まんまるお山に彩りを!丸山彩です♪
私には好きな人がいます。アイドルだからダメなのはわかってるんだけど……。少しもどかしく感じるなー。
でも、彼は突然倒れてしまいました。急いで病院に駆けつけた私に彼はこう告げました。
「がんなんだって。心臓がん。……助かる見込みはあるから心配しないで」
助かる見込みはある、私はその言葉を信じました。彼は普段から嘘をつかないことを知っていたから……。
私は次の日から毎日のように通い詰めた。流石に一日中お仕事の日は無理だったけど……。いつ行っても彼は元気そうでした。
「今日はイヴちゃんがね………」
「そっか、大変そうだな」
そう言って微笑みながら私の頭を優しく撫でる。私もつい笑顔になっちゃう。
(いつまでも続けばいいのに……)
でも私は気付いていた。彼が少しずつ痩せていることを。
日に日に彼は痩せこけていった。でも私の前では笑顔が絶えない。
彼は助かる、そんな微かな希望……願望を持っていた。
ある日彼とこう話した。
「明日、手術なんだ。成功するば退院できるんだって」
「明日、なんだね。……私はライブがあって」
「知ってる。応援してるよ、いつまでも。彩が頑張ってる限り」
「うん!私、頑張るね!……退院したらライブ見に来てね」
「……。ああ、必ず行く」
その日のライブはいつも以上に気合いを入れた。MCもちゃんとできて、歌も上手く歌えたと思う。歌っている途中に手術中のはずの彼がいたような気がした。いるはずがないのに、確か聞こえた。「応援してる」という彼の声が……。
ライブは大成功で終わった。千聖ちゃんや日菜ちゃんには「本当に彩ちゃん?」と言われたし、麻耶ちゃんは「彩さん、どうしたんですか?」と言われ、イヴちゃんはいつも通り「彩さん、すごくブシドーでした!」……ちょっとショックだった。イヴちゃんはいつも通りわかんないし…….。
はやく、病院に行かなきゃ。そして彼に今日のことを話したい。
病院に着いた私を待っていたのはいつもの彼じゃなかった。血の気のない顔、体は痩せこけて角ばってみえる。女の子の私より細い手足。
ずっと……気付かないフリをしてた部分が私に主張してくる。
ピーという電子音。0という数字。微動だにしない直線。
彼はもう死んでいた。私は受け入れたくなかった。ツー、と頬を涙が伝う。そして止まらなくなった。声を上げて泣いた。
微笑んでくれていた彼はもういない。
頭を優しく撫でてくれていた彼はもういない。
私が好きだった彼はもういない。
「泣くなって」
そう聞こえた。彼の声が聞こえる。
「ライブ見に行ったよ。退院したら行くって約束だったもんな」
あれは私の気のせいじゃなかった……?
「応援してる、彩が頑張ってる限り。いつまでも」
本当に?
「ああ、だから泣くな。前を向け。いつでもライブ見に行ってやる」
約束だよ?私、頑張るから。絶対来てね!
「おう、約束だ」
うん!約束。
彼は死んだ。でも私の中で生きてる。
「みんな!来てくれてありがとう!まんまるお山に彩りを!ふわふわピンク担当、丸山彩です♪」
だから私は歌い続ける。
彼との約束のために。
だから私は頑張り続ける。
彼との約束のために。
だから。
だから。
私は歌い続ける。
彼に私の歌が届きますように。
「ちゃんと届いてるよ」
今日も彼は来てくれた。
私は……あなたの為に歌い続けます。
ずっと、ずっと………君のことが好きだったよ。
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