転生クー・フーリンは本家クー・フーリンになりたかっただけなのに。 (texiatto)
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転生記:ケルト神話、アルスター神話
プロローグ:クー・フーリン (上)


初めまして、texiatto(てぃあっと)と申します。本作が処女作なので暖かい目で見てくれると助かります。
また、小説投稿童貞なので諸々の設定とかもよくわかっていません。なので不備などあると思いますが、それも暖かいm(ry

あと、スマホで投稿してるんですけど、段落ごとの一文字空けが反映されないんですよね。パソコン投稿にしようかな。



ちなみに、ストックはないです()





 ◆

 

 目が覚めたらクー・フーリンだった。

 

 …………え、何を言っているのかって? 私にもわからん(人工無能並感)。一つ言えるとしたら、俺は確かに死んだはずだということだ。

 

 朝早くの起床、昨晩の残り物を胃に詰め込んで即出勤。満員電車に揺られながら人生について考え事をするというルーティン。遅くまでのサービス残業は当然として、上司の怒りと取引先の無茶な注文に頭を抱える日々。休日出勤もありまくりで有給消化率も悪い、所謂ブラック企業に務める奴隷だった。

 そんな社畜生活をすること数年、過労死だったのだろう、不意に意識が暗転した。かと思いきや、目が覚めれば古代エジプト建築レベルにまで下がった民家にいて、見知らぬ女性に抱きかかえられていた。

 最初は混乱の極みだったが、次第に、俺は赤子になっていて、しかもセタンタという名で呼ばれる男の子で、鏡に映る自分の姿が青髪赤目で、即ち幼き頃のクー・フーリンであると同時に型月世界であると理解してしまった。

 

 何故クー・フーリンに転生したのかは知らぬが、少なくともあんな社畜生活とはおさらばできるのだから、未練もへったくれもあったものではない。

 そうしてスッパリと前世を断ち切った俺は、とある目標を定めた。

 

 Fateシリーズに登場するクー・フーリンのようになることだ。

 

 Fateに登場するクー・フーリン、それは第五次聖杯戦争でランサーのクラスを依り代に現界した英雄であり、主人公の衛宮士郎が聖杯戦争に参加する直接的な要因をつくった男だ。

 聖杯戦争のシステム上、士郎とは敵同士であるのだが、好戦的な面や兄貴肌を発揮する面など、男女共に惹かれるキャラクターとして描かれている。

 主にFateルートや凛ルートで活躍を見せており、Fateを知る者でクー・フーリンを知らぬ者はまずいない。また、他シリーズにも登場しており、EXTRAや(プロトニキだが)蒼銀、Fate/GOでも馴染み深い。

 

 …………桜ルートでは、まあ、ね? 

 

 閑話休題。

 

 そんな目標とは裏腹に、前提からして壁にぶち当たってしまった。俺はケルト神話やアルスター神話には疎い。つまり、クー・フーリンという英雄は知っているし、どんな人物なのかというイメージ(型月知識に準拠)もわかるのだが、具体的にどんな人生を辿ったのかを知らないのだ。

 

 ど、どうしよう(困惑)。

 

 一先ず、積極的に鍛錬とかをしていれば大丈夫だろうか? 

 ゴールが見えないというより、明確な目標があっても辿り着くための方法を暗中模索しなければならない事実が、酷く重くのしかかる。

 

 単なる一般人が英雄になるのは、果てしない旅路のようだと感じた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 5歳になりました、もう折れそうです。

 

 何で皆が皆、力こそパワーみたいな脳筋と戦闘狂なのさ…………これがケルトか────ッ!! 

 中身が日本人だっただけに、何でもかんでも拳で解決するという風習(?)には抵抗がある。こちらが話し合いで済ませようと試みても「ほほう、さては腕に自信がないから言葉でケムに巻こうって算段だな?」って煽ってくるのが普通なのよ? おかしくない? いや、おかしい。拳のマニュフェストが許されるのはシュワちゃんだけだ! 異論は認めんッ! 

 

 そんな価値観を持っていたせいか、俺は周囲から少々浮いたポジションにいるらしい。戦闘狂の中にいる平和主義者は異端のようだ。郷に入っては郷に従えという言葉を体験することになるとは。私は悲しい(ポロロン)。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 コンホヴォル王に「鍛冶屋クランの館に行くが、セタンタも来るか?」と誘われたので、鍛錬を終えたら行くことにした。

 館に赴くと狼のような番犬が襲いかかってきたため、必死に宥めた。するとどうだ、牙を剥き出しにして威嚇してきた番犬が、尻尾をムチのように暴れさせて擦り寄ってくるではないか。やはり拳だけが相互理解の方法ではない、ということを犬相手に理解してもらえたのは、何となく複雑な心境だった。

 

 番犬と戯れていたらコンホヴォル王が焦った様子で姿を現した。どうやら、俺が赴くことをクランに伝え忘れていたことで番犬が放たれてしまっていたため、俺の身を案じてくれたようだ。が、俺が番犬と仲良く遊んでいるのを目にすると、駆けつけたクランと共に「セタンタもクランの猛犬のようだな」と笑われてしまった。

 以降、クラン家の番犬と戯れるついでにクラン家の警備をするようになった。これがきっかけで「クー・フーリン(クランの猛犬)」という名がついた。

 

 意図せずして史実通りになったようで、俺は一安心した。というか、クー・フーリンって名前の意味はクランの猛犬だったのか…………知らんかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 そんなこんなで青年期に突入した。

 

 日々の鍛錬に明け暮れていたおかげで、俺の身体は理想としてきたクー・フーリンのそれと遜色ないほどに鍛え上げられていた。以前は浮いていた俺だが、今では周囲の脳筋達よりも実力が上で、しかし力をひけらかすでもなく、むしろ戦う前に勝つ強者というポジションらしく、「怒らせるとやべーやつ」認定されていた。

 あれ、あんまり変わってなくない? 

 相変わらず戦闘狂の対応には困る俺だが、それでもクー・フーリンを目指している身だからこそ、俺へ挑んでくる奴には快く相手している。そのおかげか、俺の実力も相まって知名度が高まっているようだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 某日、ここらでは有名なドルイドのカスバトが「今日騎士になる者は長く伝えられる英雄となるが、生涯は短いものとなるであろう」という予言をしたそうだ。俺はそれを聞いて「ふーん」程度の認識だったのだが、その日の内にコンホヴォル王が俺の元へとやってきて、

 

「クー・フーリンよ、お前の噂は私の耳にも届いておるぞ! それでだなクー・フーリン、騎士になる気はないか?」

 

 と、スカウトしてきたのだ。

 

 当然、予言のことがあったから、返事はまた後日と断りを入れたかった。だが、相手はここの王様で、そんな相手にスカウトされるという名誉を受けているという時点で、断るという選択肢はなかった。

 …………だって、断ったら肉体言語による相互理解(殴り合い宇宙)が始まりそうだったから。知的な俺は、戦いを回避できるなら身を切る男なのだ(血涙)。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 騎士になってからは鍛錬に磨きがかかった。それなりの武具と施設、豊富な相手のおかげで、本来極めようとしていた槍術以外に、剣術や弓術にも造詣が深くなった。ちなみに、剣術に関してはお馴染みのフェルグスがいたため、メキメキと成長が感じられた。また、俺の鍛錬はフェルグスとしかしていなかったせいか、早くも騎士の中で上から数えた方が早い段階に上り詰めてしまった。

 

 そりゃね、いくら騎士といっても連中は脳筋なわけだから、向こうは猪突猛進か力任せ、戦術・戦略の類を敷く奴もいることにはいるが、やはり最後には「考えるよりも殴った方が早ぇや!」と言って突貫しにくるのだ。

 こちとら何年それに対応させられたと思ってんだ、と口酸っぱく言ってやりたい気待ちを抑えつつ、攻め時と引き際をしっかり見極める観察眼と瞬発力をもって対抗してやれば、すぐに崩せた。

 

 一方、フェルグスにはまだ勝ったことはなく、トレードマークたる螺旋剣を鋭く、素早く振るうそれに攻めあぐねいており、いつも敗北してしまっていた。やはり一朝一夕では努力人には敵わないか。

 

 そんなこんなで研鑽を積んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………それはさて置き、最近やたらと舐めるような視線を感じる時がある。なんと言うか、身震いしてしまう邪視? のような、SAN値チェックが入りそうな類のそれである。

 

 

 こわ。

 

 

 

 

 

 

 




「クー・フーリンになりてえなぁ」

という謎呟きから出たこの作品。たまげたなぁ。

ストックとかないですし、でもネタは頭にあるんで極力エタらないように頑張ります。


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プロローグ:クー・フーリン (下)

 ネタとモチベーションが続く限り書け!書き続けろ!

 あ、今回は魔改造済みのヒロイン(?)が登場します。

 基本的にクー・フーリンの史実を都合良く展開するために「これの方が辻褄合うかな?無理はないかな?」と考えているので、はい。


 ◆

 

 最近思ったのは、本家クー・フーリンはコミュ力お化けだったということ。何で見知らぬ相手に喧嘩ふっかけて仲良くなれるの? マジで難易度ケルティックなんだが(謎)。

 お陰様で本家クー・フーリンのような人懐っこい雰囲気だとか、軽口を叩くような言動とかができなくて辛い。現代人の倫理観とコミュ力不足をここまで呪ったことは初めてだ。この時点で再現もあったもんじゃないな…………。

 

 であれば、方向転換だ。

 

 クー・フーリンとは言ったが、ランサーの、とは言っていない(目逸らし)。コミュ力お化けは俺には荷が重すぎたんだ…………。

 今の俺のポジションや言外に優しさを滲ませるあたり、どちらかと言えば【オルタ】に近い。ちなみに凶暴性はない。とすれば、俺は中身【オルタ】のクー・フーリンとなろう、そうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 視線を感じるようになってからというもの、騎士仲間やコンホヴォル王から「お前に女はいないのか?」と頻繁に聞かれるようになった。

 生憎と生前も今世も女性には疎く、そのような相手はいない。悲しいけどこれ、現実なのよね。

 

 いや、俺はあえて彼女をつくっていないだけだ! 俺はクー・フーリンとなるべく鍛錬に集中しなければならない、そのようなことに割く時間はないのだッ! 

 的な返答をすれば、何故か騎士仲間やコンホヴォル王は冷や汗を流して引き攣った笑みを浮かべる。

 

 な、何かおかしなことを言ったか? 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 邪視の正体が判明した。

 

 それはフォルガルという人物の娘であるエメルという少女だった。スタイルは良く、身なりも可愛らしく、咲いた花のような笑みは鍛錬に疲弊した騎士仲間を瞬時に回復させるという、中々に人気の少女だ。

 

 彼女は俺が鍛錬している最中も、休日に街へと出ている時も、何故か高頻度の遭遇率を誇っていた。

 そんな少女と仲良くなっていった俺。すわ、春の到来かっ! などと期待に焦がれるのは無理だった。

 

 理由はただひとつ────邪視だ。

 

 邪視といっても、別段、特別な何かをされているわけではなく、魔術や呪いの類などでもないのだが、ハイライト先輩が死んだ淀んだ瞳で毎日長時間、しかもどこからか見られているという恐怖である。

 どうやら、俺の気配察知能力の高さが逆効果となっているようだ。さながら、野生動物の索敵範囲内に堂々と居座って、しかしそちらに目を向ければ姿を消し、気を抜くと背後に現れている。そんなイメージ。

 

 エメルから向けられるやべー視線の心当たりがなさ過ぎる俺は、毎日をSAN値チェックしながら過ごすハメになったのだが、これ何て罰ゲーム? もしかしてエメルってニャr…………

 

 

 

 ◆

 

 

 

 も、もう無理だ────ッ! 限界だッ! 

 

 俺のやることなすこと全てをエメルに把握されていた。また、騎士になってからのことも事細かに知られており、「何でも、知っていますから(暗黒微笑)」と囁いてくるのだ。

 

 周囲の品々が頻繁に紛失すると思えば、後日に紛失したはずの物が甘ったるい香りを放ち、何故か部屋に置いてあったり。

 鍛錬を終えて部屋に戻ると、何故か布団から女性の香水のような香りや人の温かみが残っていたり。

 挙句、俺がエメル以外の女性と談笑した翌日、その女性が病で倒れ、エメルから「浮気はダメですよ?」と言われたり。

 

 これアレだ、やべーやつだ。

 

 清姫とか静謐とかは、見る分には羨ましいとか微笑ましいとか言っていられるが、そんな発言は当事者でもなければ現実でもないから言えたことだった。

 これを実際にやられると精神が削られるってレベルではない。得体の知れない野獣に、虎視眈々とターゲットを定められているようなものだ。即ち、ただ、ただ恐怖である。

 

 ……逃げよう、どこか遠くへ。辛い時は逃げていい、逃げるのも勇気なのだ! 

 

 ちなみに、コンホヴォル王には憐憫の眼差しと共に快諾された。マジで感謝感激狂喜乱舞。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エメルから遠ざかりたい一心で、宛もなく歩いていたところ、一人の女性に「お主、弟子にならんか?」とスカウトされた。

 

 …………ん? あれ、この人どこかで見たような。

 

 見惚れる赤紫色の髪、叡智を湛えた真紅の瞳、すらっと長い脚に豊満な母性の象徴、しかし格好は紫色の全身タイツ。優雅さと気品さを兼ね備え、他者を魅了する容姿にはどことなく人ならざる儚さを感じさせる。

 そして全身に纏う武人の雰囲気、俺の培ってきた経験が「この人も戦闘狂のそれ」だと警鐘を鳴らす。紛うことなくケルト人のそれだ。

 

 

 

 

 

 

 あっ、スカサハ…………。

 

 

 

 




 とりあえずクー・フ―リン(偽)のプロローグはお終いです。

 次はSAN値レ〇プ!ヤンデレと化したエメル視点、その後にクー・フーリンの影の国奮闘記、スカサハ視点といった順で考えています。




 第5特異点でしっかりしたものを書く(予定)ので、それまではこんなカンジに話が進行します。お兄さん許して(懇願)


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プロローグ:エメル(魔改造済)

 なに、この、………なに?

 誰がここまでしろと言った!言え!


 ◆エメル視点

 

 私はルスカ領主フォルガル父上の娘、エメルとして生まれました。

 私が生まれ育ったケルトの地では、誰もが武勇に優れ、より強き者を求めるのが普通の慣行でした。

 しかし私は武勇には富んでおらず、むしろ力を持たぬからこそ、強き者の支えとなれるよう心掛けて育っていきました。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ケルトにはもっとこう、理性的な男性はいないのでしょうか? 誰も彼もが戦いだ女だと、がっつき過ぎていて疲れてしまう。

 

 恋に恋し、良縁を望んでいた、そんな時。

 

 ────私は、運命と出会った。

 

 アルスター王を守護する「赤枝の騎士団」に入団した面々を、私の友人と共に覗きに行った時のこと。

 騎士団に一際若い男性がいた。青い髪はクールさを印象付け、赤い瞳に浮かぶ鋭い眼光は獣の如く、鍛え上げられた肉体は正しくケルトの男のそれ。

 そんな彼────名をクー・フーリンというらしい────は、誰よりも若く、そして誰よりも理性的でした。

 

 彼は頻繁に手合わせを申し込まれ、それに快く頷きますが、彼から積極的に手合わせを申し込むことはほとんどありませんでした。…………不思議と、彼の目に諦観が浮かんでいるのは気のせいでしょうか。

 しかし、彼は腕に自信がないから申し込まないのではなく、むしろ凄まじく強かったのです。

 

 手合わせの一幕、とある男が槍を前に構え、猿叫をあげながら彼へと突撃する。言葉にすればそれのみの行動、しかし傍から見ても練度が高く素早い動きなのは理解できました。それを真正面から受けるとなると、その体感速度はとんでもないのでしょう。

 

 正しく、一撃必殺の刺突。

 

 しかし彼は一歩も動くことなく、さも当然のように、構えた槍の穂先を刺突してくる穂先に合わせ、ガキィン! と甲高い金属音を伴って弾く。

 それのみで男の刺突を殺し、後は体当たりと化した男を勢いのまま投げ飛ばす。

 一連の流れるような動きは、上から落ちた水が下へと落ちるが如く、自然とそうなることがわかってしまう、達人技でした。

 

 他の男ならばそれで終わり、勝者は力を誇示するように煽り文句のひとつやふたつなど言って別の手合わせへと向かう。が、こと彼についてはそんなことはない。

 彼は負けた男に近付くと、「速度と鋭さは目を見張るものがあるが、二の矢、三の矢がない。それさえあれば、少なくとも俺は対応に困った」と賞賛と助言を贈り、その後は時間の許す限り、男の鍛錬に付き合っていたのです。

 

 このクー・フーリンという男性が頻繁に手合わせを申し込まれる理由、それは彼の丁寧さと優しさが他者を惹き付け、それを誰彼構わず振り撒いておきつつも相手に成長を促す器量の良さが要因なのでしょう。

 それを裏付けるように、クー・フーリンに手合わせを申し込んだ後は目に見えて強くなった、新しい立ち回りや大技を一緒に考案してくれた、しっくりくる戦い方を見つけられるまで親身に付き合ってくれた、など多くを耳にしました。

 

 気が付けば、私は彼のことを目で追うようになり、来る日も来る日も彼の姿を目に焼き付けるために通い詰めていました。その際、彼に熱視線を送る私は周囲から好奇の目で見られているようでしたが、それに反応するのも最初の数回でやめました。

 

 だって、彼から視線が外れてしまうもの。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 そんなある日のこと、いつものように私が騎士団へと行った際、酔っていた男に襲われました。

 口を押さえつけられ、服をひん剥かれそうになった────その時、

 

「何をしている」

 

 獣の唸り声のように低く、それだけで相手の心臓を鷲掴んでしまうような死の宣告、否、救いが差し伸べられました。クー・フーリンです。

 私が襲われているのを目にした彼は、瞬く間に酔っていた男を蹴り飛ばし、その男との間に割って入って壁となった。

 

「ッてぇなァ! 何しやがる、新顔の分際でよォ!」

 

「それとこれとは全くの別問題だ。暴漢に襲われている女がいた、だから割り込んだだけだ」

 

「抜かせ、女ってのはなァ、強い男に惚れるのさ、俺みてェな、な?」

 

 …………この男もだ。男といえば皆そうだ。いくら強き戦士に惹かれる女性が多いからといって、それを常識のように語り、皆がそうであると信じて疑わない。

 

「だから俺が、エメルを抱く権利が、あるのさァ!」

 

 快楽に浸った醜悪な弧を描く男、それが自然の摂理だと言わんばかりの発言だった。

 また、言外に「俺はクー・フーリンよりも強い」と口にしたことになる。確かに、眼前の男は騎士団の中でも上位の力を持っており、『今は』まだクー・フーリンよりも上です。

 

 ────ですが、今回はそれが誤りでした。

 

 ほう、なるほど、と相槌を打つ彼。その口元は獲物の付け入る隙を見つけた肉食獣のそれだった。

 

「ならば俺がこの女をどうこうできるってことだな?」

 

「あ? 何言ってやがる?」

 

 男は眉を顰め、心底意味がわからないと顔に書く。それを見た彼もまた、そんなこともわからないのか、と顔に映し出す。

 当の私は、彼もまた私のことを気にしている! と舞い上がっていたのですが、

 

「文脈で察しろ、俺の方が強いと言ったんだ」

 

 …………やはり、男とは戦うことに特化しているのだと再認識しました。

 

 獰猛な笑みをした男は彼を連れて修練所へと向かい、結果は言うまでもなく、クー・フーリンの勝利で終わりました。

 

 

 

 

 手合わせを終えた直後、私は彼に頭を下げに行きました。

 

 いくらあの男が原因とはいえ、男所帯の場所、しかも人気のない裏手に自ら赴いたのは、あまりに危機意識が薄過ぎたから。

 なのに、私を助けたばかりに彼は自分よりも位の高い相手に、自らは消極的な手合わせを挑まねばならなくなりました。それが本人の意思かどうかはさて置いて、です。

 彼もまた他の男らと同じなら、今回の対価として身を差し出せとでも言うかもしれません。でも、それは万に一つもないという確信がありました。

 

 だからせめて、誠心誠意、謝る。感謝する。

 

「あ、あのっ、今回は私のせいでこんなことになってしまい、本当に申し訳ありま────」

 

「何を勘違いしているのか知らんが、俺はあの男に手合わせを願うために探していただけだ」

 

 だからお前は関係ない、気にするな、と言って立ち去ろうとする。

 

 ────思わず言葉を失う。さすがに、ここまでとは想像していませんでした。

 

 と、彼がこちらに振り向き、

 

「そうさな、悪いと思ってんなら、今度からは俺の目が届く範囲で見学するようにしな」

 

「────っ」

 

 …………不意打ちは卑怯です。私の顔が茹で上がっているのを自覚できてしまうほど、心身から熱い何かが込み上げてくるではないですか。

 

 その後、私は彼の行く先々で彼の目の届く範囲にいるようにした。

 

 

 

 

 

 修練所で、詰所で、街で、村で、どこででも。

 

 

 

 

 

 

 

 思えば、ここから私はおかしくなったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 いけない。

 

「178日目、今日も鍛錬に勤しんで────」

 

 あぁ、これはいけない。

 

「つ、遂に彼の私物を手に入れてしまったわ…………」

 

 もう、止まらない。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!! アアッ! 彼のベッド! 彼の匂い! 彼の温もり! ベッド! 匂い! 温もり!」

 

 否、止められない。

 

「あの女ぁ! 私のクーに色目を使うなんて…………! 飲み物に毒を仕込むしかないわね。ふふ、あの女が悪いのよ」

 

 気が付いた頃には、もう戻れなかった。

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 彼の全てを把握していたい。

 

 

 

 

 過去も、現在も、未来も、何もかもを。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 クーがここを去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして? 

 

 




 序盤→クー・フーリン、視線を感じる
 中盤→クー・フーリン、パンドラの箱を開ける
 終盤→クー・フーリン、逃げる

 隙がないと思うよ、でも、オイラ負けないにょ(戦闘続行EX)




 いやね、いくらクー・フーリンを騎士団から影の国へと移動させるためとはいえ、エメルを魔改造し過ぎたかハマーン………。

 しかし、反省はしているが後悔はしていない(至言)




 ニコニコでDRIFTERS全話見直してたおかげでクッソ難産でした(白目)
 
 やっぱヒラコーすこここのすこ

 HELLSINGもすこれ


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魔境、深淵の叡智

 クー・フーリン(偽)、影の国へと入国

 ビザはお餅ですかぁ? (マジ〇チスマイル)









 今回の話は色々と迷走錯綜した結果、謎にフルスロットルです。

 中身はアレですけど外見はイイんです信じて下さい!


 ◆

 

 宛もなく歩いていたらスカサハとエンカウントした。

 

 影の国の門番、クー・フーリンに次ぐケルトの代名詞、スカサハ。そんな彼女が何故、今ここにいて、俺をスカウトしに来たのかは知らないが、ケルト神話やアルスター神話の約9割9分を知らぬ俺からすれば、これは非常に幸運だった。スカサハと出会う方法なぞ、言うまでもないが知らなかったのだから。

 クー・フーリンといえば、スカサハを師事したことで有名だ。むしろスカサハに師事しなければクー・フーリンじゃないまである。危なかったな、俺…………。

 まあ、あまりに毎日を鍛錬と脳筋の対応に費やし過ぎていた俺は、すっかりスカサハというキーマンのことを忘れていたわけだが、そこはそれ。

 

 従って、「弟子にならんか?」とスカサハと問われた俺は当然のように受け入れた。

 フッ、真のクー・フーリン(?)にまた一歩近付いたな。

 

 …………それにしても、生スカサハとは。いやはや、眼福、眼p────

 

 

 ────浮気はダメですよ? (幻聴)

 

 

 ────ッハ! なんだ今のは!? エメルか、エメルなのか!? 

 

 そうだ、俺はエメルから一刻も早く遠ざからねばならないッ! 早く、早く俺を影の国へと連れて行ってくれッ! 

 俺の切羽詰まった言動に目を丸くしたスカサハは直後に哄笑するのだが、こちとら死活問題やぞ何わろてんねん。

 

 

 

 …………えっ、ここってもう影の国なのん? 知らんかったわ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 何故クー・フーリンがスカサハを見ると苦い顔をしていたのか、その理由を身を持って理解した。

 

 ────この人、ケルトの脳筋よりもやべーわ。

 

 スパルタ、とにかくスパルタ。語源のスパルタが泣く程度には。

 俺が日頃から積んでいた鍛錬のおかげで下地はあるとして、早速スカサハから槍術を習い始めたのだが、

 

「ほれ、どうした? その程度か?」

 

 何故かスカサハと槍でインファイトを繰り広げていた。

 何回か死にかけているのだが、その度にルーン魔術で身体を再生させられ、「息を整えよ、そら、5秒やる。そうしたら再開だ」と言ってひたすらに打ち合う。現時点でこれを5日間ぶっ通しでやっている。

 生前なら労働基準法違反待ったナシ、パワハラに物理的な暴力でスリーアウト。しかしここは影の国。英雄王然り、この場では彼女こそが法である。こんなの絶対おかしいよ! 

 

 アカン、このままじゃ心が死ぬゥ! 

 

 

 

 

 ────あ、

 

 

 

 ◆

 

 

 

 あの後、亡くなったんだよね。

 

 いや、生きてるけど。さすがに5日間もぶっ通しでやった結果、身体は再生できても気力と精神が強制的にシャットダウンしてしまったようだ。

 目が覚めた俺は、スカサハから小言のひとつでも言われるのだろうと覚悟していた。当然だ、打ち合いの最中で気を失って倒れてしまったのだから。彼女からすれば失礼千万だろう。

 

 しかし、待っていたのは予想外にもホクホク顔のスカサハだった。何故? 

 曰く、「独学でここまでとは、素直に驚嘆せざるを得んな」とのこと。

 聞けば、あのインファイトは今後の修行をする上での内容を決めるためのもので、要するに現時点での実力試験といったものだったらしい。

 

 ちなみに、他の弟子達は1日すら持たなかったとか。そりゃ、とんでもねえって思うわな…………。

 

 

 

 その後はスカサハ、もとい師匠から多くを学んだ。師匠は弟子を単なる槍兵に鍛え上げるではなく、ルーン魔術なども教え込んで多芸で一流な戦士にするのを目標としているらしい。

 本家クー・フーリンを目指している俺としては、師匠のそんな方針はかなりありがたいことだった。確かに作中のクー・フーリンといえばランサーに限らずキャスターやバーサーカー(聖杯によって歪められてだが)の適正があった。また、情報だけでいえばセイバーとライダーの適正もあるらしい。それだけでも多芸なことが伺える。

 ランサーではルーン魔術の印象は薄いが、キャスターではモロ行使しまくっていた。大仕掛けだッ! と言って灼き尽くす炎の檻とか出してみたくない? みたいよね? みたい(確信)。

 そんな明確なビジョンがあったおかげか、俺の特訓に対するモチベーションは限りなく高く、積極的に教えを乞うていた。

 

 まあ、何かを意欲的に望む度に、師匠が極端な方法で教えるスタンスはどうかと思うが。

 

 

 

 ◆

 

 

 同じく師匠の弟子として鍛錬に勤しんでいる面々と交流を深めた。特にフェルディア────フィンとディルムッドを足して2で割ったような優男────とは波長が合ったのか、数日で親友レベルの友情を築き上げた。

 アレだ、ランチ凸とティータイム凸と英霊肖像ガン積みで大神殿周回したようなものだ。絆上げは苦行を積み重ねる巡礼である(遠い目)。

 フェルディアの何が凄いって、今まで苦戦を強いられるような相手にあまり会ったことがなかった俺と、ほぼ互角に打ち合ってイーブンの戦績なのだ。俺の根はケルトのそれではないが、強者相手に存分に技が振るえて思わず笑みが零れてしまう。

 

 フェルディアはコノートという場所から来た戦士であり、コノートにはメイヴという女王がいるらしい。

 

 …………ん、メイヴ? どこかで聞いたような名前だ。コノート、メイヴ、女王────ハッ! スーパーケルトビッチこと女王メイヴだ! 

 確か、クー・フーリンのこと好きなんだっけ? あれ、憎悪の対象とか何とかだっけ? …………チキショウ、メイヴといったらチーズしか記憶にねぇ! 

 

 そんな感じにフェルディアと談笑し、つかの間の安息を過ごしていると、

 

「お主ら、これから抜き打ち試験を行う。何、軽く死ぬだけだ、心配はない。不合格なら特別集中講義だ」

 

 安息をぶち壊す死刑宣告、唐突な師匠の襲撃、否、奇襲である。

 

 ────なんなの? 

 

 ちなみに、弟子全員で師匠の襲撃を何とか凌いで歓喜に震えたが、ゲームのラスボスや負けイベよろしく、師匠の形態変化によって結局フルボッコにされた。

 

 

 

 ────マジでなんなの? 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 何でも、師匠は魔境の智慧とやらで未来を視れるようで、俺についても見通してくれるとのこと。

 俺の最期とかはどうなるのだろう? カスバトの予言のことを信じるとしたら、俺はそう遠くない内に死ぬのだろう。と、師匠の未来視が終わったようだ。

 

 …………あれ、師匠? どうして顔を真っ赤に染めてるんですか? え、何? お主が儂を…………? 何のことですか。

 

 ともかく、年甲斐もなく顔真っ赤にする師匠に俺の加虐心が暴れ出し、船〇パロをリアルでしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フルボッコにされたドン(事後報告)。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 最近、特訓の合間に師匠と瓜二つな女性と話すようになった。名をアイフェというらしい。尚、本人の希望で師範と呼ぶようにしたが、師匠と師範とでごちゃ混ぜになってしまってよくわからない。

 師匠とは姉妹らしく、師匠が姉で師範が妹なのだそう。あの姉があってこの妹あり。師範も師匠に並ぶ強者らしく、師匠とは趣の異なるルーン魔術のエキスパートだそうな。

 氷を主としたルーン魔術を操るようで、師匠と同じく全身タイツでありながら軽装の鎧を身に付け、ポニーテールにしているあたり、印象で言えばスカディに近いか? つか、まんまスカディですねコレ。

 

 そんなこんなで、師匠から槍術や体術といった物理的なことをメインに学び、休息時は師範からルーン魔術を教わるようになった。

 寝ても起きても勉強漬けの毎日だが、前世も今世も含めて、今が一番充実していると確信している。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 いつも通りの師匠との打ち合い、その最中に言われた言葉が脳に焼き付いて離れない。

 

『お主の槍には殺気が乗っておらん。結局のところ、槍術に限らず、あらゆる武術は人を殺める技だ。それを改めて考えるのだな』

 

 …………確かに、そうだった。俺はクー・フーリンになることを盲目的に求め、自分が極めている技が人の命を奪えるものである、という自覚が足りなかった。前世が現代人だったから、というのは言い訳にすらならない。

 クー・フーリンという英雄になりたいのなら、いつの日か自分の意思で誰かの命を奪う必要が出てくるだろう。だが、積極的に殺しをするつもりはない。己の武術の全てをぶつけ合い、知力と経験の全てを動員し、その果ての死が誉れだとしても、だ。

 しかし、もし、俺の親しい相手が誰かに殺された時、俺はこの不殺の意思を貫けるだろうか? 復讐を認めないだろうか? 戦いで敗れたのだから仕方のないことだと割り切れるだろうか? 

 

 …………覚悟しなければならないだろう。

 

 来るかもしれない、いつの日かのために。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 前日、久しぶりにシリアスな思考をし、覚悟を決めるための覚悟(?)をした翌日、影の国がかなり騒がしかった。

 そも、影の国の風景とは、スカディの宝具、死溢るる魔境への門で見れる城などの建築物があり、しかしどことなく死が渦巻いている、薄暗い空間だ。

 そんな場所の建物には巨大な氷塊がぶっ刺さっていたり、爆発した跡があったり、今なお鳴り続ける破砕音が谺響したりしていた。影の国の街並みが見る影もない(激ウマギャグ)。

 

 どうやら、師匠と師範が喧嘩をしたらしい。というか現在進行形でしている。

 いや、規模が影の国全域とかこれもう戦争じゃねえか! 被害多いよ、何してんの!? 

 

 止めに入ろうとしたら、ポプテ〇ピック並にガチギレしていた師匠に無言の腹パンをされた。

 

 オ"ア"ッ"ー! お、俺は瑠璃ではない…………! 

 

 

 

 

 

 

 …………気絶させられてた。痛かった。

 

 経緯は知らんが、姉妹ならば、家族ならば仲良くすべきだろう。どんな理由があれ、喧嘩はするもんじゃない。

 こうなれば、決死の覚悟を抱き、師匠と師範の死合という頂上決戦に飛び込むしかない。

 

 ────別に、2人とも倒してしまっても構わんのだろう? 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ────結果だけ言えば、俺は勝った。

 

 が、師匠も師範も負傷&疲弊というバッドステータスに見舞われていたからこその勝利であって、俺個人の能力による純粋な勝利ではなかった。だとしても、2人とも強過ぎて何回も死にかけた。

 そして何故かは知らんが、2人に勝利した俺に影の国の支配権とやらがあるとか、俺に負けたのだから2人とも捕虜になるとか宣っていた。

 

 いや、いらんし。意味わからん。

 

 …………おい、そこの2人、何で捕虜になって少し嬉しそうに頬染めてんだ。まるで意味がわからんぞ! 捕虜にしねえよ! 

 アンタら俺の教師で弟子持ちだろう!? 立場逆転してんじゃねえか! 正気に戻れ! 何だ、狂気にでも囚われているのか!? こ、拳で治療だッ! 

 

 結局、支配権とやらはこれまで通り師匠にブン投げ、師範には自宅謹慎を申し付けた。戦争レベルの姉妹喧嘩ダメ、反省しろ、反省。

 しかし喧嘩の発端については教えてもらえず、聞いたところでジト目を向けられるだけなのだった。謎である。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 それから数日。

 

 師匠に「クリードとコインヘンを狩り、その骸を持ってくるがいい」という無理難題な試練を言い渡された。

 

 

 

 

 ────ふむ、わしにしねというのじゃな! 

 

 

 

 

 

 

 




◆文才の無さ故に書けなかった情報の補足◆

Q.エメルは毎日クー・フーリンを見続けてたのに逃げの予兆とかわからんかったの?
A.内心では表情豊かなクー・フーリン(偽)、しかし外からは無表情という読み取り不可←

Q.騎士仲間とかコンホヴォル王の引き攣った笑みって何のことやったん?
A.エメルが毎日クー・フーリンのことを見続けてるのを見てたからっていうのと、彼女のストーカー行為に薄々気が付いていたから(止めろよ)

Q.何でエメルはヤンデレになったん?
A.物語の都合上というのが本音、一応クー・フーリンに熱視線送ってる段階でヤンデレの気質があったのを書いて誤魔化してます()

Q.クー・フーリンの前世はどんな人だったん?
A.俺らみたいなやつ

◆随時後書きにて補足説明をする予定です◆

↓ここから雑談↓

 というわけで影の国奮闘記でした、はい。スカディだけどアイフェさん出しました(?)一応はこの辺りから史実から乖離していく予定です。え?もうしてるって?全然わからん!(ジャガー難民救済)
 近場でスカサハ視点またはアイフェ視点、フェルディア視点を書こうと考えているんですが、文才を高める為にもしっかりとした戦闘描写に挑戦したいと考えているので、投稿に時間がかかるかもしれません。後、今はGWなので時間アリアリで毎日投稿が可能なんですが、それが終わると諸々で忙しいので間隔空くかもです。許して(懇願)





 真面目な話はここまでとして、こんな拙い文章でありながら応援コメントを書いてくれる人がいて、あぁ、なんか、なんか温かい(語彙消失)
 あ、この小説はプロットとかストックとかないんで、作者が記憶喪失になったら打ち切りの予定です←覇?(勝利宣言)
 なのでそうならない限りは止まんねえからよォ!その先に俺はいるぞ!だからよぉ、エタるんじゃねぇぞ………。(キボウノハナー)

 バルバトスくん、また逝ったかぁ………。



※追記
案の定、作者の情報ガバがいくつか見受けられたので、少々改稿作業をしました。そのせいで矛盾点などがあるかもしれませんので、発見次第報告して頂ければ幸いです。許してください!何でもしまs(ry


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魔境、深淵の叡智:スカサハ視点 (上)

 今回は初めての真面目な戦闘描写に挑戦したところ、かなりの長文が出来上がりました………これで半分なんで、はい。1話毎に1万字くらい書ける人って凄いんだなっていうのを身をもって知りました。もう半分はまだ書きかけなので、完成次第あげます。
 ハイフンでの場面転換についてコメントをいただいたので、今回は試験的に「◆」で場面転換をしてみています。

 くっっっっっっっっっっそ疲れましたが、とても楽しく書けたのでまだまだ書きたい気分ですね!(ドM)

 あと、スカサハらしさとFateらしさを出せるよう努めたつもりなのですが、スカサハの語尾に「〜じゃ」とか付けた方がいいですかね?一応は付けずに書いたんですが、それの有無に関して何かあればコメントお願いします。


 ◆

 

 

 

 ────長き、永き年月を経た。

 

 何時この世界に生まれ落ち、何処で育ったかさえ、今では定かではない。そんなことが瑣末事だと思う程度に、それ程に生き過ぎた。

 人の身でありながら人と神と亡霊を斬り過ぎた故に、神霊の領域に足を踏み入れてしまった私は、死ぬことが叶わぬ身体となり、戦士としての誉れ高い/悔恨の残る死も、人としての美しい/醜い死も、生命の終着を迎えることができなくなってしまったのだ。

 

 いつからだろうか、影の国の門番を務めるようになったのは。

 

 いつからだろうか、人心すら腐り落ち、自覚も無く朽ち果てていったのは。

 

 いつからだろうか、私を殺せる強者を渇望し始めたのは。

 

 いつからだろうか、才ある者に武術と魔術の悉くを授けだしたのは。

 

 

 

 ────あぁ、私を殺せる者はどこだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 激しい打ち合い、しかし息一つ乱されることはなく。対し、相手は至る所に生傷を刻み続ける。見慣れ過ぎた、当然の結果だ。

 

 魔槍を下げ、構えを解く。

 

「ふむ、ここまでだな」

 

「────グッ! …………あ、ありがとうございました」

 

「フェルディアよ、お主はコノートにおいて最強の戦士となる素質がある。だが、お主は相手の動きに注視し過ぎるきらいがあるな。読め、相手の深層に潜む意識を。讀め、駆け引きの最たるものを」

 

「…………精進します」

 

 弟子の一人であるフェルディアへの鍛錬を終え────その時、直感に何かがかかった。

 何なのかはわからんが、何かがあるのはわかる。そのようなものが。

 衝動に身を委ねた私は、直ぐに行動に移した。ふふっ、まるで恋焦がれる小娘のようではないか。

 

 

 

 

 

 

 

「────ほう」

 

 居た、彼奴だ。間違いなく、前途を嘱望されし戦士の素質を持つ者だ。

 なるほど、先のあれは戦士の誕生の産声であったか。

 

 外見からわかる情報────ケルトの男らしい肉体や珍妙にも理性を灯らせる瞳、そして何より若い────もさることながら、彼奴が放つ濃密な闘気と纏う鋭利な察知能力、それと少々の歪さは異常だ。

 どのような人生を辿れば、童の如き若さであれ程までの熟達したそれを身に付けられようか。

 

 ────あぁ、鍛え上げてやりたい。

 

 私の中の欲望に近い昂りが、疼いて疼いて堪らない。久しぶりだ、このような天与の質を有する人間に会えたのは…………! 

 

 気が付けば、私は彼奴に「お主、弟子にならんか?」と、声をかけていた。

 するとどうだ、この童め、射殺さんばかりの眼光をこちらに向け、瞬間、目を見開いたではないか。ほほう、一目で私のことを見抜くか。面白い、実に、実に面白い。

 しかし一方、この童の反応はそれのみで、後はこちらを疑いもせずに、ただ、ただ低い声で返答した。

 

「…………受けよう」

 

「うむ、そうか」

 

 もう少し可愛げがあってもよい年頃だろうに。いや、この童は英雄になるべくして生まれたような、そう運命付られたような男なのだろう。天賦の才の対価として、幼さを失ったように見受けられるな。

 

「お主、名は?」

 

「クー・フーリンだ、幼名をセタンタ」

 

 クランの猛犬(クー・フ―リン)か。あぁ、少し前に耳にしたか。随分と健気で可愛らしい奴がいるものだと呆れていたが、それがまさかこやつとは。

 

「私はスカサハ。影の国の門番をしている、スカサハだ」

 

 そう口にした途端、こやつは私を確認、否、値踏みするかのような視線で蹂躙し始めた。お前は俺の師匠足り得るのか、本当に強いのか。目がそう語る。

 私のやったことを即座にやり返すとは。このような逸材であったなら、もっと早くに目を付けておけばよかったか。

 

「ッ、俺を、一刻も早く影の国へと連れて行け」

 

 突如、クー・フーリンの雰囲気に焦燥が色濃く混ざり始める。

 

「ほう?」

 

「時間が惜しい、アレは喉元まで来ているだろう」

 

 アレとな? こやつが言う、アレ、とは何のことだ? いや、そのような些細な事はいい。

 それよりもクー・フーリンめ、今、何と言った? 早く影の国へと、死と亡霊が渦巻く魔境へと、早く行きたいだと? 

 

「────フッ、くく、ハハハハハッ!」

 

 これは愉快だ! これまで会った誰よりも愉快だとも! 

 この世ならざる者共の吹き溜まり、人の身では正しく魔境・深淵そのもの、変わることのない幽世────影の国に自ら進んで赴きたいなどと! 

 あぁ、みっともない。久方ぶりに大声で笑ってしまったわ! 

 

 おぉ、見ればこやつめ、年相応の短気な顔もできるではないか。

 

「あい、すまんな。では、お望み通りと行こう。と言いたいところだが、お主、気付いとらんのか?」

 

「…………? 何にだ」

 

「いくら末端とはいえ、ここは既に正真正銘、影の国よ。お主はここに流れ着いただけでも幸運なのだが、よもや知らんかったのか?」

 

「…………………………あぁ」

 

 本当に知らんとは。単なる腑抜けか? とは言ったものの、私の眼前に辿りつくことでさえ、既に艱難辛苦の道。武勇を誇る戦士の素質を備えていると言っても過言ではないのだがな。

 

 

 

 

 あぁ、楽しみだ。とても、とても楽しみだ。

 

 もしかしたら、こやつならば────。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「では、やろうか」

 

 着いて早々、私は新たな弟子へと材質補強を施した槍を一筋、投げ渡す。

 私の弟子には皆、初めの始めに私との一騎打ちを強制させている。これの出来具合で今後の予定を立てられるからだ。

 だが、大抵は投げ渡された槍を見て、説明を求めるような目を向けてくる。が、

 

「………………」

 

 クー・フーリンはそれを察していたかのように動じることなく、槍を受け取ると、すぐさま構えた。

 

 うむ、いいぞ、それでこそだ。

 

「好きに打ち込んでくるといい、何、壊れた身体はルーンで再生する。お主もな。さあ、気兼ねなく来るがいい」

 

 私が極めしルーン魔術、その原初。万能ではないが、限りなく万能に近いそれによって、死の淵から強引に引き揚げることすら可能だ。だからこそ、存分に、存分に打ち合えるというもの。

 そうと理解したのか、鋼鉄のように不動だったクー・フーリンの表情に、酷く獰猛で冷酷な獣の如き笑みが出現したではないか。

 

「そうか────」

 

 ────ならば、加減は無しだ。

 

 実際には紡がれていない、しかし、そう言葉が続いたのを、はっきりと聴いた。

 

「──────フッ!」

 

 クー・フーリンの姿が掻き消える、瞬間、背後からの刺突。

 普通ならば対応することが不可能な領域の神速、正面に向き合っていたのに初撃は真後ろという死角。一撃で終わらせに来たのが伺える。

 

 ──―相手が私でなければ、の話だが。

 

 重く鋭い音。私は難なくこやつの初撃を、振り向くことなく魔槍で弾いてやる。

 だが、それで終わることなぞ有り得ず、逆に不意を打たれたかたちになったクー・フーリンめの腹を、勢い付けて蹴り飛ばす。

 

「ッ!!?」

 

「ハハッ! どうした、背後を取れたつもりだったか!」

 

 無様に、しかし衝撃を逃がすように転がるクー・フーリン。その顔と気には驚愕が入り混じる。

 

「速さはある、が、眼前で消えるなぞ、背に移動したのを知らせるようなものだ」

 

 だから、こうしろ、と続け────

 

「なっ」

 

 ────クー・フーリンがこちらを視界に収めている状態で、踏み込み、魔槍を振るい、こやつの武器を弾き飛ばし、無防備な首に魔槍を添える。

 

 この間、刹那。ただ、ただ刹那。

 

 弾いた槍が、ガチャリ、と落ちる。否、落ちたのはこやつの慢心か。

 

「そうら、拾いに行け。再開だ」

 

 これでこやつの鼻は折ってやった。ここからがクー・フーリンの本領だ。

 

 さて、どこまで楽しませてくれるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クー・フーリンが神速をもって槍で穿つ、穿つ、穿つ。

 鋭い必殺の応酬、しかしそれを閃光を伴って弾く、弾く、弾く。

 

 では、次はこちらの番だ。一転して攻防が入れ替わり、クー・フーリンめの槍を弾いた直後、一条の真紅を走らす。

 不意の一撃だというのに、こやつは瞬間的に目を見開いては即座に認識し、槍を宛てがって致命傷を防ぐ。

 

「見事…………!」

 

 流石の気配察知、いや、どちらかと言えば反射神経か。獣の如き敏捷さよな。これは上々。

 

 であれば、これはどうか。

 

 握る魔槍を踊らせ、残像で円を描くように高速回転させる。突きではなく、斬撃、薙ぎの連打である。

 毛色の変わった連撃に対し、クー・フーリンは槍を浅く構え、太刀打ちで捌こうと試みる。が、すぐさま限界を迎え、

 

「〜〜〜ッ! フンッ!」

 

「甘いッ!」

 

「がァっ!?」

 

 一度距離を取って仕切り直そうとする────それを討ち取る。

 

(特筆すべきは速度だが、それ以外に力もあり、眼もある。しかし技と場数が足りておらんか)

 

 クー・フーリンの腹部にずぶり、と深々と突き刺さった魔槍、当の本人は苦痛に顔を歪めるが、それに構うことなく即座に引き抜き、ルーンで再生させる。

 

「────5秒だ、立て」

 

 もっとだ、もっと足掻け、振るえ、穿て。お主の力はその程度ではないだろう。

 

「────ッ、あんなん、どうすりゃいいってんだ」

 

「知りたくば学べ、盗め、そして練り上げよ」

 

「…………そうかい、ッ!」

 

 クー・フーリンが走る、奔る、はしる。

 

 神速で打ち出された刺突、それは受け止めればこちらの腕を麻痺させる程に強力だった。そこからの突きの雨、しかし私はそれらを正確に、丁寧に、余裕を持って弾いてやる。

 

 と、不意にこやつの槍の構えが深くなり、

 

「どうだッ!」

 

「っ、ほう!」

 

 自らの槍を見様見真似で回転させ、勢い付いた連撃をかましてくるではないか。先の私のそれには劣るものの、それは正しく、相手の不意をつくには上等の技だった。

 が、やはり経験と練度の不足。自身よりも全てが上回る相手に真似で返すというのは、時には有効打だが、この瞬間においては中々に愚策よな! 

 

 円を描く残像に向かって、私は逆に踏み込み、それを受け流す。後はもぬけの殻となった懐に一撃を見舞う。

 

「ん、今のは驚かされた」

 

「…………っ、嘘吐け」

 

「嘘ではないさ、あのようなことを一目で真似されるなぞ、驚く他あるまい。だが、挙動が露骨過ぎたな」

 

 結果だけいえば粗末なものだったが、しかし、自らの疑問に対し、答えを求めるでなく学ぼうとする姿勢は評価できる。

 

 他の弟子達の場合は、己が人生の集大成とでも語りたそうな程、この一騎打ちで持てる技の全てを叩き込んできた。当然だ、戦いとは技と技の競い合い。技の一つひとつにはその者の全てが宿る。

 しかし、こやつはどうだ。己の技は初撃のみで、力量を把握したのなら、これを一騎打ちではなく鍛錬の機会へと切り替えおった。

 ともすれば相手に対して失礼極まりないそれだが、しかし同時に、物事の本質を見抜く観察眼と自身の力不足を素直に認める潔さが感じられる。なかなか、どうして────。

 

「ほら、何を勝手に休んでいる。再開だ」

 

 

 

 

 

 

 

 何という、何という精神よ…………! 

 

 もはや一騎打ちを始めてから丸5日、その間に幾度となく死の淵へと叩き落としてやったというに、未だ倒れんとは! 

 私に傷こそ負わせられていないが、少々楽しくなってきたではないか! 

 

 自然と私の握る魔槍に力が籠り、頬は釣り上がっていた。そして、そんなことに気が付かない程に集中していた。

 こやつめ、底無しか! いや、既に限界を迎えているのだろう、故に気力と精神力にものを言わせ、ほぼ反射神経のみで私の一撃一撃に対処する、か。

 

 ────あぁ、これだ、滾る、滾る! 

 

 摩耗した心身の末に魅せる、その者の本質。それこそが戦士の素質たる輝き。

 クー・フーリンの場合、物事を論理的にこなすのではなく、反射的に対応してみせる、それこそがこやつの輝き。技術不足も経験不足も補って余り有る、敏捷、神速! 

 

 ────もっとだ、もっと見せよ、観せよ、視せよ、魅せよ! 

 

 思わずクー・フーリンの脳天を穿ちそうになる、その瞬間、

 

「っ」

 

 睡魔に敗北した赤子のように、クー・フーリンは脱力し切って地に伏した。いや、ようやっと倒れたのか。

 むう、もう少し楽しんでいたかったのだが。いや、これはこやつの実力の測定のために始めたのだったな。熱に浮かされ、惚けておったわ。

 

「…………ふむ、既に他の弟子達と同等の力量を持ち、素質で言えば誰をも凌駕する、か」

 

 これならば、並大抵では事足りん。当初予定していた最難関に位置する試練、その要求度を引き上げねばならんな。

 

 それにしても、打ち合いの最中で感じ取れた歪さ────老成、摩耗、諦観、片生、熟達、情景。それらは何なのだ? こやつは何者なのだ? 何故こうも歪んでおるのだ? 

 フッ、まあ、構うものか。これからは私が指導してやるのだからな。そうして戦士となれば、それで良い。

 

 あわよくば、私を殺せる者となれば────。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 力量を測り終えた私は、クー・フーリンを正式に弟子と認め、私の持てる武術と魔術の悉くを授け始めた。

 あやつの最も得意とする槍術────好んで使っている、の方が正確か? ────は当然として、ルーン魔術、剣術や騎乗術、投擲、心身の強化や戦士の咆哮など、あらゆる妙技や秘法を教え込む。

 

 今までの弟子達は根性がなかったのか、何事も初めの段階で音を上げていたのだが、ことクー・フーリンに関しては違う。

 私の授ける術の全てを意欲的に求め、面白いように覚えていく。戦うことに特化したケルトの性にそぐわぬ冷静で理性的な思考は、物事を自分なりに噛み砕き、理解しやすいよう認知し、身を持って覚えることに長けているようだった。

 

 なるほど、道理で勇ましいわけだ。

 

 そのせいか、調子付いた私は他の弟子達に教授するよりも質の高い修行を課す。しかし、それすら飲み干すクー・フーリンに生意気にも「もっと寄越せ」と言わんばかりの目を向けられ、更に、更にと激烈化していく。

 

 ────そうだ、その意気だ! 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 不思議と、クー・フーリンに技を授けていると、人心が戻るような感覚がある。だが、消えた何が戻っているのかはわからぬ。

 

「今日は何を施してやろうか、ふふっ」

 

 しかし、少なくとも悪い類のものではないだろう。その証左に、こんなにも躍っているのだから。

 足取り軽やかにあやつを探す。と、どうやらフェルディアと話をしているようだな。

 

 瞬間、私に電流が迸る。クー・フーリンめが、屈託のない、年齢相応の笑みを浮かべていたのだから。

 珍しい。そう感じると共に、黒い何かが這い出てくる。あれは私には向けたことのないものだ、何故私には向けてくれんのだ、と。

 

 むう、急に何だ、この靄が立ち込めるような何かは。…………そうか、久しく忘れていた嫉妬か、これは。ふふっ。あぁ、不愉快だ。

 

「お主ら、これから抜き打ち試験を行う。何、軽く死ぬだけだ、心配はない。不合格なら特別集中講義だ」

 

 年甲斐もなく八つ当たりをしてしまうではないか、全く。

 

 

 

 ◆

 




◆補足◆

Q.無表情で紳士的とかカルナさんじゃね?
A.セヤナー(感想で言われて的確過ぎて草も生えんかった)

Q.史実でクー・フーリンが殺す奴が生きてたり、出会うはずの人と会ってなかったりやけど、そこんとこどうなん?
A.基本的に型月wikiに記載のある、クー・フーリンと関係のある人物の登場をメインにしてますので、そこらは各々の脳内補完でお願いします←

Q.このクー・フーリン(偽)、殺しに忌避感あるみたいやけど、この先どうなるん?
A.『今は』まだ、とだけ。

Q.ケルト神話とか知らんのやけど、史実乖離っていつから?
A.(プロローグから)もう始まってる!

Q.何このエメル?
A.何やろこれ?


↓ここから雑談↓


 魔境、深淵の叡智:スカサハ視点(上)でした。スカサハっぽさやFateっぽさを出せたでしょうか?これでも頑張った方なんですが、まだまだ改善の余地があると思います。いやはや、アイデアはあっても、それを可視化することは難しいですね。だからこそ、やる価値があるのですが。
 想像以上のUAや評価を頂いていて感謝感激しております。小説素人の文章ですから、読みにくさや整合性のなさ、キャラ崩壊や表現力不足などが目立つと思います。ですが、決して手抜きでやっているわけではないので、文章構成能力や語彙力が身に付くまでは暖かい目で見守っていただけると幸いです。








 ………もう、いいかな?



 ………よし(適当)



 ウッソだろお前wwwww 想像以上に読まれ過ぎィ! はえー、すっごい。皆の優しさで涙が出、出ますよ。やっぱクー・フーリン好きなんすねぇ。
 この小説にプロットもストックもなかったおかげで、後で思い付いたことを盛り込めて結果的にはよかったです。むしろ感想に溢れる知識人らの発言で勉強させられるレベルです←

 それはただの作者の情報ガバだね! わかるとも!(グエー)

 次回はスカサハ視点の後半、スカサハは未来視で何を視たのか、アイフェとの間で何が勃発したのかについての話になる予定です。戦闘描写の連続になると思われますが、作者は頑張り過ぎた疲れからか、不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまう。後輩をかばいすべての責任を負った三浦に対し、車の主、暴力団員谷岡が言い渡した示談の条件とは...。


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魔境、深淵の叡智:スカサハ視点 (下)

 師匠、ご乱心。
 
 >いいぞ、もっとやれ!




 ◆

 

 

 

 クー・フーリンを弟子に勧誘して早数ヶ月、それのみで彼奴は我が弟子達の中で高みへと到達してみせおった。

 その背を追うフェルディアとは良き好敵手として切磋琢磨しているようで、微笑ましくもあり────羨ましくもある。

 

 件の抜き打ちではクー・フーリンめが最前に立ち、勇士たる武を持って己が力量を示した。その節に垣間見せたそれは、もはや弟子入りの打ち合いのそれとは比較のしようもなく研磨され、幼き獣が死獣へと変貌したように感じられるほど。

 だが、決して不思議なことではない。容易ではない艱難辛苦をこやつは弟子の誰よりも経験し、見聞し、我がものとし、そして満足せんかった。故、この結果は自明の理である。

 

 ────良い、善いぞ、実に好い。

 

 この時点で、既にケルトの歴史の礎として積み重なった我が弟子達の中で、一際抜きん出た逸材だろう。数年以内に英雄として歴史に存在を刻むことが想像に容易い。

 

 しかし、まだ、まだだ。まだ私を殺すには足りない。数年で英雄という程度では。

 もしも、こやつに身体の衰えがないとしたら、修練の末に正しく私を殺す戦士となるだろう。だが結局、クー・フーリンとて人の身だ。老いは心身を鈍らせ、死という終着は必定の理。

 

 ────だからこそ、惜しい。

 

 だからこそ、こやつの最期が知りたい。最高の素質を備えし戦士の、その瞬間の輝きが如何なるものなのかを。

 

「我が愛弟子、クー・フーリンよ。お主、己の定め事、巡り合わせを知りたくはないか?」

 

 私が有する力の一端、神を殺め、人を超えた故に得た深淵。魔境の智慧によって他者の未来を予知することが可能だ。

 

「それを知って何になる」

 

「何だ、儂に未来を覗かれるのが不満か?」

 

「…………いや、そんなことはねえ。だから睨むのをやめろ」

 

「うむ、それでよい」

 

 師匠たる私がやってやる、と言っているのだ。素直に受け取らんか、全く。まあ、よい。

 

 さあ、何を視せてくれる? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────海獣共で拵えたと思しき、希有な軽鎧を身に付けたクー・フーリン。

 

 ────纏うは濃密な「死」の気配、概念への昇華。

 

 ────ゲッシュによる神からの祝福で■■■をするという矛盾。

 

 ──―■■■■の■■による高度な呪いに魂を蝕まれ、為す術なく消失する。

 

 ──―それを4人の女と大勢の勇士が看取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────」

 

 壮絶、壮絶、壮絶。

 

 ケルト最大の英雄となるであろう男、その最期は相応に過酷なものだった。

 幾人もの勇士を屠ってきた怪物相手に殺されるでなく、万夫不当の戦士との一騎打ちで敗れるでもない。

 己の誇りも矜恃もかなぐり捨てて、守るべき者達のために命を捧ぐ、か。その姿は正しく英雄だ。

 しかし、まさか私の弟子が私と同じく■■■をするとはな! いやはや────

 

 ────いや、いやッ! 着目すべき点はそこではないッ! アレは、アレは何だ、何なのだッ!? 

 

 濃密な「死」の気配、アレは死そのもの。不死にすら死という概念を付与せしめる不死殺し! 

 

 即ち、「死」を操る────

 

「────お主が、儂を────」

 

 ────殺せるのだな? 

 

 長き、永き生に終止符を打つに足る勇士、それこそがクー・フーリン、お主なのか。

 だがしかし、予知した光景は逃れられぬ運命。その瞬間にこやつが「死」へと成れはするが、それを私にもたらすことはない! 

 

 ────惜しい、惜しい、惜しいッ!! 

 

 私を殺せる素質があるというに、長きに渡る渇望を満たしてくれるというに、それを私に向けることなく没する、それがこやつの運命だとッ! 

 私の心────と呼ぶべきそれに、ふつふつと激情が湧く、沸く。これは何だったか。悔恨、悲愴、憤怒、喪失、か? そのどれもであって、しかし正確ではない。

 

 ────いや、これは、性か? 

 

 戦士を探し、強者を求め、勇士に惹かれるケルトの性。理性を狂わす戦闘民族のそれ。

 私を殺せる者を求める望みも、互いの全てを衝突させた死合の末に殺されたいという、その源泉は正しくケルトの性。

 私すら殺してみせる極地、それに至ったクー・フーリンならば、もはや幾億という戦士達が殺されにやってくる。極みたるこやつに挑み、介錯されること。そこに苦痛は介在せず、在るのは充足感と最大級の誉れ。

 

 ────私は、求めているのか、こやつを。

 

 死を失った私を昂らせ、楽しませ、心すら取り戻してみせるクー・フーリンめを。

 この胸の高鳴り、これは私のケルト故の性からくるものか、「死」と成り得る渇望からくるものか、それとも────。

 

「おい、師匠。顔が赤いが、未来とやらは見れたのか?」

 

「っ、何でもない」

 

 あぁ、いかん、いかん。己の胸中すら測り兼ねるとは。思わず顔を逸らしてしまったわ。

 すると、私の反応に思うところがあったのか、クー・フーリンは、何かに突き動かされたように口元を歪める。

 

「…………可愛い顔もできんじゃねえか」

 

「なっ!」

 

「普段は固い顔しかしてねえんだ。たまには女らしい顔も悪くはねえな」

 

「ほ、ほほう。年端もいかぬ童でありながら、儂を口説くか。調子に乗るでな────」

 

「口説いてるつもりはねえさ。思ったことを口にしたまでだ」

 

「────〜〜〜〜〜〜ッ!」

 

 ま、まるで生娘ではないか! ええい、生意気な! そのような顔を向けるでないッ! 

 私がこやつを求めるのは、ケルトの性、我が渇望故だ! 他の何ものでもない! あぁ、そうに決まっているとも! 

 

 弟子の身でありながら、師匠たる私を弄ぶとは! これは仕置きが必要かッ! 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「そら、噛み付いて来い!」

 

「ッ!」

 

 今日も今日とてクー・フーリンとの打ち合いに興じる。

 こやつに不足しているのは技と経験だ。実戦形式の修行に勤しませることで場数を踏ませ、反射と思考の融合を果たす。これがこやつの到達すべき最低限といえよう。

 

 

 

 

 私の視界に収まっている状態での神速の如き踏み込み、速度のままに撃ち出す刺突はあの必殺の槍と遜色ない。

 が、私はそれへと向かい、穿たれる直前で身体の軸をずらして紙一重で躱してみせる。そして魔槍で穿つ。

 

 少し前のこやつならば、これのみで動じてしまい討たれていたが、しかし、今ではそのような失態を犯すはずもなく。

 

 クー・フーリンは突き出した槍をぐるりと回転させ、石突で私の一突きを弾くと、勢いを乗せ蹴り殺さんばかりの脚を振るう。

 私はそれに魔槍を宛てがい防ぐが、勢いを殺せずに身体が吹き飛ばされる────それを狙ったが如く、投擲の構えをとるクー・フーリン。

 

(随分と熟れてきたではないか────ッ!)

 

 そうさせまいとした私は空中で体勢を整えつつ、複数本の魔槍を出現させ、それらをクー・フーリン目掛けて撃つ、撃つ、撃つ! 

 

「ッ!」

 

 射出される一条の紅き線のそれぞれがクー・フーリンに狙いを定め、頭部や心臓、手脚の節といった急所へと吸い込まれていくが、クー・フーリンは即座に投擲の構えを解き、迫る魔槍を次々と撃墜する。

 そうして私が着地した頃には、彼奴の周囲に数本の魔槍が地面に突き刺さり、あるいは散乱していた。

 

「やるようになったではないか」

 

「そうかい。だが、主導権は師匠に握られたまんまだ」

 

「フッ、そう簡単にはやらんさ。欲しくば奪い取れ」

 

 我ながら安い挑発、だがそれが再び打ち合いの合図となり、クー・フーリンが突貫する。

 速い、凄まじく速い。敏捷性を活かした、練度の高いそれ。しかし今回は毛色が違った。

 刹那に等しき直線移動、その間に左手で何かを描くように空中をなぞる。

 

(────ルーン魔術か!)

 

 瞬間、私の足元から炎が盛る。ソウェル────対象を炎で包む、攻撃に分類されるルーンだ。

 しかし私にとっては、このような炎など児戯にも劣る。だが、これの行使理由は私を負傷させるための攻撃でなく、視覚情報の妨害と次に繋げる一打だ。

 魔槍で炎を斬り払った途端、彼奴の姿は消え、頭上から見舞うは炎の弾丸────アンサズ。知覚と同時に斬り払うが、すぐさま次弾、背後。

 

 と、くれば、次に彼奴が狙うとすれば────

 

「────ここよなッ!」

 

「ッ!!?」

 

 背後からの攻撃をいなした直後の背、という死角からの一撃。こやつめ、三発目のルーンの後に、駆け出した地点へとルーンで戻りおったな。

 面白いが味気ない。現実誤認のルーンも使っていたようだが、あれは原初であってようやく効果が引き出せるもの。クー・フーリンのルーン程度ではあまりに効果が薄過ぎたな。

 

「弾かれたぞ? さて、どうするッ!」

 

「言ってろッ!」

 

 吠えたクー・フーリンは瞬時に私の眼前に飛び込み、連撃。それをいなしてやると、こやつは槍を深く構え、残像が見える速度で薙ぎを放つ。

 しかしそれは、胴体よりも低位置をなぞる軌道であり、故にこやつの思惑通りに跳躍して躱してみせる。

 

 ────さて、どうくるか? 

 

 クー・フーリンは、飛んだ私を更に下から突き上げる。上へ、上へと。こやつの狙いは何なのか、空に私を押し上げてどうすると────不意に、何かに頭上を抑えられた。

 

「なっ」

 

 何もないはずの空間に、確かに存在する壁、否、天井。こやつめ、空中にルーン文字を固定しおったな! 

 これは…………いやしかし、出来なくはないが、何故知っている? 

 

「食らえ!」

 

「ッ」

 

 轟ッ! と空を斬り裂く必殺の線。

 

 限界高度を予め設けておいたからこそ、私がこれに驚くのを知っていたからこそ、彼奴はこの位置に槍を投擲したのだ。

 轟速、神速の投擲はクー・フーリン自身の身体を壊しかねない全力のそれ。しかし、ルーンで再生するのだから、伴うのは数瞬の苦痛のみ。だとしても、躊躇いもなくやってのけるか────ッ! 

 

 正しく必殺の一条、魔槍にも到達しかねないそれを向けられては、生半可では防げんなッ! 

 

「フッ!」

 

 私は握る魔槍に魔力を込め、朱殷の如き赤を纏わす。そして、全身の力を魔槍に委ねるように、投擲でもって対抗してやる。

 

 空中で衝突した二筋の槍。それは私とクー・フーリンの力量を誇示するかのように、身を震わす絶大な空気の振動を伴った。

 ぶつかり合う穂先同士が火花を散らし、大気が耳を劈く悲鳴を上げる。

 

(よもやここまでとは────ッ!)

 

 いくら魔槍による必殺のそれではないにしても、私の投擲に打ち破らんと迫る勢いとは! こやつめ、どこまで私を昂らせ、滾らせれば気が済むのだ? 

 

 だが、やはり弾けるのはクー・フーリンの槍だった。拮抗していたのは僅かな間のみで、彼奴の投擲は私のそれに敗れる。

 魔槍の疾走は貸し与えた槍の穂先から石突までを貫通し、勢いが衰えることなくクー・フーリンに迫る。

 

 が、これすらも想定内だったのか。クー・フーリンは己の死と成り得る一筋を前に、異常とも形容できる反射速度で身体を回転させながら跳躍し、空中で魔槍を掴み取り、私に向かって投げ返してくるではないか! 

 だが生憎、それは私の槍だ。私を穿とうと迫った魔槍だったが、突然に軌道を変え、私の手に収まる。

 

「チッ、これでも届かねえのか」

 

 否、短期間でこの成長。こやつめ、自身の力を自覚しておらんな。最早、影の国に跋扈する死霊や神霊の類を屠るに足る力を有しているというに。

 

 ────あぁ、是非とも儂に死をもたらして欲しいものだな。しかし、まずは、

 

「…………クー・フーリンよ、これは何のつもりだ?」

 

「何のつもり、つうのは?」

 

「儂はまだ、お主にこのようなルーンは教えとらんぞ。しかもこれは『門』を応用したもの。これをどこで覚えたのだ?」

 

 そう、あれは私の死溢るる魔境の門の応用。空中にルーン文字を固定するという、要するに真似だ。故に、彼奴個人の鍛錬で使えるようになる類の技ではないはずなのだ。

 であれば、何故使える? 誰に教わった? まさか────

 

「…………師匠の妹からだ。名をアイフェといったか」

 

「────ほう、アイフェとな。ふふ、そうか、そうか」

 

 やはりか。やはりアイフェか。

 

 アイフェ────血を分けし我が妹にして、影の国における私に並ぶ強者。

 奴め、私がクー・フーリンに目を付けたのをどこかで知ったのだろう、こやつに智慧(つば)授け(つけ)おったか。気に入らん、実に気に入らんな。

 

「それについてはよいとしよう…………よくはないがな。して、クー・フーリンよ。お主、殺しをしたことが未だにないな?」

 

「…………あぁ、そうだ」

 

 奇妙なものよ。こやつは素質があるからといって驕ることはなく、他者を圧倒する力を得ても無為な暴力は振るわない。その点は実にクー・フーリンらしいと賞賛を贈るが、反面、中身が歪な程に未完成だ。

 戦士としての術を学び、英雄としての素質を備えているというに、殺しには忌避感があり、心の底に根付いたソレがケルトの性に揺らぎを与えている。

 

「何故だとは言うまい。だがな、お主の意思で殺すならば、明確に相手を殺すという意思を持て。そうでなければ、その瞬間ですら躊躇いを見せるだろう。武術を振るうならば心掛けよ」

 

「………………」

 

「お主の槍には殺気が乗っておらん。結局のところ、槍術に限らず、あらゆる武術は人を殺める技だ。それを改めて考えるのだな」

 

「…………あぁ、わかった」

 

「うむ、ではまた後日だ。今は疲労をとれ」

 

 クー・フーリンは僅かに重い足取りで場を後にする。

 私が視たあの光景、あれ程までの力を発揮するのは、まだ遠い。だがその片鱗は見せつつある、か。

 ふふっ、なかなか、どうして。ここまで育てがいがあると、忘れていた笑みも零れてまうわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、アイフェを探すとしよう。

 

 私の愛弟子、クー・フーリンに勝手に技を授けおったのだ。奴には相応の礼をしなければな。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 亡霊が渦巻き、死が溢るる魔境、影の国。そんな場所において私と唯一肩を並べ、度々熾烈な領地争いを繰り広げてきた相手、それこそがアイフェである。

 奴がクー・フーリンと出会っており、あまつさえ私が気が付けなかったということは、クー・フーリンめの休息時を狙って認識阻害のルーンを行使し、接触しておったな。

 となれば必然、アイフェは確実に私の領地内に居るはずだ。

 

「────やはりな」

 

「おや、これは珍しい来客だな、姉上?」

 

「アイフェよ、貴様、何故儂が貴様のところまで足を運んだか、分かっておるだろう?」

 

「さて、私には何とも。如何せん心当たりが多過ぎてな」

 

 あざとく口元に指を添えて、ふふっ、と微笑を浮かべるアイフェ。

 打ち合う前の無意味な会話というのも味があって嫌いではないが、今回に限ってはそれすら鬱陶しい。

 

「惚けるのも大概にせよ、儂は────」

 

「クー・フーリンだろう。分かっているとも。姉上が拾い、夢中になる程の逸材にして、女の部分でも求めている男にちょっかいを出されたのが我慢ならんのだろう?」

 

「────なッ、何を戯けたことを。儂が彼奴を求めているのはケルトの性故だ。他意はない」

 

 そうだ、そのはずだ。私は私を殺せる程の戦士を求め、しかし居るはずもないと諦めたからこそ、純粋に強き者との戦いを求めているに過ぎん。

 そう言ってやったというに、アイフェは心底微笑ましいものを見るような顔でこちらを眺める。

 

「惚けているのはどちらか。…………ふむう、朽ち果てた内面を取り戻したと思っていたが、それはむしろ『芽生え』だったのだな」

 

 芽生え、とな。私は人心を取り戻したのでなく、新たに得たというのか? 言われれば納得はする。生娘のように心踊らせ、乙女のように恥じらうそれは正しく、初めての経験に気が浮遊するそれと一致するだろう。

 

「…………そうさな。そうやもしれんな。だが今はそれはいい、貴様のやったことは許さん。我が愛弟子に勝手に手を付けるなぞ、我慢ならんからな。多方、自身の配下にでも加えようとしたのだろうが、それは叶わんと知れ」

 

「いや、最初はそうであったが、今は違くてな。私はただ、あの男を好いているだけだ」

 

「…………………………………………ほう?」

 

 頭部に拳を振るわれたような衝撃を受けた。好いている、好いているだとッ? あのアイフェがか? 

 

「そんなに驚かなくともよかろうて。あの男は私を『アイフェ』ではなく、ただのアイフェとして見てくれる。それだけで欲する価値がある」

 

 アイフェも私と並ぶ影の国の強者。だからこそアイフェに近付く者は多い。強者と聞いて挑みに来る戦士、優れた容姿に惚れて我がものとせん凡夫、弟子にしてくれと頼み込む勇士、配下に加えようと接触を試みる輩、と枚挙に遑がない。

 だからこそ、そこから選りすぐりの六人の勇士を配下としている。私をものにしたくばこやつらめを倒してみよ、と。こやつらに劣る者はいらん、と。

 

 しかしその中に、自身に一切の色眼鏡を使わず、言い寄っても来ず、むしろ強者を求めてしまう性を滾らせてくる男がいるとすれば。

 そしてその男が、自身が競い合う私の愛弟子であるとすれば。

 

「私はあの男────クー・フーリンが欲しい。だからな、姉上よ。私はお前に戦いを挑もう。此度は領地ではなく、一人の男の身を賭けての戦争だ」

 

 奪う、必ず奪ってみせる。そう考える。

 

「…………男一人のために私に宣戦布告とは、そこまで本気なのだな」

 

「くどいぞ姉上。私を十全に理解しているのは天上天下、世界の内外にお前だけだろう? その逆も然りだがな」

 

 私は魔槍を顕現させて構える。対するアイフェは右手に槍、左手に杖を持ち、あどけなさの残る顔に戦意と我欲の炎を灯らす。

 

「フッ、そうか。ならば儂も負ける訳にはいかんらしい」

 

 戦うのだから元より敗北する気は微塵もないとして、彼奴を賭けろというのだから、尚更負けられない。

 

 私はどうしても『女』のようだ。それをアイフェに自覚させられるとはな。

 

 自覚と共に際限なく溢れ出る独占欲。クー・フーリンを他の誰かに渡したくない、取られたくない。

 

 自覚したのなら止まることは許されない。

 

 ────嗚呼、取らせてなるものかッ! 

 

 

 

 

 

 両者共に殺意を放ち、纏い、精錬する。そうして交錯する視線。と、同時にアイフェが原初のルーンで数十の巨大な氷の杭を出現させ、射出する。

 すかさず私も空中に同数の魔槍を顕現させて氷の杭に撃ち出せば、衝突し合ったそれらが破砕音を伴って爆散する。

 だが、そうして割れた氷塊は白煙となって視界を塞ぎ────不意に一条の槍が私を穿たんと突き出す。

 私はそれを弾き、空いた片手に別の魔槍を顕現させて白煙ごと薙ぐ。と、氷を叩き割る感覚が伝い、同時に白銀の大剣が頭上に迫っていた。

 

「震え、凍てつけ!」

 

 氷の魔術を主とするアイフェの原初のルーン、それを杖に纏わせることで重く鋭い氷剣を生成し、軽々と振るう。

 アレを武具で受け止めようものならば、途端に凍りつき始め、多少なりとも害が出る。

 

 だが、

 

(あぁ、視えていたともッ!)

 

 理解かっていたからこそ避けるのも容易い。大剣の斬撃を紙一重で避ければ、次は私が攻める。

 先の一振によって奴の位置を把握し、身を捻って魔槍で一突き、しかしアイフェの槍で弾かれる。が、片手に槍という構え故に、反対側はルーンという手間が必要となる。その刹那を狙う。しかし、

 

「────何もしていない訳がなかろう?」

 

 突如として白煙の下から突き刺すような氷塊、氷塊、氷塊。

 私は凍りつくのを回避すべく、跳躍の後に数十の魔槍を射出し、大地を覆う氷を砕いて足場を確保する。

 

「ふむ、やはり貴様とではこうなるか」

 

「当然の結果よな。姉上も私も、智慧で先を視ているのだから」

 

「だが、此度も勝たせてもらおう。愛弟子を唆す輩は早々に潰しておかねば、何をするやもしれんしな」

 

「戯けたことを。私は純粋に彼奴に好意を抱いているだけだ。だというのに、人の、しかも妹の恋路を邪魔するとな。全く大人気ないものよ」

 

 何が純粋、恋路か。彼奴は私の愛弟子である時点で所有権は私にある。それを奪い取らんと挑んで来た盗人の分際で、臆面なく何を言うか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 正しく必殺の応酬、槍術とルーン魔術が激しく入り乱れる幽世。何人もの介入の一切を許さぬ頂上の戦。

 もはや時を忘れ、勝たねばならん戦いを続ける。幾度も槍を交え、打ち合いの回数は計り知れない。

 

 その最中に頭中に浮かぶはアイフェがクー・フーリンと内密に出会っていたであろう光景、その予想。クー・フーリンがアイフェと睦まじく笑い合っているのを頭に描くだけで、胸が張り裂けそうになる。他の女でも例外はなく。

 

 私はこれを知っている、嫉妬だ。

 

 ────あぁ、彼奴め。私をこのように不愉快にさせるとはな。

 

 いっそのこと、クー・フーリンめを生涯影の国に閉じ込め、亡霊や神を狩らせて人の領域を外させ、死ねない者同士で過ごすというのも悪くはないな。

 

 

「────何をしているんだアンタらは!」

 

 

 妙に響く声、と同時に私もアイフェも動きを止めて声の主へと視線を束ねる。クー・フーリンではないか。

 何故私達が争っているのかが心底理解出来んと言わんばかりに、焦燥に駆られている様子。

 

「何、と言われてもな。儂とアイフェとの戦争といったところか」

 

 戦争と言ったせいか、こやつの頬がやや引き攣る。

 

「師匠と師範は姉妹なんだろ。事情は知らんが、喧嘩はよくねえ」

 

「ハハッ、ケルトの男にしては異様よな! だが、ふふ、実にクー・フーリンらしい」

 

 ────愛い、実に愛いな。

 

 私は自身の胸の内を自覚したせいか、クー・フーリンめを見れば愛おしく感じられて仕方がない。

 あぁ、これは危険だ。この感情は判断を狂わせる。腕を鈍らせる。しかし、永遠に揺蕩っていたいと感じさせる。

 

「おや、クー・フーリンでないか。ふふ、今は下がっているがよい。後で迎えに行ってやるからな」

 

 そこへ、槍を担ぎ杖をこちらに向け、隙を伺わせぬ女狐が寄ってくる。アイフェだ。その後に奴はクー・フーリンに向けて流し目を送る。

 

「ほう、既に勝者気取りか。妄想は大概にしておけよ。さすれば現実との落差は低いだろう?」

 

「お互い様だ、全くもってな」

 

 それにしても、と続けるアイフェ。その顔には嘲りが多分に含まれる。

 

「自分を殺せる者を求めていたはずのお前が、男一人に現を抜かし、浮かれ、嫉妬に狂うとは。実に哀れなものよ、目も当てられんわ」

 

「──────ほう」

 

「しかも、意中の相手には女として見られておらず、別の女と談笑している始末。よもや逢引の『あ』の字すらなくしてしまったのか? 年増の割に乙女らしいな」

 

 …………これは、憤怒、憤怒だ。以前ならば何の揺らぎもなかったろうに。彼奴が絡むとどうにも情緒的になって仕方ない。

 

「おい、そこらへの被害を考えろ。アンタらそれでも年は────」

 

「こら、喧しいぞ」

 

「────ガッ!?」

 

 思わずクー・フーリンめを殴り飛ばしてしもうたわ。あぁ、心配はないぞ、目を覚ませば全てが片付いておる。

 

「さて、続けようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数刻、未だ私とアイフェとの奪い合いは決着が着いていなかった。

 

「ぐっ、さっさと倒れんか…………!」

 

「姉上も、そろそろ、休めッ」

 

 互いに満身創痍、しかしクー・フーリンを賭けての戦争。どちらかが勝つまで止まらない、止められないッ! 

 そうだ、クー・フーリンはアイフェなぞに渡さん、渡してなるものか! 私を昂らせる者など他におらんのだッ! 

 

 

「…………痛ぇじゃねえか」

 

 

 荒地と化した大地に、瞬時に静寂をもたらすは争いの原因たるクー・フーリン。その身は何故か生傷だらけであり、細められた眼は怒気と覚悟を湛えていた。

 

「我が愛弟子よ、邪魔するでない! 儂はこやつを────」

 

「今は下がっておれ、我が門下生。もうすぐに決着が────」

 

 当然にもどちらも譲らぬ争い。既に足取りは定かではなく、己が武器を握る力すら入りづらい。

 

 

 

「いい加減に、しろッ」

 

 

 

「「っ!?」」

 

 直後、私とアイフェはクー・フーリンめに、頭蓋が割れると錯覚してしまう程の拳を落とされる。

 

「────っな、何をするか!?」

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

 

「訳あっての喧嘩なんだろうがな、ここまでにしとけ」

 

「それは、それだけは出来んッ! こやつはここで潰さねばならんのだ!」

 

「クー・フーリンよ、これは私達の戦争だ。故にここで止めたとて、火種は燻ったままだろう」

 

 これはクー・フーリンを賭けた女の争いだ。これに敗北するということは、即ち、こやつと居られなくなるということだ。…………想像するだけで、胸に大穴を空けられたような陰鬱な気分になる。

 と、そんな私らの反応に、クー・フーリンは呆れと諦めが混同する顔を向け、

 

「…………そうかい、止めるつもりはねえってこったな。なら気が済むまでやってろ。俺はそれまで影の国から避難してるからよ」

 

 な、何を! お主がここから出て行けば、何処とも知れぬ女子共に群がられるに決まっておるわ! それはだけはならん、私が守ってやらねばならんのだッ! 

 

「そ、それは反則というものだろう!」

 

 青天の霹靂だったのだろう、同様にアイフェにも焦りが浮かんでいるのが伺える。

 

「なら、この勝負は俺が預かる。だからここで手打ちにしろ」

 

 私とアイフェとでは実力が均衡しており、争う時は何時も片方が面倒になって終いとなる。だが、此度はそれが叶わぬ。だからこそ、どちらかが倒れるまでやる必要があったのだ。

 しかし、ここでの勝者をクー・フーリンにすることで、私達は敗者、つまりは捕虜として所有権がこやつに行く。

 そうすれば、私はクー・フーリンの女として傍に居られるのではないか? 主人を守るためだとして毒牙を払いのけられるのではないか? 

 

 ────良い、良い、良い! 

 

「なあ、姉上」

 

「…………やはり姉妹、か」

 

 見ればアイフェも同じ結論に至ったようで、その顔には戦意が感じられなかった。

 

「…………あい、わかった。であれば、此度は儂らの負け、クー・フーリンの勝ちということで済ますとしようか」

 

「…………待て、何故俺が勝ちなんだ?」

 

「となれば、影の国の実力者たる私達に敗北の烙印を押したお前には、影の国の支配権があることになるな?」

 

「…………は?」

 

「そして、儂らはお主に負けたのだから、捕虜として所有権をくれてやる」

 

「え」

 

「何、心配は要らん。私達姉妹を好きにして良い、という同意を得たことになるだけさ。ふふっ」

 

「なっ」

 

 クー・フーリンめが付け入る隙を与えぬ、私とアイフェの口撃、否、決定事項の通達である。

 姉妹だからこそ互いを理解し合っており、そのせいで決着が着かないということは、裏を返せば共同戦線ならば阿吽の呼吸で追い詰められるということ。皮肉だな、全く。

 

「何、ぶっ飛んだこと言ってやがる? 第一に支配権なんてモンは欲しかねぇし、第二に捕虜なんていらねぇよ…………」

 

 しかし、クー・フーリンはそれに理解が追いつかないのか、渋い顔をする。

 ほう、私がいらんと申すか。これは傲慢な愛弟子だなッ! 

 

 

 

 結局、クー・フーリンめは私に支配権を譲渡し、アイフェには大人しくするよう謹慎を申し付けるに終わった。

 これでは何も変わらんではないか! むぅ、解せぬ、解せぬぞ…………。

 

 その後、クー・フーリンは私とアイフェに「争いの原因は何だ?」と問うてくるが、言える訳がなかろう。お主を取り合った女としての争いなどと。

 

 

 

 ◆




◆補足◆

Q.クー・フーリン(偽)は2人を止めるために死にかけてたんやないん?
A.余波で死にかけてます。なお、当人らはそれに気がついていない模様。何か、踏んでしまったか?()

Q.クー・フーリン(偽)の前世は俺らみたいなやつとか言ってたけど、こんな根性あるやつが俺らなわけないだろ!いい加減にしろ!
A.耐久全振りならワンチャン←

◆登場人物の変更点まとめ◆
・クー・フーリン
→何もかも違うやつ。何なら全てを狂わしたのはコイツなので諸悪の根源。この世全ての悪。

・エメル
→上のやつに狂わされたやべーやつ。執着型と独占型を足したヤンデレで、後々にもっとやべーやつになる予定(え)

・スカサハ
→原作では人の心すら無くして魔性のそれと同質になったものの、ここでは『新しく心を得た』。そのきっかけとなったクー・フーリンに対して独占型と周囲殲滅型のヤンデレを患うことに。

・アイフェ
→コチラは資料が無さ過ぎたんで、脳内補完で済ませてきたキャラを宛てがい、結果として割と純粋な乙女になっている。しかし自分がクー・フーリンに授けたルーンを『愛の結晶』と感じていたり、自分色に染め上げることを画策していたりする。潜在的なやべーやつ。

・フェルディア
→もしかしたらコイツが死なない世界線かも。

・フェルグス
→剣術の指南をしてくれた恩人というポジション。後々にまた出るかも。


↓ここから雑談↓


 お久しぶりです。まさかの後半が1万字超えで非常に時間がかかりました(白目)ですが、リアルが忙しいとこんなもんですね。更新頻度はこれが常となりそうなので御容赦を。
 今回の話はスカサハがクー・フーリンにヤンデレる回ということを目指して書いていたのですが、あまりの戦闘描写の連続で、作者の語彙力が消失しかけるという事態に発展しました←
 なので、後半に行くに連れて表現が陳腐になっていたり、似た表現の使い回しであったり、作者の疲れが見え隠れする字面になっていたりと色々とアレです(絶望)
 いやー、脊椎反射で書けるクー・フーリン(偽)視点ならばぱぱぱっとやって、終わり!って感じなんですけどね。ともかく、今回の話は作者にとっても課題が残るものとなったので、また頑張ります!










 日間ランキング1位に入った時はあまりの驚きで「ぷももえんぐえげぎぎおんもえちょっちょちゃっさっ!」ってなりました(やば)

 (UAや評価が)いっぱいいっぱい、裕次郎!(意味不明)

 次回はアイフェかフェルディアの視点を簡単に済ませようかと考えているので、しばらくお待ちを!


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魔境、深淵の叡智:アイフェ視点

 アイフェのキャラどうしよ………。
 ↓
 資料とにらめっこ。
 ↓
 せや!お姉ちゃん大好きだけど、お姉ちゃんに劣等感を抱いている拗らせ妹にしたろ!
 ↓
 難産過ぎるンゴ………(絶望)
 ↓
 ワイは何を書きたいんや?(賢者タイム)
 ↓
 どうしてこうなった………?←イマココ



 整合性を保つためにこれまでの話を少しばかり改稿をしました。プロットも設定メモも何も無い弊害ですね←
 それはそれとして、姉上、姉上って書いていると脳内にカッツが出てくるの草。


 ◆

 

 

 

 私の名はアイフェ。

 

 私にはスカサハという瓜二つの姉がいる。姉上はやることのほぼ全てにおいて最高と評される結果を出し、武術でも秀で、そんな姉上に対して私は仰望と憧憬の火を灯らせていた。

 だから、私は姉上の行動を模倣し、姉上の隣に立てるよう奮闘した。

 

 姉上が槍術を身に付けた。であれば私も槍に手を伸ばして修練、修練、修練。

 

 姉上が魔術の見識を深めた。であれば私も魔術に足を踏み入れて学ぶ、学ぶ、学ぶ。

 

 姉上が人を斬った。であれば私も人を斬る、斬る、斬る。

 

 姉上が亡霊を穿った。であれば私も亡霊を穿つ、穿つ、穿つ。

 

 姉上が神を殺した。であれば私も神を殺す、殺す、殺す。

 

 ケルトにおいて最強、と言わしめる姉上と肩を並べていたい。その一心で蛮勇とも形容できる、あらゆることに果敢に挑戦した。

 

 だが、現実は非情。

 

 私は何をやっても姉上には届かず、互角に見えても実情は劣勢。唯一勝るであろうルーン魔術においては「それのみでは辛かろう」と評される始末。

 

 しかし、それでも私は諦めない。物事の頂点は誇らしいだろうが、同等に孤独だ。ならば私が姉上の好敵手となろう、なってみせよう! 

 

 

 

 覚悟をすれども結果は出ず。私は一層の劣等感に苛まれるようになり、挙句、周囲にも比較されるようになった。

 

『お前があのスカサハの妹か? 随分と違ぇんだな』

 

 ────やめろ。

 

『あぁ、そうか。似ているのは見た目だけか』

 

 ────やめろ、やめろ。

 

『強いかもしれんが、あのスカサハよりは、なぁ?』

 

 ────やめろ、やめろ、やめろッ! 

 

 確かに私は姉上に憧れ、姉上のようになりたかった。それは認めよう。

 だが私は、姉上に、スカサハになりたかったのではない! 

 

 ────私はアイフェ、アイフェだッ! 

 

 そのような環境は、私の幼き心を壊すには十分で、仰望は憎悪に、憧憬は嫉妬にへと変化するのに時間はかからなかった。

 

 気が付けば、私はアイフェという名前すら嫌いになっていた。『愚かにもスカサハになりたがった女』という偏見が付いて回ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、私も姉上と同様に人の理から外れて神の領域に近付き、時間の感覚が薄れて無くなる程度には生きた。

 そうなってやっと、私は影の国において姉上と肩を並べる強者として名を馳せるようになったが、私の幼き心を歪めたそれらは鎮火することなく燻り続け。

 姉上の所有物を欲し、私の持たざるを奪い取る。それを生業にするかの如く、常に姉上と争う仲となったのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 姉上が一人の男に夢中になっているらしい。

 

 そう耳にした私は驚愕した。姉上といえば、既に人心を失い、己を殺せる強者を求める亡霊のような存在と化しているはずだ。

 そんな姉上が今更、色恋沙汰に心を踊らすというのか? いや、前提として踊る心は残っているのか? 

 

 …………まあ、構うものか。姉上が夢中になるほどの男だ。武勇に秀で、戦闘行為に喜びを見出す戦士なのだろうと想像するに容易い。

 

 ────であれば、奪うのみよな。

 

 姉上を魅了せし男を奪い、配下に加え、再び戦に挑むとしよう。

 そこで、お前の男は私に惹かれておるぞ、と囁いてやるのだ。あぁ、さすれば姉上はどんな顔をしてくれるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 影の国へと弾かれた際、私や姉上は元の世界の領地ごと、ここへと囚われの身になった。

 となると必然、姉上がいる場所は姉上の領地だった場所。つまり、件の男もそこにいるはずだ。

 

 私は原初のルーンを用いた現実誤認を行使し、最高ランクの幻術に等しきそれによって、姉上の領地へと足を踏み入れる。

 探せば、程なくして激しい剣戟の音が響く場へと辿り着き、そこで緋色の閃光が交錯しているのを目にした。

 

 片方は見慣れた敬愛/憎悪すべき姉上────スカサハ。影の国最強と謳われる姉上と打ち合うは、青い髪と紅い瞳、鍛え上げられた肉体と猛犬の如き闘気が印象的な男だった。

 

 ────彼奴だ、間違いない。

 

 その後、激しい打ち合いが止み、姉上は上機嫌に去って行く。どうやら休息時間のようだ。そこを狙う。

 しかし、姉上に気付かれては全てが水の泡。原初のルーンで現実誤認を行使し、加えて魔力探知の面でも防御を施す。

 

「そこのお前」

 

「師匠…………いや、誰だ?」

 

「むぅ、私を知らんと申すか。まあ良い。私はアイフェ、お前の師匠の妹よ。お前の名は何と言う?」

 

「…………クー・フーリンだ」

 

 ほう、こやつはクランの猛犬(クー・フ―リン)というのか。ふふ、名前の通り、猛犬さながらの鋭敏な気配だ。

 実力も、先の姉上との打ち合いで把握した。こやつは先天的に英雄の素質を備えし逸材。姉上と一騎打ちという方式の扱きを耐え抜くだけの耐久と精神も兼ね、しかし今尚成長の最中にいる。底が知れんな。

 

「で、アイフェ。何か用か?」

 

 …………ほう、こやつめ。姉上の妹と知って尚、態度を改めんか。随分と久しいな、このような男は。

 

「いや、特に所用はない。が────」

 

 ────お前の最期には用がある。

 

 名乗りを交わした直後、魔境の智慧によってクー・フーリンの最期を覗く。果たして優秀な素質を備えしこやつは、如何様な死を遂げるのか。

 

 是非とも、他の男共とは一線を画するそれを視せるがよい! 

 

 

 

「っ」

 

 

 

 壮絶、あまりに壮絶。

 

 これまで目にしてきたケルトの男の一生涯のどれよりも、壮絶にして過酷。そして、あまりにも異様。

 まるでこやつを中心に世界が廻り、否、狂っているように感じられた。

 

 それにしても、まさか■■■をするためにゲッシュで神からの祝福を得、「死」へと昇華して■■■■に「死」を与えるとは。

 

「ふふ、そうか、そういうことか。なるほど、確かにこれは────」

 

 ────姉上が魅了されるのも無理はない。

 

 私がここまで関心をそそられたのだ。きっと姉上であれば、この程度では済まんかったろうに。

 そう、私が心でくつくつと笑っていると、クー・フーリンは怪訝な顔をする。

 

「…………何なんだ?」

 

「あぁ、いや、すまんな。ところで、クー・フーリンよ。お前は姉上からどのような修行をつけられておるのだ?」

 

「そうだな、主に槍術だが、それに関連した武術や基礎体力の強化、更には剣術やら騎乗術やら。覚えておいて損は無いって言われてな。後はルーン魔術だが、こっちはあんまし重点的に教えられてはねえな」

 

「ふむ、そうか」

 

 教師の色が強い姉上のことだ、ルーン魔術を先に極めさせれば、それ有りきの立ち回りが身に付いてしまうと危惧してのことなのだろう。

 確かにルーン魔術は万能に近い。ルーン魔術とは大神オーディンが編み上げた魔術基盤であり、その命を捧げて見出した真実を導くカタチだ。

 そんなものを教え、覚え、あらゆる場面で重宝するそれに浴してばかりでは、腕は鈍るばかりよ。

 

 あぁ、それは理解出来る。が、しかし、

 

「ならばクー・フーリンよ、私がお前にルーン魔術の手解きをしてやろうか?」

 

「…………何?」

 

 結局のところ、ルーン魔術とて術であり道具だ。ならば、使えるものは使えばいい。使わねば意味が無いだろうに。むしろそのせいで堕落したのなら、それ止まりだったということよ。

 

「見たところお前は、ルーン魔術をものにしたいという意思はあるが、多方、姉上に『まだ早い』と突っぱねられているのだろう?」

 

「あぁ、そうだが」

 

「私は影の国では姉上に並ぶ強者、ルーン魔術においては姉上すらも凌駕する使い手だ。そんな女が、偶然にもお前の眼前にいる」

 

 さて、どうする? と微笑みを添えて問えば、当然の返答。

 

「そうかい。なら、その偶然を享受したい。叶うか?」

 

「うむ、そうさな、それでよい」

 

「よろしく頼む、アイフェ」

 

「…………あまり名前で呼ばれるのは好かん。アイフェではなく、師匠…………いや、それでは姉上と被るか。ならば、師範と呼ぶがよい」

 

「わかった、師範。…………それはそれとして、何故俺に教えてくれるんだ?」

 

「深い理由はない。無性に鍛えてやりたくなっただけさ」

 

 偽りはない。

 

 姉上をも魅力する才、私が感嘆する程の精神力、クー・フーリンの底に形成されつつある英雄の器。他にも列挙できそうだが、それらからひとつを抽出し、それだけを見たとしても、こやつは秀逸な戦士────英雄になると分かる。

 それに助力してやりたいというのも本音であるが、それ以上に、姉上の男を私色に染め上げてやりたい。

 

「では、早速始めるとしようか、我が門下生?」

 

 

 ◆

 

 

 ルーン魔術の手解きを開始してから、早一ヶ月。元よりクー・フーリンはルーン魔術に関心があったせいか、驚く程に意欲的で学びの速度も目を見張るものがあった。

 

 魔力量という観点からでは、こやつの素質は高いという一言に尽きる。クー・フーリンの帯びる神性の賜物なのだろうが、こやつめ、自覚はしとらんらしい。少なくとも、これ程の量であれば、戦闘時に撹乱や牽制など贅沢な使用が可能となるだろう。

 また、学びの速度も尋常ではなかった。教えて直ぐにアンサズやソウェル、エワズなどの火のルーンは容易くものにし、更にはカノやトゥール、他にも転移や疾走、癒し、強化、硬化といったルーン魔術を、ものの一月で身に付けたのだ。

 しかも、ルーン魔術を学ぶは姉上の修行の小休止という、極僅かの時間で、だ。疲労で心身が悲鳴を上げているだろうに、毎日のようにルーン魔術を学び、それを喜び、満ち足りた顔を向けてくる。

 

 だからだろうか。私も楽しくなって次第に施す内容が激烈化していき、遂には姉上の『門』の真似事まで教え込んでいた。

 

 それにしても摩訶不思議なやつよな。武術やルーン魔術を学ぶその姿勢は良いが、こやつは無双の戦士や賞賛を受ける英雄に成りたがっているわけではない。

 明確な理想を目指し、そこへ暗中模索しながら進んでいるような、曖昧な印象を受ける。

 

「────そこまでだ。クー・フーリンよ、よくそれをものにしたな。いやはや、もはや感服せざるを得んな」

 

「感謝するぜ、師範。こんだけ使えりゃあ、師匠に傷ひとつくらいは付けられるようになるかもしれねぇな」

 

 むう、事ある毎に師匠、師匠とは。こやつの眼中には姉上しかいないというのか? 

 

 …………待て。何だ、何故私は嫉妬している? 私が姉上の男を取って、姉上にそうさせるつもりだったというのに。むしろ、嫉妬させられるなどと。

 

 ────あぁ、駄目だ。不快だ。酷く不快だ。

 

「…………そうか、ところでクー・フーリン。お前は姉上のことをどう思っているのだ?」

 

「あ? 何だ急に」

 

「姉上は影の国最強と謳われる女王のようなものだ。そして、お前は比較的他の弟子達よりも熱心に修行をつけられている。目に見えて特別扱いされているだろう?」

 

 そこに何か思うところはないのか、と問う。間違いなく、姉上はこやつの虜にされている。ただ、姉上がそうであったとしても、クー・フーリンにその気がなければ、まだ付け入る隙はあるはずだ。

 

「そうさな、感謝はしている。師匠が拾ってくれなきゃ、俺は強くなるどころか、その辺で野垂れ死んでたかもしれねぇしな。…………まあ、かなり荒っぽいところには思うところがあるがな」

 

「ほう、つまり姉上のことを別の意味で求めてはいないと?」

 

「? 別の、ってのは何のことだ?」

 

 心に乱れは見られず、隠蔽の類はなし。いや、鈍いだけか? 何にせよ、ふふっ、姉上め、どうやらクー・フーリンは姉上に振り向いていないようだぞ? 

 

「いや、何でもないさ」

 

 眉を歪め、何の事だと言わんばかりの顔を私に向けてくるクー・フーリン。

 あぁ、知らんでいい。その方が好都合だ。さて、どうやって姉上からこの男を奪って────

 

「なぁ、師範。聞いてもいいか?」

 

「…………む、何だ?」

 

「師範も師匠も、今じゃ影の国最強とか言われてるが、やっぱ最初はそこら辺のやつらと同じ程度の力しか持っていなかったのか?」

 

「ふっ、当然だろう。乳飲み子の頃から亡霊や神を殺せたとでも?」

 

「…………言われるとそうなんだが、師範とか師匠を見ていると、ひょっとしたらそうなんじゃねぇのかって思えてな」

 

 失礼な。私や姉上とて非力な時代はあったのだぞ。

 心で憤慨していると、クー・フーリンの顔に憂いが帯びる。

 

「俺には理想がある。だが、それを遂げるための過程がさっぱりわからねぇ。強くなったと自覚できる今でさえ、師匠に手も足も出ねぇし、どうすりゃあ強くなれるのか、見通しがつかないもんでな」

 

 こやつめ、自身が師事しているのが誰なのか忘れてはないか? あの姉上だぞ、そう簡単に互角の域にまで達することができたなら、私のこれまでは無価値でないか。

 そして、己の力量を自覚できていないようだな。とうに影の国に跋扈する亡霊共を殺せるだけの力を得ていように。

 

「師範はどうやってそんだけの力を習得できたんだ?」

 

「…………私はただ、姉上に憧憬の火を灯らせ、数百年、数千年と鍛錬を積み重ねただけだ。そこに特別な何かはなかったさ」

 

 あぁ、そうだ。私は姉上と同じ頂に立ちたかっただけ。そこに特別などという要素は介在せず、特別なのは姉上の素質だった。だからこそ、身を削る思いをしながらに鍛錬に勤しむしかなかったのだ。

 しかし、そうしたとて誰からも褒められず、認められず、貶されてきた。皆が口を揃えて「スカサハよりも〜」と卑下するように比較するのだ。

 

 不平等、不公平、劣等感、心無き言葉。それらが私を歪めた。もう、戻ることが許されない領域まで到達してしまった。

 

「すげぇな、師範は」

 

「──────え?」

 

 …………だと言うのに、お前は私が心から欲した言葉を贈ってくれるのか。

 

「姉の背中を追いかけて数千年の努力なんて、俺には無理だ。まして、影の国の二大実力者になれてやがる。努力が報われているじゃねぇか」

 

「…………お前は、私を姉上と比べたりしないのだな」

 

「あん? 何で比べなきゃならねぇんだ?」

 

「…………何?」

 

「同じってんなら比較もするだろうが、師範と師匠は別人だろ? 得手不得手も趣味趣向も違う。なら、比べようもねぇって話だ。師匠は師匠、師範は師範だ」

 

 …………むう、そこまで面と向かって言われると、何だか気恥ずかしくなってしまうな。

 

「確かに、周りからの評価ってのも重要だが、俺としては、自分が何をしたいのかが重要だと考えている」

 

「自分が何をしたいか、か」

 

「あぁ。何が出来るか、何をしてきたかは後に着いてくるモンで、まずは自分が何をどうしたいのかってな」

 

 あぁ、私は何て安いのだろうな。たったこれのみで、私の心に巣食う靄が払拭されていくのを感じる。

 

「…………ふふ、年端もいかぬ若造に、まさか人生を語られるとはな。これではどちらが師範なのか」

 

 さも経験してきたかのような口ぶりで説教するクー・フーリン、その姿が異様に似合っているのは気の所為か? 

 

「あぁ、全く。本当にお前はケルトらしさが欠如しているな。お前のような男には初めて会った」

 

「そんなにか?」

 

「あぁ、そんなにだ。少なくとも私はな」

 

 遺憾の意を表明するクー・フーリンの顔を見て、私は久し振りに憑き物が落ちたような、自然な笑みを浮かべられた。

 

 そうだ。私が出会ってきた男は、大半が私に挑む者、弟子入りを懇願する者、愚かにも女になれと言い寄る者。残った少数は、黒い感情から私と姉上を比較して、私を見下す者だ。

 そんな奴らめを見れば、クー・フーリンはどれもに該当しない。私をそのような色眼鏡で見ることなく、『アイフェ』ではなく、ただのアイフェとして見てくれている。

 

 それが、果てしなく心地良い────心地良い、とな? いや、心地良いのは事実だが、それだけか? 

 クー・フーリンを見つめてみる。視線が絡み合うと妙に胸が高鳴る。

 

「どうした、師範」

 

「い、いや」

 

 そういえば、こやつの修行を通じて、私は心から楽しんでいた。更には師匠、師匠と連呼される度に嫉妬の感情が湧いていた。

 

 ────もしや、私はこやつを好いているのか? 

 

 いや、否定はせんし、できもしないが、流石に安易過ぎはせんか? それとも、私はそれ程に救われたということか? 

 まあよい、好いているかどうかの確認は後でも出来る。その前にやらねばならんことは、姉上からクー・フーリンを奪い取ることだ。

 

 ────どうやら、此度は退けぬ戦争になりそうだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 




◆補足◆

Q.アイフェとかスカサハって幼少期について言及されてたっけ?
A.されてないと思うので、100%の妄想です。

Q.何でアイフェこんなにいじめられてるん?
A.周囲が脳筋で煽り文句がコミュニケーションみたいな奴らの巣窟、しかしアイフェはそれらを真に受けてしまい、苦痛に感じてしまっていた、という価値観の相違です。そこへ優秀な姉との比較というダブルパンチです。

Q.アイフェがチョロ過ぎへん?
A.せやな(諦)。感覚としてはケリィが士郎君見つけて助かったようなもの。オルガマリーやゴルドルフをベタ褒めしたようなもの。
・アイフェ→数千年生きてきて心から褒められたことが一度もない、寄ってくる奴は大概欲に塗れてる、姉と比較されまくって価値観が歪んでる。
・クー・フーリン→アイフェを素直に尊敬して褒めてる、ビジネスライクのお付き合い、皆違って皆いいの精神。

→見事なベストマッチ(尚、本人らの価値観)。

Q.スカサハとの戦闘描写や後日談については?
A.前回でも言及していますが、アイフェとスカサハは互いの思考が似ています。なので、ある程度の心境はスカサハ視点で書いたのとほぼ同じ内容なので、あえて書く必要も無いと判断しました。

Q.クーちゃんえらい饒舌やったね。
A.気の知れた仲だと語れるタイプ。


◆プロフィール:アイフェ
 身長/体重:162cm/50kg
 属性:混沌・善
 性別:女性
 一人称:私
 二人称:お前、名前呼び、姉上(スカサハ限定)
 三人称:奴、名前呼び、あの男・女
 クラス適正:キャスターorランサー(予定)
 影の国に強者として名を馳せる女性。スカサハの妹。容姿はスカディの霊基再臨2段階と3段階を足して2で割ったようなもの。性格や言動は概ねスカディのそれだが、スカディではないため、母気取りはしないし、愛そうか殺そうかなどといった言動もしない。スカサハのやることなすことの全てを真似し、スカサハが持って自分が持たぬものの全てを欲する。要は姉の真似をしたがる典型的なお姉ちゃんっ娘である。その反面、総合的に見れば自身よりも優秀な姉に劣等感を抱いていたりする。が、スカサハと違って人心を失わなかったり、数千年規模で劣等感を維持させ続けている点を見れば、精神の在り方は正しくスカサハのそれを凌駕している。また、数千年単位で褒められたことがないため、面と向かって褒めたりすると簡単に堕ちるチョロさを持つ。スカサハのことを姉上と呼称しており、好敵手として争う仲である一方、互いに理解し合えるのはスカサハのみだと確信している。そのため、ある意味ではアイフェはスカサハのことを大事に思っていると言えるだろう。クー・フーリンが自らの授けた智慧を使う度、「アレは私と彼奴が深く混ざり合ったもの」、つまりは愛の結晶として認識しており、内心で歓喜していたりする。自分好みに染めることに快感を得る特殊なアレで、逆に染められることに対しても寛容。
 スカサハを虜にした男がいると聞き、ならばそれを奪ってやろうという魂胆でクー・フーリンに接触したが、むしろケルトの性を刺激され、尚且つ「スカサハの妹」「影の国の強者」といった色眼鏡で見ない彼に惹かれていき、気が付けば虜にされていたという始末。そうしてクー・フーリンに対し、スカサハが授けていない智慧を授けたことで、スカサハの嫉妬を買うことになり、戦争規模の大喧嘩に発展。そこへ仲裁しにきたクー・フーリンに「なら影の国から出てくわ」という脅し(本人はただ避難するだけだった模様)をかけられ、喧嘩は強制終了した。
 右手に緋色の槍、左手に魔術を綴る杖を持つ。槍術はスカサハと互角に打ち合える技量を備えており、控えにもう一条の槍を持つ。魔術は原初のルーンを用いた神代レベルのものを扱っており、主として氷の魔術を行使する。イメージとしてはスカディのそれを浮かべてくれるとわかりやすい。
 史実ではスカサハと影の国の支配権を巡って争い、そこへ参戦したクー・フーリンに六人の勇士を倒され、劣勢となったことで彼に一騎打ちを申し込む。そうして敗北したアイフェはクー・フーリンの捕虜となった後、彼の息子コンラを授かることに。

 ※ステータスや宝具については現状未定。


 ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。今回はくっそ難産だったアイフェさん視点でした。もうどう表現すればいいのかわからなすぎて、一週間頭抱えながらSEKIROやったり、アベンジャーズ観に行ったりでした。
 アイフェについては、色々と考えた末に辿り着いたキャラクターです。スカサハと姉妹という世界線ならば、何故スカサハと争うのか?姉妹関係が悪いとか、むしろ親愛から来る闘争(殴り合い宇宙)なのか。むーん、それ以前にアイフェってスカサハ嫌いなのか?いや、それはないんじゃないか。といった考えから生まれたのが、このアイフェでした。書き終えた段階では、「褒められたことないとか、こいつオルガマリーとかゴルドルフみてえだな」という感想で埋め尽くされました()。
 頭の中にしかなかったストーリーを書き出してみたところ、どれ程に陳腐で粗末でガバいのかが浮き彫りになったので、書く片手間にストーリーについても作り直していくつもりです。












 はえー、作者の知識ガバ多すぎィ!はー、つっかえ!頭に来ますよー!何で頭に来たか、明日までに考えといて下さい。ほな!
 ということなので何か矛盾点があったり、「いや、それは違うよ!(迫真)」という点があればどんどん指摘してください。その都度文章や設定の整合性を保ちつつ改稿させていただきます。

 次回はフェルディアの視点を書きたいなーとか考えているので、またオリキャラでどうにかする回になりそうです。


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魔境、深淵の叡智:フェルディア視点

 再 び オ リ キ ャ ラ 回 ( デ デ ド ン ) 。

 フェルディアはイメージとして、ディルムッドとフィンを足して2で割っていい感じにまとめあげた優男です(語彙力)。
 容姿に関しては、具体的には、画像検索したら出てきた神撃のバハムートのフェルディアを思い浮かべてくれればいいかと思われ←

 後、今回はクー・フーリンって言葉が乱用されるので、少し食傷気味かもしれません(許して)。


 ◆

 

 

 

 俺が生涯の好敵手と出会ったのは、影の国で修行中の時だった。

 

 

 

 師匠であるスカサハが連れて来た男。目を引く青い髪と紅い瞳、表情を削がれた端正な顔立ち、そして研ぎ澄まされた戦士独特の雰囲気。

 一目で、この男は若い内に過酷な道を歩んできたのだと理解出来た。そして同時に、

 

(────強いな、この男はッ!)

 

 肌で感じ取る、強者特有の圧。この男ならば、俺と対等に戦えるだけの戦士かもしれない。そんな直感に従い、俺はすぐさま手合わせを申し込んだ。

 

「少し、時間を貰えるか?」

 

「…………あぁ、構わねぇ」

 

 少々の警戒、いや、一瞬だけ吊り上がった頬から察するに、この男も俺と同じだったらしい。

 

「俺はフェルディアという。お前の名を聞いてもいいか?」

 

「クー・フーリンだ」

 

「そうか。急な申し出を受けてもらい感謝するぞ、クー・フーリン」

 

「別に感謝されるようなことじゃねぇだろ。さ、やろうぜ」

 

 不敵な笑みを浮かべたクー・フーリンは、師匠から貸与された槍を構え、俺も同じく構えを取る。

 交錯する視線には歓喜と緊張が入り混じり、衝突する直前の高揚感が互いの戦意を昂らせていく。

 

「威勢はいいが、実力もそれ相応であることを願うぞッ!」

 

 昂りが頂点に達した俺は、クー・フーリンに突貫する。対し、クー・フーリンは身動きひとつせず、受け止める姿勢を示した。

 

(俺の攻撃を捌ける自信があるのか、或いはお前もまた、俺を試そうとしているのか。どちらにせよ────お手並み拝見といこうかッ!)

 

 突貫した勢いの全てを委ねた一撃、それに対してクー・フーリンは逆に槍を突き出し、己を穿たんと迫る槍に走らせて軌道を逸らし、紙一重で避ける。

 そうして間合いが無くなった俺達は示し合わせたかのように身を翻し、

 

「フッ!」

 

「────ッ!!」

 

 穿つ、穿つ、穿つ。必殺の応酬。

 弾く、弾く、弾く。技量の連鎖。

 

 一瞬の気の緩みが瞬時に敗北に繋がる、戦神の如き打ち合い。

 切迫した雰囲気、これぞ戦士同士の戦い。それが非常に心地良い! 

 

 互いの攻防が転じ続ける。俺が連撃をかませばクー・フーリンは的確に弾き返し、同時に俺の懐に潜り込んでは目にも留まらぬ速度で薙ぐ。

 常人であればこの時点で敗北必至の致命傷、だが俺は、クー・フーリンの体重移動の機微を見て取っていたことで余裕を持って宙に回避。すぐさま身を捻って全体重を乗せた強撃を見舞う。

 しかし見事、クー・フーリンは鋭い反射で受け止めてみせる。

 

 ────そうこなくてはなッ! 

 

 俺は槍に込める力を更に加えてクー・フーリンを吹き飛ばす。

 

「────っ、まだまだッ!」

 

 即座に体勢を整えたクー・フーリンが、今度は俺に向かって突っ込んでくるが、その速度が尋常ではない。

 

(────速いッ!!)

 

 こちらに駆けたと認識した直後、既に眼前にいる。もはや速いという次元ではない! 

 神速の一撃を放たれた俺は反射的に弾くことに成功するが、視界のクー・フーリンに槍が重なったと思えば、次の瞬間には姿が掻き消える。

 

「なッ」

 

 直後、気配────上ッ! 

 

 知覚と同時に顔を上げれば、寸前に迫る槍の穂先。そして、兇猛な笑みを湛えたクー・フーリンの姿。

 こいつめ、俺が動作の機微を見て次の手を予測しているのに勘付いたな! だから視界が塞がった刹那の間で仕掛けてきたかッ! 

 

「貰ったッ!」

 

 俺の反応速度を超えた一撃、それを弾くことも回避することも叶わず、俺の腕に刃が走るが、

 

「────っ!?」

 

 瞠目するクー・フーリン。何故なら、俺の腕からは一滴の血すら流れず、それどころか切り裂かれても穿たれてもいなかったからだ。

 

「言っていなかったな。俺の肉体は異様に頑丈でな、あらゆる刃を通さない」

 

「そういうのは先に言っとけ」

 

「はは、すまない。だが、俺は一槍浴びせられたのだから、今回は俺の負けだな」

 

 不満を隠すこともしないクー・フーリンに苦笑を漏らす俺だが、内心は歓喜に震えていた。

 

(漸く、漸く! 俺と互角に打ち合える実力者と出会えたか!)

 

 生を受けて十余年、俺は今まで自身よりも実力が下回る相手としか出会ったことがなかった。…………師匠は例外だが。

 戦士として誇りを持って生き、戦士として悵恨の無い死を迎える。それを胸に抱いてきたからこそ、俺は好敵手と呼べる戦士を渇望した。

 

 そして、漸く、俺の好敵手足り得る相手と出会えた、出会えたのだ! 

 師匠に弟子入りしてから黒星がひとつもなかった俺を、初見で打ち破るお前に! 

 

 ────クー・フーリン、お前こそが、お前こそが俺の好敵手となるべき存在だッ! 

 

 ははっ、やはり良いな。競い合う相手がいるというのは。

 

 

 

 

 

 この日から、俺の心に灯る火は、轟々と燃え盛る業火に変化した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 あれからというもの、俺は毎日のように修行の合間を縫ってはクー・フーリンと手合わせをしていた。現在の戦績は互いに五分五分で、勝っては負けてを繰り返している。

 その過程で俺はクー・フーリンこそが好敵手であると改めて認識し、クー・フーリンも俺と同じ心境と認識であったようだ。

 

 気が付けば、俺達は好敵手や競争相手という関係以上の友情を築いており、それこそ親友と形容すべき信頼関係が、そこにはあった。

 

「油断したなクー・フーリン! 今日は俺の勝ちだ」

 

「…………あー、ちくしょう。詰めを見誤ったか」

 

「いや、詰めは良かったと思うぞ。ただ、段々とお前の速さにも慣れてきたからな、ある程度は予測できたのさ」

 

「慣れてきたってオイ、俺の加速の前動作から攻撃される場所を予想して張ってたんだろうが。ったく、相変わらず人外じみた思考速度だな」

 

 当初は鉄面皮なやつだという印象を受けたが、今では悔しそうながらも晴れやかな表情で頭を搔くクー・フーリン。笑えば年相応なのだな。

 その場に座り込む彼の隣に、俺も腰を下ろし、身体を休める。

 

「これでもコノート最強となるであろう、と噂されてきた身だ。なら体現してやろうと俺なりに鍛錬を積み重ねてきたのさ」

 

「そうか、フェルディアはコノート出身だったな」

 

「ああ。修行が終われば俺はコノートに帰国して、そこで武勇を轟かせるつもりだ。…………まあ、そうなれば十中八九『あの』女王に目を付けられそうで敵わないがな」

 

「ん、女王?」

 

「お、知らないか。コノートの女王、メイヴだ」

 

 女王メイヴ────俺達と同年代の可憐で華奢な少女で、見惚れるほどの美貌や強気な姿勢も相まって、コノート内外で男からの人気が高い。また、まだ幼いながらも女王と呼ばれる所以は、アリル王がメイヴに惚れ込んで囲っているからだ。それ故、実質的な女王らしい。

 

 だが、俺個人としては女王は苦手な部類だ。女王は自身が気に入った勇士を、身体を使って傍に置いているらしく、それでも靡かぬならば如何様な手もとるとか。

 俺は生涯の忠誠を捧げる相手は自分で探し、他ならぬ自分自身で選びたい。だから女王のように強引に傅かせるやり方は好きではないのだ。そして俺の直感が、メイヴは権威、狂気、悪の三面を有していると告げており、そのような者には近付きたいとは感じられない。

 

 それはさて置き、俺が女王の名を口にしてから、何故かクー・フーリンがヤケに「メイヴ、チーズ…………」と呟いていたが、何なのだろうか? 

 

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

 不意に向けられた殺気、飛び退くと同時に飛来する緋色の槍、無数。

 

 これは師匠の槍だ。しかし何故? 

 

「………………」

 

 すると、何故か不機嫌な顔をし、無言で姿を現した師匠。

 

「し、師匠。これは────」

 

 俺がそう尋ねれば、師匠に恨みがましい視線を向けられる。お、俺が何かしたのか…………!? 

 

「お主ら、これから抜き打ち試験を行う。何、軽く死ぬだけだ、心配はない。不合格なら特別集中講義だ」

 

「「え」」

 

 脈絡のない、唐突な宣告。これは弟子を思う師匠の性によるそれか、はたまた────

 

「────ッ!」

 

 そんな俺の邪推を察知したのか、数条の魔槍が俺に襲い掛かる。

 俺の肉体は頑丈だが、魔槍の類では別だ。あのような代物で穿たれれば、正しく致命傷になる。

 

 俺は勢い良く手首を捻り、槍を高速回転させて弾く、弾く、弾く。しかし、魔槍は際限なく降り注ぐ。

 クー・フーリンの方を見れば、どうやら師匠と一騎打ちをしているようで、当然のように劣勢に立たされていた。

 

 このままでは本当に殺されかねない。どうにか凌ぐ糸口を見つけなければ…………! 

 俺の額に冷や汗が流れ出した時、無数の足音が接近してきた。

 

「おいおい、何の騒ぎだこりゃあ!?」

 

「煩くて休めねぇだr…………え、師匠?」

 

「…………何で師匠おこなの?」

 

 同じくスカサハを師事する数十人の弟子仲間だった。それを視界に収めた師匠は口元に意地の悪い弧を描き、

 

「ちょうど良い、お主らも受けて逝け」

 

 と、死刑を宣告した。

 

 

 

 

 

 

 突如として開戦した弟子(数十人)と師匠との死合。数の上では圧倒的有利な俺達だが、相手は師匠だ。故に有利などということはなく。

 

「ぐぎゃあッ!?」

 

「う、がァっ!?」

 

 魔槍と原初のルーンによる猛攻でひとり、またひとりと討ち取られていき、しかし原初のルーンによって肉体を再生させられ、前線復帰を余儀なくされるという生き地獄。

 一方の俺とクー・フーリンは師匠の猛攻を一番に受けており、否、俺達しか師匠を凌げなかったのだ。

 

「ぐッ、まだまだァ!」

 

「っ、クー・フーリン、交代だ!」

 

 となると必然、俺とクー・フーリンとで背を預け合い、一方が豪雨の如く降り注ぐ魔槍を弾き、もう一方が二条の魔槍を持ち出した師匠と一対一で打ち合う役割分担を行い、師匠に立ち向かうしかなかった。

 

「うォォオッ!」

 

 クー・フーリンが後方に飛び、それを討ち取ろうとしていた師匠に突貫する。だが、師匠はこちらに目を向けることなく弾いてみせ、

 

「ふふっ、お主には特にキツい基準を設けてやらんとな、フェルディア?」

 

 と、冷ややかな笑みをつくって振り向いてくる。

 

「────っ!? 俺が何かしましたかッ!」

 

「…………ふむ、自覚なしか。これは重い、重いぞ?」

 

 そう口にした師匠は、二条の魔槍を握ったまま俺に飛び込み、宙で姿勢を回転させてから蹴りを叩き込んでくる。

 俺は迫る脚に槍の柄を宛がって防ぐが、師匠はそれすらをも蹴って更に身体を捻り、二条の魔槍で斬り裂くように振るう。

 

「ッ」

 

 槍を思い切りに蹴られたことで体勢を崩してしまっていた俺は、師匠のそれを防げず身体に赤い線を刻む。

 やはり魔槍相手では俺の肉体も意味をなさないか…………! だが、やられっぱなしではないッ! 

 

 斬られた直後の刹那の放心すら制御し、激しい痛みで苦悶の声が漏れるが、それすら力に変えて、即座に槍で師匠を穿つ。

 

「ッがァ!」

 

 しかし、そう簡単には取らせてはくれない。師匠は表情の機微すらなく容易く弾いてみせ、逆に空いた一条で刺突を食らわせてくる。

 極限まで研ぎ澄まされた俺の思考速度が、それを捉えたと同時にすんでで回避させる。そして素早く槍を引き戻し、穿つ、穿つ、穿つ。

 師匠は俺の連撃を、槍を高速回転させて防ぎ、数条の魔槍を出現させたと同時に射出してくる。

 

「な、んのォ!」

 

 全身を穿たんと迫る致命の連続を弾き、打ち落とす。軌道を読んで回避が難しいと判断したものは、身を縦横無尽に動かして距離を置く。

 

 が、一瞬でも師匠から目を離したのは誤りだ。

 

「ほうら、何を余所見しているッ!」

 

「ッ!」

 

 死角から伸びる緋色。それが俺を貫こうとした刹那、横槍。

 

「危なっかしくて見てられねぇよ」

 

「っ、すまん、助かった!」

 

 師匠の一条を弾くはクー・フーリンだ。そして彼はすぐさま師匠に薙ぎを放ち、防いだところを俺が蹴り飛ばす。

 

 一度距離を置かせて仕切り直し。

 

「クー・フーリン」

 

「あぁ、いいぜ」

 

 たった一言、それのみで意思疎通をこなし、湖面に映るが如く、獰猛な笑みを浮かべる。

 

 師匠が着地したと同時に俺達は駆け出し、先手、クー・フーリン。全身全霊の一条を打ち出す。

 当然、師匠はそれを弾くが、クー・フーリンの手は止まることを知らず、幾度となく刺突を繰り返す。

 その最中、死角から俺が槍を走らせる。が、師匠は空いた片手の魔槍の柄で受け流し、その勢いで刺し穿とうとする。

 

 しかし、それは予期していたことッ! 

 

 俺は身を回転させて穿たれる瀬戸際で避ける。そしてそのまま────

 

「っ、ほう」

 

 ────クー・フーリンごと横薙ぐ。

 

 打ち合わせも何もない、しかし彼ならば問題はないという確信。その証拠に、跳躍によって俺の攻撃を避けた師匠、その頭上には師匠よりも高く飛んだクー・フーリンの姿があった。

 

「ッ、ラァ!!」

 

 身を捻ったクー・フーリンは、より勢い付けて槍を振り下ろし、直撃はしなかったが、防いだ師匠を地面へと叩き落とした。

 それに合わせて俺は火のルーン『ソウェル』を放ち、師匠を炎で包む────が、すぐさま炎は斬り払われる。一瞬の間が稼げたのだから十分だ! 

 

 師匠が炎から姿を晒したのと同じに、俺とクー・フーリンは血が滲む程に握る槍に力を込め、大きく振りかぶり────

 

「「食らえァ!!」」

 

 ────身体を壊す程に全力で投擲する。

 

 腕からは骨が粉砕した鈍い音とそれに伴う激痛が発生し、肩から背中にかけては繊維のようなものが千切れるのを感じる。それ程に、全力の投擲。

 再生のルーンがあるからこそ実行するという選択ができる芸当だ。

 

 しかし、師匠は転移のルーンを行使して回避し、結果、俺とクー・フーリンの槍が入れ違い、互いの投擲が互いへ襲い掛かる。

 

「フッ!」

 

 クー・フーリンは持ち前の神速によって回避し、その際に振り上げた脚を槍に落とし、強引に槍の穂先を地面に突き刺して静止させた。

 対する俺は頑丈さを駆使して真正面から掴み取り、地面に足を突き立てて勢いを殺す。

 

 初めての連携にしては互いの行動を阻害することもなく、互いの力量を熟知していたからこそ、力技の応酬で攻め立てることができた。師匠に転移を使わせた時点で、一定の成果があると言えるだろう。

 俺とクー・フーリンは互いの槍を手に取り、視線が合うと「そうこなくちゃな」と言わんばかりに笑みを浮かべる。はは、胸が熱くなるなっ! 

 

 込み上げる満足感に浸っていると、師匠が悠然と近寄り、

 

「よくぞ凌いだな、我が弟子達よ」

 

 不意に訪れた理不尽が終わりを告げた。

 

「今回のは本当に死ぬかと思えたな…………」

 

「…………あー、マジで死ぬわ」

 

 師匠の言葉によって身体を脱力させた俺とクー・フーリンは、笑い合いながらその場に倒れ込む。

 それを皮切りに、弟子仲間達も疲労困憊で倒れ込み、中には肩で息をして嗚咽を垂れ流す者までいる始末だった。

 

 

 

 

 

 

 弛緩した空気、それを砕いたのも師匠だった。

 

「では、ふふ、次はどれ程まで持つかのう」

 

 ────は、? 今、何と言った? 

 

「し、師匠? 次、っつーのは?」

 

 底冷えしたクー・フーリンが、声にそれを滲ませながら師匠に問えば、心なしか上気した頬を緩ませている師匠が、微笑みを湛えて答える。

 

「これほどまでやってくれたのだ、儂もそれに報いてやらねばな」

 

 ふふふ、と笑う師匠。その雰囲気は先程までのそれとは比較のしようもなく肥大化していき、今まで力を押さえ付けていたことを伺わせる。

 

「では、二次試験といこうか?」

 

 

 

 結局、俺もクー・フーリンも弟子仲間も、皆仲良く師匠に揉まれ、俺は理不尽だと呟きながら意識を手放した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 件の奇襲から一ヶ月。いつもの様に修行に勤しもうと起床してみれば、何やら朝から影の国が騒がしい。

 大地は継続的に振動し、鳴り止まぬ破砕音は空気を震撼させ、不意に氷の柱が出現したと思えば無数の魔槍が飛び交う。

 

 …………いつから影の国は戦争状態になったのか。

 

 聞けば、師匠とその妹のアイフェが争っているとのことで、その渦中にクー・フーリンがいるらしい。

 なるほど、女の争いか。師匠の言動を傍から見ていれば嫌でも理解する。アレは恋心というものだろう。

 だが、まさか師匠のみならず妹まで落とすとは。あいつめ、男冥利に尽きるな。…………まぁ、本人は鈍感なようだがな。

 

 確かに、クー・フーリンは不思議な男だ。俺もあいつと手合わせをしている最中は、心から楽しむことができ、俺に匹敵する程の戦士でありながら、非常に理知的で理性的だ。

 また、俺のみならず他の弟子仲間達の鍛錬相手として重宝されているようで、他の相手と戦った時よりも経験値が高いらしい。

 

 そんな魅力が異性を惹き付けて止まないのかもしれないな。

 はは、クー・フーリンがいると毎日が飽きないな、全く。

 

 

 

 ◆

 




◆補足◆

Q.他の弟子達って一緒に師匠にボコられてたんやないん? ほぼクー・フーリンとフェルディアやんけ。
A.そうです。弟子達の中ではこの二人くらいしかスカサハに太刀打ちできません。では、二人がスカサハと打ち合っている時に弟子達はどうしていたかというと、降り注ぐ魔槍とホーミング原初のルーン(火)に追われていました。怖いねぇ(棒読み)。

Q.何で師匠の頬が蒸気してたん?
A.滾ってきたぞぉぉぉおおお!!!(スパルタ並の感想)

Q.フェルディアがメイヴ嫌ってて草。
A.何草生やしとんねんゲイボるぞ(豹変)。というのはさておき、その方が脳内のフェルディア像に合っていたというだけです、はい←


◆プロフィール:フェルディア
 身長/体重:185cm/85kg(成長後)
 属性:秩序・中庸
 クラス適正:ランサー
 性別:男性
 好きなもの:友情、修行
 嫌いなもの:奸計、裏切り
 一人称:俺
 二人称:名前呼び、お前、貴様
 三人称:あいつ、奴、あの男・女
 コノート最強と噂され、後にコノートの切り札となる戦士。黒曜石の如き黒髪にアメジストのような瞳を持ち、細身ながらも筋肉質な肉体を持つ。正直者で友情を好み、己の力を高めることに対して意欲的な好青年。反面、闇討や暗殺といった卑怯な手段や、忠誠や誇りを捨てて我欲に走る自己中心的な思考を嫌う。戦士として生き、戦士として死ぬことを本望とする根っからのバトルジャンキーな面も持ち、自身と互角または圧倒する相手を欲している。現状ではスカサハとクー・フーリンしかおらず、スカサハは師匠として師事しているため好敵手とは言えず、従ってクー・フーリンをライバル視している。
 フェルディアは身軽さを重視した軽装備を身に着けているが、これは鎧としてはあまり機能しない。何故なら防御面ではフェルディアの特徴たる、あらゆる刃を通さぬ皮膚があり、それこそ魔槍や魔剣といった類でなければ殺されることはないからだ。一方、主兵装は無銘の槍で特異な能力も特殊な材質でもない。何の変哲もない槍だが、だからこそ技が映えるというもの。これにルーンで強化を施すことで強固さを確保し愛用している。技量は某NOUMINといい勝負になる程で、もはやそれのみで如何なる力をも打ち破れる。
 スカサハを師事し、影の国で修行をする中でクー・フーリンと出会い、手合わせを通じて友情を築き、互いに心中を吐露し合える親友となった。その後、フェルディアはクー・フーリンを中心とした女性問題(戦争レベルの模様)を遠くから見守っており、クー・フーリンやスカサハ、後に出会うアイフェ、メイヴといった面々にそれとなく助言をして、被害拡大を抑えようと試みている。胃が壊れそう。
 神話上ではクー・フーリンと共にスカサハを師事し、良きライバル関係を築き、ゲイ・ボルクの所有権を巡って切磋琢磨していた。影の国での修行を終えた2人は帰国の際に「一緒に来ないか」と互いに勧誘をかけて笑いあったという。そうして2人は「戦場では絶対に敵に回したくない相手」と認め合い、フェルディアはコノートに、クー・フーリンはアルスターにへと別れるのだが、再会は早々に訪れ、その結末は………。



 ↓ここから雑談↓



 今回はフェルディア視点でした。資料を見るとフェルディアさん半端なく強かったんですよね。そりゃアニキといい勝負できる時点で知れてるんですけども、改めて調べて驚愕しました。まあ、死因がアッー♂なのは、ねぇ?(動揺)
 あと、今回は初めてのメイヴ登場(?)回でした。博識兄貴姉貴達なら「ん?」となった部分があると思いますが、それはつまり「作者の都合」という認識でお願いします。現状のストーリーではその方が展開しやすいという勝手なアレによってそうなりました(白目)。メイヴの本格登場はすぐになると思うので、今しばらくお待ちを。
 現状の時点でリアルが忙しくてやべーってのに、これから更に忙しくなりそうなので、なかなか小説に着手することができなくなりそうで辛いです。が、合間を縫って書いていくので、週1のペースではなくなるかもですが、更新はしていくのでご安心ください。少なくとも、前書きと後書きで好き勝手やってる限りはエタらないと思います。













 お帰りなのじゃ^〜(浄化)。あぁ^〜疲れてる人のところに来るならワイの家にも来てくれんかなぁ^〜(懇願)。

 >「好みじゃったのじゃ!」

 ………………………………あっ(現実)。

 それ、は、それ、と、して(デビルマン)、りあむ3位とかマ? デビュー3ヶ月でCDとか早すぎるやろ(驚嘆)。あ、でも星輝子Pとしては星輝子もそこそこ上にランクインしてたので満足です。

 次回はクー・フーリン(偽)の視点に戻れるゥゥゥゥ!!! やったー! 脊椎反射トークできるぜぇぇぇぁぁあ"あ"あ"あ"あ"!!!!



 ………………………ふぅ。←韓信


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最終試練、忍び寄る最期:1

 影の国での修行に明け暮れるクー・フーリン(偽)。諸悪の根源たるコイツが色々と歪めた結果、

 ス「正しく『愛』だッ!(旗乗ハム並感)」
 ア「好き?(懐疑) → 好き!(確信)」
 フ「やっぱり好敵手じゃないか!(歓喜)」

 ク(偽)「何、この人ら………(困惑)」

 となり、遂にはスカサハに「クリードとコインヘンを狩ってこい」と最終試練を言い渡される。果たしてこの世全ての悪みてーなコイツは生還できるのか。



 今回は待望の、事実上のメインヒロイン♂が出ます(謎)。



 ◆

 

 

 

「我が愛弟子クー・フーリンよ、お主に最後の試練を与えよう。紅海に棲む海獣クリードとコインヘンを狩り、私の元へと骸を持ってくるがいい」

 

 最後の試練、と師匠に言われたが、その内容は最早死刑宣告なのではないかと疑うレベルだった。

 詳しくは知らないが、クリードとコインヘンといったら、確か【オルタ】の宝具名の由来となった怪物だったか。クリードはゲイ・ボルクの素材となった神話級の怪物、そんなクリードを殺す程のコインヘンも神話級の怪物だったはず。

 

 …………え、そんなの狩ってこいとか、ガチで俺に死ねと? やっぱ最近の師匠はどこかおかしい。

 師範との一件では、俺が影の国から避難しようとしたら真っ青な顔で引き留めてくるし、二人ともが「我らはお主のモノ」とか宣ってくるし、最近ではエメルのソレと同じ視線を向けてくるしで。

 あ、あかん。限界を迎えたら影の国から逃亡せなあかんやつやんけ……! でもこの人らから逃げるとか無理ゲーじゃね? 

 

「その試練を達成するためには影の国を出ねばならん。が、よいか? 他所(そと)で決して女子などに現を抜かすでないぞ?」

 

「そうだぞ、クー・フーリン。お主の女は影の国(ここ)にいるのだから、な?」

 

 そう言いながら俺に詰め寄ってくる師匠と師範。

 

 ────ヒェッ!!!!! ハイライト先生がお亡くなりになった! 救って差し上げろ! 

 

「しかし、いくら試練のためとはいえ、こやつを外に出したくはないのぅ…………」

 

「いや、姉上。男を信じて送り出してやるのもいい女としての条件だ。私達はクー・フーリンが帰ってくるのを待っていればいい」

 

「ふむぅ、それは分かっておるが」

 

「それに、こやつに言い寄ってくる女狐(ムシ)共には、身の程を教えてやればいいだろう?」

 

「そうさな。その身を捕えて死ぬまで監禁するか、亡霊共に放り投げるかすればよいか」

 

「それはよいな。私もやろうか。原初のルーンで氷像にし、見せしめとして女狐の故郷に送り付けてやろう」

 

「「ふふふ…………」」

 

 怖っ!? この人達、怖ァ!? あぁ分かったよ! 狩ってやるよ! 狩りに行きゃあいいんだろ! そんで黙って帰ってきてやんよ! 

 

 てか何? アンタら俺の事好きなの? んな訳ねぇか。俺何かした覚えないもん。つか、神話でのクー・フーリンって師匠らとそーいう関係じゃないよね、きっと。

 もし俺が師匠らとアレな関係になって、本家はそうでないとかだったらマズい…………! 歴史を壊してなるものか! …………神話知らんけど。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 影の国から出た俺だが、師匠と師範はギリギリまで俺に引っ付いて離れず、出張することを何となく察してじゃれつく大型犬を幻視した。

 しかしアレだ。色々と当たって理性抑えるのがキツいから控えてほしい。師匠も師範もスタイル抜群の美女よ? そこのところ意識してほしい。

 

 そういえば、クリードとコインヘンはどこら辺に生息しているのか。海獣なんて異名が付いていることから海でも眺めていれば見つかるのか? いや、海なんて規模が広大すぎて見つかる気がしない。

 てか、そもそもクリードもコインヘンも名前しか知らなくて、肝心の姿かたちをさっぱり知らない。つまり、悲しいことに情報が微塵もない。まさかの一歩目から手詰りだ。

 

 ────そうだ、アルスターに行こう。

 

 思わず京都みたいなノリで言ったが、これは妙案なのでは? 人が集まる場所には必然的に情報も集まる。コンホヴォル王にならある程度は情報は入っているだろう。

 …………ただ、あそこには奴────エメルがいやがる。俺がアルスターから逃走するきっかけの女、邪視によるSAN値直葬。しかしまさか俺の意思で戻ることになるとは。

 

 ‪‪✱全身を舐めるような視線を思い出し、あなたはケツイに満たされた。

 

 いや、ケツイなんてねえわ! むしろサツイ(向けられる側)だわ! ぐあー、行きたくねぇ。いやしかし、行かないと何も始まらんし。

 

 …………腹くくるか。

 

 俺は即座に駆け出し、アルスターへと向かった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 約九ヶ月振りのアルスターの地、どことなくホームシックな気分にさせられる。今となってはアルスターの脳筋達すら懐かしく感じられ────

 

「おう、誰かと思えば、クランの犬っころじゃねぇか! 再会祝いだ、俺と戦えや」

 

「次、俺! 俺な! な、俺だ!」

 

「久し振りじゃねぇかクソガキィ! 今日こそは俺が勝つまで付き合ってもらうぜぃ?」

 

「あーっ! 怒らせるとやべーやつじゃん!」

 

 ────る訳ねぇだろ! 暑苦しいわ! 

 

 相変わらずの赤枝の騎士団。好き勝手に喧嘩売っては買ってを繰り返している蛮族に群がられる俺、という図。何これ。

 

 お前らはどうでもいい、エメルは、エメルはいるのか!? いないでおくれ! 

 

「あ? エメルか。エメルなら武装させた侍女を数人連れて近場の獣狩りに出たぜ」

 

 ────え"? 何で?? 

 

「あぁ、そっか、知らねえのか。なら聞かせてやるさ。お前がいなくなってからというもの、エメルのやつは少し荒れちまってな。何するにしても抜け殻みてぇで、かと思えば突然にキーキー喚き出すからたまったもんじゃなかったんだよ」

 

 え、こわ。

 

「それから少しすりゃあ、急に槍術とか魔術を習いてえって言い始めてな。あん時の目は皆が震え上がる程に澱んでたな…………。ま、そんな訳で自分含め侍女らも巻き込んで鍛錬し始めたのよ。…………時折、『ふふ、待っていて下さいね』って空に向かって呟いてるのは恐ろしいがな」

 

 え、こわ(本日二度目)。

 

「そんなこんなで、今じゃあ女傑の騎士団みてえな存在になってる。下手すりゃ、ある意味では俺らより強いかもな」

 

 原形ないやん! どうしてくれんのこれ? 一先ずエメルのことは考えないようにしよう! ここにエメルはいない、いいね?(現実逃避)

 

 

 

 

 

 

 流石コンホヴォル王、略してさすコン。クリードとコインヘンの目撃情報をしっかりと持っていた。コノート付近の海岸に二頭が徘徊しているらしく、それらが争うのも時間の問題なのだとか。

 

 え、そんなこと聞いてどうするのかって? そんなん決まってるだろ、奴らを狩るんだ。そう返答してやればコンホヴォル王は色々と支援してやると申し出、二頭の馬と戦車、御者を付けてくれた。

 黒色の馬がセングレン、灰色の馬がマッハというらしく、誰の言うことも聞かないじゃじゃ馬なのだとか。また、戦車の方も、誰が乗るのかを一切想定していなかった程に頑丈な作りにしてしまったせいで、乗り手がいなくて困っていたらしい。押し付けやがったなコンホヴォル王ェ…………。

 暴れ馬二頭とシステム障害を引き起こしそうな不明なユニットの如きチャリオットというアンハッピーセットの御者、もとい贄として選出されたのは、レーグという赤毛そばかすの青年だった。

 

「じ、自分はっ、レーグといいます! ク、クー・フーリンさんの強さについては兼ね兼ね…………」

 

 手足が震え過ぎて高周波ブレードみたくなってるけど、大丈夫? そんなにかしこまんなくてもいいのよ? てか、ごめんね。こんなのの御者なんてさせて…………。

 そう口にすれば、レーグ君は「むしろ光栄なことです!」と返す。は? 何で?? 

 

「クー・フーリンさんと言えば、ずば抜けた素早さと技を持ち、誰をも寄せ付けぬ強者。しかし、無用な暴力を嫌い、力を振るう時は必ず誰かのため。その姿は正しく英雄だ、と聞いてきたものですから! そんな方の脚となれるんですから、光栄と言わずしてなんとしましょうか!」

 

 恥ずい。それはもう恥ずい。確かに言われた内容と遜色ないことはしてきたつもりだけどさ…………。

 でも、賢い俺は知っている。どうせこの後には「じゃあ僕と手合わせ願います!」とか何とか言い出すに決まってる。全てまるっとお見通しだ! 

 

 と、思っていた時期が僕にもありました。

 

 初手殴り合い宇宙じゃなかった。そして確信した、レーグ君めっさ良い奴だわ。脳筋揃いのケルトでは既に絶滅したと思われていた良識人だ! 囲めっ! 

 そしてそんな彼を贄にしたコンホヴォル王、許されません(IGA)。

 

 

 

 

 

 

 セングレンとマッハと顔合わせをしたのだが…………コイツら全然暴れ馬じゃねえじゃんか! 擦り寄ってきて愛くるしいレベル。よーしよしよしよし! 

 

「「ヒヒン!」」

 

 ふっ、いつの間にか撫でぽ(獣特攻)を獲得していたようだ。

 

「なっ!? あの暴れ馬達がこんなにも…………!? 流石、クー・フーリンさん!」

 

 隣にいたレーグ君が目を真ん丸くして驚いていたが。

 

 さて、コノートに向かうとしよう。あんまりゆっくりしていると、何が師匠らの琴線に触れるかわからんしな。…………師匠らって爆弾か何かで? 

 そう意気込んだと同時にコンホヴォル王がやって来て「ちょっとやらかしてフェルグスとかがコノートに亡命しちゃった☆ だから見かけたら戻ってくるよう説得してね(超翻訳)」とお願いしてきた。

 

 何やらかしやがったコンホヴォル王ェ…………! (憤怒)

 

 

 

 ◆

 

 

 

 アルスターから出て早二日。俺はレーグ君の操る戦車に揺られていた。頑丈な分重いはずの戦車だが、実にパワフルなセングレンとマッハのおかげで超スピード(!?)だった。

 そしてレーグ君は凄かった。御者としての技術も然ることながら、魔術で俺らを不可視にすることができるようで、大抵の獣や竜には襲われずに済んでいる。

 いくら物理的な力がないからと言っても、やはり一芸を備えたケルトの人間なのだと思わされる。

 

 だが当然、音や臭いまでは消すことは出来ないため、血気盛んな奴らは襲ってくる。

 

「クー・フーリンさんっ! 後方から狼の群れが接近、頭上に竜三頭!」

 

 影の国の修行に明け暮れた俺からすれば、そこらの害獣処理なんて朝飯前だ。

 

 俺はセングレンとマッハを狙う竜共に向かって跳躍し、槍で心臓を穿つ。一頭。

 その亡骸を蹴って空中で方向転換し、別の竜の心臓を穿つ。二頭。

 同じ要領で残る一頭に迫ると、その竜は炎を吐き出す。が、俺は悠然と炎に飛び込み、ダメージを負うことなく飛び出して手を胸部に突っ込み、ハートキャッチ(物理)。三頭。

 ラスト、脱力して落下する竜の骸を空中で掴んで身を捻り、戦車の後方から群れて追跡してくる狼共に向かって投げつける。そうすれば大半が巨体に押し潰されて死に絶え、残った狼は劣勢と見るや逃走。

 

 後は綺麗に戦車へと着地。

 

 ね? 簡単でしょ? 失敗なんてないんです! (ボブ並感)

 

「助かりました! いやぁ、流石ですね! 特に竜の心臓を素手で掴み取るのとか、僕初めて見ましたよ!」

 

 キラッキラした目で俺を見つめるレーグ君。よ、よせやい! そんな大した技じゃねえよ! 少〜しだけ影の国で死ねば誰でもできるようになる技だよ! (イキリ)

 まあ、俺も初めてやったんですけどね。つか、炎無効化とかできたんやなって。はえー、知らんかったわ。

 

 でも、流石だってのはレーグ君もよ? 不可視の魔術のおかげで今みたいな襲撃も少ないし、されても一度のエネミー数が少ないから対処も楽。もっと自分の力を自覚して、どうぞ。

 が、レーグ君。自分は武芸に富んでないから魔術をやるしかなかった。でも魔術もこれぐらいしが使えないから局所的にしか役に立たない。と、俯いてしまった。

 うーん、この自己評価クソ底辺。レーグ君、本当に人間性ぐう聖で、素人目線からでも分かる腕利きの御者の技術を持ってて、魔術も不可視なんて代物をホイホイ使えるんだから、もう少し自信持ってもええんとちゃう? 

 

「…………わかってはいるんです。でも、周りが着実に力をつけていくのに、僕だけが取り残されていく疎外感を味わいたくないんです」

 

 そう言って、顔をシュンとさせるレーグ君。察するに、今まで鍛錬を積んできたが、伸びなかったことに苦悩したのだろう。

 そっかぁ。まあ、わかんなくないな。友人が進路決まっていくのに、俺だけ何にも決まってない時の取り残された感はヤバみ。え? 関係ない? あそ。

 

 だが俺に言わせれば、師範にも似たようなこと言ったが、要は自分が何をどうしたいかが重要なのだと思う。

 目標が不鮮明でもいい、とにかく自分は何をしたいのかを突き詰めていく。そうして切り出した物事に突き進んで、時より寄り道をしたり間違えたりする。

 結果、辿り着いた場所が自分の思い描いていたものとは違っていても、そこに至るまでの過程には無駄なんてひとつもないだろう。それに、やり直しなんていくらでもきく。ドリカムおじさんの言葉を借りれば、「諦めなけりゃあ」ってやつだ。

 

 レーグ君を元気付けていたら、成り行きでコノートへの旅路の合間にレーグ君の武術の相手を務めることになった。まあ、御者をしてもらう対価、ギブアンドテイクみたいなもんだな。

 そして、俺にとっては今世初めてのまともな友人ができた瞬間であり、近年稀に見るほどに滅茶苦茶はしゃいでいた。が、流石にこれじゃ師匠らは怒らないよな? 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「クー・フーリンさん、もうそろそろでコノートに到着しますよ」

 

 あぁ、遂に来てしまったか。クリードとコインヘンと戦う時が。ここが俺の死に場所だ! でもせめて、死ぬならノリスさんみたいに死にたかったでござるぅ! 

 などと呑気に構えていると、不意にレーグ君が厳しい目付きになる。

 

「っ、前方、足音多数!」

 

 な、盗賊か野盗の類か? いや、それにしては焦りを感じさせる足音だ。これは…………

 

 ──―「うわぁぁぁあ!!」

 

 ──―「に、逃げろ!」

 

 ──―「あんな化け物に勝てるわけねぇ!」

 

「えっ、あれはコノートの…………?」

 

 前方からは必死の形相で駆けてくる数人の男。レーグ君の言葉を踏まえれば、コノートの戦士達なのだろう。

 一様に武具を装備している彼らが戦う選択肢を放棄する程の相手。つまり化け物と遭遇したと推測できる。

 ええ、はい、十中八九クリードとコインヘンですね間違いない。

 

 恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ(N並感)。

 

 

 

 

 

 

 海に接近するに連れ、何かが荒れ狂っているのを感じる。見れば、海上の空は鈍色に激変しており、現れる幾本の竜巻は水生生物を蹂躙する。

 

 ────いた。

 

 衝突し合う二頭の海獣。

 

 片や、波がそのまま形をとったような外殻を纏う体躯を持ち、深海の如き青の光を灯らす眼は神秘と冷酷を孕んでおり、人間なぞ容易に踏み潰せるだろう剛腕を備えた海獣────クリード。

 

 片や、光沢のある流線型の肉体に数十程の触手を生やし、鯨や蛸といった生物を混合させたような体躯は恐怖を植え付け、そこらの水生生物よりも俊敏な動きを可能とする海獣────コインヘン。

 

 …………はっきり言おう。レイテ沖海戦(絶望)。

 

 だってさぁ、まずそれぞれが一戸建ての住宅並の大きさだってことと、アイツらが暴れている空間だけ海が割れてるってことを見ると、これは人間が介入できる領域じゃないことが分かっちゃうじゃん? 

 しかも、クリードは嵐でも操れるのか、咆哮を上げれば竜巻が起きて、ソニックブラストもぶち込んでくる。コインヘンに関しては、完全にアビーの攻撃モーションで見れる、異空間から触手を生やしてバタバタさせるあれを数十同時展開している。完全にク〇ゥルフ神話ですお疲れ様でした。

 

 対し、強固を施した一条の槍と、コノア王に押し付けられて戦車に積んだ剣や盾の数々、影の国で鍛え上げた身体能力とルーン魔術が俺の持つ全てだ。これでアイツらに勝てと言う。

 

 オイオイオイ。死んだわ俺。

 

 でもやるしかないんだよなぁ…………ん? あれ、クリードとコインヘンの大乱闘の傍に、誰かがいる? というか、腰を抜かしているって方が正しいか。

 白いドレスのような服装に同色のブーツ、桃色の長髪にティアラ────え、メイヴ? 何でここにおるんや…………。

 

 

 

 ◆




◆補足◆

Q.師匠らはクー・フーリンを外に出したくなかったのに、何で外に行かせたん?
A.そういう試練だったのだ()。

Q.最近のクー・フーリン(偽)がなろう系主人公化してね?
A.確かに! でも神話の兄貴は女好きでヤリまくりで、それはそれでどうかと思うんですよね←

Q.エメル………何故こうなったん?
A.これもうわかんねぇなぁ(思考放棄)。というのは冗談で、後々の展開的に武力を備えてる方がいいんすわ。

Q.コンホヴォル王は何をやらかしたん?
A.諸事情あってゲッシュを使ってノイシュ三兄弟を抹殺したことで、フェルグス含む3人の信用を失ってます。詳しくはggrks←(本性現したね)

Q.レーグ君やね(質問とは)。
A.はい、レーグ君です(補足とは)。


↓ここから雑談↓


 お久しぶりです。リアルが忙しくてオデノカラダハボドボドダ! それはそれとしてですね、今話で遂にメイヴが姿を現しました。わーい。感想欄では既に予見されている「相対的に1番マトモという天変地異」ことメイヴですが、本格的に動くのは次回からになります。許して。
 後、今回は実質メインヒロインのレーグ君が出ました。「は? 何頭おかしいこと言ってんだコイツ?」と思った方、是非ともレーグ君について調べてみてください。メインヒロインです(迫真)。誰が何と言おうとメインヒロインです(迫真)。
 ということでですね、次回もクー・フーリン(偽)視点からお送りする予定です。この(偽)視点で最終試練の奮闘について書くかは未定で、後々にいれるメイヴ視点で激闘について描写するかもしれません。













 密かにUAとか評価が上昇しててウァァ!!オレモイッチャウゥゥゥ!!!ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウ!イィィイィィィイイイィイイイイイイイイイイイイ!!
 


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最終試練、忍び寄る最期:2

 作者「メイヴ参戦!(スマ〇ラ風)」

 >待ってました!

 作者「騙して悪いが………」

 >こんなんメイヴちゃうふざけんな訴訟。



 ◆

 

 

 

 試練に従い、クリードとコインヘンを見つけることはできたが、そこにはメイヴもいた。

 

 ────Why?(クッソネイティヴ)

 

 え、もしかして神話のクー・フーリンって、ここでメイヴと出会うの? 

 

 と、その時、2体の海獣の激突によって生成された大波がメイヴに迫る。人どころか高層ビルすら飲み込みかねない大津波は、正しく荒れ狂う暴力だ。

 って、いやいや! 冷静に語っている場合じゃねぇだろ! ここでメイヴが死んじまったら神話が狂っちまう! それだけは回避せねば…………! 

 

 俺は即座に地を蹴りメイヴの眼前に飛び出すと、迫ってくる大津波に向かって全力で槍を振るう。するとどうだ。大津波は縦に割れ、俺とメイヴを避けるように流れていく。俺モーセに、俺モーセだった…………(ドン!)。

 

 よしっ! それじゃあ後は、メイヴを避難させれば心置き無く戦えるな。メイヴさんや、ちょいと失礼しますよー。

 

「────きゃっ」

 

 メイヴをお姫様抱っこすると、彼女は小さな悲鳴を漏らす。いい声で鳴くじゃねえか…………というのは冗談で、現代倫理を持つ俺からすれば、初対面で断りなしにお姫様抱っことかセクハラってレベルじゃねーぞ! 後でスタイリッシュ土下座で許しを乞うしかないか。

 

 一先ずレーグ君のところまで跳躍し、メイヴを戦車に乗せて離れるよう指示する。あ、武具は置いていってくれや。まあ、使えるかどうかは分からないんですけどね。

 てか、レーグ君もメイヴも俺の事をキラキラした目で熱視線送ってきて何さ? え、ご武運を? まだ死ぬつもりはないけど、トンクス! 

 

 …………さて、やりますか。

 

 

 

 

 

 

 一進一退の殺し合いを繰り広げるクリードとコインヘン。そこへ割って入るという時点で軽く死ねる。が、狩って帰らねば師匠と師範直々にボコられるのは確定事項だろう。前門の虎後門の狼とはこのことか(白目)。

 

 ────俺は海獣を選ぶぜ! 

 

 クリードがコインヘンをぶん殴ったのを見計らって跳躍し、伸ばした剛腕でできた死角へと槍を突き立てる。

 

「GYAAOOOOOO──────!?」

 

 俺の槍は見事に横っ腹にぶっ刺さり、クリードは驚愕と痛覚から呻き声を上げる。そりゃそうだ、誰でもイキナリ刺されりゃ驚きもするさ。

 しかしクリードは俺の事を視認するや、腕で払い除けようとしてくる。俺はそれを避けるべく、クリードを蹴って海上に身を投げ出し、ルーン魔術で海面を凍らせて着地する。

 

 文字通りの横槍に激怒したのか、クリードは俺へと剛腕を振り上げるが、そこをコインヘンが触手で縛り上げて動きを止め、四方八方から出現させた触手で殴打、殴打、殴打────って、俺も巻き込むんかよ!? 氷の足場が壊れる! ヤメッ、ヤメロー! 

 氷の足場ごと俺を薙ぎ払おうとするコインヘン、対し俺は触手の上に飛び乗り、それを伝ってコインヘンへと接近する。だが好き勝手にやらせてくれるはずもなく、コインヘンは無数の触手を出現させると、俺へと向けて、ブライトさんも驚くレベルの弾幕もとい攻撃の密度で攻め立ててくる。

 回避するにも触手の数が多過ぎるため、むしろ当たらなければどうということはないの精神で斬る、穿つ、進む! 

 

 ごめんねぇ! 強くてさぁ! と、ドヤ顔をかましていると、死角から伸びてきた触手に足を絡め取られ、勢いよく水面にぶん投げられた。

 

 ────あぐッ!? オごっ!? ぶへッ!? 

 

 俺は水面を無様に跳ねる。まさか人間水切りを体験することになるとは思いもせなんだ。水切りしようぜ! お前石な! あー、もうあったま来た! 

 激痛に悶えつつも何とか水中から顔を出すと、コインヘンの口に淡い光が収束しつつあった。あ、あれは間違いなくビームか何かの類だ! ゲロビの起き攻めとか聞いてないっすよ! ラー〇ャンかよテメェ!? 

 すると、野太い咆哮と共にソニックブラストがコインヘンを襲う。クリードだ。荒れ狂う暴風によってコインヘンは体躯に傷を量産し、溜め動作を解除する。そのおかげで俺は丸焼きにならずに済んだ訳だが、同時に発生した竜巻に吸い込まれ、俺は全身に切り傷を作る。

 巻き上げられた俺は竜巻を槍で斬り裂いて脱出し、空高くから転移のルーンを行使、一旦海獣らから距離を取る。

 

 いやー、師匠と師範の喧嘩(大戦争)と比べれば見劣りはするものの、やっぱ人外の領域なんだと理解させられるよね、全く。まあ人じゃないんですけどね。これを狩れってんだもん。死ゾ(絶望)。

 一先ずの情報として、海獣らに槍は通じるようだが、クリードの外殻やコインヘンの肉体には効くかどうかはまだ分からない。そして海獣らのステータスというか、大凡の特徴は分かった。

 

 クリードは一撃一撃が重く、遠距離攻撃も兼ねる。しかし攻撃速度という面ではコインヘンに劣る、典型的なパワータイプ。

 反面、コインヘンは手数が多く、攻撃速度も移動速度もかなりのもの。だがクリードと比較して一撃が軽く、威力のある攻撃は予備動作が大きいスピードタイプ。

 

 ぬーん、見事に反対な性能をしているなコレ。しかし、それこそが付け入る隙かもしれない。

 現状、クリードの脅威的な攻撃は竜巻とソニックブラストだ。近接攻撃は当たればやべーのは確実だが、俺にかかれば回避は余裕。よって、クリードは近接戦闘で相手するのが有効的だろう。

 一方、コインヘンの警戒すべき攻撃は、無数に出現させてくる触手だ。個々は斬り裂いたり穿ったりできるのだが、その数と任意の空間から出現させられる点は無視できない。コインヘンに対しては中距離及び遠距離での戦闘がいいだろう。

 

 つまり、近接戦闘をクリードと繰り広げている間はコインヘンの遠距離攻撃を警戒し、海獣インファイトの間はクリードをコインヘンと挟撃する要領で立ち回る。

 中〜遠距離戦闘をコインヘンと繰り広げている間はクリードの遠距離攻撃を警戒し、クリードの攻撃をコインヘンへと当てられるように意識を逸らす。

 

 …………完璧だぁ(感嘆)。ワザップだわコレ。

 

 

 

 

 

 

 もはや何時間戦っているのか分からない。コイツら泥沼クソ耐久型かよぉ! クリードもコインヘンも俺も、もうカラダハボドボドダ! 

 クリードの左眼にはコノア王に持たされた剣の一振りが突き刺さり、尻尾は部位破壊済み、波のような形状の外殻は所々に亀裂が走る。

 コインヘンは全身に抉られた傷を量産し、更にはルーン魔術による火傷も各所に負う。そのおかげで移動・攻撃の速度も減少していた。

 俺はというと至る所から流血し、海という不慣れな場所での戦闘による疲労も現れ始めていた。ついでに言えばコノア王に持たされた武具のストックを切らしてしまった。

 

 …………正直に言えば、これ以上の長期戦はこちらが不利だ。俺はクリードとコインヘンを倒さねばならないが、海獣らは死ぬとなれば逃走という選択肢を取るかもしれない。そうして海底にでも逃げられれば為す術もない。その時点で俺の詰みだ。

 だが現状では海獣らは逃走の予兆は見せていない。ということは、まだ敵を殺せるだけの余力を残しているという証左だ。うーんこのハードモード。

 唯一の救いは、海獣らが共闘という選択肢を取ることなく、自分以外を容赦なく殺そうとしている点か。オン〇モ戦みたいにならんくてよかった(トラウマ)。

 

 ────この辺りが潮時か。

 

 俺がクリードと近接戦を繰り広げていると周囲に触手が出現し、殴打や薙ぎの応酬に加えて、遠距離から安全にゲロビのモーションに入るコインヘン。

 即座に射線上から抜け出すのが困難だと悟った俺は、クリードと相対しつつコインヘンへ向けてアンサズを放つ────が、しかし、炎に焼かれても尚モーションを解除しないコインヘン。はえー、心頭滅却しゅごい(幼児後退)。って、そうじゃない! あーっ! 困ります! お客様! あーっ! 

 

 直後、赤い閃光と共に放たれる光線。俺は避ける暇もなく飲み込まれ────る訳もなく、転移のルーンで空高くに移動して離脱する。クリードはゲロビをモロに喰らって悲鳴を上げていたが。

 

 ────ここだッ! ここで決めろッ! 

 

 クリードはゲロビを喰らって動けなくなっており、コインヘンは反動で身体を硬直させている。しかも俺の姿はゲロビに飲み込まれて消えたように見えただろう。

 この瞬間こそ、この戦場の全ての者の認識から俺の存在が消えたこの刹那こそ! 如何なる一撃も確実に通る! 

 

 俺は空中で身を捻り、身体に強化のルーンを施して槍を投擲する。四肢が悲鳴を上げ、肉体が崩壊していくのを感じる。だが後で再生のルーンをかければよく、故に今は激痛を我慢すればいい! 

 

 狙うは────コインヘンだッ! 

 

 俺の手から離れた槍は宙から飛来する流星の如き速度でコインヘンに迫り、ヤツは知覚するも時既に遅く、脳天を穿たれる。

 だが流石に神話生物。頭に槍をぶっ刺されただけでは即死に至らず、しかし致命傷に足る一撃であったのは確実。

 

 この程度、想定の範囲内だよぉ!(財団)

 

 空中に固定したルーンを蹴って加速した俺はコインヘンへと落下し、拳に強化のルーンを施す。ヤツが俺を捕捉するが、既に眼前。

 俺はコインヘンの頭部にぶっ刺さった槍を思い切り殴りつける! 気分は「壊劫の天輪」、是なるは破滅の黎明! すると槍は頭部を貫通し、コインヘンは断末魔すらなく生に幕を引いた。

 

 ────次ッ! クリード! 

 

 コインヘンを始末した俺がクリードに目を向ければ、ヤツの外殻はコインヘンのゲロビによって融解しており、何とか体勢を立て直したところだった。

 好機ッ! 絶対に逃すんじゃねぇぞ…………! 

 

 槍を回収した後にルーンで海面を凍らせて足場を生成し、そこを滑って加速。クリードに直行する。

 対しクリードは海面を叩き付けて形成された大波で氷を粉砕してくるが、その程度では俺は止められない! 

 俺は逆に大波に突っ込むと、槍で大波に風穴をぶち開けて直進する────それを読んでいたのか、咆哮を上げたクリードがソニックブラストを放つ。

 

 ────だが、それは俺も読んでいたッ! 

 

 俺は俺の所有するルーンの全てを用いて結界を張り、ソニックブラストの衝撃の全てを無効化してみせる。

 そうしてクリードの懐に潜り込んだ俺は、突進の勢いを殺すことなく鋭利な一突きを見舞う。

 

「GURAAAA──────!!?」

 

 生物の心臓が位置する左胸部を穿つと、クリードは激痛から絶叫を上げ、反射的に腕で俺を殴り付ける。だが俺は槍から手を離して回避し、コイツの死角────左眼側へと回り込む。

 跳躍してクリードの左眼に突き刺して放置していた剣に手を掛け、勢いのままクリードの頭部を斬り裂く。項の辺りまで剣を走らせて振り抜き、トドメに頭頂部に剣を突き刺して捻じる! 

 

「GAAAaaa────…………」

 

 脱力して伏したクリードの眼からは光が消え去り、ようやく死に至った。

 

 やったか!?(ザオリク)というお決まりの文句を垂れるが、クリードもコインヘンも微動だにしない。つまり討伐完了って訳だ。疲れたよんもぉおん! 

 

 …………つか、ちょい待ち? 師匠さ、確かコイツらの骸を持ってこいとか言ってたよな? 

 

 → 一戸建てほどの巨体×2

 → 見るからに重い

 → 馬二頭と戦車のみ

 

 …………どうしろと? 

 

 まあいいや(思考放棄)。今はとりあえず休もう。流石にふらつくわ。

 俺は転移のルーンで陸地へと移動し、疲労に身を任せて倒れ込む────と、何かにぶつかる感覚が伝わってくる。見れば、何故かメイヴを押し倒す体勢になっていた。は? 

 

 俺の腕の中には、自身の胸元で手を合わせて縮こまるメイヴの姿が。その顔は朱色に染まり、モジモジと身を震わせている。

 は? 可愛い(謎ギレ)。じゃなくて、スンマセン! センセンシャル! こんなん完全に事案ですやん! 警察だけは勘弁してつかぁさい! 

 いまどくから! と言って離れようとすれば、何故か首に腕を回され、

 

「ね、ねぇ? 貴方、私のモノになるつもりはない?」

 

 と耳元でメイヴに囁かれる。ア、アカン! 前世で女性に対する免疫皆無の俺には刺激が強過ぎる! やめなされ…………やめなされ…………。

 そこへ追撃するように、メイヴは俺に抱きついて「好きなだけ抱いてもいいのよ? もちろん、アッチの意味で、ね?」とか「貴方の勇姿にすっかり惚れちゃったわ」とか言ってくる。

 やめてクレメンス! 嬉しいお誘いですけど、そんなことしたら師匠と師範にコロコロされちゃうんです!(血涙)

 

 結局、メイヴの誘惑は丁重にお断りさせてもらい、ヒステリックを起こされそうだったので、権力も魅力も大して重要視していないと苦し紛れの言い訳をした。すると何故か顔に朱が差しているメイヴから「ぜ、絶対にオトしてやるんだから!」と、嬉し恥ずかしな表情で言われた。は? 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 メイヴの申し出で、コインヘンの骸はコノートの戦車で運んでくれるとのこと。そうして形成されたのは、クリードを括りつけた戦車とコインヘンを括りつけた戦車の並走という何とも言えない風景だった。

 とりま、コノートを出るまでの間はメイヴが付き添いとして着いてきたのだが、その間飽きることなく俺にべったりだった。

 メイヴって確か、気に入った勇士を周りに侍らせていたとかだったか。そこで俺にも目を付けて侍らせようって魂胆なんだろうが、時折流し目で見つめてきたりするのはホントにやめてほしい。俺の武力じゃなくて俺自身を欲している的な風に勘違いしそうになるから。

 そんな感じで誘惑してくる割には、俺が悪ノリで仕返ししてやると、メイヴは赤面して俯き、「は、はひ…………(クッソ小声)」と返してくる。お前ホントにメイヴ? 誰おま。

 

 あとレーグ君、目をキラキラさせてこっち見んな。なーにが「英雄色を好む、ですね!」だよ。コレ明らかに大蛇に虎視眈々と狙われているチワワか何かだよ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 戦車と馬は今度返すという口約束をしてメイヴ(オナモミ)と別れ、アルスターに立ち寄ってコンホヴォル王にレーグ君とセングレンとマッハと戦車を借りていく了承を貰い、影の国への帰路につく。

 いやー、一時はどうなるかと戦々恐々していたが、案外どうにかなって良かった良かった。すっげぇ怖かったゾ^〜(本音)。

 

 そういや忘れてたけど、クー・フーリンって何時になったらゲイ・ボルグ手に入れるん? 師匠から貰うんだっけ? どうすれば貰えるんだ…………(困惑)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に風が止む。

 

 セングレンとマッハが立ち止まる。

 

 肌に纏わりつく、じっとりとした視線。

 

 天空から烏が飛来したかと思えば、

 

 

「────お前、名は?」

 

 

 美女(原因)が眼前に降り立った。

 

 灰色の長髪に深紅の瞳を持ち、真っ赤なドレスの上に灰色のマントを羽織る絶世の美女。

 師匠や師範のような女傑の雰囲気を纏っているが、しかし師匠らとは趣の異なる『人外』さをこれでもかと放つ存在。

 

 ────誰だコイツ? 

 

「────モ、モリガン………………!?」

 

 俺の背に隠れて恐れ慄くレーグ君が、彼女の名前と思しき羅列を漏らす。

 

 モリガン…………? 知らんな(チャー研)。モルガンなら知ってるんすけどね。まあいいや。

 ども、クー・フーリンやらせてもらってます。よろしくお願いしマース!(妖怪紅茶置いてけ)

 

「ふむ、クー・フーリンか。良い、好い。ではクー・フ―リン(勇敢な戦士)よ、我と交わる栄誉を与えよう」

 

 ────(絶句)。

 

 へ、変態だ────! スタイリッシュ痴女だ! 坂〇君も驚くスタイリッシュさだ! 

 いや、絶世の美女もとい痴女とかいいぞもっとやれ! ってのが本音だけどさ、そんなことしたら師匠らに怒られちゃうだろ!(尚死傷する模様)

 メイヴ然り、コイツ然り、何故こうも自分を安売り(至言)するかなぁ! お兄さん怒っちゃうぞぉ! 

 

 

 

 ◆




◆補足◆

Q.海獣バトルの描写が雑やない?
A.他者視点で補うつもりなのでご安心を。

Q.クリード悲鳴上げてばっかやん。
A.誰だって槍ぶっ刺されたりゲロビ撃たれたりすりゃ悲鳴上げるやろがい!(謎ギレ)ア"ア"ーイ"!!(被弾)

Q.これホンマにメイヴ?
A.そんな変わらんやろ(当社比)。

Q.モリガンって?
A.ああ!


 ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。友人との飲みの後日に体調を崩すという体調管理クソザコナメクジ作者のせいです(←は?)。それとはまた別に、どうやってクー・フーリンにクリードとコインヘンを倒させればいいかを考えまくっていた結果、中々に手間取りました。
 今回はメイヴがようやく喋りました。僅かな登場ではありますが、次回はメイヴ視点を書くつもりなので、そこでメイヴ民救済します(救うとは言ってない)。次回まで今しばらくお待ちいただければ幸いです。
 そしてお気付きかもしれませんが、本作のメイヴも中々に設定変更がされてます。といってもエメル並の魔改造ではなく、神話上のエピソードや人物詳細を都合良く解釈しただけなので、変な改変はないと思います(←予防線)。
 そしてそして、ラストにモリガンが出ました。「モリガン? 誰ゾ?」という方がいましたら、調べてくれてもいいですし、調べなくても何ら支障はありません。また、モリガンについてはエメル並に設定改変といいますか、お話の都合で設定付加だったり何だりかんだりなので、それについてはお許しください。何でもしまむら。














 フロム新作んほぉぉぉ!! エルデンリングア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!(幸福過多による発狂)
 ゲーム内容じゃなくてフロムってだけで反射的に購入させられるレベルに調教されちゃったのぉぉぉおおお!


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最終試練、忍び寄る最期:メイヴ視点

作者「メイヴちゃんだ、たんと味わえ」

>メイヴちゃんサイコー!

作者「可愛いもあるぞ」

>てぇてぇ、てぇてぇ………。

作者「これよりキャラ崩壊を開始する!」






これメイヴっぽさ出せてますかね?(戦々恐々)



 ◆

 

 

 

 私は生まれついて、あらゆるものを貪欲に欲した。土地、人、権力、美────持っていないものは身に付ける、あるいは奪う。既に持っているものは更に伸ばす。

 それらに疲れることはなかった。何せ、とても楽しいのだから! 

 罪悪感は感じなかった。何せ、私が所有している方が皆が幸せだろうから! 

 

 それに従って生きる私は、幼くして闘争と欲望に身を任せた激動の人生を歩む。

 

 私の三子の兄弟が父────上王エオフ・フェズレフ────に謀反を企てた。結果として兄弟は負けて皆死んでしまったけれど、その過程で父から土地の支配権を与えられていた姉妹を、私が殺して支配権を奪い取ってやった。

 だって、私が支配した方が皆も幸せでしょ? 女神の如き美を体現した私に征服される悦に浸れるんだもの。そう、これは皆のためなんだから! 私に従い、私のために生き、私に愛される! 私を中心に廻る、廻る、廻る────世界! 

 

 取り分け、いい男と強き男は私の傍に置いておきたかったから、金、名声、私の体────どんな手を用いてでも手に入れた。何故なら彼らは、私が愛し、私を愛するための勇士なんだから! 

 中には私に傅かずに抵抗する男もいたけど、そんな男ほど甚振り甲斐があって、むしろ大好きよ? 

 

 そんな私のことを聞きつけたのか、アリル・マク・マータという男が婚姻を結びたいと申し出てきた。アリルという男は私よりも年上で、金銭も人脈も政治力もあった。武力は皆無に等しかったけど、恐れを知らず、寛容で、私が体で勇士を引き留めることに嫉妬することもなかった。

 当初、私は「この男はコノートの支配権が欲しいのだろう」と認識していた。でも彼はコノートの支配権が欲しかったのではなく、私自身を欲していた。支配権は二の次だった。

 それならばと私は婚姻を結び、そうしてアリルは私にあらゆるものを貢いでくれた。金品はもちろん、土地や権力、宝石や馬車、馬や人────何でも! 

 

 私のものになる────光栄よね! 

 

 私に惚れ込む────仕方ないものね! 

 

 私を愛する────当然よね! 

 

 駆け引きで手繰るのは常に私。私は微笑んで命令して、躾けてやって支配すればいい! そうすれば、あらゆる男が私に、己の持つ武力、財産、心の一切合切を捧げてくれる────愛してくれる。

 

 うふふっ! 本当に、本ッッッ当に! 私は全てに愛されているのね! なら私も皆をもっと愛さ(支配し)なきゃいけないわね! 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ねぇ、フェルグス?」

 

「ン、どうかしたか」

 

 長時間に及ぶ行為の後の心地良い疲労感と満足感、浮遊感に浸っていた私は、ふとした気持ちでフェルグス────つい最近にコノートへと亡命してきた元アルスターの戦士。非常に強く、勇ましく、性欲旺盛で、だからこそすぐに傍に置いた勇士────に聞いた。

 

「アルスターには、あなたより強い男はいないのかしら?」

 

 出会った当初に聞いた話では、フェルグスはアルスターにて最強の戦士として謳われていたらしい。そしてそれに違わずコノートの勇士の誰よりも強く、豪快だった。

 

 そう、そうよ! 私はフェルグスみたいな勇士が欲しい! もっと欲しいの! 

 

 彼を迎えた時は、コノート以外にもこんなにイイ男がいるのなら、もっと早くから外に目を向けるべきだった、と激しく後悔したほどだ。

 だからこそ、彼の目に適う勇士の素質を備えた男がいるのなら、何がなんでも手に入れなければならない! 

 

「そうさなぁ、俺は赤枝の騎士団では最も強かったからな。あれは騎士団と呼称してはいるが、実際は純粋に戦いを楽しむ者の集い。そこで頂点に立った俺から言わせれば、残念ながら俺以上の戦士はいなかったな」

 

「そう」

 

 ははは! と大口開けて笑うフェルグスに対し、私は「やっぱりフェルグスほどの男は、そういないものよね」と口にして、淡い期待を霧散させ────

 

「…………あぁ、だが、1人だけ居たな」

 

「────え?」

 

 予想外のフェルグスの言葉に、思わず間の抜けた声を出してしまった。

 

「いっ、いるのっ?」

 

「おう…………と言っても、俺より強いかは分からんがな」

 

「…………どういうこと?」

 

()が騎士団に連れてきた少年でな。幼いながら誰よりも抜きん出た才能を備え、誰よりも努力を惜しまず、誰よりも理想────と言うより、確固たる姿を追いかけていた。彼奴はケルトの男にしては珍しく理性的でな? 相手の立場や価値観ってものを十全に理解し、頭で考えてから動く戦士だったさ。加えてお人好しで冷静で、そんな感じに大人しい癖して、戦う時には顔を歪ませる。獲物を前にした狂犬のように、な」

 

 腕を組んで懐かしいな、と独り言ちるフェルグスだが、蚊帳の外である私からすれば、何のことやら分からない。

 

「で、誰なのよ、その少年っていうのは?」

 

「────クー・フーリンだ。彼奴の強さは別格だった」

 

 クー・フーリン、クー・フーリンね。覚えたわ。フェルグスにここまで言わしめるその男のことを、当然ながら私は欲しくなった。

 だって、フェルグスがここまでの勇士なのよ? そんな彼に認められる戦士ってことは、もう私のためにあるようなものじゃない! 

 

「ふーん。あなたがそこまで言うなんてね。彼はあなたに勝てたの?」

 

「いや、俺には1回も勝ったことはなかったぞ」

 

「…………はぁ??」

 

 フェルグスに勝ったことがないのに、何で彼はクー・フーリンという男のことを「自分より強い」と、口にしたの? 

 

「確かにクー・フーリンは俺に勝ったことはない。だがな、同時に負けたこともない」

 

 分かるか? と聞いてくるフェルグス。

 

 負けたこともない? どういうこと? 

 

「はは、聞いても意味がわからんだろう? これを聞いた皆が、今のメイヴと同じ顔をしていたさ。つまりだ、クー・フーリンは俺に勝てたことはないが、俺もクー・フーリンに勝てたことはないんだ。俺とクー・フーリンが戦えば、必ず引き分ける。互いに互いの攻撃を躱しきるか、捌ききるからな」

 

 …………え? フェルグスの攻撃を躱したり捌いたりできるの? コノートの優秀な戦士ですら不可能なことを、やってのけるの? 

 

「だが、俺が騎士団を去る前に、クー・フーリンは修行のために騎士団を出て行った。今では彼奴が何処で何をしているのかすら分からないんだ。だがクー・フーリンのことだ、彼奴は絶対に強くなっている。あの時は引き分ける実力だったが、今は俺を凌駕するほどの戦士になっているかもしれん」

 

 何、それ。何それ、何それ! そんな戦士がいるのね!? 欲しい、欲しいわ! 

 クー・フーリンはフェルグスと同等の力を持っていながら、年齢はフェルグスよりも若く、私と同年代だと推測できる。なら絶対に私の笑顔でイチコロよね! 若いなら飢えているに決まっているもの。

 

「ただなぁ、彼奴には女難の────って、もう聞こえてないか」

 

 あぁ、あぁ! とても楽しみだわ! 彼はどんなに優れた勇士なのかしら! クー・フーリン、ね。絶対に、絶ッッッ対に見つけ出してやるんだから! 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 フェルグスから教えてもらったあの日から、私はクー・フーリンに関する情報を集めに集めた。

 

 曰く、自ら進んで力を振るうことはないが、誰かのためになら躊躇なく振るう。

 曰く、老若男女に心優しく、お人好しな面もある一方、厳しく当たるべき時には容赦がない。

 曰く、男には友情と憧憬を、女には親愛と恋慕を抱かせる人たらし。

 曰く、真紅の瞳と青い髪は神秘を感じさせ、獣の如き雰囲気は熟達の武人のそれを彷彿とさせる。

 曰く、狂信者的な人間を生み出してしまうほどのカリスマ────もとい呪いのような何かがある。

 

 と、様々なことが分かった一方で、悔しいことに彼の居場所については全く分からなかった。

 でも、それでも、諦めきれない! フェルグスがあれほどまで評価する勇士を、私が放って置くわけがない! 私は自分に忠実なの! 

 

 クー・フーリン捜索に時間を割いていたせいで、他の勇士達を愛する時間を削っていた私は、不満の解消のために彼らを引き連れて海へと繰り出した。

 幸いなことに今日は快晴。燦々と輝く太陽は私を美しく見せる舞台、汗ばむ陽気は私の身体を艶やかに演出する道具。そんな日こそ、海に沈む太陽を背景に私の美しさを見せる/魅せる絶好の日和だわ! 

 

 そうと決まれば行動あるのみ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海に到着してから数刻、瞬間的に暗雲が立ち込めたのに疑問を感じて顔を上げ、と同時に天候は刹那の間に荒れ狂い始めた。

 何かがおかしい。そういった不安と焦燥に駆られた私はすぐさま撤収しようとして────間に合わなかった。

 

 ────耳を劈く大気の悲鳴、暴風。

 

 思わず目と耳を塞ぎ、何なのよ、と叫ぼうと後ろを向けば、そこに立っていたはずの勇士の1人は消え去り、何かが大地を斬り裂いたかのように地面が抉れていた。

 いや、よく見れば、抉れた地には真紅の液体の飛沫が見て取れ、いたはずの勇士が装備していた剣の柄の部分が無惨に転がっていた。

 

 死んだ、死んだのだ。跡形もなくなる程に。

 

「──────」

 

 言葉を失う。あまりに唐突すぎる惨状に。理解と同時に私の時間は停止したように感じられたが、事態は激動する。

 

「GYAOOOOOOォォォォ──────!!」

 

 身の毛のよだつ咆哮が轟く。それの聞こえる方へと反射的に顔を向ければ、そこにいたのは正真正銘の怪物──―クリード。

 そんな怪物の前に立ちはだかるのは、海の触手の恐怖そのものと伝えられる、こちらもまた正真正銘の怪物────コインヘン。

 

 そんな2頭の縄張り争いが、今まさに、眼前で開戦されたのだった。

 

 先程の暴風は間違いなくクリードの放ったもの。しかも流れ弾だ。ここにいては巻き込まれるのは必定。一刻も早くここから逃げなきゃいけない…………! は、早く勇士達と逃げ────

 

「う、うわああぁぁぁあッ!!?」

 

「逃げろッ! あんなのに勝てるわけがない!」

 

「オ、オレはまだ死にたくねえっ!!」

 

 気が付けば、私を愛し、私が愛した勇士達は蜘蛛の子を散らすように、一人残らず逃げ出していた。…………私を置いて必死に、だ。

 

「…………なっ、何よ、これ」

 

 わ、私を置いて行くなんて! 確かにアレらは人の手でどうこうできる次元じゃないけど、それでも、もっとあったでしょ!? イヤ、イヤよ! 私もまだ…………死にたくないっ! 

 

 不意に突きつけられた、明確な死。思わず抜ける腰。もうダメだと諦め、しかしその瞬間まで生にしがみつきたいと懇願する。

 

 ────衝突する海獣、迫る大津波。

 

 誰かとの駆け引きに敗れて死ぬでなく、愛する者に看取られるでもなく、ただ、ただ理不尽な暴力による最期。

 しかも、私が信頼していた勇士達には見捨てられ、失望と絶望に身を蝕まれた終幕。

 

 認めない、認められるもんですか! こんな最期だなんて! イヤッ! 誰か、誰か助けてよ──────ッ!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ここで何してやがる?」

 

「────っ、?」

 

 聞こえた声に反応して目を開ければ、迫っていたはずの大津波は割れ、眼前には全身を青い装いに身を包んだ男────戦士。

 

「海水浴するには、ちと天気が荒れ過ぎだな」

 

 それは知っている、と大声で返そうとした時、唐突に彼の腕がこちらに伸びて────

 

「きゃっ」

 

 ────優しく、しかしどこか気恥ずかしくなる横抱きをしてきた。

 

 そして瞬く間に海から離れた場所に到着すると、そこには無造作に武具を積んだ重戦車があった。御者と思しき赤毛の青年が彼に笑顔を向ける。

 

「流石はクー・フーリンさん! 助けを求めている人に直行ですか、いやぁカッコいいですね!」

 

「茶化すなよ、レーグ」

 

 …………今、何て言った? クー・フーリン、クー・フーリンって? 

 

 私を横抱きにしている彼────暫定クー・フーリンを、思わず凝視する。確かに噂と合致する部分は多いように感じられ、そしてそれらが真実なのだと、不思議と理解させられる何かがあった。

 

 あぁ、あなたが、あなたこそが! あのクー・フーリンなのねっ! 

 絶体絶命の危機から脱したことや、漸く探していた男に出会えたことで、内心安堵と歓喜に震えた私は、即座に彼を誘惑しようとしたところで降ろされ、

 

「ッし、そんじゃあ行ってくる」

 

「って、ちょっと、あなた何処へ行く気!? そっちには海獣達がいるのよっ!?」

 

「言われなくても知ってる」

 

「なら…………!」

 

「俺がここに来たのは、まさしくアイツらが理由だ。ここで帰っちゃあ、何しに来たのかが分かんねぇよ」

 

「──────ッ」

 

 クリードとコインヘンを、たった1人で倒すというの? 無茶よ! 無理よ! 死ぬ気なのっ!? 私の勇士を流れ弾で木っ端微塵にしてしまう化け物相手! 勝てるはずがないわ! 

 でも、あらゆる戦士を見定めてきた私だからこそ、彼の目を見ただけで分かる。彼は決して、私が、いや、誰が止めようとも止まらない。何らかの強迫観念に囚われ、諦観を浮かべていながら、しかし自身で決定を下し、確固たる決断をした。彼はそんな男────戦士だ。

 

「レーグ、お前はこの女を連れて離れてろ」

 

「了解しました!」

 

 なら、引き止めは不要。初対面の私に言われてもアレだろうけど、せめて彼の巡り合わせを祈ろう。

 

「…………死んだら承知しないんだから」

 

「クー・フーリンさん! ご武運を!」

 

 私の言葉の後に、御者の赤毛の青年────レーグといったかしら? ────も、彼に言葉を送る。

 赤毛の青年はともかく、私までもが鼓舞したのが意外だったのか、一瞬クー・フーリンは目を丸くするが、直ぐに研ぎ澄ました牙を見せつけるように口元に弧を浮かべる。

 

「応ッ!」

 

 …………噂になかったことを挙げるとすれば、彼もフェルグスに負けず劣らず、アツいトコもあるってことかしらね。嫌いじゃないわ、むしろ好きよ! 

 

 この私にここまで思わせたんだから、勝手に死んだら許さないわよ、クー・フーリン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で繰り広げられている激戦、それは英雄譚の一頁のようだった。

 

 クー・フーリンがコインヘンの触手に捕まって海に投げられ、クリードの竜巻に巻き上げられた時にはヒヤリとしたが、彼は魔術で巧みに立ち回っていた。

 

 魔術で海面を凍らせ、彼はその上を駆ける、駆ける、駆ける。クリードへと突貫。

 対するクリードは、コインヘンの攻撃を受けた直後なだけに彼に気が付いておらず、それ故に大津波すら斬り裂く一撃が直撃する。

 

 槍によって描かれる斬撃はクリードの外殻を豪快に砕き、しかし肉を裂くには届かなかった。

 クー・フーリンの接近を視認したクリードは、コインヘン本体の触手を鷲掴み、怪力にものを言わせてクー・フーリンごとコインヘンを海面に叩き付ける。

 それによって巨大な水柱が空に昇る、と同時にクリードは咆哮を上げ、その口内から殺人的な暴風を吐き出す。あれを間近で喰らえば一溜りもない! 

 

 彼の姿が見えない。もしや、などと考えてしまうが、そんなはずもなく。

 

「GAAAAAAAA──────ッ!?」

 

 先程砕いた箇所と同じ部分の外殻が弾け飛ぶと同時に、苦痛と驚愕から叫換するクリード。見れば、クリードの背後へと回り込むように氷の道が形成されていた。

 遠くから眺めている私ですら気が付けなかったほどの神速で、彼は回避と攻撃を並行させたのだ! 驚嘆するしかない…………! 

 

 瞬間、彼が海へと引きずり込まれる。水底に叩き付けられたコインヘンによるものだろう。そしてそれを追いかけて潜水するクリード。

 

 いや、それはマズんじゃない!? 彼とて人間よ! 海獣相手に水中戦はすべきじゃないわ! 

 

 彼が水中に引きずり込まれて数秒、地鳴りのような鈍い音と共に、海面からは幾度も触手が飛び出し、あるいは迫り上がった衝撃で水が破裂する。

 傍から見ても激しい水中戦を繰り広げていることが伺えるが、数秒、数十秒と過ぎても彼が浮上する気配がない。

 

 固唾を呑んで見ていた私に不安が生じた、その瞬間、突然に海が割れる。一瞬だけクリードの頭部が垣間見えたことから、あの海獣が暴風を吐き出したのだと理解した。

 と、陸地に何かが打ち上げられる。何かと目を凝らせば、そこには全身に切り傷を量産したクー・フーリンが伏していた。

 

「そ、そんな────っ!?」

 

 やっぱり無理だったのよ! 神話級の化け物相手に、ただの人間が立ち向かうなんて! あぁ、あの時に引き止めてお────

 

「っガァア! やってくれるじゃねぇか、あの海獣共ッ…………!」

 

 血を流しながら、しかし負傷を毛ほども感じさせぬ神速で、彼は海獣が乱闘する戦場へと舞い戻る。

 

 えぇ…………? 何でそんなに傷を負ってまで、獰猛な笑みを浮かべられるのよ? しかも楽しそうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、彼は海獣らに立ち向かっては無惨に投げ捨てられ、傷を増やして尚も立ち向かい続けた。

 

 確かにクー・フーリンという男は、あのフェルグスが認める程の力量を持ち、神話級の化け物と相対しても怯まない胆力や、機会を虎視眈々と狙う忍耐力には目を見張るものがある。

 しかし、しかし! それでも限度というものがあるだろうに! 彼は何度となく地獄へと足を踏み入れ、間一髪で命からがら離脱することが叶うものの、再び自ら艱難辛苦の道へと飛び込むのだ! 

 

 何度も、何度も、何度でも! 

 

 まるで己の命すら経験の糧とするように! 

 

 その在り方が雄弁に語る────狂っていると。そう形容するのが最も当てはまるそれだったが、ここに来て変化が訪れる。

 

 もはや何度目かすら分からない程に吹き飛ばされるクー・フーリン。傷は更に増え、見るだけで痛々しい姿となってしまった彼だが、むしろその目は「ここからが本番だ!」と語っていた。

 立ち上がった彼は、重戦車にこれでもかと積み上がっていた────開戦前に近場に置いて行けと指示していた────武具を装備し始めた。何故? 

 意図が全くもって分からないが、彼は直剣と大盾を持ち、背には直剣と先程から振るっていた槍を控えて、海獣らに突っ込んだ。

 

 凍らせた海上を走るクー・フーリン、それに気が付いたコインヘンが彼に向けて触手を出現させる。しならせての攻撃ではなく、それぞれが一本の槍の要領で彼を穿とうと狙い付けていた。

 だが彼は軽い身のこなしで避け続け、直ぐにコインヘンの眼前へと躍り出る。当然、コインヘンはそれに対応して触手を伸ばすが、クー・フーリンは避ける、避ける、避ける。

 

 ここまでは今までの立ち回りと同じ。…………ここからが違っていた。

 

 跳躍して瞬間的にコインヘンの頭上へと移動した彼、そして迫る幾本の触手。空中という身動きが取れない領域でありながら、彼は落下の勢いを殺すことなく、伸びる触手を盾で巧みに受け流す。

 そうして容易く接近してみせた彼は、コインヘンの肉体に直剣を深々と突き刺す! 痛みによってのたうち回るコインヘンを、彼は足場にして再び跳躍。その際、先の攻撃を受け流したことでひしゃげてしまった盾を、コインヘンに突き刺さった直剣の柄頭に投げ付けて剣を更に深くへと押し込む。

 

 彼が跳躍した先では、クリードが剛腕を上げて待ち構えており、今正にクー・フーリンを叩き潰そうとしていた。

 が、それに気が付いていたのか、彼は空中で背負った槍を手に持つと、剛腕が振り下ろされると同時にクリードの拳へと槍を打ち付け、その反動で身を飛び上がらせて回避してみせた。

 

 何よそれ!? どんな怪力と反射神経してんのよ!? 

 

 空振りという大きな隙を晒したクリードを逃すはずもなく、クー・フーリンは剛腕を強く蹴ってクリードの顔面へと迫り────

 

「────そうらッ!」

 

 ────もう一振の直剣を、左眼に突き刺した! 

 

「GIGYAOOOOOO──────ッ!!?」

 

 コインヘン同様、不意に生じた激痛に悶えるクリード。その瞳からは絶え間なく鮮血が流れる。その場で暴れ狂うクリードは周囲に無造作に竜巻を発生させるが、彼は即座に離脱したことで逃れる。

 

 この攻防だけで、並大抵の戦士の生涯で到達不可能な領域。見守る者に不安を抱かせるが、しかし不思議と負ける絵は思い描けない。倒れようとも起き上がる様は正しく不撓不屈の体現、万夫不当の豪傑。

 

 欲しい、欲しい欲しいっ! ここまでやってのける戦士なんて他にいるわけがない! 

 

 彼は更に山と積み重なる武具を手に取り、再び戦場へと舞い戻る。何度も、何度も。

 

 その姿を目に焼き付けた私は、胸の内に熱く昇ってくる何かに焦がされ、感じたことのない胸の高鳴り────今までの「欲しい」とは違う、この気持ちは何だろうか? ────に突き動かされ、彼の勇姿に熱視線を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に日は傾き、戦況も斜陽にあった。

 

 暴力の権化のように猛威を振るっていたクリードは、左眼を潰され、長い尾は切り離され、全身の外殻を砕かれていた。

 恐怖という概念をその身に宿したようなコインヘンは、クリードの打撃によって抉られた傷を多く負い、彼の放った火によって焼けた箇所も多かった。

 

 クー・フーリンはというと、全身にこそ傷は多いが、それは序盤に負ったものであり、相手の動きを見切り、立ち回りを覚えてからは被弾することは皆無に等しかった。

 が、山のようにあった武具は全て使い切ってしまい、残るは初めから握っていた一条の槍のみ。血の流しすぎによる貧血で足取りはふらつき、これ以上の戦闘続行は死に直結するだろう。見るからに満身創痍だった。

 

 

 

 ────戦場にいる三者が動く。

 

 

 

 彼がクリードへと突貫して槍を振るう。

 

 クリードは周囲に竜巻を幾本も出現させる。

 

 コインヘンは触手を展開しつつ後退する。

 

 竜巻を掻い潜ってクリードへと接敵した彼は、クリードと激しい近接戦闘を開始するが、それを包囲するように触手を出現させたコインヘン。足止めと共に安全圏から熱線を放つ準備をする。

 この長期戦の中で一番の数の触手が展開され、その攻撃密度は回避すら許さぬものだった。一連のコインヘンの行動は、死合を決めに来ていると伺わせるには十分過ぎた。

 

 あまりに攻撃が絶えない、逃げられない! 早く、早く射線上から逃れて! クー・フーリン! 

 

 そんな私の思いとは裏腹に、コインヘンから閃光の如き熱線が放たれ、海水が蒸発しながら、迫る、迫る、迫る! 

 

「「あ、危ないっ!」」

 

 私と赤毛の青年が同時に声を発する。

 

 ────彼がクリードと共に熱線に飲み込まれた。

 

「──────っ!」

 

 そんっ、そんな…………! 死んだ? 彼が? 嘘っ、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘ッ!! 彼ならきっと! 

 

 水蒸気の霧が晴れる。そこには外殻をドロドロに溶かしたクリードが見えたが、彼の姿が見当たらなかった。

 

「…………、…………!」

 

 声が出ない。胸を穿たれたような気分に襲われる。突然に視界が色褪せる。涙が出る。止まらない。何? 何よ、この感情は!? 知らない…………知りたくないわこんなのっ! 

 

「────あっ! クー・フーリンさん!」

 

「………………えっ?」

 

 赤毛の青年の、希望に満ちた声色を耳にした私は、顔を空へと上げる。藁にも縋る思いで空高くを凝視すると、そこには器用にも空中で体勢を整える彼の姿があった。

 

 捉えたと同時に、心に満ちていた言い様のない何かが霧散し、軽くなる。

 

 どうやってそこに回避したのか、熱線に飲まれたのではなかったのか。疑問は尽きなかったが、少なからず分かることがあるとすれば、彼はこの瞬間に、戦いの幕引きを図ろうとしていることだった。

 

 彼は空中から全身全霊を込めた投擲をする。撃ち出された槍は空を裂き、傍から見ている私ですら見失う程の速度だった。

 

 槍はコインヘンの頭部へと突き刺さり、大きく仰け反る────が、しかし絶命には一手足りない。それを見越してか、彼は槍が突き刺さったのと同時にコインヘンの頭上へと急接近して、刺さった槍を拳で押し込む! 

 完全に頭部を貫通した槍は、コインヘンの身体を吹き飛ばしながら海へと潜水し、それは再び海を割った。

 そうしてコインヘンが事切れると、彼は即座に槍を回収し、クリードへと矛先を向ける。

 

 熱線が直撃したクリードは、無残にも砕かれた外殻を融解させており、身を悶えさせていた。そこへと、彼は海面を凍らせて突っ込む。既に満身創痍で限界を迎えているはずなのに、彼の移動速度はそれを一切感じさせない鋭利なものだった。

 クー・フーリンの接近を視認したクリードは、剛腕を海へと落として大波を形成し、彼の足場を崩壊させる。が、それしきのことで彼を止めることはできない! 

 彼は大波に槍を突き出し、更に加速。そのまま突進すれば大波が弾け飛び────それを読んでいたクリードが大口開けて待ち構えていた。暴風を吐き出す。

 

 ゼロ距離であれを喰らえば、今のクー・フーリンでは流石に死んでしまう! ここは一旦回避を…………! 

 

 だが、彼は回避の動作を微塵も見せることなく、何故か自分から暴風へと身を投げる。しかし、彼は風に身を揺さぶられることはなく、傷すら負うことはなかった。

 ここにきて、今まで見せることのなかった技を用いたのだろう。クリードの暴風は隙は大きいものの、この海獣の持つ最高火力、当たれば即死級の暴力だ。これまでの戦いではクリードの暴風を防ぐ手立てがなく、当たらないよう回避するしかなかった。否、そうであると認識させていた! だからこそ、クリードは暴風を吐けばどうにかなるという選択をしたし、クー・フーリンはそうなるよう誘導したのだ。

 単なる強い風など何のその。彼は真正面から暴風を打ち破ってみせ、クリードの無防備な胸部────心臓へと槍を突き立てる。

 

「GURAAAA──────!!?」

 

 自身の最大の攻撃が効かなかったのもあってか、クリードの悲鳴は痛みによるもの以上の感情が込められていた。

 しかしクリードとて神話級の化け物。心臓を穿たれたのみでは即死に至らず、懐のクー・フーリンに剛腕を振り下ろす。が、彼は槍を放置して回避し、潰れた左眼側へと回り込む。そして跳躍、左眼に突き刺さったままだった直剣に手を掛けると、跳躍の勢いを活かして項まで斬り裂く。次いで脳天に直剣を突き刺し、終わりだと言わんばかりに捻じる。

 

「GAAAaaa────…………」

 

 クリードが倒れた。骸と化したそれの上に立ち、空を仰ぎ見る彼の姿は、正しく英雄のそれだった。

 

 う、嘘。ホントに、ホントに勝っちゃったの? …………す、すごいわ…………本当に。

 

 私の勇士達でさえ逃亡一直線の化け物、人どころか自然環境すら蹂躙し尽くす怪物、生態系において人間の上に立つ神話級の獣。

 そんな相手に人の身で立ち向かい、知恵と勇気の限りを尽くし、不屈と執念で身体を動かし、一進一退の攻防の末に持てる全てを駆使して勝利を掴む。

 確実に、これまで私が見定めてきた勇士の誰よりも強く、全てにおいて勝る。それこそがクー・フーリンという男────勇士! 

 

 胸の内に滾る、熱い、熱い欲求。今まで感じたことのない昂り。確かに彼は私の勇士として傍に置きたい。そう思えるが、これとはまた別の欲が生じている気がする。

 彼を見ていると心臓が早鐘を打ち始め、顔から耳へと朱色に染まる感覚が伝い、ありとあらゆる妄想が沸騰するかのように湧く。不思議と視線が外せなくなり、しかし視線が絡み合えば目を逸らしてしまう。熱に浮かされた感覚に陥り、だがそれが心地良い。

 

 この気持ちは何? ────知らない。

 

 この昂りは何故? ────分からない。

 

 今はそうだけど、彼を、クー・フーリンを私のものにできたなら、これが何か分かるかしら? そう思って彼に駆け寄ろうとして、一歩目を踏み出し────「えっ、?」

 

 ────ドサり、と何かが覆い被さってくる。

 

「な、何…………が…………」

 

 視界を開けば、クー・フーリンの顔が目と鼻の先にあり────てっ!? え、えっ? 待って、ちょっと待って。どうして彼が私を押し倒しているの? 

 

 彼の目が開く。その真紅の瞳と交錯した途端、言いたいことややりたいことで溢れていた頭の中が真っ白に漂白され、心身が行為前の時のように火照り始める。

 

「…………わりィな、今退ける」

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!!」

 

 こ、こんなのまるで生娘じゃない! 私はメイヴ、女王メイヴなのよ!? 色んな男に口説かれ、抱かれ。逆に誘惑し、抱かせた女なの! 彼が欲しいのなら、何時ものように行動しなきゃ…………! 

 

 私は、私の上から身を引こうとしていた彼の首に腕を回し、

 

「ね、ねぇ? 貴方、私のモノになるつもりはない?」

 

 慣れた手練手管で陥落させる。…………少々言葉に詰まってしまったが。今までの勇士達はこれのみで簡単に落ちた。こう言って微笑みかければ、むしろ相手側から「貴女のものにしてくれ」と頼み込んできた。

 だというのに、だというのにっ! 彼は表情ひとつ変えることなくこちらを見据えたまま。彼の中に高い理性の壁があるのか、それとも────。

 

「好きなだけ抱いてもいいのよ? もちろん、アッチの意味で、ね?」

 

「………………」

 

 耳元で囁いても無反応…………って、ちょっと! 私に傅くのは当然のこと、征服されるのを喜べばいいのに! 光栄に思えばいいのにっ! 

 

「貴方の勇姿にすっかり惚れちゃったわ」

 

「………………」

 

 ねぇ、何か反応してよ! 誘惑しているのが馬鹿みたいに見えるじゃない! 

 

 顔は引き攣り、心中で嘆く私。と、ここでやっと彼が動いた。細めた目で私を見つめ、氷のような印象を与える無表情に、柔らかな微笑が浮かび上がる。

 

「…………そいつは何とも嬉しいこったな」

 

「っ! そ、そうよね! 嬉しいわよね! なら────「だが断る」────っ、え?」

 

 え? なん、で? 断る? 私の、誘いを…………? 

 

 彼からの明確な拒絶の意思────以前にも他の男に拒絶されたことはあったが、彼から向けられるそれはあまりに大きな衝撃だった────に、私の思考は固まってしまう。

 何かしてしまった? それとも気に食わない要素があった? 何が要因で拒絶されたのかを考えていると、そんなことにも構わず、彼は私へと更に深く覆い被さっては、耳元で囁くように、

 

「お前みたいな女に誘われるのは、確かに嬉しいことだが、生憎と俺はお前にゃ合わねぇよ」

 

 耳に彼の吐息が当たり、全身がビクリと震え、胸が締め付けられる。

 

「あっ、合わないなんて! そんなことないわ! 私はメイヴ、女王メイヴなのよ!? 私はどんな勇士でも受け入れるし、いえ、むしろあなたを私に合わせてみせるわ!」

 

 だから! 私のものになってよ! 

 

「…………俺が言いてえのは、そういうことじゃねぇよ」

 

 彼が私の上から退いて立ち上がる。そして私は彼を見上げながら叫ぶ! 

 

「なら何だっていうの!? 私じゃ不満だって言いたいワケ!? 権力も富も名声も、女としての美しさも可愛さも、全部あるのに何が不満なのよ!」

 

 男が好きな要素を全て揃えているというのに振り向かれないのは、かなり、かなり屈辱的だ! まるで「素材に魅力がない」と言われているようで我慢ならない! 

 

「確かにお前には全部あるだろうさ。でも俺にとっちゃ、それらは二の次ってな」

 

「二の次、ですって…………? じゃあ一番は!?」

 

「確かに人間ってのは、外面がほぼ全てって言っても過言じゃねえさ。けどな、全部が全部そうじゃねえ。少なくとも、俺が重視するのは中身さ」

 

「…………中身?」

 

「あぁ、中身だ。いくらイイ女でも中身が真っ黒で歪なのは御免だ。しかも生涯の半分以上を共に過ごすってんなら尚更そうだし、自分と波長の合うヤツじゃなきゃいけねぇだろ? …………まあ、人生に二度目があるんなら、物好きな趣味趣向もいいのかもしれねぇがな」

 

 言われて納得はする。確かに相性というのは大事だ。だから私は傍に置いた勇士を自分色に染め上げている。

 クー・フーリンは染められるでなく、ありのままの状態でそう有りたいと、贅沢にも言っているのだ。

 

「外見の美しさ、権力の強さ。あぁ、確かにそれらは魅力的だ。が、同時に、それらはいずれ落ちぶれる。いつの日か劣化して綻んで、面影しか残らねぇモンだからな」

 

 だからお前のものにはなれねぇよ、と添えた彼の答え。それを解釈すれば、私には美貌や権力はあっても、それのみだと言いたいらしい。

 

 えぇ、そうね。その通りだと思うわ。でも、認められない! それを肯定するということは、今までの私の全てを否定することになるんだから! 

 

 癇癪に近い勢いで私が口を開こうとすると、彼が先に割り込む。

 

「勘違いすんなよ。俺はそれらが悪とは言ってねぇし、思ってもいねぇ。メイヴという一個人を形成するのがそれらだったとしても、それは正しくお前自身の在り方だ。むしろ、それらを損なえばメイヴという人間が崩壊しちまうだろうさ」

 

 …………自分で貶めておいて、その後に相手を尊重するようなコトを言うなんて、彼は天然の女たらしなのかしらね? 

 でも、ええ、そうね。少し安心したかも。彼にとって、私を女として見れないとかだったら、あまりの精神的打撃で立ち直れなかったかもしれない。

 

 彼が私のものになってくれない理由は分かった。確かにこれじゃ私に靡かないもの無理はないわね。

 

「…………なるほどね。あなたの言いたいことは分かったわ。でも、でもね、クー・フーリン? 私は自分の欲に忠実なの。欲しいと思ったものは何がなんでも手に入れたくなるのよ?」

 

 そう、私が、私という女がメイヴだから。この世全ての素敵な男性は私のものに! そのためなら私は────! 

 

「私ね、あなたのこと、余計に欲しくなっちゃったわ。だ・か・ら、必ずあなたを私色に染めてみせるわ! あなたがどんなに嫌がったとしても、私がそうしたいから!」

 

 私のことを、私を構成する要素以外の目で見て、評価してくれる。そんな男なんて、きっと────いいえ、絶対にあなただけなんだもの! 絶対に逃したくない! 

 

 …………言い慣れたような発言だと言うのに、何故か顔が赤くなっているのを感じる。こ、声とか震えてなかったかしら? 

 私の心で反省会を開いていると、唐突に口元を意地悪く歪ませた彼が歩み寄って来て、不意に私を抱きしめ────はっ、はひっ!? 

 

「そうかい、楽しみにしてるぜ? ただ、遊ぶのも大概にしねぇと、どこかの躾けられてねぇ犬に噛まれちまうぞ?」

 

 ひゃっ…………!? み、耳に吐息が!? そんな甘く蕩けきった声色で囁かないで! そ、それに犬って、もしかしなくても、ク、ク、ク、クー・フーリンのことよねっ!? 噛まれちまうって、ひゃあぁぁあ────っ!!? 

 

 せ、せっかく緊張とか忘れてたのに! あぁん、もう! 許さないから! 私は、私はあなたを────

 

「────ぜ、絶対にオトしてやるんだから!」

 

 

 

 ◆

 




◆補足◆

Q.クー・フーリンこれ不死者やろ!?
A.ソウルライク()。

Q.クー・フーリンえらい饒舌で草。
A.焦ってたから仕方ないね。

Q.クー・フーリン(偽)草食系やなぁ?
A.周りが肉食系なので怯えてるんです←

Q.メイヴちゃんキャラ崩壊してない?
A.い、今更やろ?(露骨な目逸らし)


◆メイヴ変更点まとめ
・恋愛クソ雑魚(愛は知っている模様)
・クーちゃんガチ恋勢
・はわわ………!
・乙女チックな恋愛処女
・(偽)との出会い後、性行為にはあまり乗り気ではなくなった模様


↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。メイヴ民に袋叩きにされないようなクオリティを目指し、加えて前回の戦闘描写についても書き込んだ結果、投稿が遅くなってしまいました。申し訳ありません。でも不定期更新って記載してるし別に謝ら((ry。ガルパンを観に行っていたとか、小説そっちのけでユガ・クシェートラやってたとか、それらは関係ないと思います。えぇ、関係ないです。
 ということで今回はメイヴ視点について書き込んでみたのですが、これでしっかりメイヴできてますかね?丸一日かけてメイヴの資料漁ったり、Fate/GO収録のセリフと睨めっこしたり、なんだりかんだりで試行錯誤はしました。で、これです(絶望)。また、後半に行くにつれて疲れが見えたり見えなかったりしているので、誤字脱字には気を付けましたが、いかんせん私も人ですから、キャパオーバーからのヒューマンエラーのデスコンは不可避です(白目)。許して。
 次回については(偽)視点を進める予定ですが、どこかしらでレーグ君視点も書きたいので、ちょいちょい時間がかかると思われます。ま、いつものことよね!(開き直り)………それよりもですね、今後の脚本で少々の無理が生じていく可能性が高いので、それを回避し、ストーリーを練る為にも時間がかなりかかる未来が見えています。その時は後書きや活動報告などで告知しますので、何卒ご理解をお願いします。




◆限界オタクの2部4章の感想
クリア後に見るCMが辛い……何か、こう……最初の時計の針の音と共に緑が広がるシーンですら「ウッ」ってなるし、諸々の鯖達のアクションシーンは迫力満点ですげぇ!(語彙力の低下)てなるけど、それ以上にアーシャちゃんの肩をポンと叩いた次の瞬間に何事も無かったかのように平穏な背景に変わるの辛いし、むしろCM見まくったせいでプレイしながら「あぁ、この人も………」ってなっちまったし、無かったことにされるのも残酷だけど完全に忘れられないのもエグいし、犬だし、アジャイさんだし、記念日(涙)だし、礼装のイラストとテキストでブワッてなるし……つれぇ。ジナコがジナコしてたけど最後には「よく頑張ったね」って言いながら暖かく抱擁してやりたいし、ラクシュミーさんも絶対に幸せにしてやるからな覚悟しろ(謎ギレ)。つかカルナさんなんなの?あんなん主人公じゃん。は?好き。てかね、ラーマくんはマジで王様してるわ、新所長も意外な特技っつーか良い人成分過剰分泌されてるわでエモっ!(鳴き声)テルは父"の"日"ィ"!"めっさ怒ってたアイツは菅野デストロイヤー直にしか聞こえないわ、ぺぺと好相性なのもすこ味深くて供給過多で膨張して破裂しかけるわ、結局は皆が惚れさせにきてるわでマジでなんなの?それはそれとしてンンッさんは楽しそうにンンッwwwwwってしてて「ンンッ」ってなったし、エ医者ァァァ!!(告白)そして何より神ジュナさぁ、ただでさえアルジュナすこなのに更にすこここのすこにしてくるの卑怯だよ、ラストバトル強過ぎて久々に令呪吐かされたよ最高。そして韓信ばりに「ウッ………」ってなるから死人が出るぞ(主に私)。いや、私はあそこで確かに死んだ。だがユガの周期で蘇ったのだ。………私の祈りは届いた?フォォオオオオオオ!!!wwwww


………ロストベルト、まだこれで折り返しなんよね?そう考えるだけで胸が痛む。パツシィ、ゲルダ、農民達、アーシャ………あと何度滅ぼせばいいんですか………?




アーシャちゃん、




俺"が"絶"対"に"会"わ"せ"て"や"る"か"ら"な"ァ"ァ"!"(ガチ泣き)

























◆クッソ関係ない嘆き
ヴォルグと轟轟轟返して………(届かぬ祈り)。


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魔槍、そして――

 今回はテコ入れ回になります(直球)。あと今回はかなり無理がある描写があったり、内容が薄かったりなので、ご容赦を。

 ※訂正:コノア王→コンホヴォル王
 ガバ知識本当に申し訳ない(人工無能並感)。

 ※追記
 毎回の誤字・脱字の修正、皆さま本当にありがとうございます。しかし指摘されてわかるのは、間違う箇所が大体同じという事実。この学習能力のなさと言いますか、ミスタッチと言いますか、もう本当に申し訳ないです………。


 ◆

 

 

 

「────我と交わる栄誉を与えよう」

 

 いきなりナニ言ってんの!? 頭おかしいの? いや頭おかしい…………(確信)。確かにこのモリガン? とかいう美女と「(コンプライアンス)!」はとても魅力的だが、致したらもれなく師匠と師範の手によって滅茶苦茶に滅茶苦茶されるという結末を迎えるだろう。

 てかね、現代倫理を持つ俺から言わせれば、何で皆がそんなに性行為に対して臆面なく旺盛なのか理解に苦しむよ…………。

 

 という訳でお断りだぜっ! と当然の反応を送り付けてやったところ、

 

「…………有り得ん! 我に下賜された栄誉を断るなぞ、有り得んぞ貴様ッ!」

 

 と何故か激昴された。は?(半ギレ)

 

 なんだァ? てめェ…………と独〇並の感想を漏らすと、モリガンもといスタイリッシュ痴女は「愚かな選択を悔やむがいいッ!」と声を荒げて飛んで行った。いや、愚かなのは頭ケルティックな方々だと思うんですけど(名推理)。

 

「あ、あわわわっ!!! クー・フーリンさん、マズイですよ!」

 

 ターミナルさん!? …………言葉狩りはしてはいけない(戒め)。どしたんレーグ君? そんなに慌てて。

 

「あの戦女神モリガンの誘いを断るなんて、何て恐れ多いことを!? 彼女からの誘いを断った戦士は勝利の援助が受けられないんですよ!」

 

 …………は? え、あのスタイリッシュ痴女って女神だったの? しかも戦女神。脳筋ケルトからしたらやべーありがたみの神なんじゃねえのそれ? …………え"、もしかしなくても、やらかした? 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 戦女神モリガンの襲来の翌日。俺達は影の国へと辿り着いた。が、断りもなくレーグ君や馬2頭に足を踏み入れさせては危ないということで、先に師匠から許可を貰わねば。

 その際、レーグ君に「なるはやで! なるはやでっ!」と青白い顔で急かされた。いやレーグ君、この辺にはせいぜい槍がぶっ刺さりまくってる猪か、図体デカいだけの竜種しかおらんから、へーきへーき。

 

 

 

「「待ち侘びたぞ、クー・フーリン!」」

 

 影の国に入った途端、さながら猫のような跳躍で俺に飛びかかってくる影がふたつ。師匠と師範だった。アンタらいい歳して何してんの? 

 

「お主がおらん影の国なぞ退屈で敵わんッ! さあ儂らに構え!」

 

 え、いや、構えって、師匠そんなキャラでしたっけ? 影の国を出る時もそうだったけど、やはり尻尾を暴れ狂わせている大型犬を幻視してしまう。

 

「無事に帰ってくることは確信していたが、やはり29日と4時間17分も顔を見ぬとなれば、いやはや、己の我慢弱さに辟易してしまうな」

 

 師範も師範で、抱き着きながら何言ってんすか? つか発言内容が怖いわ…………待って、師範が抱き着いているせいで、何故か師匠の顔が険しくなっていくんですけど。ちょっ、般若みたいな顔から能面みたく────あっ、俺死んだわ(悟)。

 

 師匠にボコされた後、要件を速やかに伝える。最終試練はクリアしたこと、その骸を運んできたこと、御者のレーグ君とお馬さん二頭が外で入国の許可を待っていること。そこまで話し終えたところで、何故か師匠が訝しんだ顔を向けてくる。

 

「…………レーグとな? それはお主の何だ?」

 

 え、何ってそりゃ友達よ。当たり前でしょ何疑ってんの? 

 

「いや、お主のことだ。そっちの気の戦士を惹き付けてもおかしくはない。レーグとやらはそれではないな?」

 

 は?(マジギレ)クッソ不名誉な魅力を語られた俺は、どうリアクションすればいいんだオイ! それにレーグ君は数少ない安全地帯だぞ! 彼はホ〇ではない!(心の中で無言の腹パン)

 

「姉上、流石に男相手に嫉妬するのは行き過ぎだと思うぞ。それに、クー・フーリンは私達に言い寄られて満更でもなさそうなところを見ると、歴とした女好きよ。それもまた愛おしい」

 

「むぅ、そうか。それならよいが」

 

 よくないが? いや、変な疑いが晴れたはいいんだけどさ、知らない内に女好き認定されてることには物申したい! 今世では俺まだ女性経験皆無だぞオラァ!(血涙)

 急に展開された羞恥プレイという名の公開処刑。流れを変えろ! よし、この話終わり! とりあえずレーグ君らは影の国入国許可ってことでいいのよね!? じゃあ連れてく────

 

「それよりもなクー・フーリン、何故お前の身体から他の女の匂いがするのだ?」

 

 ────へあっ!? な、何かの間違いでは? 俺はそういうことには十分に気を使…………あっ、メイヴ…………。

 

「…………ふむぅ、やはり他の女子共も放っては置かぬか。これはいかん、いかんなぁ。洗いざらい吐いてもらおうか。のぉ?」

 

 分かるよ。秘密は甘いものだ。だからこそ、恐ろしい死が必要なのさ(俺が死ぬ模様)。

 

 まあそんな感じで死んだり殺されたりした後、無事(?)にレーグ君らを影の国へと迎え入れる許可がおり、「遅いですよぉ!」と涙目で掴みかかられた。いやー、仰る通りで。

 

 試練に従って狩ってきたクリードとコインヘン、その骸を師匠に見せると、何故か師匠が誇らしげな顔をする。お主なら成し遂げると分かっていた、とか、骸から激闘の痕が見えるな、とか褒めてくれるのは感謝感激狂喜乱舞なんだけどさ、アレ、他の人にやらせちゃヤベーイ試練だったよ! アンタ最終試練クリアさせる気ないでしょ! 

 と、心で憤慨していると、師匠が一転して真面目な顔になる。

 

「我が愛弟子よ、よくぞ最終試練を踏破してみせた。賞賛に値する。…………今をもってお主は修行の全過程を終えた」

 

 …………え? マ? いやまあ、最終試練って言ってたからもしかしてとは思ってたけどさ。まさかこれで修行終了とは。NKT…………。本家兄貴もこれを経験してたんやなって(白目)。

 

「そして、お主の力量ならば、これを担うに相応しいと判断した。そら、受け取るが良い」

 

 そう口にした師匠の手には、Fate/で見覚えのありまくる緋色の槍────ゲイ・ボルクが握られていた。

 担うに相応しい、ってことは遂にゲイ・ボルク解禁か!? っしゃオラァ! 神アプデ来た! これで勝つる! 

 

 兄貴のメインウェポンにして、クー・フーリンの代名詞たる魔槍。作中ではこれによってランサーのクラスを依代に召喚され、セイバーやエミヤ、ルートによってはハサン先生といった強敵達に対し、この一条の槍のみで互角以上の戦闘を繰り広げていた。その他作品でも同様に、だ。

 故に神聖さすら感じる緋色の槍、その本物が目の前にあり、それを俺が手にする。この瞬間を待ち望んでいたとはいえ、とても恐れ多いと感じてしまう。だが、これを与えられたということは、即ち俺が本家兄貴に近付きつつあるという証左! 

 

 ────魔槍を受け取り、握り締める。

 

 貸与されていた槍よりも軽く、しかし損耗することはないという確信を与えられる、そんな槍。良い槍だ、気に入った! 

 

 と、突然に魔槍から紅い光が揺らめき、俺の手を伝い、腕、胴体へと伸びて全身を包み込むように広がる。すわ、何事かと思ったが、その光は俺の身体に定着するようにじんわりと消えていった。

 そうして、俺とゲイ・ボルクがひとつになったような感覚が迸る。はえー、こうやって武器を自分のものにするんすねぇ。今なら映画のように、掛け声のみでゲイ・ボルクを呼び寄せることができそうだ。

 

「む? それは…………ほぅ、なるほどな」

 

 興奮に舞い上がっていると、俺を、というより先程の光を見た師匠が不意に呟く。え、なるほどとは? さっきのアレはゲイ・ボルクのオプションではないのか!?(勝鬨)

 

 

 

 ◆

 

 

 

 修行を終え、ゲイ・ボルクも継承した俺は、未だ影の国に滞在していた。何故かというと、俺が影の国を去ろうと話を切り出した途端、師匠と師範のふたりが俺にしがみつき、

 

「「儂(私)がそれを許すとでも?」」

 

 とまあ、うん。はい、失敗しました(諦観)。

 

 という訳で、俺は影の国に滞在しながらレーグ君に軽く稽古を付けている。それと何故か、師匠と共に亡霊等を狩りまくっている。

 俺としては、これからクー・フーリンは何をしたのかが全く分からないため、一先ずは武勇のひとつやふたつでもぶち立ててやろうかと思っていたんだが、師匠曰く、「まだ魔槍の扱いに慣れてないだろう、故にここで慣れてからでも遅くはないさ」とか何とか。

 

 そういえば、ゲイ・ボルクってクリードの骨から造られたんだったよな。なら、試練で狩ってきたクリードを素材に、別の何かに加工することは可能じゃね? 

 そんな発想を師範に言ってみたところ、「ふむ、そうさな。お前が望むのなら私自らやってやろう」という、何とも嬉しい返答をもらった。また、武器と防具のどちらがいいかと聞かれたため、なら両方を兼ねる欲張りセットにしよう!(提案)

 

「む、攻防一体とな。それは些か扱いにくくはないか?」

 

 そうですかね、ギャ〇シールドとかトゲシリーズとか見てると、クセはあるかもだけど、むしろ使い勝手はよろしいと思われ。

 

「ほほう、それは何とも奇抜な発想よな。どれ、もっと詳しく申してみよ」

 

 対人戦闘を意識したカンジで、クリード要素を全面的に押し出したいんすよね。そんでもって────

 

「この部分だが、こうした方が良くはないか?」

 

 あぁ! なるほどなぁ! その方がカッコイイっすね! あっ、なら俺はこの部分を────

 

「存外、楽しくなってきたな。この勢いで盛り込めるものは全てやってしまおうか」

 

 おk! 全部載せはロマン。重量過多バッチコイ。ゲテモノほど美味と言うし、まま、へーきやろ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 ここにクリードの骨格があるじゃろ? これをこうしてこうじゃ!(謎)という感じで師範パワーを詰め込んだ結果、攻撃的骨格アーマーこと噛み砕く死牙の獣が出来上がってしまった。アキ〇イターの解答ばりに、間違いなくあのアーマーだ。ほほう、これが人類を滅ぼした黒い鳥ちゃんですか(違)。

 しかもこれ、俺と師範の悪ノリによって魔改造されており、待機状態時は肩・腕・脚にライトアーマーとして装備されているが、魔力を流すことで展開し、全身を包み込んであの姿となるのだ。カッコイイじゃねえか! 

 

 …………ここまでは(よくないけど)よかった。ここまでは。

 

 途中からの変なテンションの中で「コインヘンも素材に使ったら強いのでは?」という悪魔的発想から、噛み砕く死牙の獣の刺々しいフォルムに、艶やかで冒涜的な素材が足されることになった。しかし不思議なことに、シルエットに違和感はなく、むしろ既視感まである。尚、その正体は黒栗だった模様()。

 コインヘンを用いたおかげで、俺も任意で異空間を開くことが可能となり、しかし何故か触手ではなくゲイ・ボルクが飛び出るというびっくり仕様になっていた。これには俺も師範も驚愕。

 

 原形ないやん(白目)。

 

 冷静になってから考えれば、普通の槍ニキが噛み砕く死牙の獣を装備しているのもおかしいし、なのにそれを作成しちゃったのはA級戦犯モノやし、そしてそれを悪ノリで魔改造しちまったのもヤベーイし。こりゃ、欲張り野郎にはお仕置きが必要だなぁ?(後悔)

 

 …………俺、確か本家クー・フーリンになるために頑張ってたんじゃなかったっけ? これ、自分でそれ台無しにしてね? …………いやっ! まだ間に合う! まだ修正は利くはずだ! そう思いたいっ! 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 やっぱケルトに普通の女性はおらんのやなって…………。

 

 ゲイ・ボルクを駆使して亡霊共と戦えば、師匠が恍惚のヤンデレポーズで俺を眺めてくるし、それを注意すると顔を真っ赤に染めて槍をぶん投げてくるのだ。正直、そっちで死ぬかもしれんのでやめて欲しい(切実)。あと師匠も戦って下さい! 俺だけにやらせるとか職務怠慢ですよ! 

 

 師範はというと、俺が噛み砕く死牙の獣(魔改造)を展開した途端、顔を姉同様に真っ赤に染め、息を荒くしながら「あぁっ!!」とか「うぬぅ!!」とか漏らして悶えている。

 

 …………何なのこの姉妹? やば(今更)。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 師匠と共に亡霊共を狩りまくった結果、どうやら俺は微弱にだが「死」を体得していたようだ。通常攻撃時に極低確率で即死を付与するパッシブスキルだ。じいじよりもクッソ低い確率だと思う。

 と言っても槍で穿たれれば大概の生き物は普通に死ぬるから、即死なんてあってないようなものなんだけども。

 

 それはそれとして、亡霊共を狩っただけでこんなスキルを得られるものなのん? という純粋な疑問を師匠にぶつけてみたところ、そもそもここらの亡霊やら死霊やらは常人では絶対に倒すことのできない領域のエネミーらしく、最低でも武力に特化した英雄十人分前後の戦闘能力と耐久性を持っているのだとか。

 また、通常攻撃にありとあらゆる呪いが込められているため、それをモロに喰らえば耐性がなければ即死レベルだったらしい。道理で被弾の度に意識が飛んでた訳だ。

 というかオワタ式だったのかよ! つかコイツら何処かで見覚えがあると思ったら、ヒュージゴーストやんけ! 見渡す限りのヒュージゴーストとかSAN値チェックものでは?? 

 

 少なくとも、神代の世界に存在するゴースト、しかも影の国というこの世ならざる場所に揺蕩う亡霊共が、普通な訳がないということさね。

 

 

 

 …………でもさぁ、確か師匠ってこんな感じで人の道を外れて、それでも止まらなかった結果として神に近付き過ぎて、そんで外側に飛ばされたんよね? 

 これ、下手すりゃ俺も外側に排除されちゃわね? まだセーフかな、セーフよね(震)。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あっ、そういえばクー・フーリンさん宛に手紙を預かっているんでした!」

 

 そう言ったレーグ君が俺に手紙を渡してきた。影の国に来てからかなり時間経ってるんですけど、忘れ過ぎじゃないですかね? 

 まあいいや、差出人は…………げ、コンホヴォル王やんけ。えー、何なに。

 

『アルスター近郊に魔獣とかがスポーンしまくってるから処理よろ! 先日はお願いとか聞いたし、戦車も馬も御者も用意してあげたんだから、まさか断らないよね? 時間ある時でいいけど、死人が出る前に来てくれると助かるなぁ』(超翻訳)

 

 …………俺の記憶が正しければ、余り物を俺に押し付けただけだった気がするんだが? 何なら出発前に明らかにコンホヴォル王が原因のお願い事もされた気がするんだが? はえー、したたかやなぁ。

 

 まあ、恩返しだと思えばいいか(ぐう聖)。それに、また外に出られるしな。師匠と師範には「恩を仇で返す訳にゃいかねえ」とでも言っておけば大丈夫でしょ。

 

 案の定、師匠と師範に全力で阻止されたのだが、そんなリアクションがマジで犬っぽかったので無意識の内に撫でてしまっていた。あ、死んだ、と顔面蒼白にする俺だったが、何故かふたり共が急におとなしくなって俯いてしまったので、その隙にレーグ君を連れて影の国から出立したのだった。

 

 

 

 帰ってきたら処されそうだなって(直感:A)。

 

 

 

 ◆




◆補足(今回はマジメ <ハハァ…)

Q.何で(偽)は「死」を体得できたのん?
A.クー・フーリンはバロールとの繋がりがあるので、「死」に対する適正や耐性が異常なレベルであるという解釈をしました。また、ここのゴースト共は正しく「死」を体現したバケモンと化しており、そんなの相手に殺したり殺されたり()しまくっていたことで『死に長時間触れ過ぎた』状態に晒されていた訳ですね。即ち、"山の翁"のように死にながら生きている状態に近くなっている、といったイメージです。ただ、じいじのそれよりかは微弱ですし、だからこそ「死」はかなり薄いものになっています。………え、無理がある? それはワイが一番感じてるわ(白目)。

Q.コノア王とコンホヴォル王、どっちが正しい表記?
A.どちらも正しいのですがTYPE-MOONwikiで確認したところ、コンホヴォル王という表記だったので今更ながらの訂正です←

Q.関係ないけど、投稿ペース落ちてへん?
A.仕方ないやろ! リアルの忙しさもあるけど、ここからのストーリー展開があんまし思い浮かばないんや!(逆ギレ)あ、でもゴールは見えてるんで無理があってでも辿り着いて見せます。これにクオリティ求めてる人なんて多分いないから平気でしょ?(目逸らし)


 ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。今回はクー・フーリン(偽)のテコ入れ回ということで書いていたのですが、正直な話、中々に無理がありまくりでぐうの音も出ません(絶望)。見切り発車の段階では、(偽)に「死」の概念へと昇華してもらって冠位にでも仕立て上げてやろうと考えていたのですが、そこから方向転換し、「死」を操る槍の大英雄として動いてもらおうという考えに至りました。が、結局のところ、どうすれば「死」の概念を得られるのかと思案しまくりで、かなり悩まされました。私のガバ知識と都合のいい解釈と思い込みという、クソ程役に立たない知識を総動員してコレなので、ツッコミどころ満載なのは重々承知です。許して。
 今回はストーリーの進展はほぼありませんでしたが、次回からこの転生クー・フーリン(以下略)のケルト、アルスター神話での結末に触れていく予定です。恋に目覚めたスカサハ、恋を自覚したアイフェ、愛に狂わされたエメル、ガチ恋勢と化したメイヴ、好敵手の親友フェルディア、健気で純粋なレーグ君、ケルト神話での勝利を司る戦女神モリガン、その他大勢の戦士・勇士達。そして彼らの中心にいるのは我らが「この世全ての悪」野郎。果たしてこれからどうなるのか。

 まあ、初めから中指立てて「まあこんなもんか」という気持ちで読んでいただければ幸いです。震えて待て(私が)。
























 この駄文の存在が母にバレました(蒼白)。

 やば………やば………分かんないね(どうやって発見したのかがマジで分からない恐怖)。
 アイアンマン!(見られようとも変えることのない鋼の意思)
 幽々子………(今更ながら東方新作に対する喜びとユーザーへの媚び売り)。


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愛狂、戦端

 タイトルで察する人いそう(KONAMI)。それはそれとして、前回はストーリーがあんまし進まなかった分、今回はしっかりユクゾー!(デッデッデデデデッ)



 ◆

 

 

 

 コンホヴォル王の手紙に従い、俺は影の国から出てアルスターに向かった。俺ひとりなら半日で到着する距離だが、道中襲い来る魔獣やらの相手をしつつレーグ君に技を教えていたせいか、かなりゆっくりとしたペースだった。

 

 それにしてもレーグ君、教えたことはしっかりモノにできてるし、熱意はアツゥイ! くらいにあるんだけど、それに反して伸びがあまり感じられない。

 ただ、そのことを本人も理解しており、しかしそれに対して「伸び代がなかったとしても、僕がやりたくてやっているだけなので、別にいいんですよ」と、いい笑顔で言われちゃあもう何も言えないわな。

 

 え? 図体がデカいエネミーを狩る方法がよく分からない? よし、なら特別な稽古付けてやるか! よく見とけよ〜(意気揚々)。

 

 丁度、俺達の眼前にいる巨大な竜に魔槍を構える。と、敵意に煽られた竜は振り上げた己の剛腕を俺へと振り下ろし、殺意をもって応えてみせる。よかろう!(梟並感)

 頭上から大地に影を差す剛腕、それが瞬時に迫ってきたため、俺は撃ち出された弾丸のように竜の懐へと潜り込む。

 振り下ろされた剛腕は大地を砕き、陥没と隆起を同時に引き起こすが、その中に俺の姿は既になく。

 

 ────ちょいさァ!

 

「GIGYAAAA────ッ!!?」

 

 腹部から首下にかけて魔槍で勢い良く斬り上げると、傷口から滝のように流血する竜が痛みで怒り狂う。が、反撃の隙なんてやる訳ねぇだろ!

 俺は懐から頭部に向かって跳躍し、魔槍で竜の顔面を殴り付けると、鈍い悲鳴と共に折れた牙が吐き出される。

 だが竜は仰け反りながらもこちらに顔を向けると、その口内に赤い光が灯り始め、直後に放たれるのは内閣総辞職ビーム()。

 

 ────しかし、退かぬ! 媚びぬ! 省みぬゥ!

 

 俺は空中で身を捻って力を溜め込み、弾けさせた力を委ねた魔槍を回転させながら投擲する。高速回転する魔槍は炎を裂きながら直進し、口内に突き刺さると同時に魔槍を手元に呼び寄せ、更に口内を斬り裂く。

 そうして痛みに悶える竜、それは隙だらけな訳で。ゲイ・ボルクを手元に戻した勢いを活かして空中で身を回し、竜の首を一閃。

 すると竜の身動きは停止し、首が水平に滑り地面に転げ落ちる。それに応じて巨体も脱力し、地鳴りを伴って地に伏した。

 

 ────首置いてけ! なぁ! 首置いてけ!

 

 戦闘開始から十秒にも満たない、終了。これでいっちょアガリってな。ポイントとしては、素早く立ち回ってさえすりゃあどうにかなるって点かな。あ、でも炎は俺と違って避けなきゃダメだぜ? じゃ、レーグ君もやってみよう!

 

 

 

 …………え、無理? あ、そう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 四日かけてアルスターに到着した俺達は、朝一番にコンホヴォル王の元へと向かった。

 

「おぉ、随分と遅かったな、クー・フーリンよ」

 

 安定のドヤされだったので、俺が修行に集中していたと適当な理由を付けて返答してやった。その際、レーグ君が「何故僕のせいにしないんですか?」と視線を投げかけてきたので、雑に頭を撫でてやった。

 ふっ、俺はな、前世では上司にコキ使われていたから、もし俺が上司になったら部下を大切にするって決めてたんだ。あー、やば。結構恥ずかしいなオイ。

 

 何はともあれ、早速スポーンしまくっている魔獣共をサーチ・アンド・デストロイすることにしよう。俺ひとりでやっても良かったんだが、レーグ君が以前にも増して「僕にも手伝わせて下さい!」とアツゥイ! 眼差しを向けてきたので、まあいいいんじゃね? ということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔獣を狩る、狩る、狩る。

 

 魔猪やら狼やらがわんさかといる。コイツら頭数が多いせいか、数頭倒しただけじゃ怯みもしなかった。単体としては強くないが、戦いは数だよ兄貴! というヤツだった。

 

 まあ要するに────面倒くせぇ! 存分に狩り、存分に酔いたまえよ。と狩人プレイに興じるのも限界があったよ!

 

 また同行者としてレーグ君もいるが、それ以外にセングレンとマッハもいる。パワフルにフ〇ム戦車をひいてくれた二頭の馬だ。

 初め、魔獣狩りに馬を連れて行ったら餌にされるかもじゃん。とか思っていたのだが、このお馬さんズ、襲って来た狼に強烈な蹴りをお見舞いして、狼の頭部をスプラッターにしてしまった。レーグ君より強いと思いました。

 

 そういう経緯で馬が魔獣共にとっての即死トラップと化していたため、存分に脚として使わせてもらった。森でも安心してパカラできるの強い(確信)。

 なので気分は無双ゲー。馬上から魔槍やルーンで攻撃し、豆腐なエネミーを追いかける。

 

 あ、駄目だ。発作が抑えきれんッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────我、鬼庭刑部雅孝なり!(音声:マイネエェェェム!イズ!ギョウブマサタカ!!オニワァァァア!!!)

 

 

 

 ふぅ、まさかリアルで鬼刑部ごっこができるとは。…………レーグ君、そんな好奇の目で見ないでくれ! ただ、フ〇ム欲を抑えきれなかっただけなんだ!

 

 そんなこんなで巫山戯つつもしっかりと魔獣共を駆逐していき、気が付けば、空は黄金色に染まっていた。

 俺のスタミナは無尽蔵なのか、疲れを全くと言っていい程に感じなかったが、対するレーグ君は目に見えて疲労困憊だった。そういやマトモに休憩時間も取ってなかったな。よし、今日のところはここまでにしようか。そんな俺の発言を聞き、レーグ君は力を抜き切ってマッハの上で項垂れる。はは、まあそうなるわな。

 

 そうしてアルスターに戻る俺達。街が見えだした辺りで何故か、俺は形容し難い不安感に駆り立てられていた。虫の知らせというか、防衛本能というか、そういう類の何かが警鐘を鳴らしまくっている。

 何だ…………この気持ち悪ぃ感じは!? 全身に纏わり付く嫌悪感、身の毛のよだつ恐怖感、久しく忘れていたSAN値チェック────ん? 久しく? SAN値チェック?

 

 

 

 瞬間────ゾワり。

 

 

 

 全身を舐め回すかのような視線────邪視を感じ取る。

 

 

 思い、出したッ! あぁ…………! そんなっ、そんな馬鹿なッ!

 

 

 邪視の送り主が接近してくる。

 

 

 まさか…………まさか! アイツなのかッ!? う、嘘だ、う「あはぁあ…………っ! やあぁぁっと、会えましたね。…………私の、私のクー?」

 

 蕩けきった声色のした方へと、錆び付いた身体を向けてみれば、そこにいたのは、数十人の女騎士を率いている黒髪の美女。

 腰にまで届く長髪、誰もが羨む純白の肌、師匠や師範に負けず劣らずのスタイル。以前までの可愛らしさという魅力は身を潜め、代わりに美しいという印象をこれでもかと放つ女性────名をエメル。

 気品溢れる服装のあの頃とは異なり、今はファンタジーゲームに出てきそうなバトルドレスに身を包み、手脚に軽装の鎧を身に付け、手には長い双槍を携えていた。その姿は正しく戦乙女。

 だが、誰もが認める美貌を持つ顔は狂気を孕んだ蕩け顔へと変貌しており、そしてその瞳は以前にも増して深淵の如き闇を湛えていた。

 

 

 

 あっ、じゃあ俺アイデアロールを振りますね(諦)。

 

 

 

 エメルと再会(遭遇)した俺達もとい俺は、コンホヴォル王に狩猟数を報告して「明日も頼むぞ」と言われた直後、待ち構えていたエメルに捕獲された。

 

「分かっていましたよ、クーがここに帰ってくるって。だって、私はクーのこと何でも知っているんですから。ふふっ」

 

「でも、私が待っているだけなのは不公平でしょう? だから、私もクーを探そうと思ったの。それには武力を身に付ける必要があって、私、とっても、とおおぉっっっても頑張ったんですよぉ?」

 

「大変だったけど、途中で気が付いたの。貴方がここを出て行ったのは、更なる強さを求めるため。なら、そんな貴方の隣に居続ける私もまた、強さを得なくちゃいけないって、ね? そうでしょう?」

 

「そんな中で貴方が帰って来た! ということは、私が強くなれたことを貴方が認めてくれたってことだと思うの。だって、貴方が私の元に帰って来てくれたんですもの!」

 

 連行された先は、俺が騎士団に所属していた頃に自室として使用していた部屋。今ではエメルの自室と化しているが。そこで小一時間程抱き枕にされつつ、エメルによるマシンガントークが繰り広げられていた。

 つーか抱き着くのやめろォ! エメルてめぇ外見は誰もが振り向く美女やぞ自覚しろや! 俺の鋼の如き理性にも限度ってモンががががががが…………ッ!

 

 

 

 ◆

 

 

 

 アルスター滞在一週間目、精神崩壊を引き起こしそうです(FX顔)。

 

 連日の魔獣狩りのおかげで、魔獣共はアルスターから着実に駆逐されつつあるが、それ以上にエメルの精神攻撃が以前のそれより進化したものとなっており、俺の平穏もしっかりと失くなりつつあった。

 

 何かを求めれば────例えば、喉が渇いたから水が欲しい、など────俺の気配察知に引っ掛かることなく隣に現れ、「これ、ですよね?」と微笑みながら手渡してくる。怖い。

 

 街へ出て女性と会話をしたのみだというのに、後日その女性が失踪し、エメルから「貴方に言い寄る虫は駆除しておきましたよ?」と囁かれる。…………怖い。

 

 エメルから逃れよう、という試みを実行した日の夜には彼女に発見され、いつも以上に淀んだ瞳に貫かれながら「何処へ行っていたんですか? 私の視界に入らないで何をしていたんですか? 黙ってないで早く答えてください。早く、早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く────」と詰め寄られ、脂汗が滝のように吹き出るという初めての体験をした。…………こわい、こわいよぅ。

 

 遂には俺の私物を俺の目の前で堂々と回収するようになり、何してんだ、と問いかければ「これ、壊れていたので取り替えておきますね?」と返答される。あっ、そっかぁ。と納得した直後「ふふふふ、今日でクーの香りが完全になくなるから、補充しなくちゃね」と聞こえた。恐ろしく小さい呟き、俺でなきゃ聞き逃しちゃうね。…………こわいよぅ、たすけて、きあらさま。

 

 他にも多くのことをやられているのだが、当然のように邪視も健在だった。変態に技術を与えた結果がこれだよ!

 

 …………エメルの話はよそう(SAN値直葬済)。

 

 コンホヴォル王に頼まれた魔獣狩りは順調だ。当初は、俺とレーグ君のみの増員だと人員が足りないのでは、と考えていたのだが、そもそもアルスターで魔獣狩りを担当していたのは、何とエメル率いる女傑騎士団だったらしい。

 …………そういや、海獣共を倒す前にココに立ち寄った時、そんな感じの話を聞いた気がする。まさか事実だったとは。

 

 という訳で、俺達は女傑騎士団と合同で魔獣狩りを行なっていた。彼女らが女だからと侮るなかれ。単純な力こそ赤枝の騎士団の輩に劣るものの、ヤツらにはない技量という面で秀でていた。

 例えば魔獣が眼前にいるとして、赤枝なら「殺られる前に殺れ」の精神で突っ込み、負傷してでも仕留めるまで止まらないだろう。

 しかし彼女らは必ず二人一組で行動し、互いにフォローし合った連携でエネミーを仕留めるのだ。しかも無傷で。

 この時点で野郎のそれとは比べ物にならない程に鍛えられていると理解できる。もし仮に赤枝の連中がタッグを組んだとしても、互いに互いの動きを阻害し合って、挙句に敵前で喧嘩をおっ始めるに違いない。

 

 森林での魔獣狩り、その最中の女傑騎士団のチームプレイに感嘆していると、誰とも組んでいない女────エメルを見つけた。

 俺が単独で大丈夫かよ、という視線を向けると同時にエメルの首が可動領域を超えて回り、俺を視界に捉えて「見ていてくださいね」と口にしたのを、読唇術で読み取る。びっくりするからやめて。

 

 直後、エメルの正面から二頭の魔猪が猛進して来る。レーグ君では苦戦する相手だが、果たして。

 

 魔猪A&Bの猪突猛進、エメルをストレートに狙う。あまりに愚直なルートだったため、エメルは右手に浅く持った槍を掲げ、魔猪へと振り下ろす。斬る、刺すというよりかは、叩き潰すモーションだった。

 対し、魔猪A&Bは持ち前の敏捷性を活かして回避しつつ、振り下ろした直後のエメルへと突き進む。そうして鼻先までエメルに接近すると、下顎から生えた牙で攻撃を開始する。

 が、エメルは振り下ろした勢いで身を空中に浮かせて回避、魔猪Aのがら空きの背を左手の槍で刺し穿ち、即死に至らせる。

 次いで、エメルは跳躍の先にあった大木を蹴り、空中で方向転換する。その着地場所に居たのは、エメルを見失った魔猪B。エメルは容赦なく槍を魔猪Bの脳天へと突き刺し、華麗に着地してみせた。

 槍に付着した血を振り払い、俺へと微笑みを向けてくる。どうでしたか、私は強くなったでしょう、と言わんばかりに。

 

 確かにエメルの力量は、周囲と比較して頭一つ抜けていた。他の面々がタッグ前提の力量なのに対し、エメルは単独戦闘に特化していた。これならば、確かに心配は不要だな。

 

 …………でも、まあ。ひとつ言わせて欲しいのは────お前変わり過ぎだろ! いくら頑張ったからと言っても短期間で強くなり過ぎィ! 見ろ! レーグ君のこの微妙な顔を! レーグ君は数年かけても魔猪二頭に苦戦する力量なんだぞ!

 

 

 

 ◆

 

 

 

 魔獣狩り一週間と五日目、早朝だというのに何やら街が騒がしかった。コンホヴォル王を見つけたので、何が始まるんです? と聞いてみたところ、物凄い渋い顔をしながら、

 

「コノートに宣戦布告されたのだ」

 

 と…………え、何故?? また何かやらかしたのかコンホヴォル王ェ!? そんな俺の疑惑の視線に気が付いたのか、コンホヴォル王は「今回はお前のせいだ」と口にする。

 

 …………は? 俺?

 

 

 

 ◆




◆補足

Q.コノートはどうして宣戦布告したん?
A.神話では「クーリーの牛争い」という戦争があり、これによってアルスターとコノートは戦争状態に入るのですが、この世界線では言うまでもなく発生しません。では何故コノートは宣戦布告したのかというと、

メイヴ「クー・フーリン欲しい!」

メイヴ「でも今どこにいるのかわからないわ!」

メイヴ「え、アルスターにいるの!?」

メイヴ「奪わなきゃ!(使命感)」

という、ね?(目逸らし)はえー、アリルさんカワイソス。

Q.エメルに戦闘能力ついてて草。
A.これぞ愛の力(愉悦)。

Q.女傑騎士団って構成員何人くらい?
A.数十人です←(決まってない)

Q.何で(偽)頑なにヤらないの?
A.この方が楽しく書きやすいから、という身勝手な理由だったりします。まあ、誰を選んでも地雷踏み抜き確定で、尚且つバッドエンドでは監禁か周囲殲滅か心中かになると思われるので、そんな中で誰かに手を出せっていうのは無理だと思うんですよね←


↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。前回の後書きで母にバレた旨の記述をしたところ、感想の半分以上が「いぇ〜いマッマ見てるぅ〜(これ一番すこ)」だったので、何かもう色々と草。
 今回は魔改造エメルが再登場しました。知ってるか? エメルからは逃げられない。戦闘能力が身に付いたおかげで、ぼくのかんがえたさいきょうのエメル状態ですはい(白目)。そもそもこんな魔改造に至った理由は、イ・プルーリバス・ウナム編で明かされるのでしばらくお待ち下さい。
 ………え? 話進むって言っておいてあんまし進んでない? はえー、知らん。今回はただ鬼刑部ごっこをしたくて書いたので私は満足です。でもクソでかフォントとルビの設定がよぐわがんながっだので、括弧で音声を付けるという暴挙に出ました。仕方ないね。ともかく、次回も引き続き(偽)視点をお送りする予定ですが、その次か次あたりで一度レーグ君視点を挟み、尚且つ主要人物の視点の時系列の統合を行い、終局には第三者視点で書いていく予定です。なので今しばらくお待ち頂ければと思います。
























 最近友人から進められたゲームがありまして、それについて聞いたところ、面白いよ! 腹筋鍛えられるよ! 泣けるよ! と熱く語られました。それだけ聞いた私は「バカゲーか何かかな? でも泣けるってどういうことや(ガチ困惑)」となった訳で。
 直後、その友人からLINEに謎のURLが投下され、開いてみるとそのゲームの淫夢実況の動画でした。その時点で私の警戒度が跳ね上がり、同時に「これ面白いゲームなんやろな(純粋)」という気持ちが湧き上がったのですが、動画開始1秒で腹筋が部位破壊されました。








 「ぬ〇たし」って言うんですけど。


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孤軍の開戦、破滅の一手

 前回のあらすじ
 エ「クーは私のもの!」
 メ「クー・フーリン欲しい!」
 コ王「お前のせいだ」
 ク(偽)「なぁにこれ」



 いつものように脊椎反射でネタ盛り込もうとしたら、何故かシリアス寄りの話が出来上がっていました。はえー、おっかしいなぁ。それはそれとして、今回くっっっっそ難産過ぎて辛かったンゴ………(疲弊)。


 ◆

 

 

 

 コノートがアルスターに対して宣戦布告。その発端は俺だという。何故? 全く身に覚えがないんだが…………。

 俺が記憶をサルベージしていると、頭を抱えたコンホヴォル王が嘆息を漏らすように口にする。

 

「コノートの女王メイヴが『クー・フーリンを寄越せ』と言ってきてな。だが、お前は既にアルスターから出た身の上。コノートに身を差し出せ、など、恩を着せて頼む領域を越えておるわ」

 

 それ故にクー・フーリンを渡せと言われても困る、と返事をしたところ、宣戦布告に繋がったのだそうな。

 別れ際にメイヴが「絶対にオトしてやるんだから!」と口にしていたが、まさか国を落としにくるとは…………。やっぱり混沌・悪じゃないか!(安心)

 

 ん、でもこれって、俺がコノートに出向けば済む話じゃね? そんでもって戦争やめろって頼めば、見返りに要求されるものが少々怖いものの、戦争回避できるのでは? そしてエメルから逃れられて一石二鳥ってな! 

 あ、何だか妙案な気がしてきた。よっしゃ、そんじゃあ早速コンホヴォル王に相d「それは本当ですか…………?」

 

 不意に介入して来たのは案の定エメル。その声色は蕩けきった甘美なものではなく、あのエメルから発せられたとは考えられない程に無機質なものだった。

 

「コノートの進軍、その目的はクーを奪うこと。それは本当なのですか?」

 

「エ、エメルか。あぁ、事実だとも。女王メイヴがそう言ってきてな…………全く、どうしたものか」

 

 …………あー、一気に言い難い状況になってもうた。

 

「ならッ! 今すぐッ! 迎え撃ちましょうッ! 私からクーを奪うだなんて…………絶対にさせないッ!!」

 

「………………うーむ」

 

 やっぱすげぇよ、エメルは…………。国王の話を盗み聞いただけでなく、本人にめっちゃ進言するもん! そんなんできひんやん普通! そんで面白いのは、エメルの気迫に押されて真面目に考えているコンホヴォル王だ。目上の立場とは一体うごごごご。

 

 だが言わねば! 俺がコノートに出頭すれば万事解決ではないかと! エメルなんか怖かねぇ! そんなベ〇ット並の感情に突き動かされた俺は、コンホヴォル王に「俺が行けば戦争は回避できるんだろ?」と発言した。

 その際、エメルから「クー…………?(暗黒微笑)」と声を掛けられて怖かったが。

 

「…………そうさな、クー・フーリンがコノートに渡れば、この戦争は始まる前に終わることだろう。だが、少なからずコノートには私に恨みを抱く者もおる故、何時その矛先が再びアルスターに向けられるか分からんのだ」

 

 それはコンホヴォル王の責任じゃん。と言うのは簡単だが、一国を治める王だからこそ冷徹な判断が必要なのだろう。

 それによって憎悪を買っていたとしても、後世で暴君という評価を下されていたとしても、国益のためにと私情を殺し、王という上の立場にいるからこそ本音をひた隠さねばならない。絶大な権力もあるが、同時に辛い役回りも多い。コンホヴォル王は正しくそれなのだろう。要するに、王という立場に変わりはないが、征服王イスカンダルとは反りが合わないタイプ、といった感じか。

 脱線したが、つまりは「クー・フーリンがコノートに出向いたとしても、それはその場しのぎにしかならず、根本的なコノートの脅威は健在だ」とのこと。

 

 それはそれとして、コンホヴォル王はどこか抜けてるわ、ケルト神話の人物なだけに脳筋思考はあるわで、一言で表せば『何か大きなことをやらかしそう』というのが良く似合う。そのせいで、先程の話を聞けば一見説得力のある話に聞こえなくもないが、その裏にはコンホヴォル王のやらかしが感じられてしまう。これぞコンホヴォル・クオリティ()。

 

「それにな、クー・フーリンよ。お前は自身の価値を理解してはおらんようだが、彼の海獣共を単独で撃破せしめた戦士を、おいそれと隣国に渡らせるのは…………あまりに、な」

 

 渋るコンホヴォル王。まあ、言いたいことは分かる。確かにクリードとコインヘンは常人では倒すことがほぼ不可能な程に強かった。そんな奴らを単独撃破した俺は、国防という点から見れば、相当に大きな存在なのだろう。ただでさえ、コンホヴォル王はフェルグスをコノートに亡命させちまってるしな…………。

 

 現代のような銃火器や戦略兵器は勿論存在していない時代、だからこそ魔術や武術といった一個人の戦闘能力や有用性が評価される。

 

 現在、コノートには二十八人という少数精鋭の勇士────クラン・カラティンがおり、加えてアルスター最強の称号を得ていたフェルグスまでもがメイヴの指揮下に入っている。

 対し、アルスターには血気盛んな戦士だけでなく、将来有望な若者らも多い。それこそ、英雄の素質を有する者も何人かはいることだろう。だが、現時点では英雄と呼べる敵将一人に攻め滅ぼされる程度の戦力しかない。

「いや、それは流石におかしい」と思わず声を漏らす程の豆腐だが、今一度考えて欲しい。存在そのものが神秘とされる魔獣ですらその辺に闊歩している時代の英雄、果たしてそれは一騎当千などという範囲に収まるのか? つまりはそういうことである。

 

 要するに、ただでさえ『アルスター<コノート』という戦力図が出来上がっているのに、俺をコノートに行かせて万が一勢力下に置かれた場合、その時点でアルスターはコノートに勝る見込みが完全に無くなり、メイヴの気分で攻め滅ぼされる可能性がある。

 だからこそ俺をコノートに渡したくないし、しかし俺に行くなと命令できる立場にない。従って、ただ、ただ渋る。

 

 うーんこの、アルスター苦しいっすね。

 

 なら、こういうのはどうか。アルスターとコノートの戦争という図は、アルスターが俺を囲っているという思い込みから発生したものだと思われる。まずはそれを払拭する。

 そのために、コノートには「俺を倒すことが出来たなら何でもしますから!」と伝える。そうすれば少なからずメイヴは俺のみを狙ってくることだろう。それを逆手に取り、戦場には俺が単騎で出る。そうすることにより、コノート軍が他に手を出すことを防げるはずだ。

 勿論、一対多になるのは理解している。戦い、しかも戦争という規模の話なんだ。数万はくだらないだろう。本来であれば絶望的且つ絶体絶命の戦力差、だが俺は何だ? 彼の英雄クー・フーリンだ。彼の力と容姿を得た人間だ。敵軍を一人で蹴散らせずして何が英雄か────ッ! 

 

 といった旨をコンホヴォル王に話してみれば、無茶だと言いたげだった顔は次第に変化していき、思案顔を経て力強く頷いた。

 

 正直な話、俺がここまでする道理はないんだが、何だかんだ言ってコンホヴォル王がいなけりゃ騎士団に入ってないし、それがきっかけとはいえ、アルスターを出て行くこともなかったかもしれん訳だし。

 まあ、それらを抜きにしても、知人が死ぬかもしれんってのを見て見ぬフリするのも、なんつーか寝覚めが悪いしな。

 

 当然、エメルからは猛反対され、こちらも軍を出すべきだと強く主張していたのだが、何故かアルスターの男共が皆激痛を訴えて戦争参加どころではなかったため、どちらにしろ俺のみが出ていくことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みに、アルスターの男共の症状についてコンホヴォル王に問い詰めてみたところ、やらかしによってかけられた呪いにより、「いざという時にアルスターの男に陣痛の如き痛みが生じる」ものなんだとか。

 

 

 

 アンタ、やっぱり厄介事しか持ってこねえな…………。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 翌日、早朝。日が昇り、決戦の場所として選ばれた荒野に光が広がっていく。

 

 鮮明になった俺の視界には、水平線沿いに悠然と並ぶコノートの軍勢の姿。数万、下手したら数十万はいるだろうか。気分は正しく、王の軍勢の前に心が折れたアサシン界のアッ〇ーナのそれだ。

 まあ、うん。師匠と師範に稽古をつけられてきた身からすれば、負ける気はしない。しないが、これを1人で相手しなければならないという現実が酷く重い。

 

 コノートの戦士達の足が動く、小走りから疾走へ。彼らの視線を束ねているのは俺の姿だった。昨日の内にコノートにはしっかり伝わっていたようで安心、安心。

 

「「「「────ォォォオオオオオオオオッッッ!!!!!」」」」

 

 屈強な戦士達の足は大地を揺らし、上げる雄叫びは大気を震撼させ、その誰もが敵意の篭もった視線を俺に向けながら迫る、迫る、迫る。

 

 こんな大軍相手には、些か手間が掛かり過ぎる。で、あれば────俺独自のルールを敷かせてもらうぜ!(決闘者並感)

 

 俺は魔槍を横に構え、軽い跳躍の後に魔槍を振るう。と、大地に弧が描かれた。

 そんな俺の行動に驚いたのか、はたまた意図がわからないのか、思わず足を止めるコノートの戦士達。

 訝しげな視線を投げかけてくる戦士達に応え、この線を越えた者にしか攻撃は加えない、しかし覚悟を持ってから越えろ、と警告してやる。

 

 ぶっちゃけた話をすると、俺はまだ殺しには抵抗感というか、忌避感が残っている。魔獣とかならば南無三ッ! って感じで命を頂戴することができるのだが、流石に人間相手にはまだ無理そうだ。だから、あの線を越えて来てほしくないというのが素直なところだ。

 

 では何故、自ら戦場に立つ選択をしたのかといえば、それは死人を出さないためだ。もしアルスターが戦士を駆り出していれば、独ソの大戦レベルの犠牲者数を叩き出すこと間違いナシだっただろう。

 だが俺のみならば、今まで不殺を貫いて来た俺ならば、まだやりようはあるってものだ。しかし、殺す覚悟を持たないまま戦場に立ち、誰も殺さずして戦争を凌ごうなどという考えが、実に愚かで無謀で嘆かわしい程の甘えだというのは理解している。

 

 あぁ、そうさ。俺は戦争のせの字すら知らない青二才さ。そして、現実を見ずに理想を追い求め、英雄になったという結果を知っているからこそ英雄になることを望み、『彼』が何を為したのかすら知らないクセに『彼』になりたいと切望する。外面はクー・フーリンでも、中身は最低の一般人さ。

 けどな、己の我儘を突き通すだけの信念だけは誰にも負けねえってなッ! それが俺だ、俺という人間だッ! 中身が普通のクセしてクー・フーリンになりてえって想い描いているんだ、こんな甘えくらい実現させてみろってんだよッ! 

 

 

 

 たたらを踏んでいた戦士達が越境する。そうして数メートル以内に接近し、武器を俺へと伸ばす。その気迫は俺に怖気を与える程。

 

 あぁ、殺しはしない。いや、できないが正しい。だがそれでも、戦うことはできる! 

 

「────ウォォオオッッ!! 我らが女王様のためにィィイ!」

 

 シャウト効果を伴って斬りかかってくる戦士。フェルグスを彷彿とさせる豪快で鋭い太刀筋には目を見張るものがあるが、しかし。

 

 魔槍を振るう。

 

 一撃────相手の武器を砕く。

 

 二撃────相手の鎧を砕く。

 

 三撃────相手の手足を砕く。

 

 斬りかかってきた戦士を瞬く間に戦闘不能にし、そんだけやられりゃあ言い訳付くだろ、と吐き捨て、残った戦意を砕く。

 

 ともすれば死ぬより苦なことかもしれないが、死ぬよりはマシだ。押し付けかもしれんけど、強者が戦場の理なので許して欲しい。それでも、という奴がいたなら、是非とも木村昌福について知って欲しいもんだ。ショーフク産まれてすらいねえけど。

 

 瞬時に仲間を戦闘不能にさせられたことで、一瞬たじろぐ戦士達だったが、今度は俺を取り囲むように三人の戦士が展開する。

 しかし、たった四人で突っ込んでくるとは(強者ポジ)的な笑みを以て迎えてやると、それを見た戦士達が顔を顰めた。

 

「ッ、笑ってられんのも今の内だぜ!」

 

「さっさとぶっ倒れろやァ!」

 

 ……ふむ。アキレウスではなくジークフリート的な思考のタイプだつたか。これはBADコミュニケーション。

 

 前方から二人、後方から二人。それぞれが剣や槍の切っ先を俺に向けて突進してくる。咄嗟に回避できる先を潰し、それでいてシンプルな戦略。

 だが、純粋な力は戦略すらも根こそぎ打ち砕くものだ! 見せてやろう、純粋な力のみが成立させる真実の世界を!(マッキー並感)

 

 俺はあえて前方の二人へと突っ込み、真正面で魔槍を高速回転させて武器を弾くと、がら空きの横っ腹を薙ぐように蹴りを入れる。

 くの字で吹き飛んだ戦士は、共に突撃した仲間を巻き添えにしながら低空飛行し、後続の戦士達に衝突する。さながら、ボーリングボールにまとめて弾き飛ばされるピンのようだった。

 

 背後に迫る気配、二つ。蹴った勢いを活かして身を背に回す。そして噛み砕く死牙の獣を腕に顕現させ、暴力の象徴たる赤黒い獣骨で殴り飛ばす。

 

 これにて四方向から襲いかかって来た戦士達は片付いたが、まだコノート軍の一割すらも俺に殺到していない。戦いはこれからだ。

 

 

 

 戦場に怒号と剣戟が谺響する。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 開戦から既に九日。俺は休む間すら与えられずに戦い続けていた。

 最初に魔槍で引いた弧────と言っても、踏み荒らされて消滅してしまったが────の内側には、地に伏したコノートの戦士達が山積みになり、次々と仲間に引き摺られては回収されていく。一方の外側には、いくつかのグループに別れて俺への対抗策を提案し合い、皆が納得した作戦で俺に仕掛けるという、急ごしらえの作戦会議所が乱立していた。

 

 俺は未だに不殺を貫いているのだが、倒したコノートの戦士の何人かには「俺は殺す価値すらないとでも言いたいのかッ!?」と激昴されてしまった。

 純正ケルト思考の、しかも生粋の戦士となれば、戦死は誉れなのかもしれない。だがここで死ぬ必要はないし、そもそも進んで死にたい訳ではないだろうに。

 しかし、お互いの価値観の相違というのが、ここに来て浮き彫りなっているのが何とも言えない。現代の倫理観を有する俺からすれば、そもそも殺し合いはあってはいけないものだし、死に対して特別な感情は抱けない。精々が恐怖くらいだろう。

 対し、ケルトの倫理観から言わせれば、戦うという行為そのものが普通の慣行として成立しており、人の死に対してあまりに寛容過ぎる。戦士として生きる者が大勢いる時点で、何らおかしなことではないのだろうが。

 

 

 

 それはそれとして、不眠不休で飲食もナシで戦い続けるとか、こんなん現代のブラック企業より酷ぇや。でもクー・フーリンの無尽蔵のスタミナのせいで、まだまだ戦闘続行できそうなのよね。今更ながら兄貴ハイスペック過ぎるわ…………。

 

 

 

 と、俺の背後────アルスターから無数の気配が接近して来るのを感じ取る。敵意の類は感じられない。コノート軍が背後に回ったってことではないようだ。

 意識を前方のコノートの戦士達に向けつつ、視線を背後へと移動させる。と、武装したアルスターの戦士達が猛然と進軍する姿が目に入る。

 

「我らが英雄、クー・フーリンに助太刀するぞォ──────ッ!」

 

「「「ウオオオオォォ────ッ!!」」」

 

 …………は? え、俺ひとりでいいってコンホヴォル王も了承していたのに、何故? 

 

 俺の頭を疑問が支配したところで、顔馴染みの戦士が近寄ってくる。

 

「よく持ちこたえたな、クランの犬っころ! 今は休んでなァ!」

 

「歳下のガキが英雄さながらのコトやってんだ、俺も負けちゃあいられねぇわな!」

 

「コンホヴォル王からの命令でな! 戦況が芳しくねえってんで、助力しに行けってよ!」

 

 いや、それは嬉しい限りだが! これじゃあ死人が確実に出ちまうだろうが! 俺はそれを阻止するために単独出撃したんだっての! 

 俺の九日間を無為にするとまでは言わないが、これでは俺が単騎縛りをした意味がない。そして何より、俺の知人たるアルスターの面々に死んでほしくはないッ…………! 

 

 そんな内容のことを思わず口に出すと、顔馴染みのひとりに掴みかかられる。

 

「…………犬っころ、何で俺らが死ぬ前提なんだ? 確かに相手はあのコノートだ。いや、それに関係なく、戦争ってのは殺し殺されが当然だ。けどな、俺達は戦士だ。戦士として生きる人間なんだよ! 生きるも死ぬも戦いの中だと決めた大馬鹿野郎だ! だからな、『戦うな、死ぬぞ』なんて言ってくれるな!」

 

 ────っ。

 

「あぁ、そうだせ! どうせなら『死んでも戦い続けてろ』ぐらい言ってくれや」

 

 いやっ、でも…………! 

 

「だァァあッ! うっせえなぁ! お前は何様だってんだよ! 自分の命くらい自分で守れるし、どう使うかってのも自分の勝手だ! 今は黙って預けろってんだ、クソガキ!」

 

「つう訳だ。犬は小屋にでも帰って寝てろや。睡眠時間ぐらいは稼いでやるからよ! ガハハッ!」

 

 …………俺は本当に駄目だな。自分のエゴを突き通したいって思っているクセに、コイツらの、ケルトのそれは否定したがっている。

 それらが衝突すれば我が強い方が勝る、ってのは何となく理解していたが…………今は俺の方が弱い、否、コイツらの方が強いって訳か。…………あぁ、ちくしょうが。ままならねぇもんだ────

 

「別に、倒してしまっても構わんのだろう? ってな!」

 

 ────おい馬鹿やめろ。ってか何で知ってんの?? 

 

 

 

 

 

 

 戦線から一時離脱した俺は、駆けつけたレーグ君の操る戦車に回収された後、離れた森林にて休息を得た。もうすぐ日が落ちる。

 俺に負傷は一切ないのだが、如何せん睡眠と空腹には適わない…………九日間凌いでおいて何を言うって話だが。

 それ以上に、精神的な疲労が大きい。不殺を気にかけるのもそうだが、相手の手足を砕く感触が身体にこびりついていて離れないのだ。俺の手で殺すよりかはマシかもしれないが、それはそれとして、だ。

 

 そして、俺の心で反芻する言葉、それを言い放った時の顔もまた、離れてくれはしない。

 

 ────『俺は殺す価値すらないとでも言いたいのかッ!?』

 

 ────『だからな、「戦うな、死ぬぞ」なんて言ってくれるな!』

 

 相手の言い分もわかるさ。相手からすれば、そんな価値観こそが通常であり、むしろ俺みたいな現代の倫理観は異常なのだろう。

 郷に入っては郷に従え、なんて言葉の通り、俺も幼少期から殺し殺されに慣れておくべきだったのだろうか。抵抗感や忌避感をかなぐり捨て、相手を殺すことを違和感なく実行できるようになっておくべきだったのだろうか。

 今更たらればの話をしても無意味なのは理解している。だが、俺が力を付けるに連れ、不殺という俺の信念を貫くのが難しくなりつつあるのもまた、事実。今回の戦争で、俺がどれだけ夢見がちで理想に溺れていたのかが、嫌という程に自覚させられた。

 

 …………何時ぞやの師匠から言われた言葉を思い出す。結局のところ、槍術に限らず、あらゆる武術は人を殺める技だ、と。

 そうだな。頭ではわかっていても、俺の心が追い付いていなかったんだ。なのにわかった気になって、それでもと不殺を掲げ、挙句に死ななかったんだから安いものだという俺の価値観を押し付けていた。

 

 しかし、アイツらの生き様の前に、俺のパターナリスティックなそれは大敗を喫した。あれだけの自己満足を曝け出しておきながら、その様が『正しい』と感じてしまった。

 そうだ。あれこそがこの歴史の正しい、在るべき価値観なんだ。そして、クー・フーリンという英雄の中身────俺という存在は、この世界において圧倒的に異物だ。

 

 当初こそ、あのクー・フーリンになったという困惑と期待に胸を踊らせたが、結局、俺は何がしたくてここまで来たのだろうか。

 

「…………クー・フーリンさん。どうか、しましたか?」

 

 ん…………いや。何でもな────くはない、か。

 

 俺はレーグ君に対し、「俺がどう見えるか」と問うてみた。外見の話ではなく、俺という人間の在り方についてだ。

 そして、そんな俺の意図に気が付いたのか、レーグ君は「そうですね、クー・フーリンさんは、何と言うか…………歪? いや、不思議な人、ですかね」と答えた。

 

 え、俺ってば不思議ちゃんなの? そんな俺の当惑が伝わったのか、レーグ君は両腕を激しく震わせて口を開く。

 

「ふ、不思議といっても、別に変な意味ではなくてですね! あの、そのっ…………。んん、クー・フーリンさんは僕が今まで見てきた誰よりも強く、勇ましい戦士だと思います。単純な力も然る事乍ら、技術という面でも比類のない、と」

 

 レーグ君が澄んだ瞳を俺に向け、続ける。

 

「でも、それが逆に歪だと感じます。戦うための術って、結局は誰かの命を絶つ技ですよね? なのに、クー・フーリンさんはそれで誰かを殺めることはしませんし、したくないんだろうなぁ、っていうのが感じられるんです」

 

 …………っ。そう、だよなぁ。師匠に指摘された時は、流石スカサハだと感じたが、レーグ君にすら気が付かれてしまうとは。いや、それ程に俺の行動が露骨過ぎたのかね。

 

「その姿が、その、とても不思議だという印象を与えるんですよね。貪欲に戦うための力を習得しているのに、それを誰かに振るうことをしない」

 

 なるほどな。確かにそりゃあ、不思議って思われもするわな。ケルトの価値観とはほぼ真逆みてぇなことやってんだもんな。

 

「…………でも、クー・フーリンさんはその方がいい気がします」

 

 えっ、

 

「クー・フーリンさんが前にコノートの女王に言ってましたけど、それが貴方の在り方で、それらを損なえば崩壊してしまうって。だから、クー・フーリンさんはそのままの方が自然体と言うか、とてもクー・フーリンさんらしい気がするんですよね」

 

 …………そういや、そんなことも言った気がするな。よく覚えてるな。

 

 

「それに、何となくですけど、クー・フーリンさんが力を求めている理由は、『辿り着きたい理想』があるからじゃないですか?」

 

 ────ッ! 

 

「ふふっ、わかるんです。僕も同じですから! 分不相応な理想があって、そこに辿り着きたいがために努力をする。でも、その努力という順路が理想に繋がっているのかはわからない。だから、やれることはとにかくやってみる。そんな感じですよね。そして、戦う術も武器も、つまりは使い手に依存する。だから、殺すためではなく、何かを成し遂げるための手段として振るえば、そうなるのではないかと思います」

 

 …………そうだ。俺はクー・フーリンになりたいという理想を掲げ、しかし兄貴の生涯をさっぱり知らないがために、暗中模索で進んできたんだ。殺人的なトレーニングに日々を費やし、価値観の相違に苦悩し、行き着く先で毎回変なのに追われ、何度も心が折れかけた。

 

 

 

 でも、それでもと、やれることを全てやってきた。その結果として、今の俺はあるんだ。

 

 

 

 向こうの方が『正しい』と感じる────なら、それを『正しい』と受け入れて尚、足掻いてみせろよ。今までもそうしてきただろうが。

 

 俺は異物だ────あぁ、その通りだ。だからなんだ? 異物上等。異物は異物なりに信念を貫いてやるさ。

 

 心が追い付いていない────なら、今から追い付かせろ。未だ中途半端を彷徨うのか? 何なら殺す覚悟と殺さない覚悟、その両方を取るくらいの我儘を実現してみせろよ。

 

 何でこんな単純なことを忘れてたんだろうな、俺は。クー・フーリンになるっていう決意をした時点で、それは茨の道だってのは知ってただろうによ。なんつーか、スッキリしたわ。レーグ君に感謝だな。

 

 …………スッキリしたら眠くなってきたな。ん、少し眠るとしよう。今は存分に英気を養おうか。

 

 起きたら直ぐに戦場に戻る。だから、勝手にくたばるんじゃねえぞ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────不意に、胸騒ぎがした。

 

 

 

 何かに起こされて飛び起き、瞬時に警戒態勢を取る動物のような、唐突な意識の覚醒。

 

 何だ、この、言い様のない不安感は。エメルの邪視を受けた時とは趣の異なる、モヤモヤとした感情。それがふつふつと湧いては行き場もなく、胸の内に吹き溜まる。

 

 脳裏に過ぎるアルスターの戦士達。

 

 心に溜まる不安感が「早く行け」と命令を下す。それに駆られて走り出した俺。背後からレーグ君が「クー・フーリンさん!? 何処へ行くんですか!?」と制止の声をかけてくるが、反応する時すら惜しい。

 

 

 

 

 

 

 だと言うのに、

 

 

「────やはり惜しいな、クー・フーリン」

 

 

 透き通る美声。心中で反響する。

 

 

 その声の持ち主が、後光を受けながら俺の眼前へと降り立つ。

 

 

 俺の道を拒んだのは────モリガンだった。

 

 

 

 ◆




◆補足

Q.今回の話の流れ、これもうわかんねぇな。
A.お、そうだな(思考放棄)という冗談はさておき、簡単にまとめると下記のような流れです。

ク(偽)…戦争を不殺で終わらせたい
エ…(偽)の単騎出撃反対、軍を出せ
王…(偽)なら強いし行けるやろ
  ↓
ク(偽)…兄貴スペックなら!(過信)
  ↓
ク(偽)…終わりが見えない
  ↓
コ戦…殺せよ!侮辱か!
ア戦…戦争舐めんなよガキ!
ク(偽)…俺は間違っていたのか
  ↓
レ…それも貴方の強み
ク(偽)…もう迷わない
  ↓
ク(偽)…嫌な胸騒ぎ、やめてくれ
モ…やっぱすこすこのすこ

Q.(偽)はよコノート行けやカスゥ!
A.本人は行ってもいいけどって考えているのに対し、周囲はそれを許さない。

Q.コンホヴォル王は何で(偽)に戦場GOサイン出したのん?
A.現時点でのコンホヴォル王の懸念すべき問題は、コノートの脅威も然る事乍ら、自身に対して負の感情を抱いているフェルグスが1番大きな存在です。なので、コンホヴォル王から見れば、(偽)1人でコノートを押し返してくれれば御の字、その中でコノートの戦力を削いでくれればラッキー、あわよくばフェルグスをどうにかしてくれるとマジで助かる。そんな感じですね。ただ、(偽)が殺しをしないという点を知っていれば、コンホヴォル王はGOサインを出さなかったでしょうね←

Q.「陣痛の如き痛み」の呪いって?
A.マハという女性が妊娠中だった際、コンホヴォル王は彼女に無理強いして馬車と競争させた結果、マハから「国家の危機の際にアルスターの男が動けなくなる」呪いをかけられてしまうんですね。王ェ………。

Q.神話でも孤軍奮闘してたのん?
A.概ねそうです。しかし神話ではレーグ君と共に戦車に乗り、ゲリラ戦でコノート軍を数ヶ月もの間食い止めています。対し、(偽)はたった一人でそれをやっている訳ですから、神話よりもハードモードです(白目)。


 ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。案の定、今回の投稿も遅くなってしまいました。申し訳ありません。前回投稿から10日……普通だな!(満面の笑み)
 今回はアルスターVSコノートという話ではあったのですが、ほぼ(偽)VSコノートという詐欺です。しかし今回は、(偽)の価値観とケルトの価値観の相違について、また(偽)にケルトのそれを理解させるために書いていました。そのために戦争で孤軍奮闘させ、援軍としてやって来た仲間達に諭されるという図を思い描いてみたのですが、上手く出来たかはよくわかんないです(←は?)。
 またモリガンについてですが、以前こっぴどくフラれた報復を考えていた際、戦争にてクー・フーリンが無双する様を見てしまい、それによって怒りが情欲へと変貌し、再びクー・フーリンを欲するようになってしまいました。が、これがこの物語を狂わす要因となっていく予定です(唐突なネタバレ)。
 次回についてなのですが、少しばかり重要な回になる予定ですので、今までで1番投稿が遅くなる可能性が高いです。その理由としては私がしっくりくるまで書くつもりなことが上げられますので、しばらく投稿が空くと思われます。ハイクオリティを期待されると重圧ではありますが、妥協しない為にもお時間を頂きたいと思います。なので今しばらくお待ちいただけると幸いです。
























 昨日、某サイトにて「置き独歩」というパワーワードに草を生え散らかしました。男の娘本の感想欄に「これはホモでは?」というコメントが湧くのを予知して、1コメに「なんだぁ?テメェ…」を置いておくという先手必勝です。これには武蔵も驚愕。とても戦略的(?)だと思い、深い感銘を抱きました。私もそんなセンスが欲しいのですが、どこに行けば買えますか?


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荒れ狂う死獣の怒り

 
 今回はかなり短めの内容で尚且つ前回に引き続きマジメ回になります。ハハァ…(MZM君)。いやー、いつも通りの脊椎反射を封じて書いていたので、書いている最中に発作的な何かが暴れ狂うという。これもう病気だろ(白目)。

 それはそれとして、前回投稿でお気に入りの数が爆下がりしたの本当に草生える。真面目に書いたらこれだよ!(狂乱)
 でも外せない内容なんや!でないと(偽)が殺しに対して何の覚悟も持たないまま鯖化するか、もしくはリア狂認定待ったナシで殺しをしちゃうCHARAになってしまうんや!

 とりあえず驚いたので那珂ちゃんのファンやめます。

 ※追記
 活動報告にて次話に関する言い訳(ド直球)を上げましたので、暇な方は目を通していただければと思います。次話もう暫しお待ちを!


 ◆

 

 

 

「────やはり惜しいな、クー・フーリン」

 

 聴く者の心を震わす美声、それと共に姿を晒した美女────モリガン。その瞳には、以前の別れ際に灯していた憤怒ではなく、爛々と燃ゆる艶やかな情欲が浮かべられていた。

 

 な、何故ここにモリガンが? いや、今はそれはどうでもいい! 一刻も早く、俺はアイツらのところへ向かわなきゃならないんだ! 

 

「吠えるでない。我が再びお前の前に姿を晒したは、今一度の機会を与えるためだ」

 

 流し目を送ってくるモリガン。さながらカーマの持つ花の矢の如く、今のモリガンの瞳で見つめられた相手は誰であろうと魅了されるのであろう。が、しかし、今の俺には効かなかった。

 俺に対して自身の魅了が通じないと知るやいなや、モリガンは一層笑みを深くし、どれだけ自身の祝福が素晴らしく栄誉なことなのかを力説し出した。

 

 曰く、勝利を渇望するならば、他の神ですら我に援助を求む。傅き、縋り、懇願する程に。

 曰く、勝利は望んで手に入れるものだが、我の祝福を得れば、むしろ向こうからお前の元へとやってくる。

 曰く、今まで多くの戦士に祝福を与えてきたが、お前こそが最も我の寵愛を賜うに相応しい存在だ。

 

 だが、どれだけ力説されようとも、今の俺の心は動きもしなかった。今は心に溜まる何かを直ぐにでも解消したかったのだから。

 それに聞けば、その寵愛とやらを受け取るには、モリガンと性的な行為をする必要があるとか。

 後で受けるから今は退いてくれ、と言ってみても「我からの寵愛を先送りにするなど、不敬であるぞ?」と返される。

 神話にありがちな、典型的なパターナリスティックな神だなコイツ! こういうタイプの神は執着心が果てしないというお約束だが、しかし今は相手をしている余裕などありはしない! 

 

「……お前は阿呆なのかッ!? 我が、勝利の化身たる我がッ、お前に寵愛を賜わすと言っておるのだぞ! 何故、喜悦せんのだ……!!」

 

 どれだけモリガンの誘いを受けても、決して靡くことのない俺に流石に腹が立ったのか、彼女は多分に怒気を含ませた言動で捲し立てる。

 だが言いようのない焦燥感に駆られていた俺は、以前よりも強くモリガンの誘いを拒絶した。

 

 勝利とは与えられるものではなく、事象の結果として表れるものだ、と。己の力によるものでない勝利に、一体何の意味があるというのか、と。

 

 すると、ゼンマイの切れた人形のように、モリガンの動作が急停止する。それを好機と見た俺はモリガンの眼前から即座に走り去り、胸の内に蠢く感情に従って戦場へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────────許さん」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 戦場に近付くにつれ、濃密な鉄臭さが匂い立ち始める。それが鼻を刺激し、脳裏には赤黒い液体がぶちまけられた絵が浮かび上がる。

 死人が出ていると直感が告げ、同時に最悪の結果が過ぎるが、その度に頭を横に振り、空想を振り払う。

 どうか、これらが思い違いでありますように。俺はそんな思いを抱きながら、戦場だった場所へと辿り着いた。

 

 

 

 ────ッ!!! 

 

 

 

 視界に入ってきた光景────戦場だった荒野を埋め尽くす程の死、死、死。

 アルスター、コノートの双方の戦士達が、土と汗と血に塗れた状態で地に伏していた。正しく死屍累々。

 それを見た俺は、詰め込んだばかりの胃の中身を吐き出しそうになりながらも、違和感に気が付く。

 

 アルスター側の死者が少ない……? 

 

 地に伏す戦士達、その多くはコノートの者達だったのだ。それだけでわかる。アルスターの戦士達は、数も力も勝る相手に対して気力と意地で対抗し、食い止めるどころか本当に倒してしまっても構わんのだろう? をやったのだろう。

 だが、仮にそうだとしても、アルスターの戦士達の姿が見えない。では皆は何処に? 逆に進軍したのか、はたまたどこかに身を潜めているのか。

 

 俺を突き動かしていた不安感と焦燥感が未だに燻る。それに従い感覚を研ぎ澄ませば、死と退廃の渦巻くこの場所とはまた別の方向────遠くに見える森林からもまた、血なまぐささが匂い立つ。

 

 そちらへと赴き、草木を掻き分けて進むと、森林の中の開けた場所に、原因がぶちまけられていた。

 先程見たばかりの荒野と酷似した死。だが、決定的に異なる点があるとすれば────

 

 

 

 ……あぁ、ちくしょうが……。

 

 

 

 ────死屍累々を構成するは、俺に助力しに来たアルスターの面々だったことだ。

 

 騎士団の頃からの同期で、俺を「犬っころ」という渾名で呼び、俺に戦士としての覚悟を訴えてきた戦士。

 俺を「クソガキ」と呼ぶ程度には粗野で野蛮な言動で、出会う度に勝つまでやるぞ、と熱意を滾らせていた気前のいい豪快なおっさん。

 俺の事を一番最初に「怒らせるとやべーやつ」と命名してくれやがった、俺より歳下の弟分。何気に紅茶のフラグを立てていた。

 

 ……ロクな思い出は出てこなかったが、皆が俺のことを知り、俺も知った仲だった戦士達。その全員が地に伏し、全身の各所に傷を負い、ひとつの血溜まりを形成していた。

 

 その光景は読んで字の如く、屍山血河。

 

 戦争だとわかっていた。いや、理解させられた。誰が死なないで済む戦争なんて、この時代には到底有りはしない。

 だが、それでも、あまりに凄惨で残酷な、受け入れ難い現実だった。

 

 ……ちくしょう……ちくしょう、ちくしょうッ! 何でアイツらが死ななきゃならねぇんだ! 

 戦争で死ぬのは覚悟の上で、アイツらが自ら進んで戦ったのはわかる! でも理屈じゃねえんだ! 

 結末がこんなだなんて……こんなの、あんまりじゃねえかッ!! 

 

 

 

 

 

 

 不意に、俺の頭の中に声が響く。

 

『誰のせいだ?』

 

 誰の、だなんて……誰のでもねえだろうさッ。時の運、間の悪さ……色んなモンが複雑に絡み合った結果として、引き起こった悲劇だろうが。

 

『本当か?』

 

『唾棄すべき汝の信念が招いた結果ではないのか?』

 

 ッ、うるせえ! 言われなくても分かってるさ! 俺の甘っちょろい願望が、コイツらを戦場に引きずり出しちまったってのは! 

 でも、背負い切れねえよッ! 俺のせいで無用な犠牲が出ちまったなんて、死ななくて済んだはずのヤツらの人生なんて……! 

 

『目を逸らすな』

 

『これは汝の解だ』

 

『否定したくば殺意を振るえ』

 

 〜〜〜〜ッ! さっきから何なんだッ!? ノイズがかかったような、野太い唸り声みてぇなこれはッ!? 

 

『滾る怒りに従え』

 

『悔恨と理性を焚べろ、燃やせ、燃やせ』

 

『渦巻く獣性に身を落とせ』

 

 確かに俺はッ、もう迷わないって決めたさ! 次に殺さなきゃならない場面と遭遇した時は、殺すって! 誰かを死なせないために、誰かを殺すってなッ……! 

 殺しちまった相手の、あるはずだった人生、生が断ち切られる寸前までの怨嗟、その全てを背負うって覚悟を持った! 

 

 だが、殺意に従って殺しちまったら、それはもう終わりだろうが! 覚悟も何も必要ない、ただの木偶の坊だ! 

 

 だから俺は────「やぁぁっと見つけたぜェ! クー・フーリンよォ!」

 

 池の対岸、茂みの向こうから現れたのはコノートの戦士達。声の主は、戦士達の先頭に立つ、獰猛という言葉をそのまま具現化したような男。隊長クラスの実力者であることは間違いないだろう。

 コノートの戦士達は、茂みから続々と姿を現しては血の池を渡り、取り囲むと同時に各々が武器を俺へと向ける。

 

「一度逃げたかと思えば、なっかなかに出てこねえからよぉ。アルスターに引き篭っちまったんだと勘違いしたぜ」

 

 男は愛想のいい、しかし兇猛な笑みを湛えて悠然と足を進めてくる。

 テメェは誰だ? と問えば「おや、こいつは失礼。俺はクラン・カラティンを担う戦士の一人だ」と、己の槍を天に掲げる白々しい演技をする。

 

「さて、我らが女王から『クー・フーリンを連れて来い』と命令されててなぁ。んで、お前にある選択肢はふたつ。素直に我らが女王の軍門に下るか、俺らに心身を粉砕されてから軍門に下るか、だ」

 

 俺の眼前まで近付いた男は、己の持つ槍を俺へと差し向ける。その瞳には嘲りと残忍さが同居していた。

 

「ああ、確か『俺を倒せたなら好きにしろ』とか宣っていたか? それを突き通してぇなら、俺らと一戦交えるっつうのもいいかもなぁ?」

 

 嘲笑に顔を歪めた男は、辺りを一望するように視線を移動させる。アルスターの戦士達の惨状を見ろ、それでもやる気があるのか、とでも言わんばかりに。

 

 ……いや、俺はお前らと戦う。ここで俺が抵抗することなく投降してしまったのなら、それこそコイツらが何のために戦ってくれたのかがわからなくなってしまう。それだけは嫌だ! 

 

「あぁ! そうこなくっちゃなぁ! 無様にお前の負けを晒してやってから女王の前に引き摺ってやるよォ!」

 

 兇猛な笑みを更に深くした男は、俺に向いていた穂先を引き、腰を落として構える。彼の放つ溢れんばかりの好戦的な闘気や、肉食獣が獲物に向けるのと同質の視線は、正しくケルトの戦士。

 それに応じて俺も魔槍を構えるが、同時に脳内に響き渡る声が『殺せ、怒れ』としつこく訴えかけてくる。殺意の声に対し内心でうるせえ、と毒づき、戦闘に臨む。

 

 一対多。本来ならば絶望的な程の戦力差。だがクー・フーリンのスペックならば問題は皆無だった。

 昨日までの激戦と同様、俺は襲い来るコノートの戦士達を薙ぎ払い、男すらも歯牙にもかけなかった。

 

「────ガぁッ!? ……ぁあッ! ちくしょうがァ! 俺はクラン・カラティンの一人だぞ!? 本来はお前がぶっ倒れるべきだろうがァァア!!」

 

 瞬く間に身体の各所に赤い線を刻み、肩で息をする男。一方の俺は無傷で息一つ乱れていない。客観的に見ても力の差は歴然だった。

 

 この男は、強い。クー・フーリンのスペックだから圧倒できてはいるが、他の戦士では蹂躙されかねない。故に、こいつは俺自身の覚悟で人を殺す。命を奪う。そうだ、これは殺意に従ったものではない! だから────

 

『偽るな』

 

 ────ッ! 

 

『汝の覚悟、その源流は後悔と殺意だ』

 

『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』

 

 頭が割れそうな程に谺する殺意の声に、思わず頭痛を覚える。

 俺がこめかみを抑えて苦悶していると、一向にとどめを刺そうとしない俺に、屈辱を煮詰めた視線を向けてくる男。

 

「なんだよォ……! 俺ですらも殺す価値がねえって言いてェのか……!?」

 

 どうやら俺が動かなくなったのを、そのように勘違いしているようだった。

 

 いいやッ、俺は俺の意思で殺してみせるさ! 生殺与奪は俺にある。後はそれを振るうだけなんだ……! 

 

「お前もコイツらと同じくッ、俺に殺されちまえばいいのによォ……!」

 

 ……今、何と言った? "俺に"……だと? 

 

 男の首を刎ねようとしていた緋色の線を、寸でで止める。それに気が付いた男は、鮮血が垂れる口元を醜悪に歪める。

 

「ッ、ハハッ! 知りてぇか……! お前が下がってからというもの、コイツらが必死こいて足止めしてたのをさァ!」

 

 ────────ッ!! 

 

 俺の中に渦巻く感情が急激に沸騰していくのがわかる。それと同時に、殺意の声がより一層の激しさを増す。

 

「やれ、クー・フーリンのためにー、とか、あの犬っころを守れー、とかなァ。その癖に威勢だけでよォ、直ぐにぶっ刺されて死んじまったのは……へへっ、お笑いモンだったぜェ?」

 

 ……黙れよ。笑うな。

 

 俺の怒りに呼応するように、殺意の声もまた苛烈さを増していく。その声は形となり、俺の視界を黒く染め上げていく。

 

「そんで夜になったんで……コイツらの野営地に夜襲を仕掛けてみればよォ? 為す術なく殲滅されてやがんの! ……あぁ、最ッ高に楽しかったよ! 慌てふためいているヤツらを一方的に狩るのはッ!」

 

 

 ────────。

 

 

 俺の中の何かが切れ、湧いてはならないモノが溢れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』『殺』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、視界から光が失われ、意識は赤黒い奔流に飲まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『全呪解放』

 

 

 

 ◆




◆補足

Q.(偽)に語りかけてきた声って何?
A.クリードとコインヘンの獣性です。言い換えれば噛み砕く死牙の獣のものですね。噛み砕く死牙の獣は【オルタ】の怒りに呼応して出現する、とのこと。しかしオルタでもなければ本家クー・フーリンでもない人間が、神話生物(クトゥルフ混入)を素材とした武具を身に付けておいて、何ともないなんてありえない、という発想です。それこそバーサーカーでもない限りは、ね?後は(偽)の隠された能力()が影響していたり。

Q.クラン・カラティンの人これリア狂やん!
A.せやなー()。因みにコイツは進行上で形作られたオリキャラでございます(白目)。

Q.急に文章が真面目になったけど、どしたん?おま誰?
A.ガンダムZZ(迫真)。

Q.今回の話の流れってどんなん?
A.こんなん。

ク(偽)…不安に駆られる
モ…性産的行為しろオラァ!
ク(偽)…そういうのいいから
モ…切れましたわ!(シャントット並感)
   ↓
ク(偽)…皆、死んじまった
殺声…殺っちまおうぜ!日が暮れちまうよ!
ク(偽)…殺意には従わない!
   ↓
コ戦…戦えやオラァ!
ク(偽)…お前を殺す(ヒイロ並感)
コ戦…今明かされる衝撃の真実ゥ!
ク(偽)…許せねぇ(殺意の高まり)
殺声…あ、身体の主導権いただきますね


 ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。前回の後書きで書いた時は時間がかなりかかると思っていたのですが、後半に予定していた展開を次回でまとめてやってしまおうという変更に伴い、今回はあっさりめで、いつも通りの投稿頻度という結果になりました。
 今回は(偽)が殺意に飲まれるという、何ともありきたりな展開に落ち着いています。というのも、補足に記述したように、ただでさえ発狂モノのクトゥルフ関連を見に纏っている訳ですから、そりゃあ狂気にも囚われるわ、という発想から今回を書きました。……展開がつまらない?ほならね、じb(ry
 次回はレーグ君視点をお送りする予定です。いやー、男なのに1番のヒロインってどういうことだってばよ(棒読み)。これはまた「レーグ君ヒロインでは?」というコメントが付くのが見える見える。ともかく、次回こそは時間がかなりかかると思われます。今までの長旅の全てをレーグ君視点にて記述するから、多少はね?

 ということで、また次回もよろしくお願いします。


























 以前に後書きにて記述した某ゲーム、アレの2が出たということで、オススメしてきた友人が再び襲来しまして……

 友「アンケ応募にハ〇ドリ君シール貼らないといけないのちゅらみ」
 私「絶滅希望種」
 友「お前に無理やり1+2貸し付けるからな」
 私「〇めオラァ!(ログインボーナス)」
 友「めラ!めラ!(火属性呪文)」
 私「それでハ〇ドリ君を焼け」

 という会話で盛り上がりました。とても楽しかったです(啓蒙99)。


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英雄の友:レーグ視点(上)

 読者様方から一番好評のレーグ君、その視点です。このまま書いていると2万字行きそうだったので、なら上下に分けてしまえと。


 好きなんだろぉ?こういうヒロインがさぁ?(カリおっさん並感)




※追記:コイツ投稿遅せぇな失踪か?と思った方、是非とも活動報告を見てみてください。次話の進捗状況などを発狂しながら書いてます()。


 ◆

 

 

 

 途轍もない力を持ち、誰かのために戦い、老若男女から拍手喝采を浴び、そして歴史に名を残すという一種の不死性を獲得する。

 ケルトに育つ人間なら誰しもが一度は望む、英雄。

 

 ────英雄になりたい。

 

 例に漏れず、僕も英雄願望を抱いた。

 

 だが、現実は残酷で、英雄になれるのは生まれ持った器のような、後天的には得ることのできないモノを持った人のみがなれる。

 僕にはそれがなかった。いや、ないのが普通なのかもしれないが、僕にはその『普通』すらも欠如していた。

 

 過酷な鍛錬を積んでも僕の身体は細身のままで、ケルトらしい肉体とは無縁だった。剣術や槍術を学んだが、そもそもからして基礎である肉体が出来上がっていないために、半年足らずで無力を突き付けられた。

 それでも、と。諦めきれなかった僕は魔術にも手を出した。勤勉に取り組んだおかげで姿を不可視にする魔術を習得できたが、それ以外は杜撰なものだった。

 ならば、と。双方を織り交ぜた立ち回りをすれば、少なからず僕にも戦えるはずだと意気込んだ。が、歴戦の戦士には通じる訳がない、と訓練を通して身を以って理解させられた。

 

 

 

 そこまでして、やっと僕は気が付いた。

 

 

 

 僕には英雄どころか、戦士の素質の欠片もないんだ、と。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 挫折から数年。僕はコンホヴォル王の所有する赤枝の騎士団に所属し、そこで使われる武具の管理や馬の世話などをしていた。

 僕自身が英雄になることは諦めたが、しかし未練が残っているのか、戦士達に関わる仕事を積極的に担ったのだ。

 

 毎日のように、ひしゃげた鎧や折れた武器を加工屋に持っていき修理を依頼する。手合わせで使われる物だからこそ、管理は徹底しなければならない。

 だとしても、彼らがあまりに暴力的な扱い方をするものだから、毎回のように加工屋に「作った者の身にもなりやがれってんだ」と愚痴をこぼされる。その度にすいません、と頭を下げるのも慣れたものだ。

 馬の世話は初めこそ苦労が絶えなかった。何故なら戦車を轢く程の強力な馬達だからだったからだ。聞いた話では、前任者は馬に頭を蹴られたのが死因だとか。恐怖でしかない。だからこそ馬の機嫌を損ねないよう慎重に世話を焼いた。

 中でも問題児であるセングレンとマッハという白黒の馬達は、言うことを全く聞いてくれずにお手上げだった。

 

 仕事をする中で、僕は一体何をしたいのだろうか、と自問を繰り返すが、一向に答えは返ってこない。実に色褪せた日々を送っていた。

 

 

 

 そんな時、彼────クー・フーリンという戦士のことを耳にした。

 

 

 

 曰く、誰よりも英雄の素質を備えた将来有望な若者で、あのフェルグスしか互角に打ち合えない実力を持っている。

 

 曰く、猛犬のような凶暴性に加え、表情ひとつ変えずに力を振るう。その攻撃速度は神速の如し。

 

 曰く、有する力は己のためではなく、常に誰かのために振るわれ、それは正しく英雄の姿。

 

 聞いた途端、僕の足は騎士団の修練所へと向いていた。噂の真偽をこの目で確かめたくなったのもそうだが、それ以上に、英雄という存在がどれ程なのかを、この目に焼き付けたかったからだ。

 

 だが生憎なことに、件の彼は今朝アルスターから出て行ったばかりだったらしい。何でも、更なる高みへ上り詰めるためだとか。

 流石は英雄と呼ばれるだけの戦士。アルスターに収まる器ではなかったということなのだろう。

 しかし、そんな彼を見ることが叶わず、まして見送りさえもできなかったのは、非常に残念に感じた。

 

 

 

 ……それはそれとして、今日は修練所で一人の女性が暴れ散らしていたが、あれは何だったのだろう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 今日も今日とて、女傑騎士団の皆が魔獣狩りに出かけて行った。

 

 ……彼女らは凄い。

 

 僕とあまり年が変わらず、去年までは戦いの「た」の字すらなかった女性らが、今では赤枝の騎士団に所属する戦士達に勝るとも劣らない力を持ち、精力的に魔獣を間引いてくれている。

 そこには努力という対価があったのは明白だが、それでも目を見張る程の成長速度だ。

 

 こういう人達こそ、才能があるってことなんだと思う。本当に……僕とは比べ物にならない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 唐突に、コンホヴォル王から異動を言い渡された。クー・フーリンの乗る戦車、その御者をやれ、と。

 

 ………………………………………………へっ? 

 

 クー・フーリンって、一年前くらいにアルスターから出て行った、英雄と呼ばれていた、あのクー・フーリン? 

 彼が乗る戦車の御者を……僕が!? そ、そんな光栄な役割を、僕なんかが!? 

 

 それは正しく栄転だった。僕が英雄になることは不可能でも、英雄と呼ばれる人に仕えられるのは、やはり嬉しい。僕のこれまでを評価されたような気持ちになれるからだ。

 

 激しい動悸。憧れの英雄と出会えるのだ。僕を満たす緊張感はこれまで感じたことの無い程に高まり、同程度の歓喜にも心身を揺さぶられる。

 

 そして、彼────クー・フーリンさんを視界に収めた。

 

 身長は僕よりも大きく、しかし肉体はフェルグスさんのような筋骨隆々なものではなく細身なもので、全身にびっしりとついた細かい筋肉が存在を主張する。

 端正な顔立ちだが、見る者を射殺す鋭利な目付きはかなり威圧的で、それを備えた緋色の瞳は人外さを湛えていた。項の辺りで束ねられた青藍色の髪は、さながら猛獣の尾のよう。

 そしてその身に宿す覇気は、歴戦の戦士のそれと遜色ない程に練磨されたものだった。一体、どれ程の修行を積み重ねれば、僕とほぼ変わらない年でありながら、あれ程の風格を身に付けられるのか。

 

 万夫不当の豪傑という第一印象。これが英雄か、と視線を投げていると、彼と視線が交錯する。

 

「────お前の御者として、このレーグを連れて行くがいい」

 

 そして、コンホヴォル王からの紹介。クー・フーリンさんの意識が完全にこちらに向く。

 

「じ、自分はっ、レーグといいます! ク、クー・フーリンさんの強さについては兼ね兼ね…………」

 

 っ、緊張で言葉が上手く出なかった。恥ずかしい……とても恥ずかしい。うぅ。

 

「世辞はいらねぇよ。それよりもいいのか? 俺なんかの御者で」

 

 少し粗野な言葉遣いではあるが、その顔には僕への配慮が感じられた。

 

「むしろ光栄なことです! クー・フーリンさんと言えば、ずば抜けた素早さと技を持ち、誰をも寄せ付けぬ強者。しかし、無用な暴力を嫌い、力を振るう時は必ず誰かのため。その姿は正しく英雄だ、と聞いてきたものですから! そんな方の脚となれるんですから、光栄と言わずしてなんとしましょうか!」

 

 そうだ。誰もが憧れる英雄、いずれ歴史の人となるであろう相手に仕えられるのだ。それを光栄と思うのは必然! 

 それを抜きにしても、クー・フーリンさんは僕にとって憧憬の対象だ。会えただけでも嬉しく感じる。

 

「……そうかい。それでどうだ、本人を見た感想は?」

 

「正しく、噂通りだと! クー・フーリンさんから滲む雰囲気と言いますか、それから察することが出来る程には!」

 

 僕は思ったままに言葉を連ねていく。と、露骨に目を逸らして頬を搔くクー・フーリンさん。もしかして恥ずかしがっているのかな。

 第一印象とのギャップに、僕が思わず笑みを零していると、不意にそれが一変。心做しか瞳から光が消失する。

 

「なら、手合わせでもしてみるか?」

 

 獰猛に……というか、やや引き攣った笑みで、そう口にしてくる。

 

 ぼ、僕がクー・フーリンさんと、手合わせを……? 

 

「えっ、いやっ、ありがたいお話ですけど、僕は弱いので、そのっ…………」

 

「……いや、冗談だから気にすんな。それに割く時間もねえしな」

 

 失礼とも取れる僕の返答に対し、クー・フーリンさんは一瞬だけ目を見開いたが、苦笑と共に流した。

 

 やはり英雄と呼ばれる戦士は違う。僕はクー・フーリンさんの器の大きさを実感した。

 

 

 

 

 

 

 クー・フーリンさんに与えられた2頭の馬は、僕もといコンホヴォル王が扱いに頭を悩ませていた問題児達だった。

 日頃世話をしている僕にすら未だに心を開かず、初対面の相手には尚のこと。

 

 ……そのはず、なんだけど。

 

「「ヒヒン!」」

 

「なっ!? あの暴れ馬達がこんなにも……!? 流石、クー・フーリンさん!」

 

 僕の目に映るのは、クー・フーリンさんの伸ばした手に自ら擦り寄る、問題児達の姿。しかも嬉しそうに。

 そんな光景に目を丸くする僕。ふと、クー・フーリンさんの顔へと視線をずらせば、その口元が少しだけ吊り上がっていた。動物に懐かれれば誰だって笑いもする。彼もそうだった。

 彼は英雄という、僕にとって手の届かない人間ではなく、一人の人間として、友人として親しみを持てる相手である。そんな直感がした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 コノートへの旅路、その目的は付近の海岸にて目撃情報のあった2頭の海獣────クリードとコインヘンを討伐することだった。

 いくら屈強な戦士だとしても、その海獣らと戦うのは躊躇われる。それどころか目視すれば遁走の一手をとるのが当然のはずだ。

 そのような化け物相手に自ら戦いに赴く理由、それを聞けば、クー・フーリンさんの師匠に最終試練として2頭の討伐を言い渡されたのだとか。

 

 ……どんな鬼畜な師匠なんですかっ!? 

 

 といったような世間話(?)をする程度には、コノートへの旅路は長い。

 その間、僕の不可視の魔術によって、ある程度の敵性生物との接触は回避することができていた。お陰で何事もなく安全な……とは、お世辞にも言い難いもので。

 

 何故なら、血気盛ん且つ飢えた生物が、何度も襲いかかってきたからだった。

 

 理由は単純明快。不可視とはいえ気配を遮断するまでの効果はなく、しかも戦車を走らせている都合上、かなりの轟音を響かせてしまっていたからだ。また、食料も積んでいるために、匂いを嗅ぎつけられた。

 

 時には、魔獣や野獣が僕達を追いかけ、涎を滴らせながら牙を覗かせる。

 時には、幾匹もの竜が空を飛び回り、群れを形成して頭上から襲い来る。

 時には、それらの合わせ技。正直、勘弁して欲しい。

 

 普段は人が滅多に通らないだけに、野生動物が縄張りを侵犯したと言わんばかりに襲来する。

 だが、クー・フーリンさんはそれら全てを薙ぎ倒し、振り払い、斬り裂いていった。

 傍観者に一切の不安を抱かせない安定した立ち回り。有する技術の高さも然る事乍ら、正面突破を可能とする力技も凄まじい。

 

「あの程度ならいくら来ようと問題ねえさ。それにすげぇってんならレーグの魔術だろ」

 

 なのに、それを自慢げに語るでもなく、むしろ僕のことを褒めてくれる。姿を不可視にすることしかできない、僕を。

 

「っ、そう言っていただけたら、とてもありがたいです。僕にはクー・フーリンさんみたいな武芸はなくて、あるのはこの程度の魔術くらいなもので……」

 

 そうは言ったものの、僕のこの魔術が姿以外も消せたのなら、それこそ『こっちしかなかった』と胸を張って言えるのだろうが。

 

「いや、武芸ってモンは習うより慣れろって感じだろ。やってればその内に身に付いて強くなれる」

 

「い、いえ、僕には向いてないと言いますか……」

 

 身体と槍に付着した返り血を拭いながら、クー・フーリンさんは言う。

 僕だって最初はそう思ったから、それに従って貪欲に学んで、知識や技術を使ってきた。でも結果には結びつかなかった。

 

「……わかってはいるんです。でも、周りが着実に力をつけていくのに、僕だけが取り残されていく疎外感を、もう味わいたくないんです」

 

 同時期に始めた友人達、僕の後から鍛え始めた後輩達。その全員に追い抜かされ、辛酸を嘗めてきた。

 そうとなれば諦めもするし卑屈にもなる。僕には向いていない。それでいい。それでいいと思うしかない。

 

「……そう深く考え込む必要もねぇだろ」

 

「え」

 

 心中に黒い靄が立ち込めてきていた辺りで、クー・フーリンさんから紡がれた言葉。それに顔を上げる。

 

「レーグ、お前はどうなりてぇんだ?」

 

「……どうなりたいか、ですか?」

 

「あぁ」

 

 唐突な質問。僕はどうなりたいのか。今更自問する必要はない。嫌という程に確かめたのだから。

 

「……僕は、クー・フーリンさんやフェルグスさんみたいな、名を馳せる戦士になりたい……なってみたいです」

 

「……なら、どうすりゃなれる?」

 

「どうって……鍛錬をするとか、誰かから教わるとか、ですか?」

 

「それは当たり前だ。俺が聞いてんのはそうじゃねえ、それを踏まえた上でどうすんのかってことだ」

 

「…………………………」

 

 わからない。いや、今までそんなこと考えたこともなかった。

 目標は明確だったが、それを達成するための方法は、とにかく鍛錬を積み、誰かに師事することだと、それが当たり前だと思ってきたのだから。

 しかし、それを踏まえた上でどうすればいいのか、という問い。その答えは持ち合わせていない。盲目的に取り組めば、自ずと結果が追従してくると考えていたからだ。

 

「……わからないか。答えは簡単だ。習ったこと、それが自分に向いているかどうかに振り分ければいい」

 

「……えっ、それだけでいいんですか?」

 

「これだけじゃ足らねぇよ。ただ、これを把握してるかどうかはデケェぞ? レーグ、お前はついさっき、自分には向いてねえって言ったがな、それを自覚しているだけでも大したモンなんだぜ?」

 

 向いているかどうかを自覚する。それはとても大事なことらしい。

 どういうことなのだろう。僕は目で疑問を投げかける。

 

「向いてねえってことは、要するにその分野で活躍することは難しいって事実が早々にわかるってことだ。だから別のことに手を出して、自分の向いている物事を探求する時間がある。悪く言やぁ継続力がねえってことかもしれねぇが、我慢して続けるのは何時か限界が来るってモンだ」

 

 そう語るクー・フーリンさんは、目を伏せて過去を懐かしむような顔をし、哀愁を含んだ溜息を吐く。

 過去にそのような経験をしたことがあるのだろうか? いや、クー・フーリンさんは僕と同い年くらいのはず。それはないだろう。

 

「レーグ、お前の目標は名を馳せる戦士になることで、向いてねえのは戦うこと、だな?」

 

「……はい、そうです」

 

 クー・フーリンさんからの再確認。それを言われ、改めて僕の理想がどれだけ埒外を向いているのかを理解する。

 戦う力がないというのに、戦士になりたいと願う。まるで正反対なものだ。

 

「なら、まずはレーグの得意なことを考えてみろ」

 

「と、得意なこと、ですか?」

 

「あぁ。文脈から言うなら、向いていることは何かってことだ」

 

 うーん、僕に向いていること。何だろうか。

 

「………………御者、ですかね」

 

 我ながら酷いものだと思った。戦士になりたいと言っておきながら、咄嗟に絞り出したものは御者。向いているというよりか、僕にできること、と言った方が正しい。

 戦士志望の御者。言葉にすると尚更滑稽だった。流石にクー・フーリンさんも失笑するだろう。そう身構えていると、

 

「御者、か。いいじゃねえか」

 

 飛んで来たのは、予想外にも朗らかな笑みを湛えた、優しげな声色だった。

 

「えっ、でも御者と戦士とでは、必要とされる能力に違いがあり過ぎませんか?」

 

「あのなぁ、戦士って言っても、前線に出て武器を振るうだけが戦士じゃねえんだぞ? 脳筋共が扱う馬の世話だとか武具の調達・修理、負傷兵の治療、物資の供給、情報収集────後方支援に従事する奴らも等しく戦士だと、俺は考えている」

 

 戦うだけが戦士ではない、という言葉。それは僕を肯定するために咄嗟に吐いた嘘ではないと、クー・フーリンさんの語り口から理解できた。

 なるほど、確かにそうだ。言われて納得する。武術や魔術を修めた強者とて、扱う武具などにも造詣が深い者は多くない。であれば、その戦士が使う武具を造る者、その戦士が駆る馬を世話する者、その戦士が戦線復帰を可能とするために治療を施す者────そういった者達が存在してこそなのだ、と。

 

「確かにケルトの風潮からすりゃ、武力こそが戦士の価値で、無双の活躍こそが戦士の華みてぇなモンだが────飽くまでも、それは今までの考え方だ。戦う力がねえ、才能もねえ、だから戦士にはなれない。そんな固定観念を打ち壊しちまえばいいのさ。お前がな」

 

 瞬間、心臓が跳ねる。

 

「えっ! ぼ、僕がですか!? そんなの無理ですよ! 前例がないことを、僕が……僕なんかが始めるのは、そのっ、あまりに過酷ですよ!」

 

「あぁ、そうだな。前代未聞だ。艱難辛苦の道のりだろうさ。だからこそやる価値があるし、いずれは誰かが担わなきゃならんことでもあるんだよ」

 

 到底、僕なんかが担えるはずもない大役。それを全うし、新たな戦士の在り方を創ることにより、僕は名を馳せる戦士になれると言う。

 あぁ、だが、言われてみれば確かになれる気もする。しかし、具体的には何をどうすればいいのだろう? 

 

「……レーグ、お前、考えていることが全部顔に出てるぜ? 確かにそうかも、でもどうすりゃいい、ってな」

 

「うっ」

 

「まあ、やり方はひとつじゃねえが、一番手っ取り早いのは、向いていることを伸ばして極めることだな」

 

「伸ばし、極める……ですか」

 

「何であれ突き詰めれば、それは勲章になる。誰にも勝る武器になる。俺やフェルグスが戦うことに向いていて、それを磨き上げたことで名を馳せたように、な」

 

 不敵に頬を吊り上げ、槍を担ぐクー・フーリンさん。それは、俺の姿を見ろとでも言わんばかりだった。

 

「御者としての力を伸ばし、御者としてなら誰にも負けない。戦士を通り越して御者の王になってやる。そんくらいの心構えでいりゃあ、周囲の目や評価なんてどうでもよくなるぜ? だから、お前に向いていることに愚直に取り組めばいい。ほらな、何も深く考え込む必要なんてねえだろ?」

 

 彼の言葉。それが心に浸透して行き、熱を帯びる。それはまるで、足元すら覚束無かった僕の視界を照らし、道標となる灯火のようだった。

 こんな僕でも戦士になれる。無理だと思い、諦めていた夢が、もしかしたら、叶うかもしれない。

 そう感じられただけで、僕の心は救われた。非常に単純なことかもしれないが、結局、僕はそれのみで満たされた。

 

「戦士の在り方は何も戦うことだけじゃない……僕の目標を達成するためにも何かひとつの物事を極める……うん……うん。なるほど」

 

 彼の言葉をゆっくりと咀嚼し、飲み込み、自らの糧とする。新たな在り方、考え方、そういったものを創ることに意味があるのだと。

 理解と共感。それと同時に溢れる自信。今の僕なら、何があっても挫けない。弱音も吐かない。卑屈にもならない。ただ、ただ愚直に御者としての力を高められる。

 そして、僅かな合間で僕のこれからを示してくれたクー・フーリンさんに、僕は今後も付いて行きたいと、強く感じた。あわよくば、彼の相棒として共に駆け回りたい、と。

 英雄として語り継がれるクー・フーリン、そんな彼の相棒として共に戦場を駆けた御者の王レーグ。うん、控えめに言って最高だ! 

 そのような妄想をしただけで、心に燻る熱は大火となり、全身を駆け巡り、活力へと変換される。

 

 今回の最終試練が終わったら、僕はクー・フーリンさんに付いて行きたい。本気だ。であれば、彼の相棒を目指すためにも、やはり戦う技術は覚えるべきだろう。

 

「クー・フーリンさん! 僕には戦うことは向いていないかもしれませんが、やはり少しでも覚えておきたいです! なので、クー・フーリンさんに教えを乞うことは叶うでしょうか!?」

 

 とうの昔に諦め、忘れ去っていた、学ぶことに対する貪欲な気持ち。それが完全に復活していた。

 御者としての力を高めるのは勿論だが、少しでも彼と共に戦場を潜り抜けたい。その感情が僕を突き動かす。

 

「無理だな。俺も修行中の身だ。誰かに何かを授ける程の資格は持っちゃいねえよ」

 

 が、クー・フーリンさんの返答。拒否。業火の如き衝動が瞬時に鎮火する。調子に乗り過ぎていた。

 

「あぅ……そ、そうですよね。いきなりすみませ「だが」」

 

 僕の言葉に被せて発せられた接続詞に、ふと顔を上げる。

 

「俺が槍を振るっているのを見て、技を盗むのは勝手だ。授ける智慧はねえが、助言くらいならできるかもな」

 

 態と視線を合わせず、呟くようにして出された、微笑み混じりのクー・フーリンさんの言葉。

 断られた直後ということもあり、それを理解するのに少々の間が空いてしまったが、噛み砕くと同時に歓喜が込み上がる。

 

「〜〜〜〜っ! あ、ありがとうございますっ!」

 

「だが、己の武器を研磨すること。それを忘れんなよ?」

 

「はい!」

 

 こうして僕は、コノートへの道すがらクー・フーリンさんの技を目で追い、休息時に見様見真似でやるようになった。

 その傍ら、クー・フーリンさんが独り言のように技の要点を掻い摘んで説明してくれていた。そこまでやるなら直接教えてくれてもいいのに、と思いもしたが、何事も体裁が必要なのだとか。

 

 実はクー・フーリンさんは、とても不器用な人なのかもしれない。だがそれは決して短所ではなく、むしろ接する人の心を温めてくれる。

 

 

 

 だからこそ僕はこの人に付いて行きたいと、改めて思えた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 コノートへと入り、海岸に接近する程に天候は悪化し、明らかに異常であると肌で感じた。

 そして、クー・フーリンさんの標的達を視認する。海獣クリードと海獣コインヘンだ。

 

 

 そこからは怒涛の展開だった。

 

 

 2頭の海獣の激闘、その余波によって落命寸前だった女性を瞬時に助け出し────息をするように英雄らしい行動ができる辺り、やはりクー・フーリンさんは凄い────、その後は数時間にも及ぶ激戦を繰り広げてみせた。

 己の得物である槍捌きも然る事乍ら、コンホヴォル王に持たされた剣や盾の数々を、予想外な用途で使い、クー・フーリンさんは巧みに立ち回っていた。

 また魔術も多用し、氷や炎、身体強化などを行使していたようだったが、そのどれもの発動が尋常ではない程に素早く、また臨機応変に且つ効果的に使い分けている。

 武術も魔術も、その全てが高い練度を誇り、それらを織り交ぜた彼の戦闘は、正しく神話の一頁にあっても遜色ないくらいのものだった。

 その領域はもはや『才能』『努力』といった言葉のみで片付けることが烏滸がましく感じられた。

 

 そして海獣達へと向けた、最後の一撃。それはあのクリードとコインヘンを軽々と屠った。少々危ないと感じた場面はあったものの、この結果をそうなると確信していた僕がいた。

 不思議と、クー・フーリンさんが敗北する絵が浮かび上がらなかったのだ。いや、不思議ではないか。何せ、彼なのだから。

 

 

 討伐直後、助けられた女性はクー・フーリンさんを睨み付けたり怒鳴ったりと、何やら剣呑な雰囲気を放っていたが、瞬時にそれは霧散し、彼女から色気を幻視する程に艶かしい雰囲気が漂い始めた。

 その時に知ったことではあるが、その女性はコノートの女王メイヴその人であり、クー・フーリンさんは女王の御目に適ったのだそうな。

 

 そのせいか、コノートを出るまでの間、女王は僕達もといクー・フーリンさんにべったりで、何度も誘惑を仕掛けているようだった。しかしクー・フーリンさんは鉄壁で、やり返しては逆に女王をオトしていた。

 なるほど、これが英雄色を好む、ですね! と口にしてみれば、クー・フーリンさんから無言で蹴られた。

 

 

 

 ◆




◆補足

Q.レーグ君チョロくない?
A.憧れの人に言われたのなら、そりゃチョロくもなりますわ。なるよね?なる。

Q.レーグ君って男の娘?
A.決まってないんだなぁ、これが!(ゾルタン並感) なのでご想像にお任せします←は?

Q.(偽)結構語ってて草。
A.レーグ君は唯一の常識人枠やぞ!囲うのに必死になるに決まってんだろ!(白目)


 ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。今回はレーグ君視点をお送りしましたが、まだ書きたいことの本筋というか、ほんへに追いついていません。なので次回も引き続きレーグ君視点の予定です。次回でレーグ君がガチヒロイン的な役回りしそうなので、とりあえず先手に、なんだァ?てめェ……(置き独歩)。
 今回の投稿に時間がかかりまくった理由としましては、フワッとしていたレーグ君ネタをどうやって文章化しようかと試行錯誤していたことであったり、会話文を簡潔且つ深いものにするにはどうすればいいかと頭を抱えていたり、FGOフェスの中継を見ながらFGOの周回をしていたり、ぬ〇たし動画を漁っていたり、デッドダムドのデッキを考えていたり……つまり忙しかったせいですね!(迫真)
 レーグ君視点をこれまで溜め込んでいた分だけ色々書き込もうとすると、如何せんダラダラとした文章になってしまう。これホント辛み。ということで、そういった点に考慮しつつ次回を書いていくので、時間がかかりすぎて「生きとったんかワレェ!」と言われかねない予感がします……。ですが失踪はしませんので、今しばらくお待ち下さい。ではまた!




















 zero大好き僕「よし、溜まってた事件簿見るぞぉ!」

 1話視聴中僕「エモッ…エモッ…」

 1話視聴後僕「エ"モ"ッッッッッッッッッッッッッ!!?」

 感極まってマジで涙出て草。


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英雄の友:レーグ視点(中)

 レーグ君視点は1話完結にしよう
   ↓
 2万字いきそうだから上と下に分けよう
   ↓
 下が2万字いきそうだから中と下に分けよう
   ↓
 投稿&下作成中←イマココ


 ◆

 

 

 

 女王と別れた僕達は、アルスターへと帰国の途に就いていた。来た時と同じ道を辿ったおかげか、襲い来る獣の類は一切見当たらない。

 

 

 束の間の安全、しかしそれは唐突に塗り潰された。

 

 

 目の前に降り立つは、見惚れる美貌と畏怖すべき神性を放つ一人の女性。紛うことなき、勝利の女神ことモリガンだった。

 彼女はクー・フーリンさんに寵愛を下賜すると告げた。

 彼女と交わった相手は、如何なる戦いにも勝利することができる。勝利の加護。それを与えられることは恐悦至極。

 求めれば与えられるものでは決してないために、その価値は計り知れない。それ故にケルトの誰もがモリガンとの関わりを持とうと必死になり、縋り付く。戦士も、英雄も、神でさえも。それ程の相手なのだ。

 

「……必要ねえ。お前のことを真に欲する相手のところにでも行ってろ」

 

 だと言うのに、クー・フーリンさんはモリガンから与えられる寵愛を、恐れ多くもきっぱりと断ったのだ。

 

 一方のモリガンはクー・フーリンさんの拒絶に呆けた顔をし、意味を理解すると同時に激昴してしまい、「愚かな選択を悔やむがいいッ!」と吐き捨てて飛び去って行った。

 

 

 

 後に取り返しのつかないことになる。そんな予感がした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 僕達はアルスターへと帰国してコンホヴォル王に報告を済ませた。

 その際、クー・フーリンさんに「お前らをそのまま連れて行きてえが、構わねえか?」と言われ、当然、僕は食い付いた。

 

 歓喜に震えつつ、僕達は次なる目的地である影の国を目指した。

 

 当初、影の国へ行くと言われた時は思わず聞き返してしまった。あの影の国か、と。それについて聞いてみれば、レーグの考えているので間違いないと返された。

 もしやクー・フーリンさんの師匠とは、あの影の国の女王スカサハなのでは? と畏怖を持って口にすれば、それに加えてアイフェという女王の妹までもが師匠だと返答。これまた聞き返してしまった。

 

 スカサハといえば、これまで名だたる英雄を育て上げた、これまたケルトでは知らぬ者はいない女傑だ。

 噂では鍛錬はかなり過酷で、しかし死ぬことも逃げ出すことも許されず、人がどうすれば死ぬかという認識が曖昧になる程度に冷厳な人物と聞いていた。

 クー・フーリンさんの最終試練を課した人物が女王だとすれば、なるほど、噂は事実だったのだと理解せざるをえない。

 

 クー・フーリンさんの案内の元、影の国の入口へと辿り着いた僕達だったが、入国するにはスカサハさんの許可が必要とされるらしい。

 そのため、クー・フーリンさんが僕やセングレン、マッハの入国許可を取って来るまで待っていろ、と。

 ………………って、いやいや! この辺には到底僕なんかでは太刀打ちできやしない魔獣や竜が闊歩しているんですよ!? このままじゃ僕、クー・フーリンさんが戻ってくる前に彼らの胃の中じゃないですか!? 

 

 折角クー・フーリンさんに着いてこれたのに、ここで野生生物の餌食にでもなってしまえば、あまりの無念さに化けて出てこれる自信があった。

 それを必死に訴えれば、クー・フーリンさんは何故か覚悟を決めた顔付きのまま「早めに戻る」とだけ言って、影へと身を消す。

 

 

 

 

 

 

 体感にして数十分。クー・フーリンさんが影から身を晒し、許可が降りたから着いてこい、と。

 それに安堵する僕が目にしたのは、心身共に粉砕された彼の姿だった。どうしたのかと問えば、クー・フーリンさんは遠い目をするのみだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 影の国へと入国し、数日が経過した。

 

 僕はクー・フーリンさんが暇な時に稽古を付けてもらっていたが、しかしクー・フーリンさん本人の修行内容がえげつなかった。

 

 スカサハさんから正式に魔槍ゲイ・ボルグを継承したことで、クー・フーリンさんはそれに慣れるために死霊や亡霊を狩り続け、(スカサハさんが)飽きてきたら彼女と一騎打ちに臨む。

 スカサハさんはその見目麗しさに違わず、クー・フーリンさんをも容易くあしらう武に生きる人物で、傍から見ていた僕の視認すら越えたクー・フーリンさんの神速を、表情ひとつ変えずに受け止めるだけでなく、瞬時に攻撃を繰り出して突き飛ばす程に苛烈だった。

 二人の戦う様は、外ではまず見たことのない程に練度が高く、把握する以前に目で追うことすら困難だった。

 

 そのような戦闘を幾度となく繰り返す。もはや常人の領域ではない。

 

 またアイフェさんという師匠もとい師範からは、魔術の類を意欲的に学び、実践を通して理解しているようだった。

 こちらもまたスカサハさんと同様にえげつないもので、魔術を習得するためにまずはそれを身を以て体験する、という訳のわからない論法でクー・フーリンさんに魔術を撃ちまくり、対するクー・フーリンさんは回避に専念しつつ、時には真正面から打ち破ろうと画策してみたりと忙しい様子だった。

 冗談抜きで死んでもおかしくない魔術の雨あられ。その中に躊躇なく飛び込んで行く。これが修行なのだというのか。……僕の理解が及ばない。

 

 

 

 休息時、クー・フーリンさんとアイフェさんで何やら怪しげなやり取りが繰り広げられたかと思えば、一時間もしない内に海獣らを素材とした鎧が造り出されていた。

 全身を包み込む黒々とした鎧には深紅の線が走り、クリードの剛腕を彷彿とさせる肥大化した腕鎧、拳には複数本の魔槍と思しき緋色を備え、刺々しい尻尾や光沢のある触手といった人外さを付加された装備────『噛み砕く死牙の獣』というらしい────は、見るも悍ましい禍々しさを放っていた。

 

 海獣らの暴力的で冒涜的な力を余すことなく体現する鎧、それからは触れてはならない禁忌のような何かを感じた。

 

 

 

 死霊や亡霊が蔓延る影の国。それを支配する女王、そしてその妹。そして彼女らに師事する英傑達。

 確かに、このような環境に身を置いていれば、クー・フーリンさんのような圧倒的な力を備えた戦士に育っていくのだろう。

 そう実感すると共に、生き地獄のような鍛錬を見ると、あぁ、確かに死ぬことも逃げ出すことも許されないんだな、と感じた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 クー・フーリンさんから教えられた技を体得するべく、一心不乱に槍を振り回していたところ、

 

「そこのお主……レーグといったか」

 

 突然、スカサハさんに声を掛けられた。

 

「えっ……はっ、はい。そうですが……?」

 

「うむぅ……彼奴は小動物のような者の方が好みなのだろうか……」

 

 顎に手を当て、僕に鋭い視線を向けながら唸るスカサハさん。

 あらゆる情報を見透かすような瞳に見つめられ、僕は何か気の障ることをしでかしてしまったのか、と戦々恐々。

 

「いや姉上、それ以前にクー・フーリンにはそっちの気はないぞ」

 

 そこへアイフェさんも加わってくる。影の国の実力者、その二大巨頭を前に、僕の心臓は早鐘を打つ。

 

「あ、あのっ、何か御用でしょうか……?」

 

「うむ。お主にはクー・フーリンの外での様子について聞きたくてな」

 

「外での様子……ですか」

 

「私達姉妹はここから出ることが叶わなんだ。それ故、彼奴の外での人間関係や振る舞いを知る術がなくてな」

 

 何て弟子思いな師匠なのだろう……と感動したのも束の間、少しだけ上気した頬やソワソワしている雰囲気を見るに、クー・フーリンさんが弟子だからという理由のみではないようだ。

 

「……なるほど、わかりました。僕なんかでよければ、お話しさせていただきます」

 

 僕は実際に僕自身が見て聞いてきた物事について、それらを僕自身がどう感じたかについて話す。

 クー・フーリンさんが老若男女にどれ程好かれ、憧れられ、親しまれているのか。どのような噂が飛び交い、実際はどうなのか。

 僕にとってクー・フーリンさんは英雄でありながら不思議な人物で、道標のような存在であること。

 途中からは思わず熱が入ってしまい、二人に説明しているのを忘れてしまう程だったが、しかしスカサハさんもアイフェさんも待てをかけることはなく、相槌を打ちながら微笑を浮かべていた。

 

 そうして大まかに語り終えたところで、スカサハさんが眼を光らせる。

 

「彼奴に女の影なぞはあるか?」

 

 さながら恋する村娘のような発言だったが、それを口にしたのは影の国の女王その人。

 突拍子もない質問なのだが、しかし一番聞きたかったことであるかのように、その顔は憂いを帯びていた。

 

「ほれ、早う答えんか」

 

 僕の答えを急かすは女王の妹。こちらもまた、何処か憂心を抱いた顔をしている。

 

「は、はぁ……。まあ、強いて言えば、コノートの女王メイヴでしょうか」

 

 クー・フーリンさんは多方面の人達から好意を寄せられているが、実際に彼と恋仲になった人物はいないはずだ。

 一時期は特定の女性と共に居たような噂はあった。だがそのような女性の存在は見受けられなかった。

 とすれば、現在進行形でクー・フーリンさんに好意を寄せているのは、先の討伐にて関わりのあった女王メイヴだろう。

 

「……ほほぅ、彼奴の弁解にも出ていた尻軽女か」

 

「あぁ……女王を僭称している淫売か」

 

 瞬間、二人の瞳から光が消失し、女王メイヴのことを滅茶苦茶に言い始めた。クー・フーリンさんに言い寄っている、と話しただけでこれである。

 スカサハさんとアイフェさんが、自分の弟子のことをどれだけ大切に思っているのかはわかるのだが、まさか男女間についても介入するのか。

 

 クー・フーリンさんは大変だな、と苦笑を浮かべていると、二人が何やら呟き始める。

 

「やはりここから出せぬようにし、人外に身を落とさせるしかあるまいか……いや、そのようなことをせずとも、彼奴の子を孕めば縛り付けられるか。……全く、ここから出られさえすれば、クー・フーリンに集る虫共を片端から塵芥にできように……」

 

「うむぅ、手っ取り早くクー・フーリンを私色に染め上げねばならんな。彼奴の思考を全て私に置き換え、私以外には欲情せんよう躾けてやらねば。……あぁ、だが、むしろ私が彼奴に染め上げられるのも……ッ……アァ、良い、好い、善い……」

 

 ……違った。これは嫉妬、依存、束縛、狂気────歪んだ愛だ。

 決して、弟子思いであるとか、そういう生半なモノではない。それを通り越し、越えてはいけない壁を粉砕し、あらゆる経過を紆余曲折という言葉に詰め込んだ結果として形成された、狂いだ。

 

 僕が女王メイヴと口にしたばかりに、姉妹揃って死んだ表情で呪詛を垂れ流すという、言葉にすると余計に訳がわからない────わかりたくもないが────状況に変貌してしまった。

 

 僕は心の中でクー・フーリンさんに合掌しつつ、この二人に何をしたのか、何でこうなるまで放って置いたのか、と叫喚したのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 後日、僕達はアルスターへ向かっていた。

 

 アルスターの去り際にコンホヴォル王から渡されていた手紙の存在を思い出し、それをクー・フーリンさんに手渡せば、「アルスターに用事ができた。行くぞ」と。

 

 アルスターまでの道すがら、クー・フーリンさんに鍛錬を付けてもらったりしていたため、到着までに四日もかかっていた。

 それだけでも申し訳ない気持ちでいっぱいだというのに、コンホヴォル王に「遅かったな」と言われても僕が原因であると一言も告げなかった。

 クー・フーリンさんに対し、何故僕のせいにしないのか、と視線を投げていると、頭を雑に撫でられた。……これもクー・フーリンさんの不器用なまでの優しさなのだ。

 

 再び、僕の胸に温かな気持ちが湧き上がった。

 

 

 

 

 

 

 コンホヴォル王の頼み、それは魔獣狩りであった。

 何でも、アルスターに大量発生しており、人への被害が出るのも時間の問題だとか。そのため、クー・フーリンさんの力を借りたいという。

 

 クー・フーリンさんは到着と同時に魔獣狩りへと赴こうとしていたので、僕もそれに同行する。

 足でまといになるであろうことは予測しているが、それでも、少しでも人助けの一役を担いたかったのだ。

 同行を反対されても文句の言えない中、クー・フーリンさんは口角を上げて「目の届く範囲に居る限りは助けてやる」と、それだけ口にしてくれた。

 

 それを経て、ようやく魔獣狩りを開始した。

 

 狼や猪といった四足獣を筆頭にした獣達。その数は恐ろしく、幾つも見られた魔獣の群れ同士の衝突は、さながら国家間の戦争のようだった。

 そのような混沌極まる自然界に、僕達が第三勢力として介入し、目に付いた端から斬り、穿ち、薙ぐ。

 クー・フーリンさんの無双ぶりは語るまでもないが、僕はというと、魔獣単体と長期戦をする程に要領が悪く、本当に僕は戦うことに向いていないのだと理解させられる。

 

 

 

 夕暮れの森林にて、女傑の面々と遭遇した。

 

 以前見た時よりも練磨された彼女らは、まさに戦士と言うべき存在へと昇華していた。

 中でもクー・フーリンさんに引っ付いて離れない女性────エメルさんは、他の女傑の面々とは一線を画す強者であると、ひしひしと感じられた。

 

 アルスターへと帰還し、コンホヴォル王に報告を済ませた瞬間、クー・フーリンさんがエメルさんに拉致された。

 それを見た僕は目が点となり、呆然とするしかなかった。困惑を極めていると、女傑の人達が説明してくれた。

 聞けば、エメルさんはクー・フーリンさんに恋慕……が変貌した狂愛を抱いており、しかしアルスターからクー・フーリンさんが出て行ったために、溢れるそれを溜め込むしかなく。そうして再会したのだから、何が爆発しようともおかしくないのだとか。

 

 スカサハさんといい、アイフェさんといい……クー・フーリンさんは彼女らに何をやらかしたんですかっ!? 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 魔獣狩り開始から早一週間。

 

 エメルさんに追尾されているクー・フーリンさんは、日に日にやつれていくが、僕にはどうしようもなさそうなので強く生きて欲しい。

 

 最早日課となった、心中でクー・フーリンさんに合掌をしていると、今日は何故か僕がエメルさんに捕まった。

 

「貴方……私のクーの御者なんでしょう? なら、クーに寄り付く他の女の有無について、知ってますよねぇ?」

 

 ……既視感を覚えるやり取り。

 

 これは素直に答えていいものか。いや、だが嘘をつく程のことでもないだろう。

 

「……そうですね、まあ有無については有り、とい「誑かしたのはどこの誰?」」

 

 瞬間、僕の心身を襲う気配────殺気。

 

「答えて。早く早く早く早く早く」

 

「ひっ! ……えぇ、っと、コノートの女王メイヴさんと……クー・フーリンさんの師匠である影の国の女王スカサハさん、その妹君であるアイフェさんの三人……です」

 

「………………ふぅん、三人も………………」

 

 直後、俯く彼女。「あの……?」と声をかけるも反応はなく。

 

「許せない……許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない────」

 

 心に積もり積もった濃い感情、その全てを込めるかのように許せないという言葉を連続して紡ぐエメルさん。

 

「どうせあの淫乱女のことですもの、私のクーを無理やり奪いに来るに決まってる! 許せない! それにスカサハって、あのスカサハよね。あぁ、そっかぁ。影の国なんかに出向いていたから見つからなかったのね……。でも、師弟関係を超えて寝取ろうとするなんて……あぁ! 何て卑しい! 何て浅ましい! それだけでも許せないのにっ、その妹までもが……!」

 

 激しい身振り手振りで激情を表現するエメルさん。その瞳は夜闇のように黒々としており、深海の如き底無しの闇だった。

 

 結局、エメルさんは「きぃぃぃぃい!」と金切り声を上げながらクー・フーリンさんへと突貫して行き、僕はそれをただ呆然と眺めることしかできなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 コノートからの宣戦布告。その衝撃はアルスターを即座に駆け巡った。何故、どうして、と困惑の渦に飲み込まれていく人々。

 

 それとはまた違う意味で、僕にも衝撃がもたらされていた。今朝から治まらない腹痛に見舞われているのだ! 

 じっとりとした脂汗を滝のように流しながら、何か変な物でも口にしただろうか、これは何かの病気なのか、と困惑の極みにいる僕。

 ふと辺りを見回せば、僕同様に痛みにもがき苦しむ男達の姿が目に入り、流行病の類かと顔を青白くさせる。

 

 それでも何とかしてクー・フーリンさんの元へと赴いてみれば、単騎で出撃して行くクー・フーリンさんと、騒ぎ散らすエメルさんの姿が。

 

 盗み聞きするようで気が引けたが、狂乱するエメルさんを宥めていたコンホヴォル王の発言から、この宣戦布告はメイヴさんがクー・フーリンさんを欲したからであり、当の本人は「それならば」と一人でコノートの軍勢を相手取ることにしたのだそうな。

 

 たった一人で大軍と戦うなど自殺願望でもあるのか、と正気を疑いたくなるが、しかしクー・フーリンさんが敗北する姿を、海獣らと対峙した時のように想像することはできなかった。

 あのクー・フーリンさんが負けるはずがない、と。クー・フーリンさんなら大丈夫だ、と。漠然とそう思っていた……痛みに耐えながら。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ◆

 

 

 

 やっと痛みが引いた。さすがに九日も寝たきりは正直キツかった。というか、この痛みの原因とは何だったのだろう。

 

 だが、そう安堵してもいられない。クー・フーリンさんとコノートの軍勢との衝突、その戦況が芳しくないとの報告がされていたからだ。

 まさかクー・フーリンさんがやられたのか!? と焦りもしたが、どうやらクー・フーリンさんが敵兵を生かさず殺さずの半殺しにしており、そのせいで戦が長引き、互いに膠着状態にあるらしかった。

 

 コンホヴォル王は「敵を殺さんとは何事かッ!」と激怒しており、騎士団に出撃命令を下す。

 その傍らではエメルさんが「きっとあの淫らな女に唆されたんだわ! 許せないッ!」と、よく分からない怒りを滾らせる。

 

 いきなりの混沌とした状況に、腹部の次は頭部が痛くなりそうだったが、僕にも出撃の命令が出る。出撃というよりも、クー・フーリンさんの回収ではあるが。

 寝込んでいた分挽回しなければ、という思いがあるのか、騎士団の皆は何時も以上に活気づいており、足早に戦場へと駆け出す。

 それに続く僕。クー・フーリンさんに一刻も早く休んでもらうべく。そんな思いだったが、同時に湧き上がる、疑念。

 何故、殺さないのか。それが頭を埋めつくしてならない。クー・フーリンさんに何があったのか、何が目的なのかはわからない。だからこそ、一刻も早く彼の元へと馳せ参じねばならない気がした。

 

「行くよ! セングレン、マッハ!」

 

 戦車に飛び乗った僕の呼び掛けに反応して、耳を後ろに伏せて眼を吊り上げる黒と白。

 何時もなら僕の言うことなど聞きやしない二頭であるが、主たるクー・フーリンさんのためだと悟れば、従順に変貌する。

 

「「────────ッ!!」」

 

 けたたましい嘶きを上げ、力強く戦車を轢く。この二頭もまたクー・フーリンさんの元へと向かいたくて仕方がなかったようだ。

 

「今行きます……クー・フーリンさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場として選ばれた荒野、そこには大勢の戦士達に囲まれながら、未だ無傷を保つ彼の姿があった。

 一緒に出撃した皆はクー・フーリンさんを包むように戦場に雪崩込み、僕は彼を戦車に乗せて離脱する。

 

 その際、クー・フーリンさんと面識のある戦士達と一悶着あったようだが、それを気にする程の余裕は僕にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は既に日暮れ。森林に行き着いた僕は、直ぐに食事と寝床の用意をする。クー・フーリンさんに休息してもらうためだ。

 ふと頭に再び浮かぶ疑念────何故殺さないのか。それを聞いてみようと彼に顔を向けてみれば、

 

「…………っ」

 

 思考が漂白された。クー・フーリンさんの、今にも壊れてしまいそうな表情を目にしたからだった。

 今のクー・フーリンさんは、これまで隣で見てきた力強い印象は鳴りを潜め、そよ風程度で消えてしまいかねない微弱な火を連想させる。

 それは単なる疲労からなどではなく、精神的なモノであると察しがつく。きっと、殺しをしなかった理由に関係があるのだろう。

 

 

 

 そして、ふと、思った。

 

 

 

 英雄────特に武勲によってそう呼び称えられた者は、一体何人の命を奪ったのだろう、と。

 

 戦いに生き、戦いに死ぬケルトからすれば、それは考慮する価値すらない。誰かが勝り、誰かが敗れただけなのだから。

 途轍もない力を持ち、誰かのために戦い、老若男女から拍手喝采を浴び、そして歴史に名を残すという一種の不死性を獲得する。

 あぁ、確かにそれは英雄だ。紛うことなきそれだ。しかし、それは飽くまでも英雄の煌びやかな面。

 それに伴うのは赤黒く血生臭い負の側面。理想とは程遠い凄惨な現実。味方だからこそ英雄と讃えられるが、敵からしてみれば仲間を幾人も殺した怨敵に過ぎない。

 

 そこまで考えて、震える。

 

 英雄願望を漠然と抱くなど、何て無責任で無知だったのか、と気が付いたからだ。

 煌びやかな面が英雄の全てだと勘違いしたまま英雄を目指していたとすれば、何と、何と恐ろしいことか。

 誰かの人生を途切れさせ、未来を閉じ、家族や友人からその人を奪う。そこに讃えられる要素は介在しない。

 

 僕に耐えられるだろうか。そのような残酷なことを繰り返すのを。

 いや、無理だ。僕にはそんな責任など持てやしない! 担えない! 気が付いてしまったのなら、尚更だ! 

 

 ……そうか、だからクー・フーリンさんは……。

 

 きっとクー・フーリンさんも、そうなのだろう。思い返せば、確かにその節はあった。

 

 クー・フーリンさんの噂は、そのどれもが誰かのために力を振るっているという旨で、とある強者を倒したとか殺したとかは聞いたことがなかった。

 僕に掛けてくれた言葉。あれはクー・フーリンさん自身もまた、自分と向き合った結果として新しい在り方を創り出していたからこそなのだろう。

 今回の戦争。切っ掛けはあまりに粗末事ではあるが、火種という責任感や英雄と呼ばれ期待されている身故にクー・フーリンさんは戦場に駆けて行ったのだ。殺しをしたくないからこそ、必死に考えて、必死に貫こうとしたのだ! 

 

 その心情は測りきれない……! 

 

 そう。だから今、問い詰めてはいけない。

 

「…………クー・フーリンさん。どうか、しましたか?」

 

 柔らかく聞いてみる。こちらから問いかけるのではなく、相手からの言葉を聞く姿勢をつくる。

 

「………………なぁ、レーグ。俺はどう見える?」

 

 どう見える。それは容姿についてではなく、クー・フーリンさんの振る舞いが他者から見てどうなのか、ということだろう。

 

 自嘲、後悔、卑屈。それらを混ぜ込んで原形を完全に喪失させたような、そんな雰囲気を放つクー・フーリンさん。

 

 恩人にそんな気持ちになって欲しくはない。だからせめて、僕は僕の感じたままを口にし、クー・フーリンさんの理解者になろう。

 

「そうですね、クー・フーリンさんは────」

 

 

 

 

 

 

 僕が語り終えたところで、クー・フーリンさんに元気が戻った。だがそれは空元気のような、明らかに無理をしているものだった。

 

 しかし、今の僕にはクー・フーリンさんにそれを指摘するだけの残酷さはなく、彼がそれを自力で乗り切れることを祈る他なかった。

 

 

 

 けれど、僕が抱いた一抹の不安、それは拭うことができなかった。

 

 

 

 ◆




◆補足


 ワイ「補足を起こさないでくれ、死ぬほど疲れてる(筋肉催眠)」


  ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。投稿が遅れに遅れてしまい、本当に申し訳ない(初手人工無能)。文章の構成や表現で右往左往し、行き詰まったところでレーグ君の心境ならばと見直しをし、付け加えては削ってを延々と繰り返していました。……え?それにしては遅すぎ?6日間難産で苦しんだ部分を全カットして虚無感に囚われた話する?いやでもホント忙しかったんすよ、、、デッドダムド〇ねと考えていたり、青魔道具ファックとか呟いていたり、水着イベ進めてたり、鬼滅の刃を見始めたり、姫路とか神戸とか京都まで観光しに行ったり……遊んでばっかじゃねえか!(御満悦)
 唐突なんですが、バビロニア0話を見て、気が付いたら涙が零れてしまいました。もうね、ロマニとマシュの関わりの描写が色んなことを考えさせられて、セリフや表情のひとつひとつから伝わるメッセージが濃厚で、シャーロキアンでアンデルセンで、レフもとい魔神さんの言い回しとか意味が深くて……エモッ!!!!そんな感じで、年齢を重ねる事に涙脆くなっているのを実感しています。でもまだおじさんって年齢でもねぇだろ!いい加減にしろ!(自答)
 え、今回の話については触れないのか?まあ、読んでいただけたのなら語るまでもないでしょ。長文お疲れ様でした。難産でした。おぅふ。以上。もはや言葉など意味をなさない(J)。

 ということで次回はレーグ視点の完結です。(偽)とレーグ君のアレコレ、レーグ君の死闘、(偽)の覚悟完了。物語の進行上それなりに大切な内容にする予定なので、今しばらくお待ちいただければと思います。では(・ω・)ノシ
























 ランサー「マスター!突きっス!(謀反)」


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英雄の友:レーグ視点(下)

 みんなの記憶からこの小説の存在が消えつつあると思うので初投稿です。


 ◆

 

 

 

 それは唐突だった。

 

 早朝のこと。突然クー・フーリンさんが意識を覚醒させたかと思えば、戦場へと駆け出した。

 

「クー・フーリンさん!? 何処へ行くんですか!?」

 

 僕の制止の声、しかし止まることなく走る、走る、走る────神速。

 僕は直ぐにセングレンとマッハを走らせようとしたが、既にクー・フーリンさんの背は小さく。

 

 拭えなかった不安感。それが水に垂らした黒のように僕の心を侵食し、染め上げる。

 言い様のない焦燥感。煩く感じる胸騒ぎ。クー・フーリンさんが届かない何処かへ行ってしまうような。

 

 だが、それは思い違いだ、勘違いだと言い聞かせ、一心不乱に戦車を走らせる。

 

 

 

 

 

 

 戦場に向かう途中、血の臭いが酷く濃い場所があった。思わず鼻をつまみ、眉を顰める。

 臭いのする方へ顔を向けると、木々が赤黒く変色しているのが目に止まる。

 

「っ……なんだ、これっ?」

 

 赤黒いそれに対しての疑問ではなく、その向こう側────何人もの戦士達が山と積み重なり、森の緑が赤黒く染め上げられた景色に対しての言葉。

 殴られ、折られ、斬られ、穿たれ、抉られ、焼かれ。ありとあらゆる方法で痛め付けられ殺されたのが理解できる、人だったものら。

 加えて、装備を見るにアルスターの人間達だったのが伺えた。

 

 あまりに惨い現実に、僕は胃の中身を全て吐き出してしまう。

 

 そんな時、

 

 

 

「■■■■■■■────ッ!!」

 

 

 

 

 獣の如き『何か』の声が轟く。狂気という概念をそのまま声にしたような、不気味な叫び。それは慟哭のようでもあった。

 僕はそれをただ耳にしただけで心身の震えが止まらず、直ぐに離れたい衝動に駆られる。

 

「がァァァァァァ────ッ!?」

 

 と、声のした方向から男が吹き飛んで来る。男は大木に激突してから地に落ちるように倒れ、「おま、え……が、倒れるべ、き……なのに、よ……」と漏らして事切れた。

 

 あまりに突然過ぎる光景に動けずにいると、男が飛ばされて来た軌跡を辿るように、『何か』が近寄って来る。

 

 

 

 そこには『死』があった。

 

 

 

 何時ぞや見たクー・フーリンさんの『噛み砕く死牙の獣』だった。

 だが以前見た『噛み砕く死牙の獣』とは異なり、鎧に張り巡らせている赤い線は命を宿しているかのように脈動し、全身からは赤雷の如き光を発する黒い靄を放っていた。

 背を丸めた前傾姿勢で、身体を引き摺るような重い足取り。速さが特徴たるクー・フーリンさんとは違う。

 

 アレはクー・フーリンさんではない。決定的に中身が異なっている。僕の直感が確信を持って告げる。

 アレは『獣』だ。彼の姿をした『死』だ。『死』という側面を持った憤怒の化身だ。

 それを裏付けるように、忠犬もとい忠馬たるセングレンとマッハが敵意の籠った目をクー・フーリンさんに向けているではないか。

 

 あまりの変貌。得体の知れない様に僕の視線は釘付けとなり、足は縫い付けられたかのように不動。

 呆然とする僕を他所に、ソレは僕の眼前を悠然と通り過ぎ、先程事切れた男に近付いた途端、剛腕に備えた複数本の魔槍で男の死体を突き刺す。

 

 何度も、何度も、何度も何度も何度も。

 

「オマエは……何だ……」

 

「──────────」

 

 返答を求めた問いではなく、心の底から出た呟き。それは自分でもわかる程に恐怖に震えていた。

 対し『獣』は動きを止めてこちらを見るが、それ以上の反応はなく。

 『獣』はぎりぎり人型を保っていた、魔槍に突き刺さる死体を振り払う。死体は大木へと衝突すると同時に、生々しい水音を立てて肉塊にばらけた。

 

 血の飛沫と肉片が僕の手足に飛び散り、それが発する生温かさによって生じた気持ちの悪さに「ひっ!?」と情けない声を漏らしてしまう。

 思わず僕が視線を自身の手足にずらすと、それを見計らったかのように『獣』は草木を掻き分けて走り去ってしまった。

 

 数秒。或いは数分か。僕は戦車の上で腰を抜かしてへたり込み、『獣』が走り去った方向を見つめていた。

 際限なく恐怖が湧き上がり、それ以上の憤りに満たされる。アレはクー・フーリンさんの身体を奪って、何をした? 

 人を殺した。クー・フーリンさんが忌み嫌い、必死に避けようとした殺しを、何の躊躇いもなくやった。

 そしてそれに飽き足らず、既に命のない者を執拗に攻撃し、人であったと認識できない程に滅茶苦茶にした。

 

 ……止めなければいけない。どうにかして、アレを、僕が! 

 しかし、できるのだろうか。視界に収めているのみで恐怖を煽られるような、正真正銘の化け物に、僕が挑むなど。

 先程は襲われずに済んだが、次も無事だという保証はない。襲われれば間違いなく僕は死ぬ。それはもう呆気ないほどに。

 

 ……いや、できるかどうかではない。僕がやらねばならない。これは覚悟の問題だ。

 あぁ、そうだ。これは僕自身がそうすべきだと、そう感じたから……! 

 

「僕が……僕が止めるんだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セングレンとマッハを操り、『獣』が駆けて行った道を辿る。

 本来は道なき道なのだが、『獣』が通った道は容易に知れる。木々が荒々しくなぎ倒されていたからだ。

 

 これでは本物の獣ではないか。僅かな間に、クー・フーリンさんの身に一体何があったというのか。

 解を渇望する強い気持ち。それが胸中に渦巻いて不快感を催す。

 次第に戦場たる荒野へと近付いて行き、同時に幾つもの勇ましい雄叫びが耳に入ってくる。

 

 視界が開けた。

 

 目に入って来たのは、四肢を脱力させて虚空を見つめる『獣』と、それに向かって突撃して来るコノートの戦士の大軍。

 僕は巻き込まれまいとセングレンとマッハを制止させる。

 

「■■■■■■■■■────ッ!!」

 

 戦場に轟く狂気の声。次の瞬間、『獣』から煙のように放出されていた赤黒い靄が爆発し、大津波のようなそれがコノートの戦士達を飲み込む。

 

「っ、うおおっ!?」

 

「な、何だコイツぁ!?」

 

 攻撃の類か、と身を竦める戦士達だったが、しかし痛みも何もないのか、確認するように互いに負傷がないか見合う。

 

「っへ、んだよ驚かせやがって!」

 

「目くらましのつもりかよォ!」

 

 未だ自分達の周囲を漂う靄の中で、再び不敵な笑みを浮かべる戦士達。この靄が無害だと思い込んだからだった。

 

 だがそれを見ていた僕は、あの赤黒い靄から一刻も早く離れるよう叫びたかった。

 アレが何かはわからないが、死を振り撒く『獣』が無意味な行動などするはずがないから。

 

 

 

 瞬間────数人の戦士が爆ぜた。

 

 

 

「………………は?」

 

 この戦場に居る、もしくは見ている者の全員が同じ言葉を発しただろう。

 しかしそれも仕方がない。身体の内側から無数の槍が突き出して肉体が爆散するなど、誰が想像できようか。

 

「……ひっ、なん────」

 

 またも爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる。無差別にひとり、またひとりと。次々と槍が突き出して散り行く戦士達。

 それを見て、僕はようやく気が付く。あの緋色の槍は魔槍ゲイ・ボルクだ。そしてそれらは赤黒い靄によって形成されているようだった。

 原理は分からないが、差し詰め、靄を体内に潜り込ませてから魔槍に変質させているのだろう。……何と惨い技か。

 

 僕が気付いてから数秒後、やっと赤黒い靄の異常性を察したのか、靄から脱出する者が現れ始める。

 靄から抜けた戦士の一人が『獣』へと、仲間の仇と言わんばかりに己の得物たる槍を突き立てる。

 名のある狩人が射った矢の如く、素早く正確な一撃。強者であるのが伺えるそれは、並の戦士では抵抗を許さずに穿つであろう。

 

 だが、『獣』の前では圧倒的に力不足。

 

『獣』は己に迫っていた槍を、右剛腕で下から突き上げる要領で薙ぎ、木の枝でもへし折るように粉砕させる。

 想定外の事態に瞠目する戦士。その隙を逃すことなく『獣』は左剛腕の魔槍で戦士の腹部を突き刺し、そしてその勢いのまま殴り飛ばす。

 骨が折れ、血肉が散らされる音を伴い戦士が吹き飛ぶ。その速度は彼が靄を抜けてきた時のものよりも速かった。

 

 その戦士は靄を割って突き進み、その奥にて状況を伺っていた仲間達に衝突し、数十人を巻き込んだところでようやく止まる。

 即死、或いは意識を失っても可笑しくない攻撃を食らっていながら、奇跡的にもその戦士にはまだ息があった。故に仲間達が駆け寄り、

 

「ッ! お前っ、大丈────」

 

 直後、周囲を巻き込んで爆ぜた。血みどろの彼の全身から魔槍が射出され、周囲の仲間達を無差別に穿つ、穿つ、穿つ。

 幾人もの鮮血と断末魔が上がり、次々と地に伏して動かなくなる戦士達。更にその上にひとり、またひとりと折り重なっていく死屍累々。

 

 ……何て恐ろしい『獣』だ。たった一人を屠るに飽き足らず、屠った相手そのものを攻撃の手段として活用するなど。

 残虐にして冷酷、無慈悲。正しく獣のそれだ。

 

 近接戦闘では勝ち目が薄いと踏んでか、戦士達は赤黒い靄から抜けて後退し、弓矢や魔術による遠距離攻撃へと切り替える。

 

 確かにそれは正しいだろう。クー・フーリンさんの近距離における戦闘技能の高さは常人のそれを遥かに凌駕する。加えて『噛み砕く死牙の獣』によって攻防一体となっている。

 そしてそれを理性を失くした獣が振るうのならば……最早語るまでもない。

 

 弓に矢が番えられる。魔術が紡がれる。殺意と敵意に彩られた戦士達が、怨敵へと攻撃を放とうとした、その時、

 

 

 

「_―_ ̄_― ̄_──_──!!!!」

 

 

 

『獣』より発せられた狂乱の咆哮。獣の鳴き声、金切り声、慟哭、哄笑をひとつにしたような名状し難い叫び。

 

 僕はそれを、聞いた。聞いてしまった。

 

 途端に心身が恐怖に震え、頭の中身を直に掻き回されたかの如く思考が滅茶苦茶になる。

 動悸が激しくなる。頭痛が生じる。吐き気を催す。自分の意思とは関係なく歯を小刻みに鳴らしてしまう。

 それら全てが一度に押し寄せ、我慢できずに発狂する直前、僕が何のためにここに来たのかを思い出す。

 

 そうだ、僕はクー・フーリンさんを助けるためにここに来たんだ。自分自身の意思によって! 

 ここで僕が正気を失ってしまったのなら、一体どこの誰がクー・フーリンさんを助けるというのか……! 

 

 すると、押し寄せていたそれらが、不思議と治まる。

 ただ咆哮を聞いたのみであれ程になるなど。あれは何だったのか。いや、今考えても仕方がない。

 ようやく思考が正常に戻り、戦場へと視線を向けると、

 

「っ!」

 

 狂っていた。咆哮を耳にした戦士達の半分以上が狂っていたのだ。

 

 僕のそれとは大きく異なり、喚き散らして喉を掻きむしる者、見えない何かに怯えて武器を振り回す者、発狂しながら同士討ちをする者、更には自殺する者までもがいた。

 正気を保った、もしくは戻した少数が狂った仲間を止めようとするが、容赦なく殴られ、穿たれ、切り裂かれ。そうして、狂わなかった者達は痛みに震えて叫び出す。

 

 何だ、これは……単なる咆哮のみで、コノートの軍勢を崩壊させてしまうなど……ありえない……! あってはならない! 

 もし、僕もあのまま正気を取り戻していなかったのなら、同じように狂っていたのだろうか。

 

 ともすれば我が身だったという恐怖に冷や汗が流れたところで、『獣』が動き出す。

 クー・フーリンさんの身軽さとは反対に、一歩一歩を力強く踏みしめ、大地に足跡を刻み付ける悠然とした歩み。

 それと同時に赤黒い靄が大地を迸り、側から順々に戦士達を肉塊へと変貌させていく。

 

 不意に戦士達が密集している空中に、深淵の如き黒が幾つも出現したかと思えば、そこからは魔槍の穂先がびっしりと生えた触手が伸び、陸に打ち上げられた魚のようにそれぞれが暴れ散らす。

 触手は殴打した者の肉を裂き、抉り取っていく。また、即死できなかった戦士達の苦痛の叫びで喜んでいるように、嬲るように攻撃を加えていた。

 

 そうして『獣』がコノートの軍勢を縦断し終えれば、荒野であった大地は鮮血の湖と化し、屍の山が築かれた。正しく屍山血河。コノートの軍勢は全滅だった。

 アレが通った後には生命が残らない。人は肉片となって捨て置かれ、死後の尊厳も誇りも一切合切が蹂躙される。

 あらゆる生命に牙を突き立て、殲滅の限りを尽くして死を押し付け、人道も何も関係がない獣のように振る舞う────『死牙の獣』。

 

 アレはもっと多くの人を殺す。先程の戦闘を見ていて気が付いたが、『死牙の獣』は殺戮を楽しんでいるようだった。

 相手が仲間の仇であるコノートの戦士達であったからでは断じてない。そもそもクー・フーリンさんの自我は封じ込められているのだろう。アレは殺すことそのものを快楽として享受するような狂獣だ。クー・フーリンさんとは違う。

 

 今、『死牙の獣』は己が築き上げた血肉の大地に立ち、何かに浸る様に微動だにせず。

 だが次なる標的を見つけたのなら、或いは殺戮の場を求めて徘徊し始めたのなら、より多くの血が流れることになる。

 冗談などではなく、国がひとつ消えるかもしれない。理不尽な災害と同義なのだ、アレは。

 

「………………ッ!」

 

 突如として背筋に冷水を流し込まれたような感覚────殺気。

 咄嗟にセングレンとマッハに指示を飛ばして戦車を急発進させる。と、数瞬前まで僕が居た場所から、禍々しい触手が這い出した。

 

「なんっ────!?」

 

 奇跡的に回避することができたが、それで終わるはずもなく、次々と触手が這い出しては僕を絡め取ろうと蠢く。

 触手に捕まれば即殺。クー・フーリンさんを助けるどころか僕が殺されてしまう。

 僕の命を嬉嬉として狙いに来る触手が、前後左右あらゆる場所から這い出てくる。しかし僕は必死に回避に専念することで何とか命を繋ぐ。

 

 中々僕を仕留められないのに業を煮やしたのか、『死牙の獣』が不協和音の叫びを上げ、それに呼応して赤黒い靄が放出される。

 地を覆う大津波のような靄が幽幽と迫る、迫る、迫る。

 

「セングレン、マッハ……!」

 

 僕は手綱をしならせて二頭を全力で走らせる。暴れ馬として困らせていただけあって、その速力もまた力強い。追いつかんと迫る靄よりも二頭の速力の方が勝り、靄の追従を許さない! 

 だが触手は依然として蠢いているため、そこに追加された靄のおかげで回避の難易度が跳ね上がる。

 しかし捕まる訳にはいかない。故に全力で回避、回避、回避。

 

 唯一の僕の取り柄である御者としての力。それは、クー・フーリンさんが居なければ長所として認識できなかった。

 本当にそれは役に立つのか。極めれば武器と成り得るのか。そのように卑屈に陥り懐疑的になりもした。

 それがどうだ、殺戮の限りを尽くす『死牙の獣』相手でも十分に立ち回れるではないか。

 なるほど、と。これは確かに武器になる。一人では回避しかできないが、頼れる相棒と共に戦場を駆け回るのであれば、これは圧倒的だろう。

 

 一瞬でも気を緩めれば殺されてしまうだろうが、並列思考をすれば打開策を考えられる程度には、この猛攻にも慣れてきた。

 

 だが、クー・フーリンさんを戻すにはどうすればいいのだろうか。

 アレは躊躇いもなく殺しを行い、僕やセングレンとマッハ達にまで攻撃を加えてきた。そこから推察するに、クー・フーリンさんの自我は『死牙の獣』によって封じ込められているのだろう。

 ならば、クー・フーリンさんの自我を取り戻してさえすれば、きっと止まる。これに関しては確証はないし、ある種の賭けに等しい。

 ただ、それ以外に手段はないと思う。物理的にアレを止めるのは困難の極みであるし、それ以前に僕には不可能だからだ。勿論、他人に任せるというのも論外ではある。

 だからクー・フーリンさん自身に打ち勝ってもらわねばならない。難しいのはわかっている。何せ、外部から精神に干渉しようというのだ。簡単な訳がない。

 

 ……あぁ、結局、僕はどうすればいいのか。いくら御者としての才があるとしても、物理的な暴力には敵わない! 

 せっかく、クー・フーリンさんに気付かせてもらったというのに……。

 

 その時、暗雲立ち込める僕の思考に、一筋の光が差す。

 

 ……そうか……! クー・フーリンさんに気が付かせてもらったのだから、クー・フーリンさんにも……! 

 いや、これも賭けだ。自分の命を掛け金とした大博打だ。しかも限りなく薄い確率だ。だがやるからには死ぬ気はないし、それなりに賭けてみる価値はあると思う。

 

 そこには自己犠牲といった観念はなく、あるのは僕の道標を取り戻したいという、ある意味で我儘に等しい考えだけだ。

 クー・フーリンさんは僕に道を示してくれた。もし彼に出会わなければ、きっと僕は卑屈になったまま、腐り行くのみだったと思う。

 御者としてではあったが、彼と共に旅をし、彼に鍛えてもらい、神話の一頁に勝るとも劣らない彼の激戦を目にし、彼の師匠らがいる影の国へと赴いた。

 それらは僕にとってかけがえのない黄金色の経験だ。心の底から楽しんだし興奮もした。クー・フーリンさんに出会わなければ、絶対に経験することができなかったものばかりだった。

 彼にとっては何のこともない善意だったのかもしれないが、だとしても僕にとっては返し切れない大恩だ。それを少しでも返したい。これからも僕を導いて欲しい。

 そのためならば、僕は命を張れる! 命を賭けるだけの信念がある! 信念を突き通すだけの自分がある! 

 

「────二頭共、これから結構な無茶をするけど……頑張れるか!?」

 

「「────!!」」

 

 人の言葉を馬が理解するはずもない。だが心が伝わったのだろう。僕の問い掛けに対して返答するように声を荒らげるセングレンとマッハ。

 それは主を救わんとする勇猛さなのだろうが、僕には背を押されている気がした。

 

 そうだ。既に退路は絶たれている。ならば、後は突き進め! 後のことは考えず、今この瞬間を生きろ! 辿り着きたいモノに到達するまで進め、進め、進めッ……! 

 

 

 

 策の初手、戦車を方向転換させ『死牙の獣』へと突き進む。逃げの一手からの特攻紛いの突進、一転攻勢。

 しかし依然として触手や靄が追跡してきている。全神経を回避に割くのも怠らない。

 

 駆ける。背後から迫る軟体の腕と赤黒い靄。触手が蠢く度に発する粘性を持った水音が、耳元から聞こえる気がする程の距離感。けれど後ろを振り返っている余裕はない。

 

 駆ける、駆ける。正面からも伸びる触手を紙一重で躱し続け、接近する程に量が増す靄と靄の間を縫うような走行をする。眼前の事象を認識と同時に処理する反射神経にものを言わせる。

 

 駆ける、駆ける、駆ける。襲い来る攻撃の全てが苛烈さを増し、冷や汗が止まらない。心臓の鼓動があまりに激しいせいで煩く感じられる。この瞬間が人生で一番緊張していると同時に、最も集中力が研ぎ澄まされていると実感できる。

 

 時間にして数秒、それにしては余りに多い死線を掻い潜って辿り着いた『死牙の獣』の手前。

 僕の集中力や二頭の体力を考慮すれば、もう一度この瞬間を迎えるのは不可能だろう。失敗すれば僕は死に、クー・フーリンさんも元に戻らない。

 

 そう、好機はこの一度きり……! 

 

 握る手綱に力を込めて、弾く。それを合図にセングレンとマッハが速力を上げて一気に詰める────が、

 

「っ!!」

 

 瞬時にして四方八方の空間という空間から触手を覗かせ、轟ッ! と魔槍のそれと遜色ない鋭利な刺突を射出させる。

 明らかに僕のみを狙い撃ったものだった。

 戦車に乗ったままでは到底回避不可能なそれを前に、僕は即座に戦車から転がり降りる。と同時に耳障りな金属が奏でる破砕音。

 

 ────戦車が持っていかれた……! 

 

 全身の痛みを押し殺して顔を上げれば、案の定、戦車は木っ端微塵に粉砕されており、そこに蠢く無数の触手と抉れた地面がその威力を物語る。

 もし、あの時に身体が咄嗟に動かなければ、僕はどうなっていたのか。

 

 セングレンとマッハはというと、戦車が粉砕された際に金具や手綱も引き千切れたことで自由の身となっていた。

 だというのに二頭は逃げるでもなく、僕の元へと駆け寄っては顔を強く押し付け、僕が立ち上がるのを促す。

 セングレンも、マッハも、クー・フーリンさんを元に戻してやりたいのだ。

 

「……そうだね、まだ、止まってられないよね……!」

 

 セングレンに寄りかかるように立ち上がる。そしてセングレンの身体に残った金具の残骸に足を掛け、その背に乗る。

 鞍がない分、不安定に過ぎるが、贅沢は言っていられない。あらゆるものを利用して、足掻け、勝て! 

 

「後少し……! 頑張ってくれっ……!」

 

「「────!!」」

 

 前脚を高く上げて嘶くセングレン、そして勇んだ勢いを体現するかの如く走り出す。その直ぐ後ろをマッハが追従する。

 対する『死牙の獣』は、相も変わらず僕のみを狙って触手を射出する。僕から見て、左右の空間から斜めの軌道で狙った攻撃。直進させまいという意図が感じられるものだった。

 

 だが、セングレンに跨ったままでは回避が不可能な攻撃だ。左右から伸びているのだから、どちらかに曲がっても穿たれ、速度を加えて突っ切ようものならば確実に背に乗る僕のみが肉片と化す。

 

 回避不能な攻撃────故に、

 

「マッハ……!」

 

 僕はマッハの名を叫んでからセングレンの背を足場に後方へ跳び、セングレンが交差された触手を無事に通り過ぎたのを見届ける。

 その後、僕は無様に地べたに落下────することはなく、待ち構えていたように滑り込んで来たマッハの背に降り、マッハの身体にもまた残っている金具の残骸に掴まる。

 

 芸も指示も仕込んでいないが、咄嗟の連携を見事にやってのける。種は違えど行動の目的は同じだからこそ、言わずして通じたのだ。おかげで減速することなく『死牙の獣』へと突き進むことができた。

 

 それ以降も続く、否、より激しくなった猛攻に対し、僕は二頭の背に飛び移っては紙一重で躱すのを繰り返す。

 以前の僕ならば到底できないであろう縦横無尽の動きを、この局面、しかも土壇場でやっているという事実に、僕自身が驚愕していた。

 

 そうして、遂に『死牙の獣』の眼前へと辿り着き、僕自身の全身全霊を賭した一条の光に託────

 

「────なっ……!?」

 

 刹那、景色が緋色に染まった。

 視界を埋め尽くす魔槍、魔槍、魔槍。また目に収まっているのが全てではなく、背後にまで展開されているのがわかる。

 無数の場面を瞬間的に思い浮かべ、それらの対応を想定していたが、これはその外の事態だった。故に思考が真っ白になる。

 

 この靄は何処から……地面から噴き出したのか? ……そうか、触手に気を取られている間に地面に潜り込ませていたのか。

 振り返れば、確かに触手による攻撃のみで、この靄は全くと言っていい程に使っていなかった。疑う余裕はなかった。

 ……見誤った。滾る殺意に任せた理性なき暴力。そんな存在だからこそ、知略は回らないものだと思い込んでいた……! 

 

 景色が異様な程ゆっくりと過ぎる感覚。

 

 変質させられた魔槍は今正に僕を穿たんと迫り、緋色の格子の奥では『死牙の獣』がほくそ笑むように僕へ視線を投げ付ける。

 頭の中では、これまで経験してきた全てが矢継ぎ早に思い起こされていた。所謂、走馬灯というやつなのだろう。

 

 ふと過ぎる、無理難題だと思っていた海獣らの討伐。それは神話の戦いそのものだった。想像を絶する攻防の応酬。洗練された技の数々は、その道を極めた末に習得できるようなものばかり。

 そういえば、あの時クー・フーリンさんは如何にしてクリードとコインヘンを屠ったのだったか。

 

 自然と、僕は脳裏に焼き付いたあの動き────転移ができる魔術は修めていないため、完全に真似るのは無理だが────を模していた。

 マッハの背から跳ぶ、飛ぶ、翔ぶ。僕の身は魔槍の壁を容易に越えた。その際、壁と『死牙の獣』の視線とが重なる所で不可視の魔術を行使する。

 刹那の、更なる刹那。思考すら超越した反射の世界。そこで僕がやったことを『死牙の獣』から見れば、確実に仕留められる攻撃を仕掛けたというのに、敵が無駄な足掻きとして宙に跳び上がったと同時に何故か姿が掻き消えた、と映るだろう。

 

 あの時、クー・フーリンさんがやったように、だ。

 

 不可視の魔術は姿を消すのみで、音や匂い、気配までもは消すことは不可能。故に魔獣などには効果が薄い。

 あの『死牙の獣』のことだ、少しすれば直ぐに気が付き、即座に対処してくるはず。

 

 だが、この局面において『少し』というのは致命的な隙になる。ひとつ以上の動作を許してしまうからだ。増して、それが戦いの決め手となるなら尚更……! 

 

 完全に不意を打たれたカタチになった『死牙の獣』は、視界から突如として僕が消えたため動きが止まっていた。

 隙の塊となった『死牙の獣』に対し、僕は空中から思い切り体当たりをぶち当てる! 

 

「うぐっ!」

 

「────ッ!?」

 

 落下の勢いも加味したそれは、過重な図体の『死牙の獣』を地面に倒すのに足りた。不可視になっていたことで受ける姿勢をつくらせなかったのも大きい。

 

 不可視が解除される。

 

 さながら岩が落下したような轟音を伴って倒れる『死牙の獣』。それを視認した僕は、ふらつくのを我慢しつつ駆け出し、地面に転がるコノート製の槍を一条手に取った。

 そして『死牙の獣』へと跨り、両手で持った槍で首を穿つ────

 

「────────ッ?」

 

 ────寸前で止める。

 

 兜に刻まれた深紅の線で僕を見つめる『死牙の獣』。その目は何故刺さない、何故殺そうとしない、と訴えていた。

 あぁ、そうだな。殺意の権化のようなお前には理解できないだろう。殺さないことへの葛藤が。殺すことの重みが。何ひとつとして! 

 

 戦いこそが生きる意味という風潮が濃いケルトの地にて、不殺を掲げるのはどれだけ熾烈極まる道のりなのか、想像に容易い。

 そのような環境で、人を殺める術を己を高めるために身に付け、武功を立てて英雄となるではなく地道且つ的確に人のために力を振るい、己を壊してでも殺すことを回避しようと奮闘する。

 改めて考えてみれば時代錯誤も甚だしい。そうとわかっていても、その道は自身が辿るべきだと定めたのだ。弛まぬ努力を積み重ねて来たのが、彼なのだ。

 

 そんな彼だからこそ……クー・フーリンさんだからこそ! 僕は貴方に魅せられた、憧れた。自ら共に行くことを望んだし、こうして命まで賭けられたのだ! 

 

「殺したくない。だから、僕は殺さない。クー・フーリンさん……貴方がそうしてきたように……!」

 

 だから、帰ってきてほしい。そのような獣性に飲まれる貴方は見ていたくない! 

 

「■■■■────ッ!!?」

 

 と、疑念を抱いて静観していた『死牙の獣』に変化が訪れた。

 獣の唸り声のような重低音を漏らし始め、何かに悶え苦しみだしたのだ。己の内側から出てこようとする何かを、力ずくで抑え込もうとしている。

 

「■■────r……g……〜〜〜〜ッ!」

 

 きっと、クー・フーリンさんが戦っているのだ! 滾る獣性と! 

 

「負けないでください……! 頑張れ、頑張れ!」

 

 苦しむクー・フーリンさんを見ても、僕は応援することしかできない。馬乗りのまま、握る槍に自然と力が篭もる。

 

 無数の触手が這い出て来ては地をのたうち回り、赤黒い靄も魔槍に変質しては消えるのを繰り返している。

 使い手が苦しみを受けて制御ができていないようで、そしてそれはクー・フーリンさんが抗っている証拠でもあった。

 

 一撃一撃が必殺の威力を持った鏖殺の応酬。そのようなものが暴走状態にある故に、

 

「え」

 

 僕の頭上に荒れ狂う触手が出現したとしても不思議ではない。そして、それに巻き込まれて死んだとしても。

 無防備にして不意。回避する暇はなく、受身を取ろうにも直撃すればほぼ即死。

 

 死が迫る。僕は諦めと共に目を瞑り、身を強ばらせた。

 そして間もなく衝撃が僕を襲い、しかし不思議と痛みがない。何故だ、直撃したのではないのか? 

 恐る恐る目を開けてみれば、僕は『死牙の獣』に抱き寄せられて腕の中におり、迫っていた触手は薙ぎ払われていた。

 

「っ、クー・フーリン……さん?」

 

 顔を上げて問い掛けてみれば、禍々しい闘気を纏っていた『獣』の姿はなく。

 

「…………レーグ」

 

 獣の唸り声とは違う、しっかりとした言葉を紡ぐ彼があった。

 

 

 ◆

 

 

 暴れ散らしていた触手や靄は姿を消し、クー・フーリンさんは『噛み砕く死牙の獣』を解除する。

 

「………………」

 

 そして、屍山血河と化した荒野を見渡す。それは酷く沈痛な面持ちで、見ているこちらがいたたまれない気持ちになる程だった。

 

「これは……俺がやった、のか」

 

 クー・フーリンさんの、消え入りそうな嘆き。らしくもない、震えた声色だった。

『死牙の獣』に身体を奪われていた時の記憶はないのだろう。だが記憶はなくとも、手に残る生々しい感覚は拭えない。

 だから信じられない。コノートの戦士達を殺し尽くしたのが、自分自身であることを。

 

 そう、目が物語っていた。

 

「俺は、ただ、誰にも死んでほしくなかっただけだった。……っつうのに、何だこの体たらくはよ。無理難題な志を掲げておきながら、中途半端な覚悟のままで……戦士の在り方ってヤツを見せられて、揺らいで……挙句に仲間達まで死なせちまって……」

 

 渋面するクー・フーリンさんは、罪人が自白するように言葉を連ねる。

 

「アイツらを殺した張本人が俺の目の前にいた時……心底『殺してえ』って思った。ハッ、笑えるだろ? 散々殺したかねえってダダこねてた癖に、殺意に駆られて殺そうとして……アレに主導権を奪われて……いや、本当は何処かで『任せればコイツらを殺せる』って、受け入れちまってたのかもしれねえな……」

 

 あまりに多くの命を奪った己の腕に視線を向けたクー・フーリンさんは、僅かに震えていた。

 

「……俺は、誰かにとっての大切な相手を奪っちまった。それを身体だけが覚えてるっつう事実が尚のこと恐ろしい……俺は、俺はどうすりゃあいいんだ……」

 

 血に塗れてしまった不殺の信念。本人の意思ではなく、その身体を使われた結果として築かれた死屍累々。今正に、クー・フーリンさんの中の信念が崩れ去ろうとしていた。

 それはいけない。信念がなければ最早クー・フーリンさんは『クー・フーリン』として生きていけない。失意のまま生きるなど、虚無感と喪失感の狭間で朽ちるのみだ。

 

「……どうするも、こうするも、それはクー・フーリンさんがしたいように、ですよ」

 

 僕が腐りそうだった時、救い上げてくれたように。僕などでは役者不足だろうが、それでも、今度は僕がクー・フーリンさんを引き揚げる番だ。

 

「彼らは戦士でした。戦いに生き、戦いに死ぬ生粋の戦士達。戦場に立ち、殺し殺されを許容した者達です。そのような彼らの前に対峙したのなら、僕のような力も覚悟もない人間であっても、戦士という一単位に過ぎないのでしょう。そこに申し訳ないといった感情を持ち込むのは、きっと、彼らは望んでいません」

 

 戦士というのは、何も戦う力のみではない。そう教えてくれた。確かに、戦わずしても戦士足り得る。

 だがそれとは別に、戦場という場所に立ったのなら、それは誰であろうと戦士となる。そこへ足を着けたのなら、戦士として戦い、名誉の勝利や誇りある戦死を得るべきなのだろう。

 

「命を奪うことは何よりも重い、忌むべき行為で、殺しが罪だと言うのなら、それ以上を救えばいいと思います。奪った命は戻りはしないですけど、それでも、これから助かる命はあります……貴方が手を差し伸べることによって」

 

 罪は帳消しにはならないし、単なる自己満足に過ぎないのかもしれない。だからと言って何もしなければ、罪悪感から心に淀みが生じ、またもあのようなことに繋がってしまう。

 けれどそれは、救い続けることで罪悪感から逃れるという円環にも姿を変える。それはそれで救いがない。非常に難しいことだ。

 

「……俺が……救う……?」

 

「ええ、そうです。殺しが許せないのなら、貴方の不殺を貫いて魅せればいい。殺さずして勝利を掴む、その姿を。それは過酷極まる旅路となるでしょう。でも、貴方がそれを貫くことで、戦場で落とす命も減ると思います」

 

 だから、クー・フーリンさんの信念が重要なのだ。

 

 理解はされず拒絶・否定の連続、壁は高く数も多く、幾度となく挫折と後悔に見舞われるであろう、艱難辛苦の道。

 だからこそ耐えて乗り越えるために、確固たる考えや価値観に基づいた信念がなければならない。なければ到底歩めないからだ。

 

「……けどよ、俺がそんなモンを貫こうとしたばっかりに、この惨状なんだぜ? 俺には荷が重かったんだよ……」

 

「ええ、そうですね。到底背負いきれない程の重圧ですよね────一人でなら」

 

「………………あ?」

 

「一人で背負いきれないなら、僕らを頼ってください! クー・フーリンさんを慕う人はとても、とても多いんですよ。スカサハさん、アイフェさん、エメルさん、コンホヴォル王やアルスターの皆さん、もちろん僕も!」

 

 僕はクー・フーリンさんに詰め寄り、目を見つめて力強く言葉にする。

 

「だから、クー・フーリンさんはクー・フーリンさんがやりたいようにすればいいんです。貴方はこれまで多過ぎる程の人達の助けとなり、夢を与えて来たんです。そんな貴方のためなら、皆努力を惜しみませんよ」

 

 たった一人で過酷な信念を抱き、多くの人達に救いの手を差し伸べてきた。僕にもだ。一方で、それに従ったことでどれ程の苦悩があったのだろうか。

 信念に従って人を助け続け、英雄と囃し立てられ、戦うことを余儀なくされ、それでもと不殺を貫こうとした。

 

 戦場での姿はさぞ滑稽に見えただろう。

 腑抜けの愚者にも見えただろう。

 侮辱と取った者もいただろう。

 

 しかし僕にとって、クー・フーリンさんの戦う姿は、決して滑稽にも愚者にも侮辱にも見えず、己の信念を貫かんとした英雄として映った。

 クー・フーリンという一人の男が、見ず知らずの人の死を疎んで必死に戦った勇姿は、僕の目に、頭に焼き付いている。

 

「貴方は既に十分、英雄と呼ぶに相応しい人ですよ。これからもそう在ろうとなかろうと、僕はクー・フーリンさんに着いて行きます。何せ、僕にとっての英雄はクー・フーリンさん以外に有り得ませんから」

 

「………………」

 

 光が消失していた目を閉じ、俯くクー・フーリンさん。その胸中には非常に濃密で混沌とした感情が渦巻いているのだろう。それらをひとつひとつ整理しているようだった。

 

「……お前、俺のこと全力で持ち上げるよな」

 

 ややあって、そう口にした彼は、自嘲めいた苦笑を浮かべながら目を開いた。その目は紅玉髄のようだった。

 

「いえ! そんなことありませんよ。僕は僕が正しいと思ったことを口にしたまでですし、間違っていると思ったのなら、否定もしますし止めもしますよ」

 

「……そうかい……」

 

 と、クー・フーリンさんは血肉の荒野を見渡し、己に刻み付けるように目は瞬かせない。

 無言。されど紅い瞳には怒りや悲しみが同居しているように見えた。

 

 しばらくして、彼は己の手へと視線を落とし、握り拳をつくる。

 

「……俺は、俺はもう殺しをしたくない。だから、クー・フーリン……いや、俺はここに誓う。俺は人は殺さない。殺すとすれば、それは人を護るため、巨悪を討ち滅ぼすために力を振るうと」

 

 天を仰ぎ、高々と空へ発したクー・フーリンさんの決意。

 それに従えば、彼には数多の苦難がもたらされるだろう。だが成し遂げれば、常人では成しえない大業となる。それこそ、英雄のそれだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あっ」

 

「って、おい!」

 

 極度の緊張と集中の代償か、僕の足腰は完全に脱力してしまい、倒れ込むように腰を落としてしまった。

 

「あ、あはは……すみません」

 

 羞恥に顔が赤らむのを感じつつ、僕に伸ばされた手を取る。と、背後から駆け寄ってくる蹄の音。

 

「セングレン、マッハ! 無事でよかった」

 

「「────!!」」

 

 暴れ馬として手が付けられなかった二頭だったが、主を救ったことへの感謝からか、僕の側に寄り添うように立ち、顔を押し付けてくる。

 心を開いてくれたのだろうか。だとするならば、御者冥利に尽きるというものだ。

 

 たわいない会話の風景。それによって、クー・フーリンさんが戻って来たのを実感する。

 けれど、これからが大変だろう。未だ終戦とはならぬ今回の争い、戦後の処理、クー・フーリンさんの心の在り方、そして信念を貫くための過酷な道。

 だとしても、彼が折れそうな時、挫けそうな時は僕が全力で支えてみせよう。支えられなかったのなら、共に堕ちてみせよう。地の底に落下したとしても、一人よりは二人。それなら再び登り詰めることだって叶うはずだ。

 

 何せ、僕はクー・フーリンさんの友なのだから。

 

「……とりあえず、ここにいてもなんだ。一旦戻るか」

 

「はい! ……あ、でも戦車は壊れてしまったので、帰りは乗馬でお願いしますね」

 

「……なんつうか、すまねえな」

 

 それぞれ二頭に跨って駆ける。そんな姿に声援を送るように、或いは祝福するかのように、降り注ぐ陽光が僕達を照らしていた。

 

 

 

 ◆




◆補足

Q.『死牙の獣』を止めるのはレーグ君以外でもいけたんやない?
A.無理だと思います。ケルト的思考の持ち主ならば、殺されそうなのだから殺すしかない、狂っているのなら殺してやるのが優しさ、という思考を下すことでしょう。ですが、この時代にそぐわぬ非力な者ならば。(偽)のことを理解しようと努めた彼ならば。

Q.コノート側に強い人とかおらんかったん?
A.いました。クラン・カラティンの何人かとか。ですが『死牙の獣』の前には塵芥も同然なので、描写することなく滅殺されました(白目)。閑話か何かで出るんやない?(適当)

Q.何で後半からレーグ君タゲ集中されてんの?
A.『死牙の獣』がレーグ君を致命的な何かに値する脅威と認めたから。

Q.こっからシリアル路線に戻せんの?
A.これもうわかんねぇな(思考放棄)。ただ(偽)の内面は脊椎反射トークにするつもりですが、やっぱり真面目(ハハァ‥)路線は外せないですねぇ。

Q.いつまでケルト・アルスターサイクル編やるん?
A.(偽)が死ぬまで(クソ外道)。ただストーリーの進行状況的に、もう終盤が近いです、とだけ。

Q.さすがに(偽)の立ち直り早くなーい?
A.それは思う(おい)。でもズルズル引き摺るよりかは、さぱっと描写した方がいいかなーなんて(言い訳)。真面目な話をすれば、まだ(偽)は殺してしまった現実を噛み砕けてはいません。しかしレーグ君の言葉が蜘蛛の糸となって、心が壊れる前に生還することができました。要するにこれからですね。

Q.これでレーグ君才能ないとかうせやろ?
A.周りに凄い人が多過ぎるだけやで。レーグ君もケルトに生きた英雄。これ忘れちゃいかんね。

Q.どっちが英雄かわかんねぇな。
A.どっちも。今回までのタイトルである「英雄の友」は、互いのことを示しているつもりです。


  ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。投稿が遅くなってしまい申し訳ありません(こいつ毎回初手謝罪してんな)。最近外泊が多く、あまり時間が取れない中でプリコネ(始めたばっか)やらアイスボーンやらをやっていたので、そのせいで遅くなってしまいました。いいだろ好きなことやってても赤ちゃんなんだから(豹変)。
 ともかく今回でレーグ君視点は完結です。いやぁ長かった!真面目な文章書きすぎて次から脊椎反射トークを垂れ流せるかどうか怪しいレベル()。レーグ君は、英雄願望を持ちつつも力がないことに絶望し、しかし(偽)という道標と出会うことで卑屈になって腐るのを回避、英雄の真実を知り(偽)の理解者として彼を支え、その後は(偽)の相棒として共に英雄譚を描くことを目指すようになりました。はい、文面でわかる圧倒的徹底的絶対的ヒロインですねクォレハ……(諦観)。あ、でもヒロインズはしっかり活躍させますんでお待ちを(お慈悲^〜)。
 実はこのレーグ君、当初の構想ではFate/GO編での登場は全く考えていませんでした。とりあえず(偽)の相棒として活躍させ、奴を暴走状態から元に戻すためだけにキャラを考えて登場させたのですが、想像以上に読者兄貴姉貴達からの人気が高く、加えて設定を考えていく内に「勿体ない」感が出てきてしまったために、Fate/GO編での登場が確定しました。はえー、この無計画(今更)。

 次回はようやっと(偽)視点に戻れるかと思います。そろそろこの戦争も終わらせないといけませんしね。設定やストーリーは齟齬がないよう努めていますが、それでも違和感が拭えない場面が多くなると思われます。なので「更新しろ頃すぞ」「興<遅かったじゃないか…」「お前で28人目…」「あの世で俺にわび続けろ」「ハッ〇ン場♂BIG BOXへようこそ!」「お前を頃す(グリリバ)」「あくしろよ あくあくしろよ あくしろよ」といった気持ちで見てくだされば幸いです。






















 武田信玄討死にシリーズもっと流行れとか熱く語ろうかと思ってたけど、これ書いてる時点でブームがほぼ去ってて草。


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一騎打ち、好敵手

 
 台風大丈夫でしたか。私の住んでいるところはレベル4で済んだのですが、翌日ニュースを見て、あまりの被害の多さと大きさに戦慄しました。私にはどうすることもできませんが、少しでもこのようなクソ小説で笑顔を届けられればと思います。


 ◆

 

 

 

 やってしまった。あれ程に避けようとしていた殺しを。これまで不殺を貫いていたというのに、結局は一時の衝動に飲まれてこのザマだ。

 

 それで折れそうになった時、レーグ君が俺を励ましてくれた。

 貴方は僕の英雄だ、とかさ……これアレだ。救いがない惨状に絶望したケリィが、士郎くん見つけて救ったのに救われた気持ちになったやつ。それに近いと思う。

 

 ただ、俺が救われるのみでは、ここで死んでいった皆に顔向けができない。

 ということで、俺はケツイに満ち溢れて不殺を貫き通す覚悟を決めた。それは修羅の道だろうが、今更だ。

 

 ……それに、俺が人の命を奪ってしまったという事実が、未だ受け止めきれない。

 これは戦争で、時代も時代なのだから、死人が出るのは言わずもがな。だが、それはそれとして人が死ぬのは冗談じゃないと思う。

 そういった倫理観を有しているからこそ、俺は自分がやったことが恐ろしい。そしてそれ以上に、俺がそれに縋り続けたばっかりに死人が増えてしまったことに、いくら後悔しても足りない。足りてはいけない。

 

 今すぐそれを噛み砕き、飲み込み、消化するというのは……難しい。しかし、次に同じようなことに直面したのなら、今度こそは身を切って信念を実現させてみせる。

 これは紛うことなき我儘で、単なるエゴに過ぎない。そうわかっていながら、俺はその道を進む他ない。何せ、俺がそうしたいと思ったからだ。

 

 そこまで考えて、ふと、「アレ、これクー・フーリンと全然違うじゃん」と気が付く。

 兄貴みたくさぱっと人殺せないし、そもそも聖杯戦争に呼ばれるような「より強き者との戦いに興じたい」という願いもない。

 ……マズイ。非常にマズイ……! これは聖杯戦争に喚ばれない可能性が……だが、もしこのまま死後にstaynightに呼ばれてみろ、士郎くん殺せないから話始まんないやんけ! どのルートでも死ぬのは全然OKなんですけどね! 

 頑張って本家兄貴ロールするか……? いやッ、それが無理だから今みてえな本家とオルタを掛け合わせた謎仕様になっているんじゃねえか! 

 

 あれ、コレ詰んでね? 

 

 ……あ、そういえば、レーグ君はどうやって俺のことを元に戻してくれたのだろうか(現実逃避)。

 そう思って聞いてみれば、何と言うか……お前ホントに御者? と疑いたくなるレベルに頑張ってくれたことが判明。

 

 ……やっぱすげぇよ、レーグは。

 

 は? 英雄の友だから当たり前? (英雄は)お前じゃい! 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 一旦アルスターへと帰国した俺達を迎えたのは、コンホヴォル王とエメルだった。

 

「おぉ、クー・フーリ「クー! 怪我はないッ!? 貴方が苦戦したって聞いたから、私いても立ってもいられなかったんですよ! だから言ったじゃない! 一人で戦いに行くなんて無茶だって!」」

 

 そう言って涙ながらに詰め寄って来るエメル。今回はエメルの言葉が一理あるどころか百理あるから何も言えねえ……。

 でもなエメルさんや、仮にも王様の言葉やぞ。遮るのは如何なモンかと思うぞ。

 ほら見ろ、コンホヴォル王の渋い顔。道で正面から来る人と左右どっちに避けるかで譲り合いが発生した時みたいな顔してやがる。

 

 エメルを落ち着かせてから、俺とレーグ君で戦況の報告をした。

 アルスターとコノートの戦士達は互いが全滅。生存者は俺達のみ。

 その実、アルスターの皆を死なせてしまったのは俺のせいで、コノートを全滅させたのもまた俺であると告げ、それを説明する過程で不殺についても語った。

 

 幻滅、失望、軽蔑────されて当然。それに相当する信念を抱いているし、戦犯と罵られても否定できない結果を持って帰ってきたのだから。

 

 緊張を以て語り終えたところで、清聴していたコンホヴォル王は目を閉じ、

 

「………………そうか」

 

 深々と息を吐き、沈黙する。コンホヴォル王の胸中に湧く感情は侮蔑か、それとも嘲弄か。そうでなくとも悪感情なのは相違ないだろう。

 

「一先ず、だ。クー・フーリンよ、今は休息を取ると良い」

 

 耳を疑う。思わず、何故と口に出た。今の俺の顔は実に滑稽だろうと自覚できる。

 

「……多少なりとも理解が及ばん部分はある。だが、今のお前は盲目的に理想を追い求める愚者ではなく、現実を知り、覚悟を持った戦士のそれだ。私は王であるが故、眼はあると自負している。それに従ったまでよ」

 

 薄く目を開き、俺を見据えるコンホヴォル王は、一呼吸入れてから話を続ける。

 

「騎士団の皆は戦士だ。勇猛果敢に強者と矛を交え、生殺与奪の権を己の力に委ねた生粋の戦士達。彼らは戦場で生き、逝く。それこそが華。散るのもまた名誉なのだ。そこに怨嗟は介在せず、あるのは己を屠った敵への賞賛と一抹の充足感、後は力及ばず敗北となった結果を出した自身への悔やみか」

 

 レーグ君にも似たようなことを言われた。やはり、ケルトにおける死生観はそのようなものなのだろう。

 だが、だからといって彼らの死を自然の摂理のように受け入れて、流してしまうのは無理な話だった。

 

 そのような思考が顔に映し出されていたのか、コンホヴォル王は威厳を湛えた眼で俺を射抜く。

 

「戦友の死を悼むのはいい。だがな、騎士団に出撃の命令を下したは私だ。好きにやらせたのも私だ。お前ではない。それでも尚、彼らの死が己の責であると宣うのなら、それはお前の傲慢であり、戦士の矜持に対する侮辱だ」

 

 初めて向けられる、コンホヴォル王の為政者としての眼差し。射殺さんとする双眸に見つめられたことで、俺の心は底冷えした。

 

「自責の念に囚われるのは勝手だが、それを他者に振り撒き、押し付けるな」

 

 レ〇ンだ? 貴様この野郎、みたいな感じに凄んだコンホヴォル王は、いつものやらかしおじさんな雰囲気が死に絶え、覗かせるは圧倒的な国王のそれ。

 コンホヴォル王の様変わりに愕然とする俺に、彼は歩み寄り、手を伸ばせば触れる距離まで近付いたところで、表情と共に雰囲気を柔らかくする。

 

「そう悩まずともよかろう。若者は振り返らず、猛進すればよい。周囲に存分に迷惑を掛け、周囲を巻き込みながら存分に暴走する。それができるのは青い内だけだ。そうして己が築き上げてきた道を振り返るのは、勢いが衰えたところで幾らでもできる」

 

 俺の肩へと手を置き、続けるコンホヴォル王。パパみが凄い。

 

「当然、失敗も挫折もある。時には耐え切れずに逃げ出すこともあるだろう。だが、それも含めての歩み、成長の過程だ。その過程で生じた汚点は我ら大人が何とかしてみせる故な、難しいことを考えず、思うままにやってみればよい」

 

 甘やかしのようにも聞こえるが、これこそがコンホヴォル王の方針なのだろう。

 為政者としての優秀な指揮能力はもちろんのこと、それ以上に個々の意思や能力を尊重し、部下を信頼して任せる。また、それを部下達も理解しているからこそ、期待に応えようと死力を尽くせる。

 

「……ただ、今回の犠牲に多少の責任を感じているのであれば、それに苦悩してばかりいるのではなく、受け入れて糧とせよ。そしてお前の信念とやらを貫いてみせよ。それこそがお前の決めた償いなのだろう?」

 

 口角を上げて不敵な笑みを浮かべて締めくくる。イケオジやな(確信)。

 それに対して、俺が罪悪感を忘れることはないが、それを原動力にして悔いのない選択と結果を出してみせると口にすれば、親愛を思わせる微笑みを浮かべ、「ならばよい」と言ってクールに去るコンホヴォル王。

 

 それと入れ替わるように、にこやかな笑みを浮かべたエメルが近くに寄ってくる。珍しくハイライト先生がご健在の狂気成分控えめだ。

 

「私もいくつか言いたいことがあったのですが……ふふ、今のクーの様子を見れば、その必要もなさそうですね」

 

 そっかぁ。何時も「愛! 邪視! 《コンプライアンス》!」なエメルにも心配掛けてたのか。 肝を冷やされている側ではあるが、この時ばかりは申し訳なさが募るばかり。

 

「……ですが、もうやめてくださいね。今回は事が事だけに仕方ありませんでしたが、貴方が私の手の届かないところで苦しむのは、とても……とてもここが痛みます……」

 

 胸に手を当て、眉をハの字にした悲しみ混じりの笑みを見せるエメル。

 

「ですから、『次』なんてことはないようにお願いしますね?」

 

 病みモードではないせいか、純真100%で向けられるそれに心臓がヒートアップ。やっぱ美人なんだなって思いました(小並)。

 女性の悲しむ顔は見たくない。そう思ったからか、俺は無意識の内にエメルの頭を撫でていた。これはきっと、兄貴の器がそう動いているのかもしれないな。

 

「────っ、はふぅ……」

 

 頭頂部に手が触れるとエメルは身体をびくつかせ、撫で始めると完全に心を許した愛玩動物そのもの。ちょっと楽しくなってきた。うりうり、ここがええんかぁ? 

 

「あぁ、いけません……これ以上は……ぅぅ」

 

 恥ずかしそうに身を悶えさせ、シャ〇もニッコリな真紅に顔を染めあげた顔を見られまいと俯かせる。

 何この可愛い生き物。え、病み成分がなくなると、こんなになんの? 不覚にも心臓がトゥンク……したわ。

 

 瞬間、背筋が凍てつく恐怖。飢餓状態の肉食獣の大口が眼前に迫っているかのような、生命の危機を強く感じる。

 

 俺はこれを知っている……! というか、知らなくとも眼前から発せられているとわかる……! 

 

 エメルの頭を撫でていた俺の腕が、神速を持ってして掴まれる。もちろんエメルにだ。

 そして掴んだ腕を己の顔まで寄せ、頬擦り。その時に絡み合った視線もとい目に浮かぶは淀みと狂気と情欲を煮詰めた混沌。

 

「────んふふ、クーを慰めるためだと言い聞かせて我慢していましたが……なるほど、やはり人肌が恋しいということなのですね……!」

 

 アッー! やめて来ないでしがみつかないで俺が悪かったッ! ここ往来! 時間と場所を弁えなヨー!(手遅れ)

 

「人目など何のその! むしろ見せ付けてやりましょう! 私達がどれだけ相思相愛なのかをっ!」

 

 ヤメッ、ヤメロー! 露出性癖は持ち合わせてねえんだよ巫山戯んなッ! ってかコイツ力強いな! 兄貴の筋力Bを捩じ伏せるとか怪力ってレベルじゃねーぞ!(ベルジャネーゾ卿)

 

 あのねぇ! 俺だってヘタレとうない! でも神話上でのクー・フーリンが誰とくっついたとか知らんから手が出せないんよ! 

 明らかに逸般人なエメルは主要人物かもだけど何した人かわからんし、師範は師匠の妹ってくらいしか知らんし、師匠とメイヴに限ってはクー・フーリンと男女の関係じゃなかったろ! 好きなキャラな故に俺なんかが手を出すなんて禁忌だろコレ……。

 

 だからエメルさんや! 来世でッ、来世で会えたらその時は何でもするからさぁ! 俺を押し倒すな、しなだれかかるなァ!? 

 

 

 

 

 

 

 因みに、往来で繰り広げられたこの取っ組み合いを、唯一無二のメシアたるレーグ君は満面の笑みで見守っていた。

 バスターコールをしてみたが「いやぁ、クー・フーリンさんは好かれてますねぇ」とだけ言い残し、セングレンとマッハを連れ、レーグ君は馬小屋へと姿を消した。

 

 

 

 ちきしょうめぇ!(自業自得)

 

 

 

 ◆

 

 

 

 エメルの抱き枕(理性EX)になることでギリギリ丸く収め、無事(?)翌日を迎えた俺。

 その過程である種の悟りを開いていた俺は、おセンチな気分になりつつ「俺、何してんだろうなぁ」と自分を見直していた。

 

 皆が俺に優しくしてくれる。慰めようとしてくれる。或いは成長するようにと促してくれる。それを受けて惨めな気持ちにもなりはしたが、遥かに凌駕する量の感謝の念が胸の内を温かくしてくれた。

 そして再び決意しなければならない。皆が支えてくれているのだから、それに応えるよう俺は努力せねばならないと。

 例えそれが本家クー・フーリンと異なる顛末を辿るものだとしても、俺は俺として、この器を無駄にせず兄貴リスペクトの取捨選択をしていきたいと思う。

 極力、Fate/シリーズの兄貴のような人間関係を目指したくはあるが、極度の無理はしないということだ。何が原因で俺が兄貴と成ったのかはわからない。だが、今この瞬間を生きているのは俺なのだ。偽物は偽物らしく、本物に憧れて生きりゃいいってことさね。

 

 ……まあ、どうせ剪定されるでしょ的な気持ちでいれば好き勝手やれるモンよね! 好き勝手はしないけども! 

 ほら、剪定事象なんだから聖杯戦争に喚ばれることはないってね。俺は俺だァ!(戦争屋並感)……え、異聞帯ワンチャン? ないない。

 

 

 

 思考では縦横無尽右往左往している俺だが、今現在も未だにベッドの上でエメルに抱き着かれていた。役得ではあるが手を出せば周囲を巻き込んで大爆発すること待ったナシ。

 

「ふぇへへ……クー……」

 

 語尾にハートマークが付きそうな声色で寝言を漏らしながら、モゾりと動くエメル。俺の胸板へと頭を押し付け、心底幸せそうな顔で抱き締める力を強くする。

 凄く……柔らかいです(素直)。こうして見れば、普通の美女なんですけどね……。何時もの重い言動がなけりゃあ言うことナシなんだがなぁ。

 

 鋼の理性を過労死寸前まで働かせ、耐え続ける俺。不意にエメルの手が伸びて俺の胸筋の上に乗り、何故か複数回揉まれる。

 逆ゥ! 普通立場逆ですゥ! しかもソレやっていいのはなろう系主人公だけですゥ! って、ちょっち待ちや! お前起きてるだろ!? 明らかに手がテクい動きしてやがるぞオイ! 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ほぼ逝きかけました……(耐)。コイツぁひでえや。

 

 一晩じっくりと休んだおかげか、非常に身体が軽い。何だかんだで人肌があると疲労ってとれるんやなって。まあ、心労はそこそこあったものの許容範囲。それよか、こんだけされてても休める俺に驚きだわ。慣れ……恐ろしい子……! 

 

 オナモミと化したエメルに引っ付かれながら回復と戦慄に浸っていると、部屋に四度のノックが響く。

 元気よく挨拶して入室して来るは何時ぞやの女傑の一人。彼女は俺とエメルの姿を見た途端「おっ、お邪魔でしたかっ!?」と赤面して目を逸らす。いやデフォでしょコレ? 

 

 用があって来たんだろ? と促せば、すっごいチラチラ見ながら「コンホヴォル王がお呼びです」と。

 

 

 

 

 

 

 エメル同伴(強制)でコンホヴォル王の元へと向かう途中、こちらに駆けてくる足音がひとつ。

 

「クー・フーリンさん、エメルさん、おはようございます!」

 

 レーグ君だ。溌剌な様子から察するに回復したようで何より。でも昨日の今日なワケだし、もう少し休んでてもいいのよ? 

 

「いえ! しっかり休息を取れたので快調ですよ! それに僕はクー・フーリンさんの相棒を自称しているんですから、クー・フーリンさん行く場所に僕もあり、です」

 

 はえー、健気。涙が出、出ますよ……。俺には勿体ない聖人ですね間違いない。

 

 そんなこんなでレーグ君も加えてコンホヴォル王の元へと赴くと、玉座に腰を降ろしながら「うむ、来たか」と迎えられる。レーグ君はともかく、マグネット=エメルは黙認されるんすね……。

 おはようさん。そんで要件は何だい? と口にすると、コンホヴォル王は目に見えて渋い顔が浮かび上がる。

 

「呼んだのは他でもない。早朝、コノートからの使いの者が来てな。何でも、戦争のやり方を一騎打ちに変更して欲しいそうだ 」

 

 ……え、一騎打ち? しかも突然に変更ですか? いや、それ以前に戦争にそーいうルール通用するもんなの? 

 それら全てを込めて、怪訝な顔をコンホヴォル王に向ける。

 

「言わずともわかる。だが致し方あるまい。お前にとっては悔やむべきことかもしれんが、相手にとってみれば僅か数時間で万軍が全滅したのだ。悪夢と呼ぶ他ない。本来ならば一度立ち止まるべき損害。しかし相手はメイヴ……諦めが悪い」

 

 なるほど、これもまた俺のせいか。俺は被害者なんだが、同時に原因となっているのも事実。

 

 多勢に無勢、質も量も圧倒的に劣る相手に、余裕綽々の勝ち確で挑んだ戦争。しかし蓋を開けてみれば全滅という結果。しかも単騎で無双されたとなれば、戦いは数だよ兄貴! とは訳が違う。

 常道なら「こんなクソゲー二度とやらんわ!」となって然るべきだが、コノートのトップは、あのメイヴ。メイヴなのだ。

 ならば、と。少数精鋭の選りすぐりの戦士との一体一ならば勝機があるのではないかという発想。これを選択できるのも、この時代だからこそだろう。

 

 うーむ、しゃーなしやな。一騎打ちを受けないと更に戦死者が出るかもってんなら、他に道はない。ただ、相手を殺さずに、というのが通用するかどうか……。

 考え込む俺の側で、何かが膨れ上がるのを感じ取る。その出処は今も尚俺に引っ付いているエメルだった。

 

「……あっちから仕掛けてきた癖に、勝てる見込みがなくなったから一騎打ちにしろだなんて……!」

 

 視線のみで射殺さんとする程に瞳孔が開き、怒髪天を衝くエメル。際限ない怒りを表すように、全身に力が篭っているとわかる。

 俺のために怒ってくれるのは嬉しい。ただね、お前が力入れてるせいで抱き着かれている俺は苦じぃぃぁぁあ! 

 

 心で慟哭する俺を他所に、レーグ君とコンホヴォル王との間で話は進んでいく。

 

「一騎打ちという形式にすれば、確かに犠牲となる人は激減します。ですが、それはつまり、クー・フーリンさんに一騎打ちで相手を殺せ、と言うことですよね?」

 

「いや、そうとも限らんぞ?」

 

「……そうなんですか?」

 

「うむ、だがこれは私が決めることではないし、私が決めるべきことでもない」

 

 そう口にしたコンホヴォル王は一呼吸挟んでから、聡明さを湛える双眸を俺に向ける。

 

「さて、如何するクー・フーリン。エメルの言うように、この戦争は向こうから仕掛けてきたもの。その癖にお願いなど図々しい、と突っぱねるもお前次第だ」

 

 丸投げしたような物言いだが、言い切ったコンホヴォル王の口角が上がっているのを見て、俺はコンホヴォル王の意図を察する。

 

 なら、それに応えてこそだな。

 

 まず、コノートからの一騎打ちの申し出は受けようと思う。そう口にすれば、エメルとレーグ君の顔に焦りが走る。しかし俺にも考えがあるのだとわかってか、口を挟むことはせず。

 それを確認してから、続ける。一騎打ちは受けるが、しかしこちら側からもコノートへ要求をする。

 その内容は一騎打ちにおける敗北条件の指定だ。具体的に言えば、どちらかの気絶、戦意喪失、或いは降参。

 これを設けておけば死者が出ることもないだろう。ただし、戦士の矜持やら誇りやらを踏みにじっていると罵倒されることもあるだろうが、それは覚悟の上のこと。

 

 向こうが一騎打ちという形式を吹っかけた側に要求しているのだから、それを飲む上でこちらも要求するというのは問題ないだろう。

 一騎打ちは受けてもらいたいが、そちらの要求は飲めないなど道理に適っていない。

 

 これでどや? と目でものを言うと、「お前がそうしたいのなら、それでいいのではないか」と、コンホヴォル王。エメルとレーグ君もまた「まあ、それなら」と頷く。じゃあ、そういうことでコノートに連絡しておくれや。

 

 

 

 

 

 

 翌日、コノートからOKの返事が来たのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 早朝、コンホヴォル王やアルスターの人々に見送られながら、レーグ君の操る新しい戦車に揺られて俺は戦場へと向かった。

 指定されたのは、またもあの荒野。昨日の今日みたいなところがあるせいで、少し気分は重い。

 

 内心では重苦しい気分に憂鬱になるが、それとは対照的なのが俺の隣にいる。

 

「はぁー♡私、クーの活躍をこの目に焼き付けることができるのですねー♡」

 

 ハートマーク入りの桃色オーラを全身から放出し、デートにでも行くかのようなルンルン気分を隠すこともしない、エメルである。何故か着いてきていた……何で? 

 

「一騎打ちなら、何処の誰が何人着いて行こうが関係ないでしょう?」

 

 まあ、そうですけどね? でもオブザーバーは別に要らないんじゃないかなー、など言えるはずもなく。今のエメルを見れば、そっとしておこう(番長)が最適解か。

 

 

 

 

 

 

 そうこうしている内に荒野へと到着する。

 

 血肉で彩られた大地に並ぶ、コノートの戦士達。その数は先日のそれの百分の一以下だった。一騎打ちする相手は一人だけだから、残りは立ち会い人とか見届け人ってところか。

 対するこちらは俺と、付き添いのレーグ君とエメルの三人のみ。ちょっと心細い。

 

 戦車から降り、コノートの戦士達へと歩いていけば、向こうからも一人が俺の元へと、鷹揚な歩みで近付いてくる。

 そして向き合ったところで、向こうが口を開いた。

 

「一騎打ちを受けてくれたことに感謝する。だが、そちらの提示した条件はどういうことだ? 殺さずして雌雄を決するなど、戦士としての誉れを穢す行為だと考えるが」

 

 まあ、そうよね。でも、向こうに向こうの意地があるように、俺にも曲げられないモンがあるってことさね。

 それをわかってもらおう、なんて考えちゃあいない。でもな、少なくとも俺はそのエゴを貫く。

 

 ……つっても、ここで不毛な議論をしても意味はないだろうさ。そーいうのはお上のヤツらの仕事。俺達は、ただ戦えばいい。

 

「……フッ、確かにそうだ」

 

 不敵な笑みを浮かべ、己の得物────良質そうな槍を構える男。それを目視した俺もまた魔槍を両手で持ち、腰を落とす。

 互いに槍を構えた姿勢のまま、視線のみが交錯する。男の顔に映るは闘気と滾り。強者と一戦交える行為そのものに歓喜する戦士のそれ。或いは仕える主の願いを果たさんとする忠臣。

 

 俺達を見守る者らもまた、張り詰めた空気に当てられ、声一つ漏らすことなく、ただ固唾を呑む。静謐の中に満ちた緊張感。

 

 戦闘行為というのは、何度やろうと緊張が全身を満たす。始まる前からだ。入試や就活なんかで面接をする時のような、吐き気すら催しかねない極度の緊張。

 だが、それによって俺の思考も徐々に戦闘時の鋭利なものへと切り替わっていく。

 

 先に動いたのは俺ではなく、男。

 

「勝利を、我らが女王に────!」

 

 自らを鼓舞し、俺へと突貫する。轟速の如き縮地で一瞬で距離を詰めたそれは、きっと傍から見ても瞬間移動に近いレベルだろう。

 圧倒的な初見殺し技を、まさかの初手に持ってくるという。これには某審判骸骨もニッコリ。

 

 ああ、確かに速い。そりゃあもうとんでもなく。だが不思議と目で追える。反応できるという確信を持つ。今までの俺なら、初見故に咄嗟にガードすることが精一杯であるはずなのに。

 頭の中で描いたモーションを、そのまま身体に投影する感覚で動けば、眼前に迫っていた穂先を容易に受け止めて弾く。

 

 何だ、この感覚は……? アレか、所謂ゾーンというヤツにでも入ったのか? 

 

「ッ! 流石にやるッ!」

 

 瞠目する男。しかし硬直はせず、すぐさま次のアクションへと移行する。

 瞬時に槍を引き戻し、容赦のない刺突を連続して繰り出す。時より拳や脚による攻撃も交えた変則的、否、勝利に貪欲な戦闘スタイル。さながらインファイト。

 心臓を穿ったり、首を断ったりしなければ、大抵の傷はルーンで治せる。そのため、加減などする必要はない。故に最初から全力。

 

 しかしそれでも、俺には届かない。向こうがあらゆる隙を潰した連続攻撃をしてくるも、俺は一歩も動くことなく、硬化のルーンを施した手足や魔槍で全て捌ききる。

 言うなればアレか。マト〇ックスで覚醒したネ〇が高速で攻撃をいなし続けるような絵面か。

 

 ……うん、何だか向こうが頑張っているのに、こう、申し訳ない気持ちになる。ので、俺も攻撃を仕掛けるとしよう。

 

 男が槍で穿とうとしたのを、ジャストタイミングで弾く。要するにパリィ。

 それによって刹那の間、男の構えが大きく崩れる。完成されたものこそ僅かな綻びで瓦解し、尚且つ脆い。増して玄人のパリィほど恐ろしいものはない(ダクソ並感)。

 そうして、隙だらけの男に全力の腹パンをぶち込む。彼女は瑠璃ではない!(無関係)

 

「ぁッ!!?」

 

 男はくの字になって吹き飛ばされるが、槍と脚をストッパーにして耐える。しかし膝を突き、吐血する。

 

「ぅ、ああ、強いな、お前は……! 攻撃させる隙を、与えないつもりだったが、まさか刹那をっ、突いてくるとは!」

 

 そう言いながら、男は徐ろに離れた俺に向けて手を伸ばし、「ならばッ、これはどうかッ!」と開いた手を閉じる。

 すると俺の足下で何かの機微を感じ、即座に視線を下げれば、そこにはルーン文字が刻まれた石が………………んエッ!?

 

 猛攻の最中に撒いていたであろう石から眩い程の放電。バチバチマンも叫ばずにはいられない。

 だが彼と同じ運命を辿りたくもないので、全身が痺れて動けなくなる前に、俺は神憑り的な速度で雷避けのルーンを描き、雷撃から身を守る。

 

 俺が放電で麻痺すると踏んでいたのか、男はまたも轟速で接近していたが、途中で軽く目を見開く。それでも今更止まるわけにもいかない。

 どちらにせよ、高速戦闘におけるワンアクションの差は大きいのだから。

 

 腹部を狙う、男が放つ一閃。それは俺が雷避けのルーンを使用した直後に到来する。

 見てから回避余裕、ともいかず。何故なら身体に若干の痺れを感じ、脳からの命令が直行しなかったからだった。

 槍が俺の腹を貫かんとする直前になって、身体が言うことを聞くようになり、咄嗟に身を捻って躱す。少し脇腹を抉られたが許容範囲のダメージだ。

 だが、ただ避けるだけでは勿体ない。俺は槍を持つ引き伸ばされた男の腕を掴み、その勢いを利用して半回転、そして男を地面に叩き付ける。

 

「グッ! ……ッ!」

 

 背から落ちた男は鈍い衝撃に呻く。しかし目を閉じるなどという愚行はせず、そのおかげで俺の魔槍による一刺しを、転がって回避し飛び退く。

 

 血を流しながらも破顔する男。コイツも今までのヤツと同じか。なら、殺しはできないが、それでも全力を振るうのが礼儀だ。

 

 男が再び構えたのを見てから、俺は神速で接近し、魔槍を放つ。対し、男は反射的に槍を構えたおかげで、偶然にも槍の太刀打ちの部分で受け止める。

 その後に続く魔槍による俺の連撃を、男は必死に槍で捌き続けるが、そのせいで俺の意図に気が付いていなかった。

 

 魔槍による連撃を止め、一歩踏み込んだ勢いで思い切りに蹴り付ける。そうすれば男は地面に脚で線を刻みながら後退し、油断なくこちらを見据える。

 

 そんじゃあ、次で終わらせようか。

 

 そう宣言すれば、男は「何……?」と睨み付ける。その反応は最もだ。まだ余力がありまくりながら、既に終わりが見えたと勝利宣言をされたのだから。

 怪訝な顔を向ける男に、俺は悠然と歩いて行く。近付く程に男は理解不能だと言わんばかりに顔を歪めていく。

 

「……舐めるなッ!」

 

 勝利を疑わない俺に対する侮蔑か、はたまた実力者との一騎打ちをまだ終わりにしたくないという欲求か。何れにせよ、感情の昂りによって弾き出された男。

 全力を委ねた刺突。その穂先が俺の胸部を貫かんとするが、それでも俺は構えることをしない。正確には、構える必要はない。

 

 コノシュンカンヲマッテイタンダー!

 

 俺は右手に持つ魔槍を眼前で回転させ、迫る槍に打ち付ける。と、鈍い破砕音。男の槍が砕け散った。

 

「なァっ!?」

 

 何故こんな時に砕けた、あのような一撃で槍が破壊されるのか、という困惑が伝わってくる程に、男は驚愕と呆然に顔を染める。

 

 もちろん偶然などではない。コイツは気が付かなかったが、俺は槍の太刀打ちの部分を的確に執拗に攻撃していた。寸分の狂いなく、だ。

 見栄えする芸だが、これは実用性など皆無に等しい。激動の戦闘中に、そのような意図の下で力を振るうなど愚策であるし、そちらに割く余力も惜しいのが常だ。

 だと言うのに、俺はやった。何故か「できる」という予感があった。それに従ってみれば、俺の魔槍は男の槍の太刀打ちへと吸い込まれるが如く。

 

 武器破壊を成せば、轟速の如き男の勢いが衰えたように感じられ、俺は隙だらけな呆けた顔もとい顎を的確に蹴り抜く。

 そうすれば男の目から意志が消え去り、意識が刈り取られたことで地面を転がった。

 

 敗北条件の一つ────気絶。それに身を委ねてしまった男の負けだった。

 

「きゃ────!!♡♡」

 

「クー・フーリンさんが勝ったあ!」

 

 俺の勝利を全身全霊で歓喜するエメルとレーグ君。それに俺が笑みを零そうとするが、コノート側から数人が走って来て、地面に伸びた男を引き摺って回収していく。そしてそれと入れ替わるように、別の男が悪態をつきながらこちらにやって来た。

 

「ったく、あんだけ一番槍を欲しがってた割にゃあ……さぱっと負けやがってよォ」

 

 先程の男が礼儀を重んじる騎士だとすれば、次にやって来たこの男は勝てばよかろうなのだァァ! タイプのカー〇様か。

 

 え、てか待って。まだ一騎打ちは終わらんの? 待って聞いてない。さしづめ、奴は四天王の中でも最弱……とか、私が倒されたとしても第二、第三の私が……とか、そーいうやつよね、コレ。

 アッ、そういえば誰も「一騎打ちが一人で終わる」なんて言ってないやん! ちっきしょう騙された! ランバー〇ャックかよオラァ! 

 コノート側、何人おったっけ? ……あー、百人前後はいらっしゃるなぁ(察し)。もしかすると、もしかするかもしれませんよ? 

 

 さっきの男は、終わり方こそアレだったけど十分に実力者だった。武器破壊という技によって形成された隙にぶち込むことで、何とか勝利を収められたが、長期戦に持ち込まれていれば勝てたかどうかわからなかった。

 なのに、これだけで終わらず、しかもさっきの男と同格レベルのがあと百人前後もいて、そいつら全員と一騎打ちしなきゃならんと……? 

 

 

 ……ファック(達観)。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 その後、俺は連戦に連戦を重ね、勝利を掴み続けた。最初の男は槍術に魔術を絡めた実力者だったが、以降に続く戦士達もまた練度の高い者達ばかりだった。

 

 小回りの効くショートソードを持ち、速度で翻弄しながら魔術でトラップを仕掛ける者。

 ソルジャー並のバスターソードを、それこそ木の枝を振り回すように軽々と振るう脳筋野郎。

 魔術オンリーで攻め立ててくる、攻防優れたドルイド。

 

 実に多くの強敵達だったが、全員が俺に敗れ去った。連戦連勝の俺だが、百近くも戦えば当然疲労困憊────と思いきや、むしろ戦う程にゾーンのようなモノが俺に馴染んでいき、練磨されていった。

 それによって、全ての戦闘で最小限の動作に抑えることができ、スタミナの温存ができていた。そのおかげで、微量の疲れはあるが支障はナシ。

 

 そうしてコノートの面々のほぼ全員を倒し終えたところで、今まで以上の強敵の気配を、コノート側から感知する。

 引き抜かれた日本刀のような、芯の通った鋭利な気配。それに何処か懐かしさを感じ取れる。

 

 ふと、そちらに目を向けると、コノートの戦士達が指揮された軍隊のような統率で道を開け、そこを二人の男が通る。

 

 

 

 ……ああ、そうか。この二人か。

 

 

 

 快活で豪快。優しげな糸目に筋骨隆々な肉体を持つ、特徴的な螺旋剣をトレードマークとした戦士────フェルグス。

 

 互いに好敵手として師匠の下で切磋琢磨した仲である、観察と反射に重きを置いた硬派な戦士────フェルディア。

 

 フェルグスは俺というより、アルスターへと目を向けているようだったが、フェルディアの視線は俺に縫いとめられていた。

 

 

 

 ……なるほど、これは一筋縄ではいかなそうだ。

 

 

 

 ◆




◆補足

Q.部下死にまくってるのにコンホヴォル王動じてなさすぎひん?
A.ポーカーフェイスです。実際は憤怒、悲愴、後悔などが渦巻いています。が、未だ終戦していないため立ち止まる訳にも行かず、王として振る舞う必要があると理解っているため、思考を切り替えていたりします。

Q.(偽)の言ってたゾーン、つまりアレは何なの?
A.ゲッシュって知ってるぅ?(HDS様)

Q.フェルディアさんコノート入りしてて草。
A.時系列としては、(偽)がゲイ・ボルクを受け取った辺りでスカサハの修行を踏破し、しかし己が魔槍を手に入れられなかったと知ると、あえて(偽)と会話することなく。次に会う時は戦場で、という望みを抱いて影の国から出て行きました。因みに、フェルディアさんは以前、メイヴを嫌っていましたが、メイヴが(偽)によって純心(?)乙女に変貌したので、フェルディアさんは忠誠を誓うに足る統治者として認識を改めました。

Q.(偽)ニキが神話よりハードモードやん、たまげたなぁ。
A.勝手にたまげてろ(辛辣)。一応ケルト・アルスターサイクルが終わったら、本来の神話と今作を比較した設定資料的なの書く予定なんで、はい。終われば、ね?(予防線)


  ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。最近、投稿する本作が毎回一万字を超えていて、初めの頃に「毎回一万字書ける人ってすげー」って言っていたのに、まさか自分もそうなるとは……と驚いている、どうも僕です。つまり俺は凄かった……?儂は天才じゃあぁあ!(人斬りポメラニアン)
 今回は(偽)が新たにケツイを満たす回でした。前回までの話が話だけに、今回はどうスタートしてやろうかと頭を悩ませ、ごっちゃごちゃになったらアイスボーンをして、事件簿見てを繰り返していました。とても幸せでした(恍惚)。前回の重苦しい雰囲気を払拭するために、脊椎反射トークを徐々に取り入れて書いていったのですが、あまりに久しぶり過ぎて感覚を忘れており、まあ大変でした。でもやっぱ、頭チンパンで書くの楽しいっすね(強者の余裕)。
 また、今回はレーグ君成分控えめにして、本来のヒロインの一人であるエメルとの絡みを捩じ込みました。羨ましいんだよちくしょうが、俺にもやらせろよ!クキィ!(鳴き声)
 次回はフェルグスさんやフェルディアさんとの一悶着を描く予定です。あ、言っておきますがフェルグスさんとは戦いません。彼には別の思惑があるので、はい(白目)。ただ、次回は一人称視点よりも三人称視点の方が映えそうな気がしているので、もしかしたらそうするかもしれません。ただ、そうすると書き慣れていない分、投稿が遅くなると思われますので御容赦を。ではまた次回!































◆バビロニア視聴レポート◆

ぼく「事件簿終わって悲しいのら……(感涙&悲愴)」

>バビロニア!

ぼく「Fateコンテンツ供給続行嬉しいのじゃ^〜」

>1話冒頭

ぼく「アッ…アッ…(エモさで言語能力消失)」

>ケツ&鼠径部(重大案件)

ぼく「エッッッッッッッッ(ガン見&巻き戻し)」

>ドゥ()登場

ぼく「マ°ッ!!!(画伯演技に悶絶)」

>続けて2話視聴

ぼく「ヒェッ……(OPの完成度と牛若丸を見た反応)」

>シスベシフォーウ!

ぼく「モフモフ(キャッキャッ)」

>アナ

ぼく「エモ…エモ…(語彙消失)」

>シドゥリさん

ぼく「あぁ……あぁ……」(SAN値直葬)


こんな感じでした!(ひでえや)


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猛犬と切り札:三人称視点

 
 Sイシュタル引けなかったので初投稿です。


 ◆

 

 

 

 コノートの戦士達に敬意を持って道を開けられ、そこを歩むはフェルグスとフェルディアの二人。

 

 片や、コンホヴォル王がとある女を欲したがために自分の息子達を謀殺され、それによって彼に憎悪を滾らせてコノートへ寝返った、篤実で屈強な戦士。

 片や、クー・フーリンの兄弟子として互いに日々切磋琢磨し、生涯の好敵手と認め合った仲である、ケルトらしさを体現した堅牢な戦士。

 

 コノートの切り札とも呼べる彼らがクー・フーリンの眼前に姿を現したのは、言うまでもなく、雌雄を決するためだった。

 

 己の得物を担ぎながら、二人はクー・フーリンの前へと立つ。

 

「久しいな、クー・フーリン!」

 

 初めに口を開いたはフェルグス。朗らかな笑みを湛え、大声で再会を喜ぶ。

 彼がクー・フーリンを最後に見たのは、クー・フーリンがエメルから逃げ出した時だったのだから、実に久しい。

 

「そうだな、叔父貴。ただ、アンタがここに来るってのは予想外だったぜ?」

 

「いや、俺からすれば、ある程度は想像していたのだが……お前がこれ程の戦士に成長したことに驚嘆させられたぞ」

 

「そうかい。叔父貴にそう言われるのは嬉しいこった」

 

 この会話だけを切り抜けば平穏な一コマとなるのだが、それにしては如何せん血の気が多過ぎた。

 クー・フーリンは内心で「フェルグスと戦うのは……いやー、キツいっす(白目)」と焦りまくっていたりするが、表は何時ものポーカーフェイス。

 だが、フェルグスが相変わらず壮健であることに、クー・フーリンの鉄面皮は無意識に綻んだ。そして次に視線を横にずらす────自らの好敵手へと。

 

「……フェルディア、コノートに戻っていたんだな」

 

「半年も経っていないがな」

 

 不敵な笑みを浮かべるフェルディアだったが、己の内側から湧き上がる歓喜を我慢できなかったせいで、次第にくつくつと笑い始める。

 それも仕方がなかった。

 彼が影の国を出る際、クー・フーリンとは一切言葉を交わすことはなかった。次に会う時は戦場で、という願いを抱いたからだ。

 

 修行中、フェルディアは苛まれていた。

 兄弟子として弟弟子に先を越されたのが悔しい。弟子入り直後から己と対等の力量という天賦の才が妬ましい。

 だが、それでクー・フーリンを恨むのは筋違いで、憎むべきは力不足の己自身であって然るべきなのに、劣等感を抱かずにはいられなかった。それに自己嫌悪したことも幾度となく。

 それでも、クー・フーリンに変わりはなかった。誇るでもなく、嘲笑するでもない、互いに互いを高め合う関係を求めたのだ。

 それによってフェルディアの劣等感は消滅した。先を越されたのなら、追い付いて越してやればいい。天賦の才が相手なら、俺は努力で差をなくせばいい。燃え盛る業火は、劣等感などという些事を焼却して余りあったのだ。

 

 だからこそ、フェルディアはクー・フーリンに感謝をしている。クー・フーリンがいなければ、俺はここまでの高みに至れなかったのだから、と。

 だからこそ、フェルディアはクー・フーリンを好敵手だと認め、馴れ合いではなく戦場での決闘を望んだ。全力でぶつかり合い、更なる高みへと到るために。

 

 それが、こうも早くやってきたのだ。これを喜ばずして何とする! 

 

「けどよ、お前メイヴのヤツを嫌ってなかったか? どうしてまたアイツの配下に入ってんだ? 籠絡でもされたか」

 

 素朴な疑問をぶつけるクー・フーリン。以前フェルディアはクー・フーリンに「メイヴは苦手な部類だ」と語っていた。

 それなのに何故メイヴの配下に入っているのか。すわ、スーパーケルトビッチに食われたか!? という疑問が生じるのは当然のことだった。

 

「籠絡はされてない。俺は自ら忠誠を捧げたんだ。確かに俺は以前のメイヴを嫌っていたさ。権威、狂気、悪を有する悪女だと疑っていなかった。……だが実際に会ってみれば、メイヴは俺が嫌悪するような女ではなかった」

 

 いや、メイヴは紛れもない悪女だろ! と声を荒げたくなるが、フェルディアがそう語るのも無理はなかった。

 初めこそ、メイヴから高圧的な言動でスカウトを受けた際は「ああ、やはりか」と嫌悪を示した。だがクー・フーリンのことを話題に出した途端、女王の顔はなりを潜め、想い人を妄想して頭を蕩けさせる女の顔になった。

 

『貴方、クー・フーリンに会ったことあるのね!?』

『ああ、会いたいわ! ねえ、今あの人が何処にいるか知ってる?』

『クー・フーリンの好きなものって何か聞いてないかしら? ……と、特に女性の好みとか……』

 

 噂とは、と困惑せざるを得なかった。もしかしたら、黒い噂はメイヴの美貌や権力を妬んだ輩が流した、根拠のないものだったのでは、と疑う程に。

 その後メイヴの配下となったフェルディア。日がな一日彼女を監視してみれば、悪女という風評が付いたのを納得するだけの暴君っぷりを見せる一方で、彼女は自室に籠り、飼っているオコジョ相手に愛を囁く練習をしていた。部屋の外まで聞こえてくる嬌声に度々出てくるのはクー・フーリンの名。

 

 彼女は……メイヴは確かに悪女ではある。だがしかし、それと同時に恋に恋する生娘だった。

 そして、メイヴをそのようにした要因は、自身の好敵手たるクー・フーリンであったのだ。

 クー・フーリンと関わる者は何らかの変化を生じさせる。師匠然り、女王然り、フェルディア然り。

 

 ────やはり、クー・フーリンは凄いな。

 

 ただ、ただ一言。好敵手を褒めた。その時、フェルディアはクー・フーリンこそがケルトにおける多くの渦中に座する存在なのだと、再認識した。

 自身の好敵手なのだから、そう来なくては面白くない、張り合いがない、越えた時の達成感もない! 

 

 先程のクー・フーリンの問いに返答したフェルディアは、彼に対して、お前がメイヴを変えたのだという意図で笑い掛けるが、当の本人は「え、何それメイヴ可愛いかよ」と感じはしても気が付くことはなく。

 

「……ともかく、以前の彼女であれば、俺は忠誠を捧げるなどしなかったろうさ」

 

 柔和な顔付きで言い切ったフェルディアを見て、クー・フーリンは邪推を止めた。

 

「……んで、今度は二人が相手か?」

 

 話題を目下のものへと切り替え、クー・フーリンは問う。心中では「やめてください死んでしまいます」と阿鼻叫喚していたりする。

 

「ああ、そうだ────と言いたいところだが、俺はここでは戦わんさ」

 

 フェルグスは眉を顰めて、それを否定する。本来なら再会を喜びがてら殴り合いのひとつでも、とするところなのだが、今回フェルグスには明確な目的があった。

 故に、クー・フーリンとの戦いに興じることは、残念なことにできない。

 

「お前と武を競うのは、俺だ」

 

 高らかに宣言するように、己の槍を好敵手へと向けるフェルディア。

 

「コノートの切り札との呼び名を冠するは、何もフェルグス殿だけではない。俺もまたそうだからな!」

 

 影の国でクー・フーリンと競い合っただけあって、フェルディアはメイヴの配下に入って直ぐに頭角を現しだした。

 今ではコノートの切り札という、フェルグスと並ぶ存在として戦士達の上に立っている。

 

「……そうかい、なら存分に戦おうじゃねえか」

 

 内心ではイヤイヤと駄々を捏ねるクー・フーリンだが、それと同時に、兄弟子でありライバルであるフェルディアとの勝負に歓喜してもおり、顔には自然な笑みが浮かび上がった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 特筆すべきモノがない荒野、しかしそこは異常なまでの熱気と静寂に包まれていた。

 原因はたったの二人。クー・フーリンとフェルディアだ。百メートルと離れていない距離から互いを見据え、感覚を確かめるように得物を構え、滾る戦意を研磨する。

 

 視線を交えているのみだというのに、既に開戦しているかの如く。

 

「では、やろうか、クー・フーリン!」

 

「いくぜ、フェルディアッ!」

 

 限界まで縮ませたバネが弾けるように二人は飛び出し、瞬きの間に衝突した。

 

 深く持った魔槍を前方に突き出すクー・フーリン。フェルディアの皮膚はあらゆる攻撃を受け付けない堅牢なもの。されど魔槍の類となれば話は違う。

 対しフェルディアは、クー・フーリンの神速の一撃を余裕すら感じさせる最小限の動作のみで躱してみせた。

 

 重心の移動や動作の機微から攻撃を予測し、瞬間的に対処してみせるフェルディアの十八番。これには流石だと感嘆する他ない。

 

 フェルディアは身を回転させるようにしてクー・フーリンの背後へと回り、薙ぐ。

 槍がクー・フーリンの背を殴打する直前、その一閃を遮る緋色。ゲイ・ボルグだ。魔槍を深く持ったことにより、腕を引くと魔槍の柄の部分が背にまで届く。それによって槍の一撃を防いだのだ。多少の打撃はあれどダメージをほぼ殺し切った。

 

 見ずして受け止めるとは、と好敵手の気配感知の鋭さを褒めるフェルディア。しかし大きな隙は与えない。相手はあのクー・フーリンなのだ。むしろ追撃せねば即座に攻め立てられる。

 

 手首を捻り、穂先をクー・フーリンの背に向け突き刺す────が、彼が身を屈めたことで空を穿つ。

 低い姿勢を利用してフェルディアに足払いを仕掛けるクー・フーリン。これを跳んで躱すフェルディアに対し魔槍による突き上げを見舞えば、舞うように身を捻って穿たれるのを避け、カウンターのように縦に薙ぐ。

 岩をも両断する苛烈な一撃を、クー・フーリンは四肢に力を込めて受け止めてみせるが、勢いを殺し切れずに吹き飛ばされる。だが無様に転がるのではなく、体勢を崩さず脚で大地に線を刻み、常に視界に好敵手を捉えたまま。

 

 零距離戦闘から再び開く距離。クー・フーリンとフェルディアは互いに横溢する獰猛さから生じた笑みを向けあった。

 それを合図に、クー・フーリンが再び突貫し、魔槍による刺突の連撃を繰り出す。

 神速の応酬は緋色の光となり、対峙した敵は反応するまでもなく穿たれ果てる。

 

 だが、ことフェルディアに関してそれはない。

 

 神速の一撃を練り出す身体の機微、魔槍の放つ緋色の煌めき、好敵手の真紅の双眸が向ける視線────あらゆる情報を刹那で読み取り、情報を統合し、知識と経験と五感から次の手を推測する。それに従って動けば、

 

「フッ────!」

 

「やるッ……!」

 

 全ての攻撃を、未来視でもしていると錯覚してしまう程、完璧に捌き切る。

 神速に対応するよう正確無比に槍を宛てがい、それを実現させている脚さばきや身のこなしは舞踏さながら。

 

「……なあ、二人の動き……見えるか?」

 

「……正直、目で追うのがやっと。しかもまだ勢いが増すんですから、もう目で追うことすら難しそうですね……」

 

「だよなぁ……」

 

 既にクー・フーリンに敗北したコノートの戦士達でさえそう口にする。あまりに苛烈で速い。純粋な力もそうだが技術の応酬が凄まじい。反応速度も的確な対応も何もかもが異次元レベル。

 未だ始まったばかりだというのに、既に見る者らの目には、いつ勝負がついてもおかしくない、それこそ終盤の様相を呈しているように映った。

 

「あのフェルディアって人、とてもお強いですね……!」

 

「そうね、でも勝つのはクー。私はそう信じているから」

 

 レーグは純粋にフェルディアの強さを褒め称え、エメルはフェルディアの強さを認めつつも自らの愛する彼が勝利する未来を信じていた。

 

 周囲の十人十色な反応を他所に、二人の心境は歓喜に彩られていた。

 

『これは飽くまでも小手調べ、コイツがどこまでやれるか楽しみだ!』

 

 影の国で手合わせをしていた頃よりも研磨された力を肌で実感すると共に、自身の全力を尽くさねば、否、尽くしたいと思える相手は、やはりこの戦士なのだ、と。

 

 クー・フーリンの連撃が百を超えた辺りで、一際力が込められた一撃が放たれ、受け止めたフェルディアが衝撃で後退させられる。

 伴った金属音は大気を震撼させ、その場にいる全ての者の体内にまで響き渡った。

 

 そうしてまたも距離が開く。二人は戦意と歓喜を織り交ぜた視線を交錯させ、互いに口角を吊り上げる。

 

「ったく、どんだけ強くなってやがんだ。前にも増して対応が的確になってやがるぜ」

 

「おうとも! それができなくば修行は終わらん、と師匠に言われ続けてきたからな。そう言うお前も速度と攻撃に磨きがかかったな」

 

「そりゃそうだ。それが俺の強みだしな。伊達に奔走してた訳じゃねえさ」

 

 自らの好敵手の成長を讃えつつ武器を構える。そして、瞳を輝かせた童が心の底から楽しむように、二人は再度激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、両者共良き戦士だな!」

 

 クー・フーリンとフェルディアの戦闘、それを離れた場所から静観するフェルグス。

 彼には贔屓目なしに両者共が強者として映った。己が敗北する光景すら幻視してしまう程に。

 

 あぁ、残念だ。とても残念だ。俺も存分に戦いたい。戦いたかった。

 

 生粋のケルト戦士であるからこそ、骨の髄まで満たす欲求に従いたくなる。

 だが、今回それは叶わない。フェルグスはアルスターに、もといコンホヴォル王の元に向かわねばならなかったからだ。

 理由は明確。フェルグスの息子達を、自らの欲望を満たすために謀殺したコンホヴォル王に対し、裁きを下さねば気が済まなかったのだ。

 

 フェルグスは、アルスターから離れる際にコンホヴォル王を屠ることもできた。それをしなかったのは、憎悪に突き動かされるのは本意ではないからだった。

 息子達が殺されたと知った直後であれば、憎悪からコンホヴォル王を殺していた。だが、もしかしたら息子達が死ななければならなかった理由があったのかもしれない。

 故に、一旦距離を置いた。そこで信用に足る情報を集め、真相を確かにした。そうして、コンホヴォル王には螺旋剣を全力で振るわねばならないと知った。

 

 この戦争をメイヴが引き起こしたのは、フェルグスにとって好機だった。戦乱に乗じてアルスターへと赴くことができるのだから。

 だからこそ、ここで時間を潰すことなどできない。フェルグスはケルトの戦士ではなく、人の親であることを選んだのだから。

 

「生き急げよ、フェルディア、クー・フーリン」

 

 有望な戦士に捧ぐ祝詞のように、或いは誰かの手向けのように。

 言葉を紡いだフェルグスは、単身でアルスターへと向かうのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 スカサハは戦士を育てる際、あらゆる技を弟子に仕込み、多芸多才な英傑に仕上げる。

 スカサハ自身の得物でもある槍術は勿論、剣術や弓術といった幅広い武器を扱えるよう教育し、更に盾の扱いや呼吸の秘術、跳躍、戦士の咆哮など多岐に渡る妙技・秘術を余すことなく教え尽くす。

 またルーン魔術に関しても同様で、基本的な火のルーンを初めとし、強化、転移、飛行、加速、癒しなど実に多くを施す。

 なぜここまで教えるのかといえば、最早語るまでもなく、不死である自身を殺せる戦士との巡り合わせを望んでいるからだ。

 

 だが、これまでに彼女を絶命させるに足る戦士は発掘されず、未だスカサハを殺せる強者は現れていない。

 

 では、彼女によって育てられた戦士は何処へ行くのか。答えは単純明快、外にて歴史に名を刻む英雄となる。当然だ。彼女を師事した者らは絶大な力を持つことが叶うのだから。

 

「影の国での修行に比べれば、外での戦は無双が可能な程に生温い」

「自分の技が通用しなかったのは、自分が弱いのではなく師匠がおかしかったのだ」

「師匠厳し過ぎたけど、そのおかげであらゆる場面に対応できるようになった。師匠厳し過ぎたけど」

 

 スカサハの扱きによってそのような価値観を根っから植え付けられた彼らは、最早如何なる戦場であろうと奔走し、如何なる相手であろうと確実に屠る豪傑だ。

 それはさながら、相手の心臓を穿つまで留まることを知らぬ一条の槍。

 

 しかし、同じ師を持つ戦士が合間見えた場合、どうなるか。これもまた明快。

 ゲイ・ボルク同士を衝突させると全く同じ軌道のため相殺する、という現象が起きるように、スカサハに師事した者同士の戦いはそう簡単に終わるはずがない、ということに他ならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 クー・フーリンとフェルディアの一騎打ちは数時間が経過しても尚続いていた。

 開戦は早朝であったにも関わらず、日は既に傾き始め、戦場に赤を落としつつあった。

 

 戦況は一進一退。身体に赤い線は増えるものの互いに決定打はなく、膠着状態。

 フェルディアの堅牢な立ち回りを崩せないクー・フーリンと、クー・フーリンの一挙手一投足に注視し続けなければならないフェルディア。

 このスタイルの差こそが、長期戦の最大の要因だった。

 

「ッ!」

 

 幾度目かの衝突の末、フェルディアはクー・フーリンの猛攻を受け流し、逆に力の籠ったそれらを利用して吹き飛ばす。

 地面を転がるクー・フーリンは、その最中にフェルディアの指がルーンを綴るのを目にし、即座に体勢を整えて氷のルーンを大地に刻む。

 

「させねェ!」

 

 クー・フーリンの手を伝い、淡い光が大地から放たれる。と、円錐状の氷の杭が地から連続して生え、フェルディアに迫る。

 

「────!」

 

 フェルディアは途中でルーンを破棄し、宙に跳ぶ。しかしこれは回避行動ではなく。

 身を掠める程の紙一重。そのおかげで空中にいながら足場を確保した彼は、氷柱を蹴ってクー・フーリンに降りかかる。

 槍による縦の一閃。全体重と落下の勢いの全てを乗せた薙ぎ。直撃すれば決定打となるそれを、クー・フーリンは体勢が崩れていたために受け止めざるを得なかった。

 

 魔槍を構え、一撃を受けた────瞬間、過重な衝撃に見舞われ、両足が地面に沈み込む。

 歯を食いしばって耐えるが、フェルディアはそれを見るやいなやシャウト効果で更に加重。クー・フーリンはこれ以上は手脚が持たないと悟り、重心を移動させて受け流す。

 

 そうしてフェルディアの渾身の一振りが空を裂くと、今度はクー・フーリンが僅かな隙に魔槍を差し込み、フェルディアの着地を狙う。

 だが、猛者であればある程に明確な隙というものの悉くが潰されている。フェルディアもまたそれに該当していた。

 

「ぜあ────ッ!!」

 

「甘い!」

 

 体勢を立て直す前でありながら、神速の緋色を正確に弾き、続く連撃をいなしながら体勢を整えるという離れ業。

 これこそがフェルディアの堅牢な守りの成せる技の真髄。相手の攻撃を正確に読み取り、予測する力も驚異的なれど、それ以上に思考を身体に反映させられる事実こそがフェルディアの強みなのだ。

 

 フェルディアの守りは、技術という名の厳重なロックが複数に渡ってかかった金庫さながら。とても正攻法ではこじ開けられない。

 ならば、と。クー・フーリンは思考する。定石が通じないのであれば、奇策を以って堅牢なそれに穴を開けるしかない。

 

 クー・フーリンは一際力を込めた一撃を放ち、それを弾いたことで生まれた、フェルディアの僅かなよろめき。その瞬間にルーンを綴る。

 歴戦の戦士でさえ、今この瞬間のクー・フーリンの行為は許してしまうだろう。

 激しい白兵戦の最中、突発的に魔術を行使しようとする。それは通常であれば大きな隙を晒す愚行、しかしクー・フーリンの場合、瞬きの間にやってのけるため不意打ちに近い。

 ……相手がフェルディアでなければ、というのが頭に付くが。フェルディアの目はルーンの書き始めから捉えていた。それ故に、好敵手の選択肢を潰せと頭が訴え、身体が動く。

 

 槍を回転させるように振るい、魔槍を防いでいたそれを攻撃に転じさせ、叩き落とすようにクー・フーリンの腕を狙う。

 クー・フーリンの腕を殴打する寸前、フェルディアは気が付く。クー・フーリンがそもそもルーンを綴っていないことに。

 

(────ッ、なんと!)

 

 集中力が極限まで研ぎ澄まされているからこそ生じる弊害。相手の動作から攻撃を予測しているせいで、空撃ちというフェイントには滅法弱いという弱点が浮き彫りになる。

 否、相手がクー・フーリンだからこそ、浮き彫りにさせられる。

 例えフェルディアがそこらの戦士に同様のことをされたとしても、相手の視線や思惑を向けている方向、フェイントをするための身体の動きというものがわかってしまう。

 だが、クー・フーリンの場合は別次元。真に迫る動作と気迫をもって攻撃を仕掛け、それが攻撃なのかフェイントなのかは喰らってみなければわからない。

 

 要するに、フェルディアさえも騙す判別不能の絡め手を、クー・フーリンは意図して繰り出せるのだ。

 そしてそれは、フェルディアのような戦士のウィークポイントにクリーンヒットするのである。

 

 口角を吊り上げたクー・フーリン。自らの腕に迫る一条を難なく流し、フェルディアの無防備な懐に潜り込んで魔槍で横薙ぐ。

 しかしフェルディアも直撃しまいと咄嗟に槍を引き戻し、寸でで宛てがう。が、反射神経に従って動いたことにより正確さが欠如していたため、衝撃を殺し切れずに吹き飛ばされ地面を転がる。

 

 漸く堅牢な守りを崩せた好機を逃さない、逃せない。クー・フーリンは転がるフェルディアに疾ッ! と詰め寄り、その身体の下に転移の如き速度で入り込むと、フェルディアを鋭く蹴り上げる。

 

「ラァッ!」

 

「グッ……!」

 

 刃を通さぬ皮膚を持っていたとしても、外部から与えられる打撃までもを防げる訳ではない。故、フェルディアは腹部の重い一撃に苦悶の表情を浮かべた。

 空中に打ち上げられたフェルディアに引っ張られるように、クー・フーリンは四肢に力を込めて跳躍する。

 

「な、んのォ!!」

 

 怒号を飛ばしたフェルディアは、槍を振るって身を回し、迫るクー・フーリンを撃ち落とす。が、フェルディアは目を見開いた。確かに撃ち落としたはずのクー・フーリンが、未だ滞空していることに。

 確かにクー・フーリンは撃ち落とされた。だが彼は宙に足場をつくり、それを蹴って再び跳躍したのだ。それを可能にするは『門』の応用、ルーン文字を空中に固定する秘中の技。

 

 本来のクー・フーリンがこれを行使したのなら、スカサハが大人気なくパクリ認定して襲ってくるところだが、この男はそれすら捻じ曲げてしまったので、むしろ公認の技として「使え。その度に儂を想い描け」と添えてもらっていたりする。

 

「何だ、そのルーンの使い方は!?」

 

「お前にゃ初お披露目ってなァ!」

 

 激しい空中戦。両者共互角にやり合っているが、見る者の目にはクー・フーリンが押しているように映った。

 それもそのはず。クー・フーリンは固定したルーン文字を足場にしてフェルディアへと突貫し、それが弾かれれば、またも同様に自身を射出し続け、縦横無尽に天に緋色を描く立体機動で攻め立てている。

 対し、足場がないフェルディアは五感と第六感を頼りに槍を振るっているものの、やはり行動に制限が付き纏い、堅牢な皮膚に更なる赤い線を走らせつつあった。

 

 地に足が付き、体勢を整えられさえすれば対応も可能なフェルディア。そうであると熟知しているからこそ、クー・フーリンは地面に落とさず常に彼を打ち上げ続けているのだ。

 転移のルーンや高速飛行のルーンなどを使えたのなら、この窮地を脱することもできただろう。だが、それを行使する魔力残量も暇もほぼ皆無に等しい。

 

(────詰めてきたかッ!!)

 

 故に、激しく身を躍らせるフェルディアは悟る。クー・フーリンがこの戦闘を終わらせに来たのだと。

 

 確かに、フェルディアよりもクー・フーリンの方が、僅差ではあるが強い。戦闘スタイルという側面から見て、守ることに秀でているフェルディアではあるが、クー・フーリンの攻めはそれ以上に苛烈で巧みで隙がない。

 攻撃こそが最大の防御という言葉があるように、攻め続ければ攻撃させる暇を与えないため、それは実質的な防御手段となり得る。

 その意味で、クー・フーリンは攻防共に優れた戦士だ。守るばかりで攻めの手立てが乏しいフェルディアとは違う。

 尤も、クー・フーリンが戦闘にあまりに長けているだけであって、それとほぼ同列にいるフェルディアもまた強力無比な戦士なのだが……隣の芝は何とやら。

 

 因みに、クー・フーリン自身が自らに課したゲッシュを認識していないがために、神からの祝福による能力向上に「このゾーン的なの何コレ?」となっているのは余談だ。

 

(……ああ、認めるさ。今も昔も、お前の方が強い! だが、ここで折れるようではお前の好敵手足りえないッ!!)

 

 灼熱の如きフェルディアの闘志。強敵を前にしても折れることのない不屈の心、何処までも純粋に戦いを楽しむケルトの魂。それこそがフェルディアの、戦士としての輝きの真価。

 

 遂に、フェルディアは己の持つ槍までもを弾き飛ばされ、致命的な隙を生じてしまう。

 誰もが決着が着いたと確信した。例に漏れずクー・フーリンまでもが。その一時の慢心を、フェルディアは鋭く感じ取る。

 

 慢心とは、絶対的な強者を一撃で屠り得る猛毒だ。あの金ピカであれば話は別かもしれないが、少なくともこの瞬間においては即効性の強い毒となる。

 

 鋭利さを失い、甘さを湛えた魔槍の刺突。フェルディアはそれを容易に、躊躇いなく掴み取った。

 

「ッ!?」

 

「まだ……終わっていないぞ!」

 

 魔槍の穂先が手の甲を貫き、しかしフェルディアは表情を歪めることなく兇猛な笑みで好敵手を見据える。

 そして、呆けた顔をするクー・フーリンを引き寄せ、腕を掴み、捻るようにして身動きを封じた。

 

「なッ、テメェ……!」

 

「戦闘中に呆けたお前が悪い」

 

 ルーンの足場を失ったクー・フーリン共々、地上十メートル程から自由落下していく。

 その際、フェルディアは器用にもクー・フーリンを下にさせて落ちたため、致命打となる衝撃を受けるのはクー・フーリンだった。

 

 それを瞬間的に理解したからこそ、クー・フーリンは身を暴れさせ、フェルディアの拘束から脱する。地面に墜落する寸前にフェルディアを蹴り飛ばし、その勢いで横に転がる。

 

「がッ!?」

 

「ッぐゥ!」

 

 大地に垂直に落下はしなかったが、しかし両者共が相応のダメージを受ける。

 膝を着き、肩で息をしながらも、互いを認め合う好戦的な笑みを向け合う。

 

「……あぁ、クッソ……油断、しちまったぜ……」

 

「ハッ、そのおかげで……まだ戦いを、続けられそうだがな……!」

 

 これだけの激戦を、しかも数時間も繰り広げておきながら、未だ鎮火しない戦意を滾らせるクー・フーリンとフェルディア。

 

「……それにゃあ同意だが、そろそろ決めようや」

 

 息を整え、血と汗を拭いながら立ち上がるクー・フーリンは、視線を地平線へと向け、それに連なってフェルディアもまた目を向ける。

 視界に入るは今にも沈み切りそうな太陽があった。もうまもなく夜の帳が下りる。

 

「暗くなっちまえば何も見えなくなる。なら辺りを照らせばってのは、まあ、その通りなんだが……」

 

「これ以上は殺し合いになる、か」

 

 言葉を引き継ぐフェルディアの発言。それを肯定するクー・フーリン。

 

 フェルディアにとって、ここで死に果てようとも文句はない程に甘美で熾烈で満足のいく戦闘だったため、殺し合いは本望だった。

 だが同時に、ここで死ぬのは勘弁願いたいという気持ちもあった。何故なら、ここで死ねば好敵手に敗北したという結果を飲み下さねばならなくなるからだ。

 負けっぱなしで終われない、終わりたくない。もっとクー・フーリンとの戦いを楽しみたい。自身に更なる成長の兆しがあるのだから、ここで潰えるには悔しい。

 戦士として誉ある死を望むケルトの側面と、未だ死ぬ訳にはいかないと訴えかけてくる個人の側面。それらは水と油のように決して混ざり合うことはないが、それでも、フェルディアはこの瞬間において生きる道を選んだ。今後の更なる死闘を夢見て。

 

「これは決闘。だからよ、次の一撃で終いにするつもりはねえか?」

 

「……フッ、悪くはないな」

 

 クー・フーリンの提案、それは極々シンプルなもの。正面から同時に攻撃を仕掛け、どちらが上かを判断する。よくある一騎打ちのイメージだ。

 

 それを是としたフェルディアもまた立ち上がり、転がる槍を回収した後に、クー・フーリンに向き合う。

 

「「────」」

 

 百メートルは離れた距離から、三度目となる視線の交錯。両者の顔は能面の如き無表情。乱れた精神を統一し、何の技を以ってして雌雄を決するかを選択しているのだ。

 そして意識を覚醒させるように、互いに目を見開いて槍を構える。

 

 銃に弾丸を込めるように、燻った戦意に再び火を灯し、全身に滾らせるクー・フーリンとフェルディア。

 言葉では語り尽くせない歓喜と高揚感に身を震わせ、そこに程よい緊張感と、遂に戦闘が終わってしまうという残念さが加味され、不和なく同居する。

 

 彼らを見守る者らには、この空間の静謐な熱気が可視化しているようだった。また、衝突寸前の緊張感が、己が火にゆっくりと焼かれているという錯覚をもたらす。

 そして戦場の誰もが声を発する方法を忘れたように、 口を引き結んでいた。

 

 

 

 不意に、戦場に一陣の風が吹く。

 

 

 

「「────ッ!!」」

 

 瞬間、クー・フーリンとフェルディアは同時に地を蹴り、その強靭さによって地面が砕けて舞う。

 初速から最高速度を叩き出す両者。その衝突は一秒と経たずに訪れる。

 

 

 

 

 

 

 辺りが闇に覆われる直前、戦場で緋色の煌めきと鈍色の輝きが交わった。

 

 

 

 ◆




◆補足

Q.(偽)がめっちゃ好戦的やんけ!
A.殺しをしないだけであって、戦闘行為そのものは最早慣れ親しんでいたり。まして、自身のライバルが相手なんだから、ここで心が燃えずして何が戦士か!

Q.今回はネタ成分控え目やね。
A.そやで(肯定)。今回は真面目な戦闘回だったので、そういったギャグなりネタなりは意図して控えました。ぶっちゃけると、三人称視点で脊椎反射トークを書く方法がよーわからんくて匙を投げただけだったりする(自白)。

Q.フェルディア、お前、消えるのか?
A.もちっとだけ続くんじゃ。


  ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。今回は三人称視点でお送りしたVSフェルディア回でした。初めて真面目に三人称視点で書いてみたので、戦闘の描写が上手く伝えられているのかがわかりませんが、現状のベストは尽くしました。
 今までのストーリーの本筋は神話のイベントを回収するよう書いていたのですが、次回からは神話から乖離した内容を本格的に書いていく予定ですので、読者の皆様からは多くの賛否両論どころかバッシングノアラシ!(^p^)が予測されます。それでもめげずに書きはしますが、あまりに感想欄で囲って殴られると、某番組の石橋〇明さんの「ぶっ〇してやる!!」みたいなアレになるので、控え目にしていただければ私は非常に助かります。
 また、次回からはストーリー的に難産になる可能性が高いので、不都合がないよう整合性を取りつつ書くため時間がかかると思われます。ので、「執筆から逃げるな」と言われても仕方が無いレベルに次回更新は遅くなることが見込まれます。それでも書いていくので、今しばらくのお付き合いをお願いします。




















 
 ニコニコ静画で上がってた、大泉洋がカルデアのマスターになるイラストほんとすこ。特にタグのイカレ飯太郎で藤村君みたいな笑い声出て尚のこと抱腹絶倒したわ(戦慄)。


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誅罰:三人称視点

 今回は賛否両論がありまくる回だと思われます。が、これがこの物語の「歴史改変」の大きな要素となっているので、もう暫く生暖かい目で見守っていただければ……(懇願)。


 ◆

 

 

 

 辺りが闇に覆われる直前、戦場で緋色の煌めきと鈍色の輝きが交わった。

 

「「────ッ!!」」

 

 だが両者の槍がぶつかることはなく、その寸前で構えを変えた────強攻撃を弾くための防御姿勢へと。

 

 直後、二人の頭上から、山をも抉り飛ばす重い一撃が振るわれる。

 直撃すれば人の四肢など容易に木端微塵となる、流星の如き一撃。それをクー・フーリンとフェルディアは、コンマ単位でのズレなく同時に槍を振るい、弾き飛ばした。

 

 一騎打ちに介入するとは、と憤怒に支配されるクー・フーリンとフェルディア。だがその激情は、介入者の姿を見た途端、困惑に変化する。

 

「……何の冗談だ、オイ」

 

「……何故、何故貴方がッ……!?」

 

 二人の視線の先に映るは────螺旋剣を持つ屈強な戦士の姿。見間違うはずもない、フェルグスその人だったのだから。

 ケルトらしさの体現たる彼が、一騎打ちの最後の局面に手を出すはずがない。だからこそ信じられない。

 

「叔父貴ィ、これは一体どういう了見だッ!?」

 

 思わず声を荒らげるクー・フーリン。それに反応を示すように、フェルグスは螺旋剣を振りかぶって迫り来る。

 両手持ちで振り落とされた螺旋剣は轟ッ! と大気を戦慄かせ、それを真正面から受け止めたクー・フーリンを押し潰さんとする。

 たった一撃でクー・フーリンの四肢に痺れが迸る重撃。限りなく全力で振るわれる攻撃。それが雨のように繰り出され続けるのだから、当然、直ぐにクー・フーリンに限界が訪れ、筋骨隆々な体躯を余すことなく活用した一撃がクー・フーリンの体幹を崩した。

 

「ッ!」

 

 晒した隙は大きく。構えを崩されれば攻撃をいなすことすら不可能であり、しかも相手が歴戦の戦士であればある程に致命傷を負わせてくる。

 容赦なく螺旋剣がクー・フーリンの身体を消し飛ばす────寸前、豪胆な剣筋の軌道を阻害する鈍色の一閃。

 

「させるかッ!」

 

「……悪ぃ、助かった!」

 

 フェルディアの槍が螺旋剣の一撃を逸らした。そしてそれで終えることなく、フェルディアは身を半回転させ蹴りをフェルグスに叩き込み、強制的に距離を開かせた。

 

「……気付いたか?」

 

「……ああ」

 

 油断なく槍を構える二人は、笑いも呻きもしないフェルグスを見て、確信を得る。

 

 

 今のフェルグスは正気にあらず、と。

 

 

 それを裏付けるように、常に朗らかな笑みを湛えている顔はシミひとつ無い白紙さながらの無表情。

 声を発することなく、作業のように淡々と螺旋剣を振るう様は正しく「そうあるように」と狂わされた戦士の姿。

 豪快で篤実という印象を与えるはずの雰囲気は霧散し、あるのは醜悪な敵意と殺意、そして取って付けたような僅かな神気。

 

 違和感を列挙すれば暇がないが、総じて言えるのは、どれもがフェルグスの有する人格の側面とはかけ離れている、ということだった。

 

 以上のことから、フェルグスが何者かに操られていることを推測した。しかし疑問は尽きない。

 彼のフェルグスを傀儡に落とすだけの術者とは何者なのか、この一騎打ちに介入させた意図は何なのか。

 

 分からないことは多いが、フェルグスをこのようにした存在を許すことなどできない、ということだけは明瞭だった。

 誰ともわからぬ凶徒によって灯された、義憤に心が満たされるクー・フーリンとフェルディア。

 二人は改めて得物を握り締め、眼前のフェルグスに向いて構える。望まぬ力の振るい方をする彼を、全力を以て止めるために。

 

 不意に、上空から飛来する一羽の烏。闇夜に溶け込みつつある漆黒の姿だったが、それが放つ異様な神性に視線が巻き上げられる。

 

 

 ────よもや、そこな咎人を庇い立てする愚者が居るとはな。

 

 

 思わず聞き惚れそうになる魔性を孕んだ美声が、戦場という似合わぬ場に響き渡る。

 ここにいる誰もが声の主を探して辺りを見回す。その中でクー・フーリンとレーグだけは、聞き覚えのある声色に眉を顰めた。

 

 螺旋剣を持ったまま不動のフェルグス、その隣に舞い降りた烏の姿が歪み、優雅な女性を形作る。

 それは、灰色の長髪をたなびかせ、人外の象徴たる深紅の瞳を持った絶世の美女だった。

 異性を惹きつけてやまない抜群のプロポーションを誇り、その肉体美を飾るはシンプルなデザインである真紅のドレス。

 その上に灰色のマントを羽織っているとはいえ、肉体は扇情的なラインを主張しているため、隠し切れぬ色香が可視化しているように錯覚してしまう。

 

「頭を垂れよ、不敬であるぞ」

 

 スカサハともアイフェとも異なる女傑、ケルトにおける勝利の化身────モリガンであった。

 

「なっ、女神モリガン、様……!?」

 

 まさかの乱入に瞠目するフェルディア。彼が漏らした驚愕は、正しく戦場にいる全ての者の代弁だった。

 

「聞こえんかったのか? 二度、同じことを言わすな」

 

 睨み付けるように目を細めたモリガンは、困惑の広がる戦場の空気を吹き飛ばすように、威圧を撒き散らす。

 途端、フェルディアを初めとしてコノートの戦士達が一様に膝を折る。そうしていないのはクー・フーリンだけだった。

 

「……ほう、傅かんか。咎人に相応しき無礼さよな」

 

「咎人って俺のこと言ってんのか?」

 

「自覚もないとは。何と図太いことか、全く救いがない。我ですら憐れみを抱いてしまうわ」

 

 クー・フーリンに対し、吐き捨てるように、それでいて嘲りを多分に含んだ顔を向けるモリガン。彼女は続ける。

 

「貴様は大罪を犯した」

 

「あぁ? 大罪だ?」

 

「呆けるでないわ……! 貴様は我の寵愛を二度も拒んだ。二度もだ。それだけで飽き足らず、我という勝利を不必要と言い切ってみせたな……!」

 

 次第に強まる怒気。美貌を欲しいままにする顔が憤怒に彩られていく。

 

「それが度し難い……実に度し難いッ! 貴様のような身の程を知らぬ愚物がッ、この世に未だ存在していることそれそのものが! 我の怒りを掻き立て続けているのだッ!」

 

 モリガンのその様はヒステリックに喚き散らす、理不尽に怒り狂う嵐そのもの。されど彼女には怒り狂う明確な理由があった。

 

 モリガンは支配や権力を司るケルトにおける勝利の化身、戦女神として崇拝される神である。

 本来ならば、ケルトの戦士達は勝利を渇望し、それ故にモリガンの勝利の祝福を得ようと躍起になる。

 だがモリガンは素直に勝利を与える程優しくない。むしろ己の気に入った相手にのみそれを授ける、パターナリズムの具現たる神らしい神なのだ。

 

 そんな前提があって、しかしモリガン本人はそれを普通のことだと認識してきた。

 自身は勝利の化身たる神で、誰もが自身を欲し、何をかなぐり捨ててでも渇望する至高の存在なのだ、と。

 自身が寵愛を授けようとすれば、如何に寡黙な戦士でさえ歓喜に震えるのが当たり前。時には太陽神ですら自身に縋り付く程なのだから。

 

 故に、クー・フーリンのような戦士は初めてだった。

 

 誰も成し遂げたことのない偉業を達成し、それに挑む前でさえ勝利を乞うことはせず。自らの力のみで艱難辛苦の道なき道を開拓する。

 素晴らしい。勇ましい。欲しい。そういった感情すら引き出してくれる勇姿にモリガンは見惚れ、寵愛を与えてやろうとした。が、クー・フーリンはそれを拒んだ。

 これまで生きてきて初めての拒絶。恥辱に満たされたモリガンは、直ぐにでも彼に罰を下してやろうとした。しかし次に彼を見たのはアルスターとコノートの戦時、単身でコノートの軍勢を押し留める姿。

 彼の無双を目にしてしまったモリガンは、今までの怒りがそれ以上の情欲に変換される程にクー・フーリンに惚れた。惚れ込んでしまった。愚かながらも愛すべき強者であると認めたのだ。

 だからこそモリガンはクー・フーリンの前に再び赴き、寵愛を与えようとした。以前の拒絶は何かの間違いだった、今回は素直に受け取るはずだ、という希望的観測を当然のことだと思い込んで。

 

『勝利は与えられるモンじゃあなく、自分で勝ち取るモンだ。何処かの誰かのおかげで得た勝利に、一体何の意味があるってんだ?』

 

 モリガンの中で、何かが音を立てて壊れた。或いは、決定的な何かが切れた。

 

 他者から与えられた勝利は無意味。そう紡がれたクー・フーリンの言葉。それは正しく、モリガンの存在そのものの否定であったのだ。

 この世に誕生して幾星霜。周囲から崇め奉られし勝利の化身が、初めてヒトに不必要と吐き捨てられた。そしてそれを言い切ってみせた相手は、モリガンの私欲を存分に掻き立てた男ときた。

 

 存在否定と圧倒的拒絶のダブルパンチである。

 

 それによって癇癪を起こして暴れたり、無気力に陥ったりで済むのならまだ良かった。ここで忘れてならないのは、彼女が女神であることだ。

 神話における神は、常に何らかの渦中に座し、人に理不尽な暴力を振るっていながらに、それを試練やら神罰やらと正当化している。

 

 例に漏れず、彼女もその類であった。

 

 ケルトにおける勝利の概念たる自身を不必要と断じた。であれば、その者に勝利はなく、勝利が皆無であれば敗北という名の死あるのみ、と。

 

「────故に、これは誅罰である。勝利を望まぬ戦士なぞ、このケルトに不要だ」

 

 我を不必要と断じたお前こそが、この地に必要ないのだと、モリガンは意趣返しのように宣告した。

 

「……要するに、俺にフられた腹いせに殺すってか? ったく、ぶっ飛んだ思考してやがる。そうしてえなら勝手にやりゃあいいけどよ」

 

 純然たる殺意を向けられたクー・フーリンはというと、圧倒的なそれを飄々と受け流しつつも軽口を叩いてみせた。

 だが、次の瞬間には静かな憤りを隠すことなく全面に押し出し、

 

「────ただ、叔父貴は関係ねえだろうが」

 

 明確な敵意を持って、モリガンを睨み付ける。誰よりもケルトらしさを体現したフェルグスを、身勝手な復讐の手段として利用し、彼の誇りを踏み躙っているのだから、当然、許せるはずもない。

 一方、それを聞いた彼女は、より一層の加虐を包含した嘲笑をクー・フーリンに向ける。

 

「ああ、この戦士のことか。いや何、近くに立ち寄った際にな。好都合な故、使わせてもらった」

 

 隣にいるフェルグスの持つ螺旋剣、その刀身をなぞるように手を滑らせ、流し目でクー・フーリンを見据える。

 傾国の美女すら霞む妖艶さを感じさせる仕草に、事態を見守るコノートの面々は思わず唾を飲み込む。

 

「好都合だァ?」

 

「そうさな、冥土の土産に教えてやろう。我は貴様に罰を下さねばならんが、我手ずから下す訳ではない。それでは呆気がなさ過ぎて愉悦も生じん」

 

 ここで一度言葉を切ったモリガンは、先程までの色香を霧散させ、無知な幼子を諭す母親のような口調で、淡々と続ける。

 

「貴様は、人を殺めぬというゲッシュを誓っているな?」

 

「………………何のことだ」

 

「惚けるな、白々しい」

 

 敵意と殺意の悉くを煮詰めた目でクー・フーリンを睥睨するモリガン。

 

「ゲッシュを守り通す限りは神から祝福が与えられ、それを一度でも破れば禍が降りかかる」

 

 モリガンの言うように、ゲッシュとは己に課す誓約であり、内容が厳しければ厳しい程に神からの祝福が与えられる。

 祝福とは、単純に身体能力の強化を初めとし、魔力量の上昇、特異な力の付与など多種多様だ。より具体的に言えば、パラメータに補正がかかる他、スキルも増えたりする。

 

 クー・フーリンの場合、物理的な衝突が日常のケルトの地に生きる戦士でありながら、立てたゲッシュは「人を殺めない」「殺めるとすれば巨悪を討ち滅ぼすため」という厳しさ。とある十三拘束も霞む難易度である。

 

 一方で、ゲッシュを一度でも破れば祝福以上の呪いに苦しむことになる。ケルトに名を連ねる英雄の破滅は、それに反することで訪れている程だ。

 

「…………それがどうしたってんだ?」

 

「察しが悪いな。それとも理解していながら、否と思いたいだけか?」

 

 モリガンの整った美貌に三日月の如き弧が描かれる。美しい顔に映し出される悪意に満ち満ちた笑みだった。

 

 

「貴様がゲッシュを破る様を見れば、少しは気が晴れるだろうさ」

 

 

 モリガンのその言葉と同時に、不動を貫いていたフェルグスが再び螺旋剣を構える。意識なき剣先はクー・フーリンを捉えていた。

 

「人を殺めないという誓いを立てる貴様を、殺そうとする刺客は叔父。此奴を殺さねば貴様が蹂躙され、逆に此奴を屠ればゲッシュで苦悶する! この傀儡を解こうと足掻けば此奴が生傷を負うぞ!」

 

「ッ、テメェ!」

 

「ハハッ、いいぞ……その顔だ! その怒りこそが我を不要と断じた報い! それを抱いたまま逝けッ!」

 

 モリガンの哄笑を合図にフェルグスは駆け、螺旋剣をクー・フーリンに振り下ろした。が、その一撃に文字通り横槍が入れられる。

 

「……どうかお待ちをッ!」

 

 フェルディアである。これまでモリガンの威光に平伏していたが、クー・フーリンへの沙汰を聞き、それはあんまりだと奮起させられたのだ。

 

「……ほう、一度ならず二度までもか。そこな戦士よ」

 

「どうかッ、どうかお考え直し下さい!」

 

 フェルディアは螺旋剣を受け止めながら、必死の形相で訴えかける。

 

「確かに、クー・フーリンは周囲とは異なる思考と価値観を有しておりますが、戦士の素質と実力は一流! ここで散らすには勿体ないと思われます……!」

 

「それは理解している、嫌という程にな。だからといって生かす理由にはならんが。彼奴だけが秀逸な戦士という訳でもあるまい」

 

「っ、ですが! 貴女様に傅いて勝利を懇願しないのは、クー・フーリンが優れた戦士である証とは考えられませんかッ?」

 

「そうさな、そうとも考えられる。だがそれが気に入らん。我という勝利を一度たりとも欲していない様が気に食わん」

 

「し、しか「くどいッ!!」」

 

 取り付く島もないモリガンの言動に、必死に蜘蛛糸を手繰ろうとしていたフェルディアは気圧される。

 力の抜けた彼は、傀儡と化したフェルグスに容易に吹き飛ばされた。

 

「彼奴への誅罰は決定事項だ。今更どうこうすることもできない。如何なることがあったとしてもだ」

 

「…………ッ!」

 

 地に転がった姿勢のまま歯を食いしばり、自身を抑え込むフェルディア。その気持ちは、この場にいるコノートの戦士達も同様だった。

 いくら敵とはいえ、自分達を降し、戦い続けたクー・フーリンに対して尊敬を向けていたのだから仕方がない。

 

 

「そして、決定事項故に遁走は許されない」

 

 

 モリガンの冷徹な呟き。それを耳にしたクー・フーリン達は肌に吸い付く嫌な汗を流す。

 

「……? 何か、音がしねえか?」

 

「はぁ……?」

 

 不意に、コノートの戦士の一人が呟いた。重苦しい空気だったせいか、それは酷く響いた。

 息苦しさを飛ばすための冗談にしては面白さが皆無。だからこそ、それがそのような意図で発せられた言葉ではないと皆が理解する。

 

 ふと、フェルディアは地に耳を着けた。

 

(────これは……足音? しかも多数)

 

 行軍さながらの大人数。個々が地を踏みしめながらこの戦場へと集結しつつあったのを、フェルディアは聞き取った。

 そして視線を周囲に向けてみれば、夜闇を照らす松明の灯りが次第に接近して来ているのを目視する。一つや二つではない、無数のそれ。

 

「なっ……!?」

 

 誰かが上げた驚愕の声。それも仕方がなかった。何せ、この戦場を取り囲むように幾千幾万の戦士達が迫って来ていたのだから。

 一人一人から感じられるのは、歪な殺気と神性。フェルグスが放つものと同質のそれ。つまり、彼らもまたモリガンの傀儡なのだと理解する。

 

「何故ッ、コノートの皆が……!?」

 

「アルスターの皆さんまで……!?」

 

「……女傑騎士団もですか」

 

 フェルディア、レーグ、エメルの悲痛な声。操られている彼らはコノートとアルスターに属する戦士達だったのだ。

 

「どういうこった!?」

 

「言ったであろう? 近くに立ち寄った、とな」

 

 彼らが傀儡と化した、その元凶は紛うことなくモリガンだ。

 そもそも彼女が両国に赴いたのは、クー・フーリンを容赦なく、完膚なきまでに叩き折るため。その手段としてコノートとアルスターの戦士達を傀儡に落としたのだ。

 

「人を殺めぬというゲッシュを背負う貴様が最も苦しむのは何か。それは、殺さねば殺されるという状況下と、その敵が貴様の顔見知り及び無辜の民であることのふたつだろう。故、それを整えてやったまでよ」

 

 神が人間にもたらすモノの類は、往々にして理不尽極まりない。モリガンの場合、相手を苦しめるためならば利用できるものは最大限に活用するという、徹底した精神及び肉体への物理的なダメージに特化している。

 

「まあ、それとはまた別に、貴様の最期を飾るのが此奴一人では寂しかろうと思ってな。貴様を英雄と讃えた者らの手で死なせてやろうという、僅かに残った温情故だ。大人しく拝領せよ」

 

「巫山戯んなッ! そんなことのために、アイツらを利用するってのか!?」

 

「貴様にとっては瑣末事だろうが、事は人間風情が思うような些事ではない。神を愚弄することは即ちこういうことなのだ。死をもって知れ」

 

 そう言うと、モリガンは背から漆黒の翼を顕現させて空へと舞い上がり、戦場を俯瞰する位置で留まる。劇を鑑賞する特等席だと言わんばかりの行動だった。

 徐にモリガンの視線がクー・フーリンから外れ、それ以外の者らに注がれる。

 

「そこな戦士達よ、貴様らも我が軍門に降るがいい」

 

 瞬間、モリガンの瞳が幽幽とした妖しげな光を放ち、クー・フーリンを除く者らが一斉に苦しみ始める。

 自分が自分でなくなっていく言い様のない嫌悪感、内側から無理やり塗り潰されていく喪失感に襲われた彼らは、間もなく悶えるのを止め、マリオネットさながらに得物を構えた。

 既に彼らに正気はなく、意識すら定かではない。思考が朧気な中ひとつだけ明瞭だったのは『クー・フーリンを殺せ』という歪な殺意のみ。

 

「ッ!!」

 

 クー・フーリンは周囲が己を狙っていることを即座に感知し、もしやフェルディアとレーグもかと視線を向ける。すると、

 

「ッあ、グ────ッ!?」

 

「ぅ……ぎぃ……!」

 

 モリガンの精神支配を耐えていた。堕ちる瀬戸際で、並々ならぬ精神力を駆使して二人は意地で踏み留まっていたのだ。それを成せるは、偏に『クー・フーリンの友だから』という強い思いがあってこそ。

 

「フェルディア……レーグ……!」

 

 せめぎ合う理性に訴えかけるように、或いは蝕む邪気を祓うように、クー・フーリンは声を投げかける。

 それに反応した二人。フェルディアは意識を呑まれまいとして己を殴り、レーグは自身を殴るのに躊躇った結果、見かねたセングレンとマッハにタックルされて地面に頭を打ち付けた。

 こうして、違いはあれど両者共がモリガンの精神支配を跳ね除けることに成功する。

 

(よかった、フェルディアとレーグが正気に戻っ……て、そういやエメルはっ!?)

 

 焦ってエメルの姿を探せば、レーグの側に佇んでいるのが目に入る。

 エメルが正気を失って襲いかかってくるならば、それはクー・フーリンを心身共に追い詰めるリーサルウェポンと化すだろう。

 それ故に、エメルが傀儡と化していないことを願って視線を送っていれば、

 

「……何ですか、さっきのイヤな光は」

 

「………………」(………………えぇ(困惑))

 

 眉を顰めてモリガンを睨み付けるエメルがいた。何とこの女、他の戦士達と同様に悶え苦しむことすらなく、素で完璧に跳ね除けたのだ。

 エメルからすれば、モリガンが異様な光を放っただけ。ただ、それだけである。

 

 上空から優雅に愉悦を嗜んでいたモリガンは、抗う三者を視界に収め、一転して不愉快であることを顔に映す。

 

「……ほう、我の言に逆らうか。そのような輩はケルトに不要。そこな愚か者と共に死に絶えるがいい」

 

 この瞬間をもって、フェルディア、レーグ、エメルもまた誅罰を下す対象に入る。

 

 神罰の執行者として心身を掌握された戦士達。それはクー・フーリン達へ刻一刻と接近する。

 戦場にいたコノートの戦士達もその隊列に加わり、『王の軍勢』を遥かに超える大軍勢と化していた。

 

 大軍勢の視線を束ねるはクー・フーリン。彼は正気を取り戻したフェルディアと背を預け合った姿勢で魔槍を構える。その矛先は少し離れたフェルグスに向けられ、油断なく一挙手一投足を注視する。

 対し、フェルディアは戦車を走らせて駆け寄ってきたレーグとエメルを加えた三人で、迫りつつある戦士達を見据える。

 

「……すまねえ、俺のせいで巻き込んじまってよ」

 

 絶望的な状況下で、クー・フーリンは顔を歪めながら謝罪する。

 俺がモリガンを邪険に遇うことをしなければ、このような事態に巻き込まれずに済んだはずなのに、と。

 拒絶され、罵倒されても文句はない。何であれ甘んじて受け入れる。そう思って言葉を投げかけたが、

 

「謝罪される言われはないさ。俺は俺の意思でお前に背を預けたんだ。それに、張り合う相手が居ないのなら、俺も途方に暮れてしまう。それだけは御免だ」

 

「僕は貴方に多くを貰った。それがなければ今の僕はなく、そもそもここに居ることすら叶わなかったでしょう。そこに感謝こそあれ、後悔とか憎悪とか、そういったものはありません! ある訳がない! だから、謝る必要はないんですよ」

 

「クーは私の全てッ! 一蓮托生ッ! これ以上に言葉を重ねる必要はないですよねぇ?」

 

 恨み節ではなく、自他を鼓舞する三者三様の返答。戦意、憤怒、悲痛、焦燥を湛えた三人ではあるが、恐怖や諦念の類は一切介在していなかった。

 

「……全く、俺にゃ勿体ねえ連中だよ」

 

 苦笑するクー・フーリン。心中では、本家兄貴ならこんな過ちは犯さなかっただろう、と後悔を重ねていたが、たらればを考えていても無意味。直ぐに思考を眼前のそれらに切り替える。

 

「数百万はくだらんか。本当にコノートとアルスターの戦士達を根こそぎ動員してきたようだな。どうする、クー・フーリン?」

 

「見りゃあわかる。ったく、どうしたモンか」

 

「……戦車で強引に道を切り開くのはどうでしょうか?」

 

「ナシじゃねえが、奴らは俺達の姿を常に視界に捉えていやがる。簡単に対応されちまうだろうさ」

 

「せめて一瞬でも視線を逸らしてくれれば、ということですか……難しいですね」

 

 切羽詰まった危機的状況を前に、クー・フーリン達は打開策を模索する。各自の能力や経験に基づいた知識、利用可能なあらゆるモノを総動員して思考するも、行き着くのは『初手が潰される』という逃れ得ぬ前提。

 

 更に言えば、四人のみでやれる範囲には、どうしても限界がある。例えクー・フーリンとフェルディアが国士無双の強者だとしても、モリガンの『勝利の加護』の前には敗北が運命付られてしまう。レーグの御者としての才覚も、エメルの戦闘能力も、この戦局においてはあまり意味をなさない。

 

「あの女を討ってしまう、というのはできないのですか? ルーン魔術を使えば、例え空中だろうと迫れるのでしょう?」

 

 エメルはモリガンを射殺さんばかりに睨み付けながら、ふと思ったことを口にする。

 

「……まあ、やれたとしても接近するのが限度だな。アイツは曲がりなりにも勝利の化身。本人の戦力も相当なモンだろうよ」

 

 手詰まりだった。クー・フーリンのみであれば遁走も可能だったであろう。神速の如き英雄なのだから、強引な突破がなせる。

 だが全員無事でとなると難易度は跳ね上がる。何をしても対処される未来しか見えず、例えクー・フーリンがゲッシュを破ってでも突破しようとしたとて、この中の誰かは確実に犠牲となってしまう。

 

 どうすればいいのか。それを考えるクー・フーリン達だったが、迫る戦士達が待つことはなく。

 

 

 

 万事休すかと覚悟を決めた────その時。

 

 

 

 行軍とはまた別に、何者かが急速に接近していると思しきチャリオットの音。それを引いているであろう四足獣の力強い足音が二頭分。

 聞き取ると同時にそちらに目を向けてみれば、コノートの方角から来た戦士達が次々にはね飛ばされていく。

 

「ッ、今ッ!!」

 

 迫り来る傀儡達の意識が乱入者に向いたのを、然とクー・フーリンは感じ取り、即座にフェルディア達に指示を飛ばす。

 レーグが戦車を急発進させ、それに飛び乗るフェルディアとエメル。三人を乗せた戦車は乱入者へと真っ直ぐに突き進んだ。

 少しでも守りが薄くなった箇所に突貫し、自分達と乱入者との挟撃の要領で道を確保するしかない。

 乱入者が誰なのかはわからないが、そうだとしても、今はこれに乗じる他なかった。これを逃せば次はないのだから。

 

(誰かは知らんが、これは勝ち筋があるかもしれんッ! だから俺は────ッ!)

 

 一方、クー・フーリンは戦車に飛び乗らず、その場に残って三人の背中を単独で守り抜くべく、大津波のような一塊で押し寄せる彼らを槍術とルーン魔術のありったけを駆使して留める。

 氷塊を射出し、斬撃を飛ばし、火炎を放ち、縦横無尽に駆け巡る。単身でありながら、ひとつの軍隊を押し留める。その姿は蒼と紅の光のよう。

 

 殺人を犯さぬよう注意しつつ粗方を薙ぎ倒したところで、巌の如き勇士フェルグスが立ちはだかる。

 

「ッ、やっぱ来るよな……!」

 

 夜闇が辺りを包みつつある中、フェルグスの螺旋剣は豪快に正確に振るわれる。

 俯瞰するモリガンが直にコントロールしているのだ。フェルグスがそこらの戦士とは一線を画す猛者であるのを直感的に悟ったからであった。故に、夜闇など考慮に値する訳がない。

 

 激しい剣戟。飛び散る火花が継続的に辺りを照らし、絶え間なく明滅する。

 フェルグスの一撃は重く、操られて尚その鋭さを失わない。だがクー・フーリンの反射神経をもってすれば対応は可能。そのはずなのだが、

 

(……打ち合えば打ち合う程に強くなってやがる……!?)

 

 次第にクー・フーリンが押され始めた。フェルグスの重撃は長時間の戦闘を不利に追い込むが、それとはまた別にフェルグスが強化されている。

 クー・フーリンは、ひとつ思い当たる。

 

 ────『勝利の加護』

 

 クー・フーリンが負けるようパワーバランスを傾けた。そう言われれば納得してしまうような、運命の悪戯。否、これこそがモリガンの与える恩恵。常勝。

 長期戦をすれば確実に敗北を喫する。だからこそ、短期決戦且つ勝利を狙わない。そもそもこれは三人を逃すための足止めに過ぎないのだ。

 

「どこまで耐えられるモンかねえ……!」

 

 クー・フーリンは、最速の英雄の名に恥じない戦いに臨む。

 

 

 

 

 

 

 先行した三人は戦士の山を突き進む。刹那の隙を突いた不意打ちの如き、戦車の突貫。それにより、ほぼ一方的に戦士達をはね飛ばす。

 しかし中には攻撃を仕掛けてくる者も当然いる。戦車を引くセングレンとマッハを、戦車を操るレーグを、戦車そのものを。

 

 それを防ぐのがフェルディアの役目。

 

「させんッ!!」

 

 矢面に立ち、無銘の槍を存分に振るう。時に槍を浅く構えてリーチを伸ばし、時に槍を深く構えて素早く回す。銀線を描く槍撃は襲い来る攻撃の悉くを弾き返した。

 暗闇であるならば、夜目の効かぬフェルディアに勝ちの目はなかっただろう。だが生憎と、光源は相手方が過剰な程に持って来てくれている。

 

「見えるのならば、加護なぞ恐るるに足らずッ!」

 

 正しく無双されど、先程までクー・フーリンと繰り広げていた死闘の疲れが色濃く残っているのもまた事実。

 フェルディアの手元が僅かに狂い、レーグを狙った一突きを通してしまう。

 

(ッ、しまっ────!?)

 

 だが、それがレーグに届くことはなかった。

 

「全く、しっかりして下さい。彼を死なせればクーが悲しむんですから」

 

 エメルが一突きを、己の槍で叩き落としたのだ。鍛え上げた心身は伊達ではない。

 

「すまん、助かった!」

 

「お礼を言う暇があったら、直ぐに周囲に意識を向けてください」

 

 このような戦況にいながら、エメルは冷静沈着に、淡々と事をこなす。ある意味では肝が据わっていると言えるが、それを成せるはクー・フーリンへの狂愛故に。

 そうとは知らないフェルディアは「この女……出来るッ!」と内心で評価を上げたのだが、それはそれ。

 

 レーグはというと、ただ、ただ無言に徹し集中して戦車を操る。少しでも人数が少ない方を瞬時に選出し、ルートを探りながらも目に見えた妨害を避ける、避ける、避ける。

 圧倒的な情報量、しかしレーグは頭をフル回転させることで処理し続け、もはや自身に迫る攻撃にすら無反応という極地に至っていた。

 

 全ては、この理不尽な争いから脱するため。今も尚、僕達の背を守り続けてくれているクー・フーリンさんのため、と。

 

 そうして間もなく、三人の乗る戦車と乱入者の戦車が接近する。

 

「アレは……まさか!?」

 

 フェルディアの驚愕に満ちた声。それに反応するのはエメル。

 

「見覚えがあるのですね!?」

 

「ああ、見間違うものか。アレは……メイヴの戦車だ!」

 

 緋色を基調とし、ハートマークを象った金属や金色のラインを刻んだ装飾のなされた悪趣味なチャリオット。

 それを引くのは馬ではなく、重装兵のような甲冑を装備した、勇ましい二頭の牛。

 

 ────「もうッ! 何で私の勇士達が私に歯向かうのよ────!!?」

 

 戦場に現れた一縷の希望、それは紛うことなきコノートの女王メイヴだった。

 

「……………………へぇ、アレがメイヴですかぁ」

 

 擬音が聞こえて来そうな程の暗黒微笑を浮かべ、怨敵を呪う声色でメイヴを見据えるエメル。

 愛する男を苦しめた元凶であり、不遜にも彼に言い寄る淫売。それがエメルの持つ、メイヴへの認識。

 そのため、今直ぐにでもメイヴを消してやりたい衝動に駆られるが、今はそれどころではないので抑え込む。

 

「あの戦車と並走できるかッ!?」

 

「……少し揺れます!」

 

 レーグがセングレンとマッハに指示を飛ばした次の瞬間、戦車が急旋回し、こちらに目もくれず突き進んで行ったメイヴのチャリオットの背後に着く。そこから更に速力を上げ、並走する。

 

「メイヴ!」

 

「何よッ!? ……って、フェルディアじゃない! 一騎打ちはどうなったの!? クー・フーリンは!? というか私の勇士達はどうしちゃったのよぉ!?」

 

「お、落ち着け! 事情は後で説明する! 今はクー・フーリンを助けるために協力してはくれないか!」

 

「────聞くわ」

 

 混乱して喚き散らす様から一転、賢者タイムに突入。この切り替えである。

 

「そこでクー・フーリンがこいつらを押し留めてくれている! あいつが仕留められる前にッ、俺達で回収する!」

 

「回収……拾うには無理があるんじゃない?」

 

「いや、近くまで行ければそれでいい!」

 

 力強く言い切るフェルディア。それを見たメイヴは確信を持って問い掛ける。

 

「策があるのね?」

 

「ない!」

 

「……えぇ?」

 

 この局面において下手に策を弄すれば、むしろそれに縛られて柔軟な行動に制限がかかってしまう。モリガンが何を仕掛けているか不明な今、それはあまりにリスクが高過ぎるのだ。

 ならば、とコペルニクス的転回。策などなくていい。各々の臨機応変な判断に全てを任せ、明確な役割分担のみをする。好都合なことに目的は一致しているのだから、ある程度の連携は効く。

 

 そして何よりも────

 

「例え一瞬だろうと、俺達が手を伸ばせば確実に掴み取る。あいつの速さは熟知しているからな」

 

 ────信頼がある。

 

「……はぁ、ホント……クー・フーリンのことになるとアツいわね、貴方」

 

 お前がそれを口にするか、という言葉を既で飲み込んだフェルディアは、照れ隠しも込めて苦笑した。

 

「いいわ、ノってあげる! さしずめ、クー・フーリンの近くを通ってから逃げればいいのよね?」

 

「ああ、頼んだッ!」

 

 フェルディアとメイヴのやり取りが終わり、二両の戦車がクー・フーリンの元へと直進する。

 途中、それを阻止せんとする戦士達が群がってくるが、轟速の域に達した戦車を止めるのは至難の業。よって、次々と戦士達が宙を舞う。

 

「っ、見えたわ!!」

 

 メイヴが声を上げる。彼女が目にしたのは、自身の勇士たるフェルグスがクー・フーリンを押し潰さんとする姿。

 その背後には凍傷や火傷を負った戦士達が彼ににじり寄る。

 

「────クー・フーリンッ!」

 

 フェルディアの声が通る。と、クー・フーリンの視界が三人とメイヴを捉えた。

 

 

 

 

 

 

 螺旋剣を受け止め、しかし次第に脚が地面に沈み込むクー・フーリン。元々のフェルグスの力に加味された『勝利の加護』が、時間経過と共に猛威を振るっているのだ。

 フェルグスの相手をするだけでも全神経を尖らせねば対応が困難だというのに、背後にはルーン魔術で足止めした戦士達。挟撃である。

 

(────クソッ、もう持たねえぞ……!)

 

 殺しをすればどうにでもなる現状だが、それを選択してはモリガンの思うツボ。それはだけは回避してやる。そのような覚悟を決めたはいいものの、やはり首が絞まる。

 弱まりつつある、戦士達が持つ松明の灯。その揺らめきが己の命の灯火のように感じられ、そんな弱気な思考に陥っていることに嫌気が差した。

 

 

「────クー・フーリンッ!」

 

 

 様々な音が絶え間なく鳴り響く戦場、そこを通る声。それがフェルディアのものであり、何の意図で名を叫んだのかも、クー・フーリンは瞬時に読み取った。

 声のした方向に目を向ければ、無事な三人の姿……と、メイヴ。はて、と思考がフリーズするが、直ぐに再起動させる。

 

 魔槍を傾け、受け止めていた螺旋剣を流し、フェルグスの懐に潜り込んだクー・フーリンは、肩、腕、脚に装備された黒い鎧に魔力を流す。

 

(……大丈夫、もう呑まれたりしないッ!)

 

 全身を覆うようにして展開される『噛み砕く死牙の獣』。

 先日の一件から使用を控えていたこれだが、もう二度と同じ過ちは犯さない。

 

 懐から突き上げる要領でフェルグスの持つ螺旋剣を狙う。

 フェルグスは対応しようとするが、『噛み砕く死牙の獣』によって強化された筋力と速度は、彼にアクションを許さず螺旋剣を宙に飛ばした。

 

「────ッ!」

 

 空中に座するモリガンは驚愕を顕にする。己が直接操っている加護持ちの戦士が、クー・フーリンに一歩劣ったのだから無理もない。

 

 モリガンのそれを鋭敏に感じ取ったクー・フーリンは、肩部に備わった触手でフェルグスを絡め取り、にじり寄っていた戦士達へと放り投げる。

 そこまでやってから『噛み砕く死牙の獣』を解除し、迫る戦車へと向かう。初速から最高速度を叩き出す彼の神速は戦士達の合間を縫い、妨害を受けることなくメイヴのチャリオットに飛び乗った。

 

「きゃあ! あ、貴方から来てくれるなんて……!」

 

「言ってる場合か!」

 

 レーグの操る戦車には三人が乗り込んでいるため、空いているメイヴの方を選んだに過ぎないのだが。

 

「レーグッ!」

 

「はいッ!」

 

 クー・フーリンが素早く指示すれば、快活な声で了解するレーグ。戦車を再び急旋回させ、半円を描くようにしてコノート側に引き返す。

 メイヴには「レーグの後を着いて行け」と言い、「私に命令しないでっ!」と返されるも、彼女の顔は歓喜に染まっていた。

 

 最後まで行く手を阻もうと飛びかかってくる戦士達だったが、大多数は戦車の勢いに吹き飛ばされた。

 少数の実力者は魔術や武器の投擲、一撃離脱を仕掛けてくるも、その悉くを弾くクー・フーリンとフェルディアを突破することは叶わず。

 

「抜けました!」

 

「ッし! このまま走れ!」

 

 あの絶望的状況からの脱出に成功した。クー・フーリン達は止まることなく走り続け、戦場から離れて行く。

 振り返れば戦車を追いかけてくる戦士達が目に入るが、速度の差はあまりに歴然。次第に姿は見えなくなり、次いで足音すらも聞こえなくなった。

 

「ふぅ、何とかなりましたね」

 

「……根本的には何も解決できちゃあいないけどな」

 

「とにかく、これからを考えよう。クー・フーリン、一先ずだが行く宛てはあるか?」

 

「……あるさ」

 

 クー・フーリンは苦い顔をしながら、一言。

 

「────影の国」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つくづく、食えん奴だ」

 

 クー・フーリン達が逃げ去った方を見て、モリガンはごちる。

 

『勝利の加護』は戦闘において勝利を運命づけるものであり、それをもってすればクー・フーリンを敗北に追い込める。

 そのはずだったのだが、彼には端から勝つつもりはなかった。そもそも勝負とすら捉えておらず、存命し逆転を狙う選択をしたのだ。

 そのせいで『勝利の加護』が真価を発揮する前に、遁走を許してしまった。

 

 それに腹を立てるが、構うものかと思い直す。

 

「だが、何処へ行こうが彼奴は必ず我の前に現れる」

 

 クー・フーリンの友や無辜の民が囚われているのだから、それを解放するべく動いてくるはず、という確信があったのだ。

 他者への甘さは美徳ではあるが、過度なそれは己を破滅させる猛毒だ。侵されれば解毒は困難、そのまま自ら死地へと赴くだろう。

 

 ────その際に引導を渡す。

 

「勝てぬ戦いに挑み、為す術なく玉砕するがいい」

 

 

 

 ◆




◆補足

Q.モリガンの動機についてkwsk。
A.2回フラれて存在否定されたからキレた。3度?仏じゃねえんだなコレが。神話の女神なんてこんなもんよ(偏見)。

Q.戦車にはね飛ばされてるの可哀想。
A.即死はしてないからセーフ。存命の理由はケルトだから(謎理論)。

Q.何でエメルだけは精神支配効かんの?
A.リア狂って知ってる?(白目)

Q.何でメイヴは戦場に来たん?
A.クー・フーリンが手に入るとルンルン気分で自室でトリップ(オイ)。日が暮れ始めて部屋から出てみれば、勇士達が誰一人としていない。不穏な気配と苛立ちに任せるまま戦車を走らせ、戦場に接近すると、そこにいた勇士達に攻撃される。後は描いた通り。


 ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。今回も前回に引き続き三人称視点でお送りしましたが、やはり時間がかかってしまうのは何とも言えないですね。執筆時間の確保がちゅらいです……(レ)。次回は(偽)視点に戻すつもりなので、脊椎反射トーク待ったナシですやったー!
 モリガンによる誅罰は、積もり積もった怒りが爆発した結果、周囲を巻き込んで(偽)を野郎オブクラッシャァァァアア!に踏み切ったものです。コンエアー…(名作)。この小説の注意書きに書いていないように、モリガンはヒロインではなく、ボスキャラとしての登場を思案していたので、とりあえず満足のいく仕上がりになりました。意識して理不尽を描いてみたのですが、これが中々……難しいねんな。
 次回は本作主要キャラ達が集い、事態の解決を模索します。勿論、ヒロインズが集結したらどうなるか……後はわかるね?(愉悦スマイル) 正直な話、ここからの展開が割とあやふやなので、ストーリーを練りながらの執筆になります。矛盾点や大きなツッコミどころはないように努めますが、それでも「それは違うよ!(NEG君)」というのはあると思うので、その際は感想にて指摘していただければ幸いです。では、また次回!






























 マリィちゃん尊い……(成仏)。


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転覆

 久しぶりの(偽)視点にネタの引き出しが超究武神覇斬したのでクソ駄文です(チンパン)。後半は割と真面目かも。


 ◆

 

 

 

「────さあ! 説明してもらうわよ!」

 

 モリガンから逃げ切り、影の国を目指す道すがら、メイヴが声高々に事態の詳細を要求。現状について全く知らんのだとか。

 知らんのに自分んトコの勇士達をはね飛ばしながら助けてくれたんか。これは間違いなく救いの女神……女神はもうやめてくれ……(自傷)。

 

 とりあえず、メイヴに事の経緯を掻い摘んで伝える。

 

 モリガンが『フフ……セッ──!』とか言ってきたんで、必要(?)としている人のところに行ったげて、と拒否。

 次に、急いでいた際にまたもエンカウントしたため、必要ねえから他のところ行け! と声を大にして逃走。

 その結果、ブチ切れモリガンがシャイニングのあのシーンばりに追い詰めてきた、と。

 

 女神……コワイ……。ホントに何なの? 青〇島のコミュニケーションの如く即合体を求めてきて、それを拒否ったから殺しに来るとか、もう頭おかしなるで……。

 

「……ふふ、モリガンのヤツ、ざまぁないわね! クー・フーリンは私のモノになるから靡くはずもないのに!」

 

 むふふ、と笑いを零しながら胸を張るメイヴ。待てや、一騎打ちは一応俺の勝ちやぞ。

 

「……前々から思っていましたが」

 

 と、ここでエメルが話をぶった斬ってダイナミックエントリー。敵意マシマシの淀んだ瞳でメイヴを睨み付ける。

 

「『私の』クーに言い寄るのは止めてもらえます?」

 

「………………は? 誰よアナタ。それに『私の』?」

 

 メイヴから笑みが完全消失し、瞬時に一触即発の雰囲気に包まれる。オーラだけで人を殺せそうな勢いだ。誰かッ、スーパーキタカゼを持ていッ! 

 

「私はエメル、クーの女です」

 

「えっ!?」

 

 したり顔で捏造爆弾発言やめろーッ! 色々と驚愕だわ! 

 

「う、うう、嘘っ!? クー・フーリンの身辺は徹底して調べ上げたのよ!? そんなのがいるだなんて聞いたことないわ!」

 

「フフフ、それ、何処の誰が正しいと証明してくれるのですか?」

 

 世界一カッコいい某デブのような言い回しをするエメル。

 確かに情報なんてガセ九割ってレベルに疑心暗鬼になるのが、SNSもない時代の通念かもわからんけどさぁ。つか、その理論だとオウム返しでお前も詰むぞ。

 

「ですから、金輪際、クーに言い寄ることがないようにお願いしま────」

 

「よく考えたら特に問題なかったわね」

 

「────はぁ?」

 

「だって、私がクー・フーリンを本気でオトしたいって思っているんだもの。直ぐに彼を魅了して、アナタを捨てさせればいいんだわ!」

 

 ビシッ! と効果音の付きそうな仕草でエメルを指差すメイヴ。

 強いッ! 強過ぎるッ! そういやこいつメイヴだったわ! あまりにピュアッピュアやから忘れてたよ。

 

「それに、彼のオンナっていうのも嘘なんでしょ? クー・フーリンも目を見開いて驚いていたもの」

 

「…………淫売」

 

「どうとでも言いなさいな! 私は私に正直なの!」

 

 何、この……言葉と視線のベタ足インファイト……。いやまあ、全部俺のせいなのはわかってるんだけどさ。俺、何かやったか……? リアルにnice boatしそうなんだが。

 

 それからもずっと二人は戦車越しに口論を続け、キャットファイトは加熱していった。

 止める術は俺にはなく、口を挟んでも「「貴方は黙っていて」」と突っぱねられる。助けを求めてレーグ君とフェルディアに視線を投げかけるものの、二人共が我関せずを貫くのだった。

 

 >……そっとしておこう(諦観)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姦しいエメルとメイヴをBGMにして数時間、ようやっと影の国へと辿り着く。モリガンの追手などの姿はなく、全員が無事に到着することが叶った。

 

 ただ、二人の口論によって俺の精神はマッハで蜂の巣にされた。精神攻撃は基本。これには虐〇おじさんも「見ろよこの無残な姿をよォ!?」と怒鳴らざるを得ない。

 具体的には、二人の「私の方がクー・フーリンをよーく知っている」自慢が開戦し、埒が明かないと見るやいなや実力行使(オナモミ化)である。

 本音を言えば役得なんだが、エメルは物理的にヤベーイ力で俺に抱き着くし、メイヴは鍛え上げた手練手管で俺を誘惑してくるしで……うん、キッつい(理性摩耗)。

 

 絵面だけ見たら、美女二人を侍らせたクソ野郎ですお疲れ様でした。いや、クー・フーリンだから絵になるんだろうけど……如何せん中身が伴ってないんだ……! 

 

「へぇ、こんな辺鄙なところに影の国があったのね。私、初めて知ったわ」

 

「ああ、ここにクーを誑かす女狐姉妹がいるのですね……」

 

 二人が禍々しくも荘厳な影の門に畏敬の視線を送る。片や、珍しいものを目にして興奮し、片や、ここがあの女のハウスね……と言わんばかりに負の感情を練り上げる。

 

 ……さて、エメルとメイヴが影の国に入るために、入国許可をもらわねばならないわけだが……。

 

「影の国の門に着いた訳だが、 メイヴらの入国許可はクー・フーリンが取ってきてくれ」

 

 ……ふむ、フェルディア、わしにしねというんじゃな! 

 

「いや、死んで欲しくはないが。ただ、お前と仲の良い女性二人を入れてくれ、と頼んだら最期。二度と日の目を拝むことは出来なさそうだからな……」

 

 だから俺の問題は俺で解決してくれってか。ぐう正論過ぎて何も言えねぇ。まあ、既に多大な迷惑をかけているワケだし、これは俺がやらねば……(ケツイ)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 影の国に足を踏み入れ、師匠と師範を呼ぼうとした────途端、空から降り注ぐ魔槍と魔術の雨あられ。

 親方ッ、空から槍と氷と炎が! と巫山戯る余裕もなく、俺は『噛み砕く死牙の獣』を展開し、虚空から無数の魔槍を射出して相殺させる。

 すわ、モリガンの魔の手が……!? と思ったが、眼前に現れた二人の姿を見て、とりあえずそうではないと悟る。それはそれとしてハイライト先輩は死滅しているんですけどね。

 

「「……………………」」

 

 ……えっと、何で黙ってらっしゃるのでせうか? あの、二人して悠然と歩み寄ってくるのは、何? 

 

「クー・フーリンよ」

 

 はっ、はい。何ですか師匠。

 

「お主は儂が好かんのか……?」

 

 ……んえっ? どうして急にそんな話に? 

 

「ここへ戻って来たと思えば、途端に出て行く。以前のような立ち会いも少なく。これではあまりにおざなりが過ぎるではないか」

 

 あー、それは師匠が教えることは何もない的なことを言ったからであって……。考えてみてほしい、学校で全課程を修めて卒業したヤツが、何故か校舎に入り浸っていたら、何かこう……外聞が悪いじゃん? 

 

「外聞など捨て置け。儂はお主との関係を糺しておるのだ。何が不満か口にしてみろ。さすればその元凶を魔槍で穿ち、この世に生まれ落ちたことを後悔させ、その後にゆっくりとお主の正しい在り方に戻してやる故な」

 

 虚ろな眼で俺を射抜く師匠の、魔槍を握る手は目に見える程に力んで震えていた。こわいよぅ、たすけて、きあらさま……。

 

「なあ、クー・フーリン」

 

 次は師範ですか。

 

「どうすれば、お前を染められるのだ?」

 

 ……んん? 染めるって何のことですか? 

 

「何をしようにもお前は染まらず、お前のまま。ならばと自ら染まりに行こうと思えば、直ぐに遠くへ行ってしまう。もう我慢ならんのだ、クー・フーリン」

 

 え、ちょっ……ちょっと待ってください! 何言ってんのかわからんけど徐々に脱衣しながら近寄って来ないでくれませんか!? 

 

「何故だ……お前は私を肯定してくれたではないか。拒絶するのか? ありえん、ありえんよな、クー・フーリン?」

 

 俺が師範の肩を掴んで脱衣を止めさせると、師範は師匠と同等以上の闇を湛えた瞳で、カルナさんばりのビーム(比喩)を照射してくる。目で殺そうとしないで。

 

「これ、誰の許しを得て儂以外と言葉を交わしている? はよう此方を向け」

 

「クー・フーリン、私を受け入れてくれるのだろう?」

 

 ……どうしてこうなったッ! 何が原因だ。いや、十中八九俺のせいなんだろうが、俺何かやらかしましたかねえ……。

 

 俺が頭を抱えて苦悩していると、その反応をどう捉えたのか、師匠と師範が静かに思考を垂れ流す。

 

「やはり影の国から出したのが最大の失敗。ならば今からでも外界との接触を絶たせ、共に影の国で悠久の時を過ごさせるしかあるまいか……」

 

「……手始めにクー・フーリンと関わってきた者らを氷柱に閉じ込め、それを念入りに砕いて回る他ないか。うぅむ、となれば外界に干渉する術を編み出さねばなるまいな」

 

 何かヤバいこと口走ってるんですけど……。何、監禁されるの俺? モリガンが滅茶苦茶にしないでもケルトが消滅しそうな勢いなんですがそれは……(困惑)。

 このままではマズい……! 二人ならやりかねんぞコレ! ぐぎぎ……軽率に口にしたくはなかったがッ、言うしかないかッ! 

 

 莫大なソウルや血の遺志を抱えたまま、初見ボスに突っ込んでしまった時と酷似した、独特な緊張感に襲われる俺。高揚感は皆無だけどな! 

 

 師匠ッ! 師範ッ! 

 

「「クー・フーリン……?」」

 

 何を勘違いしているのかわかりませんが、少なくとも二人を嫌うなんてありえないですよ! 

 

「「………………ッ!!」」

 

 二人は瞠目し、身動ぎひとつすることなく、俺の続く言葉に耳を傾ける。眼力が強過ぎる。

 

 ぐっ、重圧と羞恥心が凄まじい……! 俺の精神が殺人的な速度で削られていくッ! だが耐えろ! 日頃の感謝を言葉にするだけでいいんだ……! 

 

 師匠に拾われなかったら、俺は今ここにいることはないでしょうし、戦う術を教えられなければとっくに死んでたと思います! だから感謝の念が絶えませんとも! 俺の命は師匠に生かされているといっても過言ではないでしょう! 

 師範に魔術の心得を教え説かれなければ、外に出て戦った時に勝ち筋が薄かったでしょう! 師範の教えは常に実践に則していて、既にその知識は俺の血肉として生きています! 

 

 そんな二人を嫌うなんてありえない! むしろ好ましいと思ってます! 

 

「「〜〜〜〜ッ!!」」

 

 ……羞恥が過ぎて即死レベル。精神こわれる。胃がキリキリ痛い。歯が浮くセリフって実際に口にすると発狂しそうになるのな。お陰様で今の俺へのダメージは致命+短剣+メバチ指輪の域にまで達した。コントローラーをぶん投げて暴言と賞賛の嵐である。

 

 俺が内心で暴れ狂っていると、眼前の師匠と師範の肩が小刻みに震えているのを視認する。すわ、バッドコミュニケーションかと戦々恐々。

 すると突然、二人が弾かれたような哄笑を響かせる。

 

「……ふふっ、ははは! 好き……好きとな! うむ、心地好いな。昂る……昂って仕方がない」

 

「よかった……本当に、よかった。決して一方通行ではなかったのだな。全く、これまでの遇う行為が愛情の裏返しであったのなら、そうであると口にしてさえくれれば、何であれ受け入れたというに」

 

 好きって言葉は口にしてないんですけど、まあ、うん。楽しそうで何よりです()。あ、それと外に待たせてる人いるんで、入れてもいいですかね? 

 

「ふふ、構わんぞ。何人だろうがな」

 

 口元をだらしなく歪める師匠の了承。普段の師匠からは想像できない笑みの破壊力。危うく回生しなきゃいけなくなるところだった。

 

 ちょいちょい思ってたんだけどさ、師匠もといスカサハってこんなキャラだったっけ? 何かこう、誇り高くて何者にも靡かない王者ってカンジじゃなかった? 

 ……やっぱ、本来のクー・フーリンじゃないから色々と捻れちまってるんかな。神話知識ゼロなりに頑張ってきたつもりなんだけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 甘く見ていた。

 

 何をかって? そりゃ────

 

「ほほう、こやつの女という妄言を吐くか。これは重篤だ。いっそ殺して楽にしてやる故、そこに跪け」

 

「全くもって姉上の言う通りだ。お前などクー・フーリンには不釣り合い。身の程を知れ。そしてそれ以前に、クー・フーリンの女は私なのでな」

 

「……聞き捨てならんな、アイフェ。誰がクー・フーリンの女だと? 貴様も妄言を吐くのか。いやはや、全く度し難い」

 

「お二人共? 妄言とか不釣り合いとか訳のわからないことを言う前に、師弟関係にありながら弟子に手を出した師というのは、そもそもからして人格に難がありませんかぁ?」

 

「人格がどうこう言うなら貴女もでしょ。というか皆が妄想癖とか笑えないわね。私と張り合うようなマトモなのがいないのなら、私の一人勝ちかしら」

 

「ハッ! 男に跨るしか能のない淫乱風情が、自身を健常者と語るか! これは傑作だ! ……余程冥府に誘われたいのだな」

 

「あら、私に図星を突かれて焦っちゃったかしら? でも仕方ないわよね、ホントのことなんだもの!」

 

「あまり熱くなるな。そも、結果がわかり切っているというに、随分と心血を注ぐのだな。ああ、哀れ、憐れ」

 

「ええ、そうですねぇ。私が勝って、貴女達が負けるという結果ですもの。確かに憐憫さえ抱いてしまいます」

 

 ────四人の噛み合わなさを、だな。

 

 エメルとメイヴを連れて影の国へと足を踏み入れたところ、二人の姿を目にした師匠と師範がフリーズ。先程までハートを幻視するまでに喜びに溢れていたというのに、瞬時に空気が死んだ。

 一方のエメルとメイヴはというと、影の国の薄暗い風景を見回した後に師匠と師範を視界に捉え、何かを察したのか、俺の腕へと抱きついてきた。

 

 その後は言葉という名の刃物での激しい斬り合いだ。かれこれ十分は口論を繰り広げているだろうか。よく罵詈雑言と煽り合いが尽きねえよ(戦々恐々)。

 

 師匠、師範、エメル、メイヴ────全員が俺もといクー・フーリンに好意を寄せてくれているのは、眼前でシュラバヤ沖開戦を見せられれば流石にわかる。

 いや、何で好かれてんのかはさっぱりわからんのだけどね? もうホント、本家兄貴じゃないんだから心臓と胃が持たないぞクォレハ。

 だが、まさかこんなに殺伐とした犬猿の仲だとは思わなんだ……。水と油とか、そういう域じゃない。一人ひとりが火と油だ。自分の言動は相手を燃やし、相手の言動は自分を燃やす。これが怨嗟の炎ちゃんですか(違)。

 

 要するに、取り扱い注意&混ぜるな危険、である。

 

 どう対処すればいいかと思考巡らせ、必然的に傍観してしまっていた俺。そこへ慈愛に満ちた声をかけてくる師匠。

 

「安心して待っておれ、クー・フーリン。今からこやつらを血祭りにあげてやる故な」

 

 おう、伝説の超サ〇ヤ人並の感想やめろや。まさかの身内争いで全滅とか笑えねえぞ! 

 

「ほらぁ! クー・フーリンが困ってるじゃないの! アンタらが暴走してるからよ!」

 

 せやぞ! と言いたいが、場を更なる混迷に落とした原因の一端はお前もだ、メイヴ。控えめに言って煽らないでいただきたい。

 

「暴走ではない、これは掃除だ。姦しく群がる虫共を払うためのな」

 

 師匠は虚空から持ち出した魔槍を高速回転させ、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きを魅せる。

 

「ふむ、姉上がそのつもりならば仕方がないか。今ここで雌雄を決するとしよう」

 

 師範もまた杖と槍を握り締め、ハイライトの介在しない瞳で師匠を見据える。メイヴとエメルは眼中にないと言わんばかりの行動だった。

 当然、こうまでされて黙っていられるほど二人は優しくなく。

 

「相手にされないのはイラつくわね……ならいいわよ、私は私のやり方でクー・フーリンを奪うだけだから」

 

「揃いも揃って盗人猛々しいにも程があるでしょう……!」

 

 メイヴは露骨に怒りを滲ませつつも一歩身を引いたクールな姿勢を貫く。

 エメルは敵意を募らせ姉妹を睨み付ける。

 

 あー、もう滅茶苦茶だよ(発狂)。命からがら逃げてきたのにここで壊滅エンドですか。あー、やばい! ケルトも俺の胃も壊れちゃう! 

 

 と、ならないためにも、ここは俺が身を切る必要があると見た。正直、これを口にしたら最後、俺は色々な意味で死ぬかもしれない、いや死ぬ。絶対死ぬ。アゾット剣滅多刺しからのnice boatが確約されてしまうだろう。

 それでも、やるっきゃねえわな。っしゃオラァ! 覚悟決めろォ……! 

 

 一触即発の雰囲気の中で、俺は口を開いた。モリガンのヤツをどうにかするためにここに逃げて来たってのに、言い争いばっかじゃねえか、と。

 

「止めてくれるな、クー・フーリン」

 

「ここで姉上と衝突することこそ、クー・フーリンのためなのだ」

 

「私は悪くないわよ。向こうが一方的に突っかかってきたんだから」

 

「これはクーのためなんですよぉ?」

 

 誰も頼んじゃいないんだけどさぁ……。でも、お前らの気持ちはよぉーく伝わった。背後が怖くなる程度には。だから、耳かっぽじってよく聞けよ。

 

「何を……」

 

 俺達が協力してモリガンに対処し、事が丸く収まった暁には────

 

「「「「………………」」」」

 

 

 

 ────俺の出来うること且つ良識の範囲内で、何でも一つ言うことを聞いてやる。

 

 

 

「「「「──────ッ!!!」」」」

 

 呉越同舟だろうが、今は互いに互いを支え合う時だ。じゃねえと本当にケルト丸ごと沈んじまうぞ、と。

 

 とりあえず、俺の死亡フラグが乱立したところで、先程までの喧騒は静謐へと姿を変えた。しかしまあ、四人共から野獣の眼光を向けられるとは……(予定調和)。

 

「ま、まあクー・フーリンがそう言うなら仕方ないわね……! やった! これでクー・フーリンをオトしてやるわ!

 

「……えぇ、そうですねぇ。やっと名実ともに添い遂げられるのですね……ふふふっ

 

「そうさな、少々大人気なかったか。子供を何人こさえようか、悩ましいな

 

「ああ、少しばかり熱くなっていたようだ。許せ、クー・フーリン。互いに染め合う……あぁ、好い……

 

 恐ろしく小さい呟き……オレでなきゃ聴き逃しちゃうね。これでいざこざが終息したら俺が爆散するのは確定事項になった訳だな! 

 

 

 

 ……うん、これからどうするかを考えようか、皆! 

 

「クー・フーリンさん……」

 

「クー・フーリン……」

 

 やめろ、そんな可哀想な人を見る目で俺を見ないでくれよ、レーグ君、フェルディア。ついでにセングレンとマッハも、俺を慰めようとして擦り寄らんでもいいのよ……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 俺達は解決策を模索するべく、会議を始めた。師匠と師範に事の経緯を改めて説明すれば、

 

「……勝利の女神か。全く、厄介な存在に目をつけられたものだ」

 

 と、師匠に呆れられる。師範もまたジト目で俺を見てくるあたり以下同文らしい。

 

「師匠。モリガンとは、師匠にそこまで言わせるだけの力を持つ神なのですか?」

 

「ふむ、フェルディアよ。お主は『勝利の権能に勝て』と言われたとして、如何する?」

 

「『勝利の権能に勝て』、ですか……」

 

 師匠と問い掛けに苦い顔をするフェルディア。それも仕方がない。何せ、勝利という結果を強引に手にする相手に対し、如何にして勝利せよというのだろうか。

 モリガンに挑むということは、つまりそういうことなのである。世界創造に等しい権能を前にして、どうすべきか。

 それ以前に、神と戦おうということそれ自体が前提からして無謀だ。……まあ、実際にやった人が目の前にいるんだけどね。

 

「答えられんか」

 

「……はい。正直、どうすればいいか見当もつきません」

 

「それでよい」

 

「えっ?」

 

「意味が理解できるか、我が愛弟子?」

 

 まあ、何となくは。そもそも権能持ちを倒そうとするには、此方も特別な何かが必要になる。権能を打ち破るだけの何かが。それは純粋な力かもしれないし、或いは戦略性かもしれない。それがあって初めて戦えるようになるものの、自力で勝とうなんてのは絶望的。自殺志願者と相違ない。

 だからどうすりゃいいかわからんって線引きができているのが正しい判断。むしろ楽観的に捉えて突っ込むことこそしてはならない。俺も詳しくはないからニュアンスなんですけど、そんなところですかね? 

 

「うむ。頭を撫でてやろう」

 

 唐突にキャラ崩壊すんな。

 

「つまり、神殺しを成すには並大抵の力量では不可能ということ。まして権能やら概念やらを保有しているとなれば尚更な。それはそれとして姉上、狡いぞ。私にもやらせろ」

 

 何この辱め。でも身長差があるせいで、若干背伸びをしている姉妹が可愛い。控えめに言って眼福。

 

「つまり、手詰まりってコト?」

 

「心臓を穿って死ぬ相手であれば悩まんで済むが、ああいう手合いはそれでは死なんだろう」

 

「ふぅん、思ってたよりスカサハって使えないのね」

 

「口だけの小娘が……」

 

 うーんこの殺伐。トゲのある言い方はやめてくれよなぁ、頼むよぉ。

 

 あ、そうだ。師匠と師範って神殺ししたことあるんでしたよね? なら、モリガンも殺れたりします? 

 

「……そうさな、確かに我らは神を殺したことはある。数え切れん程にな。だがモリガンは格が違う。神の振るう権能となれば当然。彼奴の司る『勝利』が如何なるものとして現れ出でているかにもよるが、厳しいことには違いあるまい。負けるつもりは毛頭ないがな」

 

 えぇ……師匠にここまで言わせるとか、モリガンってマジでやべえ奴やん。いやまあ、"山の翁"のような存在との一騎打ちとかになったら、そりゃあ戦うとか以前の問題だけども。モリガンもそういうヤツ認定ですか……。

 

「では、僕達はどうするべきなのでしょうか?」

 

 これまで静観していたレーグ君が質問を投げかける。シンプル故に難解なそれ。これが中々、難しいねんな。

 

 パッと思いつくのは四つくらいなもの。

 

 プランA、モリガンを影の国に引きずり込んでゲイボる。ただし、心臓を穿って死ななかった場合はプランDへ移行。

 

 プランB、影の国で籠城してモリガンの怒りが収まるまで待つ。欠点があるとすれば、向こうが俺を殺すまで止まらない可能性が高い点。それが現実となった場合はプランDへ移行。

 

 プランC、諦めて俺の命を差し出す。これを選んだ瞬間にプランDへ移行。

 

 プランD、所謂ピンチですね(リンクス並感)。

 

 チキショウ! まともな案が思い浮かばねえ! はー、つっかえ俺の頭! そもそも権能とかいうチート相手に正攻法で攻略しようってのがおかしいんだよ(憤慨)。

 うむむ、復讐法のように目には目を、歯には歯を、世に平穏のあらんことを(違)と言えればマシなんだが……って、待て。確か俺って微弱ながらも概念を持ってなかったか? 

 

 記憶を掘り起こした俺は、手探り感覚でそれを発動してみる。と、身体から黒ずんだ緋色が迸った。

 

 ……え、何コレ(驚愕)。

 

 以前の感じられない程に微弱なそれとは異なり、濃厚な『死』。直感的に、並大抵の命なら容易に且つ一方的に奪うことが可能だと理解する。

 

「わっ!? クー・フーリンさん、何ですかそれ?」

 

「恐ろしくも身近な何かを感じるな……」

 

「はぅぅぅぅ……! 魂が震えるほどのクーの力ぁ……!」

 

「まだ見せたことのない力を隠し持ってたのね!? ますます欲しくなっちゃったわ!」

 

 約一名ヤベー奴がいたが、ここはスルー。今のままでは神を殺すに足る『死』ではないが、少なくともコレがあればワンチャンくらいはあるんじゃねえかな。熟考する余地はある。

 

「………………」

 

「……姉上」

 

「……わかっておるわ」

 

 んん? 師匠と師範、どうかしましたか? 

 

「……いや、どうもせん。それを駆使すれば、蜘蛛糸程の細さだろうが、モリガンを仕留められるやもしれんな」

 

「ああ。だが神を屠るには遠い。故、私と姉上とで、クー・フーリンの最高の一撃を叩き込めるよう全力を尽くしてやろう」

 

 そりゃ助かる! よっしゃ、光明が見えたかもしれねえ! 具体的な策を練っていこうか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やはり、視た通りになってしまうのだな」

 

「私も視た結末だが、それは好かない。彼奴を死なせたくない」

 

「言わずともわかる。儂も同じだからな。……運命とはあまりに酷だ。それを捻じ曲げるべく、何としてでも我らでモリガンめを仕留めるぞ」

 

「……本当に、厄介な相手に目をつけられたものだな」

 

 

 

 ◆

 




◆補足

Q.影の国にいるスカサハの弟子達はどうなったん?
A.放してやった(帰国中)。師匠が(偽)ニキおらんくて荒れてたから仕方ないね。あ、でもアルスターとかコノートではないので、敵として立ちはだかることはないです。

Q.何で(偽)ニキの「死」が強化されてるん?
A.ゲッシュって知っt(殴

Q.師匠師範の「視た」って何のこと?
A.(偽)ニキの最期。

Q.剣トルフォ引けた?(無関係)
A.引けたよぉ!(ニチャァ…)


  ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。皆様はボックスガチャをどのくらい開けましたか?私はほとんど開けてません(半ギレ)。苦行なんだもの(30箱目)。それよかアトランティス待機勢なので……サボタージュ許して。
 今回は久しぶりの(偽)ニキ視点でした。もうホントに久しぶり過ぎて、脳死で書く感覚を取り戻すまでが困難で……(←は?)。それはさておき、今回はヒロインズ勢揃いということで(偽)ニキの胃をゲイボるつもりで書いていたのですが、これが中々、難しいねんな。一先ずは満足です(愉悦)。
 モリガンのスペックについてですが、無難に強キャラです、はい。戦闘能力的な意味では圧倒的に本気スカサハの方が上ですが、モリガンの場合は加護の源流がありやがるので、とある条件に当てはまる限り「勝つ」ことはできません。これに関しては次回以降から明かしていく予定ですが、やはり賛否両論ありまくると思います……。

 次回はモリガンとの決戦にする回だと思います。何故未確定なのかというと、普通に構想もクソもないせいだから仕方ないね(自白)。一人称視点なのか三人称視点なのかさえはっきりしてませんので、気長に待っていただければ幸いです。ワンチャンこれが年内最後の更新になる可能性がありますが、極力年内最後の更新がこんな駄文でないことを願います。頑張れよ明日の俺……!(自力本願寺)



































 ミッツァイル殿堂推しマン!!!!!!!!!


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乾坤一擲:三人称視点

 ムフェト、アトランティス、超天篇4弾……あー、ねんまつ。


 ◆

 

 

 

「────来たか」

 

 アルスターとコノートの国境に広がるカルスト台地。そこを埋め尽くさんばかりの傀儡達の頭上────晴天の空に、モリガンはいた。

 

 滞空する彼女の視線の先には、此方へ荷馬車の如き低速で接近する二台のチャリオットの姿が。

 片や、勇ましい白と黒の馬が引いているが飾り気はなく。片や、流線型の鎧に包まれた二頭の牛が引く、悪趣味な装飾と緋色の車体が特徴的。

 

 対極とも言える二両は、モリガンにとって間違いなく忌々しい存在だった。みすみす逃がしてしまったのは彼女の記憶に新しい。

 

 戦車の矢面に立つは当然、クー・フーリンだった。会話が可能な距離にまで戦車が接近したところで、彼は口を開く。

 

「わざわざ待っていてくれるとはねえ。そりゃあ慢心か?」

 

 先程から視認されていたにも関わらず、モリガンは傀儡を動かす素振りすら見せなかった。クー・フーリン達からすれば慢心していると映っても仕方がない。

 だが、ここでモリガンが先手を打たなかったのは慢心が理由ではなく、クー・フーリン達の行動を憐れんだからであった。

 

「慢心ではなく余裕というのだ。……全く、勝てぬ戦いに正面から挑むとは、何と愚かな。無為な策のひとつやふたつ弄してくると思っていただけに、尚のことな」

 

「そりゃそうかい。期待に添えなくてすまねえな」

 

 交錯する視線が稲妻のように苛烈さを増す。それは、これから始まるのが勝負ではなく、殺し合いであることを雄弁に語っていた。

 

「戯け、もとより期待などしておらん」

 

 そう紡いだモリガンが右手を怨敵に向けると同時に、傀儡達が武器を構えた。彼らの口から盛れるは、理性なき獣の如き唸り声のみ。

 改めてそれを見聞きしたクー・フーリン達は一様に義憤に彩られる。モリガンが彼らから正気を強奪し、誅罰という名目で駒として利用しているのだから当然だ。

 

 それとはまた別の理由で憤怒する者、約一名。

 

「アンタねぇ、神だからって私の勇士達を勝手に奪うなんて許されないわ! 奪うのは私の特権なのにぃ!」

 

 メイヴである。このような場面ですら己を貫けるのは賞賛に値するだろう。尤も、空気を読まないだけなのだろうが。

 

「喚くな、鬱陶しい」

 

 モリガンが一蹴する。クー・フーリンしか眼中にない彼女にとって、他はサブターゲットに過ぎない。撃破しないよりかはした方がマシ程度の認識だ。

 冷たく遇われたメイヴはというと、「何よアイツー!?」と叫びながらチャリオットから身を乗り出し、それをフェルディアに抑えられていた。

 

 メイヴを歯牙にもかけないモリガンは、クー・フーリンのみを眼光で射抜き、宣告する。

 

「此度は逃がしてやらんぞ?」

 

 未だ鎮火しない怒りを噴出するように、モリガンは傀儡に指示を飛ばし、瞬間、殺意に塗れた幾重のウォークライが響き渡った。

 勝利の加護が放つ神威が色濃い敵意を放ち、それは可視化できる波動となって大気を震わせた。

 

「敗走はない。『敗北という名の死』あるのみだと知れ」

 

 それが開戦の宣言となった。

 

「……そうだな」

 

 歪な敵愾心に染まった波が唸りをあげ、クー・フーリン達に迫る、迫る、迫る。

 

「だが────」

 

 されど怖気付くことなく。クー・フーリンは獰猛な笑みを浮かべてみせ、吼える。

 

「────負け晒すのはテメェの方だけどなッ!」

 

 それに呼応して、クー・フーリン達の背後とモリガンの頭上に巨大な影が出現する。

 

「なッ……」

 

 影は扉へと形を変え、巨大な門と化す。開戦の狼煙と共に現れたそれは、紛うことなく影の国の門であった。

 世界とは断絶された魔境へと通ずる門を召喚し、あらゆる生物を吸い込む────『死溢るる魔境への門』である。

 

「ッ、小癪な!」

 

 直ぐにそれが何なのかを理解したモリガンだったが、既に遅く。影の国の門が二つ開門する。

 

 クー・フーリン達の背後から現れた門が開いたと同時に、フェルディア、メイヴ、レーグ、エメルが戦車に搭乗したまま自ら影に身を投じる。

 傀儡達は踏ん張ることすら許されず、四人に追従するかのように一人、また一人と門に吸い込まれていく。

 

 モリガンはというと、自身の頭上に出現した門に引きずり込まれまいと抗っていた。だが跳躍していたクー・フーリンがモリガンへと迫り、魔槍を振るう。

 

「外側にご招待ってなァ!」

 

 二条の槍を持ち出し、魔槍の斬撃を防ぐモリガン。彼女にとって、クー・フーリンの攻撃を防ぐのは容易かった。しかし怨敵によって自身の手を出させられた事実に憤りを覚える。

 

「貴様……!」

 

 憎悪を滾らせた瞳でクー・フーリンを睨むモリガン。そんな彼女に不敵な笑みを送り付けるクー・フーリンは、空間に固定したルーン文字を足場に再び跳び、門へと身を投じた。

 

「続きはこの先でな」

 

 彼の去り際に残した言葉は、当然のようにモリガンを焚き付けた。

 

「……よかろう、あえてそれに乗ってやる」

 

 纏った怒りを推進力にして、モリガンもまた門へと飛び込んだ。

 

 

 

 そうして喧騒に包まれていたカルスト台地は一転して閑散となった。

 荘厳で禍々しい影の国の門はゆっくりと閉じられ、完全に閉まると同時に輪郭が不鮮明になっていき、何処へ向かうでもなく霧散したのだった。

 

 

 

 

 

 

 モリガンが降り立った場。そこには彼女の怨敵たる男と、人外を感じさせる真紅の女がいた。

 クー・フーリンと同じ緋色の槍を持つ武人。そして影の国というキーワードから、女がスカサハであると看破する。

 

「ほう、これは。なるほど、貴様がスカサハか」

 

「そういう貴様がモリガンだな? 我が愛弟子に手を出すとは、いい度胸だ」

 

「溺愛しているのなら、神の施しを授かる際の作法も教えておくべきだったな」

 

「ハッ! こやつが要らんとしたのなら、本心から不要と断じただけのこと。ふふ、気に入った男に袖にされてさぞ腹が立ったろうな」

 

「……貴様の言葉は我を不快にさせる。己の無力さを噛み締めながら、クー・フーリンが死に行くのを眺めるがいい」

 

「させんよ……それだけは、断じてな」

 

 モリガンとスカサハは、猛禽類さながらの目付きで互いに射殺さんと視線を交錯させる。どちらもが譲れないものを抱えた覚悟を灯す。

 それを傍から見ていたクー・フーリンは、呆れつつも戦意を滾らせていた。

 

「オイ、俺もいるぞ」

 

「ああ、忘れてはおらん。お主に信を置いている故、お主も儂を心底頼るが良い」

 

「元から頼ってばっかだぜ、俺は。……まあ、師匠の弟子ってのに恥じない働きをしてやるさ」

 

 戦闘前の軽い鼓舞をし合う師弟。二人は魔槍を構える。スカサハは魔槍に手を添えるように、クー・フーリンは腰を落として風を貫くように。

 隣合う師弟は正しくケルトにおける最強のタッグであろう。そんな二人の矛先が向くのはケルトの戦女神モリガン。

 

「勇ましいのは結構だが、蛮勇だな」

 

 彼女もまた槍を構え、その穂先をクー・フーリンとスカサハへと向ける。憐憫と憎悪を攪拌させた闘気が肥大化していく。

 

「言ってろッ!」

 

 ここに死闘の幕が開いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 モリガンとクー・フーリン、スカサハが衝突した同時刻。フェルディア、レーグ、エメル、メイヴの四人もまた開戦の狼煙を上げようとしていた。

 

「これも手筈通りとはいえ、流石に数が数なだけにヤバいわね」

 

「戦う前から弱気とは、何と覇気のない」

 

「ほぼ非戦闘員でしょアンタ! それに私は女王であって戦士じゃないのよっ! 多少の心得はあるケド、飽くまで統率者として真価を発揮する力だから、私はいいのっ」

 

「お二人共、今は目の前のことに集中してもらえませんか……?」

 

 クー・フーリンが潜った門とは異なるそれに入った四人。彼らの眼前にはカルスト台地を埋め尽くしていた傀儡達がいた。

 それはそれとして、エメルとメイヴが空気も読まずに口論を開始するのだから、見かねたレーグが諫めに入った。が、一向に変わらず。

 

「やめておけ、レーグ。二人のそれは病の類いだ。しかも治せるのがあいつだけという厄介な重病。もっとも、発病もまたあいつが原因なのが笑えるがな」

 

 フェルディアは笑えると口にするが、そこに笑みは介在せず。鋭利な眼光は傀儡達へと向けられている。

 

 傀儡達もといアルスター・コノート戦士連合はというと、ここに誘われ辺りを確認するように見回していたが、それが済むと四人をターゲットに定め、得物を構え突貫する準備をしていた。

 

 エネミーの動向に注視しつつ、フェルディアは口を開く。

 

「確認するぞ。俺達の役目は、彼らを女神モリガンに合流させないこと。そのために、ここで彼らを叩く。だが加護持ちの面々だ、正面からやり合えば敗北は必須。決して勝とうとは思うな」

 

「モリガンに目をつけられているのは僕らも同じ。だから、最悪は引き付けて逃げ回るだけでもいい。そうでしたよね?」

 

「ああ」

 

「ま、それならアンタにもやりようはあるんじゃない?」

 

「……それは貴女も同じでは?」

 

「失礼しちゃうわね。戦えないとは言ってないわよ? ま、私自身は戦わないんだけど」

 

 各々が役割理解を通じて、何をするかを具体的にイメージし始める。されど多勢に無勢。加えて『勝利の加護』を付与されたとなれば尋常な立ち会いなど不可能だ。

 

「少なくとも、俺達だけでは力不足だったろう。だからこそ────」

 

「────私が此方で力を振るうのだ」

 

 フェルディアの言葉を引き継いだのは、覇気を伴う凛とした声────アイフェであった。

 アイフェは右手に魔槍を模した槍を、左手に魔術を綴る杖を持ち、凍てつく瞳で戦士連合を見据える。

 

「ここでは再生のルーンをかけてやる。存分に死せよ」

 

 敵味方問わずに投げた言葉。

 

 アイフェにとって、余程親しい者ら以外は取るに足らない存在だ。アイフェの持つ、フェルディア達への認識といえば、姉を師事する戦士、御者、愛すべき男に言い寄る虫二匹。その程度に他ならない。

 本来のアイフェならば、フェルディア達を守る必要は限りなく無に等しい。寧ろ自分の邪魔になると断定して排除に回るだろう。

 それでも彼女が素直に助太刀を了承したのは、偏にクー・フーリンに頼まれたから、その一言に尽きる。

 

 そして、好いた男に頼られたのなら、女は────少なくともアイフェは、舞い上がって本気を出す。

 

 だが悲しいかな。アイフェはクー・フーリンに活躍を見てもらおうというハングリー精神を奮い立たせたものの、姉にクー・フーリンを連れて行かれてしまったのだ。

 

 これにはアイフェも落胆。上げて落とされた。しかし、荒ぶった胸中は簡単に鎮まるはずもなく。

 

「さて、姉上にクー・フーリンを取られてしまった、その恨みを存分にぶつけさせてもらおうか」

 

 行き着く先は言うまでもなく、圧倒的な八つ当たりであった。

 

「「「「「……ッ」」」」」

 

 そんなアイフェの静かな怒気にあてられてか、自意識の薄れた傀儡達でさえ息を飲む。

 意識がなくとも、彼らの鍛えられた戦士の勘が、逃げろ、と激しく警鐘を鳴らす。

 

 だとしても、モリガンの意思には逆らえるはずもなく。

 

「憐れな」

 

 彼らは突貫した────瞬間、氷塊と化した。地から隆起するように出現した氷に包まれたのだ。

 

「震えろ、凍て付け、砕け散れ」

 

 美しい旋律を奏で、流麗に舞い踊るように。アイフェは次々と氷塊を出現させ、それらは無慈悲に戦士連合へと牙を剥く。

 

「……ふむ。ほほう、これがか」

 

 瞬く間に大多数を氷のオブジェにしたところで、アイフェが自らの違和感に気付いた。吸い取られるように力が抜けていき、相手の筋力や魔力といったパラメータが向上する────『勝利の加護』。

 

 並の戦士では敗北必須の恩恵。クー・フーリンでさえ遁走を強いられたそれ。

 

 なのだが────

 

 

 

「ならば、これでどうか」

 

 

 

 ────アイフェは、それすら容易に凌駕してみせる。

 

 バフとデバフの差を帳消しにして余りある圧倒的な力を、いとも容易くその身に宿したのだ。

 

「ここは影の国、即ち私の領土。あらゆる面で私に有利に働くのは必定」

 

 アイフェの所有する領土では、自身は当然として、認めた者に多大なる幸運と祝福、そして全パラメータの著しい強化をもたらす。それは、力なき者でさえジャイアント・キリングを果たす程。

 

 それだけの恩恵を、この領土の支配者たるアイフェが受ければどうなるか。

 

「ははっ、『加護』とやらも大したことはない!」

 

 絶大なバフを盛ったアイフェにとって、『勝利の加護』なぞ何のその。パワーバランスを傾けられたのなら、此方もまた力技で傾け返してやればいいだけのこと。

 

 言うまでもなくデタラメなそれ。しかしアイフェは数千年という期間、ひたすらに魔術を編み上げ、練り上げ、研磨してきた。

 並々ならぬ努力の理由は、たった一人の姉を超えるため。研鑽された魔術は、もはや神代の魔術の神髄と評価しても過言ではない。

 

 それが、高々『貰い物の勝利』に劣るはずもなく。

 

「貴様らなぞ『加護』を持ったとて姉上の足元にも及ばん。私を降したくば、スカサハを連れてくるがよい」

 

 アイフェは先程よりも苛烈さを増した氷気を放出し、風景を凍土さながらに変貌させていく。

 

「尤も、私に一矢報いることすらできんようでは、姉上の前に立つことは許されんがな」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「いやはや……これは、何とも」

 

 凍土に塗り替えられていく風景、その元凶を傍目に、フェルディアは言葉を漏らす。

 師匠たるスカサハと姉妹であると聞き及んでいたが、まさかこれ程とは、と戦慄せざるを得なかった。

 

「……さて、俺達も成すべきことを成すとしよう」

 

「はいっ、行きます!」

 

 アイフェに負けじとフェルディアは戦車へと飛び乗り、それを動かすはレーグ。

 

「セングレン! マッハ!」

 

 レーグは白黒の二頭に指示を出し、二頭は勇ましい嘶きと共に戦車を発進させた。

 二人を乗せた戦車は、此方へと突貫してくる戦士達と正面衝突する。衝突と言っても、戦車の勢いに負けた戦士達が一方的に蹴散らされているのだが。

 

「女王メイヴが切り札ッ! フェルディア、推して参る────!」

 

 戦車が旋回した際の遠心力を利用し、フェルディアは押し寄せる戦士達の中に自ら飛び込む。

 構図は紛うことなき一対多で、相手は『加護』持ち。誰が見ても自殺願望だと結論付ける愚行、しかしフェルディアはそれに該当しない。

 

「操られて尚衰えない闘気……流石はケルトの戦士達! だがな、生中な攻撃で俺に傷を付けられるなどと思わないことだッ!」

 

 彼には生まれ持った『あらゆる刃を通さぬ皮膚』があるからだ。事実、戦士連合の攻撃をあえて受けても、かすり傷一つ付くことなく。

 

 それからはフェルディアの無双が開幕した。

 

 四方八方を囲まれていながら、彼は最小限の動作のみで全ての攻撃を対応し、僅かな隙を見出しては攻撃を差し込んでいく。

 何千、何万とやり込み、修練してきた十八番。それ故に相手の行動の全てを読み切り、先手を打つ、打つ、打つ。

 

 そうして生まれた刹那────相手の攻撃の手が止んだ瞬間、フェルディアは転じて攻勢に移る。

 真正面にいた戦士の懐に潜り込み、一閃。相手は反射的に剣で受けようとするが、フェルディアの目にはその後の動作すら見えていた。

 だから、容易に対応する。フェルディアは即座に槍の軌道をずらし、剣を持つ相手の手を狙った。

 

「────ッ!」

 

 結果、剣は宙に弾け飛び、その持ち主は大きく体勢を崩す。

 がら空きとなったその無防備な腹部に、フェルディアはルーンで強化を施した拳を突き刺す。

 

「はァッ!」

 

「ぁッ────!!?」

 

 くの字で飛んだ戦士は、後方の傀儡達をも巻き込んで突き進み、モーゼの逸話さながらの光景を作り出した。

 

「次!」

 

 彼の背後から斬りかかってくる戦士が複数。それを見るまでもなく感じ取ったフェルディアは、強化したままの拳を振るい、裏拳で迎え撃つ。

 刃を通さぬ堅固な皮膚、それが強化されたことでフェルディアの肉体は鈍器と化す。

 振り抜かれた拳は、迫っていた剣の刃を簡単に叩き割った。そして勢いを活かして回し蹴りを見舞い、一纏めに飛ばす。

 

 自らが行った一連の攻撃に、フェルディアは驚嘆していた。

 

(『勝利の加護』を持つ相手にさえ、これ程の力を振るえるとは……!)

 

 一時的ではあるが、フェルディア達もまたアイフェの領土のバックアップを受けている。即ち絶大なバフをだ。

 勝利の女神たるモリガンから寵愛を賜った戦士は、如何なる相手であっても勝利を収めると知っていただけに、彼らを上回る出力で戦える現状に驚かないはずがなかった。

 

 襲い来る無数の槍撃を払い、カウンターを決めながら、フェルディアは心中でアイフェに感謝した。好敵手が経験した激戦、それと似たシチュエーションを用意してくれたことに。

 

 以前、クー・フーリンはコノートの軍勢を前にして、正面からの真っ向勝負に臨み、あまつさえ孤軍奮闘だったというのに、それでも勝利を掴んだ。

 その後の一騎打ちでさえも、彼はただ一人で全員と立ち合い、仕舞いにはフェルディアすらも打ち倒した。

 

 その事実が、フェルディアの心に火を灯す。

 

「あいつがやってのけたんだ。俺もやり遂げなければ、あいつの好敵手足りえないだろう」

 

 バトルジャンキーの気質があるフェルディアは、その顔に弧を描き、一層の力を込めて戦士連合を薙ぎ払う。クー・フーリンと並び立つという目標のために。

 

「────ッ!」

 

 不意にフェルディアを襲う、丘をも切り崩しかねない剣光。受け止める、ではなく、回避という選択を咄嗟に取ったのが幸いしてノーダメージ。

 しかしフェルディアは今の光を前にして、額から頬へと冷や汗が滴るのを感じた。

 如何に堅牢な皮膚を持っているフェルディアであっても、今の一撃を喰らえば一溜りもない。それを本能的に理解したのだ。

 

「やはり、貴方が出てくるか……!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で、フェルディアが声を荒らげる。彼の視線の先には、トレードマークの螺旋剣を振り下ろした体勢で此方を見据える、フェルグスの姿。

 

「これ以上、貴方の誇りを踏み躙らせはしない。ここで倒れてもらう!」

 

 改めて槍を握り締めたフェルディアは、戦士連合最高戦力たるフェルグスに単身で立ち向かう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 フェルディアが敵中で奮戦し、レーグが戦車で敵を引き付けている一方、メイヴは荒れるアイフェを見て一言。

 

「うわぁ……オンナの嫉妬ってヒドイわねぇ」

 

 嫉妬を嫌う彼女にとって、それに狂う者程見苦しいものはない。

 

 メイヴが暫し戦車から戦士連合を眺めていると、アイフェの荒れ狂う猛吹雪、フェルディアの槍撃の嵐、レーグの引き付けから溢れた戦士達が此方へと向かって来るのが見えた。その数は少なくとも一万はいる。

 

「何を呆けているんです。早く行動を起こしてくださいよ」

 

 同じくそれを視界に収めたのか、あまりにメイヴにモーションがなかったせいか、エメルが咎めるように戦車の奥から顔を出した。

 

「言われなくてもやるけど、アンタに言われるとやる気なくすわねぇ?」

 

「ならここで死にます? 再生のルーンとやらで死ねないようですけど」

 

「あー、はいはい。戦えないヤツは戦車に引きこもってていいわよ」

 

 右手で埃を払うような仕草でエメルを適当に遇ったメイヴは、懐から小さいナイフを取り出し、それで自らの左の人差し指を切りつけた。

 指先から一滴の血液が地面に落ちると、血が零れ落ちた地面を中心として赤が広がり、血溜まりと化した。

 

 実に不可思議な光景。血の一滴のみで血溜まりが形成されるのだから、これを見ていたエメルが瞠目するのも無理はなかった。

 

 だが、その光景に変化が生じる。広がった血溜まりの至る所で何かが蠢き始め、血泡がふつふつと湧き上がる。

 すると、そこから人間が出現した。筋骨隆々な肉体を持ち、鎧と槍を持った戦士の姿。ケルトの何処にでもいるような出で立ちの戦士だった。

 

 血を零すのみで名も無き戦士を"製造"する能力。多数の兵士の母と言われる所以である、メイヴの有する力である。

 

「随分とまた面妖なことを」

 

「色んな勇士達の子種を集めたおかげよ」

 

「……やっぱり、クーに近付かないでくれません?」

 

 メイヴの有するこの力は、取り込んだ戦士達の遺伝子を体内で複製することで効果を発揮する。つまりは強き戦士と性行為をすればする程に力を増すのだ。

 それを恥じることもなく、どストレートに言ってのけたメイヴに対し、流石にエメルは白い目を向けた。

 

「さ、私の為に戦いなさい!」

 

 高らかな突撃命令と共に、名も無き戦士達が一斉に駆け出す。彼女が今し方"製造"した戦士達、その総数は一万はくだらない。

 

 本来のメイヴは、即座にウン万もの戦士達を"製造"するのは困難である。それこそ、聖杯の力を利用して実現できるような芸当だ。

 しかしメイヴがこれを実行に移せたのも、影の国のバックアップがあってこそだった。

 

「これなら何とかなるでしょ」

 

 指示を出し終えたメイヴは、深く息を吐きながら座り込んだ。

 そして、背後にて戦士達の突撃を見ていたエメルに横目を向ける。

 

「で、アンタは何かしないのかしら?」

 

「……今は何もすることがありませんから、時が来たら動きます」

 

「あっそ」

 

 興味を失ったメイヴは、視線をアイフェ達に向け、戦況を伺い始めた。

 一方のエメルは、現状の自身の無力さを痛感しつつも、いずれ訪れるであろう自身の戦いに備え、戦意を研ぎ澄ませるのだった。

 

 

 

 ────決戦はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 ◆




◆本編にぶち込めなかったネタの供養

「影の国の門を別の場所に召喚する、ってのはできねえか?」

 クー・フーリンは前世の記憶を参考に、『死溢るる魔境への門』ができないかと提案した。
 それができれば、否、それができてこそ逆転の一手と成りうると思惟したのだ。

 言われた当の本人といえば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔を晒す。

「…………なるほど」

 それも仕方がなかった。影の国に囚われて幾星霜、人心が限りなく薄れたスカサハの外界への興味はほぼ皆無に等しく、あるとすれば自身が嘱望するだけの戦士がいるかどうか、それに尽きていた。
 そして、影の国とは力を求めた猛者が艱難辛苦を経て辿り着く場所であり、こちらから入口を用意してやるものではない。

 それ故に、門を別の場所に召喚するという芸当を考えようともしなかったのだ。

 そしてそれに気がついたことで、それどころではないとわかっていながらも、スカサハの胸の内に後悔が襲来する。

 この影の国の門を召喚する術をもっと早くに編み出していれば、遠く離れたクー・フーリンを強制的に帰還させることも可能だったではないか、と。
 それが叶ってさえいれば、今頃は影の国で今以上の親密な関係を築けていただろうに、と。

「できなくはないな」

 今更後悔したとてたらればに過ぎないのだが、考えずにはいられなかった。

「流石は師匠だ」

 だが、凶暴な獣が時折見せるような優しげな笑みをもって賞賛するクー・フーリンに、容易くスカサハの黒々とした胸中は漂白された。

 好いた男に頼られ褒められるのも悪くない、寧ろ良い。もっとだ、もっと寄越せ。このような高揚感を覚えさせられては、もはやこれ無しでは生きられない。

 そこまで感情を荒ぶらせたところで、それに気がついたスカサハは我ながら単純だと呆れつつも、改めてクー・フーリンへの独占欲を再認識したのだった。



 尚、影の国の門を召喚するという術と情報をアイフェに共有した結果、当然スカサハと同じ心境なったのに加え、目に見えてorz状態になったのは余談である。



◆補足

Q.『死溢るる魔境への門』って、スカサハが認めた相手でないと吸い込まれて即死判定とかなかったっけ?
A.(偽)ニキが言い含めておきました(ご都合主義)。

Q.アイフェの領土のバックアップ、あれチート過ぎひん?
A.存在そのものがチートな姉妹ですしおすし。それよか全身タイツ姉貴の方が即死とかある分チートだと思うんですけど……(名推理)。

Q.エメルお荷物やん(無慈悲)。
A.今は、ね?(暗黒微笑)

Q.影の国の門を召喚できたなら、色々とやれたでしょ。
A.せやな(白目)。というか影の国の門の召喚については、正にこれを書いている最中に思い付いたことだったので、はい。


 ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。クリスマスに特別編を投稿するといった、他作品でよく見るそれを私もやろうかと考えてはいましたが、よく考えたら本編すら書けてないヤツがオマケ書くとかナメてんのか、という結論に至ったため、本編を書き上げることに専念していました(土下座)。え?クリスマスに何かあったか?平日と変わらんかったよ(血涙)。
 今回は最終決戦に臨む面々についての描写がメインでした。大多数の傀儡達相手にブチ切れアイフェは過剰では?とも思ったのですが、まあその方がバランスとれるかなー的な考えから、そうなりました。なので一般傀儡戦士君達にはひどい目にあってもらいます(ニチャァ…)。
 ここから終盤戦に入ります。このクソ小説のケルト・アルスターサイクルも終わりが見えてきました。NKT……と言うのにはまだ早いですが、ほぼ終わりなので来年春からはFate/GO編に突入できそうなカンジです。ただ来年からはリアルの事情で忙しくなる見込みなので、更新速度がかなり遅くなると思われます。まあ、予定は未定なんて言葉もありますから、気長に待っていただければ幸いです。それでは皆様、また来年もよろしくお願い致します!よいお年を!






































 ……なんて綺麗に終わる訳ねえだろぉ!?(ニチャァ)ここで本性晒してんだから最後までホ〇たっぷりで終わるぞ!(死刑宣告)



 ぷももえんぐえげぎぎおんもえちょっちょちゃっさっ!(気が付いたら年の瀬という事実に対する悲愴の意)
 (年末年始セールに)い、い~くぅ~いくいくいくいくいくいくいく…お゛ぉおおおおおおごお゛ぉおおおおおぉ…(人の波に押し潰される音)。



 ……何書いてんだろ。


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突き穿つ死翔の槍

 明けましておめでとうございます!(激遅)

 今回は(偽)ニキ視点ではありますが、真面目戦闘回なのでネタ要素はほぼないです(白目)。というか三人称視点的な書き方になってもうてる……。これ一人称視点でやる意味ありゅ?()


 ◆

 

 

 

 俺達が捻出した戦闘プラン、それは非常に淡白なものだった。

 俺と師匠がモリガンを相手取り、師範とフェルディア、メイヴ、レーグ、エメルが傀儡達を引き留める。

 最悪のケースは、モリガンが傀儡達へ直接指示を飛ばせる環境をつくってしまうこと。それを回避するために、二手に分かれて戦いましょってことだ。

 

 当初は全員でモリガンを叩くと意気込んでいた。たが、冷静になって考えてみれば、それでは互いの猛攻で互いの動きが阻害されてしまい、連携もあったモンじゃないって気が付いた。

 だから、個人としての戦力が高く、それでいて少数でカバーし合える、というのが重要になる。

 俺はモリガンを引き付ける必要があるとし、必然的にアイツと戦わなければならない。とすれば、俺の力量を熟知していて、俺に合わせる以上のことができる、俺以上の武人でなければならない────即ち、師匠たるスカサハが適役だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「勇ましいのは結構だが、蛮勇だな」

 

 両手に槍を出現させたモリガンが、右手の槍の穂先を俺と師匠に向ける。それと同時に、改めて充填された殺意がレーザーのように俺へと照射される。

 今のモリガンは、すわ魔眼と見間違うレベルのマジで目だけで射殺せるソレをしていた。

 ……怖い、怖くない? 女性のガチの睨みってホントに怖いんだけど、それがマジで殺意マシマシとか魂から凍えちまうぞ。

 

 だが、もう巫山戯てはいられない。今からおっ始めるのは本当の殺し合い、生きるか死ぬかの戦争。刹那の無用な思考すら命取りとなるだろう。

 

 魔槍を構え、戦意と魔力の高まりを感じつつ、全神経を研磨している傍らで師匠にアイコンタクトを送る。

 一瞬だけ目が合うと、師匠は視線をモリガンへと投げかけた。なるほど、一番槍は任せるということですか。

 

 俺は今まで殺しはしたくないとダダをこねてはいたが、コイツだけは別。殺らなきゃ殺られるし、そうしなきゃ皆を解放できない。

 

 また都合がいいことに、モリガン相手には何時の間にか立てていたゲッシュには抵触しないだろう。

 相手は人外で神。そして万民を操る巨悪ときた。正しく力を振るうべき敵だ。

 

 であれば、俺は心置き無く槍を振るえる。容赦など介在せず、持てる全てを賭けられる。

 誰かの命を奪い、人生に幕を閉じさせるためではなく。他者を守護し、無辜の民を救うため。それは真に英雄足り得る偉業。

 

 これまでクー・フーリンの背を追いかけ続け、激動の中でなし崩しに戦いの日々に身を投じていたそれとは異なり、これは初めて自分の意志で為そうとすることだった。

 

 不殺の信念を抱いた時点で、兄貴を目指すのではなく、兄貴らしさを保ちつつ自分の信念を貫こうと決心した。

 しかし一方で、やはり心のどこかにはクー・フーリンの幻影がチラついていた。

 彼に近付きたい、彼のようになりたい、彼のように行動したい。だから力を身に付け、人を助け、武勇を創出したい、と。

 

 けれど、もういい。そんな中途半端な覚悟とは決別しよう。

 

 俺は俺として刃を振るう。その結果として、神話に記されることなく埋没したとしても。愚直に理想を追い求めた代償として、何も成せずに得られずに死んだとしても。

 

 クー・フーリンとしては失格だろうが、俺はそれでいい、それで充分だ。だから俺は、取るに足らない戦士の一人として戦いに臨もう。

 

 

 

 さあ、始めよう────神殺しを。

 

 

 

 極限まで引き絞られた矢の如く、俺は駆け出した。高スペックな肉体から弾き出される速度は、正しく神速の域。

 

 瞬時にモリガンの眼前に躍り出る。

 

「ハッ、愚かなッ!」

 

 速度を上乗せした刺突を、モリガンは槍の一振のみで相殺させてみせた。

 ただ力任せに振るったのではなく、的確なタイミングと最小限のパワーで弾き返し、それを即座に見定める慧眼と智能でもって攻撃を殺しきる。

 それのみで理解するモリガンの力量。間違いなくモリガンは俺よりも遥か高みに座する強者だった。

 

 弾かれたことで魔槍と共に身体が浮き上がった隙に、モリガンのもう一条の槍撃が差し込まれる。

 心臓に吸い込まれるそれを、俺は身を捻じることで躱し、その返礼として引き戻した魔槍を斜めに振り下ろす。

 描かれた緋色の線はモリガンへと迫り、しかし直撃はせず。モリガンは、その攻撃が視えていたかのように、脚を一歩動かすのみで避けてみせた。

 

「何だ、威勢だけかッ」

 

 すかさず打ち込んでくる一閃を魔槍の柄で受け止め、続く連撃を反射神経にものを言わせて捌く。

 

 ────焦んなよ、まだ始まったばっかだろうが! 

 

 俺が声を荒らげた途端、頭上から迫る殺気────俺に向けられたものではないが────を感じ取り、モリガンの攻撃をいなして後方へと跳ぶ。

 

「────そぉれッ!」

 

 師匠の凛とした声と共にモリガンに降り注ぐ緋色の雨。一条ごとが致命を狙った無数の必殺。

 

「無駄だ」

 

 されどモリガンは、左に持つ槍を高速で回転させることで緋色の雨を弾き、打ち落とす。防御を掻い潜る僅かな魔槍は、舞踏さながらの足捌きで躱していく。

 

「シッ!」

 

 無数の魔槍が全て弾かれると、次は師匠が彗星の如くモリガンに襲いかかる。

 魔槍と同色の光を揺らめかせた刺突。それは俺のとは比べ物にならない程の破壊力を有しており、その証拠にモリガンの槍による防御を容易く崩してみせた。

 

「ッ、不敬な!」

 

「悪神に払う敬意など無いのが道理よ!」

 

 師匠はモリガンに息つく暇すら与えない勢いで攻め立てる。

 刺突、殴打、薙ぎを織り交ぜた変則的な連撃。更に、もう一条の魔槍を複製しては射出していく嵐のような猛攻。

 緋色と鈍色の軌跡が激しく交錯し、火花による明滅を伴いながら金属音が響き渡る。

 

 傍から見て分かるレベルの師匠の本気具合も凄いのだが、それに追従以上の槍術で的確に弾き続けるモリガンもまた凄まじい。

 未だ槍術しか情報を開示していないが、モリガンの力量は師匠のそれとほぼ同格だろう。即ち、俺よりも強いということに他ならなかった。

 

 だが、だからといって傍観に徹するはずもない! 

 

 師匠の幾度目の攻撃をモリガンが弾いた刹那、初速から最高速度をもってモリガンの懐へと飛び込む。

 背を丸めた姿勢から、全身を駆使した横薙ぎ。しかしそれは、モリガンの左手に握られた一条の槍によって防がれる。

 

「そこッ!」

 

「甘いわッ!」

 

 俺の攻撃が受け止められたのを見計らい、師匠が俺の頭上から魔槍を撃ち出す。

 降りかかるそれを、右手の槍で正確に打ち落としていくモリガン。

 コイツの注意が散漫になったところで、次は俺のターン。低い姿勢を活かしてモリガンに足払いを仕掛ける。

 

「ッ!」

 

 槍術では敵わないだろうが、生憎と、俺が師事したのは多芸な戦士を育て上げるスカサハだ。勝つためなら何でもやる、とまではいかなくとも、己の持つ全てを駆使することなく勝敗を決定してしまうことこそ失礼。そのように教育されてしまったのだから、尋常な勝負であっても小細工は積極的に用いていく。

 

 モリガンが体勢を大きく崩したことで、師匠の射出する魔槍への対応が疎かになり、数条がモリガンの身体を掠める。

 だがそれで終わることなく。俺が仕掛けると察知していたのか、跳躍していた師匠は体勢の崩れたモリガンの真上から落下し、魔槍で穿とうとする。

 

 瞬きの間に串刺しになるであろう瞬速のそれ。何時ぞや師匠にやられた、一瞬にして踏み込まれ、武器を弾かれ、首に刃を添えられるという一連の速度すらを超えていた。

 

 しかしモリガンもまた、飛び抜けた戦闘技能の持ち主だ。刹那に満たない殺気ですら鋭敏に感じとったのか、残像が形成されるレベルで飛び退いた。

 直後、魔槍がモリガンの残像を脳天から穿つ。が、そこから師匠は着地と同時に縮地で鋭角な軌道を描き、モリガンに突き進む。

 

 魔槍による刺突から始まり、両手で魔槍を巧みに踊らせて回転させた連撃、不意に魔槍を足で受け止め制止させたと思えば、それを蹴り上げて回転の向きを変える。

 

「予見すら行使せんとは、随分と舐めた真似をしてくれる」

 

 二条の槍で此方もまた巧みに捌くモリガンに対し、師匠は立て続けに猛攻を仕掛ける。

 

 回転から横薙ぎへと転換、次の構えに移行する僅かな隙を複製した魔槍の射出によって潰し、魔槍による三段突き、地に突き刺した魔槍を軸にした蹴り、浅く持つことで威力を増した叩き付け────苛烈という言葉に尽きる。

 

「ええいッ、鬱陶しいッ!」

 

 そんな猛攻を、憤怒に彩られながらも的確に弾き続けるモリガン。激情の渦中にいながらクールに技量を示していた。

 二人の戦闘の領域は正しく人外のそれ。攻撃、防御、速度、反応、智慧────どれを取っても比類を許さない。

 

 モリガンの相手を師匠にほぼ任せ切りなのが悔しいが、前提からして俺ではモリガンと打ち合うことはできなかっただろう。

 いくら俺にクー・フーリンというハイスペックな肉体があったとしても、流石に戦神相手に肉薄するのには無理がある。

 

 それを理解していたからこそ、作戦会議の時点でこうなることは想定済みだった。

 

 結局のところ、俺はモリガンを引き付けるデコイでありながら、死闘を終わらせるキーマンでもある。

 尤も、切り札が機能するか否かは試してみなければわからない、という不確定要素が根本にあるのだが。

 

 二人の繰り広げる激戦を見て、俺は改めて魔槍を握り締める。

 

「ッ、後退せよクー・フーリンッ!」

 

 不意に師匠が目を見開き、珍しく声を荒らげた。途端に俺の全身を突き刺すような殺意が襲い、得体の知れない何かに怯えるように、直ぐに逃げろと頭が警鐘を鳴らす。

 

 危機感知に従って飛び退いた瞬間、モリガンから広範囲に渡る白い衝撃波が放たれた。

 某暗魂で言うところの『神の〇り』、某鎧核で言うところの『アサルト〇ーマー』のようなソレだった。

 

 圧倒的な魔力の波動は師匠との打ち合いを強制的にキャンセルし、その身を吹き飛ばす。

 

 回避できたからよかったが、もし直撃していたのなら俺はどうなっていたか。推測の域を出ないが、あの師匠を力技で飛ばすだけの奔流だ、割と真面目に木端微塵にでもなっていたのではないだろうか。

 こんなところでフ〇ムの悪意を見せつけられたようで驚いたが、それ以上に、今の衝撃波が単なる魔力放出の副産物というのに驚愕する他なかった。

 

「我が下賎な貴様らに罰を下すに、態々真正面からやる必要もなかろう」

 

 仕切り直すように、モリガンは背に翼を広げて飛び立つ。

 

「種として、理として天上に座するが神。ならば、貴様らは地より仰ぎ見るが画然たる在り方よ」

 

 モリガンの肉体に纏わり付く可視化した魔力が、空中に幾何学模様の魔法陣を何十と描く。

 アレは何だと喚く必要もなく、視界に収めた段階で魔法陣の用途を理解する。

 

 メディアさん然り、セミ様然りのビーム的なヤツじゃねえか……!! 

 

 溜め込んだ、というより、根源から直接引っ張ってきたと言った方が正しい膨大な魔力が、魔法陣という銃口から赤黒い魔弾となって撃ち出される。

 

 初撃を寸でで躱すが、魔弾が直撃した地は劈く破砕音を伴ってクレーターを形成していた。全身がひりつくような殺傷能力を魔弾から感じ取り、額から冷や汗が流れる。

 次弾とそれに続く閃光は豪雨のように連射され、俺は視界で捉えてからの回避では間に合わないと直感し、自らの危機感知能力を鋭利にすることで、感覚的に避ける、避ける、避ける。

 直撃は免れていたが、僅かな掠り傷が次第に増えていき、その度に身を内側から焼かれたような痛みに襲われる。

 

 合間に師匠へ視線を送れば、師匠は魔槍で魔弾の尽くを粉砕していた。涼しい顔で淡々とこなせるのは、魔弾を砕ける程の魔力を瞬間的に魔槍へ纏わせたからだろう。

 

「ふむ。存外、上手く逃げるではないか。では追加だ」

 

 嘲りが多分に含まれたモリガンの言葉。それが発せられると同時に、数十あった魔法陣が空を埋め尽くさんばかりに増加する。総数は数百、数千とあるだろうか。

 

 ────滅茶苦茶やりやがるッ……! 腐っても神か! 

 

 思わず渋面を作ってしまう俺。現状でさえ必死に回避するのがやっとだというのに、息をするように攻撃を激烈化させられたのだから。

 

「ん、面倒な……」

 

 師匠もまた僅かながら眉をひそめ、振るう魔槍の速度を上げていく。……それはそれとして、これを面倒で済ませられる師匠、やっぱすげぇわ。

 

 意識を眼前に向け直す。

 

 これ以上の一方的な攻撃は許容できない。いくら最速の英雄と名高きクー・フーリンであっても、そもそも行動範囲を塗り潰すだけの広範囲殲滅をされては厳しいものがある。

 そして、現状の防戦一方ではモリガンを倒すことはおろか、攻撃を届かせることすら不可能。攻撃こそ最大の防御とはよく言ったものだ。

 

 ……早期に手の内を晒したくはないが、この際仕方がない! 

 

「何をしようと無駄な足掻きよッ」

 

 俺の目の色が変わったのを感じ取ったのか、モリガンは数千とある魔法陣から一斉に赤光を照射した。

 コ〇ニーレーザーやメ〇ントモリの如き、全面を余すことなく灼熱に包むそれが迫る、迫る、迫る。

 

 ────無駄なモンかよッ!! 

 

 やられない……やられてたまるものか! 左手を地に落とし、俺の所有する全てのルーンを用いた守りを形成する。

 

 それは上級宝具すら凌ぐ堅牢な守護。

 

 熱線が直撃する。障壁と赤光が衝突し合い、大気を震動させ、間近でジェットの爆音が発せられているような轟音が響き続ける。

 障壁を通して凄まじい負荷が肉体にのしかかり、さながら投げボルクを受け止めるアーチャーのよう。俺がクー・フーリンだけど。

 

 ────ああッ、あ、あああッ!!! 

 

 くっ、この程度のGに身体が耐えられんとは……! と、思わず口にしたくなる衝動を抑えつつ、全身全霊の力を込めて受け止め続ける。

 

 三秒経過────俺にだけ数倍の重力がかかっているような、全身を押さえ付けられる感覚が次第に強くなる。

 

 五秒経過────ばきり、と氷にヒビが走るような音と共に、障壁に亀裂が生じ始める。いくら上級宝具を凌ぐだけの守りだとしても、神の放つ熱戦に耐え続けるなど困難を極める。

 

 十秒経過────負荷によって身動き一つとることができず、守りも粉砕する直前。身体が軋み、血を吐き、それでも歯を食いしばって根性で耐える、耐える、耐える……! 

 

 

 

 

 

 

 光が収束し、俺にのしかかっていた負荷が消え去る。爆音も収まり、一転して静謐に満たされた。

 

「……耐えた、だと?」

 

 素直に驚いたとわかるモリガンの声が酷く谺する。先程のゲロビが切り札などということはないにしても、アレを耐えきるとは露程も思っていなかったようだ。

 まあ、消し炭になる寸前だったんですけどね? それでも俺は空元気で不敵な笑みを向けてやる。

 

 ────呆けてる暇があんのか? 

 

「そのような有様で何を────ぐッ!?」

 

 空中に停滞するモリガンに向けて、鋭い緋色の線が飛来する。

 それは師匠が投擲した魔槍。空間が歪んで見える程の力が込められた呪いの槍は、必殺の一撃を叩き込むための一投目。

 

 咄嗟に回避行動に移ったモリガンだったが、正確に放たれた魔槍は僅かな隙を逃すことなく左肩を穿ち、空間に縫い止めることで身動きを封じた。

 

 ふと視線を動かすと、続く魔槍を構える師匠の姿。傷一つないところから察するに、俺と違ってゲロビを防ぎきったらしい。

 師匠の魔槍から緋色の光が揺らめき、角度がつけられた構えによって穂先がターゲットを捕捉する。

 

「手を抜いたのが祟ったな!」

 

 そうして紡がれる詠唱、真名解放。

 

「刺し穿ち、突き穿つ────『貫き穿つ死翔の槍』!」

 

 生オルタナティブを初めて見聞きしたことで俺の中の型月ファン魂が荒ぶる。荒ぶり過ぎてアラガミになってしまったわね……と空気を読まない胸中と格闘している一方で、投げられた魔槍はモリガンに迫る。

 

「な、んのッ!!」

 

 膨大な魔力を引き出したモリガンは、全方陣から赤光を放ち、たった一条の魔槍へ攻撃を集中させた。

 だが投擲された魔槍の勢いは一切衰えることなく、赤光を引き裂き続ける。

 

 エミヤが口にしたように、ゲイ・ボルクによる一撃必殺の投擲は、懐に入れさえしなければ単に鋭い一撃に過ぎない。

 師匠の投げボルクはクー・フーリンのそれとはそもそも別格なのだが、受ける側が師匠と同格で、しかも真性の神となれば、扱いとしては兄貴のそれと同程度なのだろう。

 

 だったとしても、身の自由を奪われた状態で万全な対応ができるはずもなく。

 

「っぁ────ッ!!!?」

 

 半ば反射的に槍を宛てがうも砕かれ、必殺の緋がモリガンの心臓を穿った。同時に、展開されていた魔法陣が霧散する。

 数多くの神秘を葬ってきた一撃をモロに食らったのだ、タダでは済まない。そのはずなのだが、

 

「がッ……ぐぅぅ……! 我に血をッ、流させるなどッ……!」

 

 穿たれた胸部からおびただしい量の流血をしつつも、命が絶えるような兆しはなく。明らかな致命傷だというのに、モリガンは未だ健在。

 つまり、師匠の『貫き穿つ死翔の槍』をもってしても、モリガンを死に至らしめることは叶わなかったのだ。

 

 予感はしていた────師匠の魔槍でも殺せない可能性を。

 

 モリガンはケルトの地にて勝利を支配する戦女神として崇拝されているらしく────俺は知らなかったが────勝利を司る神として存在しているからこそ、戦闘行為が横行するケルトでは信仰されているといえる。

 いくつかの意味で欲に忠実な様を見れば、モリガンこそがケルトらしさを体現しているのかもしれない。

 

 ここで問題になるのは、モリガンの『勝利』が如何なる性質として現れているかだ。

 

 神々の有する権能とは、例えば、『燃やす』という権能があれば脈絡も原因もなく対象を燃やすことができ、『水を出す』という権能があればそこに水が有ったということにできるなど、理屈ではなく『そういうもの』として成立している割と出鱈目な力だ。

 

 であれば、モリガンの『勝利』は? 

 

 魔槍による一撃必殺のように『勝ったという結果をつくってから戦いに臨む』という因果逆転だったのなら。

 言葉遊びのようにも聞こえるが『必ず勝つ=死という敗北がない』という不死性をもたらしているのなら。

 どれだけ劣勢に立たされたとしても『あらゆる補正が働いて勝利という結果を運命付ける』という改変であるのなら。

 

 正確な性質は不明だが、少なくとも師匠による魔槍で存命というケースは予測済み。

 最悪、『貫き穿つ死翔の槍』をモリガンの足止めに使うという贅沢な選択肢すらあった。

 

 まあ、この最悪を選択しなければならないのだが。

 

「行けッ、クー・フーリン!」

 

 師匠の声に背を押され、俺はルーン魔術でモリガンの頭上へと転移する。探知をされないという特性を持つこれのおかげで、俺はモリガンに気付かれることなく移動し、自由落下する。

 

 ────行くぞ。この一撃、手向けとして受け取るがいいッ! 

 

 口上と共に魔槍の呪いを全開させ、にありったけの力を注ぎ込む。そこへ、俺が獲得した『死』を上乗せさせる。

 本来のコレは、心臓に命中させるのではなく、一撃の威力を極限まで研ぎ澄ませたものだ。

 だがここに『死』を上乗せしたのなら、魔槍の持つ呪いと相まって、死なない相手でさえ死に至らしめる一条と成り得るだろう。増して、相手が無防備且つ回避不能となれば、期待する価値はある。

 

 ここまでお膳立てしてくれた師匠に感謝する他ない。だからこそ、ここで仕留めるッ! 

 

 全身全霊をこの一投に込める。魔槍と同色の光が穂先から迸り、禍々しさが否応なしに絶対的な破壊力を物語る。

 

 直前になってモリガンが察知し、こちらに顔を向けるが、もう遅い。

 

 

 

 ────『突き穿つ死翔の槍』ッ!!! 

 

 

 

 放たれた緋色の線は、モリガンを確かに貫いた。

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.今回一人称視点でやる必要やった?
A.皆まで言うな、宣告承知だ(ブシ仮面)。

Q.モリガンの手抜きって?
A.下記に書いとりやす(白目)。

Q.貫き穿つ死翔の槍を食らって五体満足とかモリガン頑丈過ぎひん?
A.戦神やぞお前!(豹変&はぐらかし)

Q.『死』だけで殺せるん?
A.無理じゃね?()


◆今回のキャラ別の活躍
▶師匠
今回のMVP。クー・フーリンを死なせまいと本気になり、神殺しの異名が伊達ではないことを存分に示した。モリガンが本気でないのをいいことに、やりたい放題やった。余談だが、クー・フーリンと共闘できて割と御満悦。これをネタにヒロインズを煽り倒す予定が組み上がった。

▶モリガン
最後にボられた神。最低限クー・フーリンだけ殺れればいいや、とか思ってたら親玉の真ん前に引きずり出された。本来であれば相手の行動を先読みする千里眼的な力を用いるのだが、神が人間如きに本気になるとかプライドがアレしますわ、とか思って手を抜いて使わなかった。それをスカサハに看破されて結果ブチ込まれた。死んだ?はは、知らんのか。モリガンはまだ進化を三回残している(大嘘)。

▶(偽)ニキ
活躍を師匠にほぼ奪われた主人公()。モリガンを煽って師匠の前に引っ張ってきた時点で役割の九割が終わった。一割は画竜点睛。師匠とモリガンの人外魔境なリアルファイトを見せられ、自分の力量では到底適わないことを再確認した。今回こいつの一人称視点でやる必要性を疑問視したのは幾度とないのは言うまでもなく。


 ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。新年一発目の投稿が、まさかの一月中旬という。まま、えやろ。あ、そうだ(唐突)。福袋で魔神さん引いて見事に宝具5になりました(轟破天隙自分語)。初めての星5宝具5ということでテンションがハイになってコメカミグリグリとかやってたんですけど、その横で何食わぬ顔でギル君宝具5にするまで回し続ける友人がおって戦慄。必ず邪智暴虐の課金を除かねばならぬと決意しました(意味不明)。
 今回はモリガンとの死闘編でした。一応はモリガンのチートスペックを描くために、引き合いとしての師匠を暴れさせたのですが、これがまた難しいねんな。戦闘描写を描き続けると「よっしゃ結構書いたで!」と満足気になって、改めて読み返してみると「内容も文字数もうっすいなぁ」となり、再び描き続けるというループに襲われるので、これがまた難しいねんな(天丼)。
 次回については、ところ変わってアイフェ達の三人称視点にする予定です。といっても構想のこの字もない現状ですので、やはり時間がかかるのは否定できないですね……。ということなので、気長に待っていただけると幸いです。それではまた次回!






































※以下蛇足

僕「聖杯くん!聖杯くん!ミッツァイルくんが僕をいじめるんだ!ただ5Cコンを使いたいだけなのに!」

『ならこれを使うといいよ!デンドウナール!これでミッツァイルくんを半身浴させてあげなよ』

僕「わぁい^^ありがとう聖杯くん!これでミッツァイルマスターズじゃなくなるんだね!早速ぶち込んでくるよ!」

僕「ふざけるな!ミッツァイルがいなくなったら今度はデイヤーが暴れ散らかしてやがる!というかミッツァイルより強いじゃねえか!こんなの(パワーバランスの)天秤があべこべだ!」

僕「デイヤーを殺す零龍墓地ソ!?ダメだ速すぎる!殺人的な加速だ!(ゼクス並感)到底僕のデッキでは追いつかない!」

僕「青白ネバーループ!?畜生、盾殴ったらループされて負けたぞ!?馬鹿野郎ロマノフかよこの野郎!(アウトレイジ)」

僕「白緑ネイチャーファイブスター!?ダメだ、バルチュー引かせないとダンテストップで確殺される!これが人間のやることかよォ!?(アスラン)」


 それでも僕は楽しく生きてます(レ〇プ目)。


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誇り:三人称視点

ようこそ……!(更新速度が)底辺の小説へ……!


 ◆

 

 

 

 クー・フーリンとスカサハが、モリガンに魔槍を馳走している頃。戦車を走らせながら、レーグは努めて冷静に戦況を俯瞰していた。

 

(操られている戦士達の八割はアイフェさんが相手をしてくれている。残りの二割はメイヴさんが呼び出したらしき戦士達と、僕とで何とかなっている)

 

 ふと後方に視線を向けてみると、戦車に追い付かんとする戦士達が。

 一様に目に胡乱な光を灯し、獣のような唸り声を上げながら疾走する。そんな彼らを見て、レーグは悲痛な表情を浮かべた。

 

(……今は目の前のことに集中しよう)

 

 手綱を弾き、戦車を引く二頭の馬に指示を飛ばす。と、戦車は緩やかなカーブを描く。

 それを見た戦士達は、直線距離でもって最短を詰めてくる。理性も意識も失われてはいるが、彼らとて屈強なケルトの戦士なのだ。

 

 戦士達の中でも一際速い者らがレーグへと接敵する。

 

「──────ッ!」

 

 もらった、とでも言うかのように、接敵した戦士の一人が跳躍し、右手に持つ剣を振りかぶる。

 太刀筋がレーグの首を捉え、鈍色の線が首を断つ────直前、戦士の視界からレーグの姿が掻き消え、ターゲットを見失ったがために勢いのまま地面へと転がった。

 

 唐突にレーグが戦車諸共姿を消した。このことに、レーグを追っていた戦士達は困惑によってその足を止める。

 

 途端、"見えない何か"によって次々と戦士達が撥ねられていき、剣が砕け、槍がへし折れ、鎧がひしゃげ。

 不可解な事態に対し、彼らが乱雑に武器を振るい始めた辺りで、少し離れた位置にレーグが姿を現した。

 

「不可視の魔術。とても中途半端な効果だけれど、連発しなければ不意打ちにはもってこい、かな?」

 

 真剣な表情を崩し、一人ごちるレーグ。

 

 彼がやったことは非常に単純明快。

 

 自身を追ってくる相手に対して、あえて接近を許す行動を取る。そうすればほぼ間違いなく彼らはのって来る。

 攻撃行動をさせ殺った、取った、と思わせておいて回避行動に移る。その際に不可視の魔術を行使してやれば、音や気配までもを消せなかったとしても、視覚情報に出たエラーが反応を鈍らせる。

 ただ、ここで逃げるのみだと戦士達を引き付けることは難しい。逃げの一手しか取らないのなら、極論、無視されかねない。

 だから回避行動の終わりには攻撃も忘れない。ヒットアンドアウェイを心がける。

 

 そうしてやれば、

 

「「「「──────ッ!!」」」」

 

 再びターゲットことレーグを捉えた戦士達は、不意打ちと被ダメージから生じた苛立ちに突き動かされ、戦車に向けて愚直に駆け出す。

 

「うわ……凄い気迫。以前の僕なら、間違いなく腰を抜かしてたな」

 

 無意識の内にレーグの口元は弧を描いており、それに気が付いた彼は手で口を押さえつつも苦笑した。

 それも仕方がない。以前のレーグは気弱で卑屈、成長など有り得ないと諦めていた。それが一変したのは、クー・フーリンと出会ってからだった。

 彼によって進むべき方向性を示され、心までも救われた。これまで努力が実らず、端から諦めていたレーグにとって、クー・フーリンとの邂逅は人生のターニングポイントになり得たのだ。

 それからは激戦の日々。海獣討伐のお供によって英雄譚の一頁を見届けたのに始まり、影の国に足を踏み入れてスカサハとアイフェとの接触、アルスターでの魔獣狩り、コノートとの戦争と獣に堕ちたクー・フーリンの救出、アルスターとコノートの一騎打ちの見届け人、そして今。

 

 これらの経験は、レーグを心身共に成長させるには余りあった。

 

 ────全てはクー・フーリンがいたからこそ。

 

「さ、次はどんな手で引き付けようか。あんまり手段に数はないんだけどね」

 

 ただ、共に駆ける"彼"がいなければ、やはり寂しくもあった。

 狭いはずなのに広く感じる戦車の上で、レーグは"自分にとっての英雄"のために知恵と手綱を振るい続ける。

 

 そこに以前の彼の姿はなく。在るのは、英雄の友に相応しき勇士。後に"御者の王"として名を残す勇敢な戦士の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッチも頑張ってるみたいね」

 

 足を組みながら優雅に戦況を把握するメイヴ。彼女の視線はレーグの姿を捉えており、彼の奮戦を素直に評価する。

 

「細長くって弱っちいヤツだと思ってたけど、クー・フーリン程じゃないにしろ案外いい勇士ね。確かレーグとかいったかしら。クー・フーリンをオトせば付随して手に入れられるわね!」

 

「……戯言はそこまでにして下さい」

 

「別に巫山戯てないわよ! この世のイイ男は全て私のモノにしたいだけ。……まあ、クー・フーリンだけは超特別枠なんだけれど」

 

 頬を染め、しおらしく身を捩らせるメイヴに、エメルは青筋を浮かべつつ眼光を飛ばす。

 

「あらやだ、もしかして独占欲? わからなくもないけど、そればっかりだと身を滅ぼすわよ? 私としては大歓迎だけどね!」

 

 むふふ、と勝ち誇った笑みを浮かべるメイヴに、心の奥底で負けを認めてしまうエメルがいた。

 現在の彼女は正しく非戦闘要員。スカサハのような巧みな槍術もなく、アイフェのような豪快且つ強大な魔術も使えず、メイヴのような特異な能力もない。

 クー・フーリンの隣にいるためには力がいる。そう定義付けていただけに、自身の戦闘能力のなさに嫌気が差していた。

 

(私には何がある? 彼に対する絶対の愛なら。でも、それを表現するだけの腕がありません)

 

 一朝一夕でどうにかなるものではないと理解していながら、スカサハ、アイフェ、メイヴを思い浮かべ、エメルは非力な自分と比較してしまう。

 

(……何故、あの程度の力で舞い上がってしまっていたのでしょう……! 何故、私には力がないのでしょう……!)

 

 自身だけが役目がなく、足枷となっている現状にエメルは歯噛みする。

 

 視線を移動させると、彼女の視界にはフェルディアとフェルグスの熾烈な争いが収まる。

 

(私も、彼らのように戦える力があったなら。……欲しい、他を圧倒するだけの力が……! 彼に捧げられるだけの勝利が……!)

 

 今は戦車から戦況を伺うことしかできないエメルだが、後に"異国の地"にて台風の目となることを、彼女はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無銘の槍を巧みに操るフェルディアは、自身の尊敬する勇士の一人であるフェルグスとの戦に臨んでいた。

 

 モリガンによって自我を封じ込められ、言葉すら介さない獣のように武力を振るうだけの傀儡と化してしまったフェルグス。

 篤実な彼の誇りを守るためにも、一刻も早く傀儡から解放せねばならない。だがこれを解けるは術士たるモリガンのみ。

 

 であれば、フェルディアの選び取る択はひとつ────フェルグスの手が汚れることがないよう、己がここで押し留める。

 

「ふんッ!」

 

「──────!」

 

 飾り気の皆無な鈍色の槍で、フェルディアは刺突や薙ぎを織り交ぜた攻撃を仕掛けていく。

 激しく振るうのではなく、堅実且つ着実に重ねていくのはフェルディアらしく。実に嫌らしいタイミングでベストな一撃を繰り出せるのは、彼の十八番があってこそ。

 

 師たるスカサハに重点的に極めるよう教え込まれ、好敵手たるクー・フーリンをも技術で圧倒する、類稀なる資質。

 それは、未来視をしているのではないかと錯覚する程に正確無比で堅牢な守り。攻めに転じれば対峙した相手の弱点のみを突き続ける攻防一体の戦闘スタイル。

 

 唯一無二の強さを持つフェルディアの前では、如何なる戦士ですら手の内が赤裸々となり、即座に追い込まれてしまうだろう────が、しかし、フェルグスもまた万夫不当の歴戦の強者だ。

 

「………………ッ!」

 

 緻密な技の積み重ねを圧倒的な力で捩じ伏せるように、轟ッ! と空を裂く螺旋剣の一閃。それを後方に跳ぶことで躱すフェルディア。

 すかさずそこへ追撃を加えるフェルグスは、豪快ながらも鋭さを失わない剣閃を刻む、刻む、刻む。

 フェルディアもまた守勢へと転換して螺旋剣に対応し、弾く、弾く弾く。

 

(やはり、強い────!!)

 

 彼の猛攻を巧みに捌くフェルディアだが、その腕は強烈な痺れを訴えていた。

 モリガンによってスペックを引き出されているフェルグスの力は、ほんの一振りで大地を砕くレベルと化している。

 そのような重撃を受け止め続けるなど、過重にも程があった。

 

 だからといって受け止めるのを止めれば、途端にフェルディアは螺旋剣によって真っ二つに斬り裂かれることだろう。

 彼の皮膚は尋常の刃なら通ることはないが、しかしゲイ・ボルクのような魔槍や、魔剣・聖剣の原型となった螺旋剣であれば、彼の堅牢な皮膚を切り裂くことが叶う。

 

 即ち、フェルグスの前では、フェルディアの鋼に勝る皮膚すら意味をなさないのだ。

 

「くッ…………!」

 

 必然、フェルディアは飛び退いて仕切り直しを選択する。

 

「感服する他ない苛烈さだがッ、敵に回せばここまで厄介だとはッ────!」

 

 どれだけ細かい技を挟んだとしても、フェルグスは物理的に叩き割り、食らい付いてくる。

 それこそがフェルグスの強みだと理解しているが、しかしフェルディアは自身との相性の悪さに辛酸を嘗める。

 

 フェルディアが技の極地だとしたならば、フェルグスは力の極地。並々ならぬ努力によって築き上げられ、登りつめた頂きだ。

 だとしても、純粋な力とは時として戦略すらをも打ち砕く。曰く、力こそパワーだと。

 

「──────ッ」

 

 フェルディアが距離を空けたのを見て、フェルグスは不意に螺旋剣を地面へと突き刺す。

 

「っ、何を」

 

 彼の目的不明な行動にフェルディアは疑問を抱くが、それ以上に魂が震えるように警鐘を鳴らしていた。

 

「これはッ……!!?」

 

 突き刺された螺旋剣を起点として地に亀裂が生じていき、そこから七色の光輝が溢れ出す。

 突き刺す程に感じる力の波動は、激しい揺れと地鳴りを伴って大地を罅割れさせていき、忽ちアイフェの領土の全土へと無数の線を刻みつけた。

 

 足元が緩い中でなんとかバランスを維持したフェルディアは、危機感を募らせつつ周囲に視線を走らせる。

 周りには、フェルグスと同じく傀儡に落とされた戦士達、彼らを魔術で凍てつかせるアイフェ、名も無き戦士達を統べるメイヴ、彼女と共にいるエメル、戦車で爆走するレーグ。

 

 皆が一様に奮戦しているのが目に入ってくるが、しかしフェルグスが引き起こした事態に困惑と焦燥を抱いているのも見て取れた。

 

 何が起こるのかは不明。ただ、漠然と身の危険を覚える。

 

「まずいッ────」

 

 

 

 瞬間────大地が舞った。

 

 

 

 罅割れて岩片と化した大地が噴出した光に巻き上げられる。

 

 ────『極・虹霓剣』。

 

 それは大地を砕く破壊兵器、螺旋剣の色濃い側面。地形諸共一切の敵を撃滅し得る対地上宝具。

 一国全土を覆う竜巻のようなそれは、国そのものをミキサーにかけたように、細部にわたるまで蹂躙していく。

 

「ぐッ、がァっ!? ……ッ、ぁッ……っ!!」

 

 噴出した光輝はフェルディアを突き上げ、舞い上がる無数の岩片が容赦なく彼の肉体へと襲いかかる。

 いくら刃を通さぬ皮膚を持っていようと、鎧越しに中身を潰す衝撃にも耐性がある訳ではない。増して、回避行動がとれない空中に身を投げ出されたのも非常に痛い。

 フェルディアの強靱な肉体には傷こそ付かないものの、全身を余すことなく殴打し続ける岩片は、着実に彼の内側を破壊していく。

 

 暫くして、フェルディアは重力に従って落下する。意識は朦朧とし、筋肉や内臓の大半が潰れるという重体。

 それでも絶命に至らなかったのは、鍛え上げられた肉体があってこそ。だがそれが、フェルディアに継続的な苦痛を与えていた。

 

「…………ぅ、……ぁ、っ……」

 

「全く、手間のかかる」

 

 力なく地に伏す満身創痍のフェルディアに、溜息を吐きつつ再生のルーンを施すアイフェ。彼女は原初のルーンで『極・虹霓剣』を難なく防いでいた。

 

「っ、ァはッ!! ……助かりました……感謝します、アイフェ殿」

 

 痛みが消え去り万全の状態に治ったフェルディアは、気が付く。

 

「……これは、なんと……ッ!!」

 

 凸凹の少なかった影の国の地形が、瓦礫が山積し、地が割れ、筆舌し難い状態に変化していることに。

 辺り一面に掌大の石が散乱しており、中には人の丈より何倍も巨大な岩石が鎮座している。荒れに荒れた噴火後の山の景色のようだった。

 

 たった一人の人間がこれを引き起こしたということに絶句するフェルディアだが、そこへ追い討ちをかけるのは、この荒れた地に伏す戦士達の姿。

 獣の如き唸り声すら上げられず、息も絶え絶えの死ぬ間際。それぞれが多量の血を流し、手足が曲がるべきでない方向へと捻れていた。

 中には本当に死に至っている者もいるだろう。だが『勝利の加護』が、同時に再生のルーンがそれを許さない。

 

 故に、死なぬ────死ねぬ。

 

 改めて、彼らをこのようにしたモリガンに激しい憤りを感じるフェルディアだが、それを上回る遣る瀬なさが支配する。

 いくら操られているからといって、フェルグスが何の躊躇いもなく破壊の限りを尽くしたことを。それを止めることのできなかった己の不甲斐なさを。

 

 多くが伏す中、戦車の残骸の上で愉快に喚き散らすメイヴと、それを呆れ顔で見つめるエメルの姿はあった。

 

「あーっ、もうっ! 私の戦車が壊れちゃったじゃないのよ! それに牛まで……!」

 

「戦車があったからこそ、私達に大きな怪我はなかったではないですか……。というか、私の魔術で衝撃を抑えたのですけれど、そこに感謝とかはないのですかぁ?」

 

「あぁん! もう! フェルグスぅぅう!」

 

「……聞く耳持たず、ですか」

 

 一方、レーグはというと。

 

「……死んだ……! さっきまで絶対に死んでた……!」

 

 メイヴと同様に戦車が崩壊したことで、『極・虹霓剣』の天災にしっかり巻き込まれていた。そこを再生のルーンで救われたのだ。

 そのせいか、レーグは顔を青白くさせながら胸へと手を当て、心臓の鼓動を確認していた。彼にとって初めての死(ぬ程)の経験だったのだから、仕方がない。

 尚、セングレンとマッハもまた再生のルーンで治されており、それはクー・フーリンの持ち物とアイフェが判定していたからであった。

 メイヴの牛達がそうならないのは、つまりはそういうことである。許せ、牛。

 

 多数が苦痛に呻き、少数が生存に安堵しているのを後目に、螺旋剣を大地から引き抜いたフェルグスを捉え、アイフェは眉を顰める。

 

「あの下郎め、人の領土を何だと思っているのか……!」

 

 アイフェにとって、領土を復元するなど造作もない。しかし、他者によって荒らされたのを自身が手間をかけて直さねばならないということに、彼女は不愉快に満たされる。

 ただでさえ開戦前から腹の虫の居所が悪かったアイフェにとって、機嫌を更に悪化させるには十分だった。

 

「フェルディアといったか、お前は下がれ。彼奴は私が降そう」

 

「ッ……!」

 

 槍と杖を持ち、アイフェ直々に引導を渡さんとする。彼女が力を振るうとなれば、間違いなくフェルグスを止めることは叶うだろう。

 

 だが、フェルディアは引き留める。

 

「……いやッ、待っていただけませんか?」

 

「待たん。待つ理由がない。仮にそうしたとて、誰が彼奴を止める? お前か? お前では彼奴に敵わんではないか」

 

「……っ、それは────」

 

「それが答えだ」

 

 視線すら向けずに吐き捨てたアイフェ。内容が的確故に、フェルディアは言い淀んでしまう。

 反論の素材が見つからない。何を言ったとしても論破される未来が見える。だから、フェルディアは悔しさから歯を食いしばる。

 

 そうとわかっていながら、彼は心中に渦巻く様々なモノを吐き出さずにはいられなかった。

 

「……確かに、俺とフェルグス殿とでは、明確に力と経験の差が出てしまうでしょう……」

 

 罪を告白する罪人のように、胸の内を静かに明かすフェルディア。続ける。

 

「俺が戦うより、俺より強い戦士に任せた方が、悔しいが、理にかなっている」

 

 彼は無銘の槍を両手で力いっぱいに握り締め、視線をそこへと落とす。

 

「だとしても……だとしてもッ! 彼のことは、俺が止めねばならないと、そう思ってしまう……! いや、俺がそうしたいんだ!」

 

 紡ぐ言の葉に熱が篭もる。アイフェは思わずそれに耳を傾けてしまう。

 

「力不足なのは承知。これが俺の我儘だというのも重々承知ッ! だが、これはそういう話ではない。理屈ではないんだ」

 

 フェルディアの心象風景に浮かぶ、クー・フーリンの戦いぶり。

 

 ある時は、お互い見知らぬ仲だというのに、いや、だからこそ打ち合い、彼は荒削りながらも頭角を現しつつあった。

 ある時は、師たるスカサハのもたらした過酷な試練に立ち向かう仲間として、その肩を並べて槍を振るった。

 ある時は、連戦に連戦を重ねた一騎打ちにて、勝負を決める正しく決戦という最高の舞台で、死力を尽くし合った。

 

 そのどれもに当てはまるのは、クー・フーリンが常に壁を打ち破り続けたという事実。

 相手の素性がわからなくとも、どんなに熾烈を極める教えだとしても、ひとつ間違えれば敗北に繋がる極限の打ち合いでも。

 クー・フーリンは決して臆せず、逃げず、正面から堂々と打ち破ったのだ。

 

「……ああ、そうさ。理屈もあったもんじゃない。俺がやらなければならない、そう思う理由は単純なんだ」

 

 だからこそ、力量が劣るからという理由だけで、戦いから退くわけにはいかない。

 それを選択してしまったのなら、フェルディアという一人の戦士は死ぬだろう。

 

 何故なら────

 

「────胸を張って、あいつの好敵手で在りたいだけ。……ただ、これだけなんだ」

 

 ────クー・フーリンと肩を並べられなくなるから。

 

 クー・フーリン本人が聞いたのなら、そんなわけない、と声高々に反論するだろうが、生憎とフェルディアはそのように捉えていた。

 

「……だから、どうか俺にもう一度機会を与えてほしい……! フェルグス殿に立ち向かう機会を……!」

 

「──────」

 

 目を瞑り、アイフェは思う。

 

 自らの領土を荒らされたのだから、それに報復するのは支配者として当たり前のことで、それに待てというフェルディアの訴えは考慮に値せず。

 何より、この戦いは自身の愛する男のためのもの。頼まれ、預けられ、請け負ったのだから完遂せねばならない。

 合理的であって何が悪い、効率的であって何が拙い。詰まらない意地をここに持ち込むな。これはお前の戦いではなく、彼の戦いなんだと。

 

 故に、フェルディアの言葉に揺らいではならない────そのはずだというのに。

 

「…………ふん」

 

 アイフェは杖で空気を裂くように振るう。すると、周囲に伏していた戦士達の手足が等しく凍り付く。

 

「一度だけだ。またも無様を晒したなら、もはや聞く耳持たんぞ」

 

「…………! 感謝しますッ!!」

 

 フェルディアは欣喜雀躍するように槍を握り締め、フェルグスの元へと駆けて行った。

 

「…………全く、水面に映る自分を見ている気分にさせられる」

 

 己に呆れるように息を吐いたアイフェ。彼女がフェルディアの意志を尊重したのは、彼の在り方が自身と重なって見えたからだった。

 姉たるスカサハと肩を並べていたい。その一心でアイフェは戦闘技能を習得し、修練し、極めてみせた。

 

 フェルディアを見ていると、それを彷彿とさせるのだ。だからこそ、彼の苦悩が手に取るようにわかってしまった。

 

「与える義理などないが……そうさな、先達からの餞別とでもしておこうか」

 

 与えたのはきっかけに過ぎないが、と付け加えたアイフェは、フェルグスとフェルディアが対峙しているのを一瞥すると、意識を彼方のクー・フーリンへと向けるのだった。

 

 アイフェの許諾を得たフェルディアは、決意を新たにフェルグスへと立ち向かう。

 

「誇りを踏み躙らせないなどと宣っていた割には、手も足も出なかった。それには忸怩たる思いだ」

 

 だが、とフェルディアは槍を構え、穂先でフェルグスを捉える。

 フェルグスの顔には微々たる感情すら浮上しないが、一方のフェルディアは確固たる信念によって構成された、戦士の在り方をも超えた英雄の顔をしていた。

 

「あの言葉を訂正するつもりはない。もう撃たせはしないッ、ここで止めるッ!」

 

 岩石が散乱する地を蹴って跳躍し、フェルグスの頭上から放つ一閃。

 フェルグスはこれを難なく弾き、身を回転させつつ頭上の彼に容赦なく螺旋剣を振り上げる。

 

 回避不能の空中に身を投げたフェルディアの選択は、言うまでもなく愚策に見えただろう。増して、フェルグス程の経験を培った戦士ならば、そのような明確な隙を逃すはずもない。

 

 フェルディアの十八番は、飽くまでも動作の機微から行動を読み取り、超反応でもって対応してみせる力だ。

 非常に強力且つ絶大な能力なのは間違いないが、反応したとて対応できなければ意味が無い。

 だからこそ、フェルディアのこの行動は悪手の極み。行動制限を自身に課すという自害に等しい選択────だった。

 

「──────ッ!!?」

 

 フェルディアを確実に捉えていたはずの剣閃は、しかし空を斬った。逆に、彼はフェルグスの脇腹を槍で薙ぎ、巌のような体躯を吹き飛ばす。

 開戦して初めて、フェルグスに明確な打撃が入る。

 

「…………何だ、今のは…………」

 

 着地したフェルディアは、先程までの視界に映っていたモノに驚愕していた。

 彼が見たモノ────自身の槍撃をフェルグスが弾き、カウンターとして彼が放った螺旋剣の一振。

 異常なのは、この一連の動作を、フェルディアは自身が槍を振るう前から視えていたことだった。

 故に最小限に身を捻ったのみで鋭利な一閃を躱すことができ、一撃を加えることもできたのだ。

 

 体勢を立て直したフェルグスは、フェルディアへと直進する。至近距離まで接近した瞬間に地を力強く蹴って彼の懐へと潜り込む。

 超反応すらをも寄せ付けぬ、尋常ならざる速度で螺旋剣で薙ぎ、フェルディアの槍を弾き飛ばす。そして、左手で彼の首を掴み取って地面に叩き付ける。

 身動きを封じられたフェルディアは、フェルグスの流れるような動きによって螺旋剣で胸部を穿たれ果てる────という情報が、フェルディアの視界に映り込む。

 

「ッ!!」

 

 それと同時に、先程の光景をなぞるかのように、フェルグスが此方に駆けてくるのをフェルディアは捉えた。

 まさか、と。フェルディアは槍を構えつつ、猛進してくるフェルグスを観察する。すると、一定の距離まで接近したところで、足腰に力が込められたのを読み取った。

 

 直後、フェルグスが加速。クー・フーリンに引け劣らない速度でもって、フェルディアの懐へと潜り込もうとする。

 やはり、と。稲妻の如きそれを、フェルディアはステップのみで回避し、槍で逆袈裟、そして蹴りを見舞う。

 

「…………随分と、不思議なことがあるものだな」

 

 目が良かった、勘が冴えていたでは済まされない。二度も容易くフェルグスを飛ばしたことで、フェルディアはそれを実感する。

 

 彼に起こった現象、それは数瞬後の未来を視るスキル────千里眼。

 千里眼とは、動体視力の向上や遠方の標的の捕捉などで効果を発揮し、ランクが高ければ未来を見通すことも可能となるものである。

 

 ……が、しかし。フェルディアのこれは通常の代物とは異なり、戦闘時にのみ発動し、相手の挙動を予見する。

 

 これがこのタイミングで発現したのは、何も偶然ではなく。

 

 スカサハと同様にアイフェも所有する魔境の智慧というスキル。これは、ほぼ全てのスキルをB~Aランクの習熟度で発揮することができる破格の効果に加え、認めた相手にスキルを授けることもできる。

 

 フェルディアのことを、映し鏡のようだと評したアイフェは、魔境の智慧によって彼に限定的な千里眼を与えた。

 与えた理由は非常に淡白なもので、そんな気分になったから。アイフェにとって取るに足らない戦士に、一時の迷いで感情移入してしまった。ただ、それだけであった。

 

「何にせよ、今度こそ貴方を止められるようで安心した」

 

 不敵に笑うフェルディアは、あえてフェルグスの猛攻を受ける構えを取った。それは自信の現れ。

 

「──────ッ!!」

 

 フェルグスが駆ける、駆ける、駆ける。

 

 振り下ろされる螺旋剣と、受け流す無銘の槍。それらは火花を放ちながら何度も交わり、激しい剣戟を繰り広げる。

 

 この戦いに幕引きがされるまでの間、フェルディアは二度と地に伏すことはなく、フェルグスと互角以上の打ち合いを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイフェがフェルディアに与えた千里眼。それは飽くまでも一時的なものに過ぎず、この戦いが終結したその時には消滅する使い捨てのようなものだった。

 そのため、その後に彼が千里眼を発動させることはなかった────ということでもなく。

 

 十八番を用い、それによって頭が切り替わり、集中力も研ぎ澄まされる。これを極めたフェルディアは、自力でその域にまで至ってみせたのだ。

 元から相性がよかったというべきか。アイフェの与えた千里眼は、フェルディアの奥底に有った資質を引き出す手がかりとなった。

 

 執念とも呼ぶべき努力により、百戦錬磨の彼は晩年までコノートの地において国士無双の戦士として在り続けた。

 フェルディアの身に付けた千里眼は、正しく彼の戦士としての一生涯の集大成であった。

 

 老いて尚、技術も肉体も衰えることはなく、生涯現役を体現していた一方で、彼に若かりし頃程の情熱はなく。

 

 何故なら、彼の無双の活躍に並ぶだけの好敵手の存在が、彼が目標とした最速の英雄が、そこにはいなかったのだから。

 

 

 

 ◆

 




◆今回の活躍まとめ
レーグ「クー・フーリンさんのため!」

メイヴ「レーグは購入特典!オトク!」

エメル「あい にーど もあ ぱわー(嫉妬)」

フェルディア「本能覚醒!()」

アイフェ「ずっと画面外で頑張ってました」

◆補足
Q.レーグ君、逞しくなってて草。
A.ケルトなんだぞぉ!(敗北魔女並感)

Q.メイヴの"名も無き戦士"はどうなった?
A.一掃されました()。

Q.エメル何もしてなくない?
A.致し方なし故。Fate/GO編で暴れさす予定なので、これくらいがいいかなと。

Q.アイフェさん、フェルディアの訴えを聞き入れるんですね。
A.一人の男が戦士生命を賭けていたので、それに揺さぶられたというのも要因の一つ。

Q.最後のって、つまり……?
A.そういうこと(諸行無常)。


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。前回の更新からかなり空いてしまって申し訳ありません。時間があまりない中でゼロから構想を練っているので、やはり遅くなってしまいます。最近改めて感じることは、毎日更新やら一日に複数回更新やらができる人はすげぇ、ってことですね……(白目)。
今回はフェルディア、レーグ、メイヴ、エメル、アイフェ達の描写を書いた三人称視点でした。書き方で何となく察している人もいると思いますが、ケルト・アルスターサイクルにおける彼らのメイン登場は、これが最後です。いやー、長かった……!プロットもキャラシも何も無いところから、ここまで持って来れたとは。ゴールはまだ先なので、終わらないんですけども。
フェルディアVSフェルグスの戦闘は、当初はフェルグスとコンホヴォル王のタッグでフェルディアと戦わせようとか考えていたのですが、フェルグスひとりの方が戦いやすいに決まってんじゃん、という結論に従ってコンホヴォル王参戦は没にしていたり。オハンの盾とか出したかったんですけどね……(無念)。
さて、次回はクー・フーリン達サイドの話の予定です。ゲイボられたモリガンは死んだのか、クー・フーリンとスカサハはどうなるのか。例の如く構想はまだ皆無なので、やはり時間がががが……!あと一、二話くらいでケルト・アルスターサイクルは終わると思うので、気長にお付き合いして頂ければ幸いです。進捗状況は活動報告にて書き殴っているので、疲れから頭がおかしくなった時にでも覗いて見て下さい。




















ワイ「今週もバビロニア見るぞぉ」

>アナ、ゴルゴーン消滅

ワイ「……思い、出した……!待って、これここからやばいやt……」

>きせかなきせかな

ワイ「(絶句)」1D100

>ほ……ほぜ……

ワイ「(絶句)」1D100

>グゥ穿ち

ワイ「アッ」

>おまえは とても つまらない
>ははははははははははははははは

ワイ「(絶句)」不定の狂気


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三相女神

基本巫山戯た頭の中してる奴の一人称視点でありながら、マジメに戦闘描写を書こうとするとクッソ書きにくくて草。
という訳で、(偽)ニキ視点の今回は戦闘描写の細かなそれはほぼありません。そういうのは次回やるから許してクレメンス(死語)。


 ◆

 

 

 

 ────やったか!? 

 

 投げボルクがモリガンの胸部を抉り穿ち、地面へと叩き落とすと、お決まりの禁句であり蘇生呪文である言葉を思わず吐いてしまった。

 

 師匠の『貫き穿つ死翔の槍』で身動きを封じ、心臓を穿ち、大ダメージで無防備且つ弱ったモリガンに追いボルク。

 オーバーキル過ぎやせんか!? と考案時にはドン引いたものだが、実際問題、やり過ぎなぐらいでないと倒せない相手でもあった。

 

 従って、上手く『突き穿つ死翔の槍』をぶち込めたのだから、やったか!? とか、取った! の一言ぐらい漏らしても仕方ないだろう。

 いやはや、『貫き穿つ死翔の槍』でも死ななかったから一時はどうなることかと思ったが、これで勝ったな! 風呂食ってく────る、て……え……? 

 

 

 

「………………さ、んッ…………!」

 

 

 

 俺の視線の先には、おびただしい量の血を流しながらも、憎悪を滾らせた目で此方を射抜くモリガンがいた。

 

 

 

「…………許さ、んッ…………!!」

 

 

 

 血と共に呪詛を吐く。弱々しく肩で息をしていたが、これまで以上の覇気を纏う姿は寧ろ強く見えた。

 

 

 

「許さんッ────!!!」

 

 

 

 声を荒らげる。余裕を湛えていた顔は激情に染まり、優雅さも気品さも皆無な殺意を剥き出しにする。修羅のような形相だった。

 

 これは……想定し得る限りの最悪を引いたようだ。即ち、俺の「死」エンチャ投げボルクでさえ絶命に至らなかったということ。

 明らかな致命傷だった。心臓を穿たれ、多量の血液を流した。だが、結果は死なず。

 

 死してから発動する、ヘラクレスの『十二の試練』のような力でもなく。

 特殊な死人返りをする、即身バレする某狼君のようなアレでもなく。

 篝火にて何度でもリスポーンする、ソウルライクなソレでもない。

 

 致命傷に等しい魔槍の投擲を受けていながら、単純にモリガンは死ななかったのだ。

 そしてそれを成したは、やはり例の『権能』によるものなのだろうか。

 

 ……マジ? 「死」と強化を施した投げボルク食らってんのに……モリガンの耐久力高すぎんだろ(悲嘆)。控えめに言って、これは……プランD、所謂ピンチですね。光が逆流待ったナシ。

 

「……存外、しぶといではないかッ」

 

 モリガンのメンチビームを受けながらも軽口を叩く師匠。流石、肝が据わっている。けれども僅かに顔を歪めたあたり、それなりにヤバいらしい。

 

 そうでしょうよ……! 俺らの代名詞たる魔槍が効かなかったんだもの! 相手に心臓がなかったから当たらなかったとか、当たりはしたけど幸運判定で即死は回避されたとか、そういうんじゃねえもんな……! 

 

「しぶとい? ハッ、人道を踏み外した貴様がそれを言うか! これは痛快無比」

 

「……何だと」

 

 不意に師匠の目が僅かに見開いた。今のやり取りのみで何かを掴んだらしい……俺はさっぱしですがね。

 

「しかし、我を畏れていたのならば、微かな憐憫の情を下賜してやろうと思案していたが────貴様らには『不必要』だったな」

 

 冷笑を浮かべたモリガンは、己の胸部に手を当て、血で汚れるのに構うことなく穿たれた傷をなぞった。

 

「犬畜生なぞ、強きに淘汰されるが道理。敵わぬ相手に牙を突き立てたとて意味をなさない。どうやら、一度死なねばわからんようだな」

 

 

 

 ────直後、モリガンから迸る神威が放たれた。

 

 

 

 何の光!? と口にしたくなるそれに視界がジャックされ、同時に風が吹き荒れる。

 瞬きの間に光が失せ、目を開く。すると、あの一瞬の間にモリガンが変化していた。

 

「それが本質かッ……!」

 

 灰一色だった長髪に真紅と黄金が浮き上がるように入り交じり、背からは黒い大翼が三対ずつ計六枚が広がる。

 新たに握られた二条の槍は穂先から緋色にグラデーションが入っており、血塗れた武器を彷彿とさせる。

 

 そして何より、その肉体に穿ったはずの跡が掻き消えていた。

 

「これに成るに至らせたは貴様らが初めてだ。そして、これが貴様らの終わりだ」

 

 モリガンの瞳孔が俺を射抜く────途端、背筋に氷を流し込まれたような、濃密な死を予感する。

 

「誇るがいい、我を相手に貴様らはよく戦った。矮小故の足掻きは健気で浅はかで────実に無意味であったぞ」

 

「ッ!」

 

 突然、師匠に思い切り蹴り飛ばされ、直後、俺がいた場所に氷柱が形成される。

 骨が折れたと錯覚するレベルの蹴りだったが、蹴飛ばされなければ『極刑王』さながら串刺しにされるところだった。

 

 安堵するのも束の間、続けて氷柱が俺を追従するように地から突き出す、突き出す、突き出す。

 俺はモリガンに背を向けないよう、ステップとジャンプを駆使して躱す、躱す、躱す。

 

 回避の傍ら、俺は驚く。モリガンは何らアクションを起こすことなく魔術を行使していたのだ。

 ルーンを綴るでもなく、陣を介してでもない。シングルアクション以前に、予備動作の一切が見て取れなかった。

 厳密には何かタネがあるのだろうが、本来必要なはずの行程はバッサリとキング・〇リムゾンされていた。それこそ、そう在れと創造された『権能』のように。

 

 回避し続けていると、不意に鋭利な殺意を肌で感じ取る。それに従って身を動かすと、氷柱に混じって鎌鼬の如き風刃が飛来した。微かに視認できる薄緑色の風刃が、俺の首を掻き切らんと迫ってきたのだ。

 咄嗟に魔槍で風刃を薙ぐと、これのみで薄緑のそれは砕け散った。だが類似した殺意を幾重も感知できることから、氷柱と同様に風刃も際限なく俺を狙っているようだった。

 

 足元から突き出す氷柱を、即座に横に飛び退くことで躱す。と同時に首や胴体目掛けて飛来した風刃を、魔槍で斬り裂いて対処する。以下ループ。

 これが緩急をつけて、休む間もなく襲い来るのだから、より神経を尖らせて回避しなければならない。

 

 一方の師匠には火炎と雷撃の嵐を見舞っているようで、某ゲームの"獄炎の破壊神"の『サン・〇レア』のような火球であったり、これまた某忍者フロムゲーの『〇の雷』のような落雷であったりをぶち込みまくっていた。

『イン〇ジブル』も『雷〇し』もないが、それでも師匠は魔槍でミニ太陽を切り裂き、ルーンと立ち回りで雷を巧みに避けてみせる。

 

 涼しい顔でそれらをこなす師匠だが、だとしても、それによって防戦を余儀なくされているのもまた事実であった。

 

「ハッ! どうした、先刻の威勢は!」

 

 ちィ、さっきまでは槍術か魔力レーザー主体で戦ってたクセに、一変して魔術の連打かよッ! 

 ボス連戦はわかるが、相手は全快していながらに高火力遠距離攻撃をブッパする固定砲台と化すなんてクソゲー過ぎてやってられんだろッ! 

 二度とやらんわー、とか言ってコントローラー放り投げたくなるが、残念なことにこれは現実。セーブもロードも出来ないクソゲーときた! 悲しいね、バナージ(無関係)。

 

 内心で憤慨して暴れ狂う俺を他所に、魔術による猛攻は苛烈さを増していく。

 

 魔術の応酬となると回避に行動を割かなければならない分、体力と精神力の消耗が激しい。いくら再生のルーンで傷を治したとしても、スタミナまでは戻らない。

 相手の魔力が尽きるまで、というリミットがあるならまだ頑張れただろうが、神代の頃の魔術といえば、根源から直接魔力を得て行使するものとかだったはず。強い魔術を低コストで打ち放題ってこと即ち、リミットはないに等しい。

 

「小賢しい真似を……!」

 

 師匠は魔槍に力を込め、振り抜いて斬撃を飛ばす。それによって火球と落雷の一切合切を消し飛ばすと、縮地でモリガンへと接近する。

 接近する刹那に複製した魔槍を幾本も展開し、モリガンへ撃ち出す。そうして形成された緋色の群れに紛れるように、師匠も突き進む。

 

 降り注ぐ魔槍を払うと師匠の接近を許してしまい、だからといって魔槍を対処せねば致命傷を負うのが必至という搦め手。

 

 これを防げるのはケルトと言えど極一握りの強者しかいない。が、しかし相手はモリガン。一握りに属する、師匠と対等に打ち合えるだけの槍術の使い手だ。

 

「ほぅ、"今"の我に槍で挑むか」

 

 俺への魔術の猛攻を片手間で継続したまま、モリガンは徐に右手の槍を構え、振り抜いた────瞬間、師匠の射出した魔槍の悉くが無に帰した。

 

 ────ッ、マジかよッ……! 

 

 一瞬の出来事に目を見開く。師匠の攻撃は簡単にどうこうできるソレではない。数百年という年月を経て研ぎ澄まされた熟練の攻めのはずだ。

 だのに、歯牙にもかけず、ほんの一振で消し去るだなんて……有り得ない……! 先程までモリガンは師匠と互角の打ち合いを繰り広げる力量だったというのに……! 

 

 ……なら、今のアイツは何なんだ? 

 

「────愚の骨頂よなッ!」

 

 モリガンが吼え、師匠が打ち込む。そうして熾烈な攻防が繰り広げられる。

 師匠は魔槍を神速の如く振るい、時に二条目を巧みに駆使して臨機応変に攻め立てる。

 一方のモリガンは二条ある両手の槍を高い技量で操り、的確に師匠の連撃を捌く。

 

 交わる緋色は閃光として捉えられ、戦闘の激しさを物語っていた。

 正しく一進一退だが、僅かに、確実に、先程までの戦闘とは決定的に違っていた。

 何故なら、有り得ないことに師匠が遇われていたのだから。

 

「これ程とはッ……」

 

「力を使わずして互角だったのだ、当然であろう?」

 

 師匠とガチの打ち合いをしていながらに、余裕を崩さないモリガンが、そこにはいた。

 一瞬の気の弛緩で命を失う。そのような激戦に身を置いているのに、口元には弧が描かれ言葉を紡ぐ暇すらあった。

 

「貴様が殺してきた神なぞ、種が妖精へと成った者らに過ぎん。生粋の神性、権能を司る上位者とは圧倒的に異なる。木っ端の者らと同列と捉えるべきではなかったな」

 

 大気を薙ぐ風切り音、そして一際甲高い金属音が響く。

 

「────ッ」

 

 それは、師匠の魔槍が弾かれ宙を舞う音だった。

 

「────ふむ、やはり視えんな」

 

 呟いたモリガンは槍で師匠を穿とうとする。その寸前で師匠は身を捻り、回避と同時にモリガンを蹴って距離を置く。

 

「全く、厄介極まりないな……貴様は」

 

 飛ばされた魔槍を手元に手繰り寄せ、臨戦態勢を崩さない師匠。不意に、魔術を避け続ける俺の方を向く。

 

「これ、いつまで遊びに興じているつもりだ」

 

 ……うん? 遊んでないんすけど……え、魔術の雨あられを回避するのは遊び程度なん? はー、そういや師匠はスカサハでしたもんね。そりゃそうか(調教済)。

 

 師匠の指示に従って、俺の所有するルーンを展開する。そうすれば、俺を襲っていた氷や風が結界に触れた傍から掻き消えていく。

 

 始めからコレをしなかったのは、単純に奥の手だからだった。審判骸骨のように、最初から必殺技もとい奥の手を出すのは破天荒だ。

 能ある鷹は爪を隠すとは良く言ったもので、確かに殺し合いでは最後までクレバーな奴が生き残るモンだしな。

 

 ……それよか師匠。今のモリガンは何なんだ? 容姿も然る事乍ら、いきなり属性魔術を嵐の如く繰り出したのに加え、師匠を圧倒するだけの近接戦闘能力。はっきり言って……ありゃあ異常だぜ? 

 

「……今の彼奴は、モリガンであってモリガンでない」

 

 ……つまり、モリガンという人物に何かが付け足された、或いは溶け合ってひとつになった的なことで? 

 

「当たらずとも遠からず、だな」

 

 俺に向けて僅かに微笑んだ師匠は、嘲笑を湛えて静観するモリガンに視線を戻す。

 モリガンが手を出す動作が見られない。師匠が自身を特定するのを邪魔するつもりはないようだ。

 

「知っておるように、モリガンとは魔術と予見で勝利を司る女神だ。数え切れん程の戦士達の望み────勝利を叶え、時に彼の太陽神すらをも傅かせた」

 

 エッ、太陽神とか神話の中でもトップクラスに偉い神様じゃん! そんな奴もモリガンに縋ってたのかよ……。

 

「……だが、この地において彼奴だけが名を馳せる女神という訳ではない。モリガンを含む三姉妹の神────怒りと狂気を支配する"ヴァハ"、恐怖を与え死を予言する"ネヴァン"。これらもまた、ケルトの戦士ならば知らぬ者はおらん戦女神だ」

 

 いや知らんけど。(俺の知識に)常識は通用しねぇ……。俺は純正ケルトじゃないから多少はね? 

 

「モリガン、ヴァハ、ネヴァン。こやつらは異なる性質を持つ神だが、今の彼奴からはその全てを感じられる」

 

 師匠は一度言葉を区切り、目を細めてモリガンを睨む。腹の中を見透すようなそれだった。

 

「三相一体という概念がある。神が有する特性、性質のようなものだ。それは、一体にして三相、三相にして一体。一体の神の一面が別個体として存在し、その一面もまた一体の神に過ぎない。それこそが三相一体。それこそが彼奴の正体」

 

 ここまで言葉を連ねたところで、弾かれたようにモリガンから哄笑が漏れ出した。

 

「は、はははッ……! そうだ、その通りだとも! 我こそが三柱の女神であり、彼の女神達こそが我ッ!」

 

 背の黒翼を仰々しくはためかせ、笑う、呵う、嗤う。

 

「せめてもの手向けだ、冥府に我が名を知らしめるがよい。三相一体の女神たる我が名は────バイヴ・カハ」

 

 バイヴ・カハ……! 絶妙に知らない……! 

 

 アイツのプロフィールはわからないが、とりあえず今のモリガンはバイヴ・カハとかいう神で、バイヴ・カハは三人の女神を一人にしたような存在だと。

 ………………それって、単純計算で神三体分のスペックってこと? インチキ効果もいい加減にしろッ! 

 

 そんな憤慨が顔に滲んでいたのか、バイヴ・カハは嘲笑を湛えて俺を見やった。

 

「本質の看破、見事────だが、どうするというのだ。見抜けたとて、貴様らに勝ちの目があると?」

 

 ぐぅ……痛いところを突いてくる。師匠をも超える力を持ち、俺達の魔槍の投擲ですら殺し切れない。それが事実なのだから。

 

 Fate/的に言えば、相手の素性が判明すれば、そこから逸話なりを紐解いて、弱点やら弱みやらを握れる。情報アドが段違いだ。爆アド上ブレヤッホー! である(DMP)。

 だが、バイヴ・カハ曰く「これに成るに至らせたは貴様らが初めてだ」とのこと。前例がない即ち、情報がない。

 

 詰んでやがるぞ……これ。仮に弱点があっても、知る術がない。

 打開するだけの戦力もなく、かといって撤退する訳にもいかない。

 

「……一度の魔槍で死に至らんのなら、十、二十と穿ってやろう。さすれば、貴様を殺せるやもしれんな」

 

「言うことに欠いて妄言とは。スカサハ、貴様の眼で我の死が視て取れたか? わかっておろう、我はそういう存在なのだ」

 

 そういう存在……つまり、殺せない、と? 仮にそうならチートにも程がある。

 どこまでバイヴ・カハの言葉を信じていいかわからないが、ああいう手合いは己の全能感を宣うモンだ。

 そして、状況を把握すると同時に歯噛みする。心の底から込み上げる絶望感、焦燥感。

 

 いくらクー・フーリンという破格のスペックがあっても、いくらスカサハという豪傑が味方だとしても、バイヴ・カハを打倒できないのでは意味がない。

 

 ……どうする……! どうすればいいッ……! 

 

 ここで俺が命を差し出せば、万が一、億が一に皆が助かるかもしれない……いや、それは希望的観測か。

 歯向かった時点で、アイツにとっては皆等しく誅罰を降す対象だと口にしていた。であれば、俺一人が死のうと関係はない。

 それに、ここで俺が死んでは師匠、師範、フェルディア、レーグ、エメル、メイヴ────皆の想いを無下にしてしまう。それだけはいただけない。

 

「さあ、怯えろ、竦め。我が威光に伏して死を待つ時だ」

 

 轟々と燃ゆる殺意を含ませ、バイヴ・カハは俺へ悠然と歩み寄ってくる。

 そこへ割って入るは師匠。俺を背に隠すように、魔槍をバイヴ・カハに向ける。

 

「この私を無視するとはなッ!」

 

 呼応して『王の財宝』さながらに魔槍を展開し、射出、射出、射出。緋色の豪雨。されど、

 

「────失せよ」

 

 たったの一振りで、またも魔槍の悉くを滅するバイヴ・カハ。

 しかし臆することなく師匠は突貫し、バイヴ・カハが槍を振るった動作の終わりに合わせて魔槍を刺し込む。

 

「力の差など既に理解しておろうに。そうまでしてクー・フーリンを護りたいか」

 

 魔槍の刺突を二条目の槍で叩き落とし、そうして繰り広げられる激しい槍撃の嵐。金属音と火花が絶え間なく。

 

「健気だがな、今の貴様にそれを成す力は無かろう。影の国の支配者と謳われていようが、我にとっては所詮、数百、数千と生きただけの小娘に過ぎんわ」

 

 不意に師匠の頭上に火球が出現し、それが爆発すると無数の炎の矢となって降り注いだ。ホーミングのついたそれが、四方八方から師匠を襲う。

 そしてバイヴ・カハが師匠に攻め寄ったことで、師匠の回避行動を封じる。

 

 ……あぁ、くそっ! 師匠が俺のために奮戦してくれてんのに、俺がッ、スカサハの弟子たるクー・フーリンがッ! 動かなくてどうするってんだッ! 

 

 俺は体勢を低くして地を蹴り、跳ぶ。そして師匠の頭上から迫る炎の矢を、魔槍の横薙ぎで一掃する。

 俺が行動を起こすと知っていた、いや、信じていたのか、師匠は迫る魔術に対応はしなかった。

 

 勝てないのは重々承知ッ! だが、だからといって無抵抗のまま殺られる道理はなく、ここで諦める理由もないッ! 

 

 折れかけていた戦意を滾らせると共に、決意と魔槍を握り直した。

 

「よもや貴様もか……。全く、揃いも揃って往生際の悪いことこの上ない……!」

 

 不愉快だと言わんばかりに顔を歪めたバイヴ・カハ。

 

 ────生憎、往生際の悪さだけは人一倍あると自負してるんで……なッ! 

 

 刹那でバイヴ・カハに接近し、背後から魔槍で横薙ぐ。

 ケルトの歴戦の猛者でさえ、知覚を許さず切り伏せる神速の一撃だが、バイヴ・カハは目をやることもなく槍を宛てがってみせた。

 

 これぐらいは予測の範疇……! 俺の攻撃が防がれることなんぞどうだっていい。俺なんかに対応したことで、一条の槍を師匠に振るえなくさせたんだからなッ! 

 

「シッ!」

 

 バイヴ・カハが俺に槍を割り振った瞬間、それを合図としたかのように、師匠が魔槍による連撃を熾烈にする。

 魔槍での刺突、弾かれるやいなや二条目の魔槍を顕現させ、高速回転させて薙ぎの連続、叩き潰すような振り下ろし。

 多彩な攻撃が本気師匠から編み出され続ける様は、正しくスカサハこそがケルト最強の戦士なのだと思わされる。

 

「はァッ!」

 

「────ッ」

 

 そこへ更に、幾条もの魔槍を展開しては射出。先の炎の矢の返しのように、バイヴ・カハの四方八方から狙ったものだった。

 バイヴ・カハはすぐさま魔槍を打ち払おうとする────が、俺が黙って見ている訳はない。

 

 魔槍を引き戻し、持てる速度の最高を込めて刺突の連撃を繰り出す。師匠のそれには劣るが、だとしても防がねばならない攻撃なのは変わりない。

 だが、バイヴ・カハは強引にもこれを脱する。背に広がる六枚の黒翼をはためかせ、瞬間的に飛翔すると、予見で軌道を視たのか、魔槍の間を縫うように飛んだ。

 

「勝てぬと理解って尚、我の邪魔立てをするとは────愚劣の極みよな」

 

 宙で二条の槍を乱舞するかのように振るい、大気を引き裂く。バイヴ・カハの持つ槍の、血濡れのような赤がいくつも空間に刻まれると同時に、それが飛ぶ斬撃となって俺達を襲う。

 

 師匠はソレを魔槍で薙ぎ払っていくが、俺は赤い斬撃から身近な気配を感じ取り、受けるのではなく回避の選択をする。

 不規則に迫る赤い線を熟練のヤーナムステップで躱す、躱す、躱す。

 

「…………ッ!」

 

 回避行動をとっていると、不意に血相を変えた師匠が俺へと向かってくる。珍しくも、そこには焦りの色が色濃く滲んでいた。

 

 ────師匠ッ、どうかし……ッ!!? 

 

 俺が声を発した、その瞬間。眼前にバイヴ・カハが転移の如き速度で降り立ち、槍を振るった。

 完璧な不意打ち。頭の中が真っ白になったが、反射的に腕が動き、魔槍でバイヴ・カハの槍撃を弾くことに成功した。

 

 しかし、バイヴ・カハの細い腕から繰り出された槍はあまりに重く。

 

 俺の体幹はたった一撃で崩壊。そして、ずぷり、という奇妙な音……が……

 

 ────っ……ぁ、ぇ……ァあ……? 

 

 ……全身から、力が抜け、て……? なん、で、目の前に……バイヴ・カハ……が……いるの、に……。

 

 

 

「いくら往生際が悪かろうと、心臓を穿たれては死ぬ他あるまい」

 

 

 

「あ、あぁッ、ああ……!」

 

 

 

 ……心、臓を……? そん、な、俺は……。

 

 

 

「クー・フーリンッ……!!!」

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.バイヴ・カハって?
A.ああ!(ガン無視)

Q.バイヴ・カハ強過ぎィ!
A.本作きってのチートです(ニッコリ)。コンセプトは「スカサハを圧倒するくらいに強く」です。こんなんチートやチーターや!となるのも仕方がない理不尽さ、それ即ちバイヴ・カハなり。ラスボスだもん、弱かったらダメでしょ。

Q.やめて!バイヴ・カハの特殊能力で、(偽)ニキを焼き払われたら、テメェが病ませたヒロインズの精神まで燃え尽きちゃう!お願い、死んで逃げんな(偽)ニキ!あんたが今ここで倒れたら、スカサハやエメルの正気はどうなっちゃうの? ライフ(虫の息)はまだ残ってる。これを耐えれば、バイヴ・カハに勝てるんだから!
A.次回、「クー・フーリン死す」。フェイト/グランドオーダー!

Q.これ勝てんの?
A.犠牲なくして勝利なし。子細は話せんが……待て、しかして希望せよ。そういうことだ(彼氏面)。

Q.スカサハの千里眼とモリガンの予見の違いは?
A.大した変わりはありません。両者とも戦闘時に発動するものということなので、"相手の挙動を読む"という認識です。ただ、スカサハやアイフェは魔境の智慧で獲得しているものなので、その時々で未来視や過去視など微妙に効果が違ってたり。
物語序盤で師匠&師範は(偽)ニキの最期という未来を視ましたが、それは飽くまでも確定した未来ではなく、可能性のひとつ。誰かの行動次第で変えられる運命、とでも言えるそれでした。一方、戦闘時のそれは、コード〇アスに登場するビス〇ルクの"極近未来を読む〇アス"のようなものとして捉えていただければ……。

◆思考停止の没ネタダイジェスト
・トリック
スカサハ(仲間由〇恵)「モリガン!貴様の正体など、全てまるっとお見通しだ!」

・ライダー 1
全てを知ったスカサハ「どうした、(バイヴ・カハに)変身しないのか?( ^ U ^ )」

・ライダー 2
(偽)「そんなッ、師匠でも勝てないだなんて……!」
バイヴ・カハ「その顔が見たかった……私に絶望するその顔があああ……!」


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。投稿期間がまたも空きまくりで、本当に申し訳ない(初手人工無能)。忙しさの片手間や休憩時間、就寝前とかに書いてるんで、進みがNOKです(白目)。
今回はモリガンが本性を現す回でした。モリガンについて調べていたところ、バイヴ・カハという名前が目に留まり、嬉嬉として盛り込んだ結果となります。今回は(偽)ニキ視点だったため、バイヴ・カハの詳細を記述することはできませんでしたが、次回は三人称視点で書く予定なので、そこでバイヴ・カハのネタばらしを行いたいと思います。
とりあえず、次回でケルト・アルスターサイクルは完結する見込みです。本当にそうなるかどうかは未定ですが、そのつもりで書きます。ので、時間がかかりますが……いつも通りですね(白目)。では、また次回!

















デトロイト面白い……面白くない?(今更)ハンクがヒロインって馬鹿野郎(アウトレイジ)とか思ってたけど……んだよ、結構マジじゃねえか……(断腸)。


ほんへの「28ヶ所の刺し傷だぞ!」で米粒を噴き出しつつ「あ、これかぁ!(ミーム汚染)」ってなったのは余談。

追記
「愚の骨頂」を「具の骨頂」と書き間違える奴がいるらしい(赤面)。指摘されて漸く気が付いて恥ずかしかったので疾走します(リノセウス)。


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贋作の英雄:三人称視点

頑張って詰め込んたので初投稿です。

※長かったんで分割しました。次回で終わらせます(白目)。


 ◆

 

 

 

「いくら往生際が悪かろうと、心臓を穿たれては死ぬ他あるまい」

 

「……ッぁ、はっ……」

 

 バイヴ・カハの槍はクー・フーリンの左胸部を貫き、確実にその心臓を穿っていた。

 膝を落とし、弱々しく息を吐くクー・フーリン。その姿を満足気に見下ろすバイヴ・カハは、彼の心臓から槍を引き抜こうとはせず。

 

「クー・フーリンッ……!!!」

 

 悲痛な叫びをあげたスカサハは目を見開き、心做しかその手足を震わせていた。

 彼女に似合わぬ狼狽えぶりに、バイヴ・カハは気を良くする。

 

「はは、そのように愉快な声で鳴くとは。影の国の女王の名が泣こう」

 

 本来のバイヴ・カハ────モリガンであれば、どれほど同情を誘う姿であろうと、自らに逆らった敵は容赦なく屠り去る。

 だが、スカサハという死ぬことの出来ない相手であれば、単純に殺し切れないという理由もあるが、それ以上に、殺さずに苦しめる方がよいとする。

 

「結末なぞ知っていただろうに。それとも、足掻けば変わると盲信していたか?」

 

「………………ッ」

 

 バイヴ・カハの言葉に、言い当てられたスカサハは返せない。

 

 数年前────クー・フーリンと出会う前であれば、たった一人の戦士の生き死になど気にも留めず、こやつも私を殺せないか、と落胆するのみだった。

 その頃のスカサハであったなら、モリガンと事を構えるとなれば正確に力の差を理解した上で、戦闘欲求から矛を交えはしても、負けも引き際も承知していた。

 

 しかし、クー・フーリンと出会ったことで失った人心を新たに得た、得てしまった。久しく忘れていた感情に浸り、それを心地よく感じてしまったのだ。

 それは良くも悪くも、スカサハという武人を鈍らせた。一人の男のために無謀を選択するほどに。

 

「これが数千を生きた女王とは……失笑を禁じ得んな」

 

 そして、自身に変化をもたらした男が、最愛の男が、眼前で致命傷を負わされた。

 己の油断が、力不足が、恋心が、それを招いた。防げたはずの未来を、悪手によって曲げられなかった。

 

「………………」

 

 その事実は、彼女の心に薄暗いものを残すには十分過ぎた。

 

 そんな様子を一瞥したバイヴ・カハは、興味を失ったように、視線をクー・フーリンへと向ける。

 

「ぁ、……が……ッ……!」

 

「ほう、まだ息があるとは」

 

 心臓を穿たれ、地に膝を落として尚、クー・フーリンはまだ死なない。

 それもそのはず。クー・フーリンは、こと継続戦闘能力に関しては異常とも言うべき素養を持っている。

 生命力の高さ、往生際の悪さとも呼べるそれは、彼を構成する最大の要因なのだから。

 

 それ故に、喀血しつつも歯を食いしばり、己に突き刺さった槍に手をかけ、それを引き抜こうとしていた。

 クー・フーリンの心臓を貫いた槍は彼の背中まで貫通しており、おびただしい血を滴らせていた。それが刻一刻と彼の命を削り取り、力も体温も奪っていく。

 

「これを引き抜きたいか?」

 

「……ッ! ……ッ、!」

 

 嗤うバイヴ・カハは、クー・フーリンに突き刺さる槍を更に押し込み、傷口を拡げるように動かしてみせる。

 彼女の動作と共に、クー・フーリンは声にならない声を上げ、痛みに悶える。楽器さながらのそれに、バイヴ・カハの愉悦は濃くなっていく。

 

「だが、やめておけ。これを引き抜けば、貴様が死ぬのが早まる。それでは面白くないだろう?」

 

「テ、メェ……!」

 

「もっとも、貴様の死は再生などでは退けられぬ程のものになっているがな」

 

 くつくつと嗤うバイヴ・カハ。それもそのはず。クー・フーリンを穿った槍は、そのような性質を持っているのだから。

 

 何の変哲もない槍で突き穿たれたのなら、例え心臓を抉られていようと再生のルーンで戻すことができただろう。

 だが、バイヴ・カハの持つ槍は尋常ならざるそれ────傷付けた相手の魂を削り取る性質を帯びているのだ。

 如何に致命傷を避けようと、僅かな切り傷は着実に生命を蝕み、それを幾度も受ければ死に絶える。傷を癒したとて意味はない、何故ならその者の中身が失われているのだから。

 

 ゲイ・ボルクが相手の最大HP&槍のダメージならば、バイヴ・カハの持つ槍は魂への干渉&槍のダメージ。

 魂への干渉、即ち神の領域。バイヴ・カハの槍は、蘇生不可の呪いを付与する魔槍と呼んでも差し支えない。

 

 バイヴ・カハの一面である、恐怖と死の象徴たる女神ネヴァン。その権能は『魂への干渉』。己の言動全てにそのような性質を持たせる破格の力。

 これがバイヴ・カハの槍に帯びており、それがクー・フーリンの心臓を確実に貫いた。故に彼の魂は一片とて残らず失われるのが確定している。

 

「どうだ、これより死に行く気分は?」

 

「……絶対ェ……殺、す……ッ!」

 

 だというのに、未だ抗うだけの意思と体力があるのは、純然たる気力によるものである。

 

「殺す? はは、そのような有様で吠えるではないか! 実に滑稽だな、クー・フーリン」

 

 バイヴ・カハは続ける。

 

「そうさな、その愚かな反骨心に免じ、冥府への土産を持たせてやろう」

 

「スカサハは見破っていたようだが、貴様らでは我を殺すに至れん。絶対に、だ」

 

「我────モリガンの権能たる『勝利』はケルトの者らの願望そのもの。栄光の勝利だろうと、屈辱の敗北だろうと、全ては我の裁量次第。故に、ケルトの戦士は我に勝利を切望し、渇望するのだ」

 

「────我を打倒することは、数多の戦士の願望の破壊に他ならない。それをケルトの人間が成せるとでも思ったか?」

 

 バイヴ・カハの一面である、勝利の女神モリガンの権能『勝利』。それは如何なるプロセスであろうとも終着点を勝利に定めてしまう運命への干渉。

 勝利の女神に相応しき力だが、それは勝利を望む戦士が存在して初めて権威となる。つまり、モリガンの『勝利』とはケルトの戦士達によって補強された力であるのだ。

 

 勝利とは敗北しないこと。言葉遊びのようにも聞こえるが、負けていなければ、後は勝つのみ。それが事実である。

 試合に負けて勝負に勝った、という言い回しもあるが、少なくともケルトにおいて敗北とはそれのみに過ぎない。

 そして敗北の末に待つものとは、死。戦いに敗れたのだから、戦死するのは当然のこと。よって、敗北とは死と同義となる。

 

 命が絶えなければ敗北はなく、敗北がなければ勝利を掴み取れる。それこそがケルトの信仰する勝利であり────モリガンの『勝利』である。

 それを補強するはケルトの願望。転じて"ケルトの属性を有する者には覆されない"という一種の不死性をもたらす。

 

 そのため、如何に魔槍による破壊的な投擲をしたとしても、モリガン────バイヴ・カハを仕留めるに至らないのだ。

 

 知らなければ破れない死なず。しかしその種を明かすという情報のディスアドバンテージ。

 自らの弱点を曝け出すに等しい愚行であるのだが、知ったからといって破れるものでもない故の、余裕。

 

「しかし、貴様の一撃は効いた。アレは中々だったぞ? 『死』の概念、だったか」

 

 余裕を湛えたまま、バイヴ・カハは己の胸部をなぞる。『突き穿つ死翔の槍』を受けた、左胸を。

 クー・フーリンの『突き穿つ死翔の槍』は確かに彼女の心臓を穿った。そしてそれは、スカサハの全力による『貫き穿つ死翔の槍』で漸く叶った、バイヴ・カハの流血を容易く招いた。

『死』の概念は、人と神との隔絶した差を、僅かではあったが、確かに埋めたのだ。

 

「犬には過ぎたる牙であるが、精々が妖精を狩るが限度の、神殺しには程遠いそれだったな」

 

「…………っ」

 

「何だ、神を殺せるとでも思ったか? 甘く見られたものだな。未来を見通せる者がいながらにこの始末とは……いやはや、呆れを越して憐れみを抱くぞ」

 

 クー・フーリンの『死』の概念。それは人の手に余るモノではあったが、人の枠を凌駕した存在にとってみれば、何ら特殊な力ではなかった。

 だとしても、やりようによってはモリガンも『死』を危険視せざるを得なかった。その事実がバイヴ・カハに憐憫を抱かせる。

 

「"今"の貴様では到底叶わんソレだが、あと数年……いや、数十年と勝利を積み重ね、より研磨し成熟させた力であったなら、それは正しく『牙』に成りえただろう」

 

 言外に、クー・フーリンの全盛期は今ではないと語るバイヴ・カハ。

 それは正しかった。クー・フーリンの贋作たる男は知りえないが、本来の神話にて活躍する彼よりも、僅かではあるものの、贋作者は年若かった。

 心身の成長も、英雄の器も、扱う技術も。全てが発展途上。なまじ早熟だったのが仇となり、本来のクー・フーリンよりも様々な部分が熟れていなかったのだ。

 

 そのように半端なところへ、『死』などというものが付加されたのだから、その極みだっただろう。

 

 概念繋がりで"山の翁"を見てみれば理解できるように、彼は信仰心と自らの理念の下に生涯を捧げ、その果てに『死』と成った。

 そう。本来、それほどにしなければ概念に成りえないのだ。故に、クー・フーリンの『死』はイレギュラー。影の国などという人外魔境に毒され過ぎた結果である。

 

 つまり、早熟で未熟なクー・フーリンには過ぎたる代物であり、扱いこなせるだけの力でもなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……んだよ、全ッ然、じゃねえ、か)

 

 現実を今際の際に叩き付けられたクー・フーリン。心中にあるのは、己の不甲斐なさと、敵わなかったことへの悔恨。

 

 自分は死ぬ。間違いなく。だが不思議と死への恐怖はなかった。記憶になくとも、既に一度死んだことがあるからだろうか。

 いや、そうではない。自分が死ぬことよりも、その後に残される者達の方が心配なのだ。

 自分勝手な選択によってモリガンに狙われ、それに巻き込んでしまった。きっと、皆もバイヴ・カハに命を狙われる。自分の次は皆────師匠と師範はそうはいかないだろう────が鏖殺されてしまう。

 

(……それは、駄目だッ……!)

 

 許容してはならない。最速の英雄というスペックを得ていながらに、何もかも取り零してしまうなど、許せるはずがない。

 

(何かないの、か……! この力の差を、覆せる、だけの……!)

 

 そう都合よく、即座に力を得るなど不可能。そうと理解っていながらに、そう思わざるを得なかった。

 それこそ、神にも縋る思いで────と、ここまで思考したところで、クー・フーリンの頭に何かが引っかかる。

 

 以前、突然に力が増した経験がなかったか。確かそれは、俺が『獣』に呑まれた後のことだった。

 それはどのようにして訪れたのだったか。あの時、俺は意図せずして────

 

(────あぁ、そうか。その手が、あったか)

 

 その手段に思い至った彼は、文字通り、全てを代償とする。

 もうじき、死ぬのだ。ならば全てを賭けたところで何の問題もない。

 

 それがバイヴ・カハに届かなかったとしたら、どうしようか────などという思考は無駄。届くかどうかではなく、届かせる。何がなんでも、絶対に。そのような不退の覚悟を抱くクー・フーリン。

 

(これは、ケジメだ。俺の戦いは、俺自身で、終わらせるッ……!)

 

 己の手の届く範囲でいい、絶対に皆を護る。それを為すだけの力はある。何故なら彼は、贋作であっても紛うことなき『クー・フーリン』なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははッ、遂には言葉を紡ぐことすら出来んくなったか」

 

 弄ぶように、クー・フーリンに突き刺さった槍を動かすバイヴ・カハ。

 クー・フーリンの気力も残り僅かとなったことを察し、より一層の歓喜が押し寄せていた。

 

「────ぉ、れは……」

 

「ほう、遺言か?」

 

 絞り出すように、掠れた声を発するクー・フーリン。それを見下ろすバイヴ・カハは、愉悦に浸りつつ、それを許した。

 

 

 

 ────それが、彼女の命取りになるとも知らずに。

 

 

 

「全て、を、代償に……力を……」

 

「────ッ!!」

 

 途端、バイヴ・カハは目の色を変え、槍を引き抜こうとする。だが、もう遅い。

 

「皆をッ、護るために……俺の全てを……」

 

 直後、クー・フーリンの身体から『黒ずんだ緋色』が溢れ出した。

 この緋色は『死』。極低確率で即死を付与するそれだったが、しかし、以前までの微弱な『死』とは圧倒的に異なっていた。

 

「なんッ────!?」

 

 濃密な『死』は、バイヴ・カハすら後退りさせる。緋色が槍を伝ってくるのを目にした彼女は、すぐさま槍から手を放し、ステップを踏んで距離を置く。

 

 バイヴ・カハの視線の先には、力なく膝を落としていたはずのクー・フーリンが、揺らめくように大地に立っている姿。

 既に瞳に生気はなく、今も尚、肉体からは血が流れ続けている。

 死に体で何をする、と笑い飛ばしたいところだが、その弱々しい姿に気圧されているバイヴ・カハがいた。

 

 クー・フーリンから迸る『死』。その力を示すように、胸部を貫いていた槍は緋色に包まれ、数秒と経たずに錆びていき、砂埃が舞うように消え去る。

 

「貴様ッ……!!」

 

 余裕を消したバイヴ・カハ。そこには初めて焦りの色を映し出し、一条となった槍を油断なく構える。

 

「……ただじゃあ、死なねえさ」

 

 溢れ出る緋色を魔槍に纏わせ、矛先をバイヴ・カハに向ける。

 

 クー・フーリンがしたこと、それはゲッシュを利用した強化だった。ゲッシュとは"禁忌"を意味する言葉であり、己に課す呪いである。

 自らの意思や選択に制限を設け、それを遵守する限りは神からの祝福────力を得る、ケルト独特のモノ。

 

 厳しい誓約であればあるほど、得る対価は大きい。それがゲッシュである。

 

 クー・フーリンは、バイヴ・カハの発言からゲッシュの存在を想起した。これであれば簡捷に力を得ることが叶う、と。

 一方、立てる誓いは重ければ重いほど良い。そうでなければバイヴ・カハを打倒できない。では、何を賭ければいいのか。

 

 そうして────己の命を代償とした。

 

 ここで力尽きてしまうのなら、逆に命を捧げることで、生涯を経て得るはずだった力を前借りする。

 これにより得た、一生に一度きりの祝福。それは微弱な『死』を、神をも殺す『牙』に昇華させた。

 

「テメェも……一緒だ……!」

 

「巫山戯るなッ! 神の祝福でッ、神に歯向かうというのかッ……!! そのような阿呆なこと有り得ん! 有り得てよいはずがない……!」

 

「……俺に残された、時間も……あんまねえんだ。だからよ、テメェの嘆きは……冥府で聞くとするぜ」

 

 僅かに前のめりになったクー・フーリン、その姿が突如としてブレる。

 

「なん────ッ、ぐッ……!?」

 

 それをバイヴ・カハが認識し、彼の姿を感知するよりも素早く、クー・フーリンは彼女に斬り掛かる。

 バイヴ・カハは半ば反射的に飛び退いたことで、魔槍の薙ぎの直撃を免れる。が、魔槍に帯びる緋色に左腕が触れた途端、彼女の左腕は腐り落ちるように消失した。

 

 生命を構成する血や肉、細胞や神秘など一切合切が死滅したのだ。

 

「────不敬なッ!!」

 

 片腕を失いつつ声を荒らげ、回避の勢いのまま飛翔したバイヴ・カハ。

 空中で魔術を行使して火炎、風刃、雷撃、氷杭を嵐のように放ち、更には大地を隆起・陥没させる天変地異を引き起こし、また、毒、麻痺、眠り、魅力などを煮詰めて濃縮したような呪いをも重ねて放つ。

 

 これだけの魔術を同時且つ瞬間的に放つことが可能なのは、バイヴ・カハの一面である、怒りと狂気の象徴たる女神ヴァハの『魔術』の権能によるものであった。

 モリガンが槍と魔術を操るのに対し、ヴァハは魔術のみを扱う。それは即ち、魔術を行使することこそが最も強いからだ。

 わざわざ槍でエネミーに襲いかからずとも、ヴァハの『魔術』を使えば、対価も工程も何もかもを必要とせず、魔術の結果のみを引き出すことが可能なのだから。

 

 極端な話、『魔術』で即死をもたらす魔術を練れば、それだけで有象無象には事足りる。

 

 そのような『魔術』を持ち合わせるバイヴ・カハは、己の好きなように魔術を練り上げることができる。故に、魔術で天変地異を作り上げるなぞ造作もない。

 

 だが、如何に神の如き力を持っていようと、今のクー・フーリンには至らず。

 

「──────」

 

 緋色に触れた途端に消滅する天変地異、数多の呪い。彼という存在が、この世とは異なる次元にいるかのようだった。

 しかし、クー・フーリンの限界が近いのか、彼の肉体が徐々に崩壊を始める。身に余る『死』が、ゆっくりとクー・フーリンを焼いていた。

 

 それを視認したバイヴ・カハは、長期戦に持ち込めばクー・フーリンは自滅する、と把握。が、予見が"それは叶わない"という未来を視せる。

 

「何だッ、貴様は何なのだッ……!!」

 

「────死だ」

 

 クー・フーリンは腰を落とし、クラウチングスタートさながらの姿勢をとる。そして、弓につがえられた矢の如く駆け、翔ける。

 大きく振り上げられた右手に、逆手持ちにした魔槍を強く握り締めると、魔槍へ緋色が収束していき、形成される絶殺の一条。

 

「手向けに受け取れ────」

 

『突き穿つ死翔の槍』と同じフォーム。それは心臓に当てることよりも、一撃の破壊力に特化させた必殺の槍。

 そこへ『死』を濃密に纏わせることで、一撃の破壊力と同時に、死なずすら殺す呪いを獲得する。

 

 錆び付いて軋むように腕が力み、己すら焚べた『死』を放つ。それは『抉り穿つ鏖殺の槍』を投擲するが如く。

 

「ケルトの願望を砕くというのかッ……!?」

 

「喰らえッ────」

 

 

 

 ────『成り穿つ死憑の槍(ゲイ・ボルク)

 

 

 

 クー・フーリンの手から放たれた魔槍は音速を遥かに超え、緋色の軌跡となった。

 その線上にいたバイヴ・カハは、全身全霊をもって多重の障壁を築き上げ、正面から受け止める。

 

 クー・フーリンの投擲とバイヴ・カハの障壁が衝突────瞬間、大気を震わす爆音が鳴り響く。

 そして、バイヴ・カハは冷や汗を垂らしつつも、嗤った。一瞬でも力を緩めれば破られるだろうが、この程度なら守り切れると感じ取ったのだ。

 

 原作の『突き穿つ死翔の槍』のように、結局のところ、『成り穿つ死憑の槍』とて懐に入れなければ鋭いだけの一撃に過ぎない。

 いくら『死』によって魔術の悉くが雲散霧消するとはいえ、ならば消えた端から創造し、補えばいい。

 

 クー・フーリンを侮っていたのなら、確かに彼女の予見の通りの結末を辿っていたことだろう。

 しかし、そのような結末を予め見てしまったがために、バイヴ・カハは侮りと余裕、そして矜恃をかなぐり捨てた。

 

 その結果として、この瞬間においてバイヴ・カハは神の名に恥じぬ力を発揮させた。神をも殺す『牙』を、真正面から受け止められるほどに。

 

 

 

 尤も、それは楽観に過ぎず。

 

 

 

 命を賭けた一撃が防がれる可能性など、クー・フーリンは端から想定済み。故に、命尽きるその瞬間が訪れる前に、次の一手を打っていた。

 

「────全呪、開放……!」

 

 紡がれる詠唱、展開される異形の鎧────『噛み砕く死牙の獣』。

 

 神話上のクー・フーリンは獲得することのない宝具。アイフェとの開発談義が盛り上がった末に魔改造されたそれ。

 本来の『噛み砕く死牙の獣』と異なり、露出していた腹部はクリードの獣骨に覆われ、肩部にコインヘンの触手が複数本備えられた"黒い鳥"のシルエット。

 

 投擲後の落下中に鎧を展開したクー・フーリンは、即座にルーン文字を空中に固定、それを足場にしてバイヴ・カハへと突貫する。

 

 そうして魔槍とゼロ距離となり、『噛み砕く死牙の獣』に『死』を流し込むことで漲る力の奔流を増幅させ、左拳で魔槍を殴り付ける。

 

「────はァッ!!」

 

「なッ…………」

 

 硝子が割れるように、バイヴ・カハの多重障壁が一度に砕け散った。

 死獣の力によって筋力が著しく向上しているため、力技で押し込んだのだ。それはさながら『壊劫の天輪』のよう。

 

 そして魔槍は、遂にバイヴ・カハを捉えた。

 

「────ッぁ…………っ!」

 

 吸い込まれるように魔槍が胸部を深々と穿ち、存在しない死────『死』が、瞬間的に彼女を蝕む。

 そして、死獣の力によって魔槍が四方へ無数の分裂を繰り返し、バイヴ・カハの内側から破壊の限りを尽くす。

 

「……寝覚めは必要ねえ、先に……逝ってろ」

 

 

 

 もはや言葉を紡ぐ暇すら与えず。『死』に飲まれたバイヴ・カハは、この世から塵ひとつ残さず死滅した。

 

 

 

「結末は……知ってただろ、足掻けば変わるとでも……ってな」

 

 それはバイヴ・カハがスカサハに投げた言葉。絞り出すように鸚鵡返ししたのを最後に、クー・フーリンは天を仰ぎながら背中から倒れた。

 

 

 

 その後、彼の意識が覚醒することは────二度となかった。

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.『成り穿つ死憑の槍』って?
A. じいじの冠位返上アタック然り、ゲッシュを駆使した死を付与する攻撃。またの名を『流星一条(槍ver.)』です。言うまでもなくオリ宝具ですので……(オリ宝具という禁忌に抵触したことによるSAN値減少)。

Q.バイヴ・カハ割とあっさりやったね。
A.あっさり系にされた!?(テニミュ) ま、仕方ないね。映像としては、(偽)ニキの流星一条で即時決着、という感じなので、スピーディさを出すために短くせざるを得なんだ。

Q.ゲッシュってそんな便利なものなん?
A.(便利では)ないです。自身に課した誓約がキツければキツいほど強くなれる、所謂『厨武器縛りプレイ』みたいなモンです。ただし、ファン武器に手を出した途端にセーブデータが破壊されます(詐欺罪と器物損壊罪)。今回の(偽)ニキのケースは、某漫画の〇ンさんです()。

Q.ゲッシュってそんな簡単に誓えるの?
A.いえす。資料を漁っていたところ、ゲッシュは、戦う前の前口上のようなやつでも誓いを立てられるみたいです。要は「お前に勝てなかったら〇〇〇を二度とやらない」的なやつでもOKらしい。なのでゲッシュは割とガバいです(ニッコリ)。

Q.次回について。
A.今回でケルト・アルスターサイクルを終わらせるつもりだったんですけど、想像以上に文字数がパンパンですよパンパン!(水素水並感)になったので、素直に分割しました。ハイ(白目)。


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。月イチ更新が当たり前になりつつあるのを白い目で眺めている今日この頃。更新速度がアレなのは目を瞑って頂けると嬉しいです。
さて、前回の後書きにて、今回を最終回にすると宣言していましたが……あれは嘘だ(手を離し)。いや、本当に申し訳ないです。今回をマジで最終回にするつもりで書いていたのですが、文字数がどんどんと増えていき、気が付けば執筆途中なのに一万四,〇〇〇字に到達するという事態に。なので素直に分割しました。
今回の内容は割とツッコミどころ満載だと思われます。が、この終わり方は割と最初期から考えていたものなので、これを辞めるとなると大幅な作り直しがががが(ブルスク)。とりあえず、(偽)ニキが流星一条ったということを分かれば九割理解したも同然です←。

次回は(偽)ニキの死を受けた皆の心情やら後日譚やらを書き殴って終了の予定です。そこからFate/GO編に突入です(ワーイ)。ということで次回更新はかなり早めにできそうです。今しばらくお待ちをば。

































ダーク♂尺余り


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神話の終着:三人称視点

更新遅れて申し訳ナス!ちょっとセリエナとオリュンポスとミッドガルに出張してました()。


※追記
Fate/GO編開始時期などの告知は、活動報告にて記載していく予定です。ので、「こいつ失踪したんとちゃうんけ?」と思った兄貴姉貴達がいましたら、活動報告を覗いて見てネ!


 

 

 

 虹を描く剣閃を最小限の動作のみで躱しきり、続く攻撃を槍撃で阻害し、封殺する。

 

 気の遠く成る程にその攻防を反復するフェルグスとフェルディア。

 常人であれば集中力の悉くが摩耗し、消失しかねない激戦且つ長期戦だったが、しかし彼らは戦い続けていた。

 

「──────ッ!」

 

「はァッ────!」

 

 篤実で豪快な戦士は、自らを支配する神の人形として、役目を全うするために。

 堅牢で精密な戦士は、自らの意志と、誰よりも信頼する好敵手のために。

 

 

 

 永遠に続くと思われた戦闘、終止符は唐突に打たれた。

 

 

 

 振り上げた螺旋剣を、フェルグスが眼前の敵に向けて叩き込もうとした、その時。

 

「────……うん? フェルディア、か?」

 

「っ、フェルグス殿……正気に戻られましたか……!」

 

「……俺は、正気を失っていたのか? ……何があったんだ」

 

 糸目ながら確かに理性の光が戻った。それを視認したフェルディアは、心からの安堵の笑みを浮かべた。

 であれば、とフェルディアは周囲の戦士達にも視線を向ける。彼の目には、先程まで禍々しい殺意を湛えていた戦士達が、立ち止まって「ここはどこだ」と困惑している様が映る。

 

 ────終わった、勝った……勝った! クー・フーリンがやったのだ! あの、勝利の女神に! 

 

 自らの好敵手が成し遂げたと理解したフェルディア。それと同様に、レーグ、エメル、メイヴらにも笑みが浮かんでいた。

 そのことを確認するように、フェルディアはアイフェに振り向いた。

 

「アイフェ殿ッ! 彼の女神はクー・フーリンと師匠に倒され────…………っ?」

 

「──────」

 

 ただ、その渦中においてさえ、アイフェは歓喜や安堵の感情を表に出すことはなく。

 

「あぁ……あ、ッ……」

 

「……どうかしましたか、アイフェ殿?」

 

 フェルディアの呼び掛けに応じることなく、アイフェは遠方────クー・フーリンがいる方向から視線を外さず、静かに涙を流し続けていた。

 

「……やはり……やはり、そうなるのか……」

 

 千里眼によって現在進行形で視てしまった────クー・フーリンの死。

 

 愛おしい男を喪った。自身の空虚な胸の内を埋めてくれた、たった一人の想い人が。手の届かぬところで。

 体裁も羞恥も一擲し、感情のままに慟哭したくなるアイフェ。彼女は、思う。

 

 クー・フーリンに任された役割を放ってでも、彼の支援に回るべきだった。

 スカサハではなく自身が、或いは姉妹揃って彼の側にいれば、変化をもたらすことが叶ったかもしれない。

 何なら、一言「助けてくれ」と零してくれたなら、彼を脅かす全てを塵芥にするべく奔走したというのに。

 

 アイフェにとって、クー・フーリンとはそれをするだけの価値がある存在だった。

 

 アイフェの人生、それはいくら努力し、結果を出そうが、付いて回る"スカサハの妹"という肩書きにより、歪に湾曲した。憧れの姉に追いつきたいだけだったというのに、肩書きのせいで誰もが本当の自身を見てくれない。優秀な姉と比較ばかりされ、誰からも認められず、褒められない。

 積もり積もった黒い感情が数十、数百、数千という時を経て肥大化し、アイフェはスカサハを恨む復讐者となった。

 憎き姉を超えるために研鑽を積み、影の国のもう一人の支配者として、槍術と魔術の神髄を修めた傑物として、スカサハと肩を並べる孤高の王者として、その力を誇示して見せた。

 

 だが、そうして辿り着いた頂きは、あまりに殺風景で空虚だった。故に、アイフェは己の理解者はこの世に一人────スカサハしか有り得ないと確信する。しかし、その理解者は自身が最も慕い、そして嫌う相手。当然、褒め言葉など微塵も与えてはくれない。

 

 アイフェは孤独だった。それを埋めたのがクー・フーリンという存在。彼はアイフェを色眼鏡で見ることはなく、いい意味で畏怖を抱かなかった。その距離感が、彼女にとって非常に心地がよかった。

 そしてクー・フーリンは、アイフェを褒めた。認めた。世辞の類でもなく、出任せでもない、中身のある言葉を彼女に贈ったのだ。

 

 その瞬間、アイフェは救いを得た。

 

 これが何処の馬の骨とも知れぬ相手であったなら、心は不動だった。しかし、クー・フーリンは"あの"スカサハが認めた戦士であり、事実、アイフェもまた認める程の英雄だった。

 そして、僅かな時とはいえ、一緒にいて幸福を感じる相手であり、自分色に染め上げることに悦びを感じられる相手であった。即ち、クー・フーリンを好いたのだ。

 

 意中の相手からの言葉は、どれだけの救いとなったか。

 

 だからこそ、アイフェはクー・フーリンのためならば身を砕くことも厭わない。これまでの数千年を肯定してくれる救いを与えてくれたのだから、今度は此方が救う番だ。

 そのような思いで、アイフェはこの戦いに身を投じた。彼に「頼んだ」という言葉をかけられたからこそ、全うしてみせようと。そして、結末なぞ捻じ曲げてやると。

 

 未来を視たとはいえ、それは飽くまでも可能性のひとつ。如何様にでも変化を遂げる結果に過ぎない────そう、高を括っていた。

 

 未来とは千変万化する、幾つも枝分かれするモノ。確かに未来は行動ひとつで流体のように変わるだろう。

 

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 未来と運命は似て非なる。未来が変えられるモノだとするならば、運命は"変えられないモノの結末"。

 如何な手段を用いようと、結局は吸い込まれるように収束する。それはさながらブラックホールのよう。

 

 大木のような運命、それを人為的に捻じ曲げるには、彼女はあまりに非力であったのだ。

 

「あ、あ……! クー・フーリン……!」

 

 救ってもらったというのに、結局、死なせてしまった。防ぐために己がやれたことは多くあっただろうに、それをすることなく。その事実がアイフェに重くのしかかる。

 

「アイフェ殿……!?」

 

 転移のルーンを用い、アイフェはフェルディアの眼前から姿を消した。せめて最後に、クー・フーリンの姿を自身の脳裏に焼き付けるために。

 

「………………まさか」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「………………クー・フーリン、我が愛弟子」

 

 地に伏し、目を閉じたクー・フーリン。その傍らに寄り添うように、スカサハは膝をつく。

 

「お主も、他の弟子らと同様に、私より先に死を遂げてしまうのだな」

 

 冷酷無慈悲なはずの彼女が、愛玩動物を撫でるように、クー・フーリンの頬へと触れる。

 

 ────既に、冷たい。

 

 彼から感じ取れる熱も、心臓の鼓動も、心身を凍てつかせる猛烈な『死』も、何もかもが消え失せていた。

 あるとすれば、先程までの『死』、その残り火がクー・フーリンの身体を着実に蝕んでいることぐらいだった。

 

「……っ」

 

 そして、スカサハの心からもまた、様々なモノが抜け落ちるように色を失っていく。

 

 人としての理を外れ、死を奪われ、悠久の時を影の国で過ごし────人心を失ったスカサハ。

 何のために強くなり、何のために死を求めたのか。それすら忘却してしまう程に摩耗した彼女だったが、クー・フーリンと出会うことで、新たな心を得た。

 生娘のように恋に胸を躍らせ、振り向いてもらえぬことで嫉妬心と独占欲を募らせ、久しく忘れていた安堵と緊張というモノを幾度となく感じた。

 

 クー・フーリンと出会ったことで、スカサハの心は確かに色彩を獲得したのだ。

 

「……散々、ヒトの心に踏み入ったというに、一方的に、届かぬところへ行きおって」

 

 その色彩が、彼の死によって褪せていく。

 

「──────」

 

 ふと、何かが頬を伝う感覚。スカサハは手でそれに触れる。涙だった。

 

「そう、か。これは、涙か」

 

 その瞬間、スカサハは理解する。私は、自分が思っていた以上に"女"であったのだな、と。

 

 自覚と同時に溢れる思い、想い。

 

 もっと、槍を交えたかった。

 もっと、稽古をつけてやりたかった。

 もっと、微笑みを向けて欲しかった。

 もっと、彼に触れたかった。

 もっと、彼に触れて欲しかった。

 もっと、たわいない会話を楽しみたかった。

 

 無垢な乙女のような"もっと"が、止めどなく溢れ出る。

 それと並行して、影の国の女王としての冷静な部分が、己の選択の過ちを責め立てる。

 

 クー・フーリンの運命を視ていたのなら、それを本当に回避したいと思っていたのなら、手段を選ぶべきではなかった。

 どんなに彼に恨まれようと、憎まれようと、彼の身を案じて他を切り捨てるべきだった。

 彼に集る女狐を一掃し、或いはクー・フーリン自身を手元に置き、破滅の要因となり得る関係を全て断つべきだった。

 

 これが単なる師弟関係のみの間柄であったなら、過保護だとスカサハ自身が気付き、己を諌めただろう。

 だが生憎と、クー・フーリンとスカサハの関係は、師弟の域を超えていた。それが例え一方的なものだったとしても、スカサハにとっては特別なモノだった。

 

「どうしてくれるのだ……この、伽藍堂の胸の内を」

 

 自身を殺すに足る素養を持ち、新たな人心を与えてくれた。そんな彼が自身の隣に相応しい、否、彼でなければ駄目なのだ。

 そして、クー・フーリンの隣に居るのは、初めての師匠であり、背を預けられる相棒であり、これだけ彼を想う女である、スカサハ以外に考えられない。

 スカサハは、本気でそう考えてきた。彼が死して尚、その在り方に変化はない。その根底にあったのは────願い。

 

 彼女はただ、影の国での永久の生活を彼と共に歩みたいだけだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 アイフェの様子から焦りを感じたフェルディアは、皆を引き連れてクー・フーリンの元へと移動した。

 ややあってスカサハとアイフェと合流したところで、フェルディアは声を漏らした。

 

 彼が目にしたのは────自らの好敵手が力なく地に仰臥している姿だった。

 

 ただ寝ているだけだと、そう言ってさえくれれば、タチの悪い冗談だと受け止めることができただろう。

 だが、クー・フーリンの両隣で涙を流すスカサハとアイフェの存在が、最悪の結末を迎えたのを示す、確固たる証拠だった。

 

「クー・フーリン……は……」

 

「……我が愛弟子は、運命に、身を委ねた……」

 

「そんな……嘘、だろう……」

 

 己の足元が崩落するような錯覚を覚えるフェルディア。それは無理もなかった。

 フェルディアにとって、クー・フーリンに勝利することこそが人生最大の目標であったのだから。

 

 幼少から武の才覚を見せたフェルディアは、後にコノートにおいて最も強くなるであろうと嘱望されてきた。

 それに応えるように、彼もまた過重な鍛錬を積み重ね、努力の果てに若いながらに強者と成った。

 

 だが、その時点で己に並ぶ強者、即ち好敵手足り得る戦士はおらず。故にそれを心の底から求めていた。

 そうして影の国で出会ったクー・フーリンは、正しくフェルディアが待ち望んだ好敵手足り得た。

 

 影の国で切磋琢磨する間柄。しかし、フェルディアは痛感する。クー・フーリンの素養は、間違いなく自身よりも格上であることを。

 それに劣等感を抱くこともあった。心底羨んだこともあった。だのにそれらに溺れることがなかったのは、クー・フーリンの意志によるものだった。

 

 その時点で、フェルディアの高みの認識が、打倒クー・フーリンになる。

 

 己よりも戦士としての天賦の才を遺憾無く発揮し、山の如く不動且つ流水の如く槍を振るう自身の戦闘スタイルとは真逆の、烈火の如き鮮烈さと落雷の如き速度で蹂躙するクー・フーリン。

 そんな彼の好敵手と胸を張って名乗れるよう、強く、強く、強く────! 

 

 高い目標があるからこそ、過酷な鍛錬も乗り越えられる。事実、それによってフェルディアは幾度も壁を乗り越え、成長してきた。全ては、クー・フーリンを超えるために。

 

 けれど、クー・フーリンが死んだ。その事実は、フェルディアの戦士としての目標が失われたのと同義だったのだ。

 

「何故……何故、お前がここでッ……!」

 

 戦士のシンボルである槍を放り、友の骸に歩み寄る。声が震え、迷子の幼子が両親を探し求めるように。

 クー・フーリンの顔を覗き込めば、フェルディアのような良い眼で見なくともわかるように、血色が失われ、生気を感じ取ることはできなかった。

 

 友の死を実際に己が目で確認してしまったことで、その死が現実のものであると理解する。

 

「お前にッ、負けたままで、これからを生きろと……いうのか……!」

 

 手を握り締め、歯を食いしばり、立ち竦む。魂からの嘆きは、フェルディアの後を追ってきた者達にも届いた。

 

「フェルディアさん、どうかしたん────で、………………えっ?」

 

 白と黒の戦馬を連れたレーグは、自身の友であり、相棒であり、憧憬を抱く人物であるクー・フーリンが倒れているのを目にし、困惑する。

 

「ちょっと何よ? この暗い雰囲……気……」

 

 凱旋気分で着いてきたメイヴだったが、周囲のリアクションから不穏な気配を感じ取り、そしてクー・フーリンの姿を捉える。

 

「…………………………クー……?」

 

 遅れて到着したエメルは、自らの五感でクー・フーリンを堪能しようとするが、あまりの彼の希薄さに違和感を覚え、そして彼の骸を混沌とした眼に映す。

 

 そして三者三様に、彼の死によって心に暗闇がもたらされる。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「…………そんなっ、こと……ない、ですよね……」

 

 震える足で一歩、また一歩と歩み寄るレーグ。クー・フーリンの青白い顔と胸部に空いた穴が目に入るやいなや、足取りがおぼつかなくなり、追従して来ていたマッハに寄りかかる。

 

「だって、クー・フーリンさん……は、海獣と戦った時も、コノートに独りで立ち向かった時も……っ、どんなに苦戦を強いられても、勝って……きたじゃ、ないですか」

 

 レーグの心に浮かび上がるは、いつの日かのクー・フーリンの激闘、神話さながらの一頁。

 

 クリードとコインヘンの討伐。それは人の身で挑むのは無謀でしかなく、そもそも災害と同義な獣共をどうこうしようというのが間違いなのだ。

 そのはずだと、レーグは思っていた。その固定観念が、たった一人の戦士によって覆されるまでは。

 海を割る剛腕、虚無より現る無数の触手、身を引き裂かん暴風、赤雷の如き熱線────どれひとつ取っても常人を殺して余り有るというのに、それらは嵐のように振るわれた。

 だが、時に舞踏のような脚さばきで、時に魔術を駆使した力業で、時に生命力の強さに物を言わせた意地で、嵐の中でクー・フーリンは生き延び、そして勝利を掴んでみせた。

 

 その光景を見納めたレーグは、彼に心の底から憧れた。苛烈なまでの槍術に、静謐なまでの魔術に、折れることの無い精神に。

 

 後に起きたコノートとの戦争。アルスターの戦士達は呪いに苦しめられ、結果、出撃できる者は皆無。戦力差は絶望的だった。

 そのような中で、クー・フーリンは単独で戦場に立ち、コノートの軍勢を押しとどめ続けた。しかし蓋を開けてみれば、クー・フーリンは誰一人としてコノートの戦士を殺しておらず。

 不殺に疑問を抱いたレーグは彼に問おうとしたが、逆に英雄の負の側面を知った。殺さぬことがどれほどの艱難辛苦の道なのかを悟った。そして、クー・フーリンの胸の内を受け止め、理解した。

 レーグはクー・フーリンの唯一の理解者だった。故に『死牙の獣』を止めることが叶い、その経験がレーグを成長させた。

 

 クー・フーリンの活躍の側には、必ずレーグがいた。友として、相棒として。

 如何に無謀な挑戦であっても、絶望的な数の差であっても、決してクー・フーリンは諦めることはなく、どれ程の苦戦を強いられようとも、生きて勝利を手中に収めてきた。

 そのことは、レーグが一番よく理解していたし、今後もそうであると信じていた。

 

 だからこそ、クー・フーリンの死が信じられなかった。

 

「クー・フーリン、さん……目をっ、開けでぐだざいよ……」

 

 レーグは、彼の死が現実のものであると理解してしまった途端に、涙、涙、涙。

 

 自身に夢と希望という名の道標を齎し、どれだけ無様を晒しても決して見捨てることはなく、常に鼓舞し続けてくれた生涯の恩人が死んでしまったのだ。

 

 スカサハやアイフェとはまた異なる、レーグの心に開けられた大穴。そこから、クー・フーリンから与えられた温かみが流出していくかのようだった。

 

「ぅぁ……っ、ぁああ、……ぁ」

 

 溢れ出した涙は止めどなく。顔を歪ませて嗚咽を漏らすレーグ。

 

 

 

 彼は、『光』を失った。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 予想外の衝撃に、メイヴは思わず座り込んでしまった。

 

「──────」

 

 言葉が紡げなくなる程に思考が漂白され、目の前の事実を認識することを頭が拒否しようと足掻いていた。

 

「………………どうして」

 

 ややあって、魂が抜けるようにして出た呟き。高飛車な彼女からは想像できぬ弱々しい声だった。

 

 メイヴにとって、クー・フーリンは今まで出会ったことのないタイプの男だった。

 

 蝶よ花よと愛でられて育ってきたメイヴは、万事が望むままに実現する星の元に生まれてきたと考えていた。

 その固定観念を破壊したのがクー・フーリンという存在。篭絡を試みても表情ひとつ動かせず、思うようにならないだけでなく、むしろ此方の心に居座って、乱す。

 

 ────メイヴは『恋』を知った。

 

 歪ながらも『愛』のみしか知らなかった彼女にとって、初めての『恋』という経験はあまりに甘美。

 ブレーキをそもそも備えていない暴走機関車の完成である。そしてクー・フーリンを己のものとすべく、彼女は猛進した。

 

 アルスターが彼を渡さない────よろしい、ならば戦争だ。

 彼がコノートの軍勢を鏖殺した────圧倒的な強さに改めて酔いしれた。

 戦女神が彼を殺そうとする────そんな事させない、させてたまるものか。

 彼に付き纏う別の女がいる────関係ない、彼を自身の虜にしてしまえばいい。

 作戦の役割で彼と離れてしまう────心苦しいが、彼のために我慢しよう。

 

 この戦いが終わったその時には、もう二度とクー・フーリンから離れてやるものか。

 

 溢れんばかりの想いに従い、メイヴは全力で彼のために尽くした。女王という身分を忘れて自らが戦場に立ち、戦車を走らせ、魔術を綴った。

 

 

 

 その努力の末に得た結果が────クー・フーリンの死だった。

 

 

 

 嘘だ嘘だと心で言い聞かせるメイヴ。だが現実に変わりはなく。

 

「…………ッ、そうよ、ルーンはッ!? ルーンで傷なんて癒せるし、死の淵から呼び戻すことだってできるでしょ……!」

 

「……無理だ」

 

「ッ、何でよ……!」

 

「傷などいくらでも癒せよう、穿たれた心臓など何度でも復元できよう……だが、我が愛弟子は彼の女神に魂を砕かれ、ゲッシュにて命を捧げた。……いくら治せようとも、中身が戻らぬのだ」

 

 詰みだった。およそ万能に近い原初のルーンを用いても、クー・フーリンを冥府から呼び戻せない。それがスカサハから紡がれたからこそ、重みがあった。

 

「そんな…………」

 

 そうして、メイヴは泣き崩れた。彼の骸を見つめながら、何時までも涙を流した。

 

 

 

 女王メイヴの初恋は、愛しき相手との死別により、成就することは叶わなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 彼女────エメルの宵闇より黒ずんだ瞳に映るは、クー・フーリンの遺体。

 その瞬間、エメルは首を締め上げられたかのように呼吸困難に陥った。

 

「……はっ、………………はっ!」

 

 動悸は激しく、脂汗が浮き上がる。視界が陽炎のように揺らめき、エメルは立ちくらみを覚える。

 

 愛しい相手が逝った。それは彼女の精神に影響を与えるには十分過ぎた。

 

 本来のエメルは"このようなこと"にはならないはずなのだが、光の御子の贋作者が彼女を狂わせた。

 エメルという人間を根本から狂わせる、致命的なソレ────狂愛とも言うべき過激な劣情。

 彼の「目の届くところに居ろ」という言葉に従順になり、むしろ此方が視界に収めていなければ精神が不安定になる。

 

 クー・フーリンと出会ったことで変貌を遂げたエメルは、もはや彼無しでは生きられない心身に作り変わってしまったのだ。

 だというのに、心の拠り所たるクー・フーリンが、目の届かぬ場へと召されてしまった。

 

「………………ッ、ッ」

 

 正常ならば涙と嗚咽を垂れ流すところだが、しかしエメルは毒を盛られたように苦しみ出す。

 

 また彼が、クー・フーリンが届かぬ所へと旅立ってしまう。また置き去り……嫌だ、嫌だ嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌────

 

 

 

 不意に誰かが「あ」と声を発した。自然と皆の視線がクー・フーリンの骸に束ねられ、そして"それ"に気が付く。

 胸部に風穴が穿たれ、血色も生気も失った彼の肉体に、乾燥した大地のように罅が走り始め、徐々に崩壊しつつあることに。

 

「ッ、何だ……コレは」

 

「グー……フーリン、ざん……」

 

 戦友の骸に得体の知れぬ何かが起こっていることに気が付く、フェルディアとレーグ。

 

「これは……『死』だ。それの残り火ではあるが、微弱であっても人体を焼くには余りある」

 

 二人の気付きに答えを示す、アイフェ。クー・フーリンの『死』は神すら殺す、人の身に余る力そのもの。

 そのようなモノが未だ彼の骸の中で燻っている。どれだけ弱々しくとも、『死』に変わりはない。故に、残り火がクー・フーリンを蝕む。

 

 そして────遂にクー・フーリンの亡骸は完全に崩壊を迎え、砂埃が舞うようにして跡形もなく消え去った。

『死』が付与されていた魔槍も、死獣の鎧も、衣服も装飾品も、血の一滴から毛先の一本に至るまで、微塵も残らずに消滅する。

 

「あ……あ……!」

 

「クー・フーリン……!」

 

 彼に寄り添うようにしていたスカサハとアイフェは、僅かでもその残滓に触れようと思わず手を伸ばしたが、あえなく虚空を掴んだ。

 

 クー・フーリンが消え行く光景を、この場に集った者達が皆等しく心に焼き付けた。

 フェルグスをはじめとした、モリガンによって傀儡に落とされていた戦士達は、ここへ合流する道すがらで事の経緯を聞かされたため、彼らもまた沈痛な面持ちだった。

 

 誰も死なせたくないという我儘を貫いた英雄は、弔われる肉体も魂も失った。

 言い様のない無情の結末に、彼の戦いに関わった者達の心は一様に、後味の悪い勝利に満たされた。

 

 

 

 ────あぁ……そういう、ことなのね……クー? 

 

 周囲が沈む一方、エメルは独り納得と安心を得ていた。

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 何時も追いかけ、探し求めたクー・フーリンの姿。しかし、いくら時間をかけようと見つかることはなく。

 故にエメルは「強くなれば彼が帰ってきてくれる」と信じた。戦士の高みを目指す彼の、その隣に立てるは同様に強き者だと思い込んだからだった。

 

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 強くなれさえすれば、必ずクー・フーリンは自身の前に姿を現すことだろう。だから、これは別れではない。

 そのためにも強さがいる。彼が認めてくれる程の強さが。今よりも、もっと、もっともっと、もっともっともっと────! 

 

 理由もなく彼が消える訳がない、これは愛を試す試練なのだ、と。そう思い込むことによって、エメルは精神を正常(?)に保とうとしたのだ。

 

「────ずっと……待ってますから」

 

 昏い、暗い、冥い、闇い笑みを浮かべ。差す光は既に失い、もはや何の明かりも受け付けず。

 

 混沌とした瞳には、もう二度と理性が灯ることはなかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

クー・フーリン

 

 クー・フーリン(アイルランド語:Cú Chulainn)は、ケルト神話の半神半人の英雄。

 父は太陽神ルー、母はコンホヴォル王の妹デヒティネ。幼名はセタンタ。

 

 ケルトにおいて不殺の信念を貫き、その果てに神と相討ちとなった英雄。およそ十八歳で生涯を閉じたとされる。短命ながらに多大なる影響を及ぼすなど、駆け抜けた人生を送った。その生涯においてクー・フーリンは四人の女性に思いを寄せられていたが、結局、その全てに応えることはなく死した。

 

▶説話

 

少年時代

 

 セタンタは、戦いによってコミュニケーションを取っていたケルトにおいて、戦うことを苦手としていた。

 そのせいで周囲から浮いた存在となるが、しかし才能は既に持ち合わせており、一度力を振るえば負けなしだったという。

 

 コンホヴォル王に連れられて訪れた鍛冶屋クランの屋敷にて、セタンタは屋敷の番犬に襲われてしまう。だが、番犬が懐いてしまい、それを発見したコンホヴォル王とクランが「これではセタンタもクランの猛犬だな」と大笑いした。これをきっかけにセタンタはクー・フーリンと呼ばれるようになる。

 

青年時代

 

 ある日のこと、ドルイドのカスバトが「今日騎士になる者は長く伝えられる英雄となるが、生涯は短いものとなるであろう」という予言をする。それ聞いたクー・フーリンはコンホヴォル王の元へと向かい、その日の内に騎士としてくれるよう頼み込んだ。

 戦いを苦手としていたクー・フーリンだったが、己の中の英雄の素質に気が付いていたため、その運命にあるとして騎士を目指すようになったのだった。

 

 クー・フーリンは、フォルガルの娘エメルに求婚するが断られ、婚姻する条件として提示された"誰より強き戦士となる"という旨を達成するべく、アルスターから出て影の国に向かい、女武芸者スカサハの下で修行を行う。ここで出会った、コノートのフェルディアとは親友となる。

 

 修行中、クー・フーリンはスカサハの妹アイフェに魔術を教わるが、弟子を取られたとしてスカサハは激怒し、スカサハとアイフェとの間で戦争が起きた。それによって影の国は戦火に包まれる。これを良しとしなかったクー・フーリンは二人の仲裁に入り、その方法として武を示した。スカサハとアイフェに勝利したクー・フーリンは、「姉妹で喧嘩することはないように」として諌めた。

 

 スカサハから与えられた最後の試練として、紅海に棲む怪物クリードとコインヘンの討伐を言い渡されたクー・フーリンは、すぐに行動に移した。アルスターに立ち寄った際にはコンホヴォル王の温情から武具と戦車、御者のレーグを与えられ、無事に怪物の討伐に成功する。

 その際、怪物に襲われていたコノートの女王メイヴを助け出し、彼女に自分のものになるよう迫られたが、これを拒否した。

 

 魔槍ゲイ・ボルクを手に入れたクー・フーリンは、影の国で数日過ごした後、コンホヴォル王の頼みからアルスターに向かい、獣狩りを行う。そこでアルスターとコノートの戦争に巻き込まれ、多くの友をコノートに殺されたことで獣のように怒り狂い、コノートの軍勢をたった一人で壊滅させた。これまで人の命を奪ったことがなかったクー・フーリンは、このことで大きな精神的ショックを受けてしまい、「人を殺めない」というゲッシュを結んだ。

 クー・フーリンはここで女神モリガンと遭遇し、彼女はクー・フーリンに寵愛を与えようとするが、彼はこれを拒絶する。

 

 クー・フーリンの活躍に恐れをなしたコノートは、彼との一騎打ちを申し出、彼はこれを「相手を殺めない」という条件付きで快諾する。そこでクー・フーリンは親友フェルディアと敵として再会を果たし、早朝から日が沈むまで打ち合った。

 そこに拒絶されたことに腹を立てた女神モリガンが現れ、クー・フーリンを殺そうとする。手段として彼のゲッシュを逆手に取り、アルスターとコノートの老若男女関わらずを操り、彼に差し向ける。死を覚悟したクー・フーリンだったが、駆け付けた女王メイヴに救われ、フェルディアらと共に影の国へと逃げ込む。

 

 クー・フーリンは女神モリガンを影の国に誘き寄せると、スカサハやアイフェらの協力を得ることで女神モリガンに対抗する。激戦の末にクー・フーリンは女神モリガンと相打ちとなる。

 

 ────────────────

 

「……概要だけなんだけど、読んでみると結構面白いんだな」

 

 ノートパソコンで見ていた某サイトのスクロールを止め、少年は呟いた。

 

 彼が読んでいたのは、アイルランドに伝わるケルト神話に登場する、クー・フーリンという英雄について書かれた記事だった。

 何故読んでいたのかというと、それは学校の課題で出された"歴史及び神話についてのレポート"を作成するためだ。

 歴史や神話には疎かった少年だが、初めに目に付いたケルト神話は読めば読むほどに引き込まれていき、気が付けば楽しんでいた。

 

 神話によれば、彼の英雄は万民のために奔走し、そして死した。正しく英雄そのものであったという。

 

 どこまでが本当なのか分からない。そもそも全てが作り話なのかもしれない。言い伝えが多くの人を介することで湾曲し、脚色されていくのは自然なことだ。

 だが、クー・フーリンは信念を曲げることのなかった、紛れもない英雄だということは、全ての記事で一貫していた。

 

 更に調べてみれば、現在においても神話の伝わるアイルランドでは彼の銅像が立てられ、「殺身成仁」や「先難後獲」などの象徴なのだそう。

 

 神話に描かれる過去の人物が、現在に至っても尚、人々から愛されている。それは凄いことだと少年の心に染み入る。

 故に、幼き彼の心象にクー・フーリンという英雄が形作られ、自分も誰かのために奔走できる人間になりたいと思うのは、必然であった。

 

「────っと、そろそろ手を付けなきゃ間に合わない」

 

 レポートを作成するべく、ケルト神話に関するネットサーフィンを中断した少年────藤丸立香は、すぐさまWordを立ち上げ、タイピングに勤しむのだった。

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.エメルやばい、やばくない?
A.やべぇよ、やべぇよ。ものすごい朝飯食ったから…(意味不明)。

Q.藤丸くんが読んでたw〇kiの内容が違くない?
A.そうだゾ。基本的に時間は事実を歪めるから仕方ないね。

Q.というか何で藤丸くん出したん?
A.次に繋げたいという思いからの出演です。そんでもってカルデア入前の藤丸くん(中高生ぐらい)がクー・フーリンを知ってることで、色々と話に組み込めるネタができるなーっとか思ってたり…(制作秘話)。

◆主要人物のその後
▶スカサハ
クー・フーリンが死んだことによって、再び人心が薄まり、彼が隣にいないのならと死を求めるようになった。しかし死ねないので、抱える闇(病み)は肥大化していき、その後、第五特異点にて召喚される。ハイライトは死んだ。

▶アイフェ
クー・フーリンの死は、己が力不足であったからという自責の念に駆られる。死した彼を呼び戻す術を編み出すべく、領地に引き篭って魔術に没頭した。その後、彼女の姿を見た者はいないという。ハイライトは死んだ。

▶メイヴ
病は気から、という言葉があるように、クー・フーリンの死によって精神を病んでしまう。男遊びもなくなり、宿すカリスマも也を潜めてしまった。その後、若くして病によって亡くなる。第五特異点で好き放題やらかす。ハイライトは微弱なれど存命のキャラ()。

▶エメル
クー・フーリンの死を受け入れることができず、以前のように強くなれさえすれば自分の元に戻ってきてくれると思い込む。それを原動力として、エメルは鍛錬に勤しみ、影の国を抜きにすればケルト最強と呼んでも差し支えない女傑へと成った。が、何時になってもクー・フーリンが現れないことで彼の死を理解してしまい、耐えきれなくなって自決した。ハイライトは元から無い。

▶フェルディア
クー・フーリンの死によって燃え尽きる。それでも鍛錬は継続し、コノートで戦士として一生涯を過ごした。そのおかげで人力千里眼を獲得するに至る。本来の神話とは異なり、老衰によって亡くなる。

▶レーグ
生涯の恩師にあたるクー・フーリンが死に、御者の王の道を半ばで諦めてしまった。だが、それでも御者としての知識と技術は重宝され、アルスターでの仕事に従事する内に御者の王の通り名を冠することに。仕事の傍らでクー・フーリンの英雄譚の語り部として彼の活躍を広め、そしてそれがアルスターサイクルの神話の原型となっていった。これもまた本来の神話とは異なり、老衰により亡くなる。

▶フェルグス
操られていたとはいえ、クー・フーリンの死に自身が関与してしまったことを悔やむ。若くして死んでしまった甥の分まで戦士として生きることを供養とし、更に自身の武を後世に継承していくことで、ケルトの繁栄を願った。その最期は、湖に棲む怪物との激戦の末に落命となった。


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。冒頭にも書いたのですが、様々な場所へと出張していたがために、投稿が遅れてしまいました。本当に申し訳ナス!
ということで、今回で無事ケルト・アルスターサイクルのストーリーが完結になります。NKT。デレデデェェェン!IGAAAAA―!しまむらゾーン。ドゥゥゥゥゥン!さて、完走した感想ですが(激寒)……当初から書きたいと思っていたものは書けたと思います。まさか去年の五月から投稿を始めて、ここまで継続することが叶うとは思ってもみませんでした。それが出来たのは皆様のご支援のおかげです。本当にありがとうございました。
さて、次回からはFate/GO編ことイ・プルーリバス・ウナムのストーリーになります。が、構想はぼんやりとしたものしかありませんので、まだ文字に落とすのは難しいです。……ので、ストーリーの構想を詰める作業をするために投稿期間が空くと思われます。エタる予定はないので、気長に待っていただければ幸いです。ではでは!































(今回の後書きに淫夢ネタは)ないです。


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北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナム
プロローグ:人理焼却、特異点、召喚


おまたせ、アイスティーすらないけどいいかな?(準備不足)

……はい。第五特異点の構想はまだできていませんが、Fate/GO編の導入部分だけは考えていたので、とりあえず。
本編の注意点ですが、Fate/GOをプレイ済、或いは年末アニメ特番Fate/GO視聴済を前提として物語を描いていますので、設定の細かい説明や経緯は大幅にカットしています。その点はご留意下さい。


 ◆

 

 

 

 ────人理継続保障機関フィニス・カルデア

 

 標高6,000メートルの雪山の地下に作られたその地下工房は、時計塔天体科の貴族マリスビリー・アニムスフィアが創立した、未来を保障するための機関である。

 

 だが、唐突にカルデアスの光が消え失せ、未来の保障ができなくなり、2016年には人類が滅亡するという結末を観測する。

 そして、2015年までには存在しなかった"観測できない領域"である過去を発見したカルデアは、これを人類滅亡の原因と仮定。

 過去へと介入し、問題の解決を目的とする霊子転移による、未来の修正という作戦を開始する。

 

 霊子転移を行う48人のマスター、その内10人は一般人枠が設けられており、魔術とは無縁な青年────藤丸立香は、その10人の枠としてカルデアに招かれた。

 

 マシュやフォウ、レフ、オルガマリー、ロマニといったカルデア主要人物達との邂逅を果たした立香は、その後の爆発事故、霊子転移に巻き込まれることとなる。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 ────炎上汚染都市冬木

 

 

 

「マシュ……!」

 

 焦りを多分に含んだ立香の声。彼の視線の先には、己がサーヴァントであるマシュ・キリエライトと、彼女へと襲いかかるランサーのシャドウ・サーヴァントの姿があった。

 

「はぁッ!」

 

 自身の身長よりも大きな盾で必死に攻撃をするマシュ。

 その馬力は常人より凄まじく、しかしデミ・サーヴァントに成ったばかり故に、ランサーに容易にあしらわれている。

 

「初々し過ぎるのも、癪に障りますね」

 

「くッ……!」

 

 マシュを吹き飛ばすと同時に鎖の上に立ったランサーは、長髪をかき上げる仕草をする。と、立香達の逃げ道を塞ぐように鎖が周囲に張り巡らされた。

 

「まとめて私の髪で絡め取ってあげましょう……!」

 

 ランサーことメドゥーサは、愉悦に満ちた顔で立香達を見下ろす。眼前にいるのは敵ではなく、獲物。

 サーヴァントに馴染んでいない少女、魔術師ですらない一般人、そして怯えの色が濃く映る魔術師。

 誰が見ても立香達が戦い慣れしていないのは明白。彼女にとって脅威に値しないのもまた、明らかであった。

 

 メドゥーサの余裕を感じ取ったからこそ、マシュは油断なく盾を構えたまま、彼女から視線をずらさずに訴える。

 

「私では敵いません。逃げてください、先輩!」

 

 立香とオルガマリーに嫌な汗が流れる。

 

 原因不明の事故に見舞われたとはいえ、この霊子転移は世界を救うためのもの。サーヴァントなしに解決など不可能だろう。

 ここでの逃走は、一時的に生き長らえるだけで、根本の解決にはならない。

 

 更にいえば、この汚染都市を人間の力のみで生き延びれる可能性は限りなく低い。

 

 だが、それ以前に、自分達のために恐怖を押し殺して戦うマシュを見捨てるなど、彼女のマスターである立香には絶対に出来はしなかった。

 

 焦燥と恐怖が同居する立香の目に、僅かではあるが、覚悟が宿る。

 

 

 

「────愚かだな。だが、好ましい愚かさだ」

 

 

 

 不意に響き渡る、女王の如き冷厳な声。立香達だけでなく、メドゥーサまでもが声の主を探して視線を巡らせる。

 

「何処を見ている、馬鹿者めが」

 

「ッあァ……!?」

 

 メドゥーサは、眼前に突然出現した火炎の弾丸に撃たれ、その身を炎に包む。

 

 立香達の周囲に張り巡らされていた鎖が消滅すると同時に、背を向けてマシュの前にふわりと降り立つ女。

 

「貴女は……」

 

 バイオレットを基調としたドレスのような全身タイツに身を包み、ディープパープルの長髪はポニーテールのように束ねられている。

 しなやかな右手には緋色の槍、左手には魔術を綴る杖を持ち、それらの武器と彼女自身から発せられる重圧が、彼女が絶対的な強者であることを象徴していた。

 

「後にせよ。今は集中しないか」

 

「ガぁァあぁッ……!!」

 

 炎から抜け出すように姿を見せたメドゥーサは、肩で息をしながら叫ぶ。

 

「貴様ッ……キャスター! 私の邪魔をするなッ!」

 

「邪魔も何も、これは聖杯戦争というやつなのだろう。如何に紛い物に変質していようと、自分以外の者共を消し去ることに変わりはあるまい」

 

 そう言うと、女────キャスターは右足で一歩前へ踏み出す。と、地面から氷の杭が走り、メドゥーサに迫る。

 

「くッ」

 

 鎖の上から飛び退き、回避するメドゥーサだが、空中に既に射出待機状態にあった複数の氷塊の存在に気付く。

 

「そら」

 

 キャスターの声と共に静止が解凍され、複数の氷塊はミサイルの如く放たれる。

 

「舐めるなッ!」

 

 身を捻り、空中でハルペーを振るう。迫る氷塊を砕いたらまたも身を捻って振るい、砕く、砕く、砕く。

 独楽のように回転し乱舞することで氷塊の全てを粉砕したメドゥーサ。しかし、着地を待たずして、キャスターはメドゥーサの眼前に現れ、緋色の槍の一撃によって彼女を地面に叩き落とす。

 

「ガッ!? ……何故、漂流者などの肩を持つ……!?」

 

「肩など持ってはいない。これは単なる────八つ当たりだ」

 

 キャスターは自身の足下に巨大な氷の杭を形成し、そのまま地面へと落下。その落下地点には、メドゥーサがいた。

 当然、メドゥーサは回避行動に移ろうとしたが、その身体はいつの間にか氷によって地面に縫い付けられており、それが命取りとなった。

 

「ッ──────!!」

 

 断末魔はコンクリートと氷塊の破砕音によって掻き消され。

 メドゥーサの肉体は瞬く間に金色の粒子となって消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして藤丸立香は、人理修復という長い旅路における、初めての味方と出会った。ピンチを颯爽と救ってみせた、女王のようなキャスター。その名を────アイフェ。

 

 この特異点を経て彼女との縁は結ばれ、汚染都市の後にアイフェはカルデアに召喚されることとなる。

 

 数年前にケルト神話を読み込んだ経験のある立香は、アイフェから様々な話を聞き、彼の英雄らが如何なる人物であるかと想像を膨らませるのだが、それは余談である。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 言い知れぬ浮遊感に、男の目が覚める。

 

「………………………………」

 

 眼に映るは見慣れぬ景色。晴天の空、見渡す限りの水平線。空模様が水面に反射しているおかげで、ウユニ塩湖のような神秘的な景色が生まれていた。

 

 男は愕然とした。神秘的な景色になどではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()に対して。

 

 混乱する男の傍には────地面に突き刺さった緋色の魔槍。自身の半身とも呼ぶべき武器だ。

 手足には扱い慣れた、コンパクトになっている黒々とした海獣の鎧が装着されており、力を込めれば"あの"ように展開できるだろう。

 ふと、先程までのことを思い出し、自らの左胸部に手を当て、風穴が空いていないかを確認する。無傷。

 

 そして最後に、水面に映る自身の姿を、たっぷり三十秒間眺めて────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(────え、これ……座じゃね?)

 

 内心で発狂寸前に陥った贋作の槍兵が、何の間違いか、英霊の座に登録されてしまっていた。

 この一瞬で多くを悟った男────クー・フーリンは、orz状態になって数分、一周回って冷静な思考に落ち着く。

 

(……てことは、俺、やっぱ死んだのか)

 

 彼は自らの記憶をサルベージする。

 

 影の国での激戦────モリガンとの死闘。師匠であるスカサハとの連携によって攻め立てたが、真の姿を晒したモリガンことバイヴ・カハに蹂躙された。

 スカサハすらも歯牙に掛けない圧倒的な強さを誇るバイヴ・カハに対し、遂にクー・フーリンは致命傷を負わされる。

 だが、それを逆手に取り、クー・フーリンは自らの命を対価として成長の前借りを行った。その結果、バイヴ・カハは死に絶え、彼もまた死に至った。

 

(勝てたのは良かった、けど……皆には悪いことしたよな)

 

 溜息を吐く。彼の心に残る燻り、それは皆に対して報いること。

 打倒モリガンのために助力してくれたスカサハ、アイフェ、メイヴ、エメル、フェルディア、レーグ────皆に感謝の言葉のひとつも贈れずに没してしまった。

 

 それが、クー・フーリンの心残りとして刻まれていた。

 

「……っ?」

 

 不意に、またも言い知れぬ浮遊感に襲われ、更に眩い光が視界に満ちる。

 

(何の光ィ……!?)

 

 困惑も束の間、何かに引き揚げられる、否、引き寄せられるように、意識が漂白されていく。

 

 そうして、次に意識が覚醒し────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、クっ、クー・フーリンっ! あの、私とっ、国をつくってちょうだい……!」

 

 ────またも意識が飛びかける。

 

 クー・フーリンが目にしたもの────蒸気が放出していると幻視する程に顔を朱色に染めたメイヴが、両手で持った聖杯を自身へ差し出す姿だった。

 

 更にいえば、メイヴの背後に控える、槍を持った金髪ロングの二枚目、二条の魔槍と麗しい黒子が特徴的な槍兵、螺旋剣を担いだ糸目の叔父貴、好戦的な笑みを浮かべる好敵手────色々と見覚えのある戦士達が揃っていた。

 

 恋愛に胸を躍らす少女が、想い人に告白するシチュエーション。それを遠巻きに見守る男子共というような絵面ではあるが、瞬間的にクー・フーリンの脳裏に過ぎる予感。

 

 メイヴ、聖杯、クー・フーリンの召喚、別のサイクルに属するはずのケルト戦士達。

 

 それ即ち────北米神話大戦。

 

 

 

(あー…………なるほど…………)

 

 

 

 贋作者の胃に穴が空いた。

 

 

 

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.アイフェの八つ当たりって?
A.聖杯をゲットできればクー・フーリンと出会えるはずだったのに、聖杯戦争が全くの別物に変わったせいで色々と御破算になった。そのため見敵必殺の師範が誕生した。余談だけど、藤丸達と合流する前にバサクレスさん葬りRTAしてたりする。

Q.座ってそんな風景なのん?
A.(公式からの言及は)ないです。ので、桜ルートのOPに出てきたあの景色を座として認識して描きました、はい。

Q.【オルタ】は?
A.(ぎ)にきはぼくのかんがえたさいきょうのくー・ふーりんだから、おるたもほうがんしてるんだ!(大罪)

Q.今回の文字数少なくない?手抜き?
A.今回はプロローグだし、設定解説を省いただけだし、書きたいことだけ書いたら文字数がくっっっそ少なくなっただけなので、決して手抜きではないです(迫真)。


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。投稿がめっきり止んだので、失踪したとか死んだとか思われていたかもしれませんが、イキテマス(葵)。リアルでやることがあったりするので、まだ本格的♂更新はできなそうですが、とりあえず生存報告がてらに投下いたしました。
今回はFate/GO編のプロローグ、本編突入前の前座になります。冬木で藤丸君達を助けるポジションにアイフェが立ち、【オルタ】が召喚されるはずのポジションに(偽)ニキが立つという狂いです。ですが、第五特異点もまたかなり変化する予定ですので、原作をぐちゃぐちゃにしてやるからな(唐突な犯罪予告)。
さて、次回に関してですが、まだ本筋の構想すらない段階ですので、更新はまだまだ先のことになりそうです。が、完成次第、順次更新していくつもりですので、気長に付き合っていただけますと幸いです。






























僕「さあ、それでは!ここで次の更新日時について決めたいと思うんですよ!まずは30日後から!できる技は、ダクソはもちろん、SEKIRO、ブラボ、それから……デモソをやったり、アーマード・コアをやったりも、フロム脳に洗脳次第ではできるかもしれませんよ?まず、30日後から!さあ、お客さんどうぞ!」

オークション男もっと流行れ。

※追記
アンケート投票ありがとうございました。想像の114514倍は投票者がいて、たまげたなぁ。


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プロローグ:クー・フーリン(偽)

 何かアンケート結果見たら、マジでどこに需要あるのかわからんけど(偽)ニキ視点が欲しい人が想像の114514倍はいたので、まず手慣らしに(偽)ニキ視点で思考垂れ流しします。


 (この駄文に)ついてこれるか?(新規登録者を振るいにかけるクソ投稿者)


 ◆

 

 

 

 ありのまま起こったことを話すぜ……! 俺はバイヴ・カハの奴に流星一条(ステラ)ったら、いつの間にか"座"に登録されるとかいう大罪を犯していて、直後に謎の光に包まれたと思いきや、聖杯を差し出すメイヴとその他ケルト戦士達が目の前にいたんだ。

 

 何を言ってるかわからねえと思うが……いや、マジでなんでこうなってん? 

 

 困惑の極み過ぎて、これもうわかんねえな。思考放棄した俺は、とりあえず暫定"今生のマスター"であるメイヴに聞くとする。

 

「え……あっ、そうよねっ! まず色々と説明しなきゃいけないわよね!」

 

 顔を真っ赤に染めたまま、メイヴは聖杯を胸に抱き抱えつつアワアワと視線を泳がせる。

 意中の相手との会話が嬉しすぎて、逆に焦っているような言動だった。

 

 ……今更だけど、これホンマにメイヴか?(元凶)

 

「んんっ、えっと……どこから話せばいいかしら」

 

 そこから語られる、これまでの侵略。

 

 メイヴは64番目の節穴(レフ・ライノール)に聖杯を渡され、即座にフェルグス、フェルディア、フィン、ディルムッドなどケルト関係者を召喚。

 

 聖杯のリソースを用いて『名もなき戦士たち』を適当に数十万と製造し、この地────北米を侵略する戦争を開始した。

 

 ケルト勢は手始めにワシントンを攻め落とし、この時代の主要人物を軒並み抹殺。そして現在、ホワイトハウスを拠点として西部へと進軍している最中なのだとか。

 

 そしてそして、もはや北米全土を手中に収めるのも時間の問題だと感じたメイヴは、仕上げ(?)として俺の召喚に至った、と。

 

 うーんこの、シナリオ通りの北米神話大戦。 まあ、フェルディアとか俺とかいうバグはあるが、大体は同じのようだ。

 

 ただ、ひとつ聞かなきゃならないのは、どうして俺が仕上げなのかということ。

 本来であれば、もっと早期の段階で【オルタ】が召喚され、暴力! 暴力! 暴力! って感じで北米の人々を今よりも血祭りに上げている頃だろう(ブロリスト並感)。

 

 だが、俺は狂化付与はされておらず、しかも早期召喚もされていない。戦力増強のために呼んだとかでもない、よくわからないポジション。コレガワカラナイ。

 

「っ、それは……」

 

 何故今になって俺を召喚したんだ? とメイヴに問えば、途端にシャ〇専用メイヴに早変わり。

 

「……覚えてるわよね? アナタがあの女神に立ち向かう前、私と約束した言葉」

 

 約束した言葉────覚えているとも。俺なんかのために命をかけて戦ってくれる、それに報いたいがために、俺に出来ることなら何でもしてやる、と口にした。

 ……バイヴ・カハを倒す前に身内の争いで全滅しかけてたから、それを防ぐために言ったんだけどな。更に正確に言うなら、メイヴだけに言ったのではないんだけども。

 

「私は、その約束を果たしてほしいの。私の願いはただひとつ。それは、クー・フーリンを私のモノにすること」

 

 言葉に熱が帯びる。

 

「でもね、言葉の上での約束を使ってアナタをモノにしても、全っ然、嬉しくないわ。だって、身も心も私の虜になってくれなきゃ意味がないでしょ?」

 

 だ、か、ら────と続けるメイヴ。

 

「────クー・フーリンには、私と国をつくってほしいの。一緒につくって、治めて、隣にいてほしい。そうすれば、ずっと一緒に居られて、いくらでもアプローチできるでしょ?」

 

 あー可愛い。あーっ、あー可愛い(食い気味)。あまりの変わり様にトゥンク……して、思わず靴下がダサそうな喋り方をしてしまった。

 

 と、それはさておき。メイヴが俺と国をつくってほしい理由は理解した。確かにそりゃ告白シチュみたくもなるわな。言われたコッチも恥ずかしくなったわ。

 そんでもって、何故俺の召喚が仕上げなのかも同時に把握。敵と言える敵が北米から一掃され、建国も時間の問題となったから召喚した、ということさね。

 

 ……うーん、これは分水嶺。

 

 生前の未練────皆に報いたいという願いを叶えるために、メイヴとの約束を果たすのは然るべき。

 それに、わざわざ聖杯を使ってまで俺を召喚し、己の望みを実現せんとするメイヴには報いてやりたい。

 後ろに控えている面々、特にフェルディアが此方の陣営に与しているのも非常に大きなポイントだ。

 

 けれど、俺はこの世界は修正される運命にあるのを知っている。この時代において、俺達ケルト勢が圧倒的に悪で、敵で、侵略者であるのを知っている。

 当然だ。既にメイヴ達はこの地に住む無辜の民を虐げ、殺戮し、領土を簒奪している。

 何をどう見てもインベーダーの所業だ。申し訳ないが、そこに関しては擁護もできやしない。

 

 今はまだ、ケルト勢に立ち向かう人々は組織されていないだろうし、抵抗する野良サーヴァントの出現も確認されていないのだろう。

 だが、エジソンの召喚と機械化歩兵の登場によって次第に拮抗し、そして原作通り、ケルトとアメリカの東西戦争に発展していくだろう。

 

 即ち、この北米の地にカルデア────藤丸とマシュが転移し、俺達を倒すべく仲間を増やして立ち向かってくるのもまた、その通りになるのだろう。

 

 この物語の主人公は彼らであり、俺達は敵だ。カルデアが勝利しなければ世界は焼却される。大義名分も何もかも、あちらが持ち合わせているのだ。

 

 だからこそ、その葛藤が俺を鈍らせる。

 

 この地でカルデア一行と対峙した時、俺は藤丸達に……最後の人類の希望に、槍を向けることができるだろうか。

 

 ……正直、まだ答えは出せない。しかし、まあ、今は皆との再会を純粋に喜んでもいいだろう。

 

 そう、考えるのに疲れたら、とりあえず現実逃避。これが一番だって言われてるから(白目)。

 

 ただ、その時までには腹を決めておこう。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 メイヴから一通りの説明を受けた俺は、一先ず彼女の願いを聞き入れることにした。

 

 単純な話だ。原作通りになるのだろうから、ここでケルト勢が集まるというのを、俺は知っている。

 だが本来、聖杯戦争で生前の知り合いと巡り会うなんてア〇チラ排出率並に低い。青天井である。

 

 ならば、ここでの再会は、例えメイヴが聖杯を用いて召喚していたとしても、幸運に他ならない。

 だからこそ、俺はこの機会にメイヴを筆頭とした生前の関係者らとの約束を果たす。この幸運を捨て置くのは勿体ないだろう。

 

 ということで、形から入るために騎士の誓いの儀的なイメージでメイヴに傅き、「この再会に感謝を。我が今生、その運命は最期まで貴女と共にある」と騎士ロールでメイヴに返答してやったところ、目元に嬉し涙を浮かべながら飛んで跳ねての大喜び。

 

 キャラ崩壊ってレベルじゃねーぞ!(照)

 

 そんなこんながあって今、俺はホワイトハウスの前でフェルディアと立ち合っていた。急展開すぎんだろ……(テニプリ並感)。

 

 事の発端は、メイヴとのやり取りが一段落した時のことだ。

 

 飛んで跳ねて喜ぶメイヴは自分の世界にトリップしているようで、そっとしておこう(番長)状態。

 

 そんな彼女を後目に近付いてくる戦士が一人。

 

「クー・フーリン! お前との再会が実現したことを嬉しく思うぞ!」

 

 生前からの戦友であり好敵手である、フェルディアだ。

 ただ、コイツ滅茶苦茶に破顔してるもんだから、ちょっとビビった。

 

 俺もお前と再会できたのは嬉しいけどさ、何故にそこまでハイテンションなん? と聞いてみれば、フェルディアの顔に僅かな影が差す。

 

「……"乗り越えるべき壁"を見失うこと。それこそが戦士にとって最も恐怖すべきものだ」

 

 あー、これは生前の話じゃな? そして"乗り越えるべき壁"とやらは……まあ、多分そうよね。

 

「だが、英霊として聖杯戦争に招かれたのならば! 歴戦の戦士、万夫不当の英雄、殺戮の限りを尽くす修羅────まだ見ぬ難敵と相見える機会があるというものッ!」

 

 唐突に声を張ったフェルディア。その笑顔は肉食獣のようにギラついている。

 

「聖杯戦争……とはもはや呼べないが、此度の戦において、俺は難敵との出会いを所望していた。しかしッ、再びお前との邂逅を果たしたのだ! となれば他のサーヴァントなど眼中に入るものか! あぁ、これほどの歓喜に震えることなど他にある訳がないだろうッ!!」

 

 同じメイヴ陣営のはずなのに濃厚な敵意を向けられて……ブルっちゃうよぉ(親爺)。

 

「だからこそ────」

 

 担いでいた槍、その穂先を俺に向ける。

 

「────―クー・フーリン、我が好敵手よ。俺と一戦交えてくれ」

 

 おう、死なず半兵衛の「是非、某と立ち合ってもらおう」みたいなノリで仕掛けてくんのやめろ。

 

 とまあ、そんな感じでフェルディアとバトることになった。

 でもまあ、サーヴァントとして現界したばかりで、どの程度のスペックなのか、宝具なのかの確認には持ってこいだ。

 

 互いに十メートル程の距離を置き、槍を構える。フェルディアの獰猛な笑みにつられて、俺の頬もつり上がっているのを感じた。

 それは当然。俺だってアイツのことをライバル視してるんだ。いくら俺が根っからのバトルジャンキーでないにしても、こーいうのは心が燃える。だって男の子だもの。

 

 

 

 

 

 

 メイヴを始めとして、フェルグス、フィンにディルムッドまでもが観戦する中、先手を取ったのは────俺だった。

 

 刺突のフォームのまま地面を抉るように駆け、瞬く間にフェルディアの眼前に迫る。

 

 神速による真紅の一閃、それは生前の絶頂期と遜色ない一撃。

 だが、これをフェルディアは余裕を持って槍を振るうことで弾く。

 

 反撃の暇すら与えずに追撃、連撃。弾かれた勢いを活用して魔槍を回転させ、薙ぎの連続を見舞う。

 しかし、これもまたフェルディアは難なく的確に捌き切る。はえー、熟達の狼くんか何かで?(戦慄)

 

 ならば、と俺は刺突や斬撃、殴打といった様々な攻撃手段を織り交ぜ、型にはまらない変則的な乱舞で攻める、攻める、攻める。

 

「──────ッ!」

 

 集中するかのように僅かに瞠目しつつも、フェルディアは変則的な打ち回しに対応し続けてみせる。

 クー・フーリンという最速の英雄の連撃を超反応とも形容できる速度で、しかも山の如く移動せず真正面から凌ぎ続けるなど尋常ではない。

 

 それこそ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふッ!」

 

 ほんの僅かの思考。それを鋭敏に感じ取ったのか、フェルディアは俺の熾烈な連撃の刹那を見切り、隙間を縫うように懐へ一撃を鋭く差し込んでくる。

 

 攻撃の間を突くのではなく、その最中に入れる鋭利な決定打。

 攻撃に神経を割いていたのなら、まず間違いなく反応しきれないであろう的確な致命の一撃。

 ぶっちゃけて言ってしまえば、フェルディアという戦士の戦闘スタイルを熟知していなければ、これは初見殺しに等しい。

 

 フェルディアの堅牢な守り、そこから繰り出される巧妙なカウンター。それは容易く一撃を与えさせてはくれず、此方が攻めているはずなのに、その逆────此方が攻め立てられているように感じられる。

 

 傲慢でも何でもなく、それは正しく"武の極地"に至っていた。

 

 そう。だから、これに対応できたのは、偏に"これを狙うであろうことを知っていた"からだ。

 そして同時に、フェルディアの強さの格を感じ取る。うーむ、これは使わされるか。

 

 懐に迫った穂先が心臓を穿つ────その寸前、 手足に装備されている『鎧』に魔力を流し込む。

 左胸部に刃が到達するより早く、俺の肉体を赤黒い鎧が包み込んだ。

 

 

 

 ────『噛み砕く死牙の獣』

 

 

 

「…………ッ!」

 

 致命の一撃は、虚しくも『鎧』に傷を付けるに留まる。

 フェルディアは、俺から溢れ出た赤黒い力の奔流に気圧され、大きく跳躍して距離をとった。

 

「……『それ』を引き出させたは、これが初めてか……!」

 

 冷や汗を流しつつも嬉嬉として俺を見据えるフェルディア。ギラついた笑みを浮かべ、バトルジャンキーのアレな部分に火を灯してしまったようだ。

 

 コイツの言うこともその通りな訳で。生前までの立ち合いなら『噛み砕く死牙の獣』を使用したことはなかった。使うに至るまで追い込まれたことはなかったからだ。

 

 サーヴァントは、その人物の最盛期の姿で召喚される。少年少女の姿で召喚されることもあれば、老人の姿の場合もある。

 眼前にいるフェルディアは、よくよく見れば俺の知っている彼よりも少し年齢が上のような気がする。

 事実、生前は俺との力量に差があったはずなのだが、今では拮抗するまでに磨き上げられていた。

 

 そう、つまりは────サーヴァントと成ったフェルディアは、俺が知っている生前よりも格段に上。

 

 サーヴァントとしてのスペックを確認するに留めるつもりだったが、これは燃えてきた。そして、マジでやらんと負けるぞコレ。

 

 ────なら、『これ』のウォームアップに付き合ってくれや。

 

「……ははッ、上等だッ!!」

 

 吠えた好敵手に、俺は『鎧』を全身に纏わせたまま突貫する。

 Урааааааааааааа! 本来のクー・フーリンは持っちゃいけない死獣の力ッ、思い知れェ! 

 

 複数の魔槍を備えた剛腕の右ストレート。先程よりも攻撃速度は落ちるが、その分、範囲と破壊力は何倍にも跳ね上がる。

 その証拠に、拳を振るった瞬間に、空気が張り裂けるような「轟ッ!!」という音を奏でた。

 

「…………ッ!!」

 

 常に守りを主とする構えだったフェルディアが、攻撃を弾くでもなく、初めて明確に回避行動をとる。

 フェルディアはステップを踏んで攻撃の安全圏まで移動し、即座に刺突を放つ。『鎧』の破壊を目論んでいるのか、初撃を防いだ左胸部へ重ねるように一撃を狙う。

 

 それを受け流すように、身を捻って紙一重で避け、そして捻った勢いを利用し、右ストレートからアッパーへと攻撃を転換。

 

「ッ、ぁぐ……!?」

 

 寸でで槍を宛てがうことで直撃を避けたが、しかし俺の剛腕はフェルディアを宙に打ち上げた。

 俺は一度体勢を整えつつ、アイツの着地点に先回りして陣取る。

 

 一方のフェルディアは、痛みを堪えながらも空中で冷静に俺を視認し、落下の最中でルーンを綴る。

 癒しのルーンを使用した後、続いて綴ることで生成された火炎────アンサズは、陣取っていた俺へと降り注ぐ。

 

 まあ、本当なら避ける必要もない攻撃だ。何故かは知らないが、俺は火属性無効化というパッシブな体質だ。

 そのため、アンサズだろうがソウェルだろうが、俺を止める術になり得ない。

 

 そのことはアイツも理解しているはず。となれば、別の謀があるに違いない。

 

 アイツの動向に意識を向けつつ、迫る火炎を掻き消すように腕を振るい────瞬間、フェルディアが火炎を穿って現れる。

 

「ぜあァッ……!!」

 

 反射神経にものを言わせて両腕でガードする。が、全体重と落下の勢いの全てを上乗せした一撃は重く。俺の足は地面にめり込み、クレーターを形成。

 ガード後の硬直、その隙にフェルディアは俺の両腕を足場とし、翻るようにバク転をかましつつ、槍による一撃で俺を強引に後退させた。

 

 自然と互いに距離を置き、仕切り直し。

 

 ぬう、この『噛み砕く死牙の獣』の巨体を強引に退けさせるとは。

 それにも驚いたが、俺の思考はフェルディアのムーブに焦点が定まっていた。

 

 空中から放ったアンサズ、あれは間違いなく布石だった。火が効かないと知って尚放ったその理由は、単純に視界ジャックか。

 俺が火炎を振り払おうとする直前、フェルディアは自ら火炎から姿を現し、攻撃を仕掛けてきた。ただ、その速度は自由落下のそれを遥かに超えていた。

 

 となると、落下の速度を速めた何かを用いたと推測できる。……なるほど、高速飛行のルーンか。

 これもまた、俺の知っている生前のアイツは使わなかった戦術だ。多方、以前の一騎打ちの時の空中戦のメタのために習得したのだろう。そして、それがここで活きたと。

 

 …………いやぁ、フェルディア、強くなり過ぎじゃね? 経験する度に強くなるとか、凄いソウルライク味感じるわ。

 

 そこからはもう滅茶苦茶にやり合った。サーヴァントの身でどこまでやれるか、という目的は薄れてヒートアップを続ける俺達の戦いは、遂に殺し合い寸前にまで到達した。

 

「ちょ、殺し合いとかっ、呼んだ意味なくなるじゃない! ストップストップ……!」

 

 見兼ねたメイヴが止めに入るまで、俺とフェルディアは互いに力を引き出し合い、改めて互いに好敵手であることを確認し合った。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 その後は他のケルト鯖達とコミュを育んだ。

 

 フェルグスの叔父貴には、開口一番に謝罪された。どしたん? と呆気にとられていると、どうやら生前のモリガンとのいざこざで、操られていたとはいえ、俺の死に加担してしまったことを悔いていたようだ。

 気にしなくていい、と返したものの、フェルグスは不服そうだった。ので、今生は精一杯にメイヴに尽くすこと、それで手打ちにしようってことにした。

 

 フェルディアから聞いたが、叔父貴は俺が死んだ後、己の武を多くに継承させることに勤しみ、それによってケルトの繁栄を願ったのだとか。

 そこまでしてくれたというのに、これ以上何を求めるのか。そういう思いで一杯だったため、罰ではなく忠節をこそ求めて欲しいとしたのだ。

 

「……はは。いやはや、こうなるだろうと分かってはいたが────相分かった! このフェルグス・マック・ロイ、身命を賭して我らが女王に尽くそう。此度は同陣営、共に歩むとしようか、クー・フーリン」

 

 はいもう好き。黒田〇矢さんボイスでそんなこと言われてみろ。もう耳から孕むぞ(オタク)。

 

 お次は別サイクルのストレス胃痛主従コンビ────フィン、ディルムッド。

 

 二人とはマジで面識がない。知識としては知っていても、これが初対面のはずなのだが、何故かヤケにフレンドリーで謎。

 

「ああ、我らを呼び寄せた女王を初め、フェルグス殿、フェルディア殿から活躍を聞いていてね」

 

 にこやかに返すフィン。え、何聞かされたん? 怖いんだけど。

 

「己が義を通す騎士道精神、感服致しました。そして……その、貴方には、(女難という意味で)親近感を抱いてしまい……」

 

 おう、ディルムッド。俺を同類にしてくれんな(棚上げ)。

 

 とまあこんな感じに、ケルト鯖と協力してメイヴに尽くそう、ということに。

 けれど目下のところの俺の役割は、メイヴの側にいることらしく、北米侵略は我らに任せろ、とのこと。

 

 だがしかし、タイミング的にはもうそろそろ敵対サーヴァントが出現する頃合だろう。そうなれば苦戦は必須。今までのようにトントン拍子で進むのは有り得ない。

 そうなった際には、俺も出陣することになる可能性が高いか。俺の場合はゲッシュで人を殺めるのは無理だが、サーヴァントというエーテル体すなわち非人間であれば、力を振るえることだろう。

 

 いくらカルデアとの敵対勢力だったとしても、俺にとってメイヴやフェルディア達は最早ゲームのキャラクターなどではない。

 情けもかけるし、友好も感じている。そんな皆が敗北し、消滅するというのは見たくない。

 だからこそ、サーヴァントを倒してこいと指示されれば喜んで東奔西走しよう。指示されなくとも、皆が窮地に陥ったなら何処にでも駆けつけてみせよう。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 召喚から数週間。

 

 俺の予想通り、各地で抵抗や反乱といった動きが見え出していた。

 市街地でゲリラ戦を仕掛けられたり、戦場に機械化された歩兵が出現しだしたり、ひでぇ歌声が聴こえたり。後はその他諸々。

 

 ま、十中八九第五特異点に出現するサーヴァント達だわな。

 

 こうしてストーリー通りになっていくのだと思うと、自分の目でしっかりと見ていきたいと感じる一方、敵対することになるサーヴァントの対処をどうするか、という懸念点が。

 そして何より、俺やフェルディアといった、本来いるはずのないイレギュラーの登場で、俺の知っている第五特異点とは異なる結末を迎える可能性に頭が痛くなる。

 

 内心で頭を抱えていると、名も無き戦士の一人が報告(できたことに驚愕)してきた内容に、俺は反応する。

 

 ────赤い髪、紅い瞳を持ち、一振の剣を振るう戦士がいた。

 

 ……これは、もしかすると、もしかするかもしれませんよ?(確信)

 北米神話大戦に召喚される当該人物。紛れもなくラーマだろう。

 

 ということは、つまり俺が戦場に出てラーマと戦い、その心臓をハートキャッチ(ほぼ全壊)しなければならないのでは? 

 

 と、そんなことを思案していると、その思考を感じ取ったのか、メイヴがこちらに目を向ける。

 

「ねえ、クー・フーリン。本っ当は私の側から離れてほしくないけど、貴方も戦場に出たいのよね?」

 

 うん、そうだな。いくら俺がケルト側に着いてカルデアの敵を演じても、流石に原作通りにいかないのは不確定要素が多過ぎる。

 俺がカルデアに勝つのはいい、負けるのも構わない。だが、カルデア────藤丸達がここに攻め込んで来る前に彼らが全滅するのだけは、あってはならない。

 

 だから、極力原作通りに進めたいという思いがある。そのためにラーマと戦えというのなら、俺は行こう。それがクー・フーリンの役割なんだ。

 

「……そう。なら、止めるなんて野暮なことしないわ。ここでかけるべきは引き留める言葉じゃないもの」

 

 少し寂しげに、それでいて地母神の如き笑みを浮かべるメイヴ。

 

「行ってらっしゃい。必ず、帰って来てね」

 

 おう、任せろや。

 

 

 

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.メイヴ変わりすぎィ!!
A.そんな変わってないやろ(当社比)。

Q.メイヴこれメインヒロインでは??
A.暫定メインヒロインムーブしててぐうの音も出ねえ……(白目)。あ、でも最後にクー・フーリン見送った後に一人ハイライト死滅してクー・フーリンが帰ってこなかったらって精神的にキてたりしてるから病んでるゾ(オタク特有の早口)。

Q.(偽)ニキの身の振り方どうするん?
A.基本的にカルデアの敵として立ちはだかる予定。ただし、自分が知っている第五特異点のストーリー通りに進んで欲しいと思ってるので、できる限りそれにそった行動をしようとしている。自分がカルデアに負けるとかはいいけど、カルデアが第五特異点最終決戦前に負けたりすると人類オワコン確定なので、是が非でもホワイトハウスで決着を着けたい(願望)。

Q.そういえばレーグ君どこ?
A.どこやろね(目逸らし)。

Q.次の更新予定は?
A.あ?まだ構想もねーよ(無計画糞投稿者)。


  ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。本編突入前の前日譚についてアイデアが浮かんだので、急いで書き認めました。え、前回更新から一ヶ月以上経ってるって?……黙れ(志賀慎吾)。
 今回は(偽)ニキ視点でお送りしました。メイヴに召喚され、ケルト鯖とのやり取りメインで書いたので、特にこれといった進展は、ないです。悲しいなぁ。というか、書いていてフェルディアと絡ませようとしたら、いつの間にか戦闘描写書いてました……。キャラが頭の中で勝手に動いてくれるのはいいんだけど、戦闘描写書くとめっちゃカロリー使うからやめて差し上げろ(は?)。
 ということで次回は本編突入……できんのかな。一応、ぼんやりとした「こうしたい」という考えはあるので、少しずつ書いていきたいと思います。そして、月一更新できるかどうかの本作を読んでいただいている方々には本当に感謝の気持ちで一杯です。その感謝にお応えして毎フレーム失踪致しますので、気長に待っていただけると幸いです。ではまた!
















◆くそ関係ない余談

 ヘブフォ
  ↓
 スピーカー
  ↓
 イチゴッチ、ミクセル、弓兵チュリス
  ↓
 総攻撃&ノートリ

 これで3キルされた時はリアルで「ア"ァァアイ"ッ!」ってサルみたいな声出ました。トリガーとかいう逆転要素なんてなかったんや……。

 いいか?シールドがなくなってダイレクトをキめられると人は死ぬ。


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アバンタイトル:三人称視点

クロニクルデッキ買えなかったので初投稿です(マジギレ)。


 ◆

 

 

 

 クー・フーリンがメイヴに召喚された頃まで時は遡る。

 

「────う、うわぁぁあッ!?」

 

 アメリカ西部の、とある場所に位置する街。歴史に名前すら残らないであろうそこは、閑静であることしか特徴がなかった。

 

 そんな街に、今は悲鳴が谺していた。

 

「変なヤツらが暴れてるって話は小耳に挟んではいたが……まさか、ここに来るなんてよ……!」

 

「──────ッ!」

 

「クソッ、何だよコイツら……ぁガっ!?」

 

 恐怖と困惑の渦中にいたとある男は、不意に、襲撃者の持つ槍の殴打によって吹き飛ばされた。

 地面を転がり、苦痛に悶える男。視線を上げれば、そこには己を痛め付けた元凶がいた。

 

 低い等身に鎧の如く纏われた筋肉、無骨な兜に胴鎧に槍を装備し、目隠れ無精髭という特徴を持った襲撃者────"名も無き戦士たち"。

 

 女王メイヴによって"製造"された彼らは、女王の意に従い、北米侵略のために目に付いた街を片っ端から襲っていた。

 そのために、この閑静な街は標的となり、何の罪もない男は危機に瀕している。

 

「は、はは……こんな、ワケわかんねぇ最期って、アリかよ……!」

 

 既に街の住民の大半が、群体で押し寄せてきた"名も無き戦士たち"によって鏖殺され、住居や店といった建築物も軒並みが破壊されている。

 

「──────ッ!」

 

「嫌だ、嫌だッ……!!」

 

 男に放たれた槍が、その穂先が、心臓を穿たんと迫る。侵略戦争の犠牲として積み上げられた骸に、男が参列する────その瞬間。

 

 

 

「こんな所に来てまで、コレを目にするなんて────最悪ですねぇ」

 

 

 

 男の耳に流れ込む、この場にそぐわぬ艶やかな女性の声。

 誰だ、と口にする前に、男の眼前にいる襲撃者の胸部から、槍の穂先が突き出る。

 

「──────ッ!?」

 

「あの淫売の駒なんて視界に入れておくことすら嫌なんですから、さっさと消えなさい」

 

 次の瞬間、"名も無き戦士たち"の頭部が真っ二つとなり、見るも無残なスプラッタに成り果てた。

 襲撃者が倒れ、物言わぬ肉塊となった。そして男の見上げる先に居たのは────女神であった。

 

「全く……来て早々にコレが虫のように湧いているなんて、本ッ当に気色が悪いですねぇ」

 

「……あ、貴女、は……?」

 

「ああ、そこに誰か居たのですね。なら、ちょうどいいです」

 

 壁にもたれかかった男に歩み寄る女神。手を伸ばせば触れ合う距離まで近寄ったところで、女神の眼が怪しく光る。

 

「私の質問に、全て答えなさい」

 

「────はい」

 

 安堵が浮かんでいた男の瞳から正気の光が消え失せ、瞬間、胡乱げに女神を見つめた。

 "名も無き戦士たち"によって負わされた痛みを堪える様子もなく、壊れた人形のように柔和な笑みを浮かべ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぐに会いに行きますから、待っていてください────私のクー」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ッ……はぁ、はぁ……!」

 

 地に膝を突き、肩で息をする赤きサーヴァント────ラーマ。

 セイバーという最優のクラスを依代に現界した彼ではあったが、その身体の至る所に真紅の線を刻み付けていた。

 

 痛みや疲労を堪えるように、端正な顔を苦々しく歪めるラーマ。

 彼の射殺さんばかりの視線の先には、己をこのように追い詰めた張本人がいた。

 

「まだやんのか、大した根性だな」

 

 青い戦装束を覆い隠すように展開された、赤黒く禍々しい鎧で身を包んだ男────クー・フーリン。

 右手にはトレードマークの緋色の魔槍を持ち、ラーマを睥睨するように見据える。

 

「おのれッ────ぐっ……!」

 

 吼えるラーマだったが、打ち出された魔槍により、その身体に新たな真紅を刻まれる。

 

「貴様ッ、それだけの強さを持ちながら────何故、そちら側に与している!」

 

 心底解せんと口にするラーマ。彼がクー・フーリンと対峙したのはこれが初めてのことで、戦闘を開始してから大した時間も経過していない。

 だが、この僅かな打ち合いの中で、この青き戦士は侵略のため、虐殺のために力を振るうような男ではないと、ラーマは鋭敏に感じ取っていた。

 

 むしろ────誇り高きそれであるとまで。

 

「貴様の"武"は何かに授かったものではないッ……途方もない修練によるものだろう!」

 

 故に、彼は理解に苦しむ。感嘆の息を吐くほどに練り上げられた武術、好ましいと感じさせるだけの誉れ高い精神を持ちながら、何故、この地を脅かす者共に助力しているのかと。

 

「お前に俺の何が分かる……なんつう野暮なことは言わねえけどよ。俺には俺の立場ってモンがある。返さなきゃならねえ恩義もある。それが理由だ」

 

「その理由のためだけに、どれ程の人々が殺されたか分かっているのか!?」

 

 この惨状を見ろ、と声を上げるラーマ。今、この二人がいる荒野には、多くの骸が積み上げられていた。

 卑しきインベーダーから故郷を守らんとした北米の人間達、その死体である。

 

 クー・フーリンには「不殺」のゲッシュがあるため、彼らの死にクー・フーリンは直接的な関与はしていない。

 彼らを死に至らしめたは、メイヴがクー・フーリンに付けた"名も無き戦士たち"によるものである。

 

 しかし、クー・フーリンが"名も無き戦士たち"の戦闘行為を許容し、彼らの死を傍観していたのは紛れもない事実。

 そして、その"名も無き戦士たち"は今、戦闘を終了したため、彼の背後で隊列を組んで沈黙している。

 

 北米の人々と侵略者達の戦闘、否、一方的な殺戮に途中から介入したラーマからすれば、クー・フーリンこそがこの殺戮者の長として映るのは仕方がないことだった。

 

「確かに、俺ならコイツらを止められただろうし、助けられた命もあったろうさ。けどな、これは戦争だ。どう取り繕おうがな」

 

 ()()と分かっているからこそ、当のクー・フーリンは、役割を全うするように()()()()()()()()()

 

「戦場での理は"強き者"こそが敷くモンだ。何を成そうが、な。そして、俺はお前よりも強い。そういうことだ」

 

 冷たくあしらった彼は、己が武器に魔力を込め、直後、魔槍に緋色が迸る。

 

「蠢動しろ、死棘の魔槍」

 

「くっ……────全解放『羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)』!!」

 

 チャクラムさながらの円盤状の斬撃が煌めき、それがクー・フーリンへと襲い掛かる。

『羅刹を穿つ不滅』、それは魔王ラーヴァナをも倒す不滅の刃。だが、魔力も体力も限界に近いがために、放たれたそれは容易にクー・フーリンに弾かれた。

 

「今のお前じゃ、これが限度だ────『抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)』ッ!」

 

 カウンターに放たれたは、暴虐的な一投。腕一本の神経の全てが千切れる程の力で投擲される、魔槍の一撃。

 

「……がああああああああああああッ!!」

 

 必殺の破壊力を持った緋色は、寸分違わずラーマの胸部に命中し、心臓の実に八割を抉った。だというのに、彼は即死に至らず。

 

「────まだ耐えんのか。俺並みの往生際の悪さだな」

 

 面倒なモンだな、サーヴァントってやつは、などと口にするクー・フーリンだが、特に大きな驚きもなく。

 

「負け……て、たま……るか……。シータと……巡り……会う……までは……!」

 

 弱々しくも、熱の篭った呟き。それを耳にしたクー・フーリンは、ラーマにトドメをさすでもなく、己が前方に視線を向けた。

 

 そこには、この時代にそぐわぬモノがいた。

 

「サーヴァント反応を確認。対処します」

 

 金属の奏でる駆動音を響かせる体躯。青と黄を基調としたフレーム。右腕そのものがマシンガンに置き換えられた人型兵器"機械化歩兵"。それが複数。

 ケルトの"名も無き戦士たち"という無尽蔵のリソースに対抗すべく、とある獅子頭によって大量生産された機械の軍勢である。

 

「西部の歩兵共か」

 

 事もなさげなクー・フーリンに対し、機械化歩兵達は一斉に銃口を向け、射撃、射撃、射撃。

 弾丸の雨に晒される彼だが、しかしサーヴァントは単なる銃撃でどうにかなる存在ではない。

 

「温ィな!」

 

 自身に迫る鉛玉を魔槍で的確に落とし、弾き、切り裂く。それを行いながら疾風の如く駆け、一体、また一体と機械化歩兵を破壊していくクー・フーリン。

 

 サーヴァントの前では機械化歩兵は無力に等しい。だったとしても、英霊一人の足止めにしては十分過ぎる。

 クー・フーリンが機械化歩兵を破壊している最中に、ライフルを担いだ人間の兵士達が続々と戦場に姿を現す。

 

 そうして機械化歩兵と人間の混成部隊は完成し、そしてそれはラーマを逃がすためのものであった。

 

「ン、増援か。戦力の逐次投入は愚策だって知らねえのか」

 

 嘲笑するように吐き捨てたクー・フーリンは、己がゲッシュに抵触しないよう機械化歩兵の破壊にのみ注力する。

 一方、戦場にエネミーが出現したことにより、クー・フーリンの背後に控えていた"名も無き戦士たち"が一斉に起動し、戦場に猛進していく。

 

「これは……一体……?」

 

「いいから来い! あいつらが争っている内に逃げるぞ……!」

 

「あなた、は……」

 

 いきなりの状況の変化に困惑するラーマ。そんな彼に肩を貸す色黒の男性。

 

「ジェロニモ、行け! ここは我々が食い止める!」

 

「……すまん!」

 

 ライフルを構える一人の兵士に声を掛けられた、その男性────キャスターのサーヴァント『ジェロニモ』は、死に行く勇敢な戦士達のためにもとラーマを連れて戦線を離脱していく。

 

「我々は……負けん……。この大地は……決して屈さない……!」

 

 ジェロニモの背を守るように、或いは鼓舞するように、構えたライフルで"名も無き戦士たち"を狙い撃ち続ける兵士達。

 死出の覚悟を持った彼らは、その命尽きる瞬間まで抵抗を続けた。が、彼らもまた荒野に積み上げられた骸と成った。

 

 

 

 然して、その想いは繋がり行く。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 北米の東部にある森林。そこに、唐突に眩い光が生じ、そして収まる。

 すると、数瞬前までは存在していなかった二つの人影が、そこにはあった。

 

「……ふう。レイシフト、無事完了ですね先輩。1783年のアメリカ────のどこかの森ですね」

 

 人影の一つである、薄紫色のショートヘアーで右目が隠れた、大盾を持つ少女────マシュ・キリエライトは、この特異点へ共にダイブしてきた己がマスターへと声をかける。

 

「アメリカのどこか、かぁ……。まあ、出会い頭にワイバーンがいるよりかはマシだね」

 

 彼女に対して苦笑を以って答えた、もう一人の影。空色の瞳に黒髪を持つ、平凡ながらも芯の通った青年────藤丸立香は、周囲に敵性生物がいないか、視線を巡らせていた。

 

 人理修復の旅路、それは熾烈なものであった。

 

 全ての始まり────炎上汚染都市冬木。

 

 事象に巻き込まれた藤丸立香と、デミ・サーヴァントと成ったマシュ・キリエライトは、未曾有の事実────人理焼却を突き付けられる。

 更に、同行していたカルデア所長オルガマリー・アニムスフィアが目の前で死に行く様を目にしてしまう。

 

 これを通じて、カルデアは人類唯一の生き残りとして人理焼却に抗い、藤丸立香という一般人は、世界を救うという膨大な使命を背負うこととなった。

 

 第一特異点────邪竜百年戦争オルレアン。

 

 舞台はフランス。そこには、二人のジャンヌ・ダルクが存在していた。

 自身を殺した国を滅ぼすべく、聖杯によって呼び出した英霊や竜種を統べし"竜の魔女"。

 そして、自身が処刑されて尚、国のため、人のために、もう一人のジャンヌの凶行を阻まんとする"聖処女"。

 

 このフランスでの凄惨な出来事は、たった一人の男が「そうあれかし」と願った結果であった。

 

『何を好きになり、何を尊いと思い、何を邪悪と思うか。それは君が決めることだ』

 

『僕達は多くのものを知り、多くの景色を見る。そうやって君の人生は充実していく』

 

『いいかい? 君が世界を作るんじゃない、世界が君を作るんだ』

 

 人間とは何か。自らの人生観を語った音楽家の言葉は、胸の内に確かに刻まれた。

 

 第二特異点────永続狂気帝国セプテム。

 

 ローマの地で争う二つの軍勢があった。一つは、人間であるネロ・クラウディウスが率いるローマ軍。もう一つは、英霊となったカリギュラやカエサル、ロムルスが率いる連合帝国。

 ネロの側に味方した藤丸達は、共に過去のローマ皇帝達を打倒していく。その最中で葛藤するネロと接し、皇帝とはいえ、彼女も一人の人間であることを、藤丸達は理解した。

 

『連合の下にいる民を見よ。兵を見よ。皆、誰ひとり笑っていない! いかに完璧な統治であろうと、笑い声のない国があってたまるものか!』

 

 人に笑みがないことは間違いであると断じた薔薇の皇帝。その信条は、然とその心に根付いた。

 

 第三特異点────封鎖終局四海オケアノス。

 

 陸地がほとんど無い大海原。そこで出会ったのは、無敵艦隊を破った嵐の航海者フランシス・ドレイク。

 彼女の船に乗った藤丸達は、もう一人の海賊エドワード・ティーチや、イアソン率いるアルゴノーツらと戦闘を繰り広げた。

 

『悪人が善行を成し、善人が悪行を成すこともある。それが人間だ、それが私達だ。だから、望みは誰にでもあるんだよ』

 

 矛盾した人の在り方や願望を、嵐の航海者は示した。それに従って生きた彼女の姿が、瞼の裏に焼き付いた。

 

 第四特異点────死界魔霧都市ロンドン。

 

 1888年のイギリス、ロンドン。謎の霧に包まれた街で邂逅を果たしたは、叛逆の騎士モードレッド。

 更にアンデルセンやシェイクスピア、ジキルなどを仲間として率い、魔の霧が煙るロンドンを探索した。

 

 そして相見える────魔術王を名乗る存在。

 

『なぜ戦う。いずれ終わる命、もう終わった命と知ってなぜ、まだ生き続けようとする。お前達の未来には、何一つ救いはないと気付きながら』

 

 人理焼却を行った魔術王ソロモン。彼の圧倒的な力の前に、敗北を喫する藤丸達だったが、自分達が立ち向かう敵の存在を、明確に知ることとなった。

 

 そして、五回目になる今回のレイシフト先は、1783年のアメリカ。この時代のアメリカに、まだアメリカ合衆国という国は生まれていない。

 この年に終結するイギリスとの独立戦争を経て、アメリカは国家として成立し、その後は世界の覇権を握るべく、合理的に突き進む怪物的な国家となっていく。

 

 そのため、歴史的に見ても重要なポジションにある国だ。そのようなアメリカに特異点が観測された。

 如何なる変化がもたらされているのか、特異点に至らしめている原因は何なのか、此度の強敵はどのような存在なのか。

 

 五回目とはいえ決して慣れない緊張と不安に、藤丸の心臓の鼓動は僅かに早鐘を打っていた。

 

 不意に、藤丸の右手首に付けられた通信機から音が鳴り、青白いホログラムが映し出される。お馴染みのDr.ロマンことロマニ・アーキマンだ。

 

『すまない、着いてそうそう緊急事態だ! その先の荒野で、大規模な戦闘が発生している! 詳細はわからないが急いでくれ! これはちょっと、普通の戦いじゃないぞ!?』

 

 焦りを隠さずに告げるロマン。発せられた戦闘というフレーズが、否応なしに藤丸達の顔を強張らせる。

 

「────マシュ!」

 

「はい! 行きましょう、マスター!」

 

 そうして二人は駆け出し、ロマンの指示に従って荒野へと向かう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

(────うぅん……あれ、オレ、何で寝て……えっと、あれからどうなったんだっけ)

 

 謎の倦怠感と頭痛に顔を歪めつつ、藤丸は今、自身の意識と記憶を水底からサルベージしていた。

 

 ロマンの指示に従い、戦場へと駆けた藤丸とマシュ。彼らが目にしたのは、銃を手にした人間、ミニバベッジ(違)、そして筋骨隆々な戦士が入り乱れて争う場面だった。

 

 状況を把握する前に、何故か双方の陣営から攻撃を仕掛けられる藤丸達。応戦するが、不意に藤丸はマシュの叫びを耳にし────

 

「患者ナンバー99、重傷。右腕の負傷は激しく、切断が望ましい」

 

(………………うん?)

 

 意識が覚醒する前に、藤丸の耳に流れ込んでくる、女性の物騒な言葉。

 明らかに彼へと向けられたソレの内容に、藤丸は、まさかそんな大怪我をしたのかと戦慄する。

 

「ここも……駄目でしょうね。左大腿部損壊。生きているのが奇跡的です。やはり切断しかないでしょう」

 

(────!?)

 

「右脇腹が抉れていますが、これは負傷した臓器を摘出して、縫合すれば問題ないはず」

 

(────!?!?!?!?)

 

 初手、困惑の極みである。

 

「大丈夫です、それでも生きられます。少なくとも、他の負傷者よりは遥かにマシです。あと二百年もすれば、高性能の義手も出てきます……気長すぎますか────さて、では切断のお時間です」

 

「ちょっと待って待って待って!」

 

 身の危険を感じ取り、即座に起床する藤丸。だが、そんなこと関係ないとばかりに、赤い衣服に身を包んだ女性は治療を施そうとする。

 

「本来なら医者の仕事ですが、何しろ軍医が絶望的に足りないので私が代行します。歯を食い縛って下さい、多分ちょっと痛いです。そうですね、例えるなら……腕をズバッとやってしまうくらいに痛いです」

 

「そのまんまじゃないですかっ!?」

 

「我が侭を言ってはダメです。少なくとも、死ぬよりはマシでしょう?」

 

 目付きがマジな女性に物理的に迫られ、たじろぐ藤丸。そこまで自分は重傷なのかと自らの身体を確認するが、特に目立った負傷は見当たらず。

 

「大丈夫、貴方はまだ若い。これくらいなら耐えられるはずです……いえ、訂正します。何としても耐えなさい」

 

「もう何が何でも切りたいんですね!?」

 

 聞く耳持たずの自称軍医の女性に、藤丸は隠すことなく焦り散らしていた。

 

「……そこ。治療中に不衛生な状態で割り込まないで下さい!」

 

 万事休すと嘆きかけたその時、助けに現れたは頼れる後輩。

 女性と藤丸との間に割り込んで来たマシュは、制止するよう呼びかける。

 

「待ってくださーい! ストップ! その人は違うんです!」

 

「患者は平等です。二等兵だろうが大佐だろうが、負傷者は負傷者。誰であろうと、可能な限り救います。そのためには、衛生観念を正すことが必要なのです。いいですね? そこを一歩でも踏み込めば撃ちますから」

 

「ふ、踏み込んではいませんが!?」

 

「踏み込みそうな目をしました」

 

 言っていることは正しいが、やってることが滅茶苦茶な女性に対し、「あ、この人たぶんバーサーカーの英霊だ」と察する藤丸だった。

 

 少し間を置いて、藤丸達は現状の把握に努めていた。

 

 まず、藤丸が気を失った理由についてだが、それは、砲弾と榴弾の直撃を食らったからであった。

 戦場へと駆けた藤丸達は、訳も分からないままに応戦していたが、戦場で混乱している者などいい的でしかない。

 その結果、着弾に巻き込まれた藤丸は吹き飛んだ。それを叫びとともに目にしたマシュ曰く、実に見事なきりもみ回転だったそうな。

 

 そうして、藤丸は野戦病院に連れ込まれた。そこで患者達に治療を施していたのは、赤い衣服に身を包んだ女性────クリミアの天使こと、フローレンス・ナイチンゲールであった。

 ナイチンゲールは、殺してでも治療する、という滅茶苦茶な信念の下に、負傷者に全力で治療を施していた。

 

 件の争い、その情報も断片的ながら得た。人間と機械の歩兵の軍勢は、この時代のアメリカ軍であるが、その相手方の正体は不明。少なくとも、イギリス軍でないことだけは確かだ。

 相手が誰であれ、アメリカ合衆国という国家を成立させないよう動いているのに、間違いはなかった。

 

「やはり、情報不足が否めないですね」

 

「それは仕方ないよ。でも、オレたちのやる事に変わりはない。召喚されているであろうサーヴァントの皆に、協力を求める」

 

「はいっ、先輩」

 

 力強く頷く藤丸とマシュ。どのような特異点であれ、仲間を得て、解決に尽力する。それに変化はないのだから。

 

 今回の特異点の攻略のためにも、まず、目の前で淡々と治療を施しているナイチンゲールに助力を求める。

 

「私達に協力して下さい。特異点を修正しなければ────」

 

「愚かなことを仰らないで下さい。目の前に患者がいます。私が召喚され、働く理由はそれだけです」

 

 取り付く島もない。ナイチンゲールはマシュに見向きもせずに手を動かしていた。

 感触が悪い。助力は得られそうにないかと思い、藤丸も彼女の説得に乗り出す。

 

「彼ら全てを救う手段があるんです」

 

「……今、なんと?」

 

 まさかの即オチであった。

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.最初のアレって、つまりアレよね?
A.あーあ、出会っちまったか(愉悦)。

Q.殺しを許容するとか(偽)ニキのキャラ変わりすぎちゃう?
A.意図してやってる。(偽)ニキは原作を歪めてしまった疲れからか、不幸にも第五特異点に召喚されてしまったので、せめてそこだけでも原作通りに行って欲しいと思ってます。その結果、ゲッシュで人殺しはできないけれど、対外的には人の死を何とも思ってない冷徹無慈悲な戦士、つまりは【オルタ】ほとでないにしろ、カルデアが打倒すべき悪を演じているんですね。はい。

Q.これからも(偽)ニキ視点とかはあるの?
A.あります。というか書かせてください(給水スポット並感)。基本的に、三人称視点では第五特異点を踏襲したストーリー進行、(偽)ニキ視点ではそのバックボーン的なストーリーを描くという構成を思案しています。ので、これからも思考停止脊椎反射トークで語録まみれにしてやるから覚悟しろ。


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。最近のFateコンテンツの盛り上がりにウァァ!!オレモイッチャウゥゥゥ!!!ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウ!イィィイィィィイイイィイイイイイイイイイイイイ!!となった私です。FGOのOP2ヤバない?新規鯖も然る事乍ら、言峰(デカチン)と士郎(村正)の共闘シーンで「エモッ!」ってなるでしょなるなる。そして水着イベでは『コンプライアンス』が『コンプライアンス』を着てるし、アビーおるし、紫式部おるし、とりあえず皆エッッッッッッ。キャストリアはぶっ壊れててあたおかだけど、ヴィッチの攻撃をレジストできる点が伏線過ぎる。更にHFⅢ章は早速観てきたんだけど……ウァァ!!オレモイッチャウゥゥゥ!!!ウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウ!イィィイィィィイイイィイイイイイイイイイイイイ!!(激情の発露)
はい。今回は、第五特異点のアバンタイトルに沿った内容となりました。冒頭にアイツ来ちゃったなぁ……(愉悦)。そして、アイツは更なる進化(?)を遂げているので、割とマジで台風の目になる予定です。パワーバランスやばすぎて頭おかしなるで。ストーリー進行としては、ケルト勢鯖の参加によって多少の変化はありますが、概ね、原作通りに進ませるつもりです。
次回の投稿は、早くとも一ヶ月後だと思いますので、気長に待っていただければ幸いです。というかマジで書くの時間かかるんすよね。私の場合、ネタ出し&構想(2〜3週間)、執筆(1〜2週間)、前書き&後書き(15分)みたいな配分なので、めちゃくちゃ時間かかるんすよね、はい。時間の使い方下手くそやなって思います。という訳で、次回もめちゃくちゃに首を長くして待ってて♡





















アンキア尊い……シグブリュ宝具カットイン尊い……水着巴の鼠径部エチチチチチ……やっぱ水着イベを……最高やな!

それはそれとして、はやくドラリンとクロニクル再販して(懇願)。


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クリミアの天使:三人称視点

こんだけ待たせておいて、話が大して進んでない小説があるらしいんですよ〜(クールポコ)。
やっちまったなぁ!って感じにマジで申し訳ない気持ちでいっぱいなので初投稿です。


 ◆

 

 

 

 クリミアの天使ことナイチンゲールの助力を取り付けた藤丸達。

 そんな彼らの元に、火急の知らせが飛び込んできた。

 

 ────このテントに敵が迫ってきている。

 

 その情報がもたらされ、藤丸達は即座に行動に移す。

 

 野戦病院であるこの場所には、負傷した兵士が未だ数多く臥せている。襲撃を許せば、死傷者は夥しいものとなるだろう。

 

 それ故に、藤丸達はこの場を守護するべく打って出たのだ。

 

「っ、多い……!」

 

 迫り来る敵兵、その軍勢を目にした藤丸は、噛み締めるように声を発する。

 以前までは縁遠い事象であった命のやり取り。何度も乗り越えてきたが、やはり緊張が伴う。

 

 そんな藤丸を他所に、ナイチンゲールは拳銃を片手に突貫する。

 

「速やかに終わらせましょう」

 

「あ、ちょっと待ってください……!」

 

 マシュの静止の声。それを聞かずして突撃するナイチンゲールは、接近した兵士の頭を拳銃で撃ち抜き、更に別の兵士に拳を叩き込む。

 

 早くも敵兵二人が戦闘不能。

 

「────マシュ! 婦長の援護に回って!」

 

「わかりましたっ……!」

 

 戦闘に特化した逸話を持っていないにしろ、今のナイチンゲールは狂戦士の英霊。補正の入ったステータスは優秀だ。

 しかし、彼女の攻撃手段は拳銃による射撃か肉弾戦の二択しかない。数を相手にするとなれば、そこに限界が生じてしまうだろう。

 

 そのことを、これまでの経験則から鋭敏に感じ取った藤丸はマシュへと、ナイチンゲールの援護を素早く指示する。

 

 そこからは乱戦であった。敵兵の軍勢はサーチ・アンド・デストロイを掲げるが如く、サーヴァント二騎に殺到する。

 敵兵は数こそ多いものの、単体のスペックでは藤丸達に軍配が上がっていた。ナイチンゲールが攻撃し、マシュが護り、藤丸が回復と強化で補助するという役割分担。

 

 そうして次第に軍勢は数が減っていき、遂には膠着状態となる。

 

『待った! 敵性サーヴァントの反応がある……二騎!』

 

 不意のDr.ロマンの喚起に、思考をより鋭利なものへと変化させる藤丸達。

 彼らの視界に、こちらへと歩み寄ってくる二人の男性の姿が入った。

 

「王よ、見つけましたぞ」

 

 一人は、紅の長槍と黄の短槍が特徴的な、垂れ目と泣き黒子を持つ整った顔立ちの戦士。

 

 もう一人は、「王」と呼ばれた、二メートルはある両手槍を持った長い金髪の美丈夫。

 

「どうやら彼らがサーヴァントのようです。戦線が停滞するのも無理はない。名を残せなかった戦士達ではここが限界でしょう。今こそ我らの出番です」

 

「さすが我が配下ディルムッド・オディナ。君の目はアレだな。そう、例えるなら隼のようだ!」

 

「……滅相もありません。貴方、フィン・マックールの知恵に比べれば私如きは」

 

 二人の会話から真名が判明する。ディルムッド・オディナ、そしてフィン・マックール。

 

 二人はケルト神話の"フィニアンサイクル"という物語出身の英霊である。

 神話上では、フィンが「王」で、ディルムッドが部下という主従関係にあり、互いに信頼を置く間柄であった。

 だが、女性関係で色々と拗れてしまい、フィンはディルムッドの裏切りに、ディルムッドは己の不忠に怒り、双方共が後味の悪い最期を遂げている。

 

 しかし、此度は生前の諸々を抜きにしてツーマンセルを組んで行動していた。生前のあれこれを清算するかのように。

 

「ハハハ、謙遜はよしこさん。君の審美眼は確かだ。()()()()を選んだのもそれを証明している」

 

「……い、いや。それは……その……ええと……」

 

「すまない、冗談だよ冗談! 少し性質が悪かった!」

 

 が、早速のギスりである。いや、フィンのブラックジョークというべきか。

 フィンは微笑みを湛えているが、ディルムッドは叱られた犬のような反応を返した。

 

「さて、それでは戦おう。我らフィオナ騎士団の力、存分に彼らに見せつけよう。そして────この豊穣たる大地に、永遠の帝国を!」

 

「御意! では、ご婦人方────お覚悟を。我はフィオナ騎士団の一番槍、ディルムッド・オディナ!」

 

 名乗りを上げ、藤丸達へと武器を構える二人の戦士。敵対関係にあったが、藤丸は彼らから真なる騎士道精神を感じ取った。

 

「ディルムッド……"輝く貌"のディルムッド・オディナ……! そして背後に控えているのは、その主であるフィン・マックール……!」

 

 マシュは眼前の戦士達の名を耳にし、相手が如何なる存在の英雄かを理解する。

 藤丸もまた、学生時代にケルト神話について調べたことがあったため、双方の名に心当たりがあった。

 

「つまり、貴方がたが病原の一つということですね」

 

「病原……? いや、我らはただの戦士だ。それ以上でもそれ以下でもない────うおッ!?」

 

 ナイチンゲールは早々にディルムッドらを病原体だと断定し、彼に躊躇いなく発砲する。

 

「────その死を以て、病を根絶させます!」

 

「くっ……人の話を聞かないタイプか……! 苦手だ、そういう女性は本当に苦手だ……!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 レイシフト後の対サーヴァント、その初戦。ランサーのサーヴァント、ディルムッド・オディナ。

 先程の前口上の"一番槍"の通り、先ずは彼が一人で戦うらしく、フィンはディルムッドの背後で見に回っていた。

 

 サーヴァント同士による戦闘が開戦しようとしている。肌に纏わり付く戦意にひりつく藤丸だが、即座に指示を飛ばせるよう、油断なくディルムッドを見据える。

 

(英霊の宝具は、その人物の逸話とか、持っていた武具なんかが昇華されたもの。……確か、ディルムッドといえば────)

 

 記憶を巡らせ、僅かな思考の引っ掛かりから情報を手繰り寄せ、藤丸は彼の双槍に視線を向けた。

 

「────マシュッ、婦長ッ、ディルムッドの槍に気を付けてッ……! 紅い長槍は、魔術や魔力を掻き消すゲイ・ジャルグ! 黄色い短槍は、付けた傷の回復を無効にするゲイ・ボウだ!」

 

 藤丸が声を上げた途端、ディルムッドは目を細め、薄く笑みを浮かべる。

 

「知っていたか……我が槍を」

 

 ディルムッドの肯定を以て、マシュはより一層の警戒を露わにし、一方のナイチンゲールは「傷の回復を無効にする」という部分に目敏く反応する。

 

「治すことを妨害するとは、見過ごせません。やはり、ここで終わらせねばなりませんね」

 

 ペッパーボックスピストルを構えたナイチンゲールは、即座に銃口をディルムッドに向け、発砲する。

 迫る鉛玉を、ディルムッドは容易に槍で弾きながら地を蹴り、ナイチンゲールとの距離を詰める。

 

 疾風の如く駆けるディルムッドに、彼女は冷静に射撃を継続。

 

 発砲────またも槍で弾き返される。

 

 発砲────超反射で躱してみせる。

 

「────取ったッ!」

 

「させません……!」

 

 瞬く間に接近したディルムッドは、浅く持ったゲイ・ジャルグを振るい、その穂先でナイチンゲールに斬り掛かる。

 彼女を斬り裂かんとする凶刃を、間に滑り込んだマシュが盾で受け止め────

 

「はぁッ!!」

 

 ────シールドバッシュによってディルムッドを押し返す。

 

「ぐっ……おおッ!?」

 

 飛ばされ体勢を崩したディルムッドへ、ナイチンゲールは容赦なく追撃を狙う。

 マシュの背後から、弾かれたように飛び出た彼女は、ディルムッドへと一直線に跳んだ。

 

 その振りかざした右手には────何処からか取り出した、安全ピンを外した結束手榴弾が握られていた。

 

「滅菌ッ!!」

 

 独特な掛け声と共にナイチンゲールは右手を振り下ろし、結束手榴弾でディルムッドを直接殴り付ける。

 

 直後、爆発。身体の奥から震わす爆発音を響き渡らせる。

 ナイチンゲールは爆風に触れる直前でステップを踏んで回避したが、ディルムッドは炎に身を包んだ────が、しかし。

 

 不意に、炎を斬り裂いて伸びる緋色の穂先。

 

「…………!」

 

 首を断つ軌道を、ナイチンゲールは身を屈めることで既で躱す。

 彼女の回避行動を見透かしたように、土煙から突き出す黄色の穂先が、ナイチンゲールの右肩を狙い穿つ。

 

 黄色の短槍は回復を無効にする。その情報を事前にもたらされていたために、ナイチンゲールは常に短槍に注意を払っていた。

 だからこそ、彼女はそれが放たれる予感を鋭敏に感じ取り、咄嗟に地を転がることで避けることが出来た。

 

 ナイチンゲールは土煙に向けて二発、三発と射撃を行いつつ、バックステップで距離をとる。

 一方のディルムッドは、弾丸と視界不良を避けるべく土煙から脱し、再びナイチンゲールへと突貫する。

 

 勢いを殺さず、加速するディルムッド。彼は瞬時にナイチンゲールとの距離を詰め、神速を乗せた蹴りを見舞う。

 生身でありながら岩すら砕きかねない強打を、ナイチンゲールは両腕を交差して受け止めることで致命的なダメージを防ぐ。だが、強烈な攻撃を殺し切れずに吹き飛ばされた。

 

「だ、大丈────ぐっ!」

 

 彼女を案じるマシュに、たたみかけるようにディルムッドの槍撃が振るわれる。

 

「他者を案じるのは構わんが、戦場で注意を欠くは愚かだぞ」

 

 ゲイ・ジャルグの横薙ぎが受け止められるやいなや、ディルムッドは続けて左脚で盾を蹴りつける。

 

「っ……!!」

 

 大地に線を刻み付けながら後退させられたマシュに、ディルムッドは追撃を見舞う。

 リーチを最大まで活かすように大振りで槍を振るい、一閃。その魔槍は轟ッ! と空気を裂く音を奏でた。

 

 一方のマシュは、シールダーのサーヴァントに恥じない堅牢な護りによって一撃を防ぐ。

 だが、防いだ端から長槍の殴打が次々と迫り、油断をすればその隙間に入り込むかのように短槍が差し込まれる。

 

 苛烈さと巧さを兼ね備えたディルムッドの猛攻に、マシュの精神がすり減らされていく。

 このまま戦闘が続けば、マシュが仕留められるのも時間の問題だろう。

 

「────マシュ!」

 

 そうさせないためにマスターが、藤丸立香がいる。

 

 マシュに向けた藤丸の手が淡い光を放ち、それに呼応するようにして彼女に光が帯びる。マシュへ強化を施したのだ。

 

「ッ! はあぁぁぁ……!」

 

 己がマスターの助力を感じたマシュは、ディルムッドの猛攻を防ぐのではなく、力技で押し返す。

 シールドバッシュで槍撃を粉砕し、瞬間的に生じた攻撃の空白。そこを逃さず、攻防の主導権を取り返す。

 

 ディルムッドを僅かに後退させたところでマシュは跳び、大盾を下に構えて落下する。落下位置にいるのは、彼。

 

 ディルムッドが技の巧みさで戦うのなら、その悉くを上から押し潰してしまえばいい。

 生憎、槍と大盾という質量が圧倒的に異なる主武装。故に、瞬間的にであっても、力さえ上回れば実現できる。

 

「おおッ……!」

 

 不意の一転攻勢に瞠目するディルムッド。降り掛かる強撃は防げないと本能で察し、後ろに跳ぶことで直撃を回避する。

 間もなくしてマシュが大地に落下する。そして振り下ろされた大盾は地面を罅割れさせ、陥没させ、岩片を撒き散らした。

 

 舞い散る大地を貫く人影────復帰したナイチンゲールが、一直線にディルムッドへと殴り掛かる。

 

「消毒ッ!!」

 

「ぐッ……!?」

 

 咄嗟に槍を宛てがうが、衝撃はあまりに重く。ナイチンゲールの拳はディルムッドを飛ばし、地を転がした。

 

「…………っ、中々やる」

 

 そうして互いに距離が開き、仕切り直し。マシュとナイチンゲールは油断なく見据え、ディルムッドは好戦的な笑みを浮かべながら敵を見定める。

 

 すると、ディルムッドの後方に控えていたフィンが、己が騎士に歩み寄る。

 

「不覚をとったなディルムッド! 任せよ、傷を癒すぞ!」

 

 携帯していた水袋を取り出し、少量の水をディルムッドに垂らす。と、忽ち彼の負傷が癒されていく。

 この水はフィンの宝具「この手で掬う命たちよ(ウシュク・べーハー)」────それは、彼の掬った水は癒しの力を得る、という逸話が宝具に昇華されたものである。

 

「我が主、感謝を。そして謝罪を。申し訳ありません、圧されました」

 

「ふふふ、さすが"女殺し"のディルムッド。やはり女性を相手取るのは苦手かな?」

 

「いや、それは、その…………」

 

「ふっはっは、冗談さ冗談、割と気の利いたね! だが気にする事はない。二人共に見目麗しく、強い女性だ。槍の穂先が鈍るのも無理はあるまい」

 

 ちょっと笑えないワンクッションのギスりを入れ。同時に、フィンはマシュとナイチンゲールを難敵として捉える。

 

「さて、それでは私も出張るとしよう。栄光たるフィオナ騎士団の名の下に────その首級、貰い受けようッ!」

 

 ディルムッドの隣に並び立ったフィンは声高に宣戦し、槍を構えた。

 それに連なるように、ディルムッドもまた笑みを湛えつつ構える。

 

 戦意の矛先を向けられたマシュは、更なる激闘の予感から、額から汗が滴る。

 ナイチンゲールは眉ひとつ動かさずに、拳に力を込める。その胸に抱くは、病巣の滅殺。

 

「ランサー、フィン・マックール……行くぞッ!」

 

 戦端は、再び切って落とされた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ケルト────それは、戦闘行為に貪欲な戦士達が形成してきた文明。戦いを良しとし、戦場で散るは誉れ。

 故に、ケルトに属する者達は武芸に長けている。類に漏れず、フィンとディルムッドもまた一流と呼ぶに相応しき戦士である。

 

「続けッ、ディルムッド!」

 

「承知ッ!」

 

 駆けるフィンが吼えるように指示を飛ばし、それに追従するディルムッド。

 端から()()()()()()()としても、そこに敵がいるのなら挑まざるを得ない。

 

 それでこそ、ケルトの戦士なのだから。

 

「相手は手練だ。二人共、気を付けてッ!」

 

「はい! 行きます……マスター!」

 

「全ての病を取り除くためにも、ここで倒れる訳にはいきません」

 

 マシュとナイチンゲールもまた、眼前の強敵へと向かって駆け出した。

 

 そうして────衝突。

 

 接敵から間を置かずして放たれるフィンの一撃。疾走の勢い、練り上げた技術、そして生前の友と肩を並べて戦える高揚感。その全てが相乗された一閃。

 

「さあ、輝いてしまおうか……!」

 

 薙ぐようにして振るわれた魔法の槍、その残光をなぞるようにして、刃の如き水流が出現する。

 ナイチンゲールより先行していたマシュは、その初撃を盾で受け止め、押し返す。

 

「なるほど、此方の一撃を容易く弾くか!」

 

「はあぁッ!」

 

 攻撃を弾いたことでフィンの懐に隙が生じ、マシュはそこへ目敏く一撃を叩き込む。

 カウンターの要領で放たれたこれを、フィンは僅かな脚さばきのみで躱してみせ、再び槍で横薙ぐ。

 

「ふむ、戦いに身を置いてきた、というワケではなく、戦わざるを得なかった、というべきか。ああ、実に健気だとも」

 

 鋼すら斬り裂く斬撃をして、マシュの盾には傷一つ付かず。鍔迫り合いになると、フィンは柔和な笑みをマシュに向ける。

 そこからは力量を測るではなく、互いに激しく打ち合う。刺突、弾き、薙ぎ、受け止め、斬撃、いなし。目まぐるしい攻防を繰り広げる。

 

 一方のナイチンゲールはというと、やはり"傷を癒せない"という部分を許せないとして、迷うことなくディルムッドに突貫する。

 

「貴方を滅さねば治療に支障をきたします。早々に消えなさい、病原!」

 

「病原ではなく戦士だと……!」

 

 話を聞かないタイプの女性に辟易するディルムッドだったが、ここは戦場、気を抜くことなどする訳がなく。

 拳銃に結束手榴弾、そして英霊を潰しかねない拳という危険物の塊のようなナイチンゲールに、彼は冷静に対応してみせる。

 

「ふッ!」

 

 浅く構えた紅の魔槍を、遠心力を乗せるようにして大振りに振るい、地面を抉る程の一閃を放つ。

 ナイチンゲールの脚を斬り裂かんとするそれを、彼女は軽い跳躍で避けるが、正確には空中に跳ぶよう強要するものだった。

 

 マシュと異なり、ナイチンゲールには明確な武具の類が存在していない。

 故に、武装した相手の攻撃の対処は、基本的に躱すか受けるかの二択となる。

 

 ナイチンゲールは何の躊躇いもなく地から脚を離した。

 

「────捉えたッ!」

 

 この瞬間を待っていた、と言わんばかりにディルムッドはゲイ・ボウの刺突を、回避行動が困難なナイチンゲールへと繰り出す。

 

 仮に致命傷にならなかったとしても、ゲイ・ボウの付けた傷は癒せないため、後々まで響く。

 この一撃で仕留められないにしろ、何のことも無いはずの傷が、簡単に決定打へと転身する。それこそがゲイ・ボウの強みである。

 

 だからこそ、ディルムッドは短槍を迷いなく放った。

 

「なッ……!?」

 

 だからこそ、驚愕した────ナイチンゲールは、寸分の狂いなくゲイ・ボウの刃を白刃取りしてみせたのだから。

 掌に傷すら残さず。そしてナイチンゲールは、すぐさまゲイ・ボウの柄を掴んでディルムッドを引き寄せ、ほぼゼロ距離でペッパーボックスピストルの引き金に指をかけた。

 

「殺菌ッ!!」

 

 そして、発砲。常人であれば間違いなく鉛玉に直撃して死傷するレベルの行為であり、増して、不意打ちに近いこれを回避するなど不可能に等しいだろう。

 

 だが、ディルムッドは避けてみせた。唯一幸運だったのは、完全なゼロ距離ではないことだった。

 また、銃口が顔に向けられていたことも幸いし、反射的に頭をそらすことで、頭部が吹き飛ぶことを回避した。

 

 しかし、ナイチンゲールの攻撃は続く。

 

 銃撃は外れたが、今の彼女はディルムッドの懐の深くに潜り込んでいる。

 ナイチンゲールは跳んだ勢いのまま、ディルムッドを押し倒し、その上に馬乗りとなる。

 

 女性が男性の上に乗るなどセンシティブなシーンのようだが、如何せん、血の気が多過ぎるため、艶かしいとかいうアレは一切ない。

 

「ぐっ……!? このッ、……!?」

 

「緊急治療ッ!!」

 

 抵抗できないディルムッドを眼下に、ナイチンゲールは拳を引き絞る。何をやろうとしているのか、それは簡単に察せられた。

 

 否応なしに振り下ろされた彼女の拳、それは流星の如く。

 ディルムッドは首を僅かに動かすことで直撃を避けたが、掠った耳が焼けるような痛みを訴える。

 

 次の瞬間、ナイチンゲールの拳は破砕音を伴って大地に突き刺さった。

 これが顔面に叩き込まれていたら、と冷や汗が流れるディルムッド。

 

 この体勢では圧倒的に不利だとして、ディルムッドは足を曲げて地を蹴り、刹那の拘束の緩みに抜け出す。

 

「何と破天荒な戦い方だ……!」

 

 苦笑しつつも、素直にナイチンゲールを称えるディルムッド。バーサーカーというクラスの影響もあるのか、彼女の鬼気迫る戦闘スタイルに気圧されたのだ。

 

「女の身でこれ程とは……生前ではドルイド僧くらいしかおらなんだ。貴様、軍医と見受けたが、その実、戦士を生業としていたのではないか?」

 

「私は、己が傷付き、命を落としたとしても、人々を治療し(戦い)続けなければならないのです」

 

「……なるほど、立場は違えど歴とした戦士ということか。ならば、この槍の重みに足る意味があるというもの」

 

 改めて双槍を構えたディルムッドは、獰猛な笑みを更に深め、ナイチンゲールに攻撃を仕掛ける。

 ナイチンゲールもまた己が信念を貫くべく、ディルムッドに突貫していく。

 

 戦闘は、まだ始まったばかり。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 藤丸達がフィン、ディルムッドと交戦してから、早くも十分は経過した。

 

 初めはマシュ対フィン、ナイチンゲール対ディルムッドという構図だったが、時間共に双方入り乱れ、正しく乱戦の様相を呈していた。

 

 マシュとナイチンゲールは、出会って間もないながらに互いの短所を補い、長所を活かす立ち回りをしていた。

 それを可能としたは、マスターの存在が大きい。常に俯瞰的な戦況把握に努め、指示を飛ばし、時に強化や治癒を施す。それらがあったからこそ、マシュ達は歴戦のケルト戦士相手に拮抗してみせたのだ。

 

 だが、だったとしても、フィンとディルムッドを仕留めるには至らず。

 

「ふむ、我々二人でも手に余るとは。これは中々……歴戦の勇士だったかな?」

 

「マスター、攻めきれませんでした……!」

 

 槍撃が止み、戦場に静寂が満ちる。構えを解いたフィンが、微笑みながら言葉を投げかけた。

 唐突に戦意を消した行動に、藤丸達の頭に困惑と警戒が浮上する。

 

「……! 怪我人の気配が……!!」

 

「って、えっ!?」

 

「婦長、どこへ!?」

 

 今の今まで死闘を繰り広げていたはずのフィン達を前にして、ナイチンゲールは目もくれずに野戦病院の方向へと爆走。

 警戒を怠らずにフィン達を見据えていた藤丸達だったが、思わず明確に焦りを露わにする。

 

「おや、彼女は気付いたようだね」

 

 意図が不明なナイチンゲールの行動、その答えをフィンが告げる。

 

「真名を明かせぬシールダーのサーヴァントよ。この聖杯戦争は、字義通りの戦争なんだ。我々としては、君達を踏み留まらせておけば良かったんだ」

 

 フィン達は藤丸らと遭遇し、矛を交えた。フィン達は彼らを強敵と認めはしたが、倒すまではせず。今回は足留めすることがフィン達の役目だったからだ。

 その証拠に、フィン達は真名解放を伴う宝具の使用は、一切することはなかった。

 

 これまでの戦いの意図、それを聞いた藤丸達は瞠目し、そして気が付く。

 開戦時は山のようにいたはずの敵兵、その数が減っていることに。

 

「まさかッ……!」

 

「……ッ! 他の兵士達を……!」

 

「彼らは名も無き戦士たち。ただただ戦い続ける比類なき怪物だ。もちろん、サーヴァント相手には鎧袖一触の存在だが────アメリカ軍相手には、どうだろうね?」

 

「くっ……!」

 

 そう、これは戦争。単純な決闘などでは断じてない。強敵の足留めを行い、その隙に別の敵を叩く、という手段が当然のように選択されて然るべきなのだ。

 勝てば官軍、負ければ賊軍。それがまかり通ってしまうのが現実であり、勝者こそがルール。敗北者が何と言おうと、それは負け犬の遠吠えなのだから。

 

「君達を足留めすることができ、本当によかったよ。我らの役割、これを全うしなければどんな沙汰が下されることか。いやはや、あの()()()は美貌を欲しいままにしているが、同時に容赦がない」

 

 心底、安堵するような息を吐くフィン。貴婦人と呼ぶ女性を美しいと褒め称える反面、彼女の()()を見抜いていた。

 

「あれ程の女性に尽くされるとは、実に男冥利に尽きる。まるで私のようだ。そうは思わないかな、ディルムッド?」

 

「……あ、その……は、い……」

 

「はは。冗談だよ、冗談! 割と踏み込んだね! まあ、私の魅力は本物だが」

 

 状況を把握した藤丸達は、直ぐにでもナイチンゲールの後を追い、少しでも人々を守りたい。

 だが、敵前逃亡とも呼べるそれを、果たして眼前の戦士が許してくれるものか。

 

(どうすればいい……! 考えろ……!)

 

 何か妙案が思い付かないかと思考する藤丸に、焦りばかりが募る。

 

 不意に、藤丸の耳に多数の足音が入った。今の藤丸には、それが福音のように聞こえた。

 

「……! 王よ、お退がりを!!」

 

「────何!?」

 

 この戦場に、軍勢が押し寄せる。"名も無き戦士たち"とは明らかに異なり、この地に生きる人間によって組織された武装集団。

 その軍勢の先頭に立ち、指揮しているのは一騎のサーヴァント。

 

「右翼、左翼、敵を包み込め! 我々は中央突破を謀るぞ! 連中は目の前のことしか処理できぬ獣だ! こちらには知恵がある!」

 

 そのサーヴァント────ジェロニモは、仲間達に指示を飛ばし、"名も無き戦士たち"の撃破に動き出す。

 彼らがこの場に介入した理由は、この地を脅かす侵略者達から人々を、()を守るためであった。

 

「あれは……噂に聞くレジスタンスか……! サーヴァントが増えたのであれば手の施しようがない。ここは一目散に撤退だディルムッド!」

 

 フィンの呟きを聞き逃さなかった藤丸は、そこから情報のひとつを引き出す。

 

(レジスタンス……、アメリカ軍とは違うのか……?)

 

 今のカルデアは圧倒的に情報不足だ。故に、現状で提示されている事実や話を整理し、推測し、結び付けることが必要である。

 思考の海へとダイブしかけたその時、フィンとマシュとのやり取りで、藤丸は無理やりサルベージさせられる。

 

「ああ、その前に大事を忘れていた────麗しきデミ・サーヴァントよ」

 

「わ、私ですか?」

 

「そう、君だよ君。君は我々と戦うことを決めているのかな?」

 

「……はい。マスターと共に、貴方達を討ちます」

 

「よい眼差しだ。誠実さに満ちている。王に刃を向ける不心得はその眼に免じて流そう。その代わり────君が敗北したら、君の心を戴こう! うん、要するに君を嫁にする」

 

「………………はい?」

 

 目を白黒させ、困惑するマシュ。何を言われたのかは分かるが、何故そんなことを言うのかが理解できない。

 ついでに言えば、藤丸もまた口を広げて呆然としていた。

 

「楽しみだな、実に楽しみだ! 実に気持ちのいい約束だ! では、さらば! さらばなり!」

 

 マシュの聞き返しの「はい」を、同意のニュアンスとして受け取ったフィンは、一転して上機嫌になり、足早に立ち去る。

 対しディルムッドは苦い顔を晒す。言葉にせずとも、またやらかしたか、と顔に書いてあった。

 

「失礼。我が王のささやかな悪癖です。悪戯と思われましょうが、ああ見えて嘘偽りない御方。貴女の勇姿に参ってしまったのでしょう。敗北した暁には、どうか降伏と恭順を考慮して戴きたい」

 

 主のフォローをしつつ、ディルムッドもまた撤退して行く。

 

 嵐のような一連。フィンとディルムッドの遠ざかる背を、藤丸達は阻止するでもなく、眺めるしかできなかった。

 

「……あの、最後のあれは何だったのでしょうか」

 

「プロポーズされた……みたいだね」

 

「そ、そうなんですか。それはちょっと……驚きですね。えっと、あの方自体には何も感想はないのですが、その言葉自体はインパクトがあるというか……」

 

 僅かに頬を朱色に染めたマシュ。それに何となく居心地の悪い感情を抱く藤丸だったが、 それどころではないと頭を振る。

 

 すると、合間を縫うように入る着信音。カルデアからの通信だ。

 

『おーい、大丈夫かい? ひとまず敵サーヴァントの反応が消えたようだけど。代わりに別のサーヴァントが現れたようだ。そちらに接近している』

 

 緊迫した空気が続いていたからこそ、Dr.ロマンのゆるふわな声色に安堵を覚える藤丸達。

 

「行こう、マシュ!」

 

「はい! 急いでナイチンゲールさんと合流しましょう!」

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.藤丸君よく槍のこと知ってたね。
A.以前に調べたことを頑張って、思い……出した!綴る!(謎)

Q.婦長ってこんな戦い方なんか。
A.めちゃくちゃ想像で補った。ゲームでのモーションを改めて見直したり、キャラ設定を読み込んだりして描いたんだけど、違和感あったら申し訳ナス!

Q.生粋のケルト戦士にマシュとナイチンゲールが拮抗できるもんなの?
A.一応サーヴァントってスペックですし、フィン達にもコロコロする意図もなかったからですかね。


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。プリコネではクランを結成して色々と頑張り、Fate/GOではボックスイベを走り続け、半沢直樹は面白くて鳥肌だしで、あーもう時間壊れちゃう……!(謳歌)
今回は藤丸達VSフィニアンサイクルのお話でした。が、こんだけ文字を連ねておきながら、Fate/GO本編でいうと第2節「クリミアの天使」の進行しかないんですよね。やっぱつれぇわ……(王子)。
今回はマジで戦闘描写ばっかで、執筆カロリー高めの肥満文面(謎)でした。しかもナイチンゲールの戦う様をどうすべきか、それを練るのがホントに難産でした。ですが、ナイチンゲールの戦闘スタイルとして違和感がないよう努めましたが、どうでしたかね?(震え声)
さて、次回は第3節「星の欠片」となります。今回までは原作との違いが薄いですが、次回は原作との違いがいくらか出始めると思います。現状の北米の抗争図の説明や、とある人物の登場などを予定しています。早く描く努力はしますが、やはり時間はかかるので暫くお待ちをば。では、サラダバー!




















バニー師匠が非常に股間に悪い件(素直)。そしてシレッとアーケードに襲来するグランドクソ女マジ最かわで股間にわr(略


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アバンタイトル、クリミアの天使:裏

真面目な三人称視点が続いてたから、唐突に描きたくなった。後悔はしてない。


 ◆

 

 

 

 ラーマは強敵でしたね……。つか、ラーマの生命力やヴぁい。ボられて心臓八割散ったのに、割と動けてたんですけど。

 

 生前に魔槍で人を穿ったことがない分、今生で初めて人相手に魔槍を放った。

 原作遵守のためとはいえ、ラーマには本当に申し訳ない(人工無能)ことをしてしまった。今度会ったら謝ろう。

 

 モリガン? アレはノーカンでしょ。毎秒ボられて、どうぞ。

 

 とりあえず、俺がラーマをほぼ戦闘不能にしてからは、原作通りにジェロニモ率いるレジスタンスが現れ、ラーマを回収してくれた。

 これには俺も御満悦。良い気分のまま、機械化歩兵を壊し回らせてもらった。そりゃあもう、クラッシュをギアする感じに。

 

 ただ、メイヴが「せめてコレだけでも持って行って!」と付けてくれた"名も無き戦士たち"が、蛮族スタイルで生身の人をコロコロしてたのは……うん、ちょっと精神にキた。

 生前に我儘突き通して「誰も死なせない」とかいう歴史クラッシュをやった癖して、人を見殺しにするなんて行為、自分でもどうかと思ったさ。

 

 その戦いに誉れはないのか、と問われれば「誉れは浜で死にました」と返す他ない(冥人並感)。

 

 でもこれ、レーグ君が側に居たら絶対に怒られるやつ。何時ぞや「間違っていると思ったのなら、否定もしますし止めもしますよ」って言われたっけな。

 

 そういや、レーグ君はまだ召喚されませんかねぇ……?(SNJ)

 

 しかし、こればっかりはコラテラルダメージ。俺というイレギュラーが存在しちゃってる以上、せめて藤丸君達だけでも、原作通りの第五特異点を経験して欲しい。

 その方が俺にとって都合がいいってのもあるが、それ以上に、もうこれ以上の崩壊はやめて欲しいという胃痛を伴う願いがあるので……ホントに頼む。いやマジで。

 

 そんな思考に耽りつつ、俺はホワイトハウス────現在のケルト勢力の拠点に帰還した。

 

「っ! おかえりなさいっ、クー・フーリン!」

 

 ホワイトハウスの正面入口、そこに出待ちをするかの如く待機していたメイヴに、出迎えられる。

 俺を見つけた瞬間、小走りにこちらに駆け寄り、満面の笑みを携えて抱き着いてくる(理性損傷軽微)。

 

 ────言われた通り、無事に帰還したぞ。

 

「ふふっ、信じてたわよ。ねえ、アナタの活躍、私に聞かせてくれる?」

 

 そう言いながらメイヴは俺の腕を取る。

 

 改めてだけど、メイヴのこの圧倒的ヒロインムーブやべえな。これいつオトされっかわかんねえよ……とか思い始めている辺り、着実に攻略されつつある。……俺の攻略とか需要ある? 

 

 そんなこんなで、俺はホワイトハウスにあるメイヴの私室に連れ込まれた。もう慣れたさ……。

 彼女の私室はホワイトハウスの一室を無断で改造したもので、何処から持って来たのかは知らないが、高級そうな天蓋ベッドやら家具やらが置かれている。

 

「それで、アナタが出てまで戦った、その相手はどんなヤツだったのかしら?」

 

 天蓋ベッドに俺を座らせ、その膝の上にメイヴが座る。完全に背をこちらに預け、更に俺にあすなろ抱きをさせている状態。

 そんな体勢のまま、メイヴは俺を見上げるように聞いてくる。ゲロ甘ですね、はい。

 

 メイヴは事ある毎に俺にべったりで、ボディタッチ九割のスキンシップを頻繁にとってくる。おかげで俺の精神はボドボドダ! 

 

 ────ありゃあ、セイバーのサーヴァントだったな。剣の腕も、誇りも、どれを取っても一級品だったぜ。

 

「ふーん、アナタにそこまで言わせるなんてね」

 

 いやまあ、ラーマですしおすし。真名を言う訳にもいかんから、とりあえず強いサーヴァントってことだけは明確に伝えることにする。

 

「でも、クー・フーリンが勝った。でしょ? どんな風に仕留めたの? 私に教えて?」

 

 ねだるような猫なで声で、囁くように俺の話を促してくるメイヴ。ふーん、えっちじゃん(理性損傷拡大)。

 うぬう、グイグイくる。流石はメイヴ、攻めっ気はK2並に高い。こういう時のメイヴは止まんねぇからよぉ……! 

 

 俺はラーマとの一戦を、事細かにメイヴに話す。熟達の剣技、"ブラフマー・ストラ"という宝具、心臓八割ブチ抜き、そしてレジスタンスに回収。

 説明し終えた頃には、メイヴの顔は女王のそれになっていた。

 

「……やっぱり、レジスタンスとかいう第三勢力が邪魔してるのね。そういう輩は何時の時代もいる。ホントに面倒なヤツらね」

 

 うむむ、と唸るメイヴ。統治者には統治者の苦労がある。それを嫌という程理解しちまうね、全く。

 

 メイヴが俺を召喚した時、俺と一緒に国をつくってほしいと言ってきた。

 生前でもそうだが、その前の人生でさえ、国を治める経験などしたことがない。

 そんな左右もわからん奴が、国を一緒につくってもいいのだろうか? と、メイヴに零したことがあった。そしたら何て返してきたと思う? 

 

『大丈夫っ! 心配しないでいいのよ。私はアナタが望む事を実現させるから、何かあったら好きに言って?』

 

 こんなだぜ? ヤバない? 要するに、俺のやりたいことをメイヴが叶えてくれるらしい。何なんそんな甘やかしてきて? オギャらせたいの? 

 

 俺だって甘やかされっぱなしは嫌だったんで、建国のために統治者っぽいことは頑張ってたさ。

 けどその度に、やれアッチでは侵攻が上手く行かないだの、やれコッチでは抵抗が激しいだの、問題が次から次へとやってきて、余裕でキャパオーバーだったよ! 

 というか、頭ケルトの蛮族しかおらんから、これ統治というより指揮官と呼称した方が適切なまである。

 

 だからこそ、頂点に立つ人間の苦労というものが嫌という程にわかる。

 だというのに、それを当たり前のようにこなし、プライベートな時間もしっかり取るメイヴは凄いんだなって思う。

 

「ね、クー・フーリン。アナタはレジスタンス連中を、どうしたい?」

 

 甘ったるい声色に、僅かな冷酷さを滲ませたメイヴに、レジスタンスの処遇をどうするかという意見を求められる。

 いやこれ、意見というより、俺の意思によってレジスタンスの今後が左右されるのでは? 

 

 今更ながら、俺には原作通りにいって欲しいという信念がある。なので。

 

 ────今まで通り、見敵必殺。後は遊撃として、フェルグスやフェルディアに敵性サーヴァントを殺らせる、だな。

 

「いいわね、それ。じゃあ、それで決まりね」

 

 ええんか、それで(困惑)。もっとこう、ダメ出しじゃないけど、良い案とか出されるもんだと思ってた。

 

「そんなことないわ。アナタの気持ちを実現させる、私がそうしたいんだから」

 

 うーんこの、全幅の信頼。

 

 とりあえず、真面目な話はここで終わり。メイヴは相変わらず俺に背を預け、気分がいいのか、足をぶらつかせながら鼻歌まで発している。

 ここまで気を良くされたんじゃあ、俺は何もできんわな。俺の精神を犠牲にメイヴが楽しめるなら、幾らでも支払おう(赤字)。

 

「いいわよ私、今こそ攻める時! もっと仕掛けましょう! ……うーっ、顔が熱い」

 

 ん、何か言ったか? などと難聴系主人公になるつもりはないので、メイヴの小さな呟きもしっかり耳に入る。俺でなきゃ聴き逃しちゃうね。

 呟いた後、どことなくモジモジとし出すメイヴ。どうやら、俺の精神を破壊して殲滅して蹂躙したいらしい。

 

「────ねぇ、クー・フーリン」

 

 決心したのか、俺に声をかけるメイヴ。どうした? と返す前に、彼女が姿勢を変えて……え、ちょっ、まッ!? 

 

 メイヴは俺の膝の上を回転し、身体の正面を俺に向けてきた。要するに対面座位である。童貞なら既に死んでた……俺死ぬやん(白目)。

 

「あっ、あのね? 私、アナタと一緒に国をつくって、治めてほしいって言ったじゃない? その……つまりは、クー・フーリンが王なの」

 

 あーね。まあ、王って言っても形骸化した位なんだけどね。それはそれとして、俺が王っていうのは、原作の【オルタ】と同じよね。あっちは狂王だけど。

 

「私も女王って立場だけど、王は二人も要らないと思うのよ。それで、ね? わっ、私は……女王よりも、その……お、王妃っ、とかの方が、いいなって思ってたりしてるの……!」

 

 あら^〜、メイヴったら顔が赤い彗星ね! ……何て現実逃避している場合じゃねえぞ。お前コレ、ガチの告白じゃねえか! 

 王妃とか、まずいですよ! 確かに召喚後に、我が今生、その運命は最期まで貴女と共にある、とかカッコ付けて言ったけどさぁ! 

 

 生前と前世込みで、今までで一番テンパってるまである。これどーすんの? どーすりゃいいの? どー収拾つけんの? 

 

 メイヴの告白は……受け入れてやりたい。だって、今はサーヴァントって身だし、もうよくね感はある。あと言質取られてるし。

 でもなぁ、第五特異点といえば師匠が確実に召喚されるからなぁ。

 

 もし仮に、メイヴの告白を受けたとしよう。そうしたらメイヴは喜ぶだろうが、師匠は確実に"メイヴ絶対殺すウーマン"に変貌を遂げる。

 そして、そんな師匠を止めるのは、メイヴを主に置いている俺。そう、俺なのだ。負け確である。

 

 コレ何てクソゲー? ゲオってくるわ(自称玄人並感)。

 

「私を王妃に……迎えてくれる……?」

 

 ヤバい! 潤んだ瞳で見つめてくるメイヴが可愛い! あーっ、俺のとんでもない物が盗まれるゥ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────我が愛弟子を誑かすなど、決して許さんぞ」

 

 濃厚な殺意が込められた声に、瞬時に現実に引き戻される。

 鋭利な刃物で突き刺されるような感覚に、俺は半ば反射的に天蓋ベッドから飛び退いた。勿論、メイヴを抱えて。

 

 直後、部屋の壁をブチ抜いて天蓋ベッドに突き刺さる無数の魔槍。見紛うことなく、それは────師匠の槍だった。

 

「クー・フーリンの気配を感じ取った故、召喚に応じてやったが────」

 

 魔槍が開けた風穴を蹴破り、入室もとい侵入する一人の女性。

 俺を一瞥したと思いきや、俺の腕に抱かれたメイヴへ、紅い瞳で射殺さんばかりの視線を向ける。

 

「────早々に不快なものを見せつけられるとはな」

 

 間違いなくスカサハですお疲れ様でした。噂してたら速攻で駆け付けてくるとかマ? しかも召喚早々マジギレしてて草。

 

 さっきのピンク色の空気を、魔性の夜を作り出した某中学生並に変えてくれたのは、正直助かった。

 けどこれ、どっちにしろ師匠の堪忍袋の緒が切れてね……? メイヴが俺に抱き着いているだけでアウトですか、ス〇ランカー並に厳しいルールだぜ……! 

 

「あら? 誰かと思えばスカサハじゃない。ふふっ、なぁんて遅い登場かしら。しかも何? 今更現れておきながら『横取りするな』なんて、子供の癇癪かしらね?」

 

 メイヴぅ!! 煽るなァ!! そして見せつけるように密着を強めるなァ!!!! 

 

「横取りも何も、クー・フーリンを理解し、支え、寄り添うは私しか有り得ん。断じて貴様などではない」

 

 ほら、師匠が更に怒じゃん! もう魔槍を構え始めたよ! 俺これ命足りっかな……。

 

「────疾く去ね、()()は私のものだ」

 

 師匠はハイライトが死滅した暗い眼を此方に向け、複製した魔槍による射撃、その連射を放つ。狙いは勿論、メイヴ。

 今現在、メイヴは俺の腕の中にいる都合上、俺もまとめて串刺しコース。なので防がせてもらおう。

 

 瞬間的に魔力を迸らせ、『噛み砕く死牙の獣』の力を引き出す。

 呼応するようにして空間に無数の歪みが生じ、そこから複製した俺の魔槍、穂先の緋色が顔を覗かせた。

 

 後は、迫る魔槍の軌道に合わせて、此方も魔槍を撃ち出す。

 そうしてやれば、魔槍同士が衝突し合って共に消滅。はい、エドテン。

 

「さっすが! クー・フーリンね!」

 

 俺の腕の中で無垢な少女さながらの笑みを向けてくるメイヴ。

 それとは対照的に、師匠はより一層に目を濁らせる。

 

「……我が愛弟子よ、何故、邪魔立てするか」

 

 いやいや、邪魔立ても何も、静観してたら俺も死んでたからね? 正当防衛ってヤツですやん。

 それに、俺はメイヴに召喚された身。つまりはメイヴが今生の主すなわちマスターだ。サーヴァントとしてマスターを護るのは当然では?(尚原作)

 

「ああ、なるほど。つまり、そこな奸婦に縛り付けられているのか」

 

 待って。お願い。人の話を聞いて。

 

「どう? 悔しい? 妬ましい? でもザンネン! クー・フーリンは王に、私は王妃になるのがもう決まってるの!」

 

「ならば仕方あるまい。これもお前のため。何、心配せんでいい。少し大人しくしてもらうだけだ」

 

「ちょっと……! 無視しないでくれる!?」

 

 師匠の瞳孔が開き、殺意がビンビンでいらっしゃる。諌めて差し上げろ(自己暗示)。

 

 そんな感じで唐突に始まったVS師匠。

 

 師匠は俺のことを力ずくで大人しくさせるらしい。そうして俺を戦闘不能に追い込み、邪魔がなくなってからメイヴを仕留める算段なのだろう。

 だが、戦う最中にでもチャンスがあればメイヴを狙うはずだ。となると、俺はメイヴを守護しつつ師匠の猛攻を凌がねばならない。

 

 …………………………は?(感情の摩天楼)

 

 控えめに言って無理ゲーで草枯れる。エネミーランダム化MOD導入したダクソ並に無理ゲーだって、それ、一番言われ────おッぶぇ!? 

 

 縮地を以て瞬時に距離を詰めた師匠が、魔槍による刺突を放ってくる。その速度たるや、正しく雷の如く。

 迫る穂先を、俺は全力で迎え撃つ。『噛み砕く死牙の獣』を瞬時に全身に展開させ、その剛腕で弾き返した。

 

 メイヴを抱えている都合上、片手で振るう魔槍で師匠の一撃を防ごうというのは、言うまでもなく無茶である。

 そのため、使用によって筋力と耐久を上昇できる『噛み砕く死牙の獣』の行使に踏み切った。

 

 というか、俺もといクー・フーリンに極上の動体視力があったからいいものの、師匠は明らかに一瞬で終わらせに来ていた。

 一撃を防いだだけで鋭敏に感じ取れる。これ、師匠はマジだ。要するに"殺してでもうばいとる!"である。

 

「……アイフェめ、頑丈に造りおって」

 

 弾かれるやいなや、師匠は複製した魔槍を幾本も展開し、バックステップと同時に待機解凍、射出。

 

 良くも悪くも『噛み砕く死牙の獣』は俺の敏捷をある程度損なう代物。一挙動のパワーはあっても、小回りという点では枷が纏い付く。

 師匠は、その弱点を的確に突く。その証拠に、師匠の姿が魔槍の雨によって掻き消えている。おそらくだが、俺の死角に回り込んだのだろう。

 

 踏み躙らせはせぬぞ……!(葦名弦一郎)

 

 俺は『王の財宝』よろしく、虚空に無数に出現させた歪みから、複製した魔槍を射出する。

 魔槍同士が引かれ合うように激突し、小規模な爆発を幾度も引き起こした。

 

 そして────上ッ! 

 

「ほう」

 

 一条の光のように、俺の頭上から刺突を見舞う師匠。俺は僅かな殺気を手繰り寄せ、半ば反射的に剛腕を振るった。

 だが、師匠は剛腕を受け流して器用に空中で身を捻り、がら空きの懐────メイヴを狙った一撃を放つ。

 

 回避が間に合わない距離からのそれ。メイヴが穿たれる間際に、咄嗟に俺はメイヴを抱き込むことで護り抜く。

 しかし、完全に回避することは叶わず。師匠の魔槍は、俺の左腕を深々と抉った。

 

 痛過ぎて泣きそう。けれどルーンがあるから安心。師匠の着地と同時にステップを踏んで距離を取り、再生のルーンを施す。

 すると、あら不思議。抉れた腕が元通り。神代のルーンって、やっぱすげえよな……。

 

「ちょっと……! 私のクー・フーリンに何してくれるのよ……!」

 

「貴様のではない、私の愛弟子だ」

 

 おおう、視線が殺伐。二人が争うのは今更だけど、実際に戦うの俺だからね? やめようや。

 

 正直、『噛み砕く死牙の獣』の最大出力を直撃させれば、師匠を第五特異点の表舞台から即退場させることは可能だろう。

 原作においても、【オルタ】の宝具をマトモに受けて戦闘不能になっていたし。まあ、それは師匠が知らなかったという、情報アドバンテージがあってこそだったけれども。

 

 だがしかし、ここで師匠を倒すのはいただけない。原作では、メイヴ暗殺を企んだレジスタンスが敗北し、残り一騎となったロビンフッドも仕留められるというところで、師匠が登場する。

 師匠のおかげでロビンフッドは命を繋ぎ、藤丸達へと情報を伝えることができていた。

 

 つまり、ここで師匠とガチでやり合うとなると、どちらかがぶっ倒れる。すると必然、原作はもう滅茶苦茶や。気が狂う! 

 

 師匠と戦うのは避けたい。戦うにしても、今じゃない。問題は、師匠がそれを許容してくれるかどうかだ。

 

「ほう? 私に槍を収めろと言うのか。それは無理だ。諦めよ」

 

 知ってた速報。うーん、じゃあ、どうしたら戦わないでくれるんですかね? 

 

「お前に集る他の雌共を排除できたなら手出しはせん」

 

 ……なーんで、師匠もこんなことになってんだよ。病みモードが凄いんじゃが。

 

「私は、もう手段は選ばん。冷徹にでも、残酷にでも成り果てよう。もう二度と、永劫の別れなど味わってたまるものか」

 

 うーん? これ、俺のこと言ってる? 師匠もそーいう感じなの? やめてくれよ……(胃痛)。

 

「……そう、アンタもそういうコトなのね」

 

 腕の中にいるメイヴが、哀愁を滲ませた声を発する。何となく、同族を憐れむような。そんな声色。

 

「わかるわよ、その気持ち。自分の全てを捧げてでも欲しいモノが、目の前で手の届かない所へ行っちゃうんだもの。……それがまた手に入るチャンスが巡ってきた。なら、手放したくなんてないわよね」

 

 重い……重いなぁ。一体何がいけなかったんでしょうかね。俺はただ真面目に生きてきただけなんですけど。

 

「だから私は、クー・フーリンに約束を果たしてもらう。その邪魔をするっていうなら、全力で叩き潰させてもらうわ」

 

「ハッ、貴様が私に敵うとでも? クー・フーリンがいなければ、既に三度は死に絶えている貴様がか? 一度死なねばわからんようだな」

 

 あー、もう滅茶苦茶だよ(絶望)。ライダー助けて! 許してください! 何でもしまむら! 

 

 決死の覚悟を抱く寸前、もはや廃屋と呼んで差し支えない部屋に、斬撃が走った。

 それは師匠に回避行動を取らせる。が、その回避を予測していたのか、師匠の背後から槍撃が放たれた。

 

「お主もおったか」

 

「ええ。何せ、我が好敵手を喚ぶとのことでしたので」

 

 師匠は己の背からの攻撃を、振り向きざまに受け止める。そして、その攻撃を繰り出した相手────フェルディアを見据える。

 

 フェルディア……! 助かったよホントに! そしてさっきの斬撃はフェルディアのではない。とすれば……! 

 

「随分とまあ、派手にやったな!」

 

 剣光によって開いた壁の穴から、豪快な笑い声と共に姿を現す────フェルグス。

 

 叔父貴ィ……! ユニオンは、あなたを高く評価しています(褒め言葉)。

 

「ふむ、流石にサーヴァント三人を同時に相手取るは、些か面倒だな」

 

 面白くないと言わんばかりに、僅かに眉を顰めた師匠は、受け止めていた槍を弾く。

 

 いくら師匠といえど、今はサーヴァントというスペック。同じサーヴァントの括りの中でいえば、トップクラスの戦闘能力を有してはいるが、所詮はその器に無理に押し込んだもの。

 影の国で猛威を振るった程の力量を、様々な制約を科せられている今の身で実行するのは難しいだろう。

 

 そのため、サーヴァント三騎を同時に相手取るのは、そこそこキツいはずだ。

 

「仕方あるまい、今は退いてやる。だが、必ず手にしてみせる故、待っているがいい────クー・フーリン」

 

 こわいよぅ……。たすけて、きあらさま……。

 

 俺にハイライトが死滅した覚悟ガンギマリの視線を投げた師匠は、霊体化して去っていった。

 

 ……マジで嵐みたいだったな。もう少しで嵐の中で(命が)輝いてしまうところだった。

 フェルディア! 叔父貴! ナイスタイミングで武力介入してくれた! おかげで俺の命がトランザムしなくて助かった! 

 

「フェルグス殿に稽古をつけてもらっていたんだが、いきなり拠点から破砕音が鳴り響くものでな。稽古を切り上げて来たんだ」

 

「ああ。だが、まさか影の国の女王と相見えるとはな! ……いやはや、あれもいい女だ」

 

 ちょっかい掛けるのは文字通り自殺行為なので叔父貴ストップ。

 何はともあれ、師匠が退いてくれたおかげで、謀らずも原作通りになってくれた。これって……勲章ですよ……?(したり顔)

 

 っと、メイヴを抱き締めたままだった。怪我とかない? ダイジョブ? 

 

「ええ、この純白肌に傷一つ付いてないわ。流石クー・フーリンね! ……あ、あと王妃の話なんだけど」

 

 アッ、話戻すんですね! ぬぐぅ、遂に俺も年貢の納め時……いや、身を固める時なのか? 

 

「ちょっとだけ、先延ばしにしてくれるかしら?」

 

 んおう? ええんか、それで。いや、俺は全然構わないんですけどもね、はい。でも、どうして? 

 

「理由は至ってシンプルよ。身を固めるには、まだまだやらなきゃいけないことが多過ぎるってだけ。さっきまでは、もう侵略が終わるのも時間の問題だったけど、アイツ……スカサハが召喚されたんじゃ、話は別よ」

 

 あー、なるほど。確かにそれは言えてる。現状での戦力分析をすれば、相手は、雑多な武器を手にするアメリカ軍と、英霊が何騎か与しているレジスタンスぐらいなもの。

 対し、俺達はサーヴァントという将は五騎に加え、メイヴの宝具で兵士は無尽蔵に製造できる。戦いは数だよ兄貴! とは、正にその通りだろう。

 

 だが、その相手側に師匠というクソデカ単騎戦力が出現してしまった。これにより、戦力差は大幅に縮まる。

 

 そのことを正確に理解したからこそ、メイヴはまだ己が舵取りをすべきだと判断したのだろう。

 

「それに、スカサハがクー・フーリンに引かれて現界するってことは、アイツの妹も、あのストーカーも召喚される可能性があるわね……」

 

 ヒエッ……(寒気)。ここまで追って来るとかマ? いやでも、そんなこと有り得ないと断言できないのが辛い。

 

 もし、俺の関係者が一堂に会してみろ! もう血で血を洗う北米胃痛大戦に早変わりだよチキショウめぇ! 

 あ^〜、原作壊るる^〜(精神崩壊)。俺の胃がもう"こんるる"されっぞ! 

 

 

 

 ……とりあえず、ホワイトハウスの修繕しよっか!(思考放棄)

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.メイヴがゲロ甘で草。
A.そりゃね。生前に叶わなかった初恋、その相手と一緒にいられるんですもん。知ってる?暴走機関車は止まらないの。ランサーが死んだ!(ゲイボルカー)

Q.もうメイヴとくっつけよ。
A.わかる(わかる)。(偽)ニキとしては、もうサーヴァントだし良くね感はあるものの、この先スカサハとかが召喚されるのを知っていたために、安易に手を出すと難易度がナイトメアになっちゃうのを恐れてた。でも、もう助からないゾ♡

Q.スカサハそこで撤退すんのか。
A.割とそこは考えたし、自分の頭の中で物議を醸した。でも、サーヴァントという器に押し込められてるからナーフされてるでしょ。


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。いやー、何か筆がのって猛進した結果、更新が爆速で出来ました!やればできんじゃん!……とか言って、次の更新もこのスパンでやれってのは、まあ無理なんですけどね、はい。
今回は第五特異点の本筋からは少し外れて、閑話的なのを描きました。どうしても(偽)ニキとメイヴのゲロ甘な絡みが見たくて、でも誰も供給してくれないので自給しました。どうでしたかね?自分としては、あすなろ抱きの件を描いていて「は?リア充かよクソが(陰キャ並感)」という感想を抱き、殺意を覚えました。
次回こそは、本筋の三節「星の欠片」を描く予定です。またも三人称視点にはなりますが、たまーに今回のように(偽)ニキ視点も入れていきたいので、それはご勘弁を。ではまた次回にお会いしましょう!(失踪)

















投コメ沖田さんモーション変更歓喜無言投下銀河


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星の欠片:三人称視点

久しぶりの投稿なので初投稿です。


 ◆

 

 

 

 藤丸達がフィン、ディルムッドと戦闘を繰り広げていた頃、北米にある、とある街に場面は移る。

 

「グリーン、弾切れ。援護お願い」

 

 "名も無き戦士たち"の侵攻によって廃墟と化した街で、その外敵に抗う人影がふたつ。

 

 片や、小柄で青い瞳を持った金髪の青年。西部劇のガンマンのような格好をし、右手にはトレードマークのリボルバーが握られている。

 片や、橙色の髪と翡翠のような瞳を持った痩躯の男性。深緑のマントと服装に身を包んでおり、右腕に備えたボウガンを構えている。

 

「あいよ。……ところでオタク。グリーンはないんじゃないの、グリーンは」

 

「だって僕も君もアーチャーじゃないか。だとしたら、真名で呼び合うかコードネームでなきゃ。でも、真名はお互いに嫌だろ? 何となく、アウトロー的にさ」

 

 圧倒的な数の差がありながら、たった二人で戦う。その戦法は言うまでもなく、ゲリラ戦。

 遮蔽物に身を隠し、銃や弓で狙い撃ち、爆薬などで豪快に吹き飛ばす。奇襲、罠、騙し討ち何でもござれ。

 

「俺はアウトローじゃねえですよ。結果的にそうなっただけで、基本はナマケモノみたいなモンなんだけどねぇ」

 

「あれ、動物に例えるならゴリラじゃないの? ドルイドって森の賢人なんでしょ? ならゴリ「グリーンでいい、いやグリーンがいい」」

 

 一見すると絶望的な戦力差だが、それを感じさせぬ二人のやり取り。緊迫感の欠片も感じられない談笑。その傍らで、迫り来る敵を正確に撃ち抜いていた。

 

「で、オタクは何でサンダーなの?」

 

「え、だって格好いいじゃん。サンダー、雷、それに僕の銃だし」

 

 慣れた手つきでリボルバーに弾を込める"サンダー"は、持ち前の笑みを浮かべながら"グリーン"に返答した。

 

「……というかね、この土地とアンタの格好とその銃。真名、大体分かっちまうんだが……それはいいの?」

 

「やだなあ、それはお互い様だよ。ゲリラ戦に特化した、顔なき森の支配者」

 

 互いに苦笑するアーチャー。彼らの真名は非常に有名なものであった。

 

 アメリカ、ウェスタン、リボルバー、サンダー。ここから導き出されるガンマン────ビリー・ザ・キッド。

 ドルイド、顔なき森の支配者。イギリスから世界に広まった伝説の義賊────ロビンフッド。

 

 弓兵のクラスを依代に現界した二人は現在、アメリカ軍でもケルト勢でもない、第三陣営であるレジスタンスに身を置いていた。

 

「顔がないのはいいコトじゃあねぇけどなあ。さて、世間話も済んだところで」

 

「そうだね、済んだところで────どうしよっか、コレ」

 

 ロビンフッドの言葉を引き継いだビリーは、遮蔽物から外へと目を向ける。視界に入ってくるのは、"名も無き戦士たち"の姿。

 

 二人は数の差で勝る相手に対し、見事と称するに値する抗いを見せた。が、それは長くは続かず。

 ロビンフッドとビリーの立て籠っていた建物は、"名も無き戦士たち"に包囲されていた。

 

「前に作っておいた脱出口はどうよ?」

 

「大丈夫、まだ使えるよ。ただ、やっぱり勿体ないよね。かき集めた武器弾薬とか、色々あるのに。……うーん、やっぱり僕達やり過ぎたかな?」

 

「ま、あんだけ派手に破壊工作すれば多少はね。あちらさんにはサーヴァントこそいないようだが、こっちは接近戦に持ち込まれるとお手上げだし? ……や、コイツはもう運任せ案件ですなあ。旦那が応援に駆けつけてるくることを祈るとしますか」

 

 危機を目前にして、飄々とするロビンフッド。少なからず、廃墟を取り囲まれた段階で厳しい戦いを迫られている。

 それこそ、増援でもない限りは、これ以上の戦闘の勝機は薄い。故に、目的を撤退に切り替えていた。

 

「なんだい、それ。祈りが届いた試し、生前にあった?」

 

「そりゃあ、ありますよ。ただし、いい子にしていればの話だがね。生憎、大人になってからとんと縁が無かったな。その辺、お互い様だろバッドボーイ?」

 

「む、僕を一緒にされると困るよ! 母さんの教えで、僕はちゃんと祈っていたもの」

 

「へいへい、お前さんが心から祈っていれば救われるだろうよ」

 

「んー、片手間な祈りはやっぱダメか。いや、僕も────そうは思っていたんだけどね」

 

 溜息と同時に発砲、発砲、発砲。ビリーの射撃は、"名も無き戦士たち"三人の脳天を連続で撃ち抜いた。

 

「銃をバンバンブッ放しながら祈ってもなあ。銃声が邪魔をして神様には届かねぇ、ときた」

 

 言動が一致していないビリーを見たロビンフッドは、呆れるように肩を竦める。

 すると突然、付近で爆発音が谺した。僅かな大気の振動を伴ったそれに、ロビンフッドは口角を上げる。

 

「おっと、引っ掛かった連中がいたか。ちょっと火ぃ着けてくるわ」

 

 有り合わせで仕掛けて置いたトラップに、"名も無き戦士たち"が掛かったのだ。

 足止めを食らった彼らに対し、更なる追い打ちを仕掛けるべく、ロビンフッドは小走りでその場を後にする。

 

「はいはい、頑張ってねー」

 

 笑顔を浮かべるビリーは、何とも覇気のない声色で彼を見送った。

 そして、一転して眉を顰め、嘆くように一人ごちる。

 

「……しかしやれやれ、いつまで保つかなあ、レジスタンス活動。遅かれ早かれ限界が訪れる。それまでに、ジェロニモが"星"を見つけられればいいのだけど」

 

 ジェロニモ────レジスタンスのリーダーを務めるキャスターのサーヴァント。彼がこの時代の修正の要として呼称し、捜索している"星"。

 それが見つかって漸く、レジスタンス達は現状の打破が叶う。故に、"星"の発見を渇望していた。

 

 何度目かの溜息を吐き、ビリーは眼前の敵を見据えて思考を切り替え────目にも留まらぬ早撃ちで、即座に戦闘不能に追い込んだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 藤丸達は、襲撃を受けた野戦病院に帰還していた。

 

 フィンとディルムッドによる陽動にまんまと嵌ってしまった彼らだが、駆け付けたレジスタンスのおかげで、最悪の事態は免れた。

 

「ナイチンゲールさん?」

 

「少々お待ち下さい。ドクター・ラッシュに患者に対する一通りの対処法を伝えている最中ですので」

 

 負傷者の治療を終えたナイチンゲールは、ここに派遣されたラッシュへ、自らの治療の知識と技術を説明していた。

 そのようなことをしている理由、それはナイチンゲールがここを離れるからであった。

 

 治せど、癒せど、それを容易に上回る死傷者が毎日のように運び込まれて来る。ナイチンゲールは、それでもと己が存在に賭けて治療を施し続けた。

 しかし、彼女の必死のそれを嘲笑うが如く、死傷者だけが山のように積み重なっていく。

 

 ────彼ら全てを救う手段があるんです。

 

 そのような中で、藤丸からもたらされた一筋の光。縋る、というほど絶望を感じてはいなかったにしろ、ナイチンゲールは当然飛び付いた。

 患部をいくら治療したとて、その原因に対処せねば幾度となく再発してしまう。だからこそ、病巣を取り除くという提案を断るなどある訳がなかったのだ。

 

 そのような経緯があって、ナイチンゲールは野戦病院から出立する────のだが、その前に、彼女には許容できないことがあった。

 

「いいですか? 患部は清潔に、そしてベッドは敷き詰めなさい。本来ならば、絶対に彼らを不潔な地面に寝かせてはなりません。嘔吐剤や瀉血で毒素を吐き出すとか、塩化水銀を飲ませるとか、そういう時代遅れの治療をやったら貴方に治療が必要なほど殴り倒しますので、そのつもりで」

 

「いや、しかし、それは最新の治療で……」

 

 小さな爆発音と、地面に深く突き刺さる鉛玉。ラッシュの反論を、銃声で掻き消す、もとい黙らせるナイチンゲール。

 

「この銃とその治療、どっちが最新ですか? 二度と言わせないで下さい」

 

「わ、分かった! 分かった! 分かりました! ノー・モア・最新銃!」

 

 彼女が許容できないこと。それを端的に言えば、治療の正しい手法が、この時代ではまだ確立していないことだった。

 故に、後世ではタブーな治療法が、最新の医療だとして広まっていたりする。そのような事実は、クリミアの天使が許せるはずもなく。

 

「それから老若男女、人種や身分の区別なく治療するように。区別するべきは、治療が必要な順序だけです。それが守られていない場合、この銃弾は五千キロ離れていようが貴方の眉間を貫きます……いいですね、ベンジャミン・ラッシュ? 患者達はよろしくお願いします」

 

「わ、分かっている。安心したまえ!」

 

 一通りの対処法を教え込んだナイチンゲールは、僅かな微笑みと共にラッシュの前から立ち去った。

 

「行ったか。……しかし、過激だったが立派な看護師だった。この時代に人種の区別もなく、とはなかなか言える言葉ではない」

 

 額から汗を流し、安堵するように息を吐くラッシュ。あまりに一方的な看護師に辟易したものの、彼女の献身的な姿勢には心打たれるものがあった。

 

「ヨーロッパから来たようだが、さぞ名の有る御方なのだろう……拳銃はどうかと思うのだが」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あの……今、銃を撃ちませんでしたか?」

 

「気のせいです、行きましょう」

 

「いえ、気のせいじゃないですよね。今、思いっきり撃ってましたよね」

 

「峰打ちです」

 

「銃に峰とかあったっけ……」

 

 藤丸達へと合流したナイチンゲール。これでようやく特異点攻略の一歩を踏み出す。

 

「お待ちなさいなフローレンス。何処に行くつもりなの?」

 

 が、早々にそれを阻む人影。

 

「軍隊において勝手な行動はそれだけで銃殺ものって知っていて? 今すぐ治療に戻りなさい。さもないと────手荒い懲罰が待ってるかもよ?」

 

「……貴女こそ自分の職場に戻りなさい。私の仕事は何一つ変わりません。この兵士達の根幹治療の手段が見つかりそうなので、それを探りに行くだけです」

 

「そうなの。もっともな理由、ありがとう。でも────バーサーカーのあなたに行かせる訳にはいかないでしょ。戦線が混乱したらどうするのよ」

 

 ナイチンゲールに待ったをかけたのは、若紫のセミロングに、紫水晶のような瞳を持つ小柄な少女。

 

「王様は認めないわよ、絶対に」

 

「……王様? そんな人物に私を止める権利などありません。より効果的な根幹治療の提示があるのなら別ですが」

 

「うわお、やっぱりバーサーカーは話通じないわねえ。どうしたものかしら」

 

 外見からして少女と呼ぶに相応しいが、しかしその身に宿す神秘は規格外。

 

「これまで何度も思想的に衝突してきたし、いい機会だから片付けてしまおうかしら?」

 

「……その発想はエレガントではありませんが、同感です。この先の無駄話が省けます」

 

『あわわ……何か火花が散ってるぞぅ……。何で行動的な女性サーヴァントが揃うと、こう修羅場っぽくなっちゃうんだ!?』

 

「ドクター、落ち着いて! マシュ、仲介を頼む……!」

 

「了解です。自信はありませんが、頑張ります!」

 

 目線で激しく火花を散らす二人の間に割って入る、マシュ。射殺さんばかりの視線に貫かれ、僅かに冷や汗を流す。

 

「お、お話中、失礼しますっ! あなたもサーヴァント……なのですか?」

 

「あなたも? って……まあ! サーヴァントがこんなに! よくってよ!」

 

 ナイチンゲールに向けていたそれとは反対に、キャスターは弾むような笑みを見せる。

 

「ケルトの連中を撃退したと聞いて、まーたフローレンスが一人で暴れたのかと思ったけど……どうやらそうでもなかったようね。これは()()にとってグッドニュースかしら?」

 

 良い掘り出し物を見つけたと言わんばかりにほくほく顔のキャスター。

 一方、藤丸達は、彼女が口にした"王"という単語に疑問符を浮かべる。

 

「あら、アメリカの現状を知らないの? 今この国は二つに分離して絶賛内戦中なの。一つがただ滅ぼすしか能の無い野蛮人、つまり向こう側ね。そしてもう一つが────あたし達の王様が率いる、アメリカ西部合衆国。南北戦争ならぬ、東西戦争という訳よ」

 

「「なっ……!」」

 

 唐突にもたらされた情報に驚愕する藤丸とマシュ。それらが事実ならば、この特異点の原因は確定する。即ち、ケルトという侵略者の存在である。

 

『……なるほど。南北戦争で南部が勝利していれば、というどころではなく。まったく未知の軍勢同士がぶつかり合っている訳か』

 

「厳密に言えば、()()()()()()()()()()のもいるんだけどね」

 

「嵐、ですか?」

 

「ええ。目的も真名も分からなくて、何処からともなく戦場に湧いては暴れて、また何処かへ行くの。だから、嵐」

 

 キャスターは眉を顰めて頭を振る。その様から、実際に目にしたことがあると察することができた。

 そんな彼女の傍らで、マシュは先程から感じていた疑問を素直に口にする。

 

「……あの、失礼ですがレディ。あなたのお名前は、いったい……」

 

「あら。フローレンスは一目で分かって、あたしは分からないの?」

 

「す、すみません……っ! ナイチンゲール女史は、その、とにかく分かりやすかったので……!」

 

 態とらしく不機嫌オーラを醸すキャスターに、申し訳なさそうに弁明するマシュ。そんなマシュの様に満足したのか、キャスターは転じて顔を綻ばせた。

 

「うそうそ。イジワルしてごめんなさい。あたしはエレナ・ペロトヴナ・ブラヴァツキー。世間的にはブラヴァツキー夫人が有名なのかしら」

 

『エレナ・ブラヴァツキー! 十九世紀を代表する女性オカルティストだね! 魔術協会とはあまり関わらず、独自のスタンス、独自の力だけで神秘学を編纂した才女だとか』

 

 魔術師のサーヴァント────エレナ・ブラヴァツキー。概ねはロマニの言葉の通りである。

 特筆すべきことといえば、彼女の特徴的な思想"マハトマ"や"ハイアラキ"といったモノらだろう。

 

 エレナはレムリア大陸という、インド洋に存在したとされる仮想の大陸を信じ、神秘主義に没頭した。

 そして、高次の存在"マハトマ"や、その集合体"ハイアラキ"と接触し、多くの叡智を得たとされる。

 

 そんな彼女は現在、北米軍の副官として、前線で指揮官を務めていた。

 

 マシュの疑問に続けて、藤丸もまた、会話の中で出た情報について質問する。

 

「そういえば、王様とは?」

 

「あら、あなたが此度のマスターなのね。でも残念、あたし達は既に主を定めているの。それが王様」

 

 情報が未だにないため、藤丸は"王様"がマスター、或いはそれに近しい人物なのだろうと予測した。

 

 とにかく、藤丸達は特異点の修復のためにも、エレナと共闘したいという考えを抱く。だが、続くエレナの言葉で、その考えに亀裂が走る。

 

「彼が世界を制覇すれば、それはそれで問題ないわ。恐らく、どこの次元からも分離した失われた大陸(レムリア)となって、彷徨い続けるのでしょう。英霊の座みたいなものよ。これはこれで、救いがある結末だと思わない?」

 

 柔和な笑みを向けるエレナは、結末はそれなりに良いものだと語る。

 

 噛み砕いて言えば、"王様"がケルトを駆逐したのなら、この北米の地は修正されるのではなく、全く別の世界となる。

 これまでの歴史とは分離し、何処にも属さぬ大陸と化す。そうなれば、その世界こそが新たな歪みとして観測されることだろう。

 

 それでは駄目だ。何の解決にもならない。その場凌ぎにしかなり得ない。

 焼却された人理を取り戻すという目的を持つカルデアにとって、この事実は許容できるものではなかった。

 

「────そんなもの、治療とは認めません。悪い部分を切断してそれで済まそうなど、言語道断です」

 

「……まあ、あなたはそう言うと思ったけど。そちらはどうかしら?」

 

「……それは、根本的な解決にはならないと思います」

 

「あら、そう」

 

 兵力が慢性的に不足している西部合衆国側としては、サーヴァントを複数抱えている藤丸達を欲していた。

 だからこそ、藤丸から勧誘を拒否されたエレナは、隠すことなく口惜しそうにする。

 

「……コホン。じゃあ、あなた達はフローレンスを連れてどこへ行くの?」

 

 勧誘から詰問に変質したエレナの言葉に、マシュが答える。

 

「……この世界の崩壊を防ぐために、その原因を取り除くつもりです」

 

「そう。それじゃ、あなた達はあたしの敵ということになるかしら」

 

「違います、そうと決まった訳ではありません。ですから、ここは引いて頂けないでしょうか……? ナイチンゲールさんは、味方としてこの場を離れるだけなのです」

 

「ふーん。ちゃんとフローレンスの意図を汲める子なんだ。そこはちょっと安心したけど、そういう訳にもいかないのが困りものよねぇ」

 

 何とか敵対を避けたい。そんな思いでマシュは説得を試みるも、エレナは理解を表さず。

 

 会話に空白が生まれる。それを見計らったナイチンゲールは、藤丸とマシュの腕を掴んで引き摺る。

 

「話は終わりましたね。では出発しましょう、ミスター・藤丸。一刻も早く、一秒でも早く、この戦争を治療するのです」

 

「えっ、あのっ」

 

「ちょっ、ちょっと待って……!」

 

 耳を傾けず、エレナに背を向けて歩き出すナイチンゲール。そんな彼女の行く手を、ミニバベッジこと機械化歩兵が立ち塞がった。

 藤丸達は機械化歩兵を見やり、そしてエレナへと視線を移す。と、彼女は溜息を吐き、遺憾の意を示した。

 

「あーあ、仕方ないか。こちらも虎の子を呼び出さないといけないわ────機械化歩兵、前に出なさい!」

 

 指示に呼応して三十体の機械化歩兵達が駆動し、藤丸達の眼前に立ち並ぶ。

 

「先程の量産型バベッジさん……!」

 

「あら、ミスタ・バベッジに遭遇したの? ……ああ、そっか。彼は敗れたのね。でも、こちらは敗北などしないわ。だって王様が()()()()()()()()()()()()んだもの」

 

 バベッジは宝具と聖杯の力を借り、己が分身を生み出した。だが、北米にいるそれらは科学の力で大量生産を可能とした。

 生産の過程の違い。その結果として、機械化歩兵はサーヴァント相手でも、一方的に破壊されるデコイには成り果てなかった。正しく魔改造である。

 

 これを行った"王様"曰く、『蒸気より電動の方がいいに決まっているだろ、馬鹿者!』とのこと。

 

「……やるしかありません! マスター!」

 

「うん、強引にでも押し通る!」

 

 藤丸の素早い決断力、否、胆力。幾度もの経験により、こればかりが一人前に身に付いてしまった。

 それを用い、即座に指示を飛ばす。戦いにおける刹那が命取りになると、経験則に基づいて理解していたからだった。

 

「────ターゲット指定、完了。対処します」

 

「マシュ……!」

 

 無機質な音声と共に、機械化歩兵達がその銃口を目標に向け────間髪入れずに射撃、射撃、射撃。

 瞬間、マシュは藤丸とナイチンゲールの前へと躍り出、大盾で鉛色の雨を防ぐ。

 

「婦長ッ!」

 

 瞬間、大盾の影からナイチンゲールが駆け出す。直前に藤丸から強化を受けた彼女の脚は即座に距離を詰め、一体の機械化歩兵に拳を振り上げる。

 

「処置します!」

 

 単なる拳だが、サーヴァントのスペックで繰り出されたそれは、容易に機械化歩兵の鋼鉄の胴体をひしゃげさせ、吹き飛ばした。

 そして、ナイチンゲールに殴り飛ばされた機械化歩兵は、後方にいた三体を巻き込んで倒れ込む。

 

 ターゲットが分散したことに反応した機械化歩兵は半数に別れ、各個撃破を狙う。

 

「阻むのなら、力ずくで進むのみです!」

 

 ナイチンゲールは銃口が自身へ向く前に、結束手榴弾を取り出し、倒れた機械化歩兵に投げつけた。即座に爆発が巻き起こり、四体の機械化歩兵が残骸と化す。

 それを背後に彼女は地を蹴り、機械化歩兵の懐へと飛び込む。武器腕という取り回しの悪い武装ならば、接近戦を仕掛けた方が有利だ。

 

「切除ッ!」

 

 ナイチンゲールは機械化歩兵の武器腕を両手で掴むと、掛け声と共に捻り切った。

 

『ええっ!? 機械を捻り切るとか、トンデモないことをしてるぞ!?』

 

 驚愕を露わにするロマニの傍らで、彼女は腕を奪った機械化歩兵を盾として活用し、銃撃の最中を更に突き進む。

 そうして、銃弾に晒された機械化歩兵が爆発四散する頃には、ナイチンゲールは既に別のエネミーの懐に潜り込んでいた。

 

 接敵と同時に攻撃手段を奪い、機械化歩兵を盾として利用し、また接敵。

 これを繰り返すことにより、ナイチンゲールは無傷で次々と機械化歩兵を破壊していく。

 

(婦長は大丈夫そうだ……! でも、気は抜かないッ)

 

 彼女の無双ぶりを確認した藤丸は、自身が戦闘の足枷にならないよう距離を取り、そしてマシュへのサポートに注力する。

 

「はぁぁ……!」

 

 一方のマシュもまた、大盾で銃弾を受けつつ突貫する。ただし、ナイチンゲールほどの筋力はないため、主に大盾で機械化歩兵を叩き潰すことで対処していた。

 

 機械化歩兵の一体に接近したマシュは、そのまま大盾でバッシュを見舞い、体勢が崩れたのを視認してから跳躍。

 空中にいる間も銃撃に晒されるが、大盾を重心に置いて器用に身を捻り躱す。落下と同時に大盾で叩き付け、機械化歩兵を粉砕する。

 

 マシュの着地を狙った機械化歩兵達が、装填した榴弾を一斉に撃ち出す。

 刹那の硬直により回避が困難なそれを、マシュは大盾から手を放し、弾丸を掠めながら地を蹴って離脱。

 爆風でバランスを崩しつつも機械化歩兵へと接近し、全体重を乗せた蹴りで吹き飛ばす。

 

「マシュ!」

 

 再び銃口を向けられたマシュ。今は大盾を手放していることから、撃たれればただでは済まない。

 それを視界に収めた藤丸は、治癒と共に強化の魔術を行使した。

 

「っ! 感謝します、マスター!」

 

 強化された脚力により、マシュは一度の跳躍のみで大盾まで戻り、すぐさま構えた。

 

 そこからは、藤丸とマシュの阿吽の呼吸によって、巧みに機械化歩兵を破壊していく。

 目立った動きや珍妙な策は一切介在していない、互いの純粋な信頼によって成立しているコンビネーションであった。

 

 そうして、五分と経たずに三十体の機械化歩兵は全滅した。藤丸達は互いの無事を確認し、脱出を図る。

 

「あら、結構頑張るじゃない」

 

 そんな彼らの背後で、エレナは余裕を包含した笑みを浮かべ。機械化歩兵を破壊されたというのに、焦りは微塵も見せず。

 

「でも、これで終わり────じゃ、()()()! ちゃっちゃとやっちゃってー!」

 

「え……?」

 

 まるで挨拶をするような気安さで、余裕の理由が開示される。途端、身の毛のよだつ重圧に襲われる藤丸達。

 

「……出番か。心得た」

 

 耳通りの良い男の声。それがこの重圧の発生源であることを感じ取る。

 

『サーヴァント反応、君達の直上! 強引に転移させるなんて、令呪なのか!? この霊基数値、トップクラスのサーヴァントだ!』

 

「そんな……!?」

 

 藤丸達は視線を上げ、空から鷹揚に舞い降りるサーヴァントを目にした。

 

 黄金の鎧を身に纏い、胸部に埋め込まれた赤い石が特徴的な絶世の美男子。鋭い目付きと幽鬼のような白い肌は、冷酷さを放つ。

 右手に持った得物────太陽を象った黄金の槍は、彼がランサーのクラスであることを示していた。

 

 その真名を────カルナ。インドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する、施しの英雄である。人間の姫クンティーと太陽神スーリヤとの間に生を受け、多くの寵愛と誠実さを示されつつも無用の存在として川に流された。

 生まれた経緯は不幸であったが、しかし彼は弱き者達の生と価値を問う機会に恵まれたため、「父の威光を汚さず、報いてくれた人々に恥じる事なく生きる」という信念が形成されていき、成長するに連れて武芸の才を顕にしていった。

 そうして、生涯のライバルにして血を分けし兄弟と邂逅し、激闘を繰り広げ、自らの出自を知り、数々の策略によって破滅の運命を辿っていく。

 

 カルナは正しく半神半人の戦士であり、身に付し武芸、誠実な人格、何一つ取ったとしても英雄である。

 そのような彼が、今、藤丸達の眼前に降り立ち、敵としてその力を振るわんと見据えている。

 

「悪いけど、捕まえちゃってくれないかしらー? 一応ほら、敵に回るみたいだし」

 

「その不誠実な憶測に従おう。異邦からの客人よ、手荒い歓迎だが悪く思うな」

 

 カルナはエレナの指示に恭順の意を示した。藤丸達は、カルナという英雄中の英雄を相手に焦燥感に駆られる。

 戦闘能力は未知数、しかし練磨された武人特有の気配は、藤丸とマシュが感じてきたもののどれよりも強力であった。

 故に、どのような攻撃が来るのかと身構え、如何なるものであれ対応してみせようと精神を強く持つ。

 

「────『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』!」

 

 その初撃は、目から照射されたビーム。あまりに予想外のものであった。

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.藤丸くん決断はやいっすね。
A.一般人なら経験しないはずの修羅場を何度も乗り越え、出会いと別れを繰り返し、やっと脚の震えを抑えることには慣れてきた。確かそんな感じのことを、藤丸くんを演じたガーチャーが言ってたと思うので、それを軸に置いた結果となります(オタク)。

Q.今回のお話の中でオリジナルの要素あった?
A.一応あった。エレナの勢力説明のところで新規さんがいらっしゃった。誰なんやろなぁ(白目)。


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。最近はある程度時間の余裕ができてきて、小説を書くぞー!とかいうケツイに満たされてたんですけど、兄者から誘われて始めた原神がもう面白くて時間泥棒なんですよねー(迫真)。クレー引けました(轟破天隙有自分語)。
今回は『第3節:星の欠片』をお送りしました。内容的には原作とほぼ変わりないのですが、一部分だけ異なってたりします。でも間違い探しレベルのアレなので、いやーキツいっす。やっぱりストーリーの序盤となると、大きな変化を出していくのが、中々、難しいねんな。なので、序盤は小さなオリジナル要素を所々に紛れ込ませる程度になると思います。許して(焼き土下座)。
次回は『第4節:キング・オブ・プレジデント』を投稿予定です。できるだけ早めに書くんで首を長くして待っていただければ幸いです。それでは、また次回!





















ヘブフォとバトライ死ね(純然たる殺意)。


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キング・オブ・プレジデント〜クール・ハンド・フローレンス:三人称視点

前回の感想で「原作とほぼ変わりがないのなら省いてもいいのでは?」とのコメントをいただきました。
確かにその通り過ぎてぐうの音も出なかったのですが、本作に目を通してくれている方々の中にはFate/GO未プレイの読者様もいらっしゃると思い、そのような方々も気兼ねなく読めるような作りにしようと考えた結果、第五特異点をアバンタイトルから書こうと決めていました。
ですが、実際問題として『オリジナル要素がほとんどない=原作のコピー』ではないか、というものもあると思います。それはまずいと感じたため、今回からは極力変化のある部分に焦点を当てるようにし、変化のない部分では大幅カットをしていくことにしました。一応、それでも話の内容や流れが飛び飛びにならないよう、ある程度は説明を挟みますが、それは了承していただけると幸いです。

お騒がせして大変申し訳ございませんでした。


 ◆

 

 

 

 突如として現れたカルナと戦闘を行った藤丸達だったが、結果は惨敗であった。

 

 カルナの有する宝具『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』という黄金の鎧に、藤丸達の攻撃の一切が弾かれ、かすり傷一つ付けることすら叶わなかったのだ。

 この鎧は光そのものが形となったものであるため、神ですら破壊が困難な代物。それを単なる打撃や銃撃でどうにかしようというのは、そもそも不可能である。

 

 圧倒的な防御を前にして、藤丸達は攻める手段を持ち合わせていなかった。

 故に、戦いは防戦一方。そして為す術なく捕らえられ、"王様"の下へと連行されることとなったのだ。

 

「……あの、ブラヴァツキーさん」

 

「うん? 何かしら」

 

「オレ達と"王様"を引き合わせて、どうしたいんですか?」

 

 抵抗は無謀だと理解した藤丸は、ならば、と情報収集に努める。

 

 頻繁に飛び出す"王様"なる人物、その存在に関する詳細があまりに少ない。

 唯一判明していることは、"王様"が聖杯を手にした場合、この北米の地が全くの別物と化してしまう結末だ。

 

「彼女達のマスターである、あなたの説得よ。サーヴァントの説得は難しいでしょうけど、あなたを懐柔できればってね」

 

 朗らかな笑みを浮かべるエレナ。彼女はまだ藤丸達を陣営に引き込むことを諦めていなかった。

 

「どうして、そこまで?」

 

「アメリカ西部合衆国軍は、大量生産した機械化歩兵で数の差を埋めて上手く戦ってはいるけど、圧倒的にサーヴァントの数が足りない」

 

 エレナは、一転して神妙な面持ちになり、続ける。

 

「この戦いはどちらかに与しなければ勝てないわ。両方に戦いを挑めば、双方に滅ぼされるのは道理でしょう」

 

 敵として立ちはだかれば、対処のためにリソースを割かねばならない。サーヴァントを敵に回すというのは、想像以上に組織の体力を削ることになる。

 だからこそ、エレナは────西部合衆国軍は、カルデアという戦力を味方に付けたかった。

 

「この世界は東西が戦い続けていることで、かろうじて成立している。あたし達が戦っていなければ、今頃この国は完全に滅んで手出ししようがなくなっていたのよ?」

 

 ケルト勢力は、ケルト人以外を認めない。仮に降伏したとしても、殺されるのは確定的。

 どんなに無謀で、絶望的で、物量に押し潰されそうだったとしても、黙って殺されるよりはマシ。そう決意したからこそ、武器と意志を抱いて立ち上がったのだ。

 

 そのおかげで、今の西部合衆国は存在しており、侵略行為に抗うことができていた。

 

「………………」

 

 生々しい現実に、藤丸は言葉を飲んだ。戦争などという物騒極まりないモノとは縁遠い彼にとって、戦いによって人が死ぬというのは冗談ではないと思う。

 だが、この世界で起きている戦争は、それがなければ更に大勢が死んでいたという。

 

 生きるための戦い。それ自体を否定するつもりはない。今のカルデアがそうなのだから。

 けれど、救うために死ぬというジレンマに、やり切れないという感情が湧き上がる。

 

 会話が止んだのを見て、マシュが話題を切り替えるように口を開いた。

 

「……あの、レディ・ブラヴァツキー。どうして、そこまで"王様"という方に肩入れするのですか?」

 

 問いかけに対し、エレナは「レディ! いいわね、礼節をわかってる!」と顔を綻ばせながら、返答する。

 

「"王様"に肩入れする理由は、生前、彼と因縁があったからよ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 アメリカ西部合衆国、その拠点に到着した藤丸達。彼らが目にしたのは、アメリカにあるまじき白亜の城塞だった。

 城門には機械化歩兵が配置され、城壁には星条旗が何本も掲げられている。

 

「ブラヴァツキー夫人、カルナ様。()()()がお待ちかねです、すぐおいでください」

 

「「大統王……?」」

 

 警備に割り当てられた機械化歩兵が発した言葉。その中に、"大統王"なる明らかに聞いたことの無い造語が含まれていた。

 その言葉の意味と成り立ちは単純。大統領で、王様。だから大統王という短絡的なフレーズだった。

 

 中へ通され、謁見の間に到着する。そこに"王様"の姿はなく、現すのを待つ。

 

「……緊張してきましたね、先輩。一体どんな王様なのでしょうか……」

 

「……何だろう、微妙に嫌な予感がする」

 

 目を細め、口元に手をやる藤丸。彼の呟きに、モニタリングしていたロマニが、懐疑を多分に含んだ声色で反応する。

 

『その予感は当たってるかもだ。新しいサーヴァントが近づいてきているけど、これがどうも奇妙というか……。うーん、これ、ホントに英霊なのかなあ?』

 

 どういうことか、と藤丸とマシュが質問しようとした、その時。

 

「お待たせしました。大統王閣下、ご到着です!」

 

 機械化歩兵の発した言葉に、彼らは唾を飲み込んだ。一体、"王様"とはどのような人物なのだろうか。そんな思いが胸中に湧き上がった途端。

 

「おおおおおおお! ついにあの天使と対面する時が来たのだな! この瞬間をどれほど焦がれたことか!」

 

 緊張をぶち壊さんばかりの大声の独り言が、謁見の間に響き渡った。

 その声が谺すると同時に、それを聞き慣れているエレナは溜息を吐く。

 

「ケルト共を駆逐した後に招く予定だったが、早まったのならそれはそれで良し! うむ、予定が早まるのはいい事だ! 納期の延長に比べれば大変良い!」

 

 声の主が、藤丸達の眼前に姿を晒す。

 

「────率直に言って大儀である! みんな、初めまして、おめでとう!」

 

 大層愉快そうに、そしてにこやかな表情で語りかける"王様"。

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 対し、藤丸達は絶句。それも仕方がなかった。"王様"の外見は、大柄な男性がアメコミヒーローのようなコスチュームに身を包み、何よりその頭部は────白いライオンのものだったのだから。

 

『あれー? モニターの故障かなー? クリーチャーしか映ってないぞぅー?』

 

 カルデア側のリアクションに、エレナはドッキリ大成功と言わんばかりに笑い、カルナは驚くのも無理もないと目を逸らす。

 

 我に返った藤丸は、困惑の渦中にいつつ問いを投げる。

 

「あの、えっと……貴方がアメリカ西部の"王様"……なんですよね?」

 

「いかにもその通り! 我こそはあの野蛮なケルトを粉砕する役割を背負った、このアメリカを統べる王────サーヴァントにしてサーヴァントを養うジェントルマン! 大統王、トーマス・アルバ・エジソンである!」

 

「えっ……!?」

 

「エ、エジソンっ、ですか!?」

 

 不意に飛び出たビッグネーム、そしてその人物がこのクリーチャーであるということに、藤丸達はまたも驚愕する。

 

 トーマス・アルバ・エジソン────世界的に最も有名なアメリカの発明家であり、先達の発明をより普及に適した形に再構築するという点において極めて優れ、発明を普及させることによって人類の生活レベルを向上させた。

 

 そんな彼が何故、()()()()()になっているのか。

 

 藤丸同様に絶句していたナイチンゲールは、歯にもの着せぬ口調で問う。

 

「エジソン……発明王エジソンですか? あなたが? キメラではなく?」

 

「いかにも。今は発明王ではなく、大統王であるが」

 

「……人間ではなかったとは知りませんでした」

 

「私は紛うことなき()()である。人間とは理性と知性を持つ獣の上位存在であり、それは肌の色や顔の形で区別されるものではない。私が獅子の頭になっていたところで、それが変わる訳でもない。私は知性ある人間、エジソン。それだけのことである」

 

 例え姿形が人のそれでなくとも、知性があるから問題なしというスタンスのエジソンは、誇るように胸を張った。

 

 そして彼は、藤丸へと視線を向ける。

 

「さて、キミの名前は藤丸立香……だったな。この世界において唯一のマスターよ。単刀直入に言おう。四つの時代を修正したその力を活かして、我々と共にケルトを駆逐せぬか?」

 

 その提案は魅力的だったが、先のエレナの発言を思い出し、藤丸は警戒する。

 

「ケルトの奴らめはプラナリアの如く増え続け、その兵力にアメリカ軍は敗れ去った。しかし! 私が君臨し、私が発案した新国家体制、新軍事体制によって戦線は回復し、戦況は互角となった」

 

 意気揚々と戦果を語るエジソンは、一転して眉を顰める。

 

「だが、我々にはサーヴァントがいない。一方のケルトには名高き蛮人が列を成している。せっかく取り戻した拠点もサーヴァント一人に取り返されてしまうのだ」

 

 ケルトの無尽蔵な兵力に、こちらも量で応戦し、拮抗するまでに持っていったまでは良かった。

 だが、圧倒的に質で勝るサーヴァント相手には歯が立たない。しかも、そのサーヴァントが敵には複数いる。

 

 質も量も、アメリカ西部合衆国軍はケルトに劣っているのだ。

 劣勢だからこそ、藤丸達が何としても欲しい。その熱が、エジソンの目の奥に灯っていた。

 

「……二つほど聞いてよろしいですか?」

 

「うむ、何かね。他ならぬ貴女の言葉だ、真摯に答えよう」

 

 藤丸が返答に困っている傍ら、ナイチンゲールは引っかかった語句について確認を取る。

 

 彼女の一つ目の質問、それはエジソンの言う新体制について。機械化歩兵なる存在を、如何にして大量生産しているのか。それの目指すところとは何なのか。

 これに対するエジソンの回答は、ドが付くほどのブラック企業のような労働の仕組みだった。労働力を確保し、一日二十時間の労働。休むことのない監視体制。これらを組み上げ、更に最上級の福利厚生と老若男女問わない国への奉仕という謳い文句。

 

 これによって新しいアメリカをつくる、と締め括るが、控えめに言って、人の限界を知らないとしか思えない。

 

 続けて二つ目の質問、如何にして世界を救うつもりなのか。藤丸達の救う手段は既に聞き、それが根幹治療に有効だと認識している。だからこそ、エジソンの手段が何なのかを知りたかった。

 しかし、エジソンは「時代を修正する必要はない」と告げた。曰く、聖杯を改良することで焼却を防ぎ、他の時代とは異なる時間軸にこのアメリカという世界が誕生するという。

 

 ただし────他の時代は滅びる。エジソンの救う対象はアメリカのみであり、この国のみを焼却から護るという理念を掲げているのだ。

 当然、藤丸達は反論した。他が滅びては意味がない、と。だが、エジソンは聞く耳を持たず、アメリカが永遠に残るのだから素晴らしいではないか、と口にした。

 

 これを、藤丸達は許容できない。ナイチンゲールも同様だった。

 そんなことのために戦線を広げ、死傷する兵士達を増やし続ける。世界を救うではなく、この国だけを救う。そんな思想に同調することはできなかった。

 

「さて、では答えを聞かせてもらおう。人類最後のマスター、藤丸立香」

 

「オレの答えは────聖杯は諦めろ、エジソン」

 

「……ふむ、意外といえば意外な答えだ。裏で何を策すにせよ、共闘は承知すると思っていたが。その誠実さ、真摯さは許すべきだろう」

 

 エジソンはここで言葉を区切り、改めて藤丸を見据える。

 

「だが、残念だ。大統王としての私は、お前達をここで断罪せねばならん」

 

 改善の見込みがないと判断した彼、それに呼応して機械化歩兵が謁見の間に雪崩込み、藤丸達を取り囲んだ。

 

 藤丸達は機械化歩兵に、武力を持って抵抗したが、その数に圧倒された。

 サーヴァント相手にとっては機械化歩兵はガラクタに過ぎないにしても、時に量は質に勝る。既に藤丸達に余力は残っていなかった。

 

「────ブラヴァツキー! 彼らを地下の特別牢に封印しろ!」

 

「りょうかーい。悪いけど、大人しくしててもらうわよ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……あの数は反則過ぎます」

 

 地下牢に捕らえられ、マシュは思わず言葉を零す。

 

 藤丸達は地下牢に幽閉された。だが、装備などは取り上げられることはなく。無警戒だと見受けられるが、マシュとナイチンゲールはマスターからの魔力供給が絶たれていた。

 おかげで力を発揮することが難しく、牢屋の単なる鉄格子さえ、その機能を十全に発揮していた。

 

「恭順を申し出るなら、見張り番に伝えてちょうだい。すぐに出してあげるから」

 

 これを施したのは、鉄格子越しに藤丸達を眺めるエレナであった。

 

「……ねえ、藤丸? どうしてあなた、協力を拒否したの? 途中で裏切る手だってあったでしょうに。少なくともこういう展開は予測されていたはず。なのにあなたは愚かな道を選んだ────どうして?」

 

「ナイチンゲールのためだよ」

 

「……そうね、あの場でフローレンスが承服するはずもない。一度仲間になった者は決して見捨てない、か」

 

 迷いなく答えた藤丸に敵ながら天晴れ、とエレナは好意的な笑みを浮かべた。

 

「あなたの振る舞いは、誰に卑下するでもない高潔なものよ。安心なさい、すぐに救いの手は来る。それまで待っていてちょうだいな」

 

 そう言うとエレナは藤丸に手を振り、その場を後にした。

 それから間もなくして、ナイチンゲールが暴れ出す。

 

「何とかして脱出しなくてはなりません。ご協力を」

 

「ナイチンゲールさん! 銃で牢を破壊するのは無理ではないかとっ!」

 

「うわっ!?」

 

「せっ、先輩!?」

 

 牢屋の中で発砲し、何とか脱出の糸口を作ろうとするナイチンゲール。だが、彼女の撃ち出した弾丸は跳弾し、藤丸の足元へと突き刺さる。

 あまりに無理で、むしろマスターに危険が及ぶため、マシュは急いで彼女に待ったをかける。

 

「……まあ、無茶ではあるな。だが、銃声が良く響いたおかげで迅速に見つけることができた」

 

 マシュに同調した声が上がる。しかし、その主は藤丸でもナイチンゲールでもなく。

 

「サーヴァント……!?」

 

 マシュが声の主────牢屋の外にいるサーヴァントを目視した。褐色肌に白いラインの模様が走り、ナイフを手に持つ男性だった。

 

『サーヴァントだって!? 反応は全くなかったぞ!?』

 

「サーヴァントの反応があると、あのインドの大英雄に嗅ぎ付けられる恐れがあるのでな。ある男から借り受けた宝具のおかげだ。……少し待て、その牢から出してやる」

 

「一体、あなたは?」

 

「……そうだな。名を明かさねば信用もされまい。とはいえ、名を伝えたところで知る者もいない。故にこう呼んでくれていいだろう────"ジェロニモ"と」

 

「ジェロニモ……! アパッチ族の精霊使い(シャーマン)ですね!」

 

 キャスターのクラスを依代に召喚された、ジェロニモ。アパッチというアメリカ先住民として生を受け、平凡な人生を送る────はずだった男である。

 

 アパッチ族の住む土地にて金が採掘され、それに目が眩んだ白人採掘者がインディアンを傷付け、殺し、捕えた。

 これをきっかけとして、アパッチ族は白人に対しての報復を何度も行い、白人とその資産に対する襲撃が続き、『アパッチ戦争』が始まった。

 

 この戦争によって、アパッチ族のとある男はメキシコ軍に妻と子供を惨殺され、報復をすべく戦線に加わった。

 復讐心を糧に戦う彼を恐れたメキシコ兵達は、彼を、獅子のように戦うことで名を馳せた聖人────ジェロニモと叫んだ。それ以降、男の名はジェロニモに変わった。

 

『アパッチ族の英雄か! なるほど、彼がエジソンに従うはずはないな』

 

「本来であれば敵同士だが、今回はそれどころではないのでな」

 

 ジェロニモにとって、アパッチ族にとって、アメリカ軍とは正しく怨敵である。だが、今回はアメリカという国を救うために行動している。

 確かにジェロニモは敗北した戦士として歴史に名を残しているが、しかし彼はそれを覆そうなどとは思わない、思えない。

 それを否定することは、その時代を共に駆けた同胞の流した血、己の血を無為にすることと同義。戦士であるが故に、敗北を受け入れ、堪える。

 

 私情や憎悪に囚われない冷静な判断、決断。ジェロニモの有するそれらは、紛うことなき英雄のものであった。

 

 藤丸達との会話の傍らで、彼は牢屋を解放する。

 

「さて、脱出といきたいが、その前に見張りの機械化歩兵を倒す。その時点でカルナに気が付かれるだろうから、全力で脱出しなければならない」

 

 表情を強ばらせたジェロニモは、藤丸達に「覚悟はできているか?」と問う。藤丸達の返答に時間はかからなかった。

 

「やるぞ、マシュ!」

 

「はい!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 壁に掛けられた松明の揺らめきが唯一の光源である、迷宮と呼んで差し支えない地下道。

 そこを、見張りの機械化歩兵を破壊しながら駆け抜ける一行。

 

「……よし! 仕留めた! だがカルナも気付いただろう。急ぐぞ、付いて来い!」

 

 全ての機械化歩兵を粉砕し、藤丸達はジェロニモの先導で出口へと疾走する。

 

「ジェロニモさん」

 

「どうした?」

 

 並走する中で、藤丸はジェロニモに質問する。

 

「この世界でアメリカとケルトが争っているなら、カウンターとして召喚されたサーヴァントが他にもいるはず。それについて何か知りませんか?」

 

「ああ、知っているとも。私と共に戦うサーヴァントは()……いや、()()存在する。脱出した後に紹介しよう」

 

 他にも様々なサーヴァントが召喚されているようだ、と付け加えたジェロニモは途端に顔を強ばらせ、出口を睨み付けた。

 

『────待った! 強力なサーヴァント反応が一体だ』

 

「……出し抜くのは無理な話だったか。だが行くしかあるまい」

 

 意を決し、藤丸達は光射す方へと足を進め、坂を駆け上がる。すると、そこには建築物もない荒野が広がっており、藤丸達の後方には聳え立つ白亜の城塞が鎮座していた。

 彼らは脱出に成功した。それは事実だったが、しかし、藤丸達の眼前には機械化歩兵や牢屋などとは比較にならない壁が待ち受けていた。

 

「────来たか」

 

 インドの大英雄、ランサーのサーヴァント────カルナが瞼を上げる。

 

「やはりジェロニモ、お前か」

 

「マハーバーラタの大英雄と、このような形で会いたくはなかったが」

 

「オレも、国家に敢然と立ち向かった英傑とこういった形で出会いたくはなかった。しかし、攻め込まれた以上はこちらも矛を持つ」

 

 カルナは己の得物を藤丸に差し向ける。そこにある敵意の色が薄いことを、藤丸やジェロニモが感じ取る。

 

「機械化歩兵に邪魔はさせない。オレとお前達だけで勝負だ。さあ、戦う準備をしろ」

 

 この発言を以て、確信を得る。カルナは本気で殺し合う気はないということを。

 彼が本気を出さないのならば、藤丸達に活路は残されている。

 

「……どうやら、本気でやるつもりはないようだ」

 

「うん。だから、その隙を突いて怯ませる。そして脱出しよう。短期決戦だ」

 

 声を潜めて戦闘の方向性を決定する。殺す気がないのなら、本気を出すつもりがないのなら、それに甘んじて遁走してやろう、と。

 

「私の宝具を用いれば、怯ませるに足る強化を施せるだろう。それまでの数秒を任せても構わないか?」

 

「はいっ、任せてください」

 

「ミス・マシュには私が付きましょう。私がいる限り、死傷することなど決してさせません」

 

「よしッ……! やるぞ、皆ッ!」

 

 藤丸の号令。それに呼応するサーヴァント達。マシュは大盾を構えて前衛に駆け、それに追従するナイチンゲール。ジェロニモは中衛に立ち、魔力を練る。

 

「準備は出来たようだな。ならば、始めるぞ」

 

 それを皮切りに、カルナもまた戦闘態勢に移行する。

 

 互いの矛が交わる前に、ジェロニモは地に膝をつき、宝具の詠唱を開始する。

 

「────精霊よ、太陽よ。今一度力を貸し与えたまえ────」

 

 当然、隙だらけなそれを許容するはずもなく。カルナは冷静に『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』を行使して、ジェロニモを撃ち抜かんとする。

 熱線が光速で撃ち出される寸前、その射線を遮るようにカルナの前に躍り出るマシュ。

 

「させません……!」

 

 岩石すら融解させる赤熱した光線を、マシュの大盾は直接受け止める。瞬間、大盾を通じてマシュの腕に過重な衝撃が伝わる。

 大気が割れ、周囲の温度が上昇する。受け止めた衝撃で足が地面を抉り、数メートル後退。

 

「くっ……!」

 

 だが、マシュはそれを完全に防ぎ切る。マシュの護りは、彼女の折れない精神、穢れなき心がある限り、堅牢な盾として機能する。

 カルナという経験も実力も格上なサーヴァントの宝具であっても、マシュの護りを撃ち抜くのは至難の業である。

 

「…………防ぐか」

 

 初撃を防いだのを見計らい、ナイチンゲールはペッパーボックスピストルをカルナに向け、発砲する。

 単なる鉛玉が大英雄に効くはずもなく。しかし、そもそもダメージを期待しての行動ではなく、これは時間稼ぎ。

 カルナの鎧があれば、鉛玉如きで傷つくことなどありはしない。だとしても、自身を狙う飛び道具に対して不動というのは、研ぎ澄まされた戦士の感覚が許さない。

 

 故に、カルナは弾丸を黄金の槍で弾いた。その僅かな挙動でさえ、藤丸達にとっては貴重な刹那だった。

 

「────その大いなる悪戯を……『大地を創りし者(ツァゴ・デジ・ナレヤ)』!」

 

 ジェロニモが吠える────と、彼の背後に巨大な体躯のコヨーテが出現し、遠吠え。すると同時に、藤丸達の上空に太陽が形成される。

 

大地を創りし者(ツァゴ・デジ・ナレヤ)』────それは対軍宝具に分類される、アパッチ族における伝承を小規模ながら再現する大魔術である。

 

 アパッチ族もといインディアンの間に伝わるコヨーテとは、神々や人々に恩恵と災いをもたらすトリックスターである。

 ジェロニモの宝具は、そんなコヨーテによって人々に煙草────インディアンにとってのそれは、嗜好品ではなく、世界の創造主または宇宙の真理である"大いなる神秘"と対話するための道具であった────がもたらされた逸話を再現したもの。

 

 その効果は非常に強力。形成された太陽の光によって、敵は広範囲に渡って灼熱に苦しむ。

 一方の味方は、アパッチの守護者であるコヨーテの祝福を受け、力が増幅し、傷が癒える。

 

「救援、感謝しますッ!」

 

 宝具による強化、それは途轍もなく。『大地を創りし者(ツァゴ・デジ・ナレヤ)』の下、ナイチンゲールはばら撒くように鉛玉を連射しながらカルナへと猪突猛進し、急接近したところで、カルナに拳を振りかぶる。

 

 カルナは、迫る弾丸を撃ち落として対応するが、その冷徹な眼はナイチンゲールを捉えて離さなかった。

 

「はぁッ……!」

 

 膂力が強化された拳を全力で振り抜くナイチンゲール。だが、カルナはそれを余裕を持って槍の柄で受け止めた。

 

「いい一撃だ。だが、この程度ならば造作もない」

 

「────ならば、これはどうかッ」

 

 ナイチンゲールの影から飛び出す、ジェロニモ。宝具を撃ち終えた彼は、即座に前衛に上がって来ていた。

 ジェロニモはナイフ片手にカルナへと襲い掛かる。キャスターでありながら、生前の強烈な武勇のおかげか、彼の近接戦闘技能は卓越している。

 

「シッ……!」

 

 振るわれるナイフは素早く、そして確実に急所を狙う軌道を描く。

 今回で言えば、槍を封じるべく、ジェロニモはカルナの右腕を狙い定めた。

 

 明確に筋を切り裂く一閃を、カルナはナイチンゲールの拳を受け止めるのを放棄し、僅かなステップで後退することで難なく躱す。

 

 逃さんと言わんばかりにナイチンゲールもまた駆け出し、カルナに迫る。そして、改めて拳を振り上げた。

 彼女の単調な攻撃に対し、カルナは槍で横薙ぐ。が、ナイチンゲールは槍の間合いに入る直前、潜るように体勢を低くし、寸分狂わないタイミングで突き上げるように槍に掌底を叩き込んだ。

 

 結果、槍はナイチンゲールの頭上を掠めるに留まり、彼女はカルナの懐に入り込んだ。

 

 そうして繰り出される、左ストレート。風を穿つ拳がカルナの鳩尾に突き刺さる寸前、彼は跳躍によって回避し、更に空中で身を捻り、槍の一打。

 

「っ……!」

 

 腕を交差させて槍を受けたナイチンゲールは、勢いを殺し切れずに吹き飛び、地面を転がる。

 

「ナイチンゲールさん……!」

 

「……軽傷です」

 

 前線に戻ったマシュの呼びかけに、ナイチンゲールは体勢を整え、落ち着いて返す。痛みはコヨーテの祝福によって既に引きつつあった。

 

 三騎のサーヴァントに捕捉され、しかしそれを物ともしないカルナは、僅かな踏み込みでジェロニモに迫る。

 槍を振るい、黄金の残光を描く。圧倒的な技量と力によって繰り出されるそれは、真面に受ければ戦闘不能は免れない。

 

 故にジェロニモは全神経を尖らせ、これを回避することに徹する。

 

 一撃────身を屈める。

 二撃────地を転がる。

 三撃────跳ぶ。

 四撃────身を捻る。

 五撃────ナイフで受け、軌道を反らす。

 

 ここまで耐え、ジェロニモに追い付いたマシュにアイコンタクトをしてからスイッチ。

 

「はぁ……!」

 

 退くジェロニモを追った一条を、大盾で受け止める。

 

「付け焼き刃にしては、それなりに連携が取れている。役割を十全に理解し、全うしているからこそか」

 

 カルナは槍を幾度も振るい、マシュはそれを必死に受け止めて弾く。火花が飛び散り、激しい光の明滅を繰り返す。

 堅牢な護りを崩すべく、カルナは一際力を込めた強撃を打ち込む。と、マシュの大盾はそれを防ぎこそしたものの、衝撃で浮き上がった。

 

 その隙間を縫うような、槍の刺突。

 

「させんッ!」

 

 マシュの身体を穿つと思われた一条を、割り込んだジェロニモのナイフが反らす。

 更に、彼はナイフを槍の柄に滑らせ、カルナに急接近すると、徐に結束手榴弾を取り出した。

 

 後退した際に、ジェロニモはナイチンゲールから借り受けていたのだ。

 結束手榴弾でカルナの腹部に殴打をかまし、ゼロ距離爆破を敢行。ジェロニモは寸でで逃げおおせる。

 

「ジェロニモさん、お怪我はありませんか!?」

 

「ああ、大丈夫だ。それにしても、これで倒れるなど有り得ないか」

 

 爆煙を斬り裂くは、無傷のカルナ。近代兵器如きでは、彼の『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』を打破するに足らず。

 

「……分かってはいたが、私の宝具による灼熱の陽光を浴びて無反応とは。流石は太陽神の子と呼ぶべきか」

 

「陽の光は太陽神の威光そのもの。死後、それに同化したオレが陽光に焼かれるなど、ありはしない。だが、お前のそれは、オレ以外ならば対応に困るものに相違ない。単に相性の問題だ」

 

「……言ってくれる」

 

 ナイフの柄を強く握り、ジェロニモは改めてカルナの強さに舌を巻く。

 

 太陽神を親に持つからこそ、太陽による熱を無効化するのは予想できていた。だが、技量は予想を遥かに凌駕。

 宝具の強化を得た攻撃でさえ容易くあしらう。大英雄とは名ばかりではないと再認識させられる。

 

「攻めるぞ、攻めなければ活路もないッ!」

 

 しかし、だからといって臆する理由にはならない。端から格が違うことなど了解済みなのだ。

 本気を出したカルナであるならば、既に藤丸達は炭化どころか灰すら残さず焼き尽くされている。

 

 宝具が効かない、余裕を突き崩せない。だから何だというのか。むしろ、本物の大英雄と手合わせできる機会に感謝するぐらいの気概がなければ、勝ちの目など皆無なのだから。

 

「その覚悟や良し。ならば────我が一投を耐えてみろ」

 

 ジェロニモの思いの強さを鋭敏に感じ取ったカルナは、槍を握り直し、魔力を込めた。

 その動作のみで、藤丸達は背筋が凍ったと錯覚する程の危機感に襲われた。

 

「来るぞ……!」

 

 瞬間的に魔力を迸らせたカルナは、跳躍の後にそれを解き放った。

 

「受け取れ────『梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)』ッ!」

 

 カルナがバラモンのパラシュラーマから授けられた対国宝具。槍兵で現界している場合、それは炎熱を纏わせた槍の一投であり、威力は核兵器に例えられる程。

 およそ、生命の尽くを焼き尽くすであろう投擲。これでも本気の一投ではないというのだから、真の英雄は質が悪い。

 

「こ、れは……」

 

「…………ッ!!」

 

 そんな宝具の一撃も、マシュの護りならば耐えきれるだろう。マシュのみならば。

 藤丸達は単横陣に展開していたため、仮に直撃を防いだとしても、余波によってナイチンゲールもジェロニモも消滅しかねない。

 

 カルナの放った宝具は、正しく全滅に足る必殺の一撃だった────彼女がいなければ。

 

「────すべての毒あるもの、害あるものを絶ち! 我が力の限り、人々の幸福を導かん!」

 

 炎熱の槍を前にして、ナイチンゲールが堂々と言葉を紡ぐ。

 

「────『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』!」

 

 すると、ナイチンゲールの背後に、彼女に似た"白衣の女神"の上半身が幻として出現する。

 青白く、そして巨大なそれは、頭上高く振り上げた大剣を構えていた。

 

我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』────彼女の精神性が昇華され、更には彼女自身の逸話から近現代にかけて成立した"傷病者を助ける白衣の天使"という看護師の概念さえもが結びつき誕生した宝具。

 

「────っ……!」

 

 "白衣の女神"が大上段に構えた大剣を振り下ろすと同時に、『梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・グンダーラ)』の炎が消え失せ、勢いも失った槍が地に落ちる。

 

 ナイチンゲールの宝具、それは"あらゆる攻撃性の無効化"。毒性や攻撃性は消滅し、一時的に()()()()()()()()()()()()()

 強制的に作り出される安全圏。それこそがこの宝具であり、彼女の生涯が故に成せる対軍宝具である。

 

「今だッ、マシュ!!」

 

 己がマスターの呼びかけに、弾かれたように反応したマシュ。

 虚をつかれたカルナは、刹那の間だけだが隙を晒した。その刹那を穿つべく。

 

 藤丸はマシュに瞬間強化をかけ、彼女は大盾を持ってカルナに突貫した。

 

 一の矢────『大地を創りし者(ツァゴ・デジ・ナレヤ)』による強化、回復。

 二の矢────『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』による刹那の形勢。

 三の矢────最も信頼を置くマスターによる強化魔術。

 

 全ての矢を束ねた一撃を、大盾に込めて。

 

「はぁぁぁぁ────!!」

 

「っ…………」

 

 地に降り立ったカルナに、マシュは大盾を前にして突進。二重にも強化が施されたそれは、大英雄すら強引に後退させた。

 

「ッ! 今だ! 走れ────!」

 

 カルナを怯ませた。目的の達成を確認すると同時に、ジェロニモは叫ぶ。藤丸達は白亜の城塞を背に、一斉に駆けた。

 すると、藤丸達の視界の遠方から土煙が上がっていることに、彼らは気が付く。耳を澄ませば、蹄が大地を蹴る音、車輪のようなものが回転する音が聞こえてくる。

 

 白亜の城塞というより藤丸達目掛けて、一輌の戦車が爆走して来ていた。

 

 戦車を轢く白と黒の戦馬達は、現代の馬とは比較対象にもならない程に神秘的な毛並みを持ち、その体躯も二回りは大きい。

 何より目を引くのは、その戦馬が轢いている戦車の造形。搭乗人数は二名程度と変わりはないが、車体は鎧の如き鋼鉄に覆われ、車輪の轂には刃が備えられ。

 重量とサイズを引き換えに安定性と防御力、そして破壊力を得ているものの、それを轢くことができる馬が、実際に轢く白と黒の戦馬以外に何頭いるというのか。

 

 すわ、新手かと身構えそうになる藤丸達だったが、唯一ジェロニモだけが口元を緩ませた。

 

「良いタイミングだ」

 

「っ、ジェロニモさん、あれは……!?」

 

「安心してくれ、味方だ」

 

 爆走していた戦車が円を描くようにカーブし、藤丸達の前で停車する。戦車の後尾には荷台が取り付けられていた。

 

「────皆さん、お早く!」

 

 戦車を操る御者は、長身痩躯の赤毛の青年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでか。……エジソン、どうやら終わりの刻が近付き始めたらしい」

 

 戦車によって遠方に消えつつあるカルデア一行を見て、カルナは一人ごちる。

 

「助けを乞われた以上、最後まで付き合うが……さて、どう動けば悲劇的な結末を避けられるのか」

 

 

 

 ◆

 




◆補足
Q.冒頭でカットするとか言っておいて全然カットしてないやん!どないしてくれんのこれ?
A.本当に申し訳ない(人工無能)。これでも結構割愛したんです。これ以上削ってしまうと、マジでFate/GO未プレイお断りの内容になると思ったので、こればかりはお許しを。

Q.カルナさんってこんな簡単に倒せる?
A.無理じゃね(おい)。ゆーてゲーム本編だとジェロニモが「有利なクラスで固めてブッパしろ」とかいうメタ的なアドバイスして漸く怯ませられるレベルやし。でも現地鯖の面々だけでどうにかしようも思ったら、これくらいしか思いつかなかったでござる。

Q.最後に出てきた青年って……?
A.本作唯一の良心(敵対)。

Q.(偽)ニキどこ?
A.活躍まではまだ時間がかかるんじゃ。序盤では影が薄いですが、中盤から終盤にかけては出ずっぱりだと思いますので、暫くお待ちをば。



↓ここから雑談↓



お久しぶりです、texiattoです。投稿間隔が空いてしまい、申し訳ありませんでした(初手謝罪)。ぜんぶ時間泥棒(原神、地獄楽、呪術廻戦)が悪いんや……。
今回は、区切りのいいところまで描いていたら、必然的に2節まとめての内容となりました。特に原作とは変更点はありませんが、強いて言えば、カルナ突破の面子が現地鯖のみであることや、藤丸達の脱出の最後に手を貸した人物の存在が相違点として挙げられると思います。また、最後の御者くんは次回から割と出ずっぱりになると思います。何故レジスタンスについたのかは割と想像つくかもですが(白目)。
ところで、前回から反省に反省を重ねた、猛省をしていました。マジで申し訳ないです。対策としては冒頭に記載した通りでやっていこうと思っていますので、御理解の程をお願い致します。

さて、次回は本編を進めるか、或いは(偽)ニキ視点のガバについて書く予定です。例の如く投稿間隔は空いてしまいますが、首を長くして待って頂ければ幸いです。では、またお会いしましょう!






















デモソリメイクやりてぇ……(金欠&PS5未購入)。リメイクでもユルトの「ダイスンスーン」とかドランのくっそ情けない断末魔とか聞けるんですかね?(情弱)
あと関係ないけどバトライループ死んで大草原。Twitterのトレンド入りすんのマジで笑った。けどドギラゴン閃でドラグナーが息を吹き返してて更に草。


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ラーマは戦場へ行った〜ヤングガン:三人称視点

この辺にぃ、今さら今年初投稿してる小説があるらしいっすよ?じゃけん焼きましょうねぇ^〜(焚書)。

マジですまんかった。


 ◆

 

 

 

 戦車が引く荷台に転がり込み、白亜の城塞を後にした藤丸達。既にカルナの姿も見えず、警戒を解いた一行は倒れ込むように安堵した。

 

「た、助かりました……」

 

「ジェロニモさん、彼は……?」

 

 藤丸は荷台に揺られながら息を整え、駆けつけてくれた青年の素性を問う。

 

「城塞の地下で話した、私と共に戦うサーヴァントの一人だ。名を────レーグという」

 

「レーグって、"あの"!?」

 

「ケルト神話のアルスター・サイクルに登場する、"御者の王レーグ"でしょうか……!」

 

「えっ、僕ってそんなに有名になんですか……?」

 

 藤丸とマシュの興奮する声に耳を傾けていたレーグは、思わず突っ込んでしまった。

 

「はい! 彼の英雄クー・フーリンと共に女神モリガンに抗った一人として、ケルト神話を読んだ人なら誰もが知っています!」

 

 早口気味なマシュの説明とそれに首肯する藤丸に、レーグは気恥しさを覚え、「そ、それは光栄なことですね」と苦笑混じりに頬をかく。

 

「……ですが、レーグさんもケルト出身でしたよね? このアメリカの地では合衆国軍とケルトが争っているはず。ケルト出身のレーグさんがジェロニモさんの仲間というのは、どういう……」

 

「ああ、確かにレーグはケルトの英霊ではあるが、彼は自らの意思で私達に協力してくれている」

 

 マシュの疑問に返答したジェロニモ。その彼の言葉を引き継ぐように、レーグが口を開いた。

 

「ケルト側のサーヴァントは、あちらにある聖杯によって召喚されています。ですが、僕はそうじゃない。ジェロニモさんと同様に、カウンターとして呼び出されたサーヴァントなんです」

 

「なるほど、そうだったのですね。失礼しました」

 

「はは、大丈夫ですよ。これからよろしくお願いしますね」

 

 北米の地を跳梁跋扈しているケルトのサーヴァントは、魔術王が何者かに与えた聖杯によって呼び寄せられている。

 つまり、聖杯を持つ人物が願った結果として、ケルトの豪傑達がこの地に現界しているのだ。

 

 そんな彼らを召喚することが可能な人物となれば、聖杯を与えられた人物もまたケルト縁の誰かだろう────と、藤丸は推測した。

 

 ふと、藤丸はレーグの背に目を向ける。彼の表情は分からないが、今のレーグには翳りが感じられた。

 

(────このアメリカに、クー・フーリンも召喚されているんだろうか)

 

 蒼空へと視線を移し、光帯を視界に収めた藤丸は、幼き頃の心象に刻まれた英雄に思いを馳せた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 藤丸達は、西部の小さな街に辿り着いた。ここの住人達は既にケルトの猛攻から避難しており、今いるのはレジスタンスの同胞達だけだった。

 三時間ほどの休憩を取ってから、ジェロニモは藤丸達へと話を持ちかけた。

 

「ここでは四騎目のサーヴァントを匿っている」

 

「サーヴァントがいるんですか?」

 

「君達を助けたのは、協力してほしいのも無論だが、何より彼を治療したいためだ」

 

「つまり、私の出番ということでよろしいですね? いえ、出番であろうがなかろうが、治療を求める患者がいるのならば、私は出向きます」

 

「ああ、頼む。君の治療があれば、何とかなるかもしれない────よし、彼を運んできてくれ!」

 

 とんとん拍子に進み、ナイチンゲールのもとに赤髪の青年が運ばれてくる。

 彼の胸部には血が滲んだ布が何重にも当てられており、その傷のせいか、青年は苦悶の表情を浮かべていた。

 

『心臓が半ば抉られているじゃないか……!? よく生きてられるな、彼!』

 

「まあ……頑丈なのが……取り柄だからな……。ぐっ……!」

 

「────こんな傷は初めてです。ですが、見捨てることはしません。必ず、治してみせます」

 

「くく……それは、安心できそう……て、痛ッ!? き、貴様もうちょっと手加減できんのか!?」

 

 相変わらずのナイチンゲールの容赦の無さに、青年は思わず声を荒らげた。

 彼女のそれに覚えがあった藤丸とマシュは、同様に苦笑する。

 

「……それで、こちらの方は? この国出身のサーヴァントではなさそうですが……」

 

「よ、余のことか!? 余はラーマ! コサラの偉大な王である! 詳しくは……あいだだだだッ! 『ラーマーヤナ』を読め、以上だッ!」

 

 ラーマ────インドにおける二代叙事詩の一つ『ラーマーヤナ』の主人公にして、人間でなければ倒すことができない魔王ラーヴァナに対抗すべく、シヴァと並ぶ最高神ヴィシュヌが人間へと転生した姿である。

 

『ラーマ! これまたビッグネームが飛び出てきたね!』

 

「ですが、貴方ほどの英雄が誰と戦えばこんな深手を……?」

 

「仕方あるまい……何しろ相手は……クー・フーリン。アイルランド最強の英雄だ」

 

「クー・フーリン……!?」

 

 これに過敏な反応を返したのは、藤丸だった。彼からすれば、つい先刻の思考の中心にあった人物である。

 そんな英雄が、このアメリカに現界しており、しかも敵方にて力を振るっている。

 

『クー・フーリン。光の御子と呼ばれ、あの時代ではあまりに異質な"不殺"を体現した、アイルランド屈指の大英雄。彼の持つ槍ゲイ・ボルクは、狙えば必ず心臓を穿つという。……それなら回避も難しいか』

 

 いくらラーマが強かろうと、必殺必中の一条に対処するのは困難。故に、今の彼は心臓の八割が抉られている。

 

「確か……クー・フーリンって、人を殺めないゲッシュを立てているはずじゃ……」

 

 昔の記憶を掬い上げた藤丸の疑問に、レーグが口を開く。

 

「はい、その通りです。クー・フーリンさんは人を殺めない誓いを立てています。ですが、今のラーマさんはサーヴァント。つまり、人ではなくエーテル体の霊的な存在です」

 

「なるほど、対サーヴァントであれば何の誓約にも抵触しない、ということですね」

 

 沈痛な面持ちでレーグは首肯する。

 

「……ですが、誰を護るためでもないのに、クー・フーリンさんが力を振るうのは……。ラーマさんから聞いたところによると、クー・フーリンさんはレジスタンスの方々が死に行くのを、ただ傍観していたそうです。そんなこと、有り得ない……あっちゃいけないんです……誰かが死んでいくことに、動じもしないだなんて……」

 

「……それに関しては、同感だ」

 

 ナイチンゲールに身体検査をされながら、ラーマはレーグに同調する。脂汗を滲ませながら、彼は言葉を紡ぐ。

 

「クー・フーリンと戦い……彼を知った。彼は虐殺をするために槍を、術を振るうような蛮族ではない。レーグから聞いた彼の人柄を合わせて考慮すれば、その直感は……間違いないのであろう」

 

 熟達の戦士ともなれば、剣を交えるのみで互いの思考や癖などが見えてくる。

 そこから相手の人間性を見出し、素性を掴み取る。

 

 僅かな間ではあったが、ラーマはクー・フーリンと戦い、確かに彼の誇りを感じ取った。

 

 巧みな槍術は武の極みにあり、息も上がらぬ様は並々ならぬ持久力を物語る。

 常に乱れぬ思考は心の強さを示し、自身を襲う刃への的確な対処は経験値の高さの証明。

 戦場での傲岸不遜な言動は、彼が正しく強者であるからこそ。しかし、そこに慢心は介在せず。

 

 それらの根底にあるのは────矜恃。

 

 自身で設けた掟を守り抜くからこその、強さ。誰かを護るため、何かを成すため、何であれ自らの縛りを遵守している。

 背負うものがあるからこそ、人は強く在ることができる。それを貫くからこそ、胸を張ることができる。

 

 クー・フーリンは、その類の頂点にも位置する戦士であると、ラーマは鋭く感じ取ったのだ。

 

「……だからこそ、解せん。何故、あそこで見捨てた。何故、見ているだけだった。何故、鏖殺を許可した……!」

 

 だが、クー・フーリンとの戦闘時、ラーマの目には彼こそが殺戮者の長として映った。

 筋骨隆々な猛者を束ね、何百というレジスタンスを殺し、荒野に屍山血河を築き上げていたのだから、当然のことだった。

 

「確かに、クー・フーリン自身は人を殺めてはいない。だがッ、生者を見捨て、殺戮を支持していたならば、あの場で殺しを行ったは彼ではないか……!」

 

 問い質すように声を荒らげたラーマの顔は、痛みや苦しみではなく、純粋な憤怒に満ちていた。

 

「大声をあげない! ……っ、悔しい、悔しい! 追いかける死の速度を鈍くはできても、止めることはできない……!」

 

 一方で、ナイチンゲールもまた顔を歪める。ラーマの状態を調べるほどに、自身の知識と技術では治せないことが判明していく。

 生きたがっているからこそ、絶対に生かさねばならない。そのためならば、殺してでも救ってみせる。

 そう心に刻まれた信念を、ラーマの傷は容易く阻んでみせたのだ。故に、ナイチンゲールは心の底から歯痒かった。

 

「……貴方達に伺いたいことが一つ、あります」

 

 ナイチンゲールは、ラーマの傷を射殺さんばかりに睨み付けながら、藤丸とマシュ、ロマンに問う。

 

「先程修復したはずの心臓が、既に十パーセント以上損壊しています。絶えず治療し続けなければ、すぐに死に至るでしょう」

 

『クリミアの天使』の通り名を冠する彼女であっても、ラーマの心臓を治癒するには至らず。その事実が、彼女に波のように押し寄せる。

 

「私は彼を見捨てたくはないし、見捨てる気もありません。この少年は、こんなにも生きたがっている。生きようという意志ある限り、私は絶対に見捨てない!」

 

 だとしても、ナイチンゲールが諦めることは有り得ない。

 

「────方法を教えてください。彼を治療する方法を!」

 

 救いを求める患者がいる。それこそが彼女の原動力。これがある限り、ナイチンゲールが止まることなどないのだから。

 

『……ラーマの傷が治らないのは、きっと呪いのせいだろう』

 

 ナイチンゲールの叫びに応えたロマニは、冷静に分析結果を述べる。

 

『クー・フーリンの有する魔槍ゲイ・ボルクに穿たれて尚、死んでいないというのは、世界からしたらおかしい事象なんだ。それを、ラーマは奇跡を以て生きながらえている』

 

 ラーマの心臓の修復を阻んでいるのは、魔槍の呪い。

 心臓を穿ったという事象を確定させてから放つ一撃であるがために、これを受けたラーマは、死んでいなければおかしいのである。

 

 ラーマが今も生きていられるのは、偏に彼が真なる英雄であるからで、本来死んでいる筈の状態を無理やり逆転させる奇跡を体現している。

 そのため、如何にナイチンゲールに『人体理解』や『鋼の看護』のスキルがあったとしても、心臓を治癒するのは不可能だったのだ。

 

「死んでいなければおかしいとは、聞き捨てなりません」

 

『うわっ!?』

 

「ナ、ナイチンゲールさん、落ち着いてください……!」

 

 ロマニの説明がナイチンゲールの地雷を踏み抜き、彼女はノータイムでロマニのホログラムに鉛玉を放つ。

 

 それを宥めつつ、一同は続きを促す。

 

『……表現が悪かったよ、ゴメン。まあ、何を言いたいのかというと、心臓の修復を阻害しているのは呪いだから、まずは解呪が先ってこと』

 

「解呪……」

 

「となると、呪いの原因を取り除くのが先決か」

 

『そうだね。ラーマを解呪するには、因果を捻じ曲げた槍を消失させるしかない。でも、それが困難であることは、モニターしていてもよく分かる。クー・フーリンの他に最低でも二騎、サーヴァントがいることは確定しているのだし』

 

 藤丸達の有するケルト勢の情報は、フィニアン・サイクルの戦士フィン・マックールとディルムッド・オディナと、未知数の敵クー・フーリンの存在のみが判明している。

 

 アメリカに来て早々に遭遇したフィンとディルムッドの主従コンビに、藤丸とマシュはいいように足止めされてしまった。

 時間稼ぎが目的の彼らに、手加減を施されて尚、攻めきれなかったのだ。そのような傑物が最低でも二人いる。

 

 そこに加えて、彼の英雄ラーマを赤子を捻るように仕留めてみせたクー・フーリンがいる。

 サーヴァントの数は藤丸達が上だとしても、個人の戦闘能力が段違い。故に、正面切ってやり合えば敗北を喫することとなるのは明白だった。

 

 重苦しい事実に空気が停滞しかけるが、すかさずロマニが糸口を示す。

 

『────けれど、他のアプローチから彼を治癒できるかもしれない』

 

「と、いうと?」

 

『このアメリカは不安定だ。ケルトの戦士達が、存在もあやふやなのに召喚されては殺し、殺されていくのと同じく……ラーマ君もまた、違う何かで存在を強化すれば因果が解消されるか、それに近い状態に戻るはずだ』

 

「存在を強化……どうすれば?」

 

『一番いいのは、生前の彼を知っているサーヴァントとの接触を図ることだ。生前の彼という設計図を知っているなら、ミス・ナイチンゲールの治療も効果が上がると思う』

 

「……一人、いる。この世界のどこかに、召喚されたサーヴァントが」

 

「……それは、いったい?」

 

「────我が妻、シータだ」

 

 シータ────ラーマの妻にして、彼の召喚に応じて世界の何処かに現界するサーヴァント。

 

「余も、まだこの眼で見てはいない。だが必ず、この世界の何処かに囚われているはずだ」

 

『なるほど。ラーマの妻、シータか。君に引き摺られる形で召喚されたのかな? 彼女を見つけ出せば、治療も不可能ではない』

 

 ここまでしてラーマの治療に拘る理由、それは彼が救いを求めているからというのもあるが、それ以外に、ラーマが強力な戦力となるからである。

 このアメリカには様々なサーヴァントが召喚されている。その中でトップの能力を有するサーヴァントとなると、カルナが挙げられる。

 その彼に、ラーマは五分五分の勝負をするだけの力がある。喉から手が出る程に戦力を欲するレジスタンスからしても、是非ともラーマを治療しなければならないのだ。

 

 そうして、藤丸一行はラーマ治療のため、シータの捜索を行うことを決定する。

 

「────さて、ラーマの治療法については道筋がついたが、我々には早急に方向を定めねばならない問題がある」

 

「というと、どうやって北米の戦争を終わらせるか、という問題でしょうか?」

 

「その通り。今、この地を歪めている原因────聖杯は、ケルト側にある。これを回収せねば解決のしようもない」

 

 藤丸達も知っての通り、エジソンが聖杯を手にした場合に訪れる結末はロクなものではない。

 まだそうなっていないと言うことは、エジソンの手中に聖杯が存在していないことを意味する。

 

 となれば、必然的に聖杯の所在はケルトにあることになる。

 問題は、ケルト勢の誰が聖杯を所持しているのかについてだが────

 

「────聖杯を所持しているのは誰なのか、その見当はついている」

 

「!」

 

「そうだろう、レーグ」

 

 ジェロニモはレーグに目配せし、レーグは首肯して話を引き継ぐ。

 

「はい。この地で暴れている戦士達を見て、直ぐに気が付きました。あれらは"名も無き戦士たち"。女王を母胎とする、無限に製造される駒です」

 

『む、無限!? それだけの物量を簡単に揃えられるなら……確かに、戦争で優位にもなるか』

 

「ケルト……戦士の母……そして女王って、もしかして」

 

「きっと、その人物で合ってます。聖杯の持ち手は、コノートの女王メイヴだと推測されます」

 

 コノートの女王メイヴ。神話から見れば、非常に冷酷で我儘な人物像が描ける、為政者にして支配者である。

 実際は何処かの鈍感野郎のせいで限りなく乙女(ソイツの前限定)になっているのだが、それを藤丸達は知る由もない。

 

「無限の歩兵と、戦闘に特化したケルト出身のサーヴァント複数……立ち向かうとなると、厳しい戦いは避けられないか」

 

『そうだね。真面にやり合っていては勝ちの目は皆無に等しい────だから、こちらから進言するべき策は一つしかない』

 

 皆の視線がホログラムに投影されたロマニに束ねられ、彼は冷静に断言する。

 

『暗殺────サーヴァント達で、一気に王と女王を討ち取ること。敵が無限に増殖するなら、首魁を狙う以外に方法はない』

 

「────その通りだ。よくぞ言ってくれた、ドクター。よし、少しでも暗殺の確率を上げるため、各地に散っているサーヴァント達を集結させよう」

 

 暗殺という、ともすれば狡猾なやり方だが、絶望的な戦力差であるが故に最も有効な策。

 的確に相手の急所を突くという性質上、少数で動くため動きを覚られにくいという利点が光る。

 

「確認しよう。我々はラーマの治療のため、彼の妻シータを捜索する。それと並行して、暗殺のために各地のサーヴァント達との合流を目指す」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「オレはロビンフッド、クラスはアーチャー。それで隣のコイツが────」

 

「僕はウィリアム・ヘンリー・マッカーティ・ジュニア。人呼んで────ビリー・ザ・キッド!」

 

 ジェロニモの案内の元、藤丸達はレジスタンスに属するサーヴァントと合流した。

 そして、藤丸達はロビンフッドとビリーに情報共有を行う。

 

「……なるほどねえ。このラーマって子を治療する。戦力を拡充する」

 

「そして敵さんの親玉を暗殺する、と。いいんじゃない? 妥当な手段でしょ、それ」

 

「だが、クラスの偏りを考慮すると、こちらの仲間にセイバーかランサーが欲しいところだ」

 

 ジェロニモの言う通り、現状のレジスタンスのサーヴァントは非常にアンバランスにあった。

 

 魔術による強化や盾による防御等を行うジェロニモとマシュは中衛。

 アーチャーでありゲリラ戦に特化したロビンフッドとビリーは、圧倒的に後衛。

 レーグに関して言えば、戦車こそ強力だがスキルや宝具を加味すれば支援役。

 

 前衛を張れるだけのサーヴァントは、ラーマとナイチンゲールのみである。しかし、ラーマは負傷中、ナイチンゲールは連携不可。

 仮にラーマが完治したとしても前衛は二人だけ。対して、相手は脳筋前衛ばかりなケルト連中。あまりに負担が重い。

 

「……あー……まあ、いないこともないですかねえ」

 

 剣士か槍兵が欲しい。これを耳にした途端、ロビンフッドは臆面もなく渋い顔を浮かべる。

 

「サーヴァントとしてはそれなりで、戦力としても心強いですよ……ただ、それ以外のクセがかなり強いというか、ウルトラ問題児というか……」

 

 彼の脳内には、歌が壊滅的な皇帝と、これまた歌が破滅的(物理攻撃可)なドラゴン娘が好き放題やっている絵面が広がっていた。

 

「我々に選り好みするだけの余裕はない。是非とも助力を願いたい」

 

「……後悔しないでくださいよ」

 

 ジェロニモの力強い意志に押され、ロビンフッドは項垂れながらも了解した。最も、問題児たるセイバーとランサーのお守りは誰かに押し付けようと、ロビンフッドが決意した瞬間でもあった。

 

「セイバーとランサーが確保できたのなら、目的の達成に期待が持てる。だが、我儘を言えばもう少し戦力が欲しいところだな」

 

『それに関しては、こちらでどうにかできるかもしれない』

 

 会話を聞いていたロマニが口を開き、俯いて思案していたジェロニモが弾かれたように顔を上げた。

 ロマニの言わんとすることに察しが着いた藤丸は、これまでの特異点での経験を思い出した。

 

「……そっか、霊脈を確保すれば」

 

『その通り。霊脈の規模にもよるけれど、カルデアからサーヴァントを追加でそちらに送り込むことができるだろう』

 

 藤丸達はこれまでの特異点攻略において、多くのサーヴァントと信頼を結び、その後に彼らはカルデアに召喚されている。

 余談だが、藤丸は運とコミュ力がカンストしているため、出会ったサーヴァントの全てを引き当てている。これが主人公補正か。

 

『藤丸君とマシュの頑張りのおかげで、これまでに縁を結んだ英霊は多い。ここから、クー・フーリンと戦えるだけのサーヴァントを選出すれば「今、クー・フーリンと言ったか?」……あ』

 

「え、ドクター?」

 

 

 

 ◆




◆今回のまとめ
本人(偽ニキ)のいないところで色々と上がったり下がったりした。

◆補足
Q.アイフェさん出番まだ?
A.霊脈確保して召喚サークルできたら呼ぶ。尚、彼女はアップを始めました(死刑宣告)。

Q.投稿遅くなーい?
A.理由は下記に書いた通りです。ホンマにすまんかった。


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。去年の十一月からまさかの四ヶ月空けての投稿で、もうホントに申し訳ないです。投稿が遅れた理由は色々あります。実は自分、去年一年間は就活生でして、コロナ禍での就活という地獄を乗り切ったと思えば、卒論と自車校が時間をぶち壊しやがり、その後は内定者研修と引越し準備で暇が爆発。僅かな自由時間は原神(マップ探索度大体100%)とブラボ(トロコンしちゃった♡)と隻狼(怨嗟の鬼が楽しい)とダクソ3(NPC闇霊とクソデカ蟹と侵入で屍山血河)とモンハンライズ(体験版マガド強かったけど製品版は雑魚で草なんだ)とウマ娘(こいつらうまぴょいしたんだ!)に持ってかれてました。これからは社会人として、働く合間に書いていきたいと思ってます。
さて、今回は簡単に内容をまとめました。三人称視点だからネタを入れにくいので、矢継ぎ早にストーリーを推し進め、さっさと次を書こうという魂胆です。原作との変更点は、レジスタンス側にレーグ君が加入し、アイフェ増援フラグが立ったことくらいですかね。正直、書くのが久しぶり過ぎて今後の展開だとか伏線仕込みだとかが吹き飛んだので、手の動くまま書きました。これ絶対ガバある(確信)。
次回は……というか、連続投稿するんで予告はしなくてもいいですよね。とりあえず(偽)ニキ視点で脳死トークしたいだけなので、ここまでにしときナス(たれぞう)。

↓おま〇け↓

◆マテリアル:レーグ
▶真名:レーグ
▶プロフィール
身長/体重:170cm/61kg
属性:秩序・中庸
性別:男性
好きなもの:馬の世話、鍛錬、英雄譚
嫌いなもの:卑屈な自分、モリガン
一人称:僕
二人称:「名前」さん、呼び捨て
三人称:「名前」さん、呼び捨て
▶クラス:ライダー
▶ステータス
筋力:D
耐久:D
敏捷:B
魔力:C
幸運:B
宝具:C
▶クラススキル
・騎乗:A+
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
A+ランクでは竜種を除くすべての獣、乗り物を乗りこなすことができる。
・対魔力:C
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。
Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
▶スキル
・御者の王:A+
御者としての資質を表すスキル。騎乗スキルに該当する乗り物に乗った際、敏捷と幸運に補正がかかる。
御者の王とは今も昔もレーグしかおらず、そのため必然的に彼のためのスキルと言える。
・不可視の魔術:C
自身の姿を不可視にする魔術。気配遮断の劣化版とも言える性能だが、魔術でアサシンクラスのクラススキルと似た効果を引き出すことができるため、侮れない。
Cランクでは、姿は完全に消せても所作の音や身体・衣服の臭いまでは消すことができない。
・不屈の意志:C
あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意思。肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。ただし、幻影のように他者を誘導させるような攻撃には耐性を保たない。一例を挙げると「落とし穴に嵌まる」ことへのダメージには耐性があるが、「幻影で落とし穴を地面に見せかける」ということには耐性がついていない。
▶宝具
・『彼の為の剛戦車(チャリオット・フォー・ マイ・ヒーロー)』
ランク:B
種別:対軍宝具
レンジ:2〜60
最大補足:50人
クー・フーリンを乗せて駆けた戦車を召喚する宝具。セングレンとマッハもセットで召喚され、地上を縦横無尽に駆ける。クー・フーリンを同時に搭乗させた場合に、自身の全てのステータスがワンランクアップする追加効果を持つ。
戦車を引くセングレンとマッハは、通常の馬とは圧倒的に異なる。まず、体格は二回りは大きく、魔獣と見紛うほど。その肉体に纏う筋肉量も多く、突進や蹴りのみで常人を肉塊へと変貌させるだけの力がある。英霊であっても、マトモに喰らえば大ダメージは免れない。従って、セングレンとマッハは馬の域を超え、最早モンスターである。
そんな二頭が引く戦車は、当時のチャリオットよりも巨大且つ堅牢で、重い。並大抵の攻撃を弾き返し、低ランクの宝具の攻撃をも軽減し得る。また、その堅牢さ故に突進の火力も高く、攻防一体の宝具となっている。
コンホヴォル王がクー・フーリンに与えた戦車、その御者として選ばれたレーグは、矜恃と羨望を持って任に当たった。彼と旅をする中でレーグは精神面で成長を果たしたことから、クー・フーリンと共に在ることで真価を発揮すると解釈された。
・『???』
ランク:
種別:
レンジ:
最大補足:
▶人物
クー・フーリンの相棒である青年。中性的な顔立ちに唐紅色の髪と翡翠のような瞳を持ち、スレンダーながらもケルトの男性にしては小柄な体格をしている。小心で頼りない印象を与える言動をしているが、根底には英雄の志と遜色ない意志と、それを貫徹する強さを秘める。道理の通ったことを好み、合理性より人情、信頼、矜恃を選択するのはレーグの持つ美点であり、他者のためにと自分の身を切れる主人公気質な面をも有する。言い換えれば早死する人間のそれだが、しかし幸運によって生き延びるタイプ。その意味では藤丸立香と似ている。
無垢な少年のような英雄願望を抱いていたが、非力な現実に打ちのめされたことで卑屈に陥る。そこから自身を救い出してくれたクー・フーリンには絶大な恩義を感じており、更に自身が進むべき方向性も示してくれたことから、戦友として、相棒として彼の隣にいることを望むようになった。そのせいで、一時期はクー・フーリンを巡り争った女性陣から「最大の難敵」と認定されていたが、幸いにも本人が知ることはなかった。
レーグ自身に特筆すべき戦闘能力はない。ステータスはサーヴァントとしての最低ラインであり、魔術は不可視しか扱えず、武術や槍術といった近接戦闘スキルは嗜む程度の力量しかないのが現実である。一方、それを補って余りある御者としての才覚は本物。戦車に乗れば人が変わったように頼もしくなり、正しく「御者の王」となる。上述したスキルによって敏捷と幸運に補正がかかる。しかし、戦車には勇敢な戦士を共に乗せてこそ真価を発揮するため、やはり誰か────最も信を置くクー・フーリンと組ませるのがベストだろう。
本来の神話では、戦場をクー・フーリンと共に駆ける戦士として描かれる。クー・フーリンの得物であるゲイ・ボルクを預けられる程の信頼を置かれ、それに応えるように彼のピンチを幾度となく救う、理想の関係を築き上げた。そんなレーグの最期は、無敵の活躍を見せたクー・フーリンを逆恨みする者達によってゲイ・ボルクを奪われ、投擲された魔槍に穿たれたことによる落命であった。


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崩壊の序曲:クー・フーリン(偽)

連投じゃオラァ!!(声だけ迫真)


 ◆

 

 

 

「————んもうッ! 何なのよ……!」

 

 俺の膝の上でメイヴが荒れてます。……いつもじゃね? とかは言ってはいけない。

 メイヴが荒れてる理由は単純で、中々に戦線が動かず、硬直状態にあるからだった。

 

 俺を召喚した時点では、勝ったな風呂食ってくる! と意気揚々と勝利宣言をしていたんだが、そこからサーヴァントらの徹底抗戦に遭い、フリーズしてしまったのだとか。

 

 アメリカ軍は安定の物量で戦線を維持し、此方の僅かな乱れを察知すると、兵力をなだれ込ませて突いてくる。

 サーヴァントの数こそ少ないものの、特にエジソンのUBW(アンリミテッド・ブラック・ワークス)(ブラック企業)こと大量生産は面倒だ。

 メイヴが兵士を無限に製造できるから霞んで見えるが、やってることはまあまあチート。メイヴもそうなんだけども。

 

 レジスタンスは、サーヴァントの数が多いものの軍隊規模の兵力はないため、基本的にゲリラ的な戦法で攻めてくる。これが中々にキツい。

 ”名も無き戦士たち”は猪突猛進の脳筋スタイルがデフォのため、搦手に弱い。故にゲリラ戦法は正しくウィークポイント。

 更に見事なのは引き際の見極めだ。此方側のサーヴァントで対抗しようものなら、向こうは即座に撤退を決め、此方の将が到着した頃には既にもぬけの殻なんてのはよくある。

 その逃げっぷりには、感嘆して思わずバクシン教に入信するレベルだ。バクシンバクシーン! 

 

 と、まあこんな感じで、我々ケルト勢は攻めあぐねている。

 

「これじゃあ建国のプランが崩れるわね……早く殲滅しないとクー・フーリンとの新婚生活が始められないじゃない……!」

 

 呟くように唸るメイヴ。いくら小さな声だろうと、俺の膝の上にいるんだから聞こえてんのよ。しかも新婚て……また師匠案件だよ胃が壊れるなぁ。

 

 ————そんな慌てんなよ、焦ってると事を仕損じちまうぞ。

 

「分かってるわよ……でも、折角アナタを呼び出したのに、まだ何もしてあげられてないじゃない」

 

 頬を赤らめながら横目でチラチラと俺を見やるメイヴ。はえー、すっごい(眼福)。

 でも、別に俺は何かして欲しいから召喚に応じた訳じゃないのよね。寧ろ、俺が恩返ししたいというか、報いてやりたいというか。

 

 ————俺はお前の願いのために呼び出されたんだ。なら、そのために突き進めよ。それが俺のためにもなる。

 

「……! そう、アリガトね」

 

 そう言いながらメイヴは、破顔して後頭部を俺の胸板に擦り付けてくる。さながら甘える犬や猫の仕草だが、下心丸出しなの分かってるからな。

 

 つーか、こういうボディタッチの域を超えたやつを頻繁にしてくるから、そろそろ俺の理性もヤバみ。

 好意を向けられてんだから応えてやれってのは大いに分かるが、仮ににゃんにゃん(死語)してる最中に師匠とかが襲撃して来てみろ、飛ぶぞ(昇天)。

 

 俺が悶々としていると、メイヴは好戦的な笑みを浮かべる。

 

「決めた、私が前線で直々に陣頭指揮を執ってやるわ!」

 

 あー、確かにそうなるわな。リアタイで指揮を執れれば強いだろう。誰だってそーする、俺だってそーする。

 アメリカ軍の動向を報告で知るというタイムラグはなくなり、陣形に開いた穴は随時製造して修復できる。

 レジスタンスも発見次第、”名も無き戦士たち”やサーヴァントを差し向けることが叶う。生憎と量も質も此方が勝っているので、パワープレイで対処可能だ。

 

 考えれば考える程に非常に完璧な作戦っすねェ〜……師匠による暗殺・強襲を考慮しねえって点を除けばよォ〜(声だけ迫真)。

 まあその場合、師匠と対峙しつつメイヴを護るのは俺の役割なんですけどね。ねえヤダ! 小生ヤダ! 

 

「決めたからには迅速に。クー・フーリン、私を護ってくれる?」

 

 ……やってやろうじゃねえかこの野郎!(手のひらギガドリルブレイク)

 

 

 

 ◆

 

 

 

 本来の第五特異点にて、メイヴによる陣頭指揮のシーンなんてなかったはずだ。

 だってそうだろう。本当なら【オルタ】が敵の戦列を鏖殺しているのだから、敵の徹底抗戦などある訳がない。

 

 つまり、このイベントは限りなくガバ。はいクソ。人生にセーブとロードの機能がないのは致命的な欠陥だと思うんですけど(名推理)。運営に連絡させてもらうね? 

 

 それはさておき、この陣頭指揮と酷似した原作シーンといえば、それは恐らくメイヴによるパレードではないだろうか。

 時期的に見ればマッチしているし、この推察を後押しする存在は他にもある。

 

「………………」

 

 褐色肌に白い衣に身を包んだ男性————アルジュナが、俺達の側で沈黙して佇んでいることだ。

 彼はメイヴが直々に勧誘したサーヴァントで、ケルト勢に身を置けばカルナと戦えるぞ、と口にしたところ即落ちしたのだそうな。

 

 まあ、原作ではカルナは不意打ちでクー・フーリンに倒されるんですけどね、初見さん(唐突なネタバレ)。

 

 そうなると、俺がカルナを仕留めんのかぁ……え、ムズくね? 勝てんの俺? 

 

 悪い、やっぱ辛えわ……(不安)。

 そりゃ、辛えでしょ(再確認)。

 ちゃんと言えたじゃねえか(現状の把握)。

 聞けてよかった(自問自答)。

 

 それでも僕は、アルジュナのクソデカ感情の煮詰まった苦渋の顔も見たい(ブレン並感)。

 

「おう、クー・フーリンも来たか!」

 

 前線に到着した俺達を豪快な大声で迎えてくれたのは、叔父貴だった。その後ろにはフェルディアもいる。

 うろ覚えだが、原作のパレードだと叔父貴ってこの時点で退去してなかったか? 確か、ネロとエリザと合流しに来た藤丸達に敗北して。

 

 ……原作崩壊してんじゃねえか!(今更)

 

 ということは、十中八九この陣頭指揮中にレジスタンスの暗殺が決行されるはず。

 それを予め知ってる俺とか、相手からしたらマジでチートな地雷で草も生えんわ。

 

 ————叔父貴が無事なようで安心したぜ。

 

「……そうでもない。命令通り遊撃に従事していたんだが、中々に手強い連中と遭遇してな」

 

 おっと、これは……もしかすると、もしかするかもしれませんよ? 

 

「純白の装束に身を包んだ花嫁の如き剣士に、偶像を想起させる衣装を纏った半竜の生娘。……いやはや、あれらもいい女だった」

 

 語られた人物は、紛れもなく嫁ネロとエリザだろう。絶唱で鼓膜破壊してきそう。急に何も聞こえなくなったゾ(鼓膜割れ兄貴)。

 

 記憶に浸りながら笑みを浮かべるフェルグスに代わって、フェルディアが口を開く。

 

「フェルグス殿と俺とで仕留めようとしたんだが、件のレジスタンスに介入されてな……。流石に多勢に無勢、撤退を余儀なくされた」

 

 レジスタンスに属するサーヴァントはジェロニモ、ラーマ、ロビンフッド、ビリー……だったか。ラーマは現時点では戦力外だが、それはそれ。

 これに加えて、藤丸らカルデア勢とナイチンゲールとなれば、もはや過剰戦力。撤退も仕方ない。

 

「だが、お前が加勢に来たのならば、結果は常勝ッ! クー・フーリンと肩を並べて戦えるは誉だ」

 

 ギラついた笑みで俺に眼光を飛ばしてくるフェルディアにブルっちゃうよぉ……(味方から戦意モロ感)。

 コイツをこんなにした俺が言うのもなんだけど、お前アルジュナみてえだな。色々と拗らせてるじゃねえか。

 

「アメリカ軍も、レジスタンスも! 私の邪魔をするヤツはみんな蹂躙されるがいいわ!」

 

 テンションがハイになって何処ぞの警備隊長のような台詞を吐くメイヴに、何時もより笑顔マシマシなフェルグス、俺に野獣の眼光を向けるフェルディア、無言で佇むアルジュナ、そしてまたしても何も知らされていない大〇洋さん(異物混入)……構図がエグい。何これ。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 メイヴの指揮下、俺達は順調に領土を拡大していく。

 

 彼女の有するスキル”カリスマB”のおかげか、それとも軍隊指揮に秀でた才を宿していたからか、或いは両方か。

 報告を受けていたような徹底抗戦は容易に崩壊し、一方的にケルト側が攻め立てる様相へと変貌していた。

 

 ”名も無き戦士たち”は指示しなくとも勝手に敵陣に突っ込み、死ぬまで暴れ散らかしてくれるが、メイヴのリアルタイム指揮によって統率力が生まれ、個ではなく群として動くようになった。

 おかげで先程までは拮抗していたアメリカ軍は戦線が壊滅状態にあり、名実ともに質も量も此方が勝っていた。

 

 また、フェルグス、フェルディアというコノート二大巨頭を遊撃に宛てがい、敵陣を撹乱・殲滅。

 抵抗が強い部分があれば、フィンとディルムッドの胃痛タッグを差し向けて処理。抜かりない配置と役割。

 

 問題はレジスタンス側の動向なのだが、そのために俺とアルジュナがいる。

 遮蔽物のない丘の上から戦況を俯瞰するメイヴに魔の手が迫らぬよう、側で護衛に務める。

 

 誇張も慢心も抜きに、レジスタンスから見れば俺だけでもオーバーパワーな気がしないでもないが、特にアルジュナは遠方からでも視認されないよう、姿を消しておけとメイヴが指示する徹底ぶり。

 

 ……と、こんな感じ。この戦況の感想は「つまらん、メイヴを戦場に出しては一方的に勝つに決まっている(モナーク並感)」に尽きた。

 メイヴが陣頭指揮に赴いただけで、戦況が激変し過ぎである。殺人的な加速だ! 甥の木村、加速します。

 

「私にかかればこんなもんよね、だって私だもの!」

 

 ————なんつーか、容赦ねえな。

 

「当ったり前じゃない! 障害はあらゆる策謀を張り巡らせて突破する。今回は真正面から叩き潰すのがベストなだけ。容赦なんて、するだけ損だわ」

 

 メイヴはムフーっと可愛らしく胸を張り、俺に身体を預けてくる。

 彼女の言うことはその通りに過ぎる。障害を突破するためなら、如何に狡い手段ですら選択すべきだ。

 

 ————その通りだ。だからこそ、だよなッ! 

 

 俺はメイヴを抱き込み、()()()()()()()()()()()()()()()を己が槍で叩き落とした。

 

「っ、クー・フーリン……!」

 

 ————ああ、()()()()()

 

 即座に展開される、赤と金を貴重とした劇場————『招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)』に、俺達は否応なしに引き込まれる。

 すると、場内にジェロニモを筆頭に、嫁ネロ、ビリー、ロビンフッド————レジスタンス暗殺班が姿を晒した。俺の記憶と一致する面々で助かる。

 

「慣れる前に仕掛けるぞッ……!」

 

 親の仇を見るような目で俺達を射抜き、吠えるジェロニモ。彼の号令を合図に、暗殺班のサーヴァント達が殺気立って剣を、銃口を此方に向ける。

 

 そう、これはメイヴの暗殺を企んだ襲撃。やはり、この陣頭指揮がパレードに該当していたようだ。

 そして俺は、生ネロやロビンフッドらとの邂逅に感動するワケにもいかず、割とマジな生殺し状態で敵対しなきゃいけない。地獄か? 

 

 ————暗殺か。まあ、理には適ってるな。

 

「随分と余裕がありそうではないか!」

 

 爛々とした炎に盛る剣技こと告白剣で、メイヴ諸共切り裂く一閃を繰り出す嫁ネロ。

 やべえ! 生の『星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)』じゃん! ……と、興奮している場合じゃねえ(笹食ってるパンダ並感)。

 

『劇場』によってデバフがかかったせいか身体は重いが、それでも十二分に回避は可能。

 メイヴを腕の内に強く抱き、身体をバネのようにしならせて飛び退く。

 

 そこへ、待ってましたと言わんばかりにロビンフッドが右腕————弓矢で此方を狙う。

 加えて瞳孔ガン開き状態のビリーのマグナムも差し向けられ、更にジェロニモも魔術を編んで飛ばしてくる。

 

 クロスファイアなんてレベルじゃねえぞ! ま、待ってくれい……!(梟並感)

 

「食らえ……!」

 

「————『祈りの弓(イー・バウ)』ッ!」

 

「————ファイアッ!」

 

 迫る魔術、毒矢、弾丸。これはオワタンコブ・パンツァー(?)。オイオイオイ、死ぬわオレ。来週からは機動戦士アーマード・コアが放送されるぞ! お楽しみに!(ヤケクソ)

 

 ……とでも、言うと思ったかい? この程度、想定の範囲内だよォ! 

 

 今更だが、俺は原作崩壊を進んでやろうとは思っていない。だからこそ、メイヴは何がなんでも守り抜かねばならない。

 ここで俺は、原作チートという初めて転生モノの常套手段を用いた。そう、この陣頭指揮中に暗殺が決行されるという確信に近い予測だ。

 

 要するに、対策を講じる時間など余りあったということに他ならない。

 

 虚を衝く襲撃、『劇場』によるデバフ、宝具を絡めた同時攻撃————暗殺には明らかにオーバーなそれらを前にして、俺はジェロニモ達の視界から()()()

 

「「「「なッ……!?」」」」

 

 所変わって、彼らの頭上。種明かしをすれば、予め仕込んでおいた転移のルーンを起動し、そして空中にルーン文字を固定して足場を確保しただけである。

 直ぐに居場所はバレるものの、相手の初手————いや、この場合は決め手だったか————を一方的に潰せるのだから、有用だ。

 

 ホントにルーン様々だね。やっててよかった苦悶式(スパルタ的な意)。

 抱えていたメイヴを降ろしたところで、彼女は俺の腕を引きながら声を漏らす。

 

「……帰って来てよね?」

 

 ————了解した。

 

 固定したルーン文字をそのままに、俺はジェロニモ達の前に降り立つ。対サーヴァント戦、お巫山戯はナシだ。

 

 ————さて、お前らには悪いが、ここで倒れろ。

 

「ッ、我らの役目を果たすまで、倒れるつもりはない!」

 

 ————そりゃ結構なことで。だが、できねえことをあんま口にするモンじゃねえよ。

 

「そっちこそ、弱体化を受けながら、たった一人で僕らをまとめて相手しようっていうの?」

 

 ————隠し球って、知ってるか? 

 

 俺は努めてヴィラン的な暗黒微笑をつくり、メイヴがここぞとばかりに隠し球ことアルジュナを呼び出す。

 俺の隣に姿を晒す彼を確認し、ジェロニモ達は「戦力計算を見誤ったか……!」と絶望に染まった。はいここジルポイント。

 

 ————アルジュナ、お前さんはそこの三体をやれ。俺はこの剣士とやる。

 

 原作では、【オルタ】が殺戮の狂王として暴虐を体現し、そんな王など認められないと嫁ネロが憤怒する。

 そうして【オルタ】と嫁ネロが一騎打ちを行うが、聖杯によって強化された【オルタ】を前に嫁ネロは屈してしまう。

 

 ……あ〜れれ〜? おっかしいぞぉ〜? 俺、聖杯で強化なんて施されてねえぞ! フツーに『劇場』でデバフかけられてるじゃん! やっぱり原作が壊れてるじゃないか……(ブチギレ)。

 

「うむ、一騎打ちとは願ったり叶ったりだ」

 

 一層覚悟が決まった顔付きで純白の剣を構える嫁ネロ。彼女からすれば、ターゲットの一人を殺るチャンスが巡って来たワケで。

 

「しかし良いのか? 我が『劇場』で身体が思うように動かないだろうに……余程の自信家か、或いは蛮勇か?」

 

 ————そんなんじゃねえよ。ただ、俺の勝利を望む女がいる。それだけだ。

 

「……益々、理解に苦しむ。貴様、何故そちらに居ることを良しとする?」

 

 整った顔を疑問に歪ませる嫁ネロ。

 

 その理由は分からんでもない。歴史に名を残すという大罪を犯した俺だが、その残した内容のせいで先難後獲の象徴というイメージを持たれてしまっている。

 要するに俺は、絶対に闇堕ちするはずのないコスモスの戦士的な扱いらしい。中身はこんななのにね(白目)。

 

 そんなヤツが、侵略だの殺戮だのを平気で行う勢力に加担しているのが、心底解せないようだ。

 

 ————敵に教える筋合いはねえな。

 

「なら、力ずくでその口をこじ開けてみせようか!」

 

 嫁ネロに呼応して原初の火が赤熱し、轟々とした火炎を纏わす。

 やっぱカッコイイなァ! 俺もゲイ・ボルクに火でも纏わせようかな。光ん力だアアアああ! とか言って。

 

 俺も得物を構え、嫁ネロと対峙する。互いに視線を交錯させ、一挙手一投足を注視する。

 三秒、五秒と経っても俺は動かず。否、正確には相手に付け入る隙を見出せなかったため、動けなかった。

 

 流石はネロ・クラウディウス、経験も剣技もスキルも優秀な英霊だ。無闇矢鱈に先制攻撃を仕掛ける愚は犯さず、如何なる有利な状況下でも常に負け筋を思考の片隅に置いている。

 そのことを彼女の立ち振る舞いが雄弁に語っている。だからこそ、俺は嫁ネロの隙を見出せなかった。

 

 増して、固有結界でデバフを受けている身だ。此方から攻めるというのは、少々リスクが伴う。

 

 ————どうした、こじ開けてくれるんだろ? 

 

 ので、向こうから来てもらいます。フェルディアの真似ではないが、カウンターに徹すれば最小限の動きで済む。

 もちろん、それに反応できるかだったり、瞬時に正答を導き出せるかだったりが必須のため、簡単ではないが……無理というのはですね、嘘吐きの言葉なんです(ブラック)。

 

「行くぞッ……!」

 

 俺に動く気がないと見るや、嫁ネロは弾かれたように地を蹴った。

 縮地とまではいかないが、たった一歩の踏み込みで距離を詰め、間合いに入った俺へ逆袈裟で一閃。

 

 これを槍でパリィの如く受け止め、弾き、いなす。猛る炎に僅かに焼かれるが、心頭滅却すれば何とやら。

 嫁ネロの攻撃動作の終わりに刺突を見舞うが、これを予測していたのか、彼女は踊るように躱し、続け様に原初の火で横薙ぐ。

 

 これを、ステップを踏むことで間合いから逃れるものの、やはり炎の分だけリーチが伸びており、応じて回避距離も余分に取らされる。

 俺が間合いから離れたのを見計らい、嫁ネロはスカした攻撃の勢いをそのままに腕を振り抜き、独楽の如き回転による連撃を繰り出す。

 

 紅白の軌跡が空間に刻まれ、その剣閃が容赦なく俺に襲い掛かる。

 

 一撃目を槍で弾くが、それのみで腕が猛烈な痺れを訴える。故に、体勢を崩して足元に潜り込み、ゲイ・ボルクで軸を薙ぎ払う。

 

「甘いッ!」

 

 緋色の線を跳躍することで回避した嫁ネロは、空中から原初の火を振り下ろす。

 両断せんと迫るソレに槍の太刀打ちを宛てがい、刀身を槍に滑らせて流す。そして仕切り直し。

 

「光の御子ともあろう貴様が防戦一方とはな!」

 

 仰る通りで。何と言うか、カウンターに徹するのは俺の戦闘スタイルに合わない。

 感覚的には、長距離適性Gなのに有馬記念を走る感じ。ハルウララである。

 

 ————アイツの真似事はムリだわな。

 

 割とキツいけど、ガンガンいこうぜのスタイルでやるとしますか。

 

 ————俺は俺らしくやらせてもらうぜ、精々抗ってみせろよ。

 

 防戦一方からの一転攻勢は主人公の証。ということで、師範お手製の『鎧』に魔力を流し、展開。

 

 黒々とした装甲が身体を覆い、海獣クリードの骨や牙などが結合された棘が形成される。

 肩部と背部に縫合されたコインヘンの冒涜的で艶やかな触手は、無風にも関わらず怪しげにたなびく。

『鎧』の全身に巡る赤い線が脈動すると同時にゲイ・ボルクもまたその影響を受け、金属音と共に至る箇所から刃が突き出る。

 最後に、全身から赤黒い瘴気が噴出し、『劇場』内部の地面をそれが覆い隠した。

 

「…………! 何という禍々しさかッ!」

 

噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)』のいい所は、身に纏うだけで筋力と耐久を上げてくれること。

 つまり、『劇場』のデバフを軽減してくれる。これだけでだいぶ楽になる。

 

 ————突っ立ってていいのか? 

 

「なッ————!?」

 

 嫁ネロの足元に満ちる瘴気を魔槍に変質させ、彼女を強引に動かす。そして、動いた先に照準を合わせ、コインヘンの力を応用して生成した空間の歪みから複製した魔槍を射出していく。

 

 やってることは師匠や金ピカのそれと類似しているものの、俺の複製する魔槍はどう足掻いても劣化コピーに過ぎないため、耐久性に乏しい。

 だとしても、攻撃性は原典同様に有しているので、単純に数を揃えられるのは強味だ。

 

「くッ……!」

 

 気を抜けば『極刑王(カズィクル・ベイ)』もニッコリな串刺しと成り果て、回避した先では四方八方を埋め尽くさんとする幾条もの魔槍に狙われる。

 そんな立体的な戦法に振り回される嫁ネロを後目に、俺は鷹揚とした歩調で距離を詰めていく。ゆっくりとした歩き方は強キャラの特権(確信)。

 

 反撃を許さぬ苛烈な攻め、しかしその渦中にあっても、嫁ネロは僅かな隙間を縫って一太刀を此方に浴びせてくる。

 流石は歴戦の英霊、その対応の速さには感服せざるを得ない。いやホントに早杉。

 けれど、けれどね(悪夢の主並感)、近接自信ニキにそれは不注意ってモンだろう。

 

 俺に向かう一太刀を、俺は避けるでも受けるでもなく————力技で潰す。

『噛み砕く死牙の獣』によって強化された筋力に物を言わせ、極限まで力を込めた膂力でゲイ・ボルクを振り抜く。

 

「ぬぅッ……!?」

 

 不意に繰り出した俺の攻撃の重さに耐え切れず、嫁ネロは吹き飛ばされ『劇場』の壁に打ち付けられた。

 数秒の後、土煙から姿を見せた嫁ネロは頭から流血しており、脳震盪でも起きているのか、足取りが不安定だった。

 

「……聞いていた以上だ。余ともあろう者が、こうも容易に遊ばれるとは」

 

 苦痛を噛み殺しながら笑みを湛える嫁ネロ。やっぱすげえよ……ネロは。

 

 ————たった一撃でそのザマか。

 

 正直、嫁ネロはもう仕留めることは可能だ。あの調子のままに俺と近接戦闘を行うのは難しいだろう。

 よって、俺が常に距離を詰めることで間合いから逃がさないスタイルを貫けば、自ずと勝敗は喫する。

 それでも遠方に逃げようとするのなら、『抉り穿つ鏖殺の槍』を放ってやればオワオワリ。

 

 嫁ネロを倒すのは非常に心苦しいが……これも葦名のため(違)。

 

 視線を移せば、既にアルジュナの方も勝負が決まっていた。

 未だジェロニモらは倒されていないが、彼らの牙が何一つとしてアルジュナに届いていないのが良い証拠だ。

 俺かメイヴのGOサインが出れば、即刻ジェロニモらに終止符を打つことだろう。

 

「さっすが、クー・フーリン! 私の王様に相応しい立ち振る舞いね!」

 

 空中に固定されたルーンの上から、ソシャゲでツモった時さながらにメイヴが跳ねる。

 

「……ほう、王と来たか。ならば、皇帝として問わねばならない。汝は如何なる手段で政を采配する気だ?」

 

 時間稼ぎのため……いや、人の上に立つ為政者としての側面のためか。嫁ネロは俺へと王の理想像を問い質す。

 無視する程の内容でもないため、ここはしっかりと返答することにしよう。

 

 でもなぁ、俺は別に王様になりたいワケでもないんだよなぁ。だから当然、高尚な理想なんて持ち合わせていない。

 

 ————俺にゃ、政だの采配だのってのはてんで分かんねえよ。

 

 嫁ネロと、後は何故かメイヴも俺の発する一言一句を逃さんばかりに傾聴する。

 

 ————だが、王ってのは独りでやるモンじゃねえ。周囲の支持やら助力やら信頼やらがあって初めて王足り得る。

 

 これはマジ。某メシマズ大国の腹ペコ王がいい例。彼女の理想は誉れ高く、それを実現するだけの力とカリスマもあった。それでも崩壊の一途を辿ったのは、偏に周囲との人間関係だったと思う。

 部下が自分の奥さんをNTRからの駆け落ちをかまし、別の部下は離反からの仲間殺し、その裏では王座を狙った謀略が巡らされ、エトセトラ……割とマジで人間関係の最底辺を煮込んだのが、当時のブリテンだと思ってる。

 

 別に、崩壊の原因はそれだと声高々に喧伝する意図はない。けれども、そういう要因があったのは否定できないだろう。

 要するに、上に立つ者がどんなに優秀でも、周囲がそれに着いて行けない、否、着いて行かないのなら、もうクソゲーってこと。

 

 ————だから俺は、皆が俺を支持する限り王にでも何でもなってやる。後はやりながら覚えていくしかねえわな。何であれ、俺はそうと望まれるなら、そうあるのみだ。

 

 私は自分自身を器と規定している。皆がそう望むのなら、私は王になろう(フル・フロンタル)。

 なりたくないけど、俺が召喚に応じたのは生前の恩を返すため。俺に王になってほしいヤツがいるのなら、それを叶えてやるってのが筋ってもんさね。

 

 ————質問には答えてやった。これで冥土の土産はできただろ。

 

 此方を睨み続ける嫁ネロへ魔槍を振り上げ、その穂先を差し向ける。

 

「やっちゃいなさい! 私のクー・フーリンは誰より強いんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「————”私の”?」

 

 唐突に発せられたソレは、現界してから感じた中で最も濃厚な殺意に満ちていた。

 瞬間的に背筋が凍った錯覚に陥り、冷や汗が頬を伝う。

 

 ————ッ……!! 

 

 半ば反射的に、俺は嫁ネロを捨て置いてメイヴの元へ跳び、即座に抱きかかえ————彼女を殺して余り有る()()()()()から飛び退いた。

 直後、空中に固定されていたルーン文字は、硝子が砕け散るように容易く破壊され、それでも勢いの止まぬ魔弾は着弾と同時に『劇場』を半壊させ、解除に追い込んだ。

 

 この攻撃……見覚えがある。これはそう、確か生前に……! 

 

 

「やぁぁあっと見つけました……私の、クー」

 

 

 ヒエッ(トラウマがフラッシュバックする音)。この声……は、まさか……! 

 

 ルーンで新たに足場を作り、声の主を探す。と、俺達を見下ろすように天空に浮遊する人影を視認した。

 

 その人物は、深紅のロングスリットドレスの上に白銀のライトアーマーを身に付けており、黒くたなびく長髪と整った顔立ちを有していた。

 記憶の中にある生前の知人と相違ない容姿をしていたが、圧倒的に異なる部分があった。それは————()()()()()()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.嫁ネロが簡単に倒され過ぎでは?
A.それは思う(おい)。原作では終始【オルタ】に押されてて、でもその描写もなく。せめて本作では激戦を繰り広げようとも思ってたけれど、嫁ネロのスキルの効果がイマイチよく分からんくて諦めた(素直)。

Q.『噛み砕く死牙の獣』が結構変わってる。
A.そやで。(偽)ニキと師範の悪ノリで魔改造されているので、原作のそれよりも何割増しか凶悪な性能になってます。

Q.結局、師匠とか来なかったね?
A.”まだ”ね(暗黒微笑)。

Q.最後のアレって……?
A.説明は次回か次次回で(投稿未定)。


↓ここから雑談↓


はい、texiattoです。連投お疲れ様でした(自愛)。新入社員研修の休憩時間とかに合間縫って書いてるんですけど、結構疲れますねコレ。働きながら継続的に投稿できてる人はマジで凄いと思う。ホントニアコガレテル。
さて、今回は久しぶりに(偽)ニキ視点でお送りしました。ネタを書き出す際に、その時にハマってるモノのネタを仕込もうと思案しているのですが、今回はウマ娘をどこかにねじ込もうと躍起になってました←。それはそれとして、今回はメイヴ暗殺計画がメインとなっていました。が、原作と異なり、最後に乱入者がありました。誰なんやろなぁ(白目)。続きは分割しましたが、何となくこうしたい、みたいなイメージはあるので、また頑張って書いていきます。
書いてて思ったけど、ジェロニモ達視点からの(偽)ニキやばくない?気配殺しての遠距離攻撃を当然のように弾いて、電撃的に『劇場』に引きずり込んだのに顔色ひとつ変えず、総攻撃したら息を吐くようにルーン魔術で回避。白兵戦◎で魔術◎とかチートかな?(白目)これは警戒レベルがクッソ引き上がりますね間違いない。
次回更新はまだ未定ですが、亀進行ながらも頑張って書いていくので、どうか長いお付き合いをお願いします。では!


















ワイ「初任給入ったンゴ!衝動的に使わず計画的に使おうね!」

>生活費!
>魔剤購入!
>5C調整!
>ナリタタイシン!
>エウルア!

ワイ「ああああああああああああああ!!」



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