【三次創作】HITMAN『世界線を超えて』-Alternative Edition- (◆xXUOeG5OIg)
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HITMAN『提督業はもうおしまい』Alternative

 原作ゲーム「HITMAN」の開発元であるIOIとパブリッシャーのスクエア・エニックスとワーナーブラザーズ、そして、このハーメルンで「HITMAN」という素晴らしいゲーム/世界に出会わせていただいたふもふも早苗氏にありったけの感謝を込めて。
 今回のお話は『世界線を超えて』の記念すべき第一話であるHITMAN「提督業はもうおしまい」の別アプローチとなります。


『ごきげんよう、47。今回の目的地は日本の横須賀よ』

 

『今回のターゲットは横須賀第3鎮守府の最高権力者、アドミラル・ロクロウ閣下。世間一般には数々の戦いを経て最高司令官に上り詰めた、叩き上げの軍人と噂されているわ。しかし、その実態は金と暴力に裏打ちされた汚職に次ぐ汚職によって、他の司令官から手柄を横取りした結果なの。さらに言えば彼は艦娘に対して非常にセクハラが多く、すでに多くの艦娘が彼の魔の手にかかり“育児休暇”の名目で退役させられているわ。軍人どころか男の風上にも置けない男ね』

 

『勿論この事態を黙ってみているわけではないわ。けれど、なまじ優秀な提督となっている上に戦力としては大規模な配下を従えているために、大本営は迂闊に更迭するわけにもいかず、対処に困っていたわ』

 

『クライアントはその大本営ではなく、彼の麾下の艦娘だった一人。彼女もまた、育児休暇の名目で退役させられていたの。依頼は、このアドミラル・ロクロウの抹殺と、彼の悪行の数々が書かれたメモリーカードの奪取よ。彼を抹殺し、また悪行の数々を世間の目に晒させることによって名誉も失墜させること、それがクライアントの出した条件』

 

『深海棲艦という脅威に対抗するための艦娘に、あろうことか人間の側が、地位や権力で害を成しているなど到底許されるはずがない。これは、単なる暗殺ではなく、日本国の安全保障と彼女達の名誉・貞操をも守ることになる任務よ』

 

『準備は一任するわ』

 

 

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『横須賀へようこそ、47』

 

『アドミラル・ロクロウ率いる横須賀第三鎮守府は先日大規模な作戦に参戦し、今はその休養と艦艇の修復に追われている。その為、鎮守府内には多くの軍人や艦娘が入り乱れて仕事をしていると推測されるわ。潜り込むには最適な環境ね。ターゲットであるアドミラル・ロクロウも鎮守府のどこかで仕事をしているでしょう』

 

『サブターゲットであるメモリーについては、おそらく鎮守府の提督の執務室や記録室にあると推測されるわ。侵入する際には憲兵やセキュリティーに注意して頂戴』

 

『幸運を祈るわ』

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 現在私がいるのは横須賀第三鎮守府の近くの海浜公園だ。近くといっても、軍事施設という特性から数百メートルは離れており、鎮守府周辺は厳重に警備がなされ、侵入が出来そうな所には有刺鉄線付きのフェンスが張り巡らされ、監視カメラまで設置され、侵入者を拒む構えだ。さらに内側にはコンクリートと思われる障壁が作られており、警備員の詰め所と思われる建物まで見えている。よってここから侵入することは難しいと判断できた。

 ここから入り込むのも良いが、危険を冒す必要はないと判断した私はいったん鎮守府の近くに広がる街に向かい情報収集を行うことにした。

 

 横須賀の街はにぎわっている。この世界の日本国は全体としてやや暗い雰囲気があるのであるが、最前線基地があることで安心感があるのだろう。また、鎮守府の関係者を始め海軍の人間を相手にした商売がこの地域の経済を支えているのかもしれない。そしてやはり、ちらほらと特徴的な容姿の少女達、艦娘の姿も見受けられた。やはり自分達を守ってくれる戦乙女に対して、一般市民は信頼を寄せているらしく、ひっきりなしに声を掛けられている。

 その中で、何人もの艦娘がまとまって鎮守府の方から歩いてくるのを確認した私は、静かにその集団を追いかけることにした。軍属ではあるが、彼女らのメンタルや思考などは年相応の少女そのもの。賑やかにしゃべりながら歩く姿は人間とほとんど変わらない。

 

「んー、非番って感じね!鎮守府の外の空気はおいしいわ!」

「陽炎、あくまでも非番ですが、非常時には招集がかかることをお忘れなく」

「もー、ぬいぬいはすぐに現実を突きつけるー。せっかく鎮守府の外でのんびりできるんだから。もっとリラックスしないと!それに、鎮守府の中だといやらしい目で提督から見られるのって嫌なのよねー」

「そうやなぁ。司令はんの目ぇはちょっと気になるわー、やらしー目なんよ」

「黒潮もそう思うでしょ?だから外出って好きなのよ」

 

 陽炎、不知火、黒潮。いずれも気象や自然現象のそれで、たしか駆逐艦などに付けられる名称だ。間違いなく彼女らは第三鎮守府の艦娘ということになる。

 

「にしても、今日の司令はんはなんやそわそわしとったなぁ?何かあるん?」

「そういえば大淀さんが昨日から色々と準備をしていました。何でも赤レンガから重要なお客が来るのだとか」

「ふーん、ついでに普段の提督の態度についてビシッと言ってくれないかしらね?」

 

####情報を入手####

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『艦娘たちの話によると、大本営から来た軍人がこの横須賀の第三鎮守府を目指しているようね。詳細は不明だけれど、鎮守府の中に入り込むには利用できるかもしれないわ』

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 情報を得た私は彼女らの尾行をやめ、その軍人を探すことにする。

 軍港があるとはいえ、早々に軍人が市街地に繰り出していることはほとんどないだろう。そもそも今の時間帯は勤務あるいは訓練などがある筈であり、艦娘のような存在を除けば、目的の軍人を探すのはたやすいことだった。いくつかの店や露天商を覗き、観光客に紛れて軍人を探す。

 

「ふー……すこし、休憩をしていくかな」

 

 いた。少し草臥れた様子の軍人が、カフェの前に置かれた看板を覗きこみながらメニューを選んでいた。

 件の、第三鎮守府に向かう軍人なのかどうかは確かめなければならない。私は彼を追うようにしてカフェの店内へと入ると、コーヒーを注文して静かに観察を続けた。

 その軍人は厳重に鍵の施されたアタッシュケースを持っており、階級も階級章から見るにそれなりに高いものだった。だが、まだ足りない、もうひと押し彼が目的の軍人であるかどうかの確信が欲しい。しばらく観察をしているとやがて店主が席に腰かけた軍人の傍にいって話しかけた。

 

「やあ、軍人さん。今日は非番出来ているんです?」

「いや、今日も仕事だ。しかもとびっきり重要な仕事があってね」

「そりゃまた…」

「本当はあんまり言っちゃいけないんだが、まあ、この後第三鎮守府まで行かなくてはならなくてね。大本営の使い走りって奴なんだ。ちょっとした仕事なんだが、これがまた面倒でね」

「へぇー、あの嫌な噂の絶えない第三鎮守府に?軍人さんも大変だね」

「まあ、いくら黒い噂があっても仕事は仕事だ。きちんと手渡して赤レンガからの通達を伝えなきゃならん」

 

 

####アプローチを発見####

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『ターゲットであるアドミラル・ロクロウ閣下は、どうやら今日大本営からの書類を受け取るようね。しかも、重要なものだから艦娘や他の人間を介することなく、大本営の人員から直接手渡される機密の高いものらしいわ。汚職や横領などをしているアドミラルにとっては、自分が大本営からどう見られているのかは気になって仕方がないでしょう。それに、貴方と彼は外見が似ているし、これはチャンスかもね』

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 大本営から来た軍人は暫く時間をここで潰すようで、新聞を読みながらコーヒーを傾けている。申し訳ないことだが、彼には衣服を『譲って』もらう必要がありそうだ。その為には、彼を一人きりにする必要がある。

 私は席を立って会計を済ませると、店を出て店の裏側をめざす。案の定というべきか、人気の少ない裏路地にカフェの裏口があった。賑やかな表通りとは異なり、こちらは閑散とし、あまり人が通っていないようだ。それにエアコンの室外機や木箱などが置かれており、死角には事欠かない。そのおかげで気取られることなくロックピックで裏口を開け、内部に進入する。

 内部のバックヤードには休憩中と思われるカフェの店員がスマートフォンを眺めていた。都合よく一人きりであるし、人を隠せそうなロッカーもあった。

 

「ふんふーん…うぐっ!?」

 

 背後に回って一瞬で絞め落とし、気絶させてロッカーに身体をしまうと、いつものように服を借りる。これで問題なく店内を歩き回れるだろう。ついでにバックヤードの片隅にあった殺鼠剤を拝借してポケットに入れて準備を整える。

 店内の方をドアの隙間から観察すると、丁度良く店員が何か店長に指示されて店から出て行ったところであった。これで店長と私、そして軍人と数人の客以外は店内にいないことになる。店長には先程店に入った後に顔を見られているので、すぐには軍人のところには向かわずに私は流し台を磨くふりをしなが機を窺う。軍人の方はあいかわらずゆったりとコーヒーカップを傾けながら新聞を読みふけっている。だが、徐々にであるがその中身は減ってきている。うまくタイミングが合えば、彼に一服盛ることができるのだが。

 

カランコロン…

 

「いらっしゃいませ!3名様でいらっしゃいますね!」

 

 暫くして新たな客が店内に入ってきた。店長がそちらの方に向かったのを確認すると、私は軍人の方へと近寄る。

 

「ああ、丁度良かった。君、おかわりを頼めるかな?」

「はい、かしこまりました」

 

 おいてあった伝票を確認すると、カップを回収して調理スペースであらかじめ用意されていた容器からおかわりを注ぐ。その時に殺鼠剤をそっと混ぜておくことも忘れない。

 

「お待たせしました」

「ありがとう」

 

 これであとは軍人がトイレに駆け込むのを待つだけだ。この店ではトイレの巡視も兼ねて客と従業員が同じトイレを使うらしく、店の奥側に並んで設置されている。早速カップを傾けた軍人を見た私は、調理スペースに入ってきた店長の目を棚の合間に入って躱すと、先んじてトイレの中で待機する。

 

「うう…悪い豆でも混じっていたのか…?」

 

 暫くすると、件の軍人が腹を抱えてトイレに駆け込んできた。私には目もくれず個室に向かうと、胃の中身をぶちまけ始めた。扉を閉める余裕もないようだ。そのおかげで、難なく背後に回り、気絶させることができる。そしていつもの通り服を借りると、彼の体をトイレのロッカーの中に入れて隠した。

 

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『似合っているわ、47。さあ、これで第三鎮守府の内部に問題なく入ることができるわね』

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 私は手早く会計を済ませると、席に置かれていたアタッシュケースを手にして第三鎮守府の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第三鎮守府にはほんの十分程度でついた。格好のおかげもあって、正規の手段で入ることは非常に楽だった。正門から堂々と入り、目的を守衛室の人間に伝えればほぼそのまま内部へと通された。

 

「ご苦労様です」

 

 私の外見が似ていることもそうであるし、大本営、ひいては海軍軍令部という地位をかざせば向こうは反射的に態度を改め、緊張を強いられてこちらの細かい外見を気にする余裕をなくすためだ。内部に案内される途中で監視カメラに映ってしまったが、後で記録を隠滅すればいいだろう。書類を渡すついでに第三鎮守府の内部を視察するといえば、断られないはずだ。

 ともあれ、今はターゲットに近づくことが重要だ。案内役の艦娘---たしか、大淀といったか---の後を追いかけながら、執務室を目指す。

 提督の執務室は第三鎮守府の建物の上階にあった。憲兵や警備員もいたが、大淀が案内する大本営の人間ということもあり、問題なく通過できた。問題は、鎮守府の各所にいる彼等や艦娘達の目を如何にかいくぐって暗殺するかという点だけである。この書類を引き渡す際には人払いをすることになっているらしいので、そこで何とかするしかないだろう。

 やがて、執務室の前に到着する。大淀がドアをノックして入室の許可を求める。

 

「失礼します、提督。軍令部よりお客様がお見えです」

「わかった、通せ」

 

 室内には軍人が一人と、艦娘が二人いた。

 指揮を執るための部屋らしく書類を納めた棚が並び、日本を中心とした世界地図や深海棲艦の写真などが張られたホワイトボードなどが置かれている。そして、勲章や賞状などが目立つように飾られている執務室の机に、その男はいた。

 

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『彼がアドミラル・ロクロウ。欲望に塗れた経歴の提督よ。今日で終幕にしてあげましょう』

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「これはこれは、ようこそ横須賀第三鎮守府へ」

「どうも、ロクロウ閣下。先だっての大規模作戦ではご活躍だったそうで」

「いや何、軍人としての務めをしただけですよ。それに、部下たちも良くやってくれましたからね」

「それは結構なことで」

 

 こびへつらうような嫌な笑みを浮かべ、愛想よく振る舞っている。秘書艦と副指令と思われる艦娘が微妙な顔をしていることから、明らかに普段はかぶっていない猫を被っているようだ。事前の情報ではこの男の勤務態度などはあまりよろしくはないとあったのだが、やはり大本営の、軍令部の人間には頭があがらないらしい。如何に賄賂や恐喝などの犯罪に手を染めた汚職塗れの人間でも、手が届かない所というのは存在するということか。

 

「長話もいいですが、早速本題に入ろうかと思いますがよろしいでしょうか?」

「ええ、ええ。構いません。お互い忙しい身ですからね。長門、鹿島、しばらくはずせ。誰も入れるなよ?」

「はい、分かりました提督さん」

「了解した」

 

 艦娘二人が出ていき、これで室内は二人っきりになった。

 

####アプローチ完了####

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『第三鎮守府の中央部への侵入とターゲットとの面談の特等席の確保に成功。さあ、舞台は整ったわね』

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 応接用のソファーに腰かけ、持ってきた書類を広げる。

 軍といえども役所仕事なのか、格式ばった書類が大半を占めている。流石にそれに目を通すターゲットの表情は緊張し、引き締まっているように見える。汚職をしているとはいえ、それを隠し通せるだけの狡猾さもあるということだろうか。私は書類を順に見せながら、形式通り通達事項を伝え、確認作業を行っていく。私は真似をしているだけなのだが、相手が几帳面にも合わせて反応してくれるから楽なものだ。

 

「続きまして、こちらが先だっての作戦での第三鎮守府の働きについての評価となります」

「……承りましょう」

 

 そして、書類も終盤に差し掛かった。内容は先だっての大規模作戦での評価と今後の働きについての意見書だ。意見書という体をとってはいるが、もっと言えば鎮守府の運営そのものについての事細かな通達事項も含まれていると言ってもよい。ターゲットにとっては一番気になることであろう。

 

「すいません、すこしお時間を頂いでも?」

「ええ、構いません」

 

 緊張で汗をかいているのか、ターゲットはハンカチで顔をぬぐいつつ、慎重に書類の束をめくっていく。時折手が淹れてあるお茶に伸び、中身を煽っている。相当気がかりだというのは本当のようだ。

 

「は、はい。確かに」

「こちらの鎮守府は優れた武勲を立てておられるようです。大本営としても注目をしておりますので、今後もより一層の奮起を期待しております」

「身に余るお言葉です。日本国の安全のため、これからも身を粉にして働く所存です」

 

 一式の書類を引き渡し、私はタイミングを窺いながらも退出する準備を始める。緊張が徐々に緩んできたのか、ターゲットの顔色も心なしかよくなっていった。後生大事に引き渡した書類を手にしており、ちらちらと視線を送っている。

 

「それでは失礼」

「は、それでは武運長久をお祈り申し上げます」

 

 踵を返しながらちらりと後ろを見ればターゲットは窓際に移動しながら書類を読みふけっている。

 その窓は大きくあけられており、何かに集中してして寄り掛かったら「うっかり」堕ちてしまいそうだった。

 

「な、なに…う…!?!?」

 

 私は静かに向きを変え、音をたてないようにそっと忍び寄った。そして抵抗させることなく首の骨を一瞬で折り、提督の体を後ろから押す。鈍い音共に地面に叩きつけられたターゲットは頭がザクロのように砕け、ピクリとも動かず地面に寝転がっている。ついでに書類もばら撒かれてしまったが、これは提督が転落死したように見えるので問題ないだろう。

 

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『お見事、47。ターゲットの死亡を確認したわ。あとはメモリーの回収だけね』

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 まだ提督が転落死したことは広まっていないだろうが直に気が付くことだろう。出来れば発見される前にここを離れなくては。すぐに執務室内にある書類を納めたロッカーを調べることにする。どうやら大規模作戦の後ということもあって、頻繁に書類の出入りがあったのだろう、鍵などはかけられておらず、調べるのは容易だった。

 ほどなく、隅に隠されていた目的のメモリーを発見する。提督に手を付けられた艦娘の置き土産なのだろうか、一カ所にまとめられていたほか、何やら他の書類まで一緒に添付されている。どうやら、中身はここの提督の汚職の記録らしい。これが全てというわけではないようだが、紛れもない証拠となるだろう。依頼内容からしても、これを回収してしかるべきところにつきだすのが良いだろうと判断し、それらをまとめてアタッシュケースの中に入れ、鍵をかけておく。ついでに、執務室の隣の部屋に監視カメラの記録装置を発見したので証拠を隠滅しておく。

 

 

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『良い手際ね。あとはそこから脱出するだけよ』

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 目的は果たしたので、執務室を後にし、憲兵や艦娘達に見送られながら私は鎮守府内を歩いていく。

 階段を下りて鎮守府の一階に降りたあたりで、何やら大声で叫ぶのが聞こえた。おそらく、提督が発見されたのだろう。

 しかし、まだ混乱は全体には広がっていないらしい。その隙を利用させてもらい、素早く私は正門から脱出した。表の守衛たちも何が鎮守府内部で起こっているのかはまだ把握していないのか、すんなり私を鎮守府の外へと送り出してくれた。彼らが何が起こったかを把握した時には、私は既にいないだろう。

 途中で本物の軍人がいるカフェに寄り、制服を軍人へと返しておき、ついでに汚職の証拠品の入ったアタッシュケースを置いておく。これで依頼通り汚職の実態が暴露されることになるだろう。その後、店のバックヤードで愛用のスーツへと戻る。これでほとんどの証拠が無くなったも同然だ。

 再び表通りに出ると丁度良くタクシーが来ていたので、それに乗って街を後にした。もうこの街に用はない。

 

 

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---3日後

 

 

 

「ええ、大騒ぎですよ。ロクロウについては内々の始末も検討されていましたが、その前に死ぬとは…」

 

「情報が漏れていた可能性も考えられますが、我々ではない第三者が違う目的で消した可能性も」

 

「……はい、はい。第三鎮守府での汚職について大本営が大々的に証拠をつかんでしまったのも、何者かの意図を感じます」

 

「事故死など信じられません。不審な点がいくつかありますので」

 

「おかげで第三鎮守府の内部に手を突っ込んで緘口令を敷く羽目になりました。後始末もまだ時間がかかりそうです」

 

「引き続き調査を続けます。報告は逐次上げていきます」

 

「では失礼いたします、蔵本閣下……」

 

「ふーっ…」

 

「一体どこの誰が…どうして、どうやって…ともあれ、新任の提督を割り当てなくてはな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

評価:☆ ☆ ☆ ☆ ☆:サイレントアサシン

 

・重要事項の通達  +3000 『大本営の軍人に変装してターゲットと会う』

・栄光の凋落    +5000 『書類を読んでいる最中のターゲットを突き落として殺害する』

・本日の最高の一杯 +2000 『飲み物に毒を盛って気分を悪くさせる』

・立つ鳥の汚した跡 +2000 『汚職の証拠を発見し、大本営の軍人に暴露する』

 

 

 

 

 

 




 艦これは単冠湾泊地に属しております。
 HITMANの方はPS4の「HITMAN」から始めたプレイヤーではありますが、HITMANへの愛は熱いと自負しております。スーパープレーはできませんが、ミッションをサクサクこなせる程度の腕はなんとかあります。
 好評を頂けるようでしたら、本家様の別アプローチ、もしくは新しい世界(クロスオーバー先)へエージェント47がお仕事をしに行くかもしれません。
 最後にあらためてではありますが、三次創作の投稿を許可してくださったふもふも早苗氏に改めてお礼を申し上げます。


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HITMAN『湯煙にまぎれて』Alternative

 まず最初に、令和元年おめでとうございます。そして、平成にさよならを。皆さま、令和でもどうかよろしくお願いいたします。皆様のご多幸をお祈り申し上げます。
 ご本家様をはじめ、読者の方に期待していただけているようなので、続きを書いてみました。
 今回のお話はHITMAN「湯煙に紛れて」の別アプローチとなります。


『おはよう、47』

 

『今回の目的地は日本の道後温泉よ』

 

『最近は忙しかったから、温泉につかってゆっくりしてもらいたいところだけど、残念ながら今回は仕事で向かってもらうわ』

 

『ターゲットは加木屋源次郎。日本の裏社会の一角を取り仕切る山田組の経理担当で、いわゆる極道の一員の男よ。山田組が日本で行っている犯罪はいくつもあるけれど、その一つが日本国内での大麻を筆頭とした麻薬取引があるわ』

 

『アメリカの一部の州では合法化されたところも出てきているけど、薬物に対しては厳しい法を施行している日本ではまだ先のこと、いえ、アメリカのような自由で合法なものとなるのはあり得ないかもしれないわね。でも、禁じられているからこそ需要が大きいし、大きなビジネスになる。そんなわけだから、日本の裏社会においては大麻をはじめとした薬物というのは非常に高値で取引されているわ。山田組の大きな収入源の一つとも言えるわね』

 

『今回のクライアントは、その大麻の輸入先であるメキシコの“シナロイ・カルテル”のメンバーのロン・ジョリス。カルテルが持っていたアジア圏への密売ルートの一つを山田組が横取りしたらしいわ。その報復と警告を兼ねて、組の重要ポストにいる彼を暗殺してほしいとの依頼よ。彼ら自身で手を下せないこともないんでしょうけど、日本の警察が優秀なこともあって暗躍できないようね』

 

『今回ターゲットはこの道後温泉に単独で訪れているらしいわ。護衛もおらず、慰安旅行みたいだから仕事としては楽な部類かもしれないわね』

 

『準備は一任するわ』

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『道後温泉へようこそ』

 

『ここ道後は日本でも有名な温泉地の一つだから観光客は平日でもとても多い様で、まして休日ともなればとても混んでいるわ。どこのホテルも観光施設も人の目が多い分、騒ぎになった時にパニックが起きて不測の事態が起こりかねないわね。暗殺やアプローチを仕掛ける時は慎重にお願い』

 

『それと観光地ということもあって、警察も私服警官を配置しているようだし、何か起きればすぐさま警察が駆けつけてくることは間違いないでしょう。こと殺人において日本の警察の検挙率は90%近くにも及ぶから、これにも注意をお願いするわ』

 

『現地のインフォーマントによれば、ターゲットの加木屋源次郎は山の麓にあるベルツリーリゾート道後というホテルに滞在中と確認がとれているわ。ホテル内かその近辺の観光施設で接触できるはず』

 

『身辺警護の人員を連れていないようだけど、彼自身は何らかの武装を持っている可能性があるわ。念のためだけど注意して頂戴』

 

『良い狩りを、47』

 

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 駅近くのバス停にバスから降り立った私は、観光客に紛れて街を歩く。ブリーフィングでもあったように、有名な観光地なためか多くの観光客でにぎわい、そういった客向けの屋台やら商店が立ち並んでおり非常に活気にあふれていた。客寄せの声や観光客同士の喋り声、雑踏を歩く人々の足音など、とても賑やかだ。

 今回私の格好はそんな周囲に溶け込めるラフなカジュアルスーツを着ている。傍目には外国人観光客のように映ることだろう。実際、日本人だけでなくそれ以外の国の人間もちらほらみられているので、そう目立ちはしないだろう。まずはターゲットを確認することにして、私は「ベルツリーリゾート道後」に向かった。

 5分ほど歩くと「ベルツリーリゾート道後」という看板とホテルが見えてきた。ホテルの中に入ってターゲットを探すか、それとも周辺の観光施設を探すのか。どちらを選ぶのか歩きながら考えていた私は、視界に飛び込んできた人物を見て咄嗟に人ごみに紛れ、道の片隅に止まっていた移動販売車の影に身を潜めた。

 

「あ、あそこじゃない?」

「ベルツリーリゾート道後ってあるからあそこだね、蘭姉ちゃん」

 

 危ないところだった。以前米花町での任務で要注意人物として挙げられていた毛利小五郎と江戸川コナン、いや、高校生探偵の工藤新一が歩いていたのだ。幸運にもこちらが先に発見できたのでこちらの存在には気が付いていないようだ。どうやら目的地はターゲットのいると思われるベルツリーリゾート道後らしい。他に同伴者と思われる女性二人がいるということは、旅行で訪れているようだ。これは正直困ったことになった。ただでさえ暗殺に慎重を期す必要があるロケーションでの任務だというのに、ここにきて要注意人物とかちあうとは。私は予定を変更し、ひとまずホテルの周辺でターゲットを探すことにした。

 

「いらっしゃーい!名物、土産物、何でもそろっているよー!」

「温泉といえば温泉まんじゅうは如何?土産にも丁度いいよ!」

 

 温泉街にお決まりとされる光景、土産物や名物を売る店が並ぶ通りを歩きながら、私はターゲットを探す。勿論要注意人物の二人を警戒しながら、ではあったが。そしてあちらこちらに目を配りながら歩いていくと、やがて髭面の体躯の大きな男がいた。

 

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『いたわ、加木屋源次郎よ。厄介な状況になる前に手早く片付けてしまいましょう』

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 ターゲットは顎に手を当てながら、何やらポスターを前にして店の店員と話し込んでいた。

 

「じゃあ、ここにいけばいいんだな?」

「はい。と言っても開催までまだ時間がありますし、うちで時間を潰していかれては?」

「いや、他の連中に先越されちゃ堪らないからな、さっさと列に並んでおきたい。俺の好みの奴が売り切れてたら困る」

 

 ターゲットは店員に見送られると足早にどこかへと向かっていく。

 それを目で追いかけていると、店員が声をかけてきた。

 

「お客さんも気になりますか?道後スイーツフェスタ」

「ああ、教えてくれるか?」

「勿論ですよ。この道後温泉近辺のスイーツ店からパティシエが集まって、共同で今日限りの店を開くんです。ここでしか食べられないスイーツを沢山ご用意しておりますよ!」

 

 差し出された広告を見ると、ここから少し離れた場所が会場に指定されているようだった。

 

「ふむ、会場には少し距離があるようだが…」

「もしよろしければあっちにあるレンタル自転車を借りてはどうでしょうか?電動アシスト付きなので坂道でもすいすい登れますから」

「それは助かる」

「いえいえ。先程のお客様も電動自転車をレンタルするそうなので、丁度いいかと思ったので」

 

####アプローチを発見####

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『外見にあわず、加木屋源次郎は大の甘党みたいね。入念に確認をしている上に急いで向かうくらいだから相当かも。でもこれは好機ね。貴方は接客に自信があるかしら、47?うまくやれば、おいしいお菓子でもてなしてあげることができるわよ』

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 時計で開催されるまでの時間を見れば、およそ1時間余りといったところか。移動の時間を差し引きしても、それだけの時間があれば色々と準備をすることができるだろう。まずはスイーツフェスタの会場になっている店に行かなくてはならない。情報を教えてくれた店員に礼を言って、私はその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場につくと、そこでは開催に向けた準備で忙しく従業員が動き回っているのが見えた。ターゲットをはじめとした気の早い観光客達はすでに列をなして並んでおり、従業員が声を張り上げて誘導をしている。だが、生憎と私は客として入るつもりはない。このスイーツフェスタは近隣に開催が知らされているようで、下手に動かずにいると江戸川コナンに発見されてしまう可能性がある。出来れば姿をさらさなくて済む従業員に変装しなくてはならない。内部の様子を窺えば、かなりの修羅場となっているようだ。

 

「おい、椅子と食器が予定より足りていないぞ!どうなってる!」

「今運んでます!もう少し待ってください!」

「配膳はきちんとやれよ!」

「人手がちょっと足りないので応援お願いします!」

 

 侵入経路を探して店の横手に回ると、丁度良く空いている窓があった。そっと中を覗いてみればどうやら倉庫のようで、あまり人気が無い。私は周囲の状況を少し確認してから内部へと躍り込んだ。いくつもの棚や箱、ロッカーが整然と並べられ、雑多なものが段ボールに詰め込まれている。厨房や会場で使われる備品が保管されているようである。ということはうかうかしていると誰かがここに来るかもしれないので、素早く窓を閉め、入り口からは見えにくい位置に移動して周囲を改めて確認する。暫く周囲を探した私は予備品らしきエプロンと制服一式をロッカーの中に発見した。これを着れば内部でもよほど注意をされなければ紛れ込んでも問題なく行動できるはずだ。

 さて、問題はどのようにターゲットを始末するかだ。一服毒を盛るか、どこかにおびき出すか。出来ることならば事故に見せかけて暗殺した方が色々と面倒が少なくて済むだろう。店の中は人の目が多すぎるので、注意しなければ。ひとまず私は厨房に向かい、何かしらの毒物かそれに代わるものを探すことにした。

 

「急げ!時間が迫ってるぞ!」

「チョコレートはこっちに!おいこら、冷蔵庫はしっかり閉じておけよ!」

「通ります!」

「ああ、こいつも出しておいてくれ!場所は指示通りにな!」

 

 厨房はまさに修羅場真っ盛りといったところだ。トッピングなども終えて配膳を待つスイーツがトレーの上に整然と並べられ最後の仕上げを受けていたり、あるいは客に出すためのドリンクの準備に追われたり、補充用のスイーツが冷蔵庫の中に保存されたりとさまざまにパティシエ達や調理師たちが忙しく動き回っている。

 ひとまず殺鼠剤などを探したが、生憎と見当たらない。ここの衛生管理はきちんとしているのか、それとも別な場所で保存しているようだ。果物ナイフや包丁など殺傷に使えそうなものはいくつかあったが、これに頼るのは最後の手段にしたいところだ。とりあえず、手近なところに放置されていた果物ナイフを一つ拝借しエプロンのポケットの中へと忍ばせておく。

 

「ああ、接客係のか。すまんが倉庫の方からこのリストにあるもの持ってきてくれないか?地下の貯蔵庫と冷蔵庫の中にある筈だ」

 

 忙しげに働いていたパティシエの一人が私を見止めると、紙を差し出してきた。中身を見ると確かに食品が数種書きこまれている。

 

「わかりました。地下の貯蔵庫ですね」

 

 ここはひとまず接客係兼臨時の助手として仕事を果たしておくべきか。ひょっとすると何か地下に使えるものがあるかもしれないので合法的に降りるチャンスを得たと考えよう。地下1階はそのほとんどの空間が倉庫や食糧庫として使われているらしく、通路はほぼ一本道で狭かった。取り合えずリストにある通りの品を探して貯蔵庫に入った。貯蔵庫には長期保存が効く食品がかなり保管されており、またいくつもの調味料や香辛料などがまとめて保存されていた。

 

####情報を入手####

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『あら、いろいろな種類のスパイスまであるのね。47、ひょっとすると使えるものがあるかもしれない。スパイスは薬としても使われたらしいけど、使い方次第で毒にもなるらしいわ』

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 ダイアナからのアドバイスに従い、貼り付けられているラベルなどに着目して調査すると、香辛料の一つとしてナツメグがそれなりの量あることが分かった。調理で使うことを前提にしているのか、瓶詰されたものが複数用意されている。なるほど、これならば使えるだろう。ダイアナに礼を言いつつ、ナツメグの瓶をポケットに複数忍ばせ、パティシエに注文された品を持って私は厨房へと戻ることにした。

 

「お、すまんな!じゃあ、接客の方に戻っていいぞ。もうすぐ開店の時間だ!」

「わかりました」

 

 パティシエに送り出された私は、計量スプーンをさりげなく拝借してから店内へと向かう。

 店内は厨房に負けず劣らず、といったところだった。既に最終チェックに取り掛かっているのか、テーブルの磨き残しがないかを調べたり、テーブルや椅子の位置を調整したり、会計機の釣銭を用意したりとそれぞれが忙しげに働いていた。表から覗けている以上に忙しいようで、見慣れぬスタッフが一人紛れ込んでいることに誰も気に留めていない。私は部屋の隅に置かれていたモップを手に取ると掃除をするふりをしながら店内の配置を確認していく。

 今回のスイーツフェスタでは一定額を支払って食べ放題ができるプランと好みのスイーツを適宜注文して食べることができるプランの二つが用意されているようだ。出来れば甘党であるターゲットには前者のプランを選んでもらいたいものだ。そうでなければ、必要な量を盛ることが出来ないかもしれない。予防策としてターゲットの電動自転車に細工することも考えたが、流石に人目が多く、細工をすればそれを咎められかねない。ともあれ、あとはターゲットがここに来るのを待つだけだ。

 

「それでは、道後スイーツフェスタ、開催です!どうぞ!」

 

 開催を告げる声と共にドアが開かれ、最初の客が入店して来る。やはり女性客が多いが、ちらほらと男性も見られる。ターゲットはと見ればまだ店の外で並んでいるようだ。焦る必要はないので、他の従業員に混じって私も働くことにした。

 そして、十人近くの客の相手を済ませた時、ついにターゲットが入店してきた。丁度良く私がターゲットの応対に出ることが出来た。

 

「いらっしゃいませ、お客様。おひとり様でよろしかったでしょうか?」

「ああ、俺一人だ。楽しみにしていたんでな、今日はたっぷり食べていくぜ」

「かしこまりました。どうぞこちらへ」

 

 私はターゲットをあいている席へと案内し、用意されていたメニュー表を手渡した。ついでに水と布巾もテーブルの上に並べて応対の準備をする。

 

 

####アプローチ完了####

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『さあ、ターゲットが来たわ。スイーツ・パーティーを始めましょう。きっと忘れられないものになるわね』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「お客さま、ご注文はお決まりでしょうか?」

「ああ、悪いね。バイキングコースを頼む」

「バイキングコースですね、分かりました。では何から召し上がりますか?」

「じゃあ……こいつとこいつとこいつ、あとこれも一緒に。ドリンクはこれで頼む」

「かしこまりました」

 

 甘党というのは本当なようで、最初から大量に注文してくれた。オーダーを受けた私はそれに合わせてスイーツをとりわけ、皿に盛りつけていく。その時に、地下で調達したナツメグを少しずつ混ぜていく。あまり派手に盛ることはできないが、どのスイーツにも目立たないように、しかししっかりとふりかけ、あるいは混ぜていく。

 

「お待たせしました、ご注文の品になります」

「おお、待ってたぜ」

 

 早速食べ始めるターゲットだが、密かに盛られたナツメグには気が付いていないようだった。まあ、スパイスはほんの香りづけ程度に使われるので他の味や香りに紛れてしまって分からなくなるのも当然だ。よほど注意をしなければわかりはしないだろう。

 私は他の客からのオーダーにも応じながらも、ターゲットのスイーツにナツメグを盛り続ける。ほんの微量だが着実にターゲットは摂取を続けている。いい具合だ。この調子ならば目標の量にたどり着くのはそう遠くないはず。

 何度目かのオーダーを受けてルーチンのように盛ったスイーツを運んでいくと、なにやらターゲットがカメラマンのような恰好をした人間と言い争っているのが見えた。

 

「知らんな、さっさと失せろ!お前に構っている時間はないんだ!」

「いえいえ、そんなことおっしゃらずに。あまり大きな声を出さないでくださいよ。ほらみんな見てますよ?」

「クソ……てめえ!」

「あなたがお泊りのホテルでこの後お会いしましょう。そうですねぇ…午後3時にホテルの屋上の露天風呂に来てくださいよ。裸同士なら下手なこと出来ないから安心でしょ?」

「……わかったよ。じゃ、とっとと消えな」

「物分かりが良くて助かりますよ、ふふふ」

 

 どうやらターゲットに用事があったのは私だけではないようだ。というか、あのカメラマン風の男はわざわざターゲットを探してここまで来たというのか。なにやら余裕の表情で男は周囲の目を気にすることなく店から出て行った。だが、余計な詮索をしている暇はなかった。苛立ちを隠せない声のターゲットに呼ばれて、注文の品を配膳するしかなかった。まあ、あの男に関しては放置でいいだろう。

 

「御馳走さん、うまかったぜ」

 

 ターゲットは苛立ってはいたが、スイーツをやけ食いのように大量に食べることで苛立ちを発散したようだった。そのおかげでたっぷりと混ぜて提供することが出来たのでよしとすべきか。そのままターゲットは席を立ち、会計を済ませて出ていく。

 私も彼が使った食器類をまとめて片づける。本来使われる以上のナツメグが付着しているこれは万が一のことを考えると他殺の根拠となるかもしれない。だから、すぐに洗ってもらわなくては。回収した食器が流し台に運ばれたのを確認すると、私は店の倉庫に戻り元の服装に戻ると窓から外に出てターゲットの様子を見守ることにする。

 あとは結果を待つだけだ。これでもし狙ったタイミングで効果が出なければ、別な手段でターゲットを暗殺するしかない。

 まあ、不確実ではあるがあれだけナツメグを盛った菓子を食べたならば確実に中毒症状が出るはずだ。たかがスパイスの一種と思われがちであるが、ナツメグを一度に過剰に摂取すると目眩・幻覚・多幸感・興奮といった精神的な反応に加えてショック症状まで引き起こすというある種の劇物だ。それだけの量を一度に取るのは非常に難しいのだが。ともあれ、すぐには効果を示さないが、時間が経てばやがて症状として現れる。そんな状態で坂道もある道を電動自転車でスピードをだして走行したらどうなるのか。

 

 

「ううぅ、なんだってんだ……?目眩が……体、うごか……」

 

 

 

ガシャーン!

 

 

 

 派手な音共に、ターゲットの乗った電動自転車がカーブを曲がり切れずに電柱へとターゲットの体もろとも激突し、そのまま勢いのままに吹っ飛ばされる。ターゲットは受け身をとることもできないままに坂道に叩きつけられ、転がっていき、坂道の終わりでようやく止まった。手足があらぬ方向に折れ曲がり、首も明らかに異常な角度に曲がっている。坂道を血で彩ったターゲットは倒れたままピクリとも動かない。一瞬の沈黙の後に、大きな悲鳴が上がった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ターゲットの死亡を確認。欲望に任せて暴食に走った結果ね。さあ、そこから脱出して』

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「皆さん、落ち着いて!騒がずに!大丈夫です!おい、本部に連絡入れろ!」

「はい!」

 

 私服警官らしき人物が応援を呼ぶのをしり目に、私はパニックで逃げ出す観光客に紛れて現場を離れた。人が多くパニックであることがこれほど助かったことはないだろう。私はそのまま道後温泉を後にした。

 

 

 

 

 

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---1時間後

 

 

 

 

 蘭と園子に誘われて訪れた道後スイーツフェスタを訪れた俺達は、だいぶ並んでやっと入店することができた。だが、生憎とスイーツを楽しむことはできなかった。事故が近くで起きたのだ。この店でスイーツを食べて、ホテルに帰るために自転車を運転していた男が事故を起こしてしまったのだ。

 

(あれは本当に事故なのか…?ハンドル操作を誤っただけ?レンタル自転車に細工がしてあったとか、アルコールを知らずに摂取していたとか、そういう原因があってもいいはずだ)

 

 すぐに警察が駆け付け、小五郎のおっちゃんも加わって捜査が始められたが、結論としてはハンドル操作を誤ったことによる自転車事故であるとされた。事故に遭ったのが暴力団の山田組の構成員ということで殺人の可能性も考えられてはいたのだが、乗っていた自転車に妙な細工の形跡は見られず、提供されていたスイーツに洋酒は少しばかり使われていたが酔っ払うほどの量が含まれてはいなかったという。第一、そんなにアルコールが含まれていれば他の客も酔っ払うし、提供する側もすぐに気がついたはずだ。事実食べた客は他にもいたが特段酔った様子は見られていないし、残ったスイーツが即座に調べられたが毒物などは特に含まれてはいなかった。

 だが、俺は納得できていなかった。確たる証拠は何一つないのだが、おかしいと勘のような何かが訴えている。

 

(なんか引っかかる……遅効性の毒?それとも、なにかアレルギーでも引き起こしたのか…いや、その程度なら事故を起こす確率は低い。被害者だけをハンドル操作が出来なくなるくらい具合を悪くさせる方法があったのか?被害者のスイーツにだけ何かを盛った?くそ、もう食器なんかは下げられて洗浄されて見分けがつかなくなっちまってる!)

 

 唯一の証拠となりそうな被害者が使っていた食器は洗われてしまっており、他の客が使っていた食器と混じってもう見分けがつかなくなっている。あとは司法解剖で何かが発見されるのを期待するしかないが、殆どただの事故として結論がついてる状態なので行われるかどうかさえ怪しいところだ。

 

(唯一の容疑者は被害者と言い争っていたあの記者くらいだけど、別に殺意まで抱いてはいないようだし…くそっ)

 

 一応任意同行を求められたが、あの様子だと事故を起こしたことに本気で戸惑っていたようだった。曰く、取材のために止まっているホテルで会う約束を取り付けたらしく、それはほかの客の証言が保証している。邪険に対応されたがちゃんと約束は取り付けられたわけで、それをふいにするかのような行動はつじつまが合わず、殺す理由にはならないだろう。もし被害者が記者で容疑者が暴力団の男だったら話は別だが、そうではない。

 他殺を示す証拠は何一つなく、事故だという証拠ばかりが詰み上がっていく。これが本当に真実なのか?ホームズが言っていた通り、あらゆる可能性を排除して残ったものが如何に奇妙でもそれが真実、つまり単なる事故だというのか?

 釈然としない思いを抱えたまま、俺は蘭たちと一緒に現場を立ち去ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

評価:☆ ☆ ☆ ☆ ☆:サイレントアサシン

 

・見事な接客     +1000 『接客係に変装して10人以上の客のオーダーに応える』

・刺激的なスパイス  +3000 『ターゲットのスイーツにナツメグを過剰に入れて食べさせる』

・ハンドルを手放すな +5000 『自転車で移動中のターゲットを事故死させる』

・種も仕掛けもなし  +2000 『江戸川コナンに発見されず、且つ他殺の証拠をつかませない』

 

 




 今回のクロスオーバー先は名探偵コナンでした。コナン君の目の前で完全犯罪をさせてみました。最も彼自身は他殺ではないかと考えていますけどね。

 今回暗殺に使ったナツメグですが過剰摂取しますと本当に中毒が起こります。成人でも5g~10g(ナツメグ1,2個分)を一度に摂取すれば症状が現れてしまうとか。ただ、作中でも言及していますが5gを一度に取るのは案外大変ですし、よほどのことが無ければ、あるいは47が行ったように意図的に混ぜられていなければ一回の食事で中毒になったりすることはありません。あくまでも過剰に摂取した場合は危険があるということです。成人よりも体が小さい子供が過剰に摂取して中毒死したというケースもあるそうで、また妊婦が過剰に摂取した場合には胎児への影響が出ることもあるそうです。しかも怖いことに中毒になっても血液検査などでは異常が見られないという特徴もあります。
 ここまで聞くと危険なスパイスと受け取られかねませんが、ペッパー(胡椒)、クローブ、シナモンとともに世界4大スパイスのひとつに数えられる有名なスパイスで、カレーに使われたり、肉料理や魚料理の臭みを消すために使われることもあります。また作中にも登場したようにスイーツに使われることもあるのだとか。他にも洋の東西を問わず薬として利用されているようです。

 あらかじめ言っておきますが、この小説は殺人やドラッグとしての乱用などの法を犯す行為を推奨するものではありません。購入すればできるからと言って下手に真似をしますととんでもない事態を引き起こしてしまうかもしれません。もし面白半分で真似て事故などが起こったとしても、私は一切の責任を負いません。

 次回はまた筆がのりましたら投稿しようと思います。


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HITMAN『理想郷の守護者』Alternative

 今回のお話はHITMAN「理想郷の守護者」の別アプローチとなります。


『こんばんは、47』

 

『今回の目的地は日本のとある場所にある「幻想郷」。通常の手段では中に入ることはできない、まさに秘境よ』

 

『ここは日本や世界の妖怪・怪物・怪人・神様などが住みづらくなった外の世界から避難してきた避難所のような場所。大妖怪ヤクモ・ユカリという人物が複数の賢者やハクレイノ・ミコと共同で作り出した世界なの』

 

『でも最近、彼らが言うには「幻想入り」と呼ばれる事象が多発してるみたい。私達の世界とこの幻想郷は、博麗大結界というもので物理的にも遮られていて基本的には行き来できないわ。それどころか外の世界の住人は認識することはもちろん、探しだして発見することさえできないの。でも最近ある人物がその理を突破したというわけ』

 

『その人物こそ、今回のターゲットであるマリー・パルシュ。ルーマニアの呪術研究家よ。彼女は幻想郷の存在を危険視していて、妖怪や怪物、その他UMAの類はこちらの、現実の世界にあるべきと考えてる原理主義者よ。そのため幻想郷を崩壊させるために、こちら側の世界から大量に人を流入させようと画策してるみたい。今は準備のため自分自身が幻想入りしてるそうよ』

 

『彼女は研究者にしては非常に狡猾でヤクモ・ユカリやその他の幻想郷の住人たちが自分を消そうとすると、博麗大結界に大穴が空くように呪術を仕込んでるみたい。ある種の報復装置のようなものね。ただその呪術には穴があって、幻想郷の住人以外は対象外となっているとのことよ』

 

『今回の依頼者はその管理者、ヤクモ・ユカリ。幻想郷の人間が手を出せないのであれば外部の人間に、ということのようね。私のところに直接依頼と依頼料を持ってきたのは驚いたけれど、ICAは常に中立。依頼があればこなすだけ』

 

『それに彼女曰く、こちらの世界において忘れ去られ、幻想入りした存在が大々的に外の世界に戻れば大混乱を引き起こしかねないということらしいわ。それこそ、短期間で世界のバランスが崩れかねないほどにね』

 

『47、この任務は単なる一地域の存亡だけではない、私たちの暮らす世界全てがかかっているの。確実に成功させて頂戴』

 

『準備は一任するわ』

 

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『幻想郷へようこそ、47』

 

『ここは非科学的な存在とされ、人々から忘れ去られてしまった妖怪、神、精霊、妖精、UMAなどが世界中から集まって生き延びているという、世界でもまれに見る秘境の中の秘境。幻想郷独自のルールや風習が根付く、我々の生きている世界とは似ているようで違う世界』

 

『現地は文明のレベルが一定ではなく、こちらの世界の常識が簡単には通用しない場所。人間と妖怪などが共存しているとは言っているけれど、それは薄氷の上の平和。調停役であるハクレイノ・ミコやヤクモ・ユカリをはじめとした賢者たちが常に目を光らせ、日夜動くことで維持されている世界なの』

 

『そんなわけだから、人が暮らしている地域から一歩外に出るというのは危険が伴うわ。ターゲットの事だけでなく、自分の身を守ることも忘れないでね』

 

『ターゲットのマリー・パルシュの所在については明らかになっていないわ。ただ、クライアントのヤクモ・ユカリからの情報では人間が多く暮らしている人里かその周辺、あるいは魔法の森と呼ばれる森などで目撃情報があるから、まずはそこから探すといいでしょうね』

 

『ターゲットの能力については未知数だわ。暗殺しようとしていることが露見すれば、貴方も呪術の対象にされてしまい、ターゲットに手が出せなくなるかもしれない。慎重にお願いね』

 

『幸運を祈るわ』

 

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 ICA施設の指定された場所について暫く待つと、気が付けば私は和風の家屋の、幻想郷に用意されたICAのセーフハウスの中にいた。一瞬気味の悪い空間をくぐり抜けたのだが、あれがヤクモ・ユカリの言う「スキマ」というものなのだろう。まるで魔法のように一瞬で幻想郷とやらの内側に入ったらしい。

 私は改めて今回の任務のために用意された道具を確認する。暗殺者であることを隠して隠密行動をする都合上、服装はスーツ姿ではなく幻想郷でよく見られる和服にしてある。この和服はパッと見には普通の和服だが、内ポケットが多くあり拳銃などを目立たずに携行できる。また、防弾・防刃繊維も縫い込まれており見た目以上に頑丈で頼れるものらしい。

 幻想郷に持ち込んだ装備はいつもの通りシルバーボーラー、そしてワイヤーと目立ちにくい小型リモコン爆弾だ。実際のところ、どのようなシチュエーションでターゲットと接触するのか未知数なため、いくつかのパターンを想定して装備を用意した。呪術とやらのことを考えると、ターゲットを抵抗させることなく一瞬で死に至らしめる暗殺方法がベストと判断していずれの装備も選んでいる。

 外に出られるように服装を確認し終えた私は、まずターゲットに関する情報を集めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里は幻想郷でも人が多く暮らす場所とのことだが、やはりニューヨークやパリ、ロンドンなどとは比較にならないほど小さい。だが、その小ささゆえに情報収集はしやすく、ターゲットを探すには好都合な場所だった。情報を集めるには人が集まるところ、ということで人里の中心部を目指して歩く。事前の資料によれば幻想郷の文明レベルは現代からおよそ100年ほど遡った段階で殆ど停滞しているとのことだ。どこか日本の京都などを思わせる建築物が多いのも、その影響が大きいのだろう。建物は高くても3階建てで多くが平屋建て。それに木造建築ばかりで、ガラス窓も少ない。

 だが、どことなく現代の雰囲気がするのはやはり幻想入りによって外の世界からもたらされたモノややってきた人による影響があるのだろう。

 

「最近人が増えた気がするよなぁ」

「ああ。人もそうだけど、外から道具が流れ着いているのが増えているらしいぞ」

 

 私は通りがかった露天商の近くで立ち話をしている二人組の会話に耳を澄ませた。

 

「特にあの貸本屋とかかなり品ぞろえが外のものになっているって」

「小鈴ちゃんの店かぁ?あそこ、やばい本が置いてあるって話だぜ?」

「そうなのか?」

「前に霊夢ちゃんたちが出入りしてたじゃないか。絶対何かあるって」

「そんなところに好き好んで入る奴もいるわけないだろう」

「いーや、俺は見たぜ。この前なんか頭巾をかぶった怪しげな格好の奴が入ってったんだよ。しかも一回や二回じゃない、結構頻繁に入っているみたいだぜ」

 

####情報を入手####

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『どうやら本を貸し出している貸本屋の鈴奈庵には最近怪しげな人間が出入りしているようね。この店はハクレイノ・ミコも目を付けている「妖魔本」が集まる場所らしいから、ひょっとするとターゲットも鈴奈庵を訪れるかもしれないわ。探してみたらどう?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 なるほど、幻想郷には現実の世界から忘れられたものが入って来る。魔術やそういった非科学的なものが流れてきていてもおかしくはなく、書籍は自然とそういった書店に流れ着くのだろう。さっそく私はターゲットを求めて移動を開始した。

 鈴奈庵と書かれた貸本屋はブリーフィングで確認した通りの場所にあった。

 ふと探るような視線に気が付いてそちらを見れば、本を抱えた幼い子供がこちらをじっと観察している。なぜだろうか、あの子供からはどこか普通の人間とは違う何かを感じる。こちらが見返すと、慌てたように去って行ったので、私は気を取り直して店の暖簾をくぐる。

 

「おっと、邪魔した様じゃな」

 

 暖簾をくぐった直後に、今度は眼鏡をかけた茶髪の女性と鉢合わせになった。キセルを片手に、黄緑色の紋付羽織で、下に黒の長着を着ている妙齢の女性だ。だが、外見以上に年を食ったような、そんな印象を覚える。

 

「おぬし……ふむ、ひょっとしなくても外来人か?」

「そうなるな。外からここに来たばかりだ」

「なるほどのぉ……」

 

 じろじろとこちらを観察して来るが、なんなのか。観察の目つきは案外鋭い。隠し持っているシルバーボーラーやリモコン爆弾に気が付かれないか少し気になったが、努めて表情を変えない。

 

「いや、すまんの。少し気になっての」

「そうか」

 

 やがて、女性は裾をひるがえして店を出て行った。先程の子供と言い、幻想郷においては外来人というのは目立つのだろうか?何やら得体のしれない感覚を覚えながらも、私は先客の女性を避けて店内に入る。

 ひとまずターゲットが来るのを待つことにして、手近な本を手に取って品定めをするふりをする。アガサ・クリスQ…?アガサ・クリスティーのようなペンネームだ。狙っているのだろうか、それとも偶然なのだろうか。『全て妖怪の仕業なのか?』と表題のついた本は、どうやら推理小説らしい。ペンネームとジャンルから推測すると、幻想郷の外のことをかなり知っている人間が書いたのだろうか。それに、読まれた回数が多いためか中古品のような外見の本が多い中でもこれと同じ作家の書いた本は妙に新しい。

 

「何かお探しですか?」

「ああ、すまない。この本は他の本と少し違うと思ってな」

「はい、ウチで製本しているベストセラーですからね!外から入ってきた本もありますけど、今一番売れているのは阿…じゃなくってQの書いた推理小説なんですよ。おすすめです」

「なるほど、では頂こうか」

「はい、ありがとうございます!」

 

 ひとまず「全て妖怪の仕業なのか」を購入すると、私は店内を見て回りながらターゲットを待つ。ターゲットらしき人物はどうやら頻繁にここを訪れているようなので、ここで網を張っていれば確実にかかる筈。それでもだめならば他の場所を当たるしかあるまい。

 本棚を眺め、時折読むふりをしながら待つこと20分余り、何人かの客が出入りしていったが、やがてフードを被った風体がどちらかといえば和風の幻想郷らしからぬ人物が入ってきた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『いたわね、あれがマリー・パルシュ。この地に混乱をもたらそうとしている呪術研究家よ』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 私は怪しまれないように本棚を挟んで会話を聞くことにした。風体としては幻想郷の人間ではあるが、相手が私をこの幻想郷の住人ではないということを見破ってくるかもしれない。慎重になって当然であった。

 

「あ、いらっしゃいませ!」

「お邪魔するわよ。やっぱりここの品ぞろえはいいわ。外だとなかなか手に入らない本が多く手に入るんだもの」

「ごひいきにしていただいてありがとうございます!そうそう、以前仰っていた本なんですが、探してみたら奥の方にあったんですよ」

「あら本当に?嬉しいわぁ、妖魔本はレアものだからほんと助かるわ」

「ちょっと霊夢さんには内緒ですけどね…」

「ますます気になるわ。見せて頂戴」

 

####アプローチを発見####

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『なるほど、ターゲットは幻想郷に行きついた妖魔本というものに興味を抱いているようね。幻想郷に害をなそうとしている人間がその幻想郷の特性にあやかるとは皮肉だけれど。ターゲットが興味を持つ物があるなら、それを利用できるかもしれないわね』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 私はそっとリモコン爆弾を取り出して手の中に忍ばせる。今回持ち込んでいるのは殺傷範囲はやや狭いが小型で薄く目立たないタイプだ。それこそ、袋の中で積み重なっている本の間に挟まっても、ほとんど目立たないようなもの。

 私は怪しまれないように、視界を意識しながらターゲット同じ本棚の列に進む。ターゲットを眺めながらも徐々に距離を詰めていく。残り数メートル。話に夢中になっているターゲットと店主らしき少女はこちらに注意をあまり払ってはいない。横目にターゲットの積み上げた本を観察すると、何冊かの本は草臥れており、あるいは表装が膨れ上がっているものが見える。これならば仕込むことができる。

 

「あら、これは前はなかったのものね」

「はい。少し前に入荷したものです。多分外の世界のものだと思いますよ」

「……あらあら、相当古いものみたいね。もう100年近くも前の書籍なんてレアだわ」

「似たようなのなら、ええっと…こっちに」

 

 今だ。本棚に目が向いた隙に、そっとリモコン爆弾を滑り込ませる。すこし嵩が増してしまったが、よく見なければわからない誤差の範囲だろう。

 

 

####アプローチ完了####

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『うまく仕込むことに成功したわね。あとは、タイミングを見て決めてしまいましょう』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「それじゃあ、また来るわね」

「ええ、ありがとうございましたー!」

 

 買い物を終えたのか、ターゲットは手にした袋に本を詰めて鈴奈庵を出て行った。私も鈴奈庵を出て尾行することにした。

 時刻は午後を少し回ったあたり。人里は人が多い時間帯であるので、人ごみに紛れながらも追跡をするのは楽なものであった。ターゲットの行き先は不明だが、鈴奈庵で何らかの妖魔本か何かを仕入れたということはそれを持って帰る可能性がある。拠点かあるいはそういったものを保管する場所か。いずれにしても、丁度良い場所に向かってくれるとありがたいところだ。

 ターゲットは人里の中心部を離れ、魔法の森と呼ばれる森の方へと向かっていく。ここは人体に害のある菌糸類が多く、呼吸するだけで体調を崩すような危険な場所であるとされている。だが、ターゲットは何らかの備えがあるのか、足を止めることなく人里と森を結ぶ道を歩いていく。流石に追跡しているとばれやすくなったので、私は道のわきにある木や背の高い草に隠れながら追いかけ続けた。

 20分ほど歩いたころだろうか。森の入り口が見えてきたところでターゲットはわき道にそれていく。どうやら森の中に用事があるというわけではなく、森の近くに何らかの拠点があるようだ。

 

「?」

 

 しかし、ここで奇妙な事態が起こった。ターゲットを追跡しようと歩き続けているのだが、どうにも景色が一向に変わらない。まっすぐ歩いている筈であるのに、気が付けば同じ場所に出てきているようだ。

 

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『47、どうやらそこには結界が張られていて、ターゲット以外は近寄れないか、あるいは前に進めないようにしてあるようね。無理に前に進むと勘づかれるかもしれないわ』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 なるほど、目には見えないが、この幻想郷を囲う結界とやらと同じ原理の障壁があるということなのか。

 だが、逆に言えばターゲットがこの先にいるということの確証に繋がる。覗かれては困ることをやっていると、周囲に対して喧伝しているようなものだ。それに、結界といっても物理的に遮断しているわけではないようで、実際のところ前方からは風が流れてきている。つまり、通れないのは人間や妖怪たちだけということだ。どれほどターゲットとの距離があるかは不明だが、試してみる価値はある。そして私は取り出したリモコンのスイッチを押し込んだ。

 

 

ドガーン!ドーン!

 

 

 直後に爆発音。仕掛けた爆弾は一つだけの筈だったが、どうやら何かに連鎖的に爆発が起こっているようだ。

 それにしても、今回は幸運だったとしか言えない。これが電波なども遮断する様なものだったらどうにもならないだろう。例えば、物理的な壁であったならば電波が遮断された可能性がある。だが、呪術研究家であるターゲットは幻想郷の人間を想定するあまり、科学による攻撃への備えを疎かにしてしまったようだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『生体反応の消失を確認、ターゲットは死亡したわ。さあ、騒ぎになる前にそこから脱出して』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 結界も消滅したようなので、出来れば死体などを確認したいところであるが、この爆発で人が集まってくるかもしれない。ターゲットの死亡はどうやら確認されているようなので、私はこのまま退散するとしよう。

 

「あらあら、派手にやりましたわね」

 

 いつの間にか、私の傍らに日傘を差した女性が悠然と佇んでいた。咄嗟にシルバーボーラーを抜いた。気配もなく、音もなく、降ってわいたかのように現れたこともそうだが、そして私の行った暗殺をまるで見ていたような口ぶりだ。場合によっては、口封じをしなくては。だが、女性は向けられる銃口を気にも留めず、胡散臭げな笑みを浮かべるばかりだった。

 

「何者だ…」

「私は八雲紫。貴方方に依頼を出したモノですわ」

 

 ヤクモ・ユカリ、確かに依頼主だ。敵意もないため、ひとまずシルバーボーラーを下す。

 

「マリー・パルシュは無事に始末されましたわ。幻想郷を代表して、お礼申し上げます」

「それが依頼だったからな」

「あら、つれない御方。でも、余計な欲を持たないのは嬉しいですわ。貴方が自分の意思で幻想郷に害をなすことがないとわかったのですから」

 

 優雅に扇子で口元を隠す彼女は、未だ煙が上がるターゲットのアジトの方へと向けられている。一切の油断のない、冷たい目をしている。

 

「なぜここに?」

「後始末のため、ですわ。幻想郷を滅ぼしかねない知識や技術をまとめたものを彼女は保有していた。これは管理者たる私が責任もって始末する。これは管理者としての当然の務め、ですわ」

「……」

 

 なるほど、ターゲットのアジトにはこの幻想郷の存続を危うくする品々や呪術用品が多くあるのだろう。それが第三者の手に渡ることを避けたいということか。

 だが、正論を言っているようだが、どうにも浮かべている笑みが胡散臭げだ。嘘は言っていないようだが、かと言って本音というわけでもあるまい。だが、私にとってはあまり関係の無い話だ。私はこの幻想郷の人間ではなく、外の世界の、現実の世界の人間なのだから。

 

「貴方のお仕事はここまでとなりますね」

「ああ。あとはここから帰還するだけだ」

「それでしたら、このまま幻想郷の外に送り出して差し上げますわ。貴方方の組織の家に送り出しますので、そのまま動かないで……」

 

 そうして再び私はスキマに飲まれた。と思った次の瞬間にはICA施設の一部屋に戻ってきている。

 まるで夢のような任務であった。だが、それなりの時間が経過しており、何より鈴奈庵で手に入れた「全て妖怪の仕業なのか」という読み本の存在が現実であったことを如実に物語っていた。しばらくそれを見つめていたが、私はダイアナに報告を行うべく部屋を出ることにした。

 

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---2日後

 

 

 

「……いるんでしょ、出てきなさい」

 

「あら、気づかれていたのかしら?」

 

「ふんっ、しつこく見られていちゃおちおち酔えもしないわよ。で、何?」

 

「それは霊夢が一番分かっているのではなくて?この私に聞きたいことは何か」

 

「……一昨日の『火事』の件。アレ、アンタが何かしたの?」

 

「ただの『火事』、そういうことですわよ」

 

「巫女の勘をなめんじゃないわよ。で、人里の長老は愚か私や他の人間にも見分も入らせず後始末しているなんて、どういうつもり?おまけに明らかに火事ってレベルじゃないのに、火事と押し通すの?」

 

「どういうつもりも何も、幻想郷の為にとしたことですわ」

 

「わざわざ天狗や他の妖怪にまで口止めしてまでも、隠すべきことなの?それに藍が動き回って何かしていたようだけど?」

 

「あらあら、耳が早いこと。これは困ってしまいますわ」

 

「答えなさいよ」

 

「……霊夢、一つ言っておきますわ。世の中には知らないままの方がよいことの方が多い。今回の件はそれなの」

 

「はぐらかして……っ!まあ、どうせもう動いても無駄なんでしょうね」

 

「ふふっ……物分かりの良い子は嫌いではありませんわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

 

評価:☆ ☆ ☆ ☆ ☆:サイレントアサシン

 

・幻想郷のベストセラー  +1000 『鈴奈庵でアガサ・クリスQの著書を購入する』

・人里に紛れる人外たち  +1000 『人里で二ッ岩マミゾウ、子狐の2人を見つける』

・季節外れの大花火    +5000 『呪術道具もろともターゲットを爆死させる』

・オーバー・ザ・フェンス +3000 『ターゲットをターゲットの張った結界の外側から暗殺する』

 

 

 

 




 意外と苦労した東方projectとのクロスオーバーとなりました。
 あまりクロスオーバー要素を出せなかったのが個人的には残念ですね…もっとうまくクロスさせることが出来ればよいのですが、まだ精進が足りないようです。
 東方は鈴奈庵や茨城歌仙なども読んでいるのですが、やはりと言いますか、幻想郷は意外と怖くて闇が深い場所なのかもしれませんね。紙一重のバランスというか、一件綺麗に見えるけれど実際のところはとても残酷な面があったり。それもまた魅力の一つでもありますよね…世界観についての妄想が滾ります。

 次回は別アプローチでもいいかなと思っていますが、私の方でクロスオーバー先を決めて行き先にしてみようかなと考えております。具体的には言えませんが、ちょっとした山登りと肝試しになりますね。

 筆がのった方が先に投稿できるかなと思います。それでは次回をお楽しみに。


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HITMAN『葬送の山より悲しみを込めて』

 お久しぶりです。
 今回は別アプローチではなく新しいロケーションに向かってもらいました。


『こんばんわ、47』

 

『今回はブルーと一緒にホウエン地方のおくりびやまに向かってもらうわ』

 

『ターゲットは、ホウエン地方の伝説や伝承について研究している学者のフミオという男と、その助手であるマモル。考古学を専門とするこの二人は、その筋では良い意味でも悪い意味でも有名な二人なの。研究者としては一流なんだけど、調査や学説の証明のためには強引な手法を用いての調査を行ったり、現地での傍若無人な行動が問題視されているわ。これまではその功績で何とか目を瞑られていたけれど、どうやら最近は落ち目らしいの。学会からの追放さえささやかれているほどにね』

 

『そんなターゲットが一発逆転のために目を付けているのが、ホウエン地方のおくりびやまに保管されている「あいいろのたま」と「べにいろのたま」の二つ。この二つの宝玉は、ホウエン地方の伝説に伝わるポケモン「グラードン」「カイオーガ」の二体に密接にかかわるとされているの』

 

『けどこの宝玉は以前強奪されたことがあった。そのしばらく後にはホウエン地方全体で異常気象が発生し、大きな被害が出たわ。明確な因果関係は不明だけれど、この二体のポケモンが片方もしくは両方とも眠りから覚めたのが原因ではないかと言われているわ。事態はとあるポケモントレーナーがジムリーダーやチャンピオンたちと共に収束させたというけれど、この宝玉を使えばまた同じようなことが起こるかもしれない』

 

『けど、彼らはそんなことで止まるような人間ではないわ。おくりびやまの管理者でもある老夫婦に掛け合い、この宝玉を調査させてほしいと頼み込んでいるの。どんな力が秘められているか調べるつもりだわ。けど、そんな事件があった後だから老夫婦は拒否しているのだけど、最近では悪癖が出て恐喝まがいの行為までやっているとのことよ。彼らの手に宝玉が渡れば、学術的興味のために何が起こるか分かったものではないわ』

 

『クライアントはこの老夫婦の孫娘であり、ホウエン地方のポケモンリーグ四天王の一人、ゴーストタイプのポケモン使いのフヨウ。何時ターゲットが暴力的な行動に出るか分からない上に、下手をすればホウエン地方の危機が再び起こりかねないと、この二人を隠密裏に排除してほしいと依頼してきたわ』

 

『現地は野生のゴーストタイプのポケモンたちが多くいるほかにも、ターゲット自身が手持ちのポケモンで抵抗してくる可能性があるわ。そうならないのが最善だけど、もしもの時はブルーに対応してもらってね』

 

『準備は一任するわ』

 

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『おくりびやまへようこそ、47、ブルー』

 

『ここは寿命を迎えたポケモンたちが眠る場所。ここで浄化された魂はこの地方のルネシティにある目覚めのほこらという場所に向かい、再び目覚めるという伝承にかかわりがある場所ね。多くのポケモンたちの霊がいるという噂から、その手のオカルトマニアやサイキッカーなどからは霊的なスポットの一つとしても有名だわ』

 

『その為か、出現するポケモンはゴーストタイプが多いことでも有名ね。ここにしかいないようなポケモンもいるそうだから、意外と腕自慢のトレーナーやポケモンを求めるトレーナーたちも訪れている。そういうわけだから、意外と人は多いスポット、目撃されないように注意を払ってね」

 

『ターゲットの二人はつい先ほど最寄りのミナモシティを出発したのが確認されてる。ほどなくそちらに到着するはず。ターゲットが複数名いるから、ブルーと相談したうえで任務を遂行してね』

 

『作戦は任せるけど、老夫婦に危害が加えられないうちに始末してしまいましょう』

 

『健闘を祈るわ』

 

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 ホウエン地方に駐留しているICAのインフォーマントの操るボートで私とブルーはおくりびやまへと到着した。霧に囲まれたこの山は何処か俗世とは隔絶された、神秘的な雰囲気をまとい悠然としている。なるほど、その手のオカルトマニアがここを好む理由もなんとなくだがわかるような気がする。

 

「うわぁ、雰囲気あるわねー」

 

 到着して一番にブルーは感心したような声を上げる。あまり怖がっているようなそぶりは見えず、むしろ興味津々のようだった。

 

「ここは怖くないのか?」

「カントー地方にもポケモンタワーっていう似たような場所があったから、あんまり怖くはないわね。

 あそこもゴーストタイプのポケモンが多く集まっていたし、ここみたいにお墓もたくさんあったから」

「なるほど」

「多分他の地方にもこういう場所ってあると思うのよ。でも、まさか伝説にかかわりのある場所だなんて思わなかったわ」

 

 考えることはどの地方でも同じ、というわけか。おまけに出没するポケモンのタイプまで一緒なのは、ポケモンの習性というものなのだろうか。ともあれ、場所が何処であろうともやることに変わりはない。

 

「まずは現地の状況を確認するぞ。ポケモンへの対処は任せた」

「了解!」

 

 一歩おくりびやまの内部に入ると、そこは一面の墓やモニュメントで埋め尽くされた光景が広がっていた。おくりびやま、ポケモンたちが眠りについた墓場、なるほど正しく共同墓地のような場所であった。

 

「案外人が多いわね……」

 

 墓参りに来ている人の数はそれなりの数見受けられた。眠っているポケモンの大きさにあまり関係はないのか、墓のサイズは一定で、人が屈んでぎりぎり隠れられる程度の大きさしかなかった。他に遮蔽物となりそうなものはあまり多くはなく、空間が大きく開けているので見通しが良すぎた。

 

「47、ここだと人目が多すぎるかも」

「そうだな」

 

 依頼では秘密に、騒ぎにならない様に始末してほしいとのことであるため、ここでの暗殺は難しいだろう。天井に空いている穴から物が落ちてきて「不幸な事故死」というのも考えられるが、上の階も同じように墓が並んでいるというのは事前の資料で判明している。つまり上の階も人がいるということだ。それを含め、ブルーも地形や障害物などをよく観察していたようで、暗殺を行うエージェントとしては悪くない。

 途中に飛び出してきたポケモン、ヨマワルやカゲボウズをブルーが対処しつつ、私たちは普段クライアントの老夫婦がいるという山頂を目指して移動を始めた。外壁部は濃い霧が漂い、潮風が軽く吹き付ける場所。ところどころに草むらがあり、内部と同じように墓が置かれている。人の気配も少なく、これだけ視界が悪ければ暗殺には向いているだろう。

 だが、ターゲット二人を如何に静かに始末するのか問題だ。ターゲットはまっすぐに山を登ってきて、老夫婦のところに向かうと予測される。この外壁部分でうまく足止めをして始末するのが一番目立たないだろう。たとえば、「うっかり」足を滑らせて転落だとか、霧で足元がよく見えずに転落、というのがいいかもしれない。

 先行して山頂の方を見てきたブルーが戻ってきたので状況を尋ねる。

 

「山頂の方はどうだった?」

「あんまり人はいないし、霧が濃くて障害物が多いからいいかもしれないわ。老夫婦が近くにいるってことと、たまに物好きな人が登って来る以外は大丈夫かも」

「そうか」

 

 仕掛けるのは外壁部がよさそうだと判断した私はブルーを伴って歩いていく。

 途中、何やらオカルトチックな格好をしたグループが話しているのが耳に届いた。

 

「今日も来るのかな、あの二人?」

「あの学者とその助手のことか?多分来ると思うぜ。毎日毎日ご苦労なことだよなぁ。

 管理人の老夫婦が折れるまで絶対にあきらめないって鼻息も荒く言ってたしな」

「迷惑かけてないといいんだけどなぁ、あの老夫婦、もう結構な年だろ?そんな相手にムキになってどうしようってんだか」

「まったくだよなぁ」

 

 どうやらクライアントの祖父母、このおくりびやまの管理をしている老夫婦とターゲットたちに関わることらしい。ブルーに合図し、私は立ち止まって耳を澄ませる。

 

「聞いた話じゃ、あんまりこのおくりびやまの環境が好きじゃないってな。ポケモンが苦手なんだとよ」

「そりゃまたどうして?」

「学者様はデスクワークばっかしだからな、ポケモンを育てるより重要なことがたくさんあるんだろ」

「なるほどなぁ」

 

####情報を入手####

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『話によるとターゲットの二人は学者肌なせいなのか、トレーナーとしてはあまり腕が良くないようね。もしポケモンに絡まれてしまったら、困ったことになるかもしれないわ』

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 どうやらターゲットたちはトレーナーの腕は良くないという。暗殺に利用できるかどうかは分からないが、それを頭に入れておいても損はないだろう。そのまま私たちは簡易ながらも整備されている山道を歩いていき、丁度良いスポットを探す。

 霧に紛れてターゲットに襲い掛かるというのも手として考えられるが、そこまで視界が悪いわけではない。やはり目立たない程度の何かで目を引いて、その隙に仕留めるのがいいかもしれない。

 

「ブルー、何か案はあるか?」

「ええっ、私が考えるの!?」

「ターゲットが来るまであまり時間はない、急げ」

 

 いつもはブルーとシルバーがコンビで活動しているのだが、今回の任務ではブルー単独で計画を立案し実行する能力を評価するというのも仕事の内となっている。勿論このことはブルーには伏せられていたことだ。エージェントとしての能力は常に高いものが求められる。即興でアプローチを組み立てるのもその能力の一つ。

 しばらく考えていたブルーだったが、やがてリュックサックの中から手のひらに収まるサイズのケースを取り出した。薬を入れるタブレットのようにも見えるそれは、先端の部分がモンスターボールの形をしており、中には何やら四角いものが複数入っている。

 

「それは?」

「ポロックっていうの。この地方に自生している木の実を使って作るポケモン専用のお菓子みたいなものなの。これを使うと野生のポケモンを臭いでおびき寄せることができるって聞いたわ」

 

 

####アプローチを発見####

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『バトルではなく、そのかっこよさや美しさを競うコンテストでコンディションを整えるために使われるポロックにはそういう使い方もあるのね。ポケモンをおびき寄せることが出来れば、うまく足止めをすることができるかもしれないわね。それにしても、ブルーはいつの間に手に入れたのかしら?』

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「いつ調達した?」

「ミナモシティでちょっと……こ、こういうこともあると思ってね!?」

 

 そういえば、ミナモシティの近くにはサファリゾーンという珍しいポケモンを捕まえることができるエリアがあると事前の資料で読んだ覚えがある。そのポロックがサファリゾーンで使われるということも。まあ、今は追及するまい。

 ともあれ、とブルーはポロックとやらの入ったケースを手にしてあたりに撒き始めた。

 

「これでうまくポケモンたちが寄ってきてくれれば、ターゲットは隙を晒すと思うのよ」

「他の方法では無理なのか?」

「そういうポケモンのわざもあるって話だけど、それだと香りにつられたポケモンが襲い掛かってくることが多いらしくって。けどその分ポロックをまくだけなら、安全にポケモンをおびき寄せられるわ」

「なるほど」

 

 ブルーは手際よくポロックを撒き終えると隠れるように合図をする。人間の嗅覚ではあまり感じ取れないのだが、どうやらこれでポケモンたちはつられてくるらしい。本当に効果があるか分からない所だが、ここはブルーのトレーナーとしての知識を信頼するしかないだろう。

 

####アプローチ完了####

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『ポケモンの習性をうまく利用してターゲットを陥れる。悪くないわね。でも油断だけはしないでね47。

 丁度ターゲットの二人は入り口に到着したようだし、間もなくそちらに向かうわ』

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 ポロックを撒いてポケモンたちをおびき寄せた状態を作り上げてから数分後。私たちが通った道をたどって二人組の男が歩いて来た。どちらも軽装だが山を登るのにちょうど良さそうな格好をしている。少々荷物が多い様にも見えるのは気のせいだろうか。

 

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『あれが学者のフミオとマモル。マナーのなっていない学者にはここで退場してもらいましょうか』

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 ターゲットの二人は通い慣れているのか、霧が濃く、足元が見えにくい状況でもすいすいと登って来る。

 だが、ブルーがポロックをばら撒いたことでポケモンたちが集まっているのを見ると、明らかに顔をしかめて足を止めた。

 

「おいおい、こういう時に限ってこんなトラブルが…」

「落ち着きましょう。確かにポケモンに関して我々は不得手ではありますが、かと言ってどうにもならないわけでは…」

「時間が惜しいんだ!ともかく、さっさとあの邪魔者を追っ払うぞ!」

 

 何とも呑気なものだ。一応ポロックに夢中になっているとはいえ、刺激し過ぎれば野生のポケモンに襲われるかもしれないというのに。そんなターゲットたちを観察する私たちは、ブルーの手持ちであるメタモンの影に隠れて岩場と同化している。傍目にはほとんどわからないであろう。

 

「準備はいいか?」

「いつでもいいわよ」

 

 私はいつもの通りシルバーボーラーを、ブルーはICA19を持ち込んできている。ターゲットたちは眼前のポケモンに目が向いている状態。また、姿だけでなく気配も殺していた私たちを察知することは出来はしなかった。

 そして、タイミングを合わせて二丁の拳銃から放たれた弾丸はポケモンを出そうとしていたターゲットたちの脳天を見事に撃ち抜いた。サプレッサーを付けているので、音もほとんどない。

 

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『二名ターゲットダウン。良い手際ね。さあ、そこから脱出するだけよ』

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「早いとこ片づけちゃいましょ」

 

 拳銃を仕舞うと、てきぱきとブルーは死体を崖の下へと突き落とす。何度か壁面にその体をバウンドさせながらも、二人分の死体は海深くへと沈んでいった。ポケモンに頼っていたころとは違い、もう銃器の扱いにも慣れているのを見ると、だいぶブルーも変わってきたと感じる。かわいらしさなどは相変わらずだが、エージェントらしく非情さを獲得しつつあるようだった。

 ともあれ、これでターゲット二名は排除が完了したし、死体や暗殺の証拠の隠滅も終わっている。ここにとどまる理由はない。私たちは静かに山を下りると、入り口で待機していたインフォーマントの操るボートですみやかにおくりびやまを後にした。

 

 

 

 

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---3日後

 

 

 

 

「サファリゾーン、あんまりめぼしいポケモンがいなかったー…カントーだと割と見るポケモンばっかり」

 

『ホウエン地方では珍しいポケモンという触れ込みだけれど、他の地方では珍しくないこともおかしくはないわよ。事前の調査が甘かったわね』

 

「ふぇぇ…バーンウッドさん辛辣」

 

『サファリゾーンでの結果は振るわなかったようだけど、今回の任務の評価は90点といったところね。ぎりぎりまで伏せられていて、あの状況から計画を組み立てて実行に移せたのは評価されたわ。おまけに証拠もほとんど残していないから』

 

「やったー!」

 

『ただし、残り10点の分の減点は何処か、ちゃんとわかっているわね?』

 

「……はい、次からはちゃんとします」

 

『よろしい。ICAのエージェントとして以前に、ちゃんとした大人にもなって頂戴』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

 

評価:☆ ☆ ☆ ☆ ☆:サイレントアサシン

 

・タイプ:ゴースト   +3000 『ターゲットと老夫婦に姿を見られない』

・努力値を振り分けよう +1000 『ゴーストタイプのポケモンを5体以上撃退する』

・サファリのテクニック +2000 『ポロックでポケモンをおびき寄せ、ターゲットを足止めする』

・息を合わせて     +5000 『サプレッサー付きの拳銃で、47と同時にターゲットを殺害する』

 

 

 

 

 

 




 お久しぶりです。まさか、1万文字足らずの小説に一カ月近くかかってしまうとは…(白目
 ちょっとリアルが忙しかったのと、季節の変わり目で体調を崩しちゃったのが原因で遅れてしまいました。ちゃんと自己管理しなくてはいけませんね。

 さて今回の話についてですが、ロケーションをおくりびやまとするのはすぐに決まったのですが、アプローチにあれこれ悩んでしまいました。事故死に見せかけるとか、ブルーの手持ちポケモンを使うとかいろいろ考えていましたが、結局シンプルに仕留めることに。簡単そうで実はかなり苦労しまして、ご本家様のすごさを改めて感じいった次第であります。
 また今回は複数の世界線の存在する(ルビサファエメラルド時空とORAS時空)ホウエン地方を舞台としていますが、話の都合上おくりびやまの老夫婦が健在な方が良いため、ルビサファエメラルド時空を採用させていただきました。

 次回は別アプローチに挑戦してみようかなと思いますので、気長にお待ちいただければ。


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HITMAN『三ツ星の輝き』

お久しぶりです。

リブートしたHITMANシリーズ、その完結となる3が発売されたということもあり、再び筆を執ってみました。

今回は新しいロケーションに向かってもらいました。


『おはよう、47』

 

『今回あなたには日本の遠月学園に向かってもらうわ」

 

『遠月学園の正式名称は遠月茶寮料理學園、いわば調理師専門学校といったところかしら。

 その教育方針は1のために100を捨てるような、少数精鋭教育にして徹底した実力主義にして……そう、ある種選民的な方向ね。

 学生は些細なテストや試験で学園を追放されることもあって、その苛烈さは類を見ないわ。

 卒業できるのは1000名ほどいる1つの学年の内20名ほど。場合によってはもっと少ないときもあるそうよ』

 

『でも、そんな苛烈な学校だからこそ、料理界からはとんでもない信頼を置かれているわ。

 たとえ中途だとしても、この学園に在籍したというだけでネームバリューが付き、卒業すれば一生スターダムを駈け上がれることが約束されるほどに』

 

『無論弊害もあるわ。事前の調査によれば、この学園内では学生同士の妨害や陰湿ないじめなども見られている。

 良い成績を出せればいい、勝負に勝てばよい、という風潮もあるというわけね。中には意図的に誰かの調理を妨害したり、あるいは盤外戦術として暴力的な手段さえ使われることもあるそうよ。純粋に料理の腕を競いあうという体制が普遍なものとは限らないようね。

 それに、学生から選抜される「十傑」という精鋭達やそのレベルになると学園の運営にまで影響を及ぼすことができるようになり、それ故に権力闘争に巻き込まれてしまうこともあるそうよ。何とも穏やかではないわ』

 

『そして、今回のターゲットは風谷キリエ。この学園の教師の一人よ。

 彼女の専門は香辛料(スパイス)で、東西を問わない料理に応用して評価を受けている調理師でもあるわ。

 でも、彼女はただの一教師というわけではないわ。この学園の権力闘争に深く食い込んでいる人間の一人。

 複雑な事情に関しては省略するけれど、彼女は特定の生徒の評価を操作したり、部活動への妨害を行ったりと職権を乱用しているわ』

 

『クライアントはターゲットに成績などを恣意的に操作されてこの学園を追放され、ショックから精神を病んで、自殺未遂まで行った生徒の家族。

 勿論、これまでに何度か学園に訴えたらしいけれど、教師の立場がある種絶対視されているから、弱者の泣き言と一蹴されたみたいね。

 こちらの調査でも、形ばかりの原因究明が行われたことが分かっているわ。その原因究明にあたったのが件の風谷キリエ本人だったこともね』

 

『遠月学園は定期的にイベントで学園を外部に開放していて、ターゲットはそのイベントに関わるそうなの。

 つまり、合法的に接近しやすいというわけ。だから、今回も貴方にはトバイアス・リーパーに扮してもらって、外部に開放された遠月学園に侵入してターゲットを排除してもらうわ』

 

『会場は外部からの参加者はもちろん学生も多い上に、学園自体のガードも固いわ。

 そうやすやすと暗殺できるとは限らないでしょう。トラブルがおこれば、何らかの足止めを受ける可能性もある』

 

『注意点は二つ。まずはターゲットはその役職柄、味や香りに極めて敏感よ。恐らく毒や薬を用いようとすれば即座に気が付かれるわ』

 

『それともう一つ、クライアントはターゲットをむごたらしく殺してほしいそうよ。衆人環視の元に死体をさらすのがいいんじゃないかしら』

 

『準備は一任するわ』

 

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『遠月学園へようこそ、47』

 

『今日は学園の研究部門である「薙切インターナショナル」の主催するイベントが開催されているわ。

 当然、出席者は料理界の重要人物が綺羅星のごとくそろっている、まさに豪華そのもの。

 イベントは「次世代の料理の方向性の探求」というテーマらしく、今日を入れて4日間も開催されるそうよ』

 

『けど、ターゲットが実際にこの会場に出てくるのは今日だけ。そして、彼女はかなりスケジュールが詰め込まれているわ』

 

『それに、学園と一口にいっても敷地は極めて広いわ。ターゲットを見失わないように注意して』

 

『ターゲットは現在学園の研究室にいるわ。参加者が立ち入れるエリアではないから、侵入するなら工夫が必要ね』

 

『幸運を祈るわ』

 

 

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 毒物や薬物が使えない、というのはとにかく厄介だった。

 対象を一人にする常套手段として嘔吐剤を用いることがあるし、眠りをもたらす睡眠薬も使うことがある。それらが通用しないというのは、暗殺手段が限られてしまうということだ。加えて、体から発する臭いで察知されるとまずい、ということで、私は暗殺者としての匂いを消す為に1週間以上も準備期間を過ごすことになっていた。

 

 

####情報を入手####

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『風谷キリエはこの学園の卒業生であり、スパイスを調合したり直接仕入れてレストランなどに売る形態で運営する店を持つようね。

 体臭や空気に満ちる臭いにまで敏感で、味や臭いに関しては一流。毒物や薬物を用いての暗殺は通用しないでしょうね』

 

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 ともあれ、任務だ。学園からの招待状を提示してゲートを潜り抜け、学園の敷地内に入る。

 地図を見ただけでもわかっていたことだが、学園内はあきれるほど広い。単なる教育機関以上のものを感じる。その学園内の広さを活用し、天気がいいこともあって今回は屋外に露天のブースが設置され、そこに多くの人々が集められる形で開催されている。

 

 今回の任務はセキュリティーが厳しいために、装備はロックピックとワイヤーとコインのみ。近寄りにくいとのことなので、今回はインフォーマントを通じて会場である校舎のトイレの一つにスーツケースに納めたSIEGER 300 GHOSTを配置してもらっている。衆人環視の下での殺害を求められているので、安全かつインパクトのある殺害方法を選んだ。

 

 だが、問題はいかにターゲットを衆人環視の下に誘い出すかだ。ターゲットがこちらが思う通りに動くとは限らないのが常なのだから。

 ならば、そうできるようにこちらからアプローチをしていく必要があるだろう。

 そして、その為には情報が必須だ。私は雑踏に紛れて、あちこちの話し声に耳を傾ける。

 いくつかのブースをめぐり、話を聞き、試食をし、あるいは感想を述べるなどして情報を集めていく。このイベントが数日にわたって開催されるということだけあり、入ってくる情報の量は膨大だ。まったく関係のない情報が多い。

 そんななかでも多いのが料理やこの学園に関するうわさや品評だ。こういう場だからこそ、忌憚なく話してしまうのだろうか。

 

「だから言ったろう。卒業からこっち、学園の傾向を調べていたが、金持ちの道楽になり下がっているんだ」

「道楽って…言い過ぎじゃないか?」

「事実そうだろ?俺のところのレストランで学生の受け入れやったんだが、食材にケチつけやがった。

 もっと高級で良い質の物を選ぶべきだってな。何様のつもりだってんだ。当然学園に連絡して退学にしてもらったぜ」

「そりゃあ……技術を教えてもらいに来たのに、その態度はないよな」

「だろ?それで、高級食材に劣らないように手を加えて見ろって言ったら『こんなものをどうやってうまくするんだ』と捨てやがった。

 金がかかっていればうまいとも限らないし、常にベストな食品を使えるわけじゃないって思ったんだがな。まあ、治りそうにないからそのまま放り出した」

「それはお前が正解だな」

 

 

####情報を入手####

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『遠月学園の現状についての評論ね。

 ICAの調査でも、いわゆる高級志向やブランド志向が蔓延しているのが判明しているわ。

 つまり、良い食材や良い調味料を資金やコネで手に入れた者がより評価を受けやすい傾向にあるの。

 また、評価する側の教師も高級品を使わなければ高い評価を与えない傾向にある。

 ブリーフィングでも伝えたけど、この学園では純粋に料理の腕を競い合えるとは限らない環境にあるわ』

 

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 何ともご苦労なことだ。まあ、私としては特に興味もないことなので聞き流すにとどめる。

 パンフレットを見ながらも歩いていくと、一際良い香りの漂うブースにあたった。

 おかれている小冊子を手に取って眺めると、どうやらここはターゲットのためのブースのようだった。展示されているのはスパイスの調合に関する理論やその実践についての文章を表示するモニターや紙資料。さらには、その奥にはどうやらスパイスを現在も調合していると思われる装置が置かれているのが見えた。

 

「すまない、あの奥にある機械はなんだろうか?」

「ああ、あれはスパイスの調合装置です。事前に入力されたデータをもとに、用意されていたスパイスを混ぜ合わせます。

 単純に混ぜるだけではなくて、各種センサーや分析装置も合わせて有機的にその調合割合を変化させる、画期的なモノなんです」

「それはすごいな」

「人の味覚や嗅覚というのは個人ごとに差異がありますが、それでも人がおいしいと感じるのは共通項があります。

 それらをビッグデータから割り出し、スパイスごとの強みを最も生かせる配合を生み出すことができるのです。

 最も、それらのデータ管理や基礎となるデータを生み出すのは個人の舌や嗅覚が頼り。

 これらは、この学園の教師でもある風谷キリエシェフの渾身の作品なのです」

 

 

####アプローチを発見####

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『なるほどね、ここはターゲットのブース。しかも、特注のスパイス調合機までも展示しているのね。

 事前資料によれば、もうすぐターゲットはここで多くの人間を相手に講演を行うことになっているわ。

 もしもそんな時に何かトラブルが起これば、まっさきに駆けつけるでしょうね』

 

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 ヒントを見つけることはできたが、このままではこれに細工を施せない。会場内は人が多く不特定多数の目が注がれている。加えて、ターゲットの部下が常に複数名ブースに張り付いている以上、怪しまれないためには相応の変装をしなければならないだろう。

 私は会場のスタッフの動きに注視する。一見ブースや展示資料などであふれているように見える会場も、よくよく見れば裏方のスペースや出入り口などが確保されているのが常だ。会場の見取り図には掲載されていなくとも、実際の風景と照らし合わせれば自然とわかる。

 そして、片隅にスタッフの出入り口があるのを発見した。見取り図や周囲から観察した限りでは、どうやら即席の倉庫としているようだった。スタッフが時たま出入りする程度で、尚且つ幟によって巧妙に隠されている。

 それを利用してするりと近づき、ロックピックでドアを開けて侵入してみれば、果たして備品や簡易のロッカーなどが並ぶスタッフルームであった。

 素早く周囲を見渡すと、スタッフが身に着ける予備と思われるエプロンなどがまとめておいてあるのを見つけ、手早く着替えることにした。

 

 

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『よく似合っているわ、47。その恰好なら怪しまれることなくブースで作業を行えるわね』

 

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 ブースに戻ると、今度はスタッフ専用の裏口からブース内に入る。

 ターゲットが配置していたスタッフたちは今のところ、集まってきている客への対応で忙しげだ。

 私は姿勢を低くしてブースの奥に置かれている調合機のそばに近寄ると、つながっているラップトップパソコンを操作する。

予めデモンストレーションのために用意されていたソフトウェアが起動しており、これをいじればよさそうだった。

 だが、これだけでは不安があった。システムの調整がミスしていたというならば現場で対応されてしまい、ターゲットが現れない可能性がある。

 私は意を決して、慎重に調合機のそばに近寄る。傍においてあった機械のメンテナンスのマニュアルによれば、備え付けのコンピューターとは別の制御機器にはメンテナンス用のハッチが備えられているようだった。

そこをそっと開けば、電子回路が緻密に張り巡らされている。そこにスタッフルームで調達しておいたドライバーを突っ込み、意図的に傷つけてやる。果たして、調合機の動きがおかしくなったようで、妙な音を立て始めた。しばらくすれば、あたりに漂っていた良い香りが変化するのを感じる。

 

 

####アプローチ完了####

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『見事な手際ね、47。これで異常に気が付けばターゲットはここに呼ばれるでしょう』

 

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 すぐさまブースを離れることにした。誰かがやったのだと思われたら、真っ先に疑われかねない。

 それに、ターゲットをクライアントの要望にそって殺害するには準備が必要だからだ。

 私はすぐさま校舎の方へと向かう。

 本来ならば一般参加者には解放されていない校舎であるが、この格好をしているならば問題なく入ることができる。そして、インフォーマントがトイレに配置したSIEGER 300 GHOSTの入ったブリーフケースを回収すると、その足で屋上へと向かう。

 こちらは生徒の姿がほとんどないために問題なくたどり着けた。唯一の問題は屋上への扉がロックされていたことであったが、こちらは問題なくロックピックで開錠することができた。

 

 SIEGER 300 GHOSTを取り出して、ブースのある方角を確認し、射撃体勢に入る。

 スコープを覗き込んで倍率を上げていく、先ほど細工を施したブースが何やら騒ぎになっているのが見えた。それもそうだろう、控えめに言ってあの装置にその場では修繕不可能なほどのダメージを与えたのだから、故障して二進も三進もいかなくなっている頃だ。

 そして、ただ故障するだけならばともかく、これから重要なプレゼンを行う直前にというのが悪い状況へとさらに拍車をかける。今から急いで修繕するか、それともそれに代わるものを何か出すかの判断をしなくてはならない。

 スタッフも何やら手を尽くしていたようだったが、あきらめてスマートフォンを手に取ってどこかに向かって電話をかけ始めた。その口の動きをスコープで観察すると、どうやらターゲットと通話しているようであった。

 

 そして、3分と経たず、学園の研究棟の方からブースに向かってスタッフを引き連れた特徴的な髪形の女性が走っていくのが見えた。

 

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『あれが風谷キリエ。この学園の教師であり、スパイス調合において一流の腕を持つシェフ。

 最も、手にした権力で褒められたことはしていないようだけれどね』

 

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 ターゲットはブースの中に入ると、待ち受けていたスタッフに何やら問いただしている様子だ。ここからでは声は聞こえないが、その剣幕や身振り手振り、そして対応するスタッフの表情などから相当に激怒していることが窺える。

 無理もないことだ。この学園では料理の腕がモノを言う。そして、ターゲットの武器であるスパイスの発表の場でトラブルが起こってしまうなど、とても看過できるものではないだろう。下手をしなくとも評判に大きな傷がつくことになるのだし。あそこまで必死になってしまうのも無理からぬ話だ。

 観察を続けていると、ターゲットは何やら調合機の方へと近づいていく。状態がどうなっているのかを自分の目で確かめたいようだ。徐々にターゲットのプレゼンの時間が近づいているだけに、焦っているのが表情からうかがえる。

 だが、動きをほとんど止めてくれるのはありがたいことだ。

 慎重に狙いを定め、風の流れを読み、そして引き金を引く。

 そして、集まりつつあった人間の目の前で、ターゲットの頭が破裂した。砕けた果実のように血液や肉片が飛び散り、大惨事になった。ここまで届くような大きな悲鳴が上がり、騒ぎが起こり始めた。

 

 

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『ターゲットの死亡を確認。これは派手になったわね。さあ、急いで脱出して』

 

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 言われるまでもなく、このままここにいては疑われてしまうだろう。

 すぐにブリーフケース内にライフルを片付けると屋上から出た。そして、まっすぐにブースの中にあるスタッフルームに戻ると、元の服装に戻り、何食わぬ顔で出ていく。

 そのころには突然の死によってパニックが起こっており、会場は騒然としているどころの話ではない。パニックになった客が叫んだり逃げまどったりしている。警備もそんな客への対応に大わらわで、もはや出口のセキュリティーも何もない状況だった。

 私はそれに乗じる形で出口の方へと向かい、そのまま脱出した。

 

 

 

 

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---2日後

 

 

 

『依頼人への報告が完了したわ』

 

『ターゲットがむごたらしく殺されたのは全国ニュースにもなっているわ。

 白昼堂々、衆人環視の元で殺害されたのだから無理もないわね』

 

『それで学園の方の動きだけど、どうやらターゲットの身辺調査も行われているみたい。

 恨みを買う原因になったものが何かないかを探し回っているようよ』

 

『依頼人も追及を受けたそうだけど、切り抜けたようね。

 まあ、恨みを元々買っていたというのが判明して警察も追求に苦労しているみたい』

 

『それと、ICAで偽のテロ組織の犯行声明を出して操作を攪乱したことも大きく影響しているわ』

 

『いずれにしても、これで学園も体制の見直しを強いられることになるでしょうね。

 行き過ぎた実力主義が人の命さえも奪うという暴挙を招いたのだからね』

 

『まあ、あなたにとってはもうどうでもいいことかもしれないけれどね』

 

『報酬はいつも通り口座に振り込んでおくわ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

 

評価:☆ ☆ ☆ ☆

 

・怒りをスパイス      +2000 『ブースのメニューのスパイスに手を加えてターゲットをおびき出す』

・テイスティングはお手の物 +1000 『3つ以上のブースで試食をして感想を伝える』

・緊急増員です       +2000 『スタッフの服装に変装する。誰かから衣服を奪ってはならない』

・頭を襲う衝撃の味     +4000 『スナイパーライフルを使ってターゲットをヘッドショットで殺害する』

 

 




 改めましてお久しぶりです。
 随分間を空けてしまうこととなり申し訳ありませんでした。

 今回も前回に続いて新しいロケーションでの任務となりました。
 これまではサイレントアサシンでしたが、そういえばエスカレーションでは敢えて死体を発見させるというのもあったなと思い出し、反映させてみました。そのために案外手間取ったので取り掛かってからだいぶ時間がかかることになりました。
 実際、この手のテロにもにた事件が発生すると衝撃は非常に大きいことでしょうね。

 今回は食戟のソーマとのクロスオーバーでした。
 割と特徴的な料理漫画でしたので、同じジャンルの作品と比較してクロスオーバーさせやすかったと思いますね。何しろ、原作の時点で後ろめたいというか、苛烈すぎる節のある世界観でありましたし。
 念のため、アンチ・ヘイトもタグに追加しました。

 次回はいつになるか、どのような形になるかは未定ですが、気長にお待ちいただければと思います。


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HITMAN『魔術師に必要なものは?』Alternative

 今回のお話はHITMAN『魔術師に必要なものは?』の別アプローチとなります。
 今回はネタ満載でお送りいたします、苦手な方はバックしてください。


『ごきげんよう、47』

 

『今回の目的地はトリステイン王国ロンブリエールにある王立魔法研究所、通称“アカデミー”の実験場』

 

『ヴァリエール公爵が、アカデミーに所属する自分の長女のために開放した領地に設けられた、アカデミーが抱えている中でもひときわ大きな実験場として有名よ』

 

『ターゲットは王立魔法研究所の評議会役員のエスペランサ・レイモンド・ド・ジュリアネス。エスペランサ卿と呼ばれているみたいね。

 彼はアカデミーの評議会の重鎮であるけれど、汚職を犯してきた官僚でもあるわ』

 

『彼の手口については未だに明らかになっていないわ。ただ、状況証拠やほかの証言などから推測すると彼が主犯あるいは教唆していることは確定だった。

 クライアントは一度証拠をつかんで訴えたそうだけど、その際は有能な弁護士を使って罪から逃れたそうよ。加えて、裁判員を買収までやった。もはや尋常な方法では彼を捌くことは不可能と判断されたの。そこでICAに白羽の矢を立てたというわけね』

 

『クライアントはトリステイン王国銃士隊隊長を務めているアニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。

 官僚の汚職についてトリステイン王国女王から汚職官僚についての実態調査と排除を命じられていて、その中で彼にぶつかったというわけ。その関係上、クライアントは女王に許可をもらっているそうよ』

 

『トリステイン王国はこれ以上の汚職を見逃すわけにはいかないと判断しているわ』

 

『法で裁くことができないならば、法の外側にいるICAが裁くまで』

 

『準備は一任するわ』

 

 

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『ロンブリエールへようこそ47』

 

『今回ターゲットはこのロンブリエールの実験場で行われる攻撃魔法の実験に参加しているわ。実験場内で接触することが可能なはずよ』

 

『クライアントからは事故に見せかけて暗殺をしてほしいと依頼されている。まあ、そうでなくても構わないそうよ』

 

『それと、これは依頼とは別件だけれど、ICAとしては有能なメイジを探している。

 チャンスがあればアカデミーに所属するメイジをスカウトしてね』

 

『そしてもう一つ。暗殺しようとしていることが露見すれば、ターゲットは逃げ出して国外へ脱走してしまう可能性もある。彼は閣僚としてあまりに多くのことを知りすぎているわ。だから、逃がすことなく確実にここで仕留めて頂戴』

 

『幸運を祈るわ』

 

 

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「……よし、問題ないな。通れ」

「はい」

 

 私は実験場内にいるターゲットに接触するため、必要となる物品を納入する輸送業者に変装してロンブリエールの実験場に入った。

 平民のふりをしているので、チェックはほとんどされず、入場するための書類の確認をされるだけで終わってしまった。極めて杜撰な警備体制に思えたが、魔法を使えず、それに関する知識もない平民が実験場に入ったところで大した害にはならないという判断からなのだろう。

 

 今回私が持ち込んだのはシルバーボーラーとロックピック、陽動に使うリモコン式の小型音声発生装置だ。

 荷下ろしが終わったがすぐに退散というわけではなかった。場合によっては荷下ろしした物品を運んだり、あるいは実験場から外にモノを運び出す際に必要となるので、ここで過ごすことが許可されている。そのため、この服装ならばよほどのエリアでなければ入ることが可能であった。

 ともあれ、この広い実験場のどこにターゲットがいて何をしているかはまだ不明だ。その情報を探るため、私は実験場内に設けられている休憩スペースを見つけて入った。内部にはメイジも平民も入り混じっており、噂話をしたり、カードゲームに興じるなどしている。

 

「実はな、地元に恋人がいるんだよ。今度プロポーズしようと思ってな。花束と宝石も買ってあるんだ」

「おいおい…」

 

「そんな下品な泥水を飲むつもりか!」

「じゃあ何を飲めっていうんだ」

「無論、紅茶だ」

 

 その中に交じって耳を澄ませれば、いろいろな情報が耳に飛び込んでくる。やれ、どこどこの店の料理がうまいだの、やれ、あの実験は失敗だっただのと、様々だ。一つ一つ慎重に聞き分けながら、私は少しずつ内部の状況を把握していく。

 最も重要な実験場、すなわち実際に魔法を使うスペースは一番奥の方に用意されていること。また、そこからあまり遠すぎない位置には仮設テントが用意されていて、そこにメイジたちが集まって議論していること。そこから奥に入ろうとすると警備の人間に咎められることなどがわかった。

 だが、ターゲットに関する情報は聞こえてこない。大雑把な情報はともかくとしても、特定に至るような正確な情報はえられなかった。ならば、近づけるだけ近づいて別なアプローチを探った方がいいかもしれない。

 私は休憩所を出ると、奥に入るための口実を探す。すると、ちょうど大量の荷物を前にして途方に暮れている平民を見つけた。

 

「どうしたんだ?」

「あ、いや、実はな?えらいさんがこれを大至急テントまでもってこいって言ってよ。

 これだけの荷物、車もないのにどうしろって……」

「それなら手伝おうか?」

「いいのかい?いや、すまねぇな」

 

 二人がかりで荷物を運んでいく。途中警備兵による検問があったが、特に咎められることなくパスできた。それどころか、一々チェックを受けなくてもいいように通行許可証までもらえるという待遇だ。私が言うのもなんであるが、些か警備体制が緩すぎるのではないだろうか?

 ともあれ、荷物を運び目的のテントのところに置いた。

 そして、さりげなく周囲の様子をうかがうと、一人のメイジが近くのテントのところで羊皮紙にじっと目を通しているのが見えた。

 

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『あれがエスペランサ・レイモンド・ド・ジュリアネス。汚職をして、追求から逃れ続けてきた官僚。ここで終わりにしてあげましょう』

 

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 隙だらけのターゲットをここで殺害してしまうのは簡単だ。

 だが、クライアントの要望通りに事故死に見せかけるのは容易いことではない。

 そこからターゲットがしばらく動きそうにもないことを確認し、私は他の場所に何かしらヒントがないかを探すことにした。

 

 魔法の実験場ということもあり、いろいろなものが置かれているのが分かった。

 硫黄、硝石、木炭、石炭などに加え、鉄をはじめとした金属もあちらこちらに保管されている。まさに実験場あるいは研究所といった風景だ。

 その中を歩いていると、何やら風船がいくつも浮かんでいるのが見えた。いや、風船というよりは小型の気球というべきであろうか。

 

「やはりもっと大型化しなくては飛ばせないな……」

「風石に依存しないというのは、些か無理があるのでは?」

「だが、風石は高いだろう?第二保管庫にあるものだが、あれは慎重に使うべきだ。別な方法を検討しなくては…」

「かといって……未完成なのはいかんともしがたいですぞ?」

「だが、保管庫にあるマジックアイテムの『空を舞う衣』はそれをやっていたのだぞ?使ってみたら、ドラゴンなどよりも高い高度まで行ったのだから!」

「ですが、その方法がわからなくては…」

「実験体もいないのだしな…」

 

 議論しているメイジたちの目を盗んで置かれていた資料に目を通すと、どうやら空を飛ぶための装備品の研究をしていたようだった。

 概念図を見てみると、人に無理やりグライダーを取り付けたようなものや、気球を取り付けたようなもの、あるいはどこかで見たような形状のものがあった。

 

####アプローチを発見####

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『資料によれば、これは風の魔法が使えないメイジでも空を飛べるようという研究をしているもののようね。アカデミーではいろいろなものを研究しているというわけかしら。

 それに、資料に乗っている「空を舞う衣」というのは書かれているイラストから推測すると、ひょっとしたらフルトン回収システムかもしれない。これは使えるかもしれないわね、探してみたらどう?』

 

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 何とも古風なものだ、と思う。

 フルトン回収システムは地上の人間を航空機で回収するという目的のためにアメリカで開発されたものだ。バルーン、ケーブル、専用のスーツハーネスで構成されている。ヘリウムガスで膨らんだケーブルとスーツハーネスにつながったバルーンを浮かべ、それを航空機がフックで引っ掛け乗員を引き上げるという何とも乱暴な回収システムである。当然、引き上げ時の衝撃など多数の問題があり、またヘリコプターの発達などもあって廃れたものだ。まさかこの世界にそれが存在するとは思わなかった。

 だが、それはあくまでもバルーンを浮かべるだけであって、人を打ち上げて回収するというものではない----はずである。なぜだか、それで空に打ち上げられて回収されていく兵士の姿がやけに鮮明にイメージできてしまった。ともあれ、それを装着させられていきなり高高度に飛び上がったらパニックを起こしてしまうだろう。そこから落下すれば間違いなく死ぬ。

 これを用いるとして、必要になるのはそのフルトン回収システム本体。そして、事故を起こすだけの改造を施すことだ。

 先ほどの会話によれば、保管庫にそのフルトン回収システムは存在するらしい。それを使えば、ターゲットを高高度まで打ち上げてしまえるのではというわけだ。

 話に出てきた保管庫はすぐに特定ができた。人の出入りは少ないものの警備兵がおり正面から入るのは難しかったが、窓が開けられていたのでそこから侵入できた。あちらこちらにある箱を開けて探していくと、やがて明らかに現代的な道具が顔をのぞかせた。外側を覆う袋にドクロのようなマークの描かれたものだ。これはどこの国の物だろうか、と私は疑問に思った。

 

 

####情報を入手####

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『フルトン回収システムを発見したようね……けど、状態はあまり良くないわ。修理できるかしら?』

 

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 近場に作業台があったので、周囲をうかがいながらも修理を行う。なぜかワイヤー自体は非常に短かったので、そのままにする。締め付けの緩んでいたネジやその他の個所を締め、動きが悪いところを近場にあった資材で修復していく。バルーン自体に関しては多少の劣化はあれども破れなどはなかった。頑丈なのが救いになったのだろう。だが、残念ながら一部の機能---夜間でも位置をわかりやすくするための発光装置などは修復できなかったが、それで構わないだろう。

 だが、問題なのは浮力を得るための手段だ。一緒になっていたヘリウムガスのタンクは破損していたため、中身はすでに空になっていた。そのことをダイアナに伝えて相談することにした。

 

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『浮力を得る方法?

 それなら、ハルケギニアでは確か浮力を得る手段として風石というものが使われているらしいわ。それを組み合わせてはどうかしら?』

 

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 問題は風石がどこにあるか、だ。

 だが、あの研究員たちが言及していたということはそれがあることは確かということ。確か第二保管庫にあると言っていた。場所はわからないが、今私のいるような保管庫なのだろう。一先ず修繕したフルトン回収システムを元に戻しておくことにした。これを今の私が持ち歩くのは悪目立ちする。

 いったん窓から外に出ると、周囲をうかがいながらも第二保管庫を探していく。幸いにして途中で簡易の案内図があったので、それを参考にして急ぎ足で向かう。

 案の定というか、第二保管庫は厳重な警備が敷かれている。だが、相変わらず鍵が開けられた窓にまで気を配っていなかった。おそらくだが、この実験場自体が一般人が入れないようになっていて、そこまで警備をする必要がないのだろう。

 

 内部に侵入すると、こちらは厳重に鍵がかけられたケースがいくつも並んでいた。うず高く積まれているそれらは、全てそういった魔法にかかわりのある資材なのだろうと推測できた。管理表を見つけたので、すぐに風石を見つけることができた。とりあえずどれほど必要になるかは不明だったので、近くにあった袋いっぱいに詰め込むことにした。

 すぐにフルトン回収システムの保管されている倉庫まで取って返すと、バルーンのところに風石を詰め込んだ。完成だ。

 

 出来上がったフルトン回収システムを袋に入れて隠すと、私は何食わぬ顔で外に出る。

 あとはターゲットに装着してもらうだけだ。どれほど飛ぶかは不明だが、元の性能の通りならばこの世界のドラゴンが飛ぶくらいの高度までは行けるそうだ。

 急ぎ足でターゲットがいたテントにまで戻れば、ターゲットは未だにそこにいた。ただ、先ほどよりも疲れが見えている。まあ、楽にしてやろうと思う。

 持ち込んだリモコン式の小型音声発生装置をテントとテントの間の死角に設置するとスイッチを押し込んだ。

 

『いいセンスだ……いいセンスだ……いいセンスだ……』

「……なんだ?」

 

 やたらと渋い声で音声が流れる。これを録音したスタッフは何を考えていたのだろうか?

 ともあれ、ターゲットが音に気が付いたのか、こちらにせかせかとした足音が近づいてくるのがわかる。

 私は用意したフルトン回収システムを袋から取り出すと、いつでも装着させることができるように準備を整えた。

 

「なんだ、誰もいない……?」

 

 音声発生装置に気が付けないのか、不思議そうにきょろきょろとあたりを見渡している。

 そんながら空きのターゲットの背後に忍び寄り締め上げて気絶させるのは簡単だった。

 あとはフルトン回収システムを取り付けるだけ。衣服の上から取り付けると、しっかりと固定する。

 そして、途中で釣糸が切れるように繋ぎ目を弱くしておくのも忘れない。

 

「Bon voyage.」

 

 何となくだが、これを言わなければならないような気がして、フルトン回収システムを起動させた。

 風石の力でふわりと浮かんだそれは、一瞬の停滞を経て、一気に上昇した。

 おかしい、フルトン回収システムとはこれほど勢いよく打ち上げるものだっただろうか?瞬く間にターゲットの姿は遥か上空で点となった。

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああああ!?」

 

 そして、しばらくのちに上から悲鳴と共にターゲットが落ちてきた。当然周囲の人間もそれに気が付いたのだが、その前にターゲットは地面に着弾した後だ。落ちた果実が潰れてしまうような、そんな奇妙な音がした。

 確認するまでもなく、即死だ。高高度から自由落下してきたのだから、もはや原形をとどめているかも怪しいだろう。

 

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『ターゲットの死亡を確認したわ。なんだか、うまく行き過ぎているような気もするわね。ともあれ、脱出して』

 

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「なんだ!?」

「人が落ちてきたようにも見えたぞ!」

「あっちだ、様子を見に行こう」

 

 騒ぎになる前にさっさと退散するに限る。

 私は残った証拠品をすべて回収すると、出口に向かった。

 ちょうどよく実験場から荷物を運び出してほしいとメイジの一人に頼まれたので、そのまま彼女と共に脱出することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---ロンブリエール郊外

 

 

「そのまま動くな」

「……気が付かれていたのね」

「途中から視線が気になっていた。明らかに監視をする目だった」

「ええ。あなたが妙な道具であの男を空に飛ばすのもね」

「何故止めなかった?」

「……そうね、もうアカデミーに属して研究することに嫌気がさしていたから、かしら」

「……」

「あんな不正を犯した男が大手を振って歩けている時点で、もう腐敗も著しすぎるわ」

「なら、他に身を移すというのはどうだ?」

「そんな都合の良い転職先なんて……」

「ICA」

「……?」

「私の所属している組織だ。今腕の良いメイジを探している」

「……そう、これも何かの縁かしらね。なら、お願いできるかしら?」

「わかった。……今、迎えを呼んだ。このままここで待っていてくれ」

「ありがとう。あなた、名前は?」

「47と呼ばれている」

「そう。私はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール、エレオノールと呼んで頂戴」

「なるほど、この土地を治めているヴァリエール家の娘か」

「あら、知っていたのね」

「下調べでな」

「そう。それじゃあ、いったんお別れね」

「ああ、機会があれば……また会おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

 

 

 

評価:☆ ☆ ☆ ☆ ☆:サイレントアサシン

 

・私は輸送業者       +2000 『輸送業者に変装してスタートし、一度も服装を変更しない。』

・空を飛ぶために必要なこと +2000 『風石を探して発見する。誰にも見つかってはならない』

・鳥になってこい!     +5000 『修復したフルトン回収システムでターゲットを打ち上げ、落下死させる』

・蛇は潜入を好むものだ   +3000 『2つの保管庫に発見されることなく潜入する』

 

 

 

 




 今回はゼロの使い魔とのクロスオーバーとなりました。……いえ、厳密に言えばMGSとBF4もですね。

 元々は、書いている段階では爆死してもらうつもりだったのです。
 ですが、なんとなく風石とか面白いなーとか、他の世界から物品が流れ着くこともあるんだなーとか考えてしま子、興が乗ったのでフルトンで事故死してもらいました。ついでにここぞとばかりにネタをぶち込んでごった煮にしてしまいましたw
 しかし、これだけのネタ暗殺をやっても本家のバカゲー加減には追い付けないという恐怖。公式が最大手というか、なんというか(サピエンツァの赤と緑の配管工を見ながら)。

 次の投稿の予定に関してはロケーション、投下時期ともにまだ未定です。
 今回は筆がノリましたが、基本遅筆なもので……
 次回もお楽しみに。


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