ポケットモンスターVIRTUAL REVOLUTION (未来跳躍)
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プロローグ

プロローグ

 

ポケットモンスター。通称、ポケモン。この世界に住む不思議な生き物。

人とポケモンは互いに助け合い過ごしている。

人が笑えば、ポケモンも笑い、ポケモンが笑えば、人も笑う。

これはそんなこの世界でポケモンマスターを夢見る一人の少年の物語である。

 

少年の名は、サトシ。カントー地方の小さな町、マサラタウンに住む男の子。

今日もマサラタウンは和な天気で平和な朝が始まる。

時刻は8時を過ぎたが、サトシは未だにベットの中でぐっすりと眠っている。そんなサトシに近づく小さくて黄色いポケモン、ピカチュウ。サトシの最初のポケモンで、彼の大事なパートナーである。

 

「ピカー。ピカピ」

 

ピカチュウは眠っているサトシの頭を揺すったり、叩いて彼を起こそうとするが、全く起きる気配がない。

 

「やった~。新しいポケモンゲットだぜ~。むにゃむにゃ」

 

寝言と共に腕を大きく伸ばした事でピカチュウは体勢を崩して、ベッドから落下してゴツンと床に頭をぶつけた。

 

「ピーカーチューー!」

 

「うぎゃあああ!」

 

怒りの頂点を迎えたピカチュウの電撃がサトシを襲った。

 

「お、おはよう…。ピカチュウ」

 

朝からボロボロになりながらも、ようやく起床したサトシにピカチュウは厳しく声をかける。

 

「ピカッ!ピカピ!」

 

「ごめんって、昨日はよく眠れなくてさ」

 

サトシは身体を起こすと、パジャマを脱いで着替えを始める。灰色のズボンに黒のTシャツ、その上に青と白の半袖のジャケットを羽織る。

 

「よし。着替え完了。行こうぜ、ピカチュウ!」

 

「ピカッ!」

 

ピカチュウがサトシの肩に飛び乗ると、そのまま部屋を飛び出して、階段を下りていく。

扉を開けて、リビングに入ると、朝食の美味しい香りが彼の鼻腔をくすぐった。

 

「ママ、おはよう!」

 

「おはよう。ずいぶん騒がしいお目覚めね。ご飯出来てるわよ」

 

「ありがとう。ママ」

 

リビングで朝食をテーブルに並べていた母に元気よく挨拶すると、冷蔵庫から牛乳パックとコップを取り出して、テーブルに置く。

そして、サトシが椅子に座ったと同時に、ピカチュウは彼の肩からテーブルに飛び降りて、自分の朝食のポケモンフーズが盛られた皿の前まで移動する。

 

「それじゃ、いっただきまーす!」

「ピッピカチュウ!」

 

元気よく挨拶すると朝食を食べ始めた。

 

「今日はいつも以上に元気いっぱいね」

 

「そりゃ、そうだよ。俺、ずっとワクワクしてたんだから」

 

「……また寂しくなるわね。ついこの前、アローラから帰ってきたばかりなのに…―」

 

少し寂しそうに笑う母に、サトシは笑顔で話す。

 

「大丈夫だよ。ちゃんと連絡するから。なあ、ピカチュウ」

「ピカ一!」

 

「そうね。ほら、早くしないと、飛行機の時間になっちゃうわよ」

 

「わかったよ」

 

サトシとピカチュウは朝食を一気に口に運んで、よく噛んで飲み込むと、急いで洗面所で顔を洗って歯を磨く。

そして、リビングに戻ると、机の上にはサトシとピカチュウの荷物がまとめられたリュックと、黒の指出し手袋、赤と白のキャップ帽を母が用意していた。

 

「着替え入れといたわよ」

 

「ありがとう」

 

「町を出る前に、オーキド博士にちゃんと挨拶するのよ」

 

「うん。わかった!いってきます!」

「ピカッ!」

 

サトシとピカチュウは朝から変わらない元気なままで、家を飛び出していく。寂しくても、それを息子に悟られないように笑顔で見送る。それが母の役目なのだから。

 

「頑張るのよ。サトシ」

 

 

 

マサラタウンのオーキド研究所に着いたサトシを出迎えたのは、この研究所で働くケンジであった。

 

「ケンジ、おはよう!」

 

「ピッカチュウ!」

 

「サトシ、ピカチュウ、おはよう。そっか、今日が旅立の日か」

 

「博士は?」

 

「博士なら、奥にいるよ。呼んで来るね」

 

ケンジが振り返ろうとした瞬間――。

 

「その心配は要らんよ」

 

廊下からオーキド博士がサトシ達の方に歩いて来た。

 

「おはようございます。博士!」

 

「ピカー!」

 

「ウム。サトシにピカチュウも元気そうで何よりじゃ。最高の旅になりそうじゃないか」

 

笑顔で答えるオーキドにサトシとピカチュウも同じく笑顔で返す。

 

「ハイ!俺、楽しみなんです。これから行く『バーチャ地方』!」

 

「そうかそうか。そんなに喜んでくれては、こちらも嬉しい限りじゃ」

 

サトシの旅に出るきっかけになったのは、ほんの一昨日の事だった。

その日は前日にアローラから帰って来たばかりなので、手持ちのポケモン達を研究所に連れて行った事が始まりだった。アローラのポケモン達や今まで預けていたポケモン達と研究所の裏庭で思い切り遊んでいた。

朝から昼過ぎまで遊び続けて疲れたサトシは、研究所の応接室でお昼ご飯を持って来てくれた母や博士、ケンジ達と一緒に昼食を食べていた。

そこに一本の電話が鳴った。博士が電話に出ると、電話のモニターに写し出されたのは、白衣を着た青年だった。

 

「お久しぶりです。オーキド博士」

 

「オォッ!レオナルド君じゃないか!どうしたんじゃ?」

 

「実は僕の研究所が出来たので、博士にご報告をと思いまして」

 

「そうか。遂に君も一人前のポケモン博士になったのか」

 

「ハイ!ここまで来られたのも、博士の指導のおかげです」

 

オーキド博士はまるで我が子のように嬉しそうに話していた。

 

「君も新人トレーナーのポケモンがいるのか?」

 

「ハイ。バーチャ地方ではガラル地方と同じ『ヒバニー』、『サルノリ』、そして

『メッソン』の三体を新人トレーナーに渡すことにしました」

 

「ほう、そうか。そっちはガラル地方とも近いからいいかもしれな「そのポケモンは何なんですか!?」コレ、サトシ」

 

新しいポケモンを前にしてサトシはオーキド博士の横から突然乱入する。

 

「君は?」

 

「俺はマサラタウンのサトシです。こっちは相棒のピカチュウ」

 

「ピカピ!」

 

「サトシ君か。僕はレオナルド。オーキド博士の弟子の新米博士だ。よろしくね」

 

レオナルドの挨拶にサトシも「よろしくお願いします」と返すと、早速レオナルドに尋ねる。

 

「レオナルド博士。博士のいるバーチャ地方って、どんな所なんですか!?」

 

「どんな所か。いい所だよ。人もポケモンも仲良く暮らす場所だし、こちらのほうにしかいないポケモンだってたくさんいるんだ」

 

そう言われてサトシのテンションがぐんぐん上昇する。そして、止めの一言が彼の心中を完全に掴む。

 

「バーチャ地方にもポケモンリーグ、バーチャリーグがあって、様々な強いトレーナー達がいるんだよ」

 

「バーチャリーグ、強いトレーナー」

 

その言葉で、サトシの心は完全に決まった。

 

「決めた。俺、バーチャ地方に行きます!バーチャリーグに出場して、優勝するんだ!」

 

それが今回の旅の始まりだった。そのあとは、早速新しい旅に出る事が決まれば、その準備に入った。サトシの母は新しい旅の服を作り、サトシは荷物をリュックに入れていく。そして、ポケモン達にも別れの挨拶も済ましておく。そうして、今に至るのであった。

 

「博士、俺のポケモン達よろしくお願いします」

 

「ウム。向こうに着いたら、まずはレオナルド君に電話するといい。迎えに来ると言っておった」

 

オーキド博士は電話番号が書かれたメモ用紙をサトシに手渡す。

 

「分かりました!」

 

「ポケモン達は僕たちが責任持って預からせてもらうよ」

 

「そろそろ出発の時間じゃろう。最後にポケモン達に挨拶して行くとよい」

 

「分かりました!」

 

サトシは、研究所の裏庭に出ていくと、そこには今まで旅を共にしてきたポケモン達がサトシの新しい旅立ちを見送るために集まっていた。

 

「みんな…」

 

「ダネーッ!」

 

「グオォーッ!」

 

皆を代表して、フシギダネとリザードンが雄叫びを上げると、他のポケモン達も一斉に御祝いの雄叫びを上げる。なんと言っているのかは直ぐに分かった。

 

『頑張れ』

 

言葉は通じなくても、気持ちは通じる。そして、サトシはそれに応えるために、泣きそうなる顔を拭って、笑顔でVサインを作って声高らかに口を開いた。

 

「みんな…。俺、頑張るよ!バーチャリーグ優勝してみせるぜ!」

 

直後、ポケモン達の大歓声が沸き上がる。ポケモン達からエールをもらったサトシはポケモン達に別れを告げた後、オーキド博士とケンジに「いってきます」と手を振りながら、研究所を後にした。

 

そこからは空港までバスに乗り、空港から飛行機に乗って新たな旅の舞台『バーチャ地方』へと旅立つ。

 



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第1話『バーチャ地方 新たな冒険の始まり』

バーチャ地方、サラメタウン。

 

バーチャ地方のの中心街から少し離れた小さな町で、今、新たな冒険の幕が開こうとする少女がいた。

 

「クルックー」

 

「おはよう。マメパト」

 

マメパトに挨拶する可憐な少女、名前はアマネ。彼女は今日からポケモントレーナーとなって旅に出る新人トレーナーである。着替えを済ますと、リビングに行き、彼女の母に挨拶する。

 

「お母さん、おはよう」

 

「おはよう。今日はあなたの旅立ちには最高のいい天気よ。朝ごはん作ってあるから、早く食べなさい」

 

「うん。わかった」

 

アマネは椅子に座ってテーブルの上の朝食を食べ始める。朝食を食べているアマネに母は質問する。

 

「最初にもらうポケモンはもう決めたの?」

 

「うん」

 

「え~。何々?」

 

「今教えたらつまらないでしょ。あとのお楽しみ」

 

「ケチー!教えてよ」

 

旅立ちの前の最後の親子のお喋りをしながらの朝食はあっという間に終わってしまう。アマネは心の中でこんな風に母と話すことができなくなることに、少し寂しく感じてしまう。

そして、彼女の旅立ちの刻がやって来た。

 

「それじゃあ、お母さん。いってきます」

 

「えぇ。気をつけるのよ」

 

「うん…」

 

母との別れについ涙が零れてしまう。昨日の夜、あれほど泣かないと誓ったはずなのに、いざ母との別れとなると、寂しくなってしまう。

そんなアマネに母は口を開く。

 

「アマネ。あなたはこれから辛く険しい旅に出るのに、なに泣いてるの」

 

母からの言葉はとても強く厳しい口調でアマネに諭すように語る。

 

「あなたには叶えたい夢があるのでしょう。その夢を叶えるために旅に出るのでしょう。だったら、泣くのは止めなさい。そして、笑いなさい。どんなに辛くても笑顔でいれば、乗り越えられるわ。いつも言ってるでしょ。ハッピースマイルよ!」

 

母はそう言って、ニコッと笑顔を向けた。

アマネは袖で涙を拭き、

 

「お母さん…。分かった。ハッピースマイル!」

 

と言って、笑顔で返す。そのまま家を出て、母に手を振りながら歩いて行く。

 

「お母さーん!私、頑張るからねー!」

 

「頑張れー!身体には気をつけるのよー!」

 

アマネは母の姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。

今、アマネの冒険が始まった。

 

 

 

バーチャ地方、ローマレシティ、ローマレ空港

 

空港に降り立った飛行機、そこから出てくるサトシとピカチュウ。ようやくたどり着いた新たな街に彼らのテンションはマックスだ。興奮を抑えられないサトシとピカチュウはゲートを潜り抜けると、大きく息を吸って――。

 

「やって来たぜ!バーチャ地方ォッ!目指すはバーチャリーグ優勝だ!!」

「ピッピカチュウ!!」

 

声高らかに目標を宣言した。誰に聞かせる訳ではない。只、自分の昂る興奮を今一度確認するためである。

 

「よーし。それじゃあ、行こうぜ!ピカチュウ」

 

「ピーカ!」

 

早速空港から出ようとするサトシにピカチュウが彼の頬を叩いて呼び止める。

「どうしたんだよ?」と尋ねると、ピカチュウは公衆電話を指差す。そこで、サトシは思い出した。

 

「あっ!?そうだった。レオナルド博士に電話しなきゃ」

 

「ピカピカ…」

 

アハハと笑うサトシに、ピカチュウはやれやれと言わんばかりのため息を洩らす。

公衆電話の方へ足を運び、リュックを背中から下ろして中からオーキド博士からもらったメモ用紙を取り出す。そこに書かれている番号の通りにボタンを押すと、数回のコール音の後に電話が繋がりモニターにレオナルドが映し出される。

 

『やあ!サトシ君、空港に着いたんだね』

 

「こんにちは。レオナルド博士」

 

「ピッピカチュウ!」

 

『ピカチュウも元気そうで何よりだよ。直ぐに迎えに行くから入り口で待っていててくれないか』

 

「分かりました!それじゃあ、また後で」

 

通話を終えて、レオナルドに言われた通りに、空港の入り口に向かおうとするが、あることに気づく。

 

「あれ?ない。ない!俺のリュックがない!」

 

先ほど足下に置いた旅の荷物がまとめられたリュックがなくなっているのだ。どこ行ったんだと慌てるサトシにピカチュウが声をかける。

 

「ピカピ!」

 

「ピカチュウ!?」

 

「ピカッ!」

 

ピカチュウが指差す方に振り向くと、男がサトシのリュックを抱えていた。

それがなにを意味するのかは、直ぐに分かった。

 

「待て!俺のリュック返せ!」

 

サトシに気づかれた男は慌てて逃げ出した。サトシとピカチュウも急いで追いかけるが、相手は空港の中に詳しいために人混みや裏道を使って必死に逃げようとする。

ピカチュウの10まんボルトで男を止めることができれば楽なのだが、ここは空港で大勢の利用客がいる。こんなところで10まんボルトを放てば他の客も巻き込んでしまう。

必死に追いかけるが、距離が一向に縮まらないまま、男は空港の入り口付近まで来ていた。このまま逃げられる。そう思った次の瞬間――。

 

「イーブイ、でんこうせっか!」

 

「ブイッ!」

 

突如、横からイーブイのでんこうせっかが男に直撃した。男はそのまま横に吹っ飛んでいき、柱に頭をぶつけると気絶してしまった。

 

一瞬の出来事だった。あまりにも速すぎてサトシ達はただ呆然と立ち尽くしていた。

男の足元に転がっているサトシのリュックを拾い上げ、まっすぐに歩いてくる人物。

それは、少年だった。サトシよりは3つか4つほど年上で端正な顔に山吹色の髪と蒼い瞳が特徴の少年はサトシの前まで歩くと右手に持ったリュックをサトシに押し付けるように突き返した。

 

「気を付けろ。自分の荷物くらいちゃんと見ておけよな」

 

「あ、アァ。ありがとう…」

 

「それじゃ、俺はあいつをジュンサーさんに引き渡すから。行くぞ、イーブイ」

 

「イッブイ!」

 

少年が踵を返すと、走って来たイーブイは彼の右肩に飛び乗った。そして、少年は気絶した男の首根っこを掴んでそのまま行ってしまった。

 

その場で佇んでいたサトシとピカチュウだが、

 

「スッゲー!!」

「ピッカー!!」

 

と叫んで、瞳を輝かせてその場で飛び跳ねた。

 

「見たか、ピカチュウ!あのイーブイ」

 

「ピカッ!」

 

あの人混みの中から、冷静にかつ、正確に泥棒目掛けて攻撃を指示するトレーナーと、それに応えるイーブイ。相当な実力がなければ、出来ないことを平然とやり遂げるあの少年とイーブイにサトシ達は興奮を抑えられずにいた。バトルがしたい。あの少年とイーブイに闘ってみたい。その欲求がサトシとピカチュウの足を自然と動かしていた。

 

そんなサトシとピカチュウが走って行くのを離れたところで覗く集団がいた。

 

「ジャリボーイ発見」

 

「事前に得た情報通りなのニャ」

 

「今ならジャリボーイとピカチュウだけ。ピカチュウゲットする大チャンスじゃない」

 

彼らはロケット団のムサシ、コジロウ、そしてニャースの三人組。ロケット団とはカントーとジョウトを中心に暗躍する悪の組織である。サトシのピカチュウを狙い、今までの旅でも何度も襲ってきた連中である。

彼らは今回の旅でもサトシがバーチャ地方に行く事を知って後をついてきたのだった。

 

「まずはボスに連絡してから作戦会議なのニャ」

 

「「おう!」」

 

「ソーナンス!」

 

 

 

ロケット団の三人は空港の屋上に上がると、周囲に人の気配がないことを確認して、持っていたボスへの通信装置を作動する。

通信装置からホログラムでボスの部屋を映し出される。

 

『何か用ですか?』

 

通信に対応したのは、ロケット団ボス秘書のマトリであった。

 

「「「ゲッ!?」」」

 

三人は思わず嫌悪感を現れそうになるのを必死に飲み込んだのち、真っ先にある質問をする。

 

「あの、サカキ様は?」

 

『ボスは別用で留守になさっておいでなので、私が連絡を受ける事になっていますが、何か?』

 

「いえ、別に何も不満などありません」

 

「そうそう。私達」

 

「ボスがいないので、何事かニャと心配になっただけなのニャ」

 

もちろん三人はそんなことはこれっぽっちも思っていない。三人はサカキのことは崇拝しているが、その秘書のマトリのことはよく思っていない。というか、ぶっちゃけると嫌いである。

 

『そうですか。それで用件は?』

 

本題に入った所で、三人は自分達の今後を報告する。

 

「実はニャー達は今、バーチャ地方に来ているのニャ」

 

「これからこの地方のポケモンをガンガンゲットして」

 

「バーチャ地方征服してみせます」

 

『なるほど、バーチャ地方ですか。確かにそちらはまだ誰も派遣していなかったですね。分かりました。ボスに伝えておきましょう。いい報告を期待していますよ』

 

「「「ハッ」」」

 

『では、これで「ちょっと待ってください!」―なんですか?』

 

通信を終えようとしたマトリにコジロウが待ったをかける。マトリは少し苛立ちながらも彼の話を聞こうとする。

 

「実は今、我々の手元にはムサシのソーナンスだけで戦力が足りないのです。俺に至っては手持ちのポケモンすらいないので、あの…。もし、よろしければ、なんかポケモンを送ってはいただけないかな…と、思いまして…」

 

後半に行くに連れてどんどん声が小さくなっていくコジロウに対して、マトリは手元の資料を確認して、顔を上げると彼らに応えた。

 

『分かりました。1体だけですが、送りましょう』

 

「「「本当ですか(ニャ)!?」」」

 

『すぐに転送しますので、装置を転送モードに切り替えてお待ちください。では』

 

マトリはそう言うと通信を切ってしまった。残された三人は――。

 

「「「イッヤホーイ!」」」

 

その場で大喜びではしゃぎまくっていた。正直、送ってもらえるとは、夢にも思わなかったので、承諾してもらえてとても嬉しいのである。

 

「いやー。あの女もいい所あるわねー」

 

「何が送られるのかな。バンギラスか」

 

「いや。ギャラドスかもしれないのニャ」

 

「何言ってんのよ。もしかしたらルギアとかかもしれないじゃない」

 

まだ見ぬポケモンに胸を膨らませる三人に、通信装置に1個のモンスターボールが転送されて来た。

コジロウは送られたモンスターボールを手にとって、頭上高く投げつける。

 

「さあ、来い!我らロケット団のニューフェイス!」

 

投げられたモンスターボールが開いて、中から白い閃光と共にポケモンが姿を現す。

その正体は――。

 

「マ~ネネ!」

 

マネネであった。

 

「「「え…」」」

 

あまりの事に三人は思考が停止する。ただただポカンと立ち尽くす三人の中でコジロウがあることに気がつく。

 

「お前、俺のマネネなのか」

 

「マ~ネマネ!」

 

コジロウが恐る恐る尋ねると、マネネは可愛らしく敬礼をする。その仕草を見た瞬間、コジロウは確信する。このマネネは自分の愛する爺やと婆やから預かり、長い間共に旅をしていたマネネであることに――。

 

「マネネ…、マネネ~!」

 

「マネマネ~!」

 

泣きながらお互いに抱き合い再開の喜びを分かち合うコジロウとマネネ。それを見ていたムサシとニャースも久しぶりの再開に思わず涙が零れてしまうのだが、ここでニャースがあることに気がついた。

 

「あれ?でも、マネネって確か使える技は『ものまね』と『フラフラダンス』の二つだけだったようニャ…」

 

そう言われて、ムサシも思い出した。マネネはロケット団として共に行動していた時から、戦闘要員ではないことを――。

 

「確かに。言われてみたら、そうだったわね。あれ?これって、もしかして――」

 

「ただ非戦闘要員を押し付けられただけなのニャ」

 

「ソーナンス!」

 

「ふ、ふざけんじゃないわよ!あの女ァッ!!」

 

ムサシはマトリへの怒りを通信装置が粉々になるまで思い切りぶつけていくが、もちろんこんなことでは彼女の怒りは治まらない。

 

「こうなったら、この怒りはジャリボーイのピカチュウゲットで静めるわ!行くわよ、あんた達!!」

 

「は、ハイなのニャ!」

 

「ソ、ソーナンス!」

 

ボーマンダでさえ逃げ出すほどのこわいかおをしたムサシは未だに再開の喜びに浸っているコジロウの首根っこを掴んで引きずりながらノッシノッシと歩いていき、ニャースとソーナンスは顔を真っ青にしてムサシの後について行くのであった。

 

 

 

イーブイ使いの少年を探して走り回るサトシとピカチュウだったが、少年を見つけられずにいた。

 

「いないなあ。どこに行ったんだろ?というか、ここはどこだ~!?」

 

「ピカ…」

 

ほんの数十分前に来たばかりのサトシが空港の構造を知るはずがなく、探し回ったあげく自分が何処にいるのかすらわからなくなってしまうという本末転倒な事態に陥ってしまった。ちなみにいつもはしっかり者のピカチュウだが、彼もサトシと一緒に考え無しに探していたので、ピカチュウもサトシと同じく道がわからない迷子状態になっている。

完全に迷子になったサトシ達は近くの広場に出た。広場にはベンチの他に少し小さめのバトルフィールドもあるが、今はサトシ以外に誰もいなかった。

 

「あそこでちょっと休もうか。ピカチュウ」

 

「ピカピ!」

 

サトシとピカチュウがベンチに向けて走り出したその瞬間、突然上から電磁ネットがピカチュウ目掛けて降ってきた。

 

「ピカチュウ、危ない!」

 

「ピッカ!」

 

サトシが早めに気づいたために、紙一重で電磁ネットをかわすピカチュウ。

 

「なんだ!?」

 

その声に反応して頭上から声が響く。

 

「なんだかんだと言われたら」

「答えてあげるが、世の情け」

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため」

「愛と真実の悪を貫く」

「ラブリーチャーミーな敵役」

「ムサシ!」

「コジロウ!」

「銀河を駆けるロケット団の二人には」

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

「ニャーんてニャ!」

「ソーナンス!」

「マ~ネネ!」

 

口上を終えると、颯爽と飛び降りるロケット団。サトシは強い口調で口を開く。

 

「ロケット団!何しに来たんだ!?」

 

「ピカピ!」

 

サトシの問いかけにロケット団は胸を張って返す。

 

「決まってんでしょう。私達ロケット団は」

 

「強いポケモンを奪い」

 

「世界征服をするためなのニャ!バーチャ地方初ゲットをピカチュウ!おミャーにするのニャ」

 

「そうはさせるか!行け、ピカチュウ!」

 

ピカチュウがロケット団目掛けて猛ダッシュで突っ込んで行く。

 

「マネネ、フラフラダンスだ!」

 

「マネ!マ~ネマ~ネ」

 

「ピカッ!?」

 

マネネのフラフラダンスの不思議な踊りにピカチュウはこんらん状態になってしまった。

それでもピカチュウは必死に我を忘れずにそのままロケット団へ走り続ける。

 

「いいぞ、ピカチュウ!そのまま10まんボルト!」

 

「ピーカーチューー!」

 

ピカチュウの渾身の10まんボルトがロケット団に襲い掛かる。ロケット団も打つ手がなく、パニックになった。

 

「なーんてね」

 

そこにムサシがニヤリと口角を上げる。

 

「ソーナンス、やっちゃって!」

 

ムサシの命令にソーナンスがロケット団の前に立ち塞がり、ピカチュウの10まんボルトをその身に受ける。

しかし、ソーナンスはその受けた10まんボルトを一気にピカチュウに跳ね返した。

ソーナンスの技『ミラーコート』。相手の特殊技を倍にして返す技である。

 

「ピカッ!」

 

ミラーコートで威力を倍にして跳ね返しても、いつものピカチュウならそれをかわす事はできる。しかし、今のピカチュウはこんらん状態で判断力が著しく鈍くなっているので、その場から動けずに跳ね返された10まんボルトをまともに喰らってしまった。

 

「マネネ、ものまねだ!」

 

「マネネ~!」

 

ロケット団はこの好機を逃さない。コジロウのマネネはものまねでピカチュウの10まんボルトをまねして攻撃する。

ピカチュウはその攻撃も喰らってしまい、その場で倒れてしまう。

 

「ピカチュウ!?」

 

サトシが慌ててピカチュウへと駆け寄ろうとするが、ニャースはそれすら見逃さない。

 

「おっと、ジャリボーイはそこで大人しくするのニャ」

 

「しまった!」

 

ニャースが投げた小さなキューブからワイヤーが伸びて、サトシを捕らえてしまう。

身動きを封じられたサトシはそのまま倒れてしまった。

 

「オイオイ。なんだよ、今日はやけに上手くいくじゃないか」

 

「ジャリボーイの手持ちはピカチュウのみ。そのピカチュウもジャリボーイも動けなくニャれば」

 

「あたし達の大勝利ね~!」

 

「「「いいかんじ~!」」」

 

勝利を確信して、その場で小躍りするロケット団。

 

「さて、後はピカチュウゲットなのニャ」

 

「ピカチュウ。ピカチュウゥッ!!」

 

ニャースが倒れたピカチュウのそばによろうとした次の瞬間――。

 

「スピードスター!」

 

突然、横から輝く無数の星がニャースを吹き飛ばした。

 

「ニャー!」

 

「「ニャース!?」」

 

ムサシとコジロウは攻撃された方に首を向ける。

 

「誰だ!?」

 

「あたし達の邪魔するなんて!?」

 

ゆっくりと歩いて来る人物を見てサトシは目を見開いた。それは――。

 

「いい年したおっさんとおばさんが子供のポケモンを奪うなんて、超ダセーな」

 

あの時のイーブイを連れた少年だった。

 

「お、おっさん!?」

 

「誰がおばおば、おおおおおおばですって!?」

 

ショックを受けるコジロウとオコリザルよりも凄い怒りのムサシに少年は口を続ける。

 

「いや。ダセーだろ。そんな変な服着ている年増なんてな」

 

ムサシにとって言ってならない言葉『おばさん』と『年増』を一気に言う少年に、ムサシの怒りは有頂天を越えた。

 

「▼≒√∪⊥∝≒◯!!」

 

言葉にならない怒りとはこの事を指すだろう。

ムサシのあまりの怒りにコジロウとニャースはその後ろで抱き合って震えていた。

 

「ソーナンス!」

 

「ソソッ!」

 

ソーナンスはムサシに呼ばれて姿勢を正して返事をする。

 

「あの糞生意気なジャリボーイをギッタギタのボッコボコにしてやんなさい!」

 

「ソーナンス!」

 

ムサシはビシッと敬礼をしたソーナンスを見送ると、今度はコジロウとニャースの方に首を向ける。その動作はまるでデスカーンのこわいかおのような形相でコジロウとニャースはビクッと体を震わせる。

 

「あんた達もさっさと行きなさい!」

 

「「ラジャー!」」

 

「マネネ、行くんだ!」

 

「マネマーネ!」

 

少年の目の前にマネネ、ソーナンス、ニャースの3匹が立ち塞がる。

 

「イーブイ、行ってくれ」

 

「イッブイ!」

 

少年の肩に乗ったイーブイが前に飛び降りて、ニャース達の前に立ち向かう姿勢をとる。

 

「ピカチュウのついでにおミャーもゲットしてやるのニャ!」

 

「行くニャー!」というニャースの掛け声とともに、3匹がイーブイに襲い掛かる。

 

「イーブイ、でんこうせっか!」

 

「イーッブイ!」

 

イーブイは迷いなくマネネへと一直線に猛スピードでぶつかる。マネネは防御をする暇もなく、強力なでんこうせっかの直撃を喰らって吹き飛んだ。

イーブイの一撃でマネネを戦闘不能状態にしてしまう。

 

「マネ…」

 

「マネネ!戻るんだ!」

 

コジロウはマネネをモンスターボールに戻す。

 

「俺のマネネ…」

 

「何やってんのよ!」

 

ムサシに怒鳴られて、コジロウは何も言い返せず落ち込んでしまう。だが、少年は攻撃の手を緩めない。

 

「イーブイ、スピードスター!」

 

イーブイは飛び上がり、尻尾を大きく振るう。尻尾から光輝く無数の星がソーナンスへと降り注ぐ。

ソーナンスはミラーコートを張って、降り注ぐスピードスターを受ける準備をする。

しかし、スピードスターはソーナンスから外れて、その足元にぶつかっていった。

 

「どこ狙ってるのよ!この下手くそ!」

 

ムサシは攻撃が外れたことに、少年に思い切り挑発する。

少年はそんなムサシに対して鼻で笑う。

 

「何よ?」

 

「今だ!イーブイ!」

 

「ブイ!」

 

ソーナンスはスピードスターによって巻き上げられた砂煙で視界が遮られ、動けなくなってしまう。その隙に、イーブイがでんこうせっかで一気に距離を詰めてくる。

ソーナンスは砂煙によってイーブイの速さに反応できないまま、カウンターが間に合わず、でんこうせっかの直撃を受けてしまい、吹き飛んだ。

ソーナンスが飛んだ先にはムサシがいて、彼女はそのままソーナンスに押し潰されてしまう。

 

「ちょっとソーナンス、重いからどいて…」

 

「ソーナンス…」

 

マネネに続いてソーナンスまで戦闘不能状態となってしまい、残るはニャース1匹だけとなった。

 

「ニャー。不味いニャ」

 

ニャースは正直なところ、ポケモンバトルが得意ではない。ニャースの役目はロケット団のブレイン的な立ち位置が多く、ニャース自身の覚えている技が『ひっかく』と『みだれひっかき』だけである。

そんなニャースがマネネとソーナンスを一瞬で倒してしまう相手に正面から立ち向かって、勝てる確率はほぼ0である。

しかし、ニャースにもロケット団としての意地がある。栄光あるロケット団の名誉のためにニャースは立ち向かう。

 

(いや。何を言ってるのニャ。そんなカッコよく言ってもニャーが戦える訳ないニャ!って、ニャーは誰にツッコんでるのニャ?)

 

戦えニャース!ロケット団の輝く明日はお前にかかっているぞ!

 

「だから、ニャーにプレッシャーかけるんじゃないニャ!もうこうなったら自棄ニャ!みだれひっかきニャ!!」

 

両手の爪を伸ばして、イーブイ目掛けて斬りかかろうと飛び上がる。

 

「かわして、スピードスター!」

 

「ブイ!」

 

イーブイの軽快なジャンプにニャースの攻撃は空振りに終わり、そこからスピードスターを喰らって飛ばされる。

 

「あのイーブイ、強すぎニャ…」

 

「無茶苦茶だ…」

 

「キィーッ!ムカつく!!」

 

地団駄を踏むロケット団に、少年はこのバトルの幕を下ろす。

 

「決めるぞ。イーブイ、『びりびりエレキ』!」

 

「イーブイッ!!」

 

次の瞬間、イーブイの体にものすごい量の電気が蓄えられ、そのままロケット団目掛けて一気に放たれた。

 

「「「うそぉー!?」」」

 

電撃がロケット団に直撃すると、その場で爆発が起こり、彼らを吹き飛ばした。

 

「何なのよ!あの生意気ジャリボーイ!」

 

「あいつさえいなかったら、上手くいってたのになあ」

 

「まあ、とりあえず。皆さん一緒によろしくニャ!せーの」

 

「「「やなかんじ~!」」」「ソーナンス」 キラーン

 

ロケット団が星になったところで、少年はサトシのところに行き、彼の拘束を外す。

 

「大丈夫か?」

 

「俺は大丈夫です。ピカチュウは!?」

 

自由になったサトシは真っ先に倒れているピカチュウの元にへと駆け寄って、ピカチュウを抱え上げる。

 

「ピカチュウ!?」

 

「ピカ…」

 

「ちょっと見せてみろ」

 

少年はリュックからすごいキズぐすりを取り出して、ピカチュウに吹きかける。その後、オボンのみを小さく切り、それをピカチュウに食べさせた。

 

「これで応急手当は完了だ。あとはポケモンセンターに連れて行けば大丈夫なはずだ」

 

「ピカチュウ!大丈夫か?」

 

「ピカピッカ」

 

ピカチュウは万全ではないが、普通に起き上がれるほどまで元気を取り戻した。

 

「ありがとうございます!本当に助かりました!」

 

「気にすんな」

 

「俺はマサラタウンのサトシです。あなたは?」

 

「俺は「ああッ!ここにいたぁ!」」

 

二人の会話を割ってレオナルド博士が入ってきた。

 

「サトシ君、到着したのにいなくて心配したよ」

 

「レオナルド博士、ごめんなさい。でも、その前にピカチュウを!」

 

「これは…。すぐに研究所に連れていこう!」

 

レオナルドはピカチュウを抱えたサトシを連れて空港を出ていった。残された少年とイーブイはふらりとまた歩き始めた。

 

着いたばかりのバーチャ地方でサトシの旅は波乱の幕開けとなった。でんき技を使うイーブイとそのトレーナーの少年はいったい何者なのか。

つづく。

 




どうか皆さん、感想や指摘があればよろしくお願いします。


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第2話『サトシ、カイト、アマネ!新たな出会い!(前編)』

本当は第2話は1話で終わらす予定でしたが、予想以上の文量になったので、前後編で分けました。


レオナルド研究所に着いたサトシとレオナルドはすぐにピカチュウの治療を開始した。応急手当がされていたとはいえ、ピカチュウにはまだ大きなダメージが残っている。

レオナルドは研究所の助手と共に、ピカチュウの治療を開始した。

それから数十分後、ピカチュウはレオナルドに抱えられて部屋から出ると、彼の腕から跳び跳ねてサトシの元に一直線に駆け寄った。

 

「ピカピ!」

 

「ピカチュウ!元気になったんだな!よかった」

 

「ピカチュウのダメージは大きかったけど、あの手当がされていたから大事にはならなかったよ。サトシ君がやったのかい?」

 

レオナルドが尋ねると、サトシは首を横に振る。

 

「いえ。俺じゃなくて、イーブイを連れたトレーナーがしてくれたんです」

 

「イーブイを連れたトレーナー?」

 

「はい」

 

サトシはレオナルドに事の経緯を説明した。

レオナルドとの電話の後に、自分のリュックが置き引きされたこと。それを取り戻したのが、あのイーブイを連れたトレーナーだということ。そのトレーナーを追いかけたところで、ロケット団に襲われたこと。そして、ふたたびあのトレーナーがロケット団を一蹴したことを伝えた。

 

「そうか。そんなことになっていたなんてね。しかし、気になるのはサトシ君の言ってたそのトレーナーとイーブイだね。イーブイがでんき技を使うなんて聞いたことないよ」

 

「俺も今までいろんなイーブイを見て来ましたけど、でんき技を使うのは初めてです。あのイーブイもトレーナーも無茶苦茶強くて…」

 

「僕が名前を聞く前に君を連れて来ちゃったから、名前を聞きそびれたしね」

 

結局、あの少年のことはわからないままになった。

 

 

 

時はサトシがレオナルド研究所に到着した頃に遡る。

 

「ここがローマレシティか」

 

アマネはサラメタウンから歩いて2時間、ようやくローマレシティに到着したのだった。

彼女はこのローマレシティのレオナルド研究所で、最初のポケモンを貰うためにこの街にやって来た。

ここでポケモンを貰って彼女のトレーナーとしての一歩を踏み出すのだった。

 

「えっと…。研究所はどこなんだろう?」

 

ローマレシティはよく両親に連れられて買い物に来たことはあるが、初めての一人での街は昔よりも大きく感じられた。

研究所を探してうろうろするアマネに二人の男が近づいてくる。

 

「ねーねー。君どこから来たの?」

 

「行きたい場所があるなら俺たちが連れて行ってあげるよ」

 

声をかけた男達は派手な髪と服装の見るからに怪しそうな感じがして、アマネは少し怯えた様子で返事をする。

 

「えっ!?あの…、その…、私、レオナルド研究所に行きたくて…」

 

「レオナルド研究所?そんなつまらないところよりさ」

 

「俺達ともっと面白いところに行こうよ!」

 

「離して下さい!」

 

男の一人に手首を掴まれて必死に振り解こうとするが、もう一人の男が反対の手首を掴んでしまう。

男達に無理矢理連れて行かれそうになりそうなその時――。

 

「イーッブイ!」

 

「ぐあっ!」

 

「うげっ!」

 

後ろから現れたイーブイがすごい速さで男達にぶつかり突き飛ばした。

 

「いてて…」

 

「何すんだ!」

 

「まったく――」

 

男達がイーブイを睨み付けたところで、声が聞こえる。

 

「今日は本当にダセー奴等によく出会う日だな」

 

その声の主は空港で二度もサトシを助けたあの少年だった。

 

「何だと!?生意気なガキだ。俺達の怖さを教えてやる!行け!オニスズメ!」

 

「ズバット!お前もだ!」

 

男達はオニスズメとズバットを繰り出して、少年に襲い掛かろうとする。少年は気だるそうな顔で、大きなため息を吐いて顔をしたに向ける。

そして、先程とは鋭い目付きで顔を上げると、アマネに声をかける。

 

「ちょっと下がってろ」

 

「あっ、はい」

 

「イーブイ、何度も悪いな。頼めるか?」

 

「ブイ!」

 

アマネは言われた通りに少年の背中に隠れると、バトルが始まった。

 

「オニスズメ、つつく!」

 

「ズバット、きゅうけつだ!」

 

オニスズメとズバットが一斉にイーブイを目掛けて突っ込んで来るが、「かわせ!」という指示と同時にイーブイは2匹の攻撃を軽々とジャンプして回避した。

 

「オニスズメ、何してるんだ!つつきまくるんだ!」

 

「お前もだ。ズバット、きゅうけつ!」

 

オニスズメとズバットがふたたび攻撃を仕掛けるために、イーブイに突っ込んで来るのに対して、少年は――。

 

「イーブイ、スピードスター!」

 

「ブイ!」

 

イーブイが尻尾から放つスピードスターで反撃する。

オニスズメとズバットは攻撃から防御に転じることができず、スピードスターをまともに喰らってしまう。

オニスズメとズバットはたった一撃で戦闘にされた。

 

「オニスズメ!?」

 

「ああッ!ズバット!?」

 

ポケモンをモンスターボールに戻す男達に、少年とイーブイは鋭い眼光で睨み付けながら尋ねる。

 

「どうする?まだ戦るか?」

 

「イーブイ!」

 

「「ひっ。お、覚えてろ~!」」

 

怖じ気付いた男達が逃げて行った後、少年は後ろに振り返ると、アマネが少年に頭を下げてお礼する。

 

「ありがとうございました。お陰で助かりました」

 

「気にすんな。それよりあんた、研究所に行きたいんだったよな。確か、すぐ近くだから案内するよ」

 

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

「乗りかかった船だ。気にしなくていい。な、イーブイ?」

 

「イッブイ!」

 

「本当にありがとうございます。私はアマネ。これからポケモンを貰う新人トレーナーです。あなたは?」

 

アマネが尋ねると、少年は軽い笑みで返す。

 

「俺はカイト。こいつは相棒のイーブイだ」

 

「イーブイ!」

 

「カイトさんですね」

 

「カイトでいいさ。それじゃ、研究所に行くか」

 

少年カイトは肩に乗せたイーブイと共に、アマネをレオナルド研究所に連れて行くのであった。

レオナルド研究所はカイトの言った通り、歩いて10分のところで到着した。

 

「ここだな。レオナルド研究所」

 

「ありがとうございます」

 

「とりあえず、中に入ってみるか」

 

カイトが入り口の扉に手を伸ばした。その時――。

 

「博士!俺、探して来ます!!」

 

「あぐっ!」

 

サトシが中から思い切り扉を開けたために、カイトは扉に叩きつけられた。

 

「――ッ~!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

カイトは痛みで鼻を押さえながら悶絶していたが、すぐにいきなり扉を開けた奴に文句を言おうと顔を向けた時、その顔を見て互いに体が硬直する。

 

「「ああ~!」」

 

突然、二人が大きな声で叫び出すので、アマネは驚いて体を大きく震わす。

 

「イーブイの人!」

 

「えっと、空港で変な奴等に絡まれてたサトシだったけ?」

 

「はい!えっと、あなたは?」

 

「俺はカイト。こいつは相棒のイーブイだ」

 

「ピカチュウ!」

 

「イーブイ!」

 

互いの肩に乗っているピカチュウとイーブイもポケモン同士挨拶を済ませると、研究所の奥からレオナルドが騒ぎを聞きつけてやって来た。

 

「サトシ君、どうしたんだい?」

 

「レオナルド博士、この人です!俺の話したイーブイのトレーナー!」

 

サトシがそう言うと、レオナルドは目を輝かせてカイトに詰め寄る。

 

「君がそうか。サトシ君から話は聞いたよ!サトシ君が世話になったそうだね!しかも、変わったイーブイを持っているそうじゃないか!もしよければ、僕に見せてくれないかな?あっ、もしかしてこのイーブイかな?なるほど、見た感じは普通のイーブイと対して変わりはなさそうだね。でも、よく鍛えられてるね。毛並みもしっかりと整えられて、健康状態も問題ない!君の育て方がいいんだね!「ちょっと、あんた―」」

 

詰め寄ってからは一方的に話続けるレオナルドに押されるカイトに、レオナルドはカイトの肩に乗っているイーブイを両手で抱えとると、話続けながら観察を始めた。いきなり見ず知らずの人にいきなり抱えられてあちこち見られることにイーブイの苛立ちが貯まっていく。カイトあわててイーブイを引き離そうとするが――。

 

「イーブイー!」

 

「うぎゃああ!」

 

イーブイの強力な電撃がレオナルドを襲った。電撃を喰らった彼はアフロヘアーになったまま倒れた。

 

「イーブイを離せって、言おうとしたんだがな」

 

「はらほれひれ~…」

 

場所を移してレオナルドの私室に移動した4人。そこでお互いの自己紹介を済ませる。

 

「いやいや、申し訳ない。職業柄、珍しいものを見ると我を忘れてしまって。ごめんね。イーブイ」

 

「ブイ!」

 

博士が謝るとイーブイは笑顔で返事した。そこにピカチュウがイーブイの傍に近づいて話しかける。

 

「ピカ。ピカピーカ!」

 

「ブイ、イッブイ!」

 

仲良さげに話す2匹を見て、サトシの口が開く。

 

「空港では2度も助けてくれて、本当にありがとうございました。カイトさん」

 

「別にいいよ。そんな礼を言われることしたつもりはねえし。あと、気楽に話してくれてかまわねえよ」

 

「そ、そうか…。それじゃ、カイト。俺とバトルしようぜ!」

 

サトシはカイトに向けてバトルを申し込む。レオナルドも意気揚々とサトシ申し込みを賛同する。

 

「いいね。僕もピカチュウとイーブイのバトルを見てみたいよ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

「イーブイッ!」

 

ピカチュウもイーブイの2匹もバトルをすることを楽しみにして、ワクワクしている。

しかし、カイトは冷静に2人と2匹に待ったをする。

 

「ちょっと待った。バトルの前に、まずはアマネの用件が先じゃないのか」

 

そう言いながら、カイトはアマネの方に首を向ける。

 

「あっ!そうだね。アマネちゃんの用が先だよね」

 

「そんな!私の用なんて、後でも大丈夫ですよ」

 

アマネは遠慮がちに言うが、サトシとカイトは彼女に諭すように話しかける。

 

「そんなことないさ。やっぱ、最初のポケモンをもらうことの方が大事に決まってる!」

 

「バトルはその後でも十分だからさ」

 

「ありがとうございます!」

 

アマネが2人に頭を下げると、レオナルドを立ち上がり、彼女を案内する。

 

「それじゃ、ポケモン達がいる育成ルームに案内するよ」

 

「博士、俺達も付いて行っていいですか?」

 

「ピーカ?」

 

サトシとピカチュウが尋ねると、レオナルドは笑顔で返す。

 

「もちろん。カイト君も一緒にどうかな?」

 

「それじゃ、俺も。行くか、イーブイ」

 

「イーブイ!」

 

4人は研究所の奥にあるガラス張りの育成ルームに移動した。

育成ルームに到着した博士が扉を開けたその先で3人が見たものは圧巻の景色だった。

この大きな部屋はポケモン達が野生に近いの状態でのびのびと生活を観察するために、木や草むら、川に湖といった自然が丸々部屋の中に入って、そこにたくさんのポケモン達が過ごしていた。

 

「うわあ!スッゲー!」

 

「ピカピカ!」

 

サトシとピカチュウは育成ルームの大きさとたくさんのポケモン達に感動して大きな声をあげた。

アマネは初めて見るたくさんのポケモンに言葉を失い、カイトもその素晴らしさに言葉を呑んだ。

 

「皆に驚いてもらえると、僕も嬉しいよ。さて、アマネちゃん」

 

レオナルドが手をあげると、育成ルームの奥から研究員が大きなカプセルを抱えて現れた。

研究員はレオナルドの横に立つと、カプセルを開ける。カプセルの中は3つのモンスターボールが並べられていた。

 

「これから旅立つ君に、最初のポケモンを選んでもらうよ」

 

レオナルドは3つのモンスターボールを開けて、3匹のポケモンが現れる。

 

「バーチャ地方の新人トレーナーの3匹。こざるポケモンのサルノリ、うさぎポケモンのヒバニー、みずとかげポケモンのメッソン。君はどれにするのかな?」

 

「うおぉっ!見た事ないポケモン達だ!」

 

「サトシが興奮してどうすんだよ。もらうのは、アマネだぞ」

 

「アハハ。そうだった」

 

初めて見るポケモンを見て、興奮するサトシをカイトが諌める。

アマネは3匹のポケモンと対面して、緊張で心がいっぱいだった。

 

(はう~。ちゃんと決めたはずなのに、いざ選ぶとなると緊張しちゃうよ~!)

 

頭がぐちゃぐちゃになってどれを選ぶか分からなくなってしまったアマネにサトシ達が声をかけてあげる。

 

「アマネ。深呼吸してみるんだ!こうやって、スー、ハー、スー、ハー」

 

「無理に考える必要はないさ。お前が一緒に行きたいと思ったのでいいんだ」

 

「ピカチュウ!」

 

「イッブイ!」

 

サトシに言われた通りに大きく深呼吸して緊張を解す。そして、目の前の3匹をもう一度見回して、ついに彼女の足が前に出た。

彼女はそのポケモンの前まで歩いていくと、しゃがんで声をかけた。

 

「ヒバニー。私と一緒に旅してくれるかな?」

 

「ヒバッ!」

 

ヒバニーは喜んでアマネの胸元へ飛び込んで行き、彼女は飛んできたヒバニーをギュッと抱きしめた。

 

「ほのおタイプのヒバニーにするんだね。うん!君達はいいコンビになりそうだね。これがヒバニーのモンスターボールだよ」

 

「ありがとうございます」

 

アマネはレオナルドから受け取ったモンスターボールにヒバニーを戻す。手にしたモンスターボールを見つめて、アマネは自分がポケモントレーナーになったことを改めて自覚した。

 

「おめでとう!これでアマネちゃんもポケモントレーナーとしての第一歩を踏み出したんだ。これからはヒバニーと共に頑張っていくんだよ」

 

「はい!」

 

アマネが返事すると、サトシはカイトの方に振り返ってもう一度挑戦する。

 

「カイト。次は俺達のバトルだ!」

 

「ああ!そうだな」

 

「裏庭にバトルフィールドがある。そこで存分にバトルするといいよ!」

 

「私も見学させてください」

 

4人と2匹が育成ルームを出たところを研究所から離れた場所から覗きこむ3つの影。

ロケット団の3人は双眼鏡でサトシとピカチュウの動向を観察していた。

 

「ジャリボーイとピカチュウを見つけたのはいいんだが」

 

「さっきのイーブイを連れたジャリボーイもいるのニャ。でも、これはチャンスなのニャ」

 

「どういうことよ?」

 

ムサシがニャースに問いかけると、ニャースは自信たっぷりに返す。

 

「あのイーブイは強いだけじゃなく、使えない筈のでんきタイプの技を使ったのニャ。間違いなくあのイーブイは普通のイーブイとは違う超レアなポケモンなのニャ」

 

ニャースの言葉の意味を理解したムサシとコジロウ。

 

「つまり、最強のピカチュウと」

 

「最強のイーブイをゲットしたなら」

 

「ボスは大喜びするのニャ。そしたら」

 

「「「幹部就任、スピード出世でいいかんじ~!」」」「ソーナンス!」

 

嬉しく舞い上がっていたロケット団のメンバーだったが、コジロウがあることに気がついた。

 

「でも、今の俺達があのピカチュウとイーブイをゲットできるのか?」

 

先程、空港でカイトにボコボコにされたばかりなので、普通にゲットしようとしても勝てる可能性はないのではないかという心配がある。

そんな心配するコジロウにムサシは悪い笑みを浮かべて問いを返す。

 

「何言ってるの。戦力ならあそこにいるじゃない」

 

そう言って、研究所の育成ルームを指差す。コジロウとニャースはムサシの言いたい事を理解して、彼らも悪い笑みを浮かべた。

 

「それじゃ、作戦開始よ~!」

 

「「おぉ~!」」

 

 

 

研究所の裏庭のバトルフィールドに移動した4人。サトシとカイトはバトルフィールドの両端のトレーナーゾーンに立つ。

 

「審判は僕が務めよう。使用ポケモンは1体。どちらかのポケモンが戦闘不能になった時点で試合は終了。2人共、準備はいいね?」

 

「大丈夫です!いくぞ、ピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

「頼むぜ、イーブイ!」

 

「イッブイ!」

 

サトシとピカチュウ、カイトとイーブイ。トレーナーとポケモンの緊張感がフィールドを包みこむ。

アマネはレオナルドの横で、バトルを見守る。

 

「ヒバニー、出ておいで」

 

「ヒバニー!」

 

「ヒバニー。2人のバトル、一緒に見よう。きっと、これからの旅の経験値になるよ」

 

ヒバニーは頷くと、アマネと一緒にバトルを観戦する。

 

「それでは、はじめ!」

 

レオナルドのスタートと共にサトシが動く。

 

「先手必勝だ!ピカチュウ、でんこうせっか!」

 

「ピカピカピカ!」

 

ピカチュウがでんこうせっかでイーブイに接近すると、カイトも動き始めた。

 

「イーブイ、こっちもでんこうせっかだ!」

 

「イーブイッ!」

 

イーブイも同じく、でんこうせっかでピカチュウへと突進する。ピカチュウとイーブイ、同じでんこうせっか同士がぶつかり合う。

同じ技でのぶつかり合い、互角かに見えたが――。

 

「ピカッ」

 

「ピカチュウ!?」

 

ピカチュウが吹き飛ばされた。しかし、ピカチュウは受け身をとり、直ぐにイーブイに向き直る。

 

「どうして?同じでんこうせっか同士でなんでピカチュウが負けたの?」

 

「あのイーブイがよく育てられてるのもあるけど、一番の理由はおそらくイーブイの『とくせい』だね」

 

「とくせい?」

 

レオナルドの答えにアマネは首を傾げる。

 

「ポケモンには『とくせい』という能力があるんだ。ポケモンによって様々なとくせいが存在するけど、イーブイのとくせいは『てきおうりょく』。自分と同じタイプの技を使うと技の威力が上がるんだ。イーブイはノーマルタイプ、でんこうせっかもノーマルタイプの技だから、イーブイが勝ったんだ」

 

レオナルドの解説が聞こえていたサトシは考える。

 

「だったら、これでどうだ。アイアンテール!」

 

「ピッカ!」

 

ピカチュウは尻尾を白く硬質化して輝かせると、大きく跳び跳ねてイーブイに振り下ろす。

 

「かわすんだ!」

 

「ブイ!」

 

ピカチュウのアイアンテールを後ろに避けるイーブイ。

 

「ピカチュウ、その勢いを殺さずもう一度アイアンテールだ!」

 

「なに!?」

 

ピカチュウは地面についた尻尾でバネのように反動をつけて、一気に前方のイーブイへと飛び込んでいく。

そして、そのままイーブイめがけてアイアンテールを振るった。

流れるような連携にイーブイは対応できず、今度はピカチュウのアイアンテールを喰らってしまう。

 

「いいぞ、もう一度アイアンテールだ!」

 

「ピッカ!」

 

ピカチュウがイーブイに追撃を与えようとアイアンテールを振り下ろす。

 

「イーブイ、尻尾にかみつく!」

 

「ブイ!」

 

「ピカ!?」

 

「なにッ!?」

 

イーブイは振り下ろされたピカチュウのアイアンテールを口で噛みついて受け止めた。

 

「すごい!」

 

「まさに真剣白刃噛みだね。やはりカイト君とイーブイは素晴らしいトレーナーだ」

 

サトシとピカチュウがイーブイにアイアンテールを封じられた驚きからの一瞬の動揺をカイトは見逃さない。

 

「イーブイ、そのままピカチュウを投げろ!」

 

「ブゥイ!」

 

イーブイは体を大きく捻ると、そのままピカチュウを上空に放り投げた。

 

「スピードスター!」

 

「ブゥイ!」

 

尻尾を振るって、上空のピカチュウめがけてスピードスターを撃ち出した。

無数の星がピカチュウにぶつかり、ピカチュウはそのまま地面に落下した。

 

「ピカチュウ!」

 

「ピ、ピカ!」

 

スピードスターの直撃のダメージは大きく、ピカチュウはなんとか立ち上がるが、その足下は小さく震えていた。

こうやって戦ってみてサトシとピカチュウは実感する。目の前にいるトレーナー、カイトとイーブイは間違いなく自分達よりも格上の実力を持っている事を。

でも、サトシとピカチュウの心は歓喜で溢れていた。バーチャ地方に来て、一日目でこれ程強い相手に出会えた事がすごく嬉しかった。

その喜びはカイトはもちろん、レオナルドやアマネにも伝わっていた。

 

「サトシ、嬉しそう」

 

「トレーナーにとって強い相手に出会う事は悪い事じゃない。目指す相手ができれば、それを乗り越えようと頑張れるものさ。アマネちゃんもいつかできると思うよ。全力をかけて乗り越えたい相手というものがね」

 

「はい」

 

「ヒバヒバッ!」

 

バトルはそれからもピカチュウとイーブイのバトルは最初は互角に見えていたが、カイトとイーブイの実力とサトシとピカチュウの実力の差が少しずつサトシ達を追い詰めていく。そして、隙をついたイーブイのでんこうせっかに飛ばされても立ち上がるピカチュウだが、ピカチュウの体力も残り少なくなっている。イーブイも息が上がって来てはいるが、まだ余裕が見られた。

これ以上バトルが長引けば、勝機はない。そう考えたサトシは次の一撃で勝負をつけようと考える。

 

「ピカチュウ、一気に勝負を決めるぞ。10まんボルト!」

 

「ピーカー!」

 

ピカチュウが今残っている体力の全てを使い、電気を溜め始めると、カイトも動いた。

 

「イーブイ、こっちもいくぞ!びりびりエレキ!」

 

「イー!」

 

イーブイも電気を溜めて迎え撃つ準備をする。そして、2匹の電気が一気に放たれる。

その瞬間――。

 

ビービービー!

 

と、警報音が研究所内に響いた。突然の警報に2匹は技を止めて、何が起こったのか辺りを見渡した。

 

「博士、これは!?」

 

サトシが尋ねると、レオナルドは

 

「育成ルームでトラブルが起きたみたいだ。ポケモン達が危ない!」

 

レオナルドは急いで育成ルームへと走っていく。残されたサトシ達も彼の後を付いていった。

育成ルームに到着した彼らの目に飛び込んできたのは、気球に繋がれた檻に閉じ込められた研究所のポケモン達だった。

そして、その檻にポケモンを放り込む怪しい3人の後ろ姿を見つけたレオナルドは声を荒げて問いかける。

 

「君達、何をしているんだ!?」

 

レオナルドの問いかけが聞こえると、彼らは振り返って声高らかに名乗りをあげる。

 

「君達、何をしているんだ!?と聞かれたら」

「答えてあげるが、世の情け」

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため」

「愛と真実の悪を貫く」

「ラブリーチャーミーな敵役」

「ムサシ」

「コジロウ」

「銀河を駆けるロケット団の二人には」

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

「ニャーんてニャ」

「ソーナンス!」

 

名乗りとポーズを決めるロケット団にカイトとサトシは驚愕する。

 

「あいつらは空港の――!?」

 

「ロケット団!」

 

空港でぶっ飛ばしたばかりのロケット団がここにいることを驚愕する2人に、アマネは突然、名乗りとポーズをするロケット団のことを尋ねる。

 

「2人は彼らを知っているの?」

 

「あいつらはロケット団という人のポケモンを奪う悪い奴等なんだ!」

 

「僕のポケモン達をどうするんだ!?」

 

「決まってんでしょ。コイツらは我々ロケット団のニュー戦力になんのよ!」

 

「ついでにジャリボーイズのピカチュウとイーブイもゲットなのニャ!あ、ポチッとニャ」

 

ニャースが手元のリモコンのボタンを押すと、気球から伸びるマジックハンドがピカチュウとイーブイを捕まえた。

 

「ピカチュウ!?」「イーブイ!」

 

「ピーカーチューー!」

「イーブイィー!」

 

ピカチュウとイーブイは捕まった状態で、10まんボルトとびりびりエレキを放つが、マジックハンドはびくともしなかった。

 

「ニャハハ!いつものように電撃対策はバッチリなのニャ」

 

「思ってたより簡単にゲットできたな。ピカチュウとイーブイもなんか疲れているみたいだしな」

 

「天はちゃんと見ているのよ!日頃から良いことしている人に微笑むってね!このアタシのようにね!」

 

鼻高々に胸を張るムサシにコジロウとニャースはツッコミたい気持ちをグッと呑み込む。

確かにコジロウの言う通り、ピカチュウとイーブイはさっきまで全力でバトルをしていたために、相当な疲労が蓄積されている。

 

「ピカチュウ!?」

 

「イーブイ、しっかりするんだ!」

 

サトシとカイトの呼び掛けにも2匹は返答するだけだった。

 

「さて、研究所のポケモンとピカブイもゲットしたことだし、後は」

 

「「「帰る!」」」

 

ロケット団は嬉々として気球に乗り込んで、空へ飛び立っていく。ピカチュウとイーブイ、牢屋に入れられたポケモン達も連れていかれる。

 

「ピカチュウ、ピカチュウ!」

 

「このままじゃ、ポケモン達が連れていかれちゃう!」

 

「させるかよ。チルット、行け!」

 

「チルット!」

 

飛び立った気球に目掛けてカイトはモンスターボールを投げる。そこからチルットが現れた。

 

「チルット、マジックハンドにつばめがえし!」

 

「チルー、チル!チル!」

 

チルットが勢いをつけて2本のマジックハンド目掛けて、鋭い2連撃を叩き込んだ。チルットの素早いつばめがえしでマジックハンドは粉々に砕かれ、ピカチュウとイーブイは上空へ放り出される。

 

「ああ!?ピカチュウとイーブイが!?」

 

「ピカー!」

 

「ブイー!」

 

「ピカチュウ!」

 

「イーブイ!」

 

マジックハンドが壊されたと同時にサトシとカイトが一斉に走りだし、落下するピカチュウとイーブイを受け止めた。

 

「ピカチュウ!大丈夫か?」

 

「ピカ!」

 

「イーブイ、お前も平気か?」

 

「イッブイ!」

 

サトシとカイトはそれぞれ、ピカチュウとイーブイの無事を確かると、2匹とも怪我はないことを確認して安堵する。

 

「「「なにぃ~!?ピカチュウとイーブイが~!」」」

 

「ちょっと、あんた!何て事してくれんのよ!」

 

「イーブイ以外のポケモンを持っているなんて反則だ!」

 

「こうなったら、ピカチュウ達は諦めて研究所のポケモンだけでも持って帰るのニャ!」

 

慌てて研究所から逃げ出そうとするロケット団だが、サトシ達は易々と見逃すつもりはない。

 

「逃がすか!ピカチュウ、10まんボルト!」

 

「イーブイ、びりびりエレキ!」

 

「ピーカーチューー!」

 

「イーブイィ!」

 

2匹の放つ電撃がロケット団の乗る気球を襲い、そのまま気球は爆発を起こす。

 

「「「やなかんじ~!」」」

 

ロケット団は飛ばされて事件は無事解決!に思われたが…。

 

「ああっ!ポケモン達が!」

 

アマネが指差した先には、気球の爆発によって壊された檻からポケモン達が研究所の外へ逃げ出していた。

 

「みんな、待ってくれ!落ち着くんだ!」

 

というレオナルドの言葉もロケット団に無理矢理捕らわれた怒りと気球の爆発による興奮で全く耳に入らず、破壊された窓からポケモン達がどんどん出て行ってしまった。

 

ふたたび、トラブルに巻き込まれたサトシ達。一体どうなるのか!?

つづく。




皆さんのご意見等がありましたら、どんどん言ってください。


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第3話『サトシ、カイト、アマネ!新たな出会い!(後編)』

先週、名探偵ピカチュウ観に行きました。最初は実写化に少し不安がありましたが、そんな不安は開始10秒で消えました。帰りに買ったアイドル部とときのそらちゃんのラノベも読みました。どちらもとても面白かったです!


ロケット団に捕らわれていたレオナルド研究所のポケモン達が、研究所から逃げ出してしまった。

 

「何をしているんだ!君はすぐに警察に連絡!残りの者達はポケモン達を連れ戻すんだ!」

 

「「「「は、はい!」」」」

 

レオナルドはすぐに研究所の職員達と街に逃げ出したポケモン達の後を追って研究所を出ようとする。

そこにサトシはレオナルドにお願いする。

 

「博士、俺達も手伝います!」

 

カイトとアマネもサトシと意見は同じく口に出さなくても手伝おうと言う意気込みをレオナルドは感じた。

最初は手伝ってもらうのは悪いと考えたレオナルドだったが、彼らの目を見てその考えは須玖に捨てた。

 

「お願いするよ。分からないことがあれば、僕や職員に聞いてくれ」

 

こうして、サトシ達は研究所から逃げ出したポケモン達を捕まえるために動き出した。

3人はサトシとカイトがポケモンを捕まえて、アマネはまだトレーナーになったばかりなので、彼女はサトシとカイトの補助を務める事になった。

アマネが双眼鏡を使ってポケモンを見つけて、カイトがポケモンを逃がさないように追い込んで、サトシが一気に捕まえた。

今日初めて出会った3人だが、彼らのチームワークは抜群であった。

もちろん、レオナルド博士やその研究員、街のジュンサーなども次々とポケモン達を捕まえて行った。

もちろん時間も一緒に過ぎていき、現在は17時を過ぎた頃で、陽も綺麗な夕焼けで街を紅く染めていた。

サトシ達3人はレオナルド達と合流して捕まえたポケモン達の確認を行っていた。研究所の職員がしっかりとポケモンの種類と数を数えていた。

 

「これで全部かな?」

 

アマネが心配そうに尋ねる。それにカイトが呟く。

 

「だと、いいんだがな」

 

今はまだ夕方だが、これ以上時間をかけると夜になってしまう。そうなると、捜索の難易度は格段に跳ね上がる。

 

「博士、メッソンとサルノリの2匹がいません!」

 

「何だって!?あの2匹が!?」

 

事態は悪い方へと転がっていく。

 

「博士!俺、もう一度探してきます!」

 

「待つんだ!サトシ君。これ以上の捜索は危険――」

 

サトシはそう言うと、レオナルドの制止も聞かず一目散に走って行き、あっという間に見えなくなっていった。

カイトは話を聞かず、走っていったサトシにため息を1つ吐くと、レオナルドに、

 

「俺も一緒に行きます」

 

と言って、メッソンとサルノリ、それからサトシを探すために走りだした。

 

「私も行きます!」

 

アマネもカイトの後を追って付いていった。

レオナルドは捕まえたポケモン達を研究所へ連れていかなければならず、この場は3人に任せるしかなかった。

 

「3人とも、無茶だけはしないでくれよ。すぐに僕も行くから」

 

 

 

「オーイ!サルノリー!メッソーン!いたら返事をしてくれ!」

 

「ピッピカピー!」

 

真っ先に走って行ったサトシとピカチュウは当てもないので、とりあえず大声で名前を呼びながら走っていた。

すると、路地裏で小さな影がコソコソと動いたのを、ピカチュウが目撃した。ピカチュウは慌ててサトシの頬を叩いて呼び止める。

 

「ピカピ!」

 

「どうした?ピカチュウ」

 

「ピカピ、ピッピカピー!」

 

ピカチュウは路地裏を指差して、サトシに教える。ピカチュウの言葉を察したサトシはゆっくりと路地裏へと入っていく。

物音を立てないようにそーっと奥へ顔を覗きこんでみると、そこに小さく丸くなっていたメッソンが震えていた。

サトシはゆっくりと近づいて、しゃがんで優しく声をかける。

 

「メッソン、見ーっけ!」

 

「メソォッ!」

 

サトシに声をかけられたメッソンはビクゥっと大きく体を震わせて、路地裏のさらに奥へ隠れてしまった。

 

「ごめん!驚かせちゃった。俺はマサラタウンのサトシ。こっちは相棒のピカチュウ。俺達はお前を助けに来たんだ」

 

「メソ…」

 

サトシは笑顔で語りかけるけど、メッソンはまだ怯えていて顔も出さない。これ以上、近付きすぎてメッソンを刺激する訳にもいかない。そう考えたサトシは動けなくなり困ってしまった。そんな相棒を見かねてピカチュウがサトシに声をかける。

 

「ピカピ!ピッピカピー!」

 

「ピカチュウ。自分に任せろって?」

 

「ピカ!」

 

任せろと言わんばかりに、胸に手を当てて威勢良く返事したピカチュウはサトシの肩から飛び降りると、メッソンの所まで歩いていく。

ピカチュウは近すぎず遠すぎない距離を保ちながら、メッソンに挨拶をする。

 

「ピカ!ピカピ、ピッピカピカチュウ」

 

「メソ、メソメソ…」

 

「ピーカ!ピカチュウ」

 

ピカチュウの話し方が上手なのか、最初は顔も出さなかったメッソンが物陰から姿を現したその時―!

ビルの窓際に置いてあった小さな鉢植えが突然のビル風に大きく揺られて落ちてしまう。

 

「危ない!」

 

落ちる鉢植えにすぐさま気づいたサトシが飛び込んで、メッソンを抱える。飛び込んだ勢いのままサトシは壁に強く激突した。

壁に打ち付けられた衝撃で肺の中の空気が一気に吐き出してしまう。

 

「ピカピ!」

 

慌ててピカチュウがサトシの元に駆け寄って、声をかける。サトシは痛みを堪えながらも起き上がり、笑顔でピカチュウの頭を撫でる。

 

「ピカチュウ、俺は大丈夫だよ。それより、メッソンは大丈夫か?どこか怪我はしてないか?」

 

「メソ…」

 

自分を庇ってくれたサトシの行動にメッソンは困惑している。メッソンはレオナルド研究所に連れて来られる前から人見知りが激しいために、人間を恐怖していた。

実はレオナルドの研究所に来る前にもメッソンは別の研究所で新人トレーナー用のポケモンとして育てられ、今まで多くのトレーナーに渡されたが、メッソンは最後までトレーナーに心を許すことはなかった。トレーナー達は何時まで経っても心を開かないメッソンに愛想を尽かして何度も研究所に返されてきた。研究所でも、何度も返されるポケモンの面倒を見れるほど、甘くはない。メッソンは野生に返す決定がされそうな時に、レオナルドが引き取ったのであった。

だが、今自分を抱えているサトシの行動が理解できなかった。今も優しく声をかける少年はなぜ初めて出会ったばかりの自分に体を張ってまで助けたのか?

自分に話しかけてきたピカチュウもこの少年と自分を心から心配している。

 

なぜだろう。

 

そんな疑問がメッソンの頭の中を駆け巡る。

 

「メソメソ!」

 

「あっ!待ってくれ、メッソン!」

 

メッソンは堪らず突き飛ばすようにサトシの腕から抜け出てしまう。そのまま逃げようとするメッソンにサトシは呼び止める。

メッソンは後悔する。またやってしまったと―。ここに来る前からもそうだった。人間が怖くて逃げて、あげくの果てにはトレーナーを攻撃する事も少なくない訳じゃなかった。

そして、人間は怒ってしまう。それが怖い。

この少年も怒り出すに違いない。メッソンはそう思い、また物陰に身を隠す。

サトシは立ち上がり、ゆっくりとメッソンの元へと歩いていく。そして、その手をメッソンの頭へと近づける。

メッソンは怖くて目を瞑り、これから怒られるのだと身を固く硬直させた。

 

「びっくりさせちゃったな。ごめんな、驚かせて」

 

「メソ!?」

 

サトシは怒らなかった。それどころかメッソンの頭を優しく撫でて謝ったのだ。

今までのどのトレーナー達は何時も怒ったり、愛想を尽かして見向きもしなくなったりするのに、目の前の少年は謝ったのだ。

メッソンにとって、それだけサトシは不思議な人間であった。それと同時にメッソンの中にある好奇心が芽生え始めた。

 

知りたい。目の前の少年の事をもっと知りたい。

 

そう思ったメッソンはゆっくりと物陰から出ていって、サトシの足下にすり寄った。

サトシはメッソンが自分に寄ってきてくれたことが嬉しくて、メッソンを抱えあげた。

 

「メッソン、大丈夫だ。博士の研究所に戻ろう」

 

サトシとピカチュウとメッソンは研究所へと戻っていくのであった。

 

 

 

サトシと別れたカイトとアマネは研究所から逃げ出したポケモンを探すために、とりあえず広場で作戦を考えていた。

 

「カイトさん、どうしましょうか?」

 

「とりあえず、そうだな…。ここは餌で釣ってみるか」

 

そう言ったカイトはリュックから、缶を取り出して、それを開ける。開けた缶から、小さくて茶色の円筒型の粒を皿に移し変える。

 

「それは何ですか?」

 

「俺が調合したポケモンフーズだ」

 

「カイトさんが作ったんですか!?」

 

「まあな。とりあえずくさポケモンの好みそうな味にしたものだ」

 

カイトはポケモンフーズの入った皿を地面に置く。

 

「これで逃げ出したポケモンを誘い出す作戦ですね」

 

「まあ、探す間に釣れていればいいって感じだけどな」

 

「なるほど」

 

「よし。それじゃあ探しに行くか」

 

「はい!」

 

「イッブイ!」

 

「ウキャ!」

 

「よし。――って、ウキャ?」

 

カイトとアマネとイーブイがゆっくりと首を後ろに向けると、そこには――。

 

「ウキャッキャ!」

 

美味しそうにポケモンフーズを頬張っているサルノリがいた。

 

「いたー!」

 

声を上げて叫ぶアマネに気づいたサルノリは皿に残ったポケモンフーズを一気に口に運ぶと、その場を跳び跳ねて木を登る。

木の枝に移動すると、サルノリは楽しそうに頭の小さな枝を手にして楽しそうに足下の枝や木の幹を叩いた。

 

「サルノリー!研究所に戻ろう!博士が待っているよ!」

 

アマネが呼び掛けるが、サルノリはまだ木を叩き続けている。

アマネがいくら呼び掛けてもサルノリは無視を続けた。話を聞かないサルノリにアマネは困ってしまい、どうしようかカイトの方に振り返る。

アマネのSOSを受け取ったカイトはサルノリの方に近づくと、冷静に語りかける。

 

「サルノリ、俺達とバトルしようぜ」

 

突然のバトルの申し込みにアマネは困惑する。一方、バトルを申し込まれたサルノリはというと――。

 

「ウキャ?ウキャッキャ!」

 

とても嬉しそうに跳び跳ねて、ヤル気満々で木から降りてきた。

 

「やっぱりな。それじゃあ、頼むぜ。イーブイ!」

 

「イッブイ!」

 

カイトのイーブイが肩から飛び降りてサルノリと睨み合う。睨み合って動かなかった2匹であったが、最初に動いたのはサルノリだった。

 

「ウキャー!」

 

サルノリが叫びながら、その小さな爪を立ててイーブイにひっかく攻撃を仕掛けて来た。

イーブイはそれをジャンプでサルノリの上空を跳び跳ねると、そのままでんこうせっかでサルノリにぶつかった。そのまま飛ばされたサルノリだったが、飛ばされた体勢のままつるのムチを伸ばして攻撃した。

 

「イーブイ、かわすんだ!」

 

「ブイ!ブイ!イッブイ!」

 

イーブイは襲いかかるつるのムチの攻撃を冷静にかわしていく。右に、左に、上へと跳び跳ねる。

イーブイが上に跳んだ瞬間、サルノリのつるのムチの速度が一気に加速する。突然の速さに上空で回避できないイーブイはつるのムチで弾き飛ばされた。

 

「ウキャッキャー!」

 

攻撃が命中して喜ぶサルノリだが、その喜びも束の間、飛ばされたイーブイはすぐに立ち上がる。

イーブイが立ち上がるのを見ると、サルノリは再びつるのムチでイーブイに向けて伸ばす。

 

「イーブイ、スピードスター!」

 

「イーッブイ!」

 

跳び跳ねたイーブイは尻尾を大きく振るってスピードスターを飛ばすが、サルノリはつるのムチを自分の前で回してスピードスターを防御する。

イーブイのスピードスターを封じて余裕の笑みを浮かべるサルノリの前方に、イーブイが一気に突っ込んで来た。

 

「イーブイ、でんこうせっか!」

 

「イーブイ!」

 

「ウキャー!」

 

でんこうせっかで飛ばされたサルノリにカイトは決着をつけるべく、最後の攻撃を指示する。

 

「イーブイ、びりびりエレキ!」

 

「イーブイィッ!!」

 

イーブイの放たれた電撃がサルノリに命中して、サルノリはその場に座りこんだ。

サルノリが戦闘不能だと判断し、カイトはサルノリの元へと駆け寄った。

バトルが終わって、サルノリは大人しくなった。バトルでのダメージを回復させるためにイーブイとサルノリにオボンのみを食べさせるカイトに、アマネは質問をする。

 

「あの、どうしていきなりバトルを?」

 

「コイツ、バトル好きなんじゃないかと思ったからさ。研究所でもサトシが俺にバトルを申し込んだ時もコイツだけ興味津々だったし、ロケット団という変な奴等と戦っている時もコイツは俺達のバトルを見物してたからな」

 

「それにポケモンフーズを用意してすぐにコイツが来た事で確信したんだ。コイツは俺達と戦うためにわざと捕まらず、俺達が別れたのを待っていたんだってな」

 

そう答えるカイトにアマネは感心した。あの研究所でそこまで観察していたことに。

そして、その情報での推理力に。

そうこう言っている内に、オボンのみを食べて回復したイーブイとサルノリはすっかりと元気になっていた。

そこに、「オーイ!」と2人を呼び掛ける元気な声が聞こえてきた。声のした方向に首を向けると、メッソンを抱えたサトシが走ってやって来た。

 

「「サトシ!」」

 

「2人もサルノリ見つけたんだな。よかった~」

 

「すごかったんだよ!イーブイとサルノリのバトル!」

 

「え~。カイト、サルノリとバトルしたの!?俺もやりたかったな~」

 

悔しげなサトシにカイトは「また今度な」と言って、サルノリとメッソンを研究所に連れて帰ろうとする。

 

そこに、透明な大きなカプセルがメッソンとサルノリをそれぞれのカプセルに入れられてしまった。

 

「メッソン!」

 

「サルノリ!」

 

「いったい何なの!?」

 

サトシ、カイト、アマネが突然の出来事に驚愕したその時、上空から高らかな笑い声が聞こえてきた。

 

「メッソン!サルノリ!いったい何なの!?と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く」

 

「ラブリーチャーミーな敵役」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「ニャーンてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

いつもの口上を名乗りあげたロケット団が気球に乗って現れた。気球から伸びた2本のワイヤーがサルノリとメッソンが入ったカプセルに繋がっていた。

 

「ロケット団!しつこいぞ!」

 

「へへーん!我らロケット団には誉め言葉だぜ!」

 

「逃げない、めげない、諦めないがモットーなのニャ!」

 

「というわけで、コイツらはいただいていくから。それじゃあ―」

 

「「「帰る!」」」

 

そのまま飛んで逃げようとするロケット団であったが、サトシはそれを止めるべくメッソンの入ったカプセルにしがみついた。

 

「させるかぁっ!」

 

もちろん、子供1人しがみついた程度で気球が止まる筈もなく、サトシの体はしがみついたカプセルと一緒に上空へと連れていかれてしまった。

 

「「サトシ!」」

 

カイトとアマネが叫んだときには、サトシの体は20m以上も高くに上がってしまっていた。

 

「ピカチュウ、アイアンテールだ!」

 

ピカチュウはサトシの肩からカプセルが繋がったワイヤーを駆け登って、硬質化した尻尾を大きく振るってロケット団の気球に大きな切れ込みをいれる。気球の空気が一気に外に漏れ出て、気球は真っ逆さまに落ちていく。落下する衝撃でサトシのしがみついていたカプセルがワイヤーから離れてサトシもろとも地面に落下していく。

 

「サトシ!」

 

「行け、チルット!最大級のコットンガードだ!」

 

アマネが叫ぶと同時に、カイトはチルットを繰り出す。チルットはサトシの真下に移動すると、両羽の羽毛を大きく膨らませて綿羽のトランポリンを作り出す。サトシとピカチュウ達はそのトランポリンに大きく沈むと一気に跳び跳ねて地面に着地した。

 

「サトシ!びっくりしたよ。も~」

 

「いやあ、上手くいってよかった~。ありがとう。カイト――って、痛い!」

 

笑うサトシにカイトはどこから取り出した大きなハリセンでサトシの頭を叩いた。

 

「ったく、危ねえだろうが!一歩間違っていたら、大怪我していたかもしれないんだぞ」

 

最初はいきなり頭を叩かれた事に驚きと怒りが沸いたサトシだったが、カイトの言う通り、今も泣いているアマネやカイトに心配をかけた事を素直に反省して2人に謝った。

 

「ごめん。2人とも」

 

謝るサトシにアマネは泣くのを止めて、カイトは優しく微笑んでサトシの頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

「よし。それじゃあ、2匹を研究所に連れて帰るか「「「ちょっと待ったー!」」」ん?」

 

カイトの言葉を遮り、すでにボロボロのロケット団がやって来た。

 

「あっ!お前らまだいたのか」

 

「まだいたのか。じゃあないわよ!」

 

「大人しく、そのポケモン達を渡せ!さもないと」

 

諦めが悪いロケット団にカイトは冷たい口調で返す。

 

「さもないと、何だって?」

 

カイトとサトシのイーブイとピカチュウが前に現れて、2匹ともバチバチと電撃の火花を散らす。

ロケット団も負けじとポケモンを出そうとモンスターボールに手を伸ばそうとするが、ここである重大な事に気づいた。

 

「そういえば、俺達まだ戦闘用のポケモン持ってなかったんじゃ…」

 

「「あ…」」

 

コジロウに言われて、ムサシとニャースも思い出す。今回の作戦はロケット団の新戦力を手にいれるためのものであるということに。

向こうはヤル気満々であっても、こっちにはそれに対抗するためのポケモンがいなければ意味がない。

その意味を理解したロケット団の3人は顔を青ざめる。

 

「そういえば、俺はこれからそろばん塾の予定が」

 

「アタシもエステの予約が」

 

「ニャーも見たいテレビがあったのニャ」

 

「「「というわけで、皆さんさようなら!」」」

 

できるかぎりの作り笑いを浮かべて、その場からそそくさと立ち去ろうするロケット団だったが、サトシとカイトはそれを見逃さない。

 

「ピカチュウ、10まんボルト!」

 

「イーブイ、びりびりエレキ!」

 

「ピーカーチューー!」

 

「イーブイィッ!!」

 

「「「ヒイイ!うわあぁぁぁっ!!」」」

 

2匹の電撃はロケット団に命中して、爆発した。

 

「ああ、こうして優雅に空を飛ぶアタシって、まるでスワンナみたい」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないカイロス」

 

「うるさいわね!!そうでも思わないと1日に3回も飛ばされるなんて、やってられないじゃない!!」

 

「バーチャ地方。初日から散々だったのニャ」

 

「「「やなかんじ~!」」」「ソーナンス!」

 

ロケット団を撃退したサトシ達はメッソンとサルノリをレオナルド研究所に届けた。研究所に届けた時にはもうすっかり暗くなっていたので、3人は研究所に泊めさせてもらった。

そして、朝が来た。

 

「おはよう!昨日は本当にありがとう!君達のお陰で助かったよ!さて、君達はこれから一緒に旅するんだよね」

 

レオナルドがそう聞くと、サトシは元気よく返事した。

 

「はい!カイトとアマネも一緒に旅しようって言ってくれたんです!」

 

「私は2人が一緒なら心強いと思ったので」

 

「俺はコイツらが心配だから」

 

そう答える3人にレオナルドはあるものを手渡した。

 

「これは僕が作った新型のポケモン図鑑だ!通話機能もあるし、なにかあれば、僕の番号も登録しているから気軽にかけてくれ!」

 

「「ありがとうございます!」」

 

ポケモン図鑑をもらって嬉しそうにするサトシとアマネに対して、カイトはなぜ自分ももらえるのか不思議そうな顔をした。

 

「レオナルドさん、いいんですか?あの2人はともかく、俺ももらって」

 

「もちろん。君だからこそもらって欲しいのさ!それと、サトシ君とカイト君にはもう一つ渡したい物があるんだ」

 

「「?」」

 

レオナルドの渡したい物というのが何なのか分からず首を傾げるサトシ達に、レオナルドは研究所の中へ声をかける。

 

「来たまえ!」

 

そう言って研究所の奥から現れたのは、メッソンとサルノリだった。

 

「メッソンとサルノリ…?」

 

「博士、これはいったい?」

 

「サトシ君、カイト君。君達にこの2匹を渡そう」

 

「「えぇぇぇぇっ!」」

 

レオナルドの言葉に2人は驚愕の叫びを上げた。

 

「今回の事件で2匹が君達の事を気に入ったらしくてね。だから、もしよければ、この子達も連れて行ってくれないか?」

 

レオナルドの頼みにサトシとカイトは顔を見合わせた後、笑みを浮かべて口を開いた。

 

「「喜んで!」」

 

そう言うと、レオナルドは2人にモンスターボールを手渡す。サトシはモンスターボールを手にすると、メッソンの前に膝をつけて声をかける。

 

「メッソン。俺と一緒に来てくれるのか?」

 

「メソ!」

 

メッソンが頷くと、サトシはモンスターボールのスイッチをメッソンの額に当てる。メッソンはモンスターボールに入って少し揺れた後、カチッと音がした。

 

「よぉ~し、メッソンゲットだぜ!」

 

「ピッピカチュウ!」

 

メッソンのモンスターボールを頭上に掲げて、ピカチュウと一緒にバーチャ地方での初めての仲間の加入を喜んだ。

カイトもサルノリの前に歩いて、モンスターボールを前に尋ねる。

 

「サルノリ。お前は俺と「ウキャ!」あっ!」

 

カイトの言葉も待たず、サルノリは自分でカイトが目の前に置いたモンスターボールのスイッチを押した。モンスターボールは数回揺れて、すぐにカチッとゲットの合図を出した。

話も聞かずにゲットされたそのせっかちさに苦笑しつつも、カイトの手持ちに新たな仲間が加わった。

 

「たくっ…。サルノリ、ゲットだな。イーブイ」

 

「イッブイ!」

 

右手でモンスターボールを手にして、左手で跳び跳ねたイーブイの尻尾とハイタッチした。

 

「さて、これから君達の新しい冒険が始まる。サトシ君、君はバーチャリーグを目指すんだよね。ならば、最初のジムはここから一番近いジーナタウンを行くといいね」

 

「ありがとうございます!よぉし、ジーナタウン目指してダッシュだ!ピカチュウ!」

 

「ピッカ!」

 

「オイ!場所もわからねえのに、走るんじゃねえ!」

 

「あっ!2人とも待ってよー!」

 

こうして、新しい仲間と一緒にサトシのバーチャ地方の旅は始まった。まずは最初のジムがあるジーナタウン目指してサトシの旅はまだまだ続く。

 




次回予告
サトシ「旅をする俺達が出会ったのは、4人組のトレーナー!
えっ!?俺達と3VS3のポケモンバトルだって!?いいぜ、売られたバトルは受けて立つぜ!
次回『新たなライバル!?その名はゲーム部』
皆もポケモンゲットだぜ!」


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第4話『新たなライバル!?その名はゲーム部』

遅れて本当にすいませんでした!
仕事と予想以上の文量にてこずってしまいました。
そして、4話目にしてようやくポケモン世界のVTuber登場です。
今回はいつも以上の大ボリュームになったので、楽しんで頂ければ幸いです。
それでは、どうぞ!


バーチャリーグ出場を目指すサトシは、最初のジムがあるジーナタウンを目指して旅をしていた。

旅を始めて2日目の昼時。サトシ達はランチの頂いていた。今日のランチは、カイトの特製サンドイッチ。もちろん、ポケモン達にはカイトがポケモン達の好みに合わせて作った特製ポケモンフーズを食していた。

 

「カイトのサンドイッチ。チョーウメー!!」

 

サトシは両手にサンドイッチを持ち、たくさん食べていた。勢い任せに口へとサンドイッチを頬張るサトシにカイトは呆れ顔で注意する。

 

「慌てるな。行儀が悪いだろ」

 

「でも、サンドイッチがウメーんだもん!」

 

「カイトさんの料理は本当に美味しいです。そうよね、ヒバニー」

 

「バニッ!」

 

アマネはサトシと違ってゆっくりと味わって食べていた。ポケモン達もカイトのポケモンフーズに大満足していた。食事を終えて、片付けを終えたところで、サトシがあることを口にした。

 

「なあ。2人は何か夢があるのか?」

 

「どうしたんだよ。藪から棒に」

 

「いやあ。こうやって一緒に旅するんだから、お互いの事を知り合うのも大事かなって、思ってさ。ちなみに、俺の夢はポケモンマスターになること!カイトは?」

 

サトシに聞かれてカイトはなにか言おうと口を動かしかけたが、言葉が詰まったかのように止まって、すぐに目をそらして口を開いた。

 

「今はねえよ。もともと俺達は気ままに流れる風来坊みたいなモンだったからな。アマネはどうなんだ?」

 

「私も叶えたいある夢があるんです。それが、『ポケモンアイドル』!」

 

「ポケモンアイドル?」

 

目を輝かせて答えるアマネに、サトシは首をかしげる。そんなサトシにカイトが答える。

 

「ポケモンアイドルはトレーナーとポケモンが一緒に歌ったり、踊ったりするパフォーマーの事だ。ここ、バーチャ地方ではポケモンアイドルが人気高いんだよ」

 

「そうなんです!私の夢はそのポケモンアイドルになって、世界最高の舞台ポケリウムステージに立ちたいんです!」

 

「スッゲー!でも、ポケモンアイドルってどうやってなるんだ?」

 

「それはですね。ポケリューションに出ることなんです」

 

「ポケリューション?」

 

また知らない単語にポカンとするサトシに、アマネはポケリューションについて教えた。

 

「ポケリューションっていうのはね。トレーナーとポケモンが舞台で歌とダンスなどのパフォーマンスを見せ合って競う大会なの!各地で開催されるベーシッククラスに3回優勝した人が、マスタークラスに挑戦できるのよ。そして、そこで優勝すれば、トップクラスのポケモンアイドルとして認められるの!」

 

熱く語るアマネにサトシも思わず一緒に興奮する。

 

「なんだか、カロスのトライポカロンに似てるな!」

 

ポケモンとトレーナーのパフォーマンス大会と聞いて、サトシはカロス地方で開催されていたトライポカロンを思い出した。

そんなサトシにカイトが横から教えを入れる。

 

「確かにポケリューションはトライポカロンと似ているけど、違う部分も多いんだぞ」

 

「えっ!?そうなの?」

 

「ああ。まず1番の違いは若い女性しか参加できないトライポカロンと違い、ポケリューションは誰でも参加できることだ」

 

「そうなんだ。じゃあ、俺とピカチュウも参加できるのか!」

 

誰でも参加できるだけ聞いて、サトシはピカチュウと一緒にポケリューションに参加してみようかと期待で胸が膨らもうとしていた。

しかし、カイトは強い口調でサトシに注意を入れるように続ける。

 

「ただし!ポケリューションはその入る門の大きさに比例して、審査はかなり厳しい。ベーシッククラスでも1回優勝するだけでも、とても難しいとの噂だぞ」

 

「そうなのか?アマネ」

 

「うん。ポケリューションはとても厳しくて、確かカロスクイーンのエルさんでさえ、ポケリューションマスタークラスは優勝出来なかったって聞きました」

 

「あのエルさんが!?」

 

サトシは驚愕する。カロスクイーンのエルは以前に出会って、彼女のパフォーマーとしての実力もよく知っている。彼女でさえ優勝できないという事を聞いて、サトシは改めてポケリューションの厳しさを実感した。

 

「そうか。アマネも頑張ろうぜ!俺も応援するよ」

 

「ありがとう。頑張ろうね、ヒバニー」

 

「ヒバッ!」

 

アマネとヒバニーが夢に向けて、新たな覚悟を決めたその時――。

 

「あぁ~!!」

 

突然の大きな声に3人はビクッと、声のした方へと顔を向けた。

声の主は女性だった。高校生くらいだろうか。その女性は、ピカチュウの元へと駆け寄ると、いきなりピカチュウを抱え上げた。

 

「キャー!可愛いー!スゴーい!これがピカチュウだ~!!毛並みもふわふわだし、ほっぺの電気袋もすっごくキュートだよー!」

 

女性は抱き上げたピカチュウを観察したり、撫でたり、ギュッと強く抱き寄せたりした。

そして、遂にピカチュウのストレスの限界値を越えた。

 

「ピーカーチューー!」

 

「ほりゃはりゃりゃあ」

 

女性はピカチュウの電撃を喰らって、その場で倒れてしまう。

 

「うわあぁっ!大丈夫ですか!?」

 

慌ててサトシ達が駆け寄り、倒れた女性の体を起こし上げる。

 

「…た……」

 

女性がなにか呟き始めたので、サトシ達は耳を近づけて聞き取ろうとする。

 

「……超、気持ち良かった」

 

「「「ズコー」」」

 

恍惚な表情で予想外な返答に3人は思い切りズッコケた。

 

「何なんだ。この人…」

 

「あー!見つけたー!」

 

困惑する3人の後ろから、また別の声が聞こえたので、そちらに振り返ると、サトシ達に近寄る3人組が現れた。

 

「カエデちゃん、探したんだよ!」

 

「勝手にフラフラといなくならないでください」

 

「部長がいなくなったから、皆心配したんですよ!」

 

現れた3人組はサトシ達の元に近づいて、彼らの足下で倒れている女性に気づいた。

 

「部長!」

 

「カエデちゃん、どうしたの!?」

 

「お前ら、部長に何をした!」

 

怒りの形相でサトシ達を睨み付ける男に、サトシ達は慌てて弁解をする。

 

「ごめん。確かにこの人を攻撃したのは、俺のピカチュウだ‼️でも――」

 

「この女の人が、サトシのピカチュウをいきなり抱きついたり、触りまくった所為でピカチュウが驚いたからだ!」

 

「私達はその介抱をしようとしただけなんです!」

 

「ピーカ……」

 

サトシ達の弁解を聞き、ピカチュウも申し訳なさそうに項垂れているのも見て、3人は倒れている女性の元へと歩いていき、彼女に問いかける。

 

「本当なんですか?部長!」

 

「カエデちゃん…」

 

「部長……」

 

3人に上からプレッシャーを感じて、寝た姿勢のまま大量の汗を流す女性は――。

 

「ぐーぐー」

 

「「「部長(カエデちゃん)、ふざけないで!!」」」

 

「うわ~!ごめんなさ~い」

 

寝たふりで誤魔化した。そして、3人の怒りの雷が降り注いだ。

 

 

 

「迷惑かけて本当にごめんなさい」

 

女性はサトシ達に頭を下げて謝罪した。他の3人も同じ様に謝罪の言葉を口にした。

 

「部長が迷惑をかけてすまなかった」

 

「悪い人じゃないの!」

 

「ただ、ちょっと自分の欲望に正直すぎるというか……」

 

サトシ達は別に怒ってないので、「気にしてない」と言うと、女性は安心してホッと胸を撫で下ろした。

 

「自己紹介が遅れたね。私はユメサキ・カエデ。よろしくね!」

 

「俺の名はハルトだ!よろしく頼む」

 

「あいあーい!ミリアだよー!」

 

「リョウです」

 

4人の名前を聞いて、サトシ達も自己紹介をする。

 

「俺、マサラタウンのサトシ。コイツは相棒のピカチュウ」

 

「ピーカ!」

 

「私はアマネです。よろしくお願いします」

 

「俺はカイト。パートナーのイーブイだ」

 

「イッブイ!」

 

「3人共、よろしくね!」

 

互いに挨拶が済んだところで、アマネが気になっていた事を聞き出した。

 

「そういえば、ハルトさんとリョウさんはカエデさんの事を部長と読んでいましたけど、4人はどういった関係なんですか?」

 

アマネの質問にカエデが胸を張って答える。

 

「私達は『ゲーム部』!このバーチャ地方のトップに立つために日々活動しているのだ!」

 

天を指差して、カエデは意気揚々と語り続ける。

 

「私とハルト君でバーチャリーグの1、2フィニッシュ!」

 

「ミリアがポケリューションマスタークラス優勝するんだポヨ!」

 

「僕が世界一のポケモンブリーダーになる!」

 

「こうして、俺達の名を世界の愚民共に知らしめるのだ!フハハハハ!」

 

カエデ達がキメポーズしながら語り終えると、サトシとアマネはカエデ達をキラキラした瞳で彼らに告げる。

 

「俺もバーチャリーグ出場するんです!」

 

「私もポケリューションに出場するんです!」

 

サトシとアマネがバーチャリーグとポケリューションに出場する事を知ったカエデとミリアはにこやかに笑った。

 

「それじゃあ、私達はライバルだね!そうだ!ここで私達が出会ったのも何かの縁!って、事で私達3人とサトシ君達3人でバトルしようよ!」

 

カエデの突然の提案にサトシは歓喜の顔で答えた。

 

「いいぜ!バトルなら、大歓迎だ!」

 

こうして、サトシ達とゲーム部のポケモンバトルが始まった。

 

それをロケット団はいつものように監視していた。

 

「気に入らないわね」

 

ムサシがポツリと呟いた。

 

「どうした?」

 

「なにかあったのかニャ?」

 

コジロウとニャースが尋ねると、ムサシはものすごい悔しげに答えた。

 

「No.1アイドルって言ったら、このアタシ以外いないでしょう!あんな小娘どもがポケモンアイドルを目指すなんておかしいじゃない!よし、決めたわ」

 

「えっ!何を?」

 

この時点でコジロウとニャースは嫌な予感がビンビン感じていた。

 

「決まってんでしょう!アタシもポケリューションに出るのよ!そして、バーチャ地方に教えてやるわ。誰が真のアイドルなのかってね!!」

 

「ソーナンス!」

 

「フフフ」と笑うムサシに、コジロウとニャースは頭を抱えた。今までもポケモンコンテストやトライポカロンといった競技にムサシは参加してきたが、大抵はコジロウとニャースが苦労しなければならないのである。かといって、ここで止めろなんて言おうものなら、どうなるものかわからない。なので、コジロウとニャースが取る行動は一つのみ。

 

「さあ、これからポケリューションのための作戦会議よ!」

 

「「オォ~…」」

 

ただ、従うだけである。

ムサシが意気揚々と走り出したその時、グニッと足下に変な感覚を感じた。

 

「ん?何これ?」

 

ムサシは足下を確認すると、それは――。

 

「グルル…!」

 

グラエナの尻尾だった。自分の尻尾を踏まれたグラエナはどこをどう見てもわかるくらい怒っていた。

 

「アラ…」

 

ムサシ達の顔色がどんどん青くなる。こういうパターンはなんとなくわかってしまうから。

 

「グルァアア!」

 

「「「ひええええええ!やなかんじ~!」」」「ソーナンス!」

 

ロケット団はその日一日中ずっとグラエナに追いかけられ続けた。

 

 

 

「それでは、これよりゲーム部とサトシ君達とのポケモンバトルを開始します。ルールはそれぞれ1名ずつ戦い、先に2勝したチームの勝利となります。使用ポケモンは1体どちらかのポケモンが戦闘不能になった時点で終了となります。審判は僕がします」

 

リョウがサトシ達とゲーム部の間に立ち、審判を務める。

 

「それでは、第一試合!選手、前へ!」

 

「ミリアが行くポヨ~!」

 

「がんばります!」

 

アマネはこれが初めてのポケモンバトルに緊張して動きが硬くなっていた。

 

「アーたん、リラックスリラックス!ミリアと一緒に深呼吸しようよ。スーハースーハー」

 

ミリアに言われた通りにゆっくりと深呼吸をする。まだ緊張は残っているけど、少しは楽になった。

 

「頑張れー!アマネー!」

 

「気楽に行くんだ」

 

サトシ達の応援が聞こえる。もう一度深呼吸をして心を落ち着かせる。

そして、目の前の相手に集中する。

 

「あの子、つい先日にトレーナーになったばかりでしたっけ?」

 

「そうだね。でも、良い眼をしてるよ。これはミリアちゃんも油断出来ないんじゃないかな?」

 

「まあ、負けたら高らかに笑い飛ばしてやろう!アホピンク!」

 

「うっさい!ハルカス!あんたはどっちの味方なのよ!」

 

バトルの前に、なぜか同じチームのメンバー同士で喧嘩になりそうな空気をリョウが諫める。

 

「ハル君もミリアちゃんもバトル始めるから喧嘩しないの!ホラ、始めるよ」

 

そう言われて、ミリアはハルトに右目の下瞼を下に下げて舌を出すいわゆる、あっかんべーをした後、正面に向き直る。

 

「それでは、第一試合アマネ対ミリア!はじめ!」

 

「出てきて、ヒバニー!」

 

「ヒバッ!」

 

アマネはヒバニーを出したのに、対してミリアは。

 

「出てきて、くーたん!」

 

「クチート」

 

「クチートだ!」

 

ミリアが繰り出したポケモンはクチート。アマネは初めて見るポケモンを前に、レオナルド博士から貰ったポケモン図鑑をクチートに向ける。

図鑑のカメラがクチートを捉えて、図鑑にデータが更新される。

 

『クチート

あざむきポケモン

おとなしい顔で油断させて近づいてきた相手をおおあごでガブリと捕まえる。』

 

「クチートは、はがねとフェアリータイプだから、ほのおタイプのヒバニーが相性的に有利だけどな」

 

カイトは互いのポケモンを見て状況を分析する。しかし、ポケモンバトルはタイプ相性はバトルを有利にするだけで、バトルの結果には繋がらない。それは、ゲーム部も承知しているために、バトルしているミリアも、その後ろにいるカエデとハルトも落ち着いていた。

 

「先攻はあーたんからどうぞ!」

 

「わ、わかりました!ヒバニー、ひのこ!」

 

ヒバニーがひのこを吐き出す。口から放たれたひのこはクチートに襲いかかる。

 

「くーたん、かわして!」

 

クチートはその場で跳び、ひのこを避ける。

 

「くーたん、じゃれつく!」

 

クチートは一気。ヒバニーの懐へと飛びついて、そこから頭のおおあごを使ってヒバニーをもみくちゃにする。

 

「ヒバニー、もう一度ひのこ!」

 

「ヒバーッ!」

 

じゃれつくでもみくちゃにされながらも、ヒバニーは口を大きく開いて、一気にひのこを吐き出そうとする。

クチートは攻撃される事を危惧して、攻撃を中断してひのこを吐き出される直前に、ヒバニーから距離を取って待避した。

 

「よーし!いいぞ、アマネー!」

 

「あそこでひのこを選択するのは最適だ」

 

「ピカー!」

 

「ブイー!」

 

サトシとカイトも応援してくれている。応援する仲間がいるだけで自分の不安や緊張がどんどん消えていく。

今、アマネの心は歓喜と興奮で満ちていた。

このまま、アマネの攻撃の手は緩まない。相手が距離を取ったこの隙に攻めていく。

 

「ヒバニー、にどげり!」

 

「ヒバッ!」

 

ヒバニーはクチートへ駆け寄り、そのまま勢いを殺さずにクチートに蹴りを2発叩き込んだ。ヒバニーのにどげりをまともに喰らったクチートは大きくよろめいてしまう。

 

「くーたん!」

 

「クチ…!」

 

相手が怯んだと思ったアマネはこのまま決着へといこうと、ヒバニーに指示をする。

 

「これで決める。ヒバニー、もう一度にどげり!」

 

ヒバニーがクチートにとどめを刺そうと、跳び跳ねてそのままクチートに向けてキックの構えのまま落下する。

このまま、にどげりが直撃すれば、クチートは戦闘不能になるはず。しかし、ミリアは全く焦りを見せてない。カイトはそこに不信感を感じていた。

もし、これが相手の攻撃を誘うための作戦だとしたのなら――。

 

「―ッ!!待て。攻撃するな!アマネー!」

 

カイトが叫ぶが、時既に遅し。ヒバニーの蹴りがクチートに当たりそうなその時、ミリアは動き出す。

 

「くーたん、ふいうち!」

 

「クチ!」

 

突然、クチートが素早く飛び上がり、蹴りをいれようとしていたヒバニーの腹部におおあごを叩きつけた。

クチートの攻撃の威力に加えて、ヒバニーが上からの攻撃の威力も加わり、ヒバニーは大きく吹き飛んだ。それは正しく相手の攻撃を利用して攻撃するボクシングのクロスカウンターの要領である。

 

「ヒバニー!?」

 

「ヒバー…」

 

アマネが振り返ると、ヒバニーは眼を回して倒れていた。

 

「ヒバニー、戦闘不能!クチートの勝ち!」

 

「やったー!よくやったね!くーたん!」

 

第一試合はゲーム部が先制した。アマネは何が起こったのか、理解が追いつかなかった。

 

「ふいうちは相手が攻撃してきたときに先制できる技だ。お前が攻撃してくるのを読んでいたんだろ。今回は相手が一歩上手だった。それだけだ」

 

「カイト…。私、ダメだな。ヒバニーの初バトルなのに…」

 

「気にすんなよ!今日負けても、明日勝てば良い!そうだろ?」

 

「サトシ…。そうだね。次は勝とうね。ヒバニー」

 

「ヒバッ!」

 

アマネの初バトルは残念にも黒星で終わった。しかし、彼女のトレーナーとしての道はまだ始まったばかりだ。次なる勝負に向けて、アマネとヒバニーは頑張ろうと誓うのであった。

 

「じゃあ、次は俺がアマネの仇を取ってくるか」

 

次に前へ歩き出したのは、カイトとイーブイ。対するゲーム部からは――。

 

「残念だが、この勝負に部長の出番はありません。なぜなら、この俺様が出るのだからな。フハハハハ!」

 

「いいから。さっさと行けよ。クソメッシュ」

 

高らかに笑うハルトにミリアは冷たく言い放つ。

 

「ハルトく~ん。頑張れー!」

 

「カイトー!負けるなー!」

 

「ピーピッピカチュウ!」

 

カエデとサトシの応援がバトルフィールドに響く。

カイトとハルトは互いに向かい合って、闘志をぶつけ合う。

そして、ハルトが両腕を上げて声高らかに叫びをあげる。

 

「よく来たな!この俺様が奏でる地獄の狂宴に!」

 

「は?」

 

カイトはハルトの言葉を理解出来ず、目が点になっていた。後ろのサトシとアマネも同じく目が点になり、首をかしげていた。

一方、ハルトの叫びを聞いて、ミリアは恥ずかしそうに頭を抱えた。

 

「ああ、もう!本当に恥ずかしい!アイツ舌噛んで倒れないかな」

 

「まあまあ、あれがハルト君らしさなんだから」

 

ゲーム部は慣れているのか、リョウも「アハハ…」と乾いた笑いをしか出てこなかったが、気持ちを切り替えるために一つ咳払いをしてから声をあげた。

 

「それでは、第二試合カイト対ハルト!はじめ!」

 

「行け!我が深淵の使者、アブソル!」

 

「ソォル!」

 

「アブソルだ!」

 

ハルトがアブソルを繰り出すと、サトシは目をキラキラ輝かせて、アマネはポケモン図鑑を取り出した。

 

『アブソル

わざわいポケモン

昔は災いを運ぶポケモンと畏れられたが、実は危機を感知して人々に伝える大人しいポケモンである』

 

「頼むぜ。相棒!」

 

「イッブイ!」

 

イーブイが前に出ると、早速ハルトが動き始めた。

 

「アブソル、かまいたち」

 

アブソルの周囲を空気の渦が囲み、それを頭部の角に集中させて一気に振り下ろす。

 

「イーブイ、スピードスター!」

 

降り下ろされた風の刃に、イーブイのスピードスターがぶつかり合い、どちらも消失していった。

 

「イーブイ、でんこうせっか!」

 

「イッブイ!」

 

「ソォル」

 

先に動いたイーブイのでんこうせっかがアブソルにヒットする。アブソルは予想外の威力に驚くが、直ぐに体勢を立て直した。

 

「アブソル、つじぎり!」

 

「イーブイ、右だ!」

 

アブソルの頭部の角によるつじぎりに対して、イーブイはそれを右に動いて避けた。アブソルは負けじと連続でつじぎりをするが、それらすべてをイーブイは小さな体と持ち前の素早さを活かしてカイトの指示通りに全てかわしていく。

その動きは、サトシとアマネはもちろん、カエデとミリアも唸らせていった。

 

「あのイーブイの動き、よく鍛えられているね」

 

「それにトレーナーの指示も最短かつ的確だよ。これはハルカス厳しいんじゃない?」

 

ミリアの言う通り、実際にハルトは焦りを感じていた。

自分達の動きが全て読まれて、それらを全部かわされて続けられたなら、心に焦燥が出てきても不思議ではない。

 

「アブソル、一旦離れるんだ!」

 

ハルトの声を聞いたアブソルは攻撃の手を止めて、後ろへと飛び退いて、イーブイから距離を取った。

ハルトは焦りを感じているが、冷静さを欠いているわけではない。

最初は自分より年下であるカイトに余裕を持っていたが、今はその考えを捨てた。

ハルトは感じた。目の前にいる相手は全身全霊の全力を持って相手しなければ、コッチがやられるということを。

 

「アブソル、ここからは全力だ!でんこうせっか!」

 

「イーブイ、こっちもでんこうせっかだ!」

 

アブソルとイーブイのでんこうせっかがぶつかり合う。互いが弾かれて飛ばされるものの、両者共に受け身をとって直ぐに立ち上がった。

互いが体勢を建て直すと同時に、トレーナーが動く。

 

「アブソル、つじぎり!」

 

「イーブイ、かみつく!」

 

アブソルの降り下ろされたつじぎりを、イーブイはアブソルの角に噛みついて止めた。

レオナルド研究所でサトシのピカチュウとのバトルで見せた真剣白刃噛みだった。

つじぎりをこんな形で止められた事にハルトは驚愕するが、直ぐにこれが自分にとっての好機であることに気がついた。

 

「アブソル、とびはねる!」

 

アブソルはイーブイが角に噛みついた状態で、空高くへと大きくジャンプをした。角に噛みついていたイーブイは慌ててアブソルの角にしがみついていた。

 

「これで終わりだ!アブソル、そのままイーブイを叩きつけるんだ!」

 

高く飛び跳ねたアブソルは地面へと真っ直ぐ急降下して、角にしがみついたイーブイを地面に叩きつけようとする。

 

「させるか。イーブイ、びりびりエレキだ!」

 

「イーブイッ!!」

 

イーブイの放たれた電撃はしがみついているアブソルを直撃する。電撃を喰らったアブソルは体勢を大きく崩し、そのまま地面に落下してしまった。

 

「アブソル!」

 

アブソルが落下した衝撃でフィールドは砂ぼこりで視界が全く見えない状況になっていたが、直ぐに風が吹いて砂ぼこりは消えていく。

砂ぼこりが消えた先に、立っていたのは。

 

「イッブイ!」

 

イーブイが元気よく声をあげた。その足の下には、アブソルが目を回して倒れていた。

 

「アブソル、戦闘不能!イーブイの勝ち!」

 

リョウの宣告と同時にサトシとアマネがカイトの元に駆け出した。

 

「やったー!スゲーぜカイト!」

 

「やりましたね!」

 

「これで1勝1敗。最後は任せたぜ」

 

カイトは握り拳をサトシに向けて突き出す。サトシはニカッと笑って「ああッ!」と答えながら、自分の拳をカイトの拳と軽くぶつけた。

一方でゲーム部側もハルトがカエデ達の元へと戻って行った。

 

「アブソル、よく頑張ったな。すいません。部長…」

 

申し訳なさそうな顔をするハルトに、カエデは笑顔で答えた。

 

「気にしないで。ハルト君は全力で戦ったんだから。最後はアタシに任せて!」

 

「部長…ありが「アレアレ~?おかしいな~。確か、どっかのクソナルシストがカエデちゃんの出番はないって言ってたような気がするけどな~!どこの誰だったっけ――って痛い!はにふるのよ~!」ふっふぁい!ほはえほだはれ!」

 

ミリアとハルトが互いの頬を引っ張り合う喧嘩が始まるが、カエデは気にせず、「それじゃ、行ってくるね」と言って前へと歩き出した。

 

リョウはサトシ達に「気にしないでください。いつもの事なので」と言った後、気を取り直して最後の試合のために声をあげる。

 

「それでは、最終試合をはじめます!両者、前へ!」

 

それを聞いてサトシが嬉しさのあまりに飛び上がる。

 

「よっし!俺の出番だ!」

 

「サトシ、頑張ってくださいね」

 

「これまでの戦いから見るに、あの人もかなりの強敵だ。気を抜くなよ」

 

「ああッ!むしろ、その方が燃えてくるぜ!」

 

サトシは帽子をしっかりとかぶり直しながら前へ出ていく。その目は期待と興奮でキラキラと輝いていた。

 

「よろしくね、サトシ君!でも、勝利はアタシが戴くね!」

 

「こちらこそ、お願いします。俺も負けません!」

 

熱いトレーナー同士、バチバチと火花が飛び交う。最後の試合、両チーム共に緊張で包まれていた。

 

「それでは、最終試合!サトシ対カエデ!はじめ!」

 

「いっけー!タツベイ!」

 

「ターツ!」

 

「タツベイか」

 

カエデはタツベイを繰り出した。アマネがポケモン図鑑でデータを確認する。

 

『タツベイ

いしあたまポケモン

いつか飛べると信じて、高い所から飛び降りて頭を鍛えている。歴戦のタツベイの頭は岩より硬い』

 

「そっちはそのピカチュウかな?」

 

「ピッカ!」

 

「待ってくれ!」

 

カエデに指名されて、ピカチュウがフィールドに飛び出ようとしたが、サトシに止められてしまう。

 

「ピカ…?」

 

「ごめんな。ピカチュウ。今日は、お前は休みだ。コイツの初バトルの応援してやってくれ」

 

そう言って、モンスターボールを取り出す。

 

「メッソン、君に決めた!」

 

「メソ…」

 

サトシはメッソンを出した。

 

「メッソンかー!」

 

「はい!コイツの初バトルなんです!」

 

「うん!いいバトルにしようね!」

 

最終戦、2人のバトルが今、始まる。

最初に動いたのは、サトシだった。

 

「メッソン、みずでっぽうだ!」

 

「メソォー!」

 

メッソンから放たれるみずでっぽうに対して、カエデが取った行動は――。

 

「タツベイ、ずつき!」

 

「タツッ!」

 

「なにっ!?」

 

サトシ達は驚愕する。タツベイはメッソンのみずでっぽうを避けるのではなく、真正面からずつきでぶつかって行ったのだ。

タツベイのずつきは、メッソンのみずでっぽうを直撃しても足を緩めることなく、水を突き砕いて真っ直ぐに進んでいった。

 

「メッソン、避けろ!」

 

サトシの指示に素早くメッソンはタツベイのずつきがぶつかる直前に右へと飛び避けた。

タツベイはそのまま進み続けて、木にぶつかってようやく止まった。

タツベイは木に ぶつかっても平気な顔をしている。それどころか、ぶつかった木が大きく折れてしまった。

その凄まじさに、アマネは唖然としていた。

 

「すごい威力…」

 

「あのずつきの威力は直撃したら危険だな。それにしても、あのタツベイ、よく育てられてる」

 

サトシもタツベイのずつきの脅威は今のでわかった。ここで取ったサトシの選択はただ一つ。

 

「メッソン、攻撃の手を緩めるな!連続でみずでっぽう!」

 

「メソォー!」

 

距離を詰められないこと。タツベイに近づけられてしまっては、メッソンに打つ手はない。だから、みずでっぽうで距離をとる作戦に出た。

メッソンの怒濤の勢いでの連続みずでっぽうにタツベイは近づけないように見えた。

しかし――。

 

「甘いよ!タツベイ、りゅうのいぶき!」

 

タツベイが繰り出したりゅうのいぶきによって、メッソンのみずでっぽうは全てかき消されてしまった。

 

「そんな!?」

 

「メソォ…」

 

メッソンの動きが止まった。アマネは不思議そうにカイトに尋ねた。

 

「メッソン、どうしたんですか?」

 

「不味いな。おそらく、メッソンは恐怖に支配されかけているんだ」

 

「恐怖に支配…?」

 

「元々、メッソンは俺のサルノリやアマネのヒバニーと違って、臆病な性格ゆえにバトルする事に消極的だった。だから、自分の技が効かない事に自信を失い、相手に恐怖しているんだ」

 

「そんな…。なんとかならないんですか?」

 

「俺達にはどうしようもできない。できるのは――」

 

そう言って、カイトはサトシをじっと見据える。

カイトの言う通り、タツベイの圧倒的な攻撃力にメッソンは恐怖する。元々臆病な性格であるメッソンが戦意喪失するのは容易いことであった。

今、目の前にいるのは紛れもない強敵だ。足がすくむ。体が震える。恐怖で涙が出そうになる。もうダメだ。そう思い、諦めかけたその時――。

 

「諦めるな!」

 

声が聞こえた。

メッソンは振り返ると、サトシが力強い目でメッソンを見つめていた。

自分は役に立てないはずなのに、どうしてサトシは落胆してないんだろう。

そう思っていると、サトシが声をかけてきた。

 

「メッソン。確かに、今相手しているのは強敵だ。お前だけじゃ勝てないかもしれない。でも、お前には俺がついている。俺にはお前がついている。お前は一人じゃない。一緒に戦おうぜ!」

 

メッソンはその言葉を聞いて、自分を情けなく思った。勝手に自分だけで戦って、勝手に諦めようとしていたのだから。そうだ。今の自分は、昔の自分じゃない。怯えて多くのトレーナーに見限られた自分じゃない。

今の自分は信じてくれるパートナーがいる。信じられるパートナーがいる。

自分は彼がいる限り、どこまでも戦える。

 

「メソォー!」

 

メッソンが吠えた。

そして、メッソンの目付きが変わる。それは、先程の怯えた目ではない。力強い目であった。

 

「うんうん!いいね!ポケモンとトレーナーの友情が感じられて、アタシは感動したよ!でも、勝利は譲らないよ!」

 

「それはこっちのセリフです!いくぜ!メッソン!」

 

「メソ!」

 

「メッソン、みずでっぽう!」

 

「タツベイ、りゅうのいぶき!」

 

メッソンのみずでっぽうとタツベイのりゅうのいぶきがぶつかり合い、互いの技が消え去る。それと同時にカエデが動いた。

 

「タツベイ、ずつき!」

 

「ターツ!」

 

タツベイがずつきをぶつけるべく、真っ直ぐ突き進んでいく。サトシはふたたびみずでっぽうで止めようか考えていると、メッソンが自分から前に出たのだ。

 

 

「メッソン!?」

 

「メソメソメソォー!」

 

走るメッソンは水を纏って猛スピードで突進し始めた。

 

「これは――!?」

 

「アクアジェットだ!」

 

メッソンはアクアジェットを使えるようになったのだ。タツベイのずつきとメッソンのアクアジェットが激しくぶつかり合った。

激しいぶつかり合いの結果、両者共々、弾き飛ばされた。

 

「メッソン!」

 

「タツベイ!」

 

メッソンとタツベイは両者ともゆっくりと立ち上がり、互いを称えるかのように笑みを浮かべると、そのまま倒れてしまった。

 

あまりの事に、少しの間、静寂が包んだ。

ハッと気がついたリョウはメッソンとタツベイをチェックすると、大きな声で告げた。

 

「メッソン、タツベイ、両者共に戦闘不能!よって、この勝負は引き分け!勝負の結果、両チーム共に、1勝1敗1分けによりドロー!」

 

サトシとカエデはそれぞれメッソンとタツベイの元に駆け寄って、抱えあげた。

 

「メッソン、大丈夫か?」

 

「メソ…」

 

「よくやったぞ!ゆっくり休むんだ」

 

メッソンをモンスターボールに戻す。一方、カエデも頑張って戦ったタツベイに声をかけていた。

 

「タツベイ、お疲れ様。休んでね」

 

タツベイをモンスターボールに戻すと立ち上がり、サトシへと歩み、手を差し出した。

 

「すごかったよ。君のメッソン。またバトルしようね!」

 

「カエデさんのタツベイもすごかったです!」

 

「カエデでいいよ」

 

互いの健闘を称えた握手をしっかりと交わした2人。

それからは、サトシ達はゲーム部のメンバーと色々な事を話した。話は盛り上がり、気がつけば、空はすっかり夕方になっていた。

それぞれのグループは分かれ道で別れる事になった。

 

「アーたん、次の戦いはポケリューションだね!」

 

「はい!次は負けません!」

 

「さらばだ!我が永遠のライバル!」

 

「あ、あぁ…。そうだな…」

 

「もうハル君、カイト君が困ってるでしょう」

 

「サトシ君はジーナジムに行くんだったよね。頑張ってね」

 

「もちろん!ジムバッジをゲットしてみせるさ!」

 

互いに挨拶を済ませて、サトシ達はゲーム部と別れた。

 

「「「さようなら!」」」

 

「「「「さらばだー!」」」」

 

 

 

サトシ達と別れたゲーム部は彼らの夢のために、旅を続ける。

 

「それにしても、アーたんは可愛かったな~!次も負けないように頑張らなきゃ!」

 

「そうだな。今回はたまたま相手が初心者だから勝てただけだからな!」

 

「そうだねー。どっかのクソナルシストさんみたいにカッコつけて無様に負けたくはないからね~!」

 

「いやいや。初心者狩りでイキるアホピンクに比べたら、マシなもんだよ」

 

「「アハハハ。ぶっ殺(ポヨ)す!」」

 

喧嘩を始めるミリアとハルトにリョウはため息を吐いた。

 

「2人とも、喧嘩するなら置いていくよ。あれ?部長、どうしたんですか?」

 

なにか考え込んでいるカエデにリョウが声をかける。カエデは「ちょっとね」と言って、続けた。

 

「あのカイト君って、どっかで見たことがあるなと思ってね」

 

「部長、知り合いだったんですか?」

 

「いや、会ったことはないの。ただ、どこかで見たなあと思ってね」

 

そう呟くカエデの後ろで、ミリアとハルトがうるさく喧嘩するのであった。

 

サトシ達の旅はまだまだ続く。

 




次回予告
サトシ「ポケモンセンターを目指す俺達の前に現れたのは、いたずら好きなオタチの群れ。
盗まれた物は必ず取り返すぜ!
次回『いたずらオタチのおんがえし!』
皆もポケモンゲットだぜ!」


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第5話『いたずらオタチのおんがえし』

ギリギリ滑り込みセーフで間に合いました。
前回は感想、誤字報告ありがとうございました。
これからもこの作品をお楽しみ頂けると嬉しい限りです!


最初のジムバッジを手に入れるためにジーナタウンを目指すサトシ達は旅を続けていた。

彼らはこの近くのポケモンセンターを目指して歩いていた。

 

「もうすぐでポケモンセンターだ」

 

ポケモン図鑑のマップアプリを確認しながら、カイトは呟いた。今日はいつもより多く歩いたので、3人は早くポケモンセンターで休みたいと思っていた。

その時、横の茂みがガサガサと大きな音を立てた。

3人は音のした方に首を向けると、音が止まった。

 

「オタ?」

 

そこから1匹のオタチが茂みから現れたのであった。

 

「うわぁ!この子、かわいい!」

 

アマネは嬉しそうに、近づいて行く。カイトは手に持っていたポケモン図鑑でデータを更新する。

 

『オタチ

みはりポケモン

尻尾を使って器用に立つ。敵を見つけると、鋭く鳴いて仲間に知らせる』

 

「へえ。オタチか」

 

サトシとアマネがオタチに近づくと、オタチは尻尾で立ち上がって、大きく息を吸う。

 

「オタアアアアアァ!!」

 

そのまま、鋭く大きな鳴き声をあげた。

すると、鳴いたオタチの背後からオタチの群れが一気に襲いかかってきたのだった。

 

「「「「オタァ!」」」」

 

「「うわあぁっ!」」

 

突然襲いかかってきたオタチ達にサトシとアマネは咄嗟に目を瞑ってしまう。しかし、何も起こらない。不思議に思う2人にピカチュウが慌てていた。

 

「ピカピッ!」

 

ピカチュウがサトシの頭を叩いた時に、サトシが気づく。

 

「ああッ!!俺の帽子が!!」

 

「あっ!私のモンスターボールが!」

 

振り返ると、さっきのオタチ達がサトシとアマネのモンスターボールを持っており、最初に会ったオタチがサトシの帽子を頭に被っていたのだった。

 

「このやろう!返せ!!」

 

帽子を取り返そうとオタチに掴みにかかるが――。

 

「オタオタオタァ!!」

 

「へぶぶぶぶぶ」

 

オタチの尻尾によるおうふくビンタで返り討ちにされて、オタチ達はそのまま、茂みに入り逃げてしまった。

 

「くそ~!返せ~、俺の帽子とモンスターボール~!」

 

「どどどどうしよう!?ヒバニーが持って行かれちゃった!!」

 

怒りで地団駄を踏むサトシとパニックを引き起こすアマネに、カイトは落ち着かせるために、2人の肩を掴む。

 

「2人とも落ち着け。今は冷静に「しまった!逃げられた!」ん?」

 

カイトの後ろから現れたのは、警察官のジュンサーであった。

ジュンサーはサトシとアマネを見て、カイトに尋ねた。

 

「もしかして、あなた達もあのオタチ達にモンスターボールを盗られたの?」

 

「ええ。ちなみに、コイツは帽子のおまけ付きでね。ところで、あなた達もってことは、他にも被害者が?」

 

「そうなの。最近、あのオタチ達がトレーナーのモンスターボールを盗む事件が多発していて、何件もの被害届が出ているの。確かに、ここのオタチ達はいたずら好きだけど、盗みなんかしたことないから不思議でね」

 

「ジュンサーさん!俺、盗まれたモンスターボールを取り戻したいんです!手伝わせてください!」

 

「わ、私も手伝います!」

 

サトシとアマネの熱意を感じたジュンサーは承諾した。カイトは少し面倒そうだったが、頭のイーブイがペシペシと叩く。イーブイが目で「手伝おう」と言っているので、カイトはため息を吐いてジュンサーと共に、オタチ追跡捜査に参加した。

オタチの追跡はジュンサーが彼らの足跡を見つけて、それを辿って行く。

10分ほど歩くと、先頭を歩いていたジュンサーが突然、左腕を横に伸ばしてサトシ達を見つけて止める。

 

「どうしたんですか?ジュンサーさん」

 

「おそらく、彼らの巣は近いわ」

 

「そうか。よーし――って痛い!」

 

乗り込む気満々のサトシにカイトがハリセンで頭を叩く。

 

「何すんだよ!」

 

「バカ野郎。オタチは警戒心が強いポケモンだぞ!真正面から行ったら、巣に着く前にアイツらはいなくなってるっての」

 

「そうね。カイト君の言う通りだわ。このまま行っても、無駄よ」

 

「じゃあ、どうすんだよ!?」

 

「それをこれから考えんだよ」

 

サトシとカイトが言い合いになりだし、ジュンサーが止めようとする中で、

 

「あの~。一つ作戦があるんですけど…」

 

そう言って、手を上げたのはアマネだった。

 

 

 

オタチの巣。

そこには、オタチ達が盗んできた大量のモンスターボールが積み重なっていた。

それを悠然と見上げるのは――。

 

「いや~!このモンスターボールの山は最高じゃない!」

 

「ああ!俺達は苦労せず、こんなにポケモンをゲットできるなんてな!」

 

「これもオタチ様々だニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

「マーネネ!」

 

いつものロケット団の面々がとても満足そうに、モンスターボールの山を眺めていた。なぜ、彼らがオタチの巣でモンスターボールを集めさせているのか。それを語るには、話は5日前に遡る。

その日、彼らは空腹で倒れそうになっていた。

 

「あ~。お腹減った…」

 

「もう3日も何も食べてないからな…」

 

「そう言えば、アローラでは食べ物に困ることはなかったからニャー…」

 

「ソーナンス…」

 

ニャースのアローラの言葉で、アローラでの日々を思い出す。アローラでは、キテルグマが持ってきた果物やハニーミツをよく食べていた。そんな日々を思い出せば出すほど、空腹感と虚しさが込み上げて来るのであった。

 

「だ~!もう止め止め!いつまでも昔の事を思い出すのは止めよ!アタシ達はロケット団!過去ではなく、未来を見て突き進むのよ!」

 

「そうだな!俺達はロケット団!」

 

「いつだって白い明日を目指すのニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

決意を新たにピカチュウとイーブイをゲットするために、歩き出したロケット団であったが、やはり空腹には勝てず、直ぐに動かなくなってしまった。その時、ムサシの目に止まったのは、木の上で果物を採ろうとするオタチ達であった。

美味しそうな果物だなとボケーと眺めていた。すると、1匹のオタチが足を滑らせて木の上から落下してしまった。

その時、ムサシの目がピカッと輝く。

 

「ウオオォォォ!アタシの果物ォッ!!」

 

ムサシが猛ダッシュして、落ちた果物をキャッチしようとするのだが、途中で木の根っこに足を躓いてそのまま、落ちたオタチをキャッチする形になった。

 

「あれ?」

 

果物を採ろうと思っていたのに、なぜかオタチをキャッチしたこの状況に首を傾ける。

 

「ムサシ~!大丈夫か~?」

 

コジロウとニャース、ソーナンス達も慌ててムサシの元へと駆け寄る。

すると、

 

「「「「「オタオタオタオタァ!」」」」」

 

木の上から仲間のオタチ達がロケット団の周りを囲んだ。

突然の事に驚くロケット団だが、オタチ達に敵意は見られない。何か必死に語りかけてきているが、ムサシとコジロウにはその言葉は通じない。

 

「ちょっとニャース、何て言ってんのよ?」

 

「どうやら、ムサシが仲間のオタチを助けてくれた事にお礼がしたいと言ってるのニャ」

 

「お礼?」

 

「お礼に何か自分達にできないことはないかと言ってるニャ」

 

ニャースに通訳してもらったロケット団はオタチ達が自分達にお礼がしたいとのことだった。コジロウはそれを聞いて早速、

 

「そうか!それじゃ、とりあえず飯を「ちょっと待って!」ムサシ?」

 

空腹だから果物をもらおうと頼もうとするが、ムサシがそれを止めた。

何だと聞こうとするコジロウにムサシはオタチ達に見えない角度でコジロウとニャースに悪い顔で囁いた。

 

「これは使えるわ」

 

「使える?」

 

「どういう事なのニャ?」

 

「コイツらを上手く利用するのよ。ニャース、あんたはあのオタチ達にこう言うのよ。ゴニョゴニョ」

 

ムサシの作戦を聞いたコジロウとニャースも理解して悪い笑みをする。

そして、オタチ達の方へ振り返ると、先程の悪い顔はどこに行ったか、爽やかな笑みをしていた。

ニャースがオタチ達に話かける。

 

「そうかそうか。いやあ、実はニャー達はおミャー達に頼みがあるのニャ!」

 

「オタァ!」

 

「ニャー達はあるものを盗られて困っているのニャ。それがこのモンスターボールなのニャ」

 

そう言って、ニャースはオタチ達にモンスターボールを見せる。野生のオタチ達はモンスターボールを不思議そうに見ていた。

 

「ニャー達はこれを腰につける悪い奴等から取り返すために、日々戦っているのニャ。でも、ニャー達だけでは手が回らなくて困っていたのニャ。そこで!おミャー達の手も貸して欲しいのニャ」

 

ニャースは巧みな話術でオタチ達を扇動して、オタチ達にモンスターボールを盗ませるように仕向けていた。

こうして、オタチ達がトレーナーからモンスターボールを盗むようになったのだった。

 

 

 

話は現在に戻る。

 

「大分、モンスターボールも集まってきたわね。作戦もそろそろ最終段階に入っても良さそうね。コジロウ、準備はできた?」

 

「当然!バッチリだぜ!」

 

「これだけのポケモンをボスに送れば大喜びするのニャ!そうすれば」

 

「「「幹部昇進!スピード出世でいいかんじ~!」」」

 

喜ぶロケット団達の近くまで来ていたサトシ達はモンスターボール奪還作戦を開始していた。

巣の近くでは、サトシとアマネからモンスターボールを盗んだオタチ達が戻って来ていた。モンスターボールを持ったオタチ達が巣の奥に行こうとしたその時、

 

「ピカッ!」

 

「ブイ!」

 

ピカチュウとイーブイがオタチ達に話かける。2匹はたまたま通りがかっただけの野良のふりをしてオタチ達の警戒心を緩めていく。

もともと、カリスマ性の高い2匹はオタチ達の警戒心を解くのに、時間はかからなかった。

ポケモン達によって、警戒心が解かれたところで、サトシとアマネが手作りのクッキーを持ってゆっくりと歩み寄って、彼らにクッキーを振る舞った。

 

「美味しい?」

 

「オタ!」

 

オタチ達は笑顔でアマネのクッキーを食べていた。完全に警戒しなくなったそこで、サトシがオタチ達に頼む。

 

「オタチ、皆から盗ったモンスターボールを返してくれないか?あれは俺達トレーナーにとって、とても大切なんだ」

 

「オタチ、お願い!ヒバニーは私の初めてのパートナーなの!」

 

サトシとアマネの目を見て、オタチ達は彼らが悪い人間ではないのでは戸惑う。オタチ達は仲間同士で話合った結果、

 

「オタ」

 

オタチ達は手に持っていたモンスターボールをサトシとアマネに返そうとした。気持ちが通じて、ホッとして返されたモンスターボールを受け取ろうとした。

その時、巨大な手がオタチ達をまとめて掴み上げた。

 

 

「「「「オタァ!」」」」

 

サトシとアマネ、そして、後ろで見守っていたカイトとジュンサーも近づいて、それを見上げた。

それを一言で表すなら、巨大ロボットである。

丸みのあるボディに2本の巨大な手、腹部の丸型ガラスの中には大量のモンスターボールが入っていた。

 

「いったい何なのこれは!?」

 

ジュンサーが声をあげると、ロボットから声が響く。

 

「いったい何なのこれは!?と聞かれたら」

 

「答えてあげるが世の情け」

 

「世界の破壊を防ぐため」

 

「世界の平和を守るため」

 

「愛と真実の悪を貫く」

 

「ラブリーチャーミーな敵役」

 

「ムサシ!」

 

「コジロウ!」

 

「銀河を駆けるロケット団の2人には」

 

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」

 

「ニャーんてニャ!」

 

「ソーナンス!」

 

「マーネネ!」

 

「ロケット団?」

 

初めて聞く言葉にジュンサーが首を傾げると、サトシが説明する。

 

「アイツら、人のポケモンを盗む悪い奴等です!」

 

「なんですって!?」

 

「オタチ達にモンスターボールを盗ませてたのは、てめえらの仕業か!」

 

カイトが聞くと、ロケット団は高らかに笑う。

 

「そうさ!コイツらは本当によく働いてくれたぜ!」

 

「コイツらはアタシに恩があるはずなのに、裏切ろうだなんて」

 

「まあ、せっかくニャので、コイツらもボスにプレゼントするのニャ!」

 

「「「「オタァ!」」」」

 

巨大ハンドに握られているオタチ達は苦しそうに鳴き叫ぶ。

オタチ達を利用してモンスターボールを盗むロケット団にサトシ達は怒りを露にする。

 

「許せないぞ。ピカチュウ!10まんボル「待って、今でんき技を使ったら、オタチ達が!」しまった…」

 

アマネの言う通り、今10まんボルトを放てば、オタチ達も巻き込んでしまう。そこでカイトが動いた。

 

「行けチルット!」

 

チルットを繰り出して即座に攻撃する。

 

「イーブイはスピードスター!チルットはつばめがえしであのアームを破壊するんだ!」

 

「イッブイ!」

 

「チルゥ!」

 

イーブイのスピードスターでアーム部分にダメージを与えたところで、チルットのつばめがえしでアームを一気に破壊した。

アームが破壊された事で、解放されたオタチ達が落下する。そこで、次にサトシが動く。

 

「ピカチュウ、エレキネットだ!」

 

「ピカァ!」

 

ピカチュウのエレキネットがトランポリンの役目を果たして、オタチ達は綺麗に着地した。に見えたが、1匹だけが上手く着地できずに地面に激突しそうになる。

 

「あぶない!」

 

アマネが走って、落ちてくるオタチを見事キャッチする。アマネは慌てて怪我がないか確認する。

 

「オタ!」

 

キャッチしされたオタチはアマネにモンスターボールを手渡す。それはアマネのモンスターボールだった。

 

「ありがとう。出てきて、ヒバニー!」

 

「ヒバッ!」

 

ヒバニーを出して、アマネはロケット団の巨大ロボットに向き直る。

 

「ヒバニー、奪われたモンスターボールを取り返すよ!にどげり!」

 

「ヒバッ!」

 

ヒバニーのにどげりが巨大ロボットの腹部にヒットするが、傷一つついていなかった。

 

「ニャハハハ!そんな攻撃じゃ、びくともしないのニャ!」

 

「特別製で高価な超強化ガラスを使用したこのロボットは絶対に壊せないのだ!」

 

ニャースとコジロウの余裕の笑い声が聞こえてくる。サトシとカイトもアマネの援護をする。

 

「ピカチュウ、アイアンテール!」

 

「イーブイ、でんこうせっか!」

 

ピカチュウのアイアンテールとイーブイのでんこうせっかも一緒に攻撃するが、ガラスはびくともしなかった。

 

「どうしよう…」

 

「アマネ、諦めるな!絶対に突破できる!」

 

「ガラス…。それなら――。サトシ、メッソンだ!」

 

「わかった。メッソン、君に決めた!」

 

「メソ」

 

カイトに言われて、サトシはオタチに返されたモンスターボールからメッソンを出した。

カイトはサトシとアマネに続けて指示をする。

 

「サトシはメッソンのみずでっぽう、アマネはヒバニーのひのこを交互にぶつけて攻撃するんだ!」

 

「――そうか!わかったぜ、カイト!メッソン、みずでっぽうだ!」

 

「ヒバニー、ひのこ!」

 

メッソンのみずでっぽうとヒバニーのひのこが交互に巨大ロボットの腹部に命中する。

 

「何やってるのよ。そんな攻撃が効くわけないじゃない!」

 

「いや…。これって不味いんじゃ」

 

鼻で笑うムサシだったが、コジロウの顔色はどんどん青くなっていく。

ガラスは加熱と冷却が交互に繰り返されて、やがて大きな音を立ててヒビが入った。

 

「今だ!イーブイ、でんこうせっか!」

 

「ヒバニー、にどげり!」

 

「イッブイ!」

 

「ヒバッ!」

 

ヒビの入ったガラスにイーブイのでんこうせっかとヒバニーのにどげりがぶつかり、ガラスは粉々に砕け散ってしまう。

ガラスがなくなったロボットの腹部からモンスターボールがすべて外へ転がり出ていく。

 

「サトシ、今です!」

 

「ドでかいの決めてやれ」

 

「ああ。ピカチュウ、10まんボルト!」

 

「ピーカーチューー!!」

 

「「「ヒイイイ!」」」

 

ピカチュウの10まんボルトがロボットの空いた腹部に命中する。強化ガラスのなくなった腹部はロボットの回路が近くにあり、そこに10まんボルトが命中してロボットは大爆発を起こした。

 

「もう!上手くいってたのに!」

 

「やっぱり、恩を仇で返すようなことをするもんじゃないな」

 

「また一文なしなのニャ」

 

「「「やなかんじ~!」」」「ソーナンス!」「マーネネ!」

 

 

 

ロケット団が飛ばされた後、モンスターボールを回収したサトシ達はジュンサーとオタチ達と別れるのであった。

 

「それじゃあ。盗まれたモンスターボールは本官とオタチ達が責任を持って、元のトレーナー変更お返しするわね」

 

「よろしくお願いします」

 

アマネがオタチ達の元に近づいて話かける。

 

「もう人の物を盗っちゃダメだからね」

 

「「「「オタァ!」」」」

 

オタチ達が元気良く返事をした。

 

「よし。それじゃ、俺達も行くか」

 

サトシ達はジュンサーとオタチ達に別れの挨拶をする。

 

「「「お元気で~!」」」

 

「サトシ君達もお元気で!」

 

綺麗な敬礼をするジュンサーと元気良く手を振るオタチ達に見送られて、サトシ達の旅はまだまだ続く。

 




次回予告
サトシ「もうすぐジーナタウンに到着する俺達の前に現れた一人の女性。
ええっ!あなたがジーナジムのジムリーダーだって!?
次回『おつおつおー!後輩系ジムリーダー登場!』
皆もポケモンゲットだぜ!」

お知らせ
本日、投稿予定でした第6話は私の体調不良により、休止させていただきます。
第6話は12日の19時投稿予定ですので、何卒ご了承ください。


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第5話『おつおつおー!後輩系ジムリーダー登場!』

すいません。先週は本当にごめんなさい。
今回も忙しくて短いですが、どうぞお楽しみください。


サトシのバーチャリーグ出場のために最初のジムがあるジーナタウンに向かって旅をするサトシ達。ジーナタウンのすぐ近くまで来ていた。

 

「この丘を越えると、ジーナタウンに着くな」

 

「そうか!もうすぐジーナジムに挑めるんだな!」

 

カイトがマップを確認すると、サトシは興奮を抑えきれず、一気に丘を駆け上がった。

バーチャ地方に来て初めてのジム戦。サトシはまだ見ぬジムリーダーとのバトルに昂っていた。カイトとアマネも猛ダッシュするサトシの後を追って走り出す。

サトシは丘を一気に駆け上がり、頂上に到達した。そこから見えるのは―。

 

「あれがジーナタウンかぁ!」

 

待ちに待ったジーナタウンだった。

 

「よし!早速ジム戦だ!ピカチュウ」

 

「ピッカ!」

 

目の前に見えるジーナタウン目掛けて、サトシとピカチュウは再びダッシュで丘を下るのだった。

 

「サトシ、待ってください!」

 

「バカ!そんなに走ると「ぷぎゃっ」―ん?」

 

カイトが注意しようとすると、ドスンと何かがぶつかった大きな音と、つぶれたカエルのような声が聞こえた。

慌ててアマネとカイトが丘を上がり終えると、そこには下り坂を猛ダッシュで走った為、大木に真正面から激突して倒れたサトシとピカチュウがいた。

 

「サ、サトシ!!大丈夫ですか!?」

 

「ハァ…。何やってんだよ」

 

「ブイ…」

 

慌ててサトシを介抱しようと走るアマネと呆れてため息をもらすカイトとイーブイだった。

この後、バッチリ復活したサトシは再び走り出して、彼らは遂にジーナタウンに到着した。

 

 

「遂に来たぜ!ジーナタウン!」

 

「ここがジーナタウンですか」

 

「さて、まずは「ジムに行って、ジム戦だ!行くぞ、ピカチュウ!」あっ!おい!」

 

カイトの言葉も聞かず、サトシとピカチュウはまた勝手に走り出した。

 

「たくっ…。あのバカ!」

 

「まあまあ、サトシもずっと楽しみにしていたんですから」

 

走り出したサトシに怒りを露にするカイトを、アマネが宥めて、2人もサトシの後を付いていくのだった。

走るカイトとアマネは町を見渡してあることに気づく。

 

「なあ。この町にはあのパーカーが流行っているのか?」

 

カイトが指差したのはジーナタウンの住人達。この町では、至るところで白い猫耳付きのパーカーを着用する人達をめにするのだった。

着用しているのは、主に10~20代の若者に多く、この町ではあのパーカーが若者の間で流行しているのかと感じる。

ジムを目指して走るサトシが路地を右に曲がった次の瞬間、サトシは出会い頭にぶつかってしまった。サトシとぶつかった人は互いに尻餅をついてしまう。

 

「あっ!ごめん!」

 

サトシは慌てて謝っているその時に、カイトとアマネも遅れてやって来る。

 

「大丈夫ですか!?お怪我はありませんか?」

 

「俺の連れが粗相して悪いな」

 

2人もぶつかった相手に謝りをいれた。相手は町でよく見る白い猫耳付きのパーカーを着用していて、頭に被ったフードから長い白髪がこぼれていた。彼女は慌てて、携帯で時間を確認する。

 

「いたた…。うわぁ!もうこんな時間だ!急がないとママに怒られる!」

 

そう叫んで、すぐに立ち上がってその場から猛スピードでこの場から去って行った。

取り残されたサトシ達は呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

「イテテテ。痛いよカイト!」

 

「当たり前だ。痛くしているんだからな。ったく、あれほど勝手に走るなって、言ったのに――」

 

「だからごめんって言ってるじゃん!」

 

「まあまあ。カイトもその辺で」

 

今のサトシ達の状況は、あの後サトシがまた勝手に走り出したりしないように、カイトがサトシの首根っこを掴んで引っ張って歩いている。

カイト達は今はジムではなく、ポケモン達の回復と旅の物資の補給をするために、ポケモンセンターに歩いていた。ポケモンセンターに到着してようやく解放されたサトシは首もとを手で擦りながら、ポケモンセンターへと入っていく。

 

「こんにちは。ポケモンセンターへようこそ」

 

笑顔で挨拶するジョーイにサトシ達はモンスターボールを取り出す。

 

「すいません。よろしくお願いします」

 

サトシ達は手渡されたトレーにモンスターを入れて、ピカチュウとイーブイはモンスターボールには入らず、そのままジョーイに抱えられた。

 

「はい。では、お預かりしますね」

 

ジョーイがポケモン達を預かった時、カイトが彼女にある一点を指差して尋ねた。

 

「すいません。この町であのパーカーをよく見るんですけど、あれはいったい―?」

 

「ああ。あれはアズマリムさんが発売したパーカーでこの町の若い人達には大流行していて、私も持っているんですよ」

 

「「「アズマリムさん?」」」

 

「この町のジムリーダーです。ジムリーダーだけでなく、コーディネーターとしても有名なんですよ。ほら、今テレビに映っている彼女ですよ」

 

そう言って、ジョーイは待合所の大きなテレビを指差した。サトシ達はそちらへ顔を向けると、そこに映っていたのは―。

 

『おつおつおー!先輩達、アズリムだよー!』

 

先程、サトシがぶつかった相手の女性であった。

 

「「「ええぇぇぇっ!?」」」

 

 

 

「いや~。驚いたなあ」

 

ポケモン達の治療を待っている間、サトシ達は未だに驚きが落ち着かずにいた。

知らなかったとはいえ、まさかこの町のジムリーダーとあんな形で会っていたとは、思いもしなかった。

 

「どうする?ジムリーダーは今、テレビに出ているからジムに行っても意味ねえぞ」

 

カイトの言う通り、今もジムリーダーのアズマリムはテレビの生中継に出演しているので、ジムに行っても留守になっている。

しかし、サトシはこのままじっとすることはできなかった。サトシは少し考えた結果、ある答えにたどり着いた。

 

「決めた。俺、アズマリムさんところに行く!」

 

「ハァッ!?」

 

「行くって、今ジムリーダーさんはテレビに出ているんですよ。どうするんですか?」

 

「とりあえず、テレビの撮影現場で待って、撮影が終わったら、会いに行ってバトルを申し込んでみる!」

 

その時、ジョーイから彼らの手持ちポケモンの回復が終わった呼び出しがあったので、サトシは立ち上がり、ポケモンを返してもらうと「ありがとうございました」と礼を言ってポケモンセンターを出ていった。カイトとアマネも同じくポケモンを返してもらうと、サトシの後を追って出ていった。

とりあえず、アズマリムが出演しているテレビの撮影現場は大勢の人達でいっぱいだった。

 

「すごい人だかりですね」

 

「これはすごいな」

 

「ここまで来たんだ。諦められるか!」

 

「ハァ…。俺が行く。アマネはここで待ってろ」

 

「私も行きます」

 

サトシは人混みの中へ突っ込んでいく。カイトはため息を一つ漏らしてサトシの後を人混みの中へ入った。アマネもカイトについていった。

サトシとカイトはなんとか人混みを抜けて、ようやく前に出る。それに少し遅れてアマネも前に出ると、そこで先程会ったアズマリムが町のポケモンを可愛くコーディネートしていた。見た目はもちろん、立ち振舞いからバトルでの動作をより可愛く、より美しくするかという事を語っていた。それをアマネは目を輝かせて楽しそうに見ていた。

そこで番組のアナウンサーがあることを提案した。

 

「それではアズリムちゃん。ここでこの場にいる客のポケモンをコーディネートして見せてくれないか?」

 

「えっ!う~ん、いいよ!」

 

「それでは、皆さん。アズリムにコーディネートを希望したい人は挙手を!」

 

そう言った瞬間、観客は一斉に挙手し始めた。あまりの勢いにサトシとカイトは萎縮してしまうほどであった。

どの観客も声をあげて手をあげるのだが、ある一人の女性がものすごい声と剣幕で手をあげていた。

 

「ハイハイハイハイ!ハァ~イ!」

 

その勢いは凄まじく、サングラスをしていたが、そのサングラス越しでアナウンサーを捕食せんばかりの睨みを利かせてさすがに無視できなかったのか、アナウンサーはたまらず彼女を指名した。

 

「そ、それでは、そちらのお嬢さん…。どうぞ…」

 

「えー、やだー!アタシが選ばれるなんてー!ムサヴィ感激ー!」

 

「ムサヴィさんですか。それではムサヴィさん、あなたのポケモンをこちらに――って、ムサヴィさん?聞いてますか?」

 

ムサヴィはアナウンサーやアズマリムを無視してずっとテレビのカメラ前でポーズをとっているのであった。

 

「ムサヴィさん、ここはポケモンをコーディネートしてもらう場ですよ。あなたがカメラに映る場ではありません!」

 

「何言ってんのよ!大女優であるアタシが映ってあげているんだから、もっと撮りなさい!」

 

アナウンサーがムサヴィをどかそうとするが、ムサヴィもカメラにしがみつき離れようとしなかった。仕方なく、アナウンサーが指を鳴らすと、奥から屈強な体のガードマン2人が現れて、ムサヴィの両肩を掴んで無理やり外へ引っ張って行った。

 

「ちょっと、離しなさいよ!何よ、何すんのよ!」

 

「ム、ムサヴィ~!」

 

「ああ、待つニャー!」

 

ムサヴィの仲間と思われる2人もガードマンの後を追って、その場から去って行った。

アナウンサーはコホンと一つ咳払いをすると、何事もなかったかのようにもう一度観客に応募をかけた。

再び観客達が一斉に挙手し始めた。アマネも手をあげるが、内気な性格が出てしまい、挙手しているのか、していないのかわからないほど小さな挙手だった。それを横目で見ていたカイトが気づかれないように、彼女の後ろに回り込み、そっと彼女の背中を押した。

背中を押されて、一歩前に出てしまったアマネをアナウンサーが捉えた。

 

「おっと!そこのお嬢さん、君にお願いしましょう!」

 

「えっ!えっ?えっ!?」

 

アマネは自分が選ばれた事に困惑しているが、サトシが彼女に声をかけた。

 

「選ばれるなんてスゲーよ!アマネ!ホラ、行って来いよ!」

 

サトシに押されて前に出されたアマネはゆっくりと歩いて、アズマリムのもとへと歩み寄った。

 

「お嬢さん、お名前は?」

 

「アマネ…です…」

 

「アマネさんですか。それでは、アマネさん。ポケモンを」

 

「はい。出てきて、ヒバニー」

 

「ヒバッ!」

 

アズマリムはしゃがんで、ヒバニーの様子を観察する。

 

「へぇー。ヒバニーかぁ!この子はよく育てられているね」

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

アズマリムに誉められてアマネは嬉しくなる。

 

「このヒバニーを見る限り、バトルするためにとは見えないね。もしかして、パフォーマー志望かな?」

 

「え、えぇ…。そんなところ…です」

 

サトシならここで自分の夢を大きく語れるだろうなと思い、アマネはサトシの方を一瞥する。しかし、自分にはまだここで自分の夢を語れるほどの勇気と度胸はない。アズマリムはそんなアマネを見て、彼女の肩を掴む。

 

「よぅし!それじゃ、アズリムがアマネちゃんにヒバニーのコーディネート方法を伝授しよう!」

 

そう言って、アズマリムはアマネのヒバニーのコーディネート方法を教えてあげた。

ヒバニーの見た目のコーディネートから、ヒバニーの特徴を考慮したパフォーマンスの動きなどを手取り足取り教えてあげたのだ。

アマネはよく観察して、教えてもらったことをすべてメモにまとめた。

そして、コアズマリムのコーディネート教室の時間も終わりを告げる。

 

「それじゃ、アズマリムさんのポケモンコーディネートはここまで。皆さん、ありがとうございました。最後に、今回の主役のアズマリムさんとアマネさんの2人に大きな拍手を!」

 

観客からの大量の拍手の音が聞こえる。テレビ収録は無事に終了した。

アマネは終わってもまだ緊張が解けず、心臓がずっとバクバクいっているのを感じた。

テレビ収録が終わったので、ようやくサトシとカイトがアマネのもとへと歩いて来た。

 

「アマネ、スゴかったぜ!」

 

「よく頑張ったな」

 

「2人とも、緊張で死ぬかと思ったよ」

 

「ヒバニーはずっと楽しそうだったよな」

 

「ヒバッ!」

 

「ピッカ!」

 

「イッブイ!」

 

「お~い。アマネちゃ~ん!」

 

3人と3匹が仲良く話していると、アズマリムが手を振りながらアマネの方へと駆け寄ってきた。

 

「アズマリムさん!」

 

「アズリムで良いよ。それより、アマネちゃんって、ポケリューションに出場するの?」

 

「えっ!?」

 

話していない自分の夢をいきなり言われて、アマネは動揺する。アズマリムはそんなアマネに優しく語りかける。

 

「別に恥ずかしいことじゃないよ。ポケリューションは誰でも参加できるんだから」

 

「でも、私は参加するだけで終わりたくないんです。私はマスタークラスに上り、ポケリウムステージに立つのが私の夢です」

 

「そうか。それは大分険しい道だね。でも、次は私だけでなく、皆の前で話せるようにならなくちゃね」

 

「はい。頑張ります!」

 

アマネはアズマリムに色々と教えられた。そこでアマネは自分の夢に対して向き合うことができた。自分の夢を語れるようになるように、自分も強くなろうと決心した。

 

「そうか。応援するね。それじゃ、私はこれで」

 

アズマリムが戻ろうとしたその時、「ちょっと待ったー!」とサトシが呼び止めた。

そう。アマネの事で忘れていたが、元々ここへ来た理由はサトシのジム戦の申し込みのためなのだ。

 

「アズマリムさん。俺、マサラタウンのサトシです。ジム戦をするために、ここへ来たんです!俺とジム戦お願いします!」

 

サトシがお願いするが、アズマリムはばつが悪そうに頬をかいて答える。

 

「うん。ジム戦は嬉しいんだけど、明日に別の挑戦者が来るから、すぐには無理なんだよね」

 

「えぇ…。そんな~」

 

「ホント、ごめん!明後日なら大丈夫だから!」

 

「――わかりました」

 

サトシもこれ以上我儘は言えない。明後日にはバトル出来るので、それで了承する。

 

「明日のバトル、観戦したかったら観に来て良いからね!じゃーねー!」

 

そう言って、アズマリムは帰って行った。

 

「どうする?明日、観に行くか?」

 

カイトが尋ねると、サトシは笑みを浮かべて答える。

 

「あぁ!もちろんだ!」

 

サトシの闘志はメラメラと燃えていた。

いったい、アズマリムはどんなバトルをするのだろうか。サトシの旅はまだまだ続く。

 




皆さんに出してほしいVTuberがいれば、リクエストよろしくお願いします。ジムリーダーと四天王、チャンピオンは決まっているので、主に一般トレーナーになりますが、是非ともご意見をよろしくお願いします。
※あくまで、ポケモン世界のトレーナーとなるので、人外系のVTuberは人間になりますので、そこはご了承ください。


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