と絡むことが多い。それ故に、妖怪からしてみても自然現象については目が行きやすいのだろう。それが吸血鬼にも値するし、鬼にも値するし、それ以外の妖怪にも当てはまる。

 

「そうすると、解決するにはやはり犯人を見つけるしかないってことですか?」

 

 新八が尋ねる。

 

「そうなるだろうな。異変解決は博麗の巫女としての仕事だろう? もしよければ咲夜を同行させることも出来る」

「えぇ。御嬢様の命令とあらば、何なりと」

 

 レミリアの提案により、咲夜もついて行ってもよいと言うお言葉を頂ける。

 それは霊夢達にしてみても、かなり助かることだった。実際、異変解決には人手が多いに越したことはない。それは前回、及び前々回から感じていることだった。

 

「メイドが来てくれるなら凄く助かるアル!」

「よろしく頼むぜ! 咲夜!」

 

 神楽と魔理沙は喜んで迎え入れる。新八についても目を輝かせている程だ。

 霊夢と銀時は、やけにあっさりと人手を貸してくれたレミリアに訝し気な表情を見せる。

 

「なんだ? そんなに気になることがあるのか?」

「いや、なんつーか、嫌にあっさり、かつ素直に人手貸してくれたもんだからよ」

「何か裏でもあるのかなーって思っただけよ」

「なんだお前達……少しは私のことを信用してくれていいんじゃないか?」

 

 溜め息を吐くレミリア。

 やれやれと首を振りながら、

 

「まぁ、私としてもこんな夜は早く明けて欲しいと思っているんだ。偽物の月がいつまでも昇り続ける夜なんて気味が悪い。それに、時間の感覚が狂うからどうにかして欲しいとも思う訳だ」

「……まぁ、筋は通ってるわね」

 

 霊夢は渋々と言った感じではあったが、納得したようだ。

 

「まぁ、そういうことなら、夜明けまでには何とか終わらせてきてやるからよ」

「あぁ、そういうことなら、夜明けなんて異変が終わるまで訪れないから安心よ」

「は?」

 

 レミリアの言葉に、銀時はポカンと口を開ける。

 それは新八や神楽も同様だった。

 

「何せ今宵の月、何者かが固定してしまっているせいで『朝が来ない』ようになっているんだ」

「うっそ!? だからずっと夜のままだったというわけだぜ!?」

 

 魔理沙が驚く。

 

「つまり、月が元に戻った所で、夜が明けなきゃ意味がねぇ、と?」

「そういうわけだ。まぁ、そっちについては安心して欲しい。私やパチュリーの方で何とかしてみる」

 

 魔法使い、パチュリー・ノーレッジ。

 もしかすれば彼女の力が、今回の異変において重要な働きをするのかもしれない。

 

「んじゃま、早速出発とすっか?」

 

 銀時は一同に声をかける。

 しかし、どうにも彼らは動く気配を見せない。

 

「おい? 何ボサッとしてんの? 異変解決しに行くんじゃねえの?」

「いや、その前に銀さん……アンタずっと違和感に気付いてないんすか?」

 

 新八が目を丸くする。

 

「そりゃ出発するけれど……」

「その前に……銀さんは自分が置かれている状況を理解した方がいいぜ?」

 

 霊夢と魔理沙が銀時に妙なアドバイスをする。

 

「何って……?」

「銀ちゃん、もしかしてわざとやってるアルか? というか、自然過ぎて慣れてるアルか?」

「さらに言うと、なんでレミリアや咲夜もスルーしてるのよ……いつ指摘すればいいのか分からなかったわよ……」

 

 霊夢がポツリと呟いた。

 

「それなら僕が……ごほん」

 

 新八が咳払いをした後で、一気に言い放つ。

 

「シリアスな話をしているのに、銀さんから片時もフランちゃんが離れていないんですけどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 冴え渡る新八のツッコミ。

 そう、ここまで彼らは凄く真面目な話をしていたのだ。

 そんな中で、銀時にずーっと抱き着いているフランが居たのだ。

 しかも声を出さずに、銀時の胸に埋もれて、嬉しそうに身体を震わせている。

 

「ギン兄様……ギン兄様成分が足りなかったの……もっと補充させて……っ」

「ギン兄様成分ってなんだ!? 天然パーマから摂れるものなんて糖分しかねぇぞ!?」

「誰が糖尿病だコノヤロウ!!」

「自覚あんなら自重するネ!! いちご牛乳片っ端から捨ててやるアル!!」

「やめろぉおおおおおおおおお! んなことしたらテメェの飯抜きだからなぁああああああああ!!」

「元々給料も碌に支払ってねぇくせに今更何を言っても無駄アル!!」

 

 先程までのシリアスムードから一転。

 場は一気にコミカルモードへ。

 

「もう駄目だ……我慢の限界だ……カリスマモードがそろそろ切れる」

「カリスマモードって何だぜ!? 今までそれで何とか取り持ってきたってことなのか!?」

 

 身体をぷるぷる震わせているレミリアに対して、魔理沙が真っ当なツッコミをする。

 

「御嬢様……あぁ……とても可愛らしい……」

「ちょっと、咲夜。アンタ鼻血出てるわよ。メイド服が真っ赤に染まるわよ」

「御嬢様の可愛らしい姿が見られるなら……本望です」

「こっちが本望じゃないから。これから異変解決しに行くってのに、鼻血で人手なくなったら困るから」

 

 霊夢はえらく現実的な理由で、咲夜を戻そうと必死になっていた。とはいえ、彼女はレミリアの可愛い姿を見たら、無条件で鼻血が流れ出てしまう特殊体質を持っている。そう簡単に上手くいくとは思えない。

 

「ギン兄様、異変解決ならフランも一緒に行く!」

「フラン!?」

 

 驚きを見せたのはレミリアだった。

 自分の妹が異変解決をする為に外へ出ようとしているのだ。前回は自身が関与していなかったからまだしも、今回に関しては目の前で言われたものだから、流石に止めようとして、

 

「もう前見たいに、ギン兄様が傷つくところを見たくないから、私も戦うの!」

「フラン……」

 

 銀時を抱きしめる力が少しだけ強くなる。そしてその身体は、少しだけ震えていた。

 彼女は前回の異変の時、銀時の身体が冷たくなっていくのをその目でしっかりと見てしまっている。それはつまり、銀時が傷つくところを目撃してしまっていることを指す。

 だから彼女は、異変に巻き込まれることで銀時が傷ついていくのを恐れているのだ。

 もう、壊したくないから。

 大切なものを、手放したくないから。

 

「……分かったわ、フラン。でもその代わり、私も一緒に行くわ」

「お姉様?」

「なっ……テメェも来るのか!?」

 

 一番驚いたのは銀時だった。

 てっきり自分は紅魔館に居続けるものとばかり考えていた為、その言葉が出てくるのが予想外だったためだ。

 

「当然じゃない。妹が頑張るって言ってるのよ。姉として大事な妹を守る為なら、何だってしてやるわ」

「……流石だな、シスコン。妹に甘い」

「アンタも大概だろう? フランに甘い」

「そりゃな……背負った荷だからな。そう簡単に降ろしてぇとは思わない」

 

 銀時とレミリアは、互いの言葉に笑い合う。

 大切に想う気持ちに優劣はない。むしろ、重なれば更に大きくなる。それを確かに感じたからだ。

 

「ギン兄様……お姉様……」

 

 フランは、二人からの愛を存分に受け止めていた。

 その性質が違うことは、なんとなく感じているだろう。

 

「それじゃあ、そろそろ出発するわよ」

 

 霊夢の掛け声の元、一同は紅魔館を発つ。

 どう考えても戦力過多だが、気にする必要はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四十九訓 人手は多いに越したことはない

 

 

 




永夜抄ってなかなかに戦力過多な気がするんですよね(しろめ


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第五十訓 見た目だけで判断すると痛い目を見ることもある

「本当、今日はまた一段と変な夜ね……」

 

 霊夢達が出発する数分前。先に夜の幻想郷に繰り出して異変解決に赴く人物が一人いた。彼女の名前はアリス・マーガトロイド。お馴染み人形遣いの魔法使いである。

 

「月は偽物に入れ替わるわ、夜は一向に明けなくて朝にならないわ……なんていうか、こんな一夜は初めてよ」

 

 彼女は自分の見たものと勘を信じて行動していた。しかも彼女は魔法使い。真っ先に動くことが出来る人物の一人であろう。ただし、今回に関しては異変解決に伴う手がかりが少ない。なので、夜の幻想郷を練り歩いて、最初のうちは虱潰しに探さなければいけなかった。

 

「夜っていうと色んな妖怪が現れるのでしょうね」

 

 ポツリと呟いたアリス。その言葉を裏付けるかのように、

 

「ららら〜らららら〜♪」

 

 歌が聞こえてきた。

 その声はとても美しいが、何処か狂気をも感じさせる程の儚さ。美と狂が混じり合った、不思議な音階。これを聞いているのが人間ならば、彼女の歌に惑わされてしまったかもしれない。

 

「ららら〜」

 

 闇の中から現れてきたのは、雀のようなジャンパースカートを履いた少女。

 名前は、ミスティア・ローレライ。夜の闇に現れて、人を歌で魅了し、近付いてきた人間を喰らう妖怪。

 

「早速現れたわね……夜になるとこういう妖怪も出てくるわけね」

 

 アリスは魔法使いであるが故、彼女の歌に魅了されることはない。しかし、ミスティアからしてみれば彼女もまた貴重な獲物。姿を見せたというのであれば、頂こうとするのが真理である。

 

「そっちがその気なら、相手になってあげるわ」

 

 アリスは自身の周りに人形を設置する。彼女の戦術は他社に真似ることのできない、数多くの人形を利用した弾幕を放つもの。自身の力を保つのにも精一杯となるはずなのに、人形を操る必要もあるため、相当な精密性を要するもの。

 まさしく彼女達の戦いが幕を開けようとした、その時だった。

 

「きゃああああああああああああ!!」

「……え?」

 

 突然、ミスティアが悲鳴をあげたかと思ったら、次の瞬間にはその場に倒れていた。

 ミスティアの後ろから姿を現したのは、

 

「斬り捨て御免……我が剣に斬れぬものなど、あまりなし」

 

 カチャン、と剣を鞘に収める妖夢だった。

 

「御機嫌よう、アリスさん。貴女も今宵の異変を解決しに来たの?」

 

 妖夢の後ろからは、ニコニコと手を振りつつ幽々子が近付いてくる。どうやら冥界にいる二人も、今回の異変を勘付いて動き始めていたようだ。

 

「そんなところよ……どのみち霊夢や魔理沙が動いてるでしょうけど」

「ということは、坂田さんも来ているということね」

 

 幽々子の口から『坂田さん』という言葉を聞いた瞬間、心なしか妖夢が嬉しそうにしていた気がした。彼女にとって銀時は第二の師匠のようなもの。正確には少し違うのだが、それでも道を示してくれた存在であることに変わりはない。

 

「……そうね」

「あら? 何やら少し浮かない表情を浮かべてるわね。どうしたのかしら?」

 

 アリスの表情が若干曇っていることに気付いた幽々子が尋ねる。

 アリスは、自分の胸の内を明かした。

 

「このままでいいのかな、ってちょっと思ってるのよ……確かに彼がもたらしてくれたことはとても大きいと思うわ。だけど最近こうも思うのよ……」

「大きすぎる、と?」

「……流石は冥界の番人。気付いてたのね」

 

 やはりアリスは、銀時の存在の大きさと、その脆弱性に気付いていたようだ。

 良くも悪くも、銀時の存在が大きくなり始めている。今はまだそのままで良い。しかし、いずれ何か飛んでもないことが起きたとしたら?

 

「安心なさい。幻想郷で彼が死んだとすれば、彼の魂は冥界に導かれるわ。つまり彼が幻想郷からいなくなることはない、ということよ」

「死ぬことを前提に話されても困るけど、その方がまだマシだと思えてしまうからなんとも言えないわね……」

 

 自分でもおかしいことを言っているのは理解してるし、アリスもまた、それに同意することは本来いい意味とは言えないことも理解している。

 それでも、銀時の存在が大きくなっている以上、彼の存在が幻想郷から消えてしまうことだけは避けなくてはならない。

 

「……まぁ、考えていても仕方ないわ。今は一先ず、異変解決に向かうわよ。そして早い所合流しなきゃね」

「……そうね」

「幽々子様の仰せの通りに」

 

 三人はひとまずパーティを組み、異変解決に向けて歩みを進めるのであった。

 

 ※

 

 さて、紅魔館から出発した銀時達だったのだが、その道中でとある妖怪に出会う。

 

「ん?」

 

 銀時の目に入ってきたのは、首元にかかるかかからないか程度の緑色のショートヘアー、燕尾状に分かれたマントを羽織り、白いシャツに紺色のキュロットパンツを履いた人物。頭部には触覚のようなものが生えていた。そんな人物は、銀時達を見つけると、

 

「こんな夜更けに如何されたのです? この辺りでは見ない方々ばかりですが……」

 

 と、丁寧な口調で尋ねてくる。

 

「へぇ……幻想郷で始めて男のガキにあったな……名前はなんて言うんだ?」

 

 特に悪びれた様子もなく、銀時は尋ねる。

 しかし、目の前にいる人物は、俯き、体をプルプルと震わせている。

 

「ん? どうしたんだ?」

 

 様子の変化には気付いているものの、何でそうなってるのかは分からない銀時。

 

「……まさか」

 

 新八は何かに気付いたのか、銀時に声をかけようとする。しかしそれよりも前に、

 

「私は女ですー!!」

 

 と、涙ながらに答えたのだった。

 

「え、えぇ!?」

 

 突然泣き出したことに対して、銀時はとっさに行動を取れずにいた。

 

「銀ちゃん……それはないネ……」

「銀時様……流石にデリカシーのない発言かと……」

「銀さん……乙女を流せた罪は重いぜ……」

「銀時……反省なさい」

「ギン兄様……」

 

 女性陣からの冷たい眼差し攻撃。

 銀時の心に大ダメージ!

 

「だぁああああああ!! うるせぇ!! 分かってるっての!! 俺が悪かったって!!」

「本当に信じてますか!? 私が女の子だって信じてくれますか!?」

 

 余程先ほどの言葉がショックだったのか、涙をボロボロと流して銀時に近付く少女。

 思わず銀時は後ずさろうとするも、それよりも速く少女が飛びついてきた。

 

「女の子だって証明をすればいいんですか!? どうやって証明すればいいんですか!?」

「落ち着けって!! 分かった、分かったよ! 理解したから!! テメェが女の子だって分かったから!!」

「胸……揉ませた方がいいですか……?」

 

 涙目、上目遣い、そして恥じらいながらの言葉。これにやられない男はいない。

 逆に、これを見て怒らない女性もほとんどいないわけで。

 

「…………ギン兄様? ワカッテルヨネ?」

 

 とんでもなく低い声が、フランから出てきた。これには一同も凍りつく。

 

「分かってるっての!! そんなことすんなって!!」

「……うう」

 

 余程ショックだったのか、少女はその場で踞る。

 そんな少女の頭を優しく撫でながら、

 

「大丈夫ですよ。銀さんももうそんなこと言わないですから、安心してください」

 

 意外にも新八が慰めていた。

 これには、霊夢や魔理沙も驚きの表情を見せていた。

 

「あんた……女の子に触れたのね」

「僕って一体どう見られてたんですか!?」

 

 霊夢のつぶやきに、流石の新八も黙っているわけにはいかなかったようだった。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五十訓 見た目だけで判断すると痛い目を見ることもある




リグルちゃん……ごめんね……。


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第五十一訓 何かに向けて行動する時には大体目的がある

 新八のおかげでなんとか落ち着きを取り戻した少女は、自分の名前を告げる。彼女の名前はリグル・ナイトバグ。中性的な顔立ちをしているせいで、よく男の子と勘違いされるという。一瞬、新八の脳裏にとある人物が浮かんだものの、性格や特徴等全然違っていたため、すぐに霧散した。

 

「ねぇアンタ、今起きている異変について何か知らない?」

 

 落ち着きを取り戻したリグルに対して、霊夢が尋ねる。しかしリグルは首を横に振り、

 

「いえ、私は何も知らないです……ごめんなさい」

 

 と、逆に謝られてしまった。

 

「まぁ見た感じ、夜が長くなったことにより活動時間が長くなっただけみたいだな」

 

 レミリアが解説する。自然条件に左右される妖怪も多いため、このような推論が建てられても不思議ではなかった。例えば前回の異変の時に登場したレティについては、雪女であるがゆえに冬ならば活動的になるも、それ以外の季節は基本的に静かに過ごしている。今回の場合は時間に関係しているのだろう。

 

「謝らなくても別に平気だ。そのくらい予想出来ている。それに、そう簡単に異変が解決してしまっては面白くないからな」

 

 ニヤッと不敵な笑みを浮かべながらレミリアは告げる。確かに、これほどの異変を起こした犯人であるならば、そう簡単にボロを出すこともないだろう。まして一介の妖怪に場所を知られるような相手ではないはず。

 

「私としては早い所異変解決して、ゆっくり布団で寝たいのだけど……」

「同感だな。めんどくせぇことはちゃっちゃと済ませて、ゴロゴロ寝転がりてぇぜ」

「フランもギン兄様とゴロゴロする!」

「お? ゴロゴロすっか? 惰眠を貪るか?」

「何ナチュラルに一夜を共にしようとしてんのよロリコン変態天然パーマ」

 

 ものすごい冷たい視線をぶつける霊夢。そこには蔑む物の他にも、別の何かが含まれているように見えなくもない。

 

「いやその反応おかしくね? フランがやりてぇって言ってんだぞ?」

「アンタ妙にフランに甘いわよね?」

「私もフランに甘いぞ! ベタ惚れだぞ!」

「シスコン吸血鬼は黙ってなさい。さっきまでのカリスマぶりを発揮しなさいよ。ボロ出まくりで見る影もないわよ」

 

 シスコンと天然パーマの相手をしていることで、霊夢の顔に青筋が入る。もうそれだけ怒り心頭なのだろう。

 

「霊夢、少し落ち着いた方がいいぜ? カルシウム足りてない気がするぜ?」

「そうね。落ち着く為にも弾幕ごっこに付き合いなさいよ魔理沙。主にサンドバッグになって頂戴」

「それ弾幕ごっこじゃないぜ!? 一方的に蹂躙してるだけで、私にとっちゃただの地獄でしかないんだけど!?」

 

 何かと毎回辛い役回りをさせられる魔理沙なのだった。

 ちなみに咲夜は、相変わらず鼻血を垂れ流している。

 

「なんだか愉快な人達ですね……」

 

 これにはリグルも苦笑い。

 

「けど、いい人達ですよ」

 

 新八は言う。

 彼は共に行動しているからこそ、彼らの良い所も悪い所も理解している。

 

「リグルちゃん、さっきは本当にごめんね。天然パーマにはキツく言っておくから」

「あ、いえ、大丈夫です。誤解が解けたのならそれで……」

 

 あたふたとリグルは顔を赤くしながら言った。

 

「こんな可愛いのに、男の子だなんて言うとは……」

「か、かわ……!?」

 

 一気にリグルの顔が赤くなった。それはもう沸騰しているんじゃないかと思われるほど、全身まで真っ赤になっているような。

 

「おい銀ちゃんの次は新八かヨ。懲りずに良くやるネ。うちの男性陣は揃いも揃ってロリコンかゴラァ」

 

 神楽は何故か妙なところで怒りボルテージをマックスにしていた。

 

「いやそれおかしくない!?」

 

 流石に新八も黙っているわけにはいかなかったようだ。

 そんな二人のやりとりを見ていたリグルが、

 

「あ、あの……!」

 

 新八に近付き、声をかける。

 

「な、なに、かな?」

 

 思わず新八は身構える。

 先程は頭を撫でた新八だったが、心も身体もただの童貞なのだ。女の子に耐性があるかと聞かれればそんなことはない。

 

「も、もしよろしければ、また、声をかけてもいいですか……?」

 

 それは恐らく、リグルにとっては精一杯の言葉だったのだろう。その言葉を伝えるだけでも、彼女の身体は震えていて、かつ、顔は赤く染まっている。

 新八は笑顔で、

 

「勿論ですよ。僕の方こそよろしくね、リグルちゃん」

 

 と、言葉を返した。

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 リグルは満面の笑みでそう返したのだった。

 

 銀時が吸血鬼姉妹+霊夢と愉快な仲間達(鼻血を出してる咲夜と、とばっちりを受けてる魔理沙)とラブコメをしている間、新八はある意味別のラブコメを繰り広げていたのだった。

 眼鏡のくせに生意気だ。

 

「いや最後おかしくね!?」

 

 お後がよろしいようで。

 

 ※

 

 リグルと別れた銀時達は、夜の幻想郷をどんどん進んでいく。その途中、彼らは人里まで辿り着いた。

 

「……おや? こんな夜中に大勢でどうしたんだ?」

 

 人里の入り口で立っていたのは、寺子屋の教師を勤めている慧音だった。

 

「ちょっくら異変解決にな。犯人探ししてる所だ」

 

 銀時がそう告げる。

 すると慧音は、視線を月に向けて、

 

「あの月のことか……?」

 

 と尋ねた。

 これには、万事屋メンバーは驚きを隠せずにいた。

 今回の異変は、妖怪ならばすぐに気付けるが、人間には判別が難しい物のはず。それを慧音は悟ったと言うことは……。

 

「あぁ、すまない。そういえば言ってなかったね。私は半妖なんだ。それで、満月の夜にはいつもの数倍妖力が勝るから、それで分かったということだ」

 

 慧音は半妖。半分人間で、半分妖怪。満月の夜になると妖力が増し、恐らくこの幻想郷の中で分からないことがない程の知識を一気に得る。

 

「……ならば、アンタなら分かるか? 今回の異変の犯人」

 

 レミリアは真剣な目つきで尋ねる。

 慧音は彼女のことをじっと見つめ、その後で、

 

「あぁ。分かる」

 

 と、肯定した。

 

「! では、犯人の居場所も分かる、と?」

 

 今度は咲夜が尋ねる。

 慧音はやはり同じように見つめながら、

 

「迷いの竹林に行くといい。そこに恐らく、今回の異変の主犯がいるはずだ。私は夜に暴れる妖怪が人里に入らないように見張るから、貴方達で解決してくれるとありがたい」

 

 慧音には慧音のやらなければならないことがある。彼女は人里に住む者を愛している。だからこそ彼女は、人々に害をなす者共を倒す為に、自ら見張りをしているということだ。

 それを察した銀時は、

 

「任せろよ。依頼とあらばどんなことでも引き受ける」

「それが万事屋ネ」

 

 神楽も自信満々に言う。

 

「戦力ならば私達がいるから問題ないぜ!」

「むしろ戦力過多もいいところなのだけどね……」

 

 魔理沙は元気よく、霊夢はやれやれと言った形で同調する。

 

「ギン兄様のため、お姉様のため、みんなのため、私も戦う!」

 

 フランは、銀時に抱きつきながらも、やる気満々の宣言をする。

 

「僕もお手伝いさせていただきます。このまま放っておくわけにもいきませんからね」

 

 新八も笑顔で言った。

 彼らは皆、やる気十分だ。

 

「……なんだろう。貴方達ならやってくれると信じられる。任せてもいいと思える」

 

 慧音の言う通り、銀時達の言葉はとても力強かった。だからこそ慧音は、

 

「……異変解決、お願いする」

 

 彼らに異変解決を依頼したのだった。

 

 ※

 

「……私もそろそろ、動かなくてはいけませんわね」

 

 スキマの中で呟いたのは、八雲紫。

 幻想郷で異変が起きていることは、勿論彼女も把握している。

 だからこそ彼女は、

 

「……藍、橙。留守の間、お願いしますわ」

「「はい」」

 

 二人の式神にそう告げると、紫は異変解決に向けて、独自で動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五十一訓 何かに向けて行動する時には大体目的がある

 




意外にも新八がリグルちゃんを落とした回になります!!


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第五十二訓 やられたらやり返すのもいいけれど方法を間違えればただのリンチにしかならない

 慧音に言われた通り、銀時達は現在迷いの竹林を歩いていた。名前に『迷いの』とつく通り、竹林以外には何もないような場所。道標となり得るものも存在しない為、自分達が何処に向かっているのかをきちんと確認しなければならないような場所となっていた。

 

「本当、竹ばっかだなぁここ」

 

 ぽつりと銀時が呟く。

 

「しかし、竹の中を歩いていると、本当に今回の異変が始まる前に言ってた『竹取物語』が浮かびますね」

「あ? あぁ、あれか」

 

 新八の呟きに銀時が反応した。

 

「ギン兄様、『たけとりものがたり』ってなぁに?」

 

 相変わらず銀時の腕に抱き着いているフランが尋ねる。後ろではそんな二人に対して殺気に近い何かを送っている霊夢が居て、慌てている魔理沙が居たが、彼が気付くはずもない。

 

「ちょっとした昔話だ。竹の中からお姫様が出てきて、おじいさんとおばあさんが育ててたんだけど、如何せんそのお姫様がすげぇ美人で、言い寄ってくる輩が居たんだ。お姫様は無理難題吹っ掛けてそいつらを追っ払ったわけだが、そんなある日、満月の夜に月の使者が迎えに来て、お姫様はソイツらと一緒に月に帰っちまう、って話だ」

「あ、それなら私も寺子屋で聞いたことあるぜ! 竹の中からお姫様ってなかなかすげぇ展開だぜ!」

 

 どうやら魔理沙は、慧音より既に教えてもらっていたようだ。何かで読んだことがあるのか、霊夢も首を頷かせていた。

 

「……まさか、今回の異変、そのかぐや姫が関係している、とか?」

 

 咲夜の言葉に、

 

「……確かに、そう考えれば辻褄が合うのかもしれないな」

 

 と、意外にもレミリアが同意した。

 

「お姉様? どういうこと?」

 

 これにはフランも尋ねる。

 レミリアは、そんなフランの頭を優しく撫でながら、

 

「それを説明する前に、まず一つ質問をしよう。『何故異変が起きたのが今夜だったのか?』」

「それは……幻想郷が満月だったからじゃないアルか?」

「その通りだ。それから次の質問だ。『満月に異変を起こす理由は何か?」

 

 この質問には、一同少し頭を捻る。

 そして最初に答えたのは。

 

「満月が、異変を起こした犯人達にとって不都合だったから、かしら」

「流石はレイムね。正解よ」

「……なる程。そこで『竹取物語』なんですね」

 

 それらの質問を踏まえた上で、最初に真相に辿り着いたのは新八だった。

 銀時も、何かに思い至ったようだ。

 

「つまり、今回の異変の犯人は、満月であることが気に喰わねぇ、もしくは都合が悪いってわけで、月をごっそり偽物にすり替えちまったってわけか。そして、かぐや姫を照らし合わせたとすれば、満月の日に月の使者がこっちにこねぇようにする為、ってわけか」

「大当たりだ。流石はギントキ」

「ギン兄様頭いいー!」

 

 思う存分銀時に抱き着きながら、フランがにこにこしている。彼女からしてみれば、銀時がこうして活躍している所を見るのが凄く嬉しいのだろう。

 何処まで彼女は銀時のことが大好きなのだろうか。

 

「見えてきたぜ、今回の犯人。ってことは、私達はそのお姫様をぶっ倒せばいいってことだな?」

「ところがそうもいかないかもしれないのよ。お姫様だけで、果たしてそれだけのことが為せるかしら?」

 

 霊夢の疑問は最もだった。

 確かに、これだけのことを為せる時点で十分ただものではない。だが、それだけの力を一人で持ち得るのか。中にはそういう者もいるだろう。しかし、複数犯である線を消してはならない。

 

「いずれにせよ、会ってみなきゃわからねぇことだろ? 推論いつまでもグダグダ話しているより、まずは犯人引きずり出そうじゃねえか」

 

 木刀を握り、銀時が改めて決意表明をする。

 一同はその言葉に力強く頷き、第一歩を踏み出そうとしたところで、

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 落ちた。

 新八が、落ちた。

 華麗に、綺麗に、無様に、落ちた。

 

「……何やってるアルか?」

 

 落ちた先を見ながら、神楽が冷たい視線を向ける。

 それに対して新八が一言。

 

「こんなところに落とし穴があるなんて予測出来るかぁあああああああああああああ!!」

 

 ごもっともである。

 と、そんな時だった。

 

「キシシシシシシ! 引っかかった引っかかった~!」

 

 癖のある黒髪に、ふわふわなうさ耳とうさ尻尾、袖に赤い縫い目のあるミニスカート型のワンピースを着た少女は、まるで悪戯好きな子供のように楽しそうに笑う。

 

「なんだアイツ。凄い癇に障るネ」

「見たところ兎のようだな……しかもああ見えて実はなかなか年上だぞ」

「マジで?」

 

 レミリアの言葉に、銀時は目を丸くする。

 今回、年齢詐欺がこれほどまでに似合う人物に出会ったのだ(今銀時に抱き着いているフランは、本来495歳なのだがとてもそうは見えない程幼い)。

 

「私は因幡てゐ! ここには私が仕掛けたトラップがたくさんあるんだ~! あんた達に抜けられるかな~?」

 

 凄く、純粋に楽しそうに、そして愉快そうに、彼女は笑う。

 そうして彼女は、銀時達の前からあっけなく走り去る。

 

「おいゴラまてぇ!」

 

 銀時が真っ先に追いかけようとしたが、

 

「あ、銀さん! そこは危ないぜ!」

 

 という魔理沙の忠告も、時すでに遅し。

 銀時の足にワイヤーのような何かが引っかかったと思ったら、次の瞬間には、

 

「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 竹林に宙ぶらりん。

 

「キシシシシシシシシ! まーた引っかかったー!」

 

 その様子を、わざわざ立ち止まって確かめるてゐ。

 ここまで来ると最早愉快犯である。

 

「それじゃあ楽しんでいってね~!」

 

 と、てゐがその場を立ち去ろうとした次の瞬間である。

 

「……え?」

 

 先程までてゐが進もうとした先には、誰も居なかったのだ。

 しかし、今はどうだろう。

 

「どうかなさいましたか?」

 

 平然と、何食わぬ顔で、進路を阻むメイドが居た。

 

「い、いつの間に!?」

 

 慌てて別方向に走り去ろうとしたてゐだったが。

 

「なにぃ!?」

 

 更にそれを見越したかのように、咲夜がにっこりと笑いながら立っている。

 

「……毎度思うんだけど、咲夜の能力ってチートよね」

「霊夢の夢想天生には言われたくねぇぜ……」

 

 ここに居る人間達は、チートの塊となり得る者が多すぎる。

 そのことを改めて認識した魔理沙なのであった。

 結局、咲夜の能力が功を為し、てゐは呆気なく確保されることとなる。

 

 

「……あそこに居るのって、もしかして」

 

 迷いの竹林を歩いているアリス達は、一匹の兎を取り囲む人物達に見覚えがあった。

 

「……幽々子様、あれではどちらが敵なのか分かりませんね」

「そうねぇ……最早あれは虐めの現場でしかないわねぇ」

 

 相変わらずにこにこしながら答える幽々子と、なんだか可哀想な者を見る視線を送る妖夢。

 彼女達の視界に映るのは、

 

「さぁて、お仕置きの時間だなぁ、兎さぁあああああああああん?」

「きゃあああああああああああ! よってたかって私をどうするつもりだ天然パーマぁああああああああ!!」

「先に仕掛けたのはそっちですからね……覚悟はできているんですよね?」

「眼鏡の癖に生意気だぞ!! 大体一番最初に罠にはまった情けない奴じゃないか!!」

「ギン兄様を傷つける奴は、私が許さないよ?」

「一番怖いよ!? 愛が重すぎるよ!?」

「妹がしたいことならば、私が協力しない筈ないな?」

「ちょっとは自重してよシスコン!!」

「御嬢様の為ならば何なりと」

「止めなさいよメイド!!」

「いい加減覚悟を決めるネ。命乞いなんて情けないアル」

「命乞いしたくもなるよ!? 絶対次は後悔させてやるからな!!」

「悪戯するのも大概にした方がいいぜ! マスタースパークぶっぱなしてやるぜ!」

「いい笑顔でどんな宣言してるの!? マジ勘弁して!!」

「……諦めなさい」

「その一言が一番つらいよ!!」

 

 間違いなく、リンチのそれだった。

 

「……とりあえず、彼らを止めましょう。そうしなければ犯人の居場所も聞けないわ」

 

 溜め息をつきながら、アリスが先陣を切るのだった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五十二訓 やられたらやり返すのもいいけれど方法を間違えればただのリンチにしかならない

 

 




どうしてこうなったんでしょうか(しろめ


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第五十三訓 時として譲れない戦いがある

 アリス達が合流したことにより、いよいよ戦力過多になってきた銀時一行。一応オシオキから解放させてあげた例として、犯人がいる場所をてゐより聞き出した。

 てゐが言った通りの順路を通っていけばトラップに引っかかることはなかった。どれだけ竹林に彼女のトラップが仕掛けられているのかが伺えた瞬間である。

 

「ここか……」

 

 銀時がポツリと呟く。

 永遠亭。今回の異変を起こした犯人達がいると思われし場所。

 

「ここからは手分けして探したほうが無難ですね……運が良ければ誰かが異変の犯人退治をするということで」

「新八の言う通りね。これだけの戦力がまとまって行動する意味はあまりないわ」

 

 新八や霊夢の言う通り、これだけ人員がいるのであれば、固まって行動するよりも別れて行動した方が効率は良い。

 現在ここにいるのは、銀時・新八・神楽の万事屋メンバー。霊夢・魔理沙・アリスの異変解決組。レミリア・フラン・咲夜の紅魔館組。そして幽々子・妖夢の冥界組。合計すると現在十一人で動いていることになる。はっきり言って、異変の犯人も涙目な豪華メンバーである。

 

「三つくらいに分けられそうだな……その方がまとまりが良さそうだ」

 

 レミリアが提案する。

 大凡その流れで間違ってはなさそうだ。

 

「それじゃあギン兄様は私達と……」

「銀時さんは私と……」

「銀時は私達と……」

「「「ん?」」」

 

 フラン、妖夢、霊夢の三人の声が合わさる。

 同時に、銀時を除くメンバーが悟る。

 あ、これは間違いなく修羅場だ、と。

 

「ギン兄様は私がお守りするの! だから私と一緒に行動しなきゃダメなの!!」

「銀時さんは私に剣の道を説いてくださいました。まだまだ修行の身故、私は銀時さんの太刀筋を学ばなくてはなりません。それならば、私と幽々子様の所に銀時さんが来るのは当然のこと」

「銀時と私の力が合わされば、異変解決なんてすぐよ。効率を考えれば私と組むのが一番のはずよ」

 

 三人が三人、それぞれの意思を曲げない。グループ的に考えれば、『異変解決組』『紅魔館組』『冥界組』の三つに別れるのが現実的ではあるが、どうやら最大の論点は、『銀時が何処に来るのか』と言う部分らしい。

 

「安心なさいフラン。銀時は私達が守ってあげるから、貴女が心配するようなことは起きないわ」

「そう言ってレイムはギン兄様を独り占めする気なんでしょう!?」

「今は異変解決の時なのにそんな私情ばかりで動くのはいただけません。ですから私達とともに銀時さんは……」

「あんたのも剣の教えがどうとかで明らかに理由くっつけてるだけじゃないのよ」

「なっ……私と銀時さんの剣の時間を馬鹿にするつもりですか!? 斬りますよ!!」

「それより前に私が貴女を串刺しにしちゃうよ? コワシチャエバイインダヨネ?」

「上等じゃない。やってみなさいよ吸血鬼。最近銀時との密着度が増えたから実はそこそこイライラしてたのよ」

「なんでレイムがイライラする必要あるの? 私とギン兄様の仲はレイムだって知ってるはずだよね?」

「そうね。二人が『仲良しの兄妹』みたいな関係だっていうことがね」

「仲良しならばあれたけやって当然だよ!!」

 

 キリがない。

 このままでは修羅場が無駄に発展するだけで、異変解決までの時間が先延ばしされていくだけだ。

 

「おい霊夢! 今はそんな言い争いしてる暇なんてないぜ!!」

「無駄よ、魔理沙……あの三人は今、私達の声が聞こえてないわ……」

 

 一番まともなのが魔理沙とアリスの二人なのだが、どうにも止められる手立てがない。

 

「私はフランの味方だ……しかし……今は乗り越えてもらわなくてはならない……ぐぅ……!」

「妹様を想う御嬢様の熱い気持ち……あぁ……メニアック……っ!!」

 

 一方、紅魔館組はもはや使い物にならない。

 

「あらあら。とても面白いことになってるわね……うふふふふ」

 

 愉悦部所属の幽々子はすごくニコニコして眺めているだけ。

 

「……新八、これはどういう状況ネ。天パー巡って女の子が争ってるとか、私は夢を見てるアルか……?」

「帰ってきて!! 現実受け止められない気持ちはわかるけど、今は戻ってきて!!」

 

 絶賛現実逃避中の神楽と、そんな神楽を連れ戻そうと躍起になってる新八。

 はっきり言ってもはやカオス。

 そして当事者たる銀時は何をしてるのかというと……。

 

「お、おい、テメェらそろそろ……って!?」

 

 止めようとした所、地面に大きな穴が開いていた。その穴には、すごく見覚えのある目のデザインが施されている。

 いや、これ穴じゃなくて、スキマだ。

 

「なにしやがんだあのアマァアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ギン兄様!?」

 

 そうして銀時は、スキマの中に落とされていったのだった。

 

 ※

 

「ふげっ」

 

 スキマから落とされた銀時は、そのまま見覚えのない和室へと落とされる。その部屋を一言で表すならば、『豪華絢爛』。部屋の隅から隅まで掃除が行き届いているのはもちろんのこと、綺麗に整理された品々、古いながらも輝きを残す畳、そしてちょうど仕切りがわりにかけられているすだれの奥には、何者かがいる気配を感じる。

 

「……っ」

 

 直感で、銀時は思う。

 今自分の目の前にいるのは、恐らく今回の異変に関わる重要人物であると。

 紫が何故自分をここに落としたのかは分からないが、それでも異変の核心に迫る事が出来てしまう、ということを嫌という程感じていた。

 

「今は昔、竹取の翁という者ありけり」

 

 とても凛とした声だった。それでいて、何処か人を魅了するような、和ませるような、戦慄させるような、それら全てを総括したような、そんな声だった。

 

「野山に混じりて竹を取りつつ、万のことに使いけり」

 

 すだれはゆっくりと上がっていく。

 赤い生地に月、桜、竹、紅葉、梅等、日本を象徴するものが描かれた物が見えていく。

 

「名をば、さぬきの造となん言いける。その竹の中に、もと光る竹なん一筋ありける」

 

 大きな白いリボンが施された桃色の服。長く伸びた美しい黒い髪が、その姿を現していく。

 

「あやしがりて寄りて見るに、筒の中光たり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いと美しうて居たり」

 

 やがてすだれは完全に開かれ、その人物の全容が明らかになった。

 それは絶世の美女。なんと美しきことだろうか。纏う雰囲気はまさしく姫。荘厳な気配を隠すことのない、そんな女性だった。

 

「初めまして、異界の侍さん」

 

 その人物は、銀時に向かって微笑みながら、

 

「私は蓬莱山輝夜。今の冒頭部分を詠えば、大体どんな存在なのかはわかるでしょう?」

「竹取物語の……輝夜姫」

「御名答。大変よく出来ました」

 

 蓬莱山輝夜が、その姿を露わとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五十三訓 時として譲れない戦いがある

 




過程をすっ飛ばしてこの人が現れてしまいました!!
ですが、次回は狂気使いの兎さんの登場です!


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第五十四訓 狂気を招くような奴には無闇に近づかない方がいい

vs鈴仙です!


 銀時がスキマに落とされたことにより、結局チームは二分割されることとなった。

 冥界組と紅魔館組が合わさり、万事屋組と異変解決組が合わさる形となる。

 そしてまずは、冥界+紅魔館組から。

 

「まったく紫ったら、面白いことしてくれるじゃないの……ふふふ」

 

 笑ってはいるものの、内心何してんだゴラァ的な思考でいっぱいと思われる幽々子。昔ながらの友人であるからこそ、行動がなかなか読めなかったのは彼女も同様だったようだ。異変の時の意趣返しと言われてしまえばそれまでなのだが。

 フランは終始不機嫌そうだ。と言うか、不機嫌の中に心配も混ざって、かなり複雑な表情を浮かべている。先程から声を発しようともしていない。余程銀時と離されたのがショックだったのだろう。

 

「ふ、フラン? そう気を落とすなって……ギントキだって無事さ。スキマ妖怪だってそこまで馬鹿じゃない。変な所に落とす真似はしない筈だ」

 

 実際はとんでもない人のところに落とされているので、ただの気休めにしかならない言葉をかけるレミリア。しかしフランは姉の言葉ですら聞き入れていない。まさしく重傷と言うべきだろう。

 

「さ、咲夜ぁ……何とかならないか……?」

 

 結局、妹のこととなるとなかなか上手くいかないのか、すぐにレミリアは咲夜に助けを求める。

 

「申し訳ありません、御嬢様……今回ばかりは、銀時様でなければどうしようもないかと……」

「うぐぐ……」

 

 咲夜の言う通り、フランにとっての唯一の特効薬は『銀時と一緒に居ること』なのだ。なので、誰が今何を言った所ですべて無駄に終わってしまう。恋する乙女は何処までも複雑なのだ。

 

「銀時さんを助ける為にも、私が何とかしなければ……っ!」

 

 その一方で、妖夢は気合いを入れ直していた。と言うか、最早それは空元気と言っても過言ではないのかもしれない。先程から意味もなく剣を振りまくっている辺り、体力消費が激しいことだろう。ハッキリ言って、意味があるのかすら怪しい。

 

「あまり体力を消費しない方がいいわよ、妖夢。後危ないから止めなさい」

「申し訳ありません……」

 

 幽々子に言われてしまっては、剣を納めざるを得ない。

 仕方なく妖夢は刀を納めようとして、

 

「……敵襲です」

 

 すぐにそれを取りやめて、真剣な眼差しを無の空間に向けた。

 

「流石は冥界の剣士だな。相手の視線には敏感と言った所か」

 

 レミリアは素直に感心する。

 前回の異変において銀時に半人前を指摘された彼女だが、それでも彼女の剣技は常人のそれを遥かに上回っている。即ち、実力で言えば指折りなのだ。

 彼女の言葉を受けて、他のメンバーも警戒態勢を取る。

 そうして、闇の中から現れてきたのは、

 

「貴方達は侵入者と捉えていいんですね?」

 

 白いブラウスに赤いネクタイを締め、紺色のブレザーを着ている少女。薄紫色の髪の毛は、かなり長く腰よりも下まで伸びていて、頭には少しヨレたうさ耳をつけている。何より彼女の瞳は、紅く染まっていた。

 

「そうねぇ。だけど最初に仕掛けてきたのはそちらの方よ? だから私達が乗り込んできたのだから」

 

 幽々子は笑顔を絶やすことなく、彼女にそう言い放つ。

 少女は幽々子を睨み付けながら、

 

「鈴仙・優曇華院・イナバ。貴女達の侵入をこれ以上許すわけにはいきません。どうぞごゆっくり、狂気の世界をご堪能ください……っ!」

 

 瞬間、彼女の身体は分身した。

 

「……なる程。狂気の世界と言ったのはこういうことか」

 

 レミリアは冷静に分析する。

 鈴仙の能力は、『波長を操る程度の能力』を軸として、『狂気を操る程度の能力』を発動している。光や音、すべての波長を狂わせてしまえば、相手は感覚を失い、狂気に陥るという寸法だ。

 平然としているものの、レミリアにもその効果は及んでいる。

 事実、この場に居る誰もが、『鈴仙は何人も居る』ように見えている。

 

「どうしたんですか? 動かないのであればこちらから……」

「禁忌『フォーオブアカインド』」

 

 静かに、そしてこのメンバーとなってからは久しぶりに、フランが声を発する。

 その声はとても冷たく冷静で、そして明確な殺意が込められていた。

 

「っ!!」

 

 その殺意は、鈴仙にも当然伝わってくる。

 しかし、彼女はそれでも挫けるわけにはいかない。

 

「……ギン兄様のところに行くんだ。邪魔をするなぁ!!」

 

 四人に分裂したフランは、無数の弾幕を張り巡らせる。

 それはたとえ、相手が何人に分裂しようがどうでもよく、『当たればいい』と考えている程、とんでもなく雑で、かつ、確実に相手を仕留めに行っているものだった。

 だと言うのに、

 

「何処を狙っているのですか?」

 

 鈴仙には全く効いていない。

 

「うあぁあああああああああああああああああ!!」

 

 フランは辺り一面に弾幕をばらまく。

 しかし、鈴仙に当たった所で分身が消えるだけで、本体に当たっている様子はない。

 

「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、とはよく言った物ですね……しかし、本当に下手な鉄砲は、いくら撃った所で当たるわけがないんです」

 

 幻覚のすべてが、フランに向けて指を差す。それはまるで手を使って拳銃を作るように。

 

「ですから、貴女はそこで眠っていてください。正直言って厄介です……っ!」

 

 その幻覚すべてから、銃弾型の紅い弾幕が放たれた。

 

「させません……っ!」

 

 真っ先に動いたのは咲夜だった。

 咲夜は自身の力で時を止め、ナイフを弾幕すべてに向けて放つ。

 瞬間、弾丸とナイフがすべてを打ち消し、辺り一面に散らばっていった。

 

「……貴様、よくも私の妹に銃弾を向けたな」

 

 レミリアの目は、鈴仙を確実に射抜いていた。

 

「神槍『スピア・ザ・グングニル』!!」

 

 グングニルの槍。

 北欧神話に伝わる伝説の槍を、弾幕の光を以て再現する。

 彼女の槍先にあるのは、妹を傷つけようとした不届き者。

 その者の心臓を射抜くには、まさしく都合のよい代物だった。

 

「戦いにおいて、面倒な相手を倒すのは先決です……っ!」

 

 しかし、鈴仙もそれを見て尚、崩れることはない。

 

「狂符『幻視調律(ビジョナリチューニング)』」

 

 彼女は無数の弾丸を放ち、槍のすべてに向ける。

 光の槍は、無数の弾丸に打ち消され、霧散した。

 

「ほう……これほどとは」

「けれど、貴女もまだ甘いわね」

 

 幽々子が、扇子で口元を覆いながら、鈴仙の負けを宣告する。

 鈴仙はその言葉を聞いて、

 

「何処が甘いのです? 私の狂気に、貴女方は確実に陥っています……現状を打破出来るなど……っ!」

「えぇ、確かに、『目で物を見ている私達』には、貴女を倒すことは出来ないでしょう。ですが……」

 

 そこで言葉を止め、そして幽々子は宣言する。

 

「『目で見ていなければ』話は別でしょう?」

「なっ……!」

 

 瞬間、鈴仙の身体に強烈な痛みが走る。

 今までの攻撃を当てることは出来なかったのに、今回の攻撃は確実に当てられた上、留めの一撃となった。

 鈴仙はその攻撃が何故当たったのか分からなかったが、

 

「……剣士たる者、敵の気配を察知する物。貴女の気配を最初に察知したのは私です。私に貴女が倒せない筈が、ない」

 

 カチャン、と鞘に納めながら語ったのは、妖夢だった。

 そう。彼女は最初から分かっていたのだ。

 敵が一体何処にいるのか、ということを。

 

「そん、な……」

 

 鈴仙はその場に倒れた。

 

「安心してください。峰打ちです……余計な殺生をするわけにはいかないので……それに、銀時さんも待っていますから」

 

 その名前が出た瞬間、フランは正気に戻る。

 

「ギン兄様……待ってて……私が……私『達』が必ず助けるから!」

「……そうだな。必ず、私達で迎えに行こう」

 

 レミリアは、フランの言葉を聞いて少し嬉しそうにする。

 そうして彼女達は、先を急いだ。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五十四訓 狂気を招くような奴には無闇に近づかない方がいい

 

 

 



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第五十五訓 折ってはならない大切な物

 異変解決組と万事屋組に関しては、何処までも続く長い回廊を進んでいた。

 

「何なんでしょう、これ……全然先が見えないですよ……」

 

 新八がポツリと呟く。

 確かに、今回の回廊に関しては明らかに違和感があった。

 

「まるで紅魔館を歩いている時と同じ感覚ね……」

「あぁ。見た目と中身が全く異なるあの感覚だろ? おかしくなりそうだぜ……」

 

 霊夢と魔理沙は感じていた。その違和感は、紅魔館で咲夜によって経験させられたものと似ている。歩かせ続けることによって、相手の心を折りに行っているのかもしれない。

 だが、それも唐突に終わる。

 

「な、なにアルか!?」

 

 突然、彼女達が歩いていた足元がぐらつき、一気に消滅する。

 

「っ! 捕まりなさい!」

 

 咄嗟にアリスが神楽を掴み、魔理沙が箒の上に新八を乗せることによって、事なきを得る。

 だが、霊夢達は突然、何もない空間に一気に放り出されてしまった。

 そこに広がっているのは、まるで宇宙空間。ただし本物の宇宙であるわけではない。それをほぼ完璧に模したミニチュアのような何か。

 そんな中に、一人の女性が立っていた。

 

「ここまで辿り着くとは恐れ入ったわ。鈴仙が倒されたってことかしらね」

 

 長い銀髪を三つ編みに縛り、青と赤で構成されている服を着た女性。色の配置は、上着と下では青と赤が左右逆転しており、頭には紺色をベースとして赤い十字が描かれたナースキャップみたいなものを被っている。

 

「けれど、それもここまで。貴女達の冒険はここでおしまいよ。姫様の所へ行かせるわけにはいかない」

「……アンタ、名前は?」

 

 霊夢は睨み付けながら、女性に問う。

 女性は、弓を構えながら、質問に答えた。

 

「八意永琳。姫様を守る為、今回の異変を起こした張本人だ」

 

 その一言を以て、彼女達の戦いは幕を開けた。

 

 

「……輝夜姫が一体こんな所で何してるってんだ?」

 

 銀時は、輝夜の顔をしっかりと捉えながら、尋ねる。

 輝夜は表情を変えることなく、

 

「私はただ、この世界でひっそりと暮らせればそれでよかったのよ。けれど、この幻想郷にも美しい満月の日が訪れてしまった。かつて私が月へと帰らざるを得なかった日と同じ満月が……」

 

 彼女は被害者であることを語る。

 しかし銀時は、

 

「そんなのテメェの都合じゃねえか。おかげさまでこっちは夜が明けなくて困ってんだ」

「夜が明けないことに関しては私達の責任ではないわ。そもそもこんな不完全な永遠なんて、私にとっては反吐が出るもの。私ならばもっと上手く事を運んでいる所だわ」

「なんだと……?」

 

 夜が明けないこと自体は、彼女達の関与する所ではないと告げた。

 それならば、一体誰が犯人であるというのだろうか。

 銀時は少し考え、そして答えを告げる。

 

「……そうか。この異変で被害を被るのは妖怪しかいねぇ。つまりこの夜を止めたのは……」

「……その妖怪達、ってことになるわね。ついでに言うと、たぶんここに来ている妖怪達とは全く別、ということになるのかしら」

 

 そう。

 夜を止めた真犯人は、ここにはいない。

 輝夜達が行ったのは、あくまで月を偽物に変えただけ。

 

「この一夜が過ぎ去れば、私達にとってどうでもよかったのよ。その後は本物の月と入れ替えてしまえばそれで片付く話だったから。だけど、月が偽物に変わったことによって焦った幻想郷の妖怪共が、夜を止めて朝が来ないようにしてしまった。私達から見たらとんだとばっちりよ。酷いったらありゃしない」

 

 少し不服そうに輝夜は言う。

 

「それならば、私達はいつまでも月を隠しているだけよ」

「それだと困るんだよなぁ……俺達も異変解決の為に来てるわけだから、何とかしてくれねぇと困るわけだわ」

「それならば永琳を倒せたら考えてもいいわよ。どの道私じゃ本物の月を持ってくることは出来ない。だから、もし貴方達が本物の月を持って来れたなら、私の重い腰を動かしてあげるわ」

「……その言葉、本当だな?」

「えぇ、嘘だけはつかないわ。無理難題を吹っ掛けることはあってもね」

 

 何処までもおかしそうに、輝夜は笑う。

 彼女は今、竹取物語に登場する輝夜姫として、銀時に無理難題を吹っ掛けている気持ちで伝えているのだ。

 

「なる程。もしこれが成功すりゃ、結婚でもしてくれんのか?」

「そうね。考えてあげてもいいかもしれないわ。貴方が輝夜姫に惚れているとすれば、だけどね」

「冗談。テメェみてぇな絶世の美女、一介の侍にゃ勿体ねぇよ」

「あら、そうでもないわよ? 私は貴方のこと、結構気に入り始めている所なんだから」

「ソイツぁどうも」

 

 銀時は輝夜に背を向けて、そこから動こうとする。

 

「……本当、貴方は一体何者なの? 自分で言うのもあれだけど、私は貴方達から見れば間違いなく美人の部類に入る筈よ。そんな人を前にして、貴方は何故心を動かすことなく平然と立っていられるの? そして何故、私のことを不意にすることが出来るの?」

 

 それは、かつて多くの人々を魅了してきた彼女だからこそ尋ねるもの。

 絶世の美女という言葉に嘘偽りはなく、男性ならばほぼ無条件で相手を惚れさせてしまう程のもの。

 なのに、銀時は動じなかった。彼女の言葉に同情しなかった。

 

「……俺の身体には、まげちゃならねぇ大切なもんがある。ソイツぁ俺の頭から股間までを貫いて、俺の身体を真っ直ぐ立たせてくれる。揺らぐことなく、前へ進むことが出来るんだ……俺の、(しんねん)がな」

 

 彼には曲げられない信念がある。

 だからこそ、目の前に居る人物の言葉に惑わされたりはしない。

 自分が信じたものを、変えることなど絶対にない。

 

「……そう」

 

 輝夜は目を丸くした。

 かつてこれほどまで、自分を貫き通すことが出来た男を見たことがあったろうか。皆美貌にやられ、あっという間に信念など崩れ去り、輝夜を自分のものにしようと躍起になっていた。中には甘い言葉で惑わそうとし、その実下心に満ちた男も居たことだろう。

 目の前に居る坂田銀時という男は、聖人君主という訳ではない。もちろん下心もあり、男として持っている汚い部分もあるだろう。

 だが、彼の生き様は、それ以上に美しかった。

 素直に惚れこんでしまう程、何処までも真っ直ぐだった。

 まさしく、侍。

 

「じゃあな。今の言葉、ぜってぇ忘れんじゃねえぞ? 約束、守ってくれよな」

 

 それだけを告げると、銀時は今度こそ輝夜の前から走り去る。

 彼の背中を見送りながら、輝夜は嬉しそうに呟いた。

 

「……貴方ならば、妃になるのも悪くないわね」

 

「あら、それは頂けない言葉を聞いてしまいましたわ」

 

 そんな呟きを取り消さんとばかりに、スキマ妖怪――八雲紫が、輝夜の前に姿を現した。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五十五訓 折ってはならない大切な物

 

 

 

 

 




まだまだ続きますよー


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第五十六訓 いざ行かん決戦の刻

 開戦の狼煙を上げられた、永琳との弾幕ごっこ。先手を打ってきたのは永琳だった。

 彼女は手に握る弓矢を放ち、それを弾幕として活用する。追尾性こそないが、その分速度がある。

 

「操符『乙女文楽』」

 

 アリスは自身の目の前に大玉を設置し、そこからいくつかの人形を生み出して弾幕を放った。人形から放たれた弾幕と弓矢が激突し、攻撃は相殺される。その際、先ほど崩れた地面の破片が空中を舞っていることに神楽は気付いた。

 

「ほわちゃ!」

 

 アリスから離れた神楽は、飛び散る破片を頼りに永琳に近付いていく。一歩一歩、そうして近付き、

 

「ダァーッ!!!!」

 

 とうとう追いついた神楽は、空中に身を投げ出して、そのままかかと落としを決めようとする。

 

「ふっ!」

 

 しかし永琳は、それを右腕で防ぎ、更に、

 

「天丸『壺中の天地』」

「なっ……!」

 

 神楽の周囲を覆い尽くすように、いくつもの魔法陣が展開された。そして、そこにいくつもの弾幕が放出される。

 

「ちぃっ!」

 

 神楽は日傘を開くことによって、逃げ道の方向に迫る弾幕を弾く。だが、背後から迫るものに関してはどうしようも……。

 

「魔理沙!」

「おう! いくぜ!」

 

 その弾幕目掛けて動いたのは、魔理沙とアリスの二人だった。

 

「スペクトルミステリー!」

「スターダストミサイル!!」

 

 アリスと魔理沙の攻撃が合わさることにより、一筋の光の線を生み出す。それは永琳の放った弾幕を打ち消し、そのまま永琳に向けての攻撃ともなる。

 

「あまい!!」

 

 しかし所詮はレーザー。

 永琳が先回りして素早い動きをすれば、躱すことの出来る攻撃。

 そのまま永琳が弓矢を放とうとして、

 

「はぁああああああああああ!!」

「なっ……!?」

 

 レーザーが消えた所から現れたのは、木刀を握りしめた新八だった。

 彼はこの空間に出てくる際、魔理沙の箒に乗っていた。だからこそ、攻撃が終わるタイミングを見切って、奇襲を仕掛けることが出来た。

 

「蘇活『生命遊戯-ライフゲーム-』」

 

 しかし永琳は冷静にスペルカードを発動する。

 緑色のまばらな弾幕をばら撒きつつ、新八を狙って青い弾幕を張る。

 

「夢符『封魔陣』!」

 

 それらの弾幕を、霊夢が張り巡らせた札型の弾幕によって打ち消す。結果、新八の攻撃はそのまま続行され、

 

「ウォアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「くっ……!」

 

 攻撃を防ぎつつも、永琳はこの空間における地面まで吹き飛ばされた。それを見越して、霊夢達も地上へと降りる。

 

「……ここまでとはね。流石に異変解決しようと乗り込んできた者達なだけはあるわ」

 

 呟きながら、永琳は自身の周囲に密度の濃い弾幕を設置する。それらは次第に彼女の近くまで集まっていき、そして……。

 

「けど、貴女達では、私達を倒せない」

 

 天呪『アポロ13』。

 永琳の周囲に集まった弾幕は、次の瞬間には地面に降り立った霊夢達を襲うように一気に放たれる。

 

「しまっ……!」

 

 対処出来なくはないとはいえ、霊夢達は今地面に降り立ったばかり。つまる所、少しばかり隙が生まれてしまうということ。

 弾幕を放てる霊夢達ならともかく、新八や神楽にはこれらを防ぐ手段がかなり限定されてしまう。

 多少の攻撃を甘んじて受け入れるつもりで、

 

「死符『ギャストリドリーム』」

「紅符『不夜城レッド』」

 

 大量の蝶と真紅の十字架が、それらの攻撃を受け止めた。

 

「よくここまで保たせてくれた。おかげで私達の取り分が残って何よりだ」

「楽しいところを取っておいてもらえるなんて、私達は幸せ者ね……うふふ」

 

 楽しそうにそう言いながら、レミリアと幽々子が前に立つ。その背中は、見る者に安心感を与えるほどのカリスマ性を醸し出している。

 

「兎退治をしていたら、こちらに来るのが遅れてしまいました」

「ですがご安心を。まだまだ体力は有り余ってますので、貴婦人をもてなすことはできます」

 

 剣を構える妖夢と、ナイフを構える咲夜。

 

「だから、私達で必ず倒そう! そしてギン兄様を迎えにいくの! 『もう異変は解決したよ? 活躍出来なくて残念でしたー』って!」

 

 楽しそうに、嬉しそうに、そして決意を秘めた瞳を宿して、フランも立つ。

 

「……これだけの数を相手するのは流石に骨が折れそうね」

 

 禁薬『蓬莱の薬』。

 竹取物語における、不老不死を得る薬と言われるもの。

 

「姫様、お力……お借りします。全ては我々の安寧の為に……っ!!」

 

 ∞の文字を描くようにレーザーが放射され、更に疎らに弾幕が張り巡らされる。八意永琳の放つラストスペル。

 

「かかってきなさい……受けて立つわ!」

 

 真正面から挑むのは、博麗霊夢。

 今ここに、決戦の時が来ようとしていた。

 

「……悪いな。随分と遅刻したみてぇだ。けど、まだ俺の分は残ってるよな?」

 

 その時、闇の中から男の声が聞こえてきた。

 その声は、今この場において待ち望んでいた声。

 

「姫様の相手してたらこんな時間になっちまった……が、ちょうど良さそうだな」

 

 その男は、木刀をしっかりと握りしめ、目の前にいる人物を見据える。

 

「約束したもんでな。テメェをぶっ倒しに来たぜ、異変を起こした張本人さんよぉ」

 

 白夜叉ーー坂田銀時が、彼女達の目の前に現れた。

 

 ※

 

 輝夜の前に現れた八雲紫は、相変わらず笑みを浮かべながら目の前にいる人物を見据える。

 輝夜もまた、負けじと紫の目をじっと見つめていた。

 

「彼を私の前に呼び寄せたのは貴女でしょう? その言葉はお門違いじゃない?」

「そうですわね。目的があって坂田さんを貴女の前に呼び寄せたのは、間違いなく私ですわ。そのおかげで、貴女は幻想郷の夜を明かしてくれると約束してくださいました」

「……なるほど。私にあの侍と約束させることが目的だったのね」

「その通りですわ。貴女は高貴なる身分の方ですから、一度結んだ約束については必ず守られる方だと思っております。それに、竹取物語の輝夜姫は、無茶な要求を飲む方にはとても寛容かと思いまして」

 

 全てお見通し、と言わんばかりに紫は語る。

 輝夜はこの幻想郷においてもかなり年長者に値する。若輩者の扱い方を心得ているし、彼女から見て『八意永琳を倒す』ということは至難の業であることも認めている。それは永琳の力を認めてあるからこその約束だった。

 しかし、紫は笑顔で告げる。

 

「貴女は八意永琳を認めているとのことですが……彼はその上を行きますわよ。間違いなく、今回の異変は解決されますわ」

「絶対的な自信ね」

「いいえ、確信ですわ」

 

 両者一歩たりとも譲らない。

 輝夜にとって、今回の夜はとても特別なもの。万が一異変解決となってしまった場合、自身の元に月の使者が訪れてしまう。

 そんな彼女の考えを先回りしたのか、紫はこんなことを告げてきた。

 

「そうそう。この幻想郷において、満月の月についてですが……」

 

 彼女の言葉を聞いた輝夜は、目を丸くして脱力してしまったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五十六訓 いざ行かん決戦の刻

 

 




おそらく次回には異変に決着が着くはずです!


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第五十七訓 明けない夜などない

「ギン兄様!!」

 

 真っ先に反応を示したのはフランだった。彼女からしてみれば、突然引き離された大切な人との再会。モチベーションを爆上げさせるには十分過ぎるものだった。

 

「坂田銀時……異界の侍……姫様が仰っていた、重要危険人物……」

「あのお転婆娘にそんなこと言われてたのかよ。謙遜しちまうぜ」

 

 永琳のつぶやきに対して、銀時は可笑しそうに言葉を返す。

 銀時が次々と異変を解決していたこと自体は、人里にて薬を配布することのあった鈴仙より伺っていた。それを受けて、輝夜はどうやら銀時のことを要注意人物として捉えていたようだ。

 

「なによ、銀時。かぐや姫に会ってきたの?」

 

 霊夢が尋ねると、

 

「まぁな。紫に落とされた先にいたのがたまたま姫さんだったってわけだ。ソイツと話つけて、本物の月を持って来れば明けない夜を明かしてくれるって約束してきた」

 

 銀時は木刀を永琳に向けながら答えた。

 

「さて……これだけの戦力を前にして、テメェはまだ抗うか? やろうってんなら相手になるが」

 

 挑発するように銀時は尋ねる。

 既に今回の異変解決に向けて動いていたメンバーはほぼ全員揃っているこの状況。一人を相手するならまだしも、これだけの人数を相手にするにしても、永琳一人では中々に骨が折れることだと思われた。

 しかし、永琳は引かない。

 

「……私は引くわけにはいかない。確かに、これだけの人数を相手にするのは無理かもしれない。けど、姫様を守る為、私は私の最大限を……出す!!」

 

 永琳は弓を捨て、両手を前に突き出す。

 自身の持ち得る最大の力を利用して、辺りに居る敵を一掃しようと試みる。

 

「何か……来る!」

 

 真っ先に感知したのはレミリアだった。

 大いなる力に対して敏感なのは、吸血鬼故の行動だった。

 

「天網蜘網捕蝶の法!!!」

 

 瞬間、辺り一面に弾幕とレーザーが放たれる。

 それはまるで、蜘蛛の巣を彷彿とさせるような、網目状になって広がる捕縛型の弾幕。

 

「銀さん!!」

 

 新八は叫びつつ、迫りくる弾幕を避ける。

 他のメンバーも同様で、各自迫る弾幕を避けるのに精いっぱいだった。

 ただ、一人を除いて。

 

「ギン兄様!!!!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「なっ……?!」

 

 あろうことか、蜘蛛の巣を潜り抜けようと試みる男。

 彼は獲物などではない。この巣における、狩人。

 坂田銀時は、自身の刃を利用して、迫りくる蜘蛛の糸(レーザー)をぶった切る。

 

「これで、終わりだぁあああああああああああああああああ!!」

「……っ!!」

 

 銀時から繰り出される、無数の斬撃。

 木刀による打撃は、永琳の体力を根こそぎ奪い去っていく。

 

「ぐ、がっ……!」

 

 やがて永琳は完全に沈黙し、弾幕も綺麗さっぱり消え去った。

 瞬間、辺り一面は一気に部屋に戻り、荒れ果てた襖や切り刻まれた畳が露わとなった。

 

「……はぁ、はぁ……」

 

 怪我はない。

 ただし、相当体力を奪われたことには間違いない。

 銀時の息は荒く、肩で呼吸をする形となる。

 

「ぎ、ギン兄様ーっ!」

 

 そんな銀時に、フランは思わず抱き着いた。

 銀時は多少よろけながらも、彼女のことを優しく受け止める。

 

「……結局、最後は貴方が決めるのね。うふふ」

 

 近寄りながら、笑顔で賛辞の言葉を述べる幽々子。

 

「お見事です、銀時さん……いつか私にも、貴方の剣術を教えてください」

 

 頭を下げ、何故か修行の約束を取り付けようとする妖夢だった。

 

「ちぇー、結局かっこいい所銀さんに持っていかれちまったぜ。なんだか味気ないぜ……」

 

 若干口を尖らせるも、嬉しさを隠すことのない魔理沙。

 

「よくやったな、ギントキ。流石は私の見込んだ男だ」

 

 カリスマ性を発揮するレミリア。

 

「流石は銀時様。感服いたしました」

 

 頭を下げながら言葉を述べるのは、咲夜だった。

 

「ここまで来るとむしろ天晴ね……」

 

 何と言ったらいいのか分からない表情を浮かべるアリス。

 

「……まったく、主人公として美味しい所を持って行くなんて。私の分も残しておきなさいよね」

 

 不敵な笑みを浮かべる霊夢。

 皆が同様に賛辞の言葉を述べていた。

 

「銀ちゃん、お疲れ様アル」

「銀さん、これで月は……」

「あぁ、恐らく元に戻った筈だ」

 

 一同は揃って、天井を見上げる。

 戦いの激しさを物語るように、天井には穴が開いてしまっていたが、そこから差し込んでくる月の光は、まさしく本物の満月の光。

 彼らの戦いを祝福するかのように、優しく光が包んでいた。

 

 

「……と、いう訳で。今回貴女が起こした異変については、まったくの無意味だった、ってことですわ」

 

 月を見上げながら、八雲紫が言い放つ。

 輝夜は、ポカンとする自身の表情を隠すことなく、それから一言。

 

「じゃあ、ここには月の使者は、来ない……?」

「そう言ったではありませんか。幻想郷と貴女が元居た場所は、そもそもが違う世界なのです。なので月から使者が来るということもありませんわ」

 

 そう。

 輝夜達が今回異変を起こした最大の理由が、『満月の日に使者が訪れて、輝夜を連れ去るのを防ぐ為』だったのに、その大前提が崩れていたとなると。

 

「そんなの……ただの力の使い損じゃない!!」

 

 珍しく、輝夜が叫び声をあげた。

 

「まぁ、その事実を知らなかったのですから仕方ありませんわね……長年生きてきたけれど、幻想郷に来てから『月の使者が来た日と同じ満月の日』が来たのは、今回が初めてでしたから……勘違いはよくあることです。なので貴女方は別に悪いわけではありませんわ。異変を起こしたことについては問われるかもしれませんが」

「しかし、夜が明けなかったことに関しては私達のせいではないわ。元々住む妖怪達が勝手にやったことでしょう?」

「……それについては反論しようがありませんわ。しかもたちの悪いことに、一人だけでなく、『満月でなければ困る妖怪達』が集団で行った結果、歪な永遠が訪れてしまっただけのことですから……」

 

 これには紫も困っていた。

 彼女はあくまで境界としてのスキマを生み出す能力が基本となる。永遠を元に戻すことについては専門外なのだ。

 故に、彼女が今回の異変において動いた最大の功績は、『異変を起こした犯人の認識を正す事』だった。そのうえで、『夜を元に戻すことを約束させる』ことを行ったのだ。

 結果、紫の思惑通りに動くこととなった。

 

「はぁ……仕方ないわ。彼も私の出した無理難題を、あっさり解決してしまったみたいだし……約束は守らなきゃいけないわね」

 

 溜め息を吐き、その後で目を閉じる。

 紫は、そんな輝夜の姿をじっと見つめていた。

 

「明けない夜に終焉を。偽りの月は破壊され、元の月に戻った。そして夜明けは訪れる……偽りの永遠に幕引きを。『永夜返し』」

 

 瞬間、今まで夜だった時間が、急速に朝へと変化し、そして夕方へと姿を変える。

 時間にして、既に夕方から夜までの間に移行していたということが証明された。

 

「……これで、今回の異変は完全に終わりよ。満足かしら? スキマ妖怪」

 

 不機嫌そうに輝夜は尋ねる。

 

「そうですわね。これでようやっと宴会が楽しめますわね」

「相変わらずそういう行事好きねぇ……けれど、今回の宴は、存分に楽しめそうね」

「あら、どうしてかしら?」

 

 不思議そうに尋ねる紫。

 そんな彼女に対して、輝夜は今回で一番の笑顔を見せながら、答えた。

 

「だって、今回の宴には、私の心を射止めた坂田銀時(だんなさま)が来るのだから」

 

 後にこの一言が、新たな異変(しゅらば)を生むことになろうとは、誰もが予想していなかっただろう……。

 兎にも角にも、長かった夜は、ようやっと終わりを迎えたのであった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五十七訓 明けない夜などない

 

 




想像以上に、銀さんってば、やばい方々に惚れられまくっていませんか?


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第五十八訓 朝って爽やかな時もあれば重苦しい時もあるよね

 異変から一夜明け、翌日のこと。

 珍しく一切の怪我をしなかった銀時からしてみれば、異変翌日に普通に目が覚めることは、この上なく幸せに感じる筈、なのに。

 

「……何だ、凄く嫌な予感がする」

 

 銀時の身体からは、常時冷や汗が流れ出る始末。

 異変解決した時には既に夕方から夜に差し掛かっていた為、銀時・新八・神楽の三人は揃って永遠亭にお邪魔することになった。

 レミリア達は既に紅魔館に帰っており、幽々子達もまた冥界へと帰っている。

 霊夢や魔理沙、アリスも、それぞれの家へ帰っていることだろう。

 なので、何か事件が起きうる可能性など早々ないというのに。

 

「……何故だ、この布団、不自然な膨らみがある」

 

 銀時は、自分の布団に、見慣れない膨らみがあることに気付いていた。

 フランが銀時の布団にもぐりこんだ可能性が一番高いのだが、レミリアが一緒に寝たいと言って引き取った為、その可能性は消える。

 

「……仕方ねぇ、剥ぐか」

 

 覚悟を決め、銀時は布団を思い切り――剥いだ。

 

「あら、大胆……♡」

 

 そこに居たのは、白襦袢のみを羽織っていた輝夜の姿だった。

 しかも、顔は朱色に染まっており、恋する乙女そのものと言ったような表情だった。

 

「なんでテメェが俺の布団にもぐりこんでやがるんだぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

 それはもう驚く程綺麗な叫び声だった。

 多分ここ数日で一番の悲鳴だろう。

 

「え? だって輝夜姫からの無理難題を貴方はクリアしたのよ? だったらこれはもう、私は貴方に嫁ぐしかないでしょう? 何を分かり切ったことを言ってるの?」

「テメェに興味はねぇって言ったよな? 断ったよな? 惚れてねぇって言ったよな!?」

「関係ないわ? 惚れさせるだけよ? ていうか婚姻届出すわよ?」

「話が飛躍し過ぎなんだよテメェは!! 第一なんで俺の布団もぐりこんでんだゴラァアアアアアアア!!」

「え? だって愛する二人が一緒の布団で寝るのは当たり前のことでしょう?」

「一方通行だっつってんだろ!! もうそれストーカーの域だよね? おかしいよね!?」

 

 困惑するばかりの銀時。

 残念ながら半ば箱入り娘である輝夜に、ある程度の人間としての常識は通用しないところがある。

 特に彼女は、恋愛感情を持ったことがあまりない。故にその愛情表現の仕方に関しては、フラン並に極端なのだ。たちが悪いのは、輝夜の方が無駄に知識を持ってしまっているということ。外に出られなかったフランとは違い、人並みの交流はあるせいで、中途半端な知識があるのが気難しい所。

 

「私は貴方様と一生添い遂げると決めたの! 旦那様……どうか私を受け取って!」

「出来るかぁああああああああああああああああああ!!」

 

 銀時、逃走。

 

 

 所変わって、迷いの竹林。

 そこではてゐと鈴仙が、新八や神楽と話をしていた。

 

「てゐさんってここにどれだけのトラップを仕掛けているんですか?」

「キシシ。よくぞ聞いてくれたな眼鏡君」

「眼鏡君って何だよ!!」

「まぁまぁいいじゃないか眼鏡君。私がここに仕掛けたトラップをすべて説明しようとすると、一週間はかかるぞ?」

「それだけのトラップを仕掛ける暇があるのならば、もっと他のことに費やしなさいよ、てゐ……」

 

 鈴仙が溜め息交じりにそう呟く。

 

「同じ兎でもここまで違うアルな。てゐとかいう奴は私達の世界に来ても十分通用しそうネ」

「確かに……他の人達を次から次へとトラップで一網打尽していく様が浮かびそうだよ……」

 

 てゐのトラップ技術は、そんじょそこらの一般人では敵いそうにない程強力だった。事実、かなり油断していたとはいえ、銀時を捕える程には強い。その後は集団リンチ(おしおき)にあったおかげでどうしようもなかったのだが。

 

「ところで、いつものパターンで行くとすれば、今回の異変解決後の宴会はここで開かれる筈なのですが……」

「えっ」

 

 新八の言葉に真っ先に反応したのは、てゐだった。

 何故なら、客人が来るというのであれば、竹林に仕掛けられたありとあらゆるトラップ達は……。

 

「……そういうことだから、てゐ、頑張りなさい」

「ぬぁあああああああああああ! 私一人で終わるわけがないよぉおおおおおおおおお! 手伝ってよ鈴仙んんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!」

 

 肩を掴み、ぐわんぐわんと揺らしながら、涙ながらにてゐは懇願する。

 そんな彼女に、鈴仙がにやりと笑いかけながら、一言。

 

「ファイト♪」

「もうむしろトラップを仕掛けたまま歓迎してやろうか!! キシシシシ!!」

 

 考えることを放棄し、むしろトラップを仕掛けることで歓迎しようというわけの分からないことを宣うてゐに対して、

 

「そんな事、認めると思ってるの?」

 

 ドスの効いた永琳の声が、辺り一面に響き渡った。

 

「「ひぇっ!!」」

 

 てゐだけでなく、その場に居た鈴仙も思わずビクッ!! と跳ねてしまう。

 そんな彼女達に対して、永琳が一言。

 

「明日までに解除なさい。二人で。今すぐ。ハリーアップ」

「「は、はいぃいいいいいいいいい!!」」

 

 何故かとばっちりを受けることになった鈴仙の、可哀想な瞬間だった。

 

「……流石にこればかりは同情せざるを得ませんね」

「ドンマイ、アル」

 

 新八と神楽からかけられる言葉は、それしかなかった。

 

 

 さて、場所はかなり変わって、異変解決後の紅魔館の様子。

 

「ねぇねぇ、お姉様」

「何かしら? フラン」

 

 珍しく、同じ布団で眠っていたフランとレミリア。

 と言うより、銀時の所に行っていない時には、こうして二人で寝ることの方が多くなっているのだ(主にレミリアがフランと一緒に寝たい為)。

 そんな中で、フランがレミリアに対して尋ねている。

 

「最近、ギン兄様の周りに、女の人がどんどん増えてる気がするの……」

「……聞き捨てならないな」

 

 レミリアにとって、フランが幸せになることこそ至高。

 確かに、銀時に対してそれなりの好感度があるのは確かだ。しかしそれはあくまで友人として。フランのように恋愛感情を抱いているわけではない。

 だが、そんな妹が愛する者の周りに、余計な人物達が増え続けることについては、姉として頂けない部分があるようだ。

 

「ヨウムもレイムも、ギン兄様に対して特別な感情を抱いてそうなの……もっとギン兄様にアピールしなきゃなって思うんだけど、一体どうすればいいのかな……」

 

 そこにあるのは、恋する乙女の純粋な悩み。

 レミリアは姉として、妹の成長を素直に喜んでいた。

 たとえ恋愛対象が天然パーマのちゃらんぽらんだったとしても、外の世界を知るきっかけとなった人物に対してきちんと正しい感情を見いだせていることに、喜びすら感じている程だ。

 だからこそレミリアは、しっかりと考え、その上で言葉を紡ぐ。

 

「そうだな……まずは相手に対して、自分がどれ程好きなのかをしっかりと伝えるべきだと思う。流石にギントキもそこまで馬鹿じゃない。ある程度感情に対して理解はある筈だ。どこぞの鈍感系主人公でもない限り、少なからず好意は気付く筈だ」

 

 坂田銀時は、よくあるラノベハーレム系主人公とは微妙に違う。

 少なからず相手の好意や悪意に対しては感じ取ることが出来、理解する。

 もちろん、フランからの感情がただの友好で終わるわけがないことを、彼だって理解していることだろう。

 だが、感情や気持ちというのは、言葉にすることで改めて認識させられるもの。

 相手はもちろん、自分もそう。

 

「……そっか。私、次の宴会で頑張ってみる!」

「そうだ、その調子だ……フラン」

 

 フランの頭を優しく撫でるレミリア。

 姉からの愛情を受け、フランも嬉しそうに微笑んでいた。

 こんなにも姉妹愛は素晴らしいというのに、『宴会』というワードが出ただけで、何やら嫌な予感を彷彿とさせるのは、果たして気のせいなのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五十八訓 朝って爽やかな時もあれば重苦しい時もあるよね

 

 




輝夜様がキャラ崩壊してる……(しろめ
あと、お知らせです!
UA数15000突破!お気に入り登録数100突破致しました!!
連載開始からおよそ一ヶ月半……やったね!
これからも頑張っていきます!!

また、「この銀魂キャラだしてほしい」というリクエストがございましたら募集致しますー。
出せる範囲で頑張って出します()


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第五十九訓 嵐の前はどう足掻いても単純に五月蝿くなる

「銀さん、その状況一体どうなってるんですか?」

 

 永遠亭から一度引き上げて、万事屋に戻ろうとした時のこと。新八が銀時のことをじっと睨みつけながら言い放った一言。理由は単純で、

 

「何? 私がいるのが不満だって言うの? 輝夜姫よ? 高貴なる身分よ? 喜びなさい?」

「喜べるわけねぇだろ!! なんでアンタが銀さんに抱き付いて片時も離れようともしないんだよ!! もうわけわかんないから!!」

「落ち着け新八……俺にもわからねぇ……」

「諦めないでくださいよ銀さん!?」

 

 もう考えることを放棄して白目状態の銀時と、律儀にツッコミを入れまくる新八。

 

「銀ちゃんこの小説だとどうしようもないナチュラル女誑しに変化してるネ。何アルか? 愛染香でも嗅いだアルか? ハーレム王に俺はなるとか気合い入れてるアルか? 正直言ってキモいアル」

「言われる筋合いのない罪を次から次へと押し付けてくんのやめてくんない? 銀さんのハートガラスだから。ハートブレイクしちゃうから」

 

 ゲスを見るような冷たい眼差しを向ける神楽。かつて歌舞伎町でこれほどまでに女性に惚れられまくる坂田銀時を見たことがあっただろうか。普段は天然パーマのチャランポランでも、いざという時には輝く瞳がファンの間ではまことしやかに囁かれているのだろうか。

 

「とりあえず、そろそろ帰るか」

「えぇ、そうね。私たちの愛の巣へ♡」

「お前の家ここだかんな? 大人しくここに残れ?」

「愛する夫婦は常に一緒でしょう?」

「だからテメェと夫婦になった覚えはねぇっつってんだろ!!」

 

 誰もがダメージを受けるはずの涙目上目遣い攻撃も、フランで慣れているため効力がない。というか、輝夜の場合は計算されてやっていることが銀時にも理解出来ているので、スルーすればそれで解決なのだ。

 

「本当に誘惑が全く効かない殿方ね……こんな人初めてだわ」

「テメェみてぇなストーカー女にゃ慣れてるからな。もちっと可愛げのあるやり方見つけて出直して来やがれ」

 

 不満そうに呟く輝夜を軽く突き飛ばし、銀時は永遠亭から出ようとする。

 ちょうどその時。

 

「待て、坂田銀時」

 

 声をかけられる。

 そこに居たのは、真面目な表情を浮かべている永琳だった。

 

「よぅ。もう身体の方は平気なのか?」

「おかげさまで……というより、私から一つ、貴方にどうしても聞かなければならないことがある。別に宴会の時でも構わないのだけど、はっきりさせておきたいと思って」

 

 一度深呼吸をし、それから永琳はこう尋ねる。

 

「あの時、どうして手加減したの?」

 

『あの時』とは間違いなく、銀時が永琳にとどめを刺した時。第三者からしてみれば、あれは紛れもなく本気で戦っているように見えた。しかし永琳は、あの時の銀時を『手加減した』と称した。

 銀時は頭をボリボリと掻きながら、

 

「別に大したことじゃねえよ。そこにいる姫さんの顔思い浮かべたら、重傷負わせるのに気が引けただけの話だ。別に俺達は異変を解決しに来ただけで、犯人ぶっ飛ばしに来たわけじゃなかったからな」

「……そうか」

 

 その答えを聞いて、永琳は満足したようだ。輝夜もまた、坂田銀時という男にますます惚れ込んだようで、うっとりしたような表情で銀時を見つめている。

 永琳は満面の笑みで、銀時に一言。

 

「姫様をよろしく頼む」

「いや遠慮する」

 

 それはもうとても綺麗に寸分違わず間髪入れずに返された一言だった。

 銀時の答えは最初から決まっていたのだ。

 

「何故よ!? 輝夜姫よ!? 絶世の美女よ!? こんなチャンス二度とないかもしれないのよ!?」

「るせぇ!! 美人だからって夜這いして許されると思ったら大間違いだからな!? つか夜這い通り越してストーカーだろうが!!」

「姫様……はしたない真似は……」

 

 これには永琳も苦笑い。

 

「私たちは夫婦よ? そこにはしたないなんてものは存在しないわ!!」

「勝手に夫婦にすんな。テメェみてぇながめつい妻なんざこっちから願い下げだぜ」

「……銀さん、このままだと時間の無駄ですよ? そろそろ行きませんか?」

「時間の無駄ってなんでよ!?」

「……なんか、思ってたのと全然違うアル。すごくこう、さっちゃんみたいネ」

 

 輝夜に対する印象がそこそこにブレイクしたところで、銀時達はその場から去ったのだった。

 だが、彼らはまだ知らない。

 宴会ではもっととんでもない修羅場が待ち受けているということを……。

 

 ※

 

 さて、満を持して万事屋に帰ってきた銀時達だったのだが。

 

「で? なんでテメェは何食わぬ顔で座ってんだ? ヅラ」

 

 なぜか勝手にお茶を飲んでいる桂が居た。

 

「ヅラじゃない、桂だ。八雲殿から宴会を開くという連絡を受けてな。そこでこうしてスタンバッていたわけだ」

「アイツから? もしかして今回はこっちの奴らを幻想郷に招き入れようってことか?」

 

 どうやら紫は、銀時達が永遠亭に泊まっている間に、こちらの世界の住人に声をかけていたようだ。

 

「八雲殿曰く、前回の宴会にいたメンバーには声をかけたと言っていた。後、新八君の姉君にも」

「姉御も来るアルか!」

 

 新八の姉ことお妙が来ることがわかって、神楽のテンションが上がる。

 反対に、男性陣のテンションは微妙になる。

 

「前のメンバー全員来るっつったよな?」

「えぇ……ということは、月詠さんも、さっちゃんさんも来るって事ですよね」

「そしてお妙が来るってことは、九兵衛も来る可能性がある」

「「カルテット、揃ってしまった」」

 

 お妙、月詠、猿飛、九兵衛の四人が揃った時、大抵ろくなことが起きない。

 そして忘れてはいけないのは、前回メンバーということなので長谷川さんもいることなのだが、もはや彼らの頭の中から抜け落ちてしまっている。

 

「こうして酒を飲む機会などそうそうないだろうからな。俺も楽しみにしてるぞ、銀時」

「そうかい。まぁ勝手に楽しんでろよ、ヅラ」

「ヅラじゃない、桂だ」

 

 横ではエリザベスが『俺も行くぞ!バリバリ!』というプラカードを掲げている。

 

「今回の宴会……果たして無事に終わりますかね」

「さぁな……少なからず、永遠亭で行われるって段階で、あの馬鹿姫が何かやらかさないか心配だ」

「それ以上に私としては、フランとかが心配アル」

「あぁ……確かにそうだね……」

 

 新八と神楽は、今回の宴会は間違いなく荒れると確信していた。

 二人は輝夜のゾッコンぶりを目の当たりにしてしまっている。当然、銀時に対して好意を抱いているフランが、黙って見ているわけがない。下手したら戦闘すらあり得るのではないだろうか。

 そこにトドメと言わんばかりに、今回は猿飛や月詠もいる。

 

「……なんだか胃が痛くなったよ」

「どうした新八君? 胃薬でも飲むか?」

「いや、いいです……」

 

 桂の気遣いが、心に染みてしまったという。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五十九訓 嵐の前はどう足掻いても単純に五月蝿くなる




さて、次回は波乱の宴会ですよ!


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第六十訓 ようやっと登場する原作キャラも存在する

 そしてとうとう来てしまった、宴会当日。

 幻想郷に赴く為に、歌舞伎町メンバーは万事屋に集合していた。

 

「ったく、こう見るとなかなか豪華な面子だなチクショウ」

 

 銀時は、居間に集まっているメンバーを見ながら呟く。

 新八や神楽はもちろんのこと、桂・猿飛・月詠・お妙の四人に合わせて、やはりというべきか九兵衛も居た。長谷川もまた隅の方に居る。

 

「銀さんってば水臭いじゃない。どうしてこう、面白いことに私達をおいていっていたのかしら? 私ってば六十話にして初めての登場なのよ? 初期から居るメンバーなのに出番出るの遅すぎじゃない?」

「そうだ、銀時。お妙ちゃんの出番がこんなにも遅いとはどういうことだ!? それに、僕とお妙ちゃんのサービスカットがないじゃないか!」

「知るかんなもん!! 俺に言われたってどうしようもねぇんだよ!! 文句あんなら作者に抗議して来い!!」

 

 初登場で既に抗議モード突入の二人。

 一方で月詠は、溜め息を吐きながらそんな二人を眺めていた。

 

「まったく。そう騒ぐものでもなかろう。出番の一つや二つ、あった所で何の影響もないじゃろうに」

「甘いわよ、ツッキー。私達の出番がない裏でも、銀さんは幻想郷でドンパチ繰り広げてるのよ? そしたら一体何が起きるか分かったものじゃないわ」

「いや、しかし……それはアイツの勝手じゃろう……」

「銀さんを巡るライバルが増えてもいいっていうの!?」

「いや、わっちは元から……」

 

 猿飛の言葉に、顔を赤くしている月詠。もうこの子がヒロインでいいんじゃないだろうか?

 

「あっはっはっ! まったく愉快この上ないなぁ、銀時! では先行ってるぞ!」

 

 何故か桂は逃げ足が速い。

 真っ先に飛び込んでいった。

 もしかしたら、お妙がいることで近藤が来る可能性を察知した、のかもしれない。

 

「なぁ、銀さん。俺、何だかんだで幻想郷行くのは初めてなんだよ。もしよければ、何人かいい子紹介してくれよ? な?」

 

 長谷川は割と本気で懇願している。

 

「長谷川さんよぉ、幻想郷に居るのは常識を持ってない奴らばかりだぜ? それでもいいのか?」

「銀さん、周り見てみろよ。俺達の周りに居る女で、常識持ってる奴、居るか?」

「……いねぇな」

「ちっとはフォローしてやれよそこぉ!!」

 

 長谷川と銀時がとんでもないことを共有しているのに対して、新八心からの叫び。

 

「なんでもいいけど、早く行きたいアル。美味しい食事が私を待ってるネ!」

「お前は食事のことしか考えてねぇのかよ……まぁいつまでも待たせるわけにゃいかねぇからな。とっとと行くぞ、オメーら」

 

 銀時先導の元、一同は幻想郷へと足を運ぶ。

 この日の宴会は、果たしてどのようなバカ騒ぎが繰り広げられるのだろうか。

 願わくば、平和のまま終わって欲しい所である。

 

 

 幻想郷に来た彼らが最初に足を踏み入れるのは、当然博麗神社。

 そこには既に霊夢や魔理沙が待ち構えていた。後、先に行っていた桂もだ。

 

「よぅ銀さん! こりゃまた大所帯で来たもんだぜ!」

「魔理沙か。アリスと一緒に行ってるんじゃなかったのか?」

 

 真っ先に話しかけてきたのは魔理沙だった。

 彼女は手に酒を持ちながら、気さくに話しかけてくる。

 

「アリスは準備するって先に行ったぜ。私と霊夢は、銀さん達の案内係ってわけだぜ」

「そうね。今回は初めて幻想郷に来る人も居るから、私達が道案内するのにぴったりってことで選抜されたのよ」

 

 面倒臭そうに霊夢は語る。

 彼女は基本的にはあまり自分から進んで事を為そうとはしない。その点銀時と似通っている部分があり、流石は主人公勢と言った所である。

 

「銀さんがお世話になりました。私は新ちゃんの姉の、お妙と言います」

 

 一方、歌舞伎町メンバーで最初に挨拶をしたのはお妙だった。

 彼女は新八の姉として、色々お礼を言いたいところなのかもしれない。

 

「これはこれはご丁寧に。霧雨魔理沙! 普通の魔法使いだぜ!」

「私は博麗霊夢。博麗神社の巫女よ」

 

 この二人を皮切りに、九兵衛達も自己紹介を簡単に済ませる。

 そうして粗方自己紹介も終わった所で、

 

「んじゃ早速永遠亭に向かおうぜ! みんな待ちくたびれちまって始めちまってるぜ!」

「……出来れば俺としちゃ回れ右して帰りてぇんだが」

 

 もう面倒なことが起きるのが分かっている銀時としては、大人しく万事屋に帰りたい所。

 しかし霊夢が、

 

「アンタが来ないと、フランがそろそろ爆発寸前よ? ここ最近アンタも忙しかったし、向こうもそっちに行けなかったりで、寂しさ満点よ? レミリアが私のところに妹自慢を交えて言ってくるもんだから大変よ」

「フラン?」

 

 聞き慣れない名前に反応したのは、猿飛だった。

 

「その子、銀さんとどんな関係なの?」

 

 もう、これこそが面倒事の幕開けだろう。

 

「銀時に懐いているのよ。前の異変で色々とお世話になったみたいだから」

「ふーん……」

 

 恐らく、猿飛の中で警戒リストに入ったことだろう。

 一方で月詠は、

 

「……もしや、前の宴会で銀時に飛びついていた女子か?」

「あぁ、そうかもしれないわね。銀時を見つける度に飛びつくから」

「なるほどな。確かに、あの様子では相当銀時を好いておるようじゃな」

「……こんな天然パーマを、か?」

 

 九兵衛は目を丸くする。

 まるで信じられないものを見るかのようだ。

 実際、彼女達からしてみたら、銀時がモテまくる状況というのが信じられないのかもしれない。

 

「信じられませんよね? 銀さん、こっちの世界じゃ無茶苦茶モテてるんですよ」

「おかしいアル。絶対何か裏で金払ってるとしか思えないネ。いくらつぎ込んでるアルか」

「何その特殊な風俗に金落としてる駄目男の図。そんなんじゃねえからな? 普通にしてるだけだからな?」

 

 彼女達からしてみれば、銀時が普通にしているのにモテていることがもうおかしいのだが。

 猿飛は嫉妬の眼差しを見せ、月詠は溜め息を吐いている状況。

 お妙は我関せずと言った所だろうか。

 

「フランが待ってるって言うなら仕方ねぇか」

「……今、ふと思ったのだが、銀時。フラン殿に関しては随分と甘いな」

 

 桂がある点に気付く。

 それは、銀時はフランのこととなると、そこそこ能動的に動くという点だ。

 確かに、彼の性格上自ら抱え込んで勝手に行動することが多い。それもまた他人の為に動いていることでもある。しかし、フランに関してはどことなく、自分の為にも行動しているように見えたのだ。

 そんな質問に対して、銀時は答える。

 

「……フランは好意を素直にぶつけてくるからな。無碍にするわけにゃいかねぇんだよ。約束もあるしな」

 

 約束。

 坂田銀時という男は、一度交わした約束を果たそうとする。彼とフランについては、最初に会った時に約束を交わしている。今でも彼はそれを果たそうとしているのだ。

 それに、銀時に対して真正面から常に好意をぶつけてきて、かつ、猿飛や輝夜のように一方的ではない感情は、彼にとって初めてだったのだ。それが尊敬とか家族愛、隣人愛に収まっていないことも把握しつつ、彼はフランのことを、少なくとも新八や神楽のように大切に想っていることは確かなのだ。

 

「そうか。それならば良いのだ」

 

 桂は銀時の答えを聞いて満足したようだ。

 

「話は終わった? それじゃあ行くわよ」

 

 霊夢の言葉により、銀時達は永遠亭に向かう。

 本当の地獄は、これからだ……。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十訓 ようやっと登場する原作キャラも存在する

 

 

 




お妙さんと九兵衛初登場回ですー。
次回、ようやっと宴会が始まります……!


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第六十一訓 男を巡った戦いを止める方法はない

 永遠亭に着いた銀時達。

 最初に待ち受けていたのは……。

 

「待ってたわ!! 愛しの旦那様♪」

 

 ハートマークをたくさん飛ばしまくっている輝夜だった。

 彼女は銀時が来たことを確認すると、真っ先に飛びついて、その腕に抱き着いたのだ。

 

「ちょっと!!」

 

 そんな彼女に、猿飛が反応しないわけがない。

 

「何いきなり銀さんに抱き着いているのよ! 離れなさいよ雌豚!!」

 

 銀時と輝夜の間に割って入り、無理矢理引きはがした。

 そんな彼女に対して、不満の色を一切隠すことなく輝夜は言う。

 

「何よ? 私と旦那様の愛の時間を邪魔する気?」

「おい銀時、どういうことじゃ? これは一体何の冗談じゃ?」

 

 それはもう鋭い眼差しで、月詠は銀時を睨み付ける。

 それに対して銀時は、

 

「こいつが勝手に言ってるだけだ! 第一俺は馬鹿姫の旦那になるつもりなんざ一切ねぇ!!」

 

 と、必死に説明。

 

「落ち着いてください、猿飛さん、月詠さん。これは輝夜さんが勝手に言ってることなので」

「ちょっと眼鏡? 旦那様と私の関係を妄想だなんて一蹴するのやめてくれない?」

「いや言ってねぇけど!? アンタが勝手に変な解釈しただけだからな!?」

 

 ここでも新八の扱いは相変わらずのようだ。

 

「……とりあえずさっさと入るわよ。いつまでも入口でたむろしてる場合じゃないでしょう」

 

 心なしか青筋入った霊夢が先導する。

 魔理沙はその怖さに、身体が若干震えあがる程だった。

 

「何故博麗殿はキレているのだ?」

 

 桂は乙女心を理解し切れていないらしい。

 

「そうね。永琳や鈴仙、てゐ達が準備してくれた宴会。是非とも楽しんでいってね、旦那様♪」

「他の人達は!?」

 

 銀時がツッコミを入れるものの、宴会会場に行かないわけにもいかなかった為、そのまま答えを聞くことなく奥へと向かう。その間も、輝夜は銀時の腕を再び掴んで離さない。

 猿飛と月詠の顔に青筋が入るのが見て分かる。

 

「……銀ちゃん、何か胸焼けするから勘弁してほしいアル」

「イチャイチャするなら余所でやってもらってもいいかしら? 銀さん」

 

 神楽とお妙による精神攻撃。

 銀時はそんなの関係ねぇと言わんばかりに受け流す(というか本人はイチャイチャしている気はさらさらなく、むしろ離してほしいとすら思っている)。

 

「言うならそこの馬鹿姫にしてくれ。俺は何も悪くねぇ」

「イチャイチャだって、旦那様♪私達やっぱりお似合い夫婦なのよ♡」

「こっちから願い下げだって言っただろ!?」

 

 なんと輝夜のめげないことか。銀時相手にここまでアプローチをかけてくるということは、それだけ本気で彼のことが好きであるということの表れ。なるほど、その一点においては意思の強さが評価されるというもの。

 

「そっちがその気なら、私だって考えがあるわよ……!!」

 

 ただし、修羅場を招く危険性だけはべらぼうに高くなるのだが。

 銀時から一向に離れようとしない輝夜を見て痺れを切らせてのか、もう片方の腕に猿飛が抱き着いた。

 

「きゃー! 銀さんに抱きついちゃった!!」

「テメェまでこっち引っ付いてくんな雌豚ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 銀時必死の抵抗。

 しかしそこは恋する乙女の謎パワー。輝夜も猿飛も振り払うことが出来ない。何処からやってきているのか分からないが、絶大な力で彼にしがみついている。

 

「……おい銀時、わっちは一体どうしたらよいのじゃ? ぶっ刺せばいいのか? 宴会場辿り着く前に血の宴をお披露目した方がいいのか? ん?」

「それも悪くないかもしれないわね……協力するわよ。そこの天然パーマを地獄に叩きつける為のね」

「いやそれもうただの殺人予告ですからぁああああああああああああ!!」

 

 青筋入りすぎて最早血管がはち切れそうな月詠と霊夢の二人によって、不穏な殺人予告が為されている。新八は必死に二人を止めている。

 

「あぁ……これがもし前回の宴会で起きてたら……俺首になってたかもしんねぇ……」

 

 長谷川は遠い目をして今の惨状を眺めていた。

 

「銀時……なかなか愉快なことになってるなぁ。お主いつからそこまで女子に好かれるようになったのか。俺としてはびっくりだ」

『女殺しめ』

 

 桂がウンウンと頷き、エリザベスがプラカードにて殺意のこもった文字で書く。

 

「ああもう! このままじゃいつまで経っても中入れないぜ!!」

 

 頭を掻きむしりながら、この中の常識人枠である魔理沙が叫ぶ。元々カオスな空間になることは覚悟の上であったとはいえ、まさか入るまでにこれほど時間がとられるとは思ってなかったのだ。

 しかも、まだ中にはフランや幽香もいる。激化するのはむしろこれからなのだ。

 

「「……はぁ」」

 

 今回の常識人枠である新八と魔理沙は、盛大に溜息をついた。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十一訓 男を巡った戦いを止める方法はない

 

 




短めですが、キリがいいので今回はこの辺りでー。
修羅場はまだまだ続きます!


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第六十二訓 修羅場は続くよ何処までも

 ようやっと宴会場まで到着した一行。しかしその間も銀時の腕には、輝夜と猿飛が抱き着いているというこの状況。そして近くでは、常に不機嫌そうなオーラを出している霊夢と月詠。その他のメンバーについては、お妙と九兵衛が勝手に百合百合し、桂とエリザベスが何故かラッパーモードに早変わりしたり、神楽は幽々子とフードファイトを繰り広げていたりしている。常識人枠の二人は、既にぐったりしていた。長谷川さんはグラサン。

 

「ちょっと待って! 今俺間違いなくグラサンとしか認識されてなかったよね!? おかしいよね!?」

 

 虚空に向かって叫ぶ長谷川のなんと滑稽なこと。

 閑話休題。

 宴会始まってすらなかったのにクライマックスモード突入していたのだが、これからは攻略難易度ルナティックモードに突入する。

 

「あら……銀時。これは一体どういうことかしら?」

 

 最初に訪れた刺客は、風見幽香だった。彼女は、銀時の両腕に輝夜と猿飛がくっ付いている状況を見て、にこにこ笑いながら問いかける。

 だが、周囲の人は一発で察する。

 この人、絶対笑っていない、と。

 

「旦那様との愛を存分に見せることは大事でしょう?」

「貴女に聞いてないわ。私は銀時に聞いてるのよ」

 

 輝夜の言葉を一蹴し、にこにこ笑顔で銀時を見つめる幽香。笑顔なのに、絶対逃がさないという確固たる決意が秘められている。

 

「いや、このストーカー共が離れてくれなくて仕方ねぇんだ」

「「ストーカーですって!?」」

 

 互いに互いの顔を見やる輝夜と猿飛。

 

「うん、お前らな? ストーカーお前らだからな?」

 

 その隙を見て、銀時はようやっと二人の拘束から解き放たれた。

 

「銀さんをストーカーするとはいい度胸じゃないの!!」

「私と旦那様は一夜を共にした仲よ?」

「誤解を生むような言い方すんのやめろぉ!! テメェが勝手に潜り込んできただけだろうが!!」

 

 今度は銀時が青筋立てる番だった。

 

「とりあえずそのことについて詳しく聞かせてもらおうかしら」

 

 ジリジリとにじり寄ってくる幽香と、

 

「うん。私もそのことに凄く興味あるよ、ギン兄様」

 

 既に目に光が宿っていないフランが現れた。

 この時、第三者達は誰もが思った。

 あ、これオワタ、と。

 

「よ、よぅ、フラン。どうしたんだよ? そんなこえぇ眼差し向けてきて」

 

 流石の銀時も、今のフランを相手に選択肢を間違えたら即バッドエンドに行くことは感覚で理解した。だからこそ慎重に、話を振る。最早彼らに邪魔する者はいない。先ほどまで青筋立てていた霊夢ですら、遠くで魔理沙と酒を飲む始末だ。敢えてこの場面をワクワクしながら見ている存在なんて、それこそ遠目から写真をパシャパシャ撮りまくってる射命丸文くらいなものだろう。

 

「今さっき、旦那様って言葉が聞こえてきたと思うんだけど、何? 銀時っていつの間にか結婚したの?」

「いやしてねぇ。あの馬鹿姫が勝手に宣ってるだけだ。俺は何度も断ってる」

 

 幽香の質問に対して、銀時は正直に答える。少なからず、銀時に対して輝夜が好意を抱いていること自体は理解出来ても、結婚して夫婦になった覚えはないし、今後もなるつもりのない銀時。この答えは彼にとっての最適解だった。

 だが、論点はそれだけではない。

 

「それじゃあギン兄様。一夜を共に過ごした仲っていうのは?」

 

 今回最大の論点。

 輝夜が落とした核弾頭。

 処理の仕方を間違えれば即刻デッドエンドの冒険直行便。

 

「人の布団にあの馬鹿姫が潜り込んできただけだ。目が覚めたら横でぐーすか寝てやがったんだよ。何もねぇから安心しろフラン」

 

 そう言いつつ、彼はフランの頭を優しく撫でる。

 フランは、久しぶりに感じる大切な人のぬくもりに、あっという間に陥落していた。銀時から撫でてくれた嬉しさによって、

 

「ギン兄様!」

 

 それはもう凄い勢いで懐いていた。

 先ほどまでの不機嫌さはどこへ消えたのやら。ぎゅっと抱き着いて思う存分銀時の温もりを堪能している。

 

「…………銀時、これについてはどう説明するのかしら?」

 

 ただし、幽香の前で。

 

「いや、これはだな……」

 

 弁明不能。言い訳無用。

 フランが銀時のことを相当好いているのはどう考えても分かることであり、かつ、銀時もその好意を受け入れているようにしか思えないこの状況。

 

「ちょっと!! 銀さんに軽々しく抱き着かないでよ!!」

 

 それは飛び火し、猿飛までもが向かってくる。

 

「そこは私の特等席よ! 旦那様の横は譲れないわ!」

 

 面倒臭い輝夜姫まで戻ってきた。

 一対三というこの状況。銀時、切り抜けられる気がしない説。

 

「……待ちなんし」

 

 そこに助け舟を出したのは、意外にも月詠だった。

 

「なんでよツッキー! だって銀さんが……」

「好いている者に甘えて何が悪いと言うのじゃ? そこに邪悪なる意思が見られない限り、わっちはその者の味方をするぞ」

 

 月詠は理解出来てしまったのだ。

 フランがどれほど寂しさを抱えていて、そしてようやっと甘えられるひと時が訪れたということ。

 それを邪魔することが、どれほど愚かなのかということを。

 

「そいつの言う通りだ。私の妹が、今こうして存分に甘えている時間を邪魔しないでもらいたい」

 

 そこに訪れてきたのは、咲夜と共にやってきたレミリアだった。

 

「け、けど……!」

 

 それでも尚食ってかかろうとする猿飛に対して、

 

「図が高いぞ、雌豚。程度を弁えろ」

 

 眼光鋭く睨みつけながら、レミリアは吐き捨てるように言った。

 猿飛はもちろん、その場にいるほとんどの者が何も言えなくなったその状況。

 

「……まぁそうカッカするこたぁねぇだろ。俺も、どんな形であれ好意を寄せてもらえること自体は嬉しいからな」

「ギン兄様……」

 

 フランの頭を優しく撫でながら、彼はその場にいる全員に対してそう告げる。

 

「……さて、宴会は仕切り直しだ。今日は私達が酒も食料も準備させてもらったんだ。存分に堪能して欲しい」

 

 場を仕切るように、永琳がそう言葉を投げかけたことによって、辺りは再び飲み食べし始める。

 

「……ありがとな、永琳」

「これで手加減された借りはチャラと言うことで」

「でけぇ借りだったな」

「一言で済むなら安いものよ」

 

 永琳と銀時は、不敵に笑い合う。

 そうして宴会は再び始まるのだった。

 

「……あれ、俺達蚊帳の外じゃね?」

「案ずるな。こうしてラップをしていればYo! きっと報われるZe☆」

『チェケラッ!』

「それあんた達がただ単にラップやりたいだけだろ!!」

 

 長谷川、桂、エリザベスの三人、完全に今回蚊帳の外。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十二訓 修羅場は続くよ何処までも

 

 




今回は修羅場回ってところでした!
最後はフランの一人勝ち?(地味に月詠の好感度も上がった気がします


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第六十三訓 終わりがあるからこそ美しいと感じる

今回の話で、永夜異変篇終了となります!


 銀時達が騒いでいる裏では、新八にもちょっとした出来事があった。

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

 神楽やお妙、九兵衛と一緒に食事を堪能していた新八の所に、一人の少女が声をかけてくる。その姿を見た新八は、異変の時に出会ったことを思い出し、

 

「リグルちゃん!」

 

 そう呼びかけたのだ。

 声の主はリグル・ナイトバグ。

 

「おぉ! あの時の男の子っぽい女の子アルか!」

「そ、それは勘弁してくださいよ……」

 

 神楽の一言で、異変の時を思い出したリグル。

 顔を真っ赤にして、新八の影に隠れてしまう。

 

「あら、新ちゃんってばその子と知り合いなの?」

 

 意外そうな表情を浮かべたのはお妙だった。

 

「えぇ。つい先日会ったばかりなんですけどね。銀さんってば最初に男の子と勘違いしちゃってて……こんなに可愛いのに……」

「あうぅ……」

 

 新八の一言に、ますます顔を赤くしてしまうリグル。恥ずかしさと嬉しさがごちゃ混ぜになって、とんでもないことになっているに違いない。

 

「ほぅ……新八君もなかなかにやり手だな」

 

 その様子を見て、九兵衛が謎に感心していた。

 

「幻想郷に来てから、銀ちゃんも新八も、何か妙に女の影がちらつくようになったネ。特に銀ちゃんはハーレム作り放題で、ドキドキウハウハトラブルモードアル」

「いや、なんかもう言葉くっつけ過ぎて意味わかんなくなってるからね、神楽ちゃん」

 

 やんわりとだが、ツッコミを入れることを忘れない新八。

 彼はやはり性根からのツッコミ役と言った所だろうか。

 

「それで? 新ちゃんにわざわざ声をかけにきたってことは、もしかして……」

「え、ええと! あの、お見かけしたので声をかけたかったから……です……」

 

 尻込みしていくリグルの声。

 そんな彼女を見て、お妙と九兵衛が一言。

 

「「可愛い」」

「はうぅ!?」

 

 もう沸騰寸前となっているリグル。

 このままだとショート寸前になってしまうことだろう。

 

「だ、大丈夫? リグルちゃん」

 

 そんな彼女の頭を撫でる新八。

 それは……トドメでしかない……。

 

「あ、あわわわわわわわ!」

 

 もうまともに喋ることが出来ないリグル。

 控えめに言ってかなり可愛い。

 

「……何やってるんだか」

 

 そんな様子を眺めるアリスは、パチュリーと一緒に魔法談義に盛り上がっていたという。

 

 

「キシシシシ!」

 

 宴もたけなわ。

 もうじき終わろうとしている時に、一人怪しく笑う少女が居た。

 因幡てゐ。こういう時に何かしらを仕掛けようと企む少女である。

 

「まーた何か企んでるんですか?」

 

 そこに話しかけてきたのは鈴仙だった。

 彼女は何かとてゐの悪戯に嵌められることが多い。

 だが今回てゐが標的として選んでいるのは……。

 

「眼鏡の反応、すっごく面白いんだもの! 何回トラップを仕掛けても面白いんだよ? キシシシシシ!」

 

 それはもう嬉しそうに語るてゐ。

 そんな彼女に対して、鈴仙が一言。

 

「もしかして、新八さんに惚れてる?」

「ばっ……!?」

 

 珍しく、てゐは動揺した。

 

「惚れているんじゃない! 面白がってるんだ! 興味津々なだけだ!」

「それを世間では惚れているって言うんじゃないですか……」

 

 呆れた口調で鈴仙は呟く。もちろんてゐには聞こえていない。

 

「これはもしかして……スクープの予感ですか?」

 

 そこに現れてきたのは、常に野次馬精神を忘れないマスゴミこと、射命丸文。

 カメラ片手にニコニコしながら近づいてくる。

 

「烏天狗ですか……何か特ダネでも掴みに来たんですか?」

 

 鈴仙は呆れたような口調で彼女に話しかける。

 

「もちろん! 本来ならば坂田さんを中心にするつもりでしたが、彼に関しては粗方撮り終えたのと、そろそろ新ネタも入れなきゃなって思った所に、志村さんの話題が来るじゃありませんか!」

「余計なことすると、トラップ地獄に陥れちゃうぞ? キシシシシ!」

 

 悪戯っ子の表情で睨み付けるてゐ。

 文はそんな視線をスルーしつつ、

 

「志村さんってば、さっきから一人の女の子に夢中ですからねー。早くしないと取られちゃうかもしれませんねー」

 

 半ば棒読みで、流し目でてゐのことを見つつ、そそのかすように言い放つ。

 てゐは最初こそ我慢していたが、

 

「うぅ……分かったよ! 行ってくる!!」

 

 次の瞬間にはその場から離れて、新八にちょっかいを出しに行く姿が確認された。

 

「……何が目的なんですか」

「え? 特ダネですよ☆」

「……本当ブレないですね」

「それが新聞記者ですから♪」

 

 射命丸文。

 本日も特ダネを手に入れる為に燃えていた。

 

 

 宴会も終わり、それぞれ帰路についていく。

 そんな中、輝夜は月を眺めながら、

 

「……はぁ」

 

 小さく、溜め息をついた。

 

「どうされましたか? 姫様」

 

 彼女に声をかけてきたのは、永琳だった。

 

「旦那様ったら、どれだけアピールしても全く振り向いてくれないのね……」

「あぁ……彼は中々に骨が折れそうですね。少なくとも、私達がお会いしたことのないタイプです。だからこそ、姫様は燃えているのではないですか?」

「もちろんよ! あっさり叶う恋なんてするだけ無駄だもの! たとえ吸血鬼の妹が相手だろうと、手を伸ばし続けるだけよ!」

 

 やる気十分というところ。

 輝夜は両手を握り締めて、やる気を見せている。

 永琳は、そんな彼女を見て微笑んでいた。

 

「……けど、彼は本当に、危ない人ね」

「危ない、ですか?」

 

 輝夜の言葉に秘められた真意を測りかねて、永琳は尋ねる。

 輝夜は物惜し気に月を眺めながら、

 

「彼、守りたい物の中に自分を入れていないわ。だからこそ、前回の異変では自分が倒れるかもしれない可能性を考慮せず、私の無理難題を解決しようと試みたのだから」

「……宴会での話を聞く限りですと、それ以外にも坂田銀時さんは身体を張って異変を解決されたみたいですね」

「そこなのよ。旦那様の心配点。きっとこのままだと……」

 

 言葉にすることを少し躊躇ってしまった輝夜。

 しかし、やはり形にしなければならないと考え、そして告げる。

 

「彼の命一つで、幻想郷の未来が変わってしまう」

「……お気付きになられていたのですね」

「今回の異変で嫌と言う程にね。あの八雲紫ですら信用する男よ? 魅力があるだけでなく、同時に危険性も孕んでいることは重々承知よ。きっと幻想郷の崩壊は、彼の死とほぼ同じなんでしょうね……」

 

 立ち上がり、月を眺める輝夜と、そんな彼女の隣に控える永琳。

 

「だけど、どうしてかしら……彼には『蓬莱の薬』を使わないで欲しいと思ってしまう。一生添い遂げるのなら、この薬を飲んでもらわなければならないのに……人としての彼に、ここまで惚れこんでしまったのかしら」

「……侍という存在の生き方に、心奪われたのですね」

「……最後まで美しく生きようとする、旦那様の決意……あのお方を選んで私は正解でしたわ」

「願わくば、姫様の恋が成就することを祈っております」

「手伝いなさいよ」

「厳しいかと」

「それもそうね……」

 

 彼女達の会話は、一度そこで途切れる。

 そして、

 

「……永遠がいいとは限らないものね。旦那様を見ていると、終わりがあるからこそ美しいと感じるようになったわ……また一つ、勉強になったわ」

「……」

 

 これに対して、永琳は何も言葉を返せない。

 永遠を手にしてしまった彼女達は、坂田銀時という男の生き様に惚れ、美しいと感じ、そして眩しすぎると感じていた。手に入れたいのに、手に入れられる気がしない。そんな気持ちの揺れ。

 

「まぁ、私は旦那様のこと諦めてないけどね!」

「……本当、惚れこんでおりますね」

「ぞっこんよ!」

「そうですか……」

 

 輝夜はこれからも、銀時にアタックし続けることだろう。

 それがたとえ、叶うか叶わないか分からないものだったとしても。

 

 これを以て、異変終了となった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十三訓 終わりがあるからこそ美しいと感じる

 

 

 

 




と、いう訳で、次回からはポロリ篇その参をお送りいたしますー。
最初にだれを中心に持って行こうか、正直かなり悩んでおります(しろめ


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ポロリ篇その参
第六十四訓 どんな仕事でも服装って大事だよね


ポロリ篇その参スタートです!


 歌舞伎町某所にて。

 仕事をしているのか、それとも休日をエンジョイしているのか。恐らくはパトロールをしていると思われる四人組がいた。

 

「女性達が次から次へと吸い込まれていった不思議な紅い館……ここがその建物か」

 

 タバコをふかしながらそう呟いたのは、真選組鬼の副長、土方十四郎。

 

「なんでも、ある日いきなり建てられて、しかもある日いきなり見知らぬ女性達が次から次へと入っていった、ってことらしいですぜ」

 

 表情の変化なく見つめているのは、真選組一番隊隊長、沖田総悟。

 

「それだけじゃなくて、一部目撃情報によるとあの桂によく似た人物も出入りしていたってことみたいですよ……はむっ」

 

 アンパン食べながら証言したのは、真選組諜報担当、山崎退。

 

「ジッとしていても何も始まらん! とにかくまずは乗り込むぞ!」

 

 そして三人に対してそう提言したのは、真選組局長ーーゴリラ。

 

「いや俺ゴリラって名前じゃねえけどぉおおおおおおおお!? なんで俺だけゴリラ表記なんだぁあああああああ!!」

「近藤さん、それは作者がシリアスに疲れた証拠ですぜ。原作でもたまにありやすぜ? シリアスしてたかと思いきや唐突に笑いぶっ込んでくるやつ」

「シリアス続きになると疲れますからね……」

「いやそれと近藤さんがゴリラ呼ばわりされることの繋がりはほとんどねぇだろ」

 

 冷静にツッコミを入れる土方。

 

「とりあえずまずは事情聴取。攘夷志士の疑いがあればすぐ確保。これでいいんですね?」

 

 改めて土方が、ゴリラ改めて近藤に確認をとる。

 

「そうだな。妙な動きを見せたら、そいつら確保ってことでいくぞ!」

 

 近藤が先陣する中、真選組は紅い館ーー紅魔館2ndGへと近づいていく。大きくそびえ立つ門をゆっくり開け、扉をノックする。

 コンコン、という音が鳴った後に出てきたのは……。

 

「はーい、新聞ならお断りですよー……」

 

 燕尾服の上にエプロンを着けている、坂田銀時の姿だった。

 

 ※

 

 時を遡ること数日前。

 

「突然なんだが、数日間バイトを頼まれてくれないか?」

 

 いつものようにグダグダしている万事屋に、咲夜と共にレミリアが現れる。彼女にしては珍しく、銀時達に依頼をしに来たようだった。

 

「バイトぉ?」

 

 その言葉だけでは全容が見えてこないため、不思議そうな表情を浮かべながら銀時が尋ねる。その質問には、咲夜が答える。

 

「実は、長谷川様には紅魔館にて図書館の整理を手伝っていただきたいと思ってまして、そうなるとその間、紅魔館2ndGの方が完全に人手が足りなくなるのです」

「なるほどな……」

「あれ? でもそれならば、僕達がそっちに行った方がよくないですか?」

 

 確かに新八の言う通り、図書館の整理の為に長谷川が駆り出されるのだとすれば、銀時達が幻想郷に向かった方が効率は良い。

 しかし、今度はレミリアがこう言った。

 

「もちろんそれは分かってる。けど、フランがそっちに遊びに行きたいと言っててな」

「あー……なるほど。それならば納得です」

 

 新八はその一言だけで納得した。

 今回の場合、フランが歌舞伎町に遊びに来るのと、図書館の整理がブッキングしたのだ。普通ならば銀時達を呼び寄せればそれでいいのだが、フランが遊びに来ているというのに、そこに銀時がいなかった場合、どうなるか分かったものではない。だからこそ、長谷川を呼び寄せて、銀時達には紅魔館2ndGの管理をお願いしようということなのだ。

 

「図書館の整理をズラせばいいんじゃないアルか?」

「図書館の整理を放置すると、魔法使いが訪れてしまいます故……」

「魔理沙か……」

 

 銀時は真っ先に思い浮かべた。魔理沙はパチュリーのところに行っては、『本を死ぬまで借りる』という。すごく簡単に言ってしまえば泥棒もいいところなのだが……。

 もし整理してなかったとしたら、魔理沙が何を持っていったのかがわからなくなってしまう。ならば、出来る限り早めにやってしまった方が良い。

 

「魔理沙さんも懲りてないんですね……」

「さすがは白黒魔法使いアル」

 

 新八と神楽までこういう始末。

 実際には割とちゃんと返しているそうなので、魔理沙本当は良い子説。

 

「そういうわけだ……なんとかお願い出来ないか? もちろん報酬も出すし、咲夜も何度か顔を出すつもりだから」

 

 レミリアの言葉に咲夜が頭を下げる。

 

「ま、依頼とあれば受けるさ。万事屋が責任を持って引き受けるぜ」

「本当か!?」

 

 レミリアは嬉しそうに笑顔を見せる。

 そこには、依頼を引き受けてもらえて嬉しいというのと、それとは別に何かあるのではないかと思わされるほどの、悪戯な笑み。

 

「そらならば制服を用意しなければならないな。咲夜、三人分の制服を用意して欲しい」

「かしこまりました、御嬢様」

 

 何処から飛び出したのかもわからないし、いつ作られたのかも分からないが、気付いたら机の上に三人分の洋服が用意されていた。

 銀時と新八には燕尾服が、神楽にはメイド服があてがわれている。

 

「ほわぁ……可愛いアル!」

 

 神楽にはなかなか好感触のようだ。

 新八も興味津々といった形で広げてみて、試しに合わせてみると、

 

「あれ? これサイズぴったりですね」

「お、本当だ。ぴったりだな」

 

 銀時も合わせてみたところ、ちょうど良さそうだった。

 これについて咲夜は、

 

「メイドですから」

「それだけで解決出来ねぇからな?」

「メイド、ですから」

 

 銀時の言葉に揺らぐことなく、咲夜はそれを貫き通した。

 

「というわけで、ハセガワが帰ってくるまでの間、よろしく頼む」

 

 こうして、万事屋三人は一時的に紅魔館2ndGでバイトをすることになったのだった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十四訓 どんな仕事でも服装って大事だよね

 



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第六十五訓 人の話はきちんと最後まで聞くべき

「なるほど。それで万事屋がここに至ってわけか! いやぁそれにしても、衣装一つでここまでかわるもんだなぁ!」

 

 ここで燕尾服を着ている背景を説明し終えた銀時は、近藤に背中をバンバン叩かれていた。

 

「そうなると、新八君たちもここに?」

 

 辺りを見渡しながら山崎が尋ねる。紅魔館2ndGの間取りが珍しいのだろう。歌舞伎町で洋風の建物というとなかなか見られないので、貴重な経験であることは確かである。

 

「あぁ。新八は屋敷の中掃除してるし、神楽は今頃主人の妹の遊び相手になってんだろ」

「へぇ……給仕服着てご奉仕する雌豚たぁ、なかなか粋な趣味してますね、旦那」

「いや俺の趣味じゃねえから。主人命令だから」

 

 さすがと言うべきか、沖田の言葉は毎度ながらど真ん中ストライク球速160km級の物だった。

 

「まぁ、テメェがここにいるなら話ははえぇ。最近この屋敷に妙な大名行列が出来ていたって通報があってな。テメェも関与してんのか?」

「あー……」

 

 土方の言葉を受けて、銀時は思い至る。

 春雪異変が終わった時、確かにここで宴会を行なった。その時に万事屋銀ちゃんからここまで来たものだから、その姿はさぞかし目立ったことだろう。事実、その列を辿って月詠は銀時が関与していることに気付いているのだから。

 

「ありゃ宴会の為に集まってただけだ。たまたまテメェらが知らねぇ奴らが次から次へと来てたもんだから、それで物珍しさに駆られたんだろう?」

「宴会? 女子ばかりの宴会にテメェらも参加したのか!?」

 

 真っ先に反応したのは近藤だった。

 

「まぁな……関係者なんだから仕方ねぇだろ」

 

 頭をボリボリかきながら、面倒臭そうに答える銀時。早い所仕事に戻りたいのか、それとも単にここから離れたいだけなのか。

 

「つーことは、桂がいたかどうかについては……」

「あ? 桂ぁ? 今はどこにいんのか俺もしらねぇぞ?」

 

 土方の質問に対して、銀時は答える。これは正直なところだ。何せ彼は神出鬼没。いつ何処にスタンバッているのか銀時にも予想出来ない。

 

「もういいか? はえぇ所俺も持ち場に……」

 

 そう言って銀時が中に引き返そうとした、その時だった。

 

「ギン兄様ー!」

 

 館の奥から、可愛らしい女の子の声が聞こえてきたかと思いきや、後ろからギューッと抱き着いてきたのだ。それはもう誰から見てもハートマーク飛んでるんじゃないかと思われるほどのラブラブっぷり。

 そうーーフランが銀時に抱きついたのである。

 お巡りさんの前で。

 

「……総悟、手錠」

「縄なら持ってやすぜ。縛り上げますか?」

「やれ」

「いやおかしいだろ!? 何テメェら普段は見せねぇコンビネーション発動してんの?!」

 

 土方と沖田による、普段は見せない絶妙なコンビネーション技。銀時は両手をあっという間に縛り上げられてしまっていた。

 

「万事屋……いつか本当にやるとは思ってたが……まさかこんな幼気な女の子を洗脳するとは……そこまで溜まってたのか……気付いてやれなくてすまねぇ……」

「何変な勘違いしてんだゴリラァアアアアアアアア!! ちげぇよ!? こいつさっき言った主人の妹!!」

「分かりやした、旦那。話は署でゆっくり聞きやすぜ」

「現行犯でもなんでもねぇから!! せめて任意同行の確認ぐらいしろっての!!」

 

 有無も言わさぬ沖田の行動。

 土方と近藤は、冷たい目で銀時を見つめている。

 山崎は、

 

「もう大丈夫だよ。悪いお兄さんは、僕達が捕まえたからね」

 

 と、銀時に抱きついてるフランに対して優しく接していた。

 しかし、当の本人であるフランはと言うと、

 

「お兄さん達、だれ?」

 

 キョトンとした表情を浮かべながら、そう尋ねる始末。

 

「俺達は真選組。江戸の風紀を取り締まる警察だ」

「悪いやつから江戸を護るのが俺達の仕事だ! もう大丈夫だよお嬢ちゃん。この天然パーマの溜まっちゃったお兄さんは捕まえたからな!」

「だから溜まってねぇし、悪いこともしてねぇっつってんだろうが!!」

「往生際が悪いですぜ、旦那。悪いことしたやつはみんなそう言うんでさぁ」

「話を聞きやがれドSデカ!!!」

 

 銀時大パニック。

 真選組によって銀時が連れ去られそうになったと分かった瞬間、

 

「……あれ?」

 

 山崎が、真っ先に変化に気付いた。

 先ほどまで本当に甘えているだけの幼い少女にしか見えなかったフランが、まるで冷酷な殺人鬼へと豹変したかのような、そんな変化。

 

「こ、近藤さん……これ、もしかして俺達……勘違いしてるだけなのでは……?」

 

 恐れをなした山崎が、近藤に提言する。

 近藤が反応をする前に、

 

「……ギン兄様を虐めないで。もしこれ以上虐めるならば……」

 

 口元を歪ませて、怒りの眼差しを四人に向けて、そして言い放つ。

 

「コワシチャウヨ?」

 

 背筋が凍る想いをする。

 沖田ですら、思わず銀時を縛っていた縄を落としてしまったほどだ。

 近藤達は、形容し難い恐怖に襲われたのだ。そう、彼女はまだ何もしていない。なのに悟ってしまった。

『この少女に歯向かってはいけない』と。

 

「おいフラン。助けてくれるのはありがてぇけど、そんなに怖がらせるんじゃねぇっての」

「ふにゃっ」

 

 そんなフランの頭を、銀時は少し乱暴に撫で回す。それだけでフランのご機嫌は一瞬にして戻り、再び銀時に甘え始めた。

 

「……万事屋。その子は一体何者なんだ?」

 

 近藤がようやっと絞り出したのは、そんな一言。

 その質問に対して、銀時は平然と答える。

 

「だから言ってんだろ? 屋敷の主人の妹だって。ただしコイツは吸血鬼だけどな」

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十五訓 人の話はきちんと最後まできくべき

 

 

 



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第六十六訓 子どもは機械に憧れるもの

「いやぁ、すまなかった!」

 

 歌舞伎町を歩きながら、近藤が謝罪する。謝罪を受けている張本人である銀時とフランは、信用してもらえたのならもういいと言いたげな表情を浮かべていた。

誤解も解けた所で、現在銀時達は歌舞伎町を練り歩いている。フランがどうしても銀時のいる街を見てみたいと言ったからだ。

 屋敷のことは神楽と新八、そして山崎や沖田、土方に任せている。

 近藤も後から合流するようで、今はとりあえず謝罪する為についてきたようだ。

 

「俺ぁてっきり、万事屋がついにロリコンに目覚めたのかと思っちまったぜ!」

「勘弁してくれ。別に俺は犯罪者になるつもりはねぇよ」

「ろり、こん?」

「フランは気にしなくてもいい言葉だ。忘れろ」

 

 答える代わりに頭を少々乱暴に撫でる。不満そうではあったが、それでも撫でて貰える嬉しさの方が優ったようだ。

 

「しかしまぁ、本当仲良いなぁ。万事屋にここまでなつくのも珍しいんじゃねえか?」

「そうかもな。けど、こういうのも悪くねぇって思えるようにはなったぜ」

「えへへ。ギン兄様と一緒にいると、心がポカポカするの!」

 

 本当に嬉しそうにフランは言う。彼女にとって、銀時との時間は本当に貴重なのだ。

 

「……そうか。万事屋、大事にしろよ。その荷、おろしちゃいけねぇぜ」

「わかってるよ、んなこと」

 

 近藤はそれだけを告げると、その場から立ち去っていった。

 銀時とフランは、そんな彼の背中を見送る。

 そして、

 

「お妙さぁああああああああああん!!」

「じゃあかあしぃわゴリラがぁああああああああああ!!」

 

 すぐ近くに居たお妙に対して変態行為を繰り出そうとしたところで、お妙の豪快な蹴りを喰らっていた。

 

「……見なかったことにしような」

「……うん」

 

 どうにも締まらないゴリラである。

 

 

 歌舞伎町の至る所を歩いている二人。

 フランが銀時の腕に抱き着いて、そんな彼女を銀時が導くという感じ。どう見てもカップルのそれにしか見えないのだが、二人は付き合っているわけではない。

 

「なんか、みんな楽しそうにしてるね!」

 

 辺りに居る住人を見ながら、フランは言う。

 確かに、ここに住んでいる人々は皆、楽しそうに生きている。

 笑顔が絶えないのはとてもいいことだろう。

 

「まぁな。ここは飽きねぇ場所だからな」

 

 華の街歌舞伎町。

 少し歩くと風俗街に突入してしまうが、フランが居る為そういった場所は敢えて避けている。

 それでも尚、華やかで面白いのが伝わってくるのだから、十分凄い場所であるだろう。

 

「お? 銀の字じゃねえか!」

「ん? その声はまさか」

 

 ちょうど歩いている時、何者かに声をかけられる。

 銀時とフランが後ろを振り向くと、そこには……。

 

「なんだぁ? そこに居る女の子は銀の字の娘か何かか?」

 

 パワードスーツに身を包んだ、平賀源外だった。

 

「なんでパワードスーツ着こんでんだよテメェハァアアアアアアアアアアアアアア!!」

「いやぁ、試作品の試運転で外に出てみたんだけどな? これが思った以上にうまくいったもんだから乗り回してんだよ! 楽しいぜ?」

「いやなんかミニチュアのガン●ムみてぇな感じになってっけど!? それもう外出しちゃいけねぇ奴だよな!?」

「何を言うか銀の字! これはガ●ダムじゃなくて、蛾霧駄無だぜ!!」

「ただの当て字じゃねえかァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 もう好き放題やりまくる源外。これで指名手配犯なのだから、どうしたものなのか分からない。

 一方でフランは、凄い目を輝いていた。

 

「凄い! この人もギン兄様の知り合いなの!?」

「あぁ……発明家なんだよ、こう見ても」

 

 溜め息吐きながら言う。

 

「なんだ銀の字! パワードスーツ着ていかねぇのか?」

「着ねぇよ!? ぎりぎり実写ネタ持ってくんじゃねえよ!!」

「ギン兄様! 私あれ着てみたい!」

「止めろフラン!! 目を輝かせんじゃねえ!! あれ着たらなんか色々終わる気がするから!!」

 

 何というか、銀時も止めるのに必死になっている。

 

「ちぇー、なら他当たってみるぜ。じゃあな銀の字!」

 

 そのままパワードスーツで空を飛びながら、源外は去って行く。

 

「……あの人、原作通りなのか? これ」

 

 ポツリと銀時は呟いてしまった。

 

 

 その後も、フランと銀時は街中を歩いていく。

 道行く人に挨拶をされたり、中には少し話したりする。

 そんな二人が次に会ったのは、

 

「これは銀時様。幼気な女の子とお二人でデートでしょうか?」

 

 買い物袋を持って話しかけるのは、美少女型からくり人形こと、たま。スナックお登勢で働いている彼女だが、今はその買い出し帰りと言ったところだろうか。

 

「なんだ、たま。コイツも立派な仕事だ。買い物帰りか?」

「えぇ。銀時様は女の子と一緒に歩くのがお仕事、と?」

「館の主人の妹なんだ。それに、コイツと歩くのは案外楽しいしな」

 

 フランの頭を撫でながら、銀時は言う。

 

「ギン兄様、この人は……?」

「あぁ、俺ん家の下で働いている……ってか、コイツは人じゃなくてからくり。立派な機械だ」

「えぇ!?」

 

 フランは驚いたような表情を浮かべている。

 確かに、たまは見た目は完全に普通の人間だ。

 

「さっきパワードスーツで飛んで行った源外の爺さんが作ったからくりだ」

「源外様は何をされているのでしょうか……」

 

 自身を作ってくれた張本人の良くわからない行動を聞いて、たまは思わずそう呟く。

 

「わ、私! フランって言うの!」

「フラン様、ですね……銀時様のこと、よろしく頼みますね」

「う、うん!」

 

 嬉しそうにフランは答える。

 たまはそんなフランの頭を優しく撫でていた。

 

「銀時様。フラン様、凄くかわいくていい子ですね」

「だろう?」

 

 改めて、歌舞伎町を堪能しまくった二人なのだった。

 

 

 ちなみに。

 

「よぅ、雌豚。そんな可愛らしい格好になりやがって、なかなかいいじゃねえか」

「なんだよチンピラチワワ。わざわざ馬鹿にしに来るとは暇人アルな」

「まぁまぁ神楽ちゃん。手伝いに来てくれたんですから」

「馬子にも衣裳とは、よく言った物だな」

「聞こえてますからね、土方さん」

 

 紅魔館2ndGは、本日も平和そうです。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十六訓 子どもは機械に憧れるもの

 

 



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第六十七訓 人の噂をするときは本人がいないか十分に気を配ること

 香霖堂。幻想郷の中で様々な珍しいものを売っている不思議な場所。そのラインナップには、外の世界から流れ着いてきた珍しい物も含まれており、行く度に品揃えも変わる為飽きる事はそうそうない。

 そんな店の店主である霖之助は、今日も店の品物を並べ、それがどんなものなのかを見出すのに精を出していた。

 彼の能力上、道具の名前とその仕様用途を理解することが出来る。ただし彼に出来るのはそこまでで、やはり実際に使ったことのある人から聞くのが一番ではある。

 

「あれ?」

 

 そんな彼は、品出しをしている最中にとあることに気付く。

 

「…………あれが、ない」

 

 本来ならば置いてある筈のものが、行方不明になってしまっている。

 

「しまっちゃったのかな……まぁ、いいか。そのうち見つかるだろう」

 

 この時彼は、品物が盗まれた可能性について考慮していなかった。何せこの店、普段から人はほとんど来ない。それに今まで泥棒に入られたこともない。敢えて言えば魔理沙から『これ貰ったから駄賃払うぜ!』と、後から料金をいただくパターンがある程度だ。今回も魔理沙がそうしたのか、それとも自分が無意識に店の奥へ引っ込めてしまったのかのどちらかだろうと思い、対して気にも留めなかった。

 

 後にこれが、幻想郷の歴史に名を残す喜劇の幕開けになるとは、霖之助は思いもしなかった。

 

 ※

 

 紅魔館2ndGでのアルバイトが終わってから数日後の万事屋銀ちゃん。

 毎度お馴染み、銀魂名物BGオンリー。

 

「ったく、あの日は真選組のせいで面倒くせぇことになったぜ」

「逮捕寸前までいったんでしたよね?」

「そのまま逮捕されれば良かったネ。その方が世の為人の為アル。原作でも何度か捕まってたじゃネーカ」

「馬鹿野郎。誰が捕まりたくて警察に出頭するかよ。ブタ箱になんざ入りたかねぇよ」

「それはそうと、ようやっと紅魔館2ndGにも紫さんのスキマが出来たみたいですね」

「それでもまだうちに来てから歌舞伎町に遊びに来るやつは後を絶えないアル。あれ使ってるの紅魔館の奴ら位ネ」

「何人かは敢えてうちから来てるからなぁ。ったくそろそろ交通税払わせるぞ? もしかしたらその方が商売繁盛するんじゃねえか?」

「悪徳にもほどがありますよ。遊びに来る人に対して金要求するなんて」

「霊夢ならやりかねないネ」

 

「へぇ、それは大変興味深い話を聞いたわね」

 

 三人がその声を聞いてから、居間にある襖を確認するまでにかかった時間は、たったの一秒。

 そこに居たのは、青筋立てまくりながらニコニコ笑っている博麗霊夢だった。

 

「よ、よぉ霊夢。今日はまたどうしたんだよ? 随分とまた珍しいじゃねえか」

「暇だったから顔出しに来たのよ。悪い? それとも何かやましいことでもあるの?」

 

 極上のにっこにっこ。

 金にがめつい霊夢に対して、それをネタにするようなことを言った報いが今、彼らに襲いかかる!

 

「ところで、アンタ達にちょっとした依頼があるんだけれど……引き受けてくれるわよね?」

 

 断ったら分かってんだろうな、というような迫力すら感じる霊夢の一言。普段とは予想もつかないほど低く、それだけで相手を威圧する事が出来るような気すら感じる。

 

「「「は、はい!!」」」

 

 結局、霊夢の迫力に負けて依頼を受け入れざるを得なくなった三人なのだった。

 壁に耳あり障子に目あり。普段怒らない人を怒らせるとろくな事がないことを彼らは学んだのだった。

 

 ※

 

「あれ? 銀さんじゃねえか! 何してるんだぜ?」

 

 箒にまたがり訪れてきたのは、霧雨魔理沙。彼女はどうやら暇だったようで、博麗神社に遊びに来たところ、珍しい人達がいたもので思わず声をかけたのだ。

 

「何って、見りゃわかるだろ?」

 

 銀時は、手にしている箒を魔理沙に見せつける。

 

「掃除してんのはわかるけど、なんでまた銀さんが掃除してるんだぜ?」

「霊夢からの依頼でな……ちょっくら万事屋総出で分担して掃除してるところだ。霊夢なら中にいるから、用事あるなら入ってけ」

「いや、銀さんがいるならここにいるぜ!」

「いや掃除の邪魔だからな?」

「まぁまぁそう言わずに」

「遠慮って言葉覚えろよ?」

 

 魔理沙は頑なにそこから動こうとしないので、結局銀時が折れて言及しないことにした。銀時が箒で地面を履き、魔理沙がそれを階段に座って眺めているというなんとも不思議な構図が誕生した。

 

「てか、箒あんだろ? それで手伝えよ」

「何言ってんだよ銀さん。これは空を飛ぶものだぜ? 掃除用具じゃないから掃除に使うのは無理だぜ?」

「箒の元々の使用用途は掃除だかんな?」

 

 魔理沙は頑なに手伝わない。そもそも彼女には掃除をする義務などないのだから当然の反応ではあるものの、箒を掃除用具と認めない姿勢は最早流石としか言いようがなかった。

 

「にしても、なんかこうして銀さんが神社の掃除してるところ見るの、なんか不思議な気分だぜ」

「なんだよ? 唐突に」

 

 魔理沙が物珍しそうな表情を見せながら、そう言ってくる。

 さらに魔理沙は付け加える。

 

「だってよ、私達が出会ってまだほとんど時間が経ってないんだぜ? なのにもう、ずっと前からいるような感じに思えて……なんか、柄にもなくこんな日々が続けばいいのになって思っちまったんだぜ」

 

 今でこそ騒がしい日々が日常と化しているが、こんな日々も思い返せばつい数ヶ月前からのこと。紅魔館の異変がなければそもそも出会っていなかったのかもしれない。様々な偶然があったからこそ、今がある。

 

「だからさ、これからもよろしく頼むぜ、銀さん!」

「……あぁ」

 

 魔理沙の言葉に、銀時は短く同意したのだった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十七訓 人の噂をするときは本人がいないか十分に気を配ること




誰か挿絵描いて欲しいです……


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第六十八訓 道具の合わせ技はかなり卑怯

「魔理沙じゃない。何しに来たのよ」

 

 しばらくして。

 銀時が掃除、魔理沙がそれを眺めている所に、博麗神社の巫女である霊夢が姿を現した。魔理沙を見つけるなり、溜め息を吐く。恐らく暇つぶしであることは分かっているが、一応目的を尋ねている、というところだろう。

 

「暇だから遊びに来たぜ!」

「……やっぱりね」

 

 目的が分かりやすすぎるのも考え物である。

 

「ってわけで、お茶出してくれ! 霊夢!」

「なんで魔理沙が偉そうなのよ。それに見て分からない? 掃除中よ」

「何言ってんだよ霊夢。そんなの見て分かるぜ?」

「少しは手伝おうとは思わないのかしら……」

「無駄だ、霊夢。俺もさっき言って、断られたところだ」

 

 銀時が、地面を掃きながら、呆れたように呟く。

 それを聞いて、霊夢も『あぁ……』と納得したようだ。

 

「だってよー、掃除するより、銀さん達とこうして話している方が楽しいぜ?」

「そりゃ大変名誉なことで」

「全然心がこもってないじゃない……」

 

 完全に銀時がスルーしているのが霊夢には簡単に察知することが出来た。それだけ銀時の言葉は適当だったのだろう。魔理沙もまた何処か白い目をしながら銀時を見ている。言われた張本人にもバレているようだ。

 

「ってか魔理沙。お前もきちんとツッコミの仕事しろよな……初期設定もう忘れたの?」

「初期設定ってなんだぜ!? 第一ツッコミなら新八がいるじゃねえか!」

「今この場に眼鏡はいないわよ? つまり貴女の仕事よ、魔理沙。さぁ頑張りなさい」

「全部私に投げようとすんのはよくないぜ霊夢!?」

「なんだろうなぁ……魔理沙のツッコミはスピードこそよくなってんだけど、もっとこう、勢いが足りねぇよな……新八のは勢いとかもあるからな。そんなんじゃツッコミ検定免許皆伝までの道のりは険しいぞ?」

「そんな検定聞いたことねぇし、とるつもりもねぇぜ!?」

 

 気付いたら完全に魔理沙を弄る会が始まっていた。完全に魔理沙とばっちりを受けているの巻。

 

「ふっふっふ……」

 

 そんな彼らの所に響き渡る、とある者の笑い声。

 

「あ?」

「霊夢、今笑い声が聞こえたぜ? 何企んでるんだ?」

「なんで真っ先に私を疑うのよ。確かに女性の声だったけど……」

 

 何故か笑い声だけで犯人扱いされる霊夢。

 若干青筋立っているのは気のせいだろうか。

 そんなわけで、声の出どころを探る為に辺りを見渡していた銀時達だったが。

 

「……え?」

 

 少し離れた霊夢の所に、何かが降ってくる。

 

「……ん?」

 

 魔理沙には、それが何なのか若干だが見覚えはあった。

 そして、銀時は……。

 

「なんでジャスタウェエエエエエエエエエエエエエエエエイ!?」

 

 見事なシャウトで、その正体を叫ぶ。

 

 そう、何故か、霊夢の前に、ジャスタウェイが落ちてきた。

 

「いやぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 ドガァアアアアアアン!

 それはもう見事なまでの大爆発。

 ジャスタウェイが霊夢の目の前で爆発し、辺りに桃色の煙が立ち込める。やがてそれらは風によって霧散し、完全に姿を消した。

 

「だ、大丈夫か! 霊夢!?」

 

 真っ先に銀時が駆け寄る。

 後から魔理沙もついてくる形となったが、

 

「キシシシシシ! 上手くいった!」

「誰だぜ!?」

 

 魔理沙は声の主を探す為、銀時達とは少し離れた場所へと行く。

 一方銀時は、

 

「……ん? 桃色の煙?」

 

 ジャスタウェイから出てきた桃色の煙が気になったが、霊夢の安否の方を気にすることにする。

 爆発に巻き込まれたにしては、特に目立った外傷は見当たらなかった。一応無事だったことに銀時は安堵し、安堵の溜息をつく。

 

「爆弾と妙な物の合わせ技をしたらどうなるのか実験してみたかったけど、どうやら成功したみたいだ!」

 

 ニヤニヤしながら魔理沙の目の前に現れたのは、

 

「お前は……因幡の兎!!」

 

 幻想郷のトラップマスター、因幡てゐだった。

 

「森にある店で面白い物見つけて、そして二つ合わせたらどうなるのか試してみたかったんだ! 結果は大成功! 博麗の巫女も地に墜ちたってところだな!」

「お前……あの爆弾の他に何か混ぜ合わせたのか?」

 

 魔理沙は尋ねる。

 するとてゐは、ニヤニヤしながらこう答えた。

 

「あの爆弾には、とある煙をたくさん充満させておいたんだ! 何やらピンク色の煙が漂っていたが、私は匂いをかがないようにしっかり対策してたから、何の効果があるかまではさっぱり分からなかったけどね!」

「……まさか、あれって……」

 

 魔理沙は思い当たってしまった。

 てゐは今、森の店で見つけた面白い物を使った、と宣言した。

 そして魔理沙達はつい先日、銀時の世界から流れてきた面白い物を何個か目撃している。

 ジャスタウェイもその一種だった。

 と、いうことは……。

 

「れ、霊夢ぅううううううううう! 今銀時を見てはいけないぜぇえええええええええ!!」

 

 気付くまでに数秒。

 確かに、あの時こそ面白そうだと興味津々だった魔理沙だが、それは自分達の周りで被害が及ばなければという前提の元。

 そして、魔理沙の叫び声で気付いたのか、

 

「ま、まさか、これって……」

 

 銀時も、アイデアロールに成功してしまう。

 一方で、何の事だかさっぱり分からない霊夢は、

 

「ん……一体何なのよ……」

 

 それはもうバッチリと、目の前に居る天然パーマちゃらんぽらん侍の目を、しっかりと見つめてしまった。

 

「お、おい、霊夢?」

 

 銀時、冷や汗だらだら。

 霊夢、しばらくの間銀時の目をジッと見つめて、

 

「何見つめてんのよ天然パーマぁあああああああああああ!」

「えぇええええええええええええええええ!?」

 

 思い切り銀時を吹き飛ばした。

 

「よ、よかったぜ霊夢! 何ともないんだな!?」

 

 慌てて魔理沙は駆け寄る。

 近くに居たてゐは、そんな様子を面白くないと称し、そのまま何処かへ行ってしまった(というかこれ完全に犯人逃亡している)。

 

「えぇ、この私が……博麗の巫女が何か起こるわけないじゃない」

「そ、そうだったぜ……異変解決のスペシャリストだもんな」

「そうよ……この私が……銀時のことなんて惚れてるわけないんだからねっ!」

 

 思いっきり、目がハートになっていた。

 

 

 そう、これは喜劇。

 されどこの喜劇、広まり方を間違えてしまえば、ただの惨劇にしかならない。

 これはその一日をまとめた、喜劇録である。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六十八訓 道具の合わせ技はかなり卑怯

 

 




さぁ、という訳で!!
喜劇『愛染香』篇スタートです!!


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第六十九訓 普段との反動が激しいと変な方向に暴走してしまう

注:このエピソードはキャラ崩壊が常に起こると思ってください!!


「あ、霊夢さん! こちらの掃除は終わりましたよ!」

「こっちもなんとかなったネ!……って、魔理沙アルか?」

 

 掃除を終えた新八と神楽は、家主である霊夢に完了報告をする。そんな霊夢の横には、何故か既に白目を剥いている魔理沙の姿があった。

 

「魔理沙さん? なんでいきなり白目剥いてるんですか?」

 

 気になった新八が尋ねる。

 すると魔理沙は、

 

「新八!! 神楽!! 助けてくれ!!」

「「へ??」」

 

 突然新八の肩を掴んだかと思ったら、そのままゆさゆさと揺らしつつ、涙目で助けを乞う。なんのとこだかさっぱりわからない二人は、

 

「と、とりあえず落ち着いてください! ってかさっきならなんで霊夢さんは黙ったままなんですか?」

 

 落ち着かせる意味でも、話題を少し変える意味でも、疑問を解決する意味でも、全ての意味を込めて新八は尋ねる。

 もしかしたら霊夢がずっと黙り込んでいるのと何か関係があるのかもしれない。

 そして更に気になるのは、何故か銀時がこの場にいないこと。

 

「霊夢が……銀時に一目惚れしちまったんだぜ!?」

「「は???」」

 

 更に意味がわからなくなっただけだった。

 

 

 とりあえずこのままでは埒が開かなかった為、一旦話を整理することにした。

 てゐによるジャスタウェイテロから始まり、爆風に混ざっていた煙を霊夢が吸い込んだ瞬間、銀時に対して一目惚れしてしまったこと。

 新八と神楽は思い至る。

 

「新八、まさかこれって……」

「うん、多分そうだよ……」

「「愛染香」」

 

 彼らも一度巻き込まれた、愛染香による被害。まさか処分した物が幻想郷に流れ着いているとは思わなくて、言葉が出なかった。

 

「やっばりそうだよなぁ……香霖堂にあったものに違いないとは思ってたんだぜ……」

「香霖堂ってどんな場所アルか?」

 

 神楽や新八は、香霖堂がどんな場所なのかを知らない。そんな彼らに魔理沙は簡単に説明をした。そして何故愛染香が流れ着いてきたのかも、魔理沙の説明によって二人は理解する。

 

「となると、今現実的に出来ることは、霊夢さんを連れて香霖堂に行くことですね……そこに愛断香もあるならば、効果が打ち消せますし」

「ところで、霊夢はさっきからまだ黙りっぱなしアル。一体どうしたネ?」

 

 未だにまだ言葉を発しない霊夢。

 その手は何処かプルプルしてるようにも見える。

 たっぷり間を空けたのち、霊夢はポツリと一言。

 

「……銀時、いないの?」

「「アンタが吹き飛ばしたんだろうが!!」」

 

 寂しげに呟いた霊夢に対し、魔理沙と新八のツッコミがシンクロした。

 

「なんで吹き飛ばしたアンタが銀さんの安否心配してんだァアアアアアアアアア!!」

「それに霊夢、さっき自分で何ともないって言ってたくせに、無茶苦茶影響受けてるぜ!? 言い逃れなんて最早出来ない位銀さんにぞっこんなのが目に見えてるぜ!?」

 

 もう何が何やらカオスな状況。

 そんな中に、

 

「いってぇ……さっきは何しやがる……」

 

 銀時が、頭を抑えながら帰ってきた。

 

「あっ……!」

 

 真っ先に駆け寄ったのは、吹き飛ばした張本人たる霊夢。

 いかにも心配していますと言いたげな表情を浮かべながら、彼女は銀時の傍にすり寄って、

 

「銀時♡」

 

 その腕に、抱き着いた。

 

「何してんだ霊夢さぁああああああああああああん!!」

 

 あまりにも流れるように行動したものだから、誰もが反応するまでに時間がかかってしまった。しかし、そこは流石はツッコミ役たる新八。真っ先に行動を起こすことが出来たのは彼のポテンシャルがあるからこそ。

 

「もう、どうしたのよ銀時? そんなに傷だらけで……」

「あ、いや、吹き飛ばしたのテメェだけどな?」

 

 銀時も銀時で、どう反応したらよいか分からないと言いたげな表情。

 霊夢は更に、

 

「あの時はごめんなさい……私がどうかしてたのよ……こんなに魅力的な死んだ目をしてるのに、見つめるなだなんて……」

「褒めるんだか貶すんだかどっちかにしてくんねぇ!?」

 

 言ってることが支離滅裂となっていた。

 

「わ、私ったら……惚れた男性の前でなんてことを……」

「気をしっかり持つアル! それは愛染香が見せてるまやかしネ!!」

 

 そう言って神楽が、霊夢と銀時を引き離そうとすると、

 

「私の銀時に触れるなぁあああああああああ!!」

 

 ブチギレた。

 

「おいぃいいいいいい! なんかもうふ振り幅滅茶苦茶になってんぞ!!」

「こんなの、私達の手に負えないぜ……」

 

 もう早くもリタイヤ気味の魔理沙。

 

「森にある店に行きゃ、確かあそこに愛断香もあった筈だ……」

 

 その時、銀時は思い出したのだ。

 香霖堂には、両方とも店に並んでいた。即ち、そこに行けば事態解決に向けた何かがあるかもしれない、と。

 

「そうだぜ! 流石は銀さん! こんな霊夢、いつまでも見ていたくねぇぜ……」

 

 目がハートになって、だらしない表情を浮かべながら、銀時の腕に抱き着いている霊夢。心なしか、身体を摺り寄せている。そして、息が荒い。

 

「銀時……私……アンタの目を見ているだけで……はぁ……♡」

「なんだこいつ!? とんでもねぇ痴女に目覚めてんぞ!!」

「それ以上は勘弁してくださぁああああああああい!! タグを更新しなきゃならなくなってしまいますんで、霊夢さんやめてぇえええええええええええ!!」

「あっ……んん……♡」

「人の身体で何してんだこのアマァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 もう大パニック。

 元を辿れば、すべててゐのせい。

 確かに、博麗の巫女の地位は、最早地に墜ちたも同然な振る舞い。

 

「と、とにかくいつまでもこのままでいるわけにもいきません……さっさと森へ……」

 

 と、その時だった。

 

「何処へ連れていこうとするの? 銀時は私の物なのよ? 引き離そうだなんて許さない……んっ……♡」

「ダークサイドに落ちるのかピンクサイドに落ちるのか、どちらか一方にしてくんねぇええええ!?」

 

 一瞬黒いオーラが見えたと思ったら、すぐさまピンクオーラに目覚める霊夢。

 

「……駄目ネ。このままじゃ埒が明かないアル……」

「仕方ないぜ……もうどうでもいいから、さっさと森の方へ行くしかないぜ……このままでもいいから……」

 

 考えることを止めた女子二人。

 

「……無理もありません。この際道中何が起きても構いません。むしろ後で黒歴史となってくれれば、霊夢さんも目が覚めるでしょうし……」

「ねぇ、俺は? 俺はどうなの?」

「死んでください」

「なんでそんなに辛辣ぅ!?」

 

 ある意味最大の被害者たる銀時に対して、労いの言葉をかける者はこの場に存在しなかった。

 

 だがこの時、一同は完全に失念していた。

 確かに、事態解決を図るには手段を選んでいる時間はない。

 それでも、道中で何が起きるか分からないのだから、慎重に行かなければならない。

 そのことが頭から抜け落ちていた為に、この後どんどん状況がカオスになっていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

第六十九訓 普段との反動が激しいと変な方向に暴走してしまう

 

 

 

 

 



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第七十訓 マスコミも時には自重する程の相手が存在する

記念すべき七十話目に、僕はなんて話を書いているのでしょうか……(白目


 さて、桃色満点とんでも巫女になってしまった霊夢を引き連れて、香霖堂へと向かい始めた銀時達。その道中でのこと。もちろん霊夢の暴走は留まることを知らない。

 

「ねぇ銀時。何で私とアンタのデートなのに、コイツらもついてきているわけ?」

「デートじゃねえよ。テメェを正気に戻す為に俺達でテメェを緊急搬送してんだ。急病人なの。分かる?」

「そうね……私は恋と言う病に犯された急病人……急患を治療するのが医者の役目よ……銀時♡」

「なんでこっち見て言うんだよテメェ。しらねぇよ? 俺医者じゃねえしな? 何くっせぇ台詞吐いてんの? 後でゲロ吐くぞ?」

「あぁ……銀時の声が……私の……に……響いて……んっ……あっ……♡」

「戻ってこいや変態ガァアアアアアアアアアア!! 何高度なプレイ試してんだよテメェはぁああああ!!」

 

 もう何を言ってもすべてが無駄になる霊夢と、青筋立てまくって切れまくる銀時。

 そしてそんな二人を遠目で見守る、魔理沙・新八・神楽の三人。

 というか、見守る、というよりかは、見捨てている、が正しいのかもしれない。

 

「まずい……霊夢さんが、とんでもない色情魔になりつつありますよ」

「このままじゃ幻想郷に悪名轟くネ」

「なんとしても文屋がかぎつける前に片付けねぇとやばいことになりそうだぜ……」

「あ、魔理沙さん! そんな感じでフラグ立てたりしたら……」

 

「呼びました?」

 

 時すでに遅し。

 そこに特ダネの匂いを嗅ぎつけたら、何処へだって行く上になんだってする、清く正しく美しく、何処よりも素早く新鮮なネタをお届けする、文々。新聞を発行する新聞記者、射命丸文が現れた。

 新八は頭を抱え、神楽は茫然としていて、魔理沙は途方に暮れている。

 

「おや? おやおやおや? おやおやおやおやおやぁ???」

 

 新八達の目線を辿って、銀時と霊夢の二人を確認した文は、それはもう凄く輝いた瞳で銀時達を見つめていた。凄く単純に言えば、特ダネの匂いである。

 

「これはこれは坂田さぁあああん! ご贔屓にさせていただいておりますぅううう!」

「こんな時に余計な茶々入れに来るんじゃねえよマスゴミィイイイイイイイイイ!!」

 

 ただでさえ霊夢の相手に疲れるのに、そこに登場した射命丸文(マスゴミ)。銀時の怒りは頂点に達しようとしていた。

 

「本日はどうされたんですか? 霊夢さんとそんなラブラブイチャイチャデートしちゃって、私に写真撮られたかったんですか? もー先に言ってくださいよぉ! すぐさま幻想郷中に広めてあげるというのに! 水臭いじゃないですかぁ~!」

「るせぇ!! テメェに提供するネタなんざ存在しねぇんだよ!! こちとら忙しいんじゃ!!」

「まぁまぁ堅いこと言わずに! ちょっとパシャっとするだけだから☆ その後でちょっと私がパパッと記事書くだけだから☆」

「笑顔で言えばすべてが誤魔化せると思ったら大間違いだからなコノヤロウ!!」

 

 こんな状況を写真で撮られて、その上新聞という形で出回ってしまったら、何が起きるか分からない。

 特に、銀時の脳裏に二人の女性が浮かび上がる。

 片方は、日傘を持ってにっこりと剛腕を振るってきそうだし、もう片方は狂気に満ちた笑顔を浮かべながら血を限界まで吸い尽して来そうな予感すら感じられる。

 つまるところ、デッドエンド直行だ。

 

「……なさいよ」

「「え?」」

 

 どうやって文を躱そうかと画策していたその時だった。

 ぽつりと、銀時の隣から声が聞こえてくる。

 その声はとても小さくて、文にも銀時にも聞き取ることは出来なかった。

 しかし、次の瞬間。

 

「私の銀時から離れなさいよ!!!!」

 

 それは、はっきりとした声となり、辺り一面に響き渡った。

 

「え、え?」

 

 困惑するのは文。

 ここまで感情を露わにする霊夢を見たのは、これが初めてだったからだ。

 普段は省エネをモットーに生きており、そこまで感情を吐露することのない少女。

 しかし今、銀時に対してここまで好意を剥き出しにし、文に対して敵意を惜し気なく剥き出しにしている。

 

「さっきから私の銀時に対して猫撫で声で誘惑してきて、一体アンタは何を企んでるの?」

「いやコイツ、何も誘惑してねぇからな? 俺を強請って面白おかしく記事書こうとしているだけだからな?」

 

 銀時は凡そ正解を言うが、

 

「何言ってるの銀時。どう考えても今のはアンタを記事にするという口実の元、銀時写真集ポロリもあるよを作ろうとしているに決まってるじゃない」

「テメェの脳味噌がポロリしてんじゃねえのか!? そんな発想が出来るテメェの方がよっぽど変態なんだけど!?」

 

 銀時、完全に青筋から血が吹き出始める。

 

「え、あの、坂田さん? これは一体?」

 

 流石の文も思考回路がショート寸前になったのか。

 それとも、今の状況において記事を書くとかそれ以前に、何とかしないと自分の命も危ないと思ったのか、原因の説明を要求する始末だった。

 

「えっとですね、射命丸さん……」

 

 後から追いついた新八達が、文に事情を説明する。

 この際、彼女には本当のことを教えておいた方が後々面倒なことにならないと思ったからだ。

 そして事情を聞いた文が一言。

 

「はへぇ……惚れ薬みたいなものって本当に存在するんですね……それを記事にした方が面白そうなので、このままついて行ってもいいですか?」

 

 あろうことか、同行したいと言ってきたのだ。

 

「え? 文屋、一緒に来るってことになるのか? 別にいいけど、何もすることはないぜ?」

 

 魔理沙がキョトンとした表情を浮かべつつ、文に言う。

 彼女は、

 

「いいんですよー。香霖堂にある面白グッズを記事にするのもいいですし、それにこうして一緒に行動していれば、特ダネボンボン転がってきそうですからね!」

「全然懲りてないアル」

「流石はマスコミ精神全開の天狗だぜ……」

「射命丸、程ほどにしてくれよ。今の霊夢を刺激するのは危ない。主に俺の貞操と命の危険だ」

「分かってますよ。私も自分の身を削りたくはないので……」

 

 ガルルル、と威嚇する霊夢を見ながら、文が一言呟いた。

 

 こうして、謎にパーティーメンバーが増えたのだった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十訓 マスコミも時には自重する程の相手が存在する

 

 



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第七十一訓 気持ちは大事にするべきもの

「ねぇ銀時。どうしてアンタの周りには女の子がとても多いのかしら?」

 

 文が増えたことにより、ますます霊夢の密着度は増していく。

 もうほとんどゼロに近い。油断してるとまた発情してしまうのではないかという程。というか歩く度に擦りつけている。自重している様子はない。

 

「なぁ、新八……あれ、もうどうしようもないのか……? そろそろ見ていてげんなりしてきたぜ……」

「無理です……普段の霊夢さんならともかく、愛染香でやられてしまっている以上、僕等の話を聞かないですから」

「前の時もそうだったネ……あの時と違って、今回はまだ被害者一人で済んでるからマシアル……」

 

 前回愛染香が事件に関わった時、吉原を取り巻く大事件にまで発展してしまっていた。それよりは『まだ』マシなのである。それでも十分とんでもないことになっているのに変わりはないのだが。

 

「アンタには私が……はぁん……いるんだか……らぁ……ほかの……ひと、にぃ……めうつりしちゃ……らめぇ」

「擦りつけてくんじゃねえよテメェは!! もういいから離れろ!!」

「いや、らぁ……まら、わたひ……もっと……♡」

「もっとじゃねえよ!! ざけんなよテメェ!?」

 

 頑なに銀時から離れようとしない霊夢。 

 そんな二人を写真に収めまくる文(霊夢に渡すという条件の元、写真撮影を認められた)。

 

「魔理沙さん、香霖堂って後どのくらいでつくんですか?」

 

 痺れを切らせた新八が魔理沙に尋ねる。

 魔理沙は自我を失いそうになるのをなんとか堪えつつ、

 

「魔法使いの森が見えて来たらもうすぐだ。後一時間もすればつく筈だぜ……」

「あと一時間は、私達あの様子を見ていなければならないアルか……」

 

 げんなりした様子で神楽が言う。

 もういっそのこと自分達だけでも先に行ってしまった方が気分的にいいのではないかと思い始めていた彼らだったが、二人きりにしてしまったら、それはそれで霊夢が何をやらかすか分かったものではないので、そうすることが出来ないでいた。

 出来ればもうこれ以上騒ぎは起こさないで欲しい。

 三人の共通認識としてはそれだったが、そうは問屋が卸さないのが連鎖という物である。

 

「……ギン、にいさま?」

 

 よりによって、ラスボスの御登場だった。

 

「ふ、フラン……?」

 

 この登場は彼にとっても想定外だった。

 魔法使いの森に行くまでに、紅魔館は存在しない。

 なので、少なくとも彼女達の内の誰かに遭遇することはないだろうと考えていたからだ。

 

「フランちゃん! どうしてここに?」

 

 内心冷や汗だらだら流しながら、新八が尋ねる。

 フランは普段の様子からは想像もつかない程低い声で、

 

「お姉様に許可を取って、ちょっと辺りを散歩してたの。こうしてたら外の世界のことも知れるし、ひょっとしたらギン兄様にも会えるんじゃないかなって思って」

 

 確かに、フランの期待通り銀時には会えた。

 ぴったりとくっついて、身体を擦りつけている霊夢というおまけ付きで。

 誰がどう見ても、ラブラブバカップルのそれにしか見えない姿を、よりによって銀時がやっていた。

 

「そ、そうアルか……」

「散歩するのは、凄くいいこと、だぜ」

「え、えぇ。流石はフランさんです、ね」

 

 神楽、魔理沙の二人はもちろんのこと、あの文までもが余計なことを言わない始末。それだけ、今目の前に居る少女が纏っているオーラは、『少しでも冗談を言えば身体が吹き飛んでしまう』と思わせられるものだった。

 

「フラン、聞いてくれ。これはだな……」

「銀時は私のなのよ。アンタには渡せない。残念だけどこれは確定事項なの」

 

 擦りつけるのは止めたが、それでも銀時を離そうとしない霊夢。

 その目はマジだ。

 

「……笑えないよ、その冗談。そんなのいつ誰が決めたの?」

「今、私が決めたわ。銀時は私の。誰にも譲らない」

「テメェのもんになった覚えはねぇ。後離れろつってんだろうが」

 

 ここぞとばかりにぐいぐいと銀時だったが、何処に力があるのか分からない程、霊夢の力はかなり強い。

 振りほどけない。

 

「……ギン兄様、ちゃんと説明して欲しいんだけど……どうしてこうなってるの?」

「だから銀時は……」

「五月蠅い。私は今ギン兄様に聞いてるの。余計な口挟むな」

 

 ドスの効いた声。

 それはもう、愛染香の力でキャラ崩壊を起こしている霊夢ですら、押し黙ってしまう程の迫力。

 作品一ヒロインをしているフランだからこそ出せてしまう、とんでもなくやばいオーラ。

 

「馬鹿な話かもしれねぇけど、信じてくれ……コイツは今、愛染香っつぅ惚れ薬のようなものを嗅いだせいでこうなっちまってる。フランの考えているようなことは何もねぇ」

「……」

 

 フランは押し黙る。

 銀時は固唾をのんで見守っていた。

 いや、普通ならばこんな話誰も信用しない。

 特に、相手に対して好意を寄せている人物であるならば尚更、目の前の事実を先に突きつけられてしまっている為、そこに付随する真実になかなか目を向けられないものだ。

 

「……そっか。そうなんだ」

 

 しかし、フランは違った。

 スッと、殺意が引いていくのを全員理解した。

 

「フラン……?」

「ギン兄様、嘘ついてないもん。見たら分かるよ。だから信じる。怒るのは違うなって思ったし」

 

 彼女は銀時の言葉を信じた。

 確かに、銀時にべったりくっついている霊夢を見過ごせない気持ちはあるものの、それ以上に銀時が言う言葉を信じて、どうにかしなければいけないという考えに至ったのだ。

 彼女の銀時に対する感情は、彼らの想像を遥かに上回っているといっても過言ではないだろう。

 

「フランちゃん……」

 

 その覚悟と気持ちの強さに、思わず新八は感銘を受ける。

 

「……仕方ないわね。さっきの発言、取り消すわ。けど、銀時を虜にするのは私よ。覚悟なさい?」

 

 相変わらず銀時から離れないものの、霊夢は笑顔でそう告げる。

 それに対してフランは、

 

「いいよ! だって私は、私の気持ちに嘘つきたくないもん! ギン兄様のことを愛している気持ちで、誰にも負けない自信があるから!」

 

 笑顔でもう片方の腕に抱き着きながら、霊夢に対して宣戦布告をするのだった。

 

「……え、結局このままなの?」

 

 板挟みになっている銀時がポツリとこぼす。

 

「銀ちゃん、今は空気を読むアル」

「流石にそれはないぜ……」

「坂田さんデリカシーって言葉覚えた方がいいですね……」

「銀さん……それは駄目ですよ……」

 

 他の四人に駄目だしをくらう、坂田銀時(チャランポラン)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十一訓 気持ちは大事にするべきもの

 

 

 




フランちゃんマジヒロイン……。


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第七十二訓 恋は人を強くする

「……で、これは一体何なの?」

 

 魔法使いの森に到着した一同。そこで遭遇したのは、色々と調達しているアリスだった。彼女は銀時に抱きついているフランと霊夢の二人をーー特に桃色巫女の様子を見て、思わず尋ねてしまっていた。

 

「それがよ、アリス。この前香霖堂行ったろ? その時のやつに霊夢がやられたんだぜ……」

「あー……たしか、愛染香、だったかしら……」

 

 魔理沙の言葉を聞いて、アリスはすぐさま思い至る。霊夢が普通の状態ではない事を十分に理解し、

 

「そしたらすぐに香霖堂ね……にしても、随分と愉快な面子してるわね……」

 

 改めてアリスは、今この場にいるメンバーを眺めてそう呟く。文やフランも一緒にいるというこの組み合わせは、普段ならあまり見られないものだ。

 

「いやぁ、坂田さんのお近くにいるとなかなかに特ダネが見つかりやすくてー」

「事態解決よりも出歯亀精神全開の発言ね……」

 

 アリスはため息をついた。

 

「早く行こうぜ……いい加減解放してくれ……もう何か色々搾り取られそうになる気分だ……」

 

 何処か遠い目をしながら銀時が懇願する。

 

「……道中何があったのよ。何処か霊夢はツヤツヤしてるし……」

 

 ある意味恐怖でしかない瞬間だった。

 

 ※

 

 そしてとうとう、一同は香霖堂に辿り着いた。

 

「よくぞここまで辿り着いたな! キシシシシ!」

 

 なぜか門番のように、てゐが待ち受けていたが。

 

「おい兎! お前のせいでこちとら散々精神持っていかれたんだぜ!」

 

 魔理沙は目の前でジャスタウェイテロを目撃している。よって、犯人であるてゐが現れたことにより、追求する立場へとなったのだ。

 

「なんか思ってた展開とちょっと違う気がするけど、まぁいい……博麗の巫女を陥れる為に、まだまだその状態でいてもらわなきゃ困るんだ!」

「なんでそこまで霊夢を嵌めようとしてやがるんだ?」

「え? ハメる? やだ銀時ったら……こんなところで……んあぁ♡」

「ちょっとぉおおおおおおお!! 何盛大な勘違いしてるんですか霊夢さぁあああああん!!」

 

 霊夢はもうダメかもしれない。

 

「というか、なんでそこまで拘るアルか?」

 

 純粋な疑問を神楽はぶつける。

 するとてゐは、不敵な笑みを浮かべながら……。

 

「その方が面白いからだ!!」

「そんな理由で俺達を巻き込むんじゃねぇええええええええ!!」

 

 銀時のシャウトが辺りに響き渡った。

 

「さぁて、ここを通りたければ私を倒して行くがよい!!」

「なんかボスのテンプレ台詞みたいなこと言ってるぜ!?」

 

 謎に最終決戦間際みたいな展開になっているが、その実やっていることは、店の中に入るか入らないかの攻防戦。ものすごくくだらない争いだった。

 今まさに、その戦いが始まるーー!

 

「「どいて」」

 

 と、その瞬間の出来事。

 銀時に抱きついていた二人が、ふらっとてゐに近づいて、静かに、ドスの効いた声で、ただ一言そう告げたのだ。

 

「え、いやだから通りたければ……」

「「どいて」」

「ですから……」

「「どけ」」

 

 とうとう命令形。

 かつ、冷酷な眼差しを向けながら、吐き捨てるように一言。

 これ以上抵抗したら分かってるんだろうな? とでも言うような、そんな感じ。

 

「はい……」

 

 身体を震わせながら、その場を退く。

 フランと霊夢はそれを確認すると、銀時の手を引っ張って中へと案内する。

 

「……流石に、今の迫力は、すごいぜ」

「正直ちびるかと思ったネ」

「恋するお二人が揃うと無敵極まりないですな……」

「僕にも……近づく勇気はなかったよ……」

「相手が私じゃなくて、良かった……」

 

 それぞれがそれぞれ、自分が対象とならなくてよかったと、心から思ったという。

 

 ※

 

 後日談というか、今回のオチ。

 あの後、なんとか霊夢に愛断香を嗅がせて、愛染香の効果を打ち消したことにより、今回の喜劇は幕を降ろした。

 しかし、その反動というか、なんというか。

 

「…………私、しばらくアイツに顔向け出来ない……」

 

 その間の記憶が消える程都合の良い展開が起きるはずもなく。

 愛染香の効果で銀時に惚れていた時に自分が行なっていたことについては、全て覚えてしまっていた霊夢。

 しばらくの間、彼女は銀時の顔を見るたびに逃走する日々が続いたそうな……。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十二訓 恋は人を強くする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? ここは……」

 

 一人、人里に立ち尽くす女性がいた。

 

「私は……でも、ここに……生きてる……?」

 

 彼女は自分がここにいることよりも、『自分が生きている』という事実に驚いているようだ。

 

「でも、きっと……あの人達はここにはいないのですね……」

 

 ポツリと、寂しそうに呟く。

 そして彼女は、事情がよく分からないまま、

 

「……とりあえず、まずは情報収集、ですね」

 

 あたりを見渡して、自分が今置かれている状況を確認することから始める。

 

「……神様が、私にもう一度チャンスを下さったのでしょうか」

 

 そこに不安など存在しない。

 ただ、自分がもう一度生を得ることが出来た事に対する、喜びの感情。

 

「号外ー! 号外ー!」

 

 ちょうどその時、烏天狗の手によって、新聞がばら撒かれる。

 彼女のもとにも新聞が飛んできて、それをゆっくりと拾い上げる。

 

「あっ……」

 

 そこに書かれていたのは、『桃色の片想い♡ドキドキ色情魔現る♡』という、なんともゴシップ色満載の見出し。だが彼女は、そんなことよりも、同時に掲載されている写真の方に目がいっていた。

 

「この方は……それなら、まさか……」

 

 彼女の心が少し弾む。

 

「もしかしたら、あの人達に……あの人に、会えるかも……!」

 

 彼女が目にしたのは、天然パーマの侍。

 彼を目指したならば、もしかしたら自分が最も会いたいと思う人物達に会えるかもしれない。

 そんな事実が、彼女を突き動かしているのだ。

 

「こうしちゃいられません……!」

 

 彼女は決意を秘めて、前へと足を運ぶ。

 

 それはまさしく、神様が与えてくれた奇跡なのかもしれない。

 

 

 

 

 




というわけで、今回でポロリ篇その参は終わりとなります!
そして、次回からは大結界異変篇の始まりです!
さて、最後に登場したキャラは一体誰なのでしょうか……。


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大結界異変篇
第七十三訓 人探しの基本は情報集め


大結界異変篇スタートです!


 少女は花を見るのが好きだった。

 だから彼女は、一人で幻想郷中に咲き誇る花を見ては、きちんと咲いていられるように愛でるのだ。

 そんな彼女だからこそ、今幻想郷で起きている異変に真っ先に気付けた。

 

「……花が、咲き乱れている?」

 

 少女――風見幽香は、辺り一面に咲く、『季節に関係のない花達』を眺めながら、ポツリと呟いていた。これがもし花が枯れる異変だとすれば、彼女は黙っていなかっただろう。犯人を捕まえて、命を奪うだけでは足りない程の地獄を味合わせるに違いない。

 しかし、今回の異変は違う。

 

「今のところ、それ以外におかしな点は見られない……けど、花は自然。自然に紐づく妖精たちが、酔ったみたいに暴れるのも目に見えているわね」

 

 過去の異変からも見て分かる通り、異変はほぼ自然と絡んでいる。そして自然に紐づけられている妖精たちへの影響も少なからず存在する。

 ただし、幽香は別にこの異変をどうこうするつもりはなかった。

 彼女は花を愛する少女。悪しき者ならばともかくとして、今回に関しては明確な目的も悪意も存在しない。

 今までだって、悪意というものはなかったように思える。人伝に異変について聞いただけだが、それらを聞いた限りでも、何かしらの目的や行動理念が存在していた。

 だが、今回は違う。

 花が咲き乱れる、妖精が暴れ出す。

 これらの行動を起こすことによって得られるものが存在しない。

 

「……自然現象、と捉えるべきなのかしら?」

 

 異変とは性質の違う何か。

 だとすれば、今彼女に出来ることは、ほとんどない。

 敢えて言えば見守ること位だが……。

 

「すみません」

「え?」

 

 その時、幽香の元に一人の女性が歩み寄ってくる。

 どうやら困っているようで、幽香は話しかけられた女性に対して、

 

「どうしたの? 何か困りごと?」

 

 一応、そう尋ねたのだった。

 すると女性は、

 

「この方に……見覚えありませんか?」

「人探しね……って、まさか……」

 

 一枚の新聞記事を見せてきた。

 見せられた新聞記事に写っている人物を見て、幽香は思い至る。

 

「この人……坂田銀時さんについて聞きたいのですが……」

 

 男の名前は坂田銀時。

 ある意味今起きている異変よりも厄介なことが起きる予感が、幽香の脳裏を掠めた。

 

 

 毎度お馴染みBGオンリー。

 

「銀ちゃん! 気付けばこの作品も七十話越してたアル!」

「随分と長く続きましたよね。最初の方僕等はほとんど登場しないとか言われたから、ここまで出番もらえてよかったですよ」

「作者の気が変わったんじゃねえか? 最初の頃は銀魂からは俺しか出さねぇって話だったみてぇだし」

「それならナイスプレイネ! でもそのせいで新八までハーレム着々と作り始めてなんかキモイアル」

「いちいち僕を弄らないと気が済まねぇのか!!」

「ま、何にせよここ最近異変解決が多くて疲れてたからなぁ。いい加減平和な時間もらいてぇもんだぜ」

「そうアルな。この前は愛染香で疲れたネ」

「あれはもう災難としか言いようがありませんでしたね……」

「もうあんなの願い下げだぜ……一番の被害者俺じゃねえか」

「霊夢も大概だけど、銀ちゃんもドンマイアル」

「見ているこっちも疲れましたからね……」

「つかよ? 結局てゐの奴ぼこぼこに出来てねぇよな? アイツ逃げやがったよな?」

「しかたないネ。逃げ足はかなり速かったアル」

「そうですね……流石というべきですね……」

「まぁ……もういいんだけどよ……」

 

 そうして会話が一区切りついた時。

 

「よぅ、万事屋!」

 

 突然の来訪者。

 入ってきたのは、お馴染み真選組の四人。

 ゴリラ、ニコチン、ドエス、あんぱん。

 

「もう全員名前じゃないんですけど!?」

 

 あんぱんこと山崎が地味なツッコミをしていた。

 

「地の文にまで地味って言われる筋合いねぇし?!」

「まぁまぁ、山崎。その辺にしとけよ」

 

 止めたのはニコチンこと土方。

 彼は万事屋の中でもタバコを吸うことを辞さない。

 

「今日はどうしたんですか? 四人揃って来るなんて」

 

 とりあえず話を進める為、新八が四人に尋ねる。

 代表して話を始めたのは、ゴリラこと近藤だった。

 

「いやぁ、最近テメェらが行っている幻想郷って所に行ってみてぇと思ってな?」

「近藤さんの言う通りでもあるし、桂捜索の手がかりがあるんじゃねえかって思ってな」

「ヅラの?」

 

 銀時が反応する。

 

「桂の野郎が以前紅魔館2ndGに出入りするところを見たって目撃情報があったのは事実なんでさぁ。つまり、紅魔館が元々ある幻想郷に、桂の手がかりになるもんもあるんじゃねえかと思って、その足取りを調べることになったってわけでさぁ」

「なるほどな……筋としちゃしっかり通ってるな」

 

 確かに、紅魔館は元々幻想郷に存在する。

 そもそもの話、桂の目撃情報が出ていた時点で最初にマークしなければならなかったのだが、江戸で起きている事件を解決するのに追われていてそれどころじゃなかったということもある。

 

「と、いうわけで万事屋! 幻想郷を案内してくれ!」

「観光と仕事のダブルたぁ、なかなか殊勝なことだな……まぁそういうことなら別にいいぜ」

 

 仕方ない、と言った感じで銀時は了承する。

 

「幻想郷の女に変なことするなヨ、チンピラチワワ」

「余計なお世話だメスブタ」

 

 神楽と総悟は既にキャットファイトを開始していた。

 相変わらず仲のいいことである。

 

「まぁ……なんにせよ行くぞ」

 

 銀時先導の元、今回に関しては異変解決の依頼なしに幻想郷へ遊びに行くこととなる。

 

 これが、今回の話の幕開け。

 そして――とある男の、やり直しの物語。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十三訓 人探しの基本は情報集め

 

 



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第七十四訓 サボりをするなら人目のつかない所でやれ

 場所は変わって幻想郷。相変わらず四季折々の花が咲き乱れる状況は改善の見込みが見られず、それがむしろ不思議なことに幻想的な風景を作り出してしまっている。もしこの地に降り立つのが初めてだという者がいた場合、勘違いしてしまったとしてもおかしくはないかもしれない。

 

「はぁー……」

 

 そんな幻想郷にある、川辺の土手。草むらの上に寝そべる一人の女性がいた。赤い髪をツインテールにまとめており、白と青の混じった着物を模したロングスカートを着用している女性。腰には黄色の腰巻を着用しているその女性の名前は、小野塚小町。こう見えても彼女は死者の魂を三途の河へと送り届ける船頭なのである。死神に近い存在ではあるものの、彼女自身は魂を奪うことはない。だというのに死神の象徴たる大きな鎌を持っているのは、サービス精神からくるものということらしい。

 そんな彼女は、

 

「はぁー……働かなきゃなー」

 

 ただいま絶賛サボり中である。

 

「いや、これさ、もう私が働いた所で意味ないよなぁ……幽霊多すぎだってぇ……」

 

 彼女はその役職故に、今幻想郷に起きている異変がどのようなものなのかを把握していた。なので、どう対処すればいいのかもある程度予測出来ている。

 しかし、それでも彼女が動かないのは、あまりにも幽霊が多すぎて動く気になれないからだ。

 

「そりゃ仕事楽しいけどなー、けど限度があるよなぁ……あ、でも四季様に怒られる気はする……」

 

 彼女には上司がいる。

 もしその上司にサボりがバレたとすれば、忽ちのうちに雷が落とされて裁きを受けることになるだろう。最も、もうこの異変が起こってしまい、かつ、未だ解決に至っていない段階でサボりがバレているのはほぼ確定のようなものなのだが。

 

「ま、なるようになるだろう! 考えても仕方ない! 今はサボる!」

 

 結局、彼女の中ではしばらくサボりを続行することが決まったようだ。

 

「サボりとはいただけませんわ」

「え?」

 

 ちょうどサボりを決意した瞬間、目の前に大量の目が描かれた空間の裂け目ーー所謂スキマが現れる。そしてそこから出てきたのは、

 

「なんだぁ、八雲紫かぁー。おどかすなよぉー」

 

 現れたのが自分の上司ではないことがわかると、小町は安心してその場に寝そべる。

 

「私が告げ口をするとは考えもしませんの?」

「あたいはお前さんを信じてるからな!」

 

 嘘偽りのない笑顔を見せつつ、小町は堂々と宣言した。考えるのが面倒くさいのだろうと言ってしまえばそれまでだが。

 

「まぁよろしいですわ……幻想郷に周期的に訪れるこの異変……なるべくならば早めに解決して欲しいので、貴女に依頼しに来ましたわ」

「あー、やっぱり? 流石幻想郷の管理人だなぁ。別に直ちに影響しないんだからいいんじゃないかなぁって思うんだけどなぁ」

「早く処理しないと、貴女の上司が説教しに来てしまうのではなくて?」

「そうなんだよなぁ……それが一番困るんだよなぁ……」

 

 小町の上司である四季映姫・ヤマザナドゥは、自身がオフの時にはよく説教しに回っているほど、何かと細かい。特にサボり癖のある小町に対する説教は多く、しかも自身の能力で『白黒はっきりつける程度の能力』があるおかげで、本来ならば曖昧となってしまう判決も、はっきりとつけることが出来てしまう。つまり、有罪か無罪か、彼女は決定づけることができるということだ。

 

「幽霊関係については、先に起きた春雪異変のこともあって結構シビアなのですわ。どんな幽霊が姿を現わすのか、今の私達では判断付かないところで……」

「そりゃまたどうして? もしかしてこの前から来てる外来人と何か関係があるのか?」

 

 外来人――坂田銀時の存在は、今や幻想郷中に知れ渡っている。射命丸文がしょっちゅう新聞記事に銀時を出しているせいで、知らない人の方が珍しいレベルになりつつあった。

 

「えぇ……私のエゴでもあるのですけどね」

「お前さん……相当その外来人に対して入れ込んでるんだなぁ」

 

 小町の言葉に対して、紫は首を頷かせる。最早このことに関して紫が何かを隠すつもりは毛頭なかった。

 事実、彼のおかげで幻想郷は守られている。幻想郷にとって英雄とも言える存在に対して、紫が蔑ろな感情を抱く筈がない。

 

「彼がいなければ、間違いなく今の幻想郷にはなっておりません。そう言った意味で、私はあの方を非常に尊敬しているのですわ」

「なるほど。心から尊敬してるってわけかぁ……いいねぇ、そういう信頼関係も」

 

 純粋に、小町は眩しいと感じていた。

 銀時のことを語る紫の目が、とても優しくて、とても暖かくて、そして女の子の目だったからだ。

 

「ともかく、今は幽霊に関して結構シビアになっているのは確かです。私としては、なるべく早く対処してくださるとありがたいのですが……幻想郷にはびこる幽霊を運べるのは貴女しかおりませんから」

「ったく、そう言われちゃ仕事しないわけにはいかないじゃないかい」

 

 すっと起き上がり、小町は紫に笑顔を見せる。

 

「ま、アンタの愛に免じて動いてやるよ!」

 

 そして小町は、本来の職務を全うする。

 そんな彼女の後姿を見送った後、

 

「紫。ちょっと聞きたいことがあるのだけど」

 

 風見幽香に話しかけられた。

 

「あら、珍しいですわね……そちらの方は?」

 

 幽香の隣に居る女性を見て、紫が尋ねる。

 

「この人は銀時を探しているらしい。名前は――」

 

 幽香が自己紹介するよりも先に、女性が前に出て、自身の名前を明かす。

 

「私は、沖田ミツバ……訳があって、坂田さんを探しています。どうか、ご協力いただけないでしょうか?」

 

 女性――沖田ミツバ。

 かつて想い人と結ばれることなく、重い病気でこの世を去った女性の、第一歩だった。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十四訓 サボりをするなら人目のつかない所でやれ

 

 

 



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第七十五訓 強すぎる愛も考え物

今回はただのギャグ回です()


「あれ? どうしたんだぜ銀さん! 今日は随分とまた大所帯だぜ?」

 

 博麗神社に着いた銀時達を待ち受けていたのは、何故か魔理沙とアリスの二人だった。

 彼女達はどうやらお茶を飲んでいた所らしく、階段に座って饅頭を食べていた。

 

「ん? 霊夢の奴はどうしたんだ?」

 

 銀時は二人に尋ねる。

 ここは博麗神社。神社の巫女である霊夢が最初に来ると思っていただけに、予想が外れたことが若干気になったようである。

 アリスは溜め息を吐きながら、

 

「アンタに会うのが恥ずかしいって、顔真っ赤にして逃げたわよ」

「え?」

 

 その一言に、銀時は驚き、その後で即座に気付く。

 恐らく霊夢が気にしているのは、愛染香での一件。あの時は愛染香の力にやられていたとはいえ、普段の彼女からは想像もつかない程とんでもない動きを見せていたのは明らかだ。誰よりも自覚しているのは霊夢で、だからこそ彼女は銀時に顔を合わせることが出来ないのだろう。

 

「万事屋……テメェ、何やらかしたんだ?」

「近藤さん。銀さんがやらかしたというよりも、霊夢さんがやらかしてしまったわけで……」

 

 新八は一応近藤に事情を説明する。

 何せ彼も、以前愛染香を巡る事件に巻き込まれたのだから……。

 

「ところで銀さん、この人達は誰なんだぜ?」

「あぁ、コイツらは……」

 

 銀時仲介の元、真選組のメンバーと、魔法使い組の紹介が終わる。

 そして改めて、

 

「……旦那、アンタもしかして生粋の女たらしですかい?」

「なんでそんな結論に達したんだよテメェ」

 

 総悟の言葉に、銀時は青筋を立てていた。

 

「同意したくはないけど、今だけはテメェの言葉に同意するアル。銀ちゃんこっちに来てから女たらしネ。いろんな女泣かせているアル」

「おい神楽。何テメェは変なこと吹き込んでやがる」

「へぇ……ソイツぁ興味深い。江戸に戻ったらみっちり聞いてやるよ」

「おいそれただの取り調べじゃねえか!!」

 

 土方の言葉に流石に耐えられなかった銀時は、ツッコミを入れてしまっていた。

 ただ女をたらしこんでいたからという理由だけで獄中に入れられてはたまったものではない。

 

「旦那酷いですよ! いつの間にやらそんなにいい女引っ張り回して!」

「しかしなぁ……銀さんってばまだまだたくさん女いるぜ? 何ならもう相思相愛なんじゃないかって仲のフランって女の子も居るぜ?」

「あー、もしかして紅魔館2ndGに居た女の子か?」

 

 近藤達は既にフランに会ったことがある。

 魔理沙から出てきた名前に聞き覚えがあった為か、即座に反応した。

 ただし、山崎は名前が出た段階ですでに震えあがっている。

 

「私としては既にお似合いな気はするんだけど……」

 

 さり気なくアリスが後押しする。

 

「おいおい。仮にそういう関係になったとしても、まずあのシスコン吸血鬼をどうにかしなきゃならねぇんだろ? そんなの無理に決まってるだろうが」

「「「「たしかに」」」」

 

 新八・神楽・アリス・魔理沙の四人は同意した。

 それだけレミリアのシスコンっぷりが浸透してきたことを意味しているだろう。

 

「聞き捨てならないわ!!」

 

 と、その時だった。

 突如、辺り一面に響き渡る女性の声。

 真選組のメンバーはもちろん聞いたことのない声。

 だが、銀時達にとってはつい先日聞いたばかりの声。

 

「銀さん、この声、まさか……」

「……俺、用事思い出したわ。後、任せ……」

「旦那様ぁあああああああああああああああ♡」

 

 物凄い勢いで走ってくる、蓬莱山輝夜の姿があった。

 銀時目掛けて目をハートマークにし、その胸に思い切り抱き着いてみせたのだ。

 

「「「「旦那様???」」」」

 

 真選組の反応はほぼ同じで、皆一様にはてなマークを飛ばしまくっていた。

 一方、銀時の反応はと言うと。

 

「ふざけんじゃねぇええええええええ! 誰がテメェの旦那様だ阿婆擦れがぁああああああ!!」

 

 そりゃもう凄い勢いで逃走していた。

 

「お待ちください姫様!!」

 

 後から永琳や鈴仙も追いかけてくる。

 二人とも走ってきた為か、汗をかいているようだ。

 

「一体どうしたんだぜ?」

 

 思わず魔理沙が事情を尋ねる。

 すると永琳が、

 

「姫様が『私の旦那様レーダーが反応したわ!』とか言いだしたかと思いきや……」

「まさか本当にいらっしゃるとは思ってなかったです……ついでですが、最近妙に花が季節に関係なく咲いているので、テンション上がってしまったてゐを連れ戻しに……」

 

 鈴仙にはもう一つ、何故か凄いテンション上がったてゐが、何処かをほっつき歩いているみたいなので連れ戻しにいく、という事情があることを説明してくれた。

 

「そういえば確かに、今の季節とは関係ない花も咲いているような……」

 

 山崎は辺りを見渡しながらそう呟く。

 

「これも幻想郷だからなのか?」

 

 土方がアリスと魔理沙に尋ねる。

 すると二人は、

 

「んー、幻想郷と言っても、季節観は基本そっちの世界と同じ筈だぜ?」

「確かに幻想郷ならではのことも起きるけど、自然関係に関してはそんなに変わりないわよ?」

 

 確かに、自然に関してほとんど変化はない。

 四季も同じ、天気も変わらない。

 となれば、季節ごとに咲く花だってそうそう違いが出るとも言えないのだ。

 

「けど、これがもし異変だとして、花を咲かせまくる異変っていうのは目的が見えてこないぜ……別にそのせいで誰かが困ってるってわけじゃないし」

「前に月が偽物に変わった時も、人には影響なかったアルな? それと同じアルか?」

「神楽ちゃんの言うことも確かかもしれないね……」

 

 何がともあれ、今のままでは証拠が少ない。

 というわけで彼らは、真選組への幻想郷案内の意味も込めて、手分けして探すこととなったのだった。

 

「って、ちょっと待てぇえええええええええ! この状況をなんとかしろテメェらぁあああああああああ!!」

「逃げないで旦那様!! 私の愛を受け取って!!」

「テメェの歪んだ愛なんざ受け取れるかぁああああああああああああああああ!!」

 

 ……追いかけっこしている二人を置いて。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十五訓 強すぎる愛も考え物

 

 



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第七十六訓 人はヤケになると何をしでかすか分からない

 メディスン・メランコリーは、人形解放の為に動くことを決意した。

 金髪のショートボブ、蒼い瞳をした少女で、赤いリボンを蝶々結びに結んでいる。上が黒で下が赤のロングスカートを履いた彼女の周りには、同じような容姿の小さな妖精みたいな存在が飛び回っている。

 

「私は! 人形の待遇改善を要求する!」

 

 誰に叫ぶのでもなく、彼女は叫び続けていた。

 妖怪としては生まれたばかりのメディスンは、幻想郷については疎い。そんな彼女が活発的になったのは、今回の異変がまさしく絡んでいるとも言えるだろう。

 普段とは違い、溢れ出てしまった幽霊の一部が花々に乗り移り、成長を続けているような異変なのだ。自然の力が強くなっていることを象徴している。メディスンが住んでいる無名の丘に咲き誇る鈴蘭の毒もまた、その強さを強烈なものとしていた。別にこれが強くなかったとしても外に出ること自体は不可能ではないのだが、元々彼女は外を知らなすぎて出るつもりがなかった。

 しかし、今の自分はいつもよりも強い。メディスンにはその理由がわからなかったが、動くには十分過ぎるハッスル具合だったのだ。

 

「動くなら今……今しかない!!」

 

 決意を秘めた少女は、一人森の中で宣言する。ちょうどそんな時だった。

 

「なんだかよく分からないけど、さいきょーのあたいも協力するぞー!!」

「チルノちゃん!?」

 

 バカと大妖精が現れた。

 

「貴女は一体……?」

 

 当然、見知らぬ人物の登場にメディスンは尋ねる。

 チルノは胸を張りながら、

 

「あたいはチルノ! こっちは大妖精! どうせあばれるなら、みんなであばれたほうがいいでしょう!」

 

 メディスンの目的を一ミリも聞いてないような反応の仕方をしているが、チルノとしてはこれでも一応メディスンのことを応援するようだ。というか本当に全く聞いていないのではないだろうか。

 

「なにかあれば、さいきょーのあたいがたたかう! ちょうどぶっとばしたいえいえんのライバルもいるからな!」

「それってあのお侍さんのこと……?」

「もちろんだ!」

 

 大妖精の質問に対して、チルノは瞳を燃やしながら答える。

 

「今のあたいはいつも以上にさいきょーな気がする! だからあたい達であばれよう!」

「うん! なんだかいけそうな気がする!」

「えぇー!? 理由も分からず協力しあえちゃうの!?」

 

 手をがっしりと握り合っているチルノとメディスンを見て、大妖精はツッコミを入れざるを得なかった。

 こうして、目的がよく分からないがとりあえずなんか暴れる二人と、そんな彼女達を見守る苦労人が一人という、なんともカオスな状況が出来上がったのだった。

 

 ※

 

 博麗神社から人里へ向かう森の中。

 博麗霊夢は未だに逃げ回っていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 雑念を振り払うように、何もないところに弾幕を撃ち続けている。当然、目標なき弾幕は至る所に着弾しては姿を消す。

 ちなみに、被弾した木々花々に関しては、何故か妙な呻き声が聞こえたような気がしたが、今の霊夢の耳に入るわけがなかった。

 

「もう……何日も経つのに……顔合わせ出来ない……無理……」

 

 自身のキャラ崩壊っぷりはもちろんのこと、銀時に対して行った様々なこと。あれではまるで痴女だ。しかも中途半端に気になっている相手であったことがタチの悪さをさらに演出し、それも霊夢にとって羞恥心を駆り立てる理由になっていた。

 

「因幡うさぎ許すまじ……見つけたらただじゃおかないわよ……」

 

 全方位にとんでもなく強い殺気を放つ霊夢。その強さは、

 

「ひぃっ!」

 

 すぐ近くで遊んでいた哀れな兎を炙り出すことに成功するほどだった。

 

「…………もしかして、そこにいるのかしら?」

 

 霊夢の目から光がどんどんなくなっていく。やがてそこに秘められたのは、怒りの炎。

 

「い、いや、あの、その……っ!」

 

 てゐ、大困惑。

 

「アンタのせいで私がどんだけ恥ずかしい想いしてんのかわかってんでしょうね!?」

「ひゃああああああああ!!」

 

 木陰に隠れていたてゐ、逃亡。

 

「待ちなさい!!」

 

 札と赤青弾の混合弾幕を放つ霊夢。およそ遠慮ない弾幕だが、周囲に着弾するにつれて不思議な呻き声が響くのは変わらない。

 

「ひぃ! なんか聞こえる! ヤバイって!」

「問答無用!!」

「あの時のことなら謝るけど、今は話を聞いてってば!!」

 

 てゐは必死に今起きていることをなんとか霊夢に伝えようとするも、霊夢は話を全く聞いてない。怒りによって周りの声が聞こえていないという状況。

 普段は感情の起伏が少ないだけに、怒らせるとどれだけ厄介なのかが窺いしれる瞬間である……。

 

 尚、霊夢のこの行動は、地味に異変解決を早めることになったことなど、誰も知る由がなかったのである。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十六訓 人はヤケになると何をしでかすか分からない

 



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第七十七訓 ちゃらんぽらんな男は説教されやすい

 さて、逃走している銀時は、やっとの思いで輝夜を振り切ることが出来た。代わりに彼は、博麗神社近くの森で一人という状況が生み出される。

 

「あの阿婆擦れ……マジでしつけぇ……っ」

 

 それだけ銀時に対する想いが強いことの表れであるし、銀時もそのことには気付いているのだが、だからと言って受け入れなければならない義理はない。元より彼は、押しの強すぎる女性があまり得意ではないのだ。だからフランは彼にとってちょうどいい塩梅で、案外馬が合っていると言っても過言ではないのかもしれない。

 

「まぁ、アイツらなら勝手になんとかすんだろ……」

 

 やることもないし、戻った所で輝夜に確保されるだけなのではないかと考えた銀時は、森の中を歩くことにする。所々、何故か妙に弾幕を受けた後が辺りに広がっているが、銀時はあまり気にしないことにした。

 ここは幻想郷。ここで弾幕ごっこが繰り広げられていたとしても別に何らおかしな点はない。

 

「誰かが勝手に暴れたんだろう」

 

 結論としてそれは間違っていないのだが、銀時に知る由はなかった。

 

「あー、銀さんだー」

 

 ちょうどその時、銀時は懐かしい少女の声を聞くこととなる。

 闇の中から現れてきたのは、

 

「ん? あぁ、ルーミアじゃねえか」

 

 金髪を揺らしながら嬉しそうにふよふよ浮いてきたのは、ルーミアだった。

 彼女は銀時を見つけるなり、嬉しそうに抱き着いていた。

 

「んー、銀時のにおーい。久しぶりなのだー」

「何人の匂い嗅いでんの? そんなに俺から甘い匂いすんの?」

「銀時の匂いがするぞー?」

「俺の匂いって何?」

 

 いささか悩みどころではあるものの、あまり気にしてはいけない気がして銀時はスルーすることにした。

 

「銀さんってばあんまり普段会えないから、こうして会うのは貴重なのだー」

「まぁ、確かに普段なかなか遭遇しねぇな……」

 

 ルーミアの言う通り、銀時は彼女とあまり遭遇することはない。

 彼女自身が暗い所によく現れるからというのもあるが、銀時も銀時で、幻想郷に来る時には大抵異変絡みであることが多いので、こうしてゆっくり話すこともあんまりなかったのだった。

 

「つっても、俺から見たお前って、なんかいつも腹減らしてる奴って感じなんだよなぁ」

「そーなのかー」

 

 特に気にした様子もなく、間延びしたような喋り方は相変わらず。

 先程まで輝夜に追い掛け回されていたものだから、こうして彼女と話していると少し癒されるような気持ちに銀時は陥る。別に彼はロリコンではない。これは重要事項である。

 とりあえず二人は歩きながらどうでもいい話を続けていた、のだが。

 

「……すみません、そこの貴方」

「ん? 俺か?」

 

 前から歩いてきた人物に話しかけられる。

 緑色の髪、紅白のリボンがついた帽子、青と白のシャツに紺色のスカートを履いた少女が立っていた。

 

「もしかして……最近噂の坂田銀時さん、ではありませんか?」

 

 そんな少女から、銀時の名前が出てくる。

 

「え、俺そんなに噂になってんの?」

「ここ最近の銀さんの活躍は新聞にもなってるし、私も知ってるのだー」

「なるほどな……あのマスゴミの影響か……」

 

 ポツリと呟きながら、今頃飛び回っているであろう射命丸文のことを思い出す。

 そんな彼の思考とは関係なく、

 

「二つ程、伺いたいことがあります」

 

 右手に持つ笏を構えながら、彼女は銀時に尋ねる。

 

「その前に名前を教えろ。こっちだけ知られてるってのはあまり気分がよくねぇ……」

「……確かにそれもそうですね」

 

 ごほん、と一度咳払いをし、それから彼女は自己紹介をする。

 

「私は四季映姫・ヤマザナドゥ。こう見えても閻魔を勤めております」

「え、えんま?」

 

 銀時の目が丸くなる。

 隣に居るルーミアは、どうやら名前を聞いたことがあるようで、少しだけ怯えている様子を見せている。

 別に今のところ彼女に悪い所はないので、特に裁かれるとかはないのだが。

 

「そんな閻魔様が、俺に一体何の用なんだ?」

 

 とりあえず話の先を促すことにする。

 映姫は銀時の瞳をしっかり見て、

 

「小野塚小町、という方を見かけませんでしたか?」

「こまち? 米の名前か?」

「それはあきたこまちです……小野塚小町は私の部下で……」

 

 呆れた口調でツッコミを入れた後に、彼女は小町の容姿や性格について説明する。

 しかし、当然のことながら銀時はまだ彼女に会ったことはなかった為、

 

「いや、しらねぇな」

 

 と答える他なかった。

 

「そうですか……それなら仕方ありませんね」

「もう一つって何なのだー?」

 

 今度はルーミアが尋ねる。

 映姫はこう言った。

 

「貴方はどうして、そんなにちゃらんぽらんなのですか?」

 

「「……へ??」」

 

 思わずルーミアと銀時の声が重なる。

 何故か彼女の口から告げられたのは、銀時がちゃらんぽらんであるという事実。

 

「新聞記事を読んでいる内に、私は段々腹が立ってきてしまったんです……どうしてこの方はこんなにも、女癖が悪くてちゃらんぽらんなのか、と……だから私は決心しました……なんとしても貴方を正しき道へと誘う為に、説教しようと!!」

「テメェは俺の先生か何かかよ!!」

 

 ただ単に説教しにきただけだった。

 

「大体貴方は、こうしてまた違う女の子に手を出そうとしているじゃないですか!!」

「違うからね? ルーミアとはたまたま会っただけだからね?」

「それなのにそんなに仲睦まじく抱き合っているのですか!?」

「これはルーミアが抱き着いてきただけだからな!? 俺何もしてねぇよ!?」

「ルーミアさん、離れていてください。私が直々にこの方に判決を下します」

「下されるようなことなんざ何もねぇけど!?」

 

 こうなってしまっては、映姫は止まらない。

 彼女は根が真面目過ぎるのだ。

 よって、銀時のようにちゃらんぽらんな男を見ると、思わず説教せずにはいられない。

 今起きている異変は、放っておいてもとりあえずは収まる。

 だからこそ彼女は、異変解決よりも、『小野塚小町を見つけること』と『坂田銀時を更生させること』を優先しようとしているのだ。

 そして今、先に銀時を見つけた。

 説教、開始だ。

 

「……今日も平和だなー」

 

 銀時が映姫に説教されている様子を、ルーミアは楽しそうに眺めていたのだった。

 

 今回の異変、現状割と平和そうである。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十七訓 ちゃらんぽらんな男は説教されやすい

 

 




ただの説教回でした()
花映塚の異変って、実は放っておいてもどうにかなってしまうから、オリジナルエピソード満載となるんですよねー。


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第七十八訓 同じ戦いでも温度差が激しい

 魂魄妖夢は、今回の異変に関してある程度察しがついていた。道行く草花に対して、自身の得物である白楼剣を用いて斬っていく。ただし彼女が行っているのは自然破壊ではない。草花に宿る幽霊のみを意図的に斬っているのだ。

 

「ふぅ……」

 

 半人半霊だからこそ、何処に何が宿ってしまっているのか、妖夢にはある程度予測が出来る。今回の異変に関して、彼女の得物はかなり効果的であるだろう。

 

「幽々子様が仰っていた通りでしたね……この異変、特に大きな災いを呼ぶ事はありませんが、それ故に厄介である、と」

 

 明確な敵意を持つ敵であるならば、その為の解決手段も一本筋である。要は相手の気持ちを折ってしまえば自ずと勝ちが見えてくるのだ。しかし今回に関してはあくまで幻想郷的には自然現象に過ぎない。幽霊が湧き出る周期がたまたま今回だっただけ。放っておいても時間が勝手に解決してくれるが、それを待つには些か時間がかかり過ぎる。

 よって、人為的に後押ししなければ解決が早まる事はないのだ。

 

「それに、これの終わりはいつになるのでしょうか……」

 

 何より最大の壁は、異変解決となるシグナルがわからないということ。何をもって解決とするのかが、今回に関しては不透明なのだ。

 

「とりあえず、この辺一帯は私の方で……」

 

「おいおい嬢ちゃん、随分とひどいことをするもんだなぁ。おかげで俺達の同胞がどんどん消されちまって困るってもんよぉ」

 

 男の声が聞こえた。

 これまで片方の剣しか持っていなかった妖夢が、今の声を聞いて二本目の剣に手を伸ばす。やがて彼女の前に姿を現したのは、

 

「人型の……動物?」

 

 人の形をした様々な動物であった。犬、猫、猿、鳥、熊、その他様々な動物。彼らに共通する点は、二足歩行であることと、得物として刀を持っていること。

 妖夢は知る由もない。

 何故ならこいつらはーー天人。本来この場所に居るはずのない存在なのだから。

 

「ただそこに居るだけならば俺達も何もしなかったんだがな……同胞を斬られたとあっては話は別」

 

 どうやら先ほどの声は、彼らの代表格である男から発せられたものらしい。口元に長い草を加えて番傘を被った男が、妖夢に刀の刃先を向けて高々に宣言する。

 

「ゆけぇえええええ! あの者の首を取れぇえええええええ!!」

「「「「おおおおおおおお!!」」」」

 

 掛け声と共に、天人は一気に襲いかかってきた。

 

「くっ……!」

 

 妖夢は剣を構え、そして向かい来る敵を斬り伏せる。彼女の動きにブレはない。一撃のうちに確実に斬り伏せる。

 やがて斬り続ける内に、白楼剣の効力が相手に効いていることに気付いた。

 

「幽霊……それならば……っ」

 

 楼観剣で受け止めて、白楼剣でトドメをさす。そうやって相手の数を減らしていっている、のだが。

 

「数が多過ぎる……っ」

 

 妖夢が一人で戦っているのに対して、相手は百を軽く超えている。数の暴力で攻め込まれてしまえば妖夢に勝ち目がない。

 

「けど、負けるわけには……!」

 

 迫り来る敵を、一閃。

 確かに彼女の攻撃は効いている。確実に数を減らすことは出来ている。しかしそれは微々たる変化。同時に体力も奪われているのが事実。少しずつ、妖夢の剣筋に疲れが見え始める。

 

「てりゃああああああ!」

「なっ……!」

 

 相手は二人あわせて刀を投げつけてくる。

 当然妖夢はそれを剣で弾き飛ばす。

 しかし、

 

「はぁっ!」

「しまっ……!」

 

 集団戦の旨みである、四方向からの攻め。妖夢の注意が逸れた隙に、背後から別の敵が斬りかかりにくる。

 致命傷は避けられたとしても、このままでは恐らく攻撃を甘んじて受けてしまう。

 そう予感した妖夢は、

 

「……え?」

 

 しかし、身体に走る筈だった痛みがいつまで経っても来ないことに驚きを感じていた。

 

「……気に食わぬ。かつて倒した仇敵と、こうして再び相見えることになろうとは。幻想郷という場所はここまで面妖な場所であったとはな」

 

 妖夢の背後より男の声が聞こえてくる。

 

「あ、あなたは……どうしてここに……?」

「たまたま通りかかっただけだ。しかし、こうして敵地に投げ込まれている知人を救うことが出来てなにより。友の荷を護る為に戦うのも気分が良い……だが、俺一人では捌き切れる気がせぬ。共に戦ってくれるか? 妖夢殿」

「……分かりました。共に戦いましょう。だから……」

「「背中は任せた」」

 

 男ーー桂小太郎は、妖夢と共に戦う。

 かつて自身の手で討ち倒した天人を、もう一度斬り伏せる為に。

 

 ※

 

「はぁ……ったくあの女……クソナゲェ時間説教しやがって……」

 

 結局、銀時が映姫の説教から解放されたのは一、二時間後位経ってからのことだった。その間もルーミアは飽きずに聞いていたので、解放されてからも銀時とルーミアは二人で行動していた。

 

「おつかれさまー」

「あぁ、疲れた……あめぇもん食べてぇわ。どうせあいつらとはどっかで合流出来るだろうし、甘味処でも行くか?」

「いいの!? ついていくー!」

 

 銀時の提案はルーミアにとって魅力的なものだったようだ。疲れた身体に糖分摂取ということで人里を目指そうとしたところで、

 

「「ちょっと待ったー!!」」

 

 響き渡る二人の少女の声。

 そう、今回の異変において、全く関係ないところで動き、実に馬鹿っぽい理由で動いている少女がいた。

 

「ここを通りたければ!」

「あたい達を倒してからにしろ!!」

 

 チルノとメディスン。

 二人の連合軍が銀時達の前に現れた。

 

「ま、まってよ〜!」

 

 後から追いついてきた大妖精も合わせれば、三人となった。

 

「……なにしてんのお前ら」

 

 銀時にとぅては一人知らない少女がいる状況だが、チルノと肩を並べている段階でおつむが残念なのだろうということは想像出来た。

 

「私はメディスン・メランコリー! 人形解放の為に立ち上がった!」

「あたいはさいきょーの名前をとどろかせるためだ!」

「えっと、私は二人のことが心配でついてきました!」

 

 一人だけ天使がいた。

 

「……相変わらず馬鹿やってんなぁ」

「ばかっていうなー!!」

「そこで真っ先にお前が反応する辺りやっぱ自覚ありじゃねえか!!」

「うぅ……」

 

 銀時のツッコミに反論できなくなるチルノ。

 馬鹿と言われ続けてつい反応してしまったのだろう。

「と、とにかく! 今日こそあたいはお前を倒す!」

「三対二で私たちに勝てるかな?」

「え? 私も入ってる!?」

 

 ノリノリなチルノとメディスンに対して、自分も戦うことが確定している事に驚いている大妖精。幻想郷で一番苦労している妖精は間違いなく彼女だろう。

 このまま戦闘が始まるのではないかと思われた、その時だった。

 

「ほう……なかなか面白そうなことをしているじゃないか、ギントキ」

 

 チルノ達の負けがほぼ確定した瞬間だった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十八訓 同じ戦いでも温度差が激しい




珍しく桂がシリアスしてます…!


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第七十九訓 想いは言葉にしないとなかなか伝わりにくい

「な、なんだお前達は!」

 

 チルノは思った。

 多分、絶対に敵に回してはいけない人たちがやってきてしまったと。

 

「どうしたの? 何人来ようとも、最強の貴女が一緒なら大丈夫な筈でしょ?」

「あ、あわわわわわわ……」

 

 メディスンは残念ながら新参者。

 今自分達が対峙している人物達がどのような存在なのかを理解していない。

 一方で、大妖精は痛い程理解している。

 

「失礼ながら銀時様。これは一体どのような状況で?」

 

 咲夜が銀時に尋ねる。

 銀時は頭を掻きながら、

 

「いやな? まーたこの面倒な奴が『あたいさいきょーだからぶったおす!』って言ってきたわけよ」

「ほほう? 私を前にして最強を謳うか?」

 

 ニヤリと口元を歪ませるレミリア。

 

「ギン兄様ーっ!」

 

 後からフランや美鈴もついてきたようだ。

 フランは銀時を確認すると一目散に駆け寄り、抱き着いてきた。

 つまり、銀時は金髪幼女二人に抱き着かれているという何とも美味しい状況である。

 

「……これ、チルノちゃん、逃げた方がいいよ。絶対。確実に。私達、こr……」

「さ、さいきょーのあたいに、にげの一歩は存在しない!!」

 

 引くに引けなくなったチルノは、特攻に走る。

 メディスンもまた、チルノに続いて、

 

「うぉおおおおおおおおおおお!」

 

 特攻。

 

「「……いこうか」」

 

 銀時に抱き着いていたフランと、隣に控えていたレミリアは、二人並んで前に出る。

 そして、二人して。

 

「「くらえ!!」」

 

 圧倒的物量の弾幕をぶつけ、チルノとメディスンをブッ飛ばしたのだった。

 

「ぎゃあああああああああああ!」

「なんでぇえええええええええ!」

「あああああ! 二人ともぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 遥か彼方までブッ飛ばされたチルノとメディスンを追って、大妖精も飛び去っていく。

 結果、銀時とルーミアは何もせずとも、勝手に勝利を掴んだのだった。

 ……チルノ、今回は出番そこそこ長かったのに、結局最後は呆気なく終わる悲しい存在であった。

 

「お久しぶりですね、銀時さん。と、その子は……?」

 

 美鈴は、不思議そうな表情でルーミアを見る。

 その視線に気付いたルーミアが、

 

「私はルーミア。今ちょうど銀さんと甘味処に行くところだったのだー」

「えっ……ギン兄様まさか……デート……?」

 

 真っ先に反応を示し、そしてショックを受けているのはフランだった。

 しかし、

 

「ううん、ちょっと疲れたことがあったからねー。みんなで一緒に来るー?」

 

 意外にも、デートを否定したのはルーミアだった。

 彼女はなんとなく、フランが落ち込んでいるのが分かったのかもしれない。

 

「いいのか? 私達も一緒して」

「みんなで甘いもの食べた方が美味しいと思うのだー。ね? 銀さん」

「あぁ。それもそうだな……暇なら一緒に来るか?」

 

 さり気なく銀時にも話題を振ることで、完璧な対応を取るルーミア。

 普段何も考えていないように見えて、実は凄く計算高いのではないだろうか。

 

「それじゃあご一緒させてもらおう。フラン、咲夜、美鈴。それでいいか?」

「どの道人里へ行くことになりますので、私は構いません」

「私も大丈夫です!」

「わぁ……っ! ギン兄様とお出かけ出来る!」

 

 咲夜、美鈴の二人は返事をする。

 フランは目を輝かせ、銀時の腕に抱き着いていた。

 最早定位置となっているその場所。

 

「ありがとう! ルーミア! 私はフラン! よろしくね!」

「よろしくなのだー、フラン」

 

 フランとルーミアが、互いに自己紹介をする。

 どうやら二人とも、割とすんなり打ち解けたようだ。

 

「はぁ……あんなに笑顔を振りまくフラン……天使か……天使だな。崇めなければ」

「待てやシスコン。妹を偶像崇拝するんじゃねえって」

「妹様を崇める御嬢様……あぁ……素晴らしい……っ!」

「って、こっちもトリップしてんじゃねえか!! 駄目な主従関係だなおい!!」

「あはははは……」

 

 両者揃って鼻血を出しているレミリアと咲夜。

 美鈴はただ、乾いた笑いを浮かべる他なかった。

 

 

「なる程……それで銀時を探している、と?」

「えぇ……」

 

 甘味処。

 椅子に座って団子を食べながら、幽香、紫、ミツバの三人は会話をしていた。

 話題は、『どうしてミツバは銀時を探しているのか』という点。

 

「基本的に坂田さんは、歌舞伎町からこちらまで『スキマ』を通ってきているだけですわ……異変が起きた時はともかく、普通にしている時はしばしば遊びに来る程度ですから、私にも今何処に居るのかまでは……」

「そうでしたか……」

 

 紫の言う通り、基本的には銀時の思うままにこの世界に足を運ぶ。

 即ち、紫は銀時達の動向を逐一確認しているわけではないということ。

 ただし、彼がこっちの世界に来ていることは事実なので、待っていればいずれ何処かで会えることは確かだ。

 

「それにしても、会いたい人達の架け橋になるかもしれない、ね……最初は銀時の交際相手か何かだと思って疑ってしまったわ。ごめんなさいね?」

「いえ。坂田さんには色々お世話になりましたが、私は、その……」

 

 顔を赤くし、少し顔をそむけるミツバ。

 そんな彼女の様子を見て、幽香と紫は確信した。

 

「なる程……そういうことですわね」

「なかなか可愛い所もあるじゃないの」

「なっ……」

 

 一気に顔が赤くなった。

 しかし、その後でミツバは寂しそうな表情を浮かべる。

 

「けど、あの方にお会いして……私はどうしたらいいのか分からないのです」

「……どういうこと、かしら?」

 

 紫は尋ねる。

 

「かつてあの人は、私の為に私を遠ざけました……私も、あの人に想いを伝えることのないまま、この世を去ってしまいました……だから私は、これが最後のチャンスなのかと思いました」

 

 胸に手を当てて、それからミツバは二人に言う。

 

「私は……『生きている』んですか?」

 

 その問いに、紫と幽香は答えることが出来なかった。

 彼女達の目には、『沖田ミツバは生きている』としか映っていない。

 だが、ミツバは一度、間違いなく死んでいる。

 確かに、この幻想郷には外の世界での死者が第二の人生を歩むパターンも珍しくはない。

 ミツバのその一人だと、紫は信じたかった。

 しかし、今幻想郷に起きている『異変』が、思考にブレを生じさせてしまう。

 

「分からないんです……この地に立った時、私はたぶん、神様が与えてくださったチャンスなのかもしれないと思いました。ですが、私は『死んだ』記憶もしっかり持ってます……『死んだ』のに、『生きている』……私は幽霊なのかもしれない、と……」

「……それと、貴女の迷いに、何の関係があるのですか?」

 

 答えない代わりに、紫はミツバにその先を考えさせないようにした。

 

「え……?」

「愛や恋に、生死など関係ありませんわ。相手を想い続けることに罪はありません。それに、言葉にしなければ伝わらないことだってたくさんあります……なら、伝えなければいけないのではないですか?」

「……そうね。貴女が迷う気持ちも理解出来るけど、それ以上に、ただそうやって迷ってばかりでチャンスを逃す方が、余程辛いことだと思うわ」

「あっ……」

 

 紫や幽香の言葉が、ミツバの心に沁み渡る。

 ミツバの抱いていた迷いは、彼女達によって少しずつ解されていく。

 

「……分かりました。私、もう迷いません。あの方にお会い出来たら、必ず……っ!」

 

 ミツバは決心する。

 自身の想いを、もう一度相手にきちんと伝える為に。

 たとえその結末がどうなろうとも、後悔だけは決してしないように。

 

「うーす。団子もらえますかー?」

 

 ちょうどその時、彼女の決意を後押しする様に、坂田銀時が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

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銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七十九訓 想いは言葉にしないとなかなか伝わりにくい

 

 

 



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第八十訓 ややこしいことは時々重なってしまうもの

なんと!
記念すべき八十話です!!


 魔理沙とアリスによる幻想郷探検。

 その二人についていくのは、新八・神楽の二人と、真選組四人。

 現在彼らが来ているのは、魔理沙とアリスペアのホームである魔法の森。

 

「なんだか随分と迷いそうな場所ですね」

 

 辺りを見渡しながら、山崎が言う。

 

「どうやらキノコとかもたくさん生えているようだな! これ、食べられるのか?」

 

 珍しそうなものを見る目で、森に生えているキノコや草などを眺める近藤。

 そんな彼にアリスは忠告する。

 

「そこに生えている奴を無闇に食べない方がいいわよ。何が起こるか分からないから」

「そうなんですかい? それじゃあ土方さん。いっちょパクッといっちゃってくださいよ」

「テメェ話聞いてなかったのか? なんで俺に毒味させようとすんだよ!」

「話聞いてましたよ? だから土方さんに頼んだんじゃないですかい」

「尚タチ悪いわ!!」

 

 相変わらず土方のこととなると、途端にSになる総悟である。

 

「まぁ、幻想郷を案内するなら香霖堂は外せないぜ! 面白い品物とかもたくさんあるしな!」

「たまにシャレにならないものもあるけどね……」

 

 魔理沙の言葉に合わせるように、アリスは溜め息を吐きながら言う。

 確かに、つい先日痛い目を見たばかりだ。

 

「本当、幻想郷って飽きない場所だなぁ……」

 

 近藤は呟いた。

 確かに、幻想郷もまた、歌舞伎町と負けず劣らず、様々な騒ぎがやってくる。

 そう言った意味では似通っている部分があると言っても過言ではないのかもしれない。

 

「……待って、魔理沙。何か様子が変よ」

「え?」

 

 少し歩いた所で、アリスが何かを察知したのか、新八達の足を止める。アリスの言葉を聞いて、魔理沙も辺りを見渡してみると、

 

「……なんだ? 何か人の気配がするぜ?」

「しかも結構な数だ……こりゃただもんじゃねえぞ」

 

 土方もまた、タバコを吸いながら辺りを見渡す。彼らはこう言った類のことには慣れている。つまり、慣れている事態に陥っているということは、

 

「まさか……敵ですか?」

 

 新八が尋ねる。

 

「その、まさかかもしれないでさぁ。尋常じゃねぇ殺気が放たれていやすぜ」

「馬鹿な……ここは幻想郷だぜ?」

 

 幻想郷において、殺し合いになることはそうそうない。

 弾幕ごっこというルールが成立しているのもある意味その為だ。

 だからこそ、これは……。

 

「なっ……!」

 

 森の影から飛び出してきたのは、エルフのようにとがった耳の部族。

 

「馬鹿な……コイツらは辰羅……傭兵部族が何でこんなところに……!?」

 

 驚いた様子を見せたのは近藤だった。

 彼は真選組局長を務めている程なので、その知識量も多い。もちろん他の三人もまた、目の前に現れた者達が何者なのかを把握することは出来ていた。

 新八や神楽は、名前こそ聞き覚えはないものの、目の前に居る奴らが、歌舞伎町で以前見た相手に似ていることは確認出来た。

 

「アリス……コイツら、ただ者じゃねえぜ?」

「そうね……多分、私達の世界の住人じゃなくて、銀時達の世界の住人。けど、どうしてここに……?」

 

 歌舞伎町から幻想郷に来るパターンは、現在二つしかない。万事屋銀ちゃんを通っていくか、紅魔館2ndGを通っていくか。しかし、そのどちらでもないのが確信出来る。

 何故なら、前者の場合ならば家主である銀時が気付く可能性が高いし、後者の場合は長谷川や紅魔館の住人が目を光らせるからだ。

 即ち、今目の前に居る者達は――。

 

「後からこの幻想郷にやってきた、ってことになりますね」

 

 新八は、木刀を構えながら答える。

 

「ほう……其方らのような者達がこの世界に足を運んでいようとは……これはもしや、あの時の借り、返せるやもしれぬなぁ」

 

 その時。

 森に響き渡ったのは、面妖な女性の声。

 

「新八君! 神楽ちゃん! 後ろ!!」

「「っ!?」」

 

 山崎の声を聞いて、新八と神楽はとっさに後ろを振り向く。

 そこに立っていたのは、

 

「この地でわらわは、天下を納めよう。その為の贄としてわらわに命を差し出すがよい……宇宙海賊『春雨』第四師団団長、華陀に大人しく差し出すのじゃ」

 

 かつて歌舞伎町を手にしようと企み、落ちぶれてしまった四天王が一人、華陀が、不敵な笑みを浮かべながら再び舞い降りたのだった。

 

「なっ……宇宙海賊『春雨』だと!? どうしてそんな奴らが幻想郷に!?」

 

 近藤としては、今目の前に現れた人物がとんでもないことに驚きを隠せなかった。

 何せ華陀は、幻想郷に存在する筈のない人物。

 

「……そうか。この女性だけは別なのよ。本来幻想郷は『外の世界で忘れ去られた人』が流れ着く場所でもある……周りに居る者達はともかく、この女性は、外で忘れられた存在……」

 

 アリスは、正解に辿り着いた。

 華陀は、歌舞伎町を取り巻く騒動が終結した後、獄中に閉じ込められたまま、誰からも存在を認知されずに終わっている。即ち、彼女を覚えている人物がいなくなってしまったのだ。

 故に、彼女は幻想郷に流れ着いた。

 

「そして今回、幽霊に関する何かしらの異変が噛み合って、こうしてややこしい事態に陥っているってことよ」

「……なんだかよく分からないけど、ブッ飛ばさなきゃならないことは理解したアル」

 

 神楽は相手から一ミリも視線を逸らすことなく、アリスの言葉に反応する。

 少なくとも、今この状況は望ましくないことは誰もが理解していた。

 

「ここには次郎長や邪魔をする者はおるまい……存分に狩りが出来るというわけじゃな」

「どうかな? 俺達だって馬鹿じゃない。ただ突っ立ってやられるのを待つ程木偶の坊じゃねえもんでな」

 

 刀を構え、近藤は前に出る。

 残りの真選組三人もまた、刀を構える。

 新八や神楽、魔理沙やアリスもまた、戦闘態勢を取る。

 

「存分に抵抗してくれて構わぬぞ? ただし其方らは、どのみちわらわにやられる運命じゃがな!!」

 

 そうして、華陀の号令と共に、傭兵部族達が彼らに襲い掛かってきた。

 

 こうして異変は、少しずつ拡大していく。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八十訓 ややこしいことは時々重なってしまうもの

 

 

 

 



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第八十一訓 大切な人を想い続けるのはとても難しい

「あっ……」

 

 銀時が来店して来たのを確認すると、ミツバは藁をもすがる思いで彼の元まで歩み寄る。そんな彼女を見た銀時は、

 

「なっ……てめぇは……っ!」

 

 ものすごく驚いている様子だった。無理もないだろう。銀時は、彼女が死んだ姿を直接目の当たりにした訳ではないものの、それでもやはりこの世を去ってしまったという認識に変わりなかったのだから。

 

「お久しぶりです、坂田さん」

 

 あの時と変わらぬ笑顔で、むしろあの時以上の笑みで、ミツバは銀時に挨拶を交わした。

 

「ギン兄様?」

 

 銀時に抱きついているフランから、低い声が発せられる。名前だけしか呼んでいないのに、そこには様々な感情と意味が込められているように感じ取れた。

 

「そんなんじゃねえよ。コイツは沖田ミツバ。以前ちょっとしたことで出会った奴だ……だからそんな怒るなっての」

「わぷっ」

 

 少し乱暴にフランの頭を撫でる銀時。それだけでフランの気持ちは穏やかになった。それにしても、フランは名前を呼んだだけでそれ以外には何も言ってなかったはずなのに、銀時は彼女の言いたい事が分かったかのように振舞っていた。信頼関係がかなり構築されている証拠とも言えるかもしれない。

 

「銀時、ちょうど良いところに来てくれたわね」

「幽香に紫もか? 随分とまた珍しいメンツで歩いてるもんだな……それに、どうしてここに……」

 

 銀時が聞きたいのは、どうして沖田ミツバが幻想郷にいるのか、という事だった。彼女は一度死んだ身である。しかし、どう見ても今目の前に現れて『生きている』のだ。疑問に思わない筈がない。

 

「その質問については、『分からない』と言うしかありませんわ……今の幻想郷は、ちょっとした自然現象が発生している状況なので、断定するのが難しいのですわ」

「自然現象ですか? もしかして、季節関係なしに咲き乱れる花々と何か関係がある、と?」

 

 咲夜が尋ねる。

 しかし紫は、

 

「その辺りは混みいった話になります故、今はミツバさんの話が先ですわ」

 

 その明言を、避けた。

 確かに、異変解決者でもない人物を巻き込まないようにする配慮もあるのだろう。しかし、紫の真意はそこにはない。余計な一言を発することで、ミツバが傷付いてしまうことを避けたかったのだ。

 

「何か悩みでもあるってのか?」

 

 銀時が尋ねる。

 ミツバは少しの間だけ俯く。言葉を選び、そして銀時にすべてを打ち明けた。

 

「坂田さんがこの世界に来ているということは、あの人達もこっちに来ることが出来るということですよね? それはつまり……私はもう一度、あの人に会えるんじゃないかと思いまして……それで……」

「なるほどな……」

 

 ミツバが抱えている想い。

 それらを銀時は受け止めて、そして、

 

「偶然だったな。あの馬鹿どもなら、今日たまたまこっちに来てる」

「っ!!」

 

 その事実に気付いたミツバは、溜め込んでいた涙を溢さずにはいられなかった。つまりそれは、自分の想いを今度こそきちんと伝えられるということ。彼女に与えられた、小さな奇跡が確かにあったということ。

 

「今どこにいるのかまではわからねぇ。どのみちこっちに来てるんだ。必ず会える」

「そうですか……それなら、よかったです……っ」

 

 ミツバは少し報われたような気持ちになった。

 辛いだけではない。キチンと確かに神様は見ていてくれたのだ。

 そして彼女は決意する。

 この機会を決して無駄にしないと。

 たとえ自分がどうなろうとも、絶対に想いを伝えよう、と。

 

「ありがとうございます……坂田さん……」

「俺は何もしちゃいねぇ。ただ教えただけだ。そこから先は、あんたがやらなきゃいけねぇんじゃねか」

「……はいっ」

 

 これも、一つの愛の形。

 相手をしっかり想い続け、報われる日を待ちながら、最後の瞬間は自分の手で掴み取る。

 

「……良かったわね、ミツバ」

「……はい!」

 

 幽香の言葉に、ミツバは笑顔で返す。

 先程までの悩んでいた彼女の姿は、もうない。

 凛とした大和撫子がそこにはいた。

 

「そしたら坂田さん、お礼に団子の美味しい食べ方を……」

「いや、それはいいです」

 

 思わず顔面蒼白になり、しかも間髪入れずに断りを入れる銀時。

 

「どうかしたんですか? 坂田さん」

 

 あまりの変貌っぷりに、美鈴は尋ねる。

 

「まだ団子は来ていないぞ? どうせ食べるのなら、その美味しい食べ方を習ったらどうだ?」

 

 キョトンとした表情を浮かべながら、レミリアも追撃するように言う。

 

「団子の美味しい食べ方、興味あるのだー」

 

 ルーミアまで乗っかる形となった。

 

「ほ、ほらあれだ。団子はそのまま食べる方がやっぱうめぇだろ? シンプルイズベストって言うじゃん? 甘い団子が一番だろ? な?」

「やっぱり、坂田さんには美味しい団子を食べていただきたいですから……」

 

 そう言いながら、ミツバは銀時の分の団子を手に取り、その後で懐から何かを取り出す。

 その瓶のラベルに書かれていたのは、

 

「どくろ……?」

 

 フランの呟いた通り、髑髏マーク。

 下にはご丁寧に、『DEATHソース』と書かれている。

 

「……これ、まさかデスソースなのでは?」

 

 台所を任せられている咲夜は真っ先に気付く。それが大凡団子にかけるものではないことはもちろん彼女なら分かるだろう。

 

「なんかすごそうな名前だな!」

「ネーミングセンス皆無なシスコン吸血鬼は黙ってろ!」

「誰がネーミングセンス皆無だ! シスコンは認める!」

「そこは認めるのね……」

 

 幽香は溜息をついた。

 

「って、あれ!? いつの間にか紫がいねぇ!?」

 

 気付けば紫はその場から消え去っていた。恐らくみんながデスソースに目を向けた瞬間に、スキマを通って逃げたのだろう。

 

「ギン兄様? デスソースって何?」

「私も何かよく分からないのだー。でもすごく赤いのだけはわかるぞー」

「唐辛子とかハバネロなんかよりもめちゃくちゃかれぇソースだよ!!」

 

 それを、ほぼまるごと一本分。

 団子に染み渡らせるようにかけて、そしてミツバは笑顔で一言。

 

「さぁどうぞ坂田さん。召し上がれ♪」

「くえるかぁああああああああああ!!」

 

 以前は総悟のバックアップも兼ねていたせいで食べざるを得なかったが、今回は違う。このままだと銀時は生命の危機に瀕する。本能が告げているのだ、食べてはいけないと。

 

「せっかく用意してくれたのに食べないとは失礼だぞ、ギントキ」

「言ってることはまともだけど口元にやけてんぞ。のたうち回る姿想像して楽しんでんの丸分かりだからな?」

 

 レミリアがカリスマを発揮しようとして失敗している姿がそこにはあった。

 

「食べて……くださらないのですか……?」

 

 ミツバの目に涙が溜まっていく。

 

「……銀時。女を泣かせるのは良くないわよ?」

 

 幽香からの冷たい視線攻撃。

 

「銀時様。お覚悟を……」

 

 咲夜からの同情混じりの死刑宣告。

 

「ギン兄様……」

 

 辛いものだと分かったからこそ、フランは心配そうな眼差しで銀時を見つめる。

 

「美味しそうなのだー。銀時パクッといっちゃうのだー」

 

 イマイチよくわかってないからこそ、美味しいものだろほら食べろという態度のルーミア(尚、本人に悪気は一切ない)。

 

「銀時さん……これも修行です……!」

 

 何故か応援する美鈴。

 

「だぁー! ちくしょー!」

 

 周りに助けはないと判断した銀時は、一気に団子を口の中に入れ、

 

「…………ーーーーっ!!!!!!」

 

 どうなったのかは、ご想像にお任せします。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八十一訓 大切な人を想い続けるのはとても難しい

 



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第八十二訓 幽霊の中には悪い奴もいれば良い奴もいる

一日ぶりの投稿です!


「はぁああああああああああああああ!!」

 

 土方は近づいてくる敵を、刀を以てなぎ倒していた。敵は傭兵部族ではあるものの、個人戦においては真選組の方が一枚上手。その剣術で一閃の内にひれ伏すことは造作もないことではあった。

 しかし、彼らは集団戦を得意とする辰羅。ひとたび三人以上を相手に取ろうとすると、倒すのは至難の業。

 

「ちぃっ!」

 

 近藤の力任せで大胆な太刀筋は、確かに相手を確実に斬り伏せる。

 だからこそ相手も、近藤相手には通常よりも複数人で襲い掛かっていた。

 刀の刃が腹に突き刺さろうとも、敵はその刃を握り締め、最後まで抵抗しようとする。その隙に、もう一方が相手の首を斬りおとそうとして、

 

「近藤さん!!」

 

 沖田の刃が、それを防いだ。

 

「すまねぇ、総悟!」

 

 背中を総悟に任せつつ、近藤は敵を更に斬り続ける。

 そうしている内に、彼らは気付いたことがあった。

 

「やはりコイツらは幽霊……倒したら霧になって消えていくわね……」

 

 アリスの言う通り、辰羅はやはり幽霊だった。華陀とは違い、倒したら成仏する。つまり、攻撃を当て続ければ数を減らすことは可能であるということだ。

 

「やっぱり今回の異変絡みってことになるんだぜ!! けど、それなら容赦しない! 私だって異変解決を何遍も繰り返しているから、これくらい楽勝だぜ!!」

 

 近づいてくる敵を、星の弾幕で打ち消していく魔理沙。

 アリスもまた、人形から放たれる弾幕を自在に操ることで敵を一掃していく。

 

「な、なんじゃコヤツらは……!?」

 

 華陀は、その光景を見て驚愕した。

 本来ならば、彼らは目の前で倒れ伏す筈だった。彼女が師事しているのは傭兵部族。ただの一般人が混じっている相手ならば一蹴することが出来ると考えていた。

 しかし、華陀は幻想郷を甘く見ていた。

 確かに数では圧倒している為、相手もキリがないことに対して苛立ちを覚えてはいる。だが、魔理沙やアリスのように弾幕を放つことが出来る存在がいるとなると、話は多少変わってくるのだ。

 

「新八ィイイイイイイイ!!」

 

 神楽と新八は互いの背中を守ろうと躍起になっている。

 そのサポートとして山崎が刀を振るっている。

 少しずつ、確かに数を減らしてはいる。

 

「お、押せぇえええ! 奴らをねじ伏せるのじゃああああああ!!」

 

 華陀もまた、増援を呼ぶことで相手を数で圧倒しようとする。

 敵が幽霊であることから、周囲にいる幽霊を引き寄せれば味方につけられるという発想だ。

 そしてその効果は、次第に彼らにも影響し始める。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 新八は、相手の多さに息を切らし始めていた。 

 彼に限らず、魔理沙やアリスも同様だ。

 真選組や神楽に関しても、息は切らしていないものの、動きに鈍さが見え始めている。

 

「ちぃ……こっちの数に対して、相手の数が多すぎる……っ」

「どうしたんですかい、土方さん。もう疲れちまいやしたか?」

「馬鹿野郎、そんなんじゃねえよ……テメェこそ太刀筋鈍ってやがるぜ。疲れたんならアイマスクつけて寝てていいんだぞ?」

「冗談。土方さんこそマヨネーズ吸い込んで休んでいいんですぜ? その間に背中から突き刺してやりますけど」

「テメェが狙うのかよコノヤロウ!!」

 

 やけになりながら、土方と総悟の二人は目の前の敵を斬り続ける。そうすることで己を鼓舞するように。

 相手も相手で、その空気を察したのかどんどん数で攻めてくるようになった。出来る限り、相手を分断していくように動こうとする。集団と集団ではなかなか攻めきれないと判断し、集団と個人に分離して確実に息の根を止めようとする。集団戦を得意とする辰羅ならではの戦い方。

 

「新八君!!」

 

 真っ先に標的にされたのは新八だった。

 神楽・山崎と組んでいたはずの彼だったが、気付けば一人に分断されていた。それでも彼は、かつての戦線を越えてきただけのことはある。攻撃の手を緩めることなく、果敢に攻めていた。

 

「くっ……!」

 

 それでも、単純な体力差が出てきてしまう。確実に捌き切れなくなっていた。

 

「新八ぃ!」

 

 魔理沙が慌てて駆けつけようとするも、今彼女が向かってしまえば、次に狙われるのはアリスとなる。彼女のことを信じていないわけではないが、それ以上に敵の強さも感じてしまっている。無闇に攻め続けると痛い目を見ることになるのは明らかだった。

 だが、その迷いが致命傷となることだって十分にあり得る。

 

「新八君!! 後ろだ!!」

 

 近藤の叫び声が聞こえてくる。

 その声に従うように新八は後ろを振り向いたが、その時には目の前に刃が迫ってきており、

 

「……え?」

 

 しかしその刃は、新八に届くことはなかった。

 代わりに、彼の前に、

 

「どうして……?」

 

 あり得ない、人物が現れた。

 

「どうした? 新坊。らしくないのぅ! お前の実力はまだこんなものじゃないはずじゃ。もっと本気でぶつからんと、倒しきるのは難しいぞ!」

 

 その人物は、新八の記憶の中と同じ笑顔を振りまいて、右手に己の武器であるビームサーベルを握り締めながら、

 

「じゃが、もう安心だ。加勢は多いに越したことはないだろう! たとえこの日限りの命だとしても、守る為に使えるなら問題ない!!」

「は……一兄ィイイイイイイイイイイ!!」

 

 男ーー尾美一は、曇り一つ存在しない笑みを浮かべながら、彼らの前に現れた。

 

「おんしらも、新坊が世話になっとるのぅ! 今はとりあえず互いに命を護る為に戦おうじゃないか!」

「……へっ」

 

 かつての恋敵(と勝手に思っている)近藤は、不敵な笑みを浮かべながら言葉を返す。

 奇しくも、かつて敵同士だった者が味方として共闘する展開が生まれる。

 

「なんじゃ……なんじゃ貴様は!?」

 

 一番驚いているのは、師事している張本人たる華陀。

 

「おのれ……下等生物共に二度も野望を阻止されてたまるものか……っ!!」

 

 彼女は怒る。

 思い通りにいかない展開に苛立ちを隠しきれていない。

 

「なんだかよくわからねぇけど、これならいけるかもしれないぜ!」

「……そうね」

 

 魔理沙とアリスの二人もまた、闘志が戻っている。

 尾美一の登場は、彼らにとって良い影響を与えていたようだ。

 そんな中、一と新八は隣に並び、

 

「まさか新坊と共に戦う日が来ようとはなぁ……感慨深いものがあるなぁ」

「僕だって……見ていてくださいね、一兄。僕はあの後も、もっと成長してるから」

「あぁ! 存分に見せてくれ!!」

「「うぉおおおおおおおお!!」」

 

 そしてこの戦いに決着をつける為、一同は地面を駆けた。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八十二訓 幽霊の中には悪い奴もいれば良い奴もいる

 



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第八十三訓 時には信じることも大切

「はぁ……はぁ……」

 

 息を切らせながら霊夢は人里を歩いていた。

 結局、てゐを攻撃しまくっていたことにより(てゐ本人にほとんど当たっていないが)、周囲の幽霊を成仏させまくっていたのだが、当の本人である霊夢はまったく気付いていない。

 とりあえずある程度暴れ回った為に落ち着くことは出来た。先程まで彼女の頭の中を占めていた怒りの感情は、今はなりを潜めている。

 

「まったく……どうしてこうなったのよ……」

 

 呟いた後で、霊夢は深呼吸をする。

 ここまであまり休憩をしてこなかったこともあり、彼女の身体は休息を欲していた。そんなわけで霊夢は、人里から少し離れた所にある森へ向かって足を伸ばした所で、

 

「……え?」

 

 その森の中で、桂と妖夢が戦っている場面に遭遇した。

 

「なっ……!」

 

 戦っている相手は、霊夢にとって今まで見たこともないような相手ばかり。

 二足歩行の動物達。

 加勢しに行こうとして、

 

「……すごい」

 

 二人の太刀筋に、感激すら覚えていた。

 桂と妖夢の太刀筋は、真っ直ぐで美しく、迷いがない。そして、互いに背中を任せていることもあり、死角が存在しない。斬り伏せる度に相手の姿が消えることから、その相手が幽霊であることが確認出来た。

 霊夢はそこで、自分が森の中で行ってきたことを客観的に思い出して、そして、

 

「なるほど。そういう異変だったわけね……」

 

 今回の異変がどのようなものなのかに到達した。

 

「流石は霊夢ね。すぐに辿り着くのは流石ですわ」

 

 そんな時、彼女の背後より声が聞こえてくる。

 現れたのは、不敵な笑みを浮かべている紫だった。

 

「何よ、八雲紫。随分と思わせぶりな登場じゃない」

「お褒めの言葉、光栄ですわ。今回の異変、貴女は以前の一件における羞恥心で気付いていないようでしたけど、ようやっと貴女らしくなってきたようで安心ですわ」

「……いつまでも恥ずかしがってばかりいられないって思っただけよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

 未だに顔は紅いままではあるものの、一しきり暴れたことにより、どうやら彼女の中でやっと気持ちの整理がついたようだ。

 そんな彼女は、すぐに紫に問う。

 

「今回の異変、アンタも一枚噛んでいるわよね?」

「……どうしてそう思うのかしら?」

 

 訝し気な目で霊夢を見つめながら、紫は尋ねる。

 対して霊夢は、何を言っているんだといわんばかりの表情で、

 

「あそこで二人が戦っている敵。あの敵は今まで幻想郷に居なかった存在ばかりよね。そして今回の異変は、幽霊が絡んでいる。本来の異変は、『幽霊が溢れて草花に乗り移ることによって、季節混じりの花々が咲き乱れてしまう異変』。違う?」

「……お見事ですわ。流石は博麗の巫女、と言うべきかしら?」

「感心している場合じゃないわ。今回はその『幽霊』という部分に注目しなきゃならないじゃないの。どう見てもあれ、私達の世界に存在していた幽霊じゃないわ」

 

 霊夢は核心に近い言葉を投げかける。

 

「……多分、銀時の世界に居た者達よね。あそこに居る幽霊」

「……」

 

 紫は言葉を発しない。

 彼女はとっくに気付いていたのだ。

 既に、幻想郷と歌舞伎町の境目は、なくなり始めているということに。

 

「元を辿ればアンタが銀時を幻想郷に招き入れたことが発端だった。幻想郷においてまったく未知の人物である坂田銀時がこっちに来たことで、少しずつ世界の境界が崩れ始めていた。そしてアンタは、幻想郷と歌舞伎町を繋ぐ境界を創り出し、次第に彼の知人達がこっちに足を運ぶようになった。けど、影響は確実に広がっていた」

「……そうですわね。その最たる例が、永夜異変における、謎の刀を持った人物」

 

 春雪異変において、彼女達は名前こそ知らないが、『紅桜』が西行妖に同調する出来事が発生していた。だが、本来そんなことはあり得なかったのだ。何故なら、『紅桜』も『岡田仁蔵』も、幻想郷には本来登場する筈のない存在。そんな彼らが現れてしまった理由は単純だ。

 

 ――坂田銀時が、幻想郷を訪れたから。

 

「八雲紫。このままだと幻想郷はいずれ大変なことになる。アンタもそのことに気付き始めているんじゃない?」

「……それでも私は、今の状況を崩したいとは思いませんわ」

「……それについては私も同意するわ。だって、彼が来てからの幻想郷は、間違いなく良い方向に変わり始めている……柄にもなく『楽しい』と思っているのも否定しないわ」

 

 霊夢は、決意に満ちた表情を紫に見せる。

 そのうえで、彼女は宣言した。

 

「だからこの異変、ちゃっちゃと解決しちゃいましょう? 多分放っておいても解決するとは思うけど、いつまでも幽霊がはびこるような状況を作っていては、また別の幽霊を呼び寄せかねないわよ。あの幽霊が現れているのも、幻想郷中に幽霊が蔓延っているからでしょう? なら、その幽霊たちの数を少しでも減らせば……」

「……」

「……どうしたのよ? 何か迷いでもあるの?」

 

 珍しく、幻想郷に関わる事象を解決しようとするのを、紫は躊躇っていた。

 紫は幻想郷を取り巻くすべてを愛している。だからこそ今の状況を見過ごすわけがないと霊夢は考えていた。

 しかし、紫は返答していない。

 

「……いえ、なんでもありませんわ」

 

 言葉ではそう告げる紫。

 霊夢もまた、その返答を聞いてからは追及することはなかった。

 しかし、紫は間違いなく迷っていた。

 理由は――沖田ミツバの存在だ。

 彼女は今、自身のやりたいことをやり遂げようとしている。そんな中で、今の異変が解決した場合、果たして彼女は本当にこの幻想郷に留まっていられるのだろうか。

 幻想入りをして第二の人生を歩んでいるパターンであるならば、構わない。ならば今の異変をさっさと解決したほうが、彼女の為にもなるからだ。

 そうではなく、桂や妖夢が戦っている者と同じく、幽霊としてこの世界に顕現しているだけの場合、果たして彼女はいつまでもこの場所に留まっていられるのだろうか。本人のあずかり知らぬ所で、存在が消えてしまうのではないか。

 

「……らしくありませんわね」

 

 ガラにもないことを考えている自覚は、紫にもあった。

 心配せずにはいられない状況であることも理解している。

 しかし、紫はそれらの不安を振り切った。

 

「信じる心も大切、よね」

 

 いつしか、銀時がフランに対して告げた言葉。

 それは、『不安というのは信じきれていないからこそ発生するもの』。

 彼女はミツバを信じることにした。

 そして、幻想郷の為にするべきことを、改めて認識した。

 

「いきますわよ、霊夢。この異変、なるべく早く終わらせますわ」

「……いい顔してるじゃない」

 

 彼女達はこうして、今回の異変を終わらせるべく動き回ったのであった。

 

 きっと大結界異変の終結が早まったのは、彼女達のおかげなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八十三訓 時には信じることも大切

 

 




4/29日日間ランキングで、ついに当作品が66位にランクインしておりました…!!
教えていただいた方、本当にありがとうございます……っ!!
また、応援ありがとうございます……!!
今後とも更新頑張っていきます!!
これからも何卒よろしくお願いします!!


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第八十四訓 不審者について行ってはいけません

何とか今日中に一話投稿することが出来ました……。
平成最後の投稿です!


 銀時が悶絶している間に、ミツバは少しだけ席を外していた。一人で気持ちの整理がしたいということで、外の空気を吸うついでに店の周りを散歩していた。

 彼女の願いが、少しずつ現実となりつつある。かつて手を伸ばした所で届かなかったものが、あと少しで届きそうというところまでやってきた。その事実が、ミツバの心を支えていた。

 

「……十四郎さん」

 

 彼女の想い人である土方十四郎。

 すれ違ったまま、この世を去ってしまったことに対する後悔が残っていたミツバ。その後悔が、幻想郷という場所で果たされようとしている。今度こそ、しっかりと想いを伝えることが出来る。 

 たとえその結果、結ばれなかったとしても、彼女に後悔はない。

 

「……まさか」

「え?」

 

 その時、そんなミツバに気付いて話しかけてきた男が居た。

 その男は、ミツバを――。

 

 

 射命丸文は、常に特ダネを追い求めていた。

 今回の異変に乗じて、様々な出来事を取材して回っているのだ。

 霊夢の暴走をはじめ、てゐの大脱走、チルノぶっ飛び事件、鬼の形相で探し回る輝夜等。彼女は既にいくつかの特ダネを手に入れてはいるが、それでもまだ足りないといった表情を浮かべていた。

 理由は単純で、今回の記事ネタの中に、まだ銀時がいないからだ。

 

「んー、これだけだといまいちですねぇ……」

 

 最早十分過ぎる程のネタは仕入れているだろうが、文にとってはまだ足りないようだ。

 彼女を満足させる程のネタを用意しなければ、新聞は作られないらしい。ある意味平和なことなのだが、文のやる気にいちいち関わることなので、彼女自身にとっては死活問題にも等しいものである。

 

「んー、どうにかして面白いネタを手に入れなければ!」

 

 意気込むのはよいものの、早々ネタなんて舞い込む筈がない。

 持前のスピードで彼女は幻想郷を駆け巡っていた、その時だった。

 

「え……?」

 

 人里にある甘味処のすぐ近く。

 そこで、一人の女性が男達に拉致される現場を目撃した。

 

「なっ……!」

 

 流石の文も、これには思わず動きを止めてしまった。

 白昼堂々と行われる誘拐に、文の中に宿る正義心が働く。男達目掛けて突撃しようとして、

 

「ひゃっはーっ!」

 

 目の前に、邪魔者共が集まってきた。

 

「なんですか貴方達は!?」

「アンタに恨みはねぇが、こうして暴れ回れるのならば暴れ回りてぇと思ったのよ!!」

 

 文が地面に降り立ったところで現れたのは、刀を持った男達。

 彼女は知らないが、彼らは銀時の居る世界で攘夷志士と呼ばれた者達だ。ただし、その中身は既に朽ち果てており、かつての誇りなどどこにもない。

 

「邪魔をするというのなら容赦はしません……っ!」

 

 彼女は手に扇子を持ち、男達に挑む。

 

「なんだその幼稚な道具は!」

「そんなもの一つで俺達に挑もうってのか!!」

「……旋符『紅葉扇風』」

 

 呟くように言葉を吐き捨てる文。その後で彼女は、手に持つ扇子を大きく振り上げた。

 瞬間、彼女に近づいてきていた男達は、竜巻に巻き上げられて宙を舞った。

 

「ぎゃあああああああ!」

 

 そのまま竜巻に巻き込まれて消えた者も居れば、地面に落ちた衝撃で霧散した者も居た。

 

「……幽霊、ですか」

 

 取材を重ねてきた彼女だ。

 今幻想郷に起きている異変だって、どのようなものなのか既に気付いている。

 

「それがどうしたぁああああああああああ!!」

 

 男達は、数に任せて攻めてくる。

 そんな男達を文は迎撃しようとして、

 

「産霊『ファーストピラミッド』!!」

 

 無数の弾幕が、周囲に居た男達を一人残らず消し飛ばした。

 

「大丈夫か!?」

 

 その直後に駆け寄ってきたのは、上白沢慧音だった。

 どうやら彼女は、人里の中で起きた弾幕ごっこを見つけて、慌てて駆け寄ってきたようだ。息を切らしている様子からも、必死さが窺える。

 

「慧音さん、ですか。助かりました……」

「あぁ、それは良かった。それで、今のは一体何だったんだ?」

 

 彼女は文に尋ねる。

 攻撃をした瞬間に消え去った男達。普通ならばそんなことあり得ないのだ。

 だからこそ、彼女は答えを求めた。

 そして文は、推論を語る。

 

「あれは恐らく幽霊です。幻想郷は現在、幽霊の力が強まる異変に襲われています。自然現象の一種ではあるようですが、極稀に今回みたいな現象が起こり得るそうです」

「なる程……それで周りの草花にも影響が出ていたというわけか」

 

 どうやら慧音も、異変が起きているということ自体は気付いていたようだ。

 それがどのような性質のものなのかまでは把握しきれていなかったようだが。

 

「そうなります。そして私は、とある現場を目撃して、その場所に向かおうとした途中で先程の幽霊に襲われてしまいました……」

「とある現場?」

 

 慧音はその説明を求める。

 ちょうどその時。

 

「なんださっきの騒ぎは……って、慧音にマスゴミ?」

 

 甘味処より銀時が現れる。

 その後をついてくるように、フラン達も現れた。

 

「坂田さん! ちょうどいい所に来てくださいました」

 

 文は、助っ人が現れたことを素直に喜ぶように彼の元へ駆け寄る。

 だが、銀時としては文の登場はあまり都合がよろしくないことの始まりだという意識が働いたのか、慌てて後ろへ下がろうとする。

 しかし、文の必死な表情を見ると、すぐにその動きを止めた。

 

「何があったのですか?」

 

 咲夜が尋ねる。

 文は言う。

 

「私の目の前で、一人の女性が誘拐されました。着物を着た女性です……協力してくださいませんか?」

「……銀さん、それってまさか……」

 

 ルーミアが、真面目な表情で尋ねる。

 幽香は珍しく焦ったような表情を浮かべていて、レミリアは冷静な表情で告げる。

 

「沖田ミツバが……何者かに誘拐されたようだな」

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八十四訓 不審者について行ってはいけません

 

 



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第八十五訓 笑顔

 華陀は心底恐れていた。

 数では圧倒的に有利な筈なのに、攻めきれないどころか押されている。かつて二人の侍に倒された彼女は、改めて侍という存在に脅かされることとなった。

 更に、歌舞伎町で見たことのない技を繰り出す二人組の少女も居る。このまま戦闘を繰り返した所で自分の負けが確定していることは明らかだった。

 

「「はぁあああああああああああ!!」」

 

 対する新八は、今までで一番心が躍っていた。

 かつて尊敬していた兄貴分と共に、背中を預けて剣を振るう。侍にとってこれほど幸せなことなど存在しないだろう。

 

「やるのぅ、新坊! これほどまでに強うなっとるとはのぅ!」

「伊達に毎日戦国時代送ってませんよ、一兄!」

「そうかぁ! やはりあの場所は間違っていなかったようだ!!」

 

 それぞれの剣を以て、迫りくる敵を斬り伏せる。

 彼ら二人の活躍が、周囲のやる気を鼓舞する。

 

「新八にばっかり、いい所譲るわけにはいかないネ!」

「へぇ、いっちょ前に吠えるじゃねえか。どうだい? ぶっ倒した敵の数で競い合うってのは?」

「チンピラチワワに言われる筋合いはないアル。いいネ、その戦い乗るアル!」

「面白そうなことしてるな! 私も混ぜて欲しいぜ!」

 

 ドエスコンビに魔理沙が便乗する形で、次々と敵を倒していく。

 神楽が蹴飛ばし、総悟が切り倒し、魔理沙が吹き飛ばす。

 

「まったく……少しは自重しなさいよね」

「そういうもんじゃないさ。これだけ暴れるに十分な場所だ。アンタだって、少しばかり楽しんでるんじゃねえのか?」

 

 溜め息を吐くアリスに対して、近藤が尋ねる。

 

「まさか。私は戦闘狂じゃないわ。出来ることならこんな無益な戦い、さっさと終わらせたいところよ」

「随分と弱気なこと言うじゃねえか」

 

 タバコをふかしながら、土方はアリスに言い放つ。

 その一言に対しても、アリスは冷静さを保つ。

 

「やる気がないだけよ。私としては少しでも平穏な時が続くことを望んでるのよ」

「平和を望むのは結構なことだが、そうするにゃちと骨が折れそうだぜ?」

「みたいね。仕方ないから手を貸すわ。だからここで倒れるんじゃないわよ?」

「「へいへい」」

 

 アリスの言葉に対して、土方と近藤はニヤリと口元を歪ませる。

 

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」

 

 そして、眼前に迫る敵を、一閃の内に斬り伏せる。

 アリスもまた、人形遣いとして無数の人形を操り、弾幕を放ち続ける。

 やがて、敵の数もあと少しと言うところで、

 

「……っ!?」

 

 土方は、何かを見つけてしまった。

 

「どうした? トシ」

 

 様子の変化に真っ先に気付いたのは近藤だった。

 彼は土方の表情が怒りに染まっているのを見て、思わず尋ねずにはいられなかった。

 しかし土方は、

 

「……すまねぇ、近藤さん。ここは任せた」

 

 そう言葉を捨てて、走り去ろうとする。

 

「お、おい待てトシ!」

 

 そんな彼に近藤は手を伸ばそうとするが、

 

「……わりぃ。今やらなきゃならねぇこと見つけちまったんだ。だからここは任せます、近藤さん」

 

 刀を握る手に、自然と力が宿る。

 土方は、近藤の返答を聞く前に走り去ってしまう。

 

「考えている暇はないわ。今は目の前の敵を倒すことに集中しなさい!」

 

 敵を弾幕で一掃しているアリスに言われ、近藤はすぐに目を敵に向ける。

 

「……トシ、何をしてぇのかわからねぇが、信じてるぞ」

 

 近藤は、土方の判断を信じることにした。

 

「くっ……馬鹿な……こんなことがあってはならぬ……っ!!」

 

 華陀は悔しそうに唇を噛み締める。

 しかし、とうとう自分の元に仕えていた辰羅が一人残らず始末されてしまった。

 

「どうするんですか? まだ、やりますか?」

「降参するなら今の内じゃ!」

 

 新八と一が、不敵な笑みを浮かべながら華陀に告げる。

 誰がどう見ても、負けたのはどちらなのか明白だった。

 

「……覚えておれ、下等な人間共。この借りは、必ずや返す!!」

 

 悔しそうな表情を浮かべながら、華陀はその場から立ち去っていった。

 無理に追いかける必要はないと判断した彼らは、一気にその場に座り込んだ。

 

「ふぅ……終わったネ……」

「流石にちと疲れちまったぜ。こんだけの敵を相手にするのは中々に骨が折れちまいそうだぜ」

 

 神楽と魔理沙の二人は、息を少し荒くしながら互いの健闘を褒め合っていた。

 

「……あれ、ザキと土方さんが見当たりませんね」

 

 総悟は、周囲を見渡して、土方と山崎がいないことを確認する。

 

「トシなら、何かを見つけて追いかけていった。山崎は……まさかトシについて行ったのか?」

「この戦闘の最中、優先するようなことが起きていたっていうんですかい?」

 

 幻想郷において、土方達が優先するべきことなどそう多くはない。

 だからこそ、土方の行動が分からなかったし、山崎の行動はいよいよ分からなかった。

 

「まぁ、考えていても仕方ないわ。探しに行きましょう」

 

 アリスの提案によって、真選組のメンバーと、神楽・魔理沙・アリスの三人も合わせて走り出す。

 

「一兄、僕達も……」

 

 新八は、一の手を取ろうとして、

 

「……すまん、新坊。わしゃ、ここまでのようじゃ」

「一兄、何を……っ」

 

 その時、新八は気付いてしまった。

 後ろから来る、とある一人の女性の存在を。

 

「……兄弟会話の中申し訳ねぇが、迎えに来たぞ」

 

 赤い髪をツインテールにまとめた少女――小野塚小町(むかえびと)が、彼らの前に現れた。

 

「随分早かったのぅ。けど、タイミングはばっちりじゃ! 見守ってくれとったのか?」

「あたいは空気は読める方だからな! 流石にあんな大立ち回りを邪魔するわけにもいかないだろう?」

 

 屈託のない笑顔を浮かべながら、小町は言う。

 

「あ、あの、貴方は……?」

 

 新八だけは、彼女の正体も、一が冷静でいる理由も分からなかった。

 だからまずは、

 

「あぁ、悪い悪い! 自己紹介がまだだったね! あたいは小野塚小町。三途の川へと魂を導く船頭だよ!」

「さんずの、かわ……?」

 

 自己紹介を聞いた新八は、それでも何の事だか分からないという表情を浮かべる。

 

「ま、簡単に言うと、幽霊をしっかりと然るべきところに送り届ける仕事ってことだ。そして、元々その人は、あたいが送り届けようとしていた人だったってわけ」

「じゃから、互いに互いのことを知っていたってわけじゃ」

「……っ」

 

 その時、新八は気付いてしまう。

 いや、最初から分かっていたことではあったのだが――尾美一は既に死んでしまっている。

 つまり今目の前にいる一は――。

 

「……そんな。せっかく再会出来たって言うのに……」

「はははっ! 泣くな! 新坊! 辛い時こそ笑えって言うたじゃろ!」

 

 そう優しく語り掛けてくる一の顔は、笑っていた。

 

「ほれ、新坊! 早く行かないと追いつけなくなるぞ?」

「……ありがとう、一兄」

 

 涙混じりの笑顔を浮かべながら、新八はその場を走り去る。

 そんな彼の背中を見送る二人。

 

「……よかったのかい?」

 

 小町は尋ねる。

 

「……よかったさ。新坊の元気な姿、見られたんじゃ。思い残すことなぞ、もうない」

「そっか……それじゃあさ、三途の川に行くまでの間、あたいの話し相手になってくれないかい?」

「お、いいねぇ! それじゃあ存分に語り尽くそう!」

 

 小町と一は、笑いながらその場を立ち去っていく。

 去り際に、一は新八の背中を見ながら、

 

「……新坊。お妙ちゃんによろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八十五訓 笑顔

 

 



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第八十六訓 恨みを買わないようご用心

「まさかお前もこの世界に居るとは思わなかったよ……ミツバ」

 

 森の中。

 木にミツバを縛り付け、そんな彼女の顔をジッと覗き見る男――蔵場当馬。

 生前、ミツバの婚約者だった男性。しかしその裏では、ミツバを金の生る道具としてしか見ることがなく、真選組の怒りを買ってこの世から立ち去ってしまった男。

 彼もまた、今回の異変において生まれてしまった幽霊だった。

 ミツバは当馬に対して何かを言いたい様子だったが、木に縛り付けられた上に、口を布で覆われてしまっている為、まともに話すことすら叶わない。

 

「別に今すぐお前をどうこうしようというつもりはない。だが、こうしてもう一度生を受けたのだ。お前を使ってもう一度、金儲けをしようというだけだ」

 

 性根から腐っている男。

 生を失って尚、金に固執する商売人。

 彼は恐らく、ミツバを使ってどんな商売にも手を出そうとしているのだろう。

 この幻想郷という土地で、新たにやり直そうとしているのだろう。

 ただし、そのやり直しの仕方は、とても人に褒められたものではない。

 

「大丈夫だ。私達は夫婦なのだから。何度でもやり直せるよ――お前が頑張ってくれさえすれば」

 

 売れるものならばなんだって売る。

 たとえそれが、かつて愛した(愛でた)者であったとしても。

 

「だから私と共にやり直して欲しい。そしてもう一度――私の為に……」

 

「幻想郷って土地で犯罪犯されちゃ、江戸を守る警察としちゃ動くに動けなくなっちまうな」

 

 その時。

 この場において、聞くはずのない声が聞こえてきた。

 

「なっ……」

「……っ!!」

 

 ミツバは、その目に涙を溜め込む。

 当馬は、その目を大きく見開く。

 

「真選組副長、土方十四郎。テメェの首、頂きに来た」

 

 瞳孔を見開き、かつて肩を貫いた男の目を、鋭い眼差しで射抜いていた。

 

「……驚きました。まさか鬼の副長ともあるお方が、こうしてこの地に来ていようとは」

「生憎、こちとらまだ死んでねぇよ。テメェとは来方がちげぇ」

「自ら赴くことも出来るのですね……本当、この地は愉快な場所だ。かつての妻と、かつての仇敵と、こうして相対することになるとは……」

「……テメェが、こいつの妻だと?」

 

 土方の声が、より一層低くなる。

 その声に、最早許しなどない。

 

「テメェの妻縛り付け、口塞いで、挙句の果てにこれから売り飛ばそうと企んでやがる奴が、こいつの夫だと? ふざけるのも大概にしろ」

「これは私達夫婦の問題です。部外者には口を出さないで頂きたい」

「ならこれは、俺達かつての知り合いの問題だ。部外者には口を出さないでもらおうか」

 

 両者共に、譲る気はない。

 

 これは、土方十四郎のやり直しの物語。

 これは、沖田ミツバのやり直しの物語。

 これは、二人のやり直しの物語。

 

 ここで引いてしまっては、もう二度と――。

 

「どうやらこれ以上の話し合いは無意味のようですね。それならば、私のやり方で貴方を始末させて頂きますよ、鬼の副長」

 

 パチン。

 当馬は指を鳴らす。

 すると、木陰に隠れていた男達が、その姿を現した。

 

「……かつての仲間がこうして集まったのは奇跡だと思っています。そして、かつての再現をすることが出来、そして今回は貴方を確実に殺すことが出来る。これほどまでに望んだ展開はありませんよ」

「……テメェの描いた安いシナリオなんざ興味ねぇ。だが、これだけは言える」

 

 土方は刀を構え、そして告げる。

 

「俺は――惚れた女にゃ幸せになってもらいてぇ。だがまず、その障害をぶった切らねぇと、ソイツは永遠に幸せになれねぇ」

「それは気が合いますね。愛する(どうぐ)には幸せになってもらいたいものです。まずはその障害を消さなければ、私達は永遠に幸せになれません」

「「だからテメェが先に逝け!!」」

 

 その言葉を皮切りに、潜んでいた男達は一斉に土方へ襲い掛かった。

 

「――っ!!」

 

 声なき叫び声をあげるミツバ。

 目の前で、愛する者が切り倒されるかもしれない。

 それが彼女にとって、苦痛以外の何物でもないのだ。

 

「うぉおおおおおおあああああああああああああ!!」

 

 土方は、一人で刀を振るう。

 前、後、左、右。

 ありとあらゆる方面から襲い掛かる敵を斬り倒す。

 しかし、先程辰羅との激闘を果たしてきたばかりの彼の身体には、疲労がかなり溜まってしまっていた。

 

「ぐっ……!」

 

 斬られ続ける。

 足から血が流れようとも、腕に激痛が走ろうとも、腹に穴が空こうとも、背中に傷が入ろうとも。

 それでも彼は、眼前に迫る敵を斬り伏せる為に戦い抜く。

 

「鬼の副長ともあろうお方が情けない……この程度でくたばってしまうとは。随分と腕が落ちたみたいですね」

 

 高みの見物と言わんばかりに、ミツバの横で戦いぶりを見続ける当馬。

 

「そんなんじゃ、ねえよ。これはちょうどいいハンデだ。テメェのことなんざ知らねぇが、前に出て戦おうともしねぇ奴にゃ、傷だらけでも倒せるって意思表示だ」

「強がりならばしない方が身のためですよ。既に身体がボロボロなこと位、私にだって容易に想像がつきますからね」

 

 土方の身体は震えている。

 疲れからか、痛みからか、怒りからか、苦しみからか――そのすべてからか。

 

「いつまでもそんな弱弱しくて情けない姿、ミツバに見せておくわけにもいきませんからね……トドメと」

 

「あぁ、そうだな。そんな弱弱しくて情けねぇ面、見せてんじゃねえよ、鬼の副長?」

 

 瞬間、そんな彼らの元に割って入ってきた男の声。

 同時に、一陣の風が土方と敵の間を迸り、巻き込まれた男達の身体は宙に舞った。

 その風は、ミツバを縛り上げていた縄を断ち切り、ミツバの身体を自由にした。

 

「て、テメェは……!?」

「知り合いが誘拐されたって聞いたもんでな。風に乗ってひとっ飛びしに来たぜ」

 

 木刀を握りしめながら、坂田銀時が現れた。

 ミツバの元には、いつの間にか控えていた文。彼女の持つスピードは幻想郷一と言っても過言ではない。だからこそ彼は、文と共に先にこの場所を特定し、こうして割って入ることが出来たのだ。

 

「坂田さん! こっちは無事です!! 後は――」

「あぁ、土方……テメェの用事、済ませてこい」

「……」

 

 土方は答えず、代わりにゆっくりと当馬に近づいていく。

 

「なんなんだ……何なんですかこれは!?」

 

 たった二人の乱入者によって、一気に形勢逆転してしまったこの状況。

 当馬は取り乱さずにはいられない。

 

「……アイツの幸せに、テメェの存在はいらねぇ」

「……いいのかい? 私を殺すということは、ミツバの夫を殺すということと同じ。つまり、ミツバの幸せを奪い去っていくというのと同じことに――」

「ばーか。テメェはもう死んでるだろ? 殺すんじゃね。元居た場所に還るだけだ、くそ野郎」

 

 そして土方の刃は、当馬を真っ二つに斬り裂いたのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

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第八十六訓 恨みを買わないようご用心

 

 

 




いよいよ大結界異変篇も大詰め!
もう少しで終わる、というところまで来ました!


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第八十七訓 戦いの中で見出せるものもきっとある

 妖夢と桂の二人は、ようやっと戦いから解放された。襲いかかってきていた天人の姿はもうない。

 

「素晴らしき太刀筋でした。貴方の太刀筋はとても真っ直ぐで迷いがないのですね」

「それを言うなら、お主の太刀筋は美しいではないか。だが……心の何処かに迷いがあるのか? 時々ブレていたように見えたぞ」

「……っ」

 

 桂と共に戦っている中で、妖夢は銀時に告げられた言葉を思い出していた。

 あの時の自分は間違いなく半人前だった。銀時に指摘されるまで、妖夢は何故半人前なのかを理解していなかったのだ。より正確に言えば、『理解しようとしていなかった』。しかし、銀時が間違いを指摘し、正しい道へと誘ってくれた。それはまぎれもない事実。

 だが、その先を妖夢はまだ見定められていない。時間をかければ見つかるのか、それともーー。

 

「勘違いしないでもらいたいが、別に俺は、そなたが未熟者であると指摘したいわけではない。半人前であるのは間違いないが、恐らくそなたの場合は既に何を目指すべきなのかは分かっているのだろう? ならば後は鍛錬の結果が伴うかによる。故にそこまで迷う必要はない。己の見出した道を信じろ」

「桂さん……」

 

 桂の言葉は、不思議と妖夢の心に響いていた。

 

「信ずる道にすら迷ってしまっては、定めるべき場所もなくなってしまうぞ。それでは一体何のために今まで鍛錬してきたのかわからなくなる」

「信ずる道に、迷う……」

 

 妖夢は、自分の愚かさを恥じていた。

 そして、心を入れ替えることにした。

 今までの迷いっぱなしだった自分から、なにかを見出すことが出来る自分へと……。

 

「ありがとうございます、桂さん。お陰様で、道が見出せそうです」

「そんな大層なことはしていない。俺はただ、自分の思ったことを伝えたに過ぎない」

「それでも、私にとっては大事な言葉です。貴方の言葉も、銀時さんの言葉も、不思議と心に染み渡ります……あなた方ともう少し早く出会いたかったです」

「……そうか」

 

 恐らくそれは、妖夢にとって本音だろう。

 剣士としての教えを授けてくれたのは、妖夢にとって祖父しかいない。故に、技術も、心得も、何もかも全て一人の教えのみを受け継いでいる。

 見聞を広げたいと言う意味では、より多くの剣士に出会うことこそが近道。幸か不幸か、この幻想郷において魂魄妖夢より実力の勝る剣士はいなかった。それこそが、彼女にとって致命的となる点が今の今まで放置されていた理由にも繋がる。剣以外まで幅を広げれば随分話は違ってくるのだが、剣においては断然彼女の方が上。

 そんな中で現れた、坂田銀時や桂小太郎という『侍』の存在。

 

「これからも、切磋琢磨する仲間として、貴方と剣を交えてもよろしいでしょうか?」

「……ならば今ここで、刀をもって語り合うか?」

「……名案ですね。一度貴方ともやり合いたいと思っていたところです。桂さん」

 

 口元をニヤリとさせる妖夢。

 桂は真面目な表情を浮かべつつ、刀を握りしめる。

 妖夢も、己の得物を持つ手に力が込められていた。

 

「先程まで敵を斬り伏せていた所だが、疲れはないか?」

「ウォーミングアップと思えばちょうどよいくらいです。桂さんこそ、覚悟はよろしいですか?」

「俺から持ちかけた話だ。元より出来ている」

「そうでしたね。大変失礼しました」

 

 互いに間合いを取る。

 ゆっくりと、ジリジリと

 前へ前へと歩みを進め、そしてーー。

 

「「っ!!」」

 

 動いたのはほぼ同時。

 互いに首元を狙った、本気の一閃。

 彼らが使っているのは決して模擬刀などではない。斬れば確実に命を刈り取る武器だ。

 それなのに彼らはなんの躊躇いもなく剣を振るったということは。

 

「そうでなくてはな。この一撃でやられていたとすれば、半人前おろか剣士としても認められぬ所だった」

「流石にそれは私を甘く見過ぎていませんか? 仮にも私は、剣技では幻想郷で一番の自信があるのですよ?」

「そうであったな。それは失敬!」

 

 二人の剣戟によって描かれる綺麗な軌跡。本気の仕合であるというのに、他者を魅了する程の美しさを兼ね備えている。これ程までに美しい戦いは果たして存在しただろうか。

 だが、綺麗なだけではない。

 

「くっ……!」

 

 桂と妖夢の綺麗さには、決定的な違いが存在する。

 妖夢のそれは、ただ綺麗なだけ。以前よりもマシになっているし、並大抵の相手ならば簡単に斬り伏せられるのだが、型にはまっている状態が抜けきれていないせいで先読みされてしまいがちだ。彼女の剣戟の美しさは、常に教えを再現するものにこそ存在する。

 対する桂は、その身を以て幾度となく修羅場を潜り抜けているため、綺麗さの中に獰猛さも潜んでいた。侍としての戦い方の基本を抑えながら、戦闘であるという事を踏まえた上での、所謂『命を守る為』の剣技。

 優劣をつけるわけではなく、二人の性質が決定的に違う事を意味しているもの。

 

「妖夢殿は師の教えを大切にしているのだな。技の綺麗さからそれが伺える」

 

 妖夢の剣戟を捌きつつ、桂は自身の刃を振り下ろす。

 

「桂さんの剣戟はとても美しいのに、それだけではない何かを感じます……型を守るのに、型を破っているような……」

 

 受け止め、刀を弾き飛ばす。

 そのまま追撃の為の、一閃。

 

「型を守るだけでは、命のやり取りに負けてしまう。俺達は競技のための剣を振るっているわけではない。故に時にはどんな手を使ってでも、相手を打ち負かさなければならない」

「どんな手を使って、でも……」

 

 妖夢が思い出したのは、銀時と刃を交えた時のこと。あの時の銀時は、決まった型など全くなく、その場に応じて戦い方を選んでいるような動き方をしていた。

 故に妖夢にとっては『面妖な動き』に見えた。

 

「そう。妖夢殿の剣に欠けているのは、覚悟や誇りなどではない。むしろその点においては、銀時や俺以上に持っているだろう」

「なら、何が足りないというのです!」

 

 力任せに振るわれた一撃。

 だが、桂はいとも容易くそれを避け、

 

「経験と、命に対する認識だ。この世界では、あくまで弾幕ごっこが主流となっている以上、命が奪われるということは滅多に起きない。故に、自身の命も、相手の命も、どうしても天秤から外れてしまう。結果はどうあれ、勝敗しかないからだ」

 

 一部の例外を除き、弾幕ごっこによる死者はほとんど存在しない。というより、そうなる為のルールとして敷かれたものだ。その前提の元戦っている以上、どうしても身を守ることの優先度が低くなってしまう。

 銀時と桂にあって、妖夢にないものは、まさしくその一点だろう。

 

「……なんとなく、今の私に欠けているものがなんなのか分かった気がします」

 

 剣を鞘に収め、頭を下げる妖夢。

 桂もまた、自身の刀を鞘に収めた。

 

「もう良いのか?」

「えぇ……これではっきりしましたから。私が今後、どうするべきなのか」

「……そうか」

 

 刀を交えることにより、妖夢は見つけることが出来た。

 己の目指すべき剣の道が一体どこにあるのかを。

 信じてきた道に覆われていた霧は、この時はっきりと霧散したと言っても良いだろう。

 

 坂田銀時と桂小太郎。

 二人の侍の存在が、魂魄妖夢という少女の道を切り開く。

 

 

 

 

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第八十七訓 戦いの中で見出せるものもきっとある




今回は、戦いの後の妖夢と桂の様子でした!
さて、そろそろミツバと土方の結末を描かないとですね……。


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第八十八訓 すれ違い過ぎる想いは大切な人を想うが故に起きることなのかもしれない

 事態がある程度収まってから一日が経過した。

 

「……」

 

 博麗神社より外の景色を眺めながら、自分のタバコを吸っている一人の男の姿があった。

 男が思い浮かべているのは、一人の女性。

 

「ミツバ……」

 

 本来会えるはずのなかった女性が、幻想郷という土地に居た。その事実だけで、彼の心が踊ったのは事実だった。しかし、土方はやはり心の何処かで素直になれない自分がいることにも気付いていた。

 

 ――惚れた女には幸せになって欲しい。

 

 確かにそう口にした。それは紛れも無い本心であり、あの時から抱いている気持ちである。

 だが、その幸せの中に、『土方十四郎』の存在は入っていない。土方自身はどうしても、自分がいることでミツバが幸せになることはないと考えてしまう。自分はあくまで戦いに身を投じている存在だ。故にこのまま一緒にいては、ミツバの幸せにつながることはない。いずれ崩壊する。

 何より、彼女の気持ちが今でも向いていることなど考えもしていない。

 

「考え事でもしているの?」

 

 その時、彼の隣に立つ一人の女性の姿があった。

 

「なんだ? 人形遣い。博麗の巫女ならばぐうたら眠ってやがるぜ?」

 

 やって来たのはアリスだった。

 彼女は土方の隣に立つと、不機嫌そうな表情を隠すことなく土方を見つめる。

 土方はそんな彼女の行動に対して、何を考えているのか分からないと言った反応を示していた。

 

「別に霊夢に用事があって来たわけじゃ無いわ。暇だから通りかかっただけ。そしたら貴方がそうやってウダウダしてるようだったから、気になって話しかけたってわけよ」

「……別にウダウダしてるわけじゃねえよ」

「してるじゃない。見ていてこっちがイライラしてくるのよ」

 

 アリスは、一つ大きなため息をついた後で、土方に対してこう告げた。

 

「貴方もしかして、自分がいない方が幸せになれるとか考えているんじゃないでしょうね?」

「……」

 

 土方は何も答えない。

 彼の答えは初めから決まっている。そのことに関して、他者の考えを寄せ付けない自信すらある。

 それでもアリスは、土方に言い続ける。

 

「それは単なる傲慢よ。確かに危険な目に晒すようなことはしない方がいいに決まっている。それが大切な人であるならば尚の事。けどね」

 

 アリスはそこで言葉を区切る。

 その後で、こう続けた。

 

「人は一人で生きていける程強くないのよ。誰かの助けを借りていかないと、満足に一日を過ごすことだって難しい生き物なのよ。まして今貴方が拒絶しようとしている女性は、貴方が考えている以上に弱い人よ」

「んなことねぇよ。俺はただ、アイツには幸せになって欲しいだけだ。その中に俺がいなかっただけの話だ。アイツに必要なのは、俺のように茨の中で戦いに身を投じるような奴じゃなくて……」

 

 

 瞬間。

 パァン! という乾いた音が辺り一面に響き渡った。

 同時に襲い掛かる、右頬の痛み。

 アリスが、土方の頬を叩いたのだ。

 

「てめぇ、なにしやが……」

「自惚れるのも大概になさい。何が『俺がいない』よ? 何が『自分は必要じゃない』よ? そこに確かに必要になってくるのは貴方に違いないのよ? 貴方、きちんとあの人と話し合ったことある? 本当にその時、貴方のことは必要じゃないなんて言われたの?」

 

 最早それは、問答にすらなっていない一方的な言葉だった。

 

「うるせぇ!! テメェなんぞに言われる筋合いなんざねぇ!!」

 

 激昂する。

 土方の心は揺さぶられていた。

 アリスの言葉に対して思うところがないわけではない。

 だからこそ、彼は揺らいでしまう。

 

「……私が言いたいことは言ったわよ。後は貴方がどうにかしなさい」

「……言われなくてもそのつもりだ」

 

 土方はその場から去って行く。

 その背中を送るアリスの隣に、

 

「お疲れさん、アリス」

 

 魔理沙が並び立った。

 

「……別に。ただ私が動きたいって思ったから動いただけよ。あのままだと、ミツバさんが幸せになれそうになかったから」

「……二人とも、幸せになってくれると嬉しいぜ」

 

 魔理沙とアリスは、二人の幸せを願っていた。

 

 

「姉上!」

 

 同時刻。

 人里にある甘味処で、仲良さ気に話している姉弟が居た。

 総悟とミツバ。病室での別れから実に相当の時間が経った再会である。

 本来会える筈のなかった二人だけに、その喜びは相当強いものであった。

 

「総ちゃん……元気そうでよかったわ」

「姉上こそ……僕、また姉上に会えて嬉しい……っ」

 

 普段はドエス精神を物凄い出している総悟だが、姉であるミツバの前ではそんな様子をほとんど出さない。

 通常状態の総悟を知る者がこの場にいた場合、あまりにも猫を被りすぎている様子に対して驚きを隠せないどころか、一周回って笑い出すのではないかと思われる状況だが、本人はあまり気にしていない。

 

「皆さんも元気そうで安心したわ……もう一度、幻想郷で生きていけるなんて、夢みたい……」

 

 結局、異変が解決に近づいている今でもなお、ミツバが幽霊として消えることはなかった。

 小町の迎えも来なければ、成仏することもない。

 正真正銘、幻想入りによる第二の人生を歩むことが出来たのだ。

 

「総ちゃん……私、あの人にもう一度、私の想いを伝えようと思うの」

「えっ……?」

 

 総悟は目を丸くする。

 それだけ、ミツバが言った言葉が信じられないと言った様子だった。

 だが同時に、総悟はミツバの気持ちを理解してもいた。

 せっかく受けた第二の生。病気とかそう言った物を心配する必要がなくなった。

 姉の幸せを願いたいと思うのは、弟の性であった。

 しかし、それでも――。

 

「姉上、ソイツは考え直してもらえないですか?」

 

 声が震える。

 彼はこれから、自身の思いの丈をぶつけようとしている。

 

「姉上の幸せは、僕の幸せです……けど、そこにアイツはいるんですか……? 一度姉の気持ちを振り払った男ですよ!?」

「……総ちゃん。あの人の優しさはね、とても不器用で、そしてとても温かいものなのよ」

 

 ミツバは目を閉じて、胸に手を当てて、笑顔で告げる。

 

「自惚れかもしれないけれど、あの人はきっと、私のことを想ってくださったんです……だからあの人は、再会した時には何も言ってくださいませんでした……本当ならば私は、今にも飛び込みたいという気持ちでいっぱいでしたのに、あの人はそれでも、私の幸せを考えてくださったんだと思います……そしてあの人は、私の幸せの為に、自分のことを犠牲にしようとしている……」

「……っ」

 

 総悟だって子供ではない。

 土方の気持ちも、ミツバの気持ちも、理解出来ないわけではない。

 故に、今の両片思いの姿が、たまらなくいじらしかったのだ。

 その中には、姉にここまで愛されている土方に対する嫉妬が混じっていないことはないだろう。

 それでも総悟は。

 

「……だから総ちゃん。止めないで。今度こそ私、間違えないから……幸せに、なるからね」

「っ!?」

 

 その時、総悟は決定的に理解した。

 彼女は、総悟の気持ちをも汲んでいたのだ。

 

 ――姉の幸せを願うのも、弟。

 

 人並みの幸せを願った弟の気持ち。しかし生前にその願いを叶えることが出来なかったミツバ。

 今度こそ、彼女は自分の幸せを求めようとしているのだ。それも、自分にとって何が幸せなのかを理解した上での、心からの決意。

 故に総悟は、これ以上かけられる言葉がなかった。

 

「総ちゃん……私、行ってくるね」

「あっ……」

 

 彼女は自分の気持ちを伝える為に、想い人が居る所へと歩み出す。

 総悟はそんな姉の後ろ姿を、

 

「……姉上。どうか、幸せに……そして、土方。姉上を泣かせたら、ただじゃ済ませないですぜ」

 

 その声は、何処か優し気なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

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第八十八訓 すれ違い過ぎる想いは大切な人を想うが故に起きることなのかもしれない

 

 




次回、とうとうミツバと土方の決着がつく――!!


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第八十九訓 伝えるべき気持ち

 土方の目の前に広がるのは、大きな向日葵畑だった。

 アリスから言葉を投げつけられた後、土方は気持ちを整理しきる事が出来ずに走り続けた。目的地もなくただがむしゃらに走ってたどり着いた先が、この向日葵畑だったのだ。

 

「ちっ……」

 

 ふと、彼は懐からある物を取り出す。

 ガサッという音を立てて出て来たそれは、激辛せんべいだった。

 かつて真選組に送られて来ていた仕送りの一つ。今や送られることのなくなった一品。彼らをつなぐ思い出の一つ。

 最後の一袋となったそれを、土方は持ち続けていたのだ。

 それを土方は取り出して、ひと齧りした。

 

「辛ぇな……ちくしょう……」

 

 涙が出るほど、辛いものだった。

 

「……っ」

 

 服の袖で、目を擦る。そして流れてきた涙を拭った。

 彼は一人になれるのならばどこだって良かったのだ。気持ちの整理をつけるためには、外の空気を吸いながら一通り気分を落ち着ける必要があったからだ。

 そう言った意味で取り出したのは、あの激辛せんべいだった。

 

「……はぁ」

 

 一つたしかに言える事があるとすれば、土方は決して鈍感な人物ではない。故に、彼に向けられた好意についても十分把握している。

 ただしそれに対して土方は、自分が幸せにすることは出来ないという判断を下していた。

 彼だって、今回ミツバと再会出来たことが嬉しくない筈がない。むしろ彼はミツバに惚れているのだ。本来ならば今すぐにでも抱きしめたいところだろう。

 だが、今の彼らは住む場所が違う。

 土方は土方で、戦いに身を投じる者だ。それが分かってあるからこそ、いつか自分がミツバを傷つけてしまうかもしれないと考え、敢えて不干渉という道を選ぼうとしている。

 それが辛くない訳がない。

 

「何が鬼の副長だ……俺も随分とヤキが回っちまったもんだな」

 

 ポツリとこぼされた一言は、誰の耳に届くのでもなく、そのまま空中に消え去った。

 

「やっと……やっと見つけました」

 

 その時、土方の耳に届いたのは、最も聞きたくて、そして最も聞きたくなかった女性の声だった。

 その人物は、ここまで走ってきて息を切らしているのか、肩で呼吸をしているような状態だった。

 

「……っ!」

 

 もちろん、気付かない筈がない。

 しかし、振り向くことは出来ない。

 今振り向いてしまったら、土方の決心がブレてしまうから。

 声をかけることもしない。

 そうすることで、彼は『不干渉』を貫こうとしている。

 

「ここからは私の独り言です。聞いてくださっても構いませんし、反応しなくても構いません。勝手に言わせてもらいますね」

 

 ミツバはそれが分かっていたからこそ、前置きをする。

 こうすることにより、土方はどんな反応をしたとしても恨まれることはなくなる。彼女なりの優しさであった。

 

「この幻想郷に来た時、私はすごく嬉しく思いました。私を蝕んでいた病気に襲われることもなく、もしかしたら貴方に会えるんじゃないかと思って……だけど、もし私が幽霊だとしたら……貴方に触れられないとしたら……貴方に拒絶されたとしたら……そう思うだけで、胸がとても痛くなりました」

 

 自分の存在に対して自信がない瞬間があった。幽霊として消えてしまう命ならば、いっそ……。

 

「けど、そうじゃなかったんだとわかって……そして、後悔する道を選びたくないと思って……だから私は今日、どうしても伝えたいことがあります。これだけはなんとしても、伝えなきゃと思って……もう、間違えたくないから……後悔したくないから……」

 

 自分自身に問いかけるように告げる。

 彼女が抱いてきた迷いや想いを、言葉に乗せて伝える。

 

「私は、土方十四郎さんのことを愛しています。共に道を歩みたいと……私の人生、貴方と共に過ごしたいと思っています」

「……っ」

 

 土方の身体が揺れる。

 そして、しばらくしてから発せられた台詞は、

 

「……悪りぃな。俺はその気持ちに」

「ですから十四郎さん。貴方の気持ちを聞かせてください。優しさなんかではなく、嘘でもなく、貴方の本当の気持ちを」

「っ!?」

 

 土方の言葉は、ミツバに読まれていた。

 彼女は惚れている土方のことを長い間見ている。だからこそ、彼が一体どんなことをするのかを、だいたい理解しているのだ。

 それが、土方の優しさからくる言葉だということも。彼の優しさは、ミツバにとって苦しみであることも。

 

「私はどうしても知りたいのです。貴方の本当の気持ちを……それがたとえ、どんなものでも構いません。ですがどうか……私のために、貴方の気持ちを押し殺すようなことはやめてください……」

「っ!!」

 

 涙交じりのその言葉に、土方は初めてミツバの方を――振り向いてしまった。

 あまりにもその声が悲しそうだったから。

 あまりにもその声が辛そうだったから。

 

「……振り向いて下さらなくても大丈夫でしたのに。答えようとしなくてよかったのに……先ほどの段階で、もう私の独り言ではなくなってしまいましたよ?」

「いいんだよ。これは俺の独り言だ。聞くも聞かねぇもテメェの勝手だ」

 

 ミツバがやった時と同じように言葉を返し、そして土方は、自身の気持ちを打ち明ける。

 

「俺は……惚れた女にゃ幸せになって欲しい。だが、俺がいたままだと……戦いに身を投じてる俺なんかと一緒にいると……テメェは幸せになれねぇ。だから俺は……」

「それなら解決ですね。だって私は、幻想郷にいるんですよ? 貴方が戦っている間、貴方の帰りをここで待つことが出来ます。ですから……その心配はなくなりましたね」

「っ」

 

 笑顔で、ミツバはそう告げる。

 

「それに、貴方は私に……惚れていると言ってくださいました……その言葉だけで十分です……貴方が私のことを、愛してくださるだけで……貴方が無事に、帰ってきてくれるだけで……たまに一緒にいてくださって、こうして話をして……そして……」

 

 ゆっくりと、ミツバは土方に近づいて行く。

 そして、やがて――。

 

「こうして、ただ抱き止めてくださるだけで、私は幸せなんですよ?」

 

 土方の胸に飛び込んだ。

 土方は、両手をミツバの後ろに差し伸ばし、そのまま抱きしめることが出来ずにいた。

 

「貴方は私に幸せになって欲しいと言ってくださいました……だから……これが私の幸せです。貴方が無事に私の元に帰って来てくだされば……こうして抱き締めてくだされば……貴方の温もりを感じる事が出来れば……それで幸せです……ですから、貴方と共に、人生を歩ませてください」

「…………」

 

 土方は言葉で伝えない。

 代わりに、不器用ながら、彼女の体を力強く抱き締める。

 

「……悪りぃ。もう、手放したりしねぇから……辛ぇ思いさせちまうかもしれねぇけど……俺の帰りを、迎えてくれねぇか?」

「……はい。貴方の帰りを待ってます。待つのは得意ですから」

「なるべく早く帰るからよ……何度も顔出すからよ……だから……」

 

 土方は、ミツバに告げた。

 

「俺と一緒に、人生を歩んで欲しい」

 

 この日。

 幽霊達が幻想郷に流入する異変が解決した翌日。

 一つの小さな奇跡の物語が、進み始めた。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第八十九訓 伝えるべき気持ち

 




これにて、今回の異変は終了となります!
結局、最後は土方とミツバの話の幕が降りる形で終わりました。
この二人はいつまでも幸せになって欲しいものです……。
次回からはポロリ篇です。
久しぶりに、我らが主人公が登場しますよー。


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ポロリ篇その肆
第九十訓 突然思い出すことが意外にも大事なことだったりすることもある


今回からポロリ篇その肆が始まります!!


 異変解決後。

 万事屋内で行われるいつものBGオンリーより。

 今回は銀時・新八・神楽の三人でお送りします。

 

「なぁ、新八・神楽」

「どうかしましたか?」

「どうしたアルか?」

「俺達、前回の異変の時……正直出番少なくなかったか?」

「言われてみればそうですね……後半の方なんて、色んな人の所にシーンが変わったせいで、一人あたりの時間なんて本当に少なかった気がしますよ」

「それに最後なんてマヨラーの恋バナで終わったネ」

「あのニコチン中毒の話で終わるたぁな……宴会丸々カットしやがるし、今回作者の野郎何考えてやがるんだ」

「ぶっちゃけ今回の異変って、誰が悪いとかないですからね」

「敢えて言うとすれば、サボってた船頭のせいで被害が拡大したこと位ネ」

「俺達会ってねぇけどな?」

「ところで銀さん、神楽ちゃん。もう気付いているかもしれませんけど、今回で九十話ですよ?」

「本当ネ! はじめの内は亀更新とか抜かしてたくせに、蓋を開ければこんなに続いてるネ!」

「よくもまぁ本当飽きずに書き続けられるこったぁ。百話なんてあっという間じゃねえか」

「それに、ついにデイリーランキングにも載ったらしいですよ!」

「一回だけアル。それに六十六位なんて大した順位じゃないネ。そん位で調子乗るなヨ」

 

 調子乗ってません。

 

「なんか聞こえた気がしたけど、まぁいいか」

「まぁいいかで収めちゃ駄目だろ!! 明らかに今作者の声が地の文に載ってたじゃねえか!」

「ギャーギャーギャーギャーやかましいアル。発情期ですかコノヤロー」

「それ銀さんの台詞ね? 勝手に人の台詞取るな?」

「ところで銀さん。そういえば土方さん最近よく向こうに行ってるみたいですね」

「仕事が終わって暇が出来ると、律儀に向こうで出来た彼女に会いに行ってるみたいアル。これだからリア充は……ケッ!!」

 

 盛大に舌打ちをしつつ、嫌そうな表情を浮かべる神楽。

 異変が終了し、土方とミツバの二人が互いの想いを伝えあって以降、幻想郷では美男美女カップルとして有名になりつつある二人。

 とはいえ、土方も真選組に所属している為、そうそう暇な日など訪れない。

 だが、暇な時が出来ればすかさず万事屋にいき、そこから幻想郷へ赴いてミツバに会いに行く日々が続いていた。ちなみにその時には大抵総悟もついてくる。

 

「まぁ出来立てほやほやのカップルだからなぁ。いちゃつきたくもなるんだろう。いずれ別れる」

「何縁起でもねぇこと抜かしてるんですか!! 流石に二人に失礼だろ!!」

 

 鼻をほじりながらの銀時の台詞に、新八は思わず叫んでいた。

 本日も万事屋はぐうたらスタート全開フルスロットルである。

 と、その時だった。

 

「ギン兄様ーっ!!」

 

 襖が開けられたと思いきや、そこからフランが飛び出してきた。

 そのまま銀時の元まで走り寄り、鳩尾ダイナミックエントリー。

 

「ぐぅばらてぃ!!」

 

 最早言語になっていない気もするが、飛び疲れた銀時の口元からは魂が抜けそうになった気がした。

 

「フランちゃん!」

 

 新八はやってきたフランに対して挨拶をする。

 神楽は相変わらず鼻をほじほじしていた。

 

「ギン兄様の所に遊びに来たよ!」

 

 フランは嬉しそうに頬を摺り寄せている。

 銀時の魂が口から体内へ戻った所で、

 

「相変わらずだなテメェは……」

 

 とぼやきながら、優しく頭を撫でるのだった。

 

「えへへ……ギン兄様……っ」

 

 嬉しそうに身を委ねるフラン。

 ここまでは割といつもの光景と言っても過言ではなくなっているのだから、最近の彼らは凄い。

 

「まったく……フランってば相変わらず銀時のこととなると足速いんだから」

 

 そんな時、悪態をつきながら入ってきたのは、意外にも霊夢だった。

 

「よぅ銀さん、新八、神楽! 遊びに来たぜ!」

「こんにちわ。今日のところは付き添いよ」

 

 続く形で、魔理沙とアリスの二人も入ってくる。

 最近この二人はこうしてセットで来ることが多くなっていた。

 

「どうしたネ。そんなに暇だったアルか?」

「まぁ、否定出来ないわね……前の異変から今は凄く平和になったし。やることなくて正直暇なのよ」

「それで銀さんの所へ来たってわけだぜ!」

 

 霊夢と魔理沙が、ここに来た目的を話す。

 確かに、異変が終わってからというものの、しばらく彼女達はやることがなかった。平和なのは良いことなのだが、暇なのはそれはそれでまた違う話となる。

 要するに、何か楽しいことを求めているというわけだ。

 フランだけは別のようで、銀時に会いたかったというところだ。彼女らしい理由である。

 

「んで? フランは来てるってのに、シスコン吸血鬼と鼻血メイドは来てねぇのか?」

「あの二人なら既に紅魔館2ndGにいるわよ。フランだけはアンタに会いたかったから、私達と一緒に来たってわけ」

 

 アリスが溜め息を吐きながら説明する。

 以前、紅魔館2ndGへ繋がるスキマが、紫の手によって作られていた。それでレミリア達は先に歌舞伎町に来ているということなのだろう。

 

「それで、今日は歌舞伎町を案内して欲しいなって思ってるんだぜ! 私達、レミリアの所と銀さんの所へはしょっちゅう来てるけど、他の所には全然行ってないなって思ってな!」

「ギン兄様に案内して欲しいなーって!」

 

 ぎゅーっと抱きつきながら、フランが言う。

 

「つってもなぁ……歌舞伎町で案内する所か……あ」

 

 ここで、銀時はあることを思い出す。

 

「そういや、まだあのババアの所、案内してなかったな」

 

 そう。

 この建物は二階建て。

 普段彼女達は、万事屋銀ちゃんの所に来るものの、下の階にあるスナックお登勢には一度も足を踏み入れたことはない。

 なので、案内するにはちょうどいい場所なのかもしれないと銀時は考えたのだ。

 

「あぁ、そういえばそうでしたね。お登勢さんに紹介するのもいいんじゃないですか?」

 

 新八も、その提案に賛成のようだ。

 

「おとせ? 誰よそれ?」

 

 霊夢は銀時に尋ねる。

 銀時は頭を掻きながらも、

 

「一階でスナック経営してるうるせぇババアだ。まぁ、挨拶位しておいて損はねぇだろ」

 

 というわけで、本日はお登勢の所へ行くことが決定したのだった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十訓 突然思い出すことが意外にも大事なことだったりすることもある

 

 

 

 

 



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第九十一訓 お金の問題は非常にシビア

 というわけで、階段を降りて下の階にあるスナックお登勢までやってきた銀時達。時間帯でいうと今は昼間なので、店自体は開店していない。ただ、準備の為にお登勢達は既に来ているのだ。

 

「なんだい? 珍しいじゃないかい……そこの子達は?」

 

 グラスを洗いながら迎え入れたのは、ここのオーナーを勤めるお登勢。

 

「滞納シタ家賃払イニキタノカト思ッタラ、女紹介スルタメニキタノカ?」

 

 悪態をつく猫耳娘(ただし萌えない)はキャサリン。ここで働く従業員である。

 

「お久しぶりですね、フラン様」

 

 そして床掃除をしながら挨拶をしたのが、前回既にフランと会っている、たまである。

 

「あっ! たまお姉様!」

 

 フランは、たまを見つけるや否や、嬉しそうに抱き着く。前にたまがカラクリであることを聞いているので、それで気に入っているのだ。

 

「それで? あんた達は一体?」

 

 お登勢からの言葉により、霊夢達は軽く自己紹介をする。お登勢達も一通り自己紹介をして、互いに顔と名前を認識することとなった。

 

「なるほど。そんな不思議な場所もあるもんだねぇ……」

 

 幻想郷という場所について聞いた時のお登勢の反応は、感心といったような物だった。

 行ったことのない人物からしてみれば、幻想郷という場所は十分過ぎるほどに不思議な場所だった。

 

「ここはどんな場所なの?」

 

 辺りを見渡しながら霊夢が尋ねる。

 

「ココハスナック。酒ヲ飲ム場所ダ」

「ほぇー、居酒屋みたいなものかぁ。なかなか風情があってよさそうだぜ。通いたくなっちまうぜ」

「少人数で飲み会するのならば丁度良さそうね……それに、隣同士の間隔が狭いから、新しく出逢う人達との距離も近くなりそう」

 

 魔理沙やアリスからの評価は高かった。

 

 幻想郷にも、居酒屋のようなものが決してないわけではない。ただ単に酒を飲む機会があるときは、大規模な宴会が開かれることがほとんどであるだけで、仲の良いもの同士で飲むことはあるだろう。

 ただし、スナックのような場所が珍しいというのも事実だった。

 

「来たきゃいつでも来な。つまみの一つくらいならサービスしてやるよ」

「マジか!? ありがたいぜ!」

 

 お登勢からのまさかのサービスに、魔理沙は嬉しそうに答える。

 

「けど、いいのかしら……?」

 

 霊夢は少し戸惑っている様子だ。

 

「お登勢様がそう仰るのですから、ご安心頂いてよろしいかと」

 

 たまがフランを撫でながら言う。

 

「やったネ! つまみサービスだってヨ!」

「あんたらじゃねえよ!! あんたらはサービスどころかむしろツケ溜まってんだよ!! いい加減家賃と一緒に払いな!!」

 

 最早毎度お馴染みとなる家賃戦争。

 お登勢は青筋立てまくっている。それだけ彼らがお金を払わないのが見て取れる。

 

「いいじゃねえかよ……家賃の三ヶ月くれぇ」

「こちとら散々待たされてんだよ!! さっさと仕事探して金の一つも用意して来いや!!」

「そう簡単に金用意出来るわきゃねぇだろ!!」

「開き直るんじゃねえよ天然パーマ!!」

 

 気づけばいつも通り、銀時とお登勢の言い合いに突入。

 

「……銀さん、そんなに家賃払ってねぇのか?」

「コンナノ日常茶飯事ダヨ。お登勢サンガ言ッテモ聞カナイ」

「…………金回りまでちゃらんぽらんなのね」

 

 魔理沙の疑問に対して、キャサリンは呆れながら答える。

 アリスは銀時のちゃらんぽらんっぷりに溜息をついた。

 

「ギン兄様、お金に困ってるの……?」

 

 いつの間にやらたまから離れたフランが、銀時の側に近づいた後で、心配そうな表情を浮かべながら尋ねる。

 

「い、いや、その、な……?」

 

 まさか素直に答えるわけにもいかず、銀時は答えに困っていた。

 これがもし他の人ならば、銀時だって正直に答えるどころか、金を要求することさえ辞さなかっただろう。

 だが相手はフランなのだ。素直すぎる彼女は、本気にしかねない。

 

「もし困ってるなら、フラン、お姉様に相談してみるよ……?」

「「「……」」」

 

 幻想郷陣からの冷たい眼差し攻撃。

 

「銀ちゃん、幼気な女の子にこんなこと言わせるなんて最低ネ……」

「銀さん、そろそろそのちゃらんぽらんっぷりを改善してください」

「だからってテメェらがそんな目で見るこたぁねぇだろ!? 別に俺はヒモになろうってわけじゃねぇからな!?」

 

 フランの純粋無垢な提案も、他の人が銀時を冷たい目線で見るきっかけにしかならなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

第九十一訓 お金の問題は非常にシビア

 

 




短めですが、キリがいいので投稿しましたー。
とりあえず暫くは歌舞伎町でのエピソードが続きます。


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第九十二訓 ゴリラを撃退するのはゴリラ

 閑話休題。

 とりあえずスナックお登勢にいた所で、銀時が冷たい目で見られるだけだと判断したのか、外に出ることにした。とはいえ、目的地があるわけではないのでただ街中をぶらぶらと巡るだけになってしまっているのだが。

 

「あ、そうだ。スナック繋がりで姉上が働いている店を見てみます?」

 

 道中で提案したのは新八だった。

 キャバクラという点ではグレーゾーンではあるものの、身内が働いている点ではぎりぎりセーフと言った所だろうか。

 

「新八のお姉さんの働いている店?」

 

 反応を示したのは霊夢だった。

 スナック繋がりということで、酒が飲めることを期待しているのかもしれない。

 

「お妙の所か? まぁ別にいいけどよ……」

 

 どうにも、前回の宴会を思い出して銀時は若干渋っている様子だ。

 そもそもお妙が居るとなると、何かしら起きるのではないかという予想が出来てしまうので、気持ちあまり足が進まなくなるのも当然なのかもしれない。

 最も、歌舞伎町という段階で問題なんて起きない筈がないのだが。

 

「ギン兄様、本当に大丈夫?」

 

 先程から、銀時の腕をしっかり抱きしめつつ、心配そうな表情を浮かべるフラン。

 恐らく、銀時がひもじい生活しているのではないかと不安になっているのだろう。

 何せ、三ヶ月分の家賃を払えないという実態が明らかになってしまっているのだから……。

 

「やめておいた方がいいわよ、フラン……銀時のそれは自業自得だから……チャランポランが招いた末路よ」

「人のこと既に終わってる奴呼ばわりすんじゃねえよ人形遣い」

 

 アリスからの辛辣な一言。

 この中では割と常識人枠に入るアリスからしてみれば、銀時の行動はとても残念に見えるのだろう。

 

「まぁまぁ、今は新八の姉さんが働いてる場所行こうぜ。そこで酒盛りだーっ!」

「昼間っから飲む気満々じゃないですか!!」

 

 既に盛り上がっている魔理沙を相手に、新八は思わずツッコミを入れる。

 

「姉御の働きっぷりを見られるのはいいことアル!」

 

 割とノリノリな神楽。

 という訳で、彼らはお妙の働くキャバクラへ行くことに。

 程なくして辿り着いた彼らを待ち構えていたのは……。

 

「お、た、え、さーんっ!!」

「いい加減にしろっつってんだろゴリラァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 お妙に飛びついている近藤を、お妙が蹴り飛ばしている姿だった。

 

「あっ……」

 

 もう働いている所を見るとかそういう所ではなく、ゴリラのストーカー現場を目撃してしまった一同。

 というか、ゴリラを撃退するゴリラを目撃してしまった一同。

 

「真昼間っから仕事サボってこんなところで何油売ってんだゴラァ!!」

「常に仕事してますから!! お妙さんの身辺警護をしっかりとやらせていただいてます!!」

「それがストーカーだっつってんだろうがぁああああああああああ!!」

 

 蹴っ飛ばし、投げ飛ばし、近藤を撃退しようと試みるお妙。

 しかし近藤はしつこい。

 

「……何、あれ?」

 

 冷たい眼差しを向けるアリス。

 フランは目を丸くして珍しいものを見るような目線を向けている。

 魔理沙と霊夢は、何も言えない様子だ。

 

「姉上……近藤さん……何してるんですか……」

 

 頭を抱えているのは新八。

 

「おおーっ! 流石は姉御! 今日も冴えわたってるネ!」

 

 目を輝かせながら応援しているのは神楽。

 

「おーい、その辺にしとけー」

 

 そんな中割って入る銀時は、流石なのかもしれない。

 

「おお、万事屋じゃねえか! 俺は今、お妙さんへのアプローチに……」

「テメェはどっかぶっ飛んどけぇえええええええええええ!」

「あぎゃあああああああああああああああ!!」

 

 どこかから取り出した金属バットで、お妙は近藤のケツをぶん殴った。

 近藤は遥か彼方に飛び去っていった――。

 

「あ、飛んで行ったわね……」

 

 霊夢は近藤が飛んで行った方を見ながら、ポツリと呟いた。

 

「あら、貴女達久しぶり……と、見かけない顔もいらっしゃるわね……」

 

 霊夢と魔理沙は、お妙と会うのは初めてのことではない。

 アリスやフランも、宴会で顔をちらっと覗く位はしていた。

 だが、こうして面と向かって会話をするのは初めてのことだろう。

 とりあえず自己紹介を簡単に済ませ、

 

「そう。けどごめんなさい。まだ今日は開いてないのよ……基本、うちは夜からの営業だから」

 

 確かに、現在時刻は昼。

 スナックやキャバクラ系の店は、基本的に夜からの営業となる。

 今は準備しつつ近藤を撃退するのに時間を取られていた、というべきだろうか。

 

「この店ではお酒が飲めるって聞いたぜ?」

 

 魔理沙が尋ねる。

 

「そうね。もしよければ、今度遊びにおいで」

「本当か!? 霊夢、アリス、フラン! 次の機会に遊びに来ようぜ!」

 

 魔理沙はノリノリだった。

 みんなで酒を飲んで楽しめることがいいのかもしれない。

 

「ギン兄様も一緒に行こうね!」

「あぁ、そうだな」

 

 頭を撫でつつ、フランの言葉に答える。 

 そんな様子を見て、お妙が一言。

 

「相変わらずその子には甘いのね。一体どんな風の吹き回しかしら」

「……そうかもしれねぇな」

 

 無邪気に甘えてくるフランを相手に、銀時が甘くなっているのは否定出来なかった。

 

「本当、若干嫉妬しちゃう位ね」

 

 本心なのか茶化しているのか、霊夢がそんなことを言ってきた。

 

「霊夢、前まで銀さんの顔見るだけで逃げt……」

「魔理沙? 後でO☆HA☆NA☆SHIがあるからよろしくね?」

「むっちゃいい笑顔で死刑宣告するのは止めるんだぜ!?」

 

 『O☆HA☆NA☆SHI』がただの話し合いで終わるわけがないのは、既に明らかになっている。

 この後果たして魔理沙は生き残ることが出来るのだろうか。

 

「まぁ、そういうことなら仕方ないですね……姉上、また今度遊びに来ますね」

「そうね。今度は大勢のお客さん連れて遊びにいらっしゃい」

 

 新八の言葉に対して、お妙がにっこり笑顔で答える。

 確かに、幻想郷に居る女性達を全員連れてきたとすれば、相当儲けが来ることだろう……来るかどうかは別として。

 とりあえず、次なる目的地へと足を運ぶ為に、一同はその場を後にするのだった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十二訓 ゴリラを撃退するのはゴリラ

 

 



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第九十三訓 甘いものはきっと色んな人を幸せにしてくれる筈

 ゴリラによるゴリラ討伐クエスト達成の瞬間を目の当たりにした銀時達は、ファミレスで休憩することにした。七人という大所帯である為、通された席についても普段よりも少し大きめの席である。当然、銀時の隣にはフランが座っている。

 入った時に渡されたメニュー表を見て、幻想郷メンバーが思わず一言。

 

「「「「なんか色々すごい……」」」」

 

 彼女達からしてみたら見たこともないような食べ物がたくさんあったのだろう。何せふつうのイタリアンサラダにしてみたって、普段目にしない者達からしてみれば食べ方すら分からないようなものなのだ。

 

「ねぇねぇ、ギン兄様! この『ぱふぇ』って一体どんな食べ物なの?」

 

 今や甘いものの王道とも言われるようなパフェも、彼女達にとって斬新なもの。

 

「あぁ、それは生クリームやチョコレートとか、甘いものがたくさん詰まった食べ物だ。俺のおすすめだぜ?」

「甘いもの!? 私これにする!」

 

 まるで始めておもちゃを手にした子供のように、楽しそうにメニューを選ぶフラン。

 

「なんか美味しそうね……私もそれにしてみるわ。甘いものが欲しかったところだし」

 

 アリスもパフェに挑戦してみることに。

 

「それなら私もだぜ!」

「そうね……興味あるわ」

 

 結局、幻想郷メンバーは全員パフェを頼むことに。

 対する万事屋メンバーは、

 

「俺もチョコレートパフェだな」

「僕はケーキにしますね」

「私はこの店にあるデザート全部制覇してみせるアル!!」

「んな金あるわけねぇだろ。新八と同じもので我慢しやがれ」

「そんなの無理アル。お腹いっぱいにならないネ」

「腹満たすのが目的じゃねえんだよ!!」

 

 休憩目的で入っている為、別にここで満腹になる必要はない。むしろそうなるとこの後動けなくなってしまうのではないかという不安すらある程だ。

 特に神楽は、放っておくと無限に食べ続ける。そして腹が膨れ上がってその場で寝転んでしまうのだ。カビ●ンの如く。笛を吹かなければ起きなくなる。

 

「ところで銀さん。前に新八から聞いたんだけど、銀さんって甘いもの制限しなきゃいけないって話だったぜ?」

 

 頼んだ品物が到着するまでの間、銀時達は会話をして待つことにする。その中で魔理沙が出したのは、銀時の糖尿病の話だった。

 

「いいんだよ。どうせなら好きなもんたらふく食べて安らかに眠るように死ぬことが出来ればそれで本望だ」

「ギン兄様……死なせないよ。フランがなんとかするから……」

 

 ピンポイントでしか言葉が聞こえてこなかったのか、目のハイライトがオフになり、フランが銀時に思い切り力強く抱き着く。

 どうやら銀時の命に関わる話には敏感になっているようだ。

 

「いや、フラン。これはものの例えであってな……?」

「本当に銀さんが死ぬわけじゃないから安心してください!」

 

 銀時が頭を撫でながら宥め、新八は声をかける。

 

「本当? ギン兄様、いなくならない?」

「いなくなるかっつの……天寿全うするっての」

 

 この場合の天寿がいつなのか分からないが、銀時の言葉を聞いてフランは安心したようだ。

 目に光が戻ってきた。

 

「本当、ここ最近フランは銀時のこととなるとこうなるわね……」

 

 割と最初の方から二人の様子を見てきている霊夢は、そんな一言をもらしていた。

 事実、フランは銀時関係のこととなると若干暴走する傾向がどんどん強くなっている。ただ、フランはフランで銀時のことを信じている為、基本的に銀時が言った言葉に対してはほぼ無条件で受け止める。

 ただし、春雪異変以降、銀時の命に関わる何某かのことがあった場合には、今みたいにハイライトが完全に消え去ることが多くなっている。

 

「お待たせいたしました」

 

 そんな空気を読んでいるのかいないのかわ店員が頼んだ品物を次から次へとテーブルの上に置いていく。

 置かれていく品々を見て、

 

「ふわぁ……っ!」

 

 フランは目を輝かせていた。

 普段ケーキは食べているフランも、パフェとなると流石に見たことがなかったようだ。恐らくレシピさえ入手すれば咲夜が作るだろう。

 

「これがパフェ……」

 

 アリスは目をパチパチとさせている。

 

「うぉー! 美味そうだぜ!」

 

 魔理沙はパフェを見て興奮している。

 言葉には出していないが、霊夢も興味津々といった様子だ。

 

「まぁ、温くならねぇ内に食べちまえよ?」

 

 そう言うと、銀時はスプーンを使ってパフェを掬い、口の中に入れる。

 新八と神楽はケーキを食べ始める。

 

「「「「いただきます」」」」

 

 幻想郷組は声を合わせてそう言った後で、銀時に倣ってスプーンでクリームを掬う。それを思い切って、口の中に入れた。

 

「「おいしぃ!!」」

 

 魔理沙とフランの二人は、声を合わせて味の感想を述べていた。

 

「へぇ……甘くて美味しいわね」

「本当。疲れた時にこれ食べるの良さそうね」

 

 アリス、霊夢の二人にもパフェは高評価。

 どうやら四人にパフェは通用した模様。

 

「ところでギン兄様、私とギン兄様のパフェ、ちょっと違うような気がするんだけど……」

「お? よく気付いたな。そっちはバナナパフェで、こっちはチョコレートパフェだ。味がちょっくら違うってわけだ」

「っ! 私、ギン兄様の食べたい!」

 

 目をキラキラとさせながらフランは言う。

 ただし一部言葉が足りないせいで、捉えようによってはやばい台詞を言わせているように聞こえないこともない。

 

「フラン……今の言い方は……」

「ふぇ?」

「……いえ、なんでもないわ」

 

 訂正しようとしたアリスだったが、フランの純粋無垢な表情に負けて何も言えなくなってしまった。むしろ変に伝えることで、フランに恥をかかせることになるかもしれないと考えたのだろう。どのみちシスコン吸血鬼が後で何かしら教育するだろうとの考えもあった。

 

「んじゃま、ほれ」

 

 銀時は自分のパフェをフランの前に差し出す。

 しかしフランは、

 

「ギン兄様に食べさせて欲しい……っ」

 

 顔を赤くしてそう言った。

 

「いや、これ、なんかさっきのと相まって、やばい気がするんですけど……」

「落ち着くんだぜ、新八……ただパフェ食べたいだけだぜ。決してそんな意味じゃないからそっとしといた方が身のためだぜ……」

 

 気付いているのはアリスだけではなかった模様。

 ツッコミ二人衆もまた気付いていたが、スルーすることに。

 

「しかたねぇな……ほら」

 

 スプーンを使ってチョコレートパフェを掬い、フランの口まで運ぶ。

 所謂、『はい、あーん♡』というやつだ。

 食べさせてもらえたフランは、

 

「おいしーっ!」

 

 その味にご満悦の様子。

 

「そうか……」

 

 フランが素直に味を堪能しているのを見て、思わず笑顔になる銀時。

 そんな彼に対して、

 

「お礼に私のもあげる!」

 

 と言って、フランは自分のパフェをスプーンに乗せて、銀時の口まで運ぼうとしていた。

 

「「「ちょっ」」」

 

 これには霊夢、魔理沙、アリスの三人も思わず反応してしまう。

 

「銀ちゃんがアーンされてる……アル……」

 

 ケーキを頬張ることを忘れずに、今起きてる現状に目を丸くする神楽。

 

「い、いや……」

「フランの……いや?」

 

 銀時が躊躇っていると、フランは少し涙目になって、声が震える。ガチ泣き寸前五秒前と言ったところだろうか。

 

「そ、そういうわけじゃねえって!」

 

 と言いながら食べようとしたところで、

 

「「ちょっとまったーっ!!」」

 

 思わぬ邪魔が入るのだった。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十三訓 甘いものはきっと色んな人を幸せにしてくれる筈

 

 




乱入者の正体は次回明らかに……っ!


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第九十四訓 いつ何処で誰が見ているか分からないから十分気を付けた方がいい

「銀さんにあーん♡するのは私の仕事なのよ!! アンタなんかに取られてたまるものですか!!」

「そうだ! フランのあーん♡を受け取っていいのは姉である私だけだ!! 妹のあーん♡は誰にも渡さない!!」

 

 面倒な二人がやってきた。

 ストーカー忍者とシスコン吸血鬼である。

 この二人が絡むと、ある意味面倒なことになる事間違いなしである。

 

「テメェは地獄の果てにでも行きやがれ!!」

「ぎゃああああああああああああああ!!」

 

 銀時からの怒りの鼻フックデストロイヤーを受けた猿飛は、ファミレスのガラスをぶち破って遥か彼方へと飛んで行く。

 一方でレミリアは、そんな様子などいざ知らず、フランが差し出していたスプーンの先を、口の中に含んでいた。

 

「あっ……」

 

 驚きのあまり、フランは声を出す。

 そして飛び散ったガラスはと言うと、

 

「ちょっ、なんであっという間に元通りになってるんですか!?」

 

 何故か何事もなかったかのように修復されていた。

 そして何故か外側から、

 

「―――――――」

 

 何かを発している咲夜。

 恐らく、『メイドですから』と言っているのだろうが、ガラスの向こうで発言している為、いまいちなんて言っているのか分からない。

 

「なんでアンタがここにいんのよレミリア……」

 

 呆れたような口調で尋ねる霊夢。

 レミリアは胸を張って自信満々に、

 

「フランセンサーが反応したからな!」

「いや何よその限定的過ぎるセンサー。能力の無駄遣いじゃない」

 

 アリスが冷静に返す。

 

「凄いネ! 離れていても一心同体アル!」

「感心するところじゃないよ神楽ちゃん。多分あれ、ただシスコンが極まっただけだよ」

 

 シスコンが極まると、勘だけで妹の居場所が分かるものなのだろうか。

 というか、勘は霊夢の専売特許だった筈なのだが、レミリアはフラン限定で勘が働くのかもしれない。

 

「というわけで存分に……って、フラン?」

 

 レミリアがフランの方を向き直ると、そこには。

 

「……うぅ」

 

 涙目になっているフランの姿があった。

 

「なっ……!」

 

 これにはレミリア大困惑。

 無理もないだろう。

 銀時に対してパフェを食べさせてあげようとした矢先に邪魔されて、挙句の果てにそのパフェは実の姉の口の中に入ってしまったのだ。

 もう一度食べさせてあげれば済む話ではあるものの、合理的な理由だけではなく、そこには感情的な何かも入っているに決まっている。

 邪魔されたことそのものが、フランの心を傷つけたのだ。

 

「……これは流石にレミリアが悪いぜ」

「そうね……姉として妹が好きなのは結構だけど、妹の心をしっかり理解してあげなきゃよ」

 

 魔理沙と霊夢による追撃。

 レミリアはあわあわしていたが、やがて自分の行動を反省したのか、

 

「……すまない、フラン。私が暴走したばかりに……」

 

 と、頭を下げて謝るのだった。

 するとフランは、

 

「ううん、大丈夫……私、気にしてないから……」

 

 めちゃめちゃ、気にしている。

 そんな時の言葉である。

 

「うぐっ……」

 

 一応許してもらえたものの、レミリアの心に深い罪悪感が残ったそうな。

 

「……まぁ、なんだ? フラン。もう一度食べさせてくれねぇか?」

「え?」

 

 フランの頭を撫でつつ、銀時が優しい声で言う。

 

「おめぇが食べてるパフェ、俺も食ってみたいからよ」

「ギン兄様……」

 

 落ち込んでいたフランだったが、銀時の言葉によってすぐに元に戻る。

 彼の言葉は、フランにとって凄く支えとなっているのだろう。

 

「本当、銀さんの言葉はフランちゃんに響くみたいですね」

「普段はチャランポランなのに、なかなかやるな天パー」

 

 銀時を間近で見ている万事屋メンバー二人は、感心のあまりそんな言葉を投げていた。

 確かに普段はチャランポランだが、いざという時は決めてくれる兄貴分である。

 フランはゆっくりとパフェを掬って、それを銀時に差し出す。

 銀時はそれを口の中に入れ、

 

「あめぇな……」

 

 そんな感想を漏らしたのだった。

 

「本当!?」

 

 フランは嬉しそうにもう一度差し出す。

 銀時はそれを口の中に入れようとして……。

 

 パシャッ。

 

「え?」

 

 銀時、ポツリとこぼす。

 確かに聞こえてきたフラッシュ音。

 恐る恐る、銀時とフランがガラスの方を振り向くと、

 

「……っ!」

 

 サムズアップして、歯を光らせている……射命丸文(マスゴミ)の姿があった。

 

「あんのマスゴミぃいいいいいいいいいいい! こっちまで来て特ダネ狙ってやがったなぁあああああああ!!」

 

 追おうとするも、既に飛び去った後。

 立つ鳥跡を濁さずとはまさしく事のことで、烏天狗は跡を濁すことなく、その場から綺麗に消え去っていた。

 

「わざわざこっちの世界にまで来て、銀さんの特ダネ狙うとは……恐れいったぜ」

 

 魔理沙は謎に感心している。

 

「いや感心している場合じゃないでしょ!!」

 

 新八は思わずツッコミを入れていた。

 とはいえ、文は既に飛び去っている。

 追った所で無駄だろう。

 

「これは翌日の新聞が楽しみね」

「……マジで?」

 

 霊夢の一言に、銀時は思わず茫然としてしまう。

 フランはフランで、今の様子が撮影されたのかと思うと、少し恥ずかしくなったようだ。顔が少し赤くなっているのが分かる。

 今までそれ以上のことをたくさんしてきたように思えるが、改めて幻想郷中に知れ渡るとなると話は別。

 

「……なんで毎回アイツは俺のネタばかり強請ってくるんだこのやろぉおおおおおおおおおお!!!!」

 

 ファミレス内で、銀時の叫び声が木霊したそうな。

 

 お後がよろしいようで。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十四訓 いつ何処で誰が見ているか分からないから十分気を付けた方がいい

 

 

 

 




少々早いですが、次回から風神録篇がスタートします。
常識の壁を破る女性に、まだ多少なりとも常識があった頃のお話です……。


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風神録篇
第九十五訓 ある程度の常識はやはり弁えておくべき


今回より風神録篇スタートです!


 それはある一種の脅迫状と言っていいのだろうか。

 大きな異変が起こることなく、平和な日々が続いていた幻想郷。ここ博麗神社も例に漏れず、巫女である霊夢はぐうたらする日々が続いていた。

 

「ふわぁ……」

 

 現在時刻は昼過ぎ。

 異変解決の仕事があるわけではない本日、霊夢はこの時間までぐっすり夢の中にいた。基本仕事以外は銀時と同じようにぐうたらする霊夢にとって、このようなことは日常茶飯事である。

 寝室から居間へ足を運んだところで、

 

「……ん?」

 

 一枚の紙が裏向きで置かれているとに気付く。家主である霊夢には置いた覚えのない物。少し気になった霊夢は、それを表にひっくり返す。

 そこに書かれていたのは、以下の通り。

 

 博麗の巫女へ

 突然ですが言いたいことがあります。

 貴女の神社は信仰心が少なくなっていますよね? 

 なのでこのまま貴女が巫女を続けたところで何の意味もありません☆

 つきましては私達にその神社譲渡してくれませんか? 

 というか渡さないと後日奪いに行きます

 一度こういう予告状みたいなの憧れてたんですよ♪ 

 ですからどうか抵抗してくださいね? 

 私達ももちろん抵抗しますよ? 

 拳で♡

 

「…………何よ、この悪戯」

 

 寝起きから、霊夢に青筋が立った瞬間であった。

 

 

 毎度お馴染み、BGオンリー。

 

「あのマスゴミぜってぇゆるさねぇからな……」

「いきなりどうしたんですか?」

「この前撮られた写真が何故かスキャンダル記事として書かれてたみたいアル。ザマァないネ」

「なんで神楽はそんなに辛辣なの? ってかあのマスゴミも俺のこと好きなの? そろそろ俺の記事だけで新聞作れるんじゃねえの?」

「銀さんの周りにネタが大量に転がってるのが原因でしょうね」

「チャランポランで油断してるのがいけないアル。私みたいにしっかりするネ!」

「テメェの何処がしっかりしてんだよ。俺なんかしっかりしすぎて残像見える程だぞ?」

「そんな発言してる時点であんたもレベルかわらねぇよ!!」

「常識というのは破るために存在するアル!」

「おめぇはもう少し常識つけてから出直してこい」

「そういえば最近、博麗神社がただの宴会場にしか使われなくて少し困ってるって話が霊夢さんから出てましたよ?」

「なんで今その話思い出したのか知らないけど、確かに言われてみればあそこに参拝客が来たところなんて見たことないアル」

「何かと理由つけて暇つぶしに来てる連中だらけだからなぁ。アイツ自身も面倒くさがりで巫女らしいことしちゃいねぇし」

「僕らも人のこと言えないですけどね。フラッと遊びに行く目的で行くこともありますし」

「自分自身だって酒飲んで楽しんでるネ。自業自得アル」

「まぁ場所も場所だからなぁ……神社ってのはどうしてこう、山の奥深い所にあったりするものかね」

「神を祀ってるんですから、やはり奥の方じゃないといけないんじゃないですか?」

「ただの引きこもりと変わらないアル」

「……そろそろここいらで誰かしらが居間を開けて入って来る頃じゃね?」

「たぶんそろそろ導入部分が終わる頃だと思いますね」

「いい加減BGオンリーを導入に持って来るのやめるアル。芸がないと思われるネ」

 

 などと馬鹿三人が宣っている。

 

「「「……」」」

 

 馬鹿三人は黙っている。

 消しますか? 

 はい、Yes

 

「何を消すつもりじゃ作者ァアアアアアアアアアアア!! しかもどっちも実質イエスじゃねえか!! 何もう諦めてる感じになってるんですかァアアアアアアアアアアア!!」

 

 メガネがうるさい。

 

「五月蝿いってなんですか!? ツッコミがどれ程重要なのか……」

「相変わらず騒がしいですわね」

 

 と、そんな時だった。

 新八のツッコミを遮るように、居間……ではなく、空間が割れる。

 そこから現れてきたのは、呆れ半分胡散臭さ半分といった感じの八雲紫だった。

 

「今回はスキマからの登場か……」

 

 銀時はポツリと呟く。

 

「なんかずいぶん久しぶりな気がするネ。何の用だBBA」

「相変わらずだなチャイナ娘。常識から外れた妖怪対戦してもいいんだぞ? ん?」

「ちょっとー! 久しぶりに会って臨戦態勢を取らないでもらえます!?」

 

 もうこの二人を会わせない方がいいんじゃないかと思うほどの仲の悪さ。日本の諺に『喧嘩するほど仲が良い』というものが存在するが、この二人には適用されないのだろう。そもそも喧嘩などという小規模なもので収まる気がしない。

 

「んで、お前が来るってことは、また幻想郷に何かあったのか?」

 

 頭をかきながら、銀時が尋ねる。

 紫はゴホンと息を整えた後で、

 

「幻想郷が、というより、博麗神社に脅迫状のようなものが届いたそうなので、それをお伝えしにきたのですわ」

「あれ? そしたら霊夢さんは今何をしてるのです?」

 

 新八が抱いた疑問は最もだった。

 今回の場合、幻想郷というよりも博麗神社の問題。ならば先に出て来るのは霊夢なのではないかというところだ。

 その理由を、紫はこう語る。

 

「寝起きに変な脅迫状送られて、今の霊夢はとてもじゃありませんが、冷静な状態じゃありませんわ……ですから代わりに私がここにきたというわけです」

「あー……なるほど……」

 

 その説明を聞いて新八は納得したようだ。

 

「なんにせよ、まずは博麗神社行かねぇことにはなにも始まらなさそうだな……」

 

 銀時の呟きに一同は同意し、事情を把握する為にも博麗神社へ赴くこととなった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

第九十五訓 ある程度の常識はやはり弁えておくべき



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第九十六訓 噂をすると何とやら

 博麗神社にやってきた万事屋メンバーは、

 

「はぁ……はぁ……」

 

 息を切らしながら、周囲に弾幕を撃ちまくっている霊夢の姿を目撃した。

 

「……何してんだお前」

 

 逆に冷静になって銀時が尋ねる。

 その言葉に我に返ったらしい霊夢が、

 

「……特訓よ」

「いやどう考えても当たり散らしてたよな?」

「特訓よ」

「いやだから」

「特訓」

「もうそれでいいよ」

 

 あまりにも霊夢が折れてくれない為、銀時は追及することを諦めた。

 

「八雲さんから聞きましたけど、博麗神社に脅迫状が届いたとか……」

「……えぇ、そうよ。ふざけた悪戯っぽい手紙を送りつけやがったのよ。見る?」

 

 とりあえず中に案内し、それから霊夢は机の上に思い切り紙を叩きつけた。

 しかも叩きつけられた紙は既にぐしゃぐしゃになっている。

 

「あの、霊夢さん? これ、握り潰しました?」

 

 新八が恐る恐る尋ねると、

 

「えぇ。ゴミだと思ったからね。悪い?」

「いや、別に悪くはないんですけど……」

 

 どう考えても怒っているのが明白だった。

 最早隠すつもりもないのだろうか。

 そして、肝心の文面を読んだ銀時達の反応はと言うと、

 

「……凄いうざいアル」

「こりゃ人の心を突き刺して来やがるな」

「もうこれだけやれたらむしろ芸術ですよ」

 

 読んだものをイラつかせる程度の能力がある手紙だった。

 それはもう、関係ない筈の三人でさえ青筋が浮かぶ程。

 

「私の気持ち、少しは理解出来た?」

 

 溜め息交じりに尋ねてくる霊夢。

 

「痛い程にな……これがもし俺宛に送られてきたとしたら暴れ回ってるところだったわ」

 

 銀時は少しだけ霊夢に同情した。

 ちょうどそんな時だった。

 

「よぅ霊夢! 紫に言われて来てやったぜ!」

 

 どうやら紫は、魔理沙にも声をかけていたようだ。

 割って入るように魔理沙もやってきた。

 

「ちょうどいいわ、魔理沙。この手紙を送りつけやがった犯人を捜すから手伝って頂戴」

「手紙?」

 

 魔理沙も霊夢より手紙を受け取り、その文面を読む。

 そして一言。

 

「うわ、なにこれ腹立つぜ」

 

 嫌そうな顔全開だった。

 

「でしょ? これを寝起きに送られてきたものだから……ソイツ、絶対許さないわ。私の手で粉々に打ち砕いてみせるわ」

「砕いちゃ駄目ですから!!」

 

 マジでやりかねない霊夢に対して、新八は全力のツッコミを入れていた。

 

「しかし、これ送りつけた犯人は一体どこに居やがるんだ?」

 

 銀時の言う通り、今回に関しては犯人の目星はついていない。

 しかし、ある程度の推測は可能だ。

 

「犯人は、『神社を明け渡せ』という要求をしてきているってことは、私と同じ巫女か、神様って所かしら」

「どうして神様や巫女が新たな神社を欲しがるんだぜ? 元々ある神社でどうにかすればいいじゃねえか」

 

 霊夢の言葉に対して、魔理沙が疑問の言葉を投げかける。

 神様は本来、神社毎に祀られているものだ。別の神社に移り住むなどということは、そうあることではない。

 

「それは、『信仰心』が関係しているんじゃないかしら?」

「信仰心、ですか?」

 

 珍しく巫女らしい単語が飛んできたことに対して、今度は新八が尋ねる。

 

「神社は本来、人々からの信仰心によって支えられているものなのよ。一番簡単かつ目に見えるのが賽銭ね。単純に賽銭が多い神社は、どのような形であれ信仰されていることは確かなのよ」

「つまり博麗神社は信仰心が全く足りてねぇ、と」

「人の弱みに付け込むのはやめてもらえないかしら?」

 

 青筋が物凄い勢いで浮かんでいる霊夢。

 銀時は顔色が真っ青になり、それ以上言うのを止めた。

 

「ったく……話を元に戻すわよ。ちなみに、この神社に祀られている神は私にもよくわからないのよ。だけど、神社には少なくとも何かしらの神が祀られていることが確か。そして、人々から信仰されなくなった神は、生存することそのものが危ぶまれてしまう」

「なる程……信じられなくなった神というのは、いない者も同然ってわけか」

 

 妖怪が自然信仰に基づくものであるならば、神は人々の信仰によって支えられている。そもそもその存在は、人々が信じることによって得られるものである。信仰されなくなった神は、存在を与えられなくなるも同然。即ち、消える。

 

「と、いうことは……博麗神社を狙おうとしている神ってのは力が弱まった神ってことになるのか? それにしちゃ随分とやる気満々に見えるぜ」

「ちょっと違うかもしれないわね、魔理沙……これはどちらかというと、巫女の仕業だと考えるわ」

「どういうことだぜ?」

 

 霊夢は、今回の犯人を『巫女』であると推測している。

 その理由を魔理沙が尋ねると、霊夢は、

 

「勘……と言いたいところだけど、それだけじゃないわ」

「勘もあるみたいネ」

 

 神楽はその部分に反応していた。

 構わず、霊夢は続ける。

 

「もし神が相手なのだとすれば、そもそもこんな手には出ない筈よ。私が幻想郷においてどのような存在なのか理解している筈だから……つまり、それを理解せずこのような手段をとってきた犯人は……」

「この幻想郷に来て日が浅ぇ巫女……つまり人間の仕業、ってことになるわけか」

「流石ね、銀時」

 

 犯人の予想図としては十分過ぎる理由だった。

 つまり、この幻想郷において巫女に相当する人物を探せばいいということになる。

 だが、肝心なのは。

 

「そんな人、一体どうやって探せばいいというんですかね?」

 

 新八の言う通り、新参者で巫女を名乗る女性を探すには、この幻想郷ではそう簡単なことではない。

 何せ文字通り『世界中』を探すのだ。

 だが、霊夢は既にその為の方法を探り当てている。

 

「あら、手段ならあるじゃない。とっておきで、しかも簡単な方法が」

「……まさか、テメェ」

 

 その手段は銀時にも浮かんでいるようで、若干苛立っているのが分かった。

 その反応を見て、新八・神楽・魔理沙も理解する。

 

「そうよ。文屋を利用すれば解決じゃない」

「マスゴミの力をここで借りろってのか……っ!!」

 

 ちょうど銀時が悔しそうに呟いた時だった。

 

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! 清く正しく美しく、誰よりも早く誰よりも正確に、そして誰よりも身近に最新情報を送り届ける文々。新聞の新聞記者、射命丸文の登場でーすっ!!」

 

 話題の人物が現れた。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十六訓 噂をすると何とやら

 

 

 



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第九十七訓 たとえどれだけズボラな人にもファンは存在するのかもしれない

 霊夢達が射命丸文から情報を聞き出そうとしている間、とある場所ではこんな会話が繰り広げられていた。

 

「神奈子様、諏訪子様、なかなか博麗の巫女来ませんねぇ」

 

 胸元近くまで伸びている緑色のロングヘアー、深緑に染まった色鮮やかな瞳を持つ顔は整っている。白地に青のラインが入った上着を着用し、スカートは水玉模様が入った青色のものを履いている。豊満な胸は上着からでも見てわかるほど。そして彼女の髪には、蛙と白蛇の髪飾りがつけられていた。

 彼女の名前は東風谷早苗。煽り成分マックスな予告状を叩きつけた張本人である。

 

「まだ出してからそんな日数経ってないからねー。今頃動き出してるんじゃないかなー?」

 

 だらだらとしながら返したのは、金色のショートボブ、青と白を基調とした白装束、白のニーソックスを履き、頭には二つの目がついた帽子を被っている少女――いや、れっきとした神様である、洩矢諏訪子。

 

「犯人捜しに躍起になってるのよ。待てばそのうち来ると思うわ」

 

 紫混じりの青いセミロング、冠のようにした注連縄を着け、右側には赤い楓と銀杏の飾り物が施されている。茶色に近い赤い瞳。上着は赤色の半袖、その下にはゆったりとした白色の長袖を着ている。スカートは臙脂色のロングスカート。何よりも特徴的なのは、胸元につけられた黒い鏡と、背中につけられている、大量の紙垂がくっ付けられた大きな注連縄。彼女の名前は八坂神奈子。同じく神様である。

 

「でも、ただ待ってるだけってすごいこう、暇なんですよー」

「気持ちはわかるけど、ここは結構入るのが難しいわよ。だから到着するのも結構時間がかかると思うわ」

 

 落ち着かない様子の早苗を、神奈子がなだめる。

 事実、彼女達が今いるのは妖怪の山の奥。元々この山は警戒心の強い天狗達によって監視されている場所であり、最近来た異分子である自分達も警戒されている程だ。それでも追い出されることがないのは、表立って登場している神奈子が『神様』であることが相手にも分かっているからだろう。

 

「それにしても、文面は本当にあんな感じでよかったんです? ぶっちゃけ書いてて物凄く楽しかったんですけど、煽りが半端ないと思ったのですが……」

 

 多少なりとも心配している様子の早苗。

 書き上げるまで自分も相当楽しんでいたようだが、後で客観的に読み返してみると、相当相手の怒りを買いまくる文章になっていたことに気付いていた。一応、そのレベルの文章を書いた自覚はあるようだ。

 そんな早苗に対して、諏訪子がニヤリとさせながら答える。

 

「あれだけの文章を読んだ人は相当イラっとするだろうね。そしてその怒りは、犯人を見つけた時に爆発して、冷静な対応が出来なくなるんだよ。そこを突いてしまえば、いくら博麗の巫女とはいえ勝ち筋が見えてくるんじゃないかなーって思うよ」

「流石は諏訪子様!」

 

 早苗が喜ぶのに対して、諏訪子が『ドヤァ』という表情を見せる。

 ちなみに、早苗は諏訪子・神奈子ガチ勢である。

 というかこの三人が、互いに互いのガチ勢である。

 

「そう言うわけだ。どの道ここまで来ようとするのは明らかなわけね。それに、妖怪の山を越えられなかったとしたら、それまでの相手だったということでこっちから攻め入っても勝てる相手だということが明らかになるわよ」

「信仰力の弱い神社相手ですからねぇ。新参者でも勝てるんだという所を見せてやりますよ!」

 

 神奈子の言葉を受けた後で、俄然やる気になっている様子の早苗。

 

「弱いとはいえ幻想郷で唯一の神社だから、そこさえ抑えてしまえばこっちのものになるわよ」

「つまり、幻想郷を支配するには博麗神社を倒してしまえばいい、ってことですね!」

「あー……まぁ、そうなるのかな?」

 

 元々、博麗神社をもらい受ける計画については神奈子が立案していた。

 彼女達は神様である。人々からの信仰心があってこそ姿を顕現させることが出来るというもの。そしてこの幻想郷において唯一の神社は博麗神社。参拝客がほとんどいないとはいえ、彼女達のプロデュースがあれば、離れていた人も来ることは想像ついていた。

 厄介なことがあるとすれば、その神社の巫女である博麗霊夢が、こういった荒事に長けているという点。

 それと――。

 

「少し厄介だなって思うのが、幻想郷で起きた異変の数々を解決してきたという、白夜叉の存在だね……」

 

 ポツリと呟いた諏訪子。

 幻想郷にとって新参者である彼女達からしてみても、異変解決となると大抵セットでくっついてくる坂田銀時の存在は認知していた。それだけいよいよ以て銀時の話は文字通り幻想郷中に知れ渡っていると言っても過言ではない。諏訪子と神奈子にとって、霊夢の次に危険な人物として据えられていた。

 だが、

 

「白夜叉……坂田銀時……凄い男の人ですよね!!」

 

 何故か早苗は、目を輝かせていた。

 

「いや、なんで目を輝かせてるのよ?」

 

 これには神奈子もツッコミを入れざるを得ない始末。

 早苗はより一層目を輝かせながら語る。

 

「だって、この幻想郷って荒事を解決するのが大抵女性の方なんですよね!? それなのに、何の能力も持たずに、木刀一本で異変の数々を解決に導いてきただなんて、物凄く強いってことじゃないですかっ! 私大ファンなんですよ!! そんな人と戦えるのかと思うと、今から本当楽しみで楽しみで……サインとかもらえないかなぁ」

 

 まるで何かのアイドルグループのおっかけみたいな反応を示す早苗。

 その勢いの強さには、諏訪子と神奈子も驚かされる程。

 と言うのも、今の今まで表に出していたことがなかったのだ。話題に出さなかっただけで、実は新聞記事の切り抜きとかを用意していた可能性はあるのだが。

 そして、諏訪子と神奈子は決意する。

 

「……諏訪子、何としても、白夜叉と早苗を会わせないようにするわよ」

「合点招致」

 

 今回の異変、思った以上にお間抜けな展開を迎えるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十七訓 たとえどれだけズボラな人にもファンは存在するのかもしれない

 

 

 

 




守矢神社は、互いに互いのガチ勢が多い気がするんですよね。
そんな彼女達の中で、一人だけまた別のガチ勢要素も組み込まれてしまったら、果たしてどんな展開を迎えることになるのでしょうか……。


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第九十八訓 怖い所に行くにはそれ相応の覚悟が必要

「最近幻想入りした人で、巫女っぽい人を知りたい、ですか?」

 

 事情を聞いた文が最初に発したのは、疑問の声だった。

 

「えぇ。こんな手紙を送りつけてきやがった大間抜けにお灸をすえてやらないといけなくてね」

 

 霊夢の目は怒りに染まっている。

 最早マジになっている。こんな状態の彼女を敵に回してしまったら、もしかしたら敵は殺されてしまうのではないかと思う程の怒りの色。

 

「これ、絶対やばいと思うぜ……霊夢がやりすぎないように見張らないといけない気がするぜ……」

 

 近くに居た魔理沙は若干震えあがる程である。

 そんな中で、文はすぐに思い至ったような表情を浮かべる。

 

「思い当たる節と言いますか、恐らくこの人だという検討は付きましたが……少々危険かもしれませんよ?」

「どういうことだ?」

 

 頭を掻き毟りながら銀時が尋ねる。

 すると文は、

 

「坂田さん、前に私の住処についてお話したこと、覚えてますか?」

「あ? あー……確か、妖怪の山がどうとか……」

 

 紅霧異変が解決した後に行われた宴にて、文が銀時に言った言葉。

 妖怪の山には彼女の友人や仲間が居るという点。

 

「まさか、その巫女っつーのは……」

「はい。最近妖怪の山の中に、一社の神社が丸ごと幻想入りしてきたのです」

「「なっ!?」」

 

 驚いたのは、新八と神楽。

 今までミツバのような人が幻想入りするケースや、忘れ去られた物が香霖堂に流れ着くことは数多く存在した。しかし、建物毎幻想入りしたというケースを聞いたことがなかった為、万事屋メンバーからしてみれば驚くべきことであった。

 

「おかしいことではありませんよ? 確か紅魔館も同じ類のものだった筈ですし」

 

 紅魔館も、今回の神社と同様に建物毎幻想入りしたケースの一部だ。

 つまり幻想郷では、こういった類のことが起きても何らおかしくはないということが証明される。

 

「つまり今回の場合、何らかの目的があって建物毎こちらに幻想入りして、博麗神社を狙った何者かが居る……ということですかね?」

「そうなるでしょうね。けど……そうなるとちょっと厄介かもしれません」

「どういうことアルか?」

 

 文が少し考えるような素振りを見せる。

 気になった神楽が尋ねると、文がその理由を説明した。

 

「妖怪の山の住人は、他者が入り込むことを快く思わないのです。ですから真っ先に排除しようとします」

「そういやお前、確か妖怪の山は警戒心が強い奴らばっかとか言ってたな……」

 

 一応その時の話を覚えていた銀時は、その難易度が決して簡単ではないことを察する。

 文は少し嬉しそうに、

 

「あやや? 私の話、覚えててくださったんです?」

「ちっとばっかり記憶に残ってただけの話だ。別にテメェの話だから覚えてたわけじゃねえ」

「またまたー、照れちゃってもー」

「照れてねぇっての」

 

 若干面倒臭い対応をする文に対して、いいからさっさと話を続けろと言わんばかりの銀時。

 

「そんなわけで、戦闘になることは必須だと思われますので……一応それ相応の覚悟をしておいてくださいね」

 

 心配そうな表情を浮かべながら、文がそう告げる。

 対する霊夢は間髪入れずに、

 

「当たり前じゃない。心配せずともそんなもの、とうに出来てるわよ」

「荒事なら任せろ! 私も久しぶりにマスタースパークぶっぱなすぜ!」

「これまでいくつもの異変乗り越えてきましたからね。僕達だって協力しますよ!」

「万事屋の力、見せてやるアル!」

 

 四人のやる気は既に十分だった。誰もが逃げる素振りも、躊躇う素振りもまったく見せず、むしろ今か今かと心待ちにしているような状況。

 そんな中で、銀時もまた宣言する。

 

「わざわざそんなアブねぇ所に仕事しに行く程、仕事してぇわけじゃなかったんだけどな……事情が事情だからな。案内しろや、射命丸」

「……分かりました。皆さんがそうおっしゃるのならば迷いません。私も、貴方達の為に協力します」

 

 珍しく、射命丸文が真面目な雰囲気で宣言する。

 普段マスゴミとしての印象が強すぎるだけに、今回の彼女は評価に値するものだった。

 

「ここからでしたら、妖怪の山はそう遠くない筈です。準備が出来次第向かいましょう」

 

 文の言葉に、一同は頷いた。

 

 

 妖怪の山の中。

 とある神社を覗き込んでいる二人の少女が居た。

 片方は、カールした金色のボブ、赤い瞳、つばの広い赤い帽子にはブドウの飾り物がついている。だぼっとして、そでの膨らんだ黄色い上着、その上にはオレンジ色のエプロン、黒いロングスカートに黒い細チョーカーをつけた少女――秋穣子。

 もう片方は、同じくカールした金色のボブに金色の瞳、細いシルエットの赤い上着、裾のほうに向かって赤から黄色へと変わっていくロングスカート、三枚ぞろいの楓の髪飾りをつけた少女――秋静葉。

 二人は姉妹であり、秋を象徴した存在である。簡単に言ってしまえば、幻想郷における『秋を司る神様』だ。

 そんな二人が何故神社を眺めているのかというと、

 

「あの神社、なんであんなに騒がしいのかな……?」

 

 穣子が呟く。

 理由は簡単で、女性達が何かもめているような声が聞こえてきたからだ。

 ちなみに、静葉が姉で、穣子が妹である。

 

「穣子ちゃん、あの女の人達、何かもめているようだよ?」

 

 静葉が大人しいイメージなら、穣子は活発なイメージ。

 二人の印象はそれぞれ反対である。

 

「もうちょっと聞いてみようよ、静葉ちゃん」

 

 二人は興味本位で聞いてみることにする。

 そして聞こえてきた内容は……。

 

「どうしてですか!? 坂田銀時さんの武勇伝を聞いてると、より一層会いたくなってきたって言うのに、なんでお二人とも私が相手するのは駄目だとおっしゃるのですか!?」

「今の早苗が白夜叉に会ったら間違いなく何するか分からないからだよ!!」

「そうそう! 諏訪子も私も、早苗の為を想って言ってるのよ!」

「ファンがアイドルに会うのに許可がいるんですか!?」

「いるしアイドルじゃないからね!? むしろチャランポランでズボラなやばいやつって話だからね!?」

「そんな見ず知らずの男なんぞに、私達の早苗を会わせられない!!」

「いいじゃないですか!! 自由気ままで我が道突き進む人って素敵ですよ!! 常識にとらわれない素敵な殿方じゃないですか!!」

「ああもう早苗フィルターがとんでもない方向に向いてやばいよ神奈子ぉ!!」

 

 一人の暴走少女を、二柱の神様が止めているという何とも言えないシーンだった。

 

「……そっとしておこう」

「そうだね、穣子ちゃん……」

 

 秋を司る神様は、見てはいけないものを見てしまった気分になったという。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十八訓 怖い所に行くにはそれ相応の覚悟が必要

 

 



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第九十九訓 遊びに行く時には最初の挨拶が肝心

若干遊び過ぎた感があるお話です。


 という訳で、妖怪の山まで行くことにした一行。

 今回はチルノ(バカ)に遭遇することもなく、スムーズに移動することに成功していた。

 そうして問題の場所まで辿り着き、改めて文は説明する。

 

「いいですか? 改めて言いますけどこの山に住む人達は皆警戒心がかなり強いです。なのでちょっとしたことでも刺激になりかねないのでくれぐれも注意してくださいね?」

 

 再三注意をする文。

 今回に関しては、それだけガチであるということが証明されていることだろう。

 

「わーたよ。ったく、女子高生の家じゃあるめぇし、何をそんなに警戒する必要があるんだか……」

 

 呆れたような口調で呟きながら、銀時が言う。

 

「警戒しておいて損はないぜ? いつ火力ぶっぱ出来るかわからねぇからな!」

 

 何故か目を輝かせている魔理沙は、最早弾幕をぶっ放すことに目を向けているのかもしれない。

 

「いや魔理沙さん。なるべく穏便に済むならそのほうがいいですからね? なんでいきなり弾幕ごっこに情熱を燃やしてツッコミ放棄しているんですか? イボでも生えたんですか?」

「なんでイボなんだぜ!? ツッコミ放棄しただけでイボ発生呼ばわりされる筋合いはねぇぜ!?」

 

 だいぶ前に、イボによる事件が勃発した歌舞伎街。その時のことを指しているのかもしれないが、当然魔理沙には伝わらないネタである。

 

「そうよ魔理沙。アンタ当初は新八とダブルツッコミだったじゃない。キャラブレを起こすのはよろしくないわよ。まだ連載開始して三ヶ月目に突入したばかりなのに、もうキャラブレちゃたまったもんじゃないわよ?」

「すっげぇ久しぶりに霊夢からメタい台詞が飛んできた気がするぜ!? 何なの!? 百話目前にして原点に立ち返ろうとしてるっていうのか!? 突然過ぎるネタフリにびっくりしてるぜ!?」

「何騒いでるネ魔女娘」

「魔女じゃねえって言ってるぜ!?」

 

 いきなりのボケのオンパレードに、戦闘に入る前から息切れが発生している魔理沙。

 そんな体力で果たして今後のボケ合戦に生き残ることが出来るのだろうか。

 

「ほうほう、なるほど……振り回されまくる魔理沙さんですか……これだけでもいい感じにねつぞ……記事が書けそうですね」

「今明らかにねつ造って言ったぜ!? 清く正しいのモットーはどこいったんだぜ!?」

 

 文が怪しい笑顔を浮かべながらそんなことを言っている。

 魔理沙は咄嗟にツッコミを入れた。

 

「いいですか魔理沙さん? ばれなきゃ犯罪じゃないんですよ」

「もうばれてるぜ!?」

「ていうか最早思考が完全に偏ってるじゃないですか!!」

 

 これには新八もツッコミ参加。

 先程までのシリアスムードは一体何処へ消え去ってしまったというのやら。

 

「んー、これだけ愉快な人達が揃っているのなら、山登りも簡単に終わりそうですね☆」

「なんで星マークつけてんだよマスゴミ。なんかうぜぇよそれ」

 

 若干銀時が苛立っている。

 

「えー、可愛いじゃないですかー」

「あざといわ。何ブリッ子してんの? 可愛くねぇよ? むしろイタいよ? 馬鹿なの?」

「随分辛辣ですね!?」

 

 自分の扱いが酷いことに、流石の文も文句の一つは言いたくなったらしい。

 

「まぁ、とりあえずいいや……そろそろ入ろうぜ。いつまでもこんな所でコント合戦続けてても、いい加減読んでくださってる読者の皆様方が飽きちまうからな」

「銀さん、ここぞとばかりにメタい話ぶっこむのやめません?」

 

 何故か妙にメタネタが繰り広げられていた。

 閑話休題。

 

「つーわけで……」

 

 空気を入れ替えて、真剣な表情で森への一歩を踏み出そうと――。

 

「山のみなさーん!!」

「引きこもってないでー!!」

「「あーそーぼー!!」」

 

 思いっきり、銀時と神楽は叫んだ。

 

「「何をしとんじゃゴラァアアアアアアアアアアアア!!」」

 

 これにはツッコミ二人衆も反応せざるを得ない。

 

「さっき射命丸さんから刺激しないでって言われたばかりじゃないですか!!」

「何変なこと叫んでるんだぜ!? 敵ウェルカム状態作ってるのは銀さん達だぜ!?」

「五月蠅いアル。引きこもりの自宅警備員(ニート)達を外に追い出すにはこれが一番ネ」

「山の人達を自宅警備員(ニート)呼ばわりするのは止めてもらえませんか!? 一応これでも私もこの山を守る警備担当を勤めているんですからね!?」

 

 流石に仲間をニート呼ばわりされることに抵抗があったようだ。

 

「細かいことうじうじ言うなんてみっともないわよ。別にどうだっていいじゃない」

「なんで霊夢さんはどうでもいいって表情してるんですかね!?」

 

 実際霊夢はどうでもいいと感じているので、その反応は間違っていない。

 

「さっきからいろいろと五月蠅いんだけど!」

 

 と、その時だった。

 森の入口の方に、一人の少女がやってくる。

 エメラルドグリーンの髪を胸元で一本にまとめており、頭には暗い赤色のリボンを結んだヘッドドレスを纏っている。瞳の色もエメラルドグリーン。ワンピース型の服装は、袖はパフスリーブの半袖、襟は三角形で腹部にまで垂れている。スカート部分は、上部分はほぼ黒に近い赤、下部分は純色の赤。

 

「お? 早速自宅警備員か?」

「ちがうよ!? 私は鍵山雛。山に入ろうとする貴方達が見えたから警告しに来たの!」

 

 律儀にツッコミを入れつつ、自己紹介をする雛。

 

「この山は危険よ。だから入らない方が絶対にいい!」

 

 両手を大きく広げて、通せんぼをする雛。

 

「私達この山に最近来た巫女達に用事があるんです。それでもだめですか?」

 

 何とか文が取り次ごうとするも、

 

「駄目です。それに射命丸さんはこの山の警護隊を勤めるお方だよね? どうして止めようとしないの……?」

 

 どうやら鍵山雛という少女、純粋に銀時達が山に入るのが心配である様子。

 

「俺達ぁ山に引きこもってる巫女(クソニート)に用事があんだよ。だからそこを……」

 

 どけ。

 銀時がそう言おうとした、その時だった。

 

「どぎゃあああああああああああああああああああああああ!!」

 

 それはもうど派手に。

 鳥のフンが銀時の服にポトりと落ちた。

 

「……あっ」

 

 雛は少し申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 

「どういうことアルか? 今のは完全に銀ちゃんの運がなかっただけネ」

「そうですね……日ごろの行いが悪いからいけないんですよ」

 

 神楽と新八としては、いいザマだと思っている模様。

 しかし雛は、申し訳なさそうにこう告げた。

 

「私……厄をため込む程度の能力を持っているの……だから、私の近くでは不幸になっちゃうの……」

 

 申し訳なさそうに、そして寂しそうに告げられた言葉は、そんな内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

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銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九十九訓 遊びに行く時には最初の挨拶が肝心

 

 



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第百訓 厄を溜めこむ程嫌われる確率も高くなる

「いやぁ、とうとうこの小説も百話到達しましたね、銀さん!」
「だからって前書きでBGオンリーする必要ねぇんじゃねえのか? 単にこれがやりたかっただけだろ?」
「のっけから作者敵に回すようなこと言うなぁああああああああああ!」
「煩いネ新八。ぶっちゃけこれだってほとんど必要ない会話アル」
「神楽ちゃん! せっかくこういう場が設けられたわけだから、ここまでの結果とか色々お伝えしなきゃいけないこととかあるじゃない!」
「そうだなぁ。気付けばお気に入り登録数も180を突破したらしいじゃねえか?」
「UA数も35000を突破しましたよ! いやぁなかなかの快挙じゃないですか!」
「でも結局ランキングにはあれから一度も載ってないアル。本当に偶然だったネ」
「まぁまぁ、それはこれから頑張ればいいじゃない!」
「ま、俺達が頑張った所で、PTAに怒られる番組ランキングトップしかとれねぇけどな」
「ていうか百話超えた所で異変の話全然最初の方って、計画性皆無な作者アル。思いつきだけで書こうとするからこういうことになるネ」
「ちなみに連載は三ヶ月目に突入してますからね。それで何気に文字数28万字超えたみたいですよ?」
「それがどれだけすげぇのかよくわからねぇけど……まぁ、こんな感じでこれからも、ふわぁ~っと……」
「「「よろしくお願いします!!!」」」



「厄を溜め込む程度の能力?」

「うん。そもそも厄っていうのは人々を不幸にする幽霊の集まりみたいなものなの。そして私は、その厄を集めることによって力をつけられる」

「つまりアンタが厄を溜め込めば、ウィンウィンの関係性を築けるってことね」

「そういうこと。ただその代わり……溜め込んだとはいえ、『気』としてはやっぱり少し漏れ出てるから、私の近くに来たら不運の気に当てられて不幸になる……」

 

 霊夢と雛の説明によって、大凡の事情を理解することが出来た一同。

 

「つまり、今の坂田さんは歩く不幸人間ということになりますね?」

 

 少し目を輝かせている文。

 

「おいテメェ、なんで少し嬉しそうなんだよ。まさか今なら面白いネタ次から次へと運んでくれるんじゃねえかとか考えてるんじゃねえだろうな?」

「い、いやだなぁ。そんなこと考えてる訳あるじゃないですか!!」

「ちったぁ隠せよコノヤロウ!!」

 

 本心を微塵も隠すつもりのない文だった。

 

「一応私のそばにいる時だけだろうから、ある程度離れちゃえば大丈夫だと思うけど、その代わり山の中には入るな!」

「なんという新手の脅し文句だぜ……不幸にされたくなければ立ち去れって」

「厄を溜め込む雛人形だからこそ出来る事ね……」

 

 魔理沙と霊夢は感心するように呟く。

 

「良かったじゃない、銀時。アンタのキャラ付けとして糖尿病と天然パーマ以外に不幸属性入ったわよ。せっかくだしこの際ヘアースタイルもツンツンにしてみたら?」

「俺の右手に異能を殺す力が宿ったら考えてやるよ……うっ、右手が疼く……って新八が」

「なんで僕の右手が疼くんだゴラァアアアアアア!! 勝手に人を厨二病扱いすんじゃねぇよ!!」

「大食いシスターはいないけど、大食いチャイナはいるしちょうどいいんじゃない?」

「お腹いっぱいご飯食べさせてくれると嬉しいアル」

「神楽ちゃんも乗っからなくていいから!!」

 

 少し落ち込んでいる様子の雛を尻目に、銀時達はと言ったらいつも通りに騒いでいる。

 そんな彼らを、雛はぽかんとしたような表情を浮かべながら眺めていた。

 

「あの、どうしてそんなに平然としてられるの?」

 

 厄を溜め込む。

 側にいるだけで相手を不幸にする。

 これだけの情報があれば、普通の人間ならば嫌悪しその場から立ち去り、二度と会うものかと捨て台詞を吐くか、その存在に恐怖するか。いずれにせよ平常心を保っていられるはずがない。

 それが、彼らは今まで雛が経験してきた物とはまるで違う対応をしてきている。

 だからこそ、思わず尋ねてしまったのだ。

 

「どうしてって……そんな程度でへこたれてたら生きてけねぇからだよ」

「そんな程度って……私のそばにいたら常に不幸になるんだよ? 怖くないの?」

 

 オロオロしてる雛。

 そんな彼女に対して、銀時は告げる。

 

「んなもん関係ねぇよ。不幸になるっつったって、別に死ぬ訳じゃねえんだろ? それに、厄溜めるのだって、他の人間に厄が溜まらねぇようにするってんだったら、悪人って訳じゃないからな。だったら、怖がる必要もねぇってもんだろ」

 

 別に雛は、意地悪で山に入れないようにしているわけではない。

 本気でこの先に進むのが危険だと考えているからこそ、先んじて入らないようにしているだけだ。

 しかも、自身の力を利用してまでも。

 

「もっとこえぇもんなら歌舞伎町にゴロゴロ転がってるからな。そういう訳で、テメェがなんと言おうと無駄だぜ?」

「あっ……」

 

 雛は、これ以上いくら説得しても銀時達は聞かないと察してしまった。

 ある意味で彼らの決意は固い。突き崩すことが出来ない。

 

「まぁ、それでもアンタがどこうとしねぇってんなら、力づくでも通らせてもらうだけだ。やんのか?」

 

 銀時は木刀を構える。

 説得でなんとかするのは無理だと判断した雛は、それでも攻撃しようとはしない。

 元々彼女は、そう言った類の感情で山に入れないようにしていたわけではないのだから。

 

「……分かった。通っていいよ。けど、この山は本当に危険だからね。危ないと判断したらすぐに降りるんだよ」

「忠告どうも。んじゃな」

 

 去り際に雛の頭を軽くポンと叩いて、銀時はそのまま山に入ろうとする。

 霊夢達もそれに続こうとして、

 

「あ、あのさ!」

「あ?」

 

 雛が呼び止めた。

 銀時達は立ち止まる。

 

「……貴方達、本当おかしな人だね。もしよかったらさ、今度ゆっくりお話しようよ。貴方の話も聞きたいし」

「……あぁ、馬鹿どもの話でよければ、いつだって聞かせてやらぁ」

 

 そして、銀時達は山の中へと入っていった。

 彼らの背中を見送りながら、雛はポツリとこぼす。

 

「坂田銀時、か……不思議な人だなぁ。またいつか、お話出来るかな」

 

 ここにまた一人、坂田銀時に対して好意を抱いた人物が増えたという。

 

 

 

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第百訓 厄を溜めこむ程嫌われる確率も高くなる

 

 




と、いう訳で……。
遂に本編百話になりました!!
文字数の方は遂に28万字となりましたね……そろそろ30万字到達も現実染みてきました。
本当はもう少し文字数少なくなるかなぁって思ってたのですが、想像以上に増えてびっくりしております。
一応、今後の予定としまして……今まで登場している東方キャラの中で、『このキャラのエピソードが是非とも見てみたい!』というキャラがいらっしゃいましたら、何かしらの形でコメントお願いします。
もしかしたらポロリ篇で実現するかもしれません!


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第百一訓 想定外の事態が起きるとついぽろっと零してしまうもの

 妖怪の山というだけあって中には妖怪がうじゃうじゃいるのかと身構えていた彼らだったが、実質そんなことはなかった。登ってみればただの山。木々豊かで空気も美味しい。ある一種のハイキング気分を味わっていた。

 

「落ち着いた山ですね。もっとこう、三歩歩くたびに妖怪に襲われるのかと思いましたよ」

「流石にそこまで厳しい山ではありませんよ……けど、奥に行けば行くほど守りが堅いので、その点は注意してくださいね」

 

 新八の発言に対して、文は注意を促す。何かあってからでは遅いことは重々承知なのだろう。

 

「分かってるわよ。ったく、早く巫女ぶっ飛ばしたいってのに……」

 

 霊夢の怒りメーターは地味に溜まりつつあった。単純に相手に対する怒りはもちろんのこと、なかなか敵地に赴けないことに対する怒り。そして、銀時の無自覚な女たらし。

 

「どうしたネ脇巫女? そういう日アルか?」

 

 そんな彼女の苛立ちが伝わったのか、神楽があまりにも不躾な質問をしていた。

 

「いや別にそういうわけじゃないわよ……間違っても今の質問、他の人には絶対しない方がいいわよ。ってかそれ以上今の私にされたら何するか分からない」

「もはや脅し文句だぜ!? 苛立ってるのは明らかだぜ!?」

 

 青筋浮かばせまくってる霊夢を見て、魔理沙は思わずツッコミを入れていた。放っておくと霊夢は辺り一帯を破壊しかねない程の狂戦士(バーサーカー)になるかもしれない。

 

「まぁまぁ霊夢さん。その怒りは犯人にぶつけましょうよ」

「それに怒りまくるとシワ増えるぞ?」

「犯人八つ裂きにする前にあんたを八つ裂きにしてやろうか? おん?」

「ちょっとー! 銀さん!! 何怒り買ってるんすか!? 仲間割れも程々にしてくださいよー!! 射命丸さんからも……っていつのまに写真構えてんじゃねぇよ!!」

「へっ?」

 

 一触即発☆脳漿炸裂寸前といった様子を写真に収めようとしている射命丸文(マスゴミ)の姿があった。

 

「いやぁ、だって面白そうな波動を感じたんですもん。新聞記者として、特ダネ逃すわけにはいかないですから!」

「いいからさっさと道案内して欲しいぜ!?」

 

 満面の笑みで反省する気もない様子の文に対して、魔理沙もツッコミに参加する。

 魔理沙の言葉を聞いて渋々引いた文。

 そうしてしばらく歩いている内に少し開けた谷に辿り着く。

 そこにいたのは、

 

「……ん? ガキか?」

 

 一人の少女だった。

 紅珠のアクセサリーでツーサイドアップにした鮮やかな青い髪、緑のキャスケットをかぶり、白いブラウスの上に肩にポケットのついた水色の上着を着ている。スカートは裾の部分にたくさんのポケットがついた濃い青色。靴は長靴のようなもの。胸元には紐で固定された鍵がぶら下がっている。最大の特徴は、少女の体格からしてみたら大きすぎるリュックだった。

 彼女はまだ銀時達に気付いていないようで、木陰で何かを作っているようだった。

 

「河城にとりさんですよ。彼女は河童なんです」

「え? 河童? どう見ても河童には見えないのですが……」

 

 文からの説明を受けて、新八は戸惑っていた。彼らが知っている河童とは凡そ姿が全然違うのだ。

 頭に皿はないし、甲羅もないし、何もかもが想像と違っている。

 というか彼らは河童に会ったことがある。

 

「ありゃ河童じゃねえよ。河童っつーのはこう、もっとやべぇ生き物だろ?」

「いや銀時。アンタの河童に対するその考えは一体何処から来ているの?」

 

 霊夢のツッコミはもっともだが、残念ながら彼らは自分達の世界で河童を見てしまっている。なのでそのギャップが激しいのだ。

 

「とりあえず、通り道にアイツが居るのはなんともなぁ……」

「退いてもらわないことには先へ進めないアル」

 

 銀時と神楽がポツリと呟く。

 

「「てなわけで頑張れ新八」」

「なんで僕ぅ!?」

 

 銀時と神楽によって指名された新八。

 もちろん驚いた。だからこそ、つい大声をあげてしまった。

 

「っ!?」

 

 だからこそ、少女に気付かれてしまった。

 

「そこに誰かいるの?」

 

 少女は既に、声のした方をジッと見ている。

 もうそこに何者かが居ることを確信している様子だ。

 

「おいぃいいいいいい! 新八のせいでバレちまったじゃねぇかぁああああああああ!」

「すみませぇえええええええええん!!」

「何してんだぜ!!」

「……これはあれね。責任もってアンタが何とかしなさい」

「いってくる、アル!!」

 

 最後に喋った神楽が、新八の身体を掴んで、

 

「え?」

 

 思い切り、ぶん投げた。

 

「どわぁああああああああああああああ!!」

「ええぇえええええええええええええ?!」

 

 突然目の前に眼鏡をかけた人間が吹っ飛んできた少女は、それはもうかなり驚いたそうな。

 思わず背負っているリュックを振りかぶって、

 

「とんでけぇええええええええ!」

「ぶぎゃああああああああああ!!」

 

 新八を、数メートルかっ飛ばした。

 

「って、なにしてくれとんじゃあああああああああ!」

「それはこっちの台詞だぁあああああああああああ!!」

 

 新八vs少女のツッコミ合戦。

 いや、というかこれ少女が完全にとばっちりを喰らっているだけである。

 

「人がせっかく発明していたっていうのに、いきなり飛んでくる貴方が悪いよ!」

「投げ飛ばされたんだから仕方ないじゃないですか!!」

「投げ飛ばされた? ってことは……他に誰かいる?」

「あっ」

 

 新八がつい零した一言により、新八以外にこの場に人が居ることがばれてしまう。

 

「あの、新八さんがアホなことやらかしているんですけど」

 

 これには文も呆れている。

 

「……仕方ねぇ。どの道もうあの様子だと隠れても無駄だ。出るしかねぇな」

 

 こうして、銀時達は少女の前に出るしかなくなったのだった。

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百一訓 想定外の事態が起きるとついぽろっと零してしまうもの

 

 



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第百二訓 戦闘の際には常に相手の気配に気をつけろ

「あ、他の人も出てきた」

 

 少女――にとりは銀時達が出てきた方を見て、そんな感想をポツリと零す。

 

「いきなり新八投げ飛ばして悪かったな。コイツが投げられたいって言うからつい……」

「ついじゃねえだろ!! 人の意見無視して勝手に投げたんだろうが!!」

 

 銀時の言い訳にもならない悲しい言葉に、新八が牙を剥く。

 一方、少女は苦笑いを浮かべているようだった。

 

「ところでテメェは、このマスゴミ曰くお値段以上の価格を実現する奴って聞いたが」

「それはニトリ!! 緑色の家具の店じゃないですか!!」

「私家具扱ってないよ!?」

 

 新八に乗っかる形で、にとりもついツッコミを入れていた。

 そんな様子を見て、

 

「へぇ。この河童、魔理沙以上にツッコミ速度が速いわね。鍛え甲斐ありそうね」

「頼むからツッコミを鍛えるとかそういう発想やめてやってくれ! やられる身にもなって欲しいぜ!!」

「何言ってるのよ魔理沙。アンタはまだまだ修行中の身。文句をつける筋合いはないわ」

「何様のつもりだぜ!?」

「巫女様のつもりよ」

「何の権利があって!?」

「巫女の権利があって」

「博麗の力強すぎじゃね!?」

 

 魔理沙と霊夢による謎コントが開幕しているが、彼らは無視している。

 

「とりあえず、その先に用事があるんだわ。わりぃんだけど道通してくれねぇか?」

 

 ここでやっと銀時が本題を告げる。

 しかし、その言葉が出てきた瞬間。

 

「この先は危ないよ。だから入らない方がいい」

 

 と、真面目な表情を浮かべて忠告してきた。

 

「ったく、射命丸の言う通りだな……この山の奴はみんな奥へ行かせようとしねぇ」

「山自体が私達にとって大切な場所ですから……それも当たり前なんですよ。もし私が同じ立場だったら、同じことをする筈ですし」

 

 山に居る者達の気持ちが分かるからこそ、文はそんな言葉を返す。

 ここに限らず、基本的に自分達の縄張りを見ず知らずの者に踏み荒されるのは気分がよいものではないだろう。

 

「仕方ないわね……通さないって言うのなら、力づくで通るだけよ」

「だな。弾幕ごっこのお時間ってな」

 

 前に出てきたのは霊夢と魔理沙。

 弾幕ごっことなると、二人が出てくるのが必然だろうか。

 

「いいよ、全員でかかってきて。せっかくだから、新しく作った発明品の力を試してみたいからね……!」

 

 瞬間、にとりの姿が消えた。

 

「なっ、消えたアル!?」

 

 辺りを見渡す一同。

 

「どう? 新しく発明した光学迷彩なんだけど……まったく姿が見えないでしょ?」

 

 うきうきと、楽しそうに言うにとり。

 自身の発明品のこととなると、必要以上に饒舌になり、テンションも上がる様子である。

 

「ったく、姿の見えねぇ敵と戦うってのか……こりゃ妖夢連れてきた方がよかったかもしれねぇな」

 

 妖夢ならば、敵の気配を察することが可能である。

 だから、姿が見えずとも攻撃することが出来た筈だ。

 

「攻撃してこないの? ならこっちからいくよ?」

 

 どうやら動こうとしない彼らを見て、にとりが攻撃宣言をする。

 確かに、見えない敵を相手にするのであれば、無闇に動かない方が得策だ。

 だが、相手が攻撃してこないとは限らない。

 

「光学『オプティカルカモフラージュ』」

 

 赤と青の弾丸状の弾幕が、至る所から放たれる。

 それらは銀時達を狙わんとする。

 銀時と新八は木刀で斬り伏せ、神楽は日傘でかっ飛ばす。

 霊夢、魔理沙、文の三人は弾幕で打ち消している。

 しかし、

 

「何処から撃ってくるのか分からないぜ……それなら……っ!」

 

 魔理沙はその場に立ち、そして。

 

「儀符『オーレリーズサン』!」

 

 四つの球体を自身の周囲に出現させる。

 そして、

 

「銀さん! 新八! 神楽! この球体をブッ飛ばせ!」

「「「っ!」」」

 

 銀時達は魔理沙の言葉に従って、四つの球体の内、三つを斬り飛ばす。

 瞬間、それらは星型の弾幕となって辺り一面に散らばっていく。

 残りの一つは、

 

「くらえっ!!」

 

 そこから出現したのは無数のレーザー。

 このままでは周辺にいる銀時達にも当たるものと思われたが、

 

「神技『八方龍殺陣』」

 

 そこは霊夢がすかさずカバー。

 大きな結界が張られたかと思いきや、魔理沙の放った弾幕とレーザーは、その結界によって跳ね返される。

 つまり、魔理沙の攻撃と、霊夢の結界による反射が、周囲に無差別攻撃を繰り出しているのだ。

 

「くっ……!」

 

 そのあまりの密度に、光学迷彩は剥がれてしまう。

 

「姿が見えりゃこっちのもんだ……っ」

 

 銀時が攻め入ろうとしたその時。

 

「洪水『ウーズフラッディング』!」

 

 まるで辺り一面に津波が押し寄せてくるように、夥しい数の水色の弾幕が襲い掛かってくる。

 

「ここは私にお任せを! 風神『風神木の葉隠れ』!」

 

 文が前に立ち、緑色の弾幕を以て、すべての弾幕を相殺した。

 そしてそのまま扇子を使って、

 

「旋風『鳥居つむじ風』!」

 

 小さな竜巻を作り出す。

 

「ホワタァアアアアアア!」

 

 その竜巻目掛けて、神楽は日傘を閉じて弾を放つ。

 弾丸を纏った竜巻が、にとり目掛けて襲い掛かってきた。

 

「河童『お化けキューカンバー』!」

 

 弾丸を波状に放ちつつ、全方位に向けてレーザーを放つ。

 竜巻とレーザーがぶつかり合い、周囲は光に包まれる。

 

「くっ……!」

 

 そのあまりの眩しさに、その場に居る誰もが思わず目を閉じてしまった。

 だからこそ、

 

「は~い、終了~」

「えっ……!?」

 

 いつの間にか自分の背後に迫り、木刀の刃を脳天に振り下ろす直前で止められていたことに、にとりはすぐ気付くことが出来なかった。

 

「周りを見ることが出来てなかったテメェの負けだ。ここは通させてもらうぜ」

 

 銀時は木刀を仕舞うと、その場から今度こそ立ち去る。

 

「いいとこ持っていかれたわね……まぁいいわ。私の目的は巫女をぶっ倒すことだからね」

「霊夢、色々と怖いぜ……」

「遠慮なくいっちゃいそうですねぇ……」

「けど、ぶっ倒すのはいいことアル!」

「神楽ちゃんまで乗らなくていいから……」

 

 一同はその後ろをついていく。

 そんな背中を見送るにとりは、

 

「……本当、面白い奴らだなぁ。こりゃ負けても仕方ないかぁ」

 

 笑顔でそんなことを呟いていた。

 

 

 

 

 

 

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第百二訓 戦闘の際には常に相手の気配に気をつけろ

 

 



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第百三訓 水と油の関係は永遠に混ざり合えない

わんわんの御登場!!


 銀時達一行の山登りは続く。先の戦闘で少し体力を使った彼らの身体には、流石に疲労が溜まっていた。

 純粋にただ山をひたすら登り続けるだけでも体力は使われるのだ。無理もないことだろう。

 

「この先に滝があります。そこで少しばかり休憩しましょう」

「いいぜ……私も流石に疲れちまったぜ」

 

 文からの提案に対して、魔理沙が同意する。他のメンバーからの反対意見も無かったため、一度滝で休憩することにした。

 その提案がなされてから数十分後。

 

「おぉ……綺麗な滝ネ!」

 

 銀時達の前に、流れ落ちる大きな滝が現れた。今銀時達がいるのは下流付近。流れ落ちた水が湖となって溜まっている所である。山の中にあるということもあり、透き通っている。喉が渇いていたこともあり、新八はその場に しゃがみこんで、両手で水を掬う。それを口の中に含んで、

 

「わぁ……美味しいですね、この水!」

 

 その水の美味しさに感動していた。

 

「天然の水ですからね! 山の中が綺麗ならば、水も綺麗ですよ!」

 

自身が住む環境を褒められたのが嬉しかったのか、文は笑顔でそう言った。

 

「本当アル! 美味しいネ!」

 

 神楽達も新八に倣って湖の水を飲む。

 疲れ切った身体に、山の天然水が吸収されることによってリラックス効果が与えられる。それだけで疲れが癒されるのではないかと思わされるほどだった。

 

「はぁ……生き返る……こんな綺麗な滝見ながら酒でも飲めたらいいのによぉ」

「こんな時まで酒の話? けどその気持ちは理解出来るわね。一仕事終えた後に、綺麗な景色を見ながら飲む酒は格別そうね」

「おめぇは酒飲めればそれでいいんだろ?」

「あんたも人のこと言えないじゃない」

 

 酒飲みぐうたらコンビについては、こんな綺麗な場所で酒飲みたいという話をし始めている。相変わらず妙なところで気の合う二人である。流石はそれぞれの主人公といった所だろうか。

 

「どうせ今回だって、巫女ぶっ飛ばしたら宴やるんだろ?」

「やるっていうか、やらせるわよね。人をここまでコケにしたんだから、必要以上に酒かっくらってやるわよ」

「そりゃいいな。酒の在庫なくなるまで思い切り飲んでやろうぜ」

 

 銀時と霊夢の二人により、謎の計画が立てられている最中。

 

「……ん? この気配……」

 

 文は何かに気付いたかのように、辺りをキョロキョロと見渡していた。

 

「どうしたんですか? 射命丸さん」

 

 すぐ近くにいた新八が尋ねる。

 

「いえ、今あまり感じ取りたくない気配を察知したといいますか……」

「どうしたアルか? とうとうお縄につくアルか?」

「私は何も悪いことはしてないですよ!?」

 

 悪いこと『は』確かにしていない。それよりもタチの悪いことならいくつかやっている気がすると銀時は考えていたが。

 そんな時だった。

 

「なっ……!!」

 

 ほぼなんの前触れもなく唐突に、黄色と赤の弾幕が、文を囲むように張り巡らされていた。それはまるで獣が大きく口を開いて獲物を丸呑みしようとするように。

 

「突符『天狗のマクロバースト』!」

 

 一度その場で飛び跳ねた後、扇子を使ってすぐさま上へ飛ぶ。文が元々いた場所には大きな竜巻が出来上がり、取り囲んでいた弾幕は風によって消しとばされた。

 

「この狙い方をするのは一人しかいませんね……」

 

 文は、滝に視線を向けて、そして叫ぶ。

 

「椛!! 出て来なさい!!」

「もみじ?」

 

 銀時は分からないといったような表情を浮かべる。

 そんな中、文の呼びかけに応えるように、滝の裏から一人の少女が姿を現した。

白の短髪に山伏風の帽子を被り、上着は脇の空いた白い服、下は黒を基調として所々に紅葉のイラストが描かれたスカート。左手には紅葉が描かれた盾を、右手には剣が握られている。

 

「今のを避けるとは流石ですね文さん」

「今は貴女の相手をしている場合じゃないんです! 大人しく引っ込んでてもらえますか!?」

「そういうわけにもいきません。今は山全体に侵入者が来たことによる警戒態勢が敷かれている所ですから。文さんだって聞きましたよね?」

「もちろん聞きましたよ。けど、山の上に居る人達だって十分警戒するべき相手の筈です。私達はその人達の所に用事が……」

「目の前に居る侵入者を排除する方が先です」

「「……」」

 

 銀時達は察する。

 この二人、絶望的なまでに仲が悪い、と。

 

「えっと、とりあえずこの犬っころは一体誰なんだ?」

「誰が犬っころですか!! 私はこれでも白狼天狗なんですからね!!」

 

 銀時の言葉に噛みつく。

 

「名前は犬走椛……この山で見回りをしている、昔からの知り合いです」

「やっぱ犬ネ。名前についてるアル」

「天狗です!! て・ん・ぐ!!」

 

 神楽が鼻をほじりながら言う。

 やっぱり椛は噛みついてきた。

 

「めっちゃ噛みついてくるわね……」

「銀さんが犬っころって言うのも案外分かる気がしてきたぜ……」

「なんで!?」

 

 霊夢と魔理沙まで同意したことにより、とうとう椛は何も言い返せなくなってくる。

 

「もぅ……!! とにかく!! 今は侵入者を排除するのが先です!!」

「くっ……椛の分からず屋!!」

「文さんの意地っ張り!!」

 

 何故か二人による戦いが目の前で始まろうとしていた。

 

「……あれ、これ俺らいらなくね?」

「……えぇ、確かに」

「けどそれだと私達の出番が極端に少なくなるネ」

「まぁ、面倒なことを片付けてくれるのならばそれに越したことはないわね」

「とりあえず二人の戦いの結果を見てから決めようぜ」

 

 他の五人は傍観することに決めた模様。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百三訓 水と油の関係は永遠に混ざり合えない

 

 



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第百四訓 嫌いな相手を倒そうとすると自然と理解が深まる

 先に仕掛けたのは椛だった。剣を振り下ろし、いくつもの弾幕を文目掛けて張り巡らせる。

 対する文は、自身の速度を以ってして避け、それでも避けきれなかったものを、扇子で作り出した竜巻で打ち消していく。

 

「貴女に使っている時間はないんです……手早く終わらせます!」

「侵入者と共に行動している貴女を放っておくわけにはいきません。反省してもらいます!」

 

 狗符『レイビーズバイト』。

 不意打ちとして文に放ったスペルカード。赤と黄色の弾幕が、獣の牙のような形をして襲いかかるというもの。

 

「攻撃がワンパターンなんですよ!!」

 

 先程は竜巻で打ち消した文だったが、今度は弾幕の隙間を通り抜けて椛目掛けて突っ込んできた。

 

「そうきてくれると思ってましたよ!!」

 

 椛は不敵な笑みを浮かべると共に、数歩後ろに下がる。そして、

 

「山窩『エクスペリーズカナン』!!」

「っ!!」

 

 『の』の字に描かれた弾幕とともに、楕円に張り巡らされた弾幕が文に襲いかかる。

 

「それで勝ったと思わないでくださいよね!」

 

 突符『天狗のマクロバースト』。

 椛の攻撃を避ける際に文が最初に使ったスペルカード。その風を利用して、文は一度空中に飛ぶ。更に、

 

「風符『天狗道の開風』!!」

 

 椛を狙った、竜巻による射撃。

 一直線に舞う風は、敵を巻き込もうと周囲の力を借りて速度を増す。

 

「この程度で……っ!」

 

 手に持つ盾を使って、風の猛攻を防ぐ。とはいえ、その威力は絶大。地に付けている脚に力を込めて踏み止まり、

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

 防いでいた盾に力を込めて、その軌道を空中へと変える。

 

「ちぃ……相変わらずそういった小賢しいことは上手くこなしますね」

「手先が器用と言って欲しいものですね。それにしてもどうしたんですか? 防戦一方じゃないですか。もしかして柄にもなく勝ちを譲ってくれるのですか? 文さんとても優しいんですね」

「冗談言わないでください。誰が貴女なんかに勝ちを譲りますか。私はただ機会を伺っていただけですよ」

「そんな暇があるなんて随分と余裕ですね」

「そういう貴女は余裕がなさそうですね。何ですか? 手数はそれで終わりですか?」

「減らず口、噛み砕いてあげますよ!!」

 

 弾幕をぶつけ合いながら、二人は互いを貶し合う。

 

「……アイツら、本当は仲いいんじゃねえのか?」

 

 遠目で観戦している銀時がポツリとそんな言葉を零す程、互いのことを理解している様子の二人。

 

「まぁ、水と油。犬猿の仲って奴でしょうね……少なくとも私には、仲良しこよしには絶対見えないわ」

「けど霊夢、あんだけの攻防繰り広げられるのって、相当の数こなしているか、理解してないと難しいぜ?」

「たぶんその両方でしょうね……互いを蹴落とす為に互いを理解している。だからこそ、あんなやり取りが出来るんでしょう」

 

 霊夢の分析はある意味正しい。

 椛と文の二人は、元々仲は悪い方。少なくとも客観的に見て仲がいいと言えるわけがなかった。二人の間に何があったのかまで彼らは把握することは出来ない。しかし、今の関係性が成り立っているのは、互いのことを倒そうとする意思があるからこそなのかもしれない。

 

「坂田さん達! ここは私が何とか食い止めておきますから、早く奥へ向かってください! 後はその道を真っ直ぐ行けば、問題の場所まで辿り着くはずですから!!」

 

 椛の弾幕を躱し、自身の弾幕を放ちつつ、文は銀時達に伝える。

 彼女は自分が椛の相手をすることにより、時間稼ぎをしようとしているのだ。

 

「川上の方に向かってください! そうすれば神社が見える筈です!!」

「……分かった。テメェも後でちゃんと追いついて来いよ?」

「分かってますよ! 私がいないと、誰が異変の記事を書くって言うんですか!!」

「へっ! どうせ三面記事しか書けねぇクソコラムばっかのゴシップだろ? よく言うな!」

「そういうこと言っていると、また坂田さんの記事書いてやりますからね!!」

 

 銀時と文の二人は、そんなやり取りをかわす。

 互いに冗談を飛ばし合い、まるでここを乗り越えることが分かっているかのようだ。

 その態度は、椛の怒りを買う。

 

「私相手にそんな態度を取れるなんて、よくもまぁいけしゃあしゃあと……!」

「へっ! 伊達に場数踏んでないですからねぇ。見せてやりますよ? 取材で鍛えた私のスピードを!」

 

 文は更に加速し、椛まで突っ込む。

 その間に、

 

「……行くぞ。あの場は射命丸に任せておけ」

「は、はい……」

 

 銀時に続き、新八が返事をしながらついて行く。その後ろを神楽、魔理沙の順番でついて行き、殿として霊夢が後ろを守るという形をとっている。

 その一方で、文と椛の戦いにも決着がつこうとしていた。

 

「あまり時間をとれません。これで終わりにします」

「随分と上から目線ですね……後悔しても知らないですよ?」

「後悔なんてしませんよ。私の目的はもうほとんど果たせたも同然なんですから」

 

 二人は互いに全力の攻撃を与える為に、構える。

 そして――。

 

「幻想風靡!!」

「牙符『咀嚼玩味』!!」

 

互いに全力を振り絞った攻撃が、辺り一面に散らばっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百四訓 嫌いな相手を倒そうとすると自然と理解が深まる

 

 

 




この勝負の決着は、敢えて見せないようにしました。
どっちに軍配が上がったのかは、恐らく物語が展開していくにつれて明らかになっていきますしねー。
何にせよ、椛さんってばスペルカードがダブルスポイラー合わせても三枚って少ないんですよ……。


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第百五訓 適度にスッキリさせなければいつまでも溜まってしまう

 川の流れている所を歩いていく銀時達。文の言葉を信じるならば、このままずっと上へ登っていけば問題の神社まで辿り着くとのことであった。あの場面で嘘をつくわけがないので、銀時達は無条件で信じていた。

 

「もう少しであの巫女ブッ飛ばせるのね……今からどう調理してやろうか楽しみだわ」

「霊夢、もう少し怒りのボルテージ抑えるんだぜ……冷静な判断出来なくなっちまってるぜ……」

 

 霊夢は天誅を下すことで頭がいっぱいなご様子。

 そんな彼女を必死に宥める魔理沙という何とも新鮮な図が生まれていた。

 

「霊夢がいつもにまして迫力あるネ」

「場所が近づくにつれて、溜め込んでた怒りがヒートアップしてきているんですね……」

「あ、ちょっと待ってくれ」

 

 ここで銀時が一同に止まるよう指示する。

 

「どうしたんですか? 銀さん」

 

 気になった新八が尋ねる。

 すると銀時は、

 

「テメェらちょっと先行っててくれ。俺もすぐ追いつくから」

「一体何があるっていうのよ?」

 

 少しは怒りを抑えた霊夢が銀時に尋ねる。

 銀時は川を見ながら一言。

 

「川見てたら、ちょっとションベンしたくなったからここで……」

「アンタ今最低な台詞吐いてるぜ!?」

 

 出来れば聞きたくなかったと思ってしまった魔理沙なのだった。

 霊夢の顔には青筋が浮かんでいる。

 

「だから先行けっつったろ? すぐ追いつくって。ちょっくらすっきりするだけだから」

「知らないわよ!! こんな時にアンタってば何考えてんのよ!!」

「仕方ねぇだろ……出ちまうもんは出るんだからよ。俺だって我慢してたんだよ」

 

 特に悪びれる様子もなく銀時は言う。

 神楽と新八の二人は、『あぁいつものだ』と言わんばかりの表情を浮かべている。

 シリアスが続くとたまに忘れてしまうのだが、坂田銀時という男はチャランポランな一面も兼ね備えている。今回はその部分が如実に現れてしまっていることの表れなのだろう。

 

「……漏らされても困るわ。私達は先に行くから、すぐ追いつきなさいよ」

 

 怒っても仕方ないと思ったのか、霊夢は歩き出す。

 心なしか、先程よりも怒りは少し収まっているようにも見えた。

 

「んじゃ、銀さんもすっきりさせたら来るんだぜ」

 

 魔理沙も、なるべく銀時の方を見ないようにしながら霊夢の後を追う。

 新八と神楽の二人もその後を追い、とうとう銀時は一人になった。

 

「よしっ」

 

 銀時の銀時を取り出して、所謂立ちションをする。

 心地よい音が奏でられて、銀時の心を穏やかにする。

 それは綺麗に流れる川に向けて、綺麗に発射される。

 だからこそ銀時は気付かなかった。

 

「ちょっ!? なにしてるの!?」

「あ?」

 

 川下の方で、今からもれなく水を飲もうとしていた二人の少女の存在に。

 

「私達が水を飲もうとしてるの分かってて、こんな所で用を足そうとしてたの!?」

「み、穣子ちゃん、落ち着いて……っ」

「静葉ちゃん、これが落ち着いていられるの!? もう少しで私達、汚い水飲まされるところだったんだよ? あんな天然パーマの体液が、神様である私達の身体に沁み込まれてしまう所だったんだよ? 汚される所だったんだよ?」

「おいちょっと待て。人を病原菌みたいな扱いすんな?」

 

 穣子と静葉と互いを呼んだ少女。

 しかもその内、穣子から酷い風評被害を受ける銀時。

 

「ってか、今お前神様っつったか?」

 

 何より、自分達のことを神様と称した少女。

 それに対して、穣子が答える。

 

「その通り!」

「私達は、秋を司る神なの……」

 

 続く形で、静葉も控えめに答える。

 それに対して、銀時が一言。

 

「あー……そういう遊びは余所でやれ?」

「アンタ真面目に聞く気ある? 祟るよ?」

「私達祟り神じゃないからそんなの無理だよ穣子ちゃん……」

 

 銀時目線で見れば、小さい子が自分達を神様だと称して遊んでいるようにしか見えない。

 ただしここは幻想郷だ。どんな存在が居たとしてもおかしくはない。

 

「んで、その紙様とやらが何してんの?」

「待って。なんか漢字違う気がするんだけど。気のせい?」

「気のせいだろ金髪ボブ」

「それだと私なのか静葉ちゃんなのか分からないよ?」

「そっか。じゃあ金髪アホボブ」

「アホってなんで!?」

 

 ひたすら銀時に遊ばれる穣子。

 そんな彼女に対して、オロオロとしながらどうしたらいいか分からなくなっている静葉。

 

「っと、このままじゃ追いつけなくなるわ。なんか知り合い曰くこの山危険だっつーことだから、テメェらも気をつけろよ」

「「え?」」

 

 静葉と穣子はきょとんとしていた。

 そんな彼女達の反応に対して、銀時もきょとんとする。

 

「どした? 鳩が豆鉄砲を食ったような表情浮かべて」

「い、いや、なんでもないよ……?」

 

 静葉が答える。

 

「というか、アンタは何しに来たの? そんな危険な山に」

「俺か? あー……巫女退治?」

 

 頭を掻きながら銀時が答える。

 その言葉を聞いた瞬間。

 

「「……あっ」」

 

 静葉と穣子の二人は、あることに気付く。

 それを確かめる為に、

 

「もしかして……坂田銀時?」

「え? 俺のこと知ってんの?」

「やっぱり……」

 

 穣子が名前を尋ねると、銀時はその通りだという反応をした。

 ここで彼女達は確信する。

 

「あの、緑髪の巫女には注意してね?」

「は?」

 

 静葉が銀時に、忠告(?)をする。

 何のことかさっぱり分からない銀時だが、とりあえずその場を後にすることに。

 

「……ねぇ、静葉ちゃん」

「何? 穣子ちゃん」

「あの男……多分あの神社で巫女がドハマりしてるっていうお侍さんだよね?」

「うん……そうだと思う。聞いてた話と一致するし」

「……あれ、かっこいい?」

「……うーん……」

「チャランポラン……木刀……天然パーマ……どうしよう、あの巫女がハマっている理由がまったく分からない」

「ごめん……私も……」

 

 銀時が去った後、二人の姉妹はそんな会話をしていた模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百五訓 適度にスッキリさせなければいつまでも溜まってしまう

 

 

 



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第百六訓 やばい相手かやばくない相手かは気配でなんとなく分かる

「あ、追いついたのか銀さん」

 

 少し小走りで銀時が上の方まで向かうと、神社の前にちょうど辿り着いたらしい魔理沙達が居た。

 

「まぁな。スッキリしてきたぜ」

「そりゃよかったわね。これから私もスッキリしてくるわ」

「それテメェだけじゃなくて、相手の頭もスッキリ空っぽにならない? 大丈夫? 殺戮パーティー現場にならない?」

「安心なさい。峰打ちにするから」

「霊夢さんの武器の何処に峰が存在するんですか!?」

「五月蠅いわね眼鏡。いちいちツッコミしてないと呼吸も出来ないの? 死ぬの?」

「余計なお世話だゴラァ!!」

 

 霊夢からの言葉に新八はキレる。

 どうやら霊夢は、敵地を前にして少しピリピリしている様子だ。何かと誰かに当たらないと気が済まない感じらしい。それでも少しマシになっているのは、川下で銀時にある程度怒りをぶつけておいたからだろう。

 

「ぼさっとしないでさっさと中に入るアル。早くケリつけて美味しい料理食べるネ!」

「もう宴の話に持って行ってるぜ!?」

 

 流石と言うべきか、なんというべきか。

 神楽の頭の中には、既に食べることしか存在していないのかもしれない。やはり万事屋メンバーは通常運転なのだろう。決戦を前にしてこの緊張感のなさである。

 

「そうは言いますけど……多分、あそこに居る人、思い切り犯人ですよね?」

 

 新八が指差した先には、一人の女性がいる。

 着ているものが巫女服であることから、恐らく霊夢の元に手紙を送ったのは彼女であることが予想される。

 ただし、問題なのは――。

 

「なんであの人、頭に鉢巻巻いてるんですかね……」

「それだけじゃないぜ……なんか横断幕作ってるぜ……」

「銀ちゃんの名前が入った扇子を持ってるアル」

「……私、あんなアホに脅迫状送りつけられたの?」

「てか、なんで俺の追っかけみたいになってんのあれ」

 

 軽く銀時は身震いさせる。

 緑髪の少女は、もう見るからに目を輝かせながら、鳥居の前で待機していた。

 それはまるで、アイドルの出待ちをしている熱烈なファンのような――。

 

「あとは任せた。俺が行くとろくな目に遭わない。絶対これ嫌な奴だ」

「逃げる気?」

「ありゃ逃げたくもなるだろ!! 一歩間違えればストーカー間違いなしのやべぇ追っかけになんぞ!! てか、銀さんあんな奴見たこともねぇんだけど!?」

 

 霊夢の挑発が入るも、それよりも少女の奇行があまりにも怖すぎるといった感じの銀時である。

 見ず知らずの少女にいきなり追い掛け回される危険性が出てきているのだ。無理もない話だろう。

 何よりあの少女――東風谷早苗に、常識なぞ通用しない。

 

「おかしいですね……今確かに、銀時さんの気配を感じたんですが……会ったら必ず……うふふふ♡」

 

 辺りを見渡しながら、早苗は何かを呟いている様子。

 彼女の周りからは、桃色と黒色の混じったやばいオーラが湧き出ている。

 

「やべぇよあれ絶対やべぇよ取って食われる奴だよあれ。あんな少女に銀さんのタマ取られちまうよ。二重の意味で」

「何変に伝わりにくい下ネタぶっこんできてるんですか。さっきスッキリさせたんじゃないんですか?」

「いやスッキリさせるにしても、ションベンだからな? 別に一発してきたわけじゃ……」

「さっきからアンタら何の話してるんだぜ!?」

 

 顔を真っ赤にしながら魔理沙が反応する。

 

「何アルか? 今更純情ぶるアルか? ガキんちょネ」

「ガキでもいいよ! 私は別に下ネタ耐性あるわけじゃないんだぜ!?」

「それでもツッコミとして生きていく気あるの魔理沙? 情けないわね」

「情けなくていいぜ!? ああもう突撃するぞ!!」

 

 この空気から脱する為には、攻め込む必要があると判断した魔理沙。

 だからこそ魔理沙は、先陣を切って単身で乗り込む。

 

「やい緑巫女! 博麗神社に変な予告状叩きつけてきたのはお前だな!! この私、霧雨魔理沙が成敗しに来てやったぜ!!」

「……今貴女に用はないので、下がっててもらっていいですか?」

「なっ……」

 

 魔理沙のことなどさほど興味なさそうな感じで、早苗は追っ払おうとする。

 

「あ、もう今の私は、正直乗っ取りとかどうでもいいので。私はただ、坂田銀時さんを篭絡させることが出来ればそれで幻想郷を私達の物に出来るし、何より私も幸せになれるんじゃないかなーって考えてるので。博麗神社ならもう大丈夫ですよ? そんなことしなくても信仰集められそうだなーって思い始めてましたし」

「ちょっとーっ! 早苗!? そんなことないよ!? 全然必要だよ!? 何もうグータラモード突入しちゃってるのーっ!?」

 

 あまりの変貌っぷりに、影からもう一人――諏訪子も出てきてしまったようだ。

 

「は? え? 増えた?」

 

 魔理沙は流石に混乱する。

 更に。

 

「駄目よ早苗。私達の目的は、博麗神社を手に入れて信仰を増やすこと。坂田銀時は倒すべき相手だし、何より貴女と手合せさせないって言った筈よ?」

「いいえ神奈子様。私は銀時さんとは戦いませんよ。銀時さんを守矢神社に婿養子として来てもらうだけです♪」

「それが駄目だって言ってるでしょーが!! 目を醒まして早苗!! チャランポランの『マダオ』侍に神主なんて務まらないから!!」

「誰がマダオ侍だこのガキィイイイイイイイイイイイイイ!!」

 

 諏訪子の言葉を拾ってしまった銀時が、つい前に出てしまった。

 このままもし隠れてやり過ごしていたら、もしかしたら銀時は会わなくて済んだかもしれないのに。

 しかし、だが、しかし――。

 

「ほ……本物の銀時さんキターーーーーーーーーー!!!!!」

 

 凄まじい勢いで、早苗は銀時の元へ駆け寄ってきた――。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百六訓 やばい相手かやばくない相手かは気配でなんとなく分かる

 

 




おかしいなぁ……もう少し早苗さんを常識ある感じに書くつもりだったのに……どうしてこんなことに……。
というか今回の話、どう転んでもシリアスにならないんですけど……。


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第百七訓 どう足掻いてもシリアスにならない時は潔く諦めることも肝心

「きゃーっ! 本物の銀時さんだ!! 天然パーマも諏訪子様や神奈子様から聞いた通りですし、何より本当に木刀一本でここまで乗り込んでくるなんて!! まさしく侍!! 私の世界で見た通りの一騎当千獅子奮迅の漢って感じがします!! 握手していいですか? ていうか抱きしめていいですか? ああもうやっぱり守矢神社で一緒に暮らしましょう!! いいですかこれはもう確定事項なんですお持ち帰りしちゃいますね!!!!」

「何こいつめっちゃこえぇんだけど!?」

 

 目をグルグルとさせながら、銀時を執拗に狙う早苗。

 銀時は最早恐怖しか感じない。身体が自然と震え出す。

 彼女のそれは、ヤンデレと称するものなのではないだろうか。

 

「……本当、なんでこんなアホみたいな奴に博麗神社狙われなくちゃならないの? ぶちのめしていいかしら? いいわよね? 意見は求めないわ。ブッ飛ばす」

「霊夢ーっ!! 落ち着くんだぜー!! 早まるなーっ!! どう考えても敵は一人だけじゃないんだから、それ以上は駄目なんだーっ!!」

 

 

 怒りに身を委ねてすべてを破壊し尽くさんとする霊夢を必死に止める魔理沙の図。

 

「……ねぇ、神奈子」

「何、諏訪子」

「これ、どうする?」

「……もう戦闘するっていう感じじゃないと思う。あの暴走巫女二人組をどうにかするのが先だと思う。このままだと地獄絵図よ」

「だよねぇ……うん、私達で早苗は何とかしよう」

 

 諏訪子と神奈子は、話し合いの結果、今回は余計な戦闘をすることなく、まずは巫女二人を落ち着かせないことには話が始まらないと判断したらしい。

 神奈子は新八と神楽に対して、

 

「そっちの巫女については任せるわよ。自己紹介とか、今回の事件に関する経緯とか、色々説明しなきゃいけないことはあると思うけど、このままだと話し合いの場を設けることすら出来ない気がするから……」

「分かったアル」

「確かに、このままだと地獄絵図間違いなしだ……」

 

 神楽と新八は納得し、引き受ける。

 

「あの、私東風谷早苗って言います!! 坂田銀時さんの話はいろいろ聞かせて頂いてますし、凄く興味を持ってるんです!! あ、でもこれからは東風谷銀時さんですね? はぁ……結婚生活凄く楽しいんでしょうね……チャランポランな貴方を私が支えるのも悪くないですし……あぁ……今日こうしてお話出来るのは運命なんでしょうねぇ……こうしてみると、その死んだ魚のようなした目も凄く癖になってしまうというか、ずっと見ていたくなるっていいますか……」

「もしもーし? 勝手にしゃべってる所申し訳ねぇんだけど、なんか随分話飛躍してるんだけど?」

「きゃーっ! 銀時さんの声、私の身体に沁み渡ってきます!! あぁ……もう、本当貴方の存在は何処まで常識外れで魅力的何ですかっ!! 何ですか!? 私を孕ませたいんですか!?」

「話しかけただけで勝手に発情してんじゃねえよ!! テメェは常時惚れ薬でもキメられてんのかコノヤロウ!!!!!」

「そんな……惚れてるだなんて……っ」

「都合のいいように解釈してんじゃねえぞ!? テメェのことなんざこれっぽっちも想ってねぇからな!?」

「もう抱きしめちゃいますね。ずっと離さないように私が守ってあげますからっ」

「こっちくんな!! 何も嬉しくなんざ……なんざ……っ」

 

 銀時も男だ。

 早苗の持つ凶悪な武器を相手に、少し動揺してしまった。

 もし、こんな豊満なメロンパンに自分が包まれたら……一体どうなってしまうのか?

 結論から言うと、坂田銀時はただの変態だった。

 

「おいちょっと待てチャランポラン。その反応は一体なんだ? 私達の早苗を相手に何変なこと企んでるんだ? ここで磔にするぞ? 神の裁きを受けるか?」

「神奈子ーっ!! 待って!! さっきの発言は私も見過ごせない所あるけど、今は事態を余計ややこしくしちゃいけない時だってばーっ!!」

 

 銀時の反応は、神奈子の怒りにも火をつけてしまったようだ。

 そんな彼女を必死に宥める諏訪子の図。

 

「もう、いつまでも私を待たせないでください銀時さん……っ」

「ギャアアアアアアアアアアアアア!! クンナァアアアアアアアアア!!」

 

 思い切り抱き着こうとしてくる早苗。

 一度は下心に負けそうになった銀時だったが、やっぱり早苗に対する恐怖の方が勝ったようだ。早苗が近づいてくるのを、ほぼ条件反射的に逃げ出していた。

 

「……ねぇ魔理沙。私、このやり場のない怒りを何処にぶちまければいい? 私にあんなふざけた脅迫状を送り付けてきた挙句、そんな計画はどうでもいいと言われた上、なんであんな光景見せつけられなくちゃいけないの? もういいわよね? あの二人まとめて始末するのでいいわよね?」

「いいわけないぜ!? だからお願いだから弾幕放とうとするのはやめるんだぜ!! 今はまず相手と話し合うのが先決だから!!」

「そうね。『O☆HA☆NA☆SHI』は大事よね。人の『O☆HA☆NA☆SHI』はしっかり受けなきゃいけないと思うの」

「それ絶対違う話し合いですよね!? 話し合いっていうか殴り合いですよね!? 駄目ですからね!! 今ここでやるべきことじゃないですからね!?」

 

 ツッコミ二人組が、色んな怒りがごちゃ混ぜになっている霊夢を必死に止めている。

 神楽もまた、霊夢が前へ行かないように必死に足止めしている。

 

「待ってください銀時さん! 貴方の帰る家はこちらにあるんですよ!!」

「テメェの婿になるつもりなんざサラサラねぇわコノヤロウゥウウウウウウウウウウウウウウウ!!」

 

 最早神社乗っ取りとかそういう類の話し合いがまともに出来るような状況ではない。

 最初の方は割とシリアスも混ざっていた気がするのに、果たしてどうしてこうなってしまったのだろうか。

 

「チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 銀時の叫び声が、辺り一面に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百七訓 どう足掻いてもシリアスにならない時は潔く諦めることも肝心

 

 




本当に申し訳ないと思っているんです……。
ですが……今更シリアスに戦いムードへ持って行けなかったんです……。
早苗さんが思った以上に暴走してしまいました()
一応、まだまだこのエピソードは続きます。


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第百八訓 冷静になれば見える道もある

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「一体、上の方ではどうなっているのでしょうか……」

 

 射命丸文は、川上に向かって移動していた。

 先の戦いでは、結局引き分けに終わった。しばらくの間二人は動けず、痛み分けをするような形となっていたのだ。それでも先に目覚めた文は、銀時達に追いつく為に自身の速さを存分に利用していた。

 今もしかしたら、壮絶な戦闘が繰り広げられているのかもしれない。一応今回の自分は、守矢神社までの道案内を任されていた身だ。そんな彼らがもしやられてしまっていたとしたら――?

 

「一刻も早く、前へ……っ!」

 

 駆ける。

 飛ぶ。

 駆け抜ける。

 やがて彼女は目的の場所まで到達し、そしてそこで、

 

「……は?」

 

 彼女にとって、特ダネとなり得るような光景が繰り広げられていた。

 

「クンナゴラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「待ってください銀時さん!! どうして逃げるんですか!? 私はこんなにも貴方のことを想っているのに!!」

「その態度がクソこえぇんだよ!! いやなんかもう面倒な追っかけでしかねぇじゃねえかふっざけんな!!」

「白夜叉ァアアアアアアアアアアアアア!! 神の名において命ずる!! 死ぬがよい!!」

「神奈子待ってぇえええええええええええ!! 今は抑えてぇええええええええええ!!」

 

 死への追いかけっこを繰り広げている一同。

 

「神楽、どいて、そいつら殺せない」

「駄目アル!! 目がぐるぐる回っているアル!! やばい奴になってるネ!!」

「落ち着くんだぜ霊夢!! 話し合いで解決するんだろ!? 今ここで殺してしまうのは意味が分からないぜ!」

「そうですよ霊夢さん!! 戦闘なしで解決出来るならいいことじゃないですか!!」

「五月蠅いわね!! とにかくアイツをブッ飛ばさせなさいよ!!」

 

 霊夢が暴れ回り、それを必死に宥める一同。

 つまるところ、カオス。

 

「……なんですか、これ」

 

 茫然と見守る文。

 少し身体の力が抜けるような感覚さえ覚えた。何せ張り詰めた空気が一気に抜けたのだ。仕方のないことである。シリアス全開でいくのかと思われた中での、こんな感じ。

 文は安心したと同時に、

 

「……よし」

 

 何かを決意したかのように呟く。

 そして、

 

「特ダネ☆ゲットだぜぇえええええええええええええええええええ!!」

 

 余計に事態をややこしくするのだった。

 

 

「で、結局なんでこんなことしたんだぜ」

 

 仁王立ちで話を切り出したのは魔理沙だった。

 魔理沙の隣には新八が控えている。神楽はというと、今にも暴れ出しそうな霊夢を羽交い絞めにしていた。

 一方、神奈子と諏訪子の二人はというと、早苗を挟むように立っている。早苗の腕をしっかりつかんで、暴走しないようにしているのだ。挟まれている早苗は観念したかのように、暴走することはなさそうだ。

 そして銀時はと言うと、

 

「おいテメェその写真消しやがれ!!」

「いやですー! 私あんだけ頑張ったのにご褒美ないなんてつまらないじゃないですかー! そこで撮れた坂田さんのベストショットなんですから、今回の新聞に使わせていただきますからね!!」

「ヤメロォオオオオオオオオオオオオ!! もうやばいことになる未来しか見えねぇからヤメヤガレェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

 という感じで、文と追いかけっこをしていた。

 早苗は悔しそうにその様子を見るも、神奈子と諏訪子ににらまれて反省する素振りを見せる。

 そして、当初の魔理沙からの質問に対して、神奈子が答えた。

 

「私達はまだこの幻想郷に来たばかりの存在なのよ。外の世界で信仰を得られなくなった私達は、早苗からの提案もあって、信仰を得られる場所へと移動しようとしたわけ。そこで思いついたのが……幻想郷という新たな土地で、新たな信仰を得ることだった」

「神様である私達にとって、信仰は存在する為に必要なものだからね。早苗には本当辛い想いをさせたと思うけど、それでも一緒に来てくれて……そんな中で、この幻想郷には既に博麗神社という神社があるということを知ったのさ。もしそこに参拝者が募っているのだとしたら、このまま私達が神社を残存させようとしたところで、いずれ信仰がとられてしまう……だからわざと怒らせるような手紙を送ることで、冷静さをなくそうとしたわけ」

 

 諏訪子が続く形で話をする。

 その間、早苗はもう動く気がまったくなく、むしろ二人に対して申し訳ないというような表情を見せていた。

 

「なる程。それでこうしてアンタ達は計画を企てたってわけなんだぜ……」

「えぇ。これが全部のあらすじよ。今回の一件に関して、乗っ取ろうとする以外に考えが浮かばなかったのよ。だからこそ……」

 

 神奈子が続けようとして、そこで、

 

「何よ、そんな単純なことだったのね。なら解決策位出してやるわよ」

 

 冷静さを取り戻した霊夢が、前に出た。

 神楽が羽交い絞めしなかったとしても、もう暴れる様子はなさそうだ。

 

「どういうこと?」

 

 諏訪子が尋ねる。

 そして霊夢は、今回の異変を解決に導く一つの提案をするのだった。

 

「アンタ達の神社の分社を、博麗神社に作ればいいのよ。そうすれば、私達の神社同士つぶし合うこともなく、そしてそのまま信仰も手に入れられるという算段よ。どう? お互いにとって悪くない話だと思うけれど」

 

 その提案に対して、彼女達が出した答えは――。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百八訓 冷静になれば見える道もある

 

 



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第百九訓 時として情報は人の考えを左右する

気付いたら文字数30万字を突破しておりました……。
すごい……。


 博麗神社乗っ取り未遂事件から一夜明けて、場所は紅魔館。美鈴はいつも通り門番の仕事をしつつ寝ていて、咲夜がそんな彼女に対して説教をし、パチュリーと小悪魔が図書館の整理をする中、レミリアとフランの二人は咲夜が淹れてくれた紅茶を楽しんでいた。

 

「お姉様、最近本当に楽しいね」

 

 紅茶を飲みながらニコニコと語りかけてきたのはフランだった。聞き手であるレミリアもまた、笑顔で答える。

 

「そうだな。こうして二人でじっくり楽しめるのも……ギントキのおかげなんだな」

「うん。ギン兄様があの日、私に語りかけてきてくれなかったら……そしてお姉様とけんかしていなかったら……きっと私は今でも地下室に閉じこもったままだったと思う。お姉様のこと大好きだから、あのままもしいつまでも地下室にいて誰にも会えなかったのかもしれないと思うと……だからね、今の楽しい時間をしっかり満喫するの!」

 

 フランドール・スカーレットは、自身の感情を抑圧しすぎたあまりに狂っていた。そんな狂気が取り除かれ、心からの本音をぶつけてわかり合ったあの日、彼女達の時間は動き始めたのかもしれない。

 そんなきっかけを与えたのは、坂田銀時という一人の侍。

 

「私、ギン兄様のことがすごく大好き。多分この気持ちはお姉様に対する好きとか、屋敷の人に対する好きとは違うんだって思うの」

「……そうか。そうだな」

 

 フランドール・スカーレットは、坂田銀時に恋をしている。自他共に認められた事実。

 レミリアからしてみれば、妹が抱いた大切な感情。それを壊して欲しくないし、出来ることならば幸せになって欲しいと思っている。もはや彼女達にとって坂田銀時はいなくてはいけない存在となっているのだ。

 だからこそ、レミリアは時々不安を抱く。自分達でこうなってしまっているのだから、幻想郷に住む他の人は一体どうなっているのだろうか。同じような状態になっているのだとすれば、坂田銀時が幻想郷からいなくなってしまう日が訪れた時、果たしてこの世界はまともな状態を保っていられるのだろうか……。

 

「お姉様?」

「ん?」

 

 レミリアが思考の世界に没頭していると、心配そうな眼差しをしながら覗き込んでくるフランの姿があった。

 レミリアは彼女の頭を撫でながら、

 

「なんでもない。少し考え事をしていただけだよ」

 

 と、優しく語りかけた。

 願わくば、今のままの時間が続けばいいのにと思うのに、彼女の能力を使って導き出された運命には、『坂田銀時に訪れる死』が待ち受けている。

 厄介なのは、『どうして坂田銀時にそのような運命が待ち受けているのか』というのが分からない所だ。解明しようにも謎が残るだけ。彼女の能力によって見える光景はその点だけなのだ。

 

「……」

 

 彼女はこれからも、フランの幸せを祈り続ける。その上で坂田銀時の存在は欠かせないものだと確信しているので、彼の命を脅かす者が現れたとしたら、恐らく──。

 

「号外ーっ! 号外ーっ!!」

 

 その時、レミリアの思考を妨害するように、号外を持ってきた射命丸文が現れた。

 

「あ、ギン兄様が言ってたマスゴミの人だ!」

「ちょっと!? なんでその覚え方で通ってるんですか!? 私は清く正しく美しく、何処よりも素早く情報をお伝えする文々。新聞の新聞記者、射命丸文ですよ!! マスゴミって単語流行ってるんですか!?」

「アンタを表すにはちょうどいい単語じゃないか。身の丈に合ってていいぞ」

「どういうことですかー! せっかく号外として坂田さんの情報が入った新聞をお届けに参ったのにー!」

「ギン兄様の!?」

 

 いち早く反応したのはフランだった。

 彼女としては銀時の様子について気になるのだろう。

 彼が新聞に出るということは、つまり何かしらの異変に巻き込まれていたことを指しているのだから。

 

「なるほど。また何か異変が起きたわけか」

「そうなんですよー。今回は博麗神社を巡った戦いがありまして……それがいつのまにか坂田さん争奪戦になりつつあったものでしたから……」

「「ん??」」

 

 文の説明を聞いた二人が、そこでハモる。それはもう綺麗にハモった。気になる点が全く以って同じだったからだ。

 

 

「今、なんて言った?」

 

 レミリアが尋ねる。

 

「だから、博麗神社争奪戦……」

「ちがう、その後。なんか聞き捨てならない単語が聞こえてきた気がするの」

 

 追撃するはフラン。

 文は『しまった』という表情を浮かべている。彼女たちに対して銀時の話題を出すということは、それだけ追求されることを意味しているからだ。

 それに、文はフランの気持ちを理解している。ある程度ならば新聞のネタとして消化出来るとは思われるが、今回については果たしてどうなることやら。

 かと言って、一度いってしまったことは撤回することは出来ない。

 

「……ここに新聞置いていきますので、あとは読んでみてください!!」

 

 故に彼女は逃亡した。

 新聞をテーブルの上において、自身の速度をフル活用して、脱出。

 

「……これね」

 

 レミリアが新聞を手に取る。

 フランは隣にやってきて、レミリアと共に新聞を読む。

 そこに書かれていたのは、

 

『巫女同士の熱いバトル! 婿養子を手に入れるのは果たしてどっちだ!?』

 

 という、ゴシップ記事顔負けの煽り文句と、早苗に追いかけ回されている銀時の姿。

 

「「…………」」

 

 二人は言葉を発しない。

 

「……これ、ナニ?」

「……なんだろうな」

 

 フランの目はぐるぐるとなっていて、レミリアは内心動揺している。

 

「記事のトップは割とどうでもいいの。だけど、この記事に写ってる女の人……一体誰なんだろう……」

「…………」

 

 彼女達はある意味銀時を信用している。

 故に銀時からこんな話を吹っかけるわけがないということを理解している。

 だが、それでも納得出来ないのは、写真に写っている少女の存在。つまり、東風谷早苗の存在が許せないのだ。

 今にも銀時に抱きつこうとしている、その少女の写真が。

 

「……お姉様。宴が楽しみだね」

「……そうね」

 

 最早宴がどうなってしまうのか、今から不安で仕方ないという感じのレミリアであった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百九訓 時として情報は人の考えを左右する

 



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第百十訓 人はいつどこでスタンばっているのか分からない

 異変解決後。

 万事屋銀ちゃんを背景にしたいつも通りのBGオンリー。

 

「いやぁ、今回は大きな戦闘もなくて本当によかったですね」

「あっちの神社側も、博麗神社に分社を建てることで納得してくれたからなぁ」

「あの時の霊夢は凄く怖かったアル……正直あまり関わりたくなかったネ」

「怒りに身を任せてたもんだからなぁ。向こうの巫女もなかなかにやべぇ奴だったしな」

「早苗さん、でしたっけ? 凄い美人さんなのに常識を何処かに置いてきてしまったみたいな人でしたからねぇ」

「よかったアルな銀ちゃん。銀ちゃんの追っかけが新たに誕生したネ。喜ばしいことアルよ」

「あんなしつこい追っかけ最早ストーカーと変わりねぇだろ!! やってることがさっちゃんとあんまし変わらないからな!?」

「追いかけ回されている様子とか写真撮られてましたからね……多分新聞に載りますよね、あれ」

「そして面白おかしく書かれるアル。銀ちゃんの記事がまた大々的に報道されるネ」

「勘弁してくれよな……頼むから誤解を生むような書き方だけはしないでくれよ……」

「それを祈るだけ無駄な気はしますけどね。実際誤解を生む光景であることには変わりないんですし」

「諦めも肝心ヨ、銀ちゃん」

「諦めたら試合終了なんだよ!! あの先生だってそう言ってたじゃねえか!!」

「どういうところで怒ってんのアンタ!?」

 

 と、いつもの調子で会話を続けている三人。

 百話を超えたところで三人のやり取りにほぼ変化はなく、常識から外れることもあまりない。

 そしてそんな三人のところに、来訪者が訪れるのもまたいつも通り、なのだが……。

 居間の襖が、ガタッという音を立てて揺れる。

 

「ん?」

 

 彼らのいる居間の襖は、幻想郷とかぶき町を結ぶ場所となっている。つまりはそこから誰かが登場してくるというわけなのだが、

 

「物音はしたのに入ってきませんね?」

 

 新八の言う通り、間違いなく誰かが来ているはずなのに、その襖は未だ開かれないまま。それでもガタガタと音は鳴り続けている。

 

「なんかもうホラー映画とかの何かにしか思えないアル……」

「そんなばかなぁ。ゆ、ゆうれいなわけ、ないじゃあないかぁ」

「何いきなり変な喋り方になってんすか!?」

 

 新八が思わずツッコミを入れる。

 何を隠そう、坂田銀時は幽霊が苦手だ。そもそも今の時間帯的にも幽霊が現れるような時間帯ではないし、何より九割の確率で幻想郷からの来訪者なのだが、一度言われてしまうとなかなか取り払えないもの。

 段々とガタガタ音は大きくなっていき、そしてそこから――っ!!

 

「銀時さーんっ!!」

 

 常識に囚われない女(東風谷早苗)が、満面の笑みと共に現れた。

 

「ギャアアアアアアアアアア!!」

 

 ある意味今話題のホット人物。

 そんな彼女は、銀時の姿を確認すると猛ダッシュで近付いてきて、逃げ場のない銀時に向かってダイブ。もちろん銀時はそのまま後ろにぶっ倒れる。フランではないのだ。体格が違いすぎる。

 

「アビィイイイイイイイイイイ!!」

 

 なんと形容したら良いか分からない叫び声をあげながら、転倒。

 その上に早苗が覆いかぶさるという構図。

 傍から見ると襲われているようにしか見えない。

 

「銀時さんに一日でも早くお会いしたかったんです!! 最近は宴の準備でほとんど銀時さん成分を補給出来ていなかったですから!!」

「おめぇちったぁ常識ってもん知らねぇのか!?」

「幻想郷では常識にとらわれてはいけないんですよ!」

「ここ幻想郷じゃねえからな!?」

 

 なんと潔い程までの暴走っぷりである。

 ここまで暴走出来るのならば、心配する必要もそこまでなさそうだと思わせられる。

 

「ところで、今日はどうされたのです? 宴の準備とかは……」

 

 新八が話を進めようとする。

 すると早苗は、

 

「あ、思い出しました! 宴の準備が整ったので、無理言って私が迎えに行けるようにおどs……頼み込んだんですよ!!」

「今完全に脅したって言いかけましたよね!? アンタ一体向こうで何してきたんですか!?」

 

 聞き逃すことをしない新八。

 確かに彼女は今、脅したと言ったように思えた。

 当の本人は知らんぷりである。

 

「ここまでシラを切るとむしろ潔いアル。軽く尊敬するネ」

「銀時さんにお会いしたかったので♪」

「俺はテメェなんざ願い下げだ!!」

 

 何とかもがいて脱出した銀時。

 と、そんな時。

 

「ふはははは! その者の言う通りだ銀時! 常識にとらわれてしまっては何事も上手くいかんぞ!!」

 

 何故か、机の下から桂小太郎が出てきた。

 

「なんでテメェが机の下から出てくるんだヅラァアアアアアアアアアアア!!」

「ヅラじゃない桂だ!! これくらい、常にスタンばっていたら当然のことだろう」

「いつからスタンばってたんですかアンタは!?」

 

 彼のスタンバイ精神は見習う所があるのかもしれない。

 

「あの、貴方は?」

 

 桂の登場で少しだけ気を取り戻した早苗。

 一方の桂は、

 

「これは失敬。俺は桂小太郎。常識に囚われないAB型だ!」

「今血液型知らせる必要ありましたか!?」

 

 何故か血液型を強調してくる桂。

 思わず新八はツッコミを入れてしまった。

 が、早苗は。

 

「凄い! 常識に囚われない仲間がこんなところにも!! あ、私は東風谷早苗です!!」

「早苗殿。其方は見どころがある!」

「ありがとうございます!! ですが、私はもう銀時さんの妻ですので……っ」

「誰がいつテメェの妻になったってんだコノヤロウゥウウウウウウウウ!!」

「そうよ!! 銀時の妻は私なんだからね!!」

 

 そして、天井裏から蓬莱山輝夜が現れた。

 

「って、テメェはどっから出てきてんだゴラァアアアアアアアアア!!」

 

 まさしくカオス。

 宴が始まってすらいないのに、既に銀時の妻を自称する輩が二人も登場するとんでも展開。

 

「なんなんですか貴女は!?」

 

 当然、早苗は牙を剥く。

 それに対して輝夜は、優雅に扇子を広げた後、

 

「私は蓬莱山輝夜。いえ……坂田輝夜よ!!」

「勝手に人の苗字名乗ってんじゃねェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

 銀時はぶちぎれた。

 

「そうですよ!!! 銀時さんは既に東風谷銀時なんですから、坂田って苗字はありませんよ!!」

「何テメェもサラッと自分の苗字人につけてんだァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 銀時のシャウトが部屋中に響き渡ったそうな。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百十訓 人はいつどこでスタンばっているのか分からない

 

 

 



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第百十一訓 戦いに勝つ為には情報が不可欠

 さて、万事屋銀ちゃんの中で睨み合う女性二人。争いのきっかけとなっているのが坂田銀時であるという、ある意味恐ろしい事実。彼女達は銀時の妻を自称する二人なのだ。好感度メーターがあるとすれば、振り切った挙句に機械がぶっ壊れるのではないかと思われる程。しかもなおタチ悪いのが、二人は幻想郷の中でも中々に強者の部類に入るということ。もしそんな二人が暴れまわってしまったとしたら……。

 

「私より後から出てきたくせに、いきなり旦那様を婿養子にするとは頂けないわよ?」

「結婚してもいないのに旦那様と呼んでる貴女に言われたくありませんよ? あぁイタいイタい」

「旦那様は私からの無理難題をクリアしたわ。つまりそれは、私が嫁入りするしかなくなったということよ!」

「自分勝手なルールを作って銀時さんを巻き込むのはどうかと思いますよ? それに銀時さんは私にとって憧れの人であり、守矢神社を共に盛り上げて頂く大事な役割があるんですから邪魔しないでください!」

「それこそ貴女が勝手に思い描いた妄想ではなくて? 思い上がるのも大概にしたほうがいいわよ?」

 

 もう一度言おう。

 彼女達は自称銀時の妻である。

 つまり、二人が言っていることに対して、銀時の考えは介在していないということ。

 

「いやどっちの話も俺しらねぇけど!?」

 

 故に銀時のツッコミはかなり的確なものとなる。

 

「これは……互いに意見を譲る気はないということね」

「そうなりますね……つまり……」

「「弾幕ごっこ(決闘)しかない!!」」

「ここで決闘すんのはやめてくださいィイイイイイイイイイイイ!!! お登勢さんの所まで倒壊してしまいますからァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 もはやある意味で仲のいい二人組みではないだろうかと思われるほど、いっそ清々しい程までの意見の一致。それに対する新八のツッコミ速度はやはりピカイチ。

 

「随分と騒がしいなぁ銀時! もう既に宴は始まったのか?」

「いやどう考えてもそうじゃねえだろヅラ」

「ヅラじゃない、桂だ。しかし銀時よ、どんどん女子が増えているようだが……フラン殿は良いのか?」

 

 瞬間。

 輝夜と早苗は言い争いするのをやめ、無言になる。まるで壊れた機械のようにギギギという音が鳴るのではないかと思われる程、ゆっくり、ゆっくりと銀時と桂のいる方を振り向く。

 

「「……」」

 

 新八と神楽は思った。

 今確実に、ミサイル発射のスイッチが押されてしまった、と。

 

「銀時さん、フランとは一体誰ですか?」

 

 当然ではあるが、尋ねてきたのは早苗だ。輝夜は一応宴で顔合わせしたことがある。しかし早苗は幻想郷に来てから日が浅いため、まだまだ会ったことがない人物の方が多い。

 

「吸血鬼の女の子だ……俺が幻想郷に来て割と最初の方に知り合ったやつだな……」

「そうですか……そうですか……」

 

 早苗はぶつぶつと呟く。

 一方の輝夜は、

 

「確か前に旦那様に抱き付いて甘えてた女の子よね? 前の時は一人勝ちしてたけど、次は対等な関係よ……旦那様は譲らない……っ」

 

 対抗心に燃えていた。

 ある意味前回の修羅場では負けた身である。それだけに気合いの入りようは人一倍なのかもしれない。

 

「おいヅラァアアアアアアアアアア!! ややこしいタイミングでテメェが変なこと言うから余計に面倒なことになっちまったじゃねえか!!」

「貴様がはっきりしないからこういうことになるんだろう! 後ヅラじゃない桂だ!!」

 

 こっちはこっちで、二人で話し合いしている。今回の戦犯は間違いなく桂だろう。いや、戦犯というよりかは確信犯と言えるのかもしれない。

 恋する乙女達は情報に敏感で、敵の出現には更に敏感となる。そんな中に投下された桂からの情報。如何せん銀時がフランに甘いのは割と知れ渡っている。この場で知らないのは早苗くらいなものだろう。

 つまり、銀時を巡る恋愛戦争における最大の脅威はフランということになる。

 

「誰が相手だろうと私は負けませんよ……銀時さんは絶対に渡しません!!」

「いやテメェのものになった覚えなんざ一ミリたりともないんだけど」

「照れなくていいんですよぉ。これでも私は元J……」

「なんかそれ以上言うと駄目な気がしてきましたからやめてください!!」

 

 何かを特定出来てしまいそうな言葉を早苗が言いかけていたので、新八は思わず止めていた。もしすべてを聞いていたとしたら、銀時のカルマ値がかなり上昇してしまったのではないだろうか。

 

「ちょっとあんた達!! 銀さんを勝手に取り合ってんじゃないわよ!!」

 

 そんな時、今度は猿飛あやめの声が響いてきたと思ったら、障子窓から野生の猿飛が現れた。

 

「テメェはどっから入って来てやがるんだコノヤロォオオオオオオオオオ!!」

 

 銀時は飛びついてきた猿飛を捕まえると、そのまま窓の外に放り投げた。

 

「きゃあああああああ! 銀さんに投げてもらえてるゥウウウウウウ!!」

 

 そのまま星となって消え去った。

 

「……もうこれ以上ここにいてもキリがないネ。さっさと宴に行くアル!」

「神楽ちゃんの言う通りだね……。早く会場向かいましょう!」

 

 この話を終わらせようと、二人が先導して幻想郷へと向かう。

 この時を待ってましたとばかりに銀時は二人の後を追っていく。

 

「「あ、待って!」」

 

 輝夜と早苗の二人もそのあとを追う。

 

「よし! 俺らも行くぞ!」

『いくぞ!』

 

 いつの間にか現れたエリザベスと共に、桂も幻想郷へと向かうのだった。

 

 これから始まる宴は、果たして無事に終わるのだろうか。

 

 

 

 

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第百十一訓 戦いに勝つ為には情報が不可欠

 




多分やっと、次回から宴です!(白目


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第百十二訓 人の気配に敏感な人程何かに気付けるのかもしれない

 今回宴の会場として指定されたのは守矢神社である。何時もなら厳重な警備体制が敷かれる場所であるが、今日限りは宴に来る人もいるということでそんなに厳しくしていない。銀時達に関しては早苗と一緒にいるため、そもそもそこまで考える必要はなかったのだが。

 

「さて、この度は宴に来てくれて本当にありがとう。私は八坂神奈子。幻想郷に来てからはまだ日が浅いが、これでも神として通させてもらっている」

「同じく神である洩矢諏訪子だよ。この度は本当に迷惑かけてごめんなさい。そのお詫びとして、また、幻想郷に私達が来ることを受け入れてくれたお礼として、細やかながら宴の場を設けさせてもらったので、みんな楽しんでね!」

 

 神奈子と諏訪子によるスピーチが終わったことにより、宴は始まった。

 

「うぉおおおおおお!! たくさん食べるネ!!」

 

 早速神楽は食事に取り掛かる。酒が飲めない彼女にとって、宴の場での楽しみ方は食事に傾く(参加者との会話はあまり頭に入っていない)。

 

「あらあら、いい食べっぷりね……これは私も負けていられないわ」

「美味しい食事をたくさんいただくのだー」

 

 大食い達は引かれ合う。

 神楽のすぐ近くまでやってきたのは、幻想郷の中でも食いしん坊キャラとして通っている二人。西行寺幽々子とルーミアである。

 

「ここの食事は私のものアル!」

「私にも食べさせて欲しいのだー」

「みんなで仲良くたくさん食べましょう? けど、一番食べるのは……私よ?」

 

 何故か三人でフードファイト的なことが展開されているが、止められる人は誰もいない。というより、この場にいる者の大半が酒に注目している為、案外そこまで食事に手をつけていない。普段なかなか酒を飲まないので、こういう時のために抑えているのだろう。

 

「ぷはぁ〜! いやぁやっぱり大人数で飲む酒は格別だねぇ〜霊夢」

「本当アンタは美味しそうに酒飲むわね、萃香」

「私は酒を飲むのが好きなんだよ〜。こんだけ騒いで飲む酒は格別に美味いからなぁ〜。霊夢も楽しいだろ〜?」

「……そうね。騒がしいのも、たまには悪くないわ」

「お、話がわかるねぇ」

 

 萃香と霊夢の二人は、互いの盃に酒を注ぎ、この雰囲気を楽しんでいる。

 はてさて、各々色んな楽しみ方をしている中、

 

「あ、桂さん!」

 

 桂を見つけた妖夢が、嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「妖夢殿! あれから剣の修行は行っているのか?」

 

 話しかけられた桂も気さくに対応する。前回起きた大結界異変において彼らは剣を交えている。妖夢にとって、桂もまた自身を導いてくれた者の一人なのだ。

 

「はい! 今度また桂さんや銀時さんと手合わせしたいと思ってます!」

「そうだな……実戦形式の鍛錬も良いだろう。今度幻想郷に立ち寄った際には果たし合おう」

「本当ですか!?」

 

 剣の腕を上げるにあたって、魂魄妖夢はより強い者との戦いも大切であると実感している。かつての彼女は、師より学び受けた型を忠実に再現し、それを実戦に組み込むという形を取っていた。もちろん基本は大事である為最初のうちはそうした方が良い。しかし彼女はその域には既に到達している。そこから上へ行くためには、やはり実戦の中で培うことが出来るセンスや経験値を積み重ねていくしかない。

 

「ところで銀時さんはどちらに?」

 

 そうと決まれば、銀時にも予定を確認したいと考えた妖夢。

 しかし桂は、

 

「……今銀時の周りに近づかない方が利口やもしれぬぞ」

「え? どうしてですか?」

 

 桂には凡その理由は分かっているが、妖夢はここに来るまでにあったやりとりを知らない。なので桂の言っていることの意味が分からず、

 

「あ、あそこにいますね! 私声かけてきます!」

「あ、よ、妖夢殿!」

 

 桂の制止を聞かずに、妖夢は銀時の元まで駆け寄ってしまった。

 が、途中で。

 

「……っ!?」

 

 彼女の第六感が囁いたのか、銀時のところまで行く足を止めた。

 理由は、

 

「何ですか、あの重々しい空気は……?」

 

 銀時達の周囲に纏わりついている空気が、とてつもなく重かったからだ。誰も言葉を発していない。

 その場に居るのは、銀時・早苗・輝夜・幽香・フラン。およそ関わったらやばいメンバーばかり揃っているのに加えて、銀時を除いた四人が、殺気に近い何かを発している。しかもそれを互いに浴びせながらも、まったくと言っていい程動じない。

 

「はわわわわわわわ……っ」

 

 美鈴は身体を震わせて何もすることが出来ず、

 

「……御嬢様。ここは」

「分かっている。だが、妹の大事な瞬間なんだ……私達だけ逃げるわけにもいかない」

 

 咲夜とレミリアは、遠くでその様子を見守り、

 

「私、もう、駄目です……私より強い狂気を発するなんて……」

 

 鈴仙はギブアップ。

 元よりてゐはその場から離脱し、新八を弄って遊んでいる。

 

「くっ……記念すべき瞬間なのに……どうしてでしょう……手が……震えてカメラが……っ」

「そんな野次馬精神丸出しなのがいけないんですよ。バカバカしいことは放っておけばいいんです」

「この特ダネが分かっていないとは、やはり貴女は愚かですね、椛」

「その愚かさが分かっていないとは、やはり貴女は馬鹿ですね、文」

「「今ここで決着をつけなくちゃなりませんね」」

 

 何故か二人は、謎に決闘へと突入していた。

 

「って、なんで貴女達だけ勝手に決闘始めようとしてるんですか!?」

 

 思わず妖夢は、椛と文の二人にツッコミを入れてしまった。

 

「何ですか妖夢さん! 邪魔しないでください! 今からこの分からずやのワンコにお灸をすえる所ですから!」

「誰がワンコですか!! いつも他人の背中を追い掛け回すことしかしないストーカー烏に言われたくありませんよ!!」

「新聞記者ですよ!! 誰がストーカーですか人聞きの悪い!!」

「いいから落ち着いてくださいよ!!」

 

 妖夢は二人の仲裁に追われることとなったが、銀時達の周囲はそんなこといざ知らず。

 彼女達の修羅場は、果たして解消されることがあるのだろうか……。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百十二訓 人の気配に敏感な人程何かに気付けるのかもしれない

 

 



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第百十三訓 逃げるが勝ち

 坂田銀時は現実逃避に近い何かをせずにはいられなかった。何せ今目の前で繰り広げられている光景は、とてもじゃないがどうすることも出来ないもの。周りにいる人にすら恐怖を与える程の圧迫感なのだ。その証拠に、隅の方ではチルノが泡を吹いて倒れていたり、パチュリーが『むきゅ〜』と呟きながら目をぐるぐるとさせている。

 理由は目の前にいる四人の少女。

 

「それで? 貴女達は先程銀時のなんて言ったのかしら?」

 

 にこにことしながら牽制してきたのは幽香だった。

 それに対して反応したのは、

 

「銀時さんは将来守矢神社を引き継いでくださる私の旦那さんです! つまり私は、銀時さんの嫁ということです!!」

「旦那様は私の出した無理難題を無事に解決した素晴らしきお方よ。蓬莱山輝夜が嫁入りするのに相応しい男であると確信したのよ。私は坂田輝夜として嫁入りする決意をしているわ」

 

 今回の騒動を巻き起こすきっかけともなった二人である、早苗と輝夜だった。

 彼女達は銀時について譲るつもりが微塵もない──! 

 

「ギン兄様は私の家族なの! 私のそばに居てくれるって約束してくれたもん!!」

 

 フランもまた、彼女達に喰らい付く。

 その言葉に嘘偽りは存在しない。たしかに銀時はなるべくフランのそばにいることを約束している。他の者とは違って、フランは事実をもって勝負することが出来るのだ。

 

「私は銀時をとても魅力ある男だと認識しているわ。確かにマイナスな点も存在するのかもしれないけど、それを上回る勢いでとても良い所があるのもまた事実。あまり関わる時間がないのが残念だけど……」

 

 幽香は住んでいる場所や、花達の世話をする関係もあるために、なかなか銀時と会う時間が取りづらい。主に宴会の場面で会話をするか、太陽の畑でお茶を嗜むかのどちらか。

 だからと言って、彼女もまた他の者達に負けるわけではない。

 

「その代わり、こうしてボディタッチをすることも出来るわ」

 

 銀時の側まで近寄ってきたかと思いきや、その豊満な胸を押しつけるように、銀時の腕に抱き着いた。

 

「ふぁっ!?」

 

 今まで声を出していなかった銀時が謎の奇声を上げてしまう。まさかこの場面で抱き着かれるとは考えてもいなかったので、突如として感じ取れるようになった二つの幸せな感触と、鼻を刺激する華の心地よい香りに、銀時のアーム砲が準備態勢を取り始める。

 

「なっ……!」

 

 驚きの声を上げたのは早苗だった。何せいきなり恋人同士がやるような抱きつき方をしだしたのだ。傍目から見ればただいちゃついているようにしか見えない。

 

「うふふ。甘いわね……」

「なにを……?」

 

 しかし、あまり動じていない様子の輝夜。

 そんな彼女を見て幽香は思わず尋ねてしまうが、

 

「私は旦那様と一夜を共にしたわ!!」

 

 ドヤ顔で宣言する輝夜。

 

「てめぇが勝手に潜り込んできただけだろうが!!」

 

 すかさず銀時はツッコミを入れる。随分と輝夜相手には容赦のない銀時である。対応がまさしく猿飛にするそれと同じである。

 

「その程度のボディタッチなんてとっくに済ませてるし、何より私には同じ布団で寝たというアドバンテージがある!」

「う、うらやましい……私も今度やってもらわなくちゃ……っ!!」

 

 この中で唯一、そういったことがほとんどない早苗。銀時に出会ったのが一番遅く、かつ、関わっている時間もそんなにないのだから当然のこととはいえ、彼女には大打撃だろう。

 そんな中で、フランは顔を赤くしながら俯いている。

 

「どうしたの? 何も言えなくなっているのかしら?」

 

 挑発するように告げる輝夜。

 誰もが輝夜以上の何かはもうないだろうと思っている。

 実際にはその逆。フランは彼女達に対する唯一の対抗策を持っている。ただし、それを提示するのが恥ずかしいのだ。

 それはこの場で公開告白をすることと同じ。しかしこのままやられっぱなしになると、銀時がとられてしまうかもしれない。

 そう考えたフランは、勇気を振り絞り……。

 

「わ、私は!! ギン兄様ともう、き、キスしたもん!!」

 

 瞬間。

 今まで各方面で騒いでいた者達が、一斉に銀時達の方を見た。

 

「…………えっ」

 

 驚きのあまり、幽香は銀時に抱きついていた腕の力を緩めてしまう。その一瞬の隙をついて、フランが正面より銀時に抱きついた。

 

「なっ……」

 

 銀時もまた、何も言えずにいた。

 確かに、フランは銀時に一度キスをしている。しかもその際、銀時に告白までしているのだ。好意があることについてはこの段階で既に気付いていたし、周りもほぼ黙認していたことではあったが、よもやそこまでいっていたなどと誰が想像していたであろうか。

 何せその現場、誰一人として目撃していない。にも関わらず、『フランならやりかねない』という気持ちがあり、その真偽を確かめようとしている。

 つまり、視線が怖い。

 

「……ねぇ、銀時。今の話、すごく興味あるんだけど」

 

 今まで全く別の場所にいたはずの霊夢が、気付けば銀時の真後ろまでたどり着き、背筋が凍りつくような冷たい声で話しかけてくる。

 

「い、いや、その、な?」

 

 余計なことを言ったら、自分の首が飛ぶかもしれない。

 そんな緊張感の中銀時が取れる行動は……。

 

「……フラン、しっかり掴まってろよ」

「ふぇ?」

 

 フランにしか聞こえないように耳元で話しかけると、次の瞬間には、フランを抱き上げて、その場から……脱走。

 

「あ、逃げた!!」

 

 坂田銀時、フランドールを引き連れて、その場から逃走した模様。

 

 

 

 

 

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第百十三訓 逃げるが勝ち

 




カオスww


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第百十四訓 時に人は思いもよらない力を発揮する

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 物凄く大きな叫び声をあげながら、銀時は妖怪の山を駆け下りていく。フランをお姫様抱っこしつつ、彼は生命の危険と対峙しているような状態である。もしこのまま追いつかれてしまったら、その時に待ち受けているのは……。

 

「待ちなさい! 銀時!!」

 

 背後から最初に迫ってきたのは、鬼のような形相を浮かべている霊夢。彼女の容赦なさは、放っている弾幕の量にも比例していた。

 

「くっそ! 追いかけっこで弾幕使うんじゃねえよ!!」

「ただの追いかけっこなんかじゃないわ。これは……制裁よ?」

「余計酷くなってんじゃねぇかァアアアアアアアアアア!!」

 

 最早それは死刑宣告にも近い。少なくとも、今逃げ切ることが出来れば後はどうとでもなるだろうが、逃げ切れるという保障が何処にもない。

 ちなみにフランはというと、先ほど自分がした発言に対して恥ずかしがっているのか、顔を赤くしたまま銀時の方を直視出来ないといった感じである。それでも銀時にしっかりとしがみついている辺り、この状況は満更でもない様子。完全にお姫様抱っこされている状態なのだ。まるで物語のヒロインのような扱いを受けている。好意を寄せている人物にそのようなことをされて、喜ばないわけがない。

 それが、別の恋する乙女を刺激していることなど、当然銀時は気付くはずがない。

 

「旦那様。旦那様の目に私しか映らないようにしてあげるわ」

 

 霊夢の横から現れたのは、怪しい笑顔を振りまいている輝夜だった。とてもではないが安心するわけのない、どう考えても何か企んでいるようにしか見えない笑顔。もし捕まってしまった時には……。

 

「もうただのヤンデレにしか見えねぇよ!?」

「私はただ旦那様をお慕いし、愛しているだけよ! 私の愛を受け取って!!」

「重すぎて願い下げだコノヤロォオオオオオオオオオオ!!」

 

 もちろん銀時は受取拒否。

 だが、事態はさらに悪化する。

 

「さ、銀時。覚悟を決めて頂戴。命懸けの鬼ごっこなんてそうそう出来ることじゃないから楽しみだわ」

 

 日傘を握り締め、明らかに楽しそうな表情を浮かべながら幽香が迫ってきていた。

 

「オメェはこの状況楽しんでるだろ絶対!!!!」

「あら、流石は銀時ね。よく分かってるじゃない」

「余程タチ悪いわ!!」

 

 もちろん幽香も嫉妬の感情は含まれているのだが、それ以上に手加減しなくても平気である銀時を相手に、全力で追いかけっこすることが出来ることが楽しいといった様子である。彼女は根っからの戦闘狂。無理もない。

 

「第一なんでアンタみたいなチャランポランがそんなにモテるのよ!! ああもうなんだか無性に腹立ってきたわ!!」

「ただの八つ当たりじゃねえかァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 霊夢は自身の心に現れている怒りの感情を、銀時相手に存分にぶつけている。それはもう誰がどう見ても嫉妬である。気付いていないのは霊夢本人と、言われている銀時位だろうか。

 

「フラン、わりぃな……しっかり捕まっててくれよ!」

「う、うん……っ」

 

 銀時にそう言われて、フランは改めて抱き着く腕に力を込める。

 銀時も、フランをお姫様抱っこしながらも、軽い身のこなしで距離を離していく。普段から家賃関連で逃走しまくっているのがここに来て活用出来ているらしい。

 

「銀時さぁああああん!! 逃げられませんからね!!」

「どわぁああああああああ!!」

 

 走っていた矢先、数メートル先に早苗が現れる。ここ最近のこととはいえ、山の地理に関しては彼女の方が銀時より知っている。その点においてアドバンテージを取ることが出来るということ。予め逃走経路を先読みして、待機していることだって不可能ではない。

 

「ちっとばっか気を付けろよ……っ!」

「へ? 何を……!?」

 

 銀時はフランを抱えたまま、思い切り地面を蹴る。そのまま勢いを殺すことなく近くの木を蹴り飛ばすと、早苗の上を飛び越えてそのまま華麗に着地。

 

「なっ……!」

 

 そしてそのまま逃走続行。まんまと逃げ果せたのである。

 

「テメェらなんぞに捕まってたまるかよ!!」

 

 命がかかっている時の銀時はかなり必死なようだ。普段はなかなかやらないようなアクロバティックなことも平然とやりのけてしまう。その動きや気兼ねをもう少し日常に向けられたならば、さらに魅力が増すだろうにと、歌舞伎町に住む人は思うかもしれない。

 

「まてぇええええええええ!!」

「待てと言われて律儀に待つ奴なんざいるわけねぇだろうがァアアアアアアアアアアア!!」

 

 この追いかけっこは、後に幻想郷中に知れ渡る喜劇として名を残すことになるが、この時の彼らはまだ知る由もないだろう。

 ともかく、こうして喜劇にも近かった今回の異変は幕を閉じる。

 

 

 

 

 

 

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第百十四訓 時に人は思いもよらない力を発揮する




これにて風神録篇は終了となります!
次回からはポロリ篇伍です!
取りこぼしたお話や、短編をいくつか掲載していきますー。


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ポロリ篇その伍
第百十五訓 物事には大抵理由が存在する


今回からはポロリ篇その伍です!


 坂田銀時逃走事件から数日が経過したある日のこと。銀時はというと、守矢神社に来ていた。前回は異変後の宴ということで呼んだ筈なのに、結局追いかけっこをして終わってしまったことに対してお詫びをしたいとの申し出が守矢神社側よりあったからだ。

 主に追いかけっこが始まった理由は乙女の喧嘩であり、さらに大元を辿ると銀時にもその一端がないわけではないのだが、この際一度話は置いておくものとする。

 そんな訳で守矢神社に赴いた銀時だったが、

 

「ん? 今日はあの巫女いねぇのか?」

 

 その場に早苗の姿はなかった。

 通された場所に居たのは、諏訪子と神奈子の二人のみ。辺りを見渡したところ、早苗の姿は確認出来なかった。

 それに対して諏訪子が答える。

 

「早苗は今、人里に行って信仰を集めてるんだよ」

「信仰を?」

 

 霊夢とは違って普通に巫女らしいことをしているらしい早苗。思えば銀時は、幻想郷に限らずまともな巫女に出会ったことがない。引きこもりニートとキャバ嬢姉妹であったり、常に金欠で困り果てていたり。

 

「後から早苗も来るわ。それまでにどうしても話しておきたいことがあったんだ。お詫びも兼ねて、少し付き合ってもらいたくてな」

 

 杯に酒を注ぎながら、神奈子が言う。

 銀時も二人の杯に酒を注いだ。三人の酒が揃ったところで、各々が杯を持ち、少し上に上げた。乾杯の合図だ。

 

「神様に頼まれちゃあ俺も断れねぇな。で? 話ってのはどんな内容なんだ?」

 

 酒を飲みながら銀時は尋ねる。

 

「……早苗のことだよ」

 

 意を決したように、諏訪子が話を切り出した。

 

「あの巫女の話か?」

「あぁ。話を始める前に聞いておきたい。早苗のことをどう思っている?」

「怖い暴走巫女」

「ぶちのめすぞ?」

「落ち着いて神奈子!! 悔しいけど今のところ坂田銀時目線から見たらそういう風にしか見えないから!!」

 

 前回の壮絶な鬼ごっこや、過剰なアピールを受けている銀時目線で見たら何も間違っていない答えだった。思わず神奈子は怒りで拳を握りしめるも、諏訪子が必死にそれを止める。どうやら意外にもこの中で一番常識があるのは諏訪子のようだ。

 

「まぁ、気になる点は様々あるな。テメェらが幻想郷に来たのは信仰を集める為ってのは理解した。しかし、信仰を集める仕事は必ずしも早苗である必要はない筈。それに……」

 

 一度言葉を区切り、銀時は酒を飲み干す。自分の杯に酒を注ぎながら、

 

「アイツの家族は何処行った?」

 

 本人を前に口にしたことはなかったが、銀時が引っかかっていた点はまさしくそこ。得体の知れない場所に向かうかもしれないというのに、その場所に早苗の家族の姿はない。彼女が元から幻想郷に暮らしているのならばともかく、外の世界から来たと言った。即ち両親がいる筈なのだ。

 その質問に対して、神奈子が答える。

 

「早苗が幼い頃に、両親は既に死んでいる。唯一の肉親だった祖母についても、天寿を全うされてしまった」

「……つまり、早苗にとっての家族ってのは、テメェら二人ってわけか」

 

 神奈子は言葉ではなく、頷くことで肯定の意を示す。

 

「別に家族の愛を受けてないわけじゃないんだよ。ただね、その期間があまりにも短いし、男性の身寄りとなるといよいよもってほぼ会話すらしたことないような状態なんだ。だから表現の仕方がわからずに、あんな行動に出てるんじゃないかなって思う」

 

 諏訪子は酒を一気に飲み干した後に、自身の考えを伝えた。

 

「実を言うと、今回の事件において私達は、早苗を貴方に会わせるつもりはなかったんだ」

 

 銀時に酒を注ぎながら神奈子が言った。

 

「そうなのか?」

「もちろん私達が、早苗をアンタみたいなチャランポランに染めたくなかったって言うのもあったけど……」

「いきなりチャランポランって言うのやめてくんない?」

 

 流石に銀時も、諏訪子の言葉に抗議していた。いきなりチャランポラン攻撃が繰り出されたのだ。

 

「きっと、早苗は依存に近い感情を抱いてしまう。それじゃああの子は……幸せになれないんだ」

「……」

 

 神奈子は唇を噛み締めていた。その様子は、心から早苗の幸せを祈っていることを表している。早苗の家族として。

 

「これが恋愛で止まるのならばまだ良かった。成功しようが失敗しようが、立ち直る事も学ぶことも出来る。けど私達は、今の早苗が抱いている感情の正体を……依存に近いものだと認識している」

「そして相手はアンタだよ。私の予想が間違っていなければ……アンタは自分の幸せの中に、『自分』を入れちゃいない。つまりそのうち、アンタは命を落とすかもしれないということなんだよ……今までの噂から、私と神奈子が建てた推察でしかないけどね」

「そんな相手に依存してしまったら……だけど、きっともう遅いんだ。だからこれだけはなんとしてもお願いしたい」

 

 そこまで言うと、神奈子と諏訪子の二人は、杯をおいて、銀時の前で頭を下げつつ、

 

「「早苗を、悲しませないであげて欲しい」」

 

 自身の想いを伝えたのだった。

 

 

 

 

 

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第百十五訓 物事には大抵理由が存在する




お知らせです。
新連載、始めました。
『やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。』
俺ガイルとバカテスのクロスオーバー作品です!
よろしければ是非とも応援よろしくお願いします!
ただ、銀色幻想狂想曲も負けじと更新しますよ!


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第百十六訓 家族

「……テメェらがいかにあの巫女を大切に想っているのかは理解した。なんてったって家族だもんな……」

 

 家族。

 早苗のことをそう称した二人に対して、銀時は自分達が被ると思った。新八と神楽、そして銀時。三人は生まれや育ちは違えど、家族のような存在として成立している。

 早苗、諏訪子、神奈子の三人もまた、家族と称するのにふさわしい。

 

「なら、アイツが不幸になることなんざねぇだろ。俺がいるいないはともかくとして、支えになってるテメェら二人がいるのなら……」

「もちろん、私達だってそのつもりだよ。早苗のことを大切に想っているし、これからも彼女のことを幸せにしたいと思っている。なんて言ったって、私も神奈子も、早苗には感謝してるから」

「感謝……?」

「……幻想郷に行くことを最終的に決めてくれたのは、早苗なんだよ」

 

 諏訪子と神奈子は、自分達が幻想郷に行くきっかけをくれた存在である早苗に感謝をしている。彼女が家族を失った時、諏訪子と神奈子はどうしようか迷っていた。そんな彼女達に対して、自身も苦しい筈の早苗が、幻想郷に行く後押しをしてくれたのだ。

 過去も思い出も、すべて捨て去る覚悟をしなければならなかったというのに。

 

「あの子は良くも悪くも、今まで私達をはじめとした他人の為にしか行動していなかったんだ。だから、たとえ相手がアンタだったとしても、自分の為に行動することが出来るようになったことは好ましい。ただ、早苗自身その変化についていけていない……だから、このままいって、アンタがいなくなってしまったら……それこそ早苗がどうなるか分からない」

 

 神奈子は長年彼女を見てきたのだ。

 だからこそ、東風谷早苗という人物がどんな性格をしているのかを把握することが出来る。それは諏訪子も同じ。彼女達は、早苗にとって致命的な点となる部分を把握している。

 

「……何か、テメェらは勘違いしてねぇか?」

「勘違い?」

 

 諏訪子が尋ねる。

 銀時は、頭を掻きながら答えた。

 

「ソイツは成長してんだろ? なら、ソイツの成長信じてやれよ……確かに今は不安定かもしれねぇ。少なからず、アイツから好意を向けられていることは感じ取れる。そして早苗は、その好意の正体を理解しているんだろ? ならそれで今は十分じゃねえか……ただ、寂しさとかそういった何かを解消出来んのは、俺じゃなくてテメェら家族だろ? 家族ってのは、そういうもんじゃねえのか?」

 

 ただ傍にいるだけなのに、ふと気付くと力が湧いてくる。信頼することが出来る。安心出来る。

 共にいる存在というのは、本当に大きいものなのだろう。

 

「俺なんかより、テメェらがいなくなっちまう方がよっぽど辛い筈だ。だからこそ、早苗はこっちに来ようと提案したんだろう……アイツだって、テメェらのことだって、自分のことだって、しっかり考えてるだろ」

「「……」」

 

 今まで見たことないような観点から、銀時は語る。

 早苗にとっても家族なのだとしたら、諏訪子や神奈子の存在が消えてしまうことの方が余程辛かったのかもしれない。追いかけても取り戻せない過去より、近くにあって手放したくない未来を掴んだ、という方が正しい。

 

「まぁ、忠告は受け取る。俺だってそう早くに死にたいわけじゃねえ。それに……」

 

 スッと立ち上がり、扉の方まで歩く。

 そんな彼の背中を、二柱の神が見送る。

 

「一度背負った荷を、そう簡単に降ろすつもりなんざねぇよ。神に誓って、宣言してやるさ」

 

 そう告げて、扉を開いた。

 

 

「……」

 

 東風谷早苗は、人里からの帰り道を駆け足で戻った。

 理由は単純で、坂田銀時が守矢神社に来てくれているからである。

 彼女にとっては初めてとなる、尊敬と情愛の混じった好意を向ける相手。そんな銀時に会えるということをバネに、ここ最近の彼女は行動していた。

 そして帰ってきた時に、早苗は銀時達の会話を聞いたのだった。

 

「諏訪子様……神奈子様……」

 

 扉の前に立ち、漏れ出る声に耳を立てる。

 そこから聞こえてくるのは、自分のことを案じてくれている二人と、そんな彼女達に対して自身の心の内を明かす銀時。

 彼らの言葉はとても温かく、自分がここまで思われていたことを改めて実感する早苗。

 

「銀時、さん……」

 

 はじめは尊敬、そこから憧れとなり、追いかけるべき対象となった上で、最終的に共に居たいと思う相手へと昇華した。

 もしかしたら、諏訪子や神奈子が言うように依存に近い感情を抱いているのかもしれない。

 だが、早苗の心の中にいるのは、銀時だけではない。

 その時、

 

「神との密談を盗み聞きたぁ、趣味の良い巫女もいたもんだなぁ」

「きゃっ!」

 

 目の前の扉が開かれて、そこから現れてきたのは、不敵な笑みを浮かべる銀時だった。

 早苗の心臓が高鳴る。嬉しさと恥ずかしさが入り混じった、複雑な心境。

 

「今までの話、聞いてたんだろ?」

「……っ」

 

 嘘をつくわけにもいかなかったので、早苗は首を頷かせる。

 銀時は頭を掻きながら、

 

「はぁ……ったく、そういうわけだからよ。神に誓っちまったから、これからもよろしくな。けどまぁ、テメェの旦那になるつもりなんざサラサラねぇけどな」

「あっ……」

 

 一度背負った荷を降ろすつもりはない。

 つまり、銀時の傍に居てもいいということを指し示しているのだと、早苗は考えた。

 そんな彼らを見守る二柱の神は、晴れやかな笑みを浮かべている。

 

「……ありがとうございます、銀時さん。これからもよろしくお願いします」

 

 そんな彼女の表情は、とても嬉しそうな笑顔だった。

 

 

 

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第百十六訓 家族

 

 




今回の短編は比較的シリアス色が強い物となりました。
やっぱり一度吹っ切れた後には、こういうお話も必要かと思いまして…。


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第百十七訓 たまには違う人物が主役を張る話もある

 毎度お馴染みBGオンリー。

 万事屋を背景に、二人の声が聞こえてくる。

 

「……暇」

「働くアル社会のゴミ」

「のっけから神楽ひどくね? どストレートにただの悪口オンパレードだよな?」

「そんなの当然ネ。昼間っから寝転がってジャンプ読んで鼻糞ほじくってる暇あったら外出て仕事の一つでも手に入れてこいヨ」

「ソファに寝転んでテレビ見ながら酢昆布齧ってる神楽に言われたくねぇんだけど? てか、何で今日新八いねぇの? ライブのおっかけ?」

「姉御から、今日は幻想郷に行ってるって聞いたアル」

「珍しいな。あいつ一人で幻想郷行くたぁ……どうせ暇だし俺らも行くか?」

「お? 現地幼妻に会いに行くアルか? 」

「おいそれ誰のことだよ」

「いつも近くに居るアル。いい加減認めるネ。ドキドキイチャイチャらぶちゅっちゅしてるアル」

「してねぇからな? らぶちゅっちゅしたら姉にぎゅっぎゅっされちゃうから。ドキドキの展開が待ち受けてるから」

「紅魔館大戦が起こりそうネ。それはそれで楽しそうアル」

「楽しくねぇから。俺命がけだから」

「そんなわけで行くなら早く支度しろヨ。いつまで惰眠貪ってんだ天パー」

「テメェにいわれたかねぇよチャイナ」

 

 結局、この二人が動き出すまでにかかった時間は、この会話が繰り広げられてからおよそ数時間後だったという。

 ツッコミ役である新八がいないだけでこの体たらくであった。

 

 

 肝心の新八はというと、少し薄暗い森の中を歩いていた。

 

「相変わらずここは薄暗いなぁ」

 

 この場所は、以前永夜異変が起こった時に通った森である。

 彼が今ここを歩いているのは、とある人物に会う為だ。

 

「思えば一人でここに来るのは初めてだし、なかなか会いに行くことも出来なかったからなぁ……僕のこと覚えてるかなぁ」

 

 ポツリと呟きながらも、新八は歩き続ける。

 やがて、薄暗い森の中に薄っすらと光る提灯みたいなのを見つける。

 

「……ん?」

 

 そして目に映ったのは、

 

「……屋台?」

 

 香ばしい匂いをさせながら何かを焼いている屋台だった。

 気になった新八が近づいてみると、

 

「いらっしゃい~ららら~♪」

 

 一人の少女が、ウナギらしき何かを焼いている姿があった。

 彼女はミスティア・ローレライ。永夜異変の時に妖夢に一刀両断された妖怪である。

 普段はこうして屋台を営んでいる、らしい。

 

「いや、あの、僕食べにきたわけでは……」

「何にします~? 八目鰻? 八目鰻? それとも、八目鰻?」

「結局八目鰻しかねぇじゃねえか!! つかただの鰻のかば焼きかよ!!! それしかメニューねぇのか!!」

「後はおでんかな~ららら~♪」

「おでんもあるんですか? じゃあおでんを……」

「おでんの具は何にする~? 八目鰻?」

「おでんの具に八目鰻使うなァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 何とも自由な屋台である。

 終始新八はツッコミしっ放しだった。

 

「もう八目鰻でいいですよ……」

「分かった~ららら~♪」

 

 店主であるミスティアは、歌いながら八目鰻を焼いている。

 確かに、味付けとか匂いは美味しそうなのだが、見た目が如何せんあまりよろしくない。

 口元が凄い大きく開いているせいで、食欲がいまいち湧かない見た目をしていた。

 

「というか、どうして八目鰻なんですか? おでんとか提供しているのなら、焼き鳥とか……」

「焼き鳥だって?!」

 

 ここまで心地よく歌っていた(彼女の唄声は常時人間を魅了して狂わせる効果がある)のを止めて、身を乗り出すミスティア。その表情は怒りに染まっている。

 新八は知らないのだ。彼女が夜雀の妖怪であるということを。

 

「なんてむごいことを考えるんだ! 焼き鳥なんて文化は滅びるべきなんだ! だから私はこうして、八目鰻を売り続けている!! 現にこの屋台は売れているんだぞ!! だからアンタも八目鰻を食べるしかないんだ! ね? 段々食べたくなってくるでしょ~? ららら~♪」

「え? あ、ま、まぁ……」

 

 しまいには洗脳まがいなことをするミスティア。

 もう一度言うが、彼女の唄声は人を魅了する。つまりミスティアは、新八を唄声で操って無理矢理八目鰻を食べさせようとしているのだ。

 

「さて、そろそろ焼けたかな~?」

 

 そうこうしている内に、どうやら八目鰻が焼けたようだ。

 新八の前に、皿に載せられた鰻が現れる。

 やはり見た目はあまりよろしくないが、味付けや香りは食欲をそそるものがある。

 

「さ、遠慮なくがぶっといっちゃって~」

「い、頂きます」

 

 恐る恐る口にする新八。

 そっと口をつけて……ゆっくり噛んだ。

 瞬間、口の中に広がる新食感。何より味は。

 

「お、美味しい」

 

 普通にうまいのだ。

 醤油ベースに味付けをし、かば焼きにしているのだから、基本的に外れることはまずない。

 元々この屋台は妖怪達には人気なのだから、味の保証は出来るのだ。

 無理矢理食べさせようとしなければ、だが。

 

「でしょでしょ~? どんどん食べちゃってね~」

 

 気前よくミスティアは鰻を焼いていく。

 やがてそうしている内に、

 

「あれ? もしかして……」

 

 暗闇から現れてきたのは、

 

「リグルちゃん!」

 

 新八が今回会おうとしていた少女、リグル・ナイトバグだった。

 

 

 

 

 

 

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第百十七訓 たまには違う人物が主役を張る話もある

 

 

 




と、いう訳で今回は新八とリグルちゃん回でございます。
ミスティアさんですか? 今回限りですね……。


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第百十八訓 ラブコメには大抵存在するお約束

 屋台を後にした新八とリグルは、森の中を二人で歩いていた。新八は、知り合いと会えたことによって笑顔が増えている。一方のリグルは緊張しっぱなしだ。何せ目の前に自身が気になっている人物がいるのだ。気にするなという方が無理な話だろう。

 

「どうしたの? リグルちゃん」

「ふぇ? あ、い、いえ! なんでもないです……っ」

 

 どんどん声が小さくなっていく。

 単純に嬉しさと恥ずかしさが入り混じって、どんな反応すればいいのかわからなくなっているのだ。

 ただし相手は眼鏡である。

 眼鏡、である。

 

「なんか今ものすごく失礼なこと強調された気がする……」

「? どうかしました?」

「う、ううん、なんでもないよ!」

 

 リグルが心配そうな眼差しで尋ねてきたので、新八は咄嗟に否定する。

 それにしてもこの二人、客観的に見たらまるで付き合いたてで遠慮してるカップルのように見えなくもない。割と大半の理由がリグルにあるような気はしないでもないが、新八の反応もさらに助長させている。

 

「なかなか会えてなかったから、今日会えて本当嬉しいよ」

「え? あ、あの……その……っ」

 

 嬉しさがかなり高まって、リグルの顔は真っ赤に染まる。まるで女たらしのようなことを言っている新八。

 

「私も、新八さんに会えて嬉しいです……っ」

 

 顔を赤く染め、手足をモジモジとさせながら、上目遣いでリグルは言う。

 その様子に、新八はかなりドキッとした。

 

「(あれ、ちょっと待って? これかなりやばくない? ちょっと胸がドキドキしまくってるんですけどォオオオオオオオ!?)」

 

 ラブコメの波動というやつだろうか。

 今の新八は、何らかのラブコメの主人公のようにドキドキしている。元々あまり女の子と接する機会が多いわけではない。それでも彼の人柄が、優しさが、時折女性に響くことがある。今回は完全に相乗効果を招いていた。何せ普段は滅多に会うことのない人物同士。そんな二人が巡り会った時、一体何が起きるだろうか。

 まさにその第一弾として、

 

「「あっ……」」

 

 隣同士を歩いていた二人の距離が自然と近かったのか、彼らの手が、ちょんっ、と触れ合う。所謂あと少しで手を繋ぐことができる程の距離だった、というやつだ。

 

「ご、ごめん!」

「い、いえ、こちらこそ……っ」

 

 新八は手を引っ込める。この辺りはさすがといえる程のスピードだ。

 しかし、リグルは少し寂しそうな表情を浮かべていた。

 

「リグルちゃん?」

「うぅ……っ」

 

 何かを迷っている様子のリグル。

 そんな彼女を心配そうに見つめる新八。

 

「……うんっ」

 

 やがて覚悟が決まったらしいリグルは、意を決して、

 

「えっ……!」

 

 新八の手をしっかりと握りしめた。

 突然感じられた女の子の手の柔らかさに、新八の心はクライマックス状態である。

 

「(ちょっとォオオオオオオオ!! めっちゃ柔らかいんですけどォオオオオオオオ!! なんだこのラブコメ的展開!? こんなのがこの小説にあっていいんすかァアアアアアアアアアア!?)」

 

 内心穏やかではないご様子。

 一方のリグルは、

 

「あ、あの、森の中は危険なので、その、はぐれないように、手、つなぎましょう……っ」

 

 俯きながらそう言ったリグル。

 自身の行動が恥ずかしくて、まともに顔を合わせられないのだ。

 一挙手一投足が最早可愛いの塊と化しているリグル。普段男の子っぽいとか言われる彼女の様子は、そこにはない。

 

「う、うん、そうだねっ」

 

 自然と、新八の声も上擦ってしまう。

 お互い緊張している状態だ。

 一体これはなんの小説なのだろうか。

 

「……新八さん」

「どうしたの?」

 

 握る手に力が少しだけ入る。

 リグルは恥ずかしがりながらも、それでも新八のことを見ながら言う。

 

「私、新八さんになかなか会えなくて、その、寂しかったです……」

「……っ」

 

 思春期男子が言われてしまったら勘違いする台詞の一つ。

 それはもちろん新八の心にもダイレクトアタックを繰り出す。

 

「(本当にどうしちゃったの!? 今回僕の心臓バクバカ展開なんですけど!? このままだと、大人の階段登っちゃいそうだァアアアアアアアアアアア!!)」

 

 心の叫びに、段々と男の本能が混じり始めている。

 そんな新八の心の中はいざ知らず、リグルは自分の胸中を明かしていく。

 

「私、なかなか幻想郷でお話し出来る人がいないんです。ですから、こうして新八さんと会えて、お話しできて、手を繋げて、私……すごく嬉しいんですっ」

「っ!!」

 

 もう勘違いでもなんでもない。

 新八も鈍感だから気付いていないが、明らかにリグルは新八に好意を抱いている。

 きっかけは本当に些細なことだったのかもしれない。

 しかし、その感情に嘘偽りは存在しない。

 

「あの、もし、新八さんがよろしければ……」

 

 立ち止まる。

 新八もそれに合わせて立ち止まる。

 自然と、向かい合う形をとる。

 そしてリグルは、

 

「私と……私と……っ!」

 

「見つけたぞー!! 眼鏡ーっ!!」

 

 こんな時に限って、ラブコメのお約束が発動した。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百十八訓 ラブコメには大抵存在するお約束




ベッタベタなラブコメをやりたいが為の新八回ですww


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第百十九訓 リア充爆発しろ

「なっ……君は……!?」

 

 突然二人を邪魔するように現れた人物。

 その人物は右手にあるものを所持し、チラつかせながらゆっくりと現れる。

 間抜けそうな表情、適当につけられた両手、赤いフォルム──そう、ご存知ジャスタウェイだ。ただし今回は愛染香は入っていないのでご安心を。

 そして、これを手にしている人物といえば、前回ジャスタウェイを利用して事件を巻き起こしたあの兎しかいない。

 

「のこのことこの私、因幡てゐの前に現れるとはね! しかーし! この私が現れたからにはもう逃げられないよ! きししし!」

「いや私の前に現れたってか、自分からこっち来ましたよね!? しかも別に逃げてないんですけどォオオオオオオオ!? そしてなぜにジャスタウェイ!?」

 

 もはやツッコミどころが多過ぎる。深刻なネタ過多により、もれなくツッコミ役に負担が物凄いかかる。今回で言えば新八が被害者。割といつも被害者ではあるのだが。

 

「これは所謂爆弾……」

「いやそれが爆弾なのは知ってます」

 

 歌舞伎町から流れてきたものなので、てゐが持っているジャスタウェイについては新八の方が詳しい。

 しかしてゐはひるまない。

 

「しかし!! ただの爆弾ではない!! 河童に改造してもらった特注品で、ラブコメの波動を感じると爆発させられる……『リア充爆発ジャスタウェイ』だ!!」

「なんつー迷惑な発明依頼してんだァアアアアアアアアア!! シチュエーション限定的過ぎるけど随分と傍迷惑なジャスタウェイになってるじゃねえかァアアアアアアアア!!」

 

 本来のジャスタウェイにそこまでの力は存在しない。ただ爆発するのみだ。なんとも、河童の科学は幻想郷一というのが証明された瞬間である。

 

「うぅ……」

 

 一方、勇気を振り絞って自身の気持ちを伝えようとしたにもかかわらず突然の乱入者によって邪魔されてしまったリグルは、やり場のない怒りと、今さっき自分が言おうとしたことの恥ずかしさが入り混じった、なんとも言えない複雑な気持ちを味わっていた。ちなみに、リグルは別にこの世界においてぼっちというわけではない。きちんと友人と呼べる存在もいる。ただし、住んでいる場所や活動時間がたまにズレることがあるので、いつも一緒というわけではないのだ。

 

「第一、どうして僕らがここにいることが分かったんですか?」

 

 たまたま通りかかったにしては違和感のあることだ。何せてゐが普段いるのは迷いの竹林。そこを縄張りとしている彼女は、普通の森にたまたま立ち入る用事というのはそうそうないことだろう。

 つまり、新八達に会いに行くためには、必然的に……。

 

「探してたのさ! 眼鏡に悪戯するために! きしししし!」

「暇人じゃねえか!!」

 

 新八は思わず叫んでいた。

 だが、果たして本当にてゐはただの暇人なのだろうか。確かに暇ならば外へ出かけることはあるだろう。その過程で普段は行かないような所に辿り着くこともあるはずだ。

 しかし、暇だからという理由で人探しをするようなものなのだろうか。しかもご丁寧にその場にそぐった発明品まで手にして。

 これらのことから導き出される結論は、つまり……。

 

「え?」

 

 結論、リア充爆発しろ。

 

「あっ」

 

 突如として、てゐの手から離れたジャスタウェイは、新八のみを狙って一目散に飛びかかる。

 

「って、なんで僕だけ狙われてんダァアアアアアアアアアア!?」

 

 もちろん新八はダッシュで逃げる。

 リグルのいる近くで爆発させないようにするのも目的の一つではあるが、それ以上に自分が被害に巻き込まれたくないという気持ちがある。

 

「新八さん!?」

 

 側にいたリグルはただ驚くのみ。それ以外に取れるリアクションが見つからないという状況。

 てゐは結果的に新八相手にジャスタウェイを仕掛けることが出来たのだが、内心穏やかではない。

 

「(あの発明ってラブコメの波動を感じると、その対象を目掛けて爆発する仕組みになってた筈……え、つまり、今私と眼鏡の間でラブコメの波動が感じ取れたってこと!? それじゃあ私、あの眼鏡に気があるみたいじゃないか!! ち、ちがう! これは何かの気の迷い!! そ、そう! 河童の発明が失敗に終わったってことなのよ! き、きししし! まったくもー驚かせないでよね! 私が眼鏡のこと、すすすすす、すきだなんて、ああああああ、ありえないことなんだから!!)」

 

 声には出してないものの、十分過ぎる恥ずかしさがそこにはあった。これらがもし本人に全て伝わってしまっていたとしたら、それはもう告白するのと同じようなもの。

 とりあえず、顔を真っ赤にしながら立っていても全然説得力がないのは間違いない。

 

「今僕何かしましたっけ!? ただ質問しただけなのにジャスタウェイに追いかけ回されるとかいう珍光景に見舞われてるんだけどォオオオオオオオ!?」

 

 尚、新八からしてみたら完全にとばっちりである。何せてゐの心境なんて全くと言っていいほど分かっていないのだから。

 しかしこれだけは言える。

 

「ぎゃあああああああああああああ!!」

 

 鈍感系だとしても、ハーレム系だとしても、リア充爆発しろ。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百十九訓 リア充爆発しろ




今思ったのですが、本当に爆発したほうがいいのは新八ではなく銀さんでは……?


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第百二十訓 気になったことは質問してみると良い

 新八が派手に爆発したその裏で、銀時と神楽は幻想郷における人里に来ていた。

 博麗神社では霊夢と魔理沙がいつものようにお茶を飲んでまったりしている光景しかなかったので、たまには人里に行ってみるのも悪くはないかという判断の元だった。

 そうして彼ら二人が人里にやってくると、

 

「あれ? もしかしてあんた達……」

「ん?」

 

 銀時と神楽の目の前から、一人の女性がやってくる。

 彼女の名前は藤原妹紅。人里においては慧音の所によく訪問しにくる人物だった。

 

「お前誰アルか?」

 

 神楽と銀時にとっては初対面の相手。しかし妹紅にとっては知らない相手ではない。何せ以前銀時が寺子屋で一日代講キャンペーンを実施した際に、慧音と共にその様子を確認しているからだ。その後しばらく遭遇することはなかったのだが、今回こうして巡り巡って再会したという形である。

 妹紅は、銀時達に頭を下げると、

 

「私は藤原妹紅。あんた達のことは慧音から聞いてるよ」

 

 と、自己紹介をした。

 

「慧音っていうと、寺子屋に居たあの先生のことか?」

「そうそう。私もたまに手伝ってるんだよ。慧音がたまに仕事で抜けなくちゃいけない時とかに、あの子達の面倒を見たりとかね」

 

 どうやら慧音が居ない時に、ルーミアやチルノ達の面倒を見るという仕事を引き受けているようだ。妖怪の子供たちの面倒を見るというのはそれだけで結構苦労しそうなことなので、彼女はある意味人が良いのかもしれない。

 

「あんた達は今日は一体何しにきたんだい?」

 

 気さくに話しかけてくる妹紅。彼女の性格からきているのだろう。

 

「暇つぶしみてぇなもんだよ。いつもいる新八がこっち来てるっていうからついでみてぇな感じだ」

「なる程。ならちょっくら私と付き合ってくれないかい?」

 

 ちょうど話し相手が欲しかったようで、妹紅は銀時と神楽の二人を誘おうとしている。

 神楽はどちらでもよさそうな反応をとっており、銀時次第といった形となる。

 断る理由もなかった銀時は、

 

「いいぜ。アンタみてぇな別嬪さんと話が出来るなら役得ってもんさ」

「おぉ、お世辞がうまいねぇ。とりあえず歩こうか」

 

 お世辞を言いながら銀時は妹紅の提案に乗る。それをさり気なくスルーした妹紅。言われ慣れているのか、そんなことはどうでもいいと思っているのか。

 ともかく、この幻想郷に来てから珍しい三人組で歩くこととなった。

 

「しっかし、アンタが代講やってた時の様子を聞いた時には驚いたよ。ほとんど授業していないって話みたいだからねぇ」

 

 実は見ていたのだが、妹紅はそのあたりをぼかしつつ、そんな風に話を切り出していく。

 対する銀時は、頭を掻きながら、

 

「まぁな……あんだけやんちゃなガキどもには、授業ずっと聞かせて暇させるよりも、身体動かしてた方がちょうどいいんだよ」

「嘘つけヨ。ただ単に面倒臭かっただけじゃないアルか?」

「銀さんを何だと思ってんの? 原作でも銀八先生見事に遂行してたでしょ?」

「原作? 銀八先生?」

 

 いまいち話についていけていない様子の妹紅。彼女のいる世界の話ではないのだから当然のことではある。というより、幻想郷の住人では大多数の人間が追い付けるわけがない。

 

「まぁ、それはいいとしてさ……」

 

 話についていけなくなった妹紅は、話題を変えることにする。

 その時、銀時は少しだけ気配が変わったことを察していた。

 

「少し聞きたいことがあるんだよね」

「どうした?」

 

 改まった態度で聞き直す妹紅。

 そして彼女から出た質問と言うのは、

 

「不老不死について、どう思う?」

 

 突拍子もない言葉だった。

 

「は?」

「不老不死アルか?」

 

 当然、二人の頭に疑問符が飛び交う。

 不老不死など本来あり得ないものだ。生きる者には必ず死が待ち受けている。これは紛れもない事実なのだと、少なくとも常識では考えられる。

 だがここは幻想郷。時折その常識に当てはめてはいけない事象も存在する。

 

「ある人は、魔が差したせいで不老不死の薬を口にしてしまい、以降成長が止まってしまった。何十年、何百年、何千年経っても、老いもしないし死ぬこともない。もちろん痛みは存在するし、病気にもなる。怪我だってするし、命を落とす程の重傷に陥ることもある。だけど死なないんだ。そんな境遇に居る者が、この幻想郷には複数人存在するとしたら、アンタ達は一体どう思う?」

 

 藤原妹紅は、かつて蓬莱の薬を口にしてしまい、不老不死となった。

 それはもう取り返しのつかない過去の話。

 今となっては最早どうすることも出来ないこと。

 ならばせめて、今をどうにかして生き続けるしかない。

 そんな彼女から尋ねられたのは、不老不死に関すること。

 銀時は少し考える素振りを見せて、

 

「俺ならば、不老不死なんざ願い下げだな……生き方、死に方は自分で決めてぇからな。死にたくても死ねねぇってのは、少なくとも俺は御免だ」

「けど、そんな境遇の人が身近に存在するとしたら……? アンタは不老不死になろうとするか?」

 

 これは彼女にとって、自身の生涯を懸けた質問でもあった。

 結果的にはそうなっていたが、妹紅は過去の因縁すら超えた絆を、不老不死を得ることによって結んでいるのだ。皮肉にも、かつて恨んでいた相手との絆は、不老不死によって誰よりも固いものへと昇華しているのだ。

 そんな彼女の気配を察したのか、神楽は口を開かない。

 銀時は、真剣な眼差しで、

 

「それでも俺は、不老不死であることを選ばねぇ。最後まで美しく生きていたいからな……ただ、他の誰かが不老不死になることを止めるつもりなんざねぇよ。それがソイツの選んだ道だってんなら、俺には止めようがねぇからな……けど、終わりがあるからこそ、人生ってのは美しく感じるものなんじゃねえのか?」

「……っ」

 

 それは、妹紅が相手をしている人物が告げたことと同じ答えだった。

 それもその筈で、その相手もまた、銀時から答えを得たのだから。

 彼女は納得せざるを得なかった。一生を共にするのではないかと思われる仲の人物が得た答えが、今も尚軸がぶれることなく、真っ直ぐに、銀時の口から告げられたのだから。

 

「……そうか。そうだな。そうだなぁ」

 

 しみじみと感じ取る妹紅。

 正直に、彼女は銀時のことを羨ましいと感じていた。

 生き方も、死に方も選べるその人生を。

 

「……まぁ、これでいいか? テメェの知り合いの姫さんにも同じこと伝えたから、詳しくはソイツから聞け」

「っ!」

 

 どうやら銀時は気付いていたらしい。

 妹紅の質問が、妹紅自身のことを、輝夜との関係のことを、そのどちらについても関係していたことを。

 

「……敵わないなぁ、アンタにゃ」

 

 妹紅は思わずそう呟いていた。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十訓 気になったことは質問してみると良い

 

 

 




今回は妹紅エピソードです。
一話限りの話ですが、この後のポロリ篇エピソードに続いていきますー。
もうしばらくポロリ篇は続きます。


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第百二十一訓 天候は気持ちがよく現れる

 人里を歩いている銀時・神楽・妹紅の三人は、とあることに気付いた。

 それは、

 

「……なんか、天気おかしくね?」

 

 そう。

 歩いている三人の内、妹紅の周りだけがおかしいのだ。

 彼女の周囲だけ、現在謎に晴れている。快晴を通り越して最早真夏の地獄的な猛暑。

 

「なんでここだけ猛烈に暑いアルか? ちょっと私から離れろヨ」

「気持ちは分かるけど地味に傷つくからね? その言い方」

 

 妹紅は呆れながらそう言う。

 言われた人が人であれば、もしかしたらその場で泣き出してしまっていたかもしれない。

 何というか、言葉を選ばなければただの虐めである。

 

「坂田さーん!」

 

 と、そんなやり取りをしている間に、一向に向かって大きな声で呼びかけてくる一人の少女が現れた。

 呼び方、声のした方向、それらから銀時はすぐに察することが出来た。

 

「なんだ、マスゴ……」

 

 ただし、少女は雨風と共にやってくる。

 

「ミィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!?」

 

 思わず叫んでしまう。

 何せ猛暑と雨風が同時に襲い掛かってくるような不思議過ぎる天気だ。

 これは誰がどう見ても異常気象。

 

「今度は台風アル!!」

「なんだこれ……おかしいぞ?」

 

 いくら幻想郷でも、『人』によって天候がコロコロと変わるなどという状況はそうそう起こるものではない。

 即ちそれは――。

 

「異変です! 異変が起きました!!」

 

 そう、これは異変が起きた証拠なのだ。

 

 

 射命丸文の話によると、この現象が起き始めたのはつい先ほど。 

 そしてそれを象徴するかのように、突然『博麗神社のみ』に大地震が起きたのだという。

 同時に、幻想郷に広がる緋色の空――人によって変わる異常気象。

 誰かが、何かの引き金を引いたとしか思えないような状況だった。

 

「つまり今、博麗神社は大変なことになってるってわけか……霊夢の奴、相当怒ってるだろうな」

「カンカンどころじゃありませんよ……怒りに身を任せて、片っ端からぶっ倒してます」

「おい誰か止めろ。異変解決どころか大量殺戮が起きちまう」

「弾幕ごっこだから死なないですよ?」

「いやもうそういう問題じゃなくね!?」

 

 銀時と文の二人による漫才のような掛け合い。

 それを見ていた妹紅が一言。

 

「アンタ達仲いいな」

「それほどでも~」

「ねぇな」

「認めてくださいよ?!」

 

 速攻で否定した銀時だった。

 文は思わずツッコミを入れる。

 どれだけ銀時はマスコミという存在に対して嫌な気持ちを抱いているのだろうか。

 

「しっかし、こうなると中々に厄介だな……」

 

 今はまだ二人しか確認出来ていないものの、他にも天候が崩れている人物は多く居ることだろう。

 即ち、天候がバラバラとなっている者達が固まって行動するのは難しいということになる。

 今こうして事情を聞いているだけなのに、猛暑の中で雨風が吹き荒れるという奇妙な光景が生まれている。

 

「こうなると、もしかして天気で誰が来るのか予想出来るのか?」

 

 幻想郷でスペルカードを持つ者達が、割とこうして天候に左右される可能性が高い。銀時や神楽、新八が影響を受けていないのは、彼らが弾幕を放つことが出来ないからだ。

 逆に考えれば、弾幕を放ったりスペルカードを持つ者がいるとすれば、何らかの形で影響を受けている可能性が高くなる。

 

「そしたら、私は私で探ってみるよ」

「私も引き続き調査しますよ! 坂田さん達も何か分かったら教えてくださいね!」

「しゃーねぇなぁ……」

 

 こうして、事件解決の為に四人は動き出す。

 妹紅は人里を、文は飛び回って色んな場所を、銀時と神楽はとりあえず周辺を散策することにした。

 

「なんだか大変なことになってきたアルな」

「まぁな……本当、来るたび色々起きてあきねぇ場所だなおい」

 

 幻想郷に彼らが足を運ぶ度に、何らかの事件が発生する。

 なんとなくそんなことを考えていた銀時達だったが、

 

「……ん?」

 

 先程まで晴れていた空が段々と曇っていく。

 ただし、その曇り方はあまりにもおかしい。

 ただ単に曇り空なのかと思いきや、鉛色に染まった曇天になったりもする。

 曇り方が毎回変わるのだ。

 

「今回は曇りの連中ってわけか……」

 

 ぽつりと呟く銀時。 

 そんな中現れたのは、

 

「おや、これは……銀時様。こんな所で何をされているのです?」

「もしかして、この異変が気になって? でも貴方達の周りは普通みたいね……」

 

 咲夜とパチュリーの二人が、並んで歩いていた。

 どうやら二人の周囲に雲がかかっていることより、この天候は二人の影響らしい。

 

「まぁな。さっきすげぇ雨風と猛暑にさらされたばっかだ」

「暑かった上にジメジメしたアル……」

 

 ある意味、暑さと雨風が混じったら地獄のような天気になる。

 夏の台風が相当の地獄なのはここからきているのだろう。

 

「御嬢様と妹様の周りは霧に包まれておりました故、外に出ることは難しいと判断しましたので……今回は私とパチュリー様の二人で解決しようかと」

「犯人は天候を操る程度の能力に準ずる何かを持っているのは確かだわ。でないとこんな状況を生み出せるとは思えない」

「なる程……確かにな」

 

 天気に関する異変が出ているということは、天気に関する能力を持っているということ。

 即ち、敵の周りには特徴的な何かがあるということを意味していた。

 

「今回ばかりは大人数で動くよりも、先に見つけた誰かが犯人を叩いた方がよさそうかと……」

「確かにな。探すのは多い方がいいだろうな……他の奴らも今そうして動いてんだろ」

「そうね。余程動けない天気じゃない限りはそうしてる筈よ」

 

 雨風が強くても飛んで探している烏天狗も存在するが。

 

「とりあえず私達は行くわね」

「銀時様も、犯人を見つけた時は……どうかお気をつけて」

「あぁ、テメェらも精々ばったりあわねぇよう、気をつけるこったぁ」

 

 こうして、ちょっとした異変解決の時間がはじまった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十一訓 天候は気持ちがよく現れる

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、ポロリ篇にて緋想天のエピソードを進めますー。
たぶんこの話は三話程で終わるんじゃないかなーって思います。
長くても五話程かなーって。
何せ解決までの糸口は短いので(白目


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第百二十二訓 聞き込み調査は基本中の基本

 天候が無茶苦茶になっている原因を突き止めようとしている銀時達。もはや次の天候は何なのかを楽しみにしている節もあった。

 

「てか、俺達は本当に何もねぇのな」

「テメェなら飴が降ってくるんじゃねえか天パー」

「神楽は飯でも降ってくるんじゃねえか?」

「そんな天気あるわけないアル」

「飴が降ってくる天気もねぇよ」

 

 適当な会話をしながら歩いていると、あたりの天気が次第に変化していくのを感じた。言葉に表記するのなら、霧雨の中に雹が混じっている感じである。

 

「雹についてはわからねぇけど、霧雨っつったら……」

 

 何か思い当たるものがあるかのような銀時。というより、霧雨になりそうな人物といえば検討のつく人物は一人しかいない。

 

「よぅ銀さん!」

「貴方も今回の異変に?」

「……雹はアリスだったのか。霧雨はやっぱりお前か魔理沙」

 

 雹がアリスだったのは意外だと思った銀時だが、霧雨が魔理沙だったのは簡単に予測出来た。何せ名前に『霧雨』とついているのだ。これでスルーして別の天候に割り振られていたとすれば、霧雨の名が廃る。

 

「けど予想通り過ぎてつまらないアル。もっと面白い天候になっとけヨ」

「人の天候に駄目出しするんじゃないぜ!? 第一選べないからな!?」

 

 全くもってその通りである。

 

「とりあえず、異変について調べているっていうのなら、少し気になる情報を手に入れたから共有するわ」

「気になること?」

 

 アリスと魔理沙は、異変について調査するにあたって何かを掴んだようだ。

 

「博麗神社に地震が起きたってのは銀さん達も知ってるか?」

「マスゴミから聞いた。んで、その地震がどうかしたのか?」

「その地震……どうやら予測してた人物がいたって話だぜ。妙にタイミングがいいとは思わないか?」

 

 魔理沙は腕を組んで悩みながら言った。

 

「地震を予知したにしてはタイミング良過ぎるアルな……」

「犯人とまではいかずとも、何かしら掴んでる可能性はあるってわけか」

 

 地震を予知したということは、少なからず自然現象にまつわる何かしらの能力がある可能性を示唆している。今回の一件についてもしかしたら掴んでいるのではないだろうかと銀時は考えたのだ。

 

「犯人に直接当たればよろしいのですが、その予知を成功させた人物に会って事情を伺うのも一つの道であるように思います」

「各人でそれぞれの天候を当てるなんてことは魔法でも難しいことよ。ならばこれはその人個人の能力であると考えるしかないわ。それもかなり大きな力を持った、ね」

 

 今まで遭遇した者の中に犯人はいない。何故なら、天候を操る程度の能力を持つ者がいないからだ。それと同等の強さの力を持つ者なら何人もいるが、幻想郷にいる全ての能力持ちに対して同じことをする程の手間と労力、そして力を注ぐことは決して簡単なことではない。

 唯一、八雲紫ならばそれだけのことをすることは出来るとは考えられるが、彼女の保有する能力は『境界を操る程度の能力』だ。応用をしたところで天候を弄れるわけではない。

 

「他に手がかりもなさそうだからな……そいつに会って話を聞く方向で進めてみるか」

「そうアルな。もし犯人ならばぶっ飛ばしちゃえばいいアル!」

 

 随分と神楽が短絡的な結論に達しているが、幻想郷における異変解決は基本的に犯人をぶちのめすことにあるので、強ち間違いではない。おそらく他に調査している者達も同じ結論に達していることだろう。冷静に考えればわりと物騒な解決方法である。平和的解決が出来なさそうなのが最大の理由ではあるのだが。

 

「何にせよ今の状況を打破しない限り、幻想郷の天候は元には戻りません……安定していない状況では御嬢様も妹様も危険ですから……」

「最早誰が一番最初に異変解決出来るのか競争ね……私としては早く帰りたい……そらそろ疲れる……」

「相変わらず体力ねぇなヒキ魔法使い……」

 

 呆れながら銀時が呟く。

 普段なかなか外に出ない彼女にとって、今回は外に出ている方なのだろう。加えて頭を働かせながらの情報収集なので、疲れもほどほどに溜まる。

 

「解決しましたら是非とも紅魔館まで足を運んでください。妹様と御嬢様様がお待ちしております。もしくは紅魔館2ndGまで……」

「俺達としては2ndGの方が行きやすそうではあるんだよな……まぁ、メイドの頼みとあっちゃ仕方ねぇな」

 

 不敵な笑みを浮かべながら銀時は答える。

 

「貴方達がいると、レミィの反応が面白いからね……楽しみにしてるわよ」

「アンタなかなかにいい性格してんな」

「お互い様じゃない」

「かもな」

 

 そんな会話を弾ませながら、彼らはその場を後にする。

 兎にも角にも、敵の手掛かりを見つけないことには解決のしようがないのだ。今は咲夜やパチュリーが掴んだ『地震を予知した人物』を探すのに専念した方がよさそうだろう。

 そしてその人物は、過去に銀時達が会ったことのなさそうな人物。

 

「総領娘様はどちらへ行かれたのか……あの人の我儘っぷりにも困ったものです……」

「ん?」

 

 まさしくそんな時に。

 銀時は、とある人物と遭遇するのだった。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十二訓 聞き込み調査は基本中の基本

 



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第百二十三訓 時にはしょうもない理由で事件を引き起こすこともある

 少女は、帽子をかぶり、羽衣を身に纏っていた。黒いロングスカートを履いており、髪の毛は明るい紫色。瞳は真紅に染まっており、高身長。

 そんな彼女は今、銀時や神楽の前にいる。

 

「あ、地震来ますよ。気をつけてくださいね」

 

 ぶっきらぼうにそれだけを伝え、その場を去ろうとしていた。

 

「って、ちょっとまたんかぁあああああああい!!!」

 

 流石に銀時もスルーするのは許さなかった模様。いきなり地震予知情報を出してきたということは、彼女が咲夜やパチュリーの言っていた地震を予知した人物なのだろう。

 何故こんな噂が流れてきたのか、理由は一つしかない。

 

「こうしてみんなに自分から流してたアルな……」

 

 そう。

 彼女が自分で、地震が来るという事実を伝えていたのだ。

 

「地震ってのは、博麗神社で起きたことか?」

 

 銀時は尋ねる。

 しかし少女は、

 

「あれについては私も知りません……私はただ、地震が起きることを伝えにきたのと、総領娘様を連れ戻しにきただけなので……」

「総領娘様? 誰だそいつは」

 

 聞き覚えのない名前に、銀時は尋ねる。

 すると少女は、

 

「比那名居天子様です。そして私は……永江 衣玖。よろしくお願いします」

 

 その口調はかなり事務的なものだった。本当に必要最低限のことのみを伝えるような、そんな感じ。頭を下げながら表情を変えることなくそう言った。

 銀時達は自分達の名前を告げた後に、

 

「その天子ってのはアンタの上司みたいなもんか。もしかしたら今回の一件はそいつが絡んでるんだろうな……」

「……あり得るかもしれません」

 

 ため息をつきながら衣玖は答える。自分の主人が一体どんな性格をしているのかをある程度察する事が出来てしまっているからこそ、可能性を捨てきれない。

 

「各人のみに起こる異常気象……テメェが予知した地震とは違う博麗神社のみを襲った大地震……そして緋色の空……これだけのことを平然とやってのけるっつーことは、そいつはやっぱり天候や自然現象を意のままに出来るやつってことだろ? テメェの主人にはそれが可能か?」

「……可能です」

「決まりだな」

 

 銀時は確信する。

 今回の異変、衣玖の主人とも言える存在、比那名居天子こそが犯人であると。

 

「そうしたらそいつぶっ飛ばせば終わりアルな? そいつのところまで案内……」

「する必要はないわ!」

「「「!?」」」

 

 三人のいる所に響く女性の声。

 その声の主は、既に銀時達のすぐ近くまで来ていた。

 腰まで届く青色のロングヘアーに真紅の瞳。頭にかぶっている帽子には、桃の実と葉っぱが付いており、半袖のシャツにロングスカート、ブーツを履いている。胸元には大きな赤いリボン。服の一部はエプロン状になっており、虹色に輝く装飾品が施されていた。そして右手には大きな剣を握りしめている。

 彼女こそ今回の異変の主犯、比那名居天子である。

 そんな彼女は、何やら楽しそうな表情を見せていた。

 

「まさか博麗の巫女でもなく、幻想郷の管理者でもなく、ただの侍が私のことまで辿り着くとはね! 今回の一件を引き起こして正解だったわ!」

「……テメェが今回の異変の犯人ってところか?」

「如何にも!」

 

 銀時に追求されたところで、彼女は特に反論することもない。何より、追い詰められる状況すら予測していて、それを楽しんでいるようにも見える。思考回路で言えば完全に愉快犯のそれに近い。

 

「私は大地を操る程度の能力を持っている。そしてこの緋想の剣は、周囲の気質を集めて力に変えることが出来る剣。今回色んな人の天候が変わってたのはこいつのせいだな」

「なるほど……その時幻想郷にいた能力持ちに作用してたのは、その剣が気を集めてたからか」

 

 結果的に、それぞれの人物達の周囲の天候が崩れたのは副産物でしかなかったのだ。ただし、天子はそれを見越した上で今回の一件を引き起こしている。

 

「総領娘様……どうしてこのようなことを?」

 

 一番聞きたいのはまさしくその点。この一点が解き明かされない限り、動きようがないからだ。

 だが、天子の口より告げられたのは、

 

「え? 暇だったから。退屈しのぎ?」

 

 あまりにも短絡的で、そしてあまりにも自分勝手で、そして物凄く単純な理由だった。

 

「「はぁ!?」」

 

 これには流石に銀時と神楽の二人も呆れるレベル。衣玖に関してはこめかみの部分を抑えていた。

 

「やることなくて暇だったんだよ。その時にこの剣見つけてさ。んで、こんな異変を起こしたら誰か強いやつくるかなーって思って」

「霊夢のところに地震起こしたのはどうしてアルか……?」

「ん? 博麗の巫女は強いんだろう? なら地震でも起こせば来るかなーって」

「……まじか。まじかこいつ。ただそれだけの理由でこんな傍迷惑な異変を起こしやがったのか!?」

 

 下手すれば幻想郷を揺るがす程の大事件になりかねなかったものが、結果的にただ一人の暇つぶしによって引き起こされていたという事実。あまりにも酷すぎる事実に銀時は驚愕を隠しきれない。

 

「まぁまぁ、固いこと言いっこなしってことで。とりあえずせっかく犯人にたどり着いたんだし、どう? ひと勝負……」

 

「「そうね。その話、すごく興味があるわ」」

 

 その時。

 怒りに満ちた二人の女性の声が、辺り一面に響き渡った。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十三訓 時にはしょうもない理由で事件を引き起こすこともある




おそらく次回でポロリ篇終了となります。
そして地霊殿篇へと突入する予定です!


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第百二十四訓 とばっちりというものは何時如何なる時にも存在する

「この声、まさか……」

 

 聞き覚えのある声が二人分。

 しかもその声はどう聞いても怒りに染まっている。

 今この場で恐らく現れてはならない――いや、現れるべきではあるのだが、現れたら嵐が巻き起こるのではないかと安易に想像出来てしまう二人組。

 まさしく当事者。

 というか、被害者。

 

「よくもまぁ、こんなことをいけしゃあしゃあとやってのけたわね……しかも暇つぶし感覚で神社倒壊ときた。これはもう何されても文句言えないわよね?」

 

 そこに居たのは、巫女の殻を被った修羅(霊夢)だった。

 そして、修羅がもう一人。

 

「よくもこの地をこんなにも危険に晒しましたわね……しかもその上、自分の欲求を発散させる為だけにここまでのことをするだなんて……美しく残酷にこの大地から往ね!!」

 

 珍しく怒りの感情を剥き出しにした修羅()

 自分の愛する世界が、危うく崩壊する可能性を秘めていたのだ。

 怒らない筈がない。

 

「……総領娘様。反省された方がよろしいかと」

「ちょっと!? これからが面白くなるってものじゃないか! ここで引くだなんて勿体ない!」

「何この戦闘狂。俺関わりたくねぇんだけど……」

 

 天子の反応に、銀時は全力で引いていた。

 彼女の思考回路が、最早愉快犯としての究極的な所まで来てしまっている。改善見込みは恐らくない。

 

「あのBBAが珍しくガチギレしてるアル……」

「小娘も巻き込まれたいか?」

「ごめんなさい」

 

 あまりの凄みに、神楽が折れた。

 それほどまでに紫の怒りは頂点に達している。

 

「面白い……私はこういう戦いがしたかったんだ!! くるがいい!! まとめて相手しようぞ!!」

「上等。叩きのめして神社の修復をしてもらうから!!」

「その後でこの大地から即刻立ち去れ!!」

 

 三人による決戦が始まった。

 恐らく戦力的には霊夢や紫側が圧倒的に有利。

 いくら天子が強い力を持っていたとしても、怒りに染まった彼女達を止めるのは至難の業だろう。

 何せ倒してもゾンビのように起き上がる。

 

「……もう、このまま放置してりゃ勝手に解決するんじゃねえか?」

「そうかもしれないアル。私達の仕事はこれで終わりアルか?」

「後は黙って見守ろうぜ……あの修羅は流石に入り込みたくねぇ」

「私も流石に……」

 

 取り残された三人は、幻想郷における頂上決戦の様子を目の当たりにしている。

 霊夢がとんでもない数の弾幕を張り、紫が境界を開いてそれらの弾幕を至る所へ飛び散らかせて、天子がそれを剣で斬り裂き、避け、自身も弾幕を放って撃ち返す。

 やっていることはそうでもないのに、規模がとんでもないことになっているのだ。

 それこそ、何食わぬ顔で入り込んだら一瞬にして命を刈り取られるレベル。

 

「そっとしておこう……」

「銀ちゃんそれ違う作品の台詞ネ」

 

 神楽のツッコミが銀時にぶつけられた瞬間だった。

 

 

 後日談というか、今回のオチ。

 結局、今回の最終決戦は、予想通り霊夢と紫が勝利した。

 天子は何食わぬ顔で逃走。

 神社の修復を手伝うことなく、その場から消え去ってしまったのだった。

 尚、衣玖に関しても同様。

 異変の当事者及び関係者は、誰一人残らないという悲しい結末。

 そして今神社の修復は誰が行っているのかというと。

 

「何故、俺達が、やらなきゃいけないんだ……」

「仕方ないじゃないですか。依頼で来たんですからきっちり果たさないと」

「報酬ももらえるんだから、さっさと働くネ天パー。そして給料寄越せヨ」

「テメェらもグチグチ言ってねぇで働け」

「アンタも働くのよ天パー。給料出すんだからさっさと直しなさい」

「給料出すのはテメェじゃなくて紫じゃねえか。テメェはただ指示するだけだろ」

「何? アンタ達の給料全額私がかっさらってもいいんだけど?」

「何の権利があって」

「博麗の巫女としての権利だけど?」

「それ強くねぇからな?」

「幻想郷では相当な権力よ」

 

 霊夢は最早言い訳をするつもりはないらしい。

 銀時は溜め息を吐きながら、仕方なく修復を続ける。

 

「銀さーん! ファイトだぜー!」

 

 空からは箒にまたがっている魔理沙が応援している。

 

「テメェも手伝いやがれ魔法使いィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

「私は応援してやるぜ!」

「応援なんざいらねぇんだよ!!」

 

 最早魔理沙のそれは単純に邪魔しているだけではないだろうか。

 

「まったく、動きが鈍いぞ銀時」

「って、なんでテメェは平然とここに居やがるヅラぁ!!」

「ヅラじゃない、桂だ!!」

 

 特に手伝うわけでもなく、ただ突っ立っている桂。

 隣では、『がんばれ♡がんばれ♡』と書かれたプラカードを持っているエリザベスが立っていた。

 

「チクショォオオオオオオオオオオオオ!! 完全に俺達の損じゃねえかぁあああああああ!!」

「僕なんて前の話で爆発させられて久しぶりに出たと思ったらこの仕打ちですからねぇええええええええ!!」

 

 男二人分の叫び声が辺り一面に響き渡ったという。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十四訓 とばっちりというものは何時如何なる時にも存在する

 

 




これにて今回のポロリ篇は終了となりますー。
次回からは地霊殿篇!
たぶん東方の異変話は、星蓮船及び非想天則篇まではつづけようかなーと思ってます。
その後は、小話だったり、オリジナルのエピソードだったり、色々あると思います!


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地霊殿篇
第百二十五訓 温泉が湧き出るのはロマンの塊


今回より地霊殿篇がスタートします!


 最早定番となったBGオンリー。

 つまり新しい異変の幕開けを意味する。

 

「そろそろ幻想郷も平和にならないですかね……ここの所頻繁に異変が発生してますよね?」

「馬鹿か新八ィ。異変なくなったらこの小説成り立たなくなるだろ? 連載終了しちゃうだろ?」

「いきなりメタい理由ぶつけてくんのやめろぉ!!」

「でも新八。実際ただ幻想郷でのんびりするだけの話とか、銀魂混じってるくせにそれだけで終わらせるなんて面白いか?」

「私ならどっかで●●●ぶち込むアル」

「変な所で伏字にすんなァアアアアアアアアアアア!! 下ネタだろ!? 普通に言える言葉だろ!? 無駄に伏字にしたせいでもうやばい単語入れるしかないように見えるからァアアアアアアアアアア!!」

「それはともかく、確かにここんところ異変続きであまり休まってねぇよなぁ……」

「つい最近まで神社修復に駆り出されてたせいで身体中が痛いですよ。筋肉痛です」

「貧弱アルな新八。そんなんじゃ吸血鬼も倒せないアル」

「倒せなくていいよ」

「お前も波紋の呼吸を習得すりゃいいんだよ。コォー……とか言っときゃそれっぽいだろ?」

「アンタ無理に中の人ネタ入れなくていいから!!」

「まぁ、でも確かに疲れたっちゃ疲れたよな……せめて温泉でも出てきてくれりゃいいんだけどよ」

「そんな都合よく温泉なんてあるわけないアル」

 

 と、ここで居間の襖が開かれる。

 そしてそこから――。

 

「大変よ銀時! 温泉よ! 博麗神社から温泉が出てきたわ!!」

 

 目が金のマークになっている霊夢が現れたのだった。

 

 

 場所は変わって幻想郷は博麗神社。

 霊夢の言っていたことがいまいち信じられなかった銀時達は、その真相を確かめるべくやってきていた。

 結果は――。

 

「マジか。マジで温泉湧いてやがる」

 

 博麗神社から少し離れたところに、確かに温泉が湧いていた。しかも急ピッチでこしらえたのか既に浴場まで出来上がっている。ご丁寧に男性女性で仕切りが建てられている所から見るに、何かの観光スポットにでもするつもりなのだろうか。

 

「昨日魔理沙やアリス、何人かの協力者を得て急ピッチで仕上げたわ。これで温泉ビジネスが始められて、お賽銭もがっぽがっぽって算段よ……っ」

「流石博麗の巫女。金にがめつく汚い」

 

 思わず銀時はぽつりとつぶやいていた。

 

「けど、温泉が出てきただけじゃなくてちょっとした問題もあるみたいなのよ」

 

 ここで霊夢は少しばかり真面目な表情を浮かべる。

 

「何が問題なのです?」

 

 新八が尋ねる。

 すると霊夢は、温泉の方を見ながら、

 

「温泉の方を見ながら、物音聞いてみなさい」

 

 言われた通りに、三人は聞き耳を立てながら温泉の方をジッと見つめる。

 すると、

 

「う、うぅ……」

「あぁ……あぁ……」

「や……だぁ……ばぁ……」

「はぶぎゃああああああああああああああああ!!」

 

 謎のうめき声がたくさん聞こえてきていた。

 しかも、魂の形をした何かが、それに呼応して湧き出ている。

 

「なんか声がするのよ」

「間違いなくあれ何かに憑りつかれてるだろぉおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 銀時のシャウトが辺り一面に響き渡る。

 同時に銀時の身体はがたがたと震え出した。

 

「あ、そっか……銀時は幽霊の類が苦手だったわね」

「そそそそそそ、そんなこと、ねねねねね、ねぇししししし? ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとび、び、びっくり、し、し、しただだだだだ、けだ、しっしっしっ」

「動揺し過ぎてわけわからねぇラップみたいになってんだろうが!!」

 

 誰がどう見ても動揺しているのは間違いない。

 少なくとも銀時を知る者ならそういう反応をするだろう。

 

「まぁ声が聞こえるだけだし、人体に害はないからそのまま放置でいいかなって思ってるんだけど……」

「え、これ絶対よくないですよね? 何かの前触れですよね? というかそもそも地下からいきなり温泉湧いてきた段階で異変を疑いましょう? 過去にも似たような事例たくさんありましたよね?」

「何言ってんだヨ新八。温泉アルよ? ちょうど入りたかったアルよ? このビッグウェーブを逃して本編に入ろうとするアルか!? サービスシーンでウハウハな部分が始まるかもしれないアルよ?」

「神楽ちゃんがそれ言っちゃ駄目でしょォオオオオオオオオオオオオオオ!?」

 

 ちなみに、今回そんなサービスシーンはあってもかなり後になるので今はありません。

 

「ちゃっかり筆者まで答えてるわね」

 

 霊夢がポツリと呟いた。

 

「そんなわけで温泉が湧いたから知らせようと思ったのよ……って、どうしたのよ銀時。回れ右して」

「い、いや? 温泉見たし、帰ろうかなって思ってな?」

「なんで帰るのよ。せっかくだし入っていきなさいよ。金は安くしないわよ」

「しねぇのかよ!? せめてサービスとかしとけよ!! あんなやべぇ温泉浸かるとぜってぇ祟られるわ!!」

「大丈夫よ。苦しいのは最初だけだから」

「しかも苦しいこと前提なのかよ!?」

 

 金の亡者、博麗霊夢としてはこの機を逃したくはないらしい。

 ちなみに、未だに入浴客はゼロである。決して描写が出来ないから入浴客を描いていないわけではない。

 

「何馬鹿なことやってるのよ……」

 

 その時、珍しい客が博麗神社に訪れていた。

 

「ん? パチュリーじゃない。珍しいわね、一人でここまで来て……疲れてないの?」

「そりゃ疲れてるわよ……なんでここ遠いのよ……むきゅ~……」

 

 目をグルグル回しそうな勢いのパチュリー。

 しかし彼女は伝えなくてはいけないことを最優先にしたのか、何とか踏みとどまった。

 

「どうしたんですか?」

 

 話を進める為にも新八が尋ねる。

 するとパチュリーは、

 

「……事情を説明したいから、一度紅魔館に来てくれないかしら。フランも銀時に会えていなくてそろそろ禁断症状出てくる頃だから……」

 

 とんでもない爆弾を落としながらも、そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十五訓 温泉が湧き出るのはロマンの塊

 



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第百二十六訓 現場で話し合うのは少し危険

 パチュリー先導の元、銀時達は紅魔館へと向かっている、のだが。

 

「おいもやしぃ! 何テメェ途中でへばってやがるんだコノヤロウ!!」

「むきゅ~……だって、こんなに動くことないのよ……仕方ないじゃない……」

 

 博麗神社から数メートル離れた段階で、既にへばっていた。

 へばってしまったパチュリーをそのままにしておくわけにもいかず、仕方なく銀時が背負っているという状態だ。

 

「てか冷静になって考えたら、テメェが説明する役になるんだから迎えに行くの咲夜とかでもよかったんじゃねえの!?」

「……一応私の目でも、現場を見ておきたかったのよ。本当に私の推察が正しいのか……結果正しかったのだけど……むきゅ~」

「その結果体力なくなるんだったら、せめてもう一人連れてこいや!! 結局こうなるんだったら!!」

「……むきゅ~」

「それ言ったら誤魔化せると思ったら大間違いだからな? 思いつかなかっただけなんだな?」

 

 パチュリーを背負いながら、銀時がいろいろと責めているという状況。当の本人であるパチュリーはしらを切りまくっている。まるで子供の喧嘩みたいな状態がそこには広がっていた。

 

「仲がいいのね……」

「いやそういうことではないと思いますよ?たぶん本当にお互い何も考えてないだけだと思いますよ?」

 

 霊夢の呟きに対して、新八が即座にツッコミを入れた。

 尚、神楽に関しては無視して歩いている。

 

「歩きながらでも少しだけ話を進めるわ……私の体力がある内に」

「それなくなったら完全にヒントもらえなくなることを示してるよな? 暗にテメェの体力なくなったら詰みゲーになること言ってるよな? てか来る前に気付け?」

「それで、今後の方針だけど」

「話聞けや」

 

 銀時がツッコミを入れる中、パチュリーは華麗にそれらをスルーしている。

 というよりも、そろそろ本格的に自身の体力がなくなることを自覚しているのかもしれない。

 

「あそこから湧き出ている物……あれは間違いなく怨霊ね」

「うめき声の正体は怨霊ってことになるのかしら?」

「その通りよ、霊夢。だから変な叫び声だったでしょう?」

「けど、それによるデメリットは一体何が生じるの?」

 

 霊夢は話を進める。

 尚、銀時はパチュリーを背負っているせいで露骨には出していないものの、少しだけ身体が震えている。怖がっているのだろう。

 

「周囲によくないことを及ぼす可能性があるわ……だからなるべくなら早い所どうにかしないといけないの。それで、怨霊の出どころを調査したほうがいいんじゃないかと思って」

「怨霊の出どころ、ですか?」

 

 新八が気になったらしく会話に参加する。

 

「えぇ。怨霊はきっと地下から出ているわ。博麗神社の地下から温泉が湧き出たのと同時に、怨霊も出てきたのはその為だと思う……というか、突然温泉が出たという点にも何かしらの目的があるんじゃないかと思うわ」

 

 確かに、今までその前触れすらなかった上に、調査をしたこともなかったような場所から、突然温泉が湧き出てきたのだ。怪しまない方がおかしい話でもある。

 

「確かに……もしかしたらそこには重大な何かが隠されているのかもしれないわね」

「疑うのが先でしょう? なら、可能性は潰しておいた方がいいに決まってるわ」

 

 危険が起きてからでは何事も遅くなってしまう。

 ならば、先回りして解決に導いた方がよいという物だろう。

 

「つまり、私達はこれから地下に行かなきゃいけないってことね」

「そういうこと。ただ、闇雲に地下を探索しても意味ないし、それなりに人手も必要よ……」

「それで紅魔館ということアルか? でも集めるだけなら博麗神社でも……」

「今回の一件に関しては少しだけ事情ありきなのよ。だからなるべくなら一度に話をまとめたいし、何より怨霊が集まっているような場所に無闇に集めすぎると、今度は妖怪の気に触れて何が起きるか分かったものじゃないわ。だからなるべくなら、話し合いをするのは現場より遠い場所の方がいいのよ」

 

 今回のような異変は今に始まったことではない。

 だが、今までも異変が起きた場所で話し合いを行うようなことはなかった。

 と言うより、博麗神社の近くで何かが起こっているような状況はそこまで多くなかったからだ。

 しかし、ここ最近は博麗神社を目的とするか、被害地とするか、近辺を基点にして起きるかはともかく、少なくとも三回連続博麗神社そのものが何かしらの形で関わっている。

 その場で話し合うことは、メリットもあるがデメリットも大きい。

 ならば、なるべく遠い場所で話し合って、いざという時に動けるようにした方が効果的というものだ。

 

「それと、今回はちょっとしたことがあるみたいだから……紅魔館に大勢の人が集まることになるらしいのよ。だからなるべくなら多くの人が集まれる場所がいいってこと」

「なる程。それで紅魔館ってわけね……しかもフランが禁断症状出ているから、と」

「そういうこと」

 

 凡そ最後の理由が一番大きいのではないかと思う一同。

 

「それにしても……さっきからなんで一言も発しないのかしら、銀時」

 

 背負われているパチュリーが、銀時に尋ねる。

 銀時は汗をだらだらと流しながら、

 

「そそそそそそ、そんなわけ、ねぇじゃじゃじゃじゃん? かんがえこんででで、た、だけだしぃいいいい?」

「……情けないアル」

 

 神楽にそう言われる始末だった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十六訓 現場で話し合うのは少し危険

 

 



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第百二十七訓 定期的に会うようにしましょう

 さて、そうこうしている内に紅魔館に到着した一同。

 門番である美鈴は、いつも通り居眠りをしている。

 

「……zZZ」

「おいコイツ本当に門番として大丈夫なのかよ」

 

 思わず銀時はツッコミを入れていた。

 前回のは寝たふりだったが、今回はガチで寝ている。

 それだけに、もし主人に見つかったりしたらどうなるか分からない。

 

「おい、起きやがれ門番」

 

 とりあえず銀時は起こそうとする。

 それだけまだ人格者であるということなのかもしれない。

 

「もう……食べられません……」

「駄目ですね……完全に夢の中です」

 

 新八が呆れた目をしながら呟いた。

 もうこうなっては意味がない。

 

「潔くスルーするアル」

「そうしましょう」

 

 神楽と霊夢の言う通り、パチュリーを背負っている銀時と、新八も後に続いて中に入る。

 その途中、後ろから『ギニャァアアアアアアアアアアアア!!』という叫び声が聞こえた気がしたが、銀時一行はスルーすることにした。

 そうしてしばらく歩いていく内に、客間が見えてくる。

 

「あそこに既に魔理沙やアリス達も居るわ。フランは既に銀時待ちよ」

「思えば風神録篇といい、ポロリ篇その伍といい、全然フラン達の出番なかったからな……」

「そういう話ではないと思いますよ? 銀さん。単に会えなくて寂しかっただけだと思いますよ?」

 

 若干メタいことを話しているが、スルーの方向で。

 新八は丁寧にツッコミを入れている。律儀なツッコミ眼鏡だ。

 そんなわけで銀時は扉を開けた――。

 

「ギン兄様ぁああああああああああああああ!!」

「あぶぎゃああああああああ!」

 

 開け放った瞬間に銀時の鳩尾にフランがダイナミックエントリー。

 勢いを抑えきれず、そのまま後ろへとぶっ飛んで行く。

 当然、背負っているパチュリーも巻き込まれる。

 

「きゃあああああああああああああああ!」

 

 パチュリーはそのまま銀時から離れ、少しした所で地面に落ちる。

 べちゃっ、という効果音すら聞こえてきそうな程華麗に顔面から落ちた。

 

「お、おい……パチェ、大丈夫か?」

 

 これには流石のレミリアも困惑のようだ。

 開かれた扉から、レミリアがパチュリーの元へと歩み寄ってくる。

 

「むきゅ~……」

「せっかくの情報源が気絶したぁああああああああああ!?」

 

 新八のシャウトが響き渡る。

 

「フラァアアアアアアアアアン!! ちょっと手加減しなきゃ駄目だぜ!?」

 

 慌てて魔理沙が飛び出してきた。

 その横にはアリスも溜め息を吐きながら並んでいる。

 

「ギン兄様に会えなくて、私とってもとっても、寂しかったんだよ? 毎日ギン兄様のことだけを想って過ごしてきたのに……どうしてギン兄様は私に会いに来てくれないんだろうって……でも、信じて待ってなきゃって思って……前の宴会以来、ずーっと会えなくて……フラン寂しかった……」

「悪かったな……俺の方も色々忙しくてな……」

 

 フランを抱きかかえながら、銀時は優しく頭を撫でる。 

 しかし、当の本人はそれだけでは満足していない様子。

 

「駄目……足りない……ギン兄様が足りない……もっとぎゅーってして……」

「こ、こうか?」

 

 銀時は抱きしめている腕に力をこめる。

 すると、フランは少し息を吐く。

 フランの吐息が、銀時の首筋を優しく擽った。

 

「もっと……もっと……」

「って、これ以上は……」

 

 これ以上密着すると、流石の銀時でも理解出来てしまう程、フランの色んな所が当たってしまう。

 同時に、銀時の色んな所も当たってしまう。

 当ててるのよ♡展開は流石に望まれてはいないだろう。

 

「……何よこれ。何なのよこれ。何いきなりいちゃついてるのよ天パーロリコン野郎は」

「ロリコンじゃねえって言ってんだろ!?」

 

 青筋を浮かばせながら、霊夢が若干キレている。

 

「お、落ち着くんだぜ霊夢! フランだって久しぶりに銀さんに会えたんだから、嬉しくてやってることだと思うんだぜ!?」

「……」

 

 頭では理解しているものの、心では納得し切っていない様子。

 霊夢はまだ、自分の気持ちを完全に理解しきれていないのだろう。

 

「って、誰かパチュリーさんを介抱してあげてください!!!」

 

 この中ではある意味常識人である新八が、パチュリーの容体を気にしていた。

 

「そ、そうだったぜ! アリス、パチュリーをソファに寝かせるぜ!」

「えぇ……神楽、新八。多分咲夜が門番の所に居る筈だから、呼んできて」

「分かったアル!」

「はい!」

 

 アリスの指示の元、新八と神楽は咲夜を呼びに行く。

 

「……パチェの方は何とかなるとして」

 

 とりあえず親友の方はなんとかなると確信したレミリアは、銀時とフランの方を振り向く。

 

「ギン兄様……キス、して……」

「ふぁぁあああああああああああああああ!?」

「あぁあああああああああああああああん!?」

 

 大胆告白のフラン。

 驚き仰天の銀時。

 怒り頂点のレミリア。

 

「おいギントキ。流石にそこまでは認められないぞ。姉である私の前で熱烈なキスをしようなどと烏滸がましい。この場で話し合おうじゃないか」

「ぜってぇ話し合う気ねぇよな!? 最早殺気ぶつけてきてんの分かってんぞ!?」

「やかましい!! 私だってフランとキスしたいのよ!!」

「シスコンの叫びなんざ聞きたくねぇっての!!」

 

 フランと密着している銀時と、怒りのあまりに髪の毛が逆立っているレミリア。

 

「上等じゃない……異変解決の前に、バラバラにしてあげるわよ銀時」

 

 そして何故か怒り心頭の霊夢。

 

「話が進まないから一旦落ち着くんだぜぇええええええええ!?」

「いい加減になさい!!」

 

 魔理沙とアリスが止めようとするも、全然話を聞く素振りを見せない。

 

 結局、この場が収まるのは、咲夜が来てからのこととなるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十七訓 定期的に会うようにしましょう

 

 




やりすぎた感があります……。


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第百二十八訓 郷に入っては郷に従う必要がある

 一応なんとかその場は落ち着いたのだが、落ち着いた今でも尚、フランは銀時にしっかりと抱き着いていて離れないままであった。そもそも彼女は銀時に会いたいと願ってやまなかったのだから無理もない話なのだが。

 ちなみに、一応パチュリーは復活している。

 

「酷い目にあった気がする……」

 

 ソファに寝転がりながらパチュリーが呟いていた。

 

「ご、ごめんね……?」

 

 流石に少し罪悪感があるのか、フランは恐る恐るといった形でパチュリーに謝罪の言葉を述べる。銀時にしがみついたままではあるが。

 

「大丈夫よ……貴女がどれだけ銀時に会いたかったのかは知ってるから……」

「優しいですねパチュリーさん……」

 

 新八は感想を述べていた。

 

「とりあえず話の続きをしよう。今の所、何が問題なのかがはっきりしていない以上、現地に調査しに行く必要がある。ただし、その上で条件がある」

「条件? 何だその条件ってのは」

 

 レミリアの言葉に反応したのは銀時だった。

 ただ単に異変の調査をしに行くと言うのに、その上に条件がくっついてくるなんて今まではなかったからだ。

 

「スキマ妖怪に確認を取った所、地底には地底の、地上には地上の、妖怪なりのルールというものがあるようだ。互いに干渉し過ぎるのはよろしくない、ということらしい」

「確かに、妖怪同士の過干渉はよろしくないわね……」

 

 アリスが呟く。

 ちなみに、魔法使いである彼女も妖怪の部類に入る。

 

「だから、今回の異変調査には人間達だけしか赴くことが出来ない、ということだ」

 

 レミリアが結論を述べた。

 

「なる程。つまりテメェらは地底に潜れねぇから、人間である霊夢や魔理沙、そして俺達に調査を依頼するってことだな?」

「私も忘れては困ります」

 

 そう言って咲夜が前に出る。

 

「たまに咲夜は妖怪以上の実力を発揮するから、人間であることを忘れちまうだけだ……悪気はねぇ」

「仕方あるまい。咲夜は私が認めたメイドだからな」

「有り難きお言葉……」

「鼻血出てますからね」

 

 主人に認められたことにより、どうやら感極まったようだ。

 そして新八はツッコミを忘れない。

 

「けど、そうするとどうやって連絡取り合うアルか?」

 

 気になる点はそこにある。

 人間達だけで調査すること自体はそう難しいことではない。

 だが、それだけでは指示を出すことも出来なければ、状況を報告することも難しい。

 しかし、パチュリーは言った。

 

「その点なら安心して。河童に無線機みたいなものを作らせたわ」

「アイツはドラ●もんかよ」

「ちょっとォオオオオオオオオオオ!? 駄目ですよそんな発言したらァアアアアアアアア!!」

 

 危ない発言をむやみやたらと繰り返さないで欲しいものである。

 

「しかし本当にあの河童は何でも出来るアルな……」

「なんでもは出来ない。出来ることだけだろう」

「なんでテメェが若干どこぞの委員長みたいに言ってんだよシスコン」

「そっちの文化にも少しずつ触れてきているからな」

「よりによってオタク文化に手を出してるよこの人」

 

 胸を張るレミリアに対して、新八が冷静にツッコミを入れた。

 

「……ねぇ」

 

 ここで、フランが口を開く。

 銀時の腕をぎゅーっと抱きしめながら。

 

「もしかして……私、お留守番?」

 

 そう。

 ようやっと会えたと言うのに、今回の異変調査に向けた話の条件に則るならば、吸血鬼であるフランも地底には降りられないということになる。

 つまり、銀時と離れてしまうということに。

 

「……すまない、フラン。そういうことに……」

「やだ……せっかくギン兄様に会えたのに……まだまだギン兄様が足りないのに……っ」

 

 頭では理解していても、心では納得し切れていない。

 彼女の精神はまだ幼い。

 やっと会えた愛する人と、すぐまた離れ離れにならなければならない。

 その状況がたまらなく辛いのだ。

 

「……なるべく早く帰ってくるからよ。それまで待っててくれねぇか?」

「ギン兄様……でも……」

 

 頭を撫でながら、フランを宥める銀時。

 フランは何か言いたげな表情を浮かべている。

 

「じゃあ、約束だ。帰ってきたら、テメェがしてぇこと、一日限り叶えてやるよ」

「本当……? なんでもいいの……?」

「人間辞めるようなもの以外なら何でもいい」

 

 そこまで銀時が言うと、フランは大人しく銀時から離れた。

 そして笑顔で、

 

「分かった、約束! ギン兄様、約束守ってね?」

「あぁ、約束だ」

 

 不敵な笑みを浮かべつつ、銀時はその言葉を了承した。

 

「つーわけだ。ちゃっちゃと異変調査して、さっさとけーるぞ」

「まったく……自分がやる気ないだけじゃないですか?」

「ちゃんと仕事しろヨ、天パー」

「けど、なんだか私も燃えてきたぜ!」

「御嬢様方の為、私も全力を尽くします」

「そうね……神社に温泉出してくれたこと、お礼言わなきゃならないしね」

「「「「「アンタだけ温泉かよ!!」」」」」

 

 人間組五人のツッコミが、霊夢にぶつけられた瞬間だった。

 

 兎にも角にも、これから彼女達による異変調査が始まろうとしていた――。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十八訓 郷に入っては郷に従う必要がある

 

 



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第百二十九訓 上から降ってくる少女は大抵可愛い

 そんなわけで、銀時達一向は地底へ潜ることとなった。

 潜り方は実に単純で、間欠泉状態となっている場所から飛び降りるという簡単な作業だ。

 ただし、飛べる人のみだが。

 

「仕方ねぇぜ……こうなったら、私達で銀さん達を担いでいくしか方法はないぜ。このまま突き落すと絶対死んじまうから危ないぜ……」

 

 最初の問題。

 銀時達が空を飛べないせいで、このまま落ちたら死に至るというもの。

 

「いや、待って……もっと単純な方法があるわ」

「え?」

 

 霊夢の呟きに対して、銀時が反応する。

 それを無視して、霊夢は何もない空間に向かって、

 

「いるんでしょう? 紫」

 

 八雲紫のことを呼んだ。

 瞬間、何もない所からスキマが現れて、扇子を広げた一人の絶世の美女が現れた。

 

「私は便利屋ではありませんのよ……? けど、今回ばかりはお役に立てるようですわね」

「出たナBBA」

「あん? ひとっ走り付き合うか?」

「いきなり喧嘩売らないで神楽ちゃん!! 今これから助けてもらう所なんだから!!」

 

 こんな時でも喧嘩を売るのを忘れない神楽。

 お約束という奴である。

 

「銀時様達が空を飛べないので、このまま行くと間違いなく危険ですから……地底の入口までスキマを開けて欲しいのです」

 

 咲夜が依頼をする。

 紫は分かり切っていたような表情を浮かべると、

 

「せっかく依頼するのですから、滞りなくこなせるようにしなければいけませんわね……」

 

 そう言いつつ、銀時達が立っている地面を、切り裂いた。

 

「「「え?」」」

 

 当然、何の準備もしていなかった銀時達は、目を大きく見開く。

 霊夢・咲夜の二人は溜め息をつき、魔理沙はにこにこと笑顔を見せていた。

 

「これでよろしいですわね?」

「サンキュー!」

「「「って、全然よくねぇえええええええええええええええ!!!」」」

 

 結局、大きな穴に落ちるか、スキマに落ちるか。

 どの道落ちることには変わりない三人なのであった……。

 

 

「ふぎゃっ!」

「あぐっ!」

「ほわちゃっ!」

 

 銀時・新八・神楽の三人は、尻から下に落ちる。

 スキマのおかげですぐ地面に到達したおかげで、ほぼ無傷で降りることが出来た。

 

「よかったじゃない。無事降りられて」

 

 その上から、霊夢と魔理沙と咲夜の三人も降りてくる。

 彼女達は能力で宙を浮いている為、こうして無事に降りることが出来た。

 

「確かに、そのまま墜落するよかマシだったけどよ……いっちばん最初を思い出しちまったぜ」

 

 かなり序盤の、紅霧異変発生時。

 銀時が初めて幻想郷に降り立った日。あの時も今みたいに、紫が開いたスキマから落ちて、そのまま地面に落下した。その時から比べてみればまだ優しい方であることには変わりない。

 とにかく、地底にやってきた一同は、一度周りを見渡した。

 地底と呼ぶのにふさわしく、周りには灯りらしきものはほとんど見受けられない。

 一応、そこにある街に行けるだけの道は存在する為、銀時達はその道を歩くことにした。

 

「地下にある街ねぇ……なんだか吉原みてぇだな」

 

 銀時達の世界にも、地下に作られた街、吉原が存在する。

 ただし、ここは人工的に作られた場所ではない。

 

「吉原……どんな街なのですか?」

 

 咲夜が興味本位で尋ねる。

 

「女がたくさんいる街だ。遊びの為の街とも言える」

「単なる飲み屋だけが並んでいるわけじゃなさそうね……」

 

 銀時の口ぶりより、吉原がどんな街なのか軽く想像がついた霊夢。

 そんな雑談を交えること、数分が経過した時。

 

「……ん?」

 

 銀時は、ふと立ち止まった。

 

「どうしたアルか?」

 

 神楽が尋ねる。

 銀時は辺りを見渡しながら、

 

「気配だ。何かの気配を感じる……」

「……そうね。私達を見ているみたい」

 

 霊夢も気付いたらしく、辺りを警戒している。

 

「早速敵のお出ましか? 私の弾幕をお披露目する時が来たみたいだぜ」

 

 何故か魔理沙はわくわくしている様子。

 弾幕を放つことには生きがいを感じている模様。

 

「……」

 

 咲夜は無言でナイフを握りしめる。

 新八や神楽も、辺りを警戒していた。

 そうしていること、数分。

 

「……っ!!」

 

 銀時の目の前に、木製の桶が落ちてきた。

 

「えっ……?」

 

 しかもその中には、一人の女の子が入っていた。

 緑色のツインテール、水色と白の玉が二つ付いた髪留め、白い着流しを羽織った幼い少女。

 そんな少女が、銀時の目をジッと見つめていた。

 

「おん、なのこ……?」

 

 新八はきょとんとしている。

 

「何でしょう……?」

 

 咲夜も不思議そうに眺めている。

 

「あ、あの……何か御用でしょうか……?」

 

 おずおずと尋ねてきたのは少女の方だった。

 銀時はきょとんとしながら、

 

「いや、俺達地上から来たんだけどよ……突然温泉湧き出たもんだから、なんでかなぁ……なんでかなぁ……って思って……こわいなぁ、こわいなぁ……って思って……調べに来たんですよ……そしたら……なんと……小さな女の子が……ぼわぁあああああ! って……」

「なんでアンタが稲●さんみたいに喋ってんだよ!?」

 

 律儀に新八はツッコミを入れた。

 

「……あの、私……キスメって言います。貴方達は……?」

 

 少女――キスメは、銀時達を見渡しながら尋ねる。

 一通り彼らは自己紹介をした後で、

 

「地底について一番詳しいのは誰?」

 

 と、霊夢が尋ねた。

 するとキスメは少し考えた後、

 

「たぶん、旧都に行けば地霊殿の主様の所に辿り着くと思います……ここを真っ直ぐ進めば大丈夫です」

「そう。ありがとう」

 

 そのまま何事もなかったかのように霊夢は歩きはじめる。

 

「……どうかご無事でー」

 

 キスメも、何事もなかったかのように見送る。

 一体何だったのだろう、と思わざるを得なかった銀時達だった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百二十九訓 上から降ってくる少女は大抵可愛い

 

 



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第百三十訓 道案内する人の口調が時折おばさん臭いことだってある

 キスメを通り過ぎた銀時達が次に遭遇したのは、

 

「……蜘蛛?」

「え?」

 

 霊夢の呟きに、魔理沙が疑問を浮かべる。

 彼らの目の前に居たのは、金色のポニーテールに茶色の大きなリボンをつけ、瞳の色は茶色。黒いふっくらした上着の上に、焦げ茶色のジャンパースカートを履いていて、丸く膨らんだスカート部分は蜘蛛の腹を、胸についた飾りボタンは蜘蛛の眼を、四本のベルトは自分の四肢と合わせて蜘蛛の8本脚と模様をイメージしたものとして装飾が施されている。どう見ても人間体なのだが、霊夢は何故だか蜘蛛だと一発で見抜いた。

 

「へぇ……アンタ、なかなかいい目してるね!」

 

 少女は蜘蛛と呼ばれて喜んでいた。

 どうやら自分の種族を言い当てられたことが嬉しかったようだ。

 

「私は黒谷ヤマメ! こんな所に人間達がこんなにも来るとはすごいじゃないかい! 私は思わずびっくりしちゃったよ!」

 

 やけにおばさん臭い口調で語り掛けてくる少女に対して、

 

「なんだこいつ、合法ロリかなんかか?」

 

 という、銀時からの的外れな感想が返ってきた。

 

「合法ロリってのは私のことかい? 随分と新しい言葉つかってくるねぇお侍さん」

「坂田銀時だ。名前位覚えて帰ってくれよな?」

「ほほう、坂田銀時って言うのかい。大層な名前だねぇ……そっちの人達は?」

 

 ヤマメに言われたことにより、他のメンバーも自己紹介をする。

 そんな彼女の感想の一つに、

 

「へぇ。眼鏡かい」

「ちょっと!? 僕名前言いましたよね!? なんですぐに眼鏡認定されなきゃならないんですか!?」

 

 これには流石の新八もツッコミするのを止められなかった。

 

「本当にこんなところに人間が来るだなんて珍しいねぇ。一体何のようなんだい?」

「私達は地霊殿という場所を探しております。そこにいらっしゃる方が、今地上で起きている異変について何か掴んでいるのではないかと思いまして……」

「なる程……それならばここを真っ直ぐ行って、一度旧都に足を運んでみるといいよ。そこからなら地霊殿は行ける筈だからねぇ……にしても、なかなか強そうな連中だなぁ。一度お相手してみたいけど……」

 

 ヤマメは全員を見渡して、それから小さく溜め息を吐く。

 

「駄目だねぇ。こんだけ強そうな連中が六人もいると、私はすぐに負けちまいそうだよ」

 

 ヤマメは好戦的ではあるものの、引き際というものを知っている。

 大勢で寄ってたかって殴られたら自分がまけてしまうことを悟ったのだろう。

 それ以上深い追及をすることはなかった。

 

「随分と優しい蜘蛛なのね。テリトリーの中に足を踏み入れたら逃がさないものだと思っていたけど」

「私ぁ別にあんたら食べたいわけじゃないからねぇ。楽しく生きていられればそれでいいのさ。だからさ、次会った時には是非とも戦っちゃくれないかい? 特にそこのお侍さん――坂田銀時、なかなか強そうだよ」

「え、俺?」

 

 まさか指名されるとは思ってなかった銀時。

 自分で自分を指差しながら、きょとんとしている。

 

「いや、まぁ、銀さん面倒事は勘弁なので、ここは代わりに魔理沙でどうっすか?」

「ちょ、私を使うのかよ銀さん!?」

「いいわよ~」

「いいのかよ!?」

 

 あっさりとヤマメは認めたので、流石に魔理沙も驚きを隠せない。

 

「まぁ、冗談はともかくとして、旧都に行けば何か掴めるんじゃないかい?」

「サンキューアル」

 

 一応神楽が礼の言葉を述べる。

 

「それじゃあ先へ進みましょう。いつまでもここで立ち止まっているわけにもいかないし」

「そうだな……道案内ご苦労さん。それじゃあ俺達行くわ」

「あいよ~」

 

 銀時達は、ヤマメに指示された方へと歩みを進める。

 ヤマメは彼らの後ろ姿を眺めながら、気楽そうに手を振っていたという。

 

 

 そうして銀時達は、旧都へ到着した。

 そこは辺り一面暗い場所――とはいえ、所々松明によって火がつけられており、ある程度の灯りは保たれてる。色んな建物が建ち並び、住人も何人か歩いているようだ。

 その大体は、鬼か妖怪である。

 

「鬼か……そういやあの大酒飲みも鬼だったな」

「あぁ、萃香のこと?」

 

 以前、宴会をやりたいが為に自身の能力をフル活用した鬼――萃香。

 彼女もまた鬼であり、この地に足を踏み入れることは一応可能である。

 今回彼女は酒飲んで寝ている為、ここには来ていないが。

 

「これが終わったら、温泉浸かりながら宴会だぜ!」

 

 萃香の名前を聞いて酒が飲みたくなったのか、魔理沙がそんなことを宣言した。

 

「お、いいアルな! 温泉に浸かって食べるのも悪くないアル!」

「……俺達二人だけの宴会になりそうだな」

「そうですね……」

 

 男女の壁は、温泉においてはかなり大きいものである。

 最も、何人かはそんな壁をぶち破って銀時の元へやってきそうなものではあるが。

 と、その時だった。

 

「……ん?」

 

 銀時は、辺りを見回した。

 

「どうしましたか? 銀時様」

 

 咲夜が尋ねる。

 銀時は辺りを見ながら、

 

「いや、何か今、気配を感じた気がしてな……」

 

 確かに、銀時は何者かの視線を感じたのだ。

 しかし今回は殺気や闘気の類ではない。

 もっと純粋な好奇心からくるもの。

 

「……んん?」

 

 他の人達も銀時に倣って周囲を見るが、特におかしな点は存在しない。

 そう、彼女達からしてみれば、視線すら感じていないのだ。

 

「本当に人がいるアルか? 何も感じないアル」

「……気のせい、か?」

 

 銀時が辺りをもう一度見渡した、その時だった。

 

「っ!」

 

 突然、銀時の肩に、何かが触れたような感触が起きたのだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百三十訓 道案内する人の口調が時折おばさん臭いことだってある

 

 

 

 



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第百三十一訓 人は無意識の内に見る見ないを判別している

「なっ……?」

 

 確かに、銀時の肩に誰かが触れた感触はあったのだ。

 実際視線も感じたので、間違いはない筈だった。

 しかし、

 

「誰も、いない……?」

 

 振り向いた時には、そこに誰も居なかった。

 

「おい、今誰か俺の肩叩いたか?」

「何言ってるの銀時?」

 

 周囲に確認を取る銀時に対して、霊夢はその質問をする意図が理解出来ていないようだった。

 魔理沙や咲夜も、あまりそのことに気付いている様子はない。

 当然、新八や神楽もだ。

 

「誰かが銀さんの肩を叩いたってことですか?」

 

 新八が尋ねる。

 

「あぁ、確かに……」

 

 辺りを見渡す銀時。

 すると今度は、

 

「ひぃっ!」

 

 銀時の背筋に感じられた、謎の感触。

 誰かが指で背中をつー……となぞったような、くすぐったさと寒気のダブルパンチ。この場において不穏なのは、銀時の視界には五人全員映っているのに、背後からその感触が感じられたことだ。

 

「ま、まさか……」

 

 そこで銀時は、ある可能性に辿り着いてしまう。

 これは、こんなことをするのは――。

 

「もしかして幽霊なんじゃないかな?」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 瞬間、銀時の耳元で女の子の声が聞こえてくる。

 それが致命的となった銀時は、つい勢いで後ろを振り向いて思い切り抱き着いてしまった。

 

「えっ」

 

 感触があった。

 本来ならば後ろに誰もいない筈なので、抱きしめた所で自分の身体を抱きしめる情けない天然パーマの図が誕生する筈なのに。

 

 そこには一人の女の子がいた。

 

「なっ……!?」

 

 霊夢は思わず臨戦態勢を取る。

 今まで気配すら感じなかった少女が、突然目の前に現れたのだ。

 警戒しない訳がない……ただし、天然パーマの変態が抱き着いていなければ、だが。

 

「銀ちゃん!? その子誰アルか!? さっきまで居なかったアルよ!?」

 

 当然、神楽も尋ねる。

 銀時が今抱きしめているのは、薄く緑がかった癖のある灰色のセミロングに緑の瞳を秘めた女の子。薄い黄色のリボンをつけた鴉羽色の帽子をかぶり、黄色い生地に、二本白い線が入った緑の襟、鎖骨の間と胸元とみぞおちあたりに一つずつ付いたひし形の水色のボタン、黒い袖の上着。緑の生地に白線が二本入ったスカートには、薄っすらと花柄模様が描かれていた。

 何より最大の特徴は、左胸にある閉じた瞳。そこから伸びた紫色の管は、一本は右肩を通って左足に履いている靴に付けられたハートへつながり、もう片方は一度顔の左でハートマークを形作り、そのまま右足に履いた靴に付けられたハートへつながっている。

 その女の子は、悪戯に成功したように嬉しそうに笑っている。

 

「初対面の女の子いきなり抱きしめちゃうんだねー。お兄さん大胆だー」

「あ、す、すまねぇ!!」

 

 勢いよく離れた銀時。

 少女は両手を後ろで組み、少し前のめりになって銀時を覗き込む。

 

「あはは。面白いねお兄さんー。お名前なんて言うの?」

「俺か? 俺は坂田銀時。テメェは?」

「私は古明地こいし。よろしくねー」

 

 銀時の周りをうろちょろしながら、嬉しそうに話すこいし。

 

「……先程までこの場に居なかったようですが、どうやってこの場に?」

 

 咲夜は警戒しながら尋ねる。

 当然だろう。今の今まで姿かたちを一切見せなかった少女が、いきなり現れたのだ。

 対する少女は、なんてことないと言いたげな表情を浮かべながら、

 

「あ、それきっと私の能力だねー。『無意識を操る程度の能力』っていうのを持ってるんだー」

 

 無意識を操る程度の能力。 

 その名の通り、相手の『無意識』を操ることによって、こいし自身を認知させないようにするもの。

 

「なる程……だからさっきまで私達は気付けなかったようね」

「全然分からなかったぜ……」

 

 霊夢と魔理沙は納得する。

 

「だけど、お兄さんだけは私の気配を感じ取ってた。私の周りに居る人はみんな、こうして私が意識して現れない限りは存在を認知できない筈なのに……だから面白いなーって」

 

 こいしからしてみれば、坂田銀時の存在は稀有な物なのだろう。

 能力が発動している以上、銀時にもその影響は及んでいる。確かに銀時の目にも彼女は映っていなかったからだ。しかし気配は感じ取ることが出来た。故に銀時だけが怪しむことが出来たのだ。

 

「お姉ちゃん以外で私のことを確認出来たのは初めてかもしれないー」

「お姉ちゃん、ですか?」

 

 気になるワードを聞いた新八が尋ねる。

 姉、というワードに反応する辺りは流石シスコンである。

 

「って、何勝手に地の文でシスコン認定してんだゴラァアアアアアアアア!!」

 

 シリアスなので邪魔しないで頂きたい。

 

「何言ってるんだぜ? 新八……」

 

 魔理沙が呆れながら新八にそう言った。

 閑話休題。

 

「私のお姉ちゃんは、この先にある地霊殿の主なのー」

「俺達、ちょうどその地霊殿ってとこに用があるんだ。テメェが案内してくれっか?」

「いいよ! お兄さんのこと気に入ったから、案内してあげるー」

 

 銀時の手を握りながら、こいしは笑顔でそう言った。

 瞬間、霊夢は両拳を握りしめて青筋が浮かんでいた。

 

「……なんでこう、行く先々で銀さんは女の子を落としていくんだぜ……」

「妹様の苦労が……」

 

 魔理沙は呆れ、咲夜は紅魔館に居る主人の妹を案じていたという。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第百三十一訓 人は無意識の内に見る見ないを判別している

 

 




地霊殿篇を書くにあたって一番気に入っているヒロイン、こいしちゃんの登場です!
彼女に関するエピソードは、恐らく地霊殿篇の中で描かれることになるでしょう……。


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第百三十二訓 他人に対する嫉妬は誰にだってあるものだ

 旧都到着から少し時間が経過して、こいし合流からある程度時間が経った頃。

 彼らは地霊殿に向かう途中で橋に差し掛かった。

 その橋にもたれかかるようにして、一人の女性が立っていた。

 

「なんだアイツ?」

 

 銀時が思わずポツリと呟く。

 その右腕には、ちゃっかりこいしがにこにこしながら抱き着いていた。

 

「……何よ銀時。あんなにべたべたと……」

 

 霊夢、あからさまに嫉妬しているの巻。

 そんな霊夢を見ながら、橋にもたれかかっている女性が。

 

「……人に嫉妬しちゃって。妬ましい」

 

 と、突然言ってきたのである。

 

「「「は?」」」

 

 思わず、万事屋の三人は声を合わせてあきれ果てる。

 女性の容姿は――金色のショートボブ、緑色に輝く瞳、耳は少しとがったエルフ耳、服装はペルシアンドレスに近い物。服の裾やスカートの縁には、橋姫伝説の舞台である宇治橋を髣髴とさせるような橋の形をした模様や装飾が施されている。

 

「何よ貴方達。見せつけちゃって妬ましい……」

 

 霊夢に言った後は、銀時とこいしの二人を見て『妬ましい』と称する女性。

 

「貴女は……?」

 

 咲夜が尋ねる。

 女性はにこっと笑いながら、

 

「私は水橋パルスィ。そんなに大人数で旅をしていてなんて妬ましいのかしら」

「……最早妬ましいが口癖みたいになってるぜ」

 

 まさしく魔理沙の言う通りであり、パルスィの口癖は『妬ましい』というもの。

 その理由も、彼女の能力が『嫉妬心を操る程度の能力』であるから。

 ただし、他人に使われることはあまりなく、むしろ自分の嫉妬心が力になっていたりするものでもある。

 

「本当珍しい人ね。侍がこんなところに来るなんて……貴方、なかなかに強そう。本当妬ましい」

「へっ。嫉妬深い女ってのは趣味が分かれるぜ?」

「お生憎。私はただ単に嫉妬深いだけじゃないわよ」

 

 パルスィの目は銀時をジッと捉えている。

 恐らく、これから彼女は銀時に対して何かを仕掛けてくるに違いない。

 

「こいし。ちょっくら離れていてくれ」

「わかったー……」

 

 少し残念そうに、こいしは銀時から離れる。

 その様子を見ていたパルスィは、

 

「主の妹様に魅入られるなんて妬ましいわね……一体どんな手品を使ったのかしら?」

「しらねぇよ。ただ単に勝手について来られてるだけだ。テメェこそその嫉妬は一体何処からくるんだ? 俺達まだ初対面だぜ?」

「初対面だろうが何だろうが、嫉妬することに変わりはないわ」

「そうかよ……おめぇらもそこで見ておけ」

 

 銀時は、霊夢達に少し離れた所で見ておくように指示し、自分は橋の上に歩を進める。

 自然と、銀時とパルスィは向かいあう形で橋の上に居る形となった。

 

「……妬符『グリーンアイドモンスター』!」

「っ!!」

 

 パルスィから放たれたのは、サッカーボール大の緑色の弾。

 その弾幕は、蛇のようにうねうねと動きながら、銀時の方に迫ってくる。

 その挙動は決して素早くない。故に銀時は前へ飛ぶことによって難なく避けることが出来た……が。

 

「なっ……!」

 

 その軌道に、動かない弾幕が張り巡らされていることに気付いた。

 

「ちっ……」

 

 咄嗟に銀時は木刀を突き刺して、足場を作る。

 その足場を利用してさらに前へと飛び、

 

「当たるわけないでしょう!」

 

 パルスィに向けて蹴りを放つも、その蹴りはパルスィによって躱される。

 ただし、時間が経過したことによって橋の上の弾幕は消える。銀時は一度突き刺した木刀を抜き、再度パルスィに向かって突進した。

 

「花咲爺『華やかなる仁者への嫉妬』」

 

 それを黙って受け入れるパルスィではない。

 銀時を狙う大玉弾を放ち、迎え撃つ。

 それを銀時は木刀で斬り伏せたが、

 

「またか……っ!」

 

 今度は、その軌道に花の形をした綺麗な弾幕が設置されていた。

 橋の手すりを壊すと、銀時はそれらを弾幕に向けて弾き飛ばす。

 破片と弾幕が衝突し、弾幕の花びらは無残にも霧散した。

 

「本当、そこまでの強さを兼ね備えているなんて……妬ましい」

「精々妬んでろよ。テメェが妬んでいる内に、こっちは難なく越えてやるからよ」

 

 銀時は木刀を思い切り振り上げて、パルスィに振り下ろそうとして――。

 

「恨符『丑の刻参り七日目』」

「っ!!」

 

 しかしパルスィの攻撃は終わらなかった。

 銀時を目がけて全方位から飛んでくる、無数の弾幕。

 それらは橋に跳ね返り、霊夢達の方にも飛んでいく。

 

「なっ……!!」

「こっちは大丈夫だぜ銀さん!」

「私達は私達で何とか出来ますので」

「アンタはアンタで終わらせなさい」

 

 弾幕を放つ三人が、新八や神楽、そしてこいしを守る。

 銀時はその様子を見て安心したかのように笑い、

 

「背中は預けたぜ!!」

「その絆がとても妬ましいのよ!!」

 

 パルスィから放たれた弾幕を、銀時はすべて木刀で斬り伏せ、そして――。

 

「はーい、終了ー」

 

 パルスィの目前まで木刀を振り下ろし、そこで止めたのであった。

 

「……どうして止めるのよ?」

 

 疑問に思ったパルスィは銀時に尋ねる。

 すると銀時は、

 

「テメェを倒すことに何の意味も見いだせなかったってのと、美人の顔傷つけるわけにゃいかねぇだろ?」

 

 と、不敵な笑みを浮かべつつ言ってのけたのだった。

 

「……本当、何処までも妬ましい男」

「……テメェこそ、何処までも憎たらしい女」

 

 互いにそう言いあう。

 そんな銀時に、

 

「お兄さん凄いぞー!」

 

 と言いながら、こいしが抱き着いてきた。

 

「おっと……銀さんはいざという時には輝くんだぞ?」

「かっこいいーっ」

 

 こいしは目を輝かせながら銀時の話を聞いている。

 

「まったく……これだからロリコンは……ケッ」

「神楽ちゃん、口かなり悪いし語尾忘れてるよ……」

 

 痰を吐き捨てる神楽を宥める新八。

 そして霊夢・魔理沙・咲夜の三人と言えば、

 

「……行くわよ」

「霊夢機嫌治すんだぜ……」

「……はぁ」

 

 三者三様の反応をとりながら、前へ進むのだった。

 その後を、銀時達も追う。

 

「……妬ましい程、仲の良い人達ね」

 

 軽い口調で、そんなことを呟くパルスィなのだった。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第百三十二訓 他人に対する嫉妬は誰にだってあるものだ

 

 




久しぶりに戦闘描写書いた気がします……。


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第百三十三訓 鬼退治をするのは一苦労

 橋を渡り、こいしの道案内の元地霊殿を目指す銀時達。辺りを見渡すと、先ほどよりも妖怪や鬼が多く存在することに気付いた。何人かは、銀時達一行が珍しいのかチラチラと眺めている。

 

「なんだか私達注目されてるアル!」

「地底に来る人間が珍しいからでしょうね……それもこんなに大勢」

 

 神楽の疑問に対して霊夢がそう語る。

 幻想郷における地上と地底の関係性は、制約がいくつか定められていることからも良好であるとは言えないのだろう。そんな中でやってくる人間達だ。純粋な興味が入り混じっていても何ら不思議ではない。

 

「しかし、あまり感じのいいものってわけでもないな……」

 

 ポツリと銀時が呟く。

 好奇の眼差しというのは、良くも悪くも注目されるということ。受けることによって気分が悪くなることだって十分に考えられるのだ。特に、地底には人間がいないせいで、あまりいい印象を抱かれていることはない。

 そんな中。

 

「おやおやおや? こんな所に人間がいるたぁねぇ」

 

 と、一人の女性――鬼が話しかけてきた。

 金髪ロングの女性の額には、赤い角が生えている。その角には星柄の模様が描かれていた。瞳の色は赤。上着はまるで体操服を彷彿とさせる、白を貴重に袖の部分が赤く染まっている物。下はロングスカートを履いている。 

 そんな彼女は、銀時達を見るとニヤッと口元を歪ませた。

 

「そんなに珍しいものですか?」

「そりゃねぇ。地底に人が降りてくるなんざ、物好き以外の何物でもないし」

 

 咲夜の質問に対して、女性は笑いながら答える。

 

「私は星熊勇儀。見りゃ分かると思うけど、鬼だよ」

「なる程……本当に鬼が居るたぁねぇ」

 

 銀時は木刀を握りしめて前に出る。

 新八と神楽、そしてこいしの三人は慌てて止めようとするも、

 

「へぇ。アンタ、私が何をしたいのか分かってんのかい?」

「そりゃそんだけ闘志むき出しにしてりゃあ、心が読めなかったとしても理解出来らぁ」

「やっぱり面白いねぇ、これだから人間相手にすんのは止められないのさ!」

 

 勇儀は、手に大きな杯を握り締め、そこに酒を注ぐ。

 それを持ちながら銀時達に告げた。

 

「面倒だからまとめてかかってきな。ただし、鬼を相手に人間が実力だけで勝つのは難しいだろうから、私はこの杯に入った酒が零れたら負けってことにしてやるよ」

「随分と大層な余裕だぜ。この人数相手に勝てるっていうのか?」

「あぁ。弾幕を使ってもいいよ。こちとら腕が鳴るってもんよ!」

 

 そう言いながら、勇儀は魔理沙目掛けて突っ込んできた。

 

「早速って所だぜ!」

 

 魔理沙は一筋の大きな光を放つ。

 マスタースパーク。彼女が持ち得る最強の攻撃だ。

 

「一直線なのは悪くないけど、避けやすさもピカイチだねぇ!」

「なっ!」

 

 勇儀はそれを、難なく避ける。

 そのまま魔理沙の腕を掴んで、

 

「そらよっ! お返しだっ!」

 

 霊夢に向かってぶん投げた。

 

「ほわたぁ!」

 

 その間に神楽が割って入って、魔理沙をキャッチ。

 

「さ、サンキュー……」

 

 助けてもらった魔理沙は、神楽に対して礼の言葉を述べた。

 

「いいコンビネーションだねぇ。それなら……っ!」

 

 鬼符『怪力乱神』。

 鱗のような形の弾幕を張り巡らせて、全方位に放つ。

 それらは地面に着弾すると、バネのように勢いを増し、目標目がけて突っ込んでくる。

 

「そんな攻撃、効きません」

 

 咲夜はナイフを配置することで、弾幕を撃ち消していく。

 新八も、木刀を使って斬り伏せていた。

 

「いいねぇ! どんどん暴れ回ろう!」

 

 勇儀の方は楽しくなってきたのか、どんどん弾幕を放っていく。その上でさらに別のスペルカードを使用した。

 

「怪輪『地獄の苦輪』!」

 

 勇儀はパンチを放つ要領で、拳を前に突き出す。

 瞬間、そこから複数のリング状の弾が飛び、銀時達を目指して飛んできた。

 

「数撃ちゃ当たるってもんでもねぇぜ?」

「生憎、当てるのが目的じゃないからねぇ。本命はこっちさ……っ!!」

 

 銀時が迫ってきたのに対して、勇儀はニヤリと口元を歪ませる。

 勇儀はノーモーションから、鋭い蹴りを放ってきた。

 銀時はそれを木刀を使って受け流す――しかし。

 

「ぐっ……お、おめぇ……なんつぅ蹴りだ……っ!」

「それが鬼の蹴りってもんよ! どうだい!?」

「大した蹴りだな……が、当たらなきゃどうってこたぁねぇだろ?」

「はっ! 大した余裕だねぇ!」

「お互い様だろ……っ!」

 

 銀時の木刀と、勇儀の拳が激突する。

 無数に放たれる、剣戟と拳。

 衝突する度に鈍い音が鳴り響くも、両者にダメージが通る気配はない。

 

「霊夢っ! 咲夜っ! チャンスだぜ!」

「一気に行くわよ!」

「かしこまりました……っ!」

 

 その隙を、三人は逃さない。

 霊夢は札状の、咲夜はナイフの、魔理沙は星型の弾幕を放ち、それを勇儀目掛けて撃つ。

 

「はっ! 舐めるんじゃないよ!」

 

 銀時を拳で突き飛ばした後、

 

「四天王奥義『三歩必殺』!!」

 

 勇儀は地面を思い切り踏みつけた。

 

 ――壱歩。

 

 瞬間、地面の叫び声が辺りに響いたと思いきや。

 

「なっ……!」

 

 夥しい数の弾幕がばらまかれていた。

 

「まだまだ……!」

 

 ――弐歩。

 

 再び、地面が揺れる。

 さらに多くの弾幕が張り巡らされた。

 

「そして……っ!」

 

 ――参歩。

 

 またしても多くの弾幕を張り巡らせる。

 つまり、避けたくても避けられない数の弾幕が、霊夢達を襲うということ――っ!

 

「これで私の……っ」

「テメェの負けだ、鬼」

「え?」

 

 その油断の隙を、銀時は逃さなかった。

 銀時は手に持つ木刀を横に振るうと、

 

「なっ……!」

 

 勇儀が握り締めていた杯を吹き飛ばし、中に注がれた酒をすべて地面に吸わせた。

 

 

「酒が零れちまったみたいだな。アンタの負けだぜ?」

 

 銀時が、木刀の刃先を勇儀に向けつつ、口元をニヤつかせながら宣言する。

 勇儀は高々に笑い出す。

 

「あははははははっ! こりゃいい! アンタなかなか面白いねぇ!」

 

 その笑い声と共に、先程まで設置されていた弾幕は消え去った。

 

 ――ここに、鬼と、鬼の子との勝敗は決されたのだった。

 

 

 

 

 

 

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第百三十三訓 鬼退治をするのは一苦労

 

 

 

 

 

 



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第百三十四訓 名前と中身が一致しないことが時々ある

「いやぁ参った! 私じゃなくて盃を攻撃する可能性は読んでたけど、まさかここまで露骨に来られるとは思ってもなかったからねぇ!」

「真正面から鬼に挑んだところで勝てるわきゃねぇからな。俺達なりに戦った結果だ」

 

 勇儀は素直に褒め、銀時がそれに対して反応する。

 確かに、力自慢の鬼相手に参ったと言わせるのはなかなかに骨が折れる。しかし、勇儀は『盃の酒が溢れたら自分の負け』というルールを課した。もしそれがなかったら、銀時達は負けていたかもしれない。単純な耐久力も、パワーも、実力も、すべてが銀時達より上回っていたのだから。

 

「私の弾幕が全然当たらないなんて……もう少し修業の余地ありだぜ……」

 

 魔理沙が少し悔しそうにつぶやいた。

 初っ端からクライマックスのつもりで挑んだ彼女だったが、マスタースパークをいとも容易く避けられてしまったのだ。最大火力の攻撃をあっさり躱されたとなると流石にショックなのだろう。

 

「し、心臓止まるかと思いましたよ……」

 

 一番人間らしい反応を取っているのは新八だろう。確かに並大抵の人間に比べたら余程強い新八だが、この場には彼を余裕で上回る化物どもが沢山いる。ついていくだけで手一杯だろう。

 

「またやるアル!」

 

 神楽は楽しかったのか、勇儀に対してそう告げる。

 勇儀はニヤリと笑った後、

 

「もちろん!」

 

 と握手した。

 

「お兄さん強い! みんなも強い!」

 

 そんな中、今回は観戦していたこいしが銀時に抱きつく。

 銀時はこいしを受け止める。

 その様子を勇儀は暖かい眼差しで見つめていた。

 

「……へぇ。あんたその子に懐かれてるんだ」

「なんだ? こいつのこと知ってんのか?」

 

 銀時は尋ねる。

 

「地霊殿においてその子達を知らない奴はいないさ。まぁ……仲良くしてやってくれ。姉の方にもよろしく」

「……あぁ」

 

 その時の勇儀の表情はとても真剣だった。何処までも真っ直ぐで、一切のふざけを感じない。

 だからこそ、銀時も真剣に答える。

 きっとこの子には何かがある。そう感じ取ったからだ。

 霊夢達も茶化したり深追いする様子はない。今はその時ではないということを悟ったを

 

「もうすぐであんた達の目的地である地霊殿さ。その子に道案内してもらってるのならすぐ着くさ」

「ありがとうございます」

 

 咲夜が頭を下げて感謝の言葉を述べる。

 勇儀は手を振りながら、

 

「今度会った時には酒でも飲んで語り合おうな!」

 

 と告げたのだった。

 

 

 勇儀と別れた銀時達は、とうとう地霊殿に到着することが出来た。

 外観は西洋風の物。名前が地霊殿と言うわりには随分と西洋に傾いた建物となっている。

 

「ここが地霊殿だよ!」

 

 こいしは嬉しそうに言う。

 銀時達は一度それを眺めた後、

 

「入るわよ」

 

 霊夢の言葉に頷いた。

 とにかく今は目的地に到着することが出来たのだ。中に入って事情を確認することが大事となる。

 扉を開けると、床は市松模様に彩られていた。ステンドグラスが天窓に施されている。

 

「ここが地霊殿、ですか……すごい建物ですね」

 

 ポツリと新八が感想を述べる。

 かつて紅魔館をはじめとした幻想郷にある建物を訪れたことのある一行だったが、そのどれにも負けず劣らず、地霊殿は広い。

 

「いいとこ住んでんのな、お前」

「そうだよー。お兄さんもどう? 一緒に住もうよー?」

「遠慮しとくわ。俺には俺の帰る場所があるからな」

「えぇー」

 

 銀時がやんわりと断ると、こいしは少し残念そうにしていた。

 口ぶりからは軽めのものであるものの、もしかしたら一緒に住みたいと言うこと自体は本音だったのかもしれない。

 

「ん?」

 

 そんな中で、魔理沙が目の前に何かがいるのを見つける。その声に合わせて他の人たちも魔理沙が見ている方向を見つめる。

 

「ねこ……?」

 

 そこにいたのは、一匹の猫だった。

 

「にゃーん」

 

 尻尾が二本ある黒い猫。首元についた鈴がチリンと鳴り響く。その猫は、まるで品定めでもしているかのように銀時達のことをじーっと見つめている。

 やがて視線がこいしと合うと、何やら驚くように体全体でびくっとさせていた。

 

「こいし、コイツは一体何なんだ?」

 

 銀時が尋ねる。

 こいしは銀時の腕をしっかりと抱きしめながら、

 

「この子はお燐。私達のペットなんだよー」

「ペットねぇ……にしちゃ、しっかりと俺達のことを見つめている気がするが……」

 

 銀時は猫――お燐をしっかりと見つめている。

 対するお燐も、警戒心を緩めることはない。

 そして――。

 

「にゃーん!」

 

 その場を走り回った。

 と、その時だった。

 

「なっ……!?」

「これは……っ!?」

 

 霊夢と咲夜が、驚きの声をあげる。

 何故なら、お燐の歩いた所から、複数の弾幕が飛んできたからだ。

 

「ちっ……!」

「ほわちゃーっ!」

「はぁっ!」

 

 銀時・神楽・新八の三人は、各々で何とか弾幕を対処する。

 一方の霊夢・魔理沙・咲夜についても、弾幕を放つことで相殺した。

 

「……」

 

 それを見届けたお燐は、猫の形から、

 

「へぇ、随分と腕の立つようだね……」

 

 人の形へと姿を変えた。

 

 

 

 

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第百三十四訓 名前と中身が一致しないことが時々ある

 

 

 

 



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第百三十五訓 力試し

 その少女は、真紅の髪を両サイドで三つ編みにし、根元と先を黒いリボンで結んでいる。頭には黒い猫耳が生えており、瞳の色は赤。黒の下地に緑の模様が入ったゴスロリファッションのような服を着て、手首と首元に赤いリボンを巻き、左足には黒地に白の模様入りのリボンをつけていた。

 少女は銀時達を見ると、

 

「アタイは火焔猫燐! 長いからお燐って呼んで欲しい!」

 

 と、人懐っこく言ってきた。

 

「猫が……人に変身した……!?」

 

 銀時は少し目を見開いている。

 何かの動物をモチーフにしたような人物なら何度も遭遇したことがあったが、姿が変わるのを間近で確認したのは初めてのことだった。猫といえば記憶の中に橙が浮かぶも、銀時達の前では猫の姿になったことはない。

 

「貴方達は人間だよね? けど、そこの人はこいし様に懐かれているみたいだし……」

 

 お燐は、今もなお銀時から離れようとしないこいしを見て驚いていた。

 

「私達としては、この先の主人に用があるのだけど……そこを通して貰えないかしら?」

 

 霊夢が尋ねる。

 するとお燐は、

 

「……もしかして、怨霊の件でここに来たってこと?」

「その通りですが……何かご存知なのですか?」

 

 お燐の様子が少し変わったことに気付いた咲夜は、彼女にその真意を確かめる。もしかしたら今回の一件、彼女も何か掴んでいるのではないかと思ったからだ。

 お燐はとうとう、今回の一件について説明することにした。

 

「……間欠泉に混じって怨霊を送ったのはアタイだよ」

「なにっ!? アンタが犯人だったんだぜ!?」

 

 魔理沙はお燐の言葉を聞いた瞬間に戦闘態勢を取る。

 しかし、そんな魔理沙の前に出て霊夢は止めた。

 

「なるほど……つまり温泉が湧き出たことと、怨霊を送ったことは別だった、ってわけね」

 

 彼女は気付いていたのだ。

 今回の一件、間欠泉と怨霊は別の人物によって引き起こされたことであると。

 お燐は目を見開いて、それから笑顔で言った。

 

「大当たりだよ! 流石に異変を解決しにきただけのことはあるね。私が怨霊を送り込んだのにはちゃんと理由がある……」

 

 お燐の目つきが真剣なものへと変わる。

 先ほどまでの人懐っこい雰囲気から、戦闘する者のそれへと変わった。

 

「こいし、ちと下がってろ……アイツの狙いは俺達だ。テメェは主人である以上狙われることはねぇ」

「で、でも……」

「それに、きっとアイツは俺達を試そうとしてんだ。だからテメェが入って来ちまったら、意味がなくなっちまう」

「……うん、分かった」

 

 銀時に説得されて、こいしは少し離れたところで見守る形で下がる。

 その様子を見たお燐は、

 

「分かってるんだね。アタイが何をしたいのか」

「そんだけやる気に満ち溢れていりゃ、嫌でも理解させられるさ。けど、テメェこそいいのか? これだけの人数を相手にすることになっても」

「構やしないよ。元よりアタイは、貴方達の力を試したいと思ってたところだからね!!」

 

 その言葉を皮切りに、お燐は弾幕を張り始めた。

 

「いきなり攻撃ってことね。けどそういうのも悪くはないわよ!」

「えぇ。先手必勝と言いますからね」

「そういうのはアタイの弾幕を避けてからにしてよね!」

 

 呪精『ゾンビフェアリー』。

 お燐が弾幕を放ちつつ、数体の青白い妖精を召喚した。その妖精達は、銀時達目掛けて飛んでくる。

 

「この速度なら対応出来るぜ!」

 

 魔理沙は近づいて来た妖精を、星の形をした弾幕で迎撃した。

 あっさりと倒された妖精は、周囲に小さな弾を放出した後で動きを止める。

 しかし、少し経ったら、

 

「っ!? 復活したアル!!」

 

 元に戻り、再び活動を開始した。

 

「なるほど……ゾンビフェアリーとはなかなか言い得て妙ね。倒されても復活するのだから、面倒な相手ね」

「そっちだけに気を取られていてもいいのかい!?」

 

 そう。

 相手は妖精だけではなく、弾幕を張っているお燐自身もそうなのだ。

 

「ってこたぁつまり、コイツら避けつつ、本体に攻撃当てりゃあいいってこったぁなぁ!!」

 

 銀時は、迫り来る妖精を避け、お燐との距離を詰めていく。隣には同じように新八がやって来ていた。

 

「新八ィイイイイイイイイイイ!!」

「はぃいいいいいいいいいいい!!」

 

 二人で同時に木刀を振り下ろそうとする。

 しかし、お燐はそれを簡単には許さない。

 

「恨霊『スプリーンイーター』!』

 

 周りに浮いていた妖精が姿を消し、代わりに火の玉が召喚される。ほぼ同時に小さな弾幕を張り巡らせたと思いきや、その弾幕と火の玉が中央の方に集まっていき、

 

「「っ!!」」

 

 咄嗟の判断で、銀時と新八は後退した。

 瞬間、収束した弾幕達を中心として巨大な大爆発が起こる。

 

「くっ……!」

 

 その爆風により、火の玉と弾幕が周囲一帯に散らばっていった。

 

「咲夜!!」

「承知しました」

 

 霊夢の叫び声に合わせて、咲夜が動き出す。

 彼女の保有する能力を利用し、散らばった弾幕の全てにナイフを設置。

 そして時は動き出す。

 瞬間、ナイフと弾幕が衝突することにより、周囲に煙が立ち込める。

 

「死灰復燃!」

 

 そんな中でも、お燐は決して油断しなかった。彼女は煙の中にゾンビフェアリーを召喚し、そこに怨霊を取り憑かせる。

 取り憑かれたゾンビフェアリー達は、突撃しつつ、自身も弾幕を放つ存在と変わった。

 そんなゾンビフェアリーが、煙の中から襲いかかる。

 

「ちっ!」

 

 霊夢は札をばら撒くことで対処。

 魔理沙もミニ八卦炉よりマスタースパークを放つことで、近くにいた妖精達をかき消した。

 

「まだまだ……っ」

「「「いや、これで終わりだ」」」

「っ!?」

 

 煙が完全に晴れた時、お燐は自身の負けを自覚する。

 銀時、新八、神楽の三人がお燐を取り囲んでいて、銀時と新八は木刀の刃先を、神楽は自身の拳を、お燐の頭部に向けていたからだ。

 彼ら三人の攻撃が決まれば、お燐は確実に倒れるだろう。

 ここまでの侵入を許してしまった時点で、彼女の負けは確定したのだ。

 

「まいったねぇ……こりゃ完全にアタイの負けだ。期待していた以上の実力の持ち主だったとは……」

 

 お燐は周囲にいた妖精達を消し、両手を上げて降参の意を示した。

 その後で銀時達の方を向き、

 

「そしたら、理由を話さなきゃね……なんでこんなことをしたのかっていう」

 

 彼女の口より、今回の異変の経緯が説明されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

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第百三十五訓 力試し



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第百三十六訓 心を読める奴に隠し事など出来ない

「アタイがここのペットだという話はもうしたよね? 実はペットはもう一人いるんだよ」

 

 地霊殿にいる住人は、こいしやお燐を含めて合計四人。そのうちの一人が、まだ名前の出ていないペットということになる。

 

「名前を霊烏路空と言って、みんなからは親しみを込めて『お空』って呼ばれてるんだ……私の名前もそうだけど、やっぱりフルネームだと長いからね」

「屋敷の主人ではなくそっちを出してきたってこたぁ、つまり……」

「今回の異変は、貴方とそのお空によって引き起こされた、ということね」

 

 銀時と霊夢の二人はそう予測を立てた。

 屋敷の主人達によるものではなく、今回はペット達が引き起こした異変である、と。

 

「半分正解かな。けど、アタイとお空は手を組んでるわけじゃない。アタイの場合、どうしてもお空の状態を知らせたかったのさ……けど、地底から地上にわざわざ出向いて、ってやってると効率が悪い。そこで思いついたのが……」

「間欠泉に合わせて、怨霊を地上に送り込むことだった、ということですね」

「その通り……」

 

 咲夜の問いは当たった。

 つまり、間欠泉を引き起こしたのはお空であり、それを利用して何かしらの事態が起きたことを地上に知らせる為に怨霊を送り込んだのがお燐だった、ということになる。

 だが、ここまでくれば当然のように湧き出る質問がある。

 

「そこまでしてお燐さんが伝えたかったことって何なのですか?」

 

 ペットの身に起きたことであるならば、真っ先に伝えるべきなのは主人のはず。しかしそれらのプロセスをすっ飛ばして地上に知らせようとしたということは、主人にバレてはマズイこと。

 お燐は少し顔を伏せて、意を決した後に伝えた。

 

「……お空は、とある二柱の神よって力を手に入れたって喜んでいた。その結果、とてつもない力を手に入れたお空は、力を濫用し始めてしまったの。もしそんなことが他の人に……特にさとり様にバレてしまっては……」

「……なるほど。ペットの不始末を主人がしてしまう可能性を恐れたってわけか。けどいいのかよ? ここにはその主人の妹がいるんだぜ?」

 

 銀時は、こいしの頭を帽子越しに撫でながら言う。こいしはそれが少しむず痒かったのか、帽子を取って、それから再度頭を撫でてもらっていた。

 そんな様子を微笑ましそうに見ていたお燐は、

 

「こうなってしまっては関係ない。今は止めてもらうことの方が最優先さ……」

 

 と、潔く観念したかのように言った。

 

「なるほど……最近何かと騒がしいと思ったら、そう言ったことがあったのですね」

「っ!」

「お姉ちゃん!?」

 

 お燐とこいしが驚いたように目を見開く。

 そこに現れたのは、薄紫色のボブヘアーに真紅の瞳。フリルをつけてゆったりとした水色の服を着ている。下は膝丈ほどのセミロングスカート。頭には赤いヘアバンドがつけられており、それと、複数のコードで第三の目が繋がれている。それはこいしとは違って見開かれている。

 彼女こそ、この地霊殿の主人であり、こいしの姉である。

 

「初めまして。古明地さとりと申します。博麗の巫女や、紅魔館でメイドを勤められている方もいらっしゃってたのですね……そこの方は、魔法使い、ですか?」

「なっ……私達まだ自己紹介してないぜ!?」

「ここまで言い当ててくるなんて……」

「何かしらの能力、でしょうか?」

 

 魔理沙は驚き、霊夢と咲夜は警戒態勢をとる。

 

「何故正体がわかったか、ですか? そうですね……心を読んだから、ですよ? 志村新八さん」

「ま、まだ僕何も言ってなかったのに……!?」

「テレパシーアル!?」

 

 新八がまだ何も言わぬうちに、彼が言いたかったであろうことを当ててみせたさとり。

 神楽は思わず目を輝かせてしまう。

 

「……私の妹に抱きつかれていますけど、別にやましいことは考えていなかったみたいで安心しました。もし下衆なことを考えていたとしたら、どうなってたか分かりませんから」

「おぉ、こえぇこえぇ。幻想郷の妹持ちは総じてシスコンになるって決まりでもあんのか?」

「家族のことは大切に思っていますから。それはどうやら貴方も同じみたいですね……成る程、信念は大した物のようですね」

 

 さとりは、『心が読める』と言った。つまり、今の彼女に対しては、銀時達の考えが筒抜けであることを意味する。

 

「お燐、安心してください……お空がたとえ暴走しようとも、少なくとも私はお空に対して処罰するつもりはありませんから」

「よかった……」

 

 さとりの言葉を聞いて、お燐は少し安心したようだ。

 その後、さとりはこいしの側にきて、

 

「よかった……こいしが無事で……一体どこに行ってたの?」

「ちょっとお外回ってただけだよー。それでこのお兄さん達に会ったの。お兄さんすごいんだよ? お姉ちゃん以外で私の気配感じ取ったの、はじめてだったから」

「そうだったのね……」

 

 そこまでの会話を聞いて、銀時はとある違和感を抱く。

 そして、それを心の中で思ってしまう。

 故にさとりにはその考えを読んでしまう。

 

「……そうですね。貴方の考えは凡そ当たりです。そのことについては後ほど詳しく」

「……事情ありきみたいだからな。今回の異変が解決したら、全部教えてもらうからな」

「そのつもりです」

 

 こいしの頭を撫でながら、さとりは言う。

 こいしは不思議そうな表情で二人をじっと見ていた。

 

「中庭を抜ければ、お空のいる所まで続く。後は頼んだよ……」

「あぁ、任せろ。テメェんところのペットにちょっとお灸を据えてやっからよ」

 

 銀時の言葉に対して、他のメンバーもまた笑顔で答える。

 その辺等を聞いて、お燐は安心したようだ。

 

「……霊夢、通信機にて……」

「えぇ、分かったわ」

 

 その途中、咲夜と霊夢によって、通信機越しにとあることが伝えられたという。

 

「……なるほど。なかなか面白そうな人達ね」

「私、お兄さんのこと……」

「……えぇ。いい人ね」

 

 さとりは、こいしの言うことを肯定する。

 

 坂田銀時は、いい人物であるということを確信していた。

 

 

 

 

 

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第百三十六訓 心を読める奴に隠し事など出来ない



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第百三十七訓 受け取った力に舞い上がってしまうのは否めない

 地霊殿、灼熱地獄跡。

 その地に降り立った銀時達が感じ取ったのは、周囲の熱さだった。

 周囲には少しばかり地面が残っているだけで、基本的にはマグマが迸っている場所。

 言ってしまえば、火山の火口に自ら足を突っ込んでいるような状態なので、当然のように身体からは汗が噴き出してくる。へばりついてくる服に不快感を覚え乍らも、銀時達は先に進む。

 

「この先に、今回の異変の主犯格が……」

 

 新八の気は思わず引き締まる。

 間欠泉を生じさせる原因となった人物が、この先に居る。

 そう考えれば当然のことだろう。

 

「新八、それはちょっと違うわよ。この先に居る人物もまた、ある意味では被害者の一人……ただし、ただの被害者ではなく、自覚なき加害者であることもまた事実だけどね」

「どういうことアルか?」

 

 霊夢の言葉に、神楽が疑問を抱いた。

 それに対して答えたのは、

 

「先程、とある二柱の神が力を与えたことにより暴走した旨が彼女の口から告げられました……つまり本当の犯人は……」

「ソイツに力を与えたバカな神様ってことになるな……なるほどなぁ。懲りてねぇのな、アイツら」

「もしくは、単純に別の目的で力を与えたら、与えられた人物が予想以上に力に溺れてしまった、と考えるのが自然ではないでしょうか?」

「どちらにせよ迷惑な話だな。ちっとばっかお灸をすえた方がいいんじゃねえか?」

 

 咲夜と銀時によって立てられる推論。

 それが正しければ、力を与えたのは――。

 

「それに関しては安心なさい。さっき外に居るアイツらには既に連絡とっているわ。きっと今頃向かってくれてると思うわ」

 

 霊夢が冷静な表情でそう告げる。

 ここに来る前、咲夜と霊夢の二人は、通信機を利用して何者かに連絡を試みている。

 その人物は恐らく、外で連絡を待っている妖怪達。

 その人物達に伝わっている以上、並行して今頃関係者の所へ足を踏み込んでいる所だろう。

 

「しっかし、この先に居る奴をぶっ倒しちまえば、異変解決ってことになるんだろ? 早く降参させてやりたいぜ! マスタースパークきっちりとお見舞いしてやらなきゃいけないぜ!」

「テメェの強すぎるレーザーぶっぱなすことでここが崩壊しねぇよう気を付けてくれよな?」

「大丈夫だろ! 博麗神社の近くに間欠泉がもう一つ出来上がる位で済むぜ!」

「私の神社がある敷地が穴だらけになるのは勘弁してもらいたいんだけど……」

 

 土地を管理している者としては勘弁していただきたい事態である。

 そんな会話をしている内に、開いた場所へ到着した。

 

「……アイツか」

 

 ポツリと銀時は呟く。

 彼らの目の前に居たのは、高身長な少女だった。

 白のブラウスに緑のスカート。長い黒髪に緑の大きなリボンをつけている。背中には漆黒に染まった羽が生えており、その上には白いマントを羽織っていた。マントの内側には、宇宙空間が映されているように見えた。

 驚くべきは、彼女の身体に付けられてた装備品。右足は鉄で覆われており、左足は電子が絡みついている。右腕は多角柱の制御棒。そして胸元には大きな真紅の目が飛び出している。

 

 ――彼女こそ、霊烏路空。今回の異変における重要人物であり、張本人である。

 

 そんな彼女は銀時達の姿を確認すると、口元をニヤつかせながら言葉を発した――。

 

「ここまで来たのは凄いね! だけど、私は貴方達より強いよ?」

「へっ! もらった力を振りかざすようなガキに、俺達が負けるわけねぇだろ?」

 

 銀時は挑発する様に言う。

 しかし、お空には効いていない。

 

「私はもらったこの力で、地上に出て破壊し尽くすよ! そうすれば灼熱地獄がもっと広がる!」

「……なる程ね。力をもらったことに関しては何の負い目もないわけね」

 

 霊夢は、お空の態度を見て分析する。

 それならば、銀時の挑発は何の意味も見出さない。何故ならば、お空自身にその自覚がまるでないからだ。

 悪いことと認識していない以上、それ以上追及したところで意味はない。

 言ってきかない相手ならば――。

 

「なら、力づくで止めてやるだけだぜ!」

 

 魔理沙はお空を指差しながら宣言する。

 そんな彼女を見て、お空は高々と笑い出す。

 

「あっはっはぁ! 出来るかな? 私の火力は貴女達を軽く上回る! それこそ世界を破壊することが出来る程の力だよ! そんな力を相手に勝とうだなんて、無謀なこともするもんだねぇ!」

「テメェ程度の奴なんざ、俺は嫌と言う程相手にしてきたからな……妹の為に霧で覆い隠そうとした吸血鬼や、地面に埋まった奴の為に春を奪い去った冥界の番人、月の使者から逃げる為に月を隠しやがったどこぞのお姫様……信仰の為にどんな手でも取ろうとした神様まで居たっけな」

 

 木刀を握る手に力を籠める。

 坂田銀時は、幻想郷に来てからたくさんの敵と戦ってきた。

 その誰もが、目的があり、自身の力を最大限に発揮し、そしてぶつかってきた。

 だが、お空は――。

 

「テメェ自身の力ではなく、受け取って舞い上がって勝手に暴れ回っているガキの頭冷やすにゃ、俺達のようなバカ共が相手の方がちょうどいい。地上に出る前に、ちったぁテメェ自身のバカさ加減に気付きやがれってんだ、バカガラス!!」

「なかなか言ってくれるねぇ、天然パーマの侍さん! なら私も、全力を込めて貴方達を倒してみせるさ!! この力がどれだけ強いか、しかとその目ん玉に焼き付けな!!」

「ばーか、炎なんざ目に焼き付けたら本当に焼けちまって見れなくなるだろうが。そんなこともわからない程鳥頭なんだなぁ!」

「そんな安い挑発で私が怯むと思ってるのかな!?」

 

 こうして、銀時達の戦いが始まる。

 この異変を終わらせる為の戦いが――。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百三十七訓 受け取った力に舞い上がってしまうのは否めない

 

 




次回、ついにお空との戦いが始まります――!


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第百三十八訓 やはり核融合の力は恐ろしい

 先に動いたのはお空だった。

 彼女は右腕に装着した制御棒を左手で抑えて、

 

「まずはお手並み拝見……核熱『ニュークリアフュージョン』!」

 

 まるでそれが小手調べかのように、攻撃を繰り出した。

 制御棒の先から放出されたのは、無数の小さな弾。更に、ある程度までそれらが放出されると、先端部分が鋭く光、空気を破壊するかのごとく轟音が響き渡った。瞬間、人の身体を優に包み込んでしまえるほど大きな弾が、何発も放たれる。

 

「火力勝負なら負けないぜ!!」

 

 前に出たのは魔理沙だった。

 彼女はミニ八卦炉を手にし、そして。

 

「恋符『マスタースパーク』!!」

 

 自身が愛用するスペルカードにて相殺を図る。

 八卦炉より放出される極太レーザーは、相手の弾幕を飲み込まんとその威力を存分に発揮する。やがて両者の攻撃が完全に相殺された時、

 

「ホワタァ!!」

 

 その攻撃の隙をついて、神楽がお空に対して蹴りを放った。

 お空はそれを制御棒で防ぎ、そのまま左足をもって蹴りを放つ。神楽の両手が掴み、

 

「ふんぬおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 そのまま横にフルスイング。

 お空の身体は神楽によってぶん回され、そのまま両手は離された。

 

「おまちどおさん。フルスイングでかっ飛ばしてやるよ!!」

「ホームラン狙いですね!!」

 

 その先に待ち受けていたのは、木刀を構えた銀時と新八。

 しかし、お空もただでは攻撃を喰らわない。

 

「甘いよ!」

 

 投げ飛ばされたお空は、そのまま制御棒の先端を銀時と新八に向ける。

 

「そんなに打ちたきゃ打つといいよ! 代わりに私も特大な物を撃ってやるよ!!」

 

 先端部分にどんどん光が宿っていく。どんどん力が集まっていき、赤みを帯びた白い超特大弾と化する。

 

「爆符『メガフレア』!」

 

 放たれた弾は、銀時達目掛けて勢いを増していく。当然、それらは銀時や新八に当たると思われたが、

 

「……え?」

 

 気付いた時には、二人の姿は既にそこから消えていた。お空より放たれた弾はマグマの中へと消え去っていく。

 

「何処へ……!?」

 

 慌ててお空は辺りを見渡す。

 そして気付く。

 

 既に自分の周囲に大量の弾幕とナイフがばら撒かれていたことに。

 

「霊符『夢想封印』」

「幻在『ジャック・ザ・ルビドレ』」

 

 お空の攻撃が放たれた瞬間に、咲夜は自身の能力を使って時を止めたのだ。静止した時間の中で、咲夜はナイフをばら撒いた。そして彼女の思惑を察した霊夢が、時を止められる前に自身の弾幕を張り巡らせたのだ。彼女達の息が合ったコンビネーション攻撃。

 

「うらぁあああああああああああああ!!」

 

 お空は力任せに制御棒を地面に叩きつける。そのまま空中に自分の身を投げ出して、宙を舞う。叩きつけた際に飛び散った地面の破片は、霊夢と咲夜の弾幕を打ち消した。

 窮地を脱したと思われたお空だが、ここであることに気付く。

 先程の攻撃は、おそらく咲夜が時を止めて二人をどこかへ避難させた事で避けたはず。ならば、その二人は一体どこへ行った? 

 

「「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」

「!?」

 

 真上から聞こえてくる二人の叫び。そう、咲夜によって二人は、お空の死角へと移動させられていたのだ。

 反応が少し遅れたお空は、何とかして自身の腕を前に突き出すことで防御する。

 ガキン! という音が周囲に響き渡った。

 

「焔星『フィクストスター』!」

 

 すかさずお空も反撃する。

 自身の周囲に六つの惑星を模った弾幕を張り、更に小さな弾幕を全方位に張り巡らせる。

 銀時と新八は、自身のすぐ近くに来た弾幕を叩き斬った。その後で地面に着地。お空との距離を取る。

 

「やるじゃねえか。テメェもなかなかセンス輝いてるぜ」

「貴方達こそなかなか強いね! 初手で終わると思ったのに楽しくなってきたよ!」

「こりゃ遊びじゃねえんだぜ? テメェが参ったと言うまでとまらねぇけど、いいんだな?」

「そうでなくちゃ困る! この力を存分に発揮したいからね!」

「私の、と言えねぇ辺り、まだ制御しきれてねぇんだな?」

「へっ! これからしてやるさ! 楽しみにしておきな!」

 

 お空はまだ、授かった力を自分のものにしきれていない。だからこそ、銀時達はまだ攻めきれる。

 しかし、彼女の持つ能力は核融合を扱うもの。もしその能力が完璧のものとなったら、並大抵の攻撃では太刀打ち出来なくなる。

 故に、この戦いは時間をかけられない。

 

 それこそ、短時間で決着をつけなければ、負けが確定する。

 

「いくゼェエエエエエ! テメェラァアアアアアア!!」

 

 再度銀時は叫び出し、全身に力を入れた。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百三十八訓 やはり核融合の力は恐ろしい

 

 




戦闘はまだまだ続きます!


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第百三十九訓 一人で太刀打ち出来ない時は力を合わせろ

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「馬鹿の一つ覚えに突っ込んでくるなんて、成長ないねぇ!」

 

 銀時と新八は、木刀を握り締めて突撃する。

 攻撃手段が限られている彼らにとって、近接戦闘は当然の選択だった。

 しかし、お空は何処までも遠距離型。

 その上、近づいてきた敵を屠る為の手段も持ち合わせている。

 

「今度のはさっきよりも強いからね!」

 

 お空は銀時と新八に告げる。

 そして、右手を高々と上げると、

 

「焔星『十凶星』!」

 

 自分自身の周囲に、十個の太陽が姿を現した。

 

「っ!?」

 

 銀時と新八は、慌てて屈む。

 だが、攻撃の手を止めない。

 

「銀ちゃん! 新八! 下がるネ!!」

「「っ!?」」

 

 聞こえてきたのは神楽の叫び声。

 同時に、彼女の持つ傘から銃撃が放たれる。

 その銃弾は、太陽の間を掻い潜って放たれた弾幕を撃ち消していった。

 

「なんつー攻撃だ……近づけねぇし、近づいたとしても弾幕で撃ち落されるってか?」

「なら私の出番だぜ!!」

 

 彼らの後方より声が聞こえてくる。

 そこに居たのは、空中に居て両手を構える魔理沙だった。

 

「ぶっ飛びな! 星符『ドラゴンメテオ』!!」

 

 火力に全振りした強烈な一撃。

 彼女の手から放たれるのは、超極太なレーザー。

 そう簡単に避けられるとは思えない程強烈な一撃。

 

「攻撃している暇を与えない! 地獄極楽メルトダウン!!」

 

 銀時達を取り囲むように、前後に巨大な炎の塊が出現する。

 その塊から、無数の弾幕が放たれた。

 

「前後からかよ!!」

 

 銀時達は必死に避ける。

 だが、ただ単に避けさせるだけでは終わらない。

 

「光熱『ハイテンションブレード』!!」

 

 銀時目掛けて、制御棒より巨大なレーザーを放つ。

 それをまるで剣のように振るう。

 しかしそれは剣ではない。銀時の木刀で受け止めることは出来ない。

 

「ビームってのは斬る為のものじゃねえんだぞ!!」

「はっはぁ! そんなの関係ないよ!! ただ強ければそれでいいんだ!!」

 

 テンションを高くし、お空は銀時に斬りかかる。

 ただでさえ前後から迫りくる弾幕を避けるのに精いっぱいなのに、彼女の攻撃までかわさなければならないのは銀時にとって苦痛でしかなかった。

 

「そうね。強ければそれでいいのは同意するわ」

 

 割って入ったのは霊夢。

 彼女は大量の札を周囲にまき散らし、

 

「神霊『夢想封印・瞬』」

 

 それを弾幕として放った。

 それらは徐々に数を増していき、やがてはお空をつけねらう執拗な物へと変わっていった。

 ばらまかれた弾幕を撃ち消しつつ、お空を狙う。

 

「やるねぇ! それなら……っ!」

 

 お空は空中で両腕を大きく広げる。

 そして、

 

「鴉符『八咫烏ダイブ』!!」

 

 そのまま霊夢目掛けて突進してきた。

 

「そんな攻撃簡単に喰らう訳ないでしょう!!」

 

 彼女は地面につけている足に力をこめる。

 そして、地面を思い切り蹴り飛ばし、

 

「神技『天覇風神脚』!」

 

 連続して、回転蹴りを繰り出した。

 お空はダイブしながらも制御棒でその攻撃を防ぐも、勢いは殺しきれない。

 そのまま後方まで吹き飛ばされる。

 

「咲夜!」

「お待ちしておりました」

「なっ……!」

 

 いつの間にか後方に咲夜が待ち構えていた。

 

「傷魂『ソウルスカルプチュア』」

 

 咲夜より放たれる素早い斬撃。

 お空は制御棒や弾幕でそれをいなしつつも、やはり攻撃の勢いには勝ち切れていない様子だ。

 

「このままやられるわけにもいかない!!」

 

 お空は、制御棒を前に突き出して、

 

「地獄の人工太陽!!」

 

 自身の全力を出し切る。

 避けるので精いっぱいと思われる程の弾幕を周囲に張り巡らせる。

 だが、この攻撃の危険なところはこれだけではない。

 

「なっ……吸い寄せられていく……!?」

 

 銀時が真っ先にその異変に気付く。

 そう、彼らの身体は、弾幕に引っ張られていっているのだ。

 

「そういうことなら……っ!!」

 

 魔理沙は箒にまたがり、そして。

 

「ブレイジングスター!!」

 

 マスタースパークを後方に放って、引力に合わせてお空に突撃した。

 

「なっ!?」

 

 この攻撃は予想していなかったようで、お空は思わずたじろぐ。

 だが、避けられないというわけではないようだ。

 制御棒を使って、魔理沙の軌道を捻じ曲げる。

 

「ありがとよ、魔理沙。隙を作ってくれて」

「えっ……?」

 

 その一瞬の隙。

 本当にわずかに産まれたその瞬間に。

 

 坂田銀時は、完全にお空の死角を取った。

 

「これでしめぇだぁああああああああああああああああああ!!」

 

 銀時は木刀を振り、お空の身体を地面に叩きつける。

 

「がっ……!」

 

 まともに喰らったお空の意識は、その場で刈り取られる。

 地面に倒れた彼女の姿を見て、彼らは悟った。

 

 ――今回の異変が、ようやっと終わりを告げそうだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百三十九訓 一人で太刀打ち出来ない時は力を合わせろ

 

 

 

 




お空戦、完!!
もう少しで異変関連の話が終わり、その後はお待ちかねの宴です!!


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第百四十訓 おはなしはとても大切な文化

 地霊殿灼熱地獄跡にて戦闘が繰り広げられていたのとほぼ同時刻。地上においてもとある動きがあった。

 場所は妖怪の山。その中にある守矢神社。

 

「しかしなぁ、まさか貴女が渡した力が博麗神社に間欠泉を生むことになるなんて思いもしなかったなー」

「当初の目的とは少しずれたけど、結果的に幻想郷における産業革命を引き起こすトリガーにはなったわね」

「まったく相変わらず考えるよねー。博麗神社の乗っ取りが出来なかったのなら、新たな視点に立って物理的に実験を握ろうなんてさー」

「野望は潰えたわけではなかったからね。まさか怨霊まで出てくるとは思わなかったけど……」

 

「あらあら、なかなかに聞き捨てならない会話をされておりますわね」

 

 その二人──諏訪子と神奈子の会話がなされていた間を割るように、スキマより現れたのは……。

 

「八雲紫!? どうしてこんなところにいるのかしら……?」

「相変わらず心臓に悪い登場の仕方するねぇ……」

 

 神奈子と諏訪子もびっくりな登場の仕方。確かに何もない空間からいきなり人が一人現れてきたら誰だってびっくりすることだろう。

 

「それにしてもいきなりどうしたのかしら? ゆっくり話をしにきた……というわけではなさそうだけど」

 

 神奈子は冷静に尋ねる。

 それに対して紫は、満面の笑みを浮かべつつこう告げる。

 

「そんなことありませんわ? 貴女方とゆっくりお話がしたくてこちらに参ったのですわ……今回の、地底にいる者に対して貴女方が力を授けた件について」

「あちゃー……勘付かれちゃってたかー」

 

 諏訪子が残念そうにしていた。

 神奈子も、流石に観念したようだ。

 

「地底を訪れている霊夢達から既に言質はとっておりますわ。関係者および犯人からの情報提供なので、確実性はありますわ」

「つまり、もう言い逃れは出来ない、と?」

「そういうことになりますわね」

 

 神奈子の言葉に対して、紫はにこっと微笑んだ。

 そして、この笑みを見た諏訪子と神奈子は思った。

 

 怒らせてはいけない人物を怒らせてしまった、と。

 

「さて、まずは、ゆっくりと、O☆HA☆NA☆SHIをしましょう? 何分時間はたっぷりあるのですから……」

「「お手柔らかにお願いします……」」

「保障は出来ませんが、善処致します♡」

「絶対しないやつじゃんか……」

 

 その日、守矢神社からは、普段は聞くことの出来ないような叫び声が響き渡ったという……。

 

 

 時間は少し進み、銀時達が異変を解決へと導いた次の日のこと。

 戦闘の疲れが溜まっていたことと、既に時刻も遅くなっていたこともあり、銀時達は地霊殿にて一晩過ごすこととなった。

 寝室に入り、男女別で寝ることとなった銀時達。即ち、本来銀時がいる場所には新八を含めて二人しかいないはずなのだ。

 だというのに。

 

「………………何か、いる」

 

 気配を感じる。

 一人分余計に、人の気配が感じ取れるのだ。

 しかもその上、銀時が寝ている布団には、明らかに一人分余計に膨らんでいる。胸元には何者かが抱きついているような感触さえ感じられるのだ。

 そこで銀時は少し考える。

 いくら寝ている時とはいえ、多少の物音が聞こえてきたとしたら普通気付くだろう。しかし、ここに来た者は誰にも気付かれず、当然寝ている銀時に気付かれることもなく、この場所まで到達することが出来た。これが出来そうな人物は一人しか考えられない。

 

「ったく……そんな安心しきった表情で寝やがって……」

 

 布団をゆっくりと剥ぎ取り、そこに寝ている人物──こいしの頭を優しく撫でながら、銀時は呟く。

 彼女の能力、『無意識を操る程度の能力』ならば、この場所に誰にも気付かれずにたどり着くのも容易だろう。

 

「んっ……」

 

 撫でられるのが少しくすぐったかったのか、こいしは薄っすらと目を開ける。

 

「わりぃ、起こしちまったか?」

「おにいさん……」

 

 こいしは銀時の顔をじっと見つめる。

 その後で、不安そうな表情を浮かべながら、

 

「おにいさんは……わたしのこと、みえてる?」

「何言ってんだ? そこにはっきりといるじゃねえか。銀さんの目はまだ老眼になってねぇからはっきり見えてんぞ」

 

 銀時からしたらなんてことのない答え。

 しかし、こいしからしてみたら、その返答はとても大切なもの。

 

「おにいさん……こいしのこと、ちゃんとみててね……?」

「……ああ。わかった」

 

 何かを悟った銀時は、頭を優しく撫でながら答える。

 こいしは気持ちよさそうに身を委ね、それからまた夢の中へと戻っていった。

 

「……こいつぁ、あいつに事情聞いた方がいいのかもしれねぇな」

 

 こいしの頭を撫でつつ、銀時は呟く。

 異変は確かに解決した。

 しかし、地霊殿においてまだ残されていることはいくつかある。

 それらを解決するためにも、彼はまだ動く必要があるのかもしれない。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百四十訓 おはなしはとても大切な文化




気付けばこの小説も140話になってました……。
というわけで、告知します!!

銀色幻想狂想曲の人気キャラ投票を行いたいです!!
投票方法ですが、作者である私こと風並将吾宛にメッセージを送ってください!
キャラの条件は、地霊殿篇までに登場したキャラです!
銀魂キャラでも、東方キャラでも、どちらでも構いません!
期限は一応、7月15日までを予定しております。

どうか何卒ご協力ください……。


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第百四十一訓 拠り所を見つけるのは一苦労

 こいしが起きないようにそっと布団から出た銀時は、話をするためにも一度身支度を整えて、客間へと足を運ぶ。そうして彼が入ってきた時には、

 

「おはようございます。お話があるのですよね?」

 

 さとりは既に椅子に座っていた。

 銀時は彼女と向かい合う形で椅子に座り、

 

「相変わらず心読んでるみてぇだな。だが、一度約束しちゃくれねぇか?」

「何をでしょう?」

 

 さとりは首を傾げる。

 そんな彼女に対して、銀時は言った。

 

「今から話をすることについて、俺の心読むのはかまわねぇ。だが、心を読んだ前提で話を進めるのは勘弁してくれ……ごちゃごちゃして話がまとまらねぇんだ」

「……」

「それに、テメェだって出来ることなら常に使いたいわけじゃねえんだろ? 大凡、こいしの件はそのことと関係がありそうだしな」

「っ!?」

 

 さとりは目を大きく見開いた。

 何故なら、彼の口から告げられたのは事実であり、その言葉のほとんどが心を読まれたかのように当たっていたからだ。

 

「とりあえず、テメェら姉妹の話聞かせてもらうぞ。コミュ障だから話したくねぇとかそういったことは無しな。テメェらの話聞いておかねぇと、こいしの言葉の意味がわからなくて寝れそうにもねぇ」

「あの子が何か言ってたのですか?」

 

 さとりが尋ねてくる。

 そして銀時は、その質問をもって確信した。

 

「やっぱりな……お前、こいしの心だけ読めないんだな?」

「っ!?」

「これは心を読まなくたって安易に想像がついたぜ。テメェらと初めて会った時、俺たちの心はたしかに読みきってたくせに、こいしの時だけは妙に質問してたのが気になってたからな」

 

 もし、さとりがすべての人物の心を読めるとしたら、こいしの心も読んでしまえばいい。しかし、彼女はそうしなかった……いや、出来なかった。

 つまり、こいしの問題はそこにある。

 

「……元々あの子は、私と同じように相手の心を読むことが出来ました。その証拠に、あの子にも私と同じように、第三の目が存在しています」

「なるほどな……けど、こいしの目は閉じていたぞ?」

「……えぇ。こいしが、自分の手で閉じました」

 

 こいしは自らの手で、第三の目を閉じたのだ。

 結果、彼女は人の心を読まなくて済むようになった。

 

「たしかに、相手の心を読むことが出来るのはメリットでもあります。しかし、当然のようにデメリットも存在しているのです……あの子はそれをもろに見てしまっていました……私が、心を読むことによって多くの者たちに嫌われているところを」

「……なるほどな」

 

 特に銀時は驚いた様子を見せなかった。

 だが、さとりは勘付いている。

 

 坂田銀時は今、さとりの話を聞いて動揺している。

 

「自身の手で閉じたこいしは、結果として別の能力を手にしました……それが、無意識を操る程度の能力です。彼女は心を閉ざし、その行動は読みづらくなってしまいました。私には……こいしの心が読めないのです」

「それは、それだけじゃねえんだな?」

「……はい。無意識を操る程度の能力は、自身はもちろん、相手の無意識をも操ります。即ちそれは、誰からも認知されなくなるということ……」

 

 こいしは結果として、誰からも認知されなくなった。その存在は無意識のうちに隠されてしまい、結果誰の目にも触れられなくなる。そうして彼女は、『目の前にいるのに誰にも触れてもらえない。見てもらえない』という状況が生み出されてしまった。

 

「……これが、私から話せることの全てです」

 

 さとりの話が終わった後、銀時はしばらく黙り込んでいた。

 やがて彼は口を開く。

 

「テメェも大変だったんだな……こいしもそうだが、テメェら姉妹、本当ツレェ思いしてきやがって」

「私は別に……」

「何寝言ほざいてやがる。テメェが丈夫じゃねえことくらい、いちいち心読まなくたって分かってらぁ」

 

 銀時は、さとりの近くまで行く。

 そして優しく頭を撫でながら、

 

「テメェらは欲しかったんだろ? 自分達を認めてくれる居場所ってやつが……」

「……それは認めます。だからこそ私は、この地霊殿で……」

「建物があるかどうかの問題じゃねえよ。心の拠り所の問題だろ?」

「心の拠り所……」

 

 オウム返しに言うさとり。

 

「……別に俺は、俺たちは、テメェがどれだけ心読めたとしても別に構いやしねぇ。そんな程度で逃げたりしねぇし、怯える必要なんざありゃしねぇ。なんせそれ以上のことなんざ腐る程歌舞伎町にはあったからな」

「……っ」

 

 さとりは、そう告げた銀時の心を読んで、確信した。

 彼の言葉は、心で思っていることと同じであると。

 つまり銀時は、包み隠すことなく、そのままの言葉を言っているのだ、と。

 

「……どうして貴方は、そこまで出来るのですか?」

 

 だからこそ、さとりは尋ねる。

 彼の心に秘められた奥底を探るように。

 そして彼は答える。

 

「それが、万事屋だからな。あのバカ共と一緒に万事を守ってきたからこそ、これからもテメェらみてぇなバカ共を護り抜くと決めた。大切な荷は、一度背負ったらそう簡単には降ろしたくねぇからな」

「…………っ」

 

 最早さとりは、言葉が浮かばなかった。心の中を締めるのは、彼に対する想い。今まで言われたこともないような言葉に、さとりの心は大きく突き動かされた。

 こいしは、彼のことを凄く気に入っていた。

 その意味が、ようやっと本当の意味で理解出来たのだ。

 

「……坂田銀時。貴方は本当に、凄い人なのですね」

「そうそう。いざという時はキリッとするからね? 銀さんは本当はやる時はやる子なのよ」

「おかしいですね……ふふっ」

「ったく、やっと笑ったな……笑顔、可愛いじゃねえか」

「っ!?!?」

 

 一気にさとりの顔が赤く染まる。

 最早それは、さとりの心を落とすのにあまりにも充分すぎる言葉のように聞こえた。

 その時だった。

 

「おにいさーん! おにいさんどこー!?」

 

 こいしが、泣きそうな声で銀時を探している声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百四十一訓 拠り所を見つけるのは一苦労



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第百四十二訓 たまに事態が収まらないこともある

「この声……こいし?」

 

 さとりは、少し慌てた様子で対応する。

 実の妹がこうして泣いている姿は、今までそう多く見たことがあるわけではない。

 特に、こいしが自身の能力の一つを潰してからというものの、何かを求めるように泣く姿を見ることはなかった。

 しかし、彼女は今、実際に泣いている。

 

「お兄さん!!」

 

 目標を見つけたこいしは、泣きながら抱き着く。その相手は当然――坂田銀時。

 

「よかった……もう、お兄さんに会えないんじゃないかって……私のこと、見なくなっちゃうんじゃないかって思った……だけど、居てくれた……離れないで……こいしのこと、ずっと見ていて……お兄さん……っ」

「……」

 

 銀時には、こいしが不安に思っていることがなんとなく理解出来てしまった。

 彼女は無意識を操る。

 それも、彼女の意思は問わず、無意識に。

 誰からも認知されず、誰からも存在を感じられない。

 そんな中で見つけた貴重な存在。

 そんな存在が、もし自分の目の前からいなくなってしまったら――?

 銀時の中で、こいしは被るのだ。

 紅魔館で待っている、吸血鬼の少女と――。

 

「……ったく、どいつもこいつも人の気しらねぇで……そう簡単に見捨てるわけねぇだろう?」

 

 銀時は、抱き着いてきたこいしの頭を優しく撫でながら、まるで子供をあやすように優しい声で告げる。

 それは彼の心からの一言。

 さとりは、心を読まずとも、彼が嘘によって塗り固めていないこと位分かっていた。

 

「テメェにゃ、こんなに優しい姉がいるだろうに……天然パーマな侍なんざ、忘れたってかまいやしねぇんだぞ?」

「いやだ。絶対やだ。私は忘れないよ。こいしのことを救ってくれたお兄さんを、絶対に忘れない。お姉ちゃんも、お兄さんも、私にとって大切な存在なんだから」

「っ!!」

 

 この言葉を聞いて、一番動揺したのはさとりだった。

 実の妹から告げられた言葉に対して、さとりは一気に嬉しさが増したのだ。

 今までこうして口にすることのなかった正直な気持ち。

 心を読めなかった彼女にとって、妹の口より告げられたその一言は、とても嬉しい物。

 いままで聞きたかった、本当の気持ち。

 

「こい、し……っ」

 

 さとりはこいしに抱き着いた。

 彼女の身体を優しく包み込み、頭を撫で、そして落ち着かせるような口調で。

 

「もう、貴女を独りぼっちにしないから……こんな情けない姉だけど、貴女のことを大切に想うから……だから……」

「……分かってるよ、お姉ちゃん」

 

 銀時の身体から少しだけ名残惜しそうに離れるこいし。

 しかし、こいしはさとりに抱き着いて、その腕を腰に回す。

 こいしは笑顔で、

 

「お姉ちゃんのこと、私、すっごく大好きだもん」

「……私もよ、こいし。貴女のことを愛している」

「私も、お姉ちゃんのこと、大好き」

 

 銀時は、そんな姉妹の様子を見て、小さな溜め息をついた。

 これで一安心。

 彼女達の居場所は、彼女達によって確立している。

 その中で、更なる居場所として、銀時達が居る。

 それで彼女達は救われたのだ。

 最早この地霊殿において、彼女達は孤立していないのだ。

 

「……一件落着、ってか?」

 

 ぽつりと零した銀時。

 しかし、姉妹の会話はこんな感じで流れていた。

 

「ねぇ、お姉ちゃん」

「どうしたの? こいし」

「私ね? 前にも言ったと思うんだけど、お兄さんのこと、凄く気に入ったの……大好き……ううん、愛してる、のかもしれない」

「……そうね。私も、坂田さんのことはいい人だと思っているわ」

「だからね? お姉ちゃん。お兄さんを……地霊殿に……」

「ん?」

 

 今、こいしの口から発せられた言葉に対して、少し疑問を抱きつつあった。

 坂田銀時を地霊殿にどうするつもりなのだろうか?

 

「……坂田さん。貴方さえ良ければ……いいえ、私達の為にも、この地霊殿に住んで頂けないでしょうか?」

「……は? え?」

 

 坂田銀時は、動揺している!

 

「妹のこいしはこのように、貴方のことをとても気に入っています。貴方は私に、居場所になってくれると言ってくださいました」

「俺だけじゃねえよ? 俺達って言ったぞ?」

「ですから、貴方は私達の為に、地霊殿に居てくださいますよね?」

「オイィイイイイイイイイ! 話が飛躍し過ぎてわけわかんねぇ所まで来ちまってるんだけどぉおおおおお!?」

 

 一気に話が飛んでいた。

 最早銀時一人では収拾がつかないかもしれなかった。

 

「ちょっと! 何勝手に話決めてるのよ?」

 

 その時。

 ちょうど起きてきたらしい霊夢が、青筋を浮かべながら彼らの所まで歩み寄ってくる。

 その後ろからは、こめかみを抑えた咲夜と、焦っている魔理沙。そして今すぐにでも痰を吐き捨てそうな表情を浮かべる神楽の姿があった。

 

「ケッ! これだから天パーは……っ」

「おい神楽、テメェ何俺に対して恨み持ってんだよ。喧嘩売ってんのか?」

「自覚ないアルか? 救いようのねぇ変態ダナ」

「後でテメェ話し合うからな!?」

 

 結局、この場が収まるわけがない――。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百四十二訓 たまに事態が収まらないこともある

 



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第百四十三訓 少ない人数より大人数でやった方が騒がしくなる

 閑話休題。

 とりあえず言葉でどうにもならなかった時には、時間経過によって収まるのを待つに限る。そんなわけで、ある意味何も決まらないまま争いだけは落ち着いた状況。

 

「そういえば、ここで提案があるのだけれど」

 

 話を切り出したのは霊夢だった。

 彼女は、今だに銀時にべったりくっついているこいしを見て内心苛立ちつつ、冷静に話をしようとする(ただし隠しきれているとは言ってない)。

 ちなみに、さとりはこいしが好きな人ならばということと、自分自身も少なからず銀時に感謝しているため、今の状態に対しては肯定的な姿勢を取っている。

 頭を悩ませているのは魔理沙や咲夜。幻想郷側で一番まともな反応をしているのは魔理沙といったところだろうか。

 

「今回の異変がきっかけとなって、博麗神社の敷地内では温泉が出て来たのは事実よ。そのこと自体は感謝しているのよ」

「お空がやったことですね……」

 

 さとりがポツリと呟く。

 今回の異変については、地霊殿の主である古明地姉妹は関わりがなく、お空と二柱の神によって引き起こされ、それを心配したお燐にが動いたこと。ある意味では偶然の産物と言っても過言ではない、

 

「せっかくだし、貴女達も来なさいよ。ペットの始末をつけるのは主人の務めでしょ? だから、貴女達地霊殿のメンバーで、宴の準備を手伝って欲しいのだけれど?」

「えっ……?」

 

 その言葉は、さとりの目を大きく見開かせるのに十分過ぎるものだった。霊夢より告げられた一言は、実質的な和解案だったからだ。

 だからこそ、彼女は一度、霊夢の心の内を探ろうとした。霊夢の心を悟った。そして、理解した。

 

 博麗霊夢は、地底のことを許している、認めている、と。

 

「……えぇ。お任せください。私達四人、微力ながらやらせて頂きます」

 

 さとりは笑顔を見せながらそう言った。

 

「ばーか、何言ってやがる」

 

 そんな時、銀時がこいしの頭を撫でながら会話に参加する。そして彼は、笑みを浮かべながら、

 

「ここにいるやつら全員でやるんだ。報酬は弾ませてもらうぜ?」

「おぉ! それは楽しそうだぜ! けど銀さん、サボりだけは勘弁して欲しいぜ?」

「貴女にも言えたことですよ、魔理沙」

「そうね。サボるんじゃないわよ、魔理沙」

「咲夜はともかく、霊夢にだけは言われたくないぜ!?」

 

 しんみりしたムードは消え去った。

 そこに訪れているのは何時もの馬鹿騒ぎ。

 

「ま、そういうことアル!」

「ここにいる人達全員でやるんですよ?」

「ま、他にも何人かいるかもしれねぇけど、そん時は仲良くしてやってくれ」

 

 万事屋の三人がにこっと笑みを浮かべながら、さとりとこいしに言った。

 銀時に撫でられているこいしは、その言葉を聞いてさらに嬉しそうにする。そして笑顔で姉であるさとりに言うのだ。

 

「なんだか楽しみだね!」

「……えぇ、そうね」

 

 姉妹の心が通じ合ったような瞬間だった。

 

 

 同時刻。

 紫による話し合い(意味深)が終わった次の日のこと。

 とりあえず今後の方針を話し合うという名目のもと、紅魔館に集まっていたアリスや紫。

 霊夢や銀時達が地底で行なっていたことについては、『霊夢が』持っている通信機を通じてある程度聞き取っていた。基本的には霊夢が電源を入れっぱなしにしていた為、聞き取ることは容易なことだった。

 それがなにを意味するのかといえば。

 

「……ねぇ、パチュリー」

「……何かしら、アリス」

「……あれ、確実に不貞腐れてるわよね?」

 

 紅魔館の客間。

 今回の異変に関わったメンバーはそこで常にやり取りを確認していた。

 戦闘の様子はもちろんのこと、その道中で繰り広げられた会話等も、すべて。

 ということは、銀時が今回行った女殺し的行動の数々もまた、ここにいる者達に伝わっているということ。

 それは、即ち。

 

「ギン兄様……また……まただ……っ」

 

 フランドール・スカーレットが、坂田銀時の行動を把握することを意味する。

 そしてそれらの行動は、銀時に対して好意を抱いている女性陣に対して絶大な効果を与えるということ。

 

「ふふふ……ギントキ……貴様は相変わらず愉快な男だ……」

 

 そして、妹が不機嫌になるということは、その姉に対しても何かしらの感情の動きが発生するということ。

 結論、カオス。

 

「あらあら、なかなかに愉快なことになっておりますわね」

 

 そんな様子を遠目で眺めていた紫が、アリスとパチュリーにそう告げる。

 

「こんな時でも貴女は面白がってるのね、八雲紫」

「そんなことありませんわよ? 少なからず私も、坂田さんには感謝しておりますから……大変だな、とか、気の毒だな、とか思っておりますわ」

「本当かしら……」

 

 紫が微笑みながら言ったことに対して、俄かに信じきれない様子のパチュリーだった。

 

「……はぁ」

 

 アリスは小さなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

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第百四十三訓 少ない人数より大人数でやった方が騒がしくなる

 

 



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第百四十四訓 初登場のあのお方かよォオオオオオオオオオオ!!

すっごい久しぶりに、デイリーランキングに載りました……っ!
応援ありがとうございます!!
これからも頑張ります!!


 時間は少し経過して、この日は宴当日。

 地霊殿での騒ぎがあってからというものの、銀時達はさとりやこいし、そしてお燐やお空と行動する機会が少しずつ増えていた。こいしが銀時のことを気に入り、さとりがその二人についていき、そしてそんなさとりとこいしにペット組がついてくる、といった具合である。霊夢からの呼びかけもあり、宴の準備は彼女達によって行われることとなったのだった。

 ちなみに、宴である程度騒いだ後に銭湯に浸かるという流れらしい。当然、男風呂と女風呂は別れるのだが。

 そんな訳で、宴当日の万事屋。

 

「いや、なんとなくテメェが登場するんじゃねえかとは思ったけどよ……」

 

 ある意味でお決まりというのは大事なものだ。そうとは分かっていても、銀時は思わずため息をついてしまう。

 理由は単純だ。

 

「なんだ銀時。俺だって久しぶりの登場で盛り上がっているんだぞ? もっとふぃーばーしなきゃならないだろ? 何のためにスタンばっていたと思ってるんだ?」

「テメェのスタンバイ事情なんざしらねぇってのヅラァ!!」

「ヅラじゃない桂だ!!」

 

 万事屋にてお茶を飲んで寛いでいる桂を見て銀時がツッコミを入れた瞬間だった。異変解決後の宴にこっそり参加するのがもはや定番みたいなところがある彼。もしかしたら呼ばれてなくてもジャジャジャジャーンと飛び出してくるのかもしれない。

 

「桂さんも今回の宴に?」

 

 お茶のおかわりを出しながら新八が尋ねる。一応銀時以外には先に挨拶をしていたのか、それとも単に慣れただけなのか。

 

「霊夢殿からお呼びがかかったのでな。温泉出たから入りに来てくれ、と」

「アイツぜってぇ事情しらねぇ奴らから金巻き上げる気満々だよ……」

 

 ため息混じりに銀時は呟いた。

 確かに、温泉事業は金になる。銭湯ではなく、正真正銘天然温泉なのだから尚更だ。ただし効能等はよく分かっていないが。

 信仰はともかく金には困っている巫女、博麗霊夢。知り合いであろうと容赦はしないのだろうか。

 

「今回もいつものように何人か向こうにいくみたいだからな。既に九兵衛殿達は向かっているらしい」

「姉御達も来るアルか!」

「つまり姉上達も……」

「あぁ、そういうことだな……」

 

 神楽は純粋に喜び、銀時と新八の二人は何かを察していた。

 

「よぅ、銀さん! 遅れちまってすまねぇ!」

 

 ちょうどその時、酒瓶を持った長谷川ことマダオが入ってきた。

 

「逆だからね!? それだと本名がマダオみたいになっちゃうから! 俺長谷川だからね!?」

「長谷川さんじゃねえか。長谷川さんも呼ばれて?」

 

 銀時が尋ねる。

 

「咲夜さんから、たまには温泉で羽伸ばして下さいってお言葉頂いてな?」

「というか、まだ紅魔館2ndGのバイト解雇されてなかったアルな」

「凄いですね長谷川さん! 新記録ですよ!」

「なんか素直に喜べねぇけど……ありがとう二人とも!」

 

 ただ単にバイト続けられることが奇跡だと言わんばかりの扱いを受けているので、長谷川としては複雑な気持ちになるだろう。

 

「では銀時よ、俺は準備することがあるから先に行くぞ!」

「へいへい。テメェがなんの準備するかしらねぇが、また向こうでな、ヅラ」

「ヅラじゃない、ラップーラだ」

「おい本名とラップやるの混じってんぞ」

 

 銀時のツッコミを無視して、桂は幻想郷へと向かった。

 

「じゃあ、銀さん。俺も向こうで咲夜さんの手伝いしてくるから、また後でな」

「あぁ、長谷川さんもきーつけろよ」

「銀さんこそ、女難の相出まくりらしいから気をつけろよ!」

「誰情報だよそれ」

 

 銀時のツッコミを無視して、長谷川は幻想郷へと向かった。

 

「あのさ? 俺のツッコミ無視されすぎじゃね?」

「まぁまぁ、僕らもそろそろ……」

 

 と、銀時達も向かおうとした、その時だった。

 

「おーい、万事屋ぁ。まだいるか?」

 

 と、ガラリと扉を開けた人物がいた。

 

「あ? 真選組?」

「近藤さんじゃないですか! どうしたんですか?」

 

 入ってきたのは近藤だった。

 

「近藤さんも呼ばれたんですか?」

「いやぁ、俺達の所にも話は上がったんだが、何分仕事で行かれなくてな……せっかくお妙さんと混浴するチャンスだったのに……」

「テメェが女子風呂侵入したらボコボコにされるだけだからな?」

「第一姉上と一緒に風呂入るのなんて許しませんからね!」

 

 ある意味常識的な発言をする二人だった。

 

「まぁそれはおいておいて。実はオメェらに依頼があってな? 温泉の話が伝わって、どうしても行きたいって仰ってるお方がいるんだ」

「それは誰アルか?」

 

 神楽は純粋に尋ねるも、銀時と新八は心のどこかで引っかかるものを感じていた。

 この展開は、何度か聞いたことある流れだからだ。

 

「新八、これって、まさか……」

「い、いやぁ。この小説ですよ? そんなことあるわけ……」

「というわけで、温泉の素晴らしさと、楽しみ方を是非ともこの方に教えていただきたい」

 

 そう言って、近藤は扉を開く。

 そこから入ってきたのは、とても威厳のあるお方だった。見るだけでカリスマがあることが分かる。若々しくて、顔が良い。

 その人物は……。

 

「急な申し立てですまない。よろしく頼むぞ」

「「((しょ……将軍かよォオオオオオオオオ!!))」」

 

 十四代征夷大将軍、徳川茂茂がそこに居た。

 つまり、とうとう登場してしまったのだ──将軍が。

 

 

 

 

 

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第百四十四訓 初登場のあのお方かよォオオオオオオオオオオ!! 

 

 



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第百四十五訓 将軍が絡むと大抵ロクな事が起きないのは決まっていることかもしれない

 結局そのまま将軍を引き連れて行くことになった万事屋一行。神楽は別に何にも気にしていないが、銀時、新八、長谷川の三人はえらく気にしている様子。

 

「おい、幻想郷なんて将軍からしてみたらまったく知らない場所だろ?」

「誰ですか将軍に幻想郷の温泉の話したの」

「まさかとは思うが、ここまでのことを予測して根回ししたドS野郎がいるんじゃないの? 銀さんの知り合いでそういうやついないの?」

「「沖田総悟……」」

 

 思い当たる人物はいた。というかそいつしかいなかった。今頃銀時と新八の脳裏には、サムズアップしていい笑顔を浮かべている沖田の姿が浮かんでいることだろう。

 

「あら? そこにいるのは一体誰よ?」

 

 博麗神社に足を運んで最初に遭遇したのは、当然と言えば当然だが、博麗霊夢だった。彼女は茂茂を見るなり、不思議そうに眺めていた。初対面なのだから当然とも言える。

 

「これは失礼。私は十四代将軍、徳川茂茂。よろしく頼むぞ」

「将軍……? 私は博麗霊夢……」

 

 霊夢は少し考える。

 考えた後で、銀時を捕まえてこっそり話しかける。

 

「ちょっと。将軍ってことはもしかして、えらいお金持ちってことなんじゃないの?」

「ま、まぁ、多分俺らよりは絶対金持ってるだろうな」

「これは……チャンスね」

「おいちょっと。何金巻き上げようとしてんの? タチの悪い追い剥ぎみてぇになってんぞ? 目が金のマークしてんぞ?」

「五月蝿いわね。金にがめつくあるのは悪いことじゃないのよ」

「すっげぇ極論言ってっからな?」

 

 一通り銀時より情報を聞き終えた霊夢は、精一杯おもてなしスタイルの笑顔を浮かべながら、

 

「今回は宴の前に温泉に入ることをお勧めしております! ですからこちらへどうぞ!」

「なんかあの嬢ちゃんがすごい満面の笑みなんだけど!?」

 

 これには長谷川もびっくりな様子。

 通常時の霊夢の話をいつも聞かされているからこそ、こんなにもはっきりと分かりやすい彼女はなかなかお目にかかれないのだろう。

 銀時と新八に至ってはため息をついているレベルだ。

 

「うむ」

 

 案内されるがままに茂茂は中へと入っていく。ただ温泉が広がっているだけで問題など起こりようがないのだが、念のため銀時達もついていくことにする。

 

「……なぁ、銀さん」

「どした? 長谷川さん」

「今回の温泉って、本当に大丈夫なんだろうな?」

「流石に平気だろう。いつもと違って江戸じゃねえんだ。幻想郷なんだから流石に変なこと起きやしねぇって」

「その台詞が既にフラグになってるって気づいてくださいね?」

 

 新八の華麗なツッコミが入った。

 ちなみに、今回は本当に男女別になってしまっているため、本気で問題は起きない、はず。

 それこそ、例えば……突然の乱入者が来ない限りは。

 

「ふぅ……あれ? なんか暖簾おかしいぜ?」

 

 銀時達が入って行った後、入り口にやってきたのは魔理沙だった。

 魔理沙は霊夢の協力者として色々温泉の設備に手を出していたらしい。

 そして、この暖簾をかける仕事はチルノが担当していたわけなのだが。

 

「あのバカ、右も左もわからないのかな……本当、大変だぜ……」

 

 魔理沙はポツリとこぼしながら、暖簾の位置を正しい方向に直す。

 そう、魔理沙が今、正しい方向に直したのだ。

 と、いうことは。

 それより前に入った銀時達は、誤った方向に入ってしまったことを意味する。

 

「まだ誰も入っちゃいなかったから良かったものの、これから入る人が間違っちゃいけないからな! これでよし、だぜ!」

 

 やはり、将軍が関わると、銀時達はロクな目に遭わないのかもしれない……。

 

 

「…………何故、こちらの湯に誰も来ないのだ?」

 

 正しい男湯に入っている桂は、一人寂しい思いをしていた。

 何せ本来来るはずの銀時達は、勘違いのまま隣の風呂に入ってしまっているのだから。

 エリザベスは身体の関係上、風呂に浸かる事が出来ない(可能性がある)為、外で待機している。

 

「まぁ、よいか……銀時達が来るまでスタンバッていることにしよう……」

 

 しかし、いくらスタンバイしていたとしても、どう考えても誰かが来ることのないお風呂。

 きっと桂は、このまま待ちぼうけをくらって、のぼせてしまうのかもしれない……。

 

 ある意味、今回のなかでは一番旨味がないと言っても過言ではない。

 

 

 

 

 

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第百四十五訓 将軍が絡むと大抵ロクな事が起きないのは決まっていることかもしれない

 



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第百四十六訓 出来れば回収したくないフラグもあるが大抵否が応でも回収されるのがフラグ

「いい湯だな」

「そ、そうですね……」

 

 立ち上る湯気。身体を包み込む程よい温度の天然温泉。夜の幻想郷が生み出す美しい景観。これらは今の状況を楽しむには十分すぎるほど整った条件だろう。だというのに、銀時達は少しも満喫する事が出来ないでいた。

 理由は超単純で、代々もっさりブリーフ派である将軍が一緒に入っているからだ。

 銀時達は知っている。いつもロクな展開を迎えていないが、将軍がいる時には更に面倒臭いことが起きるに決まっている、と。

 そんな彼らの気持ちなどいざ知らず、茂茂は初めての幻想郷、初めての温泉を心から満喫しているのだった。

 

「事前に聞いた通りの素晴らしさだな。世の中にはこんなにも素晴らしい場所が残されていたとは……」

 

 温泉に浸かりながら、茂茂は感動している。確かに江戸に住んでいる者達からしてみれば、天人もおらず、機械による発展もそこまでなされていないこの地の景観は、自然によって守られていて美しいに違いない。事実、江戸からやってきた者達のほとんどは同じことを考えている筈だ。

 だが、問題はそこではない。

 

「銀さん、僕達……宴前に汗をかいて流す為にここに来ましたよね?」

 

 新八が尋ねる。

 

「そうだな……霊夢の目が金のマークになってやがったけど、それ以外に不審な点は……」

「なのに、同じ条件のはずの桂さんがいないのはどうしてなんでしょうか?」

「「……あ」」

 

 その一言により、銀時と長谷川は気付いた。

 確かに、先に向かっていた筈の桂がいない。桂が提案を断っているだけならば話は簡単なのだが、彼はたしかに『温泉が出たから入りに来て欲しいと誘われた』という旨の話を受けている。まして謎にスタンバイすることに命を懸けている男だ。先に行くのであれば温泉に浸かって、何かしらひとネタ仕込んでいても不思議ではない。

 実は影でスタンバッてました、とかならまだ良かったのだが、今この場において存在しているのは四人しかいない。その他の気配もなさそうだ。

 ここまできて、銀時達の脳裏に嫌な予感が浮かんでくる。

 

「あの、銀さん。これ、もしかして、僕達やらかしてません?」

「い、いや、まだわからねぇぞ? やらかしたのは桂である可能性も否定できねぇ訳だから……」

「そ、そうだぞ新八君。お、俺達はきっと大丈夫だって! 何も起きないって!」

 

 顔面蒼白になる三人。

 

「どうかしたのか?」

 

 そんな心配などいざ知らず、だが三人の様子がおかしいことには気付いてしまう茂茂は、当然心配するような声をかける。彼はカリスマを持ち合わせている為、こういうことを平然とやってのけてしまう。

 

「な、なんでもないですよ! そ、そうだ! もっと景色よく見る為に奥の方行きましょう!」

 

 新八が茂茂と共に端の方へ向かう。銀時と長谷川も、それに合わせて同じ場所へ移動する。万が一自分たちの予想が当たっていた場合、すぐ様隣へ逃げ込むことが出来るようにする為だ。

 

「わ、わぁ! すげぇ! この風呂ってアスレチックも完備してるんだなぁ!」

 

 長谷川がわざとらしくいうも、そんなもの設置してるわけがない。故にこれは、何かあった時の保険として茂茂が動きやすくなるための保険だ。

 そして、その保険は……。

 

「「「っ!?」」」

 

 ガラッという扉が開かれる音が発せられたと共に活用出来てしまうことになった。

 

「だ、誰か、くる……っ!」

 

 銀時は小声で呟く。

 その後の三人の動きは早かった。茂茂をつれて、岩陰に隠れる。そして周囲を確認し、隣の湯に行くためのルートを確保。命綱のないアスレチックを楽しむことになるのだった。

 

「ほう……温泉にはこのような楽しみ方もあるのだな……服を纏わずアスレチックを堪能出来るとは……いや、これは幻想郷だからこそ、なのか?」

「そ、そうですねー。幻想郷やっぱすごいなぁ」

 

 ある程度の安全は確保出来たので、とりあえず普通の声に戻る。

 そうして彼らは必死に女湯を見ないようにしていた。

 いや、ここで覗くのは確かに男のロマンでもある。定番といっても過言ではないだろう。それを銀時達がやらないのには理由がある。

 

 命が足りないからだ。

 

 さて、というわけで女湯にとうとう人が入ってきてしまったわけなのだが、その人物達とは……。

 

 

 

 

 

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第百四十六訓 出来れば回収したくないフラグもあるが大抵否が応でも回収されるのがフラグ

 

 




もう、将軍がいるんだと思うだけで笑ってしまう作者がいます……。


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第百四十七訓 気の毒だが大儀の為だ

「銀さん! デイリーランキング見ましたか? 昨日のデイリーランキングに僕らの小説がランクインしてましたよ!」
「100位だったな? ある意味めでてぇわな……狙ってる取れるもんでもねぇからな」
「前回は90位代だったから、ランクもかなり下がってしまったアル。けど、載らないことの方が多い作品だから載るだけまだマシネ」
「人気投票もありますし、まだまだやることありますよね!」
「投票、全然票入ってねぇけどな。作者このまま人気投票篇やろうとか画策してるくせに、企画倒れするぞこれ」
「是非是非応募してくれヨ! ただメッセージ送るだけアル!」
「暇だったら応募するくらいでいいじゃないですか! 仕方ありませんよ! 東方と銀魂のクロスオーバーさせてもらえるだけで十分じゃないですか!」
「ま、これからもぬるっと応援してくれよなー」



「すごーい……こんなに大きなおふろがあるなんて……っ!」

「フラン、これが温泉というものよ」

「私が住んでいた世界にもありましたが、やっぱり幻想郷の温泉となると規模が違いますね……!」

「そういえば貴女も最近こちらに来たばかりだったわね。これからはもっと驚くことに出会うかもしれないわよ?」

 

 上から順番に、フラン、レミリア、早苗、幽香の順番だった。

 その他にもまだまだ入ってくる様子である。

 

「幽々子様、湯加減の方は如何でしょうか?」

「最高の気分よ〜。極楽極楽〜」

「長生きもしてみるものねぇ、永琳」

「そうですね……姫様」

「ある意味これも、お空のおかげなんだよね……」

「どうだ! あたいの力思い知ったか!」

「副産物でしかないわよ……」

「あまり懲りてないご様子ですね……」

 

 妖夢、幽々子、輝夜、永琳、お燐、お空、パチュリー、咲夜……。

 まだまだ女子風呂に入りにきている。

 つまり、このままいけば女子風呂はほぼほぼ埋まるのではないかと思われる程の勢い……そんな状態で、もし銀時達が見つかってしまったとしたら? 

 

「やばい、やばいですよ銀さん。これは確実にタマ取られます」

「ヒュンってしちまうぞ。タマもタマタマも取られちまうぞ」

「こんな時にくっそくだらねぇ下ネタぶっ込まなくていいんだよ銀さん! けど……向こうめちゃくちゃ天国だぜ? ちらっと見るくらいなら文句言われねぇ気が……」

「やめとけ長谷川さん。何と無くわかってんだ。天国逝っちまうってのが分かっちまってんだ。天国見る代わりに天国逝くのは真っ平御免だ」

「ところで……先程から将軍がそわそわしてるのですが……」

 

 命綱無しのアスレチックを堪能(意味深)している男性組四人。

 そんな中で一人、鼻血を出しながら興奮している人物が一人いた。

 その人物とは……。

 

「「しょ、将軍かよォォオオオオオオオオオオオオ!!」」

 

 茂茂、興奮のあまりに鼻血ダダ漏れ。

 

「将軍、上向いてて! このままだと血のロードが地獄への道になっちまうから!」

「し、しかし……向こうには……」

「何この将軍平然と覗こうとしてんだ!!」

 

 冴え渡る新八のツッコミ。

 茂茂はむっつりスケベだった。

 

「……ちょっと待て。何か向こうの様子が変だ」

 

 銀時が三人に静かにするよう声をかける。

 彼が感じている違和感……それは、妙に静かなこの気配だ。

 先程までは入浴し始めたばかりだからなのか、テンションも上がっていたのか、あるいは両方か。兎にも角にも騒がしさが残っている状況だった。

 しかし、今はどうだろう。あまりにも静かすぎるのだ。まるで辺りを警戒しているかのように……。

 

「何か……匂いますね」

 

 最初にポツリとこぼしたのは咲夜だった。彼女はこの中でも警戒心が強い方だ。少しの違いにも気付いてしまうのかもしれない。

 とはいえ、『匂う』と言った。風呂である程度汚れを落とし、身体を洗ってもなお残る匂いというのは果たしてどんな匂いなのだろうか。

 

「なんというか、もっさりした匂いといいますか……」

「もっさりとした匂い?」

 

 妖夢の言葉に対して、幽々子がキョトンとした表情を浮かべつつ首を傾げる。

 

「例えるなら……もっさりブリーフの匂い、かしらね?」

 

 幽香がこぼした一言に対して、

 

「「「(((もっさりブリーフの匂いってなんだァアアアアアアアアア!?)))」」」

 

 三人の男どもの心の中がシンクロした瞬間である。

 

「ちょっと、誰か将軍慰めてあげて? 今の一言が効果抜群だったのか身体震えちゃってるから」

「ち、ちがいますよ銀さん。風呂に浸かってないから寒くなって寒さで震えてるだけですよきっと。そうです、そうに違いないんです……」

「新八君、現実から目を逸らしちゃ駄目だ。今は一刻も早く将軍を安全な場所に連れて行き、慰めなくちゃ駄目なんだ」

 

 この場にいる男達、意外とこういった事態に対しては無能説。いや、確かにここまで限定的すぎるシチュエーションもなかなかないだろう。事実、原作でもここまで酷い展開はない。

 

「しかし、このままだと埒があかねぇ……」

 

 確かに、銀時のつぶやいた通りだ。

 少しずつ向かっていくことが出来ている銀時達だが、肝心なところで行き詰まっている。実はこの温泉、壁で男女の場所が仕切られているだけなので、ある程度まで行けば隣まで移動出来るとはいえ、逆に言うとある程度のところまで進まなければ隣へ辿り着けない。外から回るにしても、最終的に壁を乗り越えるためには一度外へ姿を晒さなければいけないのだ。

 簡単にいうと、犠牲者が一人必要ということになる。

 

「……長谷川さん。天国見たいって言ってたよな?」

「え? 確かに言ったよ? けどな銀さん? 俺が見てぇのはパラダイスであってインフェルノじゃねえんだ。天国と地獄の狭間が見たいわけじゃねえんだ」

「まぁまぁそう固いこと言わずに……」

「ちょっと新八君? なんで俺が犠牲になる前提で話し進めてんの!? 普通に嫌だよ!?」

「となると、やはり……」

「「……」」

「え、ちょっと待てお前ら。何で俺のことじっと見てんの?」

 

 銀時、新八と長谷川に見つめられて、嫌な予感大爆発。

 そして――。

 

「「死に晒せ天然パーマァアアアアアアアアアアアアア!!」」

「ざっけんなゴラァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 盛大に蹴り飛ばされた。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百四十七訓 気の毒だが大儀の為だ

 

 

 

 



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第百四十八訓 知らない天井って呟く時は大抵知っている天井

「ん……」

 

 目覚める銀時。

 辺りを見渡してみると既に夜。どうやら相当な時間を彼は睡眠に費やしていたらしい(睡眠というより最早ただ気絶していただけなのだが)。

 寝ている場所は恐らく寝室。博麗神社の客室と言った所だろうか。

 

「あ、ギン兄様っ!」

 

 その時、銀時にとってかなり聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 声のした方を振り向くと、そこに居たのはフランだった。

 

「よかった……ギン兄様起きた……ごめんね? あの時はギン兄様の事情も聞かずに……」

「あ、あぁ……まぁ、仕方ねぇよ。誰だっていきなり空から落ちて来たら驚きもするし、ぼこりたくもなるって……」

「いや、そこまでならないと思うよ……」

 

 あの後、銀時は湯船まで真っ逆さま。

 大抵の人間は銀時に対して好意を抱いていたからまだ被害は最小限にとどまったものの、一部の人間は覗かれたことに対する羞恥心からか、相当に抵抗をした者も居た。

 一度は死にかけた命だが、四大ヒロイン(フラン、幽香、輝夜、早苗)によって止められ、男性陣から事情を伺い、将軍のカリスマによって何とかその場は収まったとのことだ(尚、一番覗きに対してノリノリだったのはその将軍だということは、銀時・新八・長谷川の三人しか知らない)。

 ちなみに、宴自体は銀時が寝ている間にすでに終わってしまったらしい。

 何人かは片付けの為に残っていたりするが、大抵は次の日に差し支える為帰っている。

 早苗や輝夜もなくなくかえってようだ(というよりほぼ強制送還に近い)。

 

「あ、お兄さん!」

「目覚めたようですね」

 

 その時、タイミングを見計らって入ってきたのは、こいしとさとりの二人だった。

 

「こいしちゃん!」

 

 フランはこいしの姿を見つけると、嬉しそうに歩み寄り、抱き着く。

 そんな姿を見た銀時は、

 

「へぇ……コイツら、仲良くなったんだな」

 

 と、嬉しそうに呟いていた。

 

「元を正せば貴方のおかげでもあるのですがね……同じ人が好きなんだと分かった時、二人はもう仲良くなっていましたよ」

 

 さとりもまた、自分の妹に友人が出来たことが素直に嬉しいのか、その様子を笑顔で眺めていた。

 やがてさとりは銀時の方に向き直り、

 

「この度は、何から何まで本当にありがとうございました」

 

 小さく頭を下げた。

 

「よせよ……別に俺は何もしちゃいねぇ。ただ、俺がやりてぇようにやっただけだ。気にするな」

 

 頭を掻きながらそう告げる銀時。

 

「けど、ギン兄様がやりたいことって、結果的に私達を助けることだよね?」

「そのおかげで私も救われたから嬉しいのだ~!」

 

 フランとこいしが、笑顔で銀時に抱き着く。

 双方から抱き着かれた銀時は、二人の頭を優しく撫でる。

 嬉しそうに目を細めるフランとこいし。

 さとりもまた嬉しそうに眺めて、その後ですぐに不安そうな表情を浮かべた。

 

「どうした? 何がそんなに不安なんだよ」

 

 キョトンとする銀時。

 さとりは、しばらく言葉にするのを躊躇っていたが、やがて――。

 

「貴方は、いつまで生きられると思いますか?」

 

 そう、尋ねていた。

 フランとこいしの二人が、さとりの言葉を聞いて目を見開く。

 対する銀時は、何となくこんな質問が来るのが分かっていたかのように、不敵な笑みを浮かべて。

 

「死ぬまで」

 

 そう、答えた。

 

「……貴方は、貴方を取り巻く世界を、守ろうと思っていますか?」

「あぁ、もちろん。俺の守りてぇモンは、数こそ増えてきちゃいるが、今も昔も何一つ変わっちゃいねぇ。これだけはぜってぇ曲がらねぇ」

 

 平然と告げる銀時。

 しかし、さとりは気付いている。

 心を読める彼女だからこそ――いや、心を読んでいなくても、察することは出来ていた。

 

 坂田銀時を取り巻く世界に、坂田銀時が存在していない。なのに、中心に彼が存在している。

 

 つまり、彼の存在が居るか居ないかだけで、幻想郷の今後に影響が及ぶのではないだろうか、という推察だ。

 ただし、こうも考えられる。

 

 ――最初から坂田銀時が存在していなかった場合、果たしてどのような結末を辿っていただろうか。

 

 恐らく、博麗の巫女と普通の魔法使いだけでも、異変解決は可能だっただろう。

 事実、二人もこれまで幾つもの異変を解決してきた者だ。

 目的の為に自身の身を削って手にした力を存分に振るう者を相手にしていた二人に対して、お空は借り物の力が強大だったからこそ対等にやり合えていたようなものだ。

 きっと、弾幕ごっこを興じる上で、博麗霊夢ならば解決に導くことが出来た。

 そう、坂田銀時は幻想郷において、本来ならば絶対条件ではないのだ。後天的に必要となった存在なのだ。

 だからこそ、さとりは不安を感じてしまう。

 それほどまでに強大な影響力を与える者が、ある時突然いなくなったりしたら――?

 例えば、自分の存在が幻想郷の崩壊に大いに影響を与えるとすれば、坂田銀時は迷わず身を投げ出すかもしれない。その後のことを考えずに――。

 

「……そうですか。私も、妹の好きなものの為なら、守り抜きたいと思います」

「へっ……お互い様じゃねえか」

「そんな大層なものじゃありませんよ。私はただ、妹を――家族を愛しているだけですから」

 

 こうして、地底を巡った異変は解決へと導かれ、姉妹の蟠りもまた解消された。

 今回の異変もまた、無事に幕が降ろされるのだった――。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百四十八訓 知らない天井って呟く時は大抵知っている天井

 

 

 

 




これにて地霊殿篇は終了となります!
次回からは再びポロリ篇です!
なんだかポロリ篇やるのも久しぶりな気がしてきました……。

それはそうと、人気投票はまだまだ実施中です!!
風並将吾のメッセージボックスまで投票お待ちしております!!!


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ポロリ篇その陸
第百四十九訓 原作オマージュの話を作る時はパクリ過ぎに気を付けろ


 毎度お馴染みBGオンリー。

 最早定番になりつつあるこの感じ。異変解決後と言えばやっぱこれでしょう。

 

「随分この小説も長いこと続いてるなぁ」

「気付けばもうすぐ40万字ですよ。最早事件ですよ?」

「亀更新どころか更新速度に驚かれることもたまにあるアル。一体どういう神経しているのかサッパリネ」

「ま、そんだけ暇人ってことなんじゃねえの?」

「オィイイイイイイ!! のっけからいきなり筆者ディスってんじゃねぇえええええええ!」

「けど、やっぱり燃え尽きてるのかBGオンリーに逃げてるアル」

「ったく、ただでさえ時間だけは有り余ってるってのに、燃え尽き症候群ってか?」

「さっきから随分と辛辣だなおい!」

「今回からまたポロリ篇始まるけど、ぶっちゃけネタ探している最中らしいアル」

「なんだ? 銀魂なんざネタの宝庫だろ? それなのに枯渇してるってのか? そういう時は原作ネタをほぼパクッて、オマージュやってみましたてへぺろ☆とかやって誤魔化しておけよ」

「色んな所を敵に回すような発言止めてくださいよ!!」

「それっぽい話にそれっぽくキャラ発言させて、それっぽく作ればなんとなく出来るアル」

「ま、あんまり原作に載ってる台詞載せると規則違反で作品消されちまうけどな」

「どんだけメタい発言繰り返すつもりですか!! 一体アンタらこの作品どうしたいってんだ!!」

「なんでもいいからそろそろ始めろヨ。こちとらBGオンリー中身体止めっ放しでいい加減動きたいアル」

「え、これ俺達動き止まってんの? 口だけ動いているとんでも状態なの?」

「んなわけねぇだろうが!! 神楽ちゃんなんてさっきからソファでゴロゴロ転がってるだけじゃん!!」

「分からないアルよ? 地の文が全くないから、何していたってバレないアル」

 

 と、ソファでゴロゴロしながら神楽が言った。

 

「おい今思い出したかのように地の文くっつけてんじゃねえぞ筆者。どたまぶち抜いてやるアル」

「ちょっとぉおおおおおおおおおおおお!! それ痛いから!! めっちゃ痛い奴だからァアアアアアア!!」

「まぁ、何がともあれそろそろ本編始めねぇとな……ここまででもう900字近く使っちまってるからな」

「と、いうわけで! 銀色幻想狂想曲、ポロリ篇その陸、始まります!」

 

 お後がよろしいようで。

 ま、このまま本編始まるんですけどね。

 

「何いきなりタイトルコールやってんのよ新八」

 

 溜め息を吐きながら霊夢が入ってくる。

 最早彼女がこうして遊びに来ること自体はそこまで不思議ではないので、彼らも何にも驚かない。

 

「いやな? いきなり新八が叫び出してな? 俺達は止めたんだけどよ?」

「アンタらさっきノリノリでBGオンリーやってたじゃねえか!!」

 

 すかさずツッコミを入れる辺り、流石は新八という所だろう。

 銀時は『そうだっけ?』って顔をしながらとぼけている。

 

「つか、今日はテメェだけなのか?」

 

 珍しく一人でやってきた霊夢に対して、銀時が尋ねる。

 

「そうね。紅魔館の住人も紅魔館2ndGにいるらしいから、フラン辺りがそろそろこっちに来る頃じゃないかしら?」

 

 普段は紅魔館と2ndGを行ったり来たりしているとのこと。

 せっかく建てたのだから活用していきたいと言うレミリア達の執念を感じる。

 

「そういや、最近はこいしもちょくちょく遊びに来るようになってるわね」

「こいしちゃんですか?」

「気安くこいしちゃんなんて呼ぶなんて、変態アル」

「どうして神楽ちゃんは僕だけそんなに辛辣なの!?」

 

 何故か痰を吐きながら、セリフを吐き捨てる神楽なのだった。

 

「さとりは地霊殿に相変わらず引きこもってんのか?」

「引きこもってるというか、地霊殿の主だから、そう簡単に空けるわけにもいかないのよ。それとは違ってこいしは妹で、能力も『無意識を操る程度の能力』だから、たまにさとりにも気付かれずに外に出てしまう位よ」

「まぁ、多分こいしここに来てるよな……さっきから気配感じるし」

「やっぱりお兄さんはこいしのこと見てくれてるー!」

 

 そう言いながら、机の下から現れたこいし。

 

「って、何処から現れてきてるんですか!?」

「ヅラ並のスタンバイっぷりだな……」

「髪の長い人にスタンバイの仕方教えてもらったのだ~」

「やっぱアイツの仕業じゃねえか!!」

 

 最早狙った通りの行動だった。

 こいしは嬉しそうに銀時に抱き着いている。

 こうしてみていると、フランが抱き着いているのと同じような感覚を覚える一同。

 

「そうそう。そう言えば私、ここに来たのにはちゃんとした理由があったのよ」

「と、言うと?」

 

 新八が尋ねる。

 そして霊夢は、ある物を取り出しながらこう告げた。

 

「貴方達に届け物よ」

「「「届け物?」」」

 

 万事屋三人が尋ねる。

 霊夢が取り出したのは――。

 

「暑中見舞いよ」

「って、これ完全に年賀状回のオマージュじゃねえかァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百四十九訓 原作オマージュの話を作る時はパクリ過ぎに気を付けろ

 

 

 

 




と、いうわけでポロリ篇その陸の始まりでございます!
原作における年賀状回っぽい話を作ります!


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第百五十訓 手紙の文面は注意深く考えた方が身の為だ

「で? その暑中見舞いとやらはそこそこ数あんのか?」

 

 こいしに抱き着かれながらも、銀時は霊夢に尋ねる。

 霊夢はそんな銀時に軽くガンを飛ばしながら、

 

「まぁまぁあるわよ。精々楽しむことね」

「なんで若干キレ気味なんだよテメェ」

「五月蠅いわね。キレてないわよ」

「どう考えてもキレてんじゃねえか……」

 

 その理由は銀時にあるのだが、当の本人は知る由もない。

 

「とりあえず一枚目から見ていきましょうよ」

「そうアルな」

「そうしようー」

 

 新八、神楽、こいしの三人からの言葉もあって、一枚ずつ見ていくことにする。

 最初の手紙は魔理沙からだった。

 

『暑中見舞い ところで暑中見舞いって何すりゃいいんだ? 暑い中見舞いするのか? 熱中症?』

 

「こいつ暑中見舞いの意味全然分かってねぇじゃねえか!!」

 

 銀時は思わずツッコミを入れていた。

 ちなみに霊夢は軽く頭を抱えている。

 

「まぁ、確かに最近暑中見舞い送ることの方が少ないですから……知らない人が出てきてもおかしくないですって」

「そりゃなぁ。年賀状ですら送らなくなってんだから、暑中見舞いなんて尚更だよなぁ」

 

 そんな中、二通目。

 

『たまには紅魔館2ndGにも顔出しなさいよ。美味しい料理作って待ってるわ。咲夜が。 レミリア』

 

「いやまぁ、分かっちゃいるけど他力本願かよ」

「咲夜さんの料理は美味しいですからね」

「たくさん食べられるアル!」

「それに、レミリアが料理している所なんて想像つかないわよ」

 

 言いたい放題である。

 

「んで、次は……」

 

 次の手紙を読み始める銀時。

 

『この前綺麗に落とし穴に鈴仙が落ちたので、その時の写真を暑中見舞いとして送るよ! きしししし』

 

 写真には、綺麗に落とし穴に落ちて足だけ犬●家の一族みたいになっている鈴仙の姿が写し出されていた。

 

「何芸術的な一枚撮ってんだあの兎ィイイイイイイイイイイイイイイ!!」

 

 銀時は手紙を見ながら叫んでいた。

 

「おぉ、綺麗にハマってるなー。凄い写真だー」

 

 こいしが少し感心していた。

 

「いや、こいしちゃん。これ感心する写真じゃないからね? むしろこれ、てゐさん後で何言われるか分からない奴ですよね」

「細かいこと気にしちゃ駄目よ……あら、これ幻想郷からじゃないわね」

「あ? 何か別の手紙でも混じってたのか?」

 

 霊夢の呟きを聞いた後で、銀時が手紙を捲ると。

 

『異変の度にスタンバってました』

 

「テメェは何毎度毎度スタンバイしてんだコノヤロォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 手紙を叩きつけて叫んだ銀時。

 

「年賀状の時もそうでしたが、毎回スタンバイしてますねこの人……」

「けど、肝心な所で出番逃すネ。前回だって宴で出番あると思いきや、一人温泉でポツンと寂しい思いしただけアル。可哀想ネ」

「あの時のことは思い出したくねぇ……って、おい。新八。テメェ何目逸らしてやがる」

「さ、次行きましょうか!!」

「逃げたわね……」

 

 閑話休題。

 次の手紙は――。

 

『私達、結婚しました! この度入籍しましたのでご報告させてもらいます♪ 輝夜』

 

 写真→明らかにコラだと思われる銀時と輝夜のツーショット写真。

 

「あのクソアマァアアアアアアアアア!! 何変な手紙ねつ造してんだコノヤロォオオオオオオオオオオ!!」

「これ、完全にやってることさっちゃんさんと変わらないですよ……」

「何してんのよ永遠亭のお姫様は……」

 

 霊夢がポツリと呟いた。

 

「それに対してお祝いのメッセージも来てるアル」

「は? マジで? 誰から?」

 

『今まで世話になった。末永くお幸せに!!  月詠』

 

「お前また勘違いしてんのかよ!!」

 

 こういう時、月詠は純粋らしい。

 

「ところで、結婚報告してきてるの輝夜さんだけじゃないみたいですよ……?」

 

 新八が一枚の手紙を差し出す。

 そこに書かれていたのは、

 

『この度入籍しました! 皆より一歩出だしが遅かったですが、最後には私が勝ちましたよ! 早苗』

 

 写真→銀時と早苗が抱き合っているイラスト。

 

「いや最早写真じゃねえし誰が描いたんだよこの少女漫画みてぇなイラストをよ!!!」

「こういう時謎に暴走するわね……あの巫女、銀時のこととなると暴走しかしないわね」

「なかなか愉快なことをするものだなー」

 

 こいしは特に気にしていない様子。

 というのも、目の前で銀時が否定しているのだから、心配する必要もないのだ。

 だが、真偽を確かめられない人物達からしてみたらどうだろうか。

 

『二股とは恐れいったのー。頑張って子宝に恵まれたらいいなぁ~、金時! 坂本』

 

「誰が二股だコノヤロォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 何故坂本の所に手紙がいっているのかは最大の謎だ。

 他にも。

 

『銀時。次会った時には、たくさんの花を用意して待ってるわね? 幽香』

 

「何に使う花なんですかね……」

「お供え物じゃないかしら……」

「縁起でもねぇこと抜かしてんじゃねえぞ!!」

 

 本気度が窺える一文である。

 さらには。

 

『こいしや私を差し置いて結婚するなんて……分かっていますよね? さとり』

 

「おいこいし。テメェ今すぐ帰って姉貴の誤解をといてきてくれよ」

「え~。お兄さんも一緒に行こうよ~」

「遊びにいくわけじゃねえんだよ!! このままだと俺命の危機なの!!」

「命の危機と言えば……」

 

 そう言いながら、新八が一枚の手紙を差し出す。

 そこに書かれていたのは――。

 

『イマ、アイニイキマス。 フラン』

 

「……え? 今? 今っていつ? ジャストナウ?」

 

 軽く現実逃避をしている銀時。

 しかし現実は時として残酷で――。

 

「ギン兄様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 悪魔の妹(フランドール)が乱入してきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百五十訓 手紙の文面は注意深く考えた方が身の為だ

 

 

 

 

 




そういえば銀魂原作のオマージュは、愛染香位しかやってないよなぁって思って作った話ですが、なんだか予想以上にカオスな展開になりそうな予感しかしません()
所で、これ、記念すべき第150話なんですよ?
150話目なのに何をしているんでしょうか……。


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第百五十一訓 説明はきちんとしましょう

「なんか色々おかしな手紙が来てるんだけど、ギン兄様しっかり説明して!!」

 

 フランとしては、あれらの手紙が嘘であると思いたいのだ。なので安心する為にも、銀時の言葉を聞こうとここまで乗り込んできたということだろう。

 強ち、霊夢が最初に言っていた『紅魔館2ndGに居るからその内来るのでは?』という言葉は嘘ではなかったようだ。

 銀時はフランの頭を乱暴に撫でまわしながら、

 

「あれは暴走した奴らが勝手にやったことだ。俺としちゃ迷惑なんだよ……安心しろ、フランが思っているようなことはあり得ねぇから」

「ふにゅっ」

 

 銀時がそう言いながら頭を撫でると、すぐにフランは大人しくなる。

 本当に、銀時の言うことなら何でも聞いてしまう女の子である。

 その内、銀時が前を向けと言ったら本当に前を向く程従順になるのではないだろうかと思われる程だった。

 

「新八。通報する準備しておくアル」

「大丈夫だよ。けど、土方さんはミツバさんの所に行ってそうだから、今回は沖田さん辺りに……」

「何テメェら通報しようとしてんだ。何テメェら盛大に勘違いしてんだこの野郎」

「どうしたのお兄さんー? もしかしてお兄さんって『ろりこん』ってやつなのー?」

 

 こいしがとんでもない爆弾を投下していた。

 

「こいしそれ誰から教わったんだ」

「えっとね、サングラスかけた男の人だよー?」

「長谷川さぁああああああああああん!! 幼気な女の子に何教えてやがるんだァアアアアアアアアア!!」

 

 まさかの人物に流石の銀時も困惑である。

 

「その後、えっと、確か……『しょうちゃん』っていう人が、『ろりこん』とは一体どんなものなのだ? って興味深く聞いてたよ?」

「将軍かよォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 そして何故か将軍である茂茂にまで影響が及んでいた。

 まさにカオスな状況である。

 ちなみに、今の事実を暴露したのはフランである。

 そしてフランとこいしは今、何故か自然と銀時の膝の上に座っていた。

 

「って、何平然と受け入れてやがるんだよこの天パーロリコン覗き魔侍が」

「おい霊夢。天パー以外ほぼすべて誤解だから青筋立てんじゃねえよ。こんな所で弾幕なんて撃ってみろ? 下に居るババアが地獄の果てまで追いかけてくるぞ」

「「お登勢さんならやりかねない……」」

「え、あの人そんなにやばいの?」

 

 新八と神楽が肯定したことにより、霊夢の中でのお登勢のイメージがかなり怖い物と化した瞬間だった。実際本当にやりかねないので対処に困るところである。

 

「お兄さんに抱き着いているとなんだか安心するねー」

「でしょ? でもね? ギン兄様は私の家族でもあるんだよ?」

「こいしのお兄さんなのだー」

「フランとこいしのギン兄様だね!」

「ちょっと? 何二人で勝手に銀さんの所有権握りしめてんの? テメェらの姉貴に俺ぶちのめされるかもしれねぇんだけど?」

「なんなら今からレミリアとさとりを呼んでこようかしら? あることないこと吹き込めば、きっと協力してくれるわよね……」

「テメェは何の恨みがあってそんなひでぇことしようとしてやがるんだコノヤロォオオオオオオオオオオ!!」

 

 完全に逆恨みで、かつ、嫉妬であるのだが、銀時は知る由もない。

 彼はこういう時に限って鈍感な男である。

 一体何処のラブコメ主人公なのだろうか。

 

「とりあえず、早苗と輝夜の所には、『然るべき措置を取るので覚悟しておいてください』と手紙送っておいてくれ。そして俺はしばらくどっかに逃げる」

「完全に報復から逃れる気満々じゃない……」

 

 ある意味ではリスクマネジメントがしっかりしていると言えなくもない。

 

「あ、それなら今から紅魔館2ndGに行こうよ!」

 

 ここでフランがそんな提案をしてきた。

 

「せかんどじー?」

 

 この中でこいしだけがその存在を知らなかった。

 なのでキョトンとした表情を浮かべながら尋ねてくる。

 

「フランちゃんの別荘みたいなところだよ?」

「こっちの世界にも家建てちまったんだよ、フランの姉はな」

「お金持ちだー!」

 

 こいしは驚いている。

 確かに、二つの世界に家があるなんて普通では考えられないだろう。

 しかも今回は、既に紅魔館の住人は2ndGに全員来ているという。

 

「ま、せっかくだからマダオの仕事ぶりでも見定めてやるアル」

「神楽ちゃんは一体どの目線で長谷川さんを分析しようとしているの……?」

 

 思わず新八がツッコミを入れたがスルーされる。

 

「つーわけで、早速移動するとするか」

「そうね。私としても久々に行くから楽しみだわ」

 

 こうして、銀時達は紅魔館2ndGへ向かうこととなった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百五十一訓 説明はきちんとしましょう

 

 



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第百五十二訓 変態は変態を呼び寄せる何かがある

 さて、久しぶりに紅魔館2ndGへの道のりを歩いている銀時達。思い返してみたところ、実は彼ら自身もそう回数行っていないことに気付いていた。実際久しぶりの紅魔館2ndGの登場である。銀時達が幻想郷に行く機会の方が圧倒的に多いので、なかなかこの建物が使われないのだ。

 ちなみに、銀時の右腕にはフランが。左腕にはこいしが抱き着いているハーレム陣営である。何とも羨ましくてけしからん状態であるのだが、歌舞伎町における銀時の評判が評判な為、その光景を見た通行人の内の何人かは真選組につき出そうとしてきている。銀時はそれを全力で避けている状態だ。

 

「銀さんはもう少し日頃の行いを正しくした方がいいと思います」

 

 新八が冷静にそう言った。

 

「いやな? コイツらと一緒に居るだけで犯罪者にされかけてるんだけど? 銀さんそんなに危険そうな奴にみえる? こんなにも善良な一般市民もなかなかいねぇと思うけど?」

「寝言は寝て言うアル。どの口がそんなフザケタこと抜かしてやがるネ」

「神楽の言う通りね。悔い改めなさい、ロリコン」

「誰がロリコンだゴラァ!!」

 

 霊夢の嫉妬(?)は今に始まった話ではない。しかし銀時は、霊夢が嫉妬していることにすら気付いていない。何故か肝心なところで突然鈍感になってしまう坂田銀時なのだった。

 こいしとフランはそんなことお構いなしに銀時に抱き着いていて、時々スリスリとすり寄っている。

 そんな二人の様子が、霊夢の嫉妬をさらに加速させている。

 

「まったく……なんでこんなチャランポランばかりモテるのかしら」

「ごもっともです……本当、銀さんモテ期が来ていてその内嫉妬で殺されないですかね」

「いちゃこらしてるニコ中マヨネーズよりはマシアル。時々幻想郷でアイツら見かけると、つば吐き捨てたくなるネ。かーっぺっ!!」

「ったく、瞳孔開きっぱなしの野郎は、今度は膀胱開きっぱなしになるってか?」

「何も上手くねぇし最低な発言してんじゃねえよ天パー!」

 

 突然下ネタぶっこんでくる銀時に対して新八がツッコミを入れる。

 いつもなら流してしまう所ではあるが、今回はこいしやフランが居る為、教育上悪いことでもある。

 

「ねぇねぇ、フランの別荘って大きいのー?」

「とっても大きいよ! 幻想郷にある紅魔館とそこまで変わらないくらい!」

「こいし、紅魔館も行ったことないから一度行ってみたいなぁ……」

「本当? 今度お姉様に聞いてみる!」

「ありがとー! お兄さんも一緒に行こうね?」

「俺もか?」

「ギン兄様もいつでも来てね! そして一緒に寝ようね?」

「ズルい! こいしも一緒に寝るー!」

「じゃあ三人で一緒寝よう!」

「待ってくれ? 俺その状況になったらテメェの姉貴とメイドに八つ裂きにされる自信あるんだけど?」

 

 万が一同じ布団で寝る運命になったとしたら、銀時の命はその日限りで燃え尽きてしまうことだろう。それだけの危険を伴ってまで、二人と一緒に寝る自信はない。

 こいしは寂しそうに、フランは涙目で、

 

「私達と一緒に寝るの……」

「いや?」

 

 ダイレクトアタック!

 美少女二人からの攻撃に、銀時の精神はすり減っていく。

 

「いや、あのな……?」

 

 銀時が何か発言をしようとしたその時だった。

 

「銀さぁあああああああああああん!」

 

 背後から迫りくる謎の女性の声。

 その声は銀時を見つけるや否や、勢いよく飛んできた……ビルの上から。

 

「テメェはどっから現れやがった!!」

 

 両腕は塞がれている為、銀時は迫りくる人影を――蹴り上げた。

 蹴られた本人は少し前へ飛んで行き、建物の壁に激突する。

 しかし、動じることなくすぐ立ち上がり、銀時の傍まで近寄ってきて。

 

「銀さんレーダーが感知したからつい来ちゃったの☆けど、両隣に居るメスブタは一体どういうことかしら?」

「テメェの方がメスブタだろうが。ついに目まで腐っちまったのか?」

「ああん♡銀さんのドエスボイスが身体に響くぅ!」

 

 ここまでぶっ壊れキャラだったっけ?

 と聞いてしまいそうなほど、ぶっ壊れているさっちゃんだった。

 

「さっちゃんさん……お気を確かに」

「お兄さん、この眼鏡の人はー?」

 

 こいしはあやめと会うのは初めてなので、銀時の袖を引っ張って上目遣いに尋ねる。

 銀時は指を差して一言。

 

「こいつは変態だ。近寄るんじゃねえぞ」

「アンタも大概じゃない」

 

 霊夢が冷静にツッコミを入れた。

 

「ま、コイツは放っておいて先行くぞー」

「待ちなさい銀さん! 私の身体が疼いて仕方ないから、銀さんで慰めて――」

「全年齢対象バスタぁあああああああああああああああ!」

「ひゃあああああああああああ!!」

 

 これ以上言うとタグが追加されかねないと判断した銀時が、全力でパンチを決めていた。

 パンチされたあやめは、そのまま遥か彼方まで吹っ飛んだという――。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百五十二訓 変態は変態を呼び寄せる何かがある

 

 

 



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第百五十三訓 何かの準備をしているらしい

 道中で色々とあった銀時達だったが、なんやかんやで紅魔館2ndGに到着することは出来た。これが初見となるこいしは、その大きさに目を輝かせている。

 

「こっちの紅魔館だと門番いなくてもいいわけだから、実質あの美鈴リストラされたようなもんだよな?」

「ちょっと!? 思い切り目の前にいますよ!? 貴方の目の前に門番いますよ!?」

 

 扉の前にいる美鈴は、銀時がスルーしそうになったのを見て思わずツッコミを入れる。

 

「お、なんだいたのか。今日は居眠りしてねぇんだな」

「いつも寝てるわけではないですよ? 幻想郷だと平和なのでつい心地よくなってしまうだけで……」

「おいコイツ今幻想郷だとサボる発言したぞ」

 

 気持ち的に歌舞伎町の方が気を張らなくてはいけなくなるのは理解出来る銀時。幻想郷と違って何が起きてもおかしくないような場所だ。ある日突然巨大ゴキブリが発生したりする世界なので、用心するに越したことはないだろう(そんな事実をレミリア達は知らないわけだが)。

 

「まったく、相変わらずの門番ね……そんなんだから咲夜にどやされるのよ」

「咲夜さんには言わないでくださいね!?」

 

 どうやらメイド長たる咲夜からは散々お説教(物理)を喰らっているようだった。自業自得ではあるのだが。

 

「ところで、そちらの子は?」

 

 美鈴は、銀時の腕にしがみついているこいしを見ながら尋ねる。彼女達は実質初対面。自己紹介をするのが道理という物だろう。

 

「はじめましてー。私はお兄さんの古明地こいしだよー」

「なんかとんでもない発言ぶっこんできたんですけど!?」

 

 聞き取りかたによっては勘違いされ兼ねない言い回しをするこいしに対して、思わずツッコミ役たる新八が反応してしまう。ツッコミの悲しい性というものだ。

 

「私は紅美鈴です。よろしくお願いします……もしかして、妹様のご友人でしょうか?」

「そうだよっ!」

 

 嬉しそうな声を出しながら答えたのはフランだった。彼女がこうして『友達』を紹介するのは初めてのことだったので、美鈴も心なしか笑顔を浮かべていた。

 今までレミリアによって地下室に閉じ込められていたフランに気になる男が出来、支えてくれる人が出来、そして友達が出来た。これはかつてない程大きな収穫であり、変化であった。銀時達が幻想郷に来るようになってから一番恩恵を受けているのはフランやこいしなのかもしれない。

 

「レミリアは中にいるの?」

 

 今度は霊夢が尋ねる。

 

「中で迎える準備をされてますよ。そろそろ来る頃だと見計らっていたみたいです」

「私達の動きが読まれているアル!」

「能力使って運命読み取りやがったな……しかしこんなしょーもねぇことに使わなくてもいいだろうに」

 

 純粋に驚く神楽に対して、銀時は冷静に分析する。たしかに、レミリアの能力を使えば運命を読み取ることが出来る。その上で行動を取るのは造作もないことだろう。

 

「中も凄いんだよ? 是非見て欲しいな!」

「そうなの? これは楽しみだー」

 

 銀時を挟んで、フランとこいしが楽しそうに話している。こうしていると親子に見えなくもないが、本人達は恐らく認めないだろう(特にこいしやフラン)。

 

「ま、今回はゆっくりする時間があるわけだしな。せっかくだから中入っていいか?」

「お構いなく。あ、坂田さん。今度手合わせしてくださいね?」

「遠慮してぇんだけど……銀さんいざとなった時しか目が煌めかないから。普段はぐうたらしたいんだよ」

「んなこと言ってねぇで身体の一つや二つ動かして来るアル」

「将来ニートになっても知りませんよ」

 

 こういう時の万事屋メンバーは言葉が辛辣である。

 

「大丈夫だよ。ギン兄様はフランが守るから……」

「私も守るー。お兄さんはこいしのことを見てくれるから、絶対離さないー」

「私達で守ろうね?」

「うん!」

 

 どうやらフランとこいしは既にタッグを組んでいるらしい。ある意味最強の妹同士が手を組んだら、幻想郷でも勝てる人物はそう多くはないだろう。そう考えると、坂田銀時という存在は幻想郷において偉大なのかもしれない。

 普段はちゃらんぽらんだが。

 

「中で既にパーティーの準備は整っています」

「「パーティー??」」

 

 銀時と霊夢。

 主人公サイドの二人の声が重なった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百五十三訓 何かの準備をしているらしい

 

 



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第百五十四訓 悲しい結果に終わったとしても一応結果は報告しなければならない

『第一回 人気キャラ投票反省会』

 

「「「……は???」」」

 

 三人分の声が重なる。中に入った瞬間に銀時達を待ち受けていたのは、なんとも情けなさすぎる横断幕だった。人気キャラ投票までならまださまざまな創作物で執り行われることなので十分理解出来る。しかし、そこに何故か加わっているのは『反省会』という言葉。一体全体何を意味するのかがさっぱりなのである。

 

「待ちわびたぞギントキ、霊夢。主役が登場しないとやっぱり締まらないからな」

 

 声をかけてきたのは、なぜか蝶ネクタイをつけているレミリア。

 

「なんでお前蝶ネクタイつけてんの?」

 

 すかさず銀時が尋ねる。

 

「今回の司会を任されているからな。ちなみに、咲夜は参加者側だから準備等は何もさせないようにしている」

「うっ……わ、私にも何かお手伝いを……」

「駄目だ。今日は客側なのだから、客に準備させるわけにもいかないだろう?」

「ご、ご勘弁を……」

 

 メイドとしての仕事を剥奪されて身体がぷるぷる震えている咲夜と、そんな彼女を見ながら笑っているレミリア。

 そして、中では長谷川と小悪魔、パチュリーに、屋敷に住まう妖精達がせっせと準備をしていた。

 更に、

 

「……なぜ、私もここに呼ばれているのでしょうか?」

 

 何故か椅子に座らされている妖夢の姿があった。

 

「あれ? 妖夢か?」

「銀時さん! これは一体何なのでしょう?」

「俺が聞きてぇところだわ……」

 

 ある意味カオスな状況。

 この光景を見ている彼等は、なんとも言えない気持ちになっていることだろう。

 

「何だか楽しそうなお家だなー」

「でしょ? でもいつもはこんなことしてないけどね……」

 

 感動しているこいしに反応したフランだったが、そのフランもまた、今の状況を理解していない。何せ暑中見舞いを見て銀時達のところに向かってからそう時間が経っていない筈なのに、戻ってみればこんな感じになっていたのだから。

 

「さて、これで参加者は出揃ったわね。それじゃあ始めるわよ……第一回人気キャラ投票反省会」

 

 どうやら参加者はここにいる全員のようだ。

 レミリアが神妙な面持ちで前に立ち、会の進行を務める。

 

「まず、貴方達に聞きたいのだけれど、この小説では人気キャラ投票が行われてたのは知ってるか?」

 

 冒頭でレミリアが伝えるのは、人気キャラ投票の存在について。

 

「ええ。一応知ってるわよ。なんかキャラ投票やってるなーって認識なら私にもあったわ」

「銀魂本編でもやっていたからな。そんでまた醜い争いが始まるのかと思ったぜ」

「新八は万年八位アル」

「今それを言う必要ある!?」

 

 銀魂における新八の投票順位の奇跡さは、登場人物なら大抵認知している。最早印象操作でもされているのではないかと思われるほどの素晴らしさ。

 

「で、今回集まった票数なのだが……」

 

 レミリアはそこで一度溜める。

 そして……。

 

「四票!!!!」

「すくねぇ!?」

 

 流石に銀時もツッコミせざるを得ないようだ。

 

「そして、もうこんだけしか票入ってないし、入ったやつは自動的に一位になる結果だったので、もう一気に発表してしまうからよく見ておけ」

「おい進行適当になってんぞ」

 

 一位

 ・十六夜咲夜

 ・魂魄妖夢

 ・坂田銀時

 ・博麗霊夢

 

 以上。

 

「と、言うわけで一応なんとか主人公としての体裁を保たれた二人だ。そして妖夢と咲夜はよく拮抗した」

「な、なんか素直に喜べないのですが……」

「入れてもらえただけありがたいと思うことに致しましょう……」

 

 妖夢と咲夜の二人はどこか釈然としていない様子だったが、今回に関しては入っているだけありがたい話なので。

 

「ギン兄様おめでとう!」

「さすがお兄さん!」

 

 銀時はフランとこいしに祝福されている。

 しかし、これもし彼に票が入っていなかったとしたら、主人公としての面子が丸潰れだったのではないだろうか。

 

「というわけで、作者はもっと投票関係をする時は分かりやすく説明し、宣伝すること。以上反省会終わり」

「だから適当すぎんだろ進行」

 

 結局最後までこんな感じでやる気のない進行となったのだった。

 

 尚、本来ならば人気投票篇をやろうとしたのだが、今回たった四票を奪い合う醜い争いになり兼ねない為、カットの方向で。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百五十四訓 悲しい結果に終わったとしても一応結果は報告しなければならない

 

 




と、言うわけで先日行われた人気投票の結果でした!!


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星蓮船篇
第百五十五訓 空を自由に飛びたいなと思った子供時代を何人が過ごしたことか


今回からついに星蓮船篇が始まります!


 とある日の幻想郷。

 人気キャラ投票反省会が執り行われた翌日の話。

 珍しく博麗神社には、魔理沙の他にも早苗の姿があった。博麗神社に守矢神社の分社が建てられている関係で、定期的にこうして霊夢に顔を出しに来ているのだ。とは言いつつも、目的の内の八割は、博麗神社に遊びに来るかもしれない銀時を待ち構えているだけなのだが。

 

「何よ早苗。銀時なら来てないわよ」

「ここ最近銀時さんが来てくれないから、私銀時さん成分が不足しているんです……いっそ私から会いに行きましょうか……」

「銀さんだって仕事位して……なさそうだなぁ」

 

 銀時の仕事が万事屋でなければ、魔理沙ももう少し自信を持って『仕事しているだろう』と言えたのかもしれない。残念ながら彼の仕事は、依頼があるかないかで左右される。元より家賃も満足に支払えないような状態なのは周知の事実な為、今後の彼の生活を誰かが支える必要がありそうだ。

 閑話休題。

 

「となると今日も霊夢さんには信仰の集め方をレクチャーした方がよさそうですね」

「毎度毎度ほぼお説教に近い形になるじゃないの。そんな面倒なのは私御免よ」

「まぁまぁ、どうせ暇なんだし聞くだけ聞けばいいんじゃねえの? 霊夢の為にもなるぜ」

「アンタはどうせつまらなくなったら帰ればいいだけだからいいじゃないの」

「ははっ! 霊夢が辛そうにしているのを見るのはなかなかに楽しいものだぜ!」

「魔理沙さんもなかなかにいい性格してますよね……」

 

 ここに居る三人は、幻想郷の中でも人間組として仲がいい方だ。ここに咲夜が加われば、幻想郷において最強の人類四天王が揃うという算段だ。ちなみに銀時に関しては幻想郷の住人ではないのでカットされている。

 

「ところで、二人とも最近こんな噂が出回ってるんだけどさ、知ってるか?」

「「噂?」」

 

 話のネタを提供してきたのは魔理沙だった。

 魔理沙は二人に対して話し始める。

 

「最近、幻想郷の空の上を、宝船が飛び回っているって話だぜ?」

「宝船、ですか?」

「何よそれ。金銀財宝がその中に載せられているって言うの?」

 

 早苗はキョトンとしていて、霊夢の目は金マークと化していた。

 最近、地霊殿の事件があってから掘り出された温泉によって、多少の収入は得ている霊夢。しかしそれだけではまだまだ足りないのか、金になることなら大抵のことはやろうとしていた。とはいえ彼女自身も銀時並に働きたくない人間である為、楽して稼げるものなら最初からそうするタイプの人間だった。

 そんな彼女の所に入ってきた、宝船の情報。

 これを彼女がみすみす聞き逃すわけがない。

 

「にしても、本当幻想郷というのは常識に囚われてはいけない場所なんですね!」

 

 早苗は心なしか少し興奮している。

 彼女はこう見えて幻想郷歴が浅い。実は銀時達よりも後に幻想郷の地を踏んだのだ。如何に元居た世界と違うのかを実感している頃だろう。そして彼女が得た答えが、『幻想郷に常識は通じない』というもの。

 船が空を飛ぶ事態など、元居た世界ではあり得ない話だ。幻想郷ならではのものだろう。

 ……最も、銀時達の世界では空を船が飛んでいることなど結構日常茶飯事なのだが。

 

「しかし、空を飛び回っているということは、なかなかそう簡単には見つからないかもしれないわね」

「そこだけが悩みどころだぜ。見つけちまえば銀さん達を連れて様子を見に行きたいところだぜ……」

「銀時さんがいるなら私も行きます!」

「いるとはまだ一言も言ってないぜ……」

 

 最も、異変あるところに万事屋ありな風潮はあるので(というかそうしないとこの物語が成立しない為)、自ずと何かが起きたら銀時達が召喚されることだろう。

 そうして今回もまた、ある物が彼女達の目に映ることとなる。

 

「れ、霊夢さん……魔理沙さん……あ、あれ……」

「「え?」」

 

 その時、早苗は空を指差しながら二人を呼んだ。

 つられて彼女達が空を見上げると――。

 

 飛んでいる船が一隻。

 

「……あれって」

「まさか……」

 

 今まで自分達が話していた情報を照合する。

 空を飛ぶ船。

 それは宝船と噂されるもの。

 そしてそんな船が今、自分達の上空を高速で飛び去った。

 それはつまり――。

 

「魔理沙! アンタのスピードなら追いつける筈よ! 船の行方を追いなさい! 私と早苗は、銀時達を呼んでくるわ!」

「分かったぜ!」

「霊夢さん! 早く銀時さんを迎えに行きましょう! 私の旦那様を!」

「アンタの旦那様じゃないけど、銀時達を迎えに行くわよ」

「えぇ! 私の家へ!」

「だまらっしゃい」

「はい」

 

 こうして、今回の騒動も幕が開かれることとなる――。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百五十五訓 空を自由に飛びたいなと思った子供時代を何人が過ごしたことか

 

 



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第百五十六訓 スタンバイしていればいつかは報われる

先日はお休みしてしまい失礼しました。
改めまして最新話です!


 江戸は歌舞伎町。スナックお登勢の上に位置している万事屋銀ちゃんには、ただいまもれなくぐうたら空気が流れ込んでいた。ただ単に暇なのである。仕事もなければ予定もなく、そして金もない。何処かへ出かけようにもそんな気力もない。故に今回もBGオンリーからはじまる。いつも通りの展開だ。

 

「なんか始まり方が随分と仰々しくねぇか?」

「最近作者が迷走している証拠アル。こういう風にテコ入れをする時は大抵何かしらマンネリ化してるかネタが浮かばなくて軌道修正しようとしている時ネ。アニメでもテコ入れ回あったのを思い出すアル」

「結構ギリギリを攻めてましたからね……恐らく二次創作で同じことをしたら一発で検閲に引っかかってしまいますよ……」

「なんだ新八? 随分と弱気な発言だなぁ。そんなんじゃ、ぱっつぁんキングダムを作り出すことは出来ないぞ?」

「ぱっつぁんキングダムってなんだよ!? やたら適当なこと抜かしてますよね!?」

「世の中適当なくらいがちょうどいいんだぞ? 適当なのが適当なんていう名言も生まれるくらいだからな?」

「そんな名言聞いたことねぇよ! どこの世界で生まれた言葉だよ!?」

「でも、新八が王様とか一日も保たずに八時間で潰れてしまいそうな気がするアル」

「半日ももってねぇじゃねえか!? 未練も何もないけど流石にそれは酷くない!?」

「まぁそれはそれとして……暇だな」

「暇アル」

「暇ですね」

「なんかこう、そろそろなんか依頼でもこねぇかな……」

「こういう場合、依頼が来るよりも誰かが遊びに来る方が確率高いですよ?」

「そうアルな。導入部分が終わるか、ただ単なるギャグ回が始まるかの二択しかないネ。BGオンリーだけで終わらせる作者ではなかったはずアル」

 

 先読みされているようで誠に遺憾である。

 

「なんでサラッと会話に参加してるんですか!?」

 

 五月蝿いダメガネ。

 

「ダメガネってなんだよ!? ていうかこれ最早よくある作者とキャラの掛け合いみたいになってるじゃないですか!?」

「何言ってんだよ新八。ゴリラはそこに居ないだろ?」

「この小説にゴリラ関係してねぇから!!」

 

 随分と話がずれ始めている三人。このままでは少しまずいので、軌道修正の為誰かしらが入ってくる展開が待ち受けている。

 そしてその期待される展開の通りに、何者かが、居間の襖を開けた──。

 

「そろそろ出番かと思ってスタンバッテました」

「「「おかえりはあちらです」」」

 

 桂を相手に万事屋三人の心が一致した瞬間である。

 

「なんでテメェが現れてくんだよ、ヅラァ」

「ヅラじゃない、桂だ。暑中見舞いでも言ったではないか。異変の度にスタンバッテましたと」

 

 確かに、前回送られてきた暑中見舞いにおいて、桂はスタンバッテた旨をなぜか送りつけている。余談ではあるが、あの後同じような手紙が十枚程見つかったとか、見つからなかったとか。

 

『俺もいるぞ!』

 

 相変わらず何考えてるのか分からない表情(着ぐるみ?)で、プラカードを掲げるエリザベス。このコンビは毎度何を考えているのか分からないと評判だった。

 

「とは言われましても、今は異変とかそういったことは連絡来てないですよ?」

 

 新八の言う通り、今のところ何の連絡も入っていない。故にまだ異変発生とはいかないのだ。

 

「おかしいな。そろそろだと思ったのだが……」

「お前自分で異変起こしてるわけじゃあるまいな?」

「そんなわけあるか。俺はただ出番が欲しいだけだ」

『もっと出演させろ!』

「それただの私念じゃないですか!!」

 

 どうやら桂やエリザベスもまた、出番が欲しいことに変わりないようだ。

 ただ、今回ばかりは彼らも運が良かったのかもしれない。

 何故ならば……。

 

「銀時、宝探しに行くわよ!!」

「銀時さん! 子宝作りに行きましょう!!」

 

 金のマークを宿した霊夢に、ハートマークを宿した早苗。

 ある意味今回の問題児コンビがタイミングよく訪れたのだから。

 

「って、子宝作りってなにすんだよ!?」

 

 本日も銀時のツッコミが炸裂しているようだ。

 

 

 

 

 

 

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第百五十六訓 スタンバイしていればいつかは報われる



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第百五十七訓 空を飛ぶのは船だけではない

万事屋に来た二人によって幻想郷へと連れ出された銀時達。相変わらず早苗には抱きつかれたまま、霊夢からは舌打ちされまくったままの状態だ。

 

「随分と忙しいなぁ、銀時」

『このモテ男め!』

 

桂とエリザベスが煽って来ている。今回はこの二人もいるということで、余計に騒がしくなること間違いなしだろう。何せマシだったことがないのだ。

 

「なんでテメェらまでついてきてんだよヅラ。後早苗! いい加減離れろ!!」

「異変の度にスタンバッテいたのがようやっと報われたのだ! 俺が来てもおかしくないだろう?」

『そうだそうだ! 出番よこせ!』

 

どうやらいつも決まってほとんど宴やポロリ篇ばかりでしか登場しないことに対して不服だった模様。一応桂は大結界異変篇に登場しているが。

 

「嫌ですー! 最近全然銀時さん成分補給出来てなかったので今補給するんですー! 子宝も作りたいんですー!」

「宝探しですよね!? 子宝とは言われてないですよね!?」

 

新八が全力でツッコミを入れている。早苗は聞く耳持たずといった様子で銀時に体を擦り寄せている。その度に、早苗のわがままボディが銀時を刺激している。

 

「ヤベェよ……このままだと銀さんのアームストロング砲が真っ白い火を噴くぜ……起動戦士ギンダムになっちまうぜ……」

「おい天パーイカ臭いから私に近寄るなヨ」

「まだなにもしてねぇからな!?」

 

神楽はわりとがちに引いていた。

 

「それで霊夢さん。宝探しに行くってことでしたけど……」

 

ここでやっと新八によって本題に入ることとなる。霊夢が万事屋に来る前に告げていた『宝探し』という言葉。それだけだとまだ異変でもなんでもないことが伺える。

話を振られた霊夢は、事情の説明を始めた。

 

「私と魔理沙、そして早苗の三人で、宙を進む宝船を見つけたのよ」

「「「「『宝船?』」」」」

 

四人分の声と、エリザベスのプラカードの言葉が重なる。いきなり宝船という単語が飛んできたので、何事かと思っているのだ。

 

「最近、幻想郷では宝船が飛び回っているという噂を魔理沙さんが仕入れてきたんです。ちょうどその話をしている時に、博麗神社の真上を空飛ぶ船が通過しまして……」

「噂の信憑性が増した、ということか」

「はい! 流石は銀時さんです♪」

 

 正解を言い当ててくれたことが嬉しかったのか、早苗がさらに力を込めて抱き着いてくる。つまり余計に身体が密着しているということになり、銀時の身体には早苗のわがままボディがより吸い付いてくる形となる。

 一言で表せば、『リア充爆発しろ』という奴である。

 

「やるではないか銀時……いつの間にやら早苗殿まで落としていたとは」

「いや落としていたとかそういうの今関係なくね?」

 

 桂の何処か検討違いな言葉に対して銀時はツッコミを入れるも、内心穏やかではない。

 何せ早苗のダブルメロンがメロンパンチを放っているのだ。

 

「銀時。そろそろ撃ち落すわよ」

「どういうことですか!?」

 

 まさかの予告に新八は驚きを隠せずにいた。

 

「ところで、船は見えないけど、UFOなら見えるアル」

「え、UFO?」

 

 ここで彼らは神楽に合わせて空を見る。

 するとそこには。

 

 ――確かに、宙を舞うUFOがあった。

 

「……え、UFO?」

 

 これには、霊夢もさすがに目を丸くする。

 ただ、そのUFOは宙を舞っているだけで基本的には何もしない。

 

「……霊夢殿。あれを取ってみてはどうだろうか?」

 

 桂が霊夢に提案する。

 銀時達では空を飛ぶことは出来ないので、基本的にここは宙を浮くことが出来る幻想郷の住人に任せるのが一番だ。そして今、銀時に抱き着いている早苗はともかくとして、霊夢は自由の身。簡単に動くことが出来るというわけだ。

 特に疑問に思うことなく、霊夢はその場から飛び、UFOを手にする。

 するとそれは――。

 

「木片になった?」

 

 銀時がポツリと呟く。

 先程までUFOに見えたそれは、手にした瞬間に木片へと姿を変える。

 一体どんな原理でこの現象が発生しているのか、銀時達には皆目見当もつかなかった。

 

「空を飛ぶ船……木片へ姿を変えるUFO……これらには一体どんな因果関係があるんだ……?」

 

 銀時の疑問に答えられる者は、この場には存在しない。

 今回の異変については、様々なことが重なっている為、それらすべてを解明しなければ先に進むことは出来なさそうだ。そんなことを感じている銀時なのだった。

 

 

 

 

 

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第百五十七訓 空を飛ぶのは船だけではない

 

 



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第百五十八訓 ありったけの破片をかき集めて探し物を探しに行く

 銀時達の宝船捜索は続いていた。魔理沙が後を追っている為その結果を待つのでも良かったのだが、それ以上に気になっているのは木片へと姿を変えたUFOだった。いくら常識に囚われてはいけない幻想郷でも、UFOとなると余程珍しいことになる。その真相を解明せずにはいられないということだ。

 

「結構ありますね、このUFO……」

 

 早苗がポツリと呟く。

 そう。これが意外にも様々なところに散らばっている。

 

「そうだなぁ。この調子でいけば、たとえ火の中水の中草の中森の中、土の中あの子のスカートの中にありそうだな」

「なに有名なアニメのOPから引っ張り出して来てるんですか!? 第一あの子って誰だよ!? スカートの中にUFOがあるわけねぇだろ!!」

「何言ってるアルか新八。女の身体は不思議でいっぱいヨ。宇宙みたいなものネ」

「その解釈はあまりにも適当すぎるだろうが!!」

 

 相変わらず騒がしい万事屋三人であった。

 ちなみに、桂は桂で辺りを見渡している。

 

「しかし、これ集めるのに本当に意味なんてあるんでしょうか……?」

「何言ってるのよ眼鏡。関係あるに決まってるわ。私の勘がそう告げているんだから間違いないわよ」

 

 何故か妙に自信満々な霊夢。確かに、霊夢の勘はよく当たる。それこそ主人公補正を疑われるレベルでほぼ百%正解へと導かれるのだ。実際、今まで幻想郷に登場していなかった二つなので、何かしらの形で関与していることを疑うのは間違いではないのだろう。

 そんな時だった。

 

「ちょっとー! 聞きたいことがあるんだけどー」

『む?』

 

 声に最初に反応したのはエリザベスだった。

 その後で一同は声のした方を振り向く。

 そこに居たのは、一人の少女だった。クセのあるダークグレーのセミロングに、真紅の瞳。頭に丸みを帯びたねずみの耳が生えており、腰のあたりからはねずみの尻尾が生えている。黒のセミロングスカートは、先の方が規則的に切り抜かれているデザインだ。肩には水色のケープ、首からはペンデュラムを下げていた。

 何より特徴的なのは、彼女が手にしている二本のロッドだ。それは『』の形をとっており、先端がW.N.E.Sの形をしていた。まるでそれは、ダウジングマシンのようだった。そしてそれは、霊夢達の方向で反応していた。

 

「私はナズーリンって言うんだけど、さっきから私の持ってるこれが反応してるんだよねぇ……君達、ここいらでは見ない顔ぶればかりだよね? 博麗の巫女と守矢の巫女は何となくわかるんだけど……特にわからないのは……そこの着ぐるみ?」

 

 ナズーリンにとって、銀時達を目撃するのは初めてのことなのだろう。更に言えば、エリザベスを目撃するのは本当に貴重な体験なのかもしれない。

 

『ぬいぐるみではない。エリザベスだ!』

「なんか桂さんみたいな反応になってますよエリザベス」

 

 恐らく桂の言い回しを真似ているのだろうことに新八は気づいて、思わずツッコミを入れていた。

 

「エリザベスがどうかしたのか?」

 

 当然、自分の相棒とも言える存在に興味を示すナズーリンに対して、疑問の言葉を投げかける桂。しかし、ナズーリンは、

 

「いや、別に君に興味があるわけじゃないんだけどさ……うーん、つまりそれが貴重だから反応したのかな……」

「何か探し物をされているのですか?」

 

 早苗が尋ねる。

 

「飛倉の破片を探してるんだ。もうかたっぽの目的は、さっき古道具屋で見つけて買い取ったんだけど……かなりぼったくられた……」

「何してんのよあの店主……」

 

 幻想郷において古道具屋というと、大体の確率で香霖堂が選択肢として上がる。大体珍しいものを集めていて、かつ、それを売り物として提供しているとなると、彼の店が出てくるからだ。それにしてもなかなかのやり手である。

 

「んー……人間だからヒットしたのかな……それともあの謎の生命体……? 人間はレア度ゼロだから集めても意味ないし……」

 

 何かブツブツと呟いているナズーリン。やがてひとしきり考えた後、

 

「んー、とりあえず目当ての物もなさそうだし、とりあえずいいや! じゃ、私はこれで!」

 

 そう告げると、ナズーリンはその場から立ち去ってしまった。

 

「飛倉の破片ねぇ……」

 

 銀時はポツリと呟く。

 

「まさか、この木片のことでしょうか?」

 

 早苗が一つの可能性を提示する。確かに、言われてみれば破片と言われてもおかしくはない。

 

「何にせよ、これを探す人がいるとなると、何かしら宝船に関わる情報が得られそうね……もっとたくさん集めるわよ!」

「捜索隊の出動だな!」

『探しまくるぞ!』

「ヅラも妙にやる気だな……」

「ヅラじゃない、桂だ」

 

 兎にも角にも、銀時達の捜索活動は続く。

 

 

 

 

 

 

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第百五十八訓 ありったけの破片をかき集めて探し物を探しに行く

 

 



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第百五十九訓 人を脅かす時には悟られないようにするのが一番

「しかしまぁ、UFOが破片になるってのも随分とまたおかしな話なもんだなぁ」

 

 歩きながら銀時がつぶやく。

 

「やっぱりこの幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね! 勉強になります!」

「常識は常に打ち破るもの。中途半端に縛り付ける為に設けられた縛りなど、ないも同然。早苗殿もなかなか分かってきておるではないか」

「ありがとうございます!」

 

 常識を捨て去ることにもはや生き甲斐でも感じているのではないかと思われる二人。どちらか片方だけでもそこそこの面倒くささではあるが、両方揃うとこの上なく面倒だということが周囲に知れ渡る。

 

「あんた達、どうでもいいけど探す手は緩めないでよね! 目指すは宝船。その宝船にたどりつくためにUFO探してるんだから!」

「本当、霊夢さんもお金のこととなるとがめつくなりますよね……」

 

 新八はポツリとつぶやいた。

 

「というか、UFO見つけたのは私の手柄なのに、結局UFOはただの木片になってしまっては意味ないアル! 銀ちゃん、帰ったらご飯大盛りネ!」

「んな金あるわけねぇだろ! 確かに見つけたのはテメェだが、肝心の宝船に辿り着いちゃいねぇんだからそれから判断しろ! 金のためなら本気出すぞ!!」

「この主人公陣本当にただの金の亡者だな!! もっと主人公らしく人助けとかしてくださいよ!!」

 

 普段はやる気なく、金に貪欲であり、ぐうたらしている二人は、本当に気があうのかもしれない。

 

『金出せYo!』

「アンタは誰に向かってたかってんだエリザベス!!」

 

 ツッコミ一人の状況ではなかなか追いつけないこの感じ。何か変化が欲しいと感じていたその時のことだった。

 

 からん、ころん。

 かつん、かつん。

 

 銀時達の背後から近づいて来る足音。足音に合わせて、何かが地面をついている音も響いて来る。その音は規則的に、ゆっくりと、確実に近づいて来ている。

 

「敵か……?」

 

 一瞬にして、周囲の空気が変わった。

 これでも、何度も戦場に出た者達が集まっている。銀時や桂達は、異変に限らず何度も事件に遭遇している。この中では新参者である早苗もまた、そんな空気を察してか真面目な雰囲気を出していた。

 

 からん、ころん。

 かつん、かつん。

 

 こうしている間にも、足音は確実に近づいて来る。やがてその足音がしばらく聞こえなくなり、しかし人の気配は確実に感じるこの空気。

 

「……っ!!」

 

 銀時は咄嗟に木刀を振りながら、後ろを振り向いた。

 

「ばぁっ! ……きゃあああああああ!!」

「「「「「え?」」」」」

『悲鳴?』

 

 銀時の背後にいたのは、一人の少女だった。

 水色のショートボブに、右が水色で左が赤のオッドアイ。水色のミニスカート姿に、素足に下駄を履いている。白の長袖に水色のベストを羽織った少女は、その手に大きな紫色の唐傘を握っていた。

 そんな少女は今、まるで驚かそうとして、逆に自分が驚かされたかのようにその場に座り込んでいる。

 

「っ!!」

 

 だからこそ、新八は気付いてしまう。

 ミニスカートから伸びる足は素足。ストッキングやタイツなどを履いていない。つまり、座り込んでいる彼女の生脚は存分に視野に入るわけであり、さらにミニスカートの中にある女の子の秘密の花園が、もう少しで見えてしまいそうな角度となっていて。つまりこれが最早宝物として扱ってもいいのではないかという変態的な思考に──。

 

「勝手に人の思考を捏造するなァアアアアアアアアアアア!!!」

 

 新八のツッコミが冴え渡った瞬間である。

 

「うぅ……どうしてですかぁ……」

「は?」

 

 銀時は少女の言葉に目を丸くした。涙を溜め込み上目遣いで見上げてくる少女は、銀時を見つめながら一言。

 

「どうして驚いてくれないんですかー!!」

「……はい?」

 

 少女の言葉に銀時は思わず目を丸くした。どうやらこの少女の予定では、今頃銀時達が腰を抜かして驚いている所だったということらしい。

 残念ながら可愛い女の子が背伸びして頑張って脅かそうとしたようにしか見えなかった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百五十九訓 人を脅かす時には悟られないようにするのが一番

 



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第百六十訓 人が勝手にやることについては止められない

「私にとって人を驚かすのは生き甲斐……いえ、人生の一部のようなものなんです……それなのに……どうして驚いてくれないんですかー!」

 

 わりと理不尽な八つ当たりに近い感情を存分にぶつけられる銀時。それこそ、まるで振られた女のように泣きじゃくり、ぽかぽかと弱い力で銀時の胸元を殴り続ける彼女は、可愛い以外の何物でもない。これで脅かさる人物はそう多くないだろう。脅かし方についても、可愛い女の子がやるそれにしか見えなかったし。

 

「……銀時。その子は一体何者なの?」

 

 何故か霊夢は汚物を眺めるような目で銀時を見つめていた。ちなみに、早苗は頰をハムスターばりに膨らませている。怒っていますアピールを存分にしている。

 

「いやしらねぇけど……」

 

 真面目な話、彼は彼女のことを知らない。当然ながらその場にいる誰もが、目の前に現れて急に泣き出した彼女のことを知るはずがない。

 そんな少女は、ひとしきり泣き終えた後に気を取り直したのか、おもむろに自己紹介を始めた。

 

「私は多々良小傘。こう見えても唐傘お化けなんですよー」

 

 どう見てもお化けには見えないのだが、小傘は何故か妙に自信満々に胸を張っている。幽霊であることを誇っているかのようだ。具体的に言うと『ドヤァ』という効果音が背景に描かれるのではないかと思われるほど。

 

「立ち直るの随分と早いアルな」

 

 何気なく神楽は呟く。

 

「でも、最近は全然驚いてくれないんですよ……前までは少なからず誰かしらは驚いてくれたのに、今や妖怪なんて珍しくもなんともなくなってしまいましたから……」

「確かに、この幻想郷では妖怪たくさんいますし、人間の中でも圧倒的な力を持つ人だっていますからね……」

「下手したら人間の方が怖いやつだっているくらいだからな」

 

 新八と銀時が妙に悟った目をしながら語る。彼らの周りにいる人物達が軒並み化け物級揃いなのが原因だろう。そもそも今いる中に人間でもなければ妖怪でもない、カテゴリーに悩む着ぐるみ的存在がいるくらいだ。

 

「その頑張りは実に良いことではないか。周りが変わったとしても、己がやることがブレることない。その姿勢は褒められたものだと俺は思う」

 

 うんうん、と頷きながら桂が言う。キャラがぶれぶれな彼が言っても何処か説得力に欠けるのだが、割と小傘には響いた模様。そもそも桂がどんな人物か分かっていないのだから、素直に褒められていると思っても不思議ではない。

 

「まぁ、なんにせよこれからも精進するといいんじゃねえか? ただまぁ、本気で人驚かせてぇんだったら、まずはその可愛い面どうにかした方がいいと思うけどな」

「えっ……?」

 

 小傘は目を丸くして銀時を見つめる。

 サラリと女殺し的な台詞を言ってのける銀時に対して、思わず胸が高鳴ったのだ。ドキドキさせようとしてた側が、ドキドキさせられた瞬間である。ただし相手の目は死んでいる。流石は坂田銀時と言えるだろう。

 

「もっとこう、腕にシルバー巻くとかさ☆」

「ただそれぶっこみたかっただけだろうが!! ゲームキングに謝ってこい!!」

 

 新八の遠慮ないツッコミが銀時を襲う。

 しかし本人は痛くもかゆくもない様子。ボケはボケられたらそこで満足なのだ。

 

「とりあえず、驚かせてぇってんなら、ちっとは驚かす為の勉強してこい。話はそれからだ」

「あっ……」

 

 銀時はその場から立ち去ろうとする。彼らには一応のこと目的がある。いつまでもここで油を売っている場合ではないのだ。だから先に進もうとして、

 

「ま、待ってくださいっ!」

 

 その手を、小傘に引き留められた。

 

『お?』

 

 エリザベスが興味津々なプラカードを掲げる。

 構わず、小傘は銀時に対して言った。

 

「あの、また驚かせてもいいですか?」

 

 不安混じりに尋ねる声。

 断られたらどうしようと言いたげな表情。

 上目遣いに見つめる瞳は不安げに揺れている。

 銀時は頭を右手でガシガシと搔いてから、

 

「やりたきゃ好きにしろよ。人が何しようとテメェの勝手だからな。勝手にやる分には止められねぇだろ」

「……っ」

 

 その言葉に、小傘は胸を打たれた。

 

「まぁ、銀さんは幽霊とか苦手ですからね」

「お化けだと分かった瞬間に泡吹いて倒れるのかと思ったけど、そうでもなかったアル」

「前は怨霊の声が聞こえるって聞いただけであれだけ騒いでたのに……随分ね」

「そうだったんですか!? それは是非とも見てみたかったです……可愛い銀時さんも素敵……」

「情けないなぁ銀時。武士ともあろうものが怖い物あるとは」

『無様☆』

「テメェらふざけんじゃねえぞ!!」

 

 銀時の叫び声が辺りに響いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

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銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百六十訓 人が勝手にやることについては止められない

 



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第百六十一訓 誰かが争っている時に大抵得するのは第三者

「おー! 銀さん追いついて来たんだぜ!」

 

 小傘と別れた後、銀時達が幻想郷を練り歩いていると、その途中で船を追いかけている魔理沙と遭遇した。魔理沙の追う先にはたしかに空を飛ぶ船が一隻ある。彼女達が言っていたことが本当であることの証明だった。

 

「マジで浮いているアル! バルスアル!」

「見つけた瞬間に滅びの呪文唱えないでよ神楽ちゃん!!」

 

 わりとシャレにならないギャグをかます神楽。それでもし船が墜落して来たらどうするつもりなのだろうか。

 

「ところで、船を追いかけているうちにこんな物も見つけたんだが、これは一体何なんだぜ?」

 

 魔理沙の手には、銀時達同様何個かの木の破片みたいなものがあった。つまり彼女もUFOを目撃し、それらを少しずつ集めていたということになる。

 

「それ、UFOから現れたやつですよね?」

「俺達もそれらの正体を掴もうとしていた。恐らく宝船と関係性があるのではないかと思ってな」

 

 早苗が尋ねつつ、桂が自分達も見つけていた旨を報告する。

 ちなみに魔理沙は、桂とエリザベスを見た途端に『今回はこの二人もいるのか。騒がしくなりそうだぜ!』という反応を取っていた。元々彼らがいたとしても居なかったとしても、騒がしいことに変わりない。

 

「あの船に乗り込みたいところだけど……飛べるのは三人しかいない……数が足りないわね」

 

 現在、空を飛んで宝船まで迎えるのは三人。銀時達五人については空を飛ぶことが出来ない。つまり彼女達が運ぶしかないのだが、それにしたって三人で五人を連れて行くのはなかなか骨が折れる。そんな時だった。

 

「あやや? 何やら面白そうなことをしておりますね……特ダネの予感がビンビンしますよ!」

 

 突然、聞き覚えのある声が聞こえて来た。もしかしたら何処かから面白ネタを聞きつけて来たのかもしれないその少女は、不敵な笑みとともに上空から舞い降りる! 

 

「お久しぶりです! 清く正しく美しく! 何処よりも速く情報をお届けする文々。新聞の新聞記者! 射命丸文ただいま参上!」

「帰れマスゴミ」

「開口一番酷くないですか!?」

 

 銀時より発せられた冷たい一言に、思わず文はツッコミを入れた。

 

「坂田さんや霊夢さん達が宝船を追いかけているという話を掴んでここまで来たというのに! 魔理沙さんの箒に二人なんとか乗れれば、後は私達で運ぶだけになるから便利じゃないですか!」

「確かにそれもそうですね……僕らにとっては願ったり叶ったりですが……」

 

 文の提案に、新八は納得する。

 仮に魔理沙の箒に神楽と新八が乗ったとすれば、残りの三人で銀時と桂、そしてエリザベスを運べばそれで問題ないということになる。一番の問題があるとすれば、誰が誰を運ぶのかという点だろう。

 

「じゃあ私は夫である銀時さんを……」

「待ちなさい早苗。アンタそれ間違いなく下心丸出しになりそうだから却下よ。私が銀時を連れて行くわ。主人公コンビでちょうどいいし」

「別に今この状況において下心を出すつもりはありませんよ? それに霊夢さんこそそこで自分が名乗り出る必要はありませんよね? 実は銀時さんに触れたいからそうしてるだけじゃないですか?」

「なっ……なんでそんなことになるのよ! 私はただ相性がいいと思ったからちょうどいいと考えただけよ!」

 

 何故か唐突に、霊夢と早苗による修羅場が繰り広げられていた。何故誰を連れて行くかという話だけでここまで論争を繰り広げられるのだろうか。ちなみに、ただ単に船に行くだけで相性も何も関係あるのだろうか。

 そして大抵このような不毛な争いが展開されている時は、

 

「これはいい絵が撮れましたね……では行きましょうか坂田さん!」

「え? あ、お、おいテメェ! スピード速すぎんだろうがぁあああああああああああああああああ!!」

 

 カメラで一部始終を撮影し終えた後で、文が銀時を担いで猛スピードで船へと向かって行く。

 まさしく漁夫の利。争う二人に得られたものは何もない。

 

「それじゃあ二人とも行くぜ!」

「はい!」

「わかったアル!」

 

 魔理沙は神楽と新八を箒に乗せて、真っ直ぐに船へと向かう。

 残ったのは四人。

 

「……私、エリザベスさんを運びます」

「じゃあ私はカツラを運ぶわ」

『頼んだぞ』

「お願いする」

 

 こうして、彼らは宝船と思われる船まで向かう。

 だが、彼らはまだ知らなかった。

 その船の本当の正体に。

 彼らが拾った破片がどのようなものであったのかを……。

 

 

 

 

 

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第百六十一訓 誰かが争っている時に大抵得するのは第三者

 

 



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第百六十二訓 ダイナミックエントリーした奴は大抵相手からしてみればただの不審者

 銀時達が乗り込んだ船は結構な大きさを誇っていた。宝船と噂されることはあり、その広さは並の船と比べても広い方だ。しかし、それにしては少し地味で、本当にここが『宝船』なのか怪しいところである。

 だが、この船以外に幻想郷において空を飛ぶ船は存在しない。少なからず何かしらの目的があると見てまず間違いないことは確かであった。

 

「……こういう場所はあまり良い思い出がないものだな」

 

 桂がポツリと呟く。

 かつて空を飛ぶ船で、桂と銀時は天人と鬼兵隊と戦った。即ち、かつての友である高杉が率いる集団と命のやり取りをしたのである。

 

「今はアイツとは何も関係がねぇんだ。高杉の話は一旦置いておくことにしようぜ」

「それもそうだな……此度の異変に、高杉は関与していない。話題にあげるだけ意味のないことであったな」

「銀時……桂……?」

 

 その姿は、霊夢達にとって初めて見る物だったかもしれない。過去を懐かしみ、愛おしく、そしてそれでいて──憎んでいるような表情の二人を見るのは。正の感情と負の感情が共に強く、そしてほぼ同時に出ているこの状況。

 とはいえ、今彼らが言った通り、二人が通って来た過去と異変については何の関係性もない。なので今追求したところで意味のない事なのだ。その迫力に、こういう時一番動きそうである文も手を止めてしまうまでいるほどだ。

 

「……ま、とにかく中探るとしようや。話はそれからだろ?」

 

 そんな空気を壊したのは、やっぱり当人である銀時だった。彼は頭をガシガシと掻きながら、自らが先陣を切って進もうとする。そのあとを桂とエリザベスが追い、さらにその後を新八達が着いて行くという構図。これから中に入ろうという時に、

 

「止まりなさい!」

 

 船の中から一人の少女が現れた。

 空色の髪の毛、灰色がかった黒い瞳、頭には裾にギザギザの切れ込みが入った黒い頭巾を被っている。白の長袖の上着を羽織っている。スカートは上下で色が分かれており、上が白で下が黒。右手には金色の輪を持ち、ブーツのような黒い靴を履いている。

 そんな少女の横には、

 

「あれは……雲、でしょうか?」

 

 早苗がポツリと呟く。

 そこにある……いや、そこに『いる』のは雲。通常のそれと違って、明らかに意志を持っている。これも幻想郷故に起きている出来事なのだろうか。

 

「この船に乗り込んでくるとは……貴方達も飛倉の破片を狙っている曲者ということになりますか!?」

『飛倉の破片?』

 

 みんなの気持ちを代弁するかのようにエリザベスがプラカードを掲げる。そう、彼らはただ単にこの船が宝船だと思ってきている。よって、彼女の言っているものが何を指すのかなど知る由も無いのだ。

 そのことを悟ったのか、

 

「……え? もしかしてなんのことか分かっていないのではないか、ですって? それは本当ですか? 雲山さん」

 

 どうやら彼女の隣にいる雲の名前は雲山というらしい。意外にもしっかりとした名前だった。

 

「私は雲居一輪。この船で飛倉の破片を守る者。その手にしているものこそが、私達が守りし破片です。よって貴方達を敵とみなして、奪わせて頂きます」

「なっ……!?」

 

 突然戦闘態勢を取った一輪と雲山。

 それに驚きの声をあげた銀時だったが、すぐさま彼も戦闘態勢を取る。同じように霊夢達もまた、それぞれの得物を構えた。

 

「何が何だか分からないけど、少なくとも只事ではないことは分かったわ……とりあえずまずはこの場を乗り切らせてもらうわよ」

「久しぶりの弾幕勝負と行こうぜ! 吹き飛ばしてやるぜ!」

「これでも私も巫女ですからね。戦えるのは霊夢さんだけじゃないことを見せて差し上げます!」

「あやや。なんだか面白いことになってきましたね……私も加勢します!」

 

 弾幕を放てる四人が即座に反応する。

 

「銀時達はそこで見ていて。ここは私達でなんとかしてみせるわ」

「……あぁ。なんとかしてくれよ」

「当然」

 

 そして、彼女達の弾幕ごっこが幕を開けた。

 

 

 

 

 

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第百六十二訓 ダイナミックエントリーした奴は大抵相手からしてみればただの不審者



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第百六十三訓 頑固な親父の拳は痛い

 先陣を切ったのは魔理沙だった。彼女はほぼ一発で決着をつけるためにも、火力勝負で戦いを挑んだのだ。

 

「星符『ドラゴンメテオ』!」

 

 彼女から放たれるは超極太レーザー。大抵の相手ならばこれだけですぐ吹き飛んでしまうもの。しかし、地の利においても戦闘技術においても、彼女の……いや、一輪と雲山のコンビの方が一枚上手。

 彼女は雲山の上に乗り、そのまま上昇。そして真上から雲山の手を伸ばし、

 

「拳符『天網サンドバッグ』!」

 

 そのまま地面に叩きつけた。叩きつけられた雲山の拳はまるで鉄のように硬く、魔理沙が放ったレーザーを何処か別の所へと弾き飛ばす。だが、攻撃はそれだけではない。

 

「なっ……!?」

「真上から大量の弾幕が!?」

 

 それはまるで無数に降り注ぐ雷のよう。或いは容赦なく襲いかかる鋭利な雹であろうか。無数の弾幕が天より降り注ぎ、霊夢達を容赦なく襲う。

 

「旋風『鳥居つむじ風』!」

 

 雲によって生み出された弾幕を、風の力で吹き飛ばす。だが、この風はただ単に相手の弾幕を吹き飛ばすために生み出されたものではない。

 

「準備『神風を喚ぶ星の儀式』」

 

 ポツリと早苗が呟く。彼女を中心にして、星が飛んでいく。赤い星と青い星。それらは文によって放たれた二筋の竜巻に乗って一輪と雲山目掛けて放たれる。

 

「甘いです!」

 

 一輪と雲山は構える。すると、雲山の身体が分裂して、二つになる。分かれた雲山は一輪の両隣へと移動し、その目にはどんどん光が集まっていく。

 

「やばい……っ!」

 

 咄嗟に、魔理沙はミニ八卦炉を突き出して力を貯める。霊夢もまた、札を前に突き出して前に立つ。

 

「忿怒『空前絶後大目玉焼き』!!」

「スターダストミサイル!」

「夢符『封魔陣』!」

 

 二対の雲山より放たれたのは極太の光線だった。先に魔理沙の放ったレーザーにより一筋が打ち消され、襲いかかるもう一つのレーザーを、霊夢が作り出した札型の弾幕によって打ち消した。

 

「やりますね……なら……っ!」

 

 分裂していた雲山の身体が一つになり、一輪もまた次なる攻撃を繰り出そうとしていた、その時。

 

「これで準備が整いました……神の風を巻き起こす為の準備が」

「神の……風?」

 

 早苗の言葉に、思わず一輪は聞き返してしまう。

 構わず、早苗は目を閉じる。右手に持つ札を天に掲げた彼女の周りには、次第に弾幕が集まっていく。間も無く彼女の周りに弾幕が満たされると、

 

「奇跡『神の風』!」

 

 東風谷早苗によって生み出された奇跡の結晶が、一輪と雲山目掛けて襲いかかった。

 

「くっ……拳骨『天空鉄槌落とし』!」

 

 せめてもの抵抗なのか、早苗めがけて雲山の拳を振り下ろす。弾幕を放った後で隙が出来てしまっている彼女に、これを止める術はない。しかしそれは一輪も同じ。早苗の弾幕をその身に受けるしか術はなく──。

 

「「……え?」」

 

 その二人に、攻撃が届くことはなかった。

 

「……、おい、雲の旦那。俺たちの勝ちってことでいいんだな?」

「…………」

 

 木刀で攻撃を止めた銀時と、自らの拳で早苗の弾幕を打ち消した雲山。銀時は勝ち誇ったような表情を見せ、雲山はただその言葉に頷いた。

 その様子を見て、一輪は悟る。

 

 自分が負けたという事実を。

 

「……完敗しました。お強いんですね」

 

 一輪と雲山は、完全に攻撃態勢を解いていた。それを見て霊夢達も霊夢達も警戒を解く。

 

「伊達に異変乗り越えちゃいないからね……それで、どういうことなのか説明してくれるわよね?」

「……わかりました。貴方達が持っているそれが一体何なのか。そしてこの船が一体何なのか。私達の目的も含めて説明させて頂きます」

 

 そうして一輪は語り始める。

 彼女より語られたのは以下の通りだ。

 この船は宝船ではなく、『聖輦船』と呼ばれる船である。そして彼女達の目的は、その船で魔界へ行き、『聖白蓮』と呼ばれる人物の封印を解くこと。そして霊夢達が道中で手に入れていた木片こそ『飛倉の破片』であり、その人物の復活に必要なものであったということ。

 これらを聞いた霊夢は『宝船ではなかったのね……』と少し悲しそうに呟いていた。

 

「つまり、雲居殿達はその為に幻想郷を船で駆け巡っていた、ということなのだな?」

「はい。だから宝船とかそういった噂が出回ったのかもしれませんね」

 

 桂の言葉に答える一輪。しかし謎は少しずつ出てくるもの。

 

「けど、なんで今更復活させようとしてるアルか?」

 

 神楽の疑問は最もだった。もし復活させるのだとすれば、何も今でなくても良かったはず。それこそもっと早めでも良かったのだ。

 しかし、と一輪は言葉を続ける。

 

「もともと私達は地下に閉じ込められていました。ところがある日、幻想郷で間欠泉が発生し、私達の封印も解かれたのです」

「あっ……! この前の……!」

 

 その言葉に新八は気付く。

 そう、彼女たちがこうして行動できるようになったのも、全ては前回の異変が関係していたのだ。

 

「けど、なぜその人物は封印されていたのです?」

 

 文が尋ねる。

 その答えを一輪が言おうとした時、

 

「そこから先は私が話すよ!」

 

 船の中から一人の女性の声が響いてきた。

 

 

 

 

 

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第百六十三訓 頑固な親父の拳は痛い

 

 



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第百六十四訓 出る杭は打たれる

 現れたのは、ウェーブのかかった黒のショートヘアーの少女。青緑色の瞳が銀時達を見据えている。上は緑の線が入った白地メインのセーラー服。下はそれに合わせたキュロットスカート。頭には小さな帽子が被せられており、その帽子には錨のマークが描かれていた。

 

「ムラサさん!」

 

 一輪が、少女の名前と思わしき単語を発する。ムラサと呼ばれた少女は、銀時達の前まで歩み寄ると、

 

「私は村紗水蜜。この船の船長を勤めています」

 

 村紗は丁寧に頭を下げ、自己紹介をした。

 銀時達もそれに倣って自己紹介をし、互いの名前を把握したところで、

 

「まず、そもそも封印されている人物が誰なのかを話さなくてはいけませんが、その前に一つお願いがあります」

「お願い……ですか?」

 

 早苗が尋ねる。

 村紗は真剣な表情を見せながら、その内容を口にした。

 

「この話をするということは、貴方達も関与するということです……その上で、私達に協力していただけないでしょうか? もちろん、私達は悪事を働く為に復活させようとか、そんなことは微塵も考えていません。だから……っ」

「何を言っている。俺達は元より関わるから話を聞いているつもりだが?」

『桂さんのいう通り!』

 

 村紗の言葉に対して、さも当然のように言い放った桂。それに合わせるエリザベス。そして、この場にいる誰もが別に反対意見を持ち合わせていないように見つめている。

 

「私としては特ダネ記事を書ければそれで十分なので! 是非是非協力させて頂きますよ〜」

「アンタが言うと台無しね……」

「あやや!? 霊夢さんそれは酷くないですか!?」

 

 一人、ほとんどぶれていない射命丸文だった。その様子には霊夢も呆れ顔。

 

「なんだかよく分からないけど、少なからず何かしら理由があるんだろ? それなら私達が協力しない理由はないぜ!」

「そうですね……困っている人がいたら見過ごせませんし!」

 

 魔理沙と早苗もまた、協力する気満々といった様子だった。

 

「銀ちゃん、これは依頼アルか?」

「まぁ、そうなるだろうな……」

「依頼とあっては、仕事しないわけにはいかないですよね?」

「そうだな……万事屋として、その依頼引き受けるぜ。だからもう少し詳しく話を聞かせてもらおうじゃねえか」

 

 万事屋の三人も、村紗に協力すると告げた。彼らの言葉に胸を打たれた村紗は、

 

「ありがとうございます……このご恩、必ずや返させて頂きます……っ」

 

 涙目ながら嬉しそうにそう告げたのだった。

 

 

「そもそもの発端は数百年前。かつて一人の人間が居たのです……その方の名前は聖白蓮。私達が最も尊敬しているお方です」

 

 村紗が語った内容を簡単にまとめると以下の通りになる。

 聖白蓮は元々人間であった。僧侶として過ごしていた彼女は、ある日妖力や魔力の類を学び、その力を使って若返りの力を手にした。それからの彼女は、表では僧侶として人々からの信仰を集め、裏では若返りを維持する為に妖怪を助けていた。そうして過ごす内に、妖怪達に秘められた過去を知り、彼女は妖怪達を救いたいと思うようになる。だが、そんな彼女の想いとは裏腹に、人々は妖怪を助けているという白蓮の話を知ってしまった。妖怪を恐れている彼らにとっては、当然受け入れられない事実であり、同時に彼らは白蓮を恐れた。そして彼女は人間達の手によって、魔界へ封じ込められたのだった。

 

「……ざっと、こんな感じです」

 

 村紗から聞いた話に、銀時達は言葉を発せずにいる。僧侶として人々から慕われていた彼女も、妖怪を助けたいと思った彼女も、同じ人物であることに間違いない。だが、人間達にとって妖怪は恐怖の象徴であることの方が大きいのだ。弾幕ごっこのルールが制定された今だからこそ拮抗出来たり仲良く出来たりする妖怪もいるが、必ずしもそういった者達ばかりいるとは限らない。

 

「私は聖に助けられたんです。だから今度は、私たちの手で聖を助けたい。封印を解いてあげたいんです……」

「村紗殿……」

 

 村紗の目は決意に満ちていた。少しのことでは揺るがない決意があった。

 桂は銀時と見合わせて、それから2人は言った。

 

「俺達の宝探しはどうやら終わってなかったみてぇだな」

「あぁ。とびきりのお宝が魔界に秘められているみたいだな、銀時」

「てこたぁ、俺達で宝見つけなきゃいけねぇな? ヅラ」

「ヅラじゃない、桂だ」

 

 その会話を聞いて、霊夢達もまた意図を察する。

 

「……どうやら私達、まだまだ探索する必要があるようね」

「そうと決まれば、目指す場所は……っ!」

「魔界、ですね!」

「あやや! これはなかなか面白い展開になって来ましたね!」

 

 彼女達の言葉に、村紗は目を丸くする。

 そんな彼女に対して、

 

「村紗さん。行きましょう、魔界へ」

「長い眠りに就いてる女起こしに行くアル」

「そうだな……目覚めるにゃ随分と時間経っちまってるお姫様、起こしに行こうじゃねえか」

「……えぇ! 行きましょう!」

 

 銀時達の言葉に対して、村紗は強く頷いた。

 

 

 

 

 

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第百六十四訓 出る杭は打たれる

 



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第百六十五訓 打たれた杭を引き抜くための準備

 魔界の一部にある法界。銀時達を乗せた船は、しばらくの航海の後、そこまで辿り着いていた。辺りは瘴気が酷く、息苦しいような感覚さえする。しかし、そんな中で一人、

 

「ここは……私達の森みたいな感じがするぜ」

 

 そう、霧雨魔理沙は逆に元気そうにしていた。

 

「なるほど……ここは魔法使いにとっては都合の良い場所ということね」

「それで魔理沙さんは元気そうにしているということですな……あやや、なかなかに興味深い場所ですね!」

 

 霊夢が自身の考えを述べ、それに納得した文が感心したかのように言葉を返す。魔法使い達にとって、澄み切った場所よりも瘴気が強い場所の方が、魔法の源である魔力が強くなり都合が良いのだ。恐らくこの場にパチュリーやアリスが来ていた場合、より分かりやすかったのかもしれない。

 

「この世界に、封印されているって訳ですね……」

 

 辺りを見渡しながら、新八は呟いた。

 

「女一人閉じ込めておくにゃ、なかなか趣味の悪ぃ空間だな」

「全くだ。女性の扱いくらい心得た方が良さそうだな」

「いやそういう問題じゃないですからね!?」

 

 若干ずれた反応を見せる銀時と桂に対して、新八は思わずツッコミを入れてしまっていた。せっかくのシリアス空間が台無しである。

 

「何言ってんだヨ新八。乙女ってのは場所や環境を無茶苦茶気にするアル」

「普段押入れの中で猫型ロボットのように寝てるやつに言われたかねぇよ! 色気より食い気だろ!?」

 

 強ち間違いではないから神楽については否定出来ないところである。

 

「銀時さんは、女性の扱いとか慣れてそうですもんね……妻としては時々心配になります」

「いや、テメェの妻になった覚えねぇからな? これっぽっちもねぇからね?」

 

 事あるごとにアピールしてくる早苗に対して、割とガチトーンで否定している銀時なのだった。

 

『ヒューヒューモテ男!』

「喧しいわエリザベス!!」

 

 よりによってエリザベスに煽られている銀時なのだった。

 そんな中、

 

「…………ここに聖が。長い間封印されていた場所……」

 

 村紗は、悔しそうにポツリと呟いた。一輪と雲山は、船の中に残って侵入者が来ないように見張っている。ここは魔界の中でも法界と呼ばれ、先程判明した通り瘴気が酷いのだ。何が起きてもおかしくないのだから、一応のこと誰かしらが残ったとしても問題はない。念には念を、というやつだ。

 

「そうだよ。ここに、聖白蓮は眠っている。だから私達は、その為に必要なものを集めてきたのさ」

「そして、その時は訪れた……今ここに、聖を復活させるのに必要な道具は全て揃ったという訳だな」

 

 銀時達の耳に届いたのは、二人の女性の声だった。一人はどこかで聞き覚えのある声。もう一人は、威厳ある女性の声だった。瘴気の中より姿を現したのは……。

 

「お前……あの時の宝探し女じゃねえか!」

 

 そう。一人は『飛倉の破片』を探していると銀時達に告げていた少女、ナズーリンだ。

 もう一人は、金と黒の混じった髪を持ち、頭上に花を模した髪飾りをつけた少女。虎柄の腰巻をつけ、背中には白い輪を背負っている。左手には長い槍を、右手には宝塔を持っていた。

 

「そして私は寅丸星。私もまた、聖を復活させる為にここに来た」

 

 星は、威厳ある表情を銀時達に見せながらそう告げた。

 

「やっぱり貴方達が持ってたんだね……私としたことが見落としちゃってたよ」

「あん時はそもそもあれが飛倉の破片だとは知らなかったからな……回り道させちまったようですまなかった」

「いいさ。こっちも説明しなかったのがいけない。だからこれでおあいこってことで」

 

 ナズーリンは特に気にしていないといった感じで話を進める。

 

「とにかく、これで必要なものは全て揃った。後は聖を復活させるだけ……ありがとう。礼を言わせて欲しい」

 

 星は銀時達にはもちろんのこと、村紗やナズーリンに対しても頭を下げていた。彼女達の目標はあくまで聖白蓮を封印から解き放つこと。その気持ちや想いに嘘偽りは存在しない。

 

「俺達はただ宝探しのついでに見つけただけだ。たまたまだから気にするこたぁねぇ」

「それでも、結果的にこうしてここまで来てくれている。普通あんな話を聞いた後で着いてこようなんて思わないだろう。何処までお人好しなんだ……異界の侍とはこのような者ばかりなのか。時代の流れとは如何程変わったのかわからぬものだな……」

 

 銀時の言葉を聞いた後で、星はただただ感心していた。彼女が普通に行動してきた時代の人間達は、それこそ自身の欲望に忠実で、傲慢で、恩を忘れて恐怖に支配されるだけの存在でしかなかったのだ。それが、今目の前にいる銀時達には当てはまっていない。いや、欲に忠実であるという点に変わりないのだが、それを上回るほどのお人好しだった。

 

「まぁ、これ以上語る言葉もないだろう? 後は目的果たしてから話すことにしようぜ」

「……それもそうだな」

 

 銀時に促される形で星は準備を始める。そして、その場にいる全員に対してこう告げた。

 

「これから、聖白蓮の封印を解き放つ」

 

 

 

 

 

 

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銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百六十五訓 打たれた杭を引き抜くための準備

 



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第百六十六訓 理想と現実

 ナズーリンと村紗、そして銀時達は、自身が集めた飛倉の破片を手に乗せて、それを宙へと差し出す。星は手に持つ宝塔を頭上近くまで持ち上げた。瞬間、宝塔より発せられた光が飛倉の破片へと吸収されていく。その光に導かれるように、銀時達の手の上に乗せられていた破片は、宙に浮いていく。やがてそれらは組み合わさって光の扉を生み出して、静かにその扉が開かれた。

 

「…………っ!」

 

 そこから出てきたのは、一人の女性だった。

 金色に紫のグラデーションが入ったロングウェーブ。白黒のゴスロリ風ドレスに表が黒で裏が赤のマントを羽織り、黒いブーツを履いていた。彼女の手には絵巻のようなものが握られている。閉じた瞼が開かれると、そこから金色の瞳が覗いていた。彼女こそ、かつて人間の手によって封印された聖白蓮。

 

「聖……よかった……封印は無事解かれたんだ……っ!」

「聖……よかったです……ようやっと……会えました……っ!!」

「水蜜……星……そうでしたか……貴方達が迎えに来てくださったのですね……」

 

 彼女の元に駆け寄った二人は、その身体に抱き着く。三人はその温もりを確かめ合った。その際に白蓮は感じる。封印されていた自分が長いこと感じ取ることが出来なかった、他者からの温もりを。

 

「……彼女こそが、あの者達が言っていた」

「あぁ、多分お偉い魔法使いなんだろうな」

 

 桂と銀時が、その再会の様子を見ながら言う。誰かを慕い、誰かと共に過ごす空間。少なからず銀時達にとっても考えるところがあった。重ね合わせるのは、先生との日々。かつてあの三人のように、銀時達もまた──。

 

「貴方達にも感謝をしなければいけませんね」

 

 白蓮は銀時達に向き直り、そして頭を下げた。

 

「ありがとうございました。ここまできてくださって、本当に感謝しております」

「宝探しのついでに辿り着いただけよ。だから感謝されることもないけど……どう致しまして」

「霊夢ってば素直じゃないぜ!」

「うっさいわね……」

 

 魔理沙に弄られて、霊夢は顔を赤くする。そんな様子を、

 

「霊夢さんの貴重なデレ顔写真ゲットだぜ☆」

 

 文は写真に撮っていた。隙あらば特ダネを追い求めるマスゴミとしてのあるべき姿である。

 

「…………ここに来ているのは、人間と、妖怪……ですか?」

 

 白蓮は、銀時達にとっては意図が分からないことを尋ねる。

 

「えぇ。そうなりますけど……それが、どうかしたんですか?」

 

 新八がその質問に答える。ただ、やはり白蓮が意図することが分からない為、当然の質問を投げた。

 白蓮は何処か嬉しそうに、

 

「いえ……時代も変わったものだな、と思っただけです」

 

 そう言った。

 

「……貴方は、人間からの信仰も集め、妖怪達を助けていたんですよね?」

 

 早苗が話を切り出した。

 

「えぇ。かつて私はそのように動きました。そして今でもその気持ちに嘘偽りはありません」

 

 白蓮はさも当然のように語り始める。そして次の一言は、彼女の思考を決定づけるものとなった。

 

「私が目指しているのは、妖怪と人間の、完全な平等……人間も妖怪も、等しく立場を同じにして暮らしていける世界の実現です」

 

 その言葉を聞いた途端、霊夢が少し不機嫌となった。

 

「……どうかなさいましたか?」

 

 白蓮は努めて冷静に尋ねる。

 霊夢は鼻で笑いながら、

 

「妖怪と人間の完全なる平等? ハッ……そんなの、実現出来る訳ないじゃない。妖怪は人間より力が強い。これはもう絶対的なことであり、それを忌み嫌う人間が妖怪を退治しようとする。この構図からはもう逃れることが出来ないわ。ここにいる妖怪が特別だとかそういったことはなく、元々『そういうもの』なのよ。確かに、妖怪の中には人間と仲の良い者もいる。逆に人間の中でも、妖怪と仲の良い者はいる。けどそれは結局の所少数でしかない。私達の周りがそうであるという他ない。人里に下りれば、やはり妖怪は恐れられるのも仕方ないのよ」

「……結局、人間は変わらない訳ですね」

 

 霊夢が言う現実も、白蓮のいう理想も、どちらも間違っているわけではない。どちらも事実。そこから覗いている未来が違うだけ。

 

「……白蓮、つったか。俺は別に、誰が誰守ろうが構いやしねぇ。だが……少し、語り合おうじゃねえか」

「そうだな。黙って話を聞いていれば、大層な理想を抱いていることだけはわかったが、それだけだ。俺達少数派の話も聞いてもらおうではないか」

 

 前に立つのは、銀時と桂。

 

 ──白夜叉と、狂乱の貴公子だった。

 

 

 

 

 

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第百六十六訓 理想と現実



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第百六十七訓 言っても聞かない奴には拳で語るのが一番

「……戦いを挑むというのですか? この私に?」

 

 白蓮は努めて冷静に、しかしその怒りを銀時と桂に向けながら、そう尋ねた。

 

「む、無茶です! 貴方達では聖に勝てるはずがない!」

「それに、復活した今、その戦いに何の意味がある? 悪事を働くわけではないのに、互いの意見が衝突しただけで戦うメリットが……」

 

 村紗と星は、この場で三人が戦うことを止めようとしていた。白蓮のことはもちろんのこと、銀時達のこともまた心配だったのだ。彼らは白蓮を封印から救ってくれた恩人。恩人同士がぶつかり合う場面を見るのは、彼女達にとって苦痛に他ならない。

 だが、

 

「わりぃが、俺達は何も戦うわけじゃねえんだ。意見が衝突したんで、ちょっとばっかし話し合いをするだけ」

「人間の喧嘩には、拳を交えることにより何かが分かることだってある。我ら侍の場合は剣だがな」

「そういう訳だ。大層なご高説している尼さんに、俺達一般人の意見を聞いてもらおうって訳だ……そして、コイツの勘違いを」

「「俺達が叩き斬る」」

 

 その二人に対して戦いを止めるように伝える言葉はなかった。元より霊夢達は銀時達を信じて、この戦いを見守っている。いや、これは戦いではない。故に、加勢することは望まれない。だからせめて、この話し合いの行く末を見守るのだ。

 

「後悔しても知りませんよ? 私は今、封印から解き放たれた身……自分自身でも、どれだけ強大な力を手にしていたのか思い出しながらになるので……歯止めは効きませんよ?」

「上等だ。俺達も今まで動きをセーブしてきたようなものだからな」

「どれだけの力で刀を振るってきたのか思い出しながらになるから……」

「「歯止めは効かないぞ」」

 

 三人は互いの顔を見て──笑った。これから戦おうとしている相手はまさしく好敵手。相手にとって不足なしとはこのことではないだろうか。

 

「ならば、せめて簡単に沈まないでくださいね……!」

 

 最初に動いたのは白蓮。彼女は自身のスペルカードを発動させた。

 

 魔法『紫雲のオーメン』。

 

 紫色の光弾と、小さな無数の光弾をばら撒き、銀時達目掛けて飛んでいく。銀時と桂は、それぞれの得物を以て叩き斬る。より疾く、より正確に。

 

「流石にこの程度では倒れませんね……」

「テメェの意見を叩き伏せようとしてるってのに、そんな柔な攻撃でやられてたまるかってんだ!」

「俺達をあまりなめないでもらいたい」

 

 銀時と桂は、刀を振り上げて白蓮に迫る。

 

「そうですね。人間と妖怪の完全なる平等の何処がいけないことなのか……教えていただけますか!!」

 

 光魔『スターメイルシュトロム』。

 

 白蓮が掲げた手より光が放たれ、それらは左右から銀時と桂を狙うレーザーへと姿を変える。二人はとっさに踏み込んでいた足に力を込めて、左右に散らばる。しかし、

 

「なっ……!」

「このレーザー、曲がるというのか……!」

 

 白蓮が放った光線は、対象に当たるようにその軌道を変えた。

 

「だが……」

「こんなもんで……」

「「俺達の剣(信念)は折れねぇ!!」」

 

 銀時は桂の背後に迫るものを、桂は銀時の背後を襲うものを、それぞれ叩き斬った。

 

「貴方達は何のために戦うのですか? 妖怪も人間も平等になる世界を目指すことの何がいけないんですか?」

「言ったろ? 俺は別に誰が何守ろうがどうでもいいって。だが……悔しいが妖怪と人間に、完全な平等なんざ訪れねぇんだよ」

「妖怪にも悪い奴がいるように、人間にも悪い輩はいる。だが、人間にいい奴がいるように、妖怪にもいい奴がいる。つまり、立場を完全に平等にしようとせずとも、元からそんなに大差ないということだ」

 

 生きとし生けるものとして、そこに大きな違いは存在しない。

 白蓮の放つ弾幕を叩き伏せながら、銀時と桂は持論を展開していく。

 

「私は、人間も妖怪も争いのない完全な……」

「だからそれが間違ってんだよ。俺達は人間同士だって争いするってのに、なんで妖怪と人間においてそれがなくなると思っていやがる?」

「それに先程から気になっていることがあるのだが……」

 

 銀時と桂の動きが止まった。

 それに合わせて、白蓮も弾幕を放つのをやめる。警戒しているのだ。

 そんな彼女の警戒とは裏腹に、二人はこう尋ねた。

 

「「何をそんなに気を張っている?」」

 

 

 

 

 

 

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第百六十七訓 言っても聞かない奴には拳で語るのが一番



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第百六十八訓 守ると救うの違い

お久しぶりです!


「私が、気を張っている、ですって?」

 

 聖白蓮にとって、銀時と桂から発せられたその言葉は不名誉以外に他ならなかった。彼女は彼女なりに信念を持ってこの戦いに身を投じた。その理想はとても大きく、本物だ。妖怪と人間の完全なる平等。その実現のために、目覚めた彼女はこれから尽力しようとしていたのだ。

 それを、銀時と桂は『気を張っている』と称した。つまり、それはあくまで理想であり、実現するために背伸びしているだけだと突き放されたのだ。

 白蓮は本気だったのだ。だからこそ、その言葉が心に突き刺さる。

 

「テメェ一人が何かをしたって、妖怪は結局人間を食い続け、人間は妖怪を倒し続ける。中には共存したり、妖怪が人間に、人間が妖怪に愛を抱いたりすることだってあるだろうな」

「だが、彼らは自覚している。人間と妖怪の間には、絶対的な違いがあるということを。それでも尚、歩み寄ろうと必死になっている者もいるだろう」

「だからこそ、平等なんかなくたっていいんだよ。本当に大切なのは、互いに互いを思いやり、その為に何かをしようとする心構えじゃねえのか?」

「っ!!」

 

 白蓮は銀時の言葉にハッとさせられる。

 それは恐らく、相手を思いやる気持ち。或いはその為に何かをしたいという気持ち。

 だからこそ、白蓮はそのために、人間も妖怪も分け隔てなく、完全なる平等に向けて力を発揮しようと思っていた。

 

「なら尚のこと、私のやろうとしていることに口を出さないでください!!」

 

 大魔法『魔神復誦』。

 白蓮の周囲に浮いている四つのビットより、網目状の弾幕が張り巡らされる。それを銀時達が避けていると、今度は白蓮本人より大きな弾が放たれた。

 

「そういうわけにもいかねぇんだ。俺はただ、勘違いしてる大馬鹿野郎に説教してぇだけなんだからな」

「気があうな、銀時。俺もそう思っていたところだ」

「テメェと気が合ったところで別に嬉しかねぇけどな、ヅラ」

「ヅラじゃない、桂だ!!」

 

 銀時と桂は、迫り来る弾幕を刀で斬り伏せる。しかし、その先に待ち構えていたのは、白蓮の周りに浮いているビットによるビーム攻撃。

 銀時達はこれらを俊敏な動きで避け続ける。

 

 「私は、多くの者達を救いたいと思いました。そして、平等な世界を作ることが出来れば救えると思ったんです。だから……!」

 「だから、その前提から間違ってるんだっての」

 「!!」

 

 白蓮は、自身の考えに迷いが生じていた。

 自分の考えは、前提からして間違えていた? 

 なら、もしそうなのだとしたら一体何が正しいのだろうか。

 

 「人ってのは、救うもんじゃねえ。守るもんなんだよ……」

 「まも、る?」

 「大切なやつが出来た時、そいつを決して手離さないように守るもんだ。救うってのは、人や妖怪には出来ねぇことだ。だから、テメェがやるべきなのは、テメェのことを大切に思ってるやつらを……テメェらが大切だと思う奴らを、守る事だ」

 

 聖白蓮にもまた、大切なものがいる。封印された彼女を解き放つ為に動いてくれた、大切な人々。そんな彼女達を、白蓮は『護りたい』と思った。

 彼女達は救いを求めているわけではない。側にいることを望んでいるのだ。

 

 「そもそも『救う』とは行えるものではない。誰かが行動した結果、勝手に救われるものだからな。人間と妖怪を完全に平等にし、救おうとする理想そのものが破綻するというわけだな」

 

桂の言葉に、白蓮はハッとさせられる。

  今まで自分が行ってきたことがいかに浅はかであったのか。

 『救う』とは、同じ立場の人間が行うものではない。そもそも、人間と妖怪の完全なる平等を謳う前から、彼らはそもそも等しく命を授かっているのだ。改めて平等にする意味もないし、そもそも平等でないからこそ成り立っている。

 故に、聖白蓮がするべきだったのは……。

 

 「……どうやら、寝起きで調子が悪いらしいですね。そんな簡単なことにも気付かずに、惑わされっぱなしとは私らしくもありませんね……」

 

 聖白蓮は、銀時と桂に抵抗することをやめた。即ち、自分自身の過ちを認めたということになったのだった……。

 

 

 

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第百六十八訓 守ると救うの違い



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第百六十九訓 怪しい動きを見せる奴は大抵何かしら企んでいる

 封獣ぬえは、今回の異変においてただ単純に周りを掻き乱すだけの役回りしかしていなかった。間欠泉の影響で地上に散らばったと思われていた飛倉の破片も、実は彼女の悪戯心が引き起こしただけの迷惑行為でしかなかったのである。また、霊夢達がUFOとして認識していた物体についても、彼女が見せていたまやかし。つまり、ぬえがある程度自身の行動を抑えていたならば、今回の一件はここまでの騒ぎになることはなかったということになる。

 そのことに気付いた彼女は、少しばかり後悔していた。元々彼女は、『こんな行動をとったら相手は困るだろうな』程度にしか思っていなかったのだ。それに加えて、彼女は人間という存在に対して嫌悪に近い感情を抱いていた。故に、妖怪が人間を復活させようとしている状況は、彼女にとって気に喰わなかったのもまた事実。

 だが、彼女は途中で気付かされたのだ。己の行いによって、結果的に己の首を絞めることになっていたということを。聖白蓮は、復活させるべき人間であったということを。それらすべてを、ぬえがただ邪魔していただけであったということを。

 

「私は、なんてことをしてしまったんだ……けど……人間は……醜く、嫌いだ……」

 

 根本にあるのは、人間に対する嫌悪と憎悪。

 しかし、自分達の為に動いてくれると語る白蓮に対しては、恩義を返したいという気持ちを抱いているのもまた事実。彼女は、自身の考えの間で揺らいでいたのだ。

 そんなところに。

 

「なら、存分に人間共を駆逐してみてはどうじゃ?」

「……貴方は?」

 

 ぬえの前に現れた一人の女性。

 彼女はぬえに対して、こう話を持ちかける。

 

「妾はこの地を支配しようと企てておる。しかし、下等生物の猿共に邪魔され続けて、立て続けに失敗しておるのじゃ。いい加減妾としても人間共に一泡吹かせてやりたいと思うておるのじゃ」

「下等生物の、猿共……」

「そうじゃ。人間など、群れを成して戯れる者共に過ぎぬ。平和に酔い痴れ、歩みを進めることを忘れた愚か者共に、妾は一矢報いたいと思うておるのじゃ」

 

 その者の言葉がどこまで本当なのか、ぬえには知る由もない。

 しかし、一つだけ言えることがあるとすれば。

 

 この女性の言葉は、間違いなく意思があるということだ

 

「しかし、妾はまだこの世界に来て日が浅い。この地における能力や戦い方について、まだ知らぬことも多いのじゃ。じゃが、其方はこの世界の住人。弾幕ごっこについても知識があろう。能力というものの特性についても理解しておろう。其方と妾で手を組めば、この幻想郷を支配出来るやもしれぬ。人間共を、この地から追い払えるかもしれぬと聞いたら、其方は協力するかえ……?」

「人間共を、幻想郷から追い払う……」

 

 ぬえにとって、人間という存在は邪魔でしかない。

 嫌悪する相手であるならば、その存在を取り払うこともよいのではないだろうか。

 ぬえには、そんな考えが宿り始めた。

 

「準備する期間がとにかく必要じゃ。今は賛同する者の数が惜しい。機が熟したら妾としては戦争を始めるつもりじゃ。どうじゃ、其方も来てはくれぬか?」

「私は……」

 

 ぬえは考える。

 人間の中には、白蓮みたいに妖怪の為に動こうとする人間もいる。

 そして何より、今回の異変を見ていく上で、人間の中には勇敢な者がいることも知ってしまった。

 

「人間が醜いのではないか? 嫌悪しているのではないか? 妾とて同じじゃ。この地を支配するからこそ、その力を存分に発揮出来るというものではないか?」

「……っ」

 

 ぬえの意思は固まった。

 目の前に居る女性の言葉が、彼女にとって最早甘美なる誘い文句にしか聞こえない。

 

「……乗ったよ、貴方の話。せっかくの戦争だ。派手におっぱじめる為の準備、私にもさせて欲しいね」

「よかろう。そう、その表情じゃ。悪戯を思いついた小童のような無邪気な表情」

「……そうか。私、今笑っているんだね」

「そうじゃ。妾も、笑っておろう?」

「お互い様、だね」

「その通りじゃ」

 

 女性とぬえは、互いに笑い合う。

 これから始まる盛大な計画を実行へと移す為に。

 

「ところで、名前はなんていうんだ? 私は封獣ぬえ。貴方は?」

「妾か? 妾の名前は……」

 

 ぬえの自己紹介の後、女性は自分の名前を口にする。

 

「妾の名前は、華陀。この幻想郷を支配する者の名前じゃ」

 

 

「……気に喰わないですわね。実に反吐が出るお言葉ですわ」

 

 二人のやり取りを、八雲紫は憎悪の眼差しで見つめていた。

 

「幻想郷を支配するですって? この幻想郷を支配出来る者など、誰もいませんわ。そもそも、幻想郷がどういう場所なのかを知りもしないであの女狐め……幻想郷の住人を誑かして、そのような世迷言を実行しようだなんて……許せない」

 

 彼女は、幻想郷を愛している。

 恐らく、この地に根を伸ばしている者の中で、誰よりも。

 そんな彼女だからこそ、華陀の言葉を憎み、彼女の行動を蔑み、潰そうと考えていた。

 

「精々踊りなさい……いずれ貴女は、幻想郷にも見放されますわ」

 

 彼女は戦う決意を抱く。

 

 ――だが、いずれ訪れる最大の異変は、彼女の想像をも遥かに上回るかもしれない。

 

 

 

 

 

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第百六十九訓 怪しい動きを見せる奴は大抵何かしら企んでいる

 




今回の話は、いずれ訪れる話への伏線回みたいなものです。


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第百七十訓 劇的な変化を見せたビフォーアフターは見る価値がありそうだ

 宝船騒動が終わり、今回の異変は幕を降ろした。その後、いつものように万事屋で繰り広げられるBGオンリー。今回はいつもの三人に加えて、久しぶりに登場する最早ヒロインの座を我が物にしているとも言えるあの女の子も登場する。

 

「ギン兄様、正座」

「え、なんでいきなり正座させられそうになってんの? 俺なんか悪いことした?」

「最近ギン兄様が全然フランに会ってくれないんだもん……そろそろ私、本格的にギン兄様のことを……」

「ちょっと? そこで止めないで? 銀さん気になっちゃうから。気になっちゃって夜しか寝られないから」

「しっかり寝てるじゃないですか銀さん」

「これでも私、すっごくギン兄様のことを心配してるんだよ?」

「……あぁ、それについては悪かった。今度何かで埋め合わせしてやっからよ」

「本当アルか!? じゃあ私はパフェ一年分寄越すネ!」

「なんでテメェが埋め合わせもらえる前提で話進めようとしてんだ神楽ぁ! 俺はフランにやるっつーだけだぞ!?」

「銀さん、僕はお通ちゃんのライブチケットで大丈夫ですよ」

「何新八まで便乗してんだテメェ!! そもそもお通ちゃんはこの小説で出番ねぇからライブチケット取ったところでその話は作られねぇんだよ!!」

「おつうちゃん、って誰? ギン兄様」

「新八が付け回してるアイドルの名前だ」

「なんかその言い方だとストーカーしてるみてぇに聞こえるでしょうが!!」

「アイドルの追っかけでストーカー紛いなことをしてる奴もいるアル」

「其奴らと僕を一緒にすんな!! むしろ僕としてはそういう輩を許せないと思ってるんだからね!?」

「と、に、か、く! そろそろギン兄様も危ないところに首突っ込まないようにして欲しいの! ギン兄様からいなくなっちゃったら……ううん……居なくならないように、ずーっと一緒に居られるようにしなきゃいけなくなっちゃうから……」

「こえぇよ!? 冗談だよな? 場を和ませようとしているジョークだよな!?」

「銀さん、諦めてください。フランちゃんの目、本気ですよ」

「俺は一体何されるってんだー!!」

「大丈夫、ギン兄様。痛いのは一瞬だから、すぐ気持ちよくなるから」

「誘い文句がおかしいよフランちゃん!?」

 

 フランを交えながらもいつもと同じような会話を繰り広げている万事屋。それだけ彼女の存在がこの場所に溶け込んでおり、居場所として成り立ちつつあることを意味していた。フランにとっての居場所とは、紅魔館のみではなくなっている。銀時の隣──万事屋もまた、彼女にとって大切な場所となっているのだ。

 

「相変わらず馬鹿やってるわね……フランまで……もうなんというか、あんた達で家族みたいじゃない」

 

 呆れたような表情を浮かべながら入ってきたのは、何やら一通の手紙を持った霊夢だった。彼女は銀時達の様子を見て、何処となく感じるものがあったのだろう。

 

「あれ? 霊夢さんその手紙はなんですか?」

 

 手紙の存在に最初に気づいたのは新八だった。分かりやすく霊夢が持っているのも気付けた理由の一つではあるだろう。

 霊夢は溜息をつきつつ、その手紙を銀時に差し出す。

 

「今回の宴をやる場所の案内図よ。新しく建てられた場所だから、流石に地図がないと厳しいだろうからって、向こうの連中が気を回してくれたのよ」

「なるほどな……」

 

 向こうの連中、とは恐らく白蓮達のことを指しているのだろう。今回の宴でメインとして動いているのは彼女達だ。

 銀時は受け取った手紙の中身を読む。隣にいたフランもその手紙を覗き込む。

 

「「命蓮寺?」」

 

 そして、聞いたことのない名前にキョトンとするのだった。神楽や新八も、幻想郷にそんな場所があったのか? と言いたげな表情を浮かべている。

 そんな反応を読んでいたかのように、霊夢は説明した。

 

「命蓮寺は……あの船を基にして幻想郷に新しく建てられた寺の名前よ。つまり、正真正銘ニュースポット、と言ったところね」

「あの船改造して寺にしちまったのか!?」

 

 これには銀時も驚いた。

 船から寺への改造とは、最早かつて船だったことすら忘れ去られるのではないかと思われるほど大規模な改造に思われるからだ。実際そんなことをする者はなかなかいないだろう。なかなかに英断だったと思われる。

 

「船から寺への大規模工事なんて、よくそんなこと思いついたアル」

「本当ね……正直、誰もが驚いているわよ。今まで幻想郷に新しく寺が建つこともなかったから、それだけでも驚きだというのに……しかもあの宝船が寺になったという評判があって……信仰が……っ」

「「「「あっ」」」」

 

 霊夢以外の四人はその言葉で察してしまった。

 多分このままだと、博麗神社への信仰はますますなくなるのではないか、と……。

 

「ともかく、今回の宴はそこでやるから忘れないようにね。他の奴らにはもう伝えてあるから、呼びたい奴がいたら声かけておけばいいんじゃないかしら。どのみち幻想郷の宴なんて、気付けば勝手に人が増えるのだから」

「否定出来ねぇな……」

 

 溜息交じりの霊夢の言葉に、銀時は否定出来なかった。

 

 ともかく、こうして今回もまた、何が起きるか分からない宴の幕開けとなるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

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第百七十訓 劇的な変化を見せたビフォーアフターは見る価値がありそうだ



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第百七十一訓 たまに登場するとその人がどんな味覚をしているのか忘れてしまいそうになる

 というわけで、実際に命蓮寺まで足を運んだ銀時達。道中では、今まで甘えられなかった分、フランが存分に銀時成分を味わう為に常に腕にしがみつき、時折かなり強く抱きしめていた。女の子特有の柔らかさと、吸血鬼特有の力強さという、天国と地獄を同時に味合うことになった銀時の体力は、ここに辿り着くまでに赤ゲージまで達していた。

 ちなみに、そんな様子を見ていた霊夢の機嫌は良くない。

 

「万事屋か。テメェやっぱりガキ引き連れて……今がオフじゃなかったら手錠引っ掛けてた所だぞ」

 

 銀時達の前に現れたのは、何気に久しぶりの登場である土方だった。

 

「土方さん!? お一人でどうしたんですか?」

 

 新八が尋ねる。

 そう、彼にしては珍しく、他の真選組メンバーがこの場にいないのだ。普段ならば少なくともあと二人は居るはずなのに、なんとも珍しい状況のように見える。その理由は、すぐに分かった。

 

「坂田さん! 今日の宴には坂田さん達もいらしてたんですね?」

 

 駆け寄ってきたのは、ミツバだった。

 そう、本日の土方は真選組鬼の副長としてではなく、ミツバの旦那として来ていたというわけだ。

 

「ケッ!!」

「あの、神楽ちゃん? 露骨に土方さんに威嚇するのはやめよう?」

「見てるこっちが火傷しそうになるアル。あーあ、これだからバカップルは嫌アル」

「まだなにもしてねぇよ!? ただ二人一緒にいるだけでバカップルと言われる筋合いねぇから!!」

 

 土方が青筋浮かべながら神楽にツッコミ返す状況が誕生していた。

 

「しかし、尚のことドS野郎が来てないのが違和感あるが……」

「どえすやろう?」

 

 銀時の呟きに対して、首を傾げながら尋ねるフラン。

 

「あそこにいる瞳孔開きっぱなしの怖いマヨネーズバカの部下で、女の人の弟だ」

「おいテメェ今ナチュラルに俺のこと煽っただろ?」

 

 流石に銀時の言葉をスルー出来ない土方なのだった。

 

「まぁ、何がともあれ、貴方達も今日の宴に参加するってことね?」

「そうなります。よろしくお願いします」

 

 霊夢の言葉に対して、ミツバが笑顔で答える。

 基本的にミツバは美人でいい人だ。それこそ土方の帰りを信じて待っていられる程にはいい奥さんなのだ。

 ちなみに、幻想郷において土方とミツバはほぼ事実婚のような形を取っている。最近では幻想郷から真選組へ仕事に向かっているようだ。一度帰る場所を決めた土方は、その後の闘いにおいてもかなりの強さを発揮しているという。

 尚、土方がミツバの所に帰る際、ほとんどの確率で総悟もくっついてくるのだが、その話はする機会があればいずら行うことになるだろう。

 

「実は私も、今日の宴では料理を用意させていただいたんですよ?」

「本当アルか!?」

「ありがとうございます! こんな美人さんの料理食べられるなんて夢みたいです!!」

 

 ミツバの言葉に、神楽と新八が喜んだ。ここまで完璧超人だ。その料理も美味しいはずだと思っているのだろう。

 

「美味しい料理があるんだね! ギン兄様楽しみだね……でも、あれ? 確かこの人って……」

 

 料理があることに嬉しさを感じたあと、何かに気付いた様子のフラン。

 

「ここの人達はよく食べて良く飲む人達だから、つまみが美味しいのはいいことね」

 

 霊夢は料理に思いを馳せている。

 各々がミツバの言葉を聞いて、美味しい料理を想定していることだろう(フランは何か引っかかりを感じているが)。

 だが、ここに二人、ミツバが料理を作ることに対して素直に喜べない人物達がいた。

 

「……なぁ、土方」

「……なんだ、万事屋」

 

 銀時と土方はこっそり打ち合わせをする。

 その内容は……。

 

「アイツの料理、辛くないのか?」

「……………………正直、保障は出来ねぇ」

 

 そう。

 ミツバの料理における最大の問題点というのは……超がつく程の辛党であるという点だ。

 それこそ、パフェに対してデスソースを丸々一本かけても平気で平らげてしまうほどの辛党。

 ちなみに土方はマヨラー。マヨラーと辛党という、味覚の暴力同士の夫婦において、果たして食事の方は一体どうなっているのだろうか。

 

「本当はお祝いの場なので美味しい料理をたくさん振る舞いたかったのですが、辛い物を作ろうと思ったら、幽香さんや咲夜さんに止められてしまいました……」

「「ナイスプレイ」」

 

 ミツバが少し悲しそうに呟いたのに対して、銀時と土方は思わず声を揃えてしまったという。

 兎にも角にも、彼らは宴の会場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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第百七十一訓 たまに登場するとその人がどんな味覚をしているのか忘れてしまいそうになる

 



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第百七十二訓 人が人のことを気にするようになるきっかけなんて些細なこと

「あ、銀時さん」

 

 宴の会場に入って最初に声をかけて来たのは白蓮だった。彼女は憑き物が取れたかのようにスッキリした表情をしていて、元々魅力的だった雰囲気にさらに磨きがかかっているように見えた。

 

「よぅ、尼さん。いい面構えしてんじゃねえか」

「えぇ。貴方と小太郎さんのおかげで、私のやるべきことが見つかりましたから……この寺も、その第一歩のようなものです」

 

 かつて宝船と称され続けた彼女達の船を改造して、白蓮達はこの命蓮寺を建てた。妖怪からも人里の人間からも慕われるこの寺の信仰は、守矢神社にも匹敵すると言われている。それにしても、どんどん新しい寺や神社に信仰が奪われていく博麗神社は果たして存続していけるのだろうか。

 

「偶然とはいえ、私達が力を貸したことによって貴女は復活することが出来、こうして尽力出来るようにまでなった、ということね……」

 

 霊夢の言う通り、銀時達が協力したのはあくまで偶然。元々は宝船を追いかけていて辿り着いたのだ。偶然の産物というものは時としていい働きをするものである。

 

「えぇ。けど、貴女達がいなければ、私はいつまでも復活することが出来ず、今でも封印されたままだったでしょう……彼女達にも会えず、一人で……それは、苦しいことですから……」

「独り……」

 

 銀時の腕に抱きついているフランの腕に力が入る。

 495年間地下室に閉じ込められて孤独を感じていた彼女にとって、白蓮の言葉は思うところがあったのだろう。

 そんなフランの頭を、銀時は優しく撫でる。そして銀時は、フランにも白蓮にも言い聞かせるように、

 

「もう、テメェは独りじゃねえだろ?」

「……うん」

「えぇ」

 

 フランは嬉しそうに銀時に抱きつき、白蓮は笑顔で答えた。

 

「ま、寺で宴とかいう宗教的にはどうなんだって感じはするけどな」

「構いませんよ。今日だけの無礼講ですし、宴を行う場所は厳密に言うと寺としては関係のない場所ですから……ただ、私は飲めませんが」

 

 意外とそういうところは真面目な白蓮だった。

 彼女は尼。酒を飲んではいけない規律を課しているのだ。

 

「封印から解放されたばかりなんだし、仏の道に仕えるのは明日からでも文句は言われねぇと思うけどなぁ」

「いえ、この寺を建てた時から決めていたことですから」

 

 白蓮は一度決めたことに関してはなかなか曲げない性格のようだ。そう考えると、銀時と桂の二人が、白蓮の思想の奥底に気付かせることが出来たのは相当凄いことなのかもしれない。

 

「ま、私たちは遠慮なく飲むけどね」

「そうだぜ! こう言う時は飲まなきゃ損損、ってやつだぜ!」

「いつの間に魔理沙さんがやって来たんですか!?」

 

 今まで黙って話を聞いていた新八も、突然現れた魔理沙には流石に反応してしまったようだ。

 魔理沙は平然とした表情で新八の言葉をかわす。

 

「……そうですね。私はあくまで提供する側ですから」

 

 どうやら白蓮は、今宵の宴の主催者は自分であることを認識している。今まで開かれて来た宴の中でも、トップクラスの自覚だろう。これまで開かれた宴は、そもそも場所提供こそされていたものの、ほとんどただの宅飲みみたいなものだったからだ。

 

「時に、銀時さん」

 

 周りを気にしたのち、白蓮は銀時の耳元に近付き、誰にも聞かれないような小さな声で尋ねようとする。

 ちなみに、フランには丸聞こえである。何せ銀時に抱きついているのだから。その結果、フランの表情が少し不機嫌になるのは当然の結果だろう。

 だが、彼女の次の言葉は、意外なものであった。

 

「小太郎さんは、今回の宴には参加してないのでしょうか……?」

 

 顔を赤くしながら尋ねてきた白蓮の口から発せられたのは、桂の名前だった。

 これには銀時も目を丸くし、フランも驚いたような表情を浮かべる。

 そして銀時は、

 

「アイツも本当は来たかったらしいが、元の世界では警察に追われている身だからな……その警察がオフとはいえこっちにきているから、顔を出しづらいんだろう」

「そうですか……」

 

 少し寂しそうな表情を浮かべる白蓮。

 その一連の流れで銀時は察する。

 

 白蓮は桂のことが気になっているのではないか、と。

 

「まぁ、アイツのことだからな……実はどこかでスタンばってるかもしれねぇ」

 

 桂ならばあり得ない話でもない。実際、ほぼ毎回何かしらの形でスタンばっているようではあるが、単純に出るタイミングとかその他諸々が合わなくて登場出来なかっただけの時も何度もあるようだ。

 

「……うふふ。面白いお方ですね」

 

 これは、桂小太郎にも春が来たのだろうか? 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百七十二訓 人が人のことを気にするようになるきっかけなんて些細なこと



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第百七十三訓 驚かせようとすると逆に驚かされてしまうこともあるよね

「ねぇ、ギン兄様。一体今回ってどんな異変に巻き込まれたの?」

 

 白蓮と話した後、フランが銀時に対してそう尋ねていた。ここ最近、フランは異変解決の時現場にいないことの方が多い。それはつまり、銀時が戦っている時にその場にいないということを指すのだ。純粋な疑問もそこには混ざっていることだろうが、それ以上に彼女は、坂田銀時のことを心配している。

 もちろん、フランは銀時の言う言葉ならば基本的に無条件で信じられる。それだけ彼女は坂田銀時に信頼を預けていると言っても過言ではない。しかし彼女にとって、銀時は居場所そのものなのだ。心配するなという方が無理ある事態も多いだろう。

 

「そうだな。今回は異変ってよりは宝探しメインだったからな……結局どれも棒に振っちまったようなもんだけどな……」

 

 銀時は頭をガシガシと掻きながら言う。

 そう。なにせ今回の異変、別に誰かに迷惑をかけたわけではない。単に幻想郷に散らばってしまった破片を集め、一人の女性を復活させようとしただけだ。その過程で目撃された船が『宝船』と称されて、人々の間で噂として語り継がれたのみ。

 

「宝探し!? なんだか面白そうだなぁ……」

「見つかれば、それ売り払って溜まってる家賃を払えたんだけどな……」

「私……お姉様に聞いてみるよ? ギン兄様が困ってるから援助出来ないかなって……」

「いやそれはしなくていい。シスコン吸血鬼に命取られる」

 

 妹にたかる虫を追い払う為にレミリアが行動開始しかねない。第一、いい大人が家賃払えないが為に幼女からお金を受け取る図というのは、なかなかに犯罪的な光景である(実年齢でいえば銀時の方が下なのだが)。

 と、そんな感じでフランと銀時が話していた時だった。

 

「そーっと……」

 

 何処からか、声がする。女の子の声だ。その声は銀時にもフランにも届いている。というより、二人の背後より聞こえている気がしている。

 銀時とフランがその声に気付いてゆっくりと後ろを振り向く。

 

「ばぁ……きゃあっ!」

 

 ポスンッ。

 どうやら近付いてきた人物は二人を驚かせようとしていたらしく、そのタイミングで銀時達が振り向いたものだから、逆に驚かされてしまった模様。そのまま尻餅をついてしまうという失態。

 

「ん? お前はあの時の驚かせ娘か……」

「うぅ……また失敗してしまいました……」

 

 少女──多々良小傘は、二人を驚かせるのに失敗し、少し目に涙を溜める。ウルウルな瞳である。

 そんな彼女を見てフランが一言。

 

「ギン兄様…………もしかして、『また』?」

「なんでそこ強調してんの。またって何? まるで銀さんがいつも何かやらかしてるようにしか聞こえないよ? 銀さん何もしてねぇよ?」

「…………はぁ」

 

 フランは銀時の腕をギュッと抱きしめる。そして小傘を威嚇するように見つめていた。

 

「ひっ……!」

 

 その様子が怖かったのか、小傘はさらに怖がっている。そもそも驚かせようとしていた側がここまでコテンパンにされていいものなのだろうか。

 

「おいフラン。何威嚇してんだ」

「わぷっ」

 

 銀時がフランの頭を少し乱暴に撫でると、すぐにフランの目から鋭さが消えた。純粋に銀時に甘えるように、身体をスリスリと擦り寄せている。そんな光景を見ていた小傘が一言。

 

「いいなぁ……っ!?」

 

 小傘は、自分が思わずこぼした一言に対して驚いていた。今小傘は、銀時に甘えるフランを見て、『羨ましい』と思ってしまったのだ。それが指す意味は、つまり──。

 

「どしたぁ? 顔真っ赤だぞ?」

 

 銀時に指摘されて、小傘は自分の頬を両手で触ってみる。

 熱くなっていた。それはもう自分の体温がどんどん上昇していることが分かるほどに。それこそ身体から湯気が出るのではないかと思われるくらいに。

 

「あ、あわわわわわ……し、失礼します!」

 

 あまりの照れっぷりに、小傘逃走。戦略的撤退というか、ただの戦線離脱と言うべきか。

 しかし、今の光景で確実にフランは察する。

 

 やはり、坂田銀時は今回の異変を通じてまたライバルを作ってしまったのだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百七十三訓 驚かせようとすると逆に驚かされてしまうこともあるよね




小傘がただただ可愛い回でした…!


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第百七十四訓 異変が起きた後思わぬ所で被害を受ける人もいるよね

「はぁ…………」

 

 酒を飲みながらため息をついている一人の少女。少女の名前は村紗水蜜。その隣では、一輪が村紗を宥めている様子だった。

 

「元気出してください、ムラサさん。結果としては喜ばしいことなんですから……」

「わかってはいるんです。分かってはいるんですけど……どうしても納得出来なくて……」

「あの、どうかされたんですか?」

 

 そこに話しかけに行ったのは、新八と神楽だった。宴が始まってから、基本的に色んな人とコミニュケーションを取ってきた二人だったが、その中でも今の村紗は目立っている。盛り上がっている中で一人だけ盛り下がっているのだから目立って当然ではあるのだが。

 

「この寺が、私達の船を基にして作られたのは知ってますよね?」

「そうアルな。宝船から寺にジョブチェンジとか物凄いアル」

 

 ダウンしている村紗の代わりに、一輪が説明をする。

 

「宝船と噂されていた船が寺に改修されたことにより、確かに信仰面で言えば申し分ないことになりました。ただ……それはつまり、私達は船を手放したのと同じであるということを意味しているんです」

「船が寺になっちゃったんですから、それはそうですよね……?」

「そう。そしてムラサさんはその船の船長でした……どういうことかと言いますと……」

 

 そこまで言われて、二人は気付いてしまう。

 そう、船長というのは船があって初めて成立する職業。そんな船がなくなってしまっあとしたら……? 

 

「「もしかして、ニート……?」」

「やめて!! その単語だけは突きつけないで!!」

 

 二人からのある意味容赦ない言葉に、村紗が沈没した瞬間だった。

 村紗水蜜、一身上の都合によりしばらく仕事なしの状態となってしまったのだった。

 

 

「ギントキ。なんだか随分久しぶりに会った気がするな」

 

 小傘が逃走した後、銀時とフランの二人はしばらく酒と食事を堪能していたのだが、そんな時にレミリアがやってきた。後ろには何時もの通りに咲夜が控えている。毎度お馴染みの光景だ。

 

「お姉様!」

「よぅ、シスコン吸血鬼。相変わらず元気でやってるか?」

「随分な挨拶だな。元気にフランの可愛さを堪能しているさ」

「お前本当ブレねぇよな……つかメイド長も本当ブレねぇな!?」

 

 レミリアがドヤ顔で語っている後ろでは、咲夜が鼻血をポタポタと垂らしている光景があった。久しぶりに登場した割にはなんともカオスな光景である。

 

「お見苦しい光景を見せてしまいました。私の心配は要りません」

「いや心配はしてねぇよ?」

 

 能力によって時を止めたのか、いつの間にか咲夜の鼻血は止まっていた。何食わぬ顔で銀時達に対面する咲夜なのであった。

 

「今回は宝探しに行ったらしいな。なんとも面白そうなことをしているではないか」

「ギン兄様ったら本当にずるい……フランも行ってみたかったのに……」

 

 吸血鬼姉妹が銀時に対してそう言う。

 とくにレミリアにとって、幻想郷で起こる異変関係は大抵彼女の退屈を忘れさせてくれるほどのものなのだ。そんな異変関連の話について、彼女が聞きたくないわけがない。

 

「ま、今回は命を落とすようなことはなかったと霊夢や魔理沙からは聞いた。どれだけ楽しい宝探しだったのかも文屋から聞いている」

「マスゴミからの情報だから捏造されてる可能性あるぞ?」

「真偽の程を霊夢や魔理沙より確認しておりますので、その辺りは問題ないかと」

「きっちり疑われてんじゃねぇか!」

 

 咲夜が真剣な表情で宣言する辺り、毎度射命丸文が書く記事について疑われていることが分かる。大体間違ってはいないのだが、脚色が入る段階で面白記事と化するのが要因だろう。

 

「とりあえず、今回の異変についてギントキからも聞かせてもらえないか? 特に、最後はどうやって戦ったのかを知りたい」

「戦闘に関しては、直接戦った人でないと伺えないこともありますから、是非とも」

「私も気になる! ギン兄様、聞かせてよ!」

「…………」

 

 三人からの期待の眼差しを受ける銀時。

 しばらくして彼は、頭をガシガシと掻きながら、

 

「しゃーねぇな……わーったよ。少しだけだからな?」

 

 優しい笑顔を浮かべながら、今回の一件について語り出したという。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百七十四訓 異変が起きた後思わぬ所で被害を受ける人もいるよね

 



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第百七十五訓 スタンバイすることはとても重要なこと

「…………」

 

 聖白蓮は、宴から抜け出して一人夜空を眺めていた。今回の一件は、いわば自分の封印を解き放とうとしてくれたから起きた物。そして、目覚めた彼女の考えを正してくれた、二人の侍がいたこと。その中でも特に印象に残る、あの台詞。

 

『そもそも『救う』とは行えるものではない。誰かが行動した結果、勝手に救われるものだからな。人間と妖怪を完全に平等にし、救おうとする理想そのものが破綻するというわけだな』

 

 彼女の考えが少しずれていたものであると証明された瞬間であった。

 人間は『行動』することが出来る。救いとは、その上で起こりうる結果に過ぎないのだ。そもそも人間である彼女に、妖怪と人間を平等に扱うことは出来ない。本当に彼らを平等にすることが出来るのは、そのどちらでもない存在──いわば神様のみなのだから。

 白蓮が追い求めた理想は、根本の段階で正さねばならないものであった。だが、その本質は決して間違っていない。

 

「誰かを……大切なもの達を、守る……」

 

 思い浮かべるのは、今回尽力してくれた者達の顔。彼女達は白蓮にとって大切な存在となっていた。そんな彼女達を……彼女達を取り巻くすべてを……自分を頼ってくれる存在を……護りたい。

 

「なんだ……私はあの者達に、『救われた』んですね」

 

 思わず笑顔が溢れてしまった白蓮。

 彼女は、坂田銀時と桂小太郎によって、『救われた』のだ。

 そして、そのことに気付いた白蓮は、

 

「あの方にもう一度、お会いしたいですね」

 

 今はこの場にいない男のことを思い浮かべながら、ポツリと自身の小さな理想を口にした。

 

「どうした? そんな所で一人黄昏て」

「っ!!」

 

 白蓮の背後から声が聞こえた。その声は、今彼女が最も聞きたいと願って欲していた男の声。白蓮を『救った』男の声。一人の侍の、声。

 

「この場所で準備していた甲斐があったな……なにせ、これ程までの美貌の持ち主と席を共にし、二人で月を眺めることが出来るのだから」

「えぇ、そうですね。私も、宴を抜け出してこの場にいた甲斐がありました。おかげでこうして貴方と、もう一度話をすることが出来るのですから」

 

 男──桂小太郎に対して、白蓮は笑顔を浮かべつつ告げる。

 今この場において、白蓮と桂以外の人物はいない。

 

「しかし、本当に銀時さんの仰ってた通りでしたね。宴には参加していないものとばかり思ってましたが、まさかこうしてすぐ近くで待ち構えていたとは思いもしませんでした」

「少々厄介な事情があるものでな。堂々と参加したかったのだが、そうも言っていられない事情があった。だからせめてこうして、雰囲気だけでも堪能しようと思っていたのだ」

「うふふ。小太郎さんってば冗談がお上手ですね。今度また、命蓮寺に足を運んでくださいね。その時にはご馳走を披露しますから」

「そこまでの気遣いはよい。俺は、一杯のかけ蕎麦でも十分堪能出来るぞ」

「蕎麦、お好きなんですか?」

「嫌いではないな」

「それならば考えておきますね」

「その時はよろしく頼もう」

「はい」

 

 そうして二人は話を続け、思わず笑ってしまった。

 

「ははは! なかなかによい時間だ……何処か心地よさも感じてしまう」

「えぇ。私もこうして、封印から解き放たれて良かったです……もう一度彼女達と会うことが出来、そして貴方達に巡り会うことが出来ましたから」

「宝探しに尽力した甲斐があった。結果としてこれ程までに素晴らしき宝と巡り合うことが出来たのだから」

「私もです。私も宝物に巡り合うことが出来ました……貴方達のおかげです」

 

 二人にとっての『宝物』。

 それが何を意味するのかは、言葉にしなくても何となく伝わっていた。

 それを言葉に表そうとするのは、野暮であるだろう。

 

「まだまだ今宵も月が上る頃合い。陽が出るまで、酒はないがせめて語り合おうぞ」

「それもまた一興、ですね。私でよければ、是非貴方様のお誘いに乗らせてください、小太郎さん」

 

 そして二人は語り合う。

 月の光が差し込む中、桂と白蓮の二人は、その場に流れる空気を存分に堪能していた。

 

「……この光景を写真に収めるのは、野暮ですね。それじゃあ私は、坂田さんの特ダネを撮りにいきますかー!」

 

 そんな光景を眺めていた鴉天狗は、構えていたカメラのシャッターを切ることなく、その場から飛び去ったという。

 

 

 

 こうして、今回の異変は終わりを告げる。

 だが、この時の彼らはまだ知らなかった。

 

 ──いずれ訪れる、幻想郷の危機が迫りつつあること。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百七十五訓 スタンバイすることはとても重要なこと




これにて星蓮船篇は終了となります。
一旦、予定していた東方原作異変長篇についてはここまでです。
非想天則、ダブルスポイラーのエピソードを交えつつ、次回からはポロリ篇をお送りいたしますー。


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ポロリ篇その漆
第百七十六訓 家から出ない引き篭もりでも仕事をする人はいる


今回からポロリ篇スタートです!


 毎度おなじみBGオンリー。それはある意味で、ポロリ篇が始まる合図ともなる。ただし、今回のBGオンリーについては万事屋ではなく……。

 

「で、なんで今日はこっちに集まって来てるのよ?」

 

 霊夢がポツリと呟く。

 そう、今回のBGオンリーは博麗神社よりお送り致します。やることは今までと全然変わらないわけだから、別にテコ入れでもなんでもない。意味あるのかないのかは不明だが、とりあえず始まることとなる。メンバーは、いつもの万事屋三人をはじめとして、霊夢や魔理沙、射命丸もいた。

 

「いいじゃねえかよ。たまにはこっちでBGオンリーやったって。何処でやっても別に変わりやしねぇだろ?」

「特にこの作品なんて小説アル。場所の描写がされてなければ、大富豪のお家や国の施設にいた所で御構いなしネ」

「それはいろんな意味でお構いあるからね!?」

「けど、賑やかなのは嫌いじゃないぜ? 私も、銀さん達と話すのは楽しいからな!」

「あやや? これはもしかして熱愛……」

「おいマスゴミ。すぐ変な方向に持っていこうとすんなよ?」

「こう言う時の瞬発力は毎度高いわね……流石は少年誌屈指の主人公。別の雑誌に移り、それでもなお終わらなかったからアプリでの連載に切り替えた事だけはあるわね」

「そこ関係ないですからね!?」

「確かに、終わらせようとして終わらなかったことは認めるアル。けど、それは色々諸々大人の事情ネ。きっと私達では掴めない何かがあったに違いないアル」

「これは何としても記事にしなければいけませんね……記者魂が燃えてきました!」

「やめておけ。どうせロクなことが起こりゃしねぇよ。上層部にもみ消されて終了だ」

「何処の上層部がもみ消しに走るんですか!? 結局はあのゴリラが連載終わらせられなかっただけでしょうが!?」

「取材といえば、そういえば坂田さんは幻想郷に広まっている新聞が、実はもう一つあると言うことをご存知ですか?」

 

 ここで文が、今回の議題とも言える単語を出してくる。内容は、幻想郷二つ目の新聞について。

 

「は? 文々。新聞以外に新聞があるってのか?」

 

 当然、銀時は疑問の声をあげる。

 ただしそれは彼に限った事ではなく、その場にいた霊夢や魔理沙も同じような反応を取っていた。

 

「私達はあんたが作ってる新聞しか知らないわよ?」

「まさか、文屋に同業者がいるのか? それはびっくりだぜ!」

「まぁ、本人の取材方法とかが全然サッパリだから、人気が出なくても当然といえば当然なんですがね……」

 

 文は一部の新聞を取り出す。

 そこに書かれているのは、いつもの『文々。新聞』ではなく……。

 

「花果子念報? なんだそりゃ、案山子が念力使いながら書いてんのか?」

 

 銀時が言う。

 それに対して文は、

 

「姫海棠はたて、という女の子が書いている新聞なんです。この新聞には少し特徴がありまして……」

 

 新聞を開きながら、とある部分を指差す。

 そこにあったのは一枚の写真。写し出されているのは、銀時と白蓮が戦っている場面。

 

「は? いつの間にこんな写真が?」

「でも、あの時いたのって射命丸さんだけですよね? この写真は射命丸さんが?」

 

 新八の問いに対して、文は首を横に振りながら、

 

「いえ、この写真を撮ったのは私ではありません。姫海棠はたて本人です」

「「「「「は?」」」」」

 

 五人分の声が重なる。

 その場にいない人物に、魔界での戦いの様子を撮影することなど不可能だ。これは一体どういうからくりで撮られた物なのだろうか。

 彼らがそんなことを考えていると、種明かしと言わんばかりに文が言った。

 

「これは、はたてが念写したものです。彼女の能力は、『念写をする程度の能力』なんですよ」

「ハーミッ●・パー●ルじゃねえか!」

「アンタも無理に中の人ネタ使わんでええわ!!」

 

 とある作品のスタ●ド名が登場したが、構わずスルーすることとする。

 

「しかし、念写で写真を撮影するってことは、外に出なくても情報を得られるってことじゃない。なんて便利な能力なのよ」

「そこがある意味で最大の欠点なんです。写真だけは外に出なくても撮れてしまうので、つまり何が起きてしまうのかと言いますと……」

 

 そこまで文が前提を置いたことにより、銀時達はなんとなく感づいていた。

 恐らく、姫海棠はたてという人物は……。

 

「はたては、引き篭もりなのよ」

 

 

 

 

 

 

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第百七十七訓 何気なく撮った物が意外な特ダネを呼び寄せることもある

 幻想郷は妖怪の山。そこに住む一人の少女は、携帯電話と思われる機械をじっと眺めていた。茶色のロングヘアーを紫色のリボンでツインテールにし、紫色の天狗帽子を被っている。襟に紫色のフリルがついた薄ピンク色のブラウスに黒色のネクタイ。黒と紫の市松模様が描かれたミニスカートを着用し、靴下は黒のハイソックス。

 少女の名前は姫海棠はたて。文と同じく幻想郷で新聞を発行している少女である。

 しかし、彼女の発行する新聞は文のものよりも若干ウケがあまりよろしくない。理由は前回文が語った通り、はたての取材方法にある。彼女は基本的に能力があるが故に外での取材を行わない。

 

『念写をする程度の能力』。

 

 彼女が撮影しているものは、すべて念写で行われたものだ。ただしそれは予測等の類ではなく、実際に起きたことを遠くにいながら撮影することの出来る能力。使い方によっては相当に便利な能力であることに間違い無いが、あくまで『既に起こった事』しか撮影出来ない。そして何より、念写で写真を収めてしまう彼女は聞き込み取材を行うことがあまりない。要するに、ネタとしての鮮度があまりないということだ。

 

「文の新聞……日に日に発行部数が上がっているのよねー……」

 

 画面を見つめてゴロゴロしながら、はたてはつまらなそうに呟く。

 事実、ここ最近の文々。新聞の売れ行きは好調とのこと。それは恐らく、文が何かしらの特ダネを掴んでいるからということは、当然はたても認識している。そして大体新聞に書かれている人物が固定されているのも理解していた。

 

「坂田銀時……紅魔館での異変で突如現れた不思議な外来人……以降、スキマ妖怪である八雲紫が彼の存在を気に入り、坂田銀時に関係する人達が幻想郷に出入りするようになった……それ以降も彼らは度々起こる異変に関わって、博麗の巫女と魔法使いと共に異変解決へと導いている……こんな特ダネのすぐ近くに文はいるなんて卑怯だわー」

 

 確かに、射命丸文の新聞は、銀時が関係するようになってから発行部数が伸びている。しかしそれは、はたての新聞が伸び悩んでいる理由にはなっていないことを、彼女はまだ気付いていない。

 

「はぁ……特ダネでも写ってくれないかなー。まだ文が写真に納めてないような、とびきりのネタでもあれば最高なんだけどなー」

 

 足をパタパタとさせながら、何か面白いものを期待するかのようにボヤくはたて。とは言っても、外に出ていない彼女の元にそう簡単に何か特ダネのようなものが転がり込んでくることはそうそう起こらない。もちろん流石にはたてだってそのことは理解している。それに、はたては何も完全に家から出ない訳ではない。妖怪の山に関連することについては参加しているし、定期的に外へ出ることもある。新聞を配ることも当然やっているわけだ。ただし、特ダネは待つものではなく、自分から追い求めなければなかなか手に取ることが出来ない。

 

 しかし、時にはチャンスが訪れることもある。

 

「……ん?」

 

 何気なくパシャりとシャッターを切ったはたて。特に意識した訳ではないが、適当にキーワードを入力して、何かが撮れればいいな程度の気持ちで撮影したのだ。

 姫海棠はたての能力である念写は、カメラにキーワードを打ち込めば、その場所に関連する何かが撮影出来るというもの。たとえばそれは人物であったり、建物であったり、何かを指し示すワードであったりと、種類は様々。そんな彼女は、思いついた単語を適当に入力してみたのだ。

 それだけのはずなのに。

 

「なに、これ……こんなものがあそこにあるなんて、びっくりだわー……」

 

 それは恐らく、彼女が見たことのないもの。いや、幻想郷に居る人達の殆どが知らないもののはずだ。何せ今彼女が映し出したものについて、その存在を知るものはほとんどいない。知っている者がいるとすれば、それは当事者となる。

 

「これは……特ダネの予感ね! しかも文より先を越せるかもしれないわねー!」

 

 今回はより一層気合いを入れるはたて。

 

 カメラに映し出されていたのは、謎の巨大ロボットのような何かだった。

 

 

 

 

 

 

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第百七十八訓 女と女のプライドをかけた戦いの始まりのゴングが鳴った瞬間

 文に連れられる形で二度目の妖怪の山へと足を運んでいる銀時達。今回の彼らは侵入者ではなく、射命丸文の友人としてここにいる。最も、守矢神社の話があってから多少は友好的になっているのだが。

 

「しっかし、どこに行っても引きこもりっつーのはいるもんだなぁ。そいつがどうしていようとも勝手ではあるが」

「まー、はたてはスペック低いわけじゃないんですけどね……興味ある時とない時の差が激しいといいますか……」

「それ立派なオタク気質じゃね?」

 

 思わず銀時はそうこぼす。

 

「しかし念写は便利な能力ね……」

 

 霊夢は、はたての持つ能力に興味を抱いているようだ。

 

「確かに。ありとあらゆる場所を写し放題っつーことは、例えば女湯……」

「銀さん発想が最低ですからね!? 単に覗きを誘発しようとしてるだけじゃねぇかぁああああああああ!!」

 

 人差し指を立てながら真顔で語る銀時に対して、当然新八がツッコミを入れた。さすがはツッコミメガネである。

 

「銀ちゃん不潔ネ。しばらく近寄ってくるなヨ」

「誰がガキに興味あるかっての」

「あ? それはそれでなんかイラつくアル!!」

「なんの争いしてるんだぜ!?」

 

 収束点の見つからない争いが始まりそうだったことに我慢出来なかったのか、つい魔理沙がツッコミを入れていた。彼女は当作品が始まってから貴重なツッコミキャラだ。仕事をしてくれなければ困る。

 

「あやや? 今の台詞をねつぞ……編集すればいい記事が書けそうですね?」

「今捏造っつったよな?」

「イッテマセンヨ?」

「片言になってんぞ。テメェはそんなキャラじゃねえだろ? 文々。新聞は捏造しまくり違法新聞だってマスコミにリークすんぞ?」

「残念でしたー! 私がそのマスコミでーす!」

「はたてってやつにリークしたら喜んで記事にしてくれそうだがな……」

「私の新聞の方が発行部数も知名度も、幻想郷の中では上なので意味ないですね〜」

 

 自信満々に語る文。

 そんな彼女の前に。

 

「その自信、今日でへし折ってあげるわねー!」

 

 姫海棠はたてが、ニヤリと笑みを浮かべながら現れた。

 

「……え、誰?」

 

 もちろん、銀時達にとっては初対面なので、いきなり現れた彼女のことを知っているはずはない。今までの話を総合して予想することは出来たが。

 

「彼女こそ、先ほどまで話していました姫海棠はたて。売れない新聞の記者です」

「誰が売れない新聞の記者よ!? 失礼だわー!」

 

 いまいち本気で怒っているのか分からなくなる、間延びした話し方をするはたて。

 

「なんか、今時のギャルと話してる気分だな」

「銀ちゃん。あの女、右手に携帯電話持ってるアル。SNSで色々とばらまくつもりネ」

「呟いたり写真あげたりするってか? 俺達のことネットに晒しあげて炎上させようってのか?」

「アンタら先入観だけで色々語るなよ!? ややこしくなるでしょうが!!」

 

 第一印象のほとんどは確かに見た目で決まる。銀時達にとって、はたての第一印象は『今時のギャル』だった。そして携帯電話を持っているとくれば、直結するのはSNSだったのだろう。ある意味写真や文章を書くという点において新聞記者である彼女にとっては間違ってはいないことではあるが。

 

「ところで、なんか妙に自信満々だぜ?」

 

 魔理沙がその点を気にする。

 確かに、文の前に現れたはたては、何処か勝ち誇っているようにも見えた。極め付けは、『今日でその自身をへし折る』という旨の発言。なにか勝算でもあるというのだろうか。

 そんな魔理沙の発言を聞いて、はたては再び自信満々に語り出す。

 

「文もまだ掴んでいないような特ダネ写真を撮影したわー。この写真について取材して、文の新聞を越えるつもりよー!」

「私の新聞を越える、ですか……いい度胸ですね」

 

 二人の間にバチバチと火花が散り始める。どうやら彼女達の闘争心に火がついたようだ。

 

「今回のは間違い無くウケがいいのよー! だから私の勝利は揺るがないって感じだわー!」

「上等じゃないですか! その言葉、宣戦布告として受け取りますよ!」

 

 何故か、文とはたての二人で新聞発行バトルが開かれることが確定した瞬間だった。

 

「……なんか勝手に盛り上がってんぞアイツら」

「よく分からないけど、見ていればいいアルか?」

「そうだね、神楽ちゃん。きっと僕達には何も出来なさそうだからね」

「新聞記者同士の面倒な争いね……」

「なんだか楽しそうだぜ!」

 

 彼女達の動向を見守る(?)銀時達なのだった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百七十八訓 女と女のプライドをかけた戦いの始まりのゴングが鳴った瞬間



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第百七十九訓 突撃取材はお手の物!

 というわけで、射命丸文による突撃取材が幕を開けた。その上で大切なのは聞き込み調査。ただし、はたてとはちがい文は未だに特ダネとなり得るものを持ち合わせていない。故に聞き込み調査をし続けて、地道に稼ぐ他ならないのだ。だが、そうして聞き込みをしていく上で、とある噂話を耳にすることになる。

 たとえば、とある⑨を取材しに行った時には、

 

「あれは間違いなくだいだらぼっちだよ! あんなに大きなものといったらそうに違いないんだ! それはそうともじゃもじゃ頭! あたいと戦え!!」

「誰がもじゃもじゃ頭だコノヤロォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 某侍に蹴り飛ばされはしたものの、それはだいだらぼっちなのではないかという情報を手にする。またある門番に取材しに行った時には、

 

「きっとあれは太歳星君だったんです……現れてしまった以上は方位に気をつけても意味なくて……あぁ、でも、祟り神だから何かあるのかもしれなくて……ど、どうすれば……!」

「少なからず、貴女が居眠り癖を治せば見えなくなるかもしれませんね。それとも、二度とそんな幻想を見ないで済むように目を潰した方がいいかしら?」

「さ、さ、さ、咲夜さまぁ!? そんなことをしたら何も見れなくなっちゃうじゃないですか!!」

「元から目を瞑っているようなものなのだから関係ないでしょう?」

「大ありですって!!」

 

 と言いながら、ナイフを構えたメイドにお仕置きされるまでに、太歳星君ではないかという情報を手に入れる。

 また、人里にたまたま訪れていた暴走巫女娘を取材した際には、

 

「あれは私の世界で広まっていた巨大ロボだったんですよ! 私、ああいったものが大好きなんです!!」

「ロボットくらいなら俺達の世界でも見られるよな、新八」

「源外さんならそれくらい作りそうですし」

「実写版では通常の三倍の速度でトイレに行くおっさんが修理頼んでいたアルな」

「本当なんでもありな世界だぜ、銀さん達の世界は……」

「けど、ロボットが幻想郷に現れることなんてあり得る……?」

「私はたしかに実際に見たんです! けどあれは確か守矢神社の方で見えたような……それはそうと銀時さん。ここであったのも何かの縁なので、今から私と一緒に子づ……」

「んじゃ俺たちいくから後のところはよろしく頼むな」

 

 暴走巫女娘が完全に突っ走る前に、銀時の方から逃走したものの、それは巨大ロボであるという情報を得た。更に……。

 

「その存在が見られたのは守矢神社の方面から、ということでしたか……」

 

 文がこれまで集めた情報をメモにまとめていた。キーワードとなるのは、『守矢神社』『巨大ロボ』『太歳星君』『だいだらぼっち』。

 

「守矢神社の方で、巨大な何かの目撃情報が多数っていったところだぜ?」

「少なからず、放置していていい案件ではなくなったわね……博麗の巫女としては、異変の可能性も疑わなくてはいけなくなったわ」

「あやや! これはなかなかに特ダネの匂いがしてきましたよ!」

 

 霊夢の言葉に反応するように、文が何やらワクワクしているような表情を浮かべる。

 三人の情報をまとめれば、守矢神社付近で巨大な何かが現れたという事実が浮かび上がってくる。ただし、そこに守矢神社の関係者である東風谷早苗は関与していない。となると、考えられる可能性としては。

 

「これはもしかしたら……守矢神社に突撃取材しに行った方がいいかもしれませんね。そうすれば特ダネの証拠がつかめるかも……!」

 

 文のいう通り、守矢神社関係で何か行動を起こす者がいるとすれば、そこに祀られている二柱の神しかいない。つまり、現状怪しいのは……。

 

「洩矢諏訪子か八坂神奈子、というわけね……」

 

 霊夢がポツリとつぶやいた。

 

「ですが、いくら神とはいえそこまで大きな何かを作ることは出来るでしょうか?」

 

 新八がふと湧いた疑問を口にした。たしかにあの二柱は神である。しかし、二人揃って創造神というわけではない。少なくとも、早苗が巨大ロボと称する形の何かを作るのであれば、それなりの技術力を持ち合わせた者が関与している可能性も疑われる。

 

「……まさか。あの河童も関与しているかもしれないぜ?」

 

 そう。

 魔理沙の言う通り、にとりも関係しているかもしれないのだ。

 

「なるほど……どんな目的があるのかはしらねぇが、これで今行くべき場所は決まったんじゃねえのか? 取材班さんよ」

「ですね。文々。新聞の記者として、幻想郷の情報を清く正しく美しく、何処よりも速く届ける為にも、その正体を掴みに行きますよ!!」

 

 銀時の言葉を受けて、文は俄然やる気を見せる。

 そうして彼らは、問題の場所である守矢神社へと歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百七十九訓 突撃取材はお手の物!



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第百八十訓 真実というものは意外と単純かつ呆気ないものである

「あれ!? もうここを掴んだなんてびっくりだわー……」

 

 守矢神社に文達が足を運んだ時、そこにははたての姿もあった。どうやら彼女が念写として設定していたキーワードの中には、やはり守矢神社というワードも入っていたようだ。即ち、彼女の掴んだ特ダネというのも、幻想郷の中で噂されている巨大な何かということになる。

 

「取材を重ねた結果、この神社に辿り着いたんです。はたては最初からここを掴んでいたみたいですね」

「写真でピキーンってきちゃったというか、場所自体は最初から知っていたのよねー。だからしばらく文達は来ることがないと思ってたんだけど……」

「予想に反して俺達の到着がはやかった、ってことか」

「そうなのよー……本当行動力だけはあるわね……」

 

 はたては残念そうというか、悔しそうというか、なんとも複雑そうなひょうじょうを浮かべていた。自分が真っ先に掴んだ情報に、目の前にいるライバルは自力でたどり着いてしまったからだ。いうなれば、取材レベルでいえばやはり文の方が上ということになる。

 

「文屋と話を聞いているうちに、異変かもしれないって思い始めたから私達も同席するわよ。構わないわよね?」

 

 博麗の巫女たる霊夢が、割と真剣な表情を浮かべながらたずねる。はたては特に拒否する理由もないため、

 

「それくらいは構わないわよー」

 

 と、霊夢の意見を通した。

 そして彼女達は、意を決して守矢神社の鳥居をくぐった──。

 

 

 そこにあったのは、人型の『ナニカ』だった。大きさにして百メートル程のそれは、銀時達のことを見下ろしているようにも見受けられる。何処かのロボットアニメに登場する巨人メカのようなナニカは、確かに早苗の情報通り巨大ロボのようにも見える。

 

「い、いつの間にこんなものを……」

「でっかいぜ……!」

 

 霊夢は目を丸くし、魔理沙は目を輝かせている。

 

「銀ちゃん銀ちゃん! 巨大ロボアル! 乗っていいアルか!?」

「神楽ちゃん危ないからダメだよ!?」

 

 同じく目を輝かせる神楽と、そんな彼女が余計なことをしないように必死に止めている新八。

 

「これはスクープの香りがしますね……!」

「早速突撃取材って感じだわー!」

 

 マスゴミたる二人は、これを記事にしたら盛り上がると言わんばかりに興奮している。

 

「こりゃあれだな。逃げちゃダメだな……逃げちゃ、ダメだな」

「なんか微妙にセリフが違うんですけどぉおおおおおおおお!?」

 

 流石は新八。小ネタに対するツッコミも忘れない地味メガネツッコミ製造機の端くれだ。

 

「なんか久しぶりにすごく失礼なことを聞いた気がしますけど!?」

 

 すごく失礼なことを言ったからである。

 

「おや? こんなに客がたくさんいるなんて珍しいこともあるもんだねー。もしかして、これが気になってここまできたのー?」

 

 そんな彼女達の前に現れたのは、目がついた帽子をかぶっている一柱の神、洩矢諏訪子だった。彼女は何処か楽しそうに銀時達を見つめている。

 

「誰かと思えば守矢神社の祟り神じゃない……貴女が出てくるってことは、これには貴女が関わっているってこと?」

「うーん、そうなるかなぁ」

 

 霊夢の言葉に対して、諏訪子は特に声の調子を変えることなく語る。その言葉を聞いたマスゴミ二人は、メモ帳に今の言葉をしっかりと書き残していた。

 

「大きいロボアル! あれに乗ってもいいアルか!?」

 

 関わっているとわかったや否や、神楽はそのロボに乗せろと言わんばかりの勢いで諏訪子に詰め寄る。

 しかし、諏訪子は。

 

「あー、それはやめておいた方がいいと思うよ?」

「どうしてですか?」

 

 そんな微妙そうな反応を聞いて、新八は不思議そうに尋ねた。マスゴミ二人よりも余程他の人達の方が質問しているように見えるが、今はとりあえず置いておくことにする。

 

「元々あれは、『巨大妖怪型自動操作人形』なんだ。河童に作らせた特注品であることに変わりないんだけどさ……」

「やっぱり河童も一枚噛んでいやがったか……」

 

 幻想郷において発明品絡みが関係するとなると、パターンとしては二つしかない。一つは香霖堂に流れ着いた品物によるもの。もう一つは、幻想郷における技術力第一位たるお値段以上河童のにとりさん印の発明品だ。今回の場合は後者であったということになる。

 当然、今の情報もマスゴミの二人はメモにとっている。

 

「いやぁ、元々は今度山の麓の河原で開かれる未来水妖バザーの宣伝の為に作らせたんだけどさ? これだけ大きな人形に自我を持たれると困るなぁって思って……」

 

 諏訪子は、今回のこの件に関してわりと重要な情報を口にする。

 

「中は空洞になってるんだよねぇ」

 

 あれだけ巨大ロボだの、だいだらぼっちだの噂されていたそれは、実はなんて事のないただのアドバルーンだったという事実が判明したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百八十訓 真実というものは意外と単純かつ呆気ないものである



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第百八十一訓 人々が求めているのはエンターテインメント

 結局、取材の結果は微妙だった。あれだけ巨大ロボだの様々な噂が流れていたものの本当の正体は、宣伝目的で作られただけの巨大アドバルーン。記事にしたところで特ダネとは言い難い代物だ。最も、一応バザーの宣伝の為に新聞記事として掲載することは出来るが。

 

「結局、今回の件は無駄骨に終わってしまってがっかりだわー……」

 

 ぐったりとしているはたて。

 現在、銀時達は、はたての家に上がり込んでいる。霊夢や魔理沙は自分の用事があるからと引き上げていったが、文はついてきていた。

 

「ふふふ……これだからはたては駄目なんですよ」

「な、何をー!?」

 

 文は不敵な笑みを浮かべている。

 それを見た万事屋三人は心の中で呟いた。

 

 コイツ、碌でもないことをしでかすつもりだ、と。

 

「確かに、真実は本当につまらないものでしたけれど、それにエンターテインメント要素を付け加えてはいけないなどと誰が決めたんですか?」

「どういうこと……?」

 

 はたてはあんまりよく分かっていないような素振りを見せる。

 それに対して文は、

 

「つまり! 書く記事の内容をこちらが面白おかしく改z……脚色してしまえばいいんですよ!!」

「今完全に改竄って言いかけましたよね!? マスコミがそんなことしていいんですか!?」

「五月蠅いですね! ばれなきゃ犯罪じゃありませんし、第一ここは幻想郷なんですよ! ただ普通に記事を書いた所でつまらないのは目に見えているじゃないですか!! 事実を求めるのと同レベルに、エンターテインメントを求めているんですよ!!」

「テメェの書いた記事で俺はとばっちり喰らいまくってるんだけどな!!」

「坂田さんは良い記事パートナーですから♪」

「記事パートナーってなんだよ!? テメェの羽引きちぎって二度と空飛べなくしてやろうか!?」

「あやや~。やれるものならやってみて欲しいですなぁ~」

 

 何故か、いつものようにじゃれ合っている銀時達。新八も最初にツッコミを入れはしたものの、その後からは文と銀時によるやり取りが始まっていた。

 そんな二人をじーっと眺めるはたて。

 彼女は思わず、携帯を手に取って。

 そのまま――。

 

 パシャッ。

 

「「え?」」

 

 銀時と文は思わず目を合わせる。そのままゆっくりとはたての方を振り向く。

 

「特ダネ☆ゲットだわー♪」

 

 そこに居たのは、満面の笑みを浮かべるはたてだった。

 そう、彼女は自力で手にしたのだ。

 

 ――坂田銀時と射命丸文という、最強の特ダネを。

 

「これは記事に使えるわー。二人の熱愛報道とかしたら凄く新聞売れそうだわー。だって幻想郷ではエンターテインメントを求めているんですものねー。これは文には書けない記事だから、私が書くしかないってことなのよねー!」

 

 その後、はたては見つめ合う二人を写真に収めたりした後、その場を立ち去る。

 

「じゃ、しばらく私の家にいていいわよー。私は文の所で新聞作ってくるからー。それじゃあまたねー♪」

「待ちなさいこらぁあああああああああああああああ!!」

 

 はたてと文による鬼ごっこが始まった。

 結局、特ダネというのはこうして量産されていくのだろう、と銀時達は思ったのだった。

 

「ねぇねぇ銀ちゃん。あのままだと新聞に載って、フランとかが大暴れするアルよ?」

「……大丈夫だろう、うん。多分。きっと」

「どうでしょうね……」

 

 後日、銀時が様々な女性より詰め寄られたのは言うまでもあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百八十一訓 人々が求めているのはエンターテインメント

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 夜の森。

 そこを歩く一人の男が居た。

 男は刀を腰に二本差し、厳格な面持ちで前を見つめて進んでいく。

 

「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 そんあ男に襲い掛かる、何匹もの妖怪達。

 夜の森は妖怪達にとって格好の狩場、こうして迷い込んできた者を喰らうには都合のよい場所なのだ。

 妖怪は、あくまで人間を食料としている。

 これまで登場してきた妖怪達が特殊な一例ばかりだっただけであり、実際にはこうして人を襲う妖怪の方が多いのが事実だ。

 この男も、複数いる妖怪達を相手に一人で立ち向かうのは――。

 

「恐れを持たぬ者よ。儂の剣にて未練を断ち切る」

 

 一瞬だった。

 男が振るった剣により、襲い掛かってきていた妖怪達は呆気なく真っ二つに斬り裂かれたのだ。

 男の身体には、傷一つついていなかった。

 

「幻想郷も、あのお方も……必ずや儂が守ってみせようぞ」

 

 男は呟き、再び歩き始める。

 腰に差された二本の剣。

 

 それはどことなく、幻想郷に居るとある少女を彷彿とさせるような代物だった。

 

 だが、彼を含めた幻想郷に住まう者達はまだ気付いていない。

 

 ――この段階で、とある陰謀が既に動き始めているということを。

 

 

 

 




次章予告。

「儂はその為に帰ってきたのだ」

「今まで貴方は何処で何をしていたのかしら……?」

「ふざけないでください! 今更帰ってきて、どういう風の吹き回しですか!?」

「妾の計画を、下等な猿共に止められるわけにはいかぬのじゃ」

「江戸じゃ世話になったな。博打好きのねーちゃんよぉ」

「万事を守るのが万事屋の勤め、ですよね。銀さん」

「博麗の巫女の名に懸けても、必ず貴女を止めてみせるわ」

「幻想郷を敵に回すことの恐ろしさを、味わうがいいですわ」

次章。

華陀陰謀篇。



――貴女様を、心よりお慕い申し上げます。幽々子様。



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華陀陰謀篇
第百八十二訓 何か行動を起こす時はまず仲間を集めることが先決


 幻想郷某所にて。

 二人の女性が声を潜めて話していた。名前はそれぞれ、封獣ぬえと華陀。共に目的を持っている二人だった。彼女達は今、幻想郷を乗っ取るための計画を企てている。華陀は幻想郷という世界を支配する為。ぬえは、自身が嫌悪している人間を追い出す為。そしてそんな中、彼女達はとある物に目を向けていた。

 

「幻想郷を支配するのに、人手が欲しいと思うておったが、よもやそんな近場におったとはなぁ……此度の戦いは妾達に軍配が上がっているのやもしれぬ」

「協力してくれるかどうかは私達次第って所だけどね。だけど、あの子達の力を借りれば、きっと今回の計画も上手くいく」

「お主のおかげでこの世界の何たるかも理解出来たところじゃ。お主はお主なりの伝手を頼るが良い。妾は妾で、妖怪共の力を集めることに努める」

「私達二人だけではどうすることも出来ない。だけど、幻想郷に居る妖怪達の力を借りれば……きっと上手くいく筈だ」

「そうじゃのう。より多くの者共と結束しなければならぬ。ぬかるではないぞ」

「私と貴方は対等関係さ。上下関係はないのだから、指図は受けない」

「そうであったな。すまない」

「分かってくれればそれでいい」

 

 ぬえと華陀はそれぞれの目的の為に動き始める。

 これは、後に幻想郷を揺るがす大きな異変の、序章に過ぎない。

 

 

「幽々子様。お食事の用意が出来ました」

 

 幻想郷は冥界。そこに存在する白玉楼。冥界の番人たる西行寺幽々子は、剣術指南役兼庭師である魂魄妖夢の作った料理に舌鼓を打とうとしている所だった。

 幽々子はよく食べる。雑に十人前は平らげてしまうのではないかと思われる程の大食いだ。白玉楼における経費の使い道のほとんどは、幽々子の食事代に潰えてしまう。最近の妖夢の悩みの種の一つだった。

 

「いつも美味しい料理をありがとう」

「幽々子様の為ですから……」

 

 笑顔でそう言う妖夢だが、内心大変なのは否めないだろう。

 兎にも角にも、そうしていつものように平和なひと時が流れようとしていた。

 

「今日の料理も腕によりをかけました。美味しく召し上がってください」

「そうさせてもらうわ。貴女もおかけになって食べないの?」

 

 何処かへ行こうとする妖夢に対して、幽々子が呼び止める。

 元々、食事の時には二人で食べるのがここの習慣だった。

 故に、今妖夢がとろうとしている行動が、彼女にとって珍しいものだったのだ。

 

「先に厠へ……すぐに戻ります。ですが先に食事を初めて頂いて構いませんよ。幽々子様の食事スピードを考えれば、後からでも追いつけると思いますので」

「そう……分かったわ。妖夢の作ってくれた美味しい料理ですもの。でも私、貴女と食べるこの時間も味わいたいと思っているから、なるべく早く帰ってきなさいね」

「厠行くだけですので早めも何もないと思いますが……待たせてしまうのも申し訳ありませんので、失礼させていただきます」

「えぇ。いってらっしゃい」

 

 幽々子に断りを入れると、妖夢は部屋から出る。そこには、先程まで見せていた笑顔は消え、真剣な面持ちで前を見る妖夢が居た。

 幽々子が居る部屋を後にし、鳥居の前までしばらく歩みを進める妖夢。そうして進んだ後、立ち止まって、こう告げた。

 

「先程から気配がしました。貴方は何者ですか?」

 

 二本の剣に手を添えて、いつでも抜刀出来るようにしながら尋ねる。

 彼女の目は、前に居る侵入者を捉えていた。

 腰に差した剣は二本。相手も同じく二刀使いだった。

 

「だんまりですか……この場所が何処であるか分かっていての狼藉か?」

「……」

 

 番傘を被っている為に、妖夢からは相手の顔が窺えない。

 体格からして男であることは予想がつくものの、それ以上の情報が入ってこないのだ。

 だが、彼女はなんとなく感じ取る。

 

 ――相手がただ者ではない、ということを。

 

「この地を踏まず、今すぐにでも立ち去るというのであれば手出しはしません。ですが、抵抗するというのであれば……」

 

 彼女は二本の剣を鞘から引き抜き、剣先を相手に見せ、

 

「この場で貴方を斬り伏せます」

 

 彼女自身が持ち得る限りの殺気を、相手にぶつけた。

 だが、相手はそれだけでは動じない。それどころか、妖夢と同じように、腰に差した二本の剣を引き抜き、同様に剣先を見せつけたのだ。

 

 まるで妖夢の真似をするかのように。

 

「……不愉快ですね。貴方に同じような動きをされると、私としても腹が立ちます。よろしいです。これは宣戦布告とみなします。覚悟はよろしいですね?」

 

 男は何も答えない。

 だが、元より妖夢は答えを聞くつもりがなかった。

 

「あったとしてもなかったとしても、問答無用で斬り倒します――!!」

 

 そして妖夢は、男に向かって剣を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百八十二訓 何か行動を起こす時はまず仲間を集めることが先決

 



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第百八十三訓 自分と同じような技を使ってくるやつには気をつけろ

「はぁっ!!」

 

 先手を取ったのは妖夢だった。彼女は右手に握った剣を振り下ろし、相手の首を狙う。だがその攻撃は相手の剣により弾かれる。

 もちろんそれは妖夢の読み通り。すかさず左手の剣を振り上げて相手の息の根を確実に止めようとする。

 が、それも相手によっていなされる。

 

「一体何が目的ですか? この地に何の用があるというのですか?」

 

 剣と剣をぶつけ合いながら、妖夢は尋ねる。しかし男はその質問に答えようとしない。

 

「だんまりですか……ならば、力づくで吐かせるのみです!!」

 

 追い払うことこそ最大の目的だが、それ以上に男が来た理由を知りたかった妖夢。そんな彼女を挑発するように、何も言わずただ剣を振るっている男。

 だが、何度か打ち合っているうちに妖夢は感じ取る。

 

 目の前の男が、剣の手練れであるということを。

 

「天晴れです。ならば……!」

 

 剣のみの戦いではいつまで続くのかわからないと判断した妖夢は、次なる攻撃手段を用いることにした。

 

「幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』」

 

 縦横無尽に駆け巡り、斬撃を繰り出していく。その軌道からは無数の弾が繰り出される、

 スペルカードによる弾幕攻撃。

 能力を持っていなければ並大抵の人間には避けることが難しいもの。当然、剣のみで戦う男には避けるのが難しいものと思われた。

 だが。

 

「……っ!!」

 

 男も同じように縦横無尽に駆け巡り、斬撃を放つ。そしてその軌道からは、やはり妖夢と同じように弾幕が放たれた。

 

「なっ……!?」

 

 妖夢にとって、これは二つの意味で驚くべきことだった。一点目は、相手も同じように能力を持っていたこと。もう一点は。

 

「今の太刀筋……私と、同じ……?」

 

 繰り出された技は、妖夢が放った物と同じ……いや、厳密にいうと、妖夢のものよりもより洗練されている。

 

「……私の技を真似している?」

 

 妖夢は次なる技を放つ。

 

「人符『現世斬』」

 

 一度目を閉じ、そして大きく目を見開いて、剣を構えたまま突進する。そのまま二対の刃を以て相手の身体を斬り裂く攻撃だ。

 しかし、

 

「なに……!?」

 

 寸分違わず、同じ構えを取って、同じように突進してきたのだ。

 いや、妖夢がそうするよりも先に、男は妖夢と同じ動きをした。

 

「くっ……!」

 

 動きに気を取られた妖夢は、剣を握る力が鈍ってしまう。

 放たれた技が同じである時、その技の破壊力を以て勝敗が決まる。妖夢が力を抜いてしまったことはもちろん関係しているだろうが、それ以上に、相手の攻撃の方が一枚上手だった。

 ガキン! という音と共に、妖夢の剣が弾かれる。それはそのまま宙を舞い、妖夢から見て後ろの方へといき、そのまま地面に突き刺さった。

 当然、妖夢は攻撃手段を失う。次なる攻撃を繰り出すには剣を取りに行かなければならない。それを目の前の男が許すならば、だが。

 

「今の太刀筋……真似ていたわけではなく、私の技を知っていた……その上、私の技の更に上をいく……まさか、貴方は……」

 

 妖夢はこの段階であることに気付く。

 今こうして目の前にいるこの男は。

 剣を振るい、その剣を鞘に収めたこの男の正体は──。

 

「強くなったな。だが、まだまだ空気を斬れるようにはなっていないようだ……雨は斬れるようになったといったところじゃな」

 

 男は番傘を取り、その正体を現す。

 その男の顔を見て、妖夢は驚愕の表情を浮かべた。

 

「な、何故、貴方が……」

「儂にはここに来た目的がある。その為にもお主らの力が必要だと判断した。だが、久しぶりに舞い降りた地であったが故、少々はしゃぎ過ぎたようじゃ。柄にもなく、弟子にこのような所を見せてしまうとはのぅ……」

 

 まるで幼い子供を慈愛の眼差しで見つめるように、男は語る。

 この男のことを、妙齢の男性のことを、厳格な剣客のことを、魂魄妖夢は嫌という程知っている。

 知っているが故に、彼女は感情が抑えきれなくなっていた。

 

「……ふざけないでください! 今更帰ってきて、どういう風の吹き回しですか!?」

 

 溢れる想いは叫びと化し。

 男にぶつけられるその想い。

 そして妖夢は、その名前を口にする。

 

「……師匠!!」

 

 男の名前は魂魄妖忌。

 妖夢の師匠であり──彼女にとって大切な存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百八十三訓 自分と同じような技を使ってくるやつには気をつけろ

 




というわけで、妖夢の祖父、魂魄妖忌さんの初登場です!!


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第百八十四訓 嵐の前には静けさが訪れる

 江戸は歌舞伎町。

 場所は万事屋。

 そこではいつも通り依頼のない銀時達が、だらだらしながら会話をしている様子があった。

 

「やっと俺達の出番だな」

「アドバルーンの一件以来、全然話に出てきませんでしたからね」

「ぶっちゃけ暇してたアル。たまには何処か遊びに行くアル」

「そうだよギン兄様! 紅魔館に遊びにきてよ!」

「地霊殿でもいいのだ〜。お兄さんと一緒ならどこでも良いけど、お姉ちゃんもお兄さんに会いたがってるよ〜」

「そういや最近あんま顔出せてなかったからな……たまにはそうするのもありかもな……」

「最早フランちゃんにこいしちゃんがここにいるのは当たり前になってきましたね……」

「何ニヤニヤしてるアルかロリコン」

「ニヤニヤしてねぇよ!? 勝手に人の印象捏造しようとしないでよ神楽ちゃん!!」

「ギン兄様、ろりこんってなぁに?」

「こいしも気になる〜」

「ロリコンっつーのはだな……」

「あんたも説明せんでええわ!!」

「「えー」」

「とりあえず、暇つぶしにゃちょうどいいし。とりあえず幻想郷に足運ぶのはいいかもしれねぇな」

 

 椅子から立ち上がり、銀時は襖を開ける。ちょうどその時だった。

 

「銀さん! 暇だから遊びに……ひぎゃっ!」

 

 ちょうど万事屋に入ろうとしていた魔理沙が、銀時の懐にダイレクトアタック! 

 銀時は悶絶した! 

 

「ぐおぉ……て、テメェ……な、なにすんだごら……」

「わりぃわりぃ! まさか目の前にいるとは思わなくて……前方不注意ってやつだぜ!」

 

 特に悪びれた様子もなくニコニコしている魔理沙。彼女らしいといえばそれまでなのかもしれない。

 

「ギン兄様、大丈夫?」

「お兄さんしっかりー……」

 

 銀時のことを心配しているフランとこいし。

 そんな二人を安心させるように、銀時は二人の頭を撫でながら、

 

「とりあえずの所は大丈夫だ。そんな心配しなくても平気だからな」

 

 と、優しく言ったのだった。

 そんな彼の言葉を聞くと、フランとこいしは安心しきったように銀時に抱き着く。

 

「相変わらず仲がいいぜ。その光景見る度に霊夢の奴が機嫌悪くなるから宥めるのが大変だぜ……」

 

 魔理沙がポツリとつぶやいた。

 

「あれ? そういえば霊夢さんは今日いないんですね?」

 

 気になった新八が尋ねる。

 確かに、魔理沙が来るときには大抵霊夢もセットになって動いている。しかし今回は魔理沙のみで来ているため、今までの中では珍しい方と言えなくもないだろう。

 そんな新八の質問に対して、魔理沙は答える。

 

「なんでも今日は紫に呼ばれたって言ってたぜ」

「あのBBAに?」

「神楽ちゃんは何故八雲さん相手だと当たりがそんなにキツイの!?」

 

 紫の名前が出るたびに敵意むき出しとなる神楽。彼女達は本能的に気が合わないのかもしれない。

 

「しかし、アイツが呼び出しなんて珍しいな。余程真面目な話でもあるってのか?」

「どうだろう? 流石にどんな話をしてくるのかは聞いてないから、そのあたりは後で霊夢に聞かないと分からないぜ」

 

 とはいえ、八雲紫が博麗霊夢を呼び出すという事実は、幻想郷においては結構重大なことだったりする。たまたま会ったとかならともかく、紫に関しては基本的に自分から動こうとした時、幻想郷絡みで何かしら起きた時がほとんどだ。

 

「ギン兄様……もし異変だったとしても、あまり無茶はしないでね? フラン達を頼ってね?」

「お兄さんがいなくなるのは……嫌だから……」

 

 心配そうな顔で見つめるフランとこいし。

 彼女たちにとって坂田銀時とは居場所そのものだ。家族と同等の存在なのだ。故に、銀時が極端に傷つくことを恐れ、居なくなるかもしれない恐怖に常に襲われる。もちろん彼が帰ってくることを信じている。それでも、万が一の可能性は捨てきれない。

 

「……んなツラすんじゃねぇよ。何度も言ってんだろ? 一度背負った荷をそう簡単に降ろすつもりはねぇって」

 

 安心させるように彼が言った、その時のことだった。

 

「……万事屋に、頼みたいことがあるの」

 

 先程まで紫に呼び出されていた霊夢が、銀時達の前に現れたのだった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百八十四訓 嵐の前には静けさが訪れる



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第百八十五訓 本当に怖いのは人の心に付け入る奴

「んで、どうしたんだ霊夢。珍しく真面目な表情見せてっけど、なんかあったのか?」

 

 銀時は、普段の霊夢とは違う何かを感じ取ってそう尋ねていた。無気力な感じを出している彼女が、極端なことを言ってしまえば殺気立っていると言っても過言ではない程にピリピリしている。銀時はもちろんのこと、側にいる時間が長い魔理沙ですらなかなか見ることのないことだった。

 

「……今回の一件は流石に私一人だけではどうにも出来なさそうなの。だから、万事屋の力を借りたいと思ってここに来たのよ。このまま放っておいたら……幻想郷が崩壊するとまで紫に言われたわ」

「幻想郷が崩壊!? 霊夢そりゃ一体どういうことだぜ!?」

 

 最初に反応したのは魔理沙だった。こいしとフランの二人も、驚きのあまりに目を見開いている。

 幻想郷の崩壊。

 即ちそれは、彼女達の居場所を取られてしまうことを意味する。

 

「……順を追って説明するわ」

 

 霊夢による説明が始まった。

 

 

「いきなり何よ。こんなところまで呼び出して……ここじゃなきゃ出来ない話なの? スキマの中で会話するのって何だか薄気味悪くてあまり好きじゃないんだけど……」

「申し訳ありませんわ。確実に外界との接触をシャットダウンできるような場所がここしかありませんでしたから……」

「……それだけ真面目な話、ってわけね」

 

 周りに無数の目が浮き出ているスキマの世界。八雲紫に呼び出された霊夢は、紫の話を聞いていた。何の話をされるのか具体的に把握しているわけではないものの、その話の重要性が如何程なのかは瞬時に判断出来た。

 外部に漏れては困る話。例えばそれは、幻想郷の存在そのものに関わる話である可能性。

 

「幻想郷を滅ぼそうと企んでいる不埒な輩がいるの」

「幻想郷を滅ぼそうと?」

「より正確に言えば、幻想郷を妖怪のみの力で支配しようと企んでいる、といった方が確実かしら」

「……つまり、幻想郷から人間を排除しようとしている、と?」

「流石は霊夢。話が早くて助かりますわ」

 

 幻想郷から人間を排除する。

 即ち、幻想郷のバランスを崩そうとしているというわけだ。

 

「私としては、幻想郷に生きとし生けるものすべてを愛していますの。そんな彼ら彼女らを脅かす存在は根こそぎ排除したいと考えていますの……幻想郷に流れ着いておきながら、支配しようと企むなどと……」

「なかなかの敵知らずね。ソイツ」

「えぇ。幻想郷を敵に回すことの恐ろしさを、味わうがいいですわ」

 

 紫にしては珍しく、怒りの感情を隠さないでいた。それだけ今回の一件は重い罪となり得るものなのだろう。

 

「しかし、相手は一体どこのどいつなのよ。紫がそれだけ警戒しているってことは、それなりに腕の立つ相手なの?」

「その女自体に脅威はあまりないですわ。むしろ単体の力ならば今まで異変を起こしてきたどんな人物よりも弱いとまで言えますわ。そもそも弾幕ごっこをする為の能力を持ち合わせておりませんから」

「なによ。それなら一捻り出来るじゃないの」

 

 霊夢としては拍子抜けだった。

 八雲紫が警戒するというのだから、それなりの力の持ち主だと思っていたからだ。

 しかし、紫が警戒しているのはその人物の力ではなかった。

 

「厄介なのは、その相手が狡猾であるという点よ。つまり……」

「相手の心に付け入り、仲間を増やしていくのが上手い、ということね」

「ある意味では悪役としてのカリスマだけなら兼ね備えていますわ。既に何人もの妖怪が口車に乗せられて、彼女の仲間として取り込まれていますわ」

「そうやって準備を整えている、ってことね……」

 

 本当の恐怖は、幻想郷に住まう妖怪のほとんどが味方についてしまうこと。

 そうなる前に目的の人物を倒さなければならない。

 

「で、犯人に目星はついてるの?」

「えぇ。その人物の名前は……」

 

 紫の口から、その人物の名前が告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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第百八十五訓 本当に怖いのは人の心に付け入る奴



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第百八十六訓 結束を固めるのはとても重要なこと

「華陀……あのアマ、まだ懲りてなかったってか……」

 

 霊夢より告げられた名前を聞いて、銀時は苛立ちを隠すことなく曝け出す。

 かつて歌舞伎町を我が物にしようとした彼女。そして、幻想郷においても自らの手に収めようと企んだ女狐。しかしその野望はやはり阻まれている。

 

「今回における厄介な点は、敵が人脈を広げようとしている所。注意喚起をしようとしたところで、いくら何でも幻想郷全域の妖怪たちまで幅を広げるのはなかなかに難しいことだわ」

 

 霊夢もまた、今回の異変における犯人のやり口に対してあまり快く思っていない様子だった。

 ただし、将として動こうとしている者のやり方としては正しいことに間違いはない。敵がそのやり方を以て制圧しようと企むのだとすれば、少なからず味方を増やさなければ話にならないからだ。裏切られて殺されるようなことがあったら目も当てられない。そう言う意味では、華陀のやり方は褒められるものといっても過言ではないのかもしれない。

 

「けど、それならばソイツぶっ倒してしまえば解決するんじゃないのか? 見つけて踏んじばってやるぜ!」

「場所が分かるのならば最初からそうしているわよ。それに、紫だって見つけ出しているのに手を出せていない理由があるのよ」

「どういうことですか?」

 

 確かに、敵の名前まで把握している上に、幻想郷の危機ときては、本来ならば八雲紫は黙っていないわけにはいかないのだ。つまり最初に行動していたとしてもおかしくはないということになる。

 だが、今回紫はそれをしていない。

 つまりそこには明確な理由が存在する。

 

「もしかして、既に敵になっている妖怪がいる、アルか?」

「……」

 

 霊夢は何も言葉を返さない。

 しかしそれは無言の肯定。

 確実に、神楽の呟きが正解であったということを意味していた。

 

「安心なさい。恐らく私達の周りに居る妖怪達は向こうにつこうとか思っていない筈だわ。けれど、まだ私達がそんなに会ったことのない妖怪達となると話は変わってくる……それに、今回の異変はそれだけじゃないのよ」

「それだけじゃないって、どういうこと?」

 

 銀時にくっついているフランが尋ねる。

 

「まずは華陀による幻想郷転覆計画。それに便乗……もしくは転覆計画の一環として、既に別の異変が始まりつつあるの」

「もうそんな状態になっているのー?」

 

 驚いたようにこいしが目を見開く。

 霊夢は真剣な表情を崩すことなく、説明を始める。

 

「本来ならば気の弱い筈の妖精や妖怪達が、まるですべてひっくり返ってしまったかのように強気になって人を襲おうとする異変……この二つが同時に起こされているというわけ」

「今回は二つも同時に起きちまっているってわけか……いや、これは華陀の計画の一つなのか……?」

 

 これがもし華陀の計画だとすれば、辻褄が合う部分も存在する。

 彼女は幻想郷において味方がいなかった。そんな彼女が短期間で仲間を集めるにはどうするべきか。自分から話しかけにいった所で、一度異変を起こした上に改心していない彼女だ。そんな彼女に対して信頼する者が現れるとはなかなか考えにくいだろう。

 ならば、新たに異変を企てている者を利用すればよい。

 

「とはいえ、妖怪への人脈を持っていない筈の彼女に、そんなことが出来るのでしょうか?」

「……やはり、思い当たるとすれば今までの異変関連で、関係者を既に見出していたとしか思えないわね……」

 

 それが果たして誰なのか、霊夢達に思い当たる節はない。

 だが、そう考えるのが自然であることに間違いはない。

 

「兎にも角にも、まずは情報が欲しい所だな……幻想郷行って、ちょっくらあの女狐との決着つけてくるとするか」

「ありがとう……味方は少しでも多い方が心強いわ」

「そういうことなら私も行くぜ!」

「フランだってギン兄様のお手伝いするもん!」

「私も手伝うよー。お兄さんのお役に立てるよう頑張る!」

「万事屋として僕達もお供します!」

「私も戦うアル!」

 

 ここに一同の心が結束した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

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第百八十六訓 結束を固めるのはとても重要なこと

 

 



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第百八十七訓 欲に忠実な者は時に横暴になる

「それで、説明してくださるのでしょうね……?」

 

 白玉楼にて。

 西行寺幽々子は、かつて自分に仕えていた魂魄妖忌に尋ねる。妖忌は、妖夢と同じように──いや、本来ならば彼が剣術指南役兼庭師を勤めていた。しかし、ある日を境に突如として姿を消し、その役目は妖夢へと流れたのである。

 そんな彼に、幽々子は聞かざるを得なかった。

 

「貴方は何故帰ってきたのか……そして、今まで貴方は何処で何をしていたのかしら……?」

 

 幽々子や妖夢の前に姿を現すことのなかった空白の期間。その中で彼は何をしてきたのか。そして、どんな理由があってその空白の期間に終わりを告げることとなったのか。幽々子としては、どうしても気になるところだった。

 

「……幻想郷の危機が迫っております。儂が貴女様方の前から姿を消したのも、こうして貴女様方の前に現れたのも、貴女様の愛する場所を護るためでございます」

 

 妖忌は真剣な眼差しでそう語る。

 

「幻想郷の、危機……?」

 

 幽々子のすぐ近くに控えている妖夢が、ポツリと言葉を溢す。

 

「左様。幻想郷を狙う怪しき輩が暗躍しておる。その者達から白玉楼を護る……儂はその為に帰ってきたのだ、妖夢」

「……っ!」

 

 その眼差しは、かつての物と変わりなかった。剣術の師匠としての厳しい目。白玉楼に住まう者としての目。そして、祖父としての優しい目。

 温かいのだ。妖夢が欲していた、求めていた、羨んでいたものがそこにある。そんな気さえ彼女はしていた。

 

「此度の戦はそう簡単に収まるものとは違います。何処でどう動いているのか判断に迷います。即ち……」

 

 そこで言葉を区切る妖忌。

 押し黙る彼に、幽々子と妖夢の二人は不思議そうな表情を浮かべる。

 

「……このように、いつ何処で何が起こるか分かりませぬ故。出来ることはその時に行わせて頂きます」

「!?」

 

 妖忌は腰に差していた刀を抜き、それを振るう。

 刃が幽々子と妖夢の間を斬り裂く。

 ……しかし、その刃は何者も斬ることはなかった。

 

「ほう……よもやこの儂の攻撃を止めるか。このような地に生まれ落ちた理由は分からぬが、夜兎の攻撃を神速の刃を以て受け止める者がいようとはな」

 

 そこに居たのは、彼女達が知り得る筈のない人物。

 かつて吉原を支配していた男――夜王鳳仙。

 

「お主が何者かどうか等構わぬ。仇為す者は叩き斬る。ただそれだけだ」

「分かりやすくて結構じゃないか。貴様が、儂の野望を絶ち斬るのが先か、儂が貴様の信念をへし折るのが先か。勝負といこうではないか!」

「剣に傘を振るう場所としてこの場所は好かぬ。外に出てはどうだ」

「なるほどな。それも一興!」

 

 傘を突き刺すように振るう鳳仙。

 妖忌はその攻撃を躱し、そのまま部屋の外へと出る。

 鳳仙もまた、妖夢と幽々子には目もくれず、そのまま外へと出た。

 

「……幽々子様。あの者は」

「えぇ。亡霊ね……けれど、おかしいわ。幽霊に関する異変は、以前解決した筈……」

 

 幽々子は考える。

 大結界異変に関しては既に解決し、次の周期までは時間がかかる筈。

 しかし、こうも早く異変が起こるのは不思議な現象ともいえる。

 

「……まさか。命蓮寺が関係している? あの亡霊もまた、人間の欲が形となったもの……何者かの強い欲に引っ張られることによって、この地へ姿を現した?」

 

 人の欲が具現化した存在――『神霊』。

 鳳仙をかたどった欲は、恐らく支配欲。

 幻想郷を取り巻く状況に相応しき相手とも言えるだろう。

 当然、その答えに幽々子達が辿り着くわけがないが。

 

「とにかく、今は妖忌のサポートを。妖夢、お願い出来るかしら?」

「かしこまりました。魂魄妖夢。誠心誠意援護して参ります!」

 

 妖夢は己の持つ剣を握り締め、幽々子が居る部屋を出る。

 

「……妖夢。妖忌」

 

 部屋から出て、戦場へと向かった二人の名前を呟く幽々子。

 彼女が今出来るのは、二人の戦いぶりを見守ることのみではない。

 

「……私も私で、出来ることを探してくるわ。この地は任せましたよ、二人とも」

 

 幽々子は、今回の異変に関する調査を始める。

 

 ――異変は複雑に絡み合う。

 

 

 

 

 

 

 

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第百八十七訓 欲に忠実な者は時に横暴になる

 

 



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第百八十八訓 力と力のぶつかり合い

「ふはははははは! 久しい感覚だ。この地は陽の光が当らぬ。まるでかつて儂が根城としていた吉原を思い出させる! 良い感覚じゃ……誠良い心地だ!!」

「その思い出に浸りながら、潔く成仏されるが良い。亡霊である貴様に、行く宛など存在しない」

「そう無碍にするものでもない。お主とていずれは辿ることとなる末路だろう?」

「生憎、儂はまだまだ現役でな!!」

 

 傘と剣がぶつかり合う。

 力任せの打ち合いの中には、確かな技術が込められている。妖忌と鳳仙。二人の戦いは、最早介入など許されないほどまでに激化していた。

 

「付け入る隙が、ない……!?」

 

 故に、妖夢はその場に立ち止まるしかなかった。師匠であり、祖父である妖忌の助力となる為に来たというのに、そもそも間に入ることすら叶わない。

 

「せめて、隙を伺うことが出来れば……」

 

 妖夢は、目の前で戦う妖忌を見て、まだまだ自分が半人前であることを自覚させられた。その為に剣を習わなくてはいけないことも自覚した。

 

「師匠……っ」

 

 ポツリとこぼされた一言は、己の得物を打ち合っている彼らの耳に届くことはない。

 

「はぁあああああああああああ!!」

 

 地面に傘を叩きつけ、辺りに粉塵を撒き散らす。目眩しをするつもりなのだろう。

 しかし、妖忌はその粉塵を……。

 

「……っ!」

 

 斬った。

 土煙や粉塵を叩き切り、一気に視界を広げたのだ。

 

「む……ほほう。空気を切り裂くか」

「修業を重ねた身だ。この剣に斬れぬものなし」

「なれば儂は、貴様が初めて斬り伏せられなかった男ということになるな!!」

「欲の塊である貴様など、儂が一刀の内に沈めてやろうぞ!」

 

 妖忌は、鳳仙の首を狙って剣を振るう。首を

 落とす為の斬撃を、鳳仙は傘で振り払う。

 しかし、妖忌の剣は一本ではない。

 

「ふん……っ」

 

 振り払われた反動を使って、二本目の剣を下から上に振り上げる。今度は斬り上げようとしているのだ。

 

「甘いわ!!」

 

 鳳仙は地面を強く踏み込み、大きな瓦礫を下から上に打ち上げる。妖忌の剣は、瓦礫に阻まれて鳳仙まで届かない。

 

「どうした? 侍。この程度か?」

 

 鳳仙は相手を挑発するように嘲笑う。

 

「こちらもここまでの強敵と当たるのは久しいからな。つい打ち合いを楽しんでしまっているというもの」

「随分と余裕ではないか。まだ一太刀も入れられていないというのに」

「それはお互い様であろう? 貴様とてその拳を未だに放てずにいる。責めきれていないことに変わりない」

「だが、斬れた所で儂のこの身は亡霊だ。殺しきれぬぞ?」

「生憎、ここには貴様を消し去る手段は多数存在する。生まれ落ちたのがこの地で不運だったと思うがいい」

「戯言を。強がる必要はないぞ……!」

 

 鳳仙は知らない。

 彼の身体が霊体であるならば、この地で戦いを挑むのは本来ならば無謀であるということを。

 だがそれでも拮抗出来てしまっているのは、夜王鳳仙の力が他の者よりも絶大であるからだ。並大抵の人間であるならば、数回の打ち合いのうちに決着がついている。

 魂魄妖忌を前に亡霊が相手をするというのは本来そういうものだ。

 

「こう見えても儂は深く考えるのが苦手でな……邪魔なものはすべて斬り伏せるのが一番と考えておる」

「奇遇だな。儂も同じ考えだ。邪魔する者はすべて葬るのみ」

「「貴様は邪魔だ。死んでゆけ!!」

 

 剣と傘の衝突。

 辺りには打ち合った結果生じている余波が流れてきており、地面を粉々にしていく。それだけ、この二人の戦いが激しいことを意味していた。

 

「どうしたのだ? 今一歩決め手にかけているようだが……その自慢の剛腕は飾りか?」

「貴様こそどうしたのだ? 今一歩攻めきれていないようだが……その自慢の刀は飾りか?」

「「これからやるんだよ、間抜け!」」

 

 二人の戦いは、さらに激しさを増していく……。

 

 

 

 

 

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第百八十八訓 力と力のぶつかり合い



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第百八十九訓 普段の反動が大きいと相手を混乱させることもあるのかもしれない

 幻想郷に足を運んでいる銀時達。その何処か異様な雰囲気に、疑問を抱かざるを得なかった。

 

「なんだか、妙に殺気立っていますね……」

 

 新八がポツリと呟く。

 本来ならば大人しいはずの妖精や妖怪達が、総じて何処か妙に殺気立っている。やる気に満ち溢れているといっても良い。その状況はあまり良いものではないだろう。

 

「やはり、何者かが手を加えた結果と考えるのが妥当なようね……」

「ちょっと薄気味悪いかも……」

 

 霊夢は周囲を警戒しながら呟いた。

 フランは、銀時にしがみついている腕の力を強くする。

 

「しっかし、すべてがひっくり返ったようになってるってんなら……」

 

 何やら銀時が気付いたことがあるようだ。

 その続きの言葉に彼らは耳を傾け……。

 

「もしも土方の野郎が影響受けちまったら、オタクに戻っちまうってことになんのか?」

「何このタイミングで思いついてんだテメェエエエエエエエエエエ!! 今必要なことじゃないでしョオオオオオオオオ!?」

 

 おおよそどうでも良い事だった。

 

「いやいや、これはとても大事な事だぞ? また実写版みたいに『何を言ってるんだよ坂田氏ィ』とか、『いいよいいよぉ。次はちょっと際どいの撮ろっか……(ねっとり)』とかやられたら精神攻撃になるからな? やる気が一気に削がれるからな?」

「ちょっと照れくさいアル……」

「なんであの時のこと思い出して神楽ちゃんが照れてんの!? それに土方さんは今ここにいないから別にいいでしょうが!!」

 

 万事屋の三人はこういう時でもブレないようだ。

 

「しかし、性格とかがひっくり返るってんなら、いつもは好戦的なチルノとかはどうなるんだぜ?」

「確かにそれはそれで気になるところね……」

 

 普段はおとなしい者達が大暴れする。ならば、普段暴れている者達はどうなるというのか? 

 ある意味それを確かめる意味でも、宛もなく幻想郷を彷徨う意味でも、彼らは湖のところまで辿り着いていた。

 

「広い広い〜。ここなら遊べそうだなぁ〜」

 

 こいしは湖を見て少しはしゃいでいる様子だった。地底世界にはこれだけ大きな湖というのもあまり見かけないのかもしれない。

 

「そうだなぁ。しかし、そろそろバカ妖精が登場する頃だろうからな。それを待っててやろうぜ」

 

 銀時がそう言った、その時だった。

 

「ばかようせいって、言うなぁ……」

 

 涙目になりながら、必死に訴えているチルノが現れた。

 

「出たなチルノ! 今日も私の弾幕でぶっ飛ばしてやるぜ!」

「ふえぇ……怖いことしないでぇ……」

 

 魔理沙がミニ八卦炉をチルノに突きつける。するとチルノは、怯えるように震えてその場から動けないでいた。

 

「…………なんか、魔理沙さんが悪党に見えてきますね」

「新八それはあんまりだぜ!? いつもならここで弾幕ごっこが始まるところだぜ!?」

 

 どうやら魔理沙も調子が出ないようだ。

 それもそのはず。いつもならば真っ向から向かってくるはずのチルノが、妙に泣き虫になっているからである。

 やはり、性格が反転する影響は彼女にも現れていたようだ。

 

「なんだかかわいそうになってきた……」

 

 フランが少し同情するような眼差しでチルノを見る。

 

「まてよ? チルノがこうなってるってこたぁ、もう一人の妖精は……」

 

 銀時は気付く。

 そう。普段チルノの側には決まってついてきている妖精がいたはずだ。

 そんなことを考えていたその時だった。

 

「待つのだ!」

 

 一人の少女の声が聞こえてくる。

 その声に合わせるように、何人かが銀時達の前に姿を現す。

 

「歌で人を狂わす! ミスティア・ローレライ!」

「闇に蠢く光! リグル・ナイトバグ!」

「暗闇に潜む! ルーミアなのだー!」

「その正体は原作でも明かされない! 大妖精!」

「「「我等、バカルテット!」」」

「with大妖精!」

「「「「ここに見参!!」」」」

 

 何やら妙なテンションで現れたのは、本来ならばこんな馬鹿げたことをしない彼女達。

 普段はある一定の真面目なテンションの筈の者も混じる中、妙にハッチャケてしまっている妖精と妖怪だった。

 

「って、チルノちゃんがやってない!?」

「だって、恥ずかしいんだもん……」

 

 大妖精がチルノの肩を揺らしながら言う。それに対してチルノは、本来ならば至極真っ当な意見を述べていた。普段の彼女ならばノリノリでやっていたことだろう。

 

「もーダメなのだー! バカルテットは四身一体! いつ如何なる時も合わせなきゃなのだー!」

「そこに大ちゃんも加わってより強くなったんです! 私達に敵なしです!」

 

 楽しそうにはしゃぐルーミアと、いつもならばそんなテンションで物を語ることはないだろうリグル。

 

「そうそう! 楽しくはしゃいで敵をなぎ倒す! それが私たちじゃない!」

 

 そして割と物騒なことを言っているミスティア。

 そんな彼女達を見た銀時の一言。

 

「…………なんだこれ」

 

 

 

 

 

 

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第百八十九訓 普段の反動が大きいと相手を混乱させることもあるのかもしれない




シリアスが長続きしませんでした()


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第百九十訓 やはりある程度欲望を解放しなければいざという時にとんでもないことになるのかもしれない

目次の所に既に載せておりますが、ヒュウ様より支援絵を頂きました!
是非ご覧になってみてください!!


 混乱のあまり、銀時達が反応出来ないままでいる状態が続く。そんな中で痺れを切らして最初に銀時達に絡んできたのが、

 

「もー新八さん! せっかく私がきたっていうのにノリ悪いじゃないですかっ! 私、新八さんに会いたくて会いたくて震えていたっていうのに、なんで新八さんがそんなにキョトンとしているんですかぁ!」

 

 リグルだった。

 彼女は普段、そんなにテンション高い存在ではない。むしろどこか引っ込み思案で恥ずかしがり屋で、新八と手を繋ぐだけでも相当の勇気が必要な少女だった筈だ。そんな彼女が今、物凄くニコニコしながら新八に抱き着いている。それはもう今が最上級の幸せなのではないかと思われる程、満面の笑みを浮かべて。

 

「え、えぇええええええええええええええええ!?」

 

 これには新八も驚きだ。

 驚きというよりも、まさかの展開にドギマギしているといった様子だ。

 何せ彼は、作中屈指の●貞……。

 

「ってちょっと待てェエエエエエエエエエ! 何不名誉なことを地の文で書こうとしてんだゴラァアアアア!」

「落ち着くんだぜ新八! 一体何のことなんだぜ!?」

 

 暴れそうになる新八にツッコミを入れた魔理沙。

 しかし、そんな彼女を許さないのが……。

 

「……新八さんに近づかないでください。新八さんは私のものなんです。私だけの新八さんに話しかけないで下さい……!!!!」

「ひぃいいいいいいい! なんか性格反転し過ぎて愛が重くなっているぜ!?」

 

 その威力、あの魔理沙を怯ませる程……!

 

「いいぞリグルー! もっとやれー!」

「は、囃し立てるのはよくないぞ、ミスティア……お、怒られちゃったら、どうするんだ……?」

「怯える必要はないよチルノちゃん! だってリグルちゃんは今! 自分の愛を手に入れようとしているの!! 私達が応援しないで誰が応援するっていうのよ!!」

「そーなのだー! それに私だって、銀さんとイチャイチャらぶちゅっちゅしたのだー!」

「あれェエエエエエエエエエエエエ!? ルーミアってこんなキャラだっけェエエエエエエ!?」

 

 会議を始めるバカルテットwith大妖精。

 そんな中で突如として頭角を現したルーミアに対して、思わず銀時がツッコミを入れてしまっていた。

 一応ルーミアは食いしん坊キャラの筈。そんな彼女は今、一言も『おなかすいた』と言っていない。

 彼女の中で、銀時と食事のバランスが逆転しているのかもしれない……もともとそこまで大差なかったとは思われるが。

 

 

「駄目……ギン兄様は、渡さない……っ」

 

 そんなルーミアの気配を感じ取ったのか、フランの腕の力が強まる。銀時を絶対に離さないという意思表示が周囲にも伝わってくるほどだ。

 今この場で繰り広げられようとしていること、それは――坂田銀時という一人のチャランポランを巡った、女と女の戦い――所謂、修羅場。

 

「銀さんは貴女だけのものではないのだー! ルーミアだって、銀さんに抱き着いてスリスリしてもふもふしてちゅーしてふにふにしてイチャイチャしたいのだ!!」

「とんでもない欲望がダダ漏れになっているけれど大丈夫なのこれ。え、ていうかこれ、本当に全年齢にして平気なの? そろそろ運営からお叱りこない? 連載休止処分とかあり得ない?」

「ちょっと霊夢!? メタ過ぎる発言はそこまでにするんだぜ!? 大体霊夢まで暴走しちまったら、誰がこの場を収めるっていうんだぜ!?」

「魔理沙、君に決めた!」

「マサラタウンにさよならバイバイしてないぜ!?」

「俺はコイツと旅に出る」

「うるせぇアル」

「銀さんまで暴走しないで欲しいぜ!? ああもうまともな人がほとんどいないぜ!?」

 

 この場で唯一といっても過言ではない。

 今一番まともなのは、霧雨魔理沙だ。

 彼女こそ、このカオス状況を覆すキーウーマン……にはなれないかもしれない。

 

「新八さ~ん。私達もたくさんイチャイチャしましょうね~」

「り、リグルちゃん!? そそそそ、そんなに抱き着いちゃったら、い、色んな所が当たって、僕のキャノン砲が火を噴いちゃうよ!?」

「気持ち悪いネ。近づくなヨ変態」

「変態ってなんだァアアアアアアアアアアア!!」

「ふえぇ……私どうしたらいいのか分からないよぅ……」

「とりあえず私と一緒に侍さんを倒そうよチルノちゃん!」

「大ちゃんの言う通り! 歌っている場合じゃないわ! みんなで力を合わせれば、天然パーマなんてイチコロよ☆」

「ギン兄様は……絶対に渡さない。ギン兄様は私と一緒に添い遂げるんだから……っ」

「銀さんを返すのだー!」

 

 ……もうこの場が収まる気配はなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

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銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百九十訓 やはりある程度欲望を解放しなければいざという時にとんでもないことになるのかもしれない

 



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第百九十一訓 迷いを断ち斬る一振りの剣

「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ォオオオオオオオ!!!!」

 

 吼える。叫ぶ。猛る。

 鳳仙と妖忌の戦いは、もはや他者からの介入を許さない程熾烈な物となっている。剣と傘による激しいぶつかり合い。それでいて、互いに疲弊している様子はない。

 主人を守る為に剣術に命を懸けてきた男と、最強部族としてその力を存分に振るう男。たとえ彼らの身体が老化によって蝕まれていようとも、止まることなど決してあり得ない。

 

「休んでいる暇などないぞォオオオオオオオ!!」

 

 鳳仙は地面を叩き、大量の粉塵と瓦礫を撒き散らす。妖忌は迷うことなくそれらを一閃。

 

「この程度で儂の動きを止められると思うたか? 間抜けぇ!!」

 

 俊速。

 空間を何回も斬り裂き、そこから大量の衝撃波を生み出す。即ち斬撃による弾幕。

 

「小細工など通用せぬわァアアアアアアアアアア!!」

 

 今まで畳んでいた傘を広げ、鳳仙はそれらの攻撃を未然に防ぐ。そのまま前へと駆け、傘を広げたまま妖忌へと突っ込んでいく。

 広げている限り、妖忌がどれだけ弾幕を張り巡らせようとも、鳳仙に当たることはない。

 

「なれば……っ!!」

 

 妖忌は敢えて真正面からそれを受け止めた。

 

「「フヌォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」

 

 衝突する。

 彼らの有り余る力が、周囲へと溢れ出す。抱えきれなくなった衝撃が、地面を揺らし、斬り裂き、粉砕する。

 

「っ!!」

 

 そんな中、鳳仙は広げた傘を──そのまま妖忌めがけて投げつけた。

 妖忌は躊躇うことなく傘を弾き飛ばす。だが、そんな彼を待ち受けていたのは。

 

「ふんっ!!!」

「っ!?」

 

 振りかざされていた、鳳仙の拳だった。

 周囲に影響を及ぼすほどの剛拳。その直撃を身体に許してしまったとしたら、どれだけ鍛えていたとしても相当なダメージを受けることになるのは明白だ。故に妖忌は、この攻撃をなんとかしなければならない。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 腰に差していた鞘を、鳳仙の拳に叩き上げた。これによって鳳仙の攻撃は軌道をそらす。だが、その軌跡に作り上げられた衝撃は、妖忌の身体に容赦なく響く。ただ掠めただけであるというのに、全身の筋肉が泣き喚いた程だった。

 

「これ程までに儂と拮抗した者はおらぬ。しかもその身一つで儂相手にここまで立っていられるとは……実にこの地は面妖だ」

「お主こそ、儂を前にして斬り伏せられぬとはな。実に興味深い相手だ」

「何、そのようなことなど他愛無い。むしろ儂にとっては、貴様の攻撃など子守唄にも等しい」

「その言葉、そのまま返してしんぜよう。お主のそれは飾りなのかと疑ってしもうたわ」

「弱い狗程よく吼える。如何なる世界でも共通する事柄よの」

「全くだ。自分を強く見せようと躍起になるから困ったものよ」

「「誠、今宵の戦いは久々に楽しめそうじゃ!!!!」」

 

 それぞれの全力をぶつけ合う相手が前に居る。

 ただそれだけで、二人の心は踊っているのだ。

 叩きつけ、避け、斬り裂き、受け流し、攻撃を止めない。

 

「よもやその執念深さは怨霊の域にすら達するな。貴様一体何者だ?」

「何、ただのしがない流浪人だ。少し剣術を振るえるのみのな……お主こそ何者だ?」

「何、ただのしがない遊び人だ。少し力が強いのみのな!」

「お互い似たようなものじゃのう」

「まったくじゃ。まだくたばってくれるなよ? 遊び人としてまだ遊び足りないのだからな!」

「そういうお主はここでくたばりやがれ。お主はこの地の平穏を阻害する。亡霊は大人しく消え去るが良い」

「そう言うてくれるな、流浪人。まだこの地に降り立ったばかりでな。消え去る気など毛頭ない」

「そうであったか……なれば……」

 

 妖忌は覚悟を決める。

 剣を鞘に収め――居合いにて一閃するつもりだ。

 

「ほう……一太刀にて沈めようというのか。良いだろう。儂も本気でいくとしよう」

 

 それを受け、鳳仙もまた、握り拳に力を籠める。

 先程までの争いは嘘のように止まり、辺りに静けさが訪れる。

 それが嵐の前の静けさであることは明白だ。

 

「儂を止めてみよ!! 流浪人!!」

 

 鳳仙は勢いよく突っ込んでいく。

 それを受け、妖忌は告げる。

 

「あぁ。お主を止めてみせようぞ…………儂『ら』の力でな」

「何を……!?」

 

 瞬間。

 

「……貴方の迷い、断ち斬りました」

 

 音のない瞬速。

 目に留まることもなく、妖忌のたった一人の弟子――魂魄妖夢は、刀を静かに収めた。

 

「きさま……きさまぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 妖夢の剣――白楼剣の一閃が、鳳仙の身体を斬り裂いたのだった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第百九十一訓 迷いを断ち斬る一振りの剣

 

 



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第百九十二訓 ちょっとしたギャップにはドキドキしてしまうもの

 バカルテットwith大妖精の襲撃(?)を退けた銀時達は、湖に沿ってそのまま人里まで向かっているところだった。華陀の目的が妖怪や妖精ではなく人間ならば、そこに何かしら仕掛ける可能性があったからだ。

 

「しかし、性格とかが逆転してる異変だったか? なかなかに迷惑だなこりゃ……」

 

 銀時が面倒臭そうにポツリとつぶやいた。

 

「本当ね……けど、あのチルノが大人しかったのは都合いいことじゃない」

 

 霊夢の言う通り、たしかにチルノはおとなしかった。普段あれだけ騒がしいので、今回の異変では逆に静かに……というかヘタレになっていた。ただし頭の中身は反転しなかった模様。バカはいつまで経ってもバカなままという悲しい現実である。

 

「ちょっと僕はドキドキしちゃいました……」

 

 ある意味今回一番得したのは新八かもしれない。普段はあんなラブコメ展開になることなどそうないのだが、何せあのリグルから積極的にグイグイいかれたのだ。多少その愛が重かったとしてそれすらも可愛いもののように思えているのかもしれない。異変が収まれば元どおりになるから、というのもあるだろうが。

 

「気持ち悪いネ変態。近寄るなヨ」

「オィイイイイイイイイ!! なんで僕は引かれなきゃならないんですかァアアアアアアアアア!!」

 

 ジェスチャーで『近寄るな』とばかりに手を払う神楽に対して、新八はいつものようにツッコミを入れる。

 そんな彼に対して魔理沙が一言。

 

「そりゃ……今のはちょっと……キモいぜ」

「魔理沙さぁあああああああん!?」

 

 とうとうツッコミ役からも見放されていた新八なのだった。

 

「さっきはちょっとドキドキしたなぁ……お兄さんってば、あの女の子にちょっかい出されてたんだものー。フランちゃんが退けてくれたからいいものの、こいしはちょっと残念かなー」

 

 そういえばあの場において唯一発言せず、かつ、存在感を消していたこいし。

 もしかしたら彼女は静かに怒っていたのかもしれない。

 

「ったく、それくらいでどぎまぎしてんじゃねえよ。あれは異変が招いた結果の産物だろ? 普段からああってわけじゃねえし、何よりテメェら放っておくつもりもねぇっての」

「わぷっ」

「ふにゃっ」

 

 少し拗ねているように見えるこいしと、最早語らなくとも銀時に抱きついたままのフランの頭に、銀時は自分の手を乗せる。そのまま少し乱暴に、しかし優しく頭を撫でた。

 

「ま、なんつーか。今回の異変が一筋縄ではいかねぇってのと、これをもし華陀が利用してるってんなら、面倒なことになりそうだっていうことは分かったな」

「そうね。普段はおとなしい妖精や妖怪達が一気に暴れまわったりでもしたら只事じゃないわ。今の様子を見て大体把握出来たでしょう」

 

 霊夢の言う通り、基本的に幻想郷では妖精や妖怪達が人を襲うことはあまりない。確かに中には人を襲う妖怪もいるものの、弾幕ごっこのルールが幻想郷に広まっている限りは双方に平等になるように仕組まれている。

 しかし、暴走となれば話は別だ。ルール無用の殺し合いがそこで繰り広げられるというわけだ。単純な力の差では、妖怪の方が上となるケースの方が多い。そもそも弾幕ごっこにしたって、能力を持っている人間の方が珍しいのだ。幻想郷にいるからと言って、すべからく全員に能力が備わるとは限らない。

 

「なんにせよ、警戒するに越したことはないぜ。こうしていつどこで誰が来てもおかしくない状況なわけだしな。まっ、きたとしても私のマスタースパークで一撃だぜ!」

「本当こういう時、アンタの能天気さはありがたいわね……」

「能天気は余計だぜ!」

 

 数々の異変を解決してきた魔理沙だからこその余裕。そしてそんな彼女を信頼しているからこその、霊夢の言葉。

 流石は東方側の主人公サイドと言った所だろうか。

 銀魂側はただ鼻くそ量産しているだけだというのに。

 

「……っ!?」

 

 そんな時だった。

 銀時が何かの気配に気付き、木刀を握り締める。

 

「どうしたんですか銀さん!?」

 

 真っ先に新八が尋ねた。

 新八もまた、銀時に倣って木刀を握り締める。

 

「誰かいる……気を付けろ」

 

 気配を感じ取れているのはアドバンテージに繋がるだろう。

 だが、それは同時に、銀時達を狙うものが居るという証明にも繋がる。

 

「待って。気配は二つよ」

 

 そこに、霊夢が更に付け加える。

 

「フラン、こいし。お前達は下がってろ。ここは俺達が何とかする」

「で、でも……っ!」

「それじゃあお兄さんが……」

 

 フランとこいしとしては、銀時が傷つくことが怖いのだ。

 だから自分達も戦おうとして、

 

「バカ野郎。まだテメェらには戦力温存していて欲しいんだよ。いざって時に、とっておきの切り札が疲弊してちゃつまらねぇからな……つーわけで、ここは万事屋に任せろ」

「弾幕出せない奴らが何粋がってるのよ。私も出るわ」

「そうかい。ま、せいぜい足引っ張んなよ」

「お互い様よ」

 

 霊夢と銀時が肩を並べて警戒する。

 神楽と新八、そして魔理沙の三人もまた、周囲を警戒し――。

 

 

 

 

 

 

 

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第百九十二訓 ちょっとしたギャップにはドキドキしてしまうもの

 

 



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第百九十三訓 圧倒的な力の差はなかなか埋められない

 一人目の気配は湖の中からだった。それを象徴するかのように、湖の中より弾幕が放たれ、銀時達に襲いかかった。

 

「ほわちゃあああああああああああ!!」

 

 それらを神楽が、傘の中に仕込まれた銃弾で以って打ち消す。弾幕による攻撃が叶わなかったことを悟ったその人物は、湖の中から顔を出した。

 そこに居たのは、和服を着た少女だった。肩に付かない程度の縦ロールは、深い青色に染まっている。耳の位置には、『ヒレ』を象ったようなものがついていた。

 和服の色は深緑を基調とし、帯の色は紫色。そこに橙色の帯紐を蝶々結びにして結んでいる。

 何より、彼女を示す上で最大の点は……。

 

「人魚……!?」

 

 霊夢が言った。

 そう、彼女の下半身は、まるで魚のよう。薄い青色の鱗が目立つ彼女は――人魚そのものだったのだ。

 

「惜しかったですね。あと少しで当たったと思ったのに……」

 

 いかにも残念そうに、しかし好戦的な口調で彼女は言った。

 

「どうやら穏便に話し合いで……って雰囲気じゃなさそうだな」

「そりゃそうだろ! 何せこちとらせっかくの機会だってのに、みすみす見逃すわけないじゃん!」

「!?」

 

 銀時の呟きに呼応するように、もう一つの気配が襲い掛かった。

 鋭い爪で斬り裂こうと襲い掛かる何か。銀時はそれを木刀で弾き飛ばすと、臨戦態勢をとった。

 相手は――狼を象った少女だった。

 ストレートの黒髪に狼の耳が生えている。手には先程猛威を振るった鋭い爪があった。

 服は赤・白・黒からなる三色のドレス。

 

「私は今泉影狼」

「そして私はわかさぎ姫です。ここで会ったのも何かの縁です。せっかくなので、私達と遊んでいただけませんか? そして――その身体をゆっくりと頂いてあげます」

 

 影狼とわかさぎ姫。

 二体の妖怪が、まさしく銀時達に襲い掛かろうとしていた――。

 

「ワンコにわかさぎ? 随分とまたアンバランスな組み合わせじゃねえか」

「私はワンコじゃねえ!!」

 

 人の地雷を易々と踏み抜く銀時だった。

 挑発に乗った影狼は、銀時を斬り裂こうと爪で襲い掛かる。

 しかし、そう易々と決められる程、彼は甘くない。

 

「ワンパターンな攻撃だな! 防ぐのもそう難しくねぇな!」

「単純な力勝負において、私達妖怪に勝とうなんざ思ってないでしょうねぇ!」

「そうだなぁ。力の差を埋めるにゃ……」

 

 ニヤリ、と口元を歪ませて、それから銀時は言い放つ。

 

「数で勝れば、問題ねぇだろ?」

「!?」

 

 影狼は後ろを振り向く。

 

「「ダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」

 

 今まさしく、木刀を振り下ろそうとしている新八と、番傘を叩きつけようとしている神楽がそこにいた。

 

「ちぃ……変身『トライアングルファング』!」

 

 彼女はその姿を――完全なる狼へと変える。そして、鋭い牙を以て、相手を噛み千切ろうと試みた。

 しかし、三人揃った万事屋の力は、そう簡単に乗り越えられるものではない。

 

「あめぇ!!」

「遅い!!」

「鈍いアルネ!!!」

 

 三人を狙った筈の影狼の牙だったが、三つの刃に敵わなかった。

 そのまま三人の攻撃を受け、後方に吹き飛ばされた。

 

「ぐぅっ!!」

 

 大木の幹に叩きつけられた影狼は、打ちどころが悪かったのか、そのまま気を失ってしまった。

 

「……鱗符『逆鱗の大荒波』」

 

 わかさぎ姫からポツリと呟かれた言葉。

 その言葉に誘発されるように、無数の弾幕が霊夢や魔理沙を襲う。

 それはまるで、氾濫した川のような勢い。勢いを殺すことなく、容赦なく彼女達を呑み込もうとする。

 

「単調な攻撃ね。元々凶暴な妖怪というわけじゃなさそうね」

「そうみたいだぜ。これなら私達の攻撃で、一捻りに出来そうだぜ」

「かもしれないわね。けど、下手したら人里で戦争勃発するかもしれないんだから、なるべく力は温存しておきなさいよ」

「人のこと言えた義理じゃないぜ!」

「私はいいのよ。どうせ省エネだから」

「へっ、言ってくれるぜ!」

 

 二人は減らず口を叩く余裕すらある。

 何故なら、今まで異変解決をしてきた二人にとって――この程度の弾幕なぞ何回も経験したことがあるからだ。

 

「行くぜ! 弾幕はパワーが大事だぜ!! 恋符『マスタースパーク』!!」

「霊符『夢想封印』」

 

 二人の渾身のスペルカード。

 それらが容赦なく、わかさぎ姫を呑み込んだ。

 濁流は、弾幕によって制圧される……。

 

「きゃあああああああああああああああ!!」

 

 その奔流を受けたわかさぎ姫は、そのまま気絶してしまった。

 

「「……圧倒的すぎない?」」

 

 そんな光景を茫然と眺めていたフランとこいしの二人は、思わずそう呟いてしまったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

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第百九十三訓 圧倒的な力の差はなかなか埋められない

 

 



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第百九十四訓 事態を収める為には一つずつこなしていくと確実

 西行寺幽々子は、白玉楼に神霊が現れた原因を突き止める為、命蓮寺に足を運んでいた。彼女がそこで見たもの、それは。

 

「どうやらこの件は、この先に何かありそうね……」

 

 寺そのもので何かが起きているというわけではなかった。寺を通り道として、その先に向けて神霊の気配が濃くなってきている。彼らは人の欲が具現化した存在。故に、大多数の人間が求めていること、それは……。

 

「なるほど。流石は冥界の番人と言ったところかしら……」

「……紫ね」

 

 幽々子の目の前の空間に亀裂が走り、広がる。無数の眼が存在する『スキマ』を通り抜けて現れたのは、いつもよりも真剣な表情を浮かべている八雲紫だった。

 

「時間があまり残されていませんわ。今回の異変は情報量が多すぎて、一つずつ解決している暇がありませんの」

「その口振りだと、神霊騒ぎだけが今回の異変ではない、ということになるのかしら?」

「……大当たりよ。というより、そもそも神霊騒ぎ自体は偶発的に起きたもの。悪意ある存在によって起きたものなのではなく……」

「幻想郷に住む人間の大多数が……後悔を残した者達が……救済を求めて彷徨った末路。そういったところかしら」

「流石ね。でも、その偶発的な出来事すら、今回の異変を企んだ人物は計画のうちに盛り込んでしまった。故に、今回の異変は規模が余計に大きくなってしまった、ということになりますわね」

 

 元々、神霊が現れたというだけではそこまで大きな被害は発生しない。幽霊絡みの異変というのは、須らく『人間に』対してはそこまで触れないからだ。だが、そんな現象が大きな危険をもたらしているのは──その神霊となって現れる者の中には、闘いを望んでいる者も存在しているからだ。

 

「混じり合ったことによる影響は、やはり幽霊絡みだと如実に現れる……紫、貴女はもう気付いているのではなくて? 今回の異変は、貴女のエゴが招き寄せた副産物であるということを」

「……そうね。本来ならばあり得ない人物達が次から次へと現れる。此度の異変は、坂田銀時が関わったことによって現れた人物によって引き起こされ、かつて戦った者が神霊となって現れている……」

 

 夜王鳳仙は本来幻想郷に現れるべき人物ではない。彼は吉原に居たはずの人物だ。そもそも住んでいた世界が違う。華陀も同様。彼女はこの世界の人物ではない。元いた世界で存在を認知されなくなったが為に流れ着いた外来人だが、本来坂田銀時が幻想郷との縁を結ばなければ辿り着くこともなく、その一生を独房で終えていた筈の人物だ。結果的に彼女は解き放たれてしまい、この世界を支配しようと躍起になっている。なんという巡り合わせだろうか。

 

「ですが、彼等なら解決へ導いてくれるのも確かですわ。坂田さん達を信じて、私は……」

「けれど、それには限度がある」

 

 紫は銀時達を信じている。これまで幾度となく異変を解決へと導いてくれた存在だ。今回だって戦いに身を投じて、解決に向けて勤しんでいることも知っている。

 だが、幽々子は信じる信じないを問題としていなかった。

 むしろ──。

 

「今一度私は貴女に問うわ。坂田銀時は、本当に幻想郷に平和をもたらす存在なの?」

「!?」

 

 幽々子はずっと疑問に思っていた。

 幻想郷は、今や坂田銀時達なしには回らない。主力となる妖怪達の多くは、銀時達に好意を寄せている。中には依存に近い感情を抱いている者だって存在しているのだ。そんな彼等が、ある日突然いなくなってしまったとしたら? そもそも、彼等の存在が、幻想郷にとって間接的にとはいえ、悪影響を及ぼしている可能性があるとしたら? 

 

「……私は、あの方達を信じております。きっとあの人達は、希望をもたらしてくれると……」

「……話が逸れてしまったわね。今は神霊について、この先へ行かなければならないところよ」

 

 幽々子はそれ以上問わなかった。紫の心は既に決まっている。そう確信したからだ。

 代わりに、今やるべきことをやる。

 

「恐らく、魔界から彼女達が呼び覚まされたことにより、その影響で目覚めた者達がいますわ。神霊は、その人物達の影響で生まれていると考えるのが妥当でしょう」

「なら、まずはその場所へ行って確かめるのが先かしらね」

「えぇ。そしてその上で……地上へ歓迎致しましょう」

 

 八雲紫と西行寺幽々子は、事態収拾の為に歩みを進める。

 

 

 

 

 

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第百九十四訓 事態を収める為には一つずつこなしていくと確実

 



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第百九十五訓 承認されることはやはり嬉しいことだ

「よくやった、妖夢……流石は儂の弟子……いや、孫じゃ」

 

 鳳仙との戦いを終えた後、妖忌と妖夢は剣を収め、周囲を警戒していた。確かに彼は成仏させることが出来たが、他の神霊が出る可能性も否定出来なかったからだ。

 

「師匠……師匠は一体何を掴んだのですか?」

 

 永年戻らなかった自分の師匠が、こうして戦いに舞い戻った理由。妖夢としてはどうしてもそれを知りたいと思っていた。

 そんな彼女の質問に、妖忌は答える。

 

「気配がしたのだ……儂はこの地を離れてからというもの、幻想郷に蔓延る悪しき気配を絶ち斬る為に回ってきた。それが終わりなき旅であると理解しつつも、そうして裏からこの地を護ろうとした……そんな時、儂は幻想郷を支配しようと企んでいる人物がいることを掴んだのだ」

「幻想郷を、支配……!?」

「左様。もしそのような事態が本当に引き起こされてしもうたら、幽々子様が愛しているこの地が失われてしまう可能性すらある……儂はそう考え、お主達の前に姿を現したのじゃ」

 

 影から護るのも限度がある。時には前に立ち、その身を呈してでも戦わなければならない時がある。かつて西行寺幽々子に仕えていた者として、その辺りを熟知していたのだ。

 

「……妖夢。此度の戦いを見て、儂は思ったことがある」

「なんでしょう……?」

 

 妖夢の目をじっと見つめながら、妖忌は自身の胸の内を明かした。

 

「やはり儂一人では限度がある。正直なところ、今の戦いもまた、妖夢がいなければどうなっていたことが分からなかった……それだけ、敵の力は強大だった」

「そんな……!?」

 

 妖夢からしてみれば、あの攻撃は自分が完全に視界に入っていなかったから使えた技。鳳仙の目に妖忌しか写っておらず、妖忌が気を逸らしていたからこそ出来た技。

 魂魄妖夢は、未だに半人前のままだということを嫌という程自覚してしまっている。

 

「……確かに、お主はまだ一人前ではない。じゃが、もう半人前でもない。実力は確かに評価されるべきところまで来ておる。じゃからそう卑下することはない」

「師匠……」

 

 その言葉はどれだけ暖かかったことだろう。師匠の口より認められるような発言が聞けたとなれば、弟子としてどれだけ名誉なことだろう。

 

「儂は今ある異変を解決する為……命蓮寺の方へ向かった幽々子様を追いかけようと思う。お主もついてきてくれるか? 妖夢」

「師匠と共に、私も戦うことが出来る……?」

 

 感極まって、妖夢は思わず目から一筋の涙が溢れたことを悟る。彼女が今まで欲して止まなかった、大切な師匠と肩を並べて戦うことが出来る瞬間。それが今、まさしく訪れたのだ。そうなったら、彼女としては掴まずにはいられない。

 

「私でよろしければ、何なりと……!」

「お主じゃなければならぬのだ、妖夢……共に戦って欲しい。幽々子様の愛する幻想郷をお護りする為に」

 

 かつての師匠と弟子。祖父と孫。そんな二人が手を組んで、一つの異変を解決へと導こうとする。そんなお話がまさしく今、繰り広げられようとしていた。

 

 

「それぞれが解決へと奔走しておるようじゃ」

「貴女もなかなか考えたものね……力はなくとも、知略家としては向いているみたい」

「元々妾は博打が好きじゃからなぁ。博打とは相手の心を読み、知略に富んでいなければならぬのじゃ」

「これもまた、一種の博打ってやつなの……?」

「それはどうかのぅ。確かに勝つか負けるかだけで言うなれば、博打であるという捉え方も出来なくはない」

「けど、もし博打だとするのであれば……」

「勝つのは妾達じゃ。これだけの兵力を集められれば、人里など容易く襲うことが出来ようぞ」

「人間を追い出す……この地を妖怪が……私達が支配する……」

「そうじゃ。そうして妾達が幻想郷をより住みやすくするよう改造じゃ」

 

 二人の野望は動き出す。

 いずれ大きな騒動が巻き起こされるだろう…………。

 

 

 

 

 

 

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第百九十五訓 承認されることはやはり嬉しいことだ



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第百九十六訓 道具にだって心はある

 わかさぎ姫と今泉影狼の襲撃を退けた銀時達は、そのままひとまず人里へと向かって行く。その道中でのことだった。

 

「ったく……道行く妖精や妖怪が好戦的になってる奴らばかりで困るったらありゃしねぇ……」

 

 今回の事態に対して思わずボヤいてしまう銀時。普段ならばスルーされる筈の妖精達だが、ここぞとばかりに戦いを挑んでくるために、銀時達としてはそこで少しでも体力を割かなくてはならなかった。華陀を相手にとる前に、単純な物量に押されそうになる。

 

「本当厄介なことしてくれるわね……何処の誰がやったことなのかは知らないけれど」

 

 霊夢もまた、今回の事態の面倒くささに悪態をつく。

 

「ギン兄様、疲れてない? 大丈夫?」

「お兄さんさっきから戦いっ放しだから……」

 

 フランとこいしは、心配そうな眼差しで銀時を見つめる。現在この二人は、万が一の時の切り札として銀時と霊夢の判断で戦わせないようにしている。特にフランの力は強力なので、出来ることならば相手の親玉を倒すのに使って欲しいというところだ。こいしは、自身の能力を活用すれば相手の背後を取ることなど造作ではないだろう。

 

「こんくらい、歌舞伎町で毎日戦国時代送ることに比べりゃ大したことねぇよ」

「ある意味そっちの方が体力持っていかれますからね……」

 

 これには同意するしかなかった新八。下手すればシリアスの時よりギャグシーンの方が色んな意味で激しい作品だからこそ言えることだろう。そもそも方向性が違うので並べてはいけないのかもしれないが。

 

「銀さん達は一体普段どんな生活送ってるんだぜ……」

 

 ため息混じりに魔理沙が呟いた。

 

「ところで、さっきから空飛んでるあれは何アルか?」

 

 神楽が上空を指差しながら、その場にいる全員に対して尋ねる。

 上空を飛んでいる存在? 

 

「なんだぁ? 神楽。鳥でも見つけたのか?」

「鳥だとしたらでっかいアル。あれはどう見ても人みたいアル!」

「人が空を飛んでいる……能力を持っているってことね」

 

 霊夢が答えた。

 幻想郷に住まう住人全員が能力を持っているわけではない。だが、持っている人物がいることも事実。もし神楽の言うことが合っていれば、現在空を飛んでいるのは能力を持っている誰かということになる。

 それを確かめるべく一同は空を見上げると、

 

「あの影、だんだん近づいてきてねぇか……?」

 

 銀時がつぶやいた。

 影の数は二つ。それらの影が今、銀時達目掛けて突っ込んできているような……。

 

「明らかにこっち来てるぜ!?」

「ちょっとぉおおおおおおお!! これって敵襲ってことじゃないですか!?」

 

 ツッコミ二人が騒ぎ出す。

 彼らの反応はある意味正しい。こうして何者かが突撃してくるということは、少なくとも味方である可能性はそう多くはないだろう。それに、伝わってくる敵意を感じ取っている銀時は、最早戦闘は不可避であるということを察していた。

 

「どうやら奴さんのお出ましってところみてぇだな……」

 

 銀時は木刀を構える。

 突っ込んできた二つの影が銀時達の前に現れると、その勢いを殺して彼らの前に降り立った。

 影の正体は二人の少女だった。

 一人は、薄い青紫色でショートヘアーと二つ結びを組み合わせたような髪型をし、紫色の瞳、右側頭部に葉付きの白い花の髪飾りをつけた少女。服装は薄い黄褐色のワンピースを白の長袖シャツの上に重ね着をしている。彼女は琵琶を持っているが、それには鶴首がなく、代わりに金色金具のようなものが付けられており、手枷と鎖で繋がっている。その弦は四本。いずれも赤い光のようなもので出来ていた。

 もう一人は、茶色のショートヘアーにカチューシャをつけた少女。瞳の色も茶色。薄紫色のラインが入った上着に、紫のリボンや模様の入った黒いスカート。両手の親指、人差し指、中指には琴爪が付けられている。スカートには七本の赤色の光で出来た弦が入っていた。

 

「私は九十九弁々。こっちは……」

「九十九八橋ー。わっほーい」

 

 個性的すぎる二人が銀時達の前に現れる。そして彼女達は自らの目的を伝える。

 

「私達の目的は、道具による幻想郷の支配」

「人間の時代は終わったー。これからは道具の時代なんだー! 私達だって使われるだけの道具じゃないってところを、見せてやるぞー」

 

 二人の少女による戦闘が、今まさに幕を開けようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

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第百九十六訓 道具にだって心はある



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第百九十七訓 戦いの幕開けはいつだって突然に

「道具による幻想郷の支配? 随分とまたご大層な夢抱いてるじゃねぇか」

 

 木刀を構えながら銀時は言う。

 

「なるほど……貴女達は道具に魂が宿った存在ってところかしら」

 

 霊夢が言った。

 弁々と八橋の二人の目的は、道具による支配だと言っていた。それはつまり、自分達もまた道具であるということを示している。何らかの理由によって魂を宿した彼女達が、人間達に対する不満から動き始める。よくある話といえるのかもしれない。

 

「当たりよ。私達は、人間より道具の方が優れていることを示したいが為に、より強大な力を得られそうな場所まで向かおうとしていたところよ」

「だけどその前に脅威になりそうな人達を見つけたからー、倒さなくちゃって思ったわけなんだよねー」

 

 彼女達は敵意を見せながらそう告げる。

 

「力を得られそうな場所? それって一体何処なんですか?」

 

 新八は彼女達が呟いたことに対して追求する。彼らが認識している異変として、妖精や妖怪達の性格がひっくり返るというものがある。もしこの二人の言っていることが関係するのであれば、事態収拾の手掛かりになるのではないか。

 

「私達に勝てたら教えてやるよ」

「だからかかってこーい」

 

 しかし二人はこれ以上語る気は無いという反応だった。聞き出すには戦う他ないという感じだった。

 

「銀時。ここは私と魔理沙に任せなさい。この二人が仕掛けようとしているのは弾幕ごっこ。空を飛ばれてしまっては銀時達に戦う手段はないわ」

「そうだぜ。だからここは私達に任せて欲しいぜ!」

 

 霊夢と魔理沙の二人はやる気満々と言ったところだ。

 そんな二人を見て、銀時は。

 

「……あぁ。任せたぜ、最強コンビ」

「こんな戦い、すぐに終わらせてやるわ」

 

 霊夢と魔理沙が空中へ飛んだのを受けて、九十九姉妹の二人もまた空中へと舞う。ここに空中での弾幕ごっこが幕を開けようとしていた。銀時達としては、その様子をじっと眺めるのみ。そう考えていたその時だった。

 

「なるほど。お前さん方があの子が言っていた侍達ということで間違ってなさそうだ」

「!?」

 

 声が聞こえた。

 声色とは裏腹に、そこにはとてつもなく貫禄が宿っているような、そんな声だった。

 

「誰アルか!?」

 

 神楽は声のした方向に対して威嚇射撃をする。だが、その声の主は動じることなく、むしろ。

 

「ほぅ。それは幻想郷の技術……かどうかは分からぬが、なかなかに妙な技術をしているなぁ。少なくとも、儂が外にいた時には見られなかった代物。大変興味深い」

 

 感心するかのように言う。

 

「テメェは一体、何者だ?」

 

 警戒心を解くことなく、銀時は尋ねた。

 すると、彼らの前に現れたのは。

 

「儂か? 儂は二ツ岩マミゾウ。ぬえに呼ばれてこの地に降り立ったのだ」

 

 マミゾウと名乗った女性は、つるの部分がない丸眼鏡を付けていた。そこから覗ける瞳の色は赤茶色。髪は肩までかからない程度に伸びている赤みがかった茶色。その頭の上には丸く枯れた緑色の葉が一枚乗せられている。その頭からは、狸を彷彿とさせるような耳が生えていた。それを裏付けるように、臙脂と黄土色の二色が交互に並んだ模様をした尻尾も生えている。

 服装は、薄い桃色の肩掛けに、黄土色の無地のノースリーブと、臙脂色のスカート。

 

「何の目的で動いているのかはわからないけれど、もしぬえの邪魔をする為に動いているのだとすれば、儂が邪魔をするのは道理であると知れ、若造」

 

 敵意をむき出しにしながら、マミゾウは銀時達に対してそう言い放ったのだった。

 

 こうして、空中と地上。二つの場所で戦いの幕が上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

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第百九十七訓 戦いの幕開けはいつだって突然に



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第百九十八訓 息の合ったコンビネーションはとても大切

「どうしたのじゃ? そちらが来ぬというのであれば、こちらからいかせてもらうぞ?」

 

 マミゾウはまるで銀時達を挑発するかのように告げる。そして、警戒を解かない銀時達を嘲笑うかのように、マミゾウが前へと足を踏み出した。

 瞬間、銀時は木刀を握る力を強めた上で、突進する。

 

「踏み込みはまぁまぁじゃな。だが、それで儂を倒せるとは思うてないだろうな?」

 

 壱番勝負『霊長化弾幕変化』。

 マミゾウの放った弾幕は、まるで人の形を象ったかのように姿を変える。そしてそのまま、銀時達目掛けて襲い掛かった。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 吠える。

 銀時はその遠吠えと共に弾幕を木刀でぶった切った。処理しきれなかったものについては、新八と神楽がそれぞれの武器で斬り伏せている。

 そして、神楽が援護射撃をしつつ、銀時と新八は二人がかりでマミゾウに斬りかかる。

 

「なる程。息の合ったコンビネーションじゃ……生半な手では崩せぬらしい」

 

 しかし、マミゾウはあまり動じない。

 それどころか、むしろ楽しそうに笑っているようにすら見えた。

 

「弐番勝負『肉食化弾幕変化』」

 

 今度は、放たれた弾幕のすべてが肉食獣へと姿を変える。それは狼だったり、虎だったり、姿は様々だ。しかし、噛みつかれたらただでは済まない獣たちがほとんどである。

 

「ちぃっ!」

 

 銀時と新八は、マミゾウに斬りかかる前にそれらをどうにかしなければならなくなった。今まさに接近しているのは自分達なのだ。標的は当然、二人である。

 

「銀ちゃん! 新八ぃ!」

 

 そんな彼らを援護するように、神楽は傘より銃弾を放つ。撃ち抜かれた弾幕は、そのまま塵と化して霧散していく。

 

「ほぅ……ただの弾幕ではお主達を捉えきれぬようじゃな」

「へっ。伊達に修羅場潜り抜けてねぇからな」

「そうか……ならば少し趣向を変えてみるとしようかの」

 

 マミゾウはまるで面白いことを思いついた子供のように、わざとらしく明るい声で言う。

 そしてマミゾウは――。

 

「儂の能力を使って、お主らの目を騙すことなど造作でもない。簡単なことじゃ」

「やってみやがれってんだ、テメェのその自慢の能力とやらをな」

「仰せの通りに。後悔しても知らぬからのぅ」

 

 かけている眼鏡のレンズが光ったかのようにも見られる。

 そしてマミゾウは、その場で両手を上げて、

 

「――っ!」

 

 声なき声をあげ、何かを行った。

 しかし、銀時達にはその行動の意図が読めない。

 だが――。

 

「なっ……!?」

 

 驚きの声を上げたのは新八だった。

 マミゾウが何かを行った瞬間、辺りには一気に煙が立ち込める。まるでタイミングを読んだかのように、空中で戦っている九十九姉妹の弾幕が、地面に被弾したのだ。幸いにして銀時達に当たることはなかったが、それがまるで目隠しのようになってしまい、視界を一瞬奪われる。

 

「ちぃっ……運悪いなチクショー……」

 

 悪態をつく銀時。

 そうして視界が晴れるのを待っていた銀時達だったが、次の瞬間――。

 

「なっ……銀ちゃんが二人!?」

 

 神楽と新八の目に、銀時の姿が二つ確認されたのだった――。

 

 

 空中で戦っている霊夢・魔理沙と九十九姉妹。

 弁々と八橋の弾幕は、入り混じると避けるのが難しいものとなっていた。直線的な弁々に対して、トリッキーな動きを見せる八橋。片方避けたと思いきや、もう片方が突然後ろから襲い掛かってきたりと、判断に迷うものばかり。

 

「まったく、面倒なことこの上ないわね!」

 

 霊夢は悪態をつきながら、弾幕を処理していく。

 

「一気に攻め込んでいくぜ!」

 

 魔理沙もまた、面倒なことを一気に片付けたいという一心で、ミニ八卦路を九十九姉妹に向ける。

 そして、力を込めた上で――。

 

「マスタースパーク!!」

 

 彼女の象徴でもある技を一気に放出したのだった。

 しかし、彼女達だってそうすぐに倒れるわけにはいかない。

 

「「弦楽『嵐のアンサンブル』!」」

 

 二人の声が合わさる。

 まるで二つの楽器でセッションを行っているかのように、息の合った演奏をしつつ、弾幕を飛ばしてくる。

 確かに、魔理沙の放つマスタースパークは強力だ。しかし、それ故に軌道修正を行うことは難しい。一度避けられてしまえば、すぐに攻撃へ移すことは難しい。

 そうしている間に、音符状の弾幕が彼女に襲い掛かる。

 

「夢想封印!」

 

 しかし、ただで見過ごす程霊夢も甘くはない。

 魔理沙の前に札と陰陽玉で出来た弾幕を張り巡らせて、音符状の弾幕をすべて打ち消す。

 

「サンキューだぜ、霊夢!」

「ボサッとしている暇があるなら、攻撃の手を緩めないことね、魔理沙!」

「はいはい。分かったぜ!」

 

 そして、魔理沙と霊夢の二人は、弾幕を張り続ける――。

 

 

 

 

 

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第百九十八訓 息の合ったコンビネーションはとても大切

 

 



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第百九十九訓 周囲はきちんと確認するべし

「霊夢! このままだとキリがないぜ! 一気に蹴散らした方がいいんじゃないか!?」

「そうね……ジリ貧なのは正直あまり好ましいことじゃないわ」

 

 霊夢と魔理沙の二人は、九十九姉妹による弾幕攻撃をひたすら避け続けている。避けられなかった弾幕は、弾幕にて撃ち返す。しかし、いつまでもそうしているわけにもいかなかった。

 弾幕ごっこは体力を消費する。しかもこの後も彼女達には戦いが控えている。いつまでも浪費しているだけでは今後の戦いに支障を来す。故に、決着をつけるのであればそろそろでなければならない。

 

「どうしたのー? なかなかせめてこないねー」

「このままでは私達が勝ちを収めることになるぞ!」

 

 九十九姉妹は、いつまでも決定打を放って来ない霊夢と魔理沙に対して挑発をする。

 彼女達は、ほぼ勝ちを確信している様子だった。

 

「気に喰わないわね……それなら、私達の力見せてやろうじゃないの」

「そうだぜ……これだけ最強の条件が揃っていれば、勝てない勝負なんてないぜ!」

 

 霊夢と魔理沙としては、この一瞬でケリをつけるつもりだった。そうでなければ、いつまで経っても弾幕ごっこに終わりが見えないからだ。

 対する九十九姉妹も、このまま終わらせることが出来るのならばそれでいいと思っている。

 故に、この戦いに終止符が打たれる瞬間が訪れる。

 

「覚悟、決まったみたいだな」

「大人しく私達に倒されることねー」

「あぁ、覚悟決まったぜ」

「私達の全力、見せてあげるわよ」

 

 そして、魔理沙と霊夢は九十九姉妹に向かって全力で突っ込んでいく。弾幕なしの正真正銘捨て身技。

 九十九姉妹は、そんな二人を見て勝ちを確信していた――。

 

「そう。私『達』の力よ」

「ここには他にも人は居るんだぜ? その可能性も考慮しなきゃダメだぜ!」

「「なっ……」」

 

 瞬間。

 霊夢と魔理沙は突如として軌道を変えて、その場からいなくなる。

 代わりに――。

 

「禁忌『レーヴァテイン』!」

「表象『弾幕パラノイア』!」

 

 そこに居たのは、地上に居たはずのフランとこいし。

 フランは紅い槍上の弾幕を一直線に放つ。

 こいしは、九十九姉妹の周囲にクナイ状の弾幕をばらまいた後、丸状の弾幕を張る。

 つまり、避ける範囲を狭めた状態で、フランのレーヴァテインが迫ってくるという状況。

 

「こんなの……」

「あーんまーりだーっ!」

 

 ここに、勝敗は決せられた。

 

 

「くっ……どっちが本物なのか分からない……っ!」

 

 地上では、マミゾウが化けた銀時と、本物の銀時の区別がつかなくなっていた。

 

「俺が本物だ!」

「いいや俺だ!!」

 

 銀時同士で争っている図。

 新八も神楽も、これには完全に戸惑っている様子。

 

「これじゃあうかつに手を出せないアル……」

 

 神楽が思わずそう零した――が。

 

「なーんて、今頃思っているんでしょうね」

 

 新八は不敵な笑みを浮かべていた。

 神楽もまた、ニヤリと笑みを浮かべている。

 

「化けたのが僕達万事屋だったのが運のつきですね」

「まさか私達に攻撃出来ないとでも思っていたアルか?」

 

 新八と神楽は、爽やかな笑み――とは程遠い、下衆びた笑顔を浮かべる。

 口元を歪ませ、目元をいやらしく変化させたそれは。

 

「「二人とも攻撃すればいいんじゃボケェエエエエエエエエエエ!!」」

「「ハチャメチャすぎんだろうがぁあああああああああああ!!」」

 

 神楽と新八は、それぞれで思い切り銀時達を攻撃した。

 新八の木刀による一閃と、神楽の傘による一撃。

 どちらも銀時の腹部に当たり、そして――。

 

「なっ……お、お主ら、仲間じゃというのに……師であるというのに、容赦ないというのか……」

 

 新八が攻撃した方の銀時が姿を変えて、マミゾウへと戻る。

 そんな彼女に対して、新八と神楽が一言。

 

「「天パーに化けたのがアンタの敗因だ」」

「……余程、憎まれておったのじゃな……」

 

 マミゾウはそのまま意識を失う。

 そして――。

 

「……おいテメェ……容赦なく俺を攻撃しやがったなコノヤロォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「正直どっちが銀ちゃんだろうと関係なかったネ。ここぞとばかりに恨みを発散出来たアル」

「テメェのサンドバックにされる覚えはねぇわ!!」

「だったら給料払いやがれ天然パーマァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 ……マミゾウの敗因は、万事屋を相手にとったことなのかもしれない。

 ぶっちゃけ、誰に化けたとしても結末は同じだったことだろう――。

 

 

 

 

 

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第百九十九訓 周囲はきちんと確認するべし

 

 



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第二百訓 叫んだ言葉と同じ言葉が返ってくるとは限らない

 命蓮寺の参道。幽々子と紫の目的は、命蓮寺の先にある場所。いずれにせよまずはここを通らなくてはならないために、二人して並んで歩いていた。そんな彼女達の前に現れたのは。

 

「あれ? こんな時間から参拝客ですかー!?」

 

 近くにいるというのにとても大きく明るい声で話す少女に出会った。

 緑青のウェーブがかったショートボブ、瞳の色は緑色。小豆色の少し短めな長袖ワンピースを着用し、白い三つ折りソックスの上に黒い靴を履いている。何より最大の特徴は、茶色に薄く斑点模様の入った大きな垂れ耳と、小さな尻尾。

 その他には箒が握られていることから、どうやらこの少女は今参道を掃除していることが伺えた。

 

「あらあら、元気な子ね。貴女はどちら様?」

 

 幽々子がにこにこしながら尋ねる。

 

「はい! 私は幽谷響子といいます! 最近命蓮寺に入門させてもらったばかりなのですー!」

 

 最初に会った時と印象が崩れることなく、明るさを欠かさない響子。

 

「なるほど。この子、山彦みたいですわね」

「ありゃま!? 早速正体バレちゃいましたか!?」

 

 紫が響子の正体を見抜く。彼女は幻想郷の管理人だ。そこに住む者がどのような能力を持っているのか、そして正体は何者なのかを大凡把握する事が出来るのだ。ただし、把握出来るのはあくまで『幻想郷で生まれた者』か『幻想郷に纏わる世界の住人』のみ。銀時の世界から訪れた者や現れた者については、その正体を掴むことは難しいのだという。

 

「それならば、いくつか試してみようかしら?」

「なんでもばっちこーい、です!」

 

 幽々子は何かしらをするつもりで、響子は身構える。

 そして幽々子は。

 

「やっほー!」

「ヤフー!」

「バカヤロー!」

「なんだとテメー!」

「すいませーん!」

「こちらこそー!」

「ヤマー!」

「カワー!」

「今何時ー!」

「そうね大体ねー!」

「一たす一はー?」

「……………………」

 

 ただの山彦遊びだった。

 しかもこんな近距離で、目の前に山彦がいる状態で。

 

「バリエーションが豊富なのですわね……というか最後計算出来ていないのは気のせいかしら……?」

「いきなり難しい問題出してくるのがいけないんですー!」

「一たす一は算数の常識ですわ……答えは二ですわ……」

「おぉ! 頭いいですね!」

「頭痛がしてきますわね……」

 

 もしかしたら響子は、チルノに並ぶバカなのかもしれない。

 

 閑話休題。

 

「さて、遊ぶのはこのあたりまでにするとして……この先に何か最近不審なことは起きていないかしら?」

 

 山彦遊びを終え、幽々子は本題に入る。

 幻想郷に突如として現れた神霊。現れるとすれば何かしらの理由が存在するはず。大結界異変のような自然現象による幽霊発生とは違い、今回の件は何かしらの力が関わっている。その上で怪しいと思っているのは命蓮寺の方面だと、幽々子は睨んでいた。

 

「んー……そういえば、墓場にあった死体が動き出したりしていたような気がしますねー。それにしても、何かあったのですか?」

「……そう」

 

 幽々子はなんとなく、響子は今回の一件に関与していないのではないかと考えた。

 幽霊の話が出てきていないのは、関わっていない証拠と取れるかもしれない。

 が。

 

「墓場にあった死体が動き出した、ですって?」

 

 幽々子からしてみれば聞き捨てならない出来事が発覚した瞬間だった。

 死人が生き返ることは、余程のことがない限りあり得ないことだ。前例がある為一概に否定はできないが、相当な労力がかかる。冥界の番人として幻想郷に携わる魂を見てきている彼女にとって、それは驚くべきことなのだろう。

 

「その墓場はどちらにあるのかしら?」

「ここを真っ直ぐに抜けたところですー!」

「そう……ありがとう、掃除、頑張ってくださいませ」

「ありがとうございますー!」

 

 紫は例の言葉を響子に告げると、そのまま指示された方向へと歩みを進める。幽々子もまたそのあとを追う。

 

「……何やら色々と複雑な事が多く起きているそうね」

「今は私達に出来ることをやるのみ、ですわ」

 

 

 

 

 

 

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第二百一訓 空に浮かぶ城を眺めると思わず言いたくなるよね

「輝針城?」

 

 戦闘が終わった後、九十九姉妹とマミゾウより事情を聴き出していた銀時達。そんな中で彼女達から出てきたワードがそれだった。

 

「道具に力が宿ったり、反転したりしているのは、どうやら空にある輝針城が関係しているみたいなのよ」

「だから私達は更なる力を得ようとー、輝針城を目指してたってわけなのよー」

 

 どうやらこの姉妹の目的としては、自分の力を確固たるものにする為だったようだ。ちなみに、彼女達曰く姉妹とは言っているものの、生まれた時期がほぼ同じだったからそう言っているだけで、本当の姉妹ではないらしい。確かにそもそも楽器の種類からして違うのだから、納得出来なくはないだろう。

 

「私は、輝針城にいるぬえから要請を受けて、外の世界から幻想郷にやってきたってわけじゃ」

「なるほど……通りで見かけない顔だと思ったら、幻想入りしてきたのね」

 

 霊夢は納得したように呟く。

 元々マミゾウは、銀時達と同じように外から来た存在だった。故にその存在はそこまで認知されておらず、対策としても十分にとられていたわけではない。結局、万事屋を相手にとった段階で負けは決まっていたような物なのだが。

 

「空にある城ねぇ……もはやそれってラピ……」

「言わせねぇよ!? その先言ったらどうなるかくらいわかってんでしょうが!?」

 

 案の定のことを言おうとした銀時をツッコミという名の力でねじ伏せる新八。確かに、空に浮く城といったら大抵の人はそれが浮かぶだろう。

 

「フハハハハハハ! 見ろ、人がゴミのようだ!! とか言ってるアルか?」

「親方! 空から女の子が!! とか寸劇でもやってんだろ」

「アンタら思いついたことをポンポン言ってんじゃねぇよ!!」

「なんか、すっごい前の方に同じようなこと言おうとして霊夢がぶん殴った記憶が蘇ってきたぜ……」

 

※詳しくは紅霧異変篇をご参照下さい。

 

「なかなか愉快な者たちもいたものじゃ。いやぁ誠に愉快愉快!」

 

 マミゾウは、銀時達の掛け合いを楽しそうに眺めている。

 

「ギン兄様、人はゴミのようなの?」

「空から女の子が降ってくるのー?」

 

 一方、ネタがわからないフラン&こいしは、純粋が故の質問をする。まさかこれが日本で有名なアニメ映画のセリフとは彼女達は思うまい。

 

「そういうセリフがあるってだけの話だよ。別に人はゴミのようではねぇし、空から女の子が降って……きそうだなぁこの世界。チラッ」

「な、なんで私のことを見てるんだぜ!?」

 

 魔理沙ならやりかねない。

 何故かここにいる一同の心が一致した瞬間だった……実際はそう簡単に墜落するわけではないのだが。

 

「それで、輝針城に行きたいって言うのなら……四十秒で支度しな」

「なんでテメェがそのネタ知ってんだよ!? テメェ幻想郷に生まれてからまだ間もねぇんだろ!?」

 

 まさかすぎる弁々からのキラーパスに、銀時は思わずツッコミを入れていた。

 

「いや、なんとなく言わなきゃならないと思ったからつい……」

「あー、あるある。そういうことあるよねー」

 

 何故か八橋は肯定に回っていた。確かに時々この台詞を言わなくちゃならない気に襲われることはあるだろうが、それにしたって唐突すぎる上によくネタを理解したといいたいところである。

 

「一応言っておくが、輝針城にいるのはぬえだけではない。打ち出の小槌を使って幻想郷を転覆しようと企んでいる者もいれば、最近そこを根城に使うようになったぬえの協力者もいるらしいのじゃ」

「協力者……恐らくそいつが華陀のことだな。あの博打好きの姉ちゃん、こんな大博打まで仕掛けてくるたぁ物好きにも程があるな」

 

 幻想郷におけるパワーバランスをひっくり返すとくれば、かなり大がかりになることは間違いない。

 

「面倒なことになりそうだな……華陀やぬえの目的が幻想郷から人間を排除することだとすれば、一番危ねぇのは人里なわけだが……輝針城に本命がいるとなりゃ、二手に分かれたほうが効率良さそうだな」

 

 銀時の言う通り、敵の目的のみはある程度はっきりしている。当初彼らは人里を目指して行動していたのだ。

 

「俺とフラン、こいしの三人で輝針城へ行く。他の四人は人里へ向かってくれ……俺達で大ボス叩いてくるうちに、人里の被害を最小限に留めて欲しいんだ」

 

 銀時の采配により、彼らの班分けが決定したのだった。

 

 

 

 

 

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第二百二訓 我が子はやはり可愛らしい

 命蓮寺より少し進んだところにある墓地。その先にある場所を目指して紫と幽々子は歩みを進めていた。彼女達の考えが正しければ、この先に間違いなく何かがある。進むにつれて神霊の気配も徐々に増えてきていることからもそれが伺える。

 

「やはり、何者かが神霊を誘っていると考えるのが自然かしら」

「それが偶発的か人為的かはともかく、少なからずこの先にある人物に何かしらの関係があると考えるのが自然ですわ。本来ならばここまで神霊が猛威を振るうことなどあり得ませんもの……」

 

 白玉楼に突如姿を現した神霊──夜王鳳仙は、まさしく人間の支配欲を象徴とした存在だった。神霊は確かに人の欲を表す。だが、ここまではっきりとした形を為すことは少ないはずなのだ。そもそも幽霊とは総じてそこまでの力があるわけではない。つまり。

 

「なるほど。空に浮く城の存在と相まって、ここまでの力をつけるようになったと言うべきですわね」

「空に浮く城……それは一体?」

 

 幽々子からしてみれば、紫の口から発せられたことは初めて聞く事実。そもそも彼女の頭の中に、城の存在などはじめからない。

 だが、幻想郷の管理人たる八雲紫は、今幻想郷で起きている異変のある程度を掴むことが出来る。その上で輝針城の存在にも気付いていたのだ。

 

「現在、幻想郷では同時に幾多もの異変が起きておりますの……その一つが神霊。そしてもう一つが、『全てがひっくり返ったかのようになる』異変。その異変には、空に浮かぶ城……輝針城が関わっているとされておりますわ」

「……つまり、本来弱いはずの力が、反転して強くなっている、と?」

 

 神霊が強くなっていることについては、あくまで偶発的であるという仮説が立てられる。本来であればそう結論付けても良いだろう。

 しかし、紫はその先まで疑う。

 

「もしかしたら、彼女達はこのタイミングを伺っていたのかもしれませんわね……」

「何かしらの異変が起きることを待ち、その上で自分達でも新たなる異変を起こす。そして幻想郷中がパニックになったところで、本来の目的を果たす……雑ながら筋書きはこんな感じかしら?」

「その仮説が現状一番正しそうですわね。何にせよ、今の私達に出来ることは、この先にいる人物の説得に他ならないですわね……きっと、今外でこのようなことになっているとは知らない筈ですから」

 

 恐らく、今この先にいる人物については、直接の関係性はないのだろう。しかし、少しでも被害を食い止めるためには必要なことであるのには違いない。故に彼女達は歩みを進めようとしたの、だが。

 

「ここから先へは行かせないぞー」

「あら、こんな所に人が……いいえ、妖怪が立ち入るなんて珍しいわねぇ」

 

 一人と、一体がいた。

 先に話した方は、肩程度の長さの暗い藤色の髪の少女。青紫色の人民帽には星型のバッチがつけられている。袖が広口の半袖上着は赤い中華風となっていて、下は黒いスカート。何より最大の特徴は、おでこにお札が貼られていること。彼女こそ、先程響子が言っていた『動く死体』なのだろう。所謂キョンシーである。

 もう一人は、ウェーブのかかったボブの青髪。髪の一部を頭頂部で∞の形に結い、結い目には鑿を挿している。水色の、袖が膨らんだ半袖のワンピースを着ており、その下には、ワンピースと同じような形の、白い薄手の服を着ている。上から下まで、青で統一されたような少女だった。

 青い少女が、紫達の前に立って自己紹介をする。

 

「私は霍青娥。この子は宮古芳香よ。どう? 可愛らしいでしょう?」

 

 どうやら青娥は、芳香のことを溺愛している模様。彼女の口ぶりから察するに、芳香をキョンシーとして蘇らせたのは青娥なのだろう。

 だが、今の紫や幽々子に、彼女達の関係性など関係ない。それよりも先にしなければならないことがあるからだ。

 

「私たちはこの先に用事がありますの。退いてくださらないかしら?」

「そういうわけにもいかないのだー。私はここで侵入者を迎え撃つからー」

「そういうことだから、大人しく引き返してくれるとありがたいのだけれど、そういうわけにもいかないわね?」

 

 二人はすでに迎え撃つ気満々らしい。

 それを察した幽々子と紫は、

 

「……あらあら。誰を敵に回しているのかまだ分かっていない様子ね」

「いいですわね。たまにはこういう戯れも楽しみの一つになりますわ」

 

 そして、彼女達の弾幕ごっこが幕を開ける……。

 

 

 

 

 

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第二百三訓 集団で行動するとつい横道に逸れてしまうこともある

 銀時達と別れた霊夢達は、当初の予定通りに人里を目指していた。もし今回の異変を引き起こした大元の黒幕が抱いた野望が本当なのだとしたら、今まで溜め込んだ伏線が集中する場所は人里であるということになる。ある意味では決戦の場ともいえるだろう。

 

「いよいよ異変の終わりも見えてきたって感じだわ……ここまでくるのに随分と遠回りさせられた気分よ、まったく」

「そうか? 私としては退屈な日常ぶち壊して弾幕ごっこ出来るのは楽しいと思うぜ? 確かに平穏な毎日も大事だとは思うけれども」

「はちゃめちゃな日々を送るのは相当体力必要ですよ。僕達なんて毎日が戦国時代なんですからね」

「新八が軟弱だからそんな感じになるアル。鍛え方が違うから全然問題ないアル」

 

 四人で軽口を叩けるほどには精神的余裕が見受けられる。

 彼らが、銀時達のことを心配していないといえば嘘になる。しかし、それ以上に銀時達のことを信頼しているからこそ、余計な心配をすることなく自分達の為すべきことに集中することが出来る。それはとても良い信頼関係だった。

 

「それにしても、ここまでびっくりするほど静かですね……」

 

 新八が周囲を見渡しながら呟く。

 本来、人里へ向かう途中に誰かしらに遭遇することの方が多い。しかし、今彼らが歩いてきている道は、驚く程静か。敵が現れない分には良い知らせと捉えることも出来るが、まだ日が沈む時間というわけでもないのに人間が歩いている様子が見られないのもある意味不気味であった。

 

「……あまりいい予感はしないわね。私の第六感が、嵐の前の静けさであると告げているわ」

「相変わらず便利だぜ……霊夢の直感」

 

 主人公として博麗霊夢に備わっている特殊能力……勘! 彼女の直感は驚くべき程の正解率を誇るのだ。決して主人公補正などではない。決してである。

 

「なんか地の文が言い訳に走っている気がするんですけど!?」

 

 うるさいぞ、ムッツリ眼鏡。

 

「ムッツリ眼鏡ってなんダァアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

「煩いネ新八。眼鏡の日で精神穏やかでないアルか?」

「眼鏡の日って何!? 眼鏡のせいで心中穏やかでない日々を送らないといけないことがあるっていうのか!?」

「新八の本体は眼鏡アル。何かあるとすればまず眼鏡からじわじわ迫ってくるネ」

「いやそれどういう状況なのかさっぱりわからねぇんだけどォオオオオオオオオオオオオオ!?」

 

 一気に緊張感が抜けるようなやり取りだった。

 

「ったく……相変わらず騒がしいわね。新八ってば叫ぶだけのツッコミしか能がないのかしら?」

「なんか妙に辛辣っすね!? それともアンタ実はぐうたらな割にドSだとでも言うんですか!?」

「少なくともアンタと違ってドMではないわ」

「勝手に人を虐められて喜ぶ特殊趣向の持ち主にするなァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 少なくとも新八がSではないことはもはや自明の理であるだろう。

 

「今はSとかMとか言ってる時じゃないと思うぜ!?」

「何言ってるのよ魔理沙。これは今後の彼の人生を大きく左右する重要な事なのよ。相手になじられて悦ぶことが出来るかどうかで円満な人生送れるかはかなり違ってくるわ。そういうものなのよきっと。知らないけど」

「霊夢が今特に何も考えずに発言してたことだけは何となく伝わってきたぜ!?」

 

 ある意味安心な状態であることを示す指標にもなるのかもしれないが、その度に一人の尊い犠牲が生まれるというもの。さらば新八。ふぉーえばー。

 

「勝手に人の人生終わりにするなァアアアアアァアアアアア!! 新八君まだ生きてますからァアアアアアアアアア!!」

 

 色々とカオスな状況が展開していくのみであった。何処にいたとしても彼らは騒がしいものである。

 と、そんな風にわちゃわちゃとしていた時だった。

 

「こんな所に人間風情が何のようだ!」

 

 霊夢達にそう言った人物が現れる。

 その人物は前から現れ、霊夢達の行く手を遮るように立ち塞がった。

 裏地が青の赤マントを羽織り、首全体を隠すように覆っている。赤のショートカットに青いリボン、赤いミニスカートに黒い服。それらには赤い刺繍が施されていた。

 

「それはこっちのセリフよ。ここから先は人里なんだから、人間である私たちが足を踏み込んで当然でしょう? むしろ貴女の方こそこんな所で何やっているのか聞きたいのだけど」

「そうだぜ! 私達はこの先に用があって来てるんだ! 邪魔しないでほしいぜ!」

 

 霊夢と魔理沙は正論で返す。確かに、この先にあるのは人里だ。人間ならば入る分には全然構わないはず。むしろ邪魔している少女の方こそおかしいのだ。

 

「この子、人間じゃない……?」

 

 新八はその可能性に気付く。

 少女は開口一番に、霊夢達が人間であることを指摘した。普通ならそんな指摘をしない。ならばそれは、自分が人間でないことを表している証拠となる。

 それを裏付けるように、

 

「そうだよ。私は赤蛮奇。ろくろ首さ」

 

 少女はそう宣言した。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百三訓 集団で行動するとつい横道に逸れてしまうこともある

 



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第二百四訓 勝ち方にも様々な方法がある

「で? ろくろ首である貴女が一体何の用かしら?」

 

 相手が妖怪であることを察すると、霊夢は警戒しながら尋ねる。わざわざこの先に立ち入ることを禁じようとしたくらいだ。話し合いで解決出来るとは考え難い。そう判断したのだろう。

 対する赤蛮奇は、敵意を剥き出しにしながら、挑発するように告げる。

 

「決まってるじゃない? ここで貴女達を食い止めようっていうのよ」

「へっ! 一人で私達全員を相手にするというのか? 笑わせるぜ!」

 

 相手は妖怪といえどこちらは人間四人。数の上では霊夢達が有利であることは間違いない。うち二人は妖怪退治に関してはプロと言っても過言ではない。

 そんな状況だというのに、赤蛮奇は笑っている。

 

「いいんだよ。少しでもこうして居られれば、私としては都合がいいんだからね!」

 

 その言葉と共に、弾幕ごっこは唐突に幕を開けた。

 赤蛮奇は、己の首を胴体から切り離し、それを霊夢達目掛けて投げ付ける。その道筋には、ロープ状の弾幕が張り巡らされて居た。

 

 飛符『フライングヘッド』。

 

 彼女の放つスペルカードである。

 四人は各自散開する。

 

「うぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 新八は木刀にて迫りくる弾幕を斬り伏せていく。霊夢や魔理沙は弾幕で、神楽は番傘に仕込まれている銃弾で、相手より放たれた弾幕を相殺していた。

 

「流石にそう簡単には倒されてくれないか……なら!」

 

 放った首が元に戻る。

 その後、首を自分の近くに浮遊させた後で、

 

「飛頭『デュラハンナイト』」

 

 彼女のスペルカードが炸裂した。

 浮遊する首より、霊夢達めがけて怪光線が放たれる。更に、全方位に放たれるロープ弾。

 

「光線には光線だぜ! 恋符『マスタースパーク』!!」

 

 魔理沙は怪光線に対して極太のレーザーを放つ。彼女の努力の結晶が、相手の怪光線をどんどん打ち消していく。

 

「フンヌゥオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 ロープ弾については、神楽が力任せに振り回している傘によって打ち消されていく。銃弾については次の戦いに向けて節約している。というより、ここまで迫りきているのだとすれば、遠距離攻撃より近距離攻撃で打ち消すのが正解だと考えたのだろう。

 

「甘いわね。私達をたかが人間と侮っては困るわ」

「まったくです。どれだけ多くの修羅場を乗り越えて来たと思ってるんですか」

「貴方達の場合は自分で招き寄せている部分もあるとは思うけどね」

「細かい話はいいっこ無しです。今はとにかく先を急いでいるのですから」

「それもそうね……今は目の前にいる敵を倒すことに集中しなければいけないわね」

 

 霊夢は涼しい顔をしながら、新八は必死な形相で、襲い来る弾幕を処理していく。

 

「減らず口叩いている割には随分と余裕なさそうに見えるけど?」

 

 赤蛮奇は、必死に避けている新八のことを見ながら煽る。しかし、新八はそんな煽りには乗らない。

 

「必死に戦って何が悪いんですか? ただ、確かに僕にはちょっとばっかし余裕がないかもしれませんから、アンタにトドメの一撃を入れるのは──」

 

「余裕がある私ということになるわね」

「っ!?」

 

 霊夢が赤蛮奇の前に立ち塞がる。

 そして、彼女は。

 

「霊符『夢想封印』!!」

 

 霊夢によって放たれたありったけの弾幕に飲み込まれたのであった。

 つまり、この戦いは四人の勝利によって終わったということを意味する。

 

「言ったわよね? たかが人間と侮ってもらっては困る、って」

「人間は人間なりに、強い奴だっているんだぜ!」

「私の場合は夜兎だけどナ」

「それは野暮ってやつだよ、神楽ちゃん」

 

 兎にも角にも、この弾幕ごっこは四人の勝利に変わりないはず。だというのに、

 

「……ふふふ。うふふふはははははは!!」

 

 赤蛮奇は笑っていた。まるでこうなることが最初から分かっていたかのように、笑ってみせていた。

 

「何がおかしいのよ?」

 

 霊夢が尋ねる。

 すると赤蛮奇は、

 

「勝負っていうのは、勝つ方法が様々用意されている。私の場合、『この状況』さえ作ることが出来れば勝ったと同然だったんだ……人里に行くお前達を足止め出来れば、それでよかったんだ。だからこの勝負……私の勝ち、だ」

 

 そう告げると、今度こそその場に倒れた。

 

「……まさか霊夢さん。妖怪がもう……!!」

 

 彼女の言葉の真意にいち早く気付いたのは新八だった。

 そう、彼女は確かに告げていた。

 

 足止め出来れば、それでよかった、と。

 

「……っ。急ぎましょう」

「あぁ……嫌な予感がするぜ」

「この先に何が待ち受けているアルか」

「わからない……だけど今は先を急ごう!」

 

 四人は人里に向けて走り出す……。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百四訓 勝ち方にも様々な方法がある



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第二百五訓 かつての偉人が蘇るのはロマンを感じる

 紫と幽々子は現在、更に奥へと進んでいた。先ほど襲いかかって来た二人については……最早語る必要もあるまい。少なくとも、幻想郷で敵に回してはいけないランキングのトップ2を相手にして無事でいられるはずがない、とだけは宣言しておこう。

 

「この先から何やら強い気配がしますわ」

「ということは、この先にきっと、居眠りしていた誰かさんが待ち受けている、ということでよさそうね」

「そうですわね……寝坊助さんの寝起きをこの目で確かめる事になりそうですわね」

 

 紫と幽々子は、まるでピクニックに来た子供のように、楽しそうにやり取りをしていた。これはこの二人だからこそのやり取りであり、本来他の者がこの場所にいようものなら、警戒心を存分に放ちながら静かにゆっくり進んでいることだろう。しかし、この二人はそんな常識が通用しない。

 彼女達のすぐ近くには相変わらず神霊が居るが、構わず進んでいく。時折近寄ってくる神霊については、紫がスキマを用いて何処か別のところへ飛ばしたり、幽々子が扇子で追い払ったりしている。

 そうして進んでいくうちに。

 

「……あたり、ですわね」

 

 紫がそう呟いた。

 

「……私に何の用だ?」

 

 そこに居たのは、一人の人間と一体の亡霊、そして──。

 

「なるほど。聖人、ね……そりゃ神霊達も騒ぎ出すわけだわ。そうと分かれば話が早いわね」

 

 幽々子はその事に気付いて、思わず微笑んでいた。

 人間の方は、銀色の髪をポニーテールにまとめ、ディープブルーの瞳を持つ。頭には烏帽子を被り、身体には黄と緑の衣の上に白装束、紺色のスカートを履き、紫色の靴を履いている。

 亡霊の方は、薄い緑色でウェーブのかかったボブカットに、紐が付いた黒い鳥帽子を被っている。瞳の色は髪の色と同じ。濃緑色のロングスカートのワンピースを着ている。スカートの裾には大量の御札がある。最大の特徴は、本来人間の脚が付いている筈の部分に、霊体としての脚が付いていることだ。

 そして聖人は、獣の耳を彷彿とさせる程尖っている金髪に、『和』と書かれた耳当てをし、薄紫色のノースリーブに、紫色のスカート。腰には柄の部分に太陽を象った剣を携え、手には笏を持っている。

 

「関係性から察するに、ルーツは飛鳥時代ってところか……なるほど。確かに聖人として申し分ないだけの偉業を成し遂げているわけね」

「つまり、1400年前の人間が復活を果たした、と……素敵で羨ましいわ」

 

 紫の言葉からそのことを察すると、亡霊である幽々子は本当に羨ましそうにそう言った。かつて自身も、西行妖の下に眠る人物を蘇らせようとしていたことがある為、そういった話には敏感なのだろう。

 

「この地に踏み入る侵入者は、物部布都が許さぬぞ! ここで大人しく倒れるのが筋であろう!」

「どうしてもやろうってんなら、アタイが相手してやるっての。蘇我屠自古と言えば、どれだけの力を持ってそうなのか分かるだろう? 霊体は便利だからな……」

 

 布都と屠自古は、紫や幽々子に対して挑発的な態度を取っている。彼女達からしてみれば二人は侵入者。警戒して然るべき存在であるのだから当然の反応とも言えるだろう。

 しかし、

 

「待て、二人とも。恐らくこの人たちは戦いに来たわけでも、ましてや侵入したわけでもない」

 

 聖人である彼女が止める。

 そして止めた張本人は前に出ると、

 

「私は豊聡耳神子。出来れば貴女方の名前を伺いたい」

「「!?」」

 

 布都と屠自古の二人は、神子がそういった途端に驚きの表情を浮かべる。

 

「戦わずして、実力を認めた……?」

 

 屠自古は思わずそう呟いてしまっていた。

 そんな反応を見て、紫は。

 

「なるほど……貴女は聡明なお方なのですわね。実力を測ることが出来ている」

「よく言うわよ……それだけ莫大な妖力放っていたら、嫌でも私は身を引かざるを得ないさ。これがもしもう少し弱かったなら、私達ももっと高圧的に出られただろうに……」

「あらあら。そう言う貴女もなかなかの力を持っていてよ?」

「お気遣い感謝する……だが生憎私はまだ目覚めたばかり。寝惚けた身体で二人を相手するのは骨が折れそうだ」

 

 いい意味で、神子は聡明だった。彼女は自分の前に対峙している二人がどんな存在であるのかを勘で感じ取ったのだ。それがどんな種族なのかはともかくとして、少なくとも自分よりは格上の存在である、と。

 

「それで、ここに何の用事が? ただ単にふらっと立ち寄った、ってわけではないのでしょう?」

「そうですわね……簡単な話ですわ。あなた方の活動拠点をここから地上に動かして欲しいだけですの」

 

 紫はまるで最初からその台詞を用意していたかのように、間髪入れずに告げる。

 

「それは私達としても有難い話だが……何せこうして私が復活したのも、この地に流れる力がどこがおかしかったのにも起因しているし……」

「しかし、いきなり過ぎて訳わからないであろう? 我らにも分かるよう説明を求む」

 

 布都の疑問はもっともである。いきなり住処を移せと言われているのと同じなのだ。何か理由があることは推測出来るものの、それが納得いくものであるのかどうか不明なところだ。

 それに対して、今度は幽々子が答える。

 

「今、幻想郷には神霊が発生し続けている……その発生時期は恐らく、貴女が復活してからずっと、よ」

「なるほど……私の救いを求める人間の欲が具現化して、幻想郷を闊歩していると?」

「早い話がそういうこと。だけど、貴女の力を感じ取ることができても、その場所までは特定出来なかった……だから、力に惹かれた神霊達は行き場を失い、地上に残り続けてしまった……結果として、それが良くない影響をもたらし、本来救済を求めるのみだった神霊の中から、人間の欲の結晶として独立する者が生み出されてしまった……雑な予測に過ぎないけれど、これが冥界の番人たる西行寺幽々子としての解答であり、貴女達の疑問に対する答えよ」

 

 白玉楼で現れた夜王鳳仙。本来ならば彼のような存在は生まれることはなかったはず。しかし、こうしてある程度の自我を確立して現れてしまったのも、欲の塊が集まり、思考が一人分の物として確固たる物となってしまったから。詳しい理由は不明だが、予測としては一番確信に近いものであると幽々子は考えていた。

 もしかしたら、すでに発生してしまっている分に関してはどうしようもないかもしれない。だが、これから発生し得るものについては、神子の存在が外にいる事によって変わってくるかもしれない。それが、幽々子と紫が導いた答えだった。

 

「確かに……私の存在がこの地に悪影響をもたらすというのも、聞いていて心地よい話ではないな。それである程度の解決が期待されるのならば……良いだろう」

 

 神子は二人の案を受け入れる。

 これである程度神霊による被害は食い止めることが出来るだろう。

 

 ……それまでに人里が無事ならば、の話だが。

 

 

 

 

 

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第二百五訓 かつての偉人が蘇るのはロマンを感じる




なんか書いてたらいつもよりも長くなりました……?
全盛期と同じくらいの文量になった気がしますが、次回にはまた戻っていると思います()。


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第二百六訓 恐れを失くした敵程怖い奴はいない

「急いで人里に向かうわよ。あのろくろ首が言っていたことが妙に引っかかるわ」

 

 人里に向かうまでの道を、霊夢達は飛んでいた。霊夢は神楽を抱えながら、魔理沙は新八を箒に乗せて、幻想郷上空を飛んでいく。

 

『「この状況」さえ作ることが出来れば勝ったと同然だったんだ……人里に行くお前達を足止め出来れば、それでよかったんだ』

 

 確かに赤蛮奇はそう言った。それはつまり、これから人里で何が起きるか、あるいは……。

 

「なんだか嫌な予感がするぜ……」

 

 辺りを見渡しながら、魔理沙はほとんど呟くように言った。

 四人の誰もが、不自然な違和感を覚えている。着々と進んでいる割には、既に手遅れになりかけているのではないかと思わされる程の焦りを感じている。そんな思いを抱きながら辿り着いた人里は、

 

「なっ……!?」

 

 新八が思わず言葉を失ってしまう程壮絶な光景。

 

 ――幻想郷にいる妖怪達が、人里に攻め込んできている様子がそこにあった。

 

 

 上白沢慧音は、なんとも言えない不安を抱いていた。とても漠然としているが、あまり感じなくない部類の直感。

 幻想郷における人間と妖怪の関係性は、大凡完全に安定しているとは言い難い。当然のことながら襲ってくる妖怪もいる。人里に来ることは滅多にないが、ゼロという訳ではない。そもそもそんなことが本当にあり得るのならば、こうして慧音が見回りをする理由もない。

 

「一体何をそこまで不安がってるのさ」

 

 藤原妹紅は、隣で何やら少し焦っている様子の友人に対してそう尋ねる。時折こうして慧音と共に人里の警邏に付き合っている彼女としても、慧音の不安がり方は少々特殊だった。

 

「今日、寺子屋に来ていた子達の様子が少し変だったのよ……いつもは大人しい筈の子がはっちゃけていたり、元気にはしゃぎ回る子が嘘のように引っ込み思案になっていたり……」

「まるで全てがひっくり返っている……?」

「そう。それに加えて、人里周辺で見られた幽霊現象……」

 

 人里の周辺で、正体不明の幽霊が複数確認される事象が起きた。慧音が普段よりも警戒している理由がまさしくそれなのだが、何故幽霊が生み出されたのかを確認する手段がない。それに、寺子屋に来ている子達……特に妖精や妖怪達の心がまるでひっくり返ったかのような現象。そのどれもが、偶然だからで片付けて良いはずがない代物。

 確かに、慧音や妹紅の知らないところで解決に向き始めているとはいえ、それを知らない彼女達からしてみれば懸念材料になるのは当然のこと。

 

「何かが起きようとしてるのは確かなんだ……人里にとって良くないことが……」

 

 慧音は、可能ならば人里に何も起きないことを祈っている。彼女が大切にしている人達が、何者かの邪悪なる意思によって傷つけられてしまうのは彼女にとって不本意以外の何物でもない。

 

「……慧音。あれ」

 

 その時。

 何かを見つけたらしい妹紅が、慧音の背後を指差した。

 気になった慧音がその方向を見てみると。

 

「なん、で……」

 

 人里に流れ込んでくる、妖怪達。

 彼らの目は血走っていて、決して正気ではないことを物語っている。その数は膨大で、もしこの数が人里に流れ込んで来たら、人々が襲われるのは容易に想像出来た。

 

「こんなに妖怪が来ることなんて普段ならばあり得ない……まさか何かが起こっているというのか!?」

 

 妹紅が驚いたような口調で言う。

 

「とにかく、今はこの妖怪達を何とか退けなければいけない……妹紅、手伝って!!」

 

 産霊『ファーストピラミッド』。

 三角形に配置した魔法陣より、大玉の弾幕が妖怪達目掛けて飛んでいく。

 弾幕を喰らった妖怪達は、一度は退くも――すぐに立ち上がる。

 

「なっ……力が強まっている!?」

「普段は弱い妖怪達の力も、『すべてがひっくり返っている』から強くなっているのかもしれない……妹紅、気を付けて」

「分かってるさ。どの道私は死なない身。こんな奴らに後れを取ることもない!!」

 

 不死『火の鳥-鳳翼天翔-』。

 妖怪達に向かって突進しながら、妹紅は炎を纏いし鳥を放つ。

 炎に身を包まれた敵は、その場から逃げ去る――ことなく、尚も果敢に立ち向かう。

 いや、それは勇猛果敢というよりは、猪突猛進が正しい。

 

「どうなってるんだこれは……?!」

「……とにかく、今は少しでも被害を食い止めるしかない」

 

 人里で奮闘する二人を嘲笑うかのように、妖怪達はどんどん押し寄せてくるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百六訓 恐れを失くした敵程怖い奴はいない

 



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第二百七訓 護られるだけでなく護りたい

 銀時、こいし、フランの三人は、輝針城の中を駆け抜けていた。ここは敵の本陣。本来ならば冷静に対処しなければならないのだが、時間はそこまで残されていない。一刻も早く事態解決へ踏み込まなければ、どうなってしまうのか正直分からない。そういった事情がいくつも重なりながら、銀時達は進んでいく。

 

「くっそ……じゃまだぁ!」

 

 道中で襲いかかってくる妖怪を退けながら、さながら徹甲弾の如き勢いで進んでいく三人。先陣を銀時が切り開き、左右をこいしが守り抜き、後陣をフランが撃ち抜く。三人の相性は良好だった。

 

「ギン兄様とこいしちゃんの背中は任せて!」

「左右は私が護り抜くよ〜!」

 

 やる気は十分。

 このまま最終関門まで突き進まんとばかりの勢い。しかし、そういうときにこそ壁は必ず現れる。

 

「侵入者発見、ってやつだな……」

「貴方達は一体何の目的でここまで来たんですか!?」

 

 銀時達の耳に届いた二人分の声。声の主が何処にいるのか分からないため、彼らはその場で足を止める。周りを確認し、気配を探る。

 

「ギン兄様! こいしちゃん! こっちにいる!!」

 

 フランの視線の先には、一人立っていた。

 黒髪に白と赤のメッシュが混在した頭に、小さな二本の角を持つ。瞳の色は赤色。 服装は矢印がいくつも連なったような装飾がなされているワンピースのようなもので、腰には上下逆さになったリボンを付けている。足元は素足にサンダルを履いている。右腕にのみブレスレットを付けている女性。

 だが、肝心のもう一人の姿が見当たらない。

 

「私は鬼人正邪。打ち出の小槌を壊されるわけにはいかないからね……ここでお前達を足止めさせてもらうよ。でないと私の野望が果たせなくなっちまうからね」

「テメェの野望?」

「あぁ。いつまでも強者が弱者を踏み潰す世界が続くってのは飽き飽きだ。だからこれからは弱者が強者を乗り越えられるような世界を作ろうとしてるってわけさ!」

 

 正邪が目的としているのは、文字通りパワーバランスの反転。

 強き者と弱き者。そのバランスを崩して、弱者が支配する幻想郷を作り出す。

 

「なるほどな。要するにテメェは幻想郷乗っ取ろうと企んでる奴らに、まんまと利用されてるってわけか」

「……なんだと?」

 

 銀時の言葉に、正邪が殺意を剥き出しにする。

 実際は銀時の言う通りだ。華陀が正邪たちを利用し、自身が美味しい所をすべて持っていこうとしている。だが、正邪としてはそれを認めるわけにはいかないのだ。

 

「私達が利用されていたとしても、それでも! 弱い者にも矜持ってものがあるんです!!」

「「「!?」」」

 

 突如として声が聞こえた。

 それは銀時達の背後――即ち、進行方向からやってきたのである。その声と共に飛び交う――弾幕。

 

「本能『イドの解放』!」

 

 ハート型の弾幕をこいしが放つことによって、迫りくる弾幕を撃ち消す。

 煙の中から現れたのは、一人の少女。

 薄紫色のショートヘアーにお椀を被り、赤色の和服で、足元は裸足。右手に縫い針のような特注の剣、左手に打ち出の小槌を持っている。小槌の片面から魔法陣らしきものが出ており、針妙丸を囲うように輪を描いてもう片面と繋がっている。

 

「少名針妙丸。弱き者にも誇りがあるという所を見せてやります!」

 

 敵意を見せる針妙丸。

 それに対して、

 

「……ギン兄様。ここは私とこいしちゃんに任せて」

「!?」

 

 フランは正邪のことを警戒しながら、銀時に言う。

 フランの意見に賛同しているようで、こいしも針妙丸を警戒しながらも、銀時に向けて頷く。

 

「おめぇら……」

「この先に居る黒幕を倒すのはギン兄様の役目なんでしょ? フランも、ギン兄様のお役に立ちたいから」

「いつまでも守られてばかりじゃない。こいしだって、お兄さんをお守りしたい! 助けになりたい!」

 

 フランもこいしも、こういった場ではなかなか前線に立たないことが多かった。実際、今回の異変においても、銀時達に守られることが多かったのだ。銀時達からしてみれば、彼女達のポテンシャルを買っているからこそ最終兵器として残しておきたい気持ちだったのだが、本人からしてみればそうもいかない。

 ここで活躍せず、いつ活躍するというのか。

 

「……分かった。テメェら信じて、俺は先へ行く。だからテメェらも、ここでくたばるんじゃねえぞ!」

「「もちろん!!」」

 

 その掛け声に合わせて、銀時は全力で駆け出す。

 

「いかせると思っているんですかぁああああああああああああ!!」

 

 妖剣『輝針剣』。

 右手に握りしめた剣を振るい、ナイフ状の弾幕を張り巡らせていく。

 しかし、銀時の行く道を。

 

「抑制『スーパーエゴ』!」

 

 こいしが創り出していく。

 先程針妙丸に放ったハート型の弾幕を、今度は後ろから戻してナイフの弾幕を相殺していく。

 

「こっちにも居ること忘れちゃいないよねぇ!」

「もちろんだよ! 後ろはフランが護る!!」

 

 正邪の拳を、フランの爪が食い止める。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 その間に、銀時は最終地へと向かうのであった――。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

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第二百七訓 護られるだけでなく護りたい

 



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第二百八訓 かつての番人

 銀時はただひたすらに駆ける。ここまで仲間達が切り開いてくれた道を無駄にしない為にも、彼は前へと突き進む。道中で襲い来る妖怪達をいなしつつ、とうとう彼は最深奥に辿り着いた。

 

「ほぅ……おもったよりも随分と早いではないか、下等な猿」

「江戸じゃ世話になったな。博打好きのねーちゃんよぉ」

 

 そこにいたのは、邪悪なる笑みを浮かべる華陀と、真剣な面持ちで銀時を見据えるぬえの二人。そしてここが、異変の最終地点であると銀時は悟った。

 

「たかだか猿が一匹ここに迷い込んできたところで、一体何を見せてくれるというのじゃ? 道化としての催し物を見せるにしても、貴様一人ではつまらん」

「つれないこと言うなよ。せっかくこうして密室に女二人男一人って状況なんだ。ちったぁこの状況楽しませてくれよ」

「生憎じゃが、今この場で開かれるパーティーは別の物じゃ。それに、妾が招き寄せた者共は、まだ他に居る。みな其々今宵の宴を楽しもうとしている者共じゃ」

 

 華陀の言葉と共に、部屋に備え付けられている襖が開かれる。四方から流れ込んできたのは、大量の妖怪。そして……。

 

「天人……!?」

「今、幻想郷では二つの異変が起きてるのさ。一つは輝針城を起点とした、『すべてがひっくり返る』異変。もう一つは、偶発的に起こった神霊異変。私達はこの神霊異変を利用させてもらった……封獣ぬえが、完璧に人間を幻想郷から追放する為に」

 

 元より幻想郷に居着いていた妖怪、新たに妖怪として生まれた道具達。そして、神霊騒動によって生み落とされた欲の塊。

 

「……なるほど。顔黒ジジイはこんな状況だったってわけか。これは実に愉快極まりない光景だな……思わず笑顔が溢れちまいそうだ」

「痩せ我慢ならば今の内じゃぞ? 負けを認めるのなら、せめて優しく嬲り殺してやろうぞ」

「冗談抜かせよ。昇天するならもっと美人さんにしてもらいたいものだね。テメェみてぇな女狐の前でおっ死ぬなんざ真っ平御免だ。そもそも、俺はこの場で死ぬつもりなんざねぇよ」

「ならば、其方はこの状況におかれても生きて帰ると? 圧倒的な物量を前に物怖じせぬと?」

「雑魚が何人寄って集ろうが所詮雑魚だ。むしろこうして人数かき集めて後ろでのうのうと隠れなければならねぇテメェらの方が、よっぽど追い詰められてるんじゃねえか?」

 

 銀時はこの状況下でも動じない。それどころか、華陀とぬえを挑発するような口振りすら窺える。彼は自分で確信しているのだ。

 

 坂田銀時は、ここでは死なない、と。

 

「……言ってくれるじゃないか。人間風情が……びくびく怯えて震えるしか能の無い人間が、私達妖怪を馬鹿にするだと?」

「そもそもそうして人間やら妖怪やらの区別に拘ってる段階で、テメェはまだまだ甘ちゃんだっての。妖怪だろうが天人だろうが関係ねぇ。等しく命与えられて生きてる奴を追い出そうなんざ、許せる筈がねぇだろうが」

 

 銀時は木刀を握りしめる手に力を込める。まさしく今から戦いが繰り広げられそうな所で。

 

「随分と聞き捨てならない状況におかれてんじゃねえか。何処の誰だはしらねぇが、加勢するぜ。銀髪の兄ちゃん」

「「「!?」」」

 

 三人にとって聞き覚えのない男の声が届いて来た。それは若い男の物。今輝針城にいる者の中で、該当する人物は存在しない。だとすれば、天人達が神霊として現れた時に、偶発的に現れたのだろうか? 

 兎にも角にも、この場において加勢が一人。

 

「な、何奴じゃ……?」

「馬鹿な……ここにはもう、余計な奴なんていない筈なのに……っ」

 

 華陀もぬえも、信じられないといったような表情を浮かべている。つまり、彼女達からしても予想していなかったということ。

 

「俺としても、天人相手に大立ち回り出来るのは本望だからな。せいぜい暴れさせてもらうぜ……」

 

 右手で十手を弄び、左手で煙管をふかせる。銀時は出会ったことはないものの、その男のことを知っている。

 

「あ、アンタ……まさか……!?」

 

 かつて一人の男がいた。

 江戸を護る番人として戦い、その果てに倒れた一人の男。

 その男に勝手に約束を交わした銀髪の男。

 その、約束した相手……。

 

「俺もそのパーティーに参加させてくれよ。まさか招待券がもうないなんざ言わせねぇよ? どうせ今宵限りの身体なんだ。客人が一人紛れ込んだ所で関係ないさ。だから勝手に参加させてもらうぜ……この、寺田辰五郎が」

 

 人々を護るという欲から生まれた存在……寺田辰五郎がそこに居た。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百八訓 かつての番人



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第二百九訓 斬り伏せ御免

「これは……一体……!?」

 

 人里に辿り着いた霊夢達を待ち受けていたのは、慧音と妹紅が妖怪達と戦っている光景。そして、数多くの妖怪達が人里を襲っている所だった。

 

「霊夢!! 私達だけじゃ食い止めきれない! だから手伝って欲しい!」

 

 弾幕を放ち、自身の力を存分に振るい、戦いながら慧音は要請する。

 

「いくら私が不死であるとはいえ、ここを抑え込むには必要のない力……今はとにかく人手が欲しい。だから頼む……協力して欲しい!」

「言われずとも分かっているぜ! 人里を好き勝手やらせるわけにはいかないぜ!」

 

 真っ先に前に出たのは魔理沙だった。彼女の放つ極太のレーザーは、妖怪達を呑み込んでいく。大抵の妖怪は彼女の放つマスタースパークの前に倒れ伏すのだが。

 

「何体か……立ち上がっている……!?」

 

 新八がその事実に気付く。

 もちろん、マスタースパークにやられてそのまま消え去った者も居る。それらは恐らく神霊の類だったのだろう。しかし、妖怪達の中には、それでも尚立ち向かってくるものも居た。

 すべては、輝針城における打ち出の小槌の力と、神霊が湧き出る現象。これらが嚙合わさることによって完成してしまった状況。結果的に、人里にしわ寄せが寄ったのである。

 

「華陀とかいう奴はこれを待っていたわけか……人里が妖怪達に襲われてしまえば、幻想郷における人間と妖怪のバランスが崩れる。均衡を保てなくなった幻想郷の存在すら危ぶまれるじゃない……っ!」

 

 博麗の巫女として、現状を冷静に分析する霊夢。

 いや、内心そんな冷静でいられるわけがなかった。

 言ってしまえばこれは、自分達が住む世界の存在自体が危ぶまれている状態。

 もしこのまま見逃してしまったら、その時は――。

 

「脇巫女! 何をボサッとしているアルか! さっさと戦うネ!!」

「!?」

 

 神楽からの叱咤を受ける。

 神楽は既に、自分の周囲に襲い来る妖怪達を、番傘を以て叩き伏せている。

 

「考えるよりも先に、今は目の前の敵を倒すべきですよ霊夢さん!!」

 

 新八も、木刀で敵を斬り倒していく。倒しきれなかった敵は、妹紅が焼き消していく。そうして、彼らは人里の被害を最小限に抑えようとしている。いや、抑えるだけではない――人里を救おうとしている。

 

「……そうね。何をボサッとしていたのかしら。博麗霊夢がこんなことで気圧されてはいけないものね!」

 

 夢想封印。

 彼女が得意とするスペルカード。

 札と陰陽玉によって構成された弾幕は、妖怪達を退ける。

 

「ここを一気に乗り越えて――!」

 

「そうはいかねぇってもんさ! テメェらには鬼ってもんを見せてやらねぇとなぁ!」

 

 突如、霊夢の前に振り下ろされた巨大な棍棒。

 その形相から、まさしく鬼であると心の中で呟いた。

 

「鬼獅子……テメェらにゃ何の恨みもねぇが、こうして前に出てきた以上、一夜限りの戦場を大暴れさせてもらうぜぇ!」

「なっ……アイツは確か、銀さんに倒された筈……!」

 

 鬼獅子。

 かつて銀時が煉獄関に突入した際に倒した、荼吉尼族の天人。

 彼もまた、こうして新八達の前に現れて、行く手を阻もうとする。

 

「こまけぇこたぁどうだっていい! 今はまず暴れられれば……っ!」

 

「そうか。暴れられるのは困る。だから一刀のもとに沈めさせてもらおう」

 

「……え?」

 

 更なる男の声。

 荘厳な声色が人里に響く。

 その場に居た誰もが、鮮やかすぎる一閃に声も出せなかった。

 

「な、に……?」

「欲に塗れ、存在を迷わせた哀れな霊よ。その未練を、我が刃で以て斬り捨てる」

 

 男が剣を鞘に収めた瞬間、鬼獅子は呆気なくその姿を消し去っていく。

 あまりにも一瞬過ぎるその光景に、霊夢達はおろか、その場にいた妖怪達でさえ言葉を出せずにいた。

 

「間に合いましたね……もう大丈夫です。私と、師匠が来ましたので……加勢はこれで十分ですね?」

 

 その後ろから――魂魄妖夢が剣を抜いた状態で追いかけてきていた。

 

「妖夢?! つーか、師匠ってことはつまり……!?」

 

 魔理沙も、かつて妖夢から話だけは聞いていた。

 彼女の剣を鍛え上げた師匠が居たことを。

 そしてその師匠の名は――。

 

「孫が世話になっておるな。その恩を、この場で以て返させてもらおう。この――魂魄妖忌が、必ずや人里を妖怪共から救ってみせようぞ」

 

 男――魂魄妖忌は、この現状を斬り伏せる為にやってきた。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百九訓 斬り伏せ御免

 

 



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第二百十訓 勝負

「邪魔ばかりされても困るんだよね! そんだけ強い力を持ってるならさ、何故この幻想郷を支配しようとか考えないわけ!?」

 

 フランと対峙している正邪。

 正邪の目的は実に単純だ。

 

 ――幻想郷の支配。

 

 皮肉にも、その心は華陀と同じもの。考えについてもほぼ同じ。だが、彼女は針妙丸共々利用された。この異変を引き起こし、最終的に華陀が支配する為の道具にしか使われていない。

 もちろん、正邪とてその事実に気付いていない訳がない。気付いた上で敢えて乗り、更に自分が華陀を上回ろうと画策さえしている程だ。それだけ、彼女の心は揺るがない。

 

「幻想郷を支配するだなんて考えは私にはないの。だって、ギン兄様が居て、お姉様が居て、みんなが居る……そんな幻想郷が、私は好きだから……だから! 貴女のような邪な考えを持っている人を止めるの!! 私だって、ギン兄様の……みんなの役に立つんだって所、見せるの!!」

 

 正邪の放つ弾幕を、フランは爪でかき消していく。

 

「くっ……こん、の……っ!」

 

 

 逆転『リバースヒエラルキー』。

 フランと正邪の居た位置が突如として逆転する。それだけではとどまらない。

 

「え、あ、あれ……!?」

 

 フランは困惑している。

 そう。今の彼女は、上下左右がすべて反転した状態で戦わされている。

 正邪は、この空間をすべて反転させたのだ。

 だが、その影響を受けるのはフランだけではない。

 

「なっ……!?」

「ちょ、ちょっとこれはどういうことですか?!」

 

 同じ空間に居るこいしや針妙丸についても、その影響を受けてしまう。

 

「悪いが、こっちも勝つためには容赦しないから……だからちっとばっかし我慢してくれ」

「しょうがないですね……それならば……!?」

 

 少し。

 そう、針妙丸にとってはほんの一瞬のつもりだった。

 しかし――その一瞬こそ命取り。

 

「……え?」

 

 古明地こいしを、彼女は完全に見失っていた。

 針妙丸は知らない。こいしが『無意識』を操ることが出来るということを。

 その能力を利用して、相手の意識から外れることが出来ることを。

 

「『ブランブリーローズガーデン』」

「しまっ……!?」

 

 そしてこいしは、その無意識から攻撃を放つ。

 無数の薔薇の竜巻が、針妙丸を呑み込んで――薔薇が一気に爆発を起こした。

 

「ちぃ……上下左右すべて反転している世界でそこまで……」

「たかがそれだけ、でしょ?」

 

 フランは周囲を自由に飛び回り、正邪を困惑させる。

 

「私にとって、重力なんて無意味。確かに左右逆にされるのはちょっと困るけど、慣れればどうってことないんだね」

「くっ……縦横無尽に飛び回るってか?!」

「そういうこと。私は吸血鬼だよ? それ位、わけないよ……スカーレット家の妹を、舐めないでよね!」

 

 禁弾『スターボウブレイク』。

 彼女の羽についている宝石のような物を彷彿とさせるような、色とりどりの弾幕が天井にあがり――一気に正邪目掛けて降り注いだ。

 ただし、ここは上下左右すべてが反転している世界。

 その弾幕は――本来ならばあり得ない動きを見せる。

 

「なっ……!?」

 

 上からも下からも、正邪目掛けて降り注いでいた。

 

「私の力を、利用して……っ!」

「ここで眠って。今はギン兄様の助けに行かなきゃいけないの……だから、ここで一気に終わらせる!!」

 

 フランの叫び声と共に、正邪を呑み込む無数の弾幕。

 その弾幕は、正邪を逃がすことを決して許さず――そのまま彼女の意識を刈り取ることに成功した。

 

「っ!」

 

 正邪の意識が途切れた瞬間、反転していた空間は元に戻る。

 

「……私達、勝ったんだね?」

 

 こいしがポツリと呟く。

 それに答える様に。

 

「……うん。こいしちゃん、フラン達勝ったよ。ギン兄様の役に立てたんだよ!」

「そっかぁ……よかったぁ……」

 

 こいしが心底嬉しそうな表情を見せる。

 彼女達の心にあるのは、自分達が銀時の役に立てたという自信。

 今まで護られてばかりだった彼女達が、自分の強い意志で戦ったという証拠。

 フランにとっては、何度か異変に関わることがあったものの――その度に、何かしら心に違和感みたいなものが残っていた。

 そして――その違和感は、戦いを終えた今にも現れそうになる。

 その正体は――不安。

 

「……ギン兄様の所に行こう! 今も戦っていると思うから!」

「……うんっ!」

 

 彼女達は、銀時に加勢する為本拠地へ向かう。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百十訓 勝負

 

 

 



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第二百十一訓 気高き魂

「寺田、辰五郎……!?」

 

 その一言で銀時は確信する。たった今目の前に現れた男は、かつての江戸の番人であり……お登勢の旦那であった男だということを。そして、坂田銀時が勝手に約束を結んだ男であるということを。

 

「これだけの数、天人やら妖怪やらがうじゃうじゃといるパーティー会場なんて、随分と珍しい所にいるじゃないの兄ちゃん。アンタ、只者じゃねえな?」

 

 口元をニヤリとさせながら、辰五郎は尋ねる。対する銀時は。

 

「そういうアンタこそ、好き好んでこんな修羅場乗り込んで随分と楽しそうじゃねえか。アンタ、只者じゃねぇよな?」

 

 同じように口角を上げ、辰五郎にそう言い放った。

 

「ちげぇねぇ。アンタ、江戸の住人だな? 如何にもこういう馬鹿騒ぎが好きそうな雰囲気してやがらぁ。やっぱそう簡単にゃ変わるもんじゃねぇってかい」

「天下の歌舞伎町だぜ? 時代は変わっても、その本質は変わっちゃいねぇよ。あの街も……あの地に住む馬鹿共も」

「そうかい……お登勢や次郎長は元気にしてっか?」

「ババアもジジイも相変わらずだ。ジジイの方は旅に出たっきり会ってねぇけど、娘とよろしくやってんよ」

「あいつ父親になってんのか!? 時の流れたぁすげぇもんだなぁ」

「ババアは元気に家賃払えってうるせぇのなんの。アンタん所の奥さんだろ? 何とかしてくれよ」

「お登勢も相変わらず元気そうで安心した。これで思う存分戦えるってもんよ」

 

 互いに軽口を叩き合う。

 目の前に華陀やぬえもいるというのに、まるでそこに居ないものとして扱いながら、勝手に話を進める二人。

 

「こんな状況で、これだけの敵を前にして、たかが猿二匹で何が出来るというのじゃ!? 貴様らは自身の置かれた状況が分からぬというのか!?」

 

 数だけでいえば絶体絶命。客観的に見たらそう判断せざるを得ない状況。しかし、銀時も辰五郎も、そんな考えなど微塵もない。互いの素性は細かく知らないし、力量だってどの程度のものなのか把握しているわけでもない。

 だが、彼らは感じ取っているのだ。

 

 ──この場で魂は折れないということを。

 

「「!?」」

 

 故に、その剣に迷いはない。

 一瞬のうちに、自身の直ぐ近くに居た天人や妖怪達を斬り伏せる。

 そして、銀時と辰五郎は互いに背中合わせになり、

 

「アンタのその魂、折れるんじゃねぇぞ?」

「そういうのはテメェの心にでも刻んでおけ、銀髪の兄ちゃん。俺の魂は、決して折れるこたぁねぇよ」

「だろうな……奇遇だ。俺も折れる気がしねぇ」

「「なら、何も問題はねぇな?」」

 

 銀時から放たれる無規則な剣戟と、辰五郎から振るわれる力強い剣筋。

 その圧倒的な力に、ぬえも華陀も思わず言葉を失っていた。

 

「っ!!」

 

 銀時に襲い来る三体の敵。刀を持った者、鋭い爪を生やした者、筋骨隆々とさせた者。

 銀時は真っ先に、相手の刀を奪いにかかる。木刀で敵の手を叩き潰した後、痛みに悶える敵が落とした刀を蹴り上げて、それを握る。その刀を左手で握りしめて──そのまま一閃。左から襲ってくる巨体を、右手に握った木刀で殴り飛ばし、右から迫ってきた爪を、刀で斬り崩した。

 

「……」

 

 辰五郎の前には、刀を持った天人が複数人。最初に襲ってきた敵の刀を十手で受け止め、そのまま剣筋に沿って突っ込んでいき、勢いを殺すことなく左の刀で斬り伏せる。そんな辰五郎目掛けて、妖怪が噛み砕こうと襲い掛かる。敵の動きをしっかり見て、辰五郎は敵の猛追を避けた。目標を失った妖怪はそのまま地面に落下し、そこを辰五郎が見逃す筈がなかった。

 

「ヲォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 相手を一瞬で斬り伏せる。

 銀時と辰五郎は互いを見つめると、そのまま全力で駆ける。やがてその身同士がぶつかり合いそうになる程距離が近くなったと思ったら。

 

「「まだここで死ぬんじゃねえぞ?」」

 

 互いの背中に居た敵を、それぞれの刃で突き刺した。

 

「な、なんじゃコヤツらは……!?」

 

 華陀は、その圧倒的な力に恐怖していた。

 そして皮肉にも――歌舞伎町でのことを思い出していた。

 二度もこの男に――自身が下等生物とみなしていた人間共に、野望を止められようとしている。

 

「な、んで……?」

 

 そしてその恐怖は、ぬえも感じていた。

 憎き人間が、妖怪や天人相手に一歩も遅れを取ることなく、むしろ立ち向かっている。

 彼女は、人間は醜く卑しい生き物だと考えていた。それだけに、彼らの魂は――気高く美しく見えた。

 

「死にたくなけりゃここを突破しろってか。分かりやすくていい」

「アンタ偏差値低いだろ? 銀髪の兄ちゃん」

「そういうアンタも、馬鹿やってるみてぇだな」

「そりゃな。こんだけ暴れていい場所用意されて、馬鹿騒ぎしねぇ方が損ってもんよ。テメェだって同じだろ?」

「……そうだな。精々テメェの刃で傷つけられねぇよう、気を付けるこったぁ!」

「そりゃこっちの台詞だ!!」

 

 二人の侍の戦いは、今ここに幕を開ける――。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百十一訓 気高き魂

 

 



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第二百十二訓 統べる力

 侍二人による見事な大立ち回り。互いの前に現れる敵を次々と斬り倒していき、背後より現れる敵を貫いていく。だが、数の利も土地の利も相手にある。二人で挑むには、敵の数が多すぎる。

 

「ぐっ……」

 

 当然、銀時と辰五郎はそんな中で無傷でいられるわけがない。特に銀時に至っては、今までの戦いによって蓄積された疲労も溜まってきている状況。

 だが、彼らは止まることはない。たとえ背中を斬りつけられようが、腹を貫かれようが、後退も降参も存在しない。もはや彼等は留まることを知らない。ある一種の弾丸みたいなものだった。

 

「妾達の野望の為、この者共を討ち取れェエエエエエエエエエエエエ!!!」

 

 華陀の声が響き渡る。

 声色からも察することが出来るように、彼女は今かなり焦っている。彼等の邪魔が入らなければ、己が野望はまだ叶いやすかったろうに……だが、それも今潰えようとしているのだ。

 

「テリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 銀時は吠える。

 己を鼓舞し、相手を威嚇し、敵を討つ。

 四方より迫りし無数の敵を蹴散らし、更に次の敵へ。

 

「…………っ!!」

 

 辰五郎は静かに闘志を燃やす。

 瞳に炎を宿し、磨き抜かれた動きで敵をねじ伏せる。

 たとえその身がボロボロになろうとも、彼等は決して立ち止まらない。

 

「なんなんだよ……どうしてそこまでするんだよ……!? この人数差なのに、なんでお前ら人間は諦めないんだよ……!? このままだと、私達の野望が……潰えてしまう!!」

 

 ぬえは、目の前で繰り広げられている光景に対して心が折れそうになる。

 当然、彼女だって弾幕を放つことが出来る為、戦うことは可能だ。だが、そんな彼女が足を踏み出さないでいる理由は、思いの外明白だった。

 

 ──この二人に対して、恐怖を抱いているのだ。

 

 それまで、ぬえにとって人間とは下等生物であり、醜き存在だった。見下していたと言っても過言ではない。それ程までに人間を憎んでいた。

 だが、今こうして戦っている彼等は、記憶の中にある人間像とはおよそかけ離れている。いや、彼等は最早、ただの人間というよりは……。

 

「お、に……」

 

 白夜叉。

 かつて坂田銀時はそう呼ばれて恐れられていた。辰五郎と共に激戦の中に身を置いている内に、彼の中に眠る戦いの記憶が呼び起こされているのかもしれない。

 

「たかだか猿二匹に何を手間取っておるのじゃ!? 早く此奴らの息の根を止めよォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 華陀の叫びとは裏腹に、銀時と辰五郎は不気味な程の笑みを浮かべている。彼等は既に限界などとっくに超えている。それでも尚動きを止めることはない。

 前方からの敵を薙ぎ倒し、後方からの敵を退け、左右からの敵を蹴散らす。圧倒的な戦力差があった筈なのに、気付けば華陀が従えていた筈の存在は、そのほとんどが数を失っていた。

 

「こんな……筈では……っ!!」

 

 打ち出の小槌を利用して、本来弱い者が強くなる逆転現象を起こした。神霊騒ぎに乗じて、弱い力しか持たない筈の人の欲を強めた。計画の中に偶然すら味方につけ、華陀とぬえの計画はほぼ完璧であるようにすら思えた。だというのに……それでも、彼等は止めに来た。無茶を通してここまで来てしまった。

 

 ぬえは人間を見くびりすぎていた。

 華陀は幻想郷を知らなさ過ぎた。

 

 それゆえに、彼女達の計画は失敗する。綿密に練られた筈の計画は、呆気なく霧散していく。

 

「テメェらなんぞに……この地を支配出来るかよ。ここにいる奴ら従えるにゃ力も理解も足りなさ過ぎる。大体、あの馬鹿共がテメェらみてぇな輩に支配される玉たぁ思えねぇよ」

「世界統べるにゃ、まずテメェの部下を統率させる方法を学ぶこったな。天人に妖怪よぉ」

 

 銀時も辰五郎も、華陀やぬえが今回の計画を成功させたとしても、幻想郷を支配出来るとは考えていなかった。

 たとえその身体がどれだけボロボロになろうとも、彼等は立ち止まる事を知らない。決して倒れない。この戦いを終えるまで、彼等は決して止まらない。

 

「さて、こんだけ暴れることが出来るのも今の内だからな……そろそろ終わりが見えてきそうだ」

「何……!?」

 

 銀時の言葉に、華陀は目を丸くする。

 あれだけいた筈なのに、自分が従えていた者達の数は……尽きようとしていた。

 

「もう……私が出るしかない……っ!」

 

 そうしてとうとう……ぬえが二人の前に立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 

 

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銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百十二訓 統べる力



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第二百十三訓 勝敗の行方

「鵺符『鵺的スネークショー』!」

 

 前へ飛び出したぬえは、自身のスペルカードを発動させていた。いびつな形をした弾幕が、不規則な動きを見せて銀時と辰五郎に襲いかかってくる。二人はその動きを見て、避けられるものは避けて、避けきれなかったものを己の武器で打ち消していく。

 

「これなら、どうだぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 避けられたことを察したぬえは、次なるスペルカードを発動させる。

 

 鵺符『弾幕キメラ』。

 

 ぬえから発せられるレーザーが、二人を飲み込もうとする。銀時と辰五郎の二人はそれを避け、反撃に転じようとするが。

 

「……!?」

 

 放たれたレーザーが、途中で動きを停止した。そして──。

 

「なっ……!?」

 

 一筋の光は、形を失ってバラバラな形の弾幕となりて、侍達に襲いかかる。光の牙が、彼らの身体を抉り取ろうとしていた。

 

「「てりゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」」

 

 二人はそれを許さない。

 自身の領域に入り込んでくることを拒み、どんどん打ち消していた。その反動で先ほどまで受けていた傷口から鮮血が撒き散らされようとも、二人の侍は止まらない。

 

「なんで……どうして……!? どうして止まらないんだ!!」

 

 鵺符『アンディファインドダークネス』。

 周囲の視界を暗雲を以て奪い去り、辺り一面に光弾をばら撒いていく。闇の中に光り輝く弾幕はまるで夜空に輝く星空のよう。闇に紛れたぬえが、銀時目掛けて飛びかかろうとした時。

 

「……甘ぇよ。それでやれると思ったか?」

「!?!?」

 

 冷たい声だった。

 身体の奥底から込み上げてくる恐怖という感情をぬえは感じ取っていた。

 恐怖──自身が憎んで下に見ていた人間に対して、封獣ぬえは恐怖していた。

 

「なんで……なんで!?」

 

 ぬえは銀時に向かって殴りかかる。当然、銀時はそれを木刀で防ごうとする。ただし、ぬえの狙いは銀時本人ではなく──。

 

「テメェの武器奪おうってのは感心するが、些かその判断が遅れちまったみてぇだな、嬢ちゃん」

「!?」

 

 銀時の武器を奪い去ろうとしていたぬえの手を、辰五郎の十手がはたき落とす。辰五郎はそのままぬえの腕を掴み取り、地面へと叩きつけた。

 

「が、は……っ」

 

 思い切り勢いつけて倒れたぬえの肺から、溜め込んでいた空気が無理矢理吐き出される。ぬえもそんな状態をいつまでも続けるわけにはいかず、すかさず反撃に転じようと試みて、

 

「これでシメェだ、妖怪の嬢ちゃん」

 

 ぬえのすぐ横に突き刺さった刀の刃が、視界いっぱいに広がった。

 ぬえは察する。

 今の瞬間に、辰五郎はぬえの頭から刀を突き刺すことが出来た。それはつまり、本来ならばここで彼女の命は尽きていたことを意味する。辰五郎に押さえつけられた状態から抜け出すことは、妖怪である彼女にとってそこまで不可能なことではないだろう。しかし、彼女が行動に移すよりも早く、辰五郎と銀時が動き出すだろう。つまり、彼女は認めなければならないのだ。

 

「私が……人間に負けた……?」

 

 それはどれだけプライドを傷つけられることだっただろうか。人間に負けただけではなく、情けすらかけられたのだ。封獣ぬえにとって、これほどまでに屈辱的なことはないだろう。

 

「そんな……妾達の計画が……こんな下等な猿共に……二度も……またしても……ここまで完膚無きまでに打ち破られるなど……そんな……っ!!」

 

 現実を一番受け止め切れていないのは華陀だった。彼女はこれだけの計画を立てた張本人。しかも綿密に練ったはずの計画が、今回もまた阻まれてしまったのだ。銀時や辰五郎がこの場にいるということは、少なくとも針妙丸や正邪を突破したということ。それはつまり、打ち出の小槌が効力を失うことと同義である。

 

「人里の方に希望抱いてるってんなら、諦めな。今頃博麗の巫女達が妖怪ぶっ飛ばしてる所だろうぜ」

「……っ!!!」

 

 華陀にとって、銀時から発せられたその一言は死刑宣告にも近い。すなわち、彼女達の勝ち筋は完全に絶たれたということになる。

 

「観念しな、姉ちゃん。諦めて神妙にお縄についた方が身のためだぜ?」

 

 余裕そうな口振りで辰五郎は煽る。しかしその実、身体についてはほぼ満身創痍だった。それは銀時とて同じこと。

 

「覚えておれ貴様ら……この借り、必ずや返させてもらう……っ」

 

 当然、華陀は次なる計画の為、今回は逃亡する。ただし、その場に倒れているぬえを置いて、一人だけ。

 

「まちやが、れ……っ」

 

 その後を銀時が追いかけようとするも、蓄積されたダメージによって身体がいうことを聞かず、その場に倒れ伏してしまう。それは辰五郎も同じで、目前で華陀の逃走を許してしまった。

 

 

 

 

 

 

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第二百十三訓 勝敗の行方



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第二百十四訓 行動には当然のように責任が付き纏う

 華陀の計画は失敗に終わった。彼女が立てた計画は、完璧とまでは言えないものの、成功するだけの可能性は秘めていた。しかし、物事には不確定要素というものは常に付き纏う。その結果、それが良い方向に転ぶこともあれば、悪いことを呼び寄せることもある。今回、その両方が彼女の元に訪れて、結果として敗北した。

 

「おのれ……妾の計画を二度も阻もうだなんて……許せぬぞ、猿共……っ!!」

 

 人間を憎むその表情からは、妖怪や天人を率いていたカリスマ性などどこにも見当たらない。ただ単に私念のみで動いている小物と何ら変わらない。最早華陀はそれほどまでに落ちぶれてしまっていた。

 

「この雪辱や必ず果たす……っ!!」

 

「見苦しい抵抗はそこまでにして欲しいですわ」

 

 突然、誰もいない筈の所から声が聞こえた。その声は極めて冷静だが、静かなる怒りを秘めたような声。

 

「なんじゃ、貴様は……!? 何処から……!?」

 

 華陀は周囲を見渡す。声の主が何処に居るのかを探そうと辺り一体を隈無く確認し、

 

「あら、意外と早く見つけられましたわね。無能な女狐だと思っていたら、案外そうでもないのかしら?」

 

 その人物が、自身の真上に居たことに気付いた。

 その人物は女性だった。妖艶な笑みを浮かべ、紫色のドレスに身を包んだ金髪の女性は、とてつもなく美人であることは分かる。ただし、彼女が姿を表しているその空間の裂け目に、これでもかと詰め込まれた瞳が無ければ、の話だが。

 

「貴様は……彼奴の言っていた……!!」

「知っているのでしたら話が早くて助かりますわ。一々自己紹介をすることもありませんわね」

「八雲……紫……!!」

 

 スキマ妖怪、八雲紫。幻想郷をこよなく愛する者。それ故に、幻想郷を脅かす存在については怒りを抱くことのある人物。

 

「貴女は幻想郷に流れ着きながら、二度も幻想郷の存在を脅かしました。これ以上貴女のような存在を好き勝手にさせるわけにはいきませんの」

「妾が何処で何をしようと、妾の勝手じゃ! 少なからず、お主に決め付けられる筋合いはなかろう!」

「えぇ、何処で何をしようが勝手ですが、それならば私だって何処で何をしようが勝手ですわよね? だって他人が何しようが、それに気付かない限りは止めようがありませんものね?」

 

 煽るように紫は言う。

 当然、華陀は怒りを覚える。

 

「戯れもここまでじゃ。妾は先を急ぐ……」

「せっかちですわね。せっかく貴女を元の世界に戻そうとしてあげているというのに」

「元の世界に……まさか!?」

 

 そこで、華陀は気付く。

 彼女のいう元の世界というのは、本来華陀が居た世界。それはつまり……。

 

「妾は戻らぬぞ!?」

 

 あの牢獄に、もう一度戻されるということに他ならない。

 

「身の丈に合った生き方をしていれば、こうなることもなかったでしょうに……行動には必ず責任が付き纏うということを理解していなかったのかしら?」

 

 最早紫は、華陀の言い訳を聞く気などなかった。華陀は、既に八雲紫の怒りを完全に買ってしまっている。彼女が許される道など用意されている筈がなかった。

 

「貴女はもう、二度と幻想郷の地を踏むことはないでしょう。せめてもの慈悲として、命だけは取らずに元いた場所に帰すことを光栄に思いなさい」

「何を世迷言を!? それならばここで命を落とした方が余程マシじゃ!!」

 

「だから言ったでしょう? 身の丈に合った生き方をしろ、と」

 

 華陀の足元が突然裂ける。そこに生まれたのは『スキマ』。彼女を地獄へと突き落とす、世界と世界の狭間。

 

「こんなところで妾は……妾はァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 そのままスキマに落ち、やがて華陀の姿は見えなくなった。その様子を眺めながら、紫は言う。

 

「貴女は牢獄で身を滅ぼす方がお似合いよ……それが身の丈に合った生き方ね」

 

 

 

 

 

 

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第二百十四訓 行動には当然のように責任が付き纏う



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第二百十五訓 終わった後は積もる話がある

 銀時と辰五郎は、その場で倒れ伏せたまま動けないでいた。彼らは相当に体力を消費している。動けないでいるのも当然と言えよう。

 

「攘夷戦争みてぇな戦い方したはいいものの、こんな呆気なくぶっ倒れちまうとはな……お互い、平和ボケして鈍っちまったのかもしれねぇな」

「出来ることなら、戦わずに済むことが一番だぜ、旦那。俺ァ、馬鹿共と馬鹿やって、毎日騒がしく過ごしてる方がよっぽど上等だと思うぜ」

「違いねぇ。戦乱の日々なんざ、互いに不幸になっちまうだけだからな。その点は重々承知してるぜ」

「へっ。戦闘なんざなくとも毎日戦国時代を送ってるってもんさ」

「なんだそりゃ。歌舞伎町も随分と騒がしい街になったもんだな」

「アンタらが護ったお陰さ。だからこそ、今の俺達が居る」

 

 意思は時代を越えて受け継がれる。己の愛する街を護ろうとする姿勢。そこで精一杯生きていく姿勢。それらはいつ何時も変わらない。ただ単に全力で生きる。それこそが大事なことなのだ。

 

「一つ、聞いてもいいか? 旦那」

「なんだ? 銀髪の兄ちゃん」

 

 銀時は辰五郎に対して、このようなことを尋ねる。

 

「アンタの身体、まだ消えねぇよな?」

 

 辰五郎は既に死んだ人間だ。彼の口からも発せられていたが、神霊である彼の身は一夜限りの幻なのだ。夜が明けてしまえば消え去ってしまう。それほどまでに脆い存在。

 

「あぁ。少なからず今はまだな。それがどうしたってんだ?」

 

 辰五郎も、自身の限界はまだ訪れていないことを伝える。

 すると銀時は、とある一つの提案をしたのだった。

 

「ちょっくら一杯、酒に付き合ってくれねぇか?」

 

 

 人里で暴れ回っていた妖怪達は一気に沈静化した。それは即ち、銀時達が無事に輝針城を抑えたということを意味する。

 

「終わった、んですよね……?」

 

 それがわかった新八は、思わず全身の力が抜けてその場に座り込んでいた。それはその場にいるほとんどの人達が同じような反応を見せる。無理もないだろう。人里での戦いは持久戦。銀時達がどうにかするまでは続くエンドレスゲームのような物だったのだから。

 

「ったく、あの天パー……終わらせるのに手間取ってるんじゃないわよ……」

 

 悪態をつきながらも、霊夢は賞賛していた。実際、今回の異変についてはどう転ぶか検討も付かなかった。そう考えてみれば、最小限の被害で食い止めることが出来たのは不幸中の幸いだったのかもしれない。

 

「異変解決、って感じだぜ。そうなりゃこの後は宴だぜ!」

「もう宴のことを考えているのですか!?」

 

 魔理沙の言葉に対して、妖夢がツッコミを入れていた。

 

「何を言ってるアルか。私達は何のために戦ったと思ってるネ」

「少なくとも宴の為ではないからね神楽ちゃん!?」

 

 ツッコミ眼鏡、本日も健在である。

 

「宴ということならば私達にも協力させて欲しい」

「人里をこうして護ってくれた御礼をしたいからな」

 

 慧音と妹紅の二人もまた、宴に対して乗り気だった。彼女達からしてみれば、霊夢達は人里の危機を救ってくれた者達。感謝してもし足りない位だった。

 

「やったネ! 美味しいご飯沢山食べられるアル!」

 

 これ程までに食欲が似合うヒロインがかつて存在しただろうか。色気より食い気。食べられればいいのかもしれない。

 

「…………」

 

 そんなやりとりを、遠くから眺めている一つの影があった。彼らのやりとりを微笑ましそうに眺め、そのままその場を立ち去ろうとして。

 

「どこに行こうというのかしら? 突然現れて、去り際まで唐突なんて、らしくないじゃないの……」

 

 その行手を、西行寺幽々子が阻む。彼女はにっこりと笑顔を浮かべながら、

 

「せっかくですし、ゆっくりお話ししましょう? ……妖忌」

「……幽々子様」

 

 老人──魂魄妖忌は、その言葉に応じざるを得なかった。

 

 

 

 

 

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第二百十五訓 終わった後は積もる話がある



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第二百十六訓 抱いてきた感情

「退いてくだされ、幽々子様。儂はもう十分に役目を果たした老耄。既に出番のない身に、この場に留まる意思も資格もございませぬ」

「資格だの意思だの何を言っているのかしら。私はただ、少しお話がしたいと思っただけよ。一人の友人として話に付き合って貰えることも出来ないのかしら?」

「……」

 

 妖忌は黙ってその場にとどまる。

 それを確認した幽々子は、彼の隣に並んで空を見上げていた。

 

「随分と歳を取ったのね」

「幽々子様はお変わりなく美しい姿を保っておられますな」

「当然じゃない。私は亡霊よ? 貴方もそのことは重々承知しているのではなくて?」

「そうでありましたな……儂も半人半霊の身。本来ならばいつまでもこのまま過ごしたい所でしたが、なかなかそう上手くいかぬものです」

 

 半分は人間。

 つまり彼は、人よりも遅いけれど歳を取る。その身はいずれ朽ち果てる。

 

「儂はこの身を憂いておりました。いずれこの身は朽ち果てる。物言わぬ屍へとなってしまうでしょう。そこで儂は、孫娘を育てることに注力しました。いずれあの子が、儂の後を追いかけてくれると信じて……だが、その為には儂はあの場所を去らねばなりませんでした」

「何故? 師としてあの子を育てようと思ったのではなくて?」

「……それではあの子は、いつまでも儂の背中だけを追い求めてしまう。それでは駄目なのです」

 

 妖忌は、自分がいつまでも彼女のそばにいてしまうと妖夢が一人前になれないのではないかと危惧していた。確かに、彼が誠心誠意しっかりと育てれば、妖夢は存分に強くなったことだろう。事実、師の背中を追い求めて戦った妖夢の実力は、剣術として美しさを保ち、一定水準以上の力は出ていた。

 だが、それだけでは師を追いかけることしか出来ない。目標が間近にいれば、その背中しか視界に映らない。いつまでもそこしか見ることが出来ない。

 それは、『一つの戦い方しか出来ない』状況を生んでしまうのを避けたいという気持ち。親心が師としての育成欲求に勝った瞬間だったのだ。

 

「あの子の力は、儂の背中でとどまってはならない。いずれは儂の背中を越えなければなりませんでした。そして儂は今日、確信いたしました……今までやってきたことが、決して間違いではなかったのだ、と」

「……」

 

 幽々子は何も言うことが出来なかった。

 確かに、妖夢は良くも悪くも素直な性格だ。言われたことについては吸収してしまう。つまり、一人の師に教えてもらうと、延々とその者の背中を追い求めようとする。それは皮肉にも、春雪異変の時に銀時に指摘されたことと同様だった。

 師の背を追い続けることは悪いことではない。だが、そのままではいつまで経っても半人前のまま。一人前になれる機会を永遠に失われてしまう。

 

「あの子は……一人前になれたのかしら?」

「……」

 

 幽々子は尋ねる。

 祖父としての、師匠としての贔屓目を抜きにして、純粋な評価を下して欲しいという気持ちで。

 

「……半人前ではありませぬ。じゃが、一人前かと問われれば、まだまだ甘い所が見受けられるでしょう。妖夢が一人前となるには時間と経験が足りませぬ。それはこれから、彼女達の元で培っていくことでしょう……儂は舞台の袖から様子を伺い、仇為す者を斬り伏せる旅に出ます。これが、儂がこの場から立ち去る理由です。決して其方たちのことが気に入らないとか、そういった負の感情からではございませぬ」

 

 妖忌は、幽々子に背中を向ける。

 彼女に顔を合わせないように。

 震える声で、最後にこう言ったのだ。

 

「――貴女様を、心よりお慕い申し上げます。幽々子様」

 

 それは、長年培ってきた想い。

 決して悟られぬことのなかった。男の抱いてきた感情。

 その言葉を最後に、魂魄妖忌は幽々子の前から姿を消す。

 

「……馬鹿ね。私も貴方と同じ気持ちを抱いているに決まっているじゃない。でなければ、長年私の傍に置いておくなんてこと、するわけないのに……最後まで私の気持ちに気付かないのね」

 

 その言葉は、空間の中へ消え去っていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第二百十六訓 抱いてきた感情

 

 



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第二百十七訓 一夜限りの客

 江戸は歌舞伎町。

 夜のこの街はとても賑やかとなる。人々は昼間の疲れを癒す為にあらゆる物を求め、並んでいる店へと姿を消していく。ここに一人、同じように一軒のスナックへ足を運んでいる男が居た。というより、帰ってきたと言っても過言ではない。というか帰宅の為に来たようなものだ。

 疲れた身体を引きずり、男は扉を開ける。

 

「あら、アンタ。どういう風の吹き回しだい? 今日は客として来たのかい? それとも家賃返しにきた?」

「うるせぇなババァ。今日は客連れてきてやったんだ。ソイツに対する儲けでチャラにしてくれや」

「そんなわけにゃいかないねぇ。アンタの支払ってない家賃はかれこれ三ヶ月は溜まってんだよ」

「イイ加減払エヨ、アホノ坂田。コチトラ散々待タサレテイルシ迷惑ナンダヨ」

「銀時様。そろそろ家賃回収の為のプログラムを組まなければならないでしょうか?」

 

 スナックお登勢。

 そこで働く二人である、たまとキャサリンは、訪れた客――天然パーマの坂田銀時に対して家賃支払えと要求する。このやり取りは最早毎度のことであり、彼らとしては当然のやり取りであることに違いなかった。

 

「まぁまぁ、落ち着きな二人とも。コイツの家賃を今取り立てようったって、稼ぎがあるわけでもねぇから今は無理だよ。いい加減揃えねぇと出ていかせる準備しなきゃならないけどね」

「るせぇなババァ。この前テレビ直してやったろ?」

「結局あの後ほとんどたまがやってくれたじゃないかい! 人の手柄をさも自分のことのように語るんじゃないよ!」

「斜め四十五度でぶっ叩きゃ大抵のものは直るっつー昔からの決まり事があるじゃねえか!!」

「テメェのたるんだ思考もそうして直してやろうか!?」

 

 いつものように騒ぎ始める二人。

 このやり取りもまた、歌舞伎町の中では最早お馴染み。

 

「……所でアンタ。さっき客がどうのとか言わなかったかい?」

 

 殴りかかろうとしたお登勢が、銀時に対してそう尋ねる。

 客が来ているとなれば、お登勢も働かなくてはならない。

 

「あぁ。アンタ目当てで来た物好きな客さ。ババアと二人きりで話してぇらしいから、俺ぁキャサリンとたま連れて幻想郷にでも行ってくらぁ。あっちでも宴の準備しなきゃならねぇからな」

「相変ワラズ向コウデモ馬鹿ヤッテルミタイダナ」

「宴とあっては様々準備しなければいけませんね。それに、フラン様にもお会い出来るかもしれませんし」

「アイツはなんだかんだ、たまのこと気に入ってるからな。会ってやってくれ」

 

 銀時はそう言うと、キャサリンとたまを連れてスナックお登勢から出ていこうとする。

 

「ちょいと待ちな。二人は今の所仕事中だよ?」

「わりぃな。ソイツが飲む条件がアンタと二人きり。つまり今日は貸し切り状態ってこったぁ。暇するだろうコイツらに、霊夢や魔理沙、紫達からの応援要請が飛んできたって思ってくれ。それに……積もる話もあるだろうからな。どうせ一晩だけしか付き合いのねぇ客だ。せっかくだから面倒みてやってくれ」

 

 そう言うと、今度こそ銀時達はその場から立ち去る。

 訳が分からないといった様子で、渋々ながらお登勢はグラスの準備をする。

 程なくして、扉がガラリと開いた。恐らくは、銀時が言っていた『客』なのだろう。

 

「いらっしゃい。悪いけど、今日はどうやらあたしと飲みたいって言う奴が……」

「そう。その殊勝な輩ってことで、立候補させてもらったよ。銀髪の兄ちゃんにゃ随分と無理言っちまったみてぇだな。こうして、懐かしい顔拝みに来られるだけでも幸せだってのに、酒交わしてもらえるってんだから、世の中何が起きるか分かったもんじゃねえや」

「……え?」

 

 お登勢は最初、自分の耳を疑った。

 それは、絶対に聞くことがない筈の声だった。

 自身の心を強く打つ、一人の男の声。

 かつてお登勢が――寺田綾乃が愛した、たった一人の男の声。

 

「ここはスナックなんだろ? だったら、飛び切りうめぇ酒くれねぇか? どうせ一夜限りの客なんだ。せっかくだからうめぇもん飲んで、とびっきりの美人と酒が飲みてぇからな」

「……アタシゃ随分と歳くっちまったよ。美人とは随分程遠いってもんさ」

「冗談はよしてくれよ。今も別嬪さんじゃねえか……こんな別嬪に酒注いでもらえるなんざ、男冥利に尽きるってもんさ」

「冗談よすのはアンタの方だよ……こんなアタシを見て、まだ別嬪なんてふざけたことを言うのかい……それに、もう、二度と会える筈が……」

「だからこそ、一夜限りなんだよ。寝ている間に消えちまうような、細やかな夢みてぇなもんなんだ。せめてその一瞬だけは、どうしてもそばに居てぇ奴の所に居たいものだろ? ……綾乃」

 

 男はカウンターに座り、お登勢を見上げる。

 その目は、愛する者に向ける眼差しだった。

 

「今宵は飲み明かそう。時間の許す限り、もてなし頼むぜ……ママさんよ」

「……いいじゃないかい。そう言われちゃ、アンタの為に旨い酒振る舞うよ。お侍さん」

 

 御猪口を男の前に置く。

 男はそれを黙って右手で掴み、お登勢の前まで持っていく。そこに、お登勢が日本酒を注ぐ。

 ただそれだけの時間なのに――彼らにとっては、それがまるで、愛おしい時間のように感じられた。

 

「ただ、その前に一つだけ言わせてくれ」

「何だい?」

 

 男――寺田辰五郎は、寺田綾乃に対して、笑顔でこう言った。

 

「ただいま、綾乃。帰るのが随分と遅れちまったよ」

「……おかえり。何処ほっつき歩いてたんだよ、まったく……今夜は存分に付き合ってもらうからね」

「元々そのつもりさ。今夜は飲み明かそう。飲んで笑って、過ごすんだ……」

 

 それは、幻想郷と歌舞伎町が繋がったからこそ起きた、一夜限りの奇跡の時間。

 一人の男が欲した、願いが叶った瞬間の物語――。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百十七訓 一夜限りの客

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華陀陰謀篇、完。

 

 

 

 




というわけで、長かった華陀陰謀篇もとうとう終わりを迎えることが出来ました……っ!
書いてみれば、神霊廟に輝針城、そして華陀とぬえの要素を付け加えた上に、魂魄妖忌や寺田辰五郎まで登場するという、物凄くとんでもない話に仕上がったように思えます。最終回のような勢いで書いておりますが、本編はまだまだ続きます。
ただ、東方原作のエピソードにつきましては、正真正銘ここまでとさせていただく予定です(というのも、作者自身がこれより先の東方作品に関してはあまり詳しく把握していないのと、あまりにも登場キャラクターが多くなりすぎる為です)。
あれ? 所で宴は?
ご安心ください……ちゃんと宴はやります。次回からポロリ篇その捌が始まりますので、そこで描かれる予定ですよ。
今回は、華陀陰謀篇終盤にて辰五郎さんが登場したので、彼で締めたかったんですよね……妖忌と辰五郎。この二人が今回の鍵となったと言っても過言ではありませんからね。
これからはオリジナルストーリーや短編が続きます。場合によっては銀魂オマージュエピソードも増えていくかもしれません!
ただし、これだけはお伝えします。
ちゃんと結末は用意しておりますので、ご安心ください。


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ポロリ変その捌
第二百十八訓 実家のような安心感と聞くといい感じに思えるがマンネリと同じ意味だよね


というわけで今回からポロリ篇その捌スタートです!


 長きに渡ったエピソードに一区切りついた為、今回はかなり久しぶりにBGオンリーからのスタート。場所は幻想郷の博麗神社。

 

「いやぁ、今回の長編は今までの中で一番長かったですよねー、銀さん」

「長いっつっても、結局は東方の本編二つくっつけて、ちょっくらオリジナル要素入れただけだろ? かさ増しするにしたって、もう少し上手いやり方ってもんがあるだろ?」

「オリジナルやるって息巻いて、結局逃げに回ったアル。適当にキャラ増やしておけば、それとなく話が膨れ上がるように見えるネ」

「ちょっとぉおおおおおおお!? 今回の話書き上げるのに一ヶ月くらいは使ってるんですよ!? 労いとかそういった言葉はないんですか!?」

「更新期日をよく見てみろよ。所々土日以外もサボってんぞこいつ」

「書く暇はあるのに更新してなかったってことは、所々手を抜いていた証拠アル。これでお疲れ様だなんて私はとてもじゃないけど言えないネ」

「流石に書いている人だって人間なんですから、たまには書けない日だってありますよ!」

「大抵投稿しなかった日って、酒飲んでぐうたらしてるか動画見てぼーっとしてんだろ? んな暇あったらさっさと書いちまえってんだ」

「カレーは飲み物だーとか言って、ジョッキに入ったカレー一気飲みして鼻血出したとか聞いたアル。バカも程々にするネ」

「ちょっとぉおおおおおおお!? 別にBGオンリーでしなくてもいいネタでしょう!? 何作者のプライベートダダ漏れにしてんだこいつらは!?」

「まぁ、なんだかんだでこの作品も本編二百十八話を迎えたことだし、連載もついに九ヶ月目に突入しようってところか」

「飽きもせずよく淡々と更新してるアル。その調子で私達の出番増やしてくれヨ。ただでさえこちとら漫画終わって暇アル。アニメはいつになったら新作始めるネ。旬が過ぎて鬼●やらヒ●アカやらに食われてしまうアル」

「同じジャンプで連載してる仲間じゃないですか!!」

「俺ら本誌追い出された挙句、雑誌じゃ追えられなかったからアプリにまで左遷されたけどな」

「ある意味伝説を残した漫画アル」

「ならよくないですか?」

「バカだなぁ新八。作品ってのは更新が止まると読者もいなくなる。つまり話題にする奴らも居なくなるってわけだ。そうなったら誰が俺たちのこと覚えていてくれると思う?」

「そう……次の書き手は……君アル」

「なんの宣伝してんだテメェら!!」

「つーわけで、今回もやりまーす人気投票」

「第二回! ドキドキ人気キャラ投票アル!」

「前回四票しか来なかったやつじゃねえか!! また悲しい思いしたいんですか!?」

「前は全然宣伝が足りてなかったんだよ。だから今回は詳しいことを後書きに筆者が書いてくれる筈だから、俺らはその間にちゃっちゃと宴の準備しなきゃ。いい加減霊夢の視線が痛い」

「というか銀ちゃん。さっきからフランが銀ちゃんの背中にしがみついて離れないアル。だんだん爪食い込んでるアル」

「それは最早見てるだけじゃダメなやつだから!! 早くなんとかしないと銀さん血だらだらになっちゃいますよ!?」

「まぁ、そんなわけで……ごふっ、人気キャラ投票よろしくお願いしまーす……ぐはっ」

「ぎんちゃあああああああん!!」

「何死んだフリしてんだテメェはァアアアアアああ!!」

 

「なんでもいいからさっさと宴の準備手伝いなさいよ。たまさんやキャサリンさんはすごい手伝ってくれてるのに、あんた達万事屋はさっぱり仕事してないじゃないの」

「ギン兄様が構ってくれない……フラン頑張ったのに……ひどいよ……このままギン兄様の血を限界まで吸って、吸血鬼に……」

「フランちゃん。銀さんの血を吸ってもいいことないよ? 糖尿病移るだけだよ?」

「糖尿病は感染する病気じゃねえからな!?」

 

 そんなわけで、異変が終わった後の幻想郷はいつものように騒がしいのだった……。

 

「いや何変に最終回っぽくまとめあげようとしてんのよ。これポロリ篇その捌の最初でしょう? むしろこれから始まるのよ?」

「そうそう! フランとギン兄様の甘い生活もこれから始まるの! あ、こいしちゃんも一緒に!」

「なんで俺がテメェらと三人暮らしする流れになってんだよ!? 第一どこで暮らす気だ!?」

「紅魔館2ndGがあるよ?」

「実質長谷川さんとも一つ屋根の下じゃねぇかァアアアアアアアアアアアアアア!!」

「おっさん同士……一つ屋根の下……何も起きない筈はないネ……」

「何も起きないからね?! 長谷川さんと銀さんがそういう関係だなんて信じたくないですからね!?」

 

 何やら話がどんどん変な方向へ飛んでいく。

 それも彼らクオリティ……。

 

 こうして下らない会話をしつつも、宴の準備は着々とされていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

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第二百十八訓 実家のような安心感と聞くといい感じに思えるがマンネリと同じ意味だよね




本編でも書かせていただきましたが……やります、第二回人気キャラ投票!!
対象となるのは、当作品に登場したキャラクターです!(華陀陰謀篇までに登場したメインキャラ、サブキャラ、単発キャラ、なんでもOKです! ただし、登場してないキャラに関しては無効となりますのでご了承ください……)。

投票方法につきましては、前書きに投票用ページを作成しようと思います! そのURLをクリックして、コメントに投票したいキャラクターをかいてください!
票数は自由です!何回でもOKです! ただし、同じ人が同じキャラクターに複数回投票するのはNGということでお願いします……。

期限は、11月末まで!

ご協力の程、よろしくお願いします!!


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第二百十九訓 物は選ばないと後々後悔する事もあるから十分気を付けろ

 前回の異変が終わった後で、地味に命の危機に瀕している二人がいた。

 

「なんか身体が消えかかってる気がするんだよねー」

 

 九十九八橋は、自分の身体を見ながらそんなことを言っている。

 

「打ち出の小槌の力が弱まってるってことか……くっ、まさかこんなことが……っ」

 

 九十九弁々は、悔しそうに拳を握っている。

 理由は単純。彼女達は前回の異変の影響を受けて生まれた存在であり、打ち出の小槌が力を失えば、当然彼女達の身体にも影響が及ぶということだ。今彼女達がこうして現界していられるのは、いわば力の残りカスを必死に使っているから。放っておけばこのままだと自然に消滅するだろう。

 つまり、圧倒的ピンチというわけだ。

 

「あははーすごいすごーい。どんどん消えていくー」

「感心してる場合じゃないからね!? このままだとただの道具に戻っちゃうんだよ!?」

 

 力の源を失えば、彼女達は自我を保つことが出来ない。いくら付喪神とはいえ、力なくして存在は保てない。ただし、彼女達が異変終結後もこうしてある程度現界出来ていたのも、彼女達自身の力がそこそこ強かったからだろう。故に二人としては、ここで消えたいとは思っていない筈だ。

 

「お二人さん。お困りの様子だね?」

 

 そんな彼女達のところに届く、一人の声。

 

「誰だー?」

 

 当然、そんな疑問が生まれる。

 その質問に答えるように、声の主は姿を現した。

 

「私は堀川雷鼓。今の貴女達の状況を理解し、その対策を打ち出せる存在よ」

 

 髪は赤いショートヘアーで、黒い生地の上に赤いチェックが入った上着の上に白いジャケットを羽織り、ピンクのネクタイを付け、白いラップスカートを穿いている。 そんな彼女は、両手にドラムのスティックのようなものを持ち、バスドラムのようなものの上に乗っていた。

 

「何!? 本当か!?」

 

 九十九姉妹からしてみれば、それは願ったり叶ったりな展開だった。自身の存在が消えなくて済むのなら、その方法にすがりたい……と、考えて、一度踏み止まった。

 

「しかし、それを私たちに教えるメリットは?」

「そうだなぁ……あえて言うなら、今後何かしらの騒動が起きた時に味方を増やすことが出来る。それは大きなメリットだと私は考えるけどね。君達が私のおかげで命を止めることが出来たとあれば、感謝する他あるまい? ……って感じなら納得する?」

 

 本当にそんな行動に出るかはともかく、慈善事業としてのみの救いではないことは確かとなる理由だった。

 弁々は察する。今自分たちが相手にしているのは、とても聡明な人物。恐らく口プロレスで勝てる事はないだろう。ならば、彼女の言うことを聞いてみた方が得なのではないか? 

 

「……それで? それってどんな方法なの?」

「簡単な話さ。幻想郷の中でのものが力を失ったのであれば、外の世界から来たものの力を取り込めばいい。私は元々太鼓の付喪神だったけど、こうしてドラムの力を取り入れたことによって今も尚ここに居続けることが出来ている。いわば生きた証人って感じだね」

 

 今の状況を存続出来ないなら、いっそ新しく作り替えればいい。容器は既に出来ていて、中身だけ空っぽならば、新しく注げばいい。そうすれば再び力を手にすることが出来るということだ。

 

「しかも今度は外から取り込んでるわけだから、打ち出の小槌のようにいずれ消えゆく力ではないさ。これならば悪くないだろう?」

「なるほど……」

「なんだか面白そうー」

 

 二人としても悪くない話だ。

 だが、と雷鼓は注釈をつける。

 

「取り入れるものを間違えるととんでもないことになるから気をつけてな」

「例えば……?」

 

 雷鼓は一度言葉を区切り、その後でこう告げた。

 

「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を取り込んだら、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の付喪神になる」

「ってなんじゃそれは!?」

 

 たしかに、その付喪神になるのは嫌すぎるだろう……。

 

「ほかにも、ジャスタウェイを取り込んだら、ジャスタウェイの付喪神になる」

「だからなんだそれ!?」

 

 およそ彼女達にとっては聞き覚えのなさすぎる語群だが、ご存知の方なら分かるだろう……あれらの付喪神になってはいけない、と。

 

 

 

 

 

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第二百十九訓 物は選ばないと後々後悔する事もあるから十分気を付けろ




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早速たくさんの投票が来てくださってとても嬉しいです!
まだまだ投票受付中ですので、よろしくお願いします!


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第二百二十訓 人は気づかぬうちに成長するものだ

 さて、今回の宴が開かれる会場だが、BGオンリーが博麗神社で行われていたことを考えると、当然開催場所は博麗神社ということになる。異変が起こるたびにこうして集まってどんちゃん騒ぎをすることになってはいるが。

 

「なんかこう、随分と前と比べて人が増えたわね……」

 

 霊夢が思わずそうぼやいてしまう程には、宴に参加する人数も増えていた。

 最初の頃はまだスペースが有り余る位だったのに、今では最早ちょっと大きめな個室居酒屋位の狭さとなっている。これでは移動するにも少し骨が折れそうだ。それほどまでに知り合いの数が増えたと考えれば、なかなかの功績と言えなくもないのかもしれない。

 そんな中、銀時と新八の所に誰かが近づいて来た。

 

「聞いたぞ、ギントキ。今回はうちのフランが大活躍だったそうじゃないか」

 

 カリスマを存分に発揮しながら近づいてきたのはレミリアだった。その後ろには、相変わらず咲夜が控えている。

 

「まぁな。実際フランがいなかったら、もう少し解決が遅れていたかもしれねぇからな……」

「そうだろうそうだろう! 私のフランは最強なんだ!」

 

 何処ぞのおじさんのようなポーズをとりながら、レミリアはにっこにっこしなが宣言している。

 

「わかりづらいですからね? Fa●eネタって伝わる人少ないですからね?」

「いちいちツッコミ入れていないとやっていられないのか。これだから眼鏡は……」

「眼鏡関係ねぇだろ!? アンタが細かすぎて伝わらないネタやってるから指摘したんでしょうが!!」

「お嬢様に歯向かうとは頂けません。ここで串刺しにします」

「鼻血出しながらいう台詞しないですから咲夜さん!!」

 

 咲夜のキャラも相変わらずである模様。

 

「しかし、本当にフランは成長した……ちょっと前まではあんなにギントキにベタベタだったのに……今もそこまで変わらないが。なんて羨ましい。よろしいならば戦争だ」

「成長堪能するのかシスコン発揮するのか殺気出すのかせめてどれか一つにしてくれねぇか!? 全部受けてたら俺の身もたねぇから!!」

 

 本当、レミリアはフランのことになると少し暴走気味になる傾向にあるようだ。そんな彼女を見て、咲夜は相変わらず嬉しそうに鼻血を振りまいている。そこまで振りまいていいものとは思えないが……。

 

「フランがここまで出来るようになったのも、ギントキ達のおかげだ。本当に感謝している……紅魔館の主人として、フランの姉として感謝する。ありがとう」

 

 レミリアは、銀時達に頭を下げる。合わせて、咲夜も真剣な表情となって頭を下げた。

 彼女達は、かつてのフランを知っている。幼さ故に破壊衝動に身を任せていた彼女を。苦しみながらも、孤独の中で耐えるしかなかった彼女を。だからこそ、力の使い方を心得、誰かの為に行動する事が出来る様になっているフランの成長を、心から嬉しく思っていたのだ。

 

「俺たちのおかげじゃねえよ。あいつは自分で勝手に成長したんだ。子供っつーのは、周りが見ていなくても意外とすくすく伸びるもんだからな……俺達ァただ、そばに居ただけだ。ただ……そんだけだ」

 

 頭をガシガシと掻きながら、銀時は言う。

 

「……ま、湿っぽいのも一旦しめぇにしようぜ。今宵は楽しい宴だろ? パーッと楽しもうじゃねえか」

「銀さんの言う通りですね。ひと段落ついたわけですし、たまにはこうして騒ぐのもありでしょうし」

「……如何なさいますか? お嬢様」

「もちろん、そのつもりだ。存分な楽しませてもらおう。咲夜、霊夢と魔理沙でもからかいにいくぞ」

「……ふふ、かしこまりました」

 

 そう言うと、レミリアと咲夜はその場を後にする。

 

 今宵の宴は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百二十訓 人は気づかぬうちに成長するものだ



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第二百二十一訓 マスコミは特ダネの匂いにつられてやってくる

人気キャラ投票ご協力ありがとうございます!
おかげさまでたくさんの投票数となっております!
まだまだ受付中なので、投票お済みでない方がいらっしゃったら、是非ともご協力お願いします!


「呼ばれて飛び出てあやややや! 清く正しく美しく! 何処よりも早く情報をお伝えする文々。新聞の新聞記者こと、射命丸文が久々に登場したのでなにか特ダネください」

「いきなり随分な挨拶ですね!?」

 

 銀時や新八の前に現れたのは、カメラを持ってパシャパシャと周りを撮りまくっている文だった。今回の異変ではあまり活躍の場がなかっただけに、特ダネに飢えているのだろう。

 

「テメェにやるネタなんざねぇよ。今時ならば薬物使った女優とか、雪だるまじゃなくて薬だるま作っちまった奴とか、そういうのでも取材してこいよ」

「薬だるまってなんだ!? 同じ白色だからってなんでもかんでもまとめれば許されるってわけじゃねえぞ!?」

「確かに芸能人のゴシップとかは見ていて楽しいものがあったり、国で何か起きた時に大抵起きるなぁなんて思わなくはないですが、私が求めているのは坂田さんのゴシップなので♪」

「おぉん? 笑顔で何変なこと抜かしてんだマスゴミ?」

「いやだなぁ。それだけ私が坂田さんのことをりよ……気に入ってるってだけの話じゃないですかぁ」

「今完全に利用してるって言ったよな!? 完全に客寄せパンダとして俺を利用しようとしてるじゃねえか!!」

 

 マスコミとしてはある意味正しい嗅覚を持っているだろう。何せ坂田銀時の周りには、大抵何かしらが起こるのだから……。

 新聞記事にするのならもってこいの逸材である。眼鏡は知らん。

 

「オィイイイイイイイイ!! どさくさに紛れて僕のことをネタにしてんじゃネェエエエエエエエエエ!!」

 

 さすがはツッコミ眼鏡。小さなボケも拾わなくてはならない悲しい習性が働いている。

 

「坂田さんがフランさんやこいしさんとイチャコラしてる写真は既に撮ってあるのですが……」

「待てやゴラ。イチャコラしてねぇし、いつの間にかそんな写真撮ってたんだゴラ」

「『英雄ついにやることやったか!? 知られざるロリコンの魔の手!!』なんでどうでしょう?」

「何もかもが捏造満載の記事じゃねぇかァアアアアア!! 清く正しくのモットーを何一つとして守れてねぇぞ!!」

「坂田さん。こんな言葉をご存知ですか? ……バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」

「おもくっそばれてるからな? 本人目の前で捏造宣言してるからな? なめてんの?」

 

 銀時の額に青筋が浮かびまくっている貴重な光景である。哀れ、坂田銀時……フォーエバー。

 

「随分と楽しそうにお話してるじゃない。私と混ぜてもらえないかしら? いい香りのするお花なら用意できるわよ?」

 

 そこに現れたのは、満面の笑みを浮かべている花好きの妖怪……風見幽香だった。

 相変わらず傘を持ちながら、もう片方の手に日本酒の入ったお猪口を手にしている幽香。心なしか、若干いろんな感情が見え隠れしている気がしないでもない。

 

「幽香さん! なんだかお久しぶりですね」

「えぇ。お花のお世話とかもしていてなかなか顔を出せていなかったから……今日は久しぶりに顔を出そうと思ったのよ……ところで銀時。前にお手紙で伝えた通り、お花を用意したわ。何か言い残したことはあるかしら?」

「それってもしかしてしょちゅうみまいのことか!? あの件はでたらめだって言っただろうが!!」

「そのわりには貴方の周りには、気付けば女の子が集まってくわよね」

「あー、それ私も思ってました。写真撮ってて分かるんですけど、坂田さんってばいろんな女の子を取っ替え引っ替え……」

「俺をそんな甲斐性なしみたいに言うのやめろ!?」

 

 いじり倒されているのか、本気で言われているのかいまいち判断に迷う感じである。

 

「まぁ、銀時とはいずれ戦うことにするとして……」

「え、俺またお前と戦うの? 命の危機瀕しなきゃならねぇの?」

 

 かつて戦った時も、幽香が中断したことによりようやっと終わったようなものだ。恐らくその気になれば、幽香は銀時を一捻り出来てしまうことだろう。

 

「その時は私も呼んでくださいね! 記事にしますから!」

「何企んでんだよテメェは!?」

 

 ある意味このメンバーで集まっても相変わらずなのかもしれないと思わせられるひと時だった。

 

 

 

 

 

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第二百二十一訓 マスコミは特ダネの匂いにつられてやってくる



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第二百二十二訓 定期的に摂取しないと中毒症状が出るのは控えた方がいい証拠

 さて、宴に集まったメンバーはまだまだ沢山いる。その中でも現在身体をうずうずとさせているのが。

 

「…………早苗?」

 

 諏訪子が思わず冷や汗を流しながら名前を呼んでしまうような、東風谷早苗だった。隣にいる神奈子もまた、早苗の様子に困っている様子である。

 

「諏訪子様、神奈子様。私はもう我慢出来ません。ここ最近全然銀時さんに触れられなかっただけでなく、本編でもろくに出番がもらえず、実は私達も登場する予定だった華陀陰謀篇では作者の思いつきで慧音さんと妹紅さんが登場したことにより私達の活躍が丸々カットされました。信仰に関わるのもそうですし、なにより私が銀時さんとあんなことやそんなこと、アンアンアンとっても大好きなことも出来なくなってしまって私は今欲求不満なんです」

「最早信仰関係ないよね!? 後半の方早苗の欲望だだ漏れだよ!?」

 

 諏訪子のような神にまでツッコミをやらせてしまうとは、恐るべし早苗の欲望の深さ……! 

 

「思うところがないわけではないけれど、多分私や早苗、諏訪子が出たらわりとすぐに人里はどうにかなったかもしれないね」

 

 神奈子の言う通り、神様が二柱に、現人神である早苗がいるのだ。もしこのメンバーが異変解決に乗り出していたとしたら、ぶっちゃけ人里の話はすぐに解決出来てしまったかもしれない。ギリギリの拮抗を保たせる為には仕方ないことだったのだ。つまり誰も悪くない。QED。

 

「所々地の文におかしなところが見えた気がするなぁ……」

「諏訪子様、その辺りを気にしていたら負けですよ。何せこの小説は常識が通用しません。だからこそキャラ投票やっていると眼鏡やサングラスも投票されるんです」

「いや一体なんの話!?」

「誰が想像つきますか!? これだけ銀時さんのことを愛している私や、諏訪子様や神奈子様のような素晴らしきお方が、よりにもよって無機物に負けているだなんて!? しかも三人合わせてやっと一票差ですよ!? ありえなくないですか!?」

「眼鏡地味に強いね!? けどなんのことかさっぱりだよ!?」

 

 気になる方は、現在の人気キャラ投票の結果を足してみていただきたい。

 

「どうしよう……早苗が壊れた……いや、ある意味正常なのか……? そうか、これは早苗が成長した証ということなのだな」

「流されないでよ神奈子!?」

 

 神をここまでツッコミ役に転じさせたり、思考停止に陥らせる辺り、東風谷早苗という少女はなかなかにやり手なのかもしれない……ど天然な常識破りなだけである可能性も否定出来ないが。

 

「とにかく! 納得出来ないので私は銀時さんと愛の契りを交わしてきます」

「「何処からそんな話になった!?」」

 

 突拍子のないことを宣言し出した早苗に、二柱の神が声を揃えてツッコミなされた。

 

「銀時さん成分がなくなってしまうと、私は欲求不満になります。それを治めるためには、もう交わるしかないじゃないですか。まぐわいです。愛の儀式です。絡み合います。襲います」

「堂々と襲う宣言したね!?」

「それ最早『そういう人間』の思考となんら変わらないからな!? もっと自分の身を大切にしてくれ!?」

 

 諏訪子と神奈子が総出で止めにかかっているというのに、停車する気配を微塵もみせない所か、むしろどんどん加速しているようにすら思える超暴走特急こと坂田銀時行き電車東風谷早苗号。彼女の有り余る愛を受け止め切れる人物は果たして現れるのだろうか。というか銀時はこの超暴走特急を受け止め切ることが出来るのだろうか。

 

「銀時さん! 私と一緒に愛の契りを……っ!」

「テメェまで変に暴走してんじゃねえよコノヤロォオオオオオオオオオオオオ!!」

「きゃーっ!」

 

 受け止めるどころか、早苗をぶん投げだ銀時だった。

 ある意味、正しい対処法である……。

 

 

 

 

 

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第二百二十二訓 定期的に摂取しないと中毒症状が出るのは控えた方がいい証拠



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第二百二十三訓 不安は誰もが抱く事だから負い目に思わなくてもいい

「スタンバッていたのに出番がなかった……!」

 

 宴が盛り上がっている中、一人悲しみに明け暮れている男がいた。

 桂小太郎……シリアスな長編となると、わりと置いてけぼりをくらってしまっている悲しき男である。隣ではエリザベスが、『俺達にも出番をよこせ! だから投票も全然入ってこないのだ!』と、抗議デモをしているような感じを出している。ご丁寧に頭に鉢巻きを巻いている辺り、ある意味本気(?)なのだろう。

 

「いつかまた出番ありますって……!」

 

 そんな彼を宥めているのは意外にも聖白蓮だった。以前起きた異変より、白蓮は小太郎のことが少し気になっている。そんな彼のそばに居て支えになりたいと思ったのかもしれない。彼が今にも挫けそうな理由はとてつもなくバカバカしいものであるのだが。それこそ銀時辺りが聞いたら鼻で笑うか本気でぶん殴るレベル。

 

「それに、ある意味小太郎さんの出番がないということは、それだけ他の方々が頑張ってくださり、平和になったということですから……貴方が出なくてはどうしようもなくなった時には、きっと出番がありますよ」

 

 もちろんそんな機会などない方がいい。

 白蓮は心の中でそう呟きつつ、小太郎に向けてそう言った。

 事実、彼が居なければどうにもならなかったであろう事件も数多く存在する。たまたまその場に居合わせなかっただけかもしれないが、何者かの存在というのはそれだけ影響力も大きいのかもしれない。

 

「……流石は白蓮殿。そのような視点は流石に持ち合わせていなかった」

「私なんてまだまだです。仏門に入った身でありながら、人として誰かを心配してしまうようなエコ贔屓をしてしまったのですから」

「其方は宗教家である前に一人の存在。誰かのことを想い行動するのは当然のことであろう? そもそも其方の原動力は他人の為にではなかったか?」

「……お見通しなのですね」

「俺も、其方のような人間を身近に見てきているからな。本人は頑なに認めぬだろうがな」

 

 思い浮かべるのはとある一人の男。その男は、自らを顧みず他人を護ろうとする侍。方法や手段は違えど、誰かの為に事を為そうとする点において白蓮と重なる部分がある。そんな事を考えてしまう小太郎。

 

「……私は時々思います。あの方も小太郎さんも、今の幻想郷には欠かせない存在です」

「それは白蓮殿とて同じ事……」

「いえ、私のそれと、あなた方では本質が違います」

「本質……?」

 

 小太郎の疑問に答えるように、白蓮は語る。

 

「私の場合、幻想郷に住う大多数を救う役割があります。ですが貴方達は、幻想郷そのものを救ってしまうような存在です。幻想郷の外に居ながら、ここと干渉出来て、その上護ることが出来る……本来、このような存在というのは居なかった。ですが貴方達は……お二人に限らず他の方々も、今となっては欠かせない存在です。宴の準備でお会いした、たまさんやキャサリンさん、坂田さんと一緒にいる志村さんに神楽さん……その誰もが、今の幻想郷を為す上で大切な存在です」

 

 こうして宴が開けるのも、銀時達が関わったおかげ。そう彼女は考えていた。

 だからこそ、誰もが一度は感じ取る不安がさらに大きくなっているのだ。

 

「小太郎さん……私は貴方を信じています。その上で一つ、お願いがあります」

「お願い?」

「はい……」

 

 白蓮は一拍おく。

 

「この後、幻想郷によくないことが起こる気がするのです。今回のように、私の預かり知らぬところで幻想郷が崩壊の危機を招いたように……何か良くないことが起こる予感がします。結果的に今回は、聖人達が復活したことにより事態は収まる方向へと動きましたが、誰かの行動がこのように影響を与えることなんてザラじゃないと思うのです」

 

 白蓮は聖人の復活を抑える為に封印した。それが結果的に仇となり、神霊騒動を招いてしまった。だが、それを誰が予想出来ただろうか。この幻想郷は、平和を保つことができているのと同時に、良くないことも招き寄せてしまっている。いつ何処で何が起きてもおかしくないような不安定さも抱えてしまっている。

 その上で、絶対に崩してはいけないと考えている存在──一人の男について、白蓮は小太郎に託すのだった。

 

「どうかあの方を……坂田銀時さんをお護り下さい。彼は、幻想郷を護る為ならどんなこともしてしまうでしょうから……それがたとえ、結果的に幻想郷に悪影響を与えるとしても……彼はその事を知らないでしょうから……」

 

 

 

 

 

 

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第二百二十三訓 不安は誰もが抱く事だから負い目に思わなくてもいい



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第二百二十四訓 迷ったときには共に歩む者が隣にいると安心する

 封獣ぬえは、宴が開かれている博麗神社を一人眺めていた。そこで繰り広げられているのは、妖怪と人間が共存している空間。

 

「…………なんで」

 

 ぬえにとって、人間とは憎むべき対象。所詮人間と妖怪は分かり合えるわけがない。それが当然の帰結だと考えていた。だからこそ彼女は華陀と結託し、今回の異変を起こすことによって人間を排斥しようとしていた。結果的にそれは二人の侍とその仲間たちによって阻まれて、失敗に終わった。

 

「ここにいたのじゃな、ぬえ」

 

 ぬえのそばに現れたのは、マミゾウだった。彼女はぬえによって幻想郷へ招かれた存在。古きからの友。ぬえに近寄るその表情は、心配するような笑顔だった。

 

「こちらの世界に呼び出しておいて、結果としてこのざま……マミゾウには本当に申し訳ないことをした」

「よいのじゃ。儂はこうして幻想郷を知ることが出来た。そしてこの場所を守らんとする者達の強さを知ることが出来た。何より、友の助けとしてこうして舞い戻れたことを嬉しく思っておる……結果としては、儂も負けてしもうたのじゃがな」

 

 何処か納得しているような、そんな笑顔を浮かべているマミゾウ。彼女にとって、今回の一件を通じて幻想郷に足を踏み入れることが出来たことこそ、幸せなのかもしれない。

 

「これからどうするつもりじゃ?」

 

 そんな彼女から発せられた言葉は、ぬえがどうするべきかということ。彼女がこれから幻想郷という場所で、どのような生き方をするのかということ。

 

「……分からない」

 

 だが、ぬえは今もなお迷っていた。

 

「私は、ここまで自分の目的の為に動いてきた……けれど、それらは結果的にすべて裏目に出て、こうして失敗に終わった……何をしても、私はもう思う通りに行動出来ないんじゃないかって……私の行動、私の選択には……意味なんてないんじゃ……」

「ぬえ」

 

 優しく、しかしそれでいて力強い声だった。それ以上の言葉を発することを許さないような、そんな気迫すら感じられた。その気迫に押される形で、ぬえは口を閉じてしまう。

 そんな彼女の頭を……マミゾウは優しく撫でていた。

 

「誰にでも過ちはある。すべてが上手くいくことなどあり得ぬのじゃ。何かが上手くいけば、何かが失敗するやもしれぬ。そしてそれが大きな影響を及ぼすことだってあり得るやもしれぬ。だからこそ大事になってくるのは……自身が行動したその後じゃ」

「その、後……」

「うむ。行動には常に結果が付き纏う。それがどのような結果であれ、必ずしもよい結果とは限らぬ。じゃが、結果を見て次にどんな行動を取るかは自身で選択出来ることじゃ……後悔するのは悪いことではないが、立ち止まっていてはいつまでも次へ進めぬぞ」

 

 行動からもたらされる結果は、その時になってみなければ分からない。だが、見ているだけでは始まらない。行動し、自分からどうするかを考えていくことも大事なのだ。

 

「それに、もう分かっておるのじゃろ?」

「え……?」

 

 そしてマミゾウは、ぬえにとっては予想もしていなかった言葉を発する。

 

「人間というのも、案外悪い者ばかりではないということを」

「!?」

 

 薄々、ぬえは感じ取っていた。坂田銀時という男を通じて……その周りにいる者達を通じて……人間と妖怪の関係性における、可能性というものを。

 

「確かに、人間には悪い者もおる。じゃが、それと同じくらいに良い者も存在するということじゃ。自分のことを考えれば良いのに周りのことしか考えない者や、その程度ではやられないことを確信出来る信頼……あの者達を通じて、そんな可能性を見出しておるのじゃろ?」

「…………」

 

 ぬえは言葉を返せなかった。

 マミゾウが告げたその言葉が、まさしく真実だったからだ。

 

「儂はこの地で生きていこうと思う……じゃから、共に迷おうぞ。そして、さらに良き道を選べるよう、共に歩もう……友よ」

 

 優しく、マミゾウは手を差し出す。

 ぬえはその手を……掴んだのだった。

 

 かくして、幻想郷を崩壊の危機に晒した異変が幕を降した。

 だが……次なる異変の足音もまた、聞こえてくるのやもしれない。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百二十四訓 迷ったときには共に歩む者が隣にいると安心する




かくして、こうして宴は幕を降しましたー。
11月もそろそろ終わりを迎える頃ですね……人気キャラ投票はまだまだ受け付けておりますので、是非とも投票の程よろしくお願いします!
締め切りは11月末……つまり、11月30日までです!!
何卒よろしくお願いします!


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第二百二十五訓 暗躍し始める影

 とある場所にて実しやかに囁かれる噂があった。その噂が広まる要因となったのは、一人の女の存在だった。

 

「女が急に牢屋の中に現れた? 確か元から牢獄に打ち込まれてなかったっけ?」

「どうも、牢屋に閉じ込めておいてその存在を忘れてたらしいな……日の目見ることねぇから、そいつらも思い出すことがなかったらしい。そしてある日突然……」

「その女が姿を現した、と」

 

 彼らが話しているのは、かつて牢に入れたはずの女性ーー華陀についてだった。本来、彼女は永遠に牢獄から出られないはずだった。そんな女狐が、何らかの手段でそこから消え去り、そして何らかの外的要因によって突然元に戻った。

 

「ソイツァ譫言のように呟き続けてるそうだ……『幻想郷』と『忌々しい猿共』と」

「へぇ……」

 

 無邪気に笑う男の目が光った。

 それはまるで、新しいおもちゃを手に入れた子供のよう。しかしそれでいて、狂気すら伺えるような目。

 

「幻想郷なんざ興味はねぇが、あの女狐が『忌々しい猿共」と称するってこたぁ……」

「侍が出入りしている可能性がある、ってことだよね? ということは、そこにはきっと彼らも……」

「いるかもしれねぇな」

 

 眼帯をつけていないもう片方の目が鋭くなる。彼らが思い浮かべている人物は共に同じ。だが、そこに抱かれる気持ちはあまりにも違いがありすぎる。

 

「幻想郷なんて面白そうな場所に、侍が出入りしているなんて……オラワクワクすっぞ!」

「勝手にしてろよ」

「つれないなぁ。だけど、何も無関係ってわけじゃないだろ?」

「戦闘狂いの酔狂ってわけじゃねえんだ。壊す価値もねぇ所なんざ興味もない」

「怖気付いちゃった?」

「そんなわけ……」

 

「死人も闊歩するような世界。そう聞くと俄然興味湧かない?」

 

 男の動きが止まった。

 そんな様子を見て、嬉しそうに笑顔を見せている。悪戯が成功した子供のように無邪気だ。

 

「忘れ去られた者が行き着く先が幻想郷なら、世界から忘れ去られて死人となった者もまた、その地に現れるとは思わない?」

「何が言いたい」

 

 放たれる殺気に慄く様子は一切ない。それどころか、その反応を待ってましたと言わんばかりの笑顔。

 

「夜王鳳仙。紅桜。人斬り仁蔵……名だたる者が、その命を散らしている。そして、幻想郷からあの女狐が帰ってきているということは、自由に行き来出来るということ……」

 

 確かに、男の言うことは事実かもしれない。

 華陀が突然消え去り、そしてこうして幻想郷から帰ってきた。それはつまり、二つの世界を行き来出来るような何かがあるということを示していることに他ならない。これを利用すれば、かつて死んでしまった者達を連れてきて戦力強化に繋がる。彼からしてみれば、あわよくばそういった者達と戦うという野望も抱いているのかもしれない。

 

「…………なるほどな。つまり、戦力を強化するにはもってこい、と」

 

 しかし、もう一人の男はそこまで乗り気ではなかった。

 理解はしていても、そこまで気分が乗らないといったような感じだ。

 

「あれ? 意外にも大人しいね。その点を気にしているのだと思ったんだけど」

「…………そんなんじゃねえよ」

 

 男は視線を合わせようとしない。

 点を仰ぎ見て、一体何を考えているのだろう。

 その思考の先にある何かを見出すことは、彼にしか出来ない。

 

「まぁいいや。とにかくさ、なんとかしてその地に向かってみようよ。もしかしたら意外な入口があるかもしれないしさ……晋助」

「勝手にしろ……神威」

 

 高杉晋助と神威。

 この二人がもし幻想郷に関わりだしたとしたら……果たしてどうなってしまうのだろうか。

 

 静かに、影が入り込み始めていることに、幻想郷の住人はまだ気付いていない。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百二十五訓 暗躍し始める影

 




というわけで、本日で人気キャラ投票の受付は終了となります!
お済でない方は是非とも投票してください!
たくさんの投票お待ちしております!


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人気投票篇
第二百二十六訓 記録をつけたら発表するのが筋というものだ


「えー、本日はお忙しい中お集まり頂きまして誠にありがとうございます。また、この度は11月に行われた緊急企画にご協力してくださいまして、本当にありがとうございました」

 

 博麗神社にて、一人の男の声が響き渡る。天然パーマの男は、暗闇の中でポツポツと語っている。

 

「思えば始まりは2月のこと……筆者の思いつきで始めた連載も、気付けば10ヶ月目に突入し、UA数も14万、お気に入り登録数も480を突破致しました。始めた当初は正直一ヶ月で更新サボることになるんだろうなぁって思われてたけど、たくさんの方々の応援があったからこそ、ここまでやってこれたとのことです。たくさんの応援、本当にありがとうございまーす」

 

 男──坂田銀時は、暗闇の中で指をパチンと鳴らす。瞬間、部屋の中の照明が一気につけられて、こう書かれた垂れ幕が現れた。

 

『第二回! 人気キャラ投票結果発表!!』

 

「今回は前みたいな寒い企画にならなくてよかったなぁ……前回は4票しか投票されないという悲しすぎる結果だったが、今回はそれを軽く上回る勢い。如何に前回が手抜きな企画だったかが伺えるなぁおい」

 

 余談ですが、今回投票してくださった方の中には、『全員に一票』というとても優しいお方がおりました! ただし、票数の上では換算致しますが、その一票しか入らなかった方々につきましては掲載しないものと致しますので、予めご了承ください……そこまで回収すると大変なことになりますので。

 

「早速筆者の本音がポロリと溢れたような気がしますが、とりあえず待っていてもしょうがないので、5位から一気に発表しちゃいまーす。それでは張り切って〜……カウントダウン!」

 

 銀時の掛け声と同時に、天井から大きな紙が落ちてくる。それはまるで掛け軸のように広がっていき、その全貌を露わにした。

 

 第五位 坂田銀時

「くっ……銀時に負けた……っ」

 

 第四位 坂田銀時

「順当な順位ですね」

 

 第三位 坂田銀時

「神に感謝」

 

 第二位 坂田銀時

「フン」

 

 第一位 坂田銀時

「みんなありがとう」

 

「って、これじゃあ何処ぞの鼻毛アフロのパクリでしょうがァアアアアアアアアアアアア!!!!」

「おぶばっ!!」

 

 銀時の背後から新八の飛び蹴りが炸裂する。当然銀時は、その勢いに負けて吹き飛ばされる。壁に激突すると共に、先程まで壁にかかっていた紙は何処かへ飛んでいった。

 

「なんか思いっきり色々仕込んでると思ったら一体何してんですか銀さん!!」

「いや、せっかくの場だから今のうちにやれるネタやろうと思ってな……人気キャラ投票なんてもう二度とないかもしれねぇから」

「縁起でもねぇこと言うなよ!!」

「だってこれ二次創作だぜ? 筆者都合で打ち切りとかもあり得る脆さだぜ? そもそも今後はオリジナルの異変をやりますって言ってる辺り、割とネタ切れ感が半端ねぇんじゃねえか?」

「そんな元も子もないこと言わないでくださいよ!? 頑張ってるかもしれないじゃないですか!?」

「んなこと言ったってなぁ。最近は、やれ『未知の旅へ飛び出そう』としたり、ポケットのモンスターをマスターしようとしたり、何かと忙しいじゃん? そうなると果たして世間的には一体どうなんのかって話よ。分かるだろ? 新八ぃ」

「多方面から責められるような話をぶち込むのやめろォオオオオオオオオオオオオオ! ただでさえ最近何かとネタが危ない方向にシフトしてんだから、そろそろ落ち着かせた方がいいでしょうがァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ここぞとばかりに銀魂風のツッコミを意識しなくてもいいようるせぇな」

「なんでそんなに妙に当たりが強いんすか銀さん!?」

 

 何とも言えない会話の応酬。

 ある意味久しぶりの光景といえなくもない。

 

「ま、そろっと本題入らねぇとな。今回はちゃんと票入れてもらえて、順位もつけられるようになったわけだからな。つーわけで、さっきも言った通り、『全員に一票』については一票持っていることにはするが、カウントダウンには入れないのでそのつもりでよろしくな」

「そのほかの皆さんにつきましては、票数を一票足した状態で発表致します! ただし、同数票も多いですので、そのあたりは一気に羅列しちゃいますのでそのつもりで!」

「それじゃあ早速~……」

「「カウントダウン!!」」

 

 

第七位 得票数 2

チルノ、鬼人正邪、八坂神奈子、洩矢諏訪子、射命丸文、レミリア・スカーレット、神楽、水橋パルスィ、お登勢、リグル・ナイトバグ、八雲藍、魂魄妖夢、桂小太郎、紅美鈴、風見幽香、土方十四郎、沖田ミツバ、徳川茂茂、十六夜咲夜、妖夢の半霊

 

 

「いやちょっと待ちなさいよ。何で半霊入ってんのよ。これ有効票なの?」

 

 流石の事態に、霊夢が割って入ってきた。

 

「一応有効だぞ? この作品に登場した奴らなら票に入ることになってるからな」

「キャラじゃないじゃないの。これ明らかにおかしいじゃないの。つまり半霊以下の奴らが何人もいるってことじゃないの」

「知りたくなかった事実やめろォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 ある意味悲しい事実がそこにはあった。

 

「つーわけで、残りの順位については次回より順次発表となるわけなので」

「どうぞ最後までごゆるりとお楽しみください!」

「え、何。今回ここで終わりなの? まだこれからじゃないの」

 

 次回へ続きます。

 

 

 

 

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銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百二十六訓 記録をつけたら発表するのが筋というものだ

 

 

 



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第二百二十七訓 順当な順位というものは存在する

「はい、つーわけで今回からは東方側から霊夢と魔理沙にも来てもらったわけだが……魔理沙、先に言っておかなくちゃならねぇことがある」

「なんだぜ銀さん?」

 

 いきなり呼び出された魔理沙としては、これから一体どんなことを言われるのか想像がつかない。

 そしてそんな彼女に対して、銀時は言う。

 

「今回、お前の名前投票に入ってなかったんでどんまい」

「なんで私を呼んだんだぜ!? ただ単に悲しい時間を過ごして終わるじゃないか!!」

「え? ツッコミ要因として私が呼んだんだけど?」

「霊夢のせいだったんだぜ!?」

 

 ある意味不憫な立ち位置だった。

 

「まぁ、四の五の言ったって順位は変わらねぇんだ。諦めろ」

「アンタ慰めるのか煽ってんのかどっちかにしろよ!!」

 

 流石の新八も同情する。

 

「まぁ、とりあえず続きが気になっている人もいるだろうからよ。とっとと票を開けていこうぜ」

「そうね……せっかくのめでたい場所なんだから」

「私は一気にテンション下がったぜ……」

「まぁまぁ、魔理沙さん。誰が一体ランクインしているのかを見るのも楽しみの一つですから……」

「そう言って、どうせ新八はわりとそこそこいい位置にランクインしてるかもしれないぜ!? 上から目線が悲しいんだぜ……」

 

 最早新八のそれは慰めにもなっていない様子。

 

「ま、とりあえず上位陣の発表にいくぞ。まだ重複票があったりするから、そのあたりは羅列して発表していくんでそのつもりで」

「それでは早速……」

「「「「カウントダウン!」」」」

 

 

第六位 得票数 3

博麗霊夢、寺田辰五郎、蓬莱山輝夜、ジャスタウェイ

 

 

「ちょっと待ちなさい。なんで私の順位が無機物と同じなのよ。つーかジャスタウェイって爆弾じゃない」

「そもそも私に至ってはジャスタウェイ以下なんだぜ!? 流石に納得いかないぜ!?」

 

 ジャスタウェイが堂々のランクインを遂げている上に、『全員に一票』がなかったとしても二票獲得しているという事実。一票しか獲得していない魔理沙からしてみれば、凄く納得のいかない結果だろう。

 

「仕方ねぇだろ? これが読者の求めた結果だ」

「それだけじゃ納得できないぜ!?」

 

 魔理沙が叫んでいるが、尺の都合もあるので次へいきましょう。

 

「尺の都合ってなんだぜ!?」

 

 

第五位 得票数 4

東風谷早苗、八雲紫、マダオのサングラス

 

 

「「おかしいでしょこれ!?」」

 

 流石に霊夢と魔理沙がブチギレていた。

 

「何がおかしいんだよ?」

「サングラスが第五位ってどういうことよ!?」

「サングラス相手に何十人も負けたってことだぜ!? あり得ないぜ!?」

「そして当然のように長谷川さんに票は入っていないんですね……」

 

 何を隠そう、マダオのサングラスに票は入っていても、マダオ本人には票は入っていない。

 何とも悲しい事実である。

 それ以上に、サングラスという無機物を相手に何人も負けているという衝撃の真実が待ち受けていた。

 

「流石に魔理沙さんが可哀想に思えてきましたよ……」

 

 これには新八も同情する。

 

「同情すんな、新八。勝負の世界は非情なんだよ。勝ったものが残り、負けた者は淘汰される。それが自然の摂理だろ?」

「なんの話してるんですか銀さん」

 

 我が物顔で語っている銀時に対して、新八は冷静にツッコミを入れていた。

 

「さ、第四位から上位も発表していくぞ。カウントダウン!」

 

 銀時の掛け声が響いた。

 

 

第四位 得票数 5

志村新八

 

 

「珍しく新八は単独票だったし、原作じゃ万年八位だったのに今回は倍の順位か……新八の癖に生意気だ」

「生意気ってなんだァアアアアアアアアアア!? 僕だって上位取ったっていいじゃないですか!!」

「新八に負けるならまだ納得いくぜ……サングラスよりは納得いくぜ」

「まだ引きずってるんですか魔理沙さん!?」

 

 これはしばらく引きずりそうだ。

 

「ようやっとある意味納得のいく相手が出てきてよかったわ……その票寄越しなさいよ」

「何怖いこと言ってるんですか霊夢さん!?」

 

 脅迫してくる霊夢は、さながら鬼のよう。

 

「ま、とりあえずここからはベスト3だ。張り切っていくぞー」

 

 

第三位 得票数 6

古明地こいし、新八の眼鏡

 

 

「またんかいィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」

「なんだよ新八。いちいち止めるんじゃねえよ。進行だって大変なんだぞ?」

「本人が眼鏡に負けてるんだよ!? なんだよこの順位はおかしいだろ!?」

「こいしならともかく、眼鏡が三位って事件じゃないの……この作品の読者、組織票でも作ってるんじゃないかしら」

「読者のみなさまに疑いをかけるのはやめるんだぜ霊夢!?」

 

 当然のようにこの場は大混乱。

 仕方のないことなのかもしれない。

 

「とりあえず、残す所二位と一位だ。いやぁなんつーか? もうここまで俺の名前がないとなると、いよいよ何処に俺の名前があるのか分かっちまうっつーか?」

「何よ銀時。さっさと始めなさいよ。ぶちのめすわよ」

「さっきから怖いぜ!?」

 

 というわけで、残りの二人を大発表。

 

 

第二位 得票数 12

フランドール・スカーレット

 

第一位 得票数 13

坂田銀時

 

 

「分かっちゃいたけど、やっぱこの作品のメインヒロインってもはやフランだぜ……」

「私はどちらかというとヒロインというよりは主人公サイドだから。負けてないわ。けど眼鏡は許さないわね。折るから貸しなさい新八」

「僕の眼鏡に八つ当たりするのやめてくださいよ!?」

「つーか新八は、眼鏡と合わせると地味に九票獲得してるぜ? 一票位わけてくれたってよくない?」

「眼鏡の票もらって嬉しいんですか!?」

 

 ある意味悲しい争いである。

 

「つーわけで、今回の人気投票一位は、坂田銀時こと俺でしたー! いやぁいい気分だぜ……」

「でしょうね……」

 

 霊夢が溜め息交じりに呟いた。

 

「というわけで、第二位のフランちゃんに御登場してもらいましょうー。フランちゃーん」

 

 新八が呼びかけると、

 

「ギン兄様ー!」

「おにいさーん!」

 

 フランに続いて、こいしも一緒に駆け寄ってきた。

 二人は銀時に抱き着くと、存分に甘えている。

 

「なんか……この光景見ていると、二位と三位がこのお二人なのが納得出来ますね」

「フランに至っては銀時同様ぶっちぎりじゃない……仕方ないことかもしれないわね」

「まぁ……結果オーライって感じだぜ」

 

 フランとこいしの頭を優しく撫でる銀時。

 そんな三人を眺めながら、新八達はなんとなく納得したように今回の場を締めるのだった……。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百二十七訓 順当な順位というものは存在する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わらせないわよ……見てなさい……銀さんの隣に並び立つのはこの私なのよ……人気投票……天下を取ってみせるわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけでたくさんのご投票、誠にありがとうございました!
後書きとして、分かりやすく順位を載せておきますのでご参考までに。

第七位
チルノ、鬼人正邪、八坂神奈子、洩矢諏訪子、射命丸文、レミリア・スカーレット、神楽、水橋パルスィ、お登勢、リグル・ナイトバグ、八雲藍、魂魄妖夢、桂小太郎、紅美鈴、風見幽香、土方十四郎、沖田ミツバ、徳川茂茂、十六夜咲夜、妖夢の半霊

第六位
博麗霊夢、寺田辰五郎、蓬莱山輝夜、ジャスタウェイ

第五位
東風谷早苗、八雲紫、マダオのサングラス

第四位
志村新八

第三位
古明地こいし、新八の眼鏡

第二位
フランドール・スカーレット

第一位
坂田銀時

たくさんの投票ありがとうございました!
今後とも何卒よろしくお願いします!!

……ところで、銀魂メインヒロインは、ほとんど入っていませんでしたね(震え声


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第二百二十八訓 大切なことは頭に残っている物だ

 江戸の街を歩いている一人の男がいた。男は片手にアンパンの詰まった袋を持ち、これから張り込みの任務につくところだ。その男の名前は……ジミー。

 

「いやちげぇよ! 山崎退だよ! 久々すぎて名前すら覚えてもらえてねぇのかよ!」

 

 男の名前は山崎退。

 彼独自のルールとして、張り込みの任務につく際にはアンパンと牛乳しか摂取しないという謎すぎる制約をつけている。そんな変なこだわりを持つ、キャラ付けに必死な男である。ちなみに、今回の任務については内容と全く関係無いため、特に気にする必要はない。

 

「じゃあ俺なんのために登場したの!?」

 

 空中に虚しく響き渡る一人の男の嘆きの声。そんな時、男はふと自分の頭上を見上げたことにより、とある事実を確認した。

 

「……なんだ? この数字」

 

 頭の上に、『1』と書かれているのだ。

 

「え? 俺何かでいつの間に一位を取ってたってこと? いやぁそうだとしたらさすが俺って感じだなぁ……他の人達を差し置いて俺がトップだなんてなんか照れ臭いなぁ」

 

 当然、彼が何かで一位を取ったわけではないので、その推論は大きく外れることになる。が、今回の話において重要な物となるのは事実だ。

 

「その票……この私に寄越しなさい!!」

「なっ!?」

 

 突然背後から聞こえてきた謎の声。驚いた山崎が後ろを振り向こうとして、

 

「んぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 振り向く間も無く、頭の上に表示されていた『1』をもぎ取られた。瞬間、彼の頭からは尋常じゃない程の量の鮮血が迸る。さながらそれは血の噴水。彼の血によって、小さなアーチが描かれていた。

 

「俺の出番……ここでおわり、かよ……」

 

 血を流しすぎた山崎は当然のように意識を失う。だがこれは、今回の喜劇の始まりに過ぎなかった。

 

 今ここに、幻想郷と歌舞伎町を巻き込んだ、最大の喜劇の幕が開くのだった。

 

 

「はい、つーわけで投票の開票は全て終わったわけだが、まっ、なんつーの? 主役だから? いやぁ参っちゃうねぇどうも」

「いつまでアンタはトップ噛み締めてんだよ!! もう発表終わったんだからそろそろ普通のモードに戻れよ!!」

 

 博麗神社では、先ほどまで行われていた人気キャラ投票発表会の後片付けをしていた。もちろん、銀時が仕込んでいたネタの部分は、後から博麗神社に来た神楽がビリビリに引き裂いている。八つ当たりと言わんばかりに無残なほどボロボロに。

 

「ま、こうして票集まっただけでも上々だな。前よりも少なくとも多少は知名度上がった証拠ってこったろぉ」

「実質四票だった時と比べれば、今回は相当数増えましたからねぇ。投票に協力してくださった人数も増えてましたから、ありがたいことですよ」

「本当、一回目を無かったことにして今回が初めての投票でーす、なんてしたかった位らしいな。まぁ、あんな目立たない方法かつ、宣伝もしなきゃそりゃ無理もねぇって話だけどよ」

「けど、前の失敗があったからこそ、今回につながったとも言えるんじゃないですか?」

「確かにな。実際前と同じようにしてたら、投票数0とかもあり得たかもしれねぇしな」

 

 そんな雑談を交わしている二人。

 

「話してないであんた達も協力しなさいよ。フランやこいし、神楽だって片付けてくれてるわよ」

 

 博麗神社に施された装飾の数々を外しながら、霊夢は銀時と新八に対してそう指摘する。

 

「いや、申し訳ねぇけど神楽の場合ただ飾りぶっ壊してるだけだよな? 破壊衝動止められないだけだよな?」

「ちなみに魔理沙はサングラスと眼鏡に負けたことを根に持ってるわよ……思い出しただけで苛ついてきたから眼鏡よこしなさい」

「あんたもまだ引きずってるじゃないですか!!」

 

 魔理沙以上に霊夢の方が引きずってそうな予感すらさせる。

 だが、ここで彼らはあることに気付いた。

 

「……ん? 新八、なによその数字」

「へ?」

 

 霊夢に指摘され、新八は頭上を確認する。

 するとそこには……『5』という数字が浮かんでいた。更に、新八の眼鏡の上には『6』という数字が浮かんでいる。

 

「それを言うなら霊夢、テメェの頭にも『3』ってあるぜ」

「アンタには『13』ってあるわね…………これはまさか」

 

 その共通点に、霊夢は気付く。

 

「これ……さっきの投票で得た票の数じゃない」

 

 そしてそれは、皮肉にも今回の喜劇のアイテムの発見となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百二十八訓 大切なことは頭に残っている物だ

 



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第二百二十九訓 今時足で探す情報ってそこまで多くない気がする

 真選組の屯所内にて、今回の一件に関する会議が行われていた。しかし、頭の上に数字が乗っかっている中で行われる話し合いというのもなかなかにシュールな物である。

 

「するとトシは、この数字はいわば貴重な読者の方からのありがてぇ票を指していて、山崎はそれを何者かに奪い取られた……そう考えてんのか?」

 

 真選組局長こと近藤は、今回の一件についてそう語る。

 

「道のど真ん中で打ち上げられてた山崎の頭には、本来あるはずの数字がなかった……つーことは、何者かが掻っ攫って、ただでさえすくねぇ票を独り占めにしようってこったろうな」

「ザキを選んだのは、小手調べに地味なやつを狙おうって魂胆でさぁ。もしくはアニメのパクリでやったのかもしれないですぜ」

 

 本人がその場にいないのをいいことに、土方も沖田も言いたい放題である。ちなみに、沖田の方には『1』、土方には『2』がついている。近藤もまた、『1』がついていた。さりげなく土方のみこの中では複数票をもらっているのである。

 

「にしても近藤さん。我が物顔で語ってやすけど、土方さんさり気なく二票もらってやすぜ。コイツァ何かやったに違いありやせん」

「何もしてねぇよ!! 文句あんなら他の奴に言えや!!」

「トシ! 総悟! こんなところで喧嘩たぁ情けねぇぞ!」

 

 しょうもない喧嘩を始めようとした土方と総悟を止める近藤。こういった面をもう少し前面に押し出していけば多少はお妙も振り向いてくれるかもしれないのに、なんとも仕方のない物である。

 

「今回は江戸で起きたことだが、人気投票で得た票を奪われたってんなら、次はここじゃなくて幻想郷でも同じようなことが起こる可能性もあるってことだ。となると、犯人は江戸だけでなく……」

「幻想郷にも足踏み入れるってわけか……江戸中駆け回ってるだけだと、見つかりそうもねぇなこりゃ」

 

 混同の言葉につづけるように、土方が言った。

 彼の言う通り、山崎が狙われたのは人気投票の票を奪うため。となれば、江戸よりも幻想郷にいる人物の方が狙われやすいということになる。そもそも銀魂側からの登場人物は、今回の作品ではわりと限られている方なのだ。だというのに、銀魂側のキャラクターは全然票入っていない。

 

「まずは足で情報探るしかねぇな。総悟、トシ。早速捜査に向かうぞ」

「幻想郷探すのは俺に任せてくれ。近藤さんと総悟はこっちで探して欲しい」

「待ってくだせぇ、土方さん。向こうには姉上もいます。姉上を守る為にも俺は向こうに行かなきゃいけないんでさぁ」

 

 そう。

 幻想郷にはミツバが居る。

 彼女がいるということは、総悟としては守りに行きたい所である。そもそも、土方が幻想郷に行こうとするならば、ミツバに会いに行くことは自明の理。総悟としてはそれも阻止したい所。

 

「幻想郷にゃ万事屋が居るだろうからな。アイツらに事情説明しに行くなら一人で十分だろ。だから俺が行って来るって言ってんだ」

「その役目なら下の立場である俺がやりまさぁ。土方さんは上の役職らしくふんぞり返ってくだせぇ。第一アンタだけ票獲得してんだから狙われて無様に倒されるのがオチでさぁ」

「だから二人で喧嘩するのはやめろって言ってんだろぉおおおお!?」

 

 相変わらず屯所はある意味平和らしい。

 

 

「……そろそろね。まずは江戸に居る奴らの票を掻っ攫う」

「そうすれば、僕達に入らなかった票を刈り取ることが出来るということだな?」

「心苦しいことではありますけど、私達に光が当たらなかったから、その犠牲となってもらうだけです」

 

 女性三人が、とある場所で話し合っている。

 彼女達は、今回の人気キャラ投票にて脚光を浴びなかった者達。

 そして、自身の票を獲得しようと躍起になる者達。

 

「私達の票を獲得する為」

「この小説に私達が居ることを証明する為」

「そしてお妙ちゃんが主人公になる為」

 

 一人だけ明らかに目的がおかしいが、これは明らかに犯行予告。

 彼女達によって犠牲となる者達が果たしてどれだけ現れるのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百二十九訓 今時足で探す情報ってそこまで多くない気がする

 

 



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第二百三十訓 わちゃわちゃしつつちゃっかり行動するタイプの奴

 場所は変わって幻想郷。先程まで投票結果を告知していた博麗神社では、頭に浮かんでいる票の数について話し合っていた。

 

「こりゃあれだな。各々の戦闘力が可視化されたっつーわけだな。つまり新八の戦闘力は5で、眼鏡の戦闘力は6ってわけだ」

「眼鏡に戦闘力負けてるってどういうことですかこれェエエエエエエエエ!?」

 

 哀れ新八、悲しみの票数結果である。読者の皆様が決めたことなので、それには大人しく従ってもらいたいところである。

 

「けど、なんでまた私たちの頭の上に現れたりするんだぜ?」

 

 当然といえば当然過ぎる疑問を魔理沙がぶつけてくる。それに対して銀時はこう推論した。

 

「どうせ筆者が人気投票篇のオマージュやりたかったんだろ? ただ、順位だと丸パクリになっちまうし重なる奴らが何人もいるから、票数にしてお茶を濁したんだろ」

「かえってそのせいで露骨になってる気がしますけどね」

 

 表の数は、いわば読者の方々から得た人気の象徴。それだけに、銀時とフランの頭に浮かんでいる数字はずば抜けている。

 

「私は眼鏡と同じ数だー。なんだか面白い!」

 

 こいしは、新八の眼鏡の上に浮かんでいる数字をぺちぺちと叩きながら楽しそうにしている。その様子はさながら猫。控えめに言って可愛い。だが、

 

「ちょ、こいしちゃん!? なんかよく分からないけど眼鏡にヒビ入ってるんだけど!?」

 

 こいしがぺちぺちとする度に、なぜか新八の眼鏡がボロボロになっていく。

 

「数字と身体は連動してるってことなのね……数字が受けたダメージは本体にも返ってくる、と」

 

 その様子を眺めていた霊夢がそう呟く。

 

「なるほどな。つまり数字もぎ取られたら相当のダメージが来るってわけか……とんでもねぇなおい」

「ちょうどいいアル。眼鏡なら痛みは感じないアルな?」

「神楽ちゃんんんんんんんん!? それ票盗みにいくって公言してるようなものだからね!?」

 

 大胆不敵な犯行予告に、さすがの新八も驚かされた様子。

 

「眼鏡でこれなんだから、たとえば俺たちのうちの誰かが数字もぎ取られたとしたら……」

「相当の出血を伴って、意識失うのは間違いなしでしょうね……少なくともこの数字、『人気投票篇』が終わらない限り、いつまでも引っ付いてくるでしょうから厄介ね……」

 

 珍しく主人公コンビが頭を働かせて仕事をしている。長編のタイトルを冠してはいるものの、今回についてはあくまで喜劇。シリアスさなど何処にもない。

 

「新八、用心しとけよ? テメェの姉ちゃん達またよからぬことを企んじゃいねぇだろうな?」

「なに犯人特定しようとしてんすか!? 確かに前回も姉上達には相当悩まされましたけど!」

 

 銀魂本編において人気投票がが行われた際、女性陣による人気剥奪テロらしき行動が行われた。今回は前よりもある意味でわかりやすく、分取っただけ票を稼ぐことが出来る。最早投票の結果によるものではないが、本人達にとっては死活問題かつ本気で対処するべきものなのだ。人気が欲しい者達は手段を選ばないだろう。

 

「しかし、よかったな魔理沙。テメェの頭の上に浮かんでるぞ? 『1』っつー輝かしい数字が」

「喧嘩売ってるなら買うぜ銀さん!? マスタースパークぶっ放して、銀さんの票かっさらうぜ!?」

 

 盛大に煽ってくる銀時に対して、魔理沙は青筋を浮かべていた。彼女にしては珍しいことである。

 

「落ち着いてください魔理沙さん! 天パー野郎にあたっても何も解決しませんよ!?」

「そうアル。ヤるなら眼鏡にしておけヨ」

「さりげなく僕の眼鏡を犠牲にしようとするなァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 何気にちゃっかりしている神楽である。

 

「レイム? ギン兄様を傷つけたら……ワカッテルヨネ?」

「どきなさい、フラン。そいつ夢想封印れない」

「何自分のスペルカード動詞にしちゃってるんですか!? ていうか建物の中で弾幕ごっこしようとしたら僕らまで巻き込まれてしまうでしょうがァアアアアア!!」

 

 その通り過ぎるツッコミをする新八。

 相変わらずこのメンバーはカオスかつ騒がしい。そんな彼らの前に……。

 

「あややー! みなさん!! 大変な事態が起こりましたよ!!」

 

 さらに騒がしくなるだろう人物が現れたのだった。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百三十訓 わちゃわちゃしつつちゃっかり行動するタイプの奴



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第二百三十一訓 敵は何処から来るか分からないから戸締りには十分気を付けろ

 現れた文の頭の上には『2』という数字が浮かんでいる。彼女が駆け寄ってくるたびに、数字も一緒についてくる様子はなかなかにシュールな光景だろう。とはいえ、今回の彼女は割とまともな方の文であり、その様子こそ、彼女がもたらす情報が大事なものなのだろうと思わせるに値していた。

 

「そんなに慌ててどうしたのよ文。何か特ダネでも見つけたの?」

「ある意味特ダネかもしれませんが、最早事件なんですよ霊夢さん!」

 

 霊夢の問いかけに対しても、彼女は少し冷静さを欠いているような感じで答える。よほど緊急な事態が起こったという証拠なのだろう。

 

「……なんか、嫌な予感するんですけど、銀さん」

「奇遇だなぁ、新八。俺もとてつもなく嫌な予感がする」

 

 新八と銀時は、今回の状況を鑑みてとある答えに至っている様子。そして、彼らの答えを裏付けるかのように、射命丸文は次の言葉を述べた。

 

「チルノさんや美鈴さんが、頭の上の数字をもぎ取られて倒れたんですよ!!」

「「やっぱりそういう展開かよォオオオオオオオオオオオオオ!!」」

 

 忘れてはならない。

 これは人気投票篇であるということを。

 それはつまり、順位を操作しようと票を奪い去ろうとする輩が現れている、ということになる……。

 

 

 紅魔館2ndGでは、珍しくバイトが長続きしている長谷川ことマダオが、紅魔館から出張してきているパチュリーや小悪魔と共に、図書館の蔵書整理をしていた。

 

「いや、長谷川ことマダオっておかしくね!? それじゃあマダオが本名みたいになるじゃねえか!」

「いきなり叫んでどうしたのよ。手が止まってるわ」

 

 珍しく自分でも蔵書の整理をしているパチュリー。少し離れたところでは、小悪魔がふよふよと浮きながら本を入れ替えていた。彼女達の頭の上にも当然数字が浮かんでいる。しっかりと、『1』という数字が。

 一方の長谷川は、人間の方に『1』と浮かんでおり、本体の方にはしっかりと『4』の数字が浮かんでいた。

 

「ハセガワだけやけにややこしい感じになってるわね、その数字」

「たしかお嬢様が、人気投票がどうのこうのって話をしてましたから……この数字って、その時にもらった票じゃないですか?」

「だとしたら俺、サングラスの方が票多いってこと!? 何? 俺いつの間にサングラスが本体になっちまってたのか!?」

「知らないわよ……それを言うなら私も小悪魔も一票しかもらってないの。文句を言わないでほしいわ」

「いや俺本人はあなた達と変わらないですからね!?」

 

 哀れ長谷川。しかし票というのはいつだって正直であり、読者の方々もどちらに入れたら良いものか分かっているものである。今回はその結果がうまく作用しただけだ。

 

「後でどんな感じになったのかギントキに聞いてみようかしら……」

 

 ちなみに、紅魔館2ndGにいるこの三人は、人気投票の順位をまだ聞いていない。パチュリーに至っては、その存在すら頭から抜け落ちていたレベルだ。なので、紅魔館の住人でそういった類のことを知ってそうな人と言うと限られる。それなら主人公に聞いた方が早いだろう。最もその主人公は、今回の投票で一位を取っており踏ん反り返っているが。

 

「その必要はないわ。どの道今集まっている票は、私達の手によって回収されるのだから」

「「「!?」」」

 

 突然聞こえてきた女の声。

 

「え? 誰? 今の誰!?」

 

 長谷川は辺りを見渡して混乱している。

 パチュリーと小悪魔の二人は、背中合わせになって周囲を警戒する。剣での戦いならともかく、相手が弾幕を放つとなれば、長谷川は戦力外。それならばこの二人が動いた方が確率が高くなる。なんとも情けない図ではあるが、合理的ではある。

 

「人の気配、複数ありますね」

「声は一つ……気配は三つ。まだ二人隠れてるわね」

「どうしますか?」

「とりあえずは警戒。様子見の段階よ」

「かしこまりました」

 

 侵入者ということもあり、二人は緊張を崩すことはない。

 そして、その侵入者は姿を現すと同時に、こう叫んだ。

 

「「「おどれの票を頂くんじャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

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第二百三十一訓 敵は何処から来るか分からないから戸締りには十分気を付けろ



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第二百三十二訓 人は時折目の前が見えなくなる程暴走する

 今回の件について盛り上がっているのはなにも博麗神社だけではない。守矢神社でもまた、今回の人気投票について話が行われていた。

 

「これはある意味信仰に関わるのでしょうか……?」

 

 この神社の巫女である東風谷早苗は、わりと珍しく真剣な表情を浮かべている。ただし彼女の頭の上には、『4』という数字が浮かんでいる為になかなかシュールな光景を生んでしまっていた。ちなみに、この場にいる二柱の神については、揃いも揃って仲良く『2』の文字がふよふよとしている。

 

「ここにいる三人合わせても八……あの眼鏡くんとその眼鏡を足した数よりも下だとは……」

「やめてよ神奈子……そう聞くとかなり悲しくなるじゃん」

 

 実際その通りなのだから、現実というのは実に非情な物である。守矢神社として獲得した総票数は八であるという事実は揺るがない。これはもはや決定事項なのだ。

 

「幻想郷にいる人達からの信仰と、実際に小説を読んでいる読者からの信仰はまた別問題だよ、早苗。だからそこまで気落ちする必要はないさ」

「神奈子様……」

 

 今回の投票において、自分達が不甲斐ない結果に終わったのは責任があるのではないか? 早苗がそう考えているかもしれない、と神奈子は思ったのだろう。自分の子供をあやす親のように、慈愛に満ちた表情で早苗に語りかけていた。しかし、早苗の身体はそれでま震えている。

 

「違うんです、神奈子様……確かに、信仰に関わることであるとすれば、私の努力が至らなかったと考えておりました……ですが、それ以上に悔しいことがあるんです……」

「悔しいこと?」

 

 今度は諏訪子が尋ねる。

 そして早苗は、自身の胸の内を明かした──。

 

「順位の上で銀時さんと並べられなかったんです!!」

「「そっちかィイイイイイイイイイイ!!」」

 

 今まで流れていた真面目な空気はどこへ消え去ってしまったのか。ある意味ブレていないともとれる早苗の言葉は、神奈子と早苗をツッコミ役へと変貌させるには十分すぎた。

 

「フランさんやこいしさんはまだわかりますよ? でも!! よりによって眼鏡が三位ってどう考えてもおかしいじゃないですか!!」

「確かにそれについては私も思ったけども! 無機物なのにヒロインと並んでいるって考えたけども!」

「そうですよね神奈子様!? こんなの異常事態なんですよ!! 私だって相当銀時さんにアピールしているのに、素の順位で銀時さんの隣に並べられなかっただけじゃなくて、よりによって眼鏡やサングラスに負けるなんて……!!」

「やめてぇえええええ! 今まで考えないようにしてたけど、私達自身の票がサングラスに負けたことを考えたくはなかったの!!」

 

 諏訪子もそのことは気にしていたようだ。

 

「第一、サングラスや眼鏡とか、無機物がランキング上位に食い込んでくるような人気投票って何さ!? なんかもう色々とおかしいでしょこの作品!?」

「落ち着け諏訪子。メタ発言しないで」

 

 あまりのショックさに、どうやら諏訪子はメタ発言まで繰り出す始末。正直な話、ジャスタウェイまで入り込むランキングは不気味でしかない。ある意味では究極のネタとも言えるだろうが……。

 

「こうなったら、諏訪子様、神奈子様……やるしかありませんよ」

「「何を?」」

 

 立ち上がるや否や、突然決意に満ち溢れた表情を見せる早苗。そんな彼女に対して、不思議そうな目で見つめる諏訪子と神奈子。そして早苗は、自身が決意した内容をくちにする。

 

「奪ってやりましょう。他人の票を」

「「またんかい早苗!!」」

 

 当然、二柱の神は暴走する現人神を止めようと躍起になったという。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

第二百三十二訓 人は時折目の前が見えなくなる程暴走する



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第二百三十三訓 無機物だってやる時はやる

「とりあえず今の所の救いは、上位陣が全員ここにいるってことかしらね……」

 

 霊夢は辺りを見渡しながらそう言った。確かに、今回の人気投票においてトップ4を獲得したメンバーは全員博麗神社にいる。銀時、フラン、こいし、新八の眼鏡。

 

「ちょっとォオオオオオオオ!? 新八君抜けてますけどォオオオオオオオ!?」

「何言ってんだよ新八。ちゃんと頭数に入ってたろ?」

「眼鏡しかカウントされてねぇよ!? 本人居ないもの扱いされてたよ!?」

 

 閑話休題。

 ともかく、現在この場にはランキング上位が揃っている。しかもほとんどが手練れの者である以上、そう簡単に襲い掛かったりすることもないだろう。いきなり上位の首をとりにいくというのは戦術的にはあまり好手とは言えないからだ。

 

「大丈夫だよ、ギン兄様。ギン兄様を狙う様な人が現れたら、フランが必ず守るから」

「お兄さんのことはこいしもお守りするー」

 

 銀時のすぐ側には、実は自分達も狙われる対象になってはいるものの、銀時を守ろうと躍起になっている二人がいた。差し詰め銀時セコムといった感じだろうか。この二人に守られているのならば大体の敵は退けられるであろう。

 

「あやや〜。相変わらずお熱いですなぁ〜」

「言いながら写真連写しないでくれる? その写真何に使うつもりなの?」

「もちろん! 明日の新聞のトップを飾る為ですよ♪ 坂田銀時、魅惑の疑惑! 知られざる三股の秘密に迫る!」

「何勝手に人をクソやろうな仕立て上げようとしてんだゴラァアアアアアアアアアアアアア!! これだからマスゴミはいけすかねぇんだこのヤロォオオオオオオオオ!!」

 

 銀時達の写真を撮り続ける文は本当に輝いている。まるで餌を得た猛獣の如き勢い。おそらくこの騒動のことですら記事に仕立て上げてしまうに違いない。

 

「にしても、人気投票で得た票を増やしたいって気持ちは分かるけど、まさか本気で実行する奴が現れるとは思わなかったぜ……」

 

 魔理沙はポツリと呟く。彼女は一票しか獲得していない為、票を増やしたい気持ちについては理解出来ている。しかし、他人の票を奪い取ることを実行しようとは思っていなかった。

 

「魔理沙はそうかもしれないわね。一応貴女は本編で異変が始まると必ず登場してるわけだし。たとえ票が入らずとも、東方における自機側として出番だけなら来るもの。だけど、他の人は果たしてそういくか分からない」

「出番欲しさにランキング上位に自分をねじ込もうとしてるアル。だから新八の眼鏡寄越すネ」

「なんか神楽ちゃんから飛び火してきたんですけどォオオオオオオオ!?」

 

 実際何故か新八の眼鏡は票が高い。作品に登場している以上は有効票となるわけだが、正直な所無機物が神をも凌駕する人気投票になろうとは誰が予想出来ただろうか。少なからず筆者は予想していたとはいえまさか本当になるとは思ってもいなかった。彼らにとっては余程ショッキングな出来事に違いない。

 

「眼鏡かけただけじゃテメェの票にゃならねぇぞ神楽。眼鏡の上にある数字ねじきれ」

「ちょっとォオオオオオオオ!? それじゃあただの泥棒ですからね!? ていうかさっきも似たようなことしようとしてましたよね!?」

 

 哀れ新八。

 彼の眼鏡に集められた票は狙われる運命にあるらしい。

 

「とりあえず、一旦ここに隠れておけば問題なさそうね。万が一チルノや美鈴みたいに狙われたとしても、これだけ強者が並んでいれば戦おうという気は失せるでしょう。いざとなれば私は夢想封印するわ」

「安心しな、霊夢。テメェは票すくねぇから狙われるのは割と後になるだろうな」

「今ここでアンタの票八つ裂きにしてもいいのよ? 天パーロリコン野郎」

「まだ引きずってんのそれ? 俺ロリコンじゃねえからな?」

 

 青筋浮かばせながら堂々と宣言する霊夢。

 銀時の言葉がそれだけ気に喰わなかったのかもしれない。

 

「私は引き続き情報を集めてきます。何か分かったことがあればすぐに飛んできますのでそのつもりでいてください!!」

 

 そんなわけで、嵐のように現れて、嵐の如きスピードで射命丸文は去って行ったのであった。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百三十三訓 無機物だってやる時はやる

 

 



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第二百三十四訓 表示されていることこそこれ以上ない位の証明となる

 頭の上に獲得した票が表示されるという状況はかなり異質で、それは時として自身を評価する上での材料として活用することが出来たり、あるいは、

 

「あら、良かったわね。頭の上にある『1』という数字が輝いているわよ? それはそれはもう貴女を象徴するかのように、強く燃えているかのように。まぁ私は貴女の三倍はもらっちゃってるわけだけどね! 妹紅!」

「そういう輝夜はえらくまた中途半端な数字だなぁ……ネタとしても美味しくないし、かといってとりわけ上の方に位置しているわけでもなく、こうして滅多に出番がない人にまで煽られた上、後から出て来た人達に次から次へと抜かされていく気分はどうなんだ? 私は元々そこまで出番多い方ではないから、自分の順位に納得いっているけどな、輝夜」

 

 こうして他人を煽る材料としても活用する事が出来たりする。

 ここは永遠亭。たまたま別件で訪れていた妹紅を見つけた輝夜が、今日もこうして喧嘩売りに行ったのである。元々彼女達にはとある事情がある。そこから今のような喧嘩し合う仲となっているようだ。喧嘩するほど仲が良いとは言ったものだが、彼女達がもしその気になれば周りへの被害など微塵も考えずに激しい戦闘を繰り広げる可能性すらある。その度に永琳に怒られるのだが。どちらが主人なのか分からない感じである。

 

「お二人とも落ち着いてください。今は患者を治すことが最優先ですから」

 

 輝夜の前ということもあり、ある程度かしこまっている永琳が止めに入っている。

 

「患者、か……頭から血を流して倒れていた人が複数人……」

「しかもほとんど顔見知りばかりと来たわね。人間、妖怪、妖精……被害の幅は語りしれないときた」

 

 一応、妹紅と輝夜の二人も、今回の事態をなんとかしなくてはと考えているようだ。

 普段はそこまで忙しいというわけではない永遠亭に、次から次へと人が運び込まれていくこの状況。人里まで薬を売りに行っている鈴仙が、見つけた患者を次々に搬送していることによって出来上がっている。今や薬を売りに行くことよりも患者を見つけて迅速に搬送する事の方が優先度が高くなっていた。

 とはいえ、患者達の命に別状はなく、血を流しているからといってすぐさま命を落とすことはない。しかし、死なないことが良いことというわけではない。こうして『患者が増えすぎている』状況こそ最大の問題なのだ。

 

「この調子で運び込まれてくるのは私達としてもあまりよろしくない状態です。人里に行き来している妹紅さんなら、今何が起きているのか情報収集出来るかと思いまして、御助力を願いたくてお呼び立てしました」

「確かに、私ならその辺り情報をえられるかもしれない……慧音にも応援要請しておくよ」

「助かります」

 

 輝夜は、そんな二人のやり取りを眺めながら考える。今回の事件、犯人像については大凡検討がつかない。だが、なり得そうな人物の特徴は割り出せる。

 

「なら、犯人は『ランキングに載ってない人物』から探すべきかもしれないわね」

「載っていない人物……?」

 

 輝夜の言葉に反応したのは妹紅だった。

 

「どれだけ票が低かったとしても、最低でも2票得られればランキングに名前は載る。だけど、もしランキングに載っている人が票を盗んだとしたらどうなると思う?」

「票数が変動するのだから、その人のランキングが上に上がる……」

「なるほど。つまり元々票を持っている人がやると特定されやすいというわけですか」

「その点、一票しか獲得出来なかった人はランキングに載っていない。そしてランキングに載っている中で最も順位が低い人の人数はかなりいる。つまり、そこに食い込もうともすぐには気付かれない。そしてそのタイムラグを利用して、一気に上位に登り詰める……雑だけどこんなところじゃないかしら」

 

 輝夜は普段外には出ないが、頭の回転については回る方である。犯人視点で考えて、今回の推論を立てたのだろう。事実、その場にいる二人は納得していた。

 

「そして、妹紅は犯人ではないと確信出来たわ。貴女の票数に変動がないもの」

「そりゃどうも……複雑な気分だけれど」

 

 一票しか持ってないが故に犯人から外される複雑さ。ランキング外であることは、ある意味心に響くことなのだろう。

 

「とにかく、私としては旦那様が心配だわ……一刻も早く時間を解決しないといけないわ。あぁ、護衛の為に私が旦那様のそばにいくのも……!」

「ニート姫が行ったところで道中で討たれて終わりでしょうに」

「それは宣戦布告と捉えても?」

「喧嘩っ早いのは嫌いじゃないよ。いいよ、表出ようか」

「ここでおっ始めないでください!!」

 

 苦労人永琳。

 彼女の苦労が報われる日は訪れるのだろうか……。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百三十四訓 表示されていることこそこれ以上ない位の証明となる



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第二百三十五訓 頭ばかり気にしていて足元になかなか気付かない灯台下暗し

「別に今回は異変でもなんでもなく、犯人の目星も大体ついてきているんだよなぁ……」

 

 文が出て行った後、銀時はポツリと呟いた。

 

「第一、いろいろ視点移動して無理やりシリアスっぽく持ってきてるけどよ? 結局はあいつらの仕業だろ? とっとと解決編移行して年内営業終了しちまえばいいんだよ」

「ちょっとォオオオオオオオ!? なんでそんなにいきなりやる気なしモードなんですかァアアアアア!?」

 

 いつになくやる気のない銀時に対して、新八はツッコミを入れざるを得なかった。

 

「だってよ? 犯人探したところで説得出来るとは思えないぜ? 相手は人気を得ようと試みている獣……いわばゴリラだぞ?」

「ほとんどそれ決めつけてるじゃねぇかァアアアアア!!」

「けど確かに、マダオのサングラスと新八の眼鏡が上位に食い込んでくるのは許せないアル。新八、ちょっと眼鏡貸すネ。へし折るアル」

「簡単に人のものへし折ろうとするなァアアアアア!」

 

 外では割とシリアス展開(?)になっていても、中ではこうしてギャグ展開を続ける。真面目なシーンを連続させることが苦手なのかもしれない。

 

「調査するって出て行った文屋は戻ってこないし。私の勘が告げているわ……やられたわね」

「縁起でもないこというものじゃないぜ!?」

 

 ツッコミ魔理沙、健在。

 霊夢の呟きに対してもハイテンションで反応する。鍛え上げられたツッコミは伊達ではない。

 

「別にツッコミ鍛えた覚えはないぜ!?」

「なるほど。今回の順位に対して不安を覚えたから改革しようということね。同じツッコミ役の新八が上にきてるから、見習いたいということね」

「いや違うぜ!? 確かに順位下なのは気にしてるけど、そういった意図は含まれていないぜ!?」

「だとしたら無意識か……」

「呼んだー?」

「こいしのことじゃないぜ!?」

 

 無意識というワードでこいしが反応する辺り、かなり的確なタイミングであった。

 と、ここでフランがあることを尋ねる。

 

「ねぇねぇ、ギン兄様。頭の上のこれを取ると、一体どうなるの?」

 

 大凡の流れは理解していたが、根本的な問題がなんなのか少し聞きたかった様子。

 銀時はその質問な対して答える。

 

「これは俺達が得た票数だからな……得た票数が減れば順位は下がるし、増えれば順位は……上がる……あっ」

 

 ここまで言って、銀時は気付く。

 周りで聞いていた人達もまた、とある事実に辿り着く。

 そしてそれは、別段情報収集に拘らなくても、この場にいれば出来てしまっていたこと。

 

「なぁ、霊夢。今日の博麗神社は人気投票の結果発表の場ということになるよな?」

「……そうね。河童印のリアルタイム計数機も置かれているから、ああしてスムーズにランキングを出すことができたわね」

「ということは、その機械を使えば今のランキングを見ることが出来るのでは……?」

 

 新八の言葉は決定的となった。

 つまるところ……。

 

「「最初っからランキング確認すればよかったじゃん……」」

 

 主人公二人組は、疲れを一切隠す様子もなくそう言葉を揃えた。

 

「票数が変われば当然ランキングも変わる……確かにそのことに気付いてしまえば簡単でしたね……」

「要は突然上に来た奴が犯人ということアルな?」

「でかしたな、フラン。お前のおかげであっという間に事件解決出来そうだ」

「えへへ♪」

 

 銀時に頭を撫でられて、嬉しそうに目を細めるフラン。

 

「流石だぞーフランちゃん!」

 

 こいしもまた、フランに抱きついて嬉しそうにしている。友人の働きを心から嬉しがっているのだろう。ここでフランに嫉妬したりしない辺り、流石はこいしと言ったところである。

 

「ま、そうと決まりゃ分かり切ってる種明かしでもすっか」

 

 銀時は頭をボリボリと掻きながら、ランキング発表の準備に勤しむ。そしてある程度の準備が整い、変動しているであろうランキングを確認する。

 そこに書かれていたのは……。

 

 第四位

 志村新八、志村妙、柳生九兵衛、猿飛あやめ

 

「「やっぱあいつらじゃねぇかァアアアアア!! ってか思ったより順位あがってんじゃねぇかァアアアアア!!」」

 

 案の定といったところであった……。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百三十五訓 頭ばかり気にしていて足元になかなか気付かない灯台下暗し

 



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第二百三十六訓 喧嘩売る相手を間違えてはならない

「「「お前らの票いただくんじゃああああああああああああ!!!」」」

 

 謎の叫び声を上げながら幻想郷を駆け巡る女性三人組。その正体はすでに前回明らかになってしまっているため、もはや名前を伏せる必要もなくなった。いや、より正確に言えば一人については勝手に身バレしていたようなものなのだが。猿飛あやめ、志村妙、柳生九兵衛。今回の喜劇を仕組んだ張本人である。

 

「第一私の票が入らなかったのも、クソ筆者が全然出番寄越さないからでしょうがアァン!?」

 

 全然出番がないどころか、台詞の一つもないジャスタウェイや、同じくらいの登場頻度であるキャラ達がランキング上位に入っていたりするので、その理論は間違っている。

 

「僕は妙ちゃんが輝くところをもっと見たいんだ。だから! 妙ちゃんをメインヒロインに! そしてゆくゆくは僕と……!」

 

 目的がかなり変わってしまっている。

 ツッコミ役がいない今、彼女達の暴走を止められる存在が求められている。最低でもある程度の対応が出来る人材だ。

 

「2019年を締めくくるのに相応しい終わり方をさせなさいよ!! 銀さんのそばに並び立つためなら私はなんだってするわ!!」

 

 ん? 今なんでもするって……。

 

「お黙りなさい。邪な気持ちで幻想郷を駆け巡らないで欲しいですわ」

「「「!?」」」

 

 その時、三人の目の前に現れたのは空間の裂け目──そう、『スキマ』だった。

 その中から現れたのは、八雲紫、八雲藍、そして橙の三人だった。それぞれ頭の上に、4、2、1と書かれている。どうやら彼女達はまだ票を奪われてなかったようだ。

 

「票はみなさんが入れてくれた大事なものです! それを奪って自分のものにしようだなんて間違ってます!!」

 

 キシャーっと威嚇をしながら、橙が言う。それにしても彼女は本当に久しぶりな登場である。

 

「紫様が愛しておられる幻想郷において、そこに住う住人達を脅かす狼藉……私達よりも出番がありながらもその程度の行いしか出来なかったのでは、当然の結果とも言えますね」

「いやこの狐ちょっと尾を引いてるわよね? 九尾あるだけにむっちゃ尾を引いてるわよね? むしろ私が引っ張って自分の物にしたろか!?」

 

 あやめの意味不明な返しが炸裂。しかし藍は平然とした表情でこれを受け流す。こういった謎多き反応には慣れているのだろうか。

 

「僕はただ、お妙ちゃんがより輝いてくれることを祈っているだけだ。この票だってお妙ちゃんにすべて譲るつもりだ。そして僕はそんな彼女と結ばれて優しい世界の誕生だ」

「ドヤ顔で何語ってんのよアンタは!?」

 

 味方側にいながらも、突拍子もなさ過ぎる九兵衛の言葉に、流石のあやめもツッコミを入れざるを得なかったようだ。普段ギャグに突っ走るキャラも、それを上回るボケが発生した場合はツッコミ役に転ずる良い例である。ボケ役とスルーする者のみではなかなか会話が回らなくなってしまうので、むしろ丁度良い位だろう。

 

「そうやって他人から票を奪い取って、せっかく投票してくださった皆様方のお気持ちを蔑ろにするおつもりですか?」

「「「そもそも投票されてないんだけど!?」」」

「されているでしょう? 皆様に一票を入れてくださった心優しき方のことをお忘れですか?」

 

 そう、紫の言う通りなのだ。今回の投票において、一票も入らなかった者はいない。最低でも一票、必ず持ち合わせているのだ。それをカウントせず投票してもらえていないと称するのは間違っている。

 

「どうでもいいからアンタ達の票を早く寄越しなさいよォオオオオオオオ!!」

 

 耐えきれなくなったあやめが、紫目掛けて突進を仕掛ける。それがどれだけ無謀なことなのか、妙も九兵衛も気付いていない。

 

「……この私たちに喧嘩を売ったこと、後悔させてあげますわ」

 

 この後無茶苦茶、八雲さん達による一方的な弾幕ごっこが仕掛けられたという……。

 ちなみに、奪われた票については紫達によってしっかりと元の場所に戻されていたという。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百三十六訓 喧嘩売る相手を間違えてはならない

 




「はい、これにて2019年の更新終了〜。三バカは紫によって始末されましたとさ。めでたしめでたし」
「めでたしではねぇよ!? 僕らのところまで被害及ばなくて良かったとは思いますけど、打ち切り感半端ねぇぞこれぇ!?」
「硬いこと言うなヨ新八ィ。眼鏡叩き割られるとかサングラス砕かれる展開とかもあったみたいアル。私としてはそっちの方が見てみたかったネ」
「なんで僕の眼鏡や長谷川さんのサングラスが犠牲にならなきゃならねぇんだァアアアアア!?」
「まぁ、それはさておき……気付きゃこの小説も十ヶ月連載してるんだな」
「びっくりですよね。話も今回で二百三十六話! アニメの劇場版もようやっとギャラ交渉まできましたし、撮影もそろそろですね!」
「何やるかまだ決まってねぇけどな。どうせあのアニメスタッフだぜ? 馬鹿正直に原作完結までの話やるたぁ思えねぇけどな」
「来年の早めごろとか言って、どうせ気付いたら夏になっちゃいましたとか抜かしやがるアル」
「あり得そうだからやめてね神楽ちゃん」
「ま、そんなわけで。銀色幻想狂想曲は来年1月6日までお休み頂いちゃいま〜す」
「少し長い休暇に入ってしまいますが、これからも何卒……」
「「「よろしくお願いします」」」

「…………あれ、私達挨拶出来てないわよ、魔理沙」
「仕方ないぜ、霊夢……」


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ポロリ篇その玖
第二百三十七訓 しばらく会わないと何かが変わることは起こり得る


新年明けましておめでとうございます!
今年も何卒宜しくお願い致します。
本当ならば昨日更新したかったのですが、頭痛に悩まされた結果一日遅れました……皆様もお身体には充分お気をつけてくださいませ。
それでは、2020年も銀色幻想狂想曲を宜しくお願いします!


 幻想郷は博麗神社へと向かう階段。ここに一人の青年が降り立った。青い袴を履き、丸い眼鏡を付けた彼の名前は志村新八。本日、彼は久しぶりに幻想郷の地を訪れたのだった。

 

「いやぁ、年末年始の休みを経て、実に一週間ぶりにここに来ましたけど、相変わらずの雰囲気ですねぇ」

 

 一人そう呟く新八。元々彼は幻想郷の住人ではない。江戸は歌舞伎町。強者共が集結している街で、万事屋銀ちゃんの元で働いているのだ。主人たる坂田銀時がズボラなせいで全然給料は出ないが、毎日が戦国時代みたいな生活を送っている。

 

「しかし、令和二年はじめての投稿だからって、なんだかかしこまってる気がするのは気のせいですか?」

 

 地の文に対して話しかけるのは止めて頂きたい。

 

「とにかく、休んでしまった分しっかり遅れを取り戻さなきゃ。銀さんも神楽ちゃんも今日は先に行っちゃってたみたいで、既に万事屋にはいなかったし……」

 

 呟きながら、彼は長い長い階段を登る。そうしてしばらく時間が経ち、階段を登り終えた彼の視界には──。

 

「……ってなんじゃこりゃァアアアアア!?」

 

 神社の形を保ちつつ、一大テーマパークみたいな形を為した博麗神社と思われし何かがあった。

 入り口のところには霊夢を模したと思われる銅像があり、何やら少し放送してはいけない某ネズミ大国のエレクトリカルなパレードのBGMが常に流れ続けている。そして何故か長蛇の列が出来上がっているその場所は、まるで開演待ちしているかのよう。そして鳥居に掲げられた看板には、『幻想郷博麗ランド』という文字が可愛らしい文字で書かれていた。

 

「この一週間であの人何改造工事してるんですか!? これじゃあ元の形なんて微塵も残ってないでしょうがァアアアアア!?」

 

 もはや神社ですら無くなってしまっている博麗神社。建物も異様だが、一番異様なのは、『なんの違和感も持たずに並んでいる人達』だった。

 

「おかしい……この状況に対して何にも思わないのは不自然すぎる……これはまさか、異変が起きたということ……?」

 

 故に新八は、異変という事実に到達する。幻想郷において違和感や異常事態が起きたとすれば、それは間違いなく何者かが引き起こした『異変』に違いないのだから。そう意気込んで新八は前へ一歩踏み出そうとして、

 

「お? 新八か? 久しぶりだぜ!」

 

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「その声は……っ!」

 

 もちろん新八はその声の主を知っている。これまで数多くの異変を共に解決してきた、頼もしき人物の一人。口調からしても分かる通り、マスタースパークをこよなく愛する彼女の名前は……。

 

「相変わらず新八は変わってないぜ。男子三日会わざれば刮目して見よとはいうものの、ここまで変化がないとそれはそれでちと飽きちまうぜ。私は変わったぜ。見ての通りな」

 

 白黒を基調とした服を身に纏い、右手に箒──ではなくギターを握りしめ、顔には思い切りパンクなメイクを施している彼女の名前は……。

 

「なんだ? もう忘れちまったのか? こっちは新八のこと覚えてたというのに酷いぜ……まぁ仕方ないか。しばらく会ってなきゃ忘れちまうのも無理ないぜ。私だよ……」

 

 そう、その人物の名は……。

 

「霧雨魔理沙だぜ」

 

 しばらくの間、新八は開いた口が塞がらなかった。ポカンとした表情を浮かべつつ、目の前に立つ人物のことを凝視している。まるで珍獣でも眺めているかの如くたっぷりと時間をかけて魔理沙の全身を確認してから。

 

「誰だお前ェエエエエエエエエエエエ!?」

 

 渾身のツッコミを叩きつけたのだった。

 

「誰ってお前、今名前名乗ったぜ? もう忘れちまったのか? 新八もついにボケ始めたか?」

「いや、その、エェエエエエエエエエエ!? 薄ら原型留めてるだけでもはや別人なんですけどォオオオオオオオ!?」

「そりゃお前、しばらく会わなければアレンジの一つや二つ加わるぜ?」

「いやもはやアレンジどころか完全に全てが変わってしまったものもありますけどォオオオオオオオ!?」

 

 新八は、完全に姿形を変えてしまっている博麗神社(と思わしき建物)を指差しながら、信じられないといった様子で叫ぶ。それに対して魔理沙は至って冷静に、というか『あぁ』と楽しそうな声を上げた後でこう言った。

 

「霊夢の執念をかけたプロジェクトがとうとう叶ったからな……これだけの人が集まったら万々歳だと思うぜ」

「プロジェクトって何!? 博麗神社で一体何が起きてるんですか!?」

「霊夢の汗と涙の結晶だぜ! 参拝客が減った博麗神社に人を呼び込むための一大プロジェクト……その名は……っ!」

 

 魔理沙は両手を広げて、高々にその名前を叫んだ。

 

「博麗神社テーマパークプロジェクトだぜ!」

「なにやってんだあの人はァアアアアア!?」

 

 新八のツッコミが轟いたという……。

 

 

 

 

 

 銀魂×東方project

 

 

 

 銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二百三十七訓 しばらく会わないと何かが変わることは起こり得る



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第二百三十八訓 様々な事実が判明していくと理解が追い付かなくなる

「志村様ですね。お久しぶりです」

 

 今回も何処か聞き覚えのある声が新八の耳に入ってくる。魔理沙が謎のロックミュージシャンみたいになってしまっているのだ。次は果たしてどのような変化が待ち受けているのだろうか。

 

「霊夢の祈願達成の瞬間を見に来たのですね。さぞ喜ばれることでしょう」

 

 もう一人。

 女性の声が聞こえてくる。

 女性二人組。うち一人は相手の事を『様』とつけて呼んでいる。となれば、浮かび上がってくる人物はかなり絞られてくる。

 加えて、相手の服装はとてもよく目立つ。一人はメイド服、もう一人はドレスを着ているのだから。つまりこの二人は紅魔館の住人であり、メイド服の方は……。

 

「あ、咲夜さんにレミリアさん……って、エェエエエエエエエエエ!?」

 

 二人の様子を見てかなり驚いている様子の新八。そんな彼を見て、メイド服を着た女性が不思議そうな表情を浮かべながら、

 

「どうかなさいましたか?」

 

 と尋ねる。

 

「いや、だって、その……」

 

 二人のことを震える手で指差しながら、彼は今心の中で抱えていた事を一気に吐き出した。

 

「お二人の主従関係が入れ替わってるんですけどォオオオオオオオ!?」

 

 そう。

 今メイド服を着ているのはレミリアで、しかも口調まで変わってしまっているためもはや誰だコイツ状態となってしまっている。

 対する咲夜は、口調こそ大きな変化はないものの、相手に対して『様』づけでなくなっただけではなく、服装もメイド服からドレスへジョブチェンジしている。この二人に一体何があったというのだろうか。ある意味いろんなパワーバランスすら崩れてしまいそうな展開である。

 

「何言ってるんだぜ新八。こうなってから既に結構時間経ってるんだぜ?」

 

 そこに、魔理沙から投下された爆弾発言。

 今日だけの罰ゲームというのであれば、まだ彼も納得出来たかもしれない。しかし魔理沙は、まるでこうなったのが前からで、当たり前であるかのように接している。つまり、更新を止めていた期間中に彼女達の間で何かがあったというのだ。

 

「その通りでございます、新八様。美鈴は寝過ぎて引きこもりになり、パチュリー様は小悪魔と共に古ブック市場を営んでおられ、フラン様は屋敷を出られてしまい、失意に満ちていた私を救ってくださったのが……咲夜お嬢様だったのですから」

「紅魔館で色々ありすぎじゃないですか!? ていうか長谷川さんは!?」

「彼ならストリートライブをやると言い出して、紅魔館2ndGを抜け出してしまいました。私やレミリアが止め……てないですけど、止まらなくて」

「止めてなくちゃ止まらないのは当たり前ですからね!? ていうかそしたら2ndGはどうしてるんですか!?」

「今は妙、あやめ、九兵衛の三人に管理させていますわ。レミリアや私に歯向かった罰です」

「姉上ェエエエエエエ!? 何してんだあの三人組ィイイイイイイイイイイ!!」

 

 何かとやらかしている三人娘がとうとう捕えられた瞬間だった。

 それにしても、あの三人に2ndGを任せてしまって大丈夫なものなのだろうか。一抹の不安は捨てきれない新八である。

 

「それにしても新八。いつまでその服装でいるつもりなんだぜ?」

「へ?」

 

 魔理沙の言葉に新八は目を丸くした。

 何故今そんなことを言われなくてはならないのか不思議でならなかった。何せ今新八が着用しているのはいつも着ている物。それ以外で着る服などそう多くはない筈。

 

「お前は確かリグルと二人で屋台を営んでる筈だろ?」

「何それ初耳なんですけどォオオオオオオオオオオオオオオオ!?」

 

 何故かここにきて明らかになる新事実。

 流石にこれはおかしすぎると新八は判断し始めた。

 

「万事屋を卒業するって言った時は驚きましたわ。まさか新八様が……」

「ついにリグルと身を固めると、アレを硬くしながら言った時にはどう反応したものやらと」

「何さり気なくぶっこんでるんだアンタはァアアアアアアアアアアアアア!?」

 

 酷いありさまである。

 咲夜が何の躊躇いもなく下ネタをぶち込んでいくスタイルをとっていることに、新八は最早動揺を隠しきれない。というより、彼女の話が本当だとすれば、新八はアレを硬くしていた現場を色んな人に目撃されているということになる。

 

「これだけの騒ぎとなれば、流石に文々。新聞が……」

「文なら今、はたてに新聞売り上げ負けて引きこもりになってるぜ?」

「天狗が引きこもりになったァアアアアアアアアアア!?」

 

 さり気なく、はたてが引きこもりを治している事実にも驚きを隠せない。

 果たしてこの一週間近くで一体何があったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百三十八訓 様々な事実が判明していくと理解が追い付かなくなる

 

 



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第二百三十九訓 硬くなるのは意思だけではないのだと誰かが囁いた午後

「あっ、新八さん!!」

 

 その時、新八達のところに少女の声が聞こえてくる。その声を聞いた途端、レミリアと咲夜は意味深な笑みを浮かべながらその場を後にする。魔理沙はというと、

 

「霧雨魔理沙はCoolに去るぜ……」

 

 と、何故か帽子を深くかぶって格好付けながらその場を後にしていた。なんとも意味深に、しかし意味不明な行動である。取り残された新八が彼女の対応をすることになるのだが、

 

「その声ってもしかして……?」

 

 当然、新八には聞き覚えのある声だった。というより、先ほど話題に上った少女なのだから当然のこととも言えよう。

 とある異変がきっかけとなり出会いを果たした少女──リグル・ナイトバグ。銀時が最初に出会った時に『男の子』と勘違いをして泣かせてしまったところを新八がフォローした女の子である。さて、そんな彼女であるが……。

 

「なっ……!?」

 

 ここまでの法則に則っているのなら、当然彼女にだって何かしらの変化がある。

 今回の彼女はというと……いつもの服装とは真逆の白いもふもふのセーターを着用して、両手に鼠色の手袋、下はロングスカートといった出立をしており、まるでこれからデートに行きますと言わんばかりの気合いの入れ方だった。

 そして彼女は大きく手を振りながら、

 

「お待たせしてすみません……新八さん♪」

 

 と、新八のそばまで駆け寄ってくる。そしてそのまま、新八の腕にしっかりと抱き着いたのだった。

 

「り、リグルちゃん!?」

 

 この二人は何処までも初々しい筈。百十八訓の段階では、手がチョンッと触れただけで顔が赤くなり、リグルが勇気を出した事でやっと手を繋ぐことが出来たレベルの二人(しかも付き合っていない)。それが今では、にこにこと嬉しそうな笑顔を振りまきながら、リグルがしっかりと新八の腕に抱きついているではないか。この二人を知る者達が今の光景を見たら、驚きのあまりに心臓が飛び出るのではないかと思われるほど、ありえない光景だった。

 

「本当新八さんっていい匂いがします……いつまでもこうしてたいです……」

 

 一方のリグルは、新八に抱きつくなり身体の匂いをクンカクンカと嗅ぎ始めたではないか。そしてあろうことか、恍惚とした表情を浮かべている。例えるならば、もう少し踏み込んだ表現をしてしまえばタグに新たなる文字が追加されまくってしまうのではないかと思われる程の。リグルの呼吸が心なしか荒くなっているように見える。そして腰を擦り付けているようにも見える。これ以上やられてしまうと公開範囲を指定しなくてはいけなくなってしまうのでやめていただきたい。

 

「リグルさぁあああああん!? そ、それ以上はァアアアアアアアア!!」

 

 新八の理性はもはや崩壊寸前。一歩間違えればこんな野外でとんでもないことに及んでしまうのではないかという状況。そんな時だった。

 

「ようやっと見つけたぞー! まったくもー! 見つけるのに苦労したんだぞ新八ぃー!」

 

 テンションの高い少女の声が聞こえてくる。その少女は、新八を見つけるならぴょんぴょんと飛び跳ねるかの如き勢いで近づいてくる。この少女を新八は知っている。

 

「てゐちゃん!? どうしてここに!? っていうかその格好は!?」

 

 因幡てゐ。悪戯大好き因幡の兎である。かつて彼女はジャスタウェイを改造したりして、新八に対して悪戯を繰り返してきた。悪戯するほど好意を寄せているとはよく言ったものである。そんな彼女が現れた途端、リグルの機嫌はかなり悪くなる。

 

「きたんですか、泥棒兎」

「きしししし! なーに正妻気取っちゃってるんですか発情蛍。新八は何もあんただけの物じゃないのさ」

「そんなことありません! 新八さんは私と永遠の誓いを交わしたんです! 逞しいアレを硬くしながら、私を楽園へと誘ってくださると固く誓ってくださったんです!」

「ちょっとぉおおおおおおお!? リグルちゃんまでそのこと言うのやめてェエエエエエエ!!」

 

 まさかのリグルまで下ネタ使用。最早常識人を探す方が難しくなってきているのではないだろうか。そんなことを思わせられる。

 

「新八の新八が硬くなるのはアンタの前だけじゃないのさ……きしししし。私は既に……新八のすべてを知っているのさ! そして、新八は私と共に幻想郷を悪戯で埋め尽くすと固く誓ったのさ! アレを硬くしながらね!」

「新八君の新八君節操無しになってますよね!? 僕の知らないところで一体何が起きているって言うんですか!?」

 

 話を広げれば広がるほど最悪な展開にしかならない始末。というか先程から隆起する話しかしていないのは気のせいだろうか。

 

「新八さん! 今日はリグルとデートするって約束したんですから、あんな発情兎には近づかないでください!」

「新八、発情蛍なんて相手してる暇はないぞ! さぁ今こそ悪戯道を極めし時だ!」

 

 新八の両手をそれぞれ引っ張ろうとするリグルとてゐ。ある意味願ったり叶ったりな状況ではあるものの、リアルに経験している新八としては、

 

「いてぇええええええ!! ちょっ、二人とも、いたいってぇええええええ!!」

 

 激痛以外の何物でもない。

 そんな状況を打破するように……。

 

「てりゃああああああああああああ!!」

 

 何者かが、リグルとてゐの頭を引っ叩いたのだった。

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百三十九訓 硬くなるのは意思だけではないのだと誰かが囁いた午後



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第二百四十訓 俺達の戦いはこれからだ!で終わるような話は大抵その後が描かれない

 叩かれた二人はそのまま意識を失う。新八のことを助けたその人物は、他に大きなハリセンを握りしめている。腰には二本の剣がかけられていることから、この人物が何者であるのかを新八は判別することが出来た。

 

「妖夢さん!?」

 

 魂魄妖夢。

 白玉楼の庭師兼剣術指南役を勤めている少女である。そんな彼女は今、武器としていつも使っている剣を収めてハリセンを使って戦っている。新八はそんな光景にどこか覚えがあった。

 

「よかったです……まだご無事な方がいらっしゃったようで」

 

 対する妖夢は、困惑する新八を見てむしろ安心している様子だった。恐らく、彼女は最初新八も叩こうとしていたのだろう。しかし、三人のやりとりを見ていくうちにそれは違うということに気づいたに違いない。

 ちなみに、叩かれた二人の格好はいつも通りのものに戻っている。

 

「これは一体何があったんですか……?」

 

 事情を知っているであろう妖夢に対して新八が尋ねる。今はとにかく現状把握をするべき状況。何が起こっているのかが分からないと、新八の行動指針が固まらない。今は少しでも情報が欲しい状態なのだ。

 妖夢はハリセンを降した後で、新八に向き直って語り始める。

 

「数日前、何かが幻想入りしたとの情報が文屋より入りました。それはいつもの通り新聞の形で流されたのですが、その日を境に幻想郷にいる人たちの様子が少しずつおかしくなっていったのです」

「どう、おかしくなったのですか?」

「……一日前とはまるで別人。かつ、発言に関しても『まるで既に二年経過した』かのように語るのです。私や幽々子様は冥界に居たので難を逃れることが出来ましたが、その他の人たちはどうやら巻き込まれてしまったみたいです」

「……ん?」

 

 ここで新八は引っかかる。

 妖夢は今、『まるで二年が経過した』かのように、と告げていた。その状況を、新八は知っている。かつて経験してきたことの中に、同じ様な事象があった筈だ。思考の中からそれを検索しているうちに、妖夢はその答えとも言える言葉を口にする。

 

「その人達の共通点としては……全員の身体に、イボのような物があったということ」

「なんでイボまで幻想入りしてんだァアアアアア!!」

 

 寄生型エイリアン『キューサイネトル』。またしてもこいつが悪さをしていて、今のような状況を作り出していたようだ。

 それゆえに、今まで出会ってきた人物達の中では既に数年間経過したことになっているが、実際にはそんなことはない。言ってしまえばこれはまやかし。

 

「やはりあなた達の世界の物でしたか……坂田さんに解決策を伺っておいて正解でした」

「銀さんに会ったんですか?」

「はい。輝夜さんや早苗さんに付き纏われているところを見かけたので助太刀したのです……これもやはりそのイボの……」

「いえそれはいつも通りです」

 

 悲しいかな、輝夜や早苗が銀時に近づくその光景は前からのものである。彼女達の中でどう変換されているのかは不明だが……。

 しかし、これで判明したことがある。

 

「なるほど。幻想郷にいた人達にイボは寄生し、僕や銀さん、神楽ちゃんのように、イボのことがニュースに取り上げられた日に幻想郷にいなかった人には寄生していない……というわけですか」

 

 何故か長谷川のことが話題に上っていたが、それはレミリアや咲夜が作り出した話なのか、それともたまたまその時だけ幻想郷での仕事を任されていたのか。

 ともかく、この影響がもし幻想郷の至る所に広がっているとすれば、膨大な量のツッコミを入れていかなくてはならないという計算になる。

 

「幸い、感染の中心から外れている人達もいるようです。例えば私や幽々子様のように、人里近辺におらず冥界にいた人とか……」

「それなら、地底も安心ですね」

 

 幻想郷の地上で広まっているのだとすれば、直接的な関わりが薄い地帯や上空については対象外と見ていいのだろう。もちろん何らかの形で感染経路があった場合は除かれるが。

 

「とにかく、今のところは私と貴方でなんとか切り抜けなくてはいけません……協力、してくださいますか?」

「お安い御用です」

「話が早くて助かります」

 

 新八は、普段ツッコミ用に使っているハリセンを取り出す。その様子を確認すると、妖夢は安心したように微笑んだ。

 そしてすぐに真剣な表情へと変えて、

 

「この状況……このおかしな状況を打破するため、叩き斬って差し上げます……!」

 

 新八と妖夢は、幻想郷中にツッコミを入れる旅に出たという……。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百四十訓 俺達の戦いはこれからだ! で終わるような話は大抵その後が描かれない



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第二百四十一訓 一度人里来てみれば夢幻の如くなり

 新八と妖夢によって結成された謎のコンビ。通称『ツッコミ幻想郷救出隊』は、幻想郷をとりまく状況を何とか改善させる為に旅をしていた。とはいっても、地底や上空を抜く事ができるのはかなり大きい。それだけ焦点を絞ってなんとか行動をとる事が出来るからだ。ちなみに、博麗神社にいた人達については既に処理済みである。肝心の霊夢本人が居なかったことだけが彼らにとって気がかりなことではあったが。

 

「おかしいですよね……博麗神社をどうこうするのなら、少なくとも霊夢さんはそこに居なければ説明がつかないはず……なのに何故……?」

 

 当然、そのような疑問は新八も抱く。こればかりは湧き出て当然のことである。

 

「今はそのことを気にしていても仕方ありません。少しでも多くの人を、謎の寄生体から救わなくてはいけないのですから」

「……それもそうですね」

 

 妖夢の言う通り、変わってしまっている人物は博麗神社のみではない。故に訪ねなければならない場所も自ずと多くなってくる。そんな中でまず彼らが目をつけた場所は人里。元々住んでいる人の多さはもちろんのこと、集結する場所としてもうってつけな場所だったからだ。ステージ1攻略のつもりで足を踏み入れた二人だったが、そこで待ち受けていたのは……。

 

「な……なんじゃこれェエエエエエエ!?」

 

 やけに近代化が進んだ──いや、それらを通り越して最早近未来化した建物が建ち並ぶ光景だった。特に目立っているのは、慧音が先生として勤めている寺子屋。歌舞伎町にあるターミナル並のビルに変わってしまっていて、限界を留めていない。

 

「あぁ、二人とも久しぶりだね。異変の時には大変お世話になったよ……」

「その声は……」

 

 聞き覚えのある声が二人に話しかけてくる。先に反応したのは妖夢だった。当然、声の主が果たして何者なのか確認することになるのだが。

 

「二年経ったおかげで人里もここまで発展出来たよ……私の寺子屋も、ついに一大ムーブメントを巻き起こすに至る場所になった。いつ勉強する? 今でしょ!」

「いやもう誰だよあんたァアアアアア!?」

 

 そこに居たのは、全身をスーツで包んでいた丸眼鏡をかけている慧音だった。元の彼女を知る者からすれば、既にキャラ崩壊を巻き起こしているのが明らかとなる。しかもご丁寧に今では古いネタまでぶち込んでくる模様。

 

「全く。これが今の学校のスタイルだって教えてくれたのは早苗や銀時たちだろう?」

「教わっちゃいけない人たちに教えてもらってるよこの人たち!?」

 

 新八のツッコミが冴え渡る。

 教育周りのことに関して、参考にしてはいけない二人の意見がハイブリッドしている。意見が混ざり合った結果、人里全体がダークマターと化してしまっている模様。

 

「Oh! 慧音! 今日も手伝いきた Say Foo!」

 

 何かラッパーとなっている妹紅まで現れた。

 

「「いや何やってんだアンタァアアアアアアアアアアアアアア!!」」

 

 ツッコミコンビ、渾身のツッコミ!

 新八と妖夢によるハリセン攻撃は、謎の踊りによって躱される!

 

「いやそこは素直に当たってくださいよ!?」

「なんでさ不思議さとんでも新八ィ! 私はこの地に足踏み入れた! ただそれだけで何故ビンタ!? そんなのおかしい不可思議ヤバ過ぎとんでも展開お楽しみ?」

「うるせぇええええええええ!! 口に出さねぇといまいち伝わらないような訳わかめラップを披露しないでもらえますかね?!」

 

 何故か妙にテンションの高い妹紅に対して、新八と妖夢はツッコミを入れ続ける。

 しかし、彼らがツッコミを入れなくてはいけないのは何も彼女に限った話ではない。

 

「少し待ちなさい。このチルノさまが現れたからには、哀れな人間共にバカの烙印を与えるわ!!」

 

 と つ ぜ ん バ カ が あ ら わ れ た 。

 

 ただしこのチルノ、いつもの形態とは違う。何故か全身を黒づくめのスーツに包んでおり、黒い帽子にサングラス。何故か左手にキャリーケースを握り締めている。まるで、どこぞの探偵漫画に出てくる、酒の名前をコードネームにしていそうな感じの出で立ちをしていた。

 

「やれ、チルノ。そのバカ共に我々の力を見せつけてやるんだ」

「お任せくだせぇ、姉御」

 

 そこに、トドメと言わんばかりに銀髪のウィッグを付けた大妖精も現れた。

 

「アンタら一体何しにきたんですかァアアアアアアアアアア!? つーか色んな方面から怒られそうなことすんのやめろォオオオオオオオオオオ!!」

「……さばききれない……これが、ツッコミ……!?」

「妖夢さん!? ツッコミ道に目覚めるのは一旦後にしてもらっていいですか!? 一人じゃ追いつけないんでコレェエエエエエエエエエエ!!」

 

 このカオス過ぎる状況をツッコミし切るのに、相当な時間が経過したとかなんとか……。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百四十一訓 一度人里来てみれば夢幻の如くなり

 

 



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第二百四十二訓 迷いの竹林にいる人達はキャラも迷っている

 人里のカオスさを何とか乗り切った二人が次に訪れたのは迷いの竹林。この先に控えているのは永遠亭。ここに住む人たちは能力の関係で実は回避出来ている人もいるのではないかという期待は込められているものの、既にてゐが犠牲になってしまっていることが判明しているのでなんとも言えない状況である。薬を売りに出ている鈴仙ならともかく、基本的に竹林にいることが多いてゐが引っかかっているのだ。影響は確実に永遠亭に及んでいることだろう。

 結果、二人が見たものがどんな光景となっているのかというと……。

 

「って、なんじゃこりャアアアアアアア!? 何かの要塞みたいになってるゥウウウウウウ!?」

 

 何処かに戦争でも仕掛けるのかと思われる程巨大な要塞が誕生していた。しかもご丁寧に看板が立てられており、そこに書かれている文字を妖夢は読む。

 

「ダイマックス永遠亭……」

「無理に最近のトレンド打ち込まんでええわ!! 確かに謎にデカくなってるけど、ここには剣も盾も存在しないですから!!」

「あら、誰かと思えば新八さんですか」

 

 そこに、聞き覚えのある声が飛び込んでくる。

 

「てゐと共に幻想郷悪戯計画を遂行するからお嫁に下さいと姫様や私に伝えてきたときには何事かと思いましたが、もう新しい女の子を連れているのですね……勃ちながら立ち上がる決意をしたあの時の固い意志は何処へ行ったのですか? それとも硬いのはあそこだけですか?」

「ちょっとォオオオオオオオ!? 新八さんなんかとんでもねぇ奴認定されてるんけどォオオオオオオオ!? ていうか新八さんの新八さんがある意味心配になってくるからやめてもらっていいですか!?」

 

 新八は混乱している! 

 わけもわからず自分を攻撃しそうになった! 

 

「まぁいいでしょう……お仕置きは私の方で済ませてしまいましょう……覚悟はよろしいですね? 私のこの……ライ●セーバーで貴方を狙い撃ちです」

「なんで永琳さんがそんな物持ってんだァアアアアア!!」

「貴女の武器は弓でしたよね!? 実は剣士だったのですか!?」

「アンタも変なところで興奮すんな!!」

 

 突然、光る剣を構え始めた永琳。

 先ほどから話していたのは彼女であり、やはり何処かネジが緩んでしまっている様子だった。

 

「本当はてゐがどうなったとか、年がら年中ニート姫がどうなろうが、座薬放つ兎が何してようが関係ないんですよ。いい加減『えーりん! えーりん!』って言われながら薬を作り続けるだけの毎日に飽きてきたんですよ。私だって少しはぶっ飛んだことしてみたいなって憧れてたんですよ。だけどこの作品だと出番少ないどころか、いざ登場したと思ったら真面目路線貫くばかりですか? 原作や設定に忠実だーなんて抜かしておきながら穴だらけなのは見え見えですし? つーか作者ポケットのモンスターでホルなんちゃらとかいう兎の厳選している暇あったら小説のネタをブラッシュアップしろ? てか私の出番増やせ?」

「なんかもう色々面倒くさい人に成り果ててるんですけどこの人!?」

「危険です! これ以上喋らせるのは危険な気がします!」

 

 これには新八も妖夢も引きつった表情を見せるレベル。今の永琳の思考回路は、ある意味ここに住む姫様のだらけた時のそれに近くなっている気がしなくもない。共に住んでいる期間が長引くと、やはり影響を受けることがあるのだろうか? 

 

「永琳様ぁあああああああ!! 私の弾幕が座薬であると言われるのが嫌だとぉおおおお!! ナズェ分からないのですかぁあああああああああ!!」

 

 そこに飛び込んできたのは、何処ぞの世紀末アニメの下っ端役みたいにボロボロな服を着ている鈴仙だった。ご丁寧にサングラスまでかけており、兎の耳が無ければ何者なのかが判別出来ないレベル。

 

「「誰だアンタァアアアアアアアアアアアアアアア!!」」

 

 当然、これにツッコミを入れない訳がない。最早指摘してくださいと言わんばかりのキャラ変っぷり。ここに住む人達は果たして何を望めばこうなってしまうというのだろうか。

 

「すまない、鈴仙。つい本音がポロリしてしまった……ポロリしていいのは新八さんの新八だけだったな」

「いやそれもポロリしちゃダメですけど!? 今ここでさせちゃったら警察飛んできちゃいますけど!?」

 

 訳のわからなさで言ったら、どうやら永遠亭についてもさほど変わらないらしい。ここまで変化してしまっているということは、次にはどんな爆弾が飛んでくることやら……。

 

「ちょっと待ってちょっと待っておにいさん! 私をさし置き何してる!? 何これあれこれさぞ愉快!」

 

 なんかお笑い芸人のネタとラップを混ぜながら、水着姿の輝夜が現れた。

 

「なんで水着なんですか!?」

 

 これには妖夢も真面目なツッコミに戻るレベル。竹林の中にある建物であるというのに、何故彼女は水着なのか。普段着ている着物は果たして何処へ消えてしまったのやら。それらの疑問を解決させるかの如き一言を発する。

 

「部屋からほとんど出ないなら、着物着なくてもいいってことに気付いただけよ」

「「部屋から出ろや!!」」

 

 ツッコミ二人の気持ちが一致した瞬間である。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

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第二百四十二訓 迷いの竹林にいる人達はキャラも迷っている

 



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第二百四十三訓 放っておくとカオスは勝手に密度を増していく

 さて、なんだかんだで今回の話も佳境へと向かっているというか、やろうと思えば延々と出来てしまうこのお話にそろそろオチをつけなくてはならなくなってきているというか。ともかく、事態の収集にかかっている新八と妖夢の二人にも、いよいよもって疲労の色が見え始めている頃合いである。

 向日葵畑に行ってみたら、素敵な花屋敷の住人となってニコニコ笑顔を振りまく幽香がいたり、妖怪の山に訪れてみれば、まず最初に目に飛び込んできたのが『お客神大歓迎! ホテル妖怪の山』という垂幕がかかっていて、この時点で既にいつもとは真逆であることが察せられたり。中に入ってみれば、まずにとりが(お値段以上にとり博物館』を展開し、椛がまさかのマダオとコラボしてストリートライブを行なっていた。尚、守矢神社は何故か不在。建物について特に変わっている点はなかった為、ここは一度スルーして、やけに特ダネを追い求めているはたてと、引きこもりとなって完全に堕落し切った文の処理を冷静に行なった。

 最早こうして羅列しているだけでも、今回の件についてのヤバさが伝わってくるだろう。

 

「そろそろ大きい何かがぶっ飛んできそうですね……」

「や、やめてくださいよ新八さん。それじゃあフラグになってしまうじゃないですか」

「作者が終わらせに来ているのですから、そりゃ何かが起こるに決まってますよ」

「唐突なメタいネタやめてもらっていいですか!?」

 

 真剣な表情で考え込んでいる新八に対して、妖夢がツッコミを入れている光景。

 

「今回は前と比べて、避難していたために寄生されなかった人達が居たのも事実です。ですが、中には地上に居て尚寄生されていない人もいます……守矢神社の人達はもしかしたら、お二人は神様だから通じていなかったのかもしれません。実は三人とも寄生されてて、何処かで秘密裏に行動しているとかだとしたらなんとも言えませんが……」

 

 そもそもの始まりは、キューサイネトルが幻想入りを果たしてしまったのが始まりとも言えよう。流石に今回の件について彼らのみが対処しているとは考え難い。例えば、既に来ている銀時や神楽とか……。

 と、ここで新八の脳裏にある疑問が浮かび上がる。

 

「あれ? そういえば銀さんや神楽ちゃんっていつから幻想郷に来ているんだろう?」

「少なくとも、今のような状況になり始めた時には既に来てましたし、その時から対応はしていたはずですが……」

 

 新八の問いに対して妖夢が答える。

 そう。今回の異変について発生時期がいつなのかは明記されていない。さも今年の初投稿から発生したかのように描かれてはいるが、万一そうではないのだとしたら……? 

 実はもっと前から今の状況が完成しているとしたら……? 

 

「新八ぃいいいい!」

 

 そうした、珍しく何処ぞのアニメ主人公の如く思考を巡らせていた新八の名前を呼ぶ者が一人。具体的にいうと、アニメ声優で言うところの釘宮ボイスと言ったところだろうか。普段ならば声優の無駄遣いとまで言われているあのキャラの声が新八の耳に届く。

 

「ま、まさか……」

 

 恐る恐る、声のした方を見てみると、そこにいたのは……。

 

「やっと会えた……本物の新八……っ!」

「やっぱり神楽ちゃんが神楽さんになってるゥウウウウウウ!!!!」

 

 我儘ボディを兼ね備えている神楽が現れた。それこそ、原作本編でも描かれていたままの通りの姿である。つまり、走るだけで二つのマスクメロンが大きく揺れているのである。そう。揺れているのである。

 そのまま神楽さんは新八に抱きつき、その我儘ボディをこれでもかと押し付けていた。

 

「ちょっとォオオオオオオオ!? いきなり何してるんですか!?」

 

 これには妖夢さんもびっくり。唖然としている様子の彼女を華麗にスルーしつつ、神楽は新八の耳元で囁くように言う。

 

「ずっと会えないから心配したんだよ? リグルや兎と幸せに暮らすって言った時の新八は、硬くて逞しかったけど……」

「それ新八君の新八君に対する感想だよね!?」

 

 最早新八が節操なしなのは広まってしまっているのではないかと思われる話の流れ。万一これらのことが事実として起こるとすれば、相当の変態が誕生してしまう事になる。何か大事なことを宣言する度に興奮する眼鏡。しかもわりと逞しいという。もっこりでムッツリな男の子誕生の瞬間である。

 

「でも、こうして見つけることができたから、私はもう離さない……寂しかった分を、埋めて新八……」

「えっ、あ、いや、その、え、えぇええええええ!?」

「何イチャコララブコメしそうになってるんですか!? それイボですよ!? 本人と違いますよ!?」

 

 そう。

 これはイボなのだ。

 あの我儘ボディもイボで出来ているのだ。血潮も心もイボで出来た偽りだらけの世界なのだ。だが、そんな中でも新八は迷っていた。もうイボでもいいんじゃないか? と……。

 

「ほぅ……そうして媚を売ることしか出来ないのか。見損なったぞリーダー」

 

 その時、この場にいる誰もが聞き覚えのある声が耳に飛び込んでくる。ほとんどの場合においてポロリ篇でしか活躍しない者の声。かつ、何かしらあると常にスタンバっている用意周到な人物。その人物は、神楽の行いを見てまるで哀れな者を眺めるような眼差しを向けている。

 

「あ、あなたは……?」

 

 思わず妖夢は尋ねる。

 その問いに答えるように、姿を現した。

 

「この俺は……いや、ヅラ子は……再びとったどォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 何故かチャイナドレスを身に纏い、自身の顔に化粧を施した桂小太郎……いや、ヅラ子が現れた。

 

 

 

 

 

 

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銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百四十三訓 放っておくとカオスは勝手に密度を増していく

 



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第二百四十四訓 何事も抱えすぎると暴走の引き金になりかねないから気を付けろ

 

 「うるせぇエエエエエエエエエ!! アンタが取ろうが何しようが勝手なんだよォオオオオオオオ!!」

「はぐわぁ!!」

 

 抱きついてきていた神楽を優しく退けてからの飛び蹴りが炸裂! 蹴り飛ばされた小太郎は明後日の方向へと倒れ込む。そこを追撃と言わんばかりに妖夢のハリセンが炸裂し、神楽と小太郎はその場に倒れる結果となった。瞬間的に元に戻る二人。

 

「ありがとうございます、妖夢さん……」

「デレデレしている場合ではありませんよ! とりあえず今回は何とかなったのでよかったですけど……」

 

 イボによるまやかしとはいえ、惑わされていたのは事実。どうやら原作での事から彼は何一つとして学んでいなかった模様。実際、何人の男が我儘ボディを押し付けられて耐えられるのだろうか。もし反応しない人がいるのだとすれば、強靭な精神の持ち主か、何も考えていないか、価値観が違いすぎる人なのかもしれない。

 

「だいたい男は結局胸ですか!? 押し付けられたらコロっとしてしまうんですか!? 押し付けるものがあれば内側から服を突き破ろうと勃ち上がるんですか!?」

「ちょっとォオオオオオオオ!? なんかとんでもないこと口走ってますよ!? 一体どうしちゃったっていうんですか!?」

 

 普段は決してこんなことを言わない妖夢が、顔を真っ赤に染めながら次から次へと捲し立てている光景。余程新八がデレデレしている状況を目の当たりにするのが嫌だったと見える。その上、恩師と謳う人物の一人が突然取った宣言をしたが故に、枷が外れてしまったのかもしれない。詰まるところ、我慢の限界というところだ。実際どれだけ妖夢は溜め込んでいたのだろうか。

 

「とりあえず新八さんが節操無しなのは十分理解しました……」

「いや理解しないでくださいよ!? 新八さんは節操無しじゃありませんから!! 純情思春期ボーイですから!!」

「何処か純情ですか!? 凝りもせずに大きなイチモツになってるじゃないですか!!」

「なってねぇよ!? 何処に興奮する要素があるって言うんですか!?」

 

 謎すぎる口論へと発展している二人。現状一番解決しなさそうな雰囲気がそこにはある。側から聞くとただの痴話喧嘩にしか聞こえないが、この二人は別に付き合っているわけでも、好意を寄せ合っているわけでもない。

 

「……喧嘩の匂いがします」

「「え?」」

 

 その時。

 妖夢と新八の耳に、新たなる人物の声が飛び込んでくる。

 これまた二人にとって聞き覚えのある声。ただし、今この場にいることを完全に想定していなかった人物のものである。

 

「どちらが悪いか白黒つける……? いや、もはやそんな事はどうでもいい……喧嘩するのは双方悪い……つまり喧嘩両成敗ダァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 あっ! 野生の四季映姫・ヤマザナドゥが現れた! 

 

「なんでアンタまでイボに寄生されてんだァアアアアア!!」

 

 当然、新八はツッコミを入れる。

 だが、ひらりとかわされてしまった! 

 

「ほぅ……閻魔様に喧嘩を売ろうとは大したものですね……流石は幻想郷一の変態の座を奪い取っただけのことはありますね……私のことも乱暴するつもりなんですね!? エロ同人みたいに!?」

「いやそんな座に登り詰めた覚えねぇけど!? しかもなんで即落ち同人みてぇなこと言ってるんですか!?」

「話は小町から聞いています……とある日、大きなイチモツを下さいと歌った志村新八に、それはもう立派な……誰もが羨む大きなイチモツが備わったとか」

「それ完全に捏造ゥウウウウウウ!! そんな記憶ねぇからァアアアアア!!」

「…………」

 

 妖夢、ただ突っ立っているだけ! 

 諦めの傍観! 

 

「いや妖夢さん諦めないで!!」

「もう、これは、私の手に負えません……私には無理だったんです……結局、ツッコミも剣術も、半人前なんです……いつまで経っても一人前になれないんです……っ!! 新八さんみたいに、大きなイチモツを持ってないんです……っ!!」

「僕も持ってないですけど!?」

 

「はい、もうこれ以上は手に負えないということですそろそろ纏めに入りま〜す」

 

「「「え???」」」

 

 その時、突然とある男の声が聞こえてくる。

 そう、令和二年に入ってから一度も登場することのなかった、あの男の声だ。

 というより、よくよく考えてみれば不思議な話だったのだ。

 何せ今回、更新が始まってから……。

 

「ったくしょーもねぇことで争ってんじゃねえよ、イボ感染者共。主人公ほったらかして騒ぎまくりやがって……いい加減出番寄越しやがれコノヤロー」

 

 スパァアアアアン!! 

 ハリセンによるヒット音が辺りに響き渡る。叩かれた三人は、その場に倒れ込んだ。そして現れたのは……。

 

「ギン兄様、これで全員なのかな?」

「あぁ、そうだろうよ……やれやれ、何だってこんなことになるかねぇ」

「お兄さん、お疲れ様ー」

「まさかイボ一つでここまでの混乱になるとは……心の中まで考えていることが改竄されるなんて恐ろしい存在ですね……」

 

 運良くイボ大量発生時に地上および幻想郷に居なかった、フラン、こいし、さとりの三人と、そもそも感染する条件を満たしていないぐうたら主人公──坂田銀時。

 そして、ここにそんな心配する必要のなかった人物がもう一人。

 

「……なんか納得いかないわね。私もまた除外されてるなんて」

 

 もう一人の主人公、博麗霊夢。

 新八や妖夢とは違う路線で、彼らも幻想郷を練り歩いてイボから解放して回っていたようである。

 

「しかし、流石にびっくりしたわ……朝起きたらうちがテーマパークに改造されてるんですもの。そして何故か私がそれを夢見てたことになってるし……河童をとっちめてやったけど」

「河童もてめぇに頼まれて改造したっつってたけどな。イボってのはそんなもんだ」

「私がそんなこと願うわけないじゃない……確かに信仰は欲しいと思うけど、そこまでやりたいと思わないわ」

 

 ため息を吐く霊夢。

 今回のイボ騒動、向上心の無いものには影響を及ぼさない。銀時や霊夢が、感染するような場所に居ながらも影響を受けなかったのはこの為である。フランやこいし、さとりに関してはその場から流れていたから、という条件がある。

 

「しっかし、幻想郷の奴らも向上心の塊だなオイ。こりゃ本当に出番とられちまう可能性すらあるわな……仕方ねぇ、そん時は……」

 

 そうぼやいた後、銀時は何かに着替える。

 そして、目を閉じて居合のポーズを取りながら、

 

「雷の呼吸……一の型……これでいくか」

「「「「いやダメでしょ」」」」

 

 お後がよろしいようで。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百四十四訓 何事も抱えすぎると暴走の引き金になりかねないから気を付けろ




一応これにてイボ篇は終了となります。
次回からは長編か、それとも短編か……次回をお楽しみに!


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月面戦争篇
第二百四十五訓 満月の晩は物を考えるには適している


 満月の晩。空を見上げると光り輝く大きな丸い月が見える。美しい月を肴に、煙管を吹かせる男がいた。

 とある屋敷。雨戸を開けて空を見上げながら月を眺めるその光景は、客観的に見ればとても様になっている。本人にその気があるのかどうかはともかく、絵になる情景であることは間違いない。

 

「いたいた。お月見にはまだ早いんじゃないの? 晋助」

 

 そんな彼の元に訪れる一人の男──神威。

 

「そんなんじゃねえよ。で、何の用だ」

「幻想郷への手掛かりになるかもしれない場所が分かったんだよ。これから皆んなでそこに乗り込もうって話になったわけさ」

 

 彼らにとって、幻想郷に対する情報はあまりにも少なすぎた。それもその筈で、手がかりとして残されていたのは華陀の譫言のみ。そこから正解へと近づいた力については純粋に褒められるべきものなのかもしれない。

 

「なるほど……で、その場所とやらは何処にあるんだ」

 

 晋助の問いに対して、神威は満面の笑みを浮かべながら答える。

 

「月」

 

 高杉晋助が今見上げていたもの。そこに、今回の手がかりが隠されているかもしれないのだという。

 

「より正確に言うと、月からでは幻想郷に入る事は難しいみたいだよ」

「なら、とうして態々月なんかに赴く。餅つく兎でも眺めに行こうってのか?」

「強ち間違ってはないね。この辺りは君の方が詳しいんじゃない? 日本における月が関わる御伽草子。竹から生まれた姫の物語を」

「……竹取物語か」

 

 その名を口にする。

 

「御伽草子の通り、月に人が住んでいるとすれば試してみる価値はあるだろう?」

「どうだか……所詮は御伽話。そんな世迷言を信じるのか?」

「幻想郷なんて単語が飛び交う時点で、十分御伽話みたいなものじゃない? なら此方も、その世界に飛び込んでみたらいいんじゃないかなって……それに、月にどんなつえぇ奴らが居るのかワクワクすっぞ!」

「勝手にしてろ」

 

 彼らからしてみたら、幻想郷という存在そのものが不確かな場所であることに違いはない。華陀か言い放った世迷言である可能性も否定し切れない。だが、実際に調べていくにつれて月の存在までたどり着いたのも事実。

 

「まぁそんなわけでさ。今から月面旅行しに行く感じになったから準備して」

 

 最後にそれだけを言うと、神威はそのまま部屋から出ていく。

 残された晋助は、もう一度空を見上げる。相変わらず大きな月が天高く登っていた。その光は地上を照らしている。まるで穢れなど知らないかのように、何処までも強い光を放ち続けていた。

 

 

「……」

 

 幻想郷の月も今宵は満月だった。

 座り込み、外を眺めながら輝夜は何やら考え込んでいる。

 

「どうかなさいましたか?」

 

 そこに現れたのは永琳だった。

 彼女の前にお茶を置き、その横に座る。

 

「あら、気が効くのね。ありがとう」

「珍しく考え込んでいるご様子だったので、気になった次第です……満月、だからでしょうか?」

 

 かつて彼女達は、満月の晩に月を偽物にすり替えた。結果としてそれが異変発生の引き金となり、大騒動を巻き起こしたのである。元々は月の住人たる輝夜達(てゐを除く)。今更ながら帰る気は毛頭ないが、それでも尚何も思わないというわけではないのかもしれない。

 

「そうかもしれないわね……満月の日は色々と思い出してしまうわ。ただ、彼と巡り合えた日でもあるから、今では一種の記念日にもなっているわね」

「坂田銀時……不思議な方ですよね……」

「そうね。彼は私からの無理難題を成し遂げただけでなく、人としての魅力もある……本人がそれに気付いてるかどうかは分からないけど、相当の女殺しね」

「真面目、とは言い難いですが……誠実、であるのはなんとなく感じます」

「けど、だからこそ……私を含め、彼に好意を寄せている者達は時々不安に思うのかもしれないわ」

 

 溜息をつきながら、輝夜はポロリと零す。

 

「何をですか?」

 

 永琳は尋ねる。

 

「……護るべき対象に自分を入れていないが故に、私達を護る為に自分自身を犠牲にする……彼の強すぎる自己犠牲によって、二度と会えなくなってしまうのではないか、という不安」

 

 輝夜は、永琳から出されたお茶を飲み、ホッと一息ついたところで語り出す。

 

「惚れ込んだ私が言うのも難だけど、『護る』ことに対する彼の執着は最早異常よ。一度護ると決めた物は絶対に護り通す。たいそうな心掛けだし、とても大事なこと。だけど、その為の手段を選ばなさすぎるわ」

「異変毎に大怪我されていた事もありましたし、坂田さんのいる世界での話を聞く限り、身を削らなかった事がないみたいですからね……」

「あれじゃあ紅魔館の吸血鬼の妹が執着する理由も分かるわ。私だってそうしたいもの」

 

 要するに、銀時のことが心配なのだ。近くに居ないうちに、また怪我をしてしまうのではないか。そのまま何処か遠くへ行ってしまうのではないか。そんな不安が過ぎって仕方ないのだ。

 

「……けど、そもそも彼は別世界の住人。そして寿命ある存在。蓬莱の薬があったとしても、彼はそれを飲むことを決して望まない……そんな人だったからこそ私は惹かれたのだけれど、それならばせめて……いえ、やめておくわね。はしたないわ」

「そんなことありません。今の姫様は何処までも女らしいです」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

 

 言いながら、輝夜はもう一度月を見上げる。

 

「……何かが起きそうな気がするのよ。こういう満月の晩には、何か起こるのが物語での定石でしょう?」

「確かにそれは言えますが、ここは……」

「物語よ。そう称してもいい位には、奇天烈な出来事が起き続けている。もしかしたら、今回も……」

 

 彼女の言葉は空気となって消え去る。

 

 皮肉にも、その予感が的中することに彼女達はまだ気付いていない。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百四十五訓 満月の晩は物を考えるには適している

 

 

 

 

月面戦争篇、開始。

 




悩みに悩んだ末に新シリーズ開幕です!
今回もまた、東方原作の異変をベースとして、オリジナルのエピソードとなります!


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第二百四十六訓 挨拶ってやっぱり大事だよね

 令和二年の更新が始まって以来はじめてのBGオンリー。今回は久しぶりということでいつも通り万事屋銀ちゃんよりお送りいたします。メンバーは当然いつもの三人。

 

「いやぁ、本格的に長編も始まりましたね。なんだかんだでこんな雰囲気も久しぶりな気がしますよ!」

「いっちょ前に令和二年から主役ムーブしてた奴がなんか抜かしやがるぜ。今年はそういう眼鏡ハーレム路線でいくのかと疑っちまったぜ」

「鼻の下伸ばしてデレデレするなヨ。気持ち悪いアル」

「ちょっとォオオオオオオオ!? なにのっけから辛辣なんですか!?」

「いや別に? ただ、主役ほったらかして勝手に話進められたこと恨んでたわけじゃねえよ?」

「私一応原作だとヒロイン枠の筈アル。それなのに最早扱いがモブとほとんど変わらないネ。なんか気に食わないアル。眼鏡かち割らせろヨ」

「おもくっそ気にしてるし、神楽ちゃんに至っては最早理不尽だからねそれ!? 眼鏡かち割ってもなんもメリットもないからね!?」

「ま、それにしたって令和二年初の長編だっけか?」

「月面戦争篇、らしいアル。月行って兎と団子を賭けた戦争するアルか!?」

「そんな可愛らしい戦争じゃねえと思うんですけど」

「あれだよ神楽。キラとLバリの戦いをするんだろ」

「おぉ! 新世界の神になるアルな!」

「月と書いてライトと読むキャラも登場しねぇよ!!」

「あれなぁ。実写化の成功例って言われてるけど、銀魂だって巷では成功例って言われてるし?」

「たとえ失敗したとしてもアニメか漫画でネタに出来る美味しい企画だったアル。新世界の神なんて敵じゃないネ」

「いや流石に興行収入では勝てないからね? あっちは人気出てスピンオフとかオリジナルの続編とか作ってるからね!? てか今はそのこと関係ねぇよ!! いつまで引きずってるんすか!?」

「まぁこっちはあの天下のテイルズ様とコラボ出来たからな。テイルズオブっていってるからな」

「思いっきりオブられてるネ。新八は眼鏡しか登場していないアル」

「やめろォオオオオオオオ! 地味に気にしてるからな!?」

「とりあえずの所、結局タイトルから察するに月へ行くことはほぼ確定してんだろ?」

「そうみたいアル。となるとロケットか宇宙船が必要となってくるアル」

「幻想郷にロケットの技術ってあるのでしょうか……」

「それよか手っ取り早い方法あんだろ」

「どんな方法アルか?」

「あー……坂本さんですか?」

「アイツに宇宙船借りてパパッと飛んじまえばそれで解決じゃねえか」

「宇宙旅行アルな! それは楽しみネ!」

「いざとなれば幻想郷ならばにとりさん辺りが開発しそうな気もしなくもないですけどね」

「お値段以上のロケット作って霊夢に売りつける未来まで見えた」

「そして霊夢がそれを他の所に売りつけるネ。守銭奴はやることが違うアル」

「いや何転売屋みたいなことさせてるんですか!? ていうか守銭奴って決まったわけじゃねえだろ!?」

「金に困ってるのはお互い様だからなぁ……なんかいい儲け話ねぇかな」

「その前に私達の給料払えヨ鼻糞」

「幻想郷からの依頼も解決してるのに、満足に給料支払われてないんですけど」

「そりゃお前、あれだよ。それ上回る勢いで宴とかやってっから金飛んでくんだよ」

「幻想郷での宴で私達からお金出したことはほとんどないアル。テメェのキャバクラ代に消えてるだけネ」

「今度姉上に銀さんしょっぴいてもらいますかね……それともフランちゃんや早苗さん、幽香さん達の前に連れ出してやりますかね」

「おいやめろ。それは真面目に地獄見ることになるから。銀さんのタマ飛んでいくから。色々飛んじまうから」

「とりあえず、そろそろ本編入らないといい加減ダラダラBGオンリーやってるだけのアニメと変わらなくなってしまうアル」

「それもそうですね……Aパート丸々BGオンリーみたいになっちゃってますからね。次回から本編に入るためにも、今回のところはこの辺にしておいた方がいいんじゃないでしょうか」

「何にも話進んでねぇもんな……強いて言えば今後の展開で少し単語レベルのネタバレが出た程度か?」

「何処がネタバレなのかはテメェらで考えるアル。こちとらそこまで軽い女じゃないネ」

「いや、神楽ちゃん何言ってるの? ……とりあえず、きちんと挨拶していなかったですし、改めまして……」

「「「令和二年も、銀色幻想狂想曲を宜しくお願いします」」」

 

 というわけで、一ヶ月遅れましたが今年もよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百四十六訓 挨拶ってやっぱり大事だよね




※ちなみに、今回彼らが話してた内容のうち、人物であったりネタであったりする部分の一部は本当に回収される予定です。


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第二百四十七訓 相手に話しかける時はまず警戒心を解く所から始めた方が上手くいく

 月。

 地上人が遥か昔から噂していることの一つに、『月には餅をつく兎がいる』というものがある。これはあくまで月の模様がそう見えるというものであり、世界各国で見え方は違っているようだ。

 だが、この月には実際に。

 

「はぁ……」

 

 餅をつく兎が存在する。

 水色のショートヘアーにロップイヤーのウサ耳。白いワイシャツの上に紺色のジャケットを羽織り、赤いネクタイをつけている。白のプリーツスカートからは、丸い尻尾が飛び出ている。

 彼女の名前はレイセン。かつて地上へと逃げ出したことがあり、そのことがきっかけとなってここの主人から付けられた名前である。

 

「今日も平和ですね……」

 

 実際、この地が危険に脅かされることなど滅多に訪れない。ここの主人の力が強いということもあるが、月への侵入者など基本的に訪れない為だ。

 そして、レイセンは餅つきを主体としている為そもそもここ最近戦闘に参加していない。

 

「やぁ、お嬢さん。こんな所で餅つきとは、精が出るね」

「!?」

 

 だからこそ、彼女はすぐ近くまで侵入者が来ていることに気付けなかった。

 声をかけられたことにより、レイセンの身体はビクッ! と跳ねる。思わず後ろに飛び退き、声をかけてきた人物を確認した。

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか〜。俺はただ、月見酒しに来ただけだよ。あ、でも賑やかな月見もいいかもしれないね」

「…………っ」

 

 番傘を差した青年が一人いた。

 にこにこと笑顔を振りまきつつ、ゆっくりとレイセンに近づいて来ている。彼に対して、底知れない恐怖を抱いていた。

 

 ──対面してはいけない。

 

 主人達ならばともかく、自分では到底敵わない存在。そもそもこの距離まで近付かせることを許してしまったのだ。話しかけてこなかったとしたら、自分の命は既になかったのではないか、とレイセンは考えついてしまった。

 そして、何より。

 

 この男は、どうやってここまで来たのか? 

 

「釣れないなぁ。俺はただ話したいだけなんだけどなぁ……宇宙旅行は何度も経験あるけど、月面探索はなんだかんだでやったことなかったから、俺だってワクワクしてんだよ? そしてはじめての月で本物の餅つき兎見れるなんて、本当にいたんだぁ! って驚いてもいるんだよ? ねぇねぇ、ちょっとは話してくれてもいいんじゃないかな? あ、それとも拳での語り合いを所望なら、俺はそっちの方が好きだけど?」

「っ!!」

 

 笑顔で拳を握りつつ、男は近付いてくる足を止めない。それはレイセンにとって咄嗟の行動を取らせるには十分過ぎる行動だった。

 

「う……うわぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 その場からの逃走。

 彼に背を見せ、全力でその場から走り去る。

 

「あらら。逃げ出しちゃった……ま、いっか。弱い奴嬲っても面白くないし、何よりこの先にもっとつえぇ奴がいる予感がするからね……っ!」

 

 不気味な笑みを浮かべながら、青年──神威は言う。

 

「ったく、ちったぁ情報掴んでくれよスットコドッコイ! これじゃあ敵陣に丸裸で突撃しに来たようなもんだぜぇ?」

 

 そんな神威に話しかけて来たのは、同じく夜兎族である阿伏兎。彼は神威の行動に呆れて溜息をついていた。

 

「いいんだよ。これはこれで目的達成してるわけだし。俺だって考えなしで話しかけたわけじゃないよ?」

「まぁ、暴れることに反対してるわけじゃねえからなぁ。今回ばかりは、その必要も出てくるってだけで……おじさん張り切っちゃうよ」

「既に中では晋助達が大暴れしてるだろうし、この先の展開が楽しみだね」

「ワクワクすんのは勝手にしてりゃあいいけど、巻き込まれることだけはごめんだからな?」

「まぁまぁ。これも計画のうちってことで」

 

 彼らはそのまま侵攻を開始する。

 この先、どんな展開が待ち受けているのだろうか……。

 

 

 

 

 

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第二百四十七訓 相手に話しかける時はまず警戒心を解く所から始めた方が上手くいく

 



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第二百四十八訓 月が綺麗な晩に別嬪が現れるのは恒例

「へぇ……月の中は随分と小洒落てやがるじゃねえか」

 

 侵攻している晋助が抱いたのはそんな感想だった。さすがと評するべきなのか、豪華絢爛さがそこには存在している。

 

「穢れなき浄の世界に、人間という穢れを持ち込んだ時……この楽園は果たしてどうなっちまうのか……」

 

 ポツリと呟いた彼を守るように、前を進む鬼兵隊のメンバー。

 

「晋助様には指一本触れさせないっすよー!」

 

 紅い弾丸──来島また子。高杉晋助を愛し、忠誠を誓っている、二丁拳銃の使い手。彼女が放つ銃弾の嵐は、敵を寄せ付けまいと立ち塞がる月の兵士を散り散りにする。

 

「鎮魂歌を聞かせてやるでござる……」

 

 そうして逃げ出そうとした兵士達を、『人斬り万斉』──河上万斉が、弦を以って捕縛する。絡め取られた兵士達はさらに困惑する。中には自身の死を悟り、気絶してしまう者まで存在していた。

 

「穢れをしらねぇ純粋さはいいもんなのかもしれねぇが、こうして絡め取られたちまうのは考え物だな……壊す価値もねぇ」

 

 つまらなさそうに晋助は言う。

 元より彼らの目的は、月を乗っ取ることではない。今回の一件にせよ、晋助としてはそこまで乗り気ではないのだ。

 最終的な目的を為し遂げるのに、兵力増強については有効な一手に違いない。しかし、その為に月面旅行を楽しむ気が、どうしても彼には起きなかった。

 

「あまり気乗りしてなさそうですね……どうかなさいましたか?」

 

 晋助の後ろに控えていた武市変平太が尋ねる。今回の作戦に関して、彼の編み出した策が一部取り扱われている。鬼兵隊の中でも策略家という立場に位置している為、基本的に彼は前線に出ることは殆どない。

 

「別にどうも……っ!?」

 

 その時、晋助はただならぬ気配を感じとる。咄嗟に後ろを振り向き、腰にさしている刀に手を触れた。

 

「……へぇ。異界から来た者にしては随分と気配に敏感じゃない。貴方、なかなかに面白い人ね……」

 

 女性の声だった。

 闇の中から現れてきたのは、腰元まで伸びている金色の髪、金色の瞳。白い長袖に襟の広いシャツの上に、左肩側だけ肩紐のある、青いサロペットスカートのような物を着ている。そんな女性は、晋助のことを見ながら笑顔を見せている。その様子は、宛ら新しい遊び道具を見つけた子供のよう。しかし同時に、突如として現れた侵入者に対する敵意も秘めている。

 

「なっ……いつの間に……!?」

 

 気配を察知出来ていなかった変平太は思わず冷や汗をかいてしまっていた。晋助が反応していなければ、変平太諸共今頃呼吸していなかったかもしれない。目の前に居る女性が美人かどうかなどさておき、並々ならぬ人物である事は容易に想像出来た。

 

「やれやれ……月面探索の次は女かよ」

「あら、女だと思って舐めてかかると痛い目見るわよ?」

「ちげぇねぇ。月にゃ都があり、其処に住む住人というのは人間には考えられないような技術を持っている……御伽草子にもその伝承は実しやかに囁かれてやがらぁ」

「竹取物語をご存知なのね?」

「いい教師が居たもんでな……」

「それはとてもいいことじゃない」

 

 お互い名前は名乗らない。教える道理もない。

 これから倒す相手の名前など、興味ない。

 

「一瞬でケリをつけてもいいのだけれど、貴方には少し興味あるわ……せめて一秒でも長く生き残りなさい」

「生憎、綺麗な舞踏会で踊る趣味なんざねぇ。ここは……テメェらの首切り台だ……っ」

 

 そうして、処刑人と月の住人の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

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第二百四十八訓 月が綺麗な晩に別嬪が現れるのは恒例

 



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第二百四十九訓 八百万の神

 神威と阿伏兎のコンビは、相手を脅す上ではちょうど良すぎた。二人が持つ圧倒的な力を前に、次の兵士たる兎達がどんどんその場から逃げ出していく。混乱を引き起こすという意味では十分成功していた。

 

「にしても、随分と月の奴らも弱気じゃないの。奴さん、俺や団長前にするだけでパッと逃げ出しちまう。そんなに嫌がられるようなことしてるかね?」

「いいんじゃない? そのおかげで俺は余計なことをせずにつえぇ奴に会う事が出来るわけだし、Win-Winって奴じゃない?」

「ったく、バトルジャンキーも程々にしてくれよ団長……一体誰がアンタの帰り説得すると思ってんだ……」

 

 阿伏兎は今も尚ワクワクしている様子を隠そうともしていない神威を見ながらため息を吐く。その後で後ろを振り返り、

 

「なぁ? お嬢さん……おじさん、このスットコドッコイの相手するの疲れたから、代わりにやっといてくれない?」

 

 そこにいるであろう人物に対して声をかける。

 声をかけられた女性は、暗がりの中から姿を現す。

 薄紫色の髪を黄色いリボンでポニーテールに纏め上げ、白い色の半袖襟広のシャツ。その上に右肩側だけ肩紐のある、赤いサロペットスカートを着けた、赤い瞳の女性。腰に斜めにベルトをつけており、そのバックルには剣の紋章があしらわれている。

 そんな女性が、剣を構えながらゆっくりと近づいてきていた。

 

「ひゅ〜。他の奴らとは随分大違いだね。大体は出会ってすぐに逃走なのに、戦うんだ……へぇ、面白いね」

「まーたはじまったよ悪い癖……頼むからいい加減にしてくれよ? その嬢さん、並の強さじゃなさそうだぜ?」

「だからこそ面白いんじゃないか……月までわざわざ旅行に来て、ただ兎に投げられただけなんざ味気なさすぎるよ」

 

 にこにこと笑顔を浮かべながら、神威は語る。

 そんな彼らを前にして、女性が口を開いた。

 

「この地を踏み荒らそうとする者には立ち去って頂きます」

 

 そこから感じ取れる明確な敵意。侵入者たる彼らを許さないという決意。

 

「いいねぇ……少し飽き飽きしてたところだけど、面白くなってきたよ……っ!」

 

 神威の顔が、どんどん狂気じみた笑顔へと変貌していく。それはまるで、新しい玩具を渡された子供のように純粋で、何かを殺すことに対して躊躇いのない狂気も秘めたもの。

 

「目的忘れるんじゃねえぞ! ……って、聞いちゃいねぇ。こうなると本当に団長は聞き分けねぇからなぁ……」

 

 目の前に現れた女性に対する興味に引きつけられ、神威は目的を見失っている。ある意味では正しい選択とも言えなくもないが、余計な戦闘を避けられるのならば避けた方がいいに決まっている。何しろこの地は月。それも自分達が知っている場所とは違いがあり過ぎる場所。相手がどんな戦術を取るのかも分からないのだ。ある意味先程までは、それも合わさって兎達が逃げ出していたと言っても過言ではない。

 

「喧嘩を売る相手を間違えた事を後悔してください……これから貴方が相手するのは、文字通り『八百万の神々』です。神にたてつく愚かな行為を控えるのなら今の内ですよ」

「へぇ……神々とはまだ戦ったことないから、それはすごく興味あるね。とても貴重な経験させてくれるなんて、月まで来た甲斐があったよ」

「……どうしても引かないというのであれば、力づくでも即刻立ち去ってもらいます……貴方からは、邪悪しか感じられません」

「別に俺達も月を取って食おうってわけじゃないよ。だけど、強い奴と戦うってなれば話は別、かな!」

 

 神威は、足元に転がっていた瓦礫を思い切り蹴り飛ばし、女性の顔面を狙う。

 しかし女性は動じない。

 

「…… 愛宕様の火」

 

 ポツリと呟かれた言葉と共に、彼女は腕を自身の前でクロスさせる。瞬間、その腕は炎そのものへと姿を変えた。瓦礫は炎に焼き尽くされ、その形を失う。

 

「ひゅ〜……すごいすごい!」

 

 その様子を、神威は心から無邪気に喜んで眺めていた。大道芸でも見ているかのような調子で。

 一方の阿伏兎は、

 

「愛宕様……確か、この国の伝承だと火之迦具土神、とか言ったか? そんな力使えるなんて……お嬢ちゃん、アンタ一体何者だ?」

 

 炎の腕を元に戻し、それから彼女は言う。

 

「綿月依姫……先ほども言いましたが、これから相手するのは文字通り八百万の神々……立ち去るのでしたら……」

「何を言っちゃってるのさ! そうと決まれば、戦う他ないでしょ!!」

 

 神威は嬉々として依姫に突っ込んでいく。

 

「おいこのスットコドッコイ! 暴走すんのもいい加減にしてくれよ……っ!!」

「……いいでしょう。ならば全身全霊を以てお相手致します」

 

 神威と依姫。ここに二人の戦いの幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

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第二百四十九訓 八百万の神

 



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第二百五十訓 空から降ってくるのが女の子であるとは限らない

 その日、幻想郷から眺める月は満月だった。とはいえ、何か特別なことがあるわけでもない。せめてあるとすれば、綺麗な月を肴として酒を飲む位だろうか。そんな中、今回の話が始まった段階でBGオンリーでダラけていた万事屋の三人はというと。

 

「いやなんであの暴走輝夜姫のところ行かなきゃなんねぇの」

「まぁまぁ。せっかくのお誘いなんですし、断る理由もないじゃないですか」

「美味しいご馳走用意してるって書いてあったアル。特に銀ちゃんは絶対に連れてくること、とも書いてあったネ」

「あの女絶対なんかしでかす気だろ。銀さんのやる気はいつになく下限突破してるぞ」

 

 どうやら輝夜に招待されて永遠亭へ向かっている途中のようだ。

 

「永琳もいるわけだし、その辺りは問題ないんじゃないかしら」

「そうだぜ! それに、銀さんがとっ捕まった所で私達にはなんの影響もないから、別に問題ないぜ」

「銀さん的には問題ありなんだよォオオオオオオオ!!」

 

 彼らの横にはちゃっかり霊夢と魔理沙もついてきている。魔理沙としては正直銀時が輝夜にとって喰われたとしてもそこまで問題ないようだ(ある意味その後で魔理沙の胃に穴が空きかねない事態が発生しそうではあるが)。

 

「にしても、あいつらが満月の夜にこういったことをしようとするなんて、珍しいわね……」

 

 霊夢がポツリと呟く。

 

「? どういうことですか?」

 

 その呟きに対して新八が疑問を抱いた。

 

「満月って言ったら、輝夜姫的には身を潜めていたい頃合いじゃないの。そのせいで前の異変が起きたわけだし」

「あー……確か月の使者がどうのこうのー、とか言ってた気がするぜ」

 

 霊夢と魔理沙の言う通り、永遠亭にいる人たちが以前の異変を引き起こしたのは、満月の晩に月の使者が訪れることを恐れたからである。別に訪れることはないということは判明したわけだが、それでも尚苦手意識というものは持つ物である。彼女達とて例外ではないのだろうと霊夢は考えていたのだ。

 

「ま、心境の変化でもあったってこったろ。そこまで深く考える必要なんざねぇんじゃねえか」

「……そうかもしれないわね」

 

 両手を頭の後ろに組んで、月を見上げながら歩く銀時。その言葉に答える霊夢。

 迷いの竹林から見える月は何処までも輝いている。強い光を放ちながら、そこに鎮座し続ける。美しい晩と称するには十分な物だった。

 そうして一同が歩いていると。

 

「…………お?」

 

 神楽が何かを見つけたらしい。

 銀時達もその声に合わせて視線を向ける。

 そこに居たのは。

 

「えぇ……これどうすればいいのさ……確かに私は悪戯するのは好きだけどさ……いきなり空から降ってきたと思ったら、都合よく落とし穴に落っこちるとかあるの……? ていうかこれ生きてる? 一応死なないように大量にクッション的な何か詰めてるけどさ……えぇ……」

 

 落とし穴の先を見つめながら、何やらぶつぶつと呟いている因幡てゐの姿があった。彼女の言葉を信じるならば、恐らく落とし穴に嵌っただれかがいるのだろう。

 

「…………お前、とうとうやっちまったのか」

「やってないよ!? ってうひゃあ!! いきなり声かけてくんなよ!?」

 

 ジト目で話しかけてきた銀時に対して、てゐは純粋に驚いたような反応を取っていた。

 

「何してるんですか?」

 

 てゐの近くまで歩み寄る新八。穴の中に何かあるのかと思って覗こうとした所、

 

「な、ななななな……め、眼鏡!! ち、近づくなー!」

 

 めっさ照れて顔真っ赤にしたてゐに突き飛ばされて、近くの木まで吹き飛ばされた。

 

「なんでじャアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 当然、理不尽な暴力に対してツッコミを入れざるを得ない新八。しかしそれだけでは終わらない。木に激突したことにより、地面より大量の槍が出現! 

 

「うわぁああああああああああああ!!」

 

 器用に避ける新八だったが、上空から縄が降ってきて彼の体を……亀甲縛りに縛り上げた。

 

「いくらなんでもあんまりだろこれェエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

 志村新八、完全にとばっちりを喰らった瞬間である。

 

「あ……めんごめんご」

「謝れそこの悪戯兎ィイイイイイイイイイイ!!」

「まぁいいじゃねえか。滅多に出来ねぇ刺激的な体験を一足先にすることが出来たんだからよ。大人の世界へようこそ」

「何イケボでど変態発言してんだ天然パーマァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 わざわざご丁寧にサムズアップまでしている辺り、確信犯である。

 

「……近寄るなヨ変態。変態が移るアル」

「いやちげぇよ!? 縛られて喜んでねぇからな!?」

 

 新八のすぐ近くで痰を吐く神楽。控えめに言って汚い。

 

「……で、結局なにがあったのよ」

 

 いつまで経っても話が進まないと判断したのか、霊夢がてゐに質問を投げかける。

 すると、穴の先を指差しながら、彼女は言った。

 

「空から兎が降ってきて、この穴に落ちた……」

 

 

 

 

 

 

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銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百五十訓 空から降ってくるのが女の子であるとは限らない



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第二百五十一訓 何かの前触れである可能性はある

 少し時間が経過して。

 てゐの仕掛けたトラップにハマってしまった兎を助けた銀時達は、現在輝夜のいる所まで通してもらっている。

 

「旦那様!! 本当にお久しぶりね。早速だけど、布団なら既に用意してあるわ。夜の宴をはじめましょうか……」

「はじめねぇからな。テメェだけで勝手におっぱじめてろ?」

「あらやだ。旦那様ったらそんな趣味があったなんて……私、どんなプレイでも耐えられるわ。頑張るわ! それが貴方の望みということであるならば……!!」

「うるせェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!! 何一人で勝手に発情してやがるんだコノヤロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!! テメェの茶番にかまっていられる暇なんざねぇんだよ!!」

「茶番なんかじゃないわ!! これは本気……そう、愛よ!!」

「尚のこと質悪いわ!!」

 

 ある意味絶好調の輝夜と、それに付き合わされる形となる銀時。そしてそんな彼らを呆れた表情で見つめる霊夢達という不思議な構図。

 

「姫様……そろそろ本題に入りたいのですが」

 

 そんな彼女を止めるのは、永琳だった。

 彼女は輝夜のことを軽蔑のまなざしで見つめながら、そう告げる。

 しかし、輝夜は屈することなく。

 

「何よ! 久しぶりの旦那様との会話なのよ! これが楽しまずにいられるかっていうわけよ!!」

「楽しむのは後にしてください。このままでは何も進みません。無駄な時間だけが流れてしまうので勘弁してもらえませんか? でないと弾幕が飛び交うこととなりますが」

「はい」

 

 永琳の圧に屈した瞬間だった。

 閑話休題。

 

「この子は間違いなく月の住人ですね……」

「月の住人、ですか?」

 

 永琳の言葉に新八が尋ねる。

 およそ月の住人という言葉に聞き覚えがなかったからだ。

 

「私たちが以前引き起こした異変、覚えているかしら?」

 

 珍しく真面目な表情を浮かべつつ、輝夜が尋ねてくる。

 

「あんた達が月を偽物と入れ替えて、ほかの妖怪達が夜を止めてしまったあの異変のことね……それがどうかしたの?」

 

 霊夢は、あの時のことを振り返りながら尋ねる。

 

「あの時、私達は何故異変を引き起こしたのかしら?」

「何故って……そりゃ月に帰りたくないから、って聞いたぜ」

 

 魔理沙が答える。

 そう。その答えは正しい。

 彼女たちが異変を引き起こしたのは、月からの使者が来るのを恐れたからだ。故に月から住人が来ないようにこうしてそっくり入れ替えたのだ。

 

「けど、あの時確か月とこっちの世界は別世界だから関係ないって話にならなかったか?」

 

 月からの使者が来ることはあり得ない。結論としてそうなった筈だった。しかし、ここで新八はとあることに至る。

 

「あれ? だとしたら皆さんはどうやってこちらに来たのですか?」

 

 彼女達は一度月から幻想郷に来ている。 

 それはつまり、『月と幻想郷を行き来することは可能』であることを証明していることに他ならない。

 さらに、今回兎がこうして月から訪れている。

 これらの情報から導き出されるものとは……。

 

「そうね。現実的に月と幻想郷を行き来することは可能よ。あの時私達が恐れたのは、『満月の日』『月の使者』が訪れることだった……だけど、それはないということが証明された以上、私達を脅かすものはなかった……けど、あの子は何かを抱えてここに来た……少なくとも、私達を連れ戻しに来たというにはあまりにも心もとない人員よ」

「使者としてくるのならば、せめてもっと大人数でなければいけません。しかし今回彼女は一人でここに来ました……月で何かが起きたのかもしれません」

 

 連れ戻しに来たのでないとしたら、月で何かが起きたことを伝えにきた?

 それはつまり……月からのSOSということになるのではないか。

 

「なるほどな。要するにテメェら救って欲しいがためにここに来たってわけか」

 

 銀時が頭を掻きながらそう呟く。

 

「そうなるわね……流石にかつて住んでいた場所が荒らされているとかになると、心穏やかではないわね」

 

 輝夜としても、かつて暮らしていた場所がなくなることはあまり考えたくはないことだった。

 少なからず戻る気はないとはいえ、その場所すらなくなるというのは心外だからだ。

 

「たとえそうだとして、月に行く方法なんてないぜ?」

 

 魔理沙の言う通り、月に行く現実的な方法がない。

 だが、銀時達には心当たりがあった。

 

「……銀ちゃん。一人、心当たりがいるアル」

「奇遇だな、俺もだ」

「えぇ……あの人なら、いけるんじゃないですか?」

「「「「あの人?」」」」

 

 銀時、神楽、新八の三人が思い至った相手。

 その人物を呼ぶ為に。

 

「……霊夢。今から八雲紫を呼んで、とある人物を呼んで来るよう伝えてくれ」

「え、えぇ。それはいいけれど、いったい誰を?」

「それは……」

 

 銀時は、思い至る人物の名前を告げた。

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百五十一訓 何かの前触れである可能性はある

 

 

 




皆様、本当にお久しぶりです。
引っ越し等がようやっと収まり、これから不定期ながら更新をしていく所存でございます。
これからも何卒よろしくお願いいたします!!


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第二百五十二訓 豪快に笑う男ほど頭が空っぽなのかもしれない

「久しいのぅ、金時ぃ! いやぁまさかこない所連れてこられるなんて思うてもみなかったもんじゃから、なかなか貴重な体験ばさせてもうたのぅ!」

「名前間違えんじゃねえよ。銀時だっつってんだろ。お前、前に名前間違えるやつは失礼とか抜かしやがってたろうが」

「そうじゃっけ? アッハッハッハッハ!」

 

 坂本辰馬。

 かつて銀時と共に攘夷戦争を戦い抜いた男であり、現在は株式会社快援隊商事の社長として宇宙をめぐって商いをしている男である。今回銀時が彼を呼んだのは、彼の後ろにある宇宙船が関係している。

 

「……坂田さん。なかなか今回は骨が折れる仕事を依頼してくださいましたね……見つけるのに相当苦労いたしましたわ」

「おう、BBAだから仕方ないアルな」

「あ? 久しぶりにファイトしちゃうか小娘? テメェの身体ボロボロにしたろか?」

「おぉかかってこいヨBBA。疲れ切ったBBAの身体なんざ一捻りアル」

「なんでいきなりバトル勃発しようとしてんだアンタらはァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 今にも戦いが始まりそうな神楽と紫に対して、新八が思わずツッコミを入れている。およそこの組み合わせが巡り合った時にはいつも起きている出来事である。

 霊夢と魔理沙の二人も。

 

「……本当仲悪いわねあの二人」

「紫とここまで根本的にウマが合わないやつも初めてかもしれないぜ」

 

 と、呆れる始末。

 ちなみに、永琳は落ちてきた兎の看病をしており、輝夜はそんな永琳に引っ張られて中に無理やり戻されている。放っておくといつまでも銀時に引っ付いて話が進まないからという理由からである。

 

「しかし、月からとは……以前月に戦争を仕掛けに行ったことはありますが、今回も何かが起きているのかもしれませんね」

「何、お前ら月に喧嘩売ったの?」

「もうかなり昔の話ですわ」

「やっぱりBBAアル」

「うるせぇ黙れチャイナ」

「もういいから!! いちいち突っかからくていいから!!」

 

 油断も隙もあったものではない。

 

「ところで金時。わしゃなんでここに呼ばれたんじゃ?」

「月まで行くのに必要なもん、テメェなら持ってんだろ? その後ろにでっけぇやつを」

 

 銀時は、辰馬の背後に待機している宇宙船を指さしながら言う。

 辰馬は。

 

「アッハッハッハッハ! これは仕事用じゃきぃ! いくら金時でもこれを丸ごと貸すわけにゃいかんぜよ。じゃから、こっちで小さい宇宙船ば用意したから、これを使うて行くぜよ」

 

 大きな宇宙船から、一台の小さな宇宙船が現れる。

 ゴゴゴゴゴ、というエンジン音と共に、それは銀時達の前に着陸した。

 それはまるで、辰馬が乗ってきた船をそのままそっくり小さ目にしたものである。

 

「お前いつの間にこんな船作ったのかよ」

「急造品じゃが、性能は問題ないぜよ! 商いの方は陸奥に任せて、こっちはわしが行く! ……ところで、そちらのお嬢さんとても麗しいが、どうじゃ? わしと一緒にこの後一杯……」

 

 霊夢の手を取り、謎に口説き落そうとする辰馬。

 しかし、当の本人である霊夢はというと。

 

「ノーサンキューよ。もじゃもじゃ頭に用はないわ」

「アッハッハッハ! これはきつい一言じゃのう!」

 

 あっけなく撃沈しているが、あまりにもポジティブシンキングすぎて皮肉が通用していない。

 

「……ねぇ、銀時。本当に大丈夫なのこの人」

 

 霊夢は銀時のそばまで近寄って、小声で話しかける。

 銀時は辰馬のことを呆れた目で眺めつつも、

 

「頭は空っぽだが、船好きで船動かす知識に関しては確かだ。本人はえらい船に弱くて乗るたび吐いてるけどな」

「使えないじゃない。誰が操縦するっていうのよ」

「操縦方法聞きながら俺達の誰かが操縦するしかねぇだろ」

「そういうことなら魔理沙の出番ね。魔理沙、頼んだわよ」

「なんか本人が関与していないところで色々と話が進んでいてびっくりだぜ!?」

 

 気づけば何故か魔理沙が操縦役として任命されていた。

 

「アッハッハッハ! それじゃあいざ行かん! 月面旅行じゃきい! 金時!」

「だから銀時だっつってんだろ!? 金時だとこの小説のタイトルが『金色幻想狂騒曲』になって黄金の輝きに包まれちまうだろうが!!」

「……銀さん。そっちのほうがよくないですか?」

 

 ぼそりと新八が呟いたが、もちろん銀時は聞いていない。

 兎にも角にも、こうして銀時達は月へ赴くことになるのだった。

 

 ――そこで何が起きるのか。彼らはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

銀魂×東方project

 

 

 

 

 

 

 

銀色幻想狂想曲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二百五十二訓 豪快に笑う男ほど頭が空っぽなのかもしれない

 

 



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