落ちた先は少女達の前線 (Fくんさん)
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ロードアウト

友人が「絵を描く!」と言い出したので、それに乗っかって自分も創作的な事をしよう!と思い立ち、久しぶりにキャンペーンを見直したTitanfall2とマイブームのドルフロを混ぜてみました。
拙い表現、描写に加え、隙間の時間でちょこちょこ書く予定なので不定期ですが、どうぞよろしくお願い致します。


アラン・ディキンソン

男 22歳 IMC所属テストパイロット

 

戦術

・クローク

・パルスブレード

・グラップル

・増幅壁

・ホロパイロット

 

軍需品

・電気スモークグレネード

 

メイン

・CARサブマシンガン

サブ

・B3ウィングマン

バックアップ

・チャージライフル

 

キット1

・軍需品マスター

キット2

・ホバリング

 

所持品

・スマートピストル

・データナイフ

 

プロフィール

IMC所属の、新型タイタンテストパイロット。パイロットとしては最年少で、昇進速度も異例の一言に尽きる。射撃、格闘、判断能力は確かなものがあり、戦術ツールの扱いは新兵と思えない程の熟練度。タイタンからの戦闘効率評価は、パイロット適性試験の終了時点で70%を叩き出した。

そう言った華々しい成績や技術を持つ一方で、精神面は課題アリとされている。基本的に冷静沈着であるものの、想定外の事態や精神的なショックを前に、焦りや感情が先行しやすい。

一般市民の頃にミリシア軍パイロットに命を救われており、恩人の所属する組織に対しての引き金が重い。そもそもがIMCの加入自体、強制的な過程のものでミリシアとは交戦したくないというのが本音だった。

それと同時に自身の無力さ(戦闘力でなく)を自覚している為、その二つで板挟みになりながら訓練を重ね、悩みを抱えたままパイロットとして初の任務を命じられる事になる。

 

 

 

VG-1964

機体規格:トーンモデル

 

COMボイス:男性

メイン

・40ミリトラッカーキャノン

攻撃アビリティ

・ファイアーウォール

防衛アビリティ

・ヴォーテックスシールド

ユーティリティ

・ソナースキャン

 

タイタンキット

・ターボエンジン

トーンキット

・バーストローダー

 

コア

・レインコア

 

タイタンデータ

トーンにイオンとスコーチのコアを分割して詰め込んだ、対歩兵に重きを置いた新しいタイタン。コアの統合技術は本来確立されておらず、VGは偶然形になった試作機である。ヴォーテックスシールドとファイアーウォールのエネルギーを1つのコアで生み出せるスグレモノだが、同時にその危険性を恐れられ、搭乗を志願・承諾するパイロットが存在しなかった。

そこで、素質のある新兵をテストパイロットに起用する方向へシフトし、1人の優秀な兵士をリンクさせる事に成功。VR空間での十分な訓練を経て、ようやく念願の実地でのデータ収集が叶おうとしている。

 

因みに、タイタンからパイロットへの戦闘効率評価は非常に高く、操縦技術は勿論だが非搭乗時のパイロットのパフォーマンスが主な要因。




戦術はTF2のキャンペーンオープニングをリスペクトしました。
両ゲームの世界観等はできる限り準拠したいと思いますがガバってたらすいません。次から本編開始です。


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タイタンフォール

本編開始です。


IMCのシップ内、タイタンフォールを準備中のアラン・ディキンソンは、最終チェックを前にコックピットで深く溜め息をついた。

 

「パイロット、この300秒間で4回目の溜め息です。緊張しているのですか」

 

「VG…いや、単にこの戦争について考えていただけだ」

 

首を横に振って返答すると同時に、意識の切り替えを試みる。そうだ、これから向かうのは気の抜けた者から死んでいく「戦場」だ。パイロットといえど、その戦場の掟から逃れることはできない。そもそも、所詮一兵士に過ぎない自分が戦争について頭を回して何になるというのか。

結局いつも通りの結論に、またもや息を吐いてしまう。

 

「パイロット、私達の降下は120秒後です。装備の確認を推奨します」

 

無機質なCOMボイスの提案に従い、自身のロードアウトに意識を向ける。扱いの容易なCARサブマシンガンにセカンダリはB3ウィングマン。バックアップは対タイタン用のチャージライフルで、軍需品に電気スモークグレネードを持っている。クロークシステム、グラップル、ホロパイロットの動作に異常が無いことを確認し、最後に戦術アイテムであるパルスブレード、増幅壁発生装置、スマートピストル、データナイフのチェックを終えれば、一先ず自分の準備は完了だ。

 

「システムチェックをパイロットに委ねます」

 

「あぁ、分かった」

 

続いて、タイタンの各システムをオンラインにしていく。このタイタンは少々特殊で、対タイタンよりか対歩兵・パイロットを想定した特別なロードアウトが組まれていた。

 

VG-1964

 

機体規格はトーンモデルでタイタンキットはターボエンジン、メインは40ミリトラッカーキャノンにバーストローダーキットを備えている。ここまでは通常のトーンだが、攻撃アビリティは追尾ロケットを撤去しファイアーウォールへ。防御アビリティもパーティクルではなくヴォーテックスシールドへと変更。ユーティリティであるソナーロックは射出型から内蔵型に改造されており、ロックシステムを排除し周囲の物体を探知・分析する、ソナースキャンとも言うべき変貌を遂げていた。

しかし、特筆すべきはその「核」にある。ヴォーテックスシールドのエネルギーとファイアーウォールのテルミットを生成する為、イオンとスコーチのコアが半分ずつ搭載されていた。それに伴い右腕部にファイアーウォール、左腕部にはヴォーテックスシールドの発生装置がセットしてある。戦術コアは放射したエネルギーに炎を纏わせ実質的な火炎放射、前面一帯に熱の雨を降らせる「レインコア」を発動可能だ。

 

メインカメラを起動し、照準システムやエネルギー生成コア、次々とシステムを立ち上げ、トラッカーキャノンの動作を確認する。

 

「出撃準備完了だ」

 

「了解。28秒後にフォールします」

 

いよいよ実戦だ。先程VGに緊張しているかと聞かれた時。何でもないと答えたが、やはりというか自然と体は強ばっている。タイタンは勿論、自分の立場も異例なものだし、パイロットとしての出撃は今回が初めて。

(やるしかないんだよ、アラン。いい加減腹を決めろ)

 

ミリシアと戦うのは本望では無い。だがこの惑星で巻き起こっている大きな「うねり」の中で、自分はあまりに小さな存在だ。戦う理由を選べる程の力を持ち合わせておらず、ただ動かされるのみ。

一度だけ大きく深く息を吐く。これは嘆息では無く、自分の迷いへの決別。これから生き残る為、その最初の一歩。

 

「パイロット、間もなく出撃です」

 

「あぁ、VG。よろしく頼む」

 

「了解。タイタンフォールスタンバイ」

 

今回の任務はテストを兼ねた電撃的な強襲作戦。故にこれから着地ポイント付近までは、異次元を通ってのワープフォールとなる。

「3.2.1.Titanfall」

 

VR空間で飽きる程経験した、ガクンというフォールする瞬間の感覚に、思わず「リアル」を体感する。直後、次元を移動しモノクロに似た世界を落ちて行く。そうだ、これらは全て仮想ではなく現実だ。

 

正真正銘、俺の初陣なんだ。

 

───ザザッ───

 

ポイントへ降下完了まで、あと3秒。

深く、速く、落ちて行く。

 

───ザザザザッ───

 

2秒、1…

 

「着地ポイントの座標特定不可。次元演算に深刻なノイズが発生しています」

 

けたたましい警告音と共にVGからの報告は、一瞬理解の及ばぬ未知の言語に聞こえた。遅れてその意味を整理し、何とか言葉を発する。

 

「ポイントの再演算は!?今の次元を割り出せないのか!」

 

「試行中、エラー。再試行、エラー。時空の歪みを検知、アクセスを試みます」

 

「頼む、やってくれ!」

 

このままでは永遠に異次元を彷徨うハメになる。どこに出るかは分からないが、一先ず此処を脱出しなければ。そう判断し、VGの提案を肯定した。俺に出来るのは、おびただしい量の数字が流れて行くのをただ見守るのみ。

一分程経過した頃、画面を埋め尽くしていた数字達は消え去り、再びガクンと衝撃に襲われる。

 

「成功。但し、アクセス先の次元は詳細不明です」

 

「分かった…よくやってくれたなVG」

 

「油断はできません、パイロット。その言葉は無事地上に着地できた時に受領します」

 

突如視界を覆う白い光に思わず目を瞑る。次に瞼を上げた途端に飛び込んで来たのは、色を取り戻した青い空がグングンと高くなって行く様子だった。この光景は知っている、自分が落ちている際のものだ。

 

「衝撃に備えて」

 

「ぐっ…!」

 

VGからの早口な警告に次いで、タイタンフォールのインパクトに轟音と土煙が舞う。空中から一瞬だけ視認できたこのポイントは、どうやら緑の生い茂る深い森林、その中の開けた更地のようだった。タイタンフォールの硬直から復帰すると、そのまま流れるように前面へとシールドを展開する。ドームシールドの無いワープフォールを行う際の、自分の癖になっている不意打ち対策だった。だが、大抵の場合は不発に終わる。10回に1回、ミサイルが引っ掛かる程度の確率だ。

 

そしてどうやら、今回はその1回を引き当てたようだった。垂直に波打つ水色のバリアフィールドの中に、砲弾が1発フラフラと揺らいでいる。

 

(攻撃された!?)

 

動揺し、冷静さを欠いた自分の操作は反射的で、咄嗟に手中の鋭利な鉄塊を前方へ投げ返す。「味方の射線に割り込んだ」可能性に思い至る頃には、目線の先で黒光りする火砲の砲塔と思しき部分が、ズルズルと滑り落ち地面に突き刺さっているところだった。

 

(やってしまった…か?)

 

煙を吐いて火花を散らす眼前の兵器は、全くもって見覚えが無い。果たして、今し方自分が破壊したのはどこの何なのか。

 

「パイロット。素晴らしい反応でした」

 

「あ、あぁ…これはミリシアの新型なのか?」

 

「不明です。周辺の地形情報をスキャンしています。………完了、現在地が判明しました」

 

「教えてくれ。…此処は何処なんだ」

 

「はい。地層の状態や成分比を元に、98.8%の確率でこの場所は………西暦2000年前後の地球です」

 

「……ち、地球?それに2000年って、タイムトラベルしたということか?」

 

「パイロット。今回は事故の面が強いので、表現としてはタイムスリップの方が適切かと。そして解釈としては概ねその通りです」

 

前半の豆知識を聞き流し、今置かれている状況の理解に務める。ワープフォールのアクシデントにより、タイタン共々過去の地球に飛ばされ、しかもフォール直後に攻撃を受けた。

 

(いや全然分からん。最後のはまだ断定できないが…)

「VG、ソナースキャンで反応は?」

 

「ソナースキャン、後方に人間大の反応複数」

 

「っ!」

 

勢いよく機体を振り向かせれば、ライフルを腰だめに構えたままこちらを見上げ固まっている、長い白髪の少女の姿があった。

 

「女…の子?」

 

纏っている女学生のような制服や、パッと見の体格は一般市民のそれだが、手に持った「ライフル」の存在感が大いに悩ませる。次から次へと発生する想定外に、俺は軽く眩暈がした。

相手方と画面越しに視線がぶつかる。少女は乾いた笑みを浮かべたまま銃を置き、両手を挙げて降参のサインだ。

 

「あー…VG、これは話しかけるべきか?」

 

「任せます、パイロット。ただ、反応は前方の茂みからも検知している事をお忘れなく」

 

「分かってる。うん……よし」

 

少女に動く気配が無い以上、状況の硬直を解く為にはこちらから動かねばなるまい。マイクをONにし、極力緊張や動揺が伝わらない様に気を張り直した。

 

「あーあー、聞こえているか?幾つか質問したい事がある」

 

「…ほう?奇遇だな、私にもあるんだ。まぁ今回は助けられた身、そちらを優先しよう」

 

(助けた?俺が?)

 

思い当たる節としては先程の砲弾がそうだが、取り敢えずは保留しておく。重要ではあるものの、それより優先度の高い情報がある。

 

「では聞くが…今は西暦何年で、君は何者だ」

 

「はは、可笑しい事を聞くな。前者は2061年、後者は…私の名前を御所望かな?それとも素性?いっそ哲学でも論じてみるのも…」

 

「哲学以外を簡潔に」

 

「ふぅ、つれないな…まぁいいさ。では機会も頂いた事だ、遅ればせながら自己紹介させてもらおう───」

「私はドラグノフ狙撃銃、今は″はぐれ″の人形だよ」

「私を救った事、誇っていいぞラッキーマン?」

 

 

 

凄まじいドヤ顔で意味不明な名乗りを口にする少女との邂逅に、残念ながら俺は幸運を実感することができなかった。




※このタイタンはロマンでできています


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ドールズフロントライン

どっちの作品も資料集欲しいですね


SVDという人形は優秀だ。射撃能力は言わずもがな、狙撃手としての観察力や洞察力、常に冷静で取り乱す事なく余裕を持ち、戦場をコントロールする力に長けている。少し自信家がすぎるきらいもあるが、攻勢に転じる際にはその堂々とした余裕が部隊を鼓舞する。そんな彼女だからか、部隊長として任務を遂行することも珍しくはなく、それは「はぐれ」となった今も変わらなかった。

 

(しかし、こんな状況は経験したことがないぞ…)

 

 

 

相対するのは白い鉄の巨人、部隊の窮地を救ってくれた正体不明(アンノウン)は何の前触れもなく目の前に「落ちてきた」。そして、SVDに向かって放たれたジュピターの砲弾を青く半透明な波のようなモノで受け止め、あろうことかそのまま投げ返したのだ。障害を排除する為に撃ち出した必殺の牙を、その身で味わう事になったジュピターはそのまま機能を停止。長大な主砲は滑り落ち、深々と地面に突き刺さる様はまるで墓標のようだ。

 

怒涛のイレギュラーを何とか処理し切ったSVDはやはり優秀で、未だ固まったままの部隊を即座に後方の茂みに引っ込ませる。状況だけを見れば間一髪でSVDを守りピンチを押しのけた英雄のようにも思うが、如何せん疑問点が多すぎた。唐突にこちらへとその巨体を振り向け、カメラと思しき単眼と視線を交わす。今更ながらその圧倒的な存在感に、なぜか笑いがこみ上げてきてしまった。抵抗は無意味と悟り大人しく銃を手放すと、SVDは両手を挙げて相手の出方を待つ。だがそこで思考を止める程、SVDも愚かではない。

 

(このデカブツ、なんで私を助けた?任務中の部隊じゃなく、彷徨っているだけの私達に恩を売ってどうなる?考えろ、そもそも何処の勢力だ)

(ジュピターを瞬殺したんだ、鉄血ではないとして民間でこんな技術を持つ組織があるとは思えない。となれば一体…いや、あるか)

 

一つの結論に達し、内心で盛大に舌打ちする。鉄血でも民間でもなく、これほどの技術と武装を持つ確率のある勢力。

 

(こいつ、軍か…)

 

確証はないが、一番納得がいくのはこれだ。となれば、恩も貸し借りも放り投げて考えるべきは、いかに目の前の恩人を出し抜くかということ。後ろ盾の無い今、軍なんぞに捕まってしまえばどうなるか、知れたものではない。後ろには仲間もいる、失敗はできない。

 

(ひとまず願うのは、意思の疎通が可能かどうかだな)

 

さっきから互いに無言のまま、時間と風だけが木々の隙間に流れていく。いつまで続くのか、うんざりとしてきたSVDに不意に声が降ってきた。

 

「あーあー、聞こえているか?幾つか質問したい事がある」

 

(若い…男?それに質問だと)

 

思考回路をフルスロットルで稼働させ、声の真意を探る。想定より遥かに若いのには驚いたが、それよりも頭を回すべきはその態度だ。返答の余地があるのなら何とかやりようもあるし、なにより敵意や害意といったものを感じない。

 

(少し、仕掛けてみるか)

「…ほう?奇遇だな、私にもあるんだ。まぁ今回は助けられた身、そちらを優先しよう」

 

あえて上から、さもSVDにも質問権があるかのように答える。吐いた唾は呑み込めない、事態がどう転ぶかは分からない、ただ運命の審判を待つ他にない。出来ることといえば、この緊張を内側に止めておくくらいのものだ。

 

「では聞くが…今は西暦何年で、君は何者だ」

 

この瞬間、SVDは「勝ち」を確信した。問う声に塗りたくられた理性の色は、決してトチ狂ったものではなく真剣に欲している情報なのだと理解できる。そしてその答えを持つ以上、この場の力関係は武力よりも駆け引きの力がイニシアチブを握る鍵。

 

「はは、可笑しいことを聞くな。前者は2061年、後者は…私の名前を御所望かな?それとも素性?いっそ哲学でも論じてみるのも…」

 

「哲学以外を簡潔に」

 

本当に、笑ってしまいそうになる。腰にマウントした大層なキャノンを向ければ早いものを、あくまで対話を望むようだ。思わず口数が増えたが、ペースを掴むには寧ろ都合がいい。

 

「ふぅ、つれないな…まぁいいさ。では機会も頂いた事だ、遅ればせながら自己紹介させてもらおう」

 

(全く…絶好調じゃないか。この状況、私が支配しよう)

 

 

 

──────────────────────────アラン・ディキンソン

 

 

 

「こちらが名乗ったんだ、流れは分かるだろう?」

 

呆けていた俺の思考に少女の声が割り込む。どうやら「名乗れ」という事らしいが、どうしたものか。VGから教えてもらった「ドラグノフ狙撃銃」とは、少女の足元に転がっているライフルの事だそうだ。向こうがコードネームなら、とコックピット内に視線を走らせ、ピッタリのモノを発見する。

 

「あぁ、俺は…ウィングマン。一応軍属になる、と思う」

 

(チッ、やはり軍か)

 

「どうした?」

 

「いや何でもない。それよりも訊きたいんだが、一応の軍属とはどういう意味だ?あととそろそろ腕を下げたい…」

 

「腕は、そうだな構わない」

 

「はは、助かるよ」

 

そう言ってプラプラと腕を振り、続きを促すようにこちらを窺う。だが正直なところ、なんと説明すればいいのかわからないのが本音だった。未来から来たと訴えるのは簡単でも信じてもらえるかとなるとまた別だし、誤魔化すにはこの世界の知識が足りなすぎる。

 

「分析」

 

「VG?」

 

「パイロット。目の前の物体からは生体反応が検知できません」

 

「…なんだって?物体というのはその、女の子のことか」

 

「はい。以下αと呼称、αはヒトを模した人工物です」

 

(っ………はぁぁぁぁ)

 

 また情報が増えた!俺の理解力は限界が近かった。まだ僅かに稼働する脳の中で、俺の持ちうる情報と照らし合わせるが、少女のようなロボット(?)がライフルを所持する歴史は憶えがない。

 

(そういえばさっき人形とか自称していたな…)

 

「仮説。私達は平行時空にワープした可能性があります」

 

「俺も同じ考えだ、VG…パラレルワールドか、まるでオカルトだな」

 

「パイロット。平行時空問題は物理学の観点から理論的に追及されています。パイロットのオカルトというニュアンスは少し異なります」

 

いよいよ頭痛がしてきた。VGの指摘をスルーしてもなおぐちゃぐちゃに駆け回る情報が、些細な思考すら阻害する。

 

「ウィングマン?どうした、守秘義務があるのなら質問を変えようか」

 

「いや、あー…ドラグノフ」

 

「うん?」

 

もはや取り繕えない程のへばりつく疲労感に襲われていた俺は、今の状態で策を弄するよりか素直に告白する方を取った。下手な嘘は後々自分の首を絞めるのが目に見えている。

 

「その、世迷言に聞こえるだろうが…俺はどうやら遥か未来の、此処とは違う世界から来たようだ。軍もIMCという、恐らく今の地球には存在しない組織に所属していた」

 

「………」

 

案の定、絶句だった。それから顎に手を当て、なにやら深く考え込んでいるように見えるが、俺からすればまずマトモに取り合ってくれたことに驚愕した。何となく現実主義そうなドラグノフは、一笑に付して終わりにすると思っていたから。

 

(いや、これが現実だからこそか)

 

「……なるほど、いいだろう。その言い分なら合点がいくことも多い。では認識を合わせようじゃないか、なあ?」

 

「認識を…そうだな」

 

「よし、まず危害を加えるのは無しだ」

 

「あぁ、それとあの破壊してしまった火砲は放置でいいのか?」

 

「ん?…あ、そうか。鉄血を知らないんだな。となると、ふむ…説明が難しいぞこれは」

 

「あと、そこで隠れているのは…」

 

俺はそこで意図せず言葉を切った。ドラグノフにとっては驚くべきことのようで、一瞬体を強張らせたかと思うと大きく息を吐き、何やらサインのようなジェスチャーで後方に合図をする。茂みから出てきたのはまたも女の子、そして例外なく大小様々な銃火器で武装済みだ。

 

「心配するな、私の部隊だよ。隠していたのは悪く思わないでくれ、なんせこんなイレギュラーだ」

 

「識別。左からM1911、KP/‐31、M1A、M1918を確認しました」

 

「(言われても分からんぞ、VG…!)あー、それはよかった。君の率いる部隊…か」

 

改めてコックピットからその構成員を見渡す。誰もが可憐で華奢な少女と言った風貌で、まるで何処かの学生服のような驚くほどの軽装も相まって、余計に握られた「銃」への異質な感覚を際立たせる。そしてその銃を手にしている彼女達はどうやら人工物であるらしく、俺としては舌を巻く他にない。

 

「「さて」」

 

互いに閑話休題と言葉を置いたところで、事態は突如として転調を迎えた。

 

───動かないで

 

脇の道から埃っぽい緑を掻き分け、鋭く放たれた声の主は幼い少女のようだ。当然のように武装し、流れるように周囲の安全を確認する様子は不相応と感じる程に習熟している。

 

「私達はグリフィン所属の部隊です。皆さん大人しく、こちらの指示に従ってください」

 

 

 

 (また女の子か…)

俺は本日何度目かの溜息と共に、画面越しの天を仰いだ。

 

 

それから暫くして俺は深い森の中を、真横からのナビゲートを元に進んでいた。

 

「次に、すこし触れた鉄血についてだが…おっと、このポイントまで来たのか。ならここから東だな」

 

 VGの左手に乗っているドラグノフは片膝を立て、ライフルを抱きながら右手をコックピットに添えている。先程介入してきた「グリフィン」の部隊はどうやら友軍に近いもののようで、今は基地に帰るため飛行場に向かっているらしい。その途中で大規模な落下物(俺)を視認し、調査・回収の指令を受けたとのことだ。

それまでの間、俺はドラグノフにこの世界について教えて貰っていた。これは正直ダメ元で俺が頼んだことだが、彼女は意外にもこれを快諾。「それなら隣の方が話しやすい」と言い出し今に至る。全員周辺警戒に怠りは無く、十分気を張っているのは分かる。しかし当然と言うか、時折周りから突き刺さる視線は感じ取れたし、何なら後方のドラグノフ部隊からヒソヒソとした話し声も若干拾っていた。

 

(…ダメだ、ドラグノフの話に集中しないと。この世界の情報は現状俺にとっての生命線になる)

 

飛行場までの限られた時間で、できるだけの知識を詰め込む。それが多分最善手のはずだ。漏れ出しそうな量の未知の用語、技術、出来事を脳に留め、ほどけかけていた集中の糸をしっかりと紡ぎなおした。ドラグノフ曰く「グリフィンならそんなに気負う必要もない。お人よしだらけの優良物件だぞラッキーマン」とのことだが、そう言われて安心できる程楽天的にはなれない。

 

「おい、どうした?ちゃんと聞いているのか?」

 

「…勿論だ、続けてくれ」

 

「ならいいさ、心配させないでくれよ」

 

 やけに鋭い睨むような背後からの視線を振り払い、再びドラグノフの方へと意識を向けた。

 

──────────────────────────ドラグノフ部隊

 

(スオミちゃん目が怖いって!)

 

(………)

 

(聞いてないし…14ちゃんからも何か言ってよぉ)

 

(へ?うーん…すごくおっきいですよね!)

 

(うわこっちもだ!)

 

(まぁまぁ、適当でいいじゃないですかぁ~)

 

(うぅ…BARさんしか会話が成立しないなんて)

 

(あちょっと、何で今″さん″付けたんですか!いつもは呼び捨てなのに~!)

 

(…匂いが)

 

(えっ、スオミちゃん?)

 

(野蛮なソ連の匂いが、あの人にうつっちゃいます!)

 

(…あぁ、いつものやつ)

 

(あはは、これはそっとしておいた方がいいですね~)

 

(6、いや7メートルくらいかなぁー)

 

(14ちゃんはまだ言ってるし…)

 

 

 

──────────────────────────アラン・ディキンソン

 

 

 

 俺は今、VGとともに押し込まれたコンテナからようやく解放されていた。あれから特にアクシデントもなく、なんとかこの世界についてもある程度の認識を得られた俺は、そのまま飛行場でコンテナに詰められた。2機のヘリに吊られてしばらく、そして今眼前に建つのはPMC「グリフォン&クルーガー」通称グリフィンだ。

 

「ウィングマン」

 

即席のコードネームに反応すれば、銃を片付けたドラグノフが一人、足元から見上げている。彼女の他の部隊メンバーはグリフィンの部隊員に何処かへ連れられているようだ。

 

「私はあんたがこれからどんな処遇をされるかわからない。ココであればそう酷い対応は無いだろうが、もう会わない事も十分あり得るからな」

 

「…」

 

「だから今のうちに礼を言っておこうと思ってな。私達を助けてくれたこと、部隊を代表して…ありがとう」

 

「…あれは、偶然だ。着地がずれていたら君を潰していたかもしれないし、何もかもたまたまなんだ」

 

「フッ、そんなこと分かってるさ。だが結果として現実はこうなった、なら黙って受け取っておけ。私からの感謝なんて、レアなことだぞ」

 

「SVD。貴方もI.O.Pに行って下さい。点検と修復が必要です」

 

「…はいはい」

 

割って入った少女に言われて露骨に顔を顰めながら、ドラグノフは俺から視線を切る。俺はといえば、コックピットでその様子をただ上から眺めるだけ。小さな背に不釣りあいな長いガンケースが、持ち主の一歩と共に揺れた。

 

「…VG、少し出てくる」

 

「了解。ガードモードで待機します」

 

「キャノンは構えないでくれよ」

 

武器を席に置いたまま、ハッチを開けてVGから飛び降りる。横ですかさずこちらに銃口を向けている少女はどうやらとてもデキる子らしい。だが「話がしたい」と伝えると、逡巡した後にその向き先を少しだけ下げてくれた。有難い限りだ。

 

「ドラグノフ」

 

「うん?」

 

クルリと振り向きその場で立ち止まる彼女は、僅かに驚きの色を浮かべていたが「やっぱり有人機か」と呟いてガンケースを掛け直している。

 

「少しいいか?」

 

「ああ。これならあまり首が疲れないからな、いいだろう」

 

「あー、それはすまなかった。あと、感謝するのは俺もだ。情報の提供に礼を言う」

 

「そんなことか、別にいいさ」

 

この反応は何となく予測できていた。そのまま一歩歩み寄り開いた手を差し出す。すると俺の手と顔(ヘルメットだが)を交互に見て、納得したように握り返した。…ヘルメット越しに何を読み取られたのだろうか。

 

「フフッ、大げさだなウィングマン」

 

「アランでいい。君のそれが名前だと思わなかったんだ」

 

「…いや、軍人としてはウィングマンで正解だろ。律儀なのかお人好しなのか…」

 

「はは…ともかく、ありがとう。君に会えたのは、うん。ラッキーだった」

 

「!…おや、だから言っただろう?全く、いままで気がつかなかったなんて」

 

一度軽く振ってからドラグノフは手を放す。再びサッと前を向き、「じゃあな、アラン」とだけ付け足して足早に去っていく姿を少しだけ見送ってから、俺もグリフィンの少女へと向き直った。なんか有り金を溶かしたような顔でボソボソと呟いている怖い。

 

(私は何を見せられているのでしょうか)

 

「えっと、待たせすぎたか…?」

 

「ハッ、いえなんでも。丁度迎えの人形がきました。これから中で事情聴取がありますので」

 

気のせいだったのか、先ほどまでの調子でそう言い放つ。その迎えを待つ中で、俺は唐突にVGからのメッセージを受信した。

 

『パイロット、返答は必要ありません』

 

(VG?)

 

『私のシャーシでは事情聴取に同行できません。よってヘルメットの映像・音声データを同期し、常に位置情報と会話ログを解析します。非常時には状況からの脱出を試みてください、援護します』

 

『プロトコル3:パイロットの保護』

 

そうだ、中に入るのは俺一人。CARサブマシンガンとチャージライフルはVGに預けている。

 

(本番はここからだな)

 

そっと、ホルスターに収めているB3ウィングマンを撫でた。




グリフィンの人形は9A-91をイメージしましたが、口調とかがハマれば誰でもOKです。仮に9A-91ならスオミにとっては地獄でしょうね。
ガバメントは苦労人ポジが似合う気がしなくもない。2面夜戦の時のやり取り結構好きです。


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グリフィン

沢山のお気に入り登録、評価、感想ありがとうございます。更新遅くて申し訳ありません。


今、俺は周りを少女達に囲まれながら、民間軍事会社G&Kの廊下を進んでいた。字面を見れば大層なご身分に思われるが、武装した女の子に(たまにガン飛ばされながら)連行されているというのが正しい認識だ。雑談を交わせる程のコミュニケーション能力も胆力も無い俺にとって、全員が無言のまま人数分の足音と銃の揺れる音だけが響く時間は少し堪える。

 

 (余計に緊張してしまうな…)

 

 「この部屋です」

 

 (やっと着いた…)

 

 先導していた一人が、「応接室」とプレートの掲げられたドアをノックする。すぐさま低くくぐもった声で「入れ」と返ってきた。

 

 「はい。…どうぞ」

 

 入室を促す少女に頷き、部屋に入った俺を待ち構えていたのは、途轍もなく強面で明らかにカタギではない男性だった。高価そうな革張りのソファに腰かけ、腕を組んで俺に鋭い視線を向ける。隣には紅い制服に身を包み、モノクルを掛けてタブレット端末を片手に会釈する美人が一名。平然と上座に居座っているが、あからさまな敵意は感じない。

 

 「ご苦労。お前たちは下がっていい」

 

 「了解。失礼します」

 

 そっと後ろで閉ざされたドアを合図に、先に切り出したのは対面の二人だ。

 

 「よく来たな。一先ず座ってくれ」

 

 「…あぁ」

 

 「よし、俺はこの会社の代表、ベレゾヴィッチ・クルーガーだ」

 

 「上級代行官のヘリアントスです。今回のログを作成しますが、構いませんか?」

 

 「構わない。俺はアラン・ディキンソン。…IMC所属だ」

 

 「ええ、ご協力感謝します。(IMC…?)」

 

 一通り簡単に自己紹介を終え、しばしの沈黙を迎える。空気は重く、お互いに何から話すべきかを掴み損ねていた。俺としてはIMCについて突っ込んでくれれば、こちらの状況を話しやすかったのだが反応が無い。そもそも俺はこの人達にとってどの立場にあるのかすら不明な以上、軽率な発言は危うい。

 

 (でもここは応接室と書いてあったし…俺は客なのか?)

 

 「早速だが一つ、聞いておきたいことがある」

 

 きた。刃物のような眼光と共にぶつけられた威圧感は、虚偽や誤魔化しを許さないと言わんばかりだ。

 

 「お前は俺達の敵か?」

 

 隣のヘリアントスさんは僅かに動揺していた。クルーガーさんの問いは俺を値踏みし試すものだと分かるが、同時にそれは友好の握手ではなく銃口を突き付けるような容赦の無い一手。

 

 (このテーブルで、俺の使える武器は情報じゃない)

 

 ドラグノフから貰った知識はまだ扱えるほど整理ができていない。ハッタリなんてもってのほか、なら答えは決まっている。

 

 「それは、これから決まることだ。お互いそういうことだろ」

 

 誠実に、実直に、ハッキリとそう言い放った。二人の反応は対極的で、ヘリアントスさんは顔を顰めクルーガーさんは薄く笑みを浮かべている。

 

 「ふっ、それもそうだな。武器とヘルメットは外せるか?」

 

 「…すまないがそれはできない」

 

 「いいだろう。こちらも武装している身だ」

 

 「感謝する。実りのある時間になるよう、善処しよう」

 

 最初の山場はどうにか切り抜けられたらしい。ヘリアントスさんには少し申し訳なく思うが、それでも空気は格段に良いものになった。

 

 『パイロット。現在地点を確認、援護可能です。引き続き待機します』

 『提案。αから提供された情報を元に、会話中の用語に対する解説・補足を表示します』

 

 (α?…あ、ドラグノフの事か)

 

 VGからのバックアップは正直とても助かる。至れり尽くせりな相棒に今すぐ感謝を述べたい俺自身を抑え込んで、これからの分岐点となるだろうクルーガーさんの言葉に意識を集中した。

 

 

 時間は流れて、俺は今グリフィンの資料庫に居る。といっても職員や重役の使う経営上の資料ではなく、一般向けの紙媒体やデータが押し込まれた図書室に近いような部屋だ。そこでこの世界に関する新旧様々な情報に目を通していた。

 

 先程まで行っていた応接室でのやり取りは、終わってみれば大成功とも言える結果になったと思う。素性の公開に始まり、俺はあらゆる事を教えてもらい、また話せる限りの技術や知識を開示した。流石にデータナイフ等の所持品や、グラップル以外の戦闘技術にVGの兵装…オーバーテクノロジーっぽいモノはやんわり伏せたが。簡単にどんな事が出来るかだけを伝えてある。

 

 後半になると俺は緊張を緩め、就職面接のような質問に答えていた。途中でログの作成に四苦八苦していたへリアントスさんから唐突に「年齢は?既婚ですか?」と聞かれ、未婚の22歳と返した時の「あ、若い…ですね」という呟きに宿っていた謎の悲壮感はよく分からなかったものの、総じて滞りなく返答。

 

 そして現状だが、クルーガーさんからの雇用提案を保留している。案の定というかそのまま就職面接だったらしく、最後に持ち掛けられたグリフィンへの誘いに対し、俺は少し時間をもらう事にした。今ならドラグノフの言っていた「お人好しの優良企業」が真実だと理解できる。

 

 (クルーガーさん、人が良すぎるんじゃない…?)

 

 折角の提案を保留した事に言及することなく、社内の散策許可と直通の通信コードを貰ってしまった。

 

 『パイロット。よかったのですか』

 

 「うん?あぁ、雇ってもらう話のことだな」

 

 『現在の私達にとっては理想的な提案と判断します』

 

 「そうだな、俺もそう思う。…ただ、ちょっとな」

 

 『疑問。パイロットには何か思うところがあるのでしょうか』

 

 思うところと言えばそうかもしれない。身勝手な話だが、俺には一つどうしても見つけたいものがあった。その為に今こうして埃の積もった資料庫で、目につくデータをひっくり返している。

 

 「俺は、戦う理由が欲しいんだ」

 「元の世界に戻るまででも、銃を握る必要があるならその相手を見極めたい」

 「…はは。なんて、おかしいかもな」 

 

 VGからの反応は無い。プロトコルを優先するVGにとって、俺の感覚はきっと異質なものだ。

 ふと、ここに近づいてくる気配と足音を捉える。クルーガーさんはこの部屋に用のある奴はほとんど居ないと言っていたのだが、ドアの前でピタリと止まる。そのまま軽いノックの音が部屋に響いた。

 

 「…どうぞ」

 

 軋む蝶番の向こうに居たのは、ブロンドの髪と鮮やかなブルーの瞳をした少女が二人。見覚えがあるこの子たちは確か、「KP/-31」・「M1911」とVGが言っていた気がする。

 

 「失礼します。えっと、貴方があのロボットの…」

 

 「パイロットだ。それで、君たちは資料室を使う為にここへ?邪魔なら俺は退室しよう」

 

 「あっ違います!ちょっとお話がしたかったので、ね!スオミちゃん」

 

 「はい。お時間、頂いてもいいですか?」

 

 そう言われて時間を確認する。思ったよりも籠っていたらしく、一度VGと合流したいと考えていた俺は本を閉じて目の前の少女達へ向き直った。

 

 「それは構わないが、あまり長くは話せない」

 

 「分かりました。私はスオミKP/-31といいます」

 

 「アラン・ディキンソン。好きに呼んでくれ」

 

 「M1911です!11でも、ガバメントでも、私の事も好きに呼んで下さいね」

 

 「government?ふむ…了解した」

 

 スオミとガバメント…よし、憶えた。といっても、これから呼ぶ機会があるかというとその可能性は低い気がするが。

 

 「それで話と言うのは…」

 

 スオミがそう続けようとしたところで、またお客さんのようだ。開け放ったドアからは先ほどよりはっきりと話し声が聞こえる。スオミは言葉を切って、ガバメントが廊下の奥へと呼びかけた。少しして顔を覗かせるのはこれまたドラグノフ部隊の二人。

  

 「M14とB.A.Rです。こちらがパイロットのアラン・ディキンソンさんですよ」

 

 「あ、どうも~」

 

 「初めましてー!」

 

 「あぁ…初めまして」

 

 4人分の澄んだ目線が俺に突き刺さり、どことなく居心地が悪い俺は顔だけ向けて目を泳がせる。ヘルメットをしていて本当によかった。特別女性が得意なわけではない俺にとって、この状況を楽しむ余裕は生まれてこなかった。

 

 「ちょうど揃ったので、続けますね?」

 

 「(揃った?)…あぁ、頼む」

 

 一度咳払いして、閑話休題するスオミ。一人足りない気がするが、話の腰を折るのも悪いと突っ込むのは控えることにした。後ろの三人は何故か苦笑を浮かべていた。

 

 「遅くなりましたが、私達を助けてくれてありがとうございます」

 

 律儀に頭を下げるスオミに、一同も同意し口々に礼を述べる。

 

 「とても感謝してますよ!」

 

 「正直かなり危なかったですからね~。どうもです~」

 

 「よく分からなかったけど、凄い攻撃でした!」

 

 「いや、あのだな…あれはあくまで偶然だからそんなに恩を感じる必要はないぞ」

 

 たまたまの行動をヨイショされて堪らず弁明するが、ガバメントはなぜか露骨にテンションが上がっていた。

 

 「偶然…運命的ですね!」

 

 「えぇ…?」

 

 一人で盛り上がるガバメントとキラキラワイワイした空間にいよいよ収集がつかなくなってしまい、俺はそっとフェードアウトしたい気分だった。こういう雰囲気が苦手だったり嫌いなのではなく、単純に慣れていないだけなので苦痛は感じないが少なくとも落ち着きはしない。

 

(VGをダシにするのは気が引けるけど…すまん)

 

 わざとらしく時計を確認して、申し訳なさそうに会話に割り込む。

 

 「あー、すまない。そろそろ時間のようだ。一度戻るので、そこを通してもらえるか?」

 

 「はいは~い。ほら11、いい加減落ち着いてくださいよ~」

 

 「私達が塞いじゃってますよ。すいません…ディキンソンさん」

 

 「ははは…いや、気にしないでくれ」

 

 「そんなぁ…もうお別れなんですね…」

 

 絵に描いたようにしょげるガバメントに、若干心が痛くなる。だがこちらもこれ以上、美少女に囲まれるのは緊張の限界だ。一言だけ何かフォローして帰ろうと頭を回す俺に、M14から声が掛かる。

 

 「戻るって、あのロボットのところに?」

 

 「え?あ、そうだ。ずっと放置するわけにいかないからな」

 

 「ホントですか!?私、もっと近くで見たいですー!」

 

 (そう来たかー)

 

 そこまでついて来るならもう俺が折れた方が早い。クルーガーさんには自由に行動する許可を貰っているし、ヘリアントスさんを呼べばVGを動かしても問題無いと言われた。グリフィンに世話になるのであれば、どのみちこの環境にも馴染まなくてはならないのだ。寧ろ歩み寄るくらいしないと、状況に流されるばかりでは判断力も鈍ってしまう。

 

 「…よし、分かった。どうせなら少し乗ってみるか?」

 

 「…はい!」

 

 俺は開いた資料を片付け、部屋を出ながら呼びかける。

 

 「それじゃあ行こう。君たちはどうする?一緒に来るならついてきてくれ」

 

 全員が顔を見合わせ、そして大きく頷いた。

 

──────────────────────────

 

 (はぁ…運命的な出会いだよねー)

 

 (随分と熱視線ですね11)

 

 (スオミちゃんはそう思わないの?)

 

 (恩人のディキンソンさんに野蛮なソ連臭はうつってませんでした。それだけ分かれば私は十分です)

 

 (相変わらずというか…そういえばSVD、なかなか戻ってこないわね)

 

 (部隊長だからこれからの私達の扱いを話し合ってるんじゃないですか?)

 

 (流石にそれなら全員集められるはずよ。まぁ、通信がないから気にする必要もないのかもしれないけど)

 

 (…この部隊は解散するんですか?)

 

 (バラバラになってそれぞれの指揮官に会うか、纏めて一括で指揮下に入るかのどっちかじゃない?アランさんはグリフィン所属じゃないみたいだし…新しい指揮官かぁ。運命感じれるといいなぁ~)

 

 (11はそればっかりです…)

 

 (モチベーションに関わってくるんだから、気になるのは当然でしょ?アランさんが指揮官になったらそれが一番いいんだけど)

 

 (助けてくれた恩返しということなら、私もそう思います。でも、戦術人形として鉄血と戦うのなら指揮能力優秀な人の方がいいんじゃないですか?)

 

 (…スオミちゃんもそのうち分かるよ、きっと)

 

 (?はぁ、そうですか…)

 

──────────────────────────

 

 (B.A.Rもちゃんとお礼を言うんですね!)

 

 (そこは適当にはしませんよ~。それより14は、メカとかロボが好きでしたっけ?)

 

 (へ?いや、そんな事はないですよ)

 

 (あれ~?じゃあ何でそんなにロボットに興味津々なんですか?)

 

 (そうだ、私聞こえたんです。勝利の鐘が!)

 

 (あ~たまに言ってますね)

 

 (あれはまさしく、勝利そのものです!きっと、鐘が空から降ってきたんですよ!)

 

 (…う~ん???)

 

──────────────────────────アラン・ディキンソン 

 

 4人の少女を引き連れて早足で廊下を進む俺は、預かった通信コードでヘリアントスさんに連絡を取った。

 

 「ヘリアントスさん、今から機体を動かしたいのですが」

 

 『あぁ、ちょっと待っていろ。…よし、私も立ち会おう。それから、見学希望が一人いるんだが構わないか?』

 

 「見学…?分かりました。では後ほど」

 

 『うむ』

 

 「あのー、アランさん。ちょっと聞きたいんですけど」

 

 「ガバメント?どうした」

 

 通信終了と同時に後ろから呼び止める声がする。振り向けば、教師に質問する生徒のように手を挙げ俺を見つめていた。

 

 「アランさんは、グリフィン所属じゃないんですよね?」

 

 「そうだな」

 

 「でもヘリアントスさんって、上級代行官と聞いてます。差支えなければ、今どういう立ち位置なんですか?」

 

 まぁ、そう思うだろうなと納得する。外部の人間が社内を自由に歩き回り、あまつさえ重役を通信で呼び出す。事情を知らなければ疑問を抱いて当然だ。

 

 「雇用の勧誘を待ってもらっている状態だ」

 

 「保留中…ということは、グリフィンの指揮官になる可能性もあるってことですか!?」

 

 再び爆発したテンションで息荒く距離を詰めるガバメントに、俺は僅かな罪悪感を感じながら現実を口にした。

 

 「期待させたようで恐縮だが…俺は現場で戦う人間であって、指揮や運営で突出した能力は無いからな。そんなことにはならないと思う」

 

 「そうなんですかぁ…あ、じゃあ現地で一緒に戦うことは」

 

 「それも考えづらい。俺と君達ではスタイルが違いすぎる」

 

 「スタイル?どういうことですか?」

 

 「うーん、なんと言うか…近いうち見せる時がくるかもしれないし、それを待ってくれ。説明が難しい」

 

 『パイロット。識別、ヘリアントス他1名が到着しました』

 

 「すぐ向かう。すまない、通信が入った。少し急ごう」

 

 「あ、はい!」

 

 

 駆け足でVGの待機するグリフィン前まで来た俺は、近くにヘリアントスさんともう一人、ヨレた白衣の女性を視界に映した。

 

 「お待たせしました、ヘリアントスさん。すみません、お忙しいなか急に」

 

 「気にするな。それと、効率の観点からも私の事はへリアンでいい」

 

 「へリアンさん…分かりました。で、話していた見学者というのが…」

 

 「私だよ。ふ~ん…ほぉ…貴方も面白そうなモノを持ってるのね…」

 

 ブツブツと呟きながら、俺の周りを一周する白衣の女性だが、俺の視線はある一点に集中していた。

 

 (…なんだ、あの頭にあるやつ)

 

 まるで動物の耳のような、謎の物体が生えているように見える。いやほんとになんだアレ。

 

 「自己紹介くらいしろ。全く…すまないディキンソン。こいつはペルシカ、知っているか?」

 

 「え?えーと、I.O.Pの科学者ですか?確か16Labとか…」

 

 仕入れたばかりの知識を引き出す。途轍もなく優秀な人材という関連情報が同時に浮かんだが、正直目の前の女性からそんな印象は受けなかった。まぁ、仕事はきっちりこなすタイプなのかもしれない。

 

 「私のことはいいよ…アレを動かすって聞いたんだけど」

 

 そうペルシカさんが指差すのは未だ片膝と拳を地に着いて待機状態のVGだ。M14も言葉にはしないが、うずうずとして落ち着きがない。俺は迂闊に近づかないことだけ簡単に注意し、4人の方に戻る。同じ注意をして、M14以外が後ろに下がったのをしっかり確認した。

 

 「すっかり待たせてしまったな。隣を離れないでくれよ?」

 

 「はい!でも、乗り込まなくていいんですかー?」

 

 「あぁ。じゃあ、動かすぞ」

 

 

 

 「…ヴィクター・ゴルフ-1964。ガードモードを解除、立ち上がれ」

 

 「了解。フォローモードへ移行、おかえりなさいパイロット」

 

 響くVGのCOMボイス、重々しい駆動音と共にカメラに光が灯る。二本の脚でこちらに歩みを進める度に、地の振動が足裏から感じ取れた。目の前で停止するVGを、M14は興奮冷めやらぬ様子で喜々として見上げる。

 

 「VG、お客さんだ。聞いてたよな?」

 

 「肯定。戦術人形M14を認識」

 

 M14の前にしゃがみ込み、コックピットを開いて掌で足場を作るVG。

 

 「さ、乗ってくれ。操縦権は渡せないから言葉通り乗るだけだがな」

 

 俺にコクコクと首を振り、コックピットに乗り込んだ。ハッチが閉まり、再び姿勢を直立にしたのを見て話しかける。

 

 「VG、マイクをオンに。あーあー、聞こえるか?」

 

 「うわぁ!はい、聞こえてますー!」

 

 「悪いが、後ろにあるものは触れないでくれ。VG、少しアクションを頼む」

 

 「了解。シートベルトの着用を推奨します」

 

 「シートベルト…できましたー!」

 

 溌剌な彼女のその言葉を合図に、VGは通常の歩行から徐々に速度を上げ、最高速ではないにせよ機体を大きく揺らして走る。後ろからは「ほう…」とか「わっ、速い」など驚きの声が聞こえていた。

 

 「わぁーーーーあははは!すごいです!それに高ーい!」

 

 それから5分程経ち、ジャンプしたりターボを使って走り回ったVGは、俺の前でM14を降ろした。

 

 「どうだ?満足できたか?」

 

 「とてもとても!VGさんでしたよね、ありがとうございますー!」

 

 一度頭を下げてから部隊の方へ駆け寄るM14。ガバメント達に自分の興奮を熱弁する様子を横目に、俺はVGのシャーシを労うように軽く叩く。

 

 「ご苦労さん、VG。”ありがとう”だってさ」

 

 「…了解。受領します」

 

 「はは、それがいい」

 

 入れ替わりで近づいてくるのはへリアンさんとペルシカさんのコンビだ。力の感じない拍手をしながら気怠げに口を開くペルシカさん。

 

 「ぱちぱちぱち…素晴らしいパフォーマンスだった。叶うのなら、武装の面も見てみたいね…」

 

 「それは私が許可しないぞ、ペルシカ」

 

 「ちぇ…まぁいいや…」

 

 「当然だろう…む?失礼」

 

 へリアンさんが離れる。誰かと通信しているらしく、「えぇ、はい。…なるほど」と言葉が微かに聞こえる。その隙を見計らったかの如く一歩踏み出したペルシカさんが、声を潜めて話しかけてきた。

 

 「君に提案がある…」

 

 「…提案?」

 

 「そう…君の活動を、私が資金援助しよう」

 

 「は?」

 

 思わず素っ頓狂な反応をしてしまうが、ペルシカさんは構わず言葉を続ける。

 

 「なにも一方的にお金をあげるわけじゃないよ…君、いや君達のデータや技術を調べてみたいんだ…私の理想形は私兵として雇うことだけど」

 

 「…そういうことですか」

 

 納得した。公の組織に属していない今、俺の抱えるテクノロジーは俺個人に委ねられているのだ。勧誘するにはなんと都合のいいタイミングだろうか。

 

 「まぁ、返事は近いうちに貰えればそれでいいよ…連絡先を渡しておくから」

 

 「分かりました、ペルシカさん」

 

 「ペルシカ。君とは長い付き合いになるかもしれないし、呼び捨てでいい…パイロット」

 

 俺とペルシカの会話はそこで終わった。へリアンさんが戻ってくると、ペルシカは一歩引く。

 

 「じゃ、私は戻るよ…へリアン」

 

 「意外だな。”私も乗せてくれ”くらい言い出すかと思ったが」

 

 「あまり外に出ていたくない…コーヒーも補給しないと」

 

 「はぁ…好きにしろ。あと謎の甘ったるい黒い水を世間はコーヒーとは呼ばないぞ」

 

 フラフラと危なげな足取りで、皺の深いくたびれた白衣の裾を鬱陶しそうにI.O.Pの方へと帰って行った。

 

 「何か話していたのか?」

 

 「えぇ、少し」

 

 「ふむ?まぁいい。ディキンソン、機体と一緒についてきてくれ」

 

 

 

 

 「クルーガーさんがお呼びだ」




GW中は少し休みがあるので、次の投稿はイベント前に出来るかもしれないです。
次回はトロフィー埋めで走り回った人もいるかと思います、キャンペーン最初のアレです。


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ガントレット

文字数が1万まで膨らんでしまいました、そして今回若干の勘違い要素があります。
今回書くにあたって自分も走り直したり動画をみたりしましたが、やっぱりTF2楽しいですね。
視点移動が多くなっています。読みにくければ申し訳ありません。


 へリアンさんに連れられて、俺はVGに搭乗し一緒にただ案内に従う。さらに後ろにはドラグノフを欠いた人形部隊。ガバメント、B.A.R、スオミ、M14の4人もまた、へリアンさんに言われて行き先不明のまま追従していた。

 

 (しかし…広いなグリフィン)

 

 広大な敷地をただ歩く。グリフィンという会社は民間軍事会社というカテゴリであるものの、その業務内容は非常に多岐にわたり、必要な施設や設備を複合して運営しているらしい。

 

 「ここだ。着いたぞ」

 

 VGの歩みを止め到着したのは、ヘリや車輛が押し込められた格納庫だ。いや、”押し込められていた”というのが適切だろうか。言われるままにVGのシャーシをその中にくぐらせると、車輛の類は見受けられず代わりに大勢の人がこちらを見上げていた。作業着だったりラフな私服だったり、何人かはグリフィンの制服を身に着けている。スキャンをすれば人形も沢山居るのが分かった。

 

 「ディキンソン」

 

 「はい?」

 

 へリアンさんは手元のタブレット端末に目線を落としたまま、これから行うことの説明を始める。

 

 「今から頼みたいのは、君の能力の提示だ。具体的には、応接室で言っていた三次元機動戦闘とはどういうものか…それをやって見せてほしい」

 

 (…そんな事も言ったな)

 

 一瞬、武装を開示しろという意味かと思って身構えたが、そういうことなら一向に構わない。口頭での説明が苦手な俺からすれば、直接見せていいというのは有難い話だ。

 

 「了解しました。…ガバメント」

 

 「アランさん?」

 

 マイク越しに、後方のガバメントへ呼びかけた。

 

 「戦闘スタイルを見せる時が来たようだ。存外早かったな」

 

 「あっ…そうですね!頑張ってください!」

 

 それだけ言って、ガバメント含む4人はへリアンさんに誘導され人の海に混ざって行った。代わりにやってきたのはクルーガーさん。

 

 「ディキンソン、お前の力を示してみろ」

 

 「了解。訓練プログラムの映像を投影すればいいですか?」

 

 「うむ」

 

 「VG、俺の映像データを壁面に投影してくれ」

 

 「プログラムを起動、投影開始します」

 

 格納庫内の壁に、俺の目に映る高い景色が薄く投影される。前もって設置していたのだろう、スタッフが暗幕で日の光を遮断すれば、それはより鮮明に映し出された。同時に俺は手動でVRシステムの中から”ガントレットモード”を実行。俺はコックピットが暗転する寸前、格納庫内を一瞥した。

 

 (………)

 (…居ないみたいだな)

 

 「VRモード、オンライン」

 

―――意識が沈む。

 

 

 

 再び目を開けた時、視界に飛び込んでくるのは操縦席ではなく巨大なモニターだった。ランタイムや最高速、標的数などが空欄になっており右隣の壁には数種類の銃火器と軍需品が吊られている。左手には俺の名前がポツンと浮かぶタイムスコアボードと、奥にガントレットコースのスタートライン。

 

 「VG、聞こえるか?」

 

 「肯定。外部からの音声入力を有効にします」

 

 『あーあー、テス。応答してくれ』

 

 「へリアンさん。聞こえてます」

 

 『こちらも問題無い。これは…シミュレーションか』

 

 「はい。これから、ホロターゲットの撃破とコースの走破を行います。これで大体は分かってもらえるかと」

 

 『分かった、いいだろう』

 

 武器の方へと歩み寄り、少し悩んで”ウィングマン”と”フラググレネード”を2つ「ずつ」手に取る。

 

 「武器システム、軍需品システム、戦術グラップル、ジャンプキット、ガントレットメーターオンライン」

 

 「了解。各システム問題ありません」

 

 「ありがとうVG。さて…」

 

 ウィングマン2丁を両方とも左右のレッグホルスターに差し込み、グレネードを引っ掛ける。壁からフラググレネードを取り、被害の及ばない後方に投げ近くにあったハモンドP2016で射撃する。炸裂したグレネードは爆風で俺の背中を押した。

 

 (流石に、フラググレネードの加速はやめとくか)

 

 『ディキンソン、今のは』

 

 「すいません、気にしないでください。ただのテストです」

 

 『…そうか』

 

 「それと、少し集中するのでそちらの音声を遮断しても構いませんか?」

 

 『あ、あぁ。承知した…期待している』

 

 「ありがとうございます」

 

 今回の目標は機動戦闘を見てもらうのであってタイムを縮めるのではない。息を吐いて気分を切り替え、P2016を手放した。言わばこれは自己PR、アピールポイントとして魅せる立ち回りが求められる。

 

 (なら存分に釘付けにしてやろうじゃないか)

 「よし。VG、計測よろしく」

 

 「はい。いつでもどうぞ」

 

 その返事を受け、つま先をコンコンと鳴らす。

 

 しっかりと力を込めたら、俺は地面に別れを告げ壁を踏む。

 

 ジャンプキットの音と計測開始のブザーは同時だった。

 

 

──────────────────────────へリアントス

 

 

 謎の客人”アラン・ディキンソン”の行動は、格納庫内をザワつかせた。隣のクルーガーさんは「ほう…」と声を漏らすのみだが、私は仮想空間の彼に尋ねる。

 

 「ディキンソン、今のは」

 

 これでもし、得意気に語り出すのであれば可愛いものだったが、現実は素っ気なく平坦な返事。

 

 『すいません、気にしないでください。ただのテストです』

 

 「…そうか」

 

 『それと、少し集中するのでそちらの音声を遮断しても構いませんか?』

 

 次にこの上映会場に走ったのは、動揺と興奮が半分ずつだった。それもそうだろう。なんせ彼は先程、後ろに投げたグレネードを適当に掴んだハンドガンで()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。しかもそんな曲芸を「ただの試射に過ぎない。この程度で騒がれては集中できない」とこちらの音声を切り捨てた。クルーガーさんの方を向けば無言で頷いたので、なんとか返答をマイクに吹き込む。

 

 「あ、あぁ。承知した…期待している」

 

 『ありがとうございます』

 

 なんだかドッと疲れたような気がするが、彼の弁が真実なら本番はこれからということになる。私は多分油断していたのだと思う。緊張こそあったが話してみれば実直で誠実な青年という印象を持っていた為に、初めて見る兵士としての彼の姿に僅かに気圧された。

 

(それだけ真剣に取り組んでくれていると言うわけか…いかんな、こちらも集中しよう)

 

 何度かまばたきしてから、画面にしっかりと意識を向け直す。

 

 彼は垂直な「壁」に手と脚を着き、しっかりと走行していた。

 

 「…えっ」

 

 ブザーはまだ、鳴ったばかりだ。

 

 

──────────────────────────アラン・ディキンソン

 

 

 壁面で助走をつけスタートと同時に対面の壁へ跳び移る。手を着いた瞬間にまた次の、宙に浮かぶドーナツ状の壁に、さらに元の続いた壁へ。

 

 視界に収めた3つの固まったターゲットに向けて、視えるフラグの軌道を合わせて投げる。放物線のラインを描くフラグの起爆を待つ時間は無く、引き抜いたウィングマンで撃ち強引に炸裂させた。

 

 (残弾左5、フラグ1、残標的12)

 

 スピードを殺さぬよう着地と同時にスライディングで狭い隙間に滑り込み、即座に右のウィングマンにも指を掛ける。左手前と右側の標的を左右1発ずつで仕留め、両手に1丁ずつ握ったまま右側面へと思い切り跳躍。

 

 (残弾左4、右5、残標的10)

 

 真下と少し先の障害物に隠れた標的を見逃すことなくしっかりと処理し、続く直線コースのターゲット3つを岩陰に確認した。ジャンプキットを噴かし両端の壁を交互に蹴り移りながら、タイミングを見極め銃のグリップで吊っていたフラググレネードを叩き落とす。空中に身を躍らせ視界の端に捉えたフラグを弾丸で起爆、再び前を向く。標的を消し飛ばす音が聞こえればそれで充分だった。

 

 (左2、右4、残り5体…)

 

 曲がり角を抜けた先には高くなった脇の道に左が1体と左右奥にそれぞれ1体。手早く右のウィングマンで手前の1体を撃破、左手首に装備したグラップルを壁の高所へ射出し、中央の溝になっている道を振り子のような軌道で地面に触れないギリギリで抜ける。前方に高く投げ出された俺のガントレットメーターはとうに振り切れていた。

 勢いをそのままに、スピンして通り過ぎた2体を忘れずに撃ち抜く。

 

 (左1、右2、あと2体っ)

 

 壁に足を着いて最後の詰めに差し掛かった俺は、左手に持つウィングマンを力の限りゴールの方へ「投げた」。

 間髪入れずに中央に立つ柱のオブジェ、その天辺にグラップルを掛けジャンプキットで大きく飛び越える。

 すれ違いざまに真上から1発、これで残す標的はあと一つだ。

 

 完璧なタイミングで目の前に落ちてくる片翼を掴み、抱き込むようにそのまま世界を逆転させる。上に地が伸び下に空が広がるその一瞬のなかで、俺はただ両手の照準を一点にポイントした。

 

 (これで、ラストだ!)

 

 

 

 左右共に残弾0、空っぽになった羽をホルスターにしまい込む。ようやく着地しゴールテープを切る頃には、最後のターゲットも霧散していた。

 

ービィィィィーーーー‼

 

 「ふぅ…VG。ブザーの音量を下げてくれ」

 

「了解。おめでとうございますパイロット。平均を大きく上回るタイムです」

 

 次々表示される成績は確かに悪くない、アピールとしては十分ではないだろうか。そう思い切っていた通信を繋ぎ、へリアンさんに話しかけた。

 

 

──────────────────────────ヘリアントス

 

 

 格納庫は大いに沸いていた。ディキンソンはたったの20秒足らずで、人間離れしたパフォーマンスを存分に見せつける。一歩兵として有り余るほどの機動力と、それを活かした高速戦闘を成立させる空間認知能力に壁面・空中での姿勢制御。最後に見せた遠投は投擲スキルの高さを証明し、終始二丁拳銃を完璧に扱う卓越した射撃技術は戦術人形と同等かそれ以上だ。

 

 「へリアン」

 

 「はい、何でしょうか」

 

 「俺は戻る。あいつが降りてきたら応接室に来るよう、伝えておいてくれ」

 

 「分かりました、クルーガーさん」

 

 1人格納庫を後にするクルーガーさんからの指令を頭に刻み、未だ収まらない盛り上がりの中で私は静かに嘆息する。

 

 (凄まじいな…これは)

 

 「わ、私と同じ二丁拳銃…人形じゃないのにすごい…」

 

 「これが戦闘スタイルの違い、というわけですね」

 

 「わぁー、速かったですー!」

 

 「頑張りますねぇ~、適当にできないって大変そう」

 

 『へリアンさん終わりました。大体こんな感じなんですけど…』

 

 「…うむ、ご苦労。正直想定以上だ」

 

 突然流れた彼の声に少し遅れて言葉を返した。いざという時の為の情報共有として人を呼んでおいたが、見世物にしてしまったようで何となく申し訳ない。

 

 『そうですか、ならよかったです。えーと、どうしましょう。降りてもいいですか?』

 

 「ちょっと待ってくれ。人を退かせる」

 

 『あ、分かりました』

 

 マイクを切って、一度手を叩けばスタッフが暗幕を外し始める。

 

 「聞いていたな!解散して各自持ち場に戻ってくれ、以上だ!」

 

 その一言で皆行動を開始し、口々に感想や興奮を零しながらゾロゾロと出て行った。残ったのはもとより車輛に携わる者とM1911一行だけだけ。私は顎に手を当て、待機している4人を呼ぶ。

 

 「これからディキンソンは少しこちらで預かる。特別な要件が無いのなら、割り当てられた部屋か他所で時間を潰せ」

 

 「わっかりました~。適当に過ごしま~す」

 

 「はーい!」

 

 「了解しました。11、行きましょう」

 

 「えぇ⁉ちょ、あ、アランさぁ~ん!」

 

 未練がましく手を伸ばすM1911をM14とM1918が連行していった。

 

 「すまない、待たせた」

 

 『いえ。それでどうすればいいんでしょう』

 

 「とりあえず降りてもらって構わない」

 

 『はい。VG』

 

 コックピットが音を立てて開き、ディキンソンが飛び降りる。その動きは身軽で、今更疑う事でもないが先ほどの映像も作り物などでは無いのだろう。

 

 「こちらの無茶に付き合わせたことと、それを見世物のように扱ってしまったことを詫びよう。すまなかった」

 

 「えっ?いや…別に気にしてませんよ。いいアピールの機会だと思ってましたし」

 

 「そう言ってもらえると助かる。それとだな…また申し訳ないんだが、応接室に行ってほしい」

 

 首を傾げる彼に「クルーガーさんからだ」と付け加えると、大きく頷き承諾してくれた。

 

 「そういう事なら。今から向かえばいいですか?」

 

 「すまないな…」

 

 「いえ、お気になさらず。ただその、VGには触れないように言っていただけると」

 

 「それは勿論だ。クルーガーさんから通達されているから心配しなくていい」

 

 「ありがとうございます。では応接室ですね…VG、ちょっと行ってくる」

 

 「パイロット。許可を貰っているのであれば、CARサブマシンガンの携帯を提案します」

 

 「あー…いや、大丈夫だ。そんなに警戒することも無い」

 

 「了解。周囲に危険物の反応無し、待機します」

 

 そんなやり取りが終わり、最後に一礼だけして去っていく姿を見届ける。クルーガーさんの思惑は分からないが、できるのなら是非招き入れたいものだ。そう思いながら私は次のタスクの為に格納庫を出た。

 

 

──────────────────────────アラン・ディキンソン

 

 

 グリフィン社内の廊下を一人歩く。窓から夕日が差し込み、ふと俺は足を止めた。

 

 (地球の時間の経過は綺麗だな…)

 

 日が落ちれば、月が昇る。その月もまた沈み行き、やがて朝の光が地を照らす。映像資料で見たことはあるが、地球の日没を実際に目の当たりにしてみると柔らかな熱が感じられる。太陽がその光を抱いて沈んでも、次に訪れるのは闇ではなく月明かりがまた街や人を映すのだ。

 宇宙へ進出しきった人類にとってこんなモノは、前時代の古ぼけた記憶でしかないだろう。俺も特別この星に思い入れはなく、母星の知識として知っているに過ぎなかったが…「おい」

 

 「ぅわっ」

 

 唐突に背後から呼ばれて変な声が出た。振り返ると、呆れ顔を隠そうともせず肩を竦めるドラグノフがいる。

 

 「お、驚かさないでくれ…」

 

 「別に忍び寄ったわけじゃない。不審者みたいだったから声を掛けただけだ。何だ、そこから面白いものでも見えるのか?」

 

 隣に立ち外を眺めるドラグノフだが、少しして「何もないじゃない…」と壁に背を預けて腕を組んだ。

 

 「そうだ、タイムアタック見てたぞ。ウィングマンは伊達じゃないな。まさか本当に飛べるとは」

 

 そう言って乾いた笑いを漏らす彼女に、俺はある疑問が浮かぶ。

 

 「それって、途中からか?」

 

 「ん?まぁな。それでもスタートしてすぐくらいだったけど…何?」

 

 「いや、上から探した時に居なかったから。そういうことなら納得だ」

 

 「………探した、私を」

 

 「?…あぁ」

 

 そっぽを向いて、「そうか」とだけ返すドラグノフ。何となく手持ち無沙汰になった俺は再び視線を斜陽に戻す。妙な雰囲気のまま少し時間は過ぎ、沈黙していた彼女が口を開いた。

 

 「ところで、こんな所で油を売るほど暇があるの?」

 

 「んー、いや…そろそろ行かないとだ。クルーガーさんに応接室まで呼ばれてる」

 

 オレンジに染まる景色を見収め、窓から身を離す。それに合わせてドラグノフもスカートを軽くポンポンとはたいて、廊下を一歩先んじた。

 

 「奇遇だな、丁度私も彼に話があるんだ。ほら行くぞ」

 

 「え?あっ、そうなのか」

 

 さっさと先に行ってしまう彼女に、駆け足で隣へ並ぶ俺。ふと横を盗み見れば銀糸を束ねたような長い髪が、陽の温もりに縁取られて煌めきながら揺れている。

 

 (…綺麗なもんだ)

 

 「うん?」

 

 内心で呟いたつもりだったが、どうやら声に出ていたらしい。こちらを見上げてヘルメット越しにドラグノフと視線がかち合う。その後彼女は反対の外を見て、納得したように言った。

 

 「なるほどな、さっきも風景を見てたのか。私には何でもない夕焼けだが、綺麗な事には違いない」

 

 「いや、そういうわけじゃないが…」

 

 そこまで口にして冷静に思いとどまる。このまま「君のことを言ったんだ」なんて続ければ、まるで口説いているようじゃないだろうか。想像して鳥肌が立った何だ俺は気持ち悪いな。

 

 (危ない、自爆するところだった…)

 「まぁ、好きにとってくれていい」

 

 「なんだそれ?フフッ、変な奴だな」

 そんな取り留めのない話をしながら、二人分の靴音は静かな廊下をゆったりと進んでいた。

 

 

──────────────────────────ドラグノフ

 

 

 (はぁ…。急に言うものだから、少し驚いたぞ。全く…)

 (しかしそうか、アランは私を探したのか)

 (…やれやれ、私が居ないとダメみたいだな)

 

 

──────────────────────────アラン・ディキンソン

 

 

 (やけに生き生きしてるな…いいことでもあったのか)

 

 笑みを浮かべニコニコしているというより、どことなく満足気なドラグノフを横目に俺達は応接室前に到着した。一先ず呼ばれている俺がノックし、名を告げるとクルーガーさんの入室許可が返ってくる。

 

 「失礼します。それと、ドラグノフが一緒に居るんですが…」

 

 「SVDか…いいだろう。都合もいいからな」

 

 「私の事だ、アラン。どっちでも好きに呼んで」

 

 聞きなれない単語を即座に補足する彼女は、臆することなくスルリと部屋に踏み入りソファへと腰を下ろし、俺も一礼して着席する。全員が席に着き、クルーガーさんが俺に目を合わせて話を切り出した。

 

 「さて、アラン・ディキンソン。さっきのお前の動きを見て、俺なりに考えた事がある」

 

 「はい」

 

 「お前、独立するか?」

 

 「…独立、ですか」

 

 驚きはしない。俺の中でもその選択肢は、割と最初の方から持っていたものだ。

 

 「そうだ。お前の能力はこちらの想定を大きく上回った。そして戦闘スタイルの違いというのも理解した。当初俺は特殊作戦用の部隊として起用しようと思っていたが、正直に言うと…恐らく俺ではお前を持て余すだろう」

 

 目を瞑り、一つ息を吐くクルーガーさん。買い被りのような気もしなくはないが、俺は謙遜より先に俺の考える独立のメリットを提示してみることにした。

 

 「私としては、タイタンの存在も大きいと思います。少し資料を見た限りでは、今の情勢はかなり奇妙なバランスで成り立っている印象を受けました。仮にグリフィンに所属した場合、”軍”にこの会社そのものが睨まれてしまう気がします」

 

 「それも考えられん話では無い。だがな…」

 

 そう言ってソファに凭れるクルーガーさんの考える事が俺には分かった。きっとこの人は、俺達を厄介払いのようにすることが気になるのだ。クルーガーさんと話した時間は決して長いものではないが、それでもどうしようもないお人好しだと俺は知っている。

 

 「なので、私としても起業?というのは考えていました。クルーガーさんがよければ、外部からの作戦能力として私を使いませんか?それなら余計な火種を背負いこまずにすみますし、現状私自身ココ以外からの依頼を受ける気はありませんから」

 

 というか、これが俺の理想形だった。グリフィンやクルーガーさんを信用していない訳では無いが、まだこの世界を知り足りない俺にとって自分の意思で動ける立場の方が望ましい。

 

 「…うむ…」

 

 暫しの沈黙ののちにクルーガーさんは何故か目を逸らす、というよりはドラグノフへと視線を移した。

 

 「決まりだな。どうだ?私の言った通りになっただろう」

 

 一人静観していたドラグノフが示し合わせたかのように、立ち上がってそう言い放つ。溜息をつくクルーガーさんに俺だけが急に置いてけぼりになった。

 

 「え、え?どういうこと…なんの話だ?」

 

 「なに、簡単な話だよアラン。私はこうなることを解っていて、すでに手配を終えている。ただそれだけさ」

 

 「…いや、いまいち理解が追い付かない。そもそも手配って…」

 

 「俺から説明しよう、ディキンソン」

 

 クルーガーさんも腰を上げ、俺だけ座っているのもおかしいので二人に倣う。

 

 「SVDは、I.O.Pから戻るなり早々に俺のもとに来た。そしてお前がウチに入らないことを言い当て、お前とタイタンが離れずに済む物件をピックアップし、さらにSVD自身もグリフィンに加入することを保留している」

 

 「あぁ…???ん、ドラグノフ」

 

 「どうした」

 

 「なぜ君は保留なんだ?」

 

 「フッ」

 

 

 鼻で笑われた。辛い。

 

 「愚問だな。あんたについていくためだ」

 

 トンッと指で俺の胸を軽く突き、顔を寄せて正面からヘルメットの奥を覗き込まれる。

 

 「いいか?私はあんたに興味がある。そして可能性を感じているんだ」

 「あんたはここに収まる器じゃない。何かを成す予感がしてるんだよ」

 「それにこの放り込まれたばかりの世界で、事情を知る存在が近くに居た方がいいだろう?」

 「そもそも、私が助けられたのはあんたであってグリフィンじゃないしな」

 

 堂々と自分の思考を列挙する彼女の主張は、感覚的な部分が多くて完全に納得できるものでは無かった。というか最後の一言をクルーガーさんの前で言うのは肝が冷えるので勘弁してほしい。

 

 「ちょ、待ってくれ」

 

 「なんだ、まさか不満なのか?」

 

 「いや、そうじゃないが…仮に言う通りついてきたとして、それでどうする?ここに居た方が君の能力を十分に活かせるだろ」

 

 「…ほう。まぁ、言いたい事は分かるぞ。だが聞けよアラン」

 

 俺の胸倉を掴み、声のトーンを落とすドラグノフ。

 

 「…あまり私をなめてもらっては困る」

 

 本気で怒ったのでは無いんだろう。パッと手を離して上機嫌に反論を述べ始めた。

 

 「素晴らしい機動戦闘だったが、私も駆け回って狙撃するタイプだ。戦術人形を人間の規格で考えるなよ?あんたが思ってる以上に、私は優秀だぞ」

 「書類等の業務や家事くらいなら、丸投げはダメだが手伝いくらいはしてやろう」

 「アラン。私のことは今気にする必要なんて無い。私があんたにとって必要かそうじゃないのか、ただそれだけの二者択一だ」

 

 「さぁ、選択しろ。チャンスは一度だラッキーマン」

 

 ジッと俺を見つめ時を待つドラグノフの目は、どこまでも真剣で真摯な光を感じさせる。クルーガーさんも口を挟むことなく、委ねるかのように俺達を見ていた。

 

 「…わ、分かった。よろしく頼む」

 

 「当然だな、いいだろう。私が協力する」

 

 そこまで言われては仕方あるまい。そもそもドラグノフのプレゼンは魅力的なものが多くあるし、俺に不利益な提案でもないのだ。少し遠慮がちに差し出した手を、彼女はしっかりと握り返してくれた。

 

 「話は纏まったようだな」

 

 「クルーガーさん…はい。折角の勧誘でしたが、すいません」

 

 「いや、気にするな。だが今すぐここを出るわけでもないだろう?」

 

 「そうですね、起業とは言いましたが手順とかも調べないといけませんし」

 

 「ならそれまではここに居ればいい。お前たちそれぞれの部屋も空けているから、暫く好きに使え。俺はへリアンに連絡を取る」

 

 「ありがとうございます」

 

 離れて通信を始めるクルーガーさんに頭を下げる。俺はその間、ドラグノフに幾つかの質問をして時間を潰していた。

 

 「そうだ、君はグリフィンへの加入を保留してたが、それってアリなのか?」

 

 「アリも何も、私は別会社のはぐれだぞ?ココの他の司令部が攻撃を受けてそこから彷徨っていれば、そのまま回収されたところで再編成されるだろうがな」

 

 「へぇー…じゃあ今は客扱いか」

 

 「知らん、どうでもいい」

 

 「おう…でもガバメントやB.A.R達は君の仲間なんだし、待遇とか気になるだろ?」

 

 俺の言葉に、ドラグノフは大きく嘆息した。何かおかしなことを言ったみたいだ。

 

 「アラン、あいつらは無能じゃない。へリアンを通じて部隊長権限を11に移行したから、解散なり何なり身の振り方は自分たちで決めるさ。というかやはり接触したんだな」

 

 「あぁ、わざわざお礼を言いに来てくれた」

 

 「…聞こうか。あの中の誰かに懐かれたり、言い寄られたりはしてないか?」

 

 「言い寄るって…」

 

 苦笑しながら彼女達とのやり取りを思い返す。そもそもあまり話していないし、そんな様子は無かったと思う。

 

 「いや特に。強いて言うならガバメントは急にテンションが高くなったくらいだぞ」

 

 「む…11か、なるほどな。うん…むぅ」

 

 腕組んで唸りながら何かを考え込むドラグノフ。邪魔するのも悪いので、俺はクルーガーさんから声が掛かるまで適当に装備品を弄る。

 

 (…流石に腹が減ったな。長い一日だ…ふぅ)

 

 

──────────────────────────クルーガー

 

 

 へリアンにコールしながら、チラリと二人を見る。何か会話しながら、ディキンソンの方は分からないがSVDはご機嫌でどこか誇らしげだ。

 

 (…存外、いいコンビかもしれんな)

 

 流れている空気に硬さは無く、気安さはないが十分に打ち解けているような印象を受けた。

 

 (しかし、SVDがこれほど饒舌な人形というのは知らなかったな)

 

 そんな事を思いながら、俺はこれからの段取りを頭の中で組み立てていた。




次回の更新は遅くなると思います。深層映写は完走したいので…すみません。イベント終了くらいに書き上げたいとは思っていますが…次話はゆったり街歩きの予定。

ウィングマンの片手撃ち腕痛めそう。空中での姿勢制御は多分その反動を使ってるんですね(適当)


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