緋弾のアリア 円盤は静かに転輪する (新月の時を待つ人)
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爆弾女王の挑戦状(キラークイーン・チャレンジャー)
プロローグ


「もし『緋弾のアリア』と『ジョジョの奇妙な冒険』……もしこの二つを合わせれば面白いものを書けるかもしれません 私は何としてもこのクロスオーバーが書きたいのです」

「普段アンタがどんなものを書いているか知らないが……それぞれ別々に書けばいいだろう?」

「食傷気味の発想……読者は読んでくれません」

「オイオイオイオイオイ
 オイオイオイオイ
 オイオイオイ
 オイオイオイ
 オイオイオイオイオイオイオイ
 読んでもらえないものを書こうってのか!?それって『無駄』って事だろうッ!?」

「書くのは私です……あなたはただ読んでくれるだけでいい」

「ナアナアナアナアナア
 ナアナアナアナア
 ナアナアナアナアナア
 ナアナアナアナアナア
 ナアナアナアナアナア
 読むだけって……僕は暇じゃないんだ……他にもたくさん読みたい作品があるんだぜ……
 しかも!クロスオーバーは非常に扱いが難しく クロスさせる作品どっちも立てないと非常に面倒くさいことになるッ ましてや両作品ともに有名!地雷扱いもやむなしだ!
 何より読む側の苦労も考えるととてもじゃあないが書くことなんてできやしない!!」

「『転生』させます」

「だから気に入った」

 ……といったやり取りが脳内で起きた結果このような拙いものを書くこととなりました。


覚悟とは幸福である。

 

その神父に言わせてみれば、たとえ明日死ぬ事がわかっていたとしても…それを知っているから、覚悟しているからこそ幸福であるらしい。

 

悪い未来であったとしてもそれを知り、覚悟する事で絶望を吹き飛ばす…らしい。たとえそれが死ぬことであったとしても、だ。

 

先程かららしい、らしいと濁しているのはどうもそういった考えに賛同するのは性に合わないからであり、端的に言えばしっくりこないというだけの理由だ。

 

……話を変えよう。転生という言葉をご存知だろうか。古くインドのヒンドゥー教等で伝えられてきた宗教用語であり、生まれ変わりとも言われる。生まれ変わりと一言で言い表しても親類等に生まれ変わり魂が循環する転生タイプ、生前の業によって魂と姿が流転する輪廻タイプ、人間は生まれ変わりを繰り返すことによって魂そのものが進化していくリインカーネイションタイプ……まあ色々思想はあるらしいが要は『死』がキーになっている。

 

どうも自分はその『転生』というやつをしてしまったらしい。赤ん坊の肉体になり、そこからすくすくと育ち、今に至る……

死ぬ事を覚悟するのが素晴らしいとは思えないというのは性に合わない以上に事実一度死んだという事実があるからかもしれない。どのようにして死んだのかは覚えていないし、思い出したくもない。ただ自分の肉体の力が抜けて何かがふわりと浮かびあがった事は覚えている。今思えばあれは魂が体から抜けたのだろう。

 

自分が転生した存在である事を自覚したのは中学2年生の2学期頃だった。突然脳裏に走馬灯が走り……前世を想起した。

それからだろうか……奇妙な出来事が同時にいくつも身の周りで起こった。

 

自分の背後に何かがいるような気配がする。聞き覚えのない声のようなものが聞こえる。ペットとして家で飼っていた亀の甲羅に不思議な窪みができている。……関係ないかもしれないが、両親がお土産として妙な雰囲気の弓と矢を買ってくる。(しかもインテリアとして!)

 

頭がおかしくなってしまったのか(中二病を発症してしまったのか)と精神科医にかかることも考えたが、残念ながら現実だった。常に自分以外の誰かが部屋にいるような感覚がするし、間違いなく声も聞こえる。何度見返してみても亀の窪みもある。そして無関係だと思っていた弓と矢。鏃には虫の装飾が施されており、これならインテリアとして買ってもおかしくはない……自分はこれらのファクターからあるものを連想せざるをえなかった。

 

ジョジョの奇妙な冒険。

 

一世紀以上に渡るジョースター一族と邪悪な吸血鬼と化したディオ・ブランドーや邪悪な意思を持つ者たちの戦いの軌跡を描いた大ベストセラー漫画である。その長さから複数の部に分けられており第3部から登場する『スタンド』という概念によってそれ以降の作品の方向性は決まったとよく言われ、多くの作品がインスパイアを受けたとされる。

 

……背後には恐らく自分の『幽波紋(スタンド)』がいるのだろう。そう意識した途端靄がかったビジョンが鮮明になり現れたものは……

 

白い肉体全身に塩基配列が描かれ、マスクと王冠が一体化したようなものが頭部に張り付けられている変態だった。

 

『自分自身ヲ変態呼バワリスルト言ウノハ如何ナ物ダロウカ』

 

 正直変態に変態呼ばわりされるのは納得がいかなかったが……スタンド――――ホワイトスネイクがいるという事は自身がスタンド使いであるという揺るぎない事実であった。 

 何故出てきたのか、とホワイトスネイクに聞いたら『ソノ時ガ来タカラ目覚メタ、タダソレダケダ』とどうも要領を得ない答えしか返ってこなかった。要はあれか?前世の事を思い出すといった神秘体験を契機にスタンドを使えるようになった……そういう事なのか? しかしなぜホワイトスネイクなんだ……もっとこう、スタープラチナみたいに大体の人に聞いて大体の人がイカしているといったスタンドの方が良かったというのは贅沢な望みだろうか。

 

 

 ホワイトスネイク。ジョジョの奇妙な冒険第6部・ストーンオーシャンに登場するスタンド使いの一人、エンリコ・プッチの最初のスタンドである。能力は直接頭部に触れたり、幻覚を見せて記憶やスタンド能力を強制的にDISCとして抜き取り、その抜き取ったDISCやなにも書かれていないDISCに命令を書き込んでそれを頭部に差し込んで様々な効果をもたらすというスタンドだ。

 この時点で卑怯なまでに強力だが、20mといった長い射程を持ち、本体との距離が近ければ近接パワー型にも引けを取らないパワーとスピードを発揮するというスタンドの基本ルールを捻じ曲げた性能を誇っている。

 

 ホワイトスネイクは強力なスタンドだ。かの悪の帝王曰く、スタンドには強い弱いの概念はなく適材適所に配置することに意味があるらしいが、明らかに『便利すぎる』。DISCを抜き取れば植物人間にして殺さずに無力化することだって可能だし、命令を実行させる能力も正しく使えば絶大なアドバンテージを生む。

 それにスタンドというものをその当人の持っている能力や才能という言葉に置き換えたとする。抜き取った才能を上手く移し替え、使わせれば王と呼ばれる程優れた人物をただの無能に、何も持たざる乞食をいっぱしの王にすることさえできるだろう。

 

 ただ、『スタンド使いはスタンド使いと引かれ合う』といった法則をいの一番に思い出してしまったせいでその自分にもスタンドがつかえる!と浮かれるよりこれから死にもの狂いで戦わないといけないのか……という落胆が先に来た。

 何せ目と目があったらポケモンバトル、みたいな割と軽いノリで突然命懸けの戦いが始まるのだ。しかも所かまわずにだ。閉じこもっていようが些細なきっかけで命を賭ける羽目になるだろう。

 この世界に自分以外のスタンド使いがいるかどうかは知らないが……確実に厄介事に巻き込まれるのは確かだ。そう思ってM県S市に杜王町という町があるか、100年前に太平洋で沈没した豪華客船の中から棺桶が引き上げられたニュースがないか調べたがそういった地名は存在しないし、インターネット上の情報を見る限りではそんなものが引き上げられたという話はない。

 それで気が緩んで自分はネットサーフィンを始めてしまった。……その時適当に昼寝でもしておけば真実を知ることを先延ばしにできたかもしれない。だが現実は非情で唯々直視し難い真実を嫌という程に突きつけてくる。その結果、数十分後にネット上に転がっていたとんでもないものを見つけてしまった。

 

 

 ――――――武偵高ホームページといった特級の核弾頭を。今更ながらここは『緋弾のアリア』の世界だったらしい。

 

 よくよく考えてみれば思い当たる点はいくつかあった。自分の記憶では日本は治安のよい国だった筈だが、テロや強盗、違法な銃器の取引等のニュースがあまりにも多かった。外を出歩くと随分と個性的な格好をしていた奴もかなりいた。今思えばあれは武偵や犯罪者といったちょっと荒っぽい世界の人々だったのだろう。

 

 あまりにヌケサクじゃあないか……神が実在するならあまりに残酷じゃあないか……? あ、この世界だと神に近しい存在は実在するのか……

 

 だが別に武偵になる必要はない。美しい手を好む殺人鬼ではないができる限り平穏な生活がしたいのだ。武偵などという危険な職業に足を突っ込むのはゴメンだし、最低限自衛さえできれば問題はない。いざという時はホワイトスネイクでどうにかなる……という考えはあまりに浅はかで、木っ端微塵になった。

 

 

「は? 今なんつった?」

 

「だから武偵高よ、ぶ・て・い・こ・う。じょうくんに拒否権はありませーん!」

 

「学費が安いからな……それに学ぶことは多い、済まないが行ってくれるか?」

 

 落とし穴は見えないから落とし穴とはよく言ったものだ。否応なしに武偵高に入学することを命じられた。中学が一般校だとついていくのが大変だろうとか学費の安い高校ならほかにもある、と反論しようとしたが両親も武偵だった。そりゃ武偵高勧めますわ。

 ならば中学は付属中の方が良かったのでは? という問いに対して、

 

『一般校と武偵校の空気の差を知っておくことは大事だから』

 

 というありがたいお言葉を母から頂いてしまった。できる事ならずっと一般人でいたかったんですけど、と泣き言を漏らしたら、

 

『自己防衛が出来ない? 逆に考えろ。捕まえる側に回ればいい。逆転の発想だ』

 

 どんな柔軟な発想をしたら自分の息子を鉄火場に突っ込もうってなるんですかね……(困惑)自分の両親の脳味噌がどうなっているのか覗いてみたい。

 

 

 

 

 

 その翌年、自分は東京武偵高付属中学に編入していた。なんでやねん。

 




今やってる五部アニメも佳境に入ってきたので六部アニメ化する前に書かなきゃと思った、後悔はしていない。


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亀の中

ルーキー日刊66位……読んでいただきありがとナス!


 中等部(インターン)。レインボーブリッジ南方に浮かんでいるバカでかい人口浮島に設立された高等部……の島外にある付属中がそう呼ばれている。武偵としての初歩的な心構えや常識を学ぶ場所であり、インターンと呼ばれている通り、成績優秀な生徒は高等部で前もって講義を受けたり依頼(クエスト)を受けたりする。

 

 が……そんなことは些末な事だ。自身のスタンド(ホワイトスネイク)でどれだけのことが出来るのか確認したり、亀や鏃を調べることと比べればほんのオマケである。このような事を言うのもなんだが、武偵の成り立ちや武偵憲章の復唱、武偵高に上がったら学科分けされて……といったマジに初歩的な事だけでこれら以外は普通の中学校と変わらない。なんというかこの程度も出来ないのであれば武偵に向いてないよ、といったメッセージを感じる。

 

 さて、奇妙な溝とその溝に宝石の付いた鍵をはめ込まれている亀だが、甲羅に触れたらいきなり内側に引き摺り込まれた。いざ吸い込まれてみると咄嗟に着地できずに頭を打ったしまったが、確かに内部には豪勢な部屋があった。腰を掛けるとどこまでも沈んでいきそうな錯覚に襲われるソファ。キンキンに冷えた飲み物の入っているちょっと小さめの冷蔵庫。(中にモエ・ド・シャンパンが入っていたのを確認した時はたまげた)地上デジタル放送が映るのか少し不安になったがちゃんと映るレトロな趣の液晶テレビ。

 それ以上に驚いたのがクローゼットの中だ。数枚のキッチリと折りたたまれた白と黒のチェック模様の紙が入っていた。それぞれ『SC』『DU』『GW』『SO』というメモ書きが貼られている。

 これは……エニグマの紙か? 恐る恐る『SC』のメモ紙の貼られたものを開いてみると中には数枚のDISCがあった。そのDISCをよくよく見ると表面に(ビジョン)のようなものが光って見えたような気がした。

 

 

 間違いない。これは『スタンドのDISC』だ。

 

 

 入っていた紙をすべて広げて中を確認したが、やはり全てのスタンドのDISCはなかった。そして中に入っていたスタンドのDISCから察するにメモ紙はジョジョの奇妙な冒険の各部の副題『スターダストクルセイダース』『ダイヤモンドは砕けない』『黄金の風』『ストーンオーシャン』を意味するのだろう。最後の一枚……『SO』の紙を開くとDISCと共に一枚の紙切れが入っており、それにはこう書かれていた。『因果は一巡せず』と。恐らくこれは一巡後の世界である第七部以降のスタンドのDISCはここにはない、という事だろう。確かに(タスク)やD4CといったSBRで登場したスタンドのDISCはない。どこかにあるかもしれないと思い亀の中をくまなく探しても見当たらない。だがなぜスタンドのDISCが……

 

『本体、頭ノ悪ソウナ顔ヲスルナ……別ニ難シイ事デハアルマイニ』

 

「お前がいるからここにDISCがある、みたいなチープな奴はナシだぜ」

 

 あっ、こいつ目を逸らしやがった……つまりそういう事なんだな……

 

『コウシテ私ノ有能サヲ見セテオケバ自我ヲ消サレル事ハナイカラナ……』

 

 なんともしまらない理由だが、聞いたところによると此奴は前の本体(エンリコ・プッチ)の事を憶えているらしく、自分の扱いに不満を抱いていたらしい。曰く『アノド腐レ自分勝手スギルンダヨ、クソッタレガ』だそうだ。

 まあよく分からん物体と融合させられた挙句二回も整形も真っ青な変化を起こされたらそりゃそうなるわな。スタンドは己の精神エネルギーである以上、ああいった方法でスタンドの姿や能力を変質させるというのは矢を用いて新たな能力を得るよりもリスキーな事なのだろう。

 

 そう一人合点しつつ手元にあった適当なDISCを頭に入れたら……自分の精神が自分の精神ではなくなっていくような気がして吐きそうになった。船酔いならぬDISC酔いか。

 

『マズイッ!』

 

 白い掌が頭に付き刺さる。頭に何か入っていく感覚はDISCを入れた時にもあったが、脳に直接何かが入り込んで来るようで不快感がある。幸いホワイトスネイクがすぐにDISCを弾き飛ばしたが、あのまま入れ続けたらどうなっていたか気になるが……考えたくもない。

 

『オマエハ思ッテイタ以上ニアブナッカシイナ』

 

「次はもう少し慎重にやる」

 

 DISCを頭に差し込んでも酔わなくなってからいくつか試してみたところ、次のようなことがわかった。

 

 

 ・入れることのできるDISCは同時に2枚まで。それ以上入れると弾き飛ばされる。

 ・入れた対象と相性の悪いスタンドDISCは短い時間しか効果を発揮しない。

 ・スタンド像を動かすよりもスタンド能力を発動する方が倦怠感に襲われる。

 

 

 この『同時に2枚』しか使うことが出来ない、という縛りのおかげで調査には大分時間がかかったが大きな収穫である。スタンドを動かしたり能力の発動で倦怠感に襲われるのは精神が運動不足という事なのだろう。自分の肉体年齢はまだ15歳のピチピチでも使用したスタンドに精神が追い付いていない、或いはスタンドとの相性がよろしくない。ホワイトスネイクは自分の手足のように自在に操ることができ、体にかかる負担や疲労が少ないという点から相性の悪いスタンドのDISCであれば負担は大きくなり、最悪使用することが不可能になると見るべきか。

 

 自分とDISCを用いて一通りの『実験』を済ませ、亀の中に散らかしたDISCをしまって天井から外へ出ようとした時にふと疑問に思ったが……

 

 この亀のスタンド『ミスター・プレジデント』はスタンド使いではなくとも視覚できる物質同化型という特殊なタイプのスタンドの筈だが、なぜ今まで自分も両親も気が付かなかったのだろうか? ……仮説だが、スタンドの像はどこであるのか、という事に焦点を当てて考えると甲羅の中あるセーフハウスが像ではなく、『亀の甲羅にある窪み』とそこに『嵌まっていた鍵』こそがスタンド像であると考えるとしっくりくる。そしていままで亀の中に入ることが出来なかったのは明確な『入る意志』を持たずに……というよりも亀の甲羅の中に入るイメージを想像できていないせいだろう。亀の甲羅に触れたらブラックホールに吸い込まれるようにその中に引っ張り込まれるなどとは普通想像もしない。その証拠に中に入ろうという意思を持たずに亀の甲羅に触れても中に吸い込まれることはなかった。これで安心してこいつの甲羅を磨いてやれる。

 

 元々『ミスター・プレジデント』は物質同化型という特殊なタイプのスタンドだったが……スタンド使いでなければ知覚できないとなると有用性が増すな。こいつには申し訳ないが入り用の際は付き合ってもらうことにしよう。

 

 

 

「しかし一年経っても他のスタンド使いと一切出会わないってのはどういうことだ……?」

 

『マア、スタンド使イ同士ガ引カレアウトハイエ……0ニ何ヲ掛ケテモ0トイウ事ダナ』

 

 附属中に編入したのも闘争本能が一般人より強い環境であれば他のスタンド使いが見つかる可能性も上昇するのではないかという思惑ありきだったので素質を持つ者すら見つけられないと両親には申し訳ないがドロップアウトする(世界中を旅して探す)ことも見据えて動かなければならない。

 

「まあスタンド自体超能力(ステルス)とも違うみたいだが……どうしたものか」

 

 超能力。火を出す(パイロキネシス)残留思念を読み取る(サイコメトリー)といった通常の人間には実行不可能な能力を指す。研究が進んできたのは最近なので数はそこまでおらず、それらを駆使して事件を解決する『超偵』というものが出てきたのはここ十年である……というのは表の話。裏ではそれこそ数百年、数千年と研鑽と隠匿が行われてきた歴史あるもので、古くはかのやんごとなき方や平安時代の貴族の傍の占い師や陰陽師といった胡散臭げな存在も実はこの超能力(ステルス)を使っていたのでは? という話も持ち上がっている。

 

 ここでポイントなのは超能力者にスタンドが見えているか? という事である。スタンドは原則スタンド使いでなければ視認することは出来ず、触れることも不可能である。編入生である自分が見学の為に東京武偵高の中を見たい、と担任の教師に申し出たら当日の内に許可が出たのでその際にホワイトスネイクをSSR(超能力捜査研究科)に潜り込ませてみたところ、気配を感じ取って振り向きこそすれど、しっかりと姿を捉えて視認したであろう者はいなかったらしい。結果、超能力がつかえるという事とスタンドが見えるという事は全く関連性がない、という事になる。

 

 それだけではない。そも、何故自分はホワイトスネイクを宿すことになったのか。あまりにも唐突で、脈絡がない。これについては心の折り合いをつける為に一つの答えを心に置いている。何かを為すためにこの力に目覚めたのだ、と。実際のところどうなのかはどうだっていい。『スタンドに覚醒した』という事実だけが重要なのだ。

 スタンドとは己が精神の発露。形を持って見える姿。自身の無意識の奥底で望んだ姿形がこれ(ホワイトスネイク)だとするのであれば最終的には……いや、よそう。『天国』など求めても真に幸福になる保証などどこにもない。『一巡後の世界』に到達した者たちも、自分も。

 




 主人公の名前出しどころさんなくてたまげたなあ……
 


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前哨戦

うろジョジョ見たりディアボロの大冒険やりたくなるスタンド攻撃食らったので初投稿です。




「お前ってさ……もう一人の俺って認識でいいんだよな?」

 

『正確ニハ違ウガ……ソウダナ。他人デハナイナ』

 

「亀ってのは同居人にカウントしてもいいものだと思うか?」

 

『イヤ、一般的ナ感覚ナラバ……ペット、トイウノガ正シイダロウ』

 

 ベランダから見える黒々とした東京湾を眺めながら一人ごちる。正確にはホワイトスネイクが傍にいるが、これをもう一人の自分を別人格・他意識とは称しても全く赤の他人であるかとなるとそれはNOだ。明確な自我があればそれは他人だ、というのであれば他人なのかもしれないが……ホワイトスネイクの思考は手に取るように理解できるし逆もまた然り。性格や喋り方は違えど考えていることは大体同じなのだ。

 

 

「なんつーかさ……飽きない?」

 

『マア……言ワントスル事ハ理解デキルガ』

 

 

あれから8か月経過して現在5月。東京武偵高に晴れて入学して少し経つわけだが……自分の環境にあまり変化はなく、淡々と学生生活を送っていた。強いて挙げるのであれば念願の寮生活を始めたという事か。しかし本来は4人部屋であるこの第3男子寮の一室はがらんどう。ホワイトスネイクと亀の中に入っていたDISCがあればどの科に行ってもそれなりの働きはできるだろう……しかし変なのに目を付けられたくはないしなあ……といった理屈で探偵科(インケスタ)に入ったのが運の尽き。なんでも相部屋になる探偵科(インケスタ)の男子学生がいないので一人で寮に入るように、と教務課(マスターズ)からの無慈悲な通達が届いて膝から崩れ落ちたのは記憶に新しい。同じルームメイトと年相応のバカ騒ぎや下らない世間話のひとつやふたつはしたかったというのにこの始末である。

 寮に入って一週間は快適だった。部屋の中で思う存分スタンドを使って離れた場所にあるリモコンを取ったり、ホワイトスネイクに料理をさせながらスマートフォンで依頼を探したり。まあうっかりスプリンクラーを作動させてしまったこともあったが……それを一か月だ。幾らスタンドが非日常的なものであっても毎日見たり使役していれば流石に慣れる。ホワイトスネイクが話し相手になってくれなければ正直退屈を持て余して死にそうだ。

 

「なーんも変わり映えしねえなあ」

 

『ソウイエバ掟造(テイゾウ)……今度受注スル依頼ハドウスルンダ?』

 

「ホワイトスネイク、掟造(テイゾウ)じゃなくてもうちょい洒落の利いた呼び方できねーのか?」

 

『如月掟造ヲ他ニドウ呼ベバイイ……?オ前ノ母親ト同ジク、ジョウ君トデモ呼ブカ?』

 

 嫌味ったらしいなーこいつ。スタンドは本体の影響を受け、その逆もまた然り。自分も上っ面は良くても実は無意識の内に嫌味ったらしい事を考えて……いや、これ以上はやめよう。なんかホワイトスネイクの表情が心なしか悲しい感じになってきてるし。言葉にすればまるで捨てられた子犬のようだが、正直180センチ強の変な格好のおっさんがそんな表情をしても全くかわいくない。寧ろ気持ち悪い。

 

 さて、落ち込んでいるホワイトスネイクはしばらくほっといて依頼のリストでも眺めてみるか。武偵校の依頼というのは張り込みや人探し、浮気調査といった刑事ドラマでよく見るような刑事ものであったり、SPよろしく警護の依頼をされることもある。稀に武偵校を挟まずに依頼されるようなこともあるそうだが……自分には縁のない事だ。ある程度まとまった単位が入る実入りの良いものがいいがそう都合よくあるか……

 

 人探し 1.2単位 人探しか……ただの人探しなら隠者の紫(ハーミットパープル)を使えば余裕で見つけられるが……単位のデカさが気がかりだ。保留。

 車両整備 0.7単位 クレイジー・ダイヤモンドなら『直す』ことは可能だが、この単位のデカさからするとかなり複雑で時間のかかるものだろう。時間を一切かけずに修復なんざしたら怪しまれそうだ……これはパス。

 用心棒 0.8単位 オイオイオイ、死ぬわこれ……いろんな意味で。用心棒だけならともかく……依頼内容よく読んだらこれゲイバーか! 油断したら命じゃなくてタマとられそうだ……それに何かの間違いで知り合いと会うようなことがあると気まずすぎるからやめておこう……

 

「うーむ、やっぱりまとまった単位が取れるようなものはどれもヤバい雰囲気だな」

 

『美味イ話ニハ裏ガ有ル……マア焦ル程デモ無インジャナイカ?』

 

 旨味があるからその分苦労する……ホワイトスネイクの言う通りだ。同じように無から有が生じるという事はない。……スタンドの中には明らかに物理法則を歪めまくっているものもあるが、基本的には等価交換。1を2にすることは出来ても0を1にすることはほぼ不可能だが……それを理解していてもオイシイ話を聞きたがるのが人間というもの。まあ武偵高では荒事は日常茶飯事だし全く危険じゃない依頼とかないんですけどね。楽勝な依頼でも半日かかるのはザラだ。それに警察がお手上げだったり、事件性がないとかで普通は相手にしないような変な依頼とかもばっかり回ってくるという点から推して図るべしだ。

 

「焦る必要はない、確かに一理ある……が! 危険な橋を渡るからこそ拾えるものもあるということだ」

 

『余リ感心ハシナイガナ……デ、良サゲナモノハアッタノカ?』

 

「まあな……ほら、こいつなんてどうだ? 荷物の輸送とか」

 

 武偵というのは何でも屋に近い。いつも切った張ったをしている荒くれもの集団、みたいなイメージが世間の一部には根付いているものの(武偵校の面々を見ているとあまり強く否定はできないが)強襲科(アサルト)に所属しているからといって毎回毎回テロリストの鎮圧を行っている訳ではない。それに依頼の難易度次第でその依頼を受けることのできないランクの武偵は任務から弾かれることもある。分不相応な依頼を受けることで身を危険に晒すことのないように、という措置だ。

 

『0.3単位……明日ノ午前、アルバイト欠員ノ為ピンチヒッター求ム……依頼主ハ新都城ノ店主カ』

 

 確か……アクアシティお台場の五階フードコートに店を構えている魚介醤油系ラーメンをウリにしている店だったか。それなら怪しい裏はないと見て間違いないだろう。

 

「そこら辺がギリギリまともそうなラインか。受ける依頼は決まったことだし早速亀の中でスタンドの特訓でも……」

 

『スタンドヲ研究スルノハ悪クハナイガ、睡眠ヲ適度ニ取レ……明日ハ早イ』

 

 

 

 

 

「今日は助かったぜ!」

 

「いえ、助けになったのであれば幸いです」

 

 台場一の名店という肩書だけあって、『新都城』の店内は午前中であるにもかかわらず席の七割が埋まっていた。自分が手伝ったのは客の波のピークではなかったが、もう少し時間が経って昼飯時になれば満席になるだろう……このてんてこまい加減であれば依頼として出すのも納得できる。

 

「今度は客として来てくれよな!」

 

「それは保証しかねますけど……今度友達連れてきますよ」

 

 本当は友人と言える存在はいないので先程の発言は自分の下らないプライドを守るための強がりに近いが、今度新都城に客として来るのはやぶさかではない。しかしあの場限りの制服とはいえ脱ぐのを少し惜しく思ってしまった……武偵高に入学しなかったらバイトに明け暮れる生活をしていたのだろうか。

 

『掟造、バイクヲ停メテイルノハ地下ダロウ?』

 

「わかってるっつーの、ちょっと夕飯の材料買ってからだ」

 

 スタンドが使えるとはいえ何も食べないと死ぬし、肉体に異常をきたす。そんなことが頭をよぎるとたとえスタンド使いであったとしても何でもできるわけではないし、寧ろできないことの方が多いと常日頃から思い知らされる。そもそもおおっぴらに使えるような能力など片手で数えるくらいしかないのではないだろうか。幾らスタンドは使いようによって応用が利くとは言えもう少し日常生活において役立つ能力が欲しい。

 

 

 買い物を終え、地下駐車場に停めておいたバイクのエンジン音が鳴るのを確かめ、ゆっくりと発進する。今年父親から譲られた……というよりも新しいバイクを買ったという事で以前使っていたものをおさがりとして息子である自分に押し付けてきたようなものだがなかなか乗心地はよくしっかり整備されている。本当はわざと押し付けるような形で大切なものを渡してきたのではないだろうかと邪推してしまうくらいだ。

 

「……あん? なんだありゃ?」

 

 レインボーブリッジを渡り始めておよそ数十メートルだろうか。視界の端に妙なものが映った。断じて海にゴジラがいたとかそういうアレではない。道路の方に変なものが走っていた。あれは確か……セグウェイとかいったか。金持ちが乗っているイメージが強く、その姿形はなんともアホっぽくてシュールに見えるやつだ。ただ自分の10メートル背後に迫っているセグウェイにはアホっぽい金持ちの代わりに無機質で、人を撃つのに感情を持たないUZIサブマシンガンがくっついていたが。

 

 

『そのバイクには 爆弾が仕掛けて ありやがります』

 

 

 今……何と言った。爆弾? 爆弾と言ったか? おふざけにしては冗談がキツイ。……そう思いたいが銃口が自分の頭部を寸分の狂いなく狙ってきている時点で残念ながら冗談の類ではないらしい。仮にフェイクだとしても家に無事に返すつもりはないようだ。機械音声からは感情など読み取れないがギラギラとどす黒く輝く殺意は伝わってきた。

 

「ホワイトスネイク、いけるか?」

 

『余裕ダ。任セロ』

 

 言葉を解さないやり取りの数秒後にはホワイトスネイクの拳がセグウェイのタイヤをぶち壊し、殴り飛ばされたセグウェイは回転しながらあっけなく爆散させた。これで当面の危機は去ったが……後は爆弾とやらが本当にあるのかを確かめるだけだが……機体の下部にくっつけられているな。任務の隙を突いて何者かが仕掛けていったというところか……こんなに分かりやすい位置にくっつけられているのにどうして気付かなかったのかと小一時間問い詰めてやりたい。

 

『掟造、コレモ弾キ飛バシテイインダナ?』

 

「できれば最終手段にしたいところだがな……俺の制服の中に入れてあるDISC入れてくれるか? そうそれ、内ポケに入れてるやつ……あ、右内ポケットだぞ」

 

 いざという時の為に内ポケットの中に入れておいてよかった……事前に戦闘があると知っているならともかく、普段からスタンドのDISCを差し込んでおく訳にはいかない……精神にかかる負荷がデカすぎるからだ。だが今日はツキがこちらに味方した。こいつの能力を使えば爆弾を起爆させずに容易に処理出来るッ!

 

「どこのどいつか知らないが……必ず落とし前は付けてもらう!」

 

 自分の頭に円盤が入り込んだ瞬間、爆弾のみが厚い氷で覆われた。しかもバイクの発する熱で一切溶けることなく凍り付き、それどころかますます氷はブ厚く大きくなっていく。万物を凍らせるスタンド……『ホワイト・アルバム』の能力である。今やったのは爆弾処理班がやっているように冷却する……それの更にスゴイ版といったところだ。他にもやりようはあることはあるがこれが一番確実で手っ取り早い!

 

「今だッ! 凍り付いた爆弾を海の方に吹っ飛ばせ!」

 

『ウオアアアアアアア!』

 

 遠目からは良く見えないが小さな水しぶきがあがって海の底へと沈んでいった。凍らせていなかったらどうなっていたかは……良くてスクラップと肉塊が一つづつ出来上がっていたかもしれない。そう思うとぞっとしないでもない。

 

 しかし冷静になってくると嫌でも考え事をしてしまうな。遂に新手のスタンド攻撃か! という日が来たのかと思ったが本当にスタンド使いであればわざわざこんな真似をする必要もない。恨みを買うにしても心当たりはない。敵は必要以上に作らないようにしてきたし、武偵歴二年のペーペーに何のいんねんがあるというのか。

 

 となると考えられることはひとつ。本当に偶然狙われた。非常に迷惑な話だがこれが一番ありえてしまうのが恐ろしい。昨今テロというものが珍しくない時代だ。誰がこういったことのターゲットになるか分かったものではない……いや待て。どうしてわざわざバイクなんかに爆弾を仕掛けた?こう言っちゃあなんだが、バイク一台吹っ飛ばしたところでたかが知れている。いいとこ一人、多くても二人始末できるというだけの話。となると自分そのものを狙ってきたのではなく……

 

「『武偵』である俺を狙ってきた……?」

 

 バイクのナンバーから特定の個人を調べる手段があるならばそこから情報を引き出すことも不可能ではない。が、自分がそこから犯人を割り出すことはほぼ不可能だ。こういうのは情報科(インフォルマ)の十八番だが……自分はこういったものを調べるのは得意ではない。スタンドが使えるという事とスタンド使い特有の超人的な理解力以外は一般人並みである。いや、性格は欠陥があるから一般人以下か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あちゃ~、失敗しちゃったかぁ。ただのBランク武偵だと思ってたんだけどアテが外れたかな~?」

 

「そのようだな。遠山金一を誘い出す計画の第一弾……初手で頓挫しているように私には見えるのだが」

 

「まーまージャンヌ、このくらいなら微調整入れて作戦続行すれば問題ないっしょ。でもまあ……」

 

 

 

「今度は潰す」

 

 

 その瞳はパソコンの画面……正確にはその中に映っているバイクに乗った青年をただじっと見つめていた。




緋弾のアリアは時系列一覧欲しくなる……欲しくならない?
理子は高1の時点でイ・ウーに所属してたっぽいけど実際はどうなんだろうか……


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捜索

 ルーキー日刊13位!?うせやろ?

 なんかこの2日の間に評価バーが赤くなったりUAやお気に入りが滅茶苦茶増えていて驚きましたが……読んでいただきありがとナス!


 猫が好きな人はいるだろうか。もしくは犬でもいい。もっと広い捉え方なら動物でも構わない。それらがもし忽然と姿を消してしまったらどうだろう。

 慌てるだろうか。悲しむだろうか。どうして、と憤るだろうか。反応は人それぞれではあるものの何の反応も示さないという事はないだろう。何の反応も示さず、気にも留めないというのならそういった人種は動物を飼うのに相応しくないだろう。もっとも、それ以前に失踪したことにすら気付かないだろうが……

 

 自分の場合は亀だ。その能力の有用性というのもあるがこのつぶらな目がたまらなく愛らし……くはならないな。よくよく見るとかなり目つきが悪い。が、どうにも愛着というものが湧いてくる不思議な顔つきをしている。それに人懐こく大人しい。それ故に自分はこの不思議な亀をいたく気に入っている。

 

「頼みますわよぉ~っ、学生さん! 絶対うちの子を見つけてくださいまし!」

 

「はあ、仕事ですしできる限りの努力はしますが……写真とその子のケージを見せていただいても構いませんかね?」

 

「ええ、ええ! いくらでも見ていって! 見つけてくださるのなら協力は惜しみませんわ!」

 

 自分はこのババ……ご婦人の依頼で飼い犬の捜索に駆り出されていた。話によるといつも猫かわいがりしている(犬なのに)愛犬が昨日失踪したとのこと。脱走ではなく失踪と決めつけるのはいかがなものかと思うが実際に忽然と姿を消してしまったのだから脱走ではなく失踪というほかあるまい。

 

 しかし猫探しならともかく犬探しか。猫は自由気ままにどこかへ行くことも多いので探してほしいという依頼はかなり寄せられるが犬探しは珍しい。まあ、昨今は犬を野外の小屋につないでおくのは珍しくなってきている……ましてやこの豪邸とくれば中で散歩が出来そうなくらいだ。

 

「ふーむ、自分で開けたようだな……賢い犬だ」

 

 本当にそうかは別として、そう言っておかないとこの手の女はヒステリーを起こしかねんからな……

 あとは情報だ……犬種はトイプードル、毛色はポピュラーなブラウン、首輪はなし。ほお、これが最近流行りのドッグウェアという奴か。犬が何考えてるかは知らんがあまり喜んでいるようには見えないな……色はライトグリーン。これだけ特徴的であれば先に見つけた誰かがこの子を保護しているかもしれない。『脱走』であればの話だが。

 

「本当にお願いしますわッ! わたくしの大切な家族なので!」

 

「大丈夫です、必ず見つけてきますよ……」

 

 自分の表情は鏡を見ていないのでわからないが、非常に不自然な作り笑いになっているだろう。

『ホスト』という職があるが……彼らはいわゆる『感情労働』とやらを求められるらしい……自分にはとてもできそうにない。今だけは彼らに対して尊敬の念を送れそうな気がした。

 

 

 

 

『アンナ事ガアッタトイウノニ今度ハ犬探シトハ随分精ガ出ルナ』

 

「たりめーだろ、単位はいくらあっても困らない……しかしこんなけったいな依頼受ける事になるとはな。単位と報酬がいいからって選ぶのミスったか?」

 

『反省点ダナ。1.0単位トナッテイルノハ、任務ソノモノヨリモ……アノ女ガ厄介ナノカモ理由カモナ』

 

 どうかんであるそれでも美味しい依頼があれば飛びつかなければならないのが武偵の悲しい性よ……まあスタンドが使える分、弾薬・刀剣代はある程度浮いてはいるが防刃制服や生活費はそうはいかない。ホワイトスネイクの言う通り仕事に精を出して稼がなければならないわけだ。

 

「しかし教務課に呼び出された時は心臓に悪かったぞ……スタンドが露見したのかと焦ったからな」

 

『余程大規模ナ能力デナケレバ、ソウソウバレハシナイガナ……』 

 

 あの襲撃の翌日、教務課の呼び出しを食らう羽目になってしまった。何でもあのバイクに仕掛けられた爆弾の件について聴取を行うため教務課に出頭するようにとのことだったが、武偵校三大危険地帯と呼ばれるだけあって非常に恐ろしく、プレッシャーが実際に重みを持つというのはこういう事なのだろう。……物怖じせずに普通に三回ノックした後に入ったら目の据わった尋問科の教諭に呆れられたが。

 

 肝心の聴取だが、あっさりと終わってしまった。個室の中で一対一の聴取という形ではあるものの、そこまで話すようなことはないので当然すぐに終わる。サブマシンガンのくっついたセグウェイに脅されました、からどこまで展開するというのか。尋問科の教諭……綴先生はその時どこで襲撃されたか、本当にバイクに爆弾は付けられていたのか、どれくらいの速度で走らせていたか……他にも事前にどのような依頼を受けていたかといった質問をされたがどれも後ろめたい事ではないので普通に答えたら綴先生に頭を掻きながら困ったような表情をされた。

 

『あんたさぁー……ほかに何か知らないの? 如月ィ』

 

 あの目で見られた時はバイクに爆弾を仕掛けられたと機械音声に告げられた時よりも身の危険を感じた……日本で五指に入る尋問の名手の呼び声は伊達ではないという事か。相手から情報を抜き出すことにかけてこの人に負けるつもりは一切ないが、もしかしたらこの女性教師の方が自分以上にホワイトスネイクを上手く使いこなせるんじゃないだろうか、などと戦々恐々としていたせいでその言葉をただの確認の意味を持った発言だと自分が認識できずにボケっとしていたが、

 

『別に知らないこと言えって訳じゃぁないんだ、先生も暇じゃないから知らないならさっさと帰んなー』

 

 と態度を一転させるものだから自分は荷物を持ってそそくさと綴教諭の個室から退出した……もしあれが本気で疑っているとかそういった意味であの言葉を吐いたのであれば何をされたか……よくわからん臭いのする紙巻タバコで根性焼きされたり、ケツにツララを突っ込まれる方がまだマシかもしれない事を実行に移したかもしれない。(尤も、どちらもされたくはないが……)

 

 

「熊の巣穴に放り込まれたような気分だったな……」

 

『聞クトコロニヨルト、熊ヲ狩ッタ教師モ居ルラシイナ……アノ部屋ノ方ガ獣ノ巣穴ヨリ危険ダ』

 

 今更そんな情報は聞きたくはなかったな……今度教務課に行く機会があったらブルって膝が小鹿よりも不安定になってしまう。いや、そんな恐ろしい事を考える暇があったら犬を探さなくては。

 

「足跡は……こっちか」

 

 ハイウェイ・スターであらかじめ対象の臭い……今回のケースでは犬の臭いを覚え、住宅街の構造はスマートフォンのマップ機能で把握する。より詳細で正確な情報を得る為に隠者の紫を持ってくることも考えたが、対象の追跡さえできればマップ機能以外は必要ないし、能力を使用することで発生する消耗が小さくても積もり積もれば大きくなる。なのでもう一枚は常時使用するタイプのスタンドではなく、いざという時に護身用として使える近接パワー型のスタンドDISCを持ってきている。

 

 スマートフォンを見ながら住宅街の入り組んでいて同じような道を何度も通りながら先行させているハイウェイ・スターの足跡を追跡していると、臭いは住宅街にぽつりとある公園に続いていた。だが獣の臭いだけではなくほんのりとアイスクリームを作る時の……そう、バニラの香りがした。

 

 そのバニラの香りを発する先客がしゃがんでトイプードルを撫でていた。俗に言うロリータ・ファッションと分類されるであろう特徴を武偵校の制服に盛り込んだ改造を施し、蜂蜜の上澄みのような金髪をツインテールにしている。身長183cmの自分と比べて目分量で行くとだいたい30~40cm程背丈の低い。あの目立つ風貌には覚えがある。確か名前は……

 

「およ? イゾウだー! どしたの?」

 

 峰理子。専門科目が自分と同じ探偵科だったので見覚えがある。普段は能天気でアホそうに見えるが、実際はAランクという優秀な武偵だ。クラスは別なので顔を合わせる機会はそう多くはないが印象的な外見とエキセントリックな渾名のつけ方のせいでかなりのインパクトがあった。自分は別に人斬りではないし、挑発された弟分を止めたりもしない。

 

「峰さんか……なぜここへ?」

 

「知らないの? あのオバさんいろんな武偵に声かけてるらしいよー?」

 

「ああ、成程……経済力はありそうだからな」

 

 あの犬がそこまで大事なのか……我が子のようにかわいがっていればそれだけ全力で動くのも無理はない。ただ、もう少し自由にしてやった方が犬にとって幸せな気もするが。

 

「それじゃ報酬は先払いで既に受け取っているし、さっさと帰るかな……」

 

「待った待った、味気ないなぁーイゾウは! そんなんじゃ女の子にモテないぞー!」

 

 余計なお世話だ。だが話し相手程度はしてやってもいいか……どうせ家に戻っても暇を持て余している。

 

「女性の扱いはそこまで上手ではありませんが、話相手程度であれば」

 

「堅い! 堅いよイゾウ! 他人行儀すぎぃー! あと『理子』でいいよ! 名字で呼ばれるのキライー!」

 

 随分と元気だな……こうも距離をぐいぐい詰められるとこっちが気後れする。記憶の限りではそこまで濃い付き合いをした覚えはないが、そこまで気に入られる要因があっただろうか? それともただ単に彼女がこういったことにかけては超一流なだけか?

 

「では改めて……理子、イゾウ呼びはないぜ。もうちょいイカした奴を頼む!」

 

 本名の掟造(ていぞう)ですら爺臭い響きだというのにイゾウ。元よりも更に古臭い。古すぎて黴の臭いが漂ってくる。彼女が自分をどう見ているのか大変興味がある。

 

「え~? いいと思うんだけどなぁイゾウ。それがお気に召さないのであれば……うーん……」

 

 そこまで悩むのであればイゾウ呼びをされるのもやぶさかではないが……理子は指を側頭部に当てて円を描きながらうんうん唸っている。やっぱいいや、などと口走る事のできる空気ではない。

 

「フルネームが如月掟造だから……全部音読みにするとジョゲツ・ジョウゾウ……そうだ! 同じ音の部分を連続させて『ジョジョ』というのはどうッ!?」

 

「ジョジョ……ふむ、どういう訳かしっくりとくるな」

 

 今まで意識していなかったが『ジョ』と読める部分が二か所ある……理子のセンスがエキセントリックだという評価は訂正しよう。なかなかにハイセンスじゃあないか。

 

 

 

 その後、好きな食べ物や普段聴いている音楽、今期どのアニメ作品を視聴すべきとか……そんなたわいもない会話が続いた。そうこうしているうちに空に赤みが差し、青空と混じり紫色の部分が生まれる。もうそんな時間か。

 

「そんじゃ積みゲーがあるから帰るんで後はヨロ!」

 

 夕焼けに照らされながら理子は敬礼のポーズをとって颯爽と茂みを飛び越えていく。飛んだ勢いで短いスカートの中が見えそうになったので理子の将来が少し不安になる。……ん?

 

 

『後はヨロ』 峰理子は今、確かにそう言ったか?

 

 

 積みゲーの部分はわかる。あいつがオタク、俗に言うギャルゲーマーなのは見たことがあるから知っている。あそこまでおおっぴらにやるのは男子でも難しいのに何があそこまで理子を引き付けるのかは理解できないが何かあるのだろう。だが他に何が……!?

 自分の目の前に……犬がいるな。理子が撫でまわしていたトイプードルがいる。それもライトグリーンの服を着ている。毛の色はブラウン。

 

「チクショウ……! 依頼の報告、全部押し付けられたッ!」

 

『マ、私以外ト話ス機会ガ巡ッテ来タト考エレバ安イダロウ……』

 

 どっちみちやることだからそこまで気にはしていないが……実際に発見したのと、そうでないのでは書類の量が違う。一杯食わされたな……

 

『折角見目麗シイ女子高生ト会話出来タノダカラ、モウ少シ喜ベヨ……ナァ?』

 

 この野郎、薄ら笑い浮かべてやがる……あっ、歯を剥き出しにして笑い始めやがった。そこまで面白かったか。

 

「これだからホワイトスネイクは……ほらワンちゃん、行くぞー」

 

 件の犬を抱きかかえようとしたら抵抗して……ってこいつオスか! (理子)に撫でられるのはよくって自分に触られるのは嫌と。まあ同性としては気持ちはわからんでもないが……連れて帰るのが仕事なので少し手荒くなってしまうが、こうする!

 

「ホワイトスネイク! 『十分間大人しくなるDISC』を差し込め!」

 

 笑いながらホワイトスネイクが銀色のDISCを犬の頭部に差し込む。じたばたして持ち上げられるまいとしていた犬が打って変わって静かになった。これでお互い怪我をせずに済む。

 

『クヒッ、クハハッ……ココマデ笑ッタノハ久々ダ……』

 

「久々だと? 嘘をつくな……武藤と遠山がランバージャックをやった時、俺が『青春だなぁ』と呟いた直後に笑っていたのを忘れはしないぞ」

 

 あの後二人は友人になったらしい。そういう殴り合いから芽生える有情とか、気兼ねなく話せる友人が欲しかった……今度誰かに喧嘩を吹っ掛けてみるか? いや、それで出来るのは悪友か。

 




 まともにホワイトスネイクの能力使うの今回が初めてなの草


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初夏

 3/27のルーキー日刊5位に載ってるとかたまげるんだよなあ……いつの間にかお気に入りも400件超えてるし……これからもぼちぼちやっていくのでよろしくお願いします。

 あっそうだ(唐突)スカーレットフェスタ買いました。一巻のあの場面で作品の方向性が完全に決まったりジーサード強くし過ぎたって赤松先生本人も思ってたんだなぁ……


「くそ暑い……」

 

 時の流れは速い。若い間はそうでもないようだが年を重ねるとあっという間に過ぎ去っていくらしい。半年がたった一週間に圧縮されているような錯覚すら覚えてしまうくらいだ。桜咲く季節は既に過ぎ去り、いつの間にか白い陽光が地上を照り付ける季節へと移り変わっていた。

 

『夏ダカラナ』

 

 部屋のカーテンは未だに日光を遮っているが、いい加減に開けておかないとまずいか。亀の甲羅は日光浴を行うことでカルシウムを吸収するビタミンDを生成する……人間も同じく長い間日光を浴びないと体内でビタミンDが生成されず、健康的によろしくないらしい。その他にも精神的に悪影響を及ぼすらしいが……創作物の吸血鬼が根暗だったり頭がおかしいのは日光を浴びられないからなのかもしれない。

 

「夏休みだってのになんもやる気が出ない……プールも人が多くてだるい……スタンドを使う気力も出ない……」

 

『コノ調子デ餓死、ナドトイウ事ニナッタラ……知リ合イ全員ニマヌケ呼バワリサレルナ』

 

 熱中症で死ぬのは勘弁したいところだ。気を付けておけばどうにかなることを怠って大事になるのは御免である。

 

「ホワイトスネイク、水をコップに入れて持ってきてくれ」

 

『自分デ歩ケ』

 

 コップの中に入れた常温の水をちびちびと飲みながらテレビの電源を付ける。尤も、今は昼なので画面に映っている番組もニュース番組だが。やっている内容もオリンピック開幕まであと数日、ホテルで火災、現内閣総理が内閣改造に踏み切った……そんなことばかりだ。

 

「三日前にカージャックの情報が流れてきた時は驚いたな……」

 

 自分と同じ手口で車を意のままに操り、一定の速度を出せなくなった車を設置されていた爆弾が吹っ飛ばしたという話だ……自分のバイクも速度を落としていたら爆発していたと思うと他人事と思えない。その車に乗っていたのは武偵であった為警戒するように、といった通達が入ったのは記憶に新しい。やはり武偵に対して何らかの恨みを持つ者の犯行だろうか。

 

『武偵殺シ、トデモ言ウベキカ……何ニセヨ私達ノ敵デアル事ニ変ワリハナイ』

 

「カージャックされた武偵はなんとか命拾いしたらしいがな……っとそうだ、今のうちに履修登録しとかないと」

 

 探偵科に所属している身ではあるが別学科……主に尋問科や強襲科の自由履修を受けた身としては探偵科とは空気が違う。強襲科は血で血を洗うとまではいかないがかなり激しい訓練を行ったし、尋問科は他に履修していた生徒の目つきが大分怪しい感じで……目の奥が濁っていた気がする。

 

「次はどこ行ってみるか……SSRとかよさげなんだが履修取れたかな?」

 

 SSR……通称S研。情報の秘匿が厳重な学科の為クローズドな学科ではあるものの、内部では盛んに研究が行われているらしい。なんでも合宿の行き先が恐山だったり立山といった霊地に足を運ぶこともあるとか。自分はそこまでやるつもりはないにせよ、何を行なっているのか非常に興味があった。

 

『スタンドモ見エナイ奴ラノ所カ……』

 

 不服そうな顔をされても困る。スタンドというものは有用ではあれ全能ではなく、汎用性があろうと万能ではない。たとえどれだけ強大なスタンドであろうとも必ず短所はあるし、目も当てられない程のカススタンドでも用途次第で使いようはある。SSRに集まっている超能力者がそこまで使いにくい能力を持っているとは考えにくいが……一つの能力を限界まで使いこなすという点では自分以上ではないだろうか。

 

 ただ、ホワイトスネイクが不機嫌なのは理解できなくはない。自分に遠回しに『力不足』と言われたように聞こえたので不貞腐れているのだろう。学校で勉学に励んだ上で通信簿に『たいへんよくできました』ではなく『よくがんばったでしょう』のスタンプを押されたら納得できない……そういうものだ。ホワイトスネイクに対する実際の評価は『いつもありがとうございます』のスタンプを進呈したいところだが。

 

「前に一度お前を潜りこませたからな……今年こそいるかもしれないだろ?」

 

 あまり期待していないというのはホワイトスネイクと同意見だが、現に『弓と矢』が誰にも知れずそこらの骨董屋で売られていたのだから天然のスタンド使いがいてもおかしくはない……おかしくはないが、ここまで一切出会うことがないという事は自分が無意識の内に他のスタンド使いを避けている、或いはスタンド使いの素質を持つ者が極端に少ない、という仮説を立ててもいいかもしれない。

 

「まだ実家に置いてあるんだったか」

 

 本当は手元に置いておくべきなのかもしれないが、あそこまで嵩張るものを影も形もなく持って行ったなどと両親にどう説明すればいいのか。まさか『亀の中にあります』などと言う訳にもいくまい。そのような事を口にした日にはいい年こいて世迷言をはやめなさいと切り捨てられるだろう。

 自分の部屋に置くことは許されたものの、母が『出世払いだからね?』と実にいい笑顔で言っていたのが鮮烈に残っている。もし代金を払わずに家から持ち出した日には目も当てられないことになるだろう。その代金も直視し難いもので、買ってきた時の額は五桁だと聞いていたが持ち出す際の額は六桁になっていた。五桁ですら学生の身には応えるのに六桁である。これまでの報酬全て掻き集めても足りるかどうか怪しい。来年からもっと難易度の高い依頼を受ければ早々に譲渡されるかもしれないが、ひとまず保留としておく。

 

 

 

 

 部屋で籠りきりというのも性に合わないので街に繰り出してみると、赤ではなく青のワンポイントの入った半袖を着用している女子生徒がどうしても視界に入る。そういえば名古屋女子武偵高では布面積が少ないものを身に着けている者は勇敢であることの証左であるという話を思い出したが、その理屈で行くと最も勇敢なものは制服はおろか下着すら着用していないのではないだろうか。それは銃弾や刀剣が防げないとかそれ以前に人間としてアウトのような気がするがそれで捕まったという話は自分の知る限り聞かない……名古屋は変態の巣窟なのだろうか。

 

「適当にハンバーガーでも摘まもうか……」

 

『ジャンクフードハ体ニ悪影響ヲ与エルゾ』

 

「うっせ、わかってるっつーの。今日の昼飯はそれで済ませてもいいかと……!?」

 

 背後のホワイトスネイクの方へと振り向いた瞬間『それ』を感覚的に理解してしまい、背筋が凍り付いた。

 

 

 

 何者かがこちらを見ている。

 

 

 

 視線から敵意や殺意といった悪感情は感じ取れないが、それが尚の事解せない。というのも意図がまるで読めないのだ。監視されるようなことを大っぴらに行ってはいないし、以前自分のバイクに爆弾を仕掛けた襲撃者とも手口が違う。なんというか……何があろうとも手を出す気はなく、ただじっと見ているだけ。不快を通り越して不気味である。

 

「ホワイトスネイク、俺たちの方を見ている奴はこの近くにいたか?」

 

『イヤ、ソレラシイ奴ハ近辺ニハイナカッタ……ト、ナルト』

 

「『鷹の目』の可能性があるか。だが何故俺を?」

 

 鷹の目。確か狙撃科の一年が請ける簡単な依頼という話は耳にしたことはあるが……ああ、そういう。カージャックと同じ手口でバイクに爆弾を付けられた自分は実は自作自演で、本当は犯人ではないか……ざっくり言ってしまえば嫌疑がかかっていると。学生武偵が無傷で切り抜けたのであれば何らかのタネがあると思うのは当然である。誰だって怪しむ。自分も怪しいと思う。

 それなら何もせずに堂々とジャンクフードを頬張り、体に穴が開くほど見られる方が都合がいい……本当に風穴を開けられるのは困るが。

 

 とはいえ謎の視線に晒されながら摂るのも精神衛生上よろしくないので店内の奥……それも外からは見えにくい箇所に座ったが、それでも一切途切れることなく視線が追ってくる感覚があるという事は余程優秀な生徒を使っているのか。

 ドリンクをストローから吸う瞬間も、ハンバーガーを口に入れて咀嚼する瞬間も、フライドポテトを数本まとめて摘まんで食べている最中もじっくりと見られている。一度見られていると意識してしまうと、どうしてもそこから意識を外すのは難しく、心が落ち着かない。

 

 

 スーパーマーケットに夕飯の材料を買い込んだり、以前理子に勧められたゲームがあるかどうか確認する為に近所のゲームショップを覗いてみたりしたが……視線は自分に絶え間なく注がれ、寮に戻るまで心休まることはなかった。

 これが何日続くのかは読めないが、こうも精神をヤスリで磨り減らすような真似をされては頭がおかしくなりそうだ。一週間……いや、下手をすれば半年や一年……長期で行われるものだとしたら流石にたまったものではない……ストーキングされる側の辛さを身を以って味わうのは今日だけでいい。

 

 

 あの後一週間程監視されたが、一日目程キッチリ見られているという感覚はなかった……というより自分が視線を察知したのは本当に『一日目』だったのだろうか。自分の与り知らぬ時に既に監視されていたのではないか……そう思うと寒気が止まらない。

 ガラス張りの部屋は解放感があるという事で最近は増えているらしいが、一度長い事見られるような経験をするとそうは思えなくなる。ガラス張りの部屋に入っている人間を外側から眺めると、どことなく動物園を彷彿とさせて……結局閉塞感も解放感も程々の方が人間にとっては暮らしやすいのだろう。

 

 

 ――――――この一週間、時たま吹きつける夜風が酷く冷たかったような気がする。

 




 『岸部露伴は動かない』程ではないにしろクッソ不気味な回を一度書いてみたかった。

 じゃけん次で原作ほんへに突入しましょうね~


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春風は誰が為に吹く

 鉄獄と試練を乗り越えたので恐らく平成最後の初投稿です。令和になってもよろしくお願いします。


 時計の針が12と6を指している。この時間帯に既に日が昇りかけているのを目にすると秋や冬とは違うと嫌でも思い知らされる。

 

『何故今日ニ限ッテ歩クノカ……』

 

「バスは人がごった返すからな……」

 

 そうは言うもののホワイトスネイクの表情はいつもと変わらず不気味な顔つきだ。自分がどのような手段で通学しようがどうでもいい、と顔に書いてある。

 

 普段はバスに乗って武偵高に通っているが、たまには歩かないと体によろしくない。本当は朝早く目が覚めてしまったので穏やかな日差しを浴びながら悪くない……そんな気まぐれを起こしただけで特に深い意味はない。意味はないが、何となく長い距離を歩きたくなるような気分になることは誰にだってあるはずだし、自分の場合は今日がたまたまその日だったというだけだ。

 

 梅や桃の花が散り、桜の蕾がぽつぽつと花開く時期か。一年過ぎるのは本当にあっという間で、去年の春にバイクを吹っ飛ばされそうになったのが昨日のことのようだ。三月上旬に犯人が逮捕されたという話を聞いたが、どうにも胡散臭く……唐突だ。陰謀論を好むわけではないがこの事件の裏には何者かの悪意と企みの臭いがする。

 

 仮にその人物が真犯人であればよい。自分の心配事が一つ減る。だがそうでないのであれば……今年は間違いなく一波乱ありそうだ。

 

 

 

「……では新学期も一層勉学に励んでください」  

 

『オイ! モウ終ワッタゾ!』

 

 自分としては珍しく居眠りをしていたらしい。ホワイトスネイクの声が耳元で聞こえてきたからかなり驚いた。

 どうやら始業式特有の校長先生の長ったらしい話が漸く終わったらしい。あの……何だったかな……そうだ、緑松校長だ。あの人の話はいつの間にか始まり、いつの間にか終わっているからついつい瞼が重くなってしまう。

 

 ……あの校長、実は新手のスタンド使いじゃないのか? 校長を筆頭に危険人物が揃っているのは教師陣もだが、うちの生徒も生徒だ。本当に人間なのか疑わしくなるような超人的技能を持つ者は少なくはない……寧ろ多い。

 

 強襲科のイケメン王子。狙撃科の麒麟児。乗り物と名のつく物であれば何でも操縦する自信のある身長190センチ超えの車輛科のオープンスケベ。生徒会長とバレーボール部員を兼任しているSSRの秘蔵っ子。装備科のやべーやつ。現代の情報怪盗……とまあ同学年だけ羅列してもざっとこれだけいるのだ。しかもどいつもこいつも癖がありすぎて実は全員スタンド使いではなかろうか、と疑心暗鬼に陥った時期もある(そうでなかったので安心したが)スタンド使いは往々にして外見、性格、技術、生まれ育ち、ファッションセンス……何らかの尖った部分を持っている傾向があるので疑いの目を向けるなという方が無理があるというか……本当は見えていないふりをしているのではなかろうか。

 

 

 ぞろぞろと今年のクラスに入っていく生徒たち。自分は2‐Aの机に腰かけて最初のホームルームが始まるのを待つ。

 

「おーっす掟造! おまえも俺と同じクラスか! ……キンジはまだ来てねぇのか?」

 

 ……先程脳裏でこいつの事を少しでも考えたから湧いてきたのだろうか。車輛科の巨人のお出ましである。自分よりも一回りデカい背丈に遠目から見ても判別可能なツンツンヘアー、隙あらばグラビア本をおっぴろげにしている男……武藤剛気である。依頼で遠出を行う際によく『アシ』になってもらう事もあり面識がある。悪いやつではないが……偶に異様なまでのハイテンションで絡んで来るので少々鬱陶しい。

 

「らしいな。俺らとキンジは同じクラスだったか?」

 

 クラス分けの名簿を見たが、情報怪盗(峰理子)イケメン王子(不知火亮)も同じクラスだ。この二人は始業式に出席していたがキンジはいなかった……

 アイツの場合、世話を焼いてくれる女房(のようなもの)がいる。あまり役目を奪ってしまうのも申し訳ないので自由にさせているとはいえ……無理にでも朝早く起こしてくるべきだったか。

 

「はっ、はっ、はあ……まだホームルームは始まってない……よな?」

 

「随分と息が上がってるじゃねーの……始業式は終わっちまったがホームルームは余裕で間に合ってるぜ」

 

 そうか、と息を整えながら淡泊な反応をした目の前の男が少し前から自分と同じ部屋で暮らしている同居人の遠山キンジである。念願のルームメイトだが、初めて入寮してきた時のキンジの表情が全てを投げ打ってしまいたいと言わんばかりだったのであまりはしゃげなかったのは残念だった……

 

 それはそうとキンジは始業式を更けてまで有酸素運動を行いたがる性分ではなかったような気もするが……同室になって数か月程度ではあるが、彼の人となりは凡そ把握している。

 強襲科から自分と同じ探偵科に転科してからというものの、大分覇気がなくなってしまった。正確には諦観か。やはり去年の冬のあの海難事故が未だに尾を引いているのだろうか。その件に関しては間違いなくキンジは『不幸』であったし、負の方向へ心境の変化があるのは当然であり、何らおかしくはないだろう。

 

 

「はーい、それでは二年生初めてのホームルームをはじめますよー」

 

 

 うちのクラスの担任は高天原先生か……普段から探偵科の講義でお世話になっているが今年はクラス担任か。暴力・暴力・暴力がモットーの武偵校にいるのが不思議な程の温和加減から武偵校の良心と呼ばれてはいるが、話に聞いたところ昔はかなり鳴らしていたらしい。そもそもあのヤバいコンビ(蘭豹・綴)と平然とルームシェアしている時点で常人というのは考えられない。

 それにしてもええ声やこれは……声質ではなく喋り口調も大分気を遣って喋ってらっしゃる……これから殺す相手に対して敢えて優しげに喋っている、という考えが少しでも脳裏をよぎったら小便ちびりそうになるが。

 

「早速ですが……去年の三学期に転入してきたカワイイ子に自己紹介してもらっちゃいます!」

 

 教室内がざわつく。そりゃそうだ、転入生と言われて盛り上がらないわけがない。もし盛り上がらない奴がいたらそいつは間違いなく自分以外の存在に興味がない。流石にこれは極論かもしれないが無関心であることは間違いない。

 

 2‐Aには良くも悪くもそのような奇特な人種はいないらしい。自分もどのような人物が来るのかなり楽しみだ。

 

「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」

 

 初っ端から随分と飛ばしますなあ。キンジの隣、現在武藤が座っている席を指差し、替わってくれときたか。その上どういう訳か見覚えのあるキンジのベルトを投げ渡しているし。おっと、ナイスキャッチ……周囲もざわめきだって不潔だ昼行灯だとキンジに対しての罵倒が飛び交う。当のキンジは顔を机に伏せて隠しているし、武藤は武藤で嬉々として席を変わろうと天を突く勢いで腕を伸ばしている。高天原先生もあらあらうふふみたいなこと言って許可を出して……あーもう(朝のホームルームが)めちゃくちゃだよ、どうしてくれんのこれ?

 

「理子わかった! わかっちゃった!」

 

 何を理解したんですかね? 理子は武偵としての能力は頭一つ抜けているだろう。探偵科Aランクというのが何よりの証左であり、地頭も決して悪い方ではない。しかし普段はおバカワイイ(死語)が頭のいい要素を霧消させ、帳消しにしている。

 果たしてあれが理子の素なのか演技として作っているのかは知った事ではないが……まあ大体7:3の割合で素だと見積もっている。

 

 直後、理子がキンジと緋色のツインテールの転校生(神崎・H・アリアというらしい)が仲がいい(意味深)という旨の推理をしたせいで教室に二つの穴が空いた。新学期初っ端から発砲とは穏やかではない……バカ騒ぎが静かになったのはいいが、彼女がここまでプッツン系だとは思わなんだ。武偵校では銃撃斬撃は日常茶飯事……とはいえ自己紹介の時点でここまでやるか。

 

 

 

 

 

 

「今日は酷い目に遭ったみたいだなキンジ? 新学年初っ端からよくわからんのに絡まれて災難だったな?」

 

「少しでもそう思うなら助けろよ……朝早くここを出るならついでに起こしてくれても良かっただろ」 

 

 何が悲しくて自分のルームメイトの世話をしに朝一番から足しげく通ってくる健気な幼馴染との逢瀬を邪魔しなければいけないのか。死ぬにしたって馬に蹴られて死ぬようなマヌケな死に方はごめんだ。詳しい経緯はまだ聞いていないがキンジが朝乗っていった自転車が木っ端微塵になったのは同情する……しばらくバイクの後ろに乗せていってやろうか。ちょっとだけ料金とるけど。

 

「今度その機会があればな。それより夕飯どうする? 雑に冷食でも食っておくか?」

 

 夕陽がのぞくベランダ窓とソファーにどっかり腰を沈めたキンジを横目に今日の夕食について相談をする。

 キンジが来る前は適当にやっていたが、共同生活になった以上はそうもいかない。キンジは背中越しにお前に任せる、と返したのでカレーにしようか。さて、カレーにしてもレトルトカレーにするか、一から作るか……悩むな。ある有名な闇医者はボンカレーはどう作ってもうまいという言葉を残している。

 実際ボンカレーのボンはフランス語のbon(優れた・おいしい)が由来になっている。マズかったら詐欺もいいところだ。冷蔵庫の中にまともな材料がなければその偉大なる先人の遺した言葉通りにするとしよう。

 

 ピンポーン、と聞きなれた我が家(寮だけど)のチャイムが鳴った。星伽さんが来るような時間だったかな、と思いながらドアを開けるとそこには――――

 

「ここがキンジの部屋……ってアンタ、確か……」

 

「如月掟造だ、以後お見知りおきを。キンジに用か?」

 

 どう見ても旅行用だと思しき小洒落たストライプ柄のトランクを持ったツインテールのちっこい生物がいた。キンジの部屋ではなく正確にはキンジと俺の部屋だが、彼女……神崎・H・アリアはどうやらキンジに用があってここを訪れたようだ。朝の銃撃を謝罪する為にわざわざ来たのであれば夕食の一つや二つ出すくらいはしよう。レトルトカレーだが。

 

「そうよ。あ、そのトランク部屋に運んどいて。アンタも関係ある話だから」

 

 自分とキンジの共通点……同じクラスだから懇談会でも開こうというハラか。……冗談でもありえないだろう。彼女は朝の素行を見た感じそこまで社交的ではないように見えたし、トランクを持ってくるという事はここに泊りがけで何かをしようとしている。当然ながら男子寮、しかも野郎二人しかいない何の変哲もない部屋にパジャマパーティーをする為に来たという訳ではあるまい。

 

 

 ……本当にパジャマパーティーするつもりだったらバレないようにホワイトスネイクで記憶のDISC引っこ抜いて外にほっぽりだす。キンジが露骨に嫌そうな顔で彼女を見ているし。ルームメイトの平穏を守るのも友人の務めだ。

 

 

 

 

 

「キンジ、ついでに掟造。アンタらあたしのドレイになりなさい!」

 

 

 リビングの奥まで勢いよく足を進めたかと思うと爆弾発言をぶっ放してきた。

 

 ちょっ……と何を言っているのか理解不能ですね……自分の単語辞典の中では『奴隷』は古代より様々な用途で使用され、売買されて社会の主な労働力として使用される存在であり、地域や時代によって差はあるが基本的には自由はない。

 

 総じて奴隷という単語の持つ意味合いとしては『人間としての自由・権利・名誉を認められず、他人の所有物として取り扱われる人』である。少なくとも現代で一般的な感性を持っていれば他人に『ドレイになれ』などと口が裂けても言えないし、まず口に出さない。

 

「神崎さん。いきなり『ドレイになりなさい!』なんてスゴまれてもよぉ~っ、話の筋がワカらん……キンジはともかく俺がなんで奴隷にならにゃあいかん?」

 

「おい、さっき助けるって言ってたよな?」

 

 自分のできる範囲で助けるつもりだが……この程度で助けてくれなどと抜かしていたらキンジも自分も身が持たない。

 だがまあ、キンジだけに任せていたら絶対に話が拗れて収集が付かなくなりそうだ……いくら部屋のものの大半が防弾仕様とはいえ部屋の掃除が面倒になるのは困る。

 

「アリアでいいわ。それよりさっさと飲み物くらい出しなさい!」

 

「おお、そうだそうだ。茶のひとつも出さないのはイカンな……何になさいますかお嬢様?」

 

「へえ……少しはわかってるじゃない掟造。じゃあコーヒーのエスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ! 砂糖はカンナ! 一分以内! キンジはさっさと『松本屋のももまん』を買ってくる! 確かこの近くにあったはずよ」

 

 ドッピオ……おお、ドッピオ……アリアはコーヒー派か……独唱(アリア)なのに二つ(ドッピオ)とはこれいかに。ただまあ……

 

「コーヒーは切らしてるんで緑茶で」

 

 やはり饅頭を食べるときは茶に限る。そしてキビ砂糖はうちにはないし、ルンゴを一分でお出しするのは不可能ですお嬢様。……本当に身の回りの世話をする小間使いが欲しかったのだろうか。アリアは先ほどまでキンジの座っていたソファーに体を埋めている。男臭さとか気にしないのだろうか。気にするのかもしれないが、彼女が付けているクチナシの香りが打ち消しているから問題ないとでもいうつもりか?

 

 

 キンジが買ってきたももまんを皿に出し、アツアツの緑茶をテーブルに置いた瞬間、天辺の方にあった筈のももまんがいつの間にか数個消えていたのは驚いたが、どうやらおもてなしは成功したらしい。

 

 しかし饅頭ひとつ出すのに何故ここまで神経をすり減らす必要があるのか……舌鼓を打っている姿は愛玩動物そのものだが、流石にライオンと一緒に食事をして和むという人間は少数派だろう。

 

 ……山のようにあったももまんが既に半分ほど消えている!? あの体の何処に入っているのだろうか。キンジはキンジで元々悪い目つきを更に悪くして「さっさと帰れ」コールを懸命に送っているが、当のアリアはどこ吹く風でまた一つももまんを平らげていた。

 

「というかな、さっき掟造も言っていたがドレイって何なんだよ。どういう意味だ」

 

 このぶっ飛んだ展開から理子の持っているようなギャルゲーに出てくるようなピンクな意味合いかもしれない。アイツは純愛ゲー好きなのでそういったハードというか……えげつないのは嫌いらしいが。

 

「強襲科で私と一緒にパーティーを組んで武偵活動をするの。これならわかるでしょ?」

 

 アリアは両手を挙げて首を振る所詮「やれやれ」の動作をしながら漸くまともな説明をした。最初からそう言えばよいものを……キンジが本当に表に言えないような意味の奴隷にされるかと肝が冷えた。

 

「別に俺は構わないが……アリアのお目当てはキンジだろ? 悪いが説得に手を貸すつもりはないぞ?」

 

「貸すの」

 

「嫌だね」

 

「おいお前ら、俺を置いてけぼりにして話を進めるな! だいたいなあ……そもそも俺は武偵自体やめるつもりなんだよ。あんなところに戻って活動するなんてムリだ! 俺にできるわけがないッ!」

 

 ……果たしてそうだろうか。一度はSランクをマークしているのだから不可能であるというのは言い訳に過ぎないようにも聞こえる。キンジ本人が渋っている以上、本来の実力を出すかどうかは怪しいが。

 

「『ムリ』『疲れた』『メンドー臭い』この三つは人間の可能性を押し留める……私の前では二度と言わない事。いいわね?」

 

 静かな語調だが反論を許さない力強さがあった。外見こそ子供らしいが、彼女の人生哲学は成熟して重みがあった。とてもじゃないが『無駄』であれば言っても構わないか? などと茶化した事を聞く気にはならなかった。……事実アリアは本当にそうしてきたのだろう。だからこそ強襲科Sランクという結果を出している。

 

 そこからのアリアの行動は速かった。何が何でも嫌だと断るキンジに対し、トランクを開いてお泊りの構え。……この男子寮には個人の私物を置いておく小部屋が四つあるが、キンジが来てからは専ら亀はそこで飼っている。もしそれが無かったらキンジもアリアも部屋から蹴り出すところだ。

 ……ただ、キンジは何が何でも戻りたくないと意地を張ったせいでアリアに『おしおき』と称して締め出されてしまったが。あまりにも不憫なので出ていく際に無理矢理万札を三枚ポケットに突っ込んでやった。

 キンジは『後で返す』と言ったので自分は別に返さなくてもいい旨を伝えたが、それでも返さないと俺の気が済まない、と一歩も譲らなかった。……義理堅い友人を得ることが出来て自分は本当に幸せだ。

 

 

 だが追い出される程に意地を張るのは止めていただきたい……お陰で侵略者(アリア)がとんでもない事をしでかしている。

 

 

「ふんふふんふ~ん、るんるる~ん」

 

 あろうことか!『男子寮』で『女子生徒』が湯浴みをしている! 今朝の自分に『今夜、お前の部屋で美少女が風呂に入ることになるぞ』などと言ってもまあ信じないだろう。今もこの現実を直視したくない。だが、楽しげな鼻歌と艶めかしいというには少々幼げな水音が珍妙な事態が起こっている事を裏付け、自分は現在進行形で武偵殺しに命を狙われる以上にハードな状況に身を置くことになっている。

 

「おいアリアさんよぉ~っ、外聞がヤバいからそろそろ上がってくれるとありがたいんだが……」

 

 もし自分が顰蹙を買わずに風呂に入っている人間を追い出せるスタンドがあれば喜んで使うがそんなものは残念ながらない。こんなことが外に漏れたら社会的に死んでしまう。キンジには早急に戻ってもらわなくては……

 

『ヤレヤレダナ、掟造』

 

 本当だよチクショウ。

 




 原作一巻のアリア「キンジ。あんた、あたしのドレイになりなさい!」
 AAのアリア「あんた(あかり)の長所一個見つけたわ いい子ねあんた」

 ……幾らキンジとあかりで場面や視点に差があるとはいえ別人すぎてこれもうわかんねぇな?


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21世紀の精神異常者

 令和になる前に初投稿しようと思っていたら令和になって二カ月半経ったので初投稿です。長い事くたばってたからリハビリがてら月に1……か2くらいは更新したいところですね(他人事)

 ってな訳でジョジョ六部のアニメが終わる前に今作を完結させることを目標にやっていきたいと思います(意識低い系)


「それでキンジ……どうしたいんだ?」

 

「アリアがここから出ていけば何でもいい……俺の平穏をブチ壊されてたまるか」

 

 ふむ、何でもすると来たか。そこまで嫌なら手段は一つ……

 

「お前がこの部屋を出れば間違いなくアリアはこの第三男子寮から出ていくだろうな」

 

「トンチを効かせてどうする!」

 

『アリアがここから出ていく』であろう案を出すという要望には応えているつもりだが、キンジがここに留まり、尚且つアリアのみを排除するとなると……もはや法を犯す位はしないと追い出せないだろう。それをガチガチの戦闘特化型の武偵であるアリアに対して遂行可能どうかはともかくとして。

 

「単にお前がアリアの提案を飲んで強襲科に行くって首を縦に振りゃあ簡単に済む話だ……俺もいつだってお前をフォローできるとは限らん」

 

 キンジは無言で眉間に皺を寄せた。頭では理解していても納得はできない……そんなところか。

 普通の人間は初っ端にあんなことを言われれば態度も硬くなる。去年の海難事故で実の兄を亡くしている――――武偵活動に前向きになれ、と言っても逆効果。より意固地になるのは火を見るよりも明らかだ。キンジが渋るのも無理もないか。

 

「ま、お前とアリアの根比べはアリアが勝つ方に賭けるぜ。武藤と不知火にも吹っかけよっかなー……」

 

「お、おいッ、見捨てんのか!?」

 

 友人を見捨てるつもりはない。なので正確には――――

 

「見捨てるというのは正しくないな……『なるようにしかならない(ケ・セラ・セラ)』というのが正しいッ! 言っただろ? お前だけの力でどうにもならなくなったら助けるって」

 

「……マジで頼むぞ」

 

 正確には『人生は自分次第でどうとでもなる』という意味らしいがそれを言ったところで火に油を注ぐだけだ。武偵憲章にも『武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用とのこと』とある。

 が、昨晩キンジがアリアの真っ裸を目に焼き付けたお陰で二段ベッドの一部が剣呑なことになっている。

 

 

『……コノ私ノ能力デアレバ一発ダロウ?』

 

 

 脳内にホワイトスネイクの声が響く。確かにその通りだ。適当に『キンジに対して関心を抱かなくなる』DISCを入れてもいいし、部分的に記憶を抜き取ってもいい。『アリアの命令を従順に聞く』DISCをキンジに入れてしまえば表面上はお互いWIN-WINで誰も不幸にはならない……結果だけ見れば、と付くが。

 

 もしそれを実行すれば自分は人として決定的に何かが欠落するだろう。一人殺したら何人でも際限なく殺せる、といったタブーを破ればそれ以降はなんとも思わなくなるといった一般的な理屈ではなく、自分がスタンド使いとして持つ感覚でそれを理解できてしまうのだ。一度枷を外したらそれこそ今までの比ではない能力を振るうことが出来るだろう。しかしそのために自分を精神的怪物に変貌させなければならない。

 

『マ、私ハ掟造ノ味方ダ……無理ニ勧メルツモリハナイ』

 

 勝手に記憶を弄りまわして相手の尊厳を踏みにじるとか、スタンド能力が露見して周囲から気味悪がられる以上に自分の歯止めが利かなくなってしまうことが怖い。何より自分の半身(ホワイトスネイク)がいついかなる時でも甘美で跳ねのけ難い誘惑をしてくるのが時に恐ろしく、不気味であった。

 

 

 

 

 アリアは朝っぱらから大声を出して朝食をせがむわ、仔ライオンを彷彿とさせる犬歯を剥き出しにしてキンジの手を噛むわ、挙句の果てに同じタイミングでここを出ることを嫌がるキンジの足に引っ付いて引き摺られながら寮を出ていった。余程自分の目に付くところにキンジを置いておきたいらしい。

 

「……なんで如月は絡まれないんだよ」

 

 探偵科の講義を終え、専門棟から去ろうとキンジと歩いているとふとそう言われ、横目で抗議のサインを送ってきた。

 

「キンジが抵抗しすぎなんじゃねーか? 朝も言ったが、どっかで妥協しないと俺もお前も共倒れだ……」

 

「それにしたって俺が9に対して如月が1ぐらいの割合でアリアの被害を被るのはおかしいだろ!?」

 

「別におかしくはないだろ……そもそもアイツ、お前の事を追っかけて来たみたいだから俺に構ってばっかりの方がおかしくね?」

 

 キンジはうぐぅ、と息を漏らした。少々強い語気で正論をぶつけてしまったが、実際自分はキンジのついでにドレイ呼ばわりされたようなものなので割と他人事な部分があるのも事実だ。友人でルームメイトだからこの状況になっても助け船を出しているのであって、完全に他人事であれば助けていない自信がある。不知火や武藤もキンジの友人だが、特に助けの手を差し伸べている訳ではないという点を鑑みるに……武偵というのは情に厚い部分がないとは言わないが、結構ドライだ。

 

「ま、アイツに一旦アメを差し出すというのもアリだ……一度だけでいいから強襲科に戻る方がいい」

 

 押してもだめなら引いてみろ。硬いもの同士をぶつければどちらか砕け散るのは自明の理であり、そうならないよう間に入って上手く受け流す。この場合はアリアにキンジを諦めさせ、キンジと自分の平穏を取り戻す……というのが表向きの目的。本当の目的は――――

 

「キーンジ」

 

「なんで……お前がここにいるんだよ……」

 

 友人を売る(至言)何故アリアがここに現れたのか……それは自分が探偵科の講義が終わる時間を教えたというのが答えだ。

 

「喜べよキンジ。美少女転校生がお前の為に講義が終わるのを待っててくれたんだぜ?」

 

「喜ぶかバカ。銃ぶっ放すような奴をありがたがる奴がどこにいる」

 

 何も自身の保身の為に友人を売ったというつもりはない。アリアが自分を名指しにして依頼してきたので断るに断れなかったのだ。武偵が武偵に対して依頼を出すという事例は珍しくはないが、名指しの依頼は基本的には実力者に対しての『委任』だ。理由なく断れば信用に関わるし、武偵の世界は信用無しで生き抜くには少々厳しいところがある。……アリアはもっと直情型の武偵だという勝手な印象を抱いていたのでここまでキンジや自分に対して効果的な手段に出るというのは少々意外でもあった。

 

 当然キンジの要望も叶えるつもりではある。自分の数少ない友人を無碍にする程自分は外道ではないし、何かの心変わりでキンジがアリアに靡くのであればそれはそれでよい。

 そしてアリアの依頼内容はあくまでも『キンジがアリアのパートナーになるようにサポートする事』だ。少し下世話だが、アリアからは報酬を前払いで受け取っているので適当な仕事をするつもりは更々ない。依頼人(クライアント)である以上どのような結果であろうと真っ当に仕事をしなければ納得はしない性格であろうことは転校初日で嫌という程思い知らされた。

 

 ただ、サポートの程度までは指定されていないので友人として不自然ではない程度の助言、という形でサポートする。アリアも、キンジも。

 

「俺は用事があるし先に帰ってるわ。また後でな」

 

 悠々と歩を進める背後でキンジの罵声が飛んでくるが気にしないことにする。お互いの為に。

 

 

 

『整理整頓ハシッカリト……タイヤノ中ニ放リ込ムナド論外ダ』

 

 DISCを入れる為だけにタイヤを用意するシチュエーションというものが今一つ想像の及ばないところにあるというのをこいつは理解した上で口に出しているのだろうか。

 

 キンジをアリアに宛がって寮へと戻り、亀の中でDISCの整理整頓に勤しんでいた。一つ一つあるかどうか確認して『エニグマの紙』の中に収納していく。ホワイトアルバム、ハイウェイスター、ハーミットパープル……

 

『掟造、アノ二人ヲ如何スルツモリダ?』

 

 クラフトワーク、スカイ・ハイ、キラークイーン……最初に不用意に入れて気絶した為、余程の自体でなければ絶対に使いたくはないザ・ワールドのDISCをこのあたりに入れておいたはずだが……

 

『聞イテイルノカ? コノド低脳ガ……』

 

「おい今なんつった?」

 

 ド腐れ脳味噌はまだ許せるがド低脳は聞き捨て難い。ヌケサクであったり玉無しと言われた事もあったが……ド低脳と来たか。

 

『マアソウ怒ルンジャアナイ……私ガ言イタイノハダナ、コノママデハイズレ……スタンドガ露見スル可能性ガアル、トイウコトダ』

 

「まあ、そうだろうな」

 

『随分ト自信ガアルナ……自分ノ首ヲ絞メルゾ?』

 

 ホワイトスネイクは普段のからかうような顔つきではなく、不機嫌そうな顔をしている。いかにも物申しがあるといった風体だったので少々意外だった。というのもホワイトスネイクがここまで不満をぶちまけてくるというのは珍しく、普段は何を考えているか読めないのでここまで感情を露にするのは数えるほどしかなかったからである。

 

「バレた時にどう対処するかも大事だが、そもそもバレなけりゃ問題はない。……スマン、少し意地張った。これは確信に近い予感だが確実にバレるだろうな。例えどれだけ完璧に証拠を消し、上手く立ち回ろうともそうなる『運命』をひしひしと感じるんだ……」

 

『覚悟トハ幸福デアル、トデモ言イ出スツモリカ?』

 

 そのような事はありえない。生きとし生ける万物は死が運命付けられ、形あるものは何れ壊れゆく。それを理解しながらも人々は恐れ、忌避する。いついかなる時でもソレが付いて回ってくると知りながらもそこからできる限り逃れようともがき続ける。あまり知られてはいないが、覚悟という言葉は仏教においては心理を悟るという意味を持つ。それは果たして幸福なのだろうか。

 

「そんな大層な事を言うつもりはねえよ。俺が思うよりバレる日が早く来るってだけの話だ。それ以上に警戒せにゃならんのは……『矢』だ」

 

 未だに実家に置いてある劇物がこの世に一本しかないという保証はどこにもない。というよりも両親がどこぞの骨董品屋で買ってきたという時点であれの元々の所有者がどこぞにいたと考えると複数本存在する、若しくは代替品があるというのは想像に難くない。最悪なのはその代替品の場所・形状・所有者のどれも把握できていないというのが痛い。

 

『フム……安心スルトイイ、掟造。オ前ノスタンドデアルコノ私、『ホワイトスネイク』ハ最高ノスタンドデアルト自負シテイル……』

 

 ここまでハッキリ言い切るとは。自信満々というか、ナルシシズムが強いというか……自分そのものではないにせよ自分の半身に励まされるというのはなんとも不思議な感覚であり、ある種根拠のない自己解決のような気もするが、自分も心の奥底で何者にも劣ることは有り得ない……無意識の内側に底知れぬ傲慢さと絶対的自信が眠っていると一度意識してしまうと自分というものに対して嫌気がさす。

 

「……そんな事を言うんだから間違いなくお前は俺のスタンドだよ、ホワイトスネイク」

 

『フン……掟造ノソウイッタ隠シ切レナイ傲慢サハ間違イナクコノ私ノ本体ダナ』

 

 ……本当に嫌な通じ合いだ。ホワイトスネイクの口角は不気味に吊り上がっているが、自分の口角も間違いなく同じように……吊り上がっているに違いない。

 

 

 

 

 そして――――――アリアが病院に運び込まれたという一報が飛び込んできたのは三日後の話だった。

 




 どんな人間にもナルシシズムは存在するし……ま、多少はね?(ヒスキンちゃん様)

 あとルパンの娘で真っ先に理子を思い浮かべた人は僕と握手(夏なので汗まみれ)


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誰が正しいって訳じゃない

 黄金の風最終話スペシャルの構成に痺れたので初投稿です。

 初見だと意味なさげに見えてしまうローリング・ストーンの話もしっかり読めば五部を統括する話だと心で『理解』した時は気持ちがええんじゃ。


「アリア、起きてるか?」 

 

 武偵病院の一室――――――小奇麗な個室のベッドには頭部に包帯を巻き、ベッド上でももまんを頬張る少女(アリア)とバツの悪そうな表情で少女を見るルームメイト(遠山キンジ)がいた。小奇麗なはずの病室だが空気はそうでもないらしく、澱んでいる。その原因は勿論……

 

「あんたが強襲科に戻ってからの一件。それが済んだんだからあとはどことなりと行けばいいわ。契約は満了よ」

 

「なんだよそれ……勝手な奴だな。あんだけ強引に引っ張りこんで用が済んだらそれか?」

 

 Q.このようなタイミングで病室に入ってしまった場合の心境を答えよ。配点は心の平穏である。

 

「こんな狭いところでドンパチ賑やかにされちゃあ病院も迷惑だろうよ。キンジ、さっさと帰んぞ。アリアもアリアで怪我人らしくちょいとばかし大人しくするべきじゃあないか?」

 

 言葉尻に少し棘があるのは自分には神崎・H・アリア様からお声が掛からなかったからというのもある。ええ、ええ。表向きは特に武闘派という訳でもないですしね。……バスジャックの一件で呼ばれすらしなかったというのは流石に驚愕の意を表さざるを得ないが。自分はそこまでクソザコナメクジにしか見えないのだろうか。

 

「掟造。これはあたしとキンジの問題だからアンタは……」

 

「本当にそうだろうか? アリアの言うパーティー(ドレイ)とやらはキンジだけではなく俺もだろう。アレか? 俺はキンジを引き込むためのダシって訳かい?」

 

「そうよ! あたしはどうしてもキンジの力が必要だった! だから手っ取り早くキンジを引き込む為に掟造、アンタを利用したに過ぎないのよ! だからもう二人とも出てって!」

 

「おいアリアお前……!」

 

 キンジがアリアの病衣の裾を掴み上げようとしたのでアリアとキンジの間にそっと手を出して制する。キンジもアリアの態度がトサカに来ているのはわかる。だが……

 

「勘違いするなよアリア。『ダシ』ってのはしっかりと絞らないといい味を出せないんだ。つまり、何が言いたいかというとお前はキンジという素材の長所を引き出すどころか殺してしまっている。俺という素材に至っては使っていないじゃあないか……そんな調子で武偵殺しを捕まえる? イギリスの貴族というのは冗談のセンスもメシマズってか?」

 

 ダシとして使われた事に怒りを覚えている訳ではない。使うのであれば最後の一滴を絞り出すまで徹底的にやれ、ということだ。

 

 ……まあ全力(スタンド能力)を一切目の前で見せていないからアリアの采配自体は納得ではあるが、此方もアリアからキンジを引き抜くサポートをする、という名目で依頼を受けているのに当のクライアント自身がその機会をパーにするようではサポートもクソもない。

 

 ……仕方なし、か。

 

「キンジ、お前もお前で頭を冷やすんだ。俺たちが今やらなければいけないのは取っ組み合いの喧嘩じゃなくて武偵殺しの足取りを掴んでブタ箱にブチ込むことだろ。それともお前、アリアに辞めろって言われたから辞めんのか? 半端な仕事して勝手に諦めて投げ出すのはカスのやる真似だ。一度始めたんなら最後まで責任持ちやがれ!」

 

 自分が突然怒りの丈をぶちまけたせいで病室はしん、とした。先程まで取っ組み合いを始めようとしていた二人も動きを止めている。ここにすかさず――――――

 

「あんた、出て―――――いっ!?」

 

「掟造なにを―――――うっ!?」

 

 後処理が面倒だが、自分が悪役を買って出ることにする。

 

 破裂音と鈍い音が静かな病室に続けて鳴り響く。軽い平手を受けたアリアの目は潤み、拳をボディーに叩き込まれたキンジは怒りよりも先に自分が手を挙げた事に驚いていた。

 

「今これ以上喋っても時間の無駄だ。先に帰ってる」

 

 呆然とした二人に背を向け無情な足音を立てながらその場を去った。

 

 

 

 最善ではないが、とりあえず自分が悪役になっておけば二人の矛先は自分に向ける……はずだ。

 いや、少し強く叩き過ぎたかもしれない。キンジが怪我してる女に手を挙げるとかおまえマジか……みたいな視線を向けていたし、アリアに至っては捨てられた子猫みたいな目になっていたし。勢いでやってしまったが関係修復とかできるのか……?

 

『損ナ性分ダナ?』

 

 おっそうだな(白目)何が悲しくて喧嘩の仲裁なんぞしなければならないのか……? 彼らにあそこまで言っておきながら何もしてませんでしたー、なんてのも格好がつかないし……バスジャックの時に駆け付けられんかった分働くとするか。

 

 

 

 

 なので、その翌日朝一番に探偵科棟に足を運んでいる。徹夜でバスジャックに関するファイルを纏めていた同学科の生徒によると、当日は右へ左へてんてこまいだったそうだ。呑気に授業を受けていた自分が恥ずかしい。

 

「あっ、ジョジョおひさー! 昨日は大変だったねぇ」

 

「久しぶりって程ではないだろ……」

 

 早速お目当ての人物を見つけた。ふむ、今日は甘ロリか……彼女は一体何着の改造制服を持っているのだろう。

 

 何かの拍子に騒がしくなったら他の生徒にも申し訳ないので理子に女子寮前のビニールハウスに先に行っている事だけを伝え、キーボードを叩く音と必要最低限の会話のみが交わされる部屋から出た。

 

 

「アリアとキー君がそんなことをねぇ……ま、ジョジョがそんなに気に病む必要はないんじゃない? アリアは言わずもがなだけどキー君もプッツンするとめんどいとこあるし別にいーんじゃないの? やり方はあんまり褒められたもんじゃないけどねー」

 

 女の子に手をあげるなんてがおーだぞ! と大分お怒りのご様子。

 

「まあ灸を据えるにしてもあれは少しやりすぎたかもな……で、理子。バスジャックの件で何か進展はあったか?」

 

「うーん、そーだねー……」

 

 理子曰く、現場検証は理子を中心とした探偵科の生徒が執り行ったということで、調査の大きな進展は今のところないということだ。

 

「……って訳で手がかりという手掛かりもナシ、犯人の足取りもチンプンカンプンの無理ゲーなんだよジョジョ」

 

 下手人の性別は不明。年齢も不明。人数も不明。UZIの搭載されたスポーツカーに至っては盗難車と来た。何もかもが不明の姿なき犯罪者。幾ら探偵科の面々が優秀でも無から足跡を追うのは困難……というより不可能だ。証拠品が一つでも見つかればいいが、何もないということを証明するのはそれ以上に時間と労力を費やす羽目になる。

 

 ……だが本当に手掛かりは一切ないのだろうか? ここは一つ……

 

 

「……そういやさあ~ッ、アリアの奴が今回の件は武偵殺しって奴が絡んでいるって話してたんだが本当か? 現代の情報怪盗の理子なら何か知っているんじゃあないかと思ったんだが……もしかして初耳か?」

 

「うーん……メンゴ、ちょっとわかんないや。それよりジョジョ、今度理子の用事に付き合って?」

 

「そればっかりは内容次第だなぁ……徹夜してまで調査してくれてご苦労さん、理子」

 

 ふむ。まさかほんの四半時で自分がここにいる必要がなくなるとは。さて、後は相手の尻尾をどの様にして掴むかだが……

 

「ねえジョジョ。そんな小難しい顔してどうかしたー? 何か悪い事でも企んでるんだったら逮捕しちゃうぞ~っ?」

 

「別に……」

 

 理子がヒエヒエな対応のジョジョも意外とありかもねー、などとなかなかに度し難い事を言葉にしているが、精神衛生上の観点から聞かなかったことにする。

 

「ほれほれ、何か悩み事があるなら今ならタダで聞いちゃうよー? 理子ってお得意様にはサービスとかもしちゃうんだぁ……」

 

 何故か「サービス」と聞いて嫌な予感と内から湧き上がる好奇心が噴き出てきたがあまり深く追求しない方がいいと自分の直感が告げている。

 

 だがまあ……アリかもしれない。

 

「もしも……突然謎の声やポルターガイスト現象が起きたら理子ならどうする?」

 

「SSRの生徒にでも頼むかなー。ってかそういうクソ真面目な感じの質問じゃなくてさー……もう! 他にないの!? コイバナとかさ! 面白そうな話だよーっ!」

 

 プンプン、といった効果音が聞こえてきそうな頬を膨らませて怒る仕草もなかなか可愛らしいが……

 

 

 

 灰色だ。彼女に対する評価としては黒よりの灰色だ。 

 

 

 彼女の能力を以ってしても現場に読み取れる痕跡が一切残っていない? 冗談はよせ。本当に何もなかったのかもしれないが、情報とはありとあらゆる場所から絶えず発信され続けるもの。それを拾えていないということは情報を読み取る能力がない、或いは――――――

 

 

 

 何者かが意図的に隠蔽している。そして自分はあろうことか――――――彼女(峰理子)が最有力容疑者だと疑っている。

 

「面白そうな話? 例えば……お前の前に幽霊が見えたり、か?」

 

『チョッ……オマッ……!?』

 

 突然出現させたので珍しく狼狽えているホワイトスネイクを理子の目の前で寸止めパンチしてみるが、頭を庇う姿勢も見せなければ目をつぶったりもしない。

 

 妙な空気が自分と理子の間に流れ始めた……が、当の理子は頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

 

「なにそれなにそれ!? ……ジョジョってば結構オカルト被れだったりするの? 厳つい顔つきに反してなかなかに胡散臭い趣味をお持ちですなぁ~?」

 

「見えないものはそこそこ信じるし、突如飛来した隕石にロマンを求めるくらいには男の子だが、月間ムーを愛読する程じゃあないな……」

 

 ジョジョってばおっかしーの、とまあ散々な言われようではあるが一つだけわかったことがある。

 

 こいつはシロ(非スタンド使い)だ。やはりスタンド使い同士が引かれ合うなんてのは登場人物の顔つきがどいつもこいつも濃すぎる世界だけなんじゃあ……

 

 それを確認した代償として理子の中で自分はオカルトマニアにカテゴライズされてしまったらしく、別れ際に「今度、遮光器土偶のストラップでもあげようかな……」といった理子にしては珍しく本気のトーンが耳に入ってきたが。

 

 

 

 

 

「キンジ……お前本当にいいのか?」

 

「どうとでも言えよ。ただ……少しだけモヤモヤするんだよ」

 

 なんでボディーブロウお見舞いされたのか本当に分かってんのか……?

 

 あれから3日後。アリアが退院し、キンジは強襲科から再び探偵科に戻る手続きの用紙を黙々と用意している。

 顔を合わせても何となく気まずく、同じ部屋にいても最低限の会話……おう、とかああ、とかいった相槌をお互い打っていた。

 

「何度も言っているが、このままだとおまえマジで後悔するぞ。俺は友人の心が腐って死んだように生きていく姿なんぞ見たくもない」

 

「かもな。あんなみっともない体たらくで、挙句の果てにお前に止められてさ……正直どうすればいいか悩んでる。お前はどうすればいいと思う?」

 

 道を示せと? 変なところで面倒臭いなーコイツ。ホワイトスネイクとは別方向にめんどい。ネガティブな部分のある男だとは前々から思ってはいたが、何かの拍子で拗らせたら酷いことになりそうだ。

 

 ……今がその「何かの拍子」かぁ。あっそっかあ(手遅れ)じゃあある程度助言(心のお薬)ブチ込んでやるぜ!

 

「……人に用意された幸福は果たして幸福足り得るのか?」

 

「何の話だ?」

 

「いいから黙って最後まで聞け。仮にお前は人に……今の状況だと俺か。俺がこうすれば幸福になれますよ、なんて言ったらそれを素直に実行するか? お前は絶対やらないよ。能力的に不可能だし、仮に可能だったとしても性格上やらないだろうね。それに――――――」

 

「それに?」

 

「……あとはお前次第だ、キンジ。やりたいことをやりゃあいいんだよ。人生なんざそんなもんだよ」

 

 長々と語ったら絶対寝るからなキンジは……今度からあんまり抽象的な話じゃなくてちゃんとオチのある話を考えておかんといかんね。でもそこまで難解な話をしたつもりはないし、何となーく、それっぽーくきっと彼に伝わるでしょう(希望的観測)

 これでもし俺はアリアと仲直りしない! 俺は一切悪くねぇ! とか変な意地張り出したら残念ながら度を過ぎた人間の屑か同性愛者の疑いをかけなければならなくなる。キンジは異様なまでに女性を避けたがるし、もしかして本当に……

 

「肝心要の部分でそれかよ。お前はいきなり突飛な行動に出ると思えば今度はふわっとした助言しかくれないし……本当はどうでもいいとか思ってないよな?」

 

「んなこたぁない。……8割くらいは」

 

「おい。まぁ、掟造の言い分に納得したわけじゃないが、アリアに対して必要以上にムキになってただけって話なのかもな」

 

「俺の戯言なんざ秒で忘れようとも構わねえよ。ただ、自分の芯を持つ――――――これだけは例え死ぬ寸前でも忘れんなよ」

 

 最後に進むべき道を決めるのは己自身。常日頃相手のことだけを考えて気を遣い続けるのは正直疲れる。8割も気を遣われているというのは充分すぎるくらいではないか。助言も方向性次第で()だ。

 他人の精神に作用する言葉、といった意味ではスタンドの様でもある。ホワイトスネイクも精神をこねくり回せるが、そのようなものがあろうがなかろうが人の心は弱く、脆く、移ろいやすい。しかし、だからこそ――――――

 

「おう。んじゃクリーニングに……」

 

「ん、そんじゃ俺の制服も代わりに出してきてくれねーか? 昼飯作って待ってるからさ。天気予報では夕方降るそうだからさっさと帰って来いよー」

 

「へいへい……お前は俺の母親かっつーの」

 

 人は誰でも己の弱さを認める強さがある。今はただそれを信じたい。

 

 

 

 尚、キンジが帰ってきたのは夕方と夜の境目……当然濡れ鼠。さっさと帰ってくるようにって言いましたよね? 

 

 しかも、曇り空よりもどんよりとした顔つきで帰ってくるというおまけつきである。

 




 頬を思いっきりベチン! と叩かれるよりも軽くペチペチやられる方が精神的には来るらしい。

 それはそうとアリアに何の脈絡もなくビンタかましたら絶対「ふぇ……?」って言って泣き出しそう……泣き出しそうじゃない?(唐突な性癖暴露)

 でもガチビンタはかわいそうなので抜けない。


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クイーンⅡ

これマジ? 半年も投稿できずに仕事に謀殺されてるとか体と意志が貧弱すぎるだろ……

今年もゆっくりではあるものの投稿していきますんでよろしくお願いします。


去年買って開ける暇のなかった『緋弾のアリア オリジナルキャラクターソングコンプリートベスト』素晴らしいっすね……ほんへもしれっととんでもない情報だしてくるしマジであと20巻くらい続きそうでたまげたなぁ……(隙自語)

あっそうだ(唐突)職場に退職届を叩き付けたくなったので初投稿です
 


 翌週、キンジの右隣の机――――――自分から見れば二つ右隣の本来ならばアリアが座っているはずの席はがらんどう。傷一つない机がぽつんと在るだけでそこには元から誰もいなかったかのような錯覚すら覚える。

 

 結局アリアはキンジを仲間にすることを諦めてしまったのだろうか。あの喧騒はそこそこ迷惑ではあったし、ホワイトスネイクとの会話という名の独り言や物音のしない静かな亀の中の部屋に籠りっきりになって考え事をする時間がなくなったりと不便な点はそれなりにあった。

 

 だが……それ以上に自分は楽しいと思ったし、この半月は間違いなくあの二人にとってかけがえのない時間だったと断言できる。仏頂面ばかりのキンジがああも生き生きと感情を露わにする様は見ていて楽しかったし、あの表情を引き出すことは自分(如月掟造)には不可能であったからだ。

 

 このなんとも割り切れない靄を抱えながら午前の一般科(ノルマーレ)をきっちりとこなしてしまった。武偵高のように少しばかり荒っぽく、血と硝煙の臭いがそこら中に漂っていても普通の高校のようなこともするのだな、と入学したての頃はよく物思いに耽ったものだ。

 今では机の下で本を広げながら適当に板書をノートに書き写しているだけだが、それでも八割は楽勝である。……何故ここの生徒は一般教養より難しいことを完璧にこなせているにもかかわらず、学業の成績は低いのかは永遠の謎である。

 

「……あん?」

 

 おや? キンジの様子が……授業終わりに見ている携帯電話の液晶を見ながら嫌そうな表情をしている。あれは行きたくない場所があるが、なにがなんでも行かなければならない理由がある、といったところか。あいつにメールの類を送ってくる奴は限られている。

 

 星伽白雪ではない。あれは好きな相手を呼び出すよりも先に足を運んでくるタイプの女だ。それに今は恐山に合宿に行っているので候補から除外する。

 

 武藤や不知火でもない。遊ぶ用事はないはずだし、仮にそうだとしても直に誘うなり自分を経由して伝えるなりすればいいだけの話だ。というわけでこれもない。

 

 依頼という線は一番薄い。余程の緊急性がある依頼でなければキンジが事前に自分に伝えてから行くだろう。依頼内容は伝えられずとも依頼をこなしに行くことを伝えるのは武偵的にはアリだ。

 

 となると……?

 

『掟造……ヤハリ……』

 

「いや、まだアイツが黒という決定打が足りない……」

 

 ……そういえばアリアが休んだ理由が気になる。授業が終わって退出しようとしていた高天原先生を捕まえて聞いてみたところ、

 

『神崎さんですか? 羽田空港から出る今晩19:00時発のチャーター便でイギリスに帰国するそうですよ? お見送りだなんて如月君は友達思いですねえ』

 

 ふわっと教えてくれたのはこちらとしては好都合だが、一生徒である自分にそう軽々と漏らしてもいいのだろうか……?

 

「学園から空港まで30分はかからないが、余裕を持って動くとなりゃあ準備にかけられるのは一時間ってとこか?」

 

 急ぎ戻ってきた自室で装備品の確認をしつつ、自分に言い聞かせながら準備を進める。

 予感は確信へと変わった。もし……もしも彼女(・・)が待ち構えているのだとすれば、この盤面、あちら側に傾いている。

 

『オイ掟造、ドノDISCダ?』

 

「ちょい待ち、今どれ持っていくか考えてるからホワイトスネイクはキンジ向けに書置きでも残しておいてくれ」

 

 横目でホワイトスネイクを見ながら準備を続けていると、以外にも律儀に紙とボールペンを持ち出して書置きを準備している。命令しているのに従わないのであればそれはそれで困るが……意外だったのがホワイトスネイクが思いの他達筆だったことだ。行書体の文字をさらさらと紙の上に書き留める。本体の自分よりも字が上手いのでは?

 

「ちょっとがーんだな……お前の精密動作性ってそんなに高かったの?」

 

『精密動作性に関わらズ、スタンドパワーは本体……ツマリ掟造トノ距離ガ近ケレバ近イ程上昇スル……』

 

 まあ、ある程度はスピード・パワーがなければプッチが徐倫のストーンフリーやウェザー・リポートと近距離で殴り合おう……とはならんな。ある程度はガチンコできるにせよ本来は搦手使いではあるんだが。DISCはあくまでも能力の副産物だからノーカン。DISCありきにしてもまともに能力を抜き取る相手がいない事には話にならない。

 

「……よし、とりあえず三枚。行くぞ!」

 

『アイアイ、ところデ掟造、何カ忘れちゃあイナイカ?』

 

「ガスの元栓か? 夕飯の仕度か? それともなんだ、これから行く場所にいるやつに叩きつける決め台詞の準備か?」

 

『スタンド使いト戦う可能性を忘れていないカ、ということダ……」

 

 顔の皺と口元でしか表情を窺うことのできない相方の表情はあからさまに怪訝な顔だった。

 

「そりゃあ勿論考慮していない訳ないだろ。いないに越したことはないけどさ?」

 

 

 

 間違いなくいるだろうな……スタンド使い。しかもとびっきり面倒なのが。

 

 

 

 羽田空港。日本人の大半は空港というと大体これか成田空港を思い浮かべるだろう。

 

「日本最大の空港ってのは伊達じゃねえな。目的の場所まで行くのはちっとばかし骨が折れるな……」

 

 正式名称、東京国際空港。年間発着数・航空旅客数共に日本一。世界的に見ても乗降客数が五本の指に入るほど多いとなれば当然ながら行き交う人々も尋常ではない。

 

 19:00発のチャーター便を探せ、というと案外簡単そうに思えるが、それだけの情報で目当てのフライトを特定するというのは至難の業で、普通ならどこの航空会社から出ている便かというところから特定しなくてはならない。裏を返せばそれさえわかれば大分絞り込むことができるということだ。

 というのもチャーター便と一口で言っても様々な形態がある。今回の場合だとアリアがイギリスへと帰還する目的で席を取っているチャーター便。金を掃いて捨てるほど持っているであろうで彼女はわざわざエコノミークラスやビジネスクラスのチャーター便を用いるだろうか? 否である。彼女は息をするようにファーストクラスの席を取っているはずだ。それも全席ファーストクラスの超VIPしか搭乗できないような……とまで言うと極端すぎるがそれに準ずるような旅客機に乗っているに違いない。

 

「ANA600便……ボーイング737‐375。19:00前後で条件を満たしているロンドン行きの便はこれしかない」

 

探偵科(インケスタ)での勉強は無駄じゃあナカッタナ?』

 

「冗談きついぜ、これくらいちょっとした想像力と必要な情報さえありゃあ余程のアホでもなけりゃあ割り出せる……条件付けを増やせば絞り込みは容易になる。違うか?」

 

 実際、高天原先生が『羽田空港発』『今日の19:00にフライト予定』『チャーター便』『イギリスへ帰国する』という情報がなければ割り出しは困難……というよりも不可能に近い。事前にスタンドなり発信機なりの仕込みがあれば情報なしでもどうにかできない事はないが、それでも普通に割り出すよりも手間はかかるだろう。

 

「っつーかよぉー、やっぱ羽田って広いわ。正確なチャーター便を割りだせてもそこにたどり着くまでダルいな……」

 

『そもそも掟造の推測ガ合ってるカ不明だがな……』

 

「マジでやめてくれよ……もしそーなったら帰りにラーメンでも食って帰れってか? 準備もしてきてそれは……っと、どうやら無駄にはならないで済みそうだぞ?」

 

 ボーイング737‐350に搭乗していく乗客……恰幅のいい壮年男性、その横にいる男性の妻であろう品のある風体をした女性、やり手っぽいビジネスマンに……最後尾に見覚えのあるピンクのツインテールが見えた。間違いなくアリアだ。そして搭乗口にはアリアといい勝負をしそうなくらい背の低いフライトアテンダントが機内に乗客を誘導している。

 

「現在時刻は18時45分か……よし、行くぞ」

 

『……掟造ハ時々、凄まじく知能指数が下がるナ?』

 

 もう少し時間があれば白い目で見られるようなアホな真似をするつもりはなかった。が、他に有効な手段がない以上これがベターだ。やるしかない。

 

「……あのぉ~、すいませぇ~ん。私こういうものですが、機内の方改めさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 武偵手帳を見せながら声をかける。当然ながらフライトアテンダントはおろおろして混乱状態で話になりそうにない。

 

 

 客として乗るのは不可能。であれば……

 

 

「ちょーっと失礼しますよ……っと!」

 

「ああっ! ちょっと何してるんですか!?」

 

 当然機内を改めるという名目で無理矢理乗り込む。後ろから引き留める声が聞こえてくるが知ったことではない。

 

「このチャーター便で凶悪犯が高跳びするという情報が入りましてね……ちょっとだけお時間取らせてもらいますよ?」

 

 突然受けた説明に頭が追い付かないのか追走してきたフライトアテンダントは困惑顔ではあるものの飛行機前方……機長の判断を仰ぎに行ったのだろうか、足早に去っていった。

 当然、キャビンアテンダントが戻ってくるまで素直に待つわけがない。アリアの部屋にお邪魔させてもらう。

 

「12席……というよりも部屋だな。片っ端からドアをノックしてもしも~しすればすぐに見つかるな」

 

『それはそうだガ絵面ガ余りにモ間抜けデ、非効率的な調べ方じゃあないカ……』

 

 一階は豪奢なバーや機内カジノといったアミューズメント・ルームが並んでいたが、誰もいなかった。キャビンデッキ二階の中央通路の左右にある扉、そのうち手前の部屋のドアを軽く三回叩き返事を待つ。部屋の中から立ち上がるような音が聞こえた。一人分の足音がドアの方へと向かってくる。そしてドアが開け放たれて――――――

 

「ルームサービスは頼んだ覚えはないけど……!? アンタ、どうしてここにいるの!?」

 

 ビンゴ。一発でお目当ての部屋を探し当てることができたのは幸先がいい。Sランク武偵といえど自分がここへ来るなどという事は予想だにしていなかったらしく、驚きのあまり声が上ずっている。まあ、彼女からしてみれば脈絡があまりにもなさすぎるので当然といえば当然か。

 

「俺がここにいる理由か? じきにわかる……嫌でもな」

 

 アリアは状況をこれっぽっちも呑み込めていないのか、悠々とスイートルーム内へと入る自分を止めもしない。止めるという考えがそもそも選択肢に出てこないというべきか。

 が、頭が冷えてきたのか部屋にあるビロード生地の椅子――――――先程も座っていたのだろう。それに腰掛け、近くにあるテーブルに載っていたティーカップに一口付けた後、自分をじっと見つめている。

 

 彼女の性格上、すぐに口を開いてまくしたてるのではないかと思っていたばかりになんとも気まずい空気で、どうにもやりづらい。

 

 

「時間はあまりないが、少し話でもするか……武偵殺しについてだ」

 

 アリアの目元がぴくり、と動いた。制服のポケットから取り出したスマートフォンに表示されている現在時刻は18時55分。本当に少ししか話できないな。

 

「……続けて」

 

「先に武偵殺しの手口の確認だ。武偵殺しは乗り物に減速したら爆発する爆弾を仕掛け、逃げないようにサブマシンガンのついたセグウェイでターゲットを追い回す。今回武偵殺しが狙っていたターゲットはキンジ本人、およびキンジの近辺にいる奴だった。キンジのチャリ、キンジが普段乗る時間帯の武偵高行きのバス。もう気付いたかもしれないが狙われる乗り物が順にデカくなっている。俺の時はバイク、車、豪華客船ってな……じゃあ今回の場合次に狙われるのは? バスよりデカい乗り物で武偵殺しが狙ってきそうなのは?」

 

「この……飛行機……! アタシが乗っている……!」

 

 時間ギリギリにテストの解答用紙の空欄の答えが解けたようにアリアは言葉を絞り出す。今の自分は間違いなく口元がホワイトスネイクを思わせるような歪み方をしていたに違いない。

 ゴウン、と音がした。室内にある時計の方へと目を向けると19:00と表示されていた。どうやら予定通りに離陸するらしい。

 

「大正解。間違いなく次のターゲットはここだ。狙いはお前とキンジ。……それはそうと、ここ数日お前はキンジと距離を置いていたな? 何があったか知ったこっちゃないが大方喧嘩でもしてお互い引っ込みがつかなくなって……ってところか。ここで武偵殺しに各個撃破なんて目も当てられないが……どうやら来たみたいだな?」

 

 

 勢いよくドアが開け放たれ、武偵高の制服を着た男子生徒が入ってくる。ありがたいことに、書置きは無駄になったらしい。

 

 

「ようキンジ。重役出勤かー? それとも……ヒーローは遅れてやってくるって奴か?」

 

「バカ。やり残したことがあるってのは気に入らないってだけだ。……まあ掟造がいたのはめちゃくちゃビビったけどな」

 

 どうやらキンジもここに武偵殺しが現れると確信した上で来たらしい。自分がここにいたのは予測できなかったようだが。

 

「キンジ、掟造、まさかあんたたち示し合わせてたんじゃないでしょうね?」

 

 それこそまさか、だ。自分は単純に状況証拠、キンジは稀に異様なまでの賢さを発揮する。少ない情報からここに武偵殺しが来ることを知った……といったところか。

 偶然……本当に偶然、二人とも同じ結論に至った上でこの場に集結した。わざわざ示し合わせるまでもない。

 

「武偵憲章2条。依頼人との契約は絶対守れ。俺はアリア、お前から受けた依頼をまだ完遂していない。そう、武偵殺しの一件はまだ終わっちゃいないだろ?」

 

「キンジはともかく俺はそこまで立派な理由で来たわけじゃないんだけどな。単純に好奇心と興味、それに自分の解答が正解かどうか、それの確認のために――――――武偵殺しの顔を拝みに来た」

 

「キンジ、掟造、アンタたち、そっ、そんな理由で……!」

 

 アリアにいつもの調子が戻ってきて少し安心したが、以前病室で聞かせた話は頭に留まらずに耳の中を通り抜けてっちゃったの……? 余裕がないってことは以前から察しがついていたけどすごくショック。

 なので少し開き気味の手を上にすっ、と上げるとアリアの体が小さく跳ねたような気がした。手をゆっくり下げるとホッとしたのか肩が少しだけ下がった。

 

「今度はビンタじゃなくてゲンコツがほしいのか? 俺はともかくキンジの意思を少しは汲んでやれ……こいつ、俺と違ってお前のためにここに来たんだぜ? ちょっとここから出てるからその間キンジと話でもしてな」

 

「わ、わかったわよ……って単独行動禁止ッ、どこ行くつもりよ」

 

「アリア、お前今度手洗いに行く時キンジと一緒にディフェンスするぞ」

 

 

 

 一拍、二拍、さらに数泊……この場にいる誰も……言葉を発することをためらう非常に……気まずい沈黙が流れてしまった。

 

 

「あっ……アリア、流石に行かせてやれ」

 

「~~~っのバカッ! バカキンジ! バカ造! さっさといってきなさい!」

 

 今にも腰のガバメントを抜いてきそうだったので脱兎の勢いで部屋から出る。

 

 

 とっさに吐いた嘘が嘘だとバレないうちに。

 

 

 

 

『マ、嘘としてハ落第ダナ? すぐにバレる嘘ハあまりオススメしないゾ』

 

「ま、あの様子だとトイレに行くって嘘を吐いた理由を意識せんだろうし、仮にバレても嘘じゃなくてうっかりだと思い込んで意識的にウソついたとは考えないだろうし問題ないでしょ。それよりも少し前に機体が揺れたのと二階(うえ)が騒がしかったのが気になるな……」

 

 一階のバーで酒を飲まずにはいられ……るので戸棚から適当なグラスを一つ引っ張り出して水を一杯ぐい、と飲み干す。もしあれが武偵殺しの攻撃だとするとあまり悠長なことをしている場合ではない。

 

「先にさっさと……おいおい、ツイてる日はとことんいい風向きだな。そっちの方から先においでなすったか!」

 

 後ろを振り向くとそこにはさっき自分が突破したアテンダントがいた。ただし服装は武偵高の制服だ。

 

 

 それも――――――フリルの付いた改造制服。俗にいう白ロリ風の様式を取り入れたその改造制服の持ち主を自分は知っている。

 

「こんなところでフライトアテンダントのバイトか? それとも……アリアを殺しに来たのか? なあ、世間を騒がした武偵殺しの――――――峰理子さんよぉ?」

 

「……どうしてわかった? ここに来たのはともかくあたしの正体まで何故見破ることができた? お前は以前狙ったときどうやってあの爆弾を処理した?」

 

 べりべり、と特殊メイクで作った薄いマスクを破いて素顔を晒した。その顔は良く見知った顔(峰理子)であったが、普段ゲームをやってアホやっている時の面影は全くない。

 

「質問はいっぺんにするんじゃあないと教わらなかったのか? 理子、お前の正体を見破るのは実に簡単だったぜ。お前は以前『手がかりも犯人の足跡も、バスジャックに武偵殺しが関わっているかもよくわからない』っ言っていたな? そんなのありえないんだよ。探偵科Aランク武偵のお前ほど優秀な奴が先導して、徹夜する程時間をかけて綿密な調査を行ってこれっぽっちもわからないなんてあるか? 俺だったら無能か内部犯の可能性を疑うね……要は理子、お前はお前が思っている以上に優秀すぎたんだ」

 

「……だけど、お前のバイクの爆弾の説明は!? あんなの超能力者(ステルス)でもなきゃ説明はつかない! セグウェイが突然ブッ壊れたりなんてしない! 掟造、お前は何なんだッ!? あたしの完璧な計画を邪魔しやがってッ! オルメスとキンジのコンビを潰さなきゃ理子は『理子』であることを証明できない! 永遠に峰・理子・リュパン『4世』という数字でしかないんだッ!」

 

 おおこわ。アリアとは別方向にプッツン来ているタイプだったか。

 

「だから掟造……お前はお前がなぜ死んだか理解できないうちに殺す……!」

 

「理子に俺を殺せるとは思えんが……来な。あんまり傷つけんうちに取り押さえる!」

 

 理子の背後に……見えたッ! 筋肉質なボディ。肩や手の甲といった身体各所に髑髏をあしらったいかにも危険であると本能に訴えかける姿。というのに猫のような顔つきとピンク色の体色というアンバランスな要素がより一層不気味さを引き立てる。自分はそのスタンドを知っている。

 

ドドドドドドドド

 

「確かにそれならアリアやキンジはどうにかできたかもしれないな……だけど俺には見えてるぜッ! しばっ!」

 

「なっ……!? お前も『それ』を使えるのか!? あたしと同じ『それ』を!」

 

 理子の背後から飛び出てきた『それ』を自分の背後から飛び出てきた『それ』で迎撃する。驚くのも無理はない。何せ……

 

「理子の『キラークイーン』と俺の『キラークイーン』……どっちが上か試してみるか?」

 

 自分の背後にも理子の背後にいるのと同じ姿の『キラークイーン』がいたからだ。




本性ぶっぱした時の理子の本名を見た時にあのぶっ飛んだ親からこんな比較的まともな子が生まれるのか(困惑)みたいな印象をうけたおぼえがありますねえ……


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キラー・クイーンVSキラー・クイーン

 緋弾のアリア最新刊が発売されたりここ数か月の間、コロナウイルスの流行下でも出勤しないといけない職種だったので初投稿です。


「非常に興味深い……今の今までスタンド使いと遭遇しなかったが……スタンドの妙とでもいうべきか?」

 

 誰が言ったか『スタンド使いはスタンド使いに引かれ合う』という運命か因果律にでも干渉されているのではないかと言わんばかりのこの法則。これが今まさに自分と理子に対して適用され、付かず離れずの縁がガッチリと繋がった……そんな気さえしてならない。それこそ今まで通りの間柄ではなく、宿命や因縁染みたものに変化していくような……

 

「スタ……ンド? 何を言っているのかさっぱりだけど一撃防いだ程度で調子に乗らない方がいいんじゃなーい?」

 

 だがそれ以上に確信を得た事実がある。何者かの手によってスタンド使いは生まれている! しかもよからぬ意志を持つ者によって! そしてやはり……この世界のどこか、自分の所有する以外の『矢』もしくはそれに類する物体が存在するという事を。なら尚更手掛かりになるであろう理子を捕まえなくてはならないッ!

 

「それならちょいとばかし、レクチャーしてやる……キラークイーンッ!」

 

 2、3m程の合間で互いに打つ、打つ、打つ。理子のキラークイーンによる拳打が飛んでくる。しかしそれは速度と威力こそあるものの、大分単調な動きであったため払い退けようと思えば払える。が、同じタイプのスタンド……そう考えれば迂闊に弾こうとして失敗した際には……あまり想像したくはないが、その結果が常に脳裏にちらつく。なので、紙一重で避け、拳に触れないよう弾き続ける。

 

「その程度かよ?それだったら普通に銃なりナイフなり……お前の得意分野で勝負した方がまだ面倒だったな?」

 

「掟造こそ殺意が乗りきってなくなーい? それで理子を捕まえようなんてぇー……笑わせるなよッ!」

 

 余裕ぶってはいるものの、理子は……恐らくまだスタンドの操作に慣れていない。以前軽くカマをかけた時、理子はホワイトスネイクの攻撃が見えていなかった。あれが見えていて何の反応もせず、表情一つ変えないとなると余程の胆力を持っているか、あの時点ではまだスタンドそのものを得ていなかったと考えられる。となるとスタンドを得たのは直近一週間以内。それも扱いを習熟する程にキラークイーンを発現させていない!

 彼女がスタンドを暴走させずに制御している点は流石としか言いようがないが、自分が最も警戒しているあの『能力』を未だに使ってこないのは解せない。無防備に受ければ必殺、警戒した上でも危険極まりない能力なのだ。だからこそ自分を殺すつもりならば絶対に使う筈だが……

 

「これでも食らいなッ!」

 

 先ほどまで自分が水を飲んでいたグラスを理子に向って投げつける。それには既に――――――キラークイーンが触れている。

 

「こんなので理子をどうにかしようなんて――――――」

 

「思っていない。それが普通のグラスなら、な!」

 

 理子のキラークイーンが拳でグラスを叩き割ったその瞬間、爆風を発生させ、理子の小柄な体を吹き飛ばして壁に叩き付ける。

 

「……思い込みってのはさ、恐ろしいものだよ。普通なら絶対にありえない、ってことを無意識的に除外してしまうのだから。常人同士であれば兎も角、俺も理子も生憎どちらも常人ではない。だから俺がわざわざ普通のグラスを投げつける……理子はこの行動を苦し紛れの愚行だと思い込んだんだろう? だが無防備に叩き落したのは間違いだったな」

 

「ごほっ、なんとなくだけど……わかってきたよ。理子の『キラークイーン』の能力がね……『思い込みは恐ろしい』その言葉、そっくりそのままお返しするよ……」

 

 空気を一気に吐き出し、咳き込みながらもその瞳からはまだ闘志は消えていない。だがそっくりそのままとはいったいどういう事……!?

 

「やられたな……いつの間に『それ』を出していた?」

 

「わざわざ教えるわけないでしょー? ぶわぁーか」

 

 理子のキラークイーンの掌から自分の周囲に一つ、二つ……五つ。檻を作るような形で逃がさないよう、まるで空中機雷と言わんばかりに()()()()()が浮かんでいた。

 実に愚かだ。スタンドの姿形が同じだからといって持つ能力まで丸々同じであると誰が決めた? これは理子の言う通り、自分自身の思い込みが作った盲点だ。

 

 シャボン玉を避けてその間から抜け出すことは可能といえば可能だが、目の前にいる相手(峰理子)はその隙を見逃すだろうか? 当然、見逃すはずがない。自分が理子の立場であれば間違いなくとどめの一手を打ってくるだろう。

 

「……ここらで手打ちにしないか。これ以上やりあったら本当にどっちか死ぬぜ。だから一つ提案だ、アリアとキンジ……お前はどうやらこのコンビと戦うことが目的らしい……二人との戦いを邪魔しないから逃がしてくれ……って言ったら逃がしてくれるか?」

 

「だーめ♡ あの時殺しそこなっちゃったからジョジョはお持ち帰りー! 異論は認めませーん!」

 

 くふふ、などと笑って余裕綽綽に自分の提案を拒否した際の猫なで声がかわいいな、などと言う程の余裕はないが……どうやら現在の優先順位は自分をどうにかする事が一番らしい。

 

「じゃあこのシャボン玉を消しちゃあくれないか? 俺の推測が正しければこれは触れたら爆発するだろ? こんなのに囲まれて美少女とお話できる程、肝が太くないんだ」

 

「それもだーめ。ジョジョは理子の目的のために力を貸してもらうんだから」

 

 一歩も譲るつもりはない、と来たか。

 

 

 

 

「……次にお前は『ジョジョはこれでおーしまい!』と言う」

 

「ジョジョはこれでおーしまい! ……えっ!?」

 

 

 

 

「本当に勝ち誇るなら俺の腕の一本や二本吹き飛ばしてからだったな。ちょいとばかし俺だけに時間を掛けすぎたんじゃあねーか?」

 

「掟造! 無事か!」

 

 理子の目的はアリアとキンジ、ついでに自分の抹殺。だが複数人相手にするのは骨だから各個撃破で事を手早く済ませたい。なら逆に最も嫌がることは何か? アリアとキンジがここに来て自分と合流することだ。なら自分を撒き餌にしておびき出し、その場に釘付けにする。キラークイーンの爆発も居場所を分かり易くする為のもので、端から止めを刺すためのものではない。結果的に目論見通りではあるが、それまでに捕まえることが成功すれば言う事なしだったことには変わりはない。

 

「さて、これで3対1。大分不利になったな? ……ん?」

 

 バーの入り口のドアが勢いよく開いてキンジとアリアが入ってくる。キンジは理子の方に意識を向けているが、アリアの様子がおかしい。理子ではなく、理子と自分の背後……丁度キラークイーンのいる場所を注視しているような……まさか!?

 

「理子が武偵殺しって事はこの状況を見れば理解できるわ、でも……あんたたちの背中から出ている()()は何なの?」

 

 最悪の事態というものは意図せずして発生するものであり、最悪の想定というものは常に的中するものだ。ならこの場における最悪の事態とは何か?

 

 

 どういう訳か不明だが、神崎・H・アリアはスタンドを目視できている! 

 

 ヤバい、ホワイトスネイクで今すぐ記憶をすっぱ抜いて……いや、DISCを抜いて植物人間になったアリアを守りながらこの場を切り抜けるのはとてもじゃないが不可能だ……こうなったらプランBで行くしかない、か。

 

「すぐに説明を……って程余裕のある状況じゃないんでちょいとこの場を切り抜けてからでいいか? 向こうのリュパン四世ちゃんがプッツン来てて下手すりゃ死にそーでさ……」

 

「掟造、お前は一体何を言っているんだ? アリアも一体何が見えてるんだ!? 理子、答えろッ!」

 

 キンジの奴、頭に血が上って興奮してるな……俺の知らない間に理子とキンジの間に良からぬ事が起きていたのは確かだ。あれではスタンドを抜きにしてもとてもじゃないがまともな戦いにはならない! そして少し前に知れれば跳んで小躍りするくらい嬉しかったが、この場において最悪な事実としてキンジはスタンドが見えていないらしい。 せめて……あの入試の時と同じくらいの強さがなければ到底理子に太刀打ちできない!

 

 そんなことを考えている間にキンジが理子にベレッタを向けていだ。が、引き金を引くスピードより速く理子のキラークイーンから新たにシャボン玉が飛んでいく。狙いは――――――スタンドが見えていないキンジ! 一人づつ確実に始末するつもりか!

 

「クソッたれ……こいつで!」

 

 DISCを投げる。ただし投げるのは理子ではなくキンジへ、だ。風切音を立てて飛んでいったDISCはバターを裂くように入って当然と言わんばかりにスウっ、とキンジの頭部に刺さった。DISCに書き込んだ命令内容はこうだ。

 

「『アリアを連れて今すぐにこのバーから出ろ!』ここで全員やられるのはヤバい!」

 

「ちょっと掟造何して……キンジどこ触ってんの! 今それどころじゃ……!」

 

「わ、わからんっ! 体が勝手に動いてっ……」

 

 DISCに書き込んだ命令とキンジが無意識の内に逃げる選択をした結果、相乗効果を生み出しキンジの肉体が限界以上の動作を引き出すことを可能とする。否、してしまった。その結果、小柄とはいえ抵抗する間も与えずにキンジはアリアを米俵よろしく担いでバーから脱兎の如く走り去る。

 

「背を向けた相手を逃がすなんざ随分甘っちょろいな。余裕の表れって奴かあ~ッ?」

 

「まーね。よく分かんないけどあれってキンジの体に相当負荷をかけて逃がしてるでしょ? それこそ無理矢理火事場の馬鹿力を出させたみたいにね……だから疲れたところを追い詰めれば問題ナッシング。でも、最後はみんなまとめて始末してやんよ。 当然掟造もね……キラークイーン!」

 

 キンジに差し向けたシャボン玉の脅威が今度はこちらに牙をむく。隙を突いて無用の長物となった檻の役割をしていたシャボンもおまけに飛んできて宙に浮く三次元的な『点』が広範囲を制圧する『面』と化して襲ってくる。 ――――――早い。この短時間の間に理子はスタンド使いとして確実に成長している。

 

「大人しく死んでください……って言われていいですよ、という奴はそうそういないだろ? ……これからやることが一番冴えたやり方だって考えつくような俺が言うようなセリフじゃあないけどなぁーッ!」

 

 理子との距離は目測10メートル。シャボン爆弾の壁はちょうど自分と理子の間で浮かび、近づいてきている。この方法を実行できる距離は今このタイミングしかない。シャボンが理子に近すぎてもダメ、かといって自分に近すぎてもダメ。ここがベスト。誰にでもできる方法ではあるが、誰にでもできるという訳ではない。思いついたとしてもまさか、とすぐさま選択肢から外すような方法だ。

 

『掟造、マサカ……正気カ……!?」

 

「流石俺の半身。覚悟しとけよ……」

 

「何をしようとしてるのかは知らないけど今度こそ終わりだよ。床のシミになってな!」

 

 前傾姿勢になり、空気抵抗をできる限り受けない体勢(フォーム)を作り、足を前へ前へと踏み出し、足底を伝って推進力を発生させる。これだけでは足りない。

 

「うおおおおおりゃああああ!」

 

 

 

 狭い室内を一瞬で満たすシャウト。それに加えホワイトスネイクの脚部が自分の脚部と一体化し、より大きな推進力を得る。更に加速する。怖い。怖くない。いける。貫く!

 そして一気にぶつかる。柔らかな死の壁に自分の体を叩き付ける。弾け飛ぶ。それは自分の肉体か、それともシャボン玉なのか。一つだけ理解っている事は……

 

 

 

「ひっ……」

 

「どうよ……伊達男が更に伊達男になっちまったか?」

 

 皮膚の上をぬめぬめとしたものが伝っている。腕も、足も、頭からも。どこもかしこも痛くてどこからそれが伝っているのかもよくわからない。だが死んではいないし、想定よりも傷は浅い。ならまだ戦える。

 

「くっ、狂ってる……! 死ぬかもしれないってのに……!」

 

「まさかそんな言葉が出るとは思ってもみなかったな。ま、俺も武偵の端くれだ……飛行機は墜落させない、仲間を助ける、何より自分がくたばらずに家に帰る……全部やらないといけないのが大変だが、はなっからからそのつもりで来てるからこれくらいの負傷は織り込み済みってやつよ。さて、射程距離内だぜ……峰・理子・リュパン四世!」

 

 ほんの少し……一歩踏み出して手を伸ばせば届く理子との距離がどうしようもなく遠い。

 

「こっ……来ないで! それ以上近付くな! さもないとこの飛行機を木っ端微塵に……!」

 

「できるもんならしてみな……ただしそれをするならば……お前が何かする前に再起不能にする……」

 

 だが……飛行機を木っ端微塵と来たか。そもそもそのような準備を事前に行っている程の時間があったとは考えにくいが……完全なハッタリと断じるには理子が何となく落ち着いていて不気味な余裕があるように見える……気がする。どちらにせよ何かしらの仕掛けはありそうだ。 

 

「それよりも理子……本当に自首するつもりはない、そのつもりでいいんだな? できることなら友人をボコボコにしてブタ箱に突っ込むなんてことはしたくはないんだが……今ならまだごまかしがきく範囲だぜ?」

 

「武偵としてここにいるんじゃあなかったの? ……もしかしてだけどさあ、わざわざそんな事を言うためだけにここに来た……なんていう訳じゃあないよね? もしそうだとしたらとんだ甘ちゃんだよねぇ、掟造もキンジやアリアに厳しく指摘できないと思うんだけど、そこんとこどう?」

 

 馬鹿にしたような、というのが一番しっくりくるだろうか。こんな状況で何をそんな冗談を、と言わんばかりの冷ややかな言葉と視線が突き刺さる。加えてイラついているのか瞼がぴくついていつシャボン玉を再び飛ばしてきてもおかしくはなさそうだ。

 

「さっきも言ったが『仲間を助ける』っていうのにはキンジやアリアだけじゃなくて理子、お前も当然入っているんだ……アリアを打倒したいって言うなら何もこんな方法じゃなけりゃあいけない、っていうのか? それこそ公的に超えるなりなんなり穏便な方法はあるだろ? 何も殺すまで行かなくても……」

 

「黙れッ! 掟造に何がわかるんだ! あたしのことなんて何も知らない癖に……そんな優しい言葉信じられるか! あたしの存在意義はアリアを殺すことでしか証明できない! 『リュパンの曾孫』じゃない『峰理子』であることを証明できるのはあたししかいないんだ! 勝利して証明する!それ以外の方法なんてないんだよッ!」

 

 理子は目をひん剥いて狂ったように、しかし悲痛な叫びを上げていた。このままだと本当に狂って死んでしまうのではないかと言う程に。

 

 

「……いいだろう。こんなところで何だが、一つためになるかもしれない話をしよう。丁度今の状況にも合致しているから聞いて損はさせないつもりだ……あるところに二人の男がいた。そのうち一人が『シャーロック・ホームズとアルセーヌ・リュパン、どちらが優れている? 子供が遊びで話す程度のものでいいんだ……』と。そのように相方の男に聞いた。すると、『どちらも優れているし、時として対決するかもしれないが、結局は怪盗と探偵。盗みが本業の者と事件を推理する者を比較するというのは根本的な点で間違えている』と返した」

 

 理子を出迎えた時のように座っていた椅子に腰かけ、隣の椅子をポンポンと叩き、座るよう促す。渋々といった様子ではあるものの、理子は静かに席に着いた。

 

「……話が見えてこないんだけど? 結局何が言いたいの?」

 

「どんな者であろうと……人にはそれぞれの能力に合った適材適所がある。王には王の、料理人には料理人の……それこそアリアにしかできない事もあるだろうし、理子にしかできない事は絶対にある。だからどちらが優れているという事じゃなくて理子自身の長所を以ってその『四世』と呼ぶ奴を見返してやればいいんじゃあないかって事だ。改めて言わせてもらう。今までは他に道がなかったのかもしれない、だが他の道を選べる今、その道を進み続けることは間違いだ……一生そのままだぜ、お前」

 

 真面目に語ったことには語ったけど、これはホワイトスネイクが前の本体(プッチ神父)について話してくれた時に聞いた話を理子向けにそれっぽく改変しただけだ。とはいえ効果覿面(てきめん)だったようで、襲いかかるつもりはないらしい。

 

 それにしてもバニラの香りが風に乗って漂ってくる。さっきまで動きっぱなしというのもあったが、一度意識してしまうと「ああ、理子の匂いだな」とどことなく日常に戻ってきたような気がしないこともない。

 

 

「もし……もしも助けて、って言ったら助けに来てくれる?」

 

 垂れた髪で顔が隠れて見えず、その表情をうかがい知る事はできないが、声色は弱々しかった。

 

「そんな状況には陥らないで欲しいが……まあなんだ、どうしてもって、い、う、なら……」

 

 緊張の糸が切れた……思っていた以上に血が出ていたか。ふらついて……

 

 

 

 

 

 

           ■■へ行く方法があるかもしれない――――――おい、妙な顔をするな。

 

 

 ……もし、『魂』をたった一人の人間が『何個』もそれこそ極端な話、『何万個』と『所有する方法』があるとしたなら……

 

 

 どんな者だろうと人には個性にあった適材適所がある。王には王の……料理人には料理人の……

 

 

            興味深い話だな……レオナルド・ダ・ヴィンチがスタンド使いかい?

 

 

 必要なものは信頼できる友である――――――

 

 

                    次の  の時を待て。それが■■の時である。

 

 

掟造。イヤ、■ッ■。記■ヲ抜キ■■■オイテ正■ダッタ■……

 

 

 長い長い、夢を見た。どこかで見たような光景。やりとり。憶えているはずなのに覚えがない。確かにあったような事象であるはずなのにそのような事象は起きてはいない。懐かしいはずなのにどこか未来のことのよう。虚構のような出来事だというのに嫌に現実味がある。

 

 過去に声帯が震えて出てきた自分の声のようだが、間違いなく自分の声ではない。記憶を司る脳の器官の一部である海馬に焼き付いている記憶のようだが、記憶にない。自分ではない誰かの前にいた別の誰かに特別な感情を抱いていたようだが、それは既に雲散霧消している。

 

 

 あの夢の人物は誰だ? それに既視感を覚える自分は誰だ? そもそも自分に前世などと言うものは存在するのか?

 

 

「掟造! 目が覚めたか!」

 

 ふと目を開いたら忘れるはずもないルームメイト――――――遠山キンジが自分の顔を覗き込んでいた。ここは……武偵病院か。

 

「キンジ……そうだ、あの後どうなった! 理子は捕まえたか!?」

 

「……うまい事逃げられた。まさか飛行機から降りて飛んでいくとは思わなかったが、俺もアリアも無事だ」

 

 あの血の量は正直ヤバいとあの時点で薄々感じてはいたが、自分はあの後やはり気を失ってしまったようで、その後の経緯はキンジが大方説明してくれた。

 

「まさか俺が気を失っている間にそんなとんでもないことになっているとは……あそこで理子をしっかり捕まえておきゃあこんなことにはならずに済んだのに……」

 

「気にすんな。結果論とは言え誰一人として乗客も俺たちも死んでない。無事切り抜けられたんだから万々歳でいいじゃないか。ま、納得いってない奴もいるけどな……覚悟しといた方がいいぜ」

 

 まあ、アリアはスタンドについて話さなければ納得はしないだろう。キンジも口にこそ出してはいないが、何らかの説明をしなけれ今の信頼関係が崩れるかもしれない。

 

「わーったよ。できれば俺の事情に巻き込むのは避けたかったが仕方ねえ。男子寮に戻ったらでいいか?」

 

「お、おう……そ、それでいいぞ……」

 

 

 キンジが嫌に動揺しているのは気にかかるが、目を向けるのはあったかどうかもぼやけて不明瞭な過去よりも、目の前に突き付けられている現在だ……

 

 

 

 




 Q.掟造気絶した後どうなったんや?

 A.だいたい原作通り。ただ、キンジとアリアがアレ(スタンド)なんだったんだろう……みたいな事を思いつつ理子とやり合ってた。

 次回からは燃える銀氷編やっていきます。……緋弾のアリア第一巻の副題を今付けたりするならどんなの付けたんだろうなあ、赤松先生。


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傍に立つ者

 異動とか後進育成とかリアルでやってたら時間が足らねえぜ。
 ああ^~退職届とか叩き込むタイミングとかよくわからなくて二回どころじゃないくらいに人知れず慟哭したぜ。

 なんか毎回書いてるたびに思う事として……もしかして毎回一万字近く書かなくてもいいなこれ? その方がペース上がるんとちゃうか? 一つ一つの話としてまとめやすいんじゃねーか? みたいな自問自答をしつつ書いていたらこのザマだよ!

 あ、あと特殊タグとかフォント変更とか使ってみると面白いよね、これ使えばあの表現ができるやん!とかここはデカくすれば伝わりやすいな……とか考えながら使うとたのちい(語彙消失)

 なので実質初投稿ですかねこれ?(意味不明)


「なんじゃああああこりゃあああああああああ!!!!!」

 

 一日家を空けて帰ってきてみれば玄関は焼け焦げ、居間にある家具は無傷なものを探す方が難しく、廊下の床と壁はベッコベコに凹み、銃弾がそこらかしこに埋まっている。

 

「キンジ、説明を頼む」

 

「地震娘と台風娘がここを戦場にしてズタボロにした」

 

 丁度部屋の隅に神崎・H・アリアが、その反対の隅に星伽白雪が背中を預けてぐったりとしていた。なんで?(殺意)

 

「いや、見れば嫌でもそうなんだろうなあ、と分かるとも。なんでここを戦場にしてズタボロにしたのかって聞いてんだよ。一応ここの借主俺、お前、ルームメイト。わかる? この罪の重さ……」

 

「冗談はよせ、あんな怪獣大戦争に巻き込まれたら死んじまうよ……」

 

 こいつ、まさか……収拾がつかないからと言って病み上がりの俺にこれをどうにかしろと。さっき意識戻ったばっかなのにこんなよくわからん状況だけど確実にハードワークだと理解せざるを得ない状況をどうにかさせるつもりなのか? おいキンジ、目を逸らすな。こっち向け。

 

 ただこの件に関してあまりキンジを責めるのは酷だ。元凶はそこのお二方のようだし、お疲れのところ悪いが事情聴取といこうか。

 

「なぁ、アリアさんや。どうして俺が帰ってきたら部屋が目も当てられないことになっているんだい?」

 

「そこのウシチチ女が……いきなり奇声を発して襲ってきたから……ボコボコにして返り討ちにしようと思ったんだけど……意外としぶとくて……」

 

 ……

 

「それじゃそっちで巫女服に額当てまでして完全武装の星伽白雪さんよぅ、なんで奇声を発してアリアを襲ったのか教えてくれるか?」

 

「だって、キンちゃんがっ、アリアに寝取られちゃうからっ、もし本当にそうならアリアを殺して私も死にますぅ――――ッ!」

 

 ??????????

 

 ちょっとダメかもしれない。向こうからしてみればこのような状況になった理由をこれ以上なく端的に説明しているのだろう。ただ、同じ日本語を話している筈なのにまるで訳がわからん……普段の姿を知る身としては想像もつかない程に支離滅裂だ。イカれているのか……?

 

「な、なぁキンジ……もう少しその時の詳しい状況とかわからないのか? これじゃあサッパリだぞ」

 

「わからんから困ってるんだろうがッ、どーにかしてくれ掟造」

 

 これでは埒があかない……最も手っ取り早い方法を使うことにする。

 

「ホワイトスネイク、星伽さんの記憶を引っこ抜けッ! DISCをさっさと戻せば悪影響はないはずだ!」

 

「えっ? 如月君の後ろになにかい……#$%&!?」

 

 命令をするや否や、ホワイトスネイクの手刀は星伽白雪の頭を掠めるようにしてDISCを抜き取ったがホワイトスネイクは意図せぬ汚物を触ってしまった、と言わんばかりの嫌そうな顔をしていた。記憶のDISCを抜き取られて倒れこんだ星伽白雪を尻目にすかさずそのDISCを自分の脳に差し込んで記憶を覗き……吐きそう。

 

 記憶は読み取ったものの、その間ずっと「キンちゃんキンちゃんキンちゃんキンちゃん……」と壊れて正常に動かなくなったラジカセのような音声が流れ込んできた。あと数分抜き取るのが遅かったらしばらく頭がどうにかなっていたかもしれない。

 

 

「あ"あ"~頭おかしくなるとこだった……まあなんだ、片付けはまた明日するとして、先にキンジとアリアが抱いている疑問を解決してやらんとな……ほら、そこらへんに座った座った」

 

 促されるままに二人は床に座る。よくわからない破片が散らばっていない場所を慎重に選んだ上で、だ。その破片はどことなくテレビやテーブル……他のものも壊れているような気がする。ただ、もうこれ以上壊れたもののことをどうするかという事を考えたくない。それだけである。

 

「ほいじゃあ如月掟造監修の『超能力・スタンドとは何か』の講義を始めま~す。はいそこ遠山キンジ君、自分が苦手そうな科目だなぁ……とか思って目と耳を塞がない。説明求むとか言っておいてそんなんじゃ死ぬぞ~」

 

『こっちから頼んでおいてその態度はダメよ』と言われつつアリアに銃撃されながらもキンジも嫌々話を聞く態勢を取る。それを見て少しほっとした。少しでも知っているのとそうでないのとでは生き残れる確率が断然変わってくる。自分がいないところで襲われでもしたらどういう訳かスタンドを視認できるアリアは兎も角、キンジはあっさり死んでしまいそうだったからだ。

 

「じゃ、まずは超能力について。本当はそこでまだ寝ている星伽さんの方がよっぽど詳しいだろうが、今はざっくりと超能力について理解していればそれでいい。例えば何もないところから火や水を出してそれを操ったり……念動能力(サイコキネシス)だったり透視能力(クレヤボヤンス)みたいなメジャーなのも該当する。実際はもっと複雑で多種多様らしいが、概ねそんな感じで通常ではあり得ない事象を発生させる能力と思っておけばいい。それを駆使してここまでで何か質問は?」

 

「……じゃあお前の使うスタンド、ってのは超能力とはどう違うんだ?」

 

「そう焦りなさんな……『スタンドについて』で説明してやっから。まあ先取りして回答するなら『既存の超能力とは異なるルールにある超能力』といったところか」

 

「超能力研究って最近始まったばっかりって聞くけど……掟造、アンタ実はSSRでもやっていこうと思えばやっていけるくらい詳しいんじゃない? 違う?」

 

 鋭い。流石は『H(ホームズ)の一族』といったところか。うっかり必要以上に情報を出してしまわないかどうか自信がなくなる。

 

「それはまたの機会に答えよう。で、超能力者ってのは四つの区分に分けられている。Ⅰ~Ⅳって感じにな。これは超能力を発動する為に何を媒介にするかってものだが……Ⅰ種は体内にある成分をエネルギー源、とどのつまりガソリンみたいなもんだ。例として挙げるなら糖分や塩分だな。それともドラゴンボールの『気』に例えた方がいいか?それを消費して能力を使うタイプ。Ⅱ種は物質・エネルギーに類する物を消費するタイプ。Ⅰ種との違いは消費するものが体外にあるってことだ。それこそそこらへんに落ちている金属だったり蛇口を捻ったら出てくる水とかな。珍しいものだと霊的なものを使用するのもこれに属する。こっちは体内に成分を溜めておくⅠ種と違って対応するものがその辺に合ったらそれがそのまま武器になるって考えるといいかもしれん」

 

「Ⅲ種についてだが……基本的にⅠ種とⅡ種の複合型ってところだが、空間内に存在する未知の……なんかよくわからんけど凄いパワーを使って発現するタイプの超能力だ。ただ、Ⅲ種だからといってⅠ種よりも優れている、という訳ではない。超能力の出力ってのは個々人で差があり、似たような能力でも実際には少しだけ違う……らしい」

 

 しかし喋り倒しているせいで喉が渇いてきたな……冷蔵庫の中に入れてあるコーラをぐびっといきたいところだが、もう少しだけ我慢、我慢……

 

「で……最後に、Ⅳ種についてだが……Ⅰ~Ⅲ種の複合型、或いはそれ以外の方法で超能力を発現する能力者。ぶっちゃけていうとよくわからん、説明するにも現状だと説明しきれん!そんなのを全部ここにぶち込んでふわっと区分されているのがこれ。突然ですが問題です。スタンドは『見える奴』と『そうでない奴』がいる。その条件は……はい神崎さん、答えてください」

 

「……そうね、理子も同じような能力を持っていた、だから同じ種類、この場合は『スタンド』に分類される能力を持っていることかしら?」

 

 アリアは少しだけ逡巡し、自分の少し後ろの虚空を眺めていた。ホワイトスネイクが見えないことを不自然に思っているのだろうか。

 

「正解。スタンドにはいくつかのルールが存在している。そのうちの一つが『スタンドはスタンド使いにしか見えない』だ。例外はあるが普通の人間には目視はできない。恐らくアリアの場合、スタンドの才能があった……だから見えた。そして『スタンドにはスタンドでしか触れることはできない』これがあの時キンジにさっさと逃げろって言った理由。で、これが厄介なんだが……スタンド使いってのは『スタンド使い同士惹かれ合う』因縁や宿命めいたものとでも言うべきか……相手のことを知らずとも自然と、な」

 

 ……磁石のS極とN極の様に、地球に働く万有引力の様に、単純な人の縁よりも深く太く、意図せず繋がり合ってしまう。

 

「つまり掟造、アンタにくっついていればそのうち理子を捕まえる機会が来るって事ね。それで超能力とスタンドの違いは一定の法則・基準が存在かどうかという点かしら? ……なんとなく違うような気もするけど」

 

Exactly(だいたいその通りだ)、スタンド使いじゃない奴がスタンド使いと戦うってのは目の前の相手に加えて特殊能力を持った透明な猛獣と戦うようなもので圧倒的に不利だ。常に二対一でそのうち片方は見えない上、こっちの通常の攻撃は通じず、そしてスタンドにはそれぞれ固有の能力がある。逃げられる状況であればさっさと逃げろ」

 

 Sorry(ウソついて申し訳ない)。超能力は鍛錬をきっちり積み、自己の調子を整え、不明瞭な点は未だ存在しているとはいえある程度の形がある『技術』の類。これに対しスタンド能力は余程の例外でなければスタンドを制御する本体が存在し、その本体は何らかの契機を以ってスタンド使いになる……スタンドそのものを使う技術であったり、何らかの特殊な技術の延長線上にあるスタンド使いも存在こそすれど、基本的には『必然』さえ錯覚させるほどの『偶然』によって齎されるものである。超能力もある程度の才能は要求されるだろうが、スタンドに関してはそれとはまた違った方向性の才能を求められるものと自分は考察している。

 

「……理子みたいに捕まえないといけない相手の場合はどうすればいいの」

 

 撃鉄をカチカチさせて脅すのはやめてほしい。普段であればもう撃ってそうなものだが。尋問が拷問になる前に次へ移らなくては。

 

「スタンド、という名前の由来は傍に立つ者(Stand by me)立ち向かう者(Stand up to)というところから来ている。だからスタンドとその本体は一心同体、本体さえどうにかできればスタンドは無力化できる。ただ、それは容易なことではないのでひとまず逃げ……とは言うものの当然シッポ巻いて逃げろって訳じゃない。強襲100回中99回一発成功のアリアはまだしもキンジなら理解してくれそうなもんだが」

 

 逃げるって単語を出した途端に壁にこれ以上穴を増やそうとするのはやめろ。今度やったら『ももまんをももまんと認識できなくなる』DISC入れようかな……

 

「スタンド戦は基本遭遇戦でな、先にスタンド攻撃を受けた方が不利になりがちだ。しかし、それは情報を垂れ流しにしているようなもんで、攻撃を受けた側はどうにかして能力の影響下から逃れつつ何らかの対抗手段を講じる……これがこの場合の『逃げる』だ。まあ、中には本当にどうしようもないやつとかもいたりするからこの場合は本来の意味での『逃げる』を行った方がいい」

 

「相手の能力、射程距離、スタンドそのもののパワー……これを戦う最中に正確に読み取り、逆転の一手を打ち、勝利をもぎ取る。これがスタンド使いと他戦う上での流れだ。そして最後に何が何でも諦めないという事が大事だ。以上で『超能力とスタンドについて』の講義を終了するッ!」

 

 本当は黒板なりホワイトボードなり用意した上でやった方が効率よくできたんだがな……何かを教えるというのは嫌いじゃないが、どうにも性に合わないというか……不思議な話だが自分でもそういったことをやり慣れている、そんなような気がして少し驚いている。すらすらとどのような筋道で話していけばいいのか、どうすれば相手が噛み砕きやすいのか。これも記憶を司るスタンドに目覚めた影響とでもいうのか?

 

「それじゃ後はそこで気を失ってる星伽さんを起こしてお開きにすっか。ホイっとな」

 

 忘れぬうちに戻しておかなければ。あまり長い事抜き取ってしまうと後々の説明が面倒すぎる。DISCを抜き取ってからせいぜい30分程しか経過していないから幾らでも誤魔化しようはあるが、この行為の真の恐ろしさを知られでもした日には顰蹙を買う事間違いなしだ。

 

「んんっ……あれ? 私……?」

 

「星伽さんは悪い夢を見ていたんだ……大体キンジは女嫌いで通ってるんだからアリアと口に出せないような仲になっている筈ないんだ。だから今日のところは帰って頭を冷やした方がいいんじゃないかな? ほらキンジももう疲れてるみたいだし。なあキンジ?」

 

 というか帰ってくださいお願いします。いつバーサクモードになるかどうか気が気じゃないんで勘弁してください。誤魔化すにしてもこれでどうにかなるとか全然思わないんでこれ以上部屋ぶっ壊さないでください頼みます。

 

「口に出せないような……? じゃ、じゃあキンちゃんとアリアはキスとかそういうことは……していないってこと?」

 

 ヤバいッ! 完全に藪蛇だったッ!

 

 頼むから妙なこと言わんでくれよキンジ……!

 

「べっ、別に変なことははは、やってててっ、いないっっ!!」

 

 ダメそう。お前そんなにポーカーフェイスダメだったっけ?

 いやこの反応は……あっ……まさか一線超えちゃったの……? 何してくれちゃってんの?

 

 いやまだだ、まだ星伽白雪が感付かなければ……

 

「こっ……子供はできてなかったから!!」

 

 アリア何を口走っているっ……! これはもうフォロー不可っ……! 一線を越えるどころじゃない、思いっきりぶっちぎっている……!

 

 というより子供ってまさか『セ』から始まるアレか? やったという事実よりもいつの間にやったかって方が気になるんだが……マジでしたのか?

 

「し……た……の、ね」

 

 やったのか、やっていないのか。そんな第三者たる自分からしてみれば普段であればどうでもよく、しょうもない……と切って捨てるような出来事を底冷えするような声がそうはさせない、と言わんばかりに現実へと引き戻してくる。

 

 般若の面というのは女の嫉妬や恨みの篭った女の顔を模したものであり、転じて憤怒の形相といった意味を持ち合わせているというのはよく知られている。星伽白雪の巫女服と濡れ烏色の毛髪と相俟ってそれはまさしく鬼女と呼ぶに相応しい姿であった。

 

 

 この世に神が存在するというのであれば自分は前世で何やらかしたんですか? と聞きたい。このような状況に置かれるのが償いとでもいうのですか。そんなことを想いつつ更なる喧噪に包まれた居間からその場にいる三人に感付かれないように静かに抜け出し、亀の飼育槽の置いてある部屋へと逃げ込んだ。ああ、ドスンとかボコッとか嫌な感じの鈍い音がする……床になんか重いものでも落っことしたか。

 

 床に体を大の字に投げ出し、目を瞑る。次に目が覚めたらきっと床もピカピカだし壁もスベスベ、落書きしたくなるくらいに綺麗になっているに違いないんだ……そう、今さっきの出来事はすべて夢なんだ……

 

 

 

 これ以上部屋が壊れたら(物理的にも精神的にも)死んでしまうので誰でもいいから助けてください。何でもしますから。

 




 (後書きは今回は)ないです。次回はみっちり書きたい。メガテンⅢリマスターが楽しみです。


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