騎士も辞めたいし、ていうか死にたい。けど、無駄死には流石に嫌だな・・・そうだ!闇落ちしよう! (雨雨フレフレあはははは)
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闇落ちってよくない?まあ、しないんだけど
俺には才能というやつがなかった。残念なことにな。だから手を出してしまった。決して人間が手を出すべきではない力に・・・。まあ、後悔はない。ある意味、目的は果たした。だが、結局のところ最後に残ったのは、俺は物語の主人公のようにすべてを救えるような素晴らしい人間ではなかったという純然たる悲しき事実だけだった。虚無感と懺悔と後悔に蝕まれる日々。
つまるところ、俺は生きる意味というやつを失った。
あの日から、五年。今や王国最強の騎士だの、最速の剣士だと言われているがどうでもいい話だ。俺を拾ってくれた、姫には恩があるが正直このまま王国騎士を続けてっていても意味なんてない。姫様も、俺と一緒にいるより他の騎士を見つけるべきだろう。どうせ、俺自身がそう長いわけではないのだから。適当に田舎に引っ込んで、死のうかと思っていた。
そんなある日、魔王を倒すため勇者が召喚された。召喚された勇者は、三人。いずれも主人公のような少年少女だ。ラッキースケベもあれば、才能もあった。だから、俺は思いついたのだ。
そうだ!このまま、闇落ちしたふりをして魔王軍に入り込もう。そこで、何かと勇者を手助けしつつ、いい感じのタイミングで死ねば、俺の生にも意味ができるのでは?闇落ちロールプレイなんて、なかなかできるようなものじゃない。
そうと決まれば、準備を始めよう!
こうして、俺は王国を裏切り魔王軍に入った。
勇者その一 side
一ノ瀬 遥にとって、ルークス・アークライツという少年は不思議な少年だった。初めて会ったのは、異世界に召喚されてから二か月が過ぎた頃。訳も分からなかった、状況から少しは納得できるように整理をつけ、心に余裕ができ、いろいろなことに目を向け始めた頃だった。
雲間から射し込む紅い光芒が、王城の中庭を照らしていた。それは、今まで見てきたどんな景色よりも美しくその中心に置かれたベンチで黄昏ている少年は一枚の絵画のごとく幻想的に映った。夜の闇を映したような、黒い髪に宝石のような碧いの瞳。年は、自分と同じくらいの17歳前後だろう。
しばらく、ぼーっと彼を見ていると、彼がいつの間にか視界からいなくなっており、気づけば私の横に立ったいた。
「何か用か?」
「あ!?、いや!?あの・・・そのぉ・・・」
私は咄嗟のことで口籠ってしまった・・・今にして思えば、恥ずかしい。
「きれいな夕焼けだなって」
思わず口からこぼれてきたのはそんな言葉だった。
「ああ、ここから見える夕焼けは美しいだろう?中庭に咲く花もこの時間が一番美しく見える。・・・ほんの一時しか、この夕日は差さない。永遠に浸っていたい美しい時間というのはすぐに過ぎ去ってしまうんだ・・・」
そう言っていた彼の顔を、私は忘れられない。はかなげで悲しげで、今にも壊れてしまいそうな危うさがあって、ここではないどこかを思うような、そんな表情だった・・・。
「でも、このきれいな景色は確かに長くは続かないかもしれません。でも、きっと、明日は今日よりも美しい景色が見れますよ!?」
何だか彼のことを放っておけなかったがために勢いで、口走った。
「・・・そうだったらよかったんだがな・・・」
「え?今なんて・・・」
「何でもない、ところで君はこの間召喚された勇者のうちの一人という認識でいいのか?」
「あ、はい。一ノ瀬 遥といいます」
「そうか、俺はルークス・アークライツだ。よろしく」
それから私たちは、時々中庭で話すようになった。魔王と戦うための力を身に着けるための訓練をやって、疲れ切った私の愚痴を時々聞いてくれた。他の勇者と違って、異世界に召喚されたことを、魔王と闘うことを受け入れることが簡単にはできなかった私は他の勇者二人よりも、色々遅れてしまっていたことを。たくさんお話を聞いてもらっていた。私は、聞いてもらうばかりで、彼の事を全然わかっていなかったのかもしれない。彼が何を普段している人なのか、どのくらいの地位にいるのか。私はまるで知らなかった。
だからなのだろう。彼が王国を裏切った理由を理解できないのは。去り行く彼の背中を、見ていることしかできなかったのは・・・。
「どうしても、出ていくの・・・?」
消え入りそうな少女の声が、夜の街に消える。
「ああ、悪いな。姫様。もう決めたんだ」
「嘘つきッ!私を一人にしないって!寂しい思いはさせないってッ!言ったのに!!!」
「・・・」
ルークスは、振り向かない。
「嘘つき!嘘つき!嘘つきィ!!!・・・行かないでよ」
少女は、ルークスの袖をつかんで離さない。
「・・・ごめんな、アイリス」
ルークスの手が、アイリスの頬をなでる。次の瞬間には、アイリスの意識は落ちた。
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ルークスのいない王都
王国の最高戦力たる『七剣の集い』。
彼らは、国王の緊急招集を受け王城に集まていた。
円卓を囲み、座っているのは『七剣の集い』に加え、大臣、王族、そして勇者とかなりの大物が集結していた。
「この問題…どう対処するつもりだ!!!」
「ルークス・アークライツはこの国の最高戦力。彼が一人抜けるということは、国家間のパワーバランスを大きく損なう一大事だ」
「そもそも、彼はどこの国に寝返ったというのだね!?それによって、情勢は一気に変わるぞ!!!」
大声でわめいている大臣たちとは対照的に、国王もその他の王族も口を開かない。
「そもそも、アイリス王女殿下は何処に居られるのですか!?彼は、王女殿下の騎士。何か知っているのでは「うろたえるな」」
怒鳴ったわけでもない、特筆するほど大声だったわけでもない・・・しかし、その声はパニック状態だった大臣たちを一瞬で諫めた。
「こ…国王陛下」
若くして強国であるベルサリアの王位を受け継ぎ、ここまで保ってきた。
シリウス・ベルサリア
癖のある金髪に紫の瞳。背もそこまで高くなく、体つきも細い。特段、珍しいところはない。だが、まとっている雰囲気は平凡なものではない。強国をここまで大きくしてきた王者にふさわしきカリスマ性を感じさせる。
「追跡には、黒猫を放ってある。そろそろ報告が入るころだ」
「おお、黒猫を・・・」
黒猫とは、王国における王族直属の隠密部隊だ。その功績と信頼は大臣たちを押さえるのにたるものだった。
「アイリスについては、今は放置しておく。あの様子では、有益な話は聞きだせそうにないからな」
「あ、あの~」
厳格な場にはふさわしくない、遠慮がちで、気の抜けた声が部屋に反響した。
「何かね?遥殿」
「い、いえ。大したことじゃないんですが・・・単純な疑問というか・・・何と言いますか・・・」
「どうして、たった一人が王国からいなくなっただけなのにこんなに騒いでいるのか?についてかな?」
先回りして、答えたのは同じく勇者である壮太だ。
「私も気になっていたのです。どなたか教えていただけませんか?」
勇気ある発言だ。こんなに緊迫した空間で質問できる胆力は到底高校生のものではない。もはや、一種の才能ともいえるだろう。
横に座っている同じく勇者の勇人もドン引きしている。
「それについては、私がお教えしましょう」
声を上げたのは、『七剣の集い』でもあり王国の医療機関の最高責任者でもあり、第一王女でもあるスズハだ。
「任せる」
スズハは、医療機関の最高責任者として多くの仕事を任されており、かつ召喚に立ち会ったため、勇者との付き合いも多かった。故に緊張をほぐす意味でも適任だと王は判断した。
「ルークスは、アイリス王女直属の騎士であり、『七剣の集い』の一人でもあります。ここまでは、いいですね?」
「はい」
「彼は、我々『七剣の集い』の中でも抜きんでた力を持っていました。彼の逸話を上げるなら、たった一人で5000を超える敵軍を屠ったのが一番有名でしょう」
「「5000!?」」
壮太と勇人は、驚愕に目を見開く。
「王国が強国と言われるのは、武力以外でも様々な面で他の国に勝っているのが大きな理由ですが、最大の理由は彼の影響力です。彼を止められるのは、騎士団長位でしょう」
「ハハハハハ、勘弁してくれスズハの嬢ちゃん。全盛期の俺でも勝てるか勝てないかだ。今の俺じゃあ、無理だ。無理」
騎士団長ヴェルダーは、おおよそこの場にふさわしくない大声で笑った。
「って、誰か笑ってくれよ」
「団長、今の一言でこの場の士気が一気に下がりました。首切って死んでください」
鈴が鳴ったような可憐な声で、毒を吐き出した少女は同じく『七剣の集い』の一人であるレナ・フィールベルだ。翡翠色の髪に、赤い瞳。見た目は可憐な美少女だ。
「相変わらず、辛らつだなー、レナちゃんは」
「レナちゃんって呼ばないでください。訴えますよ、この変態ッ」
「・・・話が続かないので、彼らは無視です。いいですか、勇者様。そんな巨大戦力が味方のうちは頼もしい限りですが、もし敵国に彼が寝返ってしまったら?王国に肉薄するほどの強国であるエディオン帝国なんかに寝返られた日には、王国は重大な危機に瀕してしまいます」
「で、でもッ、今は魔王が力を取り戻しつつあって危険な状態なんですよね?国家間で争っている場合なんて」
「本来はありませんが、魔王が力を取り戻して完全復活するまでの期間は、3年。私も、帝国がそこまでおろかだとは考えていませんが、もしものことがあります。それに、魔王討伐の要は、確かにあながた勇者様ですが、彼も巨大な戦力であったことは間違いようのない真実なのです」
「話はそこまでにしておこう。あくまで、今回の招集は皆に共通の認識を持ってもらいたかっただけの事。もう少しすれば、情報も入ってくるはずだ」
そう言って、暗くなっていた空気を無理やり喚起するように王は言い放つ。
「今回は、解散だ」
「はぁ…やっと終わった…」
「堅苦しかった~」
緊張状態が解け、一気に脱力する私と勇人。
会議室に残ったのは、私、勇人、壮太とスズハ王女。それに、騎士団長だ。
「まあ、それだけ国王も焦ってたってことだ。なあ、スズハ」
「はぁ、きちんと敬称を付けてください。他の貴族がいたらいい攻撃の材料になりますよ」
「固いこと言うなよ~。もっと気楽にいこうぜ!」
ヴェルダーさんは、王族に対しても敬称をつけない。最初はぎょっとしたが、どうやら大臣たちと王族は許容しているらしい。理由は気になるが、あんまり深くかかわっていい話ではなさそうだし、壮太と勇人とは違って、別段ヴェルダーさんとは仲が良いわけではない。
「遥」
「ひ、ひゃい!?」
考え事をしている最中にいきなり予想外な人物から声をかけられたので、ビクっと震えて変な声を出してしまった。
「なんでしょうか・・・」
羞恥で火が出そうなほど顔が真っ赤になっているのを自分でも感じながら、返事をする。後ろで、爆笑している勇人が恨めしい。
「アイリスのところに行きませんか?」
「へ?なんで私が」
アイリス王女は、ルークスさんがいなくなってから、自分の部屋から出てこなくなってしまった。誰が言っても、中に入れてもらえず、唯一の例外として姉であるスズハだけが部屋には入れている。
「勇者の中で、ルークスと会話を交わしたことがあるのは遥だけでしょう?だからですよ」
「でも私、アイリス王女とは面識ないんですけど…」
「大丈夫、アイリスはあなたのことを知っていますし、そろそろ私以外の子とも話すべきだと思うから。お願いします」
ペコリと頭を下げるスズハ王女に、驚いて慌てて声を上げた。
「わ、わかりました!わかりましたから、頭を上げてくださいッ!」
そんな顔で頼まれたら断ることなんてできない…私は、了承した。
「お、俺もついて行っていいですか!?」
「俺らが行っても迷惑になるだろう」
上ずった声で、勇人が名乗りを上げたが、壮太にバッサリと一刀両断されていた。
「はいはい、思春期少年は訓練でストレスを発散しような~」
「そ、そんな~」
首根っこをつかまれて、ヴェルダーさんに引きずられていった。
王城の最上階に、王族の部屋はある。長い長い螺旋階段を上がること5分。
「や、やっと着いた・・・」
長かった・・・息が上がって苦しい。なんだかこの階段空気が薄い気がする。
「ごめんなさい、誰にも見つからないようにアイリスと会うにはこの螺旋階段を使う以外手段がないのです」
「み…はぁ…見つかったら…はぁはぁ…ダメなんですか?」
「そんなに息を切らしてどうしたんですか?ハッ!まさか、私の美しさに欲情してしまったのでは!?だめですよ、遥!私たちは女性同士です!」
「ち、違います!!!」
「フフ、知ってますよ。ちょっとからかっただけです。見つかってはいけない理由でしたね?別に最悪見つかってもいいのですが、遥のことを使用人に説明するのが面倒くさいんですよ。使用人一同は、私以外の人間が妹のもとに行くのを嫌がっていますから」
「何でですか?」
息が整ってきた。いや、この空気の薄さに慣れたというべきか。
「そうですね…端的に言うなら過保護なんですよね、アイリスに」
「過保護、ですか」
「ええ、あの子は良くも悪くも王族らしくありませんでした。どの使用人にも、分け隔てなく接し、差別しませんでした。意外とやんちゃで、問題を起こす子でしたが、王族としての権力を不用意に振るったりしませんでした。私たちの兄である第一王子とは違い、優しく可憐だった妹は使用人からの信頼が厚かったのですよ。そのうえ、妹は天使のようにかわいいですからね!」
「はぁ、なるほど」
途中から早口でまくしたて、鼻息が荒くなっているスズハ王女を見て、彼女がシスコンであることをなんとなく悟った。
「まあ、そんな理由で傷心の妹に私以外を近づけたくないのですよ。使用人たちは」
ではなぜ私を連れてきたのだろう?寄りにもよって面識のない私を。確かにルークスさんとは話したけど・・・それが共通の話題になるというのだろうか。
「さて、着きましたね。ここがアイリスの部屋です」
そう言って、スズハ王女は立ち止まった。
「入りますよ、アイリス」
闇が深まっている。森中がただ単純に呼吸を抑えていくようだった。夜色の底に埋もれながら、木々の葉を動かす、微風もまるで知らないように、沈々としてふけている。王都から少し離れたリザの大森林は、凶悪な魔物が出る危険地帯として知られている。ここには誰も近づかない。故にあの男は住んでいる。
「月光も届かぬ、宵闇にようこそ。汝が求めるのは…力か情報か?はたまた、愛情か?」
生物の呼吸一つしない静謐の世界で、闇が話しかけてくる。
「情報だ」
「代価は?」
「俺の知る勇者の情報」
「へ~、僕としては君が何で王国を抜けたのかの方が気になるんだけどな~」
「耳が早いな」
声が反響する。普通なら、どこから話しかけられているのかわからない。この森では、魔力感知もしづらくなっている。だけど、あくまで魔力感知しづらくなっているだけだ。もう少しすれば・・・
「まあね。それが僕の主食だからね」
「…話を進めたい。いいか?」
「お求めの情報は?」
「魔王の居城について」
「へぇ~、君何をする気なんだい?」
急激に声のトーンが低くなる。この悪魔は、一応俺を警戒しているらしい。ただ、万が一にも、俺の目的がばれるのは避けたいな。・・・脅かしておくか。
「・・・一つ忠告してやろう」
短刀を右斜め前に振りぬく。音こそしなかったものの、完全に手ごたえがあった。変化は劇的だった。
黒いカーテンのように、闇が切り裂かれ背中に黒い翼を持ち、漆黒の髪を持った少女が現れる。そいつに向かって、短刀を突き付ける。
「敵対したくない相手をむやみに詮索するのは、得策ではない」
「・・・ま、参った・・・降参だ。大人しく教えるよ、魔王の居城だったね?」
悪魔と人間の密談は、闇夜とともに深まっていく。
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