〝勝利〟は誰の手に (幻想の詩人)
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〝勝利〟を目指すまで

初めて書いたので見辛かったり、口調がおかしかったりするでしょうが、許してください。ちなみにオリ主くんの名前などが出てこないのは仕様です。
ちなみにこのタイトルにした理由などは特にないです。
最後に一言。約ネバ面白いですから是非見てね!


 母と慕う彼女は親ではない。共に暮らす彼らは血の繋がった実の兄弟ではない。

 ここグレイス=フィールドハウスは孤児院で、俺たちは孤児。そう思っていた(・・・・・・・)

 

☆☆☆☆☆

 

「みんな起きてー! 朝ごはん遅れるよー!」

 

 朝の6時、施設(ハウス)の朝は鐘の音と、エマの元気な声で始まる。

 

「……まだ眠いし、寝よ」

 そう言って、布団の中でモゾモゾと動いて二度寝しようとした……んだけど。

 

「ほら二度寝しようとしないで起きてー!」

 ……二度寝の邪魔をしようとするエマの声が聞こえる。

 なんでエマやみんなは起きれるんだろうか。俺にはさっぱりわからない。

 

「……もう少し寝かせてよ」

 まだ眠くて仕方ないんだから。と言おうとしたときだった。

 

「今日はコニーがハウスを出る日だよ!」

 

 そう言われて、ハッとした。今日はコニーがいなくなる日だった。ならこうしちゃいられない。

 怠さと眠気を気合と根性でねじ伏せて起き上がる。

 

「おはよう、エマ」

「おはよー! 朝ごはん遅れちゃうから急いでね!!」

 そう言うと、エマは走って下に降りていった。

 言われた通り急いで着替え、食堂に向かう。まあ、案の定と言うべきか、俺が一番最後だった。

 

「おはよう」

「ほはよー」

「おはようノーマン、レイ。……レイはなにその挨拶?」

 何故か知らんけどレイが変な挨拶してきた。

 

「エマがさっきした挨拶」

「あー、なるほど」

 思わず納得してしまった。

 

「なんで納得してるのー!」

 エマが怒った表情をしながら言う。

 そりゃエマくらいしかレイはそんなことしないだろうし。それにしてもエマは怒ってる顔も可愛いな。

 そんなことを考えながら膨れたエマを笑って見ていると、

「ほら、席について」

 ママにそう言われた。ちょっと遊びすぎたらしい。そう思って席についた俺を見てママは満足そうに頷き、「いただきます」と言った。

 

 そんなやり取りはすべて俺の、俺たちの変わらない日常。……あ、でも睡眠の邪魔をされるのは日常じゃないほうが嬉しいや。それでもこれは当たり前の日常だった。

 フカフカのベッドに、美味しいご飯、首筋の認識番号(マイナンバー)、毎日の勉強(テスト)

 ママはこのテストを〝学校の代わり〟とか言ってたけど、実際のところはどうなんだろうか。ちょっと不思議には思っていた。でもテストは嫌いじゃない。何故か? 決まっている。

 

「ノーマン、レイ、エマ。すごいわ三人とも! また300点! 満点(フルスコア)よ!」

 

 ママに褒められて喜んでるエマが見られるのだ。それだけでも俺は幸せだ。……うん、あと少しのところでフルスコアだったのに凡ミスしたけど、悔しいなんてことはない。……いや、ほんとはかなり悔しい。喜んでるエマを見ればそんな悔しさなんて忘れられるだけだ。

 それに、テストが終われば思いっきり遊べる。もし忘れられなくても全力で遊べば悔しさも吹き飛ぶし、コニーと遊べるのは今日が最後なのだ。悔しんでばかりもいられない。

 

「うげ、ノーマンが〝鬼〟だ」

 ……鬼はノーマンになったらしい。ドンの嫌そうな声が聞こえた。

 

「数えるよー!」

 あ、ノーマンのカウントダウンが始まった。コニーは……ドンと一緒に逃げるらしい。まあいっか。どうせノーマンが全員を捕まえたあとにでもドンが何か提案するだろ。……さすがにノーマン以外鬼とか変なこと言わないよな? ないとは言えない気がするのは何故だろうか。まあ、コニーにとって楽しいものになるなら構わないけどさ。

 

「っと、そんなこと考えてねぇで逃げるか」

 ノーマンが鬼だとエマとノーマンの一騎打ちになる未来しか見えねぇけど、頑張って逃げてみるか!

 

 

 

~10分後~

 

 

「……うん、やっぱりノーマン強いわ」

 結構呆気なく捕まっちったぜ。……眠いし、少し寝よう。

 

「ってことでレイ。エマが捕まったら起こしてくれ」

「どういうことだよ」

 レイから何か言われた気がするけど知らね。おやすみ。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「……い。……おい。起きろ」

「! ……おはようレイ。エマは捕まったのか」

「あぁ、それでドンが〝次ノーマン以外が鬼〟って言ったところだ」

 ……マジか。せこいな。

 そんなことを考えていると、「いいよ。捕まらないから」というノーマンの声が聞こえた。……マジかお前。いや、ノーマンならいけるかもしれないけどさ。

 

「……まあいいか」

大変なのノーマンだけだし。

 

「コニーもいよいよ最後かぁ……」

「また僕ら先を越されちゃったね」

 エマとノーマンのそんな会話が聞こえた。

 そう、施設(ここ)での暮らしは永遠じゃない。

12歳までにはみんな里親を手配され巣立っていく。

 それもまた慣例(きまり)なのだ。

 ……そういえば、里親を手配する順番とかってどう決めてるんだろ? 今度ママに聞いてみようかな。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「そろそろコニーは里親のところに行ったかな。……結局、全然遊べてねぇや」

 俺はいつも誰かが里親のところに行くときの見送りはしない。寂しいから。家族の巣立ちは嬉しいけれど、同時にとても悲しくて寂しい。自分の手の届かない場所に行ってしまったように感じるから。

 そんな寂しさに襲われていたとき、

 

「コニー!!!?」

 エマの叫び声が聞こえてきた。

 

「……? え、どゆこと?」

 コニーはもう里親のところに行ったんじゃねぇの?

どうしよ? 様子を見に行くべきか。それとも行かずにいるか。

「…………見に行くか」

 散々悩み抜いた結果、行くことにした。

 

 

 

 

「あれ? エマは?」

 エマはいなかった。代わりにと言ってはあれだけどレイがいたので聞いてみた。

 

「ノーマンと一緒にリトルバーニーをコニーに渡しに行った」

「……まあいいや。それじゃあ二人を待とうかな」

コニーはリトルバーニーを忘れていったのかー。そっかー……。あれほど大切にしてたものを……? いくら何でも大切にしてたものを忘れるか? ……でもフワッとしてるしなぁ……。有り得るか……?

 

 そんなことを考えていたら、玄関が開いた。

 

「おかえり。どうだった?」

 レイが二人にそう言ってたけど、何だか様子が変だ。

エマは表情が暗いし、ノーマンの表情は険しい。リトルバーニーは持ってないから、コニーに渡せた──というわけでもないだろうな。渡せたならあんな表情にはなんないだろうし。

 

「間に合わなかった」

 

……? 間に合わなかった。いま確かにノーマンはそう言った。ならなんでリトルバーニーを持ってないんだ? それを問い詰めるか? ……いや、止めとこう。だけど、

 

「エマ、ノーマン。俺はいつでも二人の──ハウスのみんなの味方でありたいと思ってる。だから、何かツラいことがあったらすぐに相談してくれよ?」

 二人を呼び止め、そう伝えて俺は部屋に戻った。

 出来れば、二人の──みんなの助けになれたらいいな。お前たちが笑ってくれるのならば、この命を使い潰してもいい。お前たち(家族)のためなら、世界のすべてを敵に回しても構わない。

 まあ、もっとも──

「二人が頼ってくるより俺がハウスを出る方が早いかもしれないけどさ」

その言葉は誰に届くこともなく、虚空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 これは大人になれない世界(ネバーランド)を壊そうとする子供たちの物語。

 大切なものを守るため、自分たち(人間)意地(ほこり)を握り締め、世界に、運命に、理不尽に拳を突き立てることを選んだ子供たちの物語だ。



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〝勝利〟を得るために

何故か書けたので投稿。次が書かれる可能性はほぼない。ちなみに今回もオリ主くんの名前は出ません。そしてオリ主くんの一人称です。ちなみにオリ主くんの容姿は黒髪で短髪。目の色は赤色です。


 いつも通りの朝がきた。……いや、いつも通りでもないか。エマたちの様子がおかしいし。いや、ノーマンは普段通りではあるけど、エマは何かに怯えるような反応をしていた。それに顔色もあんまり良くなさそうだった。原因は昨日の夜に〝何か〟を見たからだろう。それにしても──

「──何を見たんだろ」

 おそらく余程ショックなものを見たんだろう。エマやノーマンがショックを受ける出来事……コニーが死んでいる姿とかか? さすがにない……とは言えないか。リトルバーニーを持っていないにも関わらず、ノーマンは険しい表情で〝間に合わなかった〟と口にした。渡すのが間に合わなかっただけなら、リトルバーニーを置いてくる理由はないし、あんな険しい表情をすることもない。

「相談してくれよ、って言ったんだけどなぁ……」

 ツラい出来事じゃなかった訳じゃないだろう。なら、俺が信用されてないか、気軽に相談出来ない内容ってことだ。……もしかして信用されてない?

「……だとしたらショックだな」

「──何がショックなの?」

「っ⁉」

 びっくりした。いつの間にか後ろにエマがいた。……誤魔化す理由もないし、素直に言うか。

「いや、俺って信用されてないのかな? って思ったらさ」

「なんでそう思ったの?」

 エマが不思議そうな表情をするが、そりゃそう思いもするよ。

「エマたちに、気軽に相談してくれよ。って言ったのにちっとも相談してくれねぇから……」

 ちょっと不貞腐れたように言う。いや、実際はあまり気にしてないよ? 大切な家族に信用されてないなんて思ってないよ? てか、思いたくない。きっと気軽に相談出来ない内容なんだろう。……でも、エマとノーマン(家族)が悩んでるんだとしたら、力になりたい。全力を以てお前たち(家族)の抱いた不安の種を取り除きたい。だけど悲しいことに俺では力不足だ。身体能力ではエマに負け、頭の良さではノーマンに負け、知識ではレイに負ける。そんな俺が出来ることなんて、あまりないだろうし。……それに、あと一週間足らずで12歳になる。そんな俺に相談しないほうが正しいかもしれない。……わかってても悲しいな。

 そんなことを思っていると、エマが慌てたように弁解してきた。

「別に信用してない訳じゃないよ⁉ ただ──」

「ただ?」

「相談するほどのことじゃないから!」

 エマは普段通りの笑顔を浮かべて言う。相談するほどのことじゃない(・・・・・・・・・・・・・)ね……。今は普段通りの笑顔でも、朝が普段通りじゃなかったことを考えると、やっぱり俺では力不足なんだろうな。

「そっか。なら良いんだけどさ」

 でも、何かあったら言ってほしい。君が──家族が笑顔でいること。それこそ俺の願い。だから笑っていてほしい。君が悲しい表情をすると俺も悲しくなってしまうから。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 自由時間だけど、特に何かする予定がない。

「どうしようかな」

 本を読んだり、遊んだりしても良いんだけど、正直そんな気分でもない。

「……ん?」

 エマとノーマンが一緒にいる。それは不思議じゃないけど……森の方に行っちゃった。まあいいや。

「そんなことより良い場所探しだ」

 いい天気だし、良い場所見つけたら寝よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……うーん、よく寝た……!」

 鐘の音で目が覚めた。タイミングばっちりだな。ママたちの所に行こう。……何かエマとノーマンが急いで来たみたいに見えるけど、気のせいかな。

 そんな意味もないことを考えていたときだった。

「ママ──ッ」

「マルク! 何かあったの?」

「どうしよう! 森でナイラとはぐれちゃった‼ いっぱい探したけど見つからないんだ!」

 マルクが走ってきて、ママに泣きついた。

「……大丈夫よ。みんなここから動かないで。いいわね?」

 それを聞いたママが動かないようにいったけど……なんで時計を開いた? 時計を見てもナイラの場所がわかる訳じゃないはずなのに。……もしかして時計じゃないのか? …………あ、ママが帰って来た。

「ママ!」

「ナイラ!」

 みんなが駆け寄る。……いや、みんなでもないか。ノーマンやエマは駆け寄ってないし。

「疲れて眠っちゃったのね。ほらケガ一つないわ」

 ママに抱えられているナイラは寝ていた。……いや、いくら何でも見つけるのが早すぎる。ナイラに発信器か何かを埋められていて、ママはそれを確認したと言われても信じられるくらいには早い。……いや、もし発信器が埋められてるとしたらナイラだけじゃなく、俺たち全員かな。だとしたら、ここは孤児院じゃない(・・・・・・・・・・)。……まあ、そんなことはどうでもいいか(・・・・・・・・・・・・・)

 ここが孤児院でも、そうじゃなくても、俺はエマが──家族(みんな)笑顔(しあわせ)であれば構わない。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「……エマたちといられるのもあと少しか」

 部屋でボーッとしながら呟く。夕飯前にママに呼ばれたのでママの部屋に行くと、〝おめでとう。貴方の里親が決まったわ〟と言われた。

 正直予想はしていた。今月の18日は俺の誕生日。その日を迎えれば俺は12歳になるんだし、違う用件だったら驚いてた自信がある。

 それにしても──

「気になるのはエマたちの反応だな」

 夜ご飯の時間、俺の里親が決まったことをママが言った。そのとき明らかにエマやノーマン、それにレイの表情が変わった。それが喜んでるといったものなら気にもしないけど、そんな雰囲気でもなかった。むしろ悲しんでるような、悔しがってるような、そんな感じに見えた。……里親が決まったというのは嘘なんだろうか。本当に里親が決まったのなら、他は知らないけど、エマは喜びそうなものだし。……コニーはやっぱり死んだと思うべきなのだろうか。それとも、生きているとは言えない状態にされてると思うべきなんだろうか。

「……わからねぇや」

 そう。わからない。コニーが死んでいると考えた場合、どうして殺したのかという疑問が残る。生きているとは言えない状態にされたのならば、実験動物とでも考えるのが妥当だけど、それならもっと適当に……それこそ名前すらいらない気がする。誰かを判別するだけなら数字で充分だし。どうしても、どっちも疑問が残ってしまう。……前提が違うのかな。もしくはどちらでもないのか。何か予想する材料は……あ、そういえば──

「──格子窓が内側からは届かない位置に固定されてる上、ネジ穴が潰されてたっけ」

 なら、ここは檻とでも言うべきかな。……そう考えたとき気になるのは、俺たちは何のために育てられてるのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。そして、ここは何のために、誰が作ったのか。それがわかれば何のために育てられてるのかに繋がりそうなものなんだけど。……やっぱり情報が足りない。だけど、知らない方が幸せなこともありそうだし、何か知ってるかもしれないエマたちに聞くのは止めておこう。気にならないと言えば嘘になるけども。

 そういや、夕飯前にママとエマが変なやり取りしてたな。ママのほうはエマの反応を確かめるように見えたけど……。まあ、そんなことはどうでもいいか。俺の気のせいかもしれないし。……さあ、もう寝よう。朝を楽しみにしながら寝るのは悪い気分にならないだろうし。

「…………どうか、エマたちの未来に光がありますように」

 エマたちが幸せに生きてほしい。それが叶うのなら──俺の命くらい惜しくない。

 

 

 

 

 

 

 

「私たちのことより、自分のことを優先してよ……。自分のことを蔑ろにしないで……‼」

 ──ごめんエマ。きっとそれは出来ないと思う……。と言うか、聞こえてたんだね……。俺は小声で言ったつもりだったんだけど、思ってたより声が大きかったみたい……。



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〝勝利〟のためにまた一手進める

またまた続きました。プロットなんてないんだぜ……? もはやただのノリに近い感じで書いてるんだぜ……? (震え声)
三話目でようやくオリ主くんの名前が登場。だいぶ遅いよな。
たぶんもう続きは書けない。てか、書けてもどんどんつまらなくなる気しかしない。


 何故か目が覚めた。……本音を言えば、もう少し寝たいけども。と言うか、まだ起きるにはだいぶ早い時間だ……。これ二度寝しても怒られないよな。

 エマやみんなは……3時だし、さすがにまだ寝てるよな。6時になるまで寝顔を見続けてるのでもいいんだけど、さすがにそれはヤバい奴だし、止めとくか。まだあと3時間くらい寝れるし寝よ……。おやすみ……。3時間後に起きれるといいな……。

 

 

 

 

 二度寝したけど、ちゃんと3時間後に起きれた。良かった。もしかしたら起きれないかもとか思ってたからな。よく考えたら、二度寝しないで本を読んでるとかでも良かったんじゃないだろうか。……まあ、気にしなくていいか。

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 自由時間になったけど……何をしようかな。

「眠くはないし……木でも登ってみるか」

 最近あまり動いてなかったし、ちょうどいいだろ。鬼ごっこでもいいんだけど、それはノーマンが鬼で気分の向いたときに参加しよう。

 

 

「……登ってみたは良いけれど、特に面白くもないな」

 木に登って、遊んでいる年少組を見ていたが、あまり面白くはない。いや、退屈はしないけど、自分がやるよりは面白くない。……仕方ない。鬼ごっこは気分じゃない以上、図書室で本でも読むかな。

 そう考えてハウスの中に戻り、図書室に向かおうとしたとき──

「ベルー!」

 ママに呼ばれてしまった。タイミングが悪いのか何なのか。……まあいいか。それにしても呼ばれていた理由はなんだろう?

 

 

 

 

 一応出来る限り急いで行くと、呼ばれていたらしいエマたちが先にいた。

 エマやノーマン、レイに加えて、ドンとギルダもいることを考えると手伝いか何かかな。

 そんなことを考えていると、

「何? ママ」

 ドンがママに何の用か聞いていた。

「お手伝い、頼めるかしら?」

 やっぱり手伝いだったか。……何のだろう。まあ行けばわかるか。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 これで三日目か。食料庫の整理、予備リネンの点検、空き部屋の片付け。……これ、新しい誰かが来るよな。

 そう考えていると、

「あー! 遊びてえ~!!! ねぇ、なんで俺らだけ!!? 何の罰ゲーム⁉ 何か悪いことした? 俺達!」

 ドンがいきなり叫んだ。どうやら遊びたいらしい。

「ドン。ちょっとこっち手貸して」

「えー」

 ……何かドンがギルダに引っ張られていった。俺も行くか。

「俺もあっち手伝ってくる。そのほうがいろいろ話しやすいこともあるだろ(・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 エマたちにそう言って、返答は聞かずにギルダたちのところに向かった。……あ、その前にトイレ行こう。

 

 

 

 

「……」

 用を済ませ、戻ろうとしたときに、ママが年少組の髪をさりげなく掻き上げて耳を確かめるような動きをしてるのが見えた。……そういえば、ママは何かあったときに耳を確かめてたっけ。……左右どちらかの耳に発信器があると考えていいかもしれない。俺たちに発信器が本当に埋め込まれてるのならの話だけど。

「あ、やべ。そろそろ戻らないとか」

 あまり長い時間離れてた訳じゃないし、許してくれる……と信じたいな。

 

「どこ行ってたんだよ。ベル!」

 ドンに怒られた。いや、俺が戻ってきたときには終わってたから当然なんだけどさ。

「ごめん。ちょっとトイレ行ってた」

 素直に理由を言って謝った。

「なら仕方ないな!」

 許してくれた。許されなかったらどうしようと思ってたけど良かった……。

 

 

「ベル。ちょっといい?」

「……? どうかした? エマ」

 何か急にエマに呼ばれた。ノーマンとレイも真剣な表情をしてるけど何かしたか? ……いや、思いっきりしてたな。〝いろいろ話しやすいこともあるだろ?〟とか何か知ってるように思われるよな。ミスった。どうやら新しい家族が増えるかもしれないことに俺は喜んでるらしい。あまり関わらないことは明らかなんだけどな。

「話があるの」

 そう言われたとき、真剣な表情のエマに見惚れてしまい、拒否出来なかったことは黙って墓にまで持っていくことにする。ノーマンとかレイにバレたら弄られそうだ。……いや、二人以外にバレても弄られそうだ。年少組は悪意なしで無自覚に弄ってくるかもしれないな。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「それで? 話って?」

 夜に図書室でエマやノーマン、レイに会っていた。

 

「ベルならわかってるんじゃない?」

 ノーマンがそう言ってくる。レイは見ているだけで、エマは何かあったら聞いてくるって感じだろうか。

「さあ? 俺はお前たちより頭が悪いからわかんないな」

 誤魔化してはみるが……たぶん無駄だろうな。今も怪しまれてるし。

「……わかった。僕たちの知ってることを全部話すよ。だからベルも話してほしい」

「いいよ。それじゃあ聞かせてよ。お前たちの知ってることを」

 そしてノーマンやエマは語り始めた。コニーのこと、鬼のこと、ママのこと、そしてハウスのことを。

 

 

 

 ……そっか。

「やっぱりコニーは死んじゃってたか」

「……やっぱり?」

 エマが聞き返してくる。ノーマンとレイは厳しい表情になった。どうして〝やっぱり〟と言ったのかが

「うん、やっぱりだよ。コニーが里親のもとに……いや、出荷された夜。間に合わなかったって言ってたのに、リトルバーニーを持っていなかったからね。それに、次の日のエマたちの様子が明らかにおかしかったし、〝もしかしたら死んでるのかもしれない〟とは思った。エマやノーマンがショックを受けるなんて、家族が死んでるか、家族が酷い目にあってるかの二つくらいしか思い付かなかったし」

 それだけで? とでも言いたそうな表情で見てくるエマ。エマはほんとわかりやすいなぁ。ノーマンとレイは……なんだコイツみたいな目で見てきてる……。酷くない?

「それにしても〝鬼〟か」

 人を喰らう。とても納得出来た。それなら殺す理由も理解できる。……これは食用児が育てられてるのはここだけじゃないと思っていいね。俺たちが〝高級品〟なら、高級じゃないものも存在するはず。なら、高級品と量産品の違いはなんだ? ……これは考えても無駄か。

「……ベル」

「どうしたの? エマ」

 エマが深刻そうな表情をしている。どうして……あ、もしかして俺の出荷がもうすぐだから? ……そんな訳はないか。でも、一応言っておくか。

「言っておくけど、〝逃げろ〟とか言われても、俺は逃げないよ?」

「どうして⁉」

 ……どうして? そんなの決まってる。

「もし俺が逃げたら、お前たちの計画に何か影響が出るかもしれない。だから逃げない」

 お前たちが逃げるのなら、俺は何もしないでおとなしく出荷されよう。きっと、それがお前たちの為になる。

「それで、俺が知ってることを話す約束だったな。……とは言っても、俺は殆ど知らないぞ? ノーマンたちが話したことを除けば、発信器が恐らく耳にあること、ハウスに新しい誰かが来るだろうことくらいだし」

「……なんでそう思った?」

 レイが聞いてきたけど……なんでってそりゃ、

「部屋の片付けをさせたり、予備リネンの確認をさせたりしたのは、あの部屋を使うからだと考えたからだけど?」

「「「────っ!」」」

 三人が目を見開いて驚いて──って、まさか気づいてなかったのか。……何だか眠くなってきたし、そろそろ寝よう。

「もう遅いし、これで話は終わろう。そろそろ寝ないと明日起きれないしな。それじゃあ、おやすみ」

 返答は聞かないで部屋に戻り、ベッドで横になる。そして、もうすぐ家族と永遠に会えなくなることを寂しく思いながら、瞼を閉じ、夢の世界に落ちていった。

 ──誰かの温もりを感じながら。



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〝勝利〟とは?

もう続きは書けないと言ったな。
G「ヴァルゼライド閣下なら出来たぞ?」
F「どうして覚醒しないんだ?」
などと光の亡者に煽られたので書きました。クオリティはどうかって? 聞かないで……。迷走しまくってるから……。意味不明に思われそう……。矛盾してたりおかしなところがあったらごめんなさい。


 ハウスがただの孤児院で、みんなが笑顔でいられる夢を見た。

 誰もが笑って、幸せに生きていられる夢を見た。

 エマが、コニーが、ノーマンが、レイが、みんなが幸せそうな笑顔を浮かべて毎日を過ごす夢を見た。

 あぁ、これが現実ならどれだけ良かったんだろう。

 だけど、そんな(しあわせ)は突然すべて砕け散った。……(だれか)が砕いていた。嗤いながら心底愉しそうに家族(みんな)笑顔(しあわせ)を踏みにじっていた。だが、(だれか)は踏みにじるのを突然止めると、暗く恐ろしい笑みを浮かべて俺を見た。そして──そこで俺は目が覚めた。

「──っ! ……はぁ……はぁ……!」

 ……あれは夢だ。現実じゃない。あんなものが現実であってたまるか……! 俺が家族(みんな)笑顔(しあわせ)を踏みにじることなんて有り得ない……!!

「……怖い」

 死ぬのは恐ろしくない。苦痛はどうでもいい。だけど──

家族(みんな)が死ぬのを見るのは……」

 とても恐ろしい。家族(みんな)の幸せの為に俺が犠牲になるのは構わない。俺だけの犠牲で済むのなら、喜んで犠牲になる。だけど──

「ベル……大丈夫?」

「──⁉」

 エマ⁉ まずい、聞かれたか……? と言うか、どうして俺のベッドにいる!? いや、いま気づいたのには自分でもどうかと思うけど。

「……何かあったの?」

「……なんで?」

「泣いてる」

「……そんなはずない」

 俺は泣いていないはずだ。涙など流していないはずだ。……でも、泣いてないのなら、この頬を伝うものはなんだろう。

「泣いてるよ。……怖いときは──ううん、いつでもいい。何かあったら私たちを頼って……!」

 ……頼る? なんだそれ(・・・・・)

「わからない……。頼る? 頼り方なんて(そんなもの)俺は知らない……!」

「ベル……!」

 ──エマがいきなり抱き締めてきた。どうして俺を抱き締めて……? エマの身体が震えてる?

「……エマ?」

 どうして震えてるんだ? どうして泣いているんだ? 何か怖いことでもあったのか? ……わからない。

「それはこれから知っていけばいいって言いたい。だけどベルは明日には出荷され(いなくなっ)ちゃう……!

やっぱりみんなの中にベルがいないのなんて嫌だよ……! 一緒に逃げたいよ……!!」

「……それは出来ない」

「わかってる……!」

 ……俺はその気持ちだけで嬉しかったよ。俺と一緒にエマは逃げたいと言ってくれた。俺を家族(みんな)に含めてくれてありがとう。それだけで充分だ。もう充分すぎるほどに幸せだ。これ以上を望むのは……贅沢すぎるよ……。

「……泣かせてしまってごめんね。心配してくれてありがとう。……大好きだよ、エマ。出来れば一緒に逃げたかった」

 ……泣き疲れたんだろうか。いつの間にかエマは寝てしまっていた。……朝からごめんね。

 内心で謝罪しながらエマを抱き抱えて、ベッドに寝かせたけど……エマが服の裾を離してくれない。寝てるんだよね? 起きてないよね?

「エマ?」

「スー……スー……」

 ……うん、寝てるね。え、まさかこのままでいろと? さすがにそれは勘弁して……いや、このままエマが服を離してくれるまで寝顔を見てようかな。

 

 

 

 

 

 結局、エマは起きるまで服を離してくれなかった。でもいいか。エマの寝顔を見れたし。……俺ヤバいこと言ってね? 大丈夫か?

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「紹介するわ。新しい妹キャロルよ。そしてシスター・クローネ。ママのお手伝いに来てもらったの」

 やっぱり増えた。まあ、赤ん坊(しんいり)はちょっと驚いた。部屋の片付けをやったから、大人が増えるのは予想できてたんだけどな。

「さ、シスター・クローネ」

「はい」

 力関係はママのほうが上かな。手伝いと言っていた以上、そう判断しても問題ないと思うけど……そうだと思い込むのは危険か。

「今日からここで一緒に暮らします。どうぞよろしく」

 シスター・クローネはそう言った。……俺はあまり好きになれない気がする。

 ……まあ、明日に俺はいなくなる。俺がシスターを観察する必要はないか。観察したところで1日じゃ大したことは知れないだろう。エマたちがシスターのことを観察して、把握すればいい。

 エマたちの邪魔をするなとは思わない。だけど有益な情報源にはなってくれよ。シスター・クローネ。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 シスター・クローネが増えたが、自由時間は変わらないな。

 エマたちとシスターの対応とかを考えるのがいいんだろうけど、あまり集まり過ぎてても怪しまれるだろうし。……手遅れの可能性を否定できないけど。

「……本でも読むか」

 何か面白い本はあるかな。適当に何冊か取り出して来たのはいいけど、大して興味が惹かれるものはない。

 ……いや、フクロウの蔵書票がある本は少し興味を惹かれた。他にもないか探してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ウィリアム・ミネルヴァ」

 他にもフクロウの蔵書票がある本を見つけたけど、すべてウィリアム・ミネルヴァからの寄贈本だった。他の本にはフクロウの蔵書票なんてない。

 でも特におかしなことはない。なんで興味を惹かれ……あれ? フクロウを囲ってる円、途切れてる場所がそれぞれ違う……? 気のせい……じゃないな。何か意味があるのか、それともないのか……。わざわざ変える必要なんてないし、意味があると──いや、もしかして、これモールス符号か? ……試してみるか。

 

「……RUN……逃げろ。DOUBT……疑え……ね。つまりこれらは外からのメッセージか」

 一つだけモールスがないのは何でだ? ……何か足りないのか? ……今日はここら辺でいいか。これをエマたちに教えておけばいい。……いや、レイなら気づいてそうだし、教える必要はないかもしれないな。まあそれでも一応教えておくか。

 ……これがエマたちに渡せる最後の情報かもしれないな。俺は明日の夜に死ぬ。だけど──

「──最後の勝ちまでは譲らない」

 家族が無事にハウス(ここ)から逃げ出すこと。それが俺の〝勝利(こたえ)〟だ。……欲を言えば、幸せに生きて納得出来る死を迎えてほしいけど、そこまで言わない。

 見ていろ鬼ども。人間(おれたち)を家畜扱いし続けられると思うなよ。

「最後に〝勝つ〟のはエマたちだ」

 見ていろママ。エマたちは必ずここから逃げる。エマたちをいつまでも制御出来るなんて思わないでほしいな。

 ……でも、それは俺の願望も混じっているんだろう。だからそうなるとは限らない。むしろそうならない可能性のほうが高いと思う。……なのに、そうなると確信出来る。きっとエマたちなら出来ると思えてしまう。……不思議だな。

「っと、本を片付けないとか」

 そして寝る前にでもエマにモールス符号のことを教えとこう。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「エマ」

 エマに近づいて小声で話しかける。

「ベル。どうかしたの?」

「発信器の場所は調べたか?」

 耳だとは言ったけど、合っているとは限らない。キャロルの耳を確かめておかないと確信するのは危険だろう。……さすがにそれはわかってるだろうけど、調べたかくらいは確かめておかないと。

「うん、左耳だった」

「左耳だったか。……あ、そうだ。フクロウの蔵書票。

モールス符号になってる」

 確かめていてくれて良かった。ついでにモールス符号のことを教えたし、これで俺のほうは目的達成だ。

「え、どういうこと?」

「それは自分で確かめるのが早いよ。……それじゃ眠いからおやすみ」

 眠いので自分のベッドに戻って横になる。

「寝る前にどういうことか教えてよ……!?」

 そんなエマの声が聞こえた気がした。



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そして彼は地に墜ちた

これで終わりです。……気が向いたら番外編でも書くかも? 需要があるのか知らないけど。
こんな自己満足の小説を読んでくださってありがとうございました!


「今日か……」

 

 ……今日、俺は出荷される。長いようで短い人生だった。……でも、決して悪いものじゃなかった。悪いものな訳がない。鬼どもが用意した箱庭の中でも、俺達は確かに生きていた。意思を持っていた。俺達の軌跡(じんせい)は確かにあったんだ。ただそこに当たり前の日常が存在していたんだ。それに何の不満があると言うのか。

 たとえ食べられるために生きていたとしても──俺達は人間として生きた。家族(みんな)と過ごした日々は、思い出は、決して偽りじゃない。……それに、きっとエマたちならやってくれる。

 ……でも、折れたって、逃げたっていい。挫けたって構わない。ただ生きて、生きて、生き抜いてくれ。そして、納得出来る死を迎えてくれよ。それが出来たなら──きっと誰も文句なんて言わないからさ。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 いつも通り。朝食を食べ、テストをし、自由時間を迎える。何も変わらない。違うのは──

 

「…………」

 

 エマが一緒にいることくらいか。作戦会議はいいのだろうか? ……ここにいるってことは良いのかな。それにしても、どうしてこうなった?

 数分前はいつも通りだったはずなのに。……木の下で本を読んでいたらエマが近寄ってきて、隣に座った。

 それはまだ理解できる。いや、なんで近寄ってきたのかはわからないが。

 

「エマ。どうしたの? エマらしくもない」

「……今日でベルはいなくなっちゃうから」

 

 だから来たと。……本当に可愛いなぁ。

 

「うわぁ!?」

 衝動に任せてエマを抱き締めちゃった。びっくりさせてごめんね。

 

「大丈夫だよ、エマ」

「え……?」

「俺のことなんて気にしなくて大丈夫。だから笑って?」

 

 君は暗い顔をしなくていいんだ。君には家族がいる。大切な仲間がいる。信頼できる友がいる。だから大丈夫。

 

「……うん。でも〝俺のことなんて〟じゃないよ! ベルも大切な家族なの!」

 

 エマがいつもの笑顔を浮かべて言ってくる。

 死者なんてその程度の扱いでいいんだよ。それにしても……うん、やっぱり笑顔が一番だよ。……殺されるならエマに殺されるのが一番良かったな。今から伝えてみようか。〝俺を殺して〟なんて伝えたら……エマはどう反応するんだろうか。

 

「……気になるけど駄目だね」

「何が?」

 

 抱き締めたままだから聞こえちゃったか。……そりゃそうか。

 

「なんでもない」

 

 笑いながら言うと、エマが「教えてよー!」なんて言ってくる。気にしなくていいのにね。……あーあ、こんな毎日がずーっと続けてくれたら良かったのにな。

 そんなことを考えながら自由時間が終わるまで俺達は笑いあっていた。

 

☆☆☆☆☆

 

「これでお別れか」

 

 ハウスを出る為の準備をする。……名残惜しいけど、仕方ない。何も持っていかなくていいだろう。俺の思い出(すべて)をここに置いていこう。

 

「ベルー! ママが呼んでる!」

「ありがとう、フィル。いま行くって伝えておいてくれるか?」

「うん! わかった!」

 

 フィルは元気に返事して行った。

 

「……それじゃあ行くか」

 

 ──ばいばい。そしてありがとう。ここで暮らせて、みんなと生きれて、俺は幸せだった。

 

 

 

 

「おめでとー!」

「ベルおめでとー!」

 

 みんなが笑顔で祝福してくれる。エマは……泣きそうだけど、笑顔を浮かべてくれていた。ノーマンは悔しそうだった。……レイは見当たらない。

 

「ありがとう、みんな。俺が里親のところに逝っても元気でね」

「そろそろ行きましょう。ベル」

「うん。……ばいばい。みんな。逝ってきます」

 

 みんなが「元気でねー!」と元気に言ってくれる。……ごめんね。さすがに元気に死ねはしないや。どうやれば元気に死ぬと言えるんだろうか。

 

 

 

 

「ねぇ、ベル」

「どうしたの? ママ」

「トランク。軽いわね」

「何も入れてないからね。入れる必要もないでしょ?」

 

 入れる必要なんてない。ハウスにすべてを置いてきたんだから。

 

「俺は幸せだったよ。たとえママが俺達を怪物に喰わせるために育てていたとしても。あの毎日は嘘なんかじゃないもの」

「……っ!」

 

 ……? ママが驚いたような……気のせいか? ……気のせいだよね。

 そんなことを考えていると、門についた。門が開いていく。

 

「……さようなら、ママ」

 

 さようなら、みんな。……エマたちは今頃悲しんでいるのかな。泣いているのかな。……だとしたら……嬉しいな。泣いてほしくないと思ってるのに……泣いていると嬉しいなんて……矛盾してるよな。

 そう思いながら門の中に入っていく。そこにいたのは──人とは呼べない異形だった。

 

「お前が俺を殺すのかな?」

 

 問い掛けてみるが……返答はなかった。そりゃそうか。異形はゆっくりと俺を右手で掴み……左手に持ってた植物を俺に近づける。

 

「──大好きだよ、エマ」

 

 必ず逃げて、生きてね。納得出来る終わり以外で此方には来るなよ? 来たら蹴ってでも帰してやるからさ。

 そして、植物を胸に刺され、そこで俺の意識はなくなった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 彼の胸に刺された植物──ヴィダが花開く。赤い花を咲かせる。

 そんなヴィダを刺された彼──ベルは……笑顔で、満足そうな表情を浮かべて死んでいました。

 それを見た〝鬼〟は首をかしげます。〝この人間(しょうひん)はなぜ笑っているのだ?〟と。

 痛かったはずなのです。苦しかったはずなのです。ヴィダを刺されたベルは痛くて苦しくて仕方なかったはずなのです。なのにどうしてベルは笑っていたのか。安らかな表情をしているのか。〝鬼〟には理解できませんでした。ですが、〝鬼〟はそこで思考を切り上げると、容器を取り出し、ベルの服を脱がせて、取り出した容器に入れました。その瞬間です。

 

儀程(グプナ)は終わったか」

 

 別の〝鬼〟が現れ、ベルを殺した〝鬼〟に問い掛けます。

 

「はい、先ほど終わりました」

 

 ベルを殺した〝鬼〟は答えます。もうベルの死に顔のことなんて頭の片隅にも残っていませんでした。

 

 

 

 

 彼はエマたちにすべてを託して、笑顔で死んでいきました。

 愛した女の子と女の子の大切な家族なら、必ず生きてくれると確信していたから笑顔でいられたのです。──いえ、彼は愛した女の子だけでもいいから生きて欲しかったのです。もし死ぬとしても、納得の出来る結末を迎えてからにしてほしかったのです。そのためなら──彼は自分が死んでも構わなかったのですから。

 彼にとって家族とは──エマとエマの大切な人たちのことでした。自分を家族の括りに入れてなかったのは、自分がエマにとって(・・・・・・・・・)大切な人だとは思ってなかった(・・・・・・・・・・・・・・)から。自分のようなものが、エマにとって大切であるはずがないと思っていたのです。

 ですが、それはエマによって否定されました。……皮肉にも、それがベルの覚悟を決める切っ掛けになってしまいましたが、それでもベルは嬉しかったのです。大好きなエマに大切な人の一人だと思われていたことが、何よりも嬉しかったのです。

 

 これをもって彼の物語はおしまい。もし──もし転生というものがあるのなら、彼はまたエマたちに──大切な家族たちに会えるかもしれません。ですが、それは彼らは知る由もないこと。

 

 

「ベ……ル……?」

「……? どうして貴女たちは……泣いてるの……? そしてどうして僕の名前を知ってるの?」

 

 エマたちがハウスを脱獄して一年以上過ぎた頃、エマたちがとある場所で、とてもベルに似た少年に出会う。そんなお話もあるかもしれませんね。

 もしそんなことがあるのなら──神や悪魔などと呼ばれる存在が何かしたのかもしれませんね。

 




うん、意外と愉しい物語になったんじゃないだろうか。……あれ? もしかして僕に気づいちゃってる? あちゃー、ヘマしちゃったか。……うん? 僕が誰かって? 僕は……彼等の物語を見ていたしがない貌のない誰か(傍観者)だよ。


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番外編
ベルくんとエマ


タイトル通りです。
ベル(来世?)くんとエマの話です。
登場人物はベルくんとエマともう一人だけだったり、内容が意味不明かもしれませんが、細かいことは気にしないで脳を鬼に食べられながら読んでください。(!?)


「僕ね! おっきくなったらエマおねーちゃんとけっこんするの! そしてエマおねーちゃんを守って幸せにするんだ!」

 あの子はいつもそう言ってくれた。でも──もうあの子は……!

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 あの日はいつも通りの朝だった。

「エマおねーちゃん!」

 ベルが私に抱きついてくるのも、それを微笑ましそうに見てくるみんなも、何も変わらなかった。みんなが何処か複雑そうな表情をしていたのもいつも通り。……もしかしたら私もそんな表情だったのかもしれない。

 だけど、そうなるのも無理はない。だって、この子はベルと瓜二つ(・・・・・・)だったから。

 黒髪で、肌は白く、とても綺麗な赤色の目。昔のベルにとてもそっくりだった。そして、この子の名前もベル。

「……? どうしたの?」

「……! 何でもないよ。どうしたの?」

 いつの間にかベルが私の顔を覗き込んでいた。そんなに長い時間ボーッとしていたのかな。

「……エマおねーちゃんは誰を見ていたの?」

「……え?」

 誰を見ていたのか? ……そんなの君を見て──

「エマおねーちゃんは僕を通して誰を見ていたの?」

 ベルを通して……私は……!

「ごめんね……‼」

「わぷっ⁉」

 ベルを抱き締める。ベルが変な声を出していたけど、気にする余裕はなかった。

「ごめんね……! ベルはベルだもんね……‼」

 こんな私を見たら〝ベル〟はどう思うんだろう。呆れるのかな、怒るのかな……。会いたいよ……! もう一度会いたいよ……‼ あのとき助けられなくてごめんね……!!!

「エマおねーちゃん。泣かないで?」

 ……! ベル……?

「エマおねーちゃんが悲しいと僕も悲しいよ……」

 ベルが私を抱き締め返してくる。

「……ありがとう。元気出たよ!」

「ほんと⁉ やったあ!」

 ベルは無邪気に喜んでいた。そんな姿を見ると、自然と笑顔になれた。この大切な日常を守りたいと思っていた。みんなと一緒ならば守れると思っていたんだ。あの鬼が来るまでは。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 突然、轟音と共に私たちのいた拠点の入口が破壊された。

「──なっ!?」

 あまりにも突然すぎて、全員が動きを止めてしまった。そして──それが致命的だった。

 次の瞬間、破壊された入口から火の手が上がる。異常な速度で拠点を燃やし始めた炎にみんなパニックになった。炎に巻き込まれて、死んでしまった子供たちもいた。

 そんなとき、それは現れた。それ──鬼はまるで地獄から来た怪物のように見えた。巨大な鎌を持ち、歪に裂けた口。身体は三メートルくらいだと言うのに──その威圧感は今まで出会った何よりも強かった。

 鬼は大地を呑み込めるとさえ錯覚させるほどに大きく口を開け、焼けて死んでいった子供たちを喰らっていく。

 ある程度喰らって満足したのだろうか。

 首をコキリと鳴らしながら生存者(わたしたち)を見渡す。

 そして──鎌を持った腕を無造作に振るった。それだけで、凄まじい突風が吹き荒れ、私たちは突風によって吹き飛ばされたあと、辛うじて無事だった壁や地面に叩き付けられた。

「エマおねーちゃんっ!! 大丈夫⁉」

 自分も吹き飛ばされたというのに、ベルは自分のことより私の心配をする。私よりボロボロなのに……。

「私は……大丈夫。ベルは……?」

 鬼は私たちを見つけても口を歪ませて笑っている。強者の余裕とでも言うべきだろうか。いつでも私たちを殺せるということなんだろう。

「僕はだいじょーぶ!」

 そんな訳がないと思った。ボロボロの姿で涙を堪えながら言われても信じられる訳がない。でも、

「なら逃げてッ! みんなと一緒に急いでここから離れて!」

 ベルに叫ぶ。生きてほしいから。また見捨てるようなことはしたくないから。その瞬間だった。

『ク───ハハハ、ハハハハハハハハ! 面白いなァ、人間。それは自己犠牲というやつか? いや、結構。お前たちの紋様(じんせい)はやはり見ていて飽きんなァ!』

 鬼が言葉を話した。奇妙なノイズのようなものが混じっていた声だった。その声に顔をしかめると──鬼はいつの間にか私の前にいて、ベルを掴んでいた。

「ベル!」

「エマおねーちゃん!」

『ふむ、このガキはお前にとって特別なのか? ならこのガキを俺が喰らったらお前はどんな表情をするのだろうなァ』

 ……この鬼はいま何て言った? 喰らう? 誰を? ガキ? ……ベルを……喰らう? そんなの許すわけ……‼ でもこの鬼に抗う手段がない……!

『だが、ただ喰らってもつまらん。……人間。これはお前たちの武器だろう? 抗うことを許す。俺を楽しませろ』

 鬼はそう言うと、銃を投げてきた。……弾丸は入っているみたい。

『そら、いま俺を殺さねばこのガキは死ぬぞ? 俺に喰われてな。それが嫌だと言うのなら──俺を殺してみせるがいいッ! ……あぁ、仮面(こんなもの)は外してやる。俺たちの弱点は知っているだろう?』

 せせら笑うように言う鬼。そして、鬼は言ったとおり仮面を外し、素顔を晒した。

「──ッ!」

 嘗められている。それがよくわかる。そうじゃなければ、自分の弱点を守るものを外したりしないだろう。だけどこれはチャンスだ。この鬼を殺してベルを救う!

 そう考えて銃を構えたときだった。

「エマおねーちゃん逃げてッ!」

 ベルが私に叫ぶ。……どうして? 私が逃げたらベルが死んじゃう。そんなの──そんなのもう嫌だよ……‼ ベルをもう一度見捨てるなんて……‼

「みんなまだ生きてる! エマおねーちゃんたちが生き残れば──!」

『……なんだお前も自己犠牲とやらをするのか? 互いに自分を犠牲にしてどうする』

 鬼が呆れたような声で言う。

「僕はエマおねーちゃんたちに生きてほしいのッ! ……ねぇ、僕を食べたらエマおねーちゃんたちを食べないでくれる?」

 ……え? ベルは何を言って……?

『ふむ……そうだな。お前が大人しく俺に喰われるなら、一月ほどコイツらを見逃してやる』

「……わかった。ならそれでいいよ」

「何を言ってるの⁉ そんなのダメ‼」

 またベルを犠牲にして生きるのなんて私は……!

『……良いだろう。俺はお前を喰らったあと、人間どもを一月だけ見逃す。約束してやる』

 ダメ……私は──私たちはまたベルを……!

「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」

「ばいばい、エマおねーちゃん。絶対に生きてね」

 手を伸ばすけど、ベルは笑顔を私に見せて──鬼に食べられた。

「あ──あああああぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁ……!!!」

 私はまたベルを……! どうして──どうして自分を犠牲にして私たちを守ろうとするの⁉

 鬼の咀嚼音が辺りに響く。ベルの骨が、肉が、全身が噛み砕かれる音が聞こえる。そして、飲み込む音が聞こえた。

『その命。大切にすることだな。ガキの死を無駄にしたくはないだろう? 俺はお前たちを一月だけ見逃す。それがあのガキとの〝約束〟なのだからな』

 鬼はそう言うと、何処かに去って行った。

「ベル……! うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───‼」

 ……私はまた……何も出来なかった。ごめんね……ベル……! ごめんね……私は──私たちはまた……ベルに助けられたよ……‼ ベルを犠牲にしちゃったよ……! 私たちは……何も変わってない……‼

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 あれからもうすぐ一月が経つ。

 あのとき、私は何も出来なかった。だけど、もう二度と誰も失わない……‼ 誰一人としてみんなは死なせない……!!!

「……待っててね。ベル」

 絶対にあの鬼を殺して、ベルの仇を取ってみせるから……そして生きてみせるから……。生きて、生きて、生き抜いてみせるから……‼ 私が死ぬまで待っていて……!

 

 

 

 

 

 

これは家族を愛していた女の子が大切な家族の一人を失った物語。失いたくないと思っていたものを失ってしまった女の子のお話。




書いてて良心が痛んだので続きは書きません。
なんで俺はこんなの書こうと思ったんでしょうね。
そして番外編のネタも尽きました。


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エマから見たベル

何となく書いてみる。ネタ切れ? そんなもんしてからが本番だ! (おい)
ちなみに番外編は基本的に何となく思い付いたネタとかを衝動のままに書いてるだけだったりします。


 ……え? 私から見たベル? そうだなぁ……あまり長くは語れないよ? ……それでもいい? うーん、それじゃあ短いけど語らせてもらうね。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 初めてベルを見たとき、怖いって思ったんだ。

 何を考えてるのか、何を見てるのかがわからなかったんだ。何を話しかけても全然反応しなかったから。

 それでも根気強く話しかけてたら、いつの日からか反応してくれるようになったの。

 最初は無愛想で無表情だったけど、少しずつ笑顔も見せてくれるようになったんだ。あのときは嬉しかったなぁ。それからかな。ベルが私たちのことを優先するようになったのは。

 少しでも様子がおかしかったりしたら、すぐに気づいてね。ケガをしてたらママのところに引っ張って行かれちゃった。……でも、自分のことには無頓着だったんだ。例えばあれは……私がベルと一緒に木に登ったときのこと。

 

「うわぁッ⁉」

「エマッ‼」

 

 私が木から落ちちゃってね。そしたら、すぐにベルが私のことを抱き締めて落ちたの。私はベルがクッションみたいになって無傷みたいなものだったんだけど、ベルは直接地面に叩き付けられて、気絶しちゃった。気絶したベルを見た私は慌てて、

 

「ベル⁉ 大丈夫⁉」

 

 なんて言いながら、ベルのことを揺すっても反応はなかったの。そんな私の叫び声が聞こえたんだと思う。すぐにママが走ってきてね。

 

「エマ! 何があったの⁉」

「ママ! ベルが! ベルが……‼」

 

 ベルを見たママはすぐにハウスに運んだんだ。……あのときは物凄く泣いたよ。結局、ベルはその日は起きなかったんだもん。

 でも、次の日には普通に起きてたの。

 起きてるベルを見て私は泣いちゃったんだ。起きてよかった、って。

 でもベルは泣いてる私を見て、

 

「エマ? 何があったの?」

 

 とか聞いてきたんだ。無言で抱き着いた私は悪くないよね。

 ベルはそんな私を不思議そうに見てたんだけど、抱き締め返してくれたの。……いま思い返すとちょっと恥ずかしい。ママはニヤニヤしながら見てたし。

 ……? その話はいい? なら……脱獄する前くらいの話をしようか。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 私とノーマンがハウスの真実を知った次の日、朝に弱かったベルが起きてたの。どうしたんだろう? って思って近づいたんだけど、ベルがいきなり、

 

「だとしたらショックだな」

 

 って言っててね。何がショックだったのか気になった私は話しかけたんだ。そしたら凄く驚いてた。ベルの驚いた顔なんて見たのは、そのときが初めてかも。

 それで話しかけたときに、何がショックなのか聞いたんだけど……

 

「いや、俺って信用されてないのかな? って思ったらさ」

 

 って言われたんだ。私はベルがなんでそう思ったのかわかんなかった。だって、少なくとも私は信用してたから。だから、なんでそう思ったのか聞いたんだ。そしたら……

 

「エマたちに、気軽に相談してくれよ。って言ったのにちっとも相談してくれねぇから……」

 

 ベルは不貞腐れながらそう言ったの。そんな顔のベルも初めて見た。

 そのときの私は相談するほどのことじゃないって言ったんだ。……きっと、ベルはそのときには既に私たちの様子がおかしかったことに気づいていたんだろうね。

 ベルは私たちがリトルバーニーをコニーに届けようとしてたのも知っていたし、ハウスに戻ってきたときに、リトルバーニーを持っていなかったことも知ってたんだもの。

 それでもベルはなにもしてこなかった。……もしかしたらその時点でハウスの真実に辿り着きかけてたのかもしれない。だから積極的に関わろうとしなかったのかも。……今となってはわからないけどね。

 ……その日の夕食のとき、ベルの里親が決まったってママがみんなに言った。そのとき初めてベルの誕生日を知ったんだ。ベルの誕生日をママ以外は誰も知らなかったから。ベルが教えないでほしい、って言ったんだって。

 

 

 

 

 その日の夜かな。

 

「どうか、エマたちの未来に光がありますように」

 

 ベルがベッドでそう言ってるのが聞こえたんだ。だから思わず言っちゃった。自分のことを蔑ろにしないでって。……ベルに聞こえてたのかはわからないんだけどね。

 

☆☆☆☆☆

 

 

 ベルが不貞腐れた次の日。ハウスの真実をレイになら話しても良いんじゃないか、って私がノーマンに言ったんだ。……どうしてベルに言わなかったのかって? そんなの決まってる。ベルなら絶対に自分を犠牲にするから(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 どうしてそう言うことが出来るのか? ……ベルは自分のことを蔑ろにしてでも、私たちのことを優先してたからね。そう考えるのも当然だと思う。

 ……このときにどうしてそんなベルが関わってこないのかを考えるべきだった。そのおかしさに気づくべきだった。

 でも、当時の私たちはそれに気づけなかった。明らかに異常だったのに、気づくことが出来なかったんだ。

 

 

 レイにはちゃんと教えて、レイとノーマンと私で図書室で情報集めをしてたんだけど……その途中で私たちはママに呼び出された。正確には、私たちに加えてベルとドン、ギルダもなんだけど。

 それで手伝いをしたんだ。食糧庫の確認、予備リネンの点検、空き部屋の片付け。三日間それをしてた。

 ママが何を考えてるのか私たちにはわからなかったんだ。でも、ベルにはわかってたみたい。

 それに、私たちはそのとき初めて理解したんだ。ベルがハウスの真実を知っている、或いは近づいていることを。

 何故わかったのか? それはギルダがドンを引っ張って行ったときにベルが、

 

「俺もあっち手伝ってくる。そのほうがいろいろ話しやすいこともあるだろ?」

 

 なんて言ったんだもん。すぐにわかるよね。

 だからベルに話を聞こうってノーマンとレイに言ったんだ。……本当はあまり気は進まなかった。でも、それでも聞かないといけないと思ったんだ。

 

 

 

「それで? 話って?」

 

 ベルは図書室に来て最初にそう言った。それに対してノーマンが、

 

「ベルならわかってるんじゃない?」

 

 なんて言ってね。でもベルは、

 

「さあ? 俺はお前たちより頭が悪いからわかんないな」

 

 って返答したの。ベルは誤魔化すつもりなんだ、って思った。でもノーマンが全部話すからベルも話してって言ったら素直に頷いたの。……いま考えてみたら、あまり誤魔化す気がなかったのかもね。あのとき聞いておけば良かったな……。

 ……あ、話がそれちゃったね。それでベルに全部話したあと、ベルはこう言ったんだ。

 

「やっぱりコニーは死んじゃってたか」

 

 って。思わず聞き返しちゃった。私たちの様子がおかしかったから考えた可能性の一つだったんだって。あのときは、それだけで? なんて思ったよ。……でも、同時に本当に私たちのことを見てるんだな、って嬉しかった。

 ……なんでちょっと引いてるの? 気にしなくて良いから続きを教えて? ……うーん、釈然としないけどわかった。

 そのときに、ベルに言おうと思ったんだ。〝逃げて〟って。……発信器があるから、逃げても居場所がバレるのにね。それでも逃げて欲しかったんだ。……ベルには拒否されちゃったけど。

 拒否した理由はベルらしい理由だった。……逃げたら私たちの計画に影響があるかもしれないから、なんて理由だったんだもん。……そのときに気づいたんだ。ベルは自分のことなんてどうでもいいんだって。だから自分を簡単に見捨てれた。だから自分より私たちを優先するんだって。

 そのあと、ベルの知ってることを話してもらったけど……まさか発信器の場所を予想してるとは思わなかったなぁ。

 あと人が増えるって言ってたの。……たぶん大人が増えるってことを言ってたんだろうね。すぐに眠いからって部屋に戻っちゃったけど。

 私たちもベルの言ったことを簡単に話し合ったら、部屋に戻った。

 そのときに私とベルは同じ部屋だったから……ベルのベッドに忍び込んだんだ。ベルを一人にさせたくなかったから抱き締めて……いつの間にか寝ちゃってた。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 それで朝に目が覚めたときは驚いた。ベルが泣いてたから。何かあったんだと思った。だから聞いたんだ。

 何があったの? って。でも、ベルは心底わからないみたいな表情で、なんでって聞いてきたんだ。

 ベルは自分が泣いてることに気づいてなかった。

 ……私たちを頼ってほしかった。でも、ベルは頼り方を知らなかったんだ。今まで殆どのことが一人で出来てたベルは誰かを頼れなかったんだ。……ううん、きっとベルは誰のことも信用してなかった(・・・・・・・・・・・・・)

 大切には思ってても、それは守るべき対象としてであって、対等の存在とは思ってない(・・・・・・・・・・・・)

 ……でも、そんなベルが無意識かもしれないけれど、私たちを頼ってくれていた(・・・・・・・・)。それは嬉しかった。だって、私たちを頼ってくれてなかったら、計画を考えるのも、実行するのも何も関わらないなんて有り得ない。

 だから、嬉しかったけど……逃げられないのがとても悔しくて……。

 そんなことを考えてたらまた寝ちゃってたの。……あとからベルに聞いたら、ベルの服の裾を掴んだままだったんだって。

 それでシスターに新しい妹のキャロルが来て、発信器の詳細な場所を確認したんだ。

 その日の夜。ベルがいきなり発信器の場所の確認をしたり、フクロウの蔵書票がモールス符号になってるって言ってきて驚いた。……どういうことか聞いてもすぐに寝ちゃうし。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 ベルの出荷の日。私はベルと一緒にいた。ノーマンやレイと話し合うべきだったんだと思うけど、私がベルと一緒にいたいって言ったら二人ともそうさせてくれた。

 ベルは木の下で本を読んでた。だから黙って近くに座った。

 ベルは不思議そうにして、どうして来たのか聞いてきた。ベルがいなくなっちゃうからだって答えたらね? いきなりベルが私を抱き締めたの。びっくりしちゃった。

 そして、ベルは私にこう言ってきたの。

 

「大丈夫だよ、エマ。俺のことなんて気にしなくて大丈夫。だから笑って?」

 

 そんなことをベルは言ってきた。……だから笑って訂正してあげた。

 ベルも大切な家族なんだって言ってあげたんだ。そしたら、ベルは嬉しそうにしてた。

 ……ベルが私を抱き締めて少し経ったとき。

 

「気になるけど駄目だね」

 

 ベルが突然そう呟いた。何が気になるのか、何が駄目なのかを聞いてみたけれど、ベルは笑いながら「なんでもない」って言ってきたんだ。

 そうして、ベルがいなくなっちゃう日は、二人でいろんな話をして笑いあったよ。

 

 

 

 え? これくらいでいい? ……そっか。また聞きたいことがあったら来てね。いつでも話してあげるから。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「エマー!」

「あ、ギルダ! どうかした?」

 

 ギルダが走ってきた。何かあったのかな?

 

「エマ、誰かと話してたの?」

 

「え? ……ううん(・・・)誰とも話してなかったよ(・・・・・・・・・・・)?」

 

 いきなりどうしたんだろう?

 

「そう? 何だか楽しそうなエマの声が聞こえてたんだけど、気のせいかな」

「きっと気のせいだよ!」

 

 だって、誰もいなかった(・・・・・・・)もの。

 それにしても、何かあった訳じゃないみたいで良かった。

 

「……あ! そろそろ時間⁉ ならこの遺跡(・・)を出て帰ろう?」

「あっちにレイたちもいるよ」

「急がないと!」

 

 ギルダを引っ張って、ギルダの指差した方向に走っていった。だからだろうか。

 

『いつでもおいで。そして、来たらまた僕に思い出を語ってくれると嬉しいな』

 

 そんな声には気づかなかった。 




エマに語りかけてたのは誰なんでしょうね?

やぁ、また会ったね。僕は傍観者なんじゃなかったか、だって? そのつもりでいたんだけど、当事者に話を聞きたくなっちゃったからね。そのくらいは許しておくれよ。


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もしもベルが光の奴隷もどきだったら

タイトル通りです。気合と根性で覚醒します。シーンは鬼にヴィダを刺される瞬間くらいから始まります。時系列は……エマたちが脱走する前くらい? ベルの誕生日は本編と違ってエマたちが脱出するちょっと前とかだと思っていてください。あと細かいことは気にしないで、脳を溶かして読んでください。
知り合いに書いてと言われたので書いてみました。これ需要あるか? そして完結したのに俺は何してんだろう?


 鬼がベルの身体を右手で掴み、左手に持ったヴィダをベルの胸に突き刺そうとする。すぐそこに迫る死。鬼の力はベルの抗える程度のものでは断じてない。故にベルの人生はここで終わり──

「──いいやまだだ!」

 ──ヴィダがベルに突き刺さる刹那、ベルを掴んでいた右手が内側から力任せに開かれた(・・・・・・・・・・・・)

「───っ⁉」

 驚愕して動きが止まる鬼。だがそれも当然だろう。ベルでは絶対に不可能だったはずだ。抗うことなど出来なかったはずなのだ。なのに、ベルは力任せに鬼の手から脱出した。そんなもの誰でも動揺するに決まっている。

 しかし、その動揺はこの場において致命的だった。ベルは動きが止まった鬼から一瞬でヴィダを強奪する。

「お前たちに恨みがある訳じゃない。きっとお前たちも生きるために人間(おれたち)を喰らっているのだろう。だけど──」

 ──それを許せばエマが泣いてしまう。だからお前たちの存在を許す訳にはいかない。

 そうベルは鬼に告げた。

「だから我らを殺すだと⁉ そんなこと──」

 ベルの言葉に吼えようとした鬼の仮面が奪われる。そして、ベルに奪われていたヴィダが鬼の目に刺された。ベルは一片の躊躇いもなく、ヴィダを目の奥まで刺したのだ。

「グ──ギャアアァァァァアァァアアアア───!?」

 鬼が悲鳴をあげる。その叫び声は尋常ではない。何故なら目は鬼にとって重要な器官だ。いや、人間にとっても重要ではあるのだが、鬼にとっては一番重要と言っても過言ではない。何故なら目の奥には命を維持するための核があるからだ。それは鬼の弱点。そこにヴィダを刺された。

 鬼の弱点をベルは知らないが、仮面が奪えた──より正確には外せた時点でそこが弱点、あるいは弱点に関係する場所であると判断していた。

 故にベルは目を刺した。奥まで届くようにぐっさりと刺した。鬼に目が大量にあったことに驚きはしたものの、だからどうしたと一番突き刺しやすい場所を狙った。そして、鬼の叫び声を聞いて確信した。

「なるほど、お前たちは目が──より正確には目の奥にある〝何か〟が弱点なのか」

 ベルはそう言ったが、そのときには鬼はもう息絶えていた。それに気づいたベルが、目を閉じて手を合わせた瞬間──

「おい、どうした⁉」

「何があった‼」

 鬼が数体奥より現れる。先ほど死んだ鬼の叫び声を聞いて駆けつけたのだろう。どう考えてもピンチだろう。これをピンチではないと言えるものがどれだけいる。

 だが、目を開いてそれを見たベルは笑いを受かべて宣言する。

「どれだけ来ようと無駄だ。エマを──家族を守ろうとする限り俺は無敵だ。来るがいいッ! お前たちに家族(みんな)未来(あす)は奪わせないッ!」

 単騎(ひとり)で複数の鬼を相手する。無謀にも程がある。しかも鬼がどれだけいるのかわからないのだ。誰に聞こうと〝それは無謀だ〟と答えるに違いない。

 しかし、それでも(・・・・)とベルはどれだけいるのかわからない鬼と戦う。すべては大好きな女の子(エマ)の涙を拭うため、家族(みんな)笑顔(しあわせ)を守るため。愚かだと嘲笑うものもいるだろう。蛮勇だと言うものもいるだろう。逃げてと叫ぶものもいるかもしれない。だが、それらすべてをベルは一蹴するだろう。

 ベルは本気で鬼を殺し尽くすつもりなのだ。何処までも本気で、全力で鬼を滅ぼすつもりなのだ。それも、家族の未来を奪わせないという理由だけで。

 ベルは狂人だ。まともじゃないと10人中10人が言うに違いない。だが、それでもベルは良かった。たとえ狂人と呼ばれようと、悪だと糾弾されようと止まらない。否、止まれないのだ。精神が突き抜けすぎていて、自分でも止まることを許せない。例外はエマや家族が止めたときだろうか。しかし、それでも止める理由に納得出来なければ止まらないだろう。

『頭は傷つけるな! それ以外の部分は傷つけても構わん‼』

 一体の鬼がベルには理解の出来ない言葉で他の鬼に命令を下す。そして、それと同時に一斉に武装した鬼が動き出した。

 それを見てベルは告げる。

「──〝勝つ〟のは俺だッ!」

 ベルに武器などない。あるのは自分の肉体だけだ。だが、それで充分だと笑みを浮かべて無数の鬼に突撃した。気合と根性、そして自分の肉体だけを頼りにして、鬼と戦うのだ。勝算などありはしないとわかっていながら、鬼に喰われるために育てられた少年は、いま鬼にその牙を剥いた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 どれだけの時間が経ったのだろうか。

「ゲホッ……! ゲホッ……‼」

 ベルの姿はボロボロだった。左腕や右足は鋭い爪に貫かれて穴が空いていたし、あちこちに切り傷や打撲傷があり、身体で無傷な部分を探すほうが難しいだろう。無傷なのは頭部くらいのものだ。

 そんなベルの周囲には鬼の死体が無数に転がっていた。その光景はまさに屍山血河と比喩するに相応しい。

「……まだだ」

 そんな光景を作り出しても、まだだとベルは言う。血みどろの地獄を作り出しても足りないとベルは言う。

「エマの涙を拭うためには……家族(みんな)笑顔(しあわせ)を守るためにはまだ……!」

 ベルは本当にこれでエマの涙を拭えると思っているのだ。本気で家族の笑顔を守れると思っているのだ。どう考えてもそんな訳がないと思えるような惨状を作り出したというのに、そう本気で信じている。

「必ず鬼を全滅させてみせる……! それまで俺は絶対に止まらない……‼ 止まれるものか……‼」

 武装した鬼から奪い、自分が扱いやすい長さに刀身を折った剣を二本持ちながらベルは歩き始めた。鬼を滅ぼし尽くすために──

「……違う、そうじゃない」

 ベルがいきなり止まる。

 ───みんなはどうなったのか。それを確かめないといけない。鬼どもを滅ぼすのはそのあとでもいい。俺が出荷されてから、ある程度の時間が経っていることは確実だ。鬼どもを殺しながら奥に来てしまったこともある。戻るのにどれだけ時間をかける必要があるのかもわからない。さすがに長くても数時間くらいだと思うけど……そもそも今は何時だ? やはり一度外を確かめないとか。

 そう考えたベルは、すぐに門のほうに向かった。

 

 

 

 

 

 

門に着いたベルが見えたのは、何かが燃えている光景だった。

「……はぁ?」

 門が開いていないのはベルも予想していた。と言うよりも、開いているほうが驚いただろう。だが、ハウスのある方から火の手が上がっているのは予想していなかった。ハウスのある方で火の手が上がっているということは、つまり──

「ハウスで火事でも起こったか……⁉」

 そうじゃない可能性もあるかもしれない。だが、空は暗いことから、おそらくは夜。……もしも、今日がレイの誕生日なら? ……レイならそれくらいやるかもしれない。

 ベルはそう考えて焦る。

「無事じゃなかったら許さない……!」

 ──お願いだから生きていて。

 ベルはただそれだけを思って、門に対して剣を振るって力任せに破壊し、ハウスに走っていった。

 

 

 

 

 ハウスに走っていく最中、いきなり警報音が鳴り響く。

「チッ! まだ残ってたか!」

 全滅させた、とは思っていなかったベルだが、これには痛烈に舌打ちした。

 だが、同時に安心する。エマたちが脱走したのだと思ったからだ。ならハウスに向かう必要はない。

 そう考えたベルは近くの塀を登る。塀に剣を一本だけ力任せに突き刺し、それを足場にして登る。どう考えても無理だろうとしか思えないことを気合と根性でやってのけた。もし誰かがそれを見たら驚きで動きを止めることだろう。誰もいないのでそんなことはなかったが。

 

 

「見つけた……‼」

 数分ほど全力で走った先にエマがいた。それを見て安心した表情を見せるベル。

「ベル……⁉」

「お前、生きてたのか⁉」

 そんなベルを見て、塀の上にいるエマだけではなく、崖の向こうにいるレイも驚く。ベルは出荷されたのだから、生存しているのに驚愕するのも無理はない。

 崖の向こうにいた他の子供たちはベルの姿を見て絶句していた。身体はボロボロで血塗れの姿。しかも折れた剣を持っているのだ。絶句もする。何人かは涙を堪えてすらいる。トラウマにならないことを祈るばかりである。

「逃げるんだろ? 早く行きなよ。あまり時間はない」

 ベルはそんなエマや崖の向こうの子供たちに気づいてはいるが、自分が血塗れであることからすぐに鬼が来るかもしれないと考えた。故に早く逃げろと言う。

 エマからしたら聞きたいことはたくさんあっただろう。話したいことだってあっただろう。だが、

「……ママ」

 ベルがエマの背後を見て、そう呟いたのが聞こえた。

「……!」

 エマが背後を見てみると、確かにママがいた。恐らく走ってきたのだろう。息を切らせてエマから少し離れた場所に立っていた。

「行け! エマ! 絶対に後から俺も向かう‼」

 ベルが絶対に追い付くという意思を込めてエマに言う。その言葉で決心したのだろうか。

「……絶対に追い付いてね。約束だよ!」

 エマがそう言いながら、ロープにハンガーを掛ける。

 それを見たママが消え入りそうな声で言った。

「行かないで……私の愛しい子供たち……!」

 それを見てベルは理解する。あぁ、ママは──本当に子供たちを愛していたのだと。……だからこそ悔しく思った。ママも逃がせないことを。それには時間も道具も足りないのだから。

 エマも一瞬躊躇うような様子を見せたが、すぐにロープを滑って崖の向こうに行った。

 崖の向こうにエマがたどり着いたのを見ると、早く行けという意思を込めて見る。

「……っ!」

 そんなベルの目を見て理解したのだろう。エマたちは歯を食い縛る。そして、少し経ってから森の奥に走って行った。ロープをほどいて行かなかったのは、ベルが崖を渡る手段をなくさないためだろうか。

「……私の負けね」

 そう言うと、結んでいた髪をほどくママ。

「そう、ママの負け。そして、エマたちの勝ちだ」

 そんなママに話しかけるベル。

「貴方は行かなくて良かったの?」

「まさか、もちろん行くよ。そしてすぐに追い付く」

 笑顔でママに言うベル。すぐに追い付くと確信しているのだろうと思えるような声音だった。

「それじゃあ、ばいばいママ。いってきます」

 ベルはそう言うと、残っていたロープを素手で掴んで渡っていった。そして、崖の向こうに着くと結んであったロープをほどいてエマたちの向かった方向に全力で走っていく。

「──いってらっしゃい。気を付けてね」

 ママは穏やかな表情でそれを見送ると、ロープを回収して、フィルたちのいるところに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは英雄譚でもなければ逆襲劇でもない。ただ、理想を実現しようと努力する子供の物語。家族を──みんなを救おうと、必死に努力して歩む子供たちの軌跡(じんせい)の物語。




これは続かない。(断言)
続いたらレウウィス大公がまだだっ! する気がするし。ベルくんもそれに応じてまだだっ! するだろうし、レウウィス大公もそれを見て歓喜してまだだっ! して、ベルくんも(以下略)
そもそも俺が戦闘シーンを全然書けないという問題もあるけど。


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もしもベルが光の奴隷もどきだったら その2

続いた。これも本気だったからだな! やはり本気の力は素晴らしい! まあ、拙い文であることに変わりはないが。
そういえば、いつの間にかUAが1000超えてたの超嬉しいです。……なんでそんなにいったんだろ。約ネバの二次が少ないからか。約ネバの二次もっと増えろ。
あ、今回は戦闘描写ありますけど、めっさ雑です。ついでに意味不明でも戦闘とかろくに知らない素人なんで大目に見てくださると嬉しいです。
……光の奴隷もどき in GPを書こうかな。
ついでに何故か知らんけど総統閣下 in GPとかを書きたくなる衝動が……。(それを書くかはしらない。書いたらどうなるかは目に見えてる)


 森の中をベルは全力で走る。エマたちが行ってからそう時間は経っていない。ならばすぐに追い付けると確信して──次の瞬間、エマたちの姿が見えた。

「見つけた!」

 ベルがそう言ったのが聞こえたのだろうか。エマたちが振り向いた。

「ベル!」

 エマが追い付いたベルを見て喜ぶ。

 だが、一つ考えてほしい。ベルはいまボロボロな姿で、しかも血塗れで、刃折れの剣を一本持っている。どう考えてもホラーだろう。普通なら恐怖を感じておかしくない絵面にも関わらず心の底から喜んでいるエマは何者なのだろうか。

「約束をちゃんと守ったよ」

 そして、そんな絵面にも関わらず気にせず満足そうな笑顔でそう言うベル。何に対して満足そうなのかは言うまでもないだろう。そんなベルを見てエマたちはと言うと……

「ベル、そのケガどうしたの⁉ それにその剣も!」

 今更感が拭えないが、ケガや剣のことを聞いていた。

「ちょっと鬼どもを殺してたときにケガして、剣はそのとき鬼から奪った」

「お前は何してんだ⁉」

 レイが思わずツッコミを入れた。当然だろう。どうやって生き残ったのか不思議に思ってはいたのだろうが、まさか鬼を殺していたとは思わなかったのだろう。

 冷静に考えればそれ以外ないということにも気づいたのだろうが、いかんせんベルのいまの見た目はインパクトがありすぎた。お陰で何人かは気絶してしまっている。

 頭部以外は何処を見ても無傷なところなどなく、左腕や右足は穴が空いてしまっている。どう考えても、すぐに治療しなければならないだろう。

「すぐに治療しないと! 余ってる包帯とか!」

 エマがパニックになったように言うが、

「大丈夫。用意してるわ」

 取り出していたギルダがすぐにベルのケガの中でも特に重傷な部分に巻き始めた。

「ありがとう、ギルダ」

「……無茶だけはしないで」

 涙を堪えながら消え入るような声で言うギルダ。

「……わかった。無茶だけはしない」

 ベルは真剣な表情で言うが……もし鬼が現れたら積極的に殺しに行くことだろう。ベルは、それを無茶だと思っていないのだから。普通に考えれば無茶でしかないことには恐らく一生気づかないのだろう。

「さて、急がないと。鬼が追ってきてるかもだろ?」

 ベルはそう言うと、走り出そうとする。

「待って! 一度休んで朝ごはんにしよう?」

 エマがそんなベルを止める。

「みんな疲れてるし、一度休まないとだろ」

 レイもベルに言う。ベルはみんなを見ると、

「……わかった」

 しぶしぶ納得した。そんなベルを見てみんなは思った。〝お前が一番休まないとだろ‼ なんで一番元気なんだ⁉〟と。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 洞穴のようになっている木を発見し、そこで休むことにした一同。

 ベルが見張り番をすると言ったが、満場一致で却下され、見張り番はエマとレイがすることになった。

 その結果にベルはとても不服そうだったが、エマやギルダが一生懸命説得して納得してもらったことは割愛する。

「それじゃあ、俺はちょっと川を探して血とか落としてくる」

 そう言って、ベルは服を貰って剣を持って川を探しに行った。

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、川を見つけたのはいいけど、鬼もいるとは思わなかった」

 ──剣を持っていて正解だったな。

 そう呟くベルの近くに、一刀両断された鬼の死骸があった。

 ベルは鬼に襲われたが、鬼の攻撃を咄嗟に転がり避けて、縦一文字に鬼の身体を切り裂いたのだ。

「にしても、この鬼は仮面をしてなかった。それに、俺を喰おうとしてきた辺り、追手ではないな。……すぐにエマたちの所に戻らないとか」

 血を洗い流して、新しい包帯を巻き直して服を着るベル。

 そして、全力でエマたちの所に走って戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 戻ってきたベルは不思議そうに首を傾げた。それも当然だろう。

「……? みんなは何処に行った?」

 何故なら、洞穴になってた場所にエマたちの姿はなかった(・・・・・・・・・・・)のだから。鬼に追い付かれたにしては、争ったような跡が無さすぎる。まるでいきなりいなくなったような──

「──チッ! やられた!」

 そこまで考えたベルが痛烈に舌打ちする。敵は鬼だけではない(・・・・・・・・・)。自然環境も敵だということを理解したからだ。

 ベルはすぐに周囲を探すが、見つからず焦る。

 それでも諦めずに探そうとしたベルだが、

「──⁉」

 突然片膝をついた。当然だ。今までどれだけの血を流した? 今までどれだけ動いた? 普通ならば既に気絶……いや、死んでいてもおかしくないようなケガを負いながら、今まで無理やり動いてきた代償がここに来てベルに襲い掛かったのだ。

「こんな……ときに……‼」

 こんなところで止まってなどいられない、と動こうとするベルだった。

 そんなとき、少し遠くのほうから微かにだがエマたちの声が聞こえてきた。

「……っ!」

 すぐに駆け寄ろうとするも、身体はベルに限界を訴え続ける。しかし、それでも気合と根性で無理やり動かし、声の聞こえる場所に歩いていった。

「……俺はもしかして運がないのか?」

 その途中で十匹ほどの野良鬼に見つかったが、すべて一刀両断したベルだった。血の臭いのせいで見つかってる可能性に気づけていない辺り、休憩が必要だと思われるのだが、それを言う人間はここにいない。

「……しまった。このままだと追手にバレるか?」

 野良鬼の死体をそのままにして歩いてきたせいで、下手したら追手に場所を教えているだけになるのでは? と思ったベル。

 だが、野良鬼に追われているエマたちを見つけてしまった。

「チッ!」

 舌打ちすると、ベルは全力で走り、背後から剣を降り下ろし、野良鬼を両断しようとする。

 しかし、野良鬼はそれをわかっていたかのように横に跳ねて回避し、剣を降り下ろしたばかりのベルを喰らおうと大口を開けた。

「ベル!」

 みんながそれを見て叫ぶ。ベルは回避したところで鬼との距離が近すぎて、もう間に合わない。反撃などしようとしても同じだ。確実にベルは死ぬ。エマはベルを助けようとするがそれには距離がありすぎた。故にベルはここで鬼に喰われる──はずだった(・・・・・)

「──まだだッ!」

 喰われる刹那、ベルは目の前の(オニ)否定(ころ)してみせた。

 ベルが何をしたのかと言えば簡単だ。降り下ろした剣を(・・・・・・・・)もう一度振り上げて(・・・・・・・・・)鬼を脳天から股下まで切り裂いた(・・・・・・・・・・・・・・・)。ただそれだけ。

「……え?」

 みんなが茫然とする。当然だろう。

 反撃は間に合わなかったはずだ。普通に考えればあそこでベルは死んでいた。なのに、ベルは反撃してみせた。

 まるで英雄譚に出てくる英雄のように、追い詰められたことによって隠された力に覚醒したと言われても信じられるような光景だった。

「……だからか」

 その光景を見て、レイはベルが出荷されても生きていたことに納得した。

 鬼からしたら悪夢だったに違いない。

 どれだけ追い詰めても、どれだけ傷つけても、気合と根性だけで覚醒して殺してくる。鬼たちにはベルが不死身のようにさえ見えたかもしれない。

「……」

 ──今のベルを見てたら、そんなようには見えないんだけどな。

 泣きそうな表情をしているアンナたちに対して、どうすればいいのかとオロオロしているベルを見ながらレイはそう思った。そんなときだ。

「見つけました。直ちに連れ戻ります」

「……!」

 追手の鬼に見つかった。声が聞こえた瞬間、ベルは剣を構えて追手を見据える。家族(みんな)だけでも逃がすために追手を皆殺すと決めたベルはもう止まらないだろう。

 追手に殺気が放たれる。それも追手の鬼が反射的に武器を構えてしまうほどのものが。そして、ベルは家族に向かって叫ぶ。

「行け! また必ず追い付く!」

 その言葉には有無を言わせない威圧感があった。

 それを感じたのだろう。レイやエマがみんなを連れて走っていく。しかし……

「させるか」

 リーダー格と思われる鬼以外がそうはさせるかとエマたちを追い掛けるために飛び出した。だが、

「それを許すとでも?」

 飛び出した鬼たちはその瞬間にその命を散らした。

「……なに?」

 飛び出さなかった鬼が怪訝そうな声を漏らす。何故か? 答えは単純。ベルの剣が捉えきれなかった(・・・・・・・・)からだ。

 鬼は人間よりも身体能力などが高い。個体差はあるものの、人間に劣っていることはまずないだろう。だと言うのに、人間の子供が振るった剣を捉えきれなかった。

「お前たちに恨みはないけど、家族の邪魔になるから死ね」

 その言葉と共に、ベルが残っていた鬼に斬りかかった。

「──ッ!」

 鬼は縦一文字に振るわれた剣を避けようとするが、僅かに遅かった。避けきれずに左腕を切り落とされる。

 決して油断していた訳ではない。一切の油断も慢心もなかった。そんなことをすれば死ぬと本能で理解していたから。しかも、ベルの剣速は先ほどよりも僅かではあるが遅くなっていた。なのに避けきれなかった。その事実に驚愕するが、すぐに左腕を再生してベルの首を切り落とそうと剣を横一文字に振るう。

「甘いッ!」

 だが、ベルは跳躍して避けると、剣を降り下ろした。

「貴様がなッ!」

 鬼は降り下ろされた剣を受け流し、ベルが地面に着地するのと同時に足を払い、ベルの身体が地面に叩きつけられた瞬間、心臓目掛けて突きを放った。地面に身体を叩きつけられたことで硬直してしまったベル。鬼は必殺を確信した。だが……

「まだだッ!」

 死を前にベルは当然のように覚醒し、心臓に放たれた突きを空中を蹴って(・・・・・・)回避してみせた。

「なっ……⁉」

 その事実を前に鬼は動きを止めてしまった。

 避けれなかったはずだ。確実に心臓を貫けたはずだ。ベルが地面に叩きつけられ動きが硬直した瞬間に放たれたそれは、必殺と呼んでも問題なかったはずなのだ。だが、ベルはそれを魂の強さで上回った。気合と根性で覚醒するという馬鹿げたことを成し遂げてみせた。

 しかし、そんな驚愕などベルの知ったことではない。

 敵を前に動きを止めてしまった鬼の命は、ベルによって無慈悲に刈り取られた。

「……」

 頭部を失ったことで倒れる鬼の胴体。それをベルは無言で一瞥すると、エマたちの逃げた方向に、出血多量などが原因で意識が朧気になりながら全力で走っていった。




ちなみにベルくんは覚醒したことで上がった身体能力を全力で使ってエマたちと数分くらいで合流しました。そして当然倒れた。


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光の奴隷もどき in ゴールディ・ポンド

本気による本気のための本気の覚醒をさせたかった。反省も後悔もしていない。
レウウィス大公とかバイヨン卿しか覚醒してくれそうな鬼がいなかったんだ……。なのでいきなりGPです。
あと文字数がいつもよりちょっと多めです。あとノリと深夜テンションで書いてるので読みにくいと思われる。


 ──エマ、何処にいる⁉

 そう思いながら少年──ベルはGP内を駆けていた。拐われた少女──エマを探すために。

 

 

☆☆☆☆☆

 それは一日前のこと。

 

 

 

 

「…………」

 

 剣を男──本人は名乗らなかったのでエマにはおじさんと呼ばれてる──の首に突きつけながら睨み付けているベル。

その理由はと言うと……

 

「いくらお前が化物染みてても無茶だ! あいつ(・・・)は諦めるしかない」

 

 男がエマを諦めるなどと言ったからである。

 

「そんなことはどうでもいい。エマは何処にいる?」

 

 冷たい声と視線で男を問いただすベル。そんなベルを見て男は諦めたように言った。

 

「あいつがいるのはA08-63ゴールディ・ポンド」

 

 それを聞いた瞬間、ベルは飛び出した。

 

「おい待て!」

 

 それを見たレイや男が止めようとするが、ベルはそんな声に振り向きもせずに走っていった。

 ──待っていろ、エマ。必ず、必ずそこから助け出してみせる。

 そう思いながらゴールディ・ポンドに侵入した。そこで何が起きているのかを知らずに。

 いや、ベルには本能と呼ぶべきものでわかっていたのかもしれない。

 そこには敵に値するもの(かいぶつ)がいると。だからこそGPに着くまで一日もかけたのだろう。

 しかし、それは本人も知らぬこと。誰にもわからないことだった。

 ちなみに追跡者はベルを追おうとしたが、殺気のせいで身体が動かなかった。そして、その鬱憤を晴らすべく執拗に男やレイのことを追いかけ回したせいでベルより後にGPに着いたのだがそれは完全に余談である。

 

 

☆☆☆☆☆

 

「実に見事でした」

 

 ベルがエマを探して走っていたときにそんな声が聞こえた。

 刹那、ベルはその声が聞こえた方向に向かった。行かなければならないとそう感じたから。それが正しかったのかはわからない。

 そして、鬼らしき影を捉えるとベルは躊躇いなく剣を縦一文字に振るって、鬼を斬殺しようとした。

 

「──‼」

 

 しかし、その一撃は鬼が回避する。背後からの攻撃を判っていたように避けた。それを見てベルが問いかけた。

 

「何者だ?」

「フフ、何者かですか」

 

 鬼は少しだけ笑うと己の名を口にした。

 

「私の名はバイヨン。君の名前は?」

 

 そして問いかける。君は誰だと。

 

「……ベル」

 

 その問いかけに、ベルは素直に答えた。何故かと聞かれたならば、こう答えただろう。そうしないといけないと思った(・・・・・・・・・・・・・・)と。

 バイヨンとベルは暫しの間睨み合う。すると、ベルが奇妙なことを言った。

 

「──場所を変えよう。バイヨン」

「! ……どういうことです?」

 

 ベルの言ったことにバイヨンは怪訝そうに聞き返す。

 その場にいた二人の子供もまた〝何を言っているんだ?〟と考えていた。

 

「ここじゃない。……そう、あそこ。そこで殺りあおう。俺がお前たちを纏めて殺す」

 

 そう言うと、ある方向を指差すベル。

 バイヨンはその方向を見た瞬間、ベルの考えていることを理解した。ベルが指差した方向はレウウィス大公と呼ばれている鬼の気配があった。つまりだ。

 

 ──私とレウウィス大公を纏めて殺すと。そういうことか。

 

「フフ、ハハハ、ハハハハハハハ‼ その言葉、後悔しないことですね」

「後悔などしない」

 

 ベルが力強く断言する。それが一番良いとベルは判断したのだ。

 

 ──どうやら反乱の最中らしい。エマも協力してるだろう。なら、最強格を俺が相手してやる。そうすれば少しは楽になるだろうから。

 

 そう思いながら、ベルは宣言する。

 

「〝勝つ〟のは俺だ」

 

 それを聞いたバイヨンも言う。

 

「〝勝つ〟のは私たちです」

 

 そんなバイヨンの言葉を聞いたベルは獰猛に笑う。そして、そんなベルを見てバイヨンも獰猛に笑っていた。

 互いに笑みを浮かべながら、レウウィス大公のいる場所に向かって行った。

 

「……何なんだよ」

 

 呆然として会話を聞いていた二人の子供。その内の一人──ナイジェルが呟く。

 

「……わからない」

 

 もう一人の子供──ジリアンも呟いた。

 二人にはベルのことが人間には見えなかった(・・・・・・・・・・)。バイヨンたちと同じ化物にしか見えなかったのだ。……いや、あんな人間がいるはずがない。そう思いたかっただけなのかもしれない。

 これが反乱にどんな影響を及ぼすのか。それは誰にもわからない。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「? これは……」

 

 最初に異変に気がついたのはレウウィスだった。

 

 ──気配が二つ近づいている。一つは恐らくバイヨン。だが、もう一つは何者だ?

 

 レウウィスがそう考えたときだ。

 

「──!」

 

 ぞわり、と寒気のようなものが走った。そして、すぐにそれが1000年前に感じていたものだと気づいた。

 

「──フフ」

 

 ──1000年前ならともかく、今の時代にこれほどの殺気を放つ人間がいるのか……!

 

 そう思いながら口角を歪ませるレウウィス。

 そんなレウウィスに怯えるように離れるパルウゥス。いや、パルウゥスが離れたのはレウウィスの邪魔になると悟ったからかもしれない。

 

「何がおかしいの?」

 

 エマが急に笑いだしたレウウィスに問いかける。

 

「どうやら君の仲間が来たようだよ、エマ」

「!」

 

 その言葉にエマは誰が来たのかを考える。だが、その答えはすぐに現れた。

 

「無事だったか、エマ」

 

 ベルが嬉しそうな表情をしながら現れた。

 

「ベル!」

 エマはベルを見ると、ベルと同じく嬉しそうな表情をする。だけどそれは一瞬、すぐにレウウィスを警戒するように見る。すると、

 

「それでは始めましょうか」

 

 レウウィスの隣にいつの間にかバイヨンがいた。

 

「ああ、始めよう。……エマは避難してて」

 

 ベルがエマに避難するように言いながら、剣を構える。それを見て、エマは素直に避難する。……いいや、せざるを得なかったと言うべきかもしれない。

 

「あぁ、そういうことか。……良いだろう」

 

 レウウィスがベルを見て口角を歪ませる。

 そして、三人が同時にその言葉を口にした。

 

「〝勝つ〟のは俺だ!」

「〝勝つ〟のは私たちだ!」

「〝勝つ〟のは私たちです!」

 

 レウウィスが爪で、バイヨンが槍でベルを攻撃する。凄まじい速度で放たれたそれをベルは回避すると、お返しと言わんばかりに剣を横一文字に振るって二体の首を切り落とさんとする。

 

「──ッ!」

 

 レウウィスは跳躍して避け、バイヨンはしゃがんで回避した。そして、剣を振り切ったベルの心臓に向かって、レウウィスは爪で、バイヨンは槍で突きを放つ。

 二体の攻撃は凄まじい速度で放たれ、ベルは剣を振り切ったことで反撃することが出来ない。必殺と呼ぶに相応しい攻撃は、ベルが空中を蹴ったことで心臓ではなくベルの腹を貫く。その瞬間──

 

「──まだだッ!」

 

 爆発する狂気。意思のみで道理をねじ曲げる怪物が、覚醒という手段を以てして動き始め、二体の鬼を上に殴り飛ばす。

 

「なにッ⁉」

 

 二体が驚愕する。人間に殴り飛ばされたのだ。驚愕しない訳がない。そして、二体を殺さんと空中を蹴って追撃を仕掛けるベル。追撃とした放たれた一撃は、二体の面を破壊した。

 

「‼」

 

 面が破壊されたことに驚く二体の鬼。

 しかし、その驚いたことで生じる隙をベルが見逃す訳はない。

 

「そこだッ!」

 

 即座に頭を切り落とさんとベルが剣を横一文字に振るう。空中であるが故に二体の鬼は避けられず──

 

「いいや、まだだッ!」

 

 ベルの攻撃が届く刹那、二体の鬼は空中を蹴って避ける。

 

「!」

 

 今度はベルが驚く番だった。先程までの二体なら空中で動くなど出来なかった。だというのにそれを行ったのだから、驚かないほうが無理がある。

 だが、当然二体の鬼はその隙を見逃しなどしない。

 二体の鬼の爪の連撃がベルを襲った。致命傷になるものだけは防いぐものの、あっという間に傷だらけになっていく。

 

「どうした? その程度か」

「君の力はその程度ですか?」

 

 二体の鬼が嘲るように言う。面を割られたのは驚いたが、その程度かと。

 その言葉と同時に一人と二体が地面に落ちる。ベルは地面に落ちたまま動かない。

 

「これならばエマのほうが楽しめたか」

 

 そんなベルを見て、レウウィスがそう言いながらエマの逃げた方向に歩いて行こうとした瞬間だった。

 

「──!」

 

 レウウィスの頭に先ほどよりも鋭く速い一閃が走る。間一髪避けたが、気づくのが一瞬でも遅れていれば間違いなく死んでいた。そう思わせる一閃だった。

 

「まだだ!」

 

 ベルが立ち上がる。狂気を爆発させ、まだ終わらないと道理をねじ曲げ、立ち上がる。しかし、敵はレウウィスだけではない。

 

「私もいることを忘れないでもらおう!」

 

 その言葉と共にバイヨンがベルの首を落とすために槍を横一文字に振るう。だが、

 

「───ッ⁉」

 

 ベルは屈んで避けると、バイヨンを殺さんと中央の目に突きを放つ。しかしそれは──

 

「させんよ!」

 

 レウウィスが背後からベルを攻撃したことによって当たらなかった。

 

「チッ──!」

 

 レウウィスの攻撃を避けきれずに、背中に大きな裂傷を刻まれたベル。だが、どうしてだろうか。その場にいた全員が笑っていた。口角を釣り上げて笑っていた。

 命をかけた殺し合い。それはレウウィスが望んできたものであり、バイヨンもまた望んだもの。それを今行っている。それをどうして喜ばずにいられるのか。

 ベルは殺し合いを望んでいた訳ではない。しかし、それでも何故か楽しいと感じていた。言い様のない高揚感を感じていた。

 ──こんな感覚は初めてかもしれない。

 そう思いながらベルは呟いた。

 

「俺は今──生きている……‼」

 

 全力を出しても容易ならざる事態の発露。少しでも間違えれば自分が死ぬような状況。そんなときに生を実感するなど──あぁ、どうしようもなく狂っていると自嘲する。

 しかし、生を実感していたのはベルだけではない。

 

「「私は今──生きているッ!!!」」

 

 二体の鬼もまた生を実感していたのだ。

 二体で殺そうとしているのに殺せていない最高の獲物(てき)。しかもそんな獲物が自分たちを本気で殺そうとしてるのだ。生を実感しない訳がない。こんな敵こそが必要だったのだと、〝約束〟が結ばれてから出会えるとは思わなかったと二体の鬼は笑う。そして、

 

「来なさい! 我等の屍の上にこそ君たちの未来がある!!!」

「来るがいいッ! 我等を殺した先に君たちの未来があるッ!!!」

 

 お前の守りたいものは我等の屍の上にあるのだと宣言するレウウィスとバイヨン。

 そんな二体の言葉を聞いたベルは血だらけの姿で笑いながら突撃して宣言した。

 

「お前たちに家族(みんな)未来(あす)は奪わせないッ!!!」

「「よく言った‼」」

 

 突撃してきたベルを歓喜と共に全力で迎撃する。手加減などしない。そんなもの失礼でしかないだろうと二体の鬼は本気でベルを殺しにかかる。

 ベルに死が迫る。この殺し合いを始めてから数えるのもバカらしいほど迫ってきたものだ。

 

「まだだッ!」

 

 死を前にして当然のように覚醒しながらベルは二体の鬼の腕を切り飛ばす。しかし、もはや覚醒はベルだけにしか行えないものではない。

 

「その程度ではないだろうッ!」

 

 レウウィスは年老いたことなどが理由で再生限界を迎えかけていた。だが、そんなもの知ったことかと言わんばかりに腕を再生し、爪を振るってベルを殺そうとする。

 いや、正確に言うならば、レウウィスは覚醒して再生限界を超越してみせたのだ。

 それを見たバイヨンも全力で槍を振るう。一秒経過するごとに槍が速く鋭くなっていく。バイヨンもまた覚醒していた。(ベル)が出来たのだから、自分に出来ない道理はないと覚醒してみせた。覚醒しながら本気でベルを殺しにかかる。

 

「当然ッ‼」

 

 そんな二体の鬼をベルもまた全力で殺しにかかった。

 覚醒を続けるベルと、ベルが覚醒したからと覚醒するバイヨンとレウウィス。もはや彼等の戦いに割って入れるようなものなどこの場にはいない。度重なる覚醒の結果、武器をぶつけ合った余波だけで戦いの舞台となった村が壊滅し、森は吹き飛んだ。

 エマたちがもし地下に避難してなれば巻き沿いで死んでいただろう。そんな天災のごとき怪物たちの戦いは永遠に続くかと思われたが──

 

「──ッ⁉」

 

 ベルの、レウウィスの、バイヨンの身体から不吉な音が聞こえてくる。何かが砕けていくような、ひび割れていくような音が響く。それは後先考えずに覚醒し続けたが故に発生した事態。度重なる覚醒に身体が耐えられなかった。

 意思だけで限界を超え続けた代償がこれだ。本来行ってはいけないことを行った結果がこれなのだ。

 これ以上覚醒しようものなら、自滅するだろうことは全員すぐに理解した。──だが、だからどうした?

 

「「「まだだッ!」」」

 

 怪物たちは止まらない。

 自滅するから? 死ぬから? だから止めろと? この戦いを? この至高の刹那(ころしあい)を台無しにしろと? ──そんなことを出来るわけがないだろう。

 レウウィスとバイヨンはそう思いながら覚醒を続ける。

 そして、二体が覚醒をし続けるが故にベルもまた止まらない。

 明日(まあ)へ、未来(まえ)へ、自滅(まえ)へと覚醒を続ける。その最中、王手をかけたのは──

 

「──俺の〝勝ち〟だァッ!」

 

 ベルだった。二体の鬼の動きが覚醒のしすぎによる自滅が近いことが原因で止まった瞬間、ベルが全力で剣を横一文字に振るう。その一閃は秒も経たずにレウウィスとバイヨンの頭を両断するだろう。

 

「──嗚呼、やはり人間は良い」

 

 死の間際にレウウィスは清々しい笑みを浮かべ、

 

「──ああ、良き狩りだった」

 

 バイヨンもまた満足したような笑みを浮かべた。

 そして、ベルの一撃はそんな二体の頭を弱点の核ごと両断した。

 

「──……」

 

 そんな二体の死体を一瞥すると、ベルは地面に倒れる。そして、

 

「ゲホッ──‼」

 

 ベルが血を吐き出した。自滅に突き進んだのはベルもまた同じ。すぐにでも治療しなければ危険な状態だった。

 しかし、ベルにはもう歩く力すらない。このまま死ぬと思われたが……

 

「ベル──‼」

 

 エマが泣きそうな表情で駆け寄ってきた。そんなエマを見てベルは微笑み──そこでベルの意識は途絶えてしまった。




これはもう続かない(断言)
てか、なんでバイヨンとレウウィスを纏めて相手させることになったんだろ(知るか)
あとやっぱり戦闘描写とか苦手だわ。


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■貌の■ in 約ネバ
貌なき道化


わかる人にはわかる奴をぶちこんだだけ。ヒントは冒涜的な奴等が出てくる神話(正確には小説群)
俺は何を思ってこんなの書いたんだろう。絶対ろくなことにならないじゃん。
ちなみにベルくんの世界線とは違う世界線です。


 やあ、初めましての人は初めまして。久しぶりの人は久しぶり。無貌(ボク)だよ! ……え? わかんない? いやわからないならわからないでいいさ。

 それにしてもボクが演者になるなんて世の中わからないもんだね。

 ……あぁ、ボクが話してるだけじゃつまらないよね。それじゃあ、ボクの混じった彼女たちの物語をご覧あれ。

 その筋書きはありきたりで、役者も良いとは言えない。だけど──彼女たちの思いだけは一流の役者にも負けはしないとボクは信じている。

 いや、負けててもボクとしては構わないんだけどね。ボクを愉しませてくれれば満足さ。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 ふと目を開いた。ボクは寝ている間も意識がある。だから何かあったらすぐに反応出来るけど、別に何かおかしなことが起きた訳じゃない。あえて言うならもうすぐ6時だってことかな? きっと今日も彼女──エマが6時ぴったりに起きるんだろう。

 そういえば今日はコニーの出荷の日だっけ。

 ……もし家族思いのエマがハウスの真実を知ったらどうなるんだろうか。あぁ、考えただけでも──

 

「──ゾクゾクする」

 

 口角が吊り上がっているのがすぐにわかる。

 エマはどんな顔をするのかな。絶望するかい? 絶望してくれよ。そして希望を見つけて抗おうとしてくれよ。そうじゃないとつまらない。絶望を希望にするため抗い続けてくれよ。ボクたちは人間のそういうところを見て愉しみたいんだから。

 ……おっと、いけない。そろそろ6時なんだし、いつも通り無表情にしないと。感情に変化のない無口な男の子としてボクはここにいるんだからね。

 さっきの表情は誰にも見られていないし、呟きも聞かれてもいないだろう。だって、みんな寝てるもの。

 ……って、そうこう考えてたら6時になっちゃった。鐘の音が聞こえる。

 

「みんな起きてー。ご飯遅れるよー」

 

 エマも起きたらしい。さて、ボクも身体を起こそうか。先に下に降りていよう。ボクの気配遮断スキルは……どのくらいだろう? まあ高くはないよね。擬態なら得意だけど。

 あ、ノーマンとレイがいた。

 

「……おはよう。ノーマン、レイ」

「おはよう。ナイア」

「おはよー。ナイア」

 

 うん、やっぱり挨拶は大事だよね。それにしても無口で無表情キャラより無邪気キャラのほうが面白かったかなぁ?

 

「お前たち……食ってやる──ッ‼」

 

 背後からいきなりそんなエマの声が聞こえてきた。……何してんの? いや、どうせ誰かがイタズラでも仕掛けたんだろうけど。

 

「ほっはよー。ノーマン、レイ、ナイア」

「おはよう。エマ」

ほはよー(・・・・)。エマ」

「……おはよう。エマ」

 

 何か口を掴まれてるらしく上手くおはよーと言えてないエマに挨拶された。仕方ないから振り向いて挨拶したけど、ほんとに何してんの。……まあ、どうでもいいか。

 何かイザベラにまで笑われてショックを受けてるっぽいエマは放置しておく。まだボクが関わったところで面白くも何ともない。どうせ関わるなら……うん、コニーの出荷をエマと……ノーマン、レイに見せてからにしよう。

 さて、どうやって見せようか。……リトルバーニーを使うか? でもさすがにおかしいと思われるよなぁ。いくらコニーがふわふわしてると言っても、有り得ないと思われる。まあ、考えるのはあとでいっか。

 

「時間通りね。いただきます」

 

 そんなイザベラの声も聞こえたし。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 いつものテストの時間。正直、この程度なら簡単なんだよねぇ……。最低でもこれより十倍は難易度を上げるか、時間をもっと短くしてくれないと暇すぎるよ。今日も満点(フルスコア)にするけどさ。

 

「ノーマン、レイ、エマ、ナイア。すごいわ四人とも! また300点! 満点(フルスコア)よ!」

 

 エマは褒められて喜んでるけど……ボクは素直に喜べないなぁ。いや、ボクからしたら手抜きでもこの程度は余裕っていうのもあるけど。……それより自由時間をどうしようかな。

 自由時間に遊びながら三人に出荷を見せる方法を考えよう。それは退屈しないだろうし。……あぁ、愉しみだよ。絶望してよ? そして絶望の中から希望を見出だしてよ? 叶うはずもない夢想を口にして実現させてみてくれよ? そしてその夢想を実現させようと努力してくれよ? 勿論、その夢想をそのまま実現しろとは言わないけどさ。

 

「ナイア?」

 

 おっと、いつの間にか目の前にエマがいたよ。危ない危ない。自分の世界に入ると周囲に意識が向かないのがボクの弱点だね。まあ、そんなことは気にしないけど。

 

「どうかしたの?」

「鬼ごっこするんだけど、ナイアもどう?」

 

 エマがそんなことを訊いてくる。うーん、鬼ごっこか。……よし参加しよう。

 

「……やる」

 

 やっぱ無口の無表情キャラとか面倒だ。もし次があるなら無邪気なはっちゃけキャラにしよう。

 

「OK。数えるよ!」

 

 それにしても鬼はノーマンか。……ちょっと手強いかな。それじゃあ──

 

「ちょっと遊ぼうか」

 

 みんな森のほうに散ったね。いやボクもだけど。

 気配を感じながら、痕跡を消して誰とも会わないように移動する。たまにダミーの痕跡を残すけど……たぶん無駄かな。そう簡単に引っ掛かってくれるとは思えないし。

 ……んー、残りはエマとボクで他は捕まった感じかな。森の中に感じる気配の数的にそうとしか考えられないし。

 

「……エマとノーマンの観察でもしよう」

 

 エマの身体能力は高いからね~。ノーマンなら身体能力での勝負はしないでしょ。

 やるなら騙しかな? エマって家族思いだし、転んだふりでもしたら簡単に騙せるだろ。

 

「あ、やった」

 

 予想通りエマを騙したね。……よし、そろそろ捕まろうか。

 

「……や、ノーマン」

「! ナイア」

 

 ノーマンの背後に移動する。そこでドジった演技をしたら……無口で無表情のショタのドジって転んだ絵面の完成だ! 怪しまれないようにちょっと距離を離しておくのもポイントだね!

 ……何してんだろうね、ボク。

 

 

 

 

「で」

「また捕まっちゃった~っ」

「……次は頑張れ」

 

 何かエマがじたばたしているけど、スカートでじたばたするのってどうなの? いや気にしないならいいけど。

 

「くやし~‼ なんで⁉ なんでノーマンあんなに強いの? 私かけっこじゃ負けたことないのに鬼ごっこじゃ勝てたことないよ!」

 

 その答えはレイが教えてくれるんじゃないかな。

 

「問題。現状ノーマンにあってエマにないものなーんだ?」

「え⁉ いっぱいありすぎて…」

「戦略だ。確かに単純な身体能力ならエマの方が上だろう。でもノーマンは(ココ)が強い。ハンパない。そしてこれは鬼ごっこ。まさに戦略を競う遊びなんだよ」

 

 普通の鬼ごっこはそうじゃないと思うんだけどなー。いや、そんなツッコミは厳禁だけど思わざるを得ない。

 

「標的がどう動くか。鬼がどう攻めてくるか。状況を観察・分析し、常に敵の()を読んで利用する思考が必要になってくる。身体をフルに使ったチェスみたちなものだ」

「……鬼ごっこが?」

 

 ほんとそれ。エマに同意するよ。鬼ごっこをそう評価するとか絶対おかしいって。……いや、ボクがおかしいと評価するのもおかしいのかな? まあいいや。

 

「少なくともこいつがやってんのはそういう遊び」

「そこが鬼ごっこの面白さでしょ?」

「な? だから強いんだよ」

「──で当然レイとナイアにも(・・・・・・・・)あるんだ。〝戦略〟ってヤツが」

ある(・・)どころか二人は僕なんかよりずっと策士だよ」

「オイ。買いかぶんな」

「……買いかぶりすぎ」

 

 何かボクまで戦略があるとか評価されてたから口を出してしまった。見てるだけのつもりだったんだけどなぁ。

 

「やっぱ(ちげ)ぇな。あの四人は」

「あのレベルが四人…ハウス史上初だって」

「あ~、そりゃママも喜ぶわ……。じまんの子」

 

 そんな会話が聞こえてきた。……いやボクの場合は人間(おまえたち)とはそもそも根本から違うから。

 

「……本を読んでくる」

 

 何だかドンが変なことを提案しそうだったから、本を読むという名目で離脱することにした。返答を聞く前に離脱したから特に何も言わないで離脱しても良かったかもしれない。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 しまった。何も考えてないじゃん。もうコニーの出発の時間になる。……どうしよ、マジでどうしよ。この機会は逃せないんだけど。仕方ないから魔術使うか。あまり不用意に使いたくないんだけども。

 

「…私。ハウスを出てもがんばる…。大丈夫。この子が……リトルバーニーがいるもん。あのね、リトルバーニーはね、世界に一つだけしかないんだよ」

 

 幸せそうな顔だなぁ。貰ったときのことを思い出してるのかな?

 

「ママが私だけのために、作ってくれた──宝物なの」

 

 自分がもうすぐ死ぬなんて欠片も思ってない顔だなぁ。……それも当然か。

 

「私トロいし、みんなみたいにユウシュウじゃなかったけど、大人になったらママみたいな〝お母さん〟になりたいんだ」

 

 なれると良いね。なってみるといいさ。来世くらいでさ。いや、死ななければ今世でもなれるかもしれないな。……死ぬだろうけどね。

 

「それでね。絶対子供を捨てたりしないの!」

「コニー…」

 

 感極まったらしいエマがコニーを抱き締めてる。……まあ、ボクも抱き締めてあげようかとは思ったけどね。それにしても……笑いを堪えるのってかなり大変なんだよ? 口角が今にも吊り上がってしまいそうなんだ。これはあまり長く我慢してられないかなぁ……。

 

「元気でね」

 

 気づいたらエマたちがそう言って手を振っていた。みんな寂しそうな表情をしてるなぁ。

 まあ、ここに用はないし戻ろう。いや、その前に掃除か。うーん、食堂からやろうかな。

 ……あれ? なんでリトルバーニーがテーブルの上(ここ)に置いてあんの? 誰が置いた? それともコニーがうっかり? だとしたらコニーはボクを笑い殺すつもりらしい。我慢し過ぎて身体が震えそう……‼

 

「……あれ?」

 

 エマたちがいつの間にか扉を開けてた。我慢するのに集中してて聞いてなかった。……一応言っておこうかな。

 

「エマ、ノーマン。気を付けてね(・・・・・・)

 

 ボクの言葉に不思議そうな顔をしていた二人だけど、すぐに走っていった。……これでよし。いや良しじゃないな。何故ならレイに怪しむような表情で見られて──ん? 怪しむような表情(・・・・・・・・)

 なぜ怪しむような表情なんだ? ……もしかして知っていたのかな? だとしたらリトルバーニーを置いたのはレイか。

 まあ、いま訊くようなことはしない。レイもボクに訊いてくる気配はないし。まあ、ボクは〝気を付けてね〟としか言ってないからね。それだけで訊いてくるのはさすがにね。

 ……早く帰ってこないかな~。無言でいるのも暇なんだよ。さすがのボクでもそろそろ飽きちゃうんだけど。

 ……あ、帰って来た。

 

「……おかえり」

「おかえり。どうだった?」

「間に合わなかった」

 

 ……間に合わなかった、ね。手ぶらだしこれは気づかれたかな。

 まあいいさ。明日からはもっと愉しくなる。さあ新しい物語を始めようじゃないか。まずは脱獄の物語をね。

 せいぜいボクらを愉しませてくれよ? エマ、ノーマン、レイ。これでも期待してるんだぜ?

 さて、みんないなくなったし、防音の結界を展開して時間をずらして……

 

「……あは、あはは、あははははははは──!!!」

 

 これで漸く嗤えるよ。我慢するのはとてもツラかった。

 

「なかなか愉しかったよ、コニー! 来世はお母さんになれたらいいねぇ? 此方の世界じゃなれないけどさぁ‼ あっちの世界に転生出来ることを祈ってあげるよ‼」

 

 あぁ、愉しいな。嬉しいな。腹が痛くなるほどに笑い転げて、どのくらい経っただろう。十分? 二十分? 或いはそれ以上? 何にしても気が済むまで笑い転げた。思う存分嘲れたよ、満足だ。……さて、そろそろ寝よう。

 

「明日はもっといい日になるといいなぁ……」

 

 そんなことを呟きながらベッドに戻って瞼を閉じた。

 ……恐らくノーマンはレイを最初に引き入れる。少数で脱出にしろ、全員で脱出にしろ、レイの協力は必要不可欠だ。だけどボクはどうなるか。……正直、ボクがどう評価されてるのかわかんないんだよなぁ。引き入れられるか、引き入れられないか。

 どちらでも問題はないけど楽なのは引き入れられるかな。……あー、でも引き入れられないほうが楽っちゃ楽か。イザベラに誰かが出荷を見たことはバレてるだろうし。まあ、どう転ぼうと最後に勝つのはボクだ。

 人間(おまえたち)など所詮はボクらの掌の上で踊っているだけの玩具に過ぎない。ボクらの予想を超えられなどしない。ボクらによって踊らされてるのがお似合いさ。

 それでも万が一ということもあるし……細かく修正する準備くらいはしておこう。まあ、何かあっても魔術とか使えば解決するし、準備する必要なんてないんだけど……そこは気分ってやつだね!

 さて、暫くはエマやノーマンたちとイザベラの戦いを見ていようかな。ボクがつまらなくなったら引っ掻き回してみよう。……どう引っ掻き回そうか。いや、つまんなくならないのが一番なんだけどね。そこはイザベラの手腕に期待しよう!

 それじゃあ、おやすみ。良き悪夢(ゆめ)を。エマ、ノーマン。この農園からキミたちは脱獄出来るかな?




たぶん続かない。気が向いたら続きを書くけど、そんな可能性はきっとない。
あ、コイツの正体がわからなかった人は、無貌 ナイアとか検索かけたら出てきます。


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嘲笑するもの

続いた。ナイアは余計なことしかしてない気がする。
これの続きはない。きっとない。たぶんない。


『キミはだれ?』

 

 懐かしい記憶だ。時間など意味はないと言えるボクとしても懐かしいと思える記憶だ。この世界で最初に名を訊かれたときの記憶。

 愚かな総帥どもが封印され、暇を弄んでいたとき。気まぐれで〝七つの壁〟を越えた先にいたものに会ったときの記憶。

 

『我はナイアルラトホテプ。貴様はなんだ?』

『   』

 

 あのとき奴は何と言ったのだったか。……もうどうでも良いか。千年前まではあの場所で暇を潰していたが、奴等と人間の闘争が〝約束〟によってなくなったとき出てしまった。

 奴は何をしているのだろうか。……何も変わらないのだろうな。

 

「……くだらない」

 

 感傷に浸るなどボクらしくもない。さあ、どうやって引っ掻き回そうか。つまらなくなったら、とか思ってた気がするけど、そんなことは知ったことじゃない。ボクのやりたいようにやることにしよう。

 あれ、いま何時だろう? そろそろ起きたほうが良いかな。……誰だ? いま誰かが身体を勢い良く起こして……エマかな? ……やっぱりエマだった。

 

「……悪夢でも見たの?」

「……⁉」

 

 そっとエマに近づいて声をかけたら驚かれちゃった。……そんな化物を見るような目で見ないで欲しいなー。

 

「ううん、違うよ」

 

 違うねぇ……。それはそれで気になるけど、ボクに関係はないから訊く必要はないか。何かを決意したような表情。……誰も殺させないとでも決意したのかな?

 

「……そう」

 

 納得したような表情を作ってエマから離れる。

 朝の四時……うん、かなり早いね。どうしようか。……図書室でアル・アジフでも読んでようか。誰かにアル・アジフのことを訊かれても面倒だから魔術で誤魔化しておこう。

 

 

 

 

 

「……そろそろかな」

 

 もうすぐ二時間は経つ。久しぶりにアル・アジフなんて読んだけど、暇潰しにはなるもんだね。

 さて、食堂に向かおうか!

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 いつもと変わらない……いや少しだけ変わった光景。いつも通りを装っててもすぐわかるよ。エマ、ノーマン。ボクには手に取るようにキミらの変化がわかる。

 いつもと同じようにご飯を食べ、いつもと同じようにテストを受け、いつもと同じように満点(フルスコア)を取ってエマが喜ぶ。そして……

 

「いつもと同じ自由時間……って訳でもないか」

 

 ノーマンとエマが森の奥に行き会話をしているのを視ながら呟く。

 ロープがあれば壁を登れるってほんとにキミら人間かい? 絶対人間の子供の身体能力じゃないんだけど。

 いや、今更なんだけどさ。……頭はまだしも身体能力はおかしいよね。

 さて、発信器の存在にあの二人はいつ気がつくのかな? 気づかなかったら敗北しちゃうよ? ……あー、でも、それはつまんないな。誰かを森の中で眠らせるか。そしたら仲の良い誰かがイザベラに泣きつくだろ。

 ……あぁ、あの子供(あれ)に使おうか。名前は何だったか……まあいいか。一部の例外を除いて肉を見分けるのは面倒だし。

 

「■■■■■■■」

 

 悪夢を見せないようにしないといけないのは面倒だな。隣にいた子供(もの)から意識をそらして……よし、出来た。

 

「……これで終わり」

 

 そう呟いたのと同時に鐘の音が聞こえてきた。もうそんな時間か。近くだから急がなくていいよね。

 

 

「みんないる?」

 

 イザベラがそんなことを聞いてるけど……みんなはいないね。

 

「あれ? 二人足りない?」

 

 あ、眼鏡かけてる女が気づいた。

 

「いないのはナイラと……」

「ママ──ッ」

 

 よし、予想通りの展開になったな。眠らせたの隣にいた奴が泣きついた。……名前なんだっけ?

 

「マルク! 何かあったの?」

「どうしよう! 森でナイラとはぐれちゃった‼ いっぱい探したけど見つからないんだ‼」

 

 あ、マルクって言うのか。覚えて……なくていいか。呼ぶことはないだろうし。

 意識をそらす必要はもうないね。術を解除しておこう。

 

「もう日が暮れる…すぐに真っ暗だよ」

「……」

 

 ……お、イザベラがコンパクトを取り出した。宣戦布告……かな? 誰も逃がさないって訳だ。確かにそれで行動はだいぶ抑え込めるね。でもそれは悪手にもなりかねないよ? いや、ボクからしたら悪手だね。見せずに泳がせておけば良かったとボクは思うよ。行動なんて抑える必要ないだろうし。

 いや、もっと言えば、抑えるだけならそれを見せる必要がない。すぐに行って拾ってくればそれだけでノーマンたちなら疑うだろうからね。確認する手段を知らない以上、もっと慎重に動くとボクは思うけどな。……まあ、酷評するほど悪手な訳でもないか。他に何かやれば積み重なって敗因になるとは思うけどね。例えば……壁の向こうを見せるとか? ……それは完全に敗因になるだろうからやらないか。崖を渡る手段なら何個かあるし、それに気づいてないイザベラじゃないでしょ。

 

「大丈夫よ。みんなここから動かないで。いいわね?」

 

 探しに……いや回収しに行ったね。それじゃあエマたちの会話を盗み聞きしようっと。……何も言ってないや。悲しい。

 ……さて、これでエマもノーマンも発信器には気づくだろうし、これで気づかない奴が満点(フルスコア)を取れる訳がないからね。……あ、イザベラが帰って来た。

 

「あ、ママ!」

「ナイラ!」

「疲れて眠っちゃったのね。ほらケガ一つないわ」

 

 気持ち良さそうに寝てるなぁ。まあ眠らせたのボクだけど。

 

「よかったぁ…。ごめん…! ごめんねナイラ」

 

 イザベラに泣きついたのが謝ってるけど……謝る必要あるかね。

 

「早すぎる…」

 

 お、ノーマンの声。これは気づいたかな?

 

「ママはまるでナイラが何処にいるかわかっているみたいだった」

 

 まるでじゃないんだよね。事実わかってたんだよノーマン。

 

「発信器…私たちの体のどこかに埋められているのかもしれない」

 

 正解だよエマ。ちなみに場所は左耳なんだけど……教えないから自分で見つけてね。

 

「親でも同じ〝人間〟でもない…。ママは(てき)だ…‼」

 

 愛情そのものは本物だと思うけどねぇ。それを教えちゃつまらないかな。

 さて、少しだけエマたちの利になるように仕組んだから……今度はイザベラの利になるように仕組んでみるかな。とは言え、現状は特に何もないからどうしようか。もう一人くらい大人が増えたらやりやすいんだけども。

 ……増やす可能性はあるか。久しぶりに未来とかも観測して……いいや止めとこう。それをしたらつまらない。視るのは現在と過去だけにしないと。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 さて……みんなからボクに対する意識をそらしてサボるか! こういうときの為に魔術はあるんだ。……何か違うって声が聞こえた気がするけど気のせいだね。ボクがそうだと言うんだからそうに違いない。

 ノーマンとエマはどうして成績順なのかに気づいた頃かな。ついでにイザベラがエマに揺さぶりをかける頃だろうか。

 ノーマンに揺さぶりをかけてるかもしれないけど、エマのほうがわかりやすいからなぁ。これでバレたらそれはそれで面白いかな。

 ……そういえばレイってどうして奴等のことを知っているんだ? エマたちと同じように誰かの出荷を見たというのが一番可能性がある。……でもボクの知る限りそんなことはない。じゃあ二つ目の可能性である幼児期健忘が起きていなかった。それなら奴等を知ることも可能だろう。でも可能性はかなり低い。……だけど、ないとは言えないか。

 ……あ、鐘の音が聞こえてきたってことは夕食の時間か。術を解いて行かないと。あと違和感を消しておいて……よし細工終了。

 ……何か誰かに呆れられた気がする。魔術をこういったことに使ったって良いだろ! 楽をしようとするのは知性体の性なんだから!

 

 

 

「……いただきます」

 

 うん、今日も美味しいな。……今日は誰が準備したんだろ。常に現在を視てる訳じゃないから知らないことは知らないんだよね。

 エマとノーマンは何をするんだろうか。……壁を登らないと話にならないしロープでも用意するのかな。それとも先にレイを引き込む? 或いはもっと他の道具を用意するのかな。

 

「ごちそうさまでしたー」

 

 ……あ、いつの間にか食べ終わってた。まあいいや。

 みんな元気だな~。いや元気なのは良いんだけどさ。

 ボクはもう寝ようかな。起きてても面白味はないし。……何でか積極的にボクに近づいてくるのってエマくらいなんだよねぇ。

 そんな嫌われるようなことはしてないんだけど、本能か何かでボクが危ないって思ってたりするのかな? だとしたら鋭いねって褒めてあげるんだけど。……ボクが何かやらかした記憶なんてないし、やっぱり本能的に避けられてると考えるべきなんだろうか。

 これ以上は考えたところで意味はないか。明日は何をしよう。……エマたち次第かな。あ、イザベラがボクに揺さぶりをかけてくる可能性も充分あるのか。一応これでも最年長組の一人だから。

 ……うん! 愉しみになってきた! ……あ、テーブルクロスをロープにするんだ。まあ良いんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 ──何て思ってたのが四日前の話。

 

 今は食料庫の整理、予備リネンの点検、空き部屋の片付け……

 

「……」

 

 あぁ、口角が吊り上がってるのがわかるよ。これは増えるね。大人が一人ほぼ確実に増える。……もしかしたら子供も補充されるのかな?

 エマやノーマン、レイは気づいてるんだろうか。……あれはたぶん気づいてないね。どうでもいい仕事とか考えてそうだ。……少し考えればわかると思うけどね。まあボクからはノーヒント。でも、まあ……子供も補充されるなら、情報源が増えるんだから喜んでいいと思うよ。されなかったら……その増える大人が野心家であることを祈るしかないね。

 

「あー遊びてぇ~!!!」

 

 いきなり男──名前なんだっけ? ちょっと前までは覚えてた気がするんだけどな──が騒ぎだした。正直うるさい。

 

「ねぇ、なんで俺らだけ!!? 何の罰ゲーム⁉ 何か悪い事した? 俺達!」

 

 いや、こんな作業は年少組には無理でしょ。

 

「ドン。ちょっとこっち手貸して」

「えー」

 

 ……あ、そうだ。ドンって名前だ。なんで忘れてたんだろ。……まあいいか。ちょっと魔術で姿を隠してっと。

 

「……あれ? ナイアは?」

 

 エマが早速ボクがいないことに気づいた。

 

「確かに……何処に行ったんだろう?」

 

 何処にも行ってないよ、ノーマン。

 

「まあ、いいんじゃね? 話も出来る」

 

 うん、構わず話をしてくれたまえよ、レイ。堂々と盗み聞きするからさ。

 

「やはりアレ(・・)を何とかしないと脱走は不可能だ」

 

 まあ、そうだよね。発信器を何とかしないで脱走とか頭悪いとしか言えないし。

 

「でもどうやって……。あれから体中探したけど、埋められた手術痕(あと)なんてどこにもなかったよ」

 

 そりゃないだろうさ。超小型だし、ついでに言えばあったとしても左耳にあるから見れないし。

 

「服や靴にもね。──レイ」

「人間の科学技術の常識から考えれば、恐らく電波を使った発信器。でもそれには内部に電池が要る。消費も早い」

 

 やっぱりレイの知識量は凄まじいな。

 

「ちょっと計算もしてみたけど、電池寿命が十年以上で、手術痕が残らないほど超小型。二○一五年当時じゃ多分実現不可能(フィクション)の代物」

 

 頭もいい。……でも、それだけに諦めが少し早いのは残念だな。エマに影響されて諦めが悪くなったら面白いんだけども。

 

「つまり?」

「仕組みを予想して、場所や壊し方を特定くゆのは困難ってこと。まして鬼独自(・・・)の技術ならお手上げだ」

 

 あ、奴等のことを鬼って呼んでるのか。……ボクもそう呼ぼうかな。

 

「確かに……鬼独自の技術の可能性も。むしろその方が……」

「え……詰んでない?」

「詰んでる」

 

 普通なら詰んでるね。

 あ、エマが、だめじゃん! とでも思ってそうな顔をしてる。面白いなぁ。

 

「レントゲンとかあればな」

 

 そんなんあったら便利だよね。絶対ないけど。

 

「──いや、仕組みじゃなくても予想は出来る。考えれば必ず()はあるはず」

 

 たぶん、発信器を何とかしてイザベラ一人を出し抜けば、とか思ってるね。別に口出しとかしないから良いけどさ。

 

「……」

 

 あ、何か三人とも黙っちゃった。

 

「情報が足りなさすぎる…!」

「それな」

 

 だろうね。そりゃ足りないだろうさ。……そろそろ隠れるの止めようか。

 

「……ねぇ、何の話をしているの?」

「──⁉」

 

 あ、三人が振り向いてきた。いつの間に、なんて考えてそうな顔だね。

 

「……いつから聞いてたの?」

 

 エマが聞いてくるけど、いつからねぇ……。なんて答えようか。よし、ここは……

 

「……最初からって言ったらどうする?」

 

 あ、考え込んだ。別に何を考えててもいいけどさ。

 

「……冗談。情報が足りなさすぎる、しか聞いてない」

 

 三人とも安心したような、してないような微妙な表情になったね。百面相ってヤツかな。見てて愉しいな。

 

「おーい、サボんなよ最年長~」

 

 おっと時間切れ。ドンたちが戻ってきちゃった。

 

「ごめんごめん! さっさと終わらせよう!」

「あーコレまた明日も続くのかな~」

 

 ドンが何か嘆いてるけど、たぶん今日で終わると思うよ? 教えないけど。

 あ、エマたちにちょっと細工しとかないと。まだ直接関わろうとは思ってないんだ。……にしても結局ボクに揺さぶりをかけて来なかったな。

 スパイがいると思うべきかな? ならレイがスパイと判断していいね。

 エマとノーマンじゃないならレイしか最適なのはいない。他にいない可能性がない訳じゃないけど、それはスパイじゃなくてただの情報源だ。

 ……でもレイはイザベラの味方って訳でもないね。エマとノーマンの味方と言うべきかな? ……面白くなってきた。いいよ、こんな状況は大歓迎だ。誰が勝つのか愉しみだ。最後に勝つのはボクだと決まっているけどね。

 明日が愉しみだよ。ボクの予想が合ってるといいなぁ。



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暗躍する道化

ナイアが余計なことをしたりする回。もう全部コイツのせいにしたくなってきた。
誰も見てないだろうけど投稿。


「紹介するわ。新しい妹キャロルよ。そしてシスター・クローネ。ママのお手伝いに来てもらったの」

 

 来た。予想通りだ。……それにしても何だか扱いやすそうなのが来たね。

 

「さ、シスター・クローネ」

「はい。今日からここで一緒に暮らします。どうぞよろしく」

 

 さあ、どうする? エマ、ノーマン、レイ。キミらの敵は増えたよ? 同時に情報源(・・・)が増えたことに気づけるかな?

 気づいてくれよ、そうじゃないとつまらない。……あぁ、レイは気づいているかな。図書室の本。フクロウの蔵書票。さすがに気づいてるよね。モールス符号になってることにも気づいていると思いたい。

 ウィリアム・ミネルヴァ……ジェームズ・ラートリーだっけ? が名乗ってる筈だけど……もう死んでるんじゃないかな。ボクが最後に確認したときにはもう既に当主が変わってたし。協力者はまだ残ってるとは思うけども。……そういえばエマたちはどうするんだろう? 〝約束〟を壊すのかな? それとも鬼を滅ぼし尽くすのかな? 或いは〝約束〟を結び直すのかな? 約束を結び直すならアイツのところに行かないとだけど……エマたちに〝七つの壁〟の謎が解けるかな?

 

「……あ、悔しがってる」

 

 ノーマン貧弱なのに木を殴って大丈夫かな。……さすがに大丈夫か。

 エマたちはシスター・クローネをどう対処するのかな? ちょっと気になる。

 ……お、さすがレイ。情報源が増えたって発想は出てきたみたいだね。だけど残念。最後に勝つのはボクだよ。

 

「やっとエマと遊べるよ──!」

 

 そんな誰かの喜んでる声が聞こえてきた。残念だけど、エマとは遊べないよ。

 

「いない…」

「ギルダ達だぁ」

 

 あ、凹んでる。……まあ仕方ないか。

 

「……ドン。何してるの?」

「レイの真似」

「ヒマなんだね。いいよ、遊んだげる」

 

 ……キミはそれでいいのかい? どっちが年上なのかわからなくなる会話だよ? あとかっこつけるならもう少しレベルの高い本を読もう。それあまりレベル高くないのじゃん。

 

「エマは?」

「さぁ…どっか行ったみたい」

 

 ノーマン大好きっ娘が眼鏡──名前が出てこない。誰だっけ──に聞いてるけど、そりゃ知らんだろうね。

 

「ノーマン達と?」

「うん、多分」

 

 あ、金髪の……誰だっけ? が返答した。

 

「チェッ、遊びたかったなぁ~。最近全然一緒に遊べてない」

「……」

 

 ……? 眼鏡をかけたのが何か心配するような表情を浮かべてる? ……少し気にしておくか。

 

「そうね……。どこ行ったのかしら、エマ達」

 

 森の中にいるよ。……とはさすがに言わないけども。

 そろそろ一石投じるべきかな? ……うん、シスター・クローネの行動次第では一石投じるか。

 

☆☆☆☆☆

 

「……よし。行け」

 

 星の精をシスター・クローネにつけることにした。

 バレないように監視するように命令したから、問題はないだろう。血を吸わない限り透明だから見えないし。

 ……今頃レイとノーマンは食器を洗いながら作戦会議でもしてるんだろうか。

 何かシスター・クローネは意外と馴染んでるけど、どうするのかな?

 ……あれ? なんでボクはこんなにエマたち側になるように行動してるの? おかしいな。ボクはあくまでも第三者でしかないはず。……もしかして人間(ゴミ)に対して情が移った? ……うん、ないね! あるはずがない。

 

「貴方がナイアね」

 

 ……シスター・クローネか。今のボクはちょっとだけ気が立っているんだけど……まあいいか。有り得ない可能性を考えて苛立っても意味ないし。

 

「……そう」

「テスト満点(フルスコア)なんですってね」

「……」

 

 何を考えている? もしかして何か探っているのか? ……あぁ、秘密を知っている食用児を探してるのか。

 

「よろしくね。仲良くしましょう」

 

 穏やかな笑みを浮かべながら手を差し出してくる。

 ……握手くらいはいいか。って、握手したらどっか行ったよ。……やっぱり探っていると考えるべきか。ならイザベラはシスターに秘密を知っているのが誰かを教えていないと考えていいね。

 イザベラが知らない可能性もなくはないけど……十中八九レイが内通者だろうし、ほぼ確実に知ってるだろう。

 もしレイが内通者じゃなくても最近のエマたちの自由時間の行動を見てればわかる。まあ、そんなことはどうでもいいさ。

 

「……ボクを愉しませてね」

 

 お前たちはその為に生きているんだから。

 

 

☆☆☆☆☆

 

「……鬼ごっこ?」

 

 エマたちが鬼ごっこで逃走の訓練を始めた。……べつにそれ自体は構わないんだけど、なんで……

 

「みんなと仲良くなりたいの。鬼ごっこしましょう」

 

 シスター(コイツ)が誘ってきた? しかもキモ……いい笑顔で。

 まあいいか。遊んでやる。

 

「……いいよ。やってあげる」

 

 みんなやる気のようだし、ボクだけ参加しないのもあれだろう。

「勝負の時間は二十分。私が〝鬼〟よ。みんな逃げ切ってね」

 

 ……あの顔で追いかけられたらトラウマになるのもいるのでは? 別に良いけどね。

 

 

 

 

「……さて、どうしてくる?」

 

 シスターの背後──とは言ってもある程度の距離は取ってる──で見てるけど……あ、発信器で場所は探らないっぽいね。

 ……あぁ、葉っぱに細工して年少組を捕まえることにしたのか。ボクには気づいてないらしい。これは最後まで気づかない可能性もあるかな。

 

「あれっ?」

 

 あ、年少組が引っ掛かってる。……これで五人捕まったね。

 んー、あんなんでも流石に頭は悪くないか。完全に動きを読んでるし。……でも悪くないだけだな。シスターが思ってたより面白くない。

 

 

 あ、何だっけ。……今度みんなの名前をちゃんと覚えておくか。まあ今はそんなことどうでもいいや。誰かがシスターに追いかけられて必死に逃げてる。頑張って逃げてね。トラウマにならないことを祈るよ。……お、木の中に隠れた。

 

「フンッ!」

「ギャアアアッ!?」

 

 ……シスター。木を殴って破壊すんなよ。自然は大切にって習わなかったのか? それ以前に仮にも売り物を傷つけかねないことをするべきじゃ……いや、そんなことはどうでもいいね。これで後は……ボク含めて六人。

 

「エーマー‼」

 

 エマ大好きな子ともう一人がシスターに見つかって……エマが二人を抱えて走り出したね。……どういうつもりだろう。

 さて、ボクも追いかけようか。

 

 

 

 

 いや、ジャンプにダッシュに動きすぎでしょ。まあ、ここは大きな岩がそれなりにあるから、隠れるにはうってつけだけど。……てか、まだ気づいてないのか。

 

「二人抱えて走り続けて…疲れたでしょう。エマ」

 

 シスターが話し出した。……どういうつもりだ?

 

「休まなきゃ動けないわよね。こんな追われ方したこともないでしょうし」

 

 シスターは余裕そうだね。……何のつもりで話し出したのかまるでわからないや。本気でどういうつもりだ?

 

「知ってる? ノーマンの弱点は〝体力〟。昔、体が弱かったんですってね」

 

 イザベラからの情報だな。……それを今言う意図が本気でわからない。早く本題に入らないだろうか。

 

「レイの弱点は〝諦めが少し早いところ〟。判断が早い分、切り捨ててしまうのも早いのね」

 

 ……ほんと本題に早く入ってほしいな。弱点なんてべらべら喋っても意味ないだろうに。

 

「ナイアの弱点は〝無関心なところ〟。殆ど他者に興味がないのね。だから誰がどうなってようと気にしないし、あまり協力もしない」

 

 ……そう思われてるんだ。これは使える……かな? いや、使えないか。

 

「そしてエマ。あなたの弱点は〝甘さ〟。追われているのに他の子抱えて逃げちゃうような〝甘さ〟…よね」

 

 確かにエマは甘いよね。その甘さが面白いし、それが存外バカにできないこともある。

 

「諦めて出て来なさァーい。悪いようにはしないわ」

 

 悪いようにはしないって言葉は正直信用ならないよね。……そろそろ意図が見えてくるかな?

 

「もしあなたがあの日〝収穫〟を見たのなら」

 

 ────は? コイツはいま〝収穫〟と言ったか? バカか。何を考えている⁉ その言葉だけでも充分な情報になることくらい理解してるはずだ! していないとは言わせない! しかも聞いているのはエマだけじゃないんだぞ⁉

 

「私はあなたの味方よ」

 

 ……ふざけやがって。修正しないといけない可能性が少し出てきたじゃないか。余計なことをしてくれた。……おっと、いけない。冷静にならないと。

 

「見ぃつけた」

 

 これでエマと抱えられていた二人が捕まった。残りはボクとレイとノーマン。……あの抱えられてた二人、シスターがトラウマになったりしない? まあいいや

 

「……まだバレていない」

 

 ノーマンとレイをシスターは追いかけてる。……残りは何分だろう? 十分かそのくらいかな。と言うか、シスターもしかしてボクのこと忘れてる?

 

 ……? あれは……何かのハンドサイン? ……あ、レイとノーマンが別れた。

 シスターはノーマンを最初に狩ることにしたらしい。圧倒的体力差で追い詰めれば良いとでも思ったのかな? 確かにノーマンは身体が弱かったけど、それを補う頭脳がある。それを理解できてないようじゃノーマンには勝てないよ。

 

 ……なんか思ったよりもノーマンを追い詰めれてないぞシスター。ボクには追わされてるようにしか見えない。これはもうシスターの敗けだね。

 

 あ、レイがシスターの背後を取った。つまり……

 

「二十分経過」

 

 ゲーム終了か

「俺達の勝ちだね。シスター」

「僕達の勝ちだね。シスター」

「……終わり」

 

 そう言って姿を見せたら三人に驚かれた。……もしかして本当に忘れられてた?

 

「……あなた何処にいたの?」

「? シスターの背後にいた。……ある程度離れてはいたけど」

 

 何かシスターから訊かれたから素直に答えたけど、なんでそんなことを訊いて──あ、一度も姿を見せてなかったからか。

 ……まあいいや。もうゲームもおしまい。エマと一緒にいた二人にはイザベラに訊かないように細工を施した。これで少しはマシかな。

 シスターには情報源としての役割が終わったら死んでもらおうか。……いや、ボクが殺すよりイザベラが切り捨てるのが先かな。そのほうが有難いけど。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「お待たせ。三人とも」

「……あ、来た」

 

 何かノーマンたちに呼ばれたから待ってたんだけど……ドンとギルダもいたし、話すのかな。

 

「何? 話って」

 

 ドンがなにも知らない顔で聞くけど……さて、どうなるかな。

 

 

「え、人身……売買?」

「……」

 

 なるほど、そう言うんだ。

 

「うん……今までの兄弟みんな悪い人に売られてたの…」

 

 まあ、確かに売られてたね。食べ物として。

 

「プッ。だーはっはっはっ‼ 何深刻に話し始めるかと思ったら…アハハないないないない‼」

 

 何も知らないとそんなもんだろうね。……くだらない。

 

「でも塀に扉…出て行った兄弟達から手紙の一つも来ないのも」

「またまたァ! で? オチは? 一体コレ何の遊び⁉」

 

 そんなドンに誰も何も言わない。まあ、当然だね。だってオチなんてないし。

 

「ん? えっ本当とか言わないよね?」

「本当」

 

 むしろ嘘だと思える要素が何処にあるのか。

 

「ちょっ………え? 待って、じゃあママは?」

 

 ……コイツこんなに察し悪かったっけ? そんなの一つしか答えないでしょ。

 

「……その悪い人にボクたちを売っている。……違う?」

「そう……」

「は⁉ バカ言え‼ ふざけんなよ…。ありえねぇだろ、あんなに優しい……。取り消せナイア! エマ‼」

「……? なんで取り消す必要があるの?」

「ナイア……‼」

 

 ドンが掴みかかってきた。……あぁ、邪魔だし潰してみようか──

 

「ドン。ハウスのこと、ママのこと大好きなエマがそんな嘘つく理由ない」

 

 ギルダが唐突にそんなことを言った。……待って、ボクは嘘つくって思われてるの? ねぇ、待って酷くない?

 

「それにね…。変だと思ってた…。あの日…エマとノーマンが門へ行って」

「えっ」

 

 あ、ドンが離してくれた。

 

「いつもの二人ならたとえ規則を破っても、すぐに正直に謝って元通り──なのに」

 

 確かにそうだね。……結構おかしなところはあった訳だ。

 

「謝るどころか二人には口止めされるし、ママは本当〝罰ゲーム〟みたいなお手伝いさせてくるし。エマすぐどこか行っちゃうし、なんだかすごく真剣だしどんどん聞けなくなっちゃって……うっ……」

 

 あ、防音しなきゃだこれ。間に合うかなぁ? いや間に合わせないとなんだけどさ。

 ……ギリギリだったけど間に合った。いきなり泣くのやめてほしい。せめて予告しろ……というのは無茶振りか。

 

「ごめんね…ごめんギルダ…」

 

 ……ところでボクに関してのフォローはなし? 嘘つきそうって共通認識なの? ちょっとショックなんだけど。

 

見た(・・)の? エマは。コニーも売られて行ったの? 悪い人に……」

「ああ。でも間に合わなかった」

「えっ、待ってコニーまさか…。無事だよな? 大事ないんだよな⁉」

 

 ドンがノーマンに訊いた。

 残念もう死んでます。……なんてぶっちゃけれないよね。どうすんだろ?

 

「わからない」

 

 ……ふーん、そうするんだ。

 

「そんな……何だよそんな……‼」

 

 また随分と残酷な嘘をつくね。ドンのこの様子じゃ助けようとするだろうに。

 

「ここから逃げて、コニー達助けに行こう」

「!!!」

「……」

 

 死人をどう助けるつもりなのかな。あとで訊いてみようか。

 

全員(みんな)で一緒にここから逃げよう」

 

 本当に残酷な嘘だよ。ありもしない希望なんて与えないほうがいいのにね。

 

 

 

 

 

 あのあと、ノーマンがスコアの記録を見せてきたり、エマが〝一緒に逃げて‼〟なんて言ってきた。……話を聞き終わったあとに、ギルダとドンにちょっと先に行ってもらった。……よし、盗み聞きもしてないね。

 

「……ねぇ、一つ訊いていい?」

「なに?」

どうやって死人を助けるの(・・・・・・・・・・・・)?」

「⁉」

 

 おお、三人とも驚いてる驚いてる。

 

「……どういうこと? 僕達もコニー達がどうなったのかわからないんだよ?」

 

 惚ける気かな? でも甘いよノーマン。

 

「……鬼、発信器、農園、食用児、収穫、高級品」

「!!!」

「……反応しちゃったね」

 

 やっぱり素直だね。そんなんじゃすぐにバレるよ?

 

「どうして──」

「──知っているのか? 答えるつもりはない。……あ、ボクは内通者じゃないから安心してね」

 

 ……表情の変化がないのはノーマンとレイかな。エマは安心したような表情だ。……素直すぎない?

 にしてもノーマンとレイね。……レイは予想通りだとしても、ノーマンは内通者が誰なのか予想できてると考えていいのかな。

 

「あ、ドンやギルダには言わないでおくよ。……すぐにバレると思うけど」

 

 もう話すことはないね。もう部屋に戻ろうか。

 部屋に戻るときに何か訊かれた気がするけど、ボクの知ったことじゃない。

 あ、ボクってエマと同室じゃん。……魔術で時間稼いで寝たふりしよう。

 

 

 

 

 さて、どうしようかな。そろそろエマたちが不利になりかねない一手を投じておくかな。今までエマたちに有利になるようにしてたし。

 使うならドンにしようか。ドンに隠し部屋を教えれば必ず食いつく。そのあとどうなるかは知らないけどね。

 あとでエマにそれっぽく隠し部屋のことを伝えておこうか。エマのことだから教えるでしょ。

 ……楽しみだな。ノーマンはこの脱獄をどう成功させるんだろう? レイは全員というのに反対だろうし、敵はイザベラとシスター。下手したら三方向から邪魔される訳だけど、どう対処するのかな。何ならボクも引っ掻き回すし四方向か。

 頑張れノーマン。キミなら出来ると信じているよ? ……いや言うほど信じてないや。

 そういえばエマたちは本当にどうするんだろうな。

 鬼を滅ぼすのか、〝約束〟を壊すのか、〝七つの壁〟を越えて〝約束〟を結び直すのか。……いや、考えるまでもなかったか。エマが選ぶとしたら一つだね。エマ以外は微妙かな。全員〝約束〟を壊しはしないだろうけど。

 うーん、脱獄したあとは〝七つの壁〟を越えた先で待っていることにしようかな。……そもそも何て言って離脱しようか。

 ……あ、そうだ。誰か切り捨てよう。そしたら真実を知っている奴等の精神に多少のダメージ入るし、レイは自分の命を捨て石に使ってエマたちを脱出させることを選ぶだろう。そのときにボクも離脱しよう。

 切り捨てるなら……ノーマンがいいかな。あとシスターも死んでもらうか。用済みの役者には退場願わないとね。ノーマンは運が良かったらまた出る幕があるかもしれないけど。

 よし、そうと決まればちょっと本部の奴等に細工だ。本部に無貌の神(ボク)の信仰者がいたら手っ取り早いんだけど、現実はそう上手くいかないよね。



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動き出すものたち

書いたので投稿~。見てる人とか知り合い以外にはいないと思うけども。


 ……良し。これで仕込みは終わった。いやー、思ったより簡単だった。仕込みに二日しか使わなかったし、魔術でボクを忘れさせてるから農園のほうも問題ないよね。

 思い出させて、違和感を消して細工完了!

 ノーマンが出荷されるとき、エマとレイはどんな表情を見せてくれるかな。愉しみだ。

 

 

 

 

 で、農園に戻ってきたのはいいんだけど……エマたちはシスターと手を組んだんだ。……いや、あれは利用しあってるだけみたいだけど。あと本当のことをもう教えたのか。つまんないの。

 まあシスターと組むのは悪くない手ではあると思うけど、どうだろう。エマたちは経験が足りてないし、シスターに情報取られるだけじゃないかな。もう取られたかな?

 まあいいか。どっちだろうとボクは困らないし。

 それにしても、たった二日でいろいろ起こりすぎじゃない?

 

「……はぁ」

 

 こんなことなら、先にドンに仕込みをしとくんだった。タイミングを逃しちゃったよ。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「確認するぞ」

 

 どうやらレイが計画の確認をしてくれるらしい。これはとても嬉しいね。

 

「昼飯の後。自由時間に入ったら、俺がママを引きつける。ノーマンとエマは塀に上って〝下見〟」

 

 なるほど。つまり残ったボクたちの役割は伝達かな?

 

「ドンとギルダとナイアは屋外。ハウス2階の南窓が見える位置にいろ」

 

 やっぱりか。まあいいけどね。

 

「万一、俺がママを引きつけられなかったら合図する。エマ達(こいつら)に伝えてソッコーで下見中止させろ」

「!」

「多分ママは疑っている。バレてるって感じではなかったけど、楽観はできない。土壇場でこっちの誘いに乗らない可能性もある」

 

 ……たぶんレイは既に切り捨てられてるね。イザベラならわざと誘いに乗って下見に行かせたあと心折りにくるでしょ。

 

「多分ママは疑っている。バレてるって感じではなかったけど、楽観は出来ない。土壇場でこっちの誘いに乗らない可能性もある」

「そうなったら諦めるのか? 下見を」

「ああ、場合によって一旦はな」

 

 イザベラはどうするのかな。わざと誘いに乗るか、乗らないか。

 

「いいか? 〝制御できない〟と思われたら終わりだ」

 

 そりゃそうだ。制御できるから放置なんだし。

 

「ママの目的は俺達の満期出荷。特にフルスコア4匹」

 

 正確に言えば、()()()()()()()()()()3()()()()()()()……まあいいか。訂正することでもないし、そもそも訂正したらダメなことだし。

 

「ここまで育てて中途で出すなんざ意地でもしたくない。制御できる内は絶対制御したい。自分になら出来る。それがイザベラって飼育者だ」

 

 何かドンとギルダはショックを受けて……いや、ショックというか出来るのか不安になったみたいな感じのほうが正確かな。

 

「疑われようと怪しまれようと騒がず〝制御できる〟と思わせればいい。幸い来月の定例出荷はない」

 

 来月の出荷はない、ね。やっぱりレイはもう切り捨てられてる可能性高いか。

 ノーマンの出荷はもう決定してる……というか、ボクが細工して決定させた。まあ殆ど細工する場所なかったけどね。

 その通達が遅れてる可能性も否定はできないけど……どうなんだろ。その辺りは手を加えてないから判断できないな。

 

「結構日までは6日だが、究極 次の1月俺の満期出荷まで2ヶ月半の時間がある。何かあれば下見は即中止。あくまで水面下、制御可能を装うんだ。いいな?」

「……わかった」

 

 他も頷いたりしてるし、確認作業はこれで終わりかな。あとは自由にしよう。いや、やることはやるけどね。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 結局、あのあとは代わり映えのない日常だった。ほんと普通にいつも通りで……ちょっぴり退屈だった。まあいっか。

 それにしても今日のエマとノーマンは何かを気にしてるみたいに見える。ついでにシスターも何か変なことしてる……。もしかしてシスターは証拠探ししてる? ってことは、重要な〝何か〟をシスターに知られたな。

 何を探してるのかは……そういえばシスターは星の精で監視してたの忘れてた。…………もう用済みだし、回収しとこ。結局、何の役にも立たなかったな。

 ……いや、どうせだし星の精が監視して得た情報くらいは確かめておくか。

 

 

 

 

 ドンとギルダはボクが仕掛けるまでもなく侵入してたかぁ……。それが原因でエマたちと喧嘩になり、シスターにバレたから利用し合う関係になったと。

 そりゃバレるでしょ……。バレないわけないじゃん……。でも何が原因で本当のことを話してたのかはちょっと気になってたし、これで疑問解決か。

 それで、シスターから情報を抜くためにその日の夜に会った……か。いまある情報が合っているのかを確かめてるのか。あとはイザベラとかの年齢を確認していたのは……ああ、もしかしなくても本の出版年から外の状況を推理してたのか。

 外のことを聞いて表情を変えたのはシスターやイザベラなら外を見たことあると思っていたからかな? まあエマはその後に教えられた食われない人間の存在を聞いて〝ミネルヴァが生きてる可能性が高まる〟なんて考えてそうだけど。

 あと発信器を無力化する手段があることバレてるし……。なんでそういう重要な情報を抜かれるかなぁ……。いや、シスターにだけバレてるのなら問題ないか……? イザベラの方針は制御することだし、シスターがイザベラの足を引っ張る形になれば嫌でもそっちに意識を向けざるを得ない。発信器を無力化する道具がシスターに見つからなければの話だけど。

 でも、上手いな。まさかそういう形で()()()()()()()()()()()()()。ちょっと前のエマたちなら考えもしなかっただろうに。成長したみたいでボクはとても嬉しいよ。言い出したのはエマかな? 反省を活かせるのはいいことだ。

 ……いや、本命は()()()だったのかな? だとしたら大成功だ。なぜならシスターは気づいてない。今後のやり方次第ではイザベラも気づかない。とても良い作戦じゃないかな。

 これからどうなるのか楽しみな情報ばかりでボクは大満足。

 ところで何か忘れてるような……?

 

「あっ……」

 

 情報確かめるのに夢中で準備サボっちゃった……。今日はサボる気なかったのに……。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 あれ? 昼になったけど……シスターがいない? ……切り捨てられたのか。それとも、何か仕事を任されてるのか。

 

「いただきます」

 

 まあいいか。シスターを視て確認しておくか? ……いや確認する理由はないか。

 ……? エマはどうしたんだろ。いきなり門のある方向を見るって……虫の知らせ的な何かがあったのか?

 

 

 まあいいや。ボクもそろそろ離脱して奴のところに行くタイミングを決めないとかな。

 

 

 

 ちなみにこの後、昼御飯の準備をサボったことがバレてたから普通に怒られた。魔術で誤魔化すの忘れてたよ……。ボクとしたことがこんなミスをするなんて……!

 ボクが悪いとはわかってるけど、それはそれとして腹が立った。

 今夜、黄色のムキムキマッチョで丸い頭に訴える表情をした化物に追いかけられる夢をイザベラとついでにボクが怒られてるのを見て笑ってたエマやノーマン、レイ、ドンに見せてやると決意した。せいぜいよくわからない悪夢に苦しむがいい。

 というか、何が〝ナイアがサボるなんて珍しいね!〟だエマめ。ボクは普段から魔術で誤魔化してるだけでサボってるよ。今日は珍しくサボらないでやろうと思ってただけで。……結果的にサボってるけど。

 

 

 

 

 

 

「脱獄決行は6日以内。でもできるなら明日決行したい。ママとシスターに動かれる前に──」

 

 さあもうすぐだ。ボクを愉しませてくれ。

 

「発信器はもう壊せる。あとはこの〝下見〟を残すのみ。行こう」

 

 13:00になった。エマたちの下見開始だ。

 まあボクは待機組なんだけどさ。ボクには子供たちも寄り付かないし、ただ待つしかないかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 ……………。

 …………………………。

 …………………………………飽きた。待つのはいいんだけど、本当にやることない。退屈すぎる。遠見の魔術とか使う……いやでも面白くないしなぁ……。

 だからと言って、ただ待つのも退屈だし……本当にどうするか。気軽にお喋りとか無口キャラだとできないし……。

 次にこういうことがあったら無口キャラは絶対やらない。やっぱりボクは狂言回しや演出家のほうが性に合ってる。

 

「大丈夫かな」

 

 ギルダがそんなことを言うけど、ボクからしたら大丈夫ではないね。

 

 

 

「!! ねぇどういうこと!?」

「なっ…」

 

 あ、イザベラが出てきた。レイから合図なしってことは、レイは閉じ込められたかな。……こっち見てきたことを考えると、ボクとドン、ギルダが引き込まれたことをわかってたな。

 

「一体どうすれば……」

「ギルダ、ナイア。お前らはここにいろ」

「ドン!?」

「……なにする気?」

「ハウス見てくる! 何かあったら知らせる。すぐ動け!」

 

 まあすぐに行動できるのは良いこと……か? 場合によるか。

 

 

 ……? ハウスの中から何か凄い音が聞こえた気がする。扉を壊しでもしたか?

 

 

「あっ」

 

 ん? って、レイたちが走って出てきたな。

 

「ギルダ! ナイア! 来い!!」

「えっ下見中止!? エマ達止めるの!?」

「下見強行(・・)だ!! ママを(・・・)止めるぞ!!」

「!? ママ(・・)!?」

「……わかった」

 

 ちょっと急ぐかな。見逃したくはないし。……ギルダは驚いてないで動こうね。というか、その子供──名前は忘れた──をいつまで抱えてるんだよ……。

 

 

 

「っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」

 

 

 

 この悲鳴……エマのか。下見を中止しようとした結果ならイザベラは何もしないだろう。

 たぶん下見強行しようとした結果、エマは囮にでもなった。それで何かされた、みたいな流れ。その何かは……って、そんなことは後でいいか。

 あと少しでエマとノーマン、イザベラのいる場所に着くから、すぐにわかる。

 

 

「おめでとうノーマン。あなたの出荷が決まったわ」

 

 

 着いた瞬間にそれ言われると、タイミングが良かったのか悪かったのかわかんないや。でもまあボクとしては悪くない。

 漸く始まるんだ。これからが本番だよ? エマ、レイ。キミらの試練は……ね。

 

 って、エマ足折られてるし。さっきのはその悲鳴かよ。

 イザベラのことだから綺麗に折ってるだろうし、あまり心配する必要はないか。

 あり得ないけど、ここで退場とかされたら興ざめだったから、そこは安心だね。



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愚かな積み重ね

久しぶりすぎて書き方忘れたのに加えて、原作をめちゃくちゃ読み返してもエマたちとの会話が……というか人間の描写をどうやるか思い出せなかったので初投稿です。あの御方との会話はすらすら思い付くのに、エマたちとの会話が少しも思い付かないってどういうことよ……。というわけでエマたちとの会話に関してはそのうち加筆修正すると信じたい。
てか、ナイアを主人公にしたやつは最終話だけ書き終えてるけど、途中は全く書けてないのどうしよ。ショートカットしまくって最終話に到達させるかな。


 さて、ハウスに戻ってきたのはいいんだけど……現状は中々絶望的だね。

 

「ロープ()られてノーマン出荷。エマは足折られて動けねェ……」

 

「……下見を済ませて脱獄が大変なことになった」

 

 まあそうなるように仕掛けたのボクだけから、どの口が言うんだって話だけど。

 

「一体どうすりゃいいんだよ……」

「…………」

 

 あーあ、ギルダが黙っちゃった。……いや、さっきから黙りっぱなしだったか。

 

「エマなら足はソッコーで治す。ロープもまた作りゃいい。脱獄はどうにかなるし、どうにか()()!」

「……なら今はノーマン?」

「ああ」

 

 レイの表情は鬼気迫るものがあるけど、さてノーマンはどうするかな? 受け入れるか……それとも拒絶するか。

 まあボクとしてはどっちでもいいんだけども。

 

「でもなんで……よりによってどうしてノーマンが?」

 ドンの疑問の正解はボクがそうなるようにしたから。……まあ教えないけど。

「脱獄がバレたから──とかじゃないんでしょう?」

「……ここの方針を考えたらない」

「ナイアの言う通りだよな。……スコアが高いほど美味いなら()()()()()()誰よりも満期で出荷したい食用児(こども)のはず」

「ああ、通常ならあり得ない」

「……通常じゃないなら特例。……それもきっと特例中の特例」

「チッ」

 

 ……ボクの言ったタイミングが悪かったのかな。レイに舌打ちされた。いや、ボクの発言にというより現状に舌打ちしたんだろうけどさ。

 

「ナイアの言う通り、たぶん特例中の特例だ。……シスターを排除し、俺を切り捨て、エマの足を折った……。全部このため」

「けど……信じられない……まさかシスターまで……」

「……昼前までは普通に……元気だったのに……」

「……それがいまボクたちの生きてる場所(セカイ)

 

 ドンとギルダはゾッとしたような顔をしているね。漸く実感出来たのかな? キミたちはこの残酷(たいくつ)な世界にどう立ち向かう? 知りたいな。教えてくれよ、見せてくれよ。ボクはそれが見たいからこうして舞台を掻き回してるんだ。

 

 

 

「で、どうすんだよ……! このままじゃノーマン……」

「逃がすさ! 勿論! 何としてでも!!」

 

 鬼気迫る表情でドンの胸ぐらを掴みながら言うけど……レイは()()()()()()()()()()()()気づいてるかな? 

 ノーマンに逃げる気がなければ逃がすなんて不可能。というか逃がそうとしたところで意味はない。

 食糧をどうするかとか……は解決出来るか。だとしても、発信器を無効化しなければ場所がバレる。もし発信器を無効化したら無効化する手段があるとバレる。

 正直、ノーマンを逃がすのはデメリットのほうが大きいと思うんだけど……言っても聞かないよね。そしてこれはノーマンも気づいている。気づけないわけがない。でもまあ、もし気づけないならボクが彼を過大評価していたというだけの話か。

 さあ、どうする? 相手は格上で切れる札は奥の手のみ。それをここで使えば今後に支障を来すし、ここで使わなければノーマンは連れていかれる。そしてどちらにしても今後ボクたちは監視されるだろうから動けなくなる。

 ……でもここで一つ疑問に思うことがある。エマやノーマンがシスターと会話したときに行っている細工をボクに明かされてないんだけど……これもしかして何処かでしくじった? 念のため過去を確かめてみても明かされてなかった。ちょっと今までからかいすぎたかな。

 

「──イア? ナイア?」

「……! なに?」

 

 おっと、危ない危ない。考え事してたら話が大分進んじゃってる。

 レイもドンもギルダも怪訝そうな……というより心配そうな顔で此方を見ないでほしいな。そんな顔をされると、裏切ってみたくなる。

 

「ナイア、大丈夫か?」

「……ちょっと、疲れた。休む」

 

 ここら辺で離脱しようかな。レイがちょうどよく大丈夫か訊いてくれたことだしね。最近は物思いに耽りすぎてるし、本当に休むべきかもしれない。

 

☆☆☆☆☆

 

 突然だが、ナイアは他のGFにいる者たちにどう思われてるのだろうか。いつもフルスコアを取り続け──もっとも、初めてフルスコアを取ったのはノーマンより後ではあったのだが──身体能力も抜群であると言えるナイアはどう評価されているのか。

 答えは不気味。その一言に尽きる。

 全員がナイアにヒトではない何かがヒトの真似事をしているような、そんな恐怖を大なり小なり感じていた。

 だから遠ざけた。積極的に関わろうとしなかった。ただ一人を除いて。

 エマだけだ。エマだけがナイアを家族として扱い続けた。エマだけが恐怖を感じても家族として関わり続けた。

 いつの間にかそんな恐怖を感じなくなったが、それでもかつて感じたそれがトラウマのようなものとなってノーマンとレイはナイアを信じきれない。

 それにナイアが〝鬼〟や農園などを知っていたこと。それが決定的な亀裂を生んだ。

 初めからノーマンやレイにとってナイアは無条件に信じられる存在ではなかった。

 基本は無表情で無口。しかし、よく観察すればいつも冷笑しているのがわかるのだ。しかもナイアにそれを隠す気なんて欠片もない。というよりも隠すという考えがそもそもにない。だってナイアからしたらそれが当たり前だから。

 自分たちを冷笑して、嘲笑して、見下ろし続けている存在を心から信頼するか? そんなことは有り得ない。

 すべてを明かす気なんて初めからノーマンやレイにはなかった。内通者ではないとナイアは言ったが、それが本当か嘘かは関係ない。

 ナイアは敵なのか味方なのか。それをノーマンもレイも判断に困っていた。味方と言うには怪しすぎ、敵と言うにはノーマンたちの方針に従いすぎている。制御しようとせず、流されるまま流されている。イザベラ側にしてはあまりにも不可解だ。

 ならば〝鬼〟に直接従ってるのか、と考えてもやはり不可解だ。それならエマたちは出荷されているだろうから。

 つまり誰もが扱いに困る第三者。それこそがナイアだった。

 そんなナイアはハウスに戻って何をしているのかというと……

 

「さて、どう離脱しよう……か……? いや、今さらだけどボクを出荷させたら苦労しなかったよね……」

 

 わざわざノーマンを出荷させる意味はあまりなかったよね? と首をかしげていた。

 趣味に走った結果がこれなのだから完全にナイアの自業自得だった。

 

「しょうがない……ボクのことも出荷するように細工するかぁ……」

 

 どのタイミングが良いだろうかと考える。

 レイの誕生日より前にするのは確定だ。そこまで考えてナイアは 忘れていたことを思い出した。

 

「そういえば、この身体は今11歳か」

 

 そう、今ナイアは11歳である。そして、誕生日もさほど遠くない。つまりなにかするまでもなく出荷されるのは確定なのだ。

 

「……細工内容を考えてた意味。というか何ならノーマンの細工もボクが手出しするまでもなかったみたいだし……」

 

 費やした労力が完全に無駄になってると気づいて肩を落とす。それでもまあ良いやと気持ちを切り換えて、本に視線を落とした。

 イザベラ以外はナイアの誕生日を知らない。ナイアが祝われることを酷く嫌がり、他のみんなに教えないでほしいと言ったから、イザベラもそれを尊重している。

 だから誰も知らない。より正確には、嫌だという意思表示をする前に祝ったときの日付を覚えていない限り誰も知らない。

 もっとも、それを覚えてるとしたらレイくらいのものだろうとナイアは思っていた。

 そのレイも今は無気力を装って動けない以上、誰も知らないと同義だろう。

 

「よし、このプランで行こう」

 

 出荷で離脱して、〝約束〟をどうこうする段階で姿を見せる。

 かなり大雑把な方針を決めたナイアはそのまま読書を楽しむことにした。だが、普段ならば大雑把な方針を決めただけで終わらせるなど有り得ない。あまり細かく決めることはなくても、何パターンか想定して備えるはずなのだ。暗躍と策謀に秀でた暗黒神にとって、それは当然の行動なのだから。

 しかし、その当然の行動をしていない。しかもナイアは自分がそんな有り得ない行動を取っていることに気づいていなかった。

 それはナイアが嘲笑っていた行動。積み重なれば敗北する行動に他ならないということに気づいていたのであれば、未来はまた違ったものになっていたのかもしれない。

 いいや、そもそもナイアは自分の行動の迂闊さを理解していれば、このようなことにはなっていなかった。それがわかるのは遠いようで近い未来の話。

 

☆☆☆☆☆

 

 11月3日 13:08。

 

「…………」

 

 ナイアはボーッとして空を見上げていた。

 今頃ノーマンが下見をしてる頃だろうかと考えながら、どうしたら面白くなるかを考えていた。

 ノーマンが逃げようが逃げまいがナイアにとってはどうでもいい。というよりも、興味がなくなったというべきか。

 ノーマンは十中八九逃げない。それがナイアの出した結論。

 ノーマンが逃げれば下見の報告など不可能に等しくなるのは目に見えているからだ。

 イザベラの監視から逃れてノーマンと接触が出来るか? ほぼ不可能だろう。

 それにノーマンの発信器を無効にしたところでエマたちの発信器は残っている。そんな状態で潜伏しているノーマンと接触などリスクが高すぎる。

 それに気づけないノーマンではない。そう考える程度にはノーマンを評価していた。

 

 だから、

 

「あれ?」

「どした?」

「いない……」

「ノーマンがいない」

 

 子供たちがざわめき始めたとき、ナイアはそろそろかと空から森のほうに目を向ける。

 

「あっ」

「あー」

 

 ナイアの予想通りノーマンが歩いて来ていた。

 

「ノーマン!!」

 

 子供たちが嬉しそうにノーマンに近寄るところを尻目に、ナイアはハウスに戻っていく。しかし、

 

「なんで…………?」

 

 エマのそんな声が聞こえて、少しだけ足を止めた。振り返るとエマが驚愕していて……

 

「嘘……」

「なんで……」

 

 ギルダとドンの反応もエマと同じ。違うのは頭を抱えているレイだけ。

 そんなエマたちを尻目にナイアは一足先にハウスに戻っていった。

 

 

 

 見送りの時間。ナイアはベッドの上でボーッとしていた。

 ナイアにノーマンを見送る気などない。そもそもノーマンがこれから送られる場所を知っている以上、再会の可能性がないとも思っていない。

 

「……でも実際どうなんだろう?」

 

 これからノーマンが送られる場所──Λでは投薬実験を行う。

 それに耐えて生きていられるかはナイアもわからない。未来を視ていない以上、知る方法がない。

 

「……まあいいか」

 

 少なくとも即死するような類の薬品は投与されないだろう。ノーマンの価値を考えれば、他で実験を行われたものを投与される可能性のほうが高い。

 ならノーマンがΛを脱出することが出来れば、再会することも出来るだろう。

 

「そこは賭け……か」

 

 ナイアにはリスクもリターンもない賭け。

 無駄なことばっかりやってるな、と苦笑しながら考える。

 

「……でもなんでノーマンは逃げなかったんだろう?」

 

 死の恐怖に立ち向かえる人間がいないとは言わない。

 死を恐れない人間がいないとも言わない。

 だが、ノーマンは死を恐れていた。

 ナイアにはノーマンが死の恐怖に立ち向かえているようにも見えなかった。

 正しいことだけを選べるほど人間は強くないことをナイアは知っている。なのにノーマンはそれを行った。

 死を恐れていて、死にたくないと思っていたのに。

 

「死にたくないなら逃げれば良いじゃないか。他人なんて──」

 

 ──どうでも良いと投げ出してしまえば良いだろう? 

 

 ナイアはそう呟いて、目を閉じた。

 きっとエマもノーマンもそんなことはしないのだろうなと考えて、少しだけ楽しそうにナイアは笑った。

 

 

☆☆☆☆☆

 

「みんな聞いて。ナイアの里親が見つかったの。明後日の夜に出立よ」

 

 11月29日。朝食のタイミングでそれは告げられた。

 

「え……?」

 

 一瞬、ハウスの真実を知る子供たちの動きが止まる。

 

「おめでとう!」

「おめでとー!」

 

 何も知らない子供たちは祝福する。ナイアを不気味に感じていても、里親が見つかったことは良いことだからと精一杯祝福する。

 

「…………」

 

 そんな健気な子供たちにナイアはほんの少しだけ口角を上げた。

 エマたちはナイアに接触できない。何故なら今はイザベラを騙すために無気力を演じているから。

 だからナイアは面倒事を回避できると考え……しかしそれが甘い考えだったということをすぐに理解させられた。

 

 

 

 

 

 11月29日 13:00。

 

 

 

 木陰でナイアは空を見上げている。反対側にはエマやアンナ、トーマにラニオンがいた。

 

「ねぇ、どういうこと?」

「演じるのは良いの? エマ」

 

 エマから疑問をぶつけられる。

 ナイアはそうするとしたらドンとギルダであると考えていたが、予想を外した。その事実にナイアはほんの少しだけショックを受けたが、すぐに気持ちを切り替える。

 エマの返答を待たずにナイアは自分が出荷される理由を口にした。

 

「……満期出荷」

「満期出荷……?」

 

 エマとは木を挟んで反対側にいる。そのためナイアからは顔が見えないが、どんな顔をしているか予想は出来た。

 

「そう、満期出荷。明後日がボクの誕生日」

「……なんで」

「隠していたのか? 祝われるなんて嫌だから。……そんなことより」

 

 クスクスと悪戯に成功した子供のように笑いながら、ナイアは次の言葉を紡いだ。

 

()()()()話してたんだ」

「……うん」

 

 エマは少しだけバツが悪そうにしていた。

 

「黙っていたことはどうでもいい。興味もない」

 

 イザベラが少し離れた場所から見ている。だからエマはあまり反応出来ない。そもそもこうして近くにいるのですら危険な行為だ。無気力を装うなら接触すべきではない。

 そろそろ切り上げておくべきだろうとナイアは判断する。そもそも長々と話をしようとは思っていないのだから、早々に切り上げる理由があるのは有り難かった。

 

「……せいぜい足掻きなよ?」

 

 それだけ告げてナイアは立ち上がると、そのままハウスに戻っていった。

 

 

 

「ねぇ、エマ……良いの?」

 

 ナイアが去ったあと、アンナがエマに声をかける。

 エマはうつむいて無気力を装いながら答えた。

 

「良くない」

 

 何が良くないのか。そんなことはその場にいた全員がわかっている。

 つまり、ナイアの出荷を何をせず見ているのかということ。勿論エマはそんなことしたくない。

 しかし、だ。

 

「でもナイアにその気がない」

「そんな……」

 

 結局のところ、ナイアに脱獄しようという気がないなら意味はない。

 エマの言葉に複雑そうな表情を浮かべるアンナたち。

 不気味だったし、少し怖かった。それでも家族だから見捨てたくない。そう思える善良な人間がエマたちだ。

 そもそもエマに関しては足が折れているし、そうじゃなくてもエマとレイは無気力を装って脱獄の計画を進行中なのだ。ナイアをどうにかする手段はない。だが、もしそうじゃなかったならナイアを引き摺ってでも連れていったのだろう。

 

 

『……いいかぞくにあえたね。ナイアルラトホテプ……いいや、ナイ ア』

 

 そんなエマたちを昼と夜の世界から、■■■が見ていた。

 

 

 同時刻、ハウスの中。

 

「……はあ? 良い家族? 狂人どもの間違いでしょ」

 

 ──少なくとも、エマはとことん狂ってるよ。

 

 ナイアは苦虫を噛み潰したような表情でそう呟いた。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 12月1日。ナイアが出荷される日。

 

 

 

 ナイアは部屋で支度をしていた。

 持っていく荷物などないに等しいが、形だけでも準備をしていた。

 ナイアが準備に飽きてイザベラになんか悪戯出来ないかな、などと思い始めていた。そんなときにエマが入ってきた。

 エマが来たことにナイアは首を傾げる……が、エマの性格を考えれば来ない方が不自然かと考え直す。

 たとえ脱獄を諦めたとしても、無気力であったとしても、エマは家族が出荷されることに我慢できるような性格をしていない。

 

「……何の用?」

「ねぇ、逃げるつもりは──」

「ない。そもそもボクが逃げて不都合があるのはエマたちだ」

 

 エマの問いかけに即答する。

 当然だ。ナイアからしたら計画通りでしかないのに、どうして逃げる必要があるというのか。

 複雑そうな表情を浮かべるエマ。逃げて欲しいし、生きて欲しい。そう思っているのがよくわかる。

 ナイアはそんなエマを数秒ほど見つめると、

 

「〝七つの壁〟を探すといい。そこに食用児(キミたち)の希望がある」

 

 本当ならば言うつもりがなかったことを言っていた。

 

「〝七つの壁〟……?」

 

 なにを言っているのかわからない。そんな顔でエマがナイアを見る。

 だがナイアは知ったことではないと言わんばかりに扉に向かう。

 

「ああ、そうだ。これも言っておこうか」

 

 ナイアはその言葉と共に振り返り、まるで取るに足らないものを見るような目でエマを見た。

 

「ボクは食用児(キミたち)を家族だ、なんて思ったことは一度もない」

 

 そう言い放ってナイアは出ていった。

 だからナイアは気づかなかった。エマが悔しそうに涙を堪えて歯を喰い縛っていたことに。エマが本気でナイアも含めた全員で脱出しようと考えていたということを知ることはなかったのだ。

 たとえナイアに家族だと思われていなかったとしても、エマには関係がなかった。綺麗な理想を口にして、それを本気で実現しようとして足掻くのがエマなのだ。

 そこからエマと会話することなく、ナイアは出荷されていった。

 

 

 

 

 

 

 

「家族だと思ったことはない……。それならどうしてボクは……」

 

 ──あんなにもエマたちに肩入れするような真似をしたんだろう? 

 

 自分に関わる記録や記憶を農園から抹消し──とは言っても、イザベラや第3プラントの食用児たちの記憶からは自分のことを抹消してないが──GFの外に出たナイアは自分の行動に疑問を抱いた。

 ナイアの行動は全てエマの理想を叶えることが出来る可能性を残したものになっている。

 ナイアは希望が絶望に変わる瞬間を特に好む。それを考えれば、エマの理想が叶うように見える過程を用意し、しかしそれを行えば理想は叶わないようにするはずだ。

 少なくとも何処か諦めなければ破綻するようにするし、断じて〝七つの壁〟を探せ、などと言うことはない。しかも〝邪血〟の存在を知っているのに放置している。

 これではまるでエマが抱くであろう理想を叶えろと言ってるようなものではないか。

 そんな自分の行動を不思議に思う。しかし、考えるだけ無駄だと頭を振って森の中に姿を消した。

 しかし考えるだけ無駄だと思考を放棄するのも、やはり本来なら有り得ない行動だった。



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