戸山家長男? (0やK)
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原作前
戸山家長男?


 あれ?これはだれのきおく?頭に誰かの記憶が入ってくる。

 

「ウァァァァァァァッ!!」

「大丈夫か!?光夜!?」

 

 頭上から声が聞こえる。その声を最後に視界が暗くなった。

 

 ハッとなって起き上がり、目を開ける。

 

「ここは……ベッド?」

「よかった、目が覚めて!」

 

 誰かが強く抱きしめて来た。

 

「そうだぞ、光夜。いきなり、叫び出して倒れたんだから凄く心配したぞ」

 

 ベットの横にいるのはママとパパか。ん?なんでこの人たちをパパとママって……いや、いいんだ。記憶が戻ったばっかで頭がこんがらかっているだけだ。とりあえず、整理しよう。俺は転生したらしい。覚えているのは、横断歩道を歩行中に車がものすごい勢いでこちらに向かってきている所を見たのが最期だということだ。つまり、菜畑洸夜……俺は死んだ。

 

 それで、今しがた記憶もとい前世を思い出したというわけだ。今の名前はこうや。姓ないし名前を含む漢字は知らない。うん、大丈夫だ。思った以上にこんがらからなかった。話によるどうやら俺は、三日三晩寝たきりだったらしい。それはきっと膨大な情報量が流れ込んできたせいだ。なぜ転生したのが分かるのかというと、前世を思い出した俺の記憶の中にとやまこうやとして生きた3年間が確かにあるからだ。いきなりの前世の記憶が濁流の如く流れてきて気絶したと。最も0〜2歳まではうっすらとしか覚えていないがな。前世については既に諦めがついている。未練がないと言えば嘘になるが、死んでしまった以上どうすることもできない。

 

 

だから、今はこれからは……

 

「光夜、大丈夫か?ほんとに大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 

 三日三晩も寝たきりで、親が心配するのも当然だ。少しでも心配を拭うために俺はニコッと笑った。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 前世を思い出してから1年。

 

 戸山光夜<トヤマコウヤ>

 

 それが俺の今の名前だ。前世は菜畑洸夜。俺こと戸山光夜の名前の由来は、月なんだと。名前の漢字のとおり、光る夜。つまりは月だ。暗い夜の中でも月の如く爛々と輝く人になって欲しいからこの名前にした。と父さんは意気揚々に語っていた。私的には前世と名前が変わらなくて助かった。名前が変わると慣れるまで大変だからな。最初こそ戸惑ったものの、今ではこの現実を受け入れている。子どもとして振る舞うのがすごく大変だけど。保育園はちょっとキツい。なぜかみんな俺に寄ってくるし。子どもに戻ったせいか精神年齢もガクッと下がっている気がする。やる事が保育園に行く、幼児番組・アニメをみる、ママと話す、寝る、出掛ける、絵を描くの選択肢しかない。特にチートじみたものとかはない。アニメやラノベのようには上手く行かないのが現実だ。だが、前世を思い出したのが3歳だというのは嬉しい。転生して前世の記憶があるってだけで儲け物だろう。何よりいろいろとやり直しがきく。 

 

 半年後。

 

「光夜、お前に妹ができるぞ!名前はもう母さんが決めてある。香澄だ!戸山香澄!」

 

 かすみ……え?とやまかすみ?

 

 

 記憶を掘り返すと1人だけ該当する名前があった。まさかと思いどうやって書くの?と父さんに聞くと。戸山香澄と紙にマジックで書いてくれた。ということは俺、戸山香澄の兄?あのへんt……じゃなかった「キラキラドキドキしたいです」って言う()の兄になったの?

 

 

 

 

 どうやら俺は

 

『BanG Dream! ガールズバンドパーティ!』の世界に転生したらしい。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 BanG Dream! 通称バンドリ。それがこの世界だ。しかし、『Poppin' Party』だけでなく『Roselia』『Pastel*Palettes』『Afterglow』『ハロー、ハッピーワールド』のバンドグループがあると考えると『BanG Dream! ガールズバンドパーティ!』の世界であろう。

 

 ガルパアプリのリリース、アニメ化がされたことで世間から認知されたものの爆発的な人気にはならなかった。人気が爆発したのはリリースされた年の7、8月の夏休みと記憶している。知っている曲で遊べるカバー曲が人気になった1つの理由として挙げられ、夏休みの「夏のカバー楽曲追加キャンペーン!」で4曲もカバーされた事で有名になった。年末から年始にかけて5曲を5日連続してカバーされたものの年末年始は他にもいろんなイベントがあったため、既存ユーザー以外からバンドリは注目されなかった。

 

 さらに人気に火をつけ加速させたのは2年目に追加された『夏祭り』と『シャルル』や初音ミクだろう。それは違うとか他にあるだろと言われても切りが無いので割愛させていただく。

 

 話は戻るが戸山香澄についてだ。

 

 

 戸山香澄

 

 猫耳のような髪型をしており、いつも溌剌で明るくポジティブな性格をしている。思い立ったが吉日と言わんばかりに行動し、周りを巻き込む。奇想天外で後に『花咲川の異空間』と呼ばれるお嬢様と意気投合する時点でいろいろと察してしまう。何よりおたえに「変態だ」と言われるのだ。そう、変態と言われるのだ!

 

 

 HE・N・TA・I

 

 

 俺もいつか、ランダムスターを持った香澄に言ってみたいものだ。しかし、ここで忘れてはいけない人がもう一人。

 

 

 

 戸山家次女の戸山明日香だ。

 

 

 

 香澄の1つ下の妹で香澄からは「あっちゃん」と呼ばれており、姉が反面教師となったせいかしっかり者で落ち着いている。実は姉離れできないシスコンの一面も。

 さて、ここからが本題だ。それは俺、戸山光夜の存在だ。『BanG Dream! ガールズバンドパーティ!』に戸山光夜という人物は存在しない。そもそも、戸山香澄と戸山明日香に兄はいない。戸山家の家族構成は母・父・香澄・明日香だ。アプリのプロフィールには4人家族と書かれていたから間違いない。

 

 記憶が確かであれば『Poppin' Party』『Afterglow』『Pastel*Palettes』『Roselia』『ハロー、ハッピーワールド』の5バンドの中で兄がいる人は1人だ。北沢はぐみに兄がいるということだけだ。上原ひまりは確か姉だったきがするから今のところは北沢はぐみの1人と考えていいだろう。弟がいるのはポピパの山吹沙綾、ハロハピの奥沢美咲の2人だけだ。重要なのは俺、戸山光夜(イレギュラー)という存在。俺という存在が彼女たちにどう影響するのか?彼女たちと関わらず、何もしなければいいとは思うがそれは無理な話だ。こうして戸山香澄、明日香の兄として生まれた以上関わらないというのは不可能。

 

 今はいくら悩んでも途方に暮れるだけ。八方塞りってやつだ。ま、香澄がやらかす前に俺が先に関わる可能性が高いのだけどね。仮定というか不躾な話になるんだが、元々、戸山光夜という存在はいたのかもしれない。ただ、不幸な出来事があって戸山光夜は産まれなかった。言い方が悪くなるから詳しく言わないでおく。数多ある可能性というやつだ。

 

 だとしたら、ここは戸山香澄、明日香の兄、戸山光夜が存在する並行世界(パラレルワールド)なのかもしれない。パラレルワールドについて言われても知識としてしか知らないから、正直よくわからない。とりあえず、他に異常(イレギュラー)がいなければ特に問題はないし、深く考えすぎるのはやめておこう。今まで架空の人物であった彼女たちは生きているのだから。

 

 俺はこの世界(バンドリ)を生きていこう。戸山家長男、戸山光夜として。

 

 そんなこんなと過ごしている内に香澄が産まれた。退院した母さんから香澄を抱っこしてあげてと言われ、恐る恐る抱く。この子が俺の妹になるのかぁ。すごくかわいい。ちなみに俺は現在5歳である。だから、香澄と5歳差で、後に生まれるであろう明日香とは6歳差となる。しかし、この()が将来、残念系美少女になるのか、兄としてそっと見守っていこうと思う。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

Side 戸山香織

 

 私、戸山香織は驚いていた。

 

「ねぇ、あなた」

「ああ」

 

 これだけで私の言いたいことをわかってくれる。

 

「5歳児があんな目をするものなのか?」

 

 5歳児は言葉を3〜4歳より上手く話せるようになり、己の主張を言わんばかりに純粋な年頃だ。

 それがまるで愛おしそうに慈愛に満ちた目で妹を見るだろか?いや、見ない。5歳児なら「これが僕の妹!キャキャキャ」と騒ぐかと思っていた。

 

「うーん、光夜のやつ。将来、大物になるかもな」

 

 あなたがそんなこと言うなんて……。彼は冗談や皮肉を嫌う。そんな彼がそう言ったのだ。大物になると.。

 彼が言ったのであれば間違いなくこの子は大成するだろう。この子の母親として心配な反面、嬉しいような……。

 

「まあ、光夜と香澄の成長を二人で見守っていこう」

「ええ」

 

 子どもの成長は親の宝物。彼と一緒に見守っていけるなら幸せというものだ。

 

「ところで、悠夜」

「ん?どした久しぶりに名前で呼んで」

「もう一人、家族欲しくないかしら?」

「……え」

 

 

 そんな最中、香澄にメロメロな光夜であった。

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 香澄が産まれてから1年が過ぎ、我が家に新しい家族が増えた。

 

 

 戸山明日香

 

 

 明日香の誕生に香澄は大はしゃぎだ。1歳児に妹が出来たとわかるのだろうか?とりあえず、香澄よ。離れようか?そう、今現在俺は香澄に引っつかれている。

 

 頭に……というか顔に。真正面からで目の前が香澄のせいで真っ暗である。真正面と言っても俺が横になっている時で上手い具合に俺の頭を両手で掴み、足を首に回して来るのだ。あ、でも、乗っかってくるのではない。真上からと言いたいところだが、起き上がっても引っついてるし、離れない。もう真正面でいいだろ?引き剥がそうにも意外に力が強くて離せないし、引き剝がしたいところだが相手は1歳児。泣かせてはいかん。その力はどこからどこから来るのだろうか?結局、俺は香澄が満足するまで頭に引っつかれたままだった。

 

 さらに1年後、俺は小学生になった。香澄は2歳で舌足らずなしゃべり方で「にぃにぃ」と俺の後を付いてくるのだ。明日香も負けじと付いてこようとするのだが、ハイハイは遅い。少し俺が離れると泣きそうになる。その前に抱っこしてあげるというのが最近のお決まりだ。「パーパ」「マーマ」とは言えるのに「にぃにぃ」はまだ言えないらしい。なぜか俺のことを「にぃーい」と呼ぶ。にぃーいって何や?にーにーと呼ぼうとしてるのだろうか?まあ、可愛いからいいんだけどね。半年後には「にぃにぃ」と話せるようになった時は軽く死ねたわ。いや、尊死した。そんな香澄と明日香が互いに「キャッキャッ」としているのを眺めるだけで満足だ。

 

 未だに香澄が俺の頭というか顔に引っつこうとしてくる。肩に乗るとかならわかるんだけど、なぜか顔にだ。母さんがその光景を見て、爆笑していた。そんな笑える光景なのか?母さんは香澄を引き剝がそうと近寄って来たが、俺は香澄が引っ付いたまま起きあがって拳を握り、母さんに向けてサムズアップした。

 

「母さん、大丈夫だ。問題ない」と意を込めて。

 

 香澄を見て、明日香まで俺の顔に引っついた時は「ブルータス、お前もか」って思った。姉妹揃って俺が横になる度にしてくる。2人には相通じるものがあるようだ。まあ、似た者姉妹で何よりだ。

 

 




設定
戸山悠夜:父(オリキャラ)
戸山香織:母


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かすみちゃんとはーちゃん

 

 2年後

 

 

 明日香が幼稚園に入園して、1ヶ月経った。俺は現在小学3年生だ月は春の麗らかなる4月から初夏を感じさせる5月へ。毎週、日曜日になると母さんは香澄を連れて出かける。1年前に香澄が幼稚園に入園してから、家族全員で出掛ける時を除くと毎週である。香澄が毎週出掛ける理由は、容易に想像できよう。

 

 それは香澄がはっちゃけるのだ。

 

 俺の頭に引っついたり、足に引っついたり、抱っこしてもらおうと突進してきたり……っておい、俺ばっかりかよ!「おにいちゃん!おにいちゃん!」と何回も呼んでくる可愛い妹を拒めるか?俺は拒めなかった。

 

 でもさ、腑に落ちないことが1つあるんだ。

 

 何回か近くの公園や少し離れた公園に一緒に行ったんだが、香澄が毎回木登りしていた。最初、木に登ってるのを見て驚いたわ。流石に俺でも登らない。母さんに止めなくていいのか?と聞いた時は

 

「なんで止める必要があるの?大丈夫よ」

 

 と、まるで俺がおかしな質問をしたかのような顔をされた。え?俺がおかしいの?

そう思わずにはいられなかった。転生前である前世の現代2010年代後半においては木登りなど言語道断!学校だったら怒られる又は注意されるのが一般的、木には登るものでないという事が現代社会で常識となった。昭和の時代なら登っても怒られないし男なら登るもんだと父親(前世)から聞いた。

 最初こそ驚いたが、次からは当たり前の光景になっていた。改めて慣れって怖いことを知った。最近になって思うのが香澄が木登りしてるのは俺に引っ付くためなのではないか?ということ。うん、嘘と思いたいよ。

 

 だけど、帰って風呂と夜ご飯を済ますと突っ込んでくるのだ。俺の足からよじ登って、「おにいちゃん!」と言いながら。もちろん、最後は頭だよ?当たり前だよなぁ。昔より頻度は減ったけど嬉しいような悲しいような。香澄も7月で5歳になるし、女の子とはいえ当然、体重が増える。このまま頭に引っ付かれたら俺の首が死ぬ。だから、誘導して肩車してる。幸い、肩車が気に入ったのか肩車をせがまれることが多い。頭の引っ付きとグッバイする日もそう遠くないだろう。

 

 ここ数週間の日曜日は、家で明日香の面倒を見ている。香澄とは違い、大人しい。賢妹のオーラを感じるぜ。明日香はたまに頭に引っ付くけど、1カ月に何回かあるぐらいだ。頭に引っ付くより、明日香は抱っこと頭を撫でられる方が好きらしい。俺たちの見守り役である父さんは、いつも書類とにらめっこしてた。ファイト!

 

 そして、今週は俺も付いて来いとのことだ。おねむな明日香は父さんに任せて、付いて行くことにした。昼下がりには家より少し離れた公園に着き、公園に入ると、だいだい色の髪をした活発そうな子がこちらに駆け寄って来た。

 

「あっ!かすみちゃん」

「はーちゃん!」

 

 え?はーちゃん?ということは北沢はぐみだよね。記憶にある彼女の幼少期の姿と一致する。俺は今現在、目の前にいる幼いはぐみに驚きを隠せないでいた。

 

「あれ?かすみちゃん、そっちのにいちゃんだれ?」

「うん、わたしのおにいちゃん!」

「へぇ、はぐみもね、にいちゃんがいるよ」

 

 

 北沢はぐみ

 

 ハロハピのベース担当だ。実家は精肉屋を営んでおり、自分の店のコロッケが大好物ないつも明るい子だと記憶している。実は香澄とはぐみは幼馴染で、高校入学して同じクラスなのにお互いしばらく気がつかなかったとか。

 

 当時、幼馴染に関するストーリーを知った時は結構驚いた。知っているからこそ今、目の前の光景が微笑ましい。こうやって出会ったのかとしみじみ思う。

 

「ねぇ、かすみちゃんのにいちゃんもあそんでくれる?」

「うん、いいよ」

「やったぁ、ありがとうかすみちゃんのにいちゃん!」

 

 と抱きついてくるはぐみちゃん。

 

「わたしもだきつくぅ」

 

 と香澄。お前は毎日やってるでしょ。その後、日が暮れるまで一緒に遊ぶのだった。何をしたかというとまずはかけっこ、次に隠れんぼ、ブランコ、シーソー、最後におままごとだ。本音を言えば、おままごとは割とマジできつかった。夫役は俺なんだが、お嫁さん役はわたしがやると香澄、はぐみがやるんだとはぐみちゃん。二人が俺を取り合ってると、はぐみちゃんが「なんか、これテレビでみたことある!」と言いだした。俺が「テレビで?」と聞くと「うん、ひるドラ!」と得意げに言うはぐみちゃん。はぐみママの方を向くと、その会話を聞いてたらしいはぐみちゃんの母は目を逸らした。はぐみママを軽く睨みつけたが、彼女はどこ吹く風であった。

 

 それよりはぐみちゃん、意味は分かっているのだろうか?そんな中、我が妹である香澄が「ひるどら?」とキョトンとしていた。香澄はそのままでいてくれ、お兄ちゃんからのお願いだ。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 5月が過ぎて6月に入った。毎週ではないが2週間に1回は母さんと香澄について行く。そしてたった今、毎週ついて行かなかったことを激しく後悔した。香澄が自転車に補助輪なしぇ乗れるようになっていた。嘘でしょ!?俺とあんなに練習しても乗れなかったのに。はぐみちゃんと一緒だと乗れたのか!許すまじ。だって、香澄が自転車に乗れる歴史的瞬間だぞ?可愛い妹が自転車に乗って、「ばびゅーん」する瞬間に立ち会えなかったなんて……。母さんは大袈裟ねと言うが、俺にとったら大問題である。だから、明日香の時は絶対に立ち会うんだ。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 6月の第4週、最後の日曜日に、はぐみちゃんと香澄はベンチで七夕の短冊に願い事を書いていた。短冊を持っていたはぐみちゃんが……

 

「たなばたのねがいごとをかくかみなんだー!ここにねがいごとをかくと、かなっちゃうんだって!」

 

 と言ったからだ。それを聞いて香澄は俺に

 

「ほんとにかなうの?」

 

 と不安げな顔で聞いてきたから、俺が今できるとびっきりの笑顔で

 

「そうだね、香澄が願えばね」と答えておいた。

 

 叶うか叶わないかは別として、子どもの夢を壊してはいけない。残酷なことを言ってしまえば、

 

『願えば叶う、祈れば通じる』

 

 そんな夢物語など、どこにもありはしない。それが許されるのは物語だけだ。だが、ここは現実。転生前となんら変わりのない世界だ。いつかきっと事実を知る日が来るのだ。そう遠くない未来に。世界はそんな綺麗事だけでは済まされないということを。それでも、夢が叶わなくても夢を見続けることは素敵だと思う。だから、夢があって夢に向かって頑張る人は強い。

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 ついに、はぐみちゃんと香澄が一緒に遊べる時間に、終わりを告げる時が来てしまった。端的に言うと公園が工事の為、閉鎖したのだ。俺は数週間前から公園の入り口付近に、看板が立っているのを知っていたから驚きはしない。だいたいは察していた。それはこの公園をなくして、新しく建物を建てるという旨の看板だった。

 

 母さんとはぐみの母もこの事を知ってはいたのだが、はぐみちゃんと香澄が仲良く遊んでいるのを見て、言うにも言えなかったのだろう。母親たちがどうにかしようとあたふたしていると、とうとうはぐみちゃんと香澄が泣き出した。ヤダヤダと駄々をこね、泣き止まない。どうにかしなくていいのか?と意を込めて母親たちを見る。2人は俺に向かって強く頷いた。つまり、俺に任せるということなのだろう。ハイハイ、お兄ちゃんがどうにかしますよ。

 

「なぁ、はぐみちゃん、香澄。」

 

 彼女たちの目線に合わせるようにしゃがみ込む。

 

「ゔゔ、グズン、おにいちゃん」

「ゔゔ、かすみちゃんのにいちゃん」

 

 二人からダラダラと垂れ流している鼻水をかませ、ゆっくりと語りかける。

 

「二人は、お別れだから泣いてるの?」

「「うん」」

 

 なるほど、じゃあ……

 

「もう一生、もうこれから会えないってわけじゃないんだよ?」

「え?そうなの?」

「ふぇえ?」

 

 これで納得してもらうしかないよなぁ。

 

「ああ、しばらく会えないし、遊べない。でもね、はぐみちゃんと香澄が大きくなったらまた遊べるんだよ?」

 

 会える保証なんてどこにもないのに、それでもきっと会えると信じて。

 

「だから、泣くことはないんだよ。また、会えるんだから」

「うん、わかった!おにいちゃんがそういうんだもん!」

「はぐみもわかったよ!」

 

 うん、いい笑顔だ。余談だがその後、はぐみちゃんと香澄はゆびきりげんまんをした。なぜか、俺もゆびきりげんまんをさせられた。強制だった。ゆびきりした後、はぐみちゃんが

 

「やくそくやぶったら、はりせんぼんね」

 

 と言ってきたときは、「ひぃ!?」と声が出てしまった。ちょっと怖かったのは内緒だ。はぐみちゃんの言う約束とは香澄とだけ再会するのではなく、俺とも再会するという事だ。最後は「またね」と言ってバイバイした。香澄とはぐみちゃんは原作でどんな感じで再会したんだろうな?

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 とある日曜日。戸山家には父、悠夜と明日香がいた。朝食を食べてから再び眠ってしまった明日香は、光夜たちと共に公園に出掛けずに今週は父とお留守番というわけだ。お昼頃、明日香はお腹が空いたのかパチリと目を開けて起き上がる。キョロキョロと辺りを見回して確認した。

 

 近くに悠夜がいるのを確認すると

 

「パパ、おなかすいた」

 

 とお腹をなでて言う。

 

「おお、明日香。おそよう?もう眠くないのか?」

「うん、おなかすいた」

「そうか、もう12時過ぎだからお昼にしようか」

 

 香織が作り置きしてくれた明日香と悠夜の昼食をレンジで温めて、食べる。昼食後、お腹が膨れて満足した明日香は母、兄、姉がいないことに気づく。

 

「パパ、おにいちゃんとおねぇちゃんは?」

「ママたちはお出掛けしたぞ?もうすぐ帰ってくるよ」

「うん、あすか。まってる!」

「よしよし、偉いぞ」

 

 明日香の頭をわしゃわしゃと撫でる。悠夜は安心した。明日香はいつも光夜たちがいないと分かると大泣きする。しかし、最近はいないと分かっても泣くことはなくなった。4歳となり、成長している証であろう。3歳頃はこれが酷く、泣いている明日香を宥めるのに手を焼いた悠夜。だから、安心しているのだ。

 

 

 ガチャッ

 

「お、帰ってきたみたいだぞ」

「おにいちゃん!?」

 

 悠夜を置き去りにして、玄関に向かって行く明日香。

 

「……なんでや」

 

 悠夜はボソッと呟いた。父親なのに香澄と明日香はあまり甘えてくれない。甘えてくれないよりかはいいのだが、父親としてはもっと甘えて欲しいと思う。娘たち(光夜含む)より妻である香織の方が甘えてくるのはなぜ?これ如何に?

 

 

「はぁ。ま、いっか」

 

 

 悠夜も玄関に迎えに行くのであった。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 はぐみちゃんとの邂逅から特にこれといった事もなく、3年が経過した。時が経つのは早いもので、明日で俺は最高学年である小学6年生になる。小学5年生あたりから女子が男子を意識し始めたのか、男子とあまり話さなくなった。視線がよく俺に向けられていたのは、気のせいではないと思う。香澄と明日香の兄だからか眉目秀麗だ。 まあ、香澄と明日香は美少女だからな。小学校最高学年とはいえ、まだまだ男子はお子ちゃまな年頃だ。中学生あたりで落ち着くだろう。 俺もそうだったしな。あ!でもそれって中二病のせいかもしれんわ。

 

 女子は精神面が男子より成熟が早いというだけあって、男子より落ち着いている。転生して精神年齢がちょっと?高いため、流石に純粋な子どものふりは精神的に無理があったので他人より少し大人びた子どもとして振る舞った。 5年生になれば、心身共に急成長したから少し助かった。小学の勉強は授業を聞いてるだけで十分だったので絵心をつけたり、ピアノを弾いたり、休みの日は香澄と歌ったりして小学校5年間を過ごした。

 

 ピアノは弾けた方が後々ためになると思い、両親に習えるように小学3年生の頃、頼み込んだ。週1でピアノ教室に通っている。体が違うせいか頭では理解していても手がついていかなかった。前世ではそこそこ弾けるレベルだったが、これでは本当に基礎の基礎からやり直しだ。俺の学校生活なんてどうでもいいだろ。

 

 それより、香澄だ。明日、香澄は小学校に入学するピッカピッカの1年生だ。ランドセルを背負って、登校班の班長(予定)である俺の後ろをついてくるのを想像するだけで軽く死ねるわ。残念なのは、明日香は来年入学するということだ。そう、来年!つまり、俺は卒業してしまう。一緒に通えないのは非常に残念だ。後1年、俺が遅れて生まれていればと何度思ったことか。ま、こればかりは仕方がない。

 

 

 さて、明日は香澄の入学式だ。早く寝るとしますか。




評価と感想ありがとうございます。


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香澄と入学

設定:小学校の入学式は人数が多いため、入学式・卒業式は在校生(4~6年生のみ)。クラス発表は次の日の始業式。


 

 ジリリリリリリ

 

 昨夜、セットしておいたアラームが鳴る。目が覚めた俺はアラームを止めようと手を動かそうとするのだが、両腕が動かないことに気づく。両腕に確かな温もりを感じる。右腕、次に左腕に目をやると右に香澄、左に明日香がおり、俺の腕をぎゅっと抱きしめていた。

 

 うん、いつも通り(・・・・・)だね。この光景も見慣れたものである。そういや、いつからだろう?香澄と明日香が俺の部屋(ベッド)でいっしょに寝るようになったのは?確か、俺が小学3年生に上がり、自分の部屋を与えられた時だったはずだ。部屋を与えられるまでは家族全員、1階の和室で布団を敷き、川の字で寝ていた。当然のように右には香澄、左に明日香だ。いつも右は香澄、左は明日香なんだが、これが反対になったことは今まで一度もない。何か意味があるのだろうか?

 

 場所が和室から俺の部屋になっただけで、香澄と明日香とはいち…にー…さん…しー…5年間も一緒に寝ていることになるな。俺たちが一緒に寝ることになったので、必然的に両親は下にある両親専用の寝室で共に寝るようになった。これが何を意味するかは敢えて触れないでおく。

 再びジリリとアラームが鳴り続ける。

 

 

「光夜!いい加減アラーム止めなさい〜」

「はーい!」

 

 既に起きてるらしい母さんの怒鳴り声が下から聞こえる。俺はそれに返事を返した。うん、このアラームうるさいもんね。アラームを止めたいのは山々なのだが、両腕を香澄と明日香に拘束されていて起き上がれない。

 

「香澄、起きて。朝だよ」

 

 ゆさゆさと強く体を揺らして香澄を起こす。

 

「うーん、おにいちゃん……」

 

 意識がぼやけているのか香澄の目は半開きだ。香澄はすぐ起きてくれるから助かる。香澄が上体を起こすと同時に右腕がフリーになると、俺はすぐにアラームを止めた。

 

「おにいちゃん、おはよ」

「うん、おはよう」

 

 まだ眠いのか香澄は目元をこすっている。

 

「今日は香澄の入学式だから、早く下に降りて着替えるんだよ?」

「うん!」

 

 自分の入学式と聞いて、香澄は目を見開いた後、ダッと下へ降りていった。ふふ、楽しみにしてたんだな小学校。さて、もう1人の姫を起こすとしますか。俺が明日香ではなく、香澄を先に起こした理由……それは明日香は朝に弱いからだ。香澄が今日、小学校の入学式で早く起こす必要があったのも理由の一つではあるが、それとは関係なしに明日香は起こしてもなかなか起きてくれない。すぐ起きる香澄に対して、明日香は全然起きない。起きたかと思うと、また目を閉じて寝てしまうことが多々ある。

 

「明日香、起きて朝だよ」

 

 香澄の時と同様に強く揺らして起こす。

 

「ぅ〜ん」

 

 これである。

 

 休みの日であれば、あと2時間くらい寝ていても問題はないが今日は香澄の入学式だ。家族全員で小学校の入学式に行くので、そろそろ起きてもらわないと困る。小学校は今日、新入生である1年生はもちろん、高学年の5、6年生は入学式に出席だから俺は行く必要がある。例え今日が休みで香澄が来てくれと言われずとも行く自信がある。

 

 だから当然、明日香を家に1人にしてはいけないため、必然的に明日香も入学式に来ることになったのだ。

 

「ほら、起きて明日香。お兄ちゃん、そろそろ起きてくれないと困るんだけど……」

「やっ」

「」

 

 まったく、仕方ない子だなぁ。

 

「よいっしょっと」

 

 明日香を抱っこすると、俺は階段を降りてリビングに向かう。

 

「おはよう」

「おう、光夜。おはよう……ふっ」

「おはよう、光夜……あら?」

「あー!あっちゃんずるい!」

 

 リビングに入り、母さんと父さんに挨拶する。香澄は既に着替え終わっていて、テーブルに座っていた。抱っこしている明日香をみると三者三様の反応をした。はいはい、香澄はいつも抱っこしてるでしょ。

 

「寝坊助さん、連れてきた」

「この()、なんか幸せそうな顔してるわね」

 

 何?どれどれ、確かになんか幸せそうな顔してるわ。俺の胸の中で穏やかな顔をして微かな寝息を立てている。

 

「むぅ〜。あっちゃん!おきて!」

「んっ、いたい」

 

 俺に抱っこされたまま寝ている明日香が気に食わないのか、香澄の手によって俺の両手が振りほどかされ、明日香が床に落ちた。

「だ、大丈夫か明日香?」

「だいじょうぶ。おねえちゃんいたいよ」

「かすみ、あっちゃんがおきてるのしってたよ」

「ぶー」

「あっちゃんもだけど、おにいちゃんもおにいちゃんだよ!」

 

 アッハイ、すみません。少し膨れっ面な明日香と私、怒ってますよと仁王立ちする香澄。香澄の言うことが本当なら、明日香は狸寝入りしてたってこと?全然気がつかなかった。

 

「はいはい、2人ともそれくらいにして頂戴。明日香と光夜はさっさと着替えて来なさい」

「「はーい」」

 

 着替えて家族全員で朝食を済ませた後、小学校へと移動する。

 

「どう?おにいちゃん!」

 

 新品の赤いランドセルを背負った香澄が俺の前に来て、その場でくるんと1回転した。可愛い。

 

「うん、似合ってるよ」

 

 香澄のランドセル姿を見るのは今日で2回目だ。1回目はランドセル買う前の試着の時だ。

 

「えへへ」

 

 天使かな?天使と言えば、「天使の羽」のCMだよな。ランドセルを試着した時に香澄、そのCMソング歌ってたな。そのランドセルを背負って歌っている様子は、ただただ可愛かったと言っておこう。

 

「いいなぁ〜、おねえちゃん」

「来年は明日香の番だから……ね?」

「うん!」

 

 1年後に明日香のランドセル姿が見れるとは俺得ですわ。まあ、1年待たずとも香澄のランドセルを背負えば、見れるんですけどね。だが、香澄のランドセルでは意味がない。明日香のランドセルだからこそ意味があるのだ。だからこそ、明日香は羨ましいとは思えど香澄のランドセルを背負いたいとは言わない。自分のランドセルが欲しいから。

 

 

「はい、撮りますよ。ハイ、チーズ」

 

 小学校に着いた俺たちは校門横に掛けてある『入学式』と書いてある看板と香澄を中心に写真を撮った。当然、家族全員なので後ろの人に撮ってもらった。早めに来たので人はそこまで多くなかった。あと30分もしないうちに息子、娘の入学式の写真を撮ろうとここ(校門前)は長蛇の列となることだろう。思い出となる写真だ、並んででも撮りたい決まっている。一生に一度しかない小学校の入学式なのだから。

 

 俺は5年前に2度目(・・・)の入学式の写真を撮ったわけだが、1度目(前世)の入学式なんて記憶に残っていないので問題はない。 校門付近で配れた新入生のクラス名簿を父さんと母さんは確認する。

 

「香澄は何組だった?」

「3組よ」

 

 3組か。おっと、俺もそろそろ教室に行かないとな。

 

「それじゃあ俺、そろそろ行かないとまずいから行くね。後片付けがあるから帰りは昼過ぎになると思う」

「ええ」

「おう、行ってこい」

「「おにいちゃん!」」

 

「香澄、大丈夫だ。不安になるかもしれないけど、それは他の子も同じだ。胸を張って行くんだぞ?」

「うん!」

「明日香、入学式中は静かにしていい子でいるんだぞ?」

「うん」

 

 2人の頭を軽く撫でた後、俺は5年1組の教室へ向かう。今日は4月8日で入学式だ。俺たち在校生のクラス発表は明日の始業式になる。だから、今日までは旧クラスとなる5年生時の教室となる。5年1組の教室へ入ると、クラスメイトたちがみな揃っていた。

 

 

「おはよう、光夜」

「遅かったな、光夜」

「「おはよう、戸山くん」」

「「「おはよー、戸山くん」」」

 

「みんな、おはよう」

 

 挨拶を返すと俺は教室を見回した。教室内は机と椅子以外何もなく、物寂しい。

 

「そういや、光夜は妹が今日、入学するって言ってたよな」

 

 言ったなあ。

 

「ああ、だから少し遅れた。さっき校門で一緒に写真を撮ってきたところだ」

 

「「「「え、戸山くん。妹(ちゃん)がいるの!?」」」」

 

 女子が会話にさり気なく参加してるし……。必要以上に俺と話そうとしてるのには薄々感じてはいたが、こうグイッといきなり来られると困る。男子もちょっと引いてるぞ。女子の年齢があと4〜5歳高くなればWelcomeなんだけどな。この様子じゃ女子たちが色恋沙汰に興味を持ち始めるのも時間の問題だな。

 

「あ、ああ」

「どんな子なの?」

「やっぱり戸山くんの妹さんだから可愛いんだろうね」

「違いないわ」

 

 女子たちが勝手にワイワイ騒ぎ出す。もう勝手にしてくれ。

 

「お前ら、席につけ」

 

 そこにタイミングよく先生が来た。ふう、助かった。危うく質問攻めにあうところだったわ。

 

「出欠席確認したら、すぐ体育館に移動するからな。あと、入学式終わったら後片付けな」

 

「「「「「え〜〜」」」」」

 

「文句言うな。これも高学年としての務めだぞ」

 

 そして体育館に移動し、椅子に座る。20分が経ち、9時に入学式は開始した。

 

『新入生、入場』

 

 アナウンスとともに新1年生が体育館に入場する。香澄は3組だからまだだな。数分後、3組と思しき新1年生が入場してきた。香澄、香澄は……いた!他の子が緊張して入場しているのに対し、香澄はニコッと笑っている。とても分かりやすい。それにしても、いい笑顔するじゃないの香澄。そんなに小学校、楽しみにしてたのか。新1年生が座ってまた立つ、その繰り返しだ。新1年生は歌えないので新5・6年生と先生で国家・校歌斉唱をする。次に校長先生から有難(ありがた)いお話をいただき、新入生の点呼が始まった。点呼が開始して新1年生の大半は眠いのかこっくりこっくりと舟を漕ぐ子が多くいた。うん、眠いよな。校長先生の有難い話(有難くない)で眠くなるもんな。

 

 名前が呼ばれて返事しないと延々と名前を呼ばれることになる。2回目で返事しないと担任が起こす手筈になっている。そうしないと入学式が終わらない。香澄、寝ていなければいいんだが。かく言う俺も校長先生の話で舟を漕ぎそうになった。

 

『3組』

 

 お、ようやくか。待ってました!3組男子が終わり、女子の点呼が始まる。俺は香澄が呼ばれるのを今か今かと待っていた。

 

「戸山香澄」

「はいっ!」

 

 キタッ!香澄の幼いながらもしっかりとした大きな声が体育館に響き渡る。おお、新入生で1番大きい声なんじゃないか?そして、10時半前に入学式は終了した。退場する新入生を拍手で送り出した後、保護者が退場する。この場には在校生だけが残った。

 

「いやー、終わった。終わった」

「そういや、1人だけめちゃデカい声の女の子いたよな?」

「あー、いたな」

「いたいた!私、その声で眠気が吹き飛んだもん」

「元気そうな子だったよね」

 

 それ、ウチの妹です。褒められてるのかよく分からないがとにかく、おにいちゃんは鼻が高いです。

 

「で、光夜の妹はいたんか?」

「いたぞ」

「何組だったんだ?」

「3組。新入生で1番大きい声を出してた女の子だよ」

「え、まじ?」

「マジ」

 

 この会話を聞いてた周りのクラスメイトたちは

 

「お前の妹、めちゃ元気なんだな」

「すげー声だったぞ、良い意味で」

「可愛い声だったな」

「今度、私に紹介してよ」

「戸山くんの妹かぁ〜。見たかったな。私、寝てたし」

 

 などと好評だった。後片付けを終わらせ、下校した俺は家路を急いだ。

 

「ただいま」

「おにいちゃん!」

 

 家に入るとドタドタと香澄が駆け寄ってくる。次の瞬間には俺に抱きついてきた。おっと、よしよし。

 

「どうだった?」

「……ん?」

 

 どうだったとは?点呼時の香澄の返事のことか?それとも入学式全体?

 

「かすみのへんじ、どうだった?」

「よかったぞ。新入生の中で一番大きかったぞ」

「えへへ、ほめて」

 

 褒めろ褒めろと言わんばかりに頭を差し出す香澄。よしよーし、よくできました。俺は香澄の頭をぽんぽんと軽く叩いた後、何度も撫でた。

 

「ふにゃあ〜」

 

 

 5分後

 

 

 えっと、いつまで撫でればよろしいので?

 

 

「えっと、もういいかな?」

「だーめー」

 

 

 10分後

 

 

「ね、ねぇ。おにいちゃん、腕が疲れてきたんだけど」

「もっとー」

「」

 

 そろそろ腕が疲れてきた。限界が近い。

 

 すると母さんが出てきた。

 

「あんたたち、いつまで玄関にいるの?」

「今、行くよ」

「あっ……」

 

 よしよし、また今度な。

 

「ところで明日香は?」

「明日香?先にお昼食べた後、光夜の部屋に行ったわよ。お昼できてるから光夜も食べちゃいなさい」

「わかったよ。とりあえず、明日香の様子見てくる」

 

 香澄を見ると

 

「うへへ、おにいちゃん……」

 

 なんかトリップしてたので放置することにした。 そのうち、母さんが何かしらアクション起こすでしょう。2階に上がり、俺の部屋を覗くとそこには俺のベッドの中央で猫のように丸くなり、気持ちよさそうに寝息を立てて寝ている明日香がいた。

 

 

「すぅ、すぅ」

 

 

 明日香ェ...

 

 

 

 こうして香澄の小学校入学式は無事(?)に終わった。



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クラスとウチの姉妹

1~4話までは加筆修正しました。


 

 

 ジリリリリリとアラームが鳴る。今日も今日とて、俺の両腕は香澄と明日香に拘束さ(抱きしめら)れている。

 

「香澄、朝だよ」

「……」

 

 ……あれ?

 

「香澄、朝だよ?」

「……」

 

 香澄をゆさゆさと揺らして起こすも返事は返って来ず。……あれぇ?

 

「香澄ちゃ〜ん?朝ですよー?」

「…っこ

「え?」

 

 香澄が何か言っているが、声が小さくて分からない。

 

「…っこ」

「こ?」

「だっこ!」

 

 なるほど、なるほど。分かったぞ!昨日の明日香(抱っこして下に降りる)が羨ましかったのかな?

 

 

 ジリリリリリリ

 

「光夜!アラーム!」

 

 

 母さんの怒鳴り声が響く。おっと、アラーム止めないとな。俺は香澄から腕を離してもらい、アラームを止める。現在時刻は6時33分。いつもアラームは6時半にセットとしており、7時に起きて、8時前に家を出る。なぜこの時間なのかというと、うちの妹たちが駄々捏ねたりするからだ。

 

「それで抱っこしろって?」

「うん!」

 

 抱っこして下に降りるのはいいんだけど、その前に明日香を起こさないとな。

 

「明日香、起きて。朝だよ」

「やっ!」

「」

 

 起きてたのかわ。今の会話聞いてたな?

 

「あっちゃん、おきて!」

「やっ!」

「明日香、そろそろ起きないと時間が……」

「やっ!」

「あっちゃんはきのう、おにいちゃんにだっこしてもらったでしょ。きょうはかすみのばん!」

「やっ!」

 

 何、この可愛いやり取り。最近、香澄と明日香の姉妹喧嘩というか言い争い(?)が増えた気がする。主に俺に関してだけど。

 

「明日香ちゃん、そろそろ腕を離してもらいたいな」

「やっ!」

 

 仕方がない。

 

「じゃあ、明日香はおんぶね」

「…っ!?うん」

「だっこ!」

「おんぶ!」

 

 俺の左腕を離した明日香は俺の背中に飛びつき、首に両手を回す。俺は明日香をおんぶし、ベッドから降りた。

 

「かすみも!かすみも!」

「はいよ」

 

 右腕で香澄を持ち上げ、左腕で明日香を支える。まだ2人とも軽いから余裕だけど、あと3年したら2人同時は無理だろうなあ。そして、左手を使って壁を支えにして降りて行く。その間、明日香は落ちないようにしっかりホールドしてた。

 

「おはよう……って朝から何してんのよ」

 

 うん、俺もそう思う(棒)

 

「朝から大変ねぇ、お兄ちゃんは」パシャッ

 

 母さんはそう言いながら何処からが取り出したガラケーで写真を撮った。おい。

 

「父さんは?」

「もう行ったわよ、それより早く着替えて来なさい」

「「「は〜い」」」

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 ランドセルを背負い、学年帽を被る。

 

「それじゃ、行こっか?」

「うん!」

 

 班長旗を持って、香澄と共に登校班の集合場所に行く。集合場所に行くと、学年帽を被った小学生が十数人。学年帽の色は6つあり、1年生は赤色、2年生は橙色、3年生は黄色、4年生は青色、5年生は緑色、6年生は紫色だ。

 

 当然、俺は6年生だから紫色である。香澄が昨日、俺に赤の学年帽を被せてきて「1年生!」と言われた。その際、香澄は俺の紫色の学年帽を被り「わたし、6年生!」と、ない胸を張って満足そうにしていた。香澄が6年生になるまであと5年もある。小学校6年間が長く感じるだけで中学・高校の6年間なんてあっという間に過ぎて行く。特に高校生活は本当にあっという間だ。香澄が小学校で何を知って何を学んで、どう成長していくのか楽しみだ。もちろん香澄だけでなく、明日香もな。

 

「おはよう」

「おはよー」

「おはようございます」

 

 保護者の人たちに挨拶し、並んでいる班の先頭に香澄を連れて移動する。うちの地区には登校班が2つあり、そのうちの1つが俺の班である。

 

「香澄は俺の後ろな」

「うん」

 

 香澄は俺の班で、1年生は班長の後ろに並ぶことになっているので自動的に香澄は俺の後ろとなる。

 

「行くよー」

 

 班員が揃っているのを確認すると俺の班は移動を開始して、登校する。登校中、後ろがついてきているか確認がてら香澄を見た。トコトコと俺の後ろをついてきて可愛い。

 

「香澄、ここからは自分で教室に行くんだぞ?1年3組の教室分かるよね?」

「うん!きのうのばしょ!」

「うん、それじゃあお兄ちゃんあっちだから」

 

 1年生の昇降口に香澄を見送り、俺は自分の昇降口を目指した。

 

「おっすー、おはよ光夜。見てたぞ、今のは妹ちゃん?」

「ああ」

 

 クラス発表される今日、元クラスメイトとなる竹内、通称タケチーと話しながら新クラスが掲示されている昇降口前に行く。そこは新5、6年生の学年帽を被った人でごった返していた。

 

「うわぁ、人多いな」

「自分のクラスだけじゃなくて、友達が何組になったか見てるからこんなに混んでるじゃないのか?」

 

 そうでなければ、こんなに人がいるのはあり得ない。1学年約100人くらいで5、6年生が同じ昇降口なのも理由ではあるが、全く人が減らない理由にはならない。

 

「とりあえず、クラス見るか。俺は1組の方から見るからタケチーは3組頼むわ」

「了解」

 

 さてと、あ、あった。案外あっけなく見つかった。6年1組のところには12番 戸山光夜、その上の11番にはタケチーの名もあった。

 

「タケチー、あったぞ」

「はやっ!?」

 

 3分も経たずに見つけた俺は、6年3組のクラス掲示板前で未だ探しているタケチーに話しかけた。

 

「それで何組?」

「俺もタケチーも同じ1組」

「マジか、やったぜ」

 

 そうして俺とタケチーは6年1組の教室に向かう。

 

 教室に入るとクラスメイトとなると思われる女の子がこちらに駆け寄ってきた。

 

「戸山くん、このクラス?」

「あ、ああ。6年1組だ」

 

「「「「「キャァァァァ!!」」」」」

 

 なんだ、なんだ!?この黄色い声は!?というか俺に話しかけて来た()誰?女子の甲高い声のせいで教室にいる全員の視線が俺に突き刺さる。

 

「小学校最後に戸山くんと同じクラス、やったわ!」

「初めて同じクラスになったね」

「今年もよろしく」

「戸山くん、来たる!」

 

 女子からの反応は様々でみな、なぜか喜んでいる。

 

「おう、光夜。小学校最後のクラスでもよろしく」

「4年間、今年で5年目。同じクラスだな光夜!」

「俺は6年目だぞ?「ナニィ」」

「よろしく〜」

 

 男子からの反応も良好だ。半分以上は小学校5年間の中で同じクラスになったことがある顔ぶれであり、あとは見かけたことはあるが話したことない人だ。

 

「な、なあ。男子は分かるんだが、女子なんでこんなにキャッキャッ騒いでんの?」

 

 女子の反応が全く理解できない俺はタケチーに小声で聞いてみた。

 

「そりゃおまえ、去年、運動会で休んだ人に代わって応援団長やったろ?」

「やったな」

 

 運が悪く、高熱を出して小学校最後の運動会を休んだらしい青組の応援団長に代わって応援副団長の俺がその日、応援団長を務めた。 

 台に立ち「フレーフレーあ・お・ぐ・み」ってやっただけだぞ?そのあと香澄と明日香から「かっこよかった」と言われた記憶しかない。

 

「あとは……やっぱ止めとく」

「はあ?なんだよ、気になるだろ」

「とりあえず、光夜。鏡見たことあるか?いや、見てこい」

 

 そういや、自分の顔をまともに見たことないな。香澄と明日香の顔なら毎日見てるけど……。

 

「……?」

 

 俺の顔を見て、タケチーは憮然とした顔をする。

 

「……もういいや」

 

 あ、そういや自分の顔ってイケてるんだっけ?すっかり忘れてたわ。

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 始業式で校長先生から有難い(有難くない)お言葉をいただき(2回目)、教室で軽くHRして午前中に学校は終わった。帰宅してすぐに俺は、先に帰宅していた香澄に聞いた。

 

「香澄、友達100人できた?」

「できなかった」

 

 ……でしょうね。

 

 1日で100人は無理である。そもそもなぜ100人なのかと言うと童謡の『一年生になったら』の歌が原因だ。香澄が幼稚園の時にこの曲を聴いてから

 

「ともだちひゃくにん、つくるー!」

 

 と日々、豪語していた。それを聞いた明日香がボソッと「むり」と呟いたのを俺は一生忘れないだろう。明日香コッワ。

 

「じゃあ、友達何人できた?」

「……ひとり」

「……フッ」

 

 コラ!明日香ちゃん、鼻で笑っちゃいけません!そんなことしてると来年、香澄に仕返しされちゃうよ?

 

「そっか、でも大丈夫。もっと友達できるから」

 

 友達というのは、一朝一夕でたくさんできるものでない。少しずつ少しずつ増えて行くものだ。浅く広くや深く狭くといった交友関係があるが結局のところ、人は千差万別だということだ。香澄は香澄のペースで友達を作ればいい。焦る必要はないのだ。

 

「ホント!?」

「ああ、本当だ」

「……フッ」

 

 コラ!明日香ちゃん!今、お兄ちゃん、大事なお話中なの。鼻で笑うのやめよ?明日 香が鼻で笑うのは父さんのせいだ。小さい頃、子どもはよく親の真似をする。父さんはよく「フッ」と鼻で笑うことが多い。それを、明日香が真似し出してしまった。しかし、よくよく記憶を振り返ってみると明日香が鼻で笑うのは香澄に対してのみなような気がする。

 

 あれ?これって……いや、気がするだけだ。あまり深く考えるのはやめた。明日香がこれを意図的にやっているとしたら?お兄ちゃん、ちょっと明日香が怖くなってきたよ。

 「ふにゃあ〜」

 

 いつの間にか俺は香澄の頭を手を置いて撫でていたらしく、香澄は心底気持ちよさそうに目を細めている。

 

 

「……」

 香澄を見て、自分も撫でて欲しいのか明日香は頭をそっと差し出した。

「…でて

「……ん?」

「なでて!」

 

 よしよしよしよ〜し。

 

 「んっ」

 

 明日香も気持ちよさそうに目を細める。今日はなんだか明日香が甘えん坊だな。猫みたいだなぁ。香澄と明日香、2人の反応を見ているとそう思ってしまう。

 

 

 

 この後めちゃくちゃナデナデした。




オリキャラ:竹内(タケチー)


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香澄フレンド

 

 新入生の入学を歓迎するかのように咲いた満開の桜は散り始め、桜の花びらが道に舞い落ちる。風と共に空へと乱れ散る桜吹雪は幻想的で儚かった。毎年、桜が散り始める頃に俺はそこでようやく新学期、新学年になったんだなと実感する。

 

 新たな学年、小学校最高学年だと実感した俺のことはさておき、香澄が入学して1週間が過ぎた。

 

 香澄から話を聞く限りでは、特に問題なく小学校生活を送っているそうだ。明日香が鼻で笑っていた友達の人数が1人から6人と、この1週間で5人も増えていた。

 まあ、香澄はパワフルで行動的かつポジティブな性格だから自然と友達ができるだろう。この調子で行けば、小学校では無理でも中学・高校の時には香澄が豪語していた「友達100人」できるのではないだろうか?

 

 来年は明日香が小学校に入学する。()としては香澄よりも明日香の方が心配だ。香澄は性格からして心配無用。実際に話を聞いても心配無用だったし。そんなグイグイいくパワフルな香澄に対して明日香は大人しい。それでいてどこか一歩後ろから眺めている、控えめな性格。大人びていると言えば大人びているのだが、それを現在幼稚園年長で言うのはどうだろうか?まだそう言うのは早い気がするから控えめで大人しい性格と言っておこう。明日香は香澄と違ってしっかり者だから、香澄の面倒を見る日は案外早く来るかもしれないな。やれやれと言いながらも動く明日香の様子が今から想像できるよ。

 

 ま、明日香も心配無用かな。

 

 来年は明日香が香澄に鼻で笑われるかもな。

 

 明日香は知らないだろうけど、香澄って意外と根に持つんだよ?

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「おにいちゃん!」

 

 香澄が俺にひしっと抱きつく。

 

 現在、俺は1年3組の教室にいる。なぜ6年生である俺が香澄のクラスにいるのか?それは香澄に会いに来た……というわけではなくて登校班になって下校する防災訓練の一環でまだ学校に慣れていない1年生を6年生が自分の班に迎えに行くことになっている。だから、俺は香澄を迎えに来たというわけだ。

 

「おにいちゃん!だっこ!」

 

 ……え、いま?ここで?

 

「い、家に帰ってからな」

「やっ」

「」

 

 どうして今なのか?しかも周りに20人近い人がいる中で……。

 

「えいっ!」

「うおっ!?」

 

 ぴょんぴょんと跳ねて抱っこアピールをしていた香澄は俺に飛びついた。バランスが崩れて転びそうになったが、なんとか香澄を受け止めて渋々と香澄を抱っこする。

 

「危ないじゃないか」

「えへへ、ごめんなさーい」

 

 悪びれた様子もなく、香澄は笑う。

 

「かすみちゃんのおにいちゃん?」

「うん、わたしのおにいちゃん!」

 

 青色の髪をしたツインテールの女の子が香澄に話しかける。

 

 香澄の友達かな?

 

 というか抱っこしているせいで周囲の視線がなんか温かいのだが……。特に同級生の視線が。

 

「その子、戸山くんの妹ちゃん?」

「ん?そうだよ。戸山香澄だ」

 

 いつまでも抱っこしているわけにもいかないので香澄を下ろす。

 

「とやまかすみ、6さいです!」

 

 下ろすと香澄はぺこりと頭を下げ、ニパァと笑顔で自己紹介をした。

 

「「「「か、かわいいっ!」」」」

 

 俺と同じく1年生を迎えに来ていた同級生の女子が香澄の愛くるしい笑顔にやられていた。香澄を取り囲み、揉みくちゃにする。てか、早く迎えに行けよ。

 

 まあ、香澄は可愛いしな!もちろん、ここにいない明日香もな!

 

 香澄が女子たちに揉みくちゃにされている間に、俺はわたわたとしている青髪ツインテールの子に話しかけることにした。

 

「やあ、香澄のお友達かな?」

 

 相手を怯えさせないように優しい口調で話しかける。

 

「うん。ささきみやです」

「俺は香澄の兄の戸山光夜だ。よろしくね、みやちゃん」

「う、うん」

「これから先、香澄がいろいろと迷惑をかけると思うけど香澄をよろしくね」

「え?」

 

 絶対に香澄はやらかすからな。特に人を振り回すという点では。気づけば香澄のペースに巻き込まれてた…なんてことがよくある。

 

 何となくだけど、みやちゃんと香澄は長い付き合いになりそうだ。

 

「おにいちゃん?」

「ひっ!?」

 

 背後から香澄が声をかけてきた。えっ、今の声何!?いつもよりトーンが少し低いせいか反射的に声が出てしまった。どうやら香澄はあの揉みくちゃから解放されたらしい。

 

「みやちゃんと何話してたの?」

「香澄をよろしくってな」

「よろしく?」

「ああ、香澄がいろいろ迷惑かけると思うけどよろしくってね」

「…っ!?かすみ、めいわくかけないもん!」

「本当かなぁ?」

「ほんとうだもん!」

 

 最終的には来年に入学する明日香に面倒を見てもらっていそうだ。

 

 最近、明日香が「おねえちゃん、ねぐせ」と香澄の髪を直したり、「おねえちゃん、はみがきしないとだめだよ?」と姉妹の立場が逆転して香澄の面倒を見ている光景は記憶に新しい。明日香が年長さんなのに既に賢妹と化しているのは驚いた。母さんにその事を話すと、なんと幼稚園でも他の子の面倒を見ていると言うではないか!

 

 

……やるわね

 

 

 それなら来年から安心して香澄を任せられそうだ。学年が違うけど……。

 

 その後の香澄を連れて校庭で並んでいる班の元に香澄を連れ、集団下校をした。家に帰ると先に帰宅していた明日香が玄関で出迎えてくれた。俺はすぐさま明日香にこう言った。

 

「明日香、香澄を頼んだぞ」

「ほぇ?」

 

 当然、俺が言った事をできない明日香は首を傾げる。そんな明日香に俺は未来の香澄と明日香へと思いを馳せた。

 

「おにいちゃん!いまのどーいうこと!?」

 

 今のを聞いていた香澄は抗議の声を上げる。だから俺は誤魔化すために香澄の頭を撫でた。

 

「ふにゃあ〜」

「おねえちゃんばっかりずるい!あすかも!」

 

 はいはい。

 

「「ふにゃあ〜」」

 

 

 

 やはりウチの妹たちは猫みたいだ。




オリキャラ:笹木美夜(ささきみや)


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明日香の本音(叫び)

「香澄、明日香、起きて。朝だよ。」

「……んぅ」

 

 香澄は……うん、いつも通りだね。

 

「明日香は……っていないし」

 

 左腕がなんか軽いなと思い、左を向くと既に明日香はいなかった。香澄と明日香が1人で起きることはまずありえない。起きていたとしても、そのまま俺の腕にくっついたままである。

 

 そんな明日香は昨日からどこか様子がおかしかった。昨日、帰ってきてから話しかけても一言も言葉を発さず、俺の近くにいた。早すぎる反抗期かな?と思ったが、俺にいつも通りくっついていたから明日香の行動が反抗期とは到底思えなかった。

 

 だから、理由を知るために聞いてみた

 

「今日からお兄ちゃんと寝るのやめる?」と。

 

 その時の明日香はこの世の終わりみたいな顔をしていた。

 

 反抗期ではないと……。明日香、本当にどうしたんだろう?

 

 今は明日香より……

 

「……んぅ、おにいちゃん」

「ほら、起きて香澄」

「まだねむいよぉ〜」

 

 はぁ、仕方ない。

 

「お兄ちゃん、寝起きが悪い子は嫌いだな」

「……っ!?おきた!かすみおきました!」

 

 ふっ、相変わらず効果覿面だな。

 

 起きない時にこれをやると、香澄と明日香はすぐ起きる。まあ、俺が香澄と明日香を嫌うことは絶対にありえないがな。

 

「うん、おはよう香澄」

「おはようおにいちゃん!だっこ!」

 

 まさかおはようのついでに抱っこと言われるとは思わなかったよ。

 

「うん、だめ」

 

 俺にしては珍しく拒否する。いつもなら全力で朝から可愛がるところだ。

 

「……え」

 

 拒否されるとは思ってもいなかった香澄が、この世の終わりみたいな顔をする。明日香と同じだ。姉妹揃ってこの世の終わりみたいな顔するなんて、俺と一緒に寝るのがそんなに大事か?……って今は抱っこのことだったな。

 

「……おにいちゃん、だめ?」

 

 目をうるうるとさせ、祈るように手を組む香澄。その様子にコロッとやられて「いいよ」と言ってしまいそうになる。

 口から出そうになった言葉を何とかして喉元で止めた俺は

 

「だめ」

 

 と言った。

 

 あっぶねー、香澄の可愛さにコロッとやられるところだったわ。

 

「……おにいちゃん」

「だーめ」

 

 心を鬼にするが。

 

「……おにいちゃん。おねがいっ!」

 

 はうっ!?

 

「うん、いいよ」

 

 先ほどより何倍も目をうるうるとさせた香澄に負けた俺。可愛すぎて心を鬼にできなかったよぉ。

 

「やったー」

 

 飛びついて来る香澄を受け止める。果たして俺はこの先、香澄と明日香の可愛さに負けず、心を鬼にして「NO!」と言える日が来るのだろうか?いや、来ない。

 

 自分で問いかけて、自分で即答している時点で答え(未来)は察しがついてしまう。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 先に起きていた明日香はリビングにいた。

 

「あ、明日香?」

「……」

 

 声をかけるも返事はない。返事が返ってくるどころかプイッとそっぽを向かれた。

 

 ええ(困惑)

 

「光夜、明日香と何かあったの?」

「俺が聞きたいんだが?」

「そう、時間がないからさっさと食べちゃいなさい。明日香のことは帰ってからね」

 

 母さんが作った朝食を食べ、歯を磨いて、登校の支度をする。

 

「香澄、行くよー」

「まってよぉ、おにいちゃん」

 

 靴を履いて帽子を被り、ランドセルを背負う香澄。

 

「それじゃ、行ってきます」

「いってきます!」

 

 玄関に見送りに来ている母さんと明日香に行ってきますの挨拶をした。

 

「行ってらっしゃい。香澄、車には気をつけるのよ?」

「わかってるよぉ」

 

 いつも母さんと共に行ってらっしゃいを言うのに、言わなかった明日香を横目に見ると明日香はボソッと何かを呟いた。俺はそれを聞き逃さなかった。

 

「…いいなぁ

 

 いいな?

 

 どういう意味で明日香はそう呟いたのだろうか?香澄に対して言ったのか俺に言ったのか、はたまた俺と香澄に言ったのか……。

 

「おにいちゃん?どしたの?いこ?」

「あ、ああ」

 

 今は学校に行かなきゃな。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

「ただいま……ってあれ?」

 

 学校が終わり帰宅すると、いつも出迎えてくれる香澄と明日香がいない。2階の自室へランドセルを置いて、リビングへ。リビングでまず、目に入ったのは明日香が香澄を睨んでいるかのように目を細め、どこか不機嫌そうな顔をしている様子だった。近くに母さんはおらず、玄関に靴がなかったので買い物に行っているのだろう。

 

「えっと、香澄?明日香?」

「ん?あっ!おにいちゃん!おかえりなさい!」

「ただいま。明日香と何してたの?」

「うーんとね、かすみが話しかけてもあっちゃんはずぅーとあのままなの」

「そうか、分かった」

 

 慣れた手つきで香澄の頭を撫でる。香澄を撫でていると明日香の小さな口が開いた。

 

「……ずるい

「「え?」」

「ずるいっ!ずるいずるいずるいっ!」

「あ、あっちゃん?どうしたの?」

「ずるいずるいずるいずるいずるいっ!」

 

 香澄の呼びかけなど気にせず、ただひたすら「ずるい」を連呼する明日香。

 

「ずるいずるいずるいずるいずる「ずるくないもん!」…」

 

 何度もずるいと連呼する明日香に業を煮やしたのか、香澄は言葉を被して言い返す。

 

「ずるいっ!」

「ずるくないっ!」

「ずるい!」

「ずるくないずるくない!」

「ずるいずるいっ!」

「ずるくないずるくない!」

「ずるい!」

「ずるくない!」

 

 同じ言葉を繰り返して言い争う二人。

 

「……っ…!」

 

 言い争っている時から目に涙が溜まり、涙目となっていた明日香がとうとう泣き出した。

 

 

いっづもおねえぢゃんばっかりっ!!!!

 

 

 先ほどまで威勢の良かった香澄は、明日香の突然の叫びに愕然としている。

 

 

あずがだってっ!!おねえぢゃんみだいにっ!!いっぱいいっぱいいっぱいなでなで、だっごじでほじいだもんっ!あずがだってっ!!おにいぢゃんと一緒にしょーがっこういぎたい

 

 

 今までずっと溜め込んでいたモノを吐き出すかのように、涙声混じりで()に訴えてきた。その言葉は俺の奥底までグサッと突き刺さり、じわじわと痛みを与える。

 

 

 ――――嗚呼、そうか。そうだったのか。

 

 

「…っ!…っえぐ……っ…」

 

 どうして俺は明日香が泣いて叫ぶまで気づかなかっんだろう?記憶を掘り起こすと思い当たる節が幾つもあった。

 

 

「……っ!?」

 

 

 香澄はどこか放ってはおけないと思い、ついつい何度も頭を撫でたり、遊びに付き合ったりした。そして、一緒に小学校へ行く。

 

 

 それに対して明日香はどうだ?

 

 

 香澄とは違い、落ち着いていて大丈夫だろうと勝手に思い込んでいた。今日までずっと香澄と平等に接して来たつもり(・・・)だった。いつも香澄同様に俺の近くにいたからそう思っていた。

 

 

 けど、違った。

 

 

 香澄の後に頭を撫で、香澄の後に起こし、香澄ばかり先に構う。明日香は香澄の次、それが明日香にとって堪らなく嫌でずるくて、とても悲しかった。

 

 

 分かっていたはずだろ?

 

 

 香澄は明るいけど、ちょっと楽観的で前向きな性格だと。

 

 

 分かっていたはずだろ?

 

 

 明日香は幼いながらも賢くしっかり者だが、ちょっと消極的で控えめな性格だと。

 

 

 分かっていたはずなのに、気がつけば香澄ばかり構っていた。

 

 

 

 ――――嗚呼、俺は最低だ。

 

 

 

 明日香だって、香澄より1年あとに生まれたただけで香澄と変わらない俺の可愛い妹なのに。

 

「ごめんっ!ごめんな明日香」

 

 目の前で泣きじゃくる明日香を力強く、ギュッと抱きしめる。

 

 どれくらい抱きしめていたのだろうか、気がつくと明日香は泣き止んでおり、呼吸は落ち着いていた。

 

「お、おにいちゃん。く、くるしい」

「ご、ごめん」

 

 明日香を離し、目を見ると泣き腫らした目は赤かった。

 

「明日香、ごめんね」

「……いいよ」

「……え?」

「ゆるしてあげる」

 

 泣き腫らした後だと言うのにその笑顔はとても眩しく、目は爛々と輝いている。

 

「……でも、やくそくして」

「やくそく?」

「うん、おねえちゃんよりももっとあすかをなでて、だっこして?」

「ああ、もt「だめっ!?」…か、香澄!?」

 

 空気と化していた香澄が反応する。

 

「あっちゃん、それはダメだよ!」

「おねえちゃんはいっぱい、おにいちゃんにナデナデしてもらってるから」

「やっ。かすみ、もっとおにいちゃんにナデナデしてもらうもん!」

「おねえちゃん、なんてしらない!」

「ふーんだ、だめなものだめだもん!」

「だめじゃないもん!」

「だめですー!」

 

 またしても言い争いが始まる。

 

 

 その様子を見て、俺が決意したことはただ一つ。

 

 

 もう二度と悲しませて泣かせまい……と。



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はじめてのおつかい

 明日香の本音を聞いてから1ヶ月近くが経ち、ゴールデンウィークに入った。以前よりも明日香が甘えてくるようになり、最近では姉妹喧嘩をチラホラと見掛ける。姉妹喧嘩とは言ってもそれはカワイイレベルで「おねえちゃんのばか!」や「あっちゃんのばか!」など「ばか」「きらい」「だめ」「やだ」「ずるい」「~なんてしらない」の言葉ばかり。

 

 なので、安心して姉妹喧嘩を見ていられる。最初のうちは姉妹喧嘩を止めていたが、途中から「あれ?別に止める必要ないよね?むしろ、成長に繋がるのでは?」という考えに至り、よっぽど「○ね」「消えろ」みたいに酷くならない限りは止めない事にした。そんなこと言ったら、親に代わって俺が叱るけどね。

 

 

 姉妹喧嘩はいつも大体こんな感じだ。

 

 

「あっちゃん、ずるい!かすみも!」

「おねえちゃんはだめー」

「なーんーで!」

「だめ」

「やっ」

「だめ」

「やっ」

 

 

「おねえちゃんばっかり、ずるい!」

「あっちゃんはきのう、おにいちゃんにしてもらってた!」

「ずるい!」

「あっちゃんはだめ」

「おねえちゃんのばか」

「だめ」

「おねえちゃんなんてしらない!」

 

 

 まあ、姉妹喧嘩の原因のほぼ7割は俺である。残りの3割はおやつやおもちゃ、ぬいぐるみの取り合いだ。

 特に酷いのは俺が胡座をかいている時でその中に香澄か明日香、どちらが入るかでよく揉めている。最終的に俺の膝の上に座ることで収まるのだが、長時間1人ならず2人となると膝の上、太腿が痺れてツラい。

 

 

 

 それはさておき、ゴールデンウィーク初日。母さんは香澄と明日香にとある事を頼んだ。

 

「香澄、明日香。ちょっといいかしら?2人に頼みたいことがあるの」

「なにー?」

「うん」

「2人におつかいを頼みたいの」

「「おつかい?」」

「ええ、いつも行くスーパーで牛乳1本と卵1パック買ってきて欲しいの」

「うん、わかった」

「うん」

 

 おつかい。

 

 買い物などのためにちょっと外出すること。はじめてとなるとそれは特別になる。香澄と明日香のどちらかではなく、2人に頼んだのには何か理由がありそうだ。おおよそ理由は分かるがな。

 

「それじゃ、牛乳1本と卵1パックよろしくね。お菓子とか買ってきちゃダメよ?お金なくさないようにね」

「「うん」」

 

 姉妹揃って頷くと、母さんは500円玉の入ったネックポーチを香澄の首にかけた。

 

「じゃあ、気をつけて行くのよ」

「うん!おにいちゃん行ってきます」

「行ってきます」

「ああ、気をつけてな」

 

 玄関で2人を見送るとドアが閉まった瞬間、母さんは俺を見た。

 

「さて、光夜……」

「うん、分かってる」

「お願いね、特に香澄」

「了解」

 

 香澄に関しては皆まで言われなくても分かる。俺が母さんから頼まれた事は2つ。

 

 1つ、見守ること。

 

 2つ、もし香澄と明日香に何かあったら対処すること。

 

 この2つが昨日、母さんから頼まれた事だ。2人で行かせたのは香澄が心配だという理由が大きく占めそうだがそうではなく、危険だからだ。戸山家は東京都の北区に居を構えており、中心部に近いため交通が激しい。東京都は乳幼児が日常生活の中で事故に遭うことが多い。

 

 だから、はじめてのおつかいと言えども2人だけで行かせるわけには行かない。そこで俺の出番というわけだ。

 

「香澄と明日香を見失う前に行くわ」

「待って、はい」

「お金ならあるよ?」

「小学生が持ってるお金なんて微々たるもんでしょ?自分のお小遣いは取っておきなさい。あげた500円は好きに使っていいから」

「ありがとう」

 

 これで香澄と明日香のご褒美に何か買ってやれということだろう。だから敢えて、お菓子を買ってきちゃダメと言ったのかもな。母さんから500円玉を受け取ると、俺は香澄たちのあとを付けるべく急いで家を出た。

 

 

「さてと、香澄と明日香は……」

 

 ウチから近いスーパーは家から約1kmほど離れ場所にある。徒歩で約10分ぐらいだ。

 

「あ、いたいた」

 

 香澄と明日香を見つけ、尾行を開始する。5mくらい空けて尾行しても気づかれる気配がなかったので3mくらいまで近づくことにした。近づくとこんな会話が聞こえた。

 

「あっちゃん、てをはなしちゃだめだよ?」

「うん、おねえちゃんも」

 

 香澄が先導する形で手を繋いで歩いている。スマホがあったら、きっと俺は後ろ姿であってもカメラモードで連写していたに違いないだろう。2人が手を繋いで歩いてる後ろ姿は、なんとも言えない可愛さがある。

 

 そういえば、香澄と明日香が2人で手を繋いでいる様子を見るのはあまりなかった気がする。香澄と明日香が手を繋ぐのは俺か父さん、母さんしかいない。手を繋ぐとなるといつも俺が真ん中で左右に香澄、明日香が来るから姉妹で手を繋いでいるのは見たことがない。まあ、実際は俺がいない時に手を繋いでいて、俺が見てないだけかもな。今度、母さんに聞いてみるか。そう思うとこの光景が俺にとって、すごくレアなものに見えてくる。

 

「おねえちゃん、このみちであってるの?」

「うん、あってるよ」

「だ、だいじょうぶだよね?」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ!」

 

 自信ありげな様子の香澄に対して、明日香は不安そうだ。

 

 それもそのはず。

 

 香澄はじっとしていられず、よく外で遊びたがるが明日香は家にいて、おままごとをしたり絵を描いたりする方が好きだ。だから、明日香が自分の知らない外の世界に恐怖や不安を抱くのは仕方ないことだ。学年と共に成長するにつれ、行動範囲、即ち自分の世界が広がって行く。香澄は香澄。明日香は明日香。2人の成長はそれぞれ違うのだから、特に明日香はゆっくりと焦らず成長して欲しいと思う。

 

 2人の成長と言えば、自転車。そう、自転車!香澄の時は「ばびゅーん」する歴史的瞬間に立ち会えなくて、明日香の時こそは!と意気込んでいたのに立ち会えなかった。俺がいない時に乗れるようになるって……泣きそう。

 

 あとは水泳かな。2人同時にスイミングスクールに体験して、明日香が習うことになった。香澄が体験開始数分で「やだ」って言ったのを母さんから聞いた時は笑ったなぁ。香澄が泳げないことを改めて知った。ちなみに俺はピアノを習っているのでパス。

 

「ついた!」

「うん、ついた!」

 

 いろいろ考えている間に目的地のスーパーに着いたようだ。バレないようにしないと。気づかれないように香澄と明日香がいる反対の陳列棚の列に入り、体を顔を隠す。

 

「あれ?なにかうんだっけ?」

「ぎゅうにゅーとたまごだよ。おかしはだめ」

「あ!そうだった、えへへ」

 

 スーパーに入ってから姉妹の立場が逆転しておる。今度は明日香が香澄を先導するように手を引いている。

 

「こっちだよ」

「あっちゃん、あるばしょわかるの?」

「うん」

 

 さすがとしか言いようがない。

 

「ぎゅーにゅー」

「うー、ちょっとおもい」

「つぎ、たまご」

 

 場所を把握してる明日香は卵1パックを手に取り、レジへ向かう。

 

「おねえちゃん、おかね」

「うん、はいこれ」

 

 あっという間にレジで、明日香の賢さにびっくりだ。スーパーに向かう時の不安げな顔はどこへ行ったのか。

 

「おねえちゃんはぎゅーにゅーもって」

「うん、はやくかえろ。おにいちゃんたちがまってる」

 

 いえ、ここにいます。ってやべ、香澄と明日香帰っちゃうじゃん!何にも買ってないわ。急いでお菓子コーナーへ行き、香澄と明日香のご褒美に同じお菓子とジュースを2つずつ持ち、レジへ向かう。

 

「ありがとうございました」

 

 会計が終わり、あとは帰るだけだ。レジ袋だと同じお店で買ったのだとバレてしまうため家からエコバッグを持ってきている。

 

「「ただいま!」」

 

 何事もなく無事に帰ることができ、家に到着。2人が家に入ったのを確認すると俺も家に入る。

 

「おかえり」

「あれ?おにいちゃんは?」

「もうすぐ帰ってくると思うわよ」

「「……?」」

 

「ただいま」

「あっ!おにいちゃん!」

「光夜、おかえり」

 

 すぐさま俺に飛びつこうとした香澄だが、俺が何かを持ってることに気づきエコバッグに視線向けた。

 

「なにそれ?」

「ん?これか、香澄と明日香のご褒美」

「「ごほーび?」」

「ああ、おつかいのご褒美だ。でも、その前におつかいの報告しないとな」

 

 このまま玄関にいても仕方ないので、リビングへ移動する。

 

「おかーさん!かってきたよ!あと、おつり!」

「ん、たまご」

 

 香澄が牛乳1本とおつりの入ったネックポーチ、明日香が卵1パックを母さんに差し出した。

 

「はい、よくできました」

「えへへ」

「うん、がんばった」

「じゃあ、手洗いうがいしてきなさい」

「「はーい」」

 

 2人が洗面所へ駆けて行くのを確認すると母さんは俺に感想を聞いてきた。

 

「どうだった?」

「うん、まあ。香澄が外で先導して、明日香が中で先導してたよ」

「なにそれ?」

「あ、あと俺もおつり」

「はい、あとで詳しく聞かせて」

「りょーかい」

 

 俺も洗面所へ向かい、手洗いうがいを済ます。

 

「じゃーん!ご褒美」

 

 エコバッグからお菓子とジュースを取り出し、香澄と明日香に渡す。

 

「やったー!」

「おにいちゃんのは?」

 

 喜ぶ香澄と俺の分はどうした?と聞く明日香。明日香は優しいな。

 

「俺は……コレだ」

 

 取り出したのはミルクコーヒーだ。ちゃっかり自分の分も買ってきたりしてる。母さんから好きに使っていいって言われたし。

 

「だから、明日香。安心して食べていいぞ」

「うん」

「ねぇ、かすみは?かすみは?」

 

 はいはい。

 

「ふにゃあ〜」

「……ッ!?あすかも!」

 

 はいはい。

 

「にゃあ〜」

 

 今日も今日とて2人の頭を撫でる。

 

 

 2人のはじめてのおつかいは斯くして無事に終了した。



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始まりのキラキラドキドキ

ようやく切ないSandglassが実装され、歓喜してる今日この頃。
早く原作入りたい(切実)

設定→香澄が星の鼓動を聞いたのは小学1年生。
(原作では小学校にあがる前)


 香澄が小学生に入学して早4ヶ月。ついこの間までゴールデンウィークだったのにもう8月だ。夏休みに入り、2週間が経った頃に父さんが告げた。

 

「キャンプ行くぞ」と。

 

 突然告げられ、戸山家は大騒ぎである。香澄と明日香は大はしゃぎし、母さんは「そんなこと一言も聞いてないんですけど!?」と父さんの胸ぐらを掴んで何度も揺らしていた。そんなに揺らすのはやめて差し上げて。

 

「ちょっとお母さん、お父さんとお話してくるね」

 

 眉をひそめて言う母さんの顔は笑ってなかった。例えるならそう、鬼。鬼の形相だ。あと、どうしてだろう?俺の中でお話がO・HA・NA・SHIに変換されるのだが……。

 

「おはなしならここですればいいのにね?」

「かすみもそーおもう!」

「うん、そうだね」

 

 普通のお話じゃないからね。香澄と明日香にこういうのはまだ早いと思うんだ、お兄ちゃんは。

 

「キャンプ行くわよ」

 

 10分後、戻ってきて開口一番母さんはそう言った。父さんはどうした?

 

「父さんはどうしたの?」

「ちょっと……ね?」

 

 俺は口の端を釣り上げて言う母さんに軽く恐怖を感じた。怖い、怖いよ。

 

「どしたの?おにいちゃん?」

「だいじょーぶ?あすかがナデナデしてあげるね」

「あっ!かすみもなでてあげる」

 

 母さんへの恐怖から無意識に香澄と明日香を抱きしめていたらしく、二人から心配された。ナデナデしてあげるとのことで、頭を下げて二人から撫でてもらう。いつもは撫でる側なので、撫でられるのは新鮮な感じがする。

 

「おにいちゃん、うでつかれた」

「あすかも」

 

 数分もしないうちに姉妹によるナデナデタイムは終了した。ずっと撫でるのって意外と疲れるのよ?

 

「「なでて」」

「はいはい」

 

 夏休みに入ってから暇さえあれば、香澄と明日香を撫でている件について。うちの姉妹は猫か何かなのかな?

 

「相変わらず、仲良いわねアンタたち。キャンプの泊まる場所はもう予約してあるらしくて、明後日に出発よ。明日は準備するからね」

「「はーい」」

 

 元気よく香澄と明日香が返事をする。母さんはフッと微笑するとリビングから出て行った。たぶん、父さんのとこに行ったな。

 その後、父さんを見た時は目が死んでいた。明らかに母さんのせいである?母さんに何も言わずに独断で決めるからそうなるんだよ。

 

 とりあえず、無言で父さんの肩に手を置き「強く生きて」との意味を込めてサムズアップをした。心なしか父さんの目に少し光が戻った気がする。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 キャンプ当日。車に乗ること約5時間、目的地に到着した。場所は「星見の丘」というところだ。山中にあり、綺麗な星空が見れる天体観測スポットとして有名らしい。着いたのは夕方頃で山は日が暮れてすぐ暗くなる為、泊まるログハウスへ移動した。ログハウスに到着した頃には日は落ち、辺りは暗闇に包まれていた。風呂はキャンプ場にないので、来る前に温泉施設で済まさせている。

 

「……っん、あれ?」

 

 夕食を食べ、ウトウトして睡魔に襲われているうちに寝てしまったらしい。確か夕食後、父さんと母さんが散歩に行くと行って出掛けたのまでは覚えている。そこから先がウトウトしていたせいか覚えていない。辺りを見回すと誰もおらず、俺はあるはずの懐中電灯がないことに気づく。

 

 香澄と明日香はどこだ?

 

 懐中電灯は2つ持ってきており、1つは父さんと母さんが持っていた。だとすると、香澄たちも懐中電灯を持って外へ行ったのが妥当と考えるべきだ。

 

 

 くっ、やらかした。気持ちよく寝てる場合じゃないだろ。

 

 

 

 ………ん?キャンプ?

 

 

 

 そうだ!キラキラドキドキだ!

 

 

 香澄と明日香が小さい頃にキャンプで両親に内緒で外へ行く。そこで満天の星空もとい『星の鼓動』を聞いたことが、後に香澄がキラキラドキドキしたいと言い始めた原点なのだ。

 

 

 それはつまり、全てのはじまりだと言うこと。

 

 

 そうか、今日この日が香澄の原点だったのか!?

 

 

 確か香澄と明日香が『星の鼓動』を聞いた場所は、木々がない草原の丘だったはず。それなら、周りに木々がなくて草原が広がってる場所を探せば……。来る時にその場所を通ったから、その道を行けばいい。

 

 俺はログハウスを出て全速力で走った。あるはずの草原に向かって木々で生い茂る暗い山の中をひた走る。気づけば周りの木々は減っていき、前方は明るくなって行く。

 

 ついに草原に出た。走るのを止めて辺りを見回すと、数メートル先に懐中電灯を持った香澄と明日香の後ろ姿を見つけた。

 

 駆け寄ろうとした瞬間、後ろから風が吹いた。8月なのに草原の夜風はとても涼しい。涼しい風がいい具合だ。風の気持ち良さに自然と顔が上に向く。視線も上に向けると、その光景に言葉が出なかった。

 

 

「……っ!?」

 

 

 絶景とは、まさにこのことをいうのだろうか。

 

 

 夜空を見上げると、そこは数千数万の星々で埋め尽くされていた。視界のすべてが星で埋め尽くされているのだ。天の川の星々だけではない、無数の星がキラキラと爛々として輝いている。

 

 

 星明かりだけの世界にどれくらい見とれていただろうか?

 

 

 我を忘れていた俺はハッとなり、ようやく香澄と明日香に駆け寄る。

 

「香澄!明日香!」

「おにいちゃん!?」

 

 明日香は涙目になって抱きついてきた。

 

「ダメじゃないか、黙って行くなんて。夜は危険でいっぱいなんだぞ?」

「ごめんなさい」

「うん、ごめんなさいできて偉いね」

 

 落ち着かせるように明日香を撫でると、怖かったのか俺の右腕を強くギュッと掴んだ。

 

「香澄?香澄?」

「············」

 

 香澄から返事がない。星空を見上げたままだ。

 

「香澄っ!?」

「あ、おにいちゃん。」

 

 怒鳴ってようやく俺に気づいた香澄。

 

「どうして、黙って行ったんだ?」

「ごめんなさい。探検したかったの」

「なら、おにいちゃんに一言かけてから……」

「だって、おにいちゃん気持ちよさそうに寝てたから」

 

 ぐっ、そう言われては……。起きろよ、俺!

 

「でもね、夜は危険でいっぱいなんだぞ?」

「ごめんなさい」

「分かってくれたならいいよ、だけど本当に夜は危ないってことは忘れちゃダメだぞ?」

「うん」

 

 大事になる前に見つけられて良かったよ。ここが香澄にとっての始まりとはいえ、何かあったら大変だからな。まだ星を見ていたいと言う香澄をなんとか説得し、無事にキャンプ場に戻ると先に戻っていた両親にこっ酷く叱られた。主に俺が。俺が香澄たちを連れ出したと思われているらしい。確かに俺に責任があるとはいえ……少し解せぬ。

 

 その後の香澄は、心にあらずという有り様だった。キャンプが終わって帰りの車内でもボッーとして、話しかけても「うん」しか言わない。明日香は明日香でこれが好機と思ったのか、ここぞとばかりに甘えてくる。

 

「おにいちゃん、ねむい」

「寝ていいんだよ?」

「ひざまくらしてー」

「はいよ」

 

 とまあ、いつもより積極的だ。俺の右側で横になった明日香は、この3日間で疲れが溜まってたのね。数分も経たぬうちに眠り落ちた。ゆっくりおやすみ。

 

 左にいる香澄を見る。

 

「香澄?香澄?」

「……ぅん」

 

 香澄は変わらずボッーとしており、声をかけてもその反応は乏しい。香澄については、俺が父さんと母さんに「星の虜になった」と直球ストレートに説明しているから問題ない。

 

 俺は香澄の頭に手を置き、軽く頭を撫でた。香澄は昨日、『星のコドウ』を聞いたと言っていたが香澄の言う『星のコドウ』とは何だろう?それを聞いて香澄は何を感じ何を思ったのだろうか?

 

 

 それはきっと、香澄にしか分からない。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 それは突然だった。

 

 

「キラキラドキドキしたい!」

 

「うおっ!?」

 

 キャンプから家に帰って1日が過ぎようとしてた時に、心あらずの状態だった香澄が突然「キラキラドキドキしたい!」と言い出した。いきなりで思わず声が出ちゃったわ。何もしらない人が聞けば、ヤベェやつだが理由(原作)をある程度知ってる俺からすれば微笑ましい。

 

 現に何も知らない明日香が……

 

「おねえちゃん、あたまだいじょーぶ?」

「だいじょうぶだよ!」

 

 香澄の頭を心配している。これであとはランダムスターがあればHENTAIの完成だな。香澄が変態と呼ばれる日はそう遠くなさそうだ。

 

 いつか香澄がキラキラドキドキに出会うまでは、陰ながら見守って行こう。

 

 

 当然、明日香のことも陰ながら見守って行く。

 

 

 これから2人がどう成長して行くか楽しみだ。



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戸山家の海水浴

展開は「バンドリに転生したって?」の通りなんだけど、予定としてはそれに加筆修正したりして話を1.5倍くらいにするつもり。


 

 夏といえば何を思い浮かべるだろうか?

 

 海?山?花火?七夕?それとも祭り?

 

 夏は行事やイベントが盛りだくさんで思い浮かぶのは一つだけではないはずだ。俺、戸山光夜が真っ先に思い浮かぶのは海だ。ギラギラと照りつける太陽にまぶしい白い砂浜、どこまでも続く青い海。思い浮かべるだけで夏だと感じる。

 

 さて、どうして俺が海について語っているかというと──今現在、砂浜に立っているからだ。もちろん、俺だけではなく戸山家全員で海に来ている。

 

 なぜ海にいるのか?

 

 それは遡ること一週間。キャンプから帰ってきて2日後、「キャンプ行ったから今度は海に行くぞ」と父さんは言った。キャンプの時みたいに突然告げられたもんだから母さんにO・HA・NA・SHIされると思っていたのだが、されなかった。

 

 どうやら海に行くことは、前々から決まっていたらしいのだ。キャンプの時もちゃんと母さんに話をつけとけば良かったのにな。

 

 

 

 〜今朝〜

 

 

 

 夏休みで8月中旬ということもあり、交通機関が混む前に家を出なればならない為、朝5時に起床して6時には出発した。

 

 朝5時起きは香澄と明日香にはキツかったらしく、起こしてもなかなか起きてくれなかった。両腕を香澄と明日香にホールドされたまま起こすのは、なかなかシュールだと思う。香澄が起きたと思ったら、朝開口一番に「おにいちゃん抱っこ!」である。この調子で行くと母さんの「早く!」という怒鳴り声が聞こえそうだったから、香澄に「顔洗ってきて、着替えたらな」と告げた。

 

 すると、香澄はパッと目を大きく見開いてベッドから飛び降り、満面の笑みで部屋を走り去って行った。

 

 うん、今日も元気一杯だな。

 

 俺も準備する必要があったから、まだ寝ている明日香は抱っこして下へと降りることにした。

 

「おはよう光夜と……あら?」

「母さん、明日香頼んだ。起こしてもなかなか起きん」

「明日香、朝に弱いものね。分かったわ。準備が終わったら、そのまま車に乗っていいわよ」

「了解」

 

 明日香を母さんに任せ、俺は着替えて荷物を持ち、準備を済ます。

 

「おにいちゃん!」

「おっと」

 

 着替えて準備ができた香澄が突撃してきたが、それを難なく受け止める。そのまま抱き上げて車に乗り込んだ。

 

「あれ?あっちゃんは?」

「起こしてもなかなか起きてくれなくて、母さんに任せた」

「そっか……」

「ちょっ!?」

 

 香澄が俺に頬ずりをする。ちょっと、そんなにほっぺすりすりしないでもらえます?マーキングかよ!?

 

 この頃、香澄は抱っこすると俺に頬ずりをするのだ。頬ずりって愛情や親愛の気持ちを表すからいいんだけど……いいんだけどさ。何回もされると肌がカサカサになるでしょ!?

 

「つかれた」

「……」

 

 疲れたのか5分間に及ぶ頬ずりは終了した。た、助かった。こういうのが香澄だけかと思いきや明日香もなんだよ。

 

 香澄は抱っこで、明日香にはおんぶをよくせがまれる。明日香も明日香で、俺の背中で「すぅはぁー」や「くんかくんか」と擬音がつくような勢いでにおいを嗅ぎ、嗅いだ後はムフゥというなぞの満足感を得ている。

 

 

 ヤダァ、ウチの姉妹コワイ。

 

 

 しかし、俺のにおいはどうなんだろうな?この前、母さんに聞いたら「あんたのにおいはキリッとしたフルーティーよ」と言われた。キリッとしたフルーティーってどんなにおいだよ。俺のにおいがいい匂いなのは分かったけど、そこまでか?いいボディーソープ使ってるぐらいで他は何もケアしてないぞ?

 

 そういや、母さん、香澄も明日香もいい匂いしてるな。父さんは……知らん。まあ、自分の匂いなんて分からないから、この件に関しては諦めてる。

 

 車に乗り込み10分後、母さんが明日香を抱っこしてきた。後部座席に明日香を下ろすと「じゃ、よろしくね」と一言告げて助手席へ座り、目を閉じた。気づけばもう寝息をたてている。

 

 あなたはの○太くんですか?てか、寝るなよ!父さんがかわいそうだろ!?

 

 家の戸締りをしていた父さんが車に乗り込み、助手席で爆睡してる母さんを見ると苦笑いした。

 

「じゃ、行くか」

「出発!」

「しゅっぱつしんこー!」

 

 香澄を右に下ろし、シートベルトをつけさせる。俺の左で眠っている明日香にもシートベルトをつける。

 

「おにいちゃん。かすみ、ねむい」

「ああ、寝ていいんだぞ?」

「ひざまくらして!」

「はいよ」

「わーい!」

 

 それがして貰いたかったのね。

 

 

 ……ん?

 

 右膝だけではなく、左膝にも重さを感じて明日香の方を見ると、明日香も俺の膝に頭を預けていた。

 

「あ、明日香?」

「すぅ、すぅ」

 

 呼吸が嘘っぽいから絶対に起きてるだろ。まったくカワイイヤツめ。

 

「お、光夜。両手に花だな」

 

 俺たちの様子をバックミラーで見ていた父さんが口を開く。両手に花というより──両手に妹。いや、そのまんま両膝に妹だな。両手に花と呼べるまであと10年くらいは必要かな。ホントに成長が楽しみだよ。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 現在、俺は逆ナンされている。

 

 

 

 うん、どうしてこうなった!?

 

 

 

 

 海に着いた俺たちは全員水着に着替えて、海へ向かっていたところ、女性陣がお手洗いに行きたいというので海の家前の砂浜に集合することになった。父さんもトイレでちょっとお花摘みに行くと言って、一目散に走っていった。

 

 我慢してたのか・・・。

 

 いい歳した男がお花摘みって言うなよ!気持ち悪いわ!せめてキジ撃ちとか用を足すって言えよ。というか、お花摘みとキジ撃ちは登山用語だし、ここ山じゃなくて海だけど……。我慢の限界と暑さでちょっとおかしくなっちゃったのかもしれん。

 

 ポツンと一人残された俺は海を前にして待つことが出来ず、海の家近くの砂浜に移動することにした。時刻は11時半。お昼時のせいか海の家付近は、人でごった返している。

 

「ねぇ、きみ?ねぇ、きみったら!」

 

 俺を呼んでたらしく、後ろを振り返るとそこには大学生くらいのお姉さんたちがいた。顔つきからして高校生ではないだろう、なんというか色気がすごい。

 

「はい?俺ですか?」

「そう!きみよ」

 

 よく見るとそのお姉さんの後ろには、同じ大学生と(おぼ)しきお姉さんが5人いた。

 

「ねぇ、きみ。見るからに暇でしょ?お姉さんたちといい事して遊ばない?」

「いい事ですか?」

 

 いい事とはなんだろうか?実は分かってはいるもののとぼけてみる。

 

「うん、いい事よ。きみ、お姉さんの好みなのよね」

 

 え?この人、ショタコンなの?あかんやろ。俺、小学6年生だぞ?あ、でもお姉さんたちから見たら俺が中学1、2年生ぐらいに見えたのかも。とりあえず、助けてと叫べばいいのか?

 

 どうするべきかと思いをめぐらせていると

 

「おにいちゃん!」

 

 香澄が後ろから抱きついてきた。そんな香澄を見て、お姉さんたちはオドオドしている。

 

 スク水だと!?学校の水着を着るなんて……ナイスだ!

 

「おにいちゃん、さがしたんだよ」

「す、すまん」

「ねぇ、おにいちゃん。うしろのおばちゃんたちはダレなの?」

「ブッ!?」

 

 危ない、危なかった。脳内がスク水で埋め尽くされていたから、香澄の不意打ち発言に笑ってしまうところだった。

 

「お、おばちゃ……」

「まだお姉さんなんですけど!?」

「これでも21よ!」

「そっかぁ、私もうお姉さんじゃなくておばちゃんかぁ」

「この子、将来やらかすわぁ」

「………え?」

 

 後半の3人大丈夫か?なんか納得してる人が1人。なぜか香澄の将来を予言してるが1人。最後の人はありえないって顔してる。特に納得してる人、認めちゃダメだろ!諦めんなよ!

 

「ねぇ、おにいちゃん?」

 

 香澄の声が感情のない低いトーンになる。

 

 ヒッ!?声、ひっく!どこから出してんだその声。この()怖いよぉ。

 

 その時、

 

「おにいちゃん!」

 

 もう一人の我が妹、明日香が香澄と同様に抱きついてきた。ピンク色の子ども用の水着だ。

 

「あれ?うしろのおばちゃんたち、だれ?」

 

 ブルータス、お前もか。やはりこの姉妹、相通ずるものがある。

 

「っ!?もういい、もう私かえるぅぅぅうう!」

 

 おばちゃn……じゃなかった、俺に話しかけてきたお姉さんが走り去ると、それを追うように他のお姉さんたちも走り去って行く。

 

「はぁ」

 

 俺が安心してため息を吐くと、

 

「ねぇ、おにいちゃん?さっきのおばちゃんたちはだれなの?」

 

 香澄が再び問いかけてくる。低いトーンとともに香澄の瞳から光沢、ハイライトが徐々に消えて焦点が合わなくなる。

 

 え、待って。なんでこんなに目が据わっているの?ふぇぇ、怖いよぉ。

 

 ちなみに明日香は、この光景をほぇ?と首をかしげて俺と香澄を見ている。 あぁ、明日香カワイイよ。

 

 

「おにいちゃん?そこにすわって」

「……はい」

 

 

 ヤバいぞ、ヤバい。

 

 香澄の剣幕に気圧されて、俺は言われるがままに正座してしまう。お願いだからハイライトさん仕事して!俺が何をしたってんだ。

 

 ここは海の家の近く。当然、他の人から注目を浴びないはずがないわけで……。

 

「ねぇ、ママ。あのおにいちゃんなんでせいざしてるの?ぼくとおなじくらいのおんなのこのまえに?」

「見ちゃいけません!」

 

「パパ!あれ、わたし知ってるよ!あれってO・HA・NA・SHIってやつでしょ?」

「おお、よく知ってるな。偉いぞ」

 

「ねぇ、あなた。あの子たち何してるのかしら?」

「さあ?何してるかわからないがあの光景を見て言えるのはただ1つ。将来、絶対に光夜は尻に敷かれる。」

「あなたみたいに?」

「そうそう。……って何言わせんだ!?」

 

 特に親子から注目を浴びている俺たち。

 

 O・HA・NA・SHIって言った子、よく知ってるな。最近だと肉体言語の方での意味だとか?とりあえず、その子のお父さん?偉い偉いじゃないよ。

 最後のうちの両親だよな?声がそうだし。どこにいるんだとキョロキョロ辺りを見回すと……いた!

 

 視線が合うと、両親はこちらに近づいて来た。

 

「香澄と光夜は何してたんだ?」

「おにいちゃんがおばちゃんたちをひっかけていたの」

 

 父の質問に対してそう答える香澄。

 

 引っ掛けていたとは人聞きが悪い。しかも、おばちゃん。これでは俺が熟女好きに聞こえるじゃないか。

 

「え?おばちゃん?光夜が正座する少し前からみてたけどお姉さんたちだろ?」

「ううん、おばちゃん。においがいやな臭いする」

 

 ああ、なるほど。香澄と明日香がおばちゃんと言ったのは彼女たちの臭いもとい香水のにおいがキツかったからか。そこに悪気はなく、ただ単純にキツイにおいだったから。香澄と明日香の中でお姉さんとおばちゃんの基準は何なんだろうか?におい?外見?

 

「え、でも、おばちゃんっていうのは香織みたいな……」

「あ・な・た?」

「ひっ!?ち、違うんだ!べ、別に母さんのことじゃ……」

「今、私の名前を言ったわよね?確かにそう言っていたの聞いたわよ」

「はい……言いました」

 

 あ、父さん死んだ。諦めて認めてるし。

 

「じゃ、光夜、香澄、明日香。私はこれからO・HA・NA・SHIしてくるから海の家付近にいてね。泳いでもいいけど、香澄と明日香は絶対に光夜から離れないでね」

 

 顔は笑っているのに目が笑っていない母さんは、父さんの頭を掴むとそのままどこかへ行ってしまった。どこへ行くのさ……。きっと父さんの心の中はドナドナだろう。

 

「じゃあ、香澄!明日香!海に入ろうか?」

「……うん」

 

 どうやら香澄は見逃してくれるらしい。はぁ、助かった。でもさ俺、何もやましいことしてないのになんで安心してんだろ?

 

 え?明日香はどうしたって?明日香ならずっと俺たちの様子を不思議そうに見てたぞ。何回も首を左右に傾げてな!明日香カワイイ!君はそのまま育っておくれ。

 

 連行された父さんがいつ戻ってくるか分からないないし、人はそこまで多くないビーチなので海に入ることにした。このままじゃ待ちぼうけだしな。海に入る前に準備運動をする。準備運動が終わった瞬間、香澄は海へ一直線に走って行った。

 

 おいおいおいおい、マジか。見失ったら大変じゃねぇか。

 

 視線を香澄から離さず、はぐれないように明日香と手を繋ぐ。

 

 

 明日香確保!

 

 

 いきなり手を握っても驚いた様子を見せない明日香は俺を上目遣いで見てくる。カワエエ〜。最近、明日香が可愛いすぎる件について。あ、もちろん、香澄も可愛いよ?でもね、香澄はなんか怖いんだ。目とか目とか目とか?……あれ?

 

 明日香と手を繋いだまま香澄の方へ行く。香澄は膝くらいまでの浅瀬にいて、波とたわむれている。

 

 絵になるなぁ。何よりカワイイ(語彙力)

 

 クッ、これが俗に言う筆舌に尽くし難いか……。

 

 香澄に近寄ろうとしたその刹那、俺の顔に海水がかかった。

 

 

 

ア''ア''ッ〜〜!?イイッ↑タイッ↓メガァァァァァァア↑

 

 

 

 思わず明日香と繋いでいた手を離して、両手で目を押さえる。

 

 

 

 イッタイ!?メガァァァメガァァァ↑

 

 

 

 そんな俺の様子を見て、明日香は「だいじょーぶ?」と心配してくれた。ああ、俺を労わってくれるのはお前だけだよ明日香。香澄はもうご覧の通りだろ?両親は……まあ、うん。とりあえず、大丈夫と言っておいた。全然これぽっちも大丈夫じゃないけど。海水で目がしみる。

 

 そんな最中、香澄は

 

「おにいちゃん?どう?きもちいいでしょ?」

 

 と満面の笑みで言うのだ。

 

 

 お前は鬼か!?

 

 

 香澄は何事もなかったかのようにニカッと笑いかけてくる。ずるいわぁ、その笑顔。お兄ちゃん何でも許せちゃう!

 

 

 浅瀬で十数分、波とたわむれていたら香澄が深いところにいくと言い出した。お兄ちゃん、まだ目が痛いよ。まあ、ここは浅瀬だし、人が周りにたくさんいるから大丈夫だろうと高を括って水深の深いところへ移動する。

 

 香澄大丈夫か?と思っていたら案の定、香澄は溺れた。

 

 騒ぎになる前に助けにいかないと。俺が近寄ると香澄は右腕にガシッとしがみついた。158cmである俺は問題ないが香澄は112cm。体全部が沈んでしまう。海水を飲み込んでしまったのか香澄がケホッゲホッと咳をする。その咳が俺の顔へと向けられる。

 

「けほっけほっ、げほっ」

「……」

 

 ありがとうございます!我々の業界ではご褒美です!ハッ!イカンイカン、新たな世界を開くところだった。って、明日香は!?

 

 

 香澄にばかり気を取られて、明日香を忘れていた俺は浅瀬の方に目をやると──なんと!こちらに向かって明日香が泳いでくるではないか!?

 

 

 

 犬かきして。

 

 

 

 やるわね。

 

 

 疲れてしまったのか溺れそうになる明日香。今のところから少し深水が浅いところで明日香を小脇に抱き抱える。

 

 明日香回収。

 

 抱き抱えた明日香がさっきから右腕にくっついてる香澄を見て、同じように俺の左腕にガシッとくっつく。なんだこれ?これが本当の両手に花?ん〜まだ花って年ごろじゃないから両手に妹と言っておこう。

 

 少し疲れたから海から出ようとすると、姉妹揃って「イヤッ」と駄々を捏ねるように腕の力を強くする。仕方ないので海から出るのを諦め、両腕にくっついたまま歩く。これでは腕が振れないから歩きづらいったらありゃしない。それでも動けと言わんばかりに腕の力を込めるウチのワガママなお姫様が二人。

 

 

 結局、30分間、両腕にくっついた状態で歩かされるのだった。

 

 

 二人ともご満悦そうで何よりだ。

 

 

 母さんたちがそろそろ来ると思い、海から上がって浜辺で遊ぶ。

 

「ほら、あっちゃん!あっちゃん!カニさんだよカニさん!」

「い、いやっ!やめてよ、おねえちゃん!」

 

 香澄が取っ捕まえて来た小さなカニを明日香に近づける。ん?スナガニか。よく捕まえられたな香澄。スナガニってすぐ逃げるから捕まえるの難しいんだぜ?なんでも触る香澄に対し明日香は虫とか触るのダメだもんな……。

 

「おにいちゃん、カニさん」

「ああ、カニさんだな。カニさんも必死で生きているんだから離してあげて」

「うん!」

 

 

 

 数分後

 

 

「あっちゃん!」

  

 香澄がどこからか海藻を持ってきた。

 

 ンンッ!?それワカメじゃねーか。やっぱり砂浜に漂流してるのね。すると、そのワカメを明日香の背中にピチャリとくっつけた。

 

「い、イヤァァァァァァッ!?」

 

 ものすごい勢いで俺の胸に飛び込んで来る明日香。って俺かよ!?てっきり海の方かどこかへ走り去るのかと思っていた。でも、どこかに行かれたら行かれたで困る。よっぽど生ワカメのヌメッとした感触が恐ろしくて嫌だったのだろう。泣いてはいないが涙目である。

 

 よしよし、大丈夫だぞ。

 

「こら!香澄!」

「ご、ごめんなさい」

「俺じゃなくて明日香にだよ」

 

 このやり取りも何回目ぐらいだろうか?これが初めてというわけではない。香澄が明日香にちょっかいかけたり、ちょっとしたイタズラをしたりするのだ。本人に悪気はなく、ただ構って欲しかっただけなのだ。まあ、香澄は明日香のことが大好きだし、明日香も香澄が大好きだ。

 

 だから、すぐには姉妹喧嘩にならない。

 

「あっちゃん、ごめんなさい」

「おねえちゃんなんてだいっきらいっ!!」

 

 香澄と明日香に大っ嫌いなんて言われたら、想像するだけで……。

 

「ところで明日香、そろそろ離れないか?」

「やっ」

 

 なんか似たようなやり取りを香澄としたような気がする。

 

「海はいいのか?」

「うん」

「じゃあ、まず俺から離れようか?」

「やっ」

「」

 

 ちなみに先ほどまで俺の胸の中にいて、今は右腕にひしっとくっついている。しかし、このままでは動けないな。

 

「そろそろ、腕から離れてくれ」

「じゃあ、おんぶ」

 

 腕を離し、両手を広げておんぶをねだる明日香。今日は珍しく明日香が甘えん坊だ。前より積極的に甘えてくれるのは兄として嬉しい。

 

「はいよっと」

 

 明日香をおんぶすると、

 

「あっー!あっちゃん、ずるい!おにいちゃん、かすみも!」

「香澄は我慢。あっちゃんのお姉ちゃんだろ?」

「うん、かすみ。あっちゃんのおねえちゃんだもん」

 

 聞き分けがよくて助かる。今までだと駄々をこねていたはずだから。まあ、駄々をこねてもかわいいんだけどね。

 

 その後、母さんたちと合流し、家族で海水浴を楽しんだ。それより父さん、今回も目が死んでたけど大丈夫か?

 

 

 それと海水浴から数日間、俺の目が充血して赤かったことは言うまでもないだろう。



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はじめてのカラオケ

設定
2009年(10話現在)
→明日香(年長)、香澄(小1)、光夜(小6)
2018年(原作開始)


 

 長かった夏休みも終盤に差し掛かり、2学期が始まるまであと1日。つまり、夏休み最終日だ。今年の夏はたくさんの思い出ができたと思う。特にキャンプで見た天の川の星々は一生忘れることがない。香澄に倣うと『星の鼓動】かな。

 

 残念ながら俺には香澄の言う『星の鼓動』は聞こえなかった。『星の鼓動』は香澄にとって特別な何か──『キラキラドキドキ』なのだろう。それは俺だけではなく、明日香も聞こえなかったそうだ。

 

 香澄が明日香に『星の鼓動』を聞いたのかどうか聞いた時、

 

「あっちゃん、きこえた?ほしのこどう?」

「しんぞーのおとならきこえたよ?」

「ふっ」

「あっ!おにいちゃん、いまわらったでしょ!」

 

 明日香の心臓の音なら聞こえたよ?は笑ってしまった。

 

 香澄が『星の鼓動』一一一キラキラドキドキに出会う日はそう遠くはない未来にやって来る。香澄と明日香、2人には焦らずゆっくりと成長していって欲しいというのが俺の願いだ。

 

 兄として、2人に負けないようにいろいろと俺も頑張らなければな。

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

「キラキラドキドキしたい!」

「おねえちゃん、うるさい」

 

 今日も今日とて香澄がキラキラドキドキしたいと叫ぶ。キャンプに行ってから、日時茶飯事となりつつある香澄の「キラキラドキドキしたい」発言。1日に最低2回は言ってる気がする。そんな香澄に嫌気が差した明日香がうるさいと言うのがお決まりとなっている。

 

「うーん、どうしようかしら?」

 

 香澄の有り余る元気を見て、母さんは首を傾げる。そこで俺はある提案をした。

 

「カラオケはどう?香澄と明日香はまだカラオケに行ったことないだろうし、カラオケなら大声出しても大丈夫だから」

「……光夜、ナイスアイデア!香澄、明日香!」

「「ほぇ?」」

「出掛けるわよ、準備して」

「「はーい」」

 

 何かをすると決めた戸山家は行動が早い。香澄と明日香に目的地を告げないまま数十分後、俺たちはカラオケの店の前にいた。

 

「ここどこ?」

「ママ、ここどこ?」

 

 どこに行くか知らされずに来たのだ。香澄と明日香の反応は当然と言えよう。

 

「とりあえず、中に入るわよ」

「「はーい」」

 

 母さんは俺を一瞥すると、右目を瞬かせてウインクをした。一見、息子にウインクする母(おばさん)にしか見えないのだが、これには意味がある。たぶん、香澄と明日香にカラオケについて説明よろしくということなのだろう。

 それと母さんのウインクがちょっと気持ち悪いと思ったことは言わないでおこう。言ったら俺がどうなるかなんて、火を見るよりも明らかである。父さんという前例がある以上、何も言わない方がいい。母さんにO・HA・NA・SHIされるのは父さんだけで十分なのだ。

 

 

「わ〜あ、すごい!」

「……すごい」

 

 個室に入ると香澄と明日香は、初めて見るカラオケルームに驚嘆の声を漏らした。俺からするとこのカラオケルーム・設備に違和感しかないのだが、あと10年もすれば俺がよく知るカラオケとなっているだろう。

 

「これがカラオケだよ」

「「からおけ?」」

 

 カラオケとは伴奏だけを録音したもので、その伴奏に合わせて歌うことだ。「空(から)」と「オーケストラ」の略であり、元々はバンドマンの俗語だった。「空オケで練習しよう」などの歌手抜きの意味で使われていた。これらを香澄、明日香に説明してもまだ分からないだろうから簡潔に説明する。

 

「好きな曲を選んで好きに歌える場所だよ」

「うたっていいの!?」

「ああ」

「あすかもうたう」

「一緒に歌おっか」

「うん」

 

 充電器に繋がっているカラオケリモコンとマイクを取り、マイクに被せてある除菌消臭済袋を取った。

 

「おにいちゃん、マイクかして!」

「あっ」

 

 つい香澄にマイクを渡してしまった。何か嫌な予感がするぞ。香澄は大きく胸を広げて息を吸うと次の瞬間、

 

「わっ!」

 

 と叫んだ。

 

 

 俺はとっさに耳を塞いだが時すでに遅し、香澄の叫び声はマイクを通して大音量となって俺の耳へと届く。当然、俺だけでなく明日香と母さんの耳にも届いた。

 

「おねえちゃん、うるさい」

「マイク音量大きいわね」

 

 明日香はまたかと呆れた様子でうるさいと言い、母さんに関してはほとんどスルーだ。2人とも耳塞いでない……マジか?我が家の香澄の反応は最初こそ驚いたりするが、次からは「またか」みたいなスルーに近い反応になる。

 

「なんでおにいちゃん、みみふさいでるの?」

 

 俺がおかしいの?え?

 

 毎回毎回、俺だけビクッと反応するのがおかしいみたいじゃん。慣れって怖いね、俺は慣れないけど。ちょっと明日香と母さんが怖くなってきたよ。

 

「なんでもないよ」

「そっか」

「そういえば、光夜はカラオケに父さんと何回ぐらい行ったの?」

 

 なんでもないわけあるか!と思っていると、母さんが質問してきた。

 

「んー、初めて行ったのが香澄と同じ小1の時で、それから結構行ったけど覚えてないや」

「じゃあ、アバウトでいいからどれくらい?」

 

 小1から小3の時はよくカラオケに行った覚えがある。香澄と明日香が今より幼かった頃、父さんに連れて行ってもらった。自分からカラオケに行きたいと言ったことはなく、気づけば父さんと出掛ける行き先はカラオケとなっていた。父さんと出掛けるのは、香澄と明日香が寝てる時か母さんが香澄たちから目が離せない時だった。小学5年生に進級してから、父さんと出掛けることは家族旅行以外では滅多になくなった。

 

「30回ぐらい?」

「結構行ってるわね」

 

 まあ、今では出掛けるとなると常に香澄と明日香がいるからね。ゲームで例えるならその装備は外せません的な?いや、お兄ちゃん的には超嬉しいんだけどね。7~8年後ぐらいに香澄と明日香が「お兄ちゃん、臭い」とか「近寄らないで」って言われたら立ち直れない自信がある。そもそも、お兄ちゃんって呼んでくれるのか?

 

 ……うん、よし。このことは考えるのは止めよう。想像しただけで気分がブルーになる。先のことはなるようになるし、なるようにしかならない。できれば、後者は勘弁してほしいけど。

 

「とりあえず、私のことはいいから。3人で歌って」

 

 ミュージック音量、マイク音量、エコーを調節して、カラオケリモコンを操作する。

 

「「なにこれ?」」

「うん?これでね、歌う曲を選ぶんだよ」

「すごーい!かすみもさわる!」

「……ほぇ」

「それで何歌う?」

「きらきらぼし!」

 

 

う ん 、 知 っ て た 。

 

 

 香澄は予想通り、明日香は一一一

 

「明日香は何歌う?」

「……もりのくまさん」

 

 あら、かわいいこと。さて、歌いますか。

 

 

 〜1時間後〜

 

「……」

「……あきた」

「え〜、もっときらきらぼしうたおーよ!」

 

 飽きたと呟いたのは明日香で、俺も明日香に同意見だ。まさか1時間近くもきらきら星を歌うとは思わないじゃないか?途中に何曲か明日香の選曲した「森のくまさん」「かえるのがっしょう」や「おもちゃのチャチャチャ」以外は全て「きらきら星」だ。当の本人は飽きるどころかますます歌いたいと盛り上がってる。俺が家でピアノの練習をしているときらきら星弾いてと言うし、きらきら星以外歌ってるのをあまり見たことがない。

 

 なのに、当の本人は飽きるどころかますますきらきら星を歌いたいのだと言う。

 

 香澄・・・おそろしい子!

 

 さすがに時間もなくなってきたので変えることにする。

 

「おにいちゃん、なにうたうの?」

「……きらきら星よ」

 

 そう、きらきら星はきらきら星の中でも世界中で愛唱されている「Twinkle, twinkle, little star」だ。

 

 

「Twinkle, twinkle, little star〜♪How I wonder what you are〜♪」

 

 歌い終わると、

 

「すごいすごいすごい!おにいちゃん、すごい!」

「……うん、おにいちゃん、すごい」

「へぇ、光夜、歌上手じゃない。英語の発音、私全然分からなかったわ」

「ありがと」

 

 やっぱり褒められると嬉しいものだ。他の曲も何か歌おうとすると、部屋に設置してある電話が鳴った。母さんが電話を取り、返事をする。どうやら、終わりのようだ。

 

「それじゃ、帰りましょうか。また今度来ましょう」

「えー、かすみもっとうたいたい!」

「おにいちゃんのうた、もっとききたかった」

 

 香澄は歌い足りないらしく、不満の声をあげる。明日香は俺の歌を聞きたいと言ってくれた。歌うより聞く方が好きなのかな?

 

「香澄、お兄ちゃんが帰ったらピアノできらきら星弾いてあげる」

「わーい、かえってもうたうー」

「おにいちゃんもうたって」

「はいよ」

 

 2時間という短い時間だったが、香澄と明日香の初めてのカラオケは夏の思い出の1つとなった。



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Sports Day

 

 

 夏休みが終わり、新学期が始まった9月の第3週の土曜日。秋になったとはいえ、まだまだ暑い日々が続いている。9月半ばを過ぎても終わらない残暑は、一向に秋の気配を感じさせない。

 しかし、今日は太陽が分厚い雲に隠れている。それに加えて涼しい。朝の天気予報では、今日一日中くもりと予報されていたので絶好の運動会日和となるはずだ。

 

 

 運動会日和?そう、今日は運動会だ。

 

 

 俺にとっては小学校最後の運動会(2回目)であり香澄にとっては小学校最初の運動会となる。まあ、1回目の運動会なんて記憶の彼方に消え去って全く覚えていないがな。

 

「光夜?」

「……はぁ」

「おい、俺の顔見てため息をつくなよ」

 

 別にタケチーの顔を見てため息をついたわけではない。

 

「違うから。いいよな、お気楽そうで」

「まあ、お前は応援団長様だもんな!」

 

 語尾に草を生やしていそうな勢いで言うタケチー。

 

「人事のように言いやがって」

「だって、関係ないし?」

 

 これから俺の予定は入場行進で色長が持つ旗を持って行進。応援合戦で青組の応援団長。他は各競技種目だ。途中、応援合戦とは別に色長としての仕事が幾つかある。

 

 俺の役割多くない?

 

 と思ったが赤組の応援団長の方が大変そうだ。

 

「ま、赤組の応援団長よりマシだ」

「確かに」

 

 入場行進に選手宣誓、応援団長兼体育委員長なのだから。同じ人が兼任してはいけないルールはないため、赤組の応援団長や俺みたいに兼任させられるのだ。俺の場合は去年、応援団長の代わりを務めたことが決め手となり、押し付けられたのだろう。

 

 ふぇぇ、数の暴力には勝てなかったよ...

 

 もし、仮に俺が休んだら副団長である5年生にその務めが降りかかるのだ。今年はそんなアホなことは起きないが去年、そんなアホなことが起きたのが俺です笑

 

 役割が多いと香澄の所へ行ったり、応援できないじゃないか。何の役もないやつが羨ましいぜ。本音を言うと、応援団長なんて目立つし、面倒でやりたくはなかった。

 けどさ、香澄と明日香に「今年もやるの?」と目をキラキラと輝かせて言われてはやるしかないでしょ!

 だって、兄としては香澄と明日香にかっこいいところ見せたいじゃない?

 

 何事も打算で動くのは当たり前や!

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

  1組のカラーである青ハチマキをし、教室から椅子を持って校庭に移動する。椅子を置くことでクラスの場所を確保し、少しでも疲労を抑えることだ。また、学年帽は被らずに各色のハチマキだけでは場所が分からなくなるからである。各クラスの場所の陣取りでもある。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

「おう」

「光夜、ファイト!」

 

 タケチーとクラスメイトたちに声をかけて俺は入場式の準備をしに行く。

 

 

「ふぅ、疲れたぜ。主に精神的に」

「おつかれさん」

「おつかれー」

「戸山くん、おつかれ」

 

 無事、運動会の入場が終わり、各競技種目に入っていく。旗など片付けをした後、6年1組の場所へ戻るとクラスメイトたちから(ねぎら)いの言葉をかけられる。

 

「徒競走の時間までどうするんだ?」

「ん、応援しに行く」

 

 クラスの競技が開始するのは9時10分開始の徒競走だ。1年生から6年生という順に進行し、学年によって走る距離が違う。順番は1学期に測定した50m走をもとに組まれており、なるべく公平にされている。

 

「んじゃ、俺は妹の応援行くんで」

「りょーかい」

「出た、光夜の妹バカ」

 

 妹バカもといシスコンですが何か?別に何も問題ないよね!

 

 学校の中央昇降口を正面から見て右側、東門付近が徒競走のスタート地点だ。既に1年生は徒競走の走順に並んでおり、香澄たち1年生は開始を待つのみだ。3組のカラー、赤色のハチマキをつけているはずの香澄を探すと、6レーンあるうちの1レーン目、校庭側にいたからすんなりと見つけることができた。俺が近づくと香澄はすぐ俺に気づき、緊張していたのか強ばっていた顔が破顔した。

 

「あ、おにいちゃん!」

「おう、お兄ちゃんだぞ」

「おにいちゃん、どーしたの?」

「ん?香澄の応援に来たんだよ」

「ほんと!かすみ、がんばる!」

「緊張してたでしょ?」

「し、してない!かすみ、きんちょーなんてしてないもん!」

「ほんとかなぁ?」

 

 香澄のあまりにも可愛い動揺姿にニヤっと頬が緩む。香澄が動揺している時は全部嘘だ。香澄は正直者ですぐ顔に出るから嘘はバレる。何よりお兄ちゃんに隠せると思うことなかれ。

 

「ほんとはちょ、ちょっとしてた」

「そっか、でも大丈夫だよ」

「だいじょーぶ?」

「そうだね。香澄は今、キラキラドキドキしてる?」

「キラキラしないけどドキドキしてる」

「うん、ドキドキはしてるね」

「ッ!?」

 

 ハッとなった香澄は目を大きく開いた。

 

「ほんとだ!」

「ドキドキはしているから後はキラキラするだけだね」

「うん!かすみ、キラキラする!」

「ん、頑張ってキラキラしておいで。そろそろ始まるみたいだから、お兄ちゃんは行くね。」

「おにいちゃん、見ててね!」

「うん、見てるよ」

 

 香澄にとってキラキラドキドキは特別だ。星見の丘から始まった香澄のキラキラドキドキするもの探し。キラキラやドキドキするものには片っ端から興味を示した。特に星に関しては強く興味を持つようになって、星型の物を見つけようものならキラキラを追求しようとそれ以外に目が行かなくなって暴走するのだ。

 今回はキラキラドキドキを利用して香澄の緊張を少しでもほぐそうとしたのだが、よくよく考えると不安しかねぇわ。

 

 大丈夫だよね?暴走しないよな?

 

 

どうにでもなれー(現実逃避)

 

 

 俺はそこで深く考えるのを止めた。

 

 香澄の頭にポンッと軽く手を置いた後、俺は明日香たちを見つけるべく、東門をあとにした。

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 探すこと5分。保護者と生徒の人混みの中を移動していると俺の腰に誰かが抱き着いてきた。

 

「おにいちゃん!」

「うおっ!?」

 

 明日香だった。

 

「いきなりでびっくりしたよ、この人混みの中でよく分かったね」

「えへへ」

「母さんたちは?」

「いなくなった」

「……え?」

「ママだとおもってね、だきついたらねママじゃなかったの」

 

 小さい頃によくある話だな。母だと思って声を掛けたり、抱きついたら全然違う人だった……というのは。後ろ姿が似てる人は多いから間違えるのも無理はない。

 

「それじゃあ、お兄ちゃんのことも間違えることが……」

「あすか、おにいちゃんはまちがえないもん!」

 

 嬉しいことを言ってくれるじゃないの。

 

「嬉しいねぇ。ってあと少しで香澄の番だから母さんたちを探さないと」

「おねえちゃん、おうえんするー!」

「そうだね、だから早く探さないとね」

 

 はぐれないように明日香の手を取り、母さんたちを探し始めようとしたその時……。

 

「あ、光夜!」

「よかった、明日香もいる。はぐれてどうしようかと思ってたわ」

 

 母さんと父さんが俺たちを見つけ、小走りでこちらに駆け寄ってきた。

 

「母さんたち、タイミングいいね。今から丁度2人を探しに行くところだったよ。」

「ほんと?よかったわ。明日香がお兄ちゃんのとこ行くと言って、手を離した途端に人混みの中に消えていったものだから大変だったわよ」

「こら、明日香ダメじゃないか。母さんたちを心配させたら」

「えへへ、だっておにいちゃんにあいたかったんだもん!」

「ほんとにこの()ったら、姉妹揃って変なところで似てるわね」

「まあまあ、光夜といたから。良しとしよう」

「母さんたち、今はそれより香澄の徒競走だよ!もう1年生の徒競走が始まってて香澄の順番が前の方でもうすぐなんだ」

「あら、それは大変ね。応援しに行きましょうか」

 

 

 

 ☆

 

 

『赤組速い。速いです。黄組、頑張って下さい』

 

 小学生が放送の実況をしているため、実況内容は基本的に同じだ。これが中学や高校になると面白おかしく実況する人がいたりして、盛り上がる。小学校でそれを求めるのは酷な話だ。

 

「あ、香澄は次みたいだぞ」

 

 香澄を応援できる場所、レーンのである学校の中央昇降口付近に俺たちはいる。気づけば香澄の番だ。

 

『いちについてーよーーーい……どんっ!』

 

 ついにレースがスタートした。香澄はスタートダッシュが遅れてしまい順位は4位となった。前に3人、後ろに2人。色にすると青、黄、黄、赤、青、赤だ。香澄は出だしは遅れてしまったがスタートして数秒後には2人抜かし、2位に順位を上げた。いいぞ、そのまま1位だ!

 

「香澄、がんばれー!

「香澄、ファイトー!」

「おねぇーちゃん!」

 

 

 香澄が中央昇降口付近を通った所で応援する、父さん、母さん、明日香。香澄は2位をキープしているが、1位の人をなかなか抜けずにいた。きっと今の香澄は心の中で焦りが生じているだろう。

 

 だから、俺は……

 

 

 「香澄っ!!」

 

 

 香澄に声が届くよう叫んだ。

 

 すると、どうだろうか。なかなか1位の人と距離を詰められずにいた香澄が、次の瞬間………

 

 1位に躍り出た。

 

 そのスピードは遅くなることなく、ばびゅーんと加速して行き……ゴールした。一等賞である。それも2位と距離の差をつけて。

 

 

「……ゑ?」

「「「……………」」」

 

 

 香澄が1位になると信じてはいたものの、後半のあまりの速さに俺は驚きが隠せず、変な声が出る。母さんたちの視線は俺に集中している。

 

「うそーん」

 

 俺の心情はこれに尽きる。香澄、速すぎいぃぃぃ。何アレ、え?めちゃばびゅーんしてたやん!もしかしなくても、キラキラドキドキしてる?って言ったせい?

 

「光夜……」

「光夜、おまえ……」

 

 やめて!そんな目で見ないで!

 

「おにいちゃん……」

 

 明日香までも……。

 

 「あすかがしょーがくせいになったら、おねえちゃんとおなじのやって!

「……ゑ?」

 

 本日2度目のゑが出たよ。

 

「だ〜か〜ら!あすかにもしてね!やくそくだよ?」

「アッハイ」

 

 応援(名前呼び)を所望する明日香。そういや先ほどから周りの視線が俺に向いてる気がする。少し視線が痛い。絶対に叫んだせいだよなぁ。

 

「お、俺、香澄のところに行ってくる」

「あすかもいく!」

 

 俺は明日香を連れて、逃げるように香澄の方へ向かったのだった。

 

 順位を示す等賞旗付近に着くと、そこに香澄はいなかった。あれ?どこだ?

 

 その時だった。

 

おにいちゃん!

「ごふっ!?」

 

 突然、お腹に衝撃が走り、体勢が崩れそうになる。

 

「おっと、いきなりは勘弁してくれ」

「えへへ〜、ごめんなさぁい〜」

 

 悪びれた様子もなくニコッと笑って謝る香澄。その笑顔はいつもながら眩しいが、今日は一段と眩しかった。

 

「いちいーになったよ!いちいー!ほめてほめて!」

「ん、頑張ったな」

「えへへ〜」

 

 褒めるだけではなく、香澄の頭に手を置いて撫でることも忘れない。

 

「……むぅ」

 

 これを面白くない様子で見つめているのは明日香だ。ムッとして眉をひそめた後、何かを訴えかけているように俺へ視線を飛ばす。だから当然、明日香も撫でる。

 

「ふにゃあ〜」

 

 お兄ちゃんスキル全開である。

 

 お兄ちゃんスキルとは、年下の子に発揮できるスキルだ。今現在、そのスキルは2つある。1つ目はスマイル、2つ目は頭を撫でる、ナデナデ。この2つは必須スキルではなろだろうか?今はまだ2つしかないが、今後増えていく予定?だ。

 

 ……って何説明してんだ俺、恥ずかしいわボケ!

 

「さて、父さんと母さんがいるところに行こう。2人とも待ってるよ」

「「うん!」

 

 香澄と明日香を連れて、父さんたちと合流する。

 

「香澄、1位なんて凄いじゃない!」

「父さんたち、ちゃんと見てたぞ〜」

「ほんと!」

 

「特に光夜が大声で香澄!って叫んでからがすごかったわよ」

「ああ、あっという間に1位になって後ろの人と距離をつけてのゴールだもんな」

「だって、おにいちゃんのこえがきこえたんだもん!」

 

 俺が応援すれば、ばびゅーんするの?そ、そうですか。

 

 明日香が俺の体操着の袖をちょんちょんと引いた。

 

「……ん?」

「あすかにもおねえちゃんとおなじことしてね」

「アッハイ」

 

  2度目の念押しをされた。言われずとも応援するぜ。まあ、なんだかんだでこれから毎年やることになりそうだけど……。

 

「来年は明日香も入学式するから楽しみね」

 

 そうだね、楽しみ。でも、一緒に学校通えないのは本当に残念だ。

 

「光夜の学年が走ったあとに1年生の種目ね」

 

 母さんは運動会プログラムに目を落とした。1年生の学年種目は玉入れだ。ただの玉入れではなく、踊りありの玉入れだ。

 

「ああ、毎年思うけど懐かしいよ」

「光夜、キレッキレッに踊っていたものね」

「え?おにいちゃんのときの?」

「そうよー、光夜ったらキレッキレッに踊っててすごく目立っていたのよ」

「そうだな、見てて微笑ましかっぞ。確か動画に撮っててまだあるはずだ」

「「みたい!」

 

 や、止めてくれ下さい!俺からしたらちょっとした黒歴史だ。

 

「ふふ、今度見せてあげるわ」

「お、俺なんかの見ても何も面白くないよ?」

「「みる!」」

 

 ……もう好きにしてくれ(白目)

 

 ただ、俺の前で見るのだけは止めてね!精神的ダメージがすんごいから。既に精神的ダメージが来てるよ、ハハハ。

 

「ハハハッ!光夜のは毎年、1年生の頃から父さんがしっかりと撮ってるぞ。香澄と明日香のもちゃんと撮るから安心してくれ」

 

 ……オーマイガー!

 

「「みる!」」

 

 やめてっ!お兄ちゃんのライフはもう0よ!

 

「……はぁ」

「ため息なんてついちゃって。まぁ、自分の過去を見るのはちょっと抵抗があるわよね」

「ちょっとどころじゃないわ!」

「お兄ちゃん大好き姉妹だから諦めなさい」

「香澄と明日香が俺のことを大好きなのは嬉しい。でもさ、諦める原因作ったのは映像見せてあげるって言ったのは母さんだよね?」

「な、なんのことかしら?」

 

 おい、視線が泳いでるぞ。俺はジト目で母さんを見る。白々しいにも程があるぜ。もう少し動揺を隠そうぜ、母さん……。

 

「ま、いいや」

 

 反抗するだけ無駄だな。俺自身が過去の自分を見るなら絶対に嫌だけど、俺の知らないところで見られる分には構わない。

 

「あら、意外と諦めが早いわね」

「俺も香澄と明日香の見るから問題ない!」

「……ダメだこりゃ、6年生の徒競走までまだまだ時間あるわね」

「ま、最後だしな。俺としては自分が走るよりその次、1年生の学年種目、玉入れが見どころですわ」

「あんたはまず、徒競走で走ることに集中しなさいよ」

 

 まずは自分の種目に集中しろ?いやいや、香澄の出る種目に集中するべきでしょ!当然だろ?

 

「俺のなんてどうでもいいでしょ」

「香澄と明日香があんたの活躍みたいに決まってるじゃん!もちろん、私も含めて家族全員がね」

「よっしゃぁぁぁぁぁ!」

「わっかりやす……」

 

 そういえばそうだった。俺が応援団長やるのも香澄と明日香にかっこいいところを見て欲しいからだった!いやー、香澄の1等の徒競走見て、あとは玉入れ応援したら、完全に満足するところでしたね。危ない、危ない。何のために応援団長になったんだよって話だよな。

 

「おにいちゃんはいつ走るの?」

「うーん、まだまだ先かな」

「はやく、はやく!」

 

 香澄がいつ走るのという質問に答えると明日香は早くしろと言う。早くするのは無理があるよ、明日香。

 

「次が2年生、2、3、4、5年生の順で6年生の徒競走は最後だから」

「「え~~」」

 

 そこ、文句言わない!

 

 そんなこんなで話をしているらうちに6年生の番になった。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

「おにいちゃん、がんばって〜」

「ふぁいと〜♪」

 

 その後、徒競走で俺は1等を取ることができた。香澄と明日香に応援された俺に敵はないぜ。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 1年生から6年生までの徒競走が終わり、時刻は10時半すぎ。次のプログラムは1年生の玉入れだ。そのタイトルの名は『チェッコリ玉入れ』である。

 

 たぶん、このチェッコリ玉入れは多くの人が知ってると思う。簡単に説明すると、ただカゴに向かって玉を入れるのではなくて、玉を入れる途中にダンスを取り入れた玉入れだ。

 

 チェッコリは『チェッチェッコリ』というアフリカのガーナ民謡にある子どもの遊び歌で、ある程度多い人数で輪を作り、中心に立つ人の後に続いてこだまのように歌う。そのアフリカの民謡はとある世界大会がきっかけで日本に知られるようになり、日本のCMで使われ全国的に知られた後、玉入れに『チェッコリ玉入れ』として始めたところ、急速に広がり浸透して行ったらしい。

 

 リズムがいいし、歌詞も覚えやすいくてノリノリになれるから急速に広がっていくのも納得だ。つい、口ずさんでしまう。香澄はチェッチェッコリがよほど気に入ったのか、カラオケでよく歌うようになった。当然、きらきら星を歌うことも忘れない。そこへ香澄を通じてチェッチェッコリを知った明日香まで歌い出すときた。これで来年はばっちりだね。

 

『………1年生のチェッコリ玉入れです』

 

 

 おっと、始まる。放送がされ、1年生が次々と入場して行く。玉入れのカゴを中心に引かれた円の外に各色並ぶ。

 

 

   チェッ   チェッ   コリ〜♪

 

 

 チェッチェッコリが流れ始め、それと同時に1年生が踊り出す。香澄が腰に手を当てフリフリ。あぁ〜可愛いんじゃぁ〜〜〜!

 

 

「……痛ったァァァァ!?」

「………」

 

 太ももに強い痛みを感じ、声が出てしまう。痛みがした原因は………あ、明日香さん!?

 

 ……明日香だった。

 

 明日香が俺の太ももを思いっきりつねっている。

 

「あ、明日香?」

「………」

「あのー、そろそろ太ももをつねるの止めて下さらない?」

「……したのばしてた」

「……え?」

「おにいちゃん、はなのしたのばしてた!」

「……誰に?」

「おねえちゃんに!」

「………」

「おねえちゃんに!」

 

 2回言われてしまった。

 

「鼻の下を伸ばしてたって?」

「うん」

「………」

「………」

 

 妹相手に鼻の下を伸ばしてたって?ハハハ、そんなまさか!……はい、嘘です。めちゃくちゃデレデレして鼻の下を伸ばしまくってました。あとお兄ちゃん、鼻の下を伸ばすって言葉を明日香が知ってて驚きだよ。こうやって妹たちはお兄ちゃんの知らないところで成長してるのね。

 

「えっと、ごめんなさい?」

 

 とりあえず、疑問形になっちゃったけど謝った。

 

「ゆるしてほしい?」

 

どうやら明日香は『おこだよ』みたいだ。

 

「うん、許して欲しいなぁ」

「じゃあ、こんどあすかのゆーことなんでもきいて」

「な、なんでも?」

「……うん」

 

 うーん、別に約束しなくてもなんでも言うことを聞いてる気がする。自分でも香澄と明日香にダダ甘な自覚はある。まぁ、ダダ甘なのはこれからも変わることはないだろう。

 

「わかった、いいよ」

「……んふぅ」

「あれ?おーい、明日香?」

 

 明日香は破顔させる。呼びかけても既に意識はここにはなく、どこかへトリップしてしまったようだ。もう俺に何をしてもらうか考えてるのか?

 

『……次は3年生による……』

 

 ……っておいーー!もう1年生のチェッコリ玉入れ終わっとるやないか!!半分くらいしか見てないよ!あぁ〜、香澄のプリティーでキュートなチェッコリダンスがぁぁぁぁ〜。

 

 

「父さん、帰ったら見して」

「ん?おお、明日香と話はついたのか」

 

 俺と明日香のやり取りを横で見ていた父さんにあとで見してもらうように頼む。香澄のチェッコリ玉入れをしっかり撮っているはずだ。

 

「香澄のチェッコリ玉入れ、ちゃんと撮れた?」

「おう、撮れたぞ」

「よし!」

 

 思わずガッツポーズしてしまったぜ。

 

「……って母さん」

 

 先ほどから母さんが静かだなと思えば……。

 

「何かしら?」

「………撮ってんじゃねーよ!?」

 

 カメラを俺に向けていた……つまり、今の今まで俺を撮っていたということ。ってことは……?

 

「ふふふ、カメラにばっちり明日香と光夜のやり取りを収めたわよ」

「オゥマィガァ〜!」

「これを香澄に見せたらどうなるのかしらね?」

「……っ!?」

 

 止めてくれ下さい。俺が死んでしまいます。

 

「な〜んて、冗談よ。香澄には見せないわ。だから、安心しなさい」

 

 安心できるかぁ!

 

「ホントに見せないから安心しなさい……今は……ね」

「ねぇ、最後なんか気になること言ったよね?ねぇ?」

「気のせいよ」

「絶対ウソだ!」

 

おにいちゃん!

「ごふっ!?」

 

 本日、2度目の衝撃がお腹に走る。

 

「いきなりは勘弁して欲しいなぁ〜」

「えへへ〜、ごめんなさい〜」

 

 母さんとああだこうだと言い合っているうちに香澄が帰ってきた。相変わらず悪びれた様子もなくニヘヘと笑う。まったく……。

 

 その後、色長などの役割を果たしつつ、戸山家にちょくちょく顔を出しているうちに午前中は終了した。

 

 昼が終わり、戸山家全員で昼食を取った。そして、午後ついに始まる。始まってしまう。

 

「……はぁぁぁ〜〜〜」

 

 大きなため息を吐く。

 

「どーした、少年」

「いや、お前も少年だろ」

「バレちゃあ、仕方がない」

「ええ………」

 

 タケチーが俺に声をかけてきた。タケチーと話しているとコイツ本当に小学6年生か?って思うことが度々ある。斯く言う俺も人のことは言えないけどな。

 

「頑張ってくれよ、我らが応援団長様」

「おう!」

 

 応援団長が着る法被を着て、ハチマキをギュッと結び直し、入場場所へ向かう。

 

 

『午後、最初のプログラムは各組による応援合戦です』

 

 

アナウンスで青組、黄組、赤組が入場し、各組の位置に着く。

 

 

『最初は青組です。青組お願いします』

 

 

 

 さて、頑張りますかね。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 無事に運動会が終わり、家に帰宅した。応援団長やリレー、組体操等々、午後は競技種目がたくさんあってどっと疲れたよ。

 

「「おにいちゃん、おかえり〜」」

 

 帰宅すると先に香澄と明日香が家に帰っていた。当然、後片付けをする高学年は1~4年生より後に帰宅するのだ。だいたい1時間半ぐらいの差だろうか。

 

「おう、光夜おかえり」

「おかえりなさい〜」

 

 父さんと母さんも出迎えてくれた。俺は何も言わず、そのままリビングのソファに頭からダイブした。

 

「あ''ぁ''〜、づがれ''だ〜」

 

ソファに頭をうずくめて、うつ伏せになる。うつ伏せのせいか疲れから来ているせいか声音が少々汚い。

 

「「おにいちゃん!」」

「……おえっ?!」

 

  2人が俺の背とお尻あたりにのしかかって変な声が出た。そうだ、香澄と明日香を放置したままだった。

 

「あはは、おにいちゃん、へんなの〜」

「……だいじょーぶ、おにいちゃん?」

 

 心配してくれるのは本当にお前だけだよ、明日香。でも、大丈夫って言うぐらいなら香澄と一緒に乗るのやめよーね?

 

「だいじょばない……」

「ほら、香澄と明日香!光夜から降りなさい」

「「はーい!」」

「おう、2人ともこっち来て今日の光夜の活躍見ないか?」

「「みる〜〜」」

 

 あ、ダメだ。自分が思っている以上に身体が疲労している。

 

「「おにいちゃんは?」

「----なさい」

 

 意識が遠くなって行く。すごく眠い……。

 

 その後、俺は眠ってしまい、数時間後に香澄と明日香によるヒップドロップで起こされたのだった。



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迷子の迷子のちーちゃん

ババァーンと投稿(あこ風)


 小学校最後の運動会が終わり、早一ヶ月。季節はもうすっかり秋となり、近いうちに冬服の出番になりそうな10月上旬。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋。秋は過ごしやすくて一番好きな季節だ。

 

 俺は現在、修学旅行で必要なものを買いに来ている。修学旅行は来週からで栃木県へ二泊三日の旅行だ。栃木県に旅行と言えば、日光東照宮や華厳の滝だろう。二泊三日もあれば、おやつもそこそこ必要だ。

 

 とはいえ、ただ持って行くおやつを買うだけではつまらない。おやつなんて近場の店で買えば済む話ではあるが、折角の機会だと思い、俺は一人で隣町へ電車に乗って行った。

 

 一人で?そう、一人でだ。母さんに隣町へ行きたいと言うと財布から千円札を2枚渡され

 

「んじゃ、これで。修学旅行のおやつもそこで買うんでしょ?残りはあげるから行ってらっしゃい」

 

 と送り出された。

 

 え?そこは一緒について行ってくれるんじゃないの?12歳とはいえ、いいのか?と思ったが違うらしい。母さんはただ単純に出かけたくないそうだ。車ならまだしも、態々歩いて駅まで行って電車に乗り、そこからショッピングモールまで行くのがだるいんだとか。

 

 

 おい、母親!

 

 その後、「まあ、あんたなら大丈夫でしょ」と謎の信頼を寄せられた。その信頼はどこから来るんだ?

 

 朝ご飯を食べた後、しばらくすると香澄と明日香が寝てしまったのでその間に家を出た。ちなみに折角の機会というのは、一人で出掛ける機会がそうそうないということだ。いつも出掛ける時は必ず香澄と明日香がいるからな。一緒に出掛けるのが嫌だと思うことは絶対にない。けど、時には俺だって一人で出掛けてみたくなることもあるさ。

 

 そんでもって俺はショッピングモールなうである。

 

 ショッピングモールに入り、2階へと移動する。1階は飲食店とスーパーなので目的のスーパーには帰りに行くことにする。2階へ上がるとプラチナブロンドの少女が目に入った。幼くとも人目を引く可愛らしい容姿をしている。その少女は先ほどから辺りをキョロキョロと何回も見回している。

 

 

 ふと、足を止めてどこか見覚えあるなと思っていると……。

 

 

 あっ!はぐれ剣客人情伝の!?ってそうじゃないそうじゃない。2年前にそれを見たからそっちのイメージが強い。

 

 

 やはり、彼女は白鷺千聖だ。最近はドラマを見ていないから気づくのに少し時間がかかった。しかし、どうして彼女がここに?

 

 

 白鷺千聖

 

 幼い頃から子役として活躍していた若手女優。また、Pastel*Palettesのベース担当でもある。芸能界に昔からいた為合理主義なリアリストで初期の彼女の態度はとても冷淡だった俺は記憶している。ストーリーが進んで行き、他のパスパレメンバーと打ち解けていくところはホッコリしたものだ。特に彼女の名言「お説教が必要かしら?」はゾクゾク来きたよ。決してドMではない。

 しかし、今俺の目の前にいる白鷺千聖は汚い世界を知らない、純真無垢な少女だろう。そんな彼女はこれから芸能界で生きていかねばならない。時には謂れもないことを言われ、ある時には陰口の対象され、またある時には理不尽な扱いを受けるだろう。いや、もしかしたら既にされているのかもしれない。

 

 これから自分の才能の限界と個性に卑下しなければいいんのが……。未来において彼女はそれを乗り越えた。乗り越えたと言うよりは吹っ切れた?そこまで行くのがどんなに辛いことか、俺には想像できない。それは芸能界に生きて行く以上仕方がないのかもしれない。

 

 

 (これから頑張れよ)

 

 

 そう心の中で思い、関わらず彼女の横を通り過ぎようとしたが、俺は足を止めてしまった。周りを見渡すと千聖の近くを通りかかった人たちはみな、気にせずに通り過ぎて行く。気にはなるが、近くに親がいるはずだ。そう思い、俺は関わらず通行人たちと同様に通り過ぎようとした。

 

「………」

「………」

 

 通り過ぎようとした時、その直前で彼女と目と目が合ってしまった。気づけば、その場で足が止まっており、彼女と見つめ合っていた。雑誌やテレビ越しでしか見たことのなかった彼女が今、目の前にいる。さすが、未来の若手女優。めちゃくちゃかわいい。ウチの姉妹も劣らず、めちゃくちゃ可愛いがな。数秒後、ハッとした俺は目線を彼女から逸らし、足を動かすことを再開したら……。

 

「ねぇ……」

「……ッ!?」

 

 彼女に左の脇腹あたりの服をくいっと引っ張られた。

 

「ねぇ……」

「俺のことかい?」

「うん、お兄さん」

 

 お兄さん。うん、いい響きだ。お兄ちゃんとは違った魅力がある。

 

「えっと……何かな?とりあえず、服を掴んでる手を離して欲しいな」

「うん、わかったお兄さん」

 

 わかってないじゃん。彼女の手は依然として俺の服を掴んだままで、それはまるで逃がすまいとしているような意思を感じた。

 

「キミは?」

「お母さんからなまえ言っちゃダメっていわれてるの」

 

 子役だから顔知られてる時点でアウトだと思うな。知ってる人は知っているし。

 

「じゃ、キミのことは何て呼べばいい?」

「ちーちゃん!」

 

 ちいちゃんのかげおk……おっと、これ以上はいかんな。最近、香澄と明日香に読み聞かせしたせいか頭から離れん。さて、ふざけた思考は止めよう。小さい頃は自分でちーちゃんって言ってたのか?気になるな。

 

「じゃあ、ちーちゃん。ちーちゃんはここで何をしてたんだい?」

「お母さんとみーちゃんがいないの」

 

 みーちゃん?誰だろう?

 

「はぐれちゃったの、そしたら、お兄さんが来たから……つい」

 

 ついで、俺は引き止められてしまったのか。このまま、さよならっていうのも気味が悪いしな。

 

「そっか、じゃあ一緒に探そうか?」

「うん!」

 

 香澄の1つ上だから小2か。身長は香澄より少し小さいかな。

 

「迷子センターや店員さんのところには行かなかったのかい?」

「うん、お母さんが騒ぎになるから行かないでねって」

 

 確かにな。迷子センターに行って、白鷺千聖ちゃんのお母さんはいませんか?なんて放送されたら大騒ぎになるよな。店員さんに言ってもたぶん、迷子センター直行コースだろうし。

 

 お母さんナイスです!今こうして、迷子になってるわけだが、ちーちゃんが迷子になったらどうするつもりだったんだろう?

 

「んじゃ、行こっか?」

「うん」

 

 このまま手を取らずに行くとまた服を掴まれそうなので、手を差し出すとちーちゃんは手を握ってくれた。こんな光景を香澄と明日香に見られたらある意味終わりで、想像するだけでゾッとする。

 

「それでちーちゃん。どこではぐれたのかな?」

「した!」

 

 え?

 

「下ってスーパーだよね?」

「そうだよ。気づいたらお母さんとみーちゃんがいなくなっちゃった。」

 

 

 あ、それ、ただ単にちーちゃんがフラフラしていなくなったパターンだな。ちーちゃんがいなくなった事に気づいたちーちゃんのお母さんは探そうとスーパーの中を必死に探すがちーちゃんも当然、動いてるから行き違いになる。それで、お母さんがスーパーから出たんだなと思ったちーちゃんは2階へと上がってきたわけだ。うん、これ絶対にちーちゃんのお母さんが下のスーパーで必死こいて探してるわ。

 

 俺も経験したことあるわ。もちろん、香澄がいなくなった。ここではないショピングモールで買い物に来た母さんと俺、香澄と明日香の4人。母さんから主婦の在り方の話を延々とされていたら、香澄がいなくなった。明日香は俺の後ろをトコトコついて来ていたから大丈夫だった,

 

 それより母さん、あなたは息子に何を語ってるんですかねぇ?

 

 自由奔放な香澄は我慢できずにどこかへ行く。香澄の性格からして、ここの店にいないと分かっていた俺は母さんにこの売り場にいてと言い残し、探しに行った。それはもう探した探した。全階探した。灯台下暗しとはよく言ったもので、香澄は1階のお店にいた。星がたくさんガラスについてるお店のね。ずっと眺めていたらしい。

 見つけた香澄を連れ帰ったら、時間は30分も経っていたらしく母さんに酷く心配をされたものだ。帰り、香澄は怒られてもニヘヘと笑ったままで全然反省してなかった。

 

 俺の苦労はいったいなんだったのだろうか?

 

 

 というわけでちーちゃんを下のスーパーへ連れて行く。やはりと言うべきか、スーパーの近くでちーちゃんのお母さんと思しきプラチナブロンドの髪の女性がワタワタと辺りを見回していた。その側には同じ髪色のちーちゃんを少し幼くしたような女の子がいた。みな、綺麗なプラチナブロンドの髪を持ち、マゼンダ色をした宝石のような瞳がさらに容姿を引き立たせおり、思わず見とれてしまう。

 

 この子がみーちゃんでちーちゃんの妹か。

 

 ちーちゃんと似ているがこの子の方がおっとりとした目をしている。歳は明日香と同じくらいだろうか?

 

「あっ!千聖!どこ行ってたの!?お母さん、探したんだよ」

 

 ちーちゃんのお母さんがこちらに気づき、みーちゃんを連れてやってくる。

 

「ごめんなさい」

「あら?そちらの人は?」

 

 俺に気づいたらしいちーちゃんのお母さん。

 

「うん、おにいさん!」

「お兄さん?あっ!ありがとうございます。ウチの千聖がご迷惑をおかけしました」

「いえいえ」

「ほら、千聖もお礼を言いなさい」

「ありがとう!おにいさん!」

「どういたしまして」

 

 と、そろそろお別れかなと思っていたら……。

 

「お兄さん?」

 

 ちーちゃんの妹であるみーちゃんが俺をキラキラした目で見つめてくる。

 

「お、おう!お兄さんだぞ?」

「おにいさん!」

 

 全く意味がわからないがみーちゃんは満足そうだ。

 

 

 誰カ説明求ム。

 

 

「こら、美聖!お兄さんに挨拶しなさい」

「しらさぎみさとろくさい」

 

 6歳?もう誕生日を迎えているなら明日香と同年代だな。

 

「俺は戸山光夜12歳だ」

「うん、おにいさん!」

 

 ダメだこりゃ、ウチの姉妹同様に相通ずるものがあるらしい。

 

「では、そろそろ」

「ええ」

「ほら、お兄さんにバイバイしなさい」

「お兄さん、バイバイ」

「バイバイ」

 

 母、姉、妹の順で言う。俺は手を振り返して白鷺親子とバイバイするのだった。

 しかし、ちーちゃんの妹みさとちゃんの「おにいさん」の意味はなんだったんだ?不思議な子だ。

 

 

 一言だけ言わせてくれ。

 

 

 ワケワカメ。

 



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気になるパン屋のあの()

評価、感想ありがとうございます。
3、4月ぐらいには原作に入りたいですね……。


 白鷺親子と別れた後、俺は1階のスーパーでおやつを800円分買った。飴、ガムは駄目らしいからチョコ、クッキーとかだ。でも、持ってくるの禁止と言うと誰かしら持って来るんだよな。他の階へ行こうとしたら、お腹がギュルルと鳴る。そっか、もうお昼の時間か。

 

 ここのレストランで食事してもいいけど一人はなんか寂しいし、待つのも嫌だな。それに小学生が一人で入ると変な目で見られそうだ。他の階を見るのはまた別の機会にしよう。何より今の俺の口の中はパンの味だ。先ほど、パンコーナーでパンを眺めていたせいだろう。できれば焼きたてのパンが食べたい。せっかくここまで来たんだ、パン屋に行こう。

 

 しかし、場所を知らない。スマホがあれば、GPSで一発なのにな。父さんにスマホ欲しいと言ったら、スマホは中学生からと言われた。いつ買ってくれるかまで教えてくれなかった。そうするとスマホは早くてあと一年、遅くて三年か。あればいろいろ便利なのにね。駅に着いてから駅員さんに近くに商店街ありませんか?と尋ねたところ、ここから一駅先に地蔵通り商店街ってとこあるよと親切に教えてくれた。

 

 その後、電車に乗って一駅先、商店街のある駅に着いた。改札口を出て、駅の入り口付近にある地図の看板を見る。意外と遠いな。まあ、徒歩10分ってとこか?10分ぐらい歩くと商店街が見えてきた。自分が想像していた商店街よりも大きい。まあ、ガルパのマップでは一部分だけだったからな。商店街名は地蔵通り商店街。へぇ、この商店街、地蔵通り商店街って言うのか、初めて知ったわ。ここに『羽沢珈琲店』『北沢精肉店』『やまぶきベーカリー』があるのか。

 

 商店街にて歩くこと数分、気づけば羽沢珈琲店の前だ。ほぉ、ここが羽沢珈琲店ですか。いつか入ってみよう。今、入らないのか?と思うだろう。入ってもバイトの人と彼女の父親しかいないし、何よりお金をたくさん持っていない。喫茶店は小中学生が気軽に入れる場所でもない。それに値段も安くはないのだ。まぁ、当然にそれに見合ったものが出てくるのは確かであろう。

 

 でも、珈琲の味がすごく気になる。ゴクリ……。やっぱりやめておこう。お金がなくなる。さて近くにやまぶきベーカリーがあるはずなんだが。ん?あった!向い側にあると思いきや、少し離れた数メートル先にやまぶきベーカリーはあった。ガルパのマップだと3人の家は近いはずなんだが、ここではそれぞれ少し離れているらしい。沙綾とはぐみとつぐみ、人とも同じく地区のはずなのに幼馴染ではなく、知り合い程度でしかない。うーん、分からん。

 

 もうガルパの記憶が大まかなストーリーと人物名ぐらいしか覚えていない。年々、薄れて行く前世の記憶。それもそのはず、戸山光夜として生きて、10年以上だ。前世の記憶が曖昧になっていくのは至極当然のことだ。とりあえず、『羽沢珈琲店』『北沢精肉店』『やまぶきベーカリー』の場所は把握した。うん、問題なし。北沢精肉店には原作が始まるまでは行くことはないだろう。行ったらはぐみの母親に絶対、はぐみ呼ばれるわ。香澄より先に再会しても意味ないしな。

 

 

 ではでは、やまぶきベーカリーへレッツゴー!

 

 

 扉を開くとパンの甘い甘〜い香りが俺の鼻孔をくすぐる。すごくいい匂いだ。唾が止まらない。おぉ、これが伝説のチョココロネか!何にしようか。パンをじっと眺めて悩んでいると、視界の隅から視線を感じた。レジの方からか?視線が気になった俺はバッと素早くレジの方に首を向ける。しかし、レジの方には誰もいない。気のせいか?と思い、またパン選びに戻る。

 

 

 ジーーー

 

 

 やはり気のせいではないようだ。もう一度、バッとレジの方に振り向くが誰もいない。そして、また視線をパンに戻す。

 

 

 

 ジーーー

 

 

 

 三度目の正直。今度こそと思い、素早く視線のする方へ向ける。だが、いない。視線が気になる俺はトングとトレイを持ったままレジに近づく。

 

 

 すると……

 

 

「あっ!?」

 

 

 ひょこりとレジの下から少女が出てきた。シャンパンピンクもとい薄柿色のポニーテールをした少女だ。うん。まあ、来れば会うとは思ってたよ。今日会うとは思いもしなかったが。彼女はもうこの年からお手伝いしてたのだろうか?

 

 

 

 山吹沙綾

 

 Poppin'Partyのドラム担当だ。ポピパのまとめ役でもある。面倒見が良く、皆から頼りにされている。オカンレベルで。後に香澄のよき相談相手となる。ある事情によりバンドを止めてしまったが、香澄により自ら蓋をしていた『バンドの情熱』、本当に自分がやりたいことを思い出す。

 

 

 ところで、なんでこの()。ずっと、俺を見つめてくるんだ?落ち着くんだ!よし!

 

 

 

 

 ジーーー

 

 

 

 

 俺は負けじと彼女、山吹沙綾をジーと見つめ返す。

 

 

 

 ジーーー

 

 

 ジーーー

 

 

 

 

 山吹沙綾VS戸山光夜、ここに開幕!

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 見つめ合うこと数分。ついに彼女は視線を逸らした。俺の勝ち!近くに人がいたら間違いなく怪しい人だ。彼女の顔は真っ赤かで、話しかけようとした時、レジの奥から天板を持った男の人が来た。天板には焼きたてのパンが乗っている。焼き立てなのかとてもいい匂いがする。

 

「ん?どうした?沙綾?さっきからそこにいて何を……ほぉ」

「おとーさん!」

 

 出てきたのはやまぶりベーカリーの店主であり、山吹沙綾の父親である山吹亘史だろう。そんな彼、亘史さんは焼きたてのパンをさっさと陳列させて、レジに戻ってきた。

 

「べ、別になんでもないよ」

「隠さなくてもいいっていいって、さっきからレジの方で何をじっと見つめているのかと思ったが········」

 

 亘史さんは俺を一瞥すると、納得したかのように何度もうんうんと頷いている。

 

「このカッコイイお兄さんを見てたんだな。お父さん、納得納得。沙綾はおませさんだなぁ」

「お、おませさん?」

「あ、わからないよな。気にしないでくれ」

「う〜、おとーさんのバカ!?」

 

 

 彼女は俺をチラッと見ると、店の奥へと走り去って行った。

 

 

「あー、すまんな。あそこまで沙綾が男の人をじーっと見るなんて初めてでな。凄い事なんだぞ?」

「は、はぁ」

 

 いきなりのことで返事が吃る。

 

「それで君は?せっかくだから名前聞いてもいいかな?」

「え?あ、はい。戸山光夜です」

「おお、ありがとう。戸山光夜くんね。君はうちの店に来たの初めてかい?」

「ええ、そうです」

「そうかそうか、うちのパンは美味しいから是非これからも買いに来てくれ」

「はい、また来ます」

 

 その後、5分ぐらい言葉を交わし、俺はパン6つを買ってやまぶきベーカリーを出た。メロンパンとあの伝説のチョココロネを5つ。途中、メロンパンとチョココロネ1つは美味しくいただいた。残りは家族の分だ。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 そろそろ帰ろうと思い、最寄りの駅へと向かう。時刻は既に午後3時を回っている。朝9時に家を出たとはいえ、流石に6時間近く歩くのは疲れた。体力的にも限界だ。用も済んだことだし、香澄と明日香が母さんを困らせてないか心配だ。家に着き、空を見ると夕焼けが暗闇に包まれるところだった。行く前、母さんが鍵持って行かなくていいわよと言っていたからそのままガチャッと玄関のドアを開けると……。

 

 

 

 ガチャン

 

 

 

 即行で玄関を閉めた。え?見間違いかな?玄関で香澄と明日香が正座していたんだけど。見間違いだろうと信じて、もう一度玄関を開ける。

 

 

 開けたら……

 

 

「あっ!お兄ちゃん!おかえり!」

「おかえり」

 

 正座している香澄、明日香がお帰りと飼い主を待っていたかのように擦り寄ってくる。

 

「あ、ああ。ただいま」

 

 忠犬かよ!あっ、でも香澄は猫だよな。自由奔放だし、いずれ猫耳つけるし。明日香は、うーん……明日香も猫だな。猫耳カチューシャ絶対似合う(確信)きっと、尻尾があったらブンブンと左右に揺らしていただろう。

 

 

 そんな事を考えていると……

 

「お兄ちゃん早く!早く!」

 

 香澄が俺の腕をリビングへと引っ張って行く。リビングに入ると床で母さんが倒れていた。

 

「キャハハ、お母さん死んでる」

「お母さん、大丈夫?」

 

 

 へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 

 

「勝手に殺すんじゃないわよ。誰のせいで……」

 

 あ、動いた。言いかけた言葉から察するにこの二人がやらかしたのだろう。香澄は言わずもがな。しかし、明日香この()。普段は賢妹オーラが常時出てるのに、偶に香澄と一緒にやらかすのだ。当の本人は自覚がない様子でホェ?としているが……カワイイ。

 

 今回は明日香もやらかしたのだろう。

 

「とりあえず、光夜お帰り」

「ただいま母さん。なんか二人がやらかした?」

「カレーを一緒に作っただけよ。詳しくは聞かないでちょうだい」

 

 本当に何があったんだ?

 

「それはいいとして、あと1時間くらいしたらお夕飯にするわよ」

「わかった」

 

 俺はやまぶきベーカリーと書かれた紙袋を母さんに渡すと俺以外の家族分と言う。紙袋を渡した瞬間に母さんは中身が気になるのか確認するとチョココロネを1つ取り出し、パクッと食べた。そして、「おいひぃ」とどこぞのチョココロネ大好き少女を彷彿させるような事を言う。

 

 おいおい、もう食うんかい!?

 

 俺が自分の部屋に行こうとすると当然の如く、その後を香澄と明日香がついてくる。戸山家に鍵付きのドアはトイレしかないため、俺のプライベートなんてお構いなしに香澄と明日香が部屋に毎日やってくるのだ。

 

 本当に猫みたいだなぁ……。

 

 今はまだ俺が朝、起こしているが近いうちに彼女たちが俺を起こしてくれるのだろうか?妹といえば、理想のシチュエーション一つに妹が「お兄ちゃん、朝だよ?起きて」というものがある。その中で特にしてもらいたいのは、妹が上に跨ってユサユサと揺らして起こしてもらうというものだ。

 

 ん?でも、これって最初はエ○ゲのテンプレシチュエーションじゃなかったっけ?それがいつのまにかアニメや漫画、ラノベのテンプレになってたけど。ま、こんなことどうでもいいわ。夕飯のカレーはとても美味しかったです。香澄と明日香は何手伝ったの?と聞けば、「皮、切った!」というではないか。え''と吃りそうになった。よくよく考えてみれば小学1年生と幼稚園年長の少女に包丁なんて持たせられない。せいぜいピーラーを使わせられるぐらいではないか?ピーラーも十分危ないけどね。

 

 

 やらかしたことはだいたい察せた気がする。まあ、何にせよ怪我がなくてよかったわ。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 その日の夜、白鷺家では。

 

 

「またお兄さんと会いたいな·······」

 

 ぼそりと白鷺千聖は呟く。

 

「あら?千聖がそんなこと言うなんて珍しいわね?」

 

 その呟きを聞いていたらしい彼女の母、白鷺美優。芸能界で子役として活躍する千聖は仕事上、様々な人と関わる。人気俳優や女優はもちろん、同年代の子もだ。そんな中、千聖は「また会いたい」と一度たりとも言ったことがなかった。話すことは演技のことばかりだ。

 

 

 しかし、だ。

 

 

 そんな千聖がまた会いたい(・・・・・・)と言ったのだ。初めて口にした「また会いたい」に親として気にならないはずがなかろう。

 

「確か、戸山……こうや君だったかしら?」

「うん、お兄さん!」

「ふふっ、いつかまたお兄さんと会えるといいわね」

「うんっ!」

「そのためにはお仕事、頑張らなくっちゃね?お兄さんにカッコいいところ·······千聖の場合はカワイイところかしら?」

「うん!がんばる!」

 

 

 そんな最中、千聖の妹、白鷺美聖(みさと)はグースカ寝ていた。きっと彼女が起きていたら「おにいさん!おにいさん!おにいさん!」と連呼すること間違いなしである。

 

 

 何処と無く香澄と同類の匂いがするのは気のせいだろうか?

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 その日の夜、山吹家では。

 

 

「そういや今日、沙綾が男の子をじーと見つめていてなぁ……」

 

 山吹ベーカリーの店主、山吹亘史が口を開く。

 

「お、おとーさん〜!?」

 

 それに顔を真っ赤にして声を上げる少女、山吹沙綾。

 

「あらあら、沙綾が?」

 

 頰に手を当て、おっとりした口調で話す沙綾の母、山吹千紘。

 

「ああ、最初はレジの方で何やってんだろうと思ったら……」

「思ったら?」

「男の子を見ていてなぁ……」

 

 恥ずかしいのか沙綾の真っ赤な顔から湯気が出ている。

 

「それでどんな男の子だったの?」

「ああ、カッコいい男の子でな、軽く言葉を交わしたが礼儀正しい子だったぞ」

「まあ、沙綾ったらおませさんなのね」

「また会えるといいな沙綾」

「う、うん」

 

 恥ずかしながらも返事をする沙綾。

 

「中学1年生ぐらいか?んー、今度来たときに聞いてみるわ」

「えっ!またくるの!いつ?ねえ、おとーさん!いつくるの!」

「おー、すごい食いつきようだな」

「なら、沙綾。お手伝いしてみたら?」

「お手伝い?」

「ええ、お父さんのお手伝いも出来て、沙綾の会いたい人……年上のカッコイイ男の子だからお兄さん?に会える。一石二鳥よ」

「いっせきにちょう?」

「1つで2回お得できるってことよ」

「じゃあ、さーや。いっせきにちょうするー!」

「おう、頼むぞ沙綾」

 

 その後、また来た光夜とまともに話せず。恥ずかしくて逃げたり隠れたりしたせいで話せるまで時間がかかったそうな。



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泣くのはおよし、こころ

ついに3rd Season放送開始しましたね!アニメ終わるまでには原作入る予定。
光夜の中学時代はさらっと流します。
前話から香澄のおにいちゃんがお兄ちゃんに!
リメイク前とは展開内容を少し変えます。
次話は設定を投稿します。


 月日が経つのは早いもので、俺は小学校を卒業し、中学へ進学してから1年が経たとうとしていた。現在、中学2年生である。

 

去年、明日香が小学校入学式でランドセルを背負った明日香を見て、狂喜乱舞していたら

 

 

「おにいちゃん大丈夫?」

 

 

 と明日香に頭の心配をされてしまった。「おにいちゃん、あたまだいじょーぶ?」と言われなくてよかったよ。この2年の間でいろんな出来事があった。明日香の入学式から始まり、スキー旅行、運動会、持久走など、挙げればキリがない。語り始めたら終わる気がしないので割愛!

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 中学2年生になっても、スマホを買って貰えない俺は休みになると外へ出掛ける。2週間に1回、やまぶきベーカリーのパンを買いに行くのが俺の密かなブームだ。俺が店内に入るとよく亘史さんが笑顔で歓迎してくれる。

 

 その後、沙綾ちゃんを呼ぶのがお決まりである。最初こそ恥ずかしがっていたものの今では「お兄さん」と呼んでくれるようにはなった。呼ばれたその日の帰りに嬉しすぎて転びそうになったのは内緒な?「お兄さん」って呼ばれるのいいよね。香澄、明日香から呼ばれる「おにいちゃん」とちーちゃんから呼ばれる「お兄さん」とはまた違った良さがあった。

 

 そして、スマホは母さん達が2年契約らしくて、あと1年待って欲し

いとの事だ。最近流行りの家族割にしたいらしい。

 

 ザケンナ!

 

 その間に香澄と明日香に何かあったらどうしてくれる?脳内フォルダにも限界があるんだぞ!

 

 そんなくだらなそうで大事な事を考えながら駅に向かう。その途中にある公園近くを歩いていると泣き声が聞こえてきた。

 

 

「えぐっ、ひぐっ、ぐずっ」

 

 

 女の子の泣き声だ。

 

 

 俺は公園に入り、泣いている女の子を探す。その女の子はブランコにいた。

 

 ん?金髪にあの顔。身長が低く幼いが……こころだ!ちーちゃん、沙綾ちゃんと出会ってからこの2年は他に出会わなかった。この地蔵通り商店街で誰と出会ってもそんな驚かないわ。いつ出会ってもおかしくはないし。

 

 

 

 

 

 弦巻こころ

 

 

 超が何個もつくほどの金持ちの家の一人娘。

 天真爛漫で香澄以上にポジティブな少女だ。

 花咲川女子学園『異空間』と名高い。

 笑顔が何より大好きで好奇心旺盛な性格。

 ゲームのプロフィールに裕福な家庭の一人娘とあるがどこが裕福な家庭だよ。そんなレベルぶっ飛んでんじゃねーかと思う程である。

 はぐみの誕生日プレゼントにソフトボール専用バッティングセンターをあげているのだ。これでぶっ飛んでいないなんて言えまい。

 ゲームのストーリーを読めば分かると思うが、彼女はハロハピの苦労人奥沢美咲にバカと称される程、超超超ポジティブ(バカ)だ。同じハローハッピー、ワールドのメンバーの北沢はぐみ、瀬田薫、そして弦巻こころの3人は3バカと呼ばれる。

 世界を笑顔にするため、こころは強引に周りを巻き込む。それでいて、周りを本当に笑顔にしてしまうのだからある意味恐ろしい。できないことを可能にしてしまう、主に黒服と金の力で。

 

 

 

 そんな彼女がどうして泣いているのか?理由が気になるところだが、今は目の前の彼女を放ってはおけない。俺は彼女のいるブランコに行き、彼女の目の前で屈む。

 

「えぐっ、ひぐっ、あなた……は?」

「どうして君は泣いているんだい?」

「わたしは……」

 

 わたし?こころの一人称はあたしだったはずだ。この時の彼女はまだわたしが一人称だったらしい。

 

 香澄と同じ小学3年生の彼女がここまで泣くか?こころが泣く姿なんて想像できないが、今こうして俺の前にいる彼女が泣いている。

 

 小学3年のこの歳だと、こころが泣いているのはいじめられたからではないか?まあ、家に両親がいなくて泣いているって可能性もある。

 

 仮にこころをいじめていたとして、いじめられたことを弦巻家が知ったら、ただ済むはずがない。

 

 しかし、悪口ならどうだ?録音でもしない限り口では幾らでも嘘を言える。こころが泣く理由はそれしか思い当たらない。

 

「誰かに殴られたり、物を隠されたりした?」

 

 首を横に振るこころ。

 

「誰かに何か言われたのか?」

 

 先程から辺りを確認しているがいるはずの黒服が・・・・・いた!?俺から見て正面、こころから見ると後ろの草むらに1人潜んでいた。1人?ゲームのストーリーでは複数人いたはずだが?

 

 まあ、今は黒服を気にしても仕方ない。

 

「………うん」

「…………」

「わたしね、自分がしたい事してるだけなのにみんな、うざいとかちょうし乗ってるって言うの」

「…………」

 

 俺は黙って聞くことにした。

 

 家に帰っても使用人、周りには黒服、両親は仕事で会えない。彼女からしたら知らない人がたくさん家にいる。よく彼女は狂わなかったと思うよ。え?未来で狂ってる?気にしたら負けだ。

 

 未来での彼女は自由奔放。先生ですら手が出せない始末だ。ゲームではちょっとヤバイやつ扱いだが裏ではこころへの陰口のオンパレードだろう。

 

 だが、未来でのこころはそんな集団を気にしない程真夏の太陽が照り付けるみたいに眩しい。

 

 だからこそ、彼女には明るくいて欲しい。

 

 彼女はもうこの時からいろいろやっていたらしい……と、先ほどの「調子乗ってる」と言われたという事から推測できる。

 

 たぶん、金持ちへの嫉妬や憎悪だろう。けれど、他人にどうこう言われたぐらいで自分の在り方を変える必要がどこにある?ないだろ?

 

「だからどうした?」

「えっ」

 

 こころはキョトンとした顔をして俺を見つめる。

 

「君がやりたい事をしているのに他人に言われる筋合いはない。」

「こころ!」

「え?」

 

 気づけば彼女は泣き止んでおり、目元が赤くなっていた。

 

「こころって呼んで!わたっ……あたしのこと!」

「分かった、こころ。他人から悪口を言われるのなら、こころ。それを笑顔に変えてしまうくらい、巻き込んでしまえ」

 

 こう言っちゃったけど未来の彼女は何もかも巻き込んでたし、大丈夫だよな?大丈夫だ………よね?

 

 うん、大丈夫だ……たぶん。

 

「まき……こむ?」

「そうだ、こころがやりたい事の中にそいつらを何もかも巻き込んでしまえ」

「素敵ね、それ!」

「…………」

 

 ナワケナイダロ!巻き込まれる側からしたらたまったもんじゃない。でも、彼女に巻き込まれて悪いことはない……はずだ、たぶん。

 

「ありがとう!悩みがさっぱりなくなったわ」

 

 ポジティブなるの早すぎます。本当にあなた、悩んでたの?

 

「ねぇ、あなたの名前はなんて言うの?」

「光夜だ」

 

 苗字は言わない。バレて家から拉致られたくないしな。偽名言うと後々バレた時、黒服にOHANASHIされちゃう……。

 

「光夜ね、ありがとう。また(・・)会いましょう」

 

 と言って公園を去って行き、その後を黒服が追って行った。

 

 

 ええ(困惑)

 

 

 えっ、マジか。

 

 俺はとんでもない事をしてしまったようです。まぁ、でも俺が焚きつけなくても遅かれ早かれそうなってたよな?美咲がストッパー役になる前からいろいろやらかしてたみたいだし。

 

 

 先に言っておく、美咲すまん!!!

 

 

 

 

 HAHAHA、俺は知らんぞ。

 

 

 

 

 

 え?また???

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 ここは弦巻家の執務室。その一室に一人の男と黒いスーツを着た女性がいる。

 

 

「ふむ、それで最近のこころについてだが……」

「はい、こちらでございます」

「……仕事が早いな。さすがだ」

「恐縮です」

 

 

 この壮年の男は弦巻晴翔(はると)。弦巻こころの父にして、日本で一番有名なグループ、弦巻グループの総帥である。

 

 

 

 晴翔は黒服の女性から渡された書類に目を通す。

 

 

「ほぉ、これは……」

 

 

 そこには戸山光夜について、身長・体重から趣味、好きな食べ物、学力など、顔写真付きで余すことなく記されている。弦巻家にとってプライバシーなど紙くずのようなものだ。

 

 

「なかなか見所がある少年じゃないか」

「……っ!?」

「どうかしたかね?」

「い、いえ」

 

 

 晴翔が下した評価は意外にも高かった。それ故に黒服の女性は驚いたのだろう。晴翔は弦巻を束ねる弦巻グループの総帥。弦巻グループを継いでから日本は当然のこと、世界中の要人と接してきたせいか顔を見ただけで、ある程度は人を見極めることができるようになっていた。いや、晴翔を取り巻く環境がそうさせたと言うべきか。

 その弦巻グループ、総帥になかなか見所があると言われたのだ。黒服の女性が驚くのも無理はない。

 

 

「最近、こころが暗くて心配していたんだが……どうやらこの少年が解決してくれたようだね。この少年の経歴を全てまとめてきたということはそういうことだろう?」

「はい、戸山光夜様……戸山様はこころさまに声をお掛けになり、それからでした。こころさまが常に笑うようになったのは……」

「つまり、この少年……戸山くんがこころに何か笑顔になるような話をした……と。……ふっ、彼が弦巻家ウチに来たら全力で歓迎しなさい。それとこころが会いたいと言うまで彼と黒服たちの接触を一切禁ずる」

「承知いたしました」

 

 

 こうして光夜の知らないうちに弦巻家から歓迎されることが決まった。それと同時にこころが再会を望むまで光夜の安全が保証されたのであった。

 

 



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設定 1~14話

自分でもたまに忘れてしまうから設定を投稿。次の設定は原作開始直前に投稿予定。
いや〜、まとめると分かりやすいですね(私が)
アンケート取っているので回答お願いします。


 戸山光夜(こうや) 前世:菜畑洸夜

 

 初登場:1話 戸山家長男に転生!?

 

 戸山家長男。香澄、明日香の兄。

 誕生日:6月13日

 年齢:13歳(15話現在)

 学年:中学2年生

 髪色:ひわだ色

 

 

 良くも悪くも影響を与えてしまう主人公。

 

 香澄と5歳差、明日香と6歳差。香澄と明日香が生まれシスコンと化す。姉妹の面倒を見るのが好きで、基本的に一緒にいることが多い。本人は姉妹平等に接していたつもりが、明日香の本音もとい叫びを知ってからは本当の意味で姉妹平等に接する。

 趣味はカラオケで最低でも週1でカラオケに行き、2週間に1回は香澄と明日香も連れて行く。ピアノで弾き語ることが好きで、家でも歌う。よく香澄にピアノでキラキラ星を弾かされる。

 

 一度、延々とキラキラ星を歌う香澄にかなり恐怖を感じたらしい。

 

 光夜が知っているストーリーは『夏にゆらめく水の国』まで。しかし、戸山光夜として生きてから約10年がすぎているため、人物像とストーリーの大まかな流れは覚えていても、曲のメロディー、歌詞とストーリーの詳細はあやふやになり始めている。忘れても特に気にしていない。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 戸山香澄

 

 

 初登場:1話 戸山家長男に転生!?

 

 

 戸山家長女。光夜の妹、明日香の姉。

 誕生日:7月14日

 年齢:8歳(15話現在)

 学年:小学3年生

 髪色:ひわだ色

 

 

 お兄ちゃん大好き!ブラコン。

 光夜がいても本来(原作)明るく、元気でポジティブな性格のままは育っている。何事にも積極的で興味を持ったものはすべて試そうとする。明日香と仲良いが明日香が本音を言ってからは、光夜を取り合う場面も……。明日香のことはあっちゃんと愛称を付けて呼んでいる。香澄の積極性によって光夜は振り回さることがしばしば、たまに明日香も巻き込まれる。

 キャンプで「星の鼓動」を聞いてからはキラキラドキドキを探している。いつかキラキラドキドキするものを見つけたらお兄ちゃんを密かに巻き込もう?と思っており、これが後々いろんな事に関わり、巻き込まれる原因となる。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 戸山明日香

 

 

 初登場:1話 戸山家長男に転生!?

 

 

 戸山家次女。戸山家3兄妹の末っ子。

 誕生日:8月15日(オリジナル設定)

 年齢:7歳(15話現在)

 学年:小学2年生

 髪色:榛摺(はりずり)

 

 

 姉の香澄とは違い、幼いながらもしっかり者で落ち着いているが偶にやらかす。姉同様にお兄ちゃんが大好き。ブラコン。香澄みたいに積極的には行けないため、姉の性格が羨ましく思うことがある。いつも光夜の側に香澄がいて、お姉ちゃんばかりずるいと何度か争った事があり、一度、その溜まりに溜まった鬱憤が爆発したことがある(6話 明日香の本音 参照)。

 

 最近では積極的に光夜に甘える場面が見受けられるようになった。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 戸山香織

 

 

 初登場:1話 戸山家長男に転生!?

 

 

 戸山3兄妹の母。

 よく夫の悠夜にOHANASHIする姿が見受けられる。そのOHANASHIは愛故に……。戸山姉妹のブラコンっぷりには寛容。むしろ、被害が自分にまでこなきゃ全然構わないと思っている。それは荒ぶる戸山姉妹を知っているからであろう。最近では、あまり甘えてくれなくて寂しがっている悠夜を慰めている(意味深)

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 戸山悠夜

 

 

 初登場:戸山家長男に転生!?

 

 

 オリキャラ。

 戸山家3兄妹の父。戸山家の大黒柱。よく妻の香織にOHANASHIされているがその裏ではラブラブなのだとから。夫婦仲は良好。最近、あまり娘たちが甘えてくれなくなって寂しいが、まだ甘えてくれるから大丈夫だと安心している。もう少ししたら反抗期の「お父さん臭い」や「一緒に洗濯しないで」を言われないかビクビクしている。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 北沢はぐみ

 

 

 初登場:2話 かすみちゃんとはーちゃん

 年齢:8歳(15話現在)

 学年:小学3年生

 

 

 香澄の幼馴染。香澄とはぐみが年中の時に出会った。はぐみはかすみちゃん、香澄ははーちゃんと呼び合う。公園が工事に入り、無くなるまでは一緒に遊んでいた。しかし、無くなってからは遊ぶことはなくなった。原作が開始するまでは2人が再び出会うことはないだろう。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 白鷺千聖

 

 

 初登場:12話 迷子の迷子のちーちゃん

 年齢:10歳(15話現在)

 学年:小学4年生

 

 

 未来の若手女優、Pastel*Palettlesのベース担当。未だ汚い世界、裏の世界の芸能界を知らない純新無垢な少女。最近は努力しても上手くいかないことがある。原作開始頃には合理的なリアリストとなるはずだが、光夜と出会ったことで多少の変化が見られる。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 山吹沙綾

 

 

 初登場:13話 気になるパン屋のあの()

 年齢:8歳(15話現在)

 学年:小学3年生

 

 

 山吹家長女。両親が山吹ベーカリー、パン屋を営んでいる、パン屋の娘。未来のPoppin'Partyのドラム担当かつまとめ役。たまたま店に出てきたところ、光夜と出会う。その後、ちょくちょく光夜が来る度に会うが、最初は恥ずかしくて会話すらままにならなかった。今では普通に話せるようになり、「お兄さん」と呼び慕う。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 山吹亘史(こうし)

 

 初登場:13話気になるパン屋のあの()

 

 山吹ベーカリーの店主。沙綾の父。何回も光夜と言葉を交わしているうちに光夜のことを気に入る。沙綾が気に入ったことが一番の理由だが、光夜が沙綾の兄のような存在になったのも大きい。

 

 

 山吹千紘(ちひろ)

 

 初登場:13話 気になるパン屋のあの()

 

 山吹亘史の妻。体が弱く、度々貧血に見舞われる。沙綾に兄のような存在ができて、嬉しい。亘史同様に光夜に好感を持つ。

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 弦巻こころ

 

 

 初登場:14話 泣くのはおよし、こころ

 年齢:8歳(15話現在)

 学年:小学3年生

 

 超が何個もつく金持ちの家の一人娘。世界的に有名な弦巻グループの総帥の娘なので基本的に何をしても許される。

 しかし、弦巻家というどこにいても目立つ苗字を持つため、あえて普通の小学校に通うがほとんど避けられてる。それを察して、気にしないように振る舞うも悪口などを言われ、限界が来て泣いていたところ、光夜と出会う。光夜と出会い、人目を気にすることはなくなった。そして、巻き込む。自分の世界に引き込むということを覚えた。遅かれ早かれ立ち直っていたので特に問題はなし。こころが望むまでは光夜と会うことはない。だが、こころが会いたいと望んだら?

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 オリキャラ

 

 

 タケチー(竹内)

 

 初登場:4話 クラスとウチの姉妹

 

 

 

 光夜の小学5・6年生の同級生。中学に進級してからも同じクラスで腐れ縁となりつつある。光夜とよく絡んでいることが多い。

 

 

 

 笹木(ささき)美夜(みや)

 

 初登場:5話 香澄フレンド

 

 

 青髪ツインテールで香澄の小学校でできた初めての友達。おどおどしている姿はどこぞのふぇぇな少女を彷彿とさせる。

 

 

 

 白鷺美優(みゆう)

 

 初登場:12話 迷子の迷子のちーちゃん

 

 

 白鷺千聖、美聖の母。2人の綺麗に靡かせる髪、プラチナブロンドは母譲り。

 

 

 

 白鷺美聖(みさと)

 

 初登場:12話 迷子の迷子のちーちゃん

 

 

 白鷺千聖の妹。プラチナブロンドで、千聖を少し幼くした容姿。おにいさんと連呼する謎が多い少女。

 

 

 

 弦巻晴翔(はると)

 

 初登場:14話 泣くのはおよし、こころ

 

 

 弦巻グループの総帥。弦巻こころの父。放任主義ではなく、妻と共にこころを愛している。どこに行っても弦巻という名が付く以上、なかなか時間が取れない。最近、仕事が忙しく、妻と世界中にあちこち飛び回り、父としてこころの世話・様子を見てやれなかった。その間にこころの問題が重なってしまい、どうするか悩んでいた。こころを以前よりも元気で笑顔を見せるようになった光夜に感謝している。

 その日を境にいつでもこころと連絡を取れるようにこころに携帯とテレビ電話を与える。時間の合間にこころと意思疎通して親子のコミュニケーションを取るようにした。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 年月と年齢(オリキャラを除く出てきた人物は年齢もあげている)

 

 

 1話:戸山家長男に転生!? 2002〜2004年

 

 光夜→5歳→7歳(小1)

 香澄→0歳→2歳

 明日香→0歳→1歳

 

 

 2話:かすみちゃんとはーちゃん 2006年5月〜2009年4月

 

 光夜→8歳(小3)→11歳(小6)

 香澄→3歳(年少)→6歳(小1)

 明日香→2歳→5歳(年長)

 はぐみ→3歳(年少)

 

 

 3話:香澄と入学〜6話:明日香の本音(叫び)2009年4月

 

 光夜→11歳(小6)

 香澄→6歳(小1)

 明日香→5歳(年長)

 

 

 7話:はじめてのおつかい 2009年5月

 

 光夜→11歳(小6)

 香澄→6歳(小1)

 明日香→5歳(年長)

 

 

 8話:始まりのキラキラドキドキ〜10話:はじめてのカラオケ 2009年8月

 

 光夜→12歳(小6)

 香澄→7歳(小1)

 明日香→6歳(年中)

 

 

 11話:Sports Day 2009年9月

 

 光夜→12歳(小6)

 香澄→7歳(小1)

 明日香→6歳(年中)

 

 

 12話:迷子の迷子のちーちゃん 2009年10月

 

 光夜→12歳(小6)

 千聖→8歳(小2)

 

 

 13話:気になるパン屋のあの娘()2009年10月

 

 光夜→12歳(小6)

 沙綾→7歳(小1)

 

 

 14話:泣くのはおよし、こころ 2011年5月

 

 光夜→13歳(中2)

 こころ→8歳(小3)

 

 



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それでも歌うよ

ポピパ新曲Step×Step!がヤバい(語彙力)
そして、今回のRoselia箱。もう、いろいろとやべぇ。
早く原作書きたくなってきた←はよ書け。はい、そうします。


 こころとの邂逅から1年と少しが過ぎた。これと言った出来事もなく、俺は中学3年生となり、気づけば中学校生活も残り半分を切っていた。

 

 いや、特に出来事はないと言ったな。実はある。

 

 

 それはスマホだ。

 

 

 やっと父さんと母さんの携帯『2年縛り』が終わったのだ。最初は世界(ガルパ)にも携帯の『2年縛り』があると知った時は驚いたが、(前世)と何ら変わりない世界で、今の俺にとっては、この世界こそが現実(リアル)だ。

 

 話を戻すが、俺はついに念願のスマホを手に入れた。スマホを手に入れた俺が何をするか?

 

 言わずもがな、香澄と明日香を撮りまくるに決まっているだろう。

 

 

 しかし、そう簡単には行かなかった。

 

 

 

 『反抗期』

 

 

 

 そう、ついに来てしまった、『反抗期』が……。

 

 現在、香澄は小学4年生、明日香は小学3年生。女子は男子よりも精神的成熟もとい精神年齢の成長が早いと言われている。反抗期到来の諸説はいろいろはあるけれど、全員が全員、同じ年齢・時期に反抗期になるわけがなく、当然一人一人違う。

 

 

 まあ、何が言いたいかと言うと……

 

 

 

 めちゃくちゃ嫌がられた。

 

 

 

 スマホを手にした日、俺は香澄と明日香を撮りまくろうとしたら……

 

 

「イヤッ!」

 

 

 と顔をプイッと横に向ける香澄。明日香はお姉ちゃんの真似をするかのように同じく顔をプイッと横に向ける。カワイイ。

 

 それでもとスマホを香澄と明日香に向けると、香澄は

 

 「イヤッ!お兄ちゃんなんて知らないっ!」と叫び、香澄はどこかへ行ってしまった。

 

「どうしたのかな?お姉ちゃん?」

「………」

「お兄ちゃん?」

「は……」

「……?」

 

 

 

 「は、反抗期キタアァァァァァ!!」

 

 

 

 リビングには俺とイマイチ状況が飲み込めていない明日香。そして、最初からこちらの様子をずっと伺っていた父さんがいた。

 

 ふと、父さんの方に顔を向けてみると口元をニタァといやらしく歪めていた。

 

 

 あの顔は絶対に『ザマァ』って顔だろ!?

 

 

 パシャ!

 

 

 イラッとした俺は、父さんのいやらしい笑顔をカメラに収めるとL○NEの母さん宛に画像を送信した。

 香澄と明日香に「パパ、臭い」って言われれるよりは数百倍マシだよ。言われてるか知らないけど。そのうち、思春期の女子によくある「お父さんとはいや!」とでも言われるだろうよ。

 

 それにしても、俺の匂いは大丈夫だろうか?香澄と明日香に臭いと言われたら……うん、もう想像しただけで軽く死ぬわ。

 

 それより、香澄にお兄ちゃんなんて知らないって言われたことがショックだ。初めて言われたよ。

 

 香澄怒っちゃったからあとで謝らないと……。

 

 日が暮れてから母さんに反抗期のことを相談してみたところ、前からその前兆はあったという。

 

 

 マジか!?

 

 

 そのうち、明日香も来るかもねと言われ、ちょっと動揺した。

 

 

 この日を境に香澄は反抗を露わにするようになった。

 

 例えば、俺が頭を撫でようとした時や寝る時など。謝ろうとしても避けられる。

 

 ……なんで。

 

 あの日から一緒に寝なくなったことがこの反抗期で一番大きい。反抗期が終わるまでこのままってのはすごく寂しい。これが成長かぁ遠い目をしつつ、様子を見守る。何とかして謝りたいけど無理矢理構って、香澄に嫌われるのは避けたかった俺は見守ることにしている。今の香澄は聞く耳を持たないしな。

 

 ちなみに明日香は変わらずと言ったところだ。むしろ、この機を逃すものかとばかりに甘えてくる。そのうち明日香も香澄のようになるのかな?

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 そんな生活を送ること1ヶ月。俺は進路について悩んでいた。ここ最近、そればかり考えている。高校をどこにするかまだ決めていないのだ。

 

 いくつかの学校には既に絞ってあり、模試などでもいい判定を取ってはいるのだが、第一志望校は決まっていない。

 

 今後の生活に大きく関わる超重要なことだから、すぐには決められず今の今までの放置してしまった。両親に相談しても「ちゃんと自分で決めてね、後悔だけはしないように」と一言。さすがにそろそろ決めないと不味い。

 

「どしたの?お兄ちゃん?」

「ん、ああ、ちょっと進路を考えててね」

「しんろ?」

「高校どこへ行こうかなぁ〜って」

「へぇ〜」

 

 あまり興味がなさそうな明日香。この1ヶ月で香澄が近くにいない生活にも慣れたもんだ。

 

 必要最低限しか会話がなく、家に帰ってきても香澄は部屋にこもってしまう。週1のカラオケにも来ずの生活。避けられてて、未だに謝れていない。そろそろ謝りたいところだ。

 

 反抗期ってこんな感じなのか?と若干の違和感を覚えつつ、俺は一抹の寂しさを感じた。

 

 

 

 しかし、そんな生活も長くは続かなかった。

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 ふと、自らの意識を自覚した。

 

 しかし、未だに覚めることはなく、起きようとしても起き上がれないことに気づく。ふわふわとぼんやりとしている。

 

 

 あれ?ここはどこだ?

 

 

 四肢に身体を動かしているという感覚はなく、視界だけ動く。周りを見回しても真っ白だ。

 

 

 ここは夢?

 

 

『……わ……は』

 

 

 誰かの声が聞こえた気がした。

 

 

 辺りを見回していると、真っ白だった空間が一瞬で教室へと変わった。どこかの教室のようで、何か学級会を開いているようだ。

 

 学級会にしては、やけに空気が重い。

 

  30人近い生徒が着席している中で唯一、立っている教師。場面は教師がとある少女に話しかけているところだった。

 

 他の生徒は顔がくっきりと分かるのにその少女の顔だけ真っ黒に塗りつぶされていて分からない。

 

 

『……わたしは』

 

 

 少女の声ノイズがかかっていて、はっきりと分からない。分かることと言えば、性別は女の子であることと髪は俺と同じひわだ色をしていることの2つだ。

 

 

『わたしは、歌なんて好きじゃないです』

 

 

 その少女は号泣し始めた。

 

 

 見てるだけしかできないから、何とも言えなくていたたまれない気持ちになる。

 

 

 そこで場面は電車の車内へと変わった。車内には少女が1人。先ほどの少女が成長した姿で、服は黒のジャケット、スカートは赤を基調にしたタータンチェックの制服を着ている。どうやら高校生ぐらいのようだ。

 

 

『サイテーだ……』

 

 

 夕日を背に少女がそう呟いたのが聞こえた。少女の顔は夕日のせいで見えない。車内は夕日で明るく眩しいのに、その少女の周りだけ黒くみえた。

 

 

 次の瞬間、顔だけ黒く塗りつぶされていた部分が消え、顔がはっきりとした。

 

 

 

 えっ、か………

 

 

 

 

「かすみっ!?」

 

 

 

 

 手を伸ばしたと思ったら、ベッドの上だった。夢から覚めたようだ。

 

 

「はぁはぁ、今のはいったい……」

 

 

 起き上がり、息を整えるも息苦しくなるばかりだ。最後に見た顔は間違いなく香澄だった。

 

 俺が知っている知識の制服ではなく、顔も心なしか違っている気がしたがあの少女は間違いなく香澄だ。

 

 あの少女は香澄で、歌なんて好きじゃないと言った場面から急に高校生の香澄になって、サイテーと呟いていた。

 

 夢にしては妙にリアルで今もなお、鮮明に覚えている。

 

 

 どういうことだ。意味がわからない。

 

 

 気づけば汗をかいていた俺は、明日香を起こさないように着替えを持ってシャワーを浴びに行った。

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 あの夢を見たせいか、今日はあまり気分が優れない。

 

 学校から帰宅すると一本の電話が掛かってきた。家には明日香しかおらず、誰もいなかったので電話に出るとの主は美夜ちゃん*1だった。

 

 

お、お兄さん!かすみちゃんがっ、かすみちゃんがっ!

 

 

 あまりの大声量に耳から受話器を遠ざけ、耳を塞ぐ。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

 心配してくれる明日香を尻目に、俺は美夜ちゃんへと話しかける。

 

「えっと、美夜ちゃん。落ち着いて」

「あっ、ごめんなさい。でも、かすみちゃんが大変なんですっ!」

「……大変?」

 

 俺は美夜ちゃんの知らせで現在、香澄の身に何が起きているのかを知った。涙声で必死に説明しようと話す美夜ちゃんからその深刻さが伺えた。

 

 意外なことに、俺は取り乱すことはなかった。取り乱すことよりも不安が募る。それは、きっと現在進行形で正夢になった夢を見たせいだろう。

 

 あの夢で気になったことと言えば、俺と明日香がいなかったことだ。謎が謎を呼んで余計に謎が深まるばかりだ。

 

 

「香澄はまだ学校に?」

「はい、保健室に。香澄ちゃんのお母さんが迎えに来ることまでは知ってます。あとは……」

「そっか、教えてくれてありがとう」

「わたしには何もできなかったので……」

「そんなことないよ、ありがとう」

「あ、あのっ!かすみちゃん、ほんとうにうたがたいすきでっ!

「うん、あとは任せて」

 

 最後の方は涙声でぐしゃぐしゃだった。

 

 美夜ちゃんによる話をまとめると、普段から香澄はよく歌を歌っていたらしく、みんなから歌が上手いと褒められたり、もっと歌ってリクエストされたりと人気だったそうだ。

 

 歌はほとんど香澄によるオリジナル曲。

 

 だが、河原でカラオケしてたから『カワカラ』と男子が言い始め、香澄の真似をするように『カワカラ』をし始めた。

 

 日に日に男子によるミュージカル『カワカラ』は人数を増えて行き、それを女子が止めさせようと言い争いになり、最終的には学級会を開くまでに悪化した。

 

 香澄にとっては信じられなくて、『カワカラ』、『カワカラ』とからかわれ続けて、嫌な気持ちになったのだろう。

 

 何より大好きな歌をバカにされたことが悲しかったんだと思う。

 

 

 そして、ついにその感情が今日、爆発してしまった……と。

 

 

「お姉ちゃん、ちょっと前からへんだった。聞いても何もおしえてくれなかったよ」

「…………」

 

 

 言葉が出なかった。

 

 香澄に抱いた違和感はこれだったんだ。いつもと雰囲気が違ったから違和感を感じた。が、それを反抗期だからと済ませてしまった。

 

 確かに反抗期ってのもあると思う。小学校中高学年以降は心も体も大きくなる時期だ。特に精神的、心に関しては非常にデリケートな時期だ。反抗期は突然始まって突然終わる。

 

 突然始まった香澄の反抗期に関しては正直、お手上げ状況だ。3年前の明日香がお姉ちゃんばっかりずるいと叫んだ時から誓ったはずなのにな。

 

 悲しませて泣かせることはさせないって。

 

 分かったつもりでいて俺は結局、明日香が泣いて叫ぶまでは分かっていなかったんだ。香澄が最初に嫌がった時にちゃんと謝って会話していれば、あんな夢を見ないで済んだのかもしれない……いや、考えるだけ無駄だな。

 

 今の現状が全てを物語っているんだから。

 

 そんなこと考えるくらいならこの後、どうするべきか考えるべきだ。このままだと香澄は歌うこと(・・・・)をやめてしまう。

 

 なるかもしれないと俺の中で確信めいた予感があった。

 

 それだけではない、心が凍りついて人と関わることを恐れてしまうかもしれない。あんなに歌うことが大好きで楽しくて、いつかはキラキラドキドキしたいと常日頃口にしている香澄がだ……。

 

 

 その後、母さんは香澄を連れて帰宅した。香澄はボーッとしたまま動かない。余程泣きじゃくって号泣したのか、目元は赤く腫れている。

 

 どこか虚ろな目をしており、目を離したら、どこかへ行ってしまいそうなほど弱々しい。

 

「………えっと、どこから話したらいいかしら」

「……知ってる」

「……え?」

「さっき、美夜ちゃんが泣きながら電話で教えてくれた」

「……そう、美夜ちゃんが……」

「「…………」」

 

 互いに数十秒、沈黙が続く。

 

「香澄はどう?」

「……ダメ、話しかけても黙ったままよ」

「……お姉ちゃん」

 

 心配そうに香澄を見つめる明日香。

 

「母さん」

「ん?」

「香澄は俺と明日香が何とかする」

「何とかするって……あんた来年受験じゃない?」

「受験より香澄の問題の方が大事だよ、勉強面なら問題ない」

「………分かったわ」

 

 香澄はとりあえず、1週間学校を休むことになった。いじめの問題は担任と校長と後日、話し合うそうだ。

 

 正直、香澄をここまで追い詰めた奴らをぶっ飛ばしいたいが、今はそんな奴らのことより香澄の方が大事だ。学校の問題は母さんや父さんに任せておけば大丈夫だ。

 

 俺ではどうすることもできないし、元凶をみたら俺自身何するか分からなくなるかもしれない。ぜってぇ、許さないがな。

 

 その日、俺と明日香でいろいろと試してみたがダメだった。全然反応を示してくれない。唯一の救いは香澄がちゃんと飲食してくれることだろう。

 

 一番怖いのは何も口にしないことだから。

 

 

  5日が経ち、変わらず香澄の反応は相変わらず乏しい。この5日間で香澄の変化は特にない。

 

 

「お兄ちゃん……どうするの?」

 

 

 そこへ明日香が、答えはもう決まってるんでしょ?と言いたげな目で俺に聞く。

 

 

 

 そんなの……

 

 

 

「……決まってる」

「うん、明日香も決まってる!」

 

 あれが正夢だとして、俺に何を知らせたかったのか分からない。

 

 それでも、俺の取るべき行動はただ一つ。

 

 香澄が歌で歌が嫌いになったなら、また歌で歌を大好きにしてあげればいい。

 

 それ以外の方法はない。この5日であらゆることをして香澄を励ましてきた。きらきら星でピアノを演奏したり、弾き語ったり、明日香と漫才やモノマネ、ひたすら話しかけたりなどした。

 

 けれど、どれも香澄の反応は薄く、軽く頷くことしかせず、暗い瞳に光が灯ることはなかった。

 

 あと残されていることはこれしかない。

 

「明日香歌おう!」

「……え?もう歌ったよね?」

 

 ……違う、そうじゃない。確かにそうだが、そうじゃない。

 

「あ、うん、まあ、確かに歌ったけどそうじゃないんだ」

「……というと?」

「一緒に歌おうってこと」

「……あ」

 

 それがあったか!とでも言いたい顔だな。

 

「でも、何歌うの?」

「ふふ、それは………」

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 次の日、つまり日曜日。それを決行することにした。昼前の10時頃、俺たち戸山家全員(・・・・・)で河原に来ている。この時間、この河原に人の気配はなく、戸山一家のみだ。

 

 

「……ぁ」

 

 河原に着いた途端、香澄は反応を示した。

 

 ここからが本番だ。俺は明日香と父さんと母さんに頷くと全員が頷き返す。

 

 俺は移動し、香澄の正面に立つ。明日香たちは香澄が何があっても対応できるよう、香澄の傍らにいる。

 

 

 

 さあ、歌おうか!

 

 

 俺は息を大きく吸い込み、歌い出す。

 

 

 

がっかりしてめそめそして〜♪ どうしたんだい〜♪」

 

 

「……あぁ」

 

 

 香澄の瞳にポワァと光が灯った気がした。

 

 

太陽みたいに笑う〜♪ きみはどこだい〜♪

 

 

 徐々に香澄の瞳には光が灯り、その目からは涙をぽろぽろと流していた。サビから香澄も歌っていた。感情がごちゃごちゃに混ざりあっているのが、香澄は号泣だ。

 

 それもそのはず、家族全員で歌うのは3年前の星見の丘のキャンプの帰りにこの曲を歌ったのが最後だったから。香澄はきらきら星とは別に、この曲『勇気100%』大好きだから、特に思い入れは深いはずだ。

 

 歌い終わってから、香澄は俺に飛びついて来た。号泣は止まらず、泣き終わるまで俺は香澄の背を撫で続けた。

 

 

「落ち着いた?」

「……うん」

「香澄よかった……」

「お姉ちゃん……」

「香澄……」

 

 母さん、明日香、父さんと各々、香澄を見て安堵する。

 

「……ごめんなさい」

 

 どうやら香澄は自分は迷惑をかけたと思っているようだ。

 

「謝らなくていいのよ」

「うん、お姉ちゃんは何もしてない」

「ああ、そうだぞ香澄。なぁ、光夜?」

「ああ」

 

 悪いのは全て、香澄をそうさせた奴らなんだから。

 

「香澄は歌なんて好きじゃない?」

「……ううん、大好き!」

「じゃあ、香澄!帰ったらもっと歌お?お兄ちゃんがピアノ弾くから歌ってね」

「うんっ!」

「あ、ずるーい!明日香も歌う!」

 

 ひとまず、一件落着だな。あとは香澄が登校してからが心配だ。

 

「ふふ、いつもの日常が帰って来たって感じね」

「ああ、そうだな」

 

 

 

 無事に辛い気持ちを乗り越えた香澄は、学校に登校した。女子が味方してくれているから大丈夫であろう。

 

 後日聞いた話だと、また『カワカラ』を言ったバカがいたらしいが、香澄は歌を歌って撃退したそうな。つ、つよい!

 

 香澄が完全に吹っ切れたようで安心したよ。

 

 まあ、変わらず反抗期なんですけどね。

 

*1
笹木美夜:香澄の友達




タグに小説版を追加しました。
光夜が見た香澄(小説版)や香澄の反抗期とついての詳細は後々の話で。


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アフロな幼馴染たち

どんどん投稿して行きますよぉ!!!
なんかアンケート投票数すげぇ増えてる…。


 

 香澄の一件から1週間。俺は改めて考えていた。

 

 高校はどこに行こうか……。

 

 11月下旬、さすがに本格的に勉強しないと不味い。まあ、勉強面は問題ない。

 

 中学の難関校レベルでなければ、余裕だ。

 

 

 問題は志望校である。

 

 

 一応、学校に提出した進路希望には現時点での志望校を書いたが、俺の中ではまだ決まっていない。難関校は論外!そこそこ、程々の学校がいい。

 

 

 本音を言えば……

 

 第一志望 花咲川女子学園

 第二志望 羽丘女子学園

 

 にしたいところだ。

 

 当然、俺は女子ではないので、入学はおろか、受けることすらできない。又は少子化の影響で共学化になるわけでもない。

 

 というか、そんな簡単に共学化したら廃校を阻止した某スクールアイドルも真っ青だわな。共学化しなかったのは理事会やOG総会とかで歴史を重んじるOGが猛反対したからですね、分かります。OGつおい。

 

 

 冗談はさておき、最終的に俺は近くの進学校を志望校にしたのだった。

 

 

 無事に進路が無事に決まり、入試に向けて日々、勉強している。

 

 香澄の反抗期はひと月で終わるはずもなく、未だ続いている。最初の頃よりは軟化しているのが、変わらずと言ったところだ。寂しいぜ。

 

 明日香が俺に甘えているのを見て、じーっと羨ましそうに見つめている姿は面白かった。その様子を見た、明日香がさらに甘え、香澄がより一層羨ましがるというサイクルが誕生し、見かねた俺が香澄もおいでと言うと、どこかへ去ってしまう。

 

 すると、明日香はフフンッと鼻を鳴らし、優越感に浸る。それがこの1週間、ほぼ毎日続いている。いつかこれが逆になったら、香澄も明日香みたいに鼻を鳴らすんだろうなと確信した。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 とある休日。

 

 俺は電車に乗り、行きつけのパン屋である山吹ベーカリーへ向かった。

 

 商店街に入ったところで、涙目で辺りをキョロキョロとしている少女が視界に入る。 ツインテールで髪色は紫色。

 

 

 ん?紫色?

 

 

 この世界で初めて紫色の髪を見た気がする。顔を見るとどこからどう見ても見覚えのある顔だった……魔王エンカウント?

 

 ちーちゃんといい、こころといい何かと遭遇率が高い。そのうち、こころが俺に会いたいって言い出したら…………うん、考えるは止めよう。考えるだけでヒヤヒヤするわ。

 

 顔と性格と名前、そして大まかなストーリーは覚えているが、細かいストーリーや人物の絡み、2番以降の歌詞(1番も怪しい)などはほとんど忘れてしまった。10年以上も経っているので当然と言えば当然なのだが、思い出せないのは心がモヤモヤして、とても気持ちが悪いものだ。

 

 

 

 宇田川あこ

 

 Afterglow、宇田川巴の妹で、

 原作において、5バンド25人の中で最年少である中学3年生だ。

 本格派バンドRoseliaのドラム担当。

 元気で明るくフレンドリーな性格で、姉の巴が大好き。自分も姉のようにカッコよくなりたいと思い、ドラムを始める。

 それ故にカッコよさを日々、研究しており中二病染みた発言が多いが上手く表現できるほどに語彙力がなく「バーン!」といった擬音で誤魔化すことが多く、よく燐子に助けを求める。

 

 

 

「えーと、どうしたの?」

「えっと…その……」

 

 

 話しかけると、ビクビクとした様子でこちらを見る。その様子はまるで怯えている猫みたいだ。知らない人に話しかけられたらこれが普通の反応、又は逃げるのが当たり前。ちーちゃんとこころがちょっと特殊なだけである。うちの姉妹もそこに入りそう……。

 

 ちーちゃんは芸能界で仕事上、知らない人と話すことが多いから話しかけても大丈夫。

 

 こころは……あ、うん、言うまでもないね。

 

 

 とりあえず、警戒心を解かせないと。

 

「闇に飲まれよ!」

 

 あ、間違えた。これ違うやつや。何か意味がなんかあった気がするけど覚えてないなぁ。

 

「カ、カッコいいっ!」

「お、おう」

 

 今ので警戒心が解けた……だと!?

 

「ねぇ、ねえっ!他には!?」

「そ、それより、さっきから何をキョロキョロしてたんだ?」

「うーんとね、お姉ちゃんたちがいないの」

「お姉ちゃん……たち?」

「うん」

 

 中二病染みた言葉はよく分からないから話を逸らす。姉の巴と一緒にとなると……Afterglowの幼馴染たちか。

 

「じゃあ、探しに行こうか?」

「いいの!ありがとう、闇のお兄ちゃん」

 

 

 闇のお兄ちゃん!?

 

 

 探し回っている間に「闇の」を取ってもらおうと奮闘したが無理だった。これじゃ痛いやつだよ。

 

 

 

 探すこと約30分

 

 

「あ、お姉ちゃん!」

 

 あこの視線を辿ると公園内に4人の少女がおり、そのうちの1人、赤髪のボーイッシュな女の子がこちらに気づく。

 

「あこ!?」

「みんな、行くよ」

 

 黒髪の無愛想な顔をした娘この合図とともにこちらへ駆け寄って来た。

 

 

 え、ちょっ、まッ!?

 

 

  10秒後には黒髪のムスッとした少女を含む少女4人に囲まれる、もうすぐ男子高校生の俺。

 

 

 うん、ヤベェ。

 

 

「ま、待ってよぉ〜」

「遅いぞ、ひまり!」

 

 どうすべきかと考えていると桃色の髪の少女がこちらへ駆け寄ってくる。

 

 まあ、誰かなんて一目でわかるんだけどね。

 

 

 

 上原ひまり

 

 幼馴染で結成された幼馴染バンドAfterglowのリーダー、担当はベース。

 明るく気立てが良い性格であり、Afterglowの調整役。

 よく蘭がリーダーだと勘違いされがちだが、彼女がリーダーである。

 リーダーらしくないものの、ここぞという大事なところではしっかりとした発言をする。空気が読めなくて空回ってしまうこともしばしば。

 彼女のライブ前などに言う掛け声「えい、えい、おー!」はメンバーから不評である。

 

 

 

 先程、ひまりを叱った赤髪の少女はあこちゃんの姉だ。

 

 

 宇田川巴

 

 宇田川あこの姉でAfterglowのドラマ担当。

 他人を悪くいったり恨んだりしないさっぱりした性格でAfterglowのまとめ役。端的に言うと姉御肌である。

 

 特に彼女について語るとするならコレであろう。

 

 

 『ソイヤ』

 

 

 

 そう、『ソイヤ』である。

 

 

 巴はバンドリで数少ないまともな(・・・・)(キャラ)だったのに、その『ソイヤ』のイベントにてまともではなくなってしまった。

 

 

 巴の

 

「ソイソイソイソイソイ!ソイヤっ!」

 

 

 

 我が妹、香澄とこころの

 

「ハッピー!ラッキー!ポピパパ!ソイヤー!」

 

 

 

 

 うん、まともじゃないわ!

 

 

 

 

 当時、このストーリーを見て爆笑した人も多いのではないか?もちろん、ボイスつきで。少なくとも自分は爆笑した。とても強烈なエピソードだったから今でもよく覚えている。むしろ、忘れられるか!

 

 終いにはペル○ナコラボのペル○ナ巴エピソードでは

 

「こうなったら、いつか絶対2人に、『ソイヤ』を認めさせてやるからな!」

 

 である。

 

 巴は小さい頃から商店街の大人達と仲が良く、地元のお祭りがあると和太鼓を叩きに出るのだという。

 きっと、彼女は既に『ソイヤ』への道へと歩んでいるのだ。

 誰にも彼女の『ソイヤ』は止められない。

 香澄を通じていつか来るであろう『ソイヤ』待ってるぞ。

 

 

 ……って違う違う!ひまりの次に巴を見てたら『ソイヤ』が……イカンイカン、『ソイヤ』に毒されてしまうとこやったわ。

 

 

 意識を目の前の少女たちに戻す。

 

 

「ち、違うのっ!!おねーちゃん!」

「あこっ!?大丈夫か!?」

「うん、闇のお兄ちゃんは、あこと一緒におねーちゃんたちを探してくれたの」

「や、闇の?」

 

 ほら、出たよ。このままだと完全に痛いやつやんけ。

 うしっ、ここから方向転換させるか。

 

「そっちの方は特に気にしないでくれ」

「う、うん。わかったよ。えっと、ごめんなさい!」

 

 赤髪の少女、巴が頭を下げる。

 

 俺自身、どう接すべきかと試行錯誤を重ねていると……

 

「ほら、お前らも謝れよ」

「う、うん、そ、その!ご、ごめんなさい!」

 

 すごい勢いで何回も頭を下げる少女、羽沢つぐみ。

 

 

 羽沢つぐみ

 

 Afterglowのキーボード担当。

 Afterglowの中で自分が最も普通と思っており、コンプレックスを抱いている。

 努力家で前向き、少しのことではめげない性格。

 メンバーの支えもとい癒しである。

 

 

 癒しである

 

 

 

 大事なことなので2回言いました。

 

 そして『羽沢珈琲店』の看板娘だ。

 そう遠くないうちに羽沢珈琲店で珈琲を飲んでみたいものだ。

 

 頭を下げるの止めさせないと……

 

「わ、分かったから。落ち着いて?」

「は、はいっ!」

 

 あー、俺が年上で知らない男の人だから余計に緊張というか怖がっている?ちょっとショックかもしれん。

 

「次はモカもだぞ?」

「え〜〜、ごめんなさ〜い〜〜」

 

 独特なのんびり口調で謝る・・・否、軽くお辞儀する少女は青葉モカ。

 

 謝る気などさらさらないのかもしれない。

 

 

 

 

 青葉モカ

 

 Afterglowのギター担当。

 のんびりとした口調でマイペースな性格。

 興味のあることはとことんやる、興味の無いことにはとことん興味がない。

 よく蘭やひまりをからかっているものの仲間思いである。

 何よりパンが大好き。カロリーはひまりに送っているらしい。

 

 

「後は蘭だけだぞ」

 

 にしてもこの()マジオカン!小学生だし、さすがに姉御かな。

 

 なのに、将来『ソイヤ』だもんなぁ……人生何があるかわからんな。

 

「え·······と、その·······」

「大丈夫だから、ゆっくり落ち着いね?」

「·······っ!?」

 

 やっべ、つい癖で香澄と明日香みたいに頭撫でちゃった。最近、香澄の頭撫でてないなぁ。

 

「あ·······その、ごめんなさい」

「よく言えました」

「··············ッ!?!?」

 

 うん、もうね。撫でるのは癖だわ。なんかこの()、蘭の前だとお兄ちゃんスキルが反射的に発動しちゃう。

 

 頭を撫でられたのが恥ずかしいのか顔を真っ赤にして俯いてる。なんかごめんね?

 

 

 

 美竹蘭

 

 Afterglowのボカール&ギター。

 100年以上の歴史がある華道の家元の一人娘。クールでぶっきら棒な話し方をする。

 気が強く負けず嫌いなところがあるものの寂しがりや。また素直ではない。

 幼馴染や身内を何よりも大切にしている。

 口癖は「いつも通りだね」

 

 ツンデレやな、素直ではないけど寂しがりや……って。

 

「闇のお兄ちゃん、ありがとう!」

 

 

 

 グハッ

 

 

 

「お、おう」

 

 闇のお兄ちゃんやめて?

 

「あんたは、いや、あなたは·······」

 

 敬語を使おうとしたのだろう。途中で言葉が止まる。無理もないだろう。

 小学3〜4年生で敬語を使っているのを俺はあまり見たことがない。先生を敬うのはもちろんだがそれ以上に小学校は他学年の生徒との距離が近い。タメ口で話す人の方が多いと思う。

 

 まあ、外になるとまた別ではあるがな。

 

 中学校に入り、1学年、2学年上の人に対して初めて敬語を使う。先生は言わずもがな。

 

 少なくとも自分や友達はそうだった。

 

 

「敬語じゃなくて大丈夫だぞ」

「ああ、あんたは?」

「そういや、名前言ってなかったな」

 

 これで闇のお兄ちゃんじゃなくなるぞぉ!

 

「戸山光夜だ」

「えっと、戸山さん?」

「ああ」

「えっと·······その」

「ねぇ、ともえちゃん。時間が……」

「「「「「あっ!?」」」」」

 

 

 桃色の少女、ひまりが時間のことを言うと、俺とひまり以外5人全員の声がハモる。

 

「ヤバイよ、母さん16時半に帰って来なさいって...」

「おねーちゃん、大変だよ」

「わ、私も帰ってお手伝いしなきゃ」

 

 他のみんなも同じような約束をしていたらしい。

 

「その、戸山さん。あこの事、本当にありがとうございました」

「「「「ありがとうございました」」」」

 

 巴が頭を下げると、あこちゃん以外のみんなも頭を下げる。見事な幼馴染の連携だ。

 

 

「ああ、気をつけてな」

 

 

 そう言って商店街へ歩き出す彼女たち。

 

 

 俺も帰ろうとすると……

 

 

「じゃあねー!闇のお兄ちゃん!」

 

 

 

 グハッ

 

 

 

 不意打ちがお上手ですねあこちゃん。




 


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進学とSPACE

そういえば、前話で前作の総文字数を超えました。やったぜ!

※設定を参考にしていますが、どうしても分からない部分は改変してます。


 先月、俺は中学校を卒業し、高校に進学した。

 

 入学時って不安にならないか?中学校はまだ小学生の友達がいたからいい。公立だし、中学受験して私立に行くなんて事がなければ同級生の半数以上は同じ公立中学校へ行くから。

 中学校では小学校と変わらず友達関係が続き、違う小学校からの新しく友達が加わる。

 

 しかし、それが高校となると話は別である。

 

 高校は1からスタートすると言っても過言ではないだろう。中学校で友達関係や環境が途中から始まっていたものが高校ではリセットされるのだ。

 

 同じ高校へ進学する人もいるだろうが、1学年30〜40人ぐらいの少人数の学校でない限り、同じ中学校だとしても全員が全員が知り合い・友達というのはありえない。

 

 つまり言いたいのは……

 

 

 第一印象が大事であるいうことだ。

 

 

 第一印象を悪くすると終わる……というのは冗談で、第一印象が良ければ良いほど馴染みやすいし、人受けが良くなる。まあ、不安だったけど友達できた。自分から話しかけることが大事だ。とても大事。

 

 出席番号順で自分は戸山の「と」だから少し後ろの方で、前の塚山と後ろの西岡とすぐに打ち解けた。くんは同級生だし、会話している内につけない方が親しみやすいということでつけていない。

 

 そんな感じで入学と友達作りは無事に終了した。

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 高校入学から3週間、4月があと数日で終わろうとしていた。俺は順風満帆と言える高校生活を送っている。

 

「なあ、光夜。ライブ行こうぜ」

 

 俺の名前を呼ぶ、前の席の塚山勇次。彼とは互いに名前で呼び合う仲になった。勇次だけでなく、他の友達とも名前で呼び合っている。

 

 高校入学して一月でここまで行けば上出来だと思う。

 

「ライブ?その前にチケット当選しないと無理だろ?」

「あ、わりぃ。言い方が悪かった」

「言い方?」

「ああ。アイドルとかのライブじゃなくて、ガールズバンドのライブだ」

 

 そっちか!

 

 この世界(ガルパ)、本当にガールズバンドが多い。テレビや雑誌で取り上げられてるのをよく目にする。

 しかし、ガールズバンドだけではなく、当然男性グループのバンドも存在する。ちょっとガールズバンドが多いってだけだ。ボーイズバンドについては、数年前に父さんのPCを使ってとある曲名を調べたことがある。

 

 

 その曲名は……

 

 LOUDER(ラウダー)

 

 

 曲のメロディーや歌詞はもうほとんど覚えていないが、RoseliaのLOUDERだけは今でも覚えている。そのLOUDERに関係するのがRoseliaのボーカルでリーダーの湊友希那。なぜ関係するのかというと俺が聴いたLOUDERこそ、湊友希那の父が作った曲だからだ。俺はLOUDERを初めて聴いた時、身体に衝撃が走った。

 

 

 

 

「…や!?……光夜!?ちゃんと話、聞いてる?」

 

 

 

 おっと、いけないいけない。RoseliaとLOUDERについてはひとまず、置いておくとしよう。

 

「ああ、ガールズバンドがどうしたって?」

「ガールズバンドのライブに行こうぜ」

「それは別に構わないけど……なぜ?」

「俺が行きたいからだ!」

「………」

「ちょっ!?だんまりはやめてくれよ!」

 

 ドヤ顔で言われたら誰でもそうなるわ。もうすぐ勇次との付き合いも一月になる。そのため、勇次の性格はだいたい分かってきた。

 

 ちょっとからかってやろう。

 

「一人で行けって言ったら……どうする?」

「お願いしますお願いします!どうか俺と一緒に来て下さい!俺、一人じゃ女の人だらけの場所なんて無理なんです!」

 

 彼はなんというか……ヘタレだ。女子に対する興味は人一倍あるのくせして、いざ女子と話すとなるとヘタレと化す。

 

 先週、クラスメイトの女子と話した時なんて酷かった。折角、女子からのお誘いがあったのに……。

 

 

「私たちこれからカラオケ行くんだけどさ。塚山君と戸山君も一緒にどう?」

「えっと……その、お、俺は……」

「お、おい。勇次」

 

 顔をトマトみたいに真っ赤にして俺の背中に隠れた。まだ顔を赤くするのは分かる。

 

 でも、なぜ俺の背中に隠れる?

 

 そして、袖を引っ張るのはヤメロオォォォォォ!!!

 

 それをしていいのは香澄か明日香だけだ!男がやっても誰得だよ。腐女子しか湧かねぇぞ、おい。

 

 何より俺と同じくらいの身長でそれはないぞ。

 

「悪い、勇次と約束があるからまた今度、誘ってくれ」

「う、うん。」

 

 気づけば、その女子は顔を真っ赤にしていた。

 

 おい、まさかキミ、あちら側の住人腐女子じゃないよな?さっきからオイしか出ないぞ、おい。

 

 周りの女子たち俺と勇次を見てキャーキャー言うの止めてくれませんかねぇ。俺も勇次も性格はどうあれ、容姿はいいからそれがさらに女子たちの妄想を助長させているらしい。

 

 てか、勇次はさっさと俺から離れろ!

 

 お前、そんなんで小・中学校どうやって過ごしてたんだよ。小中学校って女子と席が隣同士になるから関わり不可避だよな?今度、聞いてみよ。

 

 その日、帰りのHRが終わるまで視線が痛かったのは言うまでない。

 

「な?頼むよ」

「まず、勇次は女子と目を見て話せるようにした方がいいぞ」

 

 思わずジト目で勇次を見る。

 

「ウッ、難易度が高い……」

 

 高くねぇよ。

 

「とりあえず、話は分かった。ガールズバンドのライブに行こうじゃないか」

「シャァァァーーー!光夜、愛してるぜ!」

 

「「「「「キャーーー!」」」」」

 

 うん、そういうのは女子に言ってやれ。いや、マジで。それとそこの女子共、湧くんじゃないよ!

 

 ダメだけどもういいや(諦め)

 

 いろいろと諦めの境地に達した俺は気にしないことにした。

 

「んで、いつどこへ行くよ?」

「今日、SPACEにだ!」

 

 今日は土曜日、土曜授業で学校に来ている。土曜授業は午前中で終わりだからこの後行こうってことか。

 

 

 まさかのSPACEか。SPACEと言えば……

 

「ガールズバンドの聖地にか?」

「お、知ってんのか」

「まあな、行ったことはないが」

 

 

 行こうと何度もおもったことがあるが、なんだかんだで行っていない。

 

「なら、話は早い!午後に行こうって事だ」

「いいぞ、昼持ってきてないから、どっかで食べてから行くか」

「会場まで時間あるからカラオケかゲーセンで時間潰すか」

 

 おk把握

 

 L○NEで母さんにダチと遊んでくるって送った。

 

 一日中家にいないけど我が妹たちは大丈夫だろうか?香澄ももう小学校高学年の5年生だし、明日香は小4だ。まあ、香澄はまだ反抗期みたいで俺にちょっとそっけないし、明日香は……うん、大丈夫だろ。

 

 

 さすがにそこまで……

 

 

 

 ブーブー ブーブー

 

 

 

 ……………ん?

 

 

 

 携帯のバイブレーションが鳴っていたから確認すると。

 

 げっ、これって家電やん!絶対に明日香だな?母さん、携帯貸さなかったな。まあ、貸したら俺が帰ってくるまで延々と電話とメッセージが来そうだな。

 

 とりあえず、気になるし一度出てみるか……

 

 

 ポチっとな。

 

 

 

「もしm『お兄ちゃんッ!?今どこッ!?いつ帰ってk』」ブチッ

 

 

 

「…………ふぅ」

 

 

 

 またすぐに電話がかかってきたが、着信拒否ボタンを押して、俺はそっと携帯の電源を落としたのだった。

 

「お、おい。光夜、今のは………」

「何も聞くな」

「あ、うん」

 

 香澄が反抗期になのに対し、明日香は今まで以上に甘えるようになった。ここまで言えばもう分かるだろう、反抗期に入るどころかブラコン度が増した。どうしてこうなった!?と先週あたり、自分に小1時間ぐらい考えた結果、今までたまっていた甘えたい欲求が爆破したんだろうという結論が出た。

 

 

 帰ったらちょっと怖い。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 俺と勇次はファミレスで昼を取った後、カラオケに行こうとしたのだが土曜日の午後だし、歌うなら6時間以上がいいよなということでカラオケは諦めた。

 

 俺も勇次もカラオケはフリータイム派だ。というのも既に勇次と2回カラオケに行っている。

 

 勿論、フリータイム!

 

 2人以上なら絶対にフリータイム。これは譲れない。

 

 複数人で2〜3時間だと歌っているうちにテンションが上がり始めたところで時間が終了し、歌い足りなくなるのが目に見えている。全然歌えない+無駄に金がなくなるのダブルコンボである。

 

 みんなで楽しむのが大事とか言われても俺には理解し難い。

 

 だから、2人でフリータイムが一番だ。

 

 要はカラオケに来たのなら少しでも多く歌いたいのだ。普段は満足するまで歌えない。

 

 ところ構わずに声を大にして歌うのは常識を疑われてしまうからな。

 

 まあ、フリータイムじゃなくても朝から歌うヒトカラならぬ朝カラで3〜5時間を毎週日曜or祝日に歌っているんですけどね。朝カラだと料金が安くなって約1000円で済む。カラオケは午後が混むからね。午前中は10時過ぎまでホントすっからかんだから入って欲しくて安いんでしょう。 

 

 毎週午前中、カラオケに行こうとするとウチのシスターズが暴れだすので2週間に1回連れて行く。香澄はここ半年、数回に1回来ます。

 

 そうすると全く歌えないのだがウチのカワイイ妹たちのためなら、全然OKだ。

 

 

 香澄には来るべき未来(原作)のために歌唱力を上げて欲しい。

 

 ねぇ、お願いだから『きらきら星』を日本語で歌うのはやめよ?うん、キラキラドキドキしたいのは分かるよ?

 でもさ、世界的には『Twinkle,Twinkle,Little Star』が有名だしというか……それを日本語に翻訳したのが『きらきら星』だぞ?

 俺さ、歌ってみせたよね?明日香と一緒に目を爛々と輝かせてカッコいいって言ってくれたやん。『キラキラ星』もいいけど、

 

 なのに、なぜ『きらきら星』なんだっ!?『キラキラ星』もいいけど、俺は香澄の『Twinkle,Twinkle,Little Star』も聞きたいなぁ。

 

 

 え?「キラキラ」が入ってないからイヤダァ?

 

 

 やっぱり反抗期なのか!?そうなのか!?くっ、俺は諦めんぞォ!

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 現在時刻は16時。そろそろSPACEに行こうと勇次は言う。勇次の説明によると17時に開始で19時に終了らしい。

 

 ライブハウス『SPACE』

「ガールズバンドの聖地」と呼ばれるガールズバンド専用ライブハウス。

 

 SPACEと言えばオーナーだ。

 特に「やりきったかい?」という台詞は有名だ。誰だったかやりきったかいおばさんとか言ってる人がいたな。

 

 オーナー、オーナーと言うが一体どれくらいの人が本名からを言えるだろうか?アニメを見てない人はほぼ答えられないだろう。アプリでさえ、名前はオーナーになっているのだから。

 

 都筑詩船(つづきしふね)

 

 それがオーナーの本名だ。

 

 まあ、本名を知ったところでオーナーはオーナーに変わりあるまい。むしろ、本名で呼ぶ機会あるの?

 

 ライブハウス『SPACE』オーナー、都筑詩船。

 

 彼女は元々、全国ライブツアーを行うバンドのメンバーだったが男だらけで「ライブハウスの怖くて危なそう」というイメージを払拭するためにガールズバンド専用のライブハウスを立ち上げたという。

 ライブハウスを立ち上げて、最初は誰でもライブができるようにしていたのだが、ある日、やり切ったと言えない演奏を見て、ライブのステージに立つにふさわしいかどうかを見極めるオーディションを始めた。

 基準は演奏の技術や完成度よりもバンドの熱意「やり切ったかどうか」にしている。

 

 それが後に「ガールズバンドの聖地」と呼ばれる所以となった。

 

 うん、そりゃあガールズバンド時代来ますわ。一昔前は男のバンドが主流だったのが今ではその逆だ。

 

 調べてみるとSPACEからメジャーデビューしたガールズバンドもあるそうだ。

 

 正にSPACEは調べない限りは知る人ぞ知る「ガールズバンドの聖地」ってわけだ。

 

 

 現在、俺と勇次はライブハウス『SPACE』前にいる。

 

「時間そろそろだから早く入ろうぜ」

「ひっ」

「中には女性だらけっと……」

「光夜いなかったら死んでたわ」

 

 と俺に笑いかけてくる。殴りたいその笑顔。

 

 

「話さなきゃ問題ないんだろ?なら、さっさと行くぞ」

「お、おう」

 

 

 大丈夫か、コイツ。

 



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確かなもの

 

 

俺たちはSPACEに入り、どうしたらいいか分からず入口付近でワタワタしていた。

 

 

「そこのあんたたち、ライブハウスは初めてかい?」

 

 

 親切な人が教えに来てくれたのかと思ったら……白髪の主張が強い白黒混じったグレイヘアの女性。

 

 まさかのいきなりご本人(オーナー)登場である。

 

 

 言い方が失礼だけど、自分が知ってるオーナー(原作)より少し若いな。ちょいと黒髪混ざっている。

 

「はい、初めてです」

 

 そう答えると、オーナーはフッと軽く微笑んだ。

 

 思っていたより優しそうだ。原作で香澄たちとのやり取りを見ていると厳しいように感じられた。

 

 しかし、その厳しさは音楽バンドに対してだと思う。音楽を愛するが故に厳しく、女性にも活躍の場を広げて欲しい思い故に厳しい。

 

 

 それほどまでに厳しいのだ。

 

 

 生半可な覚悟でオーディション(彼女)に臨むようものなら「ステージから降りな」と言わんばかりに即失格にされるだろう。彼女の目を誤魔化すことはできない。

 

 後々、そのことで香澄たちPoppin' Partyが関わるのだが、そう遠くない未来のうちにそれは訪れることになるだろう。

 

 

「高校生かい?」

「はい」

 

 まあ、俺も勇次も制服着てて明らかに中学生には見えない顔つきだもんな。同学年の友達よりは大人びているはずだ。

 

「そっちのあんたはさっきから落ち着かないね」

 

 入ってからオドオドしたり、キョロキョロして完全に挙動不審な勇次。ホント、お願いだから落ち着いてくれ、俺まで注目されるでしょ。ただでさえ男がいなくて俺たち、注目されてんだから。

 

 周りを軽く見たところ男が数人しかおらず、女性だらけだ。

 

「ねぇ、オーナーと話してる男の2人。めっちゃカッコよくない?」

「ん〜、どれどれ············ってめっさイケメンじゃん」

「そこでめっさ使うな!」

「私は爽やか系のイケメンくんの方かな?」

「私はなんかオドオドしてるけど大きいのに守ってあげたくなる方のイケメンくんかな?」

「あの2人、デキてるのかな?」

 

 

 デキてねぇよ。最後の人だけおかしいだろ!

 

 

 中学生になってからこういった男を品定めするようにジロジロと見て、ヒソヒソとされることが多くなった。正直、あまり気持ちいいものではない。女性が男から舐め回すように見られたり、胸に視線が行くのを嫌がる気持ちがよーく分かった。

 

 俺たちを見て、オープン的に会話するのある意味スゴイわ。声のボリューム落とそうね。

 

「彼、女性と会話するのが苦手ですから」

 

 若い女性限定ではあるが……。

 

「そうかい、高校生は600円だよ」

 

 受付で代金を払い、チケットを受け取る。

 

「なあ、光夜。バンド組んだらどうだ?歌上手いし、キーボードできるんだろ?軽音楽部入ろうぜ。俺も軽音部に入部するし」

 

 ちょっ!?オーナーの前で音楽関係、特にバンドとかの話はあかんって。

 

「へぇ、あんたピアノ弾くのかい?手を見せてみな」

 

 ほら、目つけられたじゃん。今一瞬、オーナーの目がギラッとしたぞ!?

 

「別に取って食いはしないよ。だから、そうビビるんじゃないよ」

「は、はい」

 

 恐る恐る両手をオーナーの前に出すと……。

 

「……いい手だ」

「へ?」

 

 触ることはなかったが俺の手を見てオーナーはそう呟いた。

 

「オーナー!そろそろ……」

「ああ、じゃあ」

 

 スタッフに声を掛けられ、詳しいことは何も言わずに去って行く。

 

「おい、光夜?行くぞ」

「………ああ」

 

 ライブ前に勇次からペンライトを渡された。ライブには必須だもんな。ちゃっかり持ってきてて俺の分まであるとは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 

 初めて見るSPACEのライブは何というか……凄かった。

 

 ステージに立つガールズバンドの皆、一人一人が生き生きとしていた。バンドの演奏の技術、完成度は違えど思いは同じ。身体(からだ)全体に音と共にその思いがひしひしと伝わってきた。

 

 

 一番感じたのは演奏(バンド)を……楽しんでいた(やりきっていた)こと。

 

 

 

 演奏を聞いてその時、俺は思ったんだ。

 

 

 

 俺もステージに立って歌いたい(やりきりたい)と。

 

 

 

 その後、俺は改めて考えさせられることになった。

 

 

 

 

 

 自分の将来(未来)について……。

 

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 

 SPACEでライブを見てからここ数日のことはあまり覚えていない。ずっと自分の将来について考えていた。ただ、母さんに異常なほど何回も「大丈夫?」と言われた事と明日香が常に近くにいたのは覚えている。香澄は近くにいたようないなかったような……どうだったかな?

 

 

 思えば、前世では夢や目標などなく、平々凡々と生きていた。

 それが今世ではどうだろう?過去に香澄と明日香、妹たちのために頑張ろうと決めたのはいい。では、自分は?自分のこれから将来はどうしたい?分からない。考えれば考えるほど未来という不安が俺の中で渦巻く。

 

 俺はそんな不安を抱えながら、SPACEに足繁く通っていた。気づけば5月下旬、高校最初の文化祭が近づいていた。

 

 

 ある日、オーナーは俺に話しかけてきた。

 

 

「あんた、最近よく来るね?」

「ええ、まあ……ちょっと悩んでて……」

 

 オーナーに悩んでいることをポロッと漏らしてしまったが、丁度いいのかもしれない。

 

「なんだい、あんた悩んでたのかい?」

「演奏を聴けば何か変わるかもしれないって……」

「ふっ、ずっと悩んでたって何も変わりやしないよ」

「…………」

「…………やりきったかい?」

「………っ!?」

ここ(SPACE)で演奏する人たちはみな、やりきってる。あんたはどうだい?」

 

 その言葉は俺の胸に響き、忘れてかけていたことを思い出す。はははっ、そうだ!そうだよ!悩むまでもなかったじゃんか!

 

「ま、次に来る時はもっとマシな顔をして来な」

 

 オーナーは背を向けると、軽く右手を挙げ去って行った。

 

「……なんだよ、こんなに悩んでたのが馬鹿馬鹿しいじゃないか」

 

 俺は独りごちる。もう悩む必要はない、迷わず前へ行くだけだ。

 

「そう決まれば、あとは………」

 

 

 次の日

 

 

俺に歌わせてくれ!」

「お、おう」

「戸山、どした?」

「誘ってくれた文化祭でバンドやる話、俺も入れて欲しい」

 

 頭を下げると……

 

「「うぉぉぉぉぉぉ!マジで!?」」

「ああ、マジだ」

「「うぉぉぉぉぉぉ!?」」

 

 

 教室に男2人の声が響き、みんなが何事?と視線が俺たちに集中した。

 

 

「どしたの?」

「めちゃ叫んでどうしたよ?」

「騒がしいぞ」

 

 クラスメイトが各々の反応をする中で、特に反応を示したのが勇次だ。

 

「え、ちょ、まままてよ」

「落ち着つくのはお前だ」

「戸山、なんでだよ!?歌うなら軽音部入ろうぜ」

「だって、人数多いし……、仮入部の時に雰囲気が合わなかった」

 一応、軽音部には仮入部したが、そこの雰囲気がなんか嫌だった。今思えば、あまりやる気のない人が多くて嫌だったんだと思う。

 

「すまんな、許せ」

「……………」

 

 

 あ、死んでる。

 

 

「塚山のことは放っておいて。これでメンバーは揃った!文化祭まであと3週間、放課後にあと2人を呼んで練習とかいろいろ話し合おう!」

 

 

 それからとんとん拍子で事は進んでいった。なぜ文化祭でバンドをするかという話をすると、後夜祭に出ようとバンドメンバーを探していたらしい。ボーカル以外のメンバーは見つかったが、既に生徒会に申請して後夜祭に出ることが決まった4人は焦る。

 

 そこで、どこからか俺の歌が上手いと話を聞き、勧誘されたのが昨日だ。昨日、まだ悩んでいた俺は断ってしまった。絶対、話の出処は勇次だと思う。

 

 ちなみにうちの後夜祭は半分くらいはバンドによる演奏らしい、もはやライブである。

 

 

 

 放課後、他の2人と顔合わせをし、これからの事を話し合い、3週間に渡る猛練習が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 

 

 そして、やって来る後夜祭。2日間に渡る文化祭が終わり、2日目の最終日、後夜祭。一般の人たちが帰ってから後夜祭は始まる。文化祭には1日目には父さんと母さん、香澄と明日香がうちの高校に来た。うちのクラスは外で屋台をやっていて、香澄と明日香が来た時は揶揄われたな。

 

 

「準備はいいか?」

「「「「おう!」」」」

「じゃあ、行くぞ」

 

 

 

 ギター兼リーダーの宮内に続き、俺たちは体育館ステージへと上がる。

 

 

「…………」

 

 

 

 ステージに上がると目の前には人、人、人、人、人、人。体育館は大勢の人で埋めつくされている。

 

 

 

 

 ヤバい、あまりの人の多さに緊張して体がこわばってきた。

 

 

 

 

 自分がボーカル、バンドの要ということも相まって、さらに体がこわばる。

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 

 すると、宮内が俺の肩をポンっと叩き、他のみなもコクリと頷ずいた。緊張する気持ちはみな同じということだ。

 

 

「落ち着け、戸山だけじゃない。俺たちがいる」

 

 

 それを聞いて、俺は落ち着きを取り戻す。そうだ、俺はひとりじゃない。

 

 

 演奏(バンド)はひとりではできない。ピースがハマるようにひとりひとりの音が重なって初めて音が出る。

 

 

 

 紹介を終わらせ、演奏に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

『聴いて下さい曲は……心絵』

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の形は人それぞれ、想い描いていた未来の夢は叶えられるのだろうか。

 

 

 

 今の自分を見ると違うかもしれない。

 

 

 

 

 だけど、夢に破れたわけではない。

 

 

 

 

  1年、春夏秋冬を通して色々な経験、成長をして考え方、夢も変わっていくんだ。

 

 

 

 何かを得たこともあっただろう。失ったものもあっただろう。気づけば1年なんてあっという間だ。

 

 

 

 

 いつも成功ばかりじゃない、挫折や失敗もたくさん繰り返す。

 

 

 

 

 走っているとどうしても迷ってしまうけど、声と心と共に夢を描いている今を刻んで、大きな心絵にしていけ!

 

 

 

 

 

 

我がゆくえ 迷いながらも 描きかけの今 刻む証 この手で

 

 

 

 

 

 観客は既に熱狂包まれており、ペンライトやサイリウムを持っている人がノリノリに振っている。最初は疎らだったのに、多くの人が振ってくれている。

 

 

 そして、最後の曲を演奏し、俺たちの後夜祭ライブは終わった。

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 後夜祭ライブから数日。俺は未だ、ライブの余韻に浸っている。忘れることなんてできない、忘れない。俺は、俺たちは多くの生徒や先生がいる中で、歌った(やりきった)んだ。決してひとりではできない演奏(ライブ)を。

 

 文化祭の振り替え休日、久しぶりにSPACEに行ったらオーナーと出くわした。

 

「いい顔になったじゃないか」

 

 開口一番にそう言われた。

 

「あの、ありがとうございました」

「あたしは何もしてないよ。それしてもあんた、もの好きだねぇ。男子高校生でここによく足を運ぶなんて」

「SPACEの演奏は勉強(タメ)になりますから」

「……そうかい」

 

 そのままオーナーはスタッフオンリーと書かれた部屋に入って行った。態々、言いに来たのだろうか?

 

 実際、SPACEで演奏する人たちはレベルが高い。近場で安い、音の感性を養うという意味ではうってつけだ。生演奏ほど臨場感のある演奏はない。

 

 

 

 

 さて、俺の中にもう迷いはない。これからのことは決めた。




タグにある(カバー曲)のとおり現実世界にある曲はすべて既出、カバーという扱いです。
光夜以外の4人は楽器経験者、後夜祭までに3週間、練習した設定です。



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決意

この話は前作とそこまで変わってないです。
設定はオリジナル。気になる方は前作を。
もうすぐ原作かな。


 文化祭、振り替え休日の夜。

 

 

「父さん、母さん。俺、決めたよ」

「「………」」

「俺、芸能界に行きたい」

 

 

 

 香澄と明日香が寝静まった頃。俺は折を見て、話を切り出した。

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 高校に入学して1週間ほど経った頃だ。帰宅途中に自販機で珈琲でも買おうとしたら突然、声を掛けられたのだ。

 

「君、芸能界に興味ない?」と。

 

 スカウトは詐欺が多いと思って始めは警戒していたのだが、名刺を貰い、○△プロダクションと書かれた名刺を見てから警戒は杞憂に終わった。○△プロダクションといえば大手芸能事務所であり、人気子役、白鷺千聖の所属している事務所である。名刺を貰って○△プロダクションと書かれたのを見て、よく叫ばずにいられたと思うよ。俺の中のスカウトマンのイメージはスーツを着ていていかにもプロデューサーって感じだったが、普通に私服だった。よくよく考えてみればスーツ着てスカウトしてる方が逆にダメだな。目立つし、声を掛けづらい。でも、この時は興味がなかったから軽い気持ちで考えておきますと言い、その場を去った。

 

 思えば、この名刺を貰った時から俺は考え始めてたんだ……未来を、自分はどうすればいいのかを。胸にモヤモヤした気持ちを抱えたまま、そんなこんなと過ごしているうちにひと月が過ぎ、文化祭のステージに立つまでに至る。

 

 

 

 結局、自分自身に問いかけるだけでよかったのだ。

 

 

 

 

 大切なのは『自分はどうすべきか』ではなく、

 

 

 

 

 『自分がどうしたいのか(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 ということに……。

 

 

 

 

 自分の気持ちに気付いたとはいえ、俺はまだスタート地点にすら立っていない。芸能界に行くべきか行くべきでないか。入れたとしても芸能界は狭き門、売れなきゃ生き残れない世界だ。所属はしていてもデビューできない人はごまんといる。ただ、やる(やりきる)やらない(やりきらない)のかこれが大切だった。やらない後悔よりやる後悔とはよく言ったものだ。自分にその可能性があるなら、少しでも信じてみたい。

 

 

 

 だから、俺は芸能界に行くと決めた。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 SPACEから出た俺はとある番号に電話を掛けた。

 

 

『はい、もしもし。こちら○△○芸能事務所です』

「もしもし、先月○○でスカウトをしていただいた戸山光夜と申します。芸能界のお仕事に興味があったのでお電話させていただきました」

『はい、スカウトなされた担当の方は分かりますか?』

「はい、○○さんという方です」

『少々お待ちください』

 

 

 

 貰った名刺の名前を告げる。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜♪

 

 

 

 

 保留音が流れる。2分後、保留音が切れ、相手と電話が繋がった。

 

 

 

『もしもし、○○です』

「4月に○○で声を掛けていただいた戸山光夜と申します。芸能界のお仕事に興味があったのでお電話させていただきました。」

『○○?ん?4月、4月。あ〜、うん、間違ってなければ制服着てて、君が自販機で飲み物を買おうとしてた時に声を掛けた子であってる?』

「はい、そうです」

『いやぁ〜。嬉しいね。君の他にも数人、声を掛けたんだけど、断られてしまってね。おまけに名刺すら受け取ってくれないときた。』

「は、はあ」

『もう2ヶ月も経ってるからダメかぁと思ってたところだよ』

 

 

 なんか軽いな……。まあ、反対に堅い人の方はイヤだけどね。

 

 

『おっと、すまない。そういうのは直接会ってから話そうか。いきなりだけど、今日の午後は空いてる?』

「はい、大丈夫です」

『では、羽沢珈琲店ってところで午後2時に』

 

 

 ………えっ?羽沢珈琲店ッ!?

 

 

『おっと、名前だけじゃ分からないよな。「いえ、分かります」え?』

「早○田駅から降りて、地蔵通り商店街にある羽沢珈琲店ですよね?」

『あ、ああ。詳しいね。なら、話は早い。そこに今から5時間後の午後2時にそこで待ち合わせしよう』

「はい」

『じゃ、また午後に』プツッツーツー 

 

 

「……ふう」

 

 

 羽沢珈琲店と聞いて、少し興奮してしまった。なにせ小6時に入ろうとしてから、今の今まで行かなかったからな。知ってるとこでよかった。

 

 

 さて、羽沢珈琲店、初入店と行こうじゃないか。

 

 

 

 

 午後2時前、少し待つとスーツで綺麗な身なりをした男がやって来た。改めてみるとスカウトされた時とは違う印象を受ける。何というかダンディだ。

 

「やあ、君だってすぐに分かったよ。話をする前に入ろうか?」

 

 

 入店。

 

 

 ああ、珈琲のいい匂いだ。

 

 

「いらっしゃいませ。空いてるお席へどうぞ」

 

 

 バイトと(おぼ)しきウェイトレスさんが言う。これがあと5年もすれば、イヴとつぐみがウェイトレスをするのか……。

 

 イヴの「へいラッシェーイ!!なに握りやしょーか!」を見てみたいわ。

 

 ウェイトレスか、香澄と明日香が着ているとこ見てみたいな。メイド服でもよし。メイド服?あっ、メイド服なら明日香着るやん。

 

 

 未来で絶対、文化祭行こ(使命)

 

 

「ご注文はお決まりですか?」

「私はカプチーノで」

「カフェラテを……」

 

 メニューを決めて話を始める。

 

「さて、話を始めようか……」

 

 

 

 ………ん?

 

 

 桃色、赤色、黒色、灰色、茶色……。

 

 

 

 視線は目の前にいる○○さんだが、視界の隅にぼんやりと5人の少女たちが入る。

 

 

 

 

 ………え。

 

 

 

 ひまり、巴、蘭、モカ、つぐみ。未来のAfterglowだった。

 

 なんかこっち見てない?こっち見んな。気になっちゃうだろ。あこちゃんいなくてある意味助かった。いたら、「闇のお兄ちゃん」待ったなしですわ。

 

 

 

「………という事なんだ」

 

 

 

 やばい。話、全然聞いてない。

 

 

「はい」

「スカウトといっても名ばかりだから、オーディションを受けてもらうことになる」

 

 

 

 1時間後

 

 

「………他に質問とかある?」

「大丈夫です」

 

 

 最初は彼女たちの視線が気になったが、途中から話を真剣に聞いた。

 

 話によるとオーディションは一次審査の書類審査、二次審査の会場面接。所属オーディションという事で一番重要なのが場面接なのだと言う。スカウトされた人も一般の人も同じオーディションらしい。スカウト組は書類審査がほぼパスされるようなものだが、落とされることもあり。

 

 

「君が芸能界に興味持ってもらえて嬉しいよ。これからどうするかは君次第だ」

「まずは両親と話し合って決めたいと思います」

「……そうか。オーディションで待ってる」

 

 

 

 店を出た後、彼はそう言って去って行った。

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

「父さん、母さん。俺、決めたよ」

 

 父さんと母さんにスカウトされたこと、オーディションのこと……そして、今日、話を聞いて来たことを打ち明けた。

 

 

「俺、芸能界に行きたい」

「「………」」

 

 

 こちらを静かにじっと見つめて来る二人。

 

 

「………本気なんだな?」

 

 

 まず口を開いたのは父さんだった。

 

 

「……ああ」

「……そうか、なら俺からは何も言わない。ちゃんとした話は受かって所属するとなってからだ。そうじゃないと話にもならないからな」

「分かった」

 

 母さんは……

 

 

「光夜が決めたことなら何も言わないわ。ただ、光夜が決めた道を親として、母親としてその背中を押すだけよ。応援してるわ」

 

 

 

「父さん、母さん……ありがとう」

 

 

 

 香澄と明日香には言わないつもりだ。所属できるかどうか分からないし、反対しそうだ。

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 羽沢珈琲店

 

 

「なあ、あの人って前に……。」

 

 入店して来た男2人組を見て、巴が指をさして言う。それにつられるかのように蘭、モカ、ひまり、つぐみが見る。

 

「あっ、あの人って……」

「うん、あこちゃんが迷子になった時の……」

 

 光夜にひたすら頭を上下させて謝っていた少女、つぐみが気づく。少し遅れてひまりが言う。

 

「……ッ!?」

「あ〜、これはアレを思い出してますなぁ〜」

 

 何かを思い出したかのように顔を真っ赤にする蘭。その理由が分かったモカ。全員、光夜のことは覚えているようだ。

 

「蘭ちゃん?大丈夫?」

「……ぅう」

「これはダメですなぁ〜♪」

 

 つぐみが声をかけるも蘭は依然として顔を真っ赤にしたままだ。モカはモカでこんな状態の蘭を見て、楽しんでいる。

 

「おい、今の聞こえたか?」

「え、なになに!何だって?」

 

 聞き耳を立てていた巴が他のみんなに聞く。ひまりは勿体ぶるなよと言わんばかりに巴に近寄る。

 

「ひ、ひまり、近い」

「ご、ごめん。それで?早く!」

「あ、ああ。あの人·······戸山さん、なんか芸能界に誘われてるっぽいぞ」

 

 

「「「「………えっ!?」」」」

 

 

 そんな感じで巴たちの会話は続いていった。その中で蘭だけは、光夜が羽沢珈琲店から出た後も顔が真っ赤だったそうな。

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 芸能界へ行くと決めてから2カ月後。

 

 

 オーディションに合格して、○△○芸能事務所に所属が決まった。

 

 

 

 所属オーディションの開催日は思っていたより早くて、自己紹介なるモノの自己ピアールを書くのに悩んだ。とはいえ、所属オーディションまでにこれといった事は何もしていない。一次審査は本当に難なく通過した。これはある意味、他にも通過した人が多いという事だろう。二次審査は面接で、一次審査の時に書いた自己紹介アピールなるモノを5人の面接官たちが見て、質問をする。最初はグループ4〜5人で面接するのかな?と思っていたら十数人ぐらいしかいなくて驚いた。どうやら一次審査の書類選考で多くの人が落とされているらしい。

 

 そして、まさかの1人ずつの面接である。ふぇぇ、5対1なんて圧迫面接だよぉ。

 

 「君は芸能界で何がしたいのかね?」と聞かれた時、「キラキラドキドキしたいです!」って頭に思い浮かんだのはなんでだろ?言ったらヤベェやつだ。

 

 当然言うはずもなく「ステージに立って歌いたい(やりきりたい)です!」って答えたよ。下手な言葉(建前)をつらつらと述べるより正直に思っていることを話した。それはつまり歌手になりたいと目の前の面接官たちに言っているようなもので、その後は圧迫面接というに相応しい嫌みな質問をされた。

 

 最後に「自己PRを3分間して下さい」と言われた時は本気で焦った。えっ、自己PR!?3分もなんて聞いてないんですけど!一次審査で書いた自己PRの内容だと1分どころか10秒も待たない。焦っていろいろと頭がこんがらがった結果、俺は歌うことにことにした。席から立ち、アカペラで歌い始める。歌い終わると軽く拍手を送られた。間奏なしでも3分は軽くすぎてしまったが、特に問題はなかったようでそこで面接は終了した。

 

 帰宅してから、俺はふと気になりスマホで「オーディション面接 自己PR」と検索してみたら。出てくる出て来る。自己PR話す内容は自分の短所を入れつつ、長所をたくさん語れ?書類の方にも自己PRめちゃ書く?いやいや、そんな書くことないから!ということは俺の他に面接した人は有る事無い事を話していたのか。「私の長所は○○です」の受け答えしろと?そんな模範的回答で受かるほど芸能界甘くないと思う。

 

 次に「自己PR 歌う」で検索する。自己PRで歌ったり、演技するのは定番なのだそうだ。あ、定番みたいでめちゃくちゃほっとした。それもそうか、何が悲しくて自分の長所と短所を淡々と語らねばならんのだ。なんか納得。他の人も歌うか演技してたのね。

 

 二次審査の面接から1週間後、俺の携帯に合格という知らせが舞い込んで来るのだった。その日の夜に父さんと母さんに合格したと告げたら、二人は物凄く喜んでくれた。それから両親と共に事務所に行き、事務所登録を済ます。それと同時に契約の話をされ、高校卒業までにどうなるか分からないということで3年の契約を結んだ。

 

「やっとスタート地点ね」

「ここからが本当の勝負だぞ」

 

 

 本当にここからが勝負だと思う。なぜなら、この大手芸能事務所と言われる○△プロダクションは少し特殊なのだ。

 

 

 事務所登録の時に聞いた話だと・・・

 

 

 

 一般的な芸能事務所の所属するまでは

 

 

 一次審査(書類選考)

   ↓

 二次審査(面接)

   ↓

 三次審査(演技など)

   ↓

   所属

 

 

 

 一次審査は多くの者が通過するものの二次審査の面接で落ちる。あまりにもオーディションを受ける人が多いため、三次審査までやってふるい落とすのが普通だ。モデルならモデルのオーディション、歌手なら歌手のオーディション。各分野のオーディションが別々なのだ。

 

 

 

 それが○△プロダクションでは・・・

 

 

 一次審査(書類選考)

   ↓

 二次審査(面接)

   ↓

   所属

 

 

 であるのだ。

 

 

 

 ○△プロダクションでは一次審査で多くの人を落とす。それはもう容赦なく。そして、二次審査でも審査員の求む基準に達していなかったら落とす。厳しめではあるが、ある程度の最低基準を満たさないとダメということだろう。モデルや歌手、俳優のオーディションとかの分野に分けず、ただの所属をかけたオーディション。このことから少しでも芸能人の卵を確保したいことが分かる。

 

 しかし、あくまでこれは所属オーディションであり、芸能人の仲間入りとなるわけではない。芸能人となるチャンスが与えられるだけであり、それを掴み取るのは己の運と実力だ。○△プロダクションでは、所属してから本人の希望するところに割り振りされる。モデルならモデルの勉強とレッスン、歌手なら歌とダンスのレッスン。所属後にすぐに仕事が舞い込んで来ることはないので、チャンスが来るまでは養成所などで自分のスキルを磨くという。

 

 

 こうして無事に所属し、俺の芸能界デビューに向けた日々が始まるのだった。

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 

 所属してから1ヶ月、歌とダンスのレッスンをしている。歌はビブラートを自然な感じで出すことを目標にして頑張っているところだ。特にダンスは悪戦苦闘中、難しいよぉ〜。レッスンがある日は、香澄には部活や習い事があると嘘を言っている。所属してるのバレたら大変だ。明日香はどうしたって?

 

 

 

 

 明日香に………バレました!うん、それはいろいろとね(白目)。結局、すべて話すことになったし。

 夏休み最後の週の日曜日。事務所の方から話があるということで、俺は事務所に来ていた。エントランスで担当の人を待っていると、プラチナブロンドの髪を靡かせた少女がこちらに近寄って来る。

 

 

 

 

 

 ああ、彼女だ。

 

 

 

 

 

 

「お、お兄さん!?」

 

 

 

 

 

 実に4年ぶりの再会かな?再会を喜ぶ前にまずは……

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶり、ちーちゃん」

 

 




芸能事務所の名前


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再会のちーちゃん

この話入れるのを完全に忘れてました。短いです。


「久しぶり、ちーちゃん」

「お、お兄さん!?」

 

 

 最初で最後に会ったのは4年前。とはいえ、お互い成長している。ちーちゃんは子役でテレビや雑誌などで見かけるから俺は分かるが、ちーちゃんはよく俺だと分かったな。

 

 この4年間で身長も伸び、顔つきも多少は変わっていると思うんだが……。あぁ、多少じゃ普通に分かるか。

 

 

 4年前と比べてちーちゃんはさらに可愛くなった。その成長はテレビなどで見ていたから言うまでもない。

 

 こうして面と向かってみると彼女の凄さが分かる。可愛いのはもちろん、彼女から漂う雰囲気が凄い。

 

 雰囲気……否、オーラというべきだろう。

 

 オーラと言えば未来(原作)での彼女は芸能人オーラがだだ漏れのため、変装してもすぐ身バレしていた。

 

 

 このオーラが5年後にはもっと凄くなるというのか!?

 

 

 ………恐るべしちーちゃん。

 

 

 4年前はショートボブ、それが今では肩口にまで伸びたプラチナブロンドの髪、ミディアムを通り越しセミロングとなっていた。身長は140cm前半といったところか?俺が現在の身長が約174cmでちーちゃんの身長は俺の胸元あたりだ。

 

 

 身長が大きいと、どうしても目線が顔より下に行ってしまうことがしばしばある。

 

 

 

 身長の差からして仕方ないよね?と思いたい。

 

 

 

 先ほどチラッと見たが、ぺた〜んとしていた。何がとは言わない言えない。

 

 

「ど、ど、ど、ど、どうしてお兄さんがここに?」

「うん、まずは落ち着いて?」

 

 「ど」が前に4つ付くくらい、ちーちゃんの心の中では動揺しているらしい。

 

「すぅ、はぁ。そ、そ、それでお兄さんはどうしてここに?」

 

 うん、まだ落ち着かないね。

 

「スカウトされてね」

「え?お兄さん、スカウトされたんですかっ!?」

「うん、それでオーディション合格して、ここに所属したのは1カ月前だよ」

「え、え?…………え?」

 

 

 どうやら思考が追いついていないようだ。

 

 

「というわけで事務所の先輩として、芸能界の先輩としてよろしくね。ちーちゃんセンパイ(・・・・)?」

「……はっ!?か、からかわないでください!」

 

 お、思考が追いついてきたか?でも、実際に先輩となるわけだから間違ってはいない。デビューしてないけどね。

 

「っと、その前に改めて………久しぶり、ちーちゃん」

「はい、お久しぶりです。お兄さん。」

 

 うん、こういうのは大事だよな。特に再会した時には。

 

「それでさっきの話なんですけど、事務所に所属って本当ですか?」

「本当だよ、事務所登録も済んでる。今日は話があるって言われてここに来てるんだ」

「す、凄いです!」

「…………へ?」

「ウチの事務所って所属オーディションが厳しいことで有名なんです。それをお兄さんは合格したんですよね?凄いです!」

「ありがとう、ちーちゃん。けど、まだ所属しただけでデビューしてないから………」

「それでもです!」

 

 オーディションの厳しさに関しては、オーディションなどで役をもぎ取って来た彼女がよく知っているだろう。それと同時に芸能界で生きていくという厳しさも……。

 

 

 所属することでスタートラインに立てる。

 

 

 しかし、所属しているだけではデビューしない限り、ずっとスタートラインに立ったままだと思っている。いくらレッスンで歌やダンス等の実力をつけようとも、それを活かす場所がなければ無意味に等しい。全部が全部、無意味とは言えないが芸能界においては無意味だということを言いたい。

 

 

 だからこそ、俺は所属しているからといってうかうかしていられない。スタートラインに立ったまま他の人芸能人の後ろ姿をいつまでも見ているのは………ごめんだ。チャンスはいずれ掴み取って見せる!

 

 

「ごめん、ちーちゃん。話したい事はたくさんあるんだけど、そろそろ約束の時間で行かなくちゃ行けないんだ」

 

 ちーちゃんと再会したというのに、すぐにさよならをしないといけないんだなんて………。

 

「あ、あの、その、連絡先を教えて下さい!」

 

 勇気を振り絞って言ったであろうその言葉にちーちゃんは顔を真っ赤にしていた。手にはいつのまにか取り出した携帯を持っており、その手は少し震えている。

 

「うん、いいよ」

 

 ちーちゃんとL○NEの連絡先を交換する。ちーちゃんの名前はChisatoとなっていた。それにしても、ちーちゃんはもう携帯持ってるんだね。芸能人だし、何かあった時に困るから持っているのは当たり前か。でも、羨ましい。俺は去年に携帯買ってもらってからまだ1年も経っていないのに……。

 

 とりあえず、後でChisatoはちーちゃんに変えとくか。

 

「ありがとうございます。そ、その、たくさん連絡してもいいですか?」

「うん、いいよ」

 

 同じ事務所にいても会う確率なんて低いからな。また面と向かって会うのはいつになるか分からないが、連絡先を交換したなら特に問題もないだろう。

 

 

 

「じゃあ、ちーちゃん。またね」

「はい、後で(・・)連絡しますね」

 

 

 

 

 さて、俺は用件を済ましに行きますか。

 

 

 



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戸山明日香

アニメ見てると明日香の周り全員がバンドしているから、明日香自身何か思うことありそうだなぁと考えている今日この頃。
ひと月経ってたらアンケート1100超えてました。ありがとうございます。


 わたしには兄と姉がいる。わたしは戸山家次女で一番下の末っ子だ。

 

 お兄ちゃんは私より6つはなれてて、お姉ちゃんとは1つだけはなれている。お兄ちゃんが6つじゃなくて、2つ。

 お兄ちゃんの年れいがお姉ちゃんの1つ上だったらよかったのになあ……そうすれば一緒に学校に登校したり、下校することができたのに。

 

 とにかく、小学校に入る前のわたしはお姉ちゃんがうらやましかった。

 

 起きてからお兄ちゃんと一緒に登校、たまに一緒に下校。四六時中、お兄ちゃんといっしょいるお姉ちゃんがうらやましかったんだと思う。

 

 この前、お姉ちゃんが

 

「あの時のあっちゃん、すごかったよね。涙をぎゅーん、ぎゅわーんって叫んでて」

 

 と言ってたけどわたしはそのことはあまり覚えていないし、何より説明が雑。ただ、すごくかなしかったことは覚えている。

 

 わたしのことをからかうお姉ちゃんだって、よく泣いてたじゃん!お兄ちゃんが林間学校や修学旅行でいない時に泣いてわたしに抱きついてきたり、おもちゃ壊したらいつも泣いてたり……。一度だけ、お姉ちゃんから借りたおもちゃこわしちゃったことあって、あの時は大変だったな……。

 

 あと、いっしょにいたというより、お姉ちゃんがお兄ちゃんにベタベタでひっついてたと言うべきかな。わたしもお姉ちゃんと同じことしてるのはナイショ。

 

 それぐらいわたしもお姉ちゃんもお兄ちゃんが大好きなのだ。もちろん、お父さんとお母さんも大好きだよ!お姉ちゃんとは、よくお兄ちゃんのことでケンカすることもあるけど、仲はとてもいい。

 

 いつも後ろなんて気にせずに走ってるお姉ちゃんだけど、わたしに知らない世界を見せてくれる。まあ、見せてくれるの前に『巻き込んで』が付くけどね。泣かされることもあるが、不思ぎといやと思ったことはない。

 わたし自身、ちょっと引っこみ事案なのかなぁって自分でも思うことが少しあるから、何事にも前に走って行くお姉ちゃんのことはそん敬している。でも、走っては転でるお姉ちゃん。

 

 

 

 わたしはそんなお姉ちゃんが大好きだ。

 

 

 

 

 わたしにとって、お兄ちゃんはかっこいい自まんの兄だ。

 

 

小学4年生になって、よく兄や姉のいる友達がきらい、うざいみたいなことを耳にするようになったけど、わたしは一度もお兄ちゃんのことをうざい、きらいなんて思ったことはない。

 

 だって、わたしとお姉ちゃんの自まんの兄だもん!

 

 とくにお兄ちゃんの歌と弾くピアノは好きだ。それと週に1回は行くカラオケはわたしの密かな楽しみ。お兄ちゃんの弾くピアノをBGMに読書すると、集中できて大好きなの。たまにピアノの方に耳がかたむいちゃうけど。

 

 やさしくてほとんど何でもできてかっこいいお兄ちゃん!

 

 

 

 わたしは、そんなお兄ちゃんが大好きだ。

 

 

 

 そういや、お兄ちゃんはさいほうと料理が苦手って言ってたっけ?

 

 

 前にお兄ちゃんでも苦手なことあるの?って聞いたことあるんだよね。その時、お兄ちゃんは「できないというか苦手な事ならたくさんあるさ。さいほうと料理、絵とか他にもたくさん」と言っていた。

 

 わたしが得意なことと言えば、水泳かな?幼稚園の頃から習い始めたスイミング。気づけば泳ぐことが好きになっていて、今では胸をはって得意と言えるようになっていた。

 

 他になにかあるかと聞かれれば今はまだない……かな。そのうち他にも無中になれること見つけたい!

 

 今は小学4年生で、あと2ヶ月で5年生だ。5年生になったらわたしもさいほうを家庭科でやるからお兄ちゃんが苦手だと言うさいほうは不安かな?お姉ちゃんはさいほうが好きらしい。

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 

 お兄ちゃんとお姉ちゃん、2人とも様子がおかしいと思ったのはいつからだろう?

 

 

 まず、先に様子がおかしいなと思ったのはお姉ちゃんだ。

 

 お兄ちゃんがけい帯を買ってもらった時かな?あんなにお兄ちゃんにべったりだったのにあの日とつぜん、お姉ちゃんはお兄ちゃんをさけるようになった。あの時はわたしもお姉ちゃんと同じようにして、お兄ちゃんがカメラでとろうとしてたのを

 

 去年、わたしが小学3年生になって1ヶ月ぐらいすぎた頃。家に帰るといつも元気ハツラツのお姉ちゃんの姿はなく、どこかがまんしていて今にも泣き出しそうな様子だった。心配して声をかけたらお姉ちゃんは「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」と言って去っていった。

 

 それ以来、わたしはお姉ちゃんのその姿を見ていない。

 

 きっと、その時のわたしはお姉ちゃんでも何かいやなことでもあったのかなぁとしか思っていなかったのだろう。

 

 お姉ちゃんに異変があったら、まずお兄ちゃんが絶対に気づくはずなんだけど、この時はまだお姉ちゃんはお兄ちゃんをさけていたから、わたしも家族全員、お姉ちゃんがああなるまで気づかなかったのだ。

 

 最近になって、お兄ちゃんとお姉ちゃんが仲直り?というよりかは元通りになった。1年以上の間、お姉ちゃんの中の何がお兄ちゃんに対して素っ気なくしていたんだろう?何度も聞いてもお姉ちゃん、教えてくれないから余計に気になる。

 

 でも、元通りと言っても大分変わった。お兄ちゃんと一緒に寝ないのと四六時中、お兄ちゃんにくっつかなくなったこととか。

 

 そのせいでお母さんから「明日香もそろそろお兄ちゃんと一緒に寝るのやめなさい」と言われてからは自分の部屋で寝ることになった。今でもたまにお兄ちゃんの布団にもぐりこんでる。これがなかなか止められないのだ。お兄ちゃんの布団にもぐりこんで寝たことをお姉ちゃんが知るとだいたい口ゲンカになる。

 

お姉ちゃんもずるいって言うくらいならすればいいのに。

 

 そして、お兄ちゃん。お姉ちゃんの一件が解決したら次はお兄ちゃんだった。

 

 お兄ちゃんが高校に入ってから1ヶ月ぐらいたったころ、お兄ちゃんの様子が一変した。

また、私の中のお兄ちゃん像が変わった時でもあった。今までの私の中のお兄ちゃん像はちょっと苦手なこともあるけど、なやみ事もない完ぺきで頼れるかっこいいお兄ちゃんだったのが、頼れるかっこいいお兄ちゃんになった。

 

 

 それに変わったのはお兄ちゃんがぼそっと私に話してくれた時だ。

 

 お兄ちゃんの様子が一変して数日は話しかけてもぼーっとしていたり、わたしが近づいても気づかないことが多かった。

 

「お兄ちゃんどうしたの?」と聞いても「何でもないよ」を繰り返すだけ……。1週間も同じなんでもないよと繰り返すお兄ちゃんにちょっと……ううん、すごくイラッとしたわたしは言い放った。

 

「なんでもないわけないじゃん!なんでもないならいつものお兄ちゃんのはずでしょ!?全然いつものお兄ちゃんじゃないよ!」

 

 この時のお兄ちゃんはわたしが怒鳴るように言ったのが意外でおどろいたらしく、少しだけ話してくれた。これからのしょう来が不安であること、お兄ちゃん自身何をしたいのかということなど。お兄ちゃんの話を聞いてわたしはしょう来について少し考えてみた。

 

 けれど、わたしがしょう来、何をしたいのかなんて分からないし、思いつかない。いいなぁと思うことはあっても、これだ!って言う夢はない。

 

それをお兄ちゃんに明かすと

 

「明日香はまだまだこれからだよ、たくさん考えて悩むといいよ。お兄ちゃんと同じ歳になったら、いろいろ考えることや見えるものがあるから」

 

 

 と言ってた。

 

 うーん、そういうものなのかなぁ。確かにお姉ちゃん見てるとしょう来のこと考えてなさそう。キラキラドキドキしたいですって言ってるし……。キラキラドキドキとは???ちょっとわたしには何言ってるか分からないんだよね。お姉ちゃんはだいたい例え方がぎゅーんだとかぐわーん、ざびゅーんやばびゅーんとかで何言ってるのか分からない。絶対に言うのが、キラキラドキドキ。それらをお兄ちゃんは香澄語って呼んでたっけ?

 

 

 まあ、それはいいや。

 

 

 その後は、いつものお兄ちゃんに戻った。そう、このあたりでお兄ちゃんがお姉ちゃんが元通りになってて驚いたんだよ!お姉ちゃんがお兄ちゃんになんかベタベタしてたからあれ?いつの間にって思ったんだ。お姉ちゃんに聞いても「ないしょ〜」としか言わないし、お兄ちゃんはお兄ちゃんで「ごめん、俺にもよく分からないけど香澄が元に戻って?嬉しいよ」と言う始末だ。

 

 もう意味わかんない。

 

  2人とも何があったのかちょっとしか知らないし、詳しくは教えてくれないんだもん。特にお兄ちゃん、高校の文化祭が終わってから何かがぜ〜ったいに変わった。ドラマでよく見る覚ごを決めた顔みたい。

 

 お兄ちゃんの通ってる高校の文化祭に行ったことは楽しかったな。後にその文化祭の後にやるこうやさい?ってやつでお兄ちゃんが歌ってる動画を見た時はすごくおどろいた。その動画はお母さんが見せてくれて、わたしとお姉ちゃんは何十回も再生してたと思う。

 

 見た後、お兄ちゃんにお姉ちゃんと問いつめたら……

 

「急に決まったことだったし、は、恥ずかしかったんだよ。それに後夜祭は一般の人は見れないから」

 

 とのこと。でも、教えてくれたっていいじゃん。あ、でも、知ったら知ったでめちゃくちゃ聞きたくなるね……。それと動画はお兄ちゃんの高校の友だちがとったやつらしい。その人に感謝だね!

 

 

 

 

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 夏休みがあと少しで終わるころ、わたしは見てしまった。

 

 

 たまたま、リビンクの机に置いてあったお兄ちゃんのけい帯。わたしが近よるとピロンと音が鳴り、画面にはちーちゃんと表示されメッセージ内容はお兄さん、今度の仕事に………とあった。とちゅうで切れてて全部までは分からない。

 

「ちーちゃん?だれ!?というか、お兄さんってどういうこと!?」

 

 わたしの頭の中は理解が追いつかなくて、ごちゃごちゃだ。

 

「あっ、携帯そこに置いてあったのか」

 

 リビングへけい帯を探していたらしいお兄ちゃん。ちょうどいいタイミングだ。

 

「お兄ちゃん、ちーちゃんってだれ?」

「あー、うん……やべ」

「なにがヤバいの?ねぇ?」

「ちょ、ちょっと明日香ちゃん?こ、怖いよ」

「いいから、教えて!?」

「いいんじゃない?光夜、教えても。遅かれ早かれ言わなきゃいけなかったんだから」

 

 

 わたしとお兄ちゃんのやり取りを、ずっと見ていたお母さんがようやく口を開いた。

 

 

 言わなきゃいけないこと?それってどういう……

 

 

「そうだな、明日香には先に話しておくかな」

 

 

 すると、お兄ちゃんのけい帯が鳴った。けい帯の着信音だ。

 

「もしもし……」

「もしもし、お兄さん……えっ、どなたですか?」

「戸山明日香です」

「あ、ちょ!?明日香?!」

 

 わたしはお兄ちゃんのけい帯の通話のボタンを押して、電話に出た。お兄ちゃんがわたしを止めようと、けい帯を取り返そうとするがわたしはにげながら会話する。逃げながらけい帯を耳に当てるのはきびしいから、スピーカーのボタンを押す。

 

 

「明日香ちゃん?よくお兄さんから話は聞いてるわよ。ふふふ、可愛い自まんの妹さんだって」

「えへへ……」

 

 はっ!いけないいけない。

 

「お兄さんってどういうことですか?あと、お兄ちゃんとどんな関係ですか?」

「あら、お兄さん。明日香ちゃんたちにまだ何も話してないのかしら?」

 

 

 それは今まさにこれから聞こうとしてたことだ。

 

「聞こうとしたら今、電話がかかってきて……」

「そうなのね、いずれ明日香ちゃんたちとゆっくりお話したいわね」

「はい、しましょう」

 

 

 お話のところだけ、ちょっと声が低くなった気がした。わたしもちーちゃんという人も話があるのは同じ。

 

「あっ……」

「ちょっと明日香、何勝手に話して……」

 

 お兄ちゃんにつかまり、けい帯は取り上げられた。

 

「え?また後でかける?うん、分かったよ。うん、じゃあまた」

 

 お兄ちゃんは電話を切ると、わたしの方を向いた。

 

「何を話してたの?」

「ないしょ」

「oh......」

 

 その後、お兄ちゃんはお母さんも交えて話してくれた。お兄ちゃんが前に話してくれたしょう来についてのこと。

 

 それは芸能界に入るということだった。芸能界ってやっぱりテレビに出たりして、有名人になるってことだよね。

 

 一番わたしが気になる、ちーちゃんって人は子役で有名な白さぎ千聖という人だった。テレビで何回か見かけたことあるからわたしでも知ってる人だ。仕事の関係で話すことも多いらしい。本当かなぁ?

 

「うん、わたしは応えんするよ!」

「ありがとう、明日香」

 

 それならそうと早く言ってくれたらいいのに。

 

 お兄ちゃんが芸能界で夢をかなえたいと言うならわたしは応えんしてるよ!お姉ちゃんはどうだろ?反対しそうだよね。

 

 

 とりあえず、白さぎ千聖さんとは一度話す必要があるね。これはお姉ちゃんにも報告かなぁ。



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予期せぬ邂逅

 うん、どうしてこうなった?

 

 現在、俺の心の中はその疑問で埋め尽くされている。何度、その疑問を抱こうともこの事実が変わることはなく、ただ目の前の光景を受け入れるしかない。

 

 それは……うちに白鷺千聖こと、ちーちゃんがいることだ。

 

「「ず、するい!」」

「ふふ、ほんとにお兄さんのことが大好きなのね」

「「大好きっ!!」」

「ふふふ」

 

 先ほどまで「お兄さんってどういうこと!?」「お兄さんはお兄さんよ」と互いに譲らない言い争いだったのに、いつの間にか俺について話して盛り上がってるし……。それにしても香澄とちーちゃん、2人が出会うのがあまりにも早すぎる。

 

 

 確か原作で香澄とちーちゃんが出会うのは、メインストーリーでライブハウス『CiRCLE』のイベントを成功させるためにバンドの出演者を探すところで各バンドのメンバーと出会う話だったはずだ。でも、メインストーリーで他のメンバーと初対面なのは矛盾が生じる。矛盾なのはメインストーリーとイベントストーリーの時系列だ。花見や天体観測イベントなど天体観測は何月なのかははっきりしないが、会話内容からまだ初めの方。花見イベントに限っては4月。それも入学してまもなくだと思われる。花見イベントCiRCLE以外で云々みたいな会話があり、そう考えると完全に時系列がおかしいことが分かる。ポピパが初めて5人として結成するのは文化祭であり、その前にいろいろと結成するまでに話がある。

 

 

 それがポピパ0章であり、アニメ(原作)の内容だ。

 

 

 メインストーリーの方で香澄がRoseliaを思い出す時に、グリグリのこともちゃんと言っていたからライブハウス『SPACE』が閉まった後の話であることは間違いなさそうなのだが、イベントストーリーの時系列のせいでごちゃごちゃである。時系列どうなってんだよって話だ。

 

 結局、そのあたりはいくら考えても解決する術がないので、ゲームのイベントだったということで無理矢理理解した。だって、わかんないんだもん。というか以外に覚えているものだな。話とその会話の内容はある程度覚えているのに、曲の方はもうほとんどうろ覚えだ。

 

 それにしても明日香にちーちゃんを呼ばれるとは思いもよらなかった。まさに青天の霹靂というやつだ。いや、俺が携帯をそのまま放置したのが悪いんだけどさ。まあ、戸山光夜という存在が影響を及ぼすことは分かってはいても香澄たちとちーちゃんの邂逅はこう、斜め上というか変化球というか……つまり、予測不可能だったわけですよ。俺が芸能界に行く、ちーちゃんと同じ事務所という時点でその可能性を視野に入れておくべきだったのかもしれないな。いや、元々その考えですら至っていないから視野に入れるも何もないな……。

 

 何より一番驚いたのは、明日香にバレて芸能界やその他諸々話すことになっただけではなく、まだ話すつもりもなかった香澄にまでバレたのだ。そりゃあバレるよね、明日香に話したんだから。釘も刺していないし。きっと俺がちーちゃんと電話している間、香澄に話したに違いない。遅かれ早かれ香澄には話す必要があったし、話す機会を得たと思えばいい。

 

 

「はぁ……」

 

 

俺はため息を吐きつつ数日前のことを振り返る。

 

 

 

 

  ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 俺は明日香に事情を話した。

 

 

「うん、わたしは応えんするよ!」

「ありがとう、明日香」

 

 

 てっきり俺は「ダメ!」と頑固反対されると思っていたのが、それは杞憂だったようだ。明日香は俺の芸能界入り、夢を応援してくれた。話を終えると明日香はリビングから出ていった。パタパタと階段の音がするから、2階へ行ったのだろう。

 

「さてと……」

 

 俺は携帯を手にし、ちーちゃんに電話をかける。ちーちゃんは後でかけると言っていたが、メッセージより直接話した方が手っ取り早い。ワンコールでちーちゃんは出た。

 

「はい、もしもし」

「もしもし、ちーちゃん?今、大丈夫かな?」

「あ、お兄さん!大丈夫ですよ」

「さっきはごめんね、電話に明日香が出ちゃって……」

「いえ、わたしもお兄さんから香澄ちゃんと明日香ちゃんの話を聞いてから一度、話してみたいと思ってたんですよ!」

「Oh……」

「……?大丈夫ですか?」

「あ、うん。大丈夫だよ」

「それで今度、ちゃんとお話したいので香澄ちゃんと明日香ちゃんに会わせてくれませんか?」

「え?うん、いいけど……」

 

 

 軽く雑談した後、会話は終了した。特に断る理由もなく、会わせる約束をした。元は俺が携帯を放置したことが原因だし、明日香がちーちゃんと話をしてる時点である意味詰んでいるようなものだ。ただ、これを香澄にどう説明したものか……。

 

 すると、バンっとドアから大きい衝撃音が鳴り、ぐいぐいと香澄が詰め寄ってきた。鬼気迫る勢いだ。

 

「お兄ちゃんっ!?」

「うぇ!?」

「どういうこと!?」

「あ〜」

「お兄ちゃん、芸能界行くの?ちーちゃんって誰?どうして家に来るの?」

「あ〜」

「お兄ちゃんっ!!!」

「わかった!わかったから落ち着いてくれ。ちゃんと説明するから」

 

 俺は香澄には芸能界入りやちーちゃんのことについては何も話していない。数ヶ月前までは香澄が反抗期とも呼べる態度だったからさ。反抗期の理由は聞いても「教えない」の一点張りであった。前ほどベタベタはしなくなったが、またお兄ちゃんお兄ちゃんと呼んで慕ってくれるのは嬉しい。最近は明日香の反抗期がいつ来るかビビりながら過ごしてるのは内緒である。

 

「それでどうしてお兄ちゃんは芸能界行きたいの?」

「それは……」

 

 俺は香澄に、端折らずにきちんと説明した。きっかけから現在に至るまでを。

 

「そっかー、そうなんだ」

「………」

「お兄ちゃん。別にわたし、怒ってるわけじゃないんだよ?でもね、何も言ってくれないことが悲しいの」

「はい、すみません」

「お兄ちゃんがお姉ちゃんに説教されてる」

 

 2階から降りてきたらしい、明日香が口を挟む。

 

「お兄ちゃんはあっちゃんがわたしに教えてくれなくても、話してくれた?」

「ははは……」

「お兄ちゃん?」

 

 香澄の声音が低くなる。

 

「うん、話すつもりはなかったよ」

「なんで?」

「反対されると思ったから」

「お兄ちゃんの夢だよ?応えんしないわけがないよ!」

「それってつまり……」

「うん、わたしも応えんするよ!当たり前だよ!」

「ありがとう」

「ま、わたしはお姉ちゃんはそう言うと思ってたけどね」

 

 俺は安堵した。明日香同様、本当に杞憂に過ぎなかった。

 

「でもね、白さぎちさとさんのことはダメだよ」と香澄が言う。話が終わるかと思いきや終わらない。デスヨネー。

 

「うん、お兄ちゃんの芸能界のことも大切だけど。その人のこと聞くために、直接呼んだの」と明日香。

 

「お兄ちゃんとその白さぎちさとさん?って人とどんな関係なの?」

「お姉ちゃん。その人はね、有名な子役で私たちが小さい頃にはもうテレビに出てた人なんだよ?」

「え、テレビに?すごい!」

 

 香澄より明日香の方がよく知っているな。香澄はどうしても気になること興味があること以外は知らなくていいやって感じだからなぁ。反対に明日香は気になることは当然、知らないことを知ろうと探求する。明日香は最近、アニメではなくドラマを好んでみることからちーちゃんを知ってることにも頷ける。ちーちゃん、結構出てるからね。

 

「はぁ、お姉ちゃん、きょう味ないことはとことんきょう味ないもんね」

「そんなことないよぉ〜」

「ある」

「ないよ!」

「ある!」

「ない!」

「あのぉ〜」

「「お兄ちゃんは黙ってて!!」」

「……はい」

 

 2人とも先程まで俺を問い詰める勢いだったのが、いつのまにか姉妹の口喧嘩になりかけている。

 

「あっちゃんだって、すぐ横になったりすんじゃん!食べてすぐ横になったらブタさんになるんだよ?」

「なっ?!今は関係ないよっ!!」

「ある!」

「ない!」

「あるっ!」

「ないっ!」

 

 完全に空気と化した俺はしめしめと思いながら、この場から立ち去った。後がものすごく怖いが今は退散するのが吉だ。その後、再び問い詰められたのは言うまでもない。

 

 

 

 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 

 

 それでその次の日に買い物に行ったら偶然、ちーちゃんとちーちゃんの母と会い、うちの姉妹とちーちゃんの睨み合いが始まったんだよな。それとは反対に母たちは会話に花を咲かせて意気投合してるし。幸いにして、ちーちゃんの妹のみーちゃんがいなかった。あの時、彼女がいたら戸山姉妹VS白鷺姉妹による戦いが始まること間違いなしだろう。俺が傍観に徹していたら、この人数でお茶するのも何だからと知らぬ間にうちの家に来ることが決まった。

 

 そして、現在に至る。

 

「それでそれで!」

「ふふふ、この時の写真とか……あっ」

「「おおー」」

 

 ちーちゃんは香澄と明日香の知らない俺の話題をすることで興味を引かせた。そしてらレッスン室で踊ってる俺の写真を香澄と明日香に見せていた。おい、その写真どうしたのかなぁ?

 

「ねぇ、ちーちゃん」

「は、はい」

 

 やばいって顔してももう遅いよ。

 

「その写真どうしたのかなぁ?」

「ち、ちがうんです!」

「うぅん?何が違うんだい?」

 

 優しい声音で聞いてみる。

 

「ひぃ!?お、お兄さん、笑顔がこわいです」

「そうかな?それでその写真どうしたのかなぁ〜?」

「目が笑ってないです……」

「ちーちゃん」

「はい」

「今度、それについてお話しよっか?」

「………はい」

 

 香澄と明日香をよく激写してる俺が言うのもなんだが、盗撮はいかんよ。ちなみに香澄と明日香には承諾を得て撮っている。

 

「だって、お兄さんの雰囲気がすごくて……」

「そうだよ!お兄ちゃん、ちーちゃん先輩はお兄ちゃんの芸能界について教えてくれてるんだから」

「わたしもお姉ちゃんにさんせーい!」

 

 香澄と明日香は、ただ単に練習してる写真が見たいだけでしょう。

 

「ぐっ……」

「そうですよ!」

「「そうだ!そうだ!」」

 

 ぐっ、多勢に無勢か。ちーちゃんは香澄と明日香が味方についたのか開き直ってるし……。

 

 それにしても今のちーちゃんはいい笑顔をしている。数日前まで早すぎる邂逅にどうしたものかと悩んだが、今のちーちゃんの笑顔を見ると、それはいい方に転んだと思える。だが、それでも俺からしたらまだその笑顔はどこか黒く見える。そう見えるのはちーちゃんと再会してから、彼女の行動や言動を見ているとたまに偽っているように見えた時があった。それは一度だけではあったが、彼女が目に見えて落ち込んでいる時だった。どこか陰りのある笑顔で、何かを割り切っているようで割り切れていない。簡単に言えば、分かってはいるんだけど、分かりたくないそんな顔だ。彼女がこれからどう芸能生活を経て、Pastel*Palettes結成するのかは知らないし、分からない。選択するのは彼女自身だ。前にちーちゃんに聞いた女優になった理由「表現の幅が広がれば人生が豊かになるから」という夢を応援して行きたい。

 

 実際、俺は芸能界に片足だけとはいえ入ってから、人生が豊かになったと感じる。知らなかったことできないことがたくさんあって、いろんな人と関わるようになった。今までにない自分も知ることができた。見えなかった先が見えるようになった。これまでの選択を後悔したことはない。もし、デビューできなかったとしても、脚光を浴びなかったとしても俺はきっと後悔することないだろう。だって、やらない後悔よりやる後悔をした方が絶対にいい。もうやらないだけであーだこーだ言って逃げ続ける後悔は前世だけで充分だ。だから、前へ進むんだ。

 

「本当よ〜」

「お姉ちゃんもやろ?」

「えー、いやだー」

「香澄ちゃん、ちょっとこっちへいらっしゃい」

「あっちゃん、ちーちゃんせんぱいがこわいよぉ」

 

 俺は目の前のやり取りにひっそりと笑った。

 

 願わくばこれから彼女たちの人生が幸多からんことを……なんてね。

 

 俺はそう、心の中で祈るのだった。



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