カルデア出身『元』一般人 (麻婆被験者01)
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混沌麻婆

この小説は〜、神父と〜、麻婆の売上によって投稿されております〜


さぁて、君達に聞かせてもらおうかな。なに、ちょっと怪しいお兄さんが質問をするだけさ。

---神様はいると思うかい?

いや、どこの神様かと聞かれたら困るけれど、とにかく神様さ。森羅万象八百万。有名どころだと……そうだね、トールやオーディンとかかな?

『……』

そっか。君の答えはそうなんだね。

さて、答えはね、いるとも言えるしいないとも言える。

神様っていうのは君達人間が当てはめた『枠』みたいなものだ。実際、君達の思う神様というものは存在する。それこそ全知全能の存在さ。

けれど、神話上の神様は例えば『雷』や『水』、『火』、『祟り』なとなど、色々なものを象徴にしてるよね?それは人の見た『神様』なわけだけど、実際には全知全能の何某の1部でしかない。

おおっとと、なにつまらない事を言っているんだって思わないでくれよ?大切なことなんだよ。

そんな全知全能の何某からしたら、僕達なんて1つの情報、知識のひとつなわけだ。僕が話しているって事も知ってるだろうね。

そして、神様と言ったら最近はこれも大切なことじゃないかな?

そう、『転生』だよ。

いろんな人が考えた物語の主人公の力を借り受け、これまた誰かの考えた物語の中で活躍する。そうではなくても、新たに生を受けるというものだ。

そんなものが果たしてありうるのか?うん、ありうるさ。

今自分達がいるのが世界の全てとは限らない。何かを考えたら、その筋にそった物語も生まれる。いや、正しくは元ある世界を感じ取る。

さてはて問題だよ。ここでとある人物が、『FGOの主人公になってみたい』と考えた。ならばそんな世界があるのだろう。そして、それに続いて、『ありふれの世界に仲良くなったサーヴァントと行きたい』とも考えた。ならばそんな世界があるのだろう。

僕は見つけたんだよ、そんな世界を。

いやはや、人間の考える物語も面白い。僕は『今』を見通す眼をもっているんだけど、別の世界を見れるかと言われたら無理だとしか言えない。だが、見れた。どういうことかって?

いやさ、彼が考えた瞬間からその世界は観測できるようになってたんだ。『今』から始まってるんだ。

だからこそ、見ることが出来た。

さて、僕一人でこの世界を見るのも構わないけれど、この世界は僕を見ている『君達』でも見ることが出来るようだ。

だからどうだい?彼が思い浮かべる限り、僕達もそれを見ることが出来る。誰かが思った物語。きっとありふれた世界なんだろうさ。けれど、それもまた1つの世界。面白いことがおきそうだ!

さて、唐突だが……彼の話を見よう(■■の話をしよう)

 

 

月曜日、だれもが憂鬱に感じる社畜の始まりであり、学校に通う年代からしたら面倒事の始まりだろう。

学校で定番の席替えにて、いつも人気な席である窓際最後尾の席に座り朝から爆睡している少年がいた……が、起こされた、起きざるを得なかった。

朝っぱらからゲラゲラと笑う声がしていた。それがどうこうという訳では無いが、周囲の生徒達もうるさそうにしているが、問題の笑っている生徒達はそんな周囲には気がついていなかった。

その時点では、少年は半分寝ぼけていた。

そこに学校では二大女神とよばれ、先輩同年代教師問わず人気のある『白崎香織』がゲラゲラと笑う生徒達に囲まれている少年『南雲ハジメ』にニコニコと笑いながら歩み寄った。

それを見た周囲が殺気立つ。『なんであいつが』『なんであんなやつが』。南雲ハジメに突き刺さる視線に白崎香織は気づかない。

この時点で、まだ少年は寝ぼけている。

そこに、さらに人が加わる。二大女神のもう1人『八重樫雫』、爽やか完璧超人の『天ノ河光輝』、見た目から分かるthe脳筋『坂上龍太郎』。

そんな彼らにも声をかけられ、さらに視線が刺さる。

そして、ようやく少年は目が覚める。

目が覚めた少年は、チャイムがなり先生が入って来るのを見ながら水筒を口に当てて……

「かっらぁ??!!」

口の端から麻婆を垂らしながら悶絶した。

朝から奇妙なものを見るような目でみられ、少年に何があったのかを理解する極一部は同情する。

(あのクソ神父帰ったら麻婆抜きにする……!)

そんなくだらない復讐を考えている少年が、この話の主人公。

『藤丸リッカ』なのである。




衝動に駆られて書いた。覚悟も何もしていない(確信)


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生命問答

藤丸リッカ。自称一般人。事実、一般人。
なんの変哲もない、孤児院兼教会出身。


気がつけば自分の名前しか分からない状態になった時、人間どうなるんだろう?

その答えは、自分で経験しなければ分からない。そして、経験した身から言わせてもらう。

『正直死にかける寸前の状況だったから覚えてない』

……うん、気がつけば自分の『名前』くらいしかわからない状態で吹雪いている雪山で目が覚めれば、そりゃ必死になるだろうさ。

結果的に、その場の流れに流されて落ち着ける状態になれても、重すぎる物を背負う事になって、頭の中を整理なんて出来るわけがなかった。

そして、何度も死にかけながら、何度も嘘みたいな現実に追われながら、何度も……失いながら、俺は気がつけば人生を終えていた。

色々な人と話しながら、自分がどう歩むかを決めて歩いた人生、なんの後悔も迷いもなく、誰よりも濃い人生を送ったという自信が俺にはあった。

だって、よくよく考えてみ?名前onlyで雪山にいて、いきなり『世界は滅びてしまうのです!』って伝えられて、先輩達は皆瀕死になって、自分と非戦闘員しか生き残ってなくて……いや、俺も非戦闘員なんだけどさ。

誰もが憧れるであろう冒険譚そのまんまの経験をして、そんな冒険譚や伝説の主人公達と死にものぐるいで生き抜いて。

でも結局、『自分』がなんなのかは分からなかった。

名前だけの、喋り方とか文字の書き方、常識的な事しか覚えていない自分ほど恐ろしいものはなかった。

だけれど……あぁ、そうだ。今になれば分かる。

今の俺は2度目の……いや、正確には3度目の人生を送っている。

前の名前を引き継いで、『』が今の名前になる前の事も少しだけ思い出してようやく理解ができた。

皆が自分を知らないのは、分からないのは当然なんだ。人は自分だけの道をあるいて、死んでから自分が歩んできた人生を理解するんだ。

誰もが知る自分でなくてもいい。救世主だと称えられなくてもいい。俺はただ、自分を自分だと肯定してくれた皆を守りたかったんだ。

さて、こんな風に自分の人生を思い出して改めて言わせてもらいたい。

『コフィン無しのレイシフトは、自殺案件だぞ?!』

藤丸リッカ、精神年齢除いて15歳、心からの叫びである。

そうして彼含めたクラスにいた全員は、召喚される事となる。

--人生全てを狂わす異世界、『トータス』に。

 

 

【人理定礎値EX 終結神魔世界 トータス】

 

 

異世界に召喚されたクラス内で食事をとっていた生徒達は、曰く人類が滅びる寸前の為に、救って欲しいという説明を受けていた。

無理矢理召喚して戦えと言われた事実に生徒達は混乱している中、唯一の教師てあり大人の『畑山愛子』先生が反論する。

「ふざけないでください! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

畑山先生は平均より低身長……というか子供のような容姿の為、今の様子はぷりぷりと怒る子供のようであった。

その様子をみてほっこりする生徒達だが、ある意味先生の行動は良くもあり悪くもあった。そう、1度混乱を収めてしまえば『彼』が動く。

その後に続いて出された『帰れるのか』という質問に対して、『私では帰せない』と答えた説明している人物--召喚した国の教皇『イシュタル』--は、返答を聞いて狂乱し始める生徒達をみてじっとしていた。

そして、とうとう彼は---天之河光輝が動いた。

「皆、ここで文句を言っても意味が無いんだ。彼にだってどうしようもないみたいだし……。俺は、戦おうと思っている。この世界で生きている人を見捨てることは出来ない。それに、世界を救えば召喚した神様--エヒト様が元の世界に帰してくれるかもしれないんですよね?」

「そうですな、エヒト様も救世主を無下にはしますまい」

「それに、俺達は大きな力があるんですよね?何だか力がみなぎってきますし」

「えぇ、この世界の一般人の十数倍の力はあるでしょう」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う!この世界を救って、皆を元の世界に戻してみせる!」

元々、彼は一種のカリスマのようなものを持っていた。そして、彼の宣誓に続いて彼の友人の坂上龍太郎、幼馴染の八重樫雫、八重樫雫の友人である白崎香織。彼等がついて行くと口にしたのをきっかけに、次々に生徒達が賛同していく。もはや、教師である畑山先生の制止の言葉は聞こえていなかった。誰もが逃避したくなる現状に垂れ下がってきた、立ち向かうと豪語するカリスマ溢れる少年(・・)

それをみてニヤリと笑うイシュタル--本来ならば、そのまま流れる筈だった。

「ちょっと待て、天之河」

その一言で、全員が一斉にその言葉を発した人物、藤丸リッカの方を見た。

「うん? なんだい、藤丸」

誰もが戦う意思を決めた中、1人だけ抗う意志を決めた目で、天之河に問う。

「お前、命の責任は取れるの?」

 

正直、異世界に召喚されたと聞いて怒り狂いそうになったが、ある意味世界を救う為に力を貸してもらいたい気持ちは分からなくもなかったためにそれを口にするのはやめた。

だが、今目の前の天之河が口にした、戦うという言葉に込められてすらいない覚悟については別だ。

「えっと、どういうことだい?」

「だから、命の責任は取れるのかって聞いてるんだ」

こいつ自身は気がついていないのかもしれない。だが、だからこそ聞かなければならないと思った。失ってからでは、後悔なんて意味は無いんだから。

「だから、皆を死なせないために、俺が頑張るって……」

「無理だろ。もしもお前が寝ている時に、敵が襲ってきて生徒の誰かが死んだ時、お前は守れたのに守れなかったと言うか?」

「そんな事、俺がさせない」

「口では言えても、それが実際出来るかどうかは違う」

身を乗り出して反論してきている天之河に対して、俺は変える気のない覚悟をもって睨む。

「いいか、俺達が多少優れた力をえたとしても俺達はたったの数十人、相手は何万っていう軍隊だ。そんな中、誰もが死なずに生き残れると思ってるのか?」

「何度も言うが、俺が守って

「口だけで語るな。いいか、これはゲームじゃない。死んだらそれっきりだし、腕や足が切れたらくっついたりはしない。何があるか分からない世界で、俺達は物語の主人公でもなんでもない」

生徒達全員が俺を見ている。反論していた天之河すらも無言で瞠目してこちらを見ている。

「救えるものは救えないし、救えないものは救えない。手が届く範囲、自分が出来ることなんて限られてる。それに、俺達は平和な日本で育った一般人。命を奪う覚悟なんてもの、お前らはできるのか?」

冷静になって気がついた、奴らが今更青ざめていく。

「いいか、もう一度言う。俺達は無双ゲームのキャラでも、冒険譚の主人公でもない。ただ偶然巻き込まれただけの--一般人だ」

数分前までざわついていた生徒達は全員黙り込んでいた。天之河だけは何かしら言いたそうにしているが、言ってこない。

「ふむ……では、1度歓迎の準備をしております故、そちらで食事をとってからそれぞれの一室にて考えてみてはいかがですかな?」

イシュタルがそう口にすると、生徒達はまるで逃げるかのようにその言葉に賛成した。

その後、国王を含めた国の重鎮達からの手厚い歓迎をうけ、それぞれに配偶された一室にて眠りについた。

そして俺は気がついていた。あのイシュタルという名前の教皇が--俺を殺意の篭った目でじっと見ていた事に。



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勇者決闘

生きるために、生き延びるために……。
だが彼は、前世の業に囚われる。


次の日、戦争に参加するかは兎も角にも戦う、いや生きる為にも戦闘する手段を覚えた方がいいとイシュタルが口にし、畑山先生を含めた全員がそれに同意した。

そして早朝、この王国の城--ハイリヒ王国と言うらしい--の訓練所にて、生徒全員が出揃っていた。

「まず挨拶をさせてもらおう! 俺の名前はメルド・ロンギヌス、この王国の騎士団長をしている! 宜しく頼む!」

彼、メルド騎士団長は明るい声でそう名乗り、その明るさに引かれたのか暗い雰囲気を纏っていたクラスメイト達が多少なりとも笑ったのを見て、メルド騎士団長は姿勢を正して頭を下げた。

「まず、君達に言わせてもらいたい。すまん! 謝って何ともなる事ではないが、昨晩改めて考えて君達のような未来ある若者をこちらの事情で呼んでしまった事を謝罪したい!」

軽く緩み始めた空気が今度は騒然とする。ハッキリとは分からないが、全員王国騎士団長と名乗った彼が頭を下げて謝罪をする事がどれほど大きな事なのかを個人差はあれど理解ができた。

「謝っておきながら戦う方法を教えるというのは、おかしい事だろう。だからこそ、俺は誰かを傷つけるような技は教えない。君達が自分の身を護れるだけの力を得られる方法を教えるつもりだ」

全員、メルド騎士団長をじっと見ていた。唖然として、驚愕の表情を浮かべて、憎しみの目で見て、憧れの目で見て。各々思うことは違えど、理解出来た事があった。

『この人は、とても優しい人だ』

そして、メルド騎士団長は12cm×7cm程の銀色のプレートを取り出した。

「教えるにしても、適正を調べなければならない。このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書としても扱われている。これがあれば迷子になったとしても、ある程度は平気だ。無くさないようにしてくれ!」

全員がマジマジとステータスプレートを見ているのを確認して、メルド騎士団長は説明を再開した

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。原理などは分からない。神代の技術で作られたアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

「アーティファクトって言うのは、現代では再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つで複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

その説明を聞き、各々一緒に渡された針で指に少しだけ刺し、浮かび上がった血を魔法陣の描かれた面に擦り付けていった。それに続いて、後ろの方で見ていた南雲ハジメも続いていった。

結果は錬成師。様々なステータスは軒並み10と表示されており、技能と書かれた欄には『錬成』『言語理解』の2つが表示されていた。

「まず、レベルは個人の成長限界を示すものだ。そして天職。これはそれぞれに向いた職であり、技能もこの天職にあった技能を取得している事だろう」

ハジメは自分がゲームの主人公になったかのように感じたが、昨日召喚された時に藤丸リッカが話していた内容が頭の中をよぎり、浮かれるのはダメだと考えてなおした。

「この世界の住人の平均は10くらいだが、君達は一応勇者一行だ。恐らくは平均以上のステータスが表示されていることだろう!」

そして、全員のステータスを確認するという事となり、まず1番前にいた天乃河光輝のステータスプレートを確認した瞬間、メルド団長は息を飲んだ。

天乃河の天職は勇者。ステータスは軒並み100であり、技能数も10を軽く超えていた。

「そうか、お前が勇者か……」

影の落ちたメルド団長に対して、天乃河の表情は明るい。

「これで皆を守ることが出来ます!」

渋い顔をするメルド団長が何かを言おうとするが、力があると理解した天乃河は止まらなかった。

「どうだ藤丸君!俺は見ての通り皆を守れるだけの力がある!」

自分のステータスプレートを近くにいた藤丸リッカに見せつけながら、彼はそう宣言した。そして、ステータスプレートに向けられていた藤丸リッカの眼を見た天乃河は……恐怖した。

 

 

有り得るはずがない。

ステータスプレートと言われたものを使って、自分自身のステータスを確認したら、ありえないものが出てきた。

============================

藤丸リッカ 17歳 男 レベル:1

天職:渡航者

筋力:10

体力:120

耐性:50

敏捷:150

魔力:250

魔耐:250

技能:召喚[+縁憑依][+■■■■][+■■■■]・礼装魔術・聖杯・毒耐性・呪耐性・物理耐性・高速魔力回復・魔力感知・言語理解

==============================

何故ならば、それは有り得ないものだったからだ。殆どの技能も天職も、まだ理解ができる。ただしたった1つ、『聖杯』だけは理解ができなかった。そして、それらはあの旅では必ず縁があるものだ。故に思い出す。命を削って戦ったあの時を。

だからこそ、再び慢心し傲慢にも力があると名乗った天乃河に対して、絶対零度の様相の眼を向ける。

彼は知っていた。

--燃え盛り骸骨が闊歩する都市を

--竜が飛び呪いあれと叫んだ復讐者の叫びを

--己こそが唯一の皇帝であると神に誓った皇帝を

--海は無限だと言う女海賊と平和な国を作ると願う不器用な王を

--故郷を穢すのは己だけで充分だといい守護する反逆の騎士を

--己が理想であれと願う少女と国は永遠だと言う科学者を

--人を救う為に選定せんとする哀れな神に近づきすぎた王を

--この地こそが原初であると断言する英雄の王を

他にも様々な場所を旅して、彼はその地その地で話を聞かされてきた。人とは、英雄とは、王とは。

故にそれだけは許さない。傲慢にも力を持つと思い、仲間を犠牲にしかねないその浅はかさだけは。

「……メルド団長。すみませんが、少々彼と模擬戦をさせて貰えませんか?」




はい、期間があいてしまってすみませんm(_ _)m
ちょっとリアルで色々あったり……FGOで大奥やってたりしましたw
結局カーマは当たらず(パールさんは宝具3に)
そして今度は帝都聖杯奇譚?運営さんや、えっちゃんと沖田オルタのダブルはやめてください( ´ཫ` )
ちょっと駆け足なこの回ですが、次回は天乃河vs藤丸の予定です
ではでは〜(イベント回ろ)


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現実認識

すみませんでしたぁ!
い、いやね?色々とあったんですよ……FGOのイベントとかぁ、新しく配信開始したゲームとかぁ……はい、ゴメンなさい。
なんにせよ、久々に書くとかなり違和感がありますね……今後はちょこちょこと書いて行きます!
では、どうぞ!


メルドさん立会の元、あの勇者天之河とやる事になった訳だが……

(やばい、技能に心当たりはあっても、使えるかどうか分からない……)

軽く試してみたが、礼装魔術はカルデアで用意されていた礼装の魔術が使用出来るようだ。『カルデア』、『カルデア戦闘服』、『魔術教会制服』、『アトラス院制服』、あともう1つある筈だが、何故か使えなかった。

ただ、これだけあれば確実に耐久は出来る。だが、今回の立会は耐久戦をする事じゃない。速攻で天之河を『倒す』事だ。

そう、周りを巻き込む事は許せない。だが、それは自分の考えの押し付けだ。だからこそ、うちの軍師が言っていた事を実行する。

『押してだめなら引いてみろ、引いてだめなら押してみろ。それでもダメならば、いっそ殴りかかれ。それが1番早い。まぁ、こんなものは策とも言えんがな』

そして、訓練所で俺と天之河は向かい合う。

「今回のこの試合、天之河対藤丸。立会は王国騎士団団長、メルド・ロンギヌスと……」

「この私、グレゴリー・ラプスーチンが行う」

……。

『『『はあっ??!!』』』

えっちょっまっ。

「ふむ、どうしたのかね、勇者様方」

「……言峰綺礼という名前に聞き覚えは?」

「ないが」

「……得意料理は?」

「ふむ、そうだな……。トゥフのマーブル仕立てといったところか」

ラプスーチン……恐らく、名前は一緒でもあいつとは関係ないだろう。何にせよ、今はこの立会に集中しよう……。

「お、おい藤丸君。あの神父は……」

「別人だ」

「いや、でも」

「別人、他人、そっくりさん」

うん、別人だろう。なんだか、得意料理が絶対に麻婆っぽい雰囲気をもの凄い醸し出していても、きっと無関係だ。

--ダカラマーボーハモウヤメテ。

「何故かなんとも言えぬ雰囲気を漂わせている所悪いのだが……試合を開始させてもらおう」

「あ、了解です」

そうして、神父の一声にて、改めてお互いに向かい合う。--エミヤは言っていた。馬鹿正直に相手の土俵で戦うのは、愚か者のする事だと。我らが軍師は言っていた。常に戦場を把握し、絶えず変化させよと。

「では、双方構えたまえ」

互いに剣を構える。天之河は真っ直ぐな剣筋で此方を見ている。剣術ではなく、剣道としての構えで。

--あぁ、それが嫌なんだ。何も知らない愚か者が。

「では……初め」

一直線に此方に向かってくる天之河を見据えて……剣を投げる。

「なっ!」

そして俺は、手を銃の形の様にして、幾度となく世話になった言葉を口にする。

「ガンド」

 

 

周囲で観戦していた騎士達も、ただ浮かれていたクラスメイト達も、その状態を理解出来なかった。彼等ははなから決めつけていた。「勇者にどのような職業であれ、勝てるものか」「剣道をやっていて凄く強い天之川君に藤丸君程度が勝てるわけないじゃん」と。

しかし、その空想は覆された。

「どう……なってるの?」

誰が口にしたのかは分からない。だが、それがその場にいた全員の心情を表していた。

試合が始まり直ぐに投げられた剣を見て、騎士達は笑った。自身の唯一の武器を捨ててどうすると。幾ら異世界からの勇者御一行であっても、見た目通り浅はかな思考しか出来ぬのだろうと。

しかし次の瞬間、投げられた剣を防いだ勇者天之川の動きが止まった。何がおきたと困惑するが、その答えは簡単であった。

「今の魔法は何……?」

そう、魔法だ。けれど、理解したくはない事だ。彼等からすれば、魔法とは詠唱をしてか、もしくは大規模な魔方陣等を使用して使うものだ。

しかし、異世界から来たばかりの勇者達が魔方陣も魔法のための詠唱も知っているわけがない。そして、使用されたと思われる魔法はたった一言の呪文と思わしき言葉で終わっていた。『ガンド』そんなワンアクションの呪文ではせいぜい種火が限界、相手の動きを止めることなんて出来ない筈なのだ。

そんな騎士達の思考なんて知らないと言わんばかりに、試合は進んでいく。

剣でどうにかいなしている勇者に対して、ただの一行の一員である藤丸リッカは……拳を奮っていた。

「くっ、いきなり武器を投げつけたり、動きを止めてくるなんて……汚いぞ藤丸君! それに、何故君は剣を使わない! これは試合だぞ!」

「はっ、知った事か。それも1つの戦法であり、戦術だ。そして、命がかかっている場面でも、お前は汚いと自身を殺そうとしてくる相手に言うのか? これは試合ではあるが、戦い方が定められているわけではない」

クラスメイト達からしても、この状態は想定外であった。武器を持っている上に、強いはずの天之川を、武器を持たず、ただクラスの隅で本を読んでいただけの藤丸が圧倒している……勇者天之川という存在に対して、信頼をしている……してしまった彼等からしたら、信じられない光景であった。

「くっ……はぁっ!」

「……っ!」

まともな一撃が腹部に入った。それを見て、流石の藤丸であっても、流石の一行の一員であっても、もう無理だろうとその場の全員が思った。

「今のはまともに入っただろう。そろそろ降参したらどうだい?」

肩で息を整えながら、天之川はそう口にする。

「これで分かっただろう。俺には力がある! 君も中々の力があって、それで勘違いしてしまったみたいだけど……だが、その力を人々を救うために使おう!」

クラスメイト達も、騎士達も、その言葉に賛同していた。だがしかし……、彼がその程度で折れるわけがない。

「……」

「さぁ!」

倒れている藤丸に対して手を差し出す天之川。それは正しく英雄譚の1遍の様で……。

「甘い」

即座に起きた藤丸に手を捻られ、腹に一撃を入れられ、吹き飛ばされなければそうなっていた。

「かっはっ……!」

「甘い、甘いぞ天之川。戦場では、命がかかった場所では、そんな甘い言葉は意味が無い」

壁に叩きつけられながらも起き上がる天之川を、藤丸は眺めている。もう終わったと思っていた観戦者達も呆然とする。ただ唯一、神父だけがニヤリと笑っていた。

「くっ……君はもう動けないはず……」

「そんな訳ないだろう。この程度なら、もう何度も受けたし、実際普通に耐える事は出来る」

--何処からか炎が舞い始めた。それに最初気がついたのは極数人。しかし、数秒すると全員が気がついた。藤丸が燃えていたのだ。炎が足元から這い上がり、その足を、その胴体を、その腕を、その顔を、全てを包んでいく。

唖然とする彼以外の全員を知らぬと言わんばかりに、燃え盛る。

そして炎から出てきた藤丸は一変していた。黒く黒く黒い。まるで騎士甲冑のなり損ないの様に、体の1部にのみ金属製の鎧を纏い、右手には龍を象った旗を掲げ、腰にも一振の剣を携えた姿に変わっていた。

そして、同様に変わっていた藤丸の金色の瞳に正面から見られた天之川は、動けずにいた。

「力があるから、力を扱えるから、そんな慢心や思い込みで人を救えたら世界はとっくに救われている。もう死んだ筈だ。もう動けないはずだ。そんな事、当事者じゃないお前にわかるわけが無い。警戒を怠れば直ぐに死ぬ」

一言一言が、改めて観戦者達に染み渡る。まるで浮かされていた心情から戻すかのように。

「力があればどうにかなるか? 知恵があればどうにかなるか? そんな訳が無い。人は簡単に死ぬが、人は簡単に生かすことはできない」

騎士達は改めて思い出す。人々を救うためにここにいるのだと。自分達の力でどうにかするために、日々努力しているのだと。それなのに、異世界からまだまだ若い子供達を無理やり連れてきて、戦わせようとするなんて、何様だと自身の浅はかさに自身を叱咤する。

「ゲームの様に人を救える訳では無い。だが、ゲーム以上に人は簡単に死ぬ。力があるから勝てる訳が無い。救ったとして、何かを必ず失う事になる」

生徒達も改めて現実を突きつけられる。この世界に浮かされていたが、元の世界の家族達はどうなった?こちらの世界で、自分達は生き残れるのか?彼等はようやく現実に恐怖する。

「1度それをしっかりと考えろ、理想に溺れる前に。周りを疑い自身の立場を築け、裏切られる前に」

藤丸は自笑するかのように笑い口にする。

「そんな甘い考え方だと、何時か必ず全てを失うぞ」

--一瞬で詰め寄った藤丸の旗による一撃で、天之川は気を失った。そして、この試合は騎士達が自らの戒めとして、生徒達が現実を直視した理由として、元の世界に戻った後も心の中に残った。

藤丸が試合の為の舞台から出ようとした瞬間、1度だけ後ろを振り向いた。そしてその視線の先には……酷く恨めしく正しく呪わんといった表情で教皇イシュタルが彼を見ていた。

彼はそれを無視して自身に割り当てられた部屋に戻っていく。強く、深く感じる事のできる復讐の聖女の気配を感じながら。




彼は藤丸立香ではない。藤丸リッカだ。
彼は凡人だ。だが普通ではない。
彼は理想を抱いていた、だが現実を見た。
彼は信じていた。だが--守った者に裏切られた。


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深淵落下

今日2度目の投稿となります〜。
まぁ中々にスカスカかもしれませんが……書けという啓示が降りたたか仕方がないよネ!
さぁて、宝物庫宝物庫……


--結果から言うならば、天之川は特に変わらなかった。

いつもの様に正義の味方ぶった言動も変わらず、皆を率いるリーダーとして振舞っていた……が、周りの生徒達は変わっていた。

命が危険になる可能性を口にされて、自身の部屋に引きこもるものも少なくは無かった。けれど、そんな中メルド団長が一人一人に謝罪をしに行き、どうにか自衛のために最低限でも教えさせてくれと行った結果、一応は全員が鍛えるために鍛錬場に出て鍛えている。

そして、生徒達の考え方を変えたリッカを批難するかの様な事を普段から口にする天之河は、少しずつだが生徒達から離れられていっていた。

そして、問題のリッカは……。

「ちっ、あの教皇め……」

「ふっ、多少は落ち着け勇者」

見張りと思われるラプスーチンと共に、オルクス大迷宮を探索していた。

 

オルクス大迷宮第三十八層にて、彼等は今さまよっていた。

「はぁ、神父。地図としてはこちらであっているのか?」

「ふむ……あぁ、こちらであっているとも」

神父がもつ地図を頼りにして、迷宮探索をしていた彼等だが、リッカのとある問題に現在追い詰められていた。それは--

「くそっ、ここで迷うのは不味い……」

「ふふふ、中々に面白いものだな。まさか勇者を圧倒した君は大の方向音痴だったとは」

そう、リッカは右に行ったかと思えば道を遡っていたりと、かなり酷い方向音痴であった。カルデアにいた時は、ナビゲートに従ったり仲間のサーヴァント達にある程度着いていくだけで何とかなっていたが、今彼等は2人だけ。神父は決して前に出ようとはせず、どうしてもリッカが先頭を歩く必要があった。

「はぁ……本当に何故だ……」

「行くだけならば迷わず行けるとしても、戻る時だけは迷うとは。中々に愉悦……いや、大変だっただろう」

「聞こえてるぞ神父」

そんな風な話をしながら、彼等は迷宮を歩んでいく。

(一応現在使える能力は3つ。礼装魔術に1人限りの縁召喚、そしてあの試合以降見れるようになった派生の1つ、憑依召喚……)

リッカは悩みながら歩く。時々敵が出てくるが、迷宮に潜り続けてまだ3日といえど、元が勇者なためかステータスが高い。それ故に問題なく処理していく。

(縁召喚と憑依召喚は、何方も1度使用すれば4日は使えない……)

これは試合後に技能を調べ判明した事だ。召喚系の技能は留める事も出来なくはないようであったが……残念ながら、魔力が消えていき現状不可能であった。

(あの試合から、今日で四日目。つまりもうすぐ技能の再使用が出来るはず……)

悩んでいたリッカであったが、前を歩いていた神父が止まったのを見て思考を1度中断した。

「ん、どうしたんだ神父」

「ふむ、この先のようだ」

見ると階段と共に広い部屋があった。

「……登ってきた時とは違うようだが」

「なに、ここは迷宮。階段は1つではないという事だ。こちらの方がこの階にきた階段よりも近かったのだよ」

そう言いながら、神父はリッカを見据えて口を開く。

「では少年よ。君に1つの問いかけをしよう」

この試合が終わってからの4日間という短い期間で知った、神父の雰囲気からぐるりと変わった……正しく裁定者というような雰囲気を醸し出しながら、神父は言葉を紡ぐ。

「君はきっと苦難の道を進む事となるだろう。それはまず逃れる事はできないうえに、逃れようとした所で無駄とかすだろう。私としては実に面白いのだがね」

クククと笑いながら、神父は話を続ける。

「ただ、今だけならば私は君を救ってあげよう。苦難の道ではなく、ありふれた日常へと」

「……」

確かに苦難の道となるだろう。普段通りに過ごしておいて、いきなりこのような目にあったのだ。むしろここまでが充分苦難の道の始まりだ。

「さて、どうするかね? 逃げるならば今だけだ。君は再びその力を得た。英霊達との縁を、絆を、かの戦いの力を」

「俺は……」

苦難の道、それは出来る限り避けるべきものだ。自分からそこに向かうなんて、阿呆かドMのする事だ。人間は誰しも楽を求める生き物だ。

「なぁ、神父。1つ質問いいか?」

「ご自由に。私は神父だ。悩める者の言葉を聞くのは正しく私の仕事」

「その道を歩めば、多少なりとも人を救う事は出来るのか?」

自分でも何を言っているんだと苦笑する。散々人を救う事について難しいと口にしたというのに、自分がその道を選ぶのかと。

「あぁ、救えるとも。君ならば。君が居なくとも救われるだろうが……どうする?」

自分でやる意味はないと言われた。だが、リッカはそんな道を歩んで来たのだ……そして、その道の果てに〒+々4・¥:[:・8々々7▪️■■▪️。

「やってやる。全員を救うなんて事は無理だ。だが……俺だけ楽をして救われる訳には行かないんだよ。それこそ皆に顔向けが出来ない。やってやるさ、10人救う事は出来なくとも、1人だけは助けてみせる」

「ふっ、やはり君は藤丸リッカだ。よかろう、ならばこの道を進みたまえ。そしてまずは1人の少女を救うがいい」

神父が指し示すのは階段前の広場。そしてそれに従って広場に行く途中、話の始まりからの疑問を口にする。

「なぁ、ラプスーチン神父。やっぱりお前は--」

次の瞬間、広場の足場が一瞬で全て消え、リッカはそこの見えぬ奈落に落ちていく。リッカの怒号が響く中、神父はその縁で佇んでいた。

「君ならば必ず生きて帰ってくるだろう……さて、彼が帰って来るまでに特製麻婆の準備でもするとしようか」

ラプスーチン神父。彼が教皇より承ったのは勇者一行の1人、藤丸リッカの処理。そして、その命令は今遂行された……。だが、彼の考えは浅はかだったと思う事になるだろう。

奈落にて怪物が産まれ、人理の旅人と出会うのは、まだ遠い話。




彼には座が用意されていた。
その座の名はルーラー。
ある意味正しい。
ある意味間違い。
彼にはあと2つの座がある。
だが、それはまだ見えない。


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深層回帰

この回では一気に色んな伏線を貼ります……えっ、一気にそんな事をするなって?
HAHAHA、ここで多少出さないと出せそうな場所がないんです(´・ω・`)
基本ここで出てくるカルデアはうちのカルデアとなります。
そして、次回ようやくハジメ君sideになります……ダイジェストですけど。


「痛い……」

神父によって案内された部屋に仕掛けられていた罠によって落ちたリッカは……何とか生き残る事が出来ていた。ただそれは奇跡が起きたという訳ではなく、何者かの手によって……。

「ここは……」

地下に存在していた地中湖から出たリッカは、周囲を確認しようとして、気がついた。

「……服が乾いている?」

地下の地面に叩きつけられたのならば、彼は決して生き残ってなどいないだろう。かといって、湖に叩きつけられていたとしても死んでいただろうが……生き残るには湖に落ちていなければおかしい。だが彼は迷宮?と思われる地下の床で横たえられていた。

「誰かが……いるのか?」

何処とも知れぬ迷宮の奥底にて、リッカは再び過去を思い出しながら行動を開始する。

「……どちらにしろ、安全地帯を確保しないと」

その場を離れ、移動を開始した彼は後ろからの視線に気がつくことは無かった。

 

 

「ふぅ……どうにか見つからずにここまで移動できたか」

仮称地下迷宮を探索し始めたリッカだったが、歩いても歩いても魔物の1匹すら見つけることが出来なかった。

「ここまで探索し続けて、魔物の1匹も見ないとなるとかえって不安になるな……」

実際、リッカは約2時間程休憩を挟みながら探索をしていた。だが魔物と接触することは無く、まさか魔物はこの階には居ないのかと思い始めると……。

「きゅ?」

迷宮の角からソレは姿を現した。姿形は正しく兎、だが大きさは軽く1mは超え、地上の魔物とは違い身体中に赤い線を浮かび上がらせていた。

即座に警戒態勢にはいり、後方確認をするが……行き止まり。後ろへの警戒をしないですむという理由で隅を選んだのは愚策であった。

静寂が訪れる。無音の中で初めに動いたのは……兎であった。

「」

一瞬、一瞬であった。即座に詰めてきた兎に対して、経験と直感が即座に警報を鳴らし、それに反応できたのは彼が潜って来ていた場所が場所ゆえだろう。普段通りなら、何時も通りならば彼は対処できたであろう。実際、1度目は対応ができた。

(やばっ、剣が折れたっ!)

だが、武器が折れた。対応するための手段の1つが失われたという事だ。そして悪い事は、一つだけ起こるとは限らない。

ウヲォォォン……

追加の魔物。今まで見つからなかった分が押し寄せてきたかのごとく、狼型の魔物が現れた。それも、複数匹。

(ヤバイヤバイヤバイ!)

リッカは仮にも最後のマスターときて生き残らねばならなかったため、様々なサーヴァント達によって鍛えられていた。肉体は当時よりも下ではあるだろうが、染み付いた技術などはそのままだ。

だがしかし、その技術は対単体である。相手が1人であれば、周囲環境がここまで最低な場合は中々におきない。

周囲は壁に囲まれ、逃げるにも敵がいる1箇所を通らねばならず、敵もこちらを認識し、敵の方が格上。さらに複数となると、これはもう諦めた方がはやいぐらいだ……だが。

(ここで諦めてたまるかっ)

確かに過去最低クラスと言ってもいいぐらいには追い詰められているが、これ以上なんて既に経験済みだ。そしてこの場合は逃げるのは愚策。敵が目の前にいるが、恐らく敵対的関係な2種。ならばどちらかが倒れるか、両方が疲弊するまで耐え忍ぶしかない。

……そう決意した途端、互いに威嚇し合っていた狼と兎は萎縮した。

この階には3種類の魔物がいる。2種は目の前の兎と狼。この2種は気がつけば増えており、互いに戦う間柄だ。だが最後にこの階でたったの1匹しか存在しない唯一の存在がいる。

グルゥォォォォォォォ!!!

それは、いずれ地下の怪物の生誕の切っ掛けともなる怪物。地下1階層の始まりの試練。--名称爪熊が現れた。

現れた爪熊が手を振るうと、避けたにもかかわらず一瞬で固まっていた狼達が切り裂かれた。そして、手を振った隙を突いた形の兎による蹴りも……その口で喰われ、意味をなさなかった。

グチャッバキボリベキッ

今リッカの目の前では、正しく食物連鎖の形が示された。狼と兎は熊のただの食料であり……リッカを見た熊の目は語っていた。

【貴様も私の食い物だ】

「ッッ!アアァァァァァァァ!!」

人間や動物が叫ぶのは、自身を大きく見せたり強く見せるため、自身を鼓舞するためというのが理由らしい。リッカは立ち止まるのが愚策だと考えた。進むのも愚策だと考えた……打つ手がないと理解した。

ただ、何もせずに死ぬよりも足掻き活路を見出すために動いた。

だが、差は歴然であった。

「ぐぁっ?!」

当たらないはず、当たるわけがないのに、その爪は当たる。深く、深く抉るように。

「ぁ……ぅ……」

血が流れ、臓腑が一部覗き、正しく瀕死。死ぬ間際。動けば肉が裂けそのまま命を落とすだろう。

ゆっくりと、熊が近くによる。勝者として勝鬨を上げるではなく、ただ当たり前の食事をするために。

 

 

彼が記憶がなくとも歩んだカルデアでは、何時も共に歩いていたサーヴァントが居た。過去には敵であったが、死線をくぐり抜ける度に距離が狭まり、最後の直前では互いがいなければもう1人は語れないと言わんばかりの存在だった。

彼のカルデアには、英雄であるサーヴァントの中では珍しく、マスターの影法師とも呼べるサーヴァントが居た。彼は卑屈であり皮肉屋であり、自身が最弱であると述べた。事実、彼は最弱であったのだろう。だが、彼はリッカの影で何時も見ていた。自身の危機を背負ってまでも、正しく“悪”であろう自身の過去に望んで飛び込む愚か者が救いを求める時を待っていた。

彼は、リッカは弱音が吐けなかった。意味が分からないままに世界を救う事となり、自身を理解出来ず、周りに負担をかけさせまいという歪な形をとっていたが故に。

しかし、彼は知ってしまった。旅を経て様々な事を知ってしまった。無色透明なにも持たなかった彼は、死にたくない理由を、世界を見たい理由が出来てしまった。だからこそ求める。彼は初めて、誰かに縋る。

「だれか……たす……けて……」

「ふん、遅いのよ、マスター」

「ほいほいっと、そんじゃま、片付けますか!」

 

 

その者達は正しく悪、人類に弓を引く悪である。そして唯一のマスターのためならば世界すら破壊する……絶対的な悪である。

「マスターもどき、さっさとマスターを助けなさい。あんたはどうせ戦闘で役にたたないのだから」

「まったく、後輩は口が悪いったらありゃしないぜ」

「煩いわね、燃やすわよ?」

熊は困惑する。誰だこいつらは。なんなんだコイツらは。何なんだこいつらは!

熊の認識では、目の前の見た事もない既に死にかけの存在はただの食料であった。貧弱であり、軟弱な存在にしか見えなかった。だが、その近くに現れた2匹は何だ!方や余りの嫌悪感に喰らう気もおきず、方や……余りに理解が出来てしまう力の圧倒的な差を持った存在。

なんだ、なんだ、なんなんだ!

「この熊畜生が私達の……私のマスターを……」

「おおっと〜、後輩ブチ切れかぁ」

熊はもう、逃げられない。

「--これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮」

竜の魔女と名乗った贋作による、怒りの一撃が放たれる。

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!」

熊の四方八方から火の手が上がり、熊を槍で、剣で刺し貫く。

逃げる事も、ましてや生き残る事も許さぬ様に燃やしてゆく。理解をするまもなく、熊は燃やされ灰となる……。

「おお〜、さっすが後輩。頼りになるねぇ」

「そんな事よりも、マスターは!」

竜の魔女は焦る。またなのかと、またマスターを失うのかと。

「ん〜……これは無理だな!」

「ッ! 無理じゃないのよ、どうにかするのよっ!」

涙が、頬を垂れる。目の前で虚ろな目で血を流し死にかけるマスターをみて、自身が何をしていたのだと叱咤する。

「おいおい、無理とは言ったが、対処法が無いとは言ってないぜ?」

希望がそこにはあった。だが、その希望を垂らしたのは……必要悪である。

「俺がマスターと1つになる。そうすればまず助かるだろ」

「そんな事っ!」

例外が……ない訳では無い。彼は即ち忠実における第四次、第五次聖杯戦争にてその片鱗を見せた深淵の泥……その元なのだ。事実、それで生き延びたものもいる。

「--」

「--」

結論としては、必要悪はリッカと1つになった。

竜の魔女はそれを見守り、眠るリッカの傍で寄り添う。彼女がその剣を、炎を振るうのはリッカの為だけなのだから……リッカを傷つけるものは、尽く彼女の敵である。

リッカが目を覚ますその時は、その運命は暫く現れない。邪ンヌの脅威を測れず、眠るリッカに手を出そうとした愚か者はすべて焼かれる。

さぁ、再び求められた時彼は目を覚ます。何故ならば彼は、世界を救う者なのだから。早く……早く現れろ、迷宮の怪物よ。




藤丸リッカ。
過去不明、前世不明、現世高校生。
一般人であるのだろう。
考察するには、情報が足りない。
そして--彼を見ていると思わしき視線、あれは誰の視線なのだろうか?


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狂気判定

(´・ω・`)
……なんか内容が重くなったけど、知った事かぁ!
ia、ia、haster!


『藤丸リッカ、迷宮にて罠にかかり死亡』

その報告がなされた時、生徒達も騎士達も荒れた。

生徒達は自分達に命を語っていた彼が呆気なく死んだ事で、改めて現実であるという事を認識して。騎士達は上に逆らわずに、みすみすリッカを迷宮に送り出してしまった事で。

騎士達は改めて自分達の考えを変えることにした。自分達は何もせず、何も出来ずに死なせてしまったが故に、もう自分達のエゴで召喚した彼等を誰一人欠けさせはしないと。

生徒の殆どは報告をうけ、更に自分の部屋に引きこもるものも増えた。それの現実に慌てた教会は、1度生徒達全員で話をさせることとした……勇者天之河に期待をして。

--教会は理解出来ていない。既に藤丸リッカによって、生徒は死ぬ可能性を垣間見ているということに。

 

 

「皆、1度落ち着こう。確かに藤丸君が死んでしまったのは悲しい事だ……だが、だからこそ彼が死んでしまった今、止まるわけには行かない! 部屋に引きこもるだけでは、前を見ることなんて出来ないんだ!」

確かに、彼の言葉は人として真っ当で、下を向くだけではなく前を向こうというのは正しい事なのだろう。

だが……だからこそ、生徒達には歪に映る。

「彼は迷宮に潜って死んでしまった……。余りにも急ぎすぎてしまったんだ。彼の事は本当に残念だが……これを戒めとして、皆を救う為に俺は頑張ろうと思う!」

人として、一般人として実に正しい。だが、彼は思考から忘れている……既にこの世界に来ている時点で、常識とは非常識に切り替わっているのだと。

「……皆って、誰?」

誰かが、そう口から零した。

「皆は皆さ。この世界の人々も、君達も! 俺は救ってみせる!」

英雄とは、自身が間違っていると分かっていようとも人々の為に自己を削る事の出来る人物の事を言う。勇者とは、人々の希望を背負い進む事の出来る人物の事を言う。だが……。

「この世界では、俺は勇者だ。優れた力で、皆を守る! だから、力を貸してくれ!」

己に過信をして、周囲を巻き込む者は……愚者という。

カリスマに溢れた彼は、既にここには居ない。ここに居るのは……力によって盲目的になった哀れな少年1人である。

「……ごめん、私は無理。死にたく……ないの」「俺も……」「すまん、天之河……」「ごめんね……」

それを理解した生徒達は、自らの命を投げ出そうとは考えない。

「なっ……みんな……どうして」

結局、その場に残ったのはたったの6人。

「……なぁ、光輝」

彼に声をかけたのは、元の世界からの親友である坂上龍太郎。彼ならば自分の思いを分かってくれるはず……その思いは、崩れ去る。

「ちょっと、焦ってないか?」

「……どういう……ことだい?」

残った他の4人、八重樫雫、白崎香織、畑山愛子、南雲ハジメもそれを静観する……若干1人、寝てしまい動くタイミングを失ってしまっただけのようだが。

「光輝、確かにお前はこの世界に来て、すげぇ力を得たんだろう。正直羨ましいぜ。だがな、お前みたいに皆つええわけじゃねぇ。よええ奴もいるし、ただ臆病なやつもいる」

「……」

「だからよ、1度落ち着け。周りをしっかりと見てみろ。俺は考えるのはめんどくせぇから嫌いだが、流石に今のお前が正気じゃない事だけは分かる」

坂上龍太郎に続き、八重樫雫も口を開く。

「この世界は、現実なのよ……。藤丸君が言っていたように、人は死ぬし、血も流れる……。私達がしないといけないのは、命を奪う行為なのよ……?ただ何かを救えば良いだけの事じゃないの。誰かを救う為に、誰かを捨てなきゃ……ダメな世界なのよ」

信じていた友人2人からの言葉が、彼には理解ができなかった。人を救う為に誰かを見捨てる?今の自分が正気じゃない?

自分を否定する言葉が信じられず、希望に……白崎香織を彼は見る。

「ごめんね、私も雫ちゃんの言葉が正しいと思う。治癒術師っていう、誰かを救う為の職業なのに、私は何も出来なかった……。この世界は、甘くないって分かってた筈なのに……」

なんでだ、なんで親友達は自分をそんな目で見る?おかしいじゃないか……。しかも香織はなんで自分を責めている?藤丸リッカが死んでしまったのは、仕方がないじゃないか(・・・・・・・・・・)

彼はもう、歪んでいる。

 

畑山愛子には、何も言えなかった……自身には、何も言う資格がないと思っていた。

自分の職業が希少だからといって、教会にかこまれて……生徒を守るという教師としての意義を一時であれ、忘れていた。たとえ異世界であっても、彼らは自分の生徒であり、自身が真っ先に先頭に立つべきだったというのに……。

彼女も気が付かない。それは既に、教師としての役割から離脱しているということに。もう既に、一種の狂気の沙汰であるということに。

 

彼等は既に、狂っていた。

そして、数少ない平常を保っている南雲ハジメでさえ……徐々に歪みはじめている。既に、歪な狂気に彼等は……生徒達は囚われている。

物語は進む。彼等は迷宮へと向かう。死ぬ可能性を見た生徒達は城に篭った。迷宮に出たのは、最後まで残っていた6人の中の5人。畑山愛子は、許されなかった。

歪む、亀裂が走る。既に賽は投げられた。

迷宮にて眠りについた復讐の裁定者は……目を覚ます。




狂気は巡る。混沌が覗く。既に侵食されている。
故に正気は消失する。故に理性は焼却される。
保て、己が信念を。


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地獄開門

迷宮の底にて、泥は蠢く。魔女は己を削る。
さぁ、開幕の準備は整った。
原初の泥の呪いは--


迷宮の地下の奥深く……そこは正しく『地下迷宮』の名に恥じぬ様相をしていた。自然の岩肌等が所々確認が出来……しかし、とある行き止まりには余りにも迷宮からはかけ離れた″何か″が存在した。

そして、ソレの前で立ち塞がる黒い鎧を纏った女性の姿も。

地下の魔獣達は近づかない。近づけばどうなるかは……女性の目の前に散乱する数多の死体が物語っていた。

--奴に近寄るな、死にたくなければ手を出すな。

野生の……生存本能に刷り込まれた魔物の大虐殺を成した本人は、今尚涙を静かに流しながら待っている。己が身を削りながら。

(早く……早く起きなさいよ。バカマスター……)

″何か″は静かに脈動を続けている--。

 

オルクス大迷宮。

そこは、神々が存在した時からあったと言われる迷宮の内の1つ。そこに、召喚された勇者一行から……5人と、騎士3名が訪れていた。

「ふっ……!」

ギィシュゥ……

勇者である天之河は順調に魔物を切り倒していくが……周り全員が着いていけているわけではなかった。それを確認したメルド団長は1度休憩をする事にしたが……何より、勇者本人が急ぎすぎている事を理解していた。

「よし、1度休憩だ!」

「ふぅ……」

周りに魔物が居ないかを騎士の1人が警戒している中、勇者一行の5人は各々水筒を口にするなどして、休憩をしていた。

「……ふぅ」

そんな中、休憩をしながらも己の唯一の技能--錬成を磨く者がいた。

「全く、休む時は休め! 確かに練習は必要だが、いつでも休めるという訳では無いんだ。今のうちに休んでおけ」

「あ、すみません……ただ、僕は非戦闘系なのに着いてきてしまったので……このくらいは隙を見て練習しないと」

少し呆れた顔で注意するメルド団長に対して、錬成師という唯一の非戦闘系として召喚されてしまった少年--南雲ハジメはそう返答する。

しかし、今回の迷宮探索にて騎士達やメルド団長に1番驚かれているのは、ハジメであった。

当初、騎士達は非戦闘系ながらも生き残るために強くなろうとするハジメを絶対に守って見せるという意思で気合を入れていたが、いざ迷宮に入って魔物と戦ってみると、想定もしていなかった方法--穴を作り、そこに落とすなど--で魔物に対処してみせる南雲に驚いた。

団長であるメルド団長もそうだ。本来、錬成師は拠点などで武器の整備などをしたりするのが役目だったが……このような使い方が出来るのかと、錬成に対する認識を改めた。

ただ、それ以上の事が土魔法で出来る為に、やはりしっかりと守らなければというのは変わらなかったが。

彼らは本来の未来とは違う道を選んだ。だが、世界はソレを、許容しない(ゆるさない)

 

彼等は順調に進んでいく、次々に階層を制覇していき……そして、地獄への門を開く。

「っ! 光輝っ、そこから離れろっ!」

魔物との戦闘、何時間と繰り返してきた戦闘、多少なりとも慣れというものは、人の警戒を……奪う。

余りにも見事に隠蔽された罠……という訳では無い。そう、偶然(・・)にも天之河が攻撃した箇所の壁が壊れ、そして現れた罠を魔物が触ってしまった……そう、単なる偶然(・・)である。

魔物によって起動させられた罠は未だ戦闘をしていた魔物達と勇者一行達、全員の足元に広がっていき罠が作動する。

一瞬、強い光がその部屋を包み込み……その場にあったのは、静寂と戦闘の跡のみであった。

 

魔物達と勇者一行達が転移させられた場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはあり、天井も高く二十メートル程。

橋の下は深淵の如き闇が広がっていた。落ちれれば……命は無いだろう。

橋の両脇には階段が存在しているが……ここは死へと誘う奈落への入口。生者がいることは……許されない。

カタカタカタ……

魔物達と勇者一行の近くの階段前、そこには魔法陣が刻まれており……大量のスケルトンが湧いてくる。

「お前達、あのスケルトンの大軍を退けるぞ! あの階段の場所までの道を開くんだ!」

メルド団長の指示を聞き、即座に戦闘態勢を整える騎士達と慌ててそれに追随する勇者一行。スケルトンの大軍を見て、勇者一行は自分達とスケルトンたちの大軍との現在の力の差が殆どないのを理解し、冷や汗をかく。

まだ立ち向かえる彼らだが、彼らと共に転移した元凶である魔物達は……生存本能のままに橋の反対側に逃げ出そうとする。

橋の中腹に差し掛かった瞬間、魔物達は生命の危機を察知する。だがもう既に……遅すぎた。

グゥルゥォァァァァァ……!!!

悠然に、己が最強であると宣言するかの如き咆哮。それを聞き、橋を確認した勇者一行の目に映ったのは、逃げ出した魔物達がまるでゴミのように奈落の底に落とされる光景であった。

そして、落ちる魔物達の事など知らぬと言わんばかりに勇者一行を眺める大型の魔物を見て、メルド団長はすぐ近くのスケルトン軍団の事を一瞬忘れて、呟く。

「……まさか、ベヒモスなのか?」

地獄の門は開いた。さぁ、門から伸びる死の手から逃れてみせよ。




門は開いた。さぁ、逃げろ。


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生誕祝祭

■からはじまり、■も起きた。
さぁ来たれ、奈落の化け物よ。さもなくば……無垢なる剣士の命は閉ざされるぞ。


グゥルゥォァァァァァ……!!!

ベヒモスが叫ぶ。正しく王者の様な貫禄を示し、その姿は恐怖を連想させる。

例えるならば……そう、トリケラトプスの様な姿であるベヒモスは燃える角をこちらに向けて……飛ぶ。

「っ! 全員っ、下がれぇぇ!!!」

メルド団長が叫ぶ。はっ、とその言葉に即座に反応した5人は……死を覚悟した。

つい一瞬前まで彼等がいた場所は、ベヒモスの頭突きにより、完全に砕かれ、沈んでいた。だが、まだ厚い橋は保っていた……保ってくれていた。確かに、この突進は避けなければならない……だが、避け続ければ橋が落ちる。

対策を練らなければと考えるメルド団長達だが、そんな時間は存在しなかった。

「メルド団長! 骸骨共が……!」

「っ! 光輝達はトラウムソルジャーを! 俺達はどうにかベヒモスを引きつけるぞ!」

「おうっ!!」

その指示に即座に騎士達は反応し、呪文を唱え始めた。

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

そして、再びベヒモスが飛ぶ。正しく先程の再現。だが、彼等は腐ってもハイリヒ王国最高戦力。そんなかれらが、1回1分限りの全力の多重障壁を張る。

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスが着地した足元が粉砕される。

「メルド団長っ! どう見てもヤバいやつでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あいつはベヒモスッ、今のお前らでは敵わない! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者ですら敗北した化け物だ! 私はこれ以上、お前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

その剣幕に押され、下がるもののなお食い下がろうと天之河は口を開こうとするが……。

「光輝っ、俺達だけじゃ無理だ! はやくこいっ!」

「光輝っ! 私達だけだと、抜かれるっ」

トラウムソルジャーを抑えている坂上と八重樫の焦りの声が響く。

それを聞いた天之河は、渋々といった雰囲気で走りスケルトンソルジャーを食い止めるために戦い始める。

そして、未だ続くベヒモスの突進を抑え続ける騎士達を見ながら、メルド団長は剣を抜く。

「……すまんな」

正面に正しく悪魔が存在する中、騎士達に謝罪する。そんなメルド団長を一瞬見た騎士達は……

「何馬鹿なこと言ってるんですか、団長」

「そうですよ、騎士が守るべきものを守りながら死ねるんだから、これ以上の幸福はありませんって」

「それに、俺達はもう1人見殺しにしてしまっている……これ以上、未来ある若者を死なせるものですか」

騎士達3人は、笑いながらそう答える。そして、そんな返答をされたメルド団長は……

「……ふっ、そうだな。……お前達っ、生きて帰るぞぉ!!!」

「「「応っ!!」」」

そして、騎士達も、天之河達も、それぞれ互いに背を預けながら戦う。

……結果から告げよう。彼等は無事帰還することが出来た。そう、被害人数は″2人″。奈落に落ちたのは、南雲ハジメと……八重樫雫。

帰ってきた騎士達は、自ら魔族との戦場の最先端への遠征を希望した。

そして残った3人の内、天之河と坂上が、その時何があったのかを語らずに黙々と自らを鍛える。

そして、白崎は……自らの親友と好きな人の両方が奈落に落ちた時点で意識を落とした。まさしく絶望。そんな中、彼女は夢を見る。果てなき……理想の楽園の夢を。

 

 

奈落にて、黒いナニカが脈動し……その中から、人が現れた。その姿は既に過去の姿ではなかった。生まれ変わり、名前は同一であれど姿は違っていた藤丸リッカだったが、彼は再び過去の姿を取り戻した。

だが、彼は理性なく、思考なく効率が極まった動きで魔物達を狩る。竜の魔女の姿は既になく、彼は……泥を纏い闊歩する彼は進む。

--己の名を求めて。




誰も語らぬ。誰も口にせぬ。
1人の少年が命を捨てて怪物を足止めし、1人の少女が親友達の盾となった。
少年は語らぬ。己の不甲斐なさで、親友の命を捨ててしまったから。
勇者は認めぬ。自らのせいで失った親友の事を。守ると誓い、守れなかった現実が■■■が告げた通りであったから。
乙女は望む。楽園の夢魔の叡智を。親友の姿を。想い人の生存を。認めぬ。勇者が彼の死を……悼まぬ事実を。


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物語開幕

さてはて、皆様はFGO第2部4章はクリアしましたか?一応私はクリアしたんですが……お医者様が来ない(´・ω・`)
遅まきながらも投稿させていただきます。
では、どうぞ〜。


……何も、何も見えない。

気がつけば、俺はここに居た。過去と同じ、自分がどこにいるのかも何故いるのかも分からない。

人の姿もない。そもそも、今の自分が人の姿をしていない(・・・・・・・・・・・・・・)

これは、確かアンリマユの泥……だったと思う。という事は、今の自分はアンリマユに取り込まれて……いや、微かだけれどもこの泥と自分の間に魔力のパスを感じる。つまりは、この泥は自分が出している?

……考えても分からない。なんにせよ、自分は確か……。

そうだ、神父によって地下に落とされたんだ。それで、地下の魔物によって……蹂躙された。死ぬのを覚悟というか、本能的に理解していたけれど。

朧気ながらも覚えていることから推測するに、恐らく今の自分はこの泥によって生かされている状態。確かこの泥は死にかけの人間程度ならば、軽く生かすことが出来たはずだ。

……動く事は出来る。一応、視界も確認出来る。だが……何故だ。

何故、俺はこんなにも冷静でいられる(・・・・・・・・・・・・・・)

そもそも、自分とは何だ?過去とは何だ?分からない、何も……分からない。

……いや、今考えるのはやめよう。だが、ここからどうすれば--。

 

その瞬間、彼は見えた。そこは地の底。誰かが来れる場所でもなく、新たな存在が来るような場所ではない。来るとすれば、新たに生まれた魔物だろう。だが、それもここで生まれた存在だからだ。

その程度であれば、自身の心配をすれども、他は一切気にしない。だが……だがそれが、元々同じ場所にいた存在であるとすれば。

「何故……何故ここに居る、八重樫雫」

片目に傷を負いながらも、そこで彼女は生きながらえていた。

声に気が付いてか、彼女は残った右目を薄らと開いていく……。

そうして見えるのは、黒く、暗く、何者かも分からぬ存在。本来の彼女であれば、恐怖心を押し殺しながらもどうにか立ち向かおうとしただろう。だが、八重樫は今、正常でも視界がハッキリしているわけでもなかった。

「貴方は……誰……?」

「おい、八重樫! 何故こんな場所にいる! いや、俺は誰だ! 何故お前の名前を知っている! 答えろ!」

その瞬間、八重樫は……微笑んだ。

「藤丸……君、ごめん……なさい。貴方の忠告……守れ……なかったわ」

「藤……丸……?」

記憶が刺激される。藤丸……藤丸リッカ?そうだ、自分は藤丸リッカだ。高校2年生、前世有りの男性。そして、その前の人生も……。

「おねがい……私は……逃げちゃった。見えて……怖くて……生きたくて」

八重樫は残った右目から涙を流しながら、唯一見つけた希望に縋る。声だけの、姿すら見えぬあやふやでありながら、何かに縋らずには居られなかった。

「だから……おねがい。彼を……南雲くんを助けてあげて……!」

その言葉を最後に、八重樫は気を失った。

突然の記憶の濁流、意味の分からぬ現状、自身に告げられた事。だが、彼は動かざるをえなかった。

 

ぅゎぁぁぁぁぁぁ!!

 

声が……怯える声が聞こえた。しかし、何も……何も感じなかった。助ける?無視する?そういった思考が彼の頭に過ぎる。だが、だが!

『お願いします、先輩……手を……握ってくれませんか?』

あの時と……同じだ。傷をおった少女が目の前にいて、また願われた。今回は前回以上にきっと無理難題だろう。助けてあげてと、自分の事よりも、他の人の事を気にした。

「全く……普通の少女かそんなもの背負うべきじゃないんですけどねぇ」

その言葉は、彼の無意識。彼も認識していない、泡沫に消える言葉。

だがしかし、彼は……彼と共にある存在も、約束は違えない。

彼は、自身と契約した存在の事はほぼ全てと言っていいほどに把握していた。そして、その中でも泥を扱えるのは極一部。さらに、縁召喚も、憑依召喚も使えない。故に、自身と共にある存在の力も把握していた。

「「さぁて、いっちょ派手に……」」

何処からか、声が聞こえている気がする。助けを求めた少女を背負いながらも、誰かと共にいるかの如く、彼は堂々と告げる。

「「やりかえしますかぁ!」」

ここに目覚めたのは人理を救った少年。そして眠るは極地への可能性を謀らずしてその身に背負った一人の少女。

そして、今救済を求めるのは哀れな運命に定められた少年。

さぁ、物語の序章は幕を上げる。

 

 

 

「--座長……さん?」

掠れた声で、地の底の姫は呟く。

記憶にない、だが、朧気ながらも存在を知っている様な存在を感じた。

姫の救済はまだ先の物語--




彼は運命の方舟に乗った。
少年は救済の可能性を掴んだ。
少女は更なる闇を背負った。
そして姫は眠りから覚める時が迫っていた。


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流転鏡面

 こんにちわ、皆様。いやはや、投稿が遅くなってしまい……すみません(´・ω・`)
 イベントはどうでしょうか皆様。
 私は高難易度までやりましたけれども……一言物申したい。
 ……ぐだぐだオルタに、なんでアンリ出てこないの?
 アンリでてきて……。


「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!!」

 

 俺が叫び声の元に着くと、既に南雲ハジメの片腕が落とされていた。いや、よく片腕で済んだと言うべきだろう。自分も1度死にかけたのだから。追撃しようとする熊の一撃を泥で絡め取りながら、受け止める。

 

「おい、南雲ハジメッ!」

「ぁがぁぁぁぁ!!!」

「ちぃっ!」

 

 南雲ハジメはただ叫ぶばかり。致し方ないだろう。腕が落とされる痛み何てものは普通味合わないし、そんな経験は基本しない。

 

「れ、錬成ぇ……!」

 

 だが、その次に取った行動は良しだ。これで俺は南雲を気にしなくて良くなった。

 

「泥よ」

 

 背中に背負っていた八重樫も穴の中に入れ、泥に穴を護らせる。さて、目の前の熊をどうするか……。

 

グゥルアアア!!

 

 ……まぁ、逃がしはしないだろう。仕留める1歩手前まで追い詰めた獲物を逃がされて、しかも次に来るのは訳が分からない存在。だがな、熊。

 

「同じ存在かは知らないが……お前への復讐心はたっぷり溜まってるぞ」

 

 復讐と怨嗟、それがアンリ・マユの真骨彫。対人に置いては最強と言っていいサーヴァント。相手が異形の魔物なのは少し例外だが……殺るか殺られるか。

 

「遠慮も、慢心も、お前に対しての侮りもない。全力でお前を……」

 

グゥルゥゥ……!!

 

「殺すっ!」

 

 奈落の底で、いざ死合の鐘は鳴らされた。互いの首を落とされるまでこの戦いは終わらない。爪熊VS藤丸リッカが始まった。

 

-----------------------

 

 その戦いは文字通り泥沼の戦いだ。熊が爪を振るおうとも、身体を包む泥で受け止める。どれだけ鋭い爪であろうとも、その攻撃では中のリッカまで届かない。

 

 対して、リッカの攻撃も爪熊に通じない。泥……これは人類の悪意そのものだが、まず相手が人類ではない。そして、泥をぶつけても相手の攻撃に弾かれる。

 

 互いに攻撃が通じない。手を出せば返され、返せば防がれ。いざ仕掛けても野性的な感で避けられる。

 

 故に爪熊は……固有魔法を使う。爪熊は未だリッカに対して固有魔法を使っていなかった。何故か?

 

 この階層では、本来爪熊は最強。それ故に挑む魔物は存在しない。だが、それでも目の前には自身に立ち向かう何かが存在する。自分の周りには存在していなかった何か。

 

 知らないという事と、そして爪熊の野生本能が訴える目の前の泥の……危険性。それに従って、爪熊は固有魔法を制限していた。使えば目の前の泥は何かをしてくる。故に、使ってはいけない。

 

 だが、その思考は最強という自負の前には少しの間しか持たなかった。……この爪熊は最近この階層で生まれたばかりの存在だ。一つ前の爪熊は何かにやられたのだろう。そんな事は自分はならない。

 

 爪熊は階層に一体だけしか存在しない。倒されて、1日も置けば新しい存在が生まれる。階層の王である種族と言えども、生まれたてを狙う他の魔物は存在する。そうすれば、しばらくの間はその魔物が頂点に立てるからだ。

 

 故に、爪熊は強い。生まれたての存在であったとしても、即座に他の魔物の大軍と戦うことになるためだ。

 

 しかし、この爪熊は戦闘経験が今までの爪熊と比べて経験していない。何者かが大量に魔物を屠っていたが故にだ。

 

 だからこそ、自身の最強を確立するために目の前の何かを何がなんでも葬ろうとする。喰らう気は起きない。喰らってはならないと全力で本能が叫んでいる。

 

 全力で、目の前の存在を、殺さねば。

 

 爪熊はその意思だけで、目の前の存在に自身の絶対的な力をふるう。これで勝利だと、目の前の異物は排除したと。

 

 リッカが纏っていた泥の大部分が……剥がされた。

 

-----------------------

「あがっ……! ぐぁ……」

 

 ……やたらと目の前の爪熊は殺意に溢れている。その殺意に気を取られて、爪熊が振るった爪に当たってしまった。いや、恐らくは爪じゃない……爪を包む何かにやられた。

 

「げほっ……。っ……俺は前線は無理なんだけれどなぁ……」

 

 致命的、今まで防いでくれていた泥を全て飛ばされた。流石に自分で精製しても、目の前の爪熊は見逃してはくれないだろう。……詰みだな。

 

グルゥァ……!!

 

 勝鬨を上げるかのように吠えて……爪を振り上げる爪熊。そうだ、しっかりと狙え、まだ……まだだ……。

 

 爪熊のその凶刃が振るわれるその瞬間……爪熊の周りに飛び散っていた泥が、一瞬で盛り上がる。足元に絡みつき、腕を包みながら爪熊を飲み込んでいく。

 

グルァ?! グゥァァ!!!

 

「謝罪も、卑怯だとも言わないぞ。こっちだって生き残るためにお前と戦ってたんだ」

 

グァァァ………!!

 

 泥が包み込んでいく。泥が爪熊を飲み込んでいく。足も、腕も、身体も、身体の隅々まで泥が飲み込んでいく。

 

 リッカは、何も考えずに受け止めた訳でも、身体に纏っていた泥を弾けさせた訳でもなかった。何度も何度も攻撃を受ける度に泥を周りに飛び散らせ、徐々に徐々に爪熊の足元まで忍ばせていた。

 

「ふぅ……アンリ・マユをどうにか戦いで勝たせるために考えていた戦法が役に立ったな……」

 

 爪熊は既に泥に飲まれていた。だが、もがき、足掻いて未だ倒れていない。泥が徐々に剥がされているが……。

 

「残念ながら、俺はお前を逃がすつもりは無い。……宝具使用」

 

---!!

 

 泥の中にいる爪熊の抵抗が更に激しくなる。魔力の高まりに気がついて逃げようとしている……が、無駄だ。

 

「お前から受けた痛み、倍にして返そう。逆しまに死ね、『偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』」

 

 爪熊を包んでいた泥が一瞬、脈動し、圧縮された。音もなく、匂いもしない。潰され、飲み込まれた。

 

「--俺は、どうしたんだろうな」

 

 自分だと認識している藤丸リッカは、こんな事もしなかったし、ここまで容赦なくはなかった。故に、自分が誰なのかが改めて理解できなくなる。

 

 南雲ハジメがあけた穴を泥で少しづつ広げながら、俺は奥にいるであろう南雲の元に向かう。まず2人、助けるために。




 門よ、開け。
 悪をもって、彼は無自覚に進む。
 救済せよ、それが--助かる道である。


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