転生したら原初だった件 (レックスムーン)
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プロローグ

深夜、俺こと風間(かざま)焔矢(えんや)は会社での勤務を終えて家にへと帰宅していた。

 

「あぁ~、体が重い。流石に5徹目を越えたらキツイな」

 

そう言いながら俺はさっきコンビニで買った栄養ドリンクを一気に呷った。

 

さっき、コンビニのトイレで顔色が悪く、目も死んでいて、目の下には濃いクマがあった自分の顔見たら軽く引いたし。

 

大学を卒業して、大手の会社に入社して12年目を迎える37歳

 

毎日常飲しているだけあってあとからやって来る苦みに慣れてしまった俺は溜息交じりにこう言った。

 

「買い溜めしといた漫画でも読み漁るか」

 

そう呟いた瞬間、右の分かれ道から男が走って来て、俺にぶつかって来た。

 

「ちょっと、アンタちゃんと前見て走れ・・・よ?」

 

そう言いながら俺は腹に違和感を覚えて見てみると、そこには腹に柄まで刺さったナイフがあった。

 

「・・・・・・えっ?」

 

いきなりの事に頭が回らない俺は口から血を吐いた。

 

「・・・ゴホッ、ゴホッ、ゲホッ!!」

 

血を吐きながら倒れる俺に対してナイフを刺して来た男はそのまま走り去ってしまっていた。

 

通り魔ってやつかよ、クソ!!

 

そう考えながら俺はある事を考えていた。

 

どうせこんな所で一人寂しく死ぬんだったら「FAIRY TAIL」のゼレフ書の悪魔や九鬼門みたいになって力を奮ってみたかったな。

 

【確認しました。《悪魔》の情報を入手し、統合を実行します。・・・・・・・・・・・・・成功しました。あなたは《原初の悪魔》となりました。続けて、容姿を形成・・・成功しました。】

 

それで滅悪魔法に滅竜魔法、滅神魔法を使ってみたいな。

 

【確認しました。ユニークスキル『滅殺者(ホロボスモノ)』に続けて『痛覚無効』『物理攻撃無効』『精神攻撃無効』『聖魔攻撃無効』『自然影響無効』『状態異常無効』を獲得しました。】

 

九鬼門の呪法も使ってみたいな。

 

【確認しました。ユニークスキル「呪法者(ノロイシモノ)」を獲得しました。】

 

あっ、それなら全部の魔法が使えるようになりたいな

 

【確認しました。ユニークスキル『魔導士(マドウシ)』を獲得しました。】

 

あと、今の人生では馬鹿だったから俺の事をサポートしてくれる奴がいてくれたら助かるな。

 

【確認しました、ユニークスキル『全知なる者(ゼンチナルモノ)』を獲得しました。】

 

勤めながら書き続けた小説を完成させたかったな。

 

【確認しました。ユニークスキル『書込者(カキコムモノ)』を獲得しました。】

 

あぁ、もう意識が・・・、転生とかしてたら面白いかもな。

 

こうして、俺こと風間焔矢はこの世を去ったのだった。

 

だが、この時俺はあんな事になるなんてこれぽっちも思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

「ううん、ここはどこなんだ?って、俺はナイフで刺されて死んだんじゃなかったか!?」

 

そう言いながら飛び起きると、俺の目に入って来たのは空は赤黒く、空気が重いそんな禍々しさが満載の場所だった。

 

「マジでどこだよ、ここ」

 

そう言いながら立ち上がると、俺の頭の中で声が響いてくる。

 

「{告、ここは冥界・魔界と呼ばれる精神世界であり、ここに住まうのは悪魔族のみです。そして、この世界では悪魔族が日々殺し合いをしています。}」

 

「・・・マジで?」

 

マジかよ・・・、って今の声頭の中から聞こえて来たよな。

 

そう言っていると、後ろから襲われた。

 

「ちょっ、いきなり何するんだ!?」

 

俺がそう言うと、三人組の一人がこう言ってくる。

 

原初の橙(オランジェ)、貴様に倒されてから復活するのに千年ほどかかったが今こそ貴様を殺す」

 

オランジェって何だよ?

 

「{告。原初の橙(オランジェ)とは始まりの悪魔と定義されている八体の悪魔の一角です}」

 

へぇ、その悪魔に俺が転生した、と。

 

・・・マジか、・・・転生してたら面白いなと思ってたけど本当に転生するとはな・・・。

 

そうやって考え込んでいる時に再び襲い掛かって来る三人組に対して俺は・・・。

 

「うぜぇ」

 

自分でも意外なくらいのマジギレをした。

 

【告、ユニークスキル『滅殺者』を発動しますか? YES/NO】

 

YES!

 

そう返事をした瞬間、俺の身体は冷気を纏い始め、それに気づいた三人組が距離を取ろうとするが・・・。

 

「遅ぇよ」

 

《氷魔の激昂》

 

俺の口から放たれた滅悪の冷気を受けた三人組は消滅していた。

 

「黙って死んでろ」

 

俺に対して後ろの方から声がかかった。

 

「よぉ、久しぶりじゃねぇか、オランジェ」

 

その声を聴いて後ろを向くと、そこには凶悪な笑みを浮かべている赤い髪の男が立っていた。

 

「{告、目の前にいる悪魔は原初の赤(ルージュ)です。そして、あなたと同じ原初の一人です}」

 

「なんか用かよ、赤」

 

俺がそう言うと、赤髪の男はこう言ってくる。

 

「おいおい、オランジェ。俺らが会ったらやる事は一つだろ。」

 

口を三日月形にしながら笑みを浮かべ襲い掛かって来る。

 

俺は赤と周囲を巻き込みながら戦闘が始まった。

 

《氷魔の激昂》

 

《熱龍炎覇》

 

氷と炎の激突により爆発が起き、周囲が吹き飛ぶ。

 

それを皮切りに拳・蹴り・魔法での激突を繰り返しながら十時間ほど戦い続けた。

 

「おい、もう飽きたんだが、やめにしないか」

 

俺がそう言うと、赤はこう言ってくる。

 

「オイオイ、そりゃねぇだろ。黒の奴以外に俺様とタメ張れる奴がいるってのにはいそうですかで終われるかよ」

 

好戦的な笑みを浮かべながらそう言ってくる赤に対して反論しようとした瞬間、俺の足元に魔法陣が現れた。

 

「オイオイ、折角楽しくなって来たってのによぉ…」

 

赤が魔法陣を見てそう言っているのを見て疑問に思っていると、頭の中で声が響いてくる。

 

「{告、この魔法陣は悪魔を召喚するための魔法陣です。何者かが召喚魔法を使用したようです。}」

 

なるほど、召喚されたから赤は残念そうなのか。

 

そう考えている内に俺は魔法陣を通って召喚先にへと向かうのだった。



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契約

「おぉ、貴様が太古の悪魔である原初の橙(オランジェ)か?」

 

俺は魔法陣で召喚されると、野太い声が聞こえて来る。

 

目を開くと、そこには大きいな宝石のついた指輪や煌びやかな服を着こんだまるで豚のような男が目の前にいた。

 

「そうだが、俺を呼び出してお前は何を望む?」

 

肯定しながらそう問いかけると、男もとい豚はこう言ってくる。

 

「実はこの国の国王であるワシに対して愚かにも牙を剥こうとしている者達を消して欲しいのだよ。」

 

そう言いながら豚は酒らしき物を飲み干す。

 

「ほう、それで報酬は?」

 

「フン、そんなもの望む物があらば幾らでも用意してやる。」

 

俺は豚の言葉に内心笑みを浮かべる。

 

「良いだろう、くれぐれも後悔のしない様にな。」

 

俺はそう言って契約を実行するのだった。

 

 

 

 

ここは王国の城下町にある地下、そこには反王国軍の本拠地があった。

 

「皆、覚悟はいいか?」

 

「もちろんです、みんなこの国の国王にはもうウンザリしているんですから!!」

 

顎髭を蓄えた中年の男の言葉に一人の青年がそう言い切ると、集まっていた全員が同意の声を上げる。

 

「ありがとう、それではこれより城を襲撃作戦を実行する!!」

 

『おおおおおおおお!!』

 

男の言葉に全員が雄たけびを上げる。

 

だが、その襲撃は行われる前に潰える事になった、たった一体の悪魔によって。

 

「悪いが、その襲撃は失敗に終わるぞ。」

 

「だ、誰だ!?」

 

俺がそう言って声をかけると、驚きながら声を上げる男

 

それを見て思わず笑ってしまいそうになったが、こらえてこう言った。

 

「初めまして、そしてさようなら。」

 

俺の言葉を皮切りに男達はその場に倒れこむと、服だけが残っていた。

 

舌なめずりをして俺はこう言った。

 

「ご馳走様。」

 

そう言ってから俺はその場から立ち去り、あの豚の所にへと戻るのだった。

 

 

 

 

豚のいる一室に戻って来ると、そこには豚の他に一人の女がいた。

 

女の顔は美人といえるもので、すぐに察しがついた。奴隷だという事に。

 

「おい、貴様ワシの楽しみの時間を邪魔してくれよって・・・。」

 

「知るか、そんな事よりもお前との契約は成立した。」

 

しかめっ面をしていた豚が俺の言葉を聞いて笑みを浮かべて来る。

 

「ほう、早かったではないか。」

 

「対価を貰うぞ。」

 

そう言った瞬間、豚と女は服だけを残して消えていた。

 

「それじゃあ、他のも食いに行くとするか。」

 

そう言って俺が歩き出した瞬間、西の方から赤の力の波動を感じ取った。

 

原初の赤(ルージュ)の奴、派手だな。」

 

その言葉を最後に人間の魂を喰らい尽くした俺は地獄の門を開き、冥界にへと帰っていくのだった。

 

この日原初の悪魔の一柱(ヒトリ)である原初の赤(ルージュ)は魔王となり、ギィ・クリムゾンと名乗りを上げたのだった。

 

そして、俺はスキルを把握する為に表舞台に出る事はなくなった。

 

一匹のスライムに出会うその日までは・・・。



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スライムとの邂逅

あれから幾億の年月が過ぎただろう、魔王になったギィから究極能力(アルティメットスキル)を自慢話を聞かされて苛立ち交じりに雑魚共を消し飛ばしたのも今では懐かしい出来事だ。

 

俺はスキルを把握をするために原初の黒(ノワール)原初の緑(ヴェール)原初の青(ブルー)原初の白(ブラン)原初の紫(ヴィオレ)原初の黄(ジョーヌ)とも戦いを挑んだ。

 

苦戦はしたものの引き分けたのは原初の黒だけで、他の奴らには勝利をした。消滅はさせてないがな。

 

戦いを経て俺は自分の持つスキルを把握した。

 

全知なる者(アトランティス)』の効果は思考加速・並列演算、森羅万象、詠唱破棄・解析鑑定。

 

滅殺者(ホロボスモノ)』の効果は魂喰・根絶・肉体破壊

 

呪法者(ノロイシモノ)』の効果は呪詛創造・呪詛侵蝕・精神支配・精神破壊。

 

魔導士(マドウシ)』の効果は魔法強化・魔法支配。

 

書込者(カキコムモノ)』の効果は複製・贈与・保存・創造・発現。

 

まぁ、こんな所ではあるが、俺はそれを何億年も繰り返していたのだが、これ以上の進捗は見込めないと判断して、今は調子に乗っている雑魚共を蹂躙していた。

 

が、雑魚共を蹂躙するのに飽きるのは一分もかからなかった。

 

「退屈だな。」

 

そう呟いた後に、俺はある事を思いつく。

 

「そうだ、久しぶりに現世に出かけるのも悪くはないな。」

 

そう言って俺は地獄の門を開き、現世にへと顕現するのだった。

 

 

 

 

「ここは確か、ジュラの大森林とか言う場所だったか。」

 

そう言いながら周囲を見渡す俺。

 

ジュラの大森林とは暴風竜ヴェルドラの封印場所である場所だったはずだ、なのに・・・。

 

「ヴェルドラの気配が無いのはどういう事だ?封印の影響で漏れ出ていた魔素が出尽くして消滅したのか?」

 

そうやって疑問を口にしていると、膨大な妖気(オーラ)を感じ取った。

 

「この妖気(オーラ)は何だ?どっかの上位魔人(バカ)でもヴェルドラの気配が無いことにやって来たのか?」

 

そう頭の中で自己完結しながらその妖気の所まで歩いて行くと、そこにいたのは一匹のスライムだった。

 

「スライム、だと!?」

 

俺は驚きを隠せず驚きを表情を浮かべる。

 

たかがスライムがこれほどまでに膨大な妖気を放つのはあり得ないからだ。

 

すると、スライムが動きを見せた。

 

「初めまして、僕はスライムのリムル!悪いスライムじゃないよ!!」

 

「・・・・・・。」

 

それを聞いて俺は別の意味でも驚きを隠せなくなった。

 

スライムに自我があるというのにも驚いたが、言って来たセリフが一番の驚きだ。

 

『悪いスライムじゃないよ!!』

 

それは俺が人間だった頃にプレイしていたゲームに出て来たスライムのセリフと同じだったからだ。

 

「もしかしなくても、お前も"転生者"なのか?」

 

俺がそう言った瞬間、スライムは驚きの声を上げる。

 

「えっ、どうして分かったんだ!?でも、"お前も"?」

 

「俺もお前と同じで"転生者"だからだ。」

 

「えーーーーーーーーーーーーっ!?」

 

こうして、俺は一匹のスライム・リムルとの邂逅を果たしたのだった。



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名付けと進化

ヴェルドラの所は削除しました。


スライムへと転生した三上悟もといリムル=テンペストと出会った俺は前世での話で盛り上がっていた。

 

「マジかよ、リムルも通り魔に刺されて死んだかよ!!」

 

「あぁ、お互いが同じ死因とは面白いな!!」

 

そうやって笑い話にしながら友好を深めていくと、リムルがこんな事を言いだした。

 

「なぁ、お前って名前が無いのか?」

 

「あぁ。というよりも、殆どの魔物は名前が無いぞ。名前を持つという事は魔物としての格を上げるという事だからな。」

 

そうやって話しをしていると、ふとリムルがこう言って来る。

 

「なぁ、お前も俺と友達にならないか?」

 

「良いぞ。」

 

遠慮がちにそう言って来るリムルに対して俺はそれに同意してやった。

 

「本当か!?」

 

「あぁ、せっかく同郷の奴に出会えたんだ。これも何かの縁って事でな。」

 

そう言って俺とリムルは互いに友好の握手(リムルの場合は体?)をして、友達になった。

 

「話を戻すけどさ、名前が無いって不便じゃないか?前の世界では当たり前だったし。」

 

「まぁな。でも、この状態で何十億年って過してたから疑問にも思わなかった。」

 

名前の事でそう言っていると、リムルがこう言って来る。

 

「俺が名前を付けようか?」

 

「は?」

 

その言葉に俺は唖然としてしまうが、リムルはお構い無しにこう話を続けてくる。

 

「だって、友達に名前が無いって不憫じゃん。」

 

「・・・。」

 

その言葉に俺は思わず無言になってしまう。

 

この世界に転生して自分以外に転生者がいるなんて思ってもみなかったからだ。

 

だからこそ、俺は・・・。

 

「分かった、リムルお前の厚意に甘えさせて貰おう。俺に"名前"をくれ。」

 

「あぁ!!」

 

そう受け入れた俺の言葉にそう言ってリムルは名前を考え始める。

 

すこししてリムルがこう言ってくる。

 

「ベーゼ、お前は今日からベーゼ=テンペストだ!!」

 

リムルの言葉を受け入れたその瞬間、俺の魂の奥底でなにかが変化した。

 

ベーゼ=テンペストの"名"が魂に刻まれたのだ。

 

身体の奥底から溢れ出しそうな魔素(エネルギー)を制御しながら、俺は黒い繭で体を包み込んだ。

 

「{告。名付けにより上位魔将(アークデーモン)から悪魔公(デーモンロード)に進化します。}」

 

そして、力の奔流が収まると黒い繭を解いてリムルの前に姿を現した。

 

すると、リムルは睡眠状態(スリープモード)に陥っていた。

 

そりゃそうか、上位存在に名付けをしたんだ。こうなるのは必然か・・・。

 

そう考えながら俺はリムルを抱えると、 行動できるくらいの魔素を流し込んだ。

 

すると、三分ほどでリムルは意識を覚醒させた。

 

「あれ、俺ベーゼに名付けた瞬間力が抜けて・・・。」

 

「当たり前だ、俺のような上位存在に名付けをしたんだ。お前の中の魔素をごっそり持って行ったんだよ。」

 

「そ、そうなのか。それならそうと、早く言ってくれよ!!」

 

「こういうのは身体で味わわなきゃ理解出来ないだろ。」

 

「それは確かにそうだけど・・・。」

 

そうやって話していたが、俺は立ち上がってこう言った。

 

「リムル、俺は少し行く所があるからもう行くぞ。」

 

「えっ、そうなのか?じゃあ、またな。」

 

「なに、少ししたら戻って来る。」

 

俺はそう言ってリムルと別れてある場所に向かった。

 

場所は北の大陸、魔王ギィ・クリムゾンの居城である白氷宮。



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白氷宮

北の大陸、そこは永久凍土の氷原に囲まれた氷雪吹きすさぶ極寒の大陸。

 

ほぼ全ての生物の生存を許さぬ大地の中心部に、その城は屹立している。

 

美しく幻想的なその宮殿の名は白氷宮と呼び、その主は魔王ギィ・クリムゾンである。

 

謁見の間の奥にある玉座に座っているギィの両隣には暗紅色のメイド服を身に纏う二体の悪魔公(デーモンロード)が控えている。

 

その二体の悪魔公(デーモンロード)は俺がかつて戦い勝利した原初の緑(ヴェール)原初の青(ブルー)だ。

 

ギィは原初の緑(ヴェール)にはミザリー、原初の青(ブルー)にはレインと名付けて配下に加えた。

 

この二人こそが魔王ギィ・クリムゾンの代弁者である。

 

「お前がここに来るのは珍しいな、原初の橙(オランジェ)。」

 

玉座から立ち上がり目の前にやって来てそう言って来るギィに対して俺は不機嫌になりながらこう言った。

 

「その呼び方は止めろ、俺はベーゼ=テンペストという"名"を得た。」

 

俺の言葉にギィは目を見開かせながら驚く。

 

「マジかよ、お前もついに名持ちになったんだな!!」

 

「あぁ、進化もしたしな。」

 

「へぇ、それでここに来た理由は何だ?」

 

ギィは笑みを深めながらそう聞いて来る。

 

「少し身体を動かしたくてな。」

 

俺がそう言った瞬間、ギィから鋭い蹴りが飛んでくるがその蹴りには蹴りで応じ、ぶつかり合うと凄まじい衝撃波が生まれた。

 

その衝撃波はこの白氷宮を揺らすほどだ。

 

「ほう、俺様の蹴りを止めるとはな・・・。」

 

そう言いながら更に笑みを深めるギィは俺に対してこう言って来る。

 

「進化したのはいいが、人間共の国でも滅ぼしたのか?」

 

そう聞いて来るギィに対して俺はこう言った。

 

「お前に教えることは何も無い。」

 

「なんだよ、つれねぇじゃねぇか。俺様とお前の仲だろ?」

 

そう言いながら俺の肩を組んでくるギィの腕を弾き、こう言った。

 

「ギィ、この事に関しては俺は話すつもりは無いぞ。」

 

そう言いながら睨むと、ギィはこう言って来る。

 

「へぇ、お前がそこまで言うなんて珍しいじゃねぇか。ますます興味が湧いた。茶でも飲んで行けよ。」

 

そうやってギィと共にこの白の最上階にある氷のテラスにへと入り、氷で作られた椅子に腰かける。

 

これまた氷のテーブルが出現し、レインがお茶を並べ始める。

 

ミザリーはテラスの入り口で無言で立っていた。

 

すると、ギィはこう言って来る。

 

「そういえば"暴風竜"ヴェルドラが消滅したみてぇだな。」

 

「そうみたいだな、ジュラの大森林で顕現したらヴェルドラの気配が完全に消え失せていた。」

 

「なら、消滅したってのは本当みてぇだな。」

 

そうやって話していると、ある女性がテラスに姿を現した。

 

「あら、その話あたしも詳しく聞きたいですわね。」

 

その女性はギィの許可を得ず自由に歩き喋る事の出来る存在。

 

白磁の様に真っ白い肌に冷たく光る妖しい深海色(ブルーダイアモンド)の瞳に真珠色(パールホワイト)の髪にひときわ目を引く薄紅色(ターファイト)の唇を持つこの美女は人間ではない。

 

魔王ギィ・クリムゾンの相棒にして最強の"竜種"が一体"白氷竜"ヴェルザード。

 

つまり、俺と同様にギィとは同格である。

 

「久しぶりだな、ヴェルザード。」

 

「えぇ、原初の橙(オランジェ)。本当に久しぶりね、ここに来たのは何百年前かしら?」

 

「その呼び方は止めろ、今の俺にはベーゼ=テンペストって名前がある。そういう話はしたくねぇな、それで地雷を踏み抜きたくねぇし。」

 

そう、女性に年齢の話は禁句だ。

 

「あら、それはごめんなさいベーゼ。それであの子が消滅したって話だけど・・・。」

 

「それならうまく説明出来ねぇぞ、俺だって全てを知ってるわけじゃねぇからな。」

 

俺はジュラの大森林で感じたこと(リムルの事は抜いて)をギィとヴェルザードに話した。

 

「そうか、それなら今頃ジュラの大森林では勢力争いの真っただ中だな。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

ギィの言葉に俺はそう言って紅茶を一口飲む。

 

・・・ん?

 

確か、ヴェルドラがジュラの大森林の守護神みたいな役割をしてたんだっけ?

 

「{告、暴風竜ヴェルドラの消失によりジュラの大森林は大鬼(オーガ)豚頭(オーク)蜥蜴人(リザードマン)による勢力争いの発生が大いに予測されます。そして、ゴブリンなどの弱い魔物は淘汰されるでしょう。}」

 

・・・マジか、これリムルの奴巻き込まれてないよな?

 

「{告、その可能性は無きにしも非ずです。}」

 

あっ、巻き込まれるかもしれないってことね。

 

ヤベッ、そう考えたら不安になって来た。

 

幾らあいつが転生者でも、スライムだから対処出来ない事が多いんじゃないのか?

 

「{告、個体名:リムル=テンペストに対するその心配は必要はありません。}」

 

心配無いってことは何かあるって事か、じゃあもうちょいゆっくりしていこうかな。

 

そこまで考え終えると、ギィがこう言って来る。

 

「オイ、ベーゼお前俺の話聞いてたか?」

 

「いや、全く。」

 

「ちゃんと聞いとけよ、ったく!お前、これからどうするつもりなんだ?」

 

「これから・・・、それはどういう意味だ?」

 

ギィの言葉に俺は疑問に思って問い返す。

 

「まぁ、簡単な話だ。お前、進化したのにまた精神世界に戻るつもりか?」

 

「しばらくは現世にいるつもりだ、それに何体かに名付けをして配下に加えるつもりだ。」

 

「そうか。なら、お前魔王になる気は無いか?」

 

そう言って来るギィは不敵な笑みを浮かべていた。



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拒否と激突

「やだよ、めんどくさい」

 

ギィの言葉に対して俺は即答で拒否をした。

 

「即答かよ!?」

 

「なんで俺が今の時点で魔王にならなきゃなんねぇんだよ。」

 

俺はそう言って用意されている菓子を口に入れる。

 

「大体、俺は自由が好きなんでね、魔王なんて役職には縛られたくないんだよ。」

 

「魔王つっても、殆ど仕事なんてないぞ?」

 

「それでも魔王になる気は無い、今はまだな。」

 

俺の言葉にヴェルザードが反応する。

 

「あら、まだという事はいずれはなるつもりなのかしら?」

 

「あぁ、今はまだ時期が早い。」

 

俺とヴェルザードの会話を聞いていたギィは不機嫌そうにこう言って来る。

 

「分かった分かった、お前はまだ魔王になる気は無いんだな。」

 

「あぁ、その代わり俺が魔王になる時は必ず来るとだけ言っておこう。」

 

俺はそう言って椅子から立ち上がる。

 

「オイ、もう帰っちまうのか?」

 

「お前こそ忘れたのか?俺は"身体を動かしたくて"ここに来たんだが?」

 

俺の言葉にギィはポカンとした表情を浮かべるが、すぐに笑みを浮かべる。

 

「へぇ、俺と遊ぼうってか?」

 

「最初からそう言ってるだろうが。」

 

その言葉を最後に俺とギィは白氷宮を飛び出し、巨大な怪鳥が巣食う空に立つ。

 

「んじゃあ、始めるか。」

 

「あぁ!!」

 

互いの言葉で抑え込んでいた妖気を放出すれば、怪鳥は魔素の影響を受けて更に巨大な怪魔鳥にへと変化する。

 

《氷魔の激昂》

 

《熱龍炎覇》

 

俺は口から滅悪の冷気を放ち、ギィも龍を象った炎を放てぶつかり合う。

 

その結果、大規模な水蒸気爆発が起こる事になった。

 

その爆発が起こる最中、俺はある魔法陣を書き上げる。

 

その魔法の名前は・・・。

 

煉獄砕波(アビスブレイク)

 

魔法陣から放たれる闇の波動が爆発をも飲み込み、広がっていく。

 

が、すぐさま煉獄砕波(アビスブレイク)と同等の魔力弾で相殺されてしまう。

 

「・・・マジかよ。」

 

俺は呆れながらそう言っていると、ギィがこう言って来る。

 

「オイ、ベーゼ何だよ今の魔法は!?中々に驚いたぜ!!」

 

そう言いながらも無傷のギィに対して俺はこう言った。

 

「そうかよ、まだやれるよなギィ?」

 

「当たり前だ、バーカ。」

 

その言葉を皮切りに俺とギィは再び激突する。

 

《火竜の鉄拳》

 

俺は炎の拳で、ギィは魔力を纏わせた拳で殴り合う。

 

炎の熱によって今まで吹き荒れていた吹雪が消え失せた。

 

「何だよ、その魔法も見た事がねぇな!!」

 

「当たり前だ、誰がタダで教えるかよ!!」

 

ぶつかり合う妖気(オーラ)は両者が激突する度に広がっていき、空では怪鳥が海では海魔獣が凶悪な進化を続けていく。

 

「オラッ!!」

 

「ウラッ!!」

 

何百回かの激突をした後、傷を負いながらもギィは立っていて俺は傷だらけで立っているだけでやっとな状態まで消耗をしている。

 

やっぱり"覚醒魔王"の力は凄まじいな。

 

そう考えていると、そこへヴェルザードが姿を現す。

 

「ギィにベーゼ、そこまでにして貰おうかしら。」

 

「何だよ、ヴェルザード。今から面白くなって来たってのによぉ。」

 

ギィが不満そうな顔をしながらそう言っていくと、ヴェルザードがこう言って来る。

 

「ギィ、いい加減にしないとここまで沈めるつもりなのかしら?」

 

「チッ、分かったよ。」

 

ギィはヴェルザードの言葉に頭を掻き毟りながらそう言った。

 

「オイ、ベーゼ生きてるか?」

 

「死んでたら俺は消滅してるっての。」

 

「確かにな。」

 

そう言いながらカラカラと笑うギィに俺は溜息を吐く。

 

俺達は白氷宮に戻ると、ヴェルザードが指をなぞる様に振るうと晴れていた外の景色は一瞬にして猛吹雪にへと変わった。

 

「やっぱりすげぇな、"竜種"は。」

 

「あら、褒めても何も出ないわよ。」

 

「あぁ、知っている。」

 

そうやって話しながらさっきまでいた氷のテラスに行き、再び茶会を始める。

 

今度は他愛も無い話が続いていくのだった。

 

 

 

 

リムルSIDE

 

俺の名前はリムル=テンペスト、三上悟という人間から異世界に転生してスライムになったんだ。

 

今、ゴブリンの村にいるんだけどそれは今は置いておこう。

 

そんな俺には友達が二人?いる。

 

最初の友達は"暴風竜"ヴェルドラ=テンペストだ。

 

このジュラの大森林の洞窟の中で三百年以上も勇者の「無限牢獄」に封印されていたんだけど、俺のスキル「捕食者(クラウモノ)」で捕食して胃袋の中で外と内側で解析中なんだ。

 

二番目の友達はベーゼ=テンペスト。

 

ヴェルドラの封印されていた洞窟を出てからしばらくして出会った悪魔族(デーモン)で、名前を付けたら睡眠状態(スリープモード)になっちゃうくらいの上位存在らしい。

 

俺はそんなベーゼのことで驚いた事があって、それは俺と同じ元人間の転生者だったんだ。

 

ホント、あの時は心底驚いたよ。

 

まさか、この異世界に俺と同じように死んで転生している人間がいるなんて思ってもみなかったよ。

 

それに同郷のよしみで友達になろうという提案にもすぐ賛成してくれたし、友好的に接してくれている。

 

俺はそう考えながらゴブリン村を移動していると、ゴブリン村の村長とその息子がやって来た。

 

「リムル様、ご命令通り村の周囲に柵を設置いたしました。」

 

「いたしました!!」

 

「分かった、それじゃあ今夜が決戦になるから見張りを交代しながら体を休めておくように。」

 

「はい、かしこまりました。」

 

俺の指示を受けた村長とその息子は他のゴブリンにその事を伝えるため、離れていった。

 

俺は空を見ながらこう呟いた。

 

「そういや、ベーゼの奴すぐ戻ってくるとか言ってたけど遅いな。何かあったのかな?」

 

「{まぁ、あいつ俺より上位存在らしいし大丈夫だろ。}」

 

そういう考えに至り、俺は村の中にへと戻っていくのだった。



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困惑

ギィと別れて俺はジュラの大森林へと戻ると、そこには何とも立派な村が出来ていた。

 

ジュラの大森林はヴェルドラの領域(ナワバリ)だったハズだが、こんなにも人間が住み着くというのも考えられない。

 

俺がその村に近づいていくと、そこにはホブゴブリンとゴブリナと牙狼族が共に行動していた。

 

その光景を見て俺は思わず首を傾げてしまう。

 

何故なら、ホブゴブリンと牙狼族では強さの桁が違いすぎるからだ。

 

格下のゴブリンと行動を共にしているという事はこの村は何者かが纏め上げているという事になってくる。

 

少なくとも、ホブゴブリンや牙狼族よりも格上の存在がいるという事になるな。

 

そうやって考え込んでいると、俺はある事を思い出した。

 

それはリムルの事だ。

 

もしかしたら、リムルもこの村の強者に従わされている可能性がないとは言いきれないがどうだろうか?

 

それなら、俺がそいつをぶっ殺せばいい話だ。

 

そんな事を考えていると、後ろから声をかけられた。

 

「あの、すみません。」

 

俺がその声を聞いて振り返ると、そこにいたのはバンダナを巻いたホブゴブリンと牙狼族だった。

 

「驚かしてしまって申し訳ない、この森であなたの様な生物を見た事が無いので声をかけさせてもらいました。」

 

「俺はこの森に棲んでいる友人に会いに来たのだが・・・。この辺りでスライムを見なかったか?」

 

俺がそう言うと、ホブゴブリンの男はこう言って来る。

 

「もしや、リムル様の事ですか。リムル様でしたら村の中でお休みになられていますよ。ご案内いたしましょうか?」

 

「あぁ、頼む。えっと、お前の名前は?」

 

「自分はリグルと申します、元々は兄の名前だったのですが、リムル様が兄の意思を継ぐようにと名前を授けてくださったのです!!」

 

リグルはそう言いながら目をキラキラとさせているのを見て、ある事で不安が頭に過りこう問いかける。

 

「あー、リグル君もしかしてこの村のホブゴブリンとゴブリナはもしかして全員名持ち(ネームド)なのか?」

 

「はい、牙狼族も群れのボスが名前を貰い、今は嵐狼族(テンペストウルフ)に進化しております。」

 

その真っ直ぐにそう言って来るリグルに俺は今すぐにでも頭を抱え込みたくなった。

 

だが、今はそれ所では無いと思い留まり、俺はこう言った。

 

「そうか、教えてくれてありがとう。俺の名前はベーゼ・テンペスト、リムルの親友だ。」

 

俺がそう名乗ると、リグルはこう言って来る。

 

「ベーゼ様ですね。それでは、リムル様の元へご案内いたします。」

 

「あぁ。」

 

俺はリグルの案内でリムルのいるテントにへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リムルのいるテントまでの間周囲に目を配ると、ホブゴブリンと嵐狼族以外に四人のドワーフまでいた。

 

その事を質問すると、リグルはこの前まで武装国家ドワルゴンに行って衣食住の衣と住の部分を任せられる人材をスカウトしてきたのだと教えてくれた。

 

この話を聞いて俺はこう思った、なにしてんの、お前?と。

 

次に、牙狼族の事を聞いてみた。

 

それに関してはヴェルドラが消失した事にも影響があったみたいだ。

 

牙狼族に滅ぼされそうになったこのゴブリン村の村長の息子であるリグルがリムルと出会い配下となり牙狼族と戦い、この村と同様に配下にしたという話だ。

 

そして、その話を聞きつけた他のゴブリン村の一部がこの村にやって来てリムルの配下に加わったという事らしい。

 

そして、名付けをしまくった影響で睡眠(スリープ)状態になったのだという。

 

なんというか、滅茶苦茶だな。俺はリムルに会ったらまずは説教だなと心に決めた。

 

そんなこんなで歩きながら話していると、リムルのいるテントまで辿り着いたのだが、そのテントの入り口には筋骨隆々のホブゴブリンが立っていた。

 

「お初にお目にかかります、私このゴブリン村の村長でしたリグルドと申します。」

 

ポージングをしながら自己紹介をしてくるリグルドに俺はこう言った。

 

「あぁ、俺の名前はベーゼ・テンペスト。リムルの親友だ、よろしくなリグルド。」

 

「はい!!リムル様はテントの中にいらっしゃいますのでどうぞ。」

 

リグルの案内で迷う事無くリムルのいるであろうテントまで辿り着いた俺は一度深呼吸をしてから中へと入るのだった。

 

そして、テントの中にいたのはリムルと四人の冒険者だった。



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