なろう作家がエリート東大生に転生してみた (日本のスターリン)
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1章 冒険の始まり

 主人公・尾図羅冬彦三は成績優秀な優等生の高校生であった。

 しかし、全教科オールマイティな完璧人間な訳ではなく、体育・音楽・家庭科が苦手であった。

 彼は筆記試験は得意だが、運動音痴・音痴・不器用なのである。

 彼が体育で唯一得意だったのは徒競走と長距離走ぐらいで、足の速さだけには自信があり、自称「宇宙一の逃げ足の速さ」である。

 また、天才的な頭脳を持つわけではなく、彼の優秀な成績は努力の賜物である。

 彼は典型的ながり勉タイプであり、彼は天才ではなく、秀才といった所か。

 努力の甲斐があり、去年彼は東大に入学した。

 そんな彼はなろう作家でもある。自称「異世界から東大生に転生したなろう作家」である。

 彼の作品は数十作にも上るが殆どがブクマ数2以下で、またどれも完結せずに1年以上も放置されており、彼には文才も無かったようだ。

 彼は今東大2年生で、冒険サークルに入っている。

 

 冒険サークルのメンバーは、冬彦三と庭塚豪と黒裂木黒鈴の三人だけである。

 リーダーは冬彦三であり、サブリーダーは女性メンバーの黒鈴である。

 黒鈴は容姿端麗であり、長くて鮮血のように赤いストレートヘアーを足元まで伸ばしている。

 彼女も文武両道とはいかず、運動はめっきり駄目である。天は二物を与えなかった。

 なお、彼女も冬彦三同様、逃げ足だけは早い模様。

 そして、もう一人のメンバー庭塚は文武両道、体育・美術・音楽・家庭科全てにおいて苦手科目なし。

 全教科オール5。しかし、やはり天は二物を与え無いようで庭塚は酷く不細工である。

 不細工な顔のパーツの寄せ集めみたいな顔をしており、歯は最近矯正がとれたばかりだ。

 おまけに太っているため、冬彦三からは「微笑みデブ」「にやけデブ」等と呼ばれている。

 二人とも冬彦三の高校からの同級生だ。

 二人はリーダーの冬彦三を「委員長」というあだ名呼ぶ。

 冬彦三は高校の頃3年間毎学期、学級委員長をやっていたのだ。

 そのため同級生からは本名ではなく委員長と呼ばれる事が多かった。

 

「黒鈴!微笑みデブ!こんな話を知っているか?」

「知らない」

「まだ何も言っていないって!」

「どうせまた下らないガセネタでしょ」

「今回のはガチだって!朗報だぞ!」

「委員長の朗報は朗報だった試しがない」

 

 冬彦三は無視して話を続けた。

 

「マルコ・ポーロの『東方見聞録』の没案のメモが見つかったんだ!」

「没案?」

 

 庭塚は懐疑気味に聞いた。

 

「『東方見聞録』のジパングの記述・・・つまり日本の記述に、下書き用のメモにしか書かれていない、没にされた伝承があったんだ」

「どうして没にしたのかしら?」

(喰いついてきた!)

「下書きの用のメモによると、あまりにも空想的すぎて、この記述を削除しないと『東方見聞録』の信憑性を疑われかねないから没にしたようなんだ」

「それでその没案のメモにはなんて書かれてたの?」

「なんと書かれていたんだ?」

「何でも、『三つの禁呪の飴がこの日本には存在する』との事らしい」

「禁呪の飴?」

「禁呪の飴は丸のみにすると超能力を凌駕した超越能力を得られると書かれている」

「ハイパーエスパーって所か」

「禁呪の飴には3つのランクがあり、銀の飴・金の飴・白金の飴の三種類があり、後ろに行くほど強力な能力が得られるらしい

 また、禁呪の飴は一つ飲み込むと能力が定着してしまい、後から他の禁呪の飴を飲み込んでも、最初に飲んだ禁呪の飴以外の能力を得ることができないそうだ」

「どうしてそんな伝説が日本には残ってなかったのかしら?」

 

 冬彦三はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに得気に話した。

 

「禁呪の飴の起源ははっきりしていないが、神武天皇の時代に生まれたものらしい

 この伝説を知っているのは文字の読み書きができない身分の低い人たちだけの口承でのみ受け継がれていたようだ

 日本では口承でしか受け継がれていなかったから、記録が残っておらず、廃れて消えてしまったのだろう」

「そうだったの……」

「なんか信憑性はありそうだな」

「そうね。だってあのマルコ・ポーロだもの」

 

 黒鈴と庭塚は納得した様子だった。

 

「俺たちで禁呪の飴を見つけないか?」

「面白そう~!」

「にわはははは!!探そうぜ!!」

「俺たちは三人。禁呪の飴はちょうど三つ!三人で超越能力者になろうぜ!」

「それは遠慮しとくわ」

「俺も」

「ズコー!」

 

 冬彦三はわざとらしくコケた。

 

「ノリが昭和ねえ」

「なんでだよ!なぜ!?ホワイ!?」

「私は普通の女の子で居たいの。超越能力者になるなんて怖いわ」

「俺も。その禁呪の飴には興味があるが、別にハイパーエスパーにはなりたくない」

「なんだよ。シケてんなぁ。まぁいいや。禁呪の飴を探す気があるなら問題ない!みんなで探しに行こうぜ!」

 

 三人は冒険に出かける準備をはじめた。



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2章 トレジャーハント

「本当にここであってるの?」

「神武天皇の時代に禁呪の飴が生まれたという伝承が残っているくらいだ

 神武天皇の所縁の地に禁呪の飴があると考えてもおかしくはない」

 

 冬彦三・黒鈴・庭塚の三人は神武天皇が崩御されたという山奥を探検していた。

 

「しっ!誰か来る!」

「木陰の中に隠れるのよ!」

 

 三人は木陰に身を寄せた。そこへ屈強な男二人が現れた。

 

「こんなところに本当にあるのかなぁ?」

「伝承には神武天皇の名前が記されていた。神武天皇に関連する場所に絶対に禁呪の飴があるはずだ!」

 

 それを聞いた冬彦三は小声で呟く。

 

「やっぱり考える事は皆同じかー」

「でもなんだか信憑性が沸いて来たわね!」

「他の人に先を越されないようにしないと!」

「誰だそこに居るのは!」

 

 男二人が冬彦三たちに気が付いた。

 

「大声を出すから…」

「さては、お前たちも禁呪の飴を探しに来たのだな!」

「横取りされてなるものか!」

「ちょ、ちょっとタイム…話し合いで解決を…」

 

 しかし、二人は聞く耳を持たない。

 

「いくぞ!蝦藁!」

「おう!澤村!」

 

 蝦藁という男は海老の尻尾のような髪型をしている。

 一方、澤村という男は、スキンヘッドで目の周りに真っ黒なアイシャドーを塗っている。

 蝦藁は冬彦三に殴りかかった。

 

「ひいいいい!!!」

 

 冬彦三はお得意の逃げ足で回避した。後ろにあった木に蝦藁のパンチが当たり、その木はへし折られてしまった。

 

「なんと!」

「これが俺の自慢の攻々勢パンチだ!」

 

 澤村も冬彦三にキックで襲いかかった。

 

「なんで俺ばかり!?」

 

 冬彦三はまたしても逃げ足の早さで逃げきった。後ろにあった岩に澤村のケリが炸裂し岩が粉々に砕け散った。

 

「ばかな!!」

「どうだ!?俺の崩刑キックは!?」

 

 冬彦三と黒鈴は自慢の逃げ足の速さでなんとか逃げきった。

 

「あら?庭塚くんがいないわ!?」

「逃げ遅れたか!」

 

 冬彦三と黒鈴は慌てて引き返した。

 

「にひゃひゃ!仲間に見捨てられたか…」

「委員長と黒鈴さんはそんな事する人達じゃない!」

 

 蝦藁は連続ジャブを繰り出した。

 庭塚はお得意の運動神経で全てガードして受け流した。

 

「にひゃ!やるではないか!」

「だが二人がかりならどうかな?」

 

 澤村は庭塚を後ろから羽交い締めにした。

 

「二対一なんて汚いぞ!」

「黙れ!お前はもうおしまいだ!」

「まてええええええ!!!」

 

 そこに冬彦三が駆けつけた。少し遅れて黒鈴も到着した。

 

「三人居ようが、俺たちには敵わない!」

 

 澤村は庭塚を離し、冬彦三に襲い掛かろうとした。

 

「今だ!」

 

 庭塚は澤村にスタンガンを当てた!

 バリバリ!

 

「いぎゃああ!!」

 

 澤村は気絶してしまった。

 

「そこまでだ!」

 

 蝦藁が黒鈴をヘッドロックしていた。

 

「こいつがどうなってもいいなら…」

「ふざけるんじゃないわよおおお!!!」

 

 黒鈴は催涙スプレーを蝦藁の顔に塗した。

 

「ぐおおおおお…!!!」

「今の内だ!皆逃げるぞ!!!」

 

 三人は逃げ出した。

 

「二人なら助けに戻ってきてくれると思っていたよ」

「当たり前じゃない!私たちは大親友だもの!」

「そうさ!

 ………それにしても、二人ともなんて物騒な物を持っているんだ?」

「これか?これは護身用だ」

「冒険するならこれくらい準備しておかないと!」

「委員長は何も持って来なかったのか?」

「え?懐中電灯とカメラだけ…」

 

 二人は呆れてしまった。

 

「と、とにかく先を急ごう!」

 

 三人は山奥を進んだ。進みながら庭塚は虫笑いした。

 

「またニヤけている…」

「あんまり微笑まないでぇ~」

 

 庭塚は時々虫笑いするから、微笑みデブというあだ名が付けられたのだ。

 さらに先に進むと、洞窟があった。

 

「あの洞窟の中を調べてみよう!」

 

 洞窟の中に入ろうとすると洞窟の中にはすでに先客がいた。

 またしても屈強な男が二人いた。

 一人は親指が両手に2本ずつある男である。普通の親指と対になる様に小指の隣にもう1本の親指が両手共に生えているのだ。

 そして、もう一人は左手が右手で右手が左手の男である。文字通り、左手に右手が付いており、右手に左手が付いているのだ。頭が180°回転しているかのような錯覚をしてしまうように左右の手が入れ替わっているのである。

 

「お前たちも禁呪の飴を狙うトレジャーハンターか!」

「あれは俺たちの獲物だ!悪いがお前たちには消えてもらう!」

「くそ、またかー!」

 

 三人は逃げ出した。しかし、二人はものすごい形相で追ってきた。

 黒鈴はお得意の逃げ足で逃げきれたかの様に思えたが、左手が右手で右手が左手の男は黒鈴のすぐそばまで追いついてきた。

 

「まてえええええええ!!!!!!」

「きゃああああああああああ!!!」

 

 黒鈴は逃げるが、左手が右手で右手が左手の男は物凄いスピードで黒鈴に迫る!

 

「委員長よりはやーい!」

「当たり前だ!俺は陸上の名選手!200m走の日本記録保持者なんだからな!」

 

 左手が右手で右手が左手の男は黒鈴の長い髪の毛を捕まえた。その男は黒鈴を引きずり寄せた。

 

「きゃあああ!髪を引っ張るなんて!髪は女の命なのよ~!」

「うるせー!トレジャーハントに男も女もあるか!」

 

 一方、冬彦三も親指が両手に2本ずつある男に追われていた。

 

「ぐっ…、こいつ、宇宙一の逃げ足を誇る俺に追いついてきてやがる!」

「じゃあ俺は宇宙一の追い足ってことかな?」

 

 足の速さは親指が両手に2本ずつある男の方が上手だった。何を隠そうこの男は200m走で第2位の日本記録保持者なのだ。

 しかし、冬彦三は捕まらない!

 木々を障害物として駆使し、なんとか撒いてみせた。

 

「ヤロー、どこへ行きやがった!?」

 

 冬彦三はすぐそばの小木の中に身を潜めていた。

 

「出てこーい!!!出てこないとこれを爆発させるぞ~!!!」

 

(な?!)

 

 親指が両手に2本ずつある男はダイナマイトとライターを手にしていた。

 

(まずい!しかし、まだ火はつけていない…

 今の内になんとかしないと…

 くそ!こうなったらやぶれかぶれだ!!!)

 

「こっちだ~!!!」

 

 パシャッツ!!!

 

「うぉ!?まぶしっ!」

 

 冬彦三は懐中電灯とカメラのフラッシュで親指が両手に2本ずつある男を目くらましした。

 

 さらに懐中電灯を男に投げつけた!

 懐中電灯はその男の頭に激突した。男は怯んだ。

 

 その隙に冬彦三は体当たりし、その男からダイナマイトとライターを奪いとった!

 バランスを崩したその男は丘を転げ落ちていった。

 

「よし、これは使える!」

 

 冬彦三は洞窟の前に戻った!

 

「おーい!トレジャーハンター!出てこーい!さもないとダイナマイトを爆発させるぞー!」

 

 ガサッ!

 

(来た!?)

 

「ま、まて!お、俺だ!」

「なんだ微笑みデブか」

「ずっとここに隠れていたんだ

 凄い物見つけたな。ダイナマイトだなんて!」

「トレジャーハンターから奪いとったんだ」

「流石トレジャーハンターというだけあって良い物持っているなぁ」

「そこまでだ!!!」

 

 黒鈴を羽交い締めにした左手が右手で右手が左手の男が現れた。催涙スプレーはその男に奪われているようだった。

 

「こいつがどうなっても良いのか?」

 

 その男の両手にはサバイバルナイフが握られていた。

 

「黒鈴!」

「黒鈴さん!」

 

「こいつを助けたかったら、今すぐそのダイナマイトで自爆しろ!」

「うぅ…

 冗談じゃないわよーーー!」

「騒ぐな!」

 

 その男は黒鈴の首にナイフを突き立てた。

 

「委員長!私はどうなっても良いからダイナマイトをこの男に投げて!」

「な!?」

 

 その男は驚く。

 冬彦三も少し悩んだような表情を見せたが、すぐに頷いた。

 

「分かった!」

「おい!まて!

 おい!そこのデブ!そいつにそんな事をさせていいのか?」

「庭塚くん…!」

「俺は信じる…!

 委員長!早くダイナマイトをあの男に投げるんだ!」

「ああ!!」

 

 冬彦三はダイナマイトに火を付けた。

 そして左手が右手で右手が左手の男と黒鈴の方目掛けてダイナマイトを放り投げた!

 

「シット!!!」

 

 男はナイフと黒鈴を放り出し逃げようとした。

 と、同時に、黒鈴は逃げだしていた!

 

ドカーン!!!

 

 その男は爆発に巻き込まれてしまった。

 

「ふぅ…間一髪だったわ…」

 

 黒鈴は見事爆風から逃げおおせていた。

 

「お前の逃げ足の速さならダイナマイトの爆発から逃げてくれると信じていたよ」

「俺も!」

「私も、私の逃げ足の速さを信じて本当にダイナマイトを投げてくれると信じてたわ!

 彼が逃げ遅れたのは、まさか本当にダイナマイトをこちらに投げてくるとは思わなかった事ね」

「仲間との信頼があったからこそ紙一重の差で逃げきれたんだな」

「ええ、足の速さでは彼の方が上だったけれど、あなた達を信頼してたから私は助かったのよ」

「そうさ!俺たちはいつだって信頼し合っていたから、いつもどんな苦難も乗り越えられてきたんだ!」

「さぁ、先に進もうぜ!」

 

 三人は洞窟の中を進んだ。

 洞窟の奥を進むと、左右に分かれた分岐点に出くわしてしまった。

 

「右と左…どっちに進めば良いのかしら?」

「右手の法則で右がいいんじゃないか?」

「私は左の方が良いと思うわ。こちらの方が入り口も広いし…」

「じゃあ間を取って真ん中で!」

 

 冬彦三はその場を茶化した。

 

「も~う委員長!」

「真面目に考えてよ~」

 

 しかし、冬彦三はふざけて真ん中の岩壁を押し進めた。

 

ゴゴゴゴゴゴ…

 

「何の音!?」

「俺がここを押したせいか!?

 二人も手伝ってくれ!」 

 

 三人で真ん中の岩壁を押した。

 

「いっせーのーで!!!」

 

 ゴゴゴゴーーーーー!!!!

 

 すると岩壁が開き真ん中に道ができた。

 

「きっとここだ!ここに禁呪の飴があるに違いない!」

「行ってみましょ!」

 

 奥へ進むと白く輝く、小さな球状の物体があった。

 

「あれよ!きっとあれに違いないわ!」

「やった!ついに禁呪の飴を発見したぞ!」

「本物か?!」

「間違いないでしょ。禁呪って書かれてるわ」

「やったな!みんな!」

「にわははははははは!!!禁呪の飴ゲッツ!!!」

 

 三人は大喜びした。

 

「この白い光沢はまさか白金の飴か!?」

「いや、よく見たら銀って書かれているな」

「どうやら残念ながら最弱の飴を発見してしまったみたいね」

「どうするんだ?丸のみするのか?」

「最弱の能力かー…。これを口にすると他の禁呪の飴の能力を得られなくなってしまうんだよなぁ…

 他の禁呪の飴ならもっと強力な超越能力を得られるかも知れない…

 一度最弱の禁呪の飴を飲んでしまうと、他の禁呪の飴を見つけてももう超越能力は得られない…」

 

 冬彦三はしばらく悩んだ。しばらく悩んだ末、ふと思いついた。

 

「そうだ!

 他の禁呪の飴は見つけ次第破壊してしまえばいいんだ!

 他の禁呪の飴がなければ俺が最強の禁呪の飴を手に入れたも同然だ!

 俺って頭良い!」

「ちょっと、もっとよく考えてから…」

 

 冬彦三はもう銀の飴を飲み込んでしまっていた。

 

「ごくん!

 あー美味しかった!今まで食べた物の中で一番美味しかった!」

「あ~あ、飲み込んじゃった」

「も~、どうなってもしらないわよ!」

 

 冬彦三は突然金色に光り出した。冬彦三は髪が逆立ち、目つきも顔つきも別人のようになった。

 

「なんだ貴様ら」

「委員長!?」

「委員長、俺たちの事が分からないのか?」

「委員長?それがこの体の名前なのか?」

「いいえ、違うわ、あなたは冬彦三よ」

「委員長はお前のあだ名だよ」

「成程。僕の相棒となる宿主の名前は冬彦三か。よろしくな下僕ども」

「げ、下僕!?」

「全く別の人格が乗り移ったみたい…」

「沈まれ!もう一人の俺!」

 

 冬彦三は元の人格・風貌に戻った。

 

「どうやら銀の飴は超越能力を得られる代償として別人格まで入り込んでしまうようだ…」

「やっぱり食べなくてよかったぜ…」

「何はともあれ他の禁呪の飴を探そう。それと、もう一人の俺と超越能力をコントロールできるように特訓だ!」

 

 冬彦三は次の目標に向けて邁進した。



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3章 連続殺人

 冬彦三は必死に能力を制御しようと特訓した。

 まずはもう一人の自分との対話から始めた。

 

「現れろ!もう一人の俺!」

 

 冬彦三は髪が逆立ち、金色に光った。冬彦三はこの姿を「戦闘形態」と呼んだ。

 

「何だい、もう一人の僕」

(お互いの記憶を共有しよう。こう見えても俺は頭はそこそこ良い)

「努力型っぽいがな」

(ご名答。俺と二人で協力し合えばお前ももっと強くなれるぞ)

「僕もその考えには賛同だ。君はもう一人の自分。僕は君であり、君は僕だ」

 

 冬彦三は毎日少しずつもう一人の自分と対話を重ねていった。

 

「お前の事についても色々教えてくれよ」

(僕はこの体に宿る前、こことは全く別の世界にいた。僕は異世界から君の身体に転移してきたんだよ)

「なんだって?」

 

(僕は異世界のヘイルという国の開拓使だった。蛮族な先住民の反抗を武力で制圧する開拓使のリーダーだったんだ

 異世界ではみんな普通に超越能力が使えた。超越能力については詳しくは思い出せないが、僕の超越能力はその国では皇族を除いて五本の指に入る強さだった

 しかし、配下だった下僕に裏切られて、寝首を掻ききられた

 気が付いたら謎の空間から謎の声が聞こえ、『貴方は偉大な功績を残したため、褒美として異世界の別の人物の身体に転生できる』と言われた

 『異世界の別の人物の体に転生し、天命を全うしたと判断されれば、前世の記憶を引き継いだまま元の世界の皇帝に生まれ変われる』と言われた

 もちろん僕は迷わずイエスと答えた!)

 

「まさか、本当に異世界からの転生なんて事があるんだな」

 

 なんと、もう一つの人格は異世界から転生してきたモノだったのである。

 かくして、冬彦三は本当に異世界から転生した東大生になってしまったのだった。

 冬彦三ともう一人の自分は対話を重ね互いに信頼関係を築いた。

 こうして冬彦三はもう一つの人格を制御できるようになっていった。

 さらに、超越能力を試す訓練もした。

 

(成程、超越能力は肉体を強化し、人並外れた身体能力が得られるのか)

「さしずめ、超越人《ハイパーマン》って所か」

 

 禁呪の飴で得られた能力は人体構造を無視したレベルに肉体を強化すると言う物だった。

 冬彦三は日々、超越能力で肉体を強化する修行をし、その超越能力を成長させていった。

 また、修行がてらに遠出し、他の禁呪の飴を探すのも怠らなかった。

 そうして月日が流れていった…。

 

 冬彦三は超越能力の特訓と特技の逃げ足の速さを磨き続けていた。

 そんなある日、大学内で殺人事件が起こってしまう。

 なんと突然大きな岩が飛んできて、一人の学生の頭に激突したのだ!

 風で飛ばされるような大きさの岩ではなく、どこからか降ってきたわけでもない。

 被害者には岩で殴られたような傷跡が残っていた。これは立派な殺人事件である。

 しかし、目撃者は多数いたが、誰一人犯人の姿を目にしていなかった。

 この日を境に、全く同じ手口の殺人事件が次々と起こってしまう。

 

「これって…」

「そうよね…」

 

 庭塚と黒鈴は冬彦三に相談しにいった。

 

「お前たちの言いたい事は分かっている

 ここ最近学内で起こっている連続殺人…」

「この犯人って禁呪の飴を得た超越能力者なんじゃ…?」

「普通の人間には不可能な犯行だわ」

「そう…超越能力でもない限り…」

 

 三人は頷いた。三人とも同じ気持ちだった。

 

「犯人を突き止めましょ!」

「犯人はこの学内にいる!」

「微笑みデブ!黒鈴!情報を集めるぞ!」

 

 三人は事件の情報について集め始めた。

 しかし…事件の情報を集めている最中にも殺人事件は続き、衝撃的な悲劇が起こってしまう。

 庭塚が殺されてしまったのだ!

 

「ねえ!聞いた?」

「ああ…」

「庭塚くんが殺されたんですって!」

 

 二人ともあまりの衝撃の大きさに動揺している。

 庭塚が殺されたのは他の被害者と全く同じ手口だった。どう考えても同一犯の仕業だった。

 

「絶対に俺たちで犯人を見つけるぞ…」

「ええ!」

 

 二人は決心した。



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4章 聞き込み

 被害者の個人情報は伏せられていたが、この連続殺人事件は連日のように報道され、「テコの原理で岩を飛ばしたのではないか」「複数のドローンを使って岩を落としたのではないか」「数人がかりで岩を投げたのではないか」などとテレビなどのマスメディアが取り上げ、様々な憶測を呼んだ。

 警察やマスメディアの多くは常人の犯行だと推理していたのだ。しかし、黒鈴と冬彦三は違っていた。

 超越能力者が実在すると知る者だからこそ、超越能力者の犯行だと断定したのである。

 黒鈴と冬彦三は集めた情報を整理した。

 被害者についての情報である。

 

「共通点は全て2年生って事ね」

「他には特に共通点はなさそうだなぁ」

 

 二人は被害者の情報を纏めた紙を見た。

 

 

・庭塚豪 

 魔理根高校出身。冒険サークル所属。趣味:ネットサーフィン。 第七の被害者

 友達は少なく冒険サークル以外の人間関係はない。

 髪は茶色に染めていて、ピアスもしている。

 

・木矢利井チャン

 小南高校出身。所属サークルなし。趣味:カラオケ 第二の被害者

 1浪して入学。同性の友達は多い。

 ベリーショートで太っており、目は小さく黒ぶちの丸メガネをかけている。

 

・珍義酢寛

 遊戯高校出身。所属サークルなし。 趣味:特になし 第一の被害者

 1年生と2年生で1年ずつ、2年留年。友達は居ない。

 髪は天パのショートヘアで、顎がしゃくれており、鼻の下には大きなコブがある。

 

・虹村我苦斗

 バザール高専から編入(3年生だが実質2年次編入なので2年生扱い)。音楽サークル所属 趣味:バンド 第五の被害者

 男女ともに友達が多く、交友関係が広い。

 ボウズ頭の小太りで、目はギョロっとしていて人中が濃く猿のような顔をしている。

 

・出川アキ子

 吉本高校出身。漫画研究サークル所属。趣味:遊戯王・MTG 第三の被害者

 男女ともに友達が居るが交遊関係は狭い。友達は殆どサークル仲間。

 ボブカットの長身でスレンダーなやせ型であるが、糸目で鼻フックしているかのような大きな鼻の穴で、吊り上がった鼻をしている。

 

・馬蚊門太

 ミリオネア高校出身。クイズ研究サークル所属 趣味:クイズ 第四の被害者

 男友達は多い。他校の学生との交友関係も広い。

 パーマをかけた髪は肩まであり、ガリガリでネズミのような顔をしている。

 

・貝利木あかね

 乱馬高校出身。お笑いサークル所属。 趣味:なし 第六の被害者

 友達は殆どいない。無口でシャイな性格。

 ショートヘアで髪は金髪に染めており、顔はニキビとそばかすで覆われている。

 

「見た感じ出身校もサークルもバラバラで特に共通点はないわね」

「被害者同士に交友関係は特になかったらしい」

「まさか、無差別に襲っているのかしら?」

「通り魔的犯行か。ならば2年生だけを狙うのはなぜなのか…」

 

 二人は犯行動機を見いだせなかった。

 

「多分、犯人も2年生だと思う」

「そうね。私もそう思うわ」

「よし!2年生に聞き込みを開始してみよう!」

「お互いに情報を共有できるように録音しながら聞き込みをしましょ!」

 

 二人は二手に分かれて聞き込みを開始した。

 冬彦三は、碁戸市シンジに聞き込みを開始した。

 シンジは典型的ながり勉くんのような風貌だった。

 

「殺人事件の被害者について何か知らねえか?」

「事件自体は知っているけどさ。顔も名前も誰一人知らないな」

「じゃあ犯人について心当たりは?」

「加瑠戸改字じゃないかな?彼は海外の暴力ドラマや暴力ゲームが好きだしな」

「改字とは親しいのか?」

「高校が同じで3年の時にクラスメイトだっただけで俺は別に親しくない

 彼は見た目通り力も強いし岩を遠くから投げ飛ばせるだけの腕力があるんじゃないか?」

 

 冬彦三は次に、加瑠戸改字に話を聞いた。

 改字は色黒でボディービルダーのようなマッチョである。

 

「殺人事件の被害者について何か知っているか?」

「ふはははは、探偵ごっこかい?」

「親友が殺されたんだ!!!」

「おっと、それは失礼。僕も友達を殺されたよ

 そこまで親しかったわけじゃないが、我苦斗とは何かも話したことがあるよ。昼食も何回か一緒に食べた」

「他の被害者については?」

「顔も名前も知らないなぁ」

「虹村我苦斗はなぜ殺されたと思う?」

「さぁ?結構うざったい性格だったからねえ」

「犯人について心当たりはあるか?」

「ないね。そんな人ここにいないだろう」

 

 冬彦三は近くにいた苦疎辺ミッキーに話を聞いた。

 ミッキーは学年一の美青年だった。

 

「殺人事件の被害者について何か知っているか?」

「顔と名前しか知らない。珍義酢寛・木矢利井チャン・出川アキ子・馬蚊門太・虹村我苦斗・貝利木あかね・庭塚豪の七人だろう?」

「よく知っているね」

「まぁね」

「被害者たちはなぜ殺されたと思う?」

「さぁね」

「犯人について心当たりはないか?」

「そうだね。臼木龍壱じゃないかな」

「なぜそう思うんだ?」

「何となく」

 

 冬彦三は次に、臼木龍壱に話を聞いた。

 臼木龍壱は若ハゲの薄毛気味で、かなり太っている。

 

「殺人事件の被害者について何か知っているか?」

「門太は知っているが他の被害者は顔も名前も知らないなぁ

 被害者については顔も名前も報道されていないからね」

「馬蚊門太とは親しかったのか?」

「1年生の頃からの付き合いだよ。門太の家にも何度も行った事もあるし、門太も何度も家に来た事がある」

「馬蚊門太はなぜ殺されたと思う?」

「顔は悪いが性格も頭も良かったし、人の恨みを買うような人じゃなかったよ。殺される理由がない」

「犯人について心当たりは?」

「さっきも言ったが、門太を恨んでいる人なんて絶対いないよ」

「ちなみに苦疎辺ミッキーとは親しいのか?」

「誰だい?それ」

 

 このように冬彦三は次々と聞き込みを続けた。



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5章 超越能力者 vs 超越能力者

 龍壱は呼び出されて、空き家の邸宅の人気のない裏庭にいた。

 ラブレターを貰ったのである。

 

「くっそっそっそっそ!」

 

 変な笑い声に龍壱は振り向いた。

 覆面を被った男が大きな岩を拾って立っていた。偽のラブレターで龍壱をおびき出したのはこの男である。

 

「誰?」

 

 男は答えず、龍壱の頭に目掛けてその岩を投げつけた!

 

「そこまでだ!!!!」

 

 男の跡をこっそりつけていた冬彦三が龍壱を押し倒した。

 岩は後ろの木をへし折った。

 

(しまった!誰も見ていないと思って、堂々と殺そうとしたのが裏目に出たか…)

 

 冬彦三は立ち上がった。冬彦三と一緒に後をつけていた黒鈴は龍壱を逃がした。

 龍壱は一目散に逃げて行った。

 

「やはりお前が連続殺人犯だったか、ミッキー!」

「まさか尾行されていたとはね。なぜ僕だと分かったんだい?」

 

 ミッキーは覆面を外した。

 

「お前だけだったんだよ。被害者全員の顔と名前を知っていたのは」

 

 冬彦三は自分の推理の解説を始めた。

 

「他の人に聞き込みをしても全員の顔をと名前を知っている人は居なかった

 当然だよな。被害者同士はなんの交友関係も繋がりもないんだから

 被害者同士の横繋がりが無いから被害者を一人知っていても他の被害者までは全く知らない

 被害者は顔も名前も報道されていないから、よほどの理由がない限り全員の名前と顔なんて知らない

 俺や黒鈴のように親友を殺されて調べでもしなきゃな!」

 

 ミッキーは動じない。

 

「お前は被害者の顔と名前しか知らず被害者たちとは一切交友関係がなくて、親友を殺されたわけでもないのに全員の名前を挙げた

 しかも、お前は殺された順に正確に名前を挙げていた!

 俺と黒鈴でさえも正確に覚えていなかった順番通りにな」

「私と委員長も最初は気が付かなかったわ。でも録音してた聞き込みを何度も聞く内にそれが被害者の順番と完全に一致してる事に気が付いたの」

 

「それだけか?

 それだけで僕を犯人だと疑ったのかい?

 被害者の顔と名前は調べていたのかも知れないし、その時順番も覚えたのかも知れない。そもそも偶然順番通りに名前が挙がっただけかもしれない」

 

「たしかにな。それだけでは確信は持てなかった

 だがそれだけでも疑う理由としては十分だった。他に容疑者が浮上しない以上マークするには十分な嫌疑だ

 嫌疑はあるが証拠はない。ならば現行犯を押さえるしかない!」

 

「くっそっそっそっそ!!

 見事だよ!ファンタスティック!」

「ふざけるな!!!」

 

「やれやれ、完全犯罪だと思ったのに見つかってしまうとはね

 完全犯罪があまりにも簡単すぎるから、バカバカしくなって覆面姿に犯行スタイルを変えた途端見つかるとは、僕は運が悪すぎる」

 

 反省の無い態度に冬彦三の怒りは頂点に達した。

 

「オメーを警察には突き出さねえ。テメーは俺が直接片付けて、仇を討ってやる!!」

「どっちにしろ警察になんか捕まらないよ。超越能力を使えばね

 でも警察から逃走したら、この東大ライフを棒に振る事になるからその方が僕としても都合がいいけどね」

「テメーを殺す前に一つだけ聞きたい事がある」

「何だい?」

「なぜ微笑み…いや、なぜ庭塚を殺した!?」

 

 ミッキーは真顔で答えた。

 

「キモいから」

 

 冬彦三は耳を疑った。

 

「なに?」

「顔がキモいから」

 

 冬彦三は混乱した。

 

「何をいっているんだ?」

「だから!毎日あんな不細工な顔を見るのが気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がないから、殺したんだ」

 

 冬彦三はようやく状況を飲み込み、それと同時に激しい怒りが込み上げてきた。

 

「そんな理由で殺したのか?!」

「うん。キモいから」

「ふざけるな!そんな下らない理由で人一人の命を奪って良いと思っているのか!?」

「うん

 ただ、人一人と言うのは違うよ

 僕が殺してきた人物たちは皆か顔がキモイから殺したんだ」

「なん…だと…」

「あいつらの、あの気持ちが悪い顔……

 毎日見るたびにイライラさせられた

 講義で見かけるたびに…廊下ですれ違う度に…食堂で見かける度に…トイレで隣り合わせになる度に…

 あいつらの不細工な顔が目に入るだけでストレスだった…歯を食いしばるくらい苦痛だった…

 あいつらの不器量な顔を見ていると飯が不味くなる…歯を食いしばりすぎて歯が全て抜け落ちてしまいそうな毎日だった

 声を聞くのも嫌で嫌で仕方がなかった」

「だから殺したっていうのか?」

「うん」

「こ、このヤロー!」

「僕より不細工な奴は全員殺す。不細工絶滅計画だ」

「なに勝手な事言ってやがる!お前より不細工な人間を殺そうとしたら人類の半数は居なくなるも同然じゃないか!」

「不細工な奴が悪い。殺されたくなかったら整形しろ。不細工なくせに整形もしない方が悪い」

「いい加減にしろ!!!

 微笑……庭塚は確かに不細工だった…。お世辞にも美形とは言えなかった…

 しかし、心は美形だった!少なくともお前よりは!」

「ふん」

「庭塚は確かに不細工だったが、とても良い人だった

 明るくて、面白くて、優しくて、思いやりのある極善人だった

 頭もお前よりずっと良かったぞ!」

「黙れ。成績の良さが頭の良さではない」

「成績も人間としての頭の良さもさ!

 どっちも庭塚の方がずっと上だった!」

「君は美しい。僕の美的センスに合致する君はできれば殺したくない」

「黙れ!貴様がなんと思おうと、僕は庭塚の仇を討つ!」

 

 冬彦三は黄金に光り、戦闘形態に変身した。

 

「む!?まるで別人のように!?」

(しかし、この顔もやはり美しい。殺すのは惜しいな…)

 

 ミッキーは超越能力を使い殴りかかってきた。

 冬彦三はすかさず避けた。

 

「む!?はやい!?」

「死ねえええええええ!!!!」

 

 冬彦三は超越能力を使い飛び蹴りした。

 ミッキーはかわしきれずに腹に一撃を受けた。

 

「そうか。君も禁呪の飴の能力を得たハイパーエスパーなのか」

「今更気が付いたか!」

「ミッキーは能力を発動しても全く人格が変わった様子がないわ…

 ミッキーは能力を使っても人格が変わらないって言うの?!」

「そうか、やはり君は別人格か。それも君が禁呪の飴で得た能力なのか?」

「やっぱり銀の飴は外れだったのね。それで別人格と入れ替わるって言う余計なデメリットがついてたのね…」

「くっそっそっそっそ!君は最弱の銀の飴のハイパーエスパーだったのか!!」

「余計な事を!」

「ごめんなさい!」

 

 冬彦三は開き直った。

 

「そうだ!僕が食べたのは最弱の銀の飴だ!」

「ならば僕も冥土の土産に教えてあげよう。僕が食べたのは金の飴だ!!!」

 

 冬彦三とミッキーは取っ組み合いになった。

 お互いに超越能力で強化した肉体を使い、常識を超えた強さの格闘を繰り広げた。

 お互いに一歩も引かない全く互角の勝負が繰り広げられた。

 ミッキーは一旦距離をとった。

 

「そろそろ僕の飴の能力の真価をお見せしよう」

 

 フッ!

 

「き、消えた!?」

 

 ミッキーは手品のようにパッと姿を消した。

 

「くそ!?どこだ!?」

 

 冬彦三は辺りを見回した。しかし、ミッキーの姿は何処にもない。

 

「ちきしょう!どこへ隠れやがった!?」

「後ろだ!」

 

 バックを取ったミッキーは超越能力を使って回し蹴りした。

 

「ぐはっ!!!

 いつのまに!?」

「まさか瞬間移動!?」

 

 ミッキーはまた忽然と消えてしまった。

 冬彦三はまた周りをキョロキョロと見回すがミッキーの姿は何処にも見つからなかった。

 

「またまた後ろだ!」

 

 ミッキーはまた超越能力を使った回し蹴りをするが、冬彦三はなんとか回避した。

 

(いや、瞬間移動にしては間がありすぎる…。これは…)

 

「ふん。どうやら逃げ足だけは速いようだ」

「生憎この僕の逃げ足の速さは宇宙一でな」

「次はどうかな!?」

 

 ミッキーの姿がまた忽然と消滅した。

 

「いまだ!!!!」

 

 冬彦三はミッキーの居た所一帯に向け砂埃を巻き上げた!

 

「やはりな!」

 

 砂埃の中には人が走る形の空洞ができた。

 

「お前の超越能力は姿を消す事だ!!!」

 

 しかし、砂埃は直ぐに散ってしまい、またミッキーの姿を見失った。

 だが、長めに距離を置いた位置にミッキーが再び姿を現した。

 

「ご名答。肉体を強化させるだけが超越能力ではない」

「こんな便利な超越能力も使えるなんて、流石金の飴の能力者だわ!」

「簡単な殺害方法さ。姿を消し岩をそのまま持って頭を殴るだけ

 目撃者が居ても犯人は分からない。どうだ簡単だろう?」

「タネさえわかればいくらでも対策できる!」

「僕の能力を一つ見破ったぐらいでぬか喜びするなよ」

 

 ミッキーは姿を再び消した。

 冬彦三は自分の両手を切り裂いた。そしてミッキーのいた方一帯に血のしぶきを飛ばした。

 

 ビチャ!

 

 血に染まった地面には人型の跡ができた。

 

「なに!?」

「どうやら目論見は外れたようだな」

 

 透明になったミッキーにかかった血しぶきは、ミッキーの身体に触れた途端透明になってしまったのだ。

 地面の血だまりを移動するのが見えたが、血だまりを抜け出すと再びミッキーの姿を見失ってしまった。

 

「苦肉の作戦…まさに身を切る作戦だったのに残念だったな」

「っく!」

「手負いのお前を倒すなど意図もたやすい!」

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

 冬彦三は雄叫びを上げた!

 

「僕の逃げ足はー宇宙一だあああああああああああ!!!!!!」

 

 冬彦三は逃げ出した。同時に黒鈴もその場から逃げ出した。

 

「『三十六計逃げるに如かず』だ

 うーん、いい言葉だ。座右の銘にしよう」

 

 ミッキーは姿を現し、冬彦三を追ってきた。

 冬彦三は入り組んだ住宅街に逃げ込み、複雑に逃げおおせた。

 

「えへへへへ

 逃げ足の速さとは単に足が速い事ではない

 ようは『捕まらない』事こそ逃げ足の速さなのだ!」

 

 冬彦三はさらに奥へ逃走し、建物の陰に隠れ一息着いた。

 

「今の僕には相手が悪すぎるぜ

 捲土重来の機会を狙って万全を期すぜ。これぞ戦略的撤退だ。次こそは必ず勝つ!」

「次などない!」

 

 背後にはミッキーが居た。

 

「ばかな!?お前は確かに撒いたはず!?」

 

 ミッキーは超越能力で強化した肉体で冬彦三を締め上げた。

 

「くそぉ…くそおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 冬彦三は戦闘形態が解除されて元の人格に戻ってしまった。

 

「うぐう…

 助けてくれ…」

「?」

「参った。降参だ。お手上げだ。頼む。どうか命だけは助けてくれ」

「うん」

 

 ミッキーは意外にもあっさり手を離してしまった。

 冬彦三は両手を上げた。

 

「本当にお手上げ。降参って事らしいな」

「見逃してくれるのか?」

「うん。君はハンサムだし、僕の美的センスに合致する。殺すには惜しい二枚目だ」

「……」

「君は不細工じゃないから殺さない

 それに…」

「あん?」

「100回戦っても100回とも君に負ける気がしない

 君を見逃しても脅威ではない」

「くっ!」

「どうした?見逃してやるといっているんだ

 さっさと失せろ」

「くそ!

 覚えていやがれ~!」

 

 冬彦三は捨て台詞を吐いてその場を後にした。



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6章 異能バトル

 冬彦三は大学を暫く休講していた。ミッキーと顔を合わすのはバツが悪いからだ。

 それだけではなく、ミッキーに負けた雪辱を晴らすために休講し、特訓と知略に励んでいたのだ。

 体と能力を鍛える訓練をしながらも、敗因を考察・研究し、勝つための作戦を考え、勝つための秘策を準備していた。

 休講してから2週間後、ついにミッキーへのリターン・マッチを行う決意をし、行動を起こした。

 冬彦三はイメージチェンジなのか、ミリタリーオタクのような衣装にメカメカしいゴーグルをつけて大学に向かった。

 

「おい、ミッキー、ちょっと表出ろ」

「おやおや、誰かと思えばいつかの敗北者

 今想い出しても無様な命乞いだったね

 委員長じゃなく『ヘタレ大王』というあだ名に変えた方が良いんじゃないか」

「御託はお前が負けた後にいくらでも聞いてやるよ」

「ふん…」

 

 二人は外に出た。黒鈴もこっそり後を追った。

 二人は電車を乗り継ぎし、住宅街の裏手にある広い荒野を決戦の地に決めた。

 

「さぁ、終わりにしようか」

「うん

 二度目はないよ」

 

 冬彦三は戦闘形態に変身した。

 決戦の火ぶたが落とされた。

 

「ミッキー!僕に付いてこられるか!」

 

 冬彦三は突然ミッキーとは反対方向に駈け出した。

 

「また逃げるのかよ!」

 

 ミッキーは追いかけた。

 冬彦三はまた入り組んだ住宅街に逃げ込んだ。

 

(隠れても無駄だ!!!)

「ミッキー、貴様、見ているな?」

「!?」

「お前に負けてから2週間、超越能力の訓練をするうちに、僕は超越能力が応用できる事に気が付いた!」

 

 冬彦三は勝ち誇ったような顔で現れた。

 

「お前の能力は体が透明になるだけじゃない!

 お前のもう一つの能力は『透視』だ!

 禁呪の飴は能力の応用ができる!透明になる力を応用し、壁を透過して見る事ができる透視能力を得たのだ!

 お前はその透視能力で僕を見失わずに追いかける事ができたんだ!」

 

 冬彦三は荒野にゆっくりと戻りながら、得意げに解説した。

 

「で?」

「?」

「僕の二つ目の能力を見破ったぐらいで、なに鬼の首を取ったような顔をしているんだ」

「ああ、ここからが本当の勝負だ」

 

 ミッキーは透明になり姿を消した。

 冬彦三はゴーグルを掛けた。

 

「そこだあ!!!」

 

 そっと近づいてきたミッキーに、冬彦三は飛び蹴りした。

 

「なにぃいいいいいい!?」

 

 吹っ飛ばされたミッキーは体勢を立て直した。

 

「おのれ!ださいゴーグルをしているなと思ったが、それはただのゴーグルではないな!」

「そうだ!このゴーグルはサーモグラフィースコープだ!

 体温を探知し、目に見えない物を可視化するのさ!

 時計も付いていてカメラにも通信機にもなる優れモノだ!」

 

 冬彦三は自慢げに語った。

 

「お前は能力に頼りすぎる!

 能力の強さだけが勝敗の全てではない!

 人間は道具を使ってこそ森羅万象の霊長に立てたのだ!」

 

 冬彦三はさらにエアガンを取り出した。

 

「禁呪の飴の超越能力は応用できる!

 それは何もお前だけに限った事じゃない!

 超越能力の肉体強化能力を応用すれば、道具も強化できるのだ!」

 

 冬彦三は超越能力で強化されたエアガンを連射した。

 

 バンバンバン!!バンバンバン!!!

 

 エアガンの玉は本物の実弾と同等の威力を得た。

 

「くうぅ~」

 

 ミッキーはスレスレで交わした。

 

「能力を過信しすぎたな!

 能力が強すぎるゆえの慢心・油断

 それこそがお前の弱点だ!」

 

 冬彦三はさらに連射した。

 

「僕は能力を過信せず、道具を使うという文明の原点とも言える選択肢にたどり着いた

 弱い人間でも道具さえ使えば簡単に強者を倒せる!

 お前に教えてやろう!道具さえあれば圧倒的な強敵にも勝てるという事を!」

 

 ミッキーは必死にかわした。

 が、腕に少しかすってしまった。傷口は浅いが腕から血が流れ落ちた。

 

「くっそっそっそっそっそっそ!!」

 

 ミッキーは奇妙な笑い声を挙げた。

 ミッキーは余裕の表情だ。

 

「では、道具だけでは埋められない圧倒的な能力の差と言うモノをお見せしよう!」

「なに!?彼の身体が地面に埋まって行く!?」

「僕のさらなる能力は透視能力だけではない」

「そうか!?彼の能力は壁を透過して身体をすり抜けさせる事ができるんだ!

 透視能力と身体が壁を透過する能力、その二つの能力で宇宙一の逃げ足の僕に追いついたんだ!」

「ご名答!気付いた時にはもう遅い!」

 

 ミッキーは完全に潜り込んでしまった。

 

「サーモグラフィーで地面の中は探れないの!?」

 

 現場に駆け付けて傍観していた黒鈴が尋ねた。

 

「むちゃ言うな。これは軍事用じゃないんだ。超越能力で強化しても地面の奥底までは探知できない」

 

 ミッキーが地面から飛び出した!

 

「隙あり!」

 

 ミッキーは冬彦三の後頭部に頭突きした。

 

「ぐがああ!!!」

 

 ミッキーは再び地面に姿を消した。

 冬彦三は再び走り回って逃げ出した。

 

「待ってくれ!助けてくれ!降参だ!!!」

 

 冬彦三は走り回りながら命乞いした!

 そして、さらに走って走って逃げ回った。逃げ回りながらもなお命乞いを続ける。

 ミッキーは地面から再び飛び出した。

 

「二度目はない」

「仏の顔は三度までと言うだろう?」

「僕は仏程優しくはないという事だ

 それに……

 君の成長は脅威だ。悪いがもう逃がしはしない」

 

 ミッキーは再び地面に潜り込んだ。

 冬彦三は、再び走って逃げだした。しかし、疲れてきたのかあまりスピードが出ていない。

 冬彦三はとにかく遠くまで走った。

 

(そろそろかな…)

 

 冬彦三は超越能力を使って高くジャンプした。

 

「能力など頼らなくても人を殺す方法はいくらでもある!

 能力に頼り切ったお前に勝てぬはずがない!」

 

 そして、地面目掛けて何かを投げつけた!

 

 その瞬間、ミッキーが地面から飛び出した。

 

 ドカーン!!!!!!!

 

 ミッキーは大爆発に巻き込まれた。冬彦三は花火の火薬とガソリンで作った爆弾を投げつけたのだった。

 花火とガソリンで作った爆弾も超越能力で強化されていて凄まじい破壊力になっていたのだ。

 

「ぐあああああああああああ!!!!」

「タイミングバッチし!」

 

 ミッキーはそのまま倒れ込んだ。

 

「ぐう…何が起きたんだ…」

「言わなかったか?このスコープは時計にもなっているって…」

「?」

「まだ分からないのか。測ったんだよお前が出てくるタイミングを

 お前が潜れる限界をだ」

 

 冬彦三は落ち着いて自らの勝因について解説した。

「いくら地面に潜れるようになったからって地面の中で呼吸までできるはずがない

 ならば潜って居られる限界の時間があるはずだ

 一回目に逃げ回っていたのはお前が潜って居られる時間を確かめるためだ

 二回目に少しスピードを落として逃げ回ったのはお前が僕に追いつけるようにするためだ

 地面から出てくるタイミングが分かってもどこから出てくるか分からないと意味がないからな」

 

「くそぅ…あの時命乞いしたのはカモフラージュだったのか…」

「ご名答!気付いた時にはもう遅い!」

「くそぅ…くそぉう…くそぉぉぉぉ…」

 

 ミッキーは悔しがりながら息絶えた。

 

「見ていてくれたか庭塚

 仇は討ったぞ」

 

 冬彦三は天を仰いだ。



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7章 パラノーマル事件

「きっと天国の庭塚くんも見ててくれたわよ…」

「だと良いな」

「絶対そうよ!」

 

 冬彦三は、ミッキーとの対決の後も超越能力の特訓と自己のスキルアップを怠らなかった。

 次の飴の能力者との対決を予感していたからだ。

 もう白金の飴も誰かに発見されている…。そう考えたからだ。

 実はこの予想は確かに当たっており、白金の飴の能力者は既に暗躍していた。

 一方で、冬彦三は、猟銃を習得するために猟銃の免許を取ろうとしていた。

 猟銃を超越能力で強化して使うためである。

 その後月日は流れ、冬彦三と黒鈴は三年生になり、薬学科を先攻していた。そしてついに、冬彦三は猟銃も習得する事ができた。

 しかし、また新たな悲劇が起こってしまう。

 なんと、黒鈴が殺されてしまったのだ!

 

「そんな…なぜ…」

 

 黒鈴は銃で撃たれて亡くなっていた。

 しかも、人目の付く場所で撃たれたのである。目撃者も多数いたが、誰も銃声を耳にしていなかった。

 例えサイレンサーを付けていたとしても、多少の発射音は聞こえるはずである。サイレンサーは音を小さくするだけで全くの無音にはできない。

 しかし、黒鈴は、突然倒れたと思ったら、銃創が数発分できており、死んでいたのである。

 黒鈴から40m近く離れた場所に薬莢が落ちていたが、薬莢が落ちていた狙撃地点では銃声が聞こえなかったは勿論、狙撃した者の姿を誰も目にしていない。それどころか、薬莢が落ちていた狙撃地点には誰も居なかったのだ。

 狙撃地点を目視できる程度に離れた場所には事件の目撃者となる通行人が沢山居たが、薬莢が落ちていた狙撃地点には人っ子一人見当たらなかった。

 相次ぐ親友の死に沈む冬彦三であったが、すぐに思い直す。

 

「これはどう考えても、ハイパーエスパーの犯行じゃないか…」

 

 もう一人の自分が冬彦三を鼓舞した。

 

(そうだ!もう一人の僕。これは人知を超えた人物の犯行だ。彼を止められるのは僕達しかいない!)

「そうだよな!

 俺に落ち込んでいる時間なんてないんだ!

 見ていてくれ、黒鈴、お前の仇も必ずとる!」

 

 そう宣言すると早速、調査を開始した。まずは警察に詳しい事情を聴きに行った。

 

「俺は、黒鈴の恋人でした。彼女の死について詳しく教えて下さい」

 

 冬彦三は嘘を付いて警察から黒鈴の死の捜査状況について詳しく聞き出そうとした。

 

「遺族の話だと君と被害者はただの親友だったという話だが…」

「最近付き合い始めたんです!」

「……友達の少なかった彼女と親密な関係だったのは間違いないようだし…いいだろう

 ただし、条件がある

 この誓約書をよく読んで、サインしてくれたら、彼女がどんな事件に巻き込まれたのか、彼女の身内や関係者にだけ話す事ができる」

 

 誓約書には守秘義務をかせる文言がいくつにも連なっていた。

 冬彦三は、誓約書にサインした。

 すると、若い刑事さんが話してくれた。

 

「彼女が巻き込まれたのは特殊な殺害方法で行われた連続殺人事件だ。報道規制も行っている連続殺人だ」

「連続殺人事件?」

(特殊な殺害方法で行われたのは分かっていたが、連続殺人だというのは初耳だ)

 

 今回は警察も常人には不可能な犯行である事を理解している様だ。

 

「銃声も狙撃者もなく、突然倒れ数発の銃創だけが残っている。薬莢の落下地点では誰も狙撃者を目撃していなし、銃声も聞いていない。しかも、高所から射撃された訳でもなく、銃創は平行に残っているため、薬莢の落下地点から撃たれたのは間違いない。この手口の殺人事件が日本国内でこの1年強の内に百件以上も起こっている」

「最近、殺人事件の報道がやけに多いと思いましたが、その内の大半はその犯行によるものだったんですね」

 

 若い刑事は無言で頷く。

 

「我々はこの事件を『パラノーマル事件』と名付けている

 このような超常現象的な事件を世間に公表しては世の中の混乱を招く

 だから被害者遺族と関係者に口止めした上でしか教えていない」

「犯人は全く分からないんですか?被害者の共通点は?」

「残念だが、被害者の身内であってもそこまで詳しい捜査状況は話していない」

「……っ」

 

 冬彦三は、歯がゆかったがぐっと堪えた。

 

「分かりました。ありがとうございました」

「くれぐれもこの事は内密に」

 

 冬彦三は警察署から去っていった。

 しかし、大人しく引き下がる冬彦三ではなかった。

 夜中こっそり警察署に侵入したのである。

 

(ドロドロに溶かした紙粘土と紙粘土を強化する僕の超越能力さえあれば、開かない鍵はない!)

 

 冬彦三は強度を増した紙粘土で次々鍵を開けていき、捜査資料のありそうな資料室に侵入した。

 

(えーと、パラノーマル事件…パラノーマル事件…、と)

 

 ふと分厚いファイルが目に付いた。

 

(『パラノーマル事件簿』!あった!これだ!!!)

 

 事件簿には被害者一人一人の在学校・在職地や出身高校と言った個人情報が事細かに書かれていた。

 冬彦三は最初の方を読み飛ばし、最後の方のページから読み始めた。

 

(ビンゴ!被害者の共通点がかかれている。被害者の殆どは僕や黒鈴と同じ20歳か

 しかし、中高年の被害者も何人かいる。中高年の被害者の共通点はみな教師か

 だが、小学校の教師・中学校の教師・高校の教師とみなバラバラだ

 若者の被害者は殆どが20歳だが、23~17までの振れ幅もあるようだな

 若者の被害者の共通点についてはとくに載っていないな…)

 

ガチャ!

 

(!?)

 

 鍵が閉まる音が聞こえた。さらにノブを回す音も聞こえた。

 

「あれ?鍵がしまったぞ?鍵が最初から開いていたのか?」

「最後に入ったのはだれだよ~」

「遊勝じゃないか?」

「あいつか~最近またたるんできたからキツく言っておかないとなぁ…」

 

 冬彦三は慌ててファイルをしまった。

 

ガチャ!

 

 鍵を再び開ける音が聞こえた。

 冬彦三は自慢の逃げ足で部屋の隅に隠れた。

 そして、扉が開いた。

 警官二人はファイルを資料室に戻しに来たようだった。

 二人が部屋の奥に入ると、冬彦三は超越能力で強化した逃げ足の速さで一目散に逃げ出した!

 

「な!?」

「いま人影が!?」

 

 二人は追うように、部屋の外に出たが何も居なかった。

 

「気のせいか…」

 

 冬彦三はトイレの清掃具部屋に逃げ込んでいた。

 二人が居なくなる頃合いを見計らって冬彦三は再び資料室に戻った。

 

(僕は見逃さなかったぞ!)

 

 さっきの二人が持ってきたファイルには『パラノーマル事件簿Ⅱ』と書いてあったのだ。

 

(これが最新の捜査状況か)

 

 捜査資料には大半の被害者が同じ高校の出身者である事が被害者の共通点として挙げられていた。さらに、その高校の教師も居た。

 また、弾頭の施条痕から全て同一犯である事が裏付けられるが、施条痕から使用された銃は特定できなかった事も書かれていた。

 

(被害者の多くが小西高校出身者か…だが、黒鈴も僕もこの高校の出身者じゃない…)

 

 ふと冬彦三はある名前に目が留まった。詐党脛衛門という小学校教師である。

 

(この名前…どこかで聞き覚えが…

 そうか!黒鈴の小学生の時の担任の先生だ!)

 

 珍しい名前なので冬彦三の記憶にも妙に残っていたのである。

 字こそ違うが、よく被りがちな名字の佐藤と同じ読みであるがゆえに、他の佐藤先生と区別するために生徒からはフルネームで呼ばれていたのである。

 だから黒鈴も冬彦三たちに小学生時代の話をする時は「詐党脛衛門先生」とフルネームで呼んでいたのだ。

 

(間違いない

 今務めている学校は黒鈴の出身小学校とは違うが、黒鈴が言っていた詐る党と書いてサトウと読む珍しい名字にスネエモンという珍しい名前…

 務めている小学校が黒鈴の出身小学校と違うのは、おそらく異動になったからだろう…)

 

 それ以上の事はもう分からなかった。

 冬彦三は、二冊のパラノーマル事件簿をカメラ付きのサーモグラフィースコープで撮影した。

 

(あとは独自に調べるしかない)

 

 かくして冬彦三は、独自に捜査を開始するのであった。



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8章 ラスボスの美学

 冬彦三が捜査している間にもパラノーマル事件による殺人は続いた。

 しかし、独自捜査開始から10週間を過ぎたころから、パラノーマル事件はぴたりと止まってしまった。

 独自捜査開始から4ヶ月半という時が経とうとする時、 冬彦三はついに犯人を突き止めた。

 

「帆磁市令和。いや、帆磁市ヨタと呼んだ方が良いのかな。お前が連続殺人事件の犯人だな」

 

 冬彦三は、山奥の自宅の帰路に着いているヨタという男に後ろから話しかけた。

 ヨタは振り返った。

 

「なんのことだ」

「とぼけるか。そりゃそうだよな。超越能力を使った完全犯罪だもんな

 だが、同じハイパーエスパーである俺は真実を突き止めた」

「……」

「警察の間ではパラノーマル事件と呼ばれている。その犯人がお前だ」

「面白ーい!

 なぜそう思ったんだ?」

 

 冬彦三は怒りを抑えながら説明に応じた。

 

「俺の親友の黒鈴という女の子も被害者だった。被害者の一部にはある高校の卒業者という点で共通していた。その高校の教師もいた

 しかし、黒鈴はその高校の出身者ではなかった。では、黒鈴はなぜ殺されたのか

 ふと黒鈴の小学校時代の話を思い出した。黒鈴の出身小学校で働いていた事のある教師も殺されていたのだ

 警察は被害者の在学校・在職地や出身高校までは調べがついていたが、出身中学校や出身小学校までは調べて居なかった

 そこで僕は全ての被害者の出身中学や出身小学校を調べる事にした

 気の遠くなるような作業だった…しかし、絶対に諦めなかった!お前を見つけ出すために!」

「ほじっしっしっしっし!」

 

 ヨタはへんな笑い声を挙げた。

 

「すると、面白い事が分かった。若者の被害者は全員、小西高校の出身者・松倉中学校の出身者・高松小学校の出身者のいずれかである事が判明した

 また、中高年の被害者は現在、または過去に、それら三校で働いていた教師だったことも調べ上げた!」

 

 冬彦三はヨタを睨みつけた。

 

「あとは簡単だ。小西高校・松倉中学校・高松小学校の三校の中から共通の人物を割り出せばいい

 多くの被害者と同じ年齢の20歳で、この三校に在籍していた人物…

 そんな人物は3人しかいなかった」

「それでなぜ僕に絞り込んだんだ?」

「…………

 警察が弾頭の施条痕を調べ上げても犯人を特定できなかった

 という事はその銃は非合法な手段で入手したものだ

 絞り込んだ三人には海外渡航歴もなく、銃を密輸するルートや組織との関連性も見受けられなかった

 ならば容疑者はどうやって銃を手に入れたのか…

 それは、超越能力を駆使して暴力団関係者から盗んだのではないかという考えに行きついた

 暴力団が非合法に得た銃が窃盗されても、事件が明るみになる事はない。だから警察も掴めなかった

 しかし、俺は違う。暴力団関係者に接触し、不可思議な盗難事件が起こっていないか聞き込みしたんだ

 俺にも超越能力があるとはいえ、暴力団との接触には勇気がいった

 だが、俺は犯人が絶対に許せなかった。だから危険を顧みず、暴力団に直接聞き込みをした」

 

 冬彦三は拳を握りしめながら話を続けた。ヨタは黙って聞いている。

 

「『人知を超えるような、不思議な窃盗事件がありませんでしたか?』と訊いた

 最初は怒鳴られたが、俺が戦闘形態に変身して見せると態度が変わった

 『僕はハイパーエスパーです。あなた方から窃盗した犯人もハイパーエスパーの可能性が高いです。あなた方も窃盗犯を捕まえて欲しくはないですか?』

 と再び訊いたら、事務所に連れていってくれたよ。そして教えてくれた

 拳銃2丁とライフル一丁及びその弾が監視カメラを掻い潜って目の前で盗まれた、とね。監視カメラにも何も映っていないのに銃と弾が突如無くなっていた。監視カメラだけではなく、銃がしまってあるロッカーから少し離れた場所には数人の人が居たにも関わらず、誰の目に触れる事無く銃と弾が忽然と盗まれた

 そして、弾の窃盗はその後も別の事務所も含めて4回に渡ってあったそうだ。だが、誰も犯人を目撃していなかったし、勿論監視カメラにも何も映っていなかった

 それだけじゃなく、他の組の暴力団の事務所でも同じ手口の武器や弾の窃盗が何回かあった。他の組の暴力団にも電話で話を聞かせて貰った

 最初はお互い相手の組の仕業じゃないかと疑い抗争にもなりかけたが、どうやっても不可能な手口な事からその件についてはお互いに手を組もうと協定を結んだそうだ

 いつも盗まれる時は手品のように目の前から突然消える。だから、その犯人を捕まえて欲しいと頼まれた。他の組の暴力団たちにもな

 これ以上同じ手口の窃盗が起こらないようにな」

 

「ふん、暴力団がよく協力してくれたものだな」

「任侠ドラマじゃないが、暴力団には暴力団なりの美学と正義があるらしい」

 

 冬彦三は話を続けた。

 

「そこで俺は他の組を含めた窃盗があった全ての事務所の銃や弾がしまってあったロッカーやケースから、指紋を採取した

 幸い暴力団たちはあまり掃除が好きじゃないみたいでね。残っていたよ。指紋

 全ての窃盗があった事務所から共通の指紋が検出された

 あとは、容疑者3人を尾行して隙を見て指紋を採取し、現場で得られた指紋と照らし合わせるだけだった

 警察ならこんな勝手な捜査はできないんだがな。だが俺は違う!」

 

「それで僕にたどり着いたわけか」

「容疑者の中で一人だけ改名していた者がいたから、その段階で臭いとは思っていたが、指紋照合の結果、化学的にもお前が犯人だと確信ができた」

「暴力団どもも馬鹿だな。もうこれ以上、武器や弾を盗むつもりは無かったのに」

 

 ヨタは済ました顔をして、開き直った。

 

「犯行を認めるのだな?」

「認めるも何も決定的な証拠が出てきているのにどうとぼけろと?」

「はん!

 どうせ被害届も出せず、警察にも調べられることはないだろうと高を括っていたんだろうが、手袋もせずに犯行に及んだことが仇となったな!」

 

 ヨタは無視して、話を始めた。

 

「僕もお前の事を知っているぞ。お前はミッキーを倒した委員長だろ?」

「俺は冬彦三だ。お前にそのあだ名で呼ばれる筋合いはない!」

 

 今度はヨタが説明を始めた。

 

「僕ではない他のハイパーエスパーが東大で殺人事件を起こしていた事は知っていた

 だから、黒裂木を殺すついでに、他のハイパーエスパーに繋がる情報がないかどうかちょっくら持ち物を拝借した

 そしたら、日記に色々書いてあったぜ。ミッキーの事や委員長の事。つまり冬彦三。お前の事だ!」

「お前に聞きたいのはそんな事じゃない!」

「全ての殺人計画が終了したから、大人しく第二の人生を満喫しようとしていた矢先お前が現れた

 できれば他のハイパーエスパーとも争いがしたくなかったし、平穏な日常に戻りたかった……」

「人を100人以上も殺害しておいてなにが平穏だ!!!」

「殺人も窃盗も2カ月前に足を洗った。これからは真っ当な人生を歩んでいくつもりだったのに…」

 

 余りにも身勝手な発言である。それを聞いて冬彦三は頭に来てヨタに詰め寄った!

 

「なぜ、黒鈴を殺したんだ!!!」

「なぜって…

 過去の僕を知っているから」

「は?」

「僕は過去捨てた!生まれ変わったんだ!

 ゆえに過去の自分を知る者は生まれ変わった人生の邪魔になる

 だから殺したんだ」

「どういう事だ?」

 

 冬彦三は話が全く理解できなかった。

 

「僕は整形して顔を変え、名前も変え、新たな人物に生まれ変わったんだ

 残念ながら名字までは変えられなかったが、下の名前は改名できた

 顔を変え、名前を変え、性格までもを変えた。しかし、それでも過去までは変えられない

 過去は消せない

 だから、僕の過去を知る者全ての抹殺を考えたんだ

 小中高のクラスメイト・部活動の先輩後輩・担任の先生…全てを消すのには苦労したぜ

 現在の所在を調べて一人ずつ消していかなければならなかったから気の遠くなるような作業だった

 だが、僕はその作業を完遂した。昔の僕を知る者を全員殲滅できたのだ」

「作業だと…!?」

 

 冬彦三は怒りのあまり頭が真っ白になった。

 

「………………

 話すつもりはないが、僕の過去は非情にみじめで辛いものだった

 そんな過去を知っている者が一人でも居るのは許せない

 一人でも僕の過去を知っている者が居る限り僕は生まれ変われない

 僕が完全に別人として生まれ変わるためには僕を知る人物全員の根絶が必要だったのだ」

「イジメられでもしたのか?」

「………………

 なんと思ってくれても構わない。もうそれを知る者は誰も居ないのだから

 僕がいじめられていたのか、それとも誰かをいじめていたのか、それを知っている者はもはや僕以外にはいない」

「お前がどんな過去を送ってきたのかは知らないが、そんな身勝手な動機で罪のない人びとを殺しても良いというのか!?」

「偉そうなことを言いやがって、罪のある人間ならば殺しても良いというのか?」

「そ、それは…」

「それに…

 過去の僕を知っている事。それだけで罪なのだ」

「勝手な事言うな!!!黒鈴がお前に何をしたというんだ!?」

「………………

 彼女は僕に何もしなかった。しかし、彼女は僕の事も知っていた。だから殺した。」

 

 ヨタは少し躊躇する様子を見せながら話を続けた

 

「彼女は何もしなかった。彼女は傍観者だった。何もしなかったのが同罪なのだ。」

「やはりいじめられていたのか?そうなんだな!?」

「………………

 ………………」

「図星か!」

「これ以上せっかく消した過去の話をするつもりはない。僕の過去をほじくり返そうとする君にも消えて貰う」

「イジメられていたのには同情する。それを助けようとしない傍観者も加害者だという考えも理解できる

 だが、だからって殺す事はないだろ!あきらかにやり過ぎだ」

「勘違いするな。僕の目的はイジメの復讐ではなく過去の清算だ」

「イジメられて歪んだのか、元から歪んでいたのか知らないが、俺はお前を倒す!」

「僕の過去を知る者。僕の過去を知ろうとする者。皆罪であり、すなわち悪だ

 生まれ変わった僕は悪を葬らんとする!」

「悪なのは貴様の方だ!」

 

 冬彦三は金色に輝き、戦闘形態に変身した。

 

「こうして盗んだ武器を捨てずに持ち続けていたのも、こうなる事を心のどこかで予想していたからかもしれないな」

 

 ヨタは独り言を呟いた。冬彦三には聞こえていない。

 

「覚悟しろ!ヨターーー!!!」

「僕は生まれ変わった!昔とは違う!昔のようにはいかんぞ!」

 



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9章 頂上決戦

 冬彦三とヨタの決戦の幕が上がった。

 

「ミッキーは能力に依存し過ぎて敗北したのだったな

 だが僕はミッキーのようにはいかんぞ」

 

 ヨタは二丁の拳銃を取り出して両手に構えた。

 冬彦三もまた散弾銃を取り出した。

 

 ドンドンドン!!!!バンバンバン!!!

 ババババババン!!!ドドドドドドン!!!

 

 激しい銃の打ち合いになった。

 超越能力で強化された弾丸は凄まじい威力になっている。

 

「お前は合法的に銃を入手したんだったな!

 しかし、こちらは暴力団から奪った代物だ!

 強力な武器と言うのはな、非合法でこそ手に入るのだよ!」

 

 日本の散弾銃は2発しか装填できないため冬彦三の方がやや不利だ。

 しかし、弾の速さは一般的な拳銃より散弾銃の方が早い。

 

「ミッキーは能力に過信し過ぎた結果敗北した

 能力など武器のサポートにすぎん!

 能力と強い武器を併せてこそ『鬼に金棒』なのだ!」

 

 そう言うと、ヨタは目にも見えぬ速さで銃弾から離れた位置に移動していた。

 冬彦三も超越能力で強化された持ち前の逃げ足の速さで銃弾をすかさずかわした。

 ヨタは銃弾を込めた。

 

(何だ!?ヨタのスピードは!移動する所がこの僕の目にも全く見えなかったぞ!)

「ふん、噂通りの逃げ足の速さだ!

 だが、どんなに速かろうと!どんなに回避能力が優れて居ようと!

 僕の白金の飴の超越能力の前では無力だ!!!」

 

 そう言うとヨタの姿が消えた。

 かと思うと、無数の銃弾が冬彦三の目前に迫っていた。

 しかし、冬彦三の逃げ足は速かった。直撃はなんとか回避した。

 だが、完全にはよけきれず、肩と腕に傷を負った。

 少しかすっただけでこの威力である。足が無事だったのが幸いである。

 

「どういうことだ!?発射動作も見えなかったし、銃声も聞こえなかったぞ?」

「噂以上に逃げ足が速いな」

 

 冬彦三の超越能力で強化した動体視力を持ってしてもヨタの動きは全く見えなかったのである。

 冬彦三が驚いていると、今度は冬彦三の後ろに無数の銃弾が現れた。

 またしても銃声はない。

 

「僕の逃げ足は宇宙一ぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

 冬彦三はなんとかかわした。

 

(どういうことだ弾を込める動作もなかったぞ!?これが白金の飴の能力なのか!?)

 

「面白―い!」

「何が起きているか分からないが、とにかく逃げ回るしかない…!!!」

 

(僕の逃げ足の速さは宇宙一なんだ…宇宙一なんだ!!!

 超越能力を使って逃げ足の速さを最大限まで…

 いや、…限界以上に引き出すんだ…!!!)

 

「ほじっしっしっしっしっしっし!!」

 

 ヨタは変な笑い方で不気味に大笑いした。

 

「おふざけはここまでだ!」

 

 ヨタはライフル銃を取り出した。

 弾の速さは散弾銃や拳銃の比ではない。

 

 また、冬彦三の後ろに無数の銃弾が現れた。

 しかし、またしても銃声はない。ヨタはいつの間にかライフルを構えていた。

 その瞬間、冬彦三は目にも見えぬ速さで弾道の後ろに移動していた。

 

「バカな!?この僕の目にも見えなかったぞ!?

 あのライフルの弾をどうやってかわした!?」

(ま、まさか!?)

 

 ヨタは、またしても白金の飴の能力を使った。

 

「まさか、冬彦三も時間停止が使えるように覚醒したわけではあるまいな…」

 

 ヨタの超越能力は時間停止である。

 ヨタはライフルを発射した。

 

「しかし、例え時間停止ができるようになろうとも関係ない!

 時間停止の弱点はこの僕がよく知っている!」

 

 ヨタは冬彦三の周りをまわりながらライフルを撃ち続けた。

 冬彦三は四方からライフルの弾に囲まれた。

 

「お次は上だ!」

 

 ヨタは冬彦三の上方もライフルの弾で埋めた。

 これで冬彦三は半円状に満遍なくライフルの弾で囲まれた。

 

「これでいかに時間を止めようとも、逃げ場はない

 下に穴を掘って逃げようにも深く掘れるほど長くは時間を停止できない

 時間停止して四方八方を見たが最後何もできずにタイムオーバー

 強制的に時間停止が解除されて360°からライフルの銃弾が襲い掛かるぜ!」

 

 回りくどい事をしているようだが、時間停止中は接近攻撃ができない。

 あまりに近づきすぎると相手のタイムロックも解除されてしまうからである。

 そもそも時間停止者以外の時間が完全に止まっていては、空気も固まってしまい、動く事はおろか息をする事もできない。

 そのため、時間停止者の付近はタイムロックが解除されるのである。

 よって、この能力を最大限に活用するには遠距離用の武器が必要なのである。

 

「そして、時は動き出す!」

(さらばだ冬彦三!)

 

 半円状の弾は一斉に動き出した!

 

「何!?消えた!?」

 

 ところがどっこい、冬彦三はヨタの真後ろにいた。

 

「ばかな!?」

「今のはちょっと驚いたぞ

 全方位からの同時の弾丸…

 こんな事ができるのは時間停止だけだ…。お前の能力は時間停止だな」

 

 ヨタは再び時間停止した。

 

「ばかな!時間停止ならばあの場からは逃げられないはず!?

 それなのにあの場から消えたという事は……」

 

 ヨタはライフルを発射しながら、考え込んだ。

 

「まさか瞬間移動!?」

 

 そして時は動き出した。

 冬彦三は再びライフルの弾の軌道から姿を消した。

 

「やはり瞬間移動か!!」

「そうだ!

 僕の逃げ足の速さを極限まで強化した結果覚醒した新たな能力だ!」

 

 ヨタは歯を食いしばった。

 

「僕は最強の白金の飴のハイパーエスパー!

 たかが銀の飴の最弱の能力者一人に勝てぬ訳がない!」

 

 ヨタは再び時間停止した。そしてライフルを放った。タイムロックが解除され、冬彦三はまた瞬間移動で避けた。

 これがしばらく繰り返された。

 冬彦三は、ヨタのすぐそばに瞬間移動できれば時間停止の弱点を付けたのだが、覚醒したばかりの能力故に、意中の場所に思うように移動場所をコントロールできないのだ。

 

「くそおおお!!!僕は生まれ変わったんだ!!!昔とはちがーう!!!」

「僕は異世界から転生したんだ!偽の生まれ変わりと本物の生まれ変わりの違いを見せてやる!」

 

 お互いにお互いの能力の弱点を付けない能力同士の対決故にループが発生した。

 このループをしばらく繰り返した後、ヨタは悟る。

 

「時間停止と瞬間移動では決着が付かない」

「そのようだな」

「能力の差は互角

 ならば肉体の実力こそがその勝敗を分ける!」

「えへへへ

 肉弾戦か。良いだろう!」

 

 二人は互いの合意で肉弾戦に切り替えた。

 

 ヨタは両手で殴りかかった。超越能力でマシンガンのようなパンチを連打した。手が数十本に見える速さの連撃である。

 しかし、冬彦三は全て両手で受け流した。

 さらに激しい肉弾戦が続いた。ヨタが終始優勢で、冬彦三は少し押されている。冬彦三は防戦一方だ。

 しかし、突然冬彦三が逃げ出した!

 

「敗走する気か!?」

「まさか!

 間合いを取っただけだよ」

 

 冬彦三はペットボトルを取り出し飲んだ。

 

「こうならりゃドーピングだ!

 よく聞け!今飲んだのはアメリカ最強の栄養ドリンクを改造したものだ!

 肉体を強化する能力を応用し、僕の能力で肉体を強化する液体を生み出して、アメリカ最強の栄養ドリンクと調合したのだ!

 さらにそれを道具を強化する超越能力で二重に強化したのが今飲んだ最強の薬だ!

 名付けて、『禁忌の飴ドリンク』だ!!!

 これでパワーアップできる!」

「ほー

 超越能力にはそんな使い方もあったのか」

 

 ヨタは冷静である。

 

「ならば僕も本気を出さねばなるまいな!

 昔とは違うという事を見せてやろう!!」

 

 冬彦三とヨタは再び激突した!

 ヨタは跳び上がり、両手で手刀を連発し、同時に両足でキックも連続で繰り出した。

 冬彦三も跳び上がり、中指と薬指で親指を挟んだ拳のオリジナルパンチと両足でキックを連打し対抗した。

 今度は完全に互角である!その実力は完全に拮抗している。

 まさに実力伯仲!お互いに一歩も引かぬ攻防戦。五分五分の戦いだ。

 

「あちょー!!!あちょちょちょちょちょちょ!!!!」

「あちょー!あちょー!あちょぉ――――――っ!!!」

 

 目にも見えぬ速さで激しい打撃のラリーが繰り広げられている。

 文章では書き起こせない程の速く激しい肉弾戦が続けられている。

 お互いに一歩も引かない。しかし、お互いに全くダメージを受けていない。

 

「面白―い!

 なかなかやるな!」

「流石アメリカ最強の薬だな

 自分でもここまでパワーアップできたのは驚いているぜ!」

 

 さらに激しい二大激突が続く!

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!たああああああああああああああ!!!」

「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!!わったああああああああああああ!!!」

 

 お互いにダメージはないが、二人とも疲労が見えてきた。

 二人は次第に息切れしてきた。

 

「ちょっとタイム」

 

 冬彦三が一息ついた。

 

「何だと!?タイムとはどういう事だ!?」

「お前に引導を渡すための準備をするって事さ」

 

 冬彦三はまたペットボトルを取り出した。

 

「『禁忌の飴ドリンクDX』だ!

 たった今完成した!

 今のバトルで得た経験を元に禁忌の飴ドリンクをさらに強化したのだ

 これを飲めば白金の飴の能力者をも超えるウルトラハイパーエスパーになれるはずだ!」

「させるかああああああ!!!」

 

 ヨタは禁忌の飴ドリンクDXを奪い取った!

 

「しまったあーーーーー!!!」

 

 ゴクン!

 

 ヨタは禁忌の飴ドリンクDXを飲み干してしまった。

 

「ほじっしっしっしっしっしっしっし~!!!!僕の勝ちだ!」

「キ、貴様、き、汚いぞ!僕が作った薬なのに!」

「ドーピングにキレイも何もあるか!」

「ぐ…!」

「さぁ!今度こそ終わりだ!!!」

 

 しかし、ヨタの様子がおかしい。

 

「なんだ!?どうなっているんだ…?く、苦しい……」

 

 ヨタは悶え苦しんだ。

 

「や~い!引っかかった!引っかかった!

 2つ目の薬はフェイクだよ~!」

「2つ目の薬は毒薬だったのか……!!!」

「ご名答!気付いた時にはもう遅い!」

「こんな…バカな……」

「僕は東大の薬学科を先攻していてね。劇薬は簡単に手に入る

 超越能力を使えば劇薬をこっそり持ち出すことは意図も容易かった

 お前の言う通り、強力な武器は非合法で手に入れた訳だ

 切り札は非合法で手に入れたのさ

 劇薬を超越能力で強化し即効性の毒薬にし、疑われず飲み干すように超越能力で美味しくしたジュースに混ぜた訳だ」

「こんなギャグマンガみたいな倒され方ってあるか……!」

「勝敗を分けたのは、己の肉体の実力だけではなく、知力の差だったな」

「こんなの面白くない…!」

 

 冬彦三はほくそ笑んだ。

 

「お前の計画には穴がある

 お前の過去を最も知る人物を消していないじゃないか

 お前自身だよ。お前自身が居る限り、お前の計画は達成されない

 お前の計画を完璧なものにしてやるよ」

 

 ヨタは悶絶していて反応がない。ヨタはそのまま体中に毒が回り、死んでしまった。

 

「よかったじゃないか。お前の計画は完全に達成されたよ

 もうお前の過去を知る者は誰も居なくなった。正真正銘ただ一人も、な」

 

 ふと空を見上げると虹がかかっていた。

 

「黒鈴…

 お前の仇も討ったぞ…」



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10章 終幕

 冬彦三はハイパーエスパー達と死闘の末、一人生き残った。その後、真面目に勉学に専念し、薬剤師になるべく、6年生で東大を卒業した。

 卒業後冬彦三は超越能力には頼る事はなかった。冬彦三は普通の人間として真面目に勉強して平穏に暮らしたのだ。そして、苦心の末、念願の薬剤師に就職した。

 そのまま一社会人として、ひっそりと暮らした。冬彦三の日常は平凡で退屈な物であった。新しい友人も特にできず。淡々と仕事をし、家では録画したバラエティ番組やアニメを見る。そんな毎日の繰り返しだった。旅行をするわけでもなく、特に趣味に没頭するわけでもなく、ただ淡々とテレビを見て過ごす毎日。アニメ鑑賞は唯一と言っても良い趣味だったが、アニメオタクの様にアニメに過度にハマるわけでもなく、グッズやBDなどは一切買わず、にわかとして中途半端な知識しか持ち合わせていなかった。

 

(ニワカで良い。)

 

 そう思っていた。アニメなどに詳しくなっても何の肥しにもならない。そう考えて居たのだ。ただアニメをみるだけで満足していた。アニメを見るだけで満足なのでグッズも特に買わないのだ。また、録画で十分だと考えて居る為BDも買わない。オタクの様にアニメに金をかける事も殆どなかった。アニメにお金を出すとしたら映画くらいであった。

 彼は仕事にも遊びにも特に生きがいも見いだせない空虚な毎日を過ごしていた。彼が一番楽しいのは寝ている時であった。出世も出来ず、毎日毎日同じ事の繰り返し。凹凸がないにもない平坦な毎日であった。

 何も変化がない毎日。しかし、冬彦三自身はそれで満足していた。平凡な毎日を過ごせる事が一番大事だと思っていたからである。それが超常的な能力によって友人を失った冬彦三が導き出した結論であった。

 しかし、ある時、冬彦三は、自分の体験をなろう小説に残そうと思い立った。

 戦闘形態になる事が無くなっても相棒として住み続けるもう一人の自分と対話を重ねた。もう一人の自分と話し合っている内に、庭塚や黒鈴との友情や禁呪の飴をめぐる数奇な体験を形に残したいと思うようになったからである。

 冬彦三がなろう小説に書いたその作品は思いのほか大ヒットした。それまで一桁だったブクマ数は4万を越えたのだ。そして、総合評価も10万ptを越えた。

 その小説は晴れてコミカライズ化にこぎ着ける事になった。

 そして、その本も飛ぶように売れ、アニメ化も決定した。こうして、冬彦三は一躍時の人となった。

 そのタイトルは………。




                   「なろう作家がエリート東大生に転生してみた」 完。


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