転生したら『やぶれたせかい』の主だった件 (名無しの転生者)
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転生

思いついたから書いてしまった、後悔はしていない。



〜WARNING!!〜
そのうち主人公が擬人化します。もしかしたらその他にもどんどん擬人化要素が入ってくるかもしれません。ご注意ください。





「ご……が……ぁ」

 

 ミスった。なんてことをやっちまったんだ、俺は。

 

 俺こと反道 隆真(そりみち りゅうま)は趣味の登山中にひょいと山肌から足を滑らせて深い谷底に真っ逆さまに落ちてしまったのだ。

 登山歴10年ちょいだってのに、なんてザマだよオイ。ちなみに登っていたのは日高山脈。北海道の中央南部辺りにある山だ。

 

 うつ伏せになった身体を無理やり転がせば、視界が空を映す。

 暗闇の隙間から漏れ出た小さな光が俺を照らしている。

 谷底の気温は低いが、俺の周りだけは何故だか暖かい。

 

(なんか……暖かいな。温泉に浸かってるみたいだ)

 

 

 そう思ってなけなしの力を振り絞り、自分の手を上に掲げた。

 ぐちょり、びちゃり、と音がする。

 確かにその手は暖かい液体に濡れていた。もっともそれは源泉かけ流しでもなんでもなく、自分のひしゃげた身体から吹き出た血なのだが。

 

 

(……死んだな、これ)

 

 

 自己の崩壊。現世との別れ。

 あまりにも唐突に訪れたソレを前にした俺の頭はなぜだかすこぶる冷静だった。

 死ぬ直前というのは狂気が一周回って落ち着いてしまうものなのだろうか。

 

 

(……転生とか出来ないんだろうか)

 

 何を考えてるんだよ、と独りツッコミ入れて場にそぐわない笑みを浮かべる。

 力無くあげた腕はボトリと落ち、俺はまた空を仰いだ。

 

 どうせそのうち死ぬのだ。最期に妄想したって、あるはずもない次の生に縋ったっていいじゃないか。

 せめて死ぬ前くらい、幸せな気分で俺を眠らせてくれ。

 

 

(そうだ、俺が登山を始めたのはあるゲームがオリジンだったな)

 

 

 そう思って俺が夢想するのは『ポケットモンスター プラチナ』というゲームだ。

 あのゲームには『テンガンざん』という山が存在する。アレの頂上に達した時の喜びはもうヤバかった。

 

 《確認しました。『携帯獣(ポケモン)』獲得・・・成功しました。

 続けて『携帯獣』の獲得により実行可能領域の拡大を確認・・・『神域の霊峰(テンガンざん)』獲得・・・成功しました》

 

 小学五年生の俺の心は現実世界の山を登った時にもそんな気分が味わえるんじゃねぇかと思ってたんだ。

 まあ実際俺の性に合っていたから、それからの俺は山登りが趣味になったんだよな。

 

 《確認しました。『ロッククライム』獲得・・・成功しました》

 

 俺は山のテッペンにこだわってた。

 けど、綺麗な景色を見るだけなら別に山頂じゃなくたっていいはずなんだ。三分の二くらい登れば大概満足するような写真は撮れる。俺個人としてはね?

 

 《確認しました。『写生』獲得・・・成功しました》

 

 なんで俺がそれにこだわってたかっていうとさっきのソフトの話が起因してくる。

 あの時出てきたアイツに俺ぁ惹かれたんだよね。

 

 あの登場シーン、影の中から現実世界に這い出てきたアイツの姿を俺は今でも忘れられない。

 

 

 伝説のポケモン、ギラティナ────

 

 

 《確認しました。既得スキルによる実行可能領域拡大により『反骨之竜(ギラティナ)』獲得・・・成功しました。

  付随して権利者の種族は『竜種』に固定されます》

 

 どこかの山の頂きにはそんな神秘的な場所があるんじゃねぇかなって、そんなことをずーっと信じていたんだ。

 頂きに行けば会えるんじゃないかなって。

『やぶれたせかい』への穴がポッカリ空いてたり、『やりのはしら』みたいな神殿跡があったりさ。

 

 

 《確認しました。『やりのはしら』・・・既得スキルによる実行可能領域の拡大・・・『時空神殿(やりのはしら)』獲得・・・成功しました。

 

 続けて『やぶれたせかい』への穴・・・『反骨之竜(ギラティナ)』の獲得により実行可能領域が拡大・・・『虚世界(やぶれたせかい)』獲得・・・成功しました》

 

 もちろんそんなことは誰にも言ったことはなかったけどね、恥ずかしすぎるから。

 

 そんな夢も、今日ここでおしまいだ。

 

 

 ああやばい、さっきまで無駄に意識が明瞭だったくせにだんだんと混濁してきた。目に見える景色が霞んで薄い絵の具で描いた抽象画みたいになってくる。

 ……本当に逝っちゃうんだな。実感はあまりないというか、現実を受け入れてしまってるっていうか。

 

 《確認しました。意識混濁・・・類似系として『気絶耐性』獲得・・・成功しました》

 

 今のもさっきのも多分走馬灯の耳バージョンとかそんなところだろう。きっとそうだ。

 

「来世はきっと、いいところに……」

 

 もうこれ以上は声は出ないだろう。俺は目をつむり、薄れゆく意識に抗うことをやめた。

 

 《確認しました。権利者の希望に該当する地域を検索・・・完了しました。権利者の転生位置は『ジュラの大森林』に固定されます》

 

 

 

 

 

 

 こうして反道 隆真の人生は早々にその幕を下ろす。

 

 だが彼の想いは異なる世界とこの世界に小さな穴を穿った。

 

 肉眼では見ることも叶わない、極小の次元の亀裂。そこから漏れ出た『魔素』と純然たる想いを乗せた魂。

 

 『魔素』はそのイキモノを生み出す元となり、反道隆真の想いに基づいて、身体を組み上げていく。

 

 天文学的確率で、反道隆真は異なる世界の異なるイキモノとして転生する事となる。

 

 

 種族内最年少、そしてこの世界で五体目の『竜』という種族に。

 

 




「祝え!『やぶれたせかい』の主の力を受け取り、時空を越え歪みと魂をしろしめす狭間の王。
 その名も”反骨竜 ギラティナ”! まさに生誕の瞬間である!」



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スライムとの邂逅

「ヴっ……ヴ〜ン……」

 

 あれ、俺死んだんじゃあ……あっ、ここ地獄か。

 

 あの時身体を打ち付けた痛みは何故か消えていた。

もしここが閻魔様の御前であるならば不敬にもほどがあるというものだろう。

そんな心象とは裏腹に俺はゆっくりとまぶたを上げ、のっそりと身体を起こして周囲を見回していた。

 

 ざっくり表現すれば水晶の洞窟、といったところか。

 地獄と言えばもっとマグマが溢れた地下世界みたいなところを想像していたけど……そんなことはないのかな。

 

 しかし妙に自分の視点が高いような……身体も大きいよ、う……な?

 

ふと、俺は水晶に映る自分を見てしまった。その現実を直視出来ず、直ぐに目を背けて深呼吸を始める。

 

「スオォォォォォゴオォオォ」

 

息が荒いというか、到底人が出せるような呼吸の音ではなかった。

 

 意を決してスっと視線を下に移せばそこにあるのは灰色の身体。

 後ろを振り向けば下半身はムカデじみた6本脚。それに繋がるのは薙ぎ払いをしたら強そうな尻尾。いけっ!ドラゴンテールだ!

 

 

「ギゴガゴーゴーッ!!!?」

 

 

 うえええええええぇぇぇぇええ!!!?俺ってばギラティナになってるぅぅうううぅぅぅう!!

 

 

 いや、落ち着け落ち着け。素数は数えなくてもいいが……あぁそうだ、死ぬ前の走馬音みたいなのを聞いていたよな。

 

 確か転生がどうとか獲得がどうとか言っていたような気がする。

 その全てを思い出すことは叶わないが、この惨状を見る限り俺はギラティナとして新たに生を受けたとして間違いないだろう。

 

 恐らく、きっと、maybe.

 

 ……そういえば俺のレベルは幾つくらいなのだろう?

 

 

(HGSSみたいにLv.1からスタートではないよな……?)

 

 

「ギゴッ?」

 

 

 ん?何か気配を感じたな。そりゃあポケモンになれば人より五感とかは強化されていると思うが……視認すらしてないのに気配だけを感じるのは何だか怖い……。

 

 

 いや待て、この気配なんか強くないか?

 もし俺を「ポケモン、ゲットだぜ!!」とかいうノリで捕まえようとするスーパーマサラ人だったら──

 

「ギゴガゴーゴーッ!(とりあえず逃げの一手だぜ!)」

 

 何故か俺の頭の中に『やぶれたせかい』への扉を開く方法が急に浮かんできたのでその直感に従うことにした。

 

 自分の足元で渦が巻くような感じをイメージして……

 

 

 ズゾゾゾゾゾゾ、と周りのジャリンコや鉱物が巻き込まれる音がする。『やぶれたせかい』への門が開いたのだ。

 その門の流れに身を任せて俺は洞窟を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大賢者、本当にここなんだよな?」

 

 

 ――解。肯定します。しかし現在は膨大な魔素をこの場に残した以外、対象の痕跡は確認出来ません。

 

 ジュラの森大同盟の盟主であるリムル=テンペストは顎に手を当てて思案していた。

 豚頭魔王(オーク・ディザスター)による戦乱から数週間が経過した。先程までリムルは今回生き残った約15万人のオーク達の名付けを行っていたのだ。

 

 もう少しで14万人かな、そう思っていた矢先に突如ヴェルドラよりかはやや劣るがとんでもなく禍々しい妖気(オーラ)の反応を確認した。

 

 ベニマル、ソウエイ、シオン、ハクロウらが自分が一番槍を!と言ったがここは俺に任せてくれとリムルは十数分の説得の末に御することが出来た。

 

 

 わざわざリムル自ら出向いたのには理由がある。

 

 まずヴェルドラがいた封印の洞窟に易々とソウエイらの包囲網を掻い潜って辿り着くことが出来る可能性が低いこと(他の魔王とか俺以上の実力者だったらなくはないが)。

 

 次にこの状況はリムルにも既視感がある。異世界転移してヴェルドラを捕食してから初めて洞窟の外に出た時のことだ。

 リムルは妖気(オーラ)を隠しもせずにそこら辺をうろついていたためにゴブリン達や他の魔物達を怖がらせてしまっていたのだ。

 

 もしかしたら転生者なんじゃないかな、とちょっとの期待を込めてやって来たが……結果はもぬけの殻である。

 

 

「また出てくるまで待とうかな……いやでも同じところに出てくるとは限らないし」

 

 とヴェルドラとの思い出の洞窟を去ろうとしたところで彼の大賢者が待ったをかける。

 

 ――告。時空の歪みを検知しました。早急に30m程離れることを推奨します。

 

「ほお、そっちから来てくれたのか」

 

 

 リムルがその場から少し離れるとヴェルドラが鎮座していた場所の地面に深淵が渦を巻いた。

 

 ここら一帯が水になったのかと錯覚するように地面に黒い波紋が現れる。

 雨が降っているのでも水たまりが出来たわけでもない。

 これは虚空が口を開く合図、そして反転世界の主を現し世に送り出すためのプロセスである。

 

 渦の中からバサリ、と翼が飛び出した。

 虫に食われたようにボロボロのソレを翼と形容するには少々心許ないが、不思議と威圧的な妖気(オーラ)を醸し出している。

 両翼の頂には赤い三本の棘が顔を覗かせた。平面的な翼から突起が生えるというのは些か理解がし難いだろう。

 

 渦の中から浮かび出てきた影に包まれたソレはゆっくりとリムルに赤い眼光を向けた。

 

 リムルの頬に一筋の汗が滑り落ちる。ヴェルドラ並、とは言わないがあまりにも妖気(オーラ)が強大過ぎる。

 可能な限り敵対は避けたいが、今の今まで一言も発していないソレと意思疎通が出来るかも怪しい。

 

「ハ、Hello ?」

 

 何故かリムルの口をついて出たのが英語だった。ましてや相手はドラゴン、竜だ。言ってから言葉が通じないんじゃと思ったが……。

 

 なんとその竜は翼の鉤爪(のような赤い突起)を使って洞窟の壁に何かを書き始める。

 

 ゴーリゴーリとした音がなり続けて数分後、翼で頭部の汗を拭うような仕草をした竜が出来たてホヤホヤのソレを翼で指し示した。

 

『ボクはわるいドラゴンじゃないです。ただ、しゃべれないしこのばしょのことがよくわかりません』

 

 無駄に達筆で書かれた日本語だったが、この竜の意図することをリムルに伝えるには十分なものだ。

 

「お、おう……」

 

 とりあえず目の前の竜が明確な意思を持っていることにリムルはひたすら安堵するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しゃ、写生持っててよかった……!!

 

 なんで持ってるかは十中八九あの天の声(これからそう呼称することにした)のせいだ。ギラティナが写生を嗜むとか聞いたことないぞ俺は。というか写生で字が描けるとはこれ如何に。

 

 ここで「ギゴガゴーゴーッ!」って叫んでたらギラティナ戦のBGMが流れて俺はマスターボールかなんかでゲットだぜ!!ってされていたか彼……彼女?の経験値要因にされていただろう。

 

 声があの鳴き声のままとか不便すぎだろぉ!!なんか映画アニポケの伝説のポケモンみたいに思念伝達する方法があれば……。

 

「なぁ、君はもしかしなくても喋れないんだよな?」

 

 そ、そうだ!そうなんだよ!!

 俺は渡りに船とばかりに首を振った。しかしこれが首を振るように見えたかは疑問だが。

 この身体(ギラティナ)ってどこまでが首なんだろうな?

 

「あー、じゃあなんだ。俺が教えてやるよ」

 

 ウェッ!?ホントですか!!?ならお言葉に甘えて……

 

「分かった!肯定の意思は分かったから!ちょっと無理やりかもしれないけど我慢してくれよ?」

 

 そう言うと彼or彼女は自分の周りで何かを練り上げ始めた。なんだろう、こういうのって魔力っていうのかな。

 

 

『おーい、聴こえるか?』

 

(え?あ、はい!聴こえますよ!)

 

 

 こいつ、直接脳内に……!

 

 

『よかった。今お前から溢れ出てる妖気(オーラ)を通じて会話してるんだ。別に俺だったらこれで事足りるんだが……ほら、この世界に来たってことは他の人とも接触する可能性があるだろ?』

 

 

 この世界ってことは……あ、元々俺がいた世界じゃないのねココ。ということはこの人も……なんだ、転生者ってやつなのかな。

 

 

(それはありがたいんですけど……一体どうやって?)

 

『なに、痛みは一瞬だ。君の体に俺がスキルを使うことを許可してもらえばいい』

 

(そんなんでいいなら……どうぞ、よろしくお願いします)

 

『了解!許可も貰ったことだし……大賢者、後はよろしく!』

 

 

 ――了。認可により個体名『 』への領域への侵入に成功。個体名『リムル』とのパスを接続・・・成功しました。続けてスキル『思念伝達』の同期を開始します。

 

 

(同期……?)

 

『本来ならこんな形ではスキルを得ることは出来ないんだけどな。君の中にある『携帯獣(ポケモン)』っていうユニークスキルが教わったスキルを覚えることに特化しているみたいでな……』

 

 

 そんなことを天の声が最初の方に言っていたような気もする。携帯獣(ポケモン)か、俺がやってたのはサンムーンまでなんだけど……。

 

 

(あ痛ぁッ!)

 

 突然電流のような痛みが頭に襲いかかってきた。焼け付くような感じがじんわりと頭部に広がっていく。

 頭を翼でゆっくりとさすって彼をキッと見つめた。

 

(痛いじゃないですか!)

 

『スマン!あんまりにも無反応だから痛覚無効でも持ってんのかなって思ってたけど……』

 

 

 彼曰く無理やり人様の領域に侵入することは本来すごい危険を伴うらしい。

 だが俺の身体が『竜』っていうめちゃくちゃ頑丈なものであり、スキルに教わった技を覚えることに特化したものがあったため、本人の了承を得て実行したらしい。

 

 こんなに痛いとは思わなかったよ……。

 まぁ過ぎ去ったことはヨシとしよう。

 

 

「これで恙無く会話が出来ますね」

 

「おう、そうだな!……そういえば名乗ってなかったな、俺はリムル=テンペスト。この森、ジュラの大森林の盟主をやらせてもらってる。多分君と同じ転生者だ」

 

 やっぱ転生者かぁ。

 というか盟主をやらせてもらってるってどんな大立ち回りすればそんな役職に付けるんですかねぇ?

 

「俺の名前は反道……いや、ギラティナです。『反骨竜ギラティナ』。ご想像の通り俺は転生者です」

 

 前世の名前に未練がないわけじゃあないが、せっかくのこの姿なんだしギラティナさんの名前を騙ってもいいよね?姿もまんまだし……いいよね?

 

「ギラティナ……?あぁーっ!!?」

 

 怪訝な表示をした後ポンっとリムルさんは手を叩いた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「携帯獣って『ポケモン』のことか!!いや〜紳士の嗜みとしてラノベやらマンガやらは読んでたんだけどポケモンは小さい頃にやったきりだったからなぁ……確かギラティナってポケットモンスター プラチナの伝説のポケモンだったよな?」

 

「おぉ、よくご存知で!!そうです、死ぬ前にプラチナを思い出していたらまさかこんな姿になるなんて……」

 

「俺なんか血のない身体を願ったらしいのか身体がスライムになっちまってさ〜」

 

 

 この後俺とリムルさんは彼の仲間が心配してやってくるまで現在の状況のすり合わせや前世のことで盛り上がった。

 



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テンガンざん

亀投稿とは(哲学)

まあそのうちゆっくり投稿になりますんでそこまで期待せずによろしくお願いします。


「というわけで今日から新しい仲間になるギラティナだ。みんなよろしくしてやってくれ」

 

「反骨竜 ギラティナだ。皆の役に立てるかは分からないが、よろしく頼む」

 

 

 街の広場の中心にて長い上半身をもたげて、私はここの住民に挨拶をしていた。

 ちなみに時刻は俺が転生してから三日目となる。それまでどこにいたかっていうとあの洞窟で自分の出来ることを把握していたのだ。色々出来すぎてちょっと怖いのだが。

 

 そういえばリムルがちょっとしたお立ち台があるぞ?と言ってくれたが「重さ750kgだから……」と遠慮したらあぁそっか、と取り下げてくれた。

 

 さすがに私が立つためだけに強化魔法や希少鉱物を使ってもらうわけにもいかない。まず身長が十分でかい(4.5m)ので目立たせるという点ではあんまり要らなかったりもする。

 

 

 昨日リムルを迎えに来た主要メンバーはことの顛末を知っているために今は冷静だが、街の住民はそうとも限らない。

 

 世界には竜種が四体存在しているが、その名に当てはまらない竜がここに存在してしまっていることが原因であろう。

 

 多分よくみんな知ってるヴェルドラ(俺がここに来る前にはあの洞窟にいた竜種らしい)とかだったら諸手を挙げて歓迎されたと思うが。

 

「いきなりの私の出現で怪訝に思う者も多いだろう。何か質問があれば出来る限り応えよう」

 

 ちなみに私はここで住民達と話す前に少し話し方を変えた。

「竜種ってのは威厳がないとダメなんじゃないか?」とリムルに言われたので人に失礼のないレベルで尊大な話し方をすることにしたのだ。

 

 確かに「コイツ竜だよ」と言われたやつがおくびょうな性格をしていれば「ホンマか?」と思われても仕方あるまい。

 性格は対外的にも「いじっぱり」じゃないとダメなのだ。

 

「ハイっす!」

 

「む、確かゴブタ君だったか。何かな?」

 

 目立ちたがり屋なのだろう。

 昨日リムルと一緒に主要メンバーは顔合わせをしている。彼はその日ガクガクと震えていたが……恐怖を克服したのだな。

 ……そういえばゴブタの恐怖耐性が上昇してたような、とリムルが呟いてた気がする。

 

「ギラティナさんはどこからここにやってきたんっすか?」

 

「私がやってきたのは暴風竜ヴェルドラのいた封印の洞窟からだ。何もそこにずっといたという訳では無いぞ?私が生まれたのはつい三日前なのだからな」

 

 

「「「「「えええぇぇ!!?」」」」」

 

 

 リムル曰く、竜種というものは「個にして完全なる者」「長い生の間に何度も消滅と復活を繰り返している」のだという。

 ならば「つい最近世界の裏側で消失してその復活の拍子に表の世界に出て来てしまった」という荒唐無稽な作り話も私のスキルの関係上、信憑性を帯びるのではないだろうか?

 

 私の『やぶれたせかい』はどこの誰にも(リムルの大賢者にさえ)予想出来なかった空間なのだから。

 

「なるほど、そんな事情が……」

「後ろからこの世界を見守っていたんですね!」

「ギラティナ様……!」

「かっこい〜!!」

「ギラティナ様っ!!」

 

「ギラティナ様〜!!」

 

「「「「「「ギラティナ様〜!!!」」」」」」

 

 

 掴みは上々の様子。

 リムルを見ればグッジョブサインを出してくれている。嬉しい限りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大森林のどの辺りなら山建てても大丈夫だろうか?」

「まずどんな山をお建てになるのか聞かせてもらってもよろしいかしら、ギラティナ様」

 

 俺は街の住民達に紹介され、様々な質問に答えた後にドライアドという種族のトレイニーさんという人物の元に来ていた。

 何故だか『さん』付けしたくなるんだよね、とリムルが言っていたがその理由も分からんではない。委員長オーラとでも言うのだろうか?

 ちなみに現在位置は街にある応対用の建物の外だ。4.5mの巨体では中に入れないからだ。

 

 

「じゃあ模型ではないが、ちょっとした丘レベルのものを近くに建てるからそれを見て判断して欲しい」

「了解しました。では外へ出ましょうか」

 

 

 俺が何故トレイニーさんに許可を取ろうとしているのかというと……簡潔に言えば『テンガンざん』を建てるためだ。

 

 多方面からお前は何を言っているんだ、と頭を心配させる発言だと自分でも思う。

 だが私にはそれを実現可能な力があるのだ。

 

 そう、ユニークスキル『神域の霊峰(テンガンざん)』である。

 このスキルは私が死に際に『テンガンざん』のことを思い出していたから入手したと思われるスキルだ。

 文字通りにテンガンざんをぶっ立てるスキルである。一応規模は縮小拡大自由自在なので割と融通は効く。

 

 いや別に建てなくてもいいよね?と思うやつもいるだろう。

 だがしかし、私には何故だかこのスキルの力が分かる。まあ自分で持ってるし理解出来てなきゃ使おうとも思わないが。

 このスキルで建てたテンガンざんには……ポケモンが出現する。

 

 そう、ポケモンが!!

 もし手なずけられればこの街の労働力に使えるのだ!まぁ、手なずけられればの話しなのだが。

 

 そしてテンガンざんからの資源も目的の1つにある。確かテンガンざんには「とくしゅなじば」が発生している場所のはずなのでこの地域にはない魔鉄鉱以外の資源も期待されることだろう。

 

 そういったのと他にも色々な思惑があってとりあえずリムルさんに相談したところ「いんじゃね?でも一応トレイニーさんには相談しといた方がいいかもな」との返事を貰ったので今こうしているわけなのだが。

 

「では建ててもらっても?」

 

「了解した」

 

 私が両前足を強く踏み鳴らすとボコリと目の前の地面が隆起して瞬く間にテンガンざんの一部がせり上がった。

 今回生成したのはテンガンざんの山肌と鉱床の一部だ。降ってもいないのに雪が積もっているのはこれがデフォルトの設定だからだろう。

 あ、溶けてきちゃった。

 

「この高純度の魔素は……いえ、違う。魔素ではないならこれは何?」

 

 トレイニーさんがしきりに山肌を触ったり、雪に触れたりしながら何か考え事をしている。とりあえずこのままだと難航しそうなのと、この山についての基本情報を教えてなかったと思い出して解説を始めることにした。

 

「この山……いまは山肌しか生成していないが『テンガンざん』という山だ。山頂……というか上層部はほぼ雪に覆われ、内部は広大な迷路が広がっている。まぁこのサイズではそうは見えないかもしれないがな」

 

「『テンガンざん』……ギラティナ様、その山には何か特別な成り立ちがあったり強力な魔物が住んでいたりするのでしょうか?」

 

「ん?あぁ、なんでも時を司る竜と空間を司る竜がいた伝説があるらしいが……」

 

 ふと見ればビシリ、と音が聞こえそうなくらいにトレイニーさんが固まっているではないか。

 何か自分があずかり知らない粗相をしでかしてしまっただろうか。

 大丈夫か、と声をかければ眉間に手を当てて大丈夫です、と答えられた。いや見るからに大丈夫そうではないのだが。

 

「いえ大丈夫です、ギラティナ様はお気になさらず。ところでこの山の鉱物には不思議な力が宿っているようですね」

 

「不思議な力?」

 

「竜種というものはその場にいるだけでも周辺の土地に影響を及ぼします。それが二体も同じ地域にいるとなれば……」

 

 聞くところによると竜種から溢れ出す妖気は周囲に多大な変化をもたらすそうだ。

 

 暴風竜ヴェルドラのいた封印の洞窟がいい例だろう。あそこはヴェルドラの妖気(オーラ)に数百年ほど当てられ続けたことにより鉱物や植物、果ては魔物の組成にまで影響を及ぼしていたそうな。

 

「時を司る竜と空間を司る竜がいたとなれば、この山はその二つの性質に影響されたものがあると考えても不思議ではないですね」

 

「ギラティナ〜!交渉は上手くいったか?」

 

 おっとリムルが来たようだ。ついでだしコレを鑑定してもらおうかな。

 ディアルガとパルキアによる妖気(オーラ)の影響も知りたいっちゃ知りたいし。

 

「いや、現在その真っ最中だ。ところでリムル、コレを鑑定して欲しいのだが」

 

 そう言って俺は翼の鉤爪(そう呼称することにした。というかそれ以外にどう形容したらよろしいのか)で器用にテンガンざんの一部を削ってリムルに差し出した。

 

「コレが『テンガンざん』の鉱物か……えーとなになに?……『時空石』ィ!?」

 

 リムルの『大賢者』の解析によれば『衝撃を与えると一定の空間が切り抜かれその空間を過去の状態に戻すことができる』らしい。

 その他にも魔素の貯蔵が可能な所謂電池としての使い方も出来なくはないとか。

 

 ただどのくらいの量で自分の思った通りの使い方が出来るのかは『大賢者』でも判断し兼ねるとのことだった。

 

 これを聞いたトレイニーさんは「シス湖とカナート山脈の間になら建ててもいいですよ」と言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで早速建てた。

 大森林の盟主であるリムルと大森林の管理者のトレイニーさんから了承を頂いていることだし別に大丈夫……だろう、多分。

 

「ほぉ〜、随分と壮観な景色になるんだなぁ」

「まあ……北海道の日高山脈を元にしているとも言われているし、それはそうなんじゃないか?」

 

 リムルが一仕事を終え、こちらにやってきた。

 だが現時点この山ですることはない。

 ポケモンの出現にも相応の時間がかかるようだし、時空石は扱いが難しいために後回しになってしまったからだ。

 

「それはそうと……これ建てて私が怒られたりしないんだろうか?」

 

「それは分からん!!元々草原だった所に許可が降りたとはいえ山をぶっ立てるようなヤツを他の国がみすみす逃しはしないと思うけど……まぁ竜だし?」

 

「それもそうか」

 

「「アッハッハッハッハッ!!」」

 

 

 

 1週間と数日後に武装国家ドワルゴンの王が山の乱立と豚頭魔王(オーク・ディザスター)の討伐の件で此方にやって来ることはこの時の私は知る由もなかった。

 

 

 




みんな!擬人化タグは見たな!ちゃんと見たよな?

つまりはそう、そういう事だぞ?ブラウザバックするなら今のうちだからな?


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現時点でのステータス

投稿場所間違ってました。ご迷惑おかけします。

皆様見てくれているようなのでとり急ぎ作ってきました。
もしかしたら改稿される可能性もありますので「ステータス?そんなのもあるのか」といったくらいで見ていてくれると助かります。




ステータス(第三話時点)

 

 名前:ギラティナ (反骨竜ギラティナ)

 

 種族:竜種

 

 加護:なし

 

 称号:"世界を見つめる者"

 

 魔法:なし。強いて言うなら後述スキルの『とくしゅわざ』が該当する。

 

 技能:ギラティナ固有スキル 『反骨之竜(ギラティナ)

 

 ユニークスキル『携帯獣(ポケモン)』『神域の霊峰(テンガンざん)』『虚世界(やぶれたせかい)

 

 エクストラスキル『時空神殿(やりのはしら)』『ロッククライム』『写生』

 

 耐性:気絶耐性

 

 

固有スキル詳細

 

反骨之竜(ギラティナ)

内容:『飛行』『気配察知』『魂魄操作』『タイプ相性』『■■■操作』

 

詳細

『飛行』

空を飛ぶ能力。重力の有無に左右されずに自由に空を回遊出来る。

 

『気配察知』

対象の気配を察知することが出来る能力。

 

『魂魄操作』

魂の行く末や人の魂のあり方などを見ることが出来る他、現し世から離れそうな魂を一時的に魂を別の場所に保管することも可能。

 

『タイプ相性』

ドラゴン、ゴースト、こおり、あく、フェアリータイプの こうげきは こうかは ばつぐんだ!

どく、みず、でんき、くさ、ほのお、むしタイプの こうげきは こうかは いまひとつ……。

ノーマル、かくとうタイプの こうげきは こうかは ない。

 

『■■■操作』

非常に強力なスキルのために『世界』から封印がかかっている。

 

 

ユニークスキル詳細

 

携帯獣(ポケモン)

内容:『ステータス閲覧、■■■■■■、技能学習、技能行使』

 

詳細

『ステータス閲覧』

ポケモンの能力値を見るように自身の状態異常や現時点での技構成を見ることが出来る。

Lvという概念はこの世界にはないので指標替わりに比較対象者との戦闘力グラフのようなものが表示出来る。

 

『■■■■■■』

現時点では解放されていない。何かに出会うことが必要らしいが……?

 

『技能学習』

誰かしらからスキルを教わることで、それをものにできる力。ただし彼自身との技やスキルの相性が悪いと覚えることは出来ない。

ドラゴン・ゴーストタイプに属するようなものは覚えやすい傾向にある。

 

『技能行使』

ギラティナがゲーム内で覚える可能性のある『わざ』や『とくせい』を使えるようにするスキル。

ちなみに彼に元々セットされてある『わざ』は『りゅうのはどう』『シャドーダイブ』『ストーンエッジ』『かげぶんしん』の4つ。

 

別な『わざ』を使うためにはどれかを消さなければならない。即時行使が出来るのは四種類までで、他の技に変更する時には15秒程クールタイムが必要になる。

 

『とくせい』は『プレッシャー』と『テレパシー』を同時発動中。彼は夢特性ギラティナの存在を知らなかったために発覚後に落ち込むこととなった。(第二話参照)

オリジンフォルムにチェンジすると『ふゆう』が追加発動する。

 

 

神域の霊峰(テンガンざん)

内容:『神山作成』『再構築』

 

詳細

『神山作成』

自分と周囲の魔素を使って文字通りの『テンガンざん』を作成する。もちろん中にはポケモンが出現するぞ!

 

『再構築』

テンガンざんの外観内装を魔素を元に再構築する。おつきみやまみたいな外観にしたり、チャンピオンロードみたいな内観にすることも出来る。

もちろん中のポケモンもそれに伴って出現する種類が変わる。山や洞窟から逸脱したものには再構築出来ない。

 

 

虚世界(やぶれたせかい)

内容:『開門』『解放』『再構築』

 

詳細

『開門』

『やぶれたせかい』への扉を開く能力。出入口ではなく入場のみの一方通行である。

敵意ある者の他周囲の物品を『やぶれたせかい』に送り込むことが出来たり、ただ門を開けることも出来る。どこぞのフレンチクルーラー忍者のような芸当も可能。

現時点では約一分しか展開することが出来ない。

 

『解放』

『やぶれたせかい』内にあるものを外に吐き出す能力。出入口ではなく退場のみの一方通行である。

こちらも現時点では約一分しか展開することが出来ない。

 

『再構築』

周囲の地形やら物品やらを空間内に放り込むことで内装を変えることが出来る能力。

 

 

エクストラスキル詳細

 

時空神殿(やりのはしら)

 

『やりのはしら』を作り出すスキル。

スキル所有者が許可したものはこの地から1度行った場所への一方通行ワープが可能。

『やぶれたせかい』への扉を常時開くことが出来る唯一の場所。

その他にも何らかの力があるようだが……?

 

 

『ロッククライム』

岩肌や山の斜面を滑るように昇り降りが出来る。

 

 

『写生』

事物を見たままに描くスキル。絵だけでなく達筆な文字も書けるぞ。

 

 

 




ヴェルドラって名前は誰がつけたんだろうなぁ……


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意趣返し

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

『おれはみんながお気に入りしてくれて「ハッピーうれピーよろぴくねー!」って気分でおれのお気に入り欄を見ていたと思ったらいつのまにか次の話が出来上がっていた』

な…何を言っているのかわからねーと思うが
おれも何をしていたのかわからなかった…

頭がどうにかなりそうだった…
予約投稿だとか書き溜めを出しただとか
そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


(まぁつまるところみんなのお気に入りが嬉しくて筆が動きまくったんですね)

03/18︰一部誤字、表現を修正。誤字報告ありがとうございます。




「ふんふんふっふっふっふ〜ん」

 

 どうも、ギラティナだ。

 現在私はテンガンざんの頂上にいる。

 ここにやりのはしらを設置するのはある意味必然ではないだろうか、いやそうに違いない。

 

 ここ以外にやりのはしら置いたってなぁ……何というかしまらなさそうだし。やっぱり置くなら山の上!そしてテンガンざんの頂上だよね!!

 

「ギラティナ様〜!オボンの実が芽を出し始めましたぞ〜!」

 

 そんな感慨に耽っていた私の元にご丁寧にもテンガンざんのダンジョンを正規ルートで辿ってやりのはしらに入ってきたのは竜人族(ドラゴニュート)のガビルという男だ。

 なんでも親父に勘当されたらしく、それでリムルの配下に加わったとのこと。

 彼をここに入る許可をしたのには理由がある。それは『きのみ』栽培の仕事を任せたからだ。

 

 その前は先行隊としてテンガンざんの内部を配下と共に冒険してもらっていたが、途中で「紅白の球を見つけました!」と空を飛んで来た時は驚いたものだ。アンタらこの高度まで飛べるの!?登山するのにひでんわざいらないの!!?

 

 そして紅白の球……モンスターボールもどきをテレキネシスを使って慎重に開けた。すると中に入っていたのは『オボンの実』だったのだ。

 

 ヒポクテ草には遠く及ばないが回復効果のあるこの実や他の状態異常を治す果実も発見されたのでリムルに相談。

 とりあえずは有事の際にも使うかもしれないのと、ヒポクテ草も生産体制が整うまでは無限に生え続けるわけでは無いのでコストカットに一役買うだろうと見込んで栽培を開始した。

 

 ガビルは並行して封印の洞窟でのヒポクテ草の栽培も兼任している(リムル曰くアイツどこか抜けてるんだよなぁ、とのこと。この前もヒポクテ草と雑草を取り違えてスライムタックルを食らったらしい)。

 一方通行なのがネックだが、やりのはしらから現在ガビルらが住処兼仕事場としている封印の洞窟内には一瞬で送り返せるのでそこまでの重労働では無いはずだ。

 

 

 ちなみに栽培場所はテンガンざんの山肌のうち、ポケモンが出現しそうな草むらのあるちょっとした平地を見つけたためにそこで始めてもらった。

 

 しかし数日様子を見ていたが、どうにも彼らの動きが鈍い。

 どうかしたのか、と聞けば元々我々は湖近辺に住んでいたのでこの寒さは辛いものがありますな、とのことだそうだ。

 そういえばあられが降ってもおかしくない雪山で栽培出来るとか私は何を考えていたのだろうか。

 申し訳ないとガビルらに謝り、「にほんばれ」を使ってみた。

 

 結果から言おう。生育問題もガビルらの体調もどちらも解決した。

 この世界では「にほんばれ」は「5ターンのあいだひざしがつよいじょうたいにする」ではなく、「指定した区域を晴れの状態にする」といった効果のようだ。

 

「あまごい」もしてやろうかと思ったが「後は我々が成果をご覧に入れましょう!」とのことだったので任せた。どうやら雪解け水を利用して効率的に水やりをしている模様。うむ、感心感心。

 

 

 さて話を戻そう。ここまでやったが結局植えて2週間は芽が出なかったので心配だったのだ。

 

「……そうか、よくやったガビル!引き続き頼むぞ!」

 

「お任せ下さい!あ、ところでそろそろ封印の洞窟に戻りたいのですが……」

 

 ガビルが申し訳なさそうに言う。

 毎日送っている気がするのだが……あ、お任せ下さいと言った手前ということかな?そこまで謙虚になる必要はないと思うが……。

 

そういえば労働を任せているにも関わらず、私は彼らを労ることをしていなかったな。

 

う〜む……おっ、そうだ!

 

 

「ガビル、そしてお前達。乗れ」

「……は?今なんと?」

 

私はガビルらに背を向けて、尻尾で背中をつついた。

 

「乗れ、と言っているんだ。私の頼みが聞けないのではなかろう?」

 

「アッハイ!乗らせて頂きますとも!ええ是非!」

 

 ガビルら数人(ヒポクテ草よりも規模が少ないのと、それ程手間もかからないので2桁にも満たない人数で『きのみ』の生育現場は稼働中なのだ)を背中に乗せて重力を感じさせない動作でフワリと飛び立つ。

 

「いつも世話になっている礼だ。ちょっとした遊覧飛行と洒落こもうか」

 

「「「「は、ハイ〜ッ!!!」」」」

 

 平面的な翼を羽ばたかせてゆっくりと空を回遊する。ガビルらの方を見れば目を輝かせて眼下に広がる景色を眺めていた。

 何時も見ているだろうに、と思ったが自分で飛んで見る景色と何かに乗って見る景色とでは感じるものが違うのだろう。

 

 ……もう少しサービスしてやるか。

 

「出血大サービスだ。お前達をこれから雲の上に連れて行ってやろう」

「はぁ……ってええぇ!!?」

 

 竜人族(ドラゴニュート)といえど元が蜥蜴人(リザードマン)。成層圏まで行ったことは多分ないだろう。羽が固まって墜落とか目も当てられない。

 でも「かえんほうしゃ」で凍った箇所を溶かすみたいな芸当は竜人族だし出来そうな気もするけど。

 まあともかく今の反応からして行ったことはないようだな!

 

「しっかり掴まってろよ!いくぞっ!」

 

 テレキネシスでガビル達を自分の身体にガッチリと固定。そのまま一気に天に向かって加速する。

 

 数分もすれば既に雲は眼下にあり、お天道様がこちらを覗いている。

 

「気分はどうだ?」

 

「さ、さいこうれすぅ……」

 

 後ろを見ればガビル以外は気を失っていた。なんという事だ……まさか自分で飛ぶのはいいけど他人で飛ぶのはちょっと無理ですとかそういうアレだったのか?

 

「酔いが覚めるか目覚めるかまではここをブラブラしていよう。なあに、まだ時間は大丈夫だ。『やぶれたせかい』を通じていけば直ぐに着くさ」

 

 はっはっは、と笑って私は回遊を始める。

 ガビルに起こされた竜人族達は広がる雲海を眺めて思い思いの感想を口にしていた。

 驚嘆や感動が多くこちらも連れてきたか甲斐が有ったというものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく回遊した後、そろそろ封印の洞窟に彼らを送り届けようかと思った時にリムルから「思念伝達」で連絡が入った。

 

『ギラティナ!聞こえるか?今どこにいる?』

 

「今は今日のシフトで働いていた竜人族(ドラゴニュート)達を乗せてテンガンざん上空の雲海を回遊中だが……何かあったのか?」

 

 随分と声色が焦っていた。

 何か緊急事態でも起こったのだろう。

 

「私はすぐそちらへ向かえばいいか?」

 

『出来るだけ早く頼む。なんで回遊してたかは後で聞かせて貰うからな。あ、場所分かるか?』

 

「思念伝達をこのまま繋げていてくれれば行けるぞ」

 

『了解!』

 

 

 

「ガビル、聞いていたな?」

「もちろんですとも!リムル様の一大事、我輩達も同行させて頂きましょう!」

 

 さっきよりも手荒くなるかもしれないが……今は何があったかは分からないが緊急事態だ!四の五の言っていられない。

 

竜人族(ドラゴニュート)達よ、すまないな」

 

 は?と竜人族(ドラゴニュート)が言葉を返す前に俺と背中の竜人族(ドラゴニュート)は『やぶれたせかい』に突入して雲海から姿を消す。

 

 すごく急いだので後ろを気にする余裕はあまり無かった。

 この後ガビルらが気を失っていたのは言うまでもない。

(気絶から起きたとしても直ぐに万全な状態になれるとは限らないので、ガビルたちはやぶれたせかいの中で休憩を取らせました)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お久しぶりでございます」

 

 カイジンが片膝と片手を地につけて頭を垂れた。忍者が指令を待つ姿勢と言えば分かりやすいかもしれない。

 

「ガゼル王よ」

 

 街のはずれにその場所には似合わない程のフルプレートの騎士達が集結している。

 カイジンは天翔騎士団(ペガサスナイツ)って言ってたけど……まさかまさか王様まで来るとはね。

 

 この王(ガゼル王)と俺は認識がある。

 大臣のベスターの罠にハメられて有罪寸前だった俺達(カイジンらドワーフ鍛治職人達も被告人だった)はこの王様の公明正大な判決のおかげで事なきを得たわけなんだが……今日はいったいどんなご要件でここに来たのだろうか?

 

「王よ、本日は何か御用があるのでしょうか」

 

 カイジンが俺の気持ちを代弁するように話してくれた。すると王は軽めに伸びをして悠然と話し始める。

 

「なに、大した用ではない。そこなスライムの本性を俺自ら見極めてやろうと思ってな」

 

 今日は王ではなく一私人として来た、と周りを見回しながら言った。

 まぁ、そりゃあ物々しくなっちゃうよね。普通王様はそんな気軽に国外に出歩かないもんね。

 

 

 でもちょっとマズいかも?

 俺は貶されてるとは思ってないが(煽られてるとは思っているけど)鬼人たちが見るからに爆発寸前なのだ。王よ、わざとやっているのではないでしょうね?

 

 後ソウエイが地味に怖い。口角が三日月型に歪んでるんだもん!怒りを通り越して別な領域にいっちゃいそうだし……。

 

「……あー、今は裁判してるわけじゃないしさ。こっちから話しかけてもいいんだよな?」

 

「もちろんだ」

 

 おっと、ガゼル王のお付きの人が抜刀しそうになったな。止めた人GJ!

 

 下がっておれ、とガゼル王が低く口にするとその二人はすごすごと下がって行った。

 どこか不服そうな顔をしているが……まぁそこは許してくれ。

 

 

「まず俺から名乗ろう。名はリムルという」

 

 徐々に人型に身体を変化させながらガゼル王をしっかりと見つめた。多分ここで目を逸らしたら負けな気がするのだ。

 

「スライムなのはビンゴだけど、だからって侮るのはやめてもらおうか」

 

 完全に人化形態となり、シズさんの仮面をゆっくりと外す。天翔騎士団(ペガサスナイツ)たちがザワザワしているがこの程度で驚いてもらっちゃあ困るなぁ。

 

「これでも一応はジュラの森大同盟の盟主なんでな」

 

 ガゼル王は眉間ひとつ動かさない。

 スキの一つでも見せてくれりゃあ良かったが、そう上手くはいかないか。アッチの準備が整ってるといいんだけど。

 

「これが本性って訳でもないんだが、こっちの方が話しやすいだろ?だからそんなに警戒しないで欲しいんだけどな」

 

「それを判断するのは俺だ」

 

 ぬぅ、確かにそうだな。

 でもさガゼル王、なんで剣を抜いてるのかな?そして切っ先を何故こっちに向けてるのかな……?

 

「言葉は不要。貴様を見極めるにはこの剣一本で十分だ」

 

「この森の盟主などという法螺吹きにはキツイお灸を据えねばならんようだしな」

 

 王はニタリと人の悪い笑みを浮かべた。ちょっと後ろの鬼人たちが限界の限界を超えそうなのでそろそろ煽るのは勘弁してもらいたい。

 

 

 ────でも、そろそろだな。

 

 そんなことを言外に思うとひらりと俺の目の前で葉っぱが舞った。

 

 その葉っぱの出現にタイミングを合わせるかのように、またあの時を焼き直すように、地面に黒い波紋が浮かび始める。

 

 波紋はひとしきり浮かび上がった後、やがて雨上がりの水たまりのように鳴りをひそめる。

 俺は知っている。これはヤツが出てくる合図なのだ。

 

 突如虫に食われたような平面的な黒い翼が、虚空の中からザバリと顔を出した。

 両翼端についた真紅の鉤爪が地面に勢いよく突き刺さると、ゆっくりとその主を現し世へと持ち上げる。

 

 深淵の陰に濡れたその体は神々しささえ感じられよう。

 ガゼル王や天翔騎士団(ペガサスナイツ)もさすがに驚きを禁じ得ない様子だ。

 もはや、俺の口角が良い方向に曲がることは誰にも止められやしなかった。

 

 ヤツが紅い眼光をギラつかせれば陰は溶けるように地面に落ちる。もちろんその跡はどこにも残らない。

 

 

「我らが森の盟主に対して傲岸不遜ですよ。ドワーフ王」

 

「そうだな、些か傍若無人が過ぎるのではないか?まさかとは思うがリムルの妖気(オーラ)を見抜けないワケではないだろう?」

 

 

「よう、トレイニーさん。そして、ギラティナ」

 

(タイミングバッチリでした?)

(グッチョブだぜギラティナ!それに、トレイニーさんも!)

(私はギラティナ様にいいところを根こそぎ持っていかれたような気がしますが……)

 

 実は天翔騎士団(ペガサスナイツ)が来た時点で既に俺はギラティナとトレイニーさんに合図を送っていた。

 元々は俺が大森林の盟主である証拠として二人にやって来てもらおうとしていたのだが、ガゼル王が中々に俺を煽ってきたので意趣返しとして二人に絶好のタイミングで出てきてもらおうという作戦に変更したのだ。

 

 効果は上々……だけど何か虎の威を借る狐のような気分だ。

 

 

「ところでさ、ガゼル王」

 

 

 

 ────どこの誰が法螺吹きだって?

 

 

 

 

 ……俺はこの時前・今生含めても過去最高の悪い顔をしていた気がする。

 

 




03/18時点ではラムパルドが人気ですね。

03/21には締め切らせていただきますのでご注意を!

03/19現在ではレアコイルが人気ですねぇ!


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ガゼル王

「作者?何やってんだよ?作者!」

「ぐっ!うおぉぉおおおおあああぁぁっ!!」(文字打ち)

「はぁはぁ、はぁ……。なんだよ、結構書けんじゃねぇか」

「俺はSS作者だ。こんくれぇなんてこたぁねぇ」

「そんな…俺らなんかのために…」

「(睡眠時間を削っても)期待を守んのは俺の仕事だ」

「でも!」

「いいから行くぞ!皆が次の話を待ってんだ」

「(モチベ尽きるまで)俺は止まんねぇからよ…お前ら(の感想やお気に入り)が止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!だからよ、止まるんじゃねぇぞ…」


お目汚し失礼しました。
今回はガゼル王 VS リムル の回です。
あんまり原作と変わりませんが、そこはご了承ください。

ギラティナくんの出番を期待していた方には申し訳ありません。今回はリムルが主役です。

次回はしっかりギラティナ出ますのでよろしくお願いします!




 天翔騎士団達(ペガサスナイツ)が硬直する中、ガゼル王は堪えきれなかったのか額を押さえて笑い始めた。

 

「ふはっ──ふははははは!!!」

「森の管理者がいうのであればそれは真実なのであろうな!法螺吹き呼ばわりは撤回するぞリムルよ」

 

「して、貴殿は何者だ?俺の見立てでは、かの暴風竜並の妖気(オーラ)を持っているようだが……?」

 

 笑っていたと思えば一瞬でその顔は国を治める者のそれに変わっていた。

 一国の王という立場上、リムル以上にギラティナは見逃せない存在なのだろう。

 ヴェルドラレベルの者が突如として現れて、無視できるほどの者はこの世界にはいないのであろうが。

 

「あー、こいつは「自己紹介くらい自分でさせてくれないだろうか?」……おっとすまん。そんじゃあどうぞ。」

 

「私の名はギラティナ。反骨竜ギラティナだ。つい少し前にこの世界に顕現して、リムルたちに良くしてもらっている。以後お見知りおきを」

 

 ガゼル王の方は予想していたのか眉を少しひそめる程度で済んだが天翔騎士団(ペガサスナイツ)の面々は気が気でなかった。

 竜──竜種である。

 リムルよりもこのギラティナとやらが法螺吹きであってくれないだろうか、満場一致でそう思っていた。

 

「……驚いたな」

「紳士的なところが、ということか?」

「あぁそうとも。暴風竜が封印されたのは300年前、その頃はまだ俺も小童だったがその暴君ぶりは嫌という程耳にしている。だからと言えばそうなのだが、竜種というものは皆そのようなものかと思ってな」

 

 実際はあまりそんなことはないのだが、ヴェルドラが世間一般に認知されている竜種なのでそれは仕方ないことなのかもしれない。

 

「……まぁそんなことはないかもしれないが、一概には言えないな。先程言った通り、私はつい少し前にこの世界に顕現したんだ。その顕現の過程で過去の記憶はゴッソリ抜け落ちてしまったんだがね」

 

「なるほど。長くなりそうだしここらで話を切っても構わないか?申し訳ないが俺がここに来たのは貴殿が目的ではないからな」

 

豚頭帝(オークロード)を倒した俺を見定めるため、だろ?いいぜ、それがお望みだっていうならジュラの大森林の盟主として断る訳にはいかないな」

 

 暇そうにしていたリムルがヒョイっと話に入ってきた。クロベエの剣で鯉口を切っている様子から、彼もガゼル王の提案に乗り気であることが窺える。

 

「……では立会人はわたくしが行いましょう」

 

 完全に空気だったトレイニーさんがここで口を開いた。ギラティナには果し合い(本気で殺ることはないと思われるが)でのルールはよく分からないのこの提案は渡りに船だった。

 すごすごと六本足で器用に後ろに下がってその光景を見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始め!」

 

 速攻で決めてくるか、と思ったがガゼル王にそんな気はさらさらないようだ。

 まるで俺を品定めするかのような……いや、実際してるんだったな。ついでに微動だにしないし、初撃は俺に譲るといった感じか。

 

 

 ならまずは────小手調べだ。

 

 

 剣を持つ両手にそれなりの力を込めて袈裟斬りを繰り出す。

 が、ガゼル王は逆手に剣を持ち、易々とその攻撃を防ぐ。

 片手で防がれたことに若干の悔しさを滲ませるが、感傷に浸っている場合ではない。

 

 すぐさま後ろに飛び退き、次の技をかける。

 フェイントにワンステップを踏み込み、顔面を刺突せんと剣を突き出した。

 

 先程までガゼル王の頭部のあった空間に風切り音が響く。頭を少しだけ斜めにずらすことでガゼル王はこれを回避してみせたのだ。

 

(この距離で見切れるのかよ!!?)

 

 当然がら空きになった剣をガゼル王は見逃さなかった。逆手持ちを本来の構えに戻し、横に一閃。もちろん片手だ。

 

 バックしながらそれを受けるが、馬鹿みたいな力が腕にビリビリと伝わってくる。

 そこらのモンスターならこれ一つで腕がぶっ飛んでいた可能性だってあるな。

 

(なんつーやつだよ……。だけどみんなに大見得切った手前──)

 

 「負けらんねぇっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 ……なんだよ、これ。

 どんな角度で、どんなスピードで、どんなフェイントを混ぜて斬り込んでも、まるでそこに何もないかのように受け流される。

 

 また一度バック宙で距離をとり、剣を構えた。

 

 しかも腹の立つことに……この野郎、開始位置から一歩も動いていない。

 

「どうした?この程度か?」

「うるさい!まだ本気は出してないだけだ!」

 

 スキルを使えば悠々と勝つことが出来るだろう。しかしそれでは対等な条件とは言えない。

 (コレ)以外で勝ちを掴み取っても、精神的敗北だ。試合に勝って、勝負に負けるというやつだろう。

 

 

 ああクソ、身長もデカいけどそれ以上にガゼル王がでっかく見える。纏う気配が尋常じゃないのも起因しているのか?

 

 ────えぇい、悩んでいたって仕方ない!とりあえずやるだけやってやらぁ!

 

 重心を下においてグッと勢いよく地面を蹴りだす。

 次は何を試してみようか、そう思いガゼル王の顔を見やる。

 

 (?なんで笑って――)

 

 

「ッ!?」

 

 

 ガゼル王の口角が歪んだと思うと俺の体は自由が利かなくなっていた。何だ……動けないぞ……!!

 

 

 ――告。エクストラスキル『英雄覇気』です。対象を萎縮させ、屈服させる効果があります。

 

 

 何だその出鱈目なスキル!?いや俺も大概だけどさ。

 大賢者、対抗策は?

 

 

 ――解。気合いです。

 

 

 は!?スリーツーワンダーッ!!ってか?大賢者なのになんて頼りにならない返事だ……。

 

「ここまで、か」

 

 ガゼル王は何か諦めが着いたような、つまらなそうな表情を浮かべていた。

 

「そろそろ終いといこう」

 

 ザリ、とここで初めて彼の足が動く。

 まずい、このままじゃ正中線を一刀両断。唐竹割りで俺の敗北決定だ。いやスライムだから多分死にはしないと思うけど。

 

 気合いだって?あぁ分かってるさ。お前(大賢者)はいっつも正しいもんな。

 

 

 「う……」

 

 

 よし声が出た!後は気合いだ!

 ファイトー!!いっぱぁ〜つ!!!

 

 

 「うおぉぉおぉあぁあぁぁっ!!!!」

 

 

 ブチリ、と俺の中で何かが弾けた気がした。

 

 

 ――告、『英雄覇気』の抵抗(レジスト)に成功しました。

 

 

 大賢者、やっぱりお前は最高だ!!

 

 

「……解けたぞ」

 

 ブレた剣筋を正してガゼル王を見据える。

 

「そう来なくてはな!」

 

 おっとさっきのつまらなさそうな表情はどこへやら。キラキラ目を輝かせてるよ。

 

「では次はこちらからだ」

 

 そう口にすると俺の眼前からガゼル王が消えた。

 勝負放棄?それはない。ならば答えは一択、攻撃だ。

 

 いや、前にもこんなことあったぞ……俺の魔力感知を掻い潜って来たヤツがいた。誰だったか、思い出せないが――

 

 

 ボッ!と空気が割れる音と共にどこからともなく斬撃が俺に襲いかかる。直前にうっすらとだが感じた魔力の残滓を頼りにスウェーバックでこれを回避。

 

 いや、これで終わりじゃない。次が来る!

 

 

 二撃目はっ────

 

 

「上だっ!!」

 

 

 即座に刃の腹を上にかざし、ガゼル王の剣を防ぐ。

 甲高い金属音が周囲に木霊する。それはこの勝負が終わったことを知らせるゴングのようでもあった。

 

「ふっ」

「ふはっ、ふははははははははッ!こやつめ、俺の剣を受け止めおったわ!!」

 

 余程自らの剣を受け止めた者がいたことが嬉しかったのだろう。最初に笑った時よりもガゼル王は幾分か素が出ているような印象を受けた。

 

「勝負は俺の勝ち、でいいかな?」

「降参だ。お前の勝ちでいい」

 

 いつの間に落ちていたのか、彼はシズさんの抗魔の仮面を拾い上げて俺の頭に乗せた。

 

「お前の剣には邪な心は見受けられない。よっては俺はお前を邪悪な存在ではないと判断しよう。良ければ話し合いの場を設けてもらいたい。そこの竜も、な」

 

 

 ――コホン。

 

「では、勝者 リムル=テンペスト!」

 

 あ、トレイニーさん。審判ありがとうございます。

 

 

 うーん、剣を受け止められたのは何となく太刀筋が誰かと似ていたから何だけど……。

 

「ほっほっほっ。お見事でしたなリムル様。ですが打ち込みの方はまだまだ伸びしろが残っていますな」

 

「ハクロウ……もしかして明日から鍛錬が厳しくなったり?」

 

「残念ながらそうなりますな」

 

「うへぇ……」

 

 好々爺のような口調だがそれに見合わない程の剣戟の達人、ハクロウ。

 俺や鬼人、ゴブリン実動部隊の稽古をしてもらっているが生半可な気持ちで挑めば一瞬で返り討ちにされるだろう。

 ん?ガゼル王と似た太刀筋ってハクロウの時のやつだったっけか?

 

「失礼ですが剣鬼殿ではありませんか?」

 

 ガゼル王が声をかけてきた。もしかして知り合い?

 

 ……ほうほう。2人の話を聞いた限りでは300年前に森で迷っていたガゼル少年に剣術を教えたのはまだ名のなかった頃のハクロウだったらしい。

 

 道理で太刀筋も気配も似ていると思ったよ……。

 あ、ということは俺はガゼル王の弟弟子というわけか。

 

「おいリムル。早く案内してくれ」

 

 ズバン!と俺の背中が叩かれた。犯人はガゼル王、お前だっ!!

 

「上空から見た限りじゃあ中々に美しい街並みだったじゃないか。美味い酒くらいここにはあるんじゃないのか?」

「まぁ、あるけど」

 

 

 ……弟弟子と分かってからすっごく軽い態度になってるんだけど。

 そのうち絡み酒でマウント取られたりしないよね!?

 

 

 




ギラティナ「今回私空気でしたね」

トレイニーさん「仕方ないと思いますよ?ここのストーリーどう改変したらいいか分かんないなって言ってたみたいですから」





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あれは今から36万……いや、1万4000年前だったか

今回すっごい分かりにくいかも


シテ…ユルシテ……マイニチフデウゴカシテルカラ……ユルシテ……


追記:アンケート新調しました。






 ジュラの森大同盟の盟主であるリムル=テンペストと武装国家ドワルゴンの王であるガゼル・ドワルゴの果し合いから数時間後のことである。

 この街の誇る食事や酒を堪能したガゼル王はギラティナと話し合いをしていた。

 現在地は街にある野外宴会場だ。

 

 内容は「シス湖とカナート山脈の間に突如現れたあの山は何か」と「ギラティナの来歴」の2つ。

 

 一つ目についてギラティナは「私のスキルによるものだ」と回答。

 説明したところでギラティナにとって不利益はないのでスキル内容も解説した。

 ポケモンについては「既存法則から外れた魔物が現れる可能性がある」とだけ言っておいた。ギラティナ自身どう説明すればいいかは分からないからだ。元の世界と同じような性質をこの世界のポケモンが持っているとも限らない。

 そこは出現してからじっくり検証していけばいいや、と結論づけてギラティナは考えることをやめた。

 

 

 重要なのは二つ目である。

 馬鹿正直に「俺っち転生してこっちに来たら竜種になってたんすよねぇ〜」とか言う訳にもいかない。

 

 だがいずれこうなることはギラティナも分かっていた。

 なので事前にリムルに自分の来歴をどんなふうにしておけば整合性が保てるか相談していたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁリムル」

「おわっ!……鏡の中から話しかけてくるなよ!」

 

 リムルは自宅で日向ぼっこをしていたようだ。

 私はというと近くにある無駄にでかい姿見からニョキリとオリジンフォルムの頭を出している。

 

 

 自分が『やぶれたせかい』がどのようなものなのか理解していなかったので、何かないだろうかと中に入り浸っていた私はとあることに気がついた。

 何とこの世界、ゲーム版の設定とアニメ版の設定が入り乱れていたのだ。

 

 ゲーム版とアニメ版で最も異なる点は『泡』の存在だ。その泡は現実世界を映し出していて、それを壊すと映っている現実世界の場所に衝撃が加えられ、何らかの影響が及ぼされるのだ。

 

 

 そして私の『虚世界(やぶれたせかい)』はどのようなものになっているか、と言えばゲーム版をベースに『泡』のような設定を追加したといったようなものだろう。

 ような、と言っているからには『泡』ではない。鏡のような景色を映す板(これからは『鏡』と呼称する)が『泡』の代わりに存在しているのだ。

 

『鏡』は私が念じれば行ったことのある場所周辺の景色を映し出しているものが目の前に出現する。

 イメージとしてはパソコンとかテレビの画面に何台もの監視カメラの映像が映っているものを想像してもらえれば分かりやすいだろう。

 

 『泡』と『鏡』の類似性を察した私は後が怖いので『鏡』を壊すことはしなかった。万が一ということもある、当分はやめておこう。

 

 だがそれでも気になるというのが男に生まれた(今は無性だけど)性というものだろう。

 ちょっとくらい触ってみても……そんな出来心で触ってみたところ、不思議なことが起こった。

『鏡』が映し出している景色と『やぶれたせかい』が繋がってしまったのだ。

 

 私は大慌てでどうにかしようとしたが、触れることをやめることでその現象は解消された。

 この時の私の頭に「これアニメ版みたいなこと出来るんじゃね?」と新人類よろしく閃いたのだ。

 

 そして第一被験者にリムル=テンペストを抜擢。現在に至る、というわけで。

 

 

「『鏡』、ねぇ……。それって出現時の法則性とかあるのか?」

「指向性は私が念じればどうにかなる部分もあるが、ピンポイントは難しいな。今回も3回くらいやってリムルを見つけたわけだし」

「へぇ、まぁないよりあった方がいいんじゃないか?それで何か用か?」

「ちょっと相談があってだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の来歴かぁ」

「さすがに「私転生したら竜種になってました」とか言ったらダメだよな」

「ダメだろ。俺は自分が転生者なんだってみんなには言ってないけど、ギラティナは竜種だし今までどこにいたんだ、くらいは聞かれるかもしれないしな」

 

『やぶれたせかい』の中で二人の男(現在無性)は話し合いを進める。

 議題は「俺の来歴を決めようぜ!」というもの。

 

 議会(二人だけ)は白熱し様々な案が生まれては消えていく。

『やぶれたせかい』の要素やこの世界での竜種の法則、ポケモン図鑑でのギラティナの説明やシンオウ地方での伝承などをまとめあげ、違和感のないストーリーをでっち上げることに心血を注ぐ……。

 

 そして数時間が経過し、「これなら誰にも分かんないでしょ!」という最っ高の案が完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が今の今までこの世界に現れていなかったのは、自分自身のスキルを制御出来なかったからだ」

 

 ポツリと空を見ながら私は呟く。今から語る(騙る)は少し前にリムルと考えたギラティナの来歴だ。我ながら素晴らしい完成度だと自負している。

 

「生まれた時から私があの世界にいたのかどうかは今となっては分からない。だが、過去の記憶を辿っても全てあの景色しか思い出せなかった」

 

「気の遠くなるような年月を過ごしたよ。『鏡』から外の景色を見れるが私には外に出ることも、それに触れることも叶わない。ただただ虚しい時間が過ぎていくだけだった」

 

「そして何を思ったのか、ある時に私は自分を消滅させたのだ。それが同じ景色をずっと見続けたことによって狂ってしまったのか、こんな生活とも言えぬ生活に飽き飽きしたのか……ともかく私は長い長い竜生に終止符を打った」

 

「そして、復活したのだ。ヴェルドラのいた封印の洞窟で。死んだ拍子にスキルもしっかり使えるようになってな……復活が外の世界でよかったと心底思っているよ」

 

 この世界の竜種というものは長い長い生の中で復活と消滅を繰り返すらしい。

 消滅の度に記憶は一部リセットされるようなので、その設定をうまい具合に使わせてもらった。これで私がこの世界に突然顕現した理由にもなるだろう。

 

 

「記憶もロクにない状態の私にリムルは本当に良くしてくれたよ。今はこの程度しか思い出せないが……ガゼル王のお眼鏡にかなう回答だったか?」

 

 と視点を空からガゼル王に映すと────

 

 

 「えっ」

 

 

 思わず声が漏れてしまった。

 いやなんでって、そりゃあ……。

 

「貴殿が永遠にも近い時を過ごし、そのような気持ちを抱えていたとも知らずに私は──っ」

 

 ガゼル王が静かに泣いているのである。

 焦って周りを見ればそこにいた(リムルを除く)全員がボタボタと滂沱の涙を流している。

 

 重い内容かなぁ。リムルと二人で推敲していた時はそんなことを思っていたが、まさかまさか大号泣されるとは思わなかった。

 

 おい誰かリムルを見てくれよ。

 すっげぇ微妙な表情で「やっちまった」って顔をしてるぞ。

 

「いいさ。私もずっとひた隠しにしていくのは、少々辛いものがあるからな。聞いてもらっただけでも充分なのだ」

 

「ギラティナ様、ずっとそんな思いを抱えていたのですね」

 

 シュナが振袖で涙を拭い、私の足にピタリと抱き着いた。私の心は猛烈に申し訳ない気分と自責の念でいっぱいになる。

 

「でも、もう大丈夫です。これからは私たちがいます。リムル様も、ベニマルも、シオンも、ハクロウも、ソウエイも……みんないます。います、からっ──」

 

 黒翼でゆっくりとシュナの背をさする。

 いつもの凛とした彼女ではなく見た目相応の彼女を見ることができ、少しばかりの喜びを感じつつも「何故今なのか」という思いが私の頭をグルグルと回り続ける。

 

「そんなお気持ちを推し量れずに我輩は……」

「ギラティナ様……ひっく」

「こんなにもお優しい方なのに……」

「然り。我らの不徳と致す処なり」

 

 あぁ、ガビル達も心配してくれている。

 ガビル本人にいたっては叫びながらこちらに擦り寄ってきそうな気配もしてくる。

 すまない、シュナだけで私は手一杯だ。

 

 

 その後その場にいた全員に様々な暖かい言葉をかけられたが正直覚えていない。

 リムルがすっごい申し訳なさそうな顔をしているのは覚えているが。

 久しく感じていなかった腹痛と頭痛に精神をやられながら、私は『やりのはしら』に帰った。

 

 

 




※タイトルに深い意味はございません。ギラティナがいつかこの語り口で自分の来歴(捏造)を話し始めるかもしれませんが。

『泡』:『劇場版ポケットモンスター ギラティナと氷空の花束 シェイミ』内の『反転世界』なる場所にある現実世界を映す泡。
これを壊すと泡に映る現実世界と同じ地点で衝撃が発生する。
今回の『鏡』は『泡』が板状になったものだと思ってください。

『鏡』:『やぶれたせかい』にある前述の『泡』のようなもの。性質としては
・外の世界が見える。
・表示されるものは自分が一度行った場所の近くのみ。
・現実世界の鏡と繋がりやすい
というものがある。

ギラティナの来歴(捏造)
気の遠くなるほど長い年月を『やぶれたせかい』の中で過ごす。自らのスキルによって作られている世界だが、自分の意思で制御することが出来なかった。

『鏡』から外の世界は見えるがそちら側に行けることは叶わず、ただただ虚しい日々が続いていく。

何を思ったか自分を消滅させた。発狂か飽き飽きしたかと推測。

復活場所が外の世界だった。ついでに何故かスキルもしっかり使えるようになった。

今に至る。

大まかな流れとしてはこんな感じです。これを聞いた魔物達やドワーフの皆様は感極まって涙しました。


あ、投票はレアコイルくんが1位でした。というわけで次回を乞うご期待!


ちなみに今回前書きのキャプション芸は「デビルマンのうた」を使って作ろうかと思ったんですが、動画ネタを文字に反映出来そうになかったので諦めました。


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同盟締結

ガゼルおうは どうめいを くみたそうに こちらを みている。▼

リムルと ギラティナは びみょうな ひょうじょうを した !▼






 ギラティナくんの捏造来歴が明らかとなった次の日。

 

 リムルとガゼル王とギラティナは夜の食卓を囲んで(ギラティナは中に入り切らないので縁側でオボンのみを食べています)これからに向けた話し合いをしていた。

 

「リムル、そしてギラティナよ。俺と盟約を組む気はないか?」

 

「……待て、何言ってんだコイツみたいな顔をするんじゃない。ギラティナ、どうやったらそんな威厳のない顔になれるのだ?」

 

「コツを教えるか?まず顎あたりの関節を外してだな……」

「いや、いい。聞いた俺が馬鹿だった」

 

 

「この街は素晴らしい造りをしていた。立地的にもいずれ交易路の中心地となるだろう」

 

 ガゼル王は酒をあおり、口を拭う。

 

「後ろ盾となる国があれば便利だと思うのだがな?それとギラティナ、あの山の鉱物を少しばかり拝借させてもらった。時空石と言うそうだな」

 

 いつの間に!?

 口には出さないが言外に驚いたギラティナの顔をガゼル王はくっくと笑った。

 

「鉱物もそうだがあの山には何か俺の得体の知れない『未知』が眠っているような気がする。新手の魔物にしてもだ。

 まだ新手の魔物による直接的な被害は出ていないが、いずれ我が国に影響を及ぼす可能性は捨てきれん。今のうちに予防線を張っておきたくてな」

 

 これを聞いたギラティナとリムルは顔を見合わせる。

 

「俺たち騙されたりしてないよな?」

「いや、聡明なガゼル王のことだ。何か策略を巡らしているに違いない」

「聞こえてるぞ貴様ら」

 

 ため息を一つ吐き、額に手を当てるガゼル王。

 その姿は手のかかる子どもを預かった叔父さんの姿を彷彿とさせる。

 

「恩師やドライアドの前でその主を謀ろうとはせん。そして竜種が目の前にいるのなら尚の事。

 

 これは当然だが善意だけの言葉ではない。双方に利益のある話だ」

 

「俺はともかくギラティナはどうなんだ?ドワーフ達が竜種に利益を提供出来るとは思えないんだが」

 

 リムルの指摘は尤もだ。

 リムルの街は未だ後ろ盾もない上、本人達は分かっていないが数人の魔王に既に目をつけられている。

 国として成立する以上、ここは安全な場所だと保証する国がどこかに存在しなくてはならない。

 

 しかしギラティナはどうだ。彼の(一応の)現領地は『テンガンざん』だけである。

 さすがに人が生活出来ないような場所を国と呼称するのは難しい。

 そもそもこの世界の覇者と言っても過言ではない竜種が存在しているのに後ろ盾もクソもないのだから。

 

「ふっふっふっ。俺は聡明なドワーフたちの王であるぞ。秘策の一つや二つ、考えているさ。

 

 時にギラティナよ、貴殿の山から新種の魔物が出現する、そう言っていったな?」

 

「確かに言ったが、それが?」

 

「そのうちの一体をこちらで捕獲することに成功したぞ」

「……ほぉ」

 

 あまり驚かないのだな、とガゼル王は不服そうな顔をするが彼は内心めちゃくちゃ驚いていた。

 

(最初に『ポケモンGETだぜ!』ってするのは俺だと思ってたのにいぃぃいぃぃぃ!!!!)

 

 溢れる心の波を無理やり押しつぶしてポーカーフェイスを保つ。

 モンスターボールでGETしてないからこれはノーカンだろうそうに違いない、そう自分を慰める度に何故だか惨めな気持ちになっていく。

 

「その魔物はそちらに返そう。その代わりに拝借させてもらった時空石を頂きたい」

「……これからも捜索範囲を広げて続けてもらえるか?もちろん、報酬は用意しよう。時空石以外にも色々あるからな」

「無論だ、引き受けさせてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後リムルは『国家の危機に際しての相互協力』と『相互技術提供の確約』を条件に盟約を結ぶ。

 一方のギラティナはリムルと同じく『国家の危機に際しての相互協力』と『新種の魔物の受け渡しとそれに応じた物資の見返り』を条件に盟約を結ぶこととした。

 

 本来ならば数十年、あるいはそれ以上の月日がかかったことだろう。

 魔物の街が人間や亜人に受け入れられるのは本来ならばもっとずっと遠いはずだった。

 リムルはそう思い酒を口にしようとする。

 

「で、お前たちの国の名はなんと言うのだ?」

 

「……え?」

 

 リムルはバッと忠臣たちを見るも皆一様に首を横に振る。ならばとギラティナを見ればボロボロの羽を「ナイナイ」と動かしていた。

 

「私が考えてはダメだろう。一応私の現領地は『テンガンざん』、あそこ一つなのだからな」

 

「ほう?あの山は『テンガンざん』と言うのだな?おいリムルよ、ギラティナはしっかりと山の名前を付けておるというのにお前と言うやつは!」

 

「いやいやいや。まだ国という段階でもなかったし、俺は盟主であって国主ではないからなぁ」

 

 頭をかきながらどうしようかと口を尖らせていればリムルの視線の端にシオンが映る。

 あろうことか彼女は肌身離さず持っている大太刀を抜刀しようとしているではないか!

 

「リムル様を王と認めぬものがいるならばこのシオンが……」

「コラコラコラ!物騒だからしまいなさい」

 

 しゅんとしたシオンをリムルはヨシヨシと撫でる。

 

「俺のために怒ってくれたんだよな。ありがとう」

「うぅ〜!リムルさまぁ〜!!」

 

 泣きついたシオンをしばらくそのままにさせているとベニマルが引っ付いたシオンを剥がして畳の上に転がす。

 どうやら寝てしまっていたらしい。

 

「力ある者に従うのは魔物としての本能だ。だけど少なくとも俺たちは、それだけでリムル様の配下になったわけじゃない」

 

 そうベニマルが力強く言えばその場にいたリグルドやゲルド、ガビルやランガは先ほどとは違って縦に一度首を振る。

 

「おいおい、あんまり俺を持ち上げるなよ。ここには森の管理者や俺より強い竜種だってい──」

 

「いいと思いますよ」

「いいと思うぞ」

 

『リムル陛下』

 

 ギラティナとトレイニーさんは顔を見合わせ、クスリと笑う。対してリムルは死んだ魚のような目を二人へ向けた。

 

「どうやらここの王は貴様以外にはおらんようだな。まぁ、諦めろ」

 

 ポンと頭におかれたガゼル王の手をリムルは鬱陶しそうに払い除ける。ガゼル王はそれに嫌な顔一つせず「弟弟子の反抗期だな」と豪快に笑っていた。

 

 リムルは今日はもう何も考えないようにしよう、そう思った。

 状況は好転しない。そんなことは当の本人も分かっている。

 認識するのが辛いだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では これよりドワルゴンとジュラ・テンペスト連邦国における協定の証として両国代表による調印を行います」

 

 机を挟んで連邦国側にリムル、その後ろに侍大将のベニマルとゴブリンキングのリグルド。ドワルゴン側にはガゼル王、その後ろに天翔騎士団団長のドルフ、軍部最高司令官のバーンが並ぶ。

 

 机には魔法陣が描かれており、二つの署名書がそれぞれの国側に置かれていて、それを見届けるようにして巫女姫のシュナ、宮廷魔術師のジェーンが立つ。

 

 ちなみにギラティナの位置はシュナとジェーンの後ろだ。なんでも竜種が与するとめんどくさいことになる事情があるそうだ。

 ギラティナ当人もめんどくさいことは嫌いなのでこれを了承する。

 

 この盟約は魔法により保証され、世に公開される。

 

 双方の調印が終わると署名書から光が立ち上り、遥か上空で四方へ弾けた。

 これでリムルたちの国の名が初めて世に知られることになろう。

 

「拡散されるネットみたいだなぁ」

 

 ギラティナは目の前で行われている前代未聞のことに動じることも無く、飛び散った光への感想を述べた。

 

 

 まほうの ちからって すげー!▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この署名が終わった後、ガゼル王は一旦国に帰った。

 なんでも天翔騎士団(ペガサスナイツ)は一日でこことドワルゴンを往復出来るらしく「ちょっとリムルに渡すものを取りに行く。ギラティナがご所望の魔物もいっしょに連れてきてやるから待っておれ」と言っていたらしい。

 

 私が『やぶれたせかい』で寝ていた頃に起こった幕間だそうだ。

 ドワーフの朝は早いのだろうか。

 今も人間だった頃と同じように起きているはずなのだが……。

 

「あっ、いっしょにドワルゴン行けばよかった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、コイツだ」

 

 次の日、朝一番にガゼル王はこちらにやってきた。

 何故朝一なのか?それは私が受け取り場所を『テンガンざん』に指定したからである。ちなみに集合は山の麓にした。さすがに『やりのはしら』は高度的にもペガサスには辛いだろう。

 

 荷運び用のペガサスに括りつけられただいたい1m程のカゴが地面に降ろされてパカリと空けられた。

 

 中を覗けばそこには三つの鈍色の球体、六つの磁石、そして九つのネジ。球体の真ん中にある目はグルグルと回転している。

 紅白のあのボールに入っているわけでもなし、初めての体験に目を回してしまったのだろう。

 

 しかし何故こいつが……?テンガンざんには出現はしなかったと思うのだが。

 

「むぅ、これはレアコイルか」

「知っているのかギラティナ?」

「見れば名前くらいならば分かる。ああ、言っておくがネームドという訳では無い。種族名だ。ともかくこいつは頂くぞ?」

「そのような約束だったからな。次からはどうすればいい?」

 

 あー、それは考えてなかった。……当分は私が直で受け取ることにしようか。

 

「ゲルドたちに麓に急ピッチで小屋を作ってもらうことにするつもりだ。それまでは麓に来れば直ぐに私が受け取ろう」

「相分かった。では次はリムルのところにお届けものがあるのでな!では、また会おう!」

 

 ガゼル王たちは去っていった。

 

 

 ……このレアコイルは随分と消耗しているみたいだな。

 

 私は『やぶれたせかい』の一角に溜めてあったラムのみ一個とオボンのみを二個取り出す。

 

 とりあえずラムのみを食べさせて状態異常:混乱 を回復させた。

 どこに口があるのか分からないのにきのみが減っていく様はすごい怖い。

 削られていく、というのが見たままの表現に近いだろう。

 

 オボンのみを渡せばすごい勢いで噛み付……いやホントにどこに口あるんだお前?噛み付いてるっていう形容はおかしいだろう。

 噛み口はクレーターのようにキレイなものだった。

 

 

《条件の達成を確認。ユニークスキル:携帯獣の権能の一部を解放します》

 

 

 この世界に来てから聞いていなかった天の声が聞こえた。さすがにあれだけ聞けばこの無機質な声に驚くことはしない。

 

 さて、天の声によれば権能の一部が解放されたらしい。リムルの大賢者は『何かに出会うことが必要です』と言っていたらしいが……ポケモンに出会うことが必須条件だったのかもな。

 

 私は『ステータス閲覧』を起動して開放された権能が何なのかを調べる。

 

(おっ、NEW!って表示があるな。どれどれ……)

 

 

 NEW!『ポケモン図鑑』

 

 ポケモンと出会うことで本機能は解放されます。

 出会ったポケモンの詳細情報を知ることが出来る。

 保管してある道具やきのみの一括管理、捕まえたポケモンに技を覚えさせることも可能。

 実際行った場所のMAPの表示が出来てどこにどんなポケモンが分布しているか分かる。

 

 

「へー、中々いいな。さすがに雑な技構成だと、自衛の術としてはまずいかもしれないからなぁ」

 

 

 この時ギラティナは気づいていなかった。

 スキルの説明欄に『どこにどんなポケモンが分布しているか分かる』という文字列に秘められた真意を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────とある時刻、とある島。

 

 

 バチャリ。

 その影は水たまりに足を踏み入れる。

 

 何故自分はここにいるのだろう。そんな疑問を問いかけるもここには誰もいないようだ。自分と自然しかない、殺風景な島。

 

 白髪の少女はしばらくその広めの水たまりを見つめたあと、ゆっくりとその蒼く澄んだ瞳で空を見上げる。

 

 ならば誰かに聞けばいいだろう。

 幸いなのか、どうなのか。彼女にはその手段がある。

 

 いつになったら分かるかな、と口を三日月にして微笑んだ。

 

 しかし表情とは裏腹にその空に月は無く、冷え冷えとした星だけが瞬いていた。

 

 




はいどうも、名無しの転生者です。

現在首位を独走中のシンオウ・ホウエン地方ですが見た感じ他の地方は突破できなさそうなので、二日後にアンケートは撤去させていただきます。
また別のアンケートを出すのでそれまでもう少しお待ちくださいな。

次回のキャプション芸は頑張ってギアッチョのアレを書きたいなと思ってます。

ちなみに私は昼間に大まかなプロットを考えて、夜十時から二時頃にかけて全力で書き上げるような毎日を送っております。

え?昨日休んでなかったかって?
花粉症で体調崩してしまって……申し訳ない。

カリュブディスまで書いたら一旦計画の見直しと休憩を挟もうかな……。


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幕間:ギラティナは犠牲になったのだ

※今回は恐ろしいくらいネタ供給が過多です。どうぞ注意してお進み下さい。




ポケモンバトルを有利に進めるのに必要な『ポケモンの相性』……ってあるけどよォ~~~

『じめんがはがねに抜群』ってのはわかる……スゲーよくわかる
地震とかで建物はボロッボロに崩壊しちまうからな……

だが『フェアリーはドラゴンに抜群』ってのはどういう事だああ~~~っ!?
竜が妖精に負けるって言うのかよォ――――ッ!
ナメやがってこの相性ァ超イラつくぜェ~〜ッ!
竜が妖精の尻に敷かれちまうじゃあねーか!
ファンタジーで普通に勝負してどっち勝つか考えてみやがれってんだ!チクショ――ッ

どういう事だ!どういう事だよッ!クソッ!
「勇者がドラゴンを倒すために妖精の案内が必要だから」とかそういうこと考えてんのかよッ!
ナメやがって クソッ!クソッ!



※当方は妖精の尻に敷かれるドラゴンみたいなシチュは大好物です。ギアッチョの意見はあくまでも一例です。


ドーモ。読者=サン。名無しの転生者です。

ギアッチョネタ考えるのに一番時間使った(オイ)
でも実際ポケモンバトルでは大半のドラゴンタイプはフェアリータイプに尻に敷かれてるから間違ってないかもしれない(悟り)


今回はネタが盛りだくさんだから注意してくれよな!
許せ読者(デコ遁)

追記:お気に入り1000件突破!みんなありがとね〜!

追記の追記:日刊ランキング9位……だと……!?(03/26 16時頃)ありがとう……皆様ありがとう!!





 久しぶりの自由時間、リムルは家の縁側で黄昏ながら思った。

 

(最近ハクロウのシゴキがキッつい)

 

 武装国家ドワルゴンの王、ガゼル・ドワルゴに負けた時から元々苛烈だったハクロウの修練が更に地獄となった。

 

 ゴブタたちゴブリンライダーは修練の最終局面まで到達出来ずに途中で地面にへばってしまって、最後までついてこれているのがリムルしかいないのが現状だった。

 

 さすがにハクロウとタイマンでやり続けるのはリムルでも辛い。ガゼル王には辛勝したものの、その師となれば勝つことは容易ではない、というか剣技だけで勝ることは現状ほぼ不可能である。無理、辛い。

 

 大賢者先生が自動戦闘状態(オートバトルモード)(剣術縛り)をしてくれれば多分勝てる、とリムルは考えているが大賢者先生はこの状態に移行することを頑なに拒否している。

 曰く、『所有者のためになりません』とのことだ。ついでに『個体名:ハクロウに看破される可能性98%』とも言った。

 

 よし、ならば仲間を探そう。俺レベルまで着いてきてくれる仲間を!!

 

(したってどうすっかな〜。ベニマルはたまにしか来てくれないし、ソウエイはまず分野が違う。シオンは刀が耐えきれなさそうだし……)

 

「あっ、ギラティナでいいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで今日からいっしょに鍛錬な!」

「待て待て唐突すぎるだろ。そもそも私は刀を持てるような身体をしていないぞ!」

 

 場所は変わってここはテンガンざんのきのみ栽培所。

 ギラティナはガビルと交代で甲斐甲斐しくレアコイルをお世話していたところにリムルの来訪である。ちなみに今のシフトはギラティナ。現在時刻はお昼過ぎである。

 世話すると言っても適度にきのみを与えてレアコイルのわざの特訓相手になる程度だ。

 ちなみに現在のレアコイルのわざ構成は『ラスターカノン・エレキネット・てっぺき・でんじは』といった感じ。

 ガビルは好んでエレキネットを食らいにいくが、本人は「我輩は耐性が欲しいのです!」と叫んでいたので根っからのマゾという訳では無いだろう。

 

 

 閑話休題、話を戻そう。

 

 

 もちろんギラティナは刀を持つことは出来ない。ギリギリあの鉤爪で持てるかもしれないが、それで修練になるだろうか。いや、なるワケがないのである。

 むしろ鉤爪で刀とバトルした方がいい勝負ができるだろう。

 現在のギラティナはリムルに対して某〇〇夫のAAよろしく(何言ってんだこいつ)とオボンのみをムシャムシャ食べながら思っていた。

 

 

「俺とハクロウの修練についてこれる人がいないんだよぉ!!な?さすがにハクロウと毎日最後の方にタイマンしたくないんだよ!ね?ね?お願い☆」

 

 リムルはパチパチとウィンクをしながら上目遣い。相当必死なようだ。想いと共に受け継いだ美貌の無駄使いである。草葉の陰から爆炎の支配者も笑っていることだろう。

 ギラティナはそこまでするしかもう方法がなさそうな彼の姿に同情し、これを了承。

 だがこのギラティナ、タダでは転ばん。

 数十分の交渉の後に約束を一つ取り付けた。

 

「モンスターボールを作ってくれないか?」

「何言ってんだこいつ……?」

 

 さすがにリムルでもそれは知っている。

 あれだろう。ポケモンに投げれば捕まえられる紅白のボールのことだろう。

 さすがにそれは俺でも無理、と言おうとしたところでギラティナが『やぶれたせかい』に翼を突っ込んだ。

 

「ほれ、現物あっても大賢者先生には無理なのか?」

「できらぁ!」

「ほう?こりゃあどうしてもゲーム内価格とおなじ値段の200円で作ってもらおう」

「え!!ゲーム内価格とおなじ値段でモンスターボールを!?」

 

 さすがにそれは嘘だ、とギラティナは言う。

 なんだ本気かと思ったぜ、とリムルは安堵した。

 

「とりあえずもう3つくらい作ってもらえればそれで構わない。よろしく頼んだぞ」

「了解!ではコッチの方も早速やってもらおうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやらリムルは自分の身体をなんとかする術を持っていたみたいだ。

 

『この世界の竜種は自然聖霊であり、実態を持つ意思のある塊のような存在である』

 

 この前提からいくなら私は精霊だ。そんで私をリムルの分身体に憑依させれば……あら不思議!バッチリヒトの形をした身体を手に入れられるね!

 ……アホか!

 

「いや無理無理無理。ポケ擬じゃないんだから」

「大賢者も《可能です》って言ってるから大丈夫だって!いけるって!」

 

 踵を返して『やりのはしら』に戻ろうとすると「がんばれ♡がんばれ♡」と甘ったるい声が後ろから聞こえる。

 無駄に可愛いその声に釣られているようで私は何だか情けなくなってきた。

 いや頼まれたからにはやるけどさぁ。

 

 

『大賢者』曰く《触れればいけます》とのことだ。いやさすがにアバウトすぎるってばよ。

 

 今のところリムルの『大賢者』以外にヒントらしいヒントもないので、とりあえずリムルの用意したもらった分身体を触ることにした。

 一応黒い外套みたいなものは着せてあるけど、コレ中は素っ裸なんだよなぁ。

 

 チラと視線を下ろすと分身体は何の感情もこもってない瞳で見つめてくる。

 この子ホントは意思があるんじゃないだろうか。

 中性的な顔で無表情で見つめられた私は変な性癖が芽生えそうな気がした。

 

 触れる手もないので黒い翼でゆっくりと分身体の頭に触れてみる。

 

 

《条件の達成を確認・・・仮想体設定(アバターメイク)を獲得しました》

 

 

(……えっ?)

 

 たった今、新たなスキルの解放条件を達成したらしい。ビクリと身を揺するが特にリムルに聞こえたものではない模様。とするとこれは一体何なのだろう。何かのスキルの付随効果だろうか。

 

 

仮想体設定(アバターメイク)開始・・・何かご要望はございますか?》

 

 

(えっお前話せるの?)

 

 とナチュラルに尋ねてきた天の声に動揺しながら私は考える。

 自分の『やぶれたせかい』の『鏡』の索敵範囲を広げるためには自分の足で色んな場所へ行かねばならない。

 それを加味して考えると……

 

(私をギラティナだと認知されない姿、そして出来るなら隠密行動に優れるような感じでお願いします)

 

 

《かしこまりました。個体名:ギラティナの記憶から該当項目をコピーして分身体を元に仮想体を生成します》

 

《並行して個体名:リムルの『大賢者』とリンクして個体名:ギラティナを仮想体へ憑依させます》

 

 

 おや、リムルの『大賢者』も手伝ってくれるようだ。

 なら安心だな、と私はまぶたを閉じて工程の終了を待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は犠牲になったのだ。リムルの『大賢者』と俺の『仮想体設定(アバターメイク)』……その犠牲にな」

 

「な、なぁ?元気出せって」

 

 場面は先ほどと変わらずきのみ栽培所。

 マフラーのように首回りへ巻き付けた長いピンクの舌が印象的な青色のカエル忍者が地面に大の字で転がっていた。

 

「いやさ、確かに隠密しやすい格好とは言ったぜ?ポケ擬どころかポケモンまんまじゃん」

 

 彼の姿はゲッコウガのそれに変化してしまっていた。

 人間体になることが目的だった彼には悲劇的ビフォーアフターである。

 これでは人間の街やその他の場所に行ったとしたってカエルの魔物として駆除されてしまうだろう。ショッギョ・ムッジョ!

 

 自分の意思でこのスキルを操作出来ればいいのだが、それにはまだ経験値が足りないと『大賢者』は分析する。

 しかし残存魔力に関わらず一週間に一回しか仮想体を作ることが出来ない(使い回しは出来る)。

 

 しかもこのゲッコウガ、一部を除いてガワだけである。みずしゅりけんは作れないし、ハイドロポンプも撃てない。

 唯一ゲッコウガと互換性があるのは身体性能と特性『へんげんじざい』しかないのだ。色んな姿に自在に化けれるが、タイプ自体は変わらない。これが判明するまではギラティナはブルーな雰囲気を醸し出していた。

 

「でもバレたら終わりだよなこれ」

「さすがに俺は竜種を討伐しようとはしないと思うけどなぁ」

 

 そしてリムルの計画は一週間後まで先延ばしとなってしまった。

 カエルの手では刀を持てないのだ。

 

 しばらくの間はリムルがタイマンでハクロウと特訓する日々は続くようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──とある時刻、とある場所。

 

 

 

「あれでも、これでもない」

 

 月も顔を出さない、星が微かに煌めくだけの真っ暗闇。彼女は一人、記憶を漁る。

 

 その記憶は自らのものでは無い。他人の記憶を夢を通して閲覧しているのだ。

 今回もなかった。そう思いパッとベットで苦しむ男の頭から手を離して、近くの窓から空を眺める。

 

「なん、で?」

 

 全てが眠ったこの街は、彼女の疑問に答えることは出来ない。ただ皆がボロボロと涙をこぼしながら、引っ掻くような呻き声を上げるだけ。

 

「わからない」

 

 以前のニッコリとした口はどこへやら、彼女の口はへの字に曲がってしまっていた。

 

「だれなら、しってるの?」

 

 ゆらりと身体を動かして、トボトボと闇の中へ歩き始める。

 

 

 

 次の日の朝、その街の住民たちは揃って悪夢を見たのだと口々に言い合ったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだこれは────ほんの序章でしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仮想体作成:ギラティナが憑依元をリムルから入手したことにより『ポケモン図鑑』内に搭載されていた機能が解放された。着想はポケモンSMとポケモンGOのキャラメイクから。

効果は『身体性能を模倣した身体(ガワ)を素材を元に作成する』というもの。(とくせいは身体性能に組み込ませていただきます)今回の素材はリムルの分身体を利用しました。
『身体性能』のみのため「わざ」を使うことは出来ません。ガワの使用中はギラティナとしての「わざ」も同様に使用することは出来ません。

今回は隠密行動というワードからゲッコウガが作成されました。一定のワードで絞込みが出来るが最終的に何が出てくるかはランダムとなっています。
……すごい低確率だけどフレンチクルーラーとか二代目火影とか忍殺が出てきてもおかしくなかった。

魔力の残量に関わらず一週間に一回しかガワを作成出来ない。




03/27昼時点でもラティ兄妹人気ですね。ホウエンの超古代ポケモンたちが追い上げてきてるのでまだ31日になってみないと分からないですねぇ!
ちなみにハードマウンテンを動き回る例のアレはネタ枠です。

でも当方はゴキブロス好きです。
半減無効タイプが10個もあるなんて素敵!

大半は図鑑説明が悪いんじゃ……。





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ぅゎょぅι゛ょっょぃ

待たせたな(某蛇ボイス)


どうも、名無しの転生者です。
遅れました。待たせた分、少しだけ長めとなっております(当社比)。

ただ、ここから話がややこしくなるかも知れません。覚悟はいいか?俺はできてる。

数日にまたがって書いていたので微妙なところがあるかと思います。めちゃくちゃ生暖かい目で見てくれると嬉しいです。
適期改稿していきます。




 ゲッコウガのガワを獲得してから幾ばくかの時間が流れた。だいたい二週間程度だ。

 大賢者が言うには『後二回で次の機能が解放されます』とのことだ。次の機能が解放されたところで、私がそれを使うかは分からないけどね。有用性かどうかに左右されるよね、うん。

 

「今日もいい天気だな」

 

 とりあえずそこのところを考えるのは後々にしよう。

 武装国家ドワルゴンと協定を結んだとはいえ、私もリムルもすぐに国外に出れるような状況かと言えばそうでもない。ひと段落済んだと思っても中々に自由になれないものなのだ。

 

 リムルはジュラ・テンペスト連邦国国王として魔物やドワーフたち来訪者の管理や庇護を求めてやってきた魔物たちへの役割の斡旋などがある(俺を通さなくても別にいいんだけどなぁ、とリムルは言っていたが)。

 

 

 

 そうそう、私にだって仕事はあるぞ。きのみ栽培、時空石採取、あとはポケモンの捕獲の3つだ。

 

 

 きのみ栽培は元々ガビルら竜人族(ドラゴニュート)に任せていたのだが、最近になってドワーフたちもきのみの栽培に精を出している。そのドワーフの取りまとめをしているのがベスターという男である。

 

 彼は以前リムルやカイジンらを罠にはめようとした悪徳大臣だが、現在は一研究者として魔国連邦でお仕事をしている。

 ヒポクテ草を使った完全回復薬(フルポーション)の研究を進める傍らできのみを使った状態異常回復薬の作製も手伝ってもらっている。

 ガビルは栽培こそ出来るが、それをポケモンで見たような薬に調合することは無理だ。そんな時にベスターがやって来てくれたので渡りに船だった。

 

 

 さて、次は時空石採取だ。

 時空石の効能は『衝撃を与えると一定の空間が切り抜かれその空間を過去の状態に戻すことができる』というもの。

 大賢者ですらどの程度の量ないしは形状で狙った位置を復元出来るのかが不明瞭だったためこれも技術者ドワーフに一任している。

 現在も試行錯誤の真っ最中のようなのでこれからの発展に期待するとしよう。もしかしたらその過程でポケモンの化石を復活させることが出来るようになるかもしれないからな。ラムパルドとかカブトプスとか割と好きなんだよね。

 

 

 最後にポケモンの捕獲。

 最初にテンガンざん外部でポケモンが発見されたと聞いた時は魔物との縄張り争いが発生するんじゃないかと気が気でなかった。

 だが懸念していたような事態は起こらず、むしろ良好な関係を築いていたと言える。

 確認されているのはビークイン、ミノムッチ、メガヤンマ、ゴンベ、コリンク、キャタピーだ。今のところはシンオウ地方で初出のポケモンが多いみたいだ。

 

 そういえば何故レアコイルは出現出来たのだろうか。ドワルゴンの近くだったことが起因しているのかもしれないが……。

 

 ちなみにテンガンざん内部ではドーミラー、ユキカブリ、ゴルバット、リーシャン、イシツブテ、アサナン等が確認出来た。

 彼らは魔物と関わり合うことが無いため、のびのびと暮らせている。たまにきのみをあげに行くのだが中々に食欲旺盛で少し困っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後私は『やぶれたせかい』の中できのみとどうぐの整理整頓や『鏡』を使ってジュラの大森林全体をウォッチングしていたのだが──

 

「何だあれ?」

 

 大森林外縁部を映していた『鏡』に一瞬だけ人影が映ったように見えた。慌てて『鏡』の視点を大森林上空に移すとサイヤ人みたいな勢いで飛ぶ桜金色(プラチナピンク)のツインテール幼女がいた。いやホントに何だアレ?

 

 自分の気配察知がコイツはヤバいと警鐘を鳴らしている。あぁ、分かってるさ。

 

 幼い見た目の方が強いとか、そんな法則がこの世界には存在するのだろうか。いやでもハクロウめっちゃ強いし全般的に当てはまる訳では無いだろう。そう信じたい。

 

『鏡』の場所を何度も切り替えていると何となくこの幼女の向かう先が見えた。

『テンガンざん』……それも山頂に向かってあの速度を保ったままダイブしようとしているじゃあないか!

 

 オイオイオイオイ魔国連邦が目的じゃないのかよ!

 この速度で落下されればいかに『やりのはしら』と言えど月みたいなクレーターができてもおかしくはない。というかできる、絶対できる。

 

 さすがに指をくわえて特大クレーターの完成風景をリアルタイムで眺めているワケにはいかないな。

 

 私は飛翔中の彼女の目の前に『鏡』を使って『やぶれたせかい』への門を開く。

 躱されるかと思っていたが意外にも興味を示したご様子。中に入ってきたようだ。

 ……とりあえずどうにかしないとな。ここに来た理由も知りたいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ、遅かったか!」

 

 ツインテ幼女が魔国連邦上空を通り過ぎた時、リムルの大賢者は主に一つの可能性を伝えていた。

 

 

 ──告。対象の目的は個体名︰ギラティナが存在する『テンガンざん』及びギラティナの可能性が大。

 

 

(マジかよっ!?)

 

 最初に接近に気がついた際はこの首都リムルに来るのかと思っていたが、どうやら目的はギラティナのようだ。

 

 とりあえず最速で行動できるリムルが現場に急行。しかし彼女の目的(暫定)のギラティナも件の彼女の姿も『やりのはしら』には存在せず、二人の魔力反応すら消え失せている。

 

「どこいった……?」

 

 

 ──解。空間の微小な歪みを観測。高確率で個体名︰ギラティナが対象を『やぶれたせかい』に誘導したと推測できます。

 

 

 なるほどそれなら見つからないはずだ。

 だがいくらギラティナとはいえ彼女──魔王ミリムに対抗する手段はあるのだろうか。

 勝算があるから招き入れたのか、それともまた何か別な理由があったのか。

 リムルはただギラティナの無事を祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた(のだ)」

 

「「ん?」」

 

 どうやら同時に目的の人物を見つけられたようだ。ツインテ幼女は90度傾いた広めの浮島に立ってこちらを見つめていた。その目を見ていると吸い込まれそうになる感覚を覚える。

 

「初めまして。ワタシは魔王 ミリム・ナーヴァだぞ」

「これはどうもご丁寧に。私はギラティナ、反骨竜ギラティナだ」

 

 竜、という単語にミリムはピクリと反応した。何か思うところがあるのか、私は二の句を継ごうとすると──

 

 

 私の眼前にはミリムの華奢な拳が迫っていた。

 明らかにその細さには似合わないであろう威力と魔力を伴って。

 

 

 そして私の気配察知がまたも警告を鳴らす。

 その拳には触れてはならない。決してまともにぶつかってはいけない。私は彼女のその手に禍々しい竜の鉤爪を幻視した。

 

「『まもる』っ!」

 

 間一髪、ミリムの姿を『鏡』から見ていた時点でセットしていた『わざ』を発動する。相手がフェイントを使わない限りはほぼ確実に先制をとれる絶対防御わざだ。

 ただし連続使用は原作と同じくミスる確率が高くなるので多用は禁物。

 

「『おいかぜ』」

 

 私の後ろから追い風が吹き始めた。

 ちなみにどこを向いても私にとって追い風になってくれるように吹いてきてくれる。効果時間は20分ほどだ。

 

「ほう?今のを耐えるとは中々やるではないか!」

「たまたまだ。というか、何故攻撃してきた?私は魔王様に対して何もしていないと思うが?」

 

 確かにお前は何もしていない、とミリムは言う。

 

「ワタシが覚えている限りでは竜種は四種類しか存在しない。でもお前はそのどれにも当てはまらない。だから私自身が確かめに来たのだー!」

 

 わはははは!と彼女は笑うが生憎こちらは笑う余裕などない。親切に理由を説明してくれているうちに自分の技構成を変更していたが……攻撃してくるだろうか。

 

「お前がホラ吹きでないか、そしてお前が竜種足り得るかどうか、な!」

 

 ボンッ!と浮島の地面が吹き飛び粉塵の中からミリムが飛んでくる。特に翼を使って宙を舞っているわけではないようだ。舞空術なのか?

 

「『かげうち』」

 

 おいかぜの効果とかげうちによる先制攻撃でミリムからギリギリの先手を取る。他の攻撃では不味かったかもしれない。

 彼女の背後に回って背中の触手のように変化した羽にドス黒いオーラを纏わせて叩きつける。

 

「わはははは!ワタシから仕掛けて先手を取られたのは久方ぶりだな!」

 

 それを左腕一本でガードしていた。

 その腕私のまもるより強かったりしませんか?

 

「こんどはこっちの番なのだ!そぉい!!」

 

 気の抜けるような掛け声と共にミリムの姿が一瞬にして掻き消え──

 

「『でんじヴァっ!」

 

 わざは口に出さなくても発動できるようだ。途中で噛んだわざもしっかりとミリムに向かって発動できている。

 

 噛んだ理由は簡単。ミリムに土手っ腹を殴られて『やぶれたせかい』をビリヤードのように跳ね回っていたからだ。きのみとどうぐの貯蔵場所にぶつからなくて良かった……。

 ちなみに地面に叩きつけられる衝撃はノーマルタイプと認定されるらしく、見た目に反してダメージはミリムパンチのみ。

 しかしミリムの攻撃は私の弱点に該当するらしい。パンチ時に頭の中で『こうかはばつぐんだ!▼』とテロップが表示されたからだ。

 HPは残り三分の一。バーのカラーが黄色に変色している……どうにかしないと。

 

「厳しすぎやしませんかね」

 

 逆さまに浮かぶ足場から身体を起こしながら悪態をつく。まさか種族が竜種であることで自分が死にかける原因になろうとは。

 

 ミリムを見ればまだ身体を動かすのに難儀しているようだ。黄色の電流のようなエフェクトがミリムを縛るように表れているので自力解除には時間がかかる……はず。

 

 

 ……もしミリムがドラゴンタイプなのだとしたらこの攻撃はそれなりに効いてくれるだろう。

 フェアリーだったら……うん、それは考えないようにしよう。

 どちらにせよ、『ひんし』にさせることは無理だとは思うが。

 

「魔王さん、次が最後だ。体力的にはまだいけるが、これ以上の威力の攻撃を私は持ち合わせていない」

 

 痛む身体に鞭打って無理やりミリムの方へ向かう。

 

「これで私が竜種足り得るかどうか、決めて欲しい。いいだろうか?」

 

 あちらも麻痺った身体を無理やり動かしているのだろう。ガチガチと歯を鳴らしながら口パクをしてくる。

 

(い・い・ぞ・!)

 

 了解も得たのでわざを発動する。

 この後どうなるかは分からない……が、とりあえずやってやろう。一矢報いて、後はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

『やぶれたせかい』の遥か彼方、煌めく星たちが唸りをあげた。

 

 

 一つ、また一つと光は生まれ、ある一点に向けて加速する。

 

 

 遍く星の一団は巨大な光帯を描きながら赤い炎を纏い、その鉾をかの魔王に差し向けた。

 

 

「『りゅうせいぐん』っ!」

 

 

 正真正銘、最大の一撃。

 

 竜星の光が『やぶれたせかい』を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なー、ギラティナー!もっと食べさせるのだー!」

 

「分かったから急かさないでくれ」

 

 

『やぶれたせかい』の中で私は甲斐甲斐しくミリムのお世話をしていた。

 結論から言ってしまえば私はミリムに認められたのだ。『りゅうせいぐん』はミリムのお眼鏡にかなう威力だったらしい。

 実際本人はここまでガチンコバトルをする予定はなかったそうで、「ギラティナがワタシの予想を上回るくらいに強かったのがいけなかったのだ」と言った。理不尽である。

 

 その話の後治療のためにラムのみとオボンのみを食べさせると「他にもあるのか?」と聞かれたのでとりあえず在庫が大量にある状態異常回復系のきのみを渡した。

 特に『カゴのみ』がお気に入りの模様。だがきのみの研究をしていたベスター曰く「あんまり食べると不眠症になりますよ」とのことなのでミリムには一応釘をさしておいた。

 

 

 

 

 

 

 次は『やぶれたせかい』を見てみたいと駄々をこねたのでミリムパンチを食らうわけにもいかず素直に従った。

 

 重力や空間が無理やりねじ曲げられている光景にミリムは興味津々だった。どういった原理でこうなっているのかは私自身もよく分かっていないので、そこについて質問されなくて良かったと思う。

 

 

 

「ギラティナはいつからここにいたのだ?」

 

 私の頭をポクポクと叩きながらミリムが質問する。微量だがHPが削れていくのでやめてもらえないだろうか。

 

「……そうだな。いつから、と言えばつい数ヶ月前からだ。復活前で言えばいつから過ごしていたかも分からない」

 

 

 私は捏造した身の上を話すか少し迷ったが、どうせテンペストの住人たちも私のことを話す際に同じことを言うとだろうと思ったので結局話すことにした。

 

 

 

 

 

 

「ギラティナ、お前……」

 

 

 

 ミリムの めは にじんでいる▼

 

 ギラティナは もうしわけないきぶんに なった▼

 

 

 

「私自身、後悔しているわけではない。事実、こうして外に出ることが出来たのだからな。だから、そんな悲しそうな顔しないでくれ」

 

「……ワタシも退屈なのはキライなのだ。だからこうして魔王になって、それをしのいでいたのだ」

「でも、でも、でも。ギラティナは、何も、なんにもない……」

 

 

 さっきの快活な魔王らしからぬ、ひどく震えた声だった。

 少し潤んだ目をゴシゴシと擦り、それを二三度繰り返す。

 

 彼女が永い長い時を生きてきたことはきのみを食べてながら話してくれていた。その中の自分の経験を加味しても私の来歴は彼女にとっては聞くに堪えない内容だったのだろう。

 

 ミリムは懸命に次の言の葉を紡ごうとするが、それは縺れて喉に詰まってしまった。

 

 何とかしてやりたい、だが私は無力だ。

 やるせない気分が私の周りに蔓延して鬱陶しい。その雰囲気の原因を作り出して散布しているのは他でもない自分自身なのだが。

 

 

 なぁ、魔王さん。そう聞くとミリムは首を横に振った。

 

「ミリムでいい。特別なのだぞ?」

「あぁ、じゃあミリム。私はまだこの世界に出てきて日が浅い。知り合いもそこまでいるわけじゃないんだ。だから……」

 

 

「大丈夫、みなまで言うな。ワタシがお前の友達になってやるのだ!お前の失った分の月日を一緒に過ごしてやるから覚悟するといいのだ!!」

 

 

 彼女の気遣いは素晴らしいものだった。

 私はいつものように罪悪感を感じていたが、これは私が背負うべきものなのだろう。この感覚を忘れてはならない。そう強く思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──某時刻、某所。

 

 

 

「お前でも、ない」

 

 吐き捨てるように、彼女は言った。

 傍らには眠りこけた緑の小鬼が転がっている。

 

 彼女は未だ答えを見つけることは出来ずにフラフラと宛もなく、さまよっていた。

 

 自分の意義を見つけられず、そして誰も知らない。

 

 何のために生まれたのかも分からず、靄がかかった頭を振りながら記憶を読み解く。

 

 だが、何か予感がする。

 この先に何か知っている人がいそう、そんな信ぴょう性なんてこれっぽっちもない予感。

 

 今の彼女を支えるのはそれだけ、ただそれだけ。

 

 

 その物憂げな瞳は暗い闇の森でもぼんやりと光を放つ街を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──某時刻、『やぶれたせかい』

 

 

 何もかもが歪んだこの世界の片隅に、一つの人魂が揺れ動く。

 

 

 “彼女”がここに来て直ぐには自分が何をしていたのかを思い出すことは叶わなかった。

 

 

 しかし、たった今眼前で繰り広げられた凄まじい闘いは彼女の記憶の箱をそっとつついた。

 

 

 

 お礼を言わなきゃならない人がいた気がする。

 

 

 私の最期の願いを受け継いでくれた人に。

 

 でも人だったっけ?

 あぁでも“姿”は人になってるのかな。

 

 

 

 

 ──スライムさん。

 

 

 

 

 

 シンオウ地方には『おくりのいずみ』と呼ばれる場所が存在する。

 昔はそこに食べたポケモンの骨を沈めれば、また肉体を得て戻ってくると信じられていた。

 

『おくりのいずみ』の近くには対になるかのように『もどりのどうくつ』というものが存在する。そしてその最奥には伝説のポケモン、ギラティナが姿を現すらしい。

 

 

 泉から送られて、洞窟からもどる。

 そしてギラティナの有する『やぶれたせかい』。

 

 

 果たして彼女は戻れるのだろうか。

 それはまだ、誰も知らない。

 

 

 




タグの「性転換」はギラティナ(精神が♂)が擬人化するにあたって女性の姿になる予定なので一応ぶち込んでおいたんですが……要らないのかな?

ちなみに擬人化は元の姿と人化した姿は行き来出来ます。

他の要素もタグ付けしておいた方がいいんだろうか。今回色んな要素あったしなぁ。

ちなみに遅れた理由はリテイクがめちゃくちゃ多かった
からです。

最初にトレイニーさんがトゲキッスを捕獲してくる話を書いていたんですが思う通りに筆が動かず頓挫。諦めました。いつかどこかの幕間でモンスターボールもなしにポケモンを捕まえるトレイニーさん書きたいですね。


投票は296票でラティ兄妹が一位ですね!

みんな好きだねぇ!私も大好きさ!!


もちろん他の伝ポケもいずれ出す予定ではありますよ!乞うご期待!


……ネーミングセンスが皆無だから悪夢ちゃんの名前をどうしようか考え中。


追記︰質問があったので一応ここに書いておきます。
ギラティナは反物質を司る能力がありますが、この世界ではその能力にロックがかかっています。
第四話の『固有スキル』の欄に『■■■操作』とありますがそこが本来『反物質操作』が入るスペースでした。
あまりに強すぎるので『世界』に転生時に封をされたとでも思っていたただければ。


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あくむのしょうじょ ①

リブ生地っていいよね!!!!!!

君も好き?私は大好きさ!!!!!




すまない、遅くなりました。

GW中に投稿するはずが色々と忙しくおざなりになってしまってました。

今後もこんなことが多々あるとは思いますが大目に見てくれると幸いです。

適宜微妙な表現・部分は改稿していきます。


※ジバコイル擬人化投票はこの投稿から三日後に締め切りますのでご注意ください。






 タカタカタカ、と軽快な靴音が辺りに響く。

 

 道行く人々がそこへ顔を向ければ黄金色の髪の少女が懸命に、されど嬉しそうに走っている。

 

 腰にまで達するその髪は彼女の動きに合わせて千差万別の表情をのぞかせた。陽の光が照り付け、あたかも金の波浪のように見えたことだろう。

 

 

 そんな人の目を引く彼女の行先はとある(いおり)だ。

 街外れ、という程離れてもいないが住居や仕事場などの密集地帯からは少し遠めの場所に建設されている。

 

 そこに辿り着くと彼女はノックもせずに引き戸を開け靴を揃えて、い草の香り漂う部屋に足を踏み入れた。

 

 純日本家屋、という表現がベストマッチだろう。いったい誰がこんな才を異世界に持ち込んだのか。

 

 昔懐かしの家屋にちょっぴりノスタルジックな気分になったが、縁側でスイカをかじる桜金色(プラチナピンク)のツインテ少女の背中が彼女の心を現実に引き戻した。

 

「お隣よろしいかな?」

 

「よろしいのだ!」

「お、誰かと思ったらやっと来たか。スイカ冷えてるぞ」

 

 

 胡座をかく少女の足にはこの季節()には心地の良い寒色のスライムが鎮座していた。

 最強格の魔王の懐に鎮座するスライムは後にも先にもこの人しかいないだろう。現在この場所ではさほど珍しい光景でもないのだが。

 

「体の調子はどうだ? ティナ」

 

「ん〜。ま、すこぶる快調といったところだ。存外人の体も悪くない」

 

「いやお前元々……」

 

 スライム──リムルのツッコミも何処吹く風と鼻歌を歌いながらティナと呼ばれた少女はスイカの元へと駆け寄った。

 

「包丁はないのか?」

 

「俺の鋼糸でスパッと斬ってやるからちょっと待ってろ」

 

「なんか断面綺麗だなと思ったらそういうことか。了解した」

 

 

 この無駄に綺麗な断面は『大賢者』のものだろう。演算処理をしてくれるスキル欲しいなぁとティナは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ここまで特に何の説明もなく進んできたがティナことギラティナは人化することが出来るようになった。

 本来ならばここに人化の経緯を書き記したいところなのだが、本人が「暴露されたらお嫁に行けない」とさめざめと泣いていたのでそれは別の機会(幕間)としよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一寸の狂いもなく6等分に切られたスイカの一つを受け取りシャグシャグと頬張る。

 ギラティナの姿のままではこの切られたスイカどころかそのままのスイカでさえ丸呑みで済んでしまっていた。

 

 だからこんな風にものを食べられるのはすっごく久々で、それでいてとても新鮮だった。

 

 

「人化の経緯については俺はとやかく聞かないけど、その服装で暑くないのか?」

 

「あ、それはワタシも思ったのだ。ワタシも動きやすさ重視でこんなカッコウをしてるけど、多少は暑いぞ?」

 

 

 二人とも私の服装が気になるようだ。

 それもそのはず、現在の季節は夏。部屋の柱にぶら下げられている温度計(リムル作)も38℃を示している。

 この世界に春夏秋冬があるなんて最近は知らなかったんだけどさ。

 

 そんな蒸し暑い中で私がどんな格好をしているかというと……

 

「ショーパンにタイツはギリギリよしとしてもパーカーとセーターは季節錯誤もいいとこだぞ? それサマーセーターじゃないだろ?」

 

「そこまで私は暑くないからなぁ。ほら、一応今のセーターはノースリーブだぞ」

 

「コラっ! もっとおしとやかにしなさい! いたいけな少女が脇チラなんてはしたない!」

 

「私の脇チラよりもそこのヤバい格好をしてる魔王をどうにかした方がいいと思うんだが……」

 

「んなっ!? ティナはワタシの装備がダサいとでも言うのか!!」

 

「少女の姿なのにきわどい格好だなぁって思った感想を口にしただけだ」

 

「ワタシは少女と呼ばれるような年齢ではないのだぁぁあ〜!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もやいのやいのと服装談義をしていると私とリムルに思念伝達が入った。

 

 通信元はソウエイ。だが思念伝達を送ることだけで精一杯だったのか、状況説明を送ってくることはなかった。

 並大抵の魔物ならばソウエイの敵ではない。つまるところこれは一大事というわけだ。

 

「ギラティナ、ミリム。一大事かもしれない」

 

「そうみたいだな」

 

「む、どうしたのだ? 確かにコッチに近づいてくる歪んだ気配は感じるが……」

 

 リムルと私が立ち上がるとミリムは首を傾げるが、魔国連邦近辺からこちらに向かってくる強者の気配を感じたらしい。

 リムルは私とミリムにそちらに向かうように頼み、ソウエイの元へ飛び立った。

 

 私はミリムに先程の出来事を説明して、ミリムが感じた気配の元に向かうことにした。

 

 リムルの庵から出て飛行が慣れない人間体からアナザーフォルムになろうとしたところでミリムから待ったがかかった。

 

「『やぶれたせかい』でコレを拾ったのだ。ティナのものではないのか?」

 

 私は首で肯定してミリムからソレを受け取った。

 

 

 

 はっきんだまを てにいれた !! ▼

 

 

 

 早速入手したはっきんだまを使ってオリジンフォルムへと姿を変えて私はミリムを頭の上に乗せ彼女の示す方角へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現場への急行までに多くの魔物が眠っている姿を見かけた。

 恐らくソウエイも同じようにして眠気に負けてしまったのだろう。

 

「いたぞ。あそこなのだ」

 

 ミリムが森の中の開けた場所を指さす。

 そこにはふらつきながら歩く謎の少女がいた。

 

 私はこの少女との面識はない。だが似たような姿形のポケモンは知っている。

 

 間違いない。リムルの『大賢者』がいなくともそう私は確信した。

 彼女がこの異変の当事者だ。

 

 私は人間体になって着地。ミリムも私の頭から宙返りしてスーパーヒーロー着地をした。

 

 

「なんなのだコイツは?」

 

「私にもわからない……。なぁ、君がみんなを眠らせていたのか?」

 

 本当はだいたいわかっているが「どこで知ったのだ?」と質問されること間違いなしなのでここは何も知らないことで通す。

 そして意思疎通が可能なのかどうかを試すためにあえて彼女に質問した。

 

 

 虚ろな蒼い目をこちらに向けた白髪の少女はゆっくりと首肯した。次いで真一文に結ばれた口を開く。

 

「あなたなら……知ってるの?」

 

(知っている……何をだ?)

 

 私がその意味を問う前に彼女はゆらりと華奢な両手をこちらに向けた。

 

 何かが充填されるような奇怪な音とともに彼女の手の周りを黒い粒子が回転し始める。

 数秒も経たないうちに粒子は数を増やし、禍々しい渦を作り出した。

 

(初手ダークホールかよっ!?)

 

「ミリム避けっ──」

 

 焦ってミリムの方を見れば完全に受けの構えである。そういえばバトルジャンキーだったよこの魔王。

 

「お前の本気、見せてみるのだ」

 

 指をクイクイっと動かしてミリムは顔を歪ませた。でもこれ物理攻撃じゃないからミリムのお眼鏡にはかなわないような気がするのだが。

 

 

 変に邪魔しても悪い気がしたのとミリムにねむりの状態異常が効かないのか興味があったため、私はすぐに射線外の空中へ移動して待機することにした。

 

 

 私が退避してから数秒後にダークホールがミリムに向かって放射される。

 仁王立ちで自信満々のミリムは一気に深い深淵に飲み込まれて姿を消した。

 

(さてさてミリムの状態は……)

 

 私は『携帯獣』の『ポケモン図鑑』を使用してミリムの状態をウィンドウで自分の視界内に表示させた。

 

 

 

『状態異常︰ねむり』

 

 

 

 ……バッチリ眠ってますねぇ!! 

 

 

 私は魔王なんだから状態異常かかるなよと心の中で悪態をつきながら空からゆっくりと降下して、白ポニテの少女──ダークライと相対した。

 

 

「次は……貴方?」

 

「そうとも。ご期待に添えるかは分からないが、よろしく頼むとしよう」

 

 

 人の身体での戦闘はこれが初だ。

 実験台になってもらう、というわけではないがダークライちゃんには多少私の特訓に付き合ってもらうとしようか。

 

 

 




ちなみにギラティナの服装は

・裾がボロボロの灰色パーカー
・腰まで達する金髪
・黒混じりの赤い瞳
・赤黒ボーダーリブ生地セーター
・灰色ショーパン&スパッツ
・足と手に金色の輪っかのようなものが付いてる

こんな感じ。



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あくむのしょうじょ②

I'll be back.


「『りゅうのはどう』」

 

 ギラティナは手首を左手で抑えながら右手を突き出して小手調べの一発を放つ。

 あくタイプに対してドラゴンタイプの相性は等倍なので当然ながらまともなダメージが通るとは微塵も思っていない。しかし予想外だったのは相対するダークライの動きの速さだ。

 

「種族値……か」

 

 某かめはめ波のように放たれる蒼と灰の奔流を難なく躱すダークライ。

 揺れるように動いたかと思えば白い軌跡を残しながら『りゅうのはどう』を置き去りにしたりと想像以上にすばしっこい。

 

 ただのひとつもかすりもしないことに痺れを切らしたギラティナは黒い翼を展開しながら次のわざを発動する。

 

 

「『ドラゴンクロー』ッ!」

 

 

 フワリと空中で様子見をしているダークライに向かって黒みがかったエネルギーで形成された巨大な爪を振りかざす。

 

「……遅い」

 

 ダークライはギラティナのドラゴンクローを余裕をもって躱しながら着地。その後の追撃はドス黒い瘴気を纏った『シャドークロー』で応戦する。

 タイプ不一致のはずだがどこで経験を積んできたのか、妙に巧みな爪使いに阻まれてギラティナは攻撃するチャンスが見いだせない。

 

 ──ならば搦手だ。あいにくだがこれは試合ではない。

 

 

「『シャドーダイブ』」

 

 

 シャドークローの横薙ぎをバック宙で躱して着地と同時に『やぶれたせかい』へのゲートへ飛び込み戦線離脱。

 

 突如敵影が消えたことで警戒を強めたダークライ。しかしそんな彼女を嘲笑うかのように影の中からぬるりとギラティナが彼女に迫る。

 

 

 その状況にまるで彼女に気づいていないような自然な素ぶりでダークライはギラティナの方に顔を向けた。

 

 しかしその顔は先ほどの素振りとは裏腹にまるでイタズラが成功したような子どもの笑みだった。

 

 いつの間にやら彼女の手から『シャドークロー』は消え去っており、その代わりにの『シャドークロー』とは比べ物にならないレベルの何かを手に纏わせていた。

 

 

「──それは反則でしょ」

 

 

 ギラティナは否が応でもその『力』の正体を見破ってしまう。

 

 精神(こころ)は覚えていない。

 しかしこの『身体』──ギラティナのボディがその『力』を憶えている。

 

 

 幻視だろうか。否、それはありえない。

 

 同じ存在から産み落とされた力を、この眼が見紛うはずは万に一つもありえないのだから。

 

 

「『あくうせつだん』」

 

 

 

 張り付けた微笑を一層深くして、ダークライはその手を振り抜いた──

 

 

 ──この程度だったか

 

 クレーターのように陥没した、というには些か断面が綺麗すぎるか。プリンをスプーンですくったような半球状の穴を前にして悪夢の少女は一つため息をついた。

 

 

 

 彼女が目覚めた場所は自分と自然しかないような殺風景な島だった。

 

 目覚めから数日、何故自分がここにいるのかも分からず独りウロウロと島を巡る。その時不意に気配を感じた。

 

 ここではない、遠いどこか。その気配はぼんやりとしか認識できないくせにすぐに失せてしまった。

 

 何故かは分からない、だけどそこに何かがある。私がいる理由がある気がする。そんな矮小だが強い思いが彼女の手を引き、島から外へと連れ出した。

 

 

 早速彼女は行動を開始した。

 彼女にとっては幸いに、自分の力の使い方をしっかりと分かっていた。

 

 もちろん誰かに教えられたわけではない。彼女(ギラティナ)と同じく身体が憶えていたということだ。生存本能と言い換えてもいいかもしれない。

 

 

 ダークライは決まって月の無い夜に訪れた街の人々を眠らせては『ゆめくい』で他人の記憶を覗き見して情報を収集していた。

 

 その時に『魔物の国が世界で初めて成立した』という興味深い情報を入手する。もしかしたら……もしかするのかもしれない。

 

 ダークライは『ゆめくい』を続けながら魔物の国へと進軍。あともう少しというところで彼女は邪魔をくらった。

 何か同じ匂いがするような相手だったが恐らく自分とは関係ないだろうと考え殲滅した。

 

 さぁ、やっと魔物の国に行ける。そこに私の求める何かがあるはずだ。

 そうして歩を進めようとした彼女の足にガシリと硬質な何かの感触がした。

 

 フイと振り向くとそこにはボロボロになったギラティナの姿があった。その腕には炎を象った細長い布が巻かれていた。ダークライは舌打ちをしながらその手に影の爪を纏わせた。

 

 

 

 

 

 ⚫

 

 

 

 

 き、きあいのハチマキなかったら即死だったぜ……。

 

 なんか予感はしてたんだ。こう、死にかける予感が。

 

 

 とりあえずHP1なのでベスター謹製の『まんたんのくすり』を喉に流し込む。身体に刻まれた痛々しい傷跡はビデオの逆再生のように巻きもどり、HPは全快した。

 

 ダークライちゃんは驚いているのか苛立っているのか分からない表情を浮かべながら『シャドークロー』を発動した。

 

 

「どうして、邪魔するの?」

 

「どうしてって……このままだと君が私たちの生活圏に来てしまうからだ。君は今まで沢山の人々を眠らせながらこちらに向かってきただろう? 私たちが眠らされるとちょっと困っちゃうんだよね」

 

 カゴのみジュースかベスター謹製濃縮ねむけざましを常時使っていれば多大なる精神的疲労と引き換えにダークホールをぶつけられても目を開けていることは出来るだろうが……さすがにみんなそんなことしたくないだろうしなぁ。

 

「私、は知りたいだけ」

 

「私がなんでいるのか、なぜ生まれてきたのか。その理由を、知りたい。だから、ここに来た」

 

 敵意のこもった瞳から一転、ダークライちゃんの目は寂しさに怯える子どものような感情を見せた。そして私はその言葉に妙な引っ掛かりを覚える。

 

(生まれてきた……。ポケモンって私がここに転生してくるまでこの世界で生まれたことはないんだよな。じゃあもしかしてダークライちゃんが生まれたのって……)

 

 

「……私のせいだ」

 

 

 ユニークスキル︰携帯獣の内部スキル︰ステータス閲覧、の説明欄。

 

『実際行った場所のMAPの表示が出来てどこにどんなポケモンが分布しているか分かる』

 

 今確認してみたらそう記載があった。明確には書かれていないが、この世界にポケモンを生み出したのは私だ。テンガンざんの内部かその周辺だけかと思ったが、どうやらその範囲は私が思うよりも広域に広がっていたらしい。

 

 

「君、朗報と悲報があるがどっちから聞きたい?」

 

「……朗報」

 

「朗報は君が求めている答えを私が持っている事だ」

 

「本当!?」

 

 おっと、ダークライちゃんの方が背がでかいからいきなり詰め寄られてちょっとびっくりしちゃったぜ。

 

「まぁ最後まで聞いてくれ。次に悲報だ。君をこの世界に生み出したのは……」

 

 

 ────私だ

 

 

 




どうも、受験戦争に飲み込まれて疲れからかガチで転生してしまいそうな名無しの転生者です。ノイローゼなりそう。

超絶遅くなったのは前述の通り受験のためです。

センター試験は今回でラストになります。ここで合格しないと執筆の暇どころか人生おじゃんになる可能性もなくはない状況に陥ってしまいます。

上手くいけば春先頃――五月辺りにまた更新出来ると思います。

今回は死にかけながら書きましたので内容の粗は大量にあるかと思いますが平にご容赦くださいますようよろしくお願いします。

とりあえずセンターと二次試験を突破できれば休める時間を確保できると思います。それまではどうか更新できないことを許してください。



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