Fate/elona_accident (セイント14.5)
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アクシデントの結末




FGOとelonaのクロスオーバー、時系列も設定もふわっふわ。
試験的な投稿です。書きたかったので書きました。
主人公はelonaのPCです。やっとこさゼーム倒したぐらいの、固定アーティファクトがメイン装備な駆け出しです。多分。




 

 

 

「ば、馬鹿な…!」

 

ローブを纏った男が断末魔を上げて倒れる。相手の完全な死亡を確認した【あなた】は、ひとしきり感慨に耽ったあと、今夜は眠れないな、とつぶやいた。

 

ついでに妙にこちらを見下してくる不愉快なイケメンを、固定アーティファクトを持っていそうだという理由で滅多打ちにして殺したあなたは、彼らが落とした装備品を拾い上げ、しげしげと眺めて満足そうに息を吐いた。

 

まだ鑑定していないが、きっとどれも素晴らしい品だ。自分の武器はこの《★大地の大槌》と定めているが、ペットに持たせるにはいいかもしれない。

 

そうと決まれば帰って早速サンドバッグやその辺の野盗で試し斬りだ。あなたはうきうきしながら自宅を思い浮かべて巻物を開いた。

 

いつものように時空が歪み、あたりがざわめき始める。あなたは道中で手に入れた装備をどのペットに持たせるべきか、彼らが落とした装備はどんなものかと、すっかり物思いに耽っていた。

 

そのためかもしれない。あなたは全く気がつかなかった。自分が開いた巻物が【帰還の巻物】ではないことに…

 

 

………………………

 

 

「え?…何、何これ、誰?もしかして当たったの?」

 

オレンジ髪の若い女性がこちらを見ている。おかしい。あなたが雇ったメイドは壮年の男性だったはずだ。

 

「そんなはずは…えっと、さっきの礼装で確か10枚目だったはず…消費した聖晶石で召喚できるのはそれで全部でしたよね?」

 

その隣には、色素の薄い髪で片目を隠した、マッドサイエンティストのような格好の女性の話し声も聞こえてくる。

 

「うん。また今回もサーヴァントは誰も来なくて大爆死!…だった、はず、なんだけど…」

 

少なくとも、ここはあなたの家ではないようだ。読んだ帰還の巻物が呪われていたのだろうか?だとしても牢獄行きになるはずなのだが。

 

「ええ。それは私も隣で見ていました。その、先輩が…えっと、残念ながら、少しだけ…失敗…したところを、余すことなくしっかりと」

 

マッドサイエンティストのような白衣を着た女性が、『先輩』と呼ばれた女性を見て必死に言葉を選んでいる。

 

「見え隠れする優しさが逆に刺さるよマシュぅ〜」

 

「でも確かに今回も10連は礼装だけだったはず…うう、言うだけでもつらい…私【呪われてる】のかなあ…」

 

【呪われている】、という言葉にあなたは素早く反応した。『先輩』と呼ばれた女性のすぐ隣まで近づき、【窃盗】スキルを発動させる。

 

「え、何!?急に動いたと思ったら超近いんだけど!?せ、せめて何か言ってよぉ!!」

 

動かないで、とあなたは先輩に伝える。先輩は戸惑いながらもその言葉に従ってくれた。

 

ノースティリスでは老若男女、着ているものが突然呪われることがある。

呪いの効果は様々で、ランダムにテレポートしたり、装備者の生き血を死ぬまで吸い続けることもある。だが最も厄介なのは突然魔物を呼ぶことがある呪いで、これによって分裂する塊の怪物や生物に寄生するエイリアンなんかが呼び出された時には、やむを得ず核爆弾を街中で使用しなければならなくなることもある。というかあった。

 

そんなことが冒険者駆け出し時代のあなたのトラウマとしてしっかりと残っているので、あなたは道行く人々の装備品の呪いチェックを欠かすことはないのだ。

 

「何をしているのでしょう…?」

 

もうひとりの、マシュと呼ばれたマッドサイエンティスト風の女性が不思議そうにこちらを見ている。【窃盗】スキルは、それがバレない限り他人から見れば何もしていないように見えるためだ。

 

一方、あなたも疑問に思っていた。この先輩の装備は、あなたの知らない効果が付与されている。その上、材質やその形状も、あなたの知っているそれではなかった。

呪われていないことを確認して一安心したのだが、それでも先輩の装備の観察をやめない理由がそこにあった。

 

魔術礼装。後に知ったその先輩の装備は、特定の魔術の効果を上げたり、詠唱を簡単にしたりする効果があったらしかった。ノースティリスにも魔法の威力を上げたり詠唱スキルを補助するエンチャントはあるが、それが特定の魔法のみに適用されるようなことはない。

 

「なんか、この人怪しくないですか?先輩のことずっと見て…」

 

「う〜ん…いやらしい感じじゃないみたいだけど…ここまでじっくり見られるとちょっと居心地悪いかも」

 

端的に言えば、あなたは興奮していた。と言っても、この先輩にではない。未知だ。知らないエンチャント、知らない装備だ!あなたは未知というものに際限なく興奮していた。ここがどこだか分からないが、これでまた冒険ができる。新たな敵と出会い、新たなアイテムを手にし、知らない肉を食べ、新たな自分を鍛えなおせる!

 

「やっぱり怪しいです!絶対よからぬ事を考えてます!へ、変態です!!」

 

そんな妄想に夢中になり、鼻息を荒くしていたのを勘違いされたのか、あなたはマシュという女性に変態認定されてしまった。そう言えば、このマシュという女性もあなたの知らない装備をつけているかもしれない。そう思い、先輩から離れてこのマシュという女性の装備を確認してみよう。

 

「ち、近づいてこないで下さい!いや、いやぁーーっ!!」

 

ーーーガコン。

 

いつの間にか、あなたの視界は地面を舐めていた。意識が遠のいていく。朦朧の状態異常だろう。まずい。やはりここはネフィアだったか。

 

あなたを攻撃したであろうマシュという女性はマッドサイエンティスト風の衣装ではなく、いつの間にか黒いボンデージのような格好に、見たことの無い大きなシールドを構えていた。彼女はシールドバッシュを覚えていたのか…そんなことを考えながら、あなたは彼女から振り下ろされた再度のシールドバッシュで意識を手放した。

 

 

………………………

 

 

「やあ、目が覚めたかい?」

 

意識を取り戻し、自分が死んでいないとこを確認した。極めて意外なことだが、彼女はあなたを殺さなかったようだ。

 

「セクハラされたら殺すのが普通って…ど、どれだけ殺伐した世界から来たんだい君は…」

 

セクハラ?ということよりも、一度敵対すればどちらかが死ぬまで闘争は終わらないだろう。それは当たり前のことであるし、魔物や人間、身分すら問わず万人の共通認識だ。今は亡きパルミアの王も、誰かに酒に酔って絡まれるなどしてひとたび傷を負えば容赦なく刃を向ける。たとえそれが愛すべき妻であってもだ。

それが日常であるし、ガードもそれを止めない。当然あなたも止めないし、むしろパルミア王が死ねば高級なドロップ品が得られて儲けものなので妻の方に加勢したくらいだ。

 

「ええ…」

 

目の前の女性がドン引きしている。とりあえず、あなたは自己紹介をすることにした。

 

「あ、ああ…ご丁寧にありがとう。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。ダヴィンチちゃんと呼んでおくれ。君は冒険者なのかい?…ノースティリス?完璧な私でも覚えのない地名だ。なら、架空の存在かな?どこの伝承、伝説なのかは分かるかい?」

 

伝説?あなたは伝説の登場人物になった覚えはない。

 

「伝説じゃない?じゃあ実在した人物…?」

 

実在もなにも、あなたはついさっきまで元気に冒険をしていたのだ。

 

「これは研究が必要だね…よし、とりあえず君の正体は保留!クラスも含めておいおい調査を進めていくとしよう。サーヴァントとしてパスもつなかってるみたいだし、意思疎通も可能だ。危険性もとりあえず無いと見ていいだろう」

 

よく分からないが頷いておく。

 

「それと報告されてたセクハラだけど…私は別の理由があったと見てるんだよねえ。君はどうしてあんな行動に出たんだい?」

 

あなたは先輩と呼ばれた女性の呪いを確認したところ、見知らぬ装備だったので興奮してじっくり観察したことや、マシュという女性の装備も気になったので見ることにしたら気絶させられた旨を話した。

 

「それは…なんというか、紛うことなきセクハラだねえ…」

 

「いくら興味があっても、女の子をそんなにじっくり見て興奮しちゃセクハラ認定されてもそりゃあ文句は言えないよ?」

 

あなたはセクハラというものが、おそらく他人に不埒な行為を行うことだと察した。であれば殺されても文句は言えないだろう。彼女は娼婦ではないようだったし、あなたと結婚してもいなければ酒に酔ってもいなかったのだから。

逆に言えばノースティリスならそのいずれかの条件を満たしていれば路上で行為に及んでも罪ではないのだが。

 

「君がいた所は一体どんな世界なんだ…全く興味が尽きないね」

 

ほう、と息を吐いたダヴィンチちゃん氏を横目に、あなたは扉を開いて外に出る。さあ、新たな冒険の始まりだ!

あなたは胸の高鳴りを抑えきれないまま装備を取り出し、廊下に飛び出した。

 

「きゃっ」

 

前方不注意。あなたは部屋から飛び出した拍子に廊下にいた誰かを突き飛ばし、押し倒してしまったらしい。

 

「…あっ」

 

あなたは自分が体当たりしてしまったので、相手が敵対してくるならば戦闘を優位に進めるためにそのまま相手に体重をかけ取り押さえておくことにした。

 

よって、あなたの一連の行動により身動きが取れなくなった相手が、自分が故意に押し倒されたと勘違いするまでにさほどの時間はかからなかった。

 

「…へ、変態だーーーーっ!!!」

 

『先輩』と呼ばれた女性の声が、どこまでも響き渡った。

 

 

 







以上になります。読んでいただいてありがとうございました。
続く、続くかな…いや続かんかもしれんわ。自信がないわ。


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フハハハ!

フハハハ!

※誤字修正しました。報告ありがとうございました。
※(9/5追記)誤字というか誤認識報告により、少し書き換えました。報告ありがとうございました。


現在、あなたは正座をしている。

 

あなたの目の前には、顔を真っ赤にして座り込み、両手を頬にあてがっている『先輩』と、その悲鳴を聞いて息を切らして駆けつけてきたらしいマッドサイエンティストがいた。

 

「先輩、カルデアにも英霊用の営倉があるはずです。そこに入れてしまいましょう」

 

「え、えっと…」

 

あなたは、先程『先輩』を押し倒したのは護身のためで他意はなかったとして、間違って体当たりをしてしまったお詫びと合わせて自己紹介をした。

 

「あ、丁寧にありがとう。確かに自己紹介がまだだったね。私は『藤丸立香』。で、こっちは『マシュ』。よろしくね。うん…やっぱり悪気はないみたいだし…」

 

「嘘をついているかもしれませんよ?それに、これから先同じようなことをしないとは限りません!」

 

「う〜ん…」

 

何やら相談しているが、あなたは突然ここへ来てしまった身なので、ここはどこなのかを聞いてみることにした。

 

「あれ、ダヴィンチちゃんから聞いてなかった?ここはカルデア。簡潔に言えば、悪い人にぐちゃぐちゃにされた人理…えっと、歴史みたいなものを修正するための組織と、その拠点だよ」

 

「あなたは恐らく英霊としてカルデアの戦力になるために先輩に呼び出された存在であると思われます…色々と不可解な点はありますが」

 

「の、はずなんだけど…」

 

あなたは英霊というものになった覚えはないので話についていけず、ぽかんとした顔をしていた。ついでにお腹が空いてきたのも集中できない原因だった。

 

「先輩、どうですか?」

 

「うん。やっぱりこの人の名前も聞いたことないし、外見…はけっこう変わるんだっけ…とにかく心当たりはないなあ。魔力のパスは繋がってるから、令呪は効きそうだけど」

 

「…そうですか…やはり怪しいです。とりあえず隔離しておくべきでは?」

 

何やら話しているが、やはり空腹が気になるのであなたは懐から『大葉焼き』を取り出して食べることにした。料理はあなたが冒険者を始めてからこつこつと練習してきた技術なので、このくらいの料理なら『材料』さえあれば中々の成功率で再現できる。よって惜しむ理由もない。

 

「何もない所からいきなりおいしそうな料理が出てきました!?」

 

「と、とりあえず…ダヴィンチちゃん!ダヴィンチちゃーん!!」

 

あなたは混乱する二人を尻目に、大葉焼きをかじる。ウマイ!…なお、特に関係ないが、あなたはヨウィンに行くのが好きだった。

 

信じられないほど満腹だ!お腹が膨れて気分がいいので、あなたは信仰する神に感謝して、神を真似て笑うことにした。フハハハ!

 

「なんか黄金で王様な感じに笑い出した!怖い!怖いよ〜!!」

 

…そういえば、ここに来てから神の声が聞こえない。あなたの信仰する大地の神は、それはもう朝から晩までいちいちうるさいと信者からもそれ以外からも評判だったのだが…

 

「急に真顔になっておし黙った!ダヴィンチちゃん早く来て!早く!」

 

「そんなに急かさないでも天才は逃げないよ…いや前言撤回。割と逃げるかも」

 

「ダヴィンチちゃん、この人セクハラが自己紹介して正座したらいきなり懐からおいしそうな肉料理出して食べてフハハハ〜!って笑って黙って真顔で!!」

 

「うんうん。だいたい理解したよ。いや〜君はかなりのトラブルメーカーみたいだねえ。医務室から出てまだ少ししか経ってないっていうのに」

 

ダヴィンチちゃんが混乱する立香とあなたを見て含み笑いしている。

と、その時、天井に取り付けられたスピーカーからけたたましくサイレンが流れた。あなたはガードが来るかと思い身構えた。

 

「緊急招集みたいだね。私がマスターだから早く行かなきゃ!」

 

「私も先輩について行きます。ダヴィンチさん、すみませんがこの人をよろしくお願いし…」

 

「よし、決めた!君、マスター君について行きたまえ」

 

「ええ〜っ!?」

 

「そんな、危険です!素性も分かっていないのに!」

 

「素性?さっき彼は君達に自己紹介をしたんだろう?」

 

「そういうことではなくて!」

 

「まあまあ、聞きたまえ。私は彼のことを知りたいなら、マスター君に預けるのが一番の方法だと思うのさ。今までだってそうだったろう?」

 

「た、確かに先輩と接していく内に心を開いてより深く知ることができた英霊は数多いですが!というか私もその一人ですが!」

 

「何を隠そう私もその一人だしね。何、彼の戦力を確認するいい機会でもあるだろう。連れて行ってあげたまえ」

 

「…分かった!」

 

「先輩!?」

 

「確かに、お互い何もわからない内からいきなり怪しいって決めつけても良くないよね!ついてきて!」

 

置いてけぼりになっていたあなたは、とりあえず冒険のにおいがするので立香に従うことにした。

 

「今日は何が起こったのかなあ」

 

「…先輩に妙なことをしたら、容赦しませんからそのつもりでお願いします」

 

マシュが凄んでくる。どうやらあなたに対して「うざい」ぐらいの評価のようだ。立香の方は「好意的」なのに、どこが違うのだろうか…とりあえず、あなたは適当に頷いた。

 

 

………………………

 

 

「おかあさん、その人だれ?」

 

「う〜ん…変な人!」

 

「ふーん…?」

 

廊下をしばらく走ると、大きな部屋に出た。そこには忙しそうにしているマッドサイエンティスト達と、妙な装備を着込んだり着込まなかったりするのが数人いた。

 

「ふむ…新顔ということか。ところで、君は圧政者かね?」

 

大地の神に大層気に入られそうな肉体を惜しげもなく見せつけてくる男に話しかけられた。

圧政者。あなたの知る『政治家』というのは、今は亡きパルミア王や白子の王子などだろうか。ともかく、あなたは政治家になった覚えはない。

 

「フハハハ!何、政治家だけが圧政者というワケではない…」

 

まだ話が続きそうだ。政治の話には興味がないので、あなたは話半分に、適当に相槌をうつことにした。

 

「…なるほどね。今回はあんまり大きな特異点じゃないみたいだね。よかった…ところで、『彼』を連れて行っても問題ない?」

 

「う〜ん…計算上は問題ないけど、やってみないことには…」

 

立香がマッドサイエンティストと何やら相談している。

 

「大丈夫さ」

 

「ダヴィンチちゃん!?いつの間に!」

 

「レイシフトするんだ。私がいて当然だろう?」

 

「あ、そっか…」

 

「それで、何故大丈夫だと?」

 

「勘、かな。なあに天才の勘はよく当たる。信用してもいいよ」

 

「…前例と実績があるだけに何も言えない…」

 

「ふふん。そうだろう?」

 

「…仕方ない。だが、まずいと思ったらすぐにレイシフトを中止するぞ」

 

「分かった。じゃあ、準備してくるね」

 

「よろしく。ふむ、計算は片手間にできるし、頭が暇だね。ところで…」

 

ダヴィンチちゃんがキーボードを目に見えない速度で叩きながらこちらを見る。奥まで覗き込まれるような感じがする。

 

「君は、何ができるんだい?」

 

何が、と言われると、あなたは少しだけ言葉に詰まった。ノースティリスで出来ることはまさしく『なんでも』可能だ。まあ、『うみみゃあ!』などの今は勝てない相手こそいるが…

スキルという点で言えば、基本的な冒険に必要なスキルは揃えてある。戦術や見切り、重装備、鈍器などの武器スキルに加え、重量挙げや料理、採掘などの補助スキルもそこそこに鍛えてある。

 

「ふうん…じゃあ、得意なことと言えば何かな?」

 

得意なことはやはり戦闘だろうか。数々のネフィアをこの《★大地の槌》とともに攻略してきたあなたは、鈍器の扱いにかけては一流と言って差し支えないだろう。

 

「なるほどね。魔術のたぐいは使えるかい?」

 

信仰する神や戦闘スタイルのこともあり、魔法はあまり得意ではない。覚えたものと言えば四次元ポケットをはじめとした補助的な魔法が主で、戦闘に関係しそうなのは加速や英雄の魔法ぐらいだろうか。

 

「…けっこうやるじゃないか。でも、君の認識では魔術と魔法が一緒くたになってしまっているみたいだね。後で魔法についても少し話してあげよう」

 

「準備終わりました!レイシフトいつでも行けます!」

 

「うん、時間みたいだね。君も彼女が現地入りしたら呼び出されるだろう。もう少しここで待っているといい」

 

言葉に従い、あなたはそこで横になった。

 

「…そこまでリラックスしろとは言ってないんだけどね…まあいいや」

 

マッドサイエンティスト達が俄に慌ただしくなる。どうやら『レイシフト』とやらが始まるらしい。

 

あなたは再度、横になった。

 

 




フハハハ!
タイトル考えるのが一番辛いぞ!


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神は死んだ!


やっぱりタイトルが思いつきません。




 

 

さて、あなたが軽く眠っている間にレイシフトとやらは終了したらしい。

先程まで殺気立っていたマッドサイエンティスト達も手をほぐしたりして、多少落ち着きを取り戻したように見える。とはいえ未だ忙しそうではあるが…

 

「目が覚めたかい?」

 

ダヴィンチちゃんがこちらを覗き込んできた。あなたは首肯し、軽く身体をのばした。

 

「うんうん、元気そうだね。これから君はレイシフト中のマスターに呼ばれるまで待機だよ。体調を万全に保つのもサーヴァントの仕事さ…まっ、例外を除いてサーヴァントは体調なんか崩さないんだがね。ほら、お茶は飲めるかい?それと念のために、トイレならあちらだよ」

 

トイレ!なんと甘美な響きだろうか。ト、イ、レ。あなたは復唱した。トイレだ!トイレがあるのだ!噴水、井戸に次ぐ『願い』のリソース。ちなみにあなたは願いの杖も魔法も持ち合わせてはいないので、願いについては未だにこれらに頼っている。

 

あなたはテーブルに置かれていたお茶を一気に飲み干すと、一目散にトイレへと駆け出した。

 

「あっ、おーい!…よっぽど危なかったのかな?」

 

また、妙な勘違いを生みながら。

 

 

………………………

 

 

あなたはトイレの前に立ち尽くしていた。トイレの水は()()だった。

 

そう。()()()()()()()()()

 

あなたは絶望した。とはいえ最初は喜んだ。トイレがこんなにたくさんある!これなら願いも一度くらいは…

 

…しかし、トイレをいくら飲み干しても「この水は清涼だ」と、そう感じるだけであった。『願い』どころか金貨を見つけることもなければ、筋肉が増えたり減ったりすることもなかった。寄生生物を誤って飲み込むことも、敵対的な何かが這い出てくることもなかった。良いことも、悪いことも…何も、起きなかったのだ。

 

『願い』…この世のどこかにいるという願いの神が気紛れに地上に耳を傾けた瞬間に遭遇できれば、その者のあらゆる望みが叶うという。

多分に漏れずあなたも様々な願いを叶えてもらってきた。貴重品、金、装備…時には、有り余る信仰心から神を地上に降ろしてもらったことさえある。

 

確かに、今どうしても叶えたい願い事があったわけではない。水場があるので飲んだに過ぎない。条件反射に近い行動であったことは確かだが、何一つイベントが起こらないことに対するあなたの落胆は相当なものであった。

 

あなたは思わずその場に膝をつき、手で顔を覆った。

おお、神よ!何故私にこのような試練を課すのか!何故ここに来てから何もお言葉を下さらないのか!何故あなたから賜った大槌が毎度のように真っ先に呪われるのか!!

 

あなたの不満の矛先はいつしか神へと移り、両腕を天に向け、白目をむいたままあなたは静止した。このままでいれば、神も面白がって何か言うんじゃないかという打算もないではなかった。

 

その時、足元が光った。

 

 

………………………

 

 

「宝具展開、いつでも行けます」

 

地面でゆっくりと回る光輪に対して、マシュが立香を守るように臨戦態勢をとる。

 

「そんなに警戒しなくても…」

 

「いえ。所感ですが、あの方は信用なりません。先輩を守るための措置です。ご了承ください」

 

「う〜ん…直接何かされたわけでも…いや、されたけどあれは勘違いだったし…それに…」

 

「…それに?」

 

「…押し倒された時、その…ちょっとドキっとしたっていうか…」

 

「先輩それはただの体調不良による動悸ですいやむしろ病気です間違いないです早く治療しましょう医療班ー!医療班ーー!!早く!!人理修復は後です人類最後のマスターが治療を求めてるんですよハリーハリーハリー!!!」

 

「ちょ、ちょっとマシュ…うわっ!」

 

立香が目を回してあたふたするマシュをなんとか宥めようとした時、光輪の回転が勢いを増し、バチバチと放電のように光条を放ち始めた。呼び出したサーヴァントが到着した証左である。

 

「っ!先輩、離れて下さい!」

 

「う、うん」

 

回転は次第に鈍化し、放たれる光も弱くなっていく。その中心から現れたのは、白目をむいて膝をつき天に手を伸ばしたまま静止したあなたであった。

 

「…え…うわ…何ですかこの…この人?」

 

「…どうしたんだろう…」

 

精一杯に怪訝な表情を含んだ二人の声に強いドン引きを感じ、周囲の状況の変化も感じ取ったあなたは、流石に神への祈りを中断することにした。

 

「あ、動いた」

 

「立ち上がりましたね。辺りを見渡してます」

 

あなたはここがトイレではなく、どことも知れぬ野原であることに疑問を感じた。ムーンゲートを通った覚えはない。装備も呪われていないし、そもそも呪い程度のテレポートでは景色が変わるほど遠くへは飛ばない。あなたはこの疑問を苦い表情の二人にぶつけることにした。

 

「ムーンゲート?…っていうのは分からないけど、ここへは私が呼んだの。サーヴァントとして契約した英霊なら、こうして私がいる場所に呼び出すことができるんだよ」

 

「あなたが望む如何に関わらず、あなたは先輩のサーヴァントということになっています。サーヴァントは分かりますか?」

 

聞き慣れない言葉だが、話を聞く限りサーヴァントというのは紐で縛ったペットのようなものだろうか。

 

「ペッ…紐!?わ、私にはそんな性癖ないよ!?」

 

「変態ですか!?いえ変態でした!!」

 

待ってほしい。変態というのは異常者、異端者のことだ。それは聞こえが悪い。

そもそもノースティリスにおいてペットは大切な戦力なのだ。自分を補う存在として、馬として、何かのリソースとして。自分やそれ以上に大切な存在として、装備や食事にだって最大限に気を使ってきた。それはあなたにとって、冒険者にとって至極当然のことなのだ。

あなたは自分のみならずペットをも非難されたように感じ、少しの憤慨を覚えた。

 

「…ねえ、これって…」

 

「…ええ。彼は、私達の認識とは少し…違うところがあるのかもしれませんね」

 

何やらひそひそと話をしている。あなたは腕を組み、反応を待つことにした。

 

「…えっと、ペット…っていうのは、例えば犬とか猫とか、そういう愛玩動物のこと…でいい?」

 

犬猫をペットにすることはあるが、少女やゴーレムもペットにする例は多い。神から賜った下僕もペットとして優秀だ。また、特殊な例だが妹を取り憑かれるようにして連れ歩く冒険者もいることも付け加えて説明した。

 

「…う〜ん…ペットは何をするの?」

 

先程も言った通り戦力として扱うのが主だろうが、場合によってはトレーニング相手や牧場、店の管理を任せることもあるし、それ以外にもペットの用途は枚挙に暇がない。

 

「…愛でたりとか、癒しとして〜みたいなのはいないの?」

 

それもペットの用途に含まれる。あなたはエイリアンを愛でながら寄生されて興奮する知り合いを思い出した。腹が裂かれる瞬間が最も気持ちいいらしいが、あなたには理解できなかった。

 

「…なんでしょう、この合ってるけど合ってないといいますか、絶望的な崖が二者間にある感じといいますか」

 

「そうだね。とりあえず、私達の思うペットとはちょっと意味合いが違うみたいだ」

 

「じゃあ、やることは一つだね」

 

立香とマシュが、あなたを前にして並び、頭を下げた。

 

「ごめん!勘違いしてた!」

 

「変態呼ばわりしてすみませんでした」

 

突然の謝罪に困惑する。確かに変態呼ばわりされたが、憤慨したのはほんの一瞬だ。盗まれたり殺されたわけでも、呪われた酒瓶を投げつけられたわけでもないのだ。

とりあえず、あなたは早く頭を上げてもらうことにした。

 

「うん…ありがとう。多分、あなたと私達では色々と常識が違うみたいだね。これからは気をつけるよ」

 

「でも行動については監視させてもらいます」

 

「マシュ?」

 

「う…すみません」

 

「ごめんね。マシュは人一倍警戒心が強いから。監視なんかつけないから大丈夫」

 

あなたは首肯した。さて、落ち着いたところで再度辺りを見渡す。

何もない。辺りをふらつくコボルトも、大量に群れてブレスを吐いてくるハウンド達もいない。ただあるのは見渡す限りの地平線と、頭上にうんざりするほど広がる雲ひとつない青空。そして立香とマシュ。知り合ったばかりだが、数いる冒険者のようにこれから何度か交流していこう。二人とも珍しい装備を持っているが、盗むのはバレない時だけにしておこう。

 

とにかく、未知の景色だ。ノースティリスにも平原はあったが、遠くには山があり、ネフィアがあり、こちらを伺う盗賊団がいた。地平線というのは珍しい光景だった。

 

あなたは空気をいっぱいに吸い込み、ため息をついた。新しい冒険の始まりを予感して、目を輝かせた。

もはやトイレのことなどすっかり忘れていた。

 

…一方カルデアでは、トイレの水がすっかり枯れてしまう珍事が起こり、職員を大いに悩ませていた。

 

 





GWやら年号やら、最近は色々とイベントが多いですね。道端や駅のホームには顔を真っ赤か真っ青にした若者やおじさま達が座りこんでいたり。
お酒って怖い。しかも最後まで素面でいる下戸が一番割を食うんですよね。嗚呼。



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バックアップはちゃんと取ろう!


タイトルに意味はありません。ありませんったら。




 

 

「だ、大丈夫…?」

 

さて、意気揚々と冒険の始まりに息巻いたところだが、結論から述べるとあなたはこの冒険に大きく失望することになった。

まず、敵のレベルが非常に低い。向かってきたものといえばハウンドやコボルトに似た生物や強盗、状態異常を撒き散らさない安全なウィスプくらい。あなたはそれらを一瞥すると、興味をなくしたように一息にミンチにしてしまった。

 

「すさまじい戦闘力…私の出る幕がまるでありませんでした…うう」

 

そしてあなたが最も失望したのは、いくら敵をミンチにしてもアイテムどころか死体すら残らないことだった。

敵を倒せば、大抵は装備やお金、死体や敵の破片が残る。それがあなたにとって世界の常識であり、あなたを含むノースティリスの冒険者の多くは、こういったものを収集することで生計を立て、また自らの強化に充てていたのだ。

ネフィアがあれば潜り、敵を倒し、貴重なアイテムや素材を持ち帰り、利用し、また次のネフィアを目指す。それがあなたにとって不変のルーチンワークなのだった。

それが無いとなると、モチベーションが大きく損なわれる。こんなに弱い敵を倒したってスキルの足しにもならない。こんな時にも神の言葉は聞こえない。端的に言ってつまらない。あなたは絶望のどん底にいた。

 

「動かなくなっちゃった…」

 

「何か、嫌なことがあったのでしょうか?」

 

立香が心配そうにあなたの顔を覗き込んでくる。ここまで長く歩いてきたためか頬には雫が伝っており、揺れる髪を伝ってくるほのかな汗の香りの入り混じった女性特有の香りが鼻腔をくすぐるが、あなたは特に反応する気にはならなかった。

 

「…これは…」

 

「何か分かりましたか?」

 

「うん…もしかしたら…」

 

「多分だけど、彼、おもちゃを取り上げられた子供とおんなじ顔してるんだよね」

 

「ええ…?」

 

困惑する後輩をしり目に、立香は人差し指を口元に当て、眉をひそめて記憶を手繰り思考する。

彼は感情を読みやすいタイプではないが、表情が全く変わらないわけではない。そもそも簡単なコミュニケーションは取れる。疲労や空腹は特に見て分かるし、出血を伴うようなダメージを受ければしっかり痛がる。少し休めば何も無かったかのように治っているのには驚いたが、そういう能力を持ったサーヴァントだと考えればいい。

突然高らかに笑いだすことさえある。よって、彼に感情が無いということは無いだろう。

今の彼の様子をおもちゃを取り上げられた子供、と形容したが、我が事ながら言い得て妙だと思った。非常に微妙な表情ではあるが、失望と諦念、そして小さな怒りの入り混じったような表情は、ジャックやナーサリー・ライムほか子供サーヴァントが見せるものとよく似ている。

 

「でも、どうして…?」

 

ジャックは獲物の解体を止められた時。ナーサリーは読書会やお茶会が中止になった時…期待していたものが奪われた時に、そんな表情を見せる。なら彼は?彼は何を期待し、何を奪われたと感じたのか?

 

「………」

 

「…どうしました?」

 

一番重要なそこが、いくら考えても分からない。立香の思考は全く景色の変わらない袋小路に陥っていた。

当たりのないクジを延々引いているような、ゴールのない迷路を解いているような虚無感が彼女の思考能力を奪っていく。

そして何より、立香はいいかげん考えるのが面倒になっていた。

 

「…うん、そうだよね…やっぱり…」

 

立香が顔を上げ、にんまりと笑みを浮かべながらあなたに振り向いた。

 

「ねえ、あなたはどうして動かなくなったの?」

 

「直接聞いた!?」

 

分からなければ聞けばいい。それが彼女の出した答えだった。今までだって、考えているだけで解決する問題などひとつも無かった。いつだって行き当たりばったりで、細い糸を手繰り寄せるようにして何とか歴史を紡ぎ直してきた。今更サーヴァントひとり動かないのがなんだというのだ。ぶつかってみてからが本番なのだ。そう考えた。

 

さて、これに困ったのはあなたの方だった。彼女の問に答えることは簡単だ。簡潔に、この世界はつまらないと伝えればいい。しかし、彼女はそれでは納得しないだろう。

彼女が欲しているのはあなたが戦力として働くことだ。そのために、あなたが求めるものを対価として探ろうとしている。しかし問題は、あなたが求める冒険や報酬がこの世界には無いことだった。

ここで立ち上がって、また彼女に従って敵を倒すのは簡単だ。だが、タダ働きは性にあわない。少しの街の移動でも依頼をこなしてプラチナコインを稼ぐのが賢い冒険者だ。

 

面倒なことは抜きにして、要はあなたは働くに足る理由がほしいのだった。

 

「働く理由…?今まではあったの?」

 

あなたは、この世界には強い敵や興味を誘うアーティファクト、ドロップアイテムがなくてつまらないと感じることを説明した。

 

「…あなたのいた世界は、ホントにゲームみたいなところなんだね…うん、ごめんね。あなたの求めるものはこの世界には無いみたいだ」

 

「でも、だからってあなたを元の世界に帰してあげることはできないの。本当にごめん」

 

立香は心底申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「…この世界は、あなたがつまらないと断じた世界は、それでもたくさんの人が生きてきたの。人だけじゃない。たくさんの命が生まれて、死んで…そうやって、時代を作り、歴史を紡いできた」

 

「今、それが全部失われようとしてる。みんなが、気の遠くなるような長い時間をかけて、必死に頑張って生きてきた道標が、突然水の泡になっちゃう。私はそれをなんとか防ぎたいの…この命に代えても」

 

「こんなのは私の勝手な言い分だって分かってる。でも…」

 

そこまで聞いて、あなたは手で立香を制した。

彼女の言葉に感銘を受けたからではない。震える声で話す彼女の目元が潤んでいたからではない。

歴史が失われる。努力が水の泡になる…どうしてだか分からないが、あなたがそのワードに強い憤りを覚えたからだ。

 

顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。あなたの瞳は、絶対に、勝手に歴史(セーブデータ)を消滅させはしまいという強い決意に満ちていた。

 

「…戦ってくれるんだね…」

 

あなたより少し背の低い立香が、目元を袖で拭ってあなたの顔を見上げる。

 

「望まないことをさせて本当にごめん…これが終わったら絶対元の世界に帰してあげるから…それと」

 

立香はあなたの手を取り、微笑んだ。

 

「ありがとう」

 

 





elonaをゴミ箱に放り投げるタイミングは3つあるといいます。
ひとつは初めてプレイした時。
ふたつ目がゴミ箱から拾ってもう一度始めた時。
最後に、wikiを見ながら丹精込めて育て上げたキャラクターのデータが、突然失われた時です。

バックアップ、とろう!
…とろう!!


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ねんがんの


話自体は思いつくんですけど、それを文字に起こすのが難しいところです。みんな、やってみよう!な!俺、読むから!ちゃんと読むから!
まあ冗談ですけど。




 

あなたは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の下手人を除かねばならぬと決意した。

あなたには政治がわからぬ。あなたは、ティリスの冒険者である。槌を振り、バブルと遊んで暮してきた。けれども歴史に対しては、人一倍に敏感であった。

 

というわけで、あなたは立香の指示に従い、並み居る敵を瞬く間に打ち倒し、困っている人をさっさと助け、特異点を見つけて叩き潰した。

 

「予想外の早さだけど、これで今回のレイシフトの目的は達成だ。お疲れ様!おかげで今日は夜のうちに眠れそうだ!」

 

草原にロマニ・アーキマンという紅髪のマッドサイエンティストの幻像が立ち上がり、どこからともなくその声がする。はじめは驚いたが、そういうものだと呑み込んだ。

 

「小さな特異点だったけれど、何がどこに影響するか分からない以上見過ごすことはできないからね。よく頑張ってくれたよ」

 

レオナルド・ダ・ヴィンチの声も聞こえてくる。労いの言葉をかけているようだ。

 

「さて…」

 

ダヴィンチ女史はひとつ息をつくと、ホログラム越しに視線を下に向け、しゃがみこむあなたを見下ろした。

 

「マスター君。彼をどうすべきか、君の意見を聞いてもいいかな?」

 

「えっとお…あはは…」

 

困ったことになったなあ、と思いながら立香は苦笑いをうかべ、頬をかいた。彼の感情が分からないわけではない。というより、今回は誰が見ても分かるほど分かりやすい。ただ、問題はそれが新しいおもちゃを買い与えられた子供の表情であり、しばらくはその『おもちゃ』を手放しそうにないことだ。

 

「まさか、これに興味を示すとはね…」

 

周囲の視線を集めながら、それを全く意に介さないままあなたは座りこんでひとつの物体を両手にとり、しげしげと観察していた。

あなたの手にあるのは聖杯だ。…そう、★《聖杯》である。

あなたがこの世界に転移してから、初めて手にする固定アーティファクトであった。

 

あなたは鑑定の魔法も道具も持ち合わせていないためにこの輝く杯の詳細は分からないが、立香によりこれが聖杯という名前であることだけは判明した。固定アーティファクトだと分かったのはノースティリス冒険者の本能的な部分によるものだ。

 

特異点の要とかのたまってなんだか偉そうにしていたのを加速と英雄をかけて奇襲したら何度か殴り合ううちにあっさり潰れて、そこに残ったのがこれだ。この世界にはアイテムドロップがないと悲しんでいたところにこんなことがあれば、しかもそれが固定アーティファクトだというのならば、溜め込んでいた蒐集欲が暴走するのは、どうしようもないノースティリス冒険者の性である。

 

「…とりあえず帰りましょう。ここにいてもどうにもなりません」

 

マシュがそう言うと、協議の末になんだかんだでそれがいいだろうということになった。

 

 

 

………………………

 

 

 

草原から帰ってきたところで、ロマニがあなたに対して聖杯についての説明を始めた。

 

「…まあ、かいつまんで話せばこんなところかな。つまり、これは非常〜に魔術的・戦略的に価値の高いもので、換えがきかないものだから、えっと…できる限り、個人が所有することは避けたいんだ」

 

「要は妙なことになる前にさっさとその聖杯を渡してくれってワケだよ、冒険者君」

 

「ダヴィンチちゃんド直球ぅ!」

 

あなたは趣味のパン錬金をしながら長い話を聞いていたが、実際のところその半分も理解できていなかった。ただ、この★《聖杯》が重要なもので、彼らはそれを欲しがっていることは分かった。

 

…欲しいものがある。それを持っている人がいる。とすれば、取るべき選択肢は3つある。

ひとつ、交換を持ちかける。物の価値は人それぞれ。中々手に入らない貴重な装備品を、たくさんの酒やパン、エーテル抗体や神託の巻物と交換した例は両手で数え切れないほどある。

ふたつ、盗む。熟練の盗人は、息をするように、大衆の中で堂々と、そして素早く盗んでいく。着ていた鎧すら盗まれたことに気がつかないのだから恐ろしい。

みっつ、持っている人物を殺害する。固定アーティファクトならこれでも確実に入手できる。相手が自分より強いなら呪い酒なり使ってムリヤリ殺すのもアリだ。必要なスキルも、対価も必要ない、最も手っ取り早い方法で、個人的にオススメだ。

 

「…今回のレイシフトの第一貢献者だし、殺すのはちょっと…っていうかそもそも無理そうだし…なんとか話し合いで解決できない?」

 

「私としては交換が気になったかな。こちらが代替物を提供できれば、その聖杯を手放してくれるってことだろう?」

 

あなたは肯定した。★《聖杯》のことは非常に気になるが、今絶対に必要なわけではない。彼らにとっては違うようだが…見たところ装備品でもないし、タダで明け渡すならともかく別の貴重品と交換できるなら満更でもない。

 

「そうか!何か価値のあるもの…うーん、じゃあ、えっと…」

 

「このダヴィンチちゃんの素敵なイラスト集!なんてどうかな?世界に誇る万能の天才が丹精込めて描いた絵画がなんと36ページみっちり!」

 

「うおっただ暇つぶしに落書きしてた自由帳のハズなのになんだか神々しい!どうして後光を放っているように見えるんだ!」

 

「後ろからフラッシュライトを当てているからだね!」

 

彼女が提示したのは、世界最高のとか接頭語のつきそうな絵画、それを複数だった。

だが悲しいかな。あなたはまだ家具には興味を持っていなかった。

 

「ダメか…売ってもいい値段になると思うんだけれど」

 

「お金や芸術じゃないってことだね。それじゃあ…これはどうだ!」

 

「エミヤ食堂より提供!本日のお昼のメニューをオレがココでキメテヤルゼ券1年分(365枚組)〜!」

 

あなたは食事は自分で作るからいらないと答えた。

 

「…薄々分かってたけどダメか……クッ、仕方ない…これだけは手放したくなかったんだが、これも人類のため…!」

 

「…まさか、アレを出す気かい?」

 

「立香くん達は戦場に出て命をかけてるんだ…だったら僕だって命をかけようじゃないか!」

 

「…本気なんだね。いいよ、存分にやりたまえ!」

 

「おうとも!さあ冒険者君よ見るがいい!これが僕の命!これが僕の…全てだああああああっ!」

 

そこに並んだのは謎のキャラクターをテーマにしたらしいフィギュアの箱、タペストリーや音楽ディスクだった。

あなたはいらないと言った。

 

「…この一面のマギ☆マリグッズ達が…いらないの一言で済まされるだと!?プレミア品だってこんなにあるのに!!フィギュアもCDも未開封なのに!!僕が…僕がどんな気持ちでぇ!!」

 

「まあ、分かってたことだよねぇ。その情熱は買うけどさ」

 

赤色の涙を流しうずくまる白衣の男に、ダヴィンチちゃんは冷たい視線を向ける。

 

「しかし、そうなるといよいよ私達じゃ君が欲しいものはあげられないようだ。こうなると適当なサーヴァントの持ち物と交換してもらったりする必要が出てくるかもね」

 

「……もういいよ…なんでも…終わりだ……全部おしまい……」

 

「さて冒険者君よ。君が何が欲しいのか分からないけれど、とりあえずこの中でめぼしい物を持っている人物はいないのかい?」

 

そう言われて、あたりを見回す。周囲には先程から話している二人とこちらを心配そうに見つめる立香、それを守るように立つマシュ。彼女達はレイシフトを終えて白衣に戻っている。それと妙に際どい格好でナイフをいじる子供と、アッセイアッセイと不思議な掛け声で運動している筋肉質な男。あとは何人か『マッドサイエンティスト』が機械に向かっているくらいだ。

 

あなたは少し考えた後、ここに初めて来た時のことを思い出した。そういえば、立香とマシュはそれぞれ見たこともない装備を持っていた覚えがある。

あなたは、その中でも一番冒険者として心惹かれた『アレ』をくれるなら、対価として★《聖杯》を渡してもいいと答えた。

 

 

 

………………………

 

 

 

「まさか本当に交換するとは…」

 

「…うう…なんでこんなことに…」

 

あなたはほくほく顔で『ソレ』を掲げる。これはきっといい装備だ!そういう確信があった。

 

「あああ!あんまり振り回さないでぇ!」

 

「ぷっ…くくっ…!価値観の違いというものは恐ろしいものだねっ…あははははは!」

 

早速だが、あなたはこの装備の詳細が気になった。しかしながら、鑑定の技術を持たないあなたがすることはひとつだ。

そう、未鑑定の装備をムリヤリ装備し、呪われたりしているリスクと引き換えに装備の情報を得る、いわゆる『漢装備鑑定法』である。

ということなので、あなたはこの、まだほんのり温かい『厚めの黒タイツ』を装備してみることにした。やはり、例のパンツと同じく投擲物のようだ。

 

「ああっ…あんなとこにつけてる…」

 

「っひ〜!お腹痛い!…っ!」

 

漢装備の甲斐あり、この装備品の名前が判明した。どうやら★《みわくの黒タイツ》という名前らしい。性能はまだ分からないが、使っているうちに分かるだろう。多分だが、幻惑属性を持っている気がする。

 

「…ちょっとスースーする…」

 

「タイツ前提のミニスカートだからねえ…どうやら彼の中で、マスター君のタイツは聖杯と同じくらいの価値があるみたいだ」

 

「意味わかんないんですけどぉ〜…」

 

「いつかパンツも取られるんじゃないかい?」

 

「…ホントにありそうだからそんなこと言うのやめてくださいよっ!」

 

「大丈夫です。今回は不覚を取りましたが先輩の絶対領域は私が必ずお守りします!ええ必ず!!」

 

「でも、なんでマスター君のだったんだろうね?タイツなら…ほら、そこにもあったのにさ」

 

そう言って、ダヴィンチちゃんはマシュの足元を指す。その口元はいたずらを思いついた子供のように歪んでいた。

 

「それは…先輩のタイツが、多分魔術的に価値が高かったり…」

 

「君のと素材は同じだけれどね。魔術的な措置も同じ。耐刃加工ぐらいかな。となると…君のタイツより、マスター君のタイツの方が冒険者君にとって価値があった、ってことになるのかな?」

 

「……それは…しかし……いや、でも……」

 

「…ええ…そこ悩むんだ…」

 

「…なんか、負けた気分に…なったような…」

 

「今負けてるのは明らかに私だけどね!?」

 

そんな会話を後目に、あなたは新しい有益な装備を手に入れた満足感とともに、先程パンを作った疲れが襲って来たためその場で横になることにした。

 

「…私のタイツ抱いて寝てる…」

 

「っ…!っあはははははっ!マスター君のタイツがよっぽど気に入ったようだ!!これは写真に残す価値があるよ!いやむしろ私が写実画を描こう!」

 

「ちょっと!やめてくださいよ!ああもうっ!起きてよ冒険者君〜!」

 

「……私の…タイツ…でも先輩のタイツは……」

 

「マシュ!マシュ!早く戻ってきて〜!!」

 

「あははははは!あっはははははは!ひぃ〜っ!」

 

「…マギ☆マリ……きみのこえがきこえる…ああ…」

 

「フゥ〜〜…今日もこの筋肉がぁ…圧政者と戦うために鳴動している…フゥ…」

 

「おかあさん?なんでないてるの?」

 

夜は更けていく…

 

 





かわいい女の子の黒タイツには幻惑属性がついている。みんな知ってるね。



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おまえは何を言っているんだ


日刊ランキング掲載記念で、少し予定を繰り上げて書きました。
皆さん読んでくださってありがとうございます。評価・感想もモチベーションになります。

※誤字修正しました。報告ありがとうございました。




 

 

あなたの初陣となったレイシフトが終了し、帰還後に一悶着ありながらも、とりあえず霊体化ができなかったあなたには個室が与えられ、しばらくの休息が与えられることとなった。

なんというか四角い部屋だった。部屋には普通のベッドと棚、最低限の日用品が雑然と並べられ、それを細長い白色電灯が照らしていた。あなたは珍しいものを少し期待した分の、少しのため息をついた。

さて、自分の部屋といっても、あなたは家具を揃えて悦に浸ったり、本格的な鍛冶を行う趣味はない。よってあなたはここは物置にしようと思い至った。

そのために、金策や諸々の理由によってある程度たしなんだ錬金術によって、邪魔そうな調度品はだいたいふかふかパンにしてしまった。

 

「お邪魔す………なるほど?」

 

プラスチックや金属製の家具を、フライパンを使用して全く理解できない動きでおいしそうなパンにしてしまうのをたまたま訪ねたことで目撃してしまった万能の天才は、咄嗟にそれを彼の能力だと考えた。お米や麦粥を無限に取り出すサーヴァントだっているのだ。パンを取り出すサーヴァントがいたって不思議ではない。彼女はそう自分に言い聞かせた。

 

「元の素材とは関係なく、それをパンに変えてしまうフライパンか。非常に面白い能力だ…何より、食堂のメニューが豊かになるね…それと、貴重品が部屋に無かったことは運が良かった」

 

あなたはドアの前で難しい顔をしているダヴィンチちゃんに気がつくと、簡単なあいさつと共に前々から気になっていたことを訊ねた。

 

「うん。こんにちは。それで、神の祭壇かい…?うーん、個々人で所有している信心深いのはいるかもしれないけれど、カルデアに設置されているという話は聞かないなあ」

 

それを聞いたあなたは、薄々勘づいていたことではあるがそれがほぼ確信に変わったことで肩を落とした。

やはり、この世界には、あなたの知る神の影響はないらしい。神の声も聞こえず、狂信者も見当たらない。トイレの水を飲んでも願いの神は気がつかないし、更に祭壇も無いとなれば、そもそも神という存在がほぼ認知されていないと考えるのが妥当だろう。

 

「君がそんなに信心深いタイプだとは思わなかったよ。宗派を教えてくれれば多少のものは用意できると思うけれど、どうかな?」

 

あなたは自身の信仰を地のオパートスだと答えた。筋肉質な大男の姿をした神で、声が聞こえるようになると非常にうるさいが、その信仰の恩恵は冒険者には嬉しいものばかりだ。

 

「オパートス…?聞いたことがない神だ。多分、君の言うノースティリスという所の土着信仰だね。うるさい…っていうのはよく分からないけれど。祭壇はどんな形をしているんだい?」

 

祭壇…四角くて白っぽい台だ。赤い布が被せられていることが多い。驚くほど重く、確かな重量挙げの技術と強力な筋力があってやっと持ち上げられる。無理に持つと潰れて死ぬ。

信仰を深めるために生贄や供物を捧げることができ、十分に信仰を深めた信者が祈ると神からの贈り物を受け取ることができるだろう。

あなたは初めて地のオパートスから大槌を受け取った時のことを思い出し、しばし感慨にふけった。

 

「…かなり特殊なもののようだ。対価を支払うことで何かしらの恩恵を与える装置…魔術的なものの可能性が高いね。それもかなり強力だ。これは…実物がないと再現は難しいかな…いや、やってみないと分からないのは確かだけれど…」

 

ぶつぶつと呟きながら、ダヴィンチちゃんは考えこみ始めてしまった。あなたにそれが終わるのを待つ理由はなかったので、ここに来た理由を訊ねた。

 

「…あっ、そうだった。冒険者君、シミュレーション室に呼び出しだよ。君の戦闘力を測りたいんだ」

 

彼女の説明を聞いたあなたは、それを討伐依頼のようなものだと受け取った。プラチナコインがもらえることは無さそうなのが残念だが、ギルドトレーナーもいない以上無用の長物だ。それに、あなたは例のタイツの性能を試してみたくてうずうずしていたのも確かだった。

 

「敵はゴーレムが三体。使用武器はともかく戦法については、マスター君が後ろにいるから彼女に従ってね」

 

あなたは頷き、了承の意を示した。

 

 

………………………

 

 

 

「うわーっ!うわーっ!」

 

背後から聞こえる悲鳴も介さず、あなたは★《みわくの黒タイツ》をゴーレムに向かって投げ続けた。

ゴーレムのうちの一体は「もっとぶってです!」などと叫びながら、何度目かのタイツの衝撃によって破壊され、もう一体はタイツによって発狂して死んだ。

 

「なんで!?なんで私のタイツがこんなことになるの!?」

 

『あっははははははははは!!』

 

天才の笑い声が響く中で、あなたは最後のゴーレムに向けてタイツを構える。ほどなくして、立香は赤面して座り込んでしまった。そういえば、彼女はまた別のタイツを履いている。再生成されたのだろうか。また今度チェックする必要がある。

 

「これは…ひでえな」

 

特徴的な槍を構え、青いぴっちりしたスーツを着た気のよさそうな男は目の前の惨状をただ立って見ていることしかできなかった。傍目には、戦場で下着を投げて遊ぶ男にしか見えないのだが、結果としてゴーレム達は為すすべもなく倒されていっている。彼の理解しなくていいものリストに、また一つ項目が増えた。

 

あなたは最後のゴーレムを破壊し、タイツの性能に満足気にため息をつく。やはりこれには幻惑属性が付与されており、またけっこうな威力を持っているようだ。遠くの敵にはタイツを投げ、近づいてきたらこの大槌で潰してやれば大抵の敵は打ち倒せるだろう。

 

『シミュレーション終了。お疲れ様…でした』

 

マシュの声で戦闘の終了がアナウンスされ、周囲が元の殺風景に戻る。あなたは振り向き、シミュレーションの前に顔を合わせてから目をつけていた例の青い男に近づいた。

 

「うん?何か用か?」

 

怪しむ槍男を後目に、あなたは窃盗スキルを発動する。やはりといったところか、彼の持つ槍は固定アーティファクトのような感じがする。それ以外にも、いくつか解析できない装備がある。

 

「…これが気になるのか?だが悪いな。これは譲ってやることはできねえんだ…師匠に殺されるしな」

 

槍男がそう言うのを聞くと、あなたは後ろ髪を引かれる思いを振り切り、残念そうに身を引いた。大槌がある以上槍を使うつもりは無いが、非常に興味を引かれる一振だった。

 

「なあ、それにしてもアンタは何の英霊なんだ?解析じゃ何も分からないみたいだったが、アンタ自身が自分のことを何も知らないってワケじゃないだろう」

 

槍男の質問に、あなたは…

 

「クー・フーリンだ。…何か、妙なあだ名で呼ばれてる気がしてな」

 

…クー・フーリンの質問に、あなたはノースティリスに密航して、とある緑に拾われてから冒険者として暮らしていたこと、何度か死に、壁を掘り、パンを作り、また壁を掘り、不眠不休でバブルを殺し続けたりしているうちに多少は強くなったと思ったので大きなネフィアに潜ったと思ったら何故かここに来たことを話した。

 

「…英雄譚っていうよりは、奴隷の生活だな…ま、アンタの強さの根本には、そういう気の遠くなるような地道な作業があったってことだな。ハハ、いいね。神や魔術師からいきなり意味のわからん力を与えられるより好感度高いぜ?」

 

「…でもタイツフェチだよ…」

 

「お、マスター。復活したか」

 

「うん。おかげさまで…なんか、ちょっと慣れてきちゃった…かも…嫌だけど」

 

「ハハハ!まあ面白いもん見させてもらったぜ!」

 

「ううう…」

 

『あのー…シミュレーション、終わったんですけど〜…?』

 

「あっ…ご、ごめん!すぐ戻りま〜す!」

 

「話し込んじまったな。ホラ、戻ろうぜ」

 

あなたは頷き、二人に従った。

 

 

………………………

 

 

シミュレーション室を抜け、廊下で何人かが話しながら歩いている。

 

「えっと、今回のシミュレーションで分かったのは…まあ、オブラートに包んで、彼は色んな戦いが出来るってことかな。あと…」

 

ダヴィンチちゃんはあなたの手元に握られている黒タイツをしげしげと眺める。

 

「…フライパンで家具からパンを作ったり、マスター君のタイツで戦ったりするのを見るに、彼が手にするもの、身につけるものは、私達のとは違う彼の世界の法則が適用されるようだ。ある意味、超小規模の固有結界を常に発動しているような感じかな」

 

「例えば、私達にとって何の変哲もない石ころや下着でも、彼の世界が『武器だ』と認識し、実際に彼が手にして武器として使用すれば…それは本当に武器としての性能を発揮する。それもかなり強力な武器としてね」

 

「これは非常に面白いよ!彼は本当に異世界から来たのかもね」

 

からからとダヴィンチちゃんが笑う。あなたの隣で歩いている立香はチラチラとあなたの手元に視線を向けながら、しかし強かに何かを考えているようだ。

 

「…レイシフト先でも、新たに武器を見つけて利用できるかもしれない、ってことですか?」

 

「そうだね。それによって、新たな戦略の構築もできるかもしれない。ただ…」

 

ダヴィンチちゃんは、興味なさげに装備をいじるあなたに目を向けた。あなたは振り向いてなんの用かと首をかしげる。それを見たダヴィンチちゃんは口元を軽く歪ませて息をついた。

 

「…武器になるかどうかが彼次第な分、アテにするのは難しいだろうね。それに、彼の手から離れれば、それは武器としての力を失ってしまう可能性もある」

 

「総評、扱いに困るけど、ハマれば強いかもしれない。だが、信用するなかれ…って感じかな」

 

「う〜ん…そうかぁ…」

 

ダヴィンチちゃんの言葉に、立香は困ったように頬をかいた。

 

「とはいえ、だ。そもそも、彼の戦闘力は相当なものだ。単純に、強力なサーヴァントとして扱うのが無難じゃないかな?」

 

「…まあ、そうなりますかね」

 

結局、素人マスターのオワタ式人理修復が楽になることはなさそうだ。立香は残念そうに眉尻を下げた。

 

あなたはその横で、立香が別途履き直したタイツは特に武器になりそうにないことにため息をついていた。

だが、タイツだけが装備ではない。ここにはまだまだ探っていないものが沢山ある。立香のみならず、このカルデアに存在するあらゆる人間の装備を見るまで諦めることはない。必ずまだ何かある!あなたにはそういう確信があった。

 





緑は個人的な恨みもありながら、殺す度に良質な装備を落としてくれるのが嬉しいのでパーティ会場で見つけたら殺します。かつて核まで持ち出した相手が単なるいいおやつになった時、成長を感じる。僕はそういう所に、喜びを感じるんだ。



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あの人はこれ振り回してるんだぜ


なんか…三ヶ月ぐらい時空が飛んだ気がする…気のせいだな!
失踪はしてないからセーフ!
はい。ごめんなさい。

※誤字修正しました。ご報告ありがとうございます。


 

 

ーー拝啓、田舎の母上様。

おだやかな小春日和が続いております。若草が風に揺られ、まばらに雲の流れゆく風景は、いつ見ても心安らぐものですが、母上様におきましては、いかがお過ごしでしょうか。我々を導いてくださった聖女様は、今はもういませんが…いやいるんですが、なんか違う感じになりましたが。

私は………私は今…………あー………襲い来る骸骨兵やワイバーンの群れと、それに向けて黒い下着と革のムチを振り回す狂人に板挟みにされております助けて下さい………

 

ーーフランス、とある砦の兵士より

 

 

 

 

『兵士の皆も、骸骨兵の足止めぐらいは、っていう意気込みは良かったんだけどね〜』

 

ダヴィンチのホログラムが苦笑いを浮かべる。立香達は特異点の解消のため百年戦争後期、聖女ジャンヌ・ダルクの処刑から数日が経過したフランスにレイシフトし、一悶着ありつつも近くの砦に身を寄せたのだった。

 

「変態…変態っ…!」

 

ベルトの代わりに胸を腕で抑え赤面する立香。その目はすぐそばでさっき盗んだ黒い細身のベルトを振り回して近寄るワイバーンを快調に叩きのめしている男に向けられている。

 

『あはは、まさか胸のベルトまで武器になるとは…いきなり服を剥がされた立香くんには悪いけど、やっぱり彼は面白いね』

 

ワイバーン。その大きな翼で空を飛び回り、火を吐き、強靭な爪で兵士を鎧ごと切り裂く…本来存在しないような空想の生物。しかしそれが今フランス中に現れ、骸骨兵まで率いている。その根源にあるのは先日処刑されたハズのジャンヌ・ダルクらしいとかいう摩訶不思議な状況に、彼らは放り込まれたのであった。

 

「笑えませんよ!しかもなんで私ばっかり!?もうフォウくんはついてくるし空に意味不明な光の輪があるわ斥候の兵士には敵認定されるわでめちゃくちゃなんですけどぉ!?」

 

「お気持ちお察しします…」

 

マシュが盾を構えながら横目にマスターを見る。その目は憐れみを多分に含んでいた。

 

『人理修復は大変だね!あ、ワイバーンが逃げ始めたよ』

 

通るだけで村を滅ぼし、一晩で砦を落とすとも言われる恐るべきワイバーンの群れは、たった一人の男と盗品のおっぱいベルトによって圧倒され統制を失い、今まさに蜘蛛の子を散らすように逃走を図っていた。

 

「お、持ち替えたぜ…あー、タイツに…」

 

立香を守るために控えていたクーフーリンは、あなたが立香のおっぱいベルトを大切そうに懐にしまい、別のところから心底楽しそうに立香の黒タイツを取り出したのを見た。

 

『飛んで逃げる敵なら遠距離武器ってことだね』

 

「ああ、そういや投げて使うんだったな…」

 

『誰よりも成果が上がっている分文句も言えないねえ』

 

逃げるワイバーンに向けてタイツが高速で空を飛ぶ。ワイバーンは「もっとぶってにゃあ!」などと混乱しながら悲鳴を上げ、地に堕ち、あるいは空中でバラバラになって死んでいく。

 

『汚ねえ花火だってヤツだね』

 

「ちょっと違うかも…」

 

『悪いけどぼーっとしてる暇はないよ!早速だけどあのサーヴァントと接触しよう』

 

通信機器にロマンの声が入る。実はあなたが自由に戦闘を行っていた傍ら、砦の兵士を鼓舞していたサーヴァントの反応があったのだ。

 

「あ、そうだった。えっと、どこに行ったかな…」

 

『あっちだね。なんだか騒がしいけど…』

 

ーーー逃げろ!魔女が出たぞ!

 

「え、魔女…?」

 

【魔女】。その言葉とともに、先程まで兵士とともにあったそのサーヴァントの周囲から兵士は逃げ出し、また恐る恐る武器を彼女に向ける者もあった。

 

「…とりあえず行こう!」

 

立香は声の中心、魔女と呼ばれたサーヴァントのもとへ走り出した。ワイバーンの肉を集めていたあなたも、彼女のペットとしてついて行くことにした。

 

 

………………………

 

 

ルーラーのジャンヌ・ダルクを名乗る彼女の提案で砦から離れると、彼女は簡潔に自らの状況を述べた。

曰く、彼女も現界してから数時間だということ。また、聖杯戦争の存在を認識してはいるが、本来より大幅に情報が欠如しており、また能力も大きく落ちていること…

 

また、立香達も彼女をジャンヌ・ダルクだと信じ、カルデアやそのミッションについて話した。ついでにあなたのことについても話した。

 

情報をすり合わせた結果、どうやらこのフランスにはここにいるジャンヌ・ダルクと、【竜の魔女】としてワイバーンを召喚し各地を攻撃するジャンヌ・ダルクの二人が存在し、恐らく聖杯もその竜の魔女のもとにあるだろう、という推測が立てられた。

 

「…なるほど、状況に不明な点が多々ありますが…特に、その…下着を振り回して戦うという…彼とか、多々!ありますが!…ある程度の把握はできました」

 

「マドモアゼル・ジャンヌ。貴方はこれからどうするのですか?」

 

「……目的は決まっています。オルレアンに向かい、都市を奪還する。そのための障害であるジャンヌ・ダルクを排除する」

 

「主からの啓示はなく、その手段も見えませんが、ここで目を背けることはできませんか…ら……」

 

そう言うジャンヌ・ダルクの背後に忍び寄る影が一人…そう、何を隠そうあなたである。

 

「…何か御用ですか?」

 

ジャンヌが振り返り首を傾げる。あなたは、何のことはない。ただのチェックだと伝え、例によって窃盗スキルを発動した。

 

「そうですか…?何か問題があるならば、教えて下さい。直せるところは直してみせましょう」

 

「まさか、彼はまた服を盗もうとしているのではないですか…?」

 

「…多分…いざとなったらすぐに止められるようにしよう」

 

「ええ、もちろんです。彼は女性の敵です」

 

意気込むジャンヌほか数名を後目に、あなたは彼女の装備を精査する。……ビンゴだ!あなたは彼女の持つ旗にその特異性を見つけると、思わず笑みがこぼれた。しかも今回は装備の詳細まで判明した!どうやら彼女の旗は武器として扱うことができるうえ、時々鼓舞の効果を発動するようだ。彼女の旗は最高でおじゃる!そう叫び出したい気分だった。

 

「…この旗が何か…っ!ど、どうしました!?」

 

あなたが早速窃盗スキルを利用して旗を盗もうとした、その時だった。あなたは、絶望的な数値を見つけてしまう。なんと…

 

ーーーこの旗、重いッ!

 

…なんだ、それだけか。そうお思いならば甘い。甘いことこの上ない。あなたの故郷ノースティリスにとって重さは世の中で最も重要な数値のひとつだ。武器は重いほど威力が出るし、冒険者にとって重量マネジメントは必須級スキルである。疲れながら重すぎる荷物を抱えて階段で転んで死ぬのは冒険者のあるあるのひとつだ。また料理は材料が重ければ重いほど価値が高いとされる。だが今特に言いたいのは…

 

あなたの筋力では、彼女の重たすぎる旗は到底盗めないことだ。

 

原則、全身で出せる力の半分以上の重さのものは盗めないとされている。それは伝説の盗賊でも、昨日窃盗を覚えたニュービーでも同じ真理だ。ただ持ち上げるのとは訳が違う…なにしろ盗むのだ。当然、誰にもバレてはいけない。スムーズに、音を立てずに…熟練し、いかに素早い手さばきを覚えても、そもそもそれが活かせないほど相手が重ければ無意味なのだ。

 

あなたはその場に崩れ落ちた。そして、筋力が明日には十倍になっていることを夢見て、懐からベッドと今日盗んだおっぱいベルトを取り出して眠りこんだ。ふて寝だ。

 

「半泣きですごい幸せに眠れそうなベッドの上で私の装備抱えて寝始めたんだけど!!私達これから野営なんだけど!?」

 

「…お、面白い人ですね!」

 

聖女は深く考えるのをやめた。





もし言い訳をさせてもらえるのなら、死ぬほど忙しかったのとFTLとタイタンフォール2が面白いのが悪いのです。
次回はいつになるかな。今回ほど間が空くことはないようにしたいです。


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STR極振りビルドは実際強いのか?


ゲームによると思います(一刀両断)
でも一度は試しますよね?

※誤字修正しました。報告ありがとうございます。


 

 

あなたは幸せそうなベッドの上で目を覚ますと、すぐさまベッドを懐にしまいこみ、起きてからの日課である神への祈りのため手を合わせた。

神の声がすっかり聞こえなくなって久しいが、身体に染み付いた習慣というのは中々消えないものである。

 

「彼もまた神に仕える者でしたか。作法は違えど、神に縋る想いは皆平等ですね」

 

無論、あなたの周りには焚火を囲んで野営をしているサーヴァントやマスターがいる。周囲の視線を一身に浴びながら、あなたは祈りを終えた。

 

固く組んだ手を解き、立膝に曲げていた足を伸ばす。おもむろに立ち上がったあなたは…フハハ、と少しだけ笑い、『ポージング』を始めた。

 

まず正面を向き、両腕を軽く浮かせてフロント・リラックスからサイド、リア、そしてサイドリラックスと身体を回すと、今度は反転して同じ動作を行う。筋肉に少しずつ血を通わせることで身体をほぐす。

両拳を握りしめ、くびれのあたりに当てる。正面を見据え、背中を強調するフロント・ラット・スプレッド。そのまま横向きになり、手を後ろに組み足を屈めて上腕三頭筋を強調するサイド・トライセップス。

ひと息ついて、全身に力をこめながら両拳を身体の正面で当たらない程度に突き合わせてモスト・マスキュラー。もちろん全力の笑顔を添えて。

その流れのまま、ゆっくりと息を吐きながら二の腕を地面と平行に上げ、拳は肩の上へ。にっかり笑い、フロント・ダブル・バイセップス。

身体全体で筋肉の呼吸を聞く。筋肉がゆっくりと目覚めていくのを感じ、新たな筋肉の朝日がのぼる。今日この日、ここフランスにて、あなたは素晴らしき筋肉の爪痕を残した。異邦人となった今日も、愛すべきあなたの筋肉はすこぶる快調だ。残念なのは、神の筋肉アドバイスが聞こえないことのみ。

フハハンと息を吐くと、またフロント・リラックスへと身体を戻す。

あなたにとって、これもまた、欠かすことのできないルーティンだった。

 

「……すごい……」

 

「動きに無駄がありません…いえ、ポージング自体が無駄な動きと言うこともできますが…」

 

「ふぅ〜む………なるほど………」

 

フゥ〜〜〜ン………と、ひときわ大きなため息をつき、情熱的な目線を送る男が一人。

 

「……まずは君に賞賛を送ろう…なんとも素晴らしいポージングであった。戦闘のため、美しく洗練された君の筋肉の奏でる音楽を聞かせてくれたことに感謝を……」

 

スパルタクス。召喚によって呼ばれた彼は…筋肉(マッスル)であった。

 

「……そして……ああ、しかし……なんて悲劇だ!!」

 

「聞こえる、聞こえるぞ。君の筋肉の泣き声が聞こえる…君の筋肉の嘆きが聞こえる……!私にはっ!!君の筋肉の金切り声がっ!!…激しい剣戟、猛獣の遠吠え、戦士の咆哮、そのどれよりも強く!!聞こえてくるのだ!!……心が引き裂かれそうだ……孤独にあらねばならないその圧政から開放してやらねば…そう、思うわけだ…」

 

「…言葉などなくとも分かっているのだろう…?君の筋肉は求めている…切望している…!!孤独に奏でる筋肉独奏(マッスル・ソロ)ではなく、二人で!三人でっ!…大勢で!それぞれの人生(マッスル)を背負い、情熱(マッスル)を抱き、かき鳴らされるっ…むくつけき男達による!筋肉(マッスル)オーケストラを!!」

 

筋肉オーケストラ。その言葉の意味をあなたは知らない。筋肉とは常に孤独であり、筋肉とは誰かを打ち倒すためのものだったからだ。しかし…

 

しかし、ではこの心のざわめきは何だ?まるで初めて固定アーティファクトをやどかりの死体から拾い上げた時のような興奮…!

 

気がつけば、あなたはスパルタクスの目の前まで足を踏み出していた。

 

「今はまだ二重奏(デュオ)…だが、筋肉は無限大(マッスル・インフィニティ)だ。感謝しよう…この稀有な機会を与えてくれた…この舞台の立役者である…いずれ圧政者となるべきマスターに!!」

 

「いや私巻き込まないでくれる!?」

 

「さあ始めよう!世よ御照覧あれ!筋肉と筋肉がぶつかり合い、求め合う…筋肉の伝説(レジェンド・オブ・マッスル)は!!今日!!ここから!!始まるのだ!!!」

 

 

―――筋肉が、(いなな)いた。

 

 

………………………

 

 

「……終わった?」

 

「…動かなくなりましたね…」

 

あなたとスパルタクスは、激しくポージングをとり、筋肉を競い合うように見せつけあった。

その途中に襲いくる猛獣を弾き飛ばしながら…。

時にして約3時間。異様とも言える光景は、しかし誰にも口出しができないほどの迫力がこもっていた。先を急ぐ旅であることを、その時だけは誰もが忘れて…

 

「…やっと、終わりましたか?」

 

否。忘れては、いなかった。

二人の筋肉が子供のように無邪気に戯れあう様を、奈落の底のように冷ややかな目線で見据えていた…聖女。

彼女に筋肉の良さは分からない。いや、理解はしても、それは聖女としての役目よりも優先するものではないのだ。

 

「時間がありません。手早く準備を」

 

これ以上の言葉を交わす意思などない。はっきりとした拒絶が、目の前に物理的に存在すると錯覚するほどの心の壁が、あなたとスパルタクスの前に立ちはだかった。これはいかに強力な筋肉でも打ち砕けないだろう。

 

「あの、えっと、ごめんなさい…」

 

「止められなかった我々に責があります。申し訳ありませんでした」

 

「あなた方の文化です。それを否定するつもりはありませんよ」

 

「いや違いますけど!?」

 

「発言の撤回をお願いします!!アレは我々の文化なんかじゃないです!!」

 

二人が今日一番の大声で、全力の否定をする。その迫力は、先程までの筋肉に勝るとも劣らないものであった。

 

「そ、そうですか…」

 

「え、えっと…それで、これからどこへ向かうんですか?」

 

「…オルレアンへ。もちろん、直接乗り込むのは難しいでしょうが、周辺の街や砦から情報を集められるかもしれません」

 

一行は、あなたとスパルタクスに荷物持ちを(無理矢理)任せ、一路オルレアンへ向かうこととなった。

 

「おお……圧政者よ!!」

 

圧政にいきり立つスパルタクスを、ベルトで叩きながら(マスターの命令である)。

 

 

………………………

 

 

「もうすぐラ・シャリテです」

 

「ここでオルレアンの情報が得られない場合、更にオルレアンへ近づかなければいけませんが…なるべく、そうならないように済ませたいですね」

 

途中、高速で移動するサーヴァントの反応を拾い、急ぎながらラ・シャリテへたどり着いた一行は、しかしそこで凄惨な光景を目にすることとなる。生体反応もなく焼けた街、生ける屍、死体を貪る怪物…

 

「…これをやったのは、恐らく私なのでしょうね」

 

そして、この光景を、人の生命を、尊厳を踏みにじるようなこの空間を、【ジャンヌ・ダルク】が生み出したという確信を得る。

 

「どれほど人を憎めば、このような所業を行えるのでしょう」

 

「私には、それだけがわからない」

 

『サーヴァントの反応だ!こちらに気づいたみたいだ、向かってくる!』

 

ロマンの声が、一行の意識を現実に引き戻した。

 

先程発見した複数のサーヴァントが、こちらに向かってくる。戦力的な不利を悟り逃走を提案するロマンの声には従わず、聖女はその場から動かない。

 

そこで、聖女は―――

 

「―――」

 

「―――なんて、こと。まさか、まさかこんな事が起こるなんて」

 

―――聖女に、出会った。

 

 





話が全然進みませんでした。なんでだ…


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