魔眼の少女 (火影みみみ)
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原作開始前
プロローグ


 目を覚ました私が目にしたのは、現実ではありえない空間でした。

 

「……わぉ」

 

 天井も、床も、壁もなく、ただただ白い空間だけが広がっている。

 ありえない。

 あまりにも不可解なその光景に、私の中の常識が音を立てて崩れ去る音が聞こえた。

 そんな体験をした私はSANチェック!

 えっと…………、成功1D5、失敗1D10くらいでいいかな?

 

「さて、ダイスダイ「ねえよ」、……はい?」

 

 急に声をかけられた私はすぐに、後ろに振り返ります。

 

「…………わぁお」

 

 絶句、それはもう絶句しましたとも。

 輝きを放つほど眩しい金髪。

 吸い込まれそうになるほど澄んだ蒼色の瞳。

 そして、曇りひとつもないピカピカな金属バット。

 それさえなければまだ女神と断言できたでしょうが、その一点がその他を凌駕し、飲み込んでいます。

 なんでしょうか、この残念系美少女は。

 見た目だけなら傾国美女クラスなのに、おしいことこの上ありません。

 

「あ、私はあい・ゆ・・といいま、……あれ?」

 

 おかしいです。

 昨日出したダイス目から、今日作った探索者まで覚えているのに、自分の名前となると何かモヤがかかったように何も思い出せません。

 

「ああ、そりゃ無理だ、ここに来るやつは大体名前を失っちまう、本当なら記憶もなくなるはずだが、そんだけ覚えてりゃ十分だ」

 

 そですか。

 

「まあそんなことはどうでもいい、さっさとこのチュートリアルを終わらせちまおう」

 

 メメタァ!

 今なんと言いましたかこの残念女!

 私にとってのこの非現実的状況がチュートリアル!?

 どう考えてもこの後何か起きますよね!

 それもとてつもなく厄介なことが。

 

「まず、あんたはもう死んでる」

 

「は!?」

 

「死因は事故死、暴走車がベンチで寝ていたあんたに突っ込んだのが原因だな」

 

 ショック! とてもショックです!!

 私、もう既にゴーストでした!

 

「ああ、そうなのですか……」

 

「ん、もうちょっと騒ぐかと思ったが、意外と冷静なんだなお前」

 

「内心ではとっても驚いてますよ、ただ表情に出ないだけで」

 

 驚きすぎて麻痺したとも言えます。

 

「この前来たやつなんかは面白いくらいに驚いてたんだがなぁ、まあいいか」

 

 個人的にはとても気になりますが、今はそんな話をしている場合ではないでしょう。

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥とてもとても気になりますが!

 

「あんたにはこれから別の世界に転生してもらう、どこに行くかは逝ってからのお楽しみだ」

 

「それはまた、なんと言いうか、……唐突ですね」

 

 あと、どう考えても行き先が秘密なのはあなたたちが楽しむためですよね。

 ……私たちの反応を見て。

 

「あの、よくあるパターンとしては、転生特典なるものをもらえると嬉しいのですが?」

 

「ああ、忘れてた」

 

 このアマ!

 

「特典は基本何でもいいが、私が与えられる力は一つだけだ」

 

「一つ、ですか?」

 

「ああ、どんなにチートでも一つだけなら叶えてやる」

 

 一つですか、これはよく考えなければなりませんね。

 不老不死は論外として、行き先(逝き先?)がわからないのは厄介ですね。

 戦闘系の世界か、それとも学園系の世界か、どちらにしても汎用性のあるチートにしないと。

 

「ちなみに、前の人は何をもらったのですか?」

 

「あ~、本当は言っちゃダメんなんだが、一目見たら分かるしな、…………王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)だな」

 

「……何があったのでしょうね」

 

 どこに行くかも分かららないのに戦闘に前振りですか。

 いや、戦闘方面の印象が強いだけで使える原型宝具もあるでしょうし、使えると言ったら使えるのでしょうか?

 それにしても、王の財宝ですか…………、もしその人も同じ世界にいるとしたら惨殺されないように注意すべきでしょうね。

 それはそうと特典ですが…………よし、あれにしましょう。

 

「決まりました!」

 

「で、何にすんだ?」

 

「魔眼みたいなのが欲しいです」

 

「魔眼つってもいろいろあるが?」

 

「取り敢えず特殊な目が欲しいです」

 

 転生先の私の運動能力がどの程度かは知りませんが、前世が本当に紙性能だったので、あまり期待しない方がいいでしょう。

 つまり、それをカバーできるほど特殊な能力→魔眼、となりました。

 

「んん~、まあいいか、こっちで適当に考えてやる、だからあんたは」

 

 そう言って金属バッドを持ち上げる彼女。

 

「え? ちょっと、まさか!!」

 

「お休み」

 

 そしてゴスっと何か嫌な音が響き、私の意識はここで途絶えたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~女神?~

 

「さて、あいつの特典だけど、……考えるのが面倒だなぁ」

 

 まったく、他人任せが一番困るってのに……、あ。

 

「面倒だからそれっぽいもの全部でいいや」




不定期更新は一応です、時々ひどいスランプに陥ることがありますので。
感想待ってます!


2013/12/16
・女神の描写を追加

03/10
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第1話

 

 目を覚ますと、目の前にあったのはぼやけた視界だった。

 それは水の中で目を開けた時よりもぼやけていて、光があるとしかわからない。

 ……一応転生には成功したということだろうか?

 目が見えにくいのは生まれたてだからでしょうし点点。

 赤ちゃんからやり直しなのは想定の範囲内だけども、これからのことを考えると些か面倒ですね。

 

「あ、起きましたよ真実(まこと)さん!」

 

 明るい感じの声が聞こえる。

 この人が母親なのでしょうか?

 

「お前がぎゃあぎゃあ騒げばそりゃあ起きるだろうよ」

 

 今度は男の人の声。

 という事はこっちが父親? なんか厳しそう。

 

「ありゃりゃ、それもそうですよね、うっかり失念していました」

 

「……それにしてもこのガキ、やけに落ち着いてやがるな、鍛えがいがありそうだ」

 

 確定! この人鬼です! 赤子相手に何を考えているのですか!?

 

「もう、こんなか弱い女の子に何をさせる気ですか!? この子はちゃんとした女の子に育てるんですよ!」

 

 そう、その調子です! 何とかしてこの父親(?)を説得してください!!

 

「は、俺とお前のガキだぞ、たとえ女でもまともに育つわけがねえ」

 

「…………それもそうですよね~」

 

 そこで諦めて欲しくなかった! もうちょっと頑張ってください!!

 ……といいますか、なんですかこの二人は!!

 ふたり揃って戦闘狂(バトルジャンキー)か何かですか!?

 もしそうだったら早くも私の第二の人生は詰み確定ですね。 

 そして、その二人の血を受け継いだ私は一体どうなってしまうのでしょう!?

 

「あなたに似たら、きっと最強の剣士になるでしょうね」

 

「お前に似たら、はちゃめちゃな美人になるだろうな」

 

 悲報・どちらにしろ、ロクな人間にならないことが確定いたしました。

 ……ああもう、心の中で騒いでいたら疲れてきました。

 赤ちゃんだと体力の消費が激しいのでしょうか…………、まあいいです、もう寝るとしましょう。

 …………それにしても、実に楽しいそうな二人ですね。

 いつか、目が見えるようになったら二人の顔を見るのが楽しみです。

 しかし、この二人の声、どこかで聞いたような気がするのは気のせいでしょうか?

 そう思ったのを最後に、私は眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

「あらら、寝ちゃったみたいですね」

 

「まあガキはそんなもんだろ」

 

「そうですね、これから育てるのが楽しみですよ」

 

「あまり無茶な教育すんじゃねえぞ、ニャル子」

 

「あなたが言いますか、元・志々雄真実さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから幾日が過ぎ、ようやくちゃんと目が見え始めるようになりました。

 その成長速度から察するに、もうそろそろ完全に見えていい頃です。

 ですがその前に、少しおかしなことがあります。

 通常、人間に視界は右と左の目で世界を見ることができます。

 私も例に漏れず、ちゃんと両目が働いていることは確認済みです。

 変なものが見える?

 そんなの魔眼を頼んだ時点であってもおかしくありません。

 たとえ視界の全てに赤い線が見えていても、今は無視しましょう。

 問題は現在進行形で私の顔の上に浮かんでいる三番目の瞳(サードアイ)でしょう。

 

 

 

 

 何で魔眼を頼んだのにコレが浮かんでいるのでしょう?

 なんですか、コレも魔眼に含まれるのですか?

 しかも、コレもちゃんと見えるのですよね、赤い線込みで。

 その上やっぱり心の声が聞こえますのでとてもうるさいですね。

 直死の魔眼にサードアイ、どう考えてもチートですね。

 これでも十分にチートなんですが、問題はまだあります。

 この二つはかなりわかりやすい部類ですけれども、魔眼には発動しなければわからない類のものがたくさんあります。

 石になるとか、見たら死ぬとか、そんなのがあったらもう最悪です。

 二つもあるのだからそれ以上ないのかもしれないですが、これ以上ないという保証もありません。

 ……一か八かですが、一度自分の姿を見てみましょうか?

 運がよければ相手のステータスを見抜く魔眼も備わっているかもしれません。

 ギャンブル性が高いですが、他の手といえば他人で実験するという非人道的極まりない方法しかありません。

 それに、失敗しても何もデメリットはありませんですし、一度くらい試してみましょう。

 

 

 それでは、一、二の、三!

 

 

 視界が開け、サードアイから自分の寝ている姿が確認できる。

 その全身には赤い線と点が走り、とてもじゃないがまともな人間には見えません。

 そして数瞬後、私の体の詳細な状態を理解できました。

 

 

 

 

〈以下、そのイメージ〉

 

 体調:万全

 心拍:普通

 視力:並以下

 握力:赤ちゃんにしては強い

 

 

 

 

 おお! どうやら賭けは成功のようですね、いや良かった良かった。

 

 

 

 

 レアスキル:五つ

       直死の魔眼 

       サードアイ 

       見稽古

       魅了の魔眼

       停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)

 

 

 

 

 ……ここまで見て目を閉じた私は悪くないと思う。

 うん、どう考えてもおかしなのが混ざってるよね。

 特に見稽古、これ、魔眼どころか邪眼ですらないよね!

 

 

 ……。

 …………。

 ………………うん、もしかしたら見間違いかもしれない。

 ありえないかもしれないけど、もう一度見たら消えるかもしれない。

 その僅かな希望に、私は賭ける!!

 

 

 

 

 レアスキル:十つ

      直死の魔眼 

      サードアイ 

      見稽古

      魅了の魔眼

      停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)

      妖精眼(グラムサイト)

      複写眼(アルファ・スティグマ)

      殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)

      写輪眼

      未来測定

 

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………増えた!!?

 ちょっと目を離した隙に凄い増えた!!

 しかも厄介そうなのしかないし!

 うう、これはもうコントロールができるまで盲目確定ですね。

 危なっかしくて迂闊に目も開いてられません。

 ……ん? どうやら追加情報があるみたいですね

 

 

 ※基本、使用者が使おうと思わない限り魔眼は発動しない。なお、コントロールできるかは別。

 ※同時に使えるのは三つまで。

 

 

 

 地獄に仏とはまさにこのことです。

 取り敢えず、勝手に発動して大惨事、という結末にはならないでしょう。

 しかし、訓練が必要なのにはかわりないので、やっぱりしばらくは盲目でいた方が安全ですね。

 あ、私座頭市にちょっと憧れているのですよ!

 目が見えないのにどこから誰が来るのかわかるなんてかっこいいじゃないですか!!

 

 

 まあそれはさて置き、ここで私の今の状況を思い出して欲しい。

 今私は赤子、自分の事もまともにできないただの赤ちゃん。

 つまりこの後、大体三・四歳になるくらいまで、様々な羞恥プレイが私を待っているのです!

 そんなのは死んでもごめんなので、ちょっと写輪眼で催眠をかけることにします。

 

 

 

 えっと、サードアイを自分の前に移動させて、私も目を開けて。

 内容は

 ・サードアイ以外の能力の封印。

 ・三歳になるまで記憶を封印

 ・サードアイのことは誰にも話さない。

 ・迂闊に人の心を言い当てたりしない。

 ・三歳になるまで目が見えない

 でいいかな?

 こっちの両親に迷惑かけちゃうのがちょっと罪悪感がありますが、あの人たちならきっと盲目の私でも何とかしてくれるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 では、三歳になるまで、お休みなさい。

 

 

 

 

 

 



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第2話

 皆さん、おはようございます。

 やっと三歳になり、催眠が解けいろいろ取り戻した七海です。

 ……あ、そう言えば名前を言うのは初めてでしたね。

 私の名前は八坂七海、どう考えてもあの七実さんが影響しているとしか思えない名前です。

 しかし、記憶が戻った私の驚きはこんなものではありません。

 三歳の誕生日を迎えたあの日、私は好奇心にかられ、両親の姿を見てしまったのです。

 

 

 

 

 

 銀髪碧眼で、とても二十代には見えない母。

 

 

 

 顔や腕に包帯を巻いて、ギラギラとした目をしている父。

 

 

 

 

 

 どう考えても「這いよれ」のニャル子さんと「るろうに」の志々雄真実さんですね。もういろいろと突っ込みどころ満載です。

 母親が神話生物?、父親が殺人鬼?(こっちでもそうなのかは知らない)のハイブリッドなんて、これもチート級の贈り物ですね。泣きたくなります。

 

 そして、容姿に関することでもう一つ。

 何を隠そう私の容姿ですが、名前と能力の影響なのか、やっぱり鑢七実に着実に似てきていることが分かりました。

 後二十年くらい経てば、原作と瓜二つになりますね、嬉しくありませんが。

 ただし、一部違うところもあります。

 まず、私の髪の色ですが、中二病よろしく白髪です。

 目の色もなんというか表現に困る色をしています。

 虹と言いましょうか、それとも混沌と言いましょうか、見る度に微妙に色が変わっています。

 まあこれは特典の影響でしょうね、色が変わるのはその度に新しい魔眼が付加されているからでしょうか?

 もしそうだったら笑えませんね。

 ますます人前で目を開けられなくなりました。

 

 

 まあ、これは考えても仕方ありませんので次の話に行きましょう。

 今の私の生活ですが、一応問題はありません。

 目が見えなかったですが、私には見えるものがあります。

 いつ、そのことに気がついたのかはもう忘れました。

 ただ、物心ついた頃には目には見えない世界を私は見ていました。

 色も光もない、ただ音が全てを支配する世界。

 私がかけた催眠の影響なのか、目が見えないと判断した脳は聴力を上げるように進化したようです。

 流石に百メートル先のアリの足音が聞こえる、なんて化け物じみた聴力ではありませんが、近くの人の心音くらいはギリギリ聞こえます。

 愛用の杖が手放せないのが難点ですが、もう慣れたのでいいとしましょう。

 ……何をどう間違ったのか、この杖明らかに重いんですよね。

 見た目は普通の杖なんですが、金属が仕込まれています。

 幼児用のレイピアを持っている気分です。

 どう考えてもおかしいですよね!

 あの両親は何を考えてこんなものを持たせたのでしょう。

 それを貰った当初喜んで振り回した当時の私もどうかと思いますが。

 

 

「七海ちゃ~ん! ごはんですよー!」

 

 そんなことを考えていると台所からお母さんの声が聞こえます。

 もうそんな時間でしたか、盲目状態だと電子時計が見えないのは難点ですね。

 そんなことを考えつつ、私はお母さんの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七海、今日でお前は三歳になる」

 

 台所で待ち構えていたのは神話生物ではなく修羅でした。

 お母さんはお父さんの後ろでニコニコ笑っています。

 

「気がついているかどうかは知らんが、生まれてからずっとお前を鍛え続けてきた、その杖もその一環だ」

 

 わぁお、いきなりのカミングアウトに思考がついていきません。

 若干持ち物や服が重かったのは気のせいじゃなかったのですね。

 

「……お母さん、何かとてつもなく嫌な予感がします」

 

「まあまあ、ここからが大事な話ですから」

 

 全くもって役に立ちませんね。ちくせう。

 

「所詮この世は弱肉強食、強ければ生き、弱ければ死ぬ、……何が言いたいかわかるか?」

 

「……よくわかりません」

 

 わかりたくもありません。

 

「簡単に言えば今日から『七海ちゃん強化訓練』の開始! ってことですよ!」

 

「さいですか」

 

 ある程度、といいますかこの両親の元ネタ(?)を知った時点で、こうなることは予想できていました。

 しかし、疑問は残ります。

 

「目が見えない私は一体何をどうすればいいので――」

 

 そう言おうとした時、お父さんの腕が素早く動いたのを私は聞きました。

 彼の手にはナイフが握られており、振った瞬間にナイフがこちらに飛んできます。

 それは私の命を刈り取ろうと眉間目掛けて飛んできます。

 

 少し考えて、私はそれを杖で弾きます。

 三歳の幼女がナイフを掴むなんて不自然過ぎますからね。

 …………今更自然不自然もないと思いますが。

 

「は、目が見えないから何だ、お前はそんなもの最初から関係ないだろう?」

 

 ……どうやらこの人には隠し事ができないようです。

 志々雄さんの目って、本当に油断できません。

 

「お前は確かに目が目ないかもしれねえ、だがな、だからこそ出来ることがある」

 

「できること、ですか?」

 

「ああ、お前にはそれを今日から徹底的に叩き込むからさっさと準備しろ」

 

 どうやら、私に拒否権はないようです。

 

 

 

 …………さて、辞世の句でも準備しましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○月B日 曇り

 今日は狩りに出かけた。

 兎を仕留めました。

 

 ○月M日 雨

 今日はひたすら回った。

 回りすぎて平衡感覚がおかしくなるかと思いました。

 これは一体何の特訓なんでしょう?

 

 ○月Q日 曇り

 今日は初めて刀を握った。

 何故かしっくりくると感じたのは父親のせいだと信じたい。

 

 ○月S日 晴れ

 今日は吊るされた。

 意味がわからない。

 

 ○月U日

 今日は死ぬかと思った。

 詳しいことは思い出したくないので書かない。

 

 

 ○月X日 晴れ

 今日は崖から落ちた。

 獅子は我が子を千尋の谷に落とすと言いますが、それを実践するとは思いませんでした。

 まじで殺す気でした。

 

 ○月Z日 快晴

 今日は森の中に放置された。

 かろうじてこの日記帳と杖を持ってくることができたが、もうホント、巫山戯ているとしか思えない。

 一週間たったら迎えに来るそうだ。

 ……その時まで、生きているといいなぁ。

 

 #月A日 曇り

 訓練が開始されてから約二ヶ月。

 もう自分が何をしてきたのか思い出せません。

 今日もまたいじめという名の訓練が始まります。

 けれど、これに慣れてきてしまった自分がいます。

 ……もう、普通の生活には戻れませんね。(元々普通じゃない)

 

 ×月D日 雪

 寒い、この季節でも冷水シャワーを浴びているお父さんは化物です。

 一度浴びたことがありますが、もう二度としたくありません。

 

 ×月G日 雪

 布団にくるまっていたらお母さんに無理やり引き剥がされました。ちくせう。

 

 ▽月I日 曇り

 年が明けた。

 街のみんなは楽しそうに騒いでいるが、私にはそんな余裕はない。

 なぜなら、今後ろにお父さんが訓練用の道具を持って迫ってきて

 (この日はここで途切れている)

 

 △月V日 晴れ

 今日は小太刀二刀御神流とかいうのを習った。

 昔、お父さんが手こずった人が使っていた流派らしい。

 ……どこかで聞いたことがあるような?

 

 ◇月Y日 雨

 五日かけてようやく「神速」が使えるようにあった。

 本当は見稽古を使いたかったが、嫌な予感がするのでやめた。

 極力、お父さんの前では力は使いたくない。

 

 υ月R日 晴れ

 今日はいい天気。

 しかし、稽古は続く。

 

 

 

 

 (日付が大きく飛ぶ)

 

 

 

 

 -月A日 晴れ

 この日記を書くのも久しぶりです。

 本棚にしまっていたこれを発見して、また書きたくなりました。

 あれから二年が経ち、私ももう五歳。

 いやはや月日が経つのは早いですね。

 今でも稽古は続いていますが、三歳ころほど嫌ではありません。慣れました。

 それどころか、少しずつ強くなるのを実感できて楽しいくなっています。

 さて、今日はどんな訓練なのでしょう、楽しみです。

 

 

 

 

 

 

 

 (日記はここで終わっている)




・八坂七海
容姿:白髪の鑢七実
性格:冷静に見えて、内心慌てるタイプ
魔力量:なし
デバイス:なし
魔力光:なし
担当した神:金属バッドを持った女神
特典:「特殊な瞳」 通称「魔眼」


2013/12/16
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12/22
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第3話

 

 

 こんにちは、八坂七海、五歳です。

 この歳になり私もようやく外出許可をもらえたので、早速この街を探索してみようと思います。

 さあ、どんな不可思議な現象が私待っているのでしょう!

 とても楽しみです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………平和ですね」

 

 何もありませんでした。

 いえ、ちゃんと喫茶店や公園や図書館など便利な場所はたくさんありましたが、面白いものや物語のヒントになりそうなものはありませんでした。

 幽霊のようなものは見かけるのですけど、あまり関係なさそうです。

 

「…………まさか、この世界にはファンタジー要素がないのでしょうか?」

 

 となると残りは料理もの、喧嘩もの、恋愛もの、探偵ものくらいしか思いつきません。

 ……恋愛ものだったら最悪ですね、何も面白くありません。

 盲目少女との恋愛、と言えば涙アリの物語になりそうですけど、中身がコレですからね。残念もいいところです。

 まあ、私に惚れる変わり者がいたらの話ですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、収穫がなかった、というわけではありません。

 その中でも一番の収穫と言えるのは!

 

「やってきました、喫茶翠屋!」

 

 

 なんでもこの街で一番人気の喫茶店らしいのです。

 評判もいいし、味も素晴らしいとのことです。

 今日はここで疲れを癒し、探索は終わりといたしましょう。

 いざ、めくるめく甘味の世界へ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! 何勝手になのはと話してやがる! 人の嫁に手を出すたぁいい度胸だな!!」

 

「どうして彼女と話すのに君の許可得を取らなければならない? 勝手に嫁認定している君の方が迷惑だろうに」

 

「ふ、二人共落ち着いて~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入って二秒で後悔しました。

 最後の最後でこんなトラブル発生中なんてとことんついていません。

 ちくせう。

 

「あら! 可愛いお客さんね~、お嬢さん一人?」

 

 呆然としていると、店員さんが話しかけてきました。

 

「はい、私一人です」

 

「じゃあこっちね、……あ、もしかして目が」

 

 お姉さんは私の持っていた杖に気づいたようで、その声からは私に同情しているのが伺えます。

 

「はい、ところでオレンジジュースとチーズケーキはありますでしょうか?」

 

 一応盲目ということになっているで、こういうことは先に店員さんに聞いておくにかぎります。

 

「ええ、その二つでいいの?」

 

 私はコクりと頷きます。

 

「じゃあ、ちょっと待っててね」

 

 そうして奥へ去っていくお姉さん。

 フレンドリーなのはいいのだけれど、従業員としてそれはどうなのだろう?

 いや、それもここが人気の一因なのかもしれない。

 そう考えれはこういうのもありなのだろうか?

 

 

 

「表にでろ! 今日こそ決着つけてやる!」

 

「ああいいとも、今度こそそのねじ曲がった思想を叩きのめしてくれる!」

 

 

 

 ……ああ忘れてました、そんなこと考えている場合じゃありませんでしたね。

 とりあえずこっそり観察してみることにしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この、く……、そ…………」

 

「いい加減……、諦め、たまえ……」

 

 

 

 どんぐりの背比べという言葉がぴったり当てはまるほど、この二人の実力は拮抗していました。

 ……いえ、そう言うと聞こえはいいのですがただの幼児の殴り合いなんてそんなもんですよね。期待する方がおかしいです。

 

「チーズケーキとオレンジジュース、お待たせしました~」

 

 おっと、ようやく来ましたか。

 正直飽きてきたところなので助かります。

 では、頂きま

 

「ねえ、君って小学生?」

 

 食べようとしたところに、お姉さんが声をかけてきます。

 嘘をついても仕方ないのでここは正直に答えておきましょう。

 

「いえ、まだ五歳児ですが」

 

 私がそう言うとお姉さんは驚いたように話してきます。

 

「え、そうだったの? ごめんさないね、ちょっと小さいけど大人びてたからつい」

 

「いえ、よく言われます」

 

 実際よく言われたりする。

 

「……という事はなのはと同い年なのね」

 

「なのは?」

 

 はて、どこかで聞いたことがあるような気がします。

 それと同時にすごく嫌な予感がします、寒気まで……、風邪でもひいたのでしょうか。

 

 

「ええ、外の二人の男の子と一緒にいるのが私の娘なの」

 

 娘!? 娘と言いましたかこの人!?

 声の感じから二十歳くらいだと思っていたのに驚きです。

 まさか! この人もお母さんと同じ神話生物なのでしょうか?

 ……一つの街に神話生物が二体とは、カオスすぎます。

 

 まあ今はそのことは置いておきましょう。

 それより気になることもありますし。

 

「あの二人はいつもあんな感じなのですか?」

 

「ええ……、娘がモテモテなのは嬉しいことでしょうけど、いつもああなるのは困っちゃうのよねぇ……」

 

 幼い頃から周囲の男の子を虜にするとは、恐るべき五歳児です。

 

「そうですか、まだ小さいのに大変ですねぇ」

 

「……全員あなたと同い年なのよ」

 

 わぁお、ずいぶんとマセたガキどもですね。

 ……あ、私も人のこと言えませんか。

 

「それはそれは、これから先が大変そうですね」

 

「そうなのよ! 小学生まではまだいいとして、中学生から先がもう心配で心配で」

 

 あらら、どうやら触れてはいけないスイッチを押してしまったようです。

 

「同い年の友達もあの子たちしかいないみたいだし、これからどうなる「母さん」、あら、恭也? 何かあったの?」

 

 店員さんの話を聞いていると彼女の後ろに男性の店員さんが現れました。

 

「母さん、子供相手に何してるんだ? キッチンの人手が足りないから早く戻って来てください、って父さんが泣いてたけど」

 

 それを聞いた店員さんが何やら慌て始めます。

 それよりも、まだ子供がいたことに驚きです。

 声の感じからして私よりもかなり年上みたいですが、もし実子なら驚きの若さですね。

 もう神話生物でいい気がしてきました。

 

「ああいけない! ついつい話し込んじゃった、今行くわ! じゃあまたね」

 

 そう言って奥に引っ込む店員さん。

 それを見送り、申し訳なさそうに若い店員さんが話しかけてくる。

 

「すまない、うちの母が随分と話し込んでしまったようだ」

 

「いえ、それはいいんですけど、あの方は何歳ですか?」

 

 そこだけはとても気になります。

 

「確か今年で二十九だったはずだが……、それが何か?」

 

「……ちなみにあなたは?」

 

「今年で十五になる」

 

 

 

 

 

 

 店員さん、二十九

 

 店員さんの息子、十五

 

 二十九から十五を引くと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………十四………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、ありえませんね。

 きっとこの方は養子なのでしょう、そうでしょう。

 そうじゃなければあの人はドラマになるような人生を送っていることになります。

 ありえません、と信じたいです。

 

「? 体調でも悪いのか、顔色が良くないようだが?」

 

「い、いえなんでもないです」

 

 どうやら表情に出ていたようです。

 もうちょっと気をつけたようでしょう。

 

「お、あっちも終わったようだな」

 

 息子さんは店の入口の方を向いて呟きます。

 私もそちらに意識を集中させると、やけに行き絶え絶えな気配が二つと、その後ろにいる小さな気配が入ってくるのを感じました。

 

「ええ、そのようですね」

 

「……わかるのか?」

 

「こう見えても耳はいい方なので」

 

 実際そうですし。

 

「まあ、そんなものか……」

 

 やけにあっさり納得してくれるのですね。

 これってすぐに信じてくれる人なんて少ないのですけど。

 おや?

 

「隙有り!」

 

 何やらうるさい方が落ち着いた方の隙をついて何か飛ばしたようです。

 

「甘い!」

 

 彼はそれを完全に見切り、それを避けます。

 あれ? なぜかこちらに飛んできましたよ!!

 ……まあ、当然ですよね。

 誰かが避けたら投げたものはその先に飛んでいくしかありませんよね。

 

 取り敢えず射線上にケーキがあるので、そっと移動させておきましょう。

 

 カッ! とそんな音がしてケーキがあった場所を鉛筆みたいな何かが通り過ぎます。

 

 ……おや? 奥の方から何かが。

 

 

 

 

            「――二人共――」

 

 

 その声を聞いた途端、二人はガチガチに固まってしまいました。

 まあ、無理もないでしょう。

 澄んだ綺麗な声でありながら、その中には私でさえ全身が震えるほどの何かが含まれています。

 ただ聞いていた私でさえこの有様なのに、それを直に向けられている二人の状態なんて、想像したくもありません。

 

「あ、えっと、その」

「桃子さん、私は何も」

 

 

 

          「――ちょっとお話、しようか?――」

 

 

 

 !?

 なんでしょう、お話と聞いただけで全身の細胞が危険信号を発し始めました!

 ……これ以上ここに居るのはすごく嫌な予感がします。

 食べるものも食べたので、さっさと撤退することにしましょう。

 

 

 

 こうして、二人にお話している店員さんの脇を通り、お会計をすませた私は何事もなく家に帰ることができました。

 ……あのままいれば二人がどうなったのか知ることができたでしょうが、私は命を粗末にしたくありません。

 

「あ…………」

 

 そう言えば自己紹介するのを忘れていました。

 店員さんの名前は恐らく「モモコさん」というらしいのですが、あちらは私の名前を知りませんよね。

 

 ……今度お母さんと言った時にでも、改めて挨拶しましょう。

 

 

 

 

 

 

 あれ? 私何で出かけたのでしたっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「恭ちゃんどうしたの?」

 

「ああ美由希か、いや、今さっきここにいた盲目の子なんだが」

 

「ああいたね、結構可愛い子! なのはとお友達になってくれると嬉しいんだけど」

 

「それは同意するが、……あの子、背後から飛んできた鉛筆を完全に見切っていたみたいだ」

 

「え!? 勘違いじゃないの?」

 

「ケーキに鉛筆が当たる寸前、それを避けるように移動させていたから間違いない」

 

「……」

 

「まあ、偶然だったのかもしれないが、どうにもそう思えない」

 

「で、でもまだ子供だよ?」

 

「ああ、だからしばらくは様子見だな、一応父さんにも話しておくが、同じだろう」

 

「優しい子、だといいね」

 

「ああ、そうだな……」

 





七海はロックオンされました。


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第4話

 

 

 

 春、それは始まりの季節。

 

 春に様々な命が生まれ、眠っていた動物たちも目覚め始める。

 

 春は祝福の季節であり、私たちに様々な恵みを与えてくれる。

 

 過酷な冬を越した者はその次の暖かな春を迎え、そこから新たな一歩を踏み出し始める。

 

 けど……。

 

 けどね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げへへ、上玉ですぜ兄貴」

 

「ああそうだな、こりゃあ本番が楽しみだ」

 

「ちっさい子は俺がいたただきますんで」

 

「お前相変わらずロリコンだな、ちょっと待ってろ薬持ってくるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな変態兼犯罪者が湧いて出てくるのは、本当に勘弁して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~二時間くらい前~

 

 最初の探索から半年が過ぎ、入学式が近づいたある日のこと。

 私は海鳴市の景色がよく見えそうな墓地近くにいました。

 

「…………この街も、大体は探索し終わりましたか」

 

 あれから何度も母の許可をもらい、街の探索を重ねた結果、私はこの街の構造を大体ながら把握することができました。

 

「私が通う小学校の場所も覚えてしまいましたし、これでは本格的にやることがなくなりましたね……」

 

 正直なところ、かなり暇なのです。

 お父さんはここのところ出張でいないようですし、これは本格的に困ってしまいました。

 と言うか、あの人は一体何をしているのでしょう?

 元ネタが元ネタだけに普通の職業をしている姿なんて想像できませんし、暗殺やボディーガードあたりが妥当でしょうか?

 流石にテロリストはないと信じたいです。

 否定できる要素が全くありませんが。

 

「……おや?」

 

 私から見て右側、誰かが草むらにからこちらにやってくるみたいです。 

 その証拠にガサガサと草が擦れる音がどんどん大きくなっています。 

 

「まったく、こっちにもないなんて……、あら?」

 

 やってきたのは私よりも背が高い女の子でした。

 感じからして小学生と思われますが、どうしてこんな所にいるのでしょう?

 

「こんにちは」

 

 取り敢えず、挨拶くらいはしておきましょう。

 コミュニケーションは大切なのです。

 

「ええ、こんにちは……、ってあんた誰よ?」

 

 ふむ、中々警戒心が強い人なのですね。

 言葉の端に見えない刺を感じます。

 

「申し遅れました、私は八坂七海といいます、よければお名前を教えていただけますでしょうか?」

 

 あくまでも笑顔を絶やさず、こちらに敵意がないことを相手にアピールするのです。

 

「…………はぁ」

 

 しばらくそうしてニコニコしていると、彼女は何か諦めたようにため息をつきました。

 何か思うことでもあったのでしょうか?

 

「アリサ、アリサ・ローウェルよ」

 

「アリサさんですね、……ところでそんな草むらで探し物ですか?」

 

「あんたには関係ないわよ」

 

「…………(ニコニコ)」

 

「――ああもう!! わかったわよ、話せばいいんでしょ!」

 

 本当、笑顔って最高の武器ですね。

 美人に生まれて良かったです。

 

「指輪よ」

 

「指輪……、誰かの形見なのですか?」

 

「……なんでわかったの」

 

「勘です」

 

 ここが墓場でしたので。

 

「もういい? 私はさっさと探「でしたら右のお墓の隙間」さ、……え?」

 

「あなたから見て右のお墓、その隙間に何か挟まっていますよ」

 

「本当!?」

 

 私がそう言うと、アリサさんは急いでそのお墓を調べ始めます。

 少しして、

 

「あ、あった……」

 

 手にした指輪を大切に握り締めるアリサさん。

 

「見つかって何よりですね」

 

「でも、どうしてあんたそこにあったのがわかったの? どう見たってあんた目が見えないのに」

 

 アリサさんが不思議そうに私を見つめます。

 では、今はこう答えておきましょう。

 

「それは、秘密です」

 

 ちゃんと人差し指を唇に当てるポーズ付きで。

 

「…………」

 

「…………」

 

 無言で見つめ合う私たち。

 

「くく、ふふふふ」

 

 アリサさんの口から僅かに笑い声が漏れます。

 

「ふふっ」

 

 私もつられて吹き出してしまいました。

 

「あんたって、変な奴ね」

 

「自覚してます」

 

「最後にあんたみたいな奴に会えてよかったわ」

 

 え?

 

「……引っ越してしまうのですか?」

 

「うん、明後日には外国に、ね」

 

 しょんぼり…………。

 せっかくお友達になれたかと思ったのに、いなくなってしまうのは残念です。

 

「そんな顔しないの、あんたには関係ないでことしょ」

 

「けど、寂しいです」

 

 出会ってから三十分も経っていませんが、彼女との会話はとても楽しかったです。

 ……もっともっと、話していたかったです。

 

「ほんと、あんたって変な奴ね、出会ったばっかの私にそんなこと言ってくれる人なんて一人もいなかったわよ」

 

「それは、みんなの見る目がなかっただけですよ」

 

 こんなに優しい人なのに。

 

「あはは、そう言ってくれるだけで十分よ、おかげで両親にいい報告ができるわ」

 

「……では、形見というのは」

 

「うん……、よかったら一緒に挨拶してくれない? 二人も喜ぶと思うから」

 

「ええ、喜んで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それからアリサさんはいろいろなことを話してくれました。

 

 幼い頃に両親が交通事故で死んだこと。

 

 自分が他の子よりも飛び抜けて頭が良かったということ。

 

 それが原因で他の子と仲良くなれなかったこと、バカにされたこと。

 

 悔しくてもっと勉強して、その努力が認められて海外の大学に入学できるようになったこと。

 

 そして、今日はそのことを報告するためにここに来たこと。

 

 他にも好きな食べ物、最近知った美味しい喫茶店、心を打たれた小説。

 

 時間が許す限りいっぱいお話しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ちょっと、話しすぎたわね」

 

「そんなことありませんよ」

 

 気がつけばおやつの時間を大きく過ぎ、空気が冷え始めてきました。

 まだまだ日没までには時間はありますが、アリサさんのことを考えるとあまり引き止めてしまうのも良くないでしょう。

 けれど、

 

「これを」

 

「? 何よこれ?」

 

「私の連絡先です、万が一何かあった時に渡しなさいとお母さんに持たされたものです」

 

 これくらいはしてもバチは当たらないでしょう。

 

「そう……、あっちに行ったら真っ先に連絡するわね!」

 

 できれば電子媒体だと嬉しいですね。紙だと読めません。

 

「ええ、楽しみにしていま……ん?」

 

「どう「静かに」」

 

 ひい、ふう、みい……大体五人でしょうか?

 成人男性くらいの人たちが私たちを嫌な感じで見つめています。

 

 おや?

 そのうちの一人がこちらに歩いてきましたよ。

 

「あんた、アリサ・ローウェルで間違いないな」

 

「な、何よあんたたちは!?」

 

 どうやらアリサさんのお知り合いではなさそうです。

 となると、とても面倒なことになりましたね。

 

「ちょっと、俺らと来てもらうぞ」

 

「嫌よ! 誰があんたらなんかと――」

 

 シャと金属が擦れるような音が響き、男が折りたたみナイフを取り出して私たちに突きつけています。

 

「別に暴れてもらっても構わないんだぜ、その時はそっちのお嬢さんも巻き込むけどな」

 

 彼が私を見て言います。

 それを聞いたアリサさんが悔しそうに強く噛み締めます。

 

「……彼女には、手を出さないでよね」

 

 どう考えても私が足でまといになってますよねこれ。

 しかし五人ですか……。

 本気を出せば一瞬ですが、アリサさんがいるのにあまり力は使いたくありませんね。

 けれど、能力なしで大人五人をアリサさんを守りながら戦うのは、今の私にはできません。

 ……あまり強く動きすぎると、未成熟なこの体がついてこられず、大変なことになるからです。

 

 どうしようか迷っていると、彼のお仲間がアリサさんに二人、私に一人近づいてきます。

 

「ちょっと! 彼女には手を出さないで!」

 

 アリサさんは何とか振りほどこうとしますが、大人の腕力には敵わず、そのまま車に乗せられてしまいました。

 

「悪いな、目撃者をわざわざ逃がすわけにはいかないんだよ」

 

 そう言って私も杖を取り上げられ、一緒に車に乗せられてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上、回想終了。

 

 現在私たちはどこかの廃ビルの一室に拘束されています。

 アリサさんはあれからずっと黙っており、嫌なほど静かです。

 男たちはあちらで私たちをどうするか話していますが、それはアリサさんには聞こえておらず、私一人がその気持ち悪い会話を聞き続けているという有様です。

 

「…………ごめん」

 

「え?」

 

 突然の謝罪に、私はどうしていいかわかりません。

 

「ごめん、これ私のせいだ、私が、七海を巻き込んじゃった……」

 

 まあそうでしょうね。

 頭のいい彼女のことでしょう、そのことずっと責め続けていたのかもしれませんね。

 

「いいえ、悪いのは彼らとその黒幕ですよ、アリサさんは何も悪くありません」

 

「けど、私がいた「お黙りなさい」、……え?」

 

 今のはちょっと、イラっときました。

 

「そんな些細なことはどうでもいいのです、今はここから逃げることを考えましょう」

 

「些細って、あんたねえ……」

 

 アリサさんはそう呆れたように言いますが、ちょっとは元気が戻ったみたいで何よりです。

 

「まあ、実際そうよね、……ウジウジしてるのは私らしくない! 絶対ここから脱出して、大学に行くんだから!」

 

「ええ、そのイキです」

 

 さて、彼女が本調子になったところで、私もちょっとは働きますか。

 

 

 

 

 




2014/1/11
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第5話

どうもみみみです。
今回はちょっと展開が早めですがどうぞお楽しみください、
では!


 

 

 突然ですが、ここ私が持つ魔眼の一つ、サードアイについてお話しようと思います。

 これは元ネタは有名な東方のさとり妖怪の瞳ですが、私のものはいろいろと違いがあります。

 第一にこのサードアイにコードがありません、完全な球体です。

 第二にこのサードアイはどこかにしまっておくことができ、必要になったら召喚できます。

 また、可視不可視を選択でき、不可視状態だと霊感が強い人にしか見えませし、それ以外の人には触ることもできません。壁抜けもできます。

 けれど、写輪眼など相手に暗示をかけたい場合は必ず可視状態にしないと意味がありません。

 第三にこのサードアイには二つの形態があります。

 一つはただの目としての形態。

 この状態では様々な魔眼をセットすることができます。

 二つ目は読心術を使用する形態。

 この時は視力が上がり、私の周囲の心を私に届けます。

 また、読心術はサードアイでしか発動しません。

 

 

 

 今回使用するのはこの読心術の方です。

 あまり人の秘密を暴くような真似はしたくありませんが、相手が相手なので別にいいでしょう。

 

 さてさて、彼らの秘密はなんでしょうね? ふふふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一言で言うと、キモイ、それに尽きました。

 男たちの大半が私たちをどうするか、ということしか考えておらず余計に気分が悪くなりました。最悪です。

 しかし、得たものもあります。

 男の一人、最初にアリサさんに話しかけていた彼、の中に今回の黒幕に関する情報がありました。

 イメージはプライドが高いけれどそれを表に出さない、一見すると優しそうに見える男性。

 どうやら彼がアリサさんを攫うように男に依頼したようですね。

 まあ、理由は容易に想像がつきますが今はどうでもいいことです。

 

 他にも壁の外を覗いてみたり、記憶を探ったりして現在地の確認も終わりました。

 アリサさんは今もどうやって逃げるか考えていますが、足でまとい(私)がいては難しいでしょう。

 都合よく誰かが助けに来てくれる、というのが一番理想的な展開ですが、流石に夢見すぎです。そんなご都合主義普通は起こりません。

 …………いえ、誘拐直前に私と知り合ったのも、アリサさんにとってはご都合主義に思えますね。

 しかし、たった一回の人生(あれ、二回目?)をむざむざR18のバッドエンドに突入するほど私は悪趣味ではありません。

 

 ……。

 …………。

 ………………ちっ、仕方ありません。事後処理がいろいろと面倒ですが私がヤりましょう。

 

 

「アリサさん」

 

「何、どうかしたの?」

 

「なんだか眠くなってきませんか?」

 

 ここで目を開けて写輪眼発動。

 

「え、何よ、きゅ、うに…………zzzzzz」

 

 パタン、と力なく倒れるアリサさん。

 よし、これで彼女が私のことを見ることはありません。

 

 さて、次はあなたたち「あ、何だ片方寝てるじゃねえか」。

 

 

 

 …………いやいや声がした方を向きます。

 

 

 

 

 そこには男が四人、手に妙な注射器を持ってこちらを見つめています。

 

「まあ、適当に殴れば起きるだろうし、さっさとこっちで楽しもうや」

 

「最低ですね」

 

「へ、要は弱肉強食ってやつだ、恨むんなら自分らの不運を恨みな」

 

 

 そう言って私に近づいてきますがそんなことはどうでもいいです。

 今彼らはアリサさんを害する発言をしました。確かにそれもイラつきます。

 欲望がこもった気配でこちらを見つめています。今すぐにでも八つ裂きにしたいです。

 

 けどね、それ以上に。

 

 

 

 

 

 あなたたちが弱肉強食(その言葉)を口にしたことが一番許せません。

 

 

 

 

 

 それは覚悟があって初めて口にできる言葉です。

 それは力があって初めて口にできる言葉です。

 それはお父さんのような人のみが口にできる言葉です。

 

 それを私の前で汚すのはいい度胸です。

 私のモノローグを邪魔した大罪もありますし、合わせてこのゲスどもには地獄を見てもらいましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまらないですね」

 

 戦闘描写と言っても特になにもありません。

 ただ、彼らが私の目を見た、それだけです。

 それだけで彼らは私の足元で痙攣していますが。

 さて、さっさと警察を呼ぶとしましょう。

 

「えっと、携帯電話はどこでしたっけ?」

 

 そう言って男たち、ついでにアリサさんのポケットも探るが、何もなし。

 そしてもちろん私もなし。

 盲目だから必要ないと思っていたのですが、こんな所で裏目に出るとは思いもしませんでした。

 仕方ありません。

 最後の一人が持っていると期待して襲撃するとしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ~アリサ・ローウェル~

 

 目が覚めた時には、全てが終わっていた。

 私をさらった男たちは全員捕まり、ついでに黒幕もその日のうちに捕まった。

 実行犯たちは一人を除き、全員が精神に異常をきたして精神病院送り、残った一人は何かに怯えているらしい。

 

 黒幕の正体と動機は大したことなかった。

 普通なら彼がその海外の大学に入学するはずだったらしいが、私が彼以上の結果を出したためそれが叶わなかった。ただそれだけ。

 

 助け出されたのは私一人。

 そう、私だけ。

 七海は見つからなかった。

 確かに彼女はいた。思い違いなんかじゃない。

 でも、現場にそれを証明する証拠は何一つなく。

 正気だった男も含めて、誰も七海のことを覚えていなかった。

 だから、彼女のことは私が恐怖のあまり生み出した幻想、ということになっている。

 だけど、警察にあった通報した人の声が女の子の声だったと聞いたから、それは間違いなく七海だと思う。

 それに、もう一つ彼女がいた証拠がある。

 

「海鳴市、空座町三丁目……」

 

 彼女から手渡された、彼女の住所が書かれた紙。

 残念なことに、明日旅立つ私にはここ行く時間すらない。

 何もわからない私だけど、一つだけわかることがある。

 

 

 

 それは、私は彼女に守られた、ということ。

 

 

 

 七海がいなかったら、私はきっとタダでは済まなかったと思う。

 けど私のほうが年上だった。私は目が見えた。

 私は彼女に守られた。

 …………守られてしまった。

 本当なら、私が彼女を守らなければならないのに…………。

 悔しかった。

 情けなかった。

 そして何より、彼女に会いにいく時間がないのが恨めしかった。

 このお礼は直接会ってしたい。

 けれど、親がいない私には留学は最大のチャンス。

 これを無駄にしたらもう次はないだろう。

 それに、連絡が出来ないわけ、じゃ、ない…………。

 

 そう思ったところで、私はまた思い知らされる。

 

「やっぱり、私は何もできない……」

 

 大学をけって七海に会いにいく、そんな小さなこともできない。

 連絡ができるからと逃げ道を作る。

 もし、この紙がなかったら私はどうしていただろう?

 そんなのわかりきっている。

 連絡できないからと、どちらにしろ大学に行ったに決まっている。

 

 

 

 悔しい、こんな私がすごく情けない。

 こんな私を見たら、彼女はなんて言うだ「お黙りなさい」、!?

 

 急に、あの廃墟で言われた言葉を思い出す。

 そうだった。

 あの時弱音を吐いた私に、彼女はそう言った。

 そして、私は悪くないと慰めてくれた。

 彼女が巻き込まれたのは、間違いなく私のせいなのに。

 

 

「…………そう言えば、七海は一度も弱音を吐かなかった」

 

動揺も悲嘆もせず、ずっと冷静だった。

 それはただ単に、彼女にはあの状況を打破できる秘策があっただけかもしれない。

 けれど、あの時の言葉は私にとって、とても嬉しかった。

 

「そうよ! こんなウジウジしていたら、本当に彼女に会えなくなるわ」

 

 いつも元気でポジティブ、頭脳明晰で文武両道、それが私! アリサ・ローウェルなんだから!

 私は私らしく、どんどん上を目指せばいい。

 今できないならできるようにすればいい。

 過去を悔やむより、今を死ぬほど頑張ってやる!!

 

「ん?」

 

 ふと、床に落ちたパンフレットを覗き込む。

 

「そうと決まったらやることは一つよね」

 

 こんな留学さっさと終わらせて、ここに帰ってくる。

 あの学校の最短卒業記録を塗り替えてやるんだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう元気良く意気込む私の瞳に、勾玉のような模様が現れると気がついたのは、ちょっと後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 ~一日前~

 

「さて、制圧も通報も終わりましたし、最後にアリサさんの顔でも見ておきましょうか」

 

 階段を下りて、元いた部屋に戻る。

 男たちを避けて、倒れている赤みがかった金髪の美少女、これがアリサさんでしょう。

 

「うん、やっぱりいい人そう」

 

 私の目、いやこの場合は耳に狂いはなかったと言うべきでしょうね。

 だからこそ、

 

「心配、なんですよね……」

 

 今回の件然り、これからもアリサさんの前には幾つもの障害が立ちはだかるでしょう。

 それを思うと、ここでこのままにして私が帰って良いわけがありません。

 

「……使いどころ、でしょうね」

 

 視力が下がるのであまり多用はしたくないですが、今使わずしていつ使うというのでしょう。

 

「これは、私の自分勝手です」

 

 アリサさんの目蓋を開け、私と目を合わせる。

 

「万華鏡写輪眼・奇魂(くしみたま)、発動」

 

 願わくば、これが彼女の力にならんことを。




初の戦闘が無双どころかただ視線を合わせる作業にorz

一人だけ比較的軽症な男は、
黒幕からお金をもらって渋々やっていたため、七海に関する記憶の消去ともう二度と犯罪ができない暗示(悪いことをしようとすると強烈な視線を感じる)程度ですみました。



万華鏡写輪眼・奇魂
七海の持つ万華鏡写輪眼の一つ。
奇跡を起こす瞳術。
使用するには莫大なチャクラが必要であり、完全にチャクラが貯まるまで写輪眼ごと使用不能。
奇跡の内容によって、使用不能期間も変わる。
大体早くて一年、長くて十年。


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第6話

 

 

 

 

「霧切さんまたね~」

 

「ばいばーい!」

 

「ほむらちゃんの家に行っていい?」

 

「うん、いいよ!」

 

 

 放課後、元気に家路を急ぐ生徒の声が聞こえる。

 一年前はどきどきの新入生だった彼らも、もうすっかりこの学校に慣れ、楽しげな学校生活を送っている。

 

 え?

 私はどう、ですって?

 ふ、そんなの決まっているじゃりませんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………絶賛ぼっち中です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、それもわからなくはありません。

 要因を考えるだけでもキリがありませんが、いくつか申し上げるとしますと。

 

 1、盲目

 2、白髪

 3、時々授業が別になる。

 

 でしょうか。

 

 まあ、仕方ないことです。

 盲目の私が皆さんと同じ授業、特に体育とか、ができるはずがありませんので、そういった時間は別の教室でお勉強です。

 

 ……あ、別に友達が全くいない、というわけれはないのですよ。

 ただ、片手で足りてしまうほど少ないだけで……。

 

 

 

 

 ………………なんだか、とても悲しなってきました。

 最近ずっと一人で過ごしているせいか、少しナイーブになっているようです。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息がこぼれ落ちます。

 いつもなら話し相手になってくれる唯一の友達がいたのですが、ここ最近学校に来ていません。

 なんでも、下半身の麻痺がひどくなってきた、らしくいつ倒れるかわからない程だそうです。

 今はどうしているのでしょう、はやてちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………ええ、いくら鈍感な私でも流石にここまでくればここがどこの世界かわかりますよ。

 いつ気がついたと言うと彼女が初めて私と同じ授業を受けた時、彼女が自己紹介をした時です。

 いくら声だけでしか判別できないからと言ってもこれはない。

 ほんと、私の頭はポンコツです。大馬鹿です。

 思えば喫茶翠屋に訪れた時点で気づいておくべきだったのです。

 桃子さんになのは、あと恭也、これってあの有名な『リリカルなのは』の高町家の皆さんではありませんか!

 あの時ちゃんと自己紹介をしなかったことが、すごく悔やまれます。

 おかげでその後、私が「桃子さん」、彼女が「七海ちゃん」と呼び合う中になってしまい、苗字を知る機会を逸してしまいました。

 いえ、その後にチャンスがなかったわけではないのです。

 ただ私がたまにしか出かけない上に、翠屋に行くとどういうわけか桃子さんが執拗に絡んでくるのです。

 世間話に始まり、子供の相談、亭主さんの怪我、あと惚気など、思い出してもキリがありません。

 そして最後に恭也さんがやってきて桃子さんを連れて行く、というのも毎回お決まりのパターンとなっています。

 

 

 

 はやての体についても、ちゃんと思い出しました。

 確か、闇だか夜天だかの書物が暴走していて、彼女の体を蝕んでいるのでしたよね。

 彼女を助けるだけならその本をぶっ壊せばいいだけですが、そうすれば中にいる人たちを助けられません。

 それに、あの事件ははやてたちの成長には不可欠なものです。無闇矢鱈に介入していいもので…………、あ!?

 

 そんなことを考えていたらあの二人のことを思い出しました。

 私が翠屋に行くと五回中三回は遭遇する彼ら。

 今や彼らの喧嘩も日常となり桃子さんの悩みを順調に増やしているが、売上に響いていないのが実に不思議……じゃなくて。

 

 どう考えても彼らも転生者ですよね。

 なのはちゃんを取り合ってましたし、ハーレムでも狙っているのでしょうね。

 まあ、女の私には関係のないものですが、もしそれが今後の展開に関わるようであれば、嫌々ながらも私が介入しなければならないかもしれないですね。

 

 

 ……いえ、ちょっと待ってくだい。

 そも、私はデバイスなんて持っていませんよ!!

 これでは戦力になら……ないこともないですが、話がややこしいことになるのは確実です。

 私の魔眼は異端な上にチートですから、知られればどこぞのマッドサイエンティストに実験台にされる恐れがありますね。

 その上私のクローンなんて作られたらまさに悪夢です。泣きたくなります。

 流石に特典全てがコピーされることはないと信じたいですが、写輪眼や白眼あたりは確実に持っていると考えたほうが良いでしょう。ゾッとします。

 そんなことになったら私以外誰も対処できないじゃないですかヤダー。

 

 

 

 とまあ最悪な未来にならないためにも、私は非介入の方針でいこうと思います。

 話が大分逸れましたが、彼らも多分おそらくきっとバッドエンドになるような展開は避けるでしょうし、彼らの手に負えない事態になるまではほっておきましょう。

 

 

 …………フラグのような気がするのは私だけでしょうか?

 考えれば考えるほど、嫌な予感しかしません。

 仕方ありません。この不安の正体を探るため少しばかりネタバレになりますが、ちょっと未来を見てみましょう。

 

 

  では、セット・未来測定。

 

 

 

 

 

    

 ――とても高い所で、私は可能な限りフェンスに近づき、何かを探している――

 

 

 この場所は、学校の屋上でしょうか?

 どうやら私はそこから海鳴市を見渡しているみたいですね。

 お、どうやら見つけたようです。

 

       ――視界に小さく現れる三人娘と男二人――

 

 

 これは、なのはにすすか、あとちっちゃい方のアリサですね。おまけもいますが。

 容姿は片方がfateのギルガメッシュ、もう片方は……見たことありませんね。肌は褐色ですが衛宮君ではありません。知らない人です。

 そこの子ギルの特典は予想できますが、そこの褐色はわかりませんね。

 

 

 

          ――突然、喧嘩を始める二人――

 

 

 初めて見るこの二人が転生者たちならいつもの光景ですが、やたら年が若いですね。 風景から察するにおそらくここ一ヶ月以内でしょうね。

 

 

      ――誰もがそれに注目して、たちまち人だかりができる――

 

 

 はて、そう言えば、……なぜ私はこの光景を見て(・・)いるのでしょう?

 未来測定の的中率は100%、絶対に外れませんが条件があります。

 元ネタのキャラは右目で自分が見たい未来を見て、左目でそれを確定させる手段を見ていました。

 しかし、確実にその未来を確定させたい場合はその未来が成る瞬間をその目で見ることが最低条件でした。

 つまり、この時の私がこれを見ているということは目を開けているということです。

 普段盲目の私がなぜ屋上でこんなことをしているのか、理由がわかりません。

 ……ん? 

 

 

         ――突然、無人のトラックが走り出す――

 

 

 え、ええ、あれ? まずくないですかこれ!?

 

 

   ――トラックは吸い込まれるようにその人だかりに突進していき――

 

 

 ……何だか、何が起こるかわかりましたよ。

   

 

            ――直前で捻れた――

       ――捻れて、捻れて、そのまま潰れてしまう――

 ――人だかりにいた彼らには何が起こったからわからず、皆唖然としている――

 

 

 ああ、そうですよね、これは私が望んだ未来ですよね。

 

 

 

 

 私が見たいと思ったのは、『彼らの手に負えない事態』でしたからね。

 

 

 

 

 

 それを私が解決して、彼女らがあるべき未来へと迎えるようにする。

 間違いなく、私が見たかった未来です。

 わかってはいても、なんだか面白くありません。この能力あまり使いべきではありませんね。

 

 まあ、見てしまったのは仕方ないので、今回だけは未来に従うとしましょう。

 問題は、それがいつ起こるか、ですが。

 お、左目に手段が写り始めましたよ。今度は両目ではなくサードアイからの視点ですが。

 えっと、今すぐ屋上に向かって彼女らを探して、千里眼と歪曲の魔眼を使う。

 

 

 

 

 …………………………今日!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~忍野岐路~

 

「ねえ昨日のあれ見た?」

 

「うん見た見た、びっくりしたよね~」

 

「確か、サードブレーキをかけ忘れたトラックが潰れちゃった事件だったよね?

昨日の帰り際に見たけど、すんごいグニャグニャだったよ」

 

 教室中、昨日の話題でもちきりだった。

 あれが人間業でないことは明らか、その上そんなことができるキャラは原作にいなかったことを考えれば、

 

「おい、忍野、ちょっと来い」

 

「…………」

 

 嫌々そちらを向くと、そこにはあの憎たらしい褐色がいた。

 

「何か用か? 今は私は考え事で忙しいのだが」

 

「お前もわかってんだろ? 昨日のことだよ」

 

 ……年中脳内ピンク色のこいつもどうやら昨日のことで思うところがあったらしい。

 

「断る、後にしてもらおう」

『誰かに聞かれる可能性が高い、こちらで話した方が良いだろう』

 

「ちっ、そうかよ」

『仕方ねえな』

 

 そう言ってアイツは自分の席に座る。

 頬杖をつき、窓の方を向きながら、改めてこちらに話しかけてくる。

 

『昨日のあれだけど、俺はあれの正体を多分知ってる』

 

『ほう奇遇だな、私もだ』

 

『やっぱり知ってたか』

 

 fateと同じtype-moonの作品の一つ、空の境界。

 その中に出てくる浅上藤乃が使用する歪曲の魔眼、それによく似ていた。

 

『ふむ、私と君以外にはいないと思っていたのだが、そうでもなかったようだな』

 

 もっとも、歩けるようになった途端翠屋に突撃してきたのもこいつだけだが。

 あの桃子さんのOHANASIのおかげかコイツも丸くなったもので、今では一応ながらも彼女らと一応良好な関係を築けている。

 まあ、時々過激なスキンシップがあるからその度に私が諌めなければならないのがこの上なく面倒だが。

 

『今までずっと身を潜めていたのか、それとも影で見守っていたのか、どちらにしろ覗き見とはいい趣味ではないな』

 

『まったくだ、もっと堂々としやがれってんだ』

 

『……君はもう少し本音を隠したまえ』

 

『あ゛!! 今なんつった!?』

 

『気にするな、取り敢えず今後はその三人目について気をつける必要があるだろう』

 

『ああ、そんな陰気野郎になのはは渡さねえ!』

 

『君のものではないと、何度言ったらわかる……』

 

 そう言って私は彼との念話を打ち切る。

 

『マスター』

 

『どうした?』

 

 彼との会話が終わってすぐに、私の相棒、エアが話しかけてきた。

 

『マスター、勝てますよね?』

 

 どうやら彼女は例の三人目についてなにか思うことがあるようだ。

 

『マスターなら大丈夫ですよね?』

 

 それに私は落ち着いて返す。

 

『君のレーダーにも引っかからない未知の相手になるが、私たちに負けはない、其奴が私たちに仇なすのなら、全力で排除するまでのことだ』

 

 




「未来測定」
空の境界・未来福音より
能力上、これを使用するには両目を使う必要がある。

なお、彼女の性格に合わなかったため、今後、彼女がこの能力を使うことはあまりないと思われる。

「歪曲の魔眼」
原作のキャラは透視と歪曲を同時に使っていたが、特典のシステム上不可能。
再現するためには透視能力と合わせ使用する必要がある。
例:右目・歪曲 左目・透視 など



 忍野岐路
容姿:ギルガメッシュ
性格:アーチャーっぽい(元は演技だったが今はこれが地、なおギルガメッシュは恥ずかしかった模様)
魔力量:AA
デバイス:乖離剣エア
魔力光:金
担当した神:青年の神様
特典:王の財宝

「乖離剣エア(デバイス)」
神様が与えた岐路専用デバイス
本来なら七海もデバイスを持っていても不思議じゃなかったが、女神が忘れたため無し。


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第7話





 

 

 

 

 

 十二月二十四日、クリスマス前日の午前十時。

 雪降りしきる中、私は片手に食べ物が入った袋を持ち、もう片方を愛犬に引かれゆっくりと街を歩いています。

 

「さ、寒い…………」

 

 ええ、ものすごく寒いです。

 特に自分は目を使わない分、他の感覚が鋭くなっていますので本当に辛いです。

 明日はさぞかし綺麗なホワイトクリスマスになるでしょうが、私にとっては地獄ですね。

 ならばおとなしく家にいなさい、と言われるでしょうがそうにもいかない訳があります。

 今日は私の唯一の友達、八神はやてちゃんとクリスマスパーティーをする予定なのです!

 

 

 

 

 

 

 

 …………まあ、私とはやて、二人っきりのパーティーですが。

 

 

 

 

 

 

 これは仕方ないのでしょう。

 結局、あのトラック事故があった後もはやて学校に来ていないから半ば忘れられているのです。

 最初は何人かお見舞いに行った人もいたみたいですが、今はもう私だけです。

 

「バウバウッ! ガウ!」

 

 お、そんなことを言っている間についたようですね。

 私の手を引くのは我が家の飼い犬『てぃんだろす』です。

 ……正直母をいろいろと疑いたくなる名前ですが、もう決まってしまったので取り返しはつきませんね。お父さんも概ね賛成のようですし。

 しかし、ふざけた名前とは裏腹に、目的地に近づくと吠えてくれるので私的にはとても助かります。

 

 えっと、チャイムチャイム……、ありました。

 

 ――ピンポーン――

 

「はーい!」

 

 元気な声が聞こえると、ガチャりと音がした後、扉が開いてはやてが現れた。

 

「あー七海ちゃんよう来たな~、ささ、上がって上がって!」

 

「うん、あ、ちょっと待って、てぃんだろすの足ふくから」

 

 

 

 

 

 

 てぃんだろすの足を綺麗にした後、リビングルームで私たちは食材を眺めていた。

 目の前の並んでいるのはネギ、たぶん鳥肉、豆腐、人参、キャベツにきのこ。

 

「う~ん、やっぱ無難にお鍋かなぁ」

 

「材料的にも、そうでしょうね」

 

 あ、もちろんてぃんだろす用の犬缶もありますよ。私たちだけ美味しいもの食べるなんて可哀想です。

 

「じゃあ取り敢えず何を手伝えばいい? 一応野菜を切るくらいならできるよ」

 

「いやいや、七海ちゃんにそんなことさせられへんよ! 間違って手切ったら危ないし」

 

 むう、そんなこと音が見える私には滅多にないのですが……、しかし、はやては一度言ったら聞きませんので大人しく材料を渡すだけにしておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ七海ちゃん」

 

「なんですか?」

 

 適当に材料を手渡しながら、私は応える。

 

「親御さんと一緒に京都行かんくてよかったん? そっちの方が楽しそうやと思うんやけど」

 

「ああ、そのことですか……」

 

 本当なら私は今日から三日間、京都のとある名所行くことになっていたのですが、私は無理を言ってそれを断り、はやてちゃんの家に泊まることにしたのです、てぃんだろすも一緒に。

 

 

 断った理由についてですが、大きく二つあります。

 

 一つ目ですが、一年の時はすっかり忘れていたのですけど、はやての両親は既に死去しており、このままA'sまでずっと一人のクリスマスどころか、一人ぼっちの一年間を過ごしてしまうことに気がついたからです。

 流石にこれはあんまりです。

 担当医の先生やヘルパーさんがいるとは言え、思春期の子供にこれは酷すぎるのです。

 だからせめて、彼女らが来るまでの間は私がはやてちゃんの支えになりたかったのです。

 原作ではそれを乗り越えていましたので私がいなくても大丈夫なんですが、だからと言って私がそれを無視することはできません。

 私のことを今も見ている提督に知られるデメリットはありますが、能力さえ使わなければ問題ないのです。

 ……まあ、何度も足を運んでいるので今更ですが。

 

 そして二つ目、これはもっと自分勝手な理由です。

 この八年間、あの二人と一緒に旅行に行くと大抵ロクなことにならないのです。

 例としては、四歳の春に行った外国のパーティーでは爆弾事件に巻き込まれ。

 その年の夏、海に行けば波に飲まれ。

 五歳の冬、吹雪の中の登山なんて死ぬかと思いました。

 …………そして去年、あの夏の日を私は絶対に忘れない。

 

 以上のことにより、私は絶対にあの人たちとは旅行に行かないと心に決めたのです。

 まあ、あの年中相思相愛な二人ならいろいろと大丈夫でしょうが、……家族が増えそうなのは気にしない方がいいでしょうね。

 

 

 

 ともかく、簡潔言えば私の命とはやてのために私は今ここにいるのです。

 一人で持ちきれない着替えなどは先にお母さんが届けていてくれたので問題ありません。

 

「別にいいのです、たまには夫婦ふたりっきりで楽しむ時間も必要なのですよ、…………私の命のために」

 

「?」

 

 最後の方は聞こえなかったのかはやてが首をかしげている。

 

「いえ、……あ、鍋が吹きこぼれてますよ」

 

「え? ああ、ほんまや!!」

 

 慌てて火を弱める彼女。

 

「まあ、今はそんな些細なことはどうでもいいのです、今日はせっかくのクリスマス・イブを楽しみましょう」

 

「些細、なんかなぁ……」

 

 納得いかなさそうなはやての足元にてぃんだろすがジャレついてくる。

 ナイスです。

 

「ほら、てぃんだろすもはやてと一緒がいい、と言ってますよ」

 

「んん~、まあいいんかなぁ」

 

 渋々ながらも納得してくれたようですね。

 彼女にとって最後の普通のクリスマス、一人と一匹では限界がありますがとことん楽しませて見せましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~どこかの管理外世界~

 

 海鳴市に穏やかなクリスマスが訪れようとしていた時の頃。

 管理外世界のとある遺跡。

 

 ――カツン、カツン。

 

 岩を砕く音だけが辺に響く。

 かつて栄華を極めたであろう建造物は見る影もなく、今は只のガレキとして無残な姿を晒している。

 

「……多分、ここであってるはず」

 

 少年は一心不乱にある一点だけを掘り続ける。

 

 十分、いや一時間だろうか。

 時間の感覚はなく、何度も何度も同じ場所を掘り続けた結果。

 

 ――キィィィン。

 

 何かに弾かれ、採掘道具が彼の腕からこぼれ落ちる。

 

「……………………」

 

 彼は手で慎重に砂を取り除いていく。

 

「あった」

 

 彼はそれを拾い上げる。

 太陽の光にかざすとそれは透けていて、水晶のような物体だとわかる。

 ただ違うのは、その中央にローマ数字で「21」と刻印されているところだけだった。

 

 

 

 

 

 ~第1管理世界・ミッドチルダ~

 

「……………………」

 

 暗い部屋の中、空中に浮かぶ監視用の映像だけが彼を照らしている。

 映像の中の少女は盲目の少女と楽しいそうに言葉を交わす。

 

「父さま……」

 

「……アリアか」

 

 彼は振り向かずに返事だけを返す。

 

「また、見ていたのですか……」

 

「……………………」

 

 彼は何も言わない。

 けれど、少ししてゆっくりと彼は口を開く。

 

「最近、この子がやって来てからはやてはめっきり明るくなった、少し前まではどこか陰りがあったが、今はもうそれも目立たなくなった……」

 

「…………」

 

 アリアと呼ばれた女性は、黙って彼の話を聞いている。

 

「これを見ていると、私は本当に正しいのか、こんな少女の人生を奪っていいのかと、何かが私を責め立てるのだよ」

 

「父さま……、しかし「わかっている」」

 

 アリアの言葉を遮り、彼は続ける。

 

「頭ではわかっている、これが最善だと理解しているんだ」

 

 そう言って、彼は手元にあるカードを見つめる。

 

「闇の書の因縁はいつか誰かが断たねばならない、それが私だっただけのこと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     「たとえ、誰を犠牲にしても、成さねばならないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ちょっと短めな今回
思ったより無印開始まで時間かかるなぁ…………。


でも、ちょっと見ない間に
お気に入り数500以上
びっくりです。
もっともっと面白くかつ自然にネタが仕込めるように頑張りたいですね!





「てぃんだろす」
ニャル子が拾ってきた飼い犬
大人しくて主に忠実なただの犬?


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無印編
第8話


 

「でなあ、本当に変な夢やったんよ」

 

「そうですね、中々興味深かったです」

 

 私が三年生になった四月のある日、はやての家に行くと彼女見た夢の話をしてくれました。

 なんでも、なのはが無印一話で見ていたあの夢を、彼女も見ていたらしいのです。

 まあ、彼女も闇の書にリンカーコアを食われているとは言え、資質は十分にありますから、届いていても不思議ではないですね。

 

 …………もし、先にユーノを見つけていたのがはやてだったら、魔法少女リリカルはやてが始まっていたかもしれませんね。ギャグが多そうですが。

 

「魔法なぁ~、私も魔法使えたら足も動くようになるんやろうか…………」

 

 はやてちゃんが悲しそうに呟きます。

 その言葉には悲嘆と諦めが含まれており、今の医学では自分の足が治る見込みがないということを彼女が思っているのです。 

 

「はやてちゃん、そう諦めることはないのですよ、いつか必ず、はやてちゃんは自由に歩けるようになるのです」

 

「七海ちゃん……」

 

 これは原作知識があるから言えることですが、そんなものなくても私は彼女にそう言いたかったのです。

 

 

 

 ああ、今はこの記憶が恨めしい。

 原作知識が邪魔をして、彼女とちゃんと向き合えない。

 どんな言葉を言っても、それには原作知識と言う名のレッテルがつきまとう。

 今すぐ帰って、記憶を封印してしまいたいが、この世界には原作知識なしでは避けきれない危機が大量にあるのです。

 主にクローンとかクローンとかクローンとか。

 悔しいけれど、記憶をなくした私があのマッドサイエンティストの目を逃れられるとは思えません。

 ですから、私がこのまま記憶を維持したままの方が巡り巡ってはやてちゃんたちの手助けになるのです。

 

 …………言い訳ですけどね。

 本当に彼女と向き合いたいなら迷わず記憶を消すべきなのでしょうね。

 

 

 

 

 

 

        単純にそれをする勇気が、私にないだけなのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~八神はやて~

 

「じゃあね、七海ちゃん」

 

「ええ、また……」

 

 七海ちゃんが帰って、私は今日の彼女のことを思い出す。

 

 最近、彼女は悲しい顔することが多くなった。

 本人は隠しているつもりなんやろうけれど、私にはわかる。

 だって、入学した時からずっと友達やもん、わからへんはずがない。

 

「…………何か、あったんやろうか」

 

 彼女が悲しそうにする時は、本当に突然。

 例えばグレアムおじさんの話をしている時。

 例えば将来の話をしていた時。

 今日は、私の足の話をした時。

 

 多分、彼女は私のことを哀れに思ってあんなことを言ったんやないと思う。

 七海ちゃんは本当に私の足が治ると思ってる、けれど、彼女しか知らない何かが彼女を苦しめているんや、と思う。

 それが何なのか、私は知らない。

 

 いつか、私が死ぬ前に話してくれたら嬉しいけど、どうしたらいいんやろう………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~高町なのは~

 

「ふぅ、今日はこれで終わりだね」

 

 飼い犬にとり憑いたジュエルシードを封印して、私は杖を下ろす。

 

「うん、この辺にもう反応はないし、今日のところは帰って大丈夫だよ」

 

 私の肩に乗っているフェレット、ユーノ君がそう話す。

 

「じゃあ、他のところを探してもらってる二人に連絡入れて帰ろうか」

 

 そう言って私は足早に階段を下りる。

 

「今日のご飯はシチューなんだ♪」

 

「それは美味しそうだね、あ!」

 

「え?」「きゃ!?」

 

 ユーノ君が気づいた時には手遅れでした。

 道角を曲がったところで、私は同じくらいの女の子とぶつかってしまったの。

 

「あいたたた……、あ大丈夫ですか!?」

 

 私は急いでその子に手を差し伸べる。

 しかし、彼女は私の手を取らず、何かを探している。

 

「えっと、その……、この辺に杖が落ちていないでしょうか?」

 

 結局見つからなかったようで、私にその在り処を聞いてくる。

 

 そして、私はこの時初めて気がついたの。

 彼女の両目が閉じていることに。

 

 きっと、私の手を取らなかったのも、取らなかったじゃなくて取れなかったの。

 彼女は、目が見えないから。

 

 そう考えると、私は彼女になんて悪いことをしてしまったのか、十分すぎるほどに理解できた。

 彼女はただ普通に道を歩いていただけ、何も悪くない。

 私が、ちゃんと前を見ていなかったのが悪いの。

 

「きゅー、きゅぅーー」『なのは、こっちこっち!』

 

 ふと気がつくと、肩にいたはずのユーノ君が少し離れた所で杖の側で鳴いているの。

 

『あ、ユーノ君ありがとう!』

 

 私はそれを拾い上げて、彼女に手渡す。

 

「あ、あの……、ごめんなさい!」

 

 そう言うと彼女は少し困ったようにこう返してきたの。

 

「いいえ、それほど気にすることではありませんよ、それより杖を拾っていただきありがとうございます」

 

 そう微笑む彼女。

 

「うう……」

 

 この人は、自分より大人なの。

 髪も綺麗で、口調も丁寧。私が勝てるところが見当たらないの

 

「あの? どうかしました?」『なのは? どうかしたの?』

 

「え、な何でもないの!」

 

 二人に同時に聞かれて、ちょっとびっくりしちゃった。

 

「そうですか……、では最近何かと物騒なので、あなたも気をつけて帰ってくださいね」

 

「あ、はい!」

 

 そう言ってゆっくりと去っていく彼女。

 私はその人の姿をずっと見ていることしかできなかったの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~八坂七海~

 

「ビックリしたなぁ……」

 

 まさか帰り際に主人公と遭遇するとは思いませんでした。

 流石にちょっと動揺しましたが、問題ありません。

 今の私に魔力はありません。

 つまり、傍から見れば目が悪いただの一般人なのです!

 きっと今日のことも、明日になれば忘れるでしょう。

 モーマンタイなのです。

 

「シチュー……」

 

 ふと、彼女がつぶやいていた料理を思い出す。

 そう言えば、今日のご飯はなんだろう?

 今日はお父さんがいるのでSAN値が減るような創作料理ではないのは確かなのですが、少し不安ですね。

 BLTサンドですら、お母さんはクトゥルフ要素を混ぜ込みますからね、油断できません。

 

「バウ! バウ!」

 

「……おや?」

 

 聞き覚えのある声が、前方から近づいてきます。

 

「てぃんだろす? どうしてここに?」

 

 いつもは鎖に繋がれているはずなのですが、外れてしまったのでしょうか。

 

「まったくしかたないですね」

 

 私はしゃがんで、彼を撫でる。

 

「…………おや?」

 

 彼は、一度頭を背中に回すと、何かを加えて私に差し出します。

 

「私に、ですか?」

 

「バウ!」

 

 そうだよ、と言うように元気に一回鳴く。

 

 取り敢えず刺もなさそうなので、私はそれを受け取ることにします。

 

「ありがとうです、てぃんだろす」

 

 それを手に取ると、それがどんな物質なのか手から伝わってくる。

 

 何かひし形のような形をしていて、材質は結晶でしょうか?

 最初は冷たかったのですが、私が触るとほんのり温かくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 ………………何やら、すごく嫌な予感がします。

 

 

 

 

 

 私は、サードアイを出し、それを見る。

 

 

 

 

 

 

 それは、青く綺麗な結晶で、何か力を感じる。

 無印にて一番重要なキーアイテム、ジュエルシードでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………てぃんだろす、ありがとです」

 

 私は優しく彼の頭を撫でる。

 

 ほっておいても勝手に主人公たちが回収してくれるので、私は何もしないつもりでしたが、まさかそっちから勝手に寄ってくるとは思いもしませんでした。

 しかし、手に入れたものは仕方ありません。

 これがどんな風になっているのか気になりますし、ちょっと帰って分析してみましょう。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、今日の晩御飯はヤギ肉を使ったカレーでした。

 …………あ、もちろん普通のヤギですよ、多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




う~ん、年末は忙しくなりそうですので。
今年は後三回しか更新できません。
それまでは全力で頑張りますので、楽しんでくださると幸いです。
では

2013/12/22
誤字修正


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第9話

~とある電車内にて~ 16:00頃

「疲れたぁ、全く電車乗り継ぎ間違えるとか、ありえないしぃ……」

 とりあえず、適当にスマフォをいじる。

「お、お気に入りが800超えてる、すごい増えたなぁ、ランキングにでものったかな?」

 そう思い、自分の順位を確認する。




 1位 魔眼の少女








「…………………………ふぁ!?」




 結局十一時には12位に落ちていましたが、それでも十分すぎです!
 いろいろな偶然が重なったり、星辰が揃った結果でしょうが、とても嬉しかったです!
 今年の残り二回分、俄然やる気が出てきました!







……見間違いじゃなかった、と信じたいです


 

 

 

「…………なるほどね」

 

 私は瞳を閉じ、ジュエルシードをポケットにしまう。

 

 見稽古でよく「視た」結果、確かにこれは望みを叶える類のロストロギアのようです。

 しかし、経年によるバグが積み重なり、いつしかそれが歪みとなって現れ、歪んだ結果しか引き起こさないようになった、みたいです。

 

 まあ、これはこのジュエルシードの分析結果ですので、他のは知りません。もしかしたら、バグがない当時のままの物も、どこかに落ちているかもしれませんね。

 

 …………巨大猫とか。

 

 

 まあ、私のこれは完全に制御したので暴走はしないでしょうが、念のため肌身離さず持っていることにしましょう。

 ……机の中に隠しておいて、お母さんに取り上げられてはかないませんからね。

 一体何度、私がそれで痛い目を見たことか!

 私が拾ってきた石や、知らない人にもらった変な感触の本や、いつの間にかついて来た人形など没収された物は数知れず、なのです。

 

 今までは私の趣味の範囲内でしたので見過ごしていましたが、流石にこれを盗られるのは洒落になりません。

 今のうちにペンダントにでも偽装して、ずっと所持しておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日ははやてちゃんと一緒にお出かけ。

 しかし、私の足取りはどこかおぼつかなく。

 はやてちゃんの車椅子を押しながらでないとすぐに倒れてしまいそうなほどなのです。

 原因は、私が服の中にかけているペンダントにありました。

 

「ねむぃ…………」

 

 ちくせう。

 まさか、目をつぶったままのペンダント作りがあんなにも大変だったとは、おかげで凄い寝不足なのです。

 

 さらに、よくよく考えてみればジュエルシードの機能を使ってペンダント型に変化させる、という手段があったのだから笑えません。

 それに気がついた時には既に鶏さんとてぃんだろすが鳴いていました。

 つまり、無駄に徹夜したのです。ちくせう!

 

「あはは、いくら七海ちゃんでも徹夜はこたえるんやなぁ」

 

 はやてちゃんには、面白いラジオを聴いていてつい徹夜したと伝えてあります。

 まさか盲目でペンダント作りなんて誰も信じないでしょうしね。

 実行するほうも、するほうなのです。

 

 …………何だか落ち込んできました。

 

 ま、まあそんなこと気にせずに、今はせっかくはやてちゃんがいるのですからお話しましょう。

 

「当たり前なのです、私はちゃんとした人間なのですよ、ちょっと無理をしたら疲れるのは当然なのです」

 

 狂人と神話生物との子供ですが、一応彼らも人間でしょう、多分。

 ……でなければ私のSAN値がピンチ! なのです。

 

「だってなぁ、七海ちゃんっていっつも冷静で、できない事なんて何もない、って感じがするんやもん」

 

 ほぉ、私は傍から見るとそういう風に見えるのですか。ちょっと意外です。

 

「ふふ、そんな人間は誰もいませんよ、人は誰しも得手不得手があるものなのです、それがないのは神様だけなのですよ」

 

「そうなんかな? 七海ちゃんなら何でも……ん?」

 

 ふと、はやてがどこかを見つめ始めました。

 

「はやてちゃん? どうかしました?」

 

 それが気になり、私は彼女に尋ねます。

 

「え? ああ、あの子ら楽しそうやなって思ってな」

 

 あの子ら?

 よくわからないので神経を集中させて遠くの音を聞き取り始めます。

 

 聞こえるのは、土を蹴る音、少年たちの掛け声、何か柔らかいものを蹴る音、そして、「ガンバレー、岐路君!」と言う声援、…………ああ、なるほど。

 

「サッカーですか?」

 

「凄い! なんでわかったん!?」

 

 どうやら当たりだったようで、はやてちゃんがこちらに顔を向けて尋ねてきます。

 

「ちょっと集中したらそんな感じの音が聞こえてきたのですよ、慣れれば誰にでもできます」

 

「いやいや、少なくとも私にはできへんよ、それ」

 

「むぅ、……そうなのでしょうか」

 

 私は気がついたら出来ていたのでそうかと思っていましたが……、もしかしたらちゃんとした訓練を行わないとできなのかもしれませんね。

 

「……サッカー?」

 

 はて、何か忘れているような、そうでないような?

 

「どないしたん?」

 

「いえ、何か忘れているような気がしましたが、きっと気のせいです」

 

 まあ、忘れるようなら重大なことではないでしょう。

 きっと大丈夫なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~高町なのは~

 

「ガンバレー、岐路君!」

 

 隣ですずかちゃんがそう叫ぶ。

 今日、私たちはお父さんが監督をしているサッカーチームの応援に来ています。

 岐路君や士郎君も参加していますが、すずかちゃんはさっきから岐路君しか応援していないの。

 

「すずかちゃん、少しくらいは士郎君のことも応援してもいいと思うの」

 

「え? してなかった?」

 

 どうやら気づいてなかったみたいのなの。

 

「あんた、ずっと岐路君岐路君ってしか言ってないわよ、いくらs「ダメェェェェ!!」、みゃがう!!」

 

「あ、アリサちゃん!?」

 

 何か言おうとしたアリサちゃんの口を、すずかちゃんが目にも止まらぬ速さで閉じる。

 けれど、ぶつかった時の衝撃が大きかったのか、アリサちゃんはそのまま後ろに倒れ、頭をぶつけちゃったの。

 

「うにゃぁぁぁぁ~~~~」

 

 急いでそばに近寄ってみると、アリサちゃんは目を回していて、頭には小鳥さんが飛んでる状態でした。

 

「あああ、ご、ごめんなさいアリサちゃん!」

 

 正気に戻ったすずかちゃんと一緒に呼びかけてみるけど反応はない。

 

「少し、このまま寝かしておいてあげよっか?」

 

「う、うん、そうだね…………」

 

 取り敢えず、さっきまで座っていたベンチにアリサちゃんを寝かせる。

 結果、私たちは立ったまま観戦することになったけれど、まあ仕方ないの。

 

 そう思っていた時だったの。

 

「あ…………」

 

 ちょうど川の向こう側、私たちとは正反対の方に見覚えのある女の子を見つけたの。

 

 白い髪で目が見えない、名前も知らない女の子、だけど綺麗で、優しくて、まさに「女の子」な女の子。

 

 彼女が、茶髪の女の子の車椅子を押して、河川敷を歩いていたの。

 

 今から走って行けば、間に合うかもしれない。そう思ったけれど、今は士郎君たちの応援もしなくちゃならない。

 

 今すぐ行く、今は行かない。

 この二文字が頭の中でぐるぐる回りだす。

 

 私はあの子の名前を知りたい。

 けれどそれは岐路君たちをほっておいてまでしていいことなのだろうか?

 

 でも、私はあの子の「なのはちゃん」も知らないし、どうしたら「なのはちゃん!」

 

 びっくりして、私は声の主を見つめる。

 

「なのはちゃん、今岐路君がゴールを決めたよ、見てなかったの?」

 

「にゃはは……、ごめん、ちょっとぼーっとしてたかも」

 

「そうなの? 何かあったの?」

 

「えっとね、あの辺りに……」

 

 私が視線を戻すとそこにはもう彼女たちの姿はなかった。

 

「あの辺りがどうかしたの?」

 

「ううん、何でもない、見間違いだったみたいなの」

 

 そう笑ってごまかす。

 

 けれど本当はわかってる。

 さっきまで彼女は確かにいた。

 今日は無理だったけど、次こそは名前を聞こう、そう私は心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~八坂七海~

 

 ブルッ!

 

 な、なんでしょう今の冒涜的な悪寒は!?

 まるでどこかの魔王にでも目をつかられたかのような圧倒的な恐怖を感じましたよ!

 ととと、取り敢えず周囲の状況確認が先決なのです!

 できるだけ平静を保ちつつ、はやてちゃんに尋ねます。

 

「はやてちゃん、今何かありましたか?」

 

「? 何もないよ」

 

 どうやらはやてちゃんには何も感じなかったようです。

 となると魔法関連ではありませんね。

 

 まあ、私の単なる気のせいかもしれないですし、あまり考える必要はありませんね。

 

「しかし、本当にこの辺に新しくできた喫茶店があるのですか?」

 

「ほんまやで、この前買い物帰りに寄ってみたらたまたま見つけたねん」

 

 はやてちゃん曰く、「おっちゃんがとても面白い喫茶店」らしい。

 

「そこのおっちゃんがな、本当にノリが良くてな! もうついつい長話してもうたんよ」

 

「はいはい、それはもう何度も聞きましたよ」

 

 そこまで言われると、流石の私も興味が出てくるわけでして。

 

「道はこっちで合ってますか? どうやら人気が多い方にビルが多い方に向かっている見たいですが」

 

「うん、こっちで合ってるよ、あと少ししたら左に曲がってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして私は今日が何の日だったかも忘れて、被害予定現場に赴くのでありました。

 

 

 

 

 




・木場 士郎
転生者、肌は褐色
詳しいプロフィールはまた今度


2013/12/23
テレビをラジオに変更


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第10話

 

 

「…………ところではやてちゃん」

 

「な、なな何かな七海ちゃん」

 

 私が声をかけると、はやてちゃんが慌てて返事をする。

 

「一体その店はどこのあるのですか? さっきからずっと同じところをグルグル回っている感覚があるのですが」

 

 いくらなんでも道をずっと右に曲がっていれば気がつくのです。

 

「いや、多分きっともうすぐ着くと思う、きっと「はやてちゃん」、はいすいません、迷いました!」

 

 まったく、そんなことだろうと思ったのです。

 

「取り敢えず、誰かに道を聞いてみましょう、それが手っ取り早いのです」

 

「そうやな……、あ! おっちゃんや! おーい!!」

 

 突然はやてちゃんが腕をブンブン振り出す。

 そして、それに反応したかのように近づいてくる気配が一つ。

 おそらく、この人がその喫茶店の関係者なのでしょう。

 

「おお、どうしたんだいこんな所で? 散歩か」

 

 声がしたの方に移動したので、はやてちゃんと話しやすいようにしゃがんでくれたのでしょう。いい人そうです。

 

「ちょっと道に迷うてもうてな、今からお店に行こうとしてたんよ」

 

「あー…………、そりゃすまんことした」

 

「どないしたん?」

 

 それを伝えた途端、その人はバツが悪そうに頭をかいています。

 何かあったのでしょうか?

 

「実は今日店は貸切なんだ、ちょっとネットで知り合った奴らとパーティーがあってな」

 

「あ~、そりゃしゃあないなぁ……、ごめん七海ちゃん、また今度行こな」

 

「はい、予定があるなら仕方ありません」

 

 まったく、運が悪いのですね。

 ちょっと楽しみだっただけに残念なのです。

 

「そっちのお嬢さんもすまんな、今度来た時はサービスするぜ」

 

「ええ、楽しみにしておきます」

 

 そう言って立ち去っていくおっちゃんさん。

 …………名前を聞き忘れましたね、今度ちゃんと聞くことにしましょう。

 

 まあとりあえず、時間が余ってしまったのではやてちゃんと相談するです。

 

 

「さて、はやてちゃん、これからどうしましょう?」

 

「そやな~、せっかくここまで来たんやし何か美味しいものでも買って帰ろうか」

 

「この辺りに美味しそうなものありました?」

 

「ん~、確か喫茶翠屋っていう人気の喫茶店があったはずやけど……」

 

「ああ、そこなら行ったことがあります、確かに美味しい喫茶店でしたよ」

 

「じゃあそこに行こか」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 そう冷静に答えるのとは裏腹に、心の中ではすごく焦っていました。

 

 …………まずいですね。

 私一人ならともかく、はやてちゃんを連れて行くのはとても危険です。主に私の身が。

 

 確か今どこまで進んだのでしたっけ?

 えっと、この前ぶつかった時に神社で変な気配を感じたから第二話は終わっていて、第三話は………ダメです、思い出せません。

 流石に十年くらい前の記憶なので細かいところがかなりウヤムヤになっているようです。

 

 少し話がそれましたが、どうしましょう。最悪転生者と鉢合わせします、せっかくここまで順調だったのにヤバイのです。

 なら最初に知らないフリをしろ言われそうですが、はやてちゃんが残念がるのでなしです。

 

 …………最悪、万華鏡写輪眼を使えば問題ありませんね。

 右目の奇魂はもう三ヶ月ほど充填が必要ですが、まだ私には左目の幸魂がありますし、なんとかなるでしょう。

 

「では、早速辺りの人に道を聞き「ん? なんやこの感じ」、はやてちゃん? どうかしま――」

 

 そう言おうとした時でした。

 

「きゃあ!」「おお!?」

 

 やけに強い地震が私たちを襲います。

 それは車椅子に乗っているはやてちゃんですらバランスを取れず、転倒しかけるほどで、震源地がこの近くであろうことが想像できました。

 

 けれど私は次の瞬間、その考えを改めることになりました。

 

 光がない世界で、私はそれを見ました。

 私たちに迫り来る巨大な音の塊、まるで触手のように伸びていくるそれは私たちの真上にまで近づいて来ていたのです。

 

「ちぃ!」

 

 このままでは危ない、そう感じた私はすぐに左目を開け万華鏡写輪眼を発動させます。

 

 こちらの万華鏡には奇魂ほどすごい変化を起こすことはできません。

 ただ少し、運をよくする程度なのです。

 けれど、それで十分です。

 

 私が視界内にそれを捉えた途端、その植物は急に向きを変え、私のすぐ横にその根を叩きつけます。

 ふぅ、これで一安心ですね。ちょっと痛かったですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~八神はやて~

 

 

「はやてちゃん、大丈夫ですか?」

 

 地震がおさまったところで、七海ちゃんが心配そうに話しかけてくる。

 

「うう、なんとか無事やで…………、ってなんや、この木の根っこみたいなんわ!?」

 

 目を開けた私の目に飛び込んできたのは優しい友達の顔と、さっきまでそこにはなかった巨大な木の根でした。

 

「木の根? そんなものがあるのですか?」

 

「うん、なんかビルに巻き付くようにあちらこちらに伸びとるよ……」

 

 目が見えない彼女に、詳しく周りのことを話す。

 たぶん、七海ちゃんなら大体のことはわかると思うけど、流石に色と形は分からないと思う。

 

「そうですか……、ではそれらはどちらから伸びていますか?」

 

「えっと、ちょうど私の後ろからやな、なんやごっつい木もあるし」

 

 少し体をねじり、その根がどこから来たのかを確認する。

 そこにはここにあるような根だけではなく、葉も枝もついた巨大な木が何本かあるのが見えた。

 とりあえず、おっちゃんの喫茶店がある方には何もないので、そこはほっとした。

 

「では、このまま逃げましょう、いつ何があるかわからないのです」

 

「そやね、残念やけど喫茶店はまた今度やな」

 

 私がそう言うと、同時に七海ちゃんが後ろに移動して、車椅子を掴む。

 

「よいしょっ、と」

 

 さっきの衝撃で地面が荒れたようで、七海ちゃんが力を込めて車椅子を押す・

 

「ん?」

 

 その時。私の肩に何か冷たいものが触れた。

 感触からして液体みたいだったので、とりあえず手で触ってみる。

 

 

 紅く、鉄の匂いがするそれは間違いなく血液だった。

 

 

 問題は、これがどこから落ちてきたか、になる。

 今、私の後ろには七海ちゃんがいる。

 答えは、聞くまでもなかった。

 

「七海ちゃん!」

 

「ふぇ? なんですか、はやてちゃん」

 

 そう何気なく答える彼女の顔には、血がまるで彼女の涙のように流れていた。

 

「七海ちゃん、もしかしてさっきのでどこか怪我したん?」

 

「え、怪我ですか?」

 

 彼女は自分の顔に触れる。

 それでやっと彼女は自分の顔を流れている血液に気がついたようだった。

 

「ああ、どうやらそのようですね、通りで頭が痛いと思いました」

 

「ならすぐに病院に「このくらいなら大丈夫ですよ、……ここからなら私の家が近いようですし、手当ならそちらでしましょう」…………」

 

 すぐに病院に行くように言いたかったけれど、七海ちゃんがそういうのなら大丈夫なんだろう。

 

「では、早速行くのです、……確かここは四丁目でしたね」

 

「七海ちゃん、無理したらあかんよ?」

 

「なんの、この程度なんてことないのですよ」

 

 そう言って、再び車椅子を押し始めようとする彼女。

 

「あ、待って!」

 

 私はポケットからハンカチを取り出して、彼女の顔を拭く。

 

「とりあえずこれで頭押さえていて、車椅子は私が操作するから七海ちゃんは横でゆっくり行こ」

 

「え、でも「でもやあらへん!」、……いえす・まむ」

 

 私が強く言うと、大人しく七海ちゃんは片手でハンカチを抑え、もう片手で車椅子の手すりを掴む。

 

「まったく自分を大切にせなあかんよ、七海ちゃん美人なんやし、顔に傷ついたら一大事やで」

 

「はは、その時ははやてちゃんがもらってくれる?」

 

「え!?」

 

 その言葉に、私の頭は真っ白になる。

 

 わわわわ私が七海ちゃんのお婿さん!? イヤもしろお嫁さん!!

 私が料理を作って、寝坊助さんの七海ちゃんを起こす。

 そしておはようの。

 

「……冗談だよ?」

 

「わわ、わかってるよ! ただちょっと面白そうやなって思っただけや」

 

 …………なんやろ、何かわからんけど私今すごく落ち込んでる。

 そんな不可解な想いが私の胸の中に芽生えている。

 なんやろうこの気持ち?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~おまけ~ 

 

「七海ちゃんやったら相手選び放題やと思うよ、だって美人さんやし、気配り上手やし」

 

「そうかなぁ? 私と結婚しても面白くないと思うよ、だって私は中身が結構残念だと思うし」

 

「いやいや、七海ちゃんで残念なら私は何になるの?」

 

「…………聖人君子?」

 

「結構すごい感じに見られてた!?」

 

 なんでそうなったのか、私には分からなかった。

 

 

 

 




・おっちゃん
 喫茶店のマスター
 逞しい肉体を持つ黒人で禿頭・髭面

・万華鏡写輪眼「幸魂」
幸運を引き寄せる写輪眼
ちょっと運が欲しい!という時に役に立つ。
連続使用可能だが、それ相応のチャクラを消費する。


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第11話

はい、今回で今年の更新は最後になります
次に更新できるのは早くて八日・・・・・・
忙しすぎて泣けますが、ちょっとお先にご挨拶を


では良いお年を!


 

 海鳴の街の外れ、周りが森に囲まれたそこに屋敷があった。

 そして古く、趣のあるそれ屋敷を訪ねる人影が三人。

 彼らはインターフォンを鳴らすと、鉄格子でできた門が開く。

 

 彼らが中へと進むと、勢いよく玄関の扉が開いた。

 

「あ、岐路君になのはちゃん、いらっしゃい!」

 

 中から飛び出した少女は月村すずか、この屋敷の住人の一人だ。

 彼女は岐路の腕を掴むと、少女とは思えない力で彼を屋敷の中へと引っ張り込む。

 

「お、おい! ちょっと待ちたまえ!」

 

 彼はロクに抵抗もできず、大人しく連行される。

 それを見て、苦笑するなのはたち。

 

「にゃはは、いつも以上に過激なの」

 

「そうなのよね~、あの子が恋に目覚めるのはいいことだけど、ちょっと心配だわ」

 

「にゃわ!?」

 

 なのはは驚き、その場から飛び退く。

 そこには月村家の長女・月村忍とメイドのファリンがそこにいた。

 恭弥はそれに呆れたように言う。

 

「忍、あまりなのはを驚かせないでくれ」

 

「ごめんごめん、ちょっと警備ロボの整備をしててね」

 

 よく見ると、所々服が汚れている。主に潤滑油だろう。

 

「ファリン! なのはちゃんをすずかたちの所に案内してあげて、で恭也はこっち!」

 

 そう側にいたメイドにそう告げると、恭也の腕を引っ張って二回へと連れて行く。

 その姿を見て、なのはが一言。

 

 

「…………そっくりなの」

 

「あはははは…………」

 

 性格は違えど、やはり姉妹ということだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、なのは! 遅いじゃない、何をしてたの!!」

 

「………………」

 

 そう言ってアリサはブラックコーヒーを一口。

 すぐ横に座っている士郎も普段は飲まないブラックコーヒーを味わっている。

 なのははその横、そこにいた子猫をどけて、椅子に腰をかける。

 

「にゃはは、ちょっと忍さんとお話していたの……、何かあったの?」

 

 そう言うと、アリサは無言で後ろを指差す。

 

「?」

 

 不審に思いなのはは彼女の後ろを覗き込む。

 

「ほら! こっちのケーキも美味しいよ」

 

「いや、もう私は」

 

 そこには異様にケーキを勧める親友の姿があった。

 

「さっきいきなり出て行ったかと思うとすぐさまアレよ! 見せ付けられる私たちの身にもなって欲しいわよ!」

 

「まったくだ、今回は特にひどくて手がつけられねえ!」

 

「にゃはは、一生懸命なのはいいことだと、思うよ?」

 

『あああああああああああああああああああああああああ!?』

 

 そう苦笑いしていると足元から悲鳴が聞こえてくる。

 

『ユーノ君?』

 

 不思議の思って足元を見るが、彼の姿はなく、側にいたはずの子猫もいない。

 

『あいつならさっき子猫に追いかけられていったぞ』

 

『だ、大丈夫なの?』

 

『まあ、あいつのことだからうまく逃げ切るだろ、……今はこの状況をなんとかしなきゃな』

 

「これね! 去年撮ったアルバムなの、こっちはね――」

 

『誰か助け――』

 

 ちなみに、この異様な空間は一時間続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『みんな、ジュエルシードが!』

 

 ユーノの緊急連絡が入ったのは、みんなが庭園に移動した頃だった。

 

「私、ちょっとユーノ君が心配だからちょっと探してくるね」

『うん! 今行くの』

 

「あ、それなら俺も行くわ」

『ああ、ちょっと待ってろ!』

 

「それなら私も――」

  

 そう言って席を立とうとする岐路だったが、万力のような握力がそれを逃がさない。

 

「二人が行くなら別にいいんじゃないの?」

 

「いや、その、私もユーノのことが心配なのだが、……アリサ君もそう思わないかい?」

 

 岐路は助けを求めるように、アリサを見つめる。

 

「そうね、別にあんたまで行く必要はないわ、……ていうか今のすずかとふたりっきりにしないで(ボソッ)」

 

 しかし、逆に彼女が岐路の味方になることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なぁぁぁぁぁううぅぅぅうぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅ』

 

「「「……………………」」」

 

 一方、ユーノが張った結果以内で彼らが見たものは予想外のものであった。

 

「猫、だよね」

 

 最初に口を開いたのはなのはだった。

 

「多分、あの子の大きくなるって言う願いをジュエルシードが正しく叶えた結果だと思う……」

 

「にしてもデカすぎだろ……」

 

 常識外の大猫に、士郎は首が痛くなるのを感じた。

 今回は平和だな、となのはが思った時だった。

 

「!? 誰か来る!」

 

 次の瞬間、辺りは緊張に包まれる。

 

「セイバー!」

 

『セットアップ!』

 

 士郎は己のデバイスの名を叫ぶと、光が彼を包み、その姿を変える。

 剣を携えた彼の姿は、まさに西洋の騎士といった感じだ。

 

 同じく変身を終えたなのはも、ユーノが見ている方向へ視線を向ける。

 

「!?」

 

 彼女の目に映ったのは、こちらに迫り来る幾つもの光の槍だった。

 

「効かねえよ! 雷喰剣(サンダー・イーター)

 

 彼は両手にゴツゴツとした剣を投影すると、それを交差させ、なのはの前に立つ。

 

 すると光の槍が彼の剣に触れた瞬間、それらは飲み込まれるように消えていく。

 それはまるで、剣がその槍を喰らっているかのような感覚だ。

 

 なのははキラキラとした目で、士郎を見つめる。

 

「はわ~、いつ見ても士郎君の投影はすごいの」

 

「それほどでもねえよ! 今はあいつに集中しな」

 

 士郎は剣を別の方に向ける。

 なのはがつられてそちらを見ると、

 

「ジュエルシードを、渡してください…………」

 

 布が少ない黒の衣服に身を包んだ、金髪の少女がそこにいた。

 

 驚いたなのはは、彼女に問いかける。

 

「あ、あなたは誰?どうしてジュエルシードを「あなたに答える必要は、ありません!」!?」

 

 なのはが言い終わる前に、彼女は手に持ったデバイスを彼女に向ける。

 

「……どうやら、話を聞いてくれるほど大人しくないらしいな」

 

 士郎は剣の片方を消し、彼の相棒である聖剣・エクスカリバーを握り締める。

 

「僕も、可能な限り援護するよ」

 

 ユーノも、フェレットモードだが戦う意思を見せる。

 

「降参するなら今のうちだぜ」

 

「……お断りします」

 

 士郎がそう話しかけるが、少女はそれを一蹴。

 

「なら」

 

 士郎は聖剣を抜き、左手の雷喰剣と一緒に構える。

 

「手加減はしねえよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の戦いは素人であるなのはが介入できるようなレベルではなかった。

 二度三度、彼らは互の武器をぶつけ合う。

 そしてその度に、火花が散り、残響が響き渡る。

 

 この二人の実力は拮抗していたのだが、相性が悪かった。

 雷を喰らう剣を持つ士郎に、彼女は少しずつだが追い詰められていく。

 彼女が放つ槍も、手に持つ鎌の刃も、それに触れると立ち所に消えてしまう。

 

「おりゃあ!」

 

「あ!?」

 

 そして遂に、彼女の手から斧がこぼれ落ちる。

 

 それはくるくると回ると、森の中へ消えていく。

 

「さ、デバイスもなくなったが、どうする?」

 

「…………」

 

 少女は答えず、ただ士郎を睨みつける。

 

「ユーノ、悪いがこいつを――」

 

 拘束してくれ、そう言おうとした彼の目に写ったのは腕だった。

 大人の女性の右腕、指は可能な限り広げられ、その付け根に太いロープのような物がついている。

 黒い少女の後ろから現れたそれは、驚く彼女の顔のすぐ横を通り抜け、士郎の頭を掴もうと迫る。

 

「っ!?」

 

 咄嗟のところでそれを避ける士郎。

 

 目標を失った腕はピタリと止まると、しゅるしゅると音を立て、草むらへと消えていく。

 

「ケケケケ、サスガニアタラネエカ」

 

「誰だ!」

 

 士郎が睨みつけると、それに応えるかのように草むらが揺れ、奥から誰かが出てくる。

 

「ケケ、ソウ熱烈ナ視線デ見ツメラレルト照レルゼ」

 

 草むらから姿を現したのは、人間ではなかった。

 

 所々に切れ目がある肌、カメラのようにレンズを調整している瞳、そして人間とは思えない彼女の背中の機械の翼。

 

 それを見た士郎の顔が、強ばる。

 

「な、なんでお前がここにいる……」

 

「サアナ、コッチダッテイキナリコンナ所行ケッテ言ワレテ迷惑シテルンダゼ」

 

 ケケケと笑う彼女。

 しかしその言葉とは裏腹に、楽しそうに士郎を見つめる。

 

「ダガ、オマエミタイナ奴ヲ切リ刻メルナラ、俺モ楽シメソウダ」

 

 そう言って、背中から先程少女が落とした斧を出し、彼女に手渡す。

 

「嬢チャンハ下ガッテナ、オ前ハ傷ツケルナッテ言ワレテルンダ」

 

 彼女はそう言うと未だに放置されている巨大猫を見て、「さっさとジュエルシードを回収しろ」と目で合図を出す。

 

「…………」

 

 少女は少し怪しいと感じたものの、目的のためすぐさま斧を構え、猫の元へ飛びたつ。

 

「サア、俺ヲ楽シマセテクレヨ、ガキ」

 

 そう言って彼女、絡繰茶々零は笑った。




・木場士郎 追加データ
特典:『魔剣創造と無限の剣製を合わせたようなもの』
デバイス:セイバー
魔力量:S
担当した神:ヒゲの生えた老人の神様

「聖剣エクスカリバー」
通称 セイバー
神様が与えた特殊デバイス
声や人間モードの姿はご想像通り。 

・絡繰茶々零
容姿:茶々丸
性格:チャチャゼロ
追加データはまた今度


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第12話

 

 

「ケケケ、スグニクタバッテクレルナヨ、ソレジャ俺ガ楽シメネエシナ」

 

 そう言って彼女、絡繰茶々零は腰に差した日本刀を抜く。

 その刀身は怪しく光り、まるで刀そのものが生きているかのような錯覚を覚える。

 

「は、そんなこと言ってられんのも最初だけだ!」

(今すぐになのはのサポートしなきゃならねえのに、こいつと遊んでられるか!)

 

 士郎は先程まで握っていた雷喰剣を消し、錆色の剣を創りだす。

 

(とりあえず相手は機械、この腐蝕剣(アシッド・ソード)ならなんとか――)

 

 そう考えた士郎だが、その考えは甘かったとすぐに実感することになる。

 

(いない!? どこに)

 

 手の中の腐蝕剣から視線を戻すと、そこには茶々零の姿はなく、ただ彼女がいた所の地面が異様に抉れていた。

 

「ケケ、隙有リダゼ」

 

 その声を聞き、彼は急いで振り返る。

 彼の視界に映ったのは刀を振りかぶり、狂った笑みを浮かべた茶々零だった。

 

「くそ!?」

 

 彼は剣を交差し、彼女の一撃を防ぐ。

 しかし威力は完全には殺しきれず、そのまま吹き飛ばされる。

 

「が、あ!」

 

 彼はそのまま背後にあった木に叩きつけられ、肺の中の空気をすべて吐き出す。

 その衝撃で手に持っていた剣は彼の手から離れ、そのまま彼共々地面へ落ちる。

 その様子を見て、茶々零は呆れたように呟く。

 

「ア? コノ程度ダッタノカ? ダッタラアイツノ見込ミ違イダナ、コンナノガ2人ナラ、オレ1人デモナントカナルゼ」

 

「あ、いつ?」

 

 彼は痛む体に鞭を打ち、落ちた剣を拾い立ち上がる。

 

「オレノ御主人サマノコトダガ、残念ダガソレ以上ハ言エネエナ」

 

 そう言って、彼女は再び刀を振り上げる。

 

「ジャア大人シク寝テナ、起キタ頃ニハモウ終ワッテルゼ」

 

 そして、彼女がそれを振りおろそうとした時だった。

 

「右に跳べ!」

 

 誰かの声が、辺りに響く。

 

「!?」

 

 それを最初に理解した士郎は、言われた通りに力強く右へ跳ぶ。

 

「ア? 一体何ガ――」

 

 それ以降の言葉は、突如彼女に降り注いだ無数の剣によって遮られた。

 天空から降り注ぐそれらの威力は凄まじく、彼女がいた場所は既に荒地と化していた。

 

 未だ土煙が舞う中、この惨状を作り出した張本人、忍野岐路が降り立つ。

 

「大丈夫だったか?」

 

「ああ、なんとな」

 

 そう問いかける岐路に、士郎は苦しげに答える。

 彼は出血こそしていないものの脇腹を押さえ、脂汗がにじみ出ている。

 おそらく、肋骨辺りにヒビがはいったのだろう。

 

「まったく、嫌な予感がして無理やり抜けてきてみれば、何がった?」

 

「……そうだ、こんな所で呑気に話してる場合じゃねえ! 急がねえとなのはが「負ケチマウ、ッテカ」!?」

 

 突然響くその声に、二人は土煙の向こう側を凝視する。

 

「ケケ、油断シスギダッツーノ、オレガソンナ簡単二クタバルワケネエダロ」

 

 ゆっくりと土煙が収まり、彼女の姿が現わになる。

 

 彼女の体には傷一つなく、その体には土煙から出てきたとは思えないほど綺麗に輝いていた。

 

「王の財宝で傷一つ付かないか、これは厄介だな」

(土汚れもないことを見ると防御結界の類か)

 

 先ほどの爆撃で少しは手傷を負っていると期待した岐路だったが、彼女の姿を見て考えを改める。

 

「ケケ、完全二仕留メルマデ油断スルナッテ、コッチノ親ニハ習ワナカッタカ?」

 

「普通は習わないな」

 

 そう呟き、空中に数多くの宝具を待機させる岐路。

 

「俺も、そんな危ねえ親の元には生まれちゃいねえよ」

 

 士郎は腐蝕剣を捨て、エクスカリバーを構える。

 

「ケケケケ、ソレジャア御主人サマハトンダハズレヲ引イタラシイナ、イヤ、ムシロ当タリナノカ?」

 

 ケタケタと笑う彼女。

 その異様さに、二人は言葉に表せない恐怖を覚える。

 

「御主人と言ったか? そいつの目的は何だ?」

 

 先ほどの恐怖を振り払い、岐路は彼女に問いかける。

 

「ケケ、ソンナ簡単二言ウ訳ネエダロ? 知リタカッタラオレヲ倒シテミ「では、そうさせてもらおう」、ア?」

 

 岐路がそう言うと、彼女の四肢を光るリングが拘束する。

 

「ッチ、バインドカヨ、ダガ、コンナノスグニ解ケ――、!?」

 

 体に力を込めようとした彼女は急激な魔力の高まりを感じ、その発生源、士郎を凝視する。

 彼は愛剣エクスカリバーを掲げ、彼女を正面から見つめている。

 

「王の財宝でもだめなら、これでどうだ?」

 

 そう言う彼の体からは無数の光が立ち上り、まるで戦場で散った命が天に帰るように、空へと消えていく。

 

「オイオイマジカヨ」

 

 今まで余裕だった彼女に、僅かながら焦りが見え始める。

 

「安心したまえ、一応あれも非殺傷設定くらいはできる、……まあ、それが機械人形にも通用するかはわからないがな」

 

 そう言って、バインドの数をさらに増やす岐路。

 首、手首、腰、頭など、が次々に拘束され、遂には光の繭のような形になってしまう。

 

「いくら貴様でも、この厳重なバインドを解くにはそれ相応の時間がかかるはずだ、士郎!」

 

「ああ、わかってるぜ」

 

 彼の持つ剣が光を放つ。

 その光は辺りを照らし、まるで小さな太陽がそこにあるかのように輝き続ける。

 

「いくぜ、……約束された勝利の剣(エクス・カリバー)!!」

 

 彼は剣を振り下ろす。

 すると、剣に込められた魔力は巨大な光の奔流となり行く手を阻む全てのものを破壊しながら進み、茶々零を飲み込む。

 この魔法は、元はfate/stay nightの魔法だが、彼の持つデバイス・聖剣エクスカリバーによって擬似的に再現されたものである。

 威力はこの時点でスターライトブレイカーと同等、この攻撃に耐えうる者など存在するはずがなかった。

 まともに喰らえば、だが。

 

「アハハハハっハハハハハハハハッハハハハハッハハハアハッハハハハハハ」

 

 その狂った笑い声は、光の中から聞こえてきた。

 

「嘘だろ!? これくらってまだ無事なのか!?」

 

「…………いや、違う」

 

 士郎が混乱する中、額に汗を浮かべた岐路が告げる。

 

「彼女を拘束していたバインドが消えた、まるで吸収されるかのように魔力を分解されて……」

 

 その時、異変が起きた。

 

「………………嘘だろ」

 

 光の奔流が歪んだ。

 

 先程まで一直線に進んでいたそれは、グネグネと歪み、小さくなり、ある一点へと消えていく。

 

「ハハハハハハ、……ウマカッタゼ、オマエノ魔力」

 

 そう笑う彼女の瞳には、理解できない文字のようなもので書かれた円、その中央には奇妙な十字が浮かび、彼らを見つめていた。

 

「……殲滅眼、そんなものまで持っているのか貴様は」

 

 口では冷静な岐路だったが、内心は穏やかではなかった。

 

(最悪だ、これではそこのエミヤもどきやなのはたちミッド魔導師では手も足も出ない)

 

 殲滅眼の前では、すべての魔法は無力化される。

 これで魔力攻撃重視のミッド魔導師や士郎のエクスカリバー、場合によっては岐路のエアすらも通用しないかもしれない。

 岐路の王の財宝での攻撃や士郎の投影ならばまだ有効だが、目の前の機械人形にはどちらとも通用しない。

 

 そう考えていた岐路に茶々零は更に衝撃的な事実を伝える。

 

「ケケ、コレハオレノジャネエヨ、元ハ御主人サマノ瞳ダ」

 

「な!? 貴様の主は何者だ! 機械に魔眼を与えるなんて聞いたことがないぞ!」

 

「ハ、オレガ簡単二教エルハズネエダロ、……一ツダケ言ウトスレバ本気ノ御主人サマハオレノ何十倍モ強イッテコトダケダ」

 

「マジかよ……」

 

 岐路と士郎、両者に焦りの色が生じる。

 今二人がかりで手傷も負わせられない茶々零、その彼女すら手も足も出ない彼女の主、得体もしれないその人物に彼らは喉元に刃を突きつけられているような感覚を覚えた。

 

 

 

 

 彼女の主はその気になればいつでも彼らを殺せる、そのことに気がついたのだ。

 

 

 

 

 しかし、そうなると一つ疑問が生まれる。

 

「……なぜ」

 

「ア?」

 

「なぜ、君の主は自分で行動しない? わざわざ君という駒を使わなくても、主とやらが動けば全て解決じゃないか?」

 

 ただ彼らを倒すだけなら茶々零を使う必要はない、彼女がここにいる意味がわからなかった。

 

「……アア、ソンナコトカヨ」

 

 茶々零はつまらなさそうに言う。

 

「一番ノ理由ハ、御主人サマハ闘イガ好キジャネエンダヨ、ダカラオレガココニイル」

 

「闘いが嫌い? なら何で「オット、時間切レダ」!?」

 

 意味がわからない彼らに茶々零は右手の人差し指を立て、彼らの背後を指差す。

 

「まさか!?」

 

 いち早くその意味に気がついた岐路は急ぎ振り返る。

 

「きゃあああああああああああああああ!?」

 

 そこには、黒い少女に負け、地面へ落下しているなのはの姿があった。

 

「なのは!?」

 

 士郎が魔法を発動させようとするが、間に合わない。

 そのまま地面に衝突するかに思われたが、直前にシールドを張り、ダメージを軽減させるなのは。

 安心した二人だったが、茶々零のことを思い出し、振り返る。

 

「ケケケ、ジャアナ」

 

 そこには誰もおらず、ただ声だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーノを確保し、再び月村邸へ戻ろうとする彼ら、士郎と岐路はなのはに内緒で会話していた。

 

『あの野郎、攻撃するだけしてジュエルシードも奪っていかないなんて、何考えてやがるんだ?』

 

『……わからないか?』

 

『お前はわかったのか!?』

 

『ああ、おそらく、彼女は今日なのはを負けさせることが目的だったに違いない』

 

 岐路の言葉に士郎は首をかしげる。

 

『? なんでそんなことする必要があんだ?』

 

『…………これは、原作の流れ通りだよ』

 

『あ!?』

 

 そう言われて、士郎も気がつく。

 

 原作では今日、なのははフェイトと戦い、そして敗れていた。

 この世界では岐路や士郎といったイレギュラーが存在したため、彼女が来なければ負けていたのはフェイトの方だっただろう。

 

『となると、ssよく見かける転生者同士の殺し合いが目的じゃないかもな』

 

『ああ、もしそうならもっと前に私たちを始末できたはずだ』

 

 二人を原作介入派とするなら、茶々零たちは傍観派と言ったところだろう。

 

『今回のように、原作からかけ離れなければ、彼女が危害を加えることはないだろう、しかし……』

 

『おう、やられっぱなしは性に合ねえ!』

 

 二人の心に、強い意思が灯る。

 今まではなのはを守り、ジュエルシードを集めるだけだった彼らに、強くなるという新たな目標が生まれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サテト、ココラデイイカ?」

 

 月村邸から遠く離れたとある廃ビルに、茶々零が降り立つ。

 

「一応オ願イ通リノ結果ノハズダゼ、御主人サマ」

 

 彼女がそう呟くと、彼女の体が光に包まれる。

 そして少しずつ光が彼女の体から飛び立ち、彼女の姿は杖を持った九歳の女の子へと変わっていく。

 

「そうね、問題ないわ、茶々零」

 

 光が消え、そこに現れたのは八坂七海、その人だった。

 

 

 




あけおめ!
どうも、三が日は地獄だったみみみです
一週間くらいpcに触ってないと書き方を忘れてしまいそうで少し焦りました
一応今日から更新再開です
用事やテストで絶望的な点を取らない限り、更新は続けますのでご安心ください
では、今日はこれで、
やっと次から七海視点……


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第13話

今回は短めです
では!


~月村邸にてお茶会があった日の早朝~

 

 

 

 どこかの森の中、刃がぶつかる音が響く。

 戦っているのは褐色の少年と、黒い服に身を包んだ女の子。

 二人の実力は互角であったが、少年の持つ剣が彼女の攻撃を打ち消していく。

 

「おりゃあ!」

 

「あ!?」

 

 そして遂に、彼女の手から武器がこぼれ落ちる。

 

 それはくるくると回ると、森の中へ消えていく。

 

「さ、デバイスもなくなったが、どうする?」

 

「…………」

 

 少女は答えず、ただ少年を睨みつける。

 

「ユーノ、悪いがこいつを「させない!」、な!?」

 

 女の子は右手をかざし、その手から光の槍が現れ、少年を貫くべく突き進む。

 

「おっと」

 

 しかし、その一撃は虚しく彼の剣に吸い込まれる。

 少女はその隙に逃げ出そうとするが、

 

「させないよ!」

 

 側にいたフェレットのような生き物が地面に魔法陣を映し出す。

 魔法陣からは無数の鎖が伸び、彼女の体を拘束する。

 

「こ、の!」

 

 少女はそれを引きちぎろうとするが、強靭な鎖はビクともしない。

 

「悪いな、少し気絶してもらうぜ」

 

 少年はそう言うと右手で鉄砲の形を作り、人差し指に魔力を集中させる。

 

「じゃあな」

 

 そう言って彼はその小さな魔力弾を放つ。

 

「あ」

 

 当然全身を拘束された彼女に避ける術はなく、額に魔力弾を受け気絶してしまう。

 

「さて、それじゃあ―――」

 

「――――」

 

「――――――――――――」

 

 声が歪む。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 

 ――――――――――――

 

 景色が歪む。

 

 色をなくし、輪郭が薄れ、全てが消えていく。

 

 

 

 

 

 

 そして数瞬後には、只の暗闇だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある週末の、朝の目覚めは最悪でした。

 

「…………これはひどい」

 

 まったく、朝から少女がなぶられる夢を見させられるなんて最悪以外の何者でもありません。とても嫌な気分です。

 

 …………ええ、これが何なのかわかっていますよ。

 あれです、私の無数の瞳の中にあるうちの一つ、”未来視”ですね。

 多分おそらく、近うちにこれが起こるのですね。

 最悪今日起きるとして、これ、どうやって止めましょう?

 直接私が介入すれば済む話ですけど、それじゃあ私の正体がバレますし、かと言って変身魔法も覚えて…………、あ!!

 

 私は寝るときも身につけているジュエルシードの存在を思い出しました。

 

 確かこれ、生物を変化させる効果もありましたよね。

 原作でもワンワンを化物ワンワンに変化させてましたし、これを使えばなんとかなるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………やはり今日でしたか」

 

 海鳴市のどこか人気がないビルの屋上。

 少し前に起きた通称『海鳴の怪樹』により、ここら周辺に近づく人間は少ない。

 あの海鳴の七不思議に数えられる程の奇怪な事件は解決の様相を見せず、未だ原因不明の事件として扱われている。

 まあ、無理もないでしょう。

 いきなり街中に巨大な木が現れるなんて普通は思いませんしね。

 

 ちなみに、七不思議と言っても七つ揃っていません。

 確か全部で『人喰いビル』、『歪む空間』、『夜の怪物』、『謎の少女』、そして『海鳴の怪樹』の五つです。

 これらはここ数年できたようでして、古い七不思議もあったようですが、実害やインパクトがあるこちらに取って代わられたようですね。

 

 

 閑話休題。

 とりあえず私がここで何をしているのかと言うと、千里眼で主人公組の様子を伺っていたのです。

 今日が週末だったのでもしやと思い高町家を監視していれば、思ったとおりです。

 恭也さん、主人公、転生者二名、フェレットの五名がバスに乗り込みました。

 

「テストもなしにいきなり実戦とは、泣きたくなります」

 

 せめて少しは練習すべきでしたね。

 

「多少不安が残りますが、予定通りに進めるとしましょう」

 

 幸いジュエルシードで変身できるのもは、あまり常識はずれでなければ何でも良いみたいですし、外見は「ネギま」の茶々丸にしましょう。……性格までは合わせる必要はないですが、面白そうなのでチャチャゼロを参考にでもしましょうか。

 

 これは単純に私の趣味も入っていますが、もう一つ重要な意味があります。

 それは、もしあちらの転生者がネギまを知っていれば、茶々丸の主=エヴァンジェリンというミスリードを与えられるかもしれないからです。

 そうすればあちらさんは金髪の吸血鬼を探し回るはずなので、こんな盲目少女など目に入らないはずです。

 

 では、早速。

 

「ジュエルシード、起動」

 

 私がそう呟くと、手に持つジュエルシードがほのかに温かくなる。

 その温かさは次第に体のすべてをを包み込み、私はどこか穏やかな気分に満たされる。

 

 

 

 

 

 

 

 ここで、私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~月村家襲撃後~

 

 廃ビルから出て、家に帰る途中。

 魔法少女みたいなことをしてしまったなと私は落ち込んでいました。

 何ですかあの変身は、まるでコンパクトで変身する古き良き魔法使いではありませんか。

 それに茶々零も茶々零です!

 

「まったく、まさか意識まで変化するとは予想外でした、次からはもう少し気をつけるべきですね」

 

 記憶は問題なく引き継いでいるのですが、どうにも茶々零は油断しすぎです。

 余計な情報をペラペラペラペラと、絶対に彼らの中の私のイメージが確実にラスボスクラスになっているでしょうね。

 ちょっとテスタロッサさんを手助けするつもりが、とんだ宣戦布告をしてしまったものです、ちくせう。

 

 まあ、今回は仕方なく私が出ることになりましたが次もこうだと少し疲れますね。

 たしか次は温泉宿?でしたか。

 流石にその位置を特定するのは面倒です。

 

 ……それに夜遊びはお母さんに止められているのですよね。

 密かに外に出ようものならてぃんだろすが、たとえ彼を退けたとしてもその間に確実にお母さんがやってきて私を捕獲するでしょうね。

 能力や変身して一気に脱出、というのもありますが、そんなことをすれば最悪私の正体が両親にバレます。それは絶対に避けなければなりません。

 

 ……まあ、杞憂ですかね。

 どうやらテスタロッサさん側にも転生者がいるようですし、後のことは彼女に丸投げしましょう。

 

 ……ん? この感じは、

 

「おや?」

 

「あ、七海ちゃんや!」

 

 見覚えのある気配を感じそちらを向いてみると、はやてちゃんがそこにいました。

 

「はやてちゃん、買い物ですか?」

 

「うん、ちょっと材料を切らしてもうてな、七海ちゃんは?」

 

「私は、散歩です」

 

 流石に、魔法少女してましたなんて言えません。

 

「そうなんや、こんなところで出会うなんて偶然やね」

 

「そうですね、私たちはよほど相性が良いのでしょうね」

 

「あ、相性!?」

 

 ?

 何やらはやてちゃんの心拍数が上昇したような。

 

「そ、それってお似合いってことなんかな?」

 

「? まあ、そうでしょうね」

 

 こんな所に来るなんて思考が似通っているとしか思えませんし。

 

「そうなんや、ならもっと勇気を出してもいいかな、でも私も七海ちゃんも女の子やし、常識的にありえへんし、法律も許してくれへんやろな、けど私はどうしても七海ちゃんが――」

 

「あの、はやてちゃん?」

 

 何やらはやてちゃんが小声でつぶやいているようですが、早すぎて聞き取れません。

 しかし、とても身の危険を感じます。

 

「ロープ、地下、首輪、調教、新婚生活、邪魔する人は――」

 

「はやてちゃん! 何やら危ない方向へ行っているので早く戻ってくるのです!」

 

「は! 私は何を……」

 

 危ない危ない。

 あのまま放置していれば、きっとロクでもないことになっていたでしょうね。主に私が。

「ちょっとぼーっとしていたのです、心配なので今日は送っていきますね」

 

「お、おおきにな、七海ちゃん、……そんなんやから私は(ぼそり)」

 

「? 別にいいのですよ」

 

 何やらはやてちゃんから妙な気配を感じます。

 

「あ、そうや!」

 

 はやてちゃんはゴソゴソと荷物をあさり、私にも見覚えのある気配を放つ物体を差し出した。

 

「これな今日拾ったん、キラキラ光って綺麗やし七海ちゃんにあげるな」

 

「あ、ありがとです、はやて……」

 

 私は恐る恐るそれを受け取る。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、私は望まずして二つ目のジュエルシードを手にいれてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

はやて「ふふ、今はこれくらいしか出来んけど、大人になったら婚約指輪を――」

 

七海「はやてちゃん?」

 

はやて「ん、何でもないよ?」

 

 

 

 

 

~おまけ2~

帰宅後

 

七海「ただいま帰りました」

 

ニャル子「お帰りなさい、ななみん!」

 

七海「誰がななみんですか、……それより妙にご機嫌ですね何かあったのですか?」

 

ニャル子「ふふ、ふふふふふ! 遂に、遂にできましたのよ!

 

七海「何ができたのですか? 新たな創作料理ですか?」

 

ニャル子「待望の二人目です! 真実さんが新しい子供を拾ってきましたよ!! これからは四人家族です!

 

七海「……………………ふぁ!?」




絡繰茶々零
正体:八坂七海のジュエルシードによる変身
メリット:身体能力の向上
デメリット:七海は三つまで瞳を同時使用できるが、茶々零の時は一つまでしか使用できない。
機能:ステルスモード、アサルトモード、ノーマルモード

なお、今回はノーマルモード



2014/1/11
誤字修正


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第13.5話

 現在地は八坂家のリビングルーム。

 私は小さな男の子と向かい合っていました。

 

 彼の名前は八坂綱吉。

 つい先日お父さんが拾ってきたことにより、魑魅魍魎はびこる八坂家の一員となった哀れな男の子です。

 

 

「…………………………」

 

「(ガクガクブルブルガクガクブルブル)」

 

 一体何分経ったのでしょう。

 彼は出会った時からずっと怯えています。

 私は何もしていないのですけどねぇ。

 

 あ、私視点じゃわかりにくので、次からはツナ視点でいきますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

~八坂綱吉~

 

 俺は森田幸太郎、転生者だ。

 

 特典は「死ぬ気の炎の全属性」を選んだ。

 畜生、王の財宝とか無限の剣製、写輪眼を選びたかった!

 けど、既に他の転生者に取られていたorz。

 

 このように他の人より遅れをとった俺だが、俺は他の転生者とは違うところがある。

 これは特典とは別に、出生のことについてだ。

 俺はその時に、「最強の転生者の弟」になるようにお願いした。

 正直これは無理そうだったが、必死に頼み込んだら渋々了承してくれた。

 どうやら転生者ごとに担当する神がいるらしく、今回は相手の神様の許しが出たからいいものの、普通は無理だそうだ。

 

 ん? なんでそんなことをしたのかって?

 そりゃ、最強の転生者の家族なら他の転生者も手を出しづらいだろうし、あわよくば鍛えてくれるかもしれないからだよ!

 それに、ちょっと聞いたところによると転生先は現代で、どうやらその最恐さんは女の人らしい。

 前世では一人っ子だった俺は、お姉さんなんていなかったから少し楽しみだ。

 

 

 

 

 

 そう思っていた時期も、俺にはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、どうやらちゃんと転生はできたみたいだな」

 

 目が覚めたのはどこかの廃れた部屋。

 内装も禿げ、むき出しのコンクリートがここがもう何年も使われていないことがわかる。

 

「服は、ちゃんと着ているみたいだな……ん?」

 

 ポケットを探っていると、何かペンダントみたいな物体が出てきた。

 

「なんだこ『ちゃおっス』、うぉお!?」

 

 それは急に喋りだし、驚いた俺はそれを放り出してしまう。

 それは重力に引かれて床に落ちるかと思われたが、途中でピタリと止まると半回転し、俺に向かい合う。

 

『まったく、デバイスの扱いがなってねー、容姿通り「ダメツナ」だな』

 

「は? ダメツナ?」

 

 そう不思議に思っていると、ペンダントの中心が光り、空中に光る鏡のようなものを映し出す。

 

『これが今のお前の姿だぞ』

 

 恐る恐るそれを覗いてみると、写っていたのは「家庭教師ヒットマンREBORN!」の主人公、沢田綱吉を幼くしたような男の子だった。

 

 そう言えばこいつの声もどっかで聞いたことあると思えばリボーンじゃないか。

 

「ああ、死ぬ気の炎を頼んだからこうなったか……」

 

 まあ、一般人より上な感じだからいいか。

 

『納得したなら次だ、ここは「魔法少女リリカルなのは」をベースにした世界になってるぞ』

 

「おお! リリなのか、断然燃えてきた!」

 

 魔法、ロストロギア、それに戦闘機人!

 stsを見ていた時は興奮を抑えられなかったなぁ。

 

「あ、でも無印ってことはここは第一期の世界か?」

 

 確か、第二期はA'sだったはず。

 

『ああ、時間軸的に言えばもうジュエルシード事件発生中だな』

 

「まじかよ! 俺出遅れた!?」

 

 せっかく主人公と仲良くなって、後輩を紹介してもらう計画が二秒で崩れた。

 

『お前が無茶な要求したからな』

 

「え、どゆこと?」

 

 さっぱりわからない。

 

『本当ならな、お前の姉になる人物に弟が生まれるのは一年後のはずだったんだ、生まれる魂の順番も決まっているからな、その無茶を成立させるために今日ここに五歳児として放り出すしかなかったんだぞ』

 

「…………自業自得だったorz」

 

 何も言えない。

 神様、無茶なこと言ってごめんなさい。

 そして、叶えてくれてありがとう。

 

「? てことは俺はどうやってそいつの弟になるんだ?」

 

『ああ、それなら……、来たぞ』

 

「え!?」

 

 そう言うとそいつは俺のポケットに潜り込む。

 

『ここからの会話は全部念話だ、少しでも怪しい仕草をすれば命はねえぞ』

 

 え、何!?

 一体誰が来るの?

 リボーン(仮)がここまで警戒するってどんな危険人物なの!?

 

 俺もよく耳をすましてみると、コツコツ、と階段を上がる音が聞こえる。

 怪談を上がり、廊下を歩き、その足音はこの部屋の前で止まった。

 

 

 少しして、キキィィと扉が軋みながら開く。

 そして、男性の声。

 現れたのは顔を包帯で覆い隠し、黒いスーツを纏った男性。

 しかし、いくら包帯で隠そうとそのギラギラと燃えるような瞳は隠せていない。

 それに俺はそいつの顔に見覚えがあった。

 

 るろうに剣心で、主人公を苦しめた人斬り抜刀斎の二代目。

 

「ガキか…………」

 

 扉の先にいたのは狂人でした。

 

 え、なんでいんの!?

 志々雄さんなんているはずないよね!? 

 あの人、るろうにの人だよね、まじでなんでいんの!?

 

 そう怯えていると志々雄さんは何を思ったのか俺に近づいてくる。

 嫌だー! まだ死にたくないーー!!

 

「こいつが例のガキで間違いなさそうだな」

 

 志々雄さんはそう言うと、急に俺の首元を掴む。

 

「え? 何!?」

 

「黙ってろ、これも依頼だ」

 

 そう言われて俺は両手で口を塞ぐ。

 え、依頼って何?

 

『おそらく、神様がそういう形でお前が家族になるように仕組んだと思うぞ』

 

 なるほど! さすが神様!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――という訳で、今日からここに住むことになった綱吉だ」

 

 その後、志々雄さんに連れられてやってきたのは彼の家でした。

 名前も、この人に勝手に決められたorz。

 

「きゃー! 可愛い男の子ですね!!」

 

 そう元気にはしゃぐのは銀髪碧眼の美人。

 八坂ニャル子さん、志々雄さんの奥さんらしい。

 ……カオスすぎる。

 

「そうですか……」

 

 興味なさそうにお茶をすする俺より年上の女の子。

 八坂七海、俺の姉さんになる人だ。

 髪は白髪で、見た目は刀語の鑢七実を幼くした感じの美少女だ。

 目が見えないのか、片手には細い杖のようなものをずっと握っている。

 おそらく、彼女が転生者なのだろう。

 容姿からして見稽古持ちなのだろうが、何で白髪なんだろう? 

 

「じゃあ俺は次の仕事があるから後は任せた」

 

 そう言って玄関の方へと向かう志々雄さん。

 

「あ、途中まで私も行きますよ!」

 

 ニャル子も元気そうに彼の後に続く。

 

 後に残ったのは七海と俺だけ。

 

「……………………」

 

 無言でお茶をすする七海。

 まるで俺のことなんて眼中にないようだ。

 ……まあ、見えてもいないのだが。

 

『……やべーぞ、ツナ』

 

『どうした? 志々雄さんならもう行ったぞ』

 

 ポケットの中のリボーン(決定)が真剣な声で話しかけてくる。

 

『七海とか言ったか、こいつ尋常じゃねえ強さだぞ』

 

『え!? そんなこと分かるの!』

 

『ああ、嫌な気配がにじみ出てやがる、こいつ相当にヤバイモノ背負ってるみてーだぞ』

 

 え、何!?

 目の前にいるのは狂人じゃなくて魔王なのか!?

 魔王が二人って最悪じゃねえか!!

 

『……ちなみに、今俺が全力で襲ったら?』

 

『一秒以内にミンチの出来上がりだな』

 

 想像以上です。

 オワタ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~八坂七海~

 

 以上、私が読み取った彼の思考です。

 まったく、お父さんが子供を拾ってくるからどんなのかと思えば、まさか転生者ですか。

 まあ、歳や目的からしてsts用の転生者でしょうが、よりにもよって私の弟になることもないでしょうに。

 興味がないのでお茶を味わっていましたが、何だか彼の中の私のイメージが大魔王へと進化し始めましたので、そろそろ声をかけるとしましょうか。

 

「…………いい加減デバイスとの相談は止めにしませんか?」

 

 私がそう言うと彼はビクッと体を震わせる。

 

「な、「なんでバレたのか? ですか」、!?」

 

 彼が言おうとしたセリフを、先に言う。

 

「簡単です、私にはあなたの心が読めますから」

 

 私は右手を広げ、その上にサードアイを可視状態にして彼に見せる。

 

「さ、サードアイ!?」

 

 あ、ちゃんと東方知っていたのですね。

 説明する手間が省けます。

 

「ここには監視カメラも盗聴器もありません、なので安心して色々と話してくれていいですよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 おどおどと話し出すツナ。

 ……もうツナでいいかもしれませんね。

 

『まったく、相手がそう言ってんだ、もっと堂々とすべきだぞ』

 

 あ、ポケットから光るペンダントが飛び出してきました。

 

「あなたがリボーンでいいかしら?」

 

『ああ、オレのことも筒抜けみてーだな』

 

「ええ、…………ところで特殊弾って撃てるかしら?」

 

 ふと気になったことを彼に聞いてみる。

 

『? 撃てるが、それがどうしたんだ?』

 

 流石神様謹製デバイスですね、そこまでできますか。

 

「いいえ、死ぬ気弾があれば多少修行が楽になると思ったので」

 

「しゅ、修行って?」

 

 ツナが恐る恐る聞いてくる。

 

「あら? あなたは”最強の私に鍛えてもらう”のも目的だったのでしょ? もちろんあなたの修行ですよ」

 

 私がそう告げると、ツナの顔が一気に明るくなる。

 

「原作ツナ並の苦しさになることは確定だからね」

 

 今度は絶望一色に染まる。

 ……なかなか面白い子ですね、いじりがいがあります。

 

『オレもビシバシ鍛えていくからな、覚悟しろよ』

 

 リボーンさんもツナに追い討ちをかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、日頃お父さんにやられているイジメを、あなたにも教え込んで差し上げましょう!




八坂綱吉
性格:ちょっとビビリ
見た目:沢田綱吉
魔力量:AAA
魔力光:オレンジ
デバイス:リボーン
特典:死ぬ気の炎全種
担当神:老人の神様

「リボーン(デバイス)」
拳銃型デバイス、ザンザンスの拳銃のような機能の他に、
特殊弾を製造する機能や、リングになる機能など、様々な機能を備えている。
これは、死ぬ気の炎だけでは他の転生者に遅れをとると考えた、神様のサービス。


※なお、彼の出番は無印ではありません、ただ出したかっただけです、すいません。


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第14話

 とても平和な喫茶翠屋。

 平日の午後四時。

 

「…………(あむ、もぐもぐ)」

 

 そこで私は一人、窓辺でゆっくりとチーズケーキを味わっていました。

 

 いやー、久々の翠屋のケーキは最高ですね!

 最近は魔眼の調整だったり、ジュエルシードだったりで特に忙しかったので中々ここに来る時間ができなかっただけに、いつもより美味しく感じます。

 

 え? ツナの修行ですか?

 そんなのは基礎体力がついてからの話です。

 死ぬ気時間が三分未満なんて話になりません。

 やりにくいので最低でも五分以上になるまで基礎の繰り返しです。

 それまで全部リボーンさんに丸な……、お任せして私はのんびりすごします。

 

 それにしてもほんと、ここのケーキは美味しいです。

 

「あら! 七海ちゃんじゃない!」

 

 聞き覚えのある元気な声。

 それがレジの向こう側辺りから聞こえてくる。

 

「二週間ぶりですね、桃子さん」

 

 一旦フォークを置いて、彼女の方に振り返る。

 

「それくらいだったかしら? 私はもうちょっと長いと思ってたけど」

 

「大体それくらいですよ、前に来たのは四月の最初くらいでしたので」

 

 よく覚えていませんが。

 

「……七海ちゃんはなのはと同い年だったわよね?」

 

「? 急にどうしたのですか、あったことはないですがお嬢さんとは同年代だったはずですよ」

 

 急に声のトーンが沈みました。

 きっと今目を開ければ真剣な顔の桃子さんがいるのでしょうね。

 

「最近、なのはの様子がおかしいのよね、恭也たちが言うには夜遅くに出かけてるみたいだし、何か怪しいおまじないでも流行っているのかしら?」

 

「ふむ…………」

 

 なるほど、ジュエルシード事件の影響がこんなところまできているのですね。

 主人公さんはジュエルシードを集めるために夜遅くに外出しているのですが、家族としてはそれが心配なのですね。

 しかし、主人公さんはその理由を家族に話さず、いつも通りの態度を取っているため、誰も深く尋ねることができないわけですね。

 

「私が知る限りそのようなものはありませんが、いつ頃からそのような感じなのですか?」

 

 とりあえず私は知らないフリですね。

 

「確か……、フェレットを拾ってきた日くらいからかしら? だけど、あの子が原因だと思えないのよねぇ」

 

 まあ、流石にそれだけでは分かりませんよね。分かられても困りますが。

 

「この時期の女の子はデリケートですので、理由もなく親に隠し事をするのは不思議ではないと思いますよ」

 

「そうかしら? なのははいい子だからそんなことはないと思うけど……」

 

 なにか納得がいかないように考え込む桃子さん。

 

「太陽から見た地上のように、全てが見えているつもりでも影があるところまでは見えません、同じようにあなたからは見えない影、あなたの知らないお嬢さんの一面もあるものですよ」

 

 私がそう言うと桃子さんは少しの考えた後に、口を開く。

 

「…………そうよね、今までなのはのこと全部知っているつもりだったけど、あの子の頭の中まで分かるはずないわね」

 

 今度は納得したようで、声の調子が元に戻る。

 

「ありがとう、やっぱりあなたに相談して良かったわ」

 

「いいえ、私は何もしていませんよ」

 

「ふふ、あなたはいつもそう言うわね」

 

「そうですか?」

 

 私は本当に何もしていないのですが。

 

「そうよ、いつも的確なアドバイスをくれるから私はとても助かっているのよ」

 

 はて?

 他愛ない世間話しかしていない気がしますが、桃子さんにとってはそうではなかったみたいですね。

 

「それは……、お役に立てたようで何よ「お母さん!」、!!?」

 

 桃子さんの背後から、聞きなれない声が聞こえる。

 

 え、嘘、何で!?

 

 私の頭は真っ白になる。

 この日、この時間、いつもの彼女なら友達と遊びに出かけているはずだ。

 私が調べたのだから間違いはないはずだった。

 あの二人がこの娘を放って置くはずがない。

 

 そんなはずはない、そう思ってはいても、目の前の現実がそれを否定する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は逃げ場のない状況で、主人公さんとエンカウントしてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

~高町なのは~

 

 私は高町なのは、九歳の女の子。

 最近は魔法少女もやってます!

 

 そんな私は今、家業の喫茶店のお手伝いをしているの。

 本当は今日は岐路君や士郎君と遊ぶ予定だったのだけれど、二人とも用事が出来たらしく、急いでどこかに走って行ってしまったの。

 ちなみにアリサちゃんとすずかちゃんはお稽古なの

 そんなわけで今はレジについているのだけれど、すぐ横にいるお兄ちゃんが怪訝な様子でどこかを見ているの。 

 

「また、か」

 

「どうかしたの?」

 

 不思議に思った私は、お兄ちゃんに尋ねる。

 

「……ああ、そう言えばなのはは知らなかったな、ちょっとそこから覗いてみるといい」

 

「?」

 

 言われた通りにレジから身を乗り出して見てみると、お母さんが誰かと話しているのが見えたの。

 

「お母さん、誰とお話してるの?」

 

「流石になのはの身長では相手まで見えなかったか……、話し相手は翠屋の常連さんだよ、なのはと同い年の」

 

「そうなの!?」

 

 私と同い年の常連さんなんて知らなかったし、お母さんがあんなに話しているのもあまり見たことがなかったので、私は驚いた。

 

「ああ、あの子が来ると母さん、いつも長話するんだよな、あの子も迷惑じゃなさそうだが、あまり長くなると営業に支障が出る……、なのはちょっと呼んできてくれないか?」

 

「うん、わかったの」

 

 レジから離れ、私はお母さんに近づく。

 お母さんは私に気づかず、その常連さんとお話している。

 

「お母さん!」

 

、声をかけると、やっと私に気がついたようで私の方を振り向く。

 

「あら、なのは、今日はなのはが呼びに来てくれたの?」

 

「うん、お兄ちゃんに呼んできてほしいって頼まれ、た……の」

 

 お母さんが振り向き、体に隠れて見えなかった常連さんの姿が見えた。

 白髪で、盲目の美人。

 それは私が見たことのある人だった。

 

 

 

 

 それは神社からの帰り、曲がり角でぶつかった人だった。

 

 

 

 それはサッカーの試合の時、河川敷で見かけた人だった。

 

 

 

 彼女は、私が会いたかった人だった。

 

「なのは?」

 

 お母さんの声で、私は我に返る。

 

「あ、ううん、なんでもないの」

 

「そう? なら恭也が呼んでるみたいだから先に行くわね」

 

 そう言ってお兄ちゃんの元へ向かうお母さん。

 しかし、私は目の前の彼女から目が離せない。

 

「……………………」

 

 彼女も私を見つめている。

 いや実際には、こちらを向いている、とした方が適切かもしれない。

 

「……………………」

 

 私は何も言えず、ただ彼女を見つめるだけしかできなかった。

 彼女にあったらいろいろ言おうとしていたけれど、実際に会うと何も言えなくなった。

 

「あなたが、高町なのはさん?」

 

 少しの沈黙の後、最初に話し始めたのは、彼女だった。

 

「え!? 私のこと知ってるの?」

 

「ええ、桃子さんから話は聞いていますよ、自慢の娘さんだそうですね」

 

 そう言われて、私は無性に恥ずかしくなる。

 

「えへへ、そうだと嬉しいの」

 

「しかし、あまり家族に心配をかけるものではありませんよ」

 

「!」

 

 そう言われて、私はここ最近のことを思い出す。

 まさか、ジュエルシード探しのことで私はお母さんたちに何か心配させているの?

 

「きっとあなたにもなすべきことがあるのでしょうし、部外者である私が口を挟むべきではないのでしょうが、…………そうですね、助言くらいはできますか」

 

 そう言うと、彼女はカバンからカードの束みたいなものを取り出す。

 彼女はそれを机の上において、滅茶苦茶にかき混ぜた後、適当に一枚引く抜く。

 

「ほう、やはりこれが出ましたか…………」

 

 彼女はおもむろにそれを私にも見えるように向ける。

 

 そのカードには可愛い女の子が丸い輪の上に乗っている絵が書かれており、その下には十という数字とWheel of Fortuneと書かれている。

 よく見るとそのすぐ側に凹凸があり、彼女はこれで何のカードかを判別していると思われる。

 

「このカードの正位置が示すのは、転換点・幸運の到来・チャンス・変化、そして出会い」

 

「!?」

 

 声には出なかったが、私は心の底から驚いた。

 だって、それは私が魔法と出会ったことをそのまま示していたのだから。

 

「あなたは今、人生の転機にいます、もしこのチャンスをモノにすることができれば更にあなたは掛け替えのないものを手に入れることができるでしょう」

 

 そう彼女は言うと、いつの間にか食べ終わったのか伝票を持ってレジの方へ向かう。

 

 その姿に見とれながらも、私は彼女に声をかける。

 

「あ、あの!」

 

「? どうかしましたか?」

 

 彼女はゆっくりとこちらに振り返る。

 

「お名前、聞かせて欲しいの」

 

「ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたね」

 

 そう言うと、彼女は右手を差し出して、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

   「私は、八坂七海と申します、これからよろしくお願いしますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ ~八坂七海~

 

ふう、なんとかやり過ごしましたか。

急なエンカウントに私の心臓はばくばくなのです。

 

 翠屋を出て、私は胸を撫で下ろす。

 

「しかし」

 

私は懐から先ほどのカードを取り出して、見つめる。

 

「ここでこのカードは、少し残酷ですね」

 

 先程は言いませんでしたが運命の輪の正位置の意味は転換点・幸運の到来・チャンス・変化・結果・出会い・解決。

 

 

 

           そして「定められた運命」。

 

 

 

 

 

 

 

 




2014/1/15 誤字修正


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第14.5話

 

「……………………うにゃ~」

 

 四月の連休初日。

 私は特にやることもなく、ベッドの上でゴロゴロしていました。

 

 はい、とても暇なのです。

 一瞬はやてちゃんの家に遊びに行こうかとも思いましたが、今はいつも通り両親はおらず、家には私とツナの二人(リボーンさん含めると三人?)だけなので、そういうわけにもいきません。

 急に両親が帰ってきた時、家に一人取り残されているツナが見つかった日には私の命なんて一瞬で消えてしまうでしょうね。

 ならツナごと遊びに行けばいいとも思ったのですが、そう言えば彼に私がはやてちゃんと友達だと言うことを伝え忘れていましたね。

 まあ、いずれバレることですが、あれがはやてちゃんに余計な迷惑をかけるかもしれませんし、このまま黙っていましょう。

 

 結果、私はこのようにベッドの上のカタツムリになっているのです。

 ああ、暖かな温もりが私をつつ「姉ちゃん!」………………ちっ。

 

 煩い声がしたので、私は顔だけをそちらに向けます。

 

「何か用ですか、ツナ、今私はお昼寝に忙しいのです、命の危機に関わること以外なら後にしてください」

 

「いや、それだといつ声かけていいかわかんないよ! ……て、そんなことより!」

 

 荒い息で私に近づいてくるツナ。

 乙女の領域を無断で侵した挙句、なんで汗まみれなのですか?

 五歳児だからいいものの、元の年齢なら犯罪ですよ。

 

「ほら、死ぬ気時間が五分超えたぞ! これで稽古つけてくれるんだろ?」

 

 そう言って何かを私に突き出すツナ。

 私はサードアイを出してそれを確認すると、ただのストップウォッチのようでした。

 えっと、タイムは、

 

「…………五分二十七秒、確かにクリアしていますね」

 

 僅か一週間で終了するとは、最低でも一ヶ月くらいかかるかと思っていたのにとんだ誤算です。転生者は肉体もチートなのですか。

 

「仕方ありません、では今から準備するので先に道場の方へ行ってい「分かった!」、あの……」

 

 私の話を最後まで聞かずに走り去っていくツナ。

 修行の影響でナチュラルハイになっているようですね。一体何をどうしたらああなるのやら…………。

 

 そう若干ツナのことを心配しつつ、私は動きやすい服に着替える。

 

「えっと、今は春ですから半袖長ズボンでいいでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

 

 私はゆっくりと道場の扉を開ける。

 現在の私の格好はポニーテールに体操服とかなり動きやすいものとなっています。

 

『おう、じゃあ第二段階始っか』

 

「ああ、ワクワクっすぞ!」

 

 もはやツナの原型がありません。

 さっさと済まして今日のところは寝かしつけるとしましょう。

 

「では、リボーンさん、死ぬ気弾をお願いします」

 

『ああ』

 

 彼はそう言うとペンダントから拳銃へと姿を変え、私の手に収まる。

 初めて持つ凶器の重さだけど、不思議としっくりとくる。

 少し考えた後、私は片手でそれを構え銃口をツナへと向ける。

 しかし、撃たれ慣れたツナからは怯えるような気配は感じません。……面白くないですね。まあ、それはさて置き、

 

「では、死ぬ気で私を倒してみなさい」

 

 私は引き金を引く。

 パンと軽い発砲音が響き、ツナが倒れる。

 ふぅ……、拳銃を扱うのは初めてだったのですがどうやらうまく当たったようですね。

 

復活(リ・ボーン)!! 死ぬ気で姉ちゃんを倒す!!」

 

 何やら場脱皮に似た音が響き、ツナの中からツナが現れる。

 

 これが死ぬ気モードというものですか、確かに気迫やパワーも桁違いに上昇するようですね。さっきから空気が震えてます。

 とりあえず、今のうちにリボーンさんを離して素手でお相手しましょう。

 

「おらららららららららら、おら!!」

 

 どこかで聞いたような連撃で私に遅いかかるツナ、とてもいいのですが。

 

「私には効きません」

 

 いくら早くとも所詮人間の腕は二本、見切ってしまえばかわすのは造作もありません。

 そして、

 

「いきなり全力でくるバカがどこにいますか、本当の死ぬ気は一瞬でいいのです、よ!」

 

 原作でのバジルのセリフをツナに言う、と同時に彼の胸に掌打を叩き込む。

 

「がぁっ!!」

 

 ツナは吹き飛び、激しく壁に体を叩きつけられる。

 

「なんの!!」

 

 けれど、彼は怯むことなく再び私に襲いかかる。

 打たれ強さは原作並みと、…………ん?

 

「うらららららららら!!」

 

 私はまた彼の拳を避けているのですが、威力が先ほどより下がっているように感じます。

 私の攻撃が効いているわけではない、とするともうコントロールをモノにし始めていると言うことですか…………、これは予定より早く彼専用の匣を用意するべきですね。

 まあ、それはそれとして。

 

「もっと、相手の挙動を一つ一つを観察して先を読むのです」

 

 今度は彼の右腕を掴むと、そのまま勢いを利用して投げ飛ばす。

 

「ぐわぁ!!」

 

 天井にぶつかり、床に落下するところで体勢を立て直し、三度私に襲いかかる。

 

「おららららららららららららららららら!!」

 

 はぁ、原作の時のように岩がないからか、早く終わりそうにないですね。

 

 そう思い先ほどようにかわそうとして、

 

「ん?」

『…………(にやり)』

 

 拳が一つ、頬をかすめた。

 彼の拳が触れた部分が切れ、血が頬を垂れ落ちる。

 

 私が避けきれなかった?

 いや、違う。

 彼が私の動きについてこれる様になったのでしょう。

 ………………まったく、驚くべき成長速度です。これでは私が教えることもすぐになくなってしまいそうですね。

 

 私は嬉しかった。

 たまたま拾った石が珍しい鉱石だった時のように、私は喜んだ。

 彼は私が教えたことをスポンジのように吸収して、自分のものにしている。

 この調子なら、A'sまでに転生者三人を相手にできるほどに成長するかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、この後彼の死ぬ気が解けるまで、彼を飛ばし続けたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

~リボーン~

 

 オレは今、七海とツナの対決を見ていた。

 ただし七海は得意のは杖なし、ツナは死ぬ気と条件は圧倒的にツナが有利。

 だが、

 

「いきなり全力でくるバカがどこにいますか、本当の死ぬ気は一瞬でいいのです、よ!」

 

 ツナが七海にぶっ飛ばされる。

 当然だな、あいつとじゃ実力が違いすぎる。

 

「うらららららららら!!」

 

 ツナは懲りずにまた七海に殴りかかる。

 ん、額の炎が少し小せえってことはもう死ぬ気のコントロールが出来始めてんのか。原作知識があるとは言え、ここまで早いのは予想外だぞ。

 

「もっと、相手の挙動を一つ一つを観察して先を読むのです」

 

「ぐわぁ!!」

 

 今度は天井へと投げ飛ばされる。

 …………それにしても七海は容赦がねえな、もっと手加減するかと思ったが。

 

「おららららららららららららららららら!!」

 

 三度目の攻撃、七海はさっきと同じようにかわそうとするが、

 

「ん?」

 

『…………(にやり)』

 

 その内一つが七海の頬を掠る。

 ツナのやつ、攻撃の瞬間に死ぬ気を高めて速さを上げやがったな。

 それだけじゃなく、七海の動きを不完全ながら先読みもしてやがる、驚くべき成長速度だぞ。

 

 教え子兼マスターの成長に、オレは思わず笑みを堪えなくなるが、それも一瞬のことだった。

 七海の顔を見ると、嬉しそうな顔をしている。

 

『!?』

 

 それを見た瞬間、全身に悪寒が走った。

 あの笑みには何か、とても嫌な感じがした。

 狂人、そう例えるのが一番しっくりくる。

 あいつがツナを見る感じはもうただ弟じゃねえ、おもちゃを目の前にした子供に近いぞ。

 だが、子供はあんな笑みはしねえ。

 

 なんで、あいつはあんな笑みを浮かべてんだ?

 

 オレはあいつと初めて会った時のことを思い出す。

 あの時は今とは別の嫌な感じがしてたが、あれは七海と言うよりあいつが持っている「何か」の気配だったな。

 なら今オレが感じてるのは紛れもない七海自身の狂気ってことになる。

 

 一体、あいつは何を考えている………………。

 

 オレは考えたが、まだ家族になって一ヶ月も経たない相手のことだからか、結論はでねえ。

 とにかく、あいつはツナのことを鍛えてくれる。

 死ぬ気の到達点まではいかなくとも、ツナの力を限界まで引き出すことはできるだろう。

 

 

 なら、今はまだオレが動く時じゃねえな…………。

 

 

 



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第15話

 

 四月二十六日の昼頃、天気はおそらく晴れ。

 今日も朝からツナに優しく訓練をして、今は学校にいます。

 ツナは「鬼、悪魔!」と喚いていましたが、私が受けたものにくらべればかなり優しい方ですよ。 命の危険もありませんし。

 私が神速を覚えた時なんて脳のリミッターを外すために何度死にかけたか、思い出すだけで泣けてきます。

 

「はぁ…………」

 

 それにしても今日も退屈ですね。

 はやてのいない学校なんて通う意味も皆無ですし、ほかの友達を作ろうにもそんな勇気と気力なんてありません。

 あ、もちろんなのはさんは除外です。あの二人が居るので本人には申し訳ないですが学校ではあまり近づきたくありません。

 

 という訳で私は今暇なんですよね、本当にやることがないので。

 A'sまではまだ遠いですが、ツナの装備でも考えるとしましょう。

 えっと、彼は原作通りのツナ装備にするとして、問題はイクスグローブですよね。匣兵器の方は目処が立ちましたが、炎を灯せる素材って全く見当もつきません。なんでしょう死ぬ気の炎を灯せる素材って…………、生命繊維や波紋をよく通す素材を使えばいいのですか? 果てしなく面倒ですね。

 そもそも――――――――――――

 

 

 

 

 

~放課後~

 

 

 

 

 

 授業終了のチャイムが、私の意識を呼び戻す。

 

 は!? 気がついたらもう放課後ですか。ついつい考え事に夢中になっていたようです。

 時折先生に当てられ、適当に答えた記憶がおぼろげにありますが、……いけませんね、もうちょっと他に気を配るべきです。

 

 そんなことを思いつつ私は教科書を片付け、カバンを背負って廊下に出る。

 

 やっぱり学校は憂鬱ですね、消えてなくなればいいので「あ…………」、ん?

 

 誰かの声が聞こえたので、私はそちらに意識を向ける。

 廊下の先に二人、私を見つめる気配があります。

 一人はなのはさんですが、もう一人は誰でしょう?

 

「こんにちわ」

 

 とりあえず挨拶。

 ニッコリと笑顔で敵意がないことをアピールしましょう。

 

「こんにちわ、なの……」

 

「ああ、こんにちわ」

 

 

 ? 男の方は普通ですが、なのはさんの声に元気がありませ………………、まさか!?

 

「なのはさん、元気がないようですが何かあったのですか?」

 

 八割方原因はわかっていますが、それでも一応聞いてみます。

 

「え、どうして…………」

 

 なのはさんが不思議そうに聞いてきます。

 目が見えない相手がそこまで分かるのが不思議なようですね。

 

「声が沈んでいましたので」

 

「はは、わかっちゃうんだ…………」

 

 彼女は元気なく笑う。

 

「ええ、音には敏感ですので……、そう言えば隣にいる方はどなたですか?」

 

「……俺は木場士郎だ、あんたは?」

 

 木場士郎…………、おそらく褐色の方でしょうね。

 

「私は八坂七海と言います、……失礼ですが何かあったのですか?」

 

「えっと、ちょっと友達と喧嘩しちゃったの…………」

 

 そう話すなのはさん。

 やはりバニングスさんとの喧嘩でしたか、となるとあのジュエルシードも今夜となのですね。

 それにしても彼女の元気がありません、よほどショックだったのでしょう。

 元気づけたいところですが、あまりやりすぎると隣の彼に気づかれかねません。

 

「それは、……早く仲直りできるといいですね」

 

「うん、私も、そう思うの…………」

 

 とりあえず、私が言えるのはこれくらいでしょうか。

 

「では、私は弟の世話をしなければいけませんので、これで失礼しますね」

 

「あ、またね…………」

 

 そう言って彼女たちの横を通り過ぎる。

 

 

 嘘ではありませんよ。

 今日もツナの訓練しなければいけませんし。

 あ、でも今日はあれがあるのでしたね。

 でしたら彼も連れて行くとしましょう、いい勉強になりそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~夜の七時五分 どこかのビルの屋上~

 

 

「と言うわけで、やってきました夜の街! なのです」

 

「何がやってきました、だ! なんでいきなり連れてきてんだよ!?」

 

 何やらツナがすごくうるさいです。

 やはりロープで縛ったのがいきませんでしたか。

 

「とりあえず、今回の私たちの目的は『観察」なのです、もうすぐ戦いが起きるのでそれを見て、戦いがどういうものなのかを学びなさい、あ、リボーンさんはツナのリンカーコアの封印お願いしますね」

 

『了解したぞ』

 

 ふわふわ浮かぶリボーンさん。

 ここがビルの屋上でなければきっと大騒ぎでしょうね。

 

「でも、万が一見つかったらどうするんだよ? 姉ちゃんが戦うのか?」

 

「いいえ、状況によっては私も乱入するのであなたは守れません、自分でなんとかしてください、…………封印はその時に解いてもらいますから」

 

「丸投げかよ!!」

 

 まあ、死ぬ気の炎の扱いを中心に鍛えたので魔法の方はあまり意味がないですけどね。

 

『いいじゃねえか、今のツナなら一人なら負けねぇぞ』

 

「複数できたら?」

 

『死ぬ気で逃げろ』

 

 リボーンにそう言われ、両手両足を地面につけるツナ。

 まあ、それはリボーンさん含めた戦闘力ですから一人では絶対負けますね。

 

「……そう言えば姉ちゃんはデバイスはどうしたんだ?」

 

 ……ああ、そう言えば話していませんでしたね。

 

「私はデバイスなんて物持ってはいませんよ」

 

『「な!?」』

 

 え? なんでリボーンさんまで驚いているのですか!?

 …………ま、まさか、

 

「もしかして、デバイスはみんな貰っているのですか?」

 

『……ああ、転生者全員に与えられるはずだぞ、それがねぇとここがどこの世界なのかわからねぇからな』

 

「おお…………」

 

 私はとんだ遠回りをしていたのですね。

 私がここがどこか気がつくのにどれだけ時間をかけたことか…………、本当に泣きたくなります。

 

 しゃがみ、私は地面にのの字を書く作業に入ります。

 なんで、私だけ…………、私だけ…………、あの金属バット………………。

 

「そんなことより姉ちゃん、デバイスなしでどうやって戦うんだ?」

 

 もう顔も思い出せない神さまのことを思っていると、背後からそうツナが尋ねてくる。

 ああ、答えるのも面倒ですね……。

 

「一応そのままでもなんとかなりますが、変身する際にこれを使います」

 

 服の中からジュエルシードを取り出して、彼らに見せます。

 

「な!? ジュエルシードかよ! それまともに使えるやつ初めて見たぞ!」

 

『………………』

 

 まあ、最初は私も使えるとは思っていませんでしたし、当然の反応でしょうね。

 

「私のステータスが高校生レベルに上がるので結構便利ですよ、私以外が使うと暴走しますが」

 

「なんてチート…………」

 

 弟よ、これでもまだ私の一%未満なのですよ。

 私の特典を知ったら、どんなリアクションをするか楽しみですね。

 

『わかりきってたことだろ、お前の姉は現最強の転生者だ、それくらいありえねぇことじゃねえぞ』

 

 そう言ってツナを慰めている?リボーンさん。

 しかし、落ち込むツナとリボーンさんが急に話すのをやめた。 

 

「あ」『来るぞ』

 

 え? と私が思っていると辺りに変な音が響くのを感じました。

 ああ、テスタロッサさんたちが魔力を撃ち込んだのですね。

 私は何も感じませんでしたが、ツナ達にはきっとその前兆である魔力の波動を感じたのでしょうね。

 やはり、そういう類を感じるにはリンカーコアが不可欠なのでしょうか。

 

 そんなことを考えていると、世界が切り替わるような妙な感覚に襲われました。

 周囲の喧騒が消え、まるで私とツナたちしかこの世界にいないような、とても不思議な感覚です。

 

「なるほど、これが結界ですか」

 

 不可視のサードアイに複写眼をセットして、この術式をコピーしておきます。

 フェレットの術式は優秀ですからね、持っておいて損はないです。

 

「あ、なのはだ」

 

『「!?」』

 

 そうツナが呟いたのを聞いて、私とリボーンさんは同時にツナの頭を強引に下げ、私たちもうつ伏せになって辺りを警戒します。

 

 …………ふぅ、どうやら見つかってはいないようですね。彼女はそのまま通り過ぎていきました。

 ……あ。

 

「ツナ、大丈夫ですか?」

 

 ちょっと力を込めすぎたのか、さっきゴッって音がしましたが。

 

「な、なな何とか」

 

 …………………………うん、大丈夫ですね!

 

「では、はい望遠鏡」

 

 私はツナに望遠鏡を渡します。

 流石にツナの視力じゃどこまで見えるのか心配ですからね。

 さあ、ちゃんと原作通りになってくださいよ。

 

 そう思い、私はサードアイを戦場へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

 

「ところで姉ちゃんの分は?」

 

「私は一キロ先まで見えます」

 

「…………チートすぎるOrz」




お知らせ:
テスト期間につき、更新が不定期更新になるかもしれません


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第16話

一週間ぶりの投稿!
けれどテストは終わらないOrz
今回は少し長め
ではでは


「おお、始まった始まった…………」

 

 戦場から少し離れたビルの屋上に、状況を観察中の私、八坂七海です。

 状況は四対四、いえ厳密に言えば、一対一が二つに、二対二が一つという感じですかね。三つとも互角でどちらも一歩も引きません。

 内訳はなのはさんvsテスタロッサさん、狼vsフェレット、あとはテスタロッサ側の転生者がペアで攻撃しているのでなのはさん側も転生者同士で仕方なく組んでいるようです。

 

「それにしても転生者多いな、しかもリニス生きてるし」

 

 転生者三名に原作死亡者一人、あの場にいる半数が元はいないものなのですよね。うるさくなったものです。

 

「おそらく、あちらの転生者さんの使い魔となることで生きながらえたのでしょうね、しかし彼女ほどの有能な使い魔を維持して尚且つあの戦闘能力、…………少しツナの特訓メニューをキツくした方がいいかもしれないですね」

 

「え、マジ!?」

 

『よそ見なんてしてる暇なんてねぇぞ』

 

「痛ぇ!!」

 

 私の方に振り向いたところに、リボーンさんの鉄拳制裁が降る。

 まあ、待機モードのままなので実際は体当たりに近いですけど。

 

 あ、なのはさんの砲撃とテスタロッサさんの雷撃がぶつかりました。

 辺りに飛び散る魔力や光がとても綺麗です。

 

「すっげぇ、生で見ると迫力が全然違うわ…………、姉ちゃんには負けるけど」

 

 一言多いですよ。

 

『あたりめぇだ、そもそも七海を人間と同レベルに見ること自体間違ってんぞ』

 

 それって私のこと明らかに人外指定してますよね。

 

「あ、相手の女の子の体が変わってく、…………変身(トランス)か?」

 

「懐かしいですね~、ブラックキャット」

 

 トレインさんとか大好きでした。

 

「あ、俺はTo Loveる派だった」

 

「聞いてません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく見ていると、彼女らの大体の力量を測ることができました。

 

 ふむ、実力的にはテスタロッサ側転生者、士郎=岐路、フェイト=なのは、リニス、アルフ=ユーノ、といった感じでしょうか。あ、もちろん強い順です。

 

 原作と違い直ぐに終わらないのは、まあ人数が多いからでしょうね。

 一人二人ならまだしも、ああも大人数では中央にあるジュエルシードを取りに行けませんものね。

 その上人数も同数、必ず誰かが誰かの相手をしなければならないのですから、手っ取り早くあれを手に入れるには倒したほうが早いわけですね。

 ですが、

 

「これは結構長くなりそうですね」

 

 まあ、横で見ているツナには勉強になるのでしょうけど、私にとってはかなり暇なのですよね。

 残念なことに私は携帯ゲーム機なんて持ち合わせていませんので、暇つぶしもできません。

 …………こんなことならリボーンさんに丸投げして私は家で寝ている「あれ?」、おや?

 

 そんなことを思っていると、ツナが何かを真剣な面持ちで見つめています。

 

「どうかしたのですか、ツナ」

 

「いや、あのジュエルシードがなんかさっきより光ってるような気がして」

 

「…………リアリィ?」

 

 急ぎサードアイの「千里眼」解除して、「見稽古」に変更。

 

「これは」

 

『ああ、ヤベェな』

 

 あの八人が撒き散らしている魔力、それがジュエルシードに吸収されています。

 そのことに誰も気がついていません。お互いの相手のことで精一杯なのでしょう。

 けれど、このままでは少しまずいことになります。

 

 仕方ないので転落防止のために設置されたフェンスの上に登り、ペンダントを取り出す。

 

「リボーンさん、後はお願いしますね」

 

『ああ、分かったぞ』

 

「ちょ! 姉さ――」

 

 そして私はツナの言葉を最後まで聞かず、そのままビルから飛び降りた。

 一瞬の浮遊感の後、重力に引かれ私は落下する。

 夜の冷たい空気が全身に当たって少し肌寒い。

 

「さあ、出番ですよ茶々零」

 

 そう言って、私は祈るようにペンダントを握り締める。

 指の隙間から光が漏れ、私の体を包んでいく。

 

「アア、任セナ御主人サマ」

 

 一秒もしないうちに光は消え、再び現れた私は凶悪な機械人形の姿に変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~フェイト・テスタロッサ~

 

 

 戦闘が開始して何分経ったのだろうか?

 そんなことを考えながら、私は目の前の白い女の子と戦っている。

 いつもならアルフと一緒に戦うのだけど、今あの子はあっちのフェレットの相手をしている。

 妹のイブも私の先生のリニスも、男の子二人の相手をしていて手が離せない。

 だから私が彼女と戦っているけれど、思ったより長引いている。

 

「はあああああああああああ!!」

 

 私は精一杯の力を込めて、相棒を振るう。

 

「この!!」

 

 けれど刃は彼女に届かず、彼女の手、その上に生じたシールドに阻まれる。

 

 今度こそ決まったと思ったのに、また届かない。

 この子、前より格段に強い。

 シールドは硬い上に、彼女の砲撃に一度でも当たれば墜ちる。

 

 そう攻めあぐねていた時だった。

 

 ――――――――――――ドクンッ――――――――――――

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

 その場にいた全員が何か鼓動のようなものを感じた。

 皆が皆、その鼓動を感じた方へと視線を向ける。

 

「しまった、戦闘に時間をかけすぎたか」

 

 あちらの男の子、金髪の彼がそう言う。

 私たちの目に入ったのは青白い光を放つ、先ほど封印したはずのジュエルシードだった。

 さっきまでは何も感じなかったけれど、今は爆発寸前の爆弾のような危うさがヒシヒシと伝わってくる。

 

 このままでは危ない。

 

 そう思った私は急いでジュエルシードの元へ向かう。

 

「フェイト!?」

 

「なのは!?」

 

 しかし、それは白い子も同じだったようでこのままでは先に取られかねない。

 

「「間に合え!!」」

 

 自然と二人の声が合わさる。

 

 あと少し、あと少しの所まで近づく。

 けれど、私たちのどちらもそれに触れることはできなかった。

 

「きゃあ!?」「くっ!?」

 

 私たち二人共、ジュエルシードから放たれた衝撃波のようなものに弾かれる。

 私たちを弾いたそれは徐々に光を増していく。

 光が増すに連れて、ジュエルシードから発せられる魔力も高まる。

 つまりは時間切れ、あれはすぐに爆発するのだろう。

 小さな水晶でもロストロギア、もたらされる被害は想像できない。

 きっと、いや今近くにいる私たちは絶対にただじゃすまない。

 

「母さん」

 

 ごめんなさい。

 あなたの願いを叶えることができなくて。

 

 そう、私が覚悟を決めた時だった。

 

「JS・numberIX code・cessation」

 

 あの声が聞こえた。

 私があの褐色の男の子に追い詰められた時に助けてくれた、彼女の声が。

 

「な!?」「うそ……」

 

 驚く声が聞こえる。

 彼らが驚いたのも無理はない。

 その声が聞こえた途端、暴発寸前だったジュエルシードがピタリと活動を停止したのだから。

 実際に目にしている私も、信じられない。

 

「code・return」

 

 また、あの声が響く。

 その声に従うように、ジュエルシードは一直線に飛んでいく。

 そのまま飛んでいき、パシッと音を立て、建物の影から出ている人形の手のひらに収まる。

 

「そこにいるのは誰!?」

 

 イヴがそこにいるであろう人(?)に問いかける。

 

「ケケ、名乗ル程ノモンジャネエヨ」

 

 そう言うと、ゆっくりと彼女は影から姿を現した。

 

「ケド一応名乗ラセテモラウゼ、オレハ絡繰茶々零ダ、ヨロシクシナクテイイゼ、雑魚ニ興味ハネエカラナ」

 

 そうケタケタ笑う彼女。

 

「あ、あの時の」

 

「来やがったな!!」

 

 彼女の出現で、あちら側の全員が身構える。

 前々回に酷い目にあったのだから当然だろう。

 

「ケケケ、全ク何ヤッテンダヨ、モウチョットデ酷イコトニナッテタゼ、特ニソコノ2人」

 

 そう言って私と白い子を見る彼女。

 

「助けて、くれたの?」

 

 そう白い子が言う。

 

「マアナ、今ココデアンタラニクタバラレルト色々困ルンダヨ、主ニ御主人サマガナ」

 

 そう言って彼女は笑う。

 

「それに関しては礼を言おう、だがそのジュエルシードは渡してもらおうか」

 

 金髪の子が彼女にその槍型のデバイスを向ける。

 

「ケケケケケ、嫌ダト言ッタラドウスン「こうするのよ!」」

 

 彼女が言い終わる前に、イヴが死角から彼女に斬りかかる。

 今の彼女の右腕は彼女の体内のナノマシンによって巨大な刃と化しており、常に小さく振動しているそれは触れるもの全てを斬り裂く無敵の刃だった。

 

 今日までは。

 

「え!?」

 

 聞こえるのは何か、金属同士がぶつかる音と彼女の声。

 

「ケケ、発想ハイイガチョット惜シカッタナ」

 

 イヴの右腕を防いだのは彼女の持っている剣だった。

 ただしよく見る両刃ではなく、片刃で細長い、更に目を引いたのは刀身から柄まで全て水晶でできているようで、あちら側の光景が刀身から透けて見える。

 触れれば刃こぼれしそうな繊細なイメージに反して、それ一つでイヴの刃を防いでいる。

 

「何デ防ゲタカ分カラナイッテ顔ダナ」

 

 当然だった。

 あんな武器にもならないようなもので防げる理由が理解できない。

 

「理由ハ単純明快、コレダヨ」

 

 そう言って彼女はイヴを振り払い、剣の柄に埋め込まれているそれを皆にわかるように見せた。

 高々と見せつけられたそれに、私たちは驚きを隠せなかった。

 

「「「「「「「「ジュエルシード!?」」」」」」」」

 

 柄の中心に埋め込まれていたのは紛れもなくジュエルシードだった。

 

「ケケケ、ソウイウコッタ」

 

 私たちの驚いた顔を見て満足そうに彼女は笑う。

 

「成程、ロストロギアで刀を強化しているのか」

 

 そう言う金色の子の言葉に、彼女を首を横に振る。

 

「ケケ、残念ダケドハズレダ、コレハナ……ン」

 

 何か話そうとした彼女だったが、急に黙り込む。

 そして聞こえてくるのはまるで見えない誰かと話しをしているような、彼女の独り言。

 誰かと念話をしているのかな?

 

「分カッタヨ……、アア、ササット引キ上ゲルサ、……了解シタヨ」

 

 彼女は見えない誰かとの会話を打ち切って、私たちの方に向き直る。

 

「悪イナ、御主人カラオ叱リ&帰還命令ガ来タカラ帰ルワ」

 

 そう言って背を向け去ってい…………ちょっと待って!!

 

「「「「ジュエルシードを渡してください(せ)(して欲しいの)(してからにしろ)!!」」」」

 

 私と何人かの声が重なる。

 今奪われた一つと、彼女が持っていた一つ、私はそれを手に入れなければならない。

 

 そんな私たちの必死の様子に反して、彼女は面倒そうに返す。

 

「ア? 残念ダガオレハモウヤル気ガネエカラオ断リダ、…………コイツラト遊ンデナ」

 

 そう言って彼女は何か、小さくて丸いものを幾つものバラまく。

 三十を超えるそれらはカラカラと軽い音が響いて、それらは私たちの近くに転がる。

 

「何、これ?」

 

 そう言って白い子がその一つを拾おうとした時だった。

 

 ――――ボッ

 

「きゃ!?」

 

 それら全てに藍色の炎が灯る。

 白い子はそれに驚いて、慌てて手を引っ込める。

 

「これは、まさか!?」

 

 金色の子は何か知っているようだったけど、そんなことはどうでもいい。

 問題は小さなそれがモゾモゾと動き始めたことだった。

 ただの丸い球だったそれは、グニャグニャと形を変化させていく。

 最初は一センチ以下だったそれは、今はもう手のひらほどの大きさの星型の生物へと変わっていた。

 

「ヒトデ?」

 

「オット、タダノヒドデト思ッテルト火傷スルゼ、ジャアナ」

 

 そう言って今度こそ彼女は去っていく。

 

「「させるか!!」」

 

 イヴと褐色の子が彼女に切りかかろうとするけど、

 

「きゃあ!?」「なん!?」

 

 無数のヒトデが彼女らの行く手を遮る。

 そのヒトデは重力を無視するように縦横無尽に中を飛び、回転しながら体当たりでこの場にいる全員に襲いかかってくる。

 

「遅い」

 

 幸いにもそれほど速くないので私はそれを避け、他はシールドで防ぐ。

 

「え!?」

 

 白い子は驚いて声を出す。

 それも無理はないと思う。

 そのヒトデは彼女たちのシールドにぶつかった途端、粉々に砕けてしまったのだから。

 だけど、それだけじゃなかった。

 

「ちっ、これもアニメ通りかよ……」

 

 そう褐色の子が呟く。

 彼の視線の先を見ると、粉々になったヒトデの破片が集まり、大きなヒトデへとなって再生していた。

 

「これは、少し厄介ですね」

 

 誰かの声が聞こえる。

 再生し、さらに強力になるヒトデ。

 確かに少し厄介だ。

 気を引き締め、私はバルディッシュを握り締める。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちがそれを残さず殲滅した時には、もう彼女の後を追う力も残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ 七海~

 

「ただいま」

 

 今度は普通にドアから屋上へ入る。

 するとさっきの様子を見ていたツナが慌てて近寄ってきました。

 

「ちょっと! 匣兵器なんてどこにあったんだよ!?」

 

 ちょっとうるさいです。

 そんなに驚くことでもないでしょうに。

 

「造りました、あれは試作品ですよ、活動時間も短いので十分もすれば自然に壊れます」

 

 まあ十分に実験もしたのでもういらないですし。

 

『造ったって、そんな簡単にできるもんじゃねえぞ』

 

「ええ、普通はできませんよ」

 

 ちょっと三つ目の力を借りましたので。

 あれ、非常に頭がよくなるので便利です。

 

『それが七海の特典か?』

 

「まあ、その効果の一つと考えてください」

 

 正直全部話してもいい気がしますが、面倒なので誤魔化しましょう。

 

「さあそんなことより早く帰って晩御飯にしますよ、私はお腹がすきました」

 

 私は魔力を持っていないので茶々零に変身するエネルギーは代わりに体力が持っていかれるのです。

 前回は褐色君の魔力をいただいたので逆に体力が有り余るくらいでしたが、今回はジュエルシード操作に加え、匣兵器を使ったのでお腹ぺこぺこです。

 

『今日はママンの創作料理だぞ…………』

 

「マジですか…………」

 

 どうやら、私の戦いはまだ終わっていなかったようです。




イヴ・テスタロッサ
容姿:ブラックキャットのイヴ またはTo Laveるの金色の闇
性格:元気の塊
魔力量;S+
特典:ナノマシン
デバイス:リニス特性ストレージデバイス 特殊デバイスはなし
設定:アリシアを生き返らせる研究の副産物、
ナノマシンを埋め込まれたアリシアのクローン、
しかしナノマシンの影響か姿は髪の色以外は似ても似つかないようになってしまった……………………ということになっている。
また、彼女に特殊デバイスがないのは、あるとプレシアに不審がられるため。



茶々零 ver1.1
七海の意識を残したまま茶々零に変身できるようになった。
ジュエルシード製の刀が増えた。


2014/01/26 18:00
誤字修正


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第16.5話

四月二十七日。

 いつも通りのさわやかな朝。

 私は今、最近日課になりつつあるツナの早朝訓練をしてします。

 訓練の成果により、ツナが超死ぬ気モードを使いこなすことができました。

 いつもはダメツナさんですが、超モードだとすごく手応えがあって楽しいのです。

 リボーンさんに頼んで死ぬ気丸も作ってもらわなければなりませんね。

 …………しかし、

 

「は、ははぁ、はぁ…………」

 

「どうしたのです? いつもの調子が出ていませんが」

 

 今日のツナはいつもより明らかに動きが鈍っています。

 何か変のものでも拾い食いしたのでしょうか? 

 

「母さんの、御飯を食べた後、から、調子が悪いみたいだ」

 

「…………………………ああ、なるほど」

 

 あれは精神力を消費しますからね。

 味はまともなのですが、何故か一気にSAN値が削れます。

 昔から時折食べている私ですら未だ慣れないのに、ツナには少し刺激が強かったようですね。

 それでも私が初めて食べた時より大分マシですが。さすが男の子ですね。

 

「……訓練はここまでにしましょう、今日の朝食はまともなはずですので、それを食べたら家でゆっくりしていなさい」

 

 しかし、悪いことだけでもありません。

 あの料理を食べた人は必ず体の調子がよくなるのです。

 効果は血行促進、新地代謝の活性化、視力向上にアンチエイジングなど、そして何故か火傷にも効くという意味不明さ。最後のは夫婦愛がなせるものなのでしょうか?

 まあ、食べ慣れないと丸一日は気分がわるいままですけどね。

 それが唯一の欠点ですか。

 

「うん、そうするよ…………」

 

 死ぬ気モードが解け、先ほどより更に気分が悪そうになるツナ。

 しかし、ちょっとだらしないですね。

 

「あなたもこの家で暮らすのならお母さんの料理には慣れておきなさい、その調子では緊急時に遅れをとりますよ」

 

「けどさ、あれをどうやって慣れろって言うんだよ、完全に地球外の何かだったよ、あれは」

 

「大丈夫ですよ、あと二・三回くらい食べれば慣れてくるはずです、…………私なんて最初は丸三日寝込みましたから」

 

 思い出される過去の記憶。

 あの時、私はまだ四歳でした。

 当時の私は何の疑問ももたず、あの料理を食べてしまったのです。

 食べた瞬間にやってきたのは想像を超える不快感、味は普通なのに体の中の何かがそれを拒絶している感じでした。

 しかし、せっかくお母さんが作ってくれた料理なので吐き出すわけにもいかず、そのまま飲み込みました。

 それは食べた後でもその存在を主張しているかのように、私は感じることができました。

 全てを食べ終えた頃には私の中はその得体の知れない何かで満たされており、気持ち悪くてすぐに寝込んでしまいました。

 流石に三途の川に行く位まで、酷くはありませんでしたがあれが私のこの人生最初のトラウマとして記憶に刻み込まれました。

 

「姉ちゃん、よくそんなの食べてられるな」

 

 何やらツナから哀れじみた視線を感じます。

 

「昔のことわざに常住戦陣と言葉があります、私に休みはないのですよ」

 

「姉ちゃん、…………言いたいことはわかるけどそれことわざじゃないよ」

 

 あら、そうでしたか。

 どこかで聞いたような気がしたのですが………………、まあいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで姉ちゃん、今日はどうするの?」

 

 学校に向かうまで少し時間があったので、庭でてぃんだろすと戯れていた私にツナが声をかけてくる。

 

 むぅ、せっかくいい感じにモフれていたのに…………。

 

「今日? ……ああ、管理局のあれですか」

 

 そのことを話す前に辺りを確認する。

 ふむ、てぃんだろすとツナ以外には誰もいませんね。

 

「今日はいきません、ハラオウン執務官に丸投げします」

 

「え、あいつ一人で大丈夫なの?」

 

 ツナが意外そうに驚いています。

 何を不思議に思う必要があるのでしょう?

 

「彼は優秀な執務官なのは知っているでしょう? ならばきっと何とかしてくれますよ」

 

「でも、あいつ一人で八人全員抑えられるとは思えないんだけど?」

 

「……ああ、そういうことですか」

 

 ようやくツナの言いたいことがわかりました。

 要は、執務官一人では戦力不足と言いたいのですね。

 

「何も正面から叩き伏せることだけが勝利ではありません、それに実力的にはあなたよりだいぶ上ですよ」

 

「マジで!? ……あ、まあ俺は五歳児だし仕方ないのか」

 

「そうですね、まあ、変身魔法ありでも運がよければ引き分け、といったところですが」

 

「oh…………」

 

 両手両足を地面につけ、激しく落ち込むツナ。

 実力と経験のある執務官と少し鍛えただけのツナとではそれは当然の結論でしょうに。

 

「あなたはまだまだ力が足りません、肉体的なことは変身魔法でごまかすとして、残りの部分は私が匣兵器を造っておくのでそれでカバーしてください」

 

 A'sまでには未来編の白蘭とまともに戦えるくらいにはなってもらわないと困ります。

 原作のように急激な成長はできないかもしれませんが、まだ半年以上もありますのでなんとかなるでしょう。

 

「俺専用の匣兵器かぁ……、それってやっぱりナッツになるの?」

 

 手足についた土をはらい、気を持ち直したツナがそう私に聞いてきます。

 

「ええ、それも一応考えてはいますが、……他に何か欲しいものはありますか、一応オリジナル匣兵器も渡すつもりではあるのですが」

 

「オリジナルの匣兵器!? そんなのがあるの!」

 

「できなくはないですよ、モデルのDNAがあればなんでも匣兵器にできますし」

 

 扱いきれるかは別ですが。

 

「バウ! バウバウ!」

 

「おや、ありがとです、てぃんだろす」

 

 どうやら少し話しすぎたようですね。

 これ以上遅れると遅刻してしまいそうです。

 

「姉ちゃん、てぃんだろすが何言っているか分かるの?」

 

「ええ、長い付き合いですからね、サードアイなしでも大体はわかりますよ」

 

 ちなみにサードアイを使うとこうなります。

 

《お嬢、学校の時間ですぜ、弟君とのご歓談ももうそろそろおしめぇにして下せい》

 

《てぃんだろすは本当に犬なんだろうか? 時々人間以上に気が利くけど、新手の転生者なんじゃないか?》

 

 近くにいるツナの思考まで読んでしまいましたか。

 おや? まだ誰か、

 

《今日の昼ご飯は何にしましょう? カレーでもいいですけど、今朝送られてきた?????の×××炒めにして、お惣菜はうち――》

 

 サードアイ緊急停止!!

 流れ込んでくる冒涜的な思考イメージをサードアイを消して防ぎますが、先に読んでしまったイメージが頭に残り、私を苦しめます。

 

「うう…………」

 

「姉ちゃん!?」

 

 耐え切れず今度は私が地面に膝をつく。

 ついサードアイの効果範囲内にいるお母さんの思考まで読み取ってしまいました。

 おかげで余計にSAN値を減らしてしまいましたよ。

 

「ツナ………………」

 

「何? 姉ちゃん」

 

「頑張ってくださいね」

 

「何を!? 何を頑張るの俺!?」

 

 こればかりは私にも止められません。

 唯一それを止められるお父さんはまだ出張から帰ってきません。

 ああ、今どこで何をしているのでしょう。

 あなたのイジメじみた修行がないのは楽なのですが、彼女の唯一のブレーキ役であるあなたがいないと、我が家が冒涜的な何かに侵略されてしまいます。

 おそらくロクなことはしていないでしょうが、お願いですから早く帰ってきてください。

 

 でないと、私のSAN値がもちません。

 

 

 




今回は短め、悩みましたがこうするのがいいと思いました。

しかし、前半の部分のみを投稿するという大失敗をしてしまったorz
いくら眠かったとはいえこれは酷い・・・・・・


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第17話

 

 四月二十七日 放課後。

 

「うう、まだ気持ち悪い……………………」

 

 朝に見た母の脳内神話は未だ私の精神を蝕んでおり、おかげで学校が終わってもまだ気持ち悪いのです。

 なんというか、あれは人類以外の何かですね。絶対そうです。

 

 「あの…………」

 

 こんなことならツナに送り迎えをお願いするべきでしたね。

 正直一人で歩くのも少し辛いです。

 携帯電話は……家に置いてきましたね。まったくもって運の悪「ちょっと聞いてるの!?」

 

 そんなことを考えていると、すぐ近くから女の子の声が聞こえました。

 

「私、……ですか?」

 

 気配を探ると、少し近くに二人、独特の気配を放つ少女がいました。

 それはまるで太陽と月のように、片方は温かく、もう片方は冷たさを感じさせながらも光をはなっているようでした。

 しかし、この太陽の気配、どこかで感じた気がします。……いや、似た気配を感じたことがあると言った方が正しいですか。

 

「そうよ! ……あんた顔色悪いけど大丈夫なの?」

 

 太陽のような明るい色、彼女と過ごした時間は短かったですが、私の中では良い思い出となっています。今でも時々手紙(まあ、音声媒体ですけど)のやり取りをしていま…………ああ、そういうことですか。

 だとすると彼女と似た気配なのも頷けますね。

 彼女はあなたの前身、前世とも言うべき人間ですから。

 二人が存在しているこの世界が異常なのだけですね。

 

「いえ、正直なところ、かなり気分が悪いです」

 

 ここで嘘を言っても彼女を怒らせるだけなので、こう言っておきましょう。

 多分顔にも出てるでしょうしね。 

 

「あの、よければ私たちの車に乗っていきませんか? そんな体じゃ危ないと思う

の」

 

 月のような彼女が言う。

 ふむ、ここは好意に甘えるとしましょう。

 彼女たちなら、原作知識ですが、信用できますし。

 

「ああでは、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 私がそう言うと、パッと二人の気配が明るくなる。

 私が断ると思っていたのでしょうか。

 …………普段なら、この二人でなければ断っていたでしょうね。

 

「じゃあ、ちょっと待ってなさい、今家に連絡するからね」

 

 カバンから携帯電話を取り出して、どこかにかける彼女。

 ……ああ、すっかり忘れていました。

 

「遅れましたが、私、八坂七海と申します」

 

「あ、私は月村すずかといいます、あっちで電話をしてるのはアリサ・バニングスちゃん」

 

「初めまして、月村さん」

 

「すずかでいいよ、アリサちゃんも「アリサでいいわよ!」、電話終わったの?」

 

 話し終えたのか、アリ……バニングスさんでいいでしょう、バニングスさんがこちらにやって来ました。

 

「もうすぐでこっちに着くってさ、……あんたさ、体調が悪いなら素直に休みなさいよね! こっちがいい迷惑よ」

 

「アリサちゃん……、でも無理しちゃダメだよ、風邪でもちゃんと休まなきゃ」

 

 言えません。

 母の料理が原因なんて、口が裂けても言えません。

 

「ええ、次からはそうしますね」

 

 私としては次がないことを願いますが。

 

「あら、意外と素直なのね、時々一人でいるのを見かけてたから、てっきりそういう感じの人って思ってたけど」

 

 無形のナイフが私の心にダイレクトアタック。

 …………うう、どうせ友達少ないですよ。

 

「アリサちゃん! 思ってても口にしちゃだめだよ」

 

 無形の剣が私の心を一刀両断。

 すずかさん、あなたも思っていたのですか。

 

 とりあえず、ここは大人の対応で返しましょう。

 

「いいえ、私としてはお話したいのですが、何故か皆近づいて来ないのですよね」

 

 時々変態じみた視線は感じますが。

 

「あ~、それは少しわかるかも」

 

「そうだね、七海ちゃんは美人さんだしね」

 

「……はは、ありがとうございます」

 

 自覚しているとは言え、他の人から言われると少し照れますね。

 

「あ、笑った」

 

「え?」

 

 すずかさんが私を見て言います。

 私は手で顔を、口の周りを触ってみると少し口角が上がっています。

 

「あんた一人で本読んでる時よりそっちの顔の方が似合うじゃない、もっと笑いなさいよ」

 

 そう言って私の体中をくすぐり始める彼女。

 

「くく、ちょっと、アリサさん、や、止め――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい! 調子に乗ってやりすぎたわ!」

 

 両手わわせ、頭を下げる彼女。

 私は乱れた服を整えます。

 彼女にいいように弄ばれたせいで、体が熱いです。きっと顔も真っ赤ですね。

 

「いいですよ、私もあんなに(強制的に)笑ったのは久しぶりですからね、少しばかりスッキリしました」

 

 そう言えば、こちらに来てから大笑いして記憶なんてありませんね。

 それどころじゃなかったのが大半ですが、私はそこまで笑わない人間でしたっけ?

 

「あ、アリサちゃん! 車来たみたいだよ」

 

 少し離れたところのいるすずかさんの声と、車の音。

 

「どうやら来たみたいですね」

 

「そうみたいね、さ、こっちに来なさい」

 

 そう言って私の手をとって歩いていくバニングスさん。

 その手はほんのり温かく、触っているだけで元気が流れ込んでくるような感覚があった。

 彼女はそのまま車の前まで連れてくると、車を運転手に開けさせ、私を先に乗せてくれました。

 すずかさんは私が手渡した住所を書いた紙を運転手さんに渡していますね。

 その後すずか、バニングスさんと乗り込み、車は発進します。

 

 けれど、少し妙ですね。

 

 二人は気づいていませんが前にいる運転手、妙にすずがさんに敵意を向けていますね。

 個人的に何かあったのでしょうか?

 にしても、それを顕にするのは従者失格ですよ。

 

「あれ?」

 

「どうかしましたか?」

 

 外を見ていたすずかさんが声を上げます。

 気になった私は彼女に問いかけますが、…………嫌な予感がしますね。

 

「いや、いつも通る道と違うなって…………」

 

「そう言えば…………、っていうかその前に七海の家に行くんだから当たり前じゃない」

 

「でも、私住所見たけど、方向が全然違うよ」

 

 ああ、私の嫌な予感が現実のものとなってしまいましたか。

 

「ホント!? ちょっと、なんで七実の家に行かないのよ!!」

 

 怒気を孕んだ声でバニングスさんは運転手さんを怒鳴りつけます。

 それを聞いた彼はククク、と笑い始めます。

 

「な、何よ…………」

 

 彼の異様な様子に気圧されたのか、バニングスさんの声が小さくなります。

 

「ああ、いつまでお嬢さん気取りなのかおかしくてな」

 

 そう言うと彼はかぶっていた帽子を脱ぎ捨て、その顔を二人に見せつけました。

 

「あ、あんた誰よ!?」

 

 どうやら知らない人のようでした。

 にしても私は本当に空気ですね。すごい暇で……?

 

「――――――――――――」

 

 すずかさんの様子がおかしいです。

 彼の素顔が見えた途端、小さく震えています。

 いえ、顔ではありませんね。

 顔ならばカードを渡した時に気がついてもいいでしょう。

 ならば、彼が身につけている何か。

 それを見てこうなった、と考えたほうが妥当でしょう。

 

 集中。

 音の形を聞き、彼の体を(嫌ですが)調べる。

 先ほどと異なる点、首元にある十字架のペンダントですか。

 帽子を脱いだ時についでに服の中から取り出したのでしょうね。

 

 …………大体何が起こっているのか把握しました。

 バニングスさんがいろいろと話しているようですが、きっと無理ですね。

 さて、今回は二人もいますし、できれば穏便に済めばいいのですが。

 

 そんなふうに思う私を乗せたまま、車は人気のない町外れへと走っていった。

 



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第18話

 海鳴市の外れの山奥。

 そこにあった別荘みたいな所に私たちは連れてこられた。

 アイツは準備があるからと言って私たちを奥の部屋に押し込め、出て行ってしまった。

 幸いにも荷物や服装はそのまま、手足も拘束されてないから窓から出ようと思ったけど、鍵は開いてるはずなのにビクともしない。

 頼みの携帯電話も、

 

「……どう、アリサちゃん?」

 

「……ダメ、全然来ない」

 

 画面を見てみるけど、やっぱり圏外。

 

「どうなってるのよ、車の中からずっとこうじゃない……」

 

 運転手が誘拐犯だと分かった時からずっとこうだ。

 急いで士郎さんに連絡しようとしたけど、何故か圏外。

 もう訳がわからない。

 あの車にはジャミング装置なんてついてないわよ!

 

「七海は?」

 

「相変わらず寝てるみたい」

 

 振り返ってみると、すやすやと寝息を立てる彼女の姿があった。

 

「この部屋に閉じ込められてすぐに、『暇なので寝ます、起こさないでください』って言って本当に寝ちゃうんだから、何考えてるかさっぱりわかんないわよ…………」

 

「ははは……、すごいよね、こんな時でも落ち着いてるなんて、私なんて………………」

 

「気にすることないわ、七海の神経が図太すぎるだけよ、……まったく、どういう育ちをしたらこうなるのやら」

 

 つんつんと、彼女の頬を指でつついてみるけど起きない。

 こんなふうに寝られると、焦ってる私たちがバカらしくなってくるわね。

 

「七海のことはさて置き、どうやって逃げるか考えなきゃ、……そもそも、私たちはアイツの目的も知らないのに」

 

 私がそう言った途端、すずかの表情が曇る。

 

「すずか? どうかしたの?」 

 

「…………ごめんなさい」

 

 突然すずかが謝ってくるけど、意味がわからない。

 

「私が、二人を巻き込んじゃった……」

 

 巻き込んだ?

 

「……すずかは、アイツが誰か知ってるの?」

 

「あの人は知らないけど……、身につけていた十字架には見覚えがあるの」

 

 十字架?

 ……ああ、確かにそんなのつけてたわね。

 イカレタ宗教者くらいにしか思っていたけど、組織の証みたいなものだったみたいね。

 

「何? あの十字架つけてる奴らがみんなすずかを狙ってるって言うの?」

 

「正確には私の一族を、だけど、…………すごく前にお互いに干渉しないって約束をしたはずなのに」

 

 そう言ってすずかは俯く。

 その顔は巻き込んでしまったという罪悪感でいっぱいで、とても悲しそうだった。

 何で、すずかがそんな顔しなくちゃならないのよ…………。

 

「ムカつくわ」

 

「アリサちゃん?」

 

 私は強く拳を握り締める。

 爪が食い込んで痛いけど、私の怒りはそんなのもじゃ収まらない。

 

「一族が何だか知らないけど、すずかが何かしたわけじゃないんでしょ! 何であんなのに狙われなきゃいけないの! おかしいわよ!!」

 

 力いっぱい、私は叫ぶ。

 

「すずかが他人に迷惑かけるような奴じゃないのは私がよく知ってる! なのはもきっと、いや絶対同じはずよ!!」

 

 なのはがここにいたらきっと同じことを言ったと思う。

 私たち三人は一年生の時からずっと一緒なんだから、それくらいわかる。

 …………昨日喧嘩しちゃったけど、近いうちに仲直りしてみせるわ。

 

「けど、「be quiet!」!?」

 

 すずかが何か言いたそうだったけど、その前に私は言う。

 

「たとえすずかがどんな一族の末裔でも、私はあんたの親友よ! これだけは絶対に変わりようがない事実なんだから!!」

 

 これは私の本心、真実。

 

「たとえすずかが「化物でもか?」!?」

 

 背後から聞こえた声に、私は急いで後ろを振り返る。

 

「こんな化物を人間扱いとは流石バニングスの一人娘、俺なんかとは器量がちげえや」

 

 この部屋の唯一の出入り口に寄りかかり、両手に大きな剣みたいな物をもったアイツがいた。

 その顔はおかしなものを見たかのように笑みを浮かべている。

 ……いや、そんあことよりも!

 

「あんた、今すずかのことを化物って言った?」

 

「ん、ああ言ったよ」

 

 こいつは、何でもないかのようにそう言う。

 

「すずかは化物なんかじゃないわ! 大体。、人をこんな所まで誘拐しておいて、あんたは一体なんなのよ!!」

 

「………………」

 

 私がそう言うと、アイツは急に黙り込む。

 ……いや、体を震わせて、

 

「……く、っくくく、はははははははははははははははは!!」

 

「な、何がおかしいよの……」

 

 狂ったように笑うそいつに少し驚いたけど、それを表に出さないように、アイツに問いかける。

 

「っは……、いや、てっきりお友達には話してると思ったが、どうやらそうでもないみたいだな」

 

 アイツがそう言ってすずかを睨む。

 すずかはびくりと体を震わせると、怯えた目でアイツを見つめる。

 

「こいつはな、「いや…………」こいつらの一族はな「言わないで……」」

 

 すずかの懇願も虚しく、アイツはこう言った。

 

 

 

 

 

            「吸血鬼っていう化物なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 一瞬、私の頭は真っ白になった。

 吸血鬼?

 そんなのおとぎ話に出てくる空想上の生き物でしょ?

 

 そう思ってすずかを見てみるけど、彼女の顔は絶望に染まったような悲嘆の表情を浮かべていた。

 ただの冗談では、こうはならない。

 だとすると、本当に吸血鬼?

 

「正確には吸血鬼の子孫、が正しかったか? 数百年前にいた最強の吸血鬼、人以上の運動能力に、何人をも寄せ付けない特異な力をもった一族、その末裔がこのガキだよ、差し詰めそんな人外をぶち殺すのが俺らの仕事ってわけ、こんな化物の一族なんて、生きてるだけで俺らの害悪にしかならないんだからさ」

 

 聞いてもいないのにぺらぺらと勝手に教えてくれる。

 おかげで、大体のことはわかった。

 

「……だから何よ」

 

「あ?」

 

 怪訝な表情で私を見つめるアイツ。

 そいつの目を見て、私は言う。

 

「さっきも言ったわ! 私はすずかがどんな一族の末裔でも、私はあの子の親友よ!! たとえ吸血鬼でも、それはぜっっっっっっっっっっっっったいに! 変わらないんだから!!!」

 

 全身の血液が熱く、沸騰しているかのようにも感じる。

 息も荒れ、喉も痛い。

 それほど、私はアイツが許せない。

 私の親友を、すずかを化物扱いしたコイツが許せない!

 

「……はは、傑作だわ」

 

 剣を逆さに持ったまま、アイツは右手で顔に触れる。

 

「化物のお友達は狂人ってか、こりゃ話すだけ無駄だわ」

 

 手を離したアイツの顔に笑みはなく、冷たいガラスのような目で私たちを見つめていた。

 

「しゃあない、こいつだけ殺して終わりにするつもりだったけど予定変更、全員殺すことにするわ」

 

 それを聞いて、私の鼓動が早まるのを感じた。

 

「全員て、まさか七海も!? 彼女は今日出会っただけの部外者よ! 殺すなら私だけにしなさい!!」

 

「あ? そんなの誰が信じるかよ、化物と友達なだけで同罪だ」

 

「そんな…………」

 

 すずかの顔が一層悲しみに染まる。

 っく、何か、他に手はないの!?

 小学三年生の私たちじゃ、大人の男には敵わない。

 いくら考えても、待っているのは死という現実だけ。

 

「じゃあな、恨むんならそいつと出会ってしまったことを恨みな」

 

 そいつが右手を振り上げる。

 きっと、すぐにその刃が私を切り刻み、ただの物言わぬ死体へと変えるのだろう。

 ああ、こんなことなら、なのはと喧嘩なんてするんじゃなかったなぁ。

 

 なのは、私のもう一人の親友。

 あの子には四郎も岐路もいるから心配はいらないだろうけど。

 私がいなくなったら、きっと泣きじゃくるだろうな。

 

 お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許し下さい。

 

 ああ、神様。

 会った事はないけど、どこかにいる神様。

 私はどうなっても構いません。

 どうか、すずかがここから逃げられるように、この先も幸せで暮らしていけるように、彼女を見守ってください。

 

 景色が色をなくし、それがとてもゆっくりに見えた。

 このような現象を私はテレビで見たことがある。

 脳が危機を感じてリミッターを解除している状態だったかな?

 そんあ状態だったから、私はそれをはっきり見ることができた。

 ゆっくり、とてもゆっくり迫る刃。

 そして、あいつの腕が外側に、有り得ない方向に捻れて、その剣を自分の脚(・・・・)に突き刺した。

 

「え?」

 

 アイツ自身も、何が起きたのか全くわかってなかった。

 当然だろう。

 急に腕が折れて、持っていた剣が自分に突き刺さるなんて普通じゃありえない。

 

 まさかすずかが?

 とも一瞬思ったが、彼女も何が起きたのかわからない、というふうに驚いている。

 

 じゃあ誰?

 窓の外を見ても誰もいない。

 扉の奥にも、誰もいない。

 ここには私たち以外、誰もいない。

 

 いや、本当は誰がやったかなんて、分かりきってる。

 私はゆっくりと、彼女の方を振り返る。

 

「なな、み…………」

 

 そこには杖を捨て自分の足で立ち、虹色に光る両目で私たちを見つめ、アイツ以上に狂った笑みを浮かべている彼女がいた。

 

 

 




吸血鬼
 妖怪。
 弱点は日光や銀など、一般伝承とあまり変わりないが、本当に強いものになるとそれらさえ効かなくなる。
 特殊能力を持った者が多い。


月村家
 妖怪、吸血鬼の血を引く一族。
 数百年前、無敵の吸血鬼と人間が結ばれ、子を成したことにより彼らは吸血鬼の力を持つようになった。
 現在では大分弱体化しているが、日光も流水も効かないなど、吸血鬼としては異常な特性が受け継がれている。
 聖堂教会・魔術教会と不可侵協定を結んだのは約八十年前。



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第19話

 

「え、あ、…………がああがああああああああああがあああああああああががあああああああがあ!!!?」

 

 男が悲鳴を上げる。

 皮膚を、筋肉を、血管を切り裂いた痛みが、彼の全身を駆け巡る。

 男はその場にうずくまり、傷ついた右足を押さえる。

 

「少しうるさいですね…………」

 

 七海は彼の方へ視線を向ける。

 その瞳には一切の感情はなく、まるで道端に落ちているゴミクズを見ているように感じられた。

 七海にとって男は、ただそれだけの存在だった。

 

「七海、ちゃん?」

 

「ん? ああ、すずかさん、おはようございます」

 

 驚くすずかに、七海は笑顔でそう返す。

 今さっき、人を傷つけたとは思えない程、綺麗な笑顔だった。

 

「七海……、あんた今、何をやったの?」

 

 冷静さを取り戻したアリサが七海に問いかける。

 友人の常識を逸した秘密、それを知った彼女には今の状況を飲み込むことは然程難しくなかった。

 

「ああ、少し、あの方の腕を曲げさせていただきました」

 

 少しと言うが、九歳の少女が、それも直接触れずに成人男性の片腕を折ること自体が異常だ。

 それを彼女は何となしにそう言った。

 彼女にとって先ほどの出来事は、取るに足らないということだ。

 

「あ、があああ!!」

 

 男が一際大きく声を上げる。

 少し後にカラン、と音を立てて剣が床に落ちる。

 男が力を込めて、右脚に刺さっていた剣を引き抜いたのだ。

 

「く、そ……」

 

 その後、すぐに懐から包帯を取り出し、それを脚に近づける。

 すると包帯自体が意志を持ったかのように独りでに動き、彼の脚を血がもれないように、渾身の力を込めて、縛り付ける。

 

「あら、あなたは魔術師だったのね」

 

 七海がそう言うが、男は応えない。

 しばらく痛みに苦しんだ後、男はようやく顔を上げる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…………、お前」

 

 顔を汗で濡らし、怒りの表情で七海を見つめる。

 

「その目は、魔眼、か?」

 

 その息は乱れ、今にも倒れそうな印象を受けた。

 アリサは魔眼とは何かわからず頭にクエスチョンマークを浮かべ、すずかと共にその目を見つめる。

 その目は明らかに普通の瞳ではなく、見る度に、いや見ている間にも刻々とその色を変えている。

 それはまるで万華鏡のようであった。

 

「ええ、そうですが、何か?」

 

「……………………」

 

 七海の返事に、男は応えない。

 

「…………ああ、そうか、なら問題ねえな」

 

 ぶつぶつと、小さく何かを呟いている。

 

「何? 聞こえませんよ?」

 

 そう言って、七海は近づく。

 その時、男の顔が怪しい笑みを浮かべたのをアリサは見逃さなかった。

 

「ダメ! 急いでそいつから離れなさい!」

 

 アリサは七海に警告するが、手遅れだった。。

 

「……え?」

 

 ドス、と小さな音が響き、七海は音の発生源である彼女の胸元を見る。

 彼女の体の中央、胸と胸の間から鋭く光る刃が顔を覗かせていた。

 

「かかったな、クソガキ!」

 

 彼がそう叫ぶと、それに反応してこの部屋のいたる所から刃が飛び出し、七海の全身を突き刺す。

 

「あ………………」

 

 この部屋にはある仕掛けが施されていた。

 外界との接触を断つ魔術的な結界に加え、術者の思うがままに対魔武器を発射する結界と、二重の結界が張られていたのだ。

 

「七海!?」「七海ちゃん!?」

 

 手足を貫かれ、肺を切り裂かれ、心臓をぐちゃぐちゃにされた彼女は、そのまま床に倒れ落ちる。

 男はそれを見ると、勝ち誇ったように声を上げた。

 

「はは、魔眼なら死角からの攻撃が有効って、相場が決まってるんだよ! 残念だったなクソガキが!」

 

 彼女の体を中心に、血が流れ出す。

 確認するまでもない、彼女はもう、死んだ。

 そうこの場にいる全員が確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            「あら? もう終わりですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男がアリサに視線を戻そうとした時、確かに聞こえた。

 

 男は恐る恐る、振り返る。

 

「はは、ありえねえ…………」

 

 彼女は、立っていた。

 骨が折れ、心臓が潰れ、致死量を超える血液を流してなお、彼女はそこに立ちすくんでいた。

 

 アリサとすずかも言葉を失った。

 ありえない。

 彼らの常識がそう訴える。

 けれど、目の前に起きている出来事を否定できる材料が、見つからない。

 

「では、次は私の番ですね」

 

 唖然とする彼らを気にもとめず、七海は刃が突き刺さった腕を上げる。

 右手でピストルの形を作り、それを彼に向ける。

 

「バン」

 

 と彼女が発した時には、彼の左腕は消えていた。

 彼らには何が起きたのかわからなかった。

 ただ、瞬きした後に、彼の腕が消え去ったとしか理解できなかった。

 

「ああ腕が! 俺の腕が!」

 

 混乱しているからか、男は痛みを感じなかった。

 泣き喚く彼に七海は眉をひそめて、こう言った。

 

「うるさい」

 

 彼女がもう一度その手を男に向けると、男の頭部は跡形もなく消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              「ジャスト一分」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「え?」」」

 

 その声に、全員が正気を取り戻す。

 彼らが最目にしたのは、あんなに切り裂かれたにもかかわらず傷一つない七海の姿。

 それだけではない。

 男の頭部や左腕もまた、まるで消えたことがなかったかのようにそこにあった。

 

 男は膝から崩れ落ち、左手を地面について、荒々しく息を乱して震えている。

 

 七海は彼に近づき、人差し指を口に当てて、彼に尋ねる。

 

「いい悪夢(ゆめ)は見れましたか?」

 

 彼はゆっくり顔を上げ、虚ろな目で応える。

 

「ゆ、め、だと…………」

 

「ええ、あなたたちは私の目を見た時からずっと、夢を見ていたのですよ」

 

 目を合わせた者に一分間だけ幻覚を見せる「邪眼」。

 これが今回使った魔眼である。

 

「この、化物…………」

 

 その言葉を最後に、精神が限界に達した彼は意識を失った。

 

「ええ、私は化物です」

 

 当然とばかりに、彼女はそう返す。

 

「こんな私が、人間であっていいはずありません」

 

 そう言った彼女の目は、どこか悲しそうに見えた。

 

「七海、ちゃん…………」

 

 すずかは立ち上がり、彼女に近づこうとする。

 

「すずかさん」

 

 その前に、七海はその虹色に輝く瞳ですずかを見つめる。

 その目に気圧され、すずかは足を止める。

 

「怖い、ですか?」

 

 その目を開いたまま、すずかに問いかける。

 

「え、あ、その…………」

 

 そんなとこはない、そう言いたかったすずかだったが、口が震えて思うように声がでない。

 その様子を見て、七海は笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        「なら、あなたはれっきとした”人間”です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 すずかは彼女が何を言っているのかわからなかった。

 今の今まで、家族すら、彼女のことを人間と言った人はいなかったからだ。

 

「このような状況を引き起こした張本人に恐怖を感じる、それは人間なら当たり前のことです、本当に化物ならばこれくらい何も感じませんよ」

 

 私のように、と彼女は付け加える。

 

「まったく、本当に酷い人ですね、少し吸血鬼の血を引いているだけで化物扱いとは、可笑しすぎて笑えます」

 

 その笑顔からは先ほどの狂気は消え去り、本当に同一人物なのか疑わしいほどだ。

 その変化についていけず、二人は何も言えない。

 

「ああそういえば聞くのを忘れていました」

 

 ふと、思い出したかのように七海は扉の方を向いて、尋ねる。

 

「あなたがたはどちら様ですか?」

 

 誰もいない場所に話しかける七海。

 その声に反応する人などいない、はずだった。

 

「あら、バレてましたか」

 

 そう扉からは見えない死角から、女性の声が聞こえた。

 

「だから言っただろう、バレているぞと」

 

 今度は男性の声。

 

「相談は後にして先に出てきて自己紹介などをしてくださると、ありがたいのですが」

 

 七海がそう言った少し後、彼らは姿を現す。

 

「申し遅れました、私はシエルと申します、こちらはアレクサンドロ・アンデルセン神父」

 

 紺色のシスター服に身を包んだ女性がそう答え、

 

「我らは神の代理人、神罰の地上代行者、我らが使命は、我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること、Amen!」

 

 あの男と同じ十字架を身につけた神父が、両手に持つ銃剣を交差させ、そう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、そう言い放った神父の横で、困った表情でシスターは頭を抱えていたという。

 

 

 

 

 



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第20話

「「「……………………」」」

 

 突然現れ、妙な自己紹介をした神父に私たちはただ絶句するしかありませんでした。

 それを察したのか、隣にいるシエルさんが彼に話しかけます。

 

「アンデルセン神父、彼女たちビックリしちゃってますよ」

 

「ふむ、……教会の子供たちにこれをするとすごく喜ばれるのだが、ダメだったようだ」

 

「慣れないことはするもんじゃありません、あなた普段はそんなこと言わないじゃないですか」

 

 なるほど、彼なりの場を和ませるジョークだったようですね。

 まったく通じていませんが。

 

「とりあえず、詳しい話は私がしますので、彼の回収をお願いします」

 

 わかった、と彼は銃剣をしまい、倒れている彼を担ぎ上げる。

 できればアレは抹殺したいところですが、今ここで荒事起こすのは得策ではありませんか。

 

「えっと、あなたが月村すずかさんよね、助けに来たわ」

 

「待って!」

 

 近づこうとした彼女をアリサがすずかの前に立ちふさがります。

 

「あんたたち、アイツと同じ十字架をつけてるってことはアイツの仲間よね、事情を説明してくれないとすずかに近づけさせないわ!」

 

 力いっぱいシスターを睨むアリサ。

 彼女自身何もできないことはわかっているのでしょうけど、友達の危機を前にして何もしないわけにはいかないのですね。

 ああ、やっぱり、人間ていいですね。とても美しい。

 

「あらら、それは失礼しました、確かに信用できませんよね」

 

 頭を掻き、苦笑する彼女。

 

「そうですね、まずは月村家との協定について話したほうが分かりやすそうですね」

 

 

 

 

 

「今から約八十年前、私たちが所属する聖堂教会と所謂魔術師が所属する魔術協会

は月村家の管理するここ、海鳴市に手出しをしない、と言う協定を結びました、この街では私たちは悪魔退治もできませんし、魔術も使えません、その代わりに月村家は金銭的に私たちの援助をしてくださる、といった感じです、ですがここ最近発生した怪異に教会が探している”もの”かもしれない、と調査命令が下されちゃいまして、今日は月村家との会談のために私とアンデルセン、あと貴女たちをさらったあの人の三人でやって来たわけです、本来ならそのまま何事もなく終わるはずだったのですが、…………まさか彼があんな強硬手段にでるとは思いもしませんでした、これはこちらのミスですね、深くお詫び申し上げます」

 

 

 

 

 

 ぺこり、と頭を下げる彼女。

 

「え、あ、そうなの…………」

 

 事情は大体飲み込めましたが、魔術やら聖堂教会やら、訳の分からない単語を連発したせいで、流石のアリサさんも若干許容量を超えているようですよ。

 まあ、この状況で騒がないだけでも立派です。

 ………………私なんて半分くらい聞き逃してしまいました。

 

「ここを突き止めた時も、本来ならすぐに突入して制圧したかったのですが、アンデルセン神父に止められてしまいまして、……まあ、理由はすぐにわかりましたが」

 

 そう言って私を見る彼女。

 はて、どこかで会いましたっけ?

 

「まさか志々雄さんの娘が巻き込まれているとは思いもしませんでしたよ」

 

「ふぁ!?」

 

 え、嘘、リアリィ!?

 いや確かに三人とも人外クラスですけど、いつどこで知り合ったのですか!?

 

「父を、ご存知なのですか?」

 

「ええ、傭兵ようなことをしている貴女のお父さんとは仕事で何度も協力し、殺しあった仲です」

 

 お父さん、もう少し仕事は選んでください。

 

「毎年、お母さんから年賀状が届くので、貴女のことも知っていますよ、いくら住所を変えても何故か届くのでもう諦めました」

 

 えっと、その、…………うちの両親がすいません。

 心の中でそっと謝ります。

 ですが、そうなると些か厄介なことになりますね。

 私のことを知っているという事は、

 

「ただ、その目については書かれていませんでしたが」

 

 やはり、そこを聞いてきますか。

 生まれてからずっと盲目、ということになっていますから、今私が目を開けているのが不思議なんでしょうね。しかも魔眼。

 

「これは生まれつきです、危険なので制御できるまでずっと目が見えないふりをしていただけです」

 

 ちらり、すずかさんとバニングスさんを見ます。

 あまりお二人にはお伝えしたくないことなので、これで察してくれるといいのですが。

 

「へえ、そうですか」

 

 同じように二人を見るシエルさん。

 よかった、とりあえず通じたようです。

 

「ところで、彼はどうなるのですか? また襲われたら今度は手加減できませんよ」

 

「それについてはご安心を、彼はこの先ずっと日本に立ち入ることはありません、そう永遠に」

 

 それだけ聞くと野放しのように感じますが、良くて国外追放、悪くて死刑とも取れますね。おお怖い。

 

「そうですか、ならいいです」

 

 ―――万象天引

 

 六道仙人の術で、離れたところの落ちていた私の杖を取り寄せます。

 あ、これ結構便利ですね。

 インターバルが五秒というのは戦闘では些か心許無いですが、ベッドの上から動かずともいろんなものを取ってこれそうです。

 

「まあ、そんなこともできるのですか」

 

「ええ、これくらいなら」

 

 そう言って私は目を閉じます。

 さて、些か長く居すぎましたね。

 もうそろそろ帰らないとお母さんが心配してしまいます。

 

「さて、もう遅いので私は先に帰らせていただきます」

 

「あ、なら「私が送っていこう」、あら? 彼の拘束は終わったのですか?」

 

 私がそう言って部屋から出ようとした時、神父さんが私の前に立ちふさがりました。

 

「ああ、これであ奴も抜け出せすことはできまい」

 

 一体どういうふうに縛り付けたのか気になりますが、まあいいでしょう。

 

「いえ、私は一人でも「幼い少女を一人、山道に送り出すなどあってはなりません、ここは子供らしく大人に甘えても罰はあたりませんよ」、…………それではお願いします」

 

 ダメです。この神父、話が通じません。

 諦めて送ってもらいましょう。

 

「お嬢さん」

 

「はい?」

 

 私がそちらを向くと、すっと右手を差し出してくる神父さん。

 

「芝居とは言え盲目の身、手を繋いだ方が転びにくいですよ」

 

 この神父、少し無防備じゃありません?

 いくら子供とは言え、私は軽く人間やめちゃってる身ですよ。

 先ほどの剣を見るに、彼は双剣使いでしょうか、片手を塞ぐのは良いとは言えないのですが。

 

「……ええ、お願いします」

 

 少し迷って、私はその手を取ります。

 正直、誰かに引っ張ってもらった方が早いんですよね。

 それは仕方ありません。

 

「では、また明日」

 

 私は神父さんに手を引かれ、この山小屋をあとにしたのでした。

 

 二人に口止めするのを忘れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七海ちゃんと神父さんがこの小屋を出て行って少しして、

 

「はぁ~、やっと行った!」

 

 急にお姉さんがへなへなと床に尻餅をついて座り込んじゃった。

 

「もう、なんであんなのがいるんですか、正直生きた心地がしませんでしたよ」

 

 彼女の顔には大量の汗をかいており、まさに緊張が解けたような感じだった。

 

「え、何があったのよ?」

 

 その様子を見て、アリサちゃんが話しかける。

 うん、私も何があったかさっぱり分からないの。

 

「ああ、お二人がわからないのも無理ないですね、あれは修羅場をくぐり抜けた人間にしかわかりませんから」

 

 そう一言おいて、お姉さんは話し始める。

 

「なんて言いましょうか、彼女自身は絶対に人間なんでしょうけど、彼女の中、いえ瞳の奥底といった方がいいでしょうね、そこから明らかにありえない気配が滲み出てるんですよ」

 

 お姉さんは一度体をブルっと震わせる。

 

「ありえない気配?」

 

「ええ、なんと言いましょうか、…………ひとつの箱に多くのおもちゃを無理やり詰め込んで圧縮した、といった方が分かり易いですね、明らかに人間の許容量を超えてますよ」

 

 「彼女が力を使うまで気がつけないとは、私もまだまだですね」とお姉さんは付け加える。

 

「許容量を超えてるって、それじゃああの子はどうなるの?」

 

 アリサちゃんがそう言うと、お姉さんは少し悩んだあとに言った。

 

「わかりません、正直なところ、あんな人初めて見ましたから」

 

 よいしょ、とお姉さんは声をあげ立ち上がりました。

 それからさっきとは打って変わって、真剣な面持ちで私たちを見つめる。

 それはどこか悲しげで、けれど何か割り切っているような表情だった。

 

「月村さんに、……確かバニングスさんでしたよね、貴女たちはこれから私が責任をもって家までお送りします、明日からはきっといつも通りの生活が貴女たちを迎えてくれるでしょう」

 

 それを聞いて、私たちは心の底から安心した。

 やっと帰れる。

 まだ一・二時間も経っていないのだけれど、私にはこの時が何倍にも感じていた。

 

「ただし」

 

 けれど、それだけじゃなかった。

 

「あの子、八坂七海さんには出来るだけ近づいてはいけません、これは私からの警告です」

 

「あの、それはどういう「どうしてよ!!」」

 

 私が先に尋ねる前に、アリサちゃんが大声で怒鳴りつける。

 私も納得できない。

 確かに、私は七海ちゃんの目を見て何も言うことができなかった。

 一瞬だけ、怖いとも思った。

 けど、学校で見た七海ちゃんはみんなと変わらない、ちょっと目が不自由なだけな普通の子だった。

 そんな子がどうしてそんなふうに言われなきゃいけないのか、私は納得できない。

 

「彼女は貴女たちと違って完全に”こちら側”の存在です、正直なところ人間であることが信じられないほどの化物で、望む望まないに関係なく周囲の運命をかき乱すでしょう、それでも関わるというのなら、きっと、いえ確実にもう二度と普通の人生に戻れなくなりますよ」

 

「……………………」

 

 二度と普通の人生を送れなくなる。

 ということは、あの学校の日々も、私の胸に芽生え始めたこの恋も、全てなくなってしまうかもしれないということ。

 

「うう…………」

 

 怖い。

 全てを失ってしまうのが、彼を失ってしまうのが、また一人ぼっちになるのが、怖い。

 

 俯き、両手で体を抱きしめるけれど、震えは止まらない。

 むしろさっきよりもひどく震え始める。

 

 怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこ―――

 

「すずか」

 

 誰かの腕が、私の体に触れる。

 その腕は暖かくて、触っているだけで元気が流れ込んでくるような。

 

「アリサ、ちゃん……」

 

 顔を上げると、そこにはアリサちゃんがいた。

 いつもと変わらないキリッとした顔つきで、私を見つめていた。

 

「大丈夫よ、あんたには私がついてるから」

 

 そう言って私を抱きしめる。

 

「あ、りさ、ちゃん…………」

 

 嬉しくて、涙が溢れる。

 気づけば先ほど私が抱いていた恐怖もどこかに消えていた。

 

「シエルさん、だったわよね」

 

 そのままの体勢で、アリサちゃんはお姉さんに話しかける。

 

「確かに、あの子は私が関わっていい存在じゃないかもしれない、けどそれが何? 私、アリサ・バニングスは、その程度で友達を見捨てることはしないわよ! 甘く見ないでちょうだい!!」

 

 ああ、やっぱりアリサちゃんはすごい。

 私の正体を知った時もそうだった。

 彼女はずっと真っ直ぐで、眩しい。

 まさに太陽のような存在。

 

「私も」

 

 だからこそ、

 

「私も、七海ちゃんを見捨てたりはしません」

 

 私も勇気が湧いてくる。

 

「すずか…………」

 

 私はお姉さんに向き直り、彼女の目を見つめる。

 すると、

 

「ああもう、これじゃあ私が悪役じゃありませんか」

 

 ため息をつきながらそう言うお姉さんは諦めたような顔をした後、私たちに十字架を手渡しました。

 

「これは?」

 

「一回だけ、あなたの周りの不浄を退ける効果を持った魔術礼装です、正直心もとないですが、ないよりはマシでしょう」

 

 それを聞いてアリサちゃんが嬉しそうにそれを見つめる。

 私は………………うん、吸血鬼が十字架持ちっていうのも結構不思議な気分。

 

「では、送っていきますよ、さあさあ車に乗ってください」

 

 そう言って手を引かれ、私たちを小屋を出る。

 お姉さんの運転で私たちはそれぞれの家に帰ることになるのだけど、助手席ににグルグル巻きのミイラのような物があってアリサちゃんが驚いていたのはまた別の話。




すこし、更新速度がキツくなってきたので
これからは週一か二に変更します
すみません



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第21話

 私は、化物だ。

 

 この世界に生まれて、最初は盲目でも楽しく生きていけると思っていた。

 

 でも、それは間違いだった。

 

 私の瞳に宿る力は人間の領域を遥かに逸脱したものだった。

 

 それを実感したのは六歳の時。

 

 私は、初めて、人を殺した。

 

 驚く程あっけなく、人の命を刈り取った。

 

 私が目を向けただけで、人が死んだ。

 

 けれど、私は何も感じなかった。

 

 悲嘆も、後悔も、恐怖も、喜びも、何も感じなかった。

 

 私にとって殺人は、まるで蛇口をひねるかのように当たり前にできてしまう。

 

 この時、私は悟った。

 

 ああ、私は化物なんだ、と。

 

 私は化物とは、中身によって決まるのだと思う。

 

 外見や能力が人間離れしていても、分かり合えるのなら、それは人間。

 

 むしろ、猟奇殺人を行う奴らこそ、化物と言えるでしょう。

 

 

 

 だから、あの男が月村さんを化け物と呼んだ時、私は少し怒っていた。

 

 あの程度が化物のはずがない。

 

 優しいあの子が化物であるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 もし、あの子がだと化物言うのなら、私は、何?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………嫌な夢です」

 

 上半身を起し、私は頬についた汗を拭う。

 どうやら、昨日のことが思ったより響いているようですね。

 また、あの日のことを思い出すことになるとは、思いもしませんでした。

 

「ああ、憂鬱ですね…………」

 

 昨日、神父さんには両親に言わないでくださいとお願いしたのですが、月村さんたちに口止めするのを忘れていました。

 まあ、あのお二人のことです、きっと言いふらすことはしないでしょう。

 けれど、最低でも月村家、ひいては高町家にも私のことが知られてしまったかもしれません。

 化物だから、と討伐されることはないでしょうが、警戒はされるでしょうね。

 それが当然の反応です。

 けれど、警戒されたまま、というのもなんだか釈然としませんね。

 

「近いうちに、挨拶に行く必要がありそうです」

 

 その際に彼女らの詳しい事情を教えてもらいましょう。

 この街に住んでいるのですから、色々と裏知識があっても困ることはないですし。

 あ、でも、手ぶらというのもなんですね。お茶菓子は何がいいでしょう?

 吸血鬼、なら人間の血液が定番でしょうが、生憎そんな物は用意したくありません。

 

「…………ここは無難に翠屋のケーキでいいですね」

 

 その日になったらツナに買いに行かせましょう。

 私が行くよりも、段違いに早いですし、何より楽です。

 

「ななちゃ~~ん! 朝ですよ~!!」

 

 ああ、今日も元気にお母さんが呼んでいます。

 私だけを呼ぶということは、ツナはもう起きているのですね。

 義理とはいえ、姉の私が寝坊とは、些か格好がつきません。

 

「今、行きます」

 

 私は小さくそう呟くと、杖を手に取り、ゆっくりとお母さんのもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次元航行艦船アースラ内、通信室。

 そこに、二人の人影があった。

 

「昨日の子達すごいね、最低でも魔力量がAA、最高でSクラス、逸材ぞろいだよ!」

 

 茶髪の女性、エイミィ・リミエッタが興奮したように話しかける。

 彼女たちが見ているのは、大型モニターに表示されたなのはたちの映像であった。

 

「ああ、だがまだまだ彼らも初心者、所々詰めが甘い」

 

 黒髪の少年、クロノ・ハラオウンは彼女をたしなめる。

 

「あらら、お厳しい……、まあ確かにクロノ君ってばあの八人相手に楽勝だったもんね、物足りなかったかな?」

 

「いいや、流石の僕でもあの八人の動きを止めるのは無理だ、彼女から預かったデバイスがなかったらしなかったよ」

 

 クロノはそう言って右手に持ったカード型のデバイスを見つめる。

 

「確か新型の……なんだっけ?」

 

「S2U3改、僕が使っているS2Uの最新型だ、今回の事件に役立つと言われて無理やり持たされたが、早速役に立ったよ」

 

 クロノはどこか諦めた表情で、彼の上司のことを思い出す。

 彼女は一言で言うと面白ければどんなこともするというハチャメチャな人物であり、彼女のいたずらの被害者であるクロノには、彼女に助けられたことがとても複雑な思いだった。

 

「ああ、あの人ね……、まあ、ご愁傷様?」

 

「人ごとだと思って…………、柊の奴がいれば全部そっちに向くのに、なんで出張中なんだ」

 

「仕方ないよ、蓮司くんも毎日アンゼロットさんの相手だと流石に体がもたないって」

 

 柊蓮司とは時空管理局に所属はしていないが、かなり実力のある騎士であり、同時に世間ではアンゼロットの右腕と名高い。

 また、彼は「下がる男」と呼ばれており、彼の周囲ではあらゆるものが下がると言われている。

 ただ、それを本人に言うと怒る。

 

 話がそれた。

 

「それに、まだ厄介事は残ってる」

 

 クロノは懐からマル秘と書かれたカードを取り出す

 

「あ、それが例の予言?」

 

「ああ、僕には何のことだかさっぱりわからないが、状況的にここで間違いないだろう」

 

 彼はゆっくり、正確にそれを読み上げる。

 

『九十七番目の星に五人の異邦人が現れる

 それを機に、物語は歩み始め、誰も逃れられはしない

 黄金と剣は白 

 闇は黒

 命は夜

 それぞれを守るために、力を振るう

 瞳はその力をもって、汝らをあるべき方向へと導く』

 

 それを聞いて、エイミィは映像内の彼らに目を移す。

 

「映像を見る限りだと四郎君が剣だね、となると見た目的には白はなのはちゃん、黄金が岐路君かな?」

 

「そうだね、それと多分相手の黒い魔導師二人、あの二人を黒と闇と当てはめるとしっくりくる」

 

 闇と言った時、クロノの顔が僅かに曇る。

 何か、遠い過去のことを思い出しているようだった。

 

「でも、だとすると後二人、いや、夜も一緒に数えると三人いるんだよね、その人たちも探すの?」

 

「いいや、彼女はついででいい、と言っていたからまずはジュエルシード優先だ」

 

「そなんだ…………、で見つけたらどうするの?」

 

 エイミィがそう言うと、クロノは苦笑いして言う。

 

「彼女が言うには、『味方になりそうなら即ゲット、敵ならふん縛って即連行』だそうだ」

 

 それを聞いたエイミィも「あはは、アンゼロットさんらしいや」と苦笑いを浮かべていた。

 

 



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第22話

 誘拐事件から幾日が過ぎた日のこと。

 久々の休日、こんな日はいつもと同じくツナを鍛えることに専念したいのですが、

 

「え、ツナは出かけちゃったのですか?」

 

「そうなんですよ、ツナ君ってば今日は友達と遊ぶ約束があるとかで朝ごはん食べ終わるとすぐに疾風の如く出て行っちゃいまして、てぃんだろすの散歩を頼みたかったのですが――」

 

 あいつ、逃げましたね。

 リボーンさんがそんなことを許すはずがないので、きっと理由があるに違いないのですが、私の大切な暇つぶしを奪ったのは許されざることです。

 ちょうどいい頃合ですし、素手から剣を使った実践訓練に移行するとしましょう。

 この世界に時雨蒼燕流はない(と思います)が、代わりの剣術がいくつかありますのできっと役に立つでしょう。

 

 それはさて置き、てぃんだろすの散歩ですか…………。

 やることもないですし、私が代わりに行きましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、どこに行きましょう?」

 

 あの後、二つ返事でOKをもらった私はてぃんだろすの鉄の鎖を外して、普通の散歩用リードに繋ぎ変え、適当に街をぶらついているのですが、行くあてがありません。

 暇つぶしに買って出たのはいいのですが、流石に適当すぎました。

 

「てぃんだろすの好きなところでいいですよ」

 

「バウ!」

 

 てぃんだろすがそうひと声吠えると、グイグイとリードを引っ張り始めます。

 

「そちらに行きたいのですか?」

 

「バウ!!」

 

 どうやら、そちらに行きたいようです。

 いつもならもう少し控えめなのですが、よほど行きたいところがあるのですね。

 

「では行きましょう」

 

 てぃんだろすの気の赴くままに、私は道を進む。

 数分くらい歩いた後、急に彼が足を止め、その場にお座りしてしまいました。

 

「てぃんだろす?」

 

 少し強く引いてもびくともしません。

 どうやらここから動く気がないようです。

 

「どうかしましたか? 何かあったのですか?」

 

「………………」

 

 私が尋ねても何も言わないてぃんだろす。

 何がしたいのでしょう?

 

「てぃんだろす? 一体何が「あ!?」、たのですか………………」

 

 聞き覚えのある声。

 それが聞こえた方へ、私はゆっくり顔を向ける。

 

「七海、ちゃん………………」

 

 そこにはお姉さんと思われる人と手をつなぎ、お出かけ中のすずかさんがいました。

 

「こんにちは、すずかさん」

 

 ちくせう、こういうことだったのですねてぃんだろす。

 この子がこんな行動をとるのは何か意味があるってことをすっかり失念していましたよ。

 まったく、余計なお世話です。

 

「あなたは、もしかして七海ちゃん?」

 

「ええ、初めまして」 

 

 びっくりです。

 お姉さんが私のことを知っていました。

 すずかさんが話したのでしょうか?

 それにしては警戒しなさすぎに思えます。

 

「あ、私はすずかの姉の月村忍、よろしくね」

 

 こうやって手を差し伸べて来るあたり、私のことは深くは知らないようですね。

 少し安心しました。

 

「えっと、よろしくお願いします」

 

 少し躊躇いながらも、彼女の手を掴――

 

「!?」

 

「え?」

 

 掴もうとして、思いっきり空ぶりました。

 え? どうして?

 

 よくよく集中してみると、忍さんは先ほど差し出した手を握り締め、驚いた様子で私を見つめているようでした。

 

「あの、どうかしました?」

 

 不思議に思い、私は尋ねます。

 

「え? いや、何でもない、何でもないの…………」

 

 何でもないことはないと思うのですが、話したくないのでしたら無理に聞き出すことでもありませんね。

 

「では、私はこれで」

 

 ここにいても仕方ないので、さっさと帰るとしましょう。 

 

「てぃんだろす、貴方も……あら?」

 

 そう言うと、静かにてぃんだろすが立ち上がりました。

 おや、すずかに会わせるのが目的ならもう少し粘ると思ったのですが、思いのほか早かったです。

 

 これが彼の思惑だと理解したのは、このすぐ後でした。

 

「え?」

 

 てぃんだろすが諦めたと私が思った瞬間、一気にリードを引っ張られました。

 そうです、この犬。私が気を抜く瞬間を虎視眈眈と狙っていたのです!

 

 当然、隙を突かれた私はそのまま彼に引っ張られ、

 

「きゃあ!?」

 

「みゃあ!?」

 

 すずかさんに体当たりしてしまいました。

 転びはしなかったものの、現在は私はすずかさんに抱きかかえられる形になっています。

 

「七海ちゃん、大丈夫!?」

 

「ええ、なんとか」

 

 心配そうに私を見下ろす彼女に、私は落ち着いてそう返します。

 

「あ…………」

 

 ? すずかさんが突然固まってしまいました。

 

「すずかさん? …………あ」

 

 少し考えて、その理由を察します。

 目を閉じているので分かりにくいのですが、彼女に話しかけた時に彼女の方を向いてしまっていて…………、つまり傍から見れば至近距離で見つめ合っているわけですね、私たち。

 これは少し恥ずかしいです。

 

「ああ、すいません」

 

 彼女に謝り、姿勢を直します。

 

「ううん、こちらこそ……………………七海ちゃん!」

 

「おお!? 何ですか?」

 

 急に大声出すので、ちょっとビックリしてしまいました。

 

「話したいことがあるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って連れてこられたのは近くの公園。

 そこのベンチに二人で腰掛けています。

 てぃんだろす?

 彼なら忍さんと一緒に散歩に行きました。ちくせう。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 それにしても、この沈黙何とかなりませんでしょうか。

 正直なところ結構きついです。

 世間話をしようにも世間のことなど全く知りませんし、このくらいの頃の私の記憶もどこかに置いてきてしまったように何も覚えてません。

 

「あの、話とはなんでしょう?」

 

 まあ、元をたどれば私のせいですし、私から話しかけるとしましょう。

 

「えっと……、この前、私たちを助けてくれたよね」

 

「まあ、一応私の命の危機でもありましたし」

 

 もっとも、今のツナでも無理なのにあの人が私を殺せることなんてありえませんが。

 

「それで、アリサちゃんと二人ですぐにお礼をしたかったけど、と家から出ちゃダメって言われてて」

 

 ああ、誘拐されたですものね。

 警戒して幾日か自宅にこもるのも頷けます。

 

「それで今日、お姉ちゃんが気分転換に外に連れてってくれたの、……もう協会の人たちは帰っちゃったみたいだから」

 

 声のトーンが僅かながら下がる。

 やはり、助けてくれたとは言え、彼女にとって彼らは恐ろしい人たちなのでしょう。

 …………誘拐したのも彼らの仲間でしたし。

 

「最初は嫌だったけど、今は良かったと思うの…………、七海ちゃんに謝らなきゃいけないことがあったから」

 

「謝る、ですか?」

 

 はて、彼女は何か悪いことをしたのでしょうか?

 

「うん…………、助けてくれたのに、怖がってごめんなさい」

 

 ああ、そのことですか。

 

「別にいいですよ、まともな人間なら私を恐るのは当然のことですし」

 

「でも、七海ちゃんは私たちを助けてくれたんだよ、それを怖がるなんて……、おかしいよ」

 

 むう、結構頑固ですね。

 優しさ故に、自分がしたことを許せないのでしょうか。

 

「アリサちゃんも、……いや、アリサちゃんは私とは違って七海ちゃんのこと全然怖がってなかった、不幸になるって言われても、一歩も引かなかったんだから」

 

 ……………………………………。

 

「アリサちゃんは言ったの、『その程度で友達を見捨てる私じゃない』って、だから、私も、七海ちゃんを見捨てたりできない」

 

 アリサさん、すずかさん…………。

 

「ふふ……」

 

 二人は元々大人びていましたが、この歳でそれだけの覚悟、やはり面白い人たちですね。

 

「七海ちゃん?」

 

「いえ、あなたたちはいい人だな、と思いまして」

 

 本当に、覚悟だけならツナより上でしょう。

 たとえ、私がどんなふうに突き放しても、彼女たちはそれをものともせず、私の所へたどり着く。

 

「なら、私がとる行動は一つでしょうね……」

 

「?」

 

 ベンチから立ち、すずかさんと向き合うように移動、そして深呼吸。

 

「まともな人類ではありませんが、私とずっとお友達でいてくれますか?」

 

 そう言って、彼女に右手を差し出す。

 うう、結構恥ずかしいですね。

 面と向かってこういうことを言うのは初めてなので、結構緊張します。

 

 それに少し驚いた彼女だったけど、すぐに我に返って、 

 

「うん! 私こそよろしくね、七海ちゃん!」

 

 元気な声で私の手を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この様子を、遠くから見ている人達がいた。

 

「すずかのやつ、岐路君というものがありながら嬉しそうにしちゃって」

 

「バウ!」

 

 月村忍と飼い犬てぃんだろすである。

 

「まあ、すずかがいいならそれでいいんだろうけど…………」

 

 彼女は自分の右手を見つめる。

 

「あの時感じた悪寒……、まるで細胞の全部が警告を発してるような、そんな感じだった」

 

 彼女は不思議に思う。

 どうしてすずかは何も感じないのか。

 答えはすぐに出た。

 

「年の差、かな」

 

 忍もすずかも戦いの経験はほとんどないが、それでもすずかよりは自分の能力のことを理解できていた。

 人体に備わる五感、その延長上にある人外としての感覚、そして生き物としての本能。

 それらが、あの悪寒の正体だった。

 

 すずかが何も感じないのはまだ彼女が人間の領域を出ていないから。

 一歩人外の道を進めば、七海のもつ恐ろしさに気がつくだろう。

 けれど、それは忍としては望ましくないことだ。

 すずかには普通の人間として一生を過ごさせてあげたい。

 彼女の一族が管理するこの土地なら、すずかたちは人間のままでいられる。

 …………たまに血液が必要にはなるが。

 

「岐路君や士郎君にも変な気配はあったけど、あの子のそれは群を抜いてたわね……」

 

 彼女は間違いなく人間。

 けれど彼女の内から感じたあの気配は、いくら考えても人間のモノではなかった。

 

「あの子の前だと、私たちも人間の範囲内なんでしょうね…………」

 

 自分は化物だと、彼女は恭也会うまではそう思っていた。

 紆余曲折あって、彼女は自分を受け入れることができていたが、心のどこかでは自分も化物なのだと考えていた。

 けれど、七海と出会って、その思いは粉々に打ち砕かれた。

 忍は、まるで鷹に狩られる寸前の小鳥ように、自分も食われる側(弱者)だと思い知らされた。

 確かに彼女は吸血鬼の中でも弱い部類には入るが、それはまだ覚醒していないだけで、彼女が本格的に吸血鬼として覚醒すれば、人類最強や殺し屋アンデルセン、志々雄真実にも引けを取らない存在になるだろう。

 しかし、例えそうなったとしても、彼女には七海に勝てるイメージが全くわかない。

 気配だけで、そこまで思い知らされた。

 彼女と七海は、根本から違う。何があっても敵わない。

 その考えが、脳裏から離れない。

 

「クゥ~ン」

 

 てぃんだろすが心配そうに忍を見上げる。

 

「あら、心配してくれるの?」

 

 彼女は優しく彼の頭を撫でる。

 

「まあ、こんなこと私が考えてもしょうがないわよね…………」

 

 そう、これは彼女の問題ではなく、すずかと七海の問題。

 時がたち、七海の持つ異常性にすずかが気がついてからの話だ。

 

「さ、私たちもそろそろ行きましょうか」

 

「バウ!」

 

 彼女はそう言っててぃんだろすのリードを引き、すずか達のもとへと歩き出した。




#切れてたので追加


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第23話

 とある五月上旬の昼下がり。

 海鳴市の海上に、黄色い閃光が走る。

 それを私は自室でツナと一緒に窓から海を眺めていました。

 

「うわ、すごい……」

 

 隣で望遠鏡片手に海から立ち上る水の柱に見入っているようでした。

 その数は全部で……五つ。そう、五つ。

 一つ少ないのは、間違いなく私のせいだろう。

 

 その五つの水柱に立ち向かう四人の、四人の……あ!

 

「……どうしましょう」

 

 一つとても重要なことに気がついてしまいました。

 

 原作ではテスタロッサさんと使い魔さんの二人だったからこそ封印に失敗して敗れそうになったのです。

 強制発動をテスタロッサさんがしたのは同じですが、人数が四人になって、しかもジョエルシードが一つ減った状態なら普通に封印して終わりになってしまいます。

 

 ちらりと、ツナを流し目で見ます。(サードアイ)

 ……未だ未熟なツナにあそこまで飛び回る彼女らを止める手段はありません。

 

「はぁ……」

 

 仕方ありません。

 些か面倒ではありますが、ここは私が動くしかないでしょう。

 

「ツナ、少し窓から離れていてください」

 

「え?」

 

 そう言ってツナを押しのけて窓を開け、首に下げているジョエルシードを握り締め、願いを込める。

 求めるのは遠距離攻撃のできる武具、光のような速さで飛ぶ弾丸、……あと非殺傷設定。

 

――とくん

 

 手のひらに仄かな温かみが伝わってくる。

 この宝石が願いに応えようとしてくれるのが伝わってくる。

 

 指を広げると光り輝くジュエルシードが姿を変え始める。

 私が求める形すなわち、ケルディムガンダムのGNスナイパーⅡに!

 

「……さあ、狙い打ちますよ」

 

 目は閉じているのですが、気分的にスコープ顔を近づけてみます。

 なんだかワクワクしますね。

 

「……あ、ツナは霧の炎でこの辺り一帯に結界を張ってください」

 

「え、なん「早く」……はい」

 

 ブツブツ文句を言いながらも、リング形態に変化したリボーンさんを使い、結界を張るツナ。

 とりあえずこれですぐには場所は特定されることはないと思います。

 …………さっきのは反応が微弱なので感知されてないと思いたいです。

 

「さあ、時間もありませんし、ちゃっちゃと済ませましょう」

 

 サードアイに「未来視」をセットして、照準を定めます。

 

 これじゃぁ外れる、もう少し右……、やや上、……よし。

 撃てるタイミングを見計らって呼吸を止めて、……引き金を絞る!

 

 解き放たれた弾丸は銃口からまっすぐに目標の少女へと向かう。

 

「!?」

 

 イヴさん似の彼女が気がついたようですが、少し遅かったです。

 弾丸はそのまま吸い込まれるように彼女の額へと進み、直撃する。

 

「――」

 

 何か呟いた彼女の意識を刈り取り、弾丸はそのまま消える。

 気を失った彼女はそのまま猫使い魔さんに抱きかかえられ、一応助かったようですが、戦線復帰は無理でしょう。

 とりあえずこれで状況は一気に不利になりましたし、まぁこんなものでしょう。

 

「…………よし」

 

「よし、じゃないよ!なんで今撃ったの!?」

 

「いえ、このままだと普通に封印されて終わりそうでしたので、それではつまらな……、原作から逸れそうでしたから」

 

「今つまらないって言ったよね!?絶対言いかけたよね!?」

 

『やり方はどうあれ、一応これで原作通りの流れになるんだからいいじゃねえか』

 

 些かうるさいツナを無視して、私は再び彼女らの監視に戻ります。

 この後、特に変わった様子もなく、原作通りなのはさんが応援に駆けつけ、五つのジュエルシードはなのはさんが3、テスタロッサさんが2と言うふうに分けられ、事態は収束したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、予想外の出来事というものは、本当に予想できないものだということをこの後私は身をもって知ることになるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻、深夜0時56分。

 私は、違和感を感じて目を覚めました。

 

「……なんでしょう、空気が震えている?」

 

 音の世界を見る私には、それがはっきりわかりました。

 何か強い波動のようなものが、この家周辺に響き渡っているのです。

 

「まあ、取りあえず確認が先かしら……」

 

 私は、その波動が最も強く放たれている箇所、庭にあるてぃんだろすの犬小屋前までやってきました。

 

「ガルルルルルル!」

 

 てぃんだろすも経過して小屋から出て、鎖が伸びる限界までその場所から離れています。

 

「さて、出てくるのは鬼かしら、それとも蛇?」

 

 私はてぃんだろすの側に座りながら、まるで宝箱を開ける子供のような気持ちでそれを待ち続けました。

 

 そして待つこと2・3分。

 

「来る」

 

 一段と強い波動が、辺り一帯に響き渡りました。

 同時に何もない空間から大きい物体が姿を現し、激しく地面に叩きつけられました。

 二、三度それは転がり、私たちの近くで停止します。

 

「あ……、う……」

 

 その物体から、女性の声が発せられました。

 いえ、物体と呼ぶのは少々失礼ですね。

 我が八坂家の庭に突如として落下してきたのは、原作では既に死亡しており、今ここにいるはずのない使い魔、リニスさんでした。

 

 彼女の体のあちこちには雷撃で出来たと思われる火傷や、鋭いもので切られたかのような切り傷があり、それらが現在彼女を苦しめている原因であることは容易に想像ができました。

 

「致命傷とまではいかないものの、放っておいたら確実に悪化してしまいそうですね」

 

 面倒、と思いつつも私は彼女を家の中に入れることにしました。

 今ここで彼女を見捨てると、後々厄介なことになるのは明白ですし、何より今後ろから見ているお母さんに隠し通せそうにないですし。

 

「お母さんはこの方を私の部屋まで運んでください」

 

 あっちも私が気づいていることぐらい分かっているはずなので、私はそう言って家の中に入る。

 

「おや?七海ちゃんはどうするんですか?」

 

「私は適当に包帯などを取ってきます」

 

 私と入れ違いに、お母さんが庭へと出て行く。

 

「はぁ、本当に面倒……」

 

 私はいつもの位置にある、怪我をした時などにいつでもつかえるようにしている救急セットを取り出します。

 子供の手の届く場所にあることにいささか不安を覚えないでもないですが、この家の子供は私とツナだけですので、まあ問題はないでしょう。

 

 取りあえず、手当はお母さんに任せればいいでしょう。

 私は考えるのはその先のことです。

 

 まず、なぜ彼女がここに落ちてきたのか?

 これは考えるまでもありません。

 時系列的に考えて、おそらくテスタロッサ(母)と何かがあったのでしょう。

 となると、同じようにあの狼とイヴさん似の女の子もどこかに落ちているのでしょうか?

 原作の知識があるのなら、彼女も今の何が起こっているのかくらいは把握できているはずですし、原作に合わせるためにワザと負けたふりをしてこの街に逃げることもできるでしょう。

 

 ただ、それだと彼女が一人でここに落ちてきたことが些か気になります。

 彼女の使い魔なら、一緒に落ちればよかったものを、わざわざ別行動になる意味がわかりません。

 別行動にならなければならない理由があったか、それとも自由に動けない状況にあるのか、考えるだけならいくらでもできますが答えは出ません。

 

 能力を使っても良いのですが、それでは面白みに欠けます。

 お楽しみは最後までとっておくのが私の趣味なのです。

 

「……あ」

 

 そう言えば、このこともツナに説明しなければいけませんね。

 この猫さんのことを知らないようにしてもらうのと、リボーンさんを見せないようにしてもらわなければ。

 

 そんなことを考えつつ、私はたった今猫さんを運んできたお母さんの元へ急ぐのでした。

 

 




長いこと更新できなくてすみませんでした
前ほどではないですけど、ぼちぼち更新していこうと思います。

追記
予約投稿です、これが投稿されている頃には
私は1/5までPCに触れられない状況になるので、
感想返しはできません。


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